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SRPGバトルロワイヤル8

1 ◆j893VYBPfU:2011/02/16(水) 00:57:31 ID:TzbLndQo
ルールなどは>>2-
詳しくはまとめwikiをどうぞ。


【まとめwiki】
ttp://www36.atwiki.jp/srpgbr/
【したらば】(作品の修正スレ・仮投下スレ・死者スレなどはこちら)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14091/

【過去スレ】
SRPGバトルロワイアル企画スレ
ttp://game12.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1164191107/
SRPGバトルロワイヤル1
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1178981646/
SRPGバトルロワイヤル2
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1193849696/
SRPGバトルロワイヤル3
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1205662859/
SRPGバトルロワイヤル4
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1224581120/
SRPGバトルロワイヤル5
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1248313700/
SRPGバトルロワイヤル6
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1262002256/
SRPGバトルロワイヤル7
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281581561

2源罪な名無しさん:2011/02/16(水) 00:58:24 ID:TzbLndQo
ルール

■重要項目
・死んだキャラを生き返らせるのは禁止
・原則的に主催者を動かすのは禁止
・いきなり自殺させる等、それまでのストーリーを無視した行動をとらせるのは禁止
・致命的な矛盾があるものはNG

■マップ
ttp://www36.atwiki.jp/srpgbr/?plugin=ref&serial=1で固定。
マップは8*8の64エリア。

■支給品
参加者の武器防具は没収。
共通の支給品
〔地図、食料(二日分)、飲料水(ペットボトル二本)、時計、方位磁石、参加者名簿〕
と、アイテムがランダムに二つ支給される。

【ランダムアイテム関連】
武器とアイテムが一つずつ支給される。 著しくバランスを崩すようなものは禁止。
各キャラの最初の作者が支給品の説明を書くのが望ましい。

・意志を持つ武器について
自発的な行動は喋ることしかできない。
自力での行動、攻撃は不可。
装備することによる所持者への能力付加は、特に制限されない。

・生物について
単体攻撃のみで、『制限』に反さなければ良い。

■制限
特殊能力は全般的に消耗が激しくなる。弱い魔法も連発は相当消耗。
蘇生・即死・時間移動・遠距離瞬間移動・地形が変化するほどの大規模魔法(天変地異)は不可。
状態異常系魔法や技は効果、成功率の低下。

【首輪関連】
ゲーム開始前からプレイヤーは首輪が装着されている。
外そうとすると爆発。会場から一定以上はなれても爆発する。
二四時間の間に死亡キャラがいない場合、全員の首輪が爆発する。

【召喚関連】
一度に一体しか出せない。
一度能力を使ったら消える。
一度出したらしばらくは召喚できない。

【回復関連】
浅い傷・打撲→傷は直せるが血は戻らないし痛みもそう消えない
深い傷・骨折→回復魔法が得意ならなんとか塞いだり接合したりできるが完治はしない
千切れる・複雑骨折→直せない
状態異常回復魔法は制限なし。

【ゾンビ生成】
生成には数時間必要な上、一度に作って操れるのは一体だけ。
作ったゾンビが消滅するまで次のゾンビを生成できない。
ゾンビは、頭を潰すか聖なる能力で浄化すれば倒せる。

3源罪な名無しさん:2011/02/16(水) 00:58:54 ID:TzbLndQo
■初期装備
服(普段着)のみ。小道具無し。
義手など身体と一体化している物は可。
ただし、内蔵武器・能力などは全て没収&使用禁止。

■放送
放送内容は死亡者、禁止エリアの発表。
放送は一日二回、6:00、18:00に行う。

【禁止エリア】
侵入すると首輪が爆発して死亡する。
定時放送で連絡し、三箇所を指定する。指定されたエリアは放送の一時間後に禁止エリアとなる。


■作品投下
一度ID有りトリップ有りの状態で投下を宣言。その後、宣言時のトリップを用い、必ずsageで投稿。
トリップのないもの、宣言のない作品は無効となる。
また、SSの最後に以下のテンプレを書くこと。

【エリア/現在地/何日目・時刻】
【○○○@○○○○○】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考]:


【E-2/城内/一日目・未明】
【ビラク@紋章の謎】
[状態]:左腕に切り傷(処置済み)頭部に軽い打撲、永久ヘイスト、バサークの杖による混乱
[装備]:エクスカリバー@FFT
[道具]:拡声器、支給品一式
[思考]1:うほっ!いいおとこ
    2:殺 ら な い か?

【ギュスタヴ@FFT 死亡】
【残り50人】


時間表記
未明:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
 朝:6〜8
午前:8〜10
 昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
 夜:18〜20
夜中:20〜22
深夜:22〜24

ゲーム開始時刻は06:00

4源罪な名無しさん:2011/02/16(水) 00:59:32 ID:TzbLndQo
■参加者リスト

6/6【ファイアーエムブレム 暁の女神】 
 ○アイク/○ミカヤ/○サナキ/○漆黒の騎士/○シノン/○ネサラ
6/6【ファイアーエムブレム 紋章の謎】 
 ○マルス/○チキ/○シーダ/○オグマ/○ハーディン/○ナバール
6/6【サモンナイト3】 
 ○アティ/○ベルフラウ/○アズリア/○ソノラ/○イスラ/○ビジュ
6/6【サモンナイト2】 
 ○マグナ/○レシィ/○パッフェル/○ネスティ/○ルヴァイド/○アメル
7/7【ファイナルファンタジータクティクス】 
 ○ラムザ/○アグリアス/○アルガス/○ムスタディオ/○ガフガリオン/○アルマ/○ウィーグラフ
6/6【魔界戦記ディスガイア】 
 ○ラハール/○フロン/○中ボス/○エトナ/○ゴードン/○カーチス
7/7【ティアリングサーガ】 
 ○リュナン/○ホームズ/○レンツェンハイマー/○ティーエ/○リチャード/○カトリ/○オイゲン
7/7【タクティクスオウガ】 
 ○デニム/○カチュア/○タルタロス/○ヴァイス/○ハミルトン/○オリビア/○ニバス

【51名】


現在の参加者の状況は>1のwikiをご参照ください。


■あらすじサイト
【ファイアーエムブレム 暁の女神】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/827.html

【ファイアーエムブレム 紋章の謎】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/290.html

【サモンナイト2】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/277.html

【サモンナイト3】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/132.html

【FINAL FANTASY TACTICS】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/514.html

【魔界戦記ディスガイア】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/652.html

【ティアリングサーガ】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/474.html

【タクティクスオウガ】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/125.html

ゲリラ投下は原則認めません。
とはいえ、トリップ付きで予約して即投下なら可という形で。
予約の期間は二週間までで、延長を申請すれば一週間延長可能。
ただし、二回までしか延長は出来ないという形とします。
それ以降の同じ予約は無効ですが、他に予約が入っていなかった場合のみ、
ゲリラ投下を特別に認めます。

5 ◆imaTwclStk:2011/02/23(水) 12:48:34 ID:???
アイクで予約します。

6源罪な名無しさん:2011/02/23(水) 16:24:19 ID:???
キター!

7 ◆j893VYBPfU:2011/03/07(月) 09:55:40 ID:???
アルマで予約します。

8 ◆imaTwclStk:2011/03/07(月) 23:20:13 ID:???
すいません、アイク延長しますorz

9源罪な名無しさん:2011/03/14(月) 12:32:05 ID:???
執筆どころかロワ楽しむ以前の状況なんで、生存報告入っていいですか?
とりあえず、いーち。

10源罪な名無しさん:2011/03/15(火) 22:52:06 ID:???
読み手だけど乗っておこうか


11源罪な名無しさん:2011/03/16(水) 22:02:01 ID:???
サーン!

12 ◆j893VYBPfU:2011/03/21(月) 23:56:07 ID:???
アルマを延長します。申し訳ない。

13源罪な名無しさん:2011/03/22(火) 00:30:17 ID:ONin1zj2
よーん

14源罪な名無しさん:2011/03/23(水) 11:42:53 ID:???
ひさびさにビーニャが更新されているな。

15源罪な名無しさん:2011/03/24(木) 19:59:37 ID:???
そういやビーニャもそうだけど、パッフェルさんの茨の君時代の事後描写のSSとか、
結構生々しいの扱う事多いよな?お花畑なようでいて、脇道はどす黒い。
ネスやミニス関連も育ての親がまっとうだったからもったようなものだし。

アティてんてーの「はじめてのさつじん」とか、SSでやらないかな?

16源罪な名無しさん:2011/03/26(土) 13:51:02 ID:???
「血みどろ地獄の上に咲いてるお花畑の上でキャッキャウフフ」だったっけ?
シナリオが大団円大好きな露悪趣味だからそうなった

17源罪な名無しさん:2011/03/26(土) 15:10:55 ID:???
大団円好きの露悪趣味…。

シティムーンの事か…。
シティムーンの事かあぁー!!

18 ◆imaTwclStk:2011/03/26(土) 15:36:14 ID:???
すいません、暫く執筆出来る状況ではないので
アイク破棄します。
何とか生きてました。

19源罪な名無しさん:2011/03/26(土) 17:18:45 ID:???
ご無事でなによりです!
作品は、また時間が出来たときにでも。

20 ◆j893VYBPfU:2011/03/28(月) 12:04:17 ID:???
アルマをもう一週延長します。
間に合うかな?

21源罪な名無しさん:2011/04/01(金) 14:08:50 ID:???
4月1日か…。
折角のエイプリルフールなのにネタがないな。
ついにあの暗黒騎士団ロスローリアンの面々がロワに主催側として参戦!

違うな、なんか違う。

22 ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:31:49 ID:???
では、お待たせしました。アルマを投下します。

23 ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:32:46 ID:???
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
速く、逃げなきゃ。


私はがくがくと震えが止まらない膝に鞭打って、平原を南へと駆け続けていた。
口が、肺が意識とは別に動いて空気を求め続け、そのまま胸が潰れそうになる。

息が苦しい。
両脚も重い。
でも、逃げなきゃならない。
――絶対に。

そうしなけりゃ、あのタルタロスっておじさんが追って来るだろうから。
今の非力な私なんかじゃ、誰にも太刀撃ちなんて出来やしないから。

従えた竜達は、もういない。
飛び道具もなくなっちゃった。
手元に残っているのは、頼りない手斧と折れ曲がった細身の剣だけ。
でも、こんなんじゃたとえ丸腰でも、カトリの良い人にすら勝てないだろう。

私はかよわい女の子でしかないのだから。体力なんて、元々ない。
それに、私は戦う為の訓練なんて、何一つ受けていない素人なんだから。
そして、周囲は敵だらけで利用出来そうな人なんかも全然見当たらない。

このままじゃ、私はラムザ兄さんの役になんて立てない。
むしろあのおじさんみたいなのに捕まれば、足手纏いにすらなってしまう。

24 ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:33:21 ID:???
どうすればいい?
どうすればいいの、アルマ?

力が、
力が欲しい。

ラムザ兄さんを守ってあげられるだけの力が。
そして、邪魔者達をみんな殺せるだけの力が。

邪な暴力だって構わない。
私を捧げたって構わない。
聖天使の力だって、むしろ望むところ。

私は、ラムザ兄さんの為にこうしているのだから。
私自身の犠牲だなんて、どうって事ないんだから。

――私はただ、その一念だけを想い。
度重なる全力疾走に悲鳴を上げる身体を無視して。
ただひたすらに、南へと駆け続けていた。


          ◇          ◇          ◇


私はよたよたと、ただひたすらに歩き続け。
――ふと、気が付けば。

前方の視界に、舗装された街道が見え始め。
避難場所になりそうなE−2の城に向かうには、
少々南へ行き過ぎてしまっている事に気付いた。

25Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:34:34 ID:???
行き過ぎちゃった。また、戻らなきゃ…。
でも、それって更に走らなきゃいけないよね?
もっと、疲れちゃうな…。

…そう考えてしまったのが、一つの切っ掛けとなり。
忘却していた疲労を、一気に思い出してしまった為に。
これまでツケにし続けていた、休息という名の疲労の返済を、
その身体に一度に請求されてしまい。

私の身体が、ついに意志に反して。
唐突にその脚が崩れ、お尻が地に吸いつき。
ただこの肺と口が荒々しく空気を貪り続け。
それ以外の一切の行動を、身体が拒絶した。

指一本、動かない。
煌々と夜空を照らす月の光に、街道沿いの開けた視界。
私は今、あまりにも発見され易い位置にいる上に。
指一本動かす事はおろか、
口一つ利く事もできない。

今、誰かに捕まればひとたまりもないだろう。

 ――もしかして、私…。こんなところで終わっちゃうのかな?

一度はこの世界(ころしあい)のルールすら動かし、
あのヴォルマルフすら手玉に取り、ディエルゴすら動かしたというのに。
彼の手下に「誰よりも多く人を殺したと貢献者」と褒められた程なのに。

26Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:35:28 ID:???
 
 ――これが、この程度が…。私の限界だって、そう言うの?

そう考えると、酷く悲しく、情けなく。
私は、はあはあと荒い息ばかり吐くひ弱な身体をもどかしく思い。
ただ一つ自由になる意識のみで、悔し涙を流した。

私が皆と同じ位置に立てるのは、ただひとつ。
ラムザ兄さんを生かしたいという、この想いの強さだけ。
私は、全然大したことはない。そんな事は、誰よりもよく知っている。
恐らくこのゲームの参加者の中で言えば、多分私は最も弱いのだろう。
そして、それは最も私自身の事で許せなかった事であり。
今もなお、許し難いものでもある。

そんなのは、ラムザ兄さんの足手纏いにしかならないのだから。
弱くなければ、あの時ヴォルマルフに捕まる事も決してなかったのだから。

弱いという事は、足手纏いという事は。厄介者だという言う事なんだ。
あのヴォルマルフの息子のように扱われても、仕方がないことなんだ。
ダイスダーグ兄さんだってそう。家族だからって、許される事はない。
ただ殺されるだけなら構わない。
この生命、捧げたって構わない。

でも、兄さん虫ケラのように扱われ、忘れ去られてしまうのだけは嫌。
私は兄さんに愛され、必要とされる人間でありたい。

 ――だからこそ、私は強くなりたかった。

そして、ラムザ兄さんの役に立ちたかった。
でも、ここまでが女である私の限界…。

27Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:37:24 ID:???
いっそ、体力のある男に生まれたかった。
せめて、アグリアスさんみたいに騎士の訓練さえ受けておきたかった。
そうだったら…。

 ――ラムザ兄さんを、最後まで守ってあげられるのに…。

溢れる涙で、視界がぼやけ始める。
滲む私の目にかろうじて映るものは、
天上と地平にキラキラと輝く星ぐらいのもの。
普段ならその綺麗さに感動するだろうけど、
今はそんな余裕は――。

地平の、『星』?

私は手の甲で涙を拭い、それを確認する為に前方をしっかりと見据える。
よおく目を凝らして見れば。その輝きには、覚えがあるような気がする。


そう、例えるなら。
切ないような。
悲しいような。
何かを泣いて訴えかけてくるような。
そんな小さく儚げな、蛍灯のような。
これから消えゆく、仄かな輝き。


 ――これは…、まさかッ?!

もし、“アレ”がそうだったとしたら?
もう、ぐずぐずなんてしていられない!
私の求めているものは、もしかすればすぐ傍にあるのかもしれないのだから!

28Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:38:44 ID:???
そう思うと、力にほんの少しだけ力が漲り。
未だにがたがたと笑い続ける膝を踏ん張り、
私はよろめきながら再び前へと駆け始めた。


          ◇          ◇          ◇

そして。
想像通りのものは、目の前にあった。
二つの死体と共に。

一つは見覚えのある綺麗な女騎士の死体。
一つは見知らぬ羽根付きの女の子の死体。

女騎士――。アグリアスさんは、背後から首の骨が折られあらぬ方向を向き。
女の子――。聖天使の出来そこないに見えるそれは、胸の辺りを刺し貫かれ。

二人はもつれ合うように、抱き合うようにして倒れていた。

流石に、支給品なんかは持ち去られているようだ。
女の子の死体の傍にある、変な小振りの鉄の杖なんかを除いて。
見た所、二人が争って決着が付いた所に後ろから不意討ちを受けて、
アグリアスさんも倒されたように見えるけど…。

まあ、それについてはどうでもいいかな?
重要なのは、二つだけ。

アグリアスさんが死に、その魂の欠片がクリスタルに宿ったままだという事。
そして、二人の死体には首輪がまだ付いたままだという事。

29Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:39:49 ID:???
つまり、私は。
二人を活用して、私はまだラムザ兄さんの役に立てるんだ…。

私は、この『天の恵み』としか言いようのない幸運を理解すると。
私はただ、嬉しくなって。胸に喩えようがない喜びが込み上げて。
喜びの余り、涙を流した。

私は、頬を拭うと喜び勇んでクリスタルを毟り取り――。

「クリスタルよ、私にラムザ兄さんを守るだけの力を!力をちょうだい!!」

たった一つの強い願いを、私はクリスタルにかけ。
アグリアスさんの魂の欠片は、祈りに応えて力を託し、消えた。
私が彼女にどうするつもりでいたか、それを理解する事もなく。
条件反射的に、ただラムザ兄さんの妹とその思いを信じて。

そして、私に力と記憶が宿る。
アグリアスさんの鍛えた技が。
アグリアスさんが、最後に見た光景が。
私は彼女達の不用心さに、ついつい哂ってしまう。

 ――なんだ、あの黒騎士のおじさんが二人を殺しちゃったのね?

その事だけは感謝してあげる。
そのおかげでクリスタルが得られ、参加者が二人も減った訳だから。
でも、アグリアスさんにはこのまま汚名を着てもらおうかな?
その方が、「ゲームに乗った人間の方が多い」と思わせる事が出来るわけだし。
ラムザ兄さんはそんなアグリアスさんを見て、悲しむのかもしれないけど…。

30Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:41:03 ID:???
ま、別にいいわよね?
以前から少々仲が良すぎたから、ちょうど良い薬になるかも。
ラムザ兄さんは、アグリアスさんよりも私を見て欲しいから。

ラムザ兄さんにも「信頼出来る仲間だなんて何処にもいないんだ」って
思ってくれた方が都合がいいし。兄さんの同行者は、殺し辛くなるから。

私は、兄さんの事から気持ちを切り替えると。
ごく『自然な動作』で、折れ曲がったレイピアの腹を手で摘まみ、
力任せに逆方向に曲げ戻してから。
細身の剣を、ゆらりと大上段に構え――。

「天の願いを胸に刻んで心頭減却! 聖光爆裂破!」

頭に浮かんだ言葉を紡ぎ出し、体が覚えた感覚を模倣して。
その心身の奥底に“先程”染み付いた聖剣技を、試し撃つ。
二人の首筋へに、剣閃が駆け抜け。
まとめて、その首が転がり落ちる。

そこには何の手応えもなく、それが当然と言わんばかりに。
私が強くなったという事実を、世界がそれを認めた。

腕力は上がってないが、身体に無駄な力が入らなくなった。
身体の使い方が良くなったので、疲れにくくもなるだろう。

 ――そう、私は強くなったのだ。今、ここで。

これで、もう私は弱さを嘆く必要なんてない。
ただ、その心身に起こった事実を認めてしまうと…。

31Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:41:46 ID:???

「はは、はははははっ…。」

知らずに、可笑しさが込み上げる。
笑いの声が、勝手に口から洩れる。

なんだ、こんなにあっさり身に付いちゃうものだなんて。
なんだ、こんなにあっさり強くなれちゃうものだなんて。

 ――死者の魂が宿ったクリスタルの力を継承すれば、強くなる。

そんな当たり前の事。ずっと前から知ってはいたんだけれど。
――何よ、なんなのよ、それ?

「アハハハハハ!!!!アハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

今まで無力さを涙が出るほど嘆いてた私自身が、
ホント、馬鹿みたいじゃないのよ?

そう考えるとただ可笑しくて、可笑しくて。
私は息を吸うのが難しくなるまで。
ただ自分の弱さと愚かさを、ひたすらに哂い続けた。

私、アグリアスさんの強さには憧れていたんだけど、
こんな事なら、もっと早く殺しとくべきだったかな?

そうすれば、彼女の代わりにラムザ兄さんの役に立って見せたのに…。
ラムザ兄さんの信用を、アグリアスさん以上に受け取る事が出来たのに…。

 ――ホント、残念…。

私は気を取り直すと、眼の前にある邪魔な生首達をまとめて蹴飛ばし。
二人の胴体から落ちた首輪を拾う。

32Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:42:26 ID:???
とっくに死んでいた為か、血が噴き出すような事はなかった。
私は漏れ出して首輪と剣に付着した血を、アグリアスさんの裾で拭き。
念の為に傍に落ちてある妙な小振りの杖と共に、デイバックにしまう。

輝きを失ったクリスタルは、ブーツの踵で踏み砕いた。
こんなものは、今更持っていてももう役には立たないのだから。
彼女はもうラムザ兄さんの思い出にすら、残ってほしくなんかない。
死人はもう厄介者であり、邪魔者でしかないのだから。

そうして、私は手に入れたものを確かめ終えると。
効果の切れたマバリアを、もう一度かけ直してから。
茶色い棒付きの飴を一つ噛み砕いて疲れを癒し、急ぎその場を後にした。
こんな所で休息していると、誰に発見されるか知れたものじゃないから。


          ◇          ◇          ◇


収穫はあった。これ以上ないものが。
強さも手に入った。邪魔者達を片づけちゃうだけのものが。
私はまだまだ、ラムザ兄さんの役に立てるんだ。
そう考えると、嬉しくて嬉しくて。

私は知らずに、スキップを踏むようにその場を駆けていた。
軽やかに、舞うように。心より喜びながら。
あのヴォルマルフをやりこめ、ディエルゴを動かした時以上に。
私の心は弾んでいた。

33Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:43:41 ID:???
でも、過信なんて出来ない。
私はアグリアスさんの技能を、部分的に受け継いだだけ。
つまりは、元より彼女より強そうな二人の黒騎士だったり、
カトリが変身した竜なんかには、流石に太刀撃ちなんて出来ない。
そういった相手には、上手く敵同士をぶつけ合せる必要があるだろう。
色々、考えなきゃいけないのは同じって事ね?

それに、すぐには他の人を殺して回れない。
首輪と道具の交換だって先にやっておきたいし、まだ大分疲れているから。
疲れた時にはさっきの飴がすごく利くみたいだけど、
それでも流石に全快とまではいかない。
今は、ゆっくりと休める場所が欲しい。


だとしたら、向かうとすればやはり西のE−2のお城かな?
あの黒騎士のおじさんは、ラムザに会ったと言っていた。
もし近くにラムザ兄さんがいれば、出会うまでに首輪も交換しなきゃね。
…私、おかしな所とか別にないわよね?
それに、綺麗におめかしもしておきたいな…。
折角の、ラムザ兄さんとの再会なんだから。

私は今手鏡がない事を、とても残念に思いつつ。
この後の事を色々と考えながら、西の城へと駆け続けた。

34Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:45:14 ID:???
【F-3/平原/初日・未明】
【アルマ@FFT】
[状態]:健康、身体の疲労(中)、常軌を逸する狂気と信念
    マバリア効果中(リレイズ&リジェネ&プロテス&シェル&ヘイスト)。
[装備]:手斧@紋章の謎 死霊の指輪@TO
    希望のローブ@サモンナイト2
[道具]:支給品一式、食料一式×4、水×3人分
    曲げ直したレイピア@紋章の謎、マイク型ハンディカラオケ(スピーカー付き)
    アメルの首輪、筆記用具、ヒーリングプラス @タクティクスオウガ
    キャンディ詰め合わせ(袋つき)@サモンナイトシリーズ
    (メロンキャンディ×1、パインキャンディ×1 ミルクキャンディ×1)
[思考]0:ラムザ兄さん、もしくは自身の優勝。
    1:利用できるものは全て利用する(自他の犠牲は一切問わない)。
    2:ラムザ兄さんが生きていることを確認したい。
    3:ラムザ兄さんと再会前に首輪の交換もしたい。
    4:取り敢えずは、落ち付いた場所(E−2の城)で休息を優先する事にする。
    5:アルガスやウィーグラフを発見すれば、殺害してクリスタルを回収したい。
    
[備考]:アグリアスの魂から彼女に関する記憶と技能を継承しました。
   (どの程度継承出来たかについては、次の書き手様にお任せいたします。
    少なくとも、聖剣技については全て継承済です。)
    モカキャンディ×1を消費しましたが、これまでの蓄積した身体的疲労と、
    マバリアによる精神消費による疲労が相殺されて、現在の状態となります。

[共通備考]:アルマが「聖剣技」を使用する為にレイピアを応急措置的に曲げ直しましたが、
     その為耐久性が下がっています。強い衝撃があれば、破損する恐れがあります。

35 ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 22:48:35 ID:???
投下終了です。

36源罪な名無しさん:2011/04/02(土) 23:14:19 ID:???
投下乙です!
アル魔の進化は続くよ、何処までもw
もう本当にこいつは今すぐ聖天使化しても
「あぁ、やっぱりな」としか思えないなw

あくまでも分は弁えてる分、化なり質の悪さが増している……
以外と重要な位置に自分を置いて来てるなぁw

37 ◆j893VYBPfU:2011/04/03(日) 12:08:38 ID:???
すいません。アルマの状態表に「アグリアスの首輪」「フロンの首輪」を書き忘れましたので、wiki掲載時に追加します。

あと、共通備考欄にアグリアスのクリスタルが踏み砕かれているのと、二人の首輪が回収された事と、
アルマの状態にクリスタル継承がなされた事も追加で。

38源罪な名無しさん:2011/04/03(日) 13:30:19 ID:???
激しく乙です
継承したクリスタルが吉と出るか凶と出るか・・・(展開的に)

39 ◆j893VYBPfU:2011/04/06(水) 01:07:06 ID:???
カーチス、中ボス、ウィーグラフで予約します。

40源罪な名無しさん:2011/04/09(土) 12:19:14 ID:kF4a.Qxc
もうアルマははらいところ死んでくれないかなぁ。
堕ちるところまで堕ちちゃってるもんこいつ。

41源罪な名無しさん:2011/04/09(土) 12:39:25 ID:???
人間としてやっていることは吐き気を催す最低の屑だからなあ。

マーダーなんて憎まれてなんぼだから、むしろそれは褒め言葉だぜぃ?

42源罪な名無しさん:2011/04/15(金) 19:24:39 ID:???
必要悪。どんなロワもマーダーが居ないと成立しない。
むしろ非道であるほど話が盛り上がるんだからいいじゃなーい。

43源罪な名無しさん:2011/04/16(土) 00:02:50 ID:???
>>42
ホラーゲームバトルロワイヤルじゃあマーダーがいなくても成り立っているけどね。
マーダーはいるにはいるが、参加者を無差別に襲うクリーチャーの性でマーダーの影が非常に薄い。
そのためか、禁止エリアも首輪も無い。

44源罪な名無しさん:2011/04/17(日) 16:30:11 ID:???
必要悪ねぇ・・・。
個人的には精神がいかれてることとマーダー補正を免罪符に、
書き手がアルマを使って他キャラをディスってるようにしか思えないんだが。
わざわざ頭を蹴り飛ばすとか死体に鞭打たせる必要ないと思う。
某所の邪悪の塊な王様ですらしなかったんだから、異常としか思えないわ。
仮にディスってるわけじゃないとしても、彼女が屍姦されるレベルの悲惨な結末がないと
この所業は許されないだろ。

45源罪な名無しさん:2011/04/17(日) 18:12:15 ID:???
所業自体は人間として許しちゃいかんだろ、うん。だからと言って屍姦すりゃ同レベルでは?

人間鈍器とかゾンビの素体とかトラップの餌とか死体の扱いは元々酷いな、このロワ。

46源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 10:17:10 ID:???
>>45
いや、屍姦はあくまで例えであって、それくらいの報いを受けるべきってこと。
今まで散々優遇されまくって、他人を必要以上に壊した奴が
勝ち逃げしたり安楽死したら、殺されたキャラが報われなさすぎる。
それと、同レベルの仕打ちじゃなきゃ意味ないと思うぞ?

47源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 10:23:05 ID:???
そういやGR2は散々に食人やら死体損壊やらやらかした奴に限って安楽死して、
まっとうな人格の持ち主に限って惨死した挙句死体まで弄ばれてたな。

48源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 12:55:36 ID:???
因果応報とかどうでもいいよ

49源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 22:27:22 ID:???
アルマに限らず、ヤンデレとかキチガイ系マーダーって
感情移入ができないから読んでて不快感に近い何かしか感じない。
心理描写ばかり書かれた日にゃ何がなんだかわからなくなるし・・・。
ここの住人は、こういうタイプのSSとかキャラってイケるのか?

50源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 22:36:49 ID:???
異常者に共感が出来たら、それこそ危ない人の仲間入りだよ。
ああいう狂人に不快感や反発を感じてこそ正常な神経では?
反面、狂気や陰鬱が絶えず付いて回るロワで書き手やるには
向いてないかもしれないが。

まあ、少なくとも俺は大好物かな。

51源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 23:30:04 ID:???
その不快感や理不尽さを楽しむのがロワなんじゃないの?

52 ◆j893VYBPfU:2011/04/20(水) 11:12:26 ID:???
すいません、予約延長します。

53源罪な名無しさん:2011/04/21(木) 15:27:07 ID:???
そもそも、今正常な思考のマーダーっていた?
ヤンデレ、嫉妬、戦闘狂、ハイエナ、人間獣、悪魔、マッドサイエンティストか。

人間として、皆終わっとる。

54 ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:53:01 ID:???
カーチス、中ボス、ウィーグラフを投下

55 ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:53:57 ID:???
『その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
 貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
 このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
 貴方達のご健闘に期待しておりますよ…。』

 …クソッタレが。何が救いの手だ、ふざけるな!
 どう考えてもそれは殺し合いの後押しだろうが!
 
