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オリロワ2014 part3
1
:
名無しさん
:2018/01/14(日) 01:05:46 ID:/mu.QANY0
ここは、パロロワテスト板にて、キャラメイクの後投票で決められたオリジナルキャラクターでのバトルロワイアル企画です。
キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。
まとめwiki
ttp://www59.atwiki.jp/orirowa2014/pages/
したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16903/
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1416153884/
参加者(主要な属性で区分)
0/5【中学生】
●初山実花子/●詩仁恵莉/●裏松双葉/●斎藤輝幸/●尾関裕司
2/10【高校生】
●三条谷錬次郎/●白雲彩華/●馴木沙奈/○新田拳正/○一二三九十九/●夏目若菜/●尾関夏実/●天高星/●麻生時音/●時田刻
0/2【元高校生】
●一ノ瀬空夜/●クロウ
0/3【社会人】
●遠山春奈/●四条薫/●ロバート・キャンベル
0/3【無職】
●佐藤道明/●長松洋平/●りんご飴
1/3【探偵】
●ピーリィ・ポール/○音ノ宮・亜理子/●京極竹人
0/3【博士関連】
●ミル/●亦紅/●ルピナス
1/3【田外家関連】
○田外勇二/●上杉愛/●吉村宮子
0/5【案山子関連】
●案山子/●鴉/●スケアクロウ/●榊将吾/●初瀬ちどり
0/2【殺し屋】
●アサシン/●クリス
0/6【殺し屋組織】
●ヴァイザー/●サイパス・キルラ/●バラッド/●ピーター・セヴェール/●アザレア/●イヴァン・デ・ベルナルディ
2/3【ジャパン・ガーディアン・オブ・イレブン】
○氷山リク/●剣正一/○火輪珠美
0/3【ラビットインフル】
●雪野白兎/●空谷葵/●佐野蓮
0/2【ブレイカーズ】
●剣神龍次郎/●大神官ミュートス
2/6【悪党商会】
○森茂/●半田主水/●近藤・ジョーイ・恵理子/●茜ヶ久保一/●鵜院千斗/○水芭ユキ
1/8【異世界】
●カウレス・ランファルト/●ミリア・ランファルト/○オデット/●ミロ・ゴドゴラスⅤ世/●ディウス/●暗黒騎士/●ガルバイン/●リヴェイラ
0/5【人外】
●船坂弘/●月白氷/●覆面男/●サイクロップスSP-N1/●ペットボトル
1/2【ジョーカー】
○主催者(ワールドオーダー)/●セスペェリア
【10/74】
142
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:19:44 ID:MaW0cf7s0
「じゃあ、答え合わせをしましょうか」
「ああ。好きなだけ解き明かすがいいさ、それが君の役割だ。
ここに至るまでの道のり君の貢献は計りしれない。人間の知識と理性。それを担うのが君だ。音ノ宮亜理子」
名を呼んで、この殺し合いにおける彼女の功績を評する。
探偵が謎を解きその道を示した。
彼らがこの場に辿りつけたのは彼女の知性があったからこそである。
そこに疑いの余地はない。
「それで? 何を解き明かすというんだい?」
探偵には解き明かすべき謎が必要だ。
犯人は初めから明白。
犯行手口は異能の極み。
そんな事件において探偵が解き明かすべき謎とは何なのか?
まずは解くべき謎を定義しなければお話にならない。
「――――――全てよ。お話を終わらせるには全ての謎を解かないとでしょう?」
力強く断言されたその答えに、男はへぇと感嘆したような声を漏らした。
更に吊り上った口端からは期待が高まった様な気配が感じられる。
男が望む答えを果たして、少女は持ち合わせているのか?
「この世界に存在する全ての謎を解いたと?」
「いいえ。この世界の謎全てを解くことなんて不可能だわ。だって、関わりようがないもの」
世界中に謎は数多に溢れ、名探偵に解けない謎など存在しない。
だが、いかなる名探偵であろうとも知らない謎は解けない。当然の摂理である。
関わらずとも謎を解く安楽椅子探偵というものは存在するが、それも謎を知ってこそである。
人生は短く、関われる事象には限りがある。
全ての謎を解くことなどできない。
「ならどういう事かな?」
「私が解いたのは、もっと根幹。たった一つ解くだけで全てが明らかになる大本よ」
一つ解いただけで全てが解き明かされる。
そんな都合のいい物モノが果たして存在するのだろうか?
「つまり、なんだい?」
「つまりは――――この世界の真実よ」
一瞬、支配者は目を細めたが、すぐさま取り直すように口元に手をやり喉を鳴らした。
張り付いたような笑顔を張りつかせたまま、くつくつと笑う。
「世界の真実か。また抽象的な話だねぇ」
まるで他人事のように肩をすくめた。
探偵はその態度に取り合わず推理を続ける。
「結論だけを言ってしまえば一言で済む話なんだけど。
この世界は――――――あなたに創られた物だった。違って?」
広間に満ちた空気が凍りついたように静寂が降りた。
須臾の間。睨み合うように互いの視線が交錯する。
その静寂に亀裂を走らせるように、男の口元が歪に吊り上っていった。
「――――――何故、そう思ったんだい?」
壇上の虚無が口を開く。
それはどこか無機物が喋っているような不気味さがあった。
どこまでも底の見えない混沌の渦から瞳をそらさず、探偵は冷徹な視線を崩さず口を開く。
「あなたが用意した企画書、中抜けではあったけれど、確認させてもらったわ」
特定の参加者の首輪に仕込まれたデータチップは様々な役割を持っていた。
それがあると言う事自体が一つのヒントであり。
それ自体がここに至るための鍵であり。
そしてとあるデータの格納場所でもあった。
亜理子がノートパソコンで確認したデータの中身。
その一つ一つに記されていたのは、これまでワールドオーダーが行ってきた様々な研究、実験、計画を記した『計画書』だった。
ワールドオーダーの目的についてのこれ以上ないヒントである。
「そう。ご感想は?」
「どこれもこれもパッとしない内容だったわ」
「手厳しいね。まぁ、さもありなんだか」
部下の上げてきた稟議書を却下する上司のようににべもなく扱き下ろす。
彼が今ここにいるという事実は、その計画全てが失敗してきたという証左である。
それについてはワールドオーダーにとっても忸怩たる思いがあるのだろう、ワールドオーダーは僅かに肩をすくめるのみであった。
彼の行ってきた計画。
世界を終わらせるための物語。
結末に至れなかった唾棄すべき計画たち。
だが、それれもそこから見えてくるものもある。
いくつもの計画。
それら全ては一つの目的にために立案された物であり、ワールドオーダーと言う男の生きた軌跡である。
143
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:20:23 ID:MaW0cf7s0
「あなたは世界をまるで我が物のように扱ってきた。
目的のために幾つもの世界を操り、人々を利用し貶め、使い捨てにしてきた。
それだけでは飽き足らず、新たに世界を創っては計画に組み込んだ」
この男の手によって、世界は何度も革命の日を迎えさせられてきた。
それは幾つもの世界を巻き込み、世界構造そのものを改変を起してきた。
その為に異世界は増産され、世界に異能者が生まれ、いくつもの悲劇が量産された。
今の世界がおかしいのは、この男の責任だと言っていい。
「けどそれは、順序が逆なのよ、あなたは世界を利用して計画を立てたんじゃない。
そもそも、この世界はその為に創られた。
あなたは計画に利用するために世界を産み出したのよ」
この世界に生まれたワールドオーダーがそこに在った世界を利用でいたのではなく。
利用するためにワールドオーダーがこの世界を創り上げた。
言うなれば、このバトルロワイアルのためにこの世界は、この世界に生きる人々は、生み出されたと言っていいのかもしれない。
一ノ瀬は参加者たちが作られた複製(コピー)などではないと言ったが、大元(オリジナル)からしてそもそも始まりを間違えていた。
「私の提示した計画を組み込んで具体的にバトルロワイアル計画を立案してそれに転用したのは最近の事でしょうけど。
元より世界はあなたが後付で計画に組み込むために用意した実験場と言った所かしら?」
様々な計画、実験、それら全てに利用するために彼は世界を産み出した。
元よりそのために生み出した存在ならば、使い潰したところで罪悪感など感じるはずもないだろう。
この男にとって人や世界は、その程度の存在でしかない。
「どう。この推理間違えているかしら?」
推論を重ね答えを持つ犯人に問う。
ここまでは証拠も何もないプロファイルだ。
閉じられた世界で証拠など見つけようがない、いやこんな荒唐無稽な話に証拠などあるはずもない。
いくらでも反論の余地はあるだろう。
だが、容疑者は言を返す代わりに笑みを浮かべた。
「――――――いいや。その通りだ」
反論することなく事実と認めた。
その瞬間、これまで以上に異様な空気が男から溢れだしたようである。
探偵は無意識にその空気に気圧されるように僅かにたじろいた。
「……随分と素直に認めるのね」
推理を披露して真実を解き明かすのが探偵の務め。
だが、ここまで犯人が素直に答えるという状況は少々居心地が悪い。
犯人は逃げも隠れもせず、むしろその存在を示すように両手を前に広げた。
これは証拠を使って追い詰めていくような犯人の告発ではない。
世界を終わらせるために世界の始まりを明らかにする作業である。
「ここまできて下らない言い逃れはしないさ。
物語を終わらせるための世界の開示なのだから」
ワールドオーダーの目的は世界を完結させること。
亜理子の目的はその計画の根幹が間違っていることを突き付けるため計画を成功させること。
それは探偵と黒幕の共通認識だ。
参加者の口から正しく真実が語れたのなら認めるだけである。
今更、そこを論ずる意味はない。
「そこまでたどり着けたのなら十分だ。次の段階の話へといこう」
仕切り直すように一つ手を鳴らす。
反響する音が周囲の空気を塗り替える。
「この世界を創ったのは確かにこの僕だ。
つまり、キミたちは僕ぶ利用されるためだけに生み出された存在という訳だ。
さぁ――――その真実を知って、君はどう向き合う?」
残酷な創造主は意地悪く、その生の意義を自らが生み出した人に問う。
この世界で生きる者たち全てが、たった一人の男に利用されるためだけに生まれてきた。
それはこの世界そのものを根幹から揺るがす真実である。
何の為に生まれて死ぬのか。
全ての意義はこの男に与えられたものでしかない。
その事実はこの男を嫌悪すればするほど重く圧し掛かるだろう。
だがその問いに、利用されるために産み出された人間は冷淡な表情のまま、眉一つ動かさず答えた。
「――――――別に、何も。
仮にあなたが世界を産み出した全ての父だったとしても、子が親の操り人形になるわけじゃない。子は子で勝手に自立して勝手にやるわ」
吐き捨てるように言う。
兵器であれ技術であれ、製造目的が運用の過程で別の存在意義を獲得するなんて珍しくもない話だ。
利用されるために生まれたのだとしても、ハイそうですかと利用されるほど人間は潔くない。
「第一、現代人は忙しいのよ。いちいちそんな事気にして生きていられないの。
私は今こうしてここにいるのだもの、自分のしたい様に生きるだけよ。
何時までも神様気取りでいられるのも鬱陶しいわ、ワールドオーダー」
我思うが故に我あり。
存在意義など自分で決める。
そんな事で今更絶望する人間などいるものか。
144
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:22:11 ID:MaW0cf7s0
その答えをどう捉えたのか。
創造主は無言のまま人間を見ていた。
隠れた表情からその感情は読み取れない。
「神様気取り、か。そう見えるかい?」
静かな声で問いかける。
同じような問いを投げられ激情を見せた、始まりの時とはまったく違う反応だった。
その違いは何なのか、そればかりは探偵をしても推し量れない。
「そうね。神を嫌悪している割に、貴方の所業はそれこそ神の御業そのものじゃなくて?」
語られた世界創造が真実であるのならば、その所業は正しく神の御業である。
それを成したという事実を認めながら、彼は自らが神であると言う事実は否定した。
それどころか神を嫌悪しているという矛盾がある。
「違うね。確かに僕は世界の創造主だ。
僕はそういう能力を持って生まれ、そういう事が出来た。まあ君たちから見れば神のような存在であるも認めよう。
だが、それは創造主と言う役割を与えられたキャラクターでしかないんだよ。神様とは違う」
彼が持つ異能。それは世界を創り上げる創造主としての異能だった。
今彼の使えるそれらは、全てそこから劣化し派生したモノに過ぎない。
「なら、あなたにその役割を与えた存在が、あなたの言う神という事かしら?」
「そうだねぇ…………それは正しくもあるが、正しくもない、かな」
曖昧に口を濁す。
誤魔化しているというより、彼にとってもうまく説明ができないのだろう。
神という言葉について明らかに認識に齟齬があった。
「物語の登場人物が作者の存在を認識できないのと同じように君たちにはその存在を理解できないし、理解する必要もない。
物語(せかい)の外の話だからね。これに関しては僕たちの目的には関係がないことだ、気にしなくていい」
優しく諭すようで、その実、突き放すような隔絶があった。
その齟齬は見えているようでどうにも埋められそうにない溝がある。
「関係がない、ね。そうね。それなら私にとっても興味のない話だわ」
探偵は深くは追及せず、あっさりと引き下がる。
ある意味互いの利害が一致しているからこそ、このこの二人のやり取りは成立している。
切り込んだところで無意味な点には、互いに意識的に触れてない。
本当に『意味がない』からだ。
「あなたの目的は世界を終わらせること、私の目的はあなたの計画を成功させたうえで失敗させること。
詰まる所、計画の成功は大前提、その結果がどうなるか。あなたと私の戦いってそういう勝負でしょう?」
明確に口したことは無かったが、共通認識であるはずの勝利条件を確認する。
だが、ルールを握るゲームマスターはその言葉に肯定を返さず、曖昧に肩を竦めた。
「さて、どうだろう。何にせよ君の思う通りの結果にはならないと思うけどねぇ」
「それは自分の目論見が成功するという自信かしら?」
「いやいや、そうじゃないさ」
少しだけ残念そうに声のトーンを落として首を振る。
彼にとっては幾度と繰り返された無理解。
今更落胆するような事でもないが。
「詰まる所、僕と君たちとでは定義が違うのさ。終わりについても、神様についても」
世界最高の探偵をもってしても理解しがたい断絶。
これは頭脳の違いではなく立っているステージの違いである。
結局、最後までワールドオーダーという個人が理解されることはないし、その必要もない。
「まぁ、いいさ。認識がどうあれ僕らは倒すか倒されるかの関係でしかない。
ここに至って仲良く和解だなんて、そんな興ざめな結末にはならないだろう?」
「当然ね」
壇上の男が凶悪に笑い、両手を高々と広げた
その様は世界を支配する神か魔王か、それ以上か。
「僕を倒せば全てが完結する。君たちの目の前にいるののはそういうご都合主義のラスボスさ」
そういう風に創り上げた。
そうなる様に築き上げた。
そうある為に積み上げた。
それが結実した今が、この世界だ。
「この世界(おはなし)を、終わらせるに相応しい相手だと思うだろう?」
「そうね。始まりはあなた、だから終わりもあなたに帰結する」
そう肯定して、亜理子は敵に背を向けた。
そうして背後の少年と少女に振り返る。
「探偵(わたし)の役割はここまでよ」
世界の形を解き明かし、世界の始まりと終わりを明確にする。
その役目は終わったとばかりに亜理子が一歩後方に下がった。
そして壁際に佇む後輩二人に視線を向ける。
「後は、あなたたちで終わらせなさい」
そう言って、次に終りを託した。
投げかけられた言葉に、九十九は息を呑む。
拳正は眠ったように静寂を保っており反応はない。
戸惑いの表情を見せながらも胸元でぐっと手を握り締めて、一二三九十九が前に踏み出た。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
145
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:23:08 ID:MaW0cf7s0
一帯を炎が包んでいた。
ゆらゆらと揺れる炎が二人の女を赤く照らす。
勝敗は決した。
天より全てを見下ろす女、地にひれ伏す少女。
どれ程能力を覚醒させようとも、身体能力を強化しようとも、埋める事の出来ない勝ちを描く戦闘経験の差である。
勝敗は戦いとは違う場所で決まっていた。
究極的に言えば、ボンバーガールの攻撃は当たっても外れてもよかったのだ。
周囲に炎をまき散らし、炎上させることができればそれでよかった。
その意図に気付けなかった時点でユキの負けだ。
花火の噴射により宙を飛んでいたボンバーガールが、崩れかけたダムの上へとゆっくりと着地した。
山頂の上に建つダム、この世界を見渡せる頂上である。
炎の渦の中で倒れ伏した敵の姿を一瞥し、頂点から世界を見渡す。
「……見ろよ、世界の終わりだぜ」
誰に向けてでもなく呟く。
揺らめく炎の先。
世界の頂から見る景色は全てが歪んで見えた。
それは陽炎による幻影などではない。実際に世界は歪み始めていた。
とっくに日は上ったはずなのに、空はどこか昏いまま、太陽よりも月が輝き、不気味な存在感を示していた。。
遠目に見える海は津波が荒れ狂い、大きく大地が揺れるたび島端から崩れて落ちて行く。
遂には遠くの空がひび割れて海に落ちるのが見えた。
もう整合性すら取れていない。
理由は分からないが、もうじきこの世界は崩れて終わって消えるのだろう。
終わる世界。
今この瞬間、この世界に立っているのはただ一人。
悪党も魔王も邪神も、あの龍次郎さえ死に果てた世界で、生きているのは珠美だけ。
生き残ったのだから、それは彼女が誰よりも強かったという証明である。
「亦紅も、りんご飴も、シルバースレイヤーも、あいつらは全員あたしよりも正しかった」
彼らは全員が正しき心を持った正義の味方たちだっただろう。
だが珠美は違う。正しさなんてない。
最初からそんなものは、どこにもなかった。
間違ったまま、間違い続けたままで、それでも勝ってきた。
勝って、勝って勝ち続けてきた。
「結局のところ、正しさなんざなくたって強ぇ奴は強ぇ」
それが結論。
正義も悪も一切の価値がいない。
最強はボンバーガールだ。
空を見上げる。
揺れる大地、崩れ始めた空。
その先には何もない。
その先がないのだから、ここが世界の終わりである。
戦って戦って戦った果てに辿りついた場所がここだ。
ここが頂点。
彼女の、到達点だ。
辿りつきたかったはずの彼女の終わり。
ここに辿りついて何を得たのか。
ここに辿りつくために何を失ったのか。
答えなど出ず、収支の釣り合いが取れているのかすら定かではない。
ただ、その心に到来したのは充足感などではなく、祭りの終わりのような何処か物悲しい侘しさだった。
「………………いや」
まだ見上げたその先には崩れた空にあっても変わらず浮かぶ月がある。
それは手の届かぬ星ではない。
どうやったのかは知らないが、月に昇っていった奴らがいたはずだ。
あるかもわからないその先を追い求めて、あの時見逃した奴らを追うか。
もしかしたら、そこには本物のワールドオーダーもいるかもしれない。
そこでひと暴れするのも悪くないだろう。
世界の終わりを前に、近づいてきた自らの終わりに思いを馳せる。
綺麗な終わりになど興味はないが、不完全燃焼はもっとゴメンだ。
だが、このままここで突っ立っていれば、崩壊に巻まれて世界と共に終われるだろう。
それは、どうしようもない自分にしては上等な終わり方だ。
ああ、それも悪くない。
そんな考えが脳裏をよぎったところで、
146
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:23:52 ID:MaW0cf7s0
「ッハァ―――――――ッ!!」
大きく息を吸う音が聞こえた。
昏倒していた少女が勢いよく顔を上げた。
そのまま立ち上がって酸素を求める様に肩を揺らして深呼吸を繰り返す。
だが、酸素のないこの状況でそんな事をすれば再び意識を失う筈である。
しかしそうは為らず、ユキは呼吸を整えていった。
「テメェ…………どうやって」
超人であろうと人間である以上、酸素なしでは活動できない。
上空に昇り無酸素領域から逃れたからこそ無事でいるだけで、それこそボンバーガールですら当てはまる絶対の法則である。
少なくとも、火中にいたユキには逃れようのない状況のはずである。
動けるとしたら、酸素がなくとも稼働できるサイボーグ、もしくは長時間の無呼吸運動を可能とする超人か。
だが違う。明確に深呼吸をしている以上、その可能性は否定される。
そうなると結論は一つ。
単純明快な答えだが、彼女の周囲には酸素がある。
そう結論付けるしかない。
だが、どうやって?
