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本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ

1魔法少女リリカル名無し:2009/01/08(木) 00:01:53 ID:Qx6d1OZc
「書き込めないの!?これ、書き込めないの!?ねぇ!本スレ!本スレ書き込めない!?」
「あぁ、書き込めないよ」
「本当!?OCN規制なの!?ODNじゃない!?」
「あぁ、OCNだから書き込めないよ」
「そうかぁ!僕OCNだから!OCNだからすぐ規制されるから!」
「そうだね。規制されるね」



捻りが無いとか言うな

125魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:31:53 ID:ooJj/na2
ご指摘ありがとうございます。その場合は自分で投下し直した方がよろしいんでしょうか?

126魔法少女リリカル名無し:2009/03/11(水) 23:42:12 ID:gu3qlvFg
自分で投下しなおしたほうがいい。(もう代理投下されてますが)
あとどうみても規制される量だから、91KBは。
せめて、二つか三つに割らないと駄目だったと思います。

127りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:10:12 ID:IWMWkURY
すいませんが、アクセス規制をくらってしまって、どなたか代理投下してはくれないでしょうか
ブリーチ第四弾です

128りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:13:52 ID:IWMWkURY

―――――――――――――戸魂界(ソウル・ソサエティ)。
生あるものが死後行き着くとされる、亡者が支配する世界。
その戸魂界の中心部に位置する『瀞霊挺』(せいれいてい)。
選ばれた貴族や死神が住むとされる、戸魂界の中でも特に住み良い場所である。

 瀞霊挺 一番隊舎

 霊界と現世の平和を守り、それを脅かす悪しき者共を駆逐する霊界の正義。

――――――名を『護挺十三隊』。

その陣頭指揮を務める一番隊舎に今、それぞれの隊をまとめる隊長達が集まり始めていた。

――ある者はゆったりと
――またある者は悠然と
――またある者は音もなく
――またある者は面倒そうに
 歩き方に差異はあれど、皆隊長の証である白い羽織と、それぞれに任せられた数字をその背に負い、隊舎に集っていた。
やがて集った隊長達は、それぞれの番号に向き合うように並び始め、総隊長の到着を待つ。その並びは、まさに圧巻の一言につきた。
――――とある事情により今は数人が欠けて久しいが、それでもその凄まじさは微塵も薄れない。

しばらくして――、一番隊舎の巨大な扉が、ゆっくりと開いた。
入ってくるのは、長い髭を蓄えた老人。その外見の傷跡には、元々長く生きている死神の中でも、さらに長い年月、戦いに身を置いてきた事を感じさせる。

「急な収集に、よく集まってくれたの諸君」

 やがて、その老人――、一番隊隊長にして、護挺十三隊総隊長 山本元柳斎重國が、
深い双眸を広げ、重い口を開いた。


「それではこれより、隊首会を執り行う」



         魔法死神リリカルBLEACH
         Episode 4 『Actors gather』



 海鳴市 戦闘終了後 午後二時五分

「あ〜〜くそっ」
 空を覆っていた結界も消え、再び人と活気が訪れた海鳴市。
その外れの方――いまだ死神姿のままの一護が、不機嫌を露わに歩いていた。

「結局何だったんだよ! 一体」
 そう言う彼は、今は一人だった。
道行く人々は、黒い着物に大刀という、あまりにも目立つ出で立ちの彼を、しかし誰も気づかず通って行く。――とりあえず、チャド達の許へと帰る途中だったのだ。

「黒崎く〜〜〜ん!!!」
 すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
一護が顔をあげると、チャドと織姫、そして一護の代役を務めていたコンが、一護の許へとやって来ていた。

「不穏な気配を感じてきたんだけど…何かあったの?」
 開口一番に織姫が訊いた。
「あ〜〜あったさ…ったく」
 不機嫌を隠さずにそう返す一護。すると今度は織姫への態度が気にくわなかったのか、コンが一護を指差し、こう言う。
「やいやいやいテメエコラ一護!!! 井上さんに対してその態度は無いんじゃないのォ!!」
「うっせーな! どう返そうが俺の勝手だろ!!」
 ただでさえ深い眉間のしわを、さらに深くしながら一護はコンと睨みあう。
「なんだとぅ!? せっかくテメーが心配で見に来てやった俺にもそんな態度か!」
「テメエは俺じゃなくて井上に付いてきただけじゃねえのか?」
「……あったりまえよ!!!」
 隠すどころか悪びれもせず、コンは胸を張って宣言した。
「俺は誓ったんだ……巨にゅ…井上さんの為になら、俺はたとえ火の中水の中……」
「あーそういやルキアに会ったなあ」
 その言葉を聞くなり、コンは急に辺りを見わたし始めた
「――んマジィで!!? 姐さ〜〜〜」
「もういねえけどな」
 一護が冷淡にそう告げた後、無様に固まるコンを見て――鼻で笑った。

「『火の中水の中』ねぇ……フッ」
「……シャラァァッップ!!!!!!」
 空しい叫び声を上げた後、コンは捲し立てるように一護に食ってかかった。
「大体テメエはいままで何やってたんだよ!! アレか、虚退治なんて言っておいて実は姐さんと―――」
 そう言いかけたところで、コン――もとい一護の額に、代行証が投げられていた。
口からコンの元――義魂丸が飛び出し、それを一護がキャッチする。
再び一護の体は、ぐったりと倒れて動かなくなった。

「朽木さんに会ったの!? 黒崎くん」
 チャドに手伝ってもらいながらも、自分の体に入っていく一護に、織姫はそう訊いた。
「ああ、会ったさ」
 一護は、そう返した。
「何があったか、教えてくれるか?」
 今度はチャドが訊いてきた。とりあえず一護は、ガジェットの事、二人の少女に会った事、ルキアと恋次が現れたこと――
――そして『その後』の事を話し始めた。



 海鳴市 戦闘終了後 直ぐ

 ルキアと恋次に連れられ、スバル達の所から逃げだした後、結界から脱出し、―――その後の話。
一通り落ち着いた処で、一護はルキア達に訊いていた。

129りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:16:06 ID:IWMWkURY
「一体何なんだ!! 何で逃げたんだよ!?」
 一護がそう叫んだ。けっこう大きい声にも関わらず、周りの人々は聞こえないかのように彼の言葉を無視した。
しばらくして、ルキアが返す。

「急なことで済まなかったな、だが奴等が管理局だと知れた以上、こっちのことはなるべく悟られてはならぬのだ」
「それに目標物も手に入れたしな、あちらさんも同じように、これが目的ともわかったんだから、あそこに残る方がどうかしてるだろ」
 続けて恋次がそう続ける。その二人の真顔な返答に、一護は頭が混乱してきた。
「じゃあ何か? あいつ等は本当は悪い奴だったのか!?」
 一護がそう言った。
――しかしレリックのような危険物を処理する、と言ったスバルの眼を見たとき、あれは人を騙すような眼ではないと思ったのだが…
 またしばらく間をおいて、ルキアが返す。
「別に悪い奴らではあるまい、奴等もまた、己の正義の為に動いているのであろう」
「??? じゃあ何で? 何で逃げたんだ!?」
 一護は、頭がこんがらがってきた。
 相手は悪人ではないとわかって、しかし逃げ出した理由がわからない。
一護は問い詰めるように訊いていた。――今度は返答に時間がかかった。

「……済まぬな、一度に全てを話すとなると、時間がかかり過ぎてしまう」
 少し困ったように、ルキアはそう答えた。
「詳しいことは、浦原の家で話すことにしよう。私達も、コイツを調べてもらうついででな」
 そう言い、一護の持つレリックを指差す。
一護は納得いかなかったが、ルキアの言い分も一理あるのでしぶしぶ承諾した。
「…わーったよ、じゃあ浦原さん家で話してくれんだな?」
「ああ、井上や茶度、石田も来ているのだろう? あ奴等にも上手く伝えてくれ――それと」
 ルキアは次の瞬間、一護の持つレリックをひったくった。
「あっ、てめ…」
「言っただろう、コイツを調べてもらうと。色々聞いてはいたが、世界規模の破壊力を有しているみたいだしな」
 レリックを翳しながら見るルキアを後に、恋次は続ける。
「じゃ、俺達は一足先に行ってるぜ。早く来いよ」
 そう言い終えると、ルキアと恋次はその場から去って行った。
「あっコラ!! ちょっと待て…」
 一護が言った時には既に、彼等の姿は微塵も無かった。

「ったく 何なんだチクショー」



「―――ってなわけだ」
 啓吾達の所へ向かって歩いていく途中に、一護は話を一通り終えた。
「……そんなことがあったんだ」
 話を聞き終えたところで、織姫がそう漏らす。
「……で、これからどうするんだ? 一護」
 今度はチャドが訊く。だが、一護の腹は決まっていた。
「決まってんだろ? これから浦原さん家に行って、ナニがドーなってんのか訊きに行く!」
「あれ? でもそれって…」

「うお〜〜い!! 一護〜〜〜!!!」
 織姫が言いかけた時、遠くから一護を呼ぶ声が聞こえた。
啓吾と水色、そしてたつきだ。
「何やってんだよ!? これから楽しいイベントが始まるって時に!!」
「ケイゴ、まだ僕達それらしいイベントに突入してないよ?」
「うるせぃ!! これから始まるところなんでぃ!!」
 啓吾と水色の会話は置いといて、たつきが改めて訊いてきた。
「で? あんた等いままで何してたの? トイレにしちゃ長くない?」
「ああ…まあ色々あってな」
「いいじゃねえか! いいじゃねえか!!」
 啓吾が割って入ってきた。聞いてもいないのに彼は、勝手に喋りまくる。
「これから旅館に行って、ポロリありの露天風呂へ入った後、肝試しをしてワーキャーってなって、それからそれから―――」
「ああ、ワリィ。済まねえけど、俺もう帰るわ」
一護のその言葉に、一瞬啓吾が固まった。

「――――――――――――――――――」
 しばらくの沈黙の後、
「――ハァ!!!????」
啓吾が鬼のような形相で叫んだ。
「うおっ 時間差!?」
 やっぱりちょっとたじろきながらも、一護は答えを変えない。
「ちょっと外せねー用事ができちまってな。後は俺抜きでやってくれ」
「あっ!!! ちょっと一――――」
 しかし啓吾の声は届かず、既に一護は遠くの方へ走って行ってしまった。
「イチゴォォォォォォォォォォォォ!!!! カァムバァァァァッックゥゥゥ!!!!!!」

130りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:18:55 ID:IWMWkURY

 啓吾はちょっと涙目になりながらも、皆の方を振り向いた。
「もうこーなったら一護抜きで楽しんでやろうぜ!!! アイツが悔しくて地団駄踏むぐらいはじけてやろうぜ!!!!」
 笑顔をなんとか保ちながらそう言うが、織姫とチャドは、一護が行ってしまった方角をずっと見つめていた。
――――啓吾は嫌な予感がした。
「あのーー、井上さん? チャド?」
 恐る恐るそう聞く啓吾。次の瞬間、織姫とチャドも啓吾の方を振り向き言った。
「ゴメンね!! あたしも急に用事を思い出しちゃったかなあって」
「……ム、スマン。俺も…何か大事な用があった気がする」
「あ、あの!? ちょっとお二人とも―――」
 無論啓吾の制止が利くはずもなく、二人も一護と同じように走り始めていた。
「あ! ちょっと織姫ェ!!!」
 そう言いながら、たつきも一緒にその場を後にする。
結局、その場には啓吾と水色しか残らなくなってしまった。
「……ケイゴ、僕ももう帰っていい?」
 放心状態の啓吾に向って、水色はそう言うが、今の彼に、答えを返す力は残ってなかった。
「オーイ、ケイゴ?」
「……………」
 こうして、浅野啓吾のドキドキツアーは幕を閉じた。


 海鳴市 午後二時三分 とある建物内


「ええっ!!? 任務失敗!!?」

 モニター越しに、機動六課の部隊長、八神はやての驚いた声が響いた。
「うん…ごめんね」
「悪い、はやて」
 至極申し訳なさそうに返すのは、なのはとヴィータ。
――あの後、急に怪物達が引き返し始めたので、急いでスバル達の許へ向かった時には、レリックは取られ、犯人も見失った後だった。

「…せやけど、なのはちゃんとヴィータ、シャマルもおったんよな?…それでもどうにもならなかったん?」
責める風ではなく、疑問に思う風にはやてが言った。長い付き合いゆえに彼女達の実力も知っているからこそ、なおのこと不思議だったのだ。

「うーん…まあ、アンノウンがさ…現われてさ…」
「? ガジェットの新種か何かか?」
「いや、そうじゃなくて…何て言ったらいいんだろ…」
 ヴィータが説明しづらそうに、そう言が、はやての疑問符は増えるばかり。
それにガジェットの新種が現れたところで、そうそうなのは達を抑えられるものなのか?
―――それでも相当な数呼び寄せなくてはならないだろうし、レリック一つの為にそんな体それた数出てくるなら最初からそうしたはずだろうし――。

「まあ、一気に説明は出来ないから、そのアンノウンの画像をそっちに送ったところだし、詳しいことは帰ってから話すよ」
 なのはが、そう説明する。はやてもそれに頷いた。
「わかった。せやったら直ぐにでも帰――」
 一瞬そう言いかけ、急に済まなさそうに続けた。

「――ごめんな、せっかく帰ってこれたのに、またこんなこと言いだして」
「ううん、仕方ないよ。それに、はやてちゃんやフェイトちゃんを差し置いて私だけってのも何だかなって思ってたし」
「せやけど……」
「大丈夫!! 私は大丈夫だから」
 笑顔を繕い、そう言うなのは。はやては、本当に申し訳なさそうに謝った。
「――ごめんな、なのはちゃん」
「何ではやてちゃんが謝るの? 私はホントに大丈夫だから―――じゃあね」
 そう言い、通信を切るなのは。
しばらくして、今度はヴィータが訊いてきた。
「なあ、なのは…ホントにこれでいいのか?」
「――え?」
「だから、なのはの家族とか、アリサやすずかに挨拶してかなくていいのかってことだよ!!?」
 ヴィータが声を荒げた。――ただでさえ人員不足である時空管理局。そこで有名である分、中々休みも取ることはできない。
そのうえ元の世界に帰れることなど、滅多なことではありえないことだった。
―――今逃したらまた、いつ会えるかどうか。

 しかし、なのはは静かに首を振った。
「…しょうがないよ…すぐ帰らなきゃならなくなったし――それに…」
 少し間を置いて、続ける。
「それだったら、いっその事会わない方が、みんな忙しいだろうし…ね」
 ――正直、会いたくない。というと嘘になる。
けど、みんなはみんなの都合があるだろうし、もう帰ってしまう自分の為に、予定を割いて来てもらう程でもないはずだ。
――だったらいっそ会わない方が、妙な後腐れはなくてすむ。

 それでも、ヴィータは納得いかないようだった。
「けどよ…なのははそれで―――」
「ヴィータちゃん、私は大丈夫だから」
 しかし、なのはは皆まで言わせなかった。纏めた荷物を持って、部屋を出る。
「行こ、みんな待ってる」
 ヴィータも、渋々といった感じで部屋を出た。しかし、前を歩くなのはの後ろ姿には、やはりどこか寂しそうに見えた。

131りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:20:20 ID:IWMWkURY



 空座町 浦原商店前 午後四時三十二分

 空座町のとある一角、そこに昭和の感じを醸し出す駄菓子屋があった。
名前を『浦原商店』。
子供には大人気のお菓子から、大人には口では言えないような物も売っている何でも屋であるが、それは世間を欺くためのカモフラージュに過ぎない。
――今、その浦原商店の前で、二人の子供が掃除をしていた。

「四番バッター、花刈ジン太 豪快なフォームから…」
 しかしその内の一人は、掃除などそっちのけで箒をバット代わりにして遊んでいた。
「殺人シュート!!! 打った大きい!!!」
「ジン太くん……何やっているの?」
 もう一人の大人しそうな女の子が、不思議そうにジン太という少年に訊いた。
「何って、ドッチボールに決まってんだろ。雨(ウルル)!! 男は黙ってドッチボールだぜ!!」
「でもそのボール……サッカーボールじゃなかったっけ?」
 雨と呼ばれた少女は、ジン太の持っているボール――先ほどのスイングを空ぶったボールは、確かにどこからどう見てもサッカーボールだった。
――サッカーボールでドッチボール。しかも手に持っている箒は明らかにバットにしていた……。

「なんか……色々混ざってるよ、ジン太くん」
 やんわりとつっこむ雨を見て、ジン太は顔を真っ赤にして叫んだ。
「うっ…うるせえ!!! これは俺が考えた新しいゲームだ!! 文句あるか!!?」
 そう言って、雨をいじめ始めるジン太。しかしこれはいつもの光景だった。
「い…痛い! 痛いよ…ジン太くん!!」
「大体そう言うことは早く言えよ!! チクショーお前のせいだぞ!!」
「酷い! 酷いよ…ジン太くん!」
 しばらくの間、雨の頭をグリグリするジン太。
しかし次の瞬間、ジン太の体は何故か2メートル近くまで飛び上がった。

「何をしておいでかな? ジン太殿」
「うおわっ!! テッサイ!!……さん」
 テッサイと呼ばれた、チャドと同じ2メートルはある巨人につままれ、慌てふためくジン太。――これもいつもの光景だった。
そんなところに、近づいてくる足音が幾つか。
「……これはこれは、お待ちしてましたよ」
足音の主を確認するなり、テッサイがそう言った。

――そこには一護と織姫、そしてチャドがいた
「浦原さんいるか?」



「いらっしゃ〜〜〜い」

 テッサイに案内され、店の居間辺りまで来たとき、そんな声が聞こえた。
入ってみると、テーブルを囲んだ奥に男が座って待っていた。
「しばらくぶりですね、黒崎サン」
見慣れた服に見慣れた帽子。相変わらずといった飄々ぶりを見せながら、彼――浦原商店店長 浦原喜助が挨拶した。
と、隣にいたルキアと恋次が、今度は不平を洩らした
「遅いぞ、一護」
「モタモタすんなって言ったろうが」
「うるせーよ、そんなに早く来れるか!」
 鬱屈そうにそう返す一護。――すると別の声が聞こえた。
「いや、それにしても遅すぎだろ。一体何してたんだ?」
「…石田、来てたのか?」
「…来ていちゃ悪いのかい? 黒崎」
 血管を浮かべながらそう言うのは石田雨竜。一護のクラスメイトでもあり、200年以上前に絶滅した退魔の眷属。
『滅却師(クインシー)』の末裔でもあった。
(しかし今はとある事情により、その滅却師の力は無くしている。)

「まったく、いちいちカンに障る言い方しかできないのか?」
 溜息をつきながらそう続ける雨竜。今度は一護の顔に血管が浮き出たが、しばらく睨みあっただけで丸く治まった。
「こっちだって色々あるんだっての…」
そう呟きながらも、一護はその場に座った。織姫とチャドも後に続いて座る。

「うむ…皆揃ったようじゃな」
 今度はテーブルに座っている、小さな黒猫がそう告げた。
「夜一さん、『そっち』の姿になってんだな」
「まあ、気分じゃ」

「ハイハイでは皆さん、ちゅ〜〜も〜〜く」
 そう声掛けて、喜助は懐から何か取り出した。――レリックだ。
「危ないんで、色々な封印をかけときました。余程のことがない限り安全ですよん」
そう言って皆に見えるようにテーブルに置き、続ける。

「さて、まず黒崎サン達は何が知りたいんですか?」
 一護の目を覗き込むようにして、喜助が訊いた。一護はしばらく押し黙って、やがて言った。
「じゃあ、時空ナンたらについて…」
「ハイでは朽木サン、朽木サン達がここまでに至った経緯をどうぞ!」
 明らかに一護の質問を無視し、ルキアに振る喜助。――――だったら訊くんじゃねえよ。
そう言いたいが、自分もいい大人、彼のこの態度も知らないわけじゃないんだから、と必死に血圧を下げる一護。
そうする間に、ルキアの説明は始まっていた。

132りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:23:23 ID:IWMWkURY

「……ここ最近、虚の動きがどうもおかしくなっているようなのだ」
 どう説明するか考えながら、ルキアは話を続ける。
「一護、貴様も感づいているとは思うが、近頃の虚は、どうも集団行動が多くなってきている」
「え?……あ…ああ!! そうだな!…」
 慌ててそう繕う一護。―――――気づいてなかったな、そんな空気が流れた。
ルキアは一回咳払いをして続けた。
「…まあともかく、虚というのは元々、個々で強い魂魄を求めて途方もなく彷徨うものなのだ。それが最近、普通の虚同士ではしないような、連携的な動きを見せてきている
――その中心にいつもあったのが『コレ』だ」
 そう言って、ルキアはレリックを指差し、さらにこう続ける。

「どうやら虚共は、コレを必死になって探しているらしい。コレを見つけた虚達は、己の命を顧みずに守ろうとする
…中にはコレを手に入れた虚が逃げている間、他の虚が囮となって阻んだという報告も受けている
――相当に大事なものだと見るのが妥当だろう」

「ですが…問題はそこだけじゃない」
 今度は喜助が、ルキアの言葉をとって続けた。
「確かにコイツについて、まだまだ知らないことがたくさんありますが…それよりコイツを求めて動いている虚達もまた、よっぽどの統制が執れていることなんですよ。
――それこそ生半可なものではないくらいに」
「………つまり、どういうことだ?」
 一護が、疑問符を浮かべて訊く。話が遠回りすぎてよく分からなかったのだ。

「つまりですね……」
 喜助が、帽子の中にあった眼を覗かせながら、今度はかみ砕いて説明する。
「アタシ達は、コイツを探す虚達の裏に、大きな影が動いてるのでは無いかと疑っているわけですよ…ここまでくればもうお分かりでしょう?」
「裏?……影……――」
 しばらく考え込む一護だったが、やがて彼の脳裏に、ある光景がよぎった。



――――――血塗れのまま倒れている自分。
――――――それを遥か高みから見下ろす3つの人影。
――――――どうにもすることができず、ただ奴等を見上げることしかできなかった自分。

―――やがて彼等は、虚達に導かれ、霊界を去って行った。

忘れもしない、あの光景―――
「―――――あ!!」
 気づけば、一護はそう叫んでいた。他の皆も、同じわかった顔でお互いを見合わせる。
「そう…この裏には、あの男」
 喜助が、続けて言った。

「…藍染惣右介……彼が絡んでいるのではないかとね」

 ――――しばらくの間、沈黙が訪れた。





―――数週間前、霊界 戸魂界にて、ある事件が起こった。
―――霊界を守る護挺十三隊――その数人の隊長達が、反逆の狼煙を上げたのだ。


 ことの発端は、朽木ルキアの処刑からだった。
現世にて魂魄保護の命を受けたルキアは、途中で黒崎一護と出会い、そのまま虚に遭遇、最悪な展開に陥ってしまったため、やむを得ず死神の力を一護に渡してしまったのだ。
 戸魂界は、これを『勝手な死神の力の譲渡』という重度の違反と判断、処刑が決まってしまった。――ルキア自身もこれを受け入れてしまい、彼女は戸魂界にて裁きを待つ身になった。

 ただその処刑に納得がいかなかったのが一人いた―――。
――――黒崎一護だ。
 彼は浦原喜助、四楓院夜一らの先導のもと、そして茶度泰虎、井上織姫、石田雨竜らと共にルキア奪還を決心。戸魂界に乗り込んだ。
 協力者の力を借りてなんとか瀞霊挺に進出したものの、皆とは離れ離れに。そこからは先は、護挺十三隊を相手に、個々による激しい戦いが繰り広げられた。
 何度も傷つき、倒れながらも、抱いた意志を強く持ち、何度も立ち上がり、そしてまた戦う。
――そして遂に、まさに処刑寸前に、ルキアを助け出すことができた。――それで終わるはずだった。

―――――だが、これには別の真実があった。
―――――この処刑そのものが仕組まれたものだったと。

133りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:24:41 ID:IWMWkURY

五番隊隊長 藍染惣右介 

彼は、この戦いで死んだと見せかけて、処刑をめぐる戦いの裏で暗躍していたのだ。

 彼の狙いは、死神と虚の境界を取り払い、更なる存在を生み出すと言われる、戸魂界で最も危険な物質『崩玉』。
製作者である浦原喜助は、この崩玉の存在を危険に感じ、仕方なく魂魄の中に埋め込んで隠すという方法を取った。―――その白羽の矢が立ったのがルキアだった。
 それを知った藍染は、戸魂界の上層部である中央四十六室を殺害。あたかも処刑が上層部の決定であることを見せかけ、自身は死んだと偽って影で戦いを様子見、
――そして処刑を行うことで、ルキアの中にある崩玉を取り出す計画を立てていたのだ。

―――――そして、戸魂界がこの真実に気づいた時は、既に遅かった。

 ――結果、ルキアは死を免れたものの、黒幕は取り逃がし、崩玉も奪われてしまった。
そして戸魂界は深い傷跡を残し、藍染と数人の共犯者――二人の隊長達は、虚達の力を借りて虚園へと去って行った―――――。