オレは数少ない生身の腸が煮えくり返るような思いを堪えながら、
『悪鬼使いキュラー』と名乗るヴォルマルフの代理の放送内容を
残らず脳内に叩きこんでいた。

憤りはある。憎悪もある。
頭に血が上り、数少ない生身部分が怒りで滾る。

――心が、熱く燃えるのは良い。
この絶望的な状況下での、何より行動力の源となる。
だが、湧き上がる感情に振り回され、正常な判断が出来なくなるようでは本末転倒だ。
それが原因でこのオレが失敗すれば、周囲に『絶望』という結果しか生み出さない。
まさに奴等の思う壺だ。

心は熱く。されど、頭は冷たく。
科学者ならずとも、当然の心の持ち様だ。
それが一つの道に通じる者であるならば。

ましてや、オレが今から為そうとしている事は。
ゲームの根幹となる首輪というシステムの破壊。
この会場にいる誰よりも、クールでなければならない。

56Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:55:09 ID:???
立ち向かうはヴォルマルフと名乗る騎士の面汚しと、
その後ろに控えるディエルゴという不気味な超越者。

奴等をオレの頭脳で出し抜かなければならないという事だ。
これはゴードンには任せられるものではない。オレの領分だ。
あいつが、何の憂いもなく奴らをブチのめせる環境を作り出す為にも。
このオレが、必ずこの首輪を解除する方法を知らねばならない。

 ――だが、そのためには?

奴等の思考や目的をより詳細に、より正確に把握する必要性がある。
果たして、首輪の構造や解除に奴等の思考が関係するのか?

 ――大アリだ。 

手掛けた『作品』には、必ず作者の人間性というものがそこに滲み出る。
オレが過去に生み出した『作品』が、そうであったように。
制作者の癖や嗜好といういうものが、如実にそれに現れる。

ならばこそ、奴らの理解は首輪解析の一歩にも近づける。
知識がなくとも、ある程度の傾向を類推するならば可能。
そこから誰かと協力し、知識を共有し合えばよい。
何より、これから倒す者の知識があって困ることはない。
要は、そういう事だ。

――状況を整理する。
臨時放送が企図するものは明らかだ。考えるまでもない。
貢献者と主催側との内通についても、多少思う所はある。
それについてはどうでもよくはないが、今第一に考えるべきことではない。

57Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:55:41 ID:???
今ここで真っ先に問題にすべき点は、唯一つ。
奴らが支給品を餌にしてまで、首輪自体を回収したがっているという点だ。

首輪が参加者の手により解除される可能性を恐れての事だろうか?
解除されない事に絶対の自信があれば、そうする理由などそもそもない。
だが、果たしてそれだけの理由なのだろうか?
――あまりにも、陳腐に過ぎる。

分析や解除を恐れるだけなら、参加者が死んだその瞬間に
自動的に首輪が爆破される仕様にでもしてしまえばいい。

元より、参加者がサイボーグだろうがゾンビもどきになろうが、
体温や脈拍等一切の関係なく、正確に生死を判別できるのだ。
その探知機能さえあれば、実に容易い仕掛けだろう。

そうすれば、確実に解析も一切不可能となる。
もし、オレが主催側にいれば間違いなくそうする。
数式を除けば、世に絶対など存在しないのだから。

だが、奴らはそれを一切やらない。やろうともしない。
非常事態ともなれば、超魔王相手だろうが爆破自体は行うようだが。
ならば、奴らにはそれを「出来る限りしたくない」ような事情があると見るべきである。

先程見せつけたあの過剰なまでの堅牢性からも考えるに、
「奴等はできれば首輪を破壊せずに、回収したがっている」
何らかの目的があっての事だと考えた方がより自然である。

――ここで、主催側の目的に戻る。
主催者が目的とするのは「参加者同士で殺し合いをさせる事」であり。
決してオレ達参加者の皆殺しを企図したものではないということだ。

58Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:56:15 ID:???
そうなら最初の時点で始末しているし、わざわざこのオレのようにゲームに反抗し、
首輪の分解を試みる事が分かりきっているような「厄介な死人」まで蘇らせる必要性がない。
オレをよく理解する者であれば、万一の事も考えればなおさら参加などさせやしない。
――だが、キュラーと名乗る野郎はこうも言っていた。


「このゲームにあくまでも逆らう反逆者達。
 このゲームに乗り、優勝を狙う貢献者達。
 効率を重んじ、団体行動を取り続ける者達。
 あくまで人を寄せ付けず、孤高を気取る者達。
 全てが我々にとってなくてはならぬものであるが故に。 」


オレのような厄介者すら、奴等には利用価値があると認めてすらいるのだ。
そして、その多様な世界・思考の参加者の組み合わせから得られるもの、
あるいは生み出されているものは一体何か?

物質的な利益ではない事は確かだ。コストパフォーマンスが悪すぎる。
怨恨という線も考えたが、アティはともかくこのオレとディエルゴに一切の接点はない。
報復というならば、ディエルゴがもし本物ならばゲームの参加者は
アティとその知人のみで構成するだろう。
私怨を晴らすにしても、効率が悪過ぎる。

だが、今回は少なくともオレのような科学者がいて、異世界の存在が入り混じっている。
魔界からもラハール達が呼ばれている事から、復讐だけという理由はまずありえない。

進行役のヴォルマルフとかいう騎士も、因縁がありそうなラムザには無関心だった。
奴の目も、憎悪に猛ったというよりはモルモットの内一匹を見るようなものだった。
そして奴も「ラムザもこのゲームに参加する資格がある」という事を口にしている。
ならば、ゲームの趣旨から考えるに「参加者には一定の選定基準があり」、
「参加者同士で殺し合う過程こそが必要」なのだと考えるべきだろう。

59Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:57:24 ID:???
 ――異世界の存在同士を喰い合わせて、首輪を通じて得た実践データでも集積する?

ディエルゴがどこかの死の商人なら、確かにそういった可能性もある。
だが、そう考えるにはあまりにも疑問点が多すぎる。
様々な環境における実践データの収集が目的だとしても、あまりにもこの会場は広すぎる。
その上、参加者間の強さの基準も酷く大雑把かつ狂っている。

アティから聞いた話だと、彼女の弟子は素質こそあれど、所詮は一般人に手が生えた程度。
そして、オレと同じ死人だったビジュという男も、軍人としてはそこそこのレベル程度との事。
さらに、同じく魔剣の所持者だったイスラという男は、アティとほぼ実力を等価とするという。
…あまりにも、参加者の間に実力差があり過ぎる。

イスラは兎も角、ベルフラウやビジュが悪魔相手に太刀打ちなど出来る筈がない。
ぶつかれば確実に虐殺となる。まさに、二人はそうなって倒れたのかもしれない。
これでは、正確なデータ収集など夢のまた夢だ。
第一、そうなら参加者全員がこのゲームに“乗る”強者のみで構成するだろう。
ならばこの線もペケだ。

 ――あるいは本当は何も意味はなく、首輪回収もゲーム要素としての一環?

イカれたサイコ野郎が有り余る金と時間を湯水のように使い、
極上のスナッフ・フィルムをライブで楽しみたいとか?

確かに、奴等はこの殺し合いを“ゲーム”だと抜かしてやがった。
これなら動機として一番単純かつ分かり易いが、これにも矛盾がある。

だったら、この殺し合いを徹底的なショーとして娯楽性を入れるはず。
もう少し狭い…たとえば闘技場等に全参加者を閉じ込めてしまえば、
主催側の目で直に見て極上の殺人劇場を満喫できただろう。
…だが、奴等は決してそれをしなかった。

60Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:58:29 ID:???
首輪には、監視カメラの存在は確認できなかった。
工具等で継ぎ目から首輪本体を分解される可能性を恐れての措置なのだろうが。
(そもそも、首輪の高さにあるカメラの視界を使っても、非常にブレるので実用性に乏しい。)

人工衛星か何かで監視している可能性もあるが、これでは見応えも何もないだろう。
なにより屋内等の死角で殺戮を行われると、奴等はショータイムを楽しめないのだ。

 ――これも、違うな。

となれば、オレでは理解できないような利益がディエルゴ側にはあり、
それに首輪が絡んでくると考えるべきなのだろう。
この広すぎる会場にも、なんらかの理由や意味があるのかもしれない。

だが、こんな非生産性も極まる殺し合いでオレ達が生み出すものと言えば、
精々が憎悪の連鎖と、希望に見せかけた更なる絶望、そして悲嘆と殺意。
吐き気を催すような、マイナスの感情のオンパレードのみだ。
こんなもので喜べるのは、ラハール達ですら引くような極めつけに性悪の悪魔ぐらいなもの。
それに、そんなものたとえ首輪ごと回収出来たとしても何の得に…。


悪魔ぐらい?
何の得に?


 ――今、 一つの閃きが脳内を駆け巡る。

「サプレスの悪魔」

オレは、昼間にアティから聞いていた「サプレスの悪魔」の情報を思い出した。
ラハールと同じく悪魔と呼ばれても、その在り方があまりにも違っていたので、
興味が湧いて根掘り葉掘り聞き出したものだ。

61Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:59:36 ID:???
アティの世界の悪魔は血肉を備えた実体を持たず、言うなれば精神生命体に近いらしい。
そして、その食事もやはり肉や野菜のような実体を備えたものでなく、精神を糧とする。
悪魔の食事とするものは、やはりと言うべきか『怒り』や『悲しみ』のような負の感情。

 ――もし、このディエルゴを名乗る者がこの悪魔に限りなく近い存在だったとすれば?

ならば、この殺し合いはまさにディナーを得るにはうってつけだろう。
そして、オレ達は知らずにその餌の給仕係までやらされ、奴は際限なく肥え太る。
それなら「首輪が破壊できない」「首輪を回収したがる」理由にも辻褄があう。
さしずめ、オレ達全員がシェフをも兼用し、この会場はビュッフェと言った所か。

実に嫌味が効いてやがる。
反抗しようがゲームに乗ろうが、生き残ろうと足掻くほど。
参加者全員が残らずディエルゴに奉仕する事になるとはな。

だが、決してそれだけでもないだろう。
それなら、完全に無作為に選んでしまってもいいはずなのだ。
自分が万が一にも再び倒される可能性を持つものがいる以上、
ゲームの成功を期すなら己(ディエルゴ)を知らない者のみで
参加者を構成してしまうほうがより確実だ。
意趣返しなど、充分に力を付けた後でも構わないはず?

 ――つまり、まだ何かあるはずなのだ。

力を蓄えると『同時に』、アティを使ってやらなければならない何かが。
そして、それは彼女本人が死んでも修正が効く程度のものでなければならない。
この場では、いつ、誰が、どのように死んでも不思議ではないのだから。

あるいは、彼女の死自体が奴等の目的であるか。
ならば、彼女が優勝してしまったとしても何ら問題はない。
ディエルゴ本人が、最後に始末すれば良いだけの事だから。

62Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:02:01 ID:???
だが、彼女に与えられた目的については、本人に問い質してみたほうがよいだろう。
余計な先入観は、誤った結論を招く。

そして、周囲に与える絶望をより深いものにする為にも。
偽りの希望の光を与え、そこから絶望の奈落へと突き落とす為の要員として。
絶対に反抗するであろうこのオレを参加者として選んだのだろう。
それが、奴等の与えたオレの役割(ロール)という事か。

最初から過酷に過ぎる状況のみを与えてしまえば、人は無気力になる。
そうなれば己の死にすら諦観を抱くようになり、負の感情など湧こう筈がない。
ある意味それも「絶望」の一つの形と言えるだろうが、
植物のような枯れたゼロの感情など、奴等は求めない。

悪魔が好むのは、憤怒による殺意や、気も狂う程の悲哀などの、
渦を巻く激しいマイナスのエネルギーに他ならないだろうから。

ならば、最初に人を持ち上げ、最後に突き落とす方がより効果的ではある。
『参加者の間に狂おしい程の負の感情を与える』という観点でものを考えれば。
出鱈目かつ無駄が多いようにみえて、その実合理的かつ計算高い。

己を道化に見せかけておいて、その実徹底的な合理主義者。
裏表が激しく、酷く緻密で、かつ人間臭い思考が伺える。
何もかもが乱暴で大雑把な、悪魔のような超越的存在に出来る発想ではない。
これは、あのヴォルマルフと名乗る騎士の入れ知恵も含まれているのだろう。

 ――やれやれ、とんだロール・プレイング・ゲームだ。…反吐が出る。

さて、主催者の思考と目的については、イヤになるほどに理解は出来た。
首輪の内部構造も、恐らくは『負の感情を集める』事に特化した作りなのだろう。
あとはどのようにして、こいつの蓋をこじ開けるかって話しに戻るのだが。

63Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:02:36 ID:???
そうして、オレが首輪についての考察をメモに纏めている間に。
奴らは、何の前触れもなく。凄まじい瘴気を放ちながらオレに近づいてきた。


          ◇          ◇          ◇


「…臭いが取れんぞ。」
「仕方がないじゃないですかぁ〜。うっぷ…」

殺し合いの渦中にいるにしては、あまりにも呑気に過ぎる口調で。
黄金の甲冑を着た騎士と優男の二人組は暗闇の森林を歩いていた。

「…だから言っておいたのだ。もう捨てておけ、と!」
「いえ、それは私の美学に反します!
 うら若き乙女達が手塩にかけて作った手作り弁当!そして、見知らぬ海の珍味!
 これらを捨てるのは、作られた方々の愛情をも打ち捨てるも同然!
 断じてそのような真似などできませーん!!
 でも上品な塩辛みたいでイケましたねこれ…」

ガフガリオン達と二手に分かれた後。
中ボスとウィ―グラフの二人組は西進して塔を目指していたのだが。
彼らと出会う前にするつもりだった食事の件で意見の対立があった。

ウィーグラフは「もうそういう空気ではない」という事で食事の中断を提案。
実際は発酵したニシンが弁当の上に盛大に乗っかり、この絶望的な臭気混じりでは
到底食べられたものではないというのが本音だったのだが。
…食べ物に意地汚い中ボスは、その弁当を見逃す事はできなかった。

64Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:03:18 ID:???
故に、中ボスはウィーグラフからその弁当を有り難く頂戴し。
だが、ウィーグラフは食べるのを待つ時間が惜しいという事で。

中ボスは二人分の弁当を食べ歩きながら西進し、周囲に異臭を撒き散らしていた。
だが、それは胃の消化に悪い事夥しく。
弁当を食べ終えた後には、中ボスは塩分の取り過ぎと満腹のあまり胃痛に陥り。
それを見かねたウィーグラフが、臭い消しも兼ねて中ボスに水を与えるに至る。
(ちなみに、中ボスは自らの水を全部飲みほしてしまった)

「おかげでこちらはいい迷惑だがな。もう少し水でも飲んでおけ」
「フッ、お心遣い感謝いたします」

優雅な仕草でペットボトルを受け取る中ボス。
気障に前髪をかき上げるが、その臭いと頬に付いたご飯粒の為、まるで決まらない。
むしろ、見事三枚目である事を強調するアクセントとして立派に機能している。

「臭いを消すためだ、勘違いするな」

中ボスの口から漂う、鼻にねじ込むかごとき腐乱臭を我慢しつつ、
ウィーグラフは実におぞましいものを見るような顔で中ボスを眺めていた。
臭い臭いと言いながらも、しっかりと完食している辺り、あの醸した鰊には
中毒成分でも含まれているのだろうかと、つい下らない疑問を抱いてしまう。
――そうこうしている内に。

前方に僅かな焚き木の明かりと、その傍に佇む人影を見つけ。

「…姿を隠せ。様子を確かめる」

そう警告するウィーグラフの言葉を綺麗に無視して。

65Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:04:13 ID:???
「おや、あれはカーチスさんじゃあないですか?
 おーい!今からそっち行きますんで、少し待って下さーい!!」

森林に響き渡る大声で、中ボスは無防備にカーチスに呼び掛け。
怒りのウィーグラフに、鉄拳制裁を後頭部に叩き込まれる。

ぐったりした中ボスは口を塞がれながら木々の影に連行されるが、時既に遅し。
絶望的な瘴気まがいの悪臭を周囲に撒き散らす彼を、隠し切れる筈もなく。
二人の様子に呆れ果てたカーチスに呼び止められ、三人は会合に至る事になる。


          ◇          ◇          ◇


――警戒は、ほんの数瞬。


このゲームに乗っている者どもなら、徒党を組む可能性は低いのと。
なによりその内一人があまりにも馬鹿馬鹿しいコントを演じている事もあり。
(それどころか警戒心ゼロのような気がしてならないが、それは捨て置く。
 あの臨時放送直後だっていうのに、まったく良い身分なものだ…。)
オレはその有様に警戒を解くと、近づいて来た二人に簡単な自己紹介を済ませ。
これまでに起こった出来事について、情報交換を行った。

首輪関連についての会話は筆談で済ませ、念の為首輪についての考察メモを二人に手渡す。
これで、万一オレに何かあったとしても、誰かが遺志を引き継ぐ事は出来るだろう。
(筆の擦過音は、念の為焚き木の音とオレ達の会話でカモフラージュ済みだ。
 残念ながら、彼らも首輪に付与された魔法の類については、
 二人に思い当たる節はないとの事だった。)

66Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:04:57 ID:???
その間、優男はオレに思うものでもあるのか。
しばらくオレの顔をしげしげと眺めていたが。
視線から察するに敵対的なものとは程遠い、むしろ生温かい類のものだったので、
気付かぬふりをする事にする。万一、こいつがその手の趣味ならお断りなのだが。
「プリニーの姿ではないのですね…。」と、訳の分からない事を口にはしていたが。

ただ、一つ驚いた事に。
どうやら、優男の方はあのラハール達と知り合いで、
あのゴードンとも顔見知りの間柄だったらしい。
自称ラハールの「宿命のライバル」との事だが、
どうみても名前の通りの「中ボス」臭しかしない。
頬についたご飯粒といい、口から漂う溝川のような腐乱臭といい、
あまりにも威厳というものがなさすぎる。
とはいえ、この男も一応は悪魔。
決して、まともな人間の手に負える存在ではないのだろうが。

対抗するには、オレのように人間を辞めるか。
あるいは、ゴードンのように人間を超えるか。

そうでもしなければ、人間は悪魔に太刀撃ち出来ないのだ。
態度は兎も角、決して侮る事だけは出来ないだろう。
事実、オレはラハール達には勝てなかったのだから。
中身はともかく、その戦闘力のみは警戒すべきだろう。

情報交換ついでに、これからの予定を聞いてみれば。
ビューティー男爵「中ボス」はラハール達三人を。
ウィーグラフと名乗る騎士はラムザという青年を。
それぞれを探している所らしい。

ただし、ウィーグラフはラムザに対して含む所でもあるのか。
その青年の事を話す時は微妙に顔をしかめてはいたが。

67Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:07:47 ID:???
一方で中ボスは「宿命のライバル」というよりは、
まるで父親が不肖の息子と娘達を思いやるような。
どこか遠い眼差しでラハール達の事を語っていた。

ただし、中ボスはつい先程自分の元を離れたエトナを気に掛けており。
彼女を引き戻しに、ガフガリオンという名の騎士がレシィという少年を
引き連れてC−3の村へと向かっているらしい。
ただし、その老騎士に対する見方で、二人の見識に若干のずれがあるようだが。

「私とて、あの方が日の下を歩いた人間ではない事ぐらいは感じております。
 ですが、ウィーグラフさん。それはあまりにも敵意を抱き過ぎではないですか?
 彼とて昔は家族もいたであろう、一介の人間です」
「お前こそ、あいつを見くびりすぎだ。黒騎士(ダークナイト)の名は伊達ではない。
 戦場を共にした事こそないが、奴のいた戦場跡は、見飽きる程に見て理解している。
 放置しておけば、取り返しのつかん事になるかもしれんぞ?」

中ボスの言を信じるのであれば、失った家族を思うどこか寂しげな老騎士であり。
ウィーグラフの言を信じるのであれば、冷徹無比なる邪悪な軍人という事になる。

ただし、オレの感じた事を言えば。
どちらも本当の事を言っているようには聞こえ、
どちらも全ては知ってはいないようにも聞こえる。

両者が抱く老騎士に感情に、温度差が有り過ぎだ。
とはいえ、オレもガフガリオンの行き先が気にならない訳ではない。
エトナ達相手に、老騎士一人がどうにか出来るとは思えないのだが…。

ただし、あちらにはアティもいる。もし、ウィーグラフの言う事が真実なら?
遭遇すれば、彼女にとっても取り返しが付かない事になりかねない。

68Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:08:49 ID:???
それ以前に、たとえ彼が危険人物でなかろうとも。
夜と深くなれば、村で暖を取ろうとする他の参加者達の遭遇率も跳ね上がる。
そして、それはたとえ主催側に反目する立場の人種であったとしても。
彼女が役立たずと見做されれば、早々に始末される可能性がある。
――全ては、制限時間と支給品の獲得の為に。

オレは、唐突にぞわりと脳の根幹を撫でられたような錯覚を感じ。
――酷く、嫌な予感がする。

そう言えば、随分と長い間。
オレは彼女の声を聞いてはいない。
連絡がないのは無事の証とも言えるが、あまりにも無さ過ぎる。
それに、アティからは色々と聞き出しておきたい事もある。
――ならば。

「…わかった。エトナ達の様子なら、このオレが見に行ってやる。
 代わりに、北の塔にいるゴードンとミカヤを頼む。いずれ後を追う。
 他に聞きたい事でもあれば、代わりにあいつにでも聞いてくれ。」

オレはメモに視線を送り、その内容がメモに関する事だと示唆すると。
オレは話しを手短かに切り、二人にゴードン達の身柄を任せ。
足早にC−3の村へと駆け出した。

これ以上は、消費する時間が惜しい。
たとえ一秒でも、たとえ一瞬でも。

胸騒ぎは、一向に収まりはしない。
駆けながら、オレは体内の機能を使いアティに呼び掛ける。
だが、当の彼女の無線からは――。

69Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:09:32 ID:???
声はおろか、一切の反応も示しはしない。
主催者側の通信妨害も疑ってはみたのだが、それでもノイズ程度は入るはず。
――だとすれば?


まさか
まさかとは思うが。


彼女は窮地に連絡を入れる暇さえないままに、すでに――。
取り返しのつかない、最悪の未来を想像し。
オレの視界が、その衝撃に暗くなりかける。

 ――クソッタレが!何が多くを救うだ!何が地球勇者だ!
   参加者はおろか、女一人助けられないのか、このオレは!!

激しい焦りと自分への怒りで、脳内が掻き乱され。
人工の心臓が激しく脈打ち、動悸で息も荒くなる。

あのどこか儚げな、顔こそ違えど今は亡き妻子の連想させる、あの笑顔が。
唐突に、理不尽に。圧倒的な暴力によって“再び”蹂躙される様を連想し。
今にも自分が内部から引き裂かれそうな、そんな錯覚さえ感じる。

それも、状況を甘く見て彼女を置き去りにしたオレのミスに他ならない。
後悔の余り、今にも気が違えそうになる。
だが、落ち着け。落ち着くんだ。

70Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:10:56 ID:???
 

 ――オレは第三十八代、地球勇者なのだから。


オレは考えうる最悪の可能性を頭から振り払り、無理矢理心を奮い立たせる。
アティが無線が取れなかったのは、単に何らかの偶然という事もある。
あるいは、無線の故障という可能性も。

それに、本人にもし何かあったのだとしても?
本人は未だ生存し、助けを求めているという可能性もある。
ならば、一刻も早く駆け付けるべきであろう。
それが、今のこのオレに出来る最善の行為だ。

本人の死体を発見するまでは、悲嘆にくれるのは早計に過ぎる。
状況は決して楽観はすべきものではないだろうが、
最初から諦めては、救えるものすら救えないのだ。
 
オレは胸の内にじわじわと侵食を始める、どす黒いものを振り払うように。
駆動系が熱を持つ事すら無視して、限界を超える勢いで村へと駆け続けた。


【C-2/森/一日目・夜中】
【カーチス@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:背中及び数箇所に切傷(軽症)、左足に異常(要修理)、若干の性能劣化、
    激しい焦燥と後悔
[装備]:オウガブレード@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式
    鍵@不明、オリビアの首輪
[思考]1:手に入れた首輪を解析する為に、異世界の(特に魔法に詳しい)参加者を探す。
   2:アティにいち早く接触し、他の参加者達やディエルゴについての情報を再確認。
   3:ガフガリオンを警戒。
   4:アティの身柄の確保と同時に、エトナ達を探してみる。

71Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:11:56 ID:???
[備考]:首輪が魔法的な防護により異常なまでの硬度を帯びており、
    物理的手段だけでは分解不能である事を理解しました。
    分解と解除には魔法と科学に通じたものが必要であると推測を立てています。
   :ウィーグラフ達とこれまでの情報交換を行いました。
    状況が落ち着けば、後ほどアティとともにB−2の塔にて合流する約束をしました。
   :カーチスは自分を含めた全ての参加者には、主催者側の選定基準があり、
    其々に彼らが望む一定の役割を与えられていると推測を立ててます。

【ウィーグラフ@FFT】
[状態]:健康 、ガフガリオンへの不信感
[装備]:キルソード@紋章の謎
[道具]:いただきハンド@魔界戦記ディスガイア、
    ゾディアックストーン・アリエス、支給品一式(ペットボトルのみ無し)
[思考]:1:ゲームの打破(ヴォルマルフを倒す)
    2:仲間を集める。
    3:ラムザとラハールの捜索
    4:ガフガリオンを警戒(不審な行動を見せれば斬る)
    5:アティとエトナ達はカーチスに任せる。
    6:合流予定のB−2の塔で、同時にゴードン達を探してみる。
[備考]:ジョブはホワイトナイト、アビリティには現在、拳術・カウンター・攻撃力UP、
    HP回復移動をセットしています。
   :カーチスと情報交換をしました。首輪に関する話題は筆談にて済ませています。
    但しカーチスの考察以上の事は発展が有りませんでした。

【中ボス】
[状態]:顔面と後頭部に軽症(行動に一切の支障なし)、軽い胃痛、酷い口臭、頬にご飯粒
[装備]:にぎりがくさい剣@タクティクスオウガ、ペットボトルの水(半分消費)
[道具]:支給品一式 (水は全て消費済)、ウィーグラフのクリスタル、カーチスのメモ
[思考]:1:ゲームの打破
    2:自分が犠牲になってでもラハール達の帰還
    3:エトナも早く戻ってくればよいのですが…。
    4:メモの内容…。とても気になりますね。これは。
    5:赤毛の麗しきマドモワゼル(アティ)。フム、意外と近くにいましたか…。
      って、これは浮気じゃないですよ皆さぁーん!!

72Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:12:53 ID:???
[共通備考]:
 カーチスの首輪に関する考察には、以下のような事が書かれています。
【カーチスの首輪に関する考察メモ】
 
・首輪は異常なまでの堅牢性が与えられている。当然のごとく、防水性。
 その原因は物理的なものではなく、極めて強力な魔法に類する力であり、
 その力を特定し、無効化することがまずは先決である。
・視認した限りにおいては、分解防止の為か監視カメラの存在はない。
・死亡者の有無を確認出来ることから、生体反応を感知できる何かがあると推測される。
 ただし、参加者がアンデッドと化した事やカーチスのようなサイボーグであっても
 生死を正確に認知できることから、体温や脈拍等で感知しているわけではない。
・主催側の目的やこの殺し合いで得られるものから考えるに、装着者の絶望や憎悪等の
 どす黒い感情を効率良く集積する機能が付加されている可能性が高い。
・今回のゲームの首輪については、サプレスの悪魔(ディエルゴと名乗る者)の求めに応じて、
 進行役の人間(ヴォルマルフ)が入れ知恵をして制作されたと推測される。

:C−3からC−2への通り道の間に、中ボスが食べ終えた空の弁当箱と
 シュールストレミングの缶詰が捨てられています。

73 ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:13:42 ID:???
以上で投下終了です。
感想、ご指摘等ありましたら遠慮なくお願いいたします。

74源罪な名無しさん:2011/05/01(日) 18:27:28 ID:???
臨時放送を未だに突破してないのはアイク、ミカヤ、ゴードン、アティ、ネスティ、アルガス、サナキの
以上七名で良かったっけ?
書くとしたら彼ら優先だよな…。

75源罪な名無しさん:2011/05/02(月) 09:44:17 ID:???
特に問題なさそうなのでwikiに収録します

76 ◆j893VYBPfU:2011/05/08(日) 20:34:07 ID:???
アルガス、サナキで予約します。

77源罪な名無しさん:2011/05/13(金) 17:19:07 ID:???
今状況的に危険なのは区分けすると概ねこんな感じ?

危険度
極度 マグナ、パッフェルホームズ、カトリ
高度 アティ、ネスティ
中度 カチュア、ミカヤ、カーチス、ヴァイス
低度 ラムザ、レンツェン、チキ、ニバス

負傷状態も込みで考えればだけど。?

78源罪な名無しさん:2011/05/16(月) 09:53:05 ID:???
アルガスも状況次第じゃ、
放置プレイで爆死するんだよねw

79源罪な名無しさん:2011/05/16(月) 10:26:02 ID:???
爆死というか、ラハールに首刈られますな。
しかもラムザやサナキには止める理由がほとんどない。

80 ◆j893VYBPfU:2011/05/22(日) 08:35:50 ID:???
サナキ・アルガスを延長します。

81 ◆jEaHSufpKg:2011/05/24(火) 21:42:08 ID:???
初参加の者です。
アイクで予約します。

82源罪な名無しさん:2011/05/24(火) 21:43:29 ID:???
アイクキター!

83源罪な名無しさん:2011/05/25(水) 00:40:20 ID:???
うぉぉ、来たー!

