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【R-18】断章のグリムif 『カエルの王子さま』【非安価】

1いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 22:36:09 ID:J.wPzR7Y


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                  【R-18】断章のグリムif 『カエルの王子さま』【非安価】




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      .レ \ ` <_::::::::::::::::::::::::::::::::::∩::::::;                        ||  / /  ∧乂{          ′
.l> ___/__.\≦彡ニニニニニニくヽ::::l\:|ノ Ⅴ                        /ニ|| ,/ /l /  ゝ-          L _,,
.|      , ≦彡ニニ/ニニニニニニニニ.ヽ!  ヽ /                        /二 ∧|/}/\l :|/                 厂
 __.. ≦彡彡ニニ./ニニニニニニニニニニニl>、                       -‐=≦/二ニ≧s。           ≧=‐-  -‐='′
≦≪<ニニニニニ/ニニニニニニニニニニニニニ} ヽ                    -=ニニニ{ニニニニニニ≧=‐-   -‐=ニ二´ニ∧
.三三三/ニ /ニニニニニニニニニニニニニニ,’                      -=ニニニニ{二二二二ニニニニニニニニニニニニ∧
.三三/ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニ,i                      -=ニニニニニ\ニニニニニニニニニニニニニ,,..。s≦ニ\
.三/ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニニリ                 -=ニニニニニニニ≧s。 二二二二ニニ,,..。s≦二ニニニニ≧=‐-ミ
./ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニニニニ}                    -=ニ二二ニニニニ/ニニニ ≧=‐--‐=≦ニニニニニニニニニニニニ丶
.ニ /ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ{                   -=ニ二二二二ニニ/二二二二二ニニニニニニニニニニニニニニニニニ \



●注意事項
 ・本作は甲田学人著『断章のグリム』二次創作です。独自解釈等も含まれるので御留意ください。
 ・文章+AA挿絵形式の非安価スレです。
 ・本作は「いが ◆K/oR.weXaA 」と「ice ◆53Ok1gX4xs 」の合作となります。
 ・やや刺激に強い表現が入る可能性があります。
 ・断章のグリム(甲田学人/三日月かける)は電撃文庫より全17巻発売中(完結済)。読め。

○作者現行雑談スレ
【R-18】いが ◆K/oR.weXaA の饅頭的駄弁り場 7軒目
ttp://yaruos-ark.sakuratan.com/test/read.cgi/reppua7m1/1452696758/

【R18】ice ◆53Ok1gX4xsの雑談・短編所 二冊目
ttp://yarufox.sakura.ne.jp/test/read.cgi/FOX/1525319551/

2いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 22:37:53 ID:J.wPzR7Y
板お借り致します。

間もなく導入の方を投下させて頂きます。

3小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/03(日) 22:45:50 ID:/C8NAok6
わくわく

4いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 22:51:35 ID:J.wPzR7Y
それでは導入の方、投下致します。

5いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 22:52:15 ID:J.wPzR7Y




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                 かえるの王子さま フロッシュケーニッヒ


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6いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 22:54:16 ID:J.wPzR7Y



 クリック? クラック!

 今日のお話は、「かえるの王子さま」。



 ある時代、ある国のお姫様が森に遊びにでかけ。
 そこで大切な金の鞠を泉に落としてしまいました。

 お姫様が泣いているとカエルが現れ、

「自分をお姫様の友人にし、同じ皿から食事をし、同じベッドで寝かせてくれるのなら拾ってこよう」

 そう、声を掛けてきたのです。
 お姫様はカエルはゲコゲコ鳴くしかできないだろうと心の中で思ったけれど、口では約束しお願いしました。
 すると泉に潜ったカエルはあっさりと鞠を咥えて戻ってきて、お姫様に返してくれました。

 しかしお姫様は鞠を受け取ると走って逃げてしまい、カエルは置いていかれてしまいました。



 しかし次の日、お姫様が王様やお妃様と食卓についていると、
 ドアの向こうから何者かのノックと声が聞こえてきました。

「お姫様、お姫様、僕にドアを開けてください」

 昨日のカエルがやってきて約束通り自分を食卓に上げて欲しいと言うのです。

 お姫様は怯えて怖がってしまい、様子がおかしいのに気づいた王様が何があったか尋ねました。
 王様はお姫様から事情を聞くと

「約束は守らなくてはならないよ」

 と、お姫様に言うとおりにするよう言い、お姫様は嫌々ながら
 カエルを食卓に上げ、自分の皿から食べ物をカエルに食べさせました。



 食べ終わったカエルは眠くなったとベッドに案内して欲しいと言いました。
 お姫様は泣き出してしまうほどに嫌がりましたが
 王様に助けてくれた人を嫌がってはならないと叱られて、
 仕方なくお姫様はカエルを寝室へと連れて行きました。

 ですがお姫様は寝室の隅に置いて自分だけベッドに入ってしまいました。
 カエルが

「僕は疲れている、僕を持ち上げて君のように眠らせてくれ、でないと君のお父さんにいいつけるよ」

 と言いました。
 それに怒ったお姫様はカエルを持ち上げると壁に投げつけてしまいました。

 しかし、壁にぶつかったカエルが落ちた時には美しい王子様になっていました。

 王子様は話し出します。悪い魔法使いに魔法をかけられカエルにされていたこと、
 魔法を解けるのはお姫様が自分を友人にして夫としなければならなかったこと、
 魔法が解けたのに気づいた自分の部下が明日迎えに来るだろうことを。



 二人が眠りにつき朝になると、白馬の引く馬車がお城にやってきました。
 馬車の後ろには王子様の部下のハインリヒがいました。

 ハインリヒは王子様がカエルに変えられた時とても悲しかったので、
 悲しみで心が破裂しないよう心臓の周りに三本の鉄帯を巻いていました。

 ハインリヒは王子様が無事元に戻れたことを喜びながら、
 王子様の国に戻るため王子様とお姫様を馬車へと載せて出発しました。

 帰る道中、突然バチンと大きな音が響いて、王子様は驚いて言いました。

「おいハインリヒ、何の音だ。馬車が壊れたのではないか」

「違います、違います、王子様。馬車ではなく、私の心臓の輪の外れる音です。
 あなたがカエルになって泉に閉じ込められた時、
 あまりに心苦しいので張り裂けぬように巻いたのです」

 二度目、三度目と音が鳴り、その度に王子様は馬車が壊れたのかと心配しましたが
 しかしそれは王子様が自由になり幸せになったことを喜ぶ
 ハインリヒの心臓から弾ける鉄帯の音だったのです。



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7いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 22:56:08 ID:J.wPzR7Y




…………………………………………。



 僕達人間とこの世界は、《神の悪夢》によって常に脅かされている。

 神は実在する。全ての人間の意識の遥か奥、集合無意識の海の深みに、神は確かに存在している。
 この概念上「神」と呼ばれるものに最も近い絶対存在は、僕等人間の意識の遥か奥底で有史以来ずっと眠り続けている。
 眠っているからこそ僕たち人間には全くの無関心で、それ故無慈悲で公平だ。

 ある時、神は悪夢を見た。
 神は全知なので、この世に存在するありとあらゆる恐怖を一度に夢に見てしまった。
 そして神は全能なので、眠りの邪魔になる、この人間の小さな意識では見ることすらできない程の巨大な悪夢を、切り離して捨ててしまった。

 捨てられた悪夢は集合無意識の海の底から泡となって、幾つもの小さな泡に別れながら、上へ上へと浮かび上がっていった。
 
 上へ――――僕たちの、意識へ向かって。

 僕等の意識へと浮かび上がった《悪夢の泡》は、その「全知」と称される普遍性故に僕等の意識に溶け出して、個人の抱える固有の恐怖と混じり合う。
 そしてその《悪夢の泡》が僕等の意識よりも大きくなった時、悪夢は器を溢れて現実へと漏れ出すのだ。

 かくして神の悪夢と混じり合った僕等の悪夢は、現実のモノとなる。



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8いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 23:01:39 ID:J.wPzR7Y
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 ぽちゃん、と池に黒いゴミ袋が沈んでいく。

 普段から濁ったままの、自宅の裏山の中程の。
 それこそ汚い沼のような池。
 ずっと昔、それこそ私が――――この土地に縛られ続ける前から、こんな様子だったのだと。
 幼い頃、祖母は語りかけるように教えてくれたのを思い出す。。


 荒い息をしながら、目の前の義弟――――章吾と共に。
 行った犯罪行為を忘れようと、首を振りあった。


 元々、私達夫婦は反りも合わなかった。

 親が決めた進路。
 親が決めた見合い。
 親が決めた人生を、ただ歩かされ続けるだけ。

 旦那が振るう暴力も、全て私が我慢すればいいだけ。
 旦那が造る借金も、全て私が工面すればいいだけ。

 事なかれで、全てを私任せで。
 何時まで耐えれば良いのか。
 それを考えるのも苦痛になり始めた頃、唯一旦那に敵対してくれたのが義弟だった。

 男と女の関係というわけでもない。
 ただ、極めて単純に、人間らしく。
 それだけで、歯向かったくれた義弟はその日も何時も通りに旦那と揉み合いになり。

 ――――倒れた拍子に、旦那は頭を打って起き上がらなくなった。


 警察に行くべきだろう、と私は言った。
 居なくなってもわからないはずだ、と彼は言った。
 長い長い口論の末――――結局、旦那は。
 誰も知らない、沼へと沈んでいく。


 知るのは二人。
 私と、義弟だけ。
 義父母も、既にいない。
 ――――借金で蒸発したのだろう、と思ってくれる。
 そんな甘言に騙された、と思ってしまうのは。
 それこそ、不義理に当たるのだろうけれど。


 けれど。

 既に影も見えなくなった、そのゴミ袋の行く先を見て。

 げこり、と。

 季節外れの、蛙の鳴き声を聞いた。


 そんな、気がした。




.

9いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 23:04:55 ID:J.wPzR7Y




※※※


                        バブル・ベリル
 神の悪夢の泡による異常現象、それを曰く《泡禍》と呼ぶ。

 全ての怪奇現象は神の悪夢の欠片であり、この恐怖に満ちた減少はたやすく人の命と正気を喰らうが、

              ほうか
 ごくまれに存在する《泡禍》より生還した人間には、巨大なトラウマと共に《悪夢の泡》の欠片が心の底に残ることがある。
          フラグメンツ
 彼等自身によって《断章》と呼ばれるその悪夢の断片は、心の中から紐解くことで自らの経験した悪夢的現象の片鱗を現実世界に喚び出すことが出来る。

 世界にはそんな《悪夢の泡》からの生還者が多数存在し、
 そしてその中でも恐るべきトラウマと共に悪夢の欠片を精神に宿してしまった者たちが集まって、生きるために助け合い、新たな被害者を救おうと活動している。

 英国で発祥した《ロッジ》と呼ばれる小さな活動拠点を各地に散らす、《悪夢》の被害者同士の互助会結社。
 彼等は世界の裏で被害者同士助け合いながら、同時にこの世界に浮かび上がる悪夢の中から人々を助け出し、そして神の悪夢の存在と、
       だんしょう
 神の悪夢の《断章》を持つ自分たちの存在を人々の目から隠し続けている。


    オーダー・オブ・ザ・フラグメンツ
 名を、  《断 章 騎 士 団》   という。



かくしてまた、さらなる《童話》が始まる。




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10いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/03(日) 23:08:06 ID:J.wPzR7Y
以上、導入でした。

次回投下をお待ち下さいませ。

11小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/03(日) 23:17:50 ID:0J9NcLEU


12ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:38:36 ID:2NJtIABc
どうも、片割れです。
導入だけってのもアレかなーと思うので一話だけ先行で投下しておきます。
二話(或いは饅頭の一話)は後々をお待ち下さい。

では、始めます。

13ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:39:36 ID:2NJtIABc



                                 /イi:i:i:乂 _⌒           八(⌒
                                  }八i:i:i:i:i:i:ト.       ´ `   /
                                   ⌒}人i:i:i:i',::....
                                      ヽi:i{     >   イ
                                   }ハ       /^{__   __   ----ミ、
                                   //ハ    r<   jニ「ニニニ7ニニニ=-
                                    //. : :.   }: V  /ニ{ニニニ/ニニニニニV/
                                      __「\: : }  /: :∧ /ニニVニ=- -=ニニニニニV/
                                   -=ニ∧: : 〉ノ _////∨ニニニ〉ニ=- -=ニニニニニ∧
                                r<ニニ/ニ}/{⌒{ //'//-=ニ/ニ=- -=ニニニニ/ニ}
                                }ニニ=-/ニニ{: ..\j_//.: /=-<ニニニ=- -=ニニ/ニニ/ニニ∨/
                            -=ニニ〈ニ=-j: . 「//」.: ,-=ニニ\-=ニ7ニニニ/ニニ{ニニ=- 、
                                {ニニニニ> {  L//.:/ -=ニニニ/-=ニ{\-=ニニニニニニニ∧
                                iニニ=-〈ニニⅥ  /^{.:/ '-=ニニ/-=ニニVニ\-=ニニニニニ/ニV/
                                |ニニ=-∨ニニ} {//|:'  {ニニ=-/-=ニニ=- 、ニ>、-=ニニニニニニV/


二二二二>=‐-..,,_____,,.ィ 二ニ=く⌒}ー____                _____________――― ―
二二二二二二二二二二二二二二二',二二二二jノ⌒ヽ厂r-ヘ、__  ∠====================――
.  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ヽ二二 ̄ ̄ ̄ ̄)二二二二ー‐く二二二二二二二二ア´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー=二二(__√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

                             /side 『眠り姫』

二二二二>=‐-..,,_____,,.ィ 二ニ=く⌒}ー____                _____________――― ―
二二二二二二二二二二二二二二二',二二二二jノ⌒ヽ厂r-ヘ、__  ∠====================――
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ヽ二二 ̄ ̄ ̄ ̄)二二二二ー‐く二二二二二二二二ア´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー=二二(__√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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14ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:41:36 ID:2NJtIABc

かつん、かつん、かつん。

ありがとうございました、という店員の声を背中に受け。
店の外へと足を踏み出した。
未だ熱気が残す残暑……というにも長過ぎるほど。
少しずつ寒さがやって来始めているとはいえ、異常気象に少しばかり空を睨みつける。
空は、少しずつ赤みを帯び始めた夕暮れ時。

・ ・ ・ ・ ・ ・
首に巻き付けた子供向けのマフラーを服の中へと投じながら、夕食を仕入れに。
周囲の奇異的な視線を受け流しながら、街中を彷徨い始めていた。

『楽しそうね。』

ふと、声がする。
すぐ傍で囁かれたような。
けれど、息など感じさせないような不可思議な音域で。
努めて、聞こえないように足を進める。
……一歩、更に一歩。

『昔は貴方ともこうして歩いたわね。 お互い、もっと小さかったけれど。』

けれど、声の主はそれすら楽しそうに囁きを続ける。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
たった一人、街中を歩いているだけの彼の耳元に。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
耳元は愚か、隣にすら誰もいないはずなのに。

15ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:44:15 ID:2NJtIABc



                     /´ >'⌒¨¨ 〈〉            :}-  ':\  〈〉    ,'-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-
                    /-_-_\                    :} {⌒} .ヽ     .人-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-
                  /-_-_-_-_-\     〈〉          'ニ乂ノニ彡}_   /  \-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_
                  -_-_-_-_-_-_-_ヽ              /ニニニ=-=≦\   〈〉   \-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-
                  -_-_-_-_-_-_-_-∨       〈〉   /{.    . : v   \        -_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-
                  -_-_-_-_-_-_-_-_.∨         /  ,': .  . . . : ,: : . . : 八      〈〉 \-_-_-_-_-_-_-_-_-_
                  -_-_-_-_-_-_-_-_-.∨     -=<   ./: : : : : : /:. : ::/{:::∨          \-_-_-_-_-_-_-_-_
                  -_-_-_-_-_-_-_-_-_-ゝ―=</     /> =- ´⌒`¨¨/{::::::∨     〈〉     \-_-_-_-_-_-_-
                  -_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-./   〈〉 ,'}三三三三三彡/ {::::::::}              \-_-_-_-_-_
                  -_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_ '      /,'     ,'      八:::::}        〈〉  人-_-_-_-_-
                  -_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_ /  〈〉   //     /     /〉/  \八          '-_-_-_-_-_-_
                  -_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-       ./_ ____  , ' {__ノ)/ \\  〈〉     /{-_-_-_-_-_-
                  -_-_-_-_-_-_-_-_-_- '       //     /゚~¨´   - '〉{   \\     / :{-_-_-_-_-_-
                  -_-_-_-_-_-_-_-_/     〈〉 '\      〉__ __¨フ ∨    \\  /   :{-_-_-_-_-_-
                  -_-_-_-_-_-_-/  〈〉    / /___ノ     |    ∨      \レ     :{-_-_-_-_-_-


視界の隅に、白く霞んだ何かが映る。
見たくない。
けれど、視界に入ってくる。
花嫁衣装にも似た、白く彩られたような服装で。
何処か怪しげな、蠱惑的な表情を浮かべながら。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
宙に舞う、人型でありながらヒトではないナニカ。

「随分楽しそうだな、リーチェ。」

……少しずつ、少しずつ。
視界の中に映る量が増えてくる。
声も、更に耳の中。

       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
文字通り、鼓膜に直接響くような距離まで近づいて来て、漸く。
俺は、彼女を直接見ないようにしながら、囁いた。

『それはそうよ。 なんだか懐かしくなっちゃったから。』
「無駄口ばっかり叩きやがって…。」
『あら、無駄とは何よ無駄とは。』

事実だろ、と吐き捨てれば。
小憎らしくなっちゃって、雫、と。                      ・ ・
傍目から見れば独り言を呟いているようにしか見えないレベルでの会話。

一度小さく舌打ち。
決して意識を彼女には向ける事無く、手近なジャンクフード店へと足を踏み入れた。
街中で、彼を気にするような人物など。
誰一人として、いなかったけれど。

※※※

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16ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:46:35 ID:2NJtIABc


      ふかたにしずく
俺――――深谷 雫は。
文字通りに何処にでもいる、趣味に走ったような民俗学を学ぶ一介の大学生に過ぎない。

たった二つだけ、常人より不幸な事があるとするならば。
両親も、親戚も失った天涯孤独の身である事と。
《断章》を抱えた《騎士》である、という事。
その二つを持ってしまっている以上。
恐らく、不幸という言霊からは逃れられないのだろうけれど。

珈琲だけを頼み、隅の椅子へと座り込む。
別口で貰った水道水を前に、ポケットから幾つもの錠剤や粉薬。
そして、それを飲み込む為の子供向けの補助用のゼリーを取りだして、口に含む。
いつまでも変わらない、薬独特の苦みと安っぽい薬臭さに辟易しながらそれを飲み干して、一息。
唐突に味が変わられても困るけれど、それはそれとしてもどうにかならないものだろうか。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
三食三度、欠かせば命に関わるからこそ止められない。
ジャンクフード独特の肉が焼ける匂いに顔を顰める。

肉も、野菜も、或いは魚や米に至るまで。
焼けた物、臭いが強いものは口に運べない、食べられない。
《断章保有者》にしか分からない、各々が抱えたトラウマの断片。
それからは逃れられないからこそ、生きていく為に。
そういったサプリメントや薬剤から、一生離れられない体になってしまった。

噂に聞く限りでは、【雪の女王】も似たような状態だとは聞いたことは有る。
結局、大なり小なり【保有者】は何かを抱えているのが普通という事に過ぎない。

『どんな味なの?』
「苦い味以外どう言えと……。」

無理矢理に飲み干し、後味を大量の砂糖と牛乳を混ぜ込んだ珈琲で洗い流す。

.

17ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:48:45 ID:2NJtIABc


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                  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
一息を付いて、向かいの席に浮いた顔を見ないようにしながら顔を見た。

リーチェ、俺の抱えた《断章》。
昔の――――生前の名前は、クラリーチェ。

ずっと昔。
まだ、互いに小学校にも上がる前の幼い頃。
子供ながらの、純粋な。 或いは何も考えない約束で。
「大人になったら結婚しよう」と。
約束しあった俺達の、遭遇した《悪夢の泡》の断片。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
未だに終わっていないと、心のどこかで確信し続ける《泡禍》の結末が、彼女だった。

だからこそ、彼女の顔は直接見られない。
だからこそ、彼女の声は可能な限り無視をする。
けれど。
俺が抱えた《断章》の《効果》の関係上。
《騎士》としての道を選んだ以上、見ざるを、聞かざるを得ない。
それが、今の俺達の互いの関係性だった。

※※※

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18ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:50:45 ID:2NJtIABc

『学校は?』
「……行けたら行くが、どうなるだろうな。」

氷が解け、味が薄れた珈琲を啜る。
何しろ、今年に入ってからの東日本側の《騎士団》の状況は激変した。

  アノニマス
俺が《名無し》から聞いた限りでも、少なくとも5つ以上の《童話》化した《泡禍》の発生。
                           かがりや
その幾つか、或いは全てに関わったとされる《鹿狩屋ロッジ》の新人達。
関東圏の巨大な範囲での事件後の処理を担当していた《葬儀屋》の消滅。
《叢草ロッジ》での騒動、管理人の入れ替わり。
そして、《鹿狩屋》の暴走による幾つものロッジ、及び《騎士》の死亡。
《鹿狩屋》当人は、新人の持つ《断章》によって死亡したと聞く。

確か……そう、《目醒めのアリス》。
そんな名前を持つ、断章保有者に拠って。

《ロッジ》の壊滅騒ぎで、俺自身が所属していた《ロッジ》も多大な被害を受けた。
《ネットロッジ》の《チェシャ猫》、リカの死亡。
それに伴い、現在の役割は手近な範囲で発生した《泡禍》の対処と行動圏内も縮小。
日々、平穏という名の無味な時間を浪費するだけの日常となっていた。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『だったら早く私を迎えに来てくれればいいのに。』

発言を無視する。
いや、正確に言うなら無視しなければならない。
だからこそ、言葉を発するのを止めて。
底に残った、溶けた氷で出来た水を舐めるように飲んだのとほぼ同時刻。

.

19ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:52:09 ID:2NJtIABc

ぴりり、と。
無機質な。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
登録外であることを示す、電話の音がポケットから鳴り響いた。
周りに少しだけ視線を回しながら、それを取り。

「…もしもし?」
『えー、っと。 深谷さんの電話番号で間違いないですか?』

電話越しに聞こえる声は、若い男性の物。
何かしらの勧誘だと厄介だな、と。
そんなどうでもいいことを考えながら言葉を発する。

「そうだけど……。」
『俺は木之崎と言います。 《ロッジ》の世話役を、やっているものです。』

木之崎。
何処かで、聞いた覚えがある。
けれど、何処だったかはすぐには浮かばずに。

『《木之崎ロッジ》から、依頼です。 ――――《泡禍》の疑いがある現象が、発見されました。』

その単語に、意識を即座に切り替えた。
詳しく、と。
声を投げかけようとした。

.

20ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:53:42 ID:2NJtIABc

――――けれど。

返ってきた言葉は。
……男とも、女とも理解しがたい。
形容しがたい、囁き声。

黒板を掻き毟るような。
何かを引き摺るような。
硝子を割るような。
何かが焦げ付くような。

到底理解出来ない。
精神そのものに語り掛けるような。


そう、まるで。
リーチェが呟く、終わりへと誘うような誘い声。

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21ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:54:02 ID:2NJtIABc




『かえるのおうじさま』。




そんな声が。
魂の中に、鳴り響いた。

/side2に続く


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22ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/03(日) 23:54:20 ID:2NJtIABc
以上です。 次回をお楽しみに。

23小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/03(日) 23:55:29 ID:/C8NAok6
乙です
原作終了後なのか……

24小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/04(月) 01:02:25 ID:RiIvlsQo


25小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/04(月) 12:56:04 ID:ArhArfmc

交互に投下してくんすね
すっごい意味深というか意味不明なんだけど、原作もこんな不思議な感じなんですか?

26小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/04(月) 13:17:14 ID:/RLJXIzw
わりとダークメルヒェン系っていうか
ハマる人はハマるけど、わりかし人を選ぶ内容ではある
(グロ注意とも言うが……)

マンガ版の試し読みをちょっとぺたししてみる
tp://comip.jp/Z/cbs/c565/c52-765/

27小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/04(月) 14:12:05 ID:2lrcv5rY
すんげーざっくり言うとグリムって
童話の暗黒面的なモノに浸食された犠牲者兼加害者を滅ぼす話だから……
少なくとも原作は静かな狂気系で割と救い無いから注意

28小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/04(月) 18:32:35 ID:J2eR53i.
乙〜
原作を知らないと、専門用語が多すぎて意味不明かも?
原作は、チラッと話に出た新人が主人公だから、先輩からの説明で世界観は解説されるけど

ここまでの感じだと、このスレで説明を受ける新人役は居なさそう

29いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/05(火) 18:37:42 ID:J9qosJ7w
乙ありです。

次回は私側の第一話を、金曜19時頃から投下致します。

30小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/06(水) 13:39:44 ID:8oFfqim6
断章スレとは期待

31小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/07(木) 20:00:15 ID:He2csr/c
断章のグリムとは懐かしいものを見つけた…

32いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 18:46:21 ID:5hGPSAsM
(準備中)

33いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 19:02:20 ID:5hGPSAsM
はい、おまたせ致しました。やっていこうと思います。

クリック?

34小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/08(金) 19:05:36 ID:.p4x32lk
クラック!

35いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 19:11:18 ID:5hGPSAsM





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             断章のグリムif 『カエルの王子さま』 side:大城恵


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36いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 19:13:05 ID:5hGPSAsM






TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTト、
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ゙̄ヾト、
丕丕丕丕丕丕丕丕丕丕丕丕丕丕丕丕丶|ヾ
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              ∠二二二二二二二二二二ヽ
            ∠ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ






 くすんだ内壁の駅舎を一歩出ると、ひやりとした秋風が身体を包んだ。
 僅かに目を細め、周囲をゆっくりと見回す。

 都心から電車で一時間余り。
 郊外というほど近くはなく、辺境というほど離れてもいない関東の片田舎。
 観光地ではないせいか日曜日だというのに人は疎ら。
 腰の曲がった老婆が、車を押して目の前をゆっくりと通り過ぎていく。
 軽く会釈を交わして彼女が通りの向こうへと去って行くのを見届け……懐から携帯電話を取り出した。

 電話帳を呼び出してコールする。二回ほど鳴り、ぶつりと繋がった。

『はい、こちら木之崎』

「もしもし、大城です。現地に着きました」

『ああ了解。……どう?』

 敢えて言葉を抜いた問い掛けに、改めて駅前を眺める。
 閑散とした駅前広場を木枯らしが吹き抜ける。
 街路樹は枯葉が目立ち、チチチ、と鳥が鳴くくらいのものだ。

「まだ何とも。ただの田舎街って感じです」

 元々さほど気配に敏い方ではなく、また感知系の<断章>でもないのであくまで第一印象であるが。
 <泡禍>の進行した街は妙な印象を覚えることもあるのであながち無駄でもない。

『そうか。何かあったら、些細なことでもすぐに報告してくれ』

「ええ、勿論。……何もなくとも、夜にはまた一報入れます」

 木之崎の念押しは何も大袈裟なものではない。
 それだけの危機がこの街にはある。

「―――『童話』ですからね」

 現状を再認識し、通話を切る。

 ひゅるり、と秋風が首筋を撫でて、反射的にぶるりと身体を震わせる。

 人のいない駅前に漠然とした不安を覚え、拭い去るように懐から煙草を取り出して咥えた。






 この世に浮かび上がる神の悪夢―――<泡禍>。
 有形無形の怪異として現出するこの災害は、時に強い法則性を持つことがある。

 曰く、人間の根源的恐怖。
 曰く、集合無意識。

 ―――『童話』をなぞる<泡禍>として。




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37いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 19:16:01 ID:5hGPSAsM





