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【R-18】断章のグリムif 『カエルの王子さま』【非安価】

1いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 22:36:09 ID:J.wPzR7Y


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                  【R-18】断章のグリムif 『カエルの王子さま』【非安価】




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    .」lコ  /       /:V:::::ヽ:::ヽ:::ヽ:::\::::::ハ                    /イ      /      /         |  |
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  . ヽ           /:/- _ …'イ:::::::::::ゝ_:::ヽ::、 ̄`                       |          /:|        tゥ‐ \
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.|      , ≦彡ニニ/ニニニニニニニニ.ヽ!  ヽ /                        /二 ∧|/}/\l :|/                 厂
 __.. ≦彡彡ニニ./ニニニニニニニニニニニl>、                       -‐=≦/二ニ≧s。           ≧=‐-  -‐='′
≦≪<ニニニニニ/ニニニニニニニニニニニニニ} ヽ                    -=ニニニ{ニニニニニニ≧=‐-   -‐=ニ二´ニ∧
.三三三/ニ /ニニニニニニニニニニニニニニ,’                      -=ニニニニ{二二二二ニニニニニニニニニニニニ∧
.三三/ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニ,i                      -=ニニニニニ\ニニニニニニニニニニニニニ,,..。s≦ニ\
.三/ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニニリ                 -=ニニニニニニニ≧s。 二二二二ニニ,,..。s≦二ニニニニ≧=‐-ミ
./ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニニニニ}                    -=ニ二二ニニニニ/ニニニ ≧=‐--‐=≦ニニニニニニニニニニニニ丶
.ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ{                   -=ニ二二二二ニニ/二二二二二ニニニニニニニニニニニニニニニニニ \



●注意事項
 ・本作は甲田学人著『断章のグリム』二次創作です。独自解釈等も含まれるので御留意ください。
 ・文章+AA挿絵形式の非安価スレです。
 ・本作は「いが ◆K/oR.weXaA 」と「ice ◆53Ok1gX4xs 」の合作となります。
 ・やや刺激に強い表現が入る可能性があります。
 ・断章のグリム(甲田学人/三日月かける)は電撃文庫より全17巻発売中(完結済)。読め。

○作者現行雑談スレ
【R-18】いが ◆K/oR.weXaA の饅頭的駄弁り場 7軒目
ttp://yaruos-ark.sakuratan.com/test/read.cgi/reppua7m1/1452696758/

【R18】ice ◆53Ok1gX4xsの雑談・短編所 二冊目
ttp://yarufox.sakura.ne.jp/test/read.cgi/FOX/1525319551/

62いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 14:49:07 ID:6Ty2GvU6
大変お待たせ致しております。
今晩21時頃を目処に、side:大城恵の第二話を投下します。

63小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/24(日) 17:18:49 ID:.4OB2hBE
わーい

64小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/24(日) 18:47:15 ID:HeTuO2Vo
わくてか

65いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:01:19 ID:8mfkdII.
クリック?

66いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:15:58 ID:8mfkdII.
あい!お待たせ致しました。

では第二話投下します。

67いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:18:27 ID:8mfkdII.





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             断章のグリムif 『カエルの王子さま』 side:大城恵 part2


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68いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:19:35 ID:8mfkdII.


――――――――――――――――――――



「にゃあお」

 ブロック塀の角を曲がると、次の交差点にちょこんと座る黒猫が見えた。
 近付けば、身を翻してまた消える。
 猫を追って大城恵は路地を進んだ。

 一見すると普通の猫だが、これは<断章>である。
 物理法則は関係ないし大城以外の他人から見えることもない。
 まるで瞬間移動でもしているように、黒猫は大城を誘う。

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69いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:21:01 ID:8mfkdII.


