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【R-18】断章のグリムif 『カエルの王子さま』【非安価】

1 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/03(日) 22:36:09 ID:J.wPzR7Y


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                  【R-18】断章のグリムif 『カエルの王子さま』【非安価】




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.|      , ≦彡ニニ/ニニニニニニニニ.ヽ!  ヽ /                        /二 ∧|/}/\l :|/                 厂
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≦≪<ニニニニニ/ニニニニニニニニニニニニニ} ヽ                    -=ニニニ{ニニニニニニ≧=‐-   -‐=ニ二´ニ∧
.三三三/ニ /ニニニニニニニニニニニニニニ,’                      -=ニニニニ{二二二二ニニニニニニニニニニニニ∧
.三三/ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニ,i                      -=ニニニニニ\ニニニニニニニニニニニニニ,,..。s≦ニ\
.三/ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニニリ                 -=ニニニニニニニ≧s。 二二二二ニニ,,..。s≦二ニニニニ≧=‐-ミ
./ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニニニニ}                    -=ニ二二ニニニニ/ニニニ ≧=‐--‐=≦ニニニニニニニニニニニニ丶
.ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ{                   -=ニ二二二二ニニ/二二二二二ニニニニニニニニニニニニニニニニニ \



●注意事項
 ・本作は甲田学人著『断章のグリム』二次創作です。独自解釈等も含まれるので御留意ください。
 ・文章+AA挿絵形式の非安価スレです。
 ・本作は「いが ◆K/oR.weXaA 」と「ice ◆53Ok1gX4xs 」の合作となります。
 ・やや刺激に強い表現が入る可能性があります。
 ・断章のグリム(甲田学人/三日月かける)は電撃文庫より全17巻発売中(完結済)。読め。

○作者現行雑談スレ
【R-18】いが ◆K/oR.weXaA の饅頭的駄弁り場 7軒目
ttp://yaruos-ark.sakuratan.com/test/read.cgi/reppua7m1/1452696758/

【R18】ice ◆53Ok1gX4xsの雑談・短編所 二冊目
ttp://yarufox.sakura.ne.jp/test/read.cgi/FOX/1525319551/

44 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/08(金) 20:49:48 ID:5hGPSAsM
はい。

45 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/06/08(金) 21:01:38 ID:cv/jXSMY
おつおつ

46 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/06/08(金) 21:51:00 ID:q3Ll4j06
乙ー
原作もカラー部分と章の区切りの最後にあるくらいだからね……
まあ、話読んでるとこれくらいでよかったと思いたくなるけどw

47 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 20:50:18 ID:0EnU3l7k
はいこんばんは。
いい加減書かないと怒られそうなので二話を21時からぶん投げます。

48 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:02:53 ID:0EnU3l7k
では始めます。

49 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:03:04 ID:0EnU3l7k



二二二二>=‐-..,,_____,,.ィ 二ニ=く⌒}ー____                _____________――― ―
二二二二二二二二二二二二二二二',二二二二jノ⌒ヽ厂r-ヘ、__  ∠====================――
.  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ヽ二二 ̄ ̄ ̄ ̄)二二二二ー‐く二二二二二二二二ア´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー=二二(__√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

                             /side 『眠り姫』2

二二二二>=‐-..,,_____,,.ィ 二ニ=く⌒}ー____                _____________――― ―
二二二二二二二二二二二二二二二',二二二二jノ⌒ヽ厂r-ヘ、__  ∠====================――
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ヽ二二 ̄ ̄ ̄ ̄)二二二二ー‐く二二二二二二二二ア´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー=二二(__√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



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50 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:04:52 ID:0EnU3l7k


《グランギニョルの索引引き》。


それが、俺に聞こえた声の正体。
《断章》名だと。
虚勢半分、混乱半分の俺に。
電話越しの《世話役》は、彼の知る限りの情報を伝えてくれた。


曰く、『童話化する《泡禍》を告げる《断章》。』
曰く、『予言された対象は、配役として巻き込まれる事が確定する。』
曰く、『その《泡禍》の解決には、予言された《童話》について追求する事を強く勧める。』


