したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ネ申記事書き起こしスレ

290秋葉原:2008/07/25(金) 22:11:30
「目を閉じると風景が浮かび上がる。それは時に湖の底であり、飛行機の滑走路であり、荒れ狂う嵐の中かであり、培養液カプセルの中であり、サーキットであり、だだっぴろい荒野である。目を閉じるだけで、私は別世界へ行くことができるのだ。正確には、現実世界を自己という受容体を通してモニターに映したものにすぎないのだが、それは現在のブラックボックスの中の在り様を把握する一助になるのであった。そう、この二年間をかけて私はそのモニターごしに自己内部のダイナミックな、もしくは微細な、変化を目の当たりにしてきた。それは時として恥ずかしいほど赤裸々であり、時として痛いほど辛辣であった。全ての絵は、たとえそれが対象物が何であれ、自画像であるという説があるが、それと類似した現象だったのかもしれない。『我』の探索という、なんとも気恥ずかしくなるようなテーマ性で旅は続けられた。しかし、その変化に富んでいると感じていた風景の全てを並べてみると、これが馬鹿馬鹿しくなるほど『同一の種』でしかないことに気づかされるのだ。孫悟空が
菩薩の掌を世界と勘違いしたように、七つの海をまたがっていたはずの紀行は驚くほど矮小な『エリア』内部でのことにすぎなかった。そうしてやはりシンプルな結論に至るのであった。その矮小な『エリア』こそが『我』であると。幾度も寓話で述べられているような『結論』。しかし寓話の悲劇はその教訓をノウではなくリアライズすることに人生の大半の時間を要するということにある。そうして、青春と名づけられた羞恥と誤解と徒労の塊は、時空を超えて、DNAの二重螺旋のように延々と受け継がれていくのである…」
誰もいない講堂で演説をふるうネルバ教授。汗をにじませ、唾を飛ばし熱弁するが、壁に反響する自分の声以外に、動く者はなかった。
「……結論から言いましょう。私はね。ンンッ」
 絡んだ痰を切るように咳払いをする。
「私は、救いようのない糞野郎なんですよッッッ!」 壇に掌をたたきつけ、中空の一点にむかい目を見開いた。講堂の奥の扉の向こうから、瞳孔が痛くなるほどの夏の光が差し込んでいた。でもね……と、教授は続けた。
「それって最高だと思いませんか?」
教授はスーツの胸ポケットから極めて茶道的な所作で拳銃を引き抜き自らのコメカミを力強く打ち抜いた。その刹那、どこからか幼子の声。
「ほうら、つかまえた」
夏の光の中に、青い鳥が吸い込まれていった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板