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海未「私が悪の組織の怪人に!?」

1 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 17:20:49 ID:.NYd9Kao
海未「くっ、もう追いつかれてしまうのですか…!」

なぜこんなことになってしまったのか、と海未は自問する。

「おまたせ、魔法戦士ホムラだよ!」

「キャプテンアンカー、到着であります!」

「瞳に翠玉、髪に黒曜!胸に秘めるは――」

海未(ええ、そんな自己紹介をされずとも当然知っています…私たちの暮らしを守るヒーローですから)

海未(昨日まではあの姿をテレビの中に見ていたはずなのに、どうして私は)

海未(怪人として相対しているのでしょうか?)

海未「ああもう!考えていても始まりません!とにかく生き延びさせてもらいます!」

海未(とは言っても、本当にどうしてこんなことになってしまったのか…朝はいつもの日常だったというのに…)

144 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 00:49:27 ID:5RsMlP.o
「ウキッ!」

ダイヤ「猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」

槍を持った猿が迫るのも意に介さずにレイピアを地に突き立てると、かかと落としを食らわせた猿の真下から岩が突き出してその体を真上に吹き飛ばす。

ダイヤ「はっ!」

そしてレイピアから手を離し、一歩分だけその場から飛びのいて刺突をかわすと、突き出された槍の柄をつかみ取り、猿の体ごとそれを振りかぶり宙に投げ出す。

ダイヤ「終わりです!」

その猿が投げ出された先にはもう一匹の猿。体が重なるようにして宙に浮いた二匹の猿をダイヤは地から瞬時に抜き去ったレイピアでまとめて串刺しにする。

その体が黒い粒子に消えてゆくのを見てダイヤはふうっ、と息を吐き出す。

ダイヤ「こんなものに構ってはいられません」

吐き捨てるように言ってその教室を後にしようとしたダイヤの耳元に声が響く。

鞠莉『ダイヤ!聞こえるかしら?』

ダイヤ「鞠莉さん…一体いつ私のシステムに通信機能を?」

鞠莉『気にしない気にしない!…ってそんな場合じゃなくて、今連絡が入って逃した怪獣のうち、飛行型がこちらに向かってるそうだから迎撃をお願いしたいの!』

ダイヤ「飛行型、ならば屋上ですね…分かりました、すぐに迎え撃ちます!」

145 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 00:55:12 ID:5RsMlP.o
鞠莉『お願いね!』

鞠莉のその声を残して耳元でブツリと音がするのを聞き、ダイヤは教室から飛び出す。
そして廊下を走り抜けていくと前方から二匹の狼のような怪獣が向かってくるのが目に入る。

ダイヤ「邪魔!」

すれ違いざまに素早くレイピアを二閃して怪獣を一瞬のうちに葬り去る。ダイヤは振り返りもせずに駆け抜けて屋上へ続く廊下を急ぐ。

ダイヤ(思っていたよりも数が多い…!飛行型までが侵入したら本格的に収拾がつかなくなってしまう…!)

階段を駆け上がり、屋上につながる扉を開けてダイヤは屋上の中央にまで足を進める。

ダイヤ「どこから現れ――!?」

ダイヤは肌を刺すような感覚に襲われ、とっさにレイピアを自身の頭の上に構える。

ダイヤ「ぐっ…!」

上空から浴びせられたのは円錐形をしたいくつもの針。突きに主眼を置いた細いレイピアでは全てを防ぐことはできず、針はダイヤの体に突き刺さる。

ダイヤが空を見上げると、目に入ったのは大きく羽ばたく鳥の翼。しかし頭から体までは鳥のそれであったが、本来尾羽の生えているはずの部分には蜂の腹部がつながっていた。

146 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:01:30 ID:5RsMlP.o
ダイヤ「また醜悪な…」

その身に負った傷はそう大きくないと判断し、怪獣の姿を視界に入れるとダイヤは眉間にしわを寄せ、レイピアを構えなおす。

怪獣が甲高く鳴き声をあげて左右の翼を大きく一振りすると、その翼から羽根が弾丸のように撃ち出される。

ダイヤ「星の瞬きに散りなさい!スターラピスラズリ!」

ダイヤはレイピアを高く掲げ、白い光弾を撃ち出す。相殺できないものは身に当たるに任せて怪獣を仕留めることのみを考える。

ダイヤ「このちょこまかとっ…!」

光弾で怪獣の姿を追うも、相手は空を自在に飛び回りそれをかわす。そして光弾がそれた隙をついて怪獣は膨らんだ腹部をダイヤに向けて針を発射する。

ダイヤ「くっ…!猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」

掲げていたレイピアを地面に突き下ろすと、ダイヤの身を隠すようにして茶色の大岩が突き出す。

針の射出が終わると同時にダイヤは岩の影から躍り出てレイピアを振るう。

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

レイピアから放たれた炎の触手は怪獣を焼き尽くそうと迫る。

147 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:05:35 ID:5RsMlP.o
怪獣が自身に迫る炎に向かって翼を羽ばたかせるとそこから暴風が吹き荒れ、炎は透明なハンマーで殴られたように形を崩す。

ダイヤ「ならば…これでどうです!」

ダイヤがタクトのようにレイピアを振るうとまっすぐに伸びていた炎は根元から裂けて二股となる。

ダイヤ「はああっ!」

二筋の炎は蛇のようにその身をくねらせながら、怪獣に巻きつくようにして迫る。

しかし怪獣は甲高い鳴き声をあげると、自身の背面から振り下ろすように大きく翼をはためかせて放射状に暴風を吹かせて炎をかき消す。
そして腹部をダイヤの方へと突き出して体を震わせると、ひときわ巨大な針をダイヤめがけて発射する。

ダイヤ(発動が間に合わない…!)

ダイヤは眼前に迫る針を見据えながら腰を低く落としてレイピアを構える。

ダイヤ「ぜええぇい!!」

声をあげながらダイヤは腕に重さを感じながら渾身の力でレイピアを振り抜く。針は打ち返されて屋上の柵を破りながら消える。

148 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:08:48 ID:5RsMlP.o
ダイヤ「このままではジリ貧…気は進みませんが覚悟を決める必要がありますわね…」

ダイヤはレイピアを目の前に垂直に構えてぎゅっと一瞬目を瞑る。

ダイヤ「吹き荒ぶは翠の薫風!ウィンディエメラルド!」

ダイヤの周囲に風が舞い踊り、その体をふわりと宙に浮かび上がらせる。

ダイヤ「本来このような使い方ではないのですけれど…仕方がありませんわ」

怪獣と同じ高さにまで飛び上がり、ダイヤはレイピアを構える。

ダイヤ「さあ、かかってきなさい!」

怪獣は一度大きく翼を羽ばたかせると、鋭くとがった嘴を真っすぐに向けてダイヤへと飛び掛かる。

ダイヤ「ふっ!」

それをダイヤは宙返りをするかのように舞い上がってかわし、無防備となった怪獣の背中めがけてレイピアを突き出す。

しかしその刺突には体重を乗せることもできなかったためえぐった肉は浅く、傷を意に介さずに怪獣はそのまま飛び去って行き十分に距離を取ったところで向き直る。

149 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:12:23 ID:5RsMlP.o
ダイヤを再び視界へと入れた怪獣は即座にその場で翼を振り、無数の鋭利な羽根を撃ち出す。

ダイヤ「くっ…!」

ダイヤは宙を飛び回りながらそれをかわしていくが、一瞬ぐらりと体勢が崩れ、そこを羽根の弾丸は次々と打ち抜いていく。

ダイヤ(やはり空中での戦いは不利…!)

傷を負い落下を始める体をなんとか風で立て直し、自分の上空を羽ばたく怪獣を睨み付ける。

ダイヤ(風を飛行だけに使っているようでは勝機はありませんわね…)

短く息を吸い込んでダイヤは自身を包む風の勢いを強め、一気に怪獣の上まで飛び上がる。

怪獣はダイヤのその動きをとらえると、その場に滞空しながら蜂の腹部を上に向けていくつもの針をダイヤへと撃ち込んでいく。

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

ダイヤはレイピアを躍らせて炎の鞭を作り出し迫る針を灰へと変えていく。しかし炎を繰り出した瞬間、ダイヤを取り巻いていた風は消えて体は自由落下を始める。

150 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:20:47 ID:5RsMlP.o
ダイヤ「吹き荒ぶは翠の薫風!ウィンディエメラルド!」

針を全て焼き尽くし、自身の落下するスピードが加速していく中でレイピアを振るい再び風によって飛翔を始める。

その時にはすでに怪獣よりも低い位置まで落下しており、逆さにした放物線を描くようにして怪獣の懐にまで飛び込んでいく。

ダイヤ「はあっ!」

真下から突き上げるようにレイピアを繰り出し怪獣の体を串刺しにしようとする。炎によってダイヤの姿を見失った怪獣はかわすことも叶わず、その肉を削られる。

ダイヤ「ふっ!」

刺突の勢いのままに怪獣よりも高い位置にまで飛び上がったダイヤに向かって、甲高い鳴き声をあげながら翼を羽ばたかせて怪獣は羽根の弾丸を撃ち出そうとする。

ダイヤ「星の瞬きに散りなさい!スターラピスラズリ!」

しかしダイヤはそれよりも早くレイピアを掲げて純白の光弾を怪獣の体へと叩き込んでいく。

ダイヤ「吹き荒ぶは翠の薫風!ウィンディエメラルド!」

怪獣へと光弾が着弾した瞬間にダイヤは風を生み出して落下を始めていた自身の体をさらに加速させていく。

ダイヤ「これで終わりです!!」

レイピアを真っすぐに構え流星のように飛び出したダイヤは、光弾のダメージにひるんだ怪獣の体に風を纏わせたレイピアを突き入れ風穴を開ける。

151 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:22:43 ID:5RsMlP.o
ダイヤ「ふう…」

身を翻し、屋上の床へと着地したダイヤは黒い粒子になって消えていく怪獣を見つめながら息を吐き出す。

ダイヤ「――飛行型の姿はもう見えないようですわね…校舎内の掃除に戻りましょうか」

空をぐるりと見渡して、怪獣の影がないと分かるとダイヤはそう呟いて屋上の柵へと駆け寄り、ひらりと飛び越えて校舎壁面の窓から校舎へと入っていった。

152 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:24:43 ID:5RsMlP.o
ここまで
戦闘いちいち長すぎて話が進まないナア…