84 ◆imaTwclStk:2011/05/26(木) 21:15:17 ID:???
ソノラ・二バス予約します

85open your eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:03:55 ID:???
ソノラ・二バス投下します。

86open your eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:04:31 ID:???
意識の覚醒は突然にだが速やかに行われた。
火の爆ぜる音が耳に聴こえる。
だが、何かが足りない。
考えるまでもなく理由は分かっていた。
二バスはゆっくりと目を開ける。
傍では焚き火の温もりが体を温め、
そして、その近くに亡者の騎士がその鎧の色のように
闇夜の漆黒と同化し、物言わず控えている。
身体を起こし、周囲をぐるりと見回す。

(やはり……姿が見えませんね)

何かが足りないと感じた理由。
自分をまるで保護者の如く慕う、
騒がしい少女の姿が今は見えない。

(薪を集めに行った様でもないですし、これは……)

闇夜の中、焚き火の心許ない明かりの中で
幽鬼の如く映る老人は静かに考える。
可能性は二つ。
何がしかの用で外しているか。
若しくは逃げたか。
前者の可能性も万に一つはあるのかもしれないが、
二バスは即座にそれを否定する。

(離れすぎている……これは有り得ませんね)

守ると言った少女が危険を察知出来ぬほどに
その対象から離れては意味がない。
愚かな事に変わりはないが、
それ程までに愚かでもないだろう。

ならば可能性は一つだが、疑問がある。

(あれ程までに私を信頼していたのに、突然逃げる訳は?)

突然、恐怖に駆られたわけでもないだろう。
為らば、何故?

そこで二バスはふと小さな違和感を覚える。
そして自分の持っていたクリスタルに目を向ける。

87open yor eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:05:36 ID:???
「……これはッ!?」

この老人にしては珍しく、小さく驚嘆の声を上げる。
二バスが眠りに落ちるまでは微かな魔力を感じていた
クリスタルからは今は何も感じられない。
今では、露天などで容易に手に入るただの石と同様の物と化している。

「魔力を取られた……いや、引き継いだという事ですか?」

研究者としての探究心が鎌首を上げる。
純粋な興味が今の置かれている現実を凌駕していく。

「成る程、流石は異界の術法ですね。
 一体、如何いった類のものだったのか…
 非常に興味深いですね」

自身の知らない現象、術、知識の類を種類を問わず、貪欲に貪る。
それこそが自身の究極目的への到達には欠かせないのであるのだから。

「しかし、残念ですね。
 今はその効力を知る術はありませんか」

だが、その冷酷にして底無き頭脳は大方の予想は導いている。

突然の少女の失踪。
クリスタルの魔力の消失。
そして、クリスタルの『本来』の持ち主。

この三つの現象を重ね合わせる。

「記憶…若しくは知識の引継ぎ……」

ぶつぶつと呟きながら二バスは真相へと意図もあっさりと到達する。
その考えの対象である少女でさえ半信半疑だというのにである。
それも当然かもしれない、
何しろ、それの元凶たる者は他ならぬ自分自身なのであるのだから
悩む要素など無いのだ。

「ふむ、どの程度離されたのか…これが問題ですね」

あくまで冷静に二バスは現状を突き詰めていく。
自分が眠っていた時間、少女が何らかの理由で
クリスタルの『何か』を引き継ぐまでの経緯。
天を見上げて経過時間におおよその目安を立てる。

88open yor eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:06:33 ID:???
(二刻から三刻、大体そんな所ですか)

天に日が射す気配なく、周囲の闇はより深みを増している。
それ程深く眠った訳でもないようである。

「……困りましたねぇ、ただ逃げただけじゃなく
 研究材料を持ち逃げされるのは」

それは怒りではない、純粋にこの老人は困っているのだ、
『研究材料を取られた』という事に。
ニバスにとってソノラという少女は
最初から“その程度の”認識でしかないのだ。
居れば利用するだけだし、居ないのなら別にそれでいい。
余計な事をするつもりなら後で始末するだけの事。
自分というものすらこの老人の中ではヒエラルキーの頂点ではなく、
頂点に座するのはただ知識のみ。
自分自身ですら、その為の材料の一つに過ぎないニバスにとって
ソノラという少女の存在は既に如何でもいいモノの一つと化している。

「おや? …継承であるのなら、
 それの条件とどこまで適用されるのか気になりますね」

似た様なものは知っている。
高位の魔術師のみが行使できる転生術。
我が身を捨て去り、魂のみを新たな肉体へと引き継ぐ。
だが、これすらも肉体をその都度、捨てなければ
死から逃れられない以上、
ニバスの目的の到達点とはいえない。
だが、それの簡易版ともいえる代物ならば
やはり興味深い素材である。

「試してみる価値はあるかもしれませンね」

クリスタルは本来の持ち主であるムスタディオの
肉体の消滅に反応した。

「継承者もまた対象となる…
 可能性としては捨てがたい……」

ゆっくりと立ち上がり身体に付いた土ほこりを払う。
身体の感触を確かめるように身体を少しずつ動かして確認する。

「多少のふらつきは否めませんが、
 そこはさほど問題ではありませんね。
 問題は魔力ですが……」

こちらは思っていたよりも深刻である。
回復術法に費やした精神力は並大抵のものではない。
いや、本来ならこうして平然と立ち上がっていること
それ自体が尋常ではないのだ。

「魔法を行使できるのは精々数えるほど…
 と、なれば……」

そこでニバスはただじっと立ち尽くす騎士へと目を向ける。
それを合図としてか、亡騎士はヴォルケイトスの柄を振るい
焚き火をかき消す。
明かりが消え、闇と化した景色の中で
声だけを屍術師は響かせる。

「……さて、不本意ではありますが動くとしますか」

89open yor eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:07:23 ID:???
【G-6/森/一日目/深夜】
【ニバス@タクティクスオウガ】
[状態]:肋骨骨折(魔法により応急措置済、行動には支障なし)、精神的疲労(重度)
   ※背中の打撲傷は完全に治療済です。
[装備]:ビーストキラー@暁の女神、ムスタディオのクリスタル@FFT
[道具]:支給品一式×2、拡声機、光の結界@暁の女神
[思考]1:保身を最優先、実験材料(死体)の予備を確保。
   2:最終的に優勝を狙い、この島を屍術の実験施設として貰い受ける。
   3:研究の手掛かりになるかもしれない為、とりあえずはこの世界の召喚術について詳しく調べてみる。
   4:ソノラを追跡し、始末する。
   5:ソノラの殺害でクリスタルは作用するのかを確かめる。

【リチャード@TS】
[状態]:デスナイト
[装備]:折れたヴォルケイトスの先端、柄@TO
   :女神の祝福を受けた鎧@FE蒼炎の軌跡
[道具]:空のザック
[思考]:ニバスを守り、他の参加者を殺す


「あいたっ!!」

暗い暗い森の中を少女は一人で歩き、
闇に見えぬ視界で思いっきり鼻を伸びていた枝にぶつける。

「〜〜〜〜〜ッ! あぁ、もう明かりくらい持って来れば良かった!」

リチャードに気づかれないようにするために敢えて
明かりの類は全部置いてきていた。
それを今更になってソノラは後悔する。

「でもいいもんね、もうすぐここから出られるし」

一人の筈の少女はまるで誰かと一緒に居るように
明るく振舞う。
いや、少女にしてみれば最早“いつでも”一緒なのだ。

そろそろ森の出口に差し掛かる、さっさと抜け出そうとして
咄嗟にソノラは身を隠す。

(……やっばぁ〜、あれ帝国の軍人じゃん)

町の方から街道に沿って歩く集団の姿を木の陰から覗き見る。
集団側からしてみればソノラは警戒どころか歓迎の対象なのであるが、
それを知る由も無いソノラにとって見れば日頃の天敵である
軍人は避けて通るべき相手なのである。

(あいつって、しかもアズリアじゃん。
 くわばらくわばらっと……)

帝国でも名の轟く剣姫をまともに相手になんてしてられない。
しかも屈強そうな男と弱そうな細っこいののオマケ付である。
隠れるようにしてこそこそと、
ソノラは向こうに気づかれないように移動する。
集団が移動して行ったのもあって気づかれずに済んだようである。

「どうしよっかな? 少しここに隠れてよっかな?」

少し思案し、ふと置いてきたニバスの事が気になった。

(本当にニバスさんは……)

感慨に耽りながらニバス達が居た方を仰ぎ見る。
森の奥に薄っすらと見える焚き火の明かりがその時、ふっと消えた。

(……気づいた!?)

意味も無く焦燥感が全身を襲う。
このまま此処にいては拙いと思考の片隅が警告する。
そんな本能の警告に少女は意を決する。

(行こう!!)

少女は地を蹴り、まだ形すら見えぬ向こう側へと駆け出した。

【G-6/森/一日目/深夜】
【ソノラ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:リムファイアー(7発消費・残り29発(確認済))
[道具]:支給品一式、石化銃の弾丸(24/24、他の銃に利用可能かどうかは不明)
[思考]:1:クリスタル継承したムスタディオの記憶の真実を確かめに、G−5の住宅街に向かう。
    2:ニバスについてどうするかについては保留。個人的には殺したくない。
    3:ムスタディオさんの記憶と遺志に従い、ラムザとアルマ、アグリアスを守りゲームを破壊する。
    4:どんな時でも、あたしは独りじゃない!

90 ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:08:23 ID:???
投下を終わります。
矛盾等ありましたら指摘をお願いします。

91源罪な名無しさん:2011/05/27(金) 21:27:33 ID:???
確かにその考察、可能性あるちゃあ有るだろうけど…。
ニバス、相変わらず彼らしい「全ての生命は虫けら同然」の酷い発想しか思い浮かばんなw
しかもここに「自分の生命」を例外視しない辺り、単なる小物で終わらせないものになっている。

なんて嫌なマーダーなんだ…。
ともあれ投下乙でした!

特に矛盾もなかったのでそれでいいかと。

92 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 09:04:35 ID:???
サナキ・アルガスを延長します。
ただし、今夜中に投下します。

93 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:51:47 ID:???
サナキ・アルガスで投下します。

94騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:52:44 ID:???
アルガスからの情報に、目を引くような重要なものはなかった。
元よりそう多くを期待していなかった分、失望には至らなかったが。
だが、残念と言えば残念ではある。

折れた角を頭に持つ緑髪の少年。
ホームズの親友であるリュナン。
そして獰猛な印象を与える黒髪の男に、
エトナという赤毛の悪魔。

彼の話しによれば、以上四名の危険人物ばかりに遭遇し、
そのいずれにも酷い目に合わされたという。
そして、わたしはそれが敵意と偏見に満ちた主観入りという事に注意しながら、
脳内でアルガスの情報を整理してゆく。

おそらく、遭遇した人物全員が危険という訳ではないだろう。
わたしの勘で言えば、アルガスの傲慢な態度が巡って周囲にそう返礼されたか、
あるいは本人の脇の甘さが招いた結果なのだろう。
他人を見下す事に夢中になるものは、どうしても視野が狭窄する。
己もまた、他人に内心で見下され返すという事に気付かないのだ。

 ――馬鹿というか、甘いというか。

わたしは物心付く頃に祭り上げられ、最初から飾りである天上人だった。
「神使」と言う地位は名ばかりで、自らは何の奇跡も起こす事も出来ず。
ただ、そこに鎮座してある事のみが価値とされたわが身としては。

出会う者全てがこちらにおもねり、へつらう態度の奥底で。
絶えずわたしを利用しようと隙を伺い、
あるいは所詮傀儡に過ぎぬと侮蔑してかかる
有像無像に囲まれて育ったわが身としては。
絶えず他人の内心を用心深く推し量りながら、
自らは決して弱みを見せぬ事などもはや常識。

95騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:53:19 ID:???
貴族の見せる優雅さとは、決して見栄の為のみではない。
他者に弱みを見せぬ為の偽装であり、用心の心得なのだ。

かつては名門貴族でありながら、その程度の作法すら理解出来ないアルガスの無防備さに。
わたしは大きな羨望と失望の入り混じる、大きな溜息を漏らした。

 ――ある意味、羨ましい育ちじゃったのかもしれんの。
   昔ちやほやされてたのが突然に没落し、周りの態度が豹変して人間でも歪んだか。

だが、わたしの溜息を境遇への憐憫とでも見誤ったのか?
アルガスは下手に出て、わたしに媚び諂う。

「なあ、こんなオレを哀れだと思ってくれてるのなら。
 今度こそ、仲間として受け入れてはくれないか?
 …絶対に、皇帝陛下の役に立ってみせる。必ずだッ!」

熱っぽい眼差しで、奴はわたしに視線を送る。
わたしを出世の足がかりにでもするつもりなのだろう。
その事については、別にわたしも不快には思っていない。
「相互扶助」という名の「相互利用」。
人間関係とは、良くも悪くもそれで成り立つ。
利用するなら大いに結構。それはお互い様というものだから。

だが、目の前の男に利用価値があるかと言えばそれはないだろう。
むしろアルガスを連れ歩く事は足手纏いにすらなりえる。

気に入らない相手と見れば所構わず吠え続け、侮蔑を隠そうともしない。
周囲の空気を著しく悪化させて、一切悪びれる事もなく。
その貴族主義を、ことさらに周囲に押し付ける。
アルガスを駆り立てるのは己の野心と憎悪のみ。
それ以外の事象に価値など見出せないのだろう。

96騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:53:58 ID:???
わたしはこれまでのアルガスとのやり取りから、
あえて危険を冒してまで仲間にするメリットはないと判断していた。
そして、吐き出させるべき情報も全て吐き出させた。
もはや用済みか、と考えた所で。


「――初めまして、皆様方。
 私は悪鬼使いキュラーと申す者。以後、お見知り置きを」


本来はあり得ないはずの、放送が。
アルガスの運命を嘲笑うかのように、城内に響き渡った。


          ◇          ◇          ◇


「その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
 貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
 このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
 貴方達のご健闘に期待しておりますよ…」


わたしは苦々しい思いでその放送を聞き入っていた。
――その狙いは、あまりにもあからさまに過ぎる。

そして、この状況はアルガスの運命を決定付けるものであった。
アルガスが見る見る蒼褪め、混乱のあまり大騒ぎを始め出す。
そのみっともなさはともかく、心情だけは同情するに余りある。
そう、誰とてこの臨時放送がもたらすものは理解できる。
――理解できるのだ。

97騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:54:33 ID:???
ラハールは暴れたがっており、そしてその相手と武器を見境なく探している。
そして、ラムザはアルガスとの仲はお世辞にも良いとは言えない。
アルガスとて、それらの状況は充分に理解している。
――そして、何よりも。

残りの制限時間が、この先どの程度であるかがわたし達には分からない。
第一回放送で呼ばれた最後の死者は、果たして午前中に死んだのか?
それとも、放送直前に死んでしまったのか?
今のわたし達にとってはそれすら不明なのだ。
それらを早急に確かめる事も必要である。

そして、それらの人間関係を始めとする全ての問題点を解決できる手段が。
――たった今、わたしの目の前にある。

殺しても誰一人として良心が痛まない者がおり。
殺した方が明らかに今ある状況を優位に立て。
殺す事により確実な安全を保障出来る。

そんな都合の良い「生贄の羊」が、たった今無力な状態で拘束されている。
それに、たとえこちらが放置して手を下さなくとも、
発見され次第誰もが彼を始末しようとするだろう。
貴重な時間と、身を守る武器を得るために。
「殺す」という行為に、義務のみでなく利益を得てしまったが為に。

そして今、同時にこのわたしの立場も危ういものとなってしまった。
無論、ラムザという男が如何なる場合であれ、
無抵抗な女子供を手にかける者ではない事は、
これまでの僅かなやり取りの中で充分に理解している。
――だが、だからこそ。

98騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:55:13 ID:???
アルガスのみを目の前で殺めて、首輪を奪うという事は充分にあり得る。
いつ「不用」として首を狩られるか不安の中にいる、このわたしを安心させる為に。
アルガスという男。ラムザとの因縁やこれまでの態度から察するに、
あまり良質な人間だとは言えないのだとも理解していた。

そして、ラムザはアルガスを殺す事に躊躇いはないだろう。
あの男は優しくはあるが、決して甘くはないのだ。
それは身に纏う空気やその目からも理解は出来ていた。
あのヴォルマルフという騎士相手に一度は勝利した強者に、
決して隙や甘さなどあろうはずがない。
――だが、だからといって。

アルガスを見捨ててしまってもよいものだろうか?
下愚としか言いようのない、人間の失敗作であっとしても。
窮地にある者を見殺しにして自らは手を汚さず保身を図る、
かつての元老院まがいの浅ましい行為を。
人の上に立つ者が取って良いものなのだろうか?

 ――否、断じて否。

もし、アルガスを見殺しにしてしまうのであれば。
わたしは、かつてヘッツェルを断罪した時のように。
わたし自身をも断罪しなければならなくなる。

元老院議員へッツェルもまた、己の身の可愛さ余りに
「高貴なる者の責務(ノブレス・オブリージュ)」を忘れ、
全ての悪事について見て見ぬ振りを続けていたのだから。
それは、国家の命運を担う者が、守るべきものの荒廃を
座視したも同然の行為であるが故に。

99騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:55:49 ID:???
 
 ――わたしは自ら手を汚し、ヘッツェルをその罪ごと焼き滅ぼした。

たとえ、己自身が悪事に手を染める事がなかろうとも。
それはすべからく貴族の義務の放棄を意味したが故に。
庶民ならいざ知らず、貴族の取るべき態度ではない。

ましてや、わたしは人の頂点に立つ皇帝。
そのような罪を背負うものに、皇帝を名乗る資格はない。
他者にはその手を汚させ、自らは安穏とするなど言語道断。
率先して己が手を汚して、自らも危険を背負ってこそ皇帝。
無力は罪の言い訳にはならぬ。
――ならば。

わたしは怯え喚き続けるアルガスを無視すると、小部屋を飛び出した。


          ◇          ◇          ◇


「さあて、戻って来てやったぞ。待ちくたびれたかのぅ?」

わたしはにんまりと笑うと、城中を捜し回りようやく見つけた鋸を手に。
大股で、ゆっくりとアルガスの所へと近づいた。

アルガスの顔が恐怖へと歪む。迫り来る運命を悟り。
わたしは勝ち誇るように笑う。運命を己が握るが故に。

100騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:56:35 ID:???
「やめろーッ! オレを放せーッ!頼むーッ、殺さないでくれーッ!!
 ふざけるなーッ! どうして、オレが殺されなきゃいけないんだッ!
 オレは貴女様の役に立つから、ラムザなんかよりも役に立って見せるからッ!
 だからサナキ様ッ!皇帝陛下様ッ!考え直してくれよッ!なッ!なッ!」

先程の、ラムザへの威勢の良さはどこへやら。
アルガスは尻もちを付いた姿勢のまま、ずるすると退がり続け。
やがて後ろの壁に当たり、その退路すらも断たれた。

年下の少女相手にカタカタと歯を打ち鳴らす様はむしろ滑稽ですらある。
その怯えぶりは、もはや貴族というよりは道化と呼ぶ方が相応しい程に。

「残念じゃが、おぬしはラムザほど役には立てんよ」
「覚悟を決めるのじゃな。さあ、女神に祈るがよい」

わたしは残念そうにゆっくりと首を左右に振り、アルガスを押さえ込む。
右手には握られた鋸。真新しいそれは、獲物を求めて鈍い光りを放ち。
絶叫を上げるアルガス。それは屠殺される寸前の家畜を連想させるも。

「頼むよ…、やめてくれーッ!!
 いやだーッ、死にたくないーッ!やめてくれーッ!」

現実を拒絶して、眼を瞑るアルガス。
わたしはその命乞いを無視して――。
あてがった鋸を、一気に引く。

「助けてくれッ、かあさんッ!! 」

101騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:57:57 ID:???
響き渡る絶叫。
引き続けられる鋸。
そして、溢れ出す―――――ことのない血潮。



――束の間の、静寂。
白けた空気が、周囲を支配する。



「って、あれ?なんで生きてるのオレ?」

呆けた声を上げるアルガス。
縛られていた圧迫感が不意に消え、怪訝に思った彼が少し身体を動かし。
ようやく、身体の縛りのみが引き裂かれていた事を理解する。

「…その年でマザコンとは関心せんのぉ?」

わたしは苦笑を浮かべながら、アルガスを見下ろしてた。
奴は勘違いにようやく気付き、酷く顔を赤らめる。

 ――してやったり。だからこういう悪戯はやめられんのじゃ。

「う、ううううるさいッ!黙れッ!黙れ黙れ黙れッ!
 よくも、よくもこのオレに恥を掻かせてくれたなッ!」

「なんじゃ、そなたにも恥を知る心ぐらいはあったか。
 ラムザ相手にあれだけ啖呵切ってたのが嘘みたいじゃの」

102騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:58:39 ID:???
わたしはニヤニヤと笑いながら、アルガスをからかい続ける。
ラムザの名を出され、若干顔が硬くなり始めるも。
そっぽを向きながら、ぶつぶつと言い訳を始める。

「…そりゃそうさ。オレだって命は惜しいッ。物凄く惜しいッ。
 いくら一度経験してるにしてもな、もう一度死ぬのは嫌に決まっているッ。
 だがな、これまでに自分が名家であるが故に受け続けた恩恵も忘れて、
 貴族の義務も誇りも放棄してベオルブの家から逃げたラムザ相手に、
 引くなんて貴族としてありえないね。それを許したら、身分が曖昧になる。
 それにあいつに媚び諂って命乞いする位なら、殺された方がまだマシだッ。
 ベオルブ家の面汚しを、同じ貴族だなんてオレは認めんッ」

――なるほどの。
意地や誇りのかけ方が少しばかりズレておる。
あと口調がいつの間にか敬語ではなく対等になっておるが、それはまあよい。
あるべき貴族主義が誤ったまま固定化され、それで道を誤ったということか。
ラムザの事にせよ、なんらかの誤解か勘違いじゃろ。目が曇り過ぎというものじゃ。
だがまあ義務や誇りという言葉が出る分、まだ更生の余地はありそうじゃの。
ただ単に、身分に拘り過ぎで意固地に過ぎるという事か。

わたしはそう得心すると、視線でアルガスに部屋からの退出を促す。
「早くここから消え失せろ」と。
「もうお前は見逃してやる」と。
アルガスはその反応にぽかんとした顔でこのわたしを眺め。
唐突に得られた自由に戸惑い、そして警戒し。
躊躇いがちに、ぼそりと口を開く。

103騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:59:24 ID:???
「なあ、なんでこのオレをわざわざ助けるんだ?
 あんた自身が言ってただろ?オレは役に立たないって。
 それにオレが死ななきゃ、あんたが代わりに殺されるかもしれないんだぜ?
 今の放送聞いてりゃ、それ位はあんただってわかるよな?
 ここじゃ皇帝だの貴族だのって地位は、平民の家畜どもには通用しないッ。
 それに――。」

アルガスはそう言うと、猫背で弛緩した姿勢を取り。
わたしはそれを最初から予期しており、杖の末端と半ばを握り構える。

「――そなたがわたしを襲わぬとも限らぬ、とでも言いたいのじゃろ?
 ならば…、試してみるかの?」

アルガスは不敵に挑発するわたしの様子を、しげしげとしばらく眺め。
「そこまでわかっていて、一体何故なんだ?」と心底理解に苦しんだ表情を見せ。
わたしは答える。真なる貴種の生き様というものを。

「…阿呆。目の前で殺されそうになっておる生命を前にな。
 己の保身の為に見殺しにする輩など、誰も皇帝などとは呼ばんじゃろ?
 それこそ、そなたの言った『貴族の義務』という奴じゃ。
 わたしは、わたしの誇りの為にそなたを助ける。そなたの価値など関係あるか。
 それにの、護身の心得なら多少はあるでの。そなたの裏切りなど計算の内じゃ。
 貴族とは、民草とは生き様の格の違いを見せつけてこそ貴族というものじゃろ?
 わたしを単なるお人好しか、地位を笠に着るだけの小娘だとでも思うたか?
 この第三十七代ベグニオン皇帝を、あまり見くびるでないわ」

わたしはニヤリと笑いながら、それを奴に教える。
わたしの在り方を。わたし自身の矜持というものを。
眼前の誇りのかけ方を誤った没落貴族にも分かるよう、
はっきりと宣告する。
その言葉に――。

104騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/29(日) 00:00:27 ID:???
アルガスが身に纏う、空気が変じた。
アルガスは唐突にその目を見開き、大きくその身体を震わせて。
あたかも女神からの天啓でも受けたかのように。

自ら片膝を折り、わたしに頭を垂れ――。
恭しく厳かな声で、騎士の礼を取った。

「これまでに渡る数々の無礼…、どうか、どうかお許し下さいッ。
 貴方様には、真の貴族の誇りを見た気がいたしました。
 ただ、願わくば。それが許されるのであれば。
 この私めを、是非貴方の配下に加えて頂きたく存じ上げます。
 未だ騎士見習いの身なれど、己が未熟は熱意で補いますが故に」

それは、あの傲慢極まりなかったアルガスの口から初めて聞かれる。
一切の混じり気のない、偽り無きわたしへの敬意に満ちた言葉。
それは、「相互利用」といった契約関係を望むのでは決してなく。
わたしを本当の意味で主として認め、己を臣下とするよう願い出た。

――わたし自身想像すらしなかった、唐突なるアルガスの改心。
当然を語ったに過ぎない積もりが、ここまでの影響を与えるとは。

…この男、まだ芯までは腐り切ってはいなかったという事か。
その反応にわたしこそが驚き、反応に少々こそばゆいものを感じはしたものの。
だが、わたしはアルガスの懇願に――。

「その申し出は、今はまだ受け入れられんの」

拒絶にて、それを返す。
びくり、とアルガスが悲嘆に肩を震わせるも。

105騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/29(日) 00:01:06 ID:???
「…今はまだ、と言ったんじゃ。つまりは保留という事じゃ」
「そなたが貴族に相応しい振舞いを身に付けたと、わたしが認めた時。
 その時は改めてそなたをわたしの騎士として認めよう。
 人の性根など簡単に変わる。今はまだまだ信頼できん」

わたしは、アルガスに優しく諭す。

道を違えぬ限り、少なくともわたしはアルガスを認めると。
良き方向に人が変わるのであれば、わたしはその切っ掛けとなりたい。
わたしは人を導くのが責務であるが故に。

「じゃからの、わたしがそなたを直で見届けるとしよう。」
「どうせ、ここにい続ければそなたはラムザ達に殺されるんじゃ。
 じゃが、そなたを野放しにするのも危なっかしいしの。
 …仕方あるまい。ようは監視も兼ねて、という事じゃ。
 一緒に出るぞ?元より、その積もりじゃったしの。
 その代わりに、わたしの護衛でもしてくれると助かるがの?」

そして、事実上の承認にも等しい言葉を与える。
その思いがけぬ言葉に、アルガスは再び顔を上げ――。

「…このアルガス、身命を賭して貴方をお守りいたします」

わたしの腕を取り、騎士の礼を取る。
その瞳には、僅かながらも涙が溜まっていた。
おそらくは、初めてなのだろう。他人に必要とされ、認められたという事が。
経緯はどうあれ、他人に損得抜きで命を救われ、受け入れられたという事が。
それが、たとえどのような形であろうとも。
だからこそ、これほどまでに心震わせたのだ。

106騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/29(日) 00:01:58 ID:???
そして、あれが最期を覚悟した時に出た「かあさん」という言葉。
それも、あの者が「誰かに認められたいという」渇望を持つ事を裏付ける。
世に生まれ落ちて、最初に己を全肯定するのが「母親」という存在であるが故に。

実はこの男、これまで「貴族」という地位に殊更に拘泥しているのも、
周りが己を認める唯一のよすがが、その血筋のみだったが故なのか?

ならば、まだ変わりゆく余地は充分にある。
そして、その切っ掛けを与えてやる事はわたしにも出来るかもしれない。

「うむ、苦しゅうない。
 ならば、護衛代といってはなんじゃがこれをやろう」

わたしは膝を折るアルガスの首筋に。
剣の平で叩く代わりに、あるものを巻き付ける。
わたし自身が、それまで身に着けていたものを。

「これは…?」

それは、貴族が巻き付けるには質素に過ぎる、
むしろ違和感を醸し出すものではあるのだが。
何よりも柔らかく、暖かく。作り手の優しさが伝わるものを。
それが同時にわたしの気持ちでもあると、伝わるように。

「誰かが人の為に編んだ、手編みのマフラーじゃ。
 陳腐なもの言いじゃが、作った者の想いまで伝わってきよる。
 …わたしのお気に入りだったんじゃがの。
 己を見失いそうになったら、これを見て思い出せ。
 先程の、わたしへの誓いをの。」

107騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/29(日) 00:02:28 ID:???
わたしはそう言い含める。
「人に認められたい」という気持ちが強いのであれば。
「人の思いやり」の篭もったものは金品より価値あるものとなるだろう。
それが、主と認めた者からの賜りものなら尚更に。
そして、アルガスはわたしから報酬に。

「…ありがたき、幸せ」

恭しくマフラーに手を当て、再び頭を下げた。
様子を見る限り、しばらくは翻意を抱く事はないだろうと判断する。
とはいえ、楽観は禁物だろう。
人はそう、簡単に変われる訳ではないのだから。
問題は、むしろこれからなのだ。

「さて、長居は無用じゃ。さっさと出掛けるぞ。」

わたしはアルガスに準備を促し、怪我の治療を杖魔法で行ってやると。
鋸を用意する際にあらかじめ書いておいた手紙を部屋の中央に置き、
二人で城を後にした。

『アルガスがこのままでは危険過ぎるので、拘束から解放する事。
 アルガスを一人にすれば不安が残るので、わたしが監視する事。
 そして自分から言い出しておきながら、皆でこの城を出る事が出来ず、
 皆に申し訳ないと。ホームズには後ほど自分から詫びておくと。』

手紙にはこう記してはおいたが、不安ではある。
経緯はどうあれ、わたし達の離反はラムザ達への不審を意味するのだから。
何より、今の合流はアルガスが危険過ぎる。

108騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/29(日) 00:03:51 ID:???
 
