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年齢奇譚

1仮面りんご ◆pR/EQfuBq.:2011/12/18(日) 19:47:44
 街行く人の視線を釘付けにするのは快感だ。

 淡いブラウンの髪にウェーブとレイヤーを施し、口元を杏色のルージュで彩ってゆく。努力の賜物である169cmの長身痩躯のモデル体型。天賦の才にも等しい凛とした端整な目鼻立ち。そして街行く人の目を奪う柔らかな胸元。正に容姿端麗、才色兼備。

 この水色を基調としたブラウスも、緑と黄色を基調とするチェックのプリーツスカートも、まるで私の為にあるみたい。そう、今日も私は一頭地を抜く星の様に輝いている。昼下がりの陽射しはそんな私を祝福する様に、私のほほを桜色に染めてゆく。都心のウィンドウに映る私は一際まばゆい輝きを放ってゆく。

 始業式も無事終わり、私は今日から高校二年生。正に人生は順風満帆って感じ。

 自宅に向かって歩を進める私の足取りは粉雪の様に軽い。すれ違う人々の清濁入り混じった視線さえ、今日の私を射貫くことはできない。

 私は尚も軽やかな足取りで歩を進めてゆく。向かう先は街の景色を一望できる裏山。私の足取りは止まることはない。そう、向かう先は私の安息の隠れ家。

 新緑の若葉に彩られた道に歩を進めていくと、紫と黒の入り混じった煙が視界を覆い始めた。

「ここは……?」

 視線の先に広がるのは異国情緒溢れた町並みと、着物に身をつつんだ青白く面妖な人々。そう、さながらアヤカシの世界のような不思議な場所だ。

「ねえ、助けて……」

「ひっ……!」

 私は思わず喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

 眼前に座り込んでいる妙齢の女性は筆舌に尽くしがたいほど窶れており、身にまとっている黒を基調とする着物もところどころ破けていた。

「はっ、離して!」

 こんな陰気な場所一刻も早く出たい。こんな気味の悪い人に関わりたくない。私の脳裏を支配するのはそんな言い知れぬ焦燥感のみ。だから目の前の女性には一瞥もくれなかった。

 でも次の瞬間。

「……乱暴な小娘だね。フフッ。百年ぶりの客人がアンタの様な人間とは、ワタシも運がないねえ。でも、アンタはもっと運に見放されたみたいだね」

「え……? やだ離してよ!」

 目の前の女性は瞬く間に生気を取り戻し、雪原の粉雪の様なひんやりした手で私の肩を掴んでゆく。

 黒髪に隠れた朱色の眼差しで私を射貫き、その女性は淡々と語る。

 人生をやり直しな小娘、と。

2仮面りんご ◆pR/EQfuBq.:2011/12/19(月) 02:48:28
「痛っ! えっ……?」

 正に茫然自失。

 眼前の女性が古めかしい筆で私の手の甲に一筆書くと、鋭敏な痛みが体を走っていく。

「はあはあ……何なのこの字は!?」

「フフッ。その字は傲慢なオマエへの罰さ」

 面妖な面持ちで女性は淡々と語り、私の手の甲の「子」と云う字を一瞥してゆく。私はそれに対して声を荒らげ様とするけど、緩慢な眠気が私に膝をつかせてしまう。

「フフッ。目が覚めたら変化は終わっているから、束の間の安寧を享受するといい」

 魔女を彷彿とさせる女性は不敵に笑う。

 そして暗転撿撿。

「あれ……?」

 それは幽体離脱している様な、筆舌に尽くしがたい不可思議な感覚だった。

 視線の先に映る私は気絶していて、眼前の魔女はそれを見つめてほくそ笑んでいる。私はそれに対して物申そうとするけど、幽体の私が声を荒らげたところで、それは砂上の楼閣の様に意味を持たないのだろう。だから今は事態を静観するしかない。私は自身を鼓舞する様にそう言い聞かせた。