153名無しさん@転載は禁止:2017/09/22(金) 19:51:09 ID:l.8doYIw

戦闘も楽しく読ませてもらってるよ
何より定期的に投下してくれるのが嬉しい

154名無しさん@転載は禁止:2017/09/23(土) 00:15:51 ID:sF4.xycM
更新おつー
戦闘描写読み応えあって好きよ

155 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 18:40:15 ID:9Syix17E
曜「ふっ!せいっ!」

曜は梨子と別れてから、遭遇する小型の怪獣を次々と手にした銛で貫いて葬り去りながら廊下を駆け抜けていた。

曜「やっぱり結構多いなあ…避難はちゃんとできてるみたいだからいい、け、どっ!」

大きく踏み込んで鎌首をもたげたコブラのような怪獣の口に銛をねじ込みながら足裏でブレーキをかける。

曜「おっきい奴ってほんとにいるのかな?生徒会長さんが実はもう全部倒してたり――」

そう独り言ちると、曜は静まり返った校舎の中に響く軽快に何かを打ち鳴らすような音を感じ取る。

曜「?なんだろこのパカパカって音…どっかで聞いたことあるような…」

首をひねっていると、その音はどんどんと大きくなっていき、ついにそれを発生させているモノが曜の視界へと入り込んでくる。

曜「げっ…!梨子ちゃんが言ってたのの一匹があれ…!?」

曜の耳に響いて来ていたのは蹄が廊下の床を叩く音。廊下を曜に向かって疾走してくるのは、馬の脚に熊の上半身、そしてその毛むくじゃらの腕につながっているのは手ではなく蟹かザリガニのような甲殻類の巨大なハサミであった。

曜「こっわ!っていうか速いし!」

156 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 18:48:32 ID:9Syix17E
異様な姿で疾走してくる怪獣に曜は身震いしたが、銛を構え直して怪獣に向かって走りこんでいく。

曜「全速前進…ヨーソロー!!」

すれ違いざまに銛を渾身の力で突き出して怪獣の体を貫こうとするも、硬い殻に覆われたハサミで打ち払われてしまう。

曜「硬っ!…けどっ!」

曜は即座に身を翻して反転、自分の真横を駆け抜けて背を向けている怪獣を追うようにして足を踏み出す。

数歩で一気に加速、そして体が開くほどに銛を振り上げて半身になりながら足を進める。

曜「タイダルハープーン!!」

最後の一歩を踏み込むと同時に曜の手から放たれた銛は水流をほとばしらせながら怪獣へと迫る。

「グルオォ!」

蹄を鳴らしながら曜へと向き直った怪獣は喉を唸らせて腕にあるハサミを銛めがけて振るう。しかし怪獣の剛力をもってしても跳ね除けることはできず、怪獣は後方へと吹き飛ばされる。

157 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 18:58:46 ID:9Syix17E
曜「これでやっとダメージって厳しいなあ…」

吹き飛ばされながらも転倒することなく再び曜に向き合う怪獣の姿を見て曜は零す。

曜「ま、絶対負けないけどね」

あどけなさすら残る顔に勝気な笑顔を浮かべて曜は手の中に銛を作り出す。

「グルル…!」

怪獣は低く喉を鳴らすと廊下を走り始める。

曜「ワンパターンは嫌いじゃないよ!」

迫ってくる怪獣を睨みつけながら曜は動かずに体勢を低くして待ち構える。そして怪獣がハサミを大きく開いてそれを振り抜こうとするのに合わせ、高く跳躍する。

曜「ぜえいっ!」

体をひねるように空中で180度反転し、曜は真下をくぐり抜けていく怪獣の背に向かって銛を突き出したが、銛と怪獣の間に現れたのはムチのようにしなる尾。そしてその先端にはナイフのような刃がつながっており、銛の一撃をはじき返す。

曜「ええっそんなのあり!?」

158 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:06:13 ID:9Syix17E
跳ね除けられた銛を握りしめて着地すると、怪獣は曜に背を向けたまま廊下を走り去っていくところであった。

曜「やばっ…!逃がさないよ!」

慌てて曜はその後ろ姿を追って走り出すも馬の脚力には及ばず、みるみる内に距離が開いていってしまう。

曜「そりゃやっぱ速いよね…!けど私だって…!」

そう言って手首に巻きつけたブレスレットの操舵輪を弾いて回転させると、曜のアーマーの背部からバーニアが展開、そしてそこからの噴射の勢いを利用して一気に加速していき怪獣と並走を始める。

曜「いっくよ…!」

曜は真横を疾走する怪獣の体めがけて鋭く銛を突き出す。その先端は一瞬のうちに三筋の軌道を描く。

「グルァ!」

それに対し怪獣はハサミと尾を使って防ぐも、最後の一撃はいなしきれずにその体に傷が刻まれる。

しかしその傷は浅く、何もなかったかのように走り続けながら曜の背後から尾に付いた刃で斬り裂こうとする。

曜「よっと!」

背後に迫る気配を感じた曜はバーニアを止め、瞬時にヘッドスライディングのように床に滑り込んでそれをかわす。そして床についた手で体を跳ね上げて再びバーニアを点火、怪獣の真横について走る。

159 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:13:39 ID:9Syix17E
怪獣と駆け抜ける曜の視界に入ったのは廊下の曲がり角、それを見て曜は作戦を立てる。

曜「よーし…!全速、前進!」

バーニアの勢いを強めて怪獣を追い越し、曲がり角の所で曜は反転して怪獣に向き直る。
そして手にした銛はアーマーへと取り付け、新たに手の中に作り出したのは自身の体と同じくらいはあろうかという巨大な錨。

曜「面舵いっぱーい!!」

怪獣が曲がり角に差し掛かるタイミングで、曜は手にした巨大な錨を水平に振り抜く。が、怪獣は蹄の音を高らかに上げて跳躍、その一撃を難なく飛び越えて行ってしまう。

曜「うそっ!自信あったのに!」

再び遠ざかってしまった怪獣の背中越しに、こちらに目を向けながら青い顔で固まっている生徒の姿を曜は目撃する。

曜「――っ!!」

即座にバーニアを点火させて加速、生徒に狙いを定めてハサミを構える怪獣の背を追いかける。

160 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:23:43 ID:9Syix17E
曜「させるかああぁぁ!!」

怪獣に迫りながら曜はその左手に持った銛を投擲するが、まるで怪獣には当たらず、怪獣と生徒の間の床に突き刺さる。

右手に錨を構えた曜は一気に怪獣を追い越して生徒の目の前――銛が突き刺さった場所にまで躍り出る。

「グルアァ!!」

曜を引き裂こうと大きく開いたハサミを振り上げて怪獣は突進する。

曜「ぜええぇい!!」

閉じられようとしたハサミに錨をねじ込んでその動きを止めるが、怪獣の巨体による突進の勢いは衰えていない。

曜「ぐうぅ…!」

曜は真後ろの床に突き刺さった銛の先端に足裏を叩きつけて踏ん張り、さらにバーニアを点火させて怪獣と競り合う。

曜「早く逃げて!!」

曜が振り返らずに自らの背後にいる生徒に声を投げかけると、先ほどまで放心していた生徒は弾かれたように立ち上がり近くの教室の中へと逃げ込む。

161 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:27:59 ID:9Syix17E
「グルル…!」

蹄を鳴らしながら曜を押し切ろうとしていた怪獣は自身の尾を躍らせて曜を狙おうとする。

曜「ネイヴァルファイア…!」

曜が全身に力を込めたままそう声を発すると、曜の身に纏ったアーマーの両肩、そして腰の部分から計四門の砲塔が現れて怪獣へと向く。

曜「撃ち方――始めっ!!」

曜のその掛け声とともに四門の大砲は一斉に火を噴く。その砲撃によって怪獣は吹き飛ばされて辺りには煙が立ち込める。

曜(これで倒せるとは思ってないけど――っ!)

目の前の煙が乱れるのを見て曜は瞬時に錨を地に落とし、さらに背後に埋まっている銛を後ろ手に引き抜き自身の前で勢いよく回転させ始める。

煙の中から現れたのは怪獣の尾の先端につながっていた刃、それと同じものがいくつも煙を突き破って曜を貫こうと飛んでくる。

曜「よっと!」

しかし曜が振り回し唸りをあげる銛によってその全てが撃ち落とされる。

162 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:32:13 ID:9Syix17E
曜「っ!」

刃の弾丸が止んだ瞬間に煙をかき乱しながら怪獣の巨体が躍り出てハサミを振り上げる。その体はところどころの肉がえぐれ、そこから黒い霧が漏れ出していた。

曜「はあっ!」

床に落とした錨を拾い上げ、その勢いのまま真下からハサミを打ち上げる。さらに無防備になった怪獣の太い腕めがけて銛を突き入れる。

「ガアアァ!!」

曜「ラミングアンカー!!」

腕に傷を負い雄叫びをあげる怪獣めがけて曜が錨を構えるとその先端の形状が鋭く尖っていく。そしてバーニアで加速していき、そのままの勢いで怪獣の体に風穴をあけ貫く。

曜「なん、とか…勝てたあ…」

晴れていく黒い霧に包まれながら曜は手にした武器を消して背伸びをする。

曜「校舎の中だいぶ走り回ったけど新しい怪獣は見当たらなかったし、そろそろ打ち止めって感じかな?」

そう言って緊張を解いたようにきょろきょろとあたりを見回す曜の耳に、窓の外から轟音が飛び込んでくる。

曜「何今の!?外…校庭の方…!?」

音の聞こえた方の窓を開け放ち、曜は校庭へと飛び出していった。

163名無しさん@転載は禁止:2017/10/01(日) 22:18:56 ID:4ZUhnZoc
おつおつ

164名無しさん@転載は禁止:2017/10/11(水) 23:39:51 ID:65jqRgrU
待ってる

165名無しさん@転載は禁止:2017/10/12(木) 16:30:54 ID:k2YaNFME
あたしも待ってるわよ

166名無しさん@転載は禁止:2017/10/12(木) 18:42:39 ID:FpsDQrWg
おいどんも待ってるでごわす

167 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 18:23:15 ID:7FybnJKI
校庭に降り立った曜の視界に入ったのは巨大なトカゲのような怪獣と、それと対峙する白銀の鎧を身に着けたヒーローの姿だった。