「――――――あいつか………」
 ずっと続くかと思われた長い沈黙を、一護が破った。あの惨状は、ある程度時間が経った今でも鮮明に覚えている。
「―――確証は?」
 今度は雨竜が喜助に訊いた。
「まあ100%とは言いませんが、その可能性は大ですよ」
 そう言う喜助だが、彼は絶対と確信しているようだった。
今度はルキアが説明を続ける。
「当初戸魂界は、藍染が動くまでは静観する手はずだったのだが、これ以上好き放題させていたら、これから対処するにつれてますます不利になる
―――ということで今、戸魂界から二つの命が下ったのだ」
「二つの……命?」
「ああ」
 そう言ってルキアは指で二の文字を作り、一つの指を折り曲げて言った。
「一つは、レリックを確保するために私と恋次を現世に派遣すること――もう一つは」
 ルキアが二つ目の指を折り、続ける。

「数名の隊長格と共に、レリックが多く密集しているという世界に赴き、そこから藍染の跡を辿ることだ」

「……つまり?」
 まだ疑問符を浮かべる一護の問いに、ルキアが簡単に言いかえる。
「時空管理局…貴様が会ったあの女達の住む世界へ直に行き、あ奴等よりいち早くレリックを回収する―――そう言うことだ」
「何で崩玉を持つ藍染が、いまさらこんなモンなんか狙ってるか知らねえが、とりあえず奴が求めているモンを俺達も探していけば、奴の尻尾ぐらい掴めるかも知んねーだろ」
「……それってもう決まったことなのか?」
 今度はチャドがそう質問する。
「ああ、決まったなら早ぇ方がいいだろ? いまごろあっちじゃ、どの隊長を派遣するか決めているとこなんじゃねえのか?」
「……あれ?」
 ここで織姫が、不思議そうな顔をして言った。
「だったらその管理局…って人達にも協力してもらえばいいのに、その言い方じゃまるでどっちが早く取るか競争!!…するみたいだよ」
「……確かにそうだ」
 最初に訊きたかった質問に戻ったことで、また一護が詰め寄る。

「あいつ等何者なんだ? 時空管理局って何なんだ!?」
 この質問には、何故か返答が遅かった。やがて喜助が、どう言ったらいいか悩みながらも答えた。
「時空管理局…ねえ……」
 しばらくして、喜助の口から衝撃の言葉が出た。

「……アタシ達も、よく知らないんすよ」

「―――――ハァ!!?」
 あんまりの返答に呆然する一護達を、喜助が慌てて遮る。
「あ、いや!…全く知らないってわけじゃあ無いんですけど…信用できるかどうかとなると…って意味ですよ」
 そう前置きし、喜助は説明しだした。

134りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:26:25 ID:IWMWkURY

「まあ、平たく言えば…時空管理局ってのは、黒崎サン達のような霊力の強い人達が集まってできた警察のようなものって聞いてます
――――いわば滅却師の親戚みたいなものですね」
「…じゃあ死神と同じじゃん。何で信用してないんだ?」
 不思議そうにそう言う一護。わからぬ、とルキアは返した。
「死神になるとき、我らの存在は管理局には絶対に悟られてはならぬ、と教えられたが…その理由となると…」

「…二の舞を避けるためっスよ」
 しばらくの間を置いて、喜助が静かにそう言った。
「聞いた話なんですけどね…もし我々死神の存在が、管理局の連中に知られたらどうなるか、虚の事を知ったらどうなるか」
 ここで少し間を置いて、さらに続ける。
「もし虚の真実を知った管理局の一部…例えば黒崎サンのような正義感の強い人間達が、じゃあ自分達も虚を討つことにしようって事になったら、どうなると思います?
―――奴等は好んで人間を襲うと、死神と違って滅却することしかできない彼等が知ったらどうなると思います?」

「世界の崩壊を防ぐために、滅却師殲滅のようなものがまた起きる…ってことですか?」
 この答には、当事者の末裔である筈の雨竜が答えた。
喜助は、彼がきっぱり答えたことに意外そうながらも頷いた。
「……あんなことがあった以上それを恐れた戸魂界は、同じ轍を踏まないようにと距離を置くことにしたんでしょうね
―――真実を知らない限り、少なくとも彼等は虚のことは数ある魔法生物の一つぐらいにしか考えてないみたいですしね」
「―――けどよ…」
 一護は、まだ納得がいかない様子だった。

「それこそちゃんとお互いを知って話し合っていれば…今回のことだってこんな遠回りにならずに協力してもらえたはずだろ?」
 一護の言うことに、皆は頷く姿勢を見せるが……しかし喜助はただ静かに首を振るだけだった。

「…まあ、お偉いさんの考えることは、アタシ達にはよくわかなんないッスからねえ――怖くて信用できなかったんでしょう」
「それに…たとえ知っていたとしても、今となっては協力なぞ望めぬじゃろう」
 今度は夜一が、厳粛な声でそう告げた。

「…どういうことだよ?」
 夜一に向き直って尋ねる一護。しばらくの間を置いて、夜一は続けた。

「先にも言うた通り、今度の敵は藍染の可能性が高い――あ奴はずっと前から…それこそお主達の祖先がまだ赤ん坊だったそのずっと前からの永い永い間…我ら護挺十三隊を…戸魂界を謀ってきた男じゃ。
―――そんな奴が管理局の連中に何も手を加えていないと思うのか?」
 夜一のその言葉に、一護ははっとする。
「あ奴のことじゃ、管理局の一部を既に抱き込んでいるかもしれんし…いやもしかしたら、管理局全体が藍染の手下となりさがっとるかもしれん―――それぐらいのこと、平気であ奴はするじゃろう」
「………」
 しばらく押し黙っていた一護だったが、突然彼の脳裏に、スバルとティアナの姿が過ぎった。―――彼女達も自分を騙そうとしていたのだろうか?…いや、そんなはずは――
 しかし、夜一は反論を許さぬ口調で続ける。
「無論全員が、というわけでもないだろうが、それでもその位の考えがなければ…その位に疑ってかからねば…あ奴には届かないじゃろう」
 一護は、その言葉に何も返せないでいた。藍染の恐ろしさは…自分も心身共に身をもって知っていたからだ。
 今度は恋次が口を開いた。

「現世に来る時、総隊長が言っていたことがある……『味方と思うのは自分達だけ、周りは全て敵と思え』って……そうしないと勝ち目はねぇ…ってな」

「で、黒崎サン達はどうするんですか?」
 ここで喜助が一護に訊いてきた。
「え…どういうことだ?」
「言葉通りの意味ですよ。戸魂界は既に方針を決め、行動を開始している…派遣する人員が決まったら、直ぐにでも向こうに行くつもりでしょう―――黒崎サンも、当然行きますよね?」
 急な事に一瞬戸惑う一護だったが、確かに行くな、と言われても自分で行くことにするだろう。―――その時また、スバルの姿が浮かんだ。

135りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:27:35 ID:IWMWkURY

(―――あいつとまた会ったら、今度は戦わなきゃならねえのか……)

 いまだ、彼女達と敵対するのに、若干の抵抗が――そして、本当にこれでいいのかという、一抹の不安も覚える。
――だが、ここまで知っていまさら立ち止まるなんてできないし、藍染の策略ならなおさら阻止しなければ、今度はいままで以上の血と犠牲が出るかもしれない。
――それだけは有ってはならない。
 一護は、無意識に拳を握り締めていた。

「――行かせてもらうぜ」

 周りの皆も、その言葉に頷いた。





 暗い暗い闇―――そして唸る砂嵐。
常に夜が空を覆う完全な闇に、小さく光る三日月。
下界には、ただっ広い砂漠に葉も無い枯れた木が疎らにあるだけ、他には何も無い、それだけの世界。

――その砂漠に蠢くは、虚の影―――

 死神は、この世界を『虚園(ウェコムンド)』と呼んでいた。

 その虚園、とある場所に、大きな大きな宮殿が建っていた。
周りの木が米粒に見えるくらいの、圧倒的な存在感を持つそれ―――。
『虚夜宮(ラス・ノーチェス)』
 藍染惣右介を頂点に置く、虚からさらに進化した存在、『破面(アランカル)』が潜む、彼の根城だった。

 虚夜宮 とある廊下

 白と黒で彩られた大きな廊下は今、歩く音で響き渡っていた。
聞こえる足音は一つ。その足音の主は、響き返る自分の足音にも気にも留めず、黙々と目的地に向かって進んでいた。

 その男――彼は面妖な出で立ちをしていた。

 まず身に纏う服は、全てが真白。腰には刀を帯刀している。
全身の肌も同じように白がかっていたが、髪は黒く、その左上には、かつての虚であった頃の名残か、仮面の破片のようなものがついている。
その瞳には、喜怒哀楽どの感情にも浮かんではなく、感情そのものがあるのかさえ疑問に思う眼をしていた。
 やがて―――歩き続ける彼の前には、大きな扉へと辿り着いた。
そこで立ち止まり、彼はしばし聳える扉を見上げた。

「ウルキオラかい? 入っていいよ」
 暫くして、扉の奥から声が響いた。
彼はゆっくりと扉を開け、中へと入った。

「急な呼び出し、済まなかったね」
 ウルキオラと呼ばれた彼の目の前には、後ろを向いた質素な椅子、それだけしか無かった。やがて椅子が前へと向きなおり、座っている者の姿が見える様になる。

「藍染様、御要件は何ですか?」
 ウルキオラは軽く一礼し、単刀直入にそう訊いた。
しばらくして、藍染は不敵な笑みをしたまま答える。
「君に、ある物を届けて欲しいんだ」
「……ある物?」
「そう、ある物だ」
 そう言って愛染は指を鳴らした。

 次の瞬間、ウルキオラのすぐ下の地面から、小さな円柱が伸び出てきた。
円柱はある程度まで伸びた後、今度は上部から螺旋状に分かれ始めた。
――それもある程度まで分かれた時、ウルキオラの前には小さな玉が現れていた。

136りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:28:18 ID:IWMWkURY

 ――小さくも中で何かが激しく渦巻いているように見える『それ』
周囲には、危険だと判断された浦原喜助の手で封印された結界が張ってある『それ』
それでもなお、見る者にとてつもない何かを感じさせる『それ』
 浦原喜助が創り出した、死神と虚の境界線を取り払い、さらなる存在を生み出す『それ』
―――それの名を『崩玉』と言った。

「偽物では無い、正真正銘の本物だ」
 崩玉を手に取るウルキオラに、藍染は変わらぬ笑みを讃えて言った。
「これを、ある男に届けて――そしてしばらくの間は、その男の言う通りに動いて欲しいんだ」
 そしてしばらく間を置き、こう続ける。
「そして、その男の言う通りに動く裏で、君には極秘にあることをしてもらいたい。そのあることとは―――――」



「…わかりました」
 説明を聞き終えたウルキオラは、しばしの黙考の後、静かにそう答えた。
この任務について、疑問に思うことは数あれど、それを藍染に問おうとは思わなかった。
――自分にとって藍染は絶対、藍染がそうしろと言うならば、自分はその通りに動くだけだ。

「頼んだよ、ウルキオラ」
 藍染はそう言い終える頃には既に、ウルキオラは『黒腔(ガルガンタ)』を開いていた。
「では、直ぐにでも」
「ああ、」
 藍染は最後に、ウルキオラに目的地を伝えた。

「場所は、魔法の地ミッドチルダ。男の名はジェイル・スカリエッティだ」


 役者は集う―――彼の地ミッドチルダに―――。




―――――――――――――――――――――――――――――――To be continued

137りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:29:02 ID:IWMWkURY
これにて終了です。どうもお疲れ様でした。
     補足 前回の質問について
 今回は『なのは』と『ブリーチ』の設定について、色々疑問が多いと思うので、
明かせる範囲だけで簡単な説明をしようと思います。

Q 管理局と戸魂界の関係について
今回の事が起こるまで、あまり交流はありませんでした。理由は、本編を見てくれたら多少なりと納得してくれるかと
 管理局側は、死神と虚の存在は確認できるけど、死神の場合あまり記録に残らないように改竄されているという設定です。そのため確認例がちらほらあるだけです。
 虚は、死神に比べると発見例が多いですが、霊=虚と結びつくまでには至っておらず、(外見から結びつけるのは不可能かと)それならまだ危険な魔法生物の一種と見なしているようです
(A`sのような怪物もいましたし)
 戸魂界側は、存在こそ知っていますが、今となっては信用することはできずに、勝手にさせている状態です。

Q なのは達の19年間について
 霊は見えていますが、虚は見てはいません。いつかはそれを描いた番外編でも創ろうかと。
 虚を見なかった理由については、現地の死神が優秀だったことにしてください。(一護も15年間は虚の存在を知らなかった)

Q じゃあミッドチルダに虚や死神は出ないのか
 ―――でません。それは何故か?
それは本編の続きということで。

 また質問があったらどうぞ、すぐには返せないかもしれませんが。

                        ――――――それではまた。
ここまで代理お願いします

138魔法少女リリカル名無し:2009/03/12(木) 20:06:38 ID:ppyTEUP.
>>137
自分も規制中なので無理ですが
代理投下のお願いは一番最後に別レスでやった方がいいと思います
その方が目に付きやすいので

あと何レス目〜何レス目までの範囲も書いて置いた方が

139りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/14(土) 14:45:05 ID:0zvgg.Go
確認しました
代理の方どうもありがとうございました

140レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:42:01 ID:/jMypZuk
 「くっ!これは!!」
 「無駄ですよ、その赤いバインド、レデュースパワーは縛った対象の力を抑え、
 青いバインド、レデュースガードは縛った対象の防御を抑える……その意味はわかりますね?」
 
 そう言うとグングニルを振り上げるレザード、ザフィーラはバインドを外そうと力を込めるが思うように力が入らなかった。
 ザフィーラはなす統べなくレザードの攻撃を受け吹き飛んだ。
 すると今度はフェイトがトライデントスマッシャーをレザードに放つ。
 最初に撃ち出された直射砲を軸に上下に直射砲が伸び、三本の直射砲がレザードに向かって襲いかかる。
 だがレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせライトニングボルトを放つ。
 ライトニングボルトはトライデントスマッシャーを打ち破りフェイトに直撃した。
 すると今度はなのはがエクセリオンバスターを撃ち込む。
 
 「エクセリオン……バスター!!」
 「フッ……プリベントソーサリー」
 
 するとエクセリオンバスターから黄色い魔力の鎖が現れ、巻き付くとエクセリオンバスターは徐々に拡散し消滅した。
 なのはは驚く表情を見せるとレザードは得意気にバインドの説明を始めた。
 プリベントソーサリー、レザードがこの世界に合わせた魔法で、縛った対象の魔力を封じる効果を持つという。
 つまりそれは魔法を縛れば魔力の運動を止められ消滅し、
 肉体を縛ればリンカーコアの動きを封じられ魔法が使えなくなると語る。
 そしてレザードは眼鏡に手を当てると更に話しを続けた。
 
 「どうしました?さっきまでの威勢は何処へ行ったんでしょう?
  それとも…フフッ犠牲者がでなければ実力が発揮出来ないとか?」
 
 そう言うと左手を地上にかざすレザード、左手は先ほどと同様、魔力に覆われていた。
 なのはとフェイトはレザードがかざす手の方へ目を向ける、すると其処にはティアナやエリオ達の姿があった。
 まさか!といやな予感がしたなのはは、とっさにティアナ達に念話を送る。
 
 (ティアナ!みんな!急いでその場か―――)
 「…バーンストーム」
 
 そう言うとレザードは指を鳴らすと纏っていた魔力が消える。
 そしてスバルが居た場所を中心に直径数百メートルの部分が三度に分けて大爆発を起こし、その光景を目の当たりにするフェイト。
 するとレザードはバーンストームの説明を始める、バーンストームは爆炎を利用した魔法、
 そしてレザードの手によって非殺傷設定されている為、死ぬ事は無いと。
 だがレザードの炎は特別で対象が気絶するか、かき消すか、そして非殺傷設定が解除されてあれば燃え尽きるかしないと、炎は消える事が無いと話す。
 しかしバーンストームの跡地に残された炎は見る見ると消えて来ており、その状況に疑問を感じるレザード。
 
 「おや?思いの外、炎の消えが早い……そうか!相手が弱すぎて最初の爆炎だけで気を失ったのか!
  ならば…その後に訪れるハズであった身を焼かれる苦しみを味わなくて済んだようですね」
 
 そう言って高笑いを上げるレザード、フェイトは依然として跡地を見つめていた。
 あの場にはエリオ達の姿もあった…それが一瞬にして消されたのである。
 
 するとフェイトは怒りで目の瞳孔が開き、髪をふわりと逆立てると、ソニックムーブでレザードの後ろをとり、
 ブリッツアクションを用いて腕の振りを早めたジェットザンバーを放つ。
 だがレザードはとっさにシールドを展開させフェイトの攻撃を防ぐ。
 互いの攻防により火花が散る中、フェイトはレザードを睨み付け吐き捨てるように叫んだ。
 
 「アナタは!命をなんだと思っているんですか!!」
 「ほぅ……“人形”が生意気にも命を語るか……」
 
 その言葉に動揺を覚えるフェイト、その隙を付いてレザードはグングニルでフェイトの子宮辺りを突き刺す。
 グングニルにはアームドデバイスと同様、非殺傷設定されてあれば肉体を傷つけず、
 肉体を傷つけた際に生じるであろう痛みのみを与える効果を持っている。

141レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:43:13 ID:/jMypZuk
 「かぁ!?……はぁぁぁ……ぁぁ…」
 「“人形”が…処女〈おとめ〉を失う時の様な喘ぎ声を上げるとは…な!」
 
 そう言ってレザードは更にグングニルを深く突き刺し更に突き上げた。
 グングニルによって深く突き上げられた痛みによって、フェイトは目を見開き涎を垂らしていた。
 
 「はぅ!……ぁ…ぁぁああ!!」
 「キツいですか?なぁに…すぐにこの感覚にも馴れます…よ!」
 
 更に深く突き上げ、グングニルは尾てい骨辺りを超えて貫き、腰から刃を覗かせていた。
 
 「カハァ!!」
 「とは言え所詮はただの“人形”……貴方が相手では木偶と情交するに等しいか…」
 「わた…しを…“人形”と……呼ぶな!!」
 
 涎を垂らし目には涙を溜めながらも必死に抵抗するフェイト。
 するとレザードはグングニルを引き抜きフェイトの顎を掴み、顔を近づけこう言い放った。
 
 「“人形”と呼ばれるのがそんなに不服か?…ならばこう呼んでやろう……プロジェクトFの残滓よ」
 「ッ!!!キッキサマ!!」
 
 フェイトの怒りは頂点に達しレザードの手を振り払うとバルディッシュをまっすぐ振り下ろした。
 だがレザードはフェイトの怒りの一撃をたやすく受け止めていた。
 
 「そんな!フィールド系?…いや支援魔法!?」
 「ご名答…正解した貴女にはコレを差し上げましょう…」
 
 そう応えるとレザードはフェイトに手を向ける、手には魔力が纏われており、魔力は手のひらを介して球体へと変化、それは徐々に加速していった。
 それを見つめるなのはは見たことがあった、いや確信していた、あれは自分の十八番とも言える魔法であると。
 
 「確か……名は」
 「フェイトちゃ――」
 「ディバインバスターでしたか」
 
 次の瞬間、レザードから青白いディバインバスターがフェイトに向け撃ち出された。
 フェイトはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされていく。
 だが後方でザフィーラがフェイトの救出に成功していた。
 
 「何で!アナタがディバインバスターを!」
 「ただの魔力を加速させて放出させるなど、私が出来ないとお思いで?」
 
 レザードは様々な魔力変換が可能な存在、魔力を加速させて撃ち出すことなど造作もないと不敵な笑みを浮かべ話す。
 その中レザードにルーテシアから念話が届く。
 
 内容は今し方ガリューは目的の品を回収し無事アグスタを脱出、現在ルーテシアの元へ向かっているという。
 
 (…わかりました、ではルーテシアはガリューが到着後すぐに転移して下さい、しんがりは私が務めましょう…)
 (わかった…やりすぎないでね)
 
 ルーテシアは一言残し念話を切る、それを確認したレザードは辺りを見渡すとなのはを中心にメンバーが募っていた。
 レザードは一通り見渡すと肩をすくめこう言い放った。

142レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:46:54 ID:/jMypZuk
 「さて…貴方がたの実力も見えてきた頃ですし、そろそろ私は退散でもしますか」
 「なっ逃げるの!それに…私達がそれを許すと思うの!!」
 
 なのはのその言葉に大笑いするレザード、するとレザードは眼鏡に手を当てこう言い始める。
 
 「これは面白い事を言う、貴女は自分がどのような状況かまるで解っていないのですね」
 「それはどういう意味!」
 「こう言う事ですよ」
 
 そう言ってレザードは移送方陣で更に上空へと上がる。
 なのは達は必死に追いかけているとレザードの足元に、
 巨大な複数の環状で構成された多角形の魔法陣を展開、そして左手をなのは達に向け詠唱を始める。
 
 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…」
 
 するとレザードの目の前に黒い球体が姿を現す。
 球体の中は幾つか稲光が見えていた、そしてレザードは更に詠唱を続ける。
 
 「彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!」
 
 すると球体は見る見る膨らんでいきレザードの姿すら見えないほどにまで巨大化していた。
 
 「あれは……まさか広域攻撃魔法か!?」
 「こんな場所で撃ち出そうと言うの!」
 
 なのは達は上空を見上げレザードの魔法を分析する。
 するとレザードの声だけが響いてきた。
 
 「安心なさい…非殺傷設定されてあります…ですので……」
 
 レザードの姿は魔法に隠れ見えないが、不敵な笑みを浮かべているだろう声でこう告げた。
 
 「存分に死の恐怖と苦痛を堪能して下さい…」
 
 そしてグラビティブレスと叫ぶと漆黒の球体はなのは達に向かっていった。
 なのは達は苦い顔をしながら迫ってくる球体を睨みつけると回避を否がす。
 だがヴィータがそれに反発する、何故ならなのは達の後ろにはアグスタが存在していた。
 アグスタの中にはまだ局員達が多数警備しており、今自分達が避けたらアグスタに直撃してしまうからだ。
 するとザフィーラが一歩前に出ると障壁を最大にして展開、グラビティブレスを受け止めようとする。
 その間になのは達はアグスタに残っている局員達に連絡を取ろうとした瞬間、
 ザフィーラの障壁が脆くも打ち崩され、ザフィーラを飲み込んでいった。
 更になのは達をも飲み込み、グラビティブレスは無情にもアグスタを包み込むように直撃した。
 
 …グラビティブレスの中は詠唱如く、無数の雷が蠢きあい、内にあるモノ全てを驟雨の如く打ち付けていた。
 暫くするとグラビティブレスは一つの稲光を残し消え、跡地にはアグスタが瓦礫の山となっており、一部は砂塵と化していた。
 その様子を上空で見届けたレザードは眼鏡に手を当てながら口を開く。
 
 「我ながら中々の威力ですね」
 
 そして高笑いをしながら移送方陣でその場を後にした。

143レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:49:09 ID:/jMypZuk
 一方、一部始終見届けていたロングアーチは静寂に包まれていた。
 誰もが今まで見ていた光景が偽りであると考えるその中で、はやての檄が飛ぶ。

 「何を惚けとる!早よ現場に救護班を急行させ!いくら非殺傷設定の攻撃だとしても、あの量の瓦礫に埋められたら圧死か窒息死してまう!!」
 
 その言葉に端を発し一斉に動き出すロングアーチ、その中はやては右手を握ると思いっきり机を叩く。
 そして苦い表情を表しながらモニターを見つめ吐き捨てるかのように言葉を口にした。
 
 「私の……私の判断ミスや!!」
 
 
 
 
 一方ゆりかごに戻ったレザードは通路を歩いていると、ルーテシアがレザードの帰りを待っていた。
 ルーテシアはスカリエッティに頼まれた品物を渡しナンバーズにも品物を渡し、残りはレザードの品物だけだと話す。
 ルーテシアはレザードに一つのパピルスを渡す、パピルスには設計図のような物が描かれていた。
 そしてルーテシアはその品物が何なのか問いかけた。
 
 「博士…それ何なの?」
 「これですか?」
 
 ルーテシアの疑問に対し、パピルスに目を通しつつ笑みを浮かべこう答えた。
 
 
 
 「“ゴーレム”の設計図ですよ…」

144レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:52:17 ID:/jMypZuk
以上です、レザード大暴れな回です。
アームド系の非殺傷設定はあんな感じにしてみました。



次は外伝を挟みながらの投下を予定しています。


それではまた。

145レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:53:33 ID:/jMypZuk
そして久々に規制に引っかかりました。

どなたか代理投下をお願いします。

146魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/04/16(木) 21:24:31 ID:WCv/C/0M
やはり後一歩のところで規制食らった……すいません、どなたか代理投下お願いします。


 日も落ち夜の闇が支配する廃墟街の片隅で。不安を押し殺しながら、君島に言われた通りにずっとカズマの帰りを待ち続けていた。
 そんな時だ、瓦礫を踏む足音が聞こえてきて弾かれたように振り向いたその先に―――

 ―――待ち続けていた愛しい人がこちらに向かって歩いてきていた。

 かなみは漸くにカズマと会えたことに歓喜に打ち震えながら、彼の名を何度も呼びながら駆け寄り、彼へと抱きついた。

「すまねえな、かなみ。ちょっと野暮用でよ」

 この期に及んでまだいつものバレバレの言い訳をしようとするカズマが可笑しく、しょうがない人だと笑いかけ―――

 ―――カズマが背負っている君島に気づき、その笑みが止まる。

「き、君島さんが………あれ…………?」
「ん、君島がどうしたよ?」

 急に背負っている相棒のことで戸惑いだしたかなみを見て、それこそカズマは不思議そうに首を傾げていた。
 君島がどうかしたのだろうか……っていうかコイツはいつまで寝ている心算なのだろうか。

「おい、ちゃんと掴まってろよ君島。落っこっちまうだろ」

 そう言いながらついでに起きないものかと揺すってみたが、やはり反応なし。
 本当に熟睡してやがるのか、そんな呆れを抱いていたその時にカズマはこちらを……否、君島を見上げて泣いているかなみの姿に気づいた。
 なんでかなみが君島を見て泣いているんだ? その疑問の解が最初は分からなかったカズマであったが急に胸中に広がりだした嫌な予感である事に気づきはじめた。

「………君島?」

 本当に、君島は熟睡しているだけなのか?
 何故呼びかけに応えない?
 何故寝息一つ聞こえてこない?
 それに………何故、かなみが泣いているんだ?