 ―――――プルルルルルル。


「ん」

 ポケットの携帯電話が鳴った。
 猫の行き先を確認しつつ、手探りに応答する。

「はい、大城です」

『此方深谷。先行してる<騎士>さんってのはこの番号で大丈夫でしょうかね?』

 若い男の声だ。落ち着いていて、思慮深い印象を受ける。

「ああ、どうも。先行して調査中の大城恵です。宜しくお願いします深谷さん」

『よろしく、大城さん』

 至って普通のやり取りに、内心僅かに安堵する。
 戦闘に堪えうる<断章>を持つ<騎士>は、精神的に不安定な者が多いのだ。

 <断章>は神の悪夢と混ざりあったトラウマであるが故に<騎士>の精神性にも近しい。
 攻撃性が強い<断章>を持つということは、凄烈な<泡禍>に遭遇したとほぼ同義である。

 だが彼―――深谷という<騎士>は、少なくとも平時はそうではないらしい。
 連携がしやすくてとても助かる。


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70いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:22:35 ID:8mfkdII.

『状況は?』

「調査開始して……1時間くらいですかね。まだ特に何も」

『ああ、まだ着いたばかりと』

「今は住宅街で<断章>を使って調査中です」

『現在地は?』

 きょろりと見渡して、電信柱に貼り付けられた板を読み上げる。

「今は―――町の三丁目に」

『ええと……そこまで離れてはいないかな?』

 そのはずである。出てきたばかりであるし、ゆっくり移動しているのでセーフハウスからはまだ近い。

「一度そちらへ戻ります。情報交換をしておきたい」

『了解、それでいこう』

 段取りを考えつつ、猫に続いて角を曲がった時。

「あっ……」

「おっと」

 丁度こちらへと曲がってきた通行人とぶつかりそうになり、慌てて避ける。

「失礼しました」

「あ、いえ……こちらこそ……」

 軽く頭を下げた大城に、相手も申し訳なさそうに慌てて頭を下げた。
 相手は女性だった。
 歳は30代半ばといったところだろうか。長い髪を緩く纏め、やや暗い雰囲気を漂わせている。

 その足元を黒猫がするりと抜けていった。

 追わなければならない。もう一度大城は頭を下げて通り過ぎ、意識を電話に戻す。

『どうしました?』

「―――失礼、通行人がいて。では一度セーフハウスで……?」


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71いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:26:03 ID:8mfkdII.



 合流の段取りを立てようとした時、何かが意識に引っ掛かって、すん、と鼻を揺らした。

 僅かな異臭。

 何だろう、と内心首を傾げて、すぐ正体に思い至る。
 水の臭いだ。
 学校の中庭にある放置された池のような、澱んだ水の臭い。

 近くの民家に池でもあるのだろうか、と周囲を軽く見渡して。

「……………………え?」

 細い路地裏の暗がりに、それを見た。

 二本の足でゆっくりと歩くそれは、しかし人間では有り得なかった。


 肌はまるで水に浸かったまま腐ったようにぶくぶくと膨れ上がり。
 べちゃり、べちゃり、と湿った音を立てて歩く。
 ゆらりと顔面も定かでない頭部が揺れ。
 喉に空いた風穴からはだらりと舌部が垂れ下がり、動きに合わせてぷるぷると震える。


「う―――………っ!」

 込み上げる嘔吐感に、反射的に口を押さえた。

 仕事柄、怪物との遭遇経験はそれなりにある。追われて逃亡したことだってあった。
 それでも今回の……絶妙に人の形を残し、しかし人間では有り得ない造形は本能的な恐怖を突き上げる。

 しかし今は耐えねばならない。
 義務感で嫌悪を抑え込み、電話口に小さな声で告げた。

「―――<異形>を発見!」

 ぐるり、と回った<異形>の顔が―――こちらを向いた。





                             ___________|\
                            [|[||  To Be Continued....!    >
                              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/

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72いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:26:44 ID:8mfkdII.
以上。side:大城恵の第二話でした。

次回をゆるりとお待ち下さい。

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74小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/25(月) 01:53:57 ID:y254UDwU
おつおつ

75小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/25(月) 16:04:56 ID:HBf0B2U2
乙でした
まさか断章のグリムの原作アフター二次があるとは……

