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あの作品のキャラがルイズに召喚されましたin避難所 3スレ目

1名無しさん:2016/02/24(水) 22:25:35 ID:ei2Etu0.
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されましたin避難所 2スレ目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1281252605/

まとめwiki
ttp://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!

     _
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。

2BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/24(水) 23:40:54 ID:ei2Etu0.
ついでに投稿させて頂きます。
45分頃から。

3BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/24(水) 23:46:05 ID:ei2Etu0.
「ふん……恥ずかしくないのかね、ゼロのルイズ。いくら自分の非を認めたくないからと
いって、使い魔を身代わりに差し出すとは」

 突然割って入った男に、ギーシュは苛立っていた。
 いや、仮に今回の件がなかったとしても、ルイズの使い魔であるこの平民の事は最初か
ら気に入らなかった。
 正確には、クラスメイト達が彼に一目置いているという事実が気に入らない。今だって
この平民が現れただけで、決闘決闘と騒いでいたギャラリーが静まり返っている。
 確かに、この平民は見た事もない武器を使い、怪物を退治したかもしれない。
 だが、それが何だというのだ。
 あの時は咄嗟の事に動く事が出来なかったが、本来ならばあのくらい、メイジである自
分にだって造作もない事だ。少なくともギーシュは本気でそう思っていた。
「勘違いしないでくれ。お前の相手は使い魔の俺で十分だって事さ。この程度の事でご主
人様の手を煩わせるわけにはいかないだろ?」
 自分の主を庇うように、ルイズの前へと進み出たレオンと視線がぶつかる。余裕すら感
じさせるその瞳が、ギーシュを余計に苛立たせる。
「平民にしては殊勝な心掛けじゃないか。いいだろう。着いてきたまえ」
 かろうじて平静を装ってそう言うと、ギーシュは二人に背を向け歩き出した。レオンと
周りで成り行きを見守っていた生徒達が後に続く。
 ――そこまで言うなら、いいだろう。皆の前で化けの皮を剥いでやる。

「ミ、ミス・ヴァリエール……このままじゃあの人、殺されてしまいます……!」
 突然の事に口を挟む事も出来ず、呆然とその場に立ち尽くしていたルイズは、シエスタ
の声でようやく我に返った。
 シエスタもまた、ギーシュの怒りが収まる事を願いながら、ルイズの後ろで震えている
事しか出来なかったようだ。しかし、そんな彼女を責める事は出来ない。彼女は平民で、
無力な給仕にすぎないのだ。
「だ、大丈夫よ。あいつ、確かに平民だけど、凄い武器持ってるんだから。大丈夫。大丈
夫よ……」
 シエスタを安心させる為に発した言葉は、いつしか自分自身に言い聞かせる為のものへ
と変わっていた。声が微かに震えている事も、気付かれてしまっただろうか。
「ほ、ほら! 私達も行くわよ! あんただって、ギーシュのやつが吠え面かくとこ見たい
でしょ?」
 不安を掻き消すように、ルイズは皆の後を追って駆け出した。



 Chapter.3



 魔法学院の本塔を囲む五つの塔、その『風』と『火』の塔の間に位置する中庭――通称
『ヴェストリの広場』にて、レオンはギーシュと対峙していた。
 どこで噂を聞きつけたのか、食堂にいなかった生徒達までが、人だかりとなって二人を
取り囲んでいる。このような決闘騒ぎは、暇を持て余した子供達にとって、格好の退屈凌
ぎというわけだ。
「さて、では始めるとしようか」
 余裕を見せつけるように、ギーシュは大仰に宮廷風のお辞儀をしてみせると、手にした
造花の薔薇を振った。数枚の花弁が宙に舞い、ギャラリーから歓声が巻き起こる。
 そして、花弁がその姿を変えた。甲冑を着た女戦士が五人、レオンの前に立ち塞がる。
 よく見ると、それは人ではなく五体の銅像だった。青銅の肌が陽光を反射し、鈍い光を
放っている。
「改めて名乗ろう。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。君の相手は僕の手足であ
る青銅のゴーレム『ワルキューレ』が行う。文句はあるまい?」
「手や足がたくさんあるのか。流石は貴族様だ」
「……その減らず口がどこまでもつかな」
 自分の魔法を見てもなお余裕を崩さないレオンの態度に、ギーシュは不愉快そうに眉を
ひそめる。

4BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/24(水) 23:49:36 ID:ei2Etu0.
 ――本来なら平民の相手など、ワルキューレ一体で十分だというのに……
 レオンの右太腿、ホルスターに収められた拳銃へと視線をやる。あの武器の存在、唯一
それだけが厄介だ。
 相手の得物が剣ならば、ワルキューレで正面から捻じ伏せてやればいい。しかし、銃と
なると、遠距離からの偶然の一撃で自分が敗北する事もあり得る。
 まるで指揮者にでもなったように、ギーシュは優雅な動きで薔薇を振った。それを合図
に、銅像に生命が吹き込まれ、四体のゴーレムは主の前後左右を固めるように移動する。
 ギーシュの考えをゴーレムの配置から察したレオンは、挑発的な笑みを浮かべながら、
レッグホルスターのVP70を人差し指でトントンと叩いてみせた。
「心配しなくても、俺がこいつを撃つ事はない。弾が勿体ないからな」
 これはレオンにとっては半ば冗談ではない。
 VP70用の9mmパラベラム弾の残弾は現在装填している19発と、予備マガジンの36発。.50
AE弾は予備マガジン含めて20発しかこちらの世界に持ち込めていないのだ。
 何が起こるか分からない異世界で、弾薬を入手出来る可能性は絶望的。ならば、こんな
所で無駄弾を使うわけにはいかない。
 しかし、そんな事情を知るはずもないギーシュの顔は怒りで赤く染まっている。
「い、いいだろう……余程後悔したいらしい」
 余裕を表現しようと無理矢理に浮かべた笑みは、ぎこちなく歪んでいた。

 そんなギーシュとは対照的に、ルイズの顔からはみるみる血の気が引いていく。
 ――あいつ、本当に殺されちゃう。
 彼の持つ連発式の銃ならば、遠距離から比較的安全に戦う事が出来る。そう思ったから
こそ、ルイズは戸惑いながらもレオンを止めようとは考えなかった。
 それなのに、あろう事か自分の使い魔は、唯一の勝機を自ら手放したのだ。
 人混みをかき分けながら、息も整えずルイズは叫んだ。
「あんた何言ってんのよ! 平民が武器もなしに貴族に勝てるわけないじゃない!」
「心配してもらえるとは光栄だね。使い魔冥利に尽きるよ」
 自分の気も知らず平然としている使い魔に、焦りと苛立ちが募る。
 そんな中で、ようやくルイズは使い魔の余裕の理由に気付く。彼はこちらの世界に来た
ばかりで、実際に見た魔法といえば、フライと錬金、そして自分の爆発のみ。本当の魔法
の恐ろしさを、彼はまだ知らないのだ。
 何とか思い止まらせようと言葉を探すルイズを、レオンの手が制した。
「俺は君がゼロなんかじゃないと言った。それはもちろん本心だ」
 こんな時にこの使い魔は何を言っているのだ。咄嗟に言葉が出せず、何とか意思を伝え
ようと必死で首を横に振る。
 違う。私はそんな事が言いたいんじゃない。お願いだから、私の話を――
「でも、君自身は自分の力をまだ信じられない。違うか?」
 まるで全てを見透かしているかのような青い瞳に見つめられ、ルイズは言葉を失った。
「だったら、まずは俺が口だけの男じゃないって事を証明しないとな」

 彼が何を言っているのか分からなかった。
 鍛え抜かれた肉体に似合わぬ柔らかな笑み。その笑みがゆっくりとルイズの視界から消
えていく。
 レオンが決闘相手へと向き直り、応えるようにギーシュが造花の薔薇を振り上げる。今
まさに決闘が始まらんとするその時になって、ルイズはようやく言葉の意味を理解した。
 ルイズの魔法の唯一の成功例である自分が、武器も魔法も使わず貴族に勝利する。この
男はそうする事で、主の汚名を拭おうとしているのだ。

「レオン――――!!」

 気が付けば、ルイズは使い魔の名を叫んでいた。



「ふうむ、にわかには信じられんが……」
「何故です!? 証拠ならここにあるではありませんか! これは世紀の大発見ですぞ!」
「証拠と言ってものう……」
 所変わって、学院長室。泡を飛ばして熱弁を振るうコルベールを煩わしく思いながら、
オスマンは手渡された歴史書へと視線を落とした。

5BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/24(水) 23:53:55 ID:ei2Etu0.
 開かれたままのページには、一つのルーンの図が掲載されている。
「ガンダールヴのルーン……か」
 未だに何事かを叫んでいるコルベールの声に耳を塞ぎ、オスマンは遠い歴史の彼方、始
祖ブリミルが使役したとされる使い魔へと思いを馳せた。

 伝説の使い魔『ガンダールヴ』。
 ブリミルが魔法を詠唱している間、その身を守る役割を担ったその使い魔は、あらゆる
武器を使いこなし、千の軍隊を一人で壊滅させる程の力を持っていたとされる。
 その左手に刻まれたとされるルーン。それは、ミス・ヴァリエールが呼び出した平民の
左手に浮かび上がったルーンと瓜二つだった。

「ミス・ヴァリエールの使い魔が、現代に蘇ったガンダールヴか。確かに真実ならば世紀
の発見かもしれんが……しかし、ルーンが同じというだけで結論を出すのは、ちと早計す
ぎやせんか?」
「そ、それは……そうかもしれませんが」
 コルベールとしてはこの素晴らしい発見についてまだまだ語り足りないというのが本音
だが、学院長にそう言われては口を閉じるしかない。
 オスマンはようやく訪れた静寂に、安堵の息を漏らした。しかし、その静寂は次の瞬間
には破られる事となる。
「……誰じゃ?」
 無遠慮なノックの音。次いで扉の向こうから聞こえてきた声は、先程退室したはずの自
身の秘書のものだった。
「私です、オールド・オスマン。ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようで、
大騒ぎになっていますが……」
「こっちはそれどころじゃないんじゃがのう……それで、誰と誰が暴れておるんじゃ?」
「ギーシュ・ド・グラモンと、ミス・ヴァリエールの使い魔のようです」
 思いもよらぬ偶然に、オスマンとコルベールは顔を見合わせる。
「オールド・オスマン? どうされました?」
「あー、いや。決闘とはいえ、所詮はただの喧嘩じゃ。放っておきなさい。一応何かあっ
た時の為に、水属性の教師に一言、声だけは掛けておいてくれ」
「分かりました。伝えておきます」
 オスマンの態度を怪しむ風もなく、淡々とした事務的な返事だけを残し、ロングビルは
去って行った。
 足音が聞こえなくなったのを確認し、コルベールはオスマンへと視線を向ける。分かっ
ておるというように頷くと、オスマンは手にした杖を振った。
 壁にかかった鏡――『遠見の鏡』に、ヴェストリの広場の様子が映し出されていた。



 ルイズの叫びは、金属の擦れる音と歓声に掻き消された。ワルキューレが青銅の短槍を
レオンに向かい振り下ろしたのだ。
 当然レオンも、その瞬間を黙って待ってはいない。余裕を持って斬撃を躱すと、ワルキ
ューレの顔面を目がけ、得意の回し蹴りを放つ。
「っ……!」
 軍靴に伝わる硬い感触に、とっさに片足で後方に跳ねる。
 青銅の刃が鼻先を掠めた。
「はははっ、僕のワルキューレにそんな攻撃が通じると思っていたのかね?」
 ヴェストリの広場にギーシュの高笑いが響く。
 蹴撃の際に響いた音からワルキューレの内部は空洞だと推測されるが、ギーシュの言葉
通り、その表面にはひび一つ入っていない。
 ――これならB.O.W.の方がまだ可愛げがあるかもな。
 怯んだ様子も見せず繰り出されるワルキューレの斬撃を巧みに躱しながら、レオンは舌
打ちした。
 B.O.W.は人によって生み出された歪な存在ではあるが、生物には違いない。どれだけ強
大な力を持っていても、生物であるからには必ずウィークポイントが存在する。少なくと
も、これまでレオンが戦ってきたB.O.W.はそうだった。

6BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/25(木) 00:00:46 ID:wErbKHD6
 しかし、目の前の相手は生物ですらない。痛みを感じる事もなく、破壊されるまでその
動きを止める事もないのだ。



「ねえねえ、見てよタバサ! やっぱり彼、ただ者じゃないわ」
 興奮した様子のキュルケに肩をガクガクと揺さぶられ、タバサは面倒臭そうにレオン達
の方へと視線を向けた。
 が、すぐにその視線は手に持った本へと吸い込まれてしまう。
「何よー。ここまでついて来たって事は、あなたも少しは興味あったんじゃないの?」
「時間の無駄」
 不満そうなキュルケに、短く答える。
 正確にはついて来たのではなく、無理矢理引っ張ってこられたのだが、その事をとやか
く言うつもりはない。興味があった事は事実なのだ。
 しかし、興味の対象はルイズの使い魔ではない。
 ありとあらゆる文献を読み漁っている自分ですら知らない、彼の持つ武器。その性能を
知りたくて、タバサはヴェストリの広場にいる。

 あの平民の持つ銃、それは威力、有効射程、命中精度、全てにおいて彼女の知る銃――
火縄銃やマスケット銃と比べて別物と言えた。何処で作られた物かは分からないが、あれ
だけの技術レベルがあれば、銃の最大の欠点である装填に時間がかかるという点も改善さ
れていると考えるべきだ。
 これまでのタバサには、銃とは平民の使う攻撃魔法の粗悪な代用品にすぎないとの認識
しかなかった。
 しかし、あの銃ならば。
 詠唱を必要としない分、状況によっては魔法以上の力に――自分から全てを奪った仇敵
を打ち倒し、大切なモノを取り戻す為の力になり得るのだ。

 それを使わないと宣言された時点で、もはや見るべきものはない。
 確かにルイズの使い魔はゴーレムの嵐のような猛攻を見事に避け続けている。ただの平
民ではなく、それなりに優秀な戦士なのだろう。
 しかし、攻撃の隙を縫って繰り出される蹴り技がゴーレムに傷一つ付けていない事もま
た事実。こうなるともはや彼に打つ手はない。スタミナ切れによる敗北を待つだけだ。
 ――?
 周囲から歓声が上がり、つい顔を上げてしまう。
 僅かな期待は瞬時に失望へと変わった。何の事はない、業を煮やしたギーシュが六体目
のゴーレムを呼び出したのだ。これではスタミナ切れを待つまでもないかもしれない。
 やはり時間の無駄だった。タバサは小さく溜息を吐いた。



 タバサの読みは当たっていた。
 例え数が二体に増えようと、レオンは驚異的な運動神経により、その攻撃を避け、いな
し、時には蹴りで斬撃の軌道を変え、一つ一つ確実に捌いていく。
 しかし、対するギーシュも馬鹿ではない。
 ワルキューレを巧みに操り、敵の逃げ道を制限する。そうやって、獲物を徐々に追い詰
め、そして仕留める。これは戦闘手段をワルキューレしか持たぬ最下級のドットメイジで
あるが故に、彼が身につけた戦法だった。
 レオンはすぐ後ろにギャラリーの気配を感じ、立ち止まる。これ以上後ろに下がる事は
出来ない。
 身動きの取れなくなったレオンを挟むように、左右から青銅の刃が迫っていた。

「――いい加減にしてよ!!」
 すぐ後ろから響く悲鳴にも似た叫び声に、一人と二体は動きを止める。
 巻き起こる歓声と罵声の中でも一際よく通る声。レオンにはそれが自分の主となった少
女の声だと分かった。

7BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/25(木) 00:05:18 ID:wErbKHD6
「私が謝ればいいんでしょ!? 謝るから、だからもうやめてよ!」
 声が掠れている。
 後ろを振り向く余裕はないが、おそらく泣いているのだろう。
「いや、この決闘はもはや僕と君だけの問題ではない。君も見ていただろう? この平民
がどれだけ僕を侮辱したか」
「根が正直なものでね。思った事がつい口に出てしまう性質なんだ」
「あんたは黙ってて!」
 こんな状況でも軽口を飛ばすレオンを見て、ギーシュは呆れたように鼻を鳴らした。そ
の表情からは、怒りというよりも侮蔑の感情が見て取れる。
「だいたい何で銃使わないのよ!? 私が何を言われようと、昨日来たばかりのあんたに
は関係ないじゃない!!」
 当然の問いかけに、レオンは苦笑する。
 関係ないか。確かにその通りだ。
 突然異世界に呼び出され、縁もゆかりもない少女の為に、同じく縁もゆかりもない男と
戦っている。何とも、馬鹿馬鹿しい話じゃないか。
 それでも、その少女は苦しんでいて、自分には何かしてやれる事がある。
 強いて言えばそれが理由で、レオンにはそれだけで十分だった。
 エージェントとなって心身共に大きく成長したレオンだが、その強い正義感は新米警官
だった頃から何一つ変わっていない。
「あんたなんかの手を借りなくたって、ゼロの汚名は私の力で晴らすんだから! だから
……命令よ! どんな手使ってでもいいから、勝ちなさいよ!!」
 しんと静まり返った広場にルイズの声が響いた。その声に呼応する様に、レオンはレッ
グホルスターへと手を伸ばす。
「OK、ご主人様にそう言われちゃ、逆らえないな」
 レオンの左手に刻まれたルーンが光を放っていた。



 ――まずい。
 銃を使われては厄介だ。ギーシュは慌ててワルキューレに指示を飛ばす。
 命じたのは、「平民ならば、少し傷をつけるだけで降参するだろう」という思いから封
じていた刺突。銃を抜く隙を与えず、最短距離で確実に相手を仕留める。
 ザクリ、という不快な音。
 聞く者によっては耳を塞ぎたくなるその音が、ギーシュには勝利を讃えるファンファー
レのように聞こえた。
 ――勝った!
 そうだ。やはり平民が貴族に勝てるはずがないのだ。
 それなのに。
 何故、あの男はまだ動いている?
 勝利のファンファーレに遅れて、広場に轟音が鳴り響いた。

 それは、発砲音ではなかった。
 VP70を引き抜いたレオンは、体を捻り刺突を躱すと、そのまま一回転しながらグリップ
エンドをワルキューレの無防備な顔面に叩き付けたのだ。
 遠心力を加えた一撃により、戦乙女の勇ましくも美しい表情は、巨大な穴へと塗り替え
られる。
 レオンの背後に立つもう一体のワルキューレもまた、銅像の役割を思い出したかのよう
に沈黙していた。レオンが躱した短槍がその身を貫いている。
 二体のワルキューレは支えを失ったかのようにゆらりと倒れ、そして、粉々に砕けた。

「――撃ってはいないから、セーフだよな?」

 それが決闘再開の合図となった。
「わ、ワルキューレ!!」
 先程まで呆けたような表情で固まっていたギーシュが悲鳴をあげ、四体のワルキューレ
が陣形を解く。
 同時に、レオンはギーシュを軸に周るように駆け出していた。四体の敵に囲まれては、
流石に攻撃を避け続ける自信はない。

8BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/25(木) 00:10:00 ID:wErbKHD6
 ――何だ?
 不意に浮かぶ違和感。
 四体のワルキューレの動きが先程の二体と比べ、明らかに遅い。
 いや、違和感は先程もあった。ワルキューレの繰り出した突きが、一瞬スローモーショ
ンに見えたのだ。そうでなければ、流石のレオンにもあれ程までに完璧なタイミングのカ
ウンターを決める事は出来なかっただろう。
 ――俺の動きが、速くなっているのか?
 走りながら、周囲に目を配る。
 自分を追う四体のワルキューレ。その動きは指揮官の動揺を表しているかのように、て
んでバラバラだ。先程までの見事な連携は、いまや見る影もない。
 ――これなら、律儀に相手をしてやる必要もないな。
 スピードを維持したまま、ギーシュに向けて方向転換する。二人を結ぶ直線上に、障害
となる物は何一つ存在しない。
 レオンは大地を蹴りつけ、跳躍した。

 ――しまった!
 失策に気付いたギーシュは、七体目――最後のワルキューレを召喚せんと薔薇の杖を振
り下ろした。
 振り下ろしたはずだった。
 視線の先に、空中に静止した薔薇が映る。杖を持つ手を掴まれている事に気付き、ギー
シュは信じられないものを見るように、目の前に立つ平民を見上げた。
 ――馬鹿な。あれだけの距離を一瞬で移動したとでも言うのか……!?
 混乱するギーシュとは対照的に、レオンは冷静に掴んだ右手首を捻り上げると、そのま
まギーシュを後ろ手に拘束する。ハンマーロックと呼ばれる関節技だ。
「そろそろタオルを投げる頃合だと思うが?」
 背後から聞こえる平淡な声。
 この状態では、杖を振る事は出来ない。仮に出来たとしても、それよりも自分の腕が折
られる方が先だろう。
 全てを理解したギーシュは、ゆっくりと右手の力を緩めた。
「……降参だ」
 造花の薔薇が音もなく地面に落ちていった。



「ありがとうございます、ミス・ヴァリエール! 本当にありがとうございます!」
「は、はえ? あ、いや、えと……」
 自分の手を握りしめ、何度も頭を下げるシエスタを見て、ようやくルイズは自分の使い
魔が命令を果たした事を悟った。
 いつの間にかあんなにいたギャラリーもまばらになっている。レオンが銃を抜くと同時
に張り詰めていた糸が切れてしまったかのように、それからの事がよく思い出せない。
「べ、別にいいのよ。平民を守るのは貴族の義務だし……って言うか、私何もしてないし
……」
 ルイズのしどろもどろの返答を聞いているのかいないのか、シエスタは相変わらず感謝
の言葉を繰り返している。
 そのシエスタの表情が一瞬にして青ざめた。小動物のような機敏な動きでルイズの背後
に回ると、その影に隠れるかのように体を縮こませ、ブルブルと震え始める。
「ギーシュ……」
 彼女の怯える瞳の先には、いつの間にか自分と決闘するはずだった少年が立っていた。
 俯いている為にその表情は分からないが、結果に納得しているとは考え難い。本来の対
戦相手であるルイズを相手に決闘のやり直しを要求してくる事も十分にありえる。
 ――上等じゃない。今度こそ、逃げるつもりはないわ。
 ルイズは迷う事なく、しっかりと杖を握りしめた。
 瞬間、ギーシュの影が動いた。ルイズも弾かれたように杖を引き抜く。
 ルイズの杖の先には、体を直角に折り曲げたギーシュの頭頂部があった。
「……へ?」
「本当にすまなかった!!」
 ヴェストリの広場中に響く大声で謝罪の言葉を述べるギーシュ。咄嗟の事に、ルイズは
ただ、そんなギーシュを眺めるしか出来なかった。

9BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/25(木) 00:15:11 ID:wErbKHD6
「やはり、許してはもらえないだろうか」
 ルイズの顔をギーシュは不安そうに覗き込む。
 敗北がよほど応えたらしい。キザの塊のような普段の彼からは考えられないしおらしい
態度に、ルイズも毒気を抜かれてしまった。
「も、もういいわよ! あんたの吠え面も見れたし……っていうか、あんたが謝る相手は
私じゃないでしょ!」
「ああ、その通りだ」
 そう言うと、ギーシュはルイズの背後へと視線を送る。視線がぶつかり、シエスタは思
わず顔を背けてしまう。
 ――僕は八つ当たりで、彼女をここまで怯えさせてしまったのか。
 改めて自分の愚かさに気付かされたギーシュは、何とか彼女の誤解を解こうと、その場
に膝をついた。
「ミス・シエスタ、僕は自分が情けない。全て自分が蒔いた種だというのに、ちっぽけな
プライドを守る為に、君を傷つけてしまった」
 これにはシエスタの方が慌ててしまった。
 いくら同年代とはいえ、ギーシュは貴族なのだ。貴族が平民に跪くなど本来ならばあっ
てはならない。少なくともシエスタはそう言い聞かされてきた。
「あ、頭を上げてください、ギーシュ様! 私のような給仕などに頭を下げては、それこ
そグラモン家の名に傷がついてしまいます!」
「いいや! 今のままでは、僕に貴族を名乗る資格はない! 君が許してくれるというまで
僕はいつまでだってこのままの体勢でいよう!」
「ゆ、許します! 許しますから、どうか頭を上げてください!」
 そうか、と案外あっさりギーシュは立ち上がったが、それでもシエスタはほっと胸を撫
で下ろした。
「名前……」
「ん?」
 安堵のせいか、思っている事がそのまま口に出てしまっていたようだ。シエスタは恥ず
かしそうに目を逸らした。
「あ、いえ……その……まさかギーシュ様が私の名前をご存じだったなんて思わなかった
もので……」
「君は何を言っているのだね。僕はこの学院内に咲く美しい花の名は、全て知っているつ
もりだが」
 さも当然だと言わんばかりに首を傾げるギーシュに、シエスタは頬を染めて俯いてしま
う。
 ――いやいや。あんたがそんなだから今回の騒動が起こったんじゃない。こいつ、全然
懲りてないわ……
 そんな二人を眺めながら、一発ぶん殴ってやろうかと握り締めた拳を何とか下ろしたル
イズは、自分が意外と空気を読める性格である事を知った。

「美しい花の忘れ物だ」
 胸元めがけ飛んできた薔薇を、ギーシュは慌ててキャッチした。それが決闘の際に落と
したままになっていた自分の杖だと分かり、思わず苦笑する。
「結局僕はワルキューレに武器まで使わせておきながら、君に傷一つ付ける事が出来なか
ったんだな。完敗だよ。ええと、ミスタ……」
「レオン・S・ケネディだ。レオンでいい」
「君の勝利を讃えよう、レオン」
 ギーシュの右手が差し出される。レオンは微笑み、その手を握り返した。
「――やあやあ、雨降って地固まるだね」
 不意に声が掛けられた。
「どうやら、そのようだ」
 レオンは当たり前のようにその声に反応するが、その声の主の方へと首を向けたギーシ
ュの顔はみるみる崩れ、しまいには泣きそうな表情へと変わってしまう。
 不思議に思いルイズを見ると、彼女もまた眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。
 レオンはわけも分からず、声の主に視線を向ける。頭の禿げ上がった男がにこやかに笑
みを浮かべていた。



「違うんです、ミスタ・コルベール! 彼は使い魔として私の代わりに戦っただけなんで
す! 罰ならば、主であるこの私が――」
 レオンとルイズは火の塔の隣に建てられた掘っ立て小屋――もとい、コルベールの研究
室にいた。

10BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/25(木) 00:18:29 ID:wErbKHD6
 必死に弁明するルイズを見て、レオンは貴族間の決闘が禁止されている事を思い出す。
今回は貴族同士ではないとはいえ、冷静に考えればそんな屁理屈が通るはずもない。
「いや、今回の件は俺の独断だ。ルイズは関係ない」
 この部屋の主であるコルベールは、互いに庇いあう二人を微笑ましく思いながらも、困
ったような表情を浮かべていた。
「ああ、いや、別に君達を咎めようというわけではないんだ。まあ、確かに決闘はよくな
いが、貴族と平民の決闘に関する規則を定めていなかった我々にも責任はあるし、今回は
幸い怪我人もいないようだしね」
「はあ……では、その、どのような用件で……?」
 尋ねたルイズの瞳からは、未だ疑いの色が見て取れる。
「いや、本当に大した用ではないんだ、ミス・ヴァリエール。ただ、君の使い魔に少しば
かり聞きたい事があってな」
「俺に?」
「うむ。ミスタ・ケネディ、昨日あなたと一緒に召喚された生物がいましたな。あのよう
な生物はこの辺りでは見た事がない。それで、どのような生物なのか気になりましてな」
 それを聞いて、ようやくルイズは安堵の表情を浮かべた。
 決して広くはない室内に、ぎっしりと書物が押し込まれた棚や試験管や標本が所狭しと
並べられた自称研究室からも分かるように、この教師が研究と発明のみを生きがいとして
いる事は学院内では周知の事実だ。
 彼が異世界の獣に興味を持つのは、むしろ当然の事のように思える。
「リッカーの事か……」
 一方のレオンはルイズと違い、険しい表情を浮かべている。
 どのような生物かと尋ねられても、まさか真実をそのまま語るわけにもいかないし、そ
もそも信じてもらえないだろう。
 かといって、コルベールの意図が分からない以上、適当な事も言えない。
「そう、確かリッカーと呼んでいましたな。あれは、その……人為的に作り出された生物
ではないのですか?」
 コルベールは声を潜めた。
 人為的に作られた。確かに間違いではないが、ハルケギニアの住人であるコルベールが
想像しているものは別のものだと考えられる。
 彼はリッカーがその“人為的に作り出された生物”である事を危惧しているのだ。それ
ならば、余計な心配を与える必要もない。
「いや、そんな大層なものじゃない。あれは、俺のいた世界の生物だ。危険な生物ではあ
るが、この辺りで出会う事はまずないだろう」
「ほう。そういえば、あなたはいったいどこの国より召喚されたのですか?」
「ミ、ミスタ・コルベール! 彼は、その……東方の……そう! ロバ・アル・カリイエの
方からやって来たんです!」
 突然ルイズが声を張り上げた。異世界から来た事を喋るなという事だろうか。ルイズの
視線を感じ、レオンは軽く頷く。
「ほう、ロバ・アル・カリイエ! なるほど、あの恐るべきエルフの住まう地の近くであ
れば、あのような生物がいても不思議ではないか……」
「そのようだな」
 レオンとしてはこの教師からも異世界についての情報を得たいというのが本音だが、ル
イズが自分が怪しまれないよう配慮してくれたであろう事も分かる。
 リッカーについても納得してもらえたようだし、ここは素直に従っておくのが得策に思
えた。
「それともう一つ、聞きたい事があるのですが……」
「まだあるのか……何だ?」
 うむ……と一拍置いて、コルベールは口を開く。
「先程の決闘の最中、何か変わった事はありませんでしたか?」

