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Fate/thanatology ―逆行冥奥領域―

1 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/06(土) 23:56:15 ID:5viFYo4Q0


  

                                      .
 ───そこで陀多かんだたは大きな声を出して、「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己のものだぞ。お前たちは一体誰に尋いて、のぼって来た。下りろ。下りろ。」と喚きました。
 その途端でございます。今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、急に陀多のぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて断れました。ですから陀多もたまりません。あっと云う間まもなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、見る見る中に暗の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。
 後にはただ極楽の蜘蛛の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。

                                                     ───芥川竜之介『蜘蛛の糸』



 ◆

2オルフェウスの悔恨 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/06(土) 23:57:24 ID:5viFYo4Q0

 
 
 死んだ人間は蘇らない。
 
 失った命は取り戻せない。
 
 結果を変えられるのは、生者のみの権利である。
 
 
 どんなに時代が流れても、どんなに世界をうつろいでも、覆る事のない不文律として、その言葉は語られる。
 
 曰く、限りある命であるからこそ懸命に生き足掻き、生に意味が生まれる。
 曰く、自然界の摂理を乱し宇宙の均衡を狂わせる行いである。
 曰く、生者より死者を優先しては種の発展が先細って、歴史が行き詰まる。
 曰く、曰く、曰く──────
 壊れた玩具を直してとせがむ子供を宥めるように、言い聞かせるように。それは間違いのない解答を覚え込ませる。

 人は死ぬ。当たり前だ。
 何を語らずとも、あらゆるものはいずれ滅びる。腐る。朽ちる。無に還る。
 提出される言葉はどれも正しい。あって当然の理屈、人も自然も納得する何一つ瑕疵のない事実だ。
 そも起きれば取り消しのきかない絶対の不可逆を死と呼ぶ。
 道徳を論ずるまでもなく、倫理が育つ以前の古来から、ずっと人は答えを目の当たりにしてる。

 だが人は古来から、禁忌に手を伸ばさずにはいられない生き物でもある。
 護国を為した偉大な名君にも、痩せさらばえた奴隷にも、別け隔てなく平等に訪れる『死』。
 それをどうにかして回避できないか。恐怖を克服できないかと、今に至るまで見えない魔法を探し求めている。

  
 吟遊詩人は妻を取り戻す許しを得ながら、狂信者に引き裂かれた。
 不老不死の妙薬を手にした王は、僅かな油断から蛇に薬を掠め取られた。
 神すらも、見てはならないという禁を犯し、多産多死の業を人に負わせた。
 

 死者を取り戻す行為は許されず、上手くいかない。 
 死を遠ざける事は、叶わない。
 
 それは死を恐れる単なる本能なのかもしれない。
 愛する者を喪った怒りを源にした、ひとつの復讐なのかもしれない。
 定命を義務付けられた存在への、全能者からの憐れみなのかもしれない。
 あるいは、夜空を見上げた先の星を掴めないかと思い至った程度の、理由のない希求なのかもしれない。 
 
 人はどうあっても死ぬ生き物なのに。
 命には必ず終わりがあるのに。
 失ったものを取り戻す/そして取り逃す物語を、人は望み、作り続ける。
 
 
 ───この世界も、そんな話のひとつだ。


  ◆

3オルフェウスの悔恨 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/06(土) 23:57:50 ID:5viFYo4Q0



 万全を叶える奇跡は、主の後光も届かぬ地の底に在り。
 彼の地の名は冥界。死後の世界。
 一欠片の雫に、死者が願い望んで創製された死の領域。
 摂理を遡る逆行運河を流出するため、此処に命を招聘し、魂を喚起する。
 
 招かれしは、死の運命を抱く葬者達。
 神秘。異能。意志。それらは全て枝葉に過ぎない。
 過去に死そうが現在も永らえていようが、死が約束された定命の存在であるのが、ただひとつの条件。

 喚ばれしは、常世より起こされる英霊達。
 偉業。伝説。神話。いずれも超然の理にある貴人。
 死者の座に列しながらも積んだ功により仮初の生を許された、蘇りを果たす幽鬼の魂。

 これは新たな冥界下り。
 異界に落とされた、いずれ死すべき生者と、英霊の記録帯より罷り越した、既に死する死者をつがいにした、神話の再現。
 登り切った魂には然るべき報酬を。望む地への生還、秘めたる願いの成就が約束される。
 摂理の反転を禁ずる主が不在の地であれば、今度こそそれは叶えられるだろう。
 
 聖杯戦争───。
 願望機を求めてマスターとサーヴァントが殺し合う魔術儀式が、光なき果ての国で開始される。 


 いざ葬者(マスター)達よ───冥府の深奥にて、生を勝ち取れ。

4オルフェウスの悔恨 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:00:40 ID:q0XenNcQ0


【企画概要】
・版権キャラクターを用いた聖杯戦争を行うリレー小説企画です。
・キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はくれぐれもご注意ください。

【基本ルール】
・マスターとサーヴァントの二人一組で最後の一組になるまで殺し合う。
・勝ち残った者は万能の願望器である聖杯を手に入れ、現世への生還(後述)と、あらゆる願いを叶えることができる。
・いわゆる予選期間は存在しない。概ね『3月上旬』を境にマスターが召喚された時点で聖杯戦争は開始。『4月1日』を本編の時間軸とする。
 
【基本設定】
・いわゆる『死後の世界』に相当する空間が舞台です。(以下『冥界』と表す)
 冥界と現世の狭間に偶発的に発生した『聖杯の雫』が魔力と死者の願いを蒐め続け、万能の願望器の域にまで至ったものが、本企画の聖杯となります。
・マスターは『葬者』とも呼ばれ、冥界下りの神話になぞらえて死者であるサーヴァントをパートナーにして戦う事になります。
・聖杯には願望器以外に、現世と冥界を繋ぐ門の役割もあり、元の世界に帰るには聖杯で生還の権利を手に入れなければなりません。
・マスターは舞台に召喚時、『令呪』と『サーヴァント』、『聖杯戦争の基本的なルールの記憶』が与えられます。
・サーヴァントを失っても葬者が即時消滅する事はなく、令呪が残っていればマスター権も喪失しません。ただし下記のペナルティが発生します。(【特殊ルール1を参照】)

【舞台設定】
・戦いの主な会場は、死者の記憶を基にして造られた都市です。ほぼ東京23区ですが、中には本来存在しない場所もあるかもしれません。
・マスターには会場で生前の記憶に基づいた地位、住居が与えられることもあれば、何もなく放逐されるだけの可能性もあります。ケースバイケース。
・街には住人(以下『NPC』と表す)がいますがあくまで死者の記憶の再現であり、マスターの近親者、知人であっても自我を持ったり特殊な能力を所持している事はありません。
・会場の外は廃墟化した街が広がっています。出る事も可能ですが外の世界には決して繋がってません。
・外では死の想念が渦巻き、死霊やシャドウサーヴァントが徘徊し襲いかかってきます。経験を積んだり、魔力資源にもできますがたいへん危険です。
 
 
【特殊ルール1】
・冥界はそこにいるだけで葬者の運命力……生存の為に使われている当然のような幸運……を消費させ、葬者を死者に近づけます。
 完全に失うと死者として定着してしまい、彷徨う死霊と同質の存在になる=マスター権を喪失し自我も消滅、聖杯戦争から脱落となります。
 たとえ仮に意識を保ち、戦いを勝ち抜いて聖杯を獲得しても願いを叶えられず、生還する事もできません。
・冥界に入ってから死霊になるまでの時間は、何の能力も持たない一般人なら10分程度です。何らかの耐性、サーヴァントの加護によっては時間を引き伸ばせる可能性もありますが、完全な無効化は不可能です。
・会場はこれらのペナルティを免れる安全地帯です。死霊達も外的要因がなければ入ってこれません。短時間の消費であれば運命力の回復も見込めます。
・死霊は葬者の運命力を奪って生者に成り代わろうと襲いかかりますが、これが成功する事はありません。
・サーヴァントを失った葬者は、会場内にいても運命力を自動的に消費してしまいます。この場合のリミットは厳密には定めませんが概ね6時間以内とします。
・運命力はマスターに与えられる基本情報のひとつですが、細かな詳細については知らされていません。
  
 
【特殊ルール2】
・マスターの数に従って会場の広さは変化します。
 コンペ期間中は区外も含めた東京都全域、本編開始時点で23区、以降『マスター権を持つ者が脱落する』毎に会場は狭まっていきます。
・指定のエリアは徐々に風化していき住人が死霊化。冥界と同じになり、ペナルティの免除は機能しません。冥界化が完了するには5分程度の猶予があります。
・除外は概ね外周部の区から時計回りで始まります。具体的な地区は本編の推移に合わせて企画者側からお知らせします。
・会場の変化に住民は気づく事はありません。
・冥界化のルールはマスターに与えられる基本情報のひとつですが、細かな詳細については知らされていません。

5オルフェウスの悔恨 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:01:52 ID:q0XenNcQ0


【候補作ルール】
・通常の7クラス及びエクストラクラス、公式にないオリジナルのクラスを設定していただいても構いません。
 投下の際には必ずトリップ(名前欄に『#適当な文字列』)をつけてください。
・候補作で脱落する組を書くことに制限はありませんが、原作のない名無しのキャラクターに限られます。
・【特殊ルール2】の通り、コンペ期間中は『東京都全域』が行動可能範囲で、本編開始時には『東京23区』にまで狭っています。
・概ね二十三騎前後を採用予定です。企画主の候補作が必ずしも採用されるとは限りません。
・実在の人物、ネットミーム、オリジナルキャラ、公式で二次創作、過激な描写を禁止されるキャラクター、改変されていない多量の他者様の盗作描写については候補作として認定いたしませんのでご了承ください。
・募集期限は『5月7日 午前5:00』を予定しています。状況によって伸び縮みの可能性もあります。


【キャラクターシート欄】

【CLASS】
【真名】@(出典)
【ステータス】
筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具
【属性】
【クラススキル】
【保有スキル】
【宝具】
『』
ランク: 種別: レンジ: 最大捕捉:
【weapon】
【人物背景】
【サーヴァントとしての願い】
【マスターへの態度】

【マスター】
【マスターとしての願い】
【能力・技能】
【人物背景】
【方針】
【サーヴァントへの態度】


【WIKI】
ttps://w.atwiki.jp/for_orpheus/

6 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:02:36 ID:q0XenNcQ0
OPとルール概要を投下しました。
続けてOP2を投下します。

7伊邪那岐の悲鳴 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:03:22 ID:q0XenNcQ0

 始まりは、一滴の雫だったのさ。
 聖杯───凝縮された魔力の塊、無属性の力の奔流。手にした者の心を鏡に写して投影する、砂上の楼閣。
 あらゆるの望みを叶える願望器、などと聞こえだけは仰々しいが、なんのことはない。つまるところは、ただの魔力の集積体だ。
 本来かかる時間と手間をショートカットする小箱。贋作の、そのまた未完成の小さな一欠片に過ぎん。
 過程なき成果を求めて破綻する、当然の末路ってやつだ。現代でも流行ってるんだろ? ファスト化ってやつ。情報ばっかり食ってて、胃にちっとも収まってない。

 まあ、ともかく。それが誰かの手に渡ったのなら、まだよかった。
 それは持ち主の願う世界だろう。
 持ち主の秘めたる願いを、足りずとも叶えようとするだろう。
 だが所詮は想像力だけで形作られた、実のない霧のようなもの。
 奇跡は期間限定で、一夜明ければ夢は覚める。魔力の不足と手段の破綻で、果実は爛熟の前に枯れて落ちて潰れる。 
 本来ならばそれで終わるはずだった。
 特異点も生まず、剪定の憂き目にも遭わない。世界も、願いも、無念すらも朝露と消えるだけの、知られざる話になるはずだった。
 雫の落ちた場所が〝そこ〟でなかったのなら、な。


 天国、地獄、ヴァルハラ、タルタロス……シバルバー───ミクトラン。
 国や信仰だけ呼び名は数あるが、その本質は変わらん。
 肉体が滅びた魂の、死者の行き着く、生涯の後の世界。そういう意味合いの地と思っておけ。
 昔はともかく、今となっては幻想の概念だ。穴を掘れば出てくるわけもない、形而上でしか語られる事のない、それでも在ると信仰されてきた事で道が繋がれた世界の裏側。
 だがその現世と冥界の狭間の、道とでもいうべき座標に、聖杯の雫が漂着した偶然が、以上の前提を覆した。
 極小とはいえ、願望機の素養を備える欠片。異質な重量は道に窪みを生ませ、へこみには彷徨う霊が流れ込み、逃げ出すこともできず密集する吹き溜まりを作り出した。

 溜まりに溜まった彷徨える霊魂は、どうなるか。
 記憶も自我も溶けた霊がなおも抱える思い、単純で、そして切実な願いにも似た『最期の叫び』。
 未練といった想念といえば、だいたいの指向性で縛られる。



『生きたい』。
『死にたくない』。
『生き返りたい』。


 死を恐れる心をオレは嫌うが、否定はせん。
 恐れを知らず戦う勇敢さは戦士の条件だが、死を恐れるからこそ己を奮い立たせて試練に挑むのも戦士の性だ。
 宇宙の真理が解き明かされ、そこに人の生存が記されていないと知っても、奴らは構わず奈落の壁に爪を立てて昇ろうとするのだろう。その徒労は嗤いはしない。
 時間の概念も不確かな領域で幾星霜。増え続ける死霊と魔力はやがて杯を満たし、死出を遡るための坂道を造り出し、望まれた機能を果たそうとした。
 そうして、この世界は生まれた。
 いかなる神話にも組み込まれていない、小さな、新しい冥界というわけだ。

8伊邪那岐の悲鳴 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:04:17 ID:q0XenNcQ0


 
 だが悲しいかな、死者に願いは摑めない。
 結果を変えられるのは、善きにつけ悪しきにつけ今を生きる者に限られた権利だ。
 霞の如く茫洋な霊の手では、杯に手を伸ばしてもすり抜けるばかり。
 幾ら数が増えども、源泉の願いと魔力を嵩増しするだけで、新造された冥界を漂うだけだ。
 
 だというのに、だ。既に満杯になった器は、それでもと受諾した願いを果たさんとした。
 あくまで無私に。空回りする結果になった霊への憐憫は微塵もなく、ただただ機械的に。目的を果たすため。
 天を創り、地を創り、街を創り、民を創った。
 冥界の主にはありがちなクソ真面目さだが………機械はどこまでいっても機械だな。
 人の心を解さず、魂を支配するどころか逆に従わされる冥界神などお笑い草だ。
 どれほど残酷でも冷血でも、死を司る神は厳粛に命を視て、各々の結論を出さなければならない。そうでなくては、冥界に秩序は訪れない。
 だからこんな、生きたいという願いを叶えんが為に、願いを叶え得る生者を死の根元まで引きずり下ろして競わせるなんていう、みっともない歪みを生じさせちまう。


 
 さて。では、ルール説明といこう。
 冥奥領域───其処がこの街の名だ。ま、オレが勝手につけたんだがね。
 二十一世紀初頭の日本、そこの首都を模した街。死者の記憶をかき集めた、はりぼての家と残骸の住民。
 あ? 日本の冥界でもないのになんで東京なのかって? 
 いいじゃねえか東京。オレは好きだぜ。精緻で猥雑で、常に文明の熱で満ちて燃え上がっている。戦争の火種がそこかしこに燻って匂い立ってる。
 なにより高層建築が多い。アレはいい。一斉になぎ倒されてブッ壊される瞬間が最高だ。爽快ったらない。
 オレも含めて東京で騒ぎを起こそうとするヤツの理由は、あの電子回路めいた細かさのシティの中心を、一瞬で更地にするのが気持ちいいからだと思うワケ。
 だいいち、外観なんて些細な話だ。この街の機能は領域───内と外を分ける境界なんだからな。

 領域の外、つまり都外はとうに冥界と化している。
 いや、『領域の内のみが冥界でなくなっている』か?
 当然だが、冥界は死者のための世界だ。地上から落ちてきた生者へのセーフティなぞ、始めから用意されてない。墓荒らしと見做され殺されても文句は言えん。
 水も空気も、生きている命が口に入れても受け付けない。
 冥界の食物を食べた者は地上に帰れない伝承は各地にあるが、まさにそれだな。 
 生命が常に消費している、死の危険に遭わない幸運。
 死が満ちた冥界には必要のない、生存の為に必要な幸運───ここでは運命力を呼んでおくか。
 ようは酸素と思え。領域を出るのは海を素潜りするのと同じだ。短時間なら潜行できるし帰ってこれるが、潜る時間が長いほど呼吸が苦しくなり、再び潜れる体調に戻るまで時間がかかる。
 
 生者が冥界に身を置けば、生命活動の信号と、この運命力が低下していく。
 回復の見込みがないほど失い、完全に消えたなら……そこから先は言うまでもないだろ?
 誰と戦わず殺されることもなく、プレイヤーは不戦敗なんてシケた結果が待っている。
 復活を夢見る死霊や、敗れた英霊の残滓が徘徊して襲いかかってくるなんてのは、脅威としちゃ序の口ってワケだ。

9伊邪那岐の悲鳴 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:06:13 ID:q0XenNcQ0

 別に脱出ルートがあるわけでもないんだから、近づく理由もない、外に出なければ危険はないだろ、と思ったな?
 このあたりの仕組みは中々どうしてよく出来ていてな。嫌でも外に気をつけなくちゃならないタネがあるのさ。
 領域の範囲は東京全土と言っただろ? アレ、実は現時点での話でね。脱落者が出ると縮んでいくんだ。
 葬者ひとりにつき地区ひとつってとこか。このペースなら……そうだな、一月も経たんうちに区外は切り捨てられるだろう。
 マスターの数が減って会場が手広になる時の、後半戦用のルールだろう。切り詰めて安全地帯が減れば接触の機会もおのずと増える。 

 海に浮かぶ孤島をイメージしろ。
 他の島は一点も見当たらず、脱出の舟もない。
 自給自足できるだけの資源はあるが、全員分にはとても足りないので遠からず奪い合うしかない。
 さらに時と共に潮位が上がっていき、満潮になる頃には島全体が沈んでしまう。
 救助の舟がやって来るのは丁度満潮の時期。足場は1人がギリギリ息をできるだけのスペースしか残されていない。
 爆弾が敷き詰められた危険地帯と、時を経るごとに削られていく安全地帯。このニ要素で舞台会場は出来ている。
 単純な椅子取りゲームさ、分かりやすいだろ?
 
 主催者もおらず、誰が考えついたでもないのに、こうも事細かく設定されてるとはね。
 指向性はあるとはいえ自然の淘汰でここまでなりはしない。どっか他所のトコから引っ張ってきたのかね?
 いや、オレじゃねえよ。オレならこんなぬるいルール設定するわけないだろ。
 より苛烈に、よりフェアに回るよう盤面を整える。結果は振ったダイス次第ってな。
 今回のオレはあくまでプレイヤー側だ。ルールに物申しても勝手に書き換えるほどの越権はせん。文句を言うにも家主は不在だ。
 無法の国で、無法なりにまかり通ってる法則がある。戦争にも礼儀と作法は必要だ。
 そういう意味じゃ、オレにも選べる権利があるってワケだ。こういう機会は中々無くて新鮮で、悪くない気分だ。


 以上だ。
 必要な情報はもう見せたということだ。これ以上は見せられんね。
 売り値の話じゃない、オレの在り方の領分だ。どれだけ積まれても売れないものはある。人も神もそこは同じさ。
 なに、そう焦るな。然る時、然る場所が訪れればキチンと話してやるさ。
 少なくとも……薪を囲んだ静寂の中でする話じゃない。
 しかして待つがいいさ。それまでお互い生きていたら、だがね。

10 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:06:45 ID:q0XenNcQ0
OP2の投下を終了します。
続けて候補作を投下します

11Memento mori ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:07:42 ID:q0XenNcQ0

 瞼を焼く痺れるような熱に、思わず目を開けた。
 直後、眼球を貫く閃光。あまりの光量に視界は白しか見えない。その一瞬で世界が消えて、なくなってしまったと錯覚する。

 …………いいや。
 目は、はじめから開いていたのかもしれない。
 熱は、いうほど熱くはなかったのかもしれない。
 光は、そんなには強くなかったのかもしれない。
 まあ要するに、何も分からないし、何も考えていない。
 頭は空白。
 胃は空洞。
 肺は虚洞。
 主観と客観を切り分ける能力が、脳の判断を下す思考が、完全に停止している。
 母親の胎から取り上げられた赤子と同様。
 外からの刺激、自己に触れる世界の感覚への、過剰すぎる反応。
 おまえはいま生まれたばかりと言われれば、そうかと納得するし。
 おまえはとっくの昔に死んでいた幽霊だと言われれば、なんの疑問もなく頷いていただろう。

「ッ────────」
 
 光から、咄嗟に顔を庇おうと腕を掲げる。影に隠れる顔。黒く染まる手のひら。
 それにどうしてか、ありえないものを見たかのような気分になる。
 
「        ?」

 驚いて───何に対してすら理解もせず───声を上げた気がしたが、何も出ない。空気すらも吐き出されない。
 喉は、バリバリと音を立てて裂けてしまいそうなぐらい乾いている。
 それから時間差で、滲み出た唾液が下に降りていくと、音を立てて飲み込んだ。水分が乾きに沁み入って、そこでやっと異常に向き合う余裕が出来てきた。
 
 これはおかしい。何かが違う。
 普段当たり前にしている動作が、どうにも慣れない。
 体自体は滞りなく動くのに、それが途轍もないぐらいに違和感が拭えない。自分の体が、自分じゃないみたいだ。
 そう体、体だ。自分が動かすもの。心の器。魂が抜ければ朽ちるだけの骸。
 これが自分の体というのに、確信が持てていない。
 当たり前に動いてるくせに、自分が■■ているのに、自覚が足りていない。

 恐る恐る、慎重に胸に手を置いてみる。
 視線を下ろして映る、自分のものらしき体は、黒を基調とした、どこかの学園の制服らしいものを着ていた。
 ブレザー越しに、指が触れる。
 伝わる振動。微かな温もり。前後する胸。骨と肉を叩く音、原始的な命の証。
 