そこで気づく。
深い呼吸を漏らす白い少女の足元から立ち上がる薄い蒸気の様なものに。
その煙を発しているのは地面というより、地中。土の隙間に煌めく緑色の塊だった。
(ドライアイス…………? いや、違う。ならあれは…………)
ドライアイスは二酸化炭素が固体化したものである。
気体は固体化する。
それくらい小学生だって知っている。
ならば、酸素だってそうだろう。
事前に固形酸素を作りだして仕込んでおけば、酸欠を回避できるのではないか。
それはいい。
種が割れれば何のことは無い話だ。
明かされて見れば直球の対策であるともいえる。
ボンバーガールが慄いているのは別の理由だ。
ごくごく単純な一つの疑問。
酸素は一体――――何度で固形化する?
「…………ハァ――――ハァ」
僅かに残る炎の中心で、氷の少女は肩を上下にさせながら呼吸を続ける。
周囲の炎は時と共に徐々に鎮火していった。
この場で覚醒を果たしたゴールデン・ジョイの影響によって元より周囲の木々は少なくなっていたのも幸いした。
燃え尽きてしまえばもう同じ手は使えない。
敵はボンバーガール。花火を操る炎の魔人。
そんな相手と闘うと決めた時点で、この展開もあり得るだろうと予測はしていた。
故に、対策くらいは当然講じている。
酸素の凝固点は-218.79℃。
絶対零度に程違い、気体すら凍るマイナスの世界。
あらゆる生物の生存を許さない氷の地獄。
闘いの最中、それを出来る限り地中にストックしておいた。
それが出来るという確信があった。
そして実際にやってのけた。
よもや、その状況を意図して引き起こすような真似をするのは予想外だったが、その保険は見事に機能した。
一瞬意識を昏倒させたが、倒れた地面から酸素が溶け出すにつれて意識を回復させることに成功した。
「…………ハハッ!! 面白れぇ、面白れぇよお前ッ!!!」
立ち上がった敵の姿を認め珠美の喉の奥から、自然と笑いが込み上げる。
消えかけの線香花火のようだった情熱が牡丹の様に弾けた。
再演(アンコール)のように、再燃する。
終りの続きがやってきた。
知らず、火花が弾ける。
鼓動が高鳴り、精神が高揚する。
正真正銘、最後の戦いを前に、かつてないほど最高にハイだ。
「それじゃあ、最後の祭りとしゃれ込もうぜ――――!」
世界の頂点から自ら大地に飛び降りる。
祭りの会場に無邪気に駆けだす子供のように。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
147
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:24:41 ID:MaW0cf7s0
「僕が創り、僕が育て、僕が導いた。
にも拘らず、君らは時折、僕の想定を上回る事をやらかす。
それこそが君ら人間の可能性だ。ああ、そういう意味では君は実に面白いよ」
人間より一つ上の高みより、創造主が何の変哲もない少女を見据えた。
どこかその視線からは、愉しむ様な気配が感じられる。
「全員が生き残る可能性を想定していたとはいえ、君がここまでたどり着けたのは意外と言えば意外だった。
人から外れるでもなく、逸脱するでもなく、人のままここに辿りつく、そんな可能性を示した君には惜しみない称賛を贈ろう」
そう言ってパチパチと手を叩いた。
広い部屋に乾いた音が響く。
普通の人間が普通のまま、ここに辿りつくのは限りなく難しい。
あの地獄はそういう選別試練である。
それを成し遂げた事こそが偉業であると、特別でない少女が特別でない事に惜しみない称賛を贈った。
九十九は不可解そうに眉根を寄せつつも、壇上の男の顔を真正面から見つめ返す。
最初は混乱の最中だったから、まともに男の顔を見れていなかった。
だから、ここに来て始めてまともに男の顔を見た気がする。
どこにでもいるような、街中ですれ違っても気にも留めないような男である。
こんな事を仕出かしたなんてとても信じられないような平凡な。
だからこそ、彼女は一番聞きたかったことを聞いた。
「あなたは…………どうして、こんなことをしたの?」
その問い受け、ワールドオーダーは興味深げにふむと頷いた。
それは世界の構造を暴いた探偵の後にするには、余りにもつまらない、平凡な問いだった。
「どうして、か。面白い質問だ。今更それを問うのか、この僕に。
いいね、実に君らしいよ一二三九十九。三人の中で最も人間的で、感情を司るのが君だろう」
必要のない事をしようとしている。
それは探偵が明かさなかった、明かす必要がないと切り捨てた部分。
謎や真実ではない、動機に纏わる感情の話だ。
そうやって切り捨てられた物を彼女は見捨てない。
理解する必要のない男を理解しようとしていた。
情の深い女だ。誰にも顧みられない取りこぼしてきたものに未練がましくしがみついている。
「そうだねぇ……どうしてこんなことを、か」
亜理子とのやり取りでは一度も逡巡する事がなかった視線が、泳ぐように僅かに虚空を巡った。
何もかもが薄れ消える、気の遠くなる程の遥か彼方を思い返すように。
「……それは識ってしまったからだろうねぇ」
何処かに置き忘れたなにかを手探りで探し当てる様に男は静かに語り始めた。
「僕は創造主という立場から君たちとは違う視点を得ている。
だからそれに、気付くことができたんだろう。
僕がどういう存在であり、世界とは何なのか。そして世界の外にいる存在を識ってしまったんだ」
それは慚愧の念だろうか。
何も識らないままでいれば、子供のように無垢でいられた。
「識ってしまった以上、僕にはそれがどうしても我慢ならなかったんだ。
僕はそういう人間だからね。世界外だろうと内だろうと支配者がいると言うのならやることは一つ――――革命だ。
支配構造を引っくり返したい。世界を新たな形にしたい。終わりの先を見てみたい。
ああ……理由があるとしたらそれだけだ。本当にただ、それだけなんだ」
それは子供じみた我侭の様なものだ。
何をされたわけでもない。強固な決意を得るような劇的な出来事も、同情を誘うような悲劇もない。
ただ彼はそう在ったから、そうなった。
特別な事件などなく、当然のように、義務感でも使命感でもなく。
そうしたいから、そうしたのだ。
「それだけのためにここまでやった。
世界を創り、育て、操り、繋げ、壊し、捨て去り。
他者に寄生し、利用し、分裂し、己すら無くしながら悠久の時を生きてきた。
たったそれだけの理由のためにね――――下らないと思うかい?」
静かな問いかけに、少女は痛ましい表情で目を閉じて首を振る。
その言葉の意味を、自分なりにちゃんと理解した上で、自らの言葉を絞り出そうと必死に努めていた。
148
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:25:16 ID:MaW0cf7s0
「…………その理由が下らないとは言わない」
どんな理由であったとしても、夢にかける情熱なんてモノは誰も否定できない。
少なくとも彼女はそれを否定しない。
何かを目指す始まりがどんなものであっても、そこに間違いなんてないのだから。
「けど、あなたは他人を巻き込み過ぎた。私はそれが許せない」
彼は自分の目的のために他者を犠牲にし過ぎた。
どんな理由があったとしても、誰かを犠牲にする事など許されるはずがない。
犠牲になったのはこの殺し合いに巻き込まれた人たちだけではない。
これまでに、この殺し合いとは比べ物にならない数の人間を使い潰してきたのだろう。
悠久の時、数多の世界において。
「他に方法はなかったの?」
犠牲を出さない方法を模索する事は出来なかったのか。
誰も傷つけず、血を流さない、平和的な。そんな方法で、目的を達する事は出来なかったのか?
