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ξ゚⊿゚)ξ街角絵本と奇譚のようです

1ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:02:44 ID:zwh.XI/U
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窓から差し込む陽に赤みが増してきた。

やっぱり、夕焼けは朱(アカ)色ね。
御ヶ津早月は机の真ん中で花瓶に活けられた花にうっすらとその色が映り込むのを、目を細めて見ていた。
別に微笑んでいたわけではない。
単純に、眠かったのである。
手を口許に当てて欠伸をすると、押さえの無くなった本は簡単に閉じてしまった。

左手首の時計を見れば、いつの間にやら16時を回っている。
早月は図書館に居た。
たまたま学校が午前授業であったため、
前々から気になっていた新設の個人図書館に来ていたのである。
その名も「街角」。

「街角」はなかなかセンスの良い図書館だった。
というのも、暖色の照明に緋色の絨毯がシンプルながらそれらしい空間を演出しているのだ。
また凝った装飾の美しい書見台が幾つか設置されており、
祖母の家でしか見たことのなかったそれらに早月は胸が高鳴るのを感じていた。
むしろそちらの方が気に入った理由としては大きい。
特に端に置いてあるものは本当に素晴らしかった。
それこそ眺めるだけでどきどきしてしまって、使えないくらいには。

ξ-⊿-)ξ「……アホらし」

すっと椅子を引いて、足元に置いていたスクールバッグを肩にかける。

13ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:31:21 ID:zwh.XI/U
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o川*゚ー゚)o「うん?」

当の本人といえばきょとんとして、早月と淡路の顔を交互に見比べている。
その姿は小動物のそれだ。
愛くるしく、危なっかしい。

ξ゚⊿゚)ξ「それで?」

o川*゚ー゚)o「え?」

ξ-⊿-)ξ「……話の続き」

o川*゚ー゚)o「ああ!」

高梨はぽん、と手を叩くとにっこりと笑った。

o川*^ー^)o「テーマパークが出来るんだって」

( ФωФ)「ふむ」

淡路が教科書類を真面目に机へ仕舞いながら相づちを打つ。

ξ゚⊿゚)ξ「テーマパークねぇ」

早月は複雑に思うのを表に出さないよう、努めて普段通りの口調で答えた。
昨今活発化してきている街の開発には思う所があるのだが、下手に高梨を傷つけるようなことはしたくなかった。

14ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:31:57 ID:zwh.XI/U
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o川*゚ー゚)o「楽しみだよね」

安心できることに、高梨はなんの疑問も抱いていないかのように口許を緩ませている。
目線が窓の外に向いているのは、未来の風景――楽しく遊ぶ自分たちの姿――に、思いを馳せているのかもしれない。
高梨のそれはどこか真剣実を帯びていて、よっぽど楽しみなのだろうと早月はぼんやり思う。

o川*-ー゚)o「いつか一緒に行こう。みんなでさ、いいでしょ?」

ぼうっとしていた早月が曖昧に頷くのに鐘の音が重なった。
またあとで、と手を振って高梨は教室を出ていく。
そのときワイシャツの後ろがスカートから微妙に出ているのに気付いたが、早月が声をかけるより速く高梨は駆け出していた。

( ФωФ)「彼奴、気付かないぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ。クラスの子が直してくれるでしょ」

早月の返答に淡路が顔をしかめる。

( ФωФ)「適当なやつめ」

ξ゚⊿゚)ξ「ロマが過保護すぎるのよ」

早月が間髪入れずに返すと、淡路はさらに顔をしかめて黙った。
教室のざわめきは静まる気配がない。
生徒たちは知っているのだ。
5分前の予備鈴程度では、担任が教室にやってこないことを。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ」

早月がスマホを弄りながら声をかけた。

( ФωФ)「なんだ」

淡路は書店でかけてもらえるブックカバーに包まれた小説を開きつつ返事をする。
互いに相手の顔も見ようとしない。
それだけ長い付き合いなのだ。
腐れ縁と言っても支障はない。

15ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:32:36 ID:zwh.XI/U
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ξ゚⊿゚)ξ「さっき、キュウと違うこと考えてたでしょ」

( ФωФ)「ああ。なんだ、気付いてたのか」

ξ゚⊿゚)ξ「当たり前じゃない。アンタさ、あの子が手を叩いたときに、ほんの少し不思議そうな顔したもの」

淡路は眉間にシワを寄せながらため息をついた。

( +ω+)「可愛くないな、ツンは」

ξ゚⊿゚)ξ「失礼ね。お互い様でしょ」

( +ω+)「別に俺が可愛くある必要はないだろう」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、必要かどうかでいったら私だって同じよ」

タイツからうっすらと透けている太股に目を落としながら答える。
組まれた早月の足に、机の下は少々狭苦しかった。

16ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:33:30 ID:zwh.XI/U
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( ФωФ)「面倒なやつだな」

静かにページを捲りながら淡路は呟く。

ξ゚⊿゚)ξ「勝手に言ってなさい」

( +ω+)「ああ、そうさせてもらう」

ξ゚⊿゚)ξ「それで」

予備鈴が鳴ってから5分が経つまで、あと何十秒かそこらだ。
早月は短めに切り整えたスカートのポケットにスマホを仕舞い込み、頬杖をついた。
黒板の上に掛けられた時計の秒針がのろのろと動くのを何とはなしに眺める。

( ФωФ)「……別に、つまらんことだぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「噂話?」

( ФωФ)「ああ。放火魔が出たらしい」

ξ゚⊿゚)ξ「やだ、物騒ね」

( ФωФ)「だろう。どこが燃えたかは知らんがな、嫌な話だ」

17ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:34:14 ID:zwh.XI/U
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一定の間隔でページを捲る淡路の淡々とした様子は、いかにも楽しそうにしていた高梨と対照的だった。
通りで、と早月は思う。
普段ならそれなりに高梨に合わせる淡路がおざなりに相づちを打っていたわけだと。

二人の持ってきた話題はあんまりにもかけ離れていて、
淡路は胸に沈んだ澱のような黒いもやの処理が追い付かなかったのだろう。
相変わらず生真面目で不器用な男だと、早月は内心で苦笑した。