何故そこまで詳しいのか。
それに関しては、若干言葉を濁らせながらも返ってきた返答が一つ。
彼……木之崎自身も、以前に関わった事があり。
そして、その《断章》の保有者を現在預かっている為なのだと。

51 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:10:30 ID:0EnU3l7k

そこまで聞いて、漸く彼の名前を思い出した。
嘗ての《叢草ロッジ》での騒動での、主要人物。
何処で聞いたのか、或いはなぜ俺に教えるのか。
その問いを全て、猫の様な小憎らしい笑顔で封殺していた《チェシャ猫》は、もういない。

『童話に関して、詳しい《騎士》が一人いる。』
『直ぐに連絡を取ってみる。 連絡先を伝えておいても構わないか?』

了承の意を告げた。

もう一人か二人、送れる《騎士》を送る、と。
その言葉を最後に、彼との話は途切れた。

残ったのは、胸に残る異様な――――《泡禍》に関わった時特有の。
吐き気と、後悔と、絶望を綯い交ぜにしたような胸糞悪さ。

そして、目の前で俺を見つめる《悪夢の泡の残滓/リーチェ》。

52 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:14:31 ID:0EnU3l7k
 ・ ・ ・ ・ ・
『どうするの?』

分かりやすい程の、悪意と善意が同居した顔。
真正面から決して見据えられない。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ずっと昔から変わらない、変われない子供特有の笑顔を浮かべている彼女。

無言で,ゴミを抱えて立ち上がった。
机に潜り込むように、彼女は下を擦り抜けて耳元で囁いた。

『頑張って、私の《王子/騎士》様。』

その言葉は、俺にとっての呪いだった。
決して逃れられない、悪夢からの呪いであり。
生前の少女から遺された、呪いだったから。

※※※

53 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:17:42 ID:0EnU3l7k

急いで帰り、その場所に向かおうとしたけれど時間的に。
そして本当に数少ない対人関係上の問題もあり、出発出来たのは翌々日の朝方だった。

幾つかの着替え、膨らんだ財布。
そして相反したような、くすんだ色の髪飾りと首に巻き付けたマフラー、小さな指輪。
それらをポケットに入れた上で、新幹線に乗りながら右手の携帯を操作した。

「かえるのおうさま」。
或いは「蛙の王子様」「鉄のハインリヒ」。

グリム童話第一冊目の、初めに記載された童話の形。
名前すらも聞いたことは無かったが、俺には文明の利器、携帯電話がある。
どちらかと言えば実際の紙での読書派ではあるが、この際細かい所に気を配る余裕もない。
幾つかヒットした中で、一番最初に開いたページにはこう書かれていた。

54 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:19:31 ID:0EnU3l7k

『あるところに一人の王様がおりました。
この王様には幾人もの美しいお姫さまがおりましたが、中でも末娘の姫君の美しさといったら太陽でさえその顔を照らすたび驚いてしまうほどのものです。
お姫さまは森の泉のほとりで、ひとり金の鞠を高く投げたり受け止めたりして遊ぶのが好きでした。

ある日のこと。
お姫さまがいつものように金の鞠を投げ上げて遊んでいると、うっかりと受け損なって鞠を泉の中に落としてしまいました。
泉はとても深く、鞠の沈んだ水底は少しも見えません。
大切な金の鞠を失くしてしまったお姫さまは悲しくなって、泉のそばにしゃがみこんで泣きました。
そうしてお姫さまが泣いていると、泉の中から呼びかける声があります。

「どうしたんですかお姫さま。そんなに泣いていると石たちまで心配して泣いてしまいますよ。」
見ると、一匹の気味の悪いカエルが泉の中から顔を出していました。

「カエルさん。私ね、大切な金の鞠を泉の中に落としてしまって、泣いているのよ。」
「もしも私がその鞠を取ってきてあげたら、貴女は私に何か下さいますか?」

カエルが言うので、姫は頷いて答えます。

「貴方の欲しいものは何だってあげるわ。私の着物だって真珠だって宝石だって。この金の冠だってあげる。」
「そんなものは何もいりません。それよりも私を貴女のお友達にして下さい。貴女の食卓に並んで座らせて、貴女の金のお皿で食べ貴女の可愛い杯で飲ませて下さい。
そうして夜になったら、貴女の小さなベットで寝かせて下さい。もしこれだけの事を約束して下さるのなら、泉に潜って金の鞠を取ってきましょう。」
「ええいいわ!鞠を取ってきてくれるなら、何でも約束してあげる。」