 ガンダールヴの存在を確かめる為、学院長室にて決闘の様子を見守っていたオスマンと
コルベールだったが、結論から言うと、答えは出なかった。
 なるほど、確かに結果はレオンの圧勝と言える。レオンが並の平民であれば、それはガ
ンダールヴの証明として十分だったかもしれない。
 しかし、あの鍛え抜かれた肉体は、果たして並と呼んでよいものか。あれ程の体の持ち
主であれば、ガンダールヴでなくともあのくらいはやってのけるのではないか、という疑
問がどうしても残ってしまう。

11BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/25(木) 00:23:54 ID:wErbKHD6
「コルベール君、この件もついでにあの使い魔に聞いといてくれ」
 こうしてコルベールの仕事がまた一つ増えたのだった。

「変わった事か……そうだな……」
 思いつくような事は一つしかない。戦闘中に感じたあの違和感だ。
「決闘の途中でこのルーンってやつが光ったんだ。それから体が普段より軽くなったよう
な気がしたんだが……」
「ほう! 体が!?」
 興奮したように身を乗り出すコルベールを見て、レオンは慌てて付け加えた。
「いや、気がした程度だ。気のせいかもしれない」
「そうですか……」
 今度は露骨にがっくりと肩を落として見せる。
 この年齢の割に落ち着きのない教師は、しばらくそのまま落ち込んでいたが、やがて思
い出したように口を開いた。
「ああ、そうだ。こちらから質問をしておいて何ですが、体の異変についてはあまり他言
しないほうがいいかもしれませんな」
「元よりそのつもりだが……どうしてだ?」
「使い魔はメイジと契約した際に、特殊な能力を得る事があります。例えば、動物が人語
を話せるようになる、というように」
「なるほど、いかにも使い魔って感じだな」
 人語を話す黒猫やカラス。御伽話の魔女の使いそのものである。
 レオンとハルケギニアの人間との間で意思疎通が可能なのも、その辺りが関係している
のかもしれない。
「しかし、これまで確認されている限りでは、歴史上、人間を使い魔とした例はないので
す。もし人間が使い魔となり、特殊な能力を得たなどと知られれば……」
「恵まれし子らの学園にスカウトされるかな?」
「は? いや、連れて行かれるのはそのような素晴らしい場所ではありません。おそらく
王室直属の研究機関『アカデミー』で様々な実験を受ける事となるでしょう」
 コルベールの顔が苦々しげに歪んだ。それは決してレオンの冗談が理解出来なかったか
らではないだろう。その口ぶりから、アカデミーとやらにあまりよい感情を抱いてはいな
い事が窺える。
 ――人体実験って事か。何処の世界も変わらないな。
 ルイズが異世界から来た事を隠そうとしたのも、その為だろう。レオンは暗澹たる思い
で首を振った。
「やれやれ、ウェポンXの方だったか。OK、気を付けるよ。俺も骨を金属に変えられた
くはないからな」
「はあ……まあ、分かってもらえたならよいのですが」
「あの、ミスタ・コルベール、もうよろしいでしょうか?」
 どうにも噛み合っていない二人の会話を呆れたように聞いていたルイズだったが、自分
達がこのボロ小屋にいる理由を思い出し、おずおずと口を開く。
「待ってくれ。俺からも一つ、質問してもいいか?」
 その言葉を遮ったのは、彼女の使い魔だった。

「ああ、別に構いませんぞ。私に答えられるかは分かりませんが」
「今日、あんた達の使う錬金の魔法ってやつを見せてもらったんだが……その魔法でこれ
と同じ物は作れるか?」
 ホルスターからVP70を引き抜くと同時にマガジンを外し、そこから弾薬を一つコルベー
ルへと放る。何という事もない動作ではあるが、その流れるような素早い動きに、ルイズ
は感嘆の声をあげた。
「あんた、器用なのね」
「慣れれば君にだって出来るようになる」
 コルベールは手にした9mmパラベラム弾とレオンとを交互に見つめる。
 確かに、慣れている。慣れすぎている。
「これはその銃の弾、ですかな?」
「ああ。多分、あんた達の知っている弾とは全然違うと思う」
「ただ鉛をこのような形にしたという物ではありませんな。それも東方で作られた物なの
ですか?」
 コルベールの穏やかな眼差しが、一瞬、鋭く光ったように見えた。

12BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/25(木) 00:28:05 ID:wErbKHD6
「そんなところかな」
 レオンは曖昧に答える。疑われる可能性もあるが、すぐに元の世界に戻れないのであれ
ば、これだけは確認しておく必要があると思った。
 アカデミーについて忠告してくれたこの人の良さそうな教師ならば、そう悪い事態には
ならないだろう。そう考えての行動だったが、早計だったかもしれない。
「……正直に申し上げると、難しいでしょう」
 それでも、コルベールはレオンにも分かるよう丁寧に説明してくれた。
 それによると、錬金はあくまで物質の組成を変える魔法らしい。つまり、薬莢や弾芯を
作る事は出来ても、いきなり実包を作る事は不可能という事だ。
 また、ハルケギニアにはまるっきり同じ物を作るという概念が存在しない。仮に似たよ
うな物を作り出す事が出来ても、弾詰まりか暴発を起こすのがオチだろう。
「まあ、そうだとは思ったよ」
 レオンは特にがっかりした風もなく答えた。ある程度は予想していた事だし、何より今
はこの話題を早めに切り上げたかった。
 しかし、その祈りは天に届かなかったようだ。コルベールの視線は鋭さを増し、未だレ
オンに向けられている。
「そのような連発式の銃が、ロバ・アル・カリイエでは作られているのですか?」

 コルベールはその男から視線を逸らす事なく、なるべく自然に見えるように自身の杖へ
と手を伸ばした。
 彼は気付いている。男の持つ武器がどれ程危険な物かを。
 後装式とでも呼ぶべき構造。そして、複数の銃弾を装填可能な特殊な銃把。これが量産
されれば、誰しもが訓練次第で戦闘においてはトライアングルクラスのメイジと肩を並べ
る事となるだろう。
 それだけではない。あまりに簡易に人の命を奪う事の出来るこの兵器は、罪の意識を希
薄にする。その結果生み出されるのは、何の覚悟も信念も必要とせずに人の命を奪う事が
出来る存在――かつての自分達のような存在ではないだろうか。
 武器を見るまで気付けないとは、自分の勘も随分と鈍ってしまったものだ。それでも、
かつて軍の実験部隊で鍛えられた自分の勘が確かに告げている。目の前の男は、自分の同
類なのだと。
 命を奪っているのだ。それも、数えきれない程の。
 この東方からの訪問者は学院に、いやハルケギニアにとって害を為す存在となる可能性
がある。ならば、子供達に危険が及ぶ前に彼を止める事が、教師となった今の自分の使命
ではないだろうか。

 眼前の男の放つ殺気を感じながら、レオンもまた、その男の本質に気付けなかった自身
の甘さを恥じていた。
 ゆったりとしたローブのせいで分かり難いが、その下にある肉体は年齢とは不相応に引
き締まっている。教師と生徒という事を差し引いても、ギーシュとは別物と考えるべきだ
ろう。
 覚悟を決め、ホルスターに収めかけていたVP70を素早く持ち上げる。反応したコルベー
ルが、杖を構えた。
 瞬間。レオンの手の中で、銃が半回転した。

「興味があるなら、貸してやってもいい。延滞金はサービスにしておくよ」

 張り詰めていた空気が弛緩する。
 差し出された拳銃のグリップを見て苦笑いを浮かべつつ、コルベールは行き場を失った
その杖を掲げてみせた。
「いや、私は銃の方はからきしでしてな」
「どうやら、そのようだ」
 改めて目の前の男を眺める。
 ――不思議な男だ。
 猛禽類を思わせる鋭い眼光。しかし、その瞳に狂気は宿っていない。かつて嫌になる程
目にした、“死”に慣れてしまった者の暗く淀んだ瞳とはまるで異なる青く澄んだ瞳。
 そうだった。この男は先の決闘の際も傷を負わないだけでなく、対戦相手にも傷一つ付
けずにその場を収めてみせたのだった。
 ――我々とは違う人間という事か。
 答えを出すのは、もう少し様子を見てからでもいいのかもしれない。コルベールは、ゆ
っくりと杖を下ろした。

 ルイズだけが何が起きたか分からず、きょとんとした顔で二人を見つめていた。

13BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/02/25(木) 00:30:30 ID:wErbKHD6
今回は以上です。
数年振りにスレ立てたので妙に緊張しました。
他にテンプレとか見落としてない事を祈る。

14Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2016/02/25(木) 19:11:53 ID:1L2CDtog
スレ立て&投稿乙ですー。

丁寧なお話の作りで、楽しく拝見させていただいております。
また続きをお待ちしております。

15名無しさん:2016/02/25(木) 20:49:50 ID:x8rmrbSY
おっつおっつ

16名無しさん:2016/02/26(金) 04:04:03 ID:jIHU2plw
型月は禁止なんかのここ?

17名無しさん:2016/02/26(金) 17:23:10 ID:fttcHGBY
説明しよう!
型月は設定が濃すぎて「俺は知能指数が高いから分るんだ」と言わんばかり重箱の隅をつつく連中が大量に現れ、
最強議論や何やらで手が付けられなくなって荒れるため、現在ではタブーの一つとなっているのだ!

たぶん。

18名無しさん:2016/02/27(土) 18:14:28 ID:DX3LxSZU
まあ、問題無いんじゃない?
ハーメルンのfateとのクロスでこれといって荒れてるようには見えないし

19ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/02/28(日) 20:59:21 ID:WkE9X99U
こんばんは、焼き鮭です。今回も投下致します。
開始は21:03からで。

20ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/02/28(日) 21:01:46 ID:WkE9X99U
ウルトラマンゼロの使い魔
第八十七話「怪獣よ地底へ帰れ!」
噴煙怪獣ボルケラー 登場

 クリスとクラスメイトの仲を取り持つために、パーティーを開催しようということになった後日、
才人は自分一人だけでは一向に良い案が思い浮かばなかったので、学院での友人たちに相談してみる
ことにした。デバンに言われたことも考慮したが……やはり、結果がどうなるにせよ、このまま何も
しないで終わりにするのはどうしても納得できないのだ。
 そうして放課後の食堂に言いだしっぺの才人、ルイズと、タバサ、ギーシュ、モンモランシー、
そして問題の渦中のクリスが集った。
「さぁ、お集まりの諸君! 皆の親睦を深めるパーティーの内容について考えようじゃないか!」
「何でお前が仕切るんだよ」
 会議の始まりを告げたギーシュに、才人が冷静に突っ込んだ。まぁ、テンションが上がると
無駄にノリの良くなるギーシュだから仕方ない。
 最初にモンモランシーが才人に尋ねかける。
「いきなりパーティーの内容を考えようって言われても、具体案なんて思い浮かばないんだけど……
サイトはそういう皆の親睦を図る行事を経験したことがあるの?」
「まぁ、俺のところの学校でいくつかな」
「じゃあ、それを参考にしてみるのはどうかしら。こういうのは、過去の経験を参考にするのが
一番手っ取り早いわ」
「さすがモンモランシー! いい考えだ。ではサイト、君の経験したことを説明してくれたまえ」
 モンモランシーの意見に賛同したギーシュに求められて、才人は林間学校、臨海学校、
合唱コンクール、体育祭、文化祭などの思いつく学校行事を説明した。すると、皆はやや渋い顔になる。
「……じゃ、意見を纏めよう。まず、リンカンガッコウとリンカイガッコウは論外だ」
「え? 何でだよ。面白いぞ、キャンプ」
「僕たちは貴族だよ。ましてや戦争が終わったばかりだというのに、野宿なんて出来やしないよ。
戦時の野営を思い出すじゃないか」
「ああ、それもそうか……」
 ギーシュの反論で、才人はやり込められた。
「それと同じ理由で、タイイクサイも却下だ。今更汗水流して動き回りたくない」
「ガッショウコンクールも微妙よ。わたし、歌は聞く方が専門なの」
「ん」
 モンモランシーの言葉にタバサが小さくうなずいた。才人は、タバサの歌うところは、
それはそれで見てみたいけどと一瞬思った。
 続けざまにルイズが言う。
「ブンカサイは漠然としてて、参考にしづらいわね」
「だから、演劇とか屋台とかやるんだって。演劇なら経験あるだろ?」
「経験あるのは、ここにいるのだとわたしとサイトと、後はタバサだけじゃない。わたしたちは
人に物を教えられる性質でもないし、たった三人でどんな劇をしようっていうのよ」
「うッ、それは……」
 問い返されて、才人は返答に窮してしまった。
「……せめてキュルケがいればなぁ。そういえばタバサ、キュルケはどうしたんだよ。あいつだけ
まだ学院に戻ってないみたいだけれど、キュルケの奴は今何やってるんだ?」
「……」
 ふと気になって問いかけたが、タバサは黙したまま何も答えなかった。
 結局、才人の意見はあれこれ難癖つけられて参考にならなかった。才人は改めて、貴族って
面倒くさいと思った。
「クリスは、何か意見ないのか?」
 にっちもさっちもいかなくなったので、才人はそれまで全くしゃべっていないクリスに尋ねかけた。
「あ、ああ、そうだな……。どういったことを行うかの提案なのだが、平民に向けた舞踏会はどうだろう?」

21ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/02/28(日) 21:04:04 ID:WkE9X99U
「平民に向けた? どういうこと?」
 モンモランシーが聞き返すと、クリスははっきりと答えた。
「我々が自ら準備した舞踏会に平民を招くということだ」
「おお! それって文化祭って感じ!」
 才人は評価したが、ギーシュとモンモランシーは冷めた目を向けた。
「……何言ってるんだい、クリス?」
「あり得ないわ、平民を舞踏会に招くなんて! それに平民に施しを与える行事が、どう親睦に
つながるというのよ」
 強く反発する二人を、才人がなだめる。
「待てよ。クリス、今のは何か考えがあって言ったんだろ?」
「ああ。常日頃から思ってるんだが、わたしたち貴族はいずれ平民を纏める立場だ。しかし我々は、
その平民の暮らしや様子をよく知らない。そこで思い切って平民の立場になって、彼らのことを
知ろうと考えたんだ。貴重な機会になると思うが」
 クリスの意見に、才人は感心を覚えた。自分はとりあえず楽しく出来ればそれでいいくらいにしか
考えていなかったが、さすが王女ともなると、こういう機会も後学につながるものにするよう
思案する。発想が違う。
「そうは言ってもねぇ……」
「やっぱり抵抗が……」
 しかしギーシュとモンモランシーは難色を示す。すると、ルイズが口を開いた。
「わたしはクリスに賛成するわ」
「ルイズ!」
 才人がルイズへ喜びの目を向けた。
「わたしもさる用事で、一時平民の仕事を経験したから分かるけれど、平民の間には貴族の
立場からじゃ見えないことがたくさんあるのよ。わたしたちの暮らしぶりの根底は、平民の
働きに支えられてる。その源を理解するのは、学院を卒業してから大いに役立つ経験になるはずよ」
 ルイズもかつては、ギーシュらのようなトリステイン貴族の価値観で平民を下に見ていた。
しかし『魅惑の妖精』亭での経験から始まり、シエスタやアニエス等の非メイジの人たちに
何度も助けられたことで、その価値観を改めたのであった。
「それにクリスの言ったことは、平民との集団行動においての連携を取る練習にもなるわ。
有事の際には平民との連携も重要って戦争の時に感じたでしょう? その点を視野に入れたと
言えば、学院側の許可も取りやすくなると思うし。違うかしら?」
「ふーむ、なるほど。それは一理あるな……」
 ルイズに諭され、ギーシュたちもやっと賛同を示してくれた。
「まぁ、他にいい案も出そうにないし、その方向で行きましょうか」
「……」
 タバサも無言で賛成の意を表し、クリスの意見が採用されることとなった。
「ありがとう、ルイズ。お陰で助かった」
「べ、別にお礼を言われることじゃないわよ。わたしはわたしの思ったことを口にしただけよ」
 クリスに正面から礼を言われ、ルイズは照れ隠しにそう返した。

 その後、皆で舞踏会の細かい部分の案を出し合った。そして夜になってお開きとなってからも、
才人はルイズに紙とペンを借りて、ちゃぶ台で会議で決まったことを纏めていた。そこに
デルフリンガーが尋ねかける。
「相棒、何だか楽しそうじゃねえか。まだ何やるか決まっただけだってのによ」
「へへ、まぁな。みんなで催し物をするなんて久しぶりだし、個人的にも楽しみなんだよ。
祭りは準備の方が楽しいっていうし」
「サイトさん、お茶を淹れました。どうぞ」
 返答した才人の手元に、シエスタがすっとティーカップを置いた。
「おお、ありがとシエスタ! いただきます」
「ふふ、どうぞ召し上がれ」
「ちょっと待ちなさいよ。何でシエスタが自然な感じにわたしの部屋にいるのよ!」

22ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/02/28(日) 21:06:28 ID:WkE9X99U
 ルイズが突っ込むと、シエスタが不敵な笑みを浮かべながら返した。
「あら、わたしにサイトさんの召使いとなるよう女王陛下がお命じになったこと、お忘れですか? 
ミス・ヴァリエール。召使いが主人の傍にいるのがおかしいことでしょうか」
 そう言われると、ルイズはぐっと言葉を詰まらせた。
 ボーグ星人との戦い後、シエスタはいつの間にかアンリエッタに、貴族には使用人がつきものだし、
貴族の世界について右も左も分からない才人をサポートする役目の人が必要と理由をつけて、自分を
売り込んだのだ。それにアンリエッタは説得されてしまい、シエスタは晴れて才人の使用人となったのである。
ルイズにとってはかなり納得のいかないことであるが、アンリエッタの決定には、さしものルイズも逆らえなかった。
 それにシエスタが才人の専属になるというのも、生活面では悪いことではない。才人が鍛錬を
日課に入れてから、家事が滞り気味になっているからだ。それを代わりにやってくれる人がいれば、
才人もルイズも助かる。
「そうそう、異動という形になりますので、今日からはわたしもミス・ヴァリエールのお部屋に
ご厄介にならせていただきますね」
「は、はぁ!? どこで寝るっていうのよ!? ベッドは一つしかないのよ!」
「シエスタもいっしょに寝ればいいじゃん。ベッド大きいんだからさ」
 才人がさらっと言うが、ルイズは大声で反対する。
「だめ! だめ! だーめ! 狭いわ! それにシエスタは……」
 平民だから、と言いかけたが言葉を呑んだ。放課後に平民のための舞踏会に賛成した手前、
舌の根も乾かぬ内にそんなことは言えない。
 それでも一緒に寝たりなんかしたら、シエスタが才人に何をするか分かったものではない。
それで反対し続けていると……。
「じゃあいいよ。俺が畳で寝るから。お前ら一緒に寝ればいいだろ」
 再び才人がさらっと言った。するとシエスタが大きく首を振る。
「そんな! サイトさんは今じゃ騎士さまですよ! 床で寝るなんてダメですッ! じゃあわたしも
おともしますッ!」
「……え?」
 才人とシエスタが見つめ合って頬を赤くする。それにルイズはわなわなと震えて、言いたくなかった
言葉を発した。
「わ、分かったわよ。い、いいわ。一緒に寝ましょう」
「そんな……、でも、貴族の方と一緒になんて……」
「サイトだって今じゃ貴族よ」
「でも、サイトさんはサイトさんだし……」
 身をくねらせるシエスタに、ルイズは引きつった笑顔を向ける。
「いいから」
「はい……」
 恥ずかしそうにうつむくシエスタ。そんなことをしていたら、急にゼロが声を張り上げた。
『才人、学院の近くに怪獣出現だ! こっちに近づいてきてるみたいだぜ!』
「えッ!?」
 ゼロの知らせに、三人が驚きの声を上げた。ルイズが聞き返す。
「ちょっと、また学院の近くに怪獣なの? ついこの間、同じことがあったばかりじゃない!」
『そんなこと言われても、事実だからしょうがないぜ』
 ゼロが身も蓋もなく言い返した。
『そういうことだから才人、出動だ!』
「よし、分かった!」
 ペンを置いた才人が窓を開け放ち、ゼロアイを取り出す。
「サイトさん、ゼロさん、お気をつけ下さい!」
「しっかりね!」
 シエスタとルイズの応援を受けながら、才人は変身。青と赤の輝きが猛スピードで学院から離れていく。
 そして飛んでいった先に、怪獣の巨体を発見した。頭部の左右に折れ曲がった二本角と、
鼻先の長くとがった角が特徴的で、両手は三日月のような形状。どんな生物とも似ていない
容貌の、おかしな怪獣であった。

23ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/02/28(日) 21:08:08 ID:WkE9X99U
『あれは……噴煙怪獣ボルケラーか!』
 才人は端末の怪獣図鑑から、地上の怪獣の情報を引き出した。
 ボルケラーは半分だけ開いた目つきで、まっすぐ魔法学院の方角へ進んでいる。それを見てゼロが言う。
『やっぱり、あいつも学院を狙ってるのか……そうはいかないぜ!』
 実体化したゼロはボルケラーの面前に降り立ち、その進行方向に立ちはだかった。
『ここから先は通さねぇ!』
「キャアアァァ!」
 するとボルケラーは腕を振り回し、猛然とゼロに襲いかかってくる。ゼロは相手の腕を抑え、
突進を止めた。
『この感じ……やっぱりこいつも正気じゃねぇってことか! なら!』
 ボルケラーの胸部に素早く掌底を入れて突き飛ばすと、ルナミラクルゼロに変身。ティグリスや
ホオリンガにやったのと同様、フルムーンウェーブを浴びせかける。
『フルムーンウェーブ!』
 最早慣れたもので、光の粒子を一身に浴びたボルケラーは覚醒し、辺りをキョロキョロと見回した。
「キャアアァァ……?」
『ここはお前の世界じゃねぇんだ。さぁ、早いとこ帰りな』
 立ち尽くすボルケラーに優しく呼びかけるゼロ。だが、
「キャアアァァ!」
 ボルケラーはいきなり口から黄色いガスを噴出して、ゼロに浴びせてきた!
 しかもガスが当たると、ゼロは爆発に襲われる!
『うおああぁッ!?』
 不意を突かれる形となったゼロはなす術なくやられ、仰向けにばったり倒れる。そしてその上に
ボルケラーが馬乗りになり、ゼロをボコボコに殴り始める。
「キャアアァァ! キャアアァァ!」
『うぐおぉッ! こ、この野郎ッ!』
 ボルケラーはティグリスやホオリンガと違い、元の気性が荒いようだ。そのため覚醒させても、
そのまま大人しく帰らずにゼロに攻撃を仕掛けてきたのだ。
 これにプッツン来たゼロは、通常形態に戻ってボルケラーの腹を蹴り、自分の上から蹴り飛ばす。
『やってくれるじゃねぇか……一旦お灸を据えねぇと駄目みたいだな!』
 やられっぱなしではいられず、エメリウムスラッシュを発射。が、ボルケラーは見た目にそぐわぬ
軽快な跳躍でレーザーから逃れた。
『ちッ、思ったよりも身軽じゃねぇか……!』
「キャアアァァ!」
 着地したボルケラーとジリジリ睨み合うゼロ。先に痺れを切らしたボルケラーの方が動く。
「キャアアァァ!」
 口から再度爆発性ガスを吐き出して、ゼロを狙う。するとゼロは、
『そう来ると思ったぜ! はッ!』
 迅速な動作でウルティメイトブレスレットからウルトラゼロディフェンダーを出し、ガスを全て
盾に吸収した。
『さて、お返しだぜ!』
 そうして蓄えたガスは逆流させ、ボルケラー自身に浴びせた。
「キャアアァァ!?」
 自分の身体の上で炸裂が発生し、ボルケラーは大いにひるんだ。その隙をみすみす逃すゼロではない。
『ストロングコロナゼロッ!』
 青と赤の姿から赤一色の姿へと変化し、ボルケラーに詰め寄って拳の連撃を食らわせてやる。
『うっらあああぁぁぁぁぁッ!』
「キャアアァァ!」

24ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/02/28(日) 21:10:39 ID:WkE9X99U
 重い打撃を連続で受け、ボルケラーはたちまちグロッキーとなってその場に倒れ込んだ。
『よぉしッ!』
 転倒したボルケラーをゼロは頭上に高々と持ち上げると、超視力で出現した地点と思しき
大地の裂け目を見やった。そして、
『てぇぇぇぇぇぇいッ!』
 ストロングコロナの超パワーで、そこに放り込む! 見事シュートは決まり、ボルケラーは
頭から裂け目の中に突っ込んだ。
 さすがにたまらなくなったのか、ボルケラーは慌ててそのまま地中へと潜り込んでいった。
全身が地面の下に隠れると、裂け目がぴったりと閉じる。これでボルケラーがまた地上に
出てくることはないだろう。
「ジュワッ!」
 怪獣を地底に帰したゼロは両腕を空に向けて伸ばし、飛び上がってこの場から去っていったのだった。

 学院に帰り、変身を解いたゼロだが、ルイズの部屋に戻る前にゼロと話をする。
『しかし、ここのところ妙だな……。おかしな怪獣の出現が連続してるぜ』
「ああ、そうだな……。これで三度目だ。三度続けば偶然じゃないって言うよな」
 ゼロも才人も、そのことを訝しんでいた。ティグリス、ホオリンガ、そして今回のボルケラー……。
明らかに普通ではない様子の怪獣が、短期間に三回も出現した。普通では考えられないことだ。
『しかも奴らは全員、この学院に一直線に向かってきてた』
「え? ティグリスもそうだったか?」
『思い出せ。あいつは俺たちが通った、学院とトリスタニアをつなぐ道のちょうど反対側から
進んできてた。きっと、目的地はトリスタニアじゃなくて、その先の学院だったんだ』
 そう言われてみれば、そうだ。あの時はそこまで気がつかなかったが、こうしてみたら、
三種の怪獣に正気ではないこと、学院を目指していたことの二つが共通点となる。
「でも、誰が何のために怪獣たちを学院にけしかけてるんだ?」
『分からないのはそこだ。この前も言ったが、仮に侵略者とかが学院を狙ってるなら、こんな
回りくどい手をわざわざ取る必要性が理解できねぇ』
 確かに、今まで学院を狙った者はもっと直接的な手段に訴えてきた。今更こんな迂遠な方法を
採用する者が果たしているのだろうか。
『もう一つ分からないのは、怪獣を操るやり方だ。あいつらが普通の状態じゃないってのは
散々言ってるが、もっと具体的に言うと……そう、寝ながら動いてるって感じだ。動きがいちいち
単純なのも、そこが原因だと思う』
「寝ながら……?」
『どうせ操るなら、何で普通に起きてる状態で操作しない? あるいは、それが出来ないのか……』
「寝てる怪獣だけを操る……そんな能力ってあるのか?」
『少なくとも俺は、聞いたことないけどな……』
 悩む二人。しかしいくら考えても、答えは見つからない。
『あー、判断材料が足りなすぎる。しょうがないから、一旦置いとこう。問題はそれより、
怪獣の出現地点がだんだんとここに近づいてきてることだ』
「そう言えば、確かに……」
 ティグリスの時はトリスタニアを挟んだ遠方だったが、ホオリンガ、ボルケラーと続くにつれ、
ゼロの言う通りに学院に接近している。次は、もっと近くから出現してしまうかもしれない。
『そうなったら事だ。ここは本腰入れて、怪獣出現の原因に探りを入れる必要があるぜ』
「分かった。明日はとりあえず、この学院を一番に調べてみよう」
『だな。目的のここに、何かしらの手掛かりがある可能性が一番高いだろう』
 明日の行動方針を決定すると、才人はようやくルイズの部屋へと戻っていった。

25ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/02/28(日) 21:11:18 ID:WkE9X99U
今回はここまで。
ちょっとずつ物語が進んでいってる感じ。

26名無しさん:2016/02/28(日) 22:49:32 ID:DMaJRCmI
おつ

27名無しさん:2016/02/28(日) 23:23:51 ID:ziduURP.
おつ

28Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2016/02/29(月) 21:03:23 ID:0laKLAfk
みなさん、こんばんは。
よろしければ、21:10頃からまた続きを投下させてくださいませ。

29Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2016/02/29(月) 21:10:27 ID:0laKLAfk

「ねえルイズ。明日、ルイズのお姉さんと会った後で、ちょっとお出かけしない?」

いよいよエレオノールがやってくるという『虚無の曜日』を翌日に控えた、ある日の朝。
ディーキンはルイズに、唐突にそんなことを聞いた。

「いいけど……。お出かけって、またあの酒場かしら?」

「イヤ、そうじゃないの。大体準備ができたから、そろそろタバサのお屋敷を調べに行こうと思うんだよ。
 できるだけ大勢で調べた方が、見落としがないでしょ?」

「え? ……ちょ、ちょっと待ってよ。タバサのお屋敷って、ガリアにあるんでしょ?
 遠すぎるわ! 虚無の曜日だけじゃなくてその翌日か、もしかしたらさらに次の日まで潰れるわ。
 授業を休まなきゃならなくなるじゃないの!」

それを聞いたディーキンは、首を傾げた。

「ンー……、そうだよ? だから、今日のうちに先生たちにお休みをもらうことを伝えておいたらいいと思うの。
 タバサも、先生たちに伝えてるかどうかはわからないけど、仕事が入ったときにはよく学校を休んでるって聞いてるの。
 それともルイズは、タバサのお手伝いをすることよりも、授業に出ることの方が大事なの?」

「い、いえ。そういうわけじゃないんだけど……」

ルイズはそう言いながらも、困ったように顔をしかめた。

たしかに、友人が深刻な問題を抱えている時に手助けをすることは当然で、ルイズにはそれを嫌がる気持ちなどはない。
しかし、実技が壊滅状態のルイズとしては、授業の出席点を失うことは大きな痛手だった。

タバサの抱えている問題の深刻さからいって、本来ならば自分の単位くらいで渋るべきではない、というのはその通りだし。
さすがに一日や二日授業を休んだくらいで、即留年などにはならないだろう、とも思うのだが……。

(万が一にも留年なんかしたら、公爵家の恥よ……。エレオノールお姉さまに、なんて言われるか。
 いや、その前に、母さまに殺されるわ!)