「……私あんなに小柄だったっけ?」

 ふと生じたとりとめのない疑念。

 生身の私の手のひらは微かに袖に飲み込まれているし、プリーツスカートは心なしか緩くなっているような気がする。

 変化は尚も進んでゆく。

 肉体に呼応する様に熱くなる胸元。そして煙を噴き上げながら縮んでいく私の身体。私の視界は次第に低くなり、幽体のスカートも少しずつ緩んでゆく。その度に甘美で背徳的な感覚が胸元の先端をくすぐってゆく。四肢が袖に飲み込まれていく感覚は、肉体も幽体も差違はないだろう。

 視線に先の私は中学生に見受けられる。そしてそれは幽体の私も右に同じだ。一回り華奢になり袖に飲み込まれた手のひらも、腰回りの脂肪が薄くなりスカートがずり落ち掛けている腰元も、生身の感覚と何ら変わりない。言い知れぬ恐怖感が去来し続け言葉に詰まってしまう。

 それでも変化は続いてゆく。

 私の手はブラウスの肘の辺りまで縮んでしまい、脚も同様にスカートの膝を覆っていく。そして私はいつの間にか同程度の身長の魔女より、頭一つ分小柄な体躯になっていた。

 すべては平素の出来事に過ぎないと暗示を掛けても、最早実態のない空虚な現実逃避に過ぎないと理解している。眼前の幼さが顕著に表れている柔和なその目元を、私は知っているのだから。

 目の前にいる生身の私は、小学生の頃の私に他ならない。そう、あのあどけない穏和な顔や貧相な胸元は、小学校の卒業アルバムに映っていた私なんだ。

 私は意を決して生身の自分の所に歩を進めてゆく。けどその間も無情な変化は私を侵食し続けてゆく。既にプリーツスカートは足元に落ちているし、淡く艶やかな膨らみを失った下着は肩に引っ掛かっているだけ。そしてスカートの様に膝にまとわりつく水色のブラウスは、そんな変化は些末なことだと言う様に心をえぐっていく。

 視線の先に映る生身の私は既に六歳前後。そして幽体の私も右に同じく六歳前後。

 視線の先に居る魔女は、今の私には別人の様にたくましく映っている。首を上げなければ彼女の表情をうかがうことすら叶わない。そう、視線の先に映るのは魔女の着物の帯と、ぶかぶかのブラウスを身にまとう子どものみ。

 幽体の私と生身の私の境界線は次第に交わり始めてゆく。

 撿撿そして再び暗転。

 私、雪島悠紀(ゆきしまゆき)の運命は脆くも崩れさってしまう。でも、この時の私はそんな無情な現実など知るよしもなかった。

3仮面りんご ◆pR/EQfuBq.:2011/12/19(月) 02:49:58
「うっ……あれ?」

 目覚めると見慣れた光景が広がっていた。淡いライムグリーンのカーテンに彩られた正面の窓。向かって左側の勉強机にその隣にある黒を基調とした本棚。そして使い慣れた水色のベッドに向かって右側にある木のドア。そう、ここは私の自室だ。

「いやな夢だったなぁ……えっ?」

 幼い声色が耳元に響き渡り、私は背筋が寒くなり戦慄した。

 舌がうまく回らなくて滑舌が悪い。それに自室をよくよく見渡すと見慣れないうさぎのぬいぐるみや、小学校低学年の子どもが遊ぶ様な人形が床の上に乱雑に置かれているし、正面の壁にはってあった米国のシンガーのポスターも剥がされている。先月購入した限定品のヘッドフォンもないし、机の上に置かれた教科書もすべて小学校低学年用の物だ。