「……お、おい……君島。……な、何だよ、チャラけてる場合じゃねえだろ?」

 段々と己の声が震えてくることにカズマは嫌でも気づいていた。
 今思えば、君島の様子はいつもとはどこか違い、変だった。
 よく考え、振り返ってみればそれはありありと分かることでもあり、そして今この状況こそがそれを証明しているのではないのか?

 傷だらけで、目を覚まそうとしない君島邦彦。
 そんな彼を見て泣いている由詑かなみ。

 ありえない、そんなことは絶対にありえない。
 脳裏に過ぎる最悪の予想を無理矢理に振り払いながら、カズマは君島を起こす為に何度も呼びかける。
 応えは、一度たりとも返ってこなかった。
 そのせいだろう、段々とカズマも焦ってきていた。

 おい、君島。そろそろ起きろよ。
 お前が誤解されるような寝方してるせいで、かなみが泣いちまってるじゃねえか。

 かなみも泣くな、泣く必要なんて無いだろう。
 お前が泣いちまってるもんだから……まるで……まるで………

 まるで、君島邦彦は本当に――――

147魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/04/16(木) 21:30:12 ID:WCv/C/0M

「………おい、起きろよ。………君島…………?」

 それでも、震える声でなんとかそれを認めたがらないように、否定するように、彼が応えてくれるように願って、カズマは君島へと呼びかける。
 だが―――



 ―――だが二度と、君島邦彦がカズマの呼びかけに応えることは無かった。



 次回予告

 第7話 ロストグラウンド

 誤解が不和を呼び、不和が戦いを呼び、戦いが悲しみを呼ぶ。
 その中で芽生えた友情も、愛も
 光の中に溶け込むしかないのか?
 往くは破壊、来るは破壊
 全て―――破壊。


というわけで君島退場です。
予定調和と言われればそこまでですが、サプライズ要素でも生かすことは自分の未熟な技量では出来そうにありませんでした。
その代わり自分なりにこれまでで一番力を注いだ部分だったのですがどうっだたでしょうか?
今回はちょっと詰め込みすぎた感もありますし、もう少しこれからは精進したいと思っています。
いつも長くてすいません。それでは、また。

148LYRICAL COMBAT ◆CF.MGbgQBo:2009/04/20(月) 17:17:37 ID:5mwSsDMs
さるさんに引っかかってしまいました…。投下の方は終了しましたので
どなたか次のレスの代理をお願いします…。

149LYRICAL COMBAT ◆CF.MGbgQBo:2009/04/20(月) 17:20:29 ID:5mwSsDMs
はい、第2話終了です。やっと六課との接触ができました。
支援してくれた方、ありがとうございます!
それでは、また。

150りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:16:48 ID:anR3nOTw
新人隊員です。スレの容量が超えてしまって投下できません。
どなたか、続きを投下してはくれないでしょうか

151りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:18:26 ID:anR3nOTw
新人隊員です。スレの容量が超えてしまって投下できません。
どなたか、続きを投下してはくれないでしょうか

152りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:26:03 ID:anR3nOTw
 ――場所は変わり、研究施設。

「レリック反応を追跡していた、ドローンⅠ型6機、すべて破壊されています」
「ほう…」
 モニター越しに女性と会話をするのは、白衣の男――ジェイル・スカリエッティ。
別に映し出されたガジェットの残骸を見、至極興味深そうな表情をした。

「破壊したのは局の魔導師か…それとも、アタリを引いたか?」
「確定はできませんが、どうやら後者のようです」
「すばらしい、早速追跡をかけるとしよう」
底冷えするような冷笑を湛えてそう言うスカリエッティ。
と、そこにコツコツとこちらへと来る足音が一つ。

「ねえ、Dr。それなら、アタシも出たいんだけど」
「ノーヴェ、君か?」
「駄目よノーヴェ、貴女の武装は、まだ調整中なんだし」
「今回出てきたのがアタリなら、自分の目で見てみたい」
 どこかぞんざいな口調で頼む、ノーヴェと呼ばれた少女。
しかしスカリエッティは、ゆっくりと首を振った。

「別に焦らずとも、アレはいずれ必ず、ここにやってくる事になるわけだがね……まあ、落ち着いて待っていて欲しいね、いいかい?」
「……わかった」
 渋々納得したかのように、ノーヴェは引き下がった。
その間にも、彼等は事も無げに話を進める。

「ドローンの出撃は、状況を見てからにしましょう。妹達の中から、適任者を選んで出します」
「ああ、頼むよ」
そう言って頷くスカリエッティの視線は、もう片方のモニターに映し出された、何者かに破壊されたガジェットの詳細の方に移っていた。



「…俺の手が必要か?」
 不意に、スカリエッティの後ろから声が聞こえてきた。
ノーヴェとは違い、音も無く彼の背後を取る男。

 男は、面妖な出で立ちをしていた。
全てが白く染まった様な、死覇装にも似た服を着こなし、頭部には虚の欠片と思しき物が付いている。そして精密機械を思わせるような感情の起伏が見られない顔。
その冷徹な表情で、彼は睨むように訊ねていた。


「君の出番はここじゃあ無いよ」
しかし後ろを取られにも関わらず、スカリエッティの声は平坦そのもので返した。

「『破面』の力というのが、どれ程のものか、確かに見てみたいところだが、ここで使うにはいささか早計というもの……
当面君には別の場所で働いてもらうとしよう、頼むよ、ウルキオラ」
 その言葉に、男――ウルキオラは特に異議を唱えることはしなかったが、いま一つ、確認するように訊く。

「別に構わないが、藍染様との契約を、忘れてはいないだろうな?」
「わかっているさ、私と君の主とは、少なからない仲でもあるのだからねえ――約束はちゃんと守るよ」
 彼の謹直さに苦笑いを呈しながらも、スカリエッティは頷いた。

―――ならいい、とそれだけ確認するとウルキオラもその場を後に去って行く。

「……後は」
 そしてスカリエッティは再び視線をモニターに戻し、そこに映る高台――を感慨も無く見下ろす少女を見て呟いた。
「愛すべきもう一人の友人にも、頼んでおくとしよう」

153りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:26:46 ID:anR3nOTw
「あ〜〜買った買った!」
 大手を振って歩く二人の女性がいた。
道行く人が十人いれば十人、振り返ること間違いなしの美女二人が、両手に買い物袋を抱えて歩いている。
「あの…いいんですか? こんなに買っちゃって」
 隣の巨乳美女、織姫が手荷物を見て恐る恐る訊くが、しかし乱菊はどうってことなさそうに返す。
「いいのよ! ちゃあんと経費から落としてきたし!」
「それ、いいんですか? 勝手に使っちゃったら日番谷君怒るんじゃ…」
「大丈夫、うちの隊長は懐が大きいから!」
 にっこり微笑んで言い切る乱菊。―――冬獅郎の苦労はまだまだ絶えない。
アハハ、と織姫が苦笑いを呈しながら、何気なく道を歩いていたその時。


「……?」
 ふと、何か気付いたように織姫が立ち止った。

「どうしたの織姫?」
「え、と…今何か聞こえませんでしたか?」
 周りを見渡して、聞き耳を立てる織姫。
乱菊もそれに倣うが、特に怪しい音は聞こえてこない。

「別に何も―――」



    カコン




 と、重く低い音が、乱菊の耳にも響いた。
聞き間違いじゃない、確かに何かが…こっちに来ている。

「こっちです!!」
 織姫が、角の路地裏に回った。
乱菊も織姫の後を追って角を曲がる。

 次の瞬間、二人は驚きに目を見張った。

「乱菊さん…これは……」
今、織姫たちの目の前には、重度の怪我を負った、少女が倒れていた。
だが、乱菊が目を向けたのはそこだけではなかった。

「……この子…」
 乱菊が彼女を介抱しながら、少女の腕に繋がれているケースを見た。
―――それは、レリックのケースに他ならなかった。


「とにかく、隊長に報告しなきゃ」
 彼女の瞳には、いつもの楽天的な表情が微塵にも消えていた。





 仮本拠地内 執務室にて

「…………終わった……」
 今しがた最後の生類整備を終え、やっとぐったりと机に項垂れる冬獅郎。
―――結局、乱菊の分までやってしまった。
先刻ほどに乱菊が出て行った時は、目も当てられないほどに雑多だった副隊長机も、今や自分の机と同じように綺麗に整っている。

154りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:27:33 ID:anR3nOTw

 しかし、今広がる光景とは裏腹に、冬獅郎の心はストレスで曇りに曇っていた。

(やっぱり俺はお人好しか?)

 自己嫌悪で悶絶する冬獅郎。こんな調子では本当にこれからが思いやられる。
――もし、こんな時に何かありでもしたら。



「ん、何だ?」
 それを告げるかのように突然、懐にある伝令神機から、連絡が来た。
嫌な予感がすると分かりつつも、冬獅郎は渋々電話に出る。

「――十番隊 日番谷だが」
「隊長ですか? あたしです!」
「……何だよお前か」
 ただでさえ深い眉間をさらに寄せて、不機嫌を露わに訊く。

「一体今度は何があったんだ?」
「単刀直入に言います、路地裏で少女が大怪我で見つかったんです!!」
そらきた。
また新たに増えた厄介事に、冬獅郎は大きなため息を吐く。

「オイ…テメエまさか、それも俺の手が必要とか抜かすんじゃねえだろうな? それくらいの状況判断ぐらい自分でしやがれ―――」
「少女の持っていた物の中に、レリックと思しき物も見つかりました」


「!!!」
 瞬間、冬獅郎の目が驚きに開かれた。
まさかこんなにむ早く見つかるとは―――。
どうやら、状況というものは、いつもやってきてほしくない時にこそ、起こってしまうものらしい。
冬獅郎は再び大きなため息をつくと、改まった声で訊き直した。

「…場所は何処だ?」





「あ、ここです! 隊長」
 数分後、乱菊達の処に、えらくクールな、昭和風の少年服を着た冬獅郎が路地裏へと行き着いた。
「隊長…その服で来たんですか?」
 勇気があるなあ、という目と、それはないだろう、という珍妙な目で冬獅郎を見る乱菊。
―――どうやら自分がこれを着せたことは遥か遠い記憶の中に置いてきてしまったらしい。

「松本…テメエ後で覚えてろよ」
 そう吐き捨てから、改めて織姫の結界術で治療中の少女と―――隣の鎖に巻かれたケースを見やった。

「………封印は?」
「一応、しときました」
「――そうか」
 冬獅郎の視線は、レリックから再びケースへと移る。
正確には、ケースに繋がれている鎖に注目しているようだった。


「…これは……」
――切れている鎖の先端。
冬獅郎がそこから答えを導き出すのに、そう時間はかからなかった。


「レリックはもう一つある」
「――え?」
「直ぐに動くぞ、松本、準備をしろ」
 あまりの事についていけない乱菊を余所に、冬獅郎はすぐさま懐から丸い丸薬――もとい義魂丸を取り出し、口に入れた。

仮初の肉体から、彼の本来の姿が現れる。

155りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:35:59 ID:anR3nOTw
黒い着物『死覇装』を身に纏い、さらにその上、護挺隊の頂点に立つ者のみ着用が許される『隊首羽織』そこに書かれている『十』の数字の白い羽織をなびかせ、
そこに長身の愛刀を担ぐ。
同時に、先程まで不機嫌で歪んでいた顔も、威厳のあるものへと変わっていた。

「はぁ…仕方ないか」
 渋々といった感じで、乱菊も冬獅郎の後に続き、義魂丸を口にする。
同じように身体から魂が引き剥がされ、冬獅郎と同じ死神装束の彼女が現れ出る。


その頃には、冬獅郎がレリックをケースから取り出し、先程までの自分の義骸に指示を出していた。
「とりあえず、お前達は拠点にまでこのレリックを届けてくれ」
冬獅郎の身体に入った義骸は、大仰な敬礼を取って答える。

「わかりました! 70%の確率で届けます!」
「100%の確率で届けろバカ!!」
 多少の不安は残しながらも、冬獅郎と乱菊の義骸達は素直に指示を受け取り、速やかにその場を去って行った。冬獅郎は素早く乱菊に向き直る。

「松本、お前はまず今のこの状況を黒埼達に伝えろ。それが終わり次第、残りのレリック探索を始めるぞ」
「え〜〜〜! 地下水の中を探し回るんですかあ?」
乱菊も開けられた地下道を見、不服そうな声を出す。
しかし、冬獅郎は有無を言わせない。


「松本、束の間の休息はもう堪能しただろ?」
 その口調は、先程までの不機嫌が醸し出したようなものでは無かった。怒鳴るでもなく諭すでもない、ただただ静かで、そして重みのある声。

「こっから先はマジで取り組め―――でねえと、死ぬぞ」
「…わかってますよ」
面倒そうに返しながらも、もう彼女の瞳からは、いままでのお茶らけた感じは消えていた。

「あの、日番谷君…あたしはどうしたら…」
「お前は、そのガキをある程度治療したら保護しろ―その後は命があるまで待機だ。わかったな」
「え、でも―――」
 
その眼には、「自分も戦いたい」という意味が容易に察せられた。
だが危害を加えられない彼女の性分では足手まといになることは分かり切っているし、第一状況が状況、個人の我儘に付き合うほど、今は暇でも無かった。

「言ったろ、待機する役も重要だってな――だから大人しく待っていろ」
「大丈夫よ、直ぐに終わらせてくるから」
「…わかりました」
 乱菊のその言葉に、織姫はただ頷くしかなかった。
そして、二人は再び地下水の入口の方に向き直る。

「準備はいいな、松本」
「何時でも」
 簡素な返答――だが、それだけでお互いの準備ができたことが、長年培ってきた信頼でわかっていた。
「日番谷君、乱菊さん」
織姫は、二人が消える最後の最後まで、冬獅郎達を見送っていた。

「―――気をつけて」
「ん、ああ」
「これが終わったら、またショッピングの続きでもしようね」
二人は、それぞれ織姫にそう返すと、暗い地下水の穴の中へと消えていった。





「―――それにしてもこの子、どっから来たんだろう?」
 目を覚ますまでの間、その場で治療することにした織姫は、改めて酷く傷ついた少女を見やった。着てる服や、痣だらけの身体を見ても、
ただ地下水を歩いてきたにしてはおかしい位ボロボロだった。
無論、レリックのケースを何故運んで来たのかも大きな疑問の一つ――なのだが……。

(…何だろう、この子…)

 それ以上に織姫の疑問を抱かせているのが、少女から感じる『霊圧』だった。
決して大きくは無い、むしろ小さい部類に入るくらいものではあるのだが、――どこか違う、織姫は理屈ではなく感覚でそう感じた。
 死神のものでも虚のものでも無く、だが自分達ともどこかかけ離れているような…この感覚は一体……。

156りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:43:15 ID:anR3nOTw
「ウオオオオオオオオオオオオオァァァァァァ!!!!!!」


今度は路地裏の奥で、地獄から聞こえてくるような、重く、響くような唸り声が聞こえてきた。
織姫は、一旦手を休め、恐る恐る向こう角で蠢く影を見た。


 ――腕が、脚が。


人体の形相を留め得ないその姿態を見たとき、織姫の神経に戦慄が走った。

(虚だ……!! 何でここに?)

新たに湧き出る疑問。
虚は、自分に気づかず、その場から消えていく。
 ―――このまま野放しにはできない。

「ゴメンね、直ぐ帰ってくるから」
 織姫は少女に結界術を張ったまま、急いで虚の後を追いかけた。
角を曲がり、細道を通り、人気の無い路地裏を突き進み―――そして、見つけた。
長い時間を掛けてしまったが、漸く虚の影がその眼に視認することができた。

(せめて、これぐらいはみんなの役に立たなきゃ!!)
 そう意に決し、攻撃準備を整え、虚に向かって行こうとして―――不意に止めた。

「―――ガッ!!!?」
「……え?」
 突然虚は、頭を抱え込んで苦しみだした。
それと同時に、虚の身体がみるみるうちに溶けだし始める。
鱗のようなもので覆われた皮膚は、不気味な音を立てながらドロドロに落ちて、その上から蒸気が立ち込める。

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
そして次の瞬間、原形すら留めずに、虚は字義通り蒸発して、消えた―――。

「……どうなってるの……?」
 織姫は、わけがわからず、ただそこで立ち竦むだけだった。


そして、その同じ頃。


「―――あれ?」
「どうしたの、エリオ君?」
 同じく束の間の休暇を楽しんでいたエリオとキャロは、ある街路地で足を止めた。

「いや、何か叫び声のようなものが聞こえたような――」
 エリオは不審げに辺りを見回し、そしてすぐ角にある細道に目を向けると、そこに一目散へと駆け出した。

「あ、待ってよエリオ君!」
急いで追いかけるキャロを余所に、エリオは角を曲って、そして驚きに立ち止った。
後から来たキャロも、エリオが見ているものを見て、その理由を悟った。

 道端に、不思議な光に包まれている少女が倒れていた。

「お…女の子? 怪我してる!」
「それと…何だろ、この光…?」
 少女に駆け寄り、不思議に光るものにエリオが触れようとした時、それはふっと消えてしまった。

「な、何? 今の」
「と……とにかくスバルさん達に知らせないと!!」
 慌てふためきながらも、少女の介護を始めるエリオとキャロ。
そんな彼等のやり取りを、頭上から遠巻きに見る小さな影が二つ。

「た…大変だ……」
 さっきまで少女の、治療の担当をしていた織姫の分身体ともいえる小人――舜桜が、エリオ達と同じくらいに慌てて言った。

「とにかく、織姫さんに知らせないと…!」




 時は進む、ゆっくりと。
  世界は交わる、再びに。
   そしてそれぞれの思いを胸に、彼等は衝突する。






―――――――――――――――――――――――――――To be continued.

157りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:45:55 ID:anR3nOTw
今日はここまで、全然目新しいものが無くてすいませんでした。
なので予告でもしておきましょう。

次回、いよいよ戦闘開始! まず最初は『子供対決』からです!!
 ―補足…というか反省―
冬獅郎の少年服の下り、完全に要らなかったですね。
衝動的にやってしまって、最後まで入れようか迷ったんですけど…。
でもやっぱり今は反省しています。
質問があったらどうぞよろしくお願いします。
                       ――――――ではまた。


ここまでお願いします。今回はさるさんにやられるわスレは越えるわで色々と迷惑をかけました本当に申し訳ないです。

代理の方、ありがとうございました。

158魔法少女リリカル名無し:2009/04/27(月) 00:01:09 ID:sCgDLBUE
age

159魔法少女リリカル名無し:2009/04/27(月) 00:01:48 ID:sCgDLBUE
age

160<削除>:<削除>
<削除>

161魔法少女リリカル名無し:2009/04/27(月) 22:08:50 ID:uw0hWcUg
容量オーバーとわかっていながら、スレ立てせずに代理投稿依頼とな。

162無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:10:11 ID:8AABVTo2
大変お久しぶりです。本当はGWに投下したかったんですが忙しかったりアクセス規制にあったり…ors
遅くなりましたがリリカル×ライダー第4話を20:30に投下したいと思います。

163無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:53:01 ID:8AABVTo2
遅くなりましたがどうぞ。


「アンタみたいな犯罪者を、あたしは許さない」
 ティアナが一枚のカードを握りしめながら俺を睨み付ける。
 俺はそこまで恨まれるようなことをしただろうか?……いや、恨んでいるとは違うか。しかし彼女がああなっている理由はなんだ?
 人を傷付けたのが許せないのか、言い訳にしか聞こえないことばかり言うのが許せないのか、それとも罪が課されなかったことが許せないのか。
「おい、俺は戦い方なんか知らないぞ?」
 そんなの知らないとばかりに構えを取るティアナ。こちらの台詞は無視する算段か。
 しかしどんな理由にしろ彼女とは分かり合う必要がある。勘違いされたままというのは気分が悪い。
「じゃあ、いくわよ」
 結局、いくら考えようと、この戦いを止めることは出来なさそうだ。



   リリカル×ライダー

   第四話『模擬戦』




「なのは、何故この模擬戦を許可した?」
 後ろから話しかけられたので振り向くと、そこにはシグナムさんが立っていた。
 彼女の特徴は燃えるような、しかし赤いとは違う桃色に似た髪だと思う。普段からその髪をポニーテールに纏めていて、キリッとしててカッコいい。厳しく真面目な性格で、はやてちゃんの守護騎士達の中でも特にリーダーとして慕われている。
「シグナムさんがここに来るなんて珍しいですね」
「何を言う。こんな興味深い模擬戦、見ないはずがなかろう」
 彼女の戦闘(決闘?) 好きは、今に始まったことではなかった。
「にゃはは……そ、そうですね」
 実はわたし、ちょっとだけシグナムさんが苦手。あんまりお話しないからというのもあるけど、何より性格的に合わない。嫌いってわけじゃないし、むしろ尊敬してる所もあるのだけれど。
 逆にフェイトちゃんとは仲が良いんだけどなぁ。
「で、何故許可した? なのはらしくないと思うが」
 自分は過去の失敗から、無茶はさせないように教育している。今回の模擬戦はそれに反するということだろう。そう、自分でもそれぐらいは分かっている。
「やらせてあげないとティアナも納得しないだろうな、と思ったので。それにカズマ君が何故暴走していたかも知りたいし、丁度いいかと思いまして」
「やはりらしくないな。お前がそんな打算的な行動を取るとは」
 クスリと笑ってそんなことを言うシグナムさん。わたしってそんなに良い人ぶってたかな?
 ただ、らしくないなとは自分でも思うけど。
「まぁ、私は楽しませてもらうだけだ。なのはの判断以上の答えを私が出せる訳ではないからな」
 それっきり、黙り込んでしまった。

164無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:53:46 ID:8AABVTo2



     ・・・



「クロスミラージュ、セットアップ!」
『Set up』
 ティアナが一枚のカードを掲げる。彼女の一声と共にそのカードと持ち主が橙色の光に包まれ、それが無くなった頃には先ほどとは全く違う、活動的な服装になっていた。おそらくあの服がバリアジャケットとやらだろう。
 そしてカードの代わりに握られた二丁の拳銃。アレが彼女のデバイスらしい。
「さぁ、アンタもバリアジャケットを纏いなさい」
 いや、纏えって言われてもやり方知らなんだがな。今から何をすればいいのか、さっぱりなんだから。

 ――戦え。

「……っ!」
 来た、アレだ。あの衝動が沸き上がってくる。俺に全てを破壊させようとする、あの衝動。なのはを傷付けたあの力。……俺をおかしくする、この力。

 ――戦え。

 また左手が動き出す。返却された例の機器を握った左手が。
「チェンジデバイス、セットアップ」
『Stand by ready set up.』
 例の機器、チェンジデバイスが動き出す。中央のクリスタルが一瞬光り、ベルトが射出されて腰に取り付けられ、待機音が鳴り出す。

――戦え。

 また、俺が俺でなくなっていく……。

165無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:56:13 ID:8AABVTo2



     ・・・



「あれが、お前の言っていた」
「ホントに“変わった”でしょう?」
 わたしが見る先、空間シミュレーターが設置された訓練場。そこでティアナと“彼”は戦っていた。
 鎧に似た青いバリアジャケットを纏い、ティアナに向かって歩くカズマ君。けれど、彼はカズマ君であってカズマ君ではない。
「確かに戦うことしか考えていない戦闘狂のようだな。闘争本能の具現とは、言い得て妙だ」
 今日の朝、カズマ君の部隊入り挨拶の後にシャマルさんが出した一つの結論がそうだった。少ないデータと推測で成り立った、まだ原因すら欠片も考えられていない危うい推論ではあるけれど、確かに納得出来る考えでもあった。
「わたしのときはあっちが先だったんですけどね」
「あれが先だと、やはり恐怖を抱くだろうな。今は不安と危険性を感じているが」
 カズマ君の拳に展開された小さな青い三角形の魔法陣がティアナの放つ橙色の弾丸を悉く粉砕する。それは荒々しく原始的で、しかし緻密で精巧な迎撃。あんなシールドの使い方、初めて見た。
 シグナムさんの言う通り、不安と危険性、そして何とかしてあげたいという思いをわたしは抱いていた。そのためにも、まずはこの戦いを見届けなければならない。
 何をすればいいか、見極めるために。



     ・・・



「……くっ!」
 またも放った弾丸が迎撃される。
 すでに数十発は撃ち込んでいるのに、全て叩き落とされていた。あのカズマって人が突然表情を歪ませて変身してからずっと、言い知れぬ恐怖があたしを包んでいるのが分かる。それを振り払うように攻撃を続けるが、ことごとく無力化されてしまった。
「いったい、何なのよっ!」
 なのはさんの教えを破るのを覚悟でビルに飛び込む。射撃型魔導師、特にセンターガードの自分がみだりに動くのは本来得策ではないのだが、今回は一対一ゆえに例外だ。
 アイツはゆっくりとこちらに歩み寄る。こちらを侮っているのではなく、こちらを見極めるために。
 念のために空間に残しておいた魔力スフィア三つを魔弾に変えて、飛ばしておく。ただの時間稼ぎだ。今は考える時間が欲しかった。
(アイツ、戦い慣れしてる……)
 いや、正確には戦いをどう進めるのが最も合理的かを理解している、と言うべきか。普段みんなに指示を出す司令塔または頭脳となるあたしだからこそ、それらを理解しているということが分かる。
「カートリッジは使ってないから十分にある。ただ通常の魔法弾はまともに使用しても意味はない。ならクロスファイアか“アレ”を――」
 ――いやダメだ。そんな正攻法では勝てない。だいたい“アレ”はまだ実用段階にある代物じゃないのだから、今はまだ使えない。
 そう考えている間に、アイツはやって来ていた。
「っ!」
 自分の隣の壁が吹き飛ぶ。丸く穿たれた穴の先に見える、青い影。
「このォ!」
 考えている暇すら与えてはもらえない。あたしはクロスミラージュを構えて魔法弾を撃ち出した。

166無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:57:35 ID:8AABVTo2



     ・・・



 ――戦え。

(……うるさい)

 ――戦え。

(うるさい)

 ――戦え。

(五月蝿い!)