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77ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/01(日) 15:24:15 ID:tOakU5WY
はいどうも。
次回投下予定は7/7です。

78ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:19:28 ID:Sl3z5Oxo
クリック? クラック!
というわけでside:眠り姫第三話をお届けします。

79ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:22:06 ID:Sl3z5Oxo




/side 『眠り姫』3



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80ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:22:45 ID:Sl3z5Oxo

一際大きくがたん、と音を鳴らし。
新幹線は目的の街まで辿り着いた。

都会、という程には栄えているわけではなく。
田舎、というには余りに人や物が多い。
地方都市、或いは近隣で最も栄えている街。
そんな形容がぴたり、と当て嵌まるような街模様。

視界に映る、中心から外れた円周部には山々や田畑が見受けられる事も。
俺の最初に抱いた感想に拍車をかけていた。

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81ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:23:28 ID:Sl3z5Oxo

『それで?』
「変に思われるから黙ってろ……セーフハウス、拠点に行く。」

マフラーに口元を埋め、文字通り囁く程度の音量での通達。
独り言、そして異様な子供っぽさが目立つ青年。
それが、俺の地元での評価であり。
同時に、周囲に人が寄ってこない要因でもあった。
……《断章詩》の都合上、それらは歓迎する事だったけれど。

人は疎らではあったけれど、俺がこれからする行動ははっきり言って異常な行動に他ならない。
だからこそ、出来れば。
何も知らない人から妙な目線で見られる事は避けようと、足早に駅前から離れて行った。

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82ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:25:31 ID:Sl3z5Oxo

※※※


閑散とした住宅街の隅にひっそりと建てられた、築数十年も経過したのだろう一軒家。

      ・ ・
それが、俺達に用意されたセーフハウスだった。

携帯に送られていたメールから住所をもう一度確認。
鍵の在処が記されたそれを参考に発見し、中へと足を踏み入れた。

長年経った独特の匂いが鼻に刺さる。
喉元まで戻り掛けたそれを気合いで嚥下し、一通り中を確認。
見知らぬ荷物が一室に置かれていた――――既に、別の《騎士》は到着済みらしい。
その荷物が置かれた隣の部屋に荷物を降ろし。

一息付いて、街中へと出る。
どう見ても不審者に見えるような、子供向けの製品を身に纏い。
黒いコートに身を包んだ姿。
それは、二重にも三重にも暴発を防ぐための精神のスイッチに他ならず。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仮に無かったとしても問題は無いけれど――あった方が安定する。
そういった類の、《騎士》としての正装だった。

『それで何処に?』
「……街中の散策だよ。」

普段であれば、無視するような言葉でさえ。
《騎士》として動く時は、反応するしかない。
彼女がいなければ、俺は唯のトラウマを抱えた一般人に過ぎないから。

      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――――彼女越しでなければ、発動できない《断章》だから。

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83ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:27:53 ID:Sl3z5Oxo

街へと躍り出、片手に握った携帯に番号を打ち込む。
幾度かのコールの後、男性の声が耳元に届いた。

『もしもし、大城です。』
「此方深谷。 先行してる《騎士》さんってのはこの番号で大丈夫でしょうかね?」

聞こえてきた声は、少しだけ落ち着いた声。
俺よりも何歳か年上だろうか?
そういった、男性の声。

『ああ、どうも。先行して調査中の大城恵です。宜しくお願いします深谷さん』
「よろしく、大城さん」

先行調査中。
彼がどういった《断章》を持つのかが分からないけれど。
大きく分けて、戦闘向けなのか調査向けなのかによってもこれからの方針は決まる。
まずは合流を優先したほうが良いか、と一度唇を舐めた。

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84ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:28:57 ID:Sl3z5Oxo

「状況は?」
『調査開始して……1時間くらいですかね。まだ特に何も』

……未だ到着したて。
ほんの少しのズレ程度だったのか。

「ああ、まだ着いたばかりと」
『今は住宅街で<断章>を使って調査中です』

そして、この言葉で調査向けなのが確定した。
基本的に戦闘向けでない《断章保有者》……例を挙げるなら《葬儀屋》だろうか。
そういったサポート向けの能力を持った人物は、可能なら単独行動はさせたくないのだが――――。