 ――ま、理解してくれるとありがたいんじゃがの。

そして、後はアルガスのお守か。
わたし自身が決めた事とはいえ、少々気が滅入る。
わたしの騎士となろうとする以上、私怨はひとまず置くよう命じてはいるのだが。

 ――どうしても、不安が残るのぅ。

私怨を捨てろとまでは言わぬが、自重位はしてくれると有り難いのだが。
それが出来ぬようであれば、責任を以てわたし自身の手で阻止せねばならない。
たとえその結果、アルガスの生命を奪う事になろうとも。

 ――そういう事態だけはないよう、女神に祈りたいものじゃがの。

わたしは将来における数々の不安に頭を悩ませながら。
何度ともなく溜息を吐き、もう一度だけ城を振り返ると。
頼りない従者とともに、暗闇の野原へとその足を進めた。
 

【E-2/城の正門前/1日目・夜中】
【サナキ@FE暁の女神】
[状態]:精神的疲労(軽度)
[装備]:リブローの杖@FE、真新しい鋸
[道具]:支給品一式
[思考]1:アルガスを監視しつつ、その行く末を見守る。場合によっては…
    2:帝国が心配
    3:皆で脱出
    4:アイクや姉上が心配
    5:魔道書等の充分に力を出せるアイテムが欲しい、切実に。

[備考]:二人で編成を組むに伴い、支給品一式を二人分アルガスに預けてます。
    アルガスや自分に使ったリブローで、若干の消耗が起こってます。

109騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/29(日) 00:05:33 ID:???
【アルガス@FFT】
[状態]:ラムザに対する憎悪(重度)、サナキに対する忠誠心
[装備]:手編みのマフラー@サモンナイト3
[道具]:支給品一式×2
[思考]1:サナキに相応しい騎士となるよう務める。
    2:戦力、アイテムを必ず確保する。
    3:サナキが望まないので、とりあえず私怨は抑えてみる
    4:…オレ、どうすりゃいいかな?

[備考]:アルガスの怪我はサナキがリブローの杖で治療しました。
[共通備考]:アルガス達のいた部屋の中央に、サナキの置手紙が置いてあります。
      鋸の刃は薄いので、戦闘には一切使用できるようなものではありません。
      サナキとアルガスがどの方角へと向かったのかは
      他の書き手様が自由に決めて下さい。

110 ◆j893VYBPfU:2011/05/29(日) 00:06:17 ID:???
以上で投下完了です。
矛盾点やご指摘等ございましたら遠慮なく下さい。

111源罪な名無しさん:2011/05/29(日) 00:33:36 ID:???
おぉ、アルガス改心(?)かぁ……
不安しかねぇから不思議w

位置的にホームズと再会出来るかが分かれ目だなぁ。
別行動が吉と出るか凶と出るか……

投下乙でした!w

112<ディエルゴに喰われました>:<ディエルゴに喰われました>
<ディエルゴに喰われました>

113 ◆jEaHSufpKg:2011/05/31(火) 22:48:14 ID:???
アイク、投下させていただきます。

114蒼炎の勇者、立つ ◆jEaHSufpKg:2011/05/31(火) 22:50:59 ID:???
後悔の瞬間、失望の瞬間、絶望の瞬間。
その瞬間は近付いている。
刻一刻と、近付いているのだ。
この場で会った者の死、元の世界の仲間の死を知らせる放送が。
すぐそこに、今まさに始まろうとしている。





『――諸君、これから第一回目の放送を始める』




アイクはその声を聞き、閉じていた目を開く。
その声はヴォルマルフ当人の声だった。
間違えようもない。
流れてくる声に感情はまったくと言っていいほど感じ取れなかった。
そしてすぐ、その無感情な声が流れる。

『まずは禁止エリアを発表する。



 ――B-4、E-4、F-8



 以上の三箇所だ。現在地が該当エリアの者は速やかに移動をせよ。
 ゲームを盛り上げるためにも、つまらん死に様は曝さなぬようにしてもらいたいのでな』


「…どれも遠い…か」

115蒼炎の勇者、立つ ◆jEaHSufpKg:2011/05/31(火) 22:52:04 ID:???
あえて注意するなら、F-8だろう。
地図に何か印を書こうにも何もない。
アイクは少し考える。
少しだけ時間を置き、アイクが何かを考え付いた素振を見せる。
そこでアイクが取った行動は…。

「穴を開ければいいか」

指で禁止エリアの部分に穴をあけた。
ちなみにここは宿舎なので探せば筆記具はあるはずなのだ。
しかし、そこまで頭が回らなかったのだろう。

『続いて、ゲーム開始からこれまでの死者の発表をする。』

その声を聞いて、アイクは再び放送に耳を傾ける。
自分の仲間、そしてリチャードの安否を知るため。

『――アメル、オイゲン、シーダ』



『シノン』




呼ばれた、これにはさすがのアイクも動揺を隠せなかった。
シノン、彼がどう死んだかは分からない。
自分から挑発して殺されたのか、武器もなく追い詰められ殺されたのか、分からない。
アイクは、シノンを殺した奴に対して少なからず怒りが芽生えてしまう。

放送は続く、名前が続けて呼ばれる。



『ティーエ、ナバール、ビジュ、ベルフラウ、マルス、ムスタディオ』



『リチャード』



その名前が出た時、アイクは一瞬後悔した。
もしも、あの時折れずに無理をしてでも戦えばリチャードは助かったかもしれない。
そんな事を考えてしまう。
だが、この考えはリチャードの勇気への冒涜だ。
あいつは俺を助けてくれた。
俺の大事な仲間なのだ。

116蒼炎の勇者、立つ ◆jEaHSufpKg:2011/05/31(火) 22:52:36 ID:???


『以上、11名。開始から12時間で約1/5の死者――なかなかだ。このペースでゲームに努めてもらいたい』


アイクはその言葉を聞いて無言だった。
それは、仲間を殺した者への怒りか。
リチャードを助けられなかった非力さを痛感しているのか。
今まで無感情に話していたヴォルマルフが笑った事による違和感か。


『失ったものは戻ってこない、と思っている者に一つ教えてやろう。ゲーム開始前に言ったことは覚えているな?
 優勝者には望むままの褒賞が与えられる、と。それに例外はない――たとえ死した者を蘇らせることでも、だ』


アイクは眼を閉じ、考える。
他の奴をリチャードの二の舞にさせたくない。
自分のために死んでいった、彼。
もう、油断はしない。
俺は……。


『これにて第一回放送を終了する。さあ――殺し合いを再開せよ』


この声と共に、彼は歩き始めた。
放送が終わり、決意を改めた彼に一つ雑念が浮かぶ。






(ああ―――――肉が食いたいな…)






【H-7/城内の兵宿舎/一日目/夕方(放送直後)】
【アイク@暁の女神】
[状態]:全身にかすり傷・左肩にえぐれた刺し傷・右腕に切り傷(全て応急処置済み)
    貧血(軽度)。
[装備]:エタルド@暁の女神
[道具]:支給品一式(アイテム不明、ペットボトルの水一本消費、地図は禁止エリアに穴が開いている)、応急措置用の救急道具一式
[思考] 1:『蒼炎の勇者』として、この場で為すべきことを為す。
      (テリウスの未来の為、仲間と合流しゲームを完全に破壊する)。
    2:主催と因縁がありそうな者達(ラムザ・アティ)と合流し、協力者と情報を得たい。
     3:リチャードとシノンの死体を見つけ次第埋めてやる。
     4:漆黒の騎士に出会ったら?
     5:今度ネサラに出会った場合は、詳しく事情を問い詰める。
     6:あの石化した少女は余裕があれば対処する。
    7:出来れば、肉が欲しい。

117 ◆jEaHSufpKg:2011/05/31(火) 22:53:27 ID:???
投下を終了させていただきます。

118源罪な名無しさん:2011/06/01(水) 08:30:52 ID:???
投下乙。
どこまで行っても肉かあんたはw

119源罪な名無しさん:2011/06/01(水) 13:00:45 ID:???
投下乙です!
仲間や短い付き合いでも認めた
男の死を乗り越え……って、おいw

120源罪な名無しさん:2011/06/03(金) 09:52:53 ID:???
あ、忘れてた。一か所指摘。
第一回放送が六時だから、時間帯はそれ以降なので夜になります。
wiki収録時にそこ直しておきますね。(夕方→夜)

121 ◆imaTwclStk:2011/06/04(土) 21:02:06 ID:???
「open youra eyes」内で矛盾が見つかりましたので、
修正したものを修正スレに投下しました。
申し訳ないorz

122源罪な名無しさん:2011/06/04(土) 21:08:06 ID:???
了解、確かに時間的にアズリア達には会いそうにないですからな。
では、wikiもそれに合わせて修正かけますね。

124源罪な名無しさん:2011/07/25(月) 17:53:22 ID:???
先生…。殺陣が、書きたいです…。

でも先に繋ぎ進めないと時間的に被るからなあ…

130 ◆j893VYBPfU:2011/07/31(日) 23:00:20 ID:???
アルガス、サナキ、レンツェン、チキ、ホームズ、カトリ、ヴァイスで予約。

135 ◆j893VYBPfU:2011/08/13(土) 23:49:56 ID:???
すいません。予約延長で。

145 ◆j893VYBPfU:2011/08/20(土) 18:49:10 ID:???
諸事情により予約を破棄します。

165 ◆imaTwclStk:2011/10/23(日) 20:01:18 ID:???
デニム、カチュア、オグマ、アズリア、イスラで予約します。

166源罪な名無しさん:2011/10/24(月) 09:51:24 ID:???
予約キター

167 ◆imaTwclStk:2011/11/01(火) 13:33:42 ID:???
すいません、予約延長します

168 ◆imaTwclStk:2011/11/18(金) 00:08:07 ID:???
予約を再延長します

169 ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:32:20 ID:???
投下します!

170Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:33:16 ID:???
静寂なる闇夜の中を黙々と歩を進める。
だが、それは張り詰めた空気というのとは若干異なる。
言うなれば、切っ掛けがないだけで
それ故に結果的に皆が押し黙って歩を進めているだけであり、
そこには以前の様な猜疑心や不信感と言ったものは最早存在しない。
純然たる信頼がその場にいる三人には芽生え始めていた。
暗がりの中、イスラが目を凝らして周りの風景と地図とを見比べ、
続いていた沈黙を破る事になる。

「うん、そろそろ目的地ですね」

「そうか」

一言だけの簡単な相槌。
本来なら、それだけで再び沈黙が再開される筈だったのだが、
少し何かを思案した表情のイスラが口を開いた。

「オグマさん、一つ聞いてもいいですか?」

「イスラ?」

アズリアが唐突なイスラの行動に首を傾げる。

「あぁ、大した事じゃないよ姉さん。
 いえ、僕達は結構自分の事を話したと思うんですけど、
 そういえばオグマさんからは
 殆ど何も聞かされてなかったなと思って…」

ニコリと子供の様な彼特有の笑顔を浮かべて
イスラがオグマに対して初めて今までの経緯とは無関係な
言うなれば友好的な質問をしてくる。
今までの刺々しい態度が抜けたイスラの様子に
オグマは少々驚いた様で一度アズリアに視線を向け、
アズリアの困った様な表情を見て、
仕方が無いなと溜息をつく。

「別に黙っていた訳じゃないが、
 聞いた所で面白い話でもないが
 それでも構わないのか?」

「えぇ、構いませんよ」

即座にイスラが返答し、
オグマは改めて自分の過去を思い浮かべる。

171Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:33:53 ID:???
「…産まれた場所の事は覚えていない。
 憶えているのは血と臓物と興奮と蔑みの視線の中で
 剣を振るっていた日々だった」

「それって…」

「あぁ、俺は所謂剣奴と呼ばれる奴隷だった。
 己の命を自分の為ではなく他人の金の為に賭ける。
 ……最低な日々だった」

オグマの言葉の端に遣り切れない怒りが込められる。
アズリアが思わす口を開こうとするがオグマがそれを止める。

「気にするな、思わず気持ちが昂ぶったがもう過ぎた事だ。
 ……そう過ぎた事だ。
 俺自身、そんな状況に納得していた訳じゃない。
 俺は反乱を起こし、あっさりと鎮圧されたよ」

「…………」

最初に質問したイスラも相槌を打つ事すら止め、
黙ってオグマの話に耳を傾ける。

「奴隷の常などいつも同じだ。
 衆人の様々な視線の中で処刑されるだけの筈だった
 俺の前にあいつが現れたのはそんな時だったな…」

「あいつ?」

「前に名前だけは話していただろう?
 シーダ王女だ。
 年端もいかない少女がただの奴隷の為に
 大勢の観衆のど真ん中で無闇に命を奪う、
 その行為を諌めた。
 …そして俺は命拾いしたと言う訳だ」

「……それは」

アズリアが顔を顰め、俯く。

「……安易な質問でした。
 すみません……」

イスラも又、同様に自分のした
悪気は無かった行為の結果に
表情を曇らせる。

172Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:34:32 ID:???
「いや、良いんだ。
 むしろ、今なら聞いていて貰いたかった。
 これは既に過去の事だ。
 俺は先の為に動かなければならない。
 その為に振り切るべき事もある」

チャリっと彼のデイバックの中で微かな金属音が鳴る。
そう、既に引き返すことなど出来はしない。
その為に死者の尊厳を、かつて自分の命を預けた相手を辱めた。

「下らない話をしたな。
 さぁ、そろそろ目的地だ。
 気を引き締めてくれ」

オグマがこれ以上は話す気は無いと言う様に話を切り止めて、
視線を前に向ける。
彼の心中を察し、黙って頷き
アズリアも同様に足を踏み出す。
そのアズリアの横にイスラはそっと近寄り、
アズリアにだけ聞こえるようにぼそりと呟いた。

「あの人は強いね、姉さん。
 僕は馬鹿だった……」

「イスラ?」

「行こう、姉さん!」

アズリアがイスラの言葉に振り向いた時には
既に彼はいつもの調子に戻っていた。
だが、そんな弟の様子に一抹の不安が過ぎる。
それを払拭するように首を振り、
アズリアも先を行く彼らに続いた。


☆     ☆    ☆     ☆    ☆     ☆

173Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:35:05 ID:???
先程の会話から幾許かの時間の後、
3人は目的の場所へと辿り着いた。

だが、

「……おかしい」

アズリアが周囲を見渡し、口を開く。
閉じられた城門。
だが、灯りが燈され周囲を爛々と照らしている。

「……居るな」

今までの建物にはこれほどの光源は存在しなかった。
誰かが意図的にでも行わない限りはこれは有り得ない。
3人が其々に目配せし、警戒しながら城門へと近づく。
罠や待ち伏せの気配は感じられない。
オグマが扉に手を当て、力を込めて少しだけ扉を開く。
重々しい音を立て、軋みながら扉が動く。
その隙間をアズリアが覗き、イスラがその背面をカバーする。

「大丈夫だ、隠れている気配はない」

アズリアの言葉に呼応する様にオグマが一気に扉を開く。
開いた空間に飛び込むようにアズリアとイスラが突入し、
周辺をぐるりと確認する。
アズリアがオグマに手で合図を送り、
オグマも内部へと侵入する。

「……相手の意図が読めんな」

あまりにも簡単に踏み込めた事に3人は困惑する。
罠を張るならば幾らでも仕掛ける事が出来たにも関わらず、である。

「遊んでいる…のかも?」

「若しくは愚か者のどちらかだな」

姉弟の言葉にオグマも頷きを返すしかない。

「進んでみるしかない…という事だな」

城内の探索は彼らをより困惑させた。
明らかに人の居た様子のある光景が所々に見られたが
肝心の人は見当たらない。
一つだけ、明らかに仕掛けられていた事と言えば
地下室へと通じる扉が厳重に施錠されていたという事だ。
これでは武器庫とやらを確認する事ができない。

「どうやら、無視する訳にはいかない相手と言う訳だ」

174Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:35:39 ID:???
目的が武器庫であった以上、
このままでは此処に来た意味を失くしてしまう。
探索していない場所といえば、
目立つ大広間と其処を経由して行く事になる城主の間くらい。
相手の思惑は分からないが、
潜む所といえば、もう其処しか残されてはいない。
大広間の扉の前にはあっさりと着く事が出来た。
やはり、これまで通り罠も何も無く、
拍子抜けするほどにあっさりとである。

「さて、蛇が出るか鬼が出るか?」

扉の前で3人は足を止める。
これまでは罠らしき罠は一切無かった。
が、残る場所が此処しかない以上は
之まで通りとは行かないかもしれない。
考えあぐねる二人を置いてイスラが一歩前へと進み出る。

「開けます!」

「おい、待てイスラ!」

アズリアの呼び止めも聞き入れず、
イスラが一気に扉を押し開く。

罠は、無かった。

それでも突然のイスラの無謀な行為に
アズリアにしてみれば心臓が止まるような思いがした。

「無茶をするな、イスラ!」

「いや、核心はいってたんだ姉さん。
 この相手は直接僕達に会いに来るって…
 そうなんでしょう?」

パチパチパチと拍手が鳴る。
自然、3人の目は音の出所へと向けられる。
其処に王座に腰掛ける煌びやかな衣装で
飾り立てられた女性とその横で手を鳴らす青年がいた。

「よく来れました、といった所ですね。
 折角、僕が丁重に御もてなししてあげようと
 思っていたのに随分と待たせてくれましたけれどね」

青年が嘲笑うような表情で3人へと声を掛ける。
玉座に座る女性には変化は見られない。
いや、それ所か微動だにすらしない。

175Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:36:14 ID:???
「あなたは!」

イスラには青年に見覚えがあった。
森の中で襲撃してきた青年である事は間違いがない。
だが、何かがあの時とは違う。

「あぁ、君はあの時の?
 そうか、どうやら無事に逃げ切れていたようだね。
 それでこそ楽しみ甲斐があるというものだよ」

あの時の青年はこれほどの邪悪な気を発してはいなかった。
それが、今ではオルドレイクかそれ以上に濃密な気を放っている。

「あいつが以前言っていた襲撃者か、イスラ?」

既に身構えていたアズリアがイスラに問い質す。

「うん…だけど、あの時とは何かが違う…」

あの青年にこの短時間で何があったのかは理解できないが
これだけははっきりとしている事がある。

「あれは既に別物だ……いや、人ですらあるのか」

困惑するイスラを余所に青年が3人に視線を送り、
値踏みするように確認する。

「楽しませてはくれそうではあるね……」

口元を邪悪に歪めて、青年が嗤う。
その表情にぞくりとアズリアの背筋に悪寒が走る。

「呑まれるな…死ぬぞ…」

沈黙を守っていたオグマがアズリアに声を掛ける。

「クッ……すまない、私とした事が…」

オグマの言葉で正気に返ったアズリアが唇を噛み締める。
その様子を愉快そうに眺めていた青年が急に表情を引き締める。

「さて……
 此処はヴァレリア王妃ベルサリア・オヴェリス・ヴァレリア陛下の御前である!
 早々に跪け!」

青年が厳かに3人へと命令する。
だが、無論3人が従う道理はない。

176Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:36:53 ID:???
「そういうお前は如何なのだ?
 その陛下とやらに従っているといった様子ではないが?」

一度、気後れをした事を恥ずかしむ様に青年を睨みつけながら
アズリアは青年に対して問いかける。

「…従う?
 僕が? 姉さんに?
 フ…フフフ…アーハハハハ!!」

先程の厳かな態度は何だったのか、
今度は狂った様に青年は嗤いだす。

「何故!? 何故、僕が従わなくちゃいけない!?
 血筋? 正統な後継者?
 僕がいなければ何も出来はしない、
 この愚かな姉さんの癖に!?」

嗤いが収まったかと思えば今度は突然に喚き出す。
完全に行動が読めない。
喚き立てていた青年がピタリと止まり、
玉座に座り続ける女性へと向き直る。

「ゴメンよ、姉さん。
 姉さんを傷つける者はもういない。
 僕が姉さんの為に王国を立て直すから。
 そう、『僕達の為の』王国に」

青年は恭しく、頭を下げ玉座の女性へと口づけする。
だが、女性はその間も何一つ動く事が無い。

「……生きているのか、その女は?」

アズリアが思わず疑問を口にする。
その言葉に青年が反応し、アズリア達に向き直る。

「当然、生きているさ。
 ただ何も考えず、動かず、僕の愛を受けるだけだけどね」

青年は至って当たり前といった様子で
人形と化した女性の髪をなでる。

「もう苦しむ事も悩む事もない。
 姉さんを脅かす者は僕が全て排除する。
 どうだい? これ以上の幸せはないだろう?」

「……下らんな」

「……何だって?」

オグマの言葉に青年から笑みが消える。

177Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:37:26 ID:???
「下らんといったんだ。
 誰かに隷属する人生ならば死んだ方がマシだ」

「……」

「己で選び取った結果で死のうが生きようが、
 それこそが自由というものだ。
 貴様の言っている事は高みから見下ろしているだけの
 屑のような話に過ぎんな」

オグマの過去はそれをまざまざと理解させてくれる。
例え、あの時に死んでいたとしてもオグマは
己の心の中に自由を勝ち得ているのである。

「力で縛られる貴様の言う『王国』とやらはさぞ地獄だろうな。
 いや、天国か? 貴様のような愚か者にとってだけはな!」

皮肉を込めたオグマの言葉に青年の身体が震えだす。

「ク…ククク…たかが人間風情の身でよくもぬけぬけと…」

青年が携えていた剣を投げ捨てる。

「良いだろう、本気で相手してあげよう。
 貴様が蔑んだ、僕の真なる力を持ってね!」

空気が一変する。
寒々とした冷気が辺りに立ち込め、
禍々しい気配が青年の周囲に集まる。
青年は懐から一つの光石を取り出すと
それを高々と翳す。

その瞬間、光が爆発した。

轟音と爆風が周囲を襲い、
3人は思わず顔を庇う。

「…クッ! 何が起きた!?」

顔を上げて青年が立っていた場所を覗き、息を呑む。
黒い波動の中心に“其れ”は立っていた。
先程までの青年の面影などは微塵も無く、
巨大な化け物が鎮座している。

178Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:38:06 ID:???
『僕(我)は憤怒の霊帝アドラメルク。
 この世に於ける矛盾に対する怒りの顕現だ!!』

雄山羊の様な頭部を持った怪物が吼える。
魂まで凍てつく様な禍々しさを放ち、怪物が迫る。

「姉さんは下がって!
 その装備じゃ棄権だッ!」

「だ、だが…クソッ!」

庇う様に前に進み出る。
アズリアも反論しようとするが、
イスラの言う事が軍人としても
剣士としても正しい判断である以上、
歯噛みをする思いで素直に受け入れる。
それを横目で眺め、オグマがイスラに呟く。

「死ぬなよ」

「貴方こそ」

イスラの返答に少しだけオグマが笑い、剣を構える。

3人が其々に構え、其れを迎え撃つ。
濃密なる死の気配の中で。

179Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:38:38 ID:???
【C-6/城(謁見の間)/未明】

【オグマ@紋章の謎】
[状態]:健康
[装備]:ライトセイバー@魔界戦記ディスガイア
[道具]:万能薬@FFT、ナバールの首輪、マルスの首輪、
    基本支給品一式(水を多少消費)
[思考]
0:主催陣の殲滅と、死者蘇生法の入手。手段・犠牲の一切を問わない。
1:信じるべきは己の剣の腕のみ。
2:アズリアやイスラと共に、主催の潜伏場所・首輪解除の方法を探す。
3:ナバールの首輪を宝物庫に持って行き、武器を入手。
  その後、イスラの案内のもと、少女(ティーエ)の首輪を回収。
4:ゲームに乗る者や自分を阻害する者は躊躇せず殺す。
5:ネサラはしばらく泳がせておく。
6:マルスの首輪は解析用に所持、武器には換えない。

[備考]
※ネサラについては、マムクートのような存在ではないかと推測しています。
 鳥のような姿に変身することが出来るのではないかと考えています。


【アズリア@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:ハマーンの杖@紋章の謎
[道具]:傷薬@紋章の謎、基本支給品一式(水を多少消費)
[思考]
0:主催を倒し、イスラと共に生還する。
1:オグマ、イスラと協力し合う。
2:サモナイト石を探し、ここがリインバウムであるかを確かめる。
3:自分やオグマの仲間達と合流したい。(放送の内容によって、接触には用心する)
4:自衛のための殺人は容認。


【イスラ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:チェンソウ@サモンナイト2、メイメイの手紙@サモンナイト3
[道具]:支給品一式(水を多少消費)、筆記用具(日記帳とペン)、
    ゾディアックストーン・ジェミニ、ネサラの羽根
[思考]
1:アズリアを守る。
2:ディエルゴが主催側にいるなら、その確証を得たい。
3:サモナイト石を探し、ここがリインバウムであるかを確かめる。
4:ティーエの首輪を回収する。
5:対主催者or参加拒否者と協力する。(接触には知り合いであっても細心の注意を払う)
6:自分や仲間を害する者、ゲームに乗る者は躊躇せず殺す。

[備考]
※拾った羽根がネサラのものであることは知りません。
 聖石と羽根の持ち主には関係があるのではないかと疑っています。
※羽根の出所については、オグマが知っているのではないかと考えています。
※オグマが自分たち姉弟に隠し事をしていることに気付いていますが、不信感はありません。

180Wrath ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:39:30 ID:???

【デニム=モウン@タクティクスオウガ】
[状態]:アドラメレク融合率100%、憤怒の霊帝化
[装備]:ゾディアックストーン・カプリコーン@FFT
[道具]:支給品一式×3、壊れた槍、鋼の槍、シノンの首輪、スカルマスク@タクティクスオウガ
   :血塗れのカレーキャンディ×1、支給品一式×2(食料を1食分、ペットボトル2本消費)
    ベルフラウの首輪、エレキギター弦x6、スタングレネードx5
[思考]:1:「弟」として、「姉(カチュア)」を守る。
    2:アドラメレクとして、いずれは聖天使の器(カチュア)を覚醒へと導く。
    3:3人(特にオグマ)を殺す
    4:シノンの首輪を、地下の武器庫で交換しておきたい。
    5:久しぶりの現界を楽しむ。
[備考]:武器庫には鍵を掛けただけでまだ行っていません。
    セイブザクィーン@FFT  炎竜の剣@タクティクスオウガを近くに投げ捨てています。

【カチュア@タクティクスオウガ】
[状態]:失血による貧血、チャーム
[装備]:魔月の短剣@サモンナイト3
[道具]:支給品一式、ガラスのカボチャ@タクティクスオウガ
[思考]:*チャームによる自己喪失につき思考不可

181 ◆imaTwclStk:2011/11/23(水) 23:40:16 ID:???
以上で投下完了です。
誤字、脱字、矛盾などありましたら指摘お願いします。

182源罪な名無しさん:2011/11/28(月) 15:39:03 ID:???
感想遅れましたが、久々の投下乙です。

ただ一つ気になる点が。地下武器庫の扉は支給品の鍵でないと開閉出来ないと百話目の臨時放送で明記されているので
その辺りが矛盾してしまいます。あと、前々話でデニムが首輪とアイテムの交換を考えていたので、交換しなかった理由の補完も欲しい所かと。

まあ少し修正すればなんとかはなりますよ

183 ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:07:16 ID:???
では、一度予約キャンセルしているのでゲリラ投下になりますが。
アルガス、サナキ、ホームズ、カトリ、ヴァイスの五名で投下致します。

184Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:10:11 ID:???
「陛下、これからどこへ向かわれるご予定ですか?」
「うーむ。それをずっと考えてながら歩いてたのじゃが…」

城門をくぐり、暗闇の世界に足を踏み入れながら。
騎士見習いは、月明かりを頼りに先導しながら、
異世界の皇帝へ慇懃に問いかけた。

これまでの傲岸不遜な態度からは想像も付かぬ、その豹変ぶりに。
サナキは内心の驚きを禁じ得ずも――。

「とりあえずは、ホームズのいそうな所じゃ。
 このままじゃと、ラムザの顔を完璧に潰す事にもなるしの。
 …お主、見当はつくかの?」

――表向きは平静を装い、その問いを返す。
手元に照明はあるが、付ける訳にはいかない。
ラムザ達の追跡があれば、すぐに所在を気付かれるだろうから。

そして、今見つかれば捕虜のアルガスの処遇で論争となるだろう。
ラムザとアルガスの仲の険悪さは、充分過ぎるほどに理解している。
アルガスを殺す事による利益は大きく、一方で生かしておく危険は高い。
先程の臨時放送により、そう判断されかない状況に陥っているが故に。
ラムザはアルガスをあえて生かそうとまでは考えないだろう。

殺し合いの場において、他者の生命の価値は限りなく暴落する。
それが元の世界で不倶戴天の関係にあった者なら、なおさらだ。

それに、もしラムザがこちらの説得により納得した所で。
「凶暴」という文字に手足が生えたような傍らの少年が
一体何をしでかすか、到底知れたものではないのだ。

185Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:11:33 ID:???
残念だが、ラハールがさほど良心的な人間性の持ち主ではない事を、
これまでの行いからサナキも充分に理解していた。

そして、彼が取るであろう様々な暴挙に対して。
あのラムザも、今度ばかりは本気で止めようとはしないだろう。
むしろ、「静観」と言う名の見殺しを決め込むかも知れない。
つまり今二人に見つかれば、アルガスはどの道おしまいという事なのだ。

 ――人望がないというのも、色々と大変じゃのう…。

サナキは現状を思い、心中で溜息を付きながら。
アルガスの意見を待つ。

「ホームズ達はあの茶…リュナンを追いかけていました。
 ならば、リュナンが取るべきであろう行動を予測して、
 向かうと思われる場所へと向かうのでないかと」

少しして、待ち望んだ返事があり。
復讐相手にはやはりまだ感情的にもなるのか、と。
口調の訂正に、サナキは僅かな安堵と落胆を感じ。

「じゃとすると、やはり…。」
「リュナンは丸腰で、なおかつホームズとの遭遇を恐れています。
 隠れるものが多く、間に合わせでも装備を整え易い施設があり。
 なおかつ、先程の場所から最も近い場所。そうなれば…。」

二人は手元の地図を広げながら、身近な施設を指し示す。

「C−3…、北東の村か。そうなるかの」
「…仰せの通りかと」

186Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:13:11 ID:???
サナキは鷹揚に答えながらも、その場にいた場合の最悪の事態を連想する。
臨時放送をリュナンが聞いた事も考慮に入れれば、彼が「装備を整える為に」
村中で「他の参加者達の死体」や、ともすれば「生ける弱者」までもを血眼で
探し回っている可能性も充分に考えられるのだ。だが、それにもかかわらず。
アルガスはその危険性については、一切触れる事はなかった。

