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海未「私が悪の組織の怪人に!?」
1
:
◆JaenRCKSyA
:2017/07/30(日) 17:20:49 ID:.NYd9Kao
海未「くっ、もう追いつかれてしまうのですか…!」
なぜこんなことになってしまったのか、と海未は自問する。
「おまたせ、魔法戦士ホムラだよ!」
「キャプテンアンカー、到着であります!」
「瞳に翠玉、髪に黒曜!胸に秘めるは――」
海未(ええ、そんな自己紹介をされずとも当然知っています…私たちの暮らしを守るヒーローですから)
海未(昨日まではあの姿をテレビの中に見ていたはずなのに、どうして私は)
海未(怪人として相対しているのでしょうか?)
海未「ああもう!考えていても始まりません!とにかく生き延びさせてもらいます!」
海未(とは言っても、本当にどうしてこんなことになってしまったのか…朝はいつもの日常だったというのに…)
307
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/22(日) 20:08:06 ID:vRS4RTj2
海未(呆けている暇などない…!)
力が抜けて地面に付きそうになる膝を無理やり踏ん張り刀を構える。
「やああっ!」
立ち込めた煙をかき分けるようにしてホムラは海未の眼前に躍り出て、身の丈ほどもある杖を上段から振り下ろす。
海未「ぜえいっ!」
海未は放たれたその重い一撃を刀を振り抜くことでいなすが、ホムラは防がれたことを気にも留めずに素早く杖の軌道を変えて続けざまに打撃を叩き込む。
海未「くっ…!」
重い連撃を捌き切れないと判断した海未は最低限のみを受け止め、残りは身を翻しかわしていく。そしてホムラの打撃を受け止めない分、自由になった刀は隙を突き斬撃を繰り出していく。
海未(一撃一撃は重く鋭い…ですが動きの間隙を突けば戦えないほどではありません…!)
308
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/22(日) 20:24:41 ID:vRS4RTj2
「はっ!」
海未の繰り出した蹴りを距離を取ってかわしたホムラは手にした杖を海未へと鋭く突き出す。
海未「そこっ!」
海未はその場で半身になるようにしてそれをかわすと、自身の真横に来た杖の柄をつかみ取り、ホムラもろとも宙へと投げ出す。
海未「閃刃・裂空!」
「ラッピングフレア!」
空中に浮いたホムラへと海未は漆黒の斬撃を放つが、ホムラは即座に杖を構え直し、自身を包むような球状に広がる炎を放ちそれを相殺する。
「まだまだあっ!」
爆風から抜けて舞うように滞空したホムラが杖を振るうと周囲に火球が生まれ、一斉に海未目がけて降り注ぐ。
309
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/04/22(日) 20:40:41 ID:7x.KLiv6
海未、どうなるんだ……!
310
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/22(日) 20:45:46 ID:vRS4RTj2
海未「くっ…!黒散華!」
海未は瞬時に刀を弓へと持ち替え、直上へと向けて矢を放つ。放たれた矢は上空で無数に分裂して降り注ぎ、火球を撃ち落としていく。
(視界が悪い…!けどまだ…!)
互いの技がぶつかり合い生じた粉塵が立ち込め、上空にいるホムラから地面の様子はまるでうかがえなくなってしまう。
海未「く、おおおおっ!黒華一閃!!」
自身とホムラの繰り出した弾丸の雨の中、煙が自分を隠している間に海未は駆け抜けていき、飛び込むようにしてホムラの背後を取り矢を放つ。
「後ろっ…!?間に、合えっ…!」
真後ろ、地上からの攻撃に不意をつかれたホムラはとっさに杖を振りかざして自身と海未の間に炎の防壁を作り出す。
「ぐうっ…!」
即席で作った防壁を突き破った矢をホムラは身をよじってかわそうとするも、動きの一瞬の遅れによってかわし切れずに地上へと落ちていく。
311
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/22(日) 21:34:51 ID:vRS4RTj2
空中で体勢を立て直し、ふわりと着地したホムラを見据えたまま海未は次の一手を考え始める。
海未(これだけ食らい付いても微々たる傷しか与えられていない…こちらは満身創痍に近いというのに…!)
海未(…しかし意識的か無意識的かは分かりませんが、怪獣を討伐する時と比べて力を抑えている…逃げるならそこを突くしかない)
「…強いんだね?今まで戦ってきた他の怪人はここまでやり合わないうちに大人しくしてくれたんだけど」
海未「ほめ言葉として受け取っておきましょう…私は大人しく諦めるつもりなど毛頭ありません」
「そう、だよね…」
ホムラはそう零すと、顔を伏せる。しかしそれも一瞬のこと。
「あなたの事は、私がここで止める」
海未「っ…!」
二人は再び自分の武器を構えてにらみ合う。
312
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/04/23(月) 03:11:55 ID:gpiRA.B.
おぉ 来てたか
313
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/04/24(火) 01:15:37 ID:mxepcm2Y
追いついた
おもしろいし死んでもエタらないは期待大
314
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 15:11:44 ID:s1mHjaWE
「…?」
海未「これは…?」
対峙していた二人は周囲の景色が突然暗く陰った事に気付き、一瞬だけ互いの事を忘れて視線を宙にさ迷わせる。
海未(日が陰った…?いったい…)
事態を把握できていない二人の耳に、遠く甲高い雄叫びが聞こえてくる。それははるか上空から響くものだと気付き、弾かれたようにして上を見上げる。
海未「あれは…!」
「飛行型の怪獣…!」
高くそびえるビルのさらに上、鳥の羽を持った怪獣が三体より住宅街に近い方角へと飛んでいくのが目に入った。
「まさかこのために時間を稼いで…!」
海未「ち、違います…!私は──」
初めて怒気をはらんだ声を出し杖を向けたホムラに対し、海未がそこまで言いかけた時。
海未「がぁっ…!?」
海未は真横から殴りつけられたような衝撃、そして一瞬の浮遊感を感じたのち、再び体が砕けるかと思うほどの衝撃を感じる。
315
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 15:22:30 ID:s1mHjaWE
「な、なんで…」
海未「が、はっ…!」
自らがビルの壁面へと叩きつけられたことにようやく気が付いた海未はまず呆然として立ち尽くすホムラを視界に入れる。
海未(ホムラにやられたのではない…なら…)
さらに視線を移した先には、今まで見てきたどれよりも異様な姿をした怪獣の姿があった。それは丸太のような毛むくじゃらの4本の脚、そしてそこに繋がっているのは赤黒く獣の肉を粘液状にしたような、崩れた顔面のようにも見える肉体だった。
海未「ごほっ…!先ほどの怪獣よりも大きいとは…!」
海未(それに、空を飛んで行った怪獣も追いかけて倒す必要がある…!)
海未は軋む体にむち打って立ち上がり、5mはあろうかという巨大な怪獣に向き直り刀を構えようとする。
「危ないっ!」
海未「──っ!」
聞こえてきたホムラの叫びに反応して警戒をするがそれは一瞬遅く、風を切って伸びてきた肉の触手によって海未の体は巻き取られてしまう。
海未「ぐがあぁっ…!」
その触手は瞬時に怪獣の近くまで戻ると、海未の体をミシミシと締め付け始める。
316
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 15:37:30 ID:s1mHjaWE
「よく分かんないけどっ…!とにかく助ける!イグニションレーザー!」
怪獣が怪人を襲うという光景を見て戸惑っていたホムラだったが、迷いを即座に断ち切って怪獣へと狙いを定め、幾筋もの熱線を放つ。
ホムラの放った熱線は海未を締め上げていた触手を断ち切り、さらに怪獣の肉体に風穴を開けていく。
海未「かはっ…!」
拘束が解けて地面へと投げ出された海未は大きく咳き込みながら這うようにして怪獣から距離を取ろうとする。
「後ろっ!」
海未「…っ!」
今度はホムラの声に素早く反応して体ごと後ろへと向き直ると、視界に入ったのは海未へと伸びる赤黒い触手。
海未「閃刃・裂空…!」
後ろへと飛びずさりながら刀を振り切り斬撃を放つ。
海未「なっ…!?」
その斬撃はたやすく触手を両断したものの、斬り裂かれた触手は二股に分かれてもなお蠢いて海未の体をしたたかに打ち据えようとする。
海未(攻撃を受けた傷もすでに治っている…!何か仕掛けが…!?)
317
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 15:46:17 ID:s1mHjaWE
「コロナブラスト!」
触手が海未に届く前にホムラが杖を振るい、大きく燃え盛る火球を放つ。しかしそれが焼き払ったのは触手のうち片方のみ。
海未「くうっ…!」
海未はとっさに腕で体をかばうもその勢いは殺しきれずに地面に膝をついてしまう。
(助けなくちゃ…!)