想像しただけで、体が震える。

さておき、ルイズがそうして渋っている様子なのを見て、ディーキンは思案を巡らせた。

なぜかは知らないが、どうもルイズは授業を休むのは非常に嫌らしい。
しかし、ルイズは自分だけが置いていかれるというのもまた嫌がるに違いない、とディーキンは確信していた。
この間も彼女を置いて、タバサと一緒に出掛けたばかりだし。

とはいえ、週に一日しか休日の無い学生である彼女に、授業を休ませないでガリアまで同行させるとなると……。
虚無の曜日前日の夕方、授業終了後から出かけて、虚無の曜日丸一日を使って調べてすぐ学院に戻る、というくらいしかなさそうだ。
しかも、今週はルイズの姉が訪ねてくる予定が入っているから、来週末まで待たなくてはならない。

早く調査を進めたいこの時に、そんなに遅れるわけにはいかない。
屋敷の方に置いてきたシミュレイクラムたちに連絡を取って調査させる、という方法もないではないが……。
それでは、調査の精度などの面で不安が残る。

30Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2016/02/29(月) 21:13:07 ID:0laKLAfk

つまらない見落としのせいで、致命的なミスを犯すようなことにはなりたくない。
ちゃんと現地へ行って、時間に余裕を持って調べたい。
と、なると……。

また費用がかさんでしまうが、“アレ”を使うしかないか。
まあ、使った方が調査もいくらか早く進むのだから、無駄遣いというほどのことでもないだろう。
ディーキンはそう結論を出すと、なにやら押し黙って震えているルイズに声をかけた。

「わかったの。じゃあ、さっき言ったことは忘れて?
 ディーキンは、ルイズが授業を休まなくて済むようにやり方を変えるよ」

「……え?」

「ルイズは、今夜は何か予定はあるの?」

「今夜……? い、いえ。別に無いわ。
 いつも通り、勉強とか、調べものとか……、あとは、あの『爆発』の練習とかをするくらいだと思う」

ルイズは、あの爆発が魔法ではなく温存魔力特技のような超常能力の一種であると教えられてから、練習の仕方を少し変えていた。
爆発が起こらないようにしようとするのではなく、規模や発生個所を的確にコントロールできるように頑張っているのだ。
杖を持たずに無詠唱で起こせる爆発となれば、使い方によっては有用な武器になる事に、ルイズもすぐに気が付いた。

魔法の練習に関しては、残念ながら、どうもハルケギニアの既知の魔法を使うのは現状では無理なのではないかとエンセリックに言われた。
不本意ではあるが、せっかくディーキンやエンセリックが頑張って調べてくれたことなのだから、受け容れて今後に活かすつもりだ。
なので、普通の練習は一旦中止して、代わりに図書館で何か自分の適性に関する手掛かりがないか本を調べてみたりしている。

虚無の曜日にエレオノールに会ったら、そのあたりの事も話さねばなるまい。
どんな反応をされるか想像がつかず不安ではあるが、かといって身内に対していつまでも伏せておくわけにもいかないだろう。

「じゃあ、今日ルイズの授業が終わったらすぐに出かけて、明日ルイズのお姉さんが来る前に戻るの。
 ディーキンは、ルイズが授業をしてる間に他のみんなにも声をかけておくよ!」

「……はあ? ちょ、ちょっと、なに言ってるのよ!
 今日の夕方にガリアへ出かけて、明日の午前中までに調べ終わって戻るだなんて、時間の余裕がなさすぎるじゃないの!」

正確にどれだけの時間がかかるかまでは、もちろんルイズにもわからない。
だが、タバサのシルフィードや、ディーキンのあの空を飛ぶ馬に乗って出かけるにしても……。
ガリアまでとなれば、往復するのが精一杯ではなかろうか。下手をすれば、それすら間に合わないかもしれない。
少なくとも、ゆっくり調査などをしている余裕があるとはルイズには思えなかった。

しかし。

「そこんとこは大丈夫なの、ディーキンにはちゃんとあてがあるの。
 とにかく、ディーキンを信じてくれるなら、今日の授業が終わったら出かけられるように準備をしておいて!」

ディーキンは意味ありげな笑みを浮かべると、胸を張ってそう請け負ったのである。





31Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2016/02/29(月) 21:16:17 ID:0laKLAfk

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その日の授業が終わるとすぐに、調査に参加する面々は事前にディーキンが伝えた場所に集合した。

参加するのはもちろんディーキン、タバサ、ルイズ。それにキュルケとシエスタである。
加えて、屋敷に詳しいペルスランやトーマス、オルレアン公夫人も、簡単な変装を行った上で集まって来ていた。
シルフィードがディーキンからお使いを頼まれて、彼らを連れてきたのだ。

待ち合わせ場所は、シルフィードが魔法学院近くの森の中に作ったねぐらであった。
オルレアン公夫人らを学院内にまで来させるわけにはいかない。

そのシルフィード自身も、人間に化けて服を着込み、参加メンバーに加わっている。
彼女の正体が風韻竜であることは、ルイズらが信頼に足ると確信したタバサの許可を得て、ここに集まった皆には既に明かされていた。

「きゅいきゅい、きょうはシルフィは、長いこと飛ばなくてもいいのね。
 お姉さまと楽してお出かけ、たのしーいなー……♪」

妙な即興歌を歌ってぴょこぴょこ跳ね回り、タバサに杖でどつかれるその姿を見て、場は和やかになった。

「それで、ディー君は今日は、どんなサプライズを用意してくれてるのかしら?」

「もったいぶってないで、風竜よりも速くガリアまで行ける方法とやらをそろそろ教えなさいよ!」

キュルケとルイズに促されて、ディーキンは咳払いをする。
それから、おもむろにスクロールを一枚取り出した。

「オホン……。それじゃみんな、こっちへ来て、ディーキンの体に手を置いて?」

不可解な要求に皆が顔を見合わせて戸惑っているのをよそに、タバサはすぐにディーキンの傍に屈みこんで、彼の腰に手を回した。
慌ててルイズも傍によって、しっかりと手をつなぐ。
キュルケは楽しそうにディーキンの腕をとり、シエスタはおずおずと背中に体を寄せ……。
残りの者たちも、めいめい手を伸ばして彼の体のそこここに触れる。

小さな体のあちこちへ大勢にひっつかれて、ディーキンはちょっとくすぐったそうに目を細めた。
一度深呼吸して精神を集中し直し、スクロールを開いて読み始める。

「2つの点は1つに。星幽界の守護者よ、我らをかの地と導きたまえ。
 ……《ジェニルト・フランナー》!」

《上級瞬間移動(グレーター・テレポート)》の呪文が完成すると同時に、極彩色に瞬く扉が空間に出現して、一行を呑みこんだ。
呪文の魔力は一瞬にして物質界の距離を飛び越え、術者とその仲間たちの存在を遠く離れた地点に移送する――――。

32Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2016/02/29(月) 21:21:10 ID:0laKLAfk

――――次の瞬間にはもう、一行は元の森の中ではなく、何処かの薄暗い屋内に立っていた。
呆然として周囲を見回すルイズらの腕の中からするりと抜けだして、ディーキンが宣言する。

「はい、ガリアに着いたよ?
 ここはもう、タバサのお屋敷の中なの」

そうしてから、白紙になったスクロールをくるくると丸めて荷物袋の中へ突っ込んだ。
出来れば、帰りはのんびりシルフィードに乗って帰れるだけの時間があるといいな、と考えながら。
往復で2枚もスクロールを使ったのでは、さすがに出費が激しい。

それともいっそ、何度でもテレポートができるようなマジックアイテムを、ヴォルカリオンの店で買うべきか?

「えっ? ……こ、ここがもうガリアなのですか?」

「まさか、いくらなんでも……」

「……間違いない。ここは、確かにラグドリアンにある私の実家」

戸惑うシエスタとキュルケに、タバサがぽつりとそう呟いた。
彼女もまた信じ難いような気分ではあったが、自分の家を見間違えようはずもない。

「ディーキン……。あんたって、一体何者?」

ルイズは、まじまじと自分のパートナーを見つめながらそう問い掛けた。
それは、この場にいる誰もが当然抱いている疑問でもあった。

これまでに彼が見せたいろいろな呪文にも、少なからず驚かされてはきた。
しかし、召喚の呪文とか、変装の呪文とか、治療の呪文とかいったものは、系統魔法や先住魔法にも似たようなものはある。
もし仮に、彼が魔法で風竜の十倍も速く飛んでみせたとしても、ここまでは驚かなかっただろう。
それらは所詮、既存の系統魔法や先住魔法の能力の延長線上にあるものに過ぎないのだ。

だが、今回のこの呪文は……。
一瞬にして空間を飛び越える呪文などというものは、彼女らの知る範囲の魔法では到底考えられなかった。

そんなことができるのなら、分厚い城壁も、魔法の防壁も、まったく何の役にも立たないことになるのではないか。
城郭の奥へ身を隠した王の元へ瞬時に移動し、殺害して、また瞬時に逃げることもできてしまうということになるではないか。
堅牢な宝物庫の奥の宝も、どうぞご自由にお持ちくださいと野晒しにしてあるも同然だし、各種の完全犯罪を成し遂げるのもわけはない。

そんなことになれば、ハルケギニアの様々な秩序や常識が、根底から覆ってしまいかねないだろう。
かくも常識外れの能力をこともなげに披露してみせた彼は、一体何者だというのか?
そういえば、メイジ3人をあっけなく蹴散らして見せたあの天使のラヴォエラでさえ、彼はとても強いと言っていた……。

皆からの視線を浴びたディーキンは、不思議そうに首を傾げた。

「ええと……、ルイズは、ディーキンのことを忘れちゃったの?
 ディーキンはディーキンだよ。
 フェイルーンからきたコボルドのバードで、冒険者で……、今は、ルイズの使い魔もしているよ」

ディーキンは皆の顔を見つめ返して、いつも通りにそう答えた……。

33Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2016/02/29(月) 21:21:54 ID:0laKLAfk
短いですが、今回は以上です。
またできるだけ早く続きを書いていきますので、次の機会にもどうぞよろしくお願いいたします。
それでは、失礼しました(御辞儀)

34名無しさん:2016/03/01(火) 00:30:13 ID:eYgReh2g
おつ

35ゼロとカプセル -Regend Of ROCKMAN X-:2016/03/01(火) 19:45:14 ID:RpJJJ8OY
誰もいないならゼロの使い魔続編に狂喜でイレギュラー化。我慢できなくなったので、よろしければ投下します

20:00から投下予定

ゼロ魔とロックマンXのクロスオーバー

X、ゼロは出ません。ある物体が召喚されます

超展開

36ゼロとカプセル -Regend Of ROCKMAN X- ◆/hNrdthYBw:2016/03/01(火) 20:01:41 ID:RpJJJ8OY

 ――――ある科学者の記録


――――私の行った事は誤りだったのだろうか。
何時終わるとも知れない人と我が子達の確執、殺しあう兄弟たち。

純粋だった最初の我が子は眠りにつき、
誰よりも優しかった彼は戦いの果てに滅んだ。
そして、争いと争いの結果、ついに人類は滅びてしまった。

このデータを見つけた者に伝えたい。私の研究をもしも偶然見つけたとしても、どうか黙って破棄してほしい。

それが、今のこの世界にとって、最も安全な手段であると確信しているから。


-T.R-

37ゼロとカプセル -Regend Of ROCKMAN X- ◆/hNrdthYBw:2016/03/01(火) 20:21:20 ID:RpJJJ8OY

「な、なによこれ……」

春の使い魔召喚によってルイズの目の前に現れたのは、犬でもドラゴンでも、ましてや人間でもなかった。

薄青い半透明な、円搭状のナニカ

ゴーレム? と一瞬考えたが、鎮座するそれはうんともすんとも言わない。ただ、その異様な存在感を放っていた。

「これは……? 何かしらの機械か何かでしょうか」

キテレツな趣味を持つ頭髪の寂しい教師、コルベールは教え子が召喚したナニカを興味深く見つめる。

「おい、ルイズ! 珍しく成功したかと思えば、ガラクタを召喚するなんてお前らしいじゃないか!」

「う、うるさい!」

周りの生徒の野次にもめげず、顔を赤らめて反抗の言葉を表す。しかし、ルイズの内心は穏やかではなかった。

決意と共に望んだ召喚の結果が、こんなわけのわからないガラクタ。こんなモノが一体なんの役に立つと言うのだろうか?

結局、マトモな魔法を使うことも出来ない自分。

ゼロ

できそこない

様々な言葉が頭を駆け巡る。情けなくて涙が出そうだった。

「フーム、気になるところですが、召喚に成功したのは間違いないありません。ミス・ヴァリエール、そう落ち込む事はありませんよ」

コルベールの慰めも、今のルイズには針のような痛みでしかない。

「とにかく、コントラクト・サーヴァントを。それに成功すれば貴女は進級です」

進級

その言葉を聞き、ようやくフラフラとナニカに近づく。ガラクタと契約するなんて、あまりに滑稽。それでも、落第するよりは幾らかましだと考える。

――――そして、ガラクタとの距離が一メイル程になった時、筒の部分が青い光を放った

38ゼロとカプセル -Regend Of ROCKMAN X- ◆/hNrdthYBw:2016/03/01(火) 20:38:09 ID:RpJJJ8OY
「な、なに!? なんなの!?」

驚愕と共にガラクタに注視する。ぼんやりと、しかし柔らかな光が辺りを照らす。やがて収まった半透明の筒の中に、これまた半透明のナニカ――――

――――白衣を着た、老人の姿

『――――ここは……。そうか、もう、そんなに時間が経過していたのか』

「あ、あんた誰よ!?」

円搭形の中の老人が現れた事にルイズは更に驚愕する。
青白い光を放つ老人は、周りの景色を見回した後、感慨深げに溜め息をついた。
ルイズは何が何だかわからないと言った顔をしている。

『君が彼の意思を継ぐものだね? こんにちは、私の名は――――・―――』

「え、ちょ!? なに!? 聞こえない!」

肝心の名前の部分が聞こえない。

『残念だが、あまり長くは話せそうもない。あまりに長い時を眠っていたからのう。だが、後少し時間をくれれば、君に渡すものは完成するじゃろう』

柔らかな笑みを浮かべる老人。その顔はまるで久々に再会した孫に対するモノのそれだった。

39ゼロとカプセル -Regend Of ROCKMAN X- ◆/hNrdthYBw:2016/03/01(火) 20:53:18 ID:RpJJJ8OY
『私が呼ばれたと言うことは、また辛く厳しい戦いが始まる危険があると言うこと。もし、君が力を望むなら、このカプセルの中に入りなさい。きっと役に立つ』

老人はそれだけ言うと、急にその姿がぼやけ始める。

「ま、待って! あんた一体なんなの!?」

『また会おう、かわいい我が子よ――――』

そして、光が収まると同時に、完全にその姿が消え去った。

「――――消えちゃった」

「今の老人は……?」

まるで霞のように跡形もなく消え去った謎の老人。後に残ったのは輝きを失ったガラクタのみ。

「ゼ、ゼロのルイズが幽霊を召喚した……?」

「お、おい、不気味な事言うなよ」

周りが好き勝手言うなか、ルイズはガラクタを見つめる。急に現れて、言うだけ言って消え去った老人。普段の彼女ならなんて無礼者かと憤慨しただろうが、この時ルイズの頭を占めていたのは怒りではなく







――――自分でもよくわからない、懐かしさだった

40ゼロとカプセル -Regend Of ROCKMAN X- ◆/hNrdthYBw:2016/03/01(火) 21:01:16 ID:RpJJJ8OY

以上。今日はプロローグということで、さわりの部分だけ書きました。

41名無しさん:2016/03/01(火) 21:03:13 ID:hs5UCjfI
お二方とも乙です

42名無しさん:2016/03/01(火) 23:04:48 ID:2SrkUMUg
新人さんが来てくれるとは嬉しいことだ


43ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 12:42:09 ID:2DXgqTpA
皆さんこんにちは。ウルトラ5番目の使い魔38話投下準備できましたので始めます。

44ウルトラ5番目の使い魔 37話 (1/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 12:49:31 ID:2DXgqTpA
 第37話
 強襲キングザウルス! 東方号緊急発進せよ!
 
 海凄人 パラダイ星人
 古代怪獣 キングザウルス三世 登場!
 
 
 燃え上がる炎、立ち昇る黒煙……それは戦いの熱、戦いの華。それらが作り出す戦場という景色の中で、ふたりの男が対峙していた。
「失礼だが、君はいったいどこのどなたなのかな? 命を狙われる心当たりがないわけではないが、君とは今日が初対面だと思うのだが」
「あいにくだけども、余計なことをしゃべらないのが暗殺者のたしなみでね。それよりも、ミスタ・コルベールだっけ? あんたなかなかの使い手みたいだねえ。退屈な仕事かと思ったけど、これは楽しめそうだ」
 炎のゆらめきを頭頂部に反射させてきらめいているコルベールを前に、伊達な衣装をまとった少年ドゥドゥーがレイピア型の杖を握って不敵に笑っている。
 港の一角の倉庫が燃えて、逃げ惑う人々の悲鳴と、消火に当たろうとする人々の掛け声が錯綜してカオスとなっている。コルベールは、これは話してわかってくれる相手ではないなと思いつつも、この場所で戦ったら大切な伊-430潜水艦や、なにより無関係な人たちが危ないと身を翻した。
「あっ! こら、逃げるのか」
「悪いけど、無駄な争いは嫌いでね。君の扱いは衛士隊にまかせるよ。それに、子供相手に大人気ない」
 もちろんこれはドゥドゥーを挑発するための嘘である。コルベールの見立てからして、ドゥドゥーの実力はかなり高く、おそらく衛士隊では束になってもかなわない。また、単に逃げようとした場合には慣れた暗殺者であるなら周りの人間を人質に利用しようとしてくることがあるので、あえて相手を怒らせるように言ったのだ。
 案の定、ドゥドゥーは子ども扱いされたことに怒ってコルベールを追ってきた。
「逃がさないよ! ロマリアくんだりからこんなところまで歩かされてきて、やっと見つけた獲物なんだ。君はぼくに付き合う義務があるんだよっ!」
「追ってきたか、っと! 思った以上に速いな、こっちも本気で逃げなくては危なそうだ。が、腕はいいがまだまだ思慮が浅いな……しかしロマリアか、そんなところの誰が私を? おっと、考えるのは後だ。彼をあの場所までおびき出さないと」
 工場街の建物のすきまを縫って、コルベールとドゥドゥーが跳ね回るように飛んでいく。コルベールは障害物の多いところを選び、ドゥドゥーの足を鈍らせようとするものの、ドゥドゥーは樹上で遊ぶリスのように身軽に飛び回って距離を開かせさせはしなかった。
「フフフ、逃がさないよ。ぼくはしつこいんだ」
 やはり並の腕前ではないとコルベールは逃げながら思った。自由に飛び回る魔法の強さはもちろん、高すぎず低すぎず飛翔力を調整するセンス、なにより魔法頼りではなく本人も建物の壁から壁へと飛び回って平気な足腰を持っていることから、自己の鍛錬にも余念がないのだろう。
 やはり、逃げたのは正解だった。あれほどの動きができるメイジと人のいる街中で戦っていたら大変なことになっていただろう。

45ウルトラ5番目の使い魔 37話 (2/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 12:57:16 ID:2DXgqTpA
 が、彼を差し向けてきたのは本当に何者なのだろうか? 傭兵メイジとしても、彼の実力からしたら料金が安かろうはずはない。それなりの資産を持っていて、自分を狙わせるような相手? だめだ、まだ絞り込むには情報が足りない。
 コルベールはやみくもに逃げているように見せかけながら、ドゥドゥーをある方向へと誘導していった。
「やはり振り切るのは無理そうだね。だが、それならそれでいい。この先なら、いくら暴れてもいいからね」
 彼が誰の回し者であるかは、そこでじっくり聞かせてもらうことにしよう。荒事は嫌いだが、今の自分がここを離れるわけにはいかないのだ。彼には悪いけれど、命を狙いに来たというのであれば、こちらも相応の態度で相手させてもらうだけである。
 
 
 その一方で、ドゥドゥーとコルベールの最初の激突で起きた爆発を聞きつけて、非常事態を悟ったベアトリスたちも行動を起こしていた。
「これはただ事じゃないわね。あなたたちは家に戻っていなさい! エーコ、ビーコ、シーコ、行くわよ!」
 ベアトリスは水妖精騎士団の少女たちを残すと、エーコたちを連れて走り出していた。
 金髪のツインテールをなびかせて走るベアトリス。後ろからエーコたちの、「危険です、お待ちください」という声が追ってくるけれども足は止めない。すべてにおいて未熟である自分にとって、トラブルは自分を磨く研磨砂、逃げるわけにはいかないのだ。
 が、走るベアトリスの頭上を黒い影が飛び越えた。ジャネットは魔法で飛んでベアトリスの前まで出ると、彼女たちを見下ろしながら言った。
「せっかくのスポンサーにもしものことがあったら困るのよね。先に行って様子を見てきてあげる。どうせあなたたち、精神力も尽きてるんでしょ。じゃあね」
 そう言ってジャネットは返事を待たずに飛び出したが、もちろんこれは方便である。彼女にとって、せっかく来たまたとないもうけ話をふいにされたらたまったものではない。ここは是が非でも、アホな兄を止めてもみ消さなくては二百万エキューがパァになる。
「まったく、いつものように迷っててくれればいいのに。どうしてこういうときだけ仕事が早いのかしら! ミスタ・コルベールとやらがどれほどのメイジかは知らないけど、ドゥドゥーお兄様にかなうとはとても思えない……ほんと、妹っていやね!」
 ドゥドゥーのいる場所は、空気を伝わってくる戦いの衝撃でだいたい見当がつく。どうやら高速で移動しながら戦っていることからすると、逃げる相手を追っているか、相手を始末して追手から逃げているかのどちらかだろう。もちろん前者であってくれればありがたいのは言うまでもない。
 ジャネットは手遅れにならないうちにと急ぐ。だが彼女はドゥドゥーを探すのを優先するあまり、ほかの気配に注意を向けることを忘れてしまっていた。
 街の空気が少しずつ強く震え、地面を伝わって地響きのような足音が伝わってくる。それは普通の人間にはまだ感じられないほどかすかなものであったが、街に住む風のメイジや土のメイジはその違和感に気づき始めていた。
”何かが、来る”
 そして、街へ近づいてくるその何者かこそが、この街に真の災厄をもたらす元凶であった。
 
「かっ、怪獣だぁーっ」
 
 郊外の街道上に悲鳴がこだまし、街へと向かって青い巨大な怪獣が進撃している。

46ウルトラ5番目の使い魔 37話 (3/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:01:31 ID:2DXgqTpA
 小山のような胴体を巨木のようにがっしりとした四本の足が支え、大蛇のように長大な尻尾が大地を叩く。
 胴体の前からはさらに長く太い首が伸び、古代恐竜を髣髴とさせる頭には前に突き出た鋭い二本の角が生えている。大きく裂けた口から鈴の音のような鳴き声をとどろかせ、それを聞くすべての人間を威圧した。
 
 古代怪獣キングザウルス三世。GUYSのドキュメントMATに記録があり、地底を棲み家とし、一度はウルトラマンジャックを完敗にまで追い込んだ強力無比な大怪獣だ。
 全長百五メートル、体重二万七千トン。体の長さは全怪獣の中でもトップクラスで、見渡すような巨体を震わせて前進する姿は、まるで動く要塞のようだ。
 
 郊外の地底から突如として出現したキングザウルス三世は、そのまま一直線に街を目指して進んでいた。その太い足が振り下ろされるたびに草地にクレーターがうがたれ、振り回された尻尾が放置されていた台車を数十メートルにわたってふっ飛ばし、鳴き声が響き渡るたびに逃げ惑う人々から悲鳴があがる。
 だが、怪獣の出現を察して、街を警護する竜騎士隊がおっとり刀で駆けつけてきた。
「怪獣はあれか。ぬうぅぅ、なんてでかいやつだ……あんなのが街に入ったら大変なことになる。全騎、聞いているな? 本体が重装備を持って出てくるまで、少しでも怪獣を足止めするんだ。かかれっ!」
 竜騎士隊の隊長は、以前に街を襲ったユニタングとの戦いの経験から、怪獣や超獣の恐ろしさをよく理解していた。
 生き物の常識を超えた生物、それが怪獣。人知を超えたパワーや超能力の数々を持ち、ただ一匹で軽々とひとつの街をこの世から消し去ってしまう。
 が、トリステイン軍人に敵を前にしておじけずくことは許されない。相手がなんであろうと、自分たちの杖はトリステインの旗と同じなのだ。軍人になった以上は、自分の旗を命に代えても守るという義務を果たさねばならない。
 とにかく、時間を稼ぐことだ。そうすれば、重装備を抱えたほかの部隊や、港に駐留する艦隊が出撃してきてくれるだろう。
「全騎、急降下!」
 隊長の命令一過、竜騎士隊は翼を翻して逆落としに入った。
 いくぞ怪獣、我らトリステイン王軍の力を見せてやる!
 だが、キングザウルス三世は広い視野で竜騎士たちの動きを掴んでいた。黒目がぎょろりと上を向き、長い首が戦車の砲身のように上を向く。
 来る! 本能的に危険を察知した隊長が部隊に散開を命じた瞬間、キングザウルス三世の口が大きく開き、赤色の放射能光線が発射された。
 
 
 キングザウルス三世の出現で危機迫る街。その脅威は時間と共に警報へと変わって、一般人にも伝えられた。

47ウルトラ5番目の使い魔 37話 (4/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:05:17 ID:2DXgqTpA
『緊急警報! 緊急警報! 街郊外に怪獣が出現。怪獣は東ゲート方向より、街へと向かって進行中です。全作業員はただちに作業を中断し、落ち着いて北ゲートもしくは南ゲートへと避難してください。決して、東ゲート付近には近寄らないでください。繰り返します、怪獣が出現……』
 もしものために用意された、風の魔法で増幅されたアナウンスが街全体に響き渡り、それまで平凡な日常を送っていた人々は一瞬にして修羅の巷へと放り出された。
 怪獣が来る! バキシム以来、怪獣の出現が絶えて久しかったこの街にさっと緊張が駆け巡る。だが、トリスタニアと同様に万一に備えて避難訓練が繰り返されて、慣れていた人々は身の回りのものを持ち、慌てて外へと飛び出して、北か南の近いほうの門へと駆け出した。
 むろん、街中に響き渡る警報はベアトリスたちの耳にも入っている。
「怪獣ですって! んもう、こんなときにっ」
「姫殿下、危険です。やってきている怪獣がなにかはわかりませんが、ここはいったんご避難なさってください」
「だめよ、事態も把握できてないうちに責任者が逃げ出してどうするの。このまま港に向かうわよ、まずはミスタ・コルベールの安否を確認するわ」
「そちらは街の西岸です。逃げ道がなくなりますよ!」
「忘れたの? 陸に逃げられなくても、港にはあれがいることを」
「ああっ!」
 エーコたちは合点した。そしてさらに足を速めて急ぐ、港はもうすぐだった。
 