「ここはどこなの……?」

「あら自分の部屋も判らなくなったのかい?」

「あなた夢に出てきた魔女ね! 姿を見せなさい!」

「馬鹿も休み休み言いなよ小娘。ワタシが浮き世に姿を現したら、不審者として瞬く間に捕まっちまうだろ。人間に変身するって方法もあるけど、メンドクサイしねえ」

「なっ!?」

 私の脳裏に響き渡る魔女の声は自信に満ち溢れており、己の絶対的優位を微塵も疑っていないようだ。

「あたしを元の姿に戻しなさい!」

「それが人に命令する態度なのかい。それに心配せずとも元に戻れるさ。フフッ。約十年我慢すればね」

「ふざけないで! 学年トップクラスのすっごく頭のいいあたしに小学校に通えっていうわけ?」

「フフッ。それが才色兼備な少女の喋り方なのかい? だが、まあその辺の抜かりはないさ。右手の甲を見てみな小娘」

「この字がどうしたって……えっ?」

 私は、「子」と書かれた模様が読めず言葉に詰まってしまう。頭の中ではしっかり認識できているのに、発声しようとすると脳裏に淡い靄が立ち込めて読めなくなる。それに先程から喋っている内容と思考に差違が生じている。

「フフッ。理解できたかい小娘? その呪いの文字はアンタにしか見えない特殊な呪術でね、対象者の知識を保持したまま勉強能力だけ子どもに戻せるのさ。つまりアンタは頭の中ではその文字を認識できるが、話したり読んだりは再び小学校で習うまでは出来ないんだ」

「あたしを元に戻して! 戻さないとガーってしてメチャクチャするから。だから戻してくれなきゃイヤなの!」

 “私と冷静に話し合いましょう。先程までの数々の非礼をお詫びいたします。貴女にも思うところはあると存じ上げております。ですが私にも日々の学業や生活があるのです。だから、何とぞ元の姿に戻してくださいませ”私は確かにそう言おうとしたはずなのに、口元からこぼれ落ちたのは似ても似つかない言葉だった。

「クスクス。泣きながら癇癪を起こすなんて、アンタも子どもっぽくなったねえ。せいぜい新しい生活を頑張りな。あっ、いい忘れてたけど身体能力や自立神経も後退化してるから、気をつけないとそんな風にまたおねしょするからね」

「おねしょ……? あっー!」

 私は掛け布団を捲り絶句した。

 秘部を中心に広がった染みは私の水色のパジャマを染め上げており、独特の匂いが鼻を刺激してゆく。手で触るとびちゃっと冷たい感触がして、私を眼前の現実に引き戻してゆく。

「嘘、うそ、ウソ!」

 何度否定しても眼前の現実は覆ることはない。そしてお尻まで濡れた不快な感触は、瞬く間に私の心をえぐっていく。それでも私は、藁にもすがる思いで水色のパジャマを脱ぎ捨てた。

「あっ……」

 茫然自失。正に思考停止。

 人は本当に衝撃的な体験をした時は言葉に詰まると、私は身をもって知った。

 パジャマの中の秘部からは淡い茂みが完全に失われており、代わりに広がるのは淡い染みばかり。染みは私の想像以上にショーツやパジャマを侵食していた。でもそのショーツはレースやワンポイントの飾りが特徴的な大人用ではなく、イチゴやクマの絵が特徴的な生地の厚い子ども用だった。

 私は幼気で恥ずべき行為だと知りつつも、尚も自身の秘部を確認してゆく。

 パジャマの下腹部やショーツの中心部分を濡らした元凶の場所は、微かに濡れていた。でもこの秘部は私の知っている秘部ではない。そう、生々しさが薄らぎ秘境への門が封印された子どもの秘部。

 指先で触れてもくすぐったいだけの秘部が、私の心を鋭い刃の様にえぐってゆく。それでも口元からこぼれ落ちるのは幼気な言葉ばかりだった。

4仮面りんご ◆pR/EQfuBq.:2011/12/20(火) 00:17:14
仮面りんごです。もう一作書いたので投下します。
タイトルは「変わる日常と身体」です。
あと、キーボードのエンコード設定の影響か文字化けしてしまった箇所があったようですね。
一応、文字化けした記号は使用を控えるので、ご一読頂けましたら幸いです。