お姫さまは約束しましたが、心の中では

(おバカさんのカエルね。人間のお友達になろうなんてとんでもないわ)

とひどい事を考えていました。
そんな事も知らず、カエルはすぐに泉に潜ると約束通りお姫様の金の鞠を持って浮かび上がってきます。
お姫さまは喜んで、金の鞠を胸に抱くとそのままお城へ駈け戻ってしまいました。

「待って下さいお姫さま!私はそんなに早く走れません」

カエルが騒ぎましたが、お姫さまは後ろを振り返りもせず走ります。
そうしてカエルとの約束なんて、すっかり忘れてしまったのでした。

それからしばらくして、お姫さまが王様や姉のお姫さまたちと食事をしていると、ぺたりぺたりと大理石の階段を上ってくる者がありました。
足音は一番上まで上がりきると、とんとんと戸を叩きながら言いました。

「お姫さま、一番下のお姫さま。約束をお忘れですか?早くここを開けて下さい。」

55 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:26:08 ID:0EnU3l7k

それを聞いたお姫さまは真っ青になって、胸は不安でどきどきと早く拍ち始めます。

「どうしたね姫。外にいるのは誰だい?恐ろしい大男でもやって来てお前をさらって行こうとでもいうのかね。」

王様が笑って訊ねるとお姫さまは慌てて、泉に金の鞠を落としてしまいカエルに拾ってもらった事を話ました。

「だからお友達にしてあげるって約束してしまったの。だってカエルが水の中から出てこられるだなんて思わなかったんですもの。」
「一度した約束はきちんと守らなくてはいけないよ。さあ早く戸を開けておあげ。」

王様に言われ、お姫さまは席を立って戸を開けました。
するとカエルが飛び込んできて、お姫さまの足元にぴったりとくっつくと言いました。

「さあ約束ですお姫さま。私を食卓に上げて下さい。」

お姫さまがぐずぐずとしていると、王様がまたそうしてあげなさいとたしなめます。
仕方なくお姫さまがカエルを食卓の上に乗せると、

「二人で一緒に食べられるように、そのお皿をもっとこちらへ寄せて下さい。」

カエルは図々しく言いました。
お姫さまは嫌で嫌で仕方ありませんでしたが、カエルはとても美味しそうに皿の上のごちそうを食べます。
そうして食べるだけ食べると、

「ああお腹がいっぱいになってくだびれました。さあ私を貴女の寝室に連れて行って、二人で眠れるように絹のベットを整えて下さい。」

と言うものですから、お姫さまはとうとう泣き出してしまいました。
けれども王様は怒って言いました。

「困っている時に助けてくれた者に、後になって知らん顔をするのはいけない事だ。」

お姫さまは嫌々二本の指でカエルを摘むと、寝室へ連れて行って部屋の隅に置きました

それから一人でベットに横になると、またもやカエルが傍へ寄って来て言います。
「私も貴女のようにゆっくりくつろいで眠りたいです。早く寝台に上げて下さい。そうして下さらないと、お父様に言いつけますよ。」

それを聞くとお姫さまはついにすっかり怒ってしまって、カエルを乱暴に掴み上げるとありったけの力を込めて壁に投げつけました。

「本当にいやらしいカエルね。これで楽に寝れるわよ!」

しかしどうでしょう。
壁にぶつかったカエルは床に落ちた時にはもうカエルではなくなって、優しい瞳をした美しい王子様に変っていたのです。
王子様は悪い魔法使いに呪いをかけられカエルの姿にされていたのでした。

「あの泉から助け出してくれたのは君だけだったんだ。おかげで呪いが解けた。有難う。」

王様のはからいで王子様はお姫さまのお婿さんになり、末永く幸せに暮らしたという事です。』

56 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:27:25 ID:0EnU3l7k

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
この中身を見るに、ハインリヒが出る話と出ない話で書き換えが行われている。