 
 そして、人々が望まぬ騒乱に巻き込まれようとしているとき、望み望まれぬ戦いもまた始まろうとしていた。
 人の気配のない閉鎖された工場。その薄暗い中に立ち、コルベールとドゥドゥーは互いに杖を抜き放っていた。
「ふふ、鬼ごっこもそろそろ終わりみたいだね。もう逃げ場はないよ、観念してもらおうかな?」
「確かにね、ここまで追い詰められるとはまいったね。なあ君、外も騒がしくなってきたようだし今日はお開きにしないかね? お土産にお茶菓子くらいは出すよ」
「おもしろいおじさんだね、自分の立場をわかってるはずなのにその余裕。やけっぱちかな? いやいや、ボクの勘が君は腹になにかを隠してるって言ってるよ。ケチケチしないでやる気を出してくれたまえ」
 コルベールがなだめようとしても、ドゥドゥーは人をなめた態度で挑発を続けてきた。
 じりじりと両者の間合いが詰められていく。ドゥドゥーのレイピア型の杖を扱う仕草には隙がなく、コルベールもじっと杖を構えて動かない。
 が、コルベールはドゥドゥーの千分の一も殺気を発してはいない。

48ウルトラ5番目の使い魔 37話 (5/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:07:27 ID:2DXgqTpA
「なあ君、私は無益な争いは嫌いなんだ。けんかも弱いし、なにより私はまだ未婚なんだ。せめてあとニ、三年経ってから来てくれないかな?」
「あっはっはっ! 本当におもしろいおじさんだね。まあ未婚なところは同情してあげるさ、おじさんってそういう遊びにも疎そうだもんねぇ。でもダメだね、何年も先じゃなくて、今殺ることに価値があるみたいだからさ。代わりに、お弔いにはロマリアで一番きれいなシスターに祈ってもらえるようお願いしておくよ。なんなら大聖堂のシスターを総動員ってのもいいかもね」
 コルベールは表情を変えないようにしながらも、ドゥドゥーの言葉を吟味していた。
 『今殺らないと』『大聖堂』、なるほど、少しずつ背後が見えてきた。人間は無意識のうちに言葉の中に見聞きしたことを含めてしまうものだ。
 どうやら、彼に暗殺を依頼した相手の動機は自分への恨みなどの類ではなさそうだ。今現在自分がいなくなって支障をきたすものといえば東方号がらみしかない。しかし、恐らくはロマリアでもかなり高い立場にいる人間が依頼主であろうと推測するが、ロマリアが暗殺者を送ってまで東方号の稼動を妨害する理由がわからない。
 だが、理由がなんであろうとも親切に首を差し出してやるつもりはない。
「本当に、私は痛いことは嫌いなのだよ。お金がいるならば、私の財産を持っていってもいいから命ばかりは勘弁してくれないかね」
「あっははは、これはずいぶん苦しい命乞いだね。だったら今ここに二十万エキューを用意してみたまえ。なにより、今ぼくは機嫌が悪くてね。暴れたくてしょうがないのさ……なにせこの街ときたら、やたら道が複雑で……」
 
 それは数時間前のこと……
 
「おーい、ジャネット! ジャネットぉっ! まずい、完全にはぐれた……そして」
 迷った……と、ドゥドゥーはどこともしれない路地の中で途方に暮れていた。マイペースで自由人のジャネットは街の雑踏にまぎれてどこかに行ってしまい、ぽつんと残されてしまったドゥドゥーは、認めたくないが迷子というほかはない。
 しかし、遠足に来た子供ではないのだから自分でなんとかしなくてはいけない。
「しょうがない、ターゲットのいそうなところを人に聞いてみるしかないか。なんでぼくがこんな目に……えーと、すみませーん!」
「はい? なんですかみょん」
 
 そうしてあっちこっちを散々さまよって……
「やっとのことで、港のほうで色々研究してるハゲがいると聞き出したときはうれしかったなあ。この恨み、なにがなんでも君を抹殺して晴らさせてもらうよ!」
「は、はぁ……」
 ずいぶんと苦労性な少年だなあと、コルベールは思ったが、どうやらドゥドゥーは本気で我慢の限界らしい。
 これ以上、話を引き伸ばすのは無理か……コルベールは腹を決めた。

49ウルトラ5番目の使い魔 37話 (6/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:08:32 ID:2DXgqTpA
 廃倉庫の中に、ドゥドゥーの殺気と共に魔力が高ぶっていく。コルベールは、その流れをじっと見定めていたが、ある一点に達した時点で素早く身を翻した。
『ライトニング・クラウド!』
 上級の電撃魔法がドゥドゥーの杖からほとばしってコルベールに襲い掛かる。だが、魔法の完成の一瞬前に飛びのいていたおかげで、電撃の枝は打ち捨てられていたさびまみれのドラム缶を黒焦げにしただけに終わった。
「すごいね! ライトニング・クラウドを避けるなんて、そんじょそこらのメイジにできることじゃないよ」
「喜んでいるところを悪いが、周りに気をつけたほうがいいよ」
 コルベールが言うのと同時に、廃倉庫のガラクタや物陰からいっせいに何十発ものロケット弾が飛び出してきて、白煙を噴きながらドゥドゥーに襲い掛かった。
「!?」
 四方八方、逃れる隙間のない全方位からのロケット弾攻撃はドゥドゥーに迎撃する暇も与えずに全弾命中して派手な火柱をあげた。
 爆発の風圧で揺れる廃倉庫。コルベールは積み上げられたコンテナの上から煙に包まれた、ドゥドゥーのいたあたりを見下ろしながらつぶやいた。
「こんなこともあろうかとと思って用意しておいた、魔法の発動に反応して発射されるマジックミサイルさ。死ぬほどの威力はないが、人の命を狙ってきたんだ。少しくらい痛いのは勘弁してもらおうか」
 だが、コルベールのすまなそうなつぶやきをさえぎるように、爆発の白煙は内側から一気に吹き飛ばされた。
「なめるなあっ!」
「んっ、なんと!」
「たいした仕掛けだねえ、一瞬ほんとに死ぬかと思ったよ。でも、この程度じゃぼくはやられない。残念だったね」
「あれをしのぎきったのか。どうやらまだまだ私は君の実力を見誤っていたようだね。これは少し考え方を変えるべきか」
 コルベールは、ぐっと杖を握った手に力を込めながらつぶやいた。
 今のマジックミサイルはオモチャではない。弾頭の火薬こそ減らしてあるものの、まともに使えばドラゴンすら吹っ飛ばす威力を秘めている代物なのだ。それをドゥドゥーは爆煙のせいでどうやったかはわからないものの、完全に無傷で耐え切ってしまった。
 しかし、不思議なことにコルベールの表情には悲壮感とは別ににこやかな笑みが覗いている。
「へえ、やっぱり君も戦いが楽しいんだ。そりゃそうだよね、世の中で闘争ほど心踊るものはないものさ」
「いやいや、そうではないよ。私はこれでも教師だからね、前途有望な若者を見るとついついうれしくなってしまってね。惜しいものだ、それほどの腕を傭兵などで腐らせておくのは」
「そうでもないさ、傭兵稼業をしてると強い奴と戦う機会も巡ってきやすいんでね。もちろんハズレも多いけど、君には大当たりの匂いがプンプンするよ。さあて、本気を出すのが嫌なら出させるまでってね! 絶対逃がさないからね」
「仕掛けを恐れずに突っ込んでくるか。いいねえ、若いというものは……でも、私の自慢の発明もまだまだあるんだよ。私に本気を出させたかったら、がんばってくれたまえ」

50ウルトラ5番目の使い魔 37話 (7/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:10:56 ID:2DXgqTpA
 コルベールに襲い掛かるドゥドゥーと、彼を次の仕掛けに誘導しようとするコルベール。ドゥドゥーが参るのが先か、コルベールの発明品が尽きるのが先か、戦いは廃倉庫の空気をさらに埃まみれにしながら激しさを増していく。
 
 
 だが、コルベールがドゥドゥーの相手に手一杯になっているうちにも、街には巨大な脅威が迫っていた。
 大地に激震が轟き、建物が崩れ落ちる轟音と、路地裏にまで響き渡る鳴き声が傲慢な野良猫も怯えて逃げさせる。
 防衛隊の必死の防衛線を突破して、ついにキングザウルス三世が街へと侵入してきたのだ。
「怪獣が来るぞ! 早く、早く逃げるんだ!」
 逃げ遅れている人に向かって、街の守備部隊の必死の叫びが飛ぶ。人々の悲鳴と怒号が響き、さらにそれを上回る高さの怪獣の鳴き声が空気を震わせ、恐怖と混乱をあおっていく。
 倒壊した建物から上がる炎。立ち昇る煙の柱が何十にも昇り、人間がその知恵を絞り、少なからぬ時間と努力を重ねて築き上げてきた街が価値を持たない瓦礫の山へと化していく。
 その中でただひとつ、我が物顔で吼え猛り、その身に触れるすべてのものを容赦なく破壊していくものこそ、怪獣キングザウルス三世。
 角が軽く触れただけで石造りの建物が崩され、尻尾が振るわれるたびに街路樹も街灯も紙切れのように宙に舞い上げられていく。
 まるで形を持った台風であるかのように、キングザウルス三世の進撃は止まらない。
 むろん、人間たちも手をこまねいているだけではない。防衛用にと用意されていた大砲が馬に引かれて駆けつけ、砲手たちが砲口から火薬と砲弾を詰めて狙いを定める。
「でかい的だ、外した奴は一週間メシ抜きになると思え。よーし、撃てーっ!」
 鋳鉄製の黒々とした砲身から炎と煙と共に球形弾丸が放たれて、キングザウルス三世の巨体に突き刺さる。
「やった!」
 だが、砲弾はキングザウルス三世の皮膚を貫くことなくはじき返されて空しく落ちていった。
 なんて硬い皮膚をしてやがるんだ! 砲手たちはじだんだを踏んだ。奴の皮膚はマットアローのミサイル攻撃にもまったく動じなかったほど強固であり、キングザウルス三世は砲撃されたこと自体に気づいていない様子で、野砲小隊に一瞥もくれずに前進を続けている。
 強固な石の建物も、キングザウルス三世の前進を妨げる障害にはまったくなっていないようであった。その様子や、野砲隊の攻撃が無駄に終わったことを空から見て、竜騎士隊の隊長は歯噛みをするしかできなかった。
「くそっ、なんて奴なんだ!」
 自分たちの足止めもほぼ効果なく、怪獣はたいして歩みを緩めることなく街へ入ってしまった。可能ならば、重装備の部隊が駆けつけてくるまで郊外で釘付けにして、街の外で決着をつけたいと思っていたのは虫が良すぎたと思うにしても、あの怪獣のタフネスとパワーは以前に街を襲った超獣に少しも引けを取るものではなく見えた。
 竜騎士隊は半数が撃墜されて、もはや戦闘ができる力は残していない。彼らにできることは怪獣を空から見張り、その動向をいち早く通報することだけであった。

51ウルトラ5番目の使い魔 37話 (8/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:13:02 ID:2DXgqTpA
 けれども、人間たちもこのままやられっぱなしではない。隊長の待望していた援軍が、ついに街の空と地上に現れてきたのだ。
「こちらトリステイン王立空軍、第六艦隊。全艦、対大型幻獣戦闘用意!」
「こちらトリステイン王立陸軍、第三十砲亀兵連隊所属重砲隊、弾込め急げ」
 空中からは艦列を組んだ飛行戦列艦が砲を下に向け、地上では道路を削りながら運ばれてきた大口径砲が仰角をつける。
 待たせたな怪獣め。ずいぶん急いで来られたから、少しばかり歓迎レセプションの準備が遅れたが、ここがパーティ会場だ。我々のもてなし、存分に受けてくれたまえ。
 キングザウルス三世も、新たに現れた敵の存在に気がつき、長い首を空に向けて威嚇の声をあげる。その迫力には、訓練を積んだ新兵も、歴戦の老兵も揃って息を呑まされた。
 どうやら、我々の挑戦を彼も受けてたってくれるらしい。しかし、もてなされるのは逆に自分たちかもしれないという予感が、将兵たちの心によぎった。
 あの怪獣は強い、間違いなく。雄たけびには微塵の恐怖の気もなく、空を睨む目はかけらも震えていない。年月を積んで成熟しきったドラゴンと同じく、人間を邪魔とは見ても脅威とは見ていない、そんな目だ。
「なめられているな。まあ当然か……だが、我らトリステイン軍に敵前逃亡などはありえん。女王陛下、我らに力をくだされ。全艦、砲撃開始!」
 戦列艦の砲が一斉に火を噴き、同時に地上の重砲部隊も火蓋を切った。
 轟く火薬の爆裂音、空気を裂く衝撃波、そして音速を超えて殺到する砲弾の乱舞。
 キングザウルス三世は一瞬のうちに炎と煙に包まれた。炸裂する砲弾が無数の破片を撒き散らし、キングザウルス三世の砕いた建物の破片がさらに微塵の粉塵にまで砕かれて舞い散る。
「どうだ、最大級の火龍でさえ吹き飛ぶ威力だぞ!」
「気を抜くな! 奴らは、我々の常識を超えた生き物だということを忘れたか。次弾装填急げ、次は奴の反撃が来るぞ!」
 その瞬間、灰色の粉塵の中から赤い光線が放たれて一隻の戦列艦に突き刺さった。爆発が起こり、船体の文字通り右半分を消し飛ばされた艦は大きく傾いて落ちていく。
 やはり、こんなもので絶命するような奴ではなかったか。粉塵の中から再びキングザウルス三世の巨体が現れて、大地を踏みしめ、尻尾を揺らして前進を始める。
 強い……今の砲撃は、怪獣を相手にすることを想定して火薬を倍加した特製弾だったのに、まるで効果が見えないとは。
「お、恐ろしい奴だ。司令官、このままでは」
「うろたえるな、こうなることは最初から想定のうちだったろうが。だが、この世に生きている限り、殺せない生き物などいない。全艦、今度は照準を絞り込んで、奴の頭を集中攻撃しろ。下の部隊にも連絡、急げ!」
 司令官は、あのベロクロン戦からの戦いを生き残り、その経験を買われて司令官に任命された猛者だ。怪獣の恐ろしさは身に染みて知っている。
 だが、怪獣や超獣とて不死身ではない。人間の力でも、工夫し、弱点を突けば必ず倒すことが出来る。
 命令が伝達され、艦隊の砲口がキングザウルス三世の頭部へ向けて照準を定め、続いて地上の重砲部隊も砲門を動かす。

52ウルトラ5番目の使い魔 37話 (9/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:14:12 ID:2DXgqTpA
 トリステインの冶金技術では、まだ命中精度の優れた大砲は作れない。しかし、空と陸を合わせて百門以上の大砲が一斉発射すれば、そのうちの何割かは確実に当たる。さらにその中の一発が、目にでも当たってくれたら御の字だ。
 キングザウルス三世の放射能光線が当たり、また一隻の戦列艦が艦首を吹き飛ばされた。だが、せめて落ちる前に一矢をと、砲手たちは傾く床の上で必死に砲弾を詰め、狙いを定める。
「見上げた敢闘精神だ。かの船の男たちの闘志を無駄にしてはならん。全砲、放てぇーっ!」
 今度こそはと、必勝の信念を乗せた砲弾が再び放たれた。砲手はいずれも劣らぬ鍛え上げられた腕利きばかり、殺到する砲弾の何割かは確実にキングザウルス三世の頭部を目掛けて直進した。
「やったか!」
 今の砲撃は確実に怪獣の頭を捉えたはずだ。これでダメージがないはずはない。後は、相手のダメージを広げて、撃破につなげていけばいい。
 爆発の煙があがる中で、司令官や将兵たちは確信した。確かに、頭部への攻撃は有効な手段であり、ウルトラブレスレットに耐えられるボディを持つとされる改造ベムスターも目だけは守ることはできずに苦しめられている。
 しかし。
「なっ! そんな馬鹿な」
 なんということか、怪獣には一筋の傷さえ刻まれてはいなかった。
 どういうことだ!? あの怪獣の硬さは顔面にまで及んでいるのか? いや、あれはなんだ!?
「光の、壁?」
 怪獣の周りを、まるでカーテンで覆うかのように発光する光の壁が囲んでいた。
 まさか、あの壁が!
 その推測は完全に当たっていた。弾込めが間に合わず、今になって放たれた砲弾のいくらかがその光の壁にはじき返されてしまったのだ。
 これこそが、キングザウルス三世の持つ数々の超能力の中でも特に恐ろしいと言われる、超強力なバリヤー能力である。その障壁はキングザウルス三世の三百六十度すべてに張り巡らされ、どの方向からの攻撃に対しても完全に対処できる。さらに、なによりも恐ろしいのが……
「うろたえるな! 撃ち続けろ、どんな障壁も撃たれ続ければ必ず破れるはずだ」
 司令官の叱咤で、兵士たちは勇気を奮い起こして大砲に次の弾を込めた。
 砲弾がバリヤーに炸裂し、派手な爆発があがる。けれども、これが魔法で作られた風や土の防壁であったならば、攻撃を続ければいずれは破壊できたであろうが、彼らは知らなかった。キングザウルス三世のバリヤーの持つ驚異的な強度を。
 群がる砲弾はバリヤーを食い破ろうと次々に炸裂する。が、バリヤーにはなんの変化もなく、キングザウルス三世は余裕で前進を再開し始めた。そう、キングザウルス三世のバリヤーの強度は怪獣界でも随一を誇り、かつての個体はウルトラマンジャックの必殺技であるスペシウム光線をはじめ、八つ裂き光輪、フォッグビーム、シネラマショットの連続攻撃を完全に防ぎきっているのだ。
 バリヤーで砲撃をしのぎきったキングザウルス三世は、おもむろに首を上げると放射能光線を吐き出した。赤色の光に打ち抜かれて、また一隻が落ちていく。

53ウルトラ5番目の使い魔 37話 (10/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:15:12 ID:2DXgqTpA
 なんて奴だ、だがこれ以上進めるわけにはいかん! 空中艦隊の苦戦を見て取って、地上の重砲部隊が狙いを怪獣の足元に定める。だが、怪獣は地上の部隊をじろりと睨みつけると、大きく裂けた口を開いて白色のガスを吐き掛けて来た。
「なんだこの煙は、うわぁ、目が痛い、喉が焼けるっ!」
 キングザウルス三世の吐いたのは、有毒なスモッグガスであった。ガスは瞬く間に一帯に広がり、地上にいた部隊は戦闘続行不可能に追いやられてしまった。
 司令官の乗った船も放射能光線で街中に撃ち落され、戦列艦は街の建物を押し潰しながら街中に不時着した。負傷者を運び出せ、火を消せと怒鳴る声が響き渡る中で、司令官は無念の歯噛みをすることしかできなかった。
「くそっ……またしても」
 人間の努力は怪獣の力には敵わないのか……我々は、無力だと、司令官は防衛線の崩壊を見守っていた。
 だが、世は万事が目的どおりに結果が出るとは限らない。彼らの奮闘は、まったく戦場から離れた場所に影響を与えていたのだ。
 邪魔者を粉砕し、我が物顔での前進へと返ったキングザウルス三世。その巨体の破壊力の前には、人間の作ったものはひとたまりもなく、自動車を軽く引き潰す重戦車が巨岩に押し潰されるように破壊の渦が広がっていく。
 轟音を上げて崩れ去っていくレンガ作りのアパルトメント、戯れに放たれた放射能光線で爆破される酒場、道路も水道ごと踏み抜かれて、水を噴水のように噴き出した。
 
 それらの暴虐の様子を、コルベールは倉庫の屋根に登って見渡していたのだが、怪獣が街の防衛部隊に進撃を邪魔されながらも一切進路を変えようとしない様子から、怪獣の目的地に当たりをつけた。
「あの方角は桟橋。狙いは東方号か……これはもう、こんなところで遊んでいる場合ではなくなったようだね」
 廃倉庫の高い屋根は『フライ』の魔法を使わなくても街を見渡すのに向いていた。街は今日までの平和な様相から戦場へと変わり、さらに戦火は広がり続けている。
 もう、自分に向けられた暗殺者の正体うんぬんについて探っている暇はないようだ。あの怪獣の進行速度からして、東方号の係留してある桟橋にたどり着くまでそう時間はない。コルベールは杖を握り、一気に飛ぶべく魔法の準備に入った。
「私が行くまで、持ちこたえていてくれよ諸君。今、行くからな」
「待て! ここまで来て逃げようって言うのか。そんなズルってあるかい!」
 屋根の下からドゥドゥーの恨めしそうな声が聞こえてくるが、コルベールは露にもかけずに冷たく言った。
「私も少々残念だが、大人は遊ぶよりも仕事が大事なのでね。このへんで失礼させてもらうよ」
「くそーっ! 卑怯だぞ、わけのわからない道具ばっかり使って」
「発明が私の唯一無二の趣味だから、すまないね。ただ、君もなかなかよくやったよ。私の自信作の踊るヘビくんも逆立ちするヘビくんも切り抜けてくるとは驚いた。でも、ホイホイするヘビくんには通用しなかったね」
「ずるいぞ、トリモチなんて! これがメイジのやることかい」
 今、ドゥドゥーは倉庫の中で、害虫用の罠にかかった黒光りするアレのごとく床にべっとりと貼り付けられてしまっていた。当然、身動きはまったくとれず、ドゥドゥーの悔しがる声ばかりがコルベールの耳に響いてくる。
 まったくどうしてこうなったかと言うと、コルベールの狡猾さにドゥドゥーがひっかかったからである。コルベールは、マジックミサイルなどの派手な罠を先制して用いて、用意してある罠はそういうものだという先入観をドゥドゥーに植え付けた。そのため、トリモチを張った床という単純極まりない罠にみすみすかかってしまったのであった。

54ウルトラ5番目の使い魔 37話 (11/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:16:12 ID:2DXgqTpA
「君が自分の体に硬化をかけて攻撃をしのげても、それではまったく意味がなかろう。それと、そのトリモチは特別製でね。錬金してはがすにも時間がかかるよう作ってある。まあ頑張りたまえ、若い頃の苦労は買ってでもするものだよ」
 それだけ言うと、コルベールは倉庫の屋根を蹴って、一直線に桟橋のほうへと飛んでいってしまった。
 あとに残されたのはドゥドゥーだけ。人のいなくなった廃倉庫は、すぐ近くで怪獣が暴れているというのに異様なほど静かで、ドゥドゥーはその静寂に、自分が負けたことを悟った。
 なんという無様か。屈辱が激しく胸を焼く。しかし全身を貼り付けにされた様ではじたばたすることもできず、むしろ暴れるほどトリモチに引っ付いてしまうので、ドゥドゥーは悔しげに錬金の呪文を唱え始めた。
「畜生、このぼくがこんな目に。覚えていろよ、あのコッパゲ!! 今度会った時こそ、必ず殺してやる! しかし、場所が場所でよかった……こんなとこ、ジャネットに見られたら、またなんて言われることか」
「残念だけど、もう見てるわよお兄様?」
「なっ!?」
 背後からした聞きなれた声に、ドゥドゥーがかろうじて動く目だけを動かして見ると、そこにはジャネットが倉庫のはり材に腰掛けてこちらを笑っていた。
「ジャネット、お前いつのまに」
「さぁ、いつからかしら? でも笑いをこらえるのに苦労したわ。お兄様ったら、もう傑作! う、生まれて今日まで、こ、こここ、こんなおかしいもの見たことないわ」
 そう言うとジャネットは堰が切れたように腹を抱えて大声で笑いに笑った。ドゥドゥーは兄として、悔しいやらみっともないやらで泣きたくなったけれども、残念ながら手も足も出ない。
「ジャネット、いつまでも笑ってないで助けてくれ。あのコッパゲ、人をさんざんコケにして、今度こそ確実に始末してやる」
「あら? それはダメよ。あのおじさんに死んでもらったら、とーっても困ることになったの。そうさせないようにと慌てて来たけど、お兄様がいつも以上のドジを踏んでくれたおかげで助かったわ」
「なんだって? お前、ロマリアからの依頼はどうするつもりだ。二十五万エキューを棒に振る気かい!」
 事情を知らないドゥドゥーは慌ててジャネットを問いただした。もちろん、ぜんぜん身動きとれない中で叫んでいるので滑稽極まりない。
 ジャネットは、ドゥドゥーが動けないのをいいことに、ひとしきりじらす様子を見せたが、やがて誇らしげに言った。
「私はね、ドゥドゥーお兄様が遊んでいるうちにも、お兄様たちのお役に立てるように色々働いてるの。ロマリアのはした金なんてもう必要ないわ。だからこの仕事は終わりよ」
「どういうことだい。ジャネット、もう少しわかるように説明したまえよ」
「うふふ、お兄様と違って、日ごろの行いがいいわたしは運もついているの。もうすっごい儲け話が舞い込んできたの、これを伝えたらジャック兄様もダミアン兄様もきっと喜んでくださるわ」
 ジャネットはもったいぶりながらも得意げにドゥドゥーに語ろうとした。しかしそのとき、ジャネットの後ろから。
「ほう、どういう話か聞かせてもらおうかジャネット?」
「えっ!」
「そ、その声は、ジャック兄さん!?」
 振り返ると、そこには筋骨隆々とした大男が、腕組みをしながら渋い顔でこちらを見下ろしていた。
 とたんに顔から血の気が引くドゥドゥーとジャネット。ジャックは、そんなふたりを見下ろしながら呆れたように言った。

55ウルトラ5番目の使い魔 37話 (12/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:17:22 ID:2DXgqTpA
「ドゥドゥー、ジャネット、このあいだの仕事が終わった後で、しばらくは自由にしていいとは言ったが、勝手に依頼を受けていいとは言っていないはずだがな。いなくなったお前たちを探すのに、ずいぶん骨を折らされたぞ」
「ご、ごめんよジャック兄さん。ぼ、ぼくたち、すごく割のいい仕事を見つけたもんだから、こっそり稼いで兄さんたちをびっくりさせたくて」
「それは殊勝な心がけだ。だがな、お前たちが勝手に動いている間に、もっと大事な仕事が舞い込んできたらどうするつもりだ。ただでさえ、俺たちの仕事はリスクが高いんだぞ。ダミアン兄さんが依頼主との交渉に毎回どれだけ苦労してると思ってるんだ」
「ごめんなさいジャック兄様。あっ、でもそのことですけど、リスクなしで大金を稼げる方法が見つかりましたの! ぜひ、聞いてくださいませ」
 ジャネットは駆け足で、この国一番の金持ちであるクルデンホルフが自分たちを破格の待遇で雇いたがっているという事をジャックに伝えた。
 ジャックはジャネットの説明を黙って聞いていたが、話が終わるとおもむろに口を開いた。
「なるほど、確かにすごい話だ。だが、そんな話を俺はまだしもダミアン兄さんに黙って進めていいと思ってるのか? 俺たちの仕事は信用第一なんだぞ」
「そ、それは悪いと思ってるわよ。でも、こんないい話は二度とないと思って……ね、ジャック兄さん、これだけのお金が稼げればダミアン兄様の夢に大きく近づくわ。だから、お願いだからダミアン兄さまには、あの、その」
「そ、そうだジャック兄さん。こんないい話はないとぼくも思うよ。だからダミアン兄さんには、ジャック兄さんから、その、穏便に、その」
 青ざめて震えながら、ドゥドゥーとジャネットはジャックに懇願した。どうやら、この二人はダミアンという兄のことが相当に怖いようだ。
 ジャックはふたりの様子にため息をついたが、やがて独り言のようにつぶやいた。
「だ、そうです。どうしますダミアン兄さん?」
「えっ!?」
 ジャックが視線を動かした先の暗がりから、小さな人影が歩み出してきた。
 年のころは十歳くらいの少年に見える。短い金髪を持ち、顔つきも端正と言っていいが、その表情には愛らしさのカケラも浮かんではいなかった。
「ダ、ダミアン兄さん……」
「ドゥドゥー、ジャネット、話は聞かせてもらったよ。まったく君たちときたら、いい年をしてもう少しおとなしくできないのかい? おまけに勝手に受けた仕事は完遂できないわ、ターゲットにあっさり懐柔されるわと、僕は兄として情けないよ」
 冷たい声で、ダミアンはドゥドゥーとジャネットに言った。
 ドゥドゥーとジャネットは、顔が青ざめるのを通り越して冷や汗で背筋をぐっしょりと濡らしている。
「あの、ダミアン兄さん、もしかして怒ってます?」
「さあ、どうだかね。ただ、少しばかり君たちにお説教したい気持ちなのは確かだね。ちょうど、ドゥドゥーは動けないようだし、ここには誰も来ないようだしね」
「ダ、ダミアン兄さま! わたしの話はお聞きになってましたよね。もうすっごい儲け話なんです。これ以上ないくらいの! だからせめて、わたしだけは勘弁してください」
「ジャネット! ずるいぞお前だけ」
「ヘマしたのはドゥドゥーお兄様だけよ。わたしは別に功績もあげてるんだからずるくないわ」
 ドゥドゥーとジャネットが言い争いを始めるのを、ダミアンは冷たく見守っていたが、やがてふたりを止めると静かにゆっくりと告げていった。