その姿を見たホムラは思わず飛び出そうとして怪獣から視線を外してしまう。
「────!!」
くぐもった雄叫びをあげながら怪獣は触手を何本も束ね合わせ、肉のハンマーでホムラを真っすぐに狙う。
「まずっ…!」
318
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 15:56:10 ID:s1mHjaWE
海未「おおおぉぉっ!!」
衝撃に備えて身を固めたホムラと触手の間に割り込んできたのは漆黒の鎧をまとった海未。全身を使ってその触手を受け止めると、体が軋むのも構わず踏ん張りながら声を上げる。
海未「…早く先ほどの怪獣を追いなさい!」
「えっ…け、けどそれだとあなたが…!」
二人が言葉を交わす間に、海未が受け止めた肉塊から細い触手が蠢いて海未の体を絡めとる。そして、身動きの取れない海未ごと触手を振り上げ、地面へと思い切り叩きつけた。
海未「が、はっ…!」
「やっぱり私も──!」
海未「あなたは…ヒーローのはずだ!!」
319
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 16:11:08 ID:s1mHjaWE
海未は全身を襲う痛みをこらえながら立ち上がり、ホムラへと──最強のヒーローへと叫ぶ。
海未「ヒーローの役目は人々を守る事でしょう!!怪人を救うことではありません!!」
「──っ!」
その言葉に、駆け出そうとしていたホムラは足を止める。
海未「さあ、行きなさい…!」
そう言い放つと海未は自らが健在だと言うようにホムラへと振り向いて見せる。
「…っ、ごめん…!すぐに終わらせて、助けに戻ってくるからっ!」
一瞬の躊躇、しかしその迷いを振り切り、ホムラはこの場を漆黒の怪人に託して爆発的なスピードで飛び去って行く。
320
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 16:20:21 ID:s1mHjaWE
海未「行きましたか…」
海未はすぐに小さくなっていくホムラの姿を見送り、言葉を零した。
「────!!」
海未の背後、壁のようにそびえる怪獣は肉の鞭を振り上げて獲物を真上から叩き潰そうとする。
海未「──あまり私をなめないでいただきたい…!」
海未は鋭く怪獣を見据えると、左手を鞘に、そして右手をそこに納められた刀の柄にへと添える。瞬間、鞘からはどす黒い瘴気が溢れ出す。
海未「冥凶死水…!!」
怪獣の腕が海未へと届く直前、海未は一瞬で刀を抜き去る。鞘に蓄えられた漆黒のエネルギーと共に繰り出された斬撃は巨大な肉を根元から容易く両断した。
321
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 16:32:31 ID:s1mHjaWE
切断された怪獣の肉はべちゃりと耳障りな音を立てて地面に落ち、瞬時に黒い粒子になって消えていく。
海未(本体から切り離された部分は即座に消え去る…つまりどこかに弱所があるはず…!)
痛みに悲鳴を上げる全身にむち打ち、海未は刀を手に怪獣へと走り抜けていく。
「────!!」
怪獣は全身を震わせ雄叫びを上げながら、全身から無数の肉の触手を海未へと伸ばす。その先端は硬化し、鋭利な槍のように変化する。
海未(私は戦っていくと決めたはずだ…!)
自身を襲う無数の槍を斬り払いながら海未は駆け抜けていく。
「────!!」
怪獣は何本もの触手を束ねてハンマーのような形状へと変化させると、迫る海未の頭上から振り下ろす。
海未「黒華一閃!!」
海未は足裏で滑るようにブレーキを掛けながら刀と弓を持ち替え、頭上に迫るハンマーへと矢を放ち風穴を開ける。
322
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 17:08:45 ID:s1mHjaWE
海未(ジュエルのようなヒーローとも…!)
開いた風穴へと飛び込みながら刀を振りかざし、邪魔な肉を切り開きながら触手の上まで飛び上がり怪獣の腕の上へと着地する。それは怪獣の本体へと続く道。
海未(グレイシアのような怪人とも…戦うと決めた…!)
怪獣が反応するよりも早く、海未は赤黒く蠢く肉の道を駆け抜けていく。
海未「黒散華!」
怪獣が再び無数の触手を伸ばし始めると、海未は弓を空へと向けて無数に降り注ぐ矢でそれを撃ち抜いていく。
海未(だから…)
海未が駆け抜けていた地面がぐらりと揺れを起こした。怪獣が上に乗っている海未ごと触手を振り上げようとする。
海未「だから…こんなところで負けるわけにはいかない!!」
海未は雄叫びと共に、怪獣の腕の振り──つまり凄まじいほどの地面の上昇に合わせて宙へと飛ぶ。
海未「はあああぁぁっ!!」
その瞬間、海未の体は漆黒の光に包まれる。
323
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 17:26:02 ID:s1mHjaWE
その光が晴れると共に現れた海未の姿は今までと違うものとなっていた。纏っていた道着を思わせるアーマーはより重厚な甲冑を模したものへと変わる。
海未(邪魔な肉をそぎ落とすっ!)
怪獣の頭上へと舞った海未がどす黒いオーラを纏いながら刀を大きく大上段に振り上げると、刀は大きく変形していき海未の背丈を超えるほどとなる。それは刀と呼ぶにはあまりに機械的な刃。
海未「黒烈断・逆鱗!!」
それを渾身の力で振り下ろすと、そこから放たれるのは強大な斬撃。それは海未へと触手を伸ばした怪獣の肉体を斬り裂き、黒い粒子へと変えていく。
海未「…っ!」
そして海未は落下を始める中で、大きく斬り裂かれた怪獣の中に鈍く光る球体を見つけ出す。
海未(見つけた…!あれこそが怪獣の弱所…!)
振り切った刀は元の大きさへと戻り、海未はそれを空中で鞘へと納め、手には弓を作り出す。そして怪獣の弱所、その一点のみを見つめて弓を引き絞る。
海未「……」
重力に引かれるままに落下を続ける海未は、落下していることを除けば、まるで射場に立っているかのような静けさを纏う。そして。
324
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 17:33:28 ID:s1mHjaWE
海未「黒華一閃」
弱所、海未の視線、矢じりの向く先が交わった瞬間、海未が静かに放った漆黒の矢は怪獣の弱所を正確に貫いた。
海未「はあっ、はあ…倒せ、ましたか…」
地面へと降り立ち、崩れ去っていく怪獣を見ながら海未は膝を付いて粗い呼吸を整える。
海未「それにしても、この姿は一体…」
痛む全身をかばいつつ海未は戦闘中に突如として変化した、自身を包む鎧を見つめる。
海未(この見てくれもそうですが、この姿になった途端に堰を切ったように溢れ出した力…)
まるで今までが制限をかけられていたかのように感じるほどの差をシステムから感じるも、海未はすぐに思考を止める。
海未(それは私が考えても無駄ですね…今度真姫にでも相談してみましょう)
海未「さて、ホムラがいつ戻ってくるとも分かりませんし、この場を離れましょうか…それに、さすがにこれ以上戦うのは無理です…」
海未はそう呟くとゆっくりと立ち上がり変身を解くと、痛みが走る重い体を引きずるようにして歩き出した。
海未(病院か避難施設か、はたまた真姫の所か…まあとりあえずはここを離れるのが先です…)
考えるのすら億劫になった海未は成り行きに任せることにしてその場を後にするのだった。
325
:
◆JaenRCKSyA
:2018/04/28(土) 17:50:28 ID:s1mHjaWE
ここまで
もう少し早く更新する予定だったけどぷちぐるのせいで…
326
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/04/28(土) 19:17:45 ID:Jz0Q4aNk
おつおつ。
ぷちぐるなら仕方ないねw スタダ終わって落ち着いたらこっちもペース維持でお願いします('ー')/
327
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/04/29(日) 04:35:30 ID:jSOYMLj2
乙です
ぷちぐるはハマる
最近更新頻度が高くて嬉しい
328
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/04/30(月) 22:51:27 ID:AleR7212
乙です!
更新嬉しいです。ぷちぐるはハマりますね
329
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/05/02(水) 22:16:23 ID:VwTuZfmo
いいね
330
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 15:53:15 ID:JaY30Q4c
海未「まったく、希は心配をかけるだけかけて…」
海未はあの戦いの後に凛と希から来た連絡を見返していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
凛:希ちゃんどこ?
凛:学校着いたけど希ちゃんいない!