          /   /   /      ヽ    ', ',     '     ',
       /   /   /   ノ     ヽ     i       ',  i  iヾ
.       /,ィ   i   /   /i!             l     i  l i l
     ノ'´ l      /   /:::i!       i    l     l  l l l
        l  i    i   /:::::::i!       l    l      l l-i l
         //l    l   /::::::::::::i!        .l   !l     li i!´ll从
       }/ .l l      /::::ー---',         !     l    .l i!-' l
          { l  ,   /ー、fォ,-ミ、.}           l   i   iノ 〉 }
         ヘ!ハl', 从l`ー::¨--:'ヽ!! ,i!    ,    l  i! .ノ //
          i、ヽヽl i!:::::::::::::::::::::::::ヾlヽト  i lヽ  /ll  /l/i!ノ /_
            l/ヽ、'::::::::; '´  ::::::::::::::::l   ∨'  ', / リ l /  /,/lヽニ=-
       , <=从lハ::::::.    ヽ:::::::::::l       ソ   '  ,'从ヽニl三三三=、
   , -=ニ三l三三=Yハ:::::.       ヽ:::::::!             ハl'三三l三三三三ニ-
-ニ二三三三l:三三ニl ヘ:::::.      `   ´           / l三三ニl三三三三三二-
:ニ三三三三l三三三l  l:::::::.  , -一ー---- 、       /  .l三三三l三三三三三三三ニ 、
=三三三三l三三三l   | ヘ/            `ー-、  イ.  l三三三=l三三三三三三三三ニ-
ニニ三三三l:=ニ三三l  . /    ,.:':i::i¨¨¨¨ヽ. _ ノ, ' l.   l三三三ニヽ三三三三三三三三ニ=、
三三三三lニ三三三li  i  _...... -´一l::l`ー--- 、. / /.  ,l三三三三:ヽ三三三三三三三三三=
=三三三/三三三三l.!ノ        l:::l      ヽ、'_   /l三三三三三ヽ三三三三三三三三三=
=ニ三三/=三三三三/.   ー--<´l::::lー-- 、  ヽ___ .} ./ /三三三三三ニヽ三三三三三三三三二-








 大城恵は特定のロッジに所属しない<騎士>である。
 応援依頼を受けては調査に赴くのが大城の日常だ。

 とはいえ特別に優れていたり便利であったりという立場ではない。

 大城は保有する<断章>の性質上、怪しい地域へ飛んで調査に徹する方が働けるだけのこと。
 戦闘力を持たず、事後処理も出来ないとあれば、やれることは限られるものだ。

 立場の軽さを活かして調査に飛び、解決に適した能力を持つ<騎士>へ申し送る。
 それが大城恵のいつものスタイル。

 今回の要請は関東圏に属する群草ロッジから。
 今年の春から夏にかけての、童話を象る<泡禍>の連鎖的発生により、関東圏の<騎士>は大きく減少した。
 その中にはロッジの管理者も複数含まれるというから被害は甚大だ。

 そのためフリーランスの大城もこのところは関東圏をメインに動いてるのだが……




.

38いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 19:18:38 ID:5hGPSAsM




|    | :;|                              |
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 <ロッジ>が用意したセーフハウスに荷物を置くと、大城は街へと繰り出した。

 事前に受け取った資料を捲りながら早足に往く。

「直近一ヶ月で、行方不明者が……多いな」

 こういった街において、報告される行方不明者というのは殆どが単なる徘徊老人だ。すぐに解決する。
 それだけならばさほど気にしないのだが。
 今回は些か数が多い。年齢層も若めである。
 <泡禍>の犠牲者である可能性は高い。

「この数だと……最悪の場合も考えられるか」

 行方不明者の殆どが<泡禍>に巻き込まれていると仮定したら―――事態は相当に進展している。

 誤解を恐れず言ってしまえば……死体になるだけなら、まだいい。
 不審死として処理することが可能だ。
 恐れるべきは<異形>となっていること。特に人を襲うタイプは最悪だ。

 そうならないように……あるいは、そうなってしまっても最低限で済ませられるように。
 対処するのが<騎士>の役割である。




.

39いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 19:21:32 ID:5hGPSAsM




               /                  .\
              /    -―              ハ
            /                       ハ
           ./    /           ヽ:::       ハ
           //  . /             ヽ:::  ヽ    .メ
            ´/ / /   ,、           ヽ:::. |.     l
            / /     ヘ              |   _ ト
           / ハ /  / ヘ              .|   |ヽ
          .'/| / .|  /  |  ヽ             |.  メ.ヘi
            |/ |  / ―-ヽ   .ヽ         /  ,i ソ | i
             |/ヘ./i 、___ヽ/ヽ  .ハ  . ハ i   /i/リ //
              |/|,i   ̄  .|  \| | / .レ /ヽ/|/ | ノ/i/`i
              ' |      |             | リ ./ ヽ
              メ     /             ハ:/  /
            _ / ヽ     ヽ  _ _        /:::/  /
         -―   //:/ヽ               /:::/.  リ
       /     //::/ iヽ             /:::/  リ  |
     /       |::/  .| ヽ  ―――-,,,‐‐  /::::/   ノ /
    /.           |/   |  ヽ、    \\ ./::::::/   リ /
  /          |   .|   ト::`:::ー::::-:::::| 」:::::::/   /
                           ''''''





「…………ふう」

 大城は書類を仕舞い込み、ゆるりと目を閉じた。

 息を大きく吐く。

 ゆっくりと吸う。

 意識を沈める。

 暗く深い水の底。こぽり、こぽり、と沈んでいく。

 意識の底―――その底の底から僅かに浮かび上がる泡を掬い上げる。

 解き放ってしまわぬよう、悪夢の泡をしっかりと留め―――意識を揺さぶる言葉を発した。

「―――<きっと良いことがあるから>」

 ずぐり。
 意識が軋みを上げる。
 胸に緩く爪を立てながら、目を見開くと。

「にゃあお」

 通りの角に、猫がいた。
 どこにでもいそうな三毛。尻尾の先までが闇に浸したように真っ黒だ。
 首に下がった黄金色の鈴だけが強く自己主張をしている。

 りりん。

 鈴を揺らして、身を翻す。

 大城は驚くこともなく、猫を追った。




.

40いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 19:25:58 ID:5hGPSAsM







    _
  ―――
. /―――‐ ノ
/―――/
―――/
――‐/
ニニニ
二二{
二二{                                                |二__
二二{                                                |二二__
二二{                                                |二二二__
二二{                                                |二二二二__
二二Λ                                                  |二二二二二
二二. Λ                                  ∨ニ-           .ノ二二二二二
二二二Λ                                    ∨二二-      __-ニニニニニニニ
二二二ニ\                   __  ―――  __ ∨二二二-v/ニニニニ二二二二
二二二二二\            _-=二二二二二二二二二二=-_ ニニニニニニニニ二二二二
\二二二二二ニ=- __  _ -二二二二二二二二二二二二二二二二二-__ ニニニ二二二二二二
  `''<二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二-__ ニニニニ二二二二
     `''<二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二ニニニ二二二二
        `''<二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二\ニニニニ二
           `~"''''''冖//⌒二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二\ ニニニ二
               /     彡二二二二二二二 \二二二二二二二二二二二二二二}二--/
                   二  V)  -ニノニニニニニニニΛ二二二二二二二二二二二二二 }--/
                二     -ニノニニニニニニニニΛニニニニニニニニニニニニニニ{
                   二      -ノニニニニニニニニニ}ニニニニニニニニニニニニニニ{



 <泡禍>に巻き込まれて生還した者には、神の悪夢の欠片が残ることがある。
 それは神の悪夢であるが故に超常的な現象を引き起こす。
 この欠片を俗に<断章>と呼び、<断章>を用いて<泡禍>に立ち向かう者を<断章騎士>という。

 大城恵は<断章>を持つ<騎士>である。

 抱いた<断章>は『長靴を履いた猫』と名付けられた。
 主を導き、城と地位を齎した幸運の猫である。

 その名を聞いた時、思わず笑ってしまった。

 『幸運を齎す断章』など笑い話以外の何物でもない。

 まるで童話の通りのように、この黒猫は大城を導く。その先に待つのは主の求めるものだ。

 ―――今は、まだ。



.

41いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 19:27:12 ID:5hGPSAsM
以上。side:大城恵の第一話でした。

次回投下までゆるりと御歓談下さいませ。

42小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/08(金) 20:11:20 ID:DGBP0DG6


43小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/08(金) 20:49:12 ID:40mIKdCU
もはやAAいらないこれ

44いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/08(金) 20:49:48 ID:5hGPSAsM
はい。

45小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/08(金) 21:01:38 ID:cv/jXSMY
おつおつ

46小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/08(金) 21:51:00 ID:q3Ll4j06
乙ー
原作もカラー部分と章の区切りの最後にあるくらいだからね……
まあ、話読んでるとこれくらいでよかったと思いたくなるけどw

47ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 20:50:18 ID:0EnU3l7k
はいこんばんは。
いい加減書かないと怒られそうなので二話を21時からぶん投げます。

48ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:02:53 ID:0EnU3l7k
では始めます。

49ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:03:04 ID:0EnU3l7k



二二二二>=‐-..,,_____,,.ィ 二ニ=く⌒}ー____                _____________――― ―
二二二二二二二二二二二二二二二',二二二二jノ⌒ヽ厂r-ヘ、__  ∠====================――
.  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ヽ二二 ̄ ̄ ̄ ̄)二二二二ー‐く二二二二二二二二ア´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー=二二(__√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

                             /side 『眠り姫』2

二二二二>=‐-..,,_____,,.ィ 二ニ=く⌒}ー____                _____________――― ―
二二二二二二二二二二二二二二二',二二二二jノ⌒ヽ厂r-ヘ、__  ∠====================――
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⌒ヽ二二 ̄ ̄ ̄ ̄)二二二二ー‐く二二二二二二二二ア´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー=二二(__√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



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50ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:04:52 ID:0EnU3l7k


《グランギニョルの索引引き》。


それが、俺に聞こえた声の正体。
《断章》名だと。
虚勢半分、混乱半分の俺に。
電話越しの《世話役》は、彼の知る限りの情報を伝えてくれた。


曰く、『童話化する《泡禍》を告げる《断章》。』
曰く、『予言された対象は、配役として巻き込まれる事が確定する。』
曰く、『その《泡禍》の解決には、予言された《童話》について追求する事を強く勧める。』


何故そこまで詳しいのか。
それに関しては、若干言葉を濁らせながらも返ってきた返答が一つ。
彼……木之崎自身も、以前に関わった事があり。
そして、その《断章》の保有者を現在預かっている為なのだと。

51ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:10:30 ID:0EnU3l7k

そこまで聞いて、漸く彼の名前を思い出した。
嘗ての《叢草ロッジ》での騒動での、主要人物。
何処で聞いたのか、或いはなぜ俺に教えるのか。
その問いを全て、猫の様な小憎らしい笑顔で封殺していた《チェシャ猫》は、もういない。

『童話に関して、詳しい《騎士》が一人いる。』
『直ぐに連絡を取ってみる。 連絡先を伝えておいても構わないか?』

了承の意を告げた。

もう一人か二人、送れる《騎士》を送る、と。
その言葉を最後に、彼との話は途切れた。

残ったのは、胸に残る異様な――――《泡禍》に関わった時特有の。
吐き気と、後悔と、絶望を綯い交ぜにしたような胸糞悪さ。

そして、目の前で俺を見つめる《悪夢の泡の残滓/リーチェ》。

52ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:14:31 ID:0EnU3l7k
 ・ ・ ・ ・ ・
『どうするの?』

分かりやすい程の、悪意と善意が同居した顔。
真正面から決して見据えられない。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ずっと昔から変わらない、変われない子供特有の笑顔を浮かべている彼女。

無言で,ゴミを抱えて立ち上がった。
机に潜り込むように、彼女は下を擦り抜けて耳元で囁いた。

『頑張って、私の《王子/騎士》様。』

その言葉は、俺にとっての呪いだった。
決して逃れられない、悪夢からの呪いであり。
生前の少女から遺された、呪いだったから。

※※※

53ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:17:42 ID:0EnU3l7k

急いで帰り、その場所に向かおうとしたけれど時間的に。
そして本当に数少ない対人関係上の問題もあり、出発出来たのは翌々日の朝方だった。

幾つかの着替え、膨らんだ財布。
そして相反したような、くすんだ色の髪飾りと首に巻き付けたマフラー、小さな指輪。
それらをポケットに入れた上で、新幹線に乗りながら右手の携帯を操作した。

「かえるのおうさま」。
或いは「蛙の王子様」「鉄のハインリヒ」。

グリム童話第一冊目の、初めに記載された童話の形。
名前すらも聞いたことは無かったが、俺には文明の利器、携帯電話がある。
どちらかと言えば実際の紙での読書派ではあるが、この際細かい所に気を配る余裕もない。
幾つかヒットした中で、一番最初に開いたページにはこう書かれていた。

54ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:19:31 ID:0EnU3l7k

『あるところに一人の王様がおりました。
この王様には幾人もの美しいお姫さまがおりましたが、中でも末娘の姫君の美しさといったら太陽でさえその顔を照らすたび驚いてしまうほどのものです。
お姫さまは森の泉のほとりで、ひとり金の鞠を高く投げたり受け止めたりして遊ぶのが好きでした。

ある日のこと。
お姫さまがいつものように金の鞠を投げ上げて遊んでいると、うっかりと受け損なって鞠を泉の中に落としてしまいました。
泉はとても深く、鞠の沈んだ水底は少しも見えません。
大切な金の鞠を失くしてしまったお姫さまは悲しくなって、泉のそばにしゃがみこんで泣きました。
そうしてお姫さまが泣いていると、泉の中から呼びかける声があります。

「どうしたんですかお姫さま。そんなに泣いていると石たちまで心配して泣いてしまいますよ。」
見ると、一匹の気味の悪いカエルが泉の中から顔を出していました。

「カエルさん。私ね、大切な金の鞠を泉の中に落としてしまって、泣いているのよ。」
「もしも私がその鞠を取ってきてあげたら、貴女は私に何か下さいますか?」

カエルが言うので、姫は頷いて答えます。

「貴方の欲しいものは何だってあげるわ。私の着物だって真珠だって宝石だって。この金の冠だってあげる。」
「そんなものは何もいりません。それよりも私を貴女のお友達にして下さい。貴女の食卓に並んで座らせて、貴女の金のお皿で食べ貴女の可愛い杯で飲ませて下さい。
そうして夜になったら、貴女の小さなベットで寝かせて下さい。もしこれだけの事を約束して下さるのなら、泉に潜って金の鞠を取ってきましょう。」
「ええいいわ!鞠を取ってきてくれるなら、何でも約束してあげる。」

お姫さまは約束しましたが、心の中では

(おバカさんのカエルね。人間のお友達になろうなんてとんでもないわ)

とひどい事を考えていました。
そんな事も知らず、カエルはすぐに泉に潜ると約束通りお姫様の金の鞠を持って浮かび上がってきます。
お姫さまは喜んで、金の鞠を胸に抱くとそのままお城へ駈け戻ってしまいました。

「待って下さいお姫さま!私はそんなに早く走れません」

カエルが騒ぎましたが、お姫さまは後ろを振り返りもせず走ります。
そうしてカエルとの約束なんて、すっかり忘れてしまったのでした。

それからしばらくして、お姫さまが王様や姉のお姫さまたちと食事をしていると、ぺたりぺたりと大理石の階段を上ってくる者がありました。
足音は一番上まで上がりきると、とんとんと戸を叩きながら言いました。

「お姫さま、一番下のお姫さま。約束をお忘れですか?早くここを開けて下さい。」

55ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:26:08 ID:0EnU3l7k

それを聞いたお姫さまは真っ青になって、胸は不安でどきどきと早く拍ち始めます。

「どうしたね姫。外にいるのは誰だい?恐ろしい大男でもやって来てお前をさらって行こうとでもいうのかね。」

王様が笑って訊ねるとお姫さまは慌てて、泉に金の鞠を落としてしまいカエルに拾ってもらった事を話ました。

「だからお友達にしてあげるって約束してしまったの。だってカエルが水の中から出てこられるだなんて思わなかったんですもの。」
「一度した約束はきちんと守らなくてはいけないよ。さあ早く戸を開けておあげ。」

王様に言われ、お姫さまは席を立って戸を開けました。
するとカエルが飛び込んできて、お姫さまの足元にぴったりとくっつくと言いました。

「さあ約束ですお姫さま。私を食卓に上げて下さい。」

お姫さまがぐずぐずとしていると、王様がまたそうしてあげなさいとたしなめます。
仕方なくお姫さまがカエルを食卓の上に乗せると、

「二人で一緒に食べられるように、そのお皿をもっとこちらへ寄せて下さい。」

カエルは図々しく言いました。
お姫さまは嫌で嫌で仕方ありませんでしたが、カエルはとても美味しそうに皿の上のごちそうを食べます。
そうして食べるだけ食べると、

「ああお腹がいっぱいになってくだびれました。さあ私を貴女の寝室に連れて行って、二人で眠れるように絹のベットを整えて下さい。」

と言うものですから、お姫さまはとうとう泣き出してしまいました。
けれども王様は怒って言いました。

「困っている時に助けてくれた者に、後になって知らん顔をするのはいけない事だ。」

お姫さまは嫌々二本の指でカエルを摘むと、寝室へ連れて行って部屋の隅に置きました

それから一人でベットに横になると、またもやカエルが傍へ寄って来て言います。
「私も貴女のようにゆっくりくつろいで眠りたいです。早く寝台に上げて下さい。そうして下さらないと、お父様に言いつけますよ。」

それを聞くとお姫さまはついにすっかり怒ってしまって、カエルを乱暴に掴み上げるとありったけの力を込めて壁に投げつけました。

「本当にいやらしいカエルね。これで楽に寝れるわよ!」

しかしどうでしょう。
壁にぶつかったカエルは床に落ちた時にはもうカエルではなくなって、優しい瞳をした美しい王子様に変っていたのです。
王子様は悪い魔法使いに呪いをかけられカエルの姿にされていたのでした。