56ウルトラ5番目の使い魔 37話 (13/13) ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:18:42 ID:2DXgqTpA
「ジャネット、わかった。君の話は僕としても検討させてもらおう。クルデンホルフといえばゲルマニアともつながりの深い大貴族、スポンサーとしては悪くない。ただし……それはそれ、これはこれだ」
 一気に自分たちの周りの空気が冷たくなったことを感じたドゥドゥーとジャネットは、「ああ、終わった」と、すべてをあきらめたように涙を流した。
 ジャックは、とばっちりを受けないようにコルベールがいた倉庫の屋根に登って街を見渡している。怪獣が埠頭につくまでには、あと数分くらいに感じられた。
 
 
 キングザウルス三世の姿はすでに東方号のブリッジからもはっきりと見え、ブリッジからその様子を睨みつけていたベアトリスは苦々しげに言った。
「やっぱり、あの怪獣の目的はこの船みたいね。出航準備、まだできないの! 早くしないとつぶされるわよ」
「は、はい! 出港準備、今できました。水蒸気機関、全力運転開始、東方号発進します!」
 船に集まっていた銃士隊と水精霊騎士隊の必死の働きで、東方号はじわじわと桟橋を離れて動き出した。
 対して、キングザウルス三世は足をさらに速めて迫ってくる。ベアトリスはエーコたちとともに、早く、早くと祈り続けた。
 
 一方で、コルベールも魔法でキングザウルス三世を追い越しながら東方号へあと一歩まで来ている。
「ようし、船が動き出した。皆、訓練どおりにうまくやってくれたようだな。怪獣め、東方号はなんとしてでもやらせんぞ。あの船には、世界の未来がかかっているんだ」
 
 果たして東方号はキングザウルス三世から逃げ切ることができるのか? 進撃はさらに早まり、破壊されゆく街は激しく燃えゆく。
 大火災、その炎と天高く上る煙は数十リーグ先からでも見えていた。
「おい、東の空を見てみろ。あの煙の量は、尋常ではないぞ」
「なに言ってるのよ、あれはどう見ても戦火じゃない。シルフィード、お願い。なにか、悪い予感がするわ」
「わかったわ、じゃあ飛ばすから、みんな早く乗ってなのね!」
 
 そして、桟橋から離れゆく東方号をじっと見つめる目がもう二組。
「エーコさまたちの船、動き出したね。けど、このままじゃとても逃げ切れない。やられちゃうよ」
「そうね。けど、あの船、ミミー星人が作ったあの船が本当の力を出せれば、もしかしたら」
「ティラ、わかっているのかい? それが、どういうことなのかをさ」
「もちろんよ、ティア。けど、それがわたしたちを友達と言ってくれた人たちにできる、たったひとつのことだと思わない?」
「わかってるよ、わたしたちは、いつでも、いつまでだっていっしょさ」
 握り合った手と手が熱く締まる。
 姉妹の決意、それが東方号の、そしてハルケギニアすべての運命をも、今まさに変えようとしていた。
 
 
 続く

57ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2016/03/04(金) 13:20:23 ID:2DXgqTpA
今回はここまでです。
キングザウルス三世、帰ってきたウルトラマンに登場した怪獣の中では特に好きなほうなので、今回の大暴れは書いていて楽しかったです。
平成でも、なんとか復活させてほしいと願い続けているのですが、なかなか難しいようで残念です。

そして原作21巻、ついに出ましたね。私も買いましたが、まさに感無量です。
そんでもって他のソーシャルゲーとのコラボも今月から始まるとか。ゲーム内で活躍するルイズたちが見られるなど、今からわくわくします。
ただ、もし本作と原作で設定上で矛盾が出てきた場合でも、そのまま変えはしないと前に言いましたが、今後のことに関してはできるだけすり合わせていこうと思います。

では、また次回もよろしくお願いします。

58名無しさん:2016/03/04(金) 13:25:19 ID:wT2qSziM
乙です!

59名無しさん:2016/03/04(金) 20:53:08 ID:CeULLMZI
ミミー星人の船の本当の力……なるんですか?
なっちゃうんですか、アレに!
いやあ〜たのしみだなぁ〜

60BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 00:56:57 ID:zVCvvWDE
こんばんは。
よろしければ1時頃から続きを投稿させて頂きます。

61BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:01:01 ID:zVCvvWDE
 決闘騒ぎの翌日、ルイズはいつもより早く目を覚ました。
 二度寝の誘惑を退け、足音を立てないようにベッドから下りると、そっと同居人の粗末
な寝床へと視線をやる。そこに寝ているはずの使い魔の姿が見当たらない。
 ――どこ行っちゃったのかしら? トイレとか?
 よく分からないが、ルイズはそれを幸運と捉える事にした。自分が早起きをした事は、
出来る事なら誰にも知られたくない。
 一応彼が心配しないように書置きを残し――残した所で彼女の使い魔には読めないので
はあるが――そのまま誰にも見つからないよう、忍び足で学院の中庭へと向かう。ここな
ら邪魔も入らないだろうし、広さも申し分ない。
 しかし、ルイズの足は中庭の手前で止まってしまう。先客がいる。
 ――もう、こんな朝早くから何だってのよ。
 自分の事はすっかりと棚に上げ、慌てて姿を隠そうとする。そうしなければならないは
ずなのに、気が付けばルイズはその人影を凝視していた。
 人影は一人のはずだが、見えない敵が目の前にいるかのように、素早い動作で拳や蹴り
を繰り出している。まるで道化役者が行うパントマイムだ。
 しばらく経って、ようやくルイズは自分がその動きに見入ってしまっていた事に気付い
た。今更隠れる気にもなれず、諦めたように人影に声を掛ける。
「流石ね。ギーシュが手も足も出ないわけだわ」

 不意に声を掛けられ、レオンはトレーニングの手を止めた。
 初めは体が鈍らないよう、軽く体を動かすだけのつもりだったが、知らず知らずのうち
に随分と熱くなっていたようだ。声を掛けられるまで気配にまるで気付かないとは。
「そんな大層なものじゃない。こうして体を動かしておかないと、すぐに筋肉が落ちてし
まいそうでね。もう若くないって事さ」
「それだけ動いておいて、よく言うわ。それじゃあ私達、皆お婆さんじゃない」
 呆れたようにルイズがそう漏らすも、レオンはただ苦笑を浮かべるだけだった。
 他者が見れば、その動きは賞賛に値する物かもしれない。レオンから見ても、特に気に
入らない点があるわけではない。
 しかし、納得は出来ていない。昨日感じたあのスピードには遠く及ばないのだ。
「そんなに体鍛えてるのに、何で害虫駆除なんてやってたのよ。宝の持ち腐れじゃない」
「俺の世界のゴキブリはネズミよりデカいし、蜘蛛はサラマンダーくらいの大きさなんで
ね。害虫駆除も命懸けさ」
 はいはい、とルイズは適当に相槌を打つ。この使い魔の言う事をいちいちまともに取り
合っても仕方がない。この二日間でルイズが学んだ事だ。
「それで、君はどうしてここに? 俺に会いたくなったのか?」
 これもいつもの軽口だ。そう分かってはいるものの、ルイズは頬が熱くなるのを感じ、
誤魔化すように使い魔の腹部に右ストレートを打ち込んだ。決して本気で殴ったわけでは
ないが、硬い腹筋に阻まれほとんどダメージがなさそうに見えるのが少し悔しい。
「つ、使い魔風情が何調子に乗ってんのよ。私は、その……ちょっと体を動かそうと思っ
ただけよ。筋肉が落ちちゃいけないものね」
 恥ずかしそうにそう言うと、ルイズはふん、とそっぽを向いた。



 Chapter.4



 ギーシュ・ド・グラモンの朝は意外と早い。
 毎朝、使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンデを散歩させ、そのついでに使い
魔のエサであるどばどばミミズを探すのが彼の日課だった。
 中庭まで下りてきたギーシュは、おやと首を傾げた。先行させていたヴェルダンデがエ
サも探さず、不安そうな表情を浮かべ――他者から見れば、そのモグラがどのような表情
を浮かべようと、違いがまるで分からないのだが――オロオロとしている。
「どうしたんだね、僕の可愛いヴェルダンデ。さあ、いつものように穴を掘って、君の大
好きなエサを見つけようじゃない……か……?」
 ギーシュは周囲の異変に気付き、思わず立ち尽くした。
 その有様はまるでクレーターに覆われた月面――当然ギーシュは月面の様子など知る由
もないのだが――のようだった。中庭の至る所に大小様々な大きさの穴が空いている。

62BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:04:00 ID:zVCvvWDE
 これを自分の使い魔がやったのだろうか。ギーシュは膝から崩れ落ちた。まさか彼がこ
こまで腹を空かせていたとは……気付けなかった自分は主人失格だ。
「あら、ギーシュじゃない。あんた、ちょうどいい所に来たわ」
 あまりにもショックを受けていた為に、彼は一人の少女が近付いて来た事にさえ気付く
事が出来なかった。顔を上げると、見慣れた桃色の髪が揺れていた。
「……ああ、ルイズじゃないかね。悪いが今、僕はそれどころじゃ……」
「あんた土属性でしょ? あんたの魔法でこの穴、何とかしてくれない?」
 にっこりとルイズは微笑んだ。
 思えば、自分はこの少女の笑顔を見るのは初めてかもしれない。改めて見ると、目の前
の少女はいろいろと足りない部分はあるものの、顔だけならば正直トップクラスだ。
 それなのに、どうして彼女の笑顔はここまで不吉なものを感じさせるのだろう。
「え? これ、もしかして君がやったのかい?」
「えーと……ちょっとやりすぎちゃったかもね」
 照れたように頭を掻くルイズを見て、ギーシュはヴェルダンデが途方に暮れていた理由
を知った。こうまで狩場を荒らされては、もはやエサを探し出す事は適わないだろう。
「何だってこんな事をしたんだね。まったく、そんなにどばどばミミズが欲しかったのな
らば、僕に一言声を掛けてくれれば分けてあげたものを……」
 問答無用に鉄拳が飛び、なす術もなくギーシュは吹き飛ばされる。
「違うわよ! 何で私がミミズなんて探さないといけないのよ!? これは特訓を――」
 そこまで言って、ルイズははっと口を閉ざした。
「特訓って、魔法のかね? まあ、この惨状を見るに、いつも通り失敗して爆発が起きた
ようだが……」
「いや、これで成功だ。ルイズが特訓していたのは、その爆発だからな」
 いつの間にかルイズの後ろに立っていた彼女の使い魔は、彼もまたこの惨状をやりすぎ
だと感じているのか、苦笑いを浮かべていた。

「だ、だから、爆発にもいろいろあるって気付いたのよ。錬金を使おうとすれば、近くの
物を爆発させられるし、ファイヤーボールを唱えれば、遠くで爆発を起こせるの。集中す
ればするほど威力も上がるし……まあ、爆発は爆発なんだけど……」
「ほう、まさか君の爆発にそんな法則があったとは」
 どうせ馬鹿にされるものと思い、小声でぼそぼそと特訓の成果を披露するルイズだった
が、ギーシュはそれを聞いて素直に感心していた。見栄っ張りな所はあるが、根は素直な
男なのである。
 同時にギーシュは思う。昨日の決闘の相手が目の前の少女ではなく、彼女の使い魔で本
当によかったと。
「こうなると、もう君の事をゼロなどと笑えないな。何か別の二つ名を考えておいた方が
いいんじゃないかね? 例えば『閃光』とか……」
「な、何言ってるのよ! 私が閃光なんて恐れ多いわ!」
 そんなに変な事を言っただろうか。満更でもない様子でキャーキャーと叫ぶルイズを、
ギーシュは不思議そうに眺めていた。
 ギーシュは知らない。『閃光』が、ルイズの許嫁であり、幼少期の彼女の“理想の王子
さま”であった男の二つ名である事を。
 そして、そんな事は当然レオンには知る由もない。
「閃光ってよりは『破壊』だな」
「……は?」
 レオンの何気ない一言に、ギーシュは空気が凍り付くのを感じた。ルイズの杖を持つ手
が小刻みに震えている。まずい。何故かは分からないが、このままでは自分に何か不幸が
起こる予感がする。
「あ、あー……破壊といえば、知っているかね? 学院の宝物庫にある破壊の杖、あれを
土くれのフーケが狙っているという噂を」
「いや、初耳だな。何者だ、その土くれってのは」
 何とかルイズの怒りを紛らわせようとギーシュが提示した話題に乗ってきたのは、意外
にもレオンの方だった。彼もまた目の前にある危機に気付いたのかもしれない。
「あ、ああ、そういえば君はこの辺の生まれじゃないんだったな。なら、説明しよう。土
くれのフーケというのは……」
 こちらを睨んでいるルイズとなるべく目を合わさないよう気を付けながら、二人は互い
にさして興味もない話へと意識を集中させていった。

 曰く、土くれのフーケとはトリステイン中の貴族を恐怖に陥れている貴族専門の大怪盗
である。ただの盗賊ならいざ知らず、トライアングルクラスのメイジだと言うのだから、
なお性質が悪い。

63BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:07:07 ID:zVCvvWDE
 フーケは錬金を得意とし、壁や扉をただの土くれに変えて、獲物を盗み出す。邪魔する
者は巨大な土のゴーレムを使い蹴散らしていく。それ故についた二つ名が『土くれ』。
 そして、フーケは犯行現場の壁に証拠を残し、去って行く。『秘蔵の〇〇、確かに領収
いたしました。土くれのフーケ』というふざけたサインを。

「まるでルパンだな。この世界にはホームズはいないのか?」
「あんたが捕まえればいいじゃない。衛兵だったんでしょ? 一日だけだけど」
「俺は泥棒を追い回すより、カフェの隅の席にいる方が好きなんだ」
 ルイズは大きく溜息を吐いた。本当にこの使い魔の言う事はよく分からない。そりゃあ
誰もが強力なメイジを相手にするより、カフェで一服を選ぶだろう。
 何にせよ、彼女の怒りは一応収まったようだ。
「ま、いくらフーケでも学院の宝物庫には入れっこないわ。壁も扉も、強力な『固定化』
の魔法がかかってるもの」
「それもそうだな。自分よりも強力なメイジによる『固定化』がかけられた物には、『錬
金』は通用しない。ここ、トリステイン魔法学院くらいになると、おそらくスクウェアク
ラスのメイジによる固定化がかけられているだろうからね」
 まるで自分の手柄であるかのように、ギーシュは胸を張る。
「それで、破壊の杖っていうのは何なんだ?」
「ふむ。僕は直接見た事はないんだが、ワイバーンを一撃で吹き飛ばす程の強力な魔法が
使える杖らしい。見た者の話では、とても杖とは思えないような奇妙な形をしていたと言
うが……」
「その話もどこまで本当だか。あの学院長の話だもの、眉唾よ。ほら、オールド・オスマ
ンが破壊の杖と一緒に手に入れたっていうもう一つのマジックアイテム。あれが胡散臭さ
に一層拍車をかけてるわ」
「ああ、あの何やら大仰な名前のアレか。ええと、何と言ったか……」
 盛り上がる二人を見て、レオンはふうん、と気のない返事を漏らした。ワイバーンを見
た事がないレオンには、それを一撃で仕留める事の大変さが今ひとつ想像出来ない。分か
ったのは、学院長があまり子供達に慕われていない事くらいだ。
「――おお、そうだ。あれは確か、『賢者の石』だ」



「剣買いに行くわよ。準備しなさい」
 毎日の日課となった早朝のトレーニング――あの日教師にこっぴどく叱られてからは、
その場所を学院の外の草原へと移してはいたが――を終えて部屋に戻ると、唐突にルイズ
が口を開いた。今日は虚無の曜日の為、授業は休みである。
「剣? 君が剣も使えるとは知らなかった」
「何馬鹿な事言ってんのよ。あんたのに決まってるでしょ」
「俺に? バースデイはまだ先なんだけどな」
 ルイズはわざとらしく溜息を吐いた。
「知らないわよ、あんたの誕生日がいつかなんて。ほら、あんたの銃は凄いけど、弾切れ
を気にして使わないんじゃ意味ないじゃない。あんたには使い魔として私を守ってもらわ
ないといけないんだから。その為の剣よ」
「剣なんか使った事がないんだが……これじゃ駄目か?」
 レオンはシースに収まったままのナイフをルイズに放る。
 ルイズは恐る恐るといった手つきでナイフを鞘から引き抜くと、品定めを始めた。軍用
のサバイバルナイフは確かに一般のナイフと比べ大型ではあるが、それでも彼女のお眼鏡
には適わなかったようだ。
「却下。これじゃギーシュのワルキューレを相手に出来るかも危ういもの。一体二体なら
いいかもしれないけど、七体相手にしてたら、きっと途中で折れちゃうわ」
 レオンはやれやれと肩を竦めた。しかし、彼女の言う事も一理ある。
「OK、優しいご主人様の好意に甘えるとしよう」

 数時間後、二人はトリステインの城下町、ブルドンネ街を歩いていた。
「それにしても、君が馬に乗れるとは意外だったな」
「あんた、さっきからさりげなく私を馬鹿にしてない?」
 魔法学院からブルドンネ街までは、馬で三時間。
 中世のヨーロッパを想像させる白い石造りの街は、トリステインで最も大きな街という
事だが、意外にも街中を歩いているのは、その質素な身なりから平民と分かる者ばかりだ
った。

64BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:10:19 ID:zVCvvWDE
 そもそも貴族というのは全人口の一割程度しかいないという。もっとも貴族の中にも様
々な理由から家を捨てる者もおり、メイジが全て貴族というわけではない。街中にも時々
魔法を使うスリが出没すると注意を受けた。
「貴族だもの。馬に乗れるのなんて当然でしょ? でも、あんたも平民にしてはそれなり
ね。あんたの世界でも移動は馬を使うの?」
「馬は子供の頃、家族で旅行した時に乗ったかな……移動はだいたい車だ」
「くるま? 何それ?」
「馬車の馬がない奴の事さ」
 レオンは適当に答える。いや、正確には適当にしか答えられないというのが正しい。自
動車は使うが、自動車の仕組みについて詳しく説明出来るわけではない。
「馬がないのに何で動くのよ。あんたの世界、魔法がないんでしょ?」
 が、どうやらルイズはその説明では納得してくれなかったようだ。
 仕方なく自分が知る限りのエンジンについての説明を始める。それも、ルイズにも分か
るように一々噛み砕いて説明しなければならない。ジョン・タイターもこんな気持ちだっ
たのだろうか、とふと思う。彼がペテン師でなければの話だが。
「んー……あんた、私が何も知らないと思って騙そうとしてない? 何で鉄の塊が勝手に
動くのよ。絶対おかしいじゃない」
「いつか俺の国に遊びに来てくれ。その時の為に、助手席は空けておくよ」
 俺だっておかしいと思うさ。でも、いいじゃないか。動く物は動くんだし、それに便利
だ。俺が乗ると、よく壊れてしまうけど。
 何とか誤魔化そうと発した一言に、ルイズは慌てたように顔を逸らした。
「ば、馬鹿じゃないの? 平民のくせに何言ってるのよ……そもそも、あんたの世界に戻
る魔法なんてないって言ってるじゃない」
 また顔が熱くなっている。最近の自分はどうもおかしい。
 これまではそれが当たり前になっていたので気にも留めなかったが、ルイズにはこんな
風にどうでもいいような話をする相手などいなかった。キュルケと口喧嘩をするくらいが
せいぜいで、決闘騒ぎ以来ルイズを馬鹿にする者は減ったものの、仲の良い者が増えたわ
けでもない。だから、どうにも調子が狂ってしまうのだろうか。

 ――レオンはどうなんだろう。
 当然の事だが、こちらの世界にレオンと親しい者などいない。周りは年の離れた子供ば
かりだし――しかも、彼等はこの目つきの鋭い男とあまり関わりたがらない――シエスタ
の件以来、厨房のコック長に気に入られているという話は聞いたが、どの程度の仲なのか
は分からない。
 よく考えれば、ルイズはレオンの事を何も知らない。
 最初の数日は魔法について知りたいからと授業にも同席していたが、最近は毎回同席し
ているわけでもない。コックと親しくなったからといって、その時間ずっと厨房にいるわ
けでもないだろう。
「あんた、最近授業に出てない時は何してるの?」
「だいたい図書館にいるな」
「ふうん。読書好きなんて何か意外ね。って、あんたこっちの文字読めたの?」
「いや。それを勉強しようと思ったんだが、やはり独学じゃ時間がかかりそうだ」
「な、何で私に教わろうとしないのよ!」
 突然ルイズが大声を上げた。
 レオンの主として、自分が頼りにされていない事が気に入らなかったのだが、それが分
からないレオンは困ったような表情を浮かべている。
「君は朝は特訓、昼は授業、夜は授業の復習だろ? 迷惑じゃないかと思ってな」
「ほ、本当は復習なんてやらなくても大丈夫なのよ。特にやる事もないからやってただけ
で……あんたを呼び出したのは私なんだから、あんたがこっちで生活出来るように計らう
のは主の義務だわ!」
「そうか。俺も教えてくれる人がいると助かる。今後は君にお願いするよ」
 ルイズの表情がパッと明るくなる。しかし、それもレオンが次の言葉を紡ぐまでの僅か
な間だけだった。
「これで元の世界に戻る方法を探せるな」
 ルイズの表情が目に見えて曇っていく。
「そんなに元の世界に戻りたい? ……やっぱり私の使い魔は、嫌?」
「そういうわけじゃないさ。最近は食事もマシになったし、ご主人様は努力家で意外と使
い魔思いだ」
 失言に気付いたレオンは冗談めかして微笑むも、ルイズは俯いたまま答えない。

65BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:16:31 ID:zVCvvWDE
 この世界も、使い魔としての生活も、特に不満があるわけではない。不意に訪れた戦い
から解放された日々や、少し我儘な少女との交流がレオンの心に久しく忘れていた平穏を
思い出させてくれた事も事実だ。それでも――
「……それでも、俺にはあっちの世界でやらなければならない事がある」
 ルイズにというより、自分自身に言い聞かせるようなレオンの言葉。それなのに、その
言葉は自分に向けられたもの以上にルイズの心に刺さる。
 キュルケにも言われた通り、彼は幻獣ではなく人間だ。あちらの世界には当然彼の生活
があり、事情だってあるのだろう。勝手に別の世界に呼び出されて、迷惑していないはず
がない。
 それなのに、レオンは怒るどころか自分を励ましてくれた。自分の為にギーシュと決闘
までしてくれた。
 礼を言わなければいけない。謝罪しなければいけない。
 分かってはいるのに、貴族としてのプライドと、それを口にしてしまえば彼が本当に元
の世界へと消えてしまいそうな不安から、ルイズは素直になれずにいる。
「ふ、ふん。やらなきゃいけない事って、どうせ害虫駆除でしょ?」
「大変なんだ。この前はゴーレムくらいの蝿が出た」
 レオンに笑みを向けられ、ルイズは少しだけ気持ちが楽になった。
「ほら、武器屋はもうすぐよ! 行きましょ!」



「新金貨三千枚って、立派な家と森つきの庭が買えるじゃない!!」
 昼間だというのに薄暗く、埃くさい室内に、ルイズの声が響いた。
「名剣は城に匹敵しますぜ。屋敷で済んだら安いもんでさ」
 世間知らずの貴族の抗議など意に介さずといった風に、五十がらみの武器屋の店主は平
然と言ってのける。その道のプロにこうまで強気に出られては、剣の相場についてなど生
まれてこの方考えた事すらないルイズは黙るしかない。
 レオンはというと、主の拙い交渉術に口を挟む事もなく、先程店主が持って来た“新金
貨三千枚”らしい“店一番の業物”を眺めていた。なるほど、鞘や柄に豪華な装飾が施さ
れ、ところどころ宝石が散りばめられているこの大剣は、それだけの価値があっても不思
議ではない。
「何せこいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。貴族のお
供をさせるなら、このくらいは腰から下げて欲しいものですなぁ」
 店主に煽られ、ルイズは考え込んでしまう。
 剣に新金貨三千枚もつぎ込むなんて馬鹿げている。でも、どうせなら自分の使い魔には
いい剣を持ってもらいたいし、店一番という響きも魅力的だ。
 ルイズはギーシュを見栄っ張りと言うが、貴族なんて皆多かれ少なかれ見栄を張ってい
る。そんな貴族の性格など、この老獪な店主には全てお見通しなのだろう。
「……小切手でいいかしら? 新金貨で百しか持って来てないの」
 ルイズはようやく覚悟を決めた。
 絶対に口にはしないが、そもそもレオンに剣を買おうと思ったのは、日頃の礼を兼ねて
の事だ。妥協しては意味がない。

「――もう少しマシな剣はないのか?」
 だからこそ、ルイズは自分の決意に水を差した使い魔を、ただ呆然と見上げる事しか出
来なかった。
 人が奮発して最上級の剣を買ってやろうというのに、何が気に入らないと言うのか。戸
惑うルイズの心情を店主が代弁する。
「いや、旦那。先程も申し上げた通り、こいつが店一番の――」
「それは値段が店一番って話だろう? どうやらあんたは勘違いしてるらしい。今日買い
に来たのは彼女の邸宅に飾る剣じゃなく、俺が実際に使う剣だ」
 それを聞いたきり、店主は一言も発さなくなってしまう。未だに状況が理解出来ず、お
ろおろと二人の顔を見比べているルイズに気付き、レオンは言葉を足した。
「エージェント養成所でも剣の目利きは教わらなかったが、それでも実戦用の剣と観賞用
の剣の違いくらいは分かるさ。まさか武器屋の主がこいつを店一番の業物なんて言うはず
がないよな」
 レオンは手にした大剣を店主に手渡し、気さくな笑みを向ける。しかし、その目がまる
で笑っていない事に気付いた店主の顔は青ざめた。

66BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:19:54 ID:zVCvvWDE
 鴨がネギを背負って来たと思っていたが、大きな勘違いだった。貴族相手に口八丁でな
まくらを売り付けようとしたのだ。どのような罰を受けるか分からない。例え見逃しても
らえたとしても、この事が知れれば店の信用は地に落ちるだろう。

「おでれーた! まさかこんな店の客に剣の良し悪しが分かるたぁな」
 突然、低い男の声が聞こえ、二人は辺りを見回した。店の中には自分達しかおらず、新
たな客が入って来た形跡もない。
「やい、デル公! 誰がこんな店だと!?」
 そんな二人を尻目に、店主は当前のように乱雑に剣が積んである売り場へと近付くと、
その中から一本の剣を引き抜いた。
 錆の浮いたボロボロの片刃の剣。そのハバキについた金具が、まるで喋っているかのよ
うにカタカタと動いている。
「路地裏にあるこんな汚ぇ店に客なんか来るかってんだ! おめえのせいでこちとら何年
も埃被るハメになってるんじゃねーか!」
「そりゃお前の口の悪さと、客にまで喧嘩売る性格が原因だ! さんざん商売の邪魔しや
がって!」
 半ば自棄になっているのか、客前だというのに店主は売り物の剣と口喧嘩を始めてしま
う。その様子を見て、一瞬瞠目したレオンだったが、すぐに考えを改めた。そう、ここは
ファンタジーの世界なのだ。剣が喋っても不思議はない。
「なるほど、この世界の武器は喋るのか」
「そんなわけないじゃない。あれ、インテリジェンスソードよ。魔術師が魔力を吹き込ん
だ、意思を持つ剣」
 一人納得するレオンを見て、ルイズは呆れたように首を振った。その背後で、相変わら
ずインテリジェンスソードが大声でわめき散らしている。
「そう、インテリジェンスソードのデルフリンガー様よ! ところでおめえ、剣を探して
るんだって? だったら、俺を買え。損はさせねえ」
「……と、言われてもな」
 レオンは仕方なしに、店主から喋る剣を受け取った。刀身が錆びついてとても剣として
の役割を果たせそうには見えない。これでは、鉄の棒を振るのと大差ないのではないか。
 ――こいつは……
 レオンの眉が微かに動いた。左手のルーンが僅かだが光を放っている。
 柄を両手で握り直し、何度か振ってみる。不思議な程に手に馴染む。それに、長さ1.5
メイルにも及ぶ長剣にしては、思っていたよりずっと軽い。
 軽いのは剣だけではなかった。どういう仕組みか、レオンの体までもがまるで羽のよう
に軽く感じられる。そう、昨日のあの瞬間のように――
「いくらだ?」
「え? あんた、もしかしてそれ買う気!?」
「ああ、気に入った。どうせ俺にもどれが名剣かなんて分からないんだ。それなら、使い
易い物を選んだ方がいい」
 ルイズは不満そうな顔をしていたが、レオンは構わず“使い魔の仕事”として持たされ
ていた財布を取り出す。
「へ、へえ、そいつでしたら、新金貨で百枚……」
「今度は目利きは確かか?」
「ろ、六十……い、いえ、ただで結構でさ。厄介払いみたいなもんで。はは……」
「なら、間を取って五十だな」
 財布から金貨五十枚を取り出し、机の上に置くと、レオンはそのまま店を出て行った。
残されたルイズはしばらく店主を睨んでいたが、やがて使い魔の後を追って走り出す。
 店の中にはポカンと口を開いたままの店主だけが残されていた。