希:ごめん!別のところ避難してた!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
海未「無事だったからよかったものの…」
すでにひとしきり小言を並べてはいたが、ため息とともに零れそうになる言葉を抑える。
海未「無事だった二人はいいとして、あとは私の事ですね…」
331
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 16:18:51 ID:JaY30Q4c
負った傷も完治した週末、海未は幼馴染との待ち合わせ場所へ歩く途中、戦いの後に真姫と交わした会話を思い出す。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
海未「機能の制限…ですか?」
真姫「ええ、色々調べてみたけれど、このシステムにはロックが掛けられていた形跡があるわ」
海未は戦いの中で自身のシステムに起きた現象の事を聞くために、真姫へとシステムの検査を頼んでいた。
海未「と、いうと…これが悪の組織に協力的でない人の手に渡る可能性を考えていた、という事でしょうか?」
真姫「そんなこと考えるくらいなら最初から協力的な相手に渡すんじゃない?」
海未「確かにそれもそうですね…それにしても、なぜあの時急にそのロックが外れたのでしょうか?」
真姫「そうね…中までバラしたわけじゃないけど、解析した感じ一定以上の感情エネルギーが解除条件になってたみたいなのよね」
332
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 17:08:41 ID:JaY30Q4c
海未「一定以上の感情エネルギーですか…」
目の前のデスクトップパソコンと手にしたタブレット端末を交互に操作しながら話す真姫を見て視力が悪くなりそうだ、とぼんやり考えながら海未は言葉を返す。
真姫「ええ、それもどういうわけだかプラスの感情エネルギーね」
海未「プラスの…というとヒーローのシステムに使われているエネルギーですか…?怪人のシステムだというのに…」
真姫「そ、だからどういうわけだか、って言ったでしょ?解除させる気が無いようにも思えるのよね…」
座っていた椅子をくるりと回転させて海未に向き直り、真姫は言葉を続ける。
真姫「っていうかあなた、ホムラと戦ったんでしょ?本当に次から次へと…どうなってるのよ?」
海未「そんなの私の方こそ聞きたいです…まあ、真姫の言う通り話の通じる方だったので次からはそうそう問答無用で襲われることは無いと思いますが…」
真姫「それならいいけど…とにかく気を付けなさいよ」
視線を海未から逸らし髪をいじりながら言う真姫を見て海未はふと思い至る。
海未「…もしかして、心配してくれているのですか?」
真姫「な、なに言ってるのよ!私はただそのシステムが貴重な研究対象になると思って…」
海未「ふふ、心配してくれてありがとうございます」
333
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 17:28:17 ID:JaY30Q4c
真姫「もう…!」
頬を赤く染めて海未の事を半目で睨みながら真姫は言葉を続ける。
真姫「けど、本当に気を付けなさいよ?このご時世、いつ怪獣が現れても不思議じゃないんだから」
それにこの調子だと他のヒーローと戦う羽目になるかもしれないし、と真姫は呆れたように海未に言う。
海未「私にはどうすることもできないと思うのですが…まあ、警戒だけは怠らないようにします」
真姫「そうじゃなくて面倒ごとに首を突っ込まない方がいいと思うけど…ま、お人よしらしく好きにしたら?知恵くらいは貸してあげるし」
真姫は顔を背けながらぶっきらぼうに言うが、海未はその言葉に込められた優しさを受け止める。
海未「ええ、ありがとうございます」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
334
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 17:34:40 ID:JaY30Q4c
海未「それにしても、あれだけ怪獣が暴れていましたが被害が小さいのは幸運でしたね…」
大型の怪獣と海未が戦った場所こそ破壊の跡が残ったものの、迅速な避難、ヒーローの活躍によって町全体の被害としてみればすぐに修復できるものであった。
海未(そのおかげでこうして今日も遊びに出かけられますしね)
今日海未はにこからもらったチケットを使って幼馴染二人と共に遊園地へ行く約束をしていた。
ことり「海未ちゃーん!おはよう!」
後ろからのよく聞き慣れた声に海未は振り返り、返事を返す。
海未「おはようございます、ことり…って、なぜそんな嬉しそうなのですか?」
ことり「えへへ、待ち合わせの時に海未ちゃんと同じくらい早いとなんだか勝った気分になっちゃうのっ」
海未「もう、どういうことですか…確かに時間に間に合うのは大事ですが、勝ち負けではありませんよ?」
かわいらしい笑顔で話す幼馴染に呆れたような、楽しそうな苦笑を浮かべて言葉を返す。
335
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 17:41:32 ID:JaY30Q4c
ことり「三人で遊園地行くのすっごく楽しみだったから、張り切って早く家出てきちゃったんだあ」
海未「もう、遠足前の小学生ではないんですから…なんて、私も人の事を言えませんけどね」
クスリと笑ってそう言うと、すぐにしかめっ面を作って言葉を続ける。
海未「もっとも、もう一人は楽しみにしすぎて前日眠れずに寝坊、なんてことにならなければいいんですけどね…」
ことり「あはは…けど穂乃果ちゃん、遊びに行くときは時間通りにくる事多いし…」
海未「それは構わないのですが…学校に行く時も遅れずに来てほしいもの、で、す…」
待ち合わせ場所が見え、足を進めると共に見える光景に海未は言葉を詰まらせ、ことりは驚愕に目を見開く。
海未「穂乃果…?」
ことり「穂乃果ちゃん…!」
336
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 18:06:58 ID:hfyCM6.I
穂乃果「あ、二人ともおはよー!」
海未「穂乃果!どうしたのですかこんなに待ち合わせ時間よりも早く着いているだなんて!」
ことり「大丈夫!?熱とかあったりしない!?」
穂乃果「二人ともひどいよ!私だってたまには時間くらい守るよ!」
いつも二人を待たせる側の穂乃果が、その二人よりも早く待ち合わせ場所で待っている事に驚いた海未とことりは穂乃果に詰め寄る。
海未「す、すみません…ですが、穂乃果が待ち合わせに間に合うだなんて本当に珍しくて…」
穂乃果「それはそうかもだけどー…」
ことり「でも、どうして今日はこんなに早いの?」
穂乃果「いやー、ちょっと考え事をしてて…」
海未「まさかそれであまり寝られなかった、なんてことは…」
頭をかきながら言った穂乃果に、心配そうに眉をひそめて海未は問いただす。
337
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 18:25:30 ID:hfyCM6.I
穂乃果「ああ、違う違う!昨日の晩御飯の後に考え事してたら、そのまま眠っちゃって…そのせいで今日すごい早い時間に起きたんだよね…」
海未「それならいいのですが…本当に無理などはしていませんね?」
穂乃果「してないしてない!っていうか、隠し事とかしてたら大体二人のどっちかにはいつもばれちゃうし…」
ことり「穂乃果ちゃん、嘘ついてるとき分かりやすいから…」
穂乃果「そうかなあ…自分だとうまく隠してるつもりなんだけど…」
穂乃果は自分の顔をぐにぐにといじりながら口をとがらせる。
海未「そのおかげで宿題をやり忘れた時によく分かります」
穂乃果「うっ…ほ、ほら!もうこの話おしまい!電車乗り遅れちゃうよ!」
そう言って逃げるように駆け出していく穂乃果を見て、海未とことりは顔を見合わせてクスリと笑うと穂乃果を追いかけて走り出す。
338
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 18:40:21 ID:hfyCM6.I
海未「そういえば先ほど、考え事をしていたと言っていましたが、何か悩みでもあったりするのですか?」
電車に揺られている途中、ふと思い出した海未は穂乃果へと問いかける。
穂乃果「え?うーん、別にそんなに大したことじゃないんだけどね…」
ことり「けど、小さい事でももし気になる事があるなら私は話してほしいかも…」
海未「ええ、私もそう思います…もちろん、言いたくないことなら無理にとは言いませんが」
穂乃果「…二人はさ、怪人って、悪者だと思う?」
二人の言葉を聞いた穂乃果は、一瞬押し黙り目を伏せて問いかける。
海未「怪人が、悪人かどうか…ですか?」
穂乃果「うん…ほら、よく漫画とかで最初は敵だったけど仲間になる!みたいなのとかあるでしょ?それで…」
ことり「うーん…私はやっぱり怪人さんは怖い、かなあ…」
339
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 18:47:24 ID:hfyCM6.I
穂乃果「やっぱりそう、だよね…海未ちゃんは?」
海未「私は…」
海未は一瞬言葉を詰まらせてしまう。
海未(何を言っても醜い自己弁護にしか聞こえない…ですが、この答えは怪人で無かったとしても変わらないと信じたいものですね…)
海未「私は、怪人であっても必ずしも悪人であるとは思いません…怪人もヒーローも力を持った人間と言う意味では同じだと思いますし」
ことり「そ、そうなの…?」
海未「ええ、悪人かどうかはその人の行動で決まる…悪事を働けば当然その人は悪で、人を助ければそれは善だと、私は思います」
穂乃果「そっか…うん、そうだよね!悪い事したら悪い人!良い事したら良い人!」
ぽかんとした表情をしていた穂乃果だったが、海未の答えを聞いて持ち前の明るさを取り戻して何度もうなずく。
ことり「ふふ、なんだかすごく海未ちゃんらしい答えかも!」
海未「そ、そうでしょうか?ほ、ほら!もう降りる駅ですよ!」
幼馴染二人から笑顔を向けられ、急に気恥ずかしくなった海未はごまかすようにして二人を先導して電車を降りた。
340
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 19:03:57 ID:hfyCM6.I
穂乃果「とうちゃーく!」
ことり「アトラクションいっぱいあるから迷っちゃうね…!」
海未「考えてみれば三人で遊園地に行くのなんて随分と久しぶりですからね…!」
穂乃果「よーし!全部のアトラクション2週するまで帰らないからね!しゅぱーつ!」
ことり「おー!」
海未「ちょっ、待ちなさい!園内マップくらいはもらってから…!」
珍しくそわそわしていた海未だったが、勢いのままに駆け出す二人に気を取り直して地図をつかみ取って二人を追いかける。
穂乃果「おお!海未ちゃんナイス!えーっとアトラクションは全部で…30個もある!」
ことり「それ、子供用のも入ってると思うけど…」
穂乃果「あ、そっか!…よーしじゃあ最初はジェットコースターから!」
341
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 20:28:51 ID:iTHaLMA2
ことり「楽しかったあ…!」
海未「ことりは昔から絶叫マシンが大好きでしたもんね…」