既に多くの血が流れた。
多くの死者、多くの悲劇が生まれてしまった。
今更問うたところで、何か答えを得たところで失われたモノが戻る訳ではない。
だが、それでも問う、彼女は一二三九十九なのだから。
「なかなかに難しい話だね。僕がしようとしているのは詰まる所、世界の革命だ。
革命には犠牲が付き物と言うだろう? どんな形であれ犠牲は避けられないだろうねぇ」
男の成し遂げようとしていることはそう簡単に実現できるものではない。
最初は平和的の方法を目指したとしても、いずれ誰かの犠牲は避けられなくなるだろう。
手を尽くすとはそういう事だ。
そして、世界は既にそういう段階に至っていた。
「それは本当に誰かを傷つけてまでやらなければならない事だったの?」
誰かを傷つけると分かった時点で、止まる事は出来なかったのか。
そんな余りにも善良な人間的な問い。
それは非人間に問うには余りにも場違いな問いであり、それ故に、この場で彼女が問うべき問いだった。
男は笑みではない表情を浮かべて、どこか遠くを見るように静かに目を細める。
前髪に隠れたその瞳が捉えているのは少女の姿か、はたまたその先にあるモノか。
やはり誰にも、男の心情は読み取れない。
「さて、もうとうの昔に止まるなどと言う発想すら忘れてしまったよ。
長い……本当に長い計画だったんだ。そのうち本当にそこまでして成さねばならない事だったのか、なんて事すら忘れてしまったよ」
それだけ長い計画だった。
その内に多くの物を忘れた。
その内で多くの物を取りこぼした。
とうに創造主としての力など枯れ果てた。
残っているのは万能の力の残り滓である。
とうにまともな喜怒哀楽など枯れ果てた。
故に、常に何があろうともその顔に張り付くのは笑顔だけ。
とうにまともな人間性など枯れ果てた。
元よりそんなモノがあったのかのかすら定かではない。
「だったら………………!」
「いいや、違う違う違う違う――――――――だからこそだよ」
少女の言葉を遮るように、壇上の男が指を振る。
何もかもを失っていたはずの男の表情が歪む。
稀薄だった存在はその一点のみに集約されていた。
「全てを無くしたところで、僕にはまだ目的がある。
僕に残ったのはそれだけだ。だから止まることもないし、後悔もない」
慚愧の念などあるはずがない。
全てが砂の様に希薄になった掌の中に目的だけが残った。
故に彼は目的を成し遂げる。
今の彼はそのための装置である。
そこに感情はなく、感傷はなく、後悔もなく、無念もない。
きっと成し遂げたところで何もないだろう。
それでもやる。
理由などなくとも目的があるのだから。
149
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:25:48 ID:MaW0cf7s0
「あなたは…………」
少女が男を見た。
絶対的な力を持つ創造主を、何の力も持たないただの少女が見つめる。
絶対に赦すべきではない相手。
多くの物を踏みにじり、何一つ顧みる事のない、存在自体が赦され難い邪悪その物。
共感はできず、同情の余地はない。全く持って救いようがない。
そんなことは、最初から分かりきった事だった。
絶対に許せないと思っていた。
彼女はずっと怒り続けていた。
この殺し合いが始まってからずっと。
この怒りは、殺し合いを始めたワールドオーダーに向けられたものだ。
そう、思ってきた、はずなのに。
だが、それでも。
少女の瞳に浮かぶ感情は憐憫と呼ばれるモノだった。
目の前の相手が憐れに映る。
何者にも侵されぬ不変の在り方は、それしかないという諦観に似ていた。
その縛られた生き方は酷く息苦しそうなのに、男は息苦しいとすら感じられないでいる。
それがこの小さな人間の真実だった。
「そう…………終わらせたいのね、あなたは」
「そう。終わらせたいのさ、僕は」
そこで互いの言葉が途切れる。
最初から最後まで致命的に噛み合うことはない。
これ以上尽くす言葉はなかった。
静寂を埋める様に大広間全外が僅かに揺れた。
「おや、崩壊の余波がここまで来たか、名残惜しいがそろそろエンディングも近いかな」
ワールドオーダーは天井から落ちる砂のような破片を手のひらで受け止め、その汚れを払った。
「終わりは目前にある。そこに至るための我が革命。
ようやくここまでたどり着いた。いい加減この世界を2014年から未来(さき)へ進めよう」
世界はここに始まり、ここに留まり、ここに終わる。
世界は革命され、終わりの続きに辿りつくだろう。
これは終わりを目指すための物語だ。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
150
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:27:30 ID:MaW0cf7s0
どこか遠くで何か崩れるような大きな音が響いた。
空には光と闇が入り混じった混沌がある。
崩れゆく地上、こちらの崩壊は月の比ではなかった。
大地は絶え間なく震え続け、もはや安息の地などこの世界に在りはしない。
ユキはその揺れに耐えられず、バランスを崩してその場に膝をついた。
その身が小刻みに震えているのは、地震によるものだけではない。
「くぅ………………っ!」
意識の断絶と共に、悪刀による身体強化(ドーピング)が切れたのだ。
分不相応の力を行使した代償を払う時が来た。
限界を超えた反動で、残ったのは激痛と鉛の様な疲労である。
割れそうな勢いで歯を食いしばり、頭を押さえる。
まるで脳をザクザクと無数の針で刺されたような痛み。
もはや立っている事すら苦痛でしかない状態で。
「――――――戦える」
それでもまだ、戦えると、そう口する。
膝を折り、片腕を地面に突きながらも、思わず激痛に閉じそうになった瞳を片方だけ見開いた。
それは誤魔化しや錯覚の様なものかもしれないけれど、言葉は決意となり、決意は体を動かす。
何より、まだ戦いの最中だ。
敵から視線を外す訳にはいかない。
眼光だけはこれまで以上に鋭く光らせ、目の前の相手を睨み付ける。
「ッぁぁぁあああああああああああ…………ッッ!!」
頭の血管が切れそうなほど叫ぶ。
充血する瞳を見開き、額の先に意識を凝縮する。
目の前に冷風が吹き、渦を巻いた冷気が徐々に矢尻の形を成してゆく。
体は指先一つ動かすだけで辛い状態だが、冷気を操る能力だけは辛うじて行使出来る。
どんな絶望的状況になったとしても、心だけは決して折らない。
悪党を継ぐと決意した時から、そう決めたから。
「ッけええぇぇぇ――――――!!」
弓のように振り絞った意識を放つ。
紅蓮の意識から氷の矢が放たれる。
「――――――そうだ、戦え。最期まで」
燃えるような女がその意気に応える。
自らを射抜かんとする氷結の矢を、女は躱すでもなくあっさりと掴み取った。
その手の内で、氷矢は握りつぶされへし折れる。
彼女を燃え上がらせるのは、その目だ。
ユキはこの状況を理解できないほど愚かな女ではない。
このどうしようもない状況を理解したうえで、それでもなお不屈の闘志を燃やしている。
どれ程打ちのめそうとも、どれほど追いつめられようとも、何度でも立ち上がり絶対に諦めない。
あるいは彼女がどこかで憧れていたヒーローの様に。
ボンバーガールは自らの精神を焼べて炎を燃やす。
テンションと共に彼女の体に流れる爆血は高熱を帯び、その体温も上昇してゆく。
「テメェにぁ最後まで付き合って貰うぜぇ!!」
ずらりとその前面に大量のロケット花火が一瞬で並ぶ。
号令一下。
ボンバーガールが腕を振るった途端、一斉に火がついた。
「つぅ…………ッ!?」
導火線を凍結させようとするが痛みで集中が途切れた。
間に合わない。
10分の1も止めることは叶わず、耳を劈く音と共に幾多もの流星が地上を流れた。
避ける、というよりコケるようにして地面を転がる。
初弾の直撃は避けられた、だが直後に地面に突き刺さった花火が弾けた。
すでに爆風に抗う力もない。
ユキの体は大きく吹き飛ばされ地面を転がる。
だがそれが幸いしたのか、次々と地面をえぐる流星群から幸運にも逃れることができた。
「どうした! どうしたァ!? スっ転んでるだけじゃ、勝てねぇぞコラァ……ッッ!!」
炎が舞った。
女の視界が赤く燃え上がる。
如何に相手が満身創痍であろうが関係ない。
追撃の手は緩めずに、全力で叩き潰す。
151
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:29:38 ID:MaW0cf7s0
「っ…………?」
だが、そこで小石大の氷粒がボンバーガールの頬を打った。
それは一瞬で水滴に還り蒸発して消えた、その程度の何の効果もない代物である。
恐らく天に氷を打ち上げ流星群を潜り抜けてボンバーガールを狙ったのだろう。
その奇襲は何の効果ももたらすことなく失敗に終わった。
「ハッ…………」
だが、問題はそこではない。
重要なのは、あの状態で反撃する気概があったということだ。
この状況で本当にまだ、勝つ気でいる。
「ハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
大地が崩れ空が堕ちる。
遠くで雷轟のような音が響いた。
炎に包まれた終わる世界で一人の女の哄笑が木霊する。
「最ッッ高じゃあねぇの…………ッッッ!!」
ここに至るまでの鬱屈した感情。
不完全燃焼に終わった溜まりに溜まった鬱憤。
全てがここで爆発する。
吐く息すら燃え上がるように熱い。
全身から流れる血液が蒸発を始め、赤い霧となって舞い上がった。
ポコポポと皮膚が沸き立つ。血管中の血液が文字通り沸騰している。
その影響か、皮膚は赤熱化したように赤く染まり、全身の血管を浮かび上がらせた様はさながら赤鬼のようであった。
ボンバーガール。
爆ぜて刹那と消えるが定めの夜の華。
刹那を燃やし尽くし今のみを生きる女は炎その物と化した。
膨張する宇宙のように爆発的な彼女の成長は、ここに最高潮を迎えていた。
「だったらぁあよぉおおお!!! くぉれはどーーーだぁぁアアハッハハハアッッッッ!!!」
熱の影響か、呂律のまわらない口で狂ったような勢いで叫ぶ。
焼いて焼いて焼き尽くす。
五月雨の如く次々と打ち放たれる花火の連射。
もはや種類すら問うておらず、ありとあらゆる花火を産み出しては導火線に点火して行く。
それは、この世の物とは思えない幻想的な光景だった。
砕け散った空、その欠損を埋める様に鮮やかに輝く光の華。
まるで世界の最期を彩る花火の博覧会だ。
「くっ…………あっ…………ッ!!」
だが、やられている側としてはその光景を美しいなどと呑気に言ってはいられない。
戦力差はアリとゾウなんてものじゃない。
ただ一方的に攻撃を防ぐこともできず、ただ爆風に身を晒していた。
何度も爆風に晒され、何度もゴミみたいに吹き飛ばされる。
正直、まだ生きているのが奇跡だ。
吹き飛ばされている本人ですら、何故まだ自分がまだ五体無事であるのか不思議なくらいである。
けどまあ生きてるんだから、抗わなくちゃ嘘だろう。
「こッ……………のォォォォォおおおおおお!!!」
転がり地を舐めるように滑りながら、意識だけを飛ばして反撃に転ずる。
形成するのも煩わしい。固めただけの氷を礫として飛ばす。
散弾銃の如く放たれた氷礫。
だが、それらは敵の下に届くことすらなく、空中で溶け落ちた。
「な……………っ」
その光景に言葉を失う。
ボンバーガールは何をしたわけでもない。
ただ彼女の周囲に漂う異常な熱気が氷を溶かしたのだ。
もはや、氷では触れることすら叶わないだろう。
銀景色は完全に立ち消え、周囲は一面の炎に染め上げられていた。
環境を変えられる強みも失われた。
炎の魔人に氷は通じず、反則技(ドーピング)も切れた。
それはつまり、ユキにはこの怪物を倒す手段が残っていないという事。
完全に打つ手がなくなった。
諦めないだけじゃどうしようもないことがある。
だからと言って諦めるのか。
否。否である。
ならば考えろ。
考えろ、考えろ。
できる事を考えろ。
悪党ならどうする。
父ならどうするのか。
彼なら、どうするのだろうか。
だが、敵は答えが出るのを待ってなどくれるはずもない。
花火の大嵐は絶えず降り続け。
放物線を描いた花火が背後でひときわ大きな爆発を起こした。
前方に吹き飛ばされる。
転がるユキの体が何かに当たって停止した。
152
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:31:05 ID:MaW0cf7s0
「よぅ」
サッカーボールのように腹部を思い切り蹴り飛ばされる。
細身の体が宙を舞い、胃液を口から巻き散らしながら地面を数度バウンドして転がった。
「オラオラァ!! どうしたぁ!? 立ぁてよッ! ここまで来て萎えさせんなよなぁ!?」
戦うんだろ? だったら立って戦え。戦い続けようぜ、世界の終りまで……ッ!!」
戦いづ続けたまま世界と共に終わる。
祭りの終りの侘しさなどない永遠の祭り。
それは彼女の望む、最高の終焉だ。
その願いは一人では達成できない。
だからこそ、目の前の相手にその役割を強請していた。
半端な終りなんてまっぴらごめんだ。
彼女のように、彼のように、途中下車するなんて許さない。
ユキにはここまで引き上げた責任を取ってもらわなくてはならない。
「く……ぅ…………ゲホッ! ゲホッ!」
ユキは立ち上がることもできず、端から胃液が垂れる青白い唇を震わせ、苦しそうに咳き込んだ。
震える手で身を持ち上げ、四つん這いのまま顔だけを向けて侮蔑を籠めた瞳で睨み付ける。
「――――――付き合ってらんないわ。あなたの感傷に私を巻き込まないで」
血の混じった唾と共に、乱暴に吐き捨て口元を拭った。
一瞬の空白を置いて、珠美の目が見開かれる。
その言葉が、彼女の触れてはならない所に触れてしまったのか、冷や水を浴びせかけられたように動きが止まった。
だが、それも一瞬。
その冷めた瞳に再び別の火が灯った。
それは憎悪だ。
憎悪の炎は爆発的な勢いで広がる。
「よく言った――――――なら、今死ね」
ボンバーガールが片腕を掲げる。
辺り一帯を容易く焼き尽くす程の、ひときわ大きな火薬玉が生み出されてゆく。
恐らくそれが爆発した時点でユキに助かる術など無いだろう。
今のユキにそれを止める術など無い。
立ち上がる事すらできない彼女にできる事と言えば力なく指を掻いて地面を握り絞める事だけだった。
「…………私は死なない。こんなところで死ぬもんか……!
私は悪党を継いで、舞歌たちを弔って、九十九や新田くんと生きるんだ!」
一握の砂を握りしめ、少女が吠える。
両親を殺され復讐に生きた。
だが、家族を得て、友と出会い、恋を知った。
過去に囚われていた少女は未来を叫んだ。
「――――違うね。テメェは、ここで…………死ぬんだよッ!」
師匠も、戦友も、弟子も全てが女を過ぎ去った。
全てを背負いながらも女は過去など見ず、未来など見ず、刹那的に生きてきた。
己を貫き通す事こそ、全てに報いる事だと信じながら。
現在を燃やし続ける怪物は終わりを叫ぶ。
そして、最期の瞬間が訪れる。
この刹那に彼女たちの人生(すべて)が交錯する。
崩れ続ける世界すら気にならない。
互いの視界に移るのは互いだけ。
怪物は高らかに笑いながら、掲げた腕を振り下ろし。
見上げる少女は腕を上げる事すらできず、歯を食いしばって敵を睨み付けた。
互いの存在意義が凍り燃え尽きる。
瞬間。
「な………………………………ぁ?」
ボンバーガールの全身から炎が噴き出した。
放たれるはずの火薬玉が空ぶるように地面に転がる。
珠美は呆然と自らの全身に燃え広がる炎を見下ろしていた。
パチパチと弾けるような音が体の中から響く。
炎は表面ではなく、彼女の内側から漏れ出していた。
視線を移し足元に跪く少女を見つめる。
その目が、これは意外な事など何もない結末だと物語っていた。
ユキの能力は冷気を操る事である。
冷気を操るという事は、冷気を与えるだけでなく冷気を奪う事も出来るという事だ。
ユキにボンバーガルを倒す手段はなかった。
そう正しく理解したユキは、ボンバーガールの自爆を誘発したのだ。
過熱を続ける敵を冷却するのではなく、冷気を奪って自滅を誘う。
珠美を焼いているのは、自らを焦がす業火だった。
153
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:33:53 ID:MaW0cf7s0
「はっ…………正義の味方の戦い方じゃあねぇな」
皮肉を込めてそう呟き、力なく倒れた。
「当然よ――――――――悪党だもの私」
それもそのはず。
彼女は正義の味方などではなく、悪党である。
この戦いは初めから彼女のどこかで望んでいた正義と悪の戦いなどではなかった。
圧倒的だったボンバーガールに敗因があったとするならばそこに尽きる。
狂ったような風が吹き付けた。
世界が崩れてゆく。
地面の揺れはもはや止まる気配すらない。
恐らくこのまま終わるまで続くのだろう。
既に視界に入る範囲の大地が崩壊を始めていた。
もはや孤島は半分以上が消滅し、中央部を残すのみだ。
崩壊は加速度的に続いており、ここに至るのも時間の問題である。
珠美は黒く炭化した自らの手足のように崩れ落ち始めた空を眺めながら。
最後の敵に問いを投げる。
「…………なぁ、この戦いに意味はあったと思うか?」
「………………………」
それは、この戦いのみを指示したものではないだろう。
この地で何かを得て何かを喪った者。
この地で何かを喪って何かを得た者。
二人は似た者同士で対極だった。
だからこそ、この相手に問いたかった。
全ては一人の男の都合によって行われたバカげた祭りだ。
巻き込まれた者たちは、その都合に踊らされていたに過ぎない。
失うものはあれど、勝ち残ったところで与えられるものなどなく。
この戦いの果てにある意味は。
「なかった、とは思いたくはないわね…………」
意味があったのかは分からない。
それでも、戦ったのは彼女たちだ。
意味があったかどうかを決めるのは、これからの彼女たち次第なのかもしれない。
「………………………………だよな」
線香花火が夏の終わりを告げるように、静かに炎が燃え尽きる。
ユキはそれを見届けることなく、ダムの中央に向かって駆けだした。
だが、ふらつく足元ではこの揺れの中をまともに進むどころか立っている事すら難しい。
倒れそうになりながらも、なんとかダム壁まで辿りつき、崩れた壁を根性で乗り越えた。
ここまでくれば後は一直線だが、中央の穴まではそれなりに距離がある。
先ほどの赤子が這うような速度では確実に崩壊までに間に合わないだろう。
「だったら…………ッ」
四足のまま、薄い氷を地面に張った。
今の状態で張れる氷はこれが限界だがそれで十分だ。
今できる全力を籠めて乗り越えたばかりの壁を強かに蹴った。
発射される。
氷上を滑りながら、常に前方の地面に最低限の氷を展開させ、ボブスレーのように細かズレは体重移動で制御する。
これならば走るよりも早い。
崩壊に追いつかれることなく、穴の開いた中央へと辿りつけた。
だが、緊急だったという事もあり、どう止まるかなど考えていなかった。
急造の弾丸ソリに上手く減速する方法などない。
強引に氷の道を作る手を止める。
道が途切れ強制的に急ブレーキがかかり滑走が止まった。
だが、勢いまでは殺しきれず、つんのめるように転がった。
「ぉ、ぉ、ぉ、ぉぉお!!?