「――プハァ!!」
 グラスになみなみと注がれたワインを一息で空にしたルイズを見て、レオンは肩を竦め
た。
 金貨が余ったおかげでこうして酒場に立ち寄れたのは、レオンにとって望外の喜びだっ
たが、彼の主は店を出た辺りからどうにも機嫌が悪い。
「若いうちからアルコールを摂取すると、発育が悪くなるぞ」
「そりゃてーへんだ。この娘っ子、ただでさえ成長は望めそうにねえってのに」

67BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:23:43 ID:zVCvvWDE
 魔法の才能に次ぐ――或いはそれ以上のコンプレックスを刺激され、ルイズは手にした
ワイングラスを勢いよくテーブルへと叩き付けた。そして、人の気も知らない無神経な使
い魔と、テーブルの上に抜き身で置かれているそもそもの原因であるボロ剣をギロリと睨
む。
 素直に謝罪や感謝が出来ないなら、せめてレオンが望む物を買ってあげたい。それが今
日の目的だったはずだ。それなのに購入したのがこんなボロ剣だというのが――そもそも
ルイズの手持ちではこれ以上の剣は買えなかったのだが――どうしても気に入らない。
 ――やっぱりこんな失礼で小汚い剣、即刻返品すべきよ!
 手持ちはなくとも、小切手はある。シュペー卿とやらの剣はともかく、もう少しは見栄
えもよく、絶対に喋らない剣を購入しよう。
 ルイズは決意と共に、グラスの底に僅かに残ったワインを飲み干した。

「おい店主、誰が他の客に迷惑だと!?」
 不意に怒声が響き、再び決意に水を差されたルイズは声のした方を睨み付けた。
 先程からやたらと大声で盛り上がっている二人組がいる事は気付いていた。いくらここ
が酒場とはいえ、客は彼等だけではない。おそらくは店主がたしなめに行き、そして絡ま
れたのだろう。
 先日のギーシュの一件と似たような状況だが、二人組の服装に気付いたルイズは、思わ
ず目を逸らしてしまう。
「お前は俺達を誰だと思っているんだ? まさか、このマントが目に入らぬわけではある
まい」
「そ、それは……その……」
「お前等が平穏無事に商売出来てるのは誰のおかげだ? ん? その俺達がようやく陛下か
ら頂いた非番を有意義に過ごせるよう計らうのがお前の仕事だろう。分かったら、口を閉
じて仕事に戻りな」
 何も言い返せず、すごすごと引き下がる店主を見て、二人はまた馬鹿笑いを始めた。そ
の様子に、レオンは眉をひそめる。
「何だ、あいつらは?」
「面倒だから目を合わせないようにしなさい。あいつら、魔法衛士隊の隊員よ」
「その割には、あまり育ちが良くなさそうだな」
「全く同感だけど……お願いだから、聞こえるような声でそういう事言わないで。今、隣
国のアルビオンで内戦が起きてるらしいの。その結果次第では、トリステインも無関係で
はいられない。それで、あいつらもピリピリしてるのよ」
「分かった、気を付けるよ。次があればな」
 嫌な予感を受け、ルイズは振り返る。予想していた通りに、大声を上げていた二人組が
ニヤニヤと口元に薄笑いを浮かべながら歩いてくる姿が見え、ルイズは溜息を吐いた。

「美しい貴族のお嬢さん、君を是非我等の食卓へと案内したいのだが」
「へ? 私?」
「はっはっは、他に誰がいるというのだ。我々に釣り合うような女性など、他に一人もい
ないではないか」
 まさか彼等の狙いが自分だったとは。ルイズは予想外の展開に、目を瞬かせた。
 美しいと言われては、ルイズも決して悪い気分ではない。それに、二十代半ばに見える
二人組は、魔法衛士隊の隊員で、顔も決して悪くないのだ。それなのに、彼等について行
こうと思えないのは、単に彼等の性格のせいだけだろうか。
 ルイズは自分の使い魔をチラリと見やる。その表情は先程までと何ら変わらない。
 ――何よ。私が連れて行かれてもいいっての?
 一瞬ムッとするも、すぐに考えを改める。先日のギーシュの件とは違い、今回はルイズ
に危機が迫っているわけではない。主であるルイズが拒絶の意を示していない現状で意見
をするのは、むしろ使い魔の役目から逸脱した行為だ。
 レオンは使い魔としての役目を全うしている。それに、ルイズとて自分の使い魔と衛士
の間で諍いが起きる事を望んでいるわけではない。
 それなのに、どうしてこんなに心がざわつくのだろう。
「あ、あの、失礼だけど――」
「見て分からないか? 先約があるんだ」

 その一言に、衛士達は一瞬驚いたような表情を浮かべた。貴族の少女の飾り程度にしか
思っていなかった平民が、魔法衛士隊の隊員である自分達に意見したのだ。しかし、その
表情はすぐに蔑みをはらんだ薄笑いへと変わる。この妙な格好をした平民は魔法衛士隊の
存在すら知らぬ田舎者で、相手の力量も測れぬ愚者なのだ。

68BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:28:03 ID:zVCvvWDE
「ほう、それはつまり、欲しければ力付くで奪ってみろという事かな?」
「そう聞こえたなら、医者に行った方がいい。もう手遅れかもしれないが」
 その平民のふてぶてしい態度に、流石に衛士達の表情から笑みが消えた。男達に代わる
ように冷笑を浮かべたレオンの鼻先に、レイピアに似た形状の杖が突き付けられる。
「口を慎んだ方がいいぞ、平民。貴様は見た所、異国の者だろう。我々は陛下の禁令によ
り私闘を禁じられている。しかし、異国人の貴様が相手となれば、煮ようが焼こうが誰に
も裁く事は出来ん」
「やれやれ、また決闘か。貴族ってのもよっぽど暇なんだな」
 レオンが椅子から立ち上がろうとした瞬間、彼のいた空間が消滅した。
 周囲にあったテーブルや椅子ごと遥か後方の壁へと叩き付けられたのだ。彼のいたはず
の空間には、もはや塵一つ残っていない。
「卑怯よ! 決闘の際にはまず名乗るのが作法じゃない!」
 怒りに任せ引き抜いたルイズの杖を、旋風が奪い去った。気が付けば、ルイズの杖はも
う一人の男の手の中に収まっている。
「すまないね、お嬢さん。我々の名はあのような平民風情に名乗る程、安くはないのだ。
何、貴女にはちゃんと名乗るから心配しなくともよい。さあ、続きは我々の席で話そうで
はないか」
 レベルが違い過ぎる。どれ程酔っていようと、性根が腐っていようと、彼等はトリステ
インに三隊しか存在しない魔法衛士隊の隊員なのだ。
 杖を奪われたルイズには、悔しそうに唇を噛みしめる事しか出来なかった。

 テーブルや椅子の残骸が降り注ぐ中、レオンは倒れたまま起き上がれずにいた。
 起き上がれないだけの怪我を負ったわけではない。衝撃に備え咄嗟に体を丸めた為、ダ
メージ自体は少なかった。しかし、気が付けば足が地を離れていた。何をされたのか皆目
見当がつかないのだ。
 自分がまだ動けると分かれば、敵は更なる攻撃を繰り出すだろう。だからと言って、こ
のまま倒れていても事態が好転しようはずもない。得体の知れない相手とどう戦うべきか
を頭の中で必死に思案する。
 もちろん銃を抜けば勝利する事自体は容易いのだが、このような街中で発砲、しかも相
手が衛士隊の隊員となれば、仮に勝利したとしても多大な責任が自分だけでなくルイズに
まで及ぶ事となる。それはレオンの望む所ではない。
「おい、色男」
 不意に耳元で声が響いた。テーブルに置いていた為に一緒に飛ばされたのであろうイン
テリジェンスソードの姿がそこにあった。
「おい、返事しろ。聞こえてんだろ」
 これでは何の為にやられたふりをしているのか分からない。周囲に気付かれないよう瞳
だけ動かし睨み付けるも、まるで意に介さぬ様子のその剣に、レオンは仕方なく小声で応
じる。
「取り込み中だ。後にしてくれないか?」
「今の魔法はエア・ハンマー。名前の通り、空気を固めて見えないハンマーとして放つ魔
法だ。風属性の魔法にゃもっとヤベェのがいくつもあるが――」
「参考になった」
 言葉を遮るようにデルフリンガーを掴むと、レオンは立ち上がると同時に、決闘相手へ
と一直線に駆け出した。

 ――ほう、魔法も使わずにこのスピードか。貴族に盾突くだけはある、が。
 倒したと思ったはずの相手が立ち上がろうと、その平民の常人離れしたスピードを前に
しても、男は余裕の表情を崩す事はなかった。自分は魔法衛士隊の隊員としてそれなりの
修羅場を潜っており、大概の状況には対応出来るという自負がある。そんな自分が平民相
手に後れを取る事など、万に一つもありえない。
 事実、彼はレオンが距離を詰めるより先に詠唱を完成させ、杖を振り下ろしてみせた。
 風の槌が平民がいたはずの空間を削り取った。

 そう、レオンの姿は既にそこにはなかった。
 魔法は強力になればなる程、詠唱の時間も長くなるという事は、学院の授業で聞いて知
っていた。また、相手にも魔法衛士隊としてのプライドがあるだろう。平民風情に強力な
魔法を使う事は憚られるはずだ。ならば、奴の使う魔法は――
 男が杖を振り下ろすと同時に、レオンは大きく真横に跳ねた。真横で鳴り響く轟音、そ
れによる惨状には目もくれず、再度敵に向かい跳ねる。

69BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:32:19 ID:zVCvvWDE
 眼前に迫った男の顔に、もはや笑みはない。
 再度詠唱を行うだけの時間は与えられなかった。次の瞬間には、横一文字に薙ぎ払われ
たデルフリンガーが男の杖がへし折っていた。
「ちょっと! 決闘は一対一のはずでしょ!」
 主の声に反応し、レオンは声の方向へと向き直る。ルイズを拘束していた男が杖を振り
下ろそうとするのを視界に捉え、合わせるように剣を振り上げる。
「……あ?」
 遅れて落下した杖がカラカラと音を立てるのと、ようやく手の中から杖が消えている事
に気付いた男が間の抜けた声を上げたのは、ほとんど同時だった。

「――貴様っ!!」
 繰り出された大振りの拳を、レオンは難なく躱す。すれ違いざまに足を引っ掛けられ、
男は派手に転倒した。続いて殴りかかろうとしたもう一人の男も、鼻先に剣を突き付けら
れ、動きを止める。
「杖を叩き落とすのが決闘のスマートな勝ち方だと習ったんだが、違ったかな?」
「少なくとも、決闘を挑んでおいて不意打ちを仕掛けるような奴や、二体一で戦おうとす
る恥知らずを相手にするにゃあ上等すぎる勝ち方には違いねぇ」
 男の目の前でデルフリンガーがカタカタと音を立てた。それを合図に、周囲からは拍手
と衛士達に対する罵声が飛び交う。この場に彼等の味方は一人もいなかった。
「だ、黙れ、平民風情がっ!!」
 顔を真っ赤に染め、衛士は怒りの矛先を騒ぎ立てる店の客へと向けた。ルイズから奪っ
た杖を客に向かい振り上げる。
 しかし、その杖が振り下ろされる事はなかった。振り上げた男の腕は、何者かにしっか
りと掴まれていた。
 ――この男、いつの間に……
 レオンはいつの間にかそこに立っていた、堂々たる体躯の男へと視線を向ける。いくら
喧騒に気を取られていたとはいえ、これほど目立つ者が誰にも気付かれず入って来たとい
うのだろうか。
「た、隊長……!」
 衛士が安堵の声を上げた。隊長と呼ばれた男と、レオンの視線が交差する。
 なるほど、確かに視線の先の男は衛士達と同じ刺繍の入ったマントを羽織っている。魔
法衛士隊の隊長であれば、ただ立っているだけで伝わってくる威圧感にも納得がいく。そ
して、隊長であれば、部下をやられて黙っているというわけにもいかないのだろう。
 レオンは剣を構え直した。
 瞬間、安堵に包まれていたはずの衛士の表情が苦痛に歪んだ。隊長と呼ばれた男が、掴
んでいた腕を捻り上げたのだ。男はルイズのものであった杖を部下の手から奪うと、ルイ
ズへと差し出した。
「た、隊長、何を――!?」
「――馬鹿者っ!!」
 男が吼えた。地に響くような、重く太い声だった。
「民の安全を守るはずの魔法衛士隊の隊員が、自ら民を脅かしてなんとする!」
 隊長に睨まれ、衛士達はようやく酔いが醒めた様子で目を伏せる。
 その様子に溜息を吐いた衛士隊の隊長は、次いでレオンへと向き直ると、その髭に覆わ
れた厳めしい顔を困ったように歪め、深々と頭を下げた。
「部下が迷惑をかけたようだ。申し訳ない」
 レオンとルイズは呆然と顔を見合わせた。


 マンティコア隊隊長と名乗った男は、二人に何かお詫びをしたいと食い下がったが、レ
オンは「この店の弁償は任せていいか?」とだけ告げ、ルイズの手を引き、逃げるように
街を出た。これ以上厄介事に巻き込まれるのは御免だった。
「折角の休みを台無しにされたんだ。やっぱり、一番高いワインでも奢ってもらうべきだ
ったかな?」
 先程から暗い表情のまま馬の背に揺られているルイズを見兼ねて、レオンはおどけたよ
うに声を掛けた。
「そうね……」
 ルイズはその声に反応して顔を上げると、力なく笑みを浮かべる。
「不意打ちで杖を奪われたんじゃ仕方ないさ。それに、相手は魔法衛士隊の隊員だろう?
その道のプロだ」
「……うん、そうよね。でも……」
 ――あんたはそんな奴でも簡単に倒しちゃうのよね。

70BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:34:12 ID:zVCvvWDE
 言いかけた言葉を飲み込んだ。
 ただの平民だと失望したはずの使い魔は、自分が願った通りの神聖で美しい――かどう
かはともかく、強力で他の使い魔にも引けを取らない存在だった。それなのに、今のルイ
ズはそれを素直に喜べずにいる。
 また自分は何も出来なかった。主を守るのが使い魔の役割とはいえ、果たして自分はそ
れに足るだけの存在なのだろうか。本来ならば、今すぐにでも元の世界に戻る方法を探し
に行きたいはずなのに、それでも自分に付き合ってくれる使い魔の為に、何もしてやれな
いような自分が――
 気が付けば、武器屋に向かうまでと同じ事を考えている。堂々巡りに陥ったルイズの思
考は、不意に掛けられた言葉によって現実へと引き戻された。
「それに、俺が勝てたのは君のおかげだ」
「え? な、何が?」
 わけが分からない。助けられたのは自分の方だ。私は助けるどころか、ただ足手纏いに
なっただけなのに。
「君がこいつを買ってくれてなければ、俺は今頃病院のベッドの上さ」
 レオンは背負った鞘から大剣を引き抜いた。その手にしっかりと握られたデルフリンガ
ーが、金具をせわしなく動かしている。
「そうだろ、そうだろ! こう見えて俺様、六千年くらい生きてんだ! きっといろいろ役
に立つぜ!」
「とりあえず、辞書代わりにはなりそうだな」
「おでれーた! 伝説の剣を辞書代わりに使おうとは、てーしたやつだ! まあいい、まあ
いい。何だって聞いてくれ! よろしくな、相棒!!」
 剣のくせにやたらと雄弁にカタカタと楽しそうに音を立てるデルフリンガーを見て、レ
オンも若干呆れを含みながらも笑みを浮かべる。
 そんな二人を見て、ルイズは力が抜けていくのを感じた。単純に喜べばいいのか、そん
な理由かと呆れればいいのか、はたまた気を使わせてしまったと落ち込めばいいのか……
悩んだ末に、ルイズはレオンの言葉をありのままに受け取る事にした。 
 ――まあ……今日の目的はとりあえず達成出来たのかな。
 楽し気に笑う二人に釣られるように、気が付けばルイズも微笑んでいた。

71BIOHAZARD CODE:Zero ◆UYklPQPVhw:2016/03/05(土) 01:34:46 ID:zVCvvWDE
今回の投稿は以上です。
ただ剣買うだけの話が思いのほか長くなってしまった…

72名無しさん:2016/03/05(土) 02:06:06 ID:uZ4UCl8I


73名無しさん:2016/03/05(土) 10:24:21 ID:TzcZABdc
おっつ

74名無しさん:2016/03/05(土) 16:27:45 ID:YOOWZoTg
おつです

75名無しさん:2016/03/06(日) 02:19:20 ID:IxkVwUCE
乙です!

76ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 19:55:02 ID:IxkVwUCE
どうも皆さん。お久しぶりです。
二年半近くも話を止めてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

もし何もなければ、20時頃から69話の投稿を開始致します。

77ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:00:01 ID:IxkVwUCE
 
 あぁ、これは夢にしてはちょっとリアル過ぎないかしら?
 
 物心を持った霊夢が何年かした後にそんな事を思うようになったのは、数にして役二桁程度だろうか。
 例えば今食べたいモノを口にしている食感とか、賽銭箱に入った貨幣を勢いよく掴みとった時の感触等々…。
 起きる直前まで夢と思えぬ程の現実感に酔いしれて、手に取れぬ幸せに浸れる時間こそ夢の醍醐味なのではと彼女は思っている。
 だが、ふとした拍子に目が覚めて初めて夢だと気づいた直後…今見ていた現実がそっくりそのまま幻に置き換わったかのような虚無感がその身を襲う。
 上半身だけを起こして重たい瞼を瞬かせた後に、落胆のため息と共に訪れるどうしようもない空しさ。
 そんな「リアルな夢」を、彼女はこれまで幾度となく見てきた。そして、これからも睡眠の時にそういうモノを見る機会が増えるであろう。
 しかし、ついさっきまで見ていた夢には悪い意味で「生々しい」迫力があった。
 
 勢いよく振り下ろした拳が柔らかい物を殴ったかのような感触に、その拳に付着する液体の生ぬるさ。
 振り払った右足の蹴りでそれなりの固さがある木の枝を折ったかのような、しっかりとした抵抗感。
 そして耳の中に入ってくるのは、犬とよく似た鳴き声を持つ動物たちの唸り声と死を連想させる断末魔の叫び。
 鼻腔を刺激する血の臭いが眠り続ける彼女の体を緊張させ、その体から汗を滲ませる。
 
 何も見えない闇の中で、何者かと争っているかのようなリアルな悪夢。
 手足が痛み、血の匂いで鼻が駄目になりそうだと感じてもその戦いは終わりを告げる様子が全く無い。
 もしかするとこのまま目を覚ますことなく、生々しい悪夢の中に囚われてしまうのではないかという不安すら抱いてしまう。

 結局のところ、その悪夢は彼女の体内時計の中では十分ほどで終わりを告げた。
 目を覚まして冷や汗だらけの体をベッドの上から体を起こした後で今まで夢を見ていたのだと気づき、安堵する。
 
 あぁ、これは夢にしてはちょっとリアル過ぎないかしら…

 そんな一言を内心呟きながら、彼女は胸をなで下ろしたのである。


 ◆

 午前四時半という朝と夜が交差し始める時間帯。
 見た目は立派だが『この建物の中』では比較的大人しい部類に入る調度の部屋。
 普段は客室として使用されており、昨日からは二人の少女を客として迎え入れてその役目を果たしていた。


「……なるほど。あんなに汗だくだったのかという理由が、ようやく分かったよ」
 暗い部屋の中、共に小さなカンテラを囲む霊夢からの話を聞いていた魔理沙がウンウンと頷いた。 
 夏という事もあって暖炉の火はつけておらず、備え付けのカンテラをテーブルに置いている。
 魔理沙の服装はいつも着ている黒白のドレスだが黒いベストは外しており、白のブラウスがやけに目立っていた。
 彼女に先程見ていた夢の事を聞かせていた霊夢もいつもの紅白服で、それを見れば二人に眠る気が無いのは一目瞭然だろう。
「全く…あんなの見てたらもう眠りたくても眠れないじゃないの。まだ朝って言えるような時間でもないし」
 先程見た妙にリアル過ぎた夢に愚痴を漏らしながら、博麗の巫女は肩をすくめる。

78ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:02:33 ID:IxkVwUCE
  
 部屋の外からは人の声どころか物音ひとつ聞こえてこないのが分かれば、まだ人の起きる時間ではないという事だ。
 外と内部の警備をしている衛士達の姿も日を跨ぐ前の時間帯と比べ少なくなっており、起きている者たちも眠たそうな様子を見せている。
 そんな中でこの二人だけは空気を読めないのか、こうして夜中に起きて暇つぶしにと適当な会話をしていた。
 最も、ついさっきまで寝ていた事もあるが二人の目はちゃんと冴えており、今ベッドで横になってもすぐに眠れはしないだろう。
 時間も微妙であり、後もう少しすれば太陽が顔を出してしまうので仕方なしに起きている。
 だが魔理沙としては紅白の巫女が語ってくれた話が中々面白かったので、まぁこういうのも良いなという程度にしか思っていなかった。
 むしろ夜更かしという行為にあまり抵抗が無い事もあってか、話を聞かせてくれている霊夢よりもずっと目が覚めていた。

「しっかしそんな気持ちの悪い夢を見るとは…お前、もしかして誰かに恨まれてるとか?」
『あぁ〜、そりゃあ大いに有り得るねぇ。まぁお気の毒さまってヤツよ』
 多少寝不足気味な巫女を励ましているのか良くわからない言葉を魔理沙が言うと、彼女のすぐ横から男の声が聞こえてくる。
 やかましいだみ声にエコーを掛けたようなその声と同時に、カチャカチャという金属特有の音も二人の耳に入ってきた。
 その音の正体はインテリジェンスソードのデルフリンガー。簡単に言えば人並みの感情と理性を持っている殺人道具だ。
 喋る際に鳴り響く金属音が気に障るのか、苛ついた様子を見せる霊夢がデルフに愚痴を漏らす。
「…アンタは良いわよね。どうせ眠らなくたってイライラしたりしないんでしょう?」
 赤みがかった黒目を鋭く光らせた喋ったもののデルフにはさほどの効果は無いようで、あっさりと言葉を返される。
『まぁね。だからその分夜中とクローゼットに入れられている時は辛いもんさ。何もすることが無いしな』
「というか、手も足も無いお前に何ができるんだろうな?できる事があったら聞きたいくらいだぜ」
 新た強い玩具を与えられた子供の様な笑顔を浮かべて魔理沙が話に入ってくると、デルフの視線(?)も彼女の方へと向いた。
『そういやそうだな。…良しマリサ!この際だから手足の無い剣のオレっちに何かできる暇つぶしを考えてくれよ』
「良し、わかった。じゃあ今からでもちよっと考えてみるから待っててくれよ」

 いつの間にか魔理沙とデルフだけの会話になり、蚊帳の外へと追い出された霊夢は一人ため息を突く。
 しつこい位に自分に話しかけてくるヤツは鬱陶しいが、こうも簡単に離れられてしまうと寂しいモノを感じてしまう。
 黒白と一本の様子を横目で見ながらも、ふとここへ゛来てから゛もう四日も経った事に彼女は気づいた。

(思ったよりかは、学院より割と静かで生活しやすい場所ね。王宮ってところは)

 そう、今彼女たちとここにはいないルイズがいる場所はトリステイン魔法学院ではない。
 この国…トリステイン王国の中心地といっても過言ではない建物である王宮にいた。
 


 どうして彼女たちがここにいるのか?今に至るまでの過程を説明しておこう。
 時をちょっとだけ戻して四日前の事。ルイズと霊夢、魔理沙とキュルケの四人は衛士達の詰所から王宮へ護送されてきた。
 詰め所を出る前にルイズから聞かされていた話が正しいのならば、彼女たちを王宮へ呼んだのはアンリエッタ姫殿下である。
 なぜ王宮の中でも一際高い地位にいる少女が自分たちを呼んだのか?その理由をルイズが教えてくれた。

79ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:04:03 ID:IxkVwUCE

 
 彼女たちが詰所へ来る原因の一つには、旧市街地の方で霊夢とそっくりでありながら全く違う゛何か゛と戦った。
 本物の霊夢がソレと戦い何とか勝利を収めたものの、結果として怪我を負った彼女はその場で気を失う事となってしまう。
 どうしようかと慌てふためいていたルイズと魔理沙であったが、丁度いいタイミングで助け舟が来てくれた。
 その助け舟こそ、旧市街地で物騒な爆発が起きていると通報で知り、馬に乗って駆けつけてきた衛士隊の面々である。 
 到着した彼らはそこにいたルイズたちから霊夢の応急手当を頼まれ、見事にそれを果たしている。
 最もその場で出来たのは包帯を使っての簡単な止血だけで、ちゃんとした止血をするには詰め所に行く必要があった。
 何より彼らは、霊夢とレイムの戦いで荒れてしまった旧市街地の入り口を見たおかげで、彼らが通報の原因だと察していた。
 
 その後、安全に運ぶためにと馬車を呼んで詰所本部へと送られた霊夢を除く三人は、取り調べを受けている。
 つい最近街で奇怪かつ不可解な貴族の殺害事件があったということもあって、その取り調べは徹底していた。
 最も、名家の末女であるルイズと留学生のキュルケは事情聴取だけで済んだが、魔理沙だけか危うく゛尋問゛されかけたのだという。
 大方いつも通りの態度で衛士たちと接したのだろうと、本人の体験談を聞いた霊夢はそんな感想を心中に抱いていた。
 
 ルイズとキュルケは夜中の十一時に解放されたらしいが、いつもどおり過ぎた魔理沙はこってり夜中の二時半まで絞り上げられてから詰所で一夜を過ごした。
 本来なら学院へ送り返すべきなのだろうが、時間が遅すぎるということで結局早馬を使って伝令を送ることとなった。
 そうして朝になり、三人がとりあえずの朝食を頂いてしばらくしてから魔法科学院…ではなく王宮からの使いがやってきた。
 それこそが、四人が王宮へ行くこととなったアンリエッタ王女からの使いだったのだ。
 

 馬車に乗ったルイズは何が起こるか分からないといった表情を浮かべる霊夢に「まぁ大丈夫よ」と言い、それに対して嬉しそうな魔理沙には呆れるかのようなため息をついてみせた。
 ただ詰所へと運ばれる前に起った゛ド派手な出来事゛のせいで三人の事をもっと知りたくなったキュルケは、彼女たちと同行できなかったのである。
 二つ名である゛微熱゛に似合う性格に隠し事を嫌う彼女は、王宮に入ってすぐそこにいた人たちの手によって学院に送り返されていたのだ。
 
