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ネ申記事書き起こしスレ

269浜松町:2008/03/25(火) 23:01:14
「お前、なんで桂馬なんかになったんだよ」と、飛車は言った。
「桂馬なんてあれだろ。成っても金将と同じような動きだし。不便だろ」桂馬は表情を変えなかった。そして落としていた視線を少し上げて、ゆっくりと言った「僕は、成るつもりはないです」
 実際問題、桂馬自身、なぜ自分が桂馬になろうと思ったかはわからなかった。この町では同期の誰もが飛車か角を志望したし、そでが現在的な「流行り」でもあった。桂馬にしかなれなかったわけではないのに、桂馬になったのはなぜなのか。それを、単純に言えば「そうしたかったから」としか言いようがなかった。駒をして物 心がついての原体験になにかあったのだろうか。とにかく「斜め前方飛び」の、この桂馬の動きが好きだった。というより、他の動きをしたくなかったのだ。特に、角の動きが嫌いだった。斜めにススーっと動くあのやり口!出世に便利だから、みんないやいや志望しているだけかと自分は思っていた。が、養成所時代にそれを尋ね たら、誰もが不思議そうな顔をした。「なんで嫌なの?」なんでと言われてもよくわからない。ただ、駒である以上は…という「駒たるもの」という感じからそれている気がしたのだ。
 格好良く言えばそれは美学ということにもなるかもしれない。しかし、桂馬一辺倒だったかと言われればそれも違う。昔あこがれたのは香車であり、尊敬する香車の動きはよく研究した。しかし、香車になろうとは思わなかった。そこも自分自身不思議なところがあった。香車は見ていて憧れているけれど…。それでも自分は桂馬 だった。桂馬であるという断固とした確信しかなかった。
 とはいえ、当初は斜め前方飛びでやっていける自身がなかったから、無難な金将をやったりしていたこともある。それでよけいに混乱してしまった。金将をやめて桂馬に、という感覚が周囲に理解されなかった。金将向きなのに、とよく言われた。
 飛車と話した帰り、妙にセンチメンタルな気持ちになって、桂馬の足は自然と海に向かった。松の木にもたれかかって、桂馬は波の向こうの水平線を見つめた。ふいに、その波が話しかけてきた
「君は誰?」
 桂馬は、たまらない気持ちになって叫んだ。
「僕は…僕は桂馬だ!」
 桂馬として、飛車を倒す。それだけが僕の「つっぱりかた」なんだ…。
 浜風は冬の名残の寒さを頬にぶつけてきた。桂馬は、まだ少し遠い春を抱きしめたくて、近づきたくて、砂の上を走り出した。


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