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オリロワ2014 part3

107THE END -Somebody To Love- ◆H3bky6/SCY:2019/02/17(日) 23:25:31 ID:yyQSrX5o0


刻限を過ぎても、首輪は爆発などしなかった。


ただ静寂の中で時が過ぎていった。
首輪は爆発する事もなく、ユキの首は繋がったままである。

だが、刻限を過ぎたと言えども、すぐさま安心などできるはずもない。
ただ単に処刑の実行が遅れているだけという可能性は大いにあった。
それを考えれば死を待ち恐怖する地獄の時間の延長でしかないだろう。

その間もユキは自らの握った拳を震わせ、唇をかみしめ、ギュっと目を瞑りながら沙汰を待っていた。
緊張に血の気の引いた青白い顔で、僅かにカサついた唇を震わせる。

「プッ…………………………ハッ…………ハッ………………ハァッ!」

深海から浮き上がる様に息を吐く。
浅く早い過呼吸気味の呼吸を繰り返す。
こんな極限の緊張状態はいつまでも続けられるものではなかった。
どれ程の覚悟があろうとも、いくらなんでも精神が持たない。

いくら待てど爆発する気配はない。
これは流石にこれはおかしい。
数分が経過したところで、周囲で見守る九十九たちもそう感じ始めた。
主催者側に何らかの不備があって爆破がされないのではないか?
そんな可能性すら頭をよぎり始めた。

「……大丈夫…………なのかな?」

九十九が恐る恐ると言った風にユキへと近づいて行く。
僅かに遅れて、険しい表情をした拳正もそれに続いた。

「まさか、油断させてドカンなんてことはねぇだろうな」
「それは…………どう、かしら」

悪趣味の極みの様な男だ、その可能性がないとも言い切れない。
だが、あの男の悪趣味さはそういう類の物とは少し違う気もする。
あの男の悪趣味さは人を人とも思わず自分のために使い潰す醜悪さであり、わざわざ恐怖を煽ってその様を楽しむほど人間に興味があるようには思えなかった。
それも、あくまで印象に過ぎず、確信など何もないのだが。

「…………ど、どういう事なんだろう?」

誰もが思っていた疑問が九十九の口からぽつりと漏れた。
何故助かったのか。その原因が分からない以上、助かった事を手放しに喜ぶこともできない。
このままでは何時までも不気味さが喉元に付きまとって、それこそ生きた心地がしない。
いつ死ぬともわからぬ状況では次の行動にすら移せなかった。

「――――爆発しないのだから、その首輪は機能していないという事なんじゃないかしら」

答えなどが返ってくる事を期待して口にした物ではなかったのだが、それに答える鈴の音の様な涼やかな響きがあった。
しゃなりと影を踏みしめ現れたのは華奢な女のシルエット。
月明かりに照らされ影のベールが払われて行き、その姿が露わとなる。
それが何者であるかを認め、ユキが目を細めた。

「覗き見とは趣味が悪いですね――――――音ノ宮先輩」
「あら、ちょうど今来たところよ、そう言ったら信じてくれるかしら?」

余りにも平然と吐かれた言葉にユキが不機嫌そうに眉根を寄せる。
とてもじゃないが信じられる言葉ではない。
いや、信じられる相手ではないと言った方が正確だろうか。

余りにもタイミングが良すぎる。
元より妙な苦手意識がある相手がこのタイミングで現れて信用できるはずもない。
恐らく遠巻きに先ほどまでのやり取りを眺めて修羅場だったからタイミングを見計らっていたのだろう。
仮にユキが死んでいたところで、改めてタイミングを見計らって平然とした顔で拳正と九十九の前に現れていたに違いない。

「こんばんは。そちらのお二人は初めましてになるかしら?
 私は音ノ宮亜理子。神無学園の3年だから一応あなたたちの先輩という事になるわね」

余りにも平然とした態度で亜理子は九十九と拳正に語りかけた。
拳正は突然現れた亜理子を警戒しているのか無言のまま僅かに身を引いている。
九十九はユキの首輪の問題から突然な亜理子の登場という混沌極める事態の転換についていけておらず、ひとまず挨拶されたのだから返さねばと名乗り返そうとしたが。

「あ、ええっと。私は、」
「知ってるわよ、一二三九十九さんにそちらは新田拳正くんでしょう? 我が校の有名人ですものね」
「え。は、はあ」

それを制して、亜理子はまるで子供をあやす大人のようにくすりと笑う。
その様は九十九たちと一つしか違わないと思えないほどに大人の余裕を湛えていた。


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