 自らの内から響く声がうるさい。俺を惑わすこの声が五月蝿い。俺に望まないことをさせる声が本当にうるさい!
 俺は、人を守るためにしか、戦わない!
「……っ!」
 頭が疼く。今何かを思いだそうとしたはず――
「――あ、あれ?」
 目の前の光景に、思考がフリーズした。
「あ、アンタ、なんかに……」
 俺が、正確には装甲に包まれた俺の右腕が、ティアナの首を掴んでいた。その右手が、俺の意思に反して力を込めていく。
「や、やめ……」
止めろぉぉぉぉぉぉぉ!
 そう思った途端、手から彼女が消え失せた。
「き、消えた?」
 まるで陽炎のように橙色の輪郭を一瞬残して消えた彼女。あれは、一体?
 いや、そもそも俺は何をしていた?
「また、またなのか……」
 そう思い立った矢先に、事態は推移していた。
「ぐあっ!」
 背中に衝撃。装甲ごしではあるが、内臓を揺るがすような嫌な感じ。まさか、攻撃された?
 後ろを見れば、消えたはずのティアナがこちらに銃口を向けていた。
「あ、当たった……?」
 彼女も驚いたような顔をしている。
 そして状況を思い出す。今が模擬戦の真っ最中だったということを。
「や、ヤバい!」
 速攻で、全力で逃げることを決めた。
「あ、待ちなさい!」
 そして第2ラウンドが始まった。

167無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:58:12 ID:8AABVTo2



     ・・・



「あれは幻影だったのか」
 シグナムさんが驚いたという顔をして、そう呟いた。
「ティアナ、この頃は頑丈なフェイクシルエットも作れるようになったんですよ。しかも喋ることが出来る精巧なものを。……まだ軽く掴めるぐらいですし、維持と精製に相当魔力を持っていかれるんですけどね」
 ティアナ特有と呼べる、彼女の得意魔法、それがフェイクシルエット。幻影を精製する魔法だけど、彼女が使えば色んな応用が効く。今のような精巧な偽者も、最近は作れるようになった。
 今の奇襲も、彼女らしい機転の効いたものだった。
「しかしアイツ、元に戻ったみたいだな」
 アイツとはカズマ君のことだろうけど、確かにさっきとは違う普通のカズマ君に戻っていた。先程の怖いぐらい完璧な戦闘が嘘のように今はティアナから逃げている。
「今のカズマ君じゃ、ティアナには歯が立ちませんよね」
魔法弾がカズマ君に降り注ぐ。橙色の光雨はフェイクを混ぜたものだけれど、相手の戦意を喪失させ、回避を困難にさせる。カズマ君の装甲にいくつかがぶつかり、火花が飛び散っているのが痛々しい。
 そろそろ模擬戦も終了か、と思う。これ以上続けても意味はないと思うし。
「いや待て、なのは。あいつをよく見ろ。無意識か知らないがティアナの射撃を避けてるぞ」
「え?」
 ……確かに、彼は逃げ惑いながらも体を左右にずらして避けていた。ティアナが四方八方から放つ射撃と誘導弾を当初は全弾直撃していたのが、今は八割を避けている。
「なのは、まだ面白くなるかもしれんぞ?」
 シグナムさんの笑顔が、妙に楽しげに映った。

168無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:59:03 ID:8AABVTo2



     ・・・



「このっ、落ちなさい!」
「うわぁ!」
 アイツの右に着弾。いや、アイツが左に避けた結果、右に着弾と言うべきか。
 さっきから段々と回避が上手くなってる。無様に逃げているくせに、その背中に魔力弾が当たらない。その上、当たっても致命傷にならないほど頑丈なのだ。
 さっきとは違う意味で、焦りを感じていた。
「おい! もう降参するから撃つのを止めろ!」
「そうやって騙そうとしても無駄よ!」
 多分騙そうと言っているわけじゃないと思うけど。でもコイツをコテンパンに叩きのめさないと気がすまない。
 なんでここまでムキになっているか、自分でもよく分からなくなってるけど。
「このっ……!」
 フェイクシルエットを彼の前に出現させる。同時に誘導弾四発を二手に別れさせて左右同時攻撃。そして回避した所をあたしが――!
「うわっ!」
 彼が目の前に現れた偽のあたしを慌てて避ける。そこに誘導弾を仕向ける。
「いい加減にしろっ!」
 彼が体を捻って右の二発を避ける。流石に体制的に無理があるので左の二発は避けられなかったけど、手で強引に叩き落としている。それもシールドも無しに。
「でも、これで終わりよっ! クロスファイアァァァ、シューーート!」
 彼に向けた二つの銃口から八つの魔弾が炸裂する。魔力弾達は渦を描くような弾道を取りながら一つの砲撃のようにアイツに迫る。
「っ!」
 それに対しアイツは、剣を引き抜いて待ち構えていた。その構えは垂直に支えた剣の峰に左手を添え、腰を落とした独特のもの。
その左手が、ゆっくり剣の峰を撫でる。
「そんなんで……」
「でやぁぁぁ!」
 そんなあたしの疑問も刹那。一瞬の内に彼の元に届いた魔弾の軌道に合わせるように、彼は剣を動かす。その剣の腹を滑るようにして魔弾達はあらぬ方向へ流れていった。
 アイツは、その剣で、あたしの射撃を弾いた。いや、反らしたのだ。
 完璧に、受け流されたんだ。
「そ、んな」
「これで、もう終わりだ」
 疲れたような声で宣言するアイツ――カズマ。
 あたしは……まだ、負けてなんか――
「――二人とも、そこまで!」
 唐突に、なのはさんの声が訓練場を満たした。

169無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:59:41 ID:8AABVTo2



     ・・・



「主はやて。これがカズマについての報告書です」
 大きな机と大量の書類。隣には小人用としか思えない小さな机。
 特徴と呼べるものがそんなものしかないこの部屋が部隊長室、そう、八神はやての部屋だ。
 ペンと紙の匂いに混じる仄かな甘い香りだけが、ここが女性の部屋であることを証明していた。
「ありがとな、シグナム。慣れないことやらせてしまって大変やったやろ?」
 いえ、と断りつつ書類を机に置くシグナム。
「しかし何故このようなことを?」
 彼女からしてみれば疑問に違いない。これではまるで彼を監視しているようだからだ。
 少なくとも彼女からすればカズマは本当に記憶喪失に見えるし、性格も悪くはないように見えたので、主の目的が読めなかったのだ。
 だが、それは決して主を勘繰っているわけではない。シグナムははやてを信じているからこそ、事情を説明して欲しかったのだ。
「んー、単に知りたかっただけよ? 今後使えるかどうかを」
 ……シャマルが言っていたのはこれか。
 シグナムは溜め息をつきながらはやての手を握った。
「シグナム……?」
「主、私達は家族であり、家来です。貴女のことを守護騎士全員が大切に思っていますし、我々全員が貴女のためなら命を捨ててでも尽くすつもりです」
「シグナム……」
 彼女は握った手に力を込め、決して離さぬように胸にかき抱く。
「だから主はやてよ、私達にだけは、隠し事をしないで下さい。私達家族を、信じてください」
 シグナムが深々と頭を下げる。その手は僅かだが、震えていた。
 はやては少しだけ驚いた表情を浮かべたものの、すぐにそれを笑顔に変えて彼女の頭に優しく手を置いた。
「私がシグナム達を信じていないなんてことは一度だってあらへんよ?」
 シグナムは頭を上げて、はやてと視線を合わせた。
「では教えてください。何故カズマの監察を、私に命じたのかを」
 そこで少しだけはやては困ったように首を竦めるも、すぐに笑顔に戻す。
「私は、カズマ君を助けるつもりや。けどそのためには彼の事を知っておかないかん。武装局員になれる実力があるなら私が連れていくつもりやし、本人が望むなら進路先を斡旋することもできる。逆に戦闘能力がないようならそれに応じた仕事を探してやらないかん。どちらにしろ、カズマ君のことを知らんと私は何も出来んやろ?」
「そういう、ことだったのですか……」
 流石は我が主だ、とシグナムが頷く。彼女としてもはやてがそこまで考えて動いているとは想像がつかなかったのだろう。
「申し訳ありません。信じ方が足りなかったのは、私の方だったのかもしれません」
「ええよ、気にせんどいて? それよりカズマ君のこと、ちゃんと見といてや?」
「はい、主はやて」
 今度こそ晴れやかな顔で、シグナムは力強く頷いた。

170無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:00:17 ID:8AABVTo2



     ・・・



 結局、勝負はティアナの勝利で決まった。当然だ、自分はひたすら逃げていただけなのだから。
「カズマ君はやっぱりセンスはあるんだけど……」
「……すいません」
 不貞腐れたような返答を、なのはに返す。
 やはり最大の問題は"あれ"だろう。制御出来なければ俺は役立たずだ。ふと思ったが、記憶を失う前の自分は、こんなことで苦しんだのだろうか。
「痛っ!」
「こんなになるまで模擬戦続けたの?」
 俺の身体中に出来た打撲の後を見てシャマルさんが顔をしかめる。バリアジャケットとやらで多少はダメージを緩和出来ても、完全には無力化できないらしい。なのはも最初見たときは顔を歪ませていた。
「なんだかカズマ君って早速患者の姿が板に付いてきたわね〜」
「勘弁してくれよ……」
 小声で抗議しておく。効果は全くないだろうが。
 二度目の医務室だが、未だに慣れることはできない。いや、こういった場所に医者以外が慣れること自体おかしいか。アルコールの臭いが僅かに鼻をくすぐる空間は、やっぱり居心地悪さしか感じない。
「はい、おしまい」
 包帯をあちこちに巻かれてようやく完了か。何だか治療だけで疲れた。
「さ、二人とも疲れたでしょ? 食堂で皆待ってるから」
 なのはが笑いながら指差す。もう二時だった。一緒に付いてきていたティアナは隣で不満そうにしていたが、諦めたように溜め息をついた。
 シャマルさんに送られて医務室を出た後、食堂に三人で行く間、なのはが何度か話しかけてきたので気まずくはならなかった。ティアナも考え事をしているらしく、俺に絡んではこなかったし目も合わせなかった。
 そうして着いた食堂ではフォワードメンバーの三人、スバル、エリオ、キャロが待っていた。
 皿に盛られた料理を見て、ようやく空腹を意識したのが不思議だ。あんなに運動したというのに。俺は少食だったのだろうか。
「「お帰りなさい、なのはさん、ティアさん!」」
「お帰りなさい、なのはさん! ティアもお疲れ!」
 年少組のエリオとキャロは口を揃えて、スバルは大きく元気な声で、二人を迎えた。
 当然、俺の名前はない。
「……なのは、用事思い出したから今日は――」
「――ダメだよ。皆と仲良くしてくれなきゃ」
 見事に捕まってしまった。
 どうやら自分は器用なことが出来ない質らしい。腕を捕まれていたことにも、今更気付いたほどだ。
 ティアナはまだ考え事をしているのか、挨拶をした三人に軽く答えた後に椅子に座っても腕組みを崩さなかった。
「……ティア?」
「あ、な、なによスバル?」
 彼女も恥ずかしいと頬を赤く染めたりするのか、と思った。当然のことか。

171無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:00:57 ID:8AABVTo2
「ティアがボーっとしてるなんて珍しいなーと思って」
「あたしは考え事してたのっ!」
 わいわいと騒ぎ出す二人だが、仲が良いのだろうからか、端からはコントのように見えた。決してティアナには言えないが。
「あ、あの」
「……え?」
 唐突に話し掛けられた。まさか誰かに話しかけてもらえるとは思ってなかったので、咄嗟に反応出来なかった。
 見ればキャロがこちらを向いて必死に何か言おうとしていた。……けれど、俺の関心は別の方にいってしまっていた。
「な、なんだその蜥蜴……」
「と、蜥蜴じゃないです! フリードです!」
「キュクルー!」
 彼女の頭に乗っている小さな羽を生やした白蜥蜴――もといフリードなる生物に、俺は驚いていた。
「そっかぁ、竜なんて知らないよね」
 なのはが合いの手を入れてくれたのは助かった。正直、驚いてる最中の俺に女の子の相手は無理だ。
「竜、だって?」
「そうだよ。わたしもフリードが初めてだったけど、似たようなものなら前に行った戦地で見たかな」
 とても竜には見えなかった。さすがに蜥蜴は違うだろうが。
「あ、りゅ、竜だったのか。その、間違えて、悪かったな」
 歯切れの悪い口振りに自己嫌悪したのは秘密だ。
「もう、せっかくエリオ君と謝ろうと思ってたのに……」
 怒っても可愛らしいのは幼い女の子の特権だろう。俺もキャロを見てるとひたすらに自分が悪いように思えてきた。
「ご、ごめんな」
「キャロもそのくらいで許してあげなよ」
 エリオがぽんぽんとキャロの肩を叩く。何だかお兄さんのようだ。
 ようやく機嫌を戻したキャロとエリオが姿勢を正してこちらを向く。こちらも何だか緊張してきた。
「「か、カズマさんっ」」
 二人が揃って声を上げる。いつの間にか、なのはもティアナとスバルも押し黙っていた。
「「今まで冷たい態度を取って、すみませんでしたっ!」」
食堂中に、二人の声が鳴り響いた。
 取り敢えず、声のでかさには驚かざるを得ない。二人仲良くハモるのはいいが、そのせいで食堂中に響いてしまうのは勘弁して欲しかった。
 しかも二人の声に反応した周りの目線が凄かった。何故だろう、謝られているのに悪者として見られているような気がする。
「べ、別に謝るほどのことじゃ――」
「その、わたしたち勘違いしてたんです」
 俺の言葉を遮るように、キャロは言った。
「わたし、最初は怖い人なんだろうな、って思ってて。あの時近くで見てたエリオ君が怖かったって言ってたし。でも模擬戦見てて、最初はやっぱり怖いと思いましたけど、途中から本当は優しい人なんじゃないかと思い始めて……」
「僕達にはティアさんを傷付けないように戦っているように見えたんです。戦いが終わった後も自分のことなんか全然気にせずティアさんの心配をしてましたし」
 キャロの言葉をエリオが引き継ぎ、俺に訴えかける。
 確かに自分に彼女を傷付ける意志があったかと言えば否だ。でもそれは当然のことだ。人を傷付けるなんて――。
(――待て。何故俺はそこまで人を守るだの傷付けるなどに拘るんだ?)

172無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:01:28 ID:8AABVTo2
 一瞬の疑問。だが、それはすぐに氷解する。
(いや、人として当然か)
 それで決着はついた。ついてしまった。
「……聞いてますか?」
「――あ、あぁ、もちろんだって。それで?」
 すぐに誤魔化す。今考えることはそんなことではなかった。
「それで、その、これからは仲良くしてもらえませんか?」
「お願いします!」
 ぺこりと頭を下げるエリオとキャロ。願ってもないことだ。
「こちらこそ、仲良くしてくれると嬉しい」
 初めて心の底から笑えた気がした。
「――うん、無事仲直りできたね」
 にっこり笑顔でなのはが俺達の手を取って握らせる。気恥ずかしいが、なのはの気配りは嬉しかった。おそらくセッティングしてくれたのもなのはだろう。彼女も童子のような満面の笑みを浮かべていた。
 たちまち主導権を握ったなのはが話を進めていく。自分と彼女達が話しやすいようにしてくれながら。

 ――ま、これも悪くないか。

 俺もようやく、そう思えるようになった。



     ・・・



「ようやく打ち解けたか。世話の焼ける」
 くつくつと低くくぐもった笑い声を放つ男が一人、広大な広間でカズマを見つめる。
 巨大なモニターにはカズマが笑う姿が映し出されている。
「これでわしはお前の願いを叶えたぞ。すまんが、今度はわしの研究に付き合ってもらう」
 広間のあちこちに置かれた機械を操作しながら、ポケットから十二枚のカードを取り出す。スペードのマークと、鮮やかな生き物の絵が描かれたカードを。
「わしは研究者だ。悪く思わないでくれ」
 それらのカードを、機械のスリットに差し込む。
「さぁ、見せてくれ。人を超えた、仮面の戦士の力を」
 スリットから、光が溢れ出した。



     ・・・



 ようやく打ち解け始めた居場所、機動六課。安息の地を手にした彼は、日々腕を磨きながら内に潜む闇を押さえ込んでいた。そんな彼を試すかのように、断罪の鉄槌がカズマを襲う。

   次回『鉄槌』

   Revive Brave Heart

173無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:09:10 ID:8AABVTo2
えー、ようやく第四話です。話は全然進んでおりません(汗)。
文章がかなり変わってしまい、書き方もイマイチだなぁとは思っています。第五話では改善したいので、感想や批判はバンバン受け付けております!

それとスレの過疎化を耳にしました。確かにベテランの多くが去ってしまい、寂しくなったかもしれません。最盛期の頃を知りませんが、やはり今より賑やかだったのかもしれません。
ですが、今も多くの新人は作品を投下しています。その中にはベテランと肩を並べるほどの実力者もおります。自分もいつかそうなるために精進しています。
そんな職人のために住人の皆さんが更なる応援をしてくださることを祈っています。このスレをいつまでも生かすために、皆さん頑張りましょう!

長文失礼しました。それでは。

174無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:09:44 ID:8AABVTo2
では代理投下よろしくお願いします。

175無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 22:49:30 ID:m.1OCQvU
ageます。そしてお願いします。

176ロクゼロ2 ◆1gwURfmbQU:2009/05/14(木) 23:39:36 ID:49i/o7Mo
じゃあ、私が代理投下してきましょう。

177ロクゼロ2 ◆1gwURfmbQU:2009/05/15(金) 00:04:51 ID:rqa.JTzM
投下終了。
>>175
行の長さに関するエラーが多発したので、もう少し投下の際は文章を改行した方が
良いと思いますよ。避難所の板は大抵の規制が解除されてますから気付きにくいで
すが、2chはそうでもないので。
ワープロソフトで書いたのをそのまま改行せずに流し投下をすると、結構見にくい
ですし。

178リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:47:30 ID:LLxI1tRg
さるさんばいばい食らってしまったので代理投下お願い致します
初回からミスしてすいません

「フェイトちゃんご飯出来たよ!」
「出来たよ!」

声を差し伸べてくれたのは、なのはとヴィヴィオ。
今は素直にこの手に縋ろう。そして思考の迷路から抜け出しなのはの作ってくれた食事を楽しもう。
フェイトが書斎から食卓へ行ってみれば、テーブルに並べられているのは大きなハンバーグが3つ。
今にも破裂しそうなほど肉汁を溜めこんだそれは、見ているだけでフェイトの食欲をそそった。

「うわー美味しそうだね」
「ヴィヴィオも手伝ったんだよねー」
「うん! フェイトママのはヴィヴィオが作ったの!」

よく見れば自分がいつも付く椅子の前に置かれているハンバークの形はかなりいびつだった。
だけど一生懸命作っていた様子を思えば、不格好さがかえって愛しく思えてくる。

「上手だね。ヴィヴィオが作ったのいちばん美味しそうだよ」
「私が作ったのはイマイチなの?」

そう言ったなのはの不満げな表情にしまったといった様子を見せるフェイト。

「えっと…なのはが作ったの凄く美味しそうだよ! 食べてみたいなぁ」
「ヴィヴィオの作ったのは食べたくないの?」

今度はヴィヴィオが泣きそうな顔をして上目使いに見上げてくる。
ここまで来たらもはやフェイトはパニック状態で、どうしたらいいのか分からずに目尻には涙が浮かび始めていた。
その様子を見たなのはがさすがにからかい過ぎたかと思い、声を掛ける。

「ほらほら冷めないうちに食べよ」
「食べよ!」
「二人ともいじめないでよぉ」

恨めしそうなフェイトの表情は、なのはの目にはむしろ愛らしく映り、やはりいたずら心をくすぐるのであった。
しかしこれ以上やって本気で泣かれても困る。今は家族3人で夕食を食べよう。
ひょっとしたらこれが3人で囲める最後の食卓かもしれないのだから。
なのは自身そういう仕事である事は覚悟してきたが今回は状況が状況だ。
もし脱走したスカリエッティとの本格的な戦闘になればフェイトもなのはも駆り出される。
そうすれば前回は勝ったが今回も同じようにはいかないかもしれない。だからせめてこうして娘や親友と過ごせる時間を大切にしよう。
悔いは尽きないがそれでも走馬灯を見るのならば幸せな記憶で満ちる様に。

「それじゃあいただきます」
「いただきまーす」

笑顔を浮かべるフェイトとヴィヴィオを見つめながら何故かは分からないがこの時なのははある予感がしていた。
自分はきっと。

「はい召し上がれ」

きっと二人を残して死ぬだろうと。

179リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:48:24 ID:LLxI1tRg
その頃ミッドチルダのある和風居酒屋にて。

「こんな時間にごめんなさいね、はやてさん」
「いえ最近は暇してますから」

座敷に腰掛けている女性が二人。一人はリンディ・ハラオウン。もう一人は元機動六課部隊長である八神はやてだ。
向い合せに座り、営業スマイルのような笑顔を向けるリンディに、こちらは正座をしながら硬い微笑みを浮かべるはやて。
はやては居酒屋にリンディと二人で居るこの状況に些かの戸惑いを覚えていた。
もちろんリンディとは面識がある、しかしそれでも親友の母親であり優秀な指揮官であるという面が強く、このような場所で二人で会う間柄とは言いにくい。
少なくとも杯を交わし合い、日ごろの愚痴を言い合う様な仲でない事は確実である。
はやて自身邪推とは思いつつも、当然この呼び出しには裏があるのだろうと想像せざるおえないのであった。

「あの」
「いらっしゃいませ。ご注文は」

何があるのかとはやてが戦々恐々として口を開いてみれば、それを遮る様に店員が声を掛けてきた。
いや、これが彼の仕事なのだから仕方がない。仕方がないのだが、それでもタイミングという物があるだろう。
そんな風に思っていれば向かいに座るリンディが笑顔で口を開いた。

「まだ決まっていないので後で注文します」
「かしこまりました」

そう言って店員はお冷だけ置いて別の客が居る座敷へと去っていった。
リンディとの緊迫した状況に渇きを訴える喉を潤そうと、はやてがお冷を口に運ぼうとした瞬間。

「はやてさん」
「は、はい」

リンディの呼びかけに、はやては慌ててお冷の入ったコップを座卓の上に戻すと両膝に手を置いた。

「実はお願いがあって呼んだの」

急に笑みの消えたリンディの表情に、はやてはますます身体を強張らせた。
一体何を言われるのだろうか。少なくともこの表情、良い知らせとは思えない。
もったいぶったように口を開こうとしないリンディ。その様子にどんどん事態を最悪の方向へと想定し直すはやて。
そんなはやての不安など気にも留めずにリンディは話し始めた。

「もうすぐ世界が滅ぶわ。はやてさん止めてもらえないかしら?」
「世界が? 滅ぶ?」

この人は何を言っているのだろう。唐突に世界が滅ぶと言われてもどう答えればいいか。
もったいぶったかと思えば今度がさらっと世界滅亡を口にしたリンディに、はやてが取れる態度と言えば、困惑と呆然のいずれかしかなく。

「どういう意味ですか?」
「そのままの意味よ」

聞き返しても返ってくる答えはやはり取り留めのない物で、より一層はやてを混乱させるのに一役買ってしまった。
しかしリンディの顔は至極真剣といった様子で、一見突拍子もない世界が滅ぶという言葉をはやての中で信用足る物に変えていく。

180リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:49:28 ID:LLxI1tRg
「あの…リンディさん何が起こるんですか?」

そうだ。何が起こるのか分からなければ戦えない。そもそも誰が相手なのか? どうすれば世界を救えるのか?
リンディの言葉が本当だとするならば、世界が滅ぶと言うならば、自分一人で何が出来るのだろうか。
1年前に起こったJS事件でそれに近い経験はしたかもしれない。だがあれは犯罪であって世界の存亡とはまた次元の違う問題だ。
はやてにとってリンディの世界が滅ぶという言葉はあまりに曖昧で、それにスケールが大きすぎて理解出来ない。
言葉が持つ意味の租借に苦闘するはやてに、リンディは表情を崩さずに話し始めた。

「それはまだ言えないの。だけど世界は確実に崩壊へと向かっているわ。
 だからもう一度、もう一度あなたの六課を使わせてほしいの」

理由を断固口にしようとしないリンディにさすがのはやても不信感は隠せない。
重大な事をリンディが隠しているのは確かだ。それも世界が滅ぶかもしれない秘密を。
いくらリンディに闇の書事件の恩があると言え、理由も分からずに命を掛けるのはまっぴらごめんだ。
例え親友の母親でもそんな事を二つ返事で引き受けられるほど、はやてもお人好しではない。

「理由も分からず命はかけられません。
 何を隠しているんですか?」

はやての言い分はもっともだった。詳細も知らされずに命を掛けるなど愚行に等しい。
リンディもはやての言い分はよく分かる、分かるのだが理由を言う事は出来ないのである。
それを知る事がはやてのこれからの人生を闇で染め上げてしまう事にもなりかねないのだから。
だけど世界を守らればならない。そう葬らねばならない物がある。

「それは……」
「リンディさん!」

世界を守るために少女一人を犠牲にするのは安いかもしれない。だがそれでは10年前の再現ではないか。
そう、はやて自身が犠牲になり解決しようとした闇の書事件。あんな惨劇を二度も繰り返すなど許される事なのだろうか。
それが……少女を犠牲にする事が私に課せられた罪なのだとしたら、私はどんな罰を受けるのか。
いや既に罰は受けている。これ以上ないほど罰を。
言ってしまえればどれほど楽にだろうか。どれほど心安らぐのだろうか。

「そうね、確かに。でもね、あなたを『こちら側』の人間にはしたくないのよ」
「こちら側?」

はやては分からない。この人の言葉は私には理解出来ない。
何が罪で何が罰なのか、リンディ・ハラオウンはどんなパンドラの箱を開けてしまったのだろうか。
リンディの言う『こちら側』とは一体どういう意味なのだろうか。
しかし執念にも似たリンディの言葉にはやては知りたくなっていた。リンディの言葉の意味がなんであるかを。
リンディにとっての『こちら側』つまりはやてにとっての『向こうの世界』の世界がどうなっているのかを。

「分かりました。お引き受けします。
 でもいつか、いつか全てを話してください」
「ええ、時が来たら必ず……必ず話しますから」

結局はやては真実を知る事は出来なかった。
だがしばらくの後はやてはリンディから思いもよらぬ真実を聞かされる事になる。
それが全次元世界を破滅へ導く全人類の存亡を賭けた戦いの引き金になろうとは、この時のはやてには想像も出来なかった。

181リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:50:24 ID:LLxI1tRg
午後20時。高町家は既に夕食を終え、ヴィヴィオがテレビにかじり付いている中、なのはとフェイトは夕食の後片付けをしていた。
二人が食器を洗いながら話すのはヴィヴィオ作成のハンバーグの話題でもちきりである。

「ヴィヴィオのハンバーグ美味しかったよ」
「まぁ味付けは私なんだけどね」

そんななのはの言葉にフェイトは苦笑いを受けべる。まぁその通りなのだがはっきり言ってしまうのは寂しい様な気もする。
折角ヴィヴィオが作ってくれたのだからもう少し褒めてあげてもいんじゃないだろうか?