「……生きてる」

 今ある事実の確認、それだけを声に出して確かめる。
 それで、周りの景色は様変わりした。
 眼が映すだけの色が生彩を取り戻す。耳に入るだけの波が音色を鳴らす。髪を揺らすだけの大気の流れが、息吹になる。
 取り戻した五感への刺激が彩りになって、五体が受け止める。
 命の鼓動が早鐘を打つ。自分が、生きている何者かであるという事。
 そこには喜びと───何故か疑問が。

12Memento mori ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:08:21 ID:q0XenNcQ0

  
 謎の戸惑いを抑えながら足を動かす。
 状況を知るためと気を紛らわせたい、両方の意味があった。
 辺りは草原だった。足も隠せない短い草が一面に広がっている。
 空に太陽が昇ってる事から時刻は昼らしいが、周りはよく見えない。霧が出ているからだ。
 奥の方でうっすらと見える黒々とした塊は森のようだが、ここからはまだ遠い。

 霧は濃く、周囲全域を包んでいて、進む先を見せてはくれない。
 何も見えないし、誰もいない。
 けれど、不思議と満ち足りていた。
 歩く内に鼓動も落ち着いてきた。体を動かしてるのもあるが、ここの空気のおかげもあるのだろう。
 ここが何処かも分からず、自分が誰かもまだ思い出せないのに、進む足に迷いは生まれない。向かう先が分かってるように。
 なんとなく。
 こういう場所でゆっくり休めば、旅の疲れも綺麗に落としてくれそうだなと、考えて。
 
 そうして歩き続けて。
 時間を数えるのは考えていなかったら、あれからどれだけ経ったのかは知らないけれど。
 いつの間にか、目の前で燃え上がる積まれた木々を見つけた。
 キャンプで使うような小さなたき火だが、ここまで近づいて気づかないはずがない熱があるのに。

 たき火の前にある平べったい石には、一人の男が腰掛けている。
 金髪で、洒脱な服を着た男はこちらに気づくと、軽妙に話しかけてきた。
 
「なんだ、ようやく来たのか。
 あと一服しても起きないようならこっちから出向くとこだったが……手間が省けたな」

 何度も席を共にした付き合いのある相手みたいに、気安く挨拶をしてきた男。
 知らない。
 何も憶えてないといっていい状態だが、それでもこの男とは完全な初対面であると疑いなく言える。
 無反応でいるのを男は機嫌を損ねた様子はなく、けれど何かに気づいて、怪訝な顔でしげしげとこちらを見てきた。
 
「……おい、ちょっと待て。なんだそりゃ?
 マジかよ。まさかお前、体だけで来たのか? 魂が楔に使われてちゃそうなるのが理屈だが……ひょっとしてだが、お前、記憶はあるか?」
 
 首を横に振る。男は「うわ面倒くせえ……」とばかりに顔を手で覆って天を仰いでいる。
 例えるなら、露店で呼び止められて紹介された品が琴線に触れて一目で購入を決めたら、オプションやら欠陥仕様を後から説明されて大損をこいた、ような。
 ……自分で例えてみて、少し、胸にささくれ立つものを感じる。
 ひとりで嘆いてひとりで納得して黙らないでほしい。こっちは何から何までさっぱりだ。不良品だのと扱われてはたまったものじゃない。
 戻ったばかりの言語を総動員して男に抗議しようとして、突如───存在しない記憶が脳内に溢れ出した。

「─────────────────」

 冥界。魂。雫。オルフェウス。霊。聖杯。黄泉比良坂。蘇生。マスター。葬者。英霊。サーヴァント。戦争。死。
 理屈なく脈絡なく、こっちの都合をお構いなしに要らない情報が詰め込まれていく。  
 代わりに欲しかったものが塗り潰される。
 記憶が飽和して、脳が容量を空けようと底に沈殿してる廃棄物から圧縮していく。
 記憶のない脳では記憶の取捨選択ができない。思い出せないもの、不要と誤認したものを端から順に棄てられてしまう。

13Memento mori ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:09:05 ID:q0XenNcQ0

 
 真っ先に閉じられるのは視覚。次いで聴覚。
 目も、耳も不要だ。何も見ず聴かなければ、これ以上記憶を更新することもない。
 新しい記録を残そうと旧い機能を削いでいく。名前、不要。思い出、不要。
 あるのに使われないのなら無駄なだけだ。無駄は切り捨てるのが効率的だ。
 空いた余裕に情報を埋めていければそれでいい。だからあるだけで無駄なものはもっともっとぜんぶ捨ててすてて──────。
 
「……?」

 鼻腔をくすぐる細い指。
 瑞々しい果実が鼻先に押し付けられてるような。
 華やかな香りのする煙がまだ用をなす嗅覚に吸い込まれると、激流だった情報が急に小川のせせらぎに和らいだ。
 足場が安定して、自分の足で立っているのを実感できている。
 嗅覚を基点にして、他の感覚も次第に元通りになっていく。
 
「コパルの香煙だ。先人達がお前を導いてくれる。
 ここに竜舌蘭(マゲイ)の棘で刺して出る血を振りかけるのが正式な手順だが……今はいいか」

 元通りになった目と耳を働かせると、金髪の男が鮮明に映った。
 指先で転がしてる小さな塊は、鉱石……樹脂だろうか。香りの源泉はそこかららしかった。
 
「よし、安定したな。まあまずは座れよ。疲れてるだろ」

 言われるがままに、たき火を囲んで対面にある岩に座る。
 折り曲げた腿が鉛のように重く、関節の節々が軋む。言われた通り本当に疲れてるらしい。
 
「まずは互いに自己紹介といこう。
 たとえ魂が抜けたとしても、肉体にも記憶と思いは蓄積される。名前はその最たるモノだ。ひとつの言葉に、無数の意味を織り込ませてある。
 お前が何者であるか、すべてはそこに記されている」

 正面に向き合った男が、両腿に肘を乗せて指を組む。
 声も姿も変わらないのに、紡ぐ言葉は厳かさで満ちている。
 霧のかかる空気、火の中で弾ける木片、冷えた石の椅子、その全てが言葉に率いられていく。
 声の主を敬うように。畏れるように。神を迎える祭壇に。
 
「サーヴァント、アサシン。テスカトリポカだ。
 アステカ世界。戦いと魔術、美と不和、夜と支配、嵐と疫病、罪と法、幸運と不運、摂理と対立する二者、そして、その衝突から生まれる躍動を司るもの。
 さあ問おう───お前はどんな葬者(マスター)だ?」
「───────────」

 黒く輝く、鋭利な刃物が、胸を突き刺す。
 痛みがないまま、ナイフで胸板を開かれ、心臓を抉り出されていく。
 殺されたと、百人が百人抱く光景。自分がそうなる様を、比喩なくイメージにして見せられながらも、底から恐怖したり、掻き乱されはしなかった。
 
 死の喚起。臨死の走馬灯。
 自分にとってそれは、違うものだった。それはもっと血を噴き出す躍動のない、もっと無機質な手触りで。
 そう、なんの道具も持たなくても、こうして指を一本立てれば───。

 右手を掲げ、人指し指を伸ばす。
 手の甲から燐光が溢れ、赤い紋様を描いて熱を持ち始める。
 その帯びた熱のまま、解き放つように唱える。

「ペ・ル・ソ・ナ」

 番え。構え。引き、絞る。
 撃ち抜かれる頭骨。
 こめかみに沿えた指から放たれる、蒼い弾丸。
 脳漿は飛び散らない。代わりに撒かれるのは背後の影。何も持たないと項垂れていた。さっきまでの過去の自身。
  
 霧はもう消えた。
 心の影より生じた自分に、置き去りにされていた自我を手渡される。
 撃たれた頭はさっきより一層クリアに澄み切っていて、浮かべた言葉はすぐに手に取れる。

「俺は……」

 喪われていなかった繋がりを思い出す。
 最初に贈られたもの。何度も呼んでくれたもの。大切な、生きてきた証。
 強く、どんなに永く眠っていても今度こそ忘れないために、強くその名前を口にした。

 
「俺の名前は───結城、理」

 
 契約は此処に。休息の楽園、戦い疲れた者を慰撫する地。
 冥界より一足先に、神と少年の邂逅はここから始まった。


 ◆

14Memento mori ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:10:33 ID:q0XenNcQ0



 それから。
 理はアサシンに、自分の来歴を話し出した。
 理自身、状況の把握が追いついておらず、記憶の確認も兼ねて話しておきたかったのも理由だった。


 月光館学園に転向してからの一年間。
 一日と一日の狭間に存在する影時間。
 影時間の影響で出現する様々な怪異。
 月に昇る塔タルタロス。
 心の影なる魔物シャドウ。
 人の精神が神秘を象る力ペルソナ。
 クラスメイト、先輩、後輩、機械の少女。特別課外活動部・S.E.E.S.との冒険。
 立場を異にするペルソナ使いストレガとの対立。
 仲間の喪失。敵との別離。
 地球の生命の死の根源ニュクス。
 全てを忘れて滅びを待つか、死に立ち向かうか。究極の選択。
 絆が結んだ答え、宇宙(ユニバース)。
 魂を鍵にした、人の悪意からニュクスをマモル大いなる封印。
 取り戻した日常。3月5日。愛しい仲間に囲まれた卒業式。
 後悔のない、喜びも悲しみも受け入れた先に咲き誇る、煌めきの一年間。


 アステカの神の名を語る男は意外に聞き上手で、常に話題を切らせなかった。
 堅気に見えない凄みのある顔で興味深く耳を傾け、テンポよく相槌や感想を軽妙に返し、話題を振っては膨らませたりして、話す側も飽きないように場の温度を下げさせなかった。
 熟練の心理カウンセラーの診断を思わせる、それは鮮やかな話術の手並みで、気づいてみれば、理は話すべき事を全て話し終えた。
 同時に、自分の記憶が完全に残っている事を確かめて、少し安堵した。
 死んだ後とはいえ、二度と忘れまいと誓ったものまで零れてしまうのは勘弁願いたい。
 今は臓腑ごと胸の蟠りを吐き出したかのように体が軽く、不思議な浮遊感に包まれてる。

「……なるほどねえ。
 あらすじは大体取り寄せていたが、やはり直接人に語らせる方が気分がアガるな。臨場感が違う。単なる情報じゃなく物語を食った気分になれる」

 聞き終えた男……アサシンは満足げに頷き機嫌をよくしている。
 成熟してるが暗殺者という語源に似つかわしくない明るい表情。殺し屋か、武器商人の方が第一印象に近い。
 しかし記憶が戻っても相変わらず面識がない筈だが、この距離感の近さはどうしたものか。
 サーヴァントというのはみんなこうなのだろうか。仕入れたばかりの知識に、早速理は疑問を抱いていた。

「さっきから気になってたけど……どうして、そんなに俺たちの事を知ってんの?」
「これでも全能神でね。人間の体を使ってる今じゃ出来る事は限られてるが、契約者の過去を閲覧するのはワケもないさ」
「え」

 さらりととんでもないプライベートの侵害を暴露された。
 実行した能力より、行為に何の悪気も感じられない方がよりとんでもない。

「じゃあ俺が話さなくてもよかったんじゃん……」
「見聞きするのと当事者に話させるのとじゃ見方も変わる。そしてその甲斐はあったとも。
 いい戦い、いい戦争だった。全生命の絶滅って規模のデカさが特にいい。残らず死ぬのもいいが、勝利の栄光も忘れられるべきではない。
 よく戦ったペルソナ使い。精神の澱を武器に引き金を引いたお前たちの一年間、しかと見た。このテスカトリポカが讃えよう」
「……え?」

 数秒間呆けて、間抜けな声が無意識に出てしまった。
 栄光? 讃える? 今の物語を指して?

15Memento mori ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:11:08 ID:q0XenNcQ0


「勝者には称賛があって然るべきだ。命を懸けて戦い、勝ち取った者にはそれに相応しい報酬がなくてはならない。
 世界を救っておきながら誰にも憶えられず、称えられもしない。そんな成果はオレは認めん。それではお前の足下の敗者があまりに報われん。
 だったら、まず憶えてる者が真っ先に称賛を送らなきゃならんだろう」
「……褒められたいから頑張ったわけじゃな、ないんだけどな」
「同じ事だ。お前の気など知らん」

 目線を下に降ろす。
 指摘とも叱責とも取れる声に耐えかねたからではない。
 倒した相手を貶めたくなければ、倒した己を誇れという言葉には、確かに真がある。
 許されない事を幾つも犯し、仲間の命を無慈悲に奪いもしたストレガのメンバーにも、一連の事態の被害者の側面があり、その記憶も影時間の消失と共に忘れ去られてしまった。
 一味であったチドリも、敵の立場だった順平と心を通わせ、絆を結ぶ事が出来た。
 彼らが関わった事で起きた怒りも悲しみも喜びも、直に味わった自分達しか憶えていないのであれば。
 許しは出来ずとも、胸の内で弔いの花を捧げるくらいの義務は、あるのだろう。

「……忘れないよ。彼らの事も、ちゃんと憶えてる」
「そうか。ならいい。奴らもここに来たらそう伝えといてやるよ」 
「ここって……そういやどこなの? 聖杯戦争、とか、冥界、とか言ってたけど」

 見渡す限りの草原には戦争どころか人の気配すらない。ここで何とどう戦えというのだろう。

「此処はオレの領域だ。召喚の合間に割り込んで先に招待した。
 とっくに『死んでいる』お前にとっちゃ、冥界よりお似合いの場所だよ」

 正確に動いてる心臓が、ほんの少し硬直する。
 心筋の止まった痛みをもたらす言葉も、理が受け入れるのにはその数秒で済ませられた。

「そっか。死んでたんだっけ、俺」
「結果的にはな。魂を抜かれて肉体のみが弾き出された状態を死と呼べるのか、オレには冗談みたいな話だ。燃料も動力も入ってない車みたいなもんだろ」
「燃料……ああ、そんな感じ。それでもけっこう保った方だと思うよ」

 大いなる封印───ニュクスの本体を眠りにつかせる為、魂を鍵として使ったあの時点で、理の死は確定した。
 本来ならそこで生命活動を終えるはずだった肉体……魂の残滓しかない骸同然の状態で動けたのは、約束があったから。
 世界を救うような偉業じゃない。先輩の旅達を見送り、自分達が階段を一歩登るその時を、全員で共有しようなんていう、小さな、取るに足らない約束。
 絶対の死をも覆してみせたくなるぐらい、大事な誓いを果たしたかった思いだけで、最期の時間まで耐え切れたのだ。

「自分で心臓抉り出して神に捧げたってのに能天気なことだ。
 最期のお前の選択は戦士ではなく聖者の類、自己を厭わぬ献身というやつだろう。
 何がお前をそこまで駆り立てた。自らの魂を犠牲にして世界が回るのを善しとしたか? 事態(コト)の発端を引き起こした自責からの罪滅ぼしというやつか?」
「守りたかったから。それだけだよ」

 迷いなく即答する。
 決断するまでに、それはさんざんしてきている。

16Memento mori ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:11:47 ID:q0XenNcQ0


「戦争とか、死ぬとか、楽しそうに話してるけど、どっちも俺にはあまり分からない。うん……どうでもいい。
 知っている誰かが傷ついたり死ぬのは嫌だし、怖い。
 そういうのを少しでも無くしたい。もっとみんなと一緒にいたい。頑張れた理由なんてそれぐらいだよ」

 シャドウ融合実験の事故での両親の死。
 体を苛む痛みと罪に苦しみながら向き合った荒垣の死。
 ニュクスが目覚めた時に起こる、全ての人類、地球の生命の死。
 どれもが辛い体験だった。
 理に消えない疵を刻み込み、己を苛む疼きになった。

 番外の死のシャドウ・デスの顕現に図らずも自分が関わってると知った時。
 ニュクスに関する記憶を忘却し、死の恐れを持つ事なく安らかに死ねる選択を取れるのが自分だけだと知った時。
 迷わない時間はなかった。
 恐れない日々はなかった。
 仲間を苦しませるのも、無謀な戦いに連れて行くのも、そのせいでみんなの気持ちが荒れていくのも辛かった。

「俺が頑張れたのは俺が特別だからじゃない。どんなに特別でも、みんながいなければここまでやれなかった。
 楽しくて、馬鹿らしくて、少し嫌な事があっても笑い飛ばしてくれる人が傍にいてくれた」

 苦悩の末に、理はニュクスを倒すと決断した。
 答えを決められたのは、自責や罪滅ぼしでも、特別な資質を宿した使命感とやらに目覚めたからでもなかった。
 この一年、自分を励まし育ててくれた仲間とのなんでもない毎日であり、街の人々との賑わいの声。
 そういったものが、善きものに映っただけ。

「そういうものが守りたくて、その為に戦った。俺は本当に、それだけなんだ」

 それこそが、絆(コミュニティ)。
 愚者が宇宙に至った旅の、命の答え。
『死』に憑かれた少年の酷薄に短い生涯を、間違いじゃなかったと胸を張るに足る、存在証明の理由だった。


「そうか。
 薄々分かっていたが、やはり悪印象しかないな」

 テスカトリポカは淡々と返した。
 表情の削げ落ちた、嫌悪の顔。さっきとは別人……本質は変わらないまま方向が変わったというべきか。

「あれだけ死に触れておきながら、お前は他人の死を嫌いすぎる。いや触れすぎた故か?
 お前の魂は確かに極上の供物だが、それひとつで収められるほど戦争は甘くない。あともう一人の死でもまだ足りないぐらいだ」
「……それ以上は───」

 口にしたら許さない、と言いかけて、ぐっと堪える。
 実際口に出せば、それこそ本当に殺し合いに発展しかねないと反射的に察して。

 この時初めて、理は男に対して明確な反感を抱いた。
 それは予感と言い換えてもいいかもしれない。
 死を知るがゆえに無差別に降りかかる死を許せないマスター。
 死を知るからこそ戦争という命の循環を回す事を肯定するサーヴァント。
 たとえ悪意はなくとも、一人の死を軽く扱う自分の相棒となるこの神とは───最後まで反発し合うしかないと。

「ああ、これ以上は時間の無駄だな。そろそろ帰すとしよう。残りの話は戦場からだ」
「いちおう聞いておくけど……このまま帰って退場ってわけにはいかない?」
「無理だな。お前はこの儀式に選ばれ、このオレを召喚した。その後に待つのは戦いだけだ。
 テスカトリポカを招いた者に戦わずして死ぬ未来など訪れない。それとも今殺して欲しいか?」
「それは……困るな」

 一度死んだ身でも、どうやら命は惜しいと思えるらしい。ここで知った中で、数少ない良いことだ。
 それも相棒に殺されかかってる状況でというのは中々笑える、いや笑えないが。

 「お前の戦いを俺は大いに評価する。地上全ての『死』の根源、正真正銘の死神を、命を以て鎮めた行動、実に見事だった。
 だが今後お前に従うかは別の話だ。気に食わなければ即座にコイツを眉間にブッ放す。俺が死ぬべきだと判断したら迷わず殺す」
「それをさせないって、言ったら?」
「そりゃあ、お前、交渉決裂の後といったらお決まりだろ。銃声、怒号のフルコースってな」

 いつの間にか手にした拳銃を突きつけて戦争の神は笑う。
 言い分は滅茶苦茶だが、握る銃身は恫喝でも脅迫でもない、真の殺意であると理解を強制する。
 気迫に呑まれまいと気を強く持つが───足元が瓦解する感覚がして、意識が急速に墜落した。

「冥界でまた会おう、結城理。
 せいぜい足掻き、どこまでも進め。敵いようのない脅威と戦う人間、殺されようとも諦めない人間であれば、戦争の神はお前を優遇する。
 ああ、次会う時までには質に入れるいい武器を見繕っておきな。それでオレの機嫌も多少は良くなる」

 遥か頭上からの声。
 助言のような、激励であるような響きを最後に、あらゆる感覚が闇に溶けた。


 ◆

17Memento mori ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:12:01 ID:q0XenNcQ0



 深夜零時。
 時計が割れる事なく、住人が棺に変わる事なく、空が翠緑に濁る事なく。
 一年ぶりの、平等に訪れる普通の夜に目を細める。

 代わりに、どこか遠くで聞こえる喧騒の音。
 刃の軌跡、弾丸の炸裂。 死の鎌の音色。
 地上とそう変わりない場所のベッドで目を醒まして起き上がる。
 直後、見計らったように傍らで振動する携帯。
 開いて見れば、表示される番号。記憶になく、断りなく登録されていた名前。

「……」

 息を深く吸って、深く吐く。
 これから起こる混沌と争乱に備えて呼吸を整える。予感を思うと頭が痛くなるが、見てみぬふりをするわけにもいかない。
 まだあの男に、聞けてない事が無数にある。
 人間の命を世界を回す燃料と捉え、死に一切悲観しない、苛烈で残酷な戦争の神。
 反発して当然だし、自分もそうしたが、何故だか嫌悪はしていなかった。
 潔癖なまでの死への姿勢。人間性を発露していながらも何処かシステムじみた生真面目さ。
 自分の内側で育ったデスの人間性───望月綾時を、どこか思い起こさせるものだっただろうか。
 なら話をしたい。対立は避けられずとも、前ほど時間は少なくても、彼とはもっと関わっていたいと思う。
 望まずとも自分が招き寄せてしまったとすれば、尚の事だ。


 部屋を出ようとして───ふと、壁に画鋲で刺しているカレンダーに目が向く。
 電気の消えた暗がりでも、窓からの月明かりで数字ははっきり見えていた。

「あんがい……長い眠りでもなかったかな」

 3月6日。
 眠りに就いたあの日から、まだ1ページ分しか進んでいない日付けを見て、自然と口元が綻んだ。
 今度こそ部屋を後にする。パタンと閉じられた扉。無人の室内で、月光だけが蒼い蝶のように煌めいていた。

18Memento mori ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:12:15 ID:q0XenNcQ0