( ФωФ)「それにしても、ツンこそどうしたのだ」

ξ゚⊿゚)ξ「私?」

唐突な振りにぽかんとして、早月は自らが浮かべたであろう間抜け面を想像し、しまったと眉間にシワを寄せた。
気にせず淡路は続ける。

( ФωФ)「嫌なのか、テーマパーク」

ξ-⊿-)ξ「……どうしてそうなるのよ」

淡路はふむ、と相づちだか一人言だかわからないような返事を寄越す。

( ФωФ)「とても気分が良さそうには見えなかったからな」

そうしてようやく早月に目をやった。
横目ではあったが、机を前に押し出し、短いスカートで脚を組んだ姿を見ると、たちまちため息をついた。

ξ゚⊿゚)ξ「何よ」

( ФωФ)「懇切丁寧に言うなら、何を言っても無駄だろうなという諦念からのため息だ」

18ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:35:33 ID:zwh.XI/U
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ξ-?-)ξ「説教ならお断りだからね」

( ФωФ)「ああ、やはり何も言うことは無いわ」

ξ゚?゚)ξ「ふん」

淡路はじとりと早月の顔を見つめる。
人形のように整った早月の顔はそれこそ人形のように無感情じみていて、わざとらしいくらいの無表情だ。

( ФωФ) 「話を逸らすのが下手だな」

ξ;-?-)ξ「うっさい」

がたり、と頬杖がぶれる。
早月は自分が不器用なことを自覚している分、妙に勘の良い淡路が昔から苦手だった。

ξ-?゚)ξ「私は、単に」

だから、こういうときの対処法もそれなりに確立している。
ポイントは「素直に、そして簡潔に」だ。

本鈴が鳴ると同時、教室の前扉ががらがらと音を立てた。
入ってきた担任の号令と、立ち上がる生徒の椅子が床と擦れて鳴る音と、静まるどころか一気に様々な音が響く。
その中でも、確かに早月の声は淡路の耳に届いていた。


「――この街が好きってだけよ」

19ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:38:48 ID:zwh.XI/U
なんでそこだけ文字化けが
すいません間に合いません今日はここまでで勘弁してください

20ブーン系の名無しさん:2014/03/24(月) 01:21:26 ID:???
乙乙 続きも楽しみにしてる。

21ブーン系の名無しさん:2014/03/24(月) 09:39:52 ID:???
続きが気になる
おつ

22ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:00:01 ID:???

* * * * *


ξ゚⊿゚)ξ「御ヶ津……と」

ファミレスの入口でペンとともに置いてあるような紙に、名前を記入する。
およそ、図書館の受付とは思えない風景である。
何か人気の本を予約するのなら話は違ったかもしれないが、生憎カウンターは無人だ。
「街角」に来るのはこれで二回目だったが、早月は既に勝手を掴んでいた。

そもそも、「街角」では本を借りて持ち帰ることが出来ないため、
本の予約などというサービスがあったところで特に意味の無いように思える。
というか本が借りられないって図書館としてどうなのよ、と早月は内心、冗談交じりではあれど非難していた。

ミセ*゚ヮ゚)リ「あー!」

ξ゚⊿゚)ξ「あら」

若葉色のくせっ毛をぴょこんと跳ねさせた少女が早月を見つけて声をあげ、駆けてきた。
水無月だ。
雨弦に向かってきたときとは違い、直前でブレーキをかけ、
きゅ、と早月の制服のスカートをつかんで止まる。

ミセ*゚ー゚)リ「お姉ちゃん本が好きなの?」

ぐい、と目一杯顔を上に向けて早月の顔を見た。
くりくりとした目が子供らしく輝いている。

ξ-⊿゚)ξ「そうねえ。一週間に二度も図書館に来ちゃうぐらいだもの、大好きよ」

ミセ*^ー^)リ「わあっ! 大好きだって、うーれしーいなー」

水無月がワンピースをはためかせながらくるくると回る。
本当に嬉しそうで楽しそうで、見ているこちらの目が回りそうだと早月は思った。

ミセ*゚ー゚)リ「あっ」

23ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:03:50 ID:Pj39Jcig
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水無月が器用にもぴたりと静止する。
そのきらきらとした視線の先には。

('A`)「……ウチのガキがすまない」

目一杯の渋面――それもよく似合う――を浮かべた雨弦が立っていた。
あきらかに力の無さそうな細腕に、山と本を抱えている。
こんにちは、と早月が挨拶をするのに被せて、噛みつくような声が下から飛んでいく。

ミセ*゚Д゚)リ「ガキじゃなくてミセリ!」

('A`)「ああ、そうだったな。だから静かにしろよチビ」

可愛らしい声を張り上げて自分の名前を主張する水無月を雨弦が睨み付ける。
草木も枯れそうな勢いの視線に、水無月は萎縮することもなくにこにこと笑っている。
しかしそれも雨弦がこちらに近付くにつれて固くなっていった。

ミセ;*゚ー゚)リ「あ、あれれー…? 館長、本の修理しに行かないのかなー」

('A`)「……」

水無月がじりじりと後ろに下がるも、とん、とすぐにぶつかって、雨弦はもう目の前だ。

ミセ*> -<)リ「きゃっ」

ミセ*> -゚)リ「…………う?」

叩かれると思ったのか手を頭に当てて目をつぶった水無月は、何のアクションもないのに、そろそろと顔を上げた。
当の雨弦はといえば、水無月がぶつかった台――カウンターに、抱えていた大量の本を置いていた。

('A`)「修理がなんだって?」

ミセ;*゚ー゚)リ「えっとえとえと」

水無月は危機は去ったという様子で、多少おろおろしつつも手を下ろす。

24ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:04:49 ID:Pj39Jcig
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('A`)「……後ろ見てみろ。カウンターはそっちだろ」

ミセ;*> ,<)リ「あう」

両手が自由になった雨弦は水無月の頬をつねりつつそう言った。

ミセ;*゚д゚)リ「本下ろしたから叩かれないと思ったのに!」

('A`)「それは残念だったな」

ミセ;*>д<)リ「ざんねんってなにさあー!」

('A`)「静かに」

雨弦が手本を見せるように、あるいは小馬鹿にするように囁くような声で言う。

ミセ;*゚ -゚)リ「……!」

('A`)「大事な本を使って叩くほど野蛮じゃなければ、本が傷付く危険のあるようなこともしねえ、以上」

ミセ*゚Д゚)リ「なっなな!そんなこと言ったらミセリだって大事な」

それは乱雑で、あまりに突然のことだった。
そこまで言ったところで、雨弦は水無月を抱き上げたのだ。

いや、抱き上げた、というよりは口を押さえようとした勢いで持ち上げてしまったのでは――?