「でもちゃんとふっくらしてたからヴィヴィオの腕がいいんだよ。味付けだけじゃあんなに美味しくならないよ」

だからヴィヴィオの名誉を保つためにも後見人としてしっかり母親に意見しなくては。
ヴィヴィオのこね方がよかったからこそ味付けが最大限に生かされたのだと。
いかにヴィヴィオのハンバーグが素晴らしかったか熱弁をふるうフェイトになのははやや頬を膨らませていた。

「フェイトちゃんヴィヴィオばっかり」
「そうかな?」
「私だってフェイトちゃんの事考えてご飯作ってるんだよ。栄養のバランスとか考えて」

フェイトは少し怒ったなのはが何となく面白かった。
六課の頃もJS事件後は別の仕事で忙しくなり同室と言っても一緒に過ごす時間が多かったとは言えない。
それに食事は給仕の人が用意しくれた物を食べていたから片付けもトレイを下げるぐらいな物だった。
こうして食器を洗いながらなのはと他愛のない話をする時間はフェイトにとって懐かしさを感じさせていた。
なのはと過ごす日常は本当に久しぶりだから、こんな皿洗いの時間でも嬉しく思えてしまう。

「分かってるよ。なのはにも感謝してる」
「うん」

今度は微笑みを浮かべるなのはに愛しさを感じていた。
一番最初の親友で、世界で一番大好きな親友。何が起こってもこの笑顔だけは守り抜いてみせる。
フェイトはそう誓ってなのはに微笑み返した。

――ピリリリ。

それも束の間。かすかに鳴り響いたのは、なのはの携帯電話のコール音。
なのははエプロンで手を拭くと自身の携帯の置いてある寝室へと走りだした。
寝室へ入るとベッドの上で着信を主張し続けるそれを手に取り、通話ボタンを押す。

「はい、高町です。はいはい……今からですか?」

一方皿を洗い続けるフェイトはなのはの会話の内容が少し気になって聞き耳を立てていた。
あまり良くは聞こえないがどうやら緊急の呼び出しらしい。
だがなのはに呼び出しが掛かるとは余程の緊急事態なのか? となれば当然危険度の高い任務だろう。
フェイトは皿を洗う手を止め、なのはの言葉に聞き入っていた。

「分かりました。すぐに向かいます」

フェイトにとってあまり聞きたい言葉であった。かなり厄介な事になっているらしいのは想像に難しくない。
蛇口から流れる水を止めるとフェイトは寝室へと歩き出した。
中を覗くと教導隊の制服に着替えるなのはの姿。その表情は先程見せた笑顔とは違う軍人としての高町なのはだった。
あらかた着替え終わるとフェイトの視線に気が付いたのか申し訳なさそうな表情を浮かべて。

「ごめん。緊急の呼び出し掛かっちゃった。悪いだけどヴィヴィオ見ててくれる?」
「どういう状況?」
「よく分からない。ただ高ランクの人達が何人も墜ちたって……」

182リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:51:11 ID:LLxI1tRg
その言葉で思い出すのは、なのはが墜ちたあの日の事。
あんな風になのはの苦しむ姿を見るぐらいなら、この身を引き裂かれた方がどれだけ良かっただろう。
だから今度は一緒に行きたい。高ランクが何人か落ちているなら自分にもいずれ声が掛かるだろう。どうせ行くならばなのはを守れる方がいい。
それにスカリエッティとの関与も気になる。

「私も行くよ。ヴィヴィオは、悪いけどアイナさんに見てもらおう」
「……分かった。じゃあアイナさんが来るまでヴィヴィオお願いね」
「うん」

あいにく高町家で家政婦をしているアイナはこの日休みを取っていた。フェイトとしても本当ならなのはと一緒に行きたいがヴィヴィオを放ってはおけないだろう。
とにかくなのはの事も心配だが、アイナが来るまではヴィヴィオの傍に居なければなるまい。
そんな事を考えている間にもなのはは準備を終え、玄関へと歩き出していた。
フェイトもその後を追う。

「じゃああとお願い」
「気を付けて」

慌てた様子で玄関を飛び出していったなのは。その様子を見届けるフェイト。
勢いよく締められたドアを見つながら妙な胸騒ぎがするのをフェイトは止める事が出来ない。
悪い事が起きる気がする。何故かはわからなかったがフェイトが思い出すのは今朝見た夢の事。
フェイトの中であの血のような紅い色をした瞳が見つめてくるのだ。そう、まるで自分と同じような瞳の色をしたあの鉄の巨人が。
その眼に宿っているのは夢で見た寂しさや儚さではない。殺戮と破壊と思わせる狂気の赤。
何度振り払おうとしても、その視線がこちらを見つめる事をやめてくれようとはしない。

「アイナさんに電話しないと」

フェイトはこれ以上夢の事を考えたくなくて携帯を取り出しアイナへと電話を掛けた。



午後22時 ミッドチルダ首都中央部。

「第1小隊。配置につきました」
『了解。敵を目視確認した後、排除行動に移れ』

いつもは美しい夜景を見せてくれる都市中心部は本局から派遣された武装局員達の存在によって物々しい雰囲気となっていた。
派遣されたのはエース級と呼ばれるAAランク以上の魔導師ばかり。
地上でこれほど戦力が展開される事は稀であり、恐らくは1年前のJS事件以来の事ではないだろうか。
召集を受けた高町なのはは第3小隊を任され、後方のビル陰から双眼鏡を使い様子を伺っていた。

今回の作戦で出動した小隊は4人1組で計6小隊。まずは偵察隊として第1小隊を送り、彼らが敵を確認次第、全小隊で奇襲による集中砲火を掛ける。
この作戦になのは自身、強い緊張感を感じていた。その理由は高ランクが墜とされたと言うのに敵の情報全くない事である。
最初に敵発見の通信を入れたのは、哨戒任務中の地上本部魔導師小隊だったらしいのだが、その報告後通信が取れなくなった。
不審に思った地上本部は、その後も通信があったポイントに部隊を投入し続けたが、いずれも現場到着直後に通信が途絶えてしまっている。
そして地上本部から本局に支援要請が入り、なのはに白羽の矢が立ったと言うわけである。

『敵と思われる物体を目視で確認! なんだありゃ10mはあるぞ!』

突如入る先遣隊からの通信。隊員は畏怖の感情に支配されているようで、その声は上ずり気味であった。
それを皮切りに先遣隊からの通信が続々と押し寄せてくる。

『いやもっとだ。もっとでかい!』
『こっちへ来るぞ! うわぁぁぁぁぁ!!』

断末魔の様な悲鳴を最後に先遣隊からの通信は途絶えた。各小隊は臨戦体制を整え、先遣隊から通信があった場所へ急ぐ。

183リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:52:13 ID:LLxI1tRg
「レイジングハート! エクシードモード!」

そう叫んだなのはの身体が桃色の光に包み込まれ、数瞬後に弾けて姿を現したのは戦闘形態エクシードモード。
なのはが持つ形態の中でも最大の出力と装甲を兼ね備えたエクシード。それを使うという事は全力全開の証。
恐らく先遣隊はやられたのだろう。だから省エネ形態であるアグレッサーモードの勝てる相手ではないとなのははそう判断したのだ。

「第3小隊出撃! 敵を殲滅するよ!」
『了解!』

なのははレイジングハートで敵の居る方向を指し示すと最大出力で飛行を開始した。
桃色の軌跡を伴い、音速に迫まろうかという速度で空を切る小隊長に、第3小隊員もぴったりと追従している。
直線速度では高機動魔導師にさえ匹敵するなのはに付いてくる辺り、彼等もエース級である事は想像に難しくなかった。
他の小隊も、それぞれが異った魔力光を発して高層ビルの隙間を彩りながら敵が待つ場所まで高速で駆け抜ける。
やがて全ての小隊は同じ場所にたどり着いた。そこは高層ビル群が立ち並ぶ中でも特に開けた空間で、中隊規模で動いても戦いやすそうである。
だがその風景と比べて他と比べても明らかに異質な物であった。規則的に大きく陥没している道路に砕かれたビルの壁。そしてその壁や道路の陥没の中にべっとりと付いた赤い何か。
それが先遣隊のなれの果てであろうとは、誰も想像したくないだろう。だがこれがなのは達に突き付けられた事実なのだ。
本局から送られた精鋭部隊に走るのは恐怖、絶望、戦慄、そして逃れようのない絶対的力量差。

「これは一体……ん?」

そう呟くなのはの耳に音が入り込んでくる。何かが駆動するような音、そう油圧パイプが動くような。
次に聞こえてくるのは何かが砕かれるような音。アスファルトが砕けているのだろうか? それらの音が一定のリズムを保って紡がれる。
徐々に近づいてくる音に、その場に居る全員が同じ事を考えていた。恐らくこれは敵が出す音だと。ビルの陰に隠れて姿は見えないがこれこそが敵なのだろう。
音はどんどん大きくなり耳を覆いたくなるほどだ。しかしなのは達が見つめるビルの向こう側に奴は居る。
敵の姿がどんなに強大でも目を逸らすな! 敵がどれほど恐ろしい音を立てようとも耳を塞ぐな!
全神経を集中して敵を感じろ! 奴が姿を現した瞬間、一斉射撃だ! なのはを含めた小隊員全員がそう思っていた。
もうすぐ、もうすぐ、ビルの陰から顔を出す。仲間の仇だ! 誰であろうと倒してみせる!
彼らはそう誓ったはずだった。はずだったのどうだろう。誰一人として動かない、いや動けないのだ。
何故ならビルの谷間からその巨体を見せた敵の姿は、彼らの乏しい想像力など遥か彼方に超越するほど強大で。

「ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

彼らが想像したよりも遥かに恐ろしい咆哮を上げたからだ。



「ママ……」

なのはが緊急招集されてから実に1時間、彼女の娘であるヴィヴィオは涙ながらにフェイトに縋りついていた。
そう、幼いながらもヴィヴィオはこの異様な状況に不安感を覚えていたのだ。
フェイト自身ヴィヴィオに付いていたい気持ちはあったが、とにかくなのはが心配でたまらない。
それにそろそろアイナが来てくれるはずだ。折角の休暇、しかもこんな時間に呼び出すのは気が引けたがそうも言っていられない。
とりあえずアイナならヴィヴィオを安心して預ける事が出来る。フェイトはヴィヴィオを宥めながら腕にはめた時計にちらちらと目をやる。

「ママ……ママ」
「傍にいるよ、大丈夫」

嘘だ。今から遠くへ行ってしまう。でもとにかく今は泣き止んでもらわないと。
なのはは無事だろうか。もしもの事があればこの子はどうなるだろう。いや自分はどうなってしまうだろうか。
あの夢、私と同じ色の瞳で見つめ続けてくる彼。どれほど振り払おうとしても彼の視線が揺らぐ事はない。
真っ直ぐに見つめて投げ掛けてくる感情は存在の意義、存在の定義、存在の肯定と否定、孤独、悲しみ、生まれた意味。
兵器として代用品として生み出された者に生きる価値はあるのか? それはフェイトが長年悩み続けてきた事。
どれほど考えても答えなど出ない。出したつもりでも結局悩み、迷ってしまう。
そうだ、なのはを失えば拠り所を失くしてしまう。そうなればきっと。

――私は壊れるだろう。

184リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:53:22 ID:LLxI1tRg
フェイトはヴィヴィオを抱き締める腕に力を込める。お願いだから泣かないでよ。泣きたいのはこっちなんだから。
なのはを喪失してしまう可能性、それはフェイトにとって最大の恐怖であり、自己の存在意義を失う事でもある。
フェイトと言う人間は危うい。その心はちょっとした事で砕けてしまう。そしてバラバラになった破片を繋ぎ合わせる事は容易ではない。
だからヴィヴィオの背中を撫でているのは自己防衛のため。幼い我が子を守るふりをして自分に言い聞かせているのだ。
なのはは大丈夫。なのはは死なない。なのはを失うなんてありえない。なのはは笑顔で帰ってくる。
帰って来たら眩しいぐらいの笑顔で自分を抱き締めてくれる。私に美味しいご飯を作ってくれる。
寝る前には笑顔で「おやすみ」を言ってくれて、朝起きて隣を見たら「おはよう」と言って笑顔をくれる。

「なのはママ帰ってくる?」

小さな身体を抱き締めながらフェイトは思う。帰って来ないなんて嫌だ。なのはを失う未来なんてこの手で壊してみせる。
高町なのはを失う事が運命ならばそれさえも壊す力を、なのはを傷つけるならば例え相手がなんであろうと敵だ。
フェイトと言う人間は危うい。なのはを守るためならば世界を敵に回しても戦い続けるだろう。
そして望むだろう。世界を敵に回しても勝利を得る事が出来る絶対的な力を。
思い浮かべるのは夢の中で手に入れたあの力、フェイトが望む力の理想像、いかなる敵をも叩き砕く無敵の鋼鉄兵士。
だがそれは夢想でしかない、なら今この手にある力を信じる以外ないのだ。10年以上の歳月を掛けて磨き上げた魔法という名の技術。
フェイトは縋るヴィヴィオを離してその小さい肩に手を置いた。

「よく聞いてヴィヴィオ、なのはママは私が助ける。だからヴィヴィオはアイナさんとお留守番してて。
 私はなのはママを迎えに行ってくるからここで待ってて欲しいんだ」
「本当?」

ヴィヴィオの表情に僅かばかりの光明が差すとフェイトは柔らかい髪の感触を確かめながらその頭を撫でた。

「うん本当だよ。フェイトママはね、強いんだから」
「知ってる」
「なら、お留守番しててくれる?」

フェイトの言葉にヴィヴィオは涙を拭いながら力強く頷いた。やはり血は繋がっていなくてもなのはの子なんだ。
きっと強くて立派な女性になる。なのはのような不屈の心を持った魔導師に。
フェイトが未来のヴィヴィオに想いを馳せれば、玄関から響くチャイム音。
この時間に訪ねてくる人物は1人しか居ない。念のためフェイトがドアを開けて確認するとそこには待望の人の姿が。

「ごめんなさい、遅くなってしまって」
「アイナさん。いえ、こっちこそ急なお願いで。じゃあヴィヴィオお願いします」

フェイトはアイナを招き入れるとその足で寝室へ向かった。
そしてロッカーに掛けられている執務官の制服に手早く着えるとポケットから愛用のデバイスを取り出し、触れる様な口付けをする。

「バルディッシュ、なのはを守る力を私に」

フェイトは口付けしたままバルディッシュに囁きかけた。

22時30分 ミッドチルダ首都中央部。


時空管理局地上本部と高層ビルが立ち並ぶミッドチルダの中央部。
その中でもひときわ高いビルの上から下界を見下ろすのは、八神はやてと守護騎士ヴォルケンリッターが将シグナムにオールラウンダーのヴィータ。
彼女たちの視線の先に広がる光景は惨たんたる有様であった。

185リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:54:08 ID:LLxI1tRg
「なんだよこれ…廃墟じゃねぇか」

そう口にしたヴィータに他の二人も同意せざるおえない。先程までは照明から眩いばかりの光を放っていたであろうビル群。
だが今その輝かしい明かりは消え果て、どこまでも広がる瓦礫から突き出している鉄骨は、まるでこの街に対する墓標のようにも見えた。
つい数時間前には凛々しくそびえるビルであったろう瓦礫の山々に、半壊して内部構造を痛々しげに晒しているビルも複数見られる。
滅多な事では壊れない鉄筋コンクリートの壁は砕かれたり剥がされていたり、途方もない質量を支えるために生み出された鉄骨もどうやったらこう出来るのか、まるで溶けたようにぐにゃりと折り曲げられている。
こんな事を出来る人間が居るのか。もしこの場になのはクラスの砲撃魔導師が大勢居れば、或いは出来るかもしれない。
だが独力でこれほどの事が出来る者は居るはずもなく、たとえ居てもそれは人間ではないだろう。

「そう、こんな事が出来る人間、居るわけがない……まさかこれがリンディさんの言っとった」
『はやて聞こえるか?』

突然はやての言に割り込むように入る通信。それはフェイトの兄であるクロノ・ハラオウンからであった。
予期せぬ相手からの連絡に、はやては目を丸くしていた。

「クロノ君! どうしてクロノ君が?」
『ああ、今回母さんから君達のバックアップを頼まれてな。だが少ないな』

クロノが差すのは今回のメンバー。はやて自身いきなり六課のメンバーを集めろと言われても出来るはずもなく、自身の守護騎士であるヴォルケンズを伴ってきたという訳である。

「せやな。本当ならなのはちゃんとフェイトちゃんだけでも確保しよう思ったんやけど捉まらんのや」
『知らないのか? フェイトはともかくなのははそこの前線に出ているはずだ』
「なんやて!?」

そんな事聞いていない。出動前の報告では本局からの武装隊は、既に壊滅寸前との事だ。もしかしてなのはは……。
はやての脳裏をどす黒い空想が支配していく。それは血塗れになりがら息絶えたなのはの姿だった。
なのはは自分やヴォルケンズを助けてくれた親友の一人だ。そんな親友の変わり果てた姿など見たくはない。

「はやてぇ!」

はやての思案に突如入りこんで来た聞き覚えのある声。
振り返り見てみれば、上空から黄金色の魔力を伴って見知った顔が高速で近付いてくる。

「フェイトちゃん!?」

フェイトはその言葉が自身の耳届くと同時に、はやて達の待つビルへと降り立った。
何故ここにはやて達が居るのか? フェイトにとっては当然の疑問である。
彼女は娘ながらリンディから今回の作戦を聞かされてはいない。はやて自身フェイトには当然話が行っているものと思っていたから自分達を見て驚く理由が分からないのだ。
はやてはリンディからの頼み事に改めてきな臭い物を感じていたが、引き受けた以上は仕方があるまい。
いずれ全てを話すと約束したのだ。今はそれを信じるより他にないだろう。

「どうしてみんながここに?」
「説明は後や。それより」

はやては眼下に広がる光景を見るよう視線でフェイトに促す。
ゆっくりと視線を落としてみれば広がっているのは一面の廃墟。つい数時間前通ったばかりの光景とはまるで違っていた。
いつも通る風景の変わり果てた様子にフェイト自身驚愕する以外なかった。

「これは……どうして、どうしてこんな事に」
「聞いてへんの?」
「何を?」

やはり聞かされていないのか。しかし何故リンディはフェイトに話していないのだろう。
クロノには話が行っているようだし、リンディはフェイトに話したくなかったのか?
妙な勘繰りかもしれないが、自分がフェイトを指名するのは目に見えていたはず。なのになぜ事前に話が通ってないのか。

186リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:54:59 ID:LLxI1tRg
「はやて何の事!」

何も言わないはやてに苛立ちを覚えたのか、フェイトは乱暴にはやての肩を掴んだ。
バリアジャケット越しでも力強さを感じるとは相当強い力で掴んでいるのだろう。
そしてフェイトの視線。普段は優しさしか見せないそれは狂気とも取れる感情を孕んでいるようだった。

「答えてはやて! 何でこうなったか知ってるの!? なのははどこ!?」

そう、全てはなのはのため。ここで何が起こったのか、なのははどこへ行ったのか、その答えを知るのは、はやてだ。
なら自分は知らなければならない。問い詰めてでも何が起きているのか言わせねばならない。
フェイトの思わぬ剣幕にたじろぐはやてだったが、リンディがフェイトに今回の件を言わなかった以上何か理由があると考えていた。
フェイト・T・ハラオウンという人間に対して、はやては全幅の信頼を置いている、だがリンディはどうなのだろう?
実の子でないと言え、深い愛情を注いでいた事は周知の事実だ。それに執務官としてのフェイトにも信頼を寄せているはず。
ならどうして、どうしてリンディはフェイトに何も告げないのか?

「いやそれは……」

リンディの行動が理解出来ないはやては言葉に詰まり俯いてしまった。
その様子に普段温厚なフェイトも声を荒げる。

「はやて!」

――ドオォォォ!!

するとフェイトの問い掛けに被さるように突如響きわたる爆音と粉塵の嵐。その瞬間、辛うじて原型を留めるビル陰から桃色の閃光を帯びた人影が飛び出した。
フェイト達は見覚えのある光を目で追う。そして光を脱ぎ捨てる様にして現れた白いバリアジャケットの姿に確信した。

「なのはぁ!!」

咆哮にも似た呼び掛け。聞き覚えのある声に驚いたなのはがその方向を見やるとそこには見覚えのある姿が4つ。
間違いない、いや間違える筈がないその姿。

「フェイトちゃん! それに……」

みんな自分を助けに来てくれたのだろう。
だがそう思った瞬間なのはは気が付いた。そうだ来てはいけない。なぜなら今ここに居るのは。

「逃げてぇぇぇぇぇ!!」

なのはの叫び、その刹那響く轟音。なのはの後方にあるビルが噴煙を上げながら、積み木細工を蹴散らすように崩れ去ったのだ。
そして残留する土煙に浮かび上がる黄色い光源が二つ。その光になのはが戦慄を覚えた次の瞬間、一帯を覆う煙は爆音を伴った暴風によって吹き飛ばされたのだ。

「ガオォォォォォ!!」

廃墟と化した都市部に響き渡る咆哮。雄々しく吠えたその姿にフェイトが、いやその場に居る全員が感じたのは逃れようのない恐怖。
粉塵を切り裂き現れたのは、身の丈20mに迫ろうかという大巨人。全身には薄汚れた包帯を巻き、魔導師の攻撃で引火したのか、垂れ下がる端々には篝火のように炎が灯っている。
そしてその姿は、身に宿る癒えぬ古傷を隠さんとするように見えたのだ。まるでそれその物が大きな傷跡であるかのように。
剛腕と形容するのが相応しい力強く巨大な腕に、大地を踏みしめる脚部はその地鳴りを響かせる重量を支えるのに十分な大きさがある。
それに伴った巨躯はまるで神話に出てくる神のように威厳に溢れ、そして怪物のような禍々しい威圧感を併せ持っていた。
顔に巻かれた包帯より覗かせる黄色い眼光は鋭く、目の前に居るなのは達へと向けられている。
だがそれでも高町なのはは退こうとはしなかった! 恐怖の感情はあったがそれよりも今は、かけがえのない友を守る事の方が大事だった!

187リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:55:38 ID:LLxI1tRg
「私の大切な友達を!」

だから立ちはだかる物を撃ち抜く! それが自分の出来る事、これが自分の最大火力! 今までこの砲撃に。

「傷つけさせなんかしない!!」

撃ち貫けなかった物などない!!

「行くよレイジングハート!」
『了解マスター』

そう、これこそが高町なのはの全力全開にして、神さえも撃ち倒すと言う名を与えられた究極の砲撃魔法!

そしてその名を!

――カートリッジ全弾ロード!

その名を!

――チャージ完了! 発射準備!

その名を!

――射線軸固定。照準ロック!

その名を!

――これが私の……。

その名を!

――全力全開!!

その名を!

「ディバイィィィィィィンバスタァァァァァァァァァ!!」

レイジングハートから放たれた桃色の光流が巨人目掛けて突き進む。突然の攻撃に巨人は身動きを取る事も出来ない。
なのはが持ち得る最大火力の砲撃は巨人の腹部に直撃し、辺り一面を桜色の光で包み込んだ。

「ブレイク! シュゥゥゥトォォォ!!」

なのはの咆哮が轟くと同時に、眩い閃光が巨人を覆ったかと思いきや突如起こる大爆発。それは凄まじい爆流となり憎き敵を覆いつくした。
巨人の全身を内包するほどに巨大な爆発が現すのは砲撃手の完全勝利。ビルの壁でさえ貫くこの砲撃に撃ち倒せぬ物はない!
誰もが思う。なのはの本領をぶつけられては無事で済むまい。今巨人を包む爆炎が晴れる頃には、彼が神さえ倒す砲撃に屈した姿を見る事になるだろう。

「やったんか?」

はやては晴れない煙を見つめ続ける。どうやら敵が動く気配はない。
カートリッジ7発ロードのディバインバスター。やはりその砲撃は巨人の身体を粉砕するには十分すぎる程の威力があったようだ。
ゆっくりと爆風が天へと舞い上がる様子に、なのははホッと一息付いてからフェイト達の居るビルへと飛翔する。

188リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:57:04 ID:LLxI1tRg
「フェイトちゃ〜ん! みんな!」

遠目から見ても心配そうな様子を浮かべている4人に、なのはは笑顔で手を大きく振り、自分の無事をフェイト達に知らせた。

「なのは!」

それを見るやフェイトは最高速度で飛び出し、なのはに辿り着くや否や、その華奢な身体を力強く抱き締める。

「無事でよかったぁ……よかった」

そう言ってフェイトが嗚咽を漏らし始めるとなのはは笑みを浮かべ、フェイトの身体を抱き寄せた。
ひょっとしたらもう感じる事が出来ないかもしれないと思ったなのはの温かさにフェイトの安堵はますます強くなる。
なのはが家を出てからどれほどこの瞬間を待ち望んだろう。また抱き締め合えるこの瞬間がフェイトにはどんな事よりも嬉しかった。
なのは自身も最近感じていたフェイトやヴィヴィオよりも先立ってしまう不安をこの時だけは拭う事が出来た。
どうやら自分が死ぬのは今ではないらしい。まだヴィヴィオやフェイトと笑い合って過ごせる、そう思うとなのはは堪らなく嬉しくなって目尻に涙が浮かべていた。

「私は無事だよ。でも他の人達は……」

だが同時に思うのは散っていった仲間たち。皆果敢に巨人と戦ったがなのは以外の全員が殺されてしまった。
ディバインバスターを撃てていれば全滅はなかったのかもしれない。
そうは思っても砲撃は足を止めなければ撃てない。あの巨人にそんな隙を見せれば瞬く間に殺されていただろう。
実際先程の砲撃も友達を守りたいがためのやけくそであり、それが直撃した事も、そもそも撃つ事が出来たのが奇跡に近かった。

「なのはが悪いんじゃないよ。とにかく無事でよかった」

落ち込むなのはを何とか励まそうとフェイトは微笑みかける。そうしたフェイトの気遣いは嬉しいがそれでもなのはは責任感を拭い切れずにいた。
だがそれも束の間、後方から地響きのような音が聞こえた。なのはとフェイトは音のする方へ振り向く。
視線の先にあるのは、今だ砲撃の爆風が停滞している巨人の亡骸があるべき場所。そしてまた聞こえる地響き。

「これは……」

フェイトが呟くとなのははハッとした。この音は間違いなく。

「巨人だ」

そう、爆炎を振り払い現れたのは包帯姿の巨人であった。その悠然と歩く姿からはこれと言ってダメージを受けているようには見えなかった。
だが、所詮布でしかない包帯はディバインバスターの直撃を受けて吹き飛んだようで、隠されていた腹の部分を露わにしていた。
そこから覗くのは非常に彩度の低い青色の肌。もはや金属本来の色と言ってもいいほど鈍くて、色合いの薄い青である。
不気味な色合いの皮膚に一同は困惑する。相手の正体は何なのか? 果たして生き物なのか? それともそれ以外の何かなのか?
皆が思案している中、はやては冷静に巨人の肌を見る。視線の先にはディバインバスター直撃の跡。
よく目を凝らして見るが、そこにあるべき物がない。あれだけの攻撃を受ければどんな物でも必ず付く筈の物。
その結果を突き付けられてはやての額には汗が滲み出してくる。はやての様子に心配なったヴィータが声を掛けると。

「はやてどうしたんだ」
「なんて奴や。傷一つ付いてないなんて」

189リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:58:10 ID:LLxI1tRg
そう言われてヴィータは巨人の腹に視線を送る。そこには綺麗な光沢こそあれど傷らしい物は一切見られなかった。
まさかなのはの砲撃を、その直撃を受けて傷一つ付かない物質など、この世に存在するのだろか?
分厚い鉄筋コンクリートでさえ撃ち抜いてしまうなのはの砲撃で無傷。それもカードリッジを7発もロードした超超威力砲撃。
もはやこれは常識で考えられる範疇を超えた相手なのだとはやては確信した。リンディの世界が滅ぶという言葉、あながち嘘ではないらしい。
そして相手の様子をじっと観察していたフェイトは、敵の正体に気が付いて叫び声を上げる。

「あれは……そうか鉄だ! 鉄で出来た巨人だ!」

フェイトの言葉になのはも叫んだ。

「じゃああれは鉄巨人!」

いいや違う! 鉄で出来た巨人でも鉄巨人などでは断じてない!

分からぬというなら見せようこの姿! とくと焼き付けろこの身体! 全力全開の砲撃魔法に耐えたこのボディー!

神をも倒す? 笑わせる! ならこの身体は神をも超えし物なのか?

あるいはそうか? それも違う! これを操る者こそ全知全能絶対無敵の神となりえるのだ!!

鉄巨人は自らの身体に纏った包帯を掴んでそれを取り払った。

そして現れたのは全身が鉄で出来た鋼鉄の兵士! それが勝利する事のみを目的とした完全なる兵器、鉄人!

「ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」



――鉄人28号!!



そうこれが私フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと後に鉄人28号と呼ばれる正太郎との出会い。
それは、JS事件から1年が過ぎた夏の日の事でした

続く。

190リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:00:03 ID:LLxI1tRg
あとがき

まず初めての投下なのに規制食らってしまって申し訳ありません。
もう少し投下感覚調整すべきでした。
これで第1話は終了です。ここまで読んでくださった方、支援してくださった方ありがとうございます。
SSは書き慣れていないので文章などにおかしい所がたくさんあると思いますが書いていく内に改善したいと思います。
なので指摘などありましたらどんどん言って下さるとありがたいです。
改めて読んでくださった方、支援してくださった方ありがとうございました。

191リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:35:46 ID:LLxI1tRg
また規制……
>>187までは投稿出来たので>>188からどなたか代理で投下して頂けないでしょうか?
自分のせいでスレの進行止めるのも申し訳ないので
本当にお手数ですがよろしくお願い致します

192リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:53:39 ID:LLxI1tRg
本スレに代理投下してくださった方、本当にありがとうございました
これからはこのような事態がないように気を付けます

193ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/05/17(日) 21:54:35 ID:HIgUv1Wg
リリカル鉄人氏の残りの部分を代理投下させていただきました。
これでよろしかったでしょうか?

194リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:56:41 ID:LLxI1tRg
>>193
ラッコ男氏、代理投下誠にありがとうございました
これからは他の方に迷惑をかけないよう注意していきたいと思います

195<削除>:<削除>
<削除>

196無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:44:27 ID:ziKOyLyc
すみません。まだアクセス規制が消えないのでまた避難所投下になります。
誰か投下してください。お願いします。

投下作品はリリカル×ライダー第五話です。

197無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:46:27 ID:ziKOyLyc
「オルタドライブ?」
 シャーリーの言う単語は、デバイス関係を多少は齧ったわたしにも聞き慣れないものだった。
 カズマ君のデバイス、チェンジデバイスと言うらしい箱か又は物々しいバックルとでも形容するしかないそれは、下手なロストロギアより謎だらけのものだった。
 もちろん普通のデバイスとは全く違う。機能もよくは分からない。おまけに厳重なプロテクトとダミープログラムによって内部データは閲覧できず、ブラックボックスな中身故にコピーも難しかった。
「ええ、カズマさんが何度か使用した後に調べてみたら幾つかプロテクトが解除されていたんです。それで調べてみたらそんな名前が」
 シャーリーにしては珍しい、聞いたことのない専門用語みたいだ。彼女に分からないなら、わたしにも分かる筈がない。
「それで、そのオルタドライブって何のことなの?」
 名前からして動力機関みたいな気はする。けれど動力機関が搭載されたデバイスなんて聞いたことがなかった。
「このデバイスに搭載された魔力精製機関のことみたいです。これのお陰でリンカーコアのないカズマさんでも魔法が使えるみたいなんですけど……」
 魔力素を変換出来る装置自体を聞いたことがない、とシャーリーは続けた。
 簡単に言えば人工のリンカーコアということだと思う。けどそんなもの、一体誰が作ったの?



   リリカル×ライダー

   第五話『鉄槌』




 訓練、訓練、また訓練だった。
 機動六課隊員、特にフォワードメンバーは頻繁にヘリで任務に向かっていた。復興支援や、ガジェットと呼ばれる自立戦闘機械の掃討などを行っているらしい。JS事件の傷痕は、未だあちこちに残っているらしかった。
 一方の俺はまだ任務に従事出来るだけの訓練を積んでいないため、一人居残り練習という有り様だった。一応、教官としてなのはが残っているのは不幸中の幸いか。
 すでに俺が目覚めてから、一週間も時間は経過していた。

198無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:46:59 ID:ziKOyLyc
「飛行魔法に魔力付与攻撃、それにベルカ式防御魔法だけかぁ」
 なのはが訓練データを見ながらぼやく。
 薄々気付いていたが、俺は相当不器用らしい。基礎的な射撃魔法はもちろん、魔力スフィアの形成も出来なかった。というより、射撃魔法自体が向いていないのだろう。他に補助魔法や戦闘以外に使用する魔法も試したが、いずれもダメだった。
 唯一、飛行魔法だけは利点になるらしいが。
「まぁ、カズマ君はどちらかというと騎士だしね」
 騎士という言葉は聞き覚えがあるが、彼女の言う騎士はおそらく違う意味だろう。
「なのは、騎士って?」
「えっと、わたし達魔導師がミッド式魔法を使ってるのは教えたよね? ミッド式はね、攻撃魔法は主に射撃魔法が得意で他にも補助魔法や様々な魔法を使うのにも向いた万能な魔法体型なの。一方、ミッド式と対を成す魔法体系にベルカ式と呼ばれるのがあってね。そっちは格闘戦用の魔法を中心に戦闘に特化してるんだけど、それを扱うのが『騎士』」
 ……分かったような、分からないような。
 まぁ、斬り合いや殴り合いの方が向いてるのは事実だ。
「似たような戦い方をヴィータちゃんとシグナムさんがするから、帰ってきたら習うといいよ」
 そのヴィータちゃんとやらは知らないが。
「それよりなのは、もう一度ガジェットってのと戦わせてくれ。実戦形式が一番伸びるのが早い気がするんだ」
 俺の案をしばし顎に手を当てて考えた後、溜め息と共に首肯した。
「大体のことは分かったしね。でもガジェットじゃ、物足りないんじゃない?」
 なのは曰く、殴り合いや斬り合いが主な俺はガジェットに対し相性が良いらしい。AMFと呼ばれる魔力を阻害するフィールドを持つガジェットは並みの魔導師には天敵となるものの、自分のように殆ど魔力を使わないものには何の障害にもならないのだ。故にガジェットは自分に取って少々役不足な敵だった。
「でも他にないんだろ?」
「そういうわけでもないんだけど……」
 いつまでも顎に手を当てて悩むなのは。段々イライラしてきた。
「おい、そこまで悩むんならさっさとその隠し玉出せよ!」
「うーん、後悔しても知らないよ?」
 なのはは、にこりと笑った。

199無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:47:29 ID:ziKOyLyc



     ・・・



「フェイトちゃんお帰り。ここんとこ忙しいのに厄介事押し付けちゃってごめんな?」
「平気だよ。それにはやてだって大変なんでしょ?」
「私は何時ものことや」
 フェイトちゃんが一週間ぶりに帰ってきていた。
 彼女に依頼したのはカズマ君の調査。執務官という立場を生かして本局で調査してもらっていたのだ。未だ記憶が戻らない以上、こっちが地道に調べていくしかないのだから。
「それでどうやった? カズマ君の世界は見つかった?」
「管理世界と把握している管理外世界からここ最近急にいなくなった人をリストアップしたんだけど、該当する人はいなかった」
「そっか……」
 思わずほっとしてしまう自分が嫌いになりそうだ。けど、せっかく六課とも馴染み始めたカズマがいなくなったら寂しいというのは事実だ。そういって自分を誤魔化すことにする。
「けどね」
「ん?」
 カズマ君の偽造の身分証明書を提出するために封筒に纏めていた手を止める。珍しい、彼女が言い澱むことがあるなんて。もう一人の親友ほどではないけれど、彼女も正義の人故に何でもはっきり言うのだ。
「実はそっくりな顔の人が15年前に日本で行方不明になったって情報があったんだ」
「なんやて!?」
 まさかだった。確かにカズマ君の顔は東洋系だし、名前も日本人っぽいとは思っていた。しかし本当に日本人、つまりは私やなのはちゃんの故郷、第97管理外世界の出身だったとは。
「でも15年前だから今とは顔が違うはずなんだよね」
「あ……そうやね」
 確かにそうだった。15年前に似ていただけなら今はずっと老けているはずだ。早とちりだった。
「そっか、ありがとな」
「いいよ、私も気になってたから」
 そう言って微笑を浮かべた後、彼女はここを退室していった。

200無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:48:14 ID:ziKOyLyc



     ・・・



「はぁぁぁ!」
 円筒形のガジェットを真一文字に切り裂く。薄っぺらな装甲は容易くひしゃげ、内部機器を粉砕しながらオイルを撒き散らして爆散した。まぁ、魔力を物質化させて、ホログラムで見た目をリアルにしているだけの偽物なのだが。
「これで、15体か」
 訓練再開から10分、最初はガジェットと戦っててと言われて戦闘を続けていたが、数にキリがなかった。
 そしてまた、ビルの屋上から三体のガジェットが顔を覗かせる。
「くそっ、フライブースター!」
『Fly Booster』
 俺の声に続き、バックルから電子音声が鳴る。それに呼応して背中にある二本のブースターから青い魔力光が噴き出し、俺の体が浮かび上がった。
 ちなみに、俺は今の体を見て思うことがいくつかある。
 まずはバックル。本来はこんなものじゃなかった気がするのだ。他にも腹や肩のアーマーが不自然に感じる。本来ここには何かマークが描かれていたはずなのに。
 そしてこの背中にあるこのブースターも違和感の原因の一つだ。
「おりゃあああ!」
『Slash』
 飛び上がった俺の剣が青い魔力光を帯びる。
 俺はビルに着地しながら右足を軸に体を回転させ、三体のガジェットを一度に切り裂いた。――そして一歩遅れて爆発する。
「これで、18体かよ」
 違和感が何なのか、俺には分からない。今は精一杯生きるしかないのだから。
 再び床から四体のガジェットがせり上がる。まだまだ休ませてはくれないか。
「りあぁぁぁあ!」
 フライブースターを噴かせ、一気に突進する。いや、しようとした。
 それを、轟音が遮った。
「だ、誰だ!」
 ガジェットを粉砕した影。背は低い。だが赤い衣装と右手のハンマーが、俺の恐怖心をくすぐる。いったい誰だ?
「なのは、これは一体――」
「お前がはやてを誑かしたのかぁぁぁあ!」
「えぇぇぇ!?」
 その赤い影が、俺に襲いかかってきた。

201無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:48:48 ID:ziKOyLyc



     ・・・



 鬱だった。
 何故彼をあそこまで罵倒したか分からない。犯罪者と勝手に決めつけ、彼に辛くあたった自分が堪らなく憎い。
 任務の合間、つかの間の休憩時間に、あたしは何をやっているんだろう。あの模擬戦以来、考え事ばかりしている気がする。
「ティア?」
 声がかかる。スバルだ。あたしに元気がないのを察して来てくれたんだろう。
「ねぇ、スバル」
「何?」
 スバルになら、悩みを吐いてもいいかな? 執務官になるために、あまり他人を頼ったりはしたくないのだけれど。
「どうしてあたし、カズマさんにあんなに辛く当たっちゃったんだろう」
「ティア……」
 理由は無いわけじゃない。ナンバーズを捕まえた際に、しかるべき罪を課せられるかと思ったら驚くほど軽くて管理局に不信感があったとか。最近良くしてくれているなのはさんを蹴飛ばしたことが許せなかったとか、はやて部隊長が庇ったのが信じられなかったとか。この頃アレの習得が上手くいかず溜まったストレスも原因かもしれない。ホントに、いろいろ。
 けど本当は、この機動六課という輪を壊してほしくなかっただけかもしれない。そんな小さな事のために辛く当たった自分が、本当に小さく見えた。
「ティア」
「何よ?」
「一緒に謝ろうか」
「えっ?」
 まさかスバルがそんなことを――と考えて、あたしよりもずっとそういうことを気にするやつだったのを思い出した。
「あたしも最初はまだ本調子じゃないなのはさんに暴力を振るったあの人が許せなかったけど、今では反省してるんだ。なのはさんがあの人は悪い人じゃないって言ってたの、早く信じておけば良かったって、今頃になって思ってる」
 目に涙を滲ませ、顔を伏せながら言うスバル。きっと任務中も悩んでいたのだろう。それを気付かせないように空元気を出していたに違いない。あたしがいつも通りだったら分かってあげられただろうに。それが悔しい。
「だから、その」
「分かった。スバル、一緒に謝りに行くわよ」
「ティア……」
 あたしはなるべくいつも通りに笑いながら、
「くよくよ悩むなんて、アンタらしくないでしょ」
 あたしは、そう言った。

202無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:49:22 ID:ziKOyLyc



     ・・・



 何故だか俺は、ティアナとスバルのことを思い出していた。
 ティアナとスバルが謝りに来たのは昨日の話だ。こっちはかなり驚いたが、願ってもないことだったので俺も喜んで受け入れた。
 何故、今そんなことを思い出すのだろう。
「ぐあっ!」
「どうした! その程度かよ!」
 赤い服を着る人影は少女だった。ドレスのような派手なフリルがいくつも付いた服を来ていて、年は小学生くらいだろう。可愛らしい顔立ちをしている。
 そんな少女が憤怒の形相を浮かべて、ハンマーを振り回しながら襲いかかってくるなんて悪夢としか思えない。
「グラーフアイゼン!」
『Jawohl!』
 威勢の良い彼女の掛け声と、ハンマーから鳴る同じく威勢の良い機械音声が重なる。それと共にハンマー基部のコッキングレバーが動き、薬莢が排出される。
「カートリッジ!?」
「ラケーテン、ハンマー!」
『Raketenhammer!』
 赤い魔力がハンマーを包み込む。一瞬の後、ハンマーのヘッド部分は異形の姿に変貌していた。
 叩き付ける部分には鋭い突起が、反対側にブースターが付いた新たなハンマーヘッド。見るからに危険そうだと分かる凶悪な外見だ。
 それを彼女は、ジェットを吹かして自分の体を軸に回転させながら俺に叩き付ける!
「あぁぁぁぁぁあ!」
 俺はそれを右手に発動させた小さな三角形の魔法陣、パンツァーシルトで受け止める。
 甲高い耳が馬鹿になるような音が鳴り響き、ハンマーから生えた突起が俺の盾をガリガリと削っていく。
 凄まじい衝撃と突起による追加ダメージ。
 俺を守る盾は、限界に達しようとしていた。

203無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:50:08 ID:ziKOyLyc
『お願い! わたし達の六課を守って!』
 その時、なのはの声が耳を震わせた。

――守る……?

 そうだ、守らなければ。今六課隊舎を守れるのは俺だけなんだ。

――そうだ、俺は。

 俺が、俺が戦わないと。六課を守るために。

――俺はもう、誰も失いたくない。

 そうだ、俺は――

――“全ての人を、守ってみせる!”

「おぁぁぁぁぁっ!」
 右手が輝き出す。眩い蒼の光は魔法陣を包み込んでいき、亀裂をみるみる修復させていく。
「な! コイツ、いきなり魔力量が」
 少女が表情を変える。だがそんなことはどうでもいい。
 俺はフライブースターを最大出力にして押し返す。
 均衡する力と力。
「バリア、ブレイク!」
 その状況を、俺はあえて粉砕する。
「なぁっ!?」
 盾となっていた魔法陣が爆発し、彼女とそのハンマーを吹き飛ばしながら噴煙で包み込む。これで一時的だが眼は潰した。
 俺は死角に一瞬で飛び、青い光を帯びさせた剣を降り下ろ――
「そこまで!」
 ――そうとした所で、戦いは終わりを告げた。

204無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:50:44 ID:ziKOyLyc



     ・・・



「なのは! てめぇ!」
 先程まで戦っていた赤髪の少女が、なのはに掴みかかっていた。
「ごめんね、ヴィータちゃん。ああ言ったらカズマ君と良い戦いをしてくれるかと思って」
「にしてもやり方が悪過ぎだ!」
 おそらくなのはの言っていた秘策はこの少女の事だったのだろう。確かに偉く強い相手だった。
 ちなみに今いる食堂で夕食がてら事情を聞くということで集まったのだが、彼女がキレ出してしまったため俺には何も出来なかった。
しかし俺はなのはの少女みたいな甘い声にまんまと乗せられたということか。考えてみれば俺が戦わずとも彼女がいた訳なのだから、責任感を持つ必要はなかったのだ。くそ、あの高い声と必死さのある口調は反則だ。思わず守りたくなってしまった。
でも、俺は何か思い出しかけた気が――。
「ホントごめんね。今度はやてちゃんが休み取れるようにわたしが仕事引き受けるから。一緒に遊園地とか、この頃行ってないんじゃない?」
「ほ、ホントかなのは? やったー! はやてと久しぶりのお出掛けだー!」
 単純な奴だな、と思ったのは内緒だ。なのははもしかしてこうやって彼女“で”遊ぶことを目的としていたのではないか?
「ところでなのは。この子はどういう……?」
「あたしか?」
 なのはに対して散々怒りをぶちまけたからか、先程よりはずっと爽やかな自信に満ちた笑顔をこちらに向けた。
「あたしはヴィータ。はやての守護騎士ヴォルケンリッターにして機動六課スターズ分隊副隊長のヴィータだ」
 赤髪の少女、ヴィータはそう名乗った。



     ・・・



 ようやく仲直りをしたティアナはカズマへの詫びとしてクラナガンの案内を志願する。二人での奇妙な買い物は、しかし平和には終われない。
 ついに物語は始動する。最悪の方向へと。

   次回『覚醒』

   Revive Brave Heart

205無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:57:44 ID:ziKOyLyc
以上で投下終了です。何度もご迷惑をおかけして申し訳ありません。2ch歴が短いのでアクセス規制の対処法などもわからなくて……。
すいません、作品に話を戻します。今回の話までは平和な話です。次回からカズマの正体がある程度明かされます。それと共にもしかしたらあいつも……?

感想、批評などをよろしくお願いします。

206無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 08:46:37 ID:ziKOyLyc
すみません。では誰か、代理投下お願いします。

207ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/05/24(日) 15:45:27 ID:FiZCd4IU
無名氏の第5話を代理投下しました。
上で既にゼロ氏も仰っていますが、一行が長くて
エラーが発生しておりましたので勝手ながら
一部改行させていただきましたが、大丈夫だった
でしょうか?