「現在地は?」
『今は―――町の三丁目に』

近くの電信柱を見る。
二丁目。
ならば、大した距離ではないと判断する。

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85ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:29:44 ID:Sl3z5Oxo

「ええと……そこまで離れてはいないかな?」
『一度そちらへ戻ります。情報交換をしておきたい』
「了解、それでいこう」

動向も確定。
電話を肩で保持しながら、事前に印刷してきた市内の地図を指で追う。
ほんの数本道を移動すれば直ぐ。
何処かで合流できれば僥倖だろうか。
やや早足になりながら、地図を折り畳み――――。

なにか、電話の向こうで話す声が聞こえた。

「どうしました?」
『―――失礼、通行人がいて。では一度セーフハウスで……?』

声が、途切れる。
思考が巡り、咄嗟に駆け出していた。
眼の前の十字路を、左折。
そのまま数本進んだ先の、何処か。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そこに、何かがいる。

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86ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:30:42 ID:Sl3z5Oxo

『う―――………っ!』

電話越しから聞こえる、呻き声。

「リーチェ、先行しろッ!」
『先行? お姫様みたいに、待ってろって?』
「ああ、もう其れでいい! 頼む!」

誰もいない空間への叫び声。
眼の前の、宙に浮いた少女がふわりと消えていく。

――――唯の、泡禍では済まない。
そんな、直感が支配していた。

右手をポケットに詰め。
其処に入った……小さな指輪を握り締め。
左手で電話をスピーカーに切り替え、走る。

『―――<異形>を発見!』

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87ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:32:03 ID:Sl3z5Oxo

声に、数十秒ほど遅れてだろうか。
彼女の姿が、一つの角で止まっているのが見える。
小さく、笑いながら。
口元だけを、歪に歪めて。
早く来て、と。 囁くように。

だから。
曲がり角を曲がる前に、息を絶えさせながら、枯れた声で叫んだ。

「此方に走れ!」と。

俺の持つ《断章》は、ある程度なら操作出来る。
だが、飽く迄ある程度に過ぎない。
距離が、近すぎれば――――巻き込むのだ。
一切の容赦も、感情もなく。
そういうものだ、という現象でしかない故に。

その声に、反応したのかしないのか。
角から2つの顔を覗かせた。
それに気取られる余裕もなく。
角を曲がった先。
〈異形〉の――――姿を見た。

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88ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:33:04 ID:Sl3z5Oxo

水に浸かったような膨れ姿。
目と、頭と――――。
ぷん、と香る腐臭にも似た黴臭さ。
喉から垂れるのは、恐らく舌なのだろう。
人でない程の。
或いは、人でもあれ程に長いのか。
震えながら、一歩一歩と近寄ってくるそれに。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
毅然と対応させられながら。

「リーチェッ!」
『……分かってるわ。』

彼女を、その怪物と重ねて見る。
視界に捉える。 右手で、指輪を強く握る。
《断章》を、発動させる条件を揃えた。
暴走を防ぐための、幾つかのセーフティを揃えた。

だから――――。

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89ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:33:55 ID:Sl3z5Oxo



《――――ずっと、大好きッ!》


過去の。
リーチェが、腐り。
腐臭を漂わせる、肉塊になった姿を想起して。
ただ一言、叫ぶ。


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90ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:35:01 ID:Sl3z5Oxo

変化は、劇的に。
リーチェの姿と共に、怪物が腐り落ちていく。

腐敗していく。
時計を早回ししたように。
本来ありえない速度で。
生きたままに。
苦痛を覚えたまま、意識を保ったまま。
腐り落ちていく。

喉元に、酸味を感じて嚥下した。
鼻の奥がつん、と痛み。
その〈異形〉が、どろどろに溶けるまで。
恐らく、数十秒も掛からなかっただろう。

「…………もう良い。」
『あら。 ……まあ、私も良い気分ではないものね。』

後に残ったのは、何かが溶けたような小さな溜り。
そして、元の姿に戻ったリーチェ。
……吐き気を抑えながら。
指輪から、手を離した。

/side4に続く

91ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:35:27 ID:Sl3z5Oxo
はつかねずみが、やってきて。
次回をお楽しみに。