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あの」

一部始終を見守っていた早月は思わず間抜けな声をだしたが、雨弦はちら、と見ただけだった。
そして抱き上げた水無月に耳打ちし、すぐに床に降ろす。
どこか殺伐としたやりとりに早月は声もかけられない。

25ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:05:51 ID:Pj39Jcig
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ミセ*゚−゚)リ

降ろされた水無月は雨弦が持ってきた本の内数冊を抱えると、そのまま無言でカウンターの奥へと駆けて行った。
早月は心なしか悲しげな表情をしていた水無月が気になったが、追うわけにもいかず、その場で視線を投げるのが精一杯だった。

('A`)「忘れてくれ」

何を、とは言えず早月は曖昧にうなずいた。
なんとなくその場を離れることができず、互いに気まずい沈黙が流れる。

と、早月は不思議なものを見つけた。

ξ゚⊿゚)ξ「あれは」

雨弦の後ろ、「街角」の奥の方だ。
書見台が並んでいる場所の一番端にそれはあった。

('A`)「……ああ、櫻子か」

雨弦は早月の視線を追うように振り向くと、ぽつりと言った。

ξ゚⊿゚)ξ「さくらこ?」

早月は聞き返す。

('A`)「書見台の名前だよ。その、布のかかっているやつのことを言ってんだろ?」

雨弦の言う通りだった。
素人目に見ても明らかに高価な書見台が並んでいるなかで、一番端の一つにだけ(こう言っては失礼かもしれないが)安っぽい布が、
それも無造作にかけられていたのを不思議に思ったのだ。
それは丁度、この間一目見て早月が惹かれた書見台であった。

26ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:08:25 ID:Pj39Jcig
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('A`)「ウチの書見台は全部良いとこの貰い物でね、名前があるんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「名前ですか」

早月は相づちを付きつつも、少しの違和感を覚えていた。
やけに饒舌じゃないかしら。
まるで決まっていた台詞を読み上げているみたいだわ。

('A`)「ああ。ほら、櫻子の隣から、彼樫(カガシ)、柏義(カシワギ)、栗城(クリキ)、林檎咲(リンザキ)」

ξ゚⊿゚)ξ「それで、ええと……櫻子にはどうして布が?」

早月が雨弦の言葉を遮るように問うと、雨弦はあからさまに顔をしかめた。
さすがに失礼すぎたと己を恥じたが、すぐにその渋面が自分へ向けられたものではないことに気が付いた。
雨弦はこちらの瞳を覗いていない。
彼の感情の出どころは、こちらの問に答えようとして思い出した、何かなのではないだろうか。

('A`)「それはアイツが、いや」

アイツ?
早月が首をかしげると、雨弦は咳き込んで言い直す。

('A`)「櫻子は少し調子が悪いんだ。使うと危ない」

そのときだった。

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ?」

櫻子にかかっていた布がふわりと、どこか誘うかのようになめらかに、すべり落ちた。
窓は開いていない。
空調こそ効いているが、風という風もないのに。

('A`)「嘘だろ、なんでまた……」

雨弦は頭をがしがしとかきながら、忌々しげに呟く。
けれどそれは、ふらふらと吸い寄せられるように歩き出した早月の耳には届いていなかった。

27ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:08:57 ID:Pj39Jcig
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(;'A`)「あ、おい! 止めておけ、ろくなことが無いぞ」

それに気付いた雨弦は慌てて早月に声をかける。
しかし、反応がない。
思わず腕をつかもうとしたとき、見計らったように早月が振り返り、不敵に微笑んだ。

ξ゚ー゚)ξ『余計なことしないでくれるかしら、読(ドク)』

早月の瞳は夕焼けのそれに色を変えていた。
触れる前に振り払われた腕を眺めた雨弦は表情を昏くすると、低い声で言った。

('A`)「お前、櫻子か」

ξ^ー^)ξ『さあどうでしょう』

('A`)「悪ふざけは止めろ」

ξ゚、゚)ξ『やだ、睨まないでよぅ。悪いようにはしないんだから』

朱色の瞳の早月は今のふらふらとおぼつかなかった足取りは嘘だったかのように、
しゃんと歩くと、書見台近くの書架から適当な本を取りだした。
表紙を慈しむように眺めると、大事に抱えて「櫻子」の前に腰を下ろす。
雨弦はしばらく険しい表情を浮かべていたが、ゆっくりとページをめくり始めた早月を見るとカウンターに引き返した。
彼も彼で、奥で泣いているだろう水無月をいつまでも放っておくわけにはいかなかったのだ。


静かな「街角」の中、本をめくる音だけが響く――。

28ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:41:41 ID:Pj39Jcig
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* * * * *


眩しい。

瞳を閉じていてもなお感ぜられる光の息づかいに、腰かけたままで早月は小さくため息をついた。
耳を澄ませれば、あちらこちらで星の弾ける音が聴こえる。
会話しているのだ。


「なあ、おい。アイツまだいるぞ」

「彗星が駆けるのを止めるなんて前代未聞だよね」

「なんでも、煌めき方を忘れちゃったみたいよ」


彼らの囁き声は美しく残酷で、早月の胸を締め付ける。
早月とて一所に留まりたいわけではないのだ。
また前のように夜空を一直線に駆け抜けたい。
早月はいつだってそう願い続けている。
しかし、いざ飛び立とうとすると、ただの石ころにでもなったかのように動けなくなってしまうのだ。

前はこんなではなかった。
もっと自由で、何よりも速くて、そう、前はもっと――。


――――前?