穂乃果「ことりちゃんそういうところあるからね…っていうか、海未ちゃんジェットコースターとか苦手じゃなかったっけ?」
海未「別にそんなことはありませんが…それこそ小さい時の話でしょう」
穂乃果「えー、そうだったっけ?ねえことりちゃん、海未ちゃんって…って、ことりちゃん何見てるの?」
海未「これは…野外ステージの演目ですか?」
ことり「こういうところって、たまにアイドルのステージとかやってたりするから今日あったりしないかなーって思ったんだけど…今日は違うみたい」
穂乃果「あらら、残念…今日は何やってるのかな?」
海未「音楽フェスのようですね…ジャンルも様々ですし、もし時間があれば聞きに行ってもいいかもしれませんね」
342
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 21:12:07 ID:yN6sQ9Jg
海未「さてと、次はどこに…」
海未が園内地図から顔を上げると、少し先にすっかり見慣れた豊かな二つ結の髪を見つける。
海未「希!」
希「ん?あ、海未ちゃん!」
きょとんと振り返った希は海未を見つけると手を振りながら海未へと歩き出す。そんな希の隣には、眩しいほどの金髪を揺らす絵里の姿があった。
絵里「あら、えっと…園田海未さん、だったかしら?」
海未「はい、絢瀬先輩もこんにちは」
ことり「えっと…弓道部の先輩、とか?」
海未「いえ、そうではなく…ひょんなことから知り合ったというかなんというか…」
希「ウチは東條希、海未ちゃんとはこの間ちょっと知り合わせてもらいました!」
絵里「私は知っているかもしれないけれど、絢瀬絵里よ…って、ちょっと自意識過剰かしら」
穂乃果とことりに笑いかけながら二人は自己紹介をすると、穂乃果は海未の袖を引っ張り、こそこそと話しかける。
穂乃果「ねえねえ、知ってるかも、って…絢瀬先輩って有名人なの?」
海未「まったくあなたは…絢瀬先輩は生徒会長でしょう…」
穂乃果「うそ!?」
ことり「あはは…」
343
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 21:28:56 ID:yN6sQ9Jg
飛び上がりそうな穂乃果を見てクスクスと笑いながら絵里は口を開く。
絵里「生徒会長っていっても、そんなに派手な事をやっているわけじゃないからそんなものよ?だから、気にしなくていいわ」
覚えてくれると嬉しいけれど、と少しいたずらそうな笑顔を作って絵里は続ける。
穂乃果「は、はい!」
絵里「ふふ、ありがと…えっと、南さんは一度話した事があったわよね?それと、あなたは…」
穂乃果「こ、高坂穂乃果です!お饅頭屋さんやってます!」
海未「あなたが店主なわけではないでしょう…」
希「あ、もしかして神田にある穂むらさん?ウチ、あそこなら何回か買いに行ったことあるよ?」
穂乃果「本当ですか!またぜひ来てくださーい!」
344
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 21:42:15 ID:yN6sQ9Jg
海未「希もにこからいただいたチケットを使って?」
希「そうそう、せっかくの休みやしえりちとデートでもしたいなーって!」
絵里「はいはい」
希「ぶー、えりちのいけずー」
穂乃果「絢瀬先輩も、その、にこ先輩って言う人と知り合いなんですか?」
絵里「希の友達って言うだけで私は直接知ってるわけじゃないのよね…だからきっと高坂さんと南さんと同じ感じ」
それと、と言って絵里は立てた人差し指を口元に近付けて続ける。
絵里「絢瀬先輩、なんてよそよそしくて落ち着かないから下の名前で呼んでくれていいのよ?」
穂乃果「…!分かりました、絵里先輩!」
絵里「ふふ、ありがと」
345
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 21:53:43 ID:yN6sQ9Jg
海未「さ、あまり二人の邪魔をしても悪いですし、そろそろ失礼しましょう」
ひとしきり話し込んだ後で、長々と呼び止めてもいけないと海未はそう声をかける。
ことり「あっ…会長副会長のデートに水を差しちゃってごめんなさい…!」
笑顔で言ったことりに苦笑いを返して絵里は口を開く。
絵里「もう、希が変なことを言うから…けどそうね、幼馴染の間に入っているのも悪いし、また今度お話ししましょう?」
穂乃果「はい!絵里先輩も希先輩も楽しんでくださーい!」
手を振りながら背を向けて三人はその場から離れようとする。
希「あ、あの!海未ちゃん!」
海未「?どうかしましたか、希?」
希「あ、えっと…その…三人は今日って何時くらいまでここで遊ぶつもりなん?」
海未「穂乃果はアトラクションを2週するまで帰らない、なんて言っていますが、時間までは特には…」
346
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:07:22 ID:yN6sQ9Jg
希「そう、なんや…えっと、なんていうか…あんまり、遅い時間まで残らない方がいいかも、なんて…」
体の前で指を組んで伏し目がちに話す希の言葉はどうにも歯切れが悪く、海未は首をかしげる。
海未「早めに帰った方がいい、と…?それはどういうことですか?」
希「……」
それきり口を閉ざしてしまった希を見て絵里は息を吐き出し、希の肩に手をかけて、困ったような表情で絵里は話し始める。
絵里「信じてもらえるかは分からないんだけど、この子の占いってよく当たってね?それで、今日の事を占ったらどうもよくないことが起こりそう、っていう事だったのよ…」
希「えりち…」
絵里「もう、そんな顔しないの…まあそういうことだから、一応、ね」
海未「なるほど…」
穂乃果「最近怪獣が出てくること多いから、何があってもおかしくないですもんね…」
ことり「わざわざありがとうございます…!」
347
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:17:44 ID:yN6sQ9Jg
海未「ということでしたが…」
絵里と希と別れてから、三人はベンチに腰掛けて先ほどの事を話していた。
穂乃果「うーん…」
ことり「…海未ちゃんは、希先輩の占いの事って聞いたことはあったの?」
難しい顔で唸る穂乃果の隣、ことりは海未に問いかける。
海未「ええ、希本人から聞いたことがあります…実際に占ってもらったわけではありませんが…」
穂乃果「やっぱり心配だよねえ…けどいっぱい遊びたいし…もー!どーしよー!」
足をばたつかせながら言う穂乃果に苦笑いを浮かべ、海未は考え込みながら返事を返す。
海未「希もすぐに帰るように言っていたわけではありませんが…閉園時間になる前にここを離れた方がいいかもしれませんね…」
ことり「うん…ちょっと残念だけど、何かあってからじゃ遅いもんね…」
348
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:24:13 ID:yN6sQ9Jg
穂乃果「けど、何か起きるんだったらそのまま帰っちゃっていいのかな…?」
海未「それは私も考えましたが…通報したとしてもいたずらと思われてしまうでしょうね…」
穂乃果「そうだけど…!」
海未「このパンフレットには一応ヒーローが警備に回っている、と書いてあります…私たちが何かをするよりもヒーローに任せた方がいいでしょう」
海未(ヒーローがいる場では私も変身しづらい…それに二人を安全な場所に連れていくのが先決ですしね…)
ことり「私も、それがいいと思うな…」
穂乃果「…うん、分かった…」
口を尖らせながらしぶしぶ呟いた穂乃果に苦笑と共にため息を吐いた海未は、膝を叩いて立ち上がる。
海未「そうと決まれば、早くアトラクションを回りましょう?2週は無理でも、全種類制覇するくらいはできるでしょう!」
349
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/05/13(日) 22:31:03 ID:Wq7VqdMc
待ってました!!!
350
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:41:38 ID:yN6sQ9Jg
海未「うう…」
片っ端からアトラクションに乗っていき夕方も近付いてきた頃、海未は青い顔でうなだれながらベンチに腰掛けていた。
ことり「あの…海未ちゃん…」
穂乃果「えっと…ごめん、なさい…?」
海未「この年になってコーヒーカップに乗るとは思いませんでしたし、酔うまで回されるとも思いませんでした…」
穂乃果「ほら、ちょっとテンション上がっちゃったっていうか…」
ことり「楽しくなっちゃって…」
海未「それにしても限度と言うものがあるでしょう…」
穂乃果「ごめんなさい…」
ことり「ごめんなさい…」
351
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:49:26 ID:yN6sQ9Jg
海未「はあ…まあ、落ち着いてきましたしその態度に免じて許してあげます…」
気まずそうにする二人にため息をついて海未は立ち上がる。
海未「ですが、飲み物がほしいので買いに行ってきますね」
穂乃果「あ、それなら穂乃果が…!」
海未「いいえ、こんな状態で炭酸飲料など飲まされたくないので私が行ってきます」
穂乃果「ぎくっ…」
ことり「穂乃果ちゃん…」
海未「それでは、少し待っててくださいね」
二人の様子にクスリと笑い、声をかけて海未は歩き出す。
352
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:51:22 ID:yN6sQ9Jg
海未「えっと、売店はっと…少し離れていますね…」
地図を片手に歩く海未は園内にある時計をちらりと目に入れる。
海未(もう夕方近い…少し夢中になってしまいましたね…そろそろ二人を連れて出るべきか…)
考えながら歩いていると売店の近くまでたどり着き、海未は財布を取り出しながらつぶやく。
海未「二人にも買っていきましょうか…穂乃果はオレンジジュース、ことりはミルクティーで──」
その瞬間、周囲に轟音が響く。何かが破壊されたかのような、破裂したかのような轟音。
海未「…!?今のは…!?」
「なに…?爆発?」
「ショーか何かやってるの?」
周囲の人もその音に反応してざわめき出す。
353
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:54:09 ID:yN6sQ9Jg
海未(いや、違う…今のはおそらく、怪獣による…!)
海未が音の響いた方角を見据え、駆け出そうとした時、すぐ近くからぼそぼそとつぶやく声が耳に入る。
「ああ、ようやくか…待ちくたびれた…」
海未「…?」
遊園地という場には少しなじまないスーツ姿の眼鏡をかけた30代ほどの男。その男は騒がしい周囲にはまるで注意を払わずに笑みを浮かべ。
「変身…!」
その言葉と共に男の肉体は異形のものへと変化を遂げる。
「えっ…!?怪人…!?」
「ひっ…!やだ…!」
その男の周囲から波が引くように人が離れていく。その中心には灰色の皮膚に覆われた怪人が立っていた。
「ようやく暴れられる…!」
354
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:55:26 ID:yN6sQ9Jg
海未(私のミスだ…!もっと早くここを出ていれば…!)
悲鳴を上げて逃げ始める周囲の人を見据えながら海未は思考を巡らせる。
海未(これだけ人がいては変身できない…!とにかくまずは人のいないところにまで移動する…!)