5仮面りんご ◆pR/EQfuBq.:2011/12/20(火) 00:18:36
 月島楓(つきしまかえで)は、久方ぶりに不思議な夢を見ていた。そう、懐かしくて時に切ない“若返る”前の夢を。

 夢の中の楓は長身痩躯のモデル体型で、その端整な目鼻立ちは街行く人々の視線を釘付けにしてゆく。

 紺色を基調とするブレザーに緑と黒のストライプリボン。艶やかな脚を彩る浅葱色と緑色のチェックのプリーツスカート。そして二重瞼が印象的な凛とした力強い眼差しに蜂蜜色のウェーブヘア。夢の中の楓はそのしずしずとした足取りと相まって、街行く人々の目を奪う輝かしい雰囲気につつまれていた。

 夢の中の楓は街の景色を一望できる裏山に向かって、一歩ずつ歩を進めてゆく。

 それが悪夢の始まりになるなど思いもせずに。

 楓が裏山の山頂に到達すると、黒と紫の入り交じった煙が夕焼けに彩られた秋空を侵食していた。楓はその光景に言い知れぬ恐怖感を覚えるが、時すでに遅く、楓の意識は瞬く間に混濁していった。

 そして暗転。

 製薬会社の事故に端を発したその禍々しい煙は、楓の心の機微を無視する様にその肉体を覆ってゆく。

 彼女の肉体に差異が生じ始めたのは、空が淡い暗幕につつまれた頃だろう。

「はあはあ……あっ、あん!」

 煙で熱くなった四肢や身体は彼女の色欲を呼び覚まし、甘美で背徳的な快楽をその身にもたらしてゆく。その疼きは彼女の羞恥心など些末なことだと言う様に、楓の秘部を染め上げてゆく。それに抗う術など彼女は持ち得なかった。

「あっ……はうっ!」

 背徳的な疼きや鋭敏な痛みが秘部に走る度に、楓の緑と白のストライプショーツは濡れていく。そしてそれに呼応する様に彼女の手はブラウスに飲み込まれ、チェックのプリーツスカートは少しずつ緩み始めていく。

 無情な変化は尚も彼女を侵食し続ける。

 夢の中の楓はみずみずしい十七歳の体躯から、所々幼い様相を呈する中学生の体躯に変化していた。

 中学校の卒業アルバムを彷彿とさせる丸みを帯びた顔は、苦悶の面持ちに染まっている。そのしなやかな指先はブレザーやブラウスに飲み込まれている。彼女はそんな変化に抗う様に身悶えるが、無情な変化にそんな空虚な願いが届くことはない。無情な変化は彼女の時計の針を戻し続け、その身を甘美で背徳的な熱で染めゆくのみ。

 そう、心の機微やささやかな安寧を嘲笑する様に。

 楓の目元は柔和な雰囲気に変わり始め、桜色で艶やかな口元にもあどけなさが目立ち始めていた。でも、言い様のない熱や疼きは尚も侵食を強いるもの。淡い朱色の煙が噴き上げる度に彼女の乳房の先端には血流が集中していき、擦れゆく胸元の下着はそんな先端に快楽をもたらし続けた。

「あうっ……はあはあ」

 制服の上からでも形の良さが見受けられた楓の乳房は、さながら重力に屈服する様に縮んでゆく。そしてその度に乳房を覆う下着は擦れ、下着を覆う制服には細かなシワが広がってゆく。やがてその熱は乳房の先端に鋭い痛みをもたらし、彼女の胸元は次第に硬くなってしまう。