曜「生徒会長さん…!」

曜がダイヤに加勢しようと駆け寄ろうとすると、怪獣は身体を震わせて大口を開きその中から勢いよく舌を吐き出す。

ダイヤ「くっ!」

ダイヤがそれをレイピアで打ち払おうとするも、まるで意思を持っているかのように軌道を変えてダイヤの背中を狙う。

曜「こっの!」

それを見た曜は飛び出していき、ダイヤを狙う舌を蹴り上げて軌道をそらす。

ダイヤ「キャプテンアンカー!お力添え、感謝します!」

怪獣から目を離さずにダイヤは曜へと声をかける。

曜「うわあまた変な見た目の…」

曜はダイヤと並び立ち、改めて怪獣の姿を眺めると、一見した時のトカゲのイメージからは離れた見た目であることを感じる。

大部分は爬虫類染みた姿かたちではあるが、その背には剣竜のような背板が並び、眼球は異様に肥大して眼窩から大きく露出している。そして尾は二股に分かれて先端には牙をむいた口が開いていた。

168 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 18:45:54 ID:7FybnJKI
ダイヤ「来ますわよ!」

曜「はい!」

ダイヤがレイピアを、曜が銛をそれぞれ構えるのと同時に怪獣は背中に生えた背板をミサイルのように撃ち出す。

曜「ほんとなんでもありだよねっ…!」

ダイヤ「吹き荒ぶは翠の薫風!ウィンディエメラルド!」

曜は自身を追うように飛ぶ弾丸から逃げるように走り出し、ダイヤは自らの周囲に風を躍らせる。

曜「ううっ、便利でうらやましいよ…!」

ぼやきつつ校庭を駆け抜けながら曜は銛を振り回して自身に迫る弾丸を撃ち落としていく。それに対しダイヤは周囲に逆巻く風によって攻撃を寄せ付けない。

ダイヤ「はっ!」

曜「やああっ!」

弾丸の雨が止むと同時にダイヤは暴風を、曜は手にした銛を怪獣に叩き込もうとする。

怪獣はダイヤの方に首を向けて大口を開き灰色のドロドロとした液体を吐き出すと、その吐き出した液体はみるみる固まっていき怪獣の目の前にそびえたつ壁となり風を遮る。さらに二股に分かれた尾につながった口で曜の銛をがっちりと咥え込みその動きを止める。

ダイヤ「んなっ!?」

曜「うわっ…!」

169 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 19:02:04 ID:7FybnJKI
ダイヤ「ふっ!」

ダイヤは怪獣との間を隔てる壁を駆け上り、そこから落下の勢いを使って怪獣へレイピアを突き立てようとする。

曜「おおおりゃあああ!!」

銛に噛みついていた口を離してその場から移動しようとした怪獣の尾に曜は手を伸ばしてしっかりと握りしめる。そして逃げようとした怪獣の体を渾身の力でダイヤの着地地点へと押し戻す。

ダイヤ「はああっ!」

怪獣は身体をよじりレイピアの直下から離れようとするも逃れられず、足の一本をレイピアによって貫かれる。

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

さらにダイヤはレイピアを引き抜くと同時に炎の鞭を生み出し、怪獣を焼き尽くそうとする。

曜「うわ危なっ…!」

自分を巻き込みかねない炎の勢いに曜は慌てて怪獣から離れていく。しかし、怪獣は口から灰色の液体を吐き出すことでその炎を遮る。

170 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 19:10:46 ID:7FybnJKI
曜「タイダルハープーン!」

曜は怪獣のそばから飛びずさりながら銛を振り上げ、頭をダイヤの方へと向けている怪獣へと投擲する。

それを察知した怪獣はその巨体に見合わない俊敏さでその場から跳躍する。曜の手から放たれた銛は怪獣の腹をかすめながら飛び去って行く。

曜「これもよけるんだ…!」

重量感のあるズシリという音と共に地面に着地、そして大きく露出した左右の眼球をぎょろりと動かし、それぞれでダイヤと曜を見据える。

ダイヤ「何を…」

すると眼球が毒々しい紫色に輝き、そこから二人めがけてまっすぐに光線が放たれる。

曜「やっば!」

ダイヤ「猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」

曜は巨大な錨を、ダイヤは目の前に茶色の岩を作り出すことでそれを防ごうとする。

曜「っぐうう…!」

ダイヤ「かはっ…!」

しかし曜の振るった錨は一瞬の拮抗の後に跳ね飛ばされ、光線は曜の左肩を貫く。さらにダイヤの作り出した大岩をも貫通し、ダイヤの脇腹を抉る。

171 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 19:24:38 ID:7FybnJKI
曜「ぜええぇい!!」

曜は後ろに吹き飛ばされながらも肩の痛みをこらえて錨を怪獣へと投げ込む。目をぐるりとそちらへ向けると、口を大きく広げて灰色の液体を吐き出し始める。

ダイヤ「星の瞬きに散りなさい!スターラピスラズリ!」

その瞬間、ダイヤは脇腹を押さえながらレイピアを高く掲げて純白の光弾を発射する。怪獣は固まっていく液体で錨を防ぐことには成功するが、ダイヤの放った弾丸を体に受けていく。

ダイヤ「これでどうです…!」

ダイヤの攻撃によって煙が立ち込めた校庭で二人は立ち上がり、怪獣のいた位置を油断せずに睨み付ける。

そして煙が晴れるとそこに怪獣の姿はなく、校庭の砂地が広がっているだけであった。

曜「あっけないけど…終わったの…?」

ダイヤ「動いた気配も無かった…しかしあの程度で…」

周囲を見回しても怪獣の姿はどこにも見当たらず、拍子抜けだと感じつつも二人は武器を下ろす。

172 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 00:24:34 ID:.byO1VKM
ダイヤ「がはっ…!」

曜「ジュエルさん!?」

緊張を解いた瞬間、ダイヤは真後ろから巨大な腕に殴りつけられたかのように前へと吹き飛ばされる。

曜「一体――ごぼっ…!」

周囲を警戒しながらダイヤに駆け寄ろうとした曜は何かに脇腹をしたたかに打ち据えられて校庭へと転がる。

曜(今のは――鞭?尻尾?)

ダイヤ「なるほど、思い違いをしていたようですわね――トカゲではなく、カメレオン…!」

曜「カメレオン…?じゃあさっきのって…」

ダイヤ「ええ、姑息にも姿を隠しての奇襲…!」

完全に周囲の景色と同化した目に見えない敵とどう戦えばいいのか、まるで突破口を思いつかない二人を尻目に怪獣は攻撃を仕掛け始める。

173 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 00:38:53 ID:.byO1VKM
風を切る音が聞こえたかと思うと、ダイヤと曜の足元の地面が次々と炸裂していく。

曜「う、わっ!」

ダイヤ「くっ!」

二人はその場から飛びのくも、それを追いかけるように目に見えない攻撃は続いていく。

ダイヤ(地面が爆発しているように見えても、これはおそらく飛び道具によるもの…それならばっ…!)

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

ダイヤはレイピアを振るい二筋の炎を作り出すと、その炎を鞭のように周囲へと躍らせて降り注ぐ弾丸を焼き払っていく。

曜「どこにいるか分からないんだったら…!ネイヴァルファイア!」

曜の両肩と腰から砲塔が突き出し、それと同時に曜はダイヤの近くへと跳躍する。

曜「撃ち方、始め!!」

砲口が火を噴き始めるとともに曜は体の向きを変えていき、校庭のほぼ全域を掃射していく。

174 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 00:47:13 ID:.byO1VKM
曜「いぶりだしたっ!」

砲撃を放つ中で一か所、空中で爆発が起きた地点があるのを見つけた二人は自身の武器を手にそこへと飛び込んでいく。

曜「やああぁ!!」

ダイヤ「はああぁ!!」

曜は銛を、ダイヤはレイピアを、怪獣のいるはずの場所めがけて力の限りに突き出す。しかしその攻撃は途中で何か硬いものに食い込んだかのように止められてしまう。

曜「これ…また尻尾が…!」

曜は一度銛による攻撃を尻尾の先に開いた口によって阻まれており、その時と同じ感触を感じていた。

そして二人の目の前で二か所、毒々しい紫色の光が輝き出す。

ダイヤ「がはっ…!」

曜「ぐ、あ…!」

そこからまっすぐに放たれた光線に撃ち抜かれ、二人は勢いよく地面へと投げ出されてしまう。

175 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 00:59:47 ID:.byO1VKM
曜「きっつ…!」

ダイヤ「姿が見えないというだけでこれほど…!」

自らの武器を支えに体を起こし、一見すると何もないように見える校庭を二人は睨み付ける。しかし、見えない敵へ有効な手段がいまだ見つからず、立ち尽くすしかない。

『ジュエルさん!キャプテンアンカー!』

その時、二人の耳元で声が響く。

曜「この声…梨子ちゃん…?」

梨子『ヒーロー、ハルモニアリリーです!今、直接二人の耳元に音を届けています』

ダイヤ「ハルモニアリリー…我が校に在籍するヒーローでしたね?こちらの声が届いているかはわかりませんが、校内の状況はどうなっていますか?」

梨子『校内の怪獣は全て撃退、残るは校庭のその一体だけになります』

曜「あと一体だけ…!けど、その怪獣の姿が見えなくて大変なんだよね…」

梨子『それも大丈夫、今から助っ人がそっちに行くのでその子が今の状況をなんとかできます!』

ダイヤ「助っ人…?それはいったい…」

二人が疑問に思ったその時、突如として校舎の方から大きな声が響く。

「ヨハネ、降臨!!」

176 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 01:00:56 ID:.byO1VKM
お待たせしました…
今日はここまで

177名無しさん@転載は禁止:2017/10/15(日) 02:10:45 ID:opzetKj.
更新おつ待ってた

178名無しさん@転載は禁止:2017/10/15(日) 22:28:45 ID:8mjli.d6
待ってたわよ!おつよ、おつおつ!