ξ゚⊿゚)ξ「何、これ」

http://livedoor.blogimg.jp/colored_pencil/imgs/4/c/4c14beb0.jpg

早月はぽかんと口を開けた。

そこらに星が浮かんではいるが、宇宙と呼ぶにはあまりにファンタジイな空間。
そもそも早月は自分自身の姿に驚いていた。
ゆるく巻いていたはずの栗色の髪は星屑でも浴びたかのように輝いていたし、着ているものだってドレスそのものだ。

29ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:44:47 ID:Pj39Jcig
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ついさっきまでは制服で、部活動や生徒会といったものに縁のない早月は今日もまた学校帰りに「街角」へ寄ったはずだった。

そう、「街角」だ。

早月はぼんやりと白くけぶる頭を整理していく。        ・・・・
ミセリちゃんと話して、雨弦さんが来て、書見台から布が落ちて、微笑んだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「――ッ」

そうだ、そうだった。
あのとき、布が落ちた書見台の中から出てきたのだ。
ヒトが。
ふわりと微笑んだ彼女と目が合って、そうよ、気が付いたらここにいて。

フッとあたりが暗くなる。

星の囁き声も、煌めく光の粒も消えて、静寂だけがその場に残る。
自分の姿も見えない暗闇だ。
早月は今にやってようやく空恐ろしい気持ちに襲われた。

ぎゅうと襟をつかむ。
大丈夫だ、見えないけれど自分はここに居る。

「ようこそお嬢さん!」

唐突に甲高い声が響いた。
同時にまるでサーカスのスポットライトのような光が乱雑に飛び回り、その様子は戸惑う自分自身を面白がるかのようで、早月は少し気を悪くする。

ξ゚⊿゚)ξ「何よ、あなた」

その分、頭が冷えた。
ストレスの方向性が恐怖からほんの少しだけずれたのだ。
早月は再び目の前に現れた彼女を睨み付ける。

30ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:45:42 ID:Pj39Jcig
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|゚ノ ^∀^)「いやだなぁ。そんな怖い顔しないでよぅ」

目の覚めるような金髪に夕焼け色の瞳。
洒落たスーツのような服装は聞いていた名前とは不釣り合いに感じる。

|゚ノ ^∀^)「それに私はあなた、じゃなくて」

ξ゚⊿゚)ξ「櫻子でしょう」

|゚ノ;^∀^)「えーわかってるんじゃーん!」

大げさなリアクションで驚いて見せると、櫻子はふわりと宙に浮いた。
もう何が何だかわからないが、早月は深く考えないようにして冷静を保つ。
キュウのトンデモ発言に付き合わされるよりはマシだ、と自分自身に言い聞かせながら。

ξ゚⊿゚)ξ「ここはどこなのよ」

|゚ノ ^∀^)「んぅ? 街角だよ」

当然のように答えた櫻子の言葉にうなずきかけて、早月は耳を疑った。
ここが、「街角」?

|゚ノ ^∀^)「んふふー不思議そうな顔してるねぇ。いいよいいよ、私そういう子だぁいすき」

ふわふわと宙を漂っていた櫻子が一直線に向かってきたと思うと、ぐい、と早月の顎を持ち上げて不敵に笑う。

ξ゚⊿゚)ξ「何?」

早月は背筋も凍るような冷たい視線を櫻子に返すだけで、特に反応もしない。
それがおもしろくなかったのか、それともただ面白かったのか、櫻子はにやにやと口元をゆるませた。

31ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:47:42 ID:Pj39Jcig
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|゚ノ ^∀^)「御ヶ津さん、だっけ」

ξ゚⊿゚)ξ「早月……いいえ、ツンでいいわ」

名前で呼ばれることよりもニックネイムで呼ばれることの方が多い早月は言い直す。
できるだけ普段の調子を取り戻したかったのだ。

|゚ノ ^∀^)「そぅお? じゃあツンちゃんで。あ、私のことはレモナって呼んでくれると嬉しいなぁ」

少しだけ不思議そうな顔をしたものの、特に突っ込まずに櫻子は続ける。
些細なことは気にしない主義なのだろうか。
そうではない早月は軽く眉根を寄せると櫻子に聞き返した。

ξ゚⊿゚)ξ「レモナ?」

|゚ノ ^∀^)「そよー。ほらこの髪、綺麗なレモン色でしょ」

一房摘まんでにっこりと笑う。
櫻子は笑みのバリエイションが豊富だと、そもそもの表情に乏しい早月はほんの少しだけ羨ましく思った。

|゚ノ ^∀^)「ええと、どこまで話したんだっけ」

ξ゚⊿゚)ξ「何にも話してないわ」

|゚ノ ^∀^)「やだ、怒んないでってば」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

早月は無言で櫻子を睨む。
楽しそうに宙をふわふわと漂う櫻子はまるで意に介していない。

|゚ノ ^∀^)「ここはねぇ、街角。嘘じゃないよ? ツンちゃんは今、絶賛読書タイムなんだから」

ξ゚⊿゚)ξ「それは私が本を読んでいるってこと? それも、今?」

32ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:48:48 ID:Pj39Jcig
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|゚ノ ^∀^)「そうそう! そこに私がおじゃましているってわけなのよぅ」

ξ゚⊿゚)ξ「帰れ」

|゚ノ;^∀^)「ええ!? ちょ、待って待ってまだ続きがあるんだから」

櫻子が、まるで椅子から滑り落ちたかのようにがくりと態勢を崩した。
あほらしくもあるが、どこかわざとらしいその動作に、少々機嫌の悪い早月は唾を吐きかけたくなるようなあざとさを感じる。

|゚ノ ^∀^)「どこから説明すればいいのかしらねー」

腕を組み、宙を見上げながら櫻子が言う。
その様子は悩んでいるというよりも、どこか面倒くささが先立っていた。

|゚ノ ^∀^)「ツンちゃんはさ、本を読んでいる時にその情景が浮かんでくる経験ってなあい?」

早月ははっとする。
経験も何も、早月にとってそれはただの癖。
当たり前のことだったのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「あるわ」

|゚ノ ^∀^)「なら話は早いわよぅ」

櫻子が嬉しそうに早月の頬をぺたぺたとさわる。
てっきり冷たいのを想像していた早月は、ほんのり暖かいのに内心驚いていた。

|゚ノ ^∀^)「私はその情景を、より鮮明にできるのよぅ」

ξ゚⊿゚)ξ「鮮明に……」

|゚ノ ^∀^)「うん。それこそ、その場にいるみたいにできちゃうの」

早月はつい先程の感覚を思い出す。
あれは読書というよりも、主人公本人になってしまったかのような――。

33ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:51:33 ID:Pj39Jcig
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|゚ノ ^∀^)「んふふーあの子のこと考えてるんでしょ」

