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オリロワ2014 part3

7悪党を継ぐ者 ◆H3bky6/SCY:2018/01/14(日) 01:24:29 ID:/mu.QANY0
戦場を離れたユキたちが身を隠したのは小さな診療施設だった。
扉には鍵がかかっていたが、男が手をかざすと不思議と鍵が開き扉はすっと開かれた。
備え付けのスリッパに履き替えることもなく土足のままキィキィとなる薄い木の床を軋ませながら受付を通り過ぎる。
待合室を抜けて奥の診療室へと足を運ぶと、そこにはこの城の主が座っていたであろう丸い椅子と整頓され薬品やノート並べられた机があった。
そして部屋の片隅には、患者を寝かせる小さなベッドが置かれていた。
そのベッドの上へと抱えていた九十九をそっと寝かせる。

「鼻の骨が折れているようだ。道すがら応急処置はしておいたが、脳震盪も起こしているようだから無理はさせないようにね」

声をかけた方向からカタンという音が響いた。
フローリングの室内にローファーの足音を鳴らし、狭い診察室の入り口に立ち尽くす雪のような少女。
声をかけられても少女は俯いたまま。
暫くの沈黙の後、ようやくその口を開いた。

「どうして?――――お父さん」

付していた顔を上げる。
そこでようやく真正面から男の顔を見た。
厳つい顔に似合わぬ優しい目。
この目が悪党っぽくないからっていつもサングラスをしてたから、素顔は久しぶりに見た気がする。
その男は間違いなく森茂、その人だった。

「どうして、とは? 俺がここにいる事に対してかい? それともキミを助けたことかな?」

正直、そのどちらもだ。
移動している間に少しは頭も冷えるかと思ったが、考えが纏まらず混乱は増すばかりである。
拳正と闘っているはずの森がこちらにいるのは明らかにおかしいし、ユキを殺そうとした森がユキたちを助けるのもおかしい。
どう考えてもこの状況は、何もかもがおかしかった。

「そうだねぇ。まずはこの俺に関して答えようか」

混乱するユキを急かすでも突っぱねるでもなく。
絡み合った糸を紐解く様に、森はその疑問に一つ一つ答えてゆく。

「どうやら俺は増えたらしい。いや増えたと言うより分裂したの方があってるかな」
「分裂…………? …………あっ」
「どうやら心当たりがあるようだね」

俄かには信じがたい話だが、分裂と聞いてロバート・キャンベルに託されたナイフがそういう物だったことを思い返す。
そのナイフを九十九に預けたのは他ならぬユキだ。
九十九が森に切りかかったあの時、傷はつかずとも分裂体は生まれていた?

「俺がキミを助けた理由だが…………キミは俺の家族だ。家族を助けるのに、理由がいるかい?」

理由など必要ない。家族なのだから。
助け合うのは当たり前。
それは彼らの育った孤児院の理念である。
そうやって皆は育てられたのだ。

「けど…………ッ!」

だけどそれは違う。
つい先ほど否定された。
森は自らが優勝を目指すと公言しユキを殺そうとした。

「最初から、家族なんかじゃなかったッ…………それが真実だったのよ」

ロバートのノートに書かれた通りだ。
森にとってユキたち孤児院の子供達は道具だったのだ。
それが真実。

「それは違う」

だが違うとはっきりとした声が否定する。

「誓ってキミを、キミ達を愛している」
「…………嘘よ」
「嘘じゃない、本当さ」

その言葉に嘘はないと繰り返しのように告げる。
もう諦めたはずの心が波を打つ。
こうも心を揺さぶるのは森が稀代の詐欺師なのか、それとも本当に……?

「いいかいユキ。そもそもキミの知りたい真実とはなんだ?
 それは本当に君の求める真実なのか?」
「それは…………」

確かに、森がユキたちを利用しようとしていたとして、それでどうなるというのか。
森に悪意があれば全てが嘘になるのか。
新たな家族ができて、仲間出来て、親友と呼べる友達に囲まれ幸せだった。
それら全ても嘘なのか。

それは違う。
そうではない。


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