主君をも危険に晒す可能性に、気が付かぬ程の愚鈍なのだろうか?
――否、さにあらず。

意見を語るアルガスは、明らかに緊張に満ちた顔付きであり。
沈黙は決して彼の愚鈍や保身が原因ではなく、
主への配慮が理由なのだとサナキは見なした。
錯乱者にしてみれば、サナキもまた「この上なく美味しい獲物」になりかねないが故に。
主に余計な不安を与えぬよう、黙して危険に備える覚悟であるらしい。

 ――こやつ、全く筋がない訳ではないらしいの。

サナキはアルガスの配慮に胸の内では関心しながらも。
その美点に気付かぬ振りをして、騎士見習いに下知を下す。

「では、決まりじゃ。そちらにむかうぞ」
「…お望みのままに」

そうして、奇しくも先のマグナ達と同じ結論に達し。
アルガスの相槌に鷹揚に頷くと、サナキ達は慎重に東進を開始した。


          ◇          ◇          ◇


「…ところでの、アルガスよ。
 話は変わるが、一つ話しておきたい事がある」
「何でしょうか?」

187源罪な名無しさん:2011/12/10(土) 21:14:17 ID:???
何処までも続く、暗闇の草原をしばらくの間歩みながら。
唐突にサナキはアルガスにその顔を向け。

「ここにはアイク、ミカヤ、ネサラ…と、
 わたしの知り合いもそれなりに呼び出されておる。
 曲者ぞろいではあるが、皆信用に値する者達じゃ。
 ただな…」

どこか悲しげに。それでいて嬉しげに。
皇帝はここに呼び出された、知己の名を語り出す。
己が誇りと、心の拠り所として。
だが、その顔がにわかに曇り――。

「わたしの勘が正しければな、ここに危険人物も一人おる」
「…その者の名は?」

皇帝は、唯一の忌み名を口にする。

「元ベグニオン帝国中央軍総司令官ゼルギウス。
 ようはわたしの、かつて臣下じゃった男じゃ。
 名簿には“漆黒の騎士”と書かれておるがの。
 人違いの可能性もあるのじゃが、一応は話しておこうかの?」

サナキは“一応”と念を押し、他愛もない世間話であるかのように振舞う。
だが、その態度はどこかしら強張りを感じさせるものであり――

「そいつはの、我が国ベグニオンで非の打ち所のない最優の騎士での。
 前線に出れば負け知らずで、知略に長け、礼節を弁え、誰にも尊敬され。
 一時は大陸一の剣士とまで評された傑物とまで来た。
 あやつがいた当時はな、中枢まで腐りきったベグニオンにおいてもの。
 わが親衛隊さえ除けば、ほぼ唯一の信頼できる男じゃったが…」

188Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:15:07 ID:???
サナキはかつて重用した一人の騎士を褒め称える。
だが、その貌はどこかしら引き攣ったものであり――

「…わたしを、ベグニオンを、裏切り破壊し尽くしおったわ」

サナキが最後に口にした言葉には――
明らかな嫌悪と不快に満ち溢れていた。
皇帝は一つ大きな溜息を吐き、肩を竦める。

それはゼルギウスを責めるというよりは、自虐するようであり。
それは悲しげに、己が不明を恥じるように――
暗く沈んだ告白は始まる。

「じゃがな。それを未然に防げなかったは、わたしの不明の証明に他ならん。
 あやつにした所で、最初から裏切ったという意識すらないのじゃろうな。
 そもそも、あやつが仕えていた対象は、わたしでもベグニオンでもなく。
 最初から直属の主、宰相セフェランのみだったのじゃろう。
 言うなれば、“セフェランの騎士”だったのじゃ。
 わたしはな、それを完全に見誤っておった…」

己が恥辱をゆっくりと、存分に噛み締めるように。
苦々しげにその言葉は続き。

「“漆黒の騎士”はな。大陸の破壊を企てた、宰相セフェランの右腕としての。
 己の地位を利用して大陸に二度も戦乱を引き起こした、言うなれば梟雄じゃ。
 ベグニオンはおろか、大陸の全ての国々に恐るべき惨禍を撒き散らしおった。
 我が国で信用を築いたのもセフェランの目的…。人類滅亡の野望の為じゃった。
 おそらくは主の為に、周囲の敵全てを欺き利用した程度の認識じゃろうの。
 戦場で“敵”を欺き策に陥れるは、むしろ軍功ものじゃしな」

189Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:15:46 ID:???
サナキは自嘲に、その愛らしく小さい唇を歪ませる。
彼女自身がこれまでに歩んだ道が、そうさせるのか?
その暗い哂いは、年相応の少女のそれとは完全に掛け離れた、
老獪な政治家のそれであった。

「主の望みを言わずとも読み取り、その期待に答えるため最適の行動を取る。
 そういう意味ではの、まさにあやつは最も優秀な“騎士の鑑”やもしれん」

「じゃがの。あやつが生涯にやり抜いた事は、全て破壊のみじゃ。
 あやつは主を含めての。誰一人…、何一つ…、守り、救いなどせなんだわ。
 あやつはただ、盲目的に主の破滅への願いを叶えようとするのみ。
 そして、最後は宿敵との私闘に走り、勝手に先に逝きおったわ。
 主を一人、残しての…」

主、という言葉を殊更に、皮肉げに語る幼き皇帝。
だが、その主と呼ぶ響きにはどこか死を悼むような、悲しげな色が混ざっていた。
おそらくは、そのセフェランという名の主に特別な感情でも抱いていたのだろう。
これまでの中で、同罪である筈のセフェランだけは悪く言わなかったのだから。
アルガスにもその程度の機微は理解に至っていた。

そして、だからこそ、最もセフェランの傍にありながら
ただ破滅を幇助したのみであるゼルギウスという騎士を
嫌悪するのかもしれない。…あるいは、嫉妬が故か。
だが、アルガスにそれを聞く権利はなく、その資格もまたない。
無粋も極まる問いであると同時に、皇帝の内面に踏み込むものだから。

だが、皇帝の独白を聞く権利だけは、光栄にも与えられている。
だからこそ、アルガスは黙して聞き届ける。
全ては、己が主の意を汲む為に。

190Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:16:26 ID:???
「わたしはな、あのような者をもはや騎士とは認めぬ。
 真の騎士とはの、ただ殺す事にのみ長じれば良いというものではない。
 そのような騎士は猟犬か、さもなくば凶器じゃ。
 その存在が持て囃されるのは、戦場においてのみ。
 獲物を狩り尽くせば、もはや誰にも必要とされぬ。
 むしろ存在自体が持て余される、傷付けるしか能のない害悪というものじゃ」

「騎士の鎧とはの。国の為、あるいは人の為…。いや、どちらでも構わぬ。
 誰かの代わりに身を挺する為にこそ、身に纏うべきものではないのかの?
 そして、仕えるべき主が道を違えておるというならな。
 己の身を顧みず過ちを諌めてこそ、真の忠道ではないのかの?
 それこそが真に主を守る忠義であり、騎士道というものではないのかの?」

サナキは語る。騎士とは何たるかを。
サナキは問う。騎士の歩むべき道を。
眼前の騎士見習いに、己が理想の騎士像を語る。
最も騎士の資質に恵まれながら、最期まで真に騎士足りえなかった
紛い物の騎士の、どうしようもなく愚かな生き様を通じて。

「もしかするとな。あやつもお主と同じく蘇って、ここにおるかもしれん。
 ただな。わたしはゼルギウスがいようと、いなかろうとどちらでもよい。
 そんな些事より、わたしは何を言いたいのかと言うとじゃの。
 お主が私の騎士になりたいならな。あやつのようには、決してなるな。
 誰かを救え。何かを守る存在となれ。その為に強くなれ。
 …そう言いたいのじゃ」
「…畏まりました」

191Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:17:48 ID:???
――ベグニオン最優の騎士にして、叛乱者ゼルギウス。
もしその男がこの場にいれば、存在自体が危険であるにもかかわらず。
あえてサナキは些事と言う。なにより、彼女とは敵対する立場にあるというのに。
過去の亡霊の驚異を語るより、むしろ未来の騎士の在り方を問うことにこそ
この会話の意義があると言わんばかりに。
サナキはアルガスのみを、ただ見据える。

ただそれは、裏を返せばそれだけ成長を期待されているという事実であり。
アルガスはその言葉に込められた、皇帝の思いに胸が熱くなり。
ただ一言、了承の意を漏らすのみであった。

だがサナキはアルガスの引き締めた顔を覗き込み。
これまでの様子から一転、底意地が悪そうに頬を歪ませ――

「まあ、お主じゃあやつのようになろうにも無理じゃがのう?」
「お言葉ながら、それは少々侮りが過ぎるのでは?」

年頃の少女の顔で、アルガスをからかう。
流石に、叛乱者にも劣るという言葉だけは聞き捨てならぬと反論するも。

「ほーう。それは期待してよいのじゃな?
 仮にも“大陸一の剣の使い手”と呼ばれ、軍事大国二つを謀略で手玉に取り。
 紛い物でも“英雄”を演じた人間に能で並び立つと、そう抜かすのじゃな?」
「………努力は、してみる………」

紛い物といえど、その経歴たるや聞くだけで壮絶な騎士と改めて比較され。
見る間に顔色を蒼くしたアルガスに、サナキは悪戯っぽく笑いかけた。

だが、アルガスは、途轍もない重圧をかけられながらも。
その少女の笑顔に、これまでに一度も感じたことのない親しみと安らぎを感じ。

 ――まあ、こういうのも悪くはないかな?

知らずに、己もまた顔を綻ばせた。

192Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:19:23 ID:???
イヴァリースでは、絶えず自らの立場を周囲から脅かされ続けていた。
平民には生命を狙われ、上官には顎で使われ、役立たずと見倣されれば切り捨てられる。
貴族というにはあまりにも没落が過ぎ、そして平民からは悪魔のように目の敵とされる。
誰からも相手にはされず、誰からも見下される。
アルガスは取るに足りずと。その存在が邪魔であると。

世界はただ残酷であり、全てが敵という他なかった。
周囲はただ酷薄であり、全てを利用せねば生きていけなかった。

だが、年若い未熟なアルガスには、何もかもが足りなさ過ぎた。
ゆえに憎悪を心の糧として、血筋と家の再興を心の拠り所として。
貧弱な己を、捻じれながらも必死に保ち続けた。
そう、それこそが彼の心を形成する全てであり。
常にその心に緊張を強いられ、心休まる時など一時もなかった。

――だが、心の何処かでは。
母親のように、無条件でその存在を認めてくれるものを求めていた。

その事実を、近い年頃でありながら、真に貴族たりえるサナキと口を交わすことで認識し。
心のどこかが満たされたような、不思議な感覚に戸惑いを覚えた、
その時に――

「まあ精進するがよい。…っと、あれはなんじゃ?」
「あれは…ホームズ?あとは…」

こちらへと向かう、何かを背負う人影らしきもの達を見つけ。
二人はほぼ同時に、緊張にその身を構えた。

193Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:21:01 ID:???
 

          ◇          ◇          ◇


視界の悪い暗闇の草原を、恋人を背負いどこまでも疾走する中で。

「あーっ!七三の馬鹿発見!馬鹿発見ッス!
 もう一人は、サナキのお嬢ちゃんッス!」

唐突に甲高い大声を上げたプリニーの声が、いつになく緊張に満ちている事を疑問に思い。
暗闇の草原を疾走し続けていたホームズは、それが指し示した、南の方角と振り向く。

「いや、何も見えねえが、ってあれか…?お前、真っ暗なのによくわかったな?」
「プリニーの目をもってすれば、造作もない事ッスよ!」

重労働の疲労により、空気を貪る荒い息をどうにか抑え。
深夜の海洋を眺めるように、遠くに目を凝らしてみれば。
確かに人影らしきものが二つ、並んでいるようにも見えた。
普段より暗闇には目を慣らしている、海の男をしてかろうじてといった塩梅だが。

だが、プリニーは発見した二人を、一目で特定していた。
しかも、相手は明かりさえ付けてなどいないというのに。

そもそも、こんな深夜の草原の、注意しなければ直ぐ側にいようと
見落としかねないこの視界の悪さの中で、普通気がつくものなのか?

だが、ひどい焦燥の中でホームズはそれ以上疑問を抱いている余裕はなく。
むしろ、サナキが傷を癒す杖を支給されている事を知っているが故に、
すぐこの場でカトリの癒す事にのみ注意が傾いてしまい。

ただその言葉が真実である事に縋り、二つの人影に近付いた所――。
ホームズは無事、アルガス達と遭遇を果たす。

194Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:24:46 ID:???
「サナキ、どうして今ここにいる!ラムザと一緒にいるんじゃなかったのか?
 それに、七三まで解放しちまってどういう積もりなんだ一体!」
「あー、それはじゃの…。話せばちと長くなるんだが…」
「いえ、私からお話しいたします」

 何故、二人は今ここにいる?
 ラムザは今どうしている?何をしている?
 嫌に気まずそうなサナキの理由はなんだ?
 それにアルガスの態度も言葉使いも、奇妙極まりない。
 一体、俺達と別れた間に何が起こった?

だが、仲間を見つけて少しは気が落ち着いたのか。
その足を止めたホームズに、様々な疑問が沸き上がり。
混乱は加速する。いや、それらは今は差し置いてでも。
早急にしなければいけないことがある。
それは――。

「…いや、ぐちゃぐちゃ話している暇はねえ!
 俺達は今、タルタロスの野郎に襲われて城へ逃げている!
 一緒にいたマグナもどうなったか、全く見当も付かねえ!
 ようやく見つけた俺の女も、金髪の糞女に射たれて相当マズイ!
 サナキ、カトリをそのリブローの杖って奴で癒してやってくれ!
 で、あとは七三。信用していいってんなら、てめえは見張りを頼む!
 誰かやって来やがったら、すぐに知らせろ!」

ホームズは要件のみを簡潔に述べる。
二人は戸惑いをその顔に浮かべるも、事態が尋常ではない事だけはその態度から察し。
緩慢な動きながらも、その指示に従う。ホームズはカトリをその背から丁寧に降ろし。
サナキは杖を掲げて彼女の治療に、アルガスは周囲の見張りに付こうとするも。

195Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:25:42 ID:???
「…ま、そろそろッスかね?」

プリニーが、聞こえるか聞こえないか程度の。
僅かなつぶやきを口に漏らしたのと同時に。

ぐっ、とホームズが呻き声を漏らし。
唐突に、俯せに膝から崩れ落ちた。

「…ホームズ?しっかりするのじゃ!」

サナキはホームズに駆け寄り、その様子を見る。意識はかろうじて、ある。
見れば背中に一本、黒光りする何かが深々と突き刺さっていた。
その傷の深さは、一見した所で分かるようなものではないが、危険であるのは確実だ。
出来れば早急にホームズ達を癒したいのだが、
今杖魔法を使い無防備を晒して良い状態ではない。

「…出てこい、卑怯者ッ!それとも今更臆したかッ!」 

アルガスは身構えて襲撃者を挑発し。
一方プリニーは何の躊躇いもなく彼の後ろに隠れると。

やがて、暗闇の草原から滲み出るように。
ゆっくりと、一人の年若い男が足音も無く現れた。

「おー、おー。このオレが卑怯者ォ?…卑怯者だってよッ?!
 よりによってお前が、このオレにねぇ?ハッ、笑わせてくれるねッ!」
「…お前はッ!」

それは、確かにアルガスが一度出会った男であったが。
その人相は昼間とはもはや別人のように、どす黒い悪意のみに染め抜かれていた。

196Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:26:52 ID:???
 
――野に解き放たれた、人型の獣。

それを一言で喩えるなら、そういうべき者なのだろう。
それは凶の気配を撒き散らし、その本性を今や剥き出しにしていた。
彼が欲する事など、今更考えるまでもない。

わざわざ、ホームズを不意討ちで仕留めて置きながら。
今更になって姿を現した理由も、ただ一つ。
ほぼ丸腰に近い、年端もいかぬ少年少女二人ならどう遊んでも勝てると、
その男は確信しているからだ。

故に、その凶相が今や狂喜一色に染まり。
舌舐めずりの代わりに、二人を言葉で嬲り始める。
その尊厳を破壊し、殺す前に屈辱を与えんとすべく。

「よっ、半日ぶりだな。七三のガキッ。
 相変わらずマヌケそうな顔してやがんなぁ、おい?
 だがま、てめえもメスガキ捕まえて今は忠義の騎士気取りかぁ?
 黒騎士どももそうだが、しっかりしてやがんなてめえもよッ」

黒騎士ども、という言葉に二人は引っ掛かりを感じはしたが。
問い質した所で、まともな返答など到底期待出来ないだろう。
その口調が、全てを侮蔑する事のみを目的としたものだから。

傷つけ、奪い、殺し尽くす事こそが己が喜び。
その眼光は、その言葉よりも雄弁に嗜虐と殺意を語っていた。
そして、その対象はその瞳に映る四人も当然例外ではなく――。

「それにその金髪もそいつが俺の女だってよ、笑わせてくれるねッ!
 昼間は別の黒騎士と乳繰りあってた、只の雌犬だってのによッ!
 なんだここはぁ?殺し合う場じゃなくて、春を売る場ってかッ?」

197Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:27:59 ID:???
嘲笑、嗤笑、憫笑、冷笑、失笑――。
人間獣の嗤いは、あらゆる負の感情に満ち溢れ。
この世全ての存在を、その根底から貶めて抜いていた。

「なんだとッ?!」
「それよりも二人を、二人をどうにかせんと!」

侮辱による憤激に声を荒らげるアルガスと、
盟友の負傷に焦りを見せるサナキの狼狽に、
ヴァイスはさも満足げに、獰猛に笑いかけ――。

「…安心しな、傷は深いがこんなんじゃ死なねえよ。
 あとのお楽しみの為に、わざわざ女も急所も避けてやったんだ。
 涙流して感謝して貰いたいくらいだね?
 とはいえ、金髪の男はもう動けねえだろうがね。
 …で、残るはてめえら二人だけってことだ」

優しく、静かにホームズの傷の程度と。
サナキ達の処刑を宣言する。

「逃げたきゃ逃げてもいいぜ?…逃げ切れりゃあなあ。
 その分、オレは二人で楽しむって事にもなるがねッ。
 仲間なんだろ、てめえらは?だったら、見捨てられねえよなあ?」

ヴァイスは嘲笑う。彼は分かりきっているのだ。
「仲間を気遣う」ような甘過ぎる二人に、見殺しなど出来る筈がないと。
無論、二人がその背中を見せれば即座に斬り捨てるつもりではあるが、
ヴァイスは抵抗を心より期待する。
悪足掻きが無様であればあるほど、それを踏みにじる事に悦を覚えるが故に。
己以外の全てを貶め、辱める――。
それこそが、己が奪われた誇りを取り戻す唯一の道。
ヴァイスはその凶念一色に取り憑かれていた。

198Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:28:34 ID:???
だが、それで理性までもを失ったわけではなく。
むしろ性根が小物であるが故に、更に姑息な戦術を打つ。
全ては己がより安全に、楽しめる狩りに興じたいが故に。
それは悪魔のように甘く囁き、二人の絆に楔を打ち込まんとする。

「ああ、そうだ七三。なんなら昼間オレにやろうとしたみたいに、
 そのメスガキ突き飛ばしてその隙にてめえ一人だけ逃げるってのもアリだな?
 それならより確実だ。どうする、七三のガキッ?」

小物はアルガスとの、昼間の会合を暴露する。
ヴァイスは満足げに嗤い――。

「アルガス、お主…」
「…くっ」

サナキは怪訝に、アルガスを振り返り――。
アルガスは硬直する。それはまさに事実であるが故に。
それはまさに過去の汚点であるが故に。
彼の心に、深く突き刺さる。

「このオレが気付かないとでも思ったか?…甘過ぎるんだよ、ガキッ。
 ま、だからこそ逆手に取れたんだがな。そういう奴こそ隙が出るッ。
って、訳でだ。そいつは使えねえし、何一つ信用に値しねえよメスガキ。
 せいぜいが仲間の振りをして身代わりに使う程度だ。
 ならお前もそうすりゃいい。因果応報ってやつだ」

――アルガスへの嘲笑は続く。
さも得意げに喋り続けるが、それはサナキへの忠告ではなく、
ただ己が狡智を誇示するものであり。

199Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:29:08 ID:???
「七三、てめえも今更騎士気取りたいなら、今ここで時間稼ぎにオレに殺されるんだなッ。
 だったらさっきの言葉も撤回してやるよ。『馬鹿が無駄死にしやがった』ってね?
 で、そのメスガキも後であの世に送ってやるから、この俺に感謝するこったな?」

――アルガスへの侮蔑は続く。
お前がどう足掻こうとも、それは全て無駄なものでしかない、と。
その能力も、心構えも、全てを嘲笑う。
この人間獣は心得ているのだ。己とアルガスとの彼我の実力差を。
だからこその、この余裕。

だが、サナキはその得意げな嗤いに、ただ深く溜息を付き。
ヴァイスのその在り方を、ただ哀れみ蔑んだ。

「…馬鹿はおぬしじゃよ。そして哀れなのものよのう」
「…なんだと?」

サナキは、これまでのヴァイスの罵倒の中で。
彼の本質を充分過ぎる程に理解していた。

弱者にしか強気に出られぬ、そしてそれを嬲り抜く事によってしか
己の存在意義を取り戻せない、救いようのない愚物。
そこには優雅さや尊厳など、欠片も有りはしない。

――だが、だからこそこちらも助かるというもの。

絶えず他人を見下す事を喜びとする卑しい性格というのであれば?
余裕を見せようとして有頂天となる分、足元を掬い易いという事でもある。
“漆黒の騎士”が敵に見せるような、強者が持つ余裕とは似て非なるもの。

200Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:29:39 ID:???
サナキはこの絶望的な状況の中で、ヴァイスの性格に恐怖する事なく。
むしろ矮小な人物である事に、僅かながらも勝機を見出し――。
サナキは不敵に口元を歪め、笑いながら言い放った。

「……アルガスを見てみい。おぬしにすっかり怯えておる。
 足腰が震え過ぎて、まともに戦えるかどうかすら怪しいわ」

言葉の内容とは裏腹に、自信に満ちた口調でもって。
その態度に、騎士見習いはおろか眼前の獣すら驚きの目で彼女を見る。

「…おいおい。それが分かってて、どうしてオレの方が馬鹿なんだ?」

人間獣はその笑みにむしろ毒を抜かれ、ただ呆然と疑問を口にする。
現実を認識しているにも関わらず、何故貴様は心が折れぬのかと?

「じゃがの、目は死んではおらん。むしろ燃え盛っておる。怒りにの。
 たとえ己が恐怖しようとも、主を守るために前に出る。命賭けでの。
 その心構え、実に天晴れな騎士のものだとは思わぬか?」

サナキは哂う。貴様ごとき愚物には、永久に理解出来ぬ美徳だろうと。
確信をもってその問いに答える。

「貴様も一見騎士のようじゃが、そうしたくなる他人は、果たしておるのか?
 他人に庇われた事は果たしてあるのか?そんなもの、一切ないじゃろ?
 人はどれだけ他人に為に尽くし尽くされるかで、その価値がわかる。
 確かに己は大事じゃ。じゃがそれしかないのは獣にすら劣る屑じゃ。
 犬畜生とて、その家族だけは人間以上に育み大事にするからの」

サナキは嗤う。貴様ごとき芥屑には、永久に縁無き世界だろうと。
侮蔑をもってその愚かさをなじる。

201Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:30:13 ID:???
「命惜しくば、疾く失せるがよい。この騎士の面汚しめが。
 お主のその目、わたしが始末してきた元老院の下衆どもそっくりじゃわ。
 濁り切った上に、欲と見栄しか在りはせぬ。実につまらぬ。
 身分を問わず、真に卑しきものは皆同じ目をするもんじゃの」

サナキは嘲笑う。その身分ではなく、ヴァイスという存在の卑しさを。
アルガスは、己に向けられたその信頼に、感動に打ち振るえ。
ヴァイスは――。

「黙れッ!黙って聞いてりゃいい気になりやがってッ!
 何様のつもりか知らねぇが、てめえこそ身の程って奴を教えてやるよッ!
 そして舐めた口を聞きやがった事を、後悔して殺してやるからなッ!」

激昂と更なる殺意をもって、対峙する。
これ以上の言葉は要らぬと、その態度で雄に語る。

「…アルガス」
「…はっ」

サナキはこの人間獣に向けた言葉とは対照的に。
労りの言葉を、アルガスに向ける。

「頼むぞ」
「承知いたしました。この生命に代えましても」

アルガスは決意をもって前に出る。
主の信頼には、勇気でもって。

202Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:30:52 ID:???
二人とも、勝利を確信しているわけではない。
身体能力、装備、戦場経験、それら全ては向こうが上。
それは人間獣の纏う殺気からも、充分に感じ取れる。
勝っているのは数のみだが、それすらも足手纏い付き。
状況はむしろ絶望に近く、むしろ全滅の可能性は高い。
だが、その危険を充分に理解しりつつも。

己の矜持の為、主の生命の為、決して引けぬ戦いというものはある。
己が主の言う「生き様の、格の違い」を、今こそ知らしめる為にも。
今のアルガスに、保身と逃避はありえない。それは今こそ真に騎士たらんとする為に。
それが故、刺し違える覚悟でアルガスは構え。

「オレ、あの兄貴に特攻して犬死ってのは絶対嫌ッス。
 しばらく空気で良いッスか?」

空気の読めぬ生き物は、場違いな戯言を口にする。

「違うぞアルガス。二人であの屑を成敗して、全員が生きるんじゃ」
「…ありがたきお言葉」

サナキは笑いかけながら前に出る。
従者の忠誠には、恩情でもって。

現実を見据えた上で、自らもまた生命を賭け戦いに臨む。
その困難をも承知の上で、全員の生存を心より望む。
従者に正しき道を示す為、仲間の身を案じるが為。
己のみの保身など下賤の所業だと、その行動で嘲笑う。

203Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:31:43 ID:???
「…オレはガン無視ッスか?そりゃ空気で良いッスかとは言ったけど、酷えッス…」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえッ!今すぐ死ねッ!」

場違いな生き物の戯言は黙殺され。
だが獣にはその気高さはやはり理解できず。

獣は腰の鞘から、その鋼の牙を剥き出しにして躍り掛り――。
四人の命運を賭けた戦いの火蓋は、今切って落とされた。


【D-3/平原/二日目・深夜】
【サナキ@FE暁の女神】
[状態]:精神的疲労(軽度)
[装備]:リブローの杖@FE、真新しい鋸
[道具]:支給品一式
[思考]1:アルガスの行く末を見守る。
    2:帝国が心配
    3:皆で脱出
    4:アイクや姉上が心配
    5:魔道書等の充分に力を出せるアイテムが欲しい、切実に。
    6:目の前の痴れ者(ヴァイス)を、アルガスと協力して成敗する。


【アルガス@FFT】
[状態]:ラムザに対する憎悪(重度)、サナキに対する忠誠心、強い決意
[装備]:手編みのマフラー@サモンナイト3
[道具]:支給品一式×2
[思考]1:サナキに相応しい騎士となるよう務める。
    2:戦力、アイテムを必ず確保する。
    3:サナキが望まないので、とりあえず私怨は抑えてみる
    4:騎士として、目の前の敵(ヴァイス)を排除する。
    5:漆黒の騎士(ゼルギウス?)が参加している可能性を警戒。

204Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:32:23 ID:???
【ホームズ@ティアリングサーガ】
[状態]:全身に打撲(数箇所:中程度)、精神的疲労(重度)、軽い混乱
    背中に投げナイフによる創傷(重傷)、暗闇
[装備]:プリニー@魔界戦記ディスガイア、肉切り包丁
[道具]:支給品一式(ちょっと潰れている)、食料(一食分消費)
[思考]0:ゲームを破壊し、カトリと共に帰還する。
    1:カトリを連れて安全な場所(E-2の城)まで逃げる。
    2:……ち、く………しょう……………

[備考]:漆黒の投げナイフが背中一本に突き刺さったままです。
    重傷ではありますが、意識は辛うじてあります。
    その追加効果により、異常状態「暗闇」が発生しています。


【プリニー@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:ボッコボコ(行動にはそれほど支障なし)
[装備]:なし
[道具]:リュックサック、PDA@現実
[思考]1:とりあえず、上手く空気で居続けられそうッスね。
    2:ボーナスとか出ないッスかね?
    3:今の主人、嫌いじゃなかったッスけどね…。


【カトリ@ティアリングサーガ】  
[状態]:重症(心身衰弱:大)
[装備]:火竜石@紋章の謎
[道具]:ゾンビの杖@ティアリングサーガ、支給品一式(食料を一食分消費)
[思考] 0:みんなで生還  
    1:意識不明につき、思考不可。
[備考]:火竜石による消耗と一度致命的な攻撃を受けたため、
    かなりの消耗をしたままです。
    道具を使っても短時間での回復は有り得ません。

205Desperado ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:33:07 ID:???
【ヴァイス@タクティクスオウガ】
[状態]:サナキに対する怒り(重度)、
    疲労:中程度(死神甲冑の効果により回復は比較的早いと思われます)
    左眼に肉切り用のナイフによる突き傷(失明)
    背中に軽い打撲(死神の甲冑装備中はペナルティなし)
    右腿に切り傷(軽症)
    右の二の腕に裂傷、右足首に刺し傷(全て処置済)、やや酷い貧血、
    死神の甲冑による恐怖効果、および精気吸収による生気の欠如と活力及び耐久性の向上。
[装備]:ブリュンヒルト@TO、死神の甲冑@TO、肉切り用のナイフ(2本)、
    漆黒の投げナイフ(4本セット:残り3本)
[道具]:支給品一式、栄養価の高い保存食(2食分)、麦酒ペットボトル2本分(移し変え済)
    ドラゴンアイズ@TO外伝
[思考]1:自身の生存を最優先。
   2:何としてもタルタロスの信頼を得る。
   3:まずは目の前の四人を嬲りものにしてから殺す。
   4:いずれは全員皆殺し
   5:ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねえッ!死ねッ!
[備考]:ホームズ達四人の名前を、盗み聞きでようやく把握しました。
    サナキに対して激しい怒りを抱いている為、首輪の効果で身体能力が向上しています。
    一方で理性が薄まっているので、判断能力が若干低下しています。


[共通備考]:
暗闇(異常状態):視力が悪くなり、移動と回避ができません。更に被ダメージが増加します。
          時間経過やアイテム・治療魔法で治ります。

206 ◆j893VYBPfU:2011/12/10(土) 21:34:41 ID:???
以上で投下終了です。
誤字脱字、矛盾、指摘や感想等有りましたら遠慮なくどうぞ。

207 ◆j893VYBPfU:2011/12/14(水) 11:26:27 ID:???
時間の修正忘れてました。
二日目の未明ということで。
深夜のままだと、あまりにも時間が立たなさすぎてます…。

208 ◆j893VYBPfU:2011/12/16(金) 22:50:38 ID:???
久々にWiki修正。
ついでに自作の二人称等や誤字脱字の訂正も同時に行いました。

現在、Wikiはセキュリティ上の問題で、パスワードがないと
編集出来ない設定となってますので、何かあればおっしゃってください。

209源罪な名無しさん:2011/12/20(火) 22:11:45 ID:???
投下来てるじゃないか!
乙っす

210 ◆j893VYBPfU:2012/02/20(月) 23:06:26 ID:???
インターミッション的に、主催側書いても良いかな?
レイム側を書いて見たいのですが。

211 ◆j893VYBPfU:2012/07/19(木) 22:46:27 ID:???
ゴードン、ミカヤ、アイクで予約いたします。

212 ◆j893VYBPfU:2012/07/21(土) 00:21:40 ID:???
すいません。予約を一旦破棄します。

213 ◆j893VYBPfU:2012/07/21(土) 22:30:56 ID:???
大変良いお知らせです。
SRPGロワに専属絵師さんが付きました。その名もHoly氏と申します。
現在二枚程イラストを書いていただいております。
下記URLのPixivから閲覧可能ですが、近いうちにこちらのWikiからでも
閲覧可能なように致しますので、どうかよろしくお願い致します。

ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?id=390710

214holy(N/N):2012/07/22(日) 06:20:07 ID:PE6NOHp2
↑にてご紹介にあずかりましたholyと申します。よろしければ以後お見知りおきください。
やくざさんには専属絵師とまで言っていただきましたが、そんな大層な者ではありません><;
私「今更だけど絵がうまくなりたい」ヤクザさん「じゃあ、SRPGBRでなんか描けば?」と
お誘いを受けましたので、支援...になるかどうか分かりませんが、修行(おい)をかねて描いていければなと...。
しかもSRPGBRは楽しく読ませていただいているものの、SRPGはほとんどやった事がないという残念な人間ですので、
色々と教えていただけたら嬉しいです>< どうぞよしなに〜。

215 ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:20:30 ID:???
ゴードン、ミカヤ、アイクで予約いたします。

216 ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:21:10 ID:???
ゴードン、ミカヤ、アイクを投下します。
大変長らくお待たせいたしました。

217Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:22:53 ID:???
「おい、貴様そこで何をしている?」

――まずい、非常にまずいぞ。ゴードン…。

背に投げかけられた、青髪の青年の冷えきった言葉に。
わたしは血も凍る思いで声のした方へと振り返った。

「ミカヤに一体何をしていると聞いている?」

どうやらミカヤ君の知り合いであるその青年は、
ゆっくりと背中の剣を引き抜き、大股で近付いてくる。
一体、何の為に剣を抜いたのかなど、もはや考えるまでもない。
つまりは、わたしを斬り捨てるつもりなのだ。

第三十七代地球勇者である、このわたしを!
意識のない少女に暴行する変態と見倣して!