ξ;゚⊿゚)ξ「なっ」

櫻子が早月を目隠しして、ぱっと開くと、辺りはまた星屑漂う夜空の世界になっていた。
唯一違うのは早月が制服姿であり、主人公というよりは物語に関与しない観測者に近しい存在としてそこにいるのだろう、ということくらいだ。

|゚ノ ^∀^)「ほら見て、あそこ。ユーリっていうのよ」

ふわふわとしていた櫻子が適当な星に腰かけながらそう言う。
早月もそれにならって近くの星に座った。
櫻子の視線の先には、チカチカと会話する星たちを眺めつつ、困ったように微笑む星の子がいた。
あれ、どうして私はあの子が星の子だと知っているのかしら。

|゚ノ ^∀^)「これはね、『流星の憂慮』という作品なの。著者は渡辺小春」

渡辺小春。
聞いたことがある、と早月は思った。
確か、オムニバス式の書き方をする男性作家。
可愛らしい名前だけでなく、普段から女性のような身なりらしいが、本人いわく趣味の範囲であり自分は男だ、とのこと。
そうだ、一時期世間で騒がれていたじゃないか。

34ブーン系の名無しさん:2014/03/27(木) 23:53:09 ID:Pj39Jcig
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|゚ノ ^∀^)「ざっくり言えば今見えているこの空間はねぇ、ツンちゃん、君が想像したものなんだよ。ユーリのお話を読んでねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「私が?」

|゚ノ ^∀^)「そうそう。ホントのホントに読書中で、私はそのきれっぱしを使って話しかけてるのよぅ」

足をぱたぱたと動かしながら櫻子が言う。
早月はその様子を横目に、あたりの景色をじっと見つめた。
どこまでも続く夜空、明滅する光、弾ける星の欠片。

これを、私が。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ」

早月はすっと、櫻子の瞳を覗き込む。

|゚ノ ^∀^)「なあに?」

ξ゚⊿゚)ξ「あなたは何者なの」

櫻子はにこにことした表情で早月の瞳を見つめ返す。
早月は臆することなく、じっと返事を待った。

|゚ノ ^∀^)「私はただの書見台だよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

|゚ノ;^∀^)「やだ、そんな怖い顔しないでったら」

35ブーン系の名無しさん:2014/03/28(金) 00:00:46 ID:I4YGxliI
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櫻子は、そうねぇ、と人指し指を口にあてる。

|゚ノ ^∀^)「それは次に来たときに教えてあげる」

櫻子が星からぽん、と降りるとまた辺りは闇に包まれた。
闇、というよりは黒だろうか。
何もないだけで、真っ暗というわけではないようだ。
互いの姿がはっきりと見えている。

ξ゚⊿゚)ξ「次って」

|゚ノ ^∀^)「だって、私、またツンちゃんに会いたいもの!」

櫻子は急に声を張り上げた。

|゚ノ ^∀^)「次、次だよ。今度はお友達も連れておいで。私のも紹介するからさ」

櫻子は目の前にいるのに、なぜだか声だけがどんどんと遠ざかっていく。
眠いわけでもないのにまぶたが重い。
どこかで鳥の鳴く声がする。

早月は、ゆっくりと目を閉じた。

36ブーン系の名無しさん:2014/03/28(金) 00:02:28 ID:I4YGxliI
今日はここまで

37ブーン系の名無しさん:2014/03/28(金) 00:04:07 ID:ETlVUim2
おつおつ
いい感じに不思議になってきた

38ブーン系の名無しさん:2014/03/28(金) 00:18:52 ID:???
おつんつん

39ブーン系の名無しさん:2014/03/28(金) 06:10:28 ID:???
おつおつ

40ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 00:15:10 ID:???
`
* * * * *


ξ゚⊿゚)ξ「……」

気が付くと、早月は「櫻子」の前に座っていた。
差し込む夕陽が目の前のそれを淡く照らしている。
窓の向こうでは西日とその中を羽ばたく影色の鳥が綺麗なコントラストを作っていた。

やはり、彫刻された桜の花が儚くも美しく、それこそ見惚れるほどに素晴らしいけれど、
目の前の「櫻子」はただの書見台にしか見えない。

どこかぼうっとした頭で視線を下げると、手の中に見覚えのない本が一冊あった。
紺の背景にぽつんと一つだけ、白く輝く星が尾を引いて流れている。
背表紙を見れば、きらきらと光を照り返す加工のされた文字が並んでいた。

『流星の憂慮』

ξ゚⊿゚)ξ「これ……」

知っている。
早月は直感する。
私、この本を読んだことがあるわ。

早月には、ふつふつと様々なイメージが瞳の向こうに透けて見えた。

主人公であるユーリは脚を怪我した流星だった。
流星の脚とはすなわち、夢を叶える力だ。
きらりと流れて願い事を受けとると、たちまち叶えて駆け抜けるのが彼女たち流星なのだった。

ところがある日、“叶えられない願い事”を受けとってしまったユーリは自分でも気付かない内に、すっかり自信を無くしてしまうのだ。
動かない脚とは“願い事を叶えられなくなった”のではなく、
“叶えられない願い事”を受け取ってしまっただけなのだが、いつからか、ユーリは自分が知らない内に怪我をしてしまったのだと思い違いを起こしてしまう。