念の為出る方の話も調べ、ページを画像として保存しておく。
――――どちらの話にしても、出てくるのは「蛙」、そして「姫」と「王」。

人が蛙になる。 蛙が人に戻る。
人と動物が入れ替わる、変えられる話というのは世界中に存在している。

                           アーキタイプ
言ってしまえばそれらは異類婚姻譚に類する【原型】としてはオーソドックスなもの。
日本で言えば鶴の恩返し、或いは浦島太郎等。
動物そのまま、というよりは人として変化した、化身として姿を現す話は日本に多く見られる。
外国であれば――専門というわけではないのだけど――どちらかと言えば、動物そのものが行動を起こすケースが多く見られる気がする。

それらを根底に添えた、《泡禍》であるのならば。
起こり得るのは……やはり、『蛙』という事になるのだろうか。
《異端》であるのか。
《潜有者》であるのか。
それは、調べてみるまでは分からないけれど。

くすり、とリーチェが微笑みを漏らす。
対面の席、誰もいない事を良い事に――或いは、誰かが居たとしても――席に腰掛け、こちらを見つめている。

57 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:29:04 ID:0EnU3l7k

・ ・ ・ ・
視界の隅でそれを捉えながら、子供舌だと笑われる要因の一つであるように。
砂糖と牛乳を大量に使用した珈琲を一口呷る。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
彼女が見ている限り、俺は絶対に狂えない。
《断章》が抱える副次的な効果による他の《泡》への耐性でなく。
既に死ぬ寸前まで至った精神の歪み故でなく。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
出会ってしまった《泡禍》の結末で、狂って逃げ出そうとしても逃げ出せなかった事に寄る、もうひとつの《効果》故に。


逃げ出すことは出来ず。
立ち向かう事も、人の身では限度があり。
それでも尚、少女の形を持った《断章》は。
俺を未だに、《王子/騎士》として縛り続ける。
彼女を救えなかった王子として。
共に眠る事を望まれた騎士として。

      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――――彼女と生涯を共にする王子として。

『次は――――。 ――――。 お降りのお客様は……。』

だからこその。
眠り続ける姫を、迎えに行けない『眠り姫』。
それが――俺を定義する名前だった。

/ side3に続く

58 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/06/11(月) 21:30:20 ID:0EnU3l7k
以上です。
次の話ははつかねずみがやってきた頃に。

59 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/06/11(月) 21:33:26 ID:DOsA6oB6


60 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/06/11(月) 22:31:32 ID:Ee0nTz4Q


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62 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/24(日) 14:49:07 ID:6Ty2GvU6
大変お待たせ致しております。
今晩21時頃を目処に、side:大城恵の第二話を投下します。

63 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/06/24(日) 17:18:49 ID:.4OB2hBE
わーい

64 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/06/24(日) 18:47:15 ID:HeTuO2Vo
わくてか

65 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/24(日) 21:01:19 ID:8mfkdII.
クリック?

66 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/24(日) 21:15:58 ID:8mfkdII.
あい!お待たせ致しました。

では第二話投下します。

67 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/24(日) 21:18:27 ID:8mfkdII.





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             断章のグリムif 『カエルの王子さま』 side:大城恵 part2


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68 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/24(日) 21:19:35 ID:8mfkdII.


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「にゃあお」

 ブロック塀の角を曲がると、次の交差点にちょこんと座る黒猫が見えた。
 近付けば、身を翻してまた消える。
 猫を追って大城恵は路地を進んだ。

 一見すると普通の猫だが、これは<断章>である。
 物理法則は関係ないし大城以外の他人から見えることもない。
 まるで瞬間移動でもしているように、黒猫は大城を誘う。

.

69 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/24(日) 21:21:01 ID:8mfkdII.


 ―――――プルルルルルル。


「ん」

 ポケットの携帯電話が鳴った。
 猫の行き先を確認しつつ、手探りに応答する。

「はい、大城です」

『此方深谷。先行してる<騎士>さんってのはこの番号で大丈夫でしょうかね?』

 若い男の声だ。落ち着いていて、思慮深い印象を受ける。

「ああ、どうも。先行して調査中の大城恵です。宜しくお願いします深谷さん」

『よろしく、大城さん』

 至って普通のやり取りに、内心僅かに安堵する。
 戦闘に堪えうる<断章>を持つ<騎士>は、精神的に不安定な者が多いのだ。

 <断章>は神の悪夢と混ざりあったトラウマであるが故に<騎士>の精神性にも近しい。
 攻撃性が強い<断章>を持つということは、凄烈な<泡禍>に遭遇したとほぼ同義である。

 だが彼―――深谷という<騎士>は、少なくとも平時はそうではないらしい。
 連携がしやすくてとても助かる。


.