地面を転がり、ポカンと開いた底の見えない穴の寸前で停止する。
あと少しで底の見えない暗闇に真っ逆さまだった。
あれほどの激戦を潜り抜けて、そんな間抜けな死に方をしたら笑うに笑えない。
154
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:34:14 ID:MaW0cf7s0
「…………セーフ」
着地で泥まみれになったが、そんなものは今更だ。
すぐさま顔を上げて、穴の周囲を確認すると一部の土がこれ見よがしに剥げている箇所を発見した。
そこには五つの空きスロットと、すでに埋まった三つのスリットが在る。
恐らく亜理子がやったのだろう。
何をすべきか、分かり易く誘導されているようである。
普段は苦手な相手だが、こういう所は本当にありがたい。
九十九から渡されたデータチップを荷物から取り出す。
森茂の首輪の中にあったと言うそれは地獄から抜け出すチケットだった。
すぐ近くで地面が崩壊したような轟音が響いた。
ダム壁に囲まれているここからでは外の様子は確認できないが、時間がないのは確実だ。
スリットにカードを差し込もうとする。
だが、それだけの単純作業が、地面が揺れる中で感覚のなくなった指先で行うにはなかなかに難しかった。
なにより急がなければならないという焦りが苦戦を誘発する。
(焦るな…………焦るな……………ッ)
必死に頭を冷まして心を落ち着ける。
焦らず、慎重に。
指先の震えを抑えてスリットへカードチップを合わせる。
努めて周囲の崩壊を気にせず、ゆっくりと、指を押し込む。
カチと、音を立てカードが刺さった。
これでいい、はずだ。
後は亜理子たちがそうしたように、箱舟が現れるのを待つしかない。
後方では土砂崩れのような音がした。
数秒が待ちきれないほどに長く感じられる。
程なくして、穴の底から四角い箱が現れた。
同時に周囲を取り囲むダム壁が壊れたような音。
世界崩壊がすぐそこまで迫っていた。
ゆっくりと開いた扉に向かって飛び込むようにして乗り込む。
勢い余って壁にぶつかった。
早くボタンを押さなくてはと、ぶつけた鼻も気にせず振り返った所で、ユキの入室を検知したのか、自動で扉が閉まり始めた。
閉まる扉の隙間から見えた、崩れ落ちる世界最後の光景が。
ガタン。
断ち切るような音と共に世界との繋がりが閉じられる。
同時に浮かび名がるような感覚があった。
地獄にたらされた蜘蛛の糸を登る箱舟が上昇を始めた。
ここに生きた全ての死を引き連れ崩壊する世界を置き去りにするように。
【火輪珠美 死亡】
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
155
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:36:31 ID:MaW0cf7s0
地上で最後の決着があった頃、月の戦いも最終局面に入ろうとしていた。
ここに辿りついた者たちは、あるいは意図的に、あるいは意図することなく、それぞれの役割を果たした。
世界は暴かれ、ワールドオーダーという男も暴かれた。
後は最後の一人。
「――――――話は終わったか」
こんな状況とは思えぬほどに落ち着いた、静謐さすら感じさせる声だった。
眠っていたように沈黙を続けていた少年が、片方になった瞳をゆっくりと開く。
「とりあえず、アンタらの用件が済むまで案山子になってた。先輩からそう言われてたからな」
ユキと九十九の帰りを待ち二人きりになった折に、亜理子からそう言い聞かされていた。
彼はそれに従い大人しく、一人で集中を高めていた。
その態度に気分を害するでもなく、ワールドオーダーは陽炎のように薄く微笑む。
「さて、新田拳正。君は何を担うのか――――」
「――――知らねぇよ。テメェと問答をするつもりはねぇ。俺は、お前の正体にも事情にも一切興味がねぇ」
事実、拳正は少女たちとワールドオーダーとのやりとりなど、そもそも聞いてすらいなかった。
ワールドオーダーの問いなど無視して、布ずれの音を立て包帯変わりに巻き付けていた布きれを解いてゆく。
裂傷、骨折、失明。これまでの険しい道程を想起させる傷跡が露わになる。
拳正は少しだけ身軽になった体を確かめる様に手首一つ振って、大きく息を吐いた。
「俺はただ――――お前をぶん殴りたいだけなんだよ」
少年の行動原理はただそれだけ。
半弓半馬に足を開き、放たれる弓の如く拳を引く。
駆け引きも言葉の裏もない。宣言通りの正面突破の姿勢である。
これ以上ないほど前掛かりに落とされた重心は、今からお前を殴りに行くというこれ以上ない意思表示だ。
その余りにも実直な在り方に少しだけ驚いたように目を見開き、眩しい物を見たように目を細める。
「この世界、最後の結論がそれか」
問答を否定する少年に、世界を支配し続けた男は感情のない声で呟く。
有史以前。宇宙開闢以前より続く、気の遠くなるほど長い長い妄念の果て。
辿りついた最果ての答え。
待ち望んだその答えを前に男は。
「うん。シンプルでいいね」
これまでの張り付いたような笑みとは違う憑き物が落ちた穏やかな笑みで応じる。
手練手管を操り暗躍を繰り返した複雑怪奇な男には決して辿りつけない結論。
対極の答え。
だからこそ――――。
「では、僕もその流儀に倣って応えよう」
手を振りあげた男の動きに合わせて、周辺の調度品が意思を持ったように浮かび上がった。
拳正は視線だけで全体を一瞥する。
一瞬で取り囲まれた。いや、最初から取り囲まれていた。
伏兵は無機物故に気配すらなく、その出現を察するのは不可能に近い。
ワールドオーダーの持つもう一つの能力『自己肯定・進化する世界(チェンジ・ザ・ワールド)』 によって事前に仕込まれた無機物への設定付与。
事前に仕込んでおいたそれらを、一斉に起動させる。
あの一ノ瀬空夜ですら殺しきった戦術である。
手心など加えない、勝利を譲るつもりなど微塵もなく、全力を以て叩き潰すつもりだ。
「なぁ先輩。あんた防御は得意か?」
唐突に、振り返ることなく少年が背後の少女に声をかけた。
「得意って程じゃないけど……シールドくらいは張れるわ。どうするの?」
手に持ったファンシーな魔法のステッキを振って応じる。
少年はその様子を振り向くことなく、そうかと答えて。
「なら九十九を頼む。流れ弾が来るかもしれねぇから、隅で守りを固めといてくれ」
「……構わないけど、多分長くはもたないわよ?」
「問題ねぇよ。長引きゃしねぇ、一撃で終わる」
一撃必殺。
堂々と宣言されたその言葉に、仇敵が嗤った。
楽しみを前にした子供ような笑みだった。
「一撃でいいのかい?」
「ああ、一撃で――――――ぶっ殺す」
幼馴染の冷徹な声に、唾を呑んだのは九十九だった。
普段の気質の荒さから意外かもしれないが、拳正は『殺す』と言う言葉を脅し文句として口にしたことがない。
両親の死を体験した拳正は無意識化における忌諱からか死を軽い物として扱わない。
拳正にとって死は『結果』に過ぎず、それ自体を『目的』とすることは決してなかった。
それを知っていたから九十九も努めて冗談ですら口にしまいと誓っていた。
そんな拳正が今、必殺を口にした。
本人すら無自覚であろうその重みを、少女だけが理解していた。
156
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:36:57 ID:MaW0cf7s0
乾いた空気に見守る誰もが息を呑んだ。
緊張感が高まり、それに応じる様に地面が微振動を繰り返す。
部屋の外が崩れたような音がした。
そんな中で、対峙する二人だけが平静を保っていた。
少年は射抜くような目で敵を見据え、肺が空っぽになるほど深く息を吐く。
意識は深く沈み、肉体は闘争に向けて最適化される。
拳を固め一撃に全てを懸ける。
対する男は全くの自然体。
構えるでもなく、常と変らぬ笑みのまま敵を迎え入れるよう両手を広げる。
その周囲を絵画や石膏像が様子を窺うように揺れながら浮かんでいた。
「――――――――では、決戦といこう。この世界最後の戦いだ」
全ての生、全ての死、全ての命。
この地、この世界、この物語は、全てここに至るためにあった。
一際、大きな揺れがあった。
それを合図にしたように、最終決戦の火蓋が切られる。
烈風が吹きぬけた。
一足目は軽く、地面の揺れなど意に介さず、朝の一歩を踏み出すような自然さで音もなく。
二足目は早く、高らかな踏み込みの音は、地鳴りを引き裂き、部屋全体に響き渡った。
その身は一陣の風となる。
達人を身に宿したことで最適化された肉体は一切の無駄なく体を運ぶ。
シールドを張りながら遠ざかっていく背を見て、まるで水中を泳ぐ魚のようだと亜理子はそう思った。
止まれば死ぬかのような勢いで少年は駆ける。
飛び出した拳正に向かってワールドオーダーが指揮者のように腕を振り下ろす。
それに従って周囲の調度品たちが一斉に襲い掛かった。
四方から襲いくる刺客たちを前にしても拳正の動きは変わらず、ただ前へ。
背後からは火の付いた燭台が槍の如く飛来する。
だが弾丸のように突き進む拳正は早く、燭台は追いつくこともできずその背後に置き去りにされる。
横合いからは拳正の動きを追って、丸ノコのように回転する複数の絵画が弧を描く。
首を狩らんと襲い掛かるそれを、止まることなく最低限の動きで避ける。
目の前を過ぎる風切音を瞬き一つせず見送った。
正面に飛び込んで来たのは、頭から飛び込んでくる石膏像だった。
最短距離を直走る拳正の真正面の軌道。
このまま進めば正面衝突するだろう。
だが、拳正は軌道を変えない。
勢いを緩めず、ミサイルのように向かいくる石膏像を左腕で打ち払う。
石膏像が砕け、破片となって巻き散った。
その代償に左拳も砕けた。
赤い血液が舞い、開放骨折したのか白い骨が露出する。
それでもその足は止まらない。
引き絞った右拳だけは握り締めたまま。
些事には構わず視線は一点、倒すべき敵だけを見据えていた。
何者も少年を止める事が出来ず、彼我の距離は残り一歩半にまで迫った。
だが、壇上を目前としたところで、その歩みが初めて僅かに鈍った。
その頭上に影がかかる。
天井から落下するシャンデリアだ。
そのまま進めば潰されるだろう。
流石にこれには堪らず、足を緩め衝突のタイミングを回避する。
「ぐっ……………!!」
だが、足が鈍った瞬間、後から追いついた燭台が強かに背を打った。
同時に、円を描いて戻ってきた絵画が左右から襲い掛かる。
それらを蹴りで打ち払い直撃は防いだものの、足は止まった。
そこに巨大な影がかかった。
見れば、左右の巨大な大理石の柱が音を立てへし折れ、拳正に向かって倒れこんでいた。
炸裂するような衝突音。
石柱がぶつかり合い、その中心にいた少年が砕け散った巨大な破片に飲み込まれる。
大理石の欠片が散らばり、シャンデリアのガラス片が舞う。
全てが圧殺される絶望的光景。
その凄惨な光景に探偵は顔をしかめた。
そして、息を呑んで見守っていた少女は身を乗り出して叫んだ。
「ッ――――――――――拳正ぇ!!!」
それは目の前で起きた絶望を嘆く叫びではない。
いつだってそうだ。
少女が少年の名を呼ぶときは、その尻を叩いて叱咤するときである。
157
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:38:24 ID:MaW0cf7s0
折り重なった瓦礫とガラスの山。
破片が積み重なったそこに偶然生まれた僅かな隙間があった。
その隙間から、地面を舐めるようなすれすれの体勢で少年が姿を表す。
潜り抜ける。
それは八極拳の動きではなく、どこか曲芸じみた、どこぞの殺し屋を彷彿とさせる動きだった。
現れた少年の額からは、縫い合わさせた裂傷が開いたのか夥しい量の血が流れていた。
飛び散ったシャンデリアのガラス片がチクチクと全身に刺さっている。
倒れこんだ柱がぶつかった左肩も完全に骨が砕けており、潰された足の甲の骨折も悪化していた。
だが、それがどうした。
右腕だけは死守した。
敵は眼前。
止まる理由などどこにもない。
勢いよく頭を振って上体を無理矢理振り起こした。
そうして最後の一踏みを踏み出す。
だが、その踏み込みの刹那。
「――――――『攻撃』すれば『死ぬ』」
――――世界が変わる。
世界を思い通りに塗り替える創造主の力。
訪れるのは他者を攻撃するモノが死する、争いを許さない安寧と平穏と死の世界。
たった一言で、少年のここまでの歩みを水泡に帰す無慈悲な革命だった。
「――――――――――――そうかよ」
少年は一言。
興味なさ気に吐き捨てて、なんの迷いもなくそのまま最後の一歩を踏み込んだ。
世界の都合など知った事か、そんなモノで彼の都合は変えられない。
世界が変わろうが新田拳正を貫き通す。
それが新田拳正の在り方だ。
地面に足跡を刻み付ける程の震脚がワールドオーダーの待つ壇上へと刻まれた。
踏み込んだ地面の反発のみならず、己が内で燃え続けた炎を爆発させこの拳に込める。
その拳には全てが乗っていた。
彼が駆け抜けた30メートルの重みも。
彼が駆け抜けたバトルロワイヤルの重みも。
彼が駆け抜けた17年の重みも。
己が全てをこの一瞬のための燃料としてくべる。
放たれたのは何の衒いもない崩拳だった。
その拳は吸込まれるように真正面から胸部を打ち抜いた。
瞬間。衝撃が体内で爆発する。
東、西、南、北、乾、坤、艮、巽。世界を示す八方、その極限にまで至る大爆発。
――――即ち八極。
それは正しく世界を破壊せしめん一撃。
創造主の胸骨は砕かれ、心の臓は一撃の下に破裂した。
倒れこむ支配者は競り上がる血に喉を詰まらせながら、声にならない呻くような声で。
「…………これで………………THE ENDだ」
吐き出す塊のような血液と共に満足そうに物語の終わりを告げて、世界の敵は絶命した。
全てを終わらせたのは、歪な創造主が自らを殺すべく授けた異能などではではなく、武と言う人間が地道に積み上げた研鑽。
誰の手にだってある、握り固めただけの拳だった。
そして世界を終わらせた少年もまた、拳を突きだしたままの体勢でぐらりと前へ倒れこむ。
己が我がままを貫き通した代償を支払うように、少年もまた世界の法則に従って絶命した。
これが、この物語の終わり。
158
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:39:47 ID:MaW0cf7s0
ワールドオーダーと言う世界が崩壊する。
同時に、これまで以上に大きな揺れが大広間を襲った。
「ッと…………まずいわね、ご丁寧にもここも崩れ始めたわ」
倒れないようバランスを取りながら亜理子が崩れ始めた天井を見上げた。
悪の首領と共に敵の本処置が崩れ去るというのは定番ではある。
そんな仕掛けがあった訳ではないのだろうが、出来過ぎなタイミングだ。
柱が崩れたのも相まって、長くは持ちそうにない。
だが、出口までの障害はもう存在しない。
後は駆け抜けるのみである。
「急ぐわよ」
亜理子が急かすように九十九を促す。
だが、物言わぬ拳正に駆け寄った九十九は涙を湛えたまま首を振った。
「ダメです! ユッキーがまだ…………ッ!