そうして彼女は塞ぎこんでしまうのだ。

41ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 00:16:21 ID:???
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困り顔で微笑んでいたユーリの顔が浮かぶ。
そうだ。
あのとき私は、あのときのユーリは、決して穏やかでない心境で、星の子らの会話を聞いていたじゃないか。

あれは、夢ではない。
ぱらぱらとページをめくった早月は確信する。

と、ふいに夕陽が遮られた。
うっすらとした影が早月にかかって、ゆっくりと振り返る。

ξ゚⊿゚)ξ「櫻子……レモナはいったい、何者なんですか」

そうして影を落とした本人に問いかけた。
あー、と、どこか面倒くさげな声が低く響いて、早月は得体が知れないわりに、なんだかなぁと心の中で呟く。

('A`)「会ったのか」

案の定、背後に立っていたのは雨弦だった。
まるで影のような人だ。
存在感が無い代わりに、きっとこの人はどこに居ても違和感がないのだろう。
お世辞にも整っているとは言えない髪をかきあげつつ言う雨弦を見て、早月はぼんやりとそう思う。

ξ゚⊿゚)ξ「はい。綺麗な髪の、話していると腹の立つ人でした」

('∀`)「腹の立つ人か、そりゃいいや」

真顔で言ってのける早月に雨弦は吹き出した。
冗談半分、本音半分だった早月は苦笑を浮かべつつ立ち上がる。
そういえば今は何時なのだろう。
もしかしたらまた今日も、閉館時間を過ぎていたりいて。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、これってどこにしまえばいいですか」

『流星の憂慮』を目で示しながら聞く。
物語の記憶はあれど、この本をどこから取り出してどのように読んだのか、さっぱり覚えていなかったのだ。

42ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 00:20:17 ID:???
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雨弦は一瞥するとすぐにうなずいて、早月から本を受け取った。

('A`)「渡辺小春だな。そこの書架だよ、戻しておく」

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」

頭を下げると雨弦は少し変な顔をした。
早月は原因がわからず首をかしげる。
私、おかしなこと言ったかしら。

('A`)「御ヶ津さんはあれだな、なんつうか、良くできた子だわ」

雨弦が、はー、と情けなさげにため息をつく。
早月はきょとんとするばかりだ。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、それは」

('A`)「なんでもねぇよ。オッサンのざれ言だ、気にすんな」

ξ゚⊿゚)ξ「……いや、その容姿でオッサンはちょっと、むしろ私が傷付くというか」

雨弦は細い目を丸くして早月を見た。
早月からすれば高校生に見えなくもない雨弦が年を食ったかのような物言いをする方がよっぽど違和感があったのだが、どうなのだろうか。

('A`)「あーでも、まあ、そうか。俺ちっせえしなぁ」

雨弦はぼそぼそと一人言をこぼしたのち、不思議そうに見ている早月を見返してはっきりと言った。

('A`)「これでも25越えてんだぜ、俺」

ξ;゚⊿゚)ξ「えぇ!?」

43ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 00:21:40 ID:???
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がしがしと頭をかく雨弦は苦笑いを浮かべる。

('A`)「あー見栄はった。28歳だよ、あと二年で三十路ジイ」

ξ゚⊿゚)ξ「意外です。初めて見たときは2、3歳くらい上かなぁなんて思っていたので……」

(;'A`)「オイオイ、御ヶ津さんアンタ学生だろ……それしか変わらないってどういうことだよ」

早月は雨弦が焦り半分困り半分の表情を浮かべるのを見て、そういえば、と思い出す。
そうだ、帰り道。
次行ったときに聞いてみようと決めていたじゃないか。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、少し気になっていたんですけど、雨弦さんはどうして私の名前を……?」

雨弦は急な話題の転換にきょとんとして、けれどすぐに、ああ、とうなずいた。
早月は彼が苦笑いを浮かべているのに気付き、
自分のこういうところが学生然としているのだと、恥ずかしさから顔を赤らめる。

('A`)「アレだよ。ほら、カウンターにあっただろ」

ξ゚⊿゚)ξ「あっ……利用者名簿、ですか」

('A`)「そうそう。たまたま名前書いてんのを見ててな。何気なく覗いたら、変わった苗字だったもんで」

ξ゚⊿゚)ξ「そうだったんですか」

('A`)「ああ」

早月は案外他愛ない理由に笑い出したい衝動に駆られていた。
なあんだ、世界ってやっぱり、いいえきっと、私が思っているよりずっと単純なのかもしれないわ。
雨弦の奥ではためくカーテンが彩る、窓の向こう。
つい先程は心の底から綺麗だと思えた夕焼けが、妙に嘘っぽく見えた。

44ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 00:24:31 ID:???
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――あれ?

('A`)「どうした」

雨弦は早月の表情の変化にすぐ気が付いて、声をかける。
けれど早月はそれに反応もできず、けれど迷い無い足取りで窓際へ近づいた。
あれは、まさか。

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり」

早月は気が付いていた。
窓がしまっていると言うのに、ひとりでにはためいたカーテンに。

('A`)「それは……」

雨弦は早月の手の中にあるものを見て、驚いた顔をした。
それは絵本『トランクケースに運ばれて』であったことに他ならなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「どうして急に」

('A`)「こりゃあ、あれだな」

早月と雨弦の声が同時に響き、互いに顔を見合わせた。
何やら訳知り顔をした雨弦に早月は気が付く。
しかし、先に口を開いたのは雨弦だった。

('A`)「誰かがまた置きっぱなしにしたんだろう」

ξ゚⊿゚)ξ「まあ……そうでしょうけど」

然り気無く早月から絵本を取りつつ、雨弦はたたみ掛けるように言った。

45ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 00:28:15 ID:???
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('A`)「ちょっと伝えるタイミングを逃したが、もう閉館時間を過ぎてんだ。若い子はさっさと帰ってお休みっつーわけだ」

そう言われてしまうと早月も強く出られない。
思うところはあれど、ここは素直に帰るべきなのだろう。
別に、今日明日で「街角」が灰になってしまうわけではないのだから。