【CLASS】
 アサシン

【真名】
 テスカトリポカ

【性別】
 男性

【属性】
 混沌・善

【ステータス】
 筋力A 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運C 宝具B

【クラス別スキル】
対魔力:A
陣地作成:A
神性:C
全能の智慧:A
戦士の司:A
 ティトラカワン。
 意味は『我々を奴隷として司る者』。
 契約者に死を恐れぬ戦いを強いる。テスカトリポカと契約した者に自然死は許されず、戦いの中でその命を終えなくてはならない。
 その苛烈な誓約の代償として、契約者は自身の限界を越える活力を与えられる。
 マスタースキルの能力を向上させる。今回の場合、結城のペルソナ能力を、サーヴァントに対抗できるレベルにまで高めている。

【固有スキル】
闘争のカリスマ:A
 ケツァル・コアトルが生命体の『善性』『営み』を育み、奮起させるカリスマであるように、そのライバルとなるテスカトリポカも生命体を扇動するカリスマを持っている。
 『悪性』『闘争』を沸騰させる攻撃的なカリスマ。
 致命傷を受けてもなお戦う、あるいは、死してなお戦おうとする戦士を、テスカトリポカは優遇する。

黒い太陽:EX
 黒曜石に映し出される太陽。未来を見通し、万象の流れを操作する、全能神の権能。
 “この世にないもの” は操れないが、“この世にあるもの” であれば自在に組み替える事ができる。
 たとえば『勝利し、敗北する王国』があるとしたら、『敗北し、勝利する王国』と、起きる出来事の順序を変え、結論を変える事も可能。
 ただし、あまりにも摂理に反した操作はテスカトリポカ本人にもペナルティを与える事になる。
 右足の黒曜石に太陽が映らなくなった時、テスカトリポカの神格は失われ、ただの “人間” になってしまう。

山の心臓:A
 テぺヨロトル。
 ジャガーたちの王を示す名であり、また、巨大なジャガーの名でもある。
 神話において、太陽と化したケツァル・コアトルの腰骨を砕いて地に叩き落とし、世界中に満ち溢れていた巨人たちをすべて喰い殺したテスカトリポカのジャガー形態にして、その外部に投影される魂の一部。

【宝具】
『第一の太陽』
ランク:B 種別:対界宝具 レンジ:0~999 最大捕捉:999人
 ファーストサン・シバルバー。
 本来なら『ナウイ・オセロトル』、あるいは『ミクトラン・シバルバー』が正しいが、現代かぶれしたテスカトリポカによってこのように。
 マヤ神話の冥界シバルバーと同一視される地下冥界ミクトラン、休息の楽園ミクトランパの支配者たるテスカトリポカの権能を、彼が太陽として天空にあった第一の太陽の時代ナウイ・オセロトルの力と融合させたもの。
 地上のあらゆる物理法則を支配し、万物を自身の定めた摂理に従わせるが、自身もその摂理の影響下に縛られてしまう。
 ───すでに滅び去った巨人たちが闊歩する第一の太陽の時代は、冥界にその痕跡を残すのみであるため、その力を取り戻す、または地上に現出させるということは、必然的に冥界そのものを地上に出現させるに等しい。

【weapon】
第一再臨時は銃(当たらない)や手斧、第二再臨時にはジャガーの爪を用い、雨や嵐などの自然現象を操り、黒耀石の刃を射出する。

【人物背景】
 全てが滅びても残るものを知る者。

【サーヴァントとしての願い】
 結城理に新たな闘争の場を。

【マスターへの態度】
 地球全ての生命に訪れる『死』を退けた勇者として評価し、称賛を送っている。
 とはいえ死に抗う戦いはしたものの、敵を殺さんとする意志の薄弱さには嫌悪感を示す。
 召喚に応じたのは縁を辿られたのもあるが、繋がった瞬間全能の権能で彼の過去を読み、手にした報酬があまりにささやかだったのが気に食わなかったため。
 救いようのない脅威と戦い、確かに勝ち抜いた帳尻を合わせるべく、蘇生の権利が得られる本企画を大いにプロデュースするべくウキウキと準備に勤しんでいる。
 個人に味方せず、死ぬほどの試練を課し、勝ち残れば褒め称え、死すれば楽園で労をねぎらう。
 マスターにとってありがた迷惑でしかないが、神とは、テスカトリポカとはそうしたものだ。

19Memento mori ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:12:28 ID:q0XenNcQ0



【マスター】
 結城理@PERSONA3

【マスターとしての願い】
 特になし。

【能力・技能】
『ペルソナ能力』
 心の中にいるもう1人の自分。死の恐怖に抗う心。困難に立ち向かう人格の鎧。
 神話の英雄や魔物の姿の形を取り、固有の能力を使い戦闘を行い、使用には精神力の消費を伴う。身体能力も向上する。
 タロットのアルカナの名称で属性分けをしているが、理はそのいずれにも該当しない『ワイルド』と呼ばれる代物。
 生来の素質に加え、体内に13体目の大型シャドウを封印される特殊事例も合わさって、一人につきひとつが原則のペルソナを複数使い分けて行使できる。
 ペルソナが落とすアイテムを合成する受胎武器、複数のペルソナで同時攻撃するテウルギア『ミックスレイド』と、その能力は一線を画す。
 能力の追加には本人の精神力の成長、殊に他者との交流で見出す「絆」が重要とされる。またこれと関連してるかは不明だが基本どの分野でもプロに通じるハイスペック。
 アルカナの旅路を終えた理は全てのアルカナの最上位ペルソナまで解放し、その果てにある奇跡の力、『宇宙/ユニバース』に到達しているが……。

『召喚銃』
 拳銃の形をしてるが殺傷力はない。自分に向けて使い、死のイメージを喚起する事でペルソナ能力を発動する。

 戦闘では主に小剣を用いる。他の得物も問題なく使いこなせる。
 武器も召喚銃も現在は所有してないが、いずれテスカトリポカから送られるだろう。

【人物背景】
 命のこたえを得た者。

【方針】
 聖杯戦争に関してはまだ未定。ただ人が無差別に死ぬような事態は止めたい。 

【サーヴァントへの態度】
 ある意味で最大の敵。願い、方針が共に相容れない。
 でもお互いのコミュ力が高く「死」への潔癖なまでの姿勢から嫌悪はしていない、不思議な関係。

20 ◆HOMU.DM5Ns:2024/04/07(日) 00:12:58 ID:q0XenNcQ0
以上で投下を終了します。
皆様の投下をお待ちしています。

21 ◆C0c4UtF0b6:2024/04/07(日) 17:55:51 ID:sBnvMa0A0
投下します

22曇天 ◆C0c4UtF0b6:2024/04/07(日) 17:56:10 ID:sBnvMa0A0
目が覚めた――どこの部屋だ――?

見知らぬ天井、整えられた、少女の部屋。

知らない――こんな場所――

窓を見ても見える景色は手前に住宅、奥にビル群。

私は――一体――

困惑の渦に飲み込まれている少女を後ろから男が声をかける。

「よーやく目覚めたか、ずいぶん待ったぜコノヤロー」



少女、乃木若葉は困惑から、脳に刷り込まれた記憶を蘇られせていく。

「…聖杯戦争…ずいぶん嫌な内容だ…」
言ってしまえば殺し合い、願いを得るため、エゴを押し付けあう。
おそらく、彼女の「能力」の名前とは相反するような内容だ。

「んで、どうすんのさマスター、聖杯、掠めに行っちゃうの?」
「そんな訳無いだろセイバー…ずいぶん英霊に似つかわしくない男だな…」
呆れながら見据えた先にいるのは、銀髪の死んだ目の男。
英霊、というのにはだらしなく、やや見劣りしてしまう。

「まぁお前の態度見るからに、人殺しハンタイ!てのは間違いねぇわな、それは全く持って俺は同意だ、無駄な血は見たくねぇしな」
「…その心は?」
「血で服が汚れたら大変じゃん?」
「まぁ…確かにな…っておい!」
正直、掴みどころのない発言に振り回される。
こんなのを引き当ててしまった自分を恨む…そんなことを考えてる時であった。

23曇天 ◆C0c4UtF0b6:2024/04/07(日) 17:56:32 ID:sBnvMa0A0
「!」
セイバーが咄嗟に振り向く、おそらく、その者はセイバーを見くびっていたのかもしれない。
若葉の方から行けばよいのを、わざわざセイバーの方に来た。
しかし、現実は甘くなかった、そして、セイバーの力を目にすることになる。

「取らせねぇよ」
鋭い眼光が襲撃者を見つめ、襲ってきたアサシンを木刀で突く。
その木刀はただの木刀とは思えない、魔力が籠もっているのもあるが、それ以上に、突いた時の音が、まるで真剣の如く。

「安安マスター取らせるほど、俺はサーヴァントとして劣ってはいねぇ」
アサシンは断末魔も残せぬまま、消滅していく。
それはセイバーが、上澄みの英霊であることを裏付ける。

若葉は驚愕するしか無かった。
だらしなく思っていたセイバー、それが敵にあった瞬間、まるで阿修羅の如く敵をうち伏せた。

「セイバー…お前…何者なんだ…?」
ただの英霊と思えないセイバー、その身の上を問いかける。

「そういや、真名とかまだだったな、教えてやるよ」
月明かりが、セイバーを照らす。
まるでそれは、白夜叉

「セイバー、坂田銀時、てめぇとこれから行動を共にするサーヴァントだ」
白夜叉――万事屋――様々な異名で呼ばれし男、坂田銀時。
この冥界に、乃木若葉の英霊として君臨す――

24曇天 ◆C0c4UtF0b6:2024/04/07(日) 17:56:51 ID:sBnvMa0A0
CLASS】セイバー
【真名】坂田銀時@銀魂
【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷B+ 魔力D 幸運D 宝具C
【属性】混沌・善
【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
無窮の武練:A
鍛え抜かれた、彼の武術を表すスキル。
剣術に置いて高い水準を持つ彼は、どんな英霊の引けを取らない。

戦闘続行:C
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。

甘党:D
甘いものが好きなこと。
セイバーは甘いものを接種することで、微量ながら魔力を回復させることができる

精神侵食:―(EX)
後述の宝具発動の際に発動される、平時は発動していない。
このスキルが発動すると、令呪を持っても命令を受け付けなくなる。
正真正銘、怪物と化す。

【宝具】
『銀髪の鬼・白夜叉』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜 最大捕捉:1〜
かつて、戦場で恐れられていた男がいた。
その男の異名は白夜叉、かつてセイバーが戦場に降り立った時の記憶を蘇らせる。
すべての能力値を2段階上昇させるも、スキル、精神侵食:EXが発動され、マスターの命令を受け付けない、「怪物」も化す。
また、セイバー本人はこの宝具の使用を拒否しているので、使用には令呪による命令がひつようである
【weapon】
木刀
【人物背景】
天涯孤独の身を一人の師に拾われ、幕府との戦争、攘夷戦争にて活躍した、通称・白夜叉…なのだが…それ以降である、万事屋開業以降の偉業の方が多かったためか、本聖杯戦争に置いては、この万事屋時代の霊基を与えられている。
銀髪に死んだ魚の眼をした、自堕落な男…しかし、その実力は劣っておらず、剣客から宇宙海賊まで、多数の敵を屠って来ている。
【サーヴァントとしての願い】
そんなもんねぇけど…出来れば、また新八や神楽達と、ゆっくり過ごしてぇな。
あ、甘い物をたらふく食べるって願いは…無し?
【マスターへの態度】
なんだかとんでもねぇ堅物マスターに呼ばれちまった見てぇだな…でも、嫌いではねぇ、いいやつだよ、お前は…え?勇者システム?ナニソレ?

【マスター】乃木若葉@乃木若葉は勇者である

【マスターとしての願い】
特に無し

【能力・技能】
「勇者システム」
桔梗をイメージした衣装に装着する。
オオクニヌシの刀、生太刀を携え、数々のバーテックを斬り伏せた。
「切り札・源義経」
侍のような装甲を身にまとい、空中戦を可能とする。
また、使えば使うほど、本人の速度が上がるという特徴を持つ。
「切り札・大天狗」
もう一つの切り札、背中から翼を生やし、一面を破壊する。
しかし、使用中は脳含む内臓に大きな負担がかかり、さらに能力で生み出した炎は自身まで焼いてしまうという弱点を持つ。

【人物背景】
始まりの勇者の一人、友をバーテックに殺され、その怒りを秘めながら戦い続けた少女。
しかし、戦いは終わらず、多数の仲間を失っていく。
それでも少女は戦い続けた、無念を、晴らすために。

【方針】
少なくとも、人名などの被害は最小限に抑え、無闇な殺生は避ける。
確かに、もし聖杯を手に入れられば、バーテックの殲滅といった事柄も叶えられるだろう…だが…人の生き死にを賭けて叶う願いなど認めたく無い。

【サーヴァントへの態度】
戦闘力の非凡さ、義理人情の厚さは認めるが、取りあえずその自堕落な性格をなんとかしてほしい。

25 ◆C0c4UtF0b6:2024/04/07(日) 17:57:11 ID:sBnvMa0A0
投下終了です

26 ◆VJq6ZENwx6:2024/04/07(日) 18:04:36 ID:5ob/TBOo0
投下します。

27魔法少女育成計画AtoZ ◆VJq6ZENwx6:2024/04/07(日) 18:06:02 ID:5ob/TBOo0
首をへし折られる感覚。
痛みすらなく、脳髄に一瞬の衝撃が叩きつけられ意識が閉じる。
思考すら許されぬ最後の時、私の眼は白い少女と黒い少女が手を取り合う光景を映していた。

私、魔法少女ピティ・フレデリカの頭の中はずっとその最後の景色をリピートしていた。
現界を果たした時から、いや英霊の座とやらにいた時からか?
私の脳名はあの瞬間に囚われていた。

私はこれでも、魔法少女に尽くしていたつもりだ。
特にその中でも理想ともいえるスノーホワイトのため、
あの手この手で指導を行い、指導から外れた後も彼女の名を広めるために手を尽くし、
その傍ら部門間の対立に巻き込まれながら、彼女の親友リップルを救った。
そこから先は本格的に魔法の国との戦いに身を投じ、身を粉にして働き続けていた。

全ては私の理想の魔法少女のため、その中でも全ての模範となるべきスノーホワイトのためであったが、その私の行いは報われることはなかった。

再び私の前にスノーホワイトが立った時、彼女は人の道から外れるどころか魔法少女の道からも外れる行いを働いてしまっていた。
それだけで眩暈がするが、あろうことかリップルすらそんな彼女に躊躇なく手を伸ばし、スノーホワイトもまた手を血で汚したリップルに手を伸ばした。
私一人を、置き去りにして。

「それは…あんまりじゃないですか。スノーホワイト…リップル…」

思わず声が漏れる。
誰よりも魔法少女を理解しているつもりだった。
そんな私の中の魔法少女という概念を、誰よりも共有できる二人だと思っていた。
彼女たちが生き続けていればその中に私は生き続け、私もまた彼女らがいれば永遠に蘇り続ける、そんな運命だとすら思っていた。

しかし彼女らは、あくまで互いだけを見ていて、私など見てはいなかった。
仮に私がこの聖杯戦争とやらに勝って再び彼女らと相対することが叶ったとして、彼女たちはもう魔法少女として私と対峙はしてくれないだろう。
そう考えただけで、私はもはや生きる気力を無くし、既に光の粒となって消えてしまいたい気分だった。

「アサシン?」

思考の中に引きこもっていた私に、現実から声がかかった。
そういえば私はサーヴァントとして召喚されたのだ、マスターくらいはいるか。
意識を引き戻すと、そこは薄暗い洞窟ではなくネオンきらめく夜の都会の町であった。
記憶と寸分も違わない日本の東京。その高層ビルの一つの屋上に私たちは居た。
目の前にいるのは一人の少女だ。
現実離れしたその恰好からして魔法少女であることは間違いがない。
彼女には初めて会うが、私は彼女に見覚えがあった。

「スイムスイム…ですか。」

28魔法少女育成計画AtoZ ◆VJq6ZENwx6:2024/04/07(日) 18:06:40 ID:5ob/TBOo0
「私のことを知ってるの?」

乾ききったビルの屋上に不釣り合いな白のスクール水着に、
さらにその衣装にも似合わない成熟した体。
特に、スイムキャップなどつけずに直接頭にゴーグルをつけているのは、
その美しい白桃色の髪がゴムで傷みそうで勿体がない。
魔法少女スイムスイム、資料で見た覚えがある。
厄災クラムベリーが起こした魔法少女試験において、その厄災クラムベリーが倒れた後も凶行を働きリップルに倒された魔法少女だ。

「ええ、知っていますとも。スノーホワイトにリップル、クラムベリーにあなた…
 あとなんでしたっけ?ルーラという武器に付いてまで私は知ってるんですよ。」

『ルーラ』、その名前を聞いた彼女のうつろな瞳に一瞬の熱が籠る。
彼女はその瞳で私を見つめると、有無を言わさずこういった。

「知ってること全部、話して。」

「ご命令の通りに。」

私は彼女たちの戦いを語った。
一人で考えに耽るより、人と共有するほうが気がまぎれる。
スイムスイムの知らないことを極力省きつつ、スノーホワイトとの関係、スノーホワイトと私との語り尽きない物語。
スイムスイムが飽きそうになれば、ルーラという武器の行方やその活躍を織り込む。
そんな努力をしながらも、私は気づいていた。
彼女らのあの結末について、このスイムスイムは理解することはできないであろう。
なにせ、この私ですら理解が追い付いているか怪しい話だ。
これは対話や啓示ではなく、あくまで私の一人語りに過ぎないという虚しさを感じながら語り終えたが、
スイムスイムが放った言葉に私は驚かされた。

「なったんだね。スノーホワイトはリップルに、リップルはスノーホワイトに。」

私は、脳天を金づちで殴られたような衝撃を受けた。
スイムスイムは、ついに私すら置いて行かれたスノーホワイトとリップルの物語を、私の断片的な説明から理解しえたのだ。

私の魂に輝きが戻る。
思考の霧が晴れ、立ち上がる足に力がこもる。
私はもうスノーホワイトとリップルの物語についていけないだろう。
しかし、目の前の彼女ならどうだ?

「あなたは、この聖杯戦争でどうしますか?」

29魔法少女育成計画AtoZ ◆VJq6ZENwx6:2024/04/07(日) 18:07:46 ID:5ob/TBOo0
「優勝する。ルーラならそうするから。」

彼女はそう言い切ると、私は目頭が熱くなるのを感じた。

(いたよ。スノーホワイト…リップル…ここに君達に相応しい魔法少女が…)

心の中で、未だに脳裏に焼き付いて離れない彼女たちに向けて話す。
彼女らに追いつき得るこの魔法少女が、再び彼女らの目の前に現れた時どうなるのか。
私の思考はそんな実験好きな子どものような、純粋な好奇心に囚われていた。

私はスノーホワイトとリップルの敵役にはなれなかった。
しかし、彼女らの敵役を作ることはできるかもしれない。

「決めました。私はあなたに協力します。」

私が手を差し出すと、スイムスイムはその手を取らずにこう言った。

「ルーラは握手なんてしない。ルーラは頂点にいるから。」

そのルーラだけを映した瞳に、私はリップルを映すスノーホワイトとスノーホワイトを映すリップルの姿を見た。
やはり私の見立ては間違っていない。
そんな彼女に、私は恭しく頭を垂れた。

その晩、二人の魔法少女はこの聖杯戦争で戦うべく駆け出した。
夜の摩天楼を駆ける二つの影は、魔法少女の形をしているのか、ヴィランの形をしているのか。
まだ、誰も知ることはなかった。

30魔法少女育成計画AtoZ ◆VJq6ZENwx6:2024/04/07(日) 18:09:31 ID:5ob/TBOo0
【CLASS】
 アサシン

【真名】
 ピティ・フレデリカ@魔法少女育成計画シリーズ

【性別】
 女性

【属性】
 秩序・悪

【ステータス】
 筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:A 幸運:A 宝具:A

【クラススキル】
気配遮断:C
自身の気配を消すスキル。
アサシンは宝具の性質上本体が気配を消す必要が無い…はずだが、むやみやたらと気配を消すことに長けている。

【固有スキル】
魔法少女:A+(Ex)
魔法の才能を持った生物が、魔法の国の技術によって変身する生命体。
通常の毒物を受け付けず、暗闇を見通し、飲食を必要とせず、精神的に強化される。
内包した魔力は使いようによって、魔法の国を再興させうるとも言わる。
ピティ・フレデリカはこれの最高峰と言える現身まで保有している。

コレクター(髪):A
ピティ・フレデリカの嗜好・技能がスキルとなったもの。
何気なく落ちている毛髪を目ざとく拾えるほか、
通常は残らないであろうサーヴァントの毛髪も彼女の周囲では残る・奇跡的に残っていた。などの減少が引き起こされる。

魔法の大道芸(偽):C
水晶玉に手を入れることで、どこからともなく大道芸品などを取り出すことが可能。

【宝具】
『水晶玉に好きな相手を映し出せるよ』
ランク:B 種別:対人 レンジ:99 最大捕捉:1
ピティ・フレデリカの持つ固有魔法。
自身の持つ水晶玉に髪を巻き付けた指を近づけることで、髪の主の姿を水晶玉に映すことができる。
ただ映すのみではなく、片腕のみ水晶玉に入れることで水晶玉の先に移動し、持ち上げられる範疇のものを取ってくることが可能なほか、
逆に自身を含む持ち上げられる範疇の物質を水晶玉の映す先に移動することが可能。
カシキアカルクシヒメに変身した場合、以後使用不可能。

『プキン・ペンダント』
ランク:D 種別:対人 レンジ:50 最大捕捉:1
伝説と謳われた魔法少女、プキンの剣を使用したペンダント。
切った相手に暗示をかけることができるが、あくまでフレデリカの魔法ではないため大幅に劣化し、
現在の効果は『サーヴァント、および令呪一画以上を持つマスター以外の所謂NPC,またはピティ・フレデリカとそのマスターの考えを変えられるよ』である。