では、失礼します。

208無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 20:47:12 ID:ziKOyLyc
ありがとうございました。
改行についてはwiki編集時にオリジナルのまま編集しているので大丈夫です。

209魔法少女リリカル名無し:2009/05/24(日) 21:09:23 ID:Q8qYANvU
>>208
そうじゃなくて、エラーが起こるから投下しにくいと指摘されてるわけで。
貴方のオリジナルがどうとかじゃなくて、人に代理を頼む以上はエラーが起こらないようにするのが
頼む側の最低限の礼儀じゃないでしょうか? 一度指摘を受けてるんですから

210無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/25(月) 17:07:41 ID:yovq0bBs
>>209
すいません。問題をきちんと理解していませんでした。今後はこんなことが起こらないよう注意しておきたいと思います。

ちなみに今回のエラーの原因が今一分からないので解決法などがありましたら教えてもらえますか?

211魔法少女リリカル名無し:2009/05/25(月) 18:00:17 ID:IY2TYZVY
>>210
文字は1行128文字まで
それを超えると投下出来なくなる
テンプレにも書いてあるので熟読するといいと思う

212無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/26(火) 07:27:34 ID:nD3RIsvc
あれはてっきり一行が128文字しか入らないからレスの際は合計文字数に制限かかるという意味に取ってました・・・・・・。
小説的には一段落128文字ということですね。わかりました、今後は気を付けます。ありがとうございました。

そしてラッコ男氏には迷惑をお掛けしたことに改めて謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。

213R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:00:40 ID:8/jKotFc
時間になりましたので投下します



閃光と衝撃。
光子弾の奔流が眼前の壁面を掻き消すと同時、スラスター出力を最大へと叩き込む。
砲撃後の僅かな粉塵は晴れずとも、各種センサーがその向こうに位置する構造物の消滅を告げていた。
光子弾単発のサイズは親指程度、掃射時間は僅か1秒足らずだが、1度の砲撃によって放たれる総弾数は20万を優に超える。
波動粒子に対する抵抗性を獲得したバイド汚染体でもない限り、雪崩を打って迫り来る光子弾の壁を前にして存在を保つ事など不可能だ。

行く手を遮る物が何ひとつ存在しない事を確信し、壁面に穿たれた巨大な穴に向かって加速。
そして突入と同時、リフレクト・モードへと移行した光学兵器の閃光が空間を埋め尽くす。
機体周囲の全方位から爆発と生命反応の消失に際しての各種エネルギーが無数に検出され、それらの情報がインターフェースを通じて意識内へと流れ込んだ。
更にシステムをサーチ・LRG・モードへと移行、誘導性を有するレーザーを5秒間に亘って掃射。
逃走を図ったか、遠ざかり始めた反応源を殲滅する。
直後、システムを再度リフレクト・モードへ移行、反射制御ナノマシンの増殖・供給を停止した上で掃射開始。
選択式対物反射機能を失ったレーザーの嵐は、既に破壊されつくした周囲の構造物を更に微塵と化し、漂う粉塵すらも巻き込んで全てを消滅させた。
後に残るは半径600mにも及ぶ、巨大な球状の空間のみ。

数ある空間制圧型光学兵器の中でも群を抜く高性能にして、前線の部隊からは「凶悪」とすら評される、R-9Leoシリーズのマルチプル・レーザー・システム。
地球文明圏が有する全光学技術を、文字通り全て注ぎ込んで開発された光学兵器運用特化型フォースは、同一プロジェクトに於いて開発された「サイ・ビット」との連携によって破壊的な制圧力を発揮する。
大型装甲目標すら数秒の連続照射によって破壊可能な極高出力レーザー、更に高密度レーザー弾体をフォース及びサイ・ビットより放つクロス・モード。
ナノマシンによる超高速演算とレーザー触媒機能により、照射後のレーザー自体が選択的に対物反射機能を発動させるリフレクト・モード。
同じくナノマシン制御により、偏向誘導性を持たせたレーザーを掃射するサーチ・LRG・モード。

専用ビットであるサイ・ビットは基本的にフォースと同一のレーザーかサブ・レーザーを照射する為、その通常掃射は瞬間火力こそ特化型波動砲には劣るものの、総合火力では標準型波動砲のそれを凌駕すらしている。
更にサイ・ビット本体もまた攻撃能力を有し、波動粒子の充填後には近接防衛火器としての機能を発現。
その強大な打撃力は迎撃のみならず、機体を中心とした2000m以内の敵性体に対する積極的攻撃能力すら有している。
友軍以外の全てに襲い掛かり、波動粒子を纏っての突撃を以って喰らい尽くすのだ。
その攻撃行動は充填された波動粒子が尽きるまで停止する事はなく、単一の敵性体排除後には次々に目標をシフトしながら特殊戦闘機動を継続する。
フォース及びビットシステムの攻撃性特化と引き換えに波動砲の出力こそ低下したものの、その驚異的な空間制圧力は他のR戦闘機、及びあらゆる機動兵器の追随を許さない。
スペックだけに注目するならば、正に究極にして理想のR戦闘機。

しかしシリーズ初代となるLEOの実戦配備後、前線から上がったのは痛烈な批判の声だった。
構想段階からして余りにも攻撃に傾倒し過ぎたシステムは、Leoシリーズと他機種の同一戦域への同時投入をほぼ不可能にしてしまったのだ。
その最大の要因となったのは、リフレクト・モードの無差別性にあった。
Leoシリーズ最大規模の攻撃手段であるこのレーザーは敵性体のみならず、時に友軍機すら巻き込んでの過剰破壊を引き起こす。
IFFによるナノマシンを通じての反射角制御機能はあるのだが、友軍機による想定外の機動を始めとした各種現象の全てを反射・着弾までに演算処理するとなると、その総情報量はナノマシン群の処理能力を僅かに超えていた。
更にR戦闘機が度々投入される半閉鎖空間に於ける戦闘では、レーザーの空間密度が飛躍的に増加する為、必然的にナノマシンの負担は増加、友軍機への誤射が相次ぐ事態となる。
無論、被害以上の戦果は得られたのだが、運用する艦隊側としてはパイロットに単独行動を強いる結果となってしまったのだ。

214R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:01:16 ID:8/jKotFc
以降のLeoシリーズは単機による殲滅作戦にのみ用いられる事となったが、それを受けた開発陣が自身等の技術を処理速度の向上へと振り分ける事は終ぞなかった。
如何なる理由か、彼等は機体運用に於ける汎用性向上には僅かな関心も示さず、新たに開発されたナノマシンの有り余るキャパシティを只管にレーザー出力の増大へと注ぎ込んだ。
結果、Leoシリーズの実態は当初の機体構想から大きく外れ、単独運用を基本とした戦術級殲滅兵器へと変貌を遂げる。
こうして実戦配備へと至った後継機「R-9Leo2」は、LEO以上に扱い難い機体となってしまった。
問題となっていたリフレクト・モードの総合火力が更に増大してしまった為、僚機の随伴はおろか施設奪回目的での運用すら不可能となってしまったのだ。

だが、ある程度の運用期間を経て、例外的に僚機を随伴させるケースも現れ始めた。
半閉鎖空間戦闘に於ける戦闘経験を豊富に有し、尚且つ限定条件下に於いて威力を発揮する波動砲を有した機体を補助に付ける事で、物量と耐久性を恃みに襲い来るバイド体を容易に殲滅する事が可能となる為だ。
今作戦に於いても、LEOⅡを運用する彼に対し僚機が与えられている。

「R-9DV2 NORTHERN LIGHTS」、コールサイン「ウラガーン」。
圧倒的密度を誇る光子弾幕により、群体型汚染体に対する大規模制圧射を行う機体。
操縦するのは4度に亘る大規模施設への突入・制圧の実績を持つ、第17異層次元航行艦隊に於いても古参に当たるパイロットだ。
R-9DV2が有する重装甲・大出力を活かしての一撃離脱を得意とする彼は、艦隊でも数少ないフォースの装備を必須としない人物でもある。
高機動にて敵性体群を攪乱・誘導した後に光子弾幕を叩き込み、再度攪乱へと移行しつつ充填を開始するその戦法は、対バイド戦線に於ける掃討戦を熟知したもの。
本作戦に於いてもその技能を遺憾なく発揮し、全方位より迫り来る汚染体群、及び侵食組織体を見事な戦闘機動で誘導した上で、光子弾の掃射により殲滅していた。
無論、管理局員に対しても同様である。
その上でこちらの攻撃時には安全圏まで脱し、収束と同時に攻撃を再開する機体運用は見事なものだ。
汚染拡大によりバイド係数検出機能を除く長距離センサーの殆どが沈黙し、同じく長距離通信すら断たれた現状ですらなお、ウラガーンとの相互支援行動は僅かな綻びも見せてはいない。

『反応消失、進路クリア』
『了解。HLRTへのアクセスハッチを確認、突入する』

物資輸送用大型リニアレール路線へと続く巨大なハッチが、レーザーにより抉り取られた空間の端、破壊され途切れた輸送路の奥から覗いている。
波動砲の充填を開始すると同時に機首を旋回させ、低集束砲撃によりハッチを破壊すると間髪入れずに機体をその先の空間へと滑り込ませた。
暗闇の中へと直線に連なって浮かび上がるは、光を失った無数のリニアレール路線警告灯。
至近距離に大型バイド体の反応は存在しないものの、彼は警戒を解く事なくレーザーをサーチ・LRGへと切り替える。

『バイド係数、最大値検出源まで約5700m。道中に障害物及び敵影は確認できない』
『了解、本機は後方に着く。エグゾゼ、前進せよ』

サーチ・LRGを2秒照射、サイ・ビットへと波動粒子を充填しつつ加速。
レーザーは屈折する事なく直進、暗闇の奥で爆発が起こる。
待ち伏せはない。
ザイオング慣性制御システム及びスラスターを低出力駆動、5700mの距離を一瞬にして移動した後に右旋回、目前の壁面へとビットを撃ち込んだ。
波動粒子を纏った2基のビットは一瞬にして壁面を打ち砕き、それでも足りぬとばかりにその奥へと飛び込み構造物を抉ってゆく。
破壊音と震動が機体を揺らす中、機体側面へと滑り込んだウラガーンが充填済みの波動砲を解き放った。
閃光と共に放たれた光子弾幕は、通常砲撃時よりも弾体散布界を絞られている。
サイ・ビットにより穿たれた壁面の穴、その更に奥へと突き立った20万の弾体は射線上の全てを呑み込み破壊し、数瞬後には円錐状に拡がる巨大な通路を形成していた。
崩落と粉塵が視界を覆い尽くしているものの、近距離センサー群が健常である以上、進攻には何ら問題はない。

215R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:02:26 ID:8/jKotFc
『エグゾゼ、前進する』

そう告げるや否や、彼はリフレクトへと切り替えたレーザーを掃射しつつ加速する。
ナノマシン制御により機体へと直撃する軌道を除いて対物反射を繰り返すレーザー群は、一瞬にして空間を覆い尽くした。
反射毎に分裂を繰り返すメイン・レーザー、分裂機能こそ持たないものの同等の出力によって照射されるサブ・レーザー。
双方を照射するフォース、サブ・レーザーのみを高速連射するサイ・ビットによって、レーザー弾幕の密度は減衰を上回る速度で上昇してゆく。
数瞬後には愛機であるLEOⅡ「エグゾゼ」を除く空間の全てが青い閃光により埋め尽くされ、対物反射機能の枷より解き放たれる瞬間を待ち受けていた。
そして遂に、インターフェース越しに最後の障壁が浮かび上がる。
目標である高バイド係数検出源へと続く即席の侵攻路、その最後の障害となる構造物。
崩壊した階層の山が、数百mもの絶壁となってレーザーを反射している。

即座に彼は、前方の壁面に対する対物反射機能を解除。
万を超えるレーザー弾体の壁が一斉に牙を剥き、分厚い構造物の壁を瞬時に食い破る。
だが破壊はそれだけに留まらず、構造物の向こうに拡がる空間へと拡大した。
レーザー群は構造物を細分化して尚、集束を保ったまま空間そのものを粉砕したのだ。

光の暴風としか形容できない破壊が過ぎ去った後、センサー上へと出現したのは巨大なバイド生命体、そして無数の局員より発せられる生体反応だった。
前方ではレーザー群に呑み込まれたのか、数隻の次元航行艦の残骸と思しき破片が散乱し炎上している。
局員は空間全域へと散開しているが、レーザー群の通過痕である400m前後の範囲には不自然な空隙が生じていた。
周囲に存在する局員の位置から推察するに、幸運にも数十名の魔導師を巻き込んだらしい。
非戦闘員を含めれば、次元航行艦の残骸から推測して500名は下らないだろう。
レーザーに呑まれる事のなかった局員達は暫し呆然としていたが、程なくして状況を理解したのか、一様にデバイスを構え攻撃態勢を取った。

レーザーをリフレクトよりクロスへ移行、射軸を右側面80度に傾けた状態で照射を開始し、瞬時に左側面80度まで水平稼働。
同時に機体を左側面へと旋回させ照射範囲を更に高範囲へと拡大、レーザーの直撃と余波で以って周囲に滞空する魔導師を薙ぎ払う。
更にサイ・ビットより連続して放たれる高密度レーザー弾体が着弾と同時に高熱を撒き散らす力場を形成し、着弾地点を中心とする15m以内の構造物を真球状に抉り抜く。
直後、進行方向に対し機体右側面を向けたウラガーンが後方を突き抜け、移動を止めぬまま砲撃。
前方に存在する局員、そして次元航行艦の全てに対し光子弾幕を叩き付ける。

クロス・モードによる掃射からウラガーンの砲撃、一連の行動が収束するまで3秒足らず。
その間に、後方に位置する者を除く魔導師の大半と次元航行艦3隻がレーザーに、それを掻い潜った局員と11隻の次元航行艦が光子弾幕によって存在を消し去られていた。
抉られた構造物が凄絶な破壊痕を曝し、次元航行艦の残骸は炎を吹き上げ続けている。
危うく弾幕を凌いだ艦も其処彼処を穿たれ、少なくとも4隻が明らかな航行不能、2隻が機関部付近から炎を上げていた。
局員の姿に関しては、次元航行艦の陰より現れた無傷の20名ほど以外には確認できない。
負傷者の姿及び死体が確認できないのは、完全に消滅してしまった為だろう。

『前方、上層から下層へ貫通する崩落跡を確認。検出源と思われる』

局員生存者から魔導弾が撃ち掛けられるが、彼の注意は既に其処にはなかった。
狙うは唯1つ、上層より現れ下層へと落下していったであろう、大型バイド汚染体。
その正体は程なくして判明した。

『解析終了。「BFL-128『GOMANDER Ver.17.1』」幼生体及び「BFL-126『IN THROUGH Ver.32.9』」6体を確認、管理局部隊が交戦中』
『確認した。これより対A級バイド掃討戦へと移行する』

魔導弾を無視して前方へと加速、レーザーを切り替えサーチ・LRGを照射、同時に波動粒子の充填を開始。
絶え間なく放たれるレーザー群は、崩落地点の上で次々に屈折し垂直に下層へと降り注ぐ。
インターフェースを通じて伝わる、確かな空間の揺らぎと衝撃。
目標はその規模から幼生段階であると判別でき、未だ外皮が硬質化し切らぬ現状ならば構造的弱点を狙う必要はないと思われた。
寄生体との直接戦闘は避け、同一箇所への集中砲火のみで事足りる。
更に好都合な事に崩落跡を通じて強襲を掛ければ、直上からの攻撃は狙わずとも敵性体の構造的弱点へと直撃する筈だ。

216R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:03:34 ID:8/jKotFc
崩落地点直上へと至るや、機首を直下へと旋回。
70m下方、粉塵と血煙の間から覗く砕けた水晶体へとクロス・レーザーを撃ち込み、更にサイ・ビットを射出する。
赤い軌跡を空間へと刻みつつ、レーザーは砕けた水晶体の中央を射抜き汚染体の体内へと突き立った。
汚染体の各所から爆発と見紛わんばかりの勢いで血液と肉片が吹き出し、更にサイ・ビットが体内へと突入した数瞬後、側面部位が内側より粉砕されて跡形もなく吹き飛ぶ。
直前まで醜悪な肉塊が存在していた空間を突き抜け機首を起こすと同時、敵性体に押し潰される様にしてツァンジェンが大破している事実が判明した。
パイロットのシグナルが消滅している事を確認すると、彼はそれ以上の注意は不要と判じ並列思考の大部分を目前の敵性体へと集中させる。

展開する無数の局員と、20隻以上の次元航行艦。
局員は一様に驚愕の面持ちでこちらを見つめ、一部は既にデバイスを構えて攻撃態勢を取っている。
周囲の状況から推測するにツァンジェンと汚染体の攻撃により、局員は既にかなりの被害を受けているらしい。
しかし次の瞬間、横殴りに襲い掛かった魔導弾幕により、局員の姿が掻き消える。
既に汚染体からの攻撃を予期していた彼は、フォースを盾に危なげなく弾幕を凌ぐと即座にサーチ・LRGの掃射を開始した。
レーザー群は魔導弾幕を正面から切り裂き直進、屈折して2体の汚染体、その長大な胴部へと殺到する。
球状の肉塊が次々に消し飛び、遂には汚染体の頭部までもが吹き飛ばされ消失。
重力制御による浮力を失った400mもの長躯が床面へと叩き付けられ、衝撃により血液が撒き散らされ豪雨の如く一帯へと降り注ぐ。
残存汚染体、計4体。

背後で光子弾幕の壁が垂直に叩き付けられ、A級バイド汚染体の残骸が更に細分化された。
降り注ぐ光子弾幕が、床面ごと敵生体を粉砕した事をインターフェース越しに認識しつつ、彼はウラガーンの合流を待つ。
全方位を映し出す電子処理された視界の中に浮かび上がる、障壁を展開し魔導弾幕を凌いでいた局員の姿。
彼等は残る汚染体とこちらとを同時に相手取るという状況に混乱しているのか、攻撃態勢を取る者の姿はあれど集団的な反撃行動へと移行する素振りはない。
とはいえ、上層階でこちらが取った敵対行動に関する報告が届けば、すぐにでも攻撃が開始されるだろう。
ウラガーンによる光子弾幕とレーザーの掃射を以って、汚染体もろとも速やかに殲滅する事が望ましい。

その時、背後で青い光が瞬いた。
彼はその光をウラガーンのスラスターが放つものであると判断し、IFFと視界に映る機影の双方を以ってその正しさを確認する。
ウラガーンは左側面後方の位置で停止、波動砲の充填を開始する。
局員も状況を理解したのだろう、ほぼ全員がデバイスの切っ先をこちらへと突き付けた。
そして彼もまたウラガーンの砲撃を待ち、リフレクト・モードによる殲滅を実行せんとする。

『本機は魔導師の殲滅に当たる。ウラガーン、艦艇を狙え』

誘導型・高速直射型を織り交ぜた魔導弾幕、そして砲撃と拘束用魔力鎖。
襲い来るそれらを躱し、撃ち砕き、或いはフォースに喰らわせる。
機体直下に発生した魔方陣より間欠泉の如く噴き上がる緑と褐色の魔力鎖を前方への急加速によって回避し、2発のミサイルを展開する局員の中央へと撃ち込んだ。
吹き飛び四散する魔導師の肉体を認識しつつ、彼は僚機へと指示を飛ばす。

『砲撃だ、ウラガーン』

応答はない。
更に局員より放たれた金色の砲撃魔法を水平方向への移動によって躱すが、右側面へと回り込む様に放たれた誘導弾と左側面からの汚染体による魔導弾幕が、左右より挟み込む様にして迫り来る。
彼は後方へ退く事はせず逆に前方へと加速、一瞬にして局員の頭上へと機体を滑り込ませ機首を反転し、追い縋る誘導弾群をクロス・レーザーの掃射で薙ぎ払う。
そして一向に砲撃実行の様子を見せぬ僚機を訝しみ、そちらへと意識を集中した矢先の事だった。
IFF消失、被ロック警告。
視界の一角で、金色の閃光が爆発した。

左側面スラスター最大出力、瞬間的に右側面方向へと200m移動。
光子弾幕が機体を掠め、衝撃と共に警告表示が視界を埋め尽くす。
ザイオング慣性制御システム損傷、機能回復措置完了まで約600秒。
光速巡航及び高次戦術機動、不能。
キャノピー内慣性消去機構、停止。

回避行動とほぼ同時、彼は些かも躊躇う事なくクロス・レーザーを照射した。
目標は濃緑色の機体、僚機であるウラガーン。
一瞬で10mほど上昇しレーザーを回避、レールガンを連射し弾幕を張る。
通常と比して緩慢な動きで辛くもそれを躱し、サイ・ビットへの波動粒子充填を開始。

217R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:04:28 ID:8/jKotFc
何故こちらが攻撃を受けるのか、等と思考する事はなかった。
突然のIFF消失、僚機に対する無警告での攻撃。
考え得る理由は1つしかない。
汚染されたのだ。

だが、それよりも優先して対処すべき問題がある。
ザイオング慣性制御システムの停止。
背後に管理局部隊が展開しているこの状況下、慣性制御が不可能であるという事実は致命的だった。
慣性制御を用いた高機動は勿論の事、キャノピー内部へと掛かるGの消去すら不可能となってしまったのだ。
機体各所のスラスターを用いれば、正常時と同等ではないにせよ高機動を実行する事は可能である。
しかし発生するGを打ち消す事ができなければ、パイロットの身体は僅かに20m移動しただけでピューレの様に弾けてしまうだろう。
強化措置を施され、耐Gスーツとキャノピーに満たされた耐Gゲルによって護られた身体は理論上15Gまで耐える事が可能だが、それでも通常の様な瞬間的加速は不可能だ。

この状況下で汚染体と局員の双方を相手取る事は、無謀以外の何物でもない。
此処は局員に対する攻撃を控え、システムの回復を待つべきだろう。
こちらがウラガーンへの攻撃に集中すれば、自然と局員は汚染体への対処を優先させる筈だ。
無論、こちらから注意を外す事はないだろうが、システムが回復すれば問題はない。
高機動さえ可能となれば、抵抗すら許さずに殲滅できるだろう。

そして、彼は視界に映り込むウラガーンへと意識を集中した。
一見すると、その機体に異常は見当たらない。
しかし、センサー群は明らかな異常を伝えている。
バイド係数異常増大、パイロット生体シグナル消失。
どうやらA級バイド汚染体の残骸より侵食を受けたらしく、拡大表示されたエンジンユニット近辺から異常なまでの高バイド係数が検出されている。

だが、どうにも理解できない。
高度な対汚染防御が施されているR戦闘機が何故、僅か数秒の内に中枢まで侵食されたのか。
撃墜するのではなく機能を保ったまま汚染するとなれば少なくとも数十時間、侵食特化バイド体であっても数分は掛かる。
一体、何がこの短時間汚染を可能としたのか。

疑問が解消されるまでに、それ程の時間は掛からなかった。
ウラガーンの後方、既に生命活動を停止していた筈の肉塊。
一部は伸長し、ウラガーンの機体後部へと直結している。
増殖を繰り返し見る間に膨れ上がるその中に、濃紺青の光を放つ無数の結晶体を確認したのだ。
照合の結果、視界へと現れる見慣れない表示。



『High energy focusing material detected. LOST-LOGIA「JEWEL-SEED」』



瞬間、周囲の空間に満ちる魔力素の検出値が数十倍にまで膨れ上がった。
魔力素の集束によって形成された無数の力場が、触手の様に空間を侵してゆく。
本来ならば不可視であるそれらは、各種センサー群を介する事によって可視化され彼の視界へと映り込んでいた。
後方の局員達も、見えはせずともリンカーコアを通じて異常を感じ取ったのだろう。
ウラガーンへと視線を固定したまま、不可視の圧力に押される様にして後退してゆく。

そして遂に、ウラガーンの装甲の一部が内部より弾け飛んだ。
大きく抉れた機体からは黒々とした肉腫が泡の様に噴き出し、宛ら癌細胞の如く機体を覆い尽くしてゆく。
しかしその中にあっても、ウラガーンは波動砲の充填を開始していた。
汚染体はウラガーンの全兵装を制御下へと置いているのだ。

幾度目かの金色の奔流が、彼の視界を埋め尽くす。
幸いにして光子弾幕は別方向の艦艇を狙ったものだったが、しかし彼は気付いていた。
後方の局員達、その一部が不審な動きを見せている事に。
波動粒子を纏ったサイ・ビットが肉塊へと撃ち込まれ、血肉に混じり青い結晶体の欠片が降り注ぐ中、金色の髪を揺らす魔導師が欠片の1つを手にしている事に。

218R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:05:10 ID:8/jKotFc
だが最早、彼の手の内に選択権はなかった。
彼が取り得る行動は、汚染された僚機との戦闘のみ。
意識内へと響く警告音だけが、状況の支配権が失われた事実を無機質に告げていた。

*  *  *

「・・・複製だって?」

呆けた様なアルフの声を耳にしながら、フェイトは無言で自らの手の内にある青い結晶体を見つめていた。
もう、10年以上も前になる。
母の望みを叶える、ただ只管にそれだけを望み、違法活動を繰り返した。
管理局との敵対、管理外世界の少女との闘いがあった。
母に捨てられ、新たな家族と掛け替えのない親友を得た。
全ては21の宝玉、計り知れない力を秘めたロストロギアを巡って起きた事だった。

『そうだ。あれはオリジナルのジュエルシードじゃない。良く見れば分かる筈だよ』

ロストロギア「ジュエルシード」。
願いを叶える宝石。
次元干渉型エネルギー結晶体であり、極めて不安定な性質を持つ人造鉱物。
外部からの魔力干渉によって容易く暴走し、特定条件下に於いては周囲に存在する生命体との融合を果たし物理干渉力を増幅させる事すらある。
単体で次元震を引き起こす程の膨大な魔力を秘めながら、歪な形でしか願いを叶えられなかった奇蹟の石。