70 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/24(日) 21:22:35 ID:8mfkdII.

『状況は?』

「調査開始して……1時間くらいですかね。まだ特に何も」

『ああ、まだ着いたばかりと』

「今は住宅街で<断章>を使って調査中です」

『現在地は?』

 きょろりと見渡して、電信柱に貼り付けられた板を読み上げる。

「今は―――町の三丁目に」

『ええと……そこまで離れてはいないかな?』

 そのはずである。出てきたばかりであるし、ゆっくり移動しているのでセーフハウスからはまだ近い。

「一度そちらへ戻ります。情報交換をしておきたい」

『了解、それでいこう』

 段取りを考えつつ、猫に続いて角を曲がった時。

「あっ……」

「おっと」

 丁度こちらへと曲がってきた通行人とぶつかりそうになり、慌てて避ける。

「失礼しました」

「あ、いえ……こちらこそ……」

 軽く頭を下げた大城に、相手も申し訳なさそうに慌てて頭を下げた。
 相手は女性だった。
 歳は30代半ばといったところだろうか。長い髪を緩く纏め、やや暗い雰囲気を漂わせている。

 その足元を黒猫がするりと抜けていった。

 追わなければならない。もう一度大城は頭を下げて通り過ぎ、意識を電話に戻す。

『どうしました?』

「―――失礼、通行人がいて。では一度セーフハウスで……?」


.

71 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/24(日) 21:26:03 ID:8mfkdII.



 合流の段取りを立てようとした時、何かが意識に引っ掛かって、すん、と鼻を揺らした。

 僅かな異臭。

 何だろう、と内心首を傾げて、すぐ正体に思い至る。
 水の臭いだ。
 学校の中庭にある放置された池のような、澱んだ水の臭い。

 近くの民家に池でもあるのだろうか、と周囲を軽く見渡して。

「……………………え?」

 細い路地裏の暗がりに、それを見た。

 二本の足でゆっくりと歩くそれは、しかし人間では有り得なかった。


 肌はまるで水に浸かったまま腐ったようにぶくぶくと膨れ上がり。
 べちゃり、べちゃり、と湿った音を立てて歩く。
 ゆらりと顔面も定かでない頭部が揺れ。
 喉に空いた風穴からはだらりと舌部が垂れ下がり、動きに合わせてぷるぷると震える。


「う―――………っ!」

 込み上げる嘔吐感に、反射的に口を押さえた。

 仕事柄、怪物との遭遇経験はそれなりにある。追われて逃亡したことだってあった。
 それでも今回の……絶妙に人の形を残し、しかし人間では有り得ない造形は本能的な恐怖を突き上げる。

 しかし今は耐えねばならない。
 義務感で嫌悪を抑え込み、電話口に小さな声で告げた。

「―――<異形>を発見!」

 ぐるり、と回った<異形>の顔が―――こちらを向いた。





                             ___________|\
                            [|[||  To Be Continued....!    >
                              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/

.

72 いが ◆K/oR.weXaA :2018/06/24(日) 21:26:44 ID:8mfkdII.
以上。side:大城恵の第二話でした。

次回をゆるりとお待ち下さい。

73 ---------------------- :----------------------
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74 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/06/25(月) 01:53:57 ID:y254UDwU
おつおつ

75 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/06/25(月) 16:04:56 ID:HBf0B2U2
乙でした
まさか断章のグリムの原作アフター二次があるとは……

76 ---------------------- :----------------------
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77 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/01(日) 15:24:15 ID:tOakU5WY
はいどうも。
次回投下予定は7/7です。

78 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:19:28 ID:Sl3z5Oxo
クリック? クラック!
というわけでside:眠り姫第三話をお届けします。

79 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:22:06 ID:Sl3z5Oxo




/side 『眠り姫』3



.