いかん!
いかん!
いかん!
いかんぞ―――!!

「NOォォォォオオオ!! 違う、違うんだ青年よ!
 これは海よりも深い事情があってだな…」

このままでは本当に変態と見倣された挙句、殺されてしまう!
なんとか弁解する方法を見つけねば!

「…今更、言い訳と命乞いか?
 無様だな。貴様も戦士ならせめて武器を取れ。
 せめてもの情けだ。最期の死に華程度なら咲かせてやる。
 それとも、女子供相手にしか勇敢には振る舞えないのか?」

218Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:23:25 ID:???
 

――話しを聞いてくれ青年よ!わたしは、わたしは今…。


 猛烈に悲しんでいる!


          ◇          ◇          ◇


俺は沸き上がる雑念を今一度振り払うと、城内の探索を再開した。
まだ何か使えそうなものがあるかも知れず、
あるいは他の参加者がいるのかもしれない。
あと、肉があれば言うことはないのだが…。

だが、俺の期待は全て裏切られ、徒労のまま一時間が経過する。
そして――。

悪鬼使いキュラーと名乗るものによる、臨時放送が行われた。


「その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
 貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
 このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
 貴方達のご健闘に期待しておりますよ…。」

219Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:24:03 ID:???
 

 ――卑劣な手を。

俺はヴォマルフと協力関係にあるらしき男の、自己陶酔めいたその放送を。
軽蔑と嫌悪感を抱きながら、一言一句に及ぶまで聞き覚えた。

臨時放送の意図など、もはや考えるまでもない。
だが、考えさせられることは多々ある。

このゲームに積極的に乗った“貢献者”とやらが存在するという事。
放送の間隔と制限時間が等しくなった為、積極的に動き回らねばならぬという事。
首輪が全ての参加者にとって特別な付加価値を得たという事。
武器庫が全て施設に集中するため、その周辺での遭遇と戦闘が加速するであろう事。

このままでは、この殺し合いは否応もなく加速することだろう。
俺はこれから予測される事態の数々に重い溜息を吐きながら、
まずは“武器庫”とやらの確認に、城内の地下室へと向かった。

やがて、俺はそれを見つけ扉の前に立つ。
その先には、神殿の如き威容を感じさせる、純白の博物館があった。
“武器庫”という呼び方から、傭兵団にある倉庫のような猥雑なものを想像していたが。
世界が異なれば、武器庫の形式も大きく異なるのか?
いや、違うな。これもヴォルマルフ達による演出と考えるべきだろう。

ただ、その純白に清められた空間には。
大義の欠片もない殺し合いで無辜の人間の首を狩り、その証を捧げて回る外道を
『神聖な儀式』だと来訪者を唆すような、製作者達の悪意が透けて見えた。
だが、奴らの思惑に大人しく従ってやる気は更々にない。

220Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:24:34 ID:???
 
ならば――。
一度、「特別な処置」とやらが万全か否か試してみるか?

俺は庫内へと踏み込むと、まっすぐに俺の名が刻まれた台座の前へと向かい。
昔、俺の親父から貰った剣が収められている硝子の箱を確認すると。
掌を組んで一つに固めたその拳を、渾身の力で叩きつけた。
――衝撃音が、庫内に響きわたる。

腕にまで伝わる、異様な手応え。
だが肝心の硝子の箱は傷一つ、罅一つ入ることはなく。
常軌を逸したその健在ぶりを、この俺に見せつけた。

 ――なんだ、これは?

硬い。
異常なまでに、硬い。
硝子本来の硬度を完全に超越した、その異常極まる堅牢。
まるでかつての漆黒の騎士の鎧に斬り付けた時のような
その異常性に、俺は少なからず動揺を覚えた。
この手応えには、散々に覚えがあるが故に。

そして、キュラーの「特別な処置」への自信に納得する。
もし、これがあの『女神の祝福』と同等の処置が施されているのなら?
主催者側の意図を無視して武器だけを得ようとする、
参加者達のあらゆる努力は無に帰すだろう。

だが、俺は鼻を鳴らす。
敵が犯した、致命的な不手際に。
もし、これが俺の想像通りの措置を施しているならば。
それに傷を与える術も、また俺の手元にある。

221Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:25:06 ID:???
 
 ――ぬかったな、キュラー。

俺は同じく『女神の祝福』が施された神剣――エタルドを鞘から引き抜き。
深く腰を落とし、大きく脇に構え。

 ――俺にこれを与えた事を、後悔するがいい。

構えた神剣を、水平に薙ぎ払う。

ぱかん、と乾いた音が鳴り。
俺の斬撃は、硝子の箱の天板を見事切り裂いた。
だが、 硝子の天板がゆるりとずれ、地面へと落ちたのと同時に。




「……台座が、光っ――――?」





閃光、轟音、そして強烈な衝撃に俺は吹き飛ぶ。
その原因が、台座自体が爆発したものである事に気づいたのは、
俺がすぐ後ろの台座に叩きつけられて気を失い、
しばらくして意識を取り戻した後の事であった。

222Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:25:55 ID:???
 
「……ぐっ……」

身体中の突き刺すような痛みが、意識を鮮明にする。
いや、“それら”は実際に突き刺さっていた。

見れば爆発で砕け散ったものが俺を装飾し、赤と透明の無骨な彩りを添えている。
ただ硝子が目に突き刺さらなかったのは、不幸中の幸いというべきか。
俺は己の愚かさを恥じ入る。

そもそも、考えておくべきではあったのだ。
これだけ周到に多くの人間を拉致し集めた連中が、
初歩的な手抜かりをするはずがあるのかという事を。

案の定、収められていた俺の剣は、爆発の衝撃で根元から折れていた。
これでは、殆ど使い物になりそうにない。

無事であるのは、手に持つエタルドのみである。
つまり、俺は無駄に傷だけを負ったという事か。

だが、今更悔いた所で仕方ない。
俺は体中に突き刺さる硝子を一つ一つ引き抜き。
ばらばらになった形見のリガルソードを仕舞い、
傷の応急措置を行うと、この場を後にした。


          ◇          ◇          ◇


――しばらくして。
俺は武器庫の向かい側にある、三つの木製の扉の前へと立っていた。
やはりというか、どの扉も施錠され「特別な措置」が施されている。

223Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:26:36 ID:???
だが、それは裏を返せば扉を破壊して先を行く事は可能という事になる。
そして、付け加えればそれもまた爆発する可能性があるという事になる。

「………………………」

――いや。一度や二度程度の失敗で懲りるなど、俺らしくもない。
俺は俺を貫き通せばよい。賢しく考えて危険を避けるなど性に合わん。
やれることをやり、失敗を繰り返しても。
そのまま前に突き進めばそれでいい。

そう開き直ると、俺は中央の扉の前へと立ち。
俺の敵にして師の動きを記憶より呼び起こし。
その何物をも断つ剛剣を模倣、――もとい再現を行う。

「月光――」

その一撃は、外壁と施錠ごと『措置』の施された扉を見事両断した。
俺は爆発に備えて身構えたが、その扉が爆発することはなく。
崩れ落ちた扉の上半分が、その先へと消える――。

「………?」

破壊した扉の向こう側は、先の見渡せぬ漆黒があるばかりであった。
まるで物質化した闇を敷き詰めたような、その空間の先に扉は落ち。
だが、それが地面に落ちた音は聞こえず。

俺は扉があった場所に頭を突き入れ、その先を覗き込むと。
そこにはこことはまるで別の、地下通路があるばかりだった。
そして、その真下には俺が切り落とした扉が落ちている。

224Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:27:07 ID:???
 
「…行ってみるか。どの道、他にあてもない」

俺は破壊した扉をくぐり抜けると、その正面にも
『武器庫』と書かれた部屋が目の前にあった。
怪訝に思い通り抜けた道を引き返すと、
確かにそちらにも俺がいた『武器庫』は存在する。

「…どういう事だ?これは、一体…」

だが、論拠もなく一々考えた所で答えなど出るはずもない。
俺は先へと進み、新しく見つけた『武器庫』の扉を開け、
その中を覗くと――。


――その部屋の中で、俺の戦友を相手に言うもはばかる不埒な行為に走る、
不審な中年男を発見した。


          ◇          ◇          ◇


「はあっ…、はあっ…」

わたしは右腕の切傷を治療の杖で塞ぎ終えると。
意識を失ったままのミカヤ君を背負い、
薄暗い地下通路を、長い間さ迷い歩いていた。

225Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:27:49 ID:???
ミカヤ君は血を失い過ぎた事により、低体温症を起こかけていた。
この夜空の中薪を起こせば、ゲームに乗った敵にまで居場所を教えかねない。
なによりこのまま外気に彼女を晒せば、最悪凍死すら有り得ると判断し、
近くの塔へと戻り、毛布や暖炉といった暖を取れるものを探していたのだが。
――残念な事に、そんな都合の良いものなど一切なく。

ただ徒に時間を浪費している内に、キュラーとやらの臨時放送を迎えてしまった。
その邪悪に思う所は多々あるのだが、今はミカヤ君を救う事こそが先決と思い至り。
放送内容にあった地下室へと向かい、そこに一縷の望みを託していた。
だが…。

 ――ない。

そこも純白の大理石による悪趣味な空間があるばかりで、
暖を取れる空間などどこにも見当たらなかった。

 ――どこにも、ないではないかっ!

運命の無情さを憤ろうとも、どうにもならない。
ミカヤ君の体温は、こうしている間にも奪われ続けている。
ならば――。

「仕方あるまい…」

 ――ミカヤ君、許せよ…。

わたしはミカヤ君の服を脱がして肌着だけの姿にすると、
それにならってわたしも半裸になり、彼女を優しく抱き寄せる。

226Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:28:26 ID:???
 
 ――酷く、冷たいな。

まだ女性としての成熟が始まる前の、か細く未熟な少女の身体。
だが、女性特有の柔らかさは健在で、その感触に戸惑いはするものの。
触れている箇所が凍える程に冷たく、わたしは身震いを起こす。
だが、これこそが彼女が今味わっている、
いや、わたしが徒労により味あわせてしまった寒さなのだ…。
――わたしは、彼女とより密着の度合いを深くする。

そうだ。どうかわたしから多くの熱を受け取り、
その元気をいち早く取り戻して欲しい…。

だが、ここでわたしは一つ残念な事を思い出す。
ここは『武器庫』だ。
このままでは“武器を調達しに”このゲームに乗った者が
他の参加者の首輪を提げてやってくる可能性がある。
そして、今のわたしはミカヤ君とともに無防備を晒しているのだ。

 ――これは非常に不味いぞ、ゴードン。

第一、この光景を誰かに見られれば、あらぬ誤解を受けかねない。
特にあの悪魔達に見つかれば、何を言われるか知れたものではないではないか!

わたしは思い直すと、ミカヤ君を抱きかかえたまま
『武器庫』からいち早く退避しようとしたのだが。


「おい、貴様そこで何をしている?」

227Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:29:03 ID:???
 

――どこかしら冷ややかな声が、庫内に響き渡り。
退避するよりも早く、わたしの懸念は見事的中してしまった…。


          ◇          ◇          ◇


背に投げかけられた声のした方へと、血も凍る思いで急ぎ振り返ると。
武器庫の入口の前に、蒼髪の鍛え抜かれた身体を持つ男が立ち塞がっていた。
その顔には覚えがある。詳細名簿に記載されていた「アイク」という青年だ。
確か、彼はミカヤ君の知り合いだったはず?
そして、彼はその名簿に記す所によれば――。

「誰もが古い友のように親しげにその名を口にする。
【蒼炎の勇者】と」

その内容が正しければ、彼は我々の敵ではない。むしろ味方だ。
そして、おそらくは誰にでも優しい気さくな好青年なのだろう。
しかも、彼は【蒼炎の勇者】…。
そう、わたしと同じ勇者なのだ!

 ――おお、素晴らしいぞゴードン!これは、実に幸先がいい!

わたしはどこかしら強ばった面持ちの異世界の勇者に、
小粋なジョークを交えた小話でその緊張を解きほぐそうと話しかけるよりも早く。

228Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:29:36 ID:???
 
「ミカヤに一体何をしていると聞いている?」

…………………はい?

警告というよりは威嚇に等しい程に、低く声を唸らせ。
ゆっくりと背中の剣を引き抜き、大股で近付いてくる。
おい、どういう事だゴードン?
好青年と評される割には、何だか空気が酷くおかしくはないか?

彼はこのわたしを“仲間”というよりは“敵”を、“敵”というよりは
“穢れきった汚物”を見るような目で睨み付けてきた。

――そこで、唐突にわたしは思い出す。
このわたしとミカヤ君の状態が、今どうなっているかという事に。
そして、ミカヤ君の知り合いがそれを見れば、
どういう誤解を招きかねないのかという事に。

な、な、ななななななな!何ということだ!ゴードンッ!!

一体、何の為に剣を抜いたのかなど、もはや考えるまでもない。
つまりは、わたしを斬り捨てるつもりなのだ。

第三十七代地球勇者である、このわたしを!
意識のない少女に暴行する変態と見倣して!

いかん!
いかん!
いかん!
いかんぞ―――!!

229Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:30:11 ID:???
 
「NOォォォォオオオ!! 違う、違うんだ青年よ!
 これは海よりも深い事情があってだな…」

邪悪なる敵と戦って、敗れて散るのはまだいい。
悪は残るが、このわたしの遺志を引き継ぐものは必ず現れるし、
命懸けで悪に立ち向かってこそ地球勇者の本懐でもあるからだ。

 ――だが、この挑まれた戦いは違う!あまりにも酷すぎる!

わたしが卑劣極まりない強姦魔と誤解され、正義の裁きを受けるだなどと!
このままでは、わたしがかの青年に対して誤解を解かぬ限り!
どう転んでも「強姦魔」の評価は揺るぎないものと成り果ててしまう!

屈辱だ!
地球勇者としてあまりの屈辱だ!
魔界勇者などというレベルを、はるかに超越した屈辱だ!

このままでは本当に変態と見倣された挙句、殺されてしまう!
しかも、この空間には逃げ場がない!
なんとか弁解する方法を見つけねば!

――だが、かの青年は酷く冷ややか声でわたしの弁明を拒絶する。

「…今更、言い訳と命乞いか?
 無様だな。貴様も戦士ならせめて武器を取れ。
 せめてもの情けだ。最期の死に華程度なら咲かせてやる。
 それとも、女子供相手にしか勇敢には振る舞えないのか?」

230Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:30:45 ID:???
剣の切っ先をこのわたしに突き付ける青年。
その声は、まるで死刑判決を述べる裁判官のように。
漂白された庫内に、無慈悲に響きわたった。

わたしの声は、彼には決して届かない。
誤解を解ける唯一の鍵であるミカヤ君は、未だ眠りについたまま。
これでは、説得など出来ようはずがない。


――話しを聞いてくれ青年よ!わたしは、わたしは今…。


 猛烈に悲しんでいる!


【B-2/塔の地下武器庫/1日目・夜中】  
【ゴードン@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:半裸、右腕に切傷(応急処置済)
[装備]:ダグザハンマー@TO、回復の杖@TO、バルダーダガー@TO
[道具]:支給品一式×2
     参加者詳細名簿(写真付き)@不明、呪いの指輪@FFT
[思考]1:NOォォォォオオオ!! 違う、違うんだ青年よ!
    2:目の前の青年(アイク)の誤解を、なんとか解きたい。
    3:ミカヤ君!どうか早く、早く目を覚まして欲しいっ!
[備考]:ゴードンは何故オリビアがアンデット化したのかは把握していません。
    右腕の負傷は、治療の杖により傷口は塞いでいますが、完治していません。
    激しい運動をした場合、再び傷口が開く可能性があります。

231Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:31:15 ID:???
【ミカヤ@暁の女神】
[状態]:半裸、昏倒
[装備]:スターティアラ@TO
[道具]:支給品一式、
[思考]1:疲労による昏倒により思考不能


【アイク@暁の女神】
[状態]:全身にかすり傷・硝子による刺し傷・軽度の火傷
    左肩にえぐれた刺し傷・右腕に切り傷(全て応急処置済み)
    貧血(軽度)、中程度のダメージ。
[装備]:エタルド@暁の女神、リガルソードの柄@蒼炎の軌跡
[道具]:支給品一式(アイテム不明、ペットボトルの水一本消費、地図は禁止エリアに穴が開いている)、応急措置用の救急道具一式
[思考] 1:『蒼炎の勇者』として、この場で為すべきことを為す。
      (テリウスの未来の為、仲間と合流しゲームを完全に破壊する)。
    2:主催と因縁がありそうな者達(ラムザ・アティ)と合流し、協力者と情報を得たい。
     3:リチャードとシノンの死体を見つけ次第埋めてやる。
     4:漆黒の騎士に出会ったら?
     5:今度ネサラに出会った場合は、詳しく事情を問い詰める。
     6:目の前のミカヤに手を出そうとしている変態を始末する。
[備考]:リガルソードは殆ど柄のみになってます。
    折れて粉々になった刀身は、支給品袋に回収しています。

[共通備考]:【B−2】の塔、【E-2】の城、【H-7】の城、【C-6】の城の
      武器庫前の地下通路の扉はそれぞれがワープ装置で繋がっています。
      支給品の鍵で解錠するか、『女神の祝福』が施された武器で
      破壊する事が可能です。
      【B−2】の塔と【H-7】の城を繋ぐ扉が、アイクによって破壊されました。
      【H-7】の城にある武器庫のアイクの台座が硝子ごと爆発しました。
      内部にあったリガルソードは折れましたが、アイクが持ち去っています。

232Unavoidable Battle ◆j893VYBPfU:2012/07/25(水) 16:31:52 ID:???
投下完了いたします。

233源罪な名無しさん:2012/07/28(土) 13:26:52 ID:???
激しく乙です。

234名無しですかあなたは!:2012/08/01(水) 01:36:22 ID:T8nJEdNo
非常に乙です

235源罪な名無しさん:2012/08/13(月) 09:58:17 ID:???
Pixivに新作キタ━(゚∀゚)━!

ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=29301459

マルスとカチュア(…)ですな。
あんたステルスする気ないだろって顔になっとる。

236 ◆j893VYBPfU:2012/08/22(水) 11:13:46 ID:???
アティ&ネスティで予約

237 ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:08:20 ID:???
アティ&ネスティで投下。

238闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:09:44 ID:???
「その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
 貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
 このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
 貴方達のご健闘に期待しておりますよ…。」

僕は、アティとともにその不吉極まりない内容の“臨時放送”に聞き入っていた。
僕達が倒した筈の敵による、本来の予定にはない…。
あらゆる意味において“有り得ない”その放送。

――だが、その悪意に満ちた意図のみは十分過ぎる程に理解できる。
そして、キュラーの復活と彼の手による放送が、一体何を意味するのかも。

僕は同じ参加者であるマグナと、その仲間達との事を。
虚言と姦計を司る魔王レイム=メルギトスとの間で演じた壮絶な死闘を。
アティに打ち明けた。
――僕の生まれに関する事柄のみを、上手く取り除いて。

彼女はその内容の全てを熱心に聞き入っていたが、
僕では気付かぬ部分を補完するために――。
彼女自身のいきさつと、彼女とディエルゴとの関係、
そして、それらを繋ぎ合わせる二つの魔剣の事を――
僕の話しの後に、包み隠さず全てを打ち明けた。

「――私が知るディエルゴなら、先程の悪魔達と手を組むとは思えません。
 ディエルゴは――かけがえのないものを奪われて果てた方々の無念が、
 ハイネルさんを核として一つとなった、復讐者達の軍団(レギオン)なのですから。
 それが人を苦しめる事だけが喜びであり、
 それにより生じる負の感情を糧とする悪魔と手を組むという事は…。
 利用し合うという事自体、考えられないかと思います」

239闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:10:16 ID:???
そして、同時に彼女から聞かされたディエルゴについての情報からも、
キュラー達との同盟関係は有り得ないと断言出来る。
むしろ、ハイネルならキュラーのような悪魔達こそ真っ先に殲滅するだろう。
ハイネルのディエルゴとは、彼がかつて世界に抱いた愛情の裏返し的存在。
被害者の憎悪や悲憤を晴らす為に存在する、言わば“復讐者”であるならば?
純粋に悪しき収奪者であり捕食者など、決して認めたりはしないだろうから。

「――だとすれば、むしろ倒れたキュラー達がディエルゴを糧として蘇った…。
 そういう可能性は、どうだろうか?」

――そう。サプレスの悪魔は人間の絶望を始めとする、負の感情を糧とする。
ならば、実はまだ生きていたキュラー達がディエルゴを残さず糧とし、
その絶望を取り込んだなら、ディエルゴの存在を知ったとしてもおかしくはない。
そして、ディエルゴの想念は悪魔達にとってこの上ない滋養となりえるだろう。
ただでさえ、奴らには血識という異能もあるのだ。
だが――。

「それは、出来る可能性がないとは言えませんが、極めて困難かと思われます。
 世界の意思そのものを、それと万物を繋ぎ合わせる共界線(クリプス)を、
 一介の悪魔に取り込めるほどの器があるとは思えません…。
 むしろ、その強すぎる力を制御しきれず、破裂してしまうのではないでしょうか?
 ディエルゴを取り込むには、それこそ“魔王”とすら呼ばれる存在でもない限りは…」

アティが困難を喩える為に口にした、何気ない単語――。
だが、その偶然の一致に僕達は気付かされ。

「――そう、か…」
「――そう、ですね…」

「「虚言と奸計を司る魔王、メルギトスならあるいは…」」

――黒幕の存在を察し、そこに意見の一致を見た。

240闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:11:01 ID:???
そう。あの悪魔王がディエルゴすら取り込み、復活を果たしていたのであれば?
得られた力を活かして、配下のキュラー達を蘇らせることなど造作もないだろう。
もしかすれば、あの会場にいたヴォルマルフ達もまた蘇った存在なのかもしれない。
そして、それはすなわち――。

「アティ、どうやらこの主催者は思ったよりも随分と厄介らしい…」
「ええ、そうですね。そして、それが真実なら――」

僕やアティにとって深い因縁関係によって結ばれた…。
正しく不倶戴天の仇敵である事を意味する。
奴等を倒さない限り、僕達はおろかこの世界の危機は去りはしないだろう。

ましてや、様々な異世界から別の参加者を呼び出す事が出来るというのであれば?
その逆もまた可能であると、考えるべきだろう。
そして、何よりあの悪魔王がこの世界一つの支配だけで満足するとは、到底思えない。
――即ち、これは全世界にとっても危機であるという事か。

「――私の手で、絶対に阻止しなければなりません。
 メルギトスがハイネルさんの遺志を弄び、そして皆を狂わせるのであれば。
 それが私がハイネルさんに出来る、せめてもの恩返しですから」

そう言って彼女は遠くを睨み、固く拳を握り締めた。
これまでは、今にも壊れそうな程の脆さを見せていたにも関わらず。
別人かと思える程に変じた彼女の貌に、僕は少なからぬ驚きを覚えた。
――あるいは、これこそが彼女本来の姿なのかもしれない。
だが、僕はその貌にどこかしらマグナのような危うさを感じ。

「私じゃない。私“達”、だろ?」

241闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:11:34 ID:???
――気が付けば、僕は自分でも驚くべき事を口にしていた。
マグナとその仲間達以外の他人の事など、どうでも思っていたはずの自分が、だ。

「ああ、勘違いするなよ?君を助けようという親切心など毛頭ない。
 元より、メルギトスは僕にとっても因縁のある、許せない敵なんだ。
 奴を放ってはおけないし、君一人では勝利も覚束無い。
 利害が一致するなら、手を取り合った方が効率が良い。
 だから君を利用する。だから、君も僕を利用すれば良い」

僕自身と、マグナ達の為に。
これ以上、僕の仲間を失わない為に。
だからこそ、彼女に協定を申し込む。
同盟ではない。互いに負担をかけない、相互利用という形で以て。
いや、もしかするとこの時すでにアティを仲間だと認識していたのかもしれない。

――だが。

「いえ、折角の申し出は嬉しいのですが、それはお断りいたします」

彼女は僕の提案を、笑顔で断った。
…何故だ?君にとって何一つ損があるという訳でもないだろうに。

「私達が協力し合うのでしたら、お互いに“仲間”であって欲しいのです。
 分かり合わず、ただ利用し合うだけの関係なんて、私には我慢出来ません。
 こんな形とはいえ、せっかく私達はこうして知り合えたんです。
 だったらお互いの事を、もっともっと知り合いたいですから。
 それが私がお断りする、たった一つの理由です」

真剣な笑顔で彼女が告げる、あまりにも些細な一つの理由。
初めは僕をからかっているものとばかり思ったのだが。
それは決して冗談や思いつきで述べたものではない事は、
そのしっかりとした口調からも理解出来――。

242闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:12:24 ID:???
「…言いたい事は分かった。そんなことで良ければ、君の条件を飲もう。
 だが、一つ聞きたい。それは君にとって、何よりも重要な事なのか?」

僕は驚き呆れつつもその条件を飲み、彼女は同盟関係を快諾した。
だが、それは拒否に値する程の本当に重要な事柄なのだろうか?
あるいは、それは方便に過ぎず、別の理由でもあるのだろうか?
となおも訝しがる僕に、彼女は破顔して答える。

「はい。私にとっては、それこそが何よりも一番大事なことですから」
「分かったよ。しかし、君は本当に変わり者だな…。
 以前から周りにそう言われたことはないのかい?」

「ええ。よく言われますよ?」
「まったく、君という人は…」

彼女の実にあっさりとしたその答えに、僕はただ苦笑するしかなかった。

ともあれ、黒幕の正体と謎は図らずしも見えてきた。
――だが、それよりもまず先に片付けるべき問題がある。

「ただ、まずは…」
「ゼルギウスさんの、事ですね?」
「…蹄鉄の音どころか、全ての音がまるで聞こえない。
 あの少年の獣めいた気配も、全く感じられない。…気付いていたか?
 つまり生き残ったのは奴で、今頃は君を探しに村を徘徊でもしているのだろう。
 さながら、生者を追う死神のようにな。…君は、どうするつもりだ?」

彼女も僕の顔から意図を察したのか、その顔を引き締めて答える。
漆黒の騎士をどうにかしない事には、この場を生き残る事すら危うい。
そして、障害全てが片付いた今、奴の狙いはアティにこそあるというのだ。
そして彼女の返答は――。

243闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:12:56 ID:???
「こちらからも探して、もうこんな殺し合いに乗る事は辞めていただくよう、
 そして出来れば私達に力を貸してくださるよう、説得いたします」