92小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/07/07(土) 13:21:48 ID:uXlT9PCA
乙です
溶ける?断章なのか

93小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/07/07(土) 17:34:56 ID:htnaOvEw
おつおつ

94いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:11:17 ID:S//3ACHk00
皆々様、あけましておめでとうございます。

長らくお待たせ致しました。

side:大城恵の第三話をこの後投下させていただきます。

95いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:13:02 ID:S//3ACHk00
と、sageを外し忘れていましたね。失礼。

96小さな名無しさん@この板は300レスまで (ワッチョイ 5506-d230):2019/01/05(土) 20:23:51 ID:q0yBgeX600
ワーイトウカダー!

97いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:31:12 ID:S//3ACHk00
ありがとうございます。では、始めます。

98いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:32:24 ID:S//3ACHk00





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             断章のグリムif 『カエルの王子さま』 side:大城恵 part3


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99いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:33:40 ID:S//3ACHk00

―――――――――――――――――――――――――――――



「―――<異形>を発見!」

 その言葉に反応するように、目の前の<異形>がこちら向いた。

「……………っ!」

 恐怖に背を向けて走り出したくなる身体を理性で押さえ、じりじりと後退する。

 こちらを見ているのか見ていないのか。
 膨れた眼窩を向けて、べちゃり、べちゃり、と歩み寄ってこようとする<異形>。

 その動きは鈍い。
 曲がらぬ膝を投げ出すように一歩一歩を踏みしめる。
 移動速度は、常人が歩く程度。
 大城が軽く走れば振り切れるであろう緩慢な追走だ。

 しかし念のために、いつでも走れるように構えながら後退しつつ。
 調査員としての役割―――対象の観察に努める。


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100いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:35:19 ID:S//3ACHk00



 この<異形>は、歪ではあるものの概ね人型をしている。
 こちらを向いている以上、何らかの感知能力は有り。
 眼球は露出しておらず、視界があるようには見えないが……顔を向けていることから視えているのか、あるいは音なのか。
 攻撃能力は不明。
 今のところはこちらに向かって緩慢に歩くのみで、何かをしてくる様子はない。
 ごろろろ、と時折喉が鳴るのが不気味だ。

(耐久力は―――いや、迂闊な刺激は危険か?)

 これほど動きが鈍いのならば、棒きれか何かでの対処も可能かもしれない。
 しかし攻撃行動を引き金に反撃を行う可能性も高い。

 何かすべきか、と迷った―――その時。

「―――此方に走れっ!」

 男の枯れた叫び声に、反射的にそちらへと身を翻した。


.

101いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:37:15 ID:S//3ACHk00



 数歩を踏んで角を曲がれば、通りへ出る。
 駆ける先には一人の男の姿。

 年若い青年だ。
 見目良く整った顔立ちに細い身体だが、今は汗を浮かべて真剣な表情でこちらを睨んでいる。

 先程の声はこの青年のものだろう。
 足を緩めず、真っ直ぐに駆け寄っていく。

 ふと、男の視線が外れる。
 大城ではなくその後方を見遣り―――胸元で拳を握り、苦悶の表情で叫んだ。


「《―――ずっと、大好きッ!》」


 ぞくり、と呼応する胸を押さえて彼の横を駆け抜ける。

 悲痛なる愛の言葉は彼の《断章詩》。
 その《効果》がわからぬ以上、大城にできるのは効果対象から離れるのみである。

 数歩を踏み、ゆっくりと止まって振り向いた時。
 追い縋っていた《異形》は溶けるように崩れ去るところだった。



―――――――――――――――――――――――――――――

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102いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:39:27 ID:S//3ACHk00