「さて…それじゃあ片っ端から壊そうかなあ…!」
怪人は重量感のある肉体、そして肩や頭部からは白い角が突き出し、サイか象を思わせる見た目をしていた。そしてその太い腕を振り上げ、思い切り地面へと叩きつける。
海未「ぐっ…!」
その一撃は重く、クレーターのように地面を抉り大地を震わせる。その振動はパニックを起こして逃げようとする人の足を止めるのには十分だった。
「ここにいる全員、サンドバッグになってもらうよ…!」
海未(このっ…!)
海未は咄嗟に自身の前に転がってきた地面の破片を手に取り、怪人へと投げつける。
「ああ…?」
会員は頭に命中したつぶてにイラついたように海未の方を睨む。
海未「これしきも避けられないとは、鈍いのですね…!」
挑発するように声を投げてから海未は背を向けて駆け出し、顔だけで振り返りさらに挑発を続ける。
海未「それでは私一人捕まえられませんよ!」
355
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:56:53 ID:yN6sQ9Jg
「この女ァ…!!」
海未の挑発に乗り、怒りのままに怪人は海未目がけて走り始める。
海未(二人は…穂乃果は抜けているようで勘は鋭い、恐らくことりと避難施設に向かっているはず)
海未は残してきた二人を案じながら、アトラクションが無く人通りの少ない方へと走る。
「逃がさない…!ホルンシューター!」
その声と共に怪人の肩と頭部に突き出た角が連続で射出され、海未目がけて飛んでいく。
海未「ふっ…!」
海未は後ろをちらりと振り返り、弾丸をギリギリまで引きつけてから地面に飛び込むように真横へと飛ぶことでそれをかわす。
「ちょこまかと…!」
そのままアトラクションの鉄骨の影へと身を隠した海未を見つけようと怪人が迫るが。
海未「……」
その場にゆらりと姿を現したのは、変身を終えて漆黒の鎧を身に着けた海未だった。
356
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:58:32 ID:yN6sQ9Jg
「なっ…!?ダークブレイド…!?」
海未「さあ、仕切り直しです」
その姿を見てうろたえる怪人に対し、海未は真っすぐに刀を構える。
「くそっ…!ハチの巣になりな!ホルンシューター!」
苛立たし気に足を踏み鳴らすと、怪人は再び白い角の弾丸を海未目がけて撃ち出す。
海未「この程度…!」
怪人へと向かって海未は駆け出し、自身を襲う弾丸を刀を振りまわしながら撃ち落としていく。
「う、嘘だろ…?」
怪人は勢いを止めずに自身へ向かって駆け抜ける海未の姿に一瞬動きを止め、その隙に海未は怪人の目の前へと躍り出る。
海未「はあっ!」
海未はそのまま振り上げた刀を怪人へと袈裟懸けに振り下ろす。
357
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 22:59:11 ID:yN6sQ9Jg
海未「なっ…硬い…!?」
「軽いなあ…!」
海未は振り下ろした刀から伝わる硬質な感触に海未はすぐにその場から飛びのこうとしたが一瞬遅く、怪人に殴り飛ばされてしまう。
海未「ぐうっ…!」
「なんだ、この程度かい?これじゃあ傷一つ付かないなあ…!」
すぐに体勢を立て直した海未はそう得意げに言い放つ怪人に向かって刀を構え、口を開く。
海未「なるほど…なら、こちらも遠慮する必要はなさそうですね…!」
海未「閃刃・裂空!」
海未は自身の強固な肉体を誇示するように仁王立ちで構える怪人へと刀を振り抜き斬撃を飛ばす。
358
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 23:00:30 ID:yN6sQ9Jg
「ヘビーストライク!」
怪人の腕の表皮が蠢いて握りこんだ拳を完全に覆い、硬質化した鉄球のようになり、自身へと迫る斬撃を殴りつけ撃ち落とす。
「は?いない…?」
斬撃を相殺し発生した煙越しに海未がいた場所に目を向けるとそこに海未の姿はない。
海未「冥凶死水…!」
斬撃と共に駆け出し、怪人の死角へと低い体勢で飛び込んでいた。
海未(斬るのではなく、打ち据えるイメージで…!)
鞘へ納めた刀を瞬時に居合いの要領で抜き去ると、鞘からほとばしる漆黒の波動が怪人を吹き飛ばす。
「が、はっ…!畜生!まだ…!」
地面にあおむけで投げ出された怪人は手を付いて上半身を起こすが、すでにその眼前には弓を構えた海未の姿があった。
海未「黒華一閃」
359
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 23:02:01 ID:yN6sQ9Jg
海未の放った漆黒の矢は怪人の胸に直撃、怪人は変身を解除されて地面へと投げ出される。
海未「まさか、やりすぎましたか…!?」
慌てたように男へと駆け寄り様子を伺うと、気を失ってはいるものの目立った傷も見当たらない。
海未「脈も呼吸も正常…ですがこのまま放置していて大丈夫なものでしょうか…」
海未が怪獣に襲われたりはしないだろうかと頭を悩ませていると、こちらへと近づく声が聞こえてくる。
「怪人は一人、だが少女の事を追いかけていったらしい…」
「人質にされているかもしれません…慎重に行きましょう…」
海未(これは…ヒーローの話し声?それならもうここを離れても大丈夫ですね)
海未はその声の聞こえてきたのとは逆の方向へと物音を立てないように移動していった。
360
:
◆JaenRCKSyA
:2018/05/13(日) 23:08:07 ID:HUqOVBms
今日はここまで
361
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/05/14(月) 14:03:31 ID:2akWrWZA
おつ
362
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/05/17(木) 19:44:09 ID:IcC4KBes
乙!遊園地編キター!
363
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/05/31(木) 10:34:45 ID:UQsxc.fs
ほしゅ
364
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/07(木) 21:35:17 ID:gScrE.yw
ドン・ファンの隠しネタ
http://bit.ly/2JVc7to
365
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/09(土) 21:12:29 ID:ge019AL.
「桜内さん、今日はありがとね!また機会があったらよろしく!」
梨子「いえ、こちらこそありがとうございました!」
時間は怪人が現れる少し前にさかのぼる。梨子は野外ステージで行われていた音楽フェスのジャスバンドにキーボードとして出演していた。
梨子「ふう…謝礼までもらっちゃったけど、別によかったのに…」
渡された封筒を手に、困ったような表情を浮かべていた梨子だったが、考えるように目線を上の方へ向ける。
梨子「ま、まあ、ちょうど欲しい本もあったし…ありがたく受け取って──」
千歌「梨子ちゃんお疲れさまー!」
梨子「わひゃああぁぁ!?」
梨子が思わぬ臨時収入の使い道を考えていると突然後ろから声をかけられて悲鳴を上げてしまう。
366
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/09(土) 21:35:20 ID:ge019AL.
梨子「ち、千歌ちゃん…!本当に聞きに来てたんだ…」
千歌「そりゃあ梨子ちゃんの晴れ舞台だもんね!」
梨子「そんな大げさだよ…これくらいのステージだったらたまに頼まれることもあるし…」
千歌「ええー!やっぱりすごいじゃん!曜ちゃんも聞きに来れればよかったんだけどなー…この気持ちを分かち合いたいよ」
梨子「ただ機会があるだけなのに…それに曜ちゃんは予定があったんだからしょうがないよ」
千歌「むー、私からしたらすごいと思うんだけどなあ…梨子ちゃんはもうこの後は暇なの?」
梨子「うん、もう全部終わったから大丈夫…って、待たせちゃってごめんね?」
千歌「いーのいーの、私が勝手に聞きに来たんだし!よーし、それじゃあアトラクションにしゅっぱーつ!」
そう言って千歌が右手を高く突き上げた瞬間、周囲に轟音が響き渡る。
367
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/09(土) 22:12:45 ID:jPt67Jx2
千歌「えっ、チ、チカじゃないからね!?」
梨子「それくらいは分かるよ…!」
梨子(今のって…)
千歌「何か子供向けのショーみたいなのやってるのかなあ?」
梨子「…ううん、この遊園地にあるステージはさっきまで私が演奏してた一つだけ…それに特設ステージも今日は設置してない、って聞いた…」
梨子は千歌にそう答えながらカバンに手を入れて音符型のヘアピンを取り出す。
千歌「梨子ちゃん、それ…」
梨子「きっと怪獣か怪人だと思う…変身!」
今まで前髪を留めていたヘアピンを付け替え、梨子はヒーローへと姿を変える。そして頭に付けたヘッドフォンへと手を添えて目を閉じる。
梨子「──うん、やっぱり怪人が出たみたい…」
閉じていた目を開き、険しい表情で梨子はそう告げる。
368
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/09(土) 22:26:43 ID:jPt67Jx2
千歌「か、怪人…!早くみんなに教えないと…!」
梨子「ちょっと待ってね…今救援信号を送るから…」
千歌「救援信号?」
梨子「うん、ヒーローシステムを登録すると警察とか避難設備、それと他のヒーローとかに緊急で連絡ができるの」
曜ちゃんみたいに正体を隠してる人だとできないんだけど、と梨子は心の中で続ける。
梨子「…うん、これで大丈夫、きっと警備員の人がみんなの事を避難させてくれると思う」
梨子はそのまま千歌の手を取って小走りでその場から移動を始める。
梨子「私達も避難設備に行こう?」
千歌「う、うん…!」
千歌(あれ?けど梨子ちゃんはヒーローで、いつもは逃げ遅れた人とかを助けてて…でも今は避難設備に行くって言ってて…)
頭をひねる千歌だったが、自分の手を握る梨子の姿を見て思い至る。
千歌(私がいるからだ…!)
369
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/09(土) 22:28:19 ID:TfiCFOR2
おお!更新来てる!!!!!!