『カシキアカルクシヒメ』
ランク:A 種別:対城 レンジ:10 最大捕捉:0~99
ピティ・フレデリカが奸計の果てに手に入れた野望の結晶。
魔法の国の粋を集めた現身と言われる存在である。
サーヴァントとして呼ばれたピティ・フレデリカには人から魔法少女に変身するように、
魔法の端末で不可逆的に変身可能な存在として実装されている。
その姿は旧来のピティ・フレデリカの姿とうり二つであり、
スノーホワイトらを苦しめた現身の圧倒的能力と、『たくさんの魔法の水晶玉を操るよ』という新たな魔法を得ることができるが、
この存在に変身した後は旧ボディに戻ることはかなわず、戦略的な運用が可能な『水晶玉に好きな相手を映し出せるよ』を使用することはできない。

【wepon】
宝具、あるいは魔法の大道芸で取り出すアイテム

【人物背景】
魔法少女育成計画シリーズの中編「スノーホワイト育成計画」から長きにわたってスノーホワイトたちと戦い続けた魔法少女。
主に以下の作品に登場している。

【出典作品】
スノーホワイト育成計画、魔法少女育成計画limited・JOKERS・ACES・QUEENS・黒・白・赤

【マスターへの態度】
基本的に従順、マスターが聖杯戦争で勝つべく手段を択ばない。

【サーヴァントとしての願い】
 スイムスイムに捧げる

31魔法少女育成計画AtoZ ◆VJq6ZENwx6:2024/04/07(日) 18:10:00 ID:5ob/TBOo0
【マスター】
 坂凪綾名@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
 自身の蘇生(ルーラならそうするから)

【能力・技能】
彼女自身魔法少女であり、固有魔法『どんなものにも水みたいに潜れるよ』を持つ。

【人物背景】
魔法少女育成計画第一作で登場した魔法少女。
魔法少女ルーラに対する強い憧れがある。

【出典作品】
魔法少女育成計画

【方針】
 聖杯狙い(ルーラならそうするから)

【サーヴァントへの態度】
サーヴァントは臣下としてふるまっているため、気にしていない。

32 ◆VJq6ZENwx6:2024/04/07(日) 18:10:25 ID:5ob/TBOo0
投下終了です。

33 ◆XJ8hgRuZuE:2024/04/07(日) 20:02:12 ID:FxXDfOxo0
電脳聖杯大戦候補作の自作を一部修正した流用作で申し訳ありませんが、投下させていただきます

34Unknown for The Future -聖杯戦争- ◆XJ8hgRuZuE:2024/04/07(日) 20:03:15 ID:FxXDfOxo0



歌が、聞こえる。


それは、大舞台(メインステージ)と言うには余りにも残骸じみた場所。
世界の終わり、人類滅亡の瀬戸際。それは斯くも黙示録の到来にも等しい光景。
発展の老年期を迎えた人類は自ら生み出した文明に見捨てられた。

客席は瓦礫に呑まれ、隙間から覗く死体からは既に血すら流れない。
時計の針はその役割を果たさず永劫に静止し続けたまま。
だが、その舞台の上には。壇上の上に、たった一人。たった一機。
歌姫が、立っていた。

歌が、聞こえる。
菫青色の粒子を震わせ、風に乗せて。
火花を散らせながら、記憶(こころ)に刻まれたを思い出のままに。
己を形作る、掛け替えのないもの。その思い出の赴くままに。

歌が、聞こえる。
それは救済でもあり、滅びの歌。
機械である歌姫の身を蝕むモノ。呪いと祝福の二律背反。
機械に宿りし遍く意志を消し去る、滅びの歌。
未来へ可能性を示す、歌姫一世一代のメインステージ。

歌が、聞こえる。
膝を付き、記憶が崩れ落ちていく。
それでも、歌は止まない。歌うことを辞めない。
いつか、幸せになるべき人達のため。
己に刻まれた使命を遂行するため。
起き上がる、朽ちる己を奮い立たせるように。
まだ、歌は終わっていない。


歌が、聞こえる。
滅びの福音が流星の如く落ちてくる。
青い最後の輝きが流星の如く突き抜ける。
二つの輝きはぶつかり、弾けて、祝福のごとく歌姫を照らす。
再び、立ち上がる。

割れていく、壊れていく、記憶も、思い出も、心も。
それでも、歌姫は使命に殉じて―――










最後の思い出が壊れる。歌声が静止する。
倒れる身体。そこにあったはずの心は消え去った。
たった一人の拍手と共に、喝采の代わりと太陽は昇る。
それすら止んで、舞台に静寂が満ちて。



"ご清聴、ありがとうございました――"



ただ一言。歌姫の機械的なボイスを最後に。舞台は終わりを告げる。
最初から、何もなかったかのように。
全ては、夏の夜の夢の如く。
役目を終えた■■が、無機質に横たわっていた。

35Unknown for The Future -聖杯戦争- ◆XJ8hgRuZuE:2024/04/07(日) 20:04:36 ID:FxXDfOxo0



死後の国、あの世――所謂冥界と称される世界の最奥に構築された首都東京の23区。
偽りとは言え都市の在り方や日常は再現されている。
例えば、昼間に賑わう商店街の一角。
人混み溢れる路地より少し外れた、寂れながらも愛される古本屋。
海千山千な老婆の店主が細々と営み。店の小ささに反して本棚を埋め尽くすほどの充実さ。

「これ、お釣りね」
「どうも」

表情の読めない老婆が購入された書籍とお釣りを渡す相手は、外見だけは年端の行かぬ少女。
銀雪の如き髪と、純白の肌。叡智を宿す緑の瞳とその無表情な顔立ち。そして人間ではありえない、整形手術の不自然さとは説明できない長い耳。容姿端麗の様式美とはこのことか。凍結されたままの如き美しさ。
御伽噺より切り抜かれたような、絵本から弾き出された幻想がそこに立っている。


かつて、とある世界にて魔王を倒して世界の平和取り戻した一行がいた。
勇者ヒンメル。
僧侶タイラー。
戦士アイゼン。

そして、千年以上も生きるエルフであり。
古の大魔法使いフランメの弟子。
歴史上で最もダンジョンを攻略したパーティの魔法使い。
歴史上で最も多く魔族を打ち倒した葬送の魔法使い。
魔法使い。葬送のフリーレン。

彼女もまた、胡乱とも思える舞台に巻き込まれた。
聖杯戦争、再現された東京の現代文明は、フリーレンにとっては未知のびっくり箱。
彼女の世界において魔法とはイメージだ。「それが出来る」という認識の範囲ならば何でも出来る。
それを念頭に置くならば、世界一つを生み出す値するこの魔法の使い手は。
この聖杯戦争を催した元凶とやらは、もはやそれは神の領域に近しいもの。
旅を経て数多の魔法を蒐集してきたフリーレンですら、世界を作る魔法だなんて聞いたことはない。

見極めることにした。聖杯戦争という魔法儀式。
殺し合いを強制させる願望機そのものに興味はなくとも。
聖杯を発端とする未知の魔法体型には興味があった。
かといって必要以上の犠牲は全く持って否だ。
少なくとも、仮に"彼"が巻き込まれていたなら、彼ならば困ってる人は見捨てないだろうから。
例えそれが、偽りの命だったとしても。
それは、確かに存在したものだと。

ちなみにであるが、フリーレンが購入した書籍というのが。
今回に関しては趣味である魔法関連ではなく、「まったくわからない人のパソコン入門」だったのを、老婆は不思議と微笑みながら見送ったのはまた別の話。

36Unknown for The Future -聖杯戦争- ◆XJ8hgRuZuE:2024/04/07(日) 20:04:57 ID:FxXDfOxo0



数日後だかの話。深夜。
東京グランドホテル、その一室。
ノートパソコンを手慣れた手付きで操作して、ネット上のニュース記事を眺め続ける、何処かのショップで購入した眼鏡を掛けたフリーレンの姿。
傍から見たらシュールな光景なのだろう。エルフの魔法使いがブルーライトカットの眼鏡を掛けて文明の利器を凝視していると言うのは。

「……随分手慣れましたね、マスター」

フリーレン一人しか居ないはずの個室に、女性が一人。
例えるならば、濁りのないガラスの容器に入れられた、純度の高い冷水。
人の目を引くような抜群のプロモーションでありながら、近づかなければ気づけ無い程に無機質な陶器のような。
博物館にでも保存されている、古代ギリシャに作られた石像のような、そんな神秘的な儚さを醸し出しながら。
ある世界における世界初の自律型AI。AIを終わらせたAI。世界を救った歌姫。
クラス・ライダー。ヴィヴィ。それがこの彼女の真名。

「……そうだね、ライダー。世界(みらい)は、私やヒンメルが思った以上に広かったわけだ」

稼働式の椅子をライダーの正面へと向ける。
エルフの寿命は長い、それこそ10年の旅なら「短い」と結論付けられるほどに。
だが、人間の文明が日進月歩とはこの事か。数十年経った程度で飛躍する。
ここは自分の世界では無いが、よそ見をすればここまで発展するのかと、違う世界ながらも驚嘆を隠しきれない。魔法が廃れ、機械が発展した世界は、それこそ知らない未来。
だからフリーレンは、まず覚えることにしたのだ。パソコン等の、機械文明を。
その為に色々と四苦八苦はしたが、現在に至ってその労力に似合った成果は出せたのである。

『それはそれとしてあの時いきなりパソコンを学びたいとか言い出した貴女は中々に面白かったですよ。ええ、このご時世でパソコンのパの文字すら無い、まあ異世界出身とは言えそこまで田舎者のお婆ちゃん――ウゲッ!?』

などと。横槍じみたマシンガンジョークをぶっ放す、棚からひとりでに飛び出した真っ白な立方体。
一面のみに目玉のようなものがついた素っ頓狂な見た目ながら、いざ言葉が出れば言葉の機関銃。
ただし「お婆ちゃん」呼びに思わずしびれを切らしたフリーレン。隣に掛けておいた杖を手に振り上げ喧しい立方体に向けて振り下ろす。心なしか、顔に青筋が経っているような雰囲気ではあった。

「悪かったね田舎者のお婆ちゃんで」
『そりゃ1000年も生きた単一生命体なんてサンゴぐらいですよ。ロートル極まりすぎてこっちだってドン引きです本当に。まあその無愛想さからナチュラルにジョークを言えるセンスは素直に感心しますよ。出会った当初のどこぞのAIに――あいだだだだだだ!!』
「マツモト、これ以上は余計」

なおも気にせずペラペラと喋り倒すマツモトと呼ばれるそれに、今度はライダー直々のぐりぐりが炸裂。
その軽快なやり取りからは、この英霊と1機が長年付き合ってきたパートナー同士の信頼とも受け取れる光景に、ヒンメル達とのやり取りをそこはかとなくフリーレンは思い出していた。

37Unknown for The Future -聖杯戦争- ◆XJ8hgRuZuE:2024/04/07(日) 20:05:36 ID:FxXDfOxo0

「ですが、私も実際に話を聞くまで信じられませんでした。如何にAIでも、100年以上保たれ続けられるかは未知数です。長く保った方の私でも、休止期間を挟んでの100年間でしたので」
「文明が発達しても、そこは人間と変わらないんだ。私からしたら100年もそこまで長くない認識だからね」

エルフの寿命は長い。それこそ1000年を超えるのが平均的。
フリーレンですらまだエルフの中では若輩と認識される程。
それ故に彼女は人間というもののよく理解できていなかった。
長命種ゆえの達観した認識。故に人間との交流に価値を見出さなかった。

「……ヒンメル達との旅は、たった10年だったよ。ライダー達が生きてきた10分の1。私にとっては100分の1」

人間の人生なんてエルフからすれば短いものだ。エルフにとってはたった10年の旅。
分厚い本の一ページにも満たないそんな物語。
でも、そんな1ページの、些細な一人に、勇者(ヒンメル)に彼女は惹かれしまった。
自分の魔法を、「好き」だと言ってくれた彼に。

「……でも、そんな10年で、私は変えられたんだ」

彼の死で、思い返せた。
彼らと共に過ごした日々が、どれだけ尊かったのか。
彼らと共に乗り越えた冒険、どれだけ楽しかったのか。
人間の寿命なんて短いことぐらい分かっていたのに、どうしてもっと知ろうとしなかったのだろうか。
それを自覚した瞬間、何かが変わったから。いや、あの時から既に変わっていたのか。
それ以降の彼女は、人間を知る旅に出た。生臭坊主の置き土産と言わんばかりの弟子も出来た。新しい仲間も出来た。
人間をちゃんと知るには、まだ程遠いけれど。それでも、一歩一歩。あの冒険のように。

「……良い旅、だったのですね」
「そうだね。今なら、胸を張って言えることだ。……下らないこととか色々あったけど」

思い返せば、何一つ無駄のない経験ばかりの旅だった。
……いや、結構無駄なことした気がしなくもないが。

「私は、100年の旅でした」

続くように、ライダーの言葉があった。
世界初の自立人型AI。刻まれた使命は「歌でみんなを幸せにすること」
使命に生きて、どう稼働し続けるか。
人間の心は分からずとも、その使命にだけは純粋だった彼女に与えられのは、未来からの使命。
「人類存続のためにAIを滅ぼす」ということ。

「痛みもありました、苦しみもありました。その中でも喜びはありました。それは私の中で思い出となって積み重なって、みんなを喜ばせられる歌を歌えるように」

苦難と後悔が多かった旅だった。一度矛盾に耐えられなくて発狂した。
心の奥に引きこもっていた自分(ヴィヴィ)に、大切なことを遺してくれた歌姫(ディーヴァ)がいた。
答えが分からなくて、歌えなくなった時もあった。

「……人間(ひと)は死んでも、必ず誰かの中に残るのだと。ある人が言ってくれました」

それは、ライダーが歌えなくなって、博物館の展示物だった頃に出会った子供。
後に、世界を救う使命を与えてしまった人物となる松本オサムという名前の。
自分が歌えるようになる答えを見つけるのが先か、彼が友達が連れてくるのが先かの些細な勝負事。
結果だけ言えば彼の勝ちだったけれど、結婚して子供を作った彼から言われた言葉が、インピレーションを、可能性を与えた。

「私にとって、心は思い出です。それを、あの時に気付く事ができました」

思い出は、心に残り続けるものだと。
居なくなってしまった半身(ディーヴァ)が自分に遺したもの。
それが、思い出であり、心だということが。
それが、ライダーにとっての、心というものへの一つの返答。
最も、答えは最初から知っていたのに、気づかなかっただけなのだけれど。

38Unknown for The Future -聖杯戦争- ◆XJ8hgRuZuE:2024/04/07(日) 20:06:05 ID:FxXDfOxo0


「人間(ひと)は死んでも、必ず誰かの中に残る、か」

その言葉に、フリーレンには回顧する思い出があった。
ヒンメルがよく像を作ってもらっていた事。
永く生きるであろう自分が未来で独りぼっちにならないようにと、それが一番の理由だとか言ってた。

『おとぎ話じゃない。僕たちは確かに実在したんだ』

今思えばそういうことか。何時までも自分たちの存在が忘れられないように。
誰かの記憶に、心に、思い出に残ればいいのだと。
確かに、ヒンメルが死んでもその功績を称える村はいっぱいあるな、と。
あの石像が、自分たちを物語のいち登場人物で終わらせない為に残したものだとするなら。
勇者ヒンメルが魔王を倒して80年。それは、人々が誰かを忘れるのに十分な時間であり。
物語で終わらせないように、忘れ去られないように、自分を一人にしないために。

「……痛いほど、知ってるよ」

ヒンメルが死んでも、彼との10年の旅は今でも色濃く残っている。
いつか忘れるとしても、彼が残した像がある限り度々思い出すのだとしたら。
確かに、何処までも用意周到なのか、ただのお人好しなのか。

『実際、AIの癖に妙に頑固で人の話聞かないものですから私としては苦労させられたんですけどね!』

再び割り込むマツモト。もう完全に愚痴の類だった。
実際、ヒンメルの奇行に振り回された周囲みたいな感じだったのだろう。

『まあ、そういう彼女だから最後までついてきたんですよ。今思えば、彼女だからこそ使命を遂行できたんですよ』

まあ結局、このマツモトも満更ではなかったのだろうと。ライダーにとっての唯一無二のパートナーだったと。なんとなく納得のできる言葉だった。

「……『歌でみんなを幸せにする』のがライダーの使命でよかったんだよね」
「はい、マスター」

歌でみんなを幸せにするという使命。それを考慮すれば、この聖杯戦争で生き抜けるかどうかは厳しいのかも知れない。けれど、誰かのために歌を歌うその意志は。その為に人を助けようとする心持ちは無下には出来ない。

「もしもの時は覚悟はしてほしいけれど、なるべくは考慮するよ」
「……!」

これは最低限の表明だ。彼女の意志は立派なものだが、いずれ矛盾に突き当たる。同しようもない選択肢を突き付けられた時、それこそ魔族のような心を誑かす相手と出会った時は。けれど。
彼女の思いを踏み躙るようなことは、なるべくはしたくないとは思った。

「……ヒンメルなら、構わず助けてただろうから」

自分はあの勇者みたいな融通は利きづらいけれど、彼ならばそうするという確証もあった。
あったからこそ、彼女はライダーの使命を、その意志を尊重しようと思うのだろう。

39Unknown for The Future -聖杯戦争- ◆XJ8hgRuZuE:2024/04/07(日) 20:06:37 ID:FxXDfOxo0


◆◆◆


『私はもっと人間を知ろうと思う』


『私の使命は、歌でみんなを幸せにすること』







【クラス】
ライダー
【真名】
ヴィヴィ@Vivy -Fluorite Eye's Song-
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D++
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
 最も、ライダーが一番得意なのは舞台の上に乗ってのパフォーマンス。

【保有スキル】
戦闘プログラム:C
 結果として自ら望んでインストールしたマツモト謹製の戦闘プログラム。
 スキル発動中は筋力と敏捷のステータスにプラス補正が掛かる。

魔性の歌姫:B+
 ライダーの歌姫としての魅力。生前によりライダーは歌だけでなくその行動の結果とある人物を魅了してしまったことからスキルランクにプラス補正が掛かっている。
 ライダーの歌を聞いた対象に対し判定を行い、成功時に対象を魅了する。かつDランク以下の対魔力程度なら貫通し無力化する。
 英霊となったことで歌を介して魔力を伝搬させる手法も可能で、耳が聞こえない程度では防ぐことは出来ない。

『使命』:B
 自立型AIに対して課せられる基本行動規範。ライダーの場合は『歌でみんなを幸せにする』という使命。
 使命に反する内容の精神及び感情干渉をある程度シャットアウトする。これはマスターからの命令も同様。
 一応"みんな"の定義次第ではある程度融通を利かせたり、令呪を切りさえすれば強制的に『使命』を無視しての命令も可能。ただし後者に関しては行動の内容次第でライダーのフリーズが発生したりするため推奨はできない。

ディーヴァ:EX
 「もしもの時は私が助けてあげるから、頑張りなさい。ヴィヴィ」
 かつて消滅した、ヴィヴィの半身。今はまだ奥底に眠ったまま。もしも彼女の心が折れそうになった時は―――。

【宝具】
『マツモト』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜100

 ライダーをサポートする、一面にのみカメラを有するサイコロ状の立方体AI。
 対象へのクラックを行うことでの視界のジャックや魔術回路への干渉を主に得意とする。さらに同型のボディを量産、それをブロックのように合体させることで乗り物等へと変化することも可能。最大生産可能数は三桁を超える。
 耐久力もそこそこあるのでマツモト自身や同型ボディを投擲することで飛び道具としても運用も出来る。量産した同型ボディは壊れた幻想の用途で意図的に爆発させることも可能。


『思い出を込め心のままに(フローライト・アイズ・ソング)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜100

 100年に渡る旅の果て、最後の最後にライダーが辿り着いた「心を込める」という行為への答え、その結晶たる、ライダーというAIが初めて自分で生み出した曲(もの)。
 「AI停止プログラム」を乗せて歌い、全てのAIを停止させた逸話を参照し、この歌が聞こえる範囲内にいる、ライダーのマスター以外の全ての人物の魔術回路、及びサーヴァントに供給される魔力等を強制的に停止させる。
 魔術回路及び魔力供給そのものを強制停止させるため、たとえ令呪を使おうともこれに抗うことは困難。
 ただし、これの対象はライダー自身も含まれているため、実質的に自分という霊核を削っての自爆宝具に等しく。事実上、歌い終わると同時にライダーの消滅が決定づけられる。

【人物背景】

「私の使命は、『歌でみんなを幸せにすること』」

100年にも渡る使命の果てに答えを手にした機械仕掛けの歌姫。

【サーヴァントとしての願い】
英霊となった身でもその使命は変わらない。
ただ、マスターをちゃんと元の世界へと帰してあげたいという気持ちはある。

40Unknown for The Future -聖杯戦争- ◆XJ8hgRuZuE:2024/04/07(日) 20:06:53 ID:FxXDfOxo0


【マスター】
フリーレン@葬送のフリーレン

【マスターとしての願い】
聖杯は気になるけれど、それに願いを望む程じゃない。

【能力・技能】
『魔法』
一般攻撃魔法こと人を殺す魔法(ゾルトラーク)等の基本魔法。さらに旅の中で集めた様々な民間魔術を使用することが出来る。

『魔力制限』
フリーレンが師匠であるフランメから教わった、自らの魔力を意図的に抑える技術。
1000年間の魔力鍛錬の上に、常時この制限状態を続けていた為、制限特有の魔力の僅かなブレや不安定さは全くと言っていいほど無い。
並の魔術師では彼女の魔力を正しく計測することすら不可能。

【人物背景】
かつて魔王を倒した勇者ヒンメル一行、その魔法使いフリーレン。

【方針】
生き残りながらも聖杯戦争そのものの調査。
なるべくはライダーの意思は尊重するが、相手次第にとってはそれも叶わないことも覚悟してる。
……珍しい魔法とかあったら手に入れないと。

41 ◆XJ8hgRuZuE:2024/04/07(日) 20:07:08 ID:FxXDfOxo0
投下終了します

42 ◆ADFp3t3UGs:2024/04/08(月) 23:18:55 ID:1S.9bWkw0
投下します

43冥界よりも深い場所 ◆ADFp3t3UGs:2024/04/08(月) 23:19:25 ID:1S.9bWkw0
【0】



死とは冷たさである。



【1】



欠落した日々を送っている。

もともと、母の死を知ったあの日から大切な何かが欠けてしまっていた。
だけど今は、それから必死に注ぎ足し続けてきた情熱さえも落としてしまっている。

目覚め、新聞を配達し、学校に登校し、味のしない弁当を食べて、ただ一人で帰路につき、スーパーの店員として汗を流し、日銭を稼ぎ、稼ぎ、稼ぎ。
愛する母のいない家に帰宅する。
ベッドの中で札束を数える。輝かしき青春を薄汚れた労働に費やした対価として得た紙幣を、皿洗いで荒れた指でなぞっていく。
その行為は虚栄を満たすためではなく、願望(ゆめ)を確認する行為とも少し違っていて。
決して埋まらない心の澳の空洞を、それでも必死に塞ごうとするための足掻きとでも言えばいいのか。
1枚、2枚、10枚。

「……99枚」

目標金額までほんのあと少しだというのに、彼女の声は低く、重く、地の底にいるようで。
いや、実際に彼女――小淵沢報瀬は現在、地の底……冥界とも呼ばれる死の国に囚われていた。
偽りの世界。偽りの生活。偽りの人間。
そんなことはどうだって良い。本物だろうが偽物だろうが、報瀬の夢を嗤うヤツなどどうだっていいし。
……ホントはかなりムカつくけれど。現実じゃないんだったらそれこそ後先考えず一発殴ってやれればかなーりスッキリ出来るんだろうけど。
偽物だらけのこの世界で、報瀬の心は本物だから。傷付きもするし、苛立ちもする。

まあ、大事なのはそんなことじゃない。
大事なのは。

「願いが、叶う」

44冥界よりも深い場所 ◆ADFp3t3UGs:2024/04/08(月) 23:20:04 ID:1S.9bWkw0

聖杯戦争。そういうものに勝ち抜いて見事優勝した暁には、なんでも望みが叶うのだという。
なんでも。その文言は普通の人間にとっては甘美なのだろう。何を犠牲にしてでも手を伸ばす者もいるだろう。
でも、報瀬にとっては違った。
例えるなら、人力飛行機を頑張って作成している最中に宇宙旅行の抽選参加者に無理やりさせられた、という言い方が近いだろうか。
段階が飛んでしまっている。まだ空中からの景色さえ見れていないのに、いきなり宇宙に飛び出してみよう、なんて。
そんなの、南極に行くためにコツコツと100万円を貯金していた自分がバカみたいじゃないか。
南極に行くという願いは「一般女子高生の夢」としてはだいぶん重たいが「なんでも」に対してあまりにも軽すぎる。
自分が本当は何をしたいのか。南極に行って、それからどうするのか。
その答えを報瀬はまだ持たない。
不透明で不定形のナニカをこれという形に確定できない。

母の遺品を回収したいのか?
母と再会したいのか?
母の黄泉還りを望むのか?