―――――――――――――――――――――――――――――


「―――ではひとまず、休んでください。情報を纏めておきますので」

 《騎士》深谷とともにセーフハウスへと戻った大城は、お互いの情報を交換し合った。
 保有する《断章》の説明。深谷が受けた《索引ひき》の予言。これで当面の方針は定まった。
 あとは動くだけという状態なので、大城は深谷を休ませることにする。

「い、いや……あまり悠長にもしてられませんよ。既に《異形》も出てるのに」

「その酷い顔つきを見て、じゃあ周辺を警戒しましょうかと言えますか」

 とても平常とは言い難いものだった。。
 顔面は蒼白。息はやや荒く、身体が前に傾いでいる。明らかに消耗していた。

「急ぎの状況なのは理解してますが、だからこそ今は休んで貰いたい」

 こんな体調の人間に「私は情報を集めるので周辺を歩き回って下さい」といえるような外道になったつもりはない。……言える人間が《騎士団》にはそれなりに存在するが。
 《騎士》ならば死を覚悟してでも踏ん張る気概はあるにしろ、それは今ここでの話ではない。



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103いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:41:03 ID:S//3ACHk00



「自慢じゃありませんが私は戦闘能力が皆無です。貴方に倒れられたら自衛も危うい。動く際には声を掛けますので少しでも体力を温存してもらいたい」

 自虐も交えて念を押すと、察したような表情混じりにようやく折れてくれた。

「……では奥の部屋で一休みしてきます。何かあったら呼んで貰えたらすぐ出てきますんで」

 そう言い残して深谷は割当の部屋へと消えた。
 頻繁に意識がこちらから逸れた風もあったので、見た目以上に消耗しているのだろう。
 長距離の移動から、間髪入れずに断章を用いての戦闘だ。無理もあるまい。

「さて」

 実働担当が休んでいる間に、こちらの仕事を進めよう。
 《騎士》としての仕事用である大きな鞄からノートパソコンと通信機器一式を、懐からスマートフォンを取り出す。

 ノートパソコンを立ち上げている間に、先んじて調べていた電話番号をダイヤルする。

『はい、こちら警察です。如何なされましたか?』

「不審者を見かけたのですが……」

 かけたのは警察への電話。非緊急時用の番号だ。
 不審者の通報、という体で《異形》の目撃情報を聞くためだ。


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104いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:43:28 ID:S//3ACHk00



「ええ、ドロドロの服、でしょうかあれは……ええ多分男です。他の方も見たりは……ああ、ありがとうございます」

 僅かに情報を得て、電話を切る。

「既に数件の通報がある、と……」

 立ち上がったノートパソコンにメモをしておく。
 幸いにも口の軽い担当者で、通報のあった地域を教えてくれた。
 既に巡回の強化を検討中だという。
 公開されている不審者情報にも似たような内容はあったが、警察の対応状況までは分からない。

「……警察で対処は、まあ無理だろうな」

 単に《潜有者》を処理して終わりならまだ可能性もあるが、これは童話規模まで拡大した《泡禍》である。そう上手く行くものではない。
 《異形》を薙ぎ倒し《泡禍》の発生源を処理して、尚止まらぬ可能性すらあるのが童話型の《泡禍》というものだ。

 ……と偉そうに思考してみたところで、対処能力としてはこちらも大差ない。
 見えた怪異に対抗するしかないのが現状だ。


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105いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:44:46 ID:S//3ACHk00



「童話……童話ね……」

 先程の情報交換で聞いた話に思索を向ける。
 奇妙な『《泡禍》を予言する《断章》』。それが今この地に関わっている可能性があるのだと。

 深谷から聞いたその童話名を検索サイトに打ち込む。
 その名は―――

「―――『カエルの王さま』」

 あるいは『かえるの王子さま』とも言われるグリム童話の一つ。


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106いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:45:53 ID:S//3ACHk00