「あの泉から助け出してくれたのは君だけだったんだ。おかげで呪いが解けた。有難う。」

王様のはからいで王子様はお姫さまのお婿さんになり、末永く幸せに暮らしたという事です。』

56ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:27:25 ID:0EnU3l7k

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
この中身を見るに、ハインリヒが出る話と出ない話で書き換えが行われている。

念の為出る方の話も調べ、ページを画像として保存しておく。
――――どちらの話にしても、出てくるのは「蛙」、そして「姫」と「王」。

人が蛙になる。 蛙が人に戻る。
人と動物が入れ替わる、変えられる話というのは世界中に存在している。

                           アーキタイプ
言ってしまえばそれらは異類婚姻譚に類する【原型】としてはオーソドックスなもの。
日本で言えば鶴の恩返し、或いは浦島太郎等。
動物そのまま、というよりは人として変化した、化身として姿を現す話は日本に多く見られる。
外国であれば――専門というわけではないのだけど――どちらかと言えば、動物そのものが行動を起こすケースが多く見られる気がする。

それらを根底に添えた、《泡禍》であるのならば。
起こり得るのは……やはり、『蛙』という事になるのだろうか。
《異端》であるのか。
《潜有者》であるのか。
それは、調べてみるまでは分からないけれど。

くすり、とリーチェが微笑みを漏らす。
対面の席、誰もいない事を良い事に――或いは、誰かが居たとしても――席に腰掛け、こちらを見つめている。

57ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:29:04 ID:0EnU3l7k

・ ・ ・ ・
視界の隅でそれを捉えながら、子供舌だと笑われる要因の一つであるように。
砂糖と牛乳を大量に使用した珈琲を一口呷る。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
彼女が見ている限り、俺は絶対に狂えない。
《断章》が抱える副次的な効果による他の《泡》への耐性でなく。
既に死ぬ寸前まで至った精神の歪み故でなく。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
出会ってしまった《泡禍》の結末で、狂って逃げ出そうとしても逃げ出せなかった事に寄る、もうひとつの《効果》故に。


逃げ出すことは出来ず。
立ち向かう事も、人の身では限度があり。
それでも尚、少女の形を持った《断章》は。
俺を未だに、《王子/騎士》として縛り続ける。
彼女を救えなかった王子として。
共に眠る事を望まれた騎士として。

      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――――彼女と生涯を共にする王子として。

『次は――――。 ――――。 お降りのお客様は……。』

だからこその。
眠り続ける姫を、迎えに行けない『眠り姫』。
それが――俺を定義する名前だった。

/ side3に続く

58ice ◆53Ok1gX4xs:2018/06/11(月) 21:30:20 ID:0EnU3l7k
以上です。
次の話ははつかねずみがやってきた頃に。

59小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/11(月) 21:33:26 ID:DOsA6oB6


60小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/11(月) 22:31:32 ID:Ee0nTz4Q


61----------------------:----------------------
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62いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 14:49:07 ID:6Ty2GvU6
大変お待たせ致しております。
今晩21時頃を目処に、side:大城恵の第二話を投下します。

63小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/24(日) 17:18:49 ID:.4OB2hBE
わーい

64小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/24(日) 18:47:15 ID:HeTuO2Vo
わくてか

65いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:01:19 ID:8mfkdII.
クリック?

66いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:15:58 ID:8mfkdII.
あい!お待たせ致しました。

では第二話投下します。

67いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:18:27 ID:8mfkdII.





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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


             断章のグリムif 『カエルの王子さま』 side:大城恵 part2


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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




.

68いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:19:35 ID:8mfkdII.


――――――――――――――――――――



「にゃあお」

 ブロック塀の角を曲がると、次の交差点にちょこんと座る黒猫が見えた。
 近付けば、身を翻してまた消える。
 猫を追って大城恵は路地を進んだ。

 一見すると普通の猫だが、これは<断章>である。
 物理法則は関係ないし大城以外の他人から見えることもない。
 まるで瞬間移動でもしているように、黒猫は大城を誘う。

.

69いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:21:01 ID:8mfkdII.


 ―――――プルルルルルル。


「ん」

 ポケットの携帯電話が鳴った。
 猫の行き先を確認しつつ、手探りに応答する。

「はい、大城です」

『此方深谷。先行してる<騎士>さんってのはこの番号で大丈夫でしょうかね?』

 若い男の声だ。落ち着いていて、思慮深い印象を受ける。

「ああ、どうも。先行して調査中の大城恵です。宜しくお願いします深谷さん」

『よろしく、大城さん』

 至って普通のやり取りに、内心僅かに安堵する。
 戦闘に堪えうる<断章>を持つ<騎士>は、精神的に不安定な者が多いのだ。

 <断章>は神の悪夢と混ざりあったトラウマであるが故に<騎士>の精神性にも近しい。
 攻撃性が強い<断章>を持つということは、凄烈な<泡禍>に遭遇したとほぼ同義である。

 だが彼―――深谷という<騎士>は、少なくとも平時はそうではないらしい。
 連携がしやすくてとても助かる。


.

70いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:22:35 ID:8mfkdII.

『状況は?』

「調査開始して……1時間くらいですかね。まだ特に何も」

『ああ、まだ着いたばかりと』

「今は住宅街で<断章>を使って調査中です」

『現在地は?』

 きょろりと見渡して、電信柱に貼り付けられた板を読み上げる。

「今は―――町の三丁目に」

『ええと……そこまで離れてはいないかな?』

 そのはずである。出てきたばかりであるし、ゆっくり移動しているのでセーフハウスからはまだ近い。

「一度そちらへ戻ります。情報交換をしておきたい」

『了解、それでいこう』

 段取りを考えつつ、猫に続いて角を曲がった時。

「あっ……」

「おっと」

 丁度こちらへと曲がってきた通行人とぶつかりそうになり、慌てて避ける。

「失礼しました」

「あ、いえ……こちらこそ……」

 軽く頭を下げた大城に、相手も申し訳なさそうに慌てて頭を下げた。
 相手は女性だった。
 歳は30代半ばといったところだろうか。長い髪を緩く纏め、やや暗い雰囲気を漂わせている。

 その足元を黒猫がするりと抜けていった。

 追わなければならない。もう一度大城は頭を下げて通り過ぎ、意識を電話に戻す。

『どうしました?』

「―――失礼、通行人がいて。では一度セーフハウスで……?」


.

71いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:26:03 ID:8mfkdII.



 合流の段取りを立てようとした時、何かが意識に引っ掛かって、すん、と鼻を揺らした。

 僅かな異臭。

 何だろう、と内心首を傾げて、すぐ正体に思い至る。
 水の臭いだ。
 学校の中庭にある放置された池のような、澱んだ水の臭い。

 近くの民家に池でもあるのだろうか、と周囲を軽く見渡して。

「……………………え?」

 細い路地裏の暗がりに、それを見た。

 二本の足でゆっくりと歩くそれは、しかし人間では有り得なかった。


 肌はまるで水に浸かったまま腐ったようにぶくぶくと膨れ上がり。
 べちゃり、べちゃり、と湿った音を立てて歩く。
 ゆらりと顔面も定かでない頭部が揺れ。
 喉に空いた風穴からはだらりと舌部が垂れ下がり、動きに合わせてぷるぷると震える。


「う―――………っ!」

 込み上げる嘔吐感に、反射的に口を押さえた。

 仕事柄、怪物との遭遇経験はそれなりにある。追われて逃亡したことだってあった。
 それでも今回の……絶妙に人の形を残し、しかし人間では有り得ない造形は本能的な恐怖を突き上げる。

 しかし今は耐えねばならない。
 義務感で嫌悪を抑え込み、電話口に小さな声で告げた。

「―――<異形>を発見!」

 ぐるり、と回った<異形>の顔が―――こちらを向いた。





                             ___________|\
                            [|[||  To Be Continued....!    >
                              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/

.

72いが ◆K/oR.weXaA:2018/06/24(日) 21:26:44 ID:8mfkdII.
以上。side:大城恵の第二話でした。

次回をゆるりとお待ち下さい。

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74小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/25(月) 01:53:57 ID:y254UDwU
おつおつ

75小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/06/25(月) 16:04:56 ID:HBf0B2U2
乙でした
まさか断章のグリムの原作アフター二次があるとは……

76----------------------:----------------------
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77ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/01(日) 15:24:15 ID:tOakU5WY
はいどうも。
次回投下予定は7/7です。

78ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:19:28 ID:Sl3z5Oxo
クリック? クラック!
というわけでside:眠り姫第三話をお届けします。

79ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:22:06 ID:Sl3z5Oxo




/side 『眠り姫』3



.

80ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:22:45 ID:Sl3z5Oxo

一際大きくがたん、と音を鳴らし。
新幹線は目的の街まで辿り着いた。

都会、という程には栄えているわけではなく。
田舎、というには余りに人や物が多い。
地方都市、或いは近隣で最も栄えている街。
そんな形容がぴたり、と当て嵌まるような街模様。

視界に映る、中心から外れた円周部には山々や田畑が見受けられる事も。
俺の最初に抱いた感想に拍車をかけていた。

.

81ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:23:28 ID:Sl3z5Oxo

『それで?』
「変に思われるから黙ってろ……セーフハウス、拠点に行く。」

マフラーに口元を埋め、文字通り囁く程度の音量での通達。
独り言、そして異様な子供っぽさが目立つ青年。
それが、俺の地元での評価であり。
同時に、周囲に人が寄ってこない要因でもあった。
……《断章詩》の都合上、それらは歓迎する事だったけれど。

人は疎らではあったけれど、俺がこれからする行動ははっきり言って異常な行動に他ならない。
だからこそ、出来れば。
何も知らない人から妙な目線で見られる事は避けようと、足早に駅前から離れて行った。

.

82ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:25:31 ID:Sl3z5Oxo

※※※


閑散とした住宅街の隅にひっそりと建てられた、築数十年も経過したのだろう一軒家。

      ・ ・
それが、俺達に用意されたセーフハウスだった。

携帯に送られていたメールから住所をもう一度確認。
鍵の在処が記されたそれを参考に発見し、中へと足を踏み入れた。

長年経った独特の匂いが鼻に刺さる。
喉元まで戻り掛けたそれを気合いで嚥下し、一通り中を確認。
見知らぬ荷物が一室に置かれていた――――既に、別の《騎士》は到着済みらしい。
その荷物が置かれた隣の部屋に荷物を降ろし。

一息付いて、街中へと出る。
どう見ても不審者に見えるような、子供向けの製品を身に纏い。
黒いコートに身を包んだ姿。
それは、二重にも三重にも暴発を防ぐための精神のスイッチに他ならず。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仮に無かったとしても問題は無いけれど――あった方が安定する。
そういった類の、《騎士》としての正装だった。

『それで何処に?』
「……街中の散策だよ。」

普段であれば、無視するような言葉でさえ。
《騎士》として動く時は、反応するしかない。
彼女がいなければ、俺は唯のトラウマを抱えた一般人に過ぎないから。

      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――――彼女越しでなければ、発動できない《断章》だから。

.

83ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:27:53 ID:Sl3z5Oxo

街へと躍り出、片手に握った携帯に番号を打ち込む。
幾度かのコールの後、男性の声が耳元に届いた。

『もしもし、大城です。』
「此方深谷。 先行してる《騎士》さんってのはこの番号で大丈夫でしょうかね?」

聞こえてきた声は、少しだけ落ち着いた声。
俺よりも何歳か年上だろうか?
そういった、男性の声。

『ああ、どうも。先行して調査中の大城恵です。宜しくお願いします深谷さん』
「よろしく、大城さん」

先行調査中。
彼がどういった《断章》を持つのかが分からないけれど。
大きく分けて、戦闘向けなのか調査向けなのかによってもこれからの方針は決まる。
まずは合流を優先したほうが良いか、と一度唇を舐めた。

.

84ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:28:57 ID:Sl3z5Oxo

「状況は?」
『調査開始して……1時間くらいですかね。まだ特に何も』

……未だ到着したて。
ほんの少しのズレ程度だったのか。

「ああ、まだ着いたばかりと」
『今は住宅街で<断章>を使って調査中です』

そして、この言葉で調査向けなのが確定した。
基本的に戦闘向けでない《断章保有者》……例を挙げるなら《葬儀屋》だろうか。
そういったサポート向けの能力を持った人物は、可能なら単独行動はさせたくないのだが――――。

「現在地は?」
『今は―――町の三丁目に』

近くの電信柱を見る。
二丁目。
ならば、大した距離ではないと判断する。

.

85ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:29:44 ID:Sl3z5Oxo

「ええと……そこまで離れてはいないかな?」
『一度そちらへ戻ります。情報交換をしておきたい』
「了解、それでいこう」

動向も確定。
電話を肩で保持しながら、事前に印刷してきた市内の地図を指で追う。
ほんの数本道を移動すれば直ぐ。
何処かで合流できれば僥倖だろうか。
やや早足になりながら、地図を折り畳み――――。

なにか、電話の向こうで話す声が聞こえた。

「どうしました?」
『―――失礼、通行人がいて。では一度セーフハウスで……?』

声が、途切れる。
思考が巡り、咄嗟に駆け出していた。
眼の前の十字路を、左折。
そのまま数本進んだ先の、何処か。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そこに、何かがいる。

.

86ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:30:42 ID:Sl3z5Oxo

『う―――………っ!』

電話越しから聞こえる、呻き声。

「リーチェ、先行しろッ!」
『先行? お姫様みたいに、待ってろって?』
「ああ、もう其れでいい! 頼む!」

誰もいない空間への叫び声。
眼の前の、宙に浮いた少女がふわりと消えていく。

――――唯の、泡禍では済まない。
そんな、直感が支配していた。

右手をポケットに詰め。
其処に入った……小さな指輪を握り締め。
左手で電話をスピーカーに切り替え、走る。

『―――<異形>を発見!』

.

87ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:32:03 ID:Sl3z5Oxo

声に、数十秒ほど遅れてだろうか。
彼女の姿が、一つの角で止まっているのが見える。
小さく、笑いながら。
口元だけを、歪に歪めて。
早く来て、と。 囁くように。

だから。
曲がり角を曲がる前に、息を絶えさせながら、枯れた声で叫んだ。

「此方に走れ!」と。

俺の持つ《断章》は、ある程度なら操作出来る。
だが、飽く迄ある程度に過ぎない。
距離が、近すぎれば――――巻き込むのだ。
一切の容赦も、感情もなく。
そういうものだ、という現象でしかない故に。

その声に、反応したのかしないのか。
角から2つの顔を覗かせた。
それに気取られる余裕もなく。
角を曲がった先。
〈異形〉の――――姿を見た。

.

88ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:33:04 ID:Sl3z5Oxo

水に浸かったような膨れ姿。
目と、頭と――――。
ぷん、と香る腐臭にも似た黴臭さ。
喉から垂れるのは、恐らく舌なのだろう。
人でない程の。
或いは、人でもあれ程に長いのか。
震えながら、一歩一歩と近寄ってくるそれに。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
毅然と対応させられながら。

「リーチェッ!」
『……分かってるわ。』

彼女を、その怪物と重ねて見る。
視界に捉える。 右手で、指輪を強く握る。
《断章》を、発動させる条件を揃えた。
暴走を防ぐための、幾つかのセーフティを揃えた。

だから――――。

.

89ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:33:55 ID:Sl3z5Oxo



《――――ずっと、大好きッ!》


過去の。
リーチェが、腐り。
腐臭を漂わせる、肉塊になった姿を想起して。
ただ一言、叫ぶ。


.

90ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:35:01 ID:Sl3z5Oxo

変化は、劇的に。
リーチェの姿と共に、怪物が腐り落ちていく。

腐敗していく。
時計を早回ししたように。
本来ありえない速度で。
生きたままに。
苦痛を覚えたまま、意識を保ったまま。
腐り落ちていく。

喉元に、酸味を感じて嚥下した。
鼻の奥がつん、と痛み。
その〈異形〉が、どろどろに溶けるまで。
恐らく、数十秒も掛からなかっただろう。

「…………もう良い。」
『あら。 ……まあ、私も良い気分ではないものね。』

後に残ったのは、何かが溶けたような小さな溜り。
そして、元の姿に戻ったリーチェ。
……吐き気を抑えながら。
指輪から、手を離した。

/side4に続く

91ice ◆53Ok1gX4xs:2018/07/07(土) 11:35:27 ID:Sl3z5Oxo
はつかねずみが、やってきて。
次回をお楽しみに。

92小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/07/07(土) 13:21:48 ID:uXlT9PCA
乙です
溶ける?断章なのか

93小さな名無しさん@この板は300レスまで:2018/07/07(土) 17:34:56 ID:htnaOvEw
おつおつ

94いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:11:17 ID:S//3ACHk00
皆々様、あけましておめでとうございます。

長らくお待たせ致しました。

side:大城恵の第三話をこの後投下させていただきます。

95いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:13:02 ID:S//3ACHk00
と、sageを外し忘れていましたね。失礼。

96小さな名無しさん@この板は300レスまで (ワッチョイ 5506-d230):2019/01/05(土) 20:23:51 ID:q0yBgeX600
ワーイトウカダー!

97いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:31:12 ID:S//3ACHk00
ありがとうございます。では、始めます。

98いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:32:24 ID:S//3ACHk00





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             断章のグリムif 『カエルの王子さま』 side:大城恵 part3


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99いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:33:40 ID:S//3ACHk00

―――――――――――――――――――――――――――――



「―――<異形>を発見!」

 その言葉に反応するように、目の前の<異形>がこちら向いた。

「……………っ!」

 恐怖に背を向けて走り出したくなる身体を理性で押さえ、じりじりと後退する。

 こちらを見ているのか見ていないのか。
 膨れた眼窩を向けて、べちゃり、べちゃり、と歩み寄ってこようとする<異形>。

 その動きは鈍い。
 曲がらぬ膝を投げ出すように一歩一歩を踏みしめる。
 移動速度は、常人が歩く程度。
 大城が軽く走れば振り切れるであろう緩慢な追走だ。

 しかし念のために、いつでも走れるように構えながら後退しつつ。
 調査員としての役割―――対象の観察に努める。


.

100いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:35:19 ID:S//3ACHk00



 この<異形>は、歪ではあるものの概ね人型をしている。
 こちらを向いている以上、何らかの感知能力は有り。
 眼球は露出しておらず、視界があるようには見えないが……顔を向けていることから視えているのか、あるいは音なのか。
 攻撃能力は不明。
 今のところはこちらに向かって緩慢に歩くのみで、何かをしてくる様子はない。
 ごろろろ、と時折喉が鳴るのが不気味だ。

(耐久力は―――いや、迂闊な刺激は危険か?)