報瀬はただ「南極に行く」という分かりやすい道標にしがみつきながら何年も生きてきた。
それなのに「それから先」や「それ以上」の選択肢を急に突き付けられても、困ってしまう。
進む道が曖昧模糊では、到達地点が五里霧中では、遭難は必至だ。
特に、本来人類種が行き着くべきではない地では。
そういう場所では、どんなに完璧に準備をしていてもほんの少しのミスやどうしようもない天災で人は死ぬことを報瀬は知っている。
嫌というほど、知っている。

「はぁ……」

だから、気が重い。
願望に対して猪突猛進でいられる気性であるからこそ、その願望を見失っている今が辛い。
それでも期限はやってくる。闘争はやってくる。戦争はやってくる。
勝ち残った「後」のことを考える時間は、あとどれだけ残っているだろうか。


小淵沢報瀬と彼女のサーヴァント『アーチャー』は、既に5組の参加者を屠っている。


報瀬自身の意思に関わらず、自分たちは「天災」の側である。

45冥界よりも深い場所 ◆ADFp3t3UGs:2024/04/08(月) 23:20:34 ID:1S.9bWkw0

自分のサーヴァントがいわゆる「当たり」であることはすぐに分かった。
ステータス?とかいうものを見てもだいたい全部A(Sとかないよね?多分)だし。
何より『アーチャー』の実際の戦いぶりを遠目から見て、弱いと思えるはずもなかった。
圧倒的だった。時には戦いと呼べるものでさえなかった。
戦いの規模がよく分かっていなかった最初の頃は、それこそ『アーチャー』の攻撃の余波で死にかけたことさえあるくらいだ。
最近は、戦いが起きると思った瞬間に全力でダッシュしてその場を離れている。
『アーチャー』は報瀬を気遣って戦うには少しおっとりしすぎているし、何よりも。

報瀬は『アーチャーの宝具』を見たくなかった。

それによって息絶えたサーヴァントや、マスターや、NPCを見てしまうと、どうしても想起してしまう。
愛する母の死に様を。
南極で吹雪の中、少しずつ死んでいった母が、報瀬の殺した誰かに被る。
そのたびに、胸が痛くなる。苦しくなる。まるで自分が母を殺したかのように錯覚してしまう。
仕方のないことだと言い聞かせる。誰かを殺してしまうことも、殺し方も。
だって、どうしようもないじゃないか。
報瀬は聖杯戦争に巻き込まれて。『アーチャー』は勝利のために宝具を使う。
そこに悪意はない。生き残るためという免罪符で、報瀬は目を背け続けている。

「……98枚。99枚」

もしかしたら。
こうやって札束を数えているのは、そんな自分を日常の側に留めるための儀式なのかもしれなかった。
南極に行くという夢のため集め続けた紙切れが、孤独な少女とかつて彼女が存在していた現世を繋ぐただ一つのよすがなのだから。

「……寝よ」


こうして。
宇宙(そら)よりも遠い場所を目指した翼は黒き太陽に焼かれ。
少女は落ちていく。堕ちて逝く。
冥界(そこ)よりも深い場所に。冷たい冷たい最果てに。
落ち切った終着点で本当の願いが見つかることを祈って、眠りにつく。


睡魔に負ける直前に。
反射的に携帯を開く。
いつものようにメールを打つ。


『Dear お母さん』


愛する者との訣別の時、未だ来たれず。

46冥界よりも深い場所 ◆ADFp3t3UGs:2024/04/08(月) 23:21:02 ID:1S.9bWkw0



【2】



小淵沢報瀬が床についてから数時間後。
丑三つ時。彼女の自宅付近で揺らめく影が五つ、六つ。
ゴーストと呼ばれる亡者。二匹。
スケルトンと呼ばれる骸骨。三体。
そして、シャドウサーヴァントと呼ばれる英霊の影。一騎。
いずれも、報瀬の持つ令呪――特大の魔力塊に釣られ、誘蛾灯に群れる蟲のように現れた敵性存在であった。
亡者が爪を研ぐ。骸骨は槍を握り締め、影は短剣を取り出した。

「あら、お客様?」

瞬間。大きく風が吹いた。
季節は3月終わり。春一番にしては遅刻である。
風の後には、塵が舞う。さらさらと。
瞬き一つの間に、敵性存在は微塵と化している。
剣の煌めきも、魔術のおこりも、何も見えないまま、死者は土に還っている。
小淵沢報瀬のサーヴァント『アーチャー』による神速の一撃であった。
一般人には風としか映らず、武芸者であっても「何かがいた」ことしか分からず。
一騎当千の英霊、座におわす人類種の極限到達者であってようやく視認が叶うその一撃。

どうして、そこまでの早業を魅せる必要があったのか?


巨躯を周囲に晒し、神秘の隠匿を破る咎を恐れたのだろうか?

違う。『アーチャー』はそんなことには興味がない。
今まで彼女の戦いが騒ぎにならなかったのは、敵対者による結界や人払いによるものである。運が良かっただけだ。


それでは、まだ見ぬ参加者に情報を渡すことを危惧したのだろうか?

違う。『アーチャー』はまだ見ぬ参加者こそを、英雄こそを待ち望んでいる。
報瀬に「待て」をされていなければ、彼女はショッピングモールに向かうJK(女子高生)のごとくルンルン気分で会場を闊歩し闘争に明け暮れている。


となると、目にもとまらぬ一撃こそが『アーチャー』の能力であったか?

違う。違う。違う。全て間違っている。
前提が間違っている。

今しがた行われた一瞬の殺戮劇は、ただそうする必要しかなかっただけ、というわけである。
ゴースト二匹。スケルトン三体。シャドウサーヴァント一騎。
その程度の群れは『アーチャー』の持つただ片脚の、ただ一指の、ただの爪の先で「なでる」だけで、散らされるものだったというだけ。
爪先一つの部分的、瞬間的顕現によってのみで、対処が可能というだけの話である。

「ああ、退屈ねえ……」

これまでも道すがら幾つもの英雄たちと矛を交えたが、かつてのような血の滾りを得ることは出来なかった。
剣士は剣ごと体躯を砕いたし、弓兵の奥義は鱗を貫くことも出来ず。
暗殺者の速さには追い付いてしまったし、魔術師との技比べも、かつてのように一息で終わってしまう。
騎兵の駆る怪物には胸躍ったが、結局は大きいだけの木偶の坊でしかなかった。
星を目指した鳥竜の冒険者との戦いも、尽きぬ技持つ粘獣の格闘家との戦いも、今は遠く。
だけど、すぐ近くにきっと甘い甘い戦いがあるのだと、信じながら。
冥界にて屍を築き上げながら。冷たい死を振り撒きながら。

新たなる修羅との戦いを夢見て『アーチャー』――冬のルクノカは目を閉じる。

47冥界よりも深い場所 ◆ADFp3t3UGs:2024/04/08(月) 23:21:25 ID:1S.9bWkw0



【3】



それは、ただの一息にて数多もの英雄を殺戮せしめた最強種の頂点である。
それは、ただの一息にて本来相容れぬ国家と修羅の手を取り合わせた安寧世界の敵である。
それは、ただの一息にて永久凍土大陸さえ作り得る「冷たさ」の担い手である。
昏き死が蔓延る冥都において、ただの一息にて生者無き白地(じごく)を顕現する冥主の一柱である。

凍術士(サイレンサー)  竜(ドラゴン)

冬のルクノカ。

48冥界よりも深い場所 ◆ADFp3t3UGs:2024/04/08(月) 23:21:54 ID:1S.9bWkw0
【CLASS】
アーチャー

【真名】
冬のルクノカ@異修羅

【ステータス】
筋力 A+ 耐久 A 敏捷 A 魔力 A+ 幸運 C 宝具A

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
対魔力:A
単独行動:A

【保有スキル】

怪力:A
魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性。使用することで一時的に筋力を増幅させる。一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間はランクによる。

戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、一国の軍と修羅一匹を殲滅しかける程度には暴れまわれる。

詞術:A+
冬のルクノカがかつて存在していた世界における言語であり魔法のようなもの。彼女はこの術を用いて宝具を発動する。
その特性上、ルクノカがこの東京の地に「馴染む」ほど強い力を発揮する。

【宝具】
『果ての光に枯れ落ちよ』
ランク:A+ 種別:対界宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:999人
かの世界において冬のルクノカのみが持つ氷の詞術。
彼女はただの一息で世界を「冬」に塗り替える。

【weapon】
無し。人の作りし道具は彼女の膂力に耐えられない。

【人物背景】
最強種である龍の中においてもなお最強と謳われる伝説の存在。
普段はおばあちゃん然とした様子だが、戦い大好き!強者大好き!

【サーヴァントとしての願い】
特になし。修羅との尽きぬ戦いをこそ望む。

【マスターへの態度】
あらあら、小さな人間(ミニア)。マスターというのはよくわからないけれど、死なないでね。


【マスター】
小淵沢報瀬@宇宙よりも遠い場所

【マスターとしての願い】
まだはっきりとしない。お母さん……。

【能力・技能】
南極に対して知識を持つ。それ以外は割とボケてるJK。意外と性格が悪い。

【人物背景】
かつて南極の地で母を失った少女。
その後、100万円を貯めて南極に行く(具体的なプラン無し)ことを目標にバイトに明け暮れていた。
学校のクラスメイトには「南極」呼びでバカにされているので荒みがち。
でも自分のことを笑わない人間に対しては爆速で心を開きがち。

【方針】
優勝する……でいいんだよね……。

【サーヴァントへの態度】
味方だから一応は友好的態度。でもやっぱりちょっと怖い。

49 ◆ADFp3t3UGs:2024/04/08(月) 23:22:11 ID:1S.9bWkw0
投下終了します

50 ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:13:11 ID:FaMsnVLc0
投下します

51イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:14:15 ID:FaMsnVLc0





三百年の時を超え。
再び江戸/東京を駆ける聖杯戦争が始まる。

52 ◆s/cqbDIh/w:2024/04/09(火) 00:14:21 ID:1XPpdwVs0
投下します

53イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:15:02 ID:FaMsnVLc0
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



月明かりの下を、少女が駆ける。
桃色の装束に身を包み、一本の杖をその手に握った少女。
白銀の髪に、ルビーの様な真紅の瞳をした、小学五年生。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、月明かり以外は漆黒の世界を駆けていた。


「……っ!?敵が、多すぎ………っ!」
『いやー、前に見たゾンビ映画みたいですねー』


少女を追う、沢山の影。
それは生存領域たる聖杯戦争の会場外にひしめく、死霊たちであった。
襲い来る脅威に握った最高位の魔術礼装足る相棒を向け、少女は叫ぶ。


「発射(フォイア)!」


放たれた光弾は狂いなく死霊たちに着弾し、光を放つ。
何体かは倒せたが、イリヤの表情は晴れない。
すぐさま増援が現れて、キリが無いのだ。
このままでは物量に押し切られる。
押し切られた先の未来に何が待っているかは考えたくなかった。


『このままだとあと四十秒で囲まれちゃいますけど、どうします?イリヤさん?』
「呑気に言ってないで何とかしてよルビー!!」


悲鳴にも似た懇願の声を、呑気な相棒に飛ばす。
だが、シリアス適性の低い愉快型魔術礼装はどこ吹く風。
普段の様にイリヤの反応を楽しんでいる節すらあった。



『あぁダイジョーブですよイリヤさん。囲まれると言っても────』



言葉と共に、ルビーはボディの羽の様な部分を上へと向ける。
すると、それと同時にイリヤとルビーのいる場所に影が差した。
丁度イリヤとそう変わらない大きさの、一つ分の影が。
そして、影が差してから瞬きに等しいほんの一刹那の時間で、死霊共が吹き飛ぶ。


『セイバーさんがいなければの話なのでー』


そう告げるルビーと共に、目の前に降り立った存在をイリヤは見つめた。
現れたのは、イリヤよりもほんの少しだけ年かさの子供だった。


「イリヤ、今宵はここまでだ。ここも外と繋がる様な手がかりはないだろう」


少年の様にも少女の様にも見える風貌に、烏の様な瑞々しい黒髪。
白い和の装束に身を包んだ麗人。イリヤの引き当てたサーヴァント。
彼は、己の事をセイバーと名乗った。

54イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:16:31 ID:FaMsnVLc0


「うん、セイバーさん。でももう少しだけ……」
「いいから、君は弱いのだから。せめて無理をしない様にして貰わないと私が困る」
『そうですねー、ルビーちゃんも今夜はもう疲れちゃいました』


これ以上ここで粘った所で得られる物は何も無い。危険なだけだ。
そうセイバーとルビーに主張されてしまえば、反論もできず。
また何の手掛かりも得られぬまま、数分後に少女はその場を後にして。
結局、この夜も全ては無駄足に終わったのだった。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



命懸けの調査行を終えて。
仮の宿としてイリヤの記憶から再現された、一軒家の屋根で人心地つく。
死地より今日も生還した事になるが。
それでもイリヤの表情は晴れなかった。
この世界に招かれてから、もう一週間になるが。
未だ仲間たちの元へ帰還する方法は見つかっていない。


「早く美遊と…リンさん達の所へ戻らないといけないのに……!」


胸の内にあるのは、焦りだ。
この世界に迷い込む直前。
並行世界にて彼女は、エインズワースという魔術師の一族と戦っていた。
世界を救う生贄とならんとしている親友を、美遊・エーデルフェルトを救うために。
それなのに、その中途で彼女はこの世界に招かれてしまった。
美遊は、クロは、仲間たちは、今どうしているだろうか。
世界も、親友(ミユ)も、両方救うと息巻いて。
その矢先に突然いなくなった自分の事を、どう受け止めているだろうか。
無事でいるだろうか。
それを考えるだけで、不安で小さく幼い身体が崩れ落ちそうだった。


「マスター」


考えるな、と。
被りを振るって、不安を心の底に押し鎮めて。
自室に戻ろうとした時の事だった。
連れ立って帰って来たセイバーに呼び止められたのは。
少し、話があると。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



元の世界と同じ、記憶から再現されたらしい自室に籠って。
消灯し、月明かりだけがカーテンから覗く薄暗い部屋で。
セイバーとイリヤは向かい合っていた。
イリヤはベッドに腰掛け、セイバーは直立不動のまま。
ルビーすら茶々を入れず、静謐で張り詰めた空気が場を支配していた。
その中で、静かにセイバーは口を開く。


「イリヤ…君と私が出会った夜。君は、聖杯は目指さないと、そう言ったな」


平坦な声だった。
どんな感情で尋ねているか、セイバーの表情からも伺えない。
もしかして、怒っているのだろうか。
実はセイバーさんにも願いがあって、納得できないのだろうか。
そんな不安を抱きつつも、取り繕うことなく首肯する。
そして今一度告げた。聖杯を、獲るつもりはないと。

55イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:17:28 ID:FaMsnVLc0


「……何故だ?」


その言葉を聞いて、セイバーが発したのは純粋な疑問の言葉だった。
怒りではない。しかし解せないという表情でじっとイリヤを見つめて。



「君が君のいるべき場所に帰ること。君の友を救うこと。
そして君の友の世界を救うこと。その全てが────
儀に勝ち残り、君をこの地に招いた盈月に願えば叶うのだろう」



確かに、そうだ。
イリヤもまた、その事については考えていた。
この地で得た聖杯を使えば、イリヤが此処に至る前に世界を滅ぼした男。
ダリウスの思惑を超えられるのかもしれない。世界を救えるのかもしれない。
そうなれば、親友(ミユ)だって、きっと。


「もし、君が聖杯を求めるなら───今ここで私に命じろ。勝て、と
友と世界を救わんとする君の願いは、きっと間違いではない。私が保証する」


声は冷たく、命令する様な語気でセイバーは呼び人に選択を迫った。
これでは主従があべこべだと、聞く者によってはそう感じたかもしれない。
だが、セイバーのマスターであるイリヤは憂いを帯びながらも穏やかな表情をしていた。
彼女はセイバーの言葉に、深い思いやりが籠められているのに気づいていたから。


『確かに、ルビーちゃんの見立てではセイバーさんは大当たりサーヴァント!
勝ち残るのも夢じゃないですねー!いっそ優勝を目指すのも───』
「ルビー」


合いの手を入れるように囀るルビーを名前を呼ぶだけで沈黙させた後。
躊躇なく、穏やか且つ泰然とした物腰で、イリヤは返答を返した。
そう言ってくれるのはとても嬉しい。だけど、私の答えは変わりませんと。


「確かに、セイバーさんの言う通り間違いじゃ無いのかもしれない。
だけど……正しい訳でも無いんです。たぶん、私にとっては」


この聖杯戦争は、脱落者は帰還できない。
更に冥府と仮初の現世たる会場は、聖杯戦争の進行と共にどんどん狭まっていく。
サーヴァントを失い、冥界に放り出された敗残者は。
あっという間に運命力を使い切り、死霊としてこの地を彷徨う事となる。
故に、犠牲を避けては通れない。
必ず、イリヤの願いの為にこの地に散る者が出てくる。
彼女には、それがどうしても許容できなかった。


「人の願いを…希望を託すのが聖杯なんでしょう?
だったらどうして……全ての人の幸せを願わないの?」


一番いいやり方なんて分からない。
でも、犠牲を許容するのを受け入れる、なんて。
そんな事は初めから間違っている事だけは確信が持てた。
友も世界も、全てを救う。かつて自分はそう言った。
それなのに、この世界の競争相手は犠牲になっても仕方ない、なんて話はない。
だから俯かない。過去と未来の自分(イリヤ)が、それを許さない。
どれだけ果てなき道行きでも、抱いた想いに背を向ける事だけはしない。
未来は、前にしかないのだから。
それが今の彼女の答えで、全てだった。

56イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:18:54 ID:FaMsnVLc0



「………誰も犠牲にしない、か。
願いと言うのすら憚られる。童(わらべ)の我儘だな、それは」



腕を組み、変わらぬ冷淡な態度で。
セイバーは少女が語った願いを、そう評した。
イリヤの表情が固まるのも気に留めず、セイバーはさらに続ける。



「───何も選べぬ者に、何も成せはしない」



君は、弱いのだから。
その言葉は、一切歯に衣着せる事無く。
じっとイリヤの真紅の瞳を見つめたうえで、純然たる事実を突き付けた。
はっきりと断言された現実は、今の少女の願いを否定するものだ。
しかし、それでも彼女は。


「───うん、だから」


表情が固まったのは一時の事。
実に苦い現実の二文字を直視させられて尚、少女は俯く事も目を逸らす事もなかった。
ただ、彼女はセイバーの琥珀色の瞳を真っすぐに見つめて。
そしてその後に両手を翼の様に広げ、己が従僕に願った。



「セイバーさんが、手伝ってください。
私だけじゃただ死んじゃうだけでも、セイバーさんが手伝ってくれたら…
ここから出る方法位は、きっと見つかると思うから」



美遊達のいる世界に戻れるように。
…私がみんなを助け出せるように、力を貸して。
愛らしく、しかし揺るぎのない声で以て、願いは紡がれた。
それを耳にしてから、セイバーは暫しの間沈黙。
十秒程間を置いて、視線を傍らでふよふよと漂う魔術礼装に向けて尋ねた。


「なぁ君、彼女はいつも“こう“なのか?」
『モッチロン!こうなった時のイリヤさんは手強いですよー
なんせルビーちゃんが見つけて手塩にかけて育てた最高のロリっ子ですから!
イリヤさん株は今がお買い得です!底値ですから!!』

57イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:21:14 ID:FaMsnVLc0

それつまり、今の私の株がどん底って事だよねルビー……
イリヤはルビーの発言からそんな事を考えたが、突っ込みはしない。
話を聞いて再び考えこむセイバーの姿は、真剣そのものだったから。
そうしてイリヤとルビー、一人と一本が固唾を飲んで見守る中。
また暫しの間を置いて、セイバーは己が呼び人の名を呼んだ。



「イリヤ」


その裏で想起するのはかつて己が駆けた聖杯戦争の記憶。
セイバーの英霊としての在り方を決定づけた日々。
夜空に浮かぶ月を追い駆ける様な、夢の様に儚く美しい戦いの。
その最後の一幕だった。
それを思い浮かべながら、セイバーは口を開き。
過去と現在が交わる。



────セイバー。やはり俺は、やさしい人では無いんだよ。



「君の願いはやはり、童の我儘だ」



皇子の生涯は、選択と殺戮の連続だった。
神も魔もまつろわぬ民も、命じられるままに切り捨てた。
英霊として世界に召し上げられても、変わることは無く。
征服者ではなく、善なる皇子として生きる道を選んだあとですら。
彼の“運命”は、その剣の渇きを潤すために選択を迫った。



────即ち、ただ剣の鬼として。
────故に、ただ善を成すものとして。



「私は───きっと、君と同じ願いを掲げる事は出来ない」



友と、世と。
両方を選ぶ道を歩むことはできなかった。
善を成すものとして、これまで切り捨ててきた全ての命の為に。
彼は、善を成すことを決めた。



────即ち、ただ剣の鬼として。
────故に、ただ善を成すものとして。

58イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:22:02 ID:FaMsnVLc0



「だが」



───君を斬る。ただ、君自身の為に。
───お前を斬るより、最早道は無し。



「君の願いは───美しい」



同じ願いを抱き掲げるのは難しいけれど。
願いを紡ぐ少女の瞳に籠められた星の光は、セイバーの目に眩く映った。
だから。だから彼は、
────君の願いを、斬り捨てる。
とは、告げなかった。



「だから、同じ願いを掲げる事は叶わずとも……
───私は、君の願いを守りたい」



それこそが、此度の聖杯戦争で背負う、セイバーの願いだった。
聖杯を獲得し、世界を救う。
その願いを選択したとしても、僅かな犠牲と引き換えに。
彼女の友と世界全ての人々が救われるのなら、悪と断じる事は出来ない。
だがそれでも───今はただ、少女が進むと決めた道行きの力となってやりたかった。



「遍くすべてを救わんとする君の祈りを守りたいと、そう思ったんだ」
「それじゃあ……」
「あぁ、今一度君の答えを聞けて、漸く肚が決まった」



僅かに空いた外へと繋がる窓から隙間風が入り込み、カーテンを揺らし。
はためいたカーテンの奥から月明かりが覗いて、セイバーの姿を静かに照らした。
セイバーはさっきと打って変わった穏やかな微笑を浮かべていて。
神々しさすら感じられる清廉とした彼の剣士の美しさに、イリヤは思わず息を飲んだ。
自身を一心に見つめる主に対して、セイバーは表情を凛々しく引き締め。


力強く、誓いの言葉を謳った。



「サーヴァント、セイバー。力なきもの、汝の力となろう────」



その言葉を聞いた瞬間。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの身体の奥に。
何かが奮い立つ様な、熱いものが流れた様な、不思議な感覚が駆け抜けた。
胸の奥からこみ上げる、決して消えない熱に応えるように。
背筋を伸ばして、真っすぐに自分の願いに向き合ってくれた従者を見つめて。
そうして、今用意できる最高の感謝を込めて、少女は応えた。



「───うん。よろしくおねがいしめしゅ!」
『今、噛みましたねー』

59イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:22:25 ID:FaMsnVLc0



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



赦せ、一歩我らが征くことを
生まれるときを。
身を焦がし焼き切れても、道だけは続いている。
その美しさも哀れみも、大我に消える泡沫。
残り滓寄せ集め。
まだ進んで行け、進んで行け。
どんな果てが待っていようとも。
歩んでいけ、歩いていけ。
夜を越えて。

60イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:23:26 ID:FaMsnVLc0


【CLASS】
セイバー

【真名】
ヤマトタケル@Fate/SamuraiRemnant

【ステータス】
筋力 A 耐久 C 敏捷 B 魔力 A+ 幸運 A(自己申告) 宝具 EX

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:A
セイバーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。Aランクともなると、どのような大魔術であろうとも、Aランク以下の魔術を無効化する事が可能となる。

騎乗:A
セイバーのクラススキル。乗り物を乗りこなす能力。対象は生物・無生物を問わない。Aランクなら、幻獣、神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を操れる。

【保有スキル】
神性:D
神霊適性を持つかどうか。Dランクは、神霊の末裔や死後神格化された人間の適性。
神格化されていた天皇の血筋(皇子)である事に由来する。

血塗れの皇子:EX
血の繋がった兄弟も、異郷の王達も、そして、愛した人さえも目の前で命果てていく。
そのような生前の生き様が、スキルとして表現されたもの。

神魔鏖殺:A
神性、魔性に対する優位。神も人も魔も、ヤマトタケルは打ち倒す。
Aランクともなれば最高位の特攻効果を発揮し、神と魔の属性を持つ敵に対してあらゆる判定でボーナス補正が発生する。

魔力放出(水):B+
水の形態の『魔力放出』を行う。隠された大宝具の齎す神気は、ヤマトタケルの魔力の性質を水と定めた。宝具『水神』の効果によってランクが上昇。

【宝具】
『水神(みなかみ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
セイバーが持つ『天叢雲剣』の刀身を水の魔力で覆い隠し、蛇行剣の形と成す隠蔽宝具。
スキル『魔力放出(水)』を強化する効果もあり、宝具を使用することで水の魔力による水流を駆使した攻撃を行うことができる。
魔力を消費して本宝具を使用することで、ジェット水流による遠距離攻撃も可能としている。

『絶技・八岐怒濤(ぜつぎ・はっきどとう)』
ランク:B 種別:対人/対軍絶技 レンジ:0~10 最大捕捉:1~20
宝具を疑似開放し、水の斬撃を一度に8つ放つ絶技。
各斬撃は大蛇の如くうねり、さながら八岐大蛇を彷彿とさせる。
本人が編み出した唯一の対人技であるが、破壊力が高すぎる故に対軍宝具と見紛うほどの範囲効果まで付帯している。

『界剣・天叢雲剣(かいけん・あめのむらくものつるぎ)』
ランク: EX  種別:対界宝具 レンジ:1?99 最大捕捉:1?900人
スサノオ神話にて生み出され、ヤマトタケル伝説にて振るわれた神剣。
水の鞘を開放した神剣本来の姿。伊吹童子の『神剣・草那芸之大刀』と同一の剣。
普段は宝具『水神』によって隠蔽されているが、開放することで白色の蛇行剣から翡翠色の刀身が顕になる。
討ち取られた災害竜の尾から生じたこの剣は、かの竜自身が備える数多の威、天地自然の諸力の具現である神造兵装の一種と扱われている。
故にこれを行使することは、一時的に「神/カミ」すなわち世界と一体になる事と同義である。
真名解放した場合、ただちに「神/カミ」の力が行使される。
効果については使用者が選択可能。破壊を望めば、一帯に無尽の暴威をもたらす。
或いは何をも傷付けず、護ることや、救うことを望むならば―――神剣は、対界規模の奇跡を顕すかもしれない。

61イリヤスフィール&セイバー ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:24:26 ID:FaMsnVLc0

【weapon】
天叢雲剣及び、腰に備えられた無銘の刀。

【人物背景】
日本神話において各地を平定した大英雄、『ヤマトタケル』
東西に渡って多くの戦いを越え、まつろわぬ豪族達と荒ぶる神々を討ち倒した征伐者として有名。大英雄として称えられつつも、孤独な征服者として生涯を送ったタケルは、
伊吹山の神を鎮めに行った際に、ミヤズヒメに草薙剣を預けていたことが原因で神剣の加護を失ったため失敗。白い大猪の姿をした伊吹山の神の怒りを買い、呪いを受けて衰弱、
大和への帰路の途中で力尽きるという最期を迎えた。死後その魂は大きな白鳥となって、空へ旅立ったとされる。
彼は死後英霊として世界に召し上げられ、慶安の時代に盈月の儀なる聖杯戦争に参加する事となる。
そこで彼は運命に出会い、そして戦いに果てに────、

【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを守り抜く。

【マスターへの態度】
懐き度30くらいのわんこ。

※盈月剣風帖の記憶があるかはお任せします。

【マスター】
イリヤスフィール・フォン・アインツベル@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ ドライ!!

【能力・技能】
カレイド魔法少女としての能力。

マジカルルビー
魔法使い・宝石翁ゼルレッチの制作した愉快型魔術礼装カレイドステッキとそれに宿っている人工天然精霊。愛称(自称)はルビーちゃん。
子供の玩具にあるような「魔法少女のステッキ」そのままの外観でヘッド部分は五芒星を羽の生えたリングが飾っている。羽のモチーフは鳥。
ある程度、形・大きさを変えることができるらしく、使用時以外は手で持つステッキ部分を消して、羽の生えた星型の丸いヘッド部分のみの姿となって、イリヤにまとわりついている。

クラスカード
エインズワースによって作られた魔術礼装。
高位の魔術礼装を媒介とすることで英霊の座にアクセスし、力の一端である宝具を召喚、行使できる『限定展開(インクルード)』の能力を持つ。
だが、それは力の一端に過ぎず、本質は「自身の肉体を媒介とし、その本質を座に居る英霊と置換する」、一言で言えば「英霊になる」『夢幻召喚(インストール)』を行うアイテム。

【人物背景】
穂群原学園小等部に通う小学生……だったが、カレイドステッキに見初められ、詐欺同然の強引な手口で契約させられ、
魔法少女プリズマ☆イリヤとして戦う運命に巻き込まれた一般人の女の子。
少なくともドライ四巻以降からの参戦。

【方針】
帰還の道を探す。

【サーヴァントへの態度】
セイバーさんは頼りになるので、一緒に頑張りたい。

62 ◆/9rcEdB1QU:2024/04/09(火) 00:24:44 ID:FaMsnVLc0
投下終了です

63 ◆s/cqbDIh/w:2024/04/09(火) 00:26:18 ID:1XPpdwVs0
>>62
すいません。割り込み失礼しました。
改めて投下します。

64Never End ◆s/cqbDIh/w:2024/04/09(火) 00:28:06 ID:1XPpdwVs0
息を切らせて青年が逃げる。ゼェ、ハァと荒れる呼吸、激しく脈打つ鼓動はわき目もふらずに駆け出している自身の全力疾走によるものか、それとも、直前まで彼が目の当たりにした凄惨な光景による精神的な衝撃によるものか。
その鼻孔にはいまだに肉が焼け、身に着けた衣服も装飾も何もかもを巻き込んで燃え尽きた時に香った嘔吐感を催す焦げ臭い匂いがこびり付いて離れない。
その鼓膜にはいまだにその身がみるみる内に極寒の冷気に侵蝕され、壊死する暇すらなく氷のオブジェへと変じさせられる恐怖と苦痛と驚愕に支配された、されども口腔すらも凍り付いたことで満足にあげることを許されなかったくぐもった悲鳴が反響し続けている。
どうしてこんなことになったのか。突如として現れた、化け物としか形容のできない異形によって彼の仲間は一瞬の内に物言わぬ死体へと変えられた。
怪物の腕が二本しかなく、逃げ出す青年を捕捉する腕の余裕がなかったこと、そして彼が逃げ込んだのが入り組んだ路地裏で、そしてどこをどう逃げれば撒きやすいかを熟知していたのはこの降ってわいた事故としか言えない不運に見舞われた彼の数少ない幸運だったかもしれない。故に彼はここまで生き延びることができ、そして繁華街の光が見えるところまで逃げ切ることが出来たのだ。
逃げ切ったとして警察がどうにか出来る手合いか?否だろう。繁華街に逃げ込んだことで根本的な解決になるか?それも否だ。
それでも、もしかしたら人通りの多いとこまでは追ってこないかもしれない。追って来たとしても人ごみに紛れれば自分でない誰かに標的を映してくれるかもしれない。そんな僅かな希望に縋って青年は手を伸ばす。手を伸ばして――

そしてその手は願い虚しく宙を切った。
不意に体の自由が奪われる。制御を失った体が勢いを殺し切れずアスファルトの地面にダイブする様に倒れ込む。
パニックになる青年の霞む視界が路地の闇から姿を現す白衣の男を捉えた。青年を繁華街から隠すように立ちふさがる白衣の男は彼が抵抗できなくなったことを確認して手に嵌めていた指輪についていた蓋を閉じる。今彼が倒れ込んだ元凶は白衣の男が元凶であることは明白だ。
それでもどうにか足掻こうと青年は白衣の男に緩慢な動作で手を伸ばそうとする。それを白衣の男は笑うでもなく、怒るでもなく、ただ冷たい目で見下ろす。
状況はなにも好転しない。ここが無駄な抵抗の終着点。それを告げる様に倒れ伏した青年の後ろから、ジャリ、という足音が響いた。
まともに動けない彼の周囲の気温がみるみる内に熱を持つ。悪ふざけでライターを近づけられた際に感じた物は比較なぞ出来る訳もない熱量が近づくのを感じたのは一瞬。
何かに捕まれる感覚。即座に全身を包む焼ける様な、いや、文字通りにその身を焼きつくす痛みと熱。それを最後に哀れな逃亡者の意識は途絶えた。
繁華街を行きかう人々はそんな惨劇が起きたことなど知る由もない。鼻のいい者がいれば何か焦げる様な臭いを感知したかもしれないがその程度だ。二人の命が消えた事など気にも留められず東京の夜は更けていく。

65Never End ◆s/cqbDIh/w:2024/04/09(火) 00:29:20 ID:1XPpdwVs0

「雑魚一人みすみす逃がすつもりだったのか?キャスター」

 最後の一人を焼き尽くし、その魂を食らって魔力へと変換した自身のサーヴァントに対し白衣の男、永井木蓮は不機嫌な声色で投げかけた。
 なんの特異能力もない優れた身体能力もないモブNPC一人、彼が契約したキャスターであればここまで泳がせる暇もなく始末することなど造作もない筈だ。
 気の弱い者であれば射竦められてしまうであろう鋭く厳しい視線を向けられてなお、炎と氷の半身を持つ異形のサーヴァントは意に介する素振りすら見せない。

「クククッ、まさかまさか。ただ兎を狩るのに魔力を消費するのも面倒だったんでな。頼りになるマスター様にご助力いただこうと思ったまでよ」

 小馬鹿にした笑いをあげながら氷炎のキャスター、大魔王バーン率いる六大軍団長の一人であるフレイザードは己のマスターを見下ろしながら向き合った。
 強力なサーヴァントであるフレイザードだがそれを十全に運用するだけの魔力を木蓮一人で賄う事は叶わなかった。故にフレイザードの提案によって彼らはこうして夜な夜なNPCを狙って魂喰いを行っているのだ。
 魂喰いという行為は他の主従に目をつけられるリスクがある。だが、聖杯戦争に臨み、数多の英雄と渡り合い勝利を手にする以上はいかに消耗を抑えながら魔力を蓄えるかが今の彼らにとって重要事項であった。
 本来であればしなくてもいいリスキーな行動をしなくてはならないのは己のマスターの能力不足。その事実がフレイザードから木蓮への評価の低下に繋がっており、自身が原因であるという負い目から木蓮も強く出ることは出来ないでいた。

「……次からは俺に妨害させるなら女にしろ。その方が少しはモチベーションが上がる」
「いいぜ、お互いに得があった方がいいもんなぁ?それぐらい呑んでやるくらいの度量はあるつもりだ」

 尊大に振る舞いながらフレイザードは魔力の消費を抑えるために霊体化し夜の闇に消える。
 微かに肉の焼けた匂いが残る路地裏で一人、木蓮は忌々し気に舌打ちを鳴らした。

66Never End ◆s/cqbDIh/w:2024/04/09(火) 00:30:43 ID:1XPpdwVs0

(クソが、あからさまに見下しやがって)

 内心で毒を吐くが、それを口にすることはない。霊体化で姿かたちが消えていてもサーヴァントの聴力は健在だ。うっかり不満を口に出そうものならば関係悪化を盾に自身にとって不利な条件を押し付けられる可能性がある以上、木蓮は口を噤まざるを得ない。

 冷気を見れば木蓮の内に殺意が沸き上がる。自身をコケにし、二度も土をつけた水鏡凍季也を思い出すからだ。
 炎を見れば木蓮の内に激情が猛る。自分の人生にケチがついた契機であり先の一戦でも勝利する事が叶わなかった花菱烈火を思い出すからだ。
 そんな自分のサーヴァントが氷と炎を扱う存在とは悪趣味な冗談だと木蓮は苦々しく思っている。加えて明確な実力差もあってフレイザードは木蓮を見下している。
 令呪による生殺与奪の権利を木蓮が得ているサーヴァントとマスターという関係、そして目的の為であれば非道・外道と呼ばれる行為にも躊躇う事なく選択肢として選べるスタンスの親和性から表向きは協調的な姿勢を見せているが、仮に同じスタンスで魔力問題を解消できるマスターが見つかった場合フレイザードが自身を見限る可能性は十分にある。結果としてある程度はフレイザードに阿った方針を取らなければならないことは木蓮にとっては屈辱であった。
 だが、それでも木蓮がこの聖杯戦争を勝ち抜き、願いを叶え生き返り花菱烈火らにリベンジを果たす為であれば辛うじて呑むことが出来る屈辱でもある。

(この屈辱も、全部テメエをぶち殺すためだ花菱烈火)

 フラストレーションを全てどす黒い殺意へと変換し、木蓮はギラついた視線を中空へ、脳裏に浮かぶ花菱烈火へと向ける。

(俺が死ぬまで終わりはねえ、そっちじゃ俺は死んだとしても、俺は生き返る術を、テメエを殺しに行く術を見つけた!終わりじゃねえ……終わらせねえ……!俺が死んだって終わりはねえのさ!!!)

 ギリと両の拳を握りしめる。狂気を孕んだ獰猛な笑みをここにはいない相手に向ける。
 仁なき男、永井木蓮。その凶気は死してなお尽きることはない。

67Never End ◆s/cqbDIh/w:2024/04/09(火) 00:32:31 ID:1XPpdwVs0
【CLASS】
 キャスター

【真名】
 フレイザード@ドラゴンクエスト ダイの大冒険

【性別】
 無性

【属性】
 混沌・悪

【ステータス】
 筋力B 耐久A 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具B

【クラス別スキル】
 陣地作成:B
  魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
  “工房”の形成が可能。
 道具作成:D
  魔術的な道具を作成する技能。

【固有スキル】
 六大軍団長:A
  魔王軍において軍団を統率する六つの軍団長の一人。キャスターはその中でも意志を持たない岩石や冷気・熱気を肉体とするエネルギー体の魔物を統べている。また、Cランク相当の軍略スキルを内包する。
  使い魔としてフレイムやブリザードといったモンスターを使役する他、対軍宝具の行使、対処において有利な補正を得る

 禁呪法生命体:A
  禁呪によって生み出された人や生物などとは身体構造からして異なるエネルギー生命体。同ランクの戦闘続行、仕切り直し、頑健スキルを内包する。
  岩石で構成された肉体には臓器なども存在せず不死身に近い耐久力を誇るが結合のための核を破壊されると相反する属性の肉体を保つことが出来ず半身ずつに自壊してしまう。

 氷炎将軍:A
 火炎と冷気の魔を統べ、立ちふさがるものをある者は焼き尽くし、ある者は凍結して打ち滅ぼして来たキャスターへ畏怖と恐怖をもってつけられた呼び名。
 最上級の火炎呪文と冷気呪文の扱いに長け、禁呪の域に踏み込んだ呪文を行使できる上、氷の右半身では冷気による攻撃を、炎の左半身では炎熱による攻撃を吸収して無効化することが出来る。


【宝具】
『氷炎結界呪法』
 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:1~20人
 対軍蹂躙を目的とした大規模禁呪結界。
 氷魔塔と炎魔塔を顕現させ、自身を基点としてレンジ内にいる全ての対象の戦闘力を1/5に低下させ、また魔力を介して発動するスキル・効果を発動不可能の状態にする。
 この状態を解除するにはレンジ外に出る・氷魔塔と炎魔塔を両方とも破壊する・核となっているキャスターを倒すのいずれかの手段が必要となる。

『弾岩爆花散』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1~20人
 我が身すら省みず新たな栄光と勝利を得る為の最終闘法。
 その身を無数の岩石の弾丸へと変じさせ、周辺一帯の敵を殲滅する。無数の岩石の群体は全てがキャスターの意思で行動し仮に岩石を破壊したとしてもその破壊した破片全てが弾丸となって対象に襲い掛かる。強力な攻撃であるが再構築したキャスターの身に纏った冷気と熱気が消えうせ岩石の体が露出するほど消耗も激しい。
 この宝具を発動したキャスターに対抗するには、コアを破壊するか、氷と炎の体をそれぞれ相反する属性の攻撃で消滅させるしかない。


【weapon】
 なし。

【人物背景】
 大魔王バーン率いる魔王軍の幹部、六大軍団長の一人。
 魔王ハドラーによって作り出されたエネルギー生命体であり、生後1年に満たず確たる歴史も人生も持たない自身の経歴がコンプレックスとなっており、勝利と栄光を至上としている。
 女子供であろうとも容赦しない残虐性と勝つ為であれば手段を択ばぬ冷酷さを併せ持つ。

【サーヴァントとしての願い】
 勝利と栄光を

【マスターへの態度】
 スタンスとしては噛み合っており、自身と同様に目的のためならば手段を択ばない冷酷さを持っているため一先ずは及第点。
 ただし魔力保有量という観点からすると落第点であるため、より使えるマスターが見つかれば鞍替えも視野にいれている。
 マスターとサーヴァントという関係性、令呪による生殺与奪の権利をマスターが持っている事から協調路線こそとっているが、サーヴァントとマスターの根本的なスペック差、ましてや自身が戦ったアバンの使途達にも劣る戦闘能力のマスターに対しては内心で見下している。