179 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 18:26:18 ID:FNaOhoIs
声の聞こえた方に目を向けると開け放たれた二階の窓枠に、大鎌を背中に背負い黒を基調としたスーツを着た少女が立っていた。

曜「ちょっと、そんなに目立ったら…」

曜が言いかけた時、校舎に向かって風を切る音が聞こえたかと思うと、校舎の壁面が少女の立っている窓に向かって砕けていく。

善子「きゃあああぁぁぁ――ぶべっ!」

ダイヤ「…」

曜「…」

武器も手に持たずに仁王立ちしていた少女は足を乗せていた窓枠が破壊されて落下していき、地面にべちゃりと叩きつけられる。

ダイヤ「…キャプテンアンカー、姿が見えずともわたくしたちが戦うほかありません、いいですね?」

曜「え、あ、えっと…はい!」

梨子『あの、気持ちは分かるんですが…』

何も見なかったかのように話し始めるダイヤに梨子は遠慮がちに口を開く。

180 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 18:40:52 ID:FNaOhoIs
善子「もう!黙って聞いてたら!」

涙声で反論しつつ起き上がり、善子はダイヤと曜の近くにまでひと飛びで近付く。

善子「ここは私たちに任せときなさい!」

曜「私『たち』って――」

善子「いくわよ!準備いいわねリリー!」

梨子『もちろん!』

「「バディレゾナンス!!」」

梨子と善子の声が重なった瞬間、ダイヤと曜は校庭に広がる空気が澄み渡っていくような感覚を感じ取る。

ダイヤ(バディレゾナンス――ヒーローシステムに内蔵されているコア同士を共鳴させることで機能の拡張及び出力の増強を行う決戦機能…)

ダイヤ「ですが、いくら強力な技でも姿を捉えられなければ――」

善子「そのためのこの技よ!」

「「ディメンションアナリーゼ!!」」

ダイヤに言葉を返すと、善子は鎌を自身の目の前に垂直に構えて再び梨子と声を重ね、静かにまぶたと口を閉じる。

181 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 18:47:37 ID:FNaOhoIs
曜(なんだろ、これ…耳鳴り、とも違う…?)

曜が自身の耳に何かが響くような音をとらえたのと同時に、静寂を保っていた善子が弾かれたように動き出す。

善子「見つけた…!私の前で日陰に隠れるなんて大間違いよ!ピアシングシェイド!」

善子が大鎌を振り下ろし刃が地面に埋まると、校舎から伸びる影が落ちたある一か所から漆黒の棘が突き出し、その場所から何かが押しのけられたかのように土埃が立つ。

善子「まだまだ!ハンズオブアビス!」

善子が直前の動きを巻き戻すように大鎌を地面から引き抜き、石突を地面に叩きつけると、地面から突き出した棘はばらりとほどけて何もないように見える宙へと伸びる。

そして透明なキャンバスに絵の具を塗り重ねるようにして、漆黒の触手が絡みつくことで怪獣の輪郭が足の先から現れていく。そして怪獣の姿がまだらにが黒く浮き出たところで漆黒の触手が引きちぎられる。

善子「攻撃に加えて影のマーカーのおまけつき!どうよ!」

曜「すごっ…!今なら――セイリングヴォーテックス!!」

どうやって場所が分かったのかという疑問は浮かんだものの、それを頭の隅に追いやって曜は手首にある操舵輪を指で弾いて回転させる。それは回転の加速を続けながら巨大化していく。

曜「いっけえええぇぇ!!」

曜は円盤投げの選手のように上体をひねりながら前へ足を進めながらぐるりと一回転、そして怪獣の方向へと遠心力を使って腕を振り抜き巨大化した操舵輪を勢いよく放つ。

182 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 19:01:17 ID:FNaOhoIs
放たれた操舵輪は丸鋸のようにうなりをあげながら怪獣へと迫り、地面をえぐりながら怪獣を吹き飛ばす。しかし怪獣の体から黒い霧が立ち上るものの倒すには至らない。

曜「これでも、まだ…!」

ダイヤ「いいえ、これで十分ですわ!」

歯ぎしりをしながら声を漏らした曜の言葉を引き継いだのは、曜の放った操舵輪を追うように駆け抜けて怪獣の間近にまで迫ったダイヤ。

ダイヤ「瑕疵なく煌めく我が誇り!」

ダイヤの言葉に呼応して手にしたレイピアが純白の光を放つ。さらにその光はプリズムを通したかのように七色に輝き出す。

ダイヤ「ブリリアントダイヤモンド!!」

目をつむってしまうほどの眩い光とともにダイヤはレイピアを怪獣へとねじ込み、勢いを落とすことなく突き抜ける。

光が収まるとそこには、薄くなっていく黒い霧と、その中に立つダイヤの姿だけが残っていた。

183 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 19:07:54 ID:FNaOhoIs
梨子「ふう…よかったあ…」

固く瞑っていたまぶたを開き、息を吐き出した梨子が立っていたのは理事長室の放送設備の前。

梨子「いきなり駆け込んできてすみません…それに放送設備まで使わせてもらっちゃって…」

鞠莉「It’s nothing! ヒーローのサポートは私のお仕事だもの!」

オーバーと言えるほどのリアクションを返して、鞠莉はさらに続ける。

鞠莉「それにしても、バディレゾナンス――やっぱりさすがね!一気に形勢逆転するなんて!」

梨子「理事長さんがそれを言うんですか…?」

鞠莉「もう!マリーって呼んでって言ってるのに!――まあ、我ながらってところかしらね?」

梨子「けど、本当に感謝してます――そのついでに私のこのスーツのスリットを減らしたりは…」

鞠莉「それはダーメ!」

梨子「うう…」

184 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 19:08:56 ID:FNaOhoIs
短いけれど今日はここまで

185名無しさん@転載は禁止:2017/10/23(月) 23:46:57 ID:PiG4P6.g
更新おつー合体技熱い

186 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:05:33 ID:F.rpGOF6
曜「倒せた…!」

善子「ふふん、私のおかげね!」

ダイヤ「口に出さなければ素直に尊敬いたしましたのに…ですがお二人とも、ご助力感謝いたします」

三人は各々の武器を下ろし、ようやく、といったように緊張を解く。

曜(あ、そういえば一応私って正体不明ってことになってるんだった…きっと浦女の生徒ってばれてそうだけど…このあとどうしようかな…)

怪獣と対峙していた時とはまた違う緊張をする曜、そしてこの場を離れたそうにダイヤをちらちらと見る善子の二人を横目にしつつダイヤは口を開く。

ダイヤ「さて、怪獣も片付けたことですし、ここから先は学校関係者としての仕事しか残っていませんわね…ですので、お二人はご自由になさってください」

曜「あ、ありがとうございます!」

善子「え、ええ!勝手にさせてもらうわね!」

ダイヤのその言葉に、二人はいそいそとその場を立ち去ろうとしながら、どうやってクラスに合流しようかを考え始める。

「……」

ダイヤ「――っ!あれは…!」

二人を呆れたように見ていたダイヤは、校舎から離れていく一つの影を視界にとらえ、目を見開く。

187 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:16:25 ID:F.rpGOF6
ダイヤ「ハルモニアリリー!聞こえていますね!?鞠莉さん――ではなく理事長と先生方及びヒーローと協力して校内の被害の確認をお願いします!」

そう言うとダイヤは先ほどとらえた人影を追って走り始める。

ダイヤ(私の目に狂いがなければ今のは…!)

学校をぐるりと囲んでいる塀を駆け上がり、降り立った先にはヒト型の、しかしヒトの外見とは離れた姿があった。

ダイヤ「やはり、怪人モビィディック…!」

その声に振り返った怪人、その体は灰色のウェットスーツを着込んだように女性的な体のラインが浮き出ている。しかしその体の表面はサメ肌のようにざらついている。
すらりと伸びた足の先はフィンのような足びれ状になっており、頭部はシャチのような外見、そして後頭部からはポニーテールのように尾びれが突き出ている。

「……」

ダイヤ「汚らわしき怪人…覚悟しなさい!」

そう言い放ちレイピアを構えたダイヤを見つめて、モビィディックは肩をすくめると重心を低く落として待ち構える。

188 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:23:03 ID:F.rpGOF6
ダイヤ「はあっ!」

ダイヤは一気に距離を詰めてレイピアを鋭く突き出す。

「……!」

モビィディックは後ろへ軽く跳躍しながら右手の指を束ねてレイピアに向かって無造作に突き出す。

するとその右手の肉が蠢き、その形を細長い鋸――まるでノコギリザメの吻のように変えてその歯でレイピアを止める。

ダイヤ「くっ…!」

レイピアと鋸はしばし競り合いを続けていたが、モビィディックが腕をひねることでレイピアを弾き、さらにそのレイピアを思い切り打ち据える。

「……」

ダイヤの体が大きく開いた隙をついてモビィディックは右手を元に戻し、くるりと背を向けてダイヤから離れていくように走り出す。

ダイヤ「この…!逃がしはしません!」

ダイヤはレイピアを打ち付けられて痺れる腕を無理やり動かし、モビィディックを追って走り出す。

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

そして走りながらレイピアを躍らせて炎の鞭をモビィディックの背めがけて走らせる。

189 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:29:33 ID:F.rpGOF6
「ハイドロスパウト!」

モビィディックは背中に熱波を感じると駆け抜けながら身を翻し、腕を真上に上げるとその掲げた手の上に水の球が現れる。そして掲げた腕を振り下ろすと、その水球から勢いよく水流がほとばしり炎の鞭とぶつかり合う。

ダイヤ「やああっ!」

炎と水はお互いに打ち消し合い、辺りには蒸気が立ち込める。ダイヤはその中へと飛び込んでいきレイピアを突き出す。

「……」

しかしモビィディックはそれを予測していたように待ち構え、刺突を潜り抜けるとダイヤの腕をがっしりと掴んで投げ飛ばす。

ダイヤ「…っ!」

空中で身を翻して地面へと着地したダイヤは再びモビィディックが水球を作り出しているのを目にする。

「……!」

モビィディックが腕を振り下ろして水流を放つも、それが直撃したのは腕で頭を覆ったダイヤの目の前の地面。水流は地をえぐり、土埃が立ち込める。

190 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:38:21 ID:F.rpGOF6
ダイヤ「目くらまし…!」

モビィディックが駆けだしていく気配を感じ取ったダイヤは土埃の中を走り抜けていく。

ダイヤ「観念して――!?」

学校から遠ざかっていき、市街地の道路へと出たダイヤは少し先でモビィディックが立ち止まっているのを目にする。

「……」

モビィディックが腕を振るうと真横の地面にあるマンホールから、蓋を高らかに跳ね上げながら勢いよく水柱が立ち上がる。

ダイヤ「なるほど…自らに有利な場所を選んだということですか…!」

大蛇のようにうねる水柱を警戒しながらダイヤはレイピアを構える。

191 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 17:09:56 ID:F.rpGOF6
「……」

