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ネ申記事書き起こしスレ

288西日暮里 (訂正版):2008/06/25(水) 19:20:31
ぬかるんだ地面に、青い草がまだらに生えている。
空はまだ曇りだけれど、ところどかろ光が差してい
る。雨上がりの匂いを風がそよりと運んでくる。こ
の匂いは好きだ。背筋を妙にくすぐったくさせる。
だだっぴろい平原で、コルト君はそんな風に思いな
がらゆっくりと歩き出した。体にまとわりつくびしょ
ぬれの服。その重さを肌に感じながら、ぬちゃ、ぬ
ちゃ、と歩き出した。煙をもうもうとあげて横たわる、
巨大な旅客機の残骸を背にして。

「まだ、ぼくは生きている…。」そのことが一体なに
を意味しているのかさえわからないまま、すりむけ
た膝からツツウと垂れていく血に、生暖かいものを
感じた。首筋の血管がどくんどくんと脈打ち、その
ビートに誘われるように、喧騒と狂乱の記憶がフラ
ッシュバックする。ポラロイドカメラで撮った写真を
めちゃくちゃにコルクボードに貼るように、それは
断片的に、脳髄の中にこびりついているのだ。

その飛行機「ノア」が作られたのは、世間が世紀
末厭世狂乱ムードにどっぷりと飲み込まれた3
年前のことだ。輪廻転生と極楽への救済を求める民
たちの声はさながら「現代版ええじゃないか」の雰囲
気を醸してさえいた。その時作られた飛行機「ノア」。
それは旅客機というスケールをはるかに超えた設備
内装を持ち、完成後、空飛ぶ宮殿という異名を持
つに至る。目的地はニルヴァーナ。地図上にないと
されるその究極のリゾート地に向けて3年前にノア
は離陸した。それが、惨劇の始まりになろうとはそ
の当時は誰も予想だにしなかったことであると同時
に、専門的な見地からみれば至極当然の結果とも
いえた。

超絶富裕層の紳士淑女たちの夢を乗せた空飛ぶ宮
殿はその圧倒的な機力により恐るべきスピードで空
の上を航海していた。そしてコルト君はそのパイロッ
トとして紳士淑女から選ばれた使用人だった。

誰のせいでもなかった。ただ、ノアの飛行する空
の高さに存在する巨大な乱気流をかいくぐるには、
ノアの飛行速度は速すぎた。右の翼が折れたとき、
紳士淑女たちはまず機内のあらゆるラグジュアリー
な物品を捨てた。その次に互いの使用人を捨て、
その後はお互いを捨てあった。空飛ぶ地獄絵図と化し
たノアは、不時着する時にはパイロットのコルト君
だけになっていた。

「歩いていこう…。ニルヴァーナまで」

そのときふと思ったのだ。ニルヴァーナには、徒
歩でしか辿り着けないのではないかと。


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