「あっ、あっ、あー!!!」

 楓の一際甲高い声が虚空に消えた瞬間、彼女の胸元は完全に喪失し平らになった。

 夢の中の楓は、既に小学校の卒業アルバムよりも幼い様相を呈している。

 シワに覆われ主を喪失した胸元の下着とブレザー。若返りに伴いずり落ちたプリーツスカート。そして淡い染みに中心部が覆われたショーツ。楓の緑と白のストライプショーツはヒップラインの脂肪が薄らいだ影響で、所々シワが目立ち始めており、微かに透けて見える秘部からは淡い茂みが完全に消え失せていた。

「はあはあ……あがっ! あー!!!」

 楓の秘部や四肢を覆う痛みは瞬間的に鋭さを増し、彼女の身体は一気に縮んでいった。

 脱げ落ちた革靴に肩からずり落ちた黄緑色のブラジャー。急激な変化に適応できず脱げ落ち掛けているショーツ。そしてブレザーやブラウスに埋もれる様な小柄な体躯。

 楓の若返りは止まったが、微かに煙を噴き上げる彼女の身体は、無情にも六歳前後まで後退化していた。

 そして再び暗転。

6仮面りんご ◆pR/EQfuBq.:2011/12/20(火) 00:20:16
「そんな顔しないで楓、何もずっと“小学校”に通えってわけじゃないんだから。ねっ? 元に戻るまで辛抱して」

 春の爽やかな陽射しに彩られた今日この頃。楓はそんな新緑が芽吹く春の一頁に似つかわしくない形相で、必死に声を荒らげていた。だがそれも無理からぬことだろう。

 紺色を基調とするブレザーに白と黒のストライプリボン。黒と白を基調とするチェックのプリーツスカートに白いハイソックス。そして左の胸元に飾られた「つきしますずな」と書かれた水色の名札。蜂蜜色の髪は黒く染め直され白いリボンでツインテールにされ、化粧をすることさえ叶わない。楓の羞恥心や恥辱感を刺激している原因は、もはや一目瞭然だろう。

 そう、あの製薬会社の事故から早いもので半年が過ぎており、楓は今日“小学校一年生”として入学式を迎えているのだ。

 無論、楓やその両親にも色々と思うところはある。だが偶発的な作用で生まれた若返りの薬を公表することなど出来ず、薬の成分分析も暗礁に乗り上げた今、楓の両親は娘を奇異の目に晒すことのないよう製薬会社や国との和解を選択したのだろう。

 こうして楓は菘(すずな)と戸籍を変え今に至っている。

「大体、本当の楓は留学したって無理がありすぎるでしょ!」

 菘は舌っ足らずで不明瞭なあどけない声を響かせ、母親に食って掛かる。

「じゃあその姿を世間に晒して、注目の的になるつもりスズナ?」

「姉を呼び捨てにしないで桜! それにあたしはスズナじゃなくて楓!」

 楓あらため菘は、妹の桜(さくら)に声を荒らげて物申していく。だが今の彼女の目線はちょうど桜の腹部の辺りで、見上げる程に大きく映る妹に気圧されていた。

 楓の身長は162cm。菘の身長は112cm。そして桜の身長は150cm。

 今の彼女には母親はたくましい体躯に映り、冷蔵庫や玄関のドアは巨大な物に映ってしまう。だから菘は、縮んだ体にいまだ戸惑いを隠せないのだろう。

 閑話休題。

『くっ……何であたしがこんな目に』

 紺色のセーラー服を身にまとう妹と交差点で別れ、菘は母親に手を引かれて小学校に向かっていた。

 一歩。そしてまた一歩と菘は歩を進める。

 重い足取りで歩を進めていく度、菘のほほは赤みを増していく。視線の先に映る“同年代”の女子高生は以前とは比べものにならない位たくましく見え、菘の脳裏には言い知れぬ焦燥感が去来してゆく。