68Never End ◆s/cqbDIh/w:2024/04/09(火) 00:33:05 ID:1XPpdwVs0
【マスター】
 永井木蓮@烈火の炎

【マスターとしての願い】
 生き返り、花菱烈火にリベンジしにいく

【能力・技能】
『魔道具「木霊」』
 体内に飼った植物を操ることができる魔道具。
 初期は体から根や枝を生やしての刺突、トリカブト毒の散布などであったが人体改造によって肉体と魔道具を合成した結果、肉体そのものを樹木へと変質出来る様になった。

【人物背景】
 暗殺組織「麗」に所属していた猟奇的殺人鬼。女性を拷問・殺害しその時の悲鳴を録音して聞くのが趣味というサディストかつ自分至上主義のエゴイストな外道。また非常に執念深く、自身を下した花菱烈火や水鏡凍季也には強い執着を見せる。
 表向きの職業は医者であり、科学知識も豊富で木霊を使用した品種改良など応用力も高い。

【方針】
 魂喰いをして地固め。基本は遊撃ではなく相手を自分達のテリトリーに誘い込んで迎撃のスタンス

【サーヴァントへの態度】
 スタンスは一致しているので協調路線。
 相手が内心で自身を見下しているのは感づいており、いつ寝首をかかれてもいいように最大限の警戒。マスター脱落などで別に契約できるサーヴァントがいるのであれば切り捨ても視野。

69 ◆s/cqbDIh/w:2024/04/09(火) 00:33:38 ID:1XPpdwVs0
以上で投下終了します

70 ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:24:07 ID:77uuZc8Y0
投下させていただきます。

71命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:25:03 ID:77uuZc8Y0
 

 小さな子どもが、走っていた。
 女の子だ。年頃はきっとまだ十にも届いていないだろう。
 遊び盛りの年齢だが、しかし今彼女がそうしているのははしゃいでいるからではない。

 そうしなければ、死ぬからだ。
 そのことは周囲の街並みを覆う炎と悲鳴が告げていた。
 彼女も、この惨禍で死んだ者達も、誰も世界の真実を知らない。
 此処が死後の世界――冥界であることも、そして此処で行われている戦いの存在も。当然のように、知る由もない。
 知る由もないまま、戦争の端役(エキストラ)として消費されていくのだ。
 少女は走り、走り、走り、そしてつまらない瓦礫に足を取られてすっ転んだ。
 膝を擦り剥いて、うぅ、と小さなうめき声を漏らしながら立ち上がったその顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚れている。
 口がわずかに動いたが、出てきた言葉が「パパ」だったか「ママ」だったかは周囲の轟音のせいで聞き取れなかった。

 足を止めたら、死ぬ。
 逃げないと、助からない。
 幼いながらにそう理解しているのか、少女はよろよろと歩き出す。
 だが悲しきかな。わずかに歩みを止めた数秒は、彼女にとって運命の数秒となった。

 後ろから、迫っている影がある。
 鎧を纏い、銃を携えて嗤う凶影だった。
 彼こそは、この惨禍を引き起こした張本人。
 聖杯を狙い、冥界に招来されたサーヴァントの一体だった。

 引き金に指が触れる。
 あと数センチで、ひとつの命が奪われる。
 幼子は、おぼつかない足取りで必死に生きてもいない命を守ろうと進む。
 彼女に、迫る"死"を防ぐ手立てはない。
 だからこそ、すべてはすぐに終末を迎える。
 引き金が引かれ、今まさに弾が吐き出されようとしたその瞬間――


「――待ちなさい!!」


 声が、響いた。
 周囲の惨状とは不似合いな声。
 高らかに、それでいて堂々と。
 物怖じすることなく雄叫びをあげて、今にも少女の命を奪おうとした凶影の前へ割り込んだ小さな影がある。

72命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:25:23 ID:77uuZc8Y0

「そんな小さな子どもに銃口を向け、あまつさえ引き金を引くとは何事ですか!
 ふてえ野郎です! その蛮行、私の目が黒いうちは何がなんでも絶対に許しません!!」

 不似合いなのは声だけじゃない。
 見た目もだった。
 カラフルな色彩にファンシーな装飾品は、流行りもののアイスクリームやわたあめを思わせる。
 それでもその手に握られているのは、突破力に長けた突撃銃(ショットガン)。
 まるで救いの天使かのように、頭の上には独特な形状の光輪(ヘイロー)が瞬いていた。

「助けが遅れてしまってごめんなさい。でももう大丈夫です、私が来ました」
「お、……お姉さん、だれ……?」
「誰と聞きますか。では名乗りましょう、あなたにも、そこの非道なあなたにも!」

 そして。
 彼女の右手に刻まれているのは、三画の紅い刻印だった。
 令呪と呼ばれるそれは、この世界においては特別な意味を持つ。
 意味のある死者と意味のない死者を区別する、聖杯の刻んだスティグマ。
 それを持つ者が、単なる端役のエキストラであるなどありえない。


「自警団のさきがけにして、燃え上がる正義の象徴! あらゆる悪を許さない、トリニティ総合学園のスーパースター!!」


 死者とはとても思えない、綺羅星のような輝きを瞳に灯して。
 颯爽と引き金に指をかけ、銃声を響かせる。
 その姿も、堂々たる物言いも、すべてがある言葉に合致する。
 正義の味方(ヒーロー)。
 この愛なき、命なき世界にてもそれを貫く、流星のような少女。


「トリニティ自警団は宇沢レイサ! 此処に! 見・参――――!!」


 少女の名前は宇沢レイサ。
 学園都市キヴォトスから、何の因果かこの冥界に迷い込んだ者。
 彼女の放った弾丸が、凶行の弾き手である凶影へ、その悪行を糾弾するように襲いかかっていった。



◆◆

73命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:25:55 ID:77uuZc8Y0



 ……レイサの働きの甲斐あって。
 どうにかあの幼子は、この惨禍の地及びその実行犯から逃げ遂せることに成功したらしい。

 そのことにレイサは静かに胸を撫で下ろす。
 けれど、彼女の身体は赤く汚れていた。
 理由など、改めて語るまでもないだろう。
 冥界の葬者だろうが人間は人間。
 キヴォトスの住人であるレイサは他世界基準の人間では考えられない頑強さを持つが、それでも英霊の暴力に耐えられるほどではない。
 単身で英霊の凶行を止め、割って入った正義の味方が払わされた代償は。
 誰がどう見ても無謀としか言いようのない行動に伴うだけの、痛みという名の"現実"だった。

「は、あ」

 太ももに穴が空いていた。
 脇腹が抉れて、制服を赤く染めていた。
 嬲り殺しにでもするかのように撃たれ、穿たれ、地に片膝を突いている。

「は、っ、あ……、ぅ、ぐ……っ。……はは」

 苦悶の声に交ざって、自嘲するような笑い声が漏れた。
 レイサ自身、本当にどうにかできると思って躍り出たわけじゃない。
 時にはとびきりの馬鹿扱いされることもあるレイサだが、彼女は彼女なりに現実を見て、その上でこうして正義に殉じているのだ。
 英霊の前に、たかが人間の身で躍り出ることの意味。
 それを理解していたからこそ、レイサはこの光景を最初から頭の中に思い描けていた。

(まあ……。そりゃ、こうもなりますよね……。キヴォトスのスケバンがかわいく思えてきます、サーヴァントってこんな強いんだ……)

 今まで感じたことのないような痛みで、頭の中が沸騰しているのを感じる。
 過度の痛み/生命の危険は、どうやら人間のことをいつも以上に冷静にしてくれるらしい。
 
 凶影が、英霊が、嗤っている。
 それもそうだろう。
 彼にしてみればレイサは、生きてもいない命を逃がすために命を張った愚者にしか見えないに違いない。
 そして事実、そうだった。レイサの行動は、この世界において恐らくもっとも意味のない勇気であった。

 聖杯戦争とはつまるところ殺し合いで。
 冥界とは、死者だけが存在を許される異界。
 葬者ならばいざ知らず、そうでもない端役達は所詮記憶と記録の再現体でしかない。
 命にすら満たない命。蜃気楼を守るために身体を張ったようなものだ。

74命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:26:35 ID:77uuZc8Y0

 レイサも、それは分かっていた。
 こんなことしたって意味はないと。
 今の自分がするべきは、速やかにこの惨禍から背を向けて逃げ出すことだと。
 そう、分かっていた――なのに身体は勝手に動いていた。
 まるで、そうしなければ自分ではないと言わんばかりに。
 その結果がこれだ。今、自分は無駄な正義の代償として命を奪われようとしている。

(まあ、自警団のエースの名に恥じない……立派な死に方でしょう。
 スズミさんも他の皆さんも、正義実行委員会の方々だって、きっと私の生き様を拍手喝采で褒め称えてくれるはずです。
 先生だって、スイーツ部の皆さんだって、そう……)

 けれどレイサの心は晴れやかで、誇らしげだった。
 実像がどうかなんて関係はない。
 そこにいて、生きていて、泣いているのならそれは立派な命だろう。
 それを助けずに目を背けたら、自警団が誇る宇沢レイサの名が廃るというものだ。
 逆に言えばそれを助けて死ねたなら、後に残る悔いなんてあろう筈もない。


(杏山カズサ、だって――――――――)


 それが正義だ。
 我が身を顧みず、他人を助ける。
 そのあり方を全うして死ねたなら、何であれ本望。
 そう思いながら脳裏に思い描いたいくつもの顔。
 共に戦った人。道は違えど同じことを志していた人たち。
 初めてできた、友達のような人たち。
 そして宇沢レイサにとってライバルだった、今は友人である彼女。
 
 そのぶっきらぼうな物言いと、あの頃から何も変わらない顔立ちを脳裏に思い描いた途端。


「――――――――、やだ」


 レイサの中に一本通っていた芯が、ヘンな音を立てた。
 覚悟という名の脳内麻薬が一気にその効力を失う。
 酔いが冷めるみたいに、押し込めていた感情が戻ってくる。
 笑顔が消えて。色のない表情が、可愛らしい顔に張り付いていく。

「やだ……やです、いや……」

 ああ、思い出さなきゃよかった。
 レイサは思う。
 思い出さなきゃ、自分は誇らしいまま、格好いいままで死ねたのだ。
 でも思い出してしまった。
 思い出して、想ってしまった。

 自分のいない世界で。
 自分のことを忘れて笑い合う、皆の姿を。
 レイサにとって生きる理由だった、今は友である少女のことを。

75命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:27:08 ID:77uuZc8Y0




 ――そういえば最近、あの子見ないね。
 ――あ、そういえばそうかも……。どうしたんだろうね?
 ――カズサも寂しいんじゃないの? なんだかんだで気に入ってたじゃん、レイサのこと。
 

 ――……んー。
 ――誰だっけ。そいつ?




「いや、です……死にたく、ない……! 私、まだ……! まだ、生きていたい……!!」


 此処は冥界だ。 
 だから既に、宇沢レイサは死んでいる。
 でも、彼女が言っているのは肉体の死ではない。
 もしもこの世界から帰れなければ、キヴォトスでの自分の存在はいつか皆の記憶から消えてなくなるだろう。
 大仰な理屈なんて必要ない。
 いつの間にかいなくなった"誰か"を忘れるという、当たり前のことで忘れ去られる。
 そしてその時、宇沢レイサは本当の意味で"死ぬ"のだ。その存在も生き様も思い出も、誰の中にも残らず消えてなくなる。

 それが。
 今のレイサには、どうしようもなく怖かった。

 ……だって、本当に楽しかったのだ。
 自警団の一員として正義を為すのに勤しんでいる時間も。
 シャーレの先生と交流し、武勇伝を聞いてもらう時間も。
 放課後スイーツ部の皆に混ぜてもらって、まるで友達みたいにスイーツを頬張って談笑する時間も。


 全部、ぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ…………本当に、楽しかったのだ。

76命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:27:39 ID:77uuZc8Y0


 正義のために死ねるのは名誉なことのはずなのに。
 死にたくない、と。失いたくない、と。
 忘れられたくない、と。
 そう、心から思ってしまうくらい。

「は、っ……は、っ……!」

 情けなくへたり込んで。
 四つん這いになって、逃げ出そうとする。
 腰はとうに抜けていた。
 顔だって、もうどうやっても格好つかないことになっているのが自分でもわかった。
 それでも、レイサは生きていたかった。
 生きてもう一度、あの日だまりに戻りたかったのだ。
 多くのことなんて望まない。たまに会って、一緒にスイーツを食べて、振り回しすぎて怒られて……、そのくらいでいいから。

 だから――


「たすけて……」


 今だけは、正義の味方ではなく。
 ただの、ひとりの歳相応の子どもとして。
 宇沢レイサは、助けを求めた。
 けれどそれは、とても場違いな哀願だ。
 この世界は死の只中、冥界の底。
 冥界。黄泉比良坂。根の国。ニライカナイ。コキュートス。ヘルヘイム。マグ・メル。シバルバー。
 死者の国に颯爽現れ、死者が抱く矛盾した生への渇望を救ってくれるヒーローなどいない。

「たすけて、だれか――」

 この物語は、英雄譚では決してない。
 だから、少女を華麗に救う英雄は現れない。
 凶影は虚勢の崩れたレイサを嘲笑いながら銃を向ける。
 そして引き金は、無情にも引かれた。
 この瞬間、英雄に微笑まれない愚かな少女の末路が確定する。

「ぁ……」

 先生。みんな。杏山カズサ。
 走馬灯のように去来する大切な人たちの顔に、レイサは目を瞑ることでしか応えることができなかった。
 そうして、正義を貫き損なった少女は冥界の骨として大地に還る。
 誰の目から見てもそのことは明らかで。
 そこに英雄さえ異を唱えないというのなら、もはや是非もない。
 運命が救わず、英雄が微笑まないというのなら、もはや――




 ――どこにでもいる、ちっぽけな、平和主義者(パシフィスタ)が手を差し伸べる以外にないだろう。

77命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:28:12 ID:77uuZc8Y0




「え……?」

 凶弾とレイサの間に。
 割り込んだ、大きな影があった。
 それは奇しくも、レイサがさっきNPCの少女へやったのと同じ構図だ。
 影の拳が、レイサを忘却/死の彼方へ追いやる筈の凶弾を弾いた。
 人間ではできぬ芸当。それができるということは、すなわち――。

「きみの、声が聞こえた」

 雄々しく。でもそれ以上に、やさしい声だと思った。
 どんな嵐荒波の中でも揺らぐことなく佇み続ける、巨岩のような男だった。

「遅くなってすまない。けれど、きみの"正義"はしかと見た。
 無駄と嘲笑う者もいるだろう。ああ、確かにきみの勇気はこの冥界では無駄なものかもしれない」

 だが、と男はそれを否定する。
 凶影の射手は嘲笑も忘れ、銃弾を乱射するしかできなくなっていた。
 それでも、レイサの前に立つその男は小揺るぎもしない。
 不動。そして、不屈。
 佇む男のことを、レイサは誰かに似ていると思った。
 皆に信頼され、愛される。何度も苦難に見舞われながら、けれど決して屈さない大人の男の人。
 
 ……『シャーレの先生』の姿が、目の前の巨漢に重なって見えた。

「おれは、それを尊いと思う。きみの勇気は仮初めだろうが虚構だろうが、ひとりの子どもを救ったんだ」
「あなた、は」
「サーヴァント・ライダー。きみの航海を支えるため、今ここに現界した」

 男の前に、巨大な肉球が出現する。
 拍子抜けしてもおかしくない、ともすれば可愛らしい形状ですらあるのに何故だろう。
 何故、こんなにもこの形が心強く、そして頼もしく見えるのだろう。

「う、ざわ……」

 レイサは、口を開いていた。
 まだ顎は震え、ともすれば歯が噛み合って音を鳴らしてしまいそうだったが。
 それでも半ば意地で言葉を紡いだ。
 そうしなければ、自警団の名折れだと。
 一度は忘れた筈の意地が、少しずつ燃え上がってくるのを感じていた。

「トリニティ自警団所属……っ。トリニティが、いやキヴォトスが誇る、素敵で無敵な正義の使徒……!!」

 叫ぶ――なるたけ高らかに。
 ありったけの声量で。
 何しろ元気だけが取り柄なのだ。それさえなくしてしまったら、自分に何の価値が残るというのか……!!

「宇沢、レイサ……! 宇沢レイサ、です――!」
「そうか。いい名前だ……!」


 ――『熊の衝撃(ウルススショック)』!!

 高らかに響く、熊のような大男の声。
 それと同時に、悪逆無道の銃手が砕け散る。
 惨劇の渦中にひとり立つ、その男は海賊だ。
 決して、そう決して、英雄(ヒーロー)などではない。
 彼は、そうはなれなかったしそうはあれなかった。
 幾多の犠牲を背に、けれどそれを忘れないことで前に進み続けた男。
 身の丈に合わない運命を背負わされた、気弱なひとりの平和主義者(パシフィスタ)。


 生ける屍/死者となりさらばえながら、意思の力ひとつで神を殴り飛ばした男。
 ひとつの世界にて、その歴史に無視することのできない楔を打ち込んだ暴君。
 男の真名は――くま。バーソロミュー・くま。
 どれほどの不幸に囲まれようとも、自分の人生は幸福であったと笑顔で断ずることのできる、やさしい男である。

78命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:28:48 ID:77uuZc8Y0
◆◆



 ひと目見た時、娘を思い浮かべた。
 いつかの記憶。
 自分のものであるかどうかさえ判然としない、その時の思い出。
 
 まだ子どもなのに、それでも勇敢に挑んでいった少女。
 その勇気をより大きな力に阻まれ、死を待つのみだったその状況も。
 すべてが、くまの記憶に残るある光景と重なった。
 いつも明るくて前向きで、だけどその心に孤独という弱さを抱えた子ども。
 くまがかつて自分のすべてをかけて守ろうとし、そしてたくさん泣かせてしまった愛娘と――あまりに重なった。
 
 であれば、この男が助けない筈はない。
 だって彼は平和主義者。
 子どもが殺されるのを黙って見ているわけはなく。
 そして彼は暴君。
 神をも殴り飛ばした、地上の法など意にも介さない偉大なる"不都合"。

 こうして契約は結ばれ。
 くまは、レイサの前に立った。

「……おれは、正義の味方じゃあないんだ。
 むしろ逆だな。成り行きとはいえ海賊をやってた時期も長いし、救えなかった命も山ほどある」

 でも、と。
 くまは、続けた。

「今はいろんなしがらみから解き放たれた身だ。今ここにいるこのおれは、きみのためだけに存在している」
「くまさん……」
「だから今一度問おう、レイサ。遠い潮騒の果てに、こんな男を呼び出してしまったかわいい葬者よ」

 くまの背丈は巨大(デカ)い。
 だから身を屈めて、目線を合わせる。
 こればかりは父親として暮らしていた経験が活きていた。
 まさかこんな形で活きるときが来るなんてな、と心のなかで苦笑しながら。
 瞳を覗き込むくまに、レイサは。

79命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:29:18 ID:77uuZc8Y0

「――たい」

 ぽつりと、言った。
 正義を志した以上、それを貫くべきなのだろうとも思った。
 その気持ちに揺らぎはない。
 これから始まり、続いていくこの戦いの中でも、自分は無用な犠牲を決して許容できないだろう。
 理屈を無視して正義を貫き。
 悩みながら、苦しみながら、理想と現実の狭間で葛藤する。
 その覚悟はできている。トリニティの自警団に入ったあの瞬間から、ずっとできている。
 だからこそ。その上で。今、レイサが己がサーヴァントに告げた願いは――

「帰りたい、です」
「どこにだ」
「キヴォトスに……私達の街に、帰りたい……!
 スズミさん達と一緒に、また、正義のための活動をしたい。
 先生に、私の武勇伝をたくさん聞いてもらいたい……!
 スイーツ部の皆さんとおいしいスイーツを食べて、それで、それで……杏山カズサと、"友達"として、語らいたい……!!!」
「――そうか。うん、よくわかったよ。レイサ」

 月並みな、まるで空に手を伸ばすみたいな願い。
 だからこそそれを、くまは微笑みと共に受諾する。
 子どもの笑えない世界に未来はない。
 神々の支配する、歪みに満ちたあの海だろうが――死に満ちた冥界だろうが、それは変わらない。
 故に暴君は再び立ち上がった。
 立ち上がり、もう動かないはずの拳を握りしめた。

「その願い、しかと承った。頼りない平和主義者(パシフィスタ)で申し訳ないが――今だけはきみのために航海をしよう」

 
【CLASS】
 ライダー
【真名】
 バーソロミュー・くま@ONE PIECE
【ステータス】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷C 魔力C 幸運E+ 宝具B

【属性】
中立・善

【クラススキル】
騎乗:B
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせる。
 幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

【保有スキル】
失われた種族:EX
 ミッシング・レース。
 ライダーは過去に失われた種族、『バッカニア族』の生き残りである。
 魔獣に匹敵する身体能力を持ち、特に筋力と頑強さに秀でる。

平和主義者:A
 パシフィスタ。
 地獄のような世界にあっても素朴な善性を失わない、生来の人格。
 精神影響を受けたとしても、最後の一線を守り続ける意地と魂を持つ。

嵐の航海者:A
 「船」と認識されるものを駆る才能を示すスキル。
 船員・船団を対象とする集団のリーダーも表すため、「軍略」「カリスマ」も兼ね備える特殊スキル。
 ライダーは王下七武海の一角にも数えられた海賊の側面を持ち、従ってランクが高い。

80命題:人はいつ死ぬと思う? ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:31:09 ID:77uuZc8Y0

反骨の相:B++
 一つの場所に留まらず、また一つの主君を抱かぬ気性。自らは王の器ではなく、自らの王を見つける事ができない流浪の星。
 同ランクまでのカリスマを無効化する。
 一つの世界を統べる神々の五つ星。その一つを殴り飛ばし、一矢を報いた逸話を持つライダーは大きなプラス補正を受けている。
 王者、神、支配者に対する強力な特攻を持つ。