モビィディックが動いたのを視界にとらえた次の瞬間、ダイヤの視界の大半を黒い影が覆い尽くす。

ダイヤ「なっ――ピギャッ!」

ダイヤへと飛び込んできたのはマンホールの蓋。落下してきたそれをモビィディックが蹴り飛ばし、スタンプを押すようにしてダイヤの顔面に衝突したのだった。

「……!」

愉快そうに肩を震わせると、モビィディックはひらりとマンホールの中へと飛び込んで姿を消してしまう。
それと同時に、意思を持っているかのように立ち上っていた水柱は力を失ったように形を崩し、雨のように地面へと降り注いでいく。

ダイヤ「――っ!!あの半魚人んんん!!」

マンホールの蓋の模様がくっきりと残った顔を怒りに歪めながら、一人残されたダイヤは忌々し気に自分の顔に付いたものと同じ模様の蓋を強く踏みつけるのだった。

192 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 17:28:11 ID:F.rpGOF6
千歌「もう!本当に心配したんだよ!」

曜「うう、ほんとにごめんってば…」

怪獣の撃退が終わったのちに校内の状況と生徒の被害を確認した結果、通常通りの授業は行えないという学校の判断から下校の連絡が出ていた。

そしてその下校の途中、曜は少し赤らんだ目で頬を膨らませる千歌にひたすら謝っていた。

千歌「むー…そういえば曜ちゃん、怪獣が出るたびいなくなってる気が――」

曜「あー!ほんと梨子ちゃんが来てくれて助かったなー!あはは!」

梨子「はいはい…どっちかって言うとキャプテンアンカーのおかげじゃないかな?」

千歌「?キャプテンアンカーに助けてもらったの?」

曜「ぅえっ、と…そ、そんな感じ…」

呆れたような視線を送ってくる梨子と物問いたげな視線を送ってくる千歌に挟まれて、視線をさ迷わせていた曜だったが、よく見知った姿を見つける。

193 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 17:52:55 ID:F.rpGOF6
曜「ねえねえ、あれって果南ちゃんじゃない?」

千歌「ふえ?あ、ほんとだ!おーい果南ちゃーん!」

三人の歩く少し先には千歌と曜にとってはよく見慣れたポニーテールの後ろ姿。千歌は大きな声で名前を呼びながら姉のように慕っているその姿めがけて駆け出していく。

果南「ん?わっ、とっと…こーら千歌、いきなり飛び込んでこないって何回も言ってるんだから」

千歌「えへへ、それでも受け止めちゃう果南ちゃんはさすがだよねえ」

振り返るのと同時に飛びついてきた千歌をしっかりと抱きとめ、果南は千歌をとがめながらもからりとした笑顔を浮かべる。

曜「ごめんね果南ちゃん!止める間もなく…って言っても果南ちゃんがいるって教えたの私だけど…」

果南「まったく、曜がいるのに監督不行き届きじゃないの?梨子もおはよ、二人が迷惑かけてない?」

梨子「あはは…おかげさまで楽しく毎日過ごしてます…」

194 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 18:11:28 ID:F.rpGOF6
曜「っていうか果南ちゃん私服だし…また学校サボったの?」

果南「あちゃーばれた?起きた時からなんか気が乗らなくってさ…それにしても、私がいない時に大変だったみたいだね?」

千歌「そうなの!しかも怪獣が学校に入ってきたっていうのに曜ちゃんはトイレーって言って教室から出てっちゃうし…」

果南「あれ、今日は普段と逆で曜が心配かける立場なんだ?」

曜「あはは…梨子ちゃんに無事救出してもらいました…」

梨子「普段からこんなことばっかりだからどうにかしてほしいんですけどね…」

同情するように笑った果南にくっ付いたままだった千歌はふと果南の頭の後ろに揺れるポニーテールに目を留める。

千歌「むむ、果南ちゃん髪濡れてない?」

果南「えっ?…あー、ちょっとひと泳ぎしてきたところだったからね、まだ乾いてなかったかあ…」

195 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 18:33:01 ID:F.rpGOF6
千歌「ほんと泳ぐの好きだねえ…あ、けど果南ちゃん体が乾くと死んじゃうから仕方ないか!」

果南「人の事を河童みたいに言わないの!ま、とにかくみんなが無事でよかったよ」

って言ってもダイヤがいるから滅多なことはないと思ってたけど、と眉を少し下げた何とも言えない笑顔で果南は続ける。

曜「あれ、果南ちゃんって生徒会長と友達…ってそっか、同級生だからそりゃ知ってるよね」

果南「まあね、それに実は千歌や曜とはなかなか一緒に会う機会がなかったけど、内浦にいた時から知ってるくらいの仲なんだよ?」

千歌「そうだったの!?もっと早く教えてよー!」

果南「ごめんごめん、色々ごたごたしてたからさ――っと、学校が早く帰したってのにあんまり話し込んでちゃ教育的に良くないね」

よいせ、と女子高生らしからぬ声で動物を扱うように千歌の両脇を抱えて曜と梨子の間におろす。

196 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 18:42:02 ID:F.rpGOF6
果南「今日くらいは寄り道せずに帰りなよ?」

曜「もちろんそのつもり!…って、果南ちゃんだって危ないんから帰った方がいいんじゃないの?」

果南「私みたいな不良学生は別にいいの!それじゃあまたね」

三人の頭をそれぞれ撫でながら言い、果南は手を振りながらその場から去っていった。

梨子「私、果南さんみたいなお姉ちゃん欲しかったなあ…」

撫でられた頭に手を当てながらくすぐったそうにはにかんで梨子は口にする。

曜「果南ちゃんの包容力ほんとすごいからね…」

千歌「私も果南ちゃんがお姉ちゃんならよかったのになあ…」

梨子「千歌ちゃんはお姉さんがもう二人いるんだから贅沢言わないの」

千歌「それはそうだけどさー…」

まあ今でもお姉ちゃんみたいだしいっか、と笑って続ける。

千歌「よーし、せっかく早く帰れたんだしどっか寄り道していこっか!」

曜「千歌ちゃん…果南ちゃんの話聞いてた?」

197 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 19:01:04 ID:F.rpGOF6
浦の星女学院の理事長室、そこでダイヤは鼻息も荒く苛立ちをぶつけるかのように足裏を鳴らす。

鞠莉「もう、荒れてるわね…イライラはお肌の天敵よ?」

ダイヤ「苛立ちもしますわ!あのように何度も何度も怪人を取り逃がすなど…!」

落ち着きなく部屋の中で行ったり来たりを繰り返しながらまくし立てると、立ち止まって鞠莉に向き直りダイヤは口調も荒く続ける。

ダイヤ「鞠莉さん!ジュエルのシステム強化はできないのですか!」

鞠莉「できないって前にも言わなかった?」

ダイヤ「なぜです!?わたくしが持てあますとでも――!」

およそ冷静ではない友人に呆れたようにため息をついて鞠莉は口を開く。

鞠莉「ジュエルの感情エネルギーの変換先が多岐にわたる、っていうのは知っているでしょう?だからこそ誤作動を起こさないためのプロテクトもかけているわけだし…だからこれ以上に出力を上げてしまうとシステム全体としてどんな影響が出るかが分からないの」

鞠莉(それに――ううん、これは今のダイヤには届かない、かな…)

198 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 19:05:44 ID:F.rpGOF6
鞠莉「それに、今使ってるジュエルをちゃーんと信頼してあげなきゃダメなんじゃないの?」

ダイヤ「うっ…確かにそれを言われてしまうと弱いのですが…」

鞠莉の言葉に一旦は気勢をそがれたダイヤだったが、奥歯をかみしめると言葉を絞り出すようにして続ける。

ダイヤ「それでも、このまま負け続けるわけにはいかない…わたくしは、敵を滅ぼさなくてはならないのですから」

鞠莉はその言葉を聞くと、ダイヤに背を向けて窓の外を眺めながら口を開く。

鞠莉「ねえダイヤ?…自分がヒーローだっていうこと、忘れちゃだめよ?」

ダイヤ「…今日はいつにも増しておかしなことを言いますね…何か悪いものでも食べましたか?」

鞠莉「ひっどーい!私なりのダイヤへのアドバイスなのに!」

ダイヤ「まったく、真面目なのかそうではないのか…ですが言われなくても分かっています」



ダイヤ「怪人は全て――滅ぼし去る」

199 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 19:09:18 ID:F.rpGOF6
今日はここまで
一旦浦女編終わりです

200名無しさん@転載は禁止:2017/10/30(月) 23:23:21 ID:NEbdwc1.
更新おつー浦女編良かった
ダイヤさんちゃんはなにか闇抱えてそうだなあ…

201 ◆JaenRCKSyA:2017/11/10(金) 17:44:19 ID:de1r6.Vo
土日のどっちかに更新する
あと一応、男キャラ出てきます

202名無しさん@転載は禁止:2017/11/13(月) 00:56:27 ID:QyE3JrMY
待ってる

203 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 22:59:47 ID:zyarr09E
海未「さて、とりあえず来てはみたものの…」

正午ごろには浦女に侵入した怪獣の事で色めき立ちはしたものの、沈静化が早かったため大きな騒ぎにもならずに放課後になり、海未は音楽室へと足を運んでいた。

海未「まあ待ち構えているとも思ってはいませんでしたが…」

辺りに注意を払いつつ教室の中ほどまで足を進め、ほこり一つ被っていないピアノに手を添える。

海未「考えてみれば放課後というのも適当な指定ですね…時間で言ってくれればいいものを――」

まだ顔も知らない相手にため息をついた時、海未の背後でカチャリと音が鳴り響く。

海未「――!」

海未が瞬時に音がした方向を振り返ると、先ほどまでは開いていなかった音楽準備室のドアが半開きになっている。

海未「…随分と無機質な歓迎ムードのようですが、門を開いてくれるだけましと思いましょう」

204 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:07:30 ID:zyarr09E
視線は前方に向けたまま後ろ手にドアを閉めて部屋の中へと入ると、海未は自分の記憶にある音楽準備室とは全く違うことに気が付く。

海未(部屋の改装をしたなどとは考えられませんし…あのドアから別の場所に飛ばされたと考えるべきか…)

部屋の中は薄暗い電灯で照らされた奥へと続く通路のようになっており、周りには紙の束や段ボール箱、さらに何に使うのかも分からない器具や機械が乱雑に置かれている。

海未(奥へ進むしかないようですが…これはさすがに散らかりすぎではないでしょうか…)

胸の中で小言をこぼしつつ、左腰に取り付けた刀に手を添えて警戒しながら通路を進んでいく。

海未(…?扉、ですか…)