370
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/09(土) 22:38:47 ID:jPt67Jx2
千歌「梨子ちゃん!」
梨子「ど、どうしたの、千歌ちゃん?」
急に立ち止まった千歌に驚き、梨子は目を丸くして問いかける。
千歌「梨子ちゃんは逃げ遅れた人を助けに行ってあげて!」
梨子「えっ…けどそれだと千歌ちゃんが…!」
千歌「私は大丈夫!だって梨子ちゃん、ヒーローでしょ?」
心に広がる恐怖を振り払うように千歌は梨子へと笑顔を向ける。
梨子「…分かった、でも何かあったら絶対に連絡してね?すぐに行くから!」
千歌「りょーかい!それじゃあ梨子ちゃんも気を付けてね!」
二人はお互いに手を振って違う方向へと走り出す。
371
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/09(土) 23:30:04 ID:PT4LJ0Lk
千歌「って言ったものの…ここからだと避難設備遠いー!周りに人もいないし…」
演奏が終わった後にステージの近くからはすぐに人がいなくなってしまい、千歌は人のいない中を走っていた。
千歌「うう…なんか怖くなってきた…」
「……っ……うう……」
千歌「ひっ!な、なに…?」
近くから急に人のうめき声のようなものが耳に入り、千歌は身をすくませて周囲を見回す。
「うう…お姉ちゃん…ひっく…」
千歌「お姉ちゃん…もしかして、逃げ遅れた子…?」
千歌はその声が聞こえてきた植木の影へとそろりそろりと近づいていく。
千歌「あのー、誰か、いるんですか…?」
「ぴぎっ!あ、あの、えっと…」
屈んで声の出所を覗き込むと千歌の目に入ったのは、鮮やかな赤い髪と、涙で濡れた緑色の瞳だった。
372
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/09(土) 23:43:23 ID:PT4LJ0Lk
千歌(やっぱり逃げ遅れた子だ!けど…全然年が分かんない…!)
千歌「え、えーっと、もしかして、誰かとはぐれちゃったの?」
ルビィ「あ、えと、そう、です…お姉ちゃん、ヒーローだから、それで…けどルビィ、一人だと怖くって、怪人さんに会っちゃったらどうしよう、って…」
千歌「そっか…そうだよね、怖いよね…よし、それじゃあ私が避難設備まで連れて行ってあげる!」
ルビィ「ほ、ほんと!ありがとう…!あ、えっと…ございます…」
千歌「えへへ、話しやすいしゃべり方で平気だよ?えっと、ルビィちゃん、って言うの?私は高海千歌って言って、浦女の二年生!よろしくね!」
ルビィ「あ、ルビィも浦女!一年生で、黒澤ルビィって言います…!」
千歌「おお!同じ学校で一個下なんだ!」
千歌(もっと下かと思ってた…!)
千歌「って、黒澤…?それで、お姉ちゃんがヒーロー…?」
ルビィ「う、うん…お姉ちゃんは、生徒会長で、それで…」
千歌「珠玉騎士ジュエル…!?」
千歌(うわ!全然似てない!!)
373
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/09(土) 23:49:44 ID:PT4LJ0Lk
千歌「って、そんな場合じゃなかった!」
しゃがみこんだルビィと目線を合わせていた千歌は跳ねるように立ち上がり、ルビィへと手を差し伸べる。
千歌「さっ、一緒に行こ!」
ルビィ「う、うん!」
ルビィも千歌につられるように立ち上がり、二人は並んで駆け出し始める。
千歌「けどほんと避難設備遠いよね…!もっといっぱい作ってくれればいいのに…!」
ルビィ「ルビィもそう思って、お姉ちゃんに言ったら怒られちゃって…人も物も限られてるんだ、って…」
千歌「ええー…!生徒会長さん厳しいよ…!」
そんな会話をしながらアトラクションの中を二人が駆け抜けていると、二人の前に人影が現れる。
374
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/09(土) 23:59:11 ID:PT4LJ0Lk
千歌(逃げ遅れた人…?ううん、なんか様子が…)
ひょろりとした長身、ミリタリー風の服に身を包んだ金髪の男は千歌とルビィの姿を視界に入れると、口元を歪めて笑みを浮かべる。
「キシシッ…!女がまだ残ってたかあ…!」
ルビィ「千歌ちゃん…この人…」
千歌「ルビィちゃんは私から離れないで…!」
「最近はもう外も歩きづらくなっちまったんだよ…有名になったせいでさあ…!」
男はしゃべりながら上半身をふらりと揺らしながら二人に向き直る。
「変身…!」
ルビィ「ひっ…!」
千歌「やっぱり、怪人…!」
男の体は人のそれから姿を変え、昆虫を思わせるくすんだ緑色のやせた体となる。そしてさらに手首からカマキリの鎌のような鋭利な刃が伸びていた。
375
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 00:08:18 ID:fOkp3fkc
「連続傷害に連続強姦…それで指名手配されちまったキルマンティスって知ってるかなあ…?まあ俺の事なんだけどさあ!」
自分たちの危機に千歌とルビィは他人事のように眺めていたニュースをぼんやりと思い出す。
「ちょっと腱とか斬って抵抗できないようにしたいから、あんまり動かないでくれよ…?腕の一本や二本無くなっちゃうかもしんないからさ!!」
そう叫ぶと怪人は腕を振り上げて二人へと飛び掛かる。
千歌「ひっ…!」
千歌(逃げ、なきゃ…でも、足が…)
怪人の動きがスローモーションのように見える中、千歌は体がすくみその場を動くことができない。
ルビィ「う、ぁ…」
千歌の視界に入ったのは、自分よりも小柄な体をさらに縮まらせて震えるルビィの姿。
千歌(怖い、怖い、怖い…!けど…!)
千歌(私がルビィちゃんの事は守らなきゃ!!)
376
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 00:21:39 ID:fOkp3fkc
千歌「ルビィちゃん走って!!」
千歌は恐怖に固まる自分の体を無理やり動かし、ルビィの手を握って怪人に背を向けて走り出す。
ルビィ「わ…!ち、千歌ちゃ…!」
もつれそうになる足を必死に動かしてルビィは涙をためた瞳で千歌の背中を見つめる。
ルビィ(千歌ちゃんの肩…震えてる…)
千歌も怖い中で必死に自分の手を引いてくれている。ルビィは一瞬だけ強く瞼を閉じると後ろも振り向かずに千歌と一緒に走り出した。
「おいおい本当に面倒くせえなあ…切り刻まなきゃじゃねえかよ…!!」
ゆらりと体を揺らすと怪人は一気に二人との距離を詰めながら体勢を低くし、二人の足目がけて鎌を振り抜く。
千歌「ルビィちゃん!」
千歌はルビィの腕を思い切り引っ張り、二人で地面に飛び込むようにしてそれをかわす。
「ほら頑張って逃げないとなあ!」
無防備になった背中めがけて怪人は大きく笑い声をあげながら鎌を振り下ろそうとする。
ルビィ「ううっ…!」
二人は間髪入れずに跳ね起きて怪人から遠ざかろうと駆け出す。
377
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 00:34:03 ID:fOkp3fkc
「はーあ、なんかつまんねえなあ」
必死で自分から逃れようとする獲物の背中を見ながらぼんやりと怪人はつぶやく。
千歌(大丈夫、大丈夫っ…!絶対にっ…!)
「残念、もう終わりなんだわ」
離れた位置から一気に跳躍して二人の目の前へと躍り出た怪人は腕の鎌を振り上げる。
ルビィ「う、そ…」
千歌「あ…あ…」
「我慢しないで泣き喚いてくれていいからさあ…!!」
怪人の腕は二人へと振り下ろされる。
千歌(お願い…!)
「ショックノート!」
378
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 00:43:09 ID:fOkp3fkc
「ああ…?」
振り下ろす途中、弾き飛ばされたかのように動きを変えた鎌は千歌とルビィを逸れて地面へと突き刺さる。
梨子「千歌ちゃん!」
千歌とルビィをかばうようにしてその場に滑り込んできたのは、薄ピンクのスーツを身に纏った梨子だった。
千歌「梨子ちゃん!」
梨子「遅くなっちゃってごめんね…!」
千歌は怪人から逃げ回っている間に、一回のタップでつながるようにしていた梨子の連絡先へと通話を入れていた。
「今度はヒーローかよ…まじで面倒くせえな…」
梨子(この怪人、きっと戦い慣れてる…私じゃ…)
ヒーローの姿を見てもまるで動揺することのない怪人の様子に梨子は内心に焦りを感じる。
梨子(けど…)
梨子は視線を動かしてちらりと千歌とルビィの事を見る。
梨子(私が二人の事を逃がしてあげないと…!)