 そんな中、菘は小学校の校門に到着した。

「はあはあ……たったこれだけの距離を歩いただけで、こんなに疲れるなんて」

「大丈夫、スズナ?」

 息を乱す華奢な菘を母は心配する。だが桃色を基調とするスーツを整え、屈んで菘に目線合わせる母親を、菘は苦々しい表情で見つめていた。

「ほらスズナ、じっとしてなきゃだめでしょ。せっかく六年生のお姉さんが、スズナにお花を付けてくれてるんだから」

「くっ……」

 菘は母親に諭され目元を潤ませていた。

 自分は本当は高校生なのに、この娘と違って中学もちゃんと卒業してるのに。菘は心の中で何度もそう繰り返し、うつむき加減で羞恥心を心の奥底に飲み込んだ。だが菘の思いも無理からぬこと。まだあどけなさの残る六年生の少女は最高学年で、菘は入学したばかりでヒエラルキーの低い小学校一年生なのだ。小学校二年生の男子や女子のことさえ、今の菘はお兄ちゃん、お姉ちゃんと呼ばなければならない。その屈辱は必然に尽くしがたいものがあるだろう。

「はい。お嬢ちゃん入学おめでとう。時間が掛かってごめんね」

 受付の担当とおぼしき六年生の少女は、菘の目線に合わせるため軽く屈み、口元に柔和な笑みを浮かべながらその頭を優しく撫でた。

「スズナ、お姉ちゃんにありがとうって言わなきゃだめでしょ」

「ママ、だってあたしは!」

 菘は小刻みに震えながら唇を噛みしめたが、この場をやり過ごすため意を決していく。

「おっ、お姉ちゃん。お花ありがとう……」

 ゆでダコの様に顔を赤らめ、菘は舌っ足らずな声でそう語る。でもその目元には屈辱と恥辱がない交ぜになった涙が浮かび、きつく握りしめた紅葉の様な手は小刻みに震え続けていた。

7仮面りんご ◆pR/EQfuBq.:2011/12/20(火) 02:26:12
『お願い早く終わって……』

 菘は、体育館に集められた新入生と一緒に席に座っていた。

「皆さんご入学おめでとうございます。皆さんは今日から小学生になります。小学校は幼稚園や保育園と違い勉強する所なので、色々な悩みもでてくるでしょう。でもここには頼りになる先生や、六年生のお兄さん、お姉さんがいますので安心してください」

『六年生なんて、あたしから見れば子どもじゃん。にしてもこの椅子でかすぎたよ』

 菘はパイプ椅子にさえ足が届かないことに憤慨しつつ、校長の話に耳を傾けていくが、その顔は羞恥心で真っ赤に染まっていた。でもそれも無理からぬこと。保護者や高学年の生徒の生暖かい視線だけでも屈辱の極みなのに、隣や後ろの席に居る一年生の喧しさがそれに拍車を掛けているのだから。

『だからガキは嫌なの。そう、あたしはこの子たちとは違うんだ。元に戻る薬さえ完成すれば、こんなところに用なんてないんだから』

 菘はあどけない顔を赤らめつつ、心の中で何度も何度もそう反復してゆく。だが、彼女のそんなセンチメンタルな心情など周囲の人間には伝わらず、緊張で顔を赤らめてると上級生や保護者に誤解され、六年生の列からはクスクスと笑い声が響いていた。

「みなさん入学おめでとうございます。私が今日からみなさんと一緒に勉強する、西村結花理(にしむらゆかり)です」

『もうやだ……』

 一年一組の教室に響き渡る担任教諭の声と教室の雰囲気に、菘は内心憤っていた。正面の黒板に色鮮やかなチョークで書かれた「にゅうがくおめでとう」の文字。向かって右側の壁に所狭しくはられた“ひらがな”の注意書き。そして真新しいスーツに身をつつんだ年若い女性教諭の優しい口調。それらはおしなべて菘の心をえぐってゆく。

8仮面りんご ◆pR/EQfuBq.:2011/12/20(火) 02:27:22
「それではこれから大切なお話をします。少し長くなるけどみんなトイレには行ったかなぁ?」