「・・・確かにナンバリングは無いけど・・・でも、どう見たってジュエルシードじゃないか」
『知っての通りジュエルシードの総数は21だ。現存しているものは12個、そのうち本局にあるものに至っては8つ。ところが検出された反応数は40を超えている』

乗り越えた筈の過去が今、悪夢となってフェイトの眼前へと具現化していた。
光学兵器と波動砲の波状攻撃を浴びながらも、損壊を上回る速度で増殖を繰り返す肉塊。
金色の弾幕を放つ濃緑色の機体は、既に半ばまで肉塊に呑まれている。
電磁投射砲を連射している所を見ると、どうやら機能中枢を奪われたらしい。
肉塊によって半ば固定されている為、波動砲の射界がほぼ固定されている事は幸運だった。
射軸が壁面寄りに傾いている為、次元航行艦への被害は最小限に抑えられている。
だが徐々にではあるが、肉塊は機首をこちらへと向ける様に、表層部での不自然な脈動を繰り返していた。

『反応は今この瞬間も増え続けている。ジュエルシード自体が増殖と分裂を繰り返しているんだ』
「まるでジュエルシードが生きているみたいな言い方だね」
『生きているんだよ。ジュエルシードは取り込まれたんじゃない、それ自体がバイド化したんだ』

残るR戦闘機からの攻撃を受ける度に、肉片と共に周囲へと飛び散る青い結晶体。
自身が、管理局が、歴史上の幾多の文明が争い、全てを掛けて手に入れようと試みた21の宝石は、そんな人間達の苦悩と葛藤を嘲笑うかの様にその数を増し続ける。
肉腫の隙間より覗く結晶が青く瞬く度に、肉塊はその体積を爆発的に増大させるのだ。
既に汚染体の体積はR戦闘機による攻撃を受ける前と比して、3倍以上にまで膨れ上がっている。

「何の冗談だい・・・!」
『冗談なんかじゃない。ジュエルシードは自己の生命と生存欲求を獲得している。だからこそ肉の鎧が剥ぎ取られないように再生を促し、また自己の存在を残す為に分裂を続けているんだ』
「ロストロギアが子孫を残そうとしてるってのか。そんな馬鹿な」

閃光。
聴覚が麻痺し、光弾の奔流が100mほど離れた空間を薙ぎ払う。
衝撃が全身を襲うが、フェイトは片膝を突いたまま微動だにせず、弾幕の通過した痕跡へと視線を向ける事すらしなかった。
ただ一言、無感動に呟いただけ。

「使えるの?」

衝撃を避ける為か身を伏せていたアルフと局員、双方が自身へと視線を投げ掛けた事を感じ取りながらも、フェイトがそちらへと振り返る事はない。
手の内にある紺青の結晶体から視線を外し、肉塊へと取り込まれつつあるR戦闘機を見据える。
R戦闘機は肉塊によってほぼ固定されてしまった為か、電磁投射砲を連射してはいるが照準調整ができないらしい。
先程の砲撃もあらぬ方向へと放たれ、壁面を破壊して施設内部へと消えていった。
掃射型波動砲の威力は脅威だが、あれでは牽制程度にしか使い様はあるまい。

219R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:05:53 ID:8/jKotFc
「ユーノ、このジュエルシードは使えるの?」

再度の問い掛け。
アルフや周囲の局員は言葉を発しない。
数秒の後、僅かに戸惑いを滲ませた声がウィンドウ越しに返される。

『反応を見る限りは、オリジナルとコピーとの間に違いはない。でも実際には汚染の可能性が・・・』
「もう1分は接触状態を保っているけど、何も異常はない」

幾度目かの壮絶な破壊音の後、足下へと転がった結晶体の欠片を更に1つ拾い上げると、フェイトは立ち上がった。
2つのジュエルシードを手に、汚染体への攻撃を続けるR戦闘機の機影を睨み据える。
バルディッシュをライオットブレードへ移行、全方位へと念話を発信。

『ハラオウン執務官より全局員へ。飛散したジュエルシードを可能な限り回収、一個所に集めて。但し肉体への接触は厳禁、魔法を使用して回収する事』
「フェイト!?」

アルフが、信じられない言葉を聞いたとばかりに叫ぶ。
しかしフェイトは、自身ですら驚く程の冷静さを保ったまま指示を出し続けた。

『持ち主が死亡したストレージデバイスと「AC-47β」も一緒に回収して。次元航行艦は順次出港を・・・』
『フェイト、馬鹿な真似は止すんだ!』

ユーノの叫びと共に、背後からフェイトの手首が掴まれる。
振り向けば手首を握ったアルフが、怯えを含んだ表情で自身の主を見つめていた。
恐らくはフェイトの意図を理解したのだろう、低い声色で問い詰めるアルフ。

「まさかそれ、使うつもりじゃないだろうね」
「他に方法は無いよ、アルフ」
「馬鹿言うんじゃないよ! それはもうアタシ達が知ってるジュエルシードじゃない、バイドそのものなんだよ!? そうやって持ってるだけでも、いつ汚染されるか分かったものじゃないんだ!」
「魔力の殆どはあの汚染体に供給されている筈。対汚染防御を施されている筈のR戦闘機を数秒で取り込んだんだから間違いない。これが機能している以上、こっちを汚染する事はできない」

言いつつ、フェイトはバルディッシュを掲げてみせる。
そのカートリッジシステムに直結した、明らかに後付けと判る歪なユニット。
「AC-47β」魔力増幅機構。
飛行資質を有さない魔導師にさえ翼を与え、バイドを含めあらゆる汚染に対する防御機能を強化する異界の技術。

「でも!」
「母さんの時に比べれば、ささやかな願い事だよ」
「そんな問題じゃ・・・!」

アルフの言葉が終るより早く、光学兵器の閃光が視界を覆う。
濃紺青の機体より放たれた無数のレーザー弾体が壁となり、巨大な肉塊を覆い尽くしたのだ。
衝撃音により聴覚が麻痺するが、その報告は念話を用いる事で問題なくフェイトの意識へと伝わった。

『ハラオウン執務官、ジュエルシードの欠片を確保した。30個はあるが、これでいいのか?』
『ストレージデバイス、14基を回収しました。全て「AC-47β」を装着しています』

周囲へと視線を走らせ、200mほど離れた地点に集積されたジュエルシードとデバイス、それらの傍らへと待機する局員達の姿を視界へと捉える。
体調にも魔力にも異常はない。
短時間の魔法行使程度ならば問題はない筈だ。

「ユーノ、クアットロ。魔力炉を暴走させられる? 数は多ければ多いほど良い」
『何を・・・』
『勿論できます。それで、何をさせるつもりなのかしら』

思わぬ言葉に問い返したのであろうユーノの言葉を遮ったクアットロが、答えを返すと同時にフェイトへと問い掛ける。
フェイトは結界の外、無数の光が瞬く隔離空間へと視線をやると、気負いもなく言い放った。

220R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:06:39 ID:8/jKotFc
「転送を。全ての次元航行艦を管理局艦隊の許へ。本局内部に存在する、汚染を逃れた全ての生存者をその艦内へ」
「無茶よ!」

叫んだのは周囲に居た局員の1人。
彼女は興奮を抑えようともせず、フェイトへと食って掛かる。

「外ではアルカンシェルが乱発されているんですよ!? これだけ空間歪曲が発生している中で転送なんか行ったらどうなるか、貴女だって良く知っているでしょうに!」
「普通ならね。でも、これがある」

そう言葉を返しつつ、フェイトは自らの手の内にあるジュエルシードへと視線を落とした。
紺青の結晶体は、ただ冷たい光を放ち続けている。

「これ1つでも次元震を誘発できる。30個もあれば空間歪曲を突破できるだけの出力は十分に確保できる筈」
『君が言っていたんだぞ、そのジュエルシードは汚染体に魔力を供給し続けていると! たとえ全てのジュエルシードを同時に使用しても、それで十分な出力が得られるとは限らない!』
「ただ使っただけなら、そうかもしれない。でも」

床を蹴り飛翔、集積されたジュエルシードの許へと飛ぶフェイト。
同じ地点へと集められたストレージデバイスの1つを手に取るや、そのコアへとジュエルシードを収納する。
そして、言い放った。

「これを暴走させれば、魔力なんて幾らでも供給できるでしょ?」

ユーノは答えない。
否、余りに予想外の言葉に、返す言葉すら思い付かないのかもしれない。
フェイトは彼の返答を待たず、別の人物へと念話を飛ばす。

『どう思います、スカリエッティ』
『悪くはない。これまでに解析されたジュエルシードの特性から見ても、理論上では問題なく機能する筈だ』

突然の問い掛けに、肯定的な意見を返すスカリエッティ。
その声には常より纏う嘲りの色など微塵もなく、只管に無感動な冷たさだけがあった。
無理もない。
つい先程、彼の娘の1人であるセッテが目前で凄惨な最期を迎え、さらにトーレの死までもが知らされたのだ。
オットーとディードの死を知った時も、彼は全ての感情を取り落としたかの様な表情を見せていた。
押し隠してはいるが、恐らく彼の内面には溢れんばかりの憤りと、地球軍とバイドに対する憎悪が渦巻いているのだろう。

『だが失敗すれば本局も、先程出港した艦艇も唯では済まない。たとえ成功したとしても、本局は跡形もなく消し飛ぶだろう』
『成功すれば皆が助かる。試す価値はあります』

更に2つのジュエルシードを、ストレージデバイスへと収納するフェイト。
彼女の視界の端に、デバイスの1つを手に取る人物の姿が映り込む。
その武装局員はフェイトに倣い、デバイスへとジュエルシードを収納すると汚染体へと向き直った。
彼に続く様に、周囲の局員が次々にデバイスへと手を伸ばし、同じくジュエルシードを収納すると自らのデバイスを構える。
無言のままにその様子を見つめるフェイトへと、直後に複数の声が掛けられた。

「貴女1人では無理ですよ、執務官」
「時間がない。一斉に掛かるぞ、ハラオウン」
「蛇野郎の方は任せて下さい。執務官、デカブツを頼みます」

遥か前方、蛇状汚染体からの攻撃を遮っていたユーノの結界が、魔導弾幕の掃射が途絶えると同時に解除される。
直後、彼等は弾かれる様に前進を開始した。
床面擦れ擦れを飛翔魔法により滑空する者もあれば、魔力供給によって強化した筋力で以って駆け抜ける者もある。
後方からは砲撃が汚染体へと撃ち込まれ、魔導弾掃射ユニットとなっている肉塊を次々に破壊し迎撃を阻止せんとする。
その様子を横目に、フェイトもまた行動を開始した。

右手はライオットブレードを逆手に構え、左手にはストレージデバイスを携える。
汚染体の一部、肉塊より突出したR戦闘機のキャノピー先端を見据え意識を集中。
そして光学兵器の掃射が止んだ一瞬の間隙を突いてソニックムーブを発動、一気にキャノピー周辺を目指す。
しかし加速直後、肉塊の一部から霧が噴き出した。

221R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:07:13 ID:8/jKotFc
「こ、のッ!」

フェイトは瞬間的に軌道を逸らし、霧の弾体を掠める様にして再度ソニックムーブを発動する。
結果として直撃は免れたものの、左の手首から先に痺れる様な痛みが奔った。
溶け落ちた訳ではないが、恐らく皮膚は跡形もないだろう。
しかし彼女は自身の負傷箇所を一顧だにせず、続けて襲い来る霧の弾体を機動力に物を言わせて回避し続ける。

『テスタロッサ、伏せろ!』

突然の警告に従い身を伏せると、巨大な炎の壁が頭上を突き抜けた。
シグナムだ。
相次いで放たれる炎は霧を掻き消し、フェイトの進路を切り開く。
次いで宙を翔けるは、魔力によって構成された猟犬の群れ。
それらは次々に汚染体へと牙を突き立て、魔力の過剰供給による爆発を起こし肉塊を抉りゆく。
すると今度は、汚染体の一部が触手の様に伸長し、数十mもの頭上まで鎌首を擡げた。

『そのまま進みな、フェイト!』

アルフからの念話。
触手は粘液と血液を周囲へと振り撒きつつ、大気を割いて垂直にフェイト目掛け振り下ろされる。
だが、彼女は進路を変えない。
振り下ろされる触手の軌道上には、僅か数瞬の間に数百本もの緑と褐色の魔力鎖が張り巡らされていた。
迫り来る巨大な触手は数十本もの魔力鎖を打ち砕き、しかし俄に動きを止める。
粉砕した数、その5倍以上もの物量の魔力鎖によって完全に拘束され、空中に静止したのだ。

『行け!』

急かされるまでもなく、フェイトは爆発的な加速を掛けていた。
張り巡らされたバインドの隙間を擦り抜け、汚染体へと肉薄する。
すると眼前の肉壁が裂け、無数の穴が穿たれた膜らしき部位が露わとなった。
酸の噴射口だ。
この至近距離では、どう足掻いても躱す事はできない。

だが、フェイトは噴射口の存在を気にも留めなかった。
緑光の魔導弾が、その中央へと突き立つ瞬間を目にした為だ。
銃弾は微かな光と共に弾け、直後に膜上の全ての穴から鮮血が噴き出す。
フェイトはその中央を蹴り、弾力を利用して上へと跳躍。
幾度目かのソニックムーブと共にブリッツアクションを発動し、右腕のみで以ってライオットブレードを肉塊へと突き立てる。
その位置は当初の狙い通り、僅かに露出するR戦闘機のキャノピー、その至近距離だった。

「バルディッシュ!」
『Riot Zamber』

フェイトの叫びと共にライオットブレードの細身の刀身が、ライオットザンバー・カラミティの巨大な刀身へと変貌する。
ほぼ全ての刀身が呑み込まれたその状態から更に捻りを加え、フェイトは汚染体の損傷個所を更に広く深く抉り始めた。
有機繊維が千切れる際の耳障りな音と感触、そして全身へと噴き付ける鮮血を無視し抉り続けること数秒。
唐突にフェイトは、有りっ丈の力でカラミティを引き抜いた。
反動でしなやかな身体が反り返り、弓の如き曲線を描く。
右手のカラミティを手放し、左手に持つストレージデバイスの柄を両手で固定。

「ッああぁぁぁぁッッ!」

そして絶叫と共に全身のばねを爆ぜさせ、垂直に構えたデバイスの矛先を振り下ろした。
カラミティによって刻まれた傷の中央へと突き立ったストレージデバイスは、肉壁を容易く割りつつ鮮血と共に内部へと呑み込まれてゆく。
程なくして1m50cm程のストレージデバイスは完全に肉塊へと呑まれ、フェイトの視界よりその全容が消えた。

222R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:08:07 ID:8/jKotFc
「やった・・・!」

デバイスが完全に肉塊内部へと沈み込んだ瞬間、フェイトは全身を返り血に染めたまま我知らず歓喜の声を漏らす。
デバイス内のジュエルシードには、既に転送プログラムへの魔力供給を実行せよとの「願い」が込められていた。
後は、バイド体との接触により「AC-47β」内部の魔力蓄積率が臨界値を突破、暴走する瞬間を待てば良い。
暴走により齎される膨大な魔力は、デバイスを通じてジュエルシードへと流れ込む。
現在のジュエルシードは汚染体への魔力供給により、こちらの「願い」を叶えるには魔力量が圧倒的に不足している為、複数の「AC-47β」を暴走させる事で不足分を補うのだ。
そしてフェイトは今、デバイスと汚染体との接触状態を生み出す事に成功した。
後は暴走の瞬間を待ち、ユーノとクアットロが本局の機能を介して転送魔法を発動させるだけだ。

『退がれ、フェイト!』

ユーノからの警告。
咄嗟に重力に身を任せ、背後より迂回する様に襲い掛かる触手を回避。
途中、肉壁に突き立っていたカラミティの柄に手を掛けると、全身を縦方向へと回転させて刀身を振り抜く。
肉塊を切り裂き、そのままカラミティを回収。
ライオットブレードへと変貌させ、アルフ達の許へと急ぐべくソニックブームを発動せんとする。
だが、フェイトの心中を占めていた作戦成功による達成感は、局員からの警告によって打ち砕かれた。

『何か射出されたぞ!』

咄嗟に背後へと振り返ったフェイトの顔へと、細かな血飛沫が降り掛かる。
何事かと頭上を見上げた彼女の視界に、奇妙な血塗れの鉄塊が映り込んだ。
円柱状、長さ2m程の鉄塊。
余程の勢いで射出されたのか、明らかに推力発生機構を有していないにも拘らず天井面にまで達し、其処に衝突して弾かれると自由落下を開始する。
その正体が何であるかは、すぐに推測が付いた。

「爆発物・・・!?」
『退避を!』

警告とほぼ同時、緑光の魔導弾が鉄塊を撃ち抜く。
瞬間、閃光と共に鉄塊が爆ぜた。
やはり爆発物だったかと納得したのも束の間の事、これまでとは全く性質の異なる衝撃がフェイトを襲う。
巨大な構造物が崩落する際にも似た、しかしそれよりも遥かに重々しく暴力的な振動。
機関銃の如く連続する細かな振動が、雪崩を打って全身を打ち据える。
そして一瞬の後、振動が一際激しくなったその時。
フェイトの身体は大きく後方へと弾き飛ばされていた。

「・・・ッ!」

フェイトは見た。
爆発物の炸裂点から扇状に拡がり迫る、閃光の瀑布を。
無数の小規模爆発が連なり、1つの巨大な奔流となって流れ落ちる様を。

「今のは・・・!」
『ナパームだ! 執務官、戻って下さい! 其処は炸裂範囲内です!』

念話が飛び交う間にも、肉塊は次々に爆発物のポッドを射出する。
R戦闘機への搭載は明らかに不可能であると分かる総数のそれらは、バイドの有する模倣能力による産物か。
立ち込めるオゾン臭からして、内部に充填されている物は可燃性物質などではあるまい。
あのナパームもまた、何かしらのエネルギー集束技術を応用した爆弾なのだ。

223R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:08:44 ID:8/jKotFc
『撃ち落とせ!』

体勢を立て直すや否や、フェイトはバインドを張り巡らせるアルフ目掛け必死に加速した。
ヴァイスを始めとする数少ない狙撃特化型の魔導師がポッドの迎撃を開始してはいるが、射出数が余りに多い為に対応し切れない。
迎撃されたポッドは緑掛かった光を放つ爆発の奔流を生み出すが、その流れは床面へと接触すると地形に沿って平行移動を開始するのだ。
即ち、炸裂点が空中ではなく床面ならば、爆発は一息に生存者達を呑み込んでしまう事となる。
これ以上の非戦闘員殺害を許す訳にもいかない為、ヴァイス等の狙撃は次元航行艦の方向へと向かうポッドに集中。
結果として蛇状汚染体への攻撃を成功させた魔導師達は、迎撃の手を擦り抜けたポッドの洗礼を受けてしまう事となった。

「逃げて!」

思わず零れた悲痛な叫びすらも、膨大なエネルギー輻射に伴う轟音によって掻き消される。
フェイトを信頼し、自らの生命の危険をも顧みずに蛇状汚染体へと挑み、見事使命を果たした勇敢なる局員達。
十数名の彼等は、仲間達の待つ安全圏まで後200mと迫り、しかし辿り着く事なく光の瀑布に呑まれた。
連続する爆発が彼等の姿を掻き消し、その存在の痕跡すらも残さず拭い去る。
周囲から幾つもの絶叫が上がる中、噛み締められたフェイトの唇からは少々とは言い難い量の血が流れていた。
そして、叫ぶ。

「ユーノ、まだなの!?」
『まだだ! もう少し、もう少しで・・・!』
『もう1機が逃げるぞ!』

背後に視線をやると、濃紺青の機体が側面を曝し逃亡する様が視界に入った。
先程の攻撃で何かしらの異常が発生したのか、常ならば瞬時に雷光の如き速度へと至る機動性を見せる事もなく、緩慢な加速で外部空間を目指す。
恐らくは「AC-47β」より発せられるバイド係数の増大を検出した為であろうが、管理局側が自滅するならば長居は不要と判断したのかもしれない。
いずれにせよ、脅威の一端が去った事に違いはなかった。

『魔力蓄積率、臨界値突破! 全てほぼ同時に暴走する!』
『全艦艇、エアロック封鎖完了しました!』
『艦外の者は5人から10人の集団を作れ! できるだけ密集しろ!』
「フェイト、こっちだ!」

無数の慌しい念話に混じり届いた、アルフの声。
彼女の許へと飛び込んだフェイトは、そのまま両の腕に強く抱き止められる。

「アルフ!」
「伏せなフェイト! 大丈夫だ、みんな此処に居る!」

アルフの言葉通り、其処にはフェイトの家族が集まっていた。
未だ意識の戻らぬリンディ、クライドのポッド。
フェイトはアルフに抱かれたままリンディの身体に腕を回し、3人でクライドのポッドに寄り添った。

『10秒前・・・』

ユーノからの通信に、フェイトを抱くアルフの腕が微かに強張る。
失敗すればどうなるか。
ユーノの腕は確かだが、ジュエルシードがこちらの意図通りに機能するとは限らない。
真空中に放り出される可能性もあれば、同じ領域に転送された次元航行艦の艦体と同化してしまう可能性もある。
最悪の場合、何処とも知れぬ空間へと転送されるか、転送自体すら起こらずに消滅してしまう事すらも考えられるのだ。
だが、今は信じるしかない。
ユーノの並外れた情報処理能力にクアットロのサポートが加われば、全ての次元航行艦と生存者の転送先座標を精確に設定できるだろう。
だが結局のところ、成否を決めるのは人間ではない。
全てはジュエルシード次第なのだ。

224R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:09:19 ID:8/jKotFc
『5秒前!』
『多過ぎる、防ぎ切れない!』

突如として響いた衝撃音に、頭上を見上げる。
視線の先では20以上ものナパーム・ポッドが天井面へと反射し、艦艇群を目掛け自由落下を開始していた。
フェイトは瞬時に、自身等には打つ手が無い事を理解する。
数が多過ぎる事もあるが、それ以上にこの距離では今から迎撃に成功したとしても、拡散する爆発が艦外の生存者達を呑み込む事は明らかだった。
彼女にできる事は目を閉じ、リンディの身体を確りと抱き締める事だけ。
そして爆発を示す眩い閃光が、閉じられた瞼を貫いて視界を埋め尽くす。

『転送!』

爆音すらも消え去った、生と死の境界に満ちる静寂の中。
ユーノの声が、脳裏へと響いた様な気がした。

*  *  *

自身の肩を揺さ振る何者かの存在により、リンディの意識は闇から浮上した。
徹夜明けの様に重々しい瞼を上げ、視界へと飛び込んだ光の刺激に耐え切れず再び目を閉じる。
そのまま暫く目を押さえていたリンディだったが、肩を叩かれた事により無理やり瞼を見開いた。
僅かながら光に慣れ始めた視界の中、浮かび上がった人影は赤銅色の髪を揺らしている。
すぐさまその正体に思い至り、その名を声にして呼ぶリンディ。
ところが、幾ら声を出しても自らの声が聴こえない。
そればかりか、何事か語り掛けるアルフの声すらも聴き取れないのだ。

混乱し掛けるリンディだが、アルフはその様子に何事か思い至ったらしい。
両手をリンディの両耳に宛がい、御世辞にも使い慣れているとは思えないたどたどしさでフィジカルヒールを発動する。
頭部を両側面から包む優しい温もりに暫し身を任せていたリンディだったが、やがて聴覚が完全に回復した事を感じ取った。

「ありがとう、アルフ」
「済まないねぇ。リンディの鼓膜も破けてるだろうって事、失念してたよ。さっきまでフェイトに付きっきりだったからさ」

フェイト。
義娘の名を聞いた瞬間、リンディは自らの内に湧き上がった衝動に身を任せアルフの肩を掴んだ。
そして驚きに目を見開く彼女に、矢継ぎ早に質問を浴びせ掛ける。

「アルフ! フェイトは、フェイトはどうなったの!? 崩落は・・・!」
「ちょっと、落ち着きなってリンディ!」

慌てるアルフに詰め寄ろうと、リンディは大きく身を乗り出した。
だが次の瞬間、彼女の身体は重心を崩し右へと倒れ込む。
右足に違和感。
何が起きたか分からずそのまま床面へと叩き付けられそうになった彼女を、咄嗟に伸ばされたアルフの腕が抱き止めた。
そしてアルフに支えられたまま自身の右足へと視線を落とした彼女は、其処にあるべきものが無いという事実に気付く。

「え・・・」
「リンディ・・・」

右脚の足首から先が無い。
その事実を理解した瞬間、僅かな時間ながらリンディの思考は停止した。
自身の肉体の一部が欠損しているのだから、無理もない事だろう。
しかし彼女は聡明であり、同時に並外れた意志の強さを併せ持っていた。
何より彼女の母親としての慈愛は、自身の負傷を気に掛ける思考を大きく上回っている。

「アルフ、フェイトは何処に? あの娘は無事なの?」

先程の取り乱し様とは打って変わり、落ち着いた口調で問い掛けるリンディ。
アルフは面食らった様な表情をしていたが、やがてゆっくりと口を開く。




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