―――――――――――――――――――――――――――――

 ……ある国の王女が、ある日森の泉に大切な金の鞠を落としてしまった。
 困る王女の前に一匹のカエルが現れ「自分を王女様の友達にしてくれて、隣に座って同じ皿から食事を取り、あなたのベッドで寝かせてくれるのなら、拾ってきてあげましょう」と言った。
 王女はそれを受け入れて、カエルは約束通り金の鞠を取ってきたが、王女はカエルを置き去りにしてお城へと駆け戻ってしまった。

 翌日、王女とその家族が夕食をとっていると、件のカエルが城を訪ねて約束を守ってくれと求める。
 王女は嫌がるが、王は約束を守るようにと聡してカエルと共に夕食を取らせた。

 夕食を終えると、カエルはベッドで一緒に寝て欲しいと求めた。
 王女は泣いて嫌がるが、王に命じられてカエルを寝室へと連れて行く。

 共に寝るのは嫌だと寝室の隅にカエルを置いて一人で寝ようとすると、カエルは「自分を同衾させてくれ、さもなくば王に言いつける」と抗議した。
 これに怒った王女はカエルを壁に叩きつけようとしたところ、カエルは立派な王子の姿となった。
 王子はカエルの魔法をかけられていたのだった。
 王たちはこれまでの非礼を詫び、共に暮らした二人は仲良くなり婚約をすることとなる。

 しばらくの後、王子の母国から家来のハインリヒが馬車で迎えにやってくる。
 ハインリヒは王子がカエルになってしまった折、哀しみに胸が張り裂けそうだったので胸に三本の鉄帯を巻き付けていた。
 無事に人へと戻れた王子と、花嫁となった王女を連れて祖国に戻る道中、巻き付けた鉄帯は喜びによって大きな音を立てて外れていくのであった……

―――――――――――――――――――――――――――――


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107いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:48:03 ID:S//3ACHk00




「……なんとなく聞いたことがある……ような……?」

 という程度の認識しかない。大城にとっての童話や御伽噺とは子供の頃に読んだくらいの縁しかない。
 しかし現状においては最大のヒントだ。素人なりに思考する。

 この童話における登場人物は、特に主要なものはカエルになった王子。そしてそれと出会う王女。
 次に彼らを動かすこととなる王女の父親、王様。
 そして人間に戻った王子を迎えに来るハインリヒだ。

 影響が大きそうな要素は、やはり『カエル』だろうか。
 『カエルの王さま』は王子がカエルになり王女と出会うことから始まる。人間がカエルになるというのはなんとも怪異らしいではないか。
 先程遭遇したあの《異形》が人間から『カエル』へと転じたものであると考えられる。


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108いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:51:19 ID:S//3ACHk00



 しかして《泡禍》に呑まれた以上、壁に叩きつけたら元に戻るなどという都合の良いことは考え難いが……

「だからなんだって話だよなあ……」

 頭を抱える。
 仮に予想通りあの《異形》がカエルだったとして、それが複数いるのは確定的だ。
 人間に戻ってエンドという童話の収束は既に破綻している。

 元凶がいるとすれば『王子をカエルにした何者か』。
 カエルに転じた人間―――即ち行方不明者の身元を探っていけばなにか掴める可能性はある。
 というか現状できることはそれしかないだろう。

「いつも通り地道に足を使った調査、かあ……得意だけどさ、そういうのは……」

 独り言ちながら、童話の内容をコピーしてファイルに纏めていく大城であった。



―――――――――――――――――――――――――――――



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                            [|[||  To Be Continued....!    >
                              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/

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109いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:52:12 ID:S//3ACHk00
Side:大城恵・第三話は以上となります。次話をゆるりとお待ち下さいませ。

110小さな名無しさん@この板は300レスまで (ワッチョイ 91d8-3f77):2019/01/05(土) 21:03:31 ID:xKJxtdpI00
乙でしたー

111小さな名無しさん@この板は300レスまで (ワッチョイ 3773-69f3):2019/01/07(月) 22:09:49 ID:gBP7xeHY00
おつー


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