通路を進んだ海未の前に現れたのは無機質で機械的な白い扉。その前に海未が立つとその扉は静かな音と共に開かれる。

205 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:14:08 ID:zyarr09E
海未「っ!?」

開いた扉の先、部屋の中に海未が入った瞬間、海未の三方を囲むようにして真っ赤なレーザーの檻が現れる。

海未「変し――」

「ちょっとは待ちなさいよ…」

即座に変身しようとした海未の前から声がかかる。レーザーによる檻の前に姿を現したのは、癖のある赤い髪に気の強そうなパープルの吊り目、そして黒いブラウスの上に丈の長い白衣を羽織った少女だった。

「あなたが危険人物じゃない証拠がない、ってこの間も言ったばかりじゃない…私は危害を加えるつもりはないわ」

海未(私の命を狙っているのならいつでも機会があった…それなら相手に警戒させるのは得策ではない、か…)

海未「分かりました、私も今日は話を聞きに来たわけですし…これでひとまずは信用してもらえますか?」

そう言って海未は自身の腰から刀を外してカバンの中へとしまい込む。

206 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:21:15 ID:zyarr09E
「そうね、物分かりのいい人で助かるわ」

そう言って少女が手に持ったタブレット端末を操作すると海未を取り囲んでいたレーザーは消え、少女は背を向けて部屋の奥へと歩いていく。

海未「…」

口を開かずに海未がついていくと、その先には灰色のテーブルとそれを挟んで二脚の椅子が置いてあった。

少女は海未に背を向けて電気ケトルをいじりながら声をかける。

「ぼーっとしてないで座ったら?」

海未「え、ええ、そうさせてもらいます」

海未は少女の目的もよく分からないまま、居心地が悪そうに椅子に座っていたが、ようやく少女は湯気の立つティーカップを手にして海未の方に向き直る。

「紅茶だけど、文句言わないでよね?これしかないんだから」

海未「は、はあ…いただきます…」

「別に毒なんて入れてないわよ…」

いただきます、と言ったきりカップを手に取らない海未を見てため息交じりに零す。

207 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:27:29 ID:zyarr09E
「とりあえず、自己紹介だけはすませておくわね――西木野真姫、一応音ノ木の一年生よ」

海未(ニシキノ…?確か…)

真姫「色々聞きたそうにしてるところ悪いけど、後にしてくれる?」

聞き覚えのある名前を耳にして反応を示した海未のことを真姫と名乗った少女は制する。

海未「分かりました、そちらにも段取りがあるのでしょう――ですが、音ノ木の生徒だというのに制服も着ずに…授業はどうしたのですか?」

真姫「べっ、別にそれは今関係ないでしょ…!」

急に指摘され、焦ったように髪をいじりながら答える様子は年相応のものであり、内心に気を張っていた海未は密かに胸を撫で下ろす。

海未「まあいいです、他人の私が口を挟むべきではないでしょうし――私は園田海未、音ノ木の二年…と言ってもすでに知っているのでしょう?」

海未はその切れ長の目で相手の反応を探るようにして言葉を返す。

真姫「…そこは隠しても意味がないわね――ええ、一通りのことは調べさせてもらっているわ」

って言っても常識的に集められる程度の情報だけれど、と真姫は続ける。

208 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:34:44 ID:zyarr09E
海未「…」

真姫「…そろそろ本題に入りたいから、質問は後でまとめてしてくれない?」

海未が考えのまとまらないまま口を開きあぐねていると、焦れたように真姫は話し始める。

海未「…ええ、分かりました」

海未(まず話を聞かないことには、この方の事すら確信が持てない…)

真姫「何から話そうかしら――そうね、それじゃああなたはヒーローシステムについてどれくらい知っているかしら?例えば、その沿革だとか」

海未「ヒーローシステムについて――世間一般に知られている程度の事くらいですが…」

海未はテストを受けているようだ、と思いつつ自身の記憶を探り口を開く。

海未「ヒーローシステムが完成したのは私たちが生まれる少し前、20年ほどだったでしょうか…増加する怪獣被害に有効な対策として、現在のSWコーポレーションが発表した、感情エネルギーによって起動する兵器――」

兵器という表現に、ヒーローとして思い浮かべたホムラの姿とはまるでそぐわないと感じながらも続ける。

209 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:38:36 ID:zyarr09E
海未「発表後すぐにSWコーポレーションはヒーローシステムの理論を公開――ですが、それを理解して再現ができた研究者や技術者、企業は無く、しばらくは一つの企業によって流通が続けられた、と聞いています」

真姫「ええ、その通りね…そもそも怪獣には銃火器による攻撃も有効で、ヒーローシステムの需要はそこまで高まらなかった――ある時までは」

海未「怪人の出現、ですね…?」

真姫「そう、今から10年前、そこを境にして『悪の組織』を自称する怪人が現れ始めた――人の知能と怪獣の力を持ち合わせた連中が、ね」

どこか遠くを見るような目で真姫は少しだけ口を閉じ、カップを口元へと運ぶ。

真姫「…続けるわね?怪人の出現を契機として少しずつヒーローの数は増えてきていたけれど、あの静岡の大災害が起こるまではそのペースは緩やか…そしてあの災害以降、ヒーローシステムは爆発的に普及していった」

海未「…」

海未は切れ長の目を伏せて押し黙るもそれは一瞬だけであり、再び真姫に視線を戻して口を開く。

210 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:42:42 ID:zyarr09E
海未「そのヒーローシステムの需要に対し、実際には供給が追い付いていなかった記憶があります…それもそのはず、システムの実用化ができていたのはSWコーポレーションのみなのですから」

真姫「…そうね」

海未「SWコーポレーション…今でこそ多角的に事業を展開していますが、その前身は企業ですらなかった」

海未は正面に座る、表情のまるでうかがえない真姫の瞳をまっすぐ見つめながら言葉をつなぐ。

海未「西木野総合病院――それが前身であると、聞いています」

真姫「…」

口を開かない、ヒーローシステムの大元となった病院と同じ名を持つ少女を前に、海未は続ける。

海未「そして今、SWコーポレーションの他にヒーローシステムの製造を行っているのは一か所のみ…そしてそれは、ニシキノ・オハラ社」

海未「2年前に突如として設立、その名前から様々な憶測を呼びましたが設立の経緯や会社の代表すらも明らかになっておらず、唯一分かっている事はヒーローシステムの普及を第一に掲げているということだけ…」

海未「――これでもまだ、質問は後回しなのでしょうか?」

211 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:47:43 ID:zyarr09E
真姫「…一つ、話をするわね」

真姫は海未の問いには答えを返さずに、しかし返事をするようにして話を始める。

真姫「ある所に、一人の女の子がいました。医者から社長になった父親がいて、母親がいて…両親は忙しそうにしていたけれど、幸せに暮らしていたわ…」

真姫「けれどある日、母親は事故で亡くなってしまい、それから父親は女の子にまるで構う暇もないほどに仕事と研究に没頭するようになった――」

真姫「そこから何年かの間、女の子は勉強漬けの毎日…いえ、それくらいしかすることが無かった、って言うべきね…」

真姫「そして2年前、ヒーローシステムの理解と解析を終えた女の子は、知り合った研究者や技術者と共に会社を立ち上げる…その少女が――」

海未「西木野真姫――あなたなのですね…」

言葉を引き継いだ海未に口を閉ざしてこくりと頷いてみせると、ティーカップから一口だけ紅茶をすすって目を閉じる。

212 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:49:48 ID:zyarr09E
土日間に合いませんでした…
次かその次くらいまでほぼ説明回

213名無しさん@転載は禁止:2017/11/14(火) 23:10:24 ID:kLTC8pCQ
待ってたよーおつおつ

214名無しさん@転載は禁止:2017/12/04(月) 22:32:52 ID:q//RZZWg
エタらないで…

215名無しさん@転載は禁止:2017/12/05(火) 11:27:40 ID:uNEi2Ivg
まってる

216 ◆JaenRCKSyA:2017/12/06(水) 22:25:00 ID:cp0303f.
書く時間がなかなか取れないのとキリの良い所まで終わらないのでもう少しお待たせします…申し訳ない…
死んでもエタらないつもりです

217名無しさん@転載は禁止:2017/12/07(木) 00:16:56 ID:H8P85fU.
こういう一部のキャラ悪役にして推しキャラ持ち上げるssはエタってくれて全然良いんだけどなぁ

218名無しさん@転載は禁止:2017/12/07(木) 01:30:46 ID:G53T0.6Q
生きててくれてよかった
ゆっくりでもいいんで是非完結してほしい

219名無しさん@転載は禁止:2017/12/09(土) 01:37:11 ID:kfv8e6yQ
出てくる皆、今後見せ場ありそうで好き
期待してます

220 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 22:29:04 ID:4yUtfNWI
海未「…ご家族の事は、私には何も言う立場にはありません…ですが一つだけ、言ってしまえばただの学生でしかなかったあなたはどうやって今の立場にまで?」

真姫「技術者や研究者とさっきは言ったけれど、私に協力してくれた中には投資者もいたの」

普段の生活に関してはお手伝いさんもいたしね、とティーカップを机に置いた真姫は海未の疑問に答える。

海未「そういうことですか…」

真姫の話を聞いた海未は考えを巡らせていく。

海未(ここまでの事を話すということは私を信用してくれていると考えてもいいか…それもポーズという可能性もありますが…)

海未(いえ、そもそも私が怪人であることが知られているならこれ以上の隠し事は無意味…彼女の立場も考えればなるべく詳しいことを話して協力を取り付けるべきか…)

海未が考えをまとめ終えた直後、黙り込んでいた海未にしびれを切らしたように真姫が口を開く。

真姫「私の話はもう済んだし、そろそろあなたの話を聞かせてくれない?」

海未「…ええ、私としても早いうちに誤解を解いておきたいところですしね」

海未「私が、怪人となった日の事から話させていただきます――」

海未はそう前置くと、この何日かという短い間に自身の身に起きたことを話し始める。

221 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 22:40:12 ID:4yUtfNWI
真姫「なるほど、ね…」

海未が話し終えると、真姫はそう言って口元に曲げた人差し指を添えて考え込むようなそぶりを見せる。

海未(にこの事は隠す形にはなってしまいましたが、それ以外は隠さずに話した――それが吉と出るか凶と出るか…)