379
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 01:00:22 ID:fOkp3fkc
「女が俺の目の前に出てきたってことは分かってるよなあ?」
梨子「っ…!」
鎌を地面から引き抜き、怪人は梨子へと向き直る。
「ヒーローは暴れられると面倒だからなあ…ダルマにしてからブチ込んでやるよ!!」
怪人はそう叫ぶと鎌を振り上げて梨子へと迫る。
梨子「二人とも走って!ショックノート!」
梨子は二人に声をかけると、自身へと迫る鎌へと衝撃波を飛ばしてその軌道をそらす。
「キシシッ…!あがけあがけ!」
怪人は片方の鎌が弾かれるのも気に留めずにもう一方の腕の鎌を振り抜く。
梨子「きゃっ…!」
咄嗟に梨子は後ろへと飛びずさりながら腕で防ぐも、浅く傷を刻まれてしまう。
千歌「梨子ちゃ──」
梨子「私は大丈夫…!」
「よそ見してる暇あんのかあ!?キリングダガー!」
畳みかけるように怪人は腕の湾曲した鎌の形状を直線的な刃物へと変えて梨子へと突き出す。
380
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 01:18:23 ID:fOkp3fkc
梨子「っ…パーカッシブグランド!」
後ろへと下がりながら体勢をかがめ、手の中に作り出した打楽器のマレットのような武器を地面へと打ち下ろす。
「ちいっ…!」
梨子へと迫った怪人の足元の地面が円形に突き上げられるように弾み、怪人は空中へと投げ出される。
梨子「ショックノート!」
「小賢しいんだよ!」
梨子は怪人から距離を取りながら衝撃波を放つも、空中で体勢を立て直した怪人はそれを鎌で両断する。
千歌「はっ…はっ…!」
梨子が時間を稼ぐ中、千歌はルビィの手を引いて懸命に足を動かす。
「ほらちゃんと守ってやれよ!ソニックサイズ!」
着地した怪人は梨子を煽るように叫ぶと走る千歌とルビィの背中めがけて斬撃を放つ。
381
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 01:38:41 ID:fOkp3fkc
梨子「シ、ショックノート!」
梨子は咄嗟に二人と斬撃の間に割って入り、迫る斬撃へと衝撃波を放つ、が。
梨子(ダメ、相殺できない…!)
牽制を目的とした梨子の衝撃はでは相手を傷つけるための技に敵わず、斬撃はその勢いを弱めながらも梨子を襲う。
梨子「きゃあっ!」
斬撃は梨子に直撃、土埃を上げながら梨子は地面へと投げ出されてしまう。
「キシシッ!支援要員にしちゃ頑張った方じゃねえか?もう終わりだけどな!!」
痛みの走る体にむち打ち立ち上がった梨子の眼前には鎌を振り下ろそうとする怪人の姿があった。
梨子「サプルストリングス…!」
梨子と鎌の間に4本のワイヤーが張られ、鎌の勢いを止めようとするも次々と引き裂かれていき、鎌と梨子を隔てる物は無くなる。
梨子(私じゃ…私だけじゃ、誰の事も守ってあげられないの…?)
無力感に唇を噛み、やがて訪れるであろう痛みに体を固まらせながら梨子は思わず目を固く瞑ってしまう。
382
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 01:41:10 ID:fOkp3fkc
今日はここまで、続きを明日更新します
383
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/10(日) 05:05:57 ID:00sbVZ4.
連続更新なんて贅沢させてもらった気分だ
384
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/10(日) 05:47:41 ID:81L/dGEo
また気になるとこで引くなあ
385
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 18:28:37 ID:DF3P8VzE
梨子「……?」
目を固く閉じた梨子はいつまでも訪れない痛みに疑問を感じ、薄く目を開いていく。
「て、めえ…!」
鎌を止めたのは水平に構えられたレイピア、そしてそれを手にするのは白銀の鎧を纏ったヒーロー。
ダイヤ「わたくしが来たからには、妹にも、我が校の生徒にも、これ以上手出しはさせません…!」
梨子「ジ、ジュエル…!」
自身を守った頼もしい背中が視界に入ると、梨子は緊張がほどけその場にへたり込んでしまう。
386
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 18:38:34 ID:DF3P8VzE
ルビィ「──お姉ちゃん!」
ルビィのその声をきっかけに状況は動き始める。
「ジュエルだろうが誰だろうが関係ねえんだよ!!」
レイピアと競り合う鎌はそのままに、怪人は左腕を水平に振り抜き、梨子もろともダイヤを斬り裂こうとする。
「後ろに仲間がいるんじゃ避けらんねえよなあ!」
下卑た叫び声を上げる怪人を一瞬だけ冷ややかに見据えると、ダイヤは鎌ごとレイピアを跳ね上げる。
ダイヤ「はっ!」
それと同時に左足を軸にして体をひねり、右足を大きく振り上げてレイピアに跳ね除けられた怪人の腕に回し蹴りを放つ。
「クソが…!」
回し蹴りと共に体を半回転させて怪人に背を向けたダイヤは、そのまま自身の左側の地面へとレイピアを突き立て、迫る鎌を受け止める。
387
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 18:56:30 ID:DF3P8VzE
ダイヤ「猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」
「がはっ…!」
怪人の足元から突き出した赤茶けた大岩が怪人を空中へと投げ出す。
ダイヤ「はあっ!」
ダイヤは振り返りざまに足裏を怪人へと叩き込み、怪人の体を後方へと吹き飛ばす。
ダイヤ「ハルモニアリリー」
梨子「は、はいっ!」
ダイヤ「よく今まで持ちこたえてくれました…そして、わたくしの妹を守ってくれました──感謝いたします」
ダイヤはレイピアを地面から引き抜きながら梨子へと語り掛ける。
ダイヤ「あとはわたくしが…あなたは二人の事をお願いします」
梨子「分かりました…!」
梨子は痛みの走る体を引きずって千歌とルビィの元へと移動する。
千歌「梨子ちゃん…!大丈夫…!?」
梨子「うん、私は大丈夫…変身もしてたしね」
千歌に笑顔を見せると、梨子は油断せずにダイヤが対峙する怪人へと目を向ける。
388
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 19:00:18 ID:DF3P8VzE
「舐め腐ってんじゃねえぞゴミが!スピニングデッド!」
立ち上がった怪人が両腕を振り抜くと、鎌は腕から離れ、ブーメランのように回転しながらダイヤへと向かう。
ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」
ダイヤがレイピアを掲げるとそこから二筋の炎の鞭が現れ、それぞれが唸りを上げて迫る鎌を迎え撃つ。
「オラァ!」
爆炎と粉塵が舞う中を怪人はダイヤの眼前へと躍り出て、両腕の鎌を振り回す。
ダイヤ「……」
怪人の二本の鎌に対し、ダイヤが振るうのは一振りのレイピア。その手数の差をものともせずに相手の斬撃を全て火花へと変えていく。
「キリングダガー!」
曲線的な斬撃を繰り返していた怪人は突如鎌を直線的な形状へと変化させ、刺突を繰り出す。
ダイヤ「っ…!」
咄嗟にレイピアで相手の刃に添わせるようにしてそれをいなすが、勢いを殺しきれずにダイヤの手からはレイピアが弾き飛ばされる。
389
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 19:04:41 ID:DF3P8VzE
しかし、怪人が勝ち誇っていられたのは一瞬の間だけ。
ダイヤ「ぜえいっ!」
ダイヤは自身の顔を掠めるようにして伸びた怪人の腕を空いた両手で掴み取り、一本背負いの要領で投げ飛ばす。
「なっ…!?」
そして宙に浮いたレイピアを掴み、頭上へと掲げる。
ダイヤ「星の瞬きに消えなさい!スターラピスラズリ!」
ダイヤが放つ無数の光弾に怪人は全身を貫かれ、地面へと倒れ伏せた。
ダイヤ「三人とも、ご無事ですか?」
短く息を吐き出すと、ダイヤは振り返り三人の元へと歩いていく。
(クソが、クソが、クソが…!俺様はまだ…!)
「まだまだこれからも暴れてやんだよおおぉぉ!!」
怪人は倒れこんだまま、両腕の鎌を根元深くまで地面へと突き立てる。
梨子「そんな…まだ…!?」
390
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 19:07:23 ID:DF3P8VzE
「シザーズパニッシャー!!」
怪人の叫びと共に、ダイヤたちの立つ足元からアリジゴクが顔を出すように、巨大なハサミが姿を見せる。
「下が残ってたら使ってやるからさあ!!安心して死ねよ!!」
ルビィ「ひっ…!」
千歌とルビィが身を縮める中、ダイヤは冷静に動く。
ダイヤ「瑕疵なく煌めく我が誇り──ブリリアントダイヤモンド!」
ダイヤが七色の輝きを放つレイピアを振るい、四人を両断しようと迫るハサミは粉々に砕け散る。
「なっ…これでも…」
ダイヤ「……」
目を見開く怪人の元へと、ダイヤは何の感情もうかがえない冷たい表情を顔に張り付けて歩いていく。
391
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 19:07:43 ID:DF3P8VzE
「てめえみたいなクソヒーローに…!」
怪人はよろよろと立ち上がり、自分へと近づくダイヤを憎々しげに睨み付ける。
「くそったれ…俺はまだ好きに暴れてやるんだ…!まだだ…!まだまだ刻み足りねえんだ!まだまだヤり足りね──」
怪人の声は、そこで途切れる。ダイヤは手にしたレイピアを、怪人の肩へとねじ込んでいた。
「あっ、があああぁぁぁ!!!」
ダイヤ「…あなたのような怪人は、痛みをもって知るほかないのでしょう…!」
ダイヤは怪人からレイピアを抜き去り、それを再び構え直す。
「クソが…!死ね…!俺の邪魔をする奴は全部…!」
ダイヤ「…いいでしょう、それが答えだというのなら──汚らわしい声が二度と出ないようその喉笛、掻き切ることとします…!」
──思考が、どす黒く塗りつぶされていく。
「は…?正気か…?おい!や、やめ」
──怪人ハ全テ滅ボシ去ラナケレバナラナイ…!