80 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:22:45 ID:Sl3z5Oxo

一際大きくがたん、と音を鳴らし。
新幹線は目的の街まで辿り着いた。

都会、という程には栄えているわけではなく。
田舎、というには余りに人や物が多い。
地方都市、或いは近隣で最も栄えている街。
そんな形容がぴたり、と当て嵌まるような街模様。

視界に映る、中心から外れた円周部には山々や田畑が見受けられる事も。
俺の最初に抱いた感想に拍車をかけていた。

.

81 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:23:28 ID:Sl3z5Oxo

『それで?』
「変に思われるから黙ってろ……セーフハウス、拠点に行く。」

マフラーに口元を埋め、文字通り囁く程度の音量での通達。
独り言、そして異様な子供っぽさが目立つ青年。
それが、俺の地元での評価であり。
同時に、周囲に人が寄ってこない要因でもあった。
……《断章詩》の都合上、それらは歓迎する事だったけれど。

人は疎らではあったけれど、俺がこれからする行動ははっきり言って異常な行動に他ならない。
だからこそ、出来れば。
何も知らない人から妙な目線で見られる事は避けようと、足早に駅前から離れて行った。

.

82 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:25:31 ID:Sl3z5Oxo

※※※


閑散とした住宅街の隅にひっそりと建てられた、築数十年も経過したのだろう一軒家。

      ・ ・
それが、俺達に用意されたセーフハウスだった。

携帯に送られていたメールから住所をもう一度確認。
鍵の在処が記されたそれを参考に発見し、中へと足を踏み入れた。

長年経った独特の匂いが鼻に刺さる。
喉元まで戻り掛けたそれを気合いで嚥下し、一通り中を確認。
見知らぬ荷物が一室に置かれていた――――既に、別の《騎士》は到着済みらしい。
その荷物が置かれた隣の部屋に荷物を降ろし。

一息付いて、街中へと出る。
どう見ても不審者に見えるような、子供向けの製品を身に纏い。
黒いコートに身を包んだ姿。
それは、二重にも三重にも暴発を防ぐための精神のスイッチに他ならず。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仮に無かったとしても問題は無いけれど――あった方が安定する。
そういった類の、《騎士》としての正装だった。

『それで何処に?』
「……街中の散策だよ。」

普段であれば、無視するような言葉でさえ。
《騎士》として動く時は、反応するしかない。
彼女がいなければ、俺は唯のトラウマを抱えた一般人に過ぎないから。

      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――――彼女越しでなければ、発動できない《断章》だから。

.

83 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:27:53 ID:Sl3z5Oxo

街へと躍り出、片手に握った携帯に番号を打ち込む。
幾度かのコールの後、男性の声が耳元に届いた。

『もしもし、大城です。』
「此方深谷。 先行してる《騎士》さんってのはこの番号で大丈夫でしょうかね?」

聞こえてきた声は、少しだけ落ち着いた声。
俺よりも何歳か年上だろうか?
そういった、男性の声。

『ああ、どうも。先行して調査中の大城恵です。宜しくお願いします深谷さん』
「よろしく、大城さん」

先行調査中。
彼がどういった《断章》を持つのかが分からないけれど。
大きく分けて、戦闘向けなのか調査向けなのかによってもこれからの方針は決まる。
まずは合流を優先したほうが良いか、と一度唇を舐めた。

.

84 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:28:57 ID:Sl3z5Oxo

「状況は?」
『調査開始して……1時間くらいですかね。まだ特に何も』

……未だ到着したて。
ほんの少しのズレ程度だったのか。

「ああ、まだ着いたばかりと」
『今は住宅街で<断章>を使って調査中です』

そして、この言葉で調査向けなのが確定した。
基本的に戦闘向けでない《断章保有者》……例を挙げるなら《葬儀屋》だろうか。
そういったサポート向けの能力を持った人物は、可能なら単独行動はさせたくないのだが――――。

「現在地は?」
『今は―――町の三丁目に』

近くの電信柱を見る。
二丁目。
ならば、大した距離ではないと判断する。

.