また次来たときに考えればいい。

ξ゚⊿゚)ξ「あら。それは申し訳ないです」

早月は至って静かに頭を下げると、入り口に足を向けた。
おう、と返事を返しつつ「櫻子」に布をかけなおす雨弦を後目に歩き出す。

何気なくカウンターに目がいった。
ぱっと見て、利用者名簿に御ヶ津の文字が見つからない。
次のページに入っているのだ。
案外「街角」は人気のある図書館なのかもしれない。

扉に手をかけるとかわいらしい鈴の音がした。
その小さな響きに水無月のことが頭をよぎったが、早月が振り返る間もなく扉が閉じる。

ξ゚⊿゚)ξ「仲直りしてればいいけれど」

ハイカットのつま先をとんとん、と叩きつつ空を眺める。
遠くのビルの隙間に膨らんだ雲が見えた。

46ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 00:29:32 ID:???
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黒い。
雨雲だ。

黒い雲はなんとなく不吉な予感がする。

幼い頃はそれが雨雲だと知らず、ただただ怯えていたのを思い出す。
今でこそどこかカッコよく大人っぽいイメージさえ覚えるが、あの頃、黒は悪者の色だった。

汚れていて、怖くて、なんだか不安で、胸騒ぎのする。

ξ゚⊿゚)ξ「……」

いつのまにか昔の感覚と、今の感覚とがごちゃごちゃになっているのに気付いた。
息を深く吸い込んで、静かに吐く。
確か、雨雲が黒いのは厚くて日の光を通さないのが原因だったはずだ。

黒。
灰になってしまう、妙な胸騒ぎ。

早月は淡路の話を連想しているのに気が付いた。
そう、どうやら放火魔が出たらしい――。

47ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 00:30:39 ID:???
三月中にもう少し投下したいなと思ったんですけど既に四月でした
短いですがここまで

48ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 01:17:03 ID:FSOnZEcs
おつ
定期的に投下きて嬉しい

49ブーン系の名無しさん:2014/04/01(火) 01:27:31 ID:???


50ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:22:53 ID://VELn62
* * * * *


雨上がりの匂いがした。

湿気った土と、雨粒を葉の上できらきらさせた植え込み。
コンクリートジャングル、とまではいかないけれど、この街もやはり現代人向けに作り替えられている都会だ。
その中でさえ緑の生き生きとした息づかいの感ぜられる瞬間があるというのは、
なかなかどうして幸せなことなのではないだろうか。

ξ゚⊿゚)ξ「なーんて、朝からジジくさいかしら」

( ФωФ)「伸びをしながら一人言とは余裕だな」

ξ;゚⊿゚)ξ「うわっ」

思わずのけ反った早月を見下ろすように眺めていたのは、大柄の青年――淡路だった。
馬鹿みたいに驚いてしまった恥態にむっとしつつも、早月は冷たい声で返す。

ξ゚⊿゚)ξ「朝からおっかないわね、少しは縮まりなさいよ」

( ФωФ)「何を無茶な。第一ツンの声の方がよっぽどおっかないだろう」

ξ゚⊿゚)ξ「何言ってんの、私の可憐な声に誰も彼もがメロメロでしょ」

冗談めかしつつもどこか殺気の混じった視線に、淡路はそっとため息をついた。
早月と淡路は家が近い。
住んでいる場所もそうなのだが、親戚同士なのだ。
それがたまたま同じ小学校に通い、同じ中学へ進学し、受験した高校も同じであっただけで特別仲が良いわけでもない。
何かと顔を会わせる機会こそ多かったが、むしろ話をするのは親戚同士としての社交辞令の方が多かったぐらいだ。

51ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:24:47 ID://VELn62
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こうして、他愛ないお喋りをするようになったのも、たまにではあるが並んで通学するようになったのも、一重に高梨の影響だった。
彼女は淡路の幼なじみなのだ。
小中は微妙な学区の違いで学校が違ったが、高校で一緒になったらしい。
そうして高梨が早月の友人になったことで、なし崩し的に淡路とも親しくなったのである。

だから。

o川*^ー^)o「あっ、ツンちゃんだー」

ξ-⊿゚)ξ「おはよ」

( ФωФ)「待ったか?」

o川*゚ー゚)o「全然!」

朝、淡路と顔を合わせるのは週に一回。
彼の部活に朝練がなく、高梨と待ち合わせて行く日だけ。
要するに、朝、淡路に会うということはすなわち、高梨と出会うということなのだ。


三人ならんで歩くと高梨の小柄さが目立つ。
ちょうど凹の字になるようだ。
いや、淡路がずば抜けて大きいため少し不格好にはなるが。

そこでふと、早月は櫻子の言葉を思い出した。


――次、次だよ。今度はお友達も連れておいで。私のも紹介するからさ


ξ゚⊿゚)ξ「友達、友達ねぇ……」

歩きながらそう呟くと、すぐに高梨が反応した。

52ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:27:34 ID://VELn62
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o川*゚ー゚)o「なになにっツンちゃん、お友だちがどうしたの?」

( ФωФ)「察せ。コイツは友人の少なさに悩んで」

ξ゚⊿゚)ξ「無いっての。蹴るわよ」

( ФωФ)「おっかないやつめ……」

o川*^ー^)o「ツンちゃんは面白いねぇ」

高梨の言葉に淡路と顔を見合わせ、苦笑する。
いつでも楽しそうな彼女のきらきらした瞳は、こちらの気分まで明るくしてくれる。

ξ-⊿゚)ξ「キュウには負けるけどね」

o川*;゚ー゚)o「ええっ! それってどういう意味よーツンちゃーん」

ばっとこちらを向いてぴょこぴょこ飛びはねる高梨は本当に反則だと思う。
もうちょっとだけ、からかおうかな。

53ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:28:30 ID://VELn62
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( ФωФ)「やめておけ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ」