それに拳正だってこのままには…………!」
「わかってるわ。だから急ぐのよ」
「え…………?」
九十九の言葉を遮って亜理子がこれからについて取り急ぎ指示を出してゆく。
戸惑いながらも九十九はその指示に頷き、涙をぬぐってすぐさま行動に移した。
戦いはこれで終わったのだ。
それなら、後はやるべきことなど決まっている。
最高の結末を目指すのみだ。
【新田拳正 死亡】
【ワールドオーダー 死亡】
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
159
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:43:42 ID:MaW0cf7s0
ユキを乗せたエレベーターが月へと到着する。
その到着音は地鳴りの音に紛れまともに聞こえることはなかった。
ユキが揺れる暗闇の大地に向かって、躊躇うことなく飛び出して行く。
こちらも崩壊が始まっているのか、地上程ではないにせよ揺れは無視できない領域に達しようとしている。
ここまでエレベーターが正常に動作したのが奇跡だと言っていいほどだ。
既に躊躇っていられる状況ではない。
エレベーター内で人様にはお見せできないくらいに全力で身を投げ出して息を整えた。
それでも歩くのが精一杯という程度だが、そのくらいには回復できた。
急ぎ九十九たちと合流を計りここから脱出せねばならないのだが。
「と言っても…………」
どこに向かえばいいのか。
目の前の通路はT字に別れており一本道ではない。
この状況で道を間違えれば、引き返す間もなく崩壊に巻き込まれてお陀仏だ。
ユキは知る由もないが、その通路の様子は亜理子たちが通過した時とは様変わりしていた。
世界崩壊の余波か、それとも管理者の消滅の影響か、誘導が機能していない。
ゴゴゴという重低音が腹の底を震わす。
乖離した天井がハラハラと雨の様に落ちてきていた。
今のユキでは立っているのが困難なほどの揺れが続く。
だが、迷っている暇もない。
止まっていれば無駄死にするだけだ。
ならば一か八かでも動かねば、と勘に身を任せようとしたところで、ひときわ大きな揺れがあった。
「きゃ…………ッ!?」
バランスを崩してその場に倒れる。
倒れた拍子に腕に撒いていたリボンが解けた。
「あっ…………!」
それは親友に託された約束のリボン。
とっさに掴もうとした伸ばした手をすり抜け、風など吹いていない室内でひらりと宙を舞った。
リボンは片方の通路に音もなく落ちた。
それはただの偶然でしかないのだろう。
だが、それはまるで、いつまでもお節介な友人が導いてくれているかのようにユキは感じられた。
「ありがとう……舞歌」
それは都合のいい妄想だろう。
だけど、リボンを拾い上げたユキはその導きを信じて通路を進んだ。
元より根拠などないのだ、それなら自分の信じたいものを信じたかった。
いつ崩れるとも知れない道のりを、焦らず確実に壁に手をつきながら一歩ずつ進む。
天井が剥げ、落ちて来た拳大の岩が目の前に落ちた。
地面がひび割れ、段差に躓きそうになる。
それでも何とか運よく致命的な傷を負うことなく、幾つかの角を曲がったところで荘厳な扉に突き当たった。
ここから先はない。ここがゴールだ。
外れだったら潔く死ぬしかない。
開き直りのような心境で扉に手をかける。
「重っ……い」
分厚い木の扉は多少押した程度ではビクともしなかった。
満身創痍の状態では力がうまく入らない。
なぜこんな無駄に巨大な扉を拵えたのか。
バリアフリーを考えろというのだ。
「っ……こなくそっ…………!!」
最後は気合と根性で全体重をかけて扉を押す。
ズズズと引きずるような音を立て扉が開け放たれた。
そこで、ユキは余りにも予想外なモノを見た。
「………………えっ」
扉を開いた先に広がっていた光景を目の当たりにして言葉を失った。
その視線の先に座り込んでいた少女二人が、扉を開いた体勢のまま呆然としているユキに気づく。
「あッ! ユッキーっ! よかった…………!」
「……ギリギリね。けどタイミングとしては悪くないわ」
汗をぬぐい冷静につぶやく亜理子とは対照的に九十九が慌てて立ち上がるとユキへと駆け寄る。
揺れる地面に転びそうになりながらユキの元までたどり着くと、全身火傷に泥まみれの姿を認め驚きの声を上げた。
160
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:47:19 ID:MaW0cf7s0
「ちょ、ボロボロだよ!? 大丈夫!?」
「大、丈夫…………じゃない、かも」
「おっ……わわっ」
友達の顔を見て力が抜けたのか、ユキは九十九に寄りかかるように体重を預ける。
大丈夫とカッコつけたい所だったが、限界なんてとっくに超えていた。
正直、気力だけで意識を保っている状態である。
「ダメでも早くこっちへ! ここもいつ崩れるかわからないんだから、さっさと脱出するわよ!」
そう言いながら荷物を背負った亜理子が奥にある扉へと向かってゆっくりと歩き出した。
断続的な揺れも酷くなってきた。
言葉の通り、もう時間の余裕はないだろう。
「歩ける? 行ける?」
「うん。なんとか、けど肩を貸してもらえる」
「もちろんだよ」
九十九の肩を借りながら、ユキも出口へと向かう。
程なくして三人の少女が扉の前へと辿りついた。
それぞれがドアノブへと伸ばし、三人の少女の手が折り重なる。
既に広間の天井は完全に崩れ、宇宙の様な底の見えない暗闇が空に覗いていた。
「それじゃあ、行くわよ」
頷き合って、少女たちが明日に向かう扉を開く。
開いた扉の先から眩しいばかりの光が射しこんできた。
どうやら完全に夜は明けたようだ。
光に向けて少女たちは歩き出す。
望む世界に辿りくために。
【音ノ宮・亜理子 生還】
【一二三九十九 生還】
【水芭ユキ 生還】
【バトルロワイアル会場 世界崩壊】
【オリロワ2014 了】
161
:
THE END -Revolution-
◆H3bky6/SCY
:2019/08/01(木) 00:48:23 ID:MaW0cf7s0
投下終了です。ありがとうございました
これにて本編は終了、あとエピローグが1話あります
よろしくお願いします
162
:
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:04:24 ID:o0vlMkng0
お待たせしました
オリロワ2014エピローグを投下します
163
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:05:40 ID:o0vlMkng0
「結局、何だったんですかねあの戦いって」
孤児院を望む小高い丘の上で、草原が波立つ牧歌的な風景を眺め見つめながら私はふとそんな言葉を呟いた。
雨と日差しを避ける簡素な屋根の下に木製のテーブルとチェアが並んでいる。
空ではゆるやかに雲が流れ、雲の切れ目から降り注ぐ日差しが大地を斑に照らす。
二つ並んだティーカップの湯気が吹き付ける風に流れ、すっかり長くなってしまった髪が揺れた。
ここは多忙な日々に忙殺されそうになった時に私が逃げ込むサボり場である。
最近は仕事にも慣れてきて、ここに逃げ込むことも少なくなってきたけれど、今でもいい気分転換の場として重用していた。
そんな隠れ家で、私は久方ぶりに出会う来客をもてなしていた。
もてなしと言っても、テーブルに並んでいるのは安物のお菓子とお客様が持参したお土産の紅茶だけれど。
太陽の下、対面に座る美女が涼しげな顔をしながら、黒タイツに包まれたスラリとした足を組みかえる。
知性を感じさせる切れ長の瞳を細め、優雅な所作で紅茶を啜ると、ふぅと一息ついてカップから薄い唇を離す。
「あら。どうしたのいきなり」
「どうってことはないんですけど。あれから5年も経った訳だし、ちょっと聞いてみようかなって」
私の言葉に、美女はどこかに思いをはせる様に空を見上げた。
何年経とうとも変わらぬ深く澄んだ蒼い空を見つめ、独り言のように呟く。
「そう、もう5年か…………早いものね」
世間も新らしい年号にも慣れてきた2019年10月。
すっかり秋めいた風が吹く季節の変わり目。
あれから5年の歳月が過ぎた。
未だ世界は終わることなく続いている。
「5年も経ったのだし、社長業も板についてきたんじゃなくて?」
「いやいやぁ、まだまだ慣れない事ばかりで日々勉強ですよ」
そう。私、水芭ユキは正式に悪党を継いだ。
今の私は悪党商会3代目社長としての日々を送っている。
本当に毎日が目が回るような忙しさの連続で、そりゃあお父さんも前線から退き隠居するという話だ。
こうして優雅にお茶を楽しむ余裕が出来たのもごくごく最近の事である。
まあ今だって書類仕事を抜け出してきているのだが。
もちろん、ここに至るまでの道のりは順風満帆とはいかず色々なことがあった。
この5年、それを少し振り返ろう。
164
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:07:21 ID:o0vlMkng0
――――5年前、私たちは一人の男が計画した殺し合いに巻き込まれた。
振り返ってみれば、何故自分の様な半端な覚悟の小娘が生き残れたのか不思議なくらいの壮絶な地獄だった。
生き残れたのは自分が優れていたから、などと己惚れるつもりはない。
単純に廻り合せがよかっただけだろう。
なにより、その場で出会った仲間の、親友の、父の、あるいは仇敵の、様々な人の助けがあったからこそである。
そうして、元の世界に帰還したものの、戻った世界は混乱の真っただ中に陥っていた。
私たちの巻き込まれた殺し合いは世界各地で同時多発的に行われたワールドオーダーによるテロ行為の一つでしかなかったらしく、世界各地で多くの人間が神隠しとしか言えないような謎の失踪を遂げていた。
巻き込まれた人間の殆どが帰ってくることはなく、むしろ1日で解決をみた私たちの事件こそ珍しい事例だった。
つまり、私たちは貴重な生還者であり事件の詳細を知る希少な存在となった訳である。
その事実が明らかになれば面倒な事に巻き込まれるのは目に見えていたのだが、幸運にも生還者の中にその手の情報操作に長けた人物がいた。
隠すまでなく、その貢献者こそ目の前で紅茶を啜っているこの先輩な訳だが。
先輩の尽力により私たちの事件は表沙汰になることなく処理され、その手の面倒に私たちが巻き込まれることはなかった。
だが、それは同時に、細かい検証をしている余裕がないほど世間が混乱していたという証拠であり、あれほどの事件が有耶無耶になるほど世界が無茶苦茶になっているという証左でもあった。
それに世間的には有耶無耶になったとしても、個人的には有耶無耶にはできない事もある。
生き残った者の責任として、あの地で散って行った者たちの訃報だけは遺族の下に届ける義務があった。
流石に全員とまでは行かないが、せめて親友や仲間の家族には話せる範囲で事情を伝えて回った。
愛する家族の訃報に、皆一様に嘆き悲しんだ。
特に娘と息子を同時に失った尾関姉弟の両親の慟哭は今でも忘れられない。
失われたモノの大きさをまざまざと見せつけられた瞬間だった。
ただ、両親を失い天涯孤独の身である朝霧舞歌の訃報だけは誰にも届ける事は叶わなかった。
孤児院の裏にある広場に括り付けられた色あせたリボンだけが彼女を弔う墓標である。
吸血鬼の墓にしては、少し日当たりがよすぎるけれど、そこは許してほしい。
そして、偉大なる大悪党の死を伝えるのも、私の役目だった。
通いなれた別邸を訪ね、よく見知った面々に頭を下げながら、真実を打ち明け訃報を届けた。
彼の大悪党の死には私にも大いな責任がある。
何より、どのような理由があれ手にかけたのは私だ。その事実から逃げることだけは許されない。
その事実を、大悪党の妻は取り乱すでもなく粛々と受け入れた。
恐らく、常より覚悟していたのだろう。辛くないはずがないのに。
家族の誰もが一言もこちらを責めることなく、むしろこちらを気遣う様子すら見せた。
だからこそ、私にとっては辛かった。
大悪党の実子たちは全員が裏稼業から切り離されてた生活を送っている。
悪党商会の後継者争いは幹部たちだけで行われてきたのはそのためだ。
それが大悪党の望んだ世界であり、彼らの生きる表と自分の生きる裏、全ての世界を護ろうとしていた理由の一つなのだろう。
その役割を継ぐという決意を、改めて強く固めさせらた。
だが、悪党商会を継ぐと言っても現実的な障害は大いにあった。
何しろ普通の高校生だった、会社の引き継ぎ方なんて知るはずもない。
それに前社長に託されたと言え、全ては誰も知らない世界での当人通しの口約束に過ぎないのだ。
証人がいる訳でもなく、念書がある訳でもない、誰が信じてくれると言うのか。
しかし、そんな弱音を吐いていても仕方がない。
半ばどうにでもなれと言う気持ちで、父の遺言に従い寮母さんに相談したところ、そこで意外な事実が判明した。
寮母曰く、一応私も末席ながら相続候補の一人ではあったらしく、こういう事態も想定していたのか手筈は既に整えられていた。
おかげで拍子抜けするほど簡単に書類上の相続は完了したが、問題は相続してからである。
悪党商会新社長の最初の仕事として、内外に社長と三幹部の失踪と新社長就任を発表する必要があったのだが。
これを受け、社長を含む上層部の一斉失踪を不安に思う声も当然のように少なからず湧いた。
そして、その後釜がこんな小娘である事に納得がいかない者も多数いた。
その結果、この政変で多くのモノが悪党商会を離れた。これは完全な私の力不足である。
165
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:08:05 ID:o0vlMkng0
かつての悪党商会といえば裏表問わず双方に多大な影響を持つ巨大組織だったが、それも昔の話。
圧倒的カリスマと決断力を兼ね備えた社長の消失、のみならず組織の中核をなす幹部を失った影響は大きく、加えて社員も大幅に減少。
事業規模は大幅に縮小され大規模な方向転換を余儀なくされた。
「けれど、よくやったものね。最近の悪党商会の活躍は国外に届いてるわよ。思い切ったことをしたわね新社長さん」
「まあ、先代の遺産みたいなものですけどね。今じゃそのパテント料が主な収入元になってますし、まだまだ赤字続きですよ」
私は秘匿されていたナノマシン技術の公開に踏み切り、外部からの技術開発を積極的に受け入れていく方針を打ち出した。
利権の根っこだけ抑えて後はご自由にという事だ。
これによりナノマシン技術の研究開発は加速度的に発展してゆくこととなる。
ナノマシン関連の使用料は今の悪党商会を支える大きな収入元になっているのだが、前時代の遺産で食いつないでいる状況だと言える。
この先代に負んぶに抱っこの情けない状況を早急に打開するのが今の目標だ。
その為に、兵器開発により培われた技術を転用して医療方向に力を入れている。
悪党商会はここから盛り返していく、予定だ。
「それでよくこれだけの土地を維持できたわね。市外から外れているとはいえそれなりのモノでしょう?」
「まあ、それなりに悪どい手も使いましたからねぇ。ここだけはどうしても維持したかったので」
事業縮小に伴い維持できず、切り捨て無くなってしまったものは色々とある。
それでも何とか、この孤児院だけは維持する事が出来た。
思い入れのあるこの場所を守りたいという、これは完全なる私の我が侭だ。
そのために先代からの伝を使った裏取引や妨害工作、ちょっと表立って言えないレベルのあれやこれや、などなど手段を選ばない方法も使った。
守るべきを守るためならば『悪』にでもなる。
我らの掲げるその信念は変わらない。
故に、どれほど事情方針を転換しようとも『悪党』の名だけは掲げ続けるのだ。
「そういう先輩は、先輩は今回なんで帰国したんです?
まさかまたこの国にワールドオーダーがいるとかですか?」
音ノ宮亜理子。元・女子高生探偵。
今は世界中を飛び回り活躍する、ワールドワイドなキャリアウーマンだ。
彼女とは定期的にメールで連絡は取り合っていたが、直接会うのはあの事件以来5年ぶりとなる、
曰く、世界に蔓延る癌を一つ一つ潰していくお仕事をしている。
主な活動は残党狩り。世界中に蔓延るワールドオーダーの残滓を狩っているらしい。
何でも、この5年間で8人のワールドオーダーを倒したらしく。
今回もそれを解決した折に帰国したとうい話らしいが、ワールドオーダーの専門家が来たという事は逆説的にこの国にワールドオーダーがいるという事ではないか。
あの悪夢の再来が繰り広げられる可能性に僅かに緊張が走った。
だが、こちらの緊張とは対照的に、専門家は優雅な所作で紅茶に口を付ける。
「違うわよ。今回はあなたたちの顔を見に来ただけ」
国外からわざわざ私に会いに来たと言うのは大した殺し文句だが、この人に言われると警戒心が先に立ってしまう。
「……そんな仲でしたっけ? 私たち」
「あら。心外ね。同じ地獄を潜り抜けた仲でしょう? 私たち」
行動を共にしていた時間こそ少ないが、あの殺し合いを生き残った仲間である。
同じ地獄を見た者同士、私の中にも同族意識のようなものがどこかにあるのは否定しない。
無駄なことをする人ではないので、帰国した目的はそれだけでもないのだろうが、この人にもそんな感傷で動くこともあるのかもしれない。
「前の事件が東南アジア方面で、久しぶりにアジア圏に来たからと言うのもあるけどね。
懐かしい顔を見ておきたいと足を運んだわけよ」
事もなげに言うが、東南アジアと日本じゃ結構な距離があるのと思うのだが。
価値観がワールドワイドすぎて小市民には理解しがたい。
166
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:08:44 ID:o0vlMkng0
「よくそんなポンポン世界中飛び回る資金がありますよね先輩」
その活動は世界平和に大いに貢献しているのだろうが、ワールドオーダー狩りとは果たして仕事として成り立っているのだろうか?
