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オリロワA part2

448氷の偶像 ◆H3bky6/SCY:2025/06/08(日) 13:36:17 ID:IwbDKrGw0
彼の足元から、静かに冷気が広がる。
草花が凍りつき、霜が白く地表を覆ってゆく。
ジルドレイの感情が、超力とともに世界へ滲み出していた。

「……ジルドレイ。貴方が私を通して見た『光』が、たとえ歪んでいたとしても……それを私は否定しません。
 それが貴方の中に、初めて灯ったものだったのなら、それは……確かに貴方のものです」

その声は、限りなく優しかった。
けれどその優しさは、ジルドレイの魂を裂くほどに痛みを孕んでいた。

「……ですが、あなたは、その光の使い方を間違えた。
 光を盲信するのではなく、自らの足元を照らす灯火として、進むべき道を照らすべきだったのです」

言葉の温度がわずかに下がる。
ジャンヌの声は、今や決意を帯びた硬質な響きを纏っていた。

「貴方が私の光によって生まれた影だと言うのなら……私は、貴方を止めなければなりません」

その瞳が、真っ直ぐにジルドレイを見据える。
赦しではなく、責任として告げられた非情な宣告。

これを受けたジルドレイは、笑っていた。
それは歓喜の笑みではない。
諦め、壊れ、崩れた、泣き笑いのようなものだった。

「おお…………おおっ……正しくそれだっ!! その輝きッ、これこそが、私のジャンヌ……!」

嗚咽と歓喜がない交ぜになった声。
口元に、血のように薄い笑みがにじみ、わずかに引きつる。

自身に向けられる意志の光。
これこそが、心無きジルドレイが焦がれたジャンヌの光。
これほど眩いものが、凡庸な紛い物などであるはずがない。

「なんという…………なんという悲劇だ……まさか貴女ご自身が、それに気づいておられないとは!!」

その声からは、もはや先ほどの哀願は消えていた。
氷のように粉々に砕け散った信仰が、継ぎ接ぎのまま形を成して行く。
同じではなく、都合のいい形を成すように、歪んだ違う形で。

「確かに……自身の光というものは、己には見えぬ。道理です」

氷の花が一輪、彼の足元に咲く。
それは、まるで神像の祭壇に捧げられた供物のように、儀式的で、厳かだった。

「よろしいっ!! ならばこの不肖ジルドレイ・モントランシーが証明致しましょうぞ!
 貴女こそが唯一無二、真なる神聖であると、この世の隅々に至るまで知らしめて差し上げます……!」

ジルドレイの両目が見開かれる。
欠損したはずの右目には、青白い氷のレンズが構築され、幽かに輝く義眼となった。
目としての機能がある訳ではないのだろう。だが、もうそこに忌々しい神の幻影は映さない。
外ならぬジャンヌのためと言う使命感が、その幻影を塗りつぶすように打ち消した。

失われた右腕には鋭利な氷の義肢がせり上がり、冷気が血管のように皮膚下を這っていく。
美しさすら感じさせる彫刻のような形状。
しかし、それは冷たく、禍々しく、まさに異形の象徴。

ジャンヌと同じ顔をした怪人がそこに立っていた。
ジルドレイ・モントランシーは、いまや人を超え、聖女の形をした祈りの偶像と化していた。


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