 これほど動きが鈍いのならば、棒きれか何かでの対処も可能かもしれない。
 しかし攻撃行動を引き金に反撃を行う可能性も高い。

 何かすべきか、と迷った―――その時。

「―――此方に走れっ!」

 男の枯れた叫び声に、反射的にそちらへと身を翻した。


.

101いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:37:15 ID:S//3ACHk00



 数歩を踏んで角を曲がれば、通りへ出る。
 駆ける先には一人の男の姿。

 年若い青年だ。
 見目良く整った顔立ちに細い身体だが、今は汗を浮かべて真剣な表情でこちらを睨んでいる。

 先程の声はこの青年のものだろう。
 足を緩めず、真っ直ぐに駆け寄っていく。

 ふと、男の視線が外れる。
 大城ではなくその後方を見遣り―――胸元で拳を握り、苦悶の表情で叫んだ。


「《―――ずっと、大好きッ!》」


 ぞくり、と呼応する胸を押さえて彼の横を駆け抜ける。

 悲痛なる愛の言葉は彼の《断章詩》。
 その《効果》がわからぬ以上、大城にできるのは効果対象から離れるのみである。

 数歩を踏み、ゆっくりと止まって振り向いた時。
 追い縋っていた《異形》は溶けるように崩れ去るところだった。



―――――――――――――――――――――――――――――

.

102いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:39:27 ID:S//3ACHk00



―――――――――――――――――――――――――――――


「―――ではひとまず、休んでください。情報を纏めておきますので」

 《騎士》深谷とともにセーフハウスへと戻った大城は、お互いの情報を交換し合った。
 保有する《断章》の説明。深谷が受けた《索引ひき》の予言。これで当面の方針は定まった。
 あとは動くだけという状態なので、大城は深谷を休ませることにする。

「い、いや……あまり悠長にもしてられませんよ。既に《異形》も出てるのに」

「その酷い顔つきを見て、じゃあ周辺を警戒しましょうかと言えますか」

 とても平常とは言い難いものだった。。
 顔面は蒼白。息はやや荒く、身体が前に傾いでいる。明らかに消耗していた。

「急ぎの状況なのは理解してますが、だからこそ今は休んで貰いたい」

 こんな体調の人間に「私は情報を集めるので周辺を歩き回って下さい」といえるような外道になったつもりはない。……言える人間が《騎士団》にはそれなりに存在するが。
 《騎士》ならば死を覚悟してでも踏ん張る気概はあるにしろ、それは今ここでの話ではない。



.

103いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:41:03 ID:S//3ACHk00



「自慢じゃありませんが私は戦闘能力が皆無です。貴方に倒れられたら自衛も危うい。動く際には声を掛けますので少しでも体力を温存してもらいたい」

 自虐も交えて念を押すと、察したような表情混じりにようやく折れてくれた。

「……では奥の部屋で一休みしてきます。何かあったら呼んで貰えたらすぐ出てきますんで」

 そう言い残して深谷は割当の部屋へと消えた。
 頻繁に意識がこちらから逸れた風もあったので、見た目以上に消耗しているのだろう。
 長距離の移動から、間髪入れずに断章を用いての戦闘だ。無理もあるまい。

「さて」

 実働担当が休んでいる間に、こちらの仕事を進めよう。
 《騎士》としての仕事用である大きな鞄からノートパソコンと通信機器一式を、懐からスマートフォンを取り出す。

 ノートパソコンを立ち上げている間に、先んじて調べていた電話番号をダイヤルする。

『はい、こちら警察です。如何なされましたか?』

「不審者を見かけたのですが……」

 かけたのは警察への電話。非緊急時用の番号だ。
 不審者の通報、という体で《異形》の目撃情報を聞くためだ。


.

104いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:43:28 ID:S//3ACHk00



「ええ、ドロドロの服、でしょうかあれは……ええ多分男です。他の方も見たりは……ああ、ありがとうございます」

 僅かに情報を得て、電話を切る。

「既に数件の通報がある、と……」

 立ち上がったノートパソコンにメモをしておく。
 幸いにも口の軽い担当者で、通報のあった地域を教えてくれた。
 既に巡回の強化を検討中だという。
 公開されている不審者情報にも似たような内容はあったが、警察の対応状況までは分からない。

「……警察で対処は、まあ無理だろうな」

 単に《潜有者》を処理して終わりならまだ可能性もあるが、これは童話規模まで拡大した《泡禍》である。そう上手く行くものではない。
 《異形》を薙ぎ倒し《泡禍》の発生源を処理して、尚止まらぬ可能性すらあるのが童話型の《泡禍》というものだ。

 ……と偉そうに思考してみたところで、対処能力としてはこちらも大差ない。
 見えた怪異に対抗するしかないのが現状だ。


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105いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:44:46 ID:S//3ACHk00



「童話……童話ね……」

 先程の情報交換で聞いた話に思索を向ける。
 奇妙な『《泡禍》を予言する《断章》』。それが今この地に関わっている可能性があるのだと。

 深谷から聞いたその童話名を検索サイトに打ち込む。
 その名は―――

「―――『カエルの王さま』」

 あるいは『かえるの王子さま』とも言われるグリム童話の一つ。


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106いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:45:53 ID:S//3ACHk00



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 ……ある国の王女が、ある日森の泉に大切な金の鞠を落としてしまった。
 困る王女の前に一匹のカエルが現れ「自分を王女様の友達にしてくれて、隣に座って同じ皿から食事を取り、あなたのベッドで寝かせてくれるのなら、拾ってきてあげましょう」と言った。
 王女はそれを受け入れて、カエルは約束通り金の鞠を取ってきたが、王女はカエルを置き去りにしてお城へと駆け戻ってしまった。

 翌日、王女とその家族が夕食をとっていると、件のカエルが城を訪ねて約束を守ってくれと求める。
 王女は嫌がるが、王は約束を守るようにと聡してカエルと共に夕食を取らせた。

 夕食を終えると、カエルはベッドで一緒に寝て欲しいと求めた。
 王女は泣いて嫌がるが、王に命じられてカエルを寝室へと連れて行く。

 共に寝るのは嫌だと寝室の隅にカエルを置いて一人で寝ようとすると、カエルは「自分を同衾させてくれ、さもなくば王に言いつける」と抗議した。
 これに怒った王女はカエルを壁に叩きつけようとしたところ、カエルは立派な王子の姿となった。
 王子はカエルの魔法をかけられていたのだった。
 王たちはこれまでの非礼を詫び、共に暮らした二人は仲良くなり婚約をすることとなる。

 しばらくの後、王子の母国から家来のハインリヒが馬車で迎えにやってくる。
 ハインリヒは王子がカエルになってしまった折、哀しみに胸が張り裂けそうだったので胸に三本の鉄帯を巻き付けていた。
 無事に人へと戻れた王子と、花嫁となった王女を連れて祖国に戻る道中、巻き付けた鉄帯は喜びによって大きな音を立てて外れていくのであった……

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107いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:48:03 ID:S//3ACHk00




「……なんとなく聞いたことがある……ような……?」

 という程度の認識しかない。大城にとっての童話や御伽噺とは子供の頃に読んだくらいの縁しかない。
 しかし現状においては最大のヒントだ。素人なりに思考する。

 この童話における登場人物は、特に主要なものはカエルになった王子。そしてそれと出会う王女。
 次に彼らを動かすこととなる王女の父親、王様。
 そして人間に戻った王子を迎えに来るハインリヒだ。

 影響が大きそうな要素は、やはり『カエル』だろうか。
 『カエルの王さま』は王子がカエルになり王女と出会うことから始まる。人間がカエルになるというのはなんとも怪異らしいではないか。
 先程遭遇したあの《異形》が人間から『カエル』へと転じたものであると考えられる。


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108いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:51:19 ID:S//3ACHk00



 しかして《泡禍》に呑まれた以上、壁に叩きつけたら元に戻るなどという都合の良いことは考え難いが……

「だからなんだって話だよなあ……」

 頭を抱える。
 仮に予想通りあの《異形》がカエルだったとして、それが複数いるのは確定的だ。
 人間に戻ってエンドという童話の収束は既に破綻している。

 元凶がいるとすれば『王子をカエルにした何者か』。
 カエルに転じた人間―――即ち行方不明者の身元を探っていけばなにか掴める可能性はある。
 というか現状できることはそれしかないだろう。

「いつも通り地道に足を使った調査、かあ……得意だけどさ、そういうのは……」

 独り言ちながら、童話の内容をコピーしてファイルに纏めていく大城であった。



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109いが ◆K/oR.weXaA (ワッチョイ 9e51-3c2d):2019/01/05(土) 20:52:12 ID:S//3ACHk00
Side:大城恵・第三話は以上となります。次話をゆるりとお待ち下さいませ。

110小さな名無しさん@この板は300レスまで (ワッチョイ 91d8-3f77):2019/01/05(土) 21:03:31 ID:xKJxtdpI00
乙でしたー

111小さな名無しさん@この板は300レスまで (ワッチョイ 3773-69f3):2019/01/07(月) 22:09:49 ID:gBP7xeHY00
おつー


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