――彼女の答えは、予想通りのものではあった。
経緯はさておき、結果としてアティは漆黒の騎士に一度助けられている。
見るからに情に厚そうな彼女が、奴の暴走を放置しておくとは思えない。
だが、奴が彼女に従うとは思えず、むしろ冷笑と白刃で返答する可能性が濃厚だ。
故に問う。当然のように起こり得る事態を、どう解決するつもりなのかを。

「もし、君の願いが聞き入られなかったら?」
「私が、ゼルギウスさんを止めます。必ず…」

――その返答には、これまでの彼女にはない力強い響きがあった。
決して譲らない。それ以外の事態など、決して起こさせはしない。
断じて阻止する。そのような、揺るぎない決意。

「果たして君に、それが出来るのか?」
「…それは、わかりません。でも、私がやらなければいけない事なのです。
 彼をこのままにしておきたくありませんし、今度は私が助ける番ですから。
 それに、やはりゼルギウスさんが幸福であるとは思えません。
 だからこそ、話し合って止めたいのです。
 彼にはまだ話し足りないことだって、一杯ありますから。だから…」

――やはり、よく分からない事を言う。
アティを突き動かすものは、徹頭徹尾個人的な感傷に過ぎない。
良くも悪くも優しすぎる、彼女らしいその信念の発露。
おそらく、彼女は「奴を確実に阻止出来る勝算」といった、
合理的なものは一切持ち合わせていないのだろう。
そうなれば、このまま彼女に付き従うのは危険でしかないのだが。
現実逃避した人間の夢想とは到底思えぬ、彼女の尋常ならざる気迫に
何かしらの可能性のようなものを感じ――。

244闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:13:34 ID:???
「…何を馬鹿なことを、とはもう僕も言わない。
 だがな、一つだけ言っておく。結果がどうなろうと、君は絶対に生き残るんだ。
 君はメルギトスを倒すために、重要な役目を担っているのだからな?」
「…ネスティさんも、ですよ?」

――僕は今一度、彼女の我儘に付き合ってみる事にしてみた。


          ◇          ◇          ◇


「これは、酷いな…」
「ええ…」

借りていた民家を出て、漆黒の騎士を探しに村中を徘徊しているうちに。
僕達は奴等の戦闘が行われた跡を発見し、その異常性に驚愕した。

村の一角には、かつて人間と軍馬だったものが散らばっていた。
犠牲者達の撒き散らかされた鮮血が、通りを赤く彩り。
飛び散った肉片と臓物が、むせ返るような臭いを放ち。
そして力任せに薙ぎ倒され、倒壊した一軒の家屋。
それらは、ここで行われた戦闘の激しさを、何よりも雄弁に物語り。
――焼き焦がす炎こそないものの、その光景はレムル村の虐殺を思わせる凄惨さがあった。

「これは全部、あの漆黒の騎士がやったことなのか?」
「…それは、わかりません。調べてみないことには…」

吐き気を催さずにはいられぬこの光景に、彼女は酷く顔を青褪めてはいたが。
やがて、決心したようにその顔を引き締め。

「…ごめんなさい。失礼します」

245闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:14:07 ID:???
彼女はその死体の前で頭を下げ、その衣装に鮮血が付くのも厭わず、
直接その手に触れ、真剣な顔で残骸の状況を詳細に調べ始めた。
――やがて、一通り確認が終わり。血に塗れた彼女は僕に向き直る。

「…何か、分かったのか?」
「この方の生命を奪ったのは、やはりゼルギウスさんです…。
 でも、気になる点が幾つかあります」

そういって、彼女は腕の切断面が鋭利な刃物で切られたいるにも関わらず、
人馬の首や胴体が斧らしきもので引き潰されたものとなっている事を示す。
――奴の得物は斧だったはず?まだ何か、隠しているものがあるという事か。
だが、それ以上に振りまかれた血潮の量が、二人分では足りないことや、
成人男性にしては、明らかに小さい足跡等が幾つかある事を指摘し。

「ゼルギウスさんは、さらにここで戦闘を繰り返しているようです」
「やはりか…。で、その相手の事は分かるのか?」

騎兵と歩兵の戦闘で、民家がその巻き添えを受けて倒壊するとは思えない。
この場で戦闘が繰り返された可能性を、僕も考えてはいたが。
その懸念は的中し、彼女は倒壊した民家から発見した黒い尻尾を見せ、
その相手が人外のものであることを僕に伝えた。

「この方の足首に残った手形を、ご覧になってください。
 人では有り得ない物凄い力を持った…、おそらくは女の子のようです」

比較的原型を留めていた下半身と首と両腕、そして肉塊と化した胴体から。
状況的には、その少女?が彼の死体を武器にして漆黒の騎士に殴りかかり、
それを奴が叩き落とすなりして、死体が散華したという事らしい。
――これが直撃していれば、奴もただでは済まなかっただろうが。

246闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:14:43 ID:???
だが、僕はこの少女らしき人外の怪物じみたその腕力よりも。
それを軽くいなした“漆黒の騎士”の技量にこそ、戦慄を覚えた。
――あの赤い悪魔を惨殺したという実績もある。
不利な状況や物量差をものともせず、それを容易く覆す程の戦巧者。
それは、他人の弱点や隙を見出す事に酷く卓越しているに違いない。
元より地力に劣る存在を殺すなど、赤子の手を捻るより容易い事だろう。

――果たして、アティは漆黒の騎士を止められるものなのだろうか?
その時僕は、彼女を無事助けられるものだろうか?
僕は背筋に冷たいものが流れ落ちるのを、感じずにはいられなかった。


「…で、その人間離れした力の少女はどうなっている?」
「傷付いて、どこかに逃げられたのでしょうか…」

そう言って、アティには聞いてみたものの。
僕はその少女らしきものがどうなったか、大方の想像は付いていた。
奴や少女の死体らしきものが、どこにも見当たらない。
そして、三人分以上の血がここで流されている。
倒された男のデイバッグも回収されていることから、
すなわち――。

「あるいは、別の場所で漆黒の騎士に殺された、か…
 いずれにせよ、全ての戦闘行為は終了したと見るべきだろう」

僕の推論に、アティはびくりとその小柄な身体を震わせる。
まるで、彼女自身が少女にそうしたかのように、
アティは罪の意識に苛まされ、その顔を更に暗くした。
だが――。

247闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:15:31 ID:???
「…ただ、ここで手当を受けた可能性もあるのです」

アティはそう言って、一つの血に塗れた地面を指差す。
そこは血とは別に、明らかに水で湿ったような跡があった。
まるで、その場で傷の消毒でも試みたかのように。

「その女の子に仲間がいて、彼らに助けられたのでしょうか?あるいは…」
「いずれにせよ、このままでは憶測の域を出ない。
 一度、当事者達の口から確認する必要があるな」

漆黒の騎士が、わざわざ敵に治療を施すといったことはないだろう。
無論、漆黒の騎士が負傷して自らの手当をここで行ったという可能性もあるのだが。
少女がどうなったかについては、聞いておく価値がある。
死体を振り回して鈍器にするような、あらゆる意味において非常識な輩なのだ。
道徳倫理が一切通用しない人外である以上、この殺し合いに乗っている可能性は高い。
本音を言えば、厄介者は共に倒れてくれた方が有難いのだが…。
それだけは口を紡ぐ事にした。

「とはいえ、どこに潜んでいるかだ。それが分からない事にはな。
 今頃は君でも探しにここを去ったか、あるいはどこかで休んでいるか…。
 唯でさえこの状況を築き上げ、なおかつ生き延びたような化け物が相手だ。
 たとえ傷を負っていようと、決して楽観など出来る相手ではない。
 …どうする、アティ?」

僕の発言にアティは俯き、ますますその顔を暗くしていたが――。

――…
――――…?

―――、――――――。

…唐突に、彼女は驚愕にその顔を跳ね上げた。

248闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:16:41 ID:???
「どうしたんだ?」
「えっ…ごめんなさい。ネスティさん…」

―――――――
――――――――。

――、――――――
――――!!

彼女はまるで何か得体の知れないものに気付いたかのように、
何者かの気配を伺い、不安げに周囲に視線を動かしていたが。
僕には一体何が起こっているのか、まるで理解する事が出来ず。

――――…
――…

――――…
――、――――…。

「…声が、聞こえるのです」
「なんだって?」

――――――――――
――――――

――、――――!!

一体、誰の声を聞いているのだろうか?
幻聴ではないのか、となお問い質す僕に。
彼女は大きくかぶりを振り、その声の主を僕に教えた。

249闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:17:42 ID:???
「碧の賢帝(シャルトス)の声が、はっきりと…。
 適格者を待ち望み、手に取る者を探しているようなのです。
 私の事は忘れてしまったのか、覚えてはいないようですが…。
 でも、あの剣はその意思と共に失われたはずなのに」

そうは語るが、やはり僕の耳には何も届かない。
気配のようなものは、言われてみれば感じる気もするのだが。
適格者の器になければ、魔剣の声など一切聞こえないという事か。
――あるいは、己の意思を伝えるに値しないと見下されているか。
いずれにせよ、事態が剣呑極まりないのは確かだ。

「君が言っていた、二つの魔剣の事か。だが、何故だ?」
「それは、わかりません…。ですが、一つだけ言えることがあります。
 あの剣はディエルゴの力と意思の一部であり、使う毎にそれに近付いていくのです。
 ですから、あれを誰かがその声に釣られて、魔剣を濫用してしまえば…」

そう言うと、アティは焦りの色をより深いものとする。
彼女だからこそ、わかるものがあるのだろう。
その魔剣とやらが、どれだけ手に負えず、抗い難い代物であるかという事を。
――もし、半端な適格者が剣を手にして、それを暴走させてしまえば?

「いずれ使い手を取り込み、『ディエルゴが完全な形で復活する』という訳か。
 いや、『メルギトスがさらなる力を得る』とでも言い直すべきなのか?
 ましてや、この村には漆黒の騎士が潜んでいる。そうなれば…」

万一、適格者と漆黒の騎士がぶつかれば、暴走の危険性は極めて高いものとなるだろう。
これほどの地獄を生み出せる猛者というのであれば、生半可な力では太刀打ちできまい。
いや、魔剣の力を以てしても、確実に勝てるという保証はない。
奴の力量は現場に残された死体の状況から考えても、明らかだ。
ならば、魔剣の使い手は後先を顧みぬ程の力を、それに求める事になりかねず…。

250闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:18:13 ID:???
「そんなっ…。今すぐ、探さなければ!
 そんなことになってしまえば、みんなっ、みんな……っ!」
「落ち着けアティ!状況をようく考えるんだ!
 適格者は世界中を探しても殆ど存在しないといったのは君自身だろう?
 だったらおそらく、魔剣に呼ばれているのは君だけだ、違うか?」

魔剣の恐ろしさを、ある意味最も容易く想像出来るせいなのか?
悪夢の未来を想像し、恐慌状態に陥った彼女を。
強く両肩を揺さぶり、強引に落ち着かせる。
――やれやれ。どうやら僕が彼女の代わりに、状況を分析する必要がありそうだ。

「それに第一、その漆黒の騎士がそれを拾い持ち歩いている可能性だってあるんだ。
 奴が君の言う適格者の器にあるとは到底思えないし、
 ならばなおの事他に適格者がいた所で、再契約など難しいだろう?
 奴から魔剣を奪い取るなど、至難のわざだろうからな」
「…………………………っ」

僕は可能な限り案ずるに足る根拠を並べて、彼女を落ち着かせようと試みる。
ほとんどは当て推量で根拠など何もないが、それでも沈黙を続けるよりはマシだ。
だが、肝心の彼女がこの状態であれば、奴との接触は危険に過ぎるかもしれない。
――まさに今、懸念した通りの事態が発生しかねないだろうから。
僕はそう判断し――。

「…いいかアティ、落ち着いて聞いてくれ。
 この村から逃れよう。ここは危険すぎる」

村の捜索の間、ずっと考えていた安全策を口にした。

「えっ?そんなっ…」

251闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:18:48 ID:???
信じられない、といった顔を向ける彼女に。
僕は苛立ちのあまり、思わず声を荒げた。

「君はバカか?!状況をよおく考えるんだ!
 漆黒の騎士は生き残り、まず間違いなく次の狙いは君だろう。
 そして君の言う魔剣もすぐ傍にある。それもまた君が狙いだ。
 奴とぶつかれば、再び君が手に取ってしまう可能性は決して少なくない。
 そして奴に追い込まれて迂闊にそれを使えば君という存在は消され、
 ディエルゴは、いやメルギトスは完全な力を得るだろう。
 そうなれば、このゲームに巻き込まれた全ての人間の…。
 いや、巻き込まれた全ての世界の命運は尽きてしまう!」

これまでの状況から考えれば、それは充分に起こり得る事態である。
いや、むしろこういった状況を人為的に作り上げる為にこそ、
ディエルゴはこの悪趣味な殺し合いを開催したのかもしれない。
魔剣の暴走を促し、それにより適格者を乗っ取り、完全なる力を取り戻す――。
それこそが、メルギトス=ディエルゴの最も望みそうな筋書きなのだから。

「そもそも、彼に戦闘を挑まれた場合、魔剣の力無しで勝てるとでも思うか?
 不思議な力に一切頼らず、ただ磨いた技量のみで己を圧倒する敵をねじ伏せるような、
 厄介極まりない相手が。それに、奴の言い分を信じるというのであれば、なお危うい。
 軍の頂点にいた英雄というのであれば、人を欺き殺す事にかけて奴はプロ中のプロだ。
 軍を抜けた君にとって、まさに天敵の類だろう。君の言う話し合いが通用しなければ…。
 その結果、失われるのは君の存在だけでは済まないんだ!」

今置かれた状況は、ほぼ最悪に近い。
故にこそ、僕は言い聞かせる。彼女自身の肩にかかる、責任の重さというものを。
彼女が個人的な感傷に溺れた結果が、最終的に恐るべき惨禍を引き起こす可能性を。
そして、それは決して少なくはない可能性を秘めているのだ。

252闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:19:26 ID:???
だが、彼女は自分の気持ちを抑えない。抑えようともしない。
それは、更に硬化させた表情からも容易く伺えるものであり。

「いいか、アティ。もう一度よく考えてくれ。
 それに漆黒の騎士を説得したいなら、まずは仲間を集めてからでも良くはないか?
 カーチスという男だって、もしかしたらすぐ駆けつけてくれるかもしれない。
 奴とて大勢で一度に来られれば、こちらを奇襲するような軽率は控えるだろう。
 勝算のない戦いを、プロならなおさら避けるはずだからな。君の危険も減る。
 説得は、改めてその時にでもゆっくりと行えばよい」

故にこそ、僕はさらに言い聞かせる。
妥協案、ないし彼女が納得できるであろう落し所を模索する。
彼女は見た目に反して恐ろしく頑固だ。決して己というものを曲げない。
己を曲げず、数々の修羅場をくぐり抜けて来た自負もそうさせているのだろう。
だが、その決して折れぬ意思が裏目に出る局面というものもある。
第一、彼女とその実力を全面的に信頼しても良いものかどうか…。

故に眼前の危険は出来るだけ避けて、安全策を取るべきなのだが。
とはいえ、僕が強引に彼女を無から連れ出そうとした所で、
彼女は僕の手を振りほどき、独断で行動しかねないだろう。
そうなれば、過程は違えど結果は同じとなる。
…だからこそ、彼女の同意を得ねばならない。

「…一体、何を迷う必要がある?
 もし今すぐにでも奴を阻止しに動く必要があるというのなら、教えてほしい。
 それだけの理由が僕に説明出来るというのなら、僕も考えを改めよう。
 だが、一つ言っておく。もはや君一人の感傷で決めて良い問題ではないんだ。
 それをよく考えた上で、納得の出来る返事というものを聞かせて欲しい」

253闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:19:56 ID:???
故にこそ、僕は重ねて言い聞かせる。
これがこの場において、最も合理的な判断であるという自信もある。
だが、残念な事に僕の言葉に彼女に納得する気配は、一向に見られない。
置かれている状況に自覚はあり、それに悩んではいるようではあるが…。
――メルギトスがこの場を見ていれば、思い切り哄笑している事だろう。

僕は胸に込み上げる焦りを、必死で抑えながら。
この場を上手くまとめ、彼女の独走を抑える次の言葉を必死に探し続けた。
…すぐ傍に潜んでいるであろう一振りと一人の死神に、戦慄を覚えながら。


そして、彼女の回答は――。


【C-3/村/1日目・夜中】
【アティ@サモンナイト3】
[状態]:左腿に切り傷(応急措置済)、精神的疲労(中度)、衣装が血塗れ
[装備]:呪縛刀@FFT
[道具]:支給品一式
    改造された無線機(故障中)@サモンナイト2(?)
[思考]1:メルギトス=ディエルゴを、どうにかしなくては。
    2:ゼルギウスさん(漆黒の騎士)の暴走を、必ず阻止する。
    3:対話と交渉で、ヴォルマルフからベルフラウの蘇生法を得られる?
[備考]:改造された無線機は、ヴァイスとの戦闘時による衝撃で故障しています。
    正常に動作させるには、適切な部品を集めて修理を施す必要があります。
    キュラー達やヴォルマルフ達がディエルゴの力で蘇生した可能性から、
    対話と交渉によるベルフラウの蘇生に不安を抱いています。
    ハーディンと軍馬の死体の状況を入念に調べていたので、服が血に塗れてます。

254闇に潜み見つめるモノ ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:20:29 ID:???
【ネスティ@サモンナイト2】
[状態]:全身に火傷(応急措置済)、身体的疲労(軽度)、精神的疲労(軽度)
[装備]:ダークロア@TO 、村人の服@現実、顔を除いた全身に包帯
[道具]:支給品一式(食料1/2食分消費) 、蒼の派閥の学生服(ネスティ用)、
    エトナのボンテージ(サイズは大人用)、予備の包帯
[思考]1:メルギトス=ディエルゴを倒して、元の世界に帰還する。
    2:自分と仲間(アティを含む)の身の安全を優先
    3:自分がマグナに信頼される人間である為に、アティに協力。
    4:アティの無謀ぶりと漆黒の騎士に強い危機感。
    5:アティに己が融機人である事を話すか、考え中。
    6:自分の心を救ったアティへの感謝と好意(及び劣情?)

[共通備考]:村の戦闘跡から、漆黒の騎士の戦闘力をある程度把握しました。
      主催がディエルゴに深く関わりのある存在である事を確信しました。
      アティとネスティは共に、悪魔王メルギトスがハイネルのディエルゴを
      吸収して復活を遂げた存在ではないかとの推測を立てています。
      そして、魔剣の暴走を促し、適格者を乗っ取り力を取り戻す事が
      このゲーム開催の目的ではないかとも考えています。

255 ◆j893VYBPfU:2012/08/29(水) 03:21:47 ID:???
これにて投下終了です。
ご意見等あればお願い致します。

256名無しですかあなたは!:2012/08/31(金) 00:24:55 ID:T8nJEdNo
投下乙です、先の展開に期待

257源罪な名無しさん:2012/09/04(火) 10:07:20 ID:???
とりあえず、問題なさそうなのでWiki登録しますね

258源罪な名無しさん:2013/02/13(水) 14:27:41 ID:Be5rWcpk
あげ

259源罪な名無しさん:2013/02/14(木) 23:39:12 ID:???
いや、あげる必要はないってw

260 ◆j893VYBPfU:2013/02/22(金) 10:08:23 ID:???
タルタロス、ネサラ、パッフェル、マグナで予約します。
人、いるかな?

261源罪な名無しさん:2013/02/23(土) 22:35:19 ID:???
お待ちしてます!

262 ◆j893VYBPfU:2013/03/09(土) 08:55:57 ID:???
予約の延長を。

263源罪な名無しさん:2013/03/10(日) 15:53:17 ID:???
おお、久しぶりの予約入ってた!
ここにいるぞ!

264 ◆j893VYBPfU:2013/03/15(金) 10:17:19 ID:???
予約の延長を…。

265 ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:29:54 ID:???
予約から随分と遅れましたが、
タルタロス、ネサラ、パッフェル、マグナで投下します。

266行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:30:41 ID:???
駆ける、駆ける、駆ける――――。
私はただ、暗闇の草原を駆け抜ける。

己の甲冑は、道中の目立たぬ場所に脱ぎ捨てて来た。
先程の戦いでルヴァイドを斬り捨てた時、その甲冑の手応えのなさを疑問に思い。
そして薄紙にも等しい装甲を、一切の疑問もなく身に付けていた事が理解出来ず。

この島でのこれまでの不可解な出来事の数々から、思い当たるものを感じ。
念の為にと己の甲冑も試してみれば、やはり容易く曲がり斬れた為である。

おそらくは、この殺戮劇の主催者がゲームの平等性を重んじるために、
あらかじめ身につけていた防具を無力化していたのだろう。
現に、あの小物もまた本来の防具から着替えていたのだ。

ならば、今の防具は無意味どころか、文字通り足手纏いでしかない。
むしろ身軽になった方が、一刻も早くマグナに追いつけようものだ。

とはいえ、この暗闇の草原の中で。
厭おしい…。いや、ある意味愛おしい彼を探すのは一苦労やもしれぬが。
私とマグナの因縁だ。この私が諦めぬ限り、必ずや再会は果たされるだろう。

―――いや、果たされるべきなのだ。
これは宿命であり、運命なのだから。

マグナとて、私が殺した仲間にあそこまで言われたのだ。
「“お前は奴よりも強い”」とな。

267行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:31:15 ID:???
彼の言葉を信じようとせず、いつまでも逃げ回る“超律者”など有り得ぬだろう?
私の言葉を否定するために、マグナには是非自ら手を汚す覚悟を決めて貰いたい。
…そうでなければ、私がつまらぬのだ。

そうして現実に向き直り、ようやく奮い起こしたその健気な意志を。
私は真っ向から打ち砕き、貴様の全てを否定し尽くしたいのだ。

――わかるな、マグナよ?

私は湧き上がる熱い期待を胸に、口元に笑みを浮かべると。
草木を蹴散らす勢いで、彼を追い求め続けた――。


          ◇          ◇          ◇


「へえ、何一つ真剣に話しをする気はないって訳だ…」

私は、身体の線が強調されたあられもない姿で。
ハンサムな青年の腕に抱かれながら、人では絶対に眺める事が叶わない…。
絶景を見下ろしながらのデートに誘われ、そのムードに酔っていました。
身体は打ち震え、鼓動は激しく脈打ち。
ああ。このまま胸は張り裂け、天にも登りそうです――。


…って、なんですかこれぇ!全然違いますよぉ!
これ、言っている人誰ですかぁ!ぜぇんぶ訂正してくださいよぉ!

268行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:31:58 ID:???


濡れて張り付いたシーツと寒空のせいで、凍える程ガタガタ震えててぇ!
人を人と思ってなさそうな、不審人物さんにとっつかまってぇ!
いつ突き落とされるか分からないから、心臓バクバクものでぇ!
このままだと、胸どころか全身が落下した衝撃で引き裂けてぇ!
全然別の意味で昇天しちゃいますよぉ!

…って、よく考えたらこれ、全部皮肉になってるじゃないですかぁ!!
ううっ、ひどいですよぉ…。しくしくしく…。

まあ、取り敢えず文句は置いといて。
この状況は、もう致し方ないですね。

薬や拷問だってそりゃもう慣れっこでしたけど、
このままでいて良い事はなんにも無い訳ですし。
だったら、相手がたとえこの殺し合いに乗っていても、
ばらしても問題の無い事だけ正直に喋っちゃいますか?

だってこのやさぐれフレイズさん、明らかに目が据わってますし…。

「もー、そんな怖い顔しないでくださいよー?
 北の城で二人組に襲われた事とか、今すぐお話ししますから、ね?
 とは言え、本当に寒くって凍えそうで仕方ないですから…。
 その間、毛布代わりにぎゅっと抱きしめてもいいですか?
 ちょっと位なら、そっちも抱きしめたり、触ったりしてもいいですから。
 あっ、もちろんリアーネさんには黙ってあげますよ?」

269行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:32:29 ID:???
とまあ、相手にさりげなく接触を試みる。
相手にスケベ心が少しでもあれば、それを逆手に取って
隙を見て逃げるなり関節でも極めたりのしちゃえば良い訳で。
まあ組討とか寝技の類なら、房中術の一環というか締めで、
(最近使ってないとはいえ)得意中の得意な訳なんですけどね。
“茨の君”ヘイゼルの名は伊達じゃない、ってことで。

「生憎、ニンゲンなんてゲテモノつまみ食いする趣味は俺にはねえなあ?
 …だがま、降ろすってのならいいだろ。ちっとは気も変わったみたいだしな」

だが、ニンゲンの私に一切魅力なんて感じやしないのか。
大きな溜息を吐くと、侮蔑丸出しであっさりと誘惑を切り捨てた。
……うら若き乙女をゲテモノ呼ばわりだなんて、ちょっと酷過ぎますよー。
そりゃまあ、中身はおばさんだったりしますけどね…。
とまあ、泣きたい気分は抑え込んで。

元々あまり興味がないのは感じてましたから、それならそれで良いとして。
ニンゲンを嫌がっているのなら、それを逆手に取れば良い訳で。

「わー。どうも、ありがとうございますぅ。
 それにごめんなさい。そんなにくっつかれるのお嫌でしたなら、
 今すぐ離れて着が「ダメだ」」

270行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:33:13 ID:???
私に着替えさせようと仕向けてその隙に逃げる、
二段構えの策だったんですが…。
間髪入れずに即ダメ出しって…。

「取り敢えず、話が全部終わるまでこのままだ。
 着替えの振りをして逃げられて、変な事周りに吹聴されても困るんでね。
 そのまま風邪引きたくないなら、さっさと知っている事を全て喋るんだな」

やっぱりというか、全部バレバレみたいだったみたいで。
私達二人はは地面に降下した後――。
この滑った鞭みたいなので縛られたまま、ご丁寧に距離を置かれて。
自分の名前と、先程自分に起こった事のみを正直に話し始めました。


          +          +


「…なるほどね。話しはわかったよ、パッフェルさん。
 あんたが襲われた城に向かう前にここの死体を一度目撃していた訳で…。
 で、水浴び中に襲ってきたその二人組の金髪男がデニムって名前で、
 もう一人の金髪女が“姉さん”と呼ばれてたわけか。
 おまけにそのヤバイ連中はこのゲームに乗っているに違いない、と」

やさぐれフレイズさんは、私の与えた情報を呟き。
噛み締めるように、その内容を確認する。

「で、何より――。
 この主催者は再び復活した“源罪のディエルゴ”って奴の可能性が高く。
 おまけにそいつはあんたと因縁深い関係にあり、
 おそらくは報復の為にこのゲームで嬲られちまってるって訳か?」

271行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:33:53 ID:???
こっちの身元を探られるのは、正直少々痛手ではあるのですが…。
このやさぐれフレイズさんは、どうにもこちらの事を知っている節がある。
“偽名でも構わない”って自信満々で言うって事は、
裏を返せば本名を知っているって言っていることですよね?

フフン、一言余計でしたねー。
っていうか、私も大概迂闊の極みなんですけどね…。

「ええ、まあ概ねそんな感じですよー」

ただし、その話しを終えた後のやさぐれフレイズさんは。
露骨に舌打ちをすると、俯いて顎に手をやり何やら悩み出しました。

(ちっ…、しっかしまあ…。あいつらの向かった先じゃねえか…)

とか、思わず口から漏れたのは聞こえましたが。
何やら、非常にマズイ事でもあったのでしょうか?

見たところ、それほど深刻な事態でもなさそうですが…。
とは言え、意識が私以外に向いているならしめたもの。
――この隙に、さっさと退散してしまいましょうかね?

私は、気づかれぬよう身体を少しづつよじり。
縄抜けの要領で、絡みつく触手から逃れようと試みる。
後ろ手に縛れた腕を少しづつくねらせて抜きに掛かり、
まずは手首の自由を取り戻す。
そして触手を掴み、一気に触手を緩めようとしたその先に――。

272行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:34:28 ID:???
「えっ…?!」

触手の締め付けが唐突に厳しさを増し、さらに複雑な形へとに絡みつくと。
身体の妙なところばかりを、その先端がまさぐり始めました…。

「ちょ…、んっ、やめ、いや…っ!!」

って、なんですか!なんなんですかっ!
このハレンチな扱いは!って、ちょっ、そんな所に入らないでくださいよ!
んむっ、はっ、あっ…て、嫌ですってば!なぜ妙に手馴れてるんですか!
貴方「ゲテモノに興味はない」って、そう言ってたじゃないですかあ!
やめてくださいよおっ!…いい加減、泣いちゃいますよおっ!

「あー、すまねえ。少しばかり失敗しちまった。
 まだ、こいつの扱いになれてねえんだわ…」

私の抗議の視線を、どこ吹く風と受け流し。
全く悪びれる様子のない、やさぐれフレイズさん。
手元の仕掛けを適当に握りしめている辺り、本当なのかもしれませんが…。
だからって、この扱いはあんまりじゃないですかあ!
『彼氏持ちのうら若い乙女に変な行為を強制された』って、
貴方の奥さんに訴えますよぉ!!