淡路が早月の頭に大きな手を乗せた。
彼にとっては本当に軽い軽いたしなめのつもりなのだろうが、早月にとっては一大事である。

ξ゚⊿゚)ξ「折角整えた髪、崩れちゃうでしょ」

さっと膝を曲げ、手を振り払ってから軽く睨み付ける。

o川*゚ー゚)o「でしょ」

何故か高梨も淡路の方を振り向き、腰に手を当てた。
淡路は一瞬眉根を寄せたが、高梨のことを見ると軽くため息をついて微笑んだ。

( ФωФ)「敵わないな」

ξ゚⊿゚)ξ「尻に敷かれるのが目に見えるようね」

( +ω+)「……本当にお前は」

54ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:29:52 ID://VELn62
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早月がふん、と鼻をならすのと淡路が深く深く息をついたのはほとんど同時だった。
何気なく見上げた空に、アドバルーンが浮いている。
新装開店の文字がでかでかと書かれたそれは、なんだかひどく滑稽だなと早月は思った。

( ФωФ)「そういえば」

淡路がぼそりと呟く。

o川*゚ー゚)o「うん?」

高梨が反応すると、淡路は視線で早月を示した。
思わず首をかしげる。
私、何かしたかしら。

( ФωФ)「昨日、さっさと帰っていただろう。どうしたのかと思ってな」

ξ゚⊿゚)ξ「あー…」

o川*-,゚)o「わわ、気の無い返事……さては男か!」

ぴっと指を伸ばして言う高梨に、思わず肩が落ちる。

55ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:30:49 ID://VELn62
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ξ;-⊿-)ξ「あのねぇ。どうしてそうなるのよ」

( ФωФ)「そうだぞ。ツンに限ってそんな話……ない、うむ。ありえん」

ξ゚⊿゚)ξ「何断じてんのよ。そういう意味じゃないわ、すね抉るわよ」

( ФωФ)「えげつないな……」

o川*^ー^)o「ツンちゃんカッコいー!」

ξ;-⊿-)ξ「だからそうじゃなくて」

この二人と話しているとどんどん本題から離れていく。
いや、他愛ない話に本題も何もあったものではないが。

額に手を当てながら早月は嘆息した。

ξ゚⊿゚)ξ「昨日はね、ちょっと図書館に行ってたのよ」

o川*゚ー゚)o「図書館?」

( ФωФ)「駅のか」

56ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:33:01 ID://VELn62
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淡路の言葉に早月は首を振る。

ξ゚⊿゚)ξ「違う違う。このあいだ新しく出来たとこ」

( ФωФ)「聞いたこと無いな。私営か?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうなるわね。変わった名前の館長とかわいい女の子がいるわよ」

それと、おかしな書見台。
早月は口には出さずに付け足した。

o川*゚ー゚)o「新しい……私、知らなかった」

( ФωФ)「そうだな。俺もはじめて聞いたぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「立地もあるかしらね。微妙な場所にあるから」

ちょうど、こちらと隣町の境界線にあたる道路脇にあるのだ。
早月とてチラシや新聞で知ったわけではなく、たまたま道を歩いていて見つけたのだから。
そういえば全然、宣伝らしい宣伝をしていないな、と早月は思った。

57ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:34:09 ID://VELn62
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o川*゚ー゚)o「ふうん」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、キュウには退屈な話だったかしら」

o川*^ー^)o「うへへ。私、頭悪いからなぁ」

( ФωФ)「それは……うむ。フォローしづらいな」

o川*;゚ー゚)o「ええっ! そんなぁ、ロマの助け船期待してたのに」

ξ゚⊿゚)ξ「はいはい、残念でした」

o川*;-ー-)o「ぬぬぬー」

茶番を繰り広げる自分たちをどこか客観的な視点で眺めつつ、ほんの少しだけ口許が緩むのを感じた。
再び櫻子の顔が浮かぶ。

誘ってみようかしら、二人を。
「街角」に。

58ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:35:25 ID://VELn62
`

( ФωФ)「ふむ」

なんとなく、察された気がして言葉を飲み込む。
本当にこういうときの淡路は勘がいい。

ξ゚⊿゚)ξ「何、興味があるの?」

早月はそうして甘えてしまう自分があまり好きではなかった。

( ФωФ)「多少な。今度場所を教えてくれ」

ξ゚⊿゚)ξ「いいけど、どうせなら三人で行きましょうよ」

( ФωФ)「む、ツンにしては名案だ」

ξ゚⊿゚)ξ「オイ」

( ФωФ)「明後日なら俺は部活が無いが、二人はどうだ?」

早月はうなずく。
OKの意だ。
自然、二人の視線は高梨にいく。

59ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:37:14 ID://VELn62
`

そのとき早月は、あれっと思った。

o川*^ー^)o「私はパスかな。ちょっと用事」

ξ゚?゚)ξ「オトコかしら」

( ФωФ)「馬鹿言え」

少しふざけると淡路に軽く頭をはたかれた。
本気にしすぎだ、早月は口に出さず文句を言ったが、睨まれたので高梨に話しかける。
既に、先程感じた違和感は消えていた。

ξ゚?゚)ξ「にしても珍しいわね。キュウ、大会でも近いの?」

高梨はテニス部だ。
だが、テニス部は男子、女子、と日ごとにコートが使えるときが決まっているため比較的休みも多いのだ。

o川*゚ー゚)o「うーんと、そういう訳じゃなくてね。最近少し忙しいんだ」

ξ゚?゚)ξ「そうなの」

高梨はこくりとうなずき、にへら、とふにゃふにゃした笑みを浮かべた。

60ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:38:21 ID://VELn62
早月はやさしく微笑んでそれに応える。

ξ゚⊿゚)ξ「そうね。またどこかで、出掛けましょ」

ふふふ、と内緒話でもするように二人で笑い合う。
その様子を眺めていた淡路が頬をぽり、と軽く掻いた。

( ФωФ)「少し黙っているとこれだからな」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、妬いてるの?」

( ФωФ)「そんなわけなかろう」

o川*゚ー゚)o「なんだ、つまんないの」

そう言ってからころと笑う高梨を見て早月と淡路は顔を見合わせ、三人で吹き出す。
何気なく見上げた空には虹がかかっていた。
早月は、こんな時間がずっと続けば良いのにな、とぼんやり思ったのだった。

61ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 01:40:36 ID://VELn62
以上です。色々とすいません
お久しぶりでした

62ブーン系の名無しさん:2014/12/22(月) 23:10:22 ID:pPq2BkEs
久しいなあ、乙
ほのぼのする


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