どこから世界中を飛び回る資金が出てきているのか、謎である。
「資金に困ったら適当にその辺の困っていそうな人間を見繕って、辻推理をして報酬を得ていたのよ。
今のご時世困りごとには事欠かないものね。それなりの資産ある人間を選んでるおかげで解決後に請われちゃって。
コンサルだの相談役だの肩書ばかりが増えるのは面倒だわ」
言いながら、ぱらぱらと多種多様な言語で書かれた名刺をテーブルに並べて行く。
そんな大道芸人の投げ銭みたいな調子で大金が稼げるのだから、真面目に働いてる人間に謝ってほしい。
そもそも辻推理ってなんだ。
「資金はともかくとして、治安とか大丈夫なんですか?
まだまだ事件の影響で荒れてる国もあるって聞きますけど」
ワールドオーダーの起こした事件の余波で世界的に治安は悪化していた。
それこそ未だに戦時の様な状況になっている国も少なくないと聞く。
「心配しなくとも戦場の歩き方くらいは心得てるつもりよ。
5年経っても相変わらずなところもあるし、ある程度は安定している所もあるわ。その辺はもろに国力が出てる印象ね。
けど被害って意味じゃこの国が一番だと思うけど、その辺はどうなの?」
ワールドオーダーの引き起こした一連の騒動において最大の被害をこうむったのは我が国である。
各所に影響を与える大物がごっそりと消えたお蔭で、帰った直後の国内情勢は本当にひどい物だった。
「国内の混乱も流石に収束してきましたよ……おかげで別の混乱が生まれつつありますが」
「別の混乱…………ねぇ」
その反応からして、どうやら国外を拠点としている彼女の耳にもその噂は入っているようである。
先輩は眉根を寄せ、頭痛を堪える様に頭を押さえて首を振った。
「ホント…………なんで生きてるのかしらね、あの人。
一時的とはいえ、所属していた身としては頭が痛いわ」
近年になって国内の情勢をにぎわすのはネオ・ブレイカーズの台頭である。
その頂点である大首領は、なんと、あの殺し合いで死亡したはずの剣神龍次郎だった。
訳が分からない。
仮に生きていたとしても世界崩壊に巻き込まれたはずなのだが、数年の沈黙を経て何故か普通にパワーアップして戻ってきた。
本当に何なんだあの男は。
そのおかげ、というのも本当になんなのだが。
無秩序に暴れる勢力はその圧倒的統率力の下に統一され、ネオ・ブレイカーズの台頭により皮肉も治安は少しだけ安定した。
といっても無秩序が秩序立った無秩序になったというだけで、傍迷惑が服を着て歩いているような男の存在はやはり迷惑千万に違いはないのだが。
「けど大丈夫なの? JGOEも解散したって話だけど」
「あー、なんか大丈夫みたいですよ? 国の主導でヒーローも働いてますし、一応新組織も台頭してきてるみたいですから」
複数の主力が抜けたJGOEは程なくして解散を余儀なくされた。
入れ替わりに立ち上がった新組織は尽くが時代の波飲まれて消えて行ったが。
近年、新進気鋭の48人のヒーローを集めたJKH48とかいう質より量だと言わんばかりのふざけた組織が立ち上がった。
そんなでも、どこかしこで事件が頻発する混沌とした時代の需要にはあっているらしく、それなりに活躍しているらしい。
「他人事のように言うけど、そう言うあなたはどうなのかしら?」
「どうって……何がです?」
「ブレイカーズよ。悪党商会(あなた)は戦わないの?」
酷薄で意地悪い笑みを浮かべた美女が、こちらを試すように問いかける。
それは、かつての復讐に囚われていた生き方をしていた私に問いかけているのだろう。
「なんてたって最強のヒーローを退けた大悪党ですもの。
正直な話、今のあなたなら大首領以外なら相手にしたところで負けないでしょう?」
「…………うーん。そーですねぇ」
自分でも驚くほど呑気な声が出た。
この話題に対してこれほど穏やかな心持で応じる事が出来るだなんて、5年前の私なら信じられらないだろう。
「ま、今は仕事が優先ですかね」
目に余る様なら対処しますけど、と付け足して少しだけ温くなった紅茶に口を付ける。
167
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:09:24 ID:o0vlMkng0
私の中でブレイカーズに対する復讐心が無くなった訳ではない。
不幸な子供を産み出す存在を許せないという思いは今だって変わらない。
だが少なくとも、ブレイカーズの存在によって国内の情勢が安定しているのは事実である。
必要『悪』として認める、それくらいの度量は持てるようになった。
復讐に人生すべてを捧げるのではなく、復讐心を忘れるのでもなく、復讐心は私を構築する一つの要素でしかない。
そう受け入れることができた。
これもまた一つの成長なのだろう。
「そう。それで、何の話だったかしら?」
「と、そうでしたそうでした。5年前の話ですよ」
横道もひと段落したところで、すっかり逸れてしまった話を戻す。
「結局、あの戦いって何が目的なんでしたっけ?」
「そこから?」
少し呆れた様な声で、頬杖をついた先輩が嘆息を漏らす。
「いやまあ、私その場にいなかったので、九十九からあらましは聞いてますけど………」
あの事件の最終局面に、私は立ち合う事は出来なかった。
何でも世界の大事な謎が暴かれたらしいが、九十九の要領を得ない説明では雰囲気だけはなんとなくつかめたが、具体的な所はよくわからなかったのである。
「『世界を終わらせる』ため、だったそうよ」
「えっと……あの殺し合いがそこにどうつながるのか、よく分からないんですけど…………?」
私達が殺し合ったところで、世界がどうなるとも思えないのだが。
「それでいいのよ。あの男に言わせれば、この世界を観測する神様の見る物語を終わらせるって事だったようだけど。
結局のところそれが何であったかなんて理解する必要はないの、私だって理解してないんだから」
「え、そうなんですか?」
音ノ宮先輩の推理劇は快刀乱麻の一太刀だったと聞いたが。
大袈裟に九十九が話を盛ったのだろうか、奴はそういう所がある。
「私があの男に突き付けたのはあの男が信じていた真実よ、それが普遍の真実だなんて端から思っちゃいないわ。
少なくとも、あの男は自分が成功したと確信して死んでいった。
だから見ようによってはあの男の目論見は成功していたと言えるかもしれないわね」
「それって、大丈夫なんですか?」
多くのモノを喪ったあの戦いが勝利だったとは思わないが、あの戦いが敗北だったとも思いたくない。
全ての元凶であるあの男の目論見が成功していたと言うのならそれは受け入れがたい事である。
僅かに語気を強めたこちらの態度とは対照的に余裕を湛えた上品な所作でコンビニ売りの安いクッキーを齧った。
「大丈夫よ。その結果をあなたが気にする必要はないわ。奴の勝利は私たちの敗北はイコールじゃない、というだけの話よ」
その態度を見て、熱しかけた頭が冷めた。
この人が焦っていない以上、慌てるような事態ではないのだろう。
互いの勝利条件は両立する。
そもそも私たちにとって何が勝ちで何が負けなのか。
巻き込まれた側の私たちの条件は曖昧だ。
「言ったでしょう、気にする必要はないって。
今こうして私たちが生きていて、世界はある。それが全てよ。
仮にあの男が正しくて神様が世界を見放したところで、私たちの生活には何の影響もないわ。
神様だろうとなんだろうと、誰の世界が終わったってあなたの世界は勝手に続く、そういうものでしょ?」
「そういうもの、ですかね?」
「そういうものよ」
親友が死のうが親が死のうが、残酷なまでに人生は続く。
人生が続く限り、私の世界は続いてゆく。
「結局のところ、世界なんて人それぞれでしかない、なんてありふれた結論でしかないの。
そういうものだし、それでよかった。それなのに、あの男はその定義を神様なんてモノに丸投げした。
それがあの事件の全てであり、最大の過ちだったのよ」
そう結論を述べる様に探偵は締めくくる。
私はその言葉を噛みしめる様に、すっかり冷めた紅茶を一気飲みする。
「分かりました。よく分からないですけど、分からなくていいことは分かりました」
結局、話は全く分からなかったが、それでいいのだろう。
多分。
168
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:10:24 ID:o0vlMkng0
「ま、真実なんてそんなモノよ。
知れば幸福になれるなんてものではないし、何を知るべきかは人によって違う。
むしろ知らなければよかったなんて事も多分にあるし、知ったところで意味のないモノもある。これはそういう類のモノよ。
証明の仕様がないのだから、自分にとって都合のいい真実を決めつけて選んでしまいなさい」
真実なんてその程度の曖昧なモノだと。
真実を解き明かすはずの探偵はそう告げていた。
「知る必要ない真実を知って生き惑う。思えば、あの男もそうだったのかもしれないわね」
私にはその意味を推し量ることはできなかったが。
さらりと吐き出された言葉は同情でも憐憫でもなく、ただそうであったのかという事実を確かめるような言葉だった。
「だからこそ重要なのは、あなたにとってどうだったかよ、水芭ユキさん。
あなたにとって、5年前のあの事件はどういう物だったの?」
質問の矛先がこちらに向けられる。
私にとってのあの事件とはなんだったのか?
両親を失って以来2度目の人生の転換期。
あの事件がなければ確実に私が悪党商会を継ぐなんてことはなかっただろう。
「そうですね。私にとって、いえ、巻き込まれた誰にとっても最悪な事件だったと思いますよ。
あの日から、あんな事件がなかった事になったらいいのにって、そう願わなかった日はありません」
悲しい出来事だった。
多くの人が死んで、多くのモノが失われた。
絶対許してはならない、絶対に忘れてはならない出来事だった。
「けど、どれだけ願ったって時間は戻らないし、なかったことになんてならないから。
あの出来事があったから今の私があるんだって思える様に、これからを頑張っていこうって思えるようになったから。
きっと私にとっても意味はあったんだと思います」
けれど、そこで得たモノが何もなかったなんて、それこそ悲しすぎる。
失ったモノばかり数えるよりも、得たモノを大切にしたい。
それがきっと失われたモノに報いる唯一の方法だと信じているから。
「それにほら、こうして私たちがお茶してるのもあの事件があったから、でしょう?」
これもまたあの日が生んだ成果のひとつ。
こうやって、少しずつあの日の意味を見出して行けばいい。
私の答えを聞き届け、先輩は満足そうに頷くと、空になったカップを机に置いて立ち上がった。
「飛行機の時間もあるし、そろそろ行くわ」
「そうですか。名残惜しいですけど、次はどちらへ?」
「南米ね。日本に戻るのはまた数年後になるかしら。
だから、九十九さんたちとも会っておきたかったのだけど」
「あぁ、九十九は最近忙しいみたいですからね。今は京都で、戻りは明日だったかな?」
九十九は高校卒業後、お祖父さんが体を壊したため(腰をやってしまったらしい)、「旅は終わったぜ……」という謎の言葉を残し一二三鍛冶の十七代目刀匠となった。
元よりその腕前に疑問の余地はなく、世間の刀剣ブームとやらも相まって、美しすぎる刀鍛冶として一躍メディアの注目の的となったのである、
今や私たちの中で一番の有名人だ。
かくいう私も取引先として贔屓にしている。
取引と言っても、買い求めるのは刀剣類ではなく彼女の打つ良質な鉄製品だ。
「そうなの、それは残念ね。そんなに忙しいようなら、あなたもそんなに会う機会はないの?」
「いやぁ…………私は割と頻繁に会ってますよ。よくウチに泊まりに来ますから」
仕事だけじゃなく、九十九との個人的な親交も続いている。
忙しさの中で余計なことなど考える暇などなく、この5年間を駆け抜けるように過ごした。それはある種の救いだった。
ただ、何もない一人の時間にはどうしようもなく喪失に震えそうになる。
その隙間を埋めてくれたのが九十九の存在だった。
彼女は一人暮らしを始めた私の家に足繁く通い、慣れない仕事に振り回され疲れ果てた私の世話を焼いてくれた。
今になって思えば、それは私への気遣いであり、彼女なりの振り払い方だったのだろう。
彼女も家業を継いでからは互いに忙しく疎遠になるかと思いきや、むしろ泊まる頻度が増えた。
一度距離を詰めると遠慮しない女である。
今となってはすっかりそれが習慣になり第二の家と言わんばかりに泊まりつめているのだが。
何だったら今朝もウチから京都に出てったくらいである。
「仲のいいことね。羨ましいわ」
何の気ないような呟きだったが、案外それは本音だったのかもしれない。
本音の分かりづらい人なので真相は分からないが。友達いなさそうだし。
169
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:12:00 ID:o0vlMkng0
「それで、“彼”の方はどうなの?」
「ぶッ…………!?」
唐突にそんな話題になる。
いや、彼女の話題から彼の話になるのは自然流れと言えば流れなのだが。
にやつき顔で振られたその話題に、私は努めて平静を保って返す。
「彼も彼で忙しいみたいですよ。4年生ですし」
「そう。意外と言えば意外よね、進学したのが彼だけって言うのは」
多くの生徒が失踪を遂げた神無学園は、保護者達に責任を追及された。
中でも大口の出資者であり、一人娘を失った白雲家が特に強く憤慨し、説明責任を持つ理事長も消えたらしく、事態は収拾することなく神無学園は廃校を余儀なくされた。
生徒たちはそれぞれ近隣の高校へと転校する運びとなったが、私と先輩はそのまま高校を中退。
九十九は高校卒業後に家業を継いだため、大学にまで進学したのは『彼』だけとなった。
「それで、どうなの彼との進展は?」
「ど、どうとは……?」
先輩がズイと距離を詰めてくる。ちょっと怖い。
誤魔化すように目を逸らし続ける私に、呆れたように溜息をもらす。
「じれったいわね、あなた達。あんまりもたもたしてるようなら私がもらっちゃおうかしら」
女の私ですら赤面してしまいそうな色香を感じる妖艶な笑みを浮かべ、細くスラリとした人差し指で自らの唇を抑える。
「彼とはキスした仲だし」
「ッ!?」
言葉を詰まらせているこちらの様子をみて、からかうようにクスリと笑った。
「――――冗談よ。私、知的な人がタイプなの」
彼はちょっとね、と素っ気なく呟いて、深い青空を見つめた。
遠くにいる別の誰かを思い浮かべるように。
「じゃあ、そろそろ本当に行くわ。お互い生きていたならまた合いましょう」
まるで明日もまた会えるかのように軽やかにひらひらと手を振って、振り返る事なく最後までスマートに去って行った。
小さく手を振り返して、その背を見送る。
秋の訪れを感じさせる冷えた風が吹いた。
先輩が立ち去った丘の上に一人取り残される。
「っ…………ぅ〜ん」
そろそろ仕事に戻らねば。
書類仕事を押し付けた新幹部の子から鬼電が来る頃合いである。
一つ伸びをして、ティーセットの片づけ始めようとしたところで、
「――――よっ」
背後に声がかかった。
不意を突かれて僅かに心臓が跳ねる。
振り向けば、そこに一人の精悍な青年が片腕を上げて立っていた。
パタパタと駆け寄りながら、すっかり慣れ親しんだその名を呼ぶ。
「――――――――拳正くん」
5年前の地獄から生き残った『生還者』の一人。
風で波立つ草原の中心に、新田拳正が立っていた。
170
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:13:15 ID:o0vlMkng0
――――あの世界で新田拳正は確かに死んだ。
それがあの世界における結末であり、世界の法則に従った結論だった。
世界の支配者が描いた物語はそこで終わり。
だが、彼女たちは、その終わりを良しとしなかった。
目指したのは、結末のその先である。
ワールドオーダーの敷いた世界は彼の死を決定付けた。
だが逆に言えば、決まっているのはそこまでだ。
死亡した彼を『蘇生』できないとは決まってない。
蘇生などと大袈裟に言ったが、なんてことはない。
施されたのは人工呼吸と心臓マッサージという、ごくごく一般的な心肺蘇生法である。
最終決戦の地に辿りつき、その扉を開いた私が見たのは正しくその処置が行われている瞬間だった。
私たちは自分たちの意思で未来を選べる。
世界に決められた未来など、その程度の事で覆せるのだ。
「さっきまで先輩が居たんだけど、入れ違いだったね」
「センパイってぇと、どのセンパイだ?」
「ほら、音ノ宮先輩だよ」
「…………ああ、アリス先輩か」