 その人たちこそルイズとキュルケの学び舎であり、今の霊夢と魔理沙の住処である魔法学院の教師であるオールド・オスマンとミスタ・コルベールであった。
 衛士達の馬車で王宮の中まで運んでもらった後、エントランスで四人を待っていたのが彼らだった。
 ルイズと少し驚いた様子を見せて彼らの名を呼び、それに対して先に口を開いたのは心配そうな表情を浮かべるコルベールだった。
「あぁ!貴女たち!!話は色々と聞いておりますぞ!よくぞご無事で!」
 忙しない足取りでルイズの手を取った彼の後頭部に、霊夢の隣にいた魔理沙が声を上げた。
「おぉコルベールじゃないか?何だ、アタシたちが帰ってこなかったからって迎えに来てくれたのか?」
「多分半分正解で半分外れね。…っていうか、何で学院から教師が来てるのよ?」
 場違いなくらい楽しそうな雰囲気を放つ魔理沙に続いて発言したのは霊夢だった。
 身体の方はまだ完全に癒えていないものの、口だけは達者になれる程度に回復していた。
「ワシ等は姫殿下直々に呼ばれてのぉ。諸君らと一緒に色々と話し合わなきゃいけない事ができたのじゃよ」
 しわがれた声がコルベールの後ろから聞こえてくると同時に、彼の後ろからひょっと姿を現したのが学院長のオールド・オスマンであった。
 青みがかった黒のローブを纏い大きな杖を右手に持った老人は、四人の姿を見て柔らかい笑みを浮かべた。
「ウム。ミス・ツェルプストーもミス・ヴァリエールを含めた他の三人も特に傷ついてはいないようだ」
「ここに来るまで頭に包帯を巻いてたんですけど?」
 うっかり呟いた後に飛んできた霊夢の突っ込みに、オスマンは何の問題か言わんばかりにフォフォフォ…と笑う。
 反論できるくらいの元気があるなら問題は無いじゃろ。何年生きてきたのか誰も知らぬ老人の笑みは、そう言っている様にこの時のルイズは思えた。

80ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:07:42 ID:IxkVwUCE
  その時までは互いに気楽な会話をしていたのだが、それはすぐに終りを告げた。
 顔を合わせて一番に霊夢からの突っ込みをもらったオスマンは、笑顔を浮かべたままキュルケの方へ体を向けると、こんなことを言ってきた。
「さてと…ミス・ツェルプストー。ここまで来て悪いのだが、このままミスタ・コルベールと一緒に学院の方まで戻ってくれんかのぉ?」
「……?それは一体どういうことでしょうか、オールド・オスマン」
 まるで使い古したモップのような白い髭を撫でる学院長の言葉に、キュルケはキョトンとした表情を浮かべてしまう。
 無理もない。何せ今の彼女は、昨日起こった゛非現実的過ぎる出来事゛に直面した人物になっているという事を内心喜んでいたからだ。
 そしてもっと面白い事が起きるかも知れないとルイズ達と一緒に王宮まで来たというのに、そこで学院へ戻れという命令は余りにも酷であった。
 簡潔に例えるならば、目の前で生肉を見せつけられて涎を垂らす飢えたマンティコア。それがあの時のキュルケだった。
 
 しかしそんな彼女の心境を知る者など当然おらず、その一人であるコルベールが説明してくれた。
 昨晩の騒動を受けてトリスタニアには厳戒態勢が敷かれ、特に学院の生徒たちは一週間ほど外出禁止の命令が出たのだという。
 特にその騒ぎの中心にいたのがあのヴァリエール家の令嬢という事もあって、王宮側が今朝一番に竜騎士を使いに出してまでその事を伝えに来たということも付け加えて話した。
「ウソでしょ?まさかそんな大事になってたなんて……」
 コルベールからの丁寧な説明にルイズは驚きのあまり目を丸くしたのだが、一方のキュルケは「あら、そうですの」と軽い反応を見せた後にこう返した。
「ですがミスタ・コルベール。私もルイズたちと同じ場所にいて、同じ体験をしましたのよ?証人としての価値は十分にありますわ」
 横にいるルイズと霊夢たちを見やりつつ、燃え盛る炎のような赤い髪を手で撫でながら開き直るような言葉を返した。
 しかし、その言い訳臭い彼女の言葉を全否定するかのように、オスマンがホッホッホッと笑いながらこんな事をキュルケに教えてくれた。


「実はなぁ、ミス・ツェルプストー。…アンリエッタ姫殿下からのお言伝があってのう。
 わざわざ外国から来てくれた大事な留学生のお方を危険な立場に晒したくない、
 ですからすぐにでも安全な学院へ返してあげください―――とな?」



(あの時のアイツの悔しそうなは…もしかして初めて見たかも)
 ふと何となく王宮へきた時のことを思い出した霊夢は、カンテラの火に照らされながら心の中でぼやく。
 結局キュルケはコルベールと共にルイズたちと別れることとなり、名残惜しそうな表情を浮かべて学院へと引きずられていった。
 帰ってきたらちゃんと私に教えなさいよねぇ!…という捨て台詞を残したキュルケと、それを見て苦笑いを浮かべるコルベールの姿は未だに忘れていない。
 そんな二人を見ながら、オスマンはただふぉふぉふぉ…としわがれた笑い声を小さく上げていたのも記憶に残っている

 これは霊夢の考えであるが、おそらくあの言葉はオスマンの口から出た所謂゛出まかせ゛か…或いは゛国家的権力゛というモノなんだろう。
 今のところ自分たちの秘密を知っているハルケギニアの人間はルイズを除いてアンリエッタにコルベール、そしてあの学院長だけだ。
 実質的に第三者であり口が軽いであろうキュルケを意図的に学院へ戻したのは妥当な判断ともいえる。
(まぁ居たら居たで色々と厄介だったし。ここはあの学院長に感謝すべきよね)
 やけに眩しくて目に刺激を与えるカンテラの明かりから少し目を逸らした霊夢は、ふと魔理沙たちの方を見やる。

81ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:09:08 ID:IxkVwUCE
  未だ太陽の出ぬ未明の闇のなかで光り輝く小さな火は、向かい側で楽しげなやり取りをするデルフと魔理沙の姿も照らしていた。
 先ほどデルフから(霊夢からすればとても無茶難題な)願いを託された普通の魔法使いは、目を瞑って考え事をしている。
 恐らく人間である彼女の視点から手も足もないひと振りの剣にどんな暇つぶしができるのか模索している最中であろう。
 霊夢を初めてとして並大抵の人間なら未だ寝ている時間帯だというのに、人間である魔理沙はかなり目が覚めているようだ。
 生々しいグロテスクな悪夢を見て目覚めた霊夢の目は冴えているが、目の前の魔法使いと比べれば日中よりも左右の脳はうまく機能していない。
 魔法使いだから夜更しに慣れているのか、それともパチュリーやアリスのように人間をやめる準備を着々と進めているのか…真相は当の本人以外誰も知らない
(魔女になってくれたりしたら、遠慮なく退治できるんだけどなぁ〜…)
 割と数の少ない知り合いに対して物騒なことを思いついたのがばれたのか、デルフと会話していた魔理沙が怪訝な表情を浮かべた。

「……おまえ、今私に対して物凄い物騒なことを考えてたな?」
「あら?随分と勘が良いわね。それぐらい良かったら私の代わりくらい勤まりそうなものよ」
 普通の魔法使いにそう指摘された巫女ははぐらかすこともなく、あっさりと心の内をさらけ出す。
 しかし彼女の言葉に対してデルフによる遠慮のない突っ込みが、横槍のごとく彼女の耳に入ってくる。


『いやいや。お前さんが今見せてるジト目を見たら、誰だって何か怖いこと考えてるなぁ〜…って思うぜ?』
  そう呟いた直後、部屋中にインテリジェンスソードを蹴飛ばす硬く甲高い音が響き渡った。




 深い深い闇の帳を誘う夜に永遠はない。地平線の彼方から上ってくる日の光がそれを払いのけるからだ。
 夜明けとともに闇を好む者たちは姿を隠し、日の出とともに人々は目を覚まして起き上がる。
 それは大体の人間に当てはまる当たり前のことであり、ルイズもまたその゛当たり前゛に従ってゆっくりと目を覚ました。
「ん…ムニュウ…」
 少しだけ窓から鳥たちの囀りが耳に入る中上半身をのそりと起こした彼女は、自分の周囲を見回す。
 ルイズが今いる場所は学院の自室ではなく王宮の中にある来客用の豪華な部屋で、大きさは二回り程も上である。
 体を起こせば眩しい朝日を背中に受ける位置に、彼女よりも遥かに大きいベッドが設置されている。
 部屋の中央には接客用のソファーとテーブルが置かれており、一目見ただけでもこの部屋に相応しい一級品とわかった。

 未だ寝ぼけている頭でボーっとしていたルイズは大きな欠伸を一つかますと、ふと部屋の右側へと頭を動かす。
 ルイズから見てベッドのすぐ右横に置かれているハンガーラックには、学院で着用しているブラウスとスカート…それにマントが掛けられていた。
 そしてそのハンガーラックの丁度真ん中部分に作られている小さなテーブルには、彼女が愛用する杖がそっと置かている。
 いつまでもベッドにいても仕方ないと思ったのか、もぞもぞとベッドから出てきたルイズは眠り目を擦りながらスローペースで着替え始める。
 それが終わって杖を腰に差したあたりでルイズの目は充分に覚めており、今日一日頑張るぞと言わんばかりに両手を上に上げて大きく屈伸した。
 ふと時計を見てみると時間はまだ朝の八時を少し過ぎたところ。朝食の時間である九時までほんの少しだけ余裕がある。
(それにしても…昨日は衛士隊の人たちが着替えを持ってきてくれて本当によかったわ)
 屈伸を終え、ひとまずソファに腰かけたルイズは心の中で呟きつつも昨夜の出来事について思い出し始めた。

82ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:11:01 ID:IxkVwUCE
  本来なら王宮にはないルイズの服や私物は前日の夜…すなわち王宮入りしたその日に学院から持ってこられたものだ。
 アンリエッタが魔法衛士隊に命令し、その日の内に鞄に詰められた状態でこの部屋に運び込まれたのである。
 ご丁寧にアルビオンで放置してきたが為に買い直したばかりの真新しい鞄に詰めてきたのは衛士隊の粋な計らいだろうとルイズは思うことにした。
 無論、彼女だけではなく別の部屋にいる霊夢と魔理沙の着替えや私物も持ってきてくれたので、これにはあの二人も感謝の意を述べていた。
 
――――しかし…だからといってあのインテリジェンスソードまで持ってくることは無いんじゃないかしら?

 新兵であろう若い青年衛士が苦笑いを浮かべつつ霊夢の前に差し出した縄で縛られたデルフの事を思い出してしまい、ルイズの表情が渋くなる。
 最初にそれを差し出された霊夢も同じような表情を浮かべつつ、どうして持ってきたのかと衛士に問い詰めていた。
 まるで魔法学院を卒業したばかりのような初々しさを顔に残した彼は、少し困惑したような表情を浮かべながら説明してくれた。
 何でも、衣類などを鞄に詰めている最中にクローゼットの中でジタバタと動いているのを見つけてしまったらしく、これも私物なのかと思い持ってきたのだという。
 まぁ最近はそんなにうるさく喋ることもないし、何よりその衛士に学院に戻してこいと何て言えるはずもないので、渋々霊夢が預かる事となった。

――――まったく、ただでさえ厄介なことに巻き込まれたのについでにアンタまで来るなんて災難だわ
――――――そりゃオレっちのセリフだっての…二年半くらい閉じ込められてた気分だぜ畜生…!

 ぶっきらぼうな表情で霊夢がそう言うと、なんとか金具の部分を自力で出したデルフは吐き捨てるように言葉を返していた。

 そんな事を思い出していると、ふとドアの方からノックの音が聞こえた後に自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
「御早う御座いますミス・ヴァリエール。朝の洗顔と髪梳きに参りました」
「あら、わざわざありがとう。それならお言葉に甘えてしてもらおうかしら」
 まだ二十代もいかぬ思える瑞々しく若い声に、ルイズは反射的に左手を挙げて言葉を返す。
 一時的な部屋の主に入室の許可を得た給士が水の入った小さな桶と櫛、それに数枚のタオルが乗ったお盆を手に入ってきた。
 亜麻色の髪をポニーテールで綺麗に纏めており、身に着けているメイド服は魔法学院のものと比べ所々に金糸の刺繍が施されている。
 これからの季節を考慮してか半袖のメイド服の給士はソファに腰かけているルイズのすぐ横にまで来ると、お盆を自身の足元に置いて一礼した。
「それではまず、洗顔の方から入らせて貰います」
 王宮の給紙として充分な教育を受けた彼女はそう言うと一枚目のタオルを手に取り、それを桶に入った水にさっと浸す。
 ついで水を吸ったタオルを軽く絞り、一度広げてからそれを正方形に折りたたんだ後に、失礼しますと声を掛けてからルイズの顔を拭き始めた。

 魔法学院では基本自分の身だしなみは自分で整えるが、大半の貴族はこのように給士にさせる事が多い。
 ルイズも幼少期の頃はよく給士や侍女にしてもらった事があった為、当たり前のようにしてもらっている。
 無論それは彼女だけではなく今は魔法学院にいる生徒たちにも、そういった経験をしている者たちは少なくない。
 
「ありがとう、これくらいでもう良いわ」
 洗顔を済まし、櫛で髪を梳いてもらったルイズは給士に身支度を終わらせるよう命令する。
 それを聞き、わかりましたと給士は櫛を盆に置き一礼してから、盆を手に持って立ち上がりそのまま軽やかかつ丁寧な足取りで退室した。
 ドアの閉まる音が聞こえるとルイズはほっと一息つき、ふと別の部屋で一晩寝ることとなった霊夢と魔理沙のことを思い出す。
 そういえばあの二人は今頃何しているのだろうかと考え、さっきまでの自分のように給士に身支度を整えてもらってるのだろうかと想像しようとする。
 魔理沙なら面白半分でさせてそうなのだが、どう思い浮かべても霊夢が人の手を借りて身支度を済ますというのは考えられなかった。

83ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:14:15 ID:IxkVwUCE
 その時だった、またもやドアのノック音が耳に入ってきたのは。
 今朝はやけに部屋を訪ねてくる人がいるなぁと思いつつ、ドアの向こうにいる人物が喋る前に声をかけてみる。
「はい、どなたかしら?」
 ルイズの呼びかけに対し来訪者は数秒ほどの間を置いてから、言葉を返した。
 この時もまた侍女が来たのだと思っていたが、その予想は良い意味で裏切られることとなった。
「おはようルイズ、昨晩はよく眠れたかしら」
「…………っ!ひ、姫さまだったんですか!?」
 部屋の戸をたたいたものの正体はこの王宮に住む主でありトリステイン王国の華である、アンリエッタ王女だった。
 ルイズは思わぬ人物がやってきたと驚きつつも急いで立ち上がり、出入り口まで早足で歩いてドアを開けた。
 ドアを開けて顔を合わせたアンリエッタは軽く一礼すると部屋の中に入り、それを見計らってルイズがそっとドアを閉じる。
「おはようございます姫さま。わざわざこの部屋にお越しいただかなくとも私が直接姫さまのお部屋に赴きましたのに…」
「いいのよルイズ。朝一番に貴女の顔を見に来たかったのですから…ってあらあら?」
 アンリエッタは先程までルイズが寝ていたベッドの上に、脱ぎ捨てられたネグリジェが放置されていることに気付いた。
 そこで寝ていた本人もアンリエッタの視線がどこを向いているのか気づき、あわわわと言いたげな表情を顔に浮かべてしまう。
「ふふ、少しタイミングが狂っていたら私が貴女を起こすことになっていたかもね。ヴァリエール」
「は…はい、この部屋のベッドがあまりにも気持ちよかったもので…ついさっきまで眠っていたところでした…」
 悪戯っぽい微笑みを浮かべてそう言うアンリエッタとは対照的に、ルイズは恥ずかしそうな苦笑いを浮かべて言った。



 廊下で待機していたであろう侍女達を呼んでベッドを直してもらっている最中、二人はソファに腰かけて会話している。
 朝早くから花も恥じらう程美しい少女二人がゆったりと腰を下ろして話し合う光景は絵画として後世に残しても良いと思えるほどだ。
 ただしその二人の口から出る言葉はこの年頃の娘がとても口にするとは思えない言葉が飛び交っていた。

「つまり…枢機卿は陸軍の一個大隊と砲兵隊も動員してレコン・キスタの゛親善訪問゛に臨むと?」
「えぇ。でも私としては、後ろ手に短剣を隠す持つような真似はしないで欲しいと仰ったのですが…」
 心配そうな顔で先ほど話した事を改めて確認してきたルイズに、アンリエッタはどこか陰りを見せる表情でそう返す。
 その二人の会話を聞いているのかいないのかよくわからない表情で聞いている侍女は両手でシーツをつかむとバサッと大きく持ち上げた。
「グラモン元帥をはじめ陸空に魔法衛士隊など、この国の守り人たちを指揮する幹部の方々も同じように賛成しているのでとても…」
「そうなのですか…」
 そういえばあのギーシュの父親は軍人だったな…と余計な事を考えつつも、ルイズは相槌を打った。
 アンリエッタがルイズに話した内容とは、滅亡したアルビオン王家に変わりあの白の国を統べる事となった゛神聖アルビオン共和国゛の親善訪問に関することであった。

 ルイズがアンリエッタの使いで、霊夢は故郷の書物と巡り合った事でアルビオンへと赴き、
 二人一緒に一難超えて帰還した後にレコン・キスタはその名を「神聖アルビオン共和国」へと改めている。
 
 王家を打倒し、貴族による国家を成立させ、初代神聖皇帝兼貴族議会議長であるオリヴァー・クロムウェルはトリステインとゲルマニアに特使を派遣した。
 特使が持ち込んだ話は不可侵条約の締結打診であり、両国間は数日の協議を経てこれを了承する。
 仮に今現在の戦力でトリステインとゲルマニアが組んだとしても、五十年前の戦争で圧倒的戦果を上げたアルビオンの空軍と艦隊に勝てる勝算はあまりにも低すぎる。
 一部空軍の将校や士官が王家討伐の際に粛清されたとも聞くが所詮は雀の涙ほどの人数であり、未だ多くの優秀な軍人が向こうにいることは変わりない。
 その為両国の政治を司る者たちはこれ幸いと言わんばかりに不可侵条約に飛びつき、こうして一時的な平和が約束された。

84ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:17:27 ID:IxkVwUCE
 しばらくして、今度はアンリエッタとゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式の時期が近づいてきた。
 そんな時である。トリスタニアで内通者と思われる貴族が変死体で発見されたのは。
 現場に残されていた機密情報の内容や殺され方等に不審な点が多々あり、現在も調査中らしい。
 しかし内通者がいたという時点で軍部は確信したのである。アルビオンとの戦争が水面下で密かに始まったという事を…。
 そもそも貴族至上主義を掲げて立ち上がった連中である。不可侵条約など、元からトリステインとゲルマニアに対する目くらましだったのだろう。
 
 それに加えて魔法学院や森林地帯、そして旧市街地で連続的に発生した異常な騒動。
 もはや悠長かつ暢気に親善訪問を待つ必要はないと結論付けた軍上層部は、昨晩のうちに国内の各拠点へと早馬を飛ばしたのである。
 アルビオンに条約を守る意思なし。至急全部隊に動員の必要あり。…という一文を付け加えて。


「はぁ…束の間の平和が来ると思っていたのに…。またもや戦争が始まってしまうなんて…」
 窓からさす朝陽に照らされた憂鬱な表情のアンリエッタを見て、ルイズもその意見に肯定するかのように軽くうなずく。
 しかし頷いてから何かに気付いたのか、細めた目の視線を少しだけ左右に泳がせた後に、その口をゆっくりと開いた。
「姫さまは…アルビオンとの戦争を、今の貴族至上主義者達との戦いを本当に危惧しておられるのですか?」
 ルイズからの質問に心当たりがあったアンリエッタは目を丸くさせた後、その顔を俯かせる。
 そして暫しの時間を置いた後に強い思いが浮かぶ顔を上げ、彼女の質問にこう答えた。
「貴女の言いたいことはわかるわ…何せ彼らは、ウェールズ様の仇であるのですから…」
 ほんの少し前の…若いころの自分が犯し、目の前の親友とその使い魔(?)に清算してくれた過ちを思い出す。
 最期まで自分の事を想い続けてくれた初恋の人の仇は、今まさにこの国を滅ぼそうとする神聖アルビオン共和国そのものなのだ。
 だからこそ軍部の考えに、賛成しないのですか?――ルイズその言葉を遠回しに聞いてきたのである。
 
「確かに私は、今もレコン・キスタを憎んでいます。
 ですが…大きな争いを起こしてまで、彼の仇を取りたいとは思っておりません。
 恋文の回収騒動で貴女とレイムさんを命の危機に追いやり、
 あまつさえウェールズ様の命を間接的に奪ったとも言える私が…
 ましてや、個人的な感情だけで戦争を支持するなど…
 将来一国を背負うであろう私には許されぬ行為なのよ……」

「姫さま…」
 何かを決意したかのような強さの陰に悲哀が見える表情で自らの心情を吐露したアンリエッタに、ルイズは言葉を返せない。
 ただ侍女たちが慌ただしく部屋を整理する物音を聞きながら、彼女の顔をジッと見つめる事しかできないでいる。
 そんな時であった、朝から重苦しい雰囲気を漂わせる二人の周囲を崩すかのように侍女が声を掛けてきたのは。

「姫殿下、朝早くから申し訳ないのですが…殿下とミス・ヴァリエールに顔を合わせたいという客人が……」
 おずおずと話しかけてきた侍女にルイズが「客人…?」と首を傾げ、それに対し侍女も「えぇ…」と返して頷く。
 アンリエッタ自身この年になってからは色々な者たちと顔を合わせてきたが、こんな時間から来る客人など珍しい。

85ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:19:45 ID:IxkVwUCE

「一体誰なのですか…?今のトリステインが滅多にない由々しき事態の中であっても…朝から王宮を訪ねてくるなんて…」
 怪訝な表情を浮かべて訪ねてきた王女に、侍女はかしこまった様子でこう答えた。
「あ、はい…確か、その方のお名前は…………」

 ◆

 朝の王宮は、多くの人々が廊下を行き来し忙しなく動き回っている。
 侍女たちは点呼を取った後にまずは朝の清掃を始め、警備の魔法衛士隊の隊員たちは胸を張って足を動かす。
 王宮勤務の貴族たちは既に朝食を食べ終えて、書類や仕事道具を抱えてそれぞれの部署へと早足で駆けていく。
 そんな人々でできた川の流れのように激しい動気を見せる廊下の端っこで、霊夢と魔理沙の二人は立ち往生していた。
 まるで初めて大都会の駅に迷い込んでしまった田舎者の様に、二人してその顔に苦笑いを浮かべていた。

「迷ったわねぇ〜…」
「迷ったなぁ…」

 霊夢の口から出た言葉に魔理沙がそう返すと、彼女が部屋から持ち出してきたデルフがカタカタと動いて喋り出す。
『だから言ったろう?王宮みたいなバカでっかい場所を、オメーらみたいな田舎者が歩き回るとこうなんだよ』
 戒めるというより、まるで嘲笑っているかのような物言いに霊夢はムッとした表情を浮かべるが、この剣の言葉にも一理ある。
 そもそも、なぜルイズの関係者とはいえこの王宮では部外者に近い二人が自由に王宮を歩き回れているのか…?
 その理由は昨晩のとある出来事が発端とも言えた。
 
 ●

 ―――それは昨日の事…学院長を交えたアンリエッタとの話が終わった後、ルイズたちは一時的に学院へ戻る事ができなくなった。
 学院長の口から語られた魔法学院で起こった怪事件や、森の中でルイズたちに襲い掛かってきた怪物の話…。
 それらの話を聞いたアンリエッタは何か国内で良くないことが起こりつつあると察し、学院に戻るのは今は危険だと判断したのだ。

 学院長もそれには同意の意思を示し、結果としてルイズたち三人は近々行われるゲルマニア皇帝との結婚式の日まで王宮で匿われることとなった。
 結婚式はゲルマニアの首都ヴィンドボナで執り行われるので、国境地帯で合流するゲルマニア陸軍の一部隊と合同しての大規模かつ厳重な護衛部隊に囲まれて移動する。
 式場での詔を読む巫女としてルイズや霊夢たちも誇りあるゲストの一員でアンリエッタに同行しするので、ここにいればわざわざ学院まで迎え行く手間が省けるのだ。
 こうして安全性の高さと迎えに行く手間が省けるという理由で、ルイズたちは暫し王宮で羽を休める事となったのである。
 ルイズは最初そのことが決まってから多少狼狽えたものの、学院長とアンリエッタの心配という気持ちは理解していた為にやむを得ずお言葉に甘える形となってしまった。

「こいつは飛んだハプニングだぜ、まさかお前さんの偽物に襲われただけでこんな素敵な場所で寝れるなんてな」
「アンタとルイズはそれで済むけど。私は殺されかけたうえに流血沙汰にまでなってるんだけど?」

 思いもよらぬ展開に魔理沙は嬉しそうに言うと、苦々しい表情を浮かべた霊夢がそう返した。
 話が終わり…オスマン学院長が竜籠で学院へと戻った後に、客室へと案内してくれた際にアンリエッタからこんな言葉を頂いていた。
「今夜はもう出られないですが、明日からは王宮の中を自由に散策してもらっても構いませんよ」
 その言葉に部屋へと案内された魔理沙が「えっ?それは本当か?」と嬉しそうな声で聞き返し、ルイズは「えぇっ!?」素っ頓狂な声を上げた。
「えッ…!?姫様…ちょっ…それってどういう意味ですか?」
「何って…そのまま言葉通りの意味よルイズ。私の結婚式までまだ日数があるし、部屋の中に閉じこもっていては退屈してしまうでしょう?」
 霊夢以上にトラブルメーカ気質の魔理沙の事を知っているルイズの言葉に、アンリエッタは純粋な気持ちでそう返す。

86ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:21:22 ID:IxkVwUCE
「私の結婚式が行われるのは、丁度トリステイン魔法学院の夏季休暇が始まる頃…まだまだ一月分の余裕があります。
 彼女たちは異世界から来たのですから、この国の素晴らしい王宮を是非見て回ってもらった方がいいと思いまして…」

 そう言った後に彼女は懐に入れていたメモ帳を取り出すと、部屋のテーブルに置かれていた羽ペンで文字と自分の名を書き始める。
 親友の優しすぎる行動にルイズはただただ冷や汗を流し、一方の魔理沙は思わぬチャンスの到来に満面の笑みを浮かべている。
 二、三分の時間を使って三ページ分の文章を書き込んだ後に、アンリエッタは慣れた手つきでもってそれらをメモ帳から切り離した。

 ピリリ…という軽快な音が三回響いた後、メモ帳から切り離されたやや硬質な紙でできたメモが三枚テーブルの上に並べられる。
 その三枚に掛かれている文章と、自分の名前にミスが無いか確認した後に「よし…」と声を上げたアンリエッタは、今度は懐から小さな袋を取り出す。
 袋の口を縛っていた紐を解き、中からとりだしたのは長方形の形をした木製の印章であった。
 羽ペンとインク瓶の横に置かれていた朱色のスタンプパッドにその印章を押しつけると、これもまた慣れた動作でメモに押していく。
 メモの右端部分に押した印章の絵柄は、ハルケギニアで聖獣と呼ばれるユニコーンと水晶の杖を組み合わせたものであった。

「これは簡易的な身分証明書です。これがあれば外に出ていて警備の者に咎められても大丈夫でしょう。
 しっかりとした硬質の紙でできてますので、ポケットに入れて取り出す際に指を切らないよう気を付けてくださいね」
 
 そういってテーブルに置かれていた一枚を手に取り、魔理沙の前に差し出した。
「おぉっ、ありがとうな姫さん…って見た目より結構しっかりしてないかコレ…?」
 嬉しそうに両手で受け取った魔理沙であったが、その感触と硬さに不思議そうに首を傾げて言った。
 何も知らない魔理沙を見てすかさずルイズが説明を入れてくる。
「それは切り離すと゛硬化゛の魔法が掛かるよう作られてるマジックアイテムよ。平民が使ってるようなメモ帳だと直ぐに破けて使い物にならなくなるじゃない」
 彼女の説明に魔法使いは「成程なぁ〜」と返しつつメモの両端を持って頭上に掲げている。
 その嬉しそうな様子にアンリエッタも微笑み、次いで二枚目の証明書を手に取ってルイズの前に差し出す。
 わざわざこんな事までしてくれた姫様に、ルイズは感謝を述べつつそれを受け取った。
「一応警備上の都合もありますので…夜五時以降の退室と、外出は控えてくださいね」
 アンリエッタがそう言うと、証明書を大事そうに懐に入れた魔理沙がおぅ!と言葉を返した。
「わざわざご丁寧な説明ありがとな。言ってくれなかったら今夜は外に出ていたところだったぜ」
 何せこんなに気分が良いからな!最後にそんな言葉を付け加えてきた魔法使いにルイズは頭を抱え、アンリエッタは「あはは…」と苦笑いを浮かべた。

「まったく…こんな事ならルイズと一緒か、別々の部屋にしてもらいたかったわね…」
 そんな三人をベッドの上に腰かけながら見つめていた霊夢が、愚痴に近い言葉を一人呟く。
 声が小さかったせいで魔理沙には聞こえなかったが、まぁ聞こえていても本人は気にすることすらなかっただろう

 ●

 それから夜が明けて、身支度を終えた二人は部屋の掃除等を侍女たちに任せて、ルイズの所へ行こうとしていた。
 窓から漏れる朝陽で体を温めながら、軽い足取りでレッドカーペットの敷かれた廊下をスタスタと歩いていく。
 部屋は昨晩のうちに教えられていたし、歩いて二、三分もすれば目的の部屋に到着できる――――…はずであった。