392
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/10(日) 20:52:19 ID:qTHMUJOw
更新乙です
ダイヤさんの描写が遂に・・・
393
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 21:36:10 ID:DF3P8VzE
もうちょっとだけ更新できそうです
394
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 21:56:55 ID:DF3P8VzE
ルビィ「お姉ちゃん!!」
395
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/10(日) 22:04:59 ID:41kbagI2
本当にちょっとでワラタ
乙です
396
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 22:07:20 ID:DF3P8VzE
ダイヤ「っ…!?」
ルビィの叫び、それが聞こえた途端に霧が晴れていくように思考がクリアになっていく。
ダイヤ(わたくしは…一体…後輩の、ルビィの前で何をしようと…!)
早鐘を打つ心臓、頭が冷えると同時に吹き出した汗を感じながらダイヤは自分を落ち着かせるように深く呼吸をする。
ダイヤ「ふっ…!」
レイピアの柄でみぞおちを打ち、立ちすくんでいた怪人を気絶させると、肩に怪人を担ぎ三人へと話し始める。
ダイヤ「…この怪人はわたくしが連れていきます…三人は避難所へと向かって手当を受けてください」
梨子「は、はい…えっと、その…大丈夫、ですか…?」
ダイヤ「…ええ、やっと頭が冷えました…見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」
ダイヤは一瞬だけルビィへと視線を向け、すぐに目を閉じると三人に背を向けて歩き出す。
ダイヤ(さっきの感覚は…ただ頭に血が上っただけ?それとも…)
397
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 22:18:59 ID:DF3P8VzE
梨子「……」
千歌「……」
ルビィ「……」
梨子(…き、気まずいっ…!)
避難所へと向かう道中、三人はうつむいたまま暗い表情で歩いていた。
梨子「えっと…ルビィちゃん、でよかったかな…?」
ルビィ「あっ、えっと…はい、ルビィ、です…」
沈黙に耐え切れずに切り出した梨子を恐る恐る伺うようにルビィは顔はうつむけたまま視線を向ける。
梨子「あー、えっと…そ、そう!津島善子ちゃんって知ってるよね?同じ一年生の」
ルビィ「う、うん!知ってる…えと、知って、ます…!」
無理に敬語じゃなくていいよ、と梨子はクスリと笑いながら、慌てて言い直したルビィへと言う。
梨子「私、あの子とヒーロー活動してる時に知り合ってね?それでルビィちゃんの事も少し聞いてたから…」
ルビィ「そうなんだ…!善子ちゃん、かっこいいよね…」
梨子「か、かっこいい…かな…?」
善子の奇抜な普段の言動を思い返しながら、梨子は自身とルビィの認識の差に目を白黒させる。
398
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 22:27:45 ID:DF3P8VzE
千歌「善子ちゃん、って前に梨子ちゃんが言ってた子だっけ?どんな子なの?」
梨子「うーん…なんて言ったらいいんだろう…ちょっと変わった子、っていうか…」
ルビィ「堕天使さん、って言ってるよね?変身した時も黒いし…」
千歌「だ、堕天使…?ど、どゆこと…?」
頭にハテナを浮かべている千歌を見ながら、善子がヒーローであることを隠したがっていたことを梨子は思い出す。
梨子(…まあいいいかな?ノーカンってことで…)
千歌「あ、避難所!やっと着いたあ…!」
しばらく歩くと、ようやく遊園地内の避難所へと三人はたどり着いた。
梨子(そういえば怪人とは会っちゃったけど、怪獣は全然見なかった…どうしてだろう?)
ルビィ「梨子ちゃん?」
歩く途中で頭に浮かんだ疑問に梨子が考え込むと、ルビィが顔を覗き込んで声をかける。
千歌「どうかしたの?やっぱり怪我した所、痛い…?」
梨子「あっ、ううん、ちょっと考え事してただけだから大丈夫!それじゃあ入ろっか」
そう言って三人は避難所の入り口の前へと歩いていく。
399
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 22:35:17 ID:DF3P8VzE
「避難所への怪人の侵入を防ぐため、緊急時に申し訳ありませんが身分を証明するものの提示をお願いできますでしょうか?」
梨子「あ、えっと、ヒーローシステムでも大丈夫ですか?ハルモニアリリーっていうヒーローネームなんですが…」
「少々お待ちください──ありがとうございます、確認取れました…奥で救護班が怪我人の手当てを行っていますのでそちらへ」
梨子「ありがとうございます」
入り口をくぐり、三人は説明された救護班のいる奥へと歩いていく。
千歌「それにしても、ルビィちゃんが生徒会長さんの妹って聞いてびっくりしたよー!ほら、全然雰囲気違う、し…」
話すうちに先ほどの事を思い出し、千歌の言葉は尻すぼみになってしまう。
梨子「…ほ、ほら、やっぱりルビィちゃんが危ない目に遭ってたから、それで怒ったんじゃ、ないかな…?」
フォローをするようにそう言った梨子の言葉を聞いてもまだ悲しそうに目を伏せていたルビィだったが、ポツリポツリと話し始める。
ルビィ「けどお姉ちゃん、普段はあんなじゃなくって…」
400
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 22:42:27 ID:DF3P8VzE
ルビィ「ルビィ、いっつもダメダメだから、お姉ちゃんに叱られてばっかりで…けど、それでも、本当は優しいお姉ちゃんで…」
千歌「……」
梨子「……」
辛そうな表情を浮かべるルビィの話を聞き、千歌と梨子はお互いに眉をハの字に下げて顔を見合わせる。
梨子「…やっぱり、怪人の事になるとあんな風に?」
ルビィ「うん…変身するといっつも怖くなっちゃって…」
そう答えて一瞬だけ口を閉ざすと、顔を上げて再び話し出す。
ルビィ「お姉ちゃんが強いヒーローなのは、かっこいいし、うれしいけど…あんなふうに怖くなっちゃうのは…」
千歌「複雑、だよね…何か理由があるのかなあ?例えば、友達が怪我させられちゃった、とか…」
401
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 22:47:51 ID:DF3P8VzE
ルビィ「それが、ルビィも分かんなくって…」
梨子「ルビィちゃんも分かんないんだとお手上げ、だよね…」
千歌「うーん、果南ちゃんなら何か知らないかなあ…」
三人で頭を捻っていると、パタパタと近づいてきた薄緑色のスーツを身に纏ったヒーローが声をかけてくる。
「お、お待たせしました…!えっと、怪我をしている人は…」
千歌「あっ、梨子ちゃん…!この子が怪我をしちゃって…」
梨子「わ、私はそんな大きい怪我じゃないから…千歌ちゃん達も怪我してるでしょ?」
「わわっ、大丈夫ですよ、三人ともちゃんと診ますね…!」
ヒーローはふわふわとした茶髪を揺らしながら慌てたように三人の怪我の具合を確認していく。
「…うん、三人とも大きい怪我じゃなさそうなので、すぐ治りますよ」
そう言って手の中に三つ、白い塊を作り出す。
402
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 22:54:29 ID:DF3P8VzE
「ちょっと嫌かもなんですけど…これを食べてくれればもう大丈夫ですっ」
一人ずつその塊を手渡しながらふわりと笑顔を向ける。
千歌「わあ!ありがとうございます!」
そう言って千歌はぱくりとそれを口に入れて飲み込む。
千歌「おお?わ、なんか体がぽかぽかしてきた!」
「えっと、このあとでちょっぴりだけ疲れが出るかもしれないんですが、怪我を治す副作用みたいなものなので、心配しなくて大丈夫です…!」
そうヒーローが話していると、後ろから誰かを探すような声が聞こえてくる。
「わわっ、他の人の所にもいかなくちゃ…!えっと、お大事にしてください…!」
梨子「あ、ありがとうございます…!」
パタパタと駆けていくヒーローに三人はぺこりと頭を下げる。
403
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 22:55:10 ID:DF3P8VzE
千歌「さっきの人もヒーローなの?」
梨子「うん、ヒーローって言っても戦う人だけじゃなくって、あんな風に治療専門のヒーローもいるの」
現に私も支援要員だしね、と梨子は少し自嘲気味に言葉をつなぐ。
ルビィ「さっきの人、この辺だと結構活躍してるヒーローだったよね?」
梨子「確か、多人数を一度に治療できるのが重宝されてるみたいで…」
ルビィ「えっと、ライスシャワーっていうヒーローだった、かなあ…?」
千歌「おお、ルビィちゃんヒーロー詳しいんだねえ」
ルビィ「えへへ…ヒーローってやっぱり、あこがれるから…」
梨子「──私も、戦えたら…」
ルビィの言葉を聞いて梨子はうつむき、小さくそう零す。
404
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 22:55:33 ID:DF3P8VzE
千歌「私もルビィちゃんも、梨子ちゃんが助けてくれた!」
千歌はうつむいた梨子の手を握り、明るい笑顔で梨子に言葉を投げかける。
梨子「千歌ちゃん…」
千歌「最後に怪人を倒して助けてくれたのは生徒会長さんだけど、梨子ちゃんが来てくれなかったら私達、今ここにいないんだよ?」
ルビィ「うん…!梨子ちゃんが来てくれた時、ルビィすっごく安心したもん!」
千歌の言葉にルビィも力強くうなずいて見せる。
千歌「だから梨子ちゃんは、そんな下向かなくていいんだよ!だって、私達を助けてくれたヒーローなんだもん!」
梨子「…ふふっ、ありがと、千歌ちゃん!」
千歌の言葉に救われたように胸が軽くなった梨子は二人に笑顔を向ける。
梨子(うん、私は、今の私にできる事を探すんだ…!)
405
:
◆JaenRCKSyA
:2018/06/10(日) 23:07:15 ID:DF3P8VzE
今日はここまで
406
:
名無しさん@転載は禁止
:2018/06/10(日) 23:11:28 ID:81L/dGEo
乙
ポーションおにぎり欲しい
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