微妙に苦い表情をする。
苦手なものなどなさそうな彼も、あの人だけは苦手らしい。
まあ気持ちは分からなくもないが。
「いや。久しく会ってねぇし、ツラくらいは拝んどきたかったな」
「そっか。拳正くんは入院してたもんね。じゃあ本当に事件以来会ってないんだ」
あの事件で意識のないまま先輩に担がれ帰還を果たした拳正くんは一番重症だった事もありそのまま病院に担ぎ込まれた。
私の場合は疲労が極限にまで溜まっていたものの、入院するほどの傷は負っていなかったため悪党商会お抱えの闇医者に診てもらうだけで事足りたが。
瀕死の重傷(というか1回死んでる)だった彼は全治3か月と診断され入院生活を余儀なくされたが、驚異の回復力を見せ僅か1か月で退院を果たしたのだった。
だが、その頃にはすでに先輩は全ての事後処理を終えて海外へと旅立っていたため、彼が先輩と顔を合わせたのはあの殺し合いの舞台が最後だったという事になる。
「それで、今日はどうしたの? 定期検診の日じゃなかったよね? なんか調子悪かった?」
そう言って下から彼の顔を覗き込む。
私と大して変わらなかった彼の視点も目線一つ分上がっていた。
現在の悪党商会における主な事業の一つが義肢の開発である。
ナノマシンによる神経接続により、生身と変わらぬ動作性を生身以上の性能を提供するというのが売りだ。
技術公開による研究の進歩は目覚ましく、副作用もある程度抑えられるようになったからこその実験的商品なのである。
あの戦場で片目を失った彼に義眼を提供し、モニターと言う名目で定期的に調整のためこちらに通ってもらっていた。
いらないと固辞されているが、バイト代だって出してる。
「いんや。むしろ良すぎる。ズーム機能とか赤外線センサーとかいらねぇから、取り外してくれ」
「うーん。九十九の意見を取り込んでみたんだけど、ダメだった?」
競合他社も多いので、売りになると思ったんだが貴重なモニターからは不評のようだ。
「あいつの意見は聞かないでくれ、頼むから。危うくカンニング扱いになるとこだったぜ」
「あれ、大学って今テストの時期だっけ?」
「テストつーか、採用試験だな。卒論も書かなきゃだし、忙しいよまったく」
「そっかそっか、大学生も大変だねぇ」
忙しさなら負けちゃいないが、こちとら中卒なんでその忙しさもどこか羨ましい。
後悔はないが、一瞬、親友たちと過ごしている学生生活を夢想した。
「そう言えば、聞いたことなかったけど、拳正くんって就職どこ目指してるの?」
何気ないその問いに、彼は珍しく少しだけたじろく様を見せた。
その様子を首をかしげ見つめると、照れくさそうに頬を掻いて一言。
「警察官」
「――――ぷっ」
思わず噴出してしまう。
交番のお巡りさんをやってる彼を想像してみて、あんまりにもハマりすぎてて笑ってしまった。
171
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:14:22 ID:o0vlMkng0
「んだよ。似合わねぇのは自覚してんだよ」
拗ねたように視線を逸らす。
その様子がかわいらしくて、更に口元が緩んでしまう。
目端をぬぐって緩んだ口元を抑えながらも機嫌を損ねた彼をとりなす。
「ごめんなさい。似合うと思うわ、警察官」
「そういう世辞はいいんだよ」
「本音だって。機嫌直してよ、もう」
本当に拗ねてしまいそうだから、それ以上は取り成さず話題を変える。
「けど何で警察官なの、昔からなりたかったとか?」
「そういうわけじゃねぇけどさ。つかそんな風に見えるかぁ?」
自嘲するような笑みを浮かべる。
見えなくもないと思うんだけどなぁ。
「ま、俺にも思うところがあってな」
「思う所って?」
誤魔化すような言葉に踏み込んで問いかける。
拳正くんは少しだけ考える様に視線を巡らせ、仕方ないと言った風に話し始めた。
「ま、師匠もいなくなっちまったし、俺なりにできる事を考えた結果ってやつだ」
彼の師匠。
あの世界から還った直後、意識のない彼を家に運び込んだ時に一度だけ会ったことがある。
救急車の到着待っている間、部屋に寝かされた片目を潰し、瀕死になっている愛弟子を見てカカッと笑って一言。
『男前が上がったな、拳正』
師匠さんが姿を消したと聞いたのはその直後だと九十九から聞いている。
だから彼が退院した時には既に師匠さんは影も形もなくなっていた。別れの言葉もなく。
「俺は腕っぷしくらいしか能がねぇからな。無い頭でそれを生かせる仕事は何かって考えた訳だ。
それに、昔の俺ぁロクでもないバカなガキだったからな。分かり易く世間様の役に立つ仕事に付きたかったんだよ」
「なにそれ。不良の更生物語?」
「かもな」
そう言ってカラカラと笑う。
その笑みはかつて見た老師のようだった。
「ねぇ―――――――」
ふと、先ほどの先輩とのやり取りが思い返された。
一瞬その話題に踏み込んでいいのか逡巡したが、思い切って問うてみた。
「――――拳正くんにとってあの事件ってどういう物だった?」
唐突な問いに拳正くんは少しだけ目を丸くした。
だが、驚きはしたものの気分を害した訳ではなさそうである。
私たちはあまりあの日の話をしない。
事件の直後は思い出したくもなかったし、ようやく落ち着いて考えられるようになった今でも好んでするような話もなかったからだ。
だから、彼にとってあの出来事はどういう物だったのかを聞いたことはなかった。
「んだよ、いきなりだな」
「いや、さっき先輩とそう言う話になったからさ」
日常的に会っている私たちと違って、久しく出会った『私たち』が出会えばそういう話になるのもまた必然である。
それは拳正くんも理解ているのか、それもそうかと納得を示した。
「つってもなぁ。確かに胸糞悪い騒動だったが、野郎に一発叩きこんだ時点で俺ん中でケジメは付いてんだよ、死んじまった奴らにぁ悪ぃがな」
既に決着した出来事。
その割り切りは彼らしい明快さだ。
彼にとってあの事件は思い返す事もない過ぎ去った過去なのだろうか。
「じゃあもう関係ない話だって思ってる?」
「んなこたねぇさ。どんなものだってそいつを作る一部だろ、無関係にはならねぇよ」
全ての出来事を己の血肉として生きる。
私が5年かけて出した結論を彼は既に持っていた。
「俺は"また"死にぞこなっちまったけれど、生き残っちまったからには生きなきゃならねぇ。ただ、引きずったってどうしようもねぇって話だ。
結局のところ死んだ人間のために出来る事なんてないんだ。そんなのはただの自己満足でしかねぇ。
出来る事なんて生き残っちまったテメェの事を、精一杯やってくしかねぇのさ」
それは自分本位の冷たい言葉ではない。
それだけしかできないと言う諦念の言葉でもなく、ただそれだけでいいのだと言う許しの言葉だった。
「死んでいった人たちに報いたいと思うのはいけないことだと思う?」
「言ったろ。自分が満足できるんならいいんじゃねぇの。そうじゃねえなら辞めとけって話だ。
望んでもないことをする言い訳にされても死人としても迷惑だろ」
その言葉にはどこか実感がこもっていた。
こうして達観した彼にも、そんな時期があったのだろうか。
172
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:15:06 ID:o0vlMkng0
「そうだね。その通りだ」
お父さんの意思を付いで会社の運営を頑張っているのも、訃報を遺族に届けたのも。
どちらも辛い役割だったけれど、自分がそうしたかったからしただけだ。
誰のせいでもない。
「だいたい俺の場合は、あの先輩とかと違って生き方を選べるほどたいそうな人間じゃねえからな。必死でやるしかねぇのさ。
警察だって俺なりに頑張ってはみたものの、試験の結果がどうなるかなんてまだわかんねぇしよ」
強がるように笑うが不安そうな表情は隠しきれていない。
どれほど強大な的にも怯まなかった彼も、試験と言う壁は恐ろしいようだ。
「仮に受かってたら警察学校に半年だ。そうなったらしばらく会えなくなるかもな」
「そう…………なんだ」
半年も会えなくなる。
決して彼の失敗を望む訳ではないけれど、それは、寂しい。
ただの友人でしかない私に言えるは言葉ないのだけれど。
寂しいと。彼も僅かでもそう思ってくれているのだろうか。
窺うように彼を見る。
すると、彼もまた私を見つめていた。
視線が絡まり、心臓が高鳴る。
まるで戦う前の様な真剣な瞳に吸い込まれそうになる。
「俺ぁ半端な野郎だから、色々とケジメ付けてからって思ってたんだが。
だから、合格して、帰ったらお前に話が、「たッ……だいまあああぁぁぁl ユッキーッ!!」
拳正くんの言葉は途切れ、背後から勢いよく突撃してきた謎の影に踏み潰された。
「いやぁ! 公演終わって後はゆっくり泊りの予定だったけど、一人で旅館に泊まるの寂しくて新幹線でとんぼ返りして来たよぉ!」
物凄い息を出で捲し立てながら、私に抱き着いてくるのは、言わずもがな、我が親友一二三九十九である。
しばらく九十九は私に抱き着き続けるが、恒例行事なので私はなすがまま、どうどうと背を撫ぜた。
そうして堪能したのか、ようやく九十九は足元に注意を向けた。
踏みつけていた存在に今気付いたとばかりに言う。
「あれ? なんで拳正がいるの?」
「九十九……テメェ」
下敷きになっていた拳正くんが勢いよく立ち上がる。
九十九も慣れたモノで、しがみついた私を軸にそのまま飛び退いた。
「ほれほれ。羨ましいか? お? おぉん?」
「このアマ…………ッ」
そして見せつける様に私に頬ずりしてくる。
もう。この二人は5年経っても相変わらずだ。
変わった物もあれば、変わらない物もある。
「九十九、拳正くん」
仲良くケンカを続ける二人の名を呼ぶ。
呼びかけに、二人が同時に振り返った。
人生は続く。
神様が去った終りの後の物語を私たちは生きる。
その道のりを共に歩む、愛すべき人たちに向けて。
私はありったけの笑顔と心を込めて。
「これからもよろしくってこと」
【オリロワ2014 完】
173
:
エピローグ -それからとこれから-
◆H3bky6/SCY
:2019/10/15(火) 22:16:50 ID:o0vlMkng0
投下終了です
これにてオリロワ2014の物語は終了となります
5年にもわたりお付き合い頂き、ありがとうございました
174
:
名無しさん
:2019/10/16(水) 09:39:52 ID:8DWP/KWs0
投下乙です
完結おめでとうございます!!
大団円とは無関係のところでしれっと復活してるアイツに笑う
175
:
◆VJq6ZENwx6
:2019/10/21(月) 22:47:00 ID:NiZApUXY0
投下乙です!
74人の長い長い戦いがようやく終わりましたね!
自キャラも書いていただきこちらこそありがとうございました!!
エピローグ、予約します。
176
:
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:34:49 ID:/TXTX7c60
お待たせしました。
オリロワ2014エピローグを投下します
177
:
自己否定・進化とは枯れていくことなり
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:37:23 ID:/TXTX7c60
ハァ、ハァ、と息を切りながら路地裏を走る。
カイザルに撃たれた脇腹から血が滲む。
あの男、もう長くはないはずだったがまさかご丁寧に鉛弾を届けに来る元気があったとは驚きだ。
「…う…あ…」
世界を改変しようとしてせき込む。
ご丁寧に喉を潰された、自分<ワールドオーダー>がアンナをやった事、
自分<ワールドオーダー>の能力を殺し屋組織にリークした人間がいる。
どうやら自分<ワールドオーダー>は終わったようだ。
無念も絶望もない。ただ虚無だけがある。
なのに自分はなぜ逃げているのだろう。
思考がそこに差し掛かったところで目の前に巨大な影が射す。
影の手に持っているカメラがカシャリとシャッター音を立てた。
自分はその顔を覗き込み、見知った顔に少し安堵した。
「き、みは…」
黒いコートを纏った覆面の巨漢、覆面男だ。
なるほど、確かに彼の設定ならあそこでの生死にかかわらず、復活できる可能性があるだろう。
そう納得した次の瞬間、僕は驚愕した。
「すみませーん、取材いいですかぁ」
誰の声だと一瞬思ったが、その声は間違いなく目の前から聞こえた。
覆面男が喋った。
バカな、そんなハズはない、そんな設定はしていないはずだ。
虚無だった自分の心を走った驚愕、その勢いのままに腕が動き、覆面を弾き飛ばした。
「り、ヴぇいら…?」
178
:
自己否定・進化とは枯れていくことなり
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:40:02 ID:/TXTX7c60
見慣れた銀の髪と相貌、邪神リヴェイラだ。
しかし肌の色が黒い、もともと漆黒ではあったが今では全く光を返さず、輪郭すらつかめない。
「そう、僕はリヴェイラだよ」
目の前の存在はそう言った。
(ちがうね)
声にならずとも、考えが口に出た。
リヴェイラは倒される側だった。
倒される側が倒す側に回る、その程度の奇跡が起こってもらわなければ困る戦いであったが、目の前のこれは“黒”だ。
未だに倒されるべき存在、その色が抜けていない。
それを自分<ワールドオーダー>が、否、世界が見逃すはずがない。
「なるほど、この創造主様はあの戦いのことも詳しいご様子だ」
目の前の存在は口の動きで自分の言葉を読み取り、顔を伏せた。
ク、ク、ク、とかみ殺した笑い声が聞こえる。
自分はこのリヴェイラもどきが言っている“あの戦い”、オリロワ2014の準備のために用意された自分<ワールドオーダー>、
能力実演を兼ねて用意する主催者Aと役割が被るため、省かれた主催者α(アルファ)だ。
他の自分を知っている、ということは他の自分が作ったリヴェイラと同じ破壊(リセット)装置だろうか?
「疑り深い目をしてるなあ、取材の過程でしらみつぶしに創造主様に当たったら
君にぶつかったって訳だよ。
創造主様のことを知りたがってた人間もいたしWinWinだね。」
目の前で紙切れをひらひらさせる、オリロワ2014の参加者名簿だ。
参加者は全員、自分<ワールドオーダー>の手がかかっている。
自分の存在を前提にして調査すれば、確かに突き当たるかもしれない。
179
:
自己否定・進化とは枯れていくことなり
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:40:25 ID:/TXTX7c60
見慣れた銀の髪と相貌、邪神リヴェイラだ。
しかし肌の色が黒い、もともと漆黒ではあったが今では全く光を返さず、輪郭すらつかめない。
「そう、僕はリヴェイラだよ」
目の前の存在はそう言った。
(ちがうね)
声にならずとも、考えが口に出た。
リヴェイラは倒される側だった。
倒される側が倒す側に回る、その程度の奇跡が起こってもらわなければ困る戦いであったが、目の前のこれは“黒”だ。
未だに倒されるべき存在、その色が抜けていない。
それを自分<ワールドオーダー>が、否、世界が見逃すはずがない。
「なるほど、この創造主様はあの戦いのことも詳しいご様子だ」
目の前の存在は口の動きで自分の言葉を読み取り、顔を伏せた。
ク、ク、ク、とかみ殺した笑い声が聞こえる。
自分はこのリヴェイラもどきが言っている“あの戦い”、オリロワ2014の準備のために用意された自分<ワールドオーダー>、
能力実演を兼ねて用意する主催者Aと役割が被るため、省かれた主催者α(アルファ)だ。
他の自分を知っている、ということは他の自分が作ったリヴェイラと同じ破壊(リセット)装置だろうか?
「疑り深い目をしてるなあ、取材の過程でしらみつぶしに創造主様に当たったら
君にぶつかったって訳だよ。
創造主様のことを知りたがってた人間もいたしWinWinだね。」
目の前で紙切れをひらひらさせる、オリロワ2014の参加者名簿だ。
参加者は全員、自分<ワールドオーダー>の手がかかっている。
自分の存在を前提にして調査すれば、確かに突き当たるかもしれない。
180
:
自己否定・進化とは枯れていくことなり
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:40:50 ID:/TXTX7c60
「確かに、邪神はあの場で殺されたよ。
他ならぬ創造主様だ、見逃されるはずもないさ。」
「でもね、創造主様も最初に僕の顔見たとき考えたろ?