 しかし、部屋から持ち出してきたデルフを背負い、箒を持って歩いていた魔理沙がふと途中で足を止めてこんな事を霊夢に聞いてきた。
「なぁ霊夢。そういや昨日、アンリエッタの姫さんが自由に王宮を見学しても良いって言ってたよな?」
 黒白の言葉に紅白は「あ〜、そういやそんな事を言ってた気もするわねぇ…」と曖昧気味な返事をよこす。
「じゃあさ、ちょっとだけ探索でもしないか?どうせ時間なんてまだまだあるんだし」
 そういって横の道へと進路を変えた魔法使いに軽いため息を吐きつつも、仕方なく彼女の後をついていくことにした。
 正直に言えばついて行きたくないのだが魔理沙の言うとおり、早く行き過ぎても仕方がない。

87ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:24:01 ID:IxkVwUCE
「全く…私はそういうの趣味じゃないけど、気にならないと言えばうそになるし…。…まぁアンタについて行こうかしら」
「だろ?紅魔館以上に大きな建物なんて初めて歩くからな、とりあえず図書室でも探しに行こうぜ?」
 その気になってくれた友人に笑顔を向けて総いった魔理沙の背後で、デルフがカチャリと動いた。
 何かと思い二人が足を止めると勝手に鞘から顔(?)の部分だけを出して喋り出す。
『おいおい、悪いことはいわねーからやめとけって。オメーら見たいな田舎者が下手に歩き回っても迷うだけだぞ』
「たかが剣如きが偉そうに言ってくれるわね。第一誰が田舎者ですって?」
 魔理沙の後ろにいた霊夢はそんな事を言いながらデルフの持ち手を握り締めると、彼も負けじと『オメーらだよオメーら』と言い返す。
『この手の建物なんか無駄に曲がり角や階段が多いって相場が決まってるもんだろ?』
「そんな話聞いたことも無いわよ…っと!」
 デルフの文句に霊夢はそう返しつつ、最後に思いっきりデルフを鞘に収めた。
 ハッキリとした音が廊下に人気のない廊下に響き渡ったのを耳にしてから、魔理沙が再び足を動かし始める。
 何やら嬉しそうに喋る彼女とは逆に、霊夢は端正な顔に憂鬱な表情を浮かべて一人呟く。

「まぁ…、迷ったら迷ったでどうにかなるでしょ?」
 独り言の後に、図書室を目指そうとか言ってる魔法使いの後を彼女はゆっくりと続いていく。
 そして結果は――――――デルフが考えていたとおりの事になってしまったというワケだ。

 ■

 それから二十分ほど経ったぐらいであろうか―――――

「あれ?確かここって…」
『間違いねぇぜ、やっとこさ戻ってこれたというワケだ』
 何度曲がったかも分からない角を超えた先にあった廊下に、見覚えのあった霊夢はふと足を止め、
 そんな彼女を後押しするかのように、魔理沙に背負われていたデルフがそう言った。
 窓の位置と廊下の隅に置かれた観葉植物に、偉そうな顎鬚のオッサン描かれた絵画が、霊夢達を睨み付けるように飾られている。
 デルフの言うとおり、確かにここはルイズの部屋へと続く廊下だった事を彼女は思い出した。
「はぁ…全く、魔理沙の気まぐれひとつでこんなに疲れるなんて…」
 一人怠そうにぼやいた霊夢は大きなため息をつきつつ、後ろに魔理沙をじろっと睨み付ける。

 あの後、激しく行き来する人ごみの中を避けつつ二人と一本は何とか戻ってこれた。
 途中王宮の人たちが教えてくれた曲がり角を間違えかけたり、あちこちにある階段に惑わされたりもしたが、
 何とか朝食の時間までに、最初の過ちとも言えるあの廊下に辿り着くことができた。

「ルイズとの合流時間まであと五分か…。まぁちょっとしたハプニングだったな」
 時間にすればほんの二十分程度王宮の中で迷ったのだが、その発端である魔理沙は妙にあっけらかんとしている。
 しかも壁に掛かった時計を見て時刻を確認した後、まだ五分もあるのかと余裕満々で言ってのけていた。
 一方の霊夢はというと、そんな魔法使いを見てついて行けないと言わんばかりの二度目のため息をつく。
 そして妙にテンションの高い彼女の横顔をジト目で睨み付けながら、

「だからイヤだったのよ。こんな事くらいになるのなら素直にアンタと別れてルイズのところに行ってた方がよかったわね…」
 思いっきり憎まれながらも魔理沙は怯むことなく、満面の笑みを浮かべつつ言葉を返す。

88ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:26:44 ID:IxkVwUCE
「まぁまぁそう言うなって。案外楽しい冒険だったじゃないか?そうだろう?」
『こいつはおでれーた。まさかここまで開き直れる人間がいたなんて初めてみたぜ…ん?』
 完全に開き直りつつある黒白の魔法使いにさすがのデルフも呆れていると、後ろから足音が聞こえてきた。
 赤いカーペットが敷かれた廊下をカツカツとしっかりとした音を立てて誰かが近づいてくる。
 話し込んでいた二人もデルフに続いてそれに気が付き、音の聞こえてくる方角へと顔を向けた。
 そして、丁度その時になって近づいてきた人物はその足を止めて一言つぶやいた。

「………貴女達、一体どこから入ってきたのかしら?」
 その人物…長身にロングのブロンドという出で立ちの女性は呟いた後に、掛けているメガネを指でクイッと掛け直す。
 年のころは二十代後半といったところだろうか、ダークブルーのロングスカートに白いブラウスの組み合わせからは落ち着いた雰囲気が感じられる。
 そこだけを見れば特に少し良い所のお嬢様…なのだが、その女性の最も特徴的な所は顔にあった。
 まるで服装の雰囲気を全て飲み込むかのようなツンとしたその顔は、どこかルイズと似ている。
 そのルイズの気の強い部分を水と一緒に鍋で煮詰めて完成させたかのような、キツめの顔を持つ女性であった。
 
「ワケあって暫くここで居候する羽目になった哀れな巫女さんよ。大体、アンタこそ誰なのよ?」
 まるで不審者を見るかのような目で見下ろしてくるのに対し、霊夢はそう返しつつ女性の名を尋ねた。
 やや売り言葉に買い言葉のような言い方ではあったせいか、女性はスッとその目を細める。
 そんな軽い動作一つでも、キツめの顔が更に鋭利な刃物の様に鋭くなってしまう。
「アンタこそ誰…ですって?…生憎、貴女みたいな無礼者に教える名など持ち合わせていなくってよ」
「何ですって?」
 その言葉にさすがの霊夢も眼を鋭くさせ、目の前に佇む女性を静かに睨み付ける。
 伊達に妖怪退治専門にしている博麗の巫女である。年相応の少女に相応しくない眼光でもって、相手を威嚇しようとする。
 その様子を彼女の後ろからただただ眺めていた魔理沙は、どうしようかと頭を悩ませていた。
「やべーなデルフ…、まさに一難去ってまた一難ってヤツだぜ」
『だな。こりゃー下手に横槍入れたら余計トラブルになりそうだな。それが嫌なら、黙って様子見といた方がいいぜ』
「いやあの二人の事は別に良いんだが…このままだと朝飯抜きだな〜って思って…」
『ちょっと待て、お前ら本当に友達なのか?どうも分からなくなってきたぜ』
 デルフの疑問に魔理沙は軽く笑い、霊夢と謎の女性がにらみ合っている状況に包まれた、王宮の廊下。
 窓から差す陽光が無駄に神々しい廊下に充満する異様な空気の中、それを切り捨てたのは一人の少女の叫びだった。

「レイムッ、マリサ…!……って、アァッ!?…え、エレオノール姉様!!」

 後ろから聞こえてきた聞き覚えのある声に、一瞬身を縮ませた魔理沙は何かと思いそちらを振り向く。
 彼女が思っていた通り、そこにいたのは魔法学院の制服とマントを身に着けたルイズが立ちすくんでいた。
 部屋からここまで走ってきたのであろう、肩で息をしつつ驚愕に満ちた顔で霊夢と女性の方を凝視している。

「おぉルイズか、わざわざ出迎えに―――――…って、ちょっと待てよ?今何て言ったんだ?」
 手を上げて挨拶しようとした魔理沙は、ルイズの最後の一言に気が付く。
 それは霊夢も同じだったようで、女性の方を向けていた顔を彼女の方へと向けた。

「姉、様…ですって?」
 その言葉にフンッと軽い息をついてメガネを再度掛け直してルイズの方を見やる金髪の女性。
 彼女こそ、ヴァリエール家の長女であり朝から王宮に乗り込んできた訪問者、エレオノールであった。

89ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/03/06(日) 20:33:37 ID:IxkVwUCE
以上で69話の投稿は終わりです。

この二年半、ゼロ魔が絶筆してしまった事でこの話の結末を思い描けなくなってしまいました。
更に色々な諸事情もありましたが自分の手が止まってしまったのは事実です。

まえがきにも書きましたが、二年半も作品を止めてしまい…本当に申し訳ありませんでした。
とりあえず次の話は4月頃を目指して執筆していきたいと思います。
それでは皆さん、今夜はここらへんでお別れしましょう。 ノシ


追記
>>68のルイズにセリフにミスが…

「それは切り離すと゛硬化゛の魔法が掛かるよう作られてるマジックアイテムうんぬん…

゛硬化゛ではなくて、正しくは゛固定化゛でした。
この誤字はまとめwiki掲載時に修正しておきます。

90名無しさん:2016/03/06(日) 20:49:12 ID:GVy.ECN2
おお、再開とは嬉しい
乙です

91ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/03/06(日) 20:59:36 ID:W5afBiI6
無重力巫女さんの方、お久しぶりの投稿乙です。
私も投下させてもらいます。開始は21:02からで。

92ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/03/06(日) 21:02:07 ID:W5afBiI6
ウルトラマンゼロの使い魔
第八十八話「よみがえったミスコン」
UFO怪獣アブドラールス 登場

 ……この俺、平賀才人には今、一つ悩みがあった。それはルイズのことだ。
 俺とルイズは何度か交流を重ねて、結構仲良くなった。するとキュルケの奴がそこに割って
入ってきて、ルイズと俺の取り合いを始めたのだ。そのことが悩みなのだ。
 え? 女の子二人から取り合いをされる状況が悩みなんて、羨ましいって? いやまぁ、
普通だったら幸せな悩みってところなんだろうけど……ルイズとキュルケの場合は……。
「ダーリン、あたし教科書忘れちゃったの。見せてくれない?」
「な、何でサイトがあんたに見せなくちゃいけないのよ! 大体、席も離れてるじゃない!」
「ならルイズ、席代わってくれない? あんたはあたしの隣のファッションに見せてもらえばいいでしょ」
「えッ」
「よ、よよ、良くないわ! ツェルプストーに譲るものなんか何一つないんだからッ!」
 ……と、こんな感じで来る日も来る日も、口喧嘩を繰り返して大騒ぎを起こしているのだ。
お陰でクラスは大迷惑だ。いつぞやなんかは、魔法を使った決闘紛いのことまで……。
 ん? 魔法? いやいや、そんなファンタジーなことがある訳ないだろ。また夢かなんかと
記憶がごっちゃになってるのかな。最近多いんだよな……。
 ともかく、ルイズとキュルケはいちいち張り合って喧嘩をするのだ。これは俺だけが原因ではなく、
何でもルイズとキュルケは昔馴染みで、その時から色々因縁があるんだとか。その二人が今になって、
日本の高校で鉢合わせなんて、奇妙な巡り合わせもあったもんだ。それでこっちはいい迷惑なんだが。
「また始まったか。しかも毎日毎日、似たようなことを繰り返して飽きないのか?」
 クリスも呆れ返っている。モンモランシーが相槌を打った。
「ほんと、うるさくて敵わないわね。サイト、早くあれ、止めてよ」
「止められるもんならとっくに止めてる……」
 俺はため息交じりに返した。あの二人、口論を始めると俺の話なんかには耳を傾けても
くれないんだよな……。
 ギーシュが肩をすくめて言った。
「やれやれ。これだから女性の扱いに慣れていない男は困る」
「お前に言われたくねーっての」
 しょっちゅう他の女の子に声をかけて、モンモランシーを怒らせてるくせに……。
 とは言っても、さすがにこのままにはしていられない。どうにか、ルイズだけでも止めようと思う。
「なぁ、ルイズ。そろそろ喧嘩はやめにしないか? 周りの迷惑になるだろ?」
 しかし、案の定ルイズは反発した。
「うう、うるさいッ! あんたは一体誰の味方なのよッ!」
「味方ぁ?」
「そうよ! あんたがはっきりしないから、その、色々大変なんじゃないッ!」
 そんなこと言われても……。ここでどっちかを選んでも、選ばれなかった片方がうるさい
だろうしなぁ……。どうすりゃいいってんだ……。
 途方に暮れていたら、矢的先生の助けが入った。
「こらッ! またルイズとキュルケが騒いでるのか!」
「あッ! ヤマト先生……」
 矢的先生が叱りつけると、さすがのルイズたちも大人しくなった。何たって迫力が段違いだもんな。
「廊下にまで声が響いてるぞ。休み時間とはいえ、もう少し静かにするんだ」
「は、はい……」
「それと平賀、ちょっとこっちに来い」
「え? 俺ですか?」
 ルイズとキュルケを黙らせてから、先生は俺を呼んで、教室の片隅でヒソヒソと囁きかけた。
「平賀、折り入って頼みがある。ルイズとキュルケの二人を、どうにか仲良くさせてやってくれないか?」

93ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/03/06(日) 21:04:12 ID:W5afBiI6
「えぇ!?」
「あいつたちの喧嘩の声がうるさくて仕方ないと、結構な苦情が来てるんだ。だからどうにか
しないといけない。分かってくれ」
「で、でも、どうして俺なんですか……」
「二人と共通して仲のいいお前が一番打ってつけのはずなんだ。本当なら先生がやるべきことだが、
こっちは明男……大島の方に取りかかってて余裕がないからな……。お前に負担をかけてすまないとは
思うが、どうか頼む」
 大島か……。クラスメイトの男子だが、勉強もスポーツも駄目なのを、「自分が宇宙人だから」
「自分の居場所はここではない」と現実逃避して目をそらす困った奴だ。さすがに先生も大島には
手を焼いているみたいだ。
 そういうことなら、仕方ない。矢的先生たっての頼みとあっては、俺も断ることは出来なかった。

 とは言ったものの、実際問題どうしたものか……。とりあえず俺は、何かアイディアの
手助けになるものはないかと図書室に来ていた。
「けど俺、調べものって苦手なんだよなぁ。何から手をつければいいのやら」
 立ち並ぶ本棚を前に途方に暮れ、思わず独白していたら、
「図書室では静かに」
「わッ!?
 不意に横から注意された。振り返ると、タバサが本を読んでいた。存在感がないから、
全然気づかなかった……。
「ご、ごめんタバサ。悪気はなかったんだ」
 ひと言謝ると、タバサはすぐ本に目を落とした。タバサは本当に読書好きだな……。ここの本は
もうあらたか読み尽くしていそうだ。
 そうだ、タバサに相談してみよう。もしかしたらいいアイディアを出してくれるかもしれない。
駄目で元々だ。
「なぁ、タバサ。ちょっと相談あるんだけどいいか?」
「……」
 タバサは沈黙したままだが、それを俺は許可したと受け取って、おおまかなところを説明した。
「……つーわけで、ルイズとキュルケの仲を何とかしたいんだよ。どうすればいいか、分かるかな?」
「……」
「……タバサさん、聞いてます?」
 説明しても、タバサはうんともすんとも言わないので、聞いてもらえているのか不安になった。
 それともやっぱり、タバサにもどうにも出来ないってことかな。タバサが思いつかないのなら、
残念だけどお手上げすることも……。
「コンテスト」
「わッ!? な、なに? いきなり」
 そう思った途端に、タバサがひと言発した。いきなりしゃべるから、いちいちビックリするんだよなぁ……。
 それにしても、コンテストって?
「仲良くする方法」
 仲良くする方法って……あ、ああ、黙っていたのは、ずっと考えてくれていたからだったのか。
「それはつまり、写真とか歌とかで競うアレをしろってこと?」
「そう。二人はライバル。激闘を越えて友達になる」
「……はぁ」
 意外だな、タバサの口からそんな少年漫画みたいな言葉が出てくるなんて……。
「だからコンテストをする」
「えーと、要するに平和的な対決で解決しろと?」
 まぁ、本当に決闘なんかさせられないしな。落としどころとしては、妥当なのかもしれない。

94ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/03/06(日) 21:05:54 ID:W5afBiI6
「でも、平凡な勝負では、どっちも納得しない」
「ああ、そうだろうな……」
 タバサの言ったことは容易に想像がつく。歌とか写真とかじゃ、採点基準や審査員にケチつける
だろうし。機械の採点でもいちゃもんつけそうだ。
「じゃあ、タバサはどんなコンテストがいいって考えてるんだ?」
 聞き返すと、タバサはまたひと言で答えた。
「ミスコンテスト」
「ミスコン!? それって、美人コンテストってこと?」
 またまたタバサから意外な言葉が出てきた。普段のキャラからはちょっと想像つかないような
俗な提案だぞ。
「ん。この学園伝統のミスコンがある」
「へ? そうなの?」
「ちょっと待って」
 席を立ったタバサは、薄い冊子を本棚からたくさん取ってきた。
「これ見て」
「これ、生徒会誌か。すごい量だな、学校開設から保存してるんだな」
「この本の、ここ」
 タバサが指したページには、ミスコン優勝者の写真が纏めて掲載されてあった。
「……おおー! 歴代のミス高校がずらっと! レベル高いな〜」
「優勝した方が勝ち。それなら、二人も納得する」
 なるほど。学校の全員の総意から勝敗が決められるんだったら、あの二人も認めるだろう。けれど……。
「悪い話とは思わないけど、乗ってくれるかな? 下らないとか言われたらおしまいだぞ?」
 そこが心配だ。二人とも、無駄にプライド高いからなぁ……。賛同してくれなきゃ元の木阿弥だ。
 タバサも少し考えてから、告げた。
「……それなら、わたしから言う」
「えッ!? わたしからって……ああ、待てってタバサ!」
 思い立ったが吉日を体現しようとしているように、タバサはスタスタと図書室から退出して
いこうとする。思わず止めようとする俺だったが、その時、
「……ん? あれは何だ……?」
 窓の外に、空を高速で横切る発光体を発見した。あれは……。
「はッ! UFOだ!」
 間違いない! あれは円盤だ! それがこの町に降り立とうとしている!
 俺の声が聞こえてか、引き返してきたタバサが青ざめた表情で円盤を見つめた。
「……ニュースで、スカンジナビア半島とメルボルンがUFOによって大きな被害を受けたとやってた……」
「何だって!?」
 タバサからもたらされたのは、とんでもない凶報だった! その被害があの円盤によるもの
だったなら……今度はこの町が、この学校が危ないぞ!
 しかも円盤は底部からリング状の光を放つと、その中から身体中に触手を生やした、軟体状の
不気味な怪獣が出現した!
「ヴイイイヴイイイ!」
 あいつは……! 端末から情報を引っ張り出すと、UFO怪獣アブドラールスという奴だと分かった。
正体に謎が多いが、何より凶暴で非常に危険な怪獣とある!
「ヴイイイヴイイイ!」
 案の定アブドラールスは両目から黄色い怪光線を撃って、町を焼き払い出す! こうはしていられない!
「タバサ、避難しよう!」
「うん……!」
 俺はタバサとともに避難すると見せかけて、こっそり人気のないところへと移り、ウルトラゼロアイを
取り出した。

95ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/03/06(日) 21:07:46 ID:W5afBiI6
「よぉし! デュワッ!」
 ウルトラマンゼロに変身し、アブドラールスへと挑んでいく!
『行くぜアブドラールス! はぁぁッ!』
 まっすぐ突っ込んでいったゼロが先制パンチを繰り出すが、アブドラールスはヒラリとかわし、
ゼロの背にカウンターのパンチを入れる。
『うおぉッ!?』
 今の一撃の威力は相当なもので、ゼロは地面の上をゴロゴロ転がった。
「ヴイイイヴイイイ!」
『くっそ……!』
 すぐに起き上がったゼロはアブドラールスとじりじり睨み合う。そして機を見て間合いを詰めるが、
そこを読まれていたかのようにアブドラールスに捕まって後ろへ投げ飛ばされた。
『ぐぅッ!』
『ゼロ、大丈夫か!? しっかり!』
『あいつ、かなり出来るぜ……!』
 アブドラールスはグネグネした見た目に反して、パワーもスピードも一級品だ。こいつはかなり
手強いぞ……!
「ヴイイイヴイイイ!」
 アブドラールスは両目からの怪光線を連射してゼロを狙う。側転でかわすゼロだが……
停止したところに一発もらってしまった!
『うああぁぁッ!』
 光線の威力も危険なレベルで、ゼロはその場にうずくまる。そこをアブドラールスに
蹴り上げられて、バッタリと倒れ込んだ。
『ぐッ! はぁッ!』
 くそ、本当に強いぜ……! ゼロをこんな一方的に苦しめるなんて……!
 ゼロがまともに動けなくなっている時に……不意に誰かの叫び声が聞こえた。
「僕だよ! 明男だよ!」
 見ると、大島がアブドラールスに近い位置にいる。あいつ、あんなところで何やってるんだ!?
「地球人名、大島明男! 君の星の仲間だ! 迎えに来てくれてありがとう!」
 大島は円盤とアブドラールスに向かって呼びかけている。
 まさか、自分を宇宙人と思い込んでいるあいつは、円盤を自分の迎えに来たと思ってるのか!? 
馬鹿なことを! 危険すぎるッ!
「明男! 何をするんだ、やめろ!」
 そこに矢的先生が駆けつけて、大島を止める。だが大島自身はそれを振り払おうとする。
「放してよ先生! 僕の星から、僕を迎えに来てくれたんだ!」
「何を馬鹿なこと言ってんだッ!」
「放してよ先生ッ!」
 聞き分けのない大島だが、アブドラールスが大島の仲間な訳がない。大島にも怪光線で攻撃する!
「ヴイイイヴイイイ!」
「あぁッ!?」
 大島の右脚が焼かれた!?
「明男ッ!」
 幸い、大島は矢的先生が抱え上げて安全な場所まで退避させていく。そしてこの間に、
ゼロが復活して立ち上がった!
『よくも才人のクラスメイトに手ぇ出しやがったな! もう怒ったぜ!』
 怒りにたぎるゼロの電光石火のキックがアブドラールスの腹に食い込んだ! アブドラールスは
蹴りに押されて後退する。
『も一発!』
 続けざまにもう一回キックを入れようとしたが、アブドラールスに足を捕らえられてすくい投げられる。
『くッ!』
「ヴイイイヴイイイ!」

96ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/03/06(日) 21:10:16 ID:W5afBiI6
 アブドラールスと掴み合うゼロ。だがアブドラールスは、怪獣の体型で巴投げを決めて
ゼロを放り飛ばした!
『ぬおあッ!?』
 本当に何て手強い奴だ……! 怪獣なのに技まで持っている!
『何の! まだまだぁッ!』
 けれどゼロは逆に発奮し、今度はこっちが相手を投げ飛ばした。すかさず必殺のウルトラゼロキックを
食らわせる!
『ぜああぁぁぁぁぁッ!』
「ヴイイイヴイイイ!」
 飛び蹴りがクリーンヒットしたが、アブドラールスはまだ倒れない。ゼロは追撃を掛けようと詰め寄るが、
「ヴイイイヴイイイ!」
 そこに至近距離から赤い光線を浴びせられ、ゼロがたちまち力を失ってしまう!
『ぐあぁぁッ! か、身体が痺れる……!』
 麻痺光線だ! アブドラールスはここぞとばかりに動きの鈍ったゼロを散々に叩きのめす!
『ぐはぁぁッ……!』
 腹部を踏みつけられるゼロのカラータイマーがとうとう鳴り出した。がんばってくれ、ゼロ! 
この町を救えるのは、お前しかいないんだ!
 応援したのは俺だけじゃなかった。大島からの声も俺たちの耳に届いた。
「ウルトラマンゼロ助けて! 怪獣をやっつけてー!」
 それを受けて、ゼロの身体に力が戻ってくる!
『ここで廃れてたらウルトラマンの名折れだ! おおおッ!』
 気合いとともにアブドラールスをはね飛ばし、当て身! ひるんだアブドラールスは怪光線で
反撃するが、交差した腕で防御。
「セアァッ!」
 そしてカウンターのワイドゼロショット! さすがのアブドラールスも大きなダメージを受ける!
『まだまだぁッ! ここからが正念場だ! うおおおぉぉぉぉぉッ!』
 ゼロの身体が激しく燃え上がり、ストロングコロナゼロに変身を遂げた。そのパワーを乗せた
飛び蹴りが決まる!
「ヴイイイヴイイイ!」
 アブドラールスも耐えられず、後ろにばったり倒れる。ほとんど力を失いながらもなおも
立ち上がるが、そこにゼロのとどめの一撃が繰り出された。
『ガァルネイト、バスタァァァ―――――!』
 超破壊光線が突き刺さり、アブドラールスは今度こそ完全に力を失って倒れ込んだ。眼から光が消え、
絶命を果たす。
 やった! ゼロの逆転勝利だ!
『そしてこいつでフィニッシュだぁぁぁッ!!』
 振り向いたゼロは円盤に向けて、ゼロスラッガーのウルトラキック戦法を放つ! 宙を切り裂いて
飛んでいったスラッガーが、円盤を木端微塵に破壊した!
 これで敵は全てやっつけた。完全勝利だぜ……!
「やったぁーッ! あッ……!?」
 ゼロの勝利を大島も喜んでいたが、途端に撃たれた脚を抑えてその場にうずくまった。
 大島……!?

 負傷が想像以上に深かった大島は、病院に担ぎ込まれた。緊急手術を受ける大島。大丈夫だろうか……。
 気を揉んでいたら、手術室の外で待つ俺たちの元に看護師さんが血相を抱えてやってきた。
「輸血が必要です! 供血をお願いします。血液型がO型の方はいらっしゃいませんか?」
 血が足りないのか! でも俺の血液型じゃない……。
 すると、博士、落語、ファッションが名乗り出た。

97ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/03/06(日) 21:11:50 ID:W5afBiI6
「僕、O型です!」
「僕もです!」
「私もです!」
 大島のお母さんがお礼を言う。
「みんなありがとう。私もO型です」
「じゃあこちらへお願いします」
 四人が看護師さんに連れられて、手術室に入っていく。よかった、O型の人がこんなにいて。
「矢的先生は何型ですか?」
「僕は、その……」
 俺は血を分けてやることは出来ないけれど、それでも大島の助けになりたい。ゼロ、もう一度
力を貸してくれ!
『分かった。俺もちょうど、そうしなきゃいけないような気がしたところだぜ!』
 俺はこっそり病院の外に出ると、再度ゼロへ変身。残ったエネルギーを治癒光線に変換して、
大島に浴びせた。
 これで大島は大丈夫だ。後は回復する時を待とう。

 それからすっかりと容態が良くなった大島は、入院前よりもむしろ元気になって帰ってきた。
みんなからの輸血で一命を取り留めたことと、矢的先生からの説得で自分が宇宙人を自称していたのを、
現実逃避していただけだということを受け止め、前を向くことが出来るようになったんだ。大島が自分と
向き合い、成長を遂げたことに先生も喜んでいた。
 そうそう、忘れちゃいけないのが俺の方の課題だ。タバサが提案した、ミスコンはどうなったかと言うと……。
「ミスコンね。あたしそういうの大好き! 勝つ自信だってあるもの」
 まずキュルケが意欲を見せて、ルイズに告げた。
「タバサはどうしてこういうこと言い出したか分からない? いい加減白黒つけろってことでしょ? 
それで、どうするのルイズ?」
「い、い、いいわ! 受けて立つわよ! ツェルプストーの挑戦を断るなんて、ヴァリエールの名が
泣くんだから!」
 と、ルイズも参加を表明し、無事に二人に勝負の場を用意することが出来た。
 これで第一関門は突破だが、目的の二人の仲を取り持つことが出来るかどうかはここからだ。
はてさて、ミスコンを通してどんな結果をたどることになるのだろうか……。

98ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/03/06(日) 21:12:57 ID:W5afBiI6
ここまで。
「よみがえったミスコン」という字面が妙にお気に入り。

99名無しさん:2016/03/06(日) 21:17:39 ID:RCa/DkbA
復活乙
ウルゼロさんも乙
やっぱり原作の続きが出たら活気づいてきたな

100名無しさん:2016/03/06(日) 21:34:21 ID:IxkVwUCE
ウルトラマンゼロの人、投稿乙です!




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