『要点だけ話して早く終わりにしてよ』

 担任の教諭である結花理は幼稚園から入学したばかりの児童に気を遣うが、高校生の意識を保持している菘には屈辱でしかないだろう。

『長い注意事項だなぁ……子どもに話すために噛み砕いてるんだろうなぁ……』

 菘は頬杖をつきながら思案に耽っていた。隣にいるのは紺色のスーツを身にまとう子ども。前の席に座っているのは桜色のワンピースを身にまとう子ども。そして自分も同じように子ども用のスカートやブレザーを身にまとっている。菘の脳裏にはそんな言い知れぬ焦燥感ばかりが去来してゆく。

『あたしが小学六年生だった頃、この子たちは一歳の赤ちゃんだったんだよね。先生の目にはあたしも同じように映ってるのかな?』

 去年まで園児だった六歳児と一様に扱われることに、菘は憤りと戸惑いを隠せない。でもそれも無理からぬこと。六歳の児童と机を並べてひらがなや算数を勉強するなど、実年齢十七歳の菘には羞恥プレイにも等しいのだ。

『そろそろ話も終わりそうね……あれ?』

 先生の話に再び耳を傾け始めた菘は、言い知れぬ感覚に額を冷や汗で濡らしていた。

『この感覚……ウソでしょ。トイレなら家を出る前に行ったばかりなのに』

 下腹部を襲い始めた突然の尿意に、菘は瞬く間に混乱していく。家を出る前に確かに用を足したのに。水分だってそんなに飲んでないのに。菘は早朝からの行動を分析していくが、次第に強まる尿意はそんな思考能力さえも奪ってゆく。

『トイレに行きたい。トイレ。トイレ。ダメダメ、あたしは本当は女子高生なんだよ。話の最中にトイレに行ったらこの子たちと同じじゃん。ああ。さっきトイレに行っとけば良かった』

 菘は緊張からくる尿意に思考を支配されていた。彼女は、おそらく以前と同じ時間尿意を我慢できると過信していたのだろう。けれど菘の肉体や自律神経は他の六歳児と何ら変わりないもの。いくら意識が十七歳でも、大人と同じ時間尿意を我慢することなど無理なのだろう。

「それではみなさん、また明日も元気よく登校してくださいね」

「ハーイ!」

『やっと終わったぁ!』

 菘はホームルームが終わると一目散にトイレに向かっていった。

「くっ……漏れそうで走れない」

 次第に強まっていく尿意を堪えるため菘はがに股歩きになり、黒と白を基調とするプリーツスカートの上から子ども用ショーツを押さえていく。それでも高まる尿意を完全に抑えることなどできず、菘の顔は瞬く間に赤みを帯びていった。

「間に合った!」

 小柄な体躯で女子トイレのドアを必死に開け、菘は無事ピンクのタイルに彩られたトイレに到着した。だが束の間の安寧は尿意を堪えていた神経にも伝わってしまう。

「えっ……?」

 正に茫然自失。そして思考停止。

「あっ、あっ、やだ! 止まってよ!」

 さながら水門の決壊したダムの様に、菘の下腹部からは温かな液体がこぼれていく。その液体は彼女の意識を嘲笑する様に子ども用ショーツから太ももにこぼれ、桃色を基調とする濡れたショーツはプリーツスカートの前方部分も浸食していった。

「違う、違うの。あたしは女子高生なんだから。これはお漏らしじゃないんだからね」

 抑えきれない羞恥心や恥辱感が脳裏を支配し続け、菘は力なくその場に座り込んだ。

「うっ、うっ……」

 お尻や下腹部の中心を支配するびちゃびちゃと濡れた感覚に、菘は子どもの様に泣きじゃくってしまう。それでもスカートやショーツから伝わる生暖かい感触や、ピンクのタイルに水溜りの様にこぼれた液体は消えさることはなかった。


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