真姫「怪人に変身したのは2回って言ってたけど、それは確か?」

海未「?ええ、怪人になってしまった時と先日のショッピングモール、その2回だけですが…」

真姫「そう、それならいいわ」

海未「あの、それが何か…」

真姫「別に、確かめたいことがあっただけだから気にしなくていいわ」

そう言われた方が余計に気になる、とは口にすることはできずに海未は答えずに真姫の言葉を待つ。

222 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 22:55:21 ID:4yUtfNWI
真姫「それともう一つ、変身する時にあなたはシステムを使っていたわね?今それを見せてもらってもいいかしら」

海未「え、ええ、構いませんが…」

海未が鞄から取り出し、机の上に置いた機械めいた小刀状のシステムを真姫は手に取って注意深く眺める。

真姫「…ありがとう」

真姫はシステムを眺める時に寄せた眉根をそのままにシステムを机の上へと戻し、海未を真っすぐに見つめながら続ける。

真姫「単刀直入に言わせてもらうけれど、あなたは怪人として、異端よ」

海未「…それは、他の怪人と敵対しているという意味ではなく、ということですか?」

真姫「ええ、あなたがシステムを所持している、そのことがおかしいって言ってるの」

海未「…は?」

223 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:02:43 ID:4yUtfNWI
海未「待ってください、どういうことですか?私は怪人へと変えられてその時に――」

真姫「そう、あなたはその時にシステムを手に入れた…けれど本来、怪人はシステムを持っていない、知らなかった?」

海未「ですが、現に怪人も変身を行って…」

そこまで口にして、海未の頭の中に疑問が生じる。

海未(変身を行う?なんの疑いも持たずにそう考えていましたが、それではまるで――)

真姫「気が付いた?」

海未「…これは一体、どういうことなのですか」

真姫「ヒーローはシステムに内蔵したコアを感情エネルギーによって励起させることでその機能を発現させている――怪人の場合は、そのコアは体内に埋め込まれているの」

海未「ですが、それでは…!」

真姫「そう、コアが体外にあるか体内にあるか…ヒーローと怪人との間にはその程度の違いしかないのよ」

224 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:06:36 ID:4yUtfNWI
真姫の口から語られたことに、少しの間言葉を失っていた海未だったが、ふと浮かんだ疑問を口にする。

海未「ということは、ヒーローシステムの理論を悪用している人がいる、ということになるのでしょうか…?」

真姫「恐らくそうね…だからシステムの全面公開なんてするべきじゃなかったのよ…」

最後の言葉を真姫は吐き捨てるように言い切る。

海未「ですが、どうして私だけシステムを持たされたのでしょうか?システムがあっても無くても、感情エネルギーが足りなくなれば生きていられないというのは同じことのはず…」

真姫「コアをそのまま人体に埋め込むのは、適合しなければ拒絶反応が起こるから合理的ではない――けれど、今までそんなことを気にしていなかったのに今更、とは思うわね」

海未「…怪人たちと戦っていれば、真相が分かるのでしょうか」

真姫「それ本気で言ってるわけ…?てっきりあなたは自衛のためだけに戦っていると思ってたんだけど」

海未「…元より友人のために投げ出したこの身――私は何があったのかを知りたいのです」

海未(私の事も、あの時の事も――)

225 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:12:14 ID:4yUtfNWI
真姫「ま、本気なんだったら止めないけれど…それじゃあいくつか言っておくことが――」

真姫がそう言った時、真姫の後ろにあるドアのノブがガチャガチャと耳障りな音をたてながら回り、その奥からさらに耳障りなほど大きな声が響く。

「んっんん!お嬢様失礼いたしますよお!」

真姫「…来客中なんだけど」

真姫は不快感を隠しもせずに言葉少なに返し、海未は手にしていたシステムを素早くカバンに滑り込ませる。

「おやおやあ!お嬢様のお友達でございましたかこれは失敬!」

現れたのは緑色の作業着の上に薄汚れた白衣を纏った中肉中背で眼鏡の男。肩に付くほど伸びている髪は脂っこくべたついており、眼鏡の奥からはなめるような視線が伸び、にやついた口からは相手との距離に関係なく大きなだみ声が響く。

真姫「それで、用件は?後に回せるなら後にしてほしいんだけど」

「おやおやこれは手厳しい!それでしたらまた時間を改めさせていただきましょう!」

男はともすれば慇懃無礼ともいえるほどに深々と下げた頭をあげると、海未に視線を移して再び口を開く。

「大変失礼!申し遅れました!わたくし、お嬢様の元でヒーローシステム開発に携わっている肝塚と申します!以後お見知りおきを!」

226 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:14:55 ID:4yUtfNWI
真姫「ドクター、いつまで居座る気?」

肝塚「おやあ!申し訳ございませんお嬢様!それではわたくしは研究に戻らせていただくとしましょう!」

海未が返事をする間もなく真姫はきつい口調で追い返そうとすると、男はまるで気にも留めずににやけ顔で頭を下げ、ようやく部屋から出ていく。

海未「随分と、変わった方ですね…」

真姫「優秀ではあるんだけれど、まるで空気を読めないのは最悪よね…」

げんなりとした表情で真姫が深いため息を吐くと、机に置いていたタブレット端末の通知が鳴り始める。

真姫「どうかしたの?」

それは着信だったようで、真姫が通話をハンズフリーにして問いかけると端末から落ち着いた声が響く。

『お嬢様、来客中失礼いたします…ドクター肝塚がそちらに向かわれてしまい…』

真姫「ああ…もう追い返したから大丈夫よ」

『申し訳ございません…こちらの方でも止めはしたのですがまるで聞く耳を持たず…』

真姫「ドクターが人の話聞かないのはいつもの事だし和木さんのせいじゃないからそんなに謝らないでいいわよ…」

227 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:18:42 ID:4yUtfNWI
『ありがとうございます…それともう一つ、先ほど小原様から連絡があり、席を外しているとお伝えした所、後程また連絡させてもらうとのことでした』

真姫「ええ、分かったわ――ありがとう」

『いえ…それでは失礼いたします』

通話が切れると、真姫はタブレットを操作して画面を消すと机の上に置き、海未に向き直る。

真姫「悪いわね、待たせちゃって」

海未「いえ、構いませんが…今のは?」

真姫「今の電話?あれは小さい頃から私のお世話をしてくれてるお手伝いの人――元々は父親が雇った人なんだけど」

海未「なるほど…真姫に着いて来てくれたのですね」

真姫「ええ、すごい助かってるわ…それを言うならドクターもSWコーポレーションで開発をしていたんだけど――一緒にしたら和木さんに失礼ね」

228 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:22:26 ID:4yUtfNWI
真姫「さてと、それじゃあ話の続きね…あなたは戦い続ける、と言ったけど、それでもなるべくだったら危険は避けた方がいいわ――少なくとも、もっと戦闘経験を積むまではね」

海未「ええ、それは身をもって理解しているつもりです…」

怪人となって日が浅いにも関わらず戦うこととなった、ジュエルやグレイシア。様々な武道を修めてきた海未であっても、ヒーローや怪人との戦いは厳しいものだったことを思い返す。

真姫「改めて言う必要もないとは思うけど、ぶつかるべきじゃない有力なヒーローや怪人が何人かいるっていうのは分かるわね?」

海未「魔法戦士ホムラのような者たち、ですね…」

真姫「そういうこと――って言っても、あなたジュエルやグレイシアと戦ってるのよね…その二人も十分要注意の対象なんだけど…」

苦笑いを浮かべた海未を見ながら真姫は呆れたようにため息を吐き、話を続ける。

真姫「ヒーローで気を付けるべきはまずは魔法戦士ホムラ…まあ当然だけどね」

最強のヒーローと名高いものの、変身しているのが少女であるということ以外は謎に包まれた彼女。海未は以前一瞬だけ相対した時のプレッシャーを思い返す。

真姫「話の通じない人じゃないみたいだけど、まああなたの変身後の怪しさじゃどう考えたって信用してはもらえないわね」

海未「…そうでしょうね」

229 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:26:18 ID:4yUtfNWI
真姫「次いで珠玉騎士ジュエルとキャプテンアンカー、この二人ね…戦って分かったと思うけど、特にジュエルは怪人が相手ならまず間違いなく問答無用で襲い掛かってくるから、もしかしたらホムラよりも近付きたくないかもしれないわね…」

海未「ええ、まるで燃え盛るかのような憎悪…あの時はどうにか逃げ出せましたが、タイミングを逃しでもすれば地の底までも追いかけてくるかのような気迫でした…」

真姫「直接知っているわけじゃないけど、知り合いの知り合いがいて話を聞いてみたんだけど…なんだか要領を得ないのよね…」

海未「要領を得ない、というのは…」

真姫「あんなにも怪人や怪獣を憎む理由も思い当たらない、普段だって毅然としてはいるけれど苛烈な子ではない――ってね」

海未「どうにも妙な話ですね…」

あれだけの憎悪を抱くきっかけが無いのであれば他の理由があるのか、とも考えた海未だったが、すぐにそれは思考の外に追いやりジュエルと遭遇しないことが第一だと思い直す。

230 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:28:24 ID:4yUtfNWI
真姫「キャプテンアンカー…このヒーローは元々ヒーローシステムが普及し始めの頃に活動していたはずなんだけど、急に消息不明――そして、ここ1,2年でまた活動を始めたという形になるわね」

海未「普及し始め…15年ほど前ではないですか…!ですがあのヒーロー、おそらくは私と同じくらいの年齢では…!?」

真姫「ええ、だから恐らくは同一システムを他の者が使用している、ということでしょうね」

海未「…そんなことが可能なのですか?」

真姫「まあ、適合さえすれば変身はできるし…特に血縁者なら適合できる可能性は高いわ」

海未「なるほど…それで、キャプテンアンカーについて他に何か聞けることはありますか?」

真姫「そうね…戦闘力はかなり高い、けれどホムラと一緒で話の通じないわけではなかったはず…って言ってもあまりアドバイスにならないわね」

言いながら海未の変身後の姿を思い浮かべたのか、真姫はおかしそうに笑いながら付け加える。

231 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:31:03 ID:4yUtfNWI
真姫「この世の中、ヒーローは大勢いるけれど本当に気を付けるべきはこの程度かしらね…次は――」