「…とはいえ、あまり態度が良くねえな。
 …試しに隙を見せてやれば、即これだ。
 その分だと、まだまだ俺に隠しておきたい事とかいっぱいあるんだろ?
 …たとえば“既に誰かを殺している”とかな」

273行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:35:10 ID:???
そういって視線だけをこちらに向けたが、その底冷えがする鋭い眼光は。
先程の考え事自体が、私を試す欺瞞であった事を意味し。

「案外、既に何人か殺して浴びた返り血洗い流している所を、
 あんたの言う二人組に襲われたとかじゃないのか?
 まあ、他にも腑に落ちない点は色々とあるんだがね…」

私はそれに見事釣られてしまい、いらぬ誤解を増させてしまったという訳で――。

「それじゃあ風邪引かないうちに、もう少し洗いざらい話して貰おうか?
 …出来れば、こっちとしても穏やかにいきたいものだがね」

余計に警戒心を煽ってしまった私は、このあられもない姿のまま
尋問を続行される事になってしまいました…。


         ◇          ◇          ◇


「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……」

真っ暗になった草原を、何度もつまづきそうになりながら。
俺は必死に駆け抜ける。アルフォンスから、ただ逃げ延びる為に。

アメルが何者かに殺されてしまったという事。
アルフォンスが俺を騙し続けていたという事。
ルヴァイドが俺をかばい、そして死んでしまったという事。
そして何より、それらの全ての出来事に対して――。
俺は何も出来やしなかった事。

274行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:35:43 ID:???
アルフォンスの言葉が、痛みと共に胸に蘇ってくる――。

『そういえば、貴様が言っていた娘は死んだようだな。
 確か、アメルと言ったか?
 貴様がべらべらと勝手に話していた事だが
 貴様はその娘に如何報いろうというのだ?』

そう。何も報いれてなんか、やれていない。
何をすれば良いか、見当も付かなかったから。

――いや、違う。

決してやってはいけない事しか思いつかなかったから、
俺はまともに答えることが出来なかったんだ。

アルフォンスや、アメルを殺した誰かに復讐でもするのか?
…でも、それで死んだ人達が戻ってくる訳じゃない。
それに、殺した側だってアルフォンスのように
自分なりに考えた上での結論かもしれないんだ。
それが正しいか、間違っているか以前に――。
その思いまで踏み付けて否定する事なんて、俺には出来ない。

それこそ、優勝を果たしてディエルゴに蘇生でもお願いするのか?
…馬鹿げている。俺がそんな事をして取り戻した命なんかで…。
アメル達が喜ぶはずなんか、絶対にない!!

第一、あいつを放っておけば本当に世界は終わってしまうんだ!
傀儡戦争や、島での出来事を思い出せ!!

275行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:36:16 ID:???
だったら、
だったら、だったら、だったら――っ!!
一体、どうしたら良いって言うんだ?

…なあ、ネスティ。お前なら「君は馬鹿か?!」って言いながら
俺の代わりに冴えた方法を考えてくれるだろう?
――いや、別にあいつじゃなくてもいい。

誰か
誰か
俺に、教えてくれ!!頼むよおっ!!

そのどうしようもない現実をいっぺんに目の前に突き付けられて。
色んな事が悔しくて、悲しくて。

頭の中がぐしゃぐしゃになって、気づけば視界が涙でぼやけて。
このまま走り続けていれば、もしかすれば嫌な現実からも逃げられるんじゃないかと、
そんな都合の良い事を考えていれば――。

絶対にそうはさせないと、現実がアルフォンスに手助けして周り込んだのか。
くぐもった悲鳴のような、だがどこか色っぽさを含んだような…。
俺のよく知る女性の、ただいつもより一音階は跳ね上がった声。
そして何かを焦がしたような臭いと熱を、
近くの茂みから感じ取り。

276行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:36:52 ID:???
その場所に近づいてみると――。
木に寄りかかり、ぐったりとした顔をしたパッフェルさんと。
彼女を鞭のようなもので拘束する、髪を後ろに撫で付けた男が。
――俺の視界に飛び込んできた。


          +          +


「…話しは分かった。なるほどね。
 道理で随分と良い度胸しているし、逆に現役程鋭くもねえってことか。
 確かにそれは俺に隠しておきたい事だってのは、充分納得出来る道理だ」
「ごほっ…、ごほっ…、ぶふぇ!!……ぐずっ…。
 ……ええっ。そ…っ、そうで、すよっ、ねぇ?」

私はイスラ達と遭遇したことを除き、
これまでにあった事を全て正直に話しました。
そして、自分がかつては『茨の君』と呼ばれた元暗殺者である事も。
勿論、すぐには話したりはしませんでしたが。

そう簡単に口を割れば「まだ本当に隠している事が別にある」と
更なる追及を受けちゃいかねませんからね。
まあその為煙で燻されたりとか色々されましたが、この際仕方がありません。
マグナさんや先生達の事を隠しておけるなら、大したことないですし。
っと思った矢先に――。

「だが、あんたが本当に隠しておきたい事は、そんな些細な事じゃねえ」

277行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:37:43 ID:???
…って、いきなりバレバレですか。
ちょっと、もう勘弁してくださいよ?
まだ続くんですか、このイヤラシイ取り調べ?!

「な、なあに言って、んっ!…っぐぅ?!」

私が抗議の声を上げるよりも早く――。
このやさぐれフレイズさんは鞭の柄を強く握り締め、
私の首をより一層強く絞め上げました…。

ちょっと、これ…。まさぐったり、絞めたりって…。
真面目に使われても、あまり洒落になってないですよ…。

「…瞳の輝きが違う。自分がどうなっても良いと覚悟を決めている。
 自分より身近の誰かの事を考え、真剣に庇っている。そんな眼だ。
 自分の事しか考えられねえ奴は、もっと濁るか媚びた瞳をする」

そういって、一旦鞭を緩ませ――。
やさぐれフレイズさんは笑うように口元を歪ませましたが。

「俺もあんたと同じ気持ちになった事はあるから、よおく分かるさ。
 そりゃ、誤魔化すのは無理ってもんだ?」

私を覗き込むその視線は、獲物を伺う猛禽の鋭さを見せていました。
…うあっちゃー。全然信用してませんね、こっちを。

「それにな、“源罪のディエルゴ”の話が本当だとすれば…。
 あんたの仲間たちも一緒に報復されてたってなんら不思議じゃあない。
 与える情報量を少々間違っちまったな、元暗殺者のパッフェルさん?」

278行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:38:45 ID:???
迂闊…。
それに何気に人を見る目があるってのが、痛いですね…。
立ち振る舞いから察するに、異世界の同業者なんでしょうかね?
私は軽口を利きながら気を逸らそうと試みましたが、
私の話しなんてまるで聞いちゃいない様子で――。

「…当ててやろうか?多分、ただの仲間なんかじゃねえ。
 あんたにとってはとびっきりに大事な恩人か恋人か…。
 そういうかけがけのない存在まで、一緒にこちらに呼ばれちまった。
 だからこそ、こうなってまでその人を庇う。さっきの話しじゃ概ね彼氏だろ?
 …で、最後の質問だ。一緒に呼ばれた大事な彼氏さんは、一体誰なんだ?」

無論、これは嫌になるくらいのズバリな的中率なんですが。
敵か味方かもわからない相手に、マグナさん達の事なんて話せる訳がなく。

「そんな方、そもそも私にはいませんからっ♪」
「…そうかい。そりゃ残念だ」

そう言って、あくまでもシラを切っていると。
やさぐれフレイズさんの顔つきが険しくなり。

「これでも、傷だけは付けずに紳士的に振舞った積もりなんだがね。
 当然、方針を切り替えてもっと痛め付けて欲しいなら話しは別だが…。
 でも、あんたの様子じゃどんな拷問にかけたって無駄って所だろ?」

呆れたように大きな溜息を一つ付くと、
私の顔を覗き込み――。

279行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:39:38 ID:???
「だったら、これで終わりにしようか?
 俺もあまりこういうのは趣味じゃないんでね…」

――ああ、やっぱりそうくるわけですね?
ごめんなさい、マグナさん。そして先生…。

私は彼の嫌な決断を察し、覚悟に身を硬くしたところ――。

「――なあ、嘘だろう…。パッフェル、さん?」
「…えっ?」

聞き覚えのある、呟くようような、縋るような小声が聞こえ。
続いて剣の鞘走る音と、続いて茂みを踏み荒らす音が響き渡り。
音のした方角を振り向いてみれば――。

私が今思っていた人が。想っている人が。
剣を担ぐように構えて、やさぐれフレイズさんに襲いかかりました。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「…ん?って、おい!いきなりなんなんだよ!」

ぶおんっ、と大きく勢いの付いた斬撃が直前まで彼のいた空間を切り裂き。
その威勢に驚いたやさぐれフレイズさんが、大きく後ろにさがりました。
……随分と慌てたせいか、手に持っていた鞭まで手放してしまい――。

「…マグナさんっ?!」
「…ちっ、仲間かっ!」

280行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:40:12 ID:???
間一髪、って所でしょうか?
マグナさんは激高し、雄叫びを上げながらなおも彼を追い縋り。
ただ、その暴れぶりはまるで悪鬼憑きが暴れ狂ったようにも、
離れた母親を求めて泣きじゃくる子供のようにも見え。

うん、私としてはそこまで想ってくれているのは嬉しいんですけど…。
こう、なんでしょうかね?ちょっとだけ、怖いんですけど。
まるで、私の知っているマグナさんじゃないみたいで。
もしかして、さっきの言葉でも聞かれちゃいました?

…あっちゃー、どうしましょう?
誤解どころの騒ぎじゃないですよ、これ…。

「許さねえ!お前だけは、絶対に!!」
「くそっ、このタイミングでかよ…ったく!」

やがて、丸腰の自分が不利だと思ったのか。
やさぐれフレイズさんは大きく舌打ちしながら、
その翼を羽ばたかせ、上空へと逃げ去りました。

…でも、これでまずは一安心といった所なんでしょうかね?
私は緊張の糸が切れ、その場にへたりこんでしまいました。

「くそっ!逃げられたか、あいつ…っ!!」
「た、助かりましたぁ…」

やがて、彼を追いかけるのを諦め。
剣を鞘に収め、こちらにやってきたマグナさんを見て――。

281行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:41:03 ID:???
「あ…っ?」


【「君の□□の所に行くんだ、そして愛を告げろ。 相手が答えたなら、□せ」】


どくんっ


――その胸が一際、大きく高鳴りました。
そして身体が、吐く息が唐突に熱を帯び。


マグナさんを、見て――。


【「方法は任せる、この身体を使って精一杯誘惑してやる事だな」】


どくんっ


一体どうしてこんな、と理由を考えた頭も、
ふわっと溶けたように――。


【「□し終えたとき、お前は□□□□□□□□全てを思い出す」】

282行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:41:36 ID:???
ああ。


ああ、そう言えば――。


どくんっ

               どくんっ

     どくんっ

          どくんっ


      どくんっ!!


――大事な命令が、与えられていたわ…。


          +          +


「大丈夫か!パッフェルさん!」

――目の前には、命令の対象がいる。

283行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:42:14 ID:???
「はぁ……っ、はぁ……っ」
「酷い事を!…っと、ごめん!俺の上着を用意するよ…」

身体に纏わり付いていた触手が、シーツとともにずり落ちて。
全裸となった私に見蕩れた彼は、その貌を見る間に紅潮させ。
露骨に目を逸らし、慌てて脱いだ上着を乱暴に押し付けた。

彼の喉からごくり、と唾を飲む音こそ盛大に聞こえたものの。
そのまま劣情に任せて、襲いかかるような真似はしないようだ。
そして「上着を着たら教えて欲しい」と言い放つと、慌てて私に背を向ける。

なんとか気を逸らそうと、言葉にならぬ言葉を投げかけてくる青年。
ぎくしゃくとした動作が酷く滑稽さを伴うが、それで気付いた事もある。
…どうやら、彼はこの私に劣情だけでなく好意も抱いているらしい。

私としてはどうでも良いが、仕事をこなす上では実に都合が良い。
こういう初心な青年の方が、心も緩みやすく仕留めやすいからだ。

とは言え、流石に後味は悪いものとなるだろう。
もしかすれば、裏切られた苦悶の貌と絶望の断末魔が
数日は脳裏から離れないかもしれない。

だが、それも仕方がない。
――いや、いい加減慣れるべきなのだ。

“茨の君”として、この先生き続けるためには。
心を凍らせ、人形となるしかないのだから。

284行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:42:58 ID:???
――ならば、せめて彼が逝くまでの間は。
少しぐらい、甘い夢を見させるのも良いのかもしれない。
それが、私として出来るせめてもの行為。
私は諦観のうちにその頭を切り替えると。

「…な、なあ、パッフェルさん。さっきの言葉なんだけ……んっんむっ?!」

背中を向ける彼を後ろから抱き付き、言葉も聞かずにその唇を奪う。
そして彼の身体から熱を奪うように、凍えたその肢体を押し付けて。
――甘い吐息を、耳元に吹き付ける。

「さあ、ボウヤ…。一緒に遊びましょう?」
「…っ!いきなりどうしたんだよ?!パッフェ…んむっ、んん!!」

なおも開く彼の口を、私の口を重ねて塞ぎ。
その口内に、私の舌を割り込ませる。
私の舌が唇を舐め、歯茎をねぶり、彼の舌を転がして。
――口内を思う様、執拗に蹂躙する。

驚きの余り後ろに引いた舌を、なお追いすがりそれを弄び。
聞かせるようにじゅるりと音を立て、彼の唾液を飲み干す。

やがて、私は唇を離し。
身体は預けたまま、そして耳元で熱く囁く。

285行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:43:35 ID:???
「…抱いて?」
「ええっ?!な、ななななななに言ってるんだよパッフェルさん?!
 ちょっと、いきなりおかしいよ!それに、今はそんな事している場合じゃ…」

“茨の君”としての情欲に爛れた仮面を被りながら。
――私は標的の貌を覗き込み、その様子を注意深く観察する。

瞳は潤み、頬は紅潮し。身体が火照り脈打つのを全身の肌で感じる。
劣情に流されつつあるようだが、あまりに唐突過ぎる行為のせいだろう。
未だ、身体の強張りと警戒心が抜けきれていない。
とは言え、こちらを拒むまでは至れないようだ。

――どうやら、彼が油断しきるまではもう少し準備が必要なようだ。

「……今すぐ欲しいの。
 それが私の気持ち。それとも、私とじゃ嫌?」

私はそう言いながら、その背に胸を強く押し付け。
身体を上下に動かし、擦れる感触を伝えながら。
彼の顎と腰に手を回し、そこにあるものを確かめる。
――万一のために、先に腰にある剣は奪うべきだろう。
いや、むしろ今回はより確実にそれを使うべきか?

「そ、そんなことはないですよ!でも、やっぱりこんな形でなんて…」
「慣れていないなら、任せて?私が教えてあげるから…。」

なおも食い下がる彼の唇を再び奪い、強引に黙らせて押し倒す。
彼の腰に手を当て、履物をずらし。
不自然にならぬよう剣の鞘も外す。

286行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:44:27 ID:???
「この様子じゃあ、準備はいらないかしら…」

私はいつも通りに、寝かせた標的に跨り。
両足を絡めて、彼が動かぬよう押さえ込む。
――再び、彼の貌を覗き込む。

彼は既に私に夢中だ。その視線と手は肢体に向けられ、
もはや何をされても、不審に思う事はない。
――どうやら、これ以上の演技は必要ないらしい。

私は彼と繋がりながら、手にある剣を後ろで引き抜き。
逆手に握りしめた剣を、大きく振り上げる。

「ごめん、ね…」
「えっ?」

夢見心地だった彼が、視界に映る白刃を認めて血の気を失う。
だが、もう遅い。これで……。


――――唐突に私へと叩きつけられた、濃密な殺意。


当然、目の前の彼のものではない。ならば、誰が?
考えるよりも早く、私は地を蹴り彼より離れる。

「……ッ!!」
「私の獲物を横取りされて貰っては、困るな?」

287行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:45:01 ID:???
――鋭い痛み。それを感じる場所は、背中。
どうやら、背後からの斬撃をよけそこなったらしい。
だが、皮一枚だけで済んだのは、僥倖というべきか。

標的のいる傍らには、隻眼の騎士らしき男がいた。
――彼の仲間なのか?

「泥棒猫には、早々に退場してもらおうか?」

ロレイラルの機械兵士を思わせる、抑揚のない声が響き渡る。

「…あ、アルフォンス!!な、なんで…?
 まさか、俺を助け……?ぐはあっ!!」

仲間らしきものが来たにも関わらず、困惑の表情を浮かべる標的。
そして、隻眼の騎士は彼の下腹を勢い良く蹴り上げ。
胃に収めてあったものが、地面に撒き散らされる。

「ぐぅ……えっ!っ……ぎ、があ……っ?!」
「目は、覚めたか?いつまで呆けているつもりだ?」

私に剣を向けながら、標的を冷ややかに見下ろす隻眼の騎士。
…実に、余計な事をしてくれる。
吐瀉物にある臭気と腹部への突き刺さるような痛みが、
無理矢理にでも標的の意識を鮮明なものにするだろう。
これでは、もう迂闊に手を出せない。

288行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:45:40 ID:???
標的を遮るようにして、隻眼の騎士が立ち塞がる。
だが、先程の不意討ちの見事な手際から…。
彼が私と近い、闇の存在である事を教えていた。

そしてこの障害は、決して私の手に負えるような存在ではない。
いや、むしろそれから逃げる事すら困難を窮めるだろう。
――格というものが、根本的に違い過ぎるのだ。

(これは…。私では、勝てない…)

これまで私を生かし続けていた暗殺者としての勘が、
その絶望を脳裏に囁いていた。

「その無様なものは早々にしまえ。
 さて、貴公は“この私より”強いのであろう?
 ならば、立ち上がりそれを示して貰おうか」

だが、青白く光る月明かりを背に、標的に話しかけるその男は。
その貌こそ陰となりよく分からないものの、
その声は歪んだ喜びに弾んだようなものが感じられ。

そして、その研ぎ澄まされた殺意は。
私だけでなく、眼下の青年にも均等に向けられていた…。


          ◇          ◇          ◇


後一歩という所で、ややこしい事になった。
――だが、明るい材料もある。

289行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:46:13 ID:???
隻眼の騎士の様子から察するに、彼は標的にとっての敵であるらしい。
三つ巴の関係に嵌ったと考えた方が正しいのだろう。

――ならば、隻眼の騎士が彼を殺害するまでを遠巻きに見届け、
その後に逃亡してしまえば?

もはや、自ら手を汚す危険もなくなる。
仕事は無事果たされた事となり、なんら問題はない。
私は後ろ足で隻眼の騎士から更に距離を置こうとした、
その時に――。

「……ッ!!」

斬られた背中が風を受け、その痛みが私の意識を…。
僅かな間、鮮明なものとする。


私は――。


私は――。


そう言えば、一体何をしているのだろう?


彼を殺す仕事についている。それはわかる。
だが、一体誰の命令で?

290行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:46:56 ID:???
【「君の□□の所に行くんだ、そして愛を告げろ。相手が答えたなら、殺せ」】

歪んだ笑みを浮かべる、金髪の青年の顔が脳裏に浮かぶ。
私の乳房を片手で鷲掴みし、その男はさらに囁く。

【「方法は任せる、この身体を使って精一杯誘惑してやる事だな」】

…一体、彼は誰なんだろう?私のいる組織で、顔を見た覚えはない。
そして、その後のほうが酷く大切な事を言っていたような…、
そんな気がする。

【「殺し終えたとき、お前は□□□□□□□□全てを思い出す」】

――いや、それはどうでも良いことだ。
一度“茨の君”として、ヘイゼルとして命令が与えられた以上は、
必ず標的の生命を奪わねばならない。それが、組織の規律なのだから。
そうしなければ、私が生きていけないのだから。
…私の意志など、まるで関係がないのだ。

だが、まだ腑に落ちない点がある。

標的の彼は――。
何故、私の本名を知っていたのだろう?
「パッフェルさん」と。
今や、それを知る者など殆どいないというのに。
いや、それ以前に。

私は今、取り返しが付かない事をしようとしているのではないか?
そんな気がしてならないのだ。

291行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:47:26 ID:???
だが、何故そう感じるのか?
…わからない。

ならば私は、一体どうすれば――。
どうすれば、良いのだろうか?


          +          +


――ああ。
探し求めていたぞ、マグナよ。
月下の再会を、心より寿ごう。

だが、私が手に掛けるその前に。
薄汚い暗殺者の色香に惑い、その手に掛かる寸前であったとは。
実に不甲斐ない話しではないか?

それでは詰まらないのだ。
それでは満たされぬのだ。

貴様は必ず殺す。
…この、私がな。

だが、その前に。
我々の逢瀬を邪魔する女狐には、早々に退場してもらおうか?
そう言いたい所だが――。

292行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:47:59 ID:???
何かしら、その女狐の様子がおかしい。
マグナがその女に懸想している。それは見ての通りだ。
だが、それは出会ったばかりの女を見るにしては、酷く生々しい感情をたたえており。

行きずりの女の誘惑に負け、油断しきっていたというよりは、
長い間心より愛した女への、最悪の裏切りに出会ったかのような――。
私がマグナに浮かばせたかった、驚愕と絶望に顔を染めかけていたのだ。

何故だ?
何故、貴様は間女にそのように特別な貌を見せる?
それは、貴様が私に見せるべき貌のはずであろう?

私は形容しがたい嫉妬に駆られ、私はその女を睨み付けるが。
――その女の瞳は、一切の意志を感じさせる事がない程、
焦点というものが合っておらず。

まるで、何らかの暗示にでも掛けられたかのように、
自らの殺意を感じさせることはなかった。

…『暗示』?

そこで私は一つの可能性に思い当たる。
もし、この女が元よりマグナの知り合いであり。
それが催眠術等で操られていた結果なのだとしたら?

この女にマグナが油断し切っていたのも頷ける話しだ。
そして、あの操り人形めいた様子は何よりも。
我々の世界の暗黒系魔法にかかったかのような、酷く知る臭いがした。
――もし、私の推測通りであれば?

293行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:49:45 ID:???
この女には出来るだけ惨たらしく、マグナの目の前で死んで貰う事にしよう。
それこそが、マグナにより深い絶望を思い知らせるという事になるのだから。

ああ、もしこんなことであるならば。
あの小物を、この場にでも連れてくるべきであったな?

そうならばあの女にでもけしかけ、
マグナに愛する者を無残に奪われる悲しみも与えてやれたものを――。
だが、確たる証は何もない。

ならば、一度確かめてはみるべきか?
私は、マグナを、眼前の女狐を手に掛ける前に――。
その関係に探りを入れるべく、次に掛ける言葉を頭で整理し始めた。


          +          +

どういうことだよ?
訳わかんねえよ…。

なあ、嘘だよな?
何かの悪い冗談だと言ってくれよ、パッフェルさん。
「彼氏なんて、そもそも私にはいません」なんてさ。
それに、俺に刃を構えたのだって、何か深い事情があって…。
…なあ、答えてくれよ。パッフェルさんっ!!

294行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:50:24 ID:???
俺は視線で訴えるが、彼女は動じない。
むしろ俺もアルフォンスも見えていないかのように、
ただぼんやりと俺達のいる空間を眺めている。
一体、一体どうしちまったんだよ…。

だが、そんな俺の彼女への感傷を。
お腹の痛みと口から臭う酸味が、俺を現実へと引き戻す。

――目の前には、アルフォンスがいる。
俺が履物を直し、立ち上がる所を無表情に眺めてはいたが。
その一つしかない瞳の奥底は、メルギトスのそれよりも濁り切った…。
むしろ不気味な輝きのようなものが確かに見え。

俺は数歩下がり、立ち上がる際に拾い上げた鞭を構える。
酷く心許ない。こういった武器は扱った事はないのだ。
いや、剣でだってあのアルフォンスを止められるかどうか…。

全てを捨てて再び逃げるという手もある。
だが、そんなことは今は絶対に出来ない。

俺が逃げれば、残されたパッフェルさんは一体どうなるんだ?
そんなことをすれば、アルフォンスはルヴァイドに続き――。
彼女をその手にかけようとするだろう。
――アルフォンス自身の生存のために。

そして、俺はまたしてもそれを見届ける事しか出来ず――。
いや、そんなことは絶対に許されない!

295行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:51:26 ID:???
アルフォンスを抑えるのは難しくても。
パッフェルさんを、まずはなんとかしないと。

そして、二人で一緒に逃げて――。
その後、一体どうすればいいのだろう?

それに、パッフェルさんにした所で。
さっきの言葉通り、俺の事なんて本当はどうでもよくて。
むしろアルフォンスみたいに「自分が生きる為に」って理由で。
さっきも邪魔になってしまった俺を、殺そうと考えていたのかもしれない。
…だったら、どうすればいいんだろう?

――もう、訳が分からないよ…。
なあ、どうすればいいんだよ…。


          +          +


あーあ、やっちまったな…。
いい加減駆け引きはなしで俺の名前を伝えて、同盟関係でも結ぶつもりだったんだが。
最悪のタイミングであのニンゲンの仲間がやってきて。
全部ご破産になっちまいやがった。
あれが、彼女がかばってた“彼氏の”マグナさんって奴か。
それはよおく分かったよ、パッフェルさん。

296行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:51:57 ID:???
とは言え、これじゃあ弁解も何もあったもんじゃないわな。
少なくとも二人には完全に敵だと見做されちまう。

まあ一旦は逃げ出したものの、様子が気になって遠目で眺めてたんだが――。
なんかあのニンゲンが仲間相手におっぱじめて、その最中にまた別の男が乱入して。
なんだか気が付きゃ三角関係っぽい見事な修羅場が出来上がっちまいやがった。

俺は今の面白そうな状況から、誰に味方して恩を売るかを考えてみる。
誰か一人程度なら、担いでその場から逃げる事も出来そうだが。
そこまでする利益が、果たしてあるかどうか…。

ま、確かにあの源罪のディエルゴを倒した奴等ってのなら、
色々と利用価値や聞くべき情報はあるってもんだろうがね?
…とはいえ、生命の危険が利益を上回るなら話は別だ。

あるいは、身の安全を最優先してこのまま静観を決め込んじまうか?
――さて、どうしたもんだかねえ?

297行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:52:39 ID:???
【D-6/マルスの死体付近・上空/二日目・未明】
【パッフェル@サモンナイト2】
[状態]:全裸、身体的疲労(中度) 、心神喪失状態(暗示の発動)、背中にかすり傷
[装備]:バルダーソード@TO
[思考]1:……マグナを殺す。
    2:近くの黒騎士(タルタロス)を、どうすべきか?
    3:命令(暗示)の遂行に当たり、最も的確な行動を模索中。
    4:何故、標的(マグナ)を殺さねばならないのだろう?
[備考]:デニムによりかけられた「愛した者を殺す」という呪詛が発動中です。
    ただし、背中に与えられた刃傷の痛みにより暗示が緩みつつあります。
    大きな心身への衝撃や神聖魔法により、解除される可能性があります。
    ネサラは既に去ったものだと思っています。

【マグナ@サモンナイト2】
[状態]:精神的疲労(重度)、現実逃避(重度)、上着を脱いでいる、
    右頬に打撲(大きく腫れ上がり)、下腹に激痛(外傷はなし)
[装備]:あやしい触手@魔界戦記ディスガイア
[道具]:支給品一式(食料を2食分消費しています) 浄化の杖@TO
    予備のワインボトル一つ・小麦粉の入った袋一つ・ビン数個(中身はジャムや薬)
[思考]1:…パッフェルさん、アルフォンス…。一体、どうして?
   2:もう何が何だか分かんないよ…
[備考]:マグナの脱いだ上着と濡れたシーツ、およびマルス王子の履物と靴が
    マグナの足元にまとめて落ちています。
    ネサラは既に去ったものだと思っています。

298行く手を阻むもの ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:53:12 ID:???
【ランスロット・タルタロス@タクティクスオウガ】
[状態]:疲労(軽度)、軽装、マグナに対する底無しの悪意。
[装備]:ロンバルディア@TO、サモナイト石(ダークレギオン)
[道具]:支給品一式(食料を1食分消費しています)
    リュナンの首輪、ハミルトンの首輪、ルヴァイドの首輪
[思考]1:生存を最優先
    2:ネスティ、またはカーチスとの接触を第一目的とする。
    3:抜剣者と接触し、ディエルゴの打倒に使えるか判断する。
      抜剣者もまた利用できないと判断した場合は、優勝を目指す。
    4:ヴァイスとの合流前に、邪魔者は確実に排除しておきたい。
    5:マグナを必ず後悔と絶望の中で殺害する。
[備考]:パッフェルをマグナの生命を狙った暗殺者だと認識しています。
    マグナを排除する前に片付けるつもりですが、
    何者かの暗黒系魔法により暗示を受けた可能性に思い至ってます。
    状況次第によっては、マグナを苦しめるために利用するつもりです。
    己の最初に来ていた甲冑は、D-6へ至るまでの道中で脱ぎ捨てました。
    なお、上空にいるネサラには未だ気づいていません。

【ネサラ@暁の女神】
[状態]:打撲(顔面に殴打痕)、飛行中
[装備]:ヒスイの腕輪@FFT
[道具]:支給品一式×2 清酒・龍殺し@サモンナイト2、筆記用具一式、
[思考]1:己の生存を最優先。ゲームを脱出する為なら、一切の手段は選ばない。
    2:マグナとパッフェルの二人に味方して、恩を売るべきか?
    3:脱出が不可能だと判断した場合は、躊躇なく優勝を目指す。
[備考]:先程のやり取りから、パッフェルがかばっていた(目の前にいる)
    青年を「彼氏のマグナさん」だと認識しました。
    パッフェルへの尋問から、「源罪のディエルゴ」の情報を得ました。
    彼女以外にその仲間が、ディエルゴの報復の為呼び出されている
    可能性を疑っています。

299 ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 00:53:57 ID:???
これにて投下完了です。
ご意見、ご指摘等ありましたら、遠慮なくお願いします。

300 ◆j893VYBPfU:2013/04/06(土) 11:55:02 ID:???
すいません。夜の移動距離考えたらいくらなんでも速すぎるので、
時間帯を未明から黎明へと変更します。
パッフェルさん、風邪ひくなこれは…。

301源罪な名無しさん:2013/04/06(土) 18:11:40 ID:???
投下乙です。

ネサラは、石橋を叩きすぎて壊しちゃったな。

302源罪な名無しさん:2013/04/07(日) 14:31:30 ID:???
激しく乙です

303源罪な名無しさん:2013/04/08(月) 08:44:03 ID:???
問題なさそうなのでWikiに登録しますね。

304 ◆j893VYBPfU:2013/04/10(水) 20:40:03 ID:???
句読点などの誤字脱字を若干修正してWikiに収録。
あと、パッフェルの状態表の備考を分かりやすいように加筆。

306源罪な名無しさん:2015/01/15(木) 03:46:45 ID:???
あああ


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