85 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:29:44 ID:Sl3z5Oxo

「ええと……そこまで離れてはいないかな?」
『一度そちらへ戻ります。情報交換をしておきたい』
「了解、それでいこう」

動向も確定。
電話を肩で保持しながら、事前に印刷してきた市内の地図を指で追う。
ほんの数本道を移動すれば直ぐ。
何処かで合流できれば僥倖だろうか。
やや早足になりながら、地図を折り畳み――――。

なにか、電話の向こうで話す声が聞こえた。

「どうしました?」
『―――失礼、通行人がいて。では一度セーフハウスで……?』

声が、途切れる。
思考が巡り、咄嗟に駆け出していた。
眼の前の十字路を、左折。
そのまま数本進んだ先の、何処か。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そこに、何かがいる。

.

86 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:30:42 ID:Sl3z5Oxo

『う―――………っ!』

電話越しから聞こえる、呻き声。

「リーチェ、先行しろッ!」
『先行? お姫様みたいに、待ってろって?』
「ああ、もう其れでいい! 頼む!」

誰もいない空間への叫び声。
眼の前の、宙に浮いた少女がふわりと消えていく。

――――唯の、泡禍では済まない。
そんな、直感が支配していた。

右手をポケットに詰め。
其処に入った……小さな指輪を握り締め。
左手で電話をスピーカーに切り替え、走る。

『―――<異形>を発見!』

.

87 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:32:03 ID:Sl3z5Oxo

声に、数十秒ほど遅れてだろうか。
彼女の姿が、一つの角で止まっているのが見える。
小さく、笑いながら。
口元だけを、歪に歪めて。
早く来て、と。 囁くように。

だから。
曲がり角を曲がる前に、息を絶えさせながら、枯れた声で叫んだ。

「此方に走れ!」と。

俺の持つ《断章》は、ある程度なら操作出来る。
だが、飽く迄ある程度に過ぎない。
距離が、近すぎれば――――巻き込むのだ。
一切の容赦も、感情もなく。
そういうものだ、という現象でしかない故に。

その声に、反応したのかしないのか。
角から2つの顔を覗かせた。
それに気取られる余裕もなく。
角を曲がった先。
〈異形〉の――――姿を見た。

.

88 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:33:04 ID:Sl3z5Oxo

水に浸かったような膨れ姿。
目と、頭と――――。
ぷん、と香る腐臭にも似た黴臭さ。
喉から垂れるのは、恐らく舌なのだろう。
人でない程の。
或いは、人でもあれ程に長いのか。
震えながら、一歩一歩と近寄ってくるそれに。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
毅然と対応させられながら。

「リーチェッ!」
『……分かってるわ。』

彼女を、その怪物と重ねて見る。
視界に捉える。 右手で、指輪を強く握る。
《断章》を、発動させる条件を揃えた。
暴走を防ぐための、幾つかのセーフティを揃えた。

だから――――。

.

89 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:33:55 ID:Sl3z5Oxo



《――――ずっと、大好きッ!》


過去の。
リーチェが、腐り。
腐臭を漂わせる、肉塊になった姿を想起して。
ただ一言、叫ぶ。


.

90 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:35:01 ID:Sl3z5Oxo

変化は、劇的に。
リーチェの姿と共に、怪物が腐り落ちていく。

腐敗していく。
時計を早回ししたように。
本来ありえない速度で。
生きたままに。
苦痛を覚えたまま、意識を保ったまま。
腐り落ちていく。

喉元に、酸味を感じて嚥下した。
鼻の奥がつん、と痛み。
その〈異形〉が、どろどろに溶けるまで。
恐らく、数十秒も掛からなかっただろう。

「…………もう良い。」
『あら。 ……まあ、私も良い気分ではないものね。』

後に残ったのは、何かが溶けたような小さな溜り。
そして、元の姿に戻ったリーチェ。
……吐き気を抑えながら。
指輪から、手を離した。

/side4に続く

91 ice ◆53Ok1gX4xs :2018/07/07(土) 11:35:27 ID:Sl3z5Oxo
はつかねずみが、やってきて。
次回をお楽しみに。

92 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/07/07(土) 13:21:48 ID:uXlT9PCA
乙です
溶ける?断章なのか

93 小さな名無しさん@この板は300レスまで :2018/07/07(土) 17:34:56 ID:htnaOvEw
おつおつ


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