海未「怪人、ですね…」

考えるほどに四面楚歌な状況を突き付けられ、ため息交じりに海未は真姫の言葉をつなぐ。

真姫「戦って分かったと思うけれど、まずはグレイシア、そしてアルカナム…この二人は下手したらジュエルやキャプテンアンカーよりも注意するべきかもしれないわ」

海未「ジュエルからはどうにか逃げられましたが、確かにグレイシアはそうもいかない強さでした…」

海未は二人がかりでも膝をつかされた戦いを思い返す。

海未「アルカナム…あの怪人は謎ばかりですが、何か分かることはありますか?」

真姫「アルカナムは戦闘を行っているところをほとんど目撃されていないから、まるで情報が入ってこないのよね…分かっているのはカードを使って戦うことと神出鬼没であること…」

海未「随分と徹底した立ち回りですね…」

真姫「けれど、あなたが目撃したことから一つの推論を立てることができる」

海未「推論?」

真姫「ええ、おそらくアルカナムが持っている能力の一つは――空間置換」

232 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:35:33 ID:4yUtfNWI
海未「空間、置換…?」

真姫「あなたが入ってきた音楽室の扉もそれを利用したもの――説明すると、本来繋がっていないはずの二か所を、ゲートとなるものを用いることでつなげる技術よ」

海未「ではあの時にアルカナムが急に現れたり消えたりしたのは――」

真姫「恐らくはカードをゲートに見立てた空間置換によるものでしょうね」

海未(アルカナムと戦うときにはそれを頭に入れておく必要がありますね…)

空間と空間をつなぐ能力、そこから思い至るのは当然死角からの攻撃。空間置換に一体どれだけの自由度があるのかは海未に知るすべはないが、できる限りの警戒をしておく必要はある。

真姫「続けるわよ?グレイシアやアルカナムと同程度――いえ、それよりは少しレベルは落ちるわね…ツーマンセルを基本にした二人の怪人、ジェミシス」

海未「ジェミシス――確か、アルカナムほどではないものの、目撃情報の少ない怪人でしたか…」

真姫「そうね、けれど立ち回り方が特徴的だから被害の跡を見ればジェミシスの仕業だと分かるし…撤退が遅れたのかしら、ヒーローとの交戦した記録もいくつか残っているわね」

233 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:39:45 ID:4yUtfNWI
海未「…」

真姫の話を聞いていると、今の自分が置かれている立場には危険が多いことを実感する。

真姫「そして分かっているかもしれないけれど、あと三人、ね」

海未「…ええ、当然です」

海未の脳裏に浮かぶのは、最強最悪と名高い三人の怪人の姿。

真姫「アステグレス、フォートレイ、バビロット…こいつらには何があっても近付いてはいけない――もし狙われでもしたら、問答無用で消し去られるわ」

今までにこの三人の怪人と戦って無事に済んだヒーローは存在せず、大半が重傷か意識不明、最悪の場合には戦ったきり消息を絶った者もいる。
最強のヒーロー、ホムラであったとしても苦戦を強いられるのではないかと噂されるほどの強さを誇る怪人。

海未(今の私が太刀打ちできるような相手ですらない…それに確か、一人一人でも恐ろしいほどの強さを誇るにも関わらず、三人で行動することが多いとも…)

真姫「こんなところかしらね…本当ならもう少しヒーローを挙げてもいいんだけれど、あなたは身体能力が高いみたいだからそこまで心配しなくてもいいみたいだしね」

海未「一応、いくつかの武道は習っていますからね…」

234 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:43:32 ID:4yUtfNWI
話が途切れた時に海未はふと、頭に浮かんだ疑問を真姫に投げかける。

海未「そういえば、モビィディックの名前を挙げていませんでしたが、確か力のある怪人だったはずでは…」

真姫「ああ…私はあまり詳しい話は分かってないしできないけれどモビィディックに関しては気にしなくて大丈夫よ」

海未「大丈夫というのは…」

真姫「こちらから仕掛けたりしない限りは何もしてこないはず――実際、モビィディックが引き起こした被害で人的被害はないでしょう?」

海未「そういえば、そのような話は聞きませんね…」

海未はたびたびニュースでその名を聞くものの、毎回広範囲にわたる浸水被害ばかりで負傷者が出たという話が出ないことを思い返す。

235 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:46:43 ID:4yUtfNWI
真姫「さてと…あとはこれね…」

海未「えっと…これはネットニュースですか?」

真姫がタブレットを操作して差し出した画面を海未が覗き込むと、そこにはニュース記事が表示されていた。

海未「記事のタイトルは…『新たな怪人、呼称を決定』ですか…これが、どうかしたのですか?」

真姫「ちゃんと中身読んでみなさいよ…」

海未「えっと…『最強のヒーローホムラを筆頭として、ジュエルやキャプテンアンカーと言った有力ヒーロー達を出し抜くほどの怪人が現れた』…!?」

記事の内容に加え、記事の隣の写真には自身が変身した時の姿がはっきりと映し出されており、海未は目を白黒とさせる。

海未「『さらに、秋葉原のショッピングモール襲撃に関わっている可能性も挙げられており、これを受けて政府はこの怪人の呼称を「ダークブレイド」に決定すると発表した』…」

呆然とした海未を気の毒そうに眺めながら、真姫は遠慮がちに口を開く。

真姫「…名前が決まってよかったじゃない」

236 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:50:00 ID:4yUtfNWI
海未「そういう問題ではありません!そもそもなんなんですかこの名称って…!」

真姫「あら、知らなかった?怪人が特別名乗ったりしなかった場合は政府のお偉いさん方がわざわざ話し合って決めてるのよ」

時間の無駄だしセンスもないし本当に最低よね、とため息交じりに続ける。

海未「一体こんなものを見せて何のつもりですか…」

真姫「別に嫌がらせしようってわけじゃないからそんな睨まないでよ…あなたが今まで変身した場はどちらもかなり大規模な被害が出ている――つまり、世間からしてみたら悪逆非道の怪人なのよ」

海未「…当然と言えば当然、ですね…」

自分の立場が違えば必ずそう思い込んでいただろう、と海未は考える。

海未「やはり、変身は控えた方がいいのでしょうか…?」

真姫「その方がいいとは思うけれど、どうせその時になったらそんなことも言っていられないでしょ?」

海未「…ええ、当然です」

海未(目の前で人が傷つくのを見るくらいならば…どんなに後ろ指を指されようと構わない)

237 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:52:12 ID:4yUtfNWI
真姫「まあそう言うと思ったわ…それなら、正体がばれないようにするのを最優先にしなさい」

海未「一応今までも気を付けてはいたのですが…」

真姫「現に私にばれてるじゃない…」

まあ私は特殊ではあるけど、と零してから続ける。

真姫「きっと周りに人がいないことは確認していると思うけれど、あとは防犯カメラが無い事を確認することと…あとは上ね」

海未「上、ですか?」

真姫「ええ、衛星写真とかドローンとかで撮られる可能性だってある…変身をするのは上空に遮蔽物がある所に限った方がいいわ」

海未「なるほど、防犯カメラや上空は盲点でしたね…」

真姫「捕まったりしたら使い捨てにされるのがオチだから本当に気を付けなさいよ?」

海未「動員法…よくあんなものが通ったものです…」

怪人動員法――増えていった怪人犯罪者を更生させるための社会奉仕を謳った法だが、実態は危険な怪獣討伐を基本とした、怪人を捨て駒として扱うためのモノであった。

238 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:54:50 ID:4yUtfNWI
真姫「何か聞いておきたいことはあるかしら?私から話すことはもう無いけれど」

海未「ええ、大丈夫です…疑わないばかりか色々なことを教えていただけて感謝しています」

真姫「別に…ただ普通と違う怪人に興味があっただけだから…」

そっぽを向いて髪をいじる真姫を見ながら微笑み、海未は続ける。

海未「それでは、私はそろそろお暇させて――」

そこまで言ったところで海未の背後のドアの向こうから物音が響く。

239名無しさん@転載は禁止:2017/12/18(月) 01:17:42 ID:U8AP7p1Q
更新待ってたぞー乙
一気に色んな名前が出てきたな

240名無しさん@転載は禁止:2017/12/18(月) 20:31:09 ID:IYEBQwaw

新展開楽しみにしてる

241名無しさん@転載は禁止:2017/12/18(月) 21:12:23 ID:bBkirhrY
待ってた乙ん
今後出るであろう様々な合体技も期待

242 ◆JaenRCKSyA:2017/12/24(日) 18:37:31 ID:ikyyzMGQ
海未(侵入者…!?)

椅子から静かに腰を浮かせてシステムを手に取った海未が耳を澄ませると、物音ばかりでなく声が響いてくるのを聞き取る。

「ああもう!こないだ片付けたばっかりなのになんでこんなに散らかるのよ!」

海未(?この声はまさか…)

「ちょっと真姫ちゃん!整理整頓しなさいって言ったでしょ!?」

扉が開け放たれると同時に飛び込んできたのは大きい声とそれに対して小柄な体。そしてぴょこぴょこと揺れるツインテール。

海未「にこ…ですか?」

にこ「んなっ…なんであんたがここにいんのよ…!?」

真姫「なに?知り合いだったの?」

にこ「それはにこのセリフよ!っていうかあっちの部屋なんであんなに汚くなってるのよ!」

真姫「別に部屋をどう使おうと私の勝手でしょ!」

にこ「片付けするこっちの身にもなりなさいよ!」

真姫「仕事なんだから文句言わないでよね!最初にやるって言ったのはにこちゃんでしょ!」

にこ「さすがに限度ってものがあるのよ!」

海未「あ、あの…」

自分そっちのけで言い合いを始めた二人に視線を交互にさ迷わせながら海未は遠慮がちに声をかけるしかなかった。

243 ◆JaenRCKSyA:2017/12/24(日) 18:45:03 ID:ikyyzMGQ
「「なに!?」」

海未「いえ、えっと、二人はどういった知り合いなのかと…」

真姫「私がご主人様でにこちゃんが召使い!ほんと口うるさい!」

にこ「はああ!?私がパーフェクトお手伝いさんで真姫ちゃんがダメダメお嬢様の間違いでしょ!?」

真姫「何よ!」

にこ「間違ってないでしょ!」

海未「ちょ、ちょっと!いい加減にしてください…!」

いつまでも口論を続ける勢いの二人に海未がしびれを切らし、強めの口調で二人を落ち着かせる。

にこ「まあいいわ、片付けることに変わりないし…それで、なんで海未がここにいるのよ?」

海未「えっと、私の正体が真姫に知られたところからですね――」

海未はショッピングモールでにこと別れたあとに起きたことを説明し始める。


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