『覆面男なら復活するか』って」
「!」
確かに覆面男はグレーゾーンだ。
倒されるべき存在として投入されたが、
クリスより変革の可能性は低く、脅威としてはセスペェリア以下、そういう立場と見積もっていた。
数年ごとの再発生設定が切られていなくとも、おかしくはない。
「運よくあの場所で、解析の機会に恵まれてね、
最後の瞬間に邪神<リヴェイラ>から亡霊<覆面男>への低俗化<ジョブチェンジ>を試してみたんだよ」
少し思案した。
『定義』の問題だ。
自分が世界を変えた際にどうなるかを考えるのに近い。
例えば、血ではなくトマトジュースを飲み始めた『空谷葵』が『自分は吸血鬼で無くなった』と主張したところで『吸血鬼は死ぬ』と改変すれば死ぬが、
男とぶつかり、性別転換した『裏松双葉』なら『女性は死ぬ』と改変したところで死なない。
そういう定義の更新を行わなければならない。
リヴェイラは邪神だ。
例えばその体を素材に覆面男を純粋培養するなどして、その体を別のものに変えることも確かに可能だろう。
181
:
自己否定・進化とは枯れていくことなり
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:42:09 ID:/TXTX7c60
(しかし、ひっかかることがある。)
考えを口にする。
声にならずとも邪神は読み取れるようだ。
「なにかな?」
(もとのふくめんおとこは、どうした?)
「退場したよ。中枢の魂は成仏したみたいだね。
僕が成り代わる時には、再構成に別の魂が必要な状態だった。」
『覆面男』を残したまま中身は成仏。
単純に田外や聖剣で浄化されたわけじゃなさそうだ。
中々面白いことが起きている。
(せいげんはどうした)
「制限?ああ、首輪のことかな?
それなら首だけになったとき取れたね」
致命傷を伴う制限の解除、倒されるべき側がそのままに首輪を解除できるほぼ唯一の手段だ。
ただ一機、機械であるサイクロップスのみは、頭部切除後にほかの参加者が首輪を取り出し、再接続することで無傷で解除できるのではないか。
という懸念があり、サイクロップスにそれほどのことが起きるのであればむしろ望ましいと放置されていたが、ほかの参加者ではまず不可能だろう。
確かに、奇跡が立て続けに起こっている。
邪神が覆面男になり得る状況は揃いつつある。
足りてないピースはもう一つ。
182
:
自己否定・進化とは枯れていくことなり
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:44:50 ID:/TXTX7c60
(じゃしんのたましいは、ふくめんおとこのちゅうすうにならない。)
「ククク…」
その質問をした瞬間、空気が変わった。
リヴェイラ、否、目の前の存在は顔を上げた。
「ハァーッハッハッハ!!」
その顔は、愉快な笑い声に似合わず、涙に濡れ、悲痛に歪んでいた。
「その通りだよ。」
「僕の体は、意識は覆面男になれる。でもそれは覆面男の構成材料にされるだけだ。神の亡霊なんてものはあり得ない。僕が中心の魂になれる筈がない。」
目の前の存在は涙を流しながら答えた。
その姿は懺悔のような、罪の告白に見えた。
「死ぬとき、目の前にちょうどいいサンプルがあった。」
「魔族<オデット>が邪神<リヴェイラ>の肉を食えば、邪神の力を得られる。
邪神の力を奮うのに僕である必要はさほどなかったんだ。」
「ちょっと前に覆面男くんの解析をやってたからね、
魂が成仏してたみたいだし体を借りようかと思ったけど、
リヴェイラでは主人格になりえない。
意識が薄れてきたところで最後に会場に呼ばれた時を思い出したんだ。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「『自己肯定・進化する世界(チェンジ・ザ・ワールド)』
僕の能力の一つさ。対象のパーソナリティを書き換える。これで僕は僕になった、そうだろ僕?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「リヴェイラは邪神だ。洗脳魔法に記憶抹消、呪いの類もなんでもござれさ。
最期に魂だけになって覆面男の中枢となる人間、それを上書きする程度は余裕だったよ。
元々あの戦いでも悪をばら撒こうとは思ってたんだけどね、まさかそれが最後の仕事になるとは思ってなかった。」
(おまえは、だれだ?)
「邪神の力を継いだ覆面男であり、リヴェイラの記憶と人格を継いだ―」
「四条薫の亡霊さ。ごめん、嘘ついた。」
目の前の存在、そう形容する他ない物はそう言った。
「泣けるね、体はともかく魂まで捨てることになるとは思わなかったよ。」
邪神は漆黒の覆面を被りなおした。
その覆面の下は未だ泣き続けているのだろうか。
183
:
自己否定・進化とは枯れていくことなり
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:45:50 ID:/TXTX7c60
「さて、取材を始めようか」
リヴェイラの取材、オリロワ2014への質問、それに答えるものは自分には大してなかった。
オリロワ2014の答え、それはあの場で得るべきであるし、敗退者と参加者未満が別の場で語り合うなど許されることではない。
そう伝えると、目の前の存在は驚くほど素直に引き下がった。
代わりに参加者の以前の情報を聞かれたが、これも情報を置いた住処を教えるだけで済んだ。
「つまり、今の僕は覆面男の概念を持ったリヴェイラ、という自己認識の四条薫というわけさ」
そう語りながら彼(いや、彼女か?)はペンをメモ帳に走らせる。
もはや取材は意味をなくし、覆面男の自分語りとなっている。
「今の僕ならあの光の賢者ジョーイと互角と言って差し支えないね。」
元々、邪神が賢者ふぜいと比べ物になるはずがない。
四条薫の癖だ。自分<ワールドオーダー>とは違い上書きの肝心たる部分、元のパーソナリティの消去はできないのか。
なるほど、確かにリヴェイラを名乗る覆面男の体を借りた四条薫、そう言えるかもしれない。
「リヴェイラは『邪神が死ねば、膨れ上がった世界が選定できなくなる。神を残さねば』、
そう思ったけどね。君のその様子じゃあもう世界は無数に増えそうにはない。
無駄だったようだ。あそこで死んだリヴェイラのお役目は返上させてもらうよ」
この三位一体の倒錯した話を聞いているからか。撃たれた出血のせいか。
意識が朦朧としてきた。まだだ、聞きたいことがある。
口の形だけで伝えたその質問は邪神に伝わった。
「なんでこんな体になってまで生きたのか、だって?」
「だって僕は―――」
184
:
自己否定・進化とは枯れていくことなり
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:49:35 ID:/TXTX7c60
「じゃあ、僕はこんなところで退散するよ。
彼へのいい取材代となってくれてありがとう、創造主様。」
邪神が消えた後、背後から車輪が回る音が聞こえた。
振り返ると、そこには黒服に押される車椅子に座ったカイザルが居た。
コイツも大概おかしい。
悪党商会が公開したナノマシン技術を用いた遺伝子治療の論文、それが活発になったと知ったのはいつだったか。
海賊版ナノマシンを独自に服用した病人が、激痛のあまり発狂死、未だナノマシンによる遺伝子治療は遠いという新聞記事を見たのは最近だったはずだ。
目の前のカイザルを見る。
枯れ木のように細くなった手足、落ち窪んで漆黒を携えた目、闘病のためかもはや毛の類は一本も見当たらない。
外見でこれだ、中身はもっとひどいのだろう。
リヴェイラが上位存在たる邪神の力を持って行い、結果無様さに打ちひしがれるまでに至った死からの逃走を人の身で行っているようなものだ。
「話は終わったか?ジョン・スミス」
聞かれたところでこの喉から返事ができるはずもない。
返事は手に持ったこれでやる他はない。
(なんでこんな体になってまで生きているのか、だって?)
(だって僕は邪神<ラスボス>だからね、邪神<ラスボス>として負けるまで終われるはずがないさ)
邪神はそう答えた。
世界の破壊者、そう始まってしまったものはそうでしか終われない、終わりたくない。
子ども染みた返答だが、自分には何よりも頼れる返答だった。
自分が少年だったのはいつだったか。
ナイフの設定を変えて、遊んでいたのはいつだったか。
邪神を処分できる最強のナイフ、それを作ったのはいつだったか。
ナイフを持って英雄ごっこをしていた少年、それを見たのはいつだったか。
聖剣により永遠と紡がれる英雄、勇者システムを作ったのはいつだったか。
チェンジ・ザ・ワールドの劣化を、とうに幼年期は過ぎていると知ったのは、自分だったか。
純粋な作品である彼が、子どもじみているというのは喜ばしいことなのかもしれない。
自分<ワールドオーダー>が成功したのか失敗したのか、それにも関わらず続いている自分のような断章がある。
ならば、彼のように統合し、終わるまで続ける存在が必要なのだろう。
きっと自分も同じだ。
最後まで足掻き、この断章を物語に変え、完結させる必要がある。
そのために理由もない生存を続けている。
愛用のサバイバルナイフをカイザルに向けて構える。
カイザルも震える手でこちらに銃を向ける。
これでエンディングだ。
185
:
過去確定・変われない役割
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:57:07 ID:/TXTX7c60
ここはどこにでもある平凡な貸家。
だが、その実態は異世界の侵略の前線基地である事を知る者はいない。
おお!見よ!
結構いい値段がしたお洒落なテーブルで、
黒コートと覆面をした形容しがたき邪神が私のパソコンで作業しているではないか!
「って邪神様、なにやってるんです?」
「サキュバスか、ちょっと待ってくれ、今記事をまとめてるんだよ」
「そんなことやってる場合じゃないですよね!?」
貸家に家主―サキュバスの怒号が響く。
「魔王様も暗黒騎士様もガルバイン様もみーんな死んじゃったから魔界大荒れなんですよ!?邪神様が纏めなかったらどう纏めるんです!?」
「うーん、それ纏めるの僕にも無理」
しかし、怒号の返事は無常であった。
「今の僕は覆面男だから42人殺したら数年消えなきゃいけないんだよね
正直今の魔界って42人程度殺ったところで収まんないでしょ?」
「そ、そんな…私たちはどうすれば…」
「とりあえずその鎧でも持ち帰って相応しい魔族とか決めたら?」
リヴェイラが指をさしたその先、そこには、サキュバスの私服に紛れて見慣れた黒い鎧が掛けられていた。
間違いようがない、暗黒騎士のものだ。
「え…嘘…あの鎧って…崩壊した世界に残されたはずじゃ…」
「うん、そこから取ってきた」
邪神は腕を前に掲げ、呟いた。
「Etag NepO SseRdA NO ??????」
邪神の目の前に扉が現れる。
186
:
過去確定・変われない役割
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/02(土) 23:58:01 ID:/TXTX7c60
だが、開くはずがない。
サキュバスだって試したことだ。
いくらゲートを作り、座標をつなげたところでロストした世界につながる扉が開くはずがない。
そしてその扉はサキュバスの目の前で破壊された。
「え?」
サキュバスは思わず扉の中を覗き込んだ。
重力すら崩壊し、崩壊した研究所、ビル、その他もろもろが宙に舞っていた。
ここが魔王様の巻き込まれた会場なのだろう。
「い、今のってどうやったんですか?」
「むこうで強力な破壊があってね。
僕なりに取り込んでみたんだ。」
やった当人はすでに記事の編集に戻り、作業を進めながら答えた。
「今の僕なら破壊されないものも破壊できる。
邪神、いや、ラスボスの権能さ」
邪神は横の記事をつかみ、サキュバスに渡した。
「はいこれ」
「なんですかこれ」
「僕たちの世界の記事さ」
渡された記事に目を通す、そこに書かれているのは魔王、カウレスを代表とした自分たちの世界出身者の、リヴェイラが知る限りのあの戦いにおける顛末であった。
「継ぐものを探せ」
「勇者でも裏ボスでもなんでもいい、彼らの物語を受け継ぐものを探すんだ
そして…殺し屋なんてものに負けた邪神を超えてくれ」
187
:
過去確定・変われない役割
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/03(日) 00:00:04 ID:NlAx5Fro0
「…随分と、役割にこだるんですね」
「ああ、こだわるよ」
「あの男が作った役割、なんてものにこだわる理由はないんじゃないでしょうか」
外で爆音が響いた。
邪神が窓ガラスの外に目を向けると季節外れの花火が花開いていた。
そういえば今日は花火大会だったか。
「実は、ディウスくんと出会った時はそのつもりだったんだ。
ピリピリしてたからね、なんなら創造主様がやったみたいな殺し合いでも開こうかと画策してたよ」
「はい?」
「リヴェルヴァーナを作った時から…いや、あの聖剣が出てきた時から頭に響いてたんだ。
世界の全部を見通せる僕の後ろに、さらにもう一人いるんじゃないかってね」
かつて出会った真っ白なコックコートに身を包んだ男の姿が、サキュバスの脳裏をよぎる。
邪神から聞いた話ではすべての黒幕だ。奴に違いない。
「腹立たしいことに、たぶんそれすら創造主様の手の内だ。
魔王と勇者の殺し合いで、僕が黒幕気取りで余計なチャチャを入れた場合、
魔族と人間が僕相手に結託するルートに入る。
聖剣なんてものをチラつかせて、自分の存在を僕にアピールしたのもきっと
『裏ボス』の存在を僕から示唆させるためだろう。」
覆面に隠れた邪神の顔は伺えないが、
歯ぎしりの音から悔しさがにじみ出ていた。
「だがそんな創造主様も、あの殺し合いを開いて
周到な計画も役割もわざわざ壊したわけだよ」
188
:
過去確定・変われない役割
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/03(日) 00:01:33 ID:NlAx5Fro0
「わかるかい?サキュバス。
裏ボス様が自分で壊した物語を、役割を
破壊神という機構として作られた、僕が継ぎなおして終わらせる。
最高の復讐じゃないか。」
「………」
「幻滅したかな?」
「いえ、結構見直しました。
てっきり何も考えてないものかと思って心配しましたよ」
「言うね君」
「もしも、勇者や魔王様の記事を見ても、
そのあとに続こうとする者が現れなかったらどうします?」
「どうもしない。
それで終わった、そう読者が思ったならそれでいいさ」
あの戦いで失われたものは多い、みな、創造主の勝手な都合で自分の物語から途中参戦したものばかりだった。
それが周知されるというのは、結構悪くないことだ。
流石邪神様!考えがお深い!
サキュバスはそう思った。
「ほら、僕って邪神だし、裏方に回るのさ。邪神らしくね。」
「…わかりました」
「さて、それじゃあ行ってくるよ」
「どちらへ?」
「取材だよ」
189
:
過去確定・変われない役割
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/03(日) 00:03:26 ID:NlAx5Fro0
邪神は扉の向こうを指さす。
「まだわかることもあるかもしれない。
まだ取り込める破壊もあるかもしれない。
まだ他の世界に続く扉があるかもしれない。
今度は完全に崩壊するまで根気強くやってみるよ」
「長くかかりそうですね…」
「大丈夫、この扉は開けたままにしておくからラスボス戦が必要なときは呼んでくれ」
ディウスを倒し、復活を果たした剣神龍次郎、創造主を倒した新田拳正、光の賢者ジョーイ、
新たなカウレスならぬ勇者や魔王の意を継ぐものが邪神の脳裏をよぎる。
いつか自分も、彼らに負けるのだろう。
邪神は最後にこう残してこの世界を去った。
「また会おう。」
190
:
◆VJq6ZENwx6
:2019/11/03(日) 00:04:27 ID:NlAx5Fro0
以上で投下終了です。
191
:
名無しさん
:2019/11/04(月) 14:34:16 ID:4CyXU4B.0
投下乙
龍次郎に続いて復活するリヴェイラさんで笑った
しかしWAαさんも邪神(裏ボス)さんもそうだけど、世界の終わり以外にも「彼らにとってのエンディング」があったんだなあと感慨深くなった
あとナノマシンで無理矢理延命してWAさん殺しに行く先代殺し屋組織トップヤバすぎない????
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