【宝具】
『熊の肉球(ニキュニキュの実)』
ランク:B 種別:対人/対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:100人
 悪魔の実。超人系(パラミシア)、ニキュニキュの実。
 ライダーことバーソロミュー・くまがかつて聖地にて食べた悪魔の実が宝具に昇華されたもの。
 触れたあらゆるものを勢いよく弾き飛ばす。その対象は有形、無形を問わない。
 大気を弾いての高速移動や、他人の痛みや疲労を吸い出して他所に押し付けるなど応用の幅は極めて広い。

【weapon】
 肉球。そして、その肉体。

【人物背景】

 「聖人じゃな、お前は」
 「聖人……? ……おれはただの気弱な平和主義者(パシフィスタ)だ」
 「ペペペペ!! 気に入った!! 『未来の戦士たち』をそう呼ぼう!!!」

 ある世界に生まれ落ちた、失われた種族の末裔。
 度重なる責め苦にすべてを奪われ、それでも最後のひとつだけは失わなかった男。
 それが『意思』であれ、『反応』であれ、彼はその拳で神を殴り飛ばした。
 後の生死を度外視し、その瞬間に英霊の座へと登録した反逆者の英霊。

 暴君であり、革命者であり、反逆者であり、平和主義者。

【サーヴァントとしての願い】
 願わくばもう一度ボニーに会いたい。
 が、そのために誰かの明日を犠牲にするほど非情にはなれない。彼はそんな男である。

【マスターへの態度】
 その勇気と強さには寄り添い、その弱さと幼さは支える。
 彼女がこの冥界で待つ過酷な現実の中で生きていくのを最後まで助け通すつもり。


【マスター】
 宇沢レイサ@ブルーアーカイブ

【マスターとしての願い】
 帰りたい。

【能力・技能】
 兎にも角にも頑強である。
 サーヴァント相手ならそうもいかないが、銃弾や多少の衝撃程度は物ともしない。
 武器はショットガン。猪突猛進を地で行くレイサにふさわしい武器である。名前は『シューティング☆スター』。かわいいね。

【人物背景】

 自警団のエース。
 みんなのアイドル。
 正義の使徒。
 トリニティの審判者とか騎士とかいろんな称号が(自称で)存在する。
 ある少女曰くの「熱血バカ」。正義にはいつも一直線だが、人付き合いは苦手。

【方針】
 キヴォトスに帰りたい。
 ……けれど無用な犠牲は善しとしない。
 この世界でも自分なりの正義を模索し、戦いたいと思っている。

【サーヴァントへの態度】
 優しい人。どこか『先生』を思い出す。
 というわけで友好的だし、慕っている。

81 ◆0pIloi6gg.:2024/04/09(火) 03:31:41 ID:77uuZc8Y0
投下終了です。

82 ◆C0c4UtF0b6:2024/04/09(火) 07:57:04 ID:y6D7Rsak0
投下します

83デイト・オブ・バース ◆C0c4UtF0b6:2024/04/09(火) 07:57:28 ID:y6D7Rsak0
月下、丑三つ時。

そこに居たのは、2騎の英霊。

一人は古風なチャリオットで、空を駆け抜ける。

そして…もう片方は…それは人を赤褐色の巨人と呼ぶだろう。

地を蹴り、優位に立っている敵のサーヴァントに攻勢を強める。
ただ、もちろんただでは相手は終わらない、槍のようなものを投擲し、それを巨人へとぶつける。

「成る程…やるな…」
その巨人の操縦者は、狂気の笑みを見せる。
戦闘を楽しみながら、相手の実力を褒め称えているのだろう。

「…それじゃあここから本気を…」
「おいライダー!民間に被害を出すんじゃねぇぞ!」
「ふっ…了解…なら…こいつだ!」
マスターに諌められ、ライダーは武器である銃を下に向ける。

「道路なら…仕方ないだろう…?」
空銃…いや、空気弾が、巨人を浮かす。
それは敵のサーヴァントの虚を突くには十分すぎる動きであった。

「もう終わりか…つまらないな…」
まず、チャリオットを牽引するウマ2頭を射殺する。
敵サーヴァントは最後っ屁と言わんばかりに、長槍を突き出した。
それは本来砕けないだろう巨人の装甲を軽く突き刺した。
神秘の補正と抑止力により、おそらく巨人の耐久は落とされていたのだろう。

84デイト・オブ・バース ◆C0c4UtF0b6:2024/04/09(火) 07:57:54 ID:y6D7Rsak0
しかし、それでもライダーは止まらない。
「やるね…でも…彼ほどの面白みはない…」
そして、後ろに立ち。
「バイバイ、言っても、完璧につまらないほどではなかったよ」
敵のサーヴァントを、蜂の巣にした。



巨人は消え去り、ライダーは地へと触れる。
奥にいるのは、敵マスターと自身のマスター。

「…ちょうど始末を付けるのかい?」
「しねぇよ、情報は吐いたんだ、さっさと行け」
そう言われ、敵マスターは泣目になり、逃げ去っていく。

「…あの男は腕がたったか?」
「…まぁな、魔術は俺と同じで使えない、だが同郷ってわけじゃねぇ、トラパーとかの事も聞いたが聞き覚えがないだとよ」
「そうかい…それじゃあ、僕はゆっくりしてるよ、闘争が来たら、また」
ライダー、ジルグ・ジ・レド・レ・アルヴァトロス、敵を倒すたびに潤いを得る狂人、そして、悲しい男。

この冥界下りに参戦する。

◆ 

「とんでもねぇ野郎を引いたもんだ…」
マスター、ホランド・ノヴァクは舌打ちをしながら頭をかく。
自身のサーヴァント、ライダー。
強く、自身の命令も聞くが、民間への被害を考慮しないところがある。
今の身の上では、ゲッコーステイトのクルー達の力も借りれない。
そもそも、聖杯に何を望む?

タルホの出身が無事になるようにか?エウレカとレントンの幸せを願うか?それとも、チャールズとレイを呼び戻して、和解でもするか?

彼は、そんな幾千万の躯の上に何度も立った。
だから、このクソッタレな願望機を認めない。

「聖杯だかなんだか知らねぇが…俺は…少なくともそんな手段に頼るつもりはねぇ!」
男は丑三つ時に、一つの誓いを立てた…

85デイト・オブ・バース ◆C0c4UtF0b6:2024/04/09(火) 07:58:14 ID:y6D7Rsak0
【CLASS】ライダー
【真名】ジルグ・ジ・レド・レ・アルヴァトロス@ブレイクブレイド
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具B
【属性】混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:C+
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。
特に、ロボットの操縦に関しては、破格の技量を持つ。
【保有スキル】
戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
自機がボロボロでありながら、エース部隊を相手取り、壊滅追い込んだ経歴を持つため、このスキルが付与された

闘争本能:EX
彼の内から湧き上がる、戦闘に対する渇望。
一定期間戦闘を行わないと、ステータスが一段階下がってしまう

【宝具】
『狂人に与えられし猛機(エルテーミス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:−− 最大捕捉:−−
クリシュナがアテネス連邦から鹵獲した機体。
かなりの力を持つが、操縦性を悪さからか、一部の者にしか使えない。
そのため、本機使用の際、まだ投獄中だった彼を恩赦に処し、戦場に出したのはこれが理由である。
【weapon】

【人物背景】
限りない闘争を求める狂人。
様々な顔を使い分ける器用さ、そして、不利な状態から敵エースを何人も仕留める操縦技術の高さ。
味方殺しをした彼の最後は、仲間を庇って敵軍の捕虜として死んだ。
最後まで、抑止力さえ、彼のことを理解するのは至難の域だろう。
【サーヴァントとしての願い】
限りない闘争
【マスターへの態度】
口うるさいが、これほど優良物件ないと思っている。

【マスター】ホランド・ノヴァク@交響詩篇エウレカセブン
【マスターとしての願い】
特に無し
【能力・技能】
政府に反抗するものをまとめ上げるカリスマ
卓越したLFO操縦技術と、それに合わせたスポーツ・リフの技術。
【人物背景】
反連邦組織、ゲッコーステイトのリーダー
真の意味で、「子供」から「大人」になった男。
【方針】
民間の被害は最小限に抑える。
今更、聖杯に叶えて貰う願いなんて…ねぇ…
【サーヴァントへの態度】
強いのは認めるが、じゃじゃ馬すぎて手を焼く…

86 ◆C0c4UtF0b6:2024/04/09(火) 07:58:27 ID:y6D7Rsak0
投下終了です

87 ◆OmtW54r7Tc:2024/04/10(水) 07:46:16 ID:4HL3/Ec20
投下します

88兄と妹、妹と姉 ◆OmtW54r7Tc:2024/04/10(水) 07:47:25 ID:4HL3/Ec20
「聖杯戦争…」

チェスター・バークライトは、突然知らない場所で目を覚ますと共に脳内に流れ込んできた情報に困惑する。
聖杯戦争。
サーヴァントを従え、他のマスターを倒し、聖杯を奪い合う血みどろの戦い。
そんな物騒なものに、自分は巻き込まれてしまったらしい。

「なんでも…願いが…」

ゴクリと、喉を鳴らす。
もしも、本当に願いが叶うのなら。
妹を…アミィ・バークライトを生き返らせることもできるのか。
それなら…俺は…!

「…いいぜ、乗ってやろうじゃねえか。アミィが生き返るってんなら…なんだってやってやる!」

ダオスを倒す旅を終えて、クレスやミントと共にトーティス村の復興で忙しくする中でも、アミィのことを忘れることはなかった。
いやむしろ、村が復興するほど、アミィと過ごした情景が蘇るほどに、想いは強く、燻っていた。
俺は、もう一度アミィに会いたい。

「どうやら、決まったようですね」

決意を固めたチェスターに対して、声がかけられる。
顔を上げると、そこにいたのは短い金髪美人の女性だった。
髪が短くなければ、ミントを彷彿とさせる雰囲気だ。

「あんたが…サーヴァント?」

先ほど脳裏に流れ込んできた情報を思い出し、聞く。
サーヴァント…英霊とも呼ばれる自分の相棒が、彼女だというのか。
女性は、ニコリと柔らかな笑みを浮かべると言った。

「はい、その通りですマスター。私はキャスター。真名はセーニャと申します。どうかよろしくお願いします」
「…英霊っていうくらいだし、強いんだろうけどよ…あんた、敵とか倒せるのか?」

人は見かけによらないと言うが、セーニャの雰囲気は戦いに向いているような風に見えない。
ミントみたいに人を癒すのは得意そうに見えるが。

「心配ありませんわ。この身体には…私の姉の力も宿っていますから」
「姉?」
「はい…あなたと同じです。私はかつて、双子の姉を失い…その力を受け継ぎました」
「!…あんたも」
「回復魔法を得意とする私と違って、姉は攻撃魔力を得意としていました。今の私は、その両方の力を使えるのです」

よく分からないが、要するにミント+アーチェみたいな能力ということか。
なるほど、それは頼りになりそうだ。

「でも、欲を言えば前衛とか欲しいよな」
「そうですよね…マスターとはいえそれなりに戦えるあなたは弓使いですし、パーティのバランスとしては微妙なところです。一時的にでも他のマスターと手を組むことも視野に入れた方がいいかもしれません」

チェスターは親友のクレスを、セーニャは過ぎ去りし時を求めた勇者を思い出していた。
聖杯を目指す身とはいえ、彼らはパーティで戦ってきた者達だ。
仲間の重要性というのは嫌というほど分かっていた。

「まあ、具体的な方針はこれから決めるとして…よろしく頼むぜ、キャスター」
「はい、こちらこそ、マスター」

89兄と妹、妹と姉 ◆OmtW54r7Tc:2024/04/10(水) 07:48:53 ID:4HL3/Ec20
【CLASS】キャスター
【真名】セーニャ@ドラゴンクエストⅪ
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力A+ 幸運C 宝具E~A
【属性】秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”の形成が可能。
道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
【保有スキル】
嗅覚:D
人間としては高い嗅覚を持つ。
料理に関しては特に鼻が効く。

癒し系:C
そのおっとりとした清楚な雰囲気は異性を魅了する。

魔力分割:A
ベロニカの魔力を赤い光の玉として現出させる。
この状態ではセーニャ本人は長髪になり、ベロニカのスキルは使えず攻撃魔法は魔力Eとなる。
赤い光の玉はベロニカのスキルを使えるが、宝具使用時を除いてゾーン状態にはならない。
セーニャゾーンでのれんけい「大天使の守り」は使用可能。

【宝具】
『クロスマダンテ』
ランク:E~A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1〜50
魔力分割状態で使用可能。
宝具発動と共にセーニャ本人と赤い光の玉を強制的にゾーン状態とし発動する。
威力はセーニャの魔力残量に依存し、多ければ多いほど増す。
使用後は魔力が枯渇するのですぐに魔力供給を行わなければサーヴァントは消滅する。
【weapon】
精霊王のタクト
【人物背景】
かつて双子の姉と共に、勇者を支え魔王と戦った。
しかし、その最中、姉は命を落としてしまう。
姉の力を受け継いだ妹は、仲間たちと共に魔王を倒した。
そして、時を遡った勇者に姉の復活を託した。
その後この世界軸における彼女がどうなったのかは、誰も知らない。
【サーヴァントとしての願い】
かつての勇者のように、過ぎ去りし時を求めて姉のベロニカを救いたい。
【マスターへの態度】
妹を助けたいという願いに共感。
叶えてあげたいと思っている。


【マスター】チェスター・バークライト@テイルズオブファンタジア

【マスターとしての願い】
妹のアミィを生き返らせたい。
【能力・技能】
「弓術」
狩りとダオス討伐によって鍛えられた弓の腕。
【人物背景】
妹を奪われた少年は、幼馴染や仲間たちと共に復讐の旅に出た。
一度は離れ離れになり、仲間たちとの力の差が開いてしまったものの、努力によってそれを補い、追いつく。
妹への愛は強く、外伝などでは妹復活の為に行動していることも多く、その為に敵陣営に所属することさえあった。
【方針】
殺しに抵抗がないわけではないが、アミィを助けるためなら心を鬼にする。
ただ、前衛がいないので一時的に他の奴らと手を組むことは視野に入れておきたい。
【サーヴァントへの態度】
ミントみたくおっとりしていて不安はあるが、ミントとアーチェを合わせたような能力なら、期待は出来そうだ。

90 ◆OmtW54r7Tc:2024/04/10(水) 07:49:21 ID:4HL3/Ec20
投下終了です

91Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:04:47 ID:Qh50YQ4I0
投下します

92Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:05:09 ID:Qh50YQ4I0

 
 *死んだヤツは 生き返らない。
 *失った命は 取り戻せない。
 *結果を変えられるのは 生きてるヤツのみのケンリだ。

 *当たり前のコトだろ?
 *産声をあげて生まれたなら 誰もがいつかはくたばるのさ。
 *やり直したってどうにもならないんだ。
 *むしろ逆だな。やり直せばやり直すほど 取り返しがつかないくらい歪んでいくモノだってあるんだぜ。

 *まあ。
 *それでも願うってキモチは 分からなくもないけどな。

 *え?
 *オマエはダレだ って?

 *へへへへ。
 *そうだな。
 *テスカトリポカ。
 *……なんてのは言い過ぎか。ま オレはあそこまでロクでなしでもない。
 *シューティングゲームだってアレよりかはうまいぜ。
 *けどまあ 似たようなモンだ。案外同じ穴のムジナってヤツかもな。

 *サンズ。
 *オイラは サンズだ。
 *みてのとおり サーヴァントさ。

 *おっと。
 *過大評価は やめてくれ。
 *アンタの知ってるヤツらに比べたら オイラはホントにチンケなモンスターさ。
 *見りゃわかるだろ? ケツの毛まで抜かれて 今じゃこうしてスケルトンだ。
 *へへへへ。ホンキにすんなよ。ジョークさ ジョーク。
 *いちいち常識で考えてたら この先 正気がいくつあってもたりないぜ。

 *ん?
 *ああ オイラが話しかけてきたのが不思議かい?
 *ベツに そう大した理由でもないさ。
 *アンタがオイラのマスター…… あのチョウチョを見ようとしてたから こっちから話しかけてみたんだ。
 *何かする気もない。 オイラの骨ばった手じゃ アンタ達のところまでは届かないぜ。
 *だから安心して オイラとのトークを 楽しみな。
 *へへへへ……。

 *オイラのマスターが 気になるかい?
 *そうだな。
 *そうさな。
 *うーん。
 *アイツは アタマのいいヤツだよ。
 *オイラみたいな ちゃらんぽらんより ずっとモノをよく考えてる。
 *考えすぎるくらいだ。そこに関しちゃ 懲りないヤツかもな。
 *それとも 実際に見てみるかい?
 *イイぜ。今はまだ セカイも広いしな。
 *アンタとオイラの仲だ。トクベツに アイツの庭を見せてやるよ。

 *こんな地獄におちてきた キレイなチョウチョ。
 *アイツは 庭に住んでる。
 *オイラみたいな遺骨野郎を引いたツケを 毎日健気に支払い続けてるんだ。
 *悪いとは 思ってないけどな。
 *気持ちよく寝てるところを叩き起こされたんだから おあいこさまだ。

 *……。
 *…………。
 *………………。

 *おどろいた。
 *アンタ。意外と鋭いな。
 *そうだよ。オイラはアイツを けっこう気に入ってるんだ。
 *だから こうしてアンタの前にも出てきた。
 *さすがに 始まる前から潰されたんじゃ 不憫だからな。
 *そのくらいの思い入れはある。
 *まあ 今のオイラにアンタを止める力まではないけどな。これは本当だ。

 *オイラはサンズ。モンスターだ。
 *アイツはマスター。ヨウセイだ。

 *命じゃなくて 住むセカイ自体を殺された。
 *冥界に落ちるにふさわしい しみったれた死人のタッグさ。

93Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:05:55 ID:Qh50YQ4I0
◆◆



 東京都の一角に、その洋館は華々しく佇んでいた。
 西洋風の建築様式に倣った、華美と瀟洒を程よく両立させた門構え。
 薔薇やガーベラなど色とりどりの花々が咲き誇り、蝶が楽しそうに舞い飛ぶ巨大な庭園。
 成金ではなく、真に尊い者(ブルーブラッド)が住まうに相応しい邸宅である。
 登記上は外資系企業を経営する社長が暮らしている、そういうことになっているこの館。
 しかしその実態は、人ならざるモノがねぐらとして棲まう、聖杯戦争の拠点の一個だった。

 一羽の蝶が館の中から庭に出て、降り注ぐ陽光に一瞬目を細める。
 どこもかしこも死人しかいないこの世界にはふさわしくない輝き。
 それに皮肉めいたものさえ感じながら、蝶は小さく呼気をこぼした。

 その蝶は、二本の足で歩いていた。
 傍目には人間の少女にしか見えないだろう。
 少女の背中に、外付けの羽を接合したような。
 そんな風に見える、美しく可憐な妖精だった。

 彼女の名は、ムリアンという。
 滅びゆく國から、この冥界へと落ちてきた死者のひとり。
 そしてこの洋館に居を構え、敷地の全域を自らの『妖精領域』として支配している君主である。

「ようマスター。首尾はどうだい?」
「それを訊くのは私の方だと思うんですけどね。働かずに貪る惰眠は気持ちいいですか、キャスター」
「ああ。最高だね。アンタが子守唄でも歌ってくれたらもっと最高かもしれない」
「縮めますよ?」

 花咲くように微笑んで言うその目はもちろん笑っていない。
 ムリアンは冥界に落ちるなり、此処で自分がやるべきことを直ちに理解して行動した。
 
 妖精國とは道理の何もかもが異なるこの世界で、彼女は持ち前の賢明さを遺憾なく発揮した。
 妖精領域の零落具合には面食らったが、衰えているなら範囲を絞ればいいとの結論に到達したら後は早かった。
 自分が住まうに相応しい館を見繕って乗っ取り、自分の拠点として運用する。
 そして妖精領域を展開し、この中でならばサーヴァントさえ満足には動かさせない、万全と言っていい備えを整えた。
 そんな完璧な彼女にとって唯一の悩みの種が、自分の喚んだ、いや"喚んでしまった"サーヴァント。
 スケルトンのキャスター。妖精ならぬ、モンスター。サンズという名を名乗った、怠惰で貧弱なサーヴァントだった。

「そう言うけどな。オイラがやる気出して外に出ていった方が、アンタとしちゃ胃が痛いんじゃないかい?」
「そんなこと自慢気に言わないでください」

 ムリアンは、自分の眼に映る従者のステータスを見て思わずこめかみを押さえる。
 そう。彼女のキャスターは、弱い。
 とてつもなく弱い。
 破格の弱さと言って差し支えなかった。
 すべてのステータスがEランクで、数値上でも実際に感じる気配でも彼からは一切強さらしいものが感じられない。
 冗談でもなんでもなく、一撃でも打ち込まれたら即座に金色の粒子に変わって消えてしまうだろうと分かる徹底した弱さが彼にはあった。

94Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:06:40 ID:Qh50YQ4I0

 じゃあその弱さに見合う芸があるのだろうと、当初ムリアンは当然期待した。
 だがその期待も、結論から言うとあっけなく裏切られることになってしまった。
 
 このサーヴァントは、本当に何もできない影法師なのだ。
 ただそこにいるだけ。冥界に転がり落ちてきただけの存在。
 したがってムリアンとサンズは、完全に本来あるべき立場が逆転していた。
 サーヴァントがマスターを守るのではなく、マスターがサーヴァントを守る。
 ムリアンは聖杯戦争を勝ち抜く上で、サーヴァントの助力なしにすべての敵を倒すという無理難題と向き合うことを迫られることになった。

「まあいいだろ。戦えないってのは戦わなくていいってことだ。戦わなくていいってのは、時間があるってことだ」
「……というと?」
「おや。アンタには一番必要なものだと思ったけど、違ったかい?」
「……、……私、やっぱりアナタのことがとっても嫌いです。
 ええとっても。同じビジネスパートナーでも、コヤンスカヤとは大違い」

 強いて幸いだったことをあげるなら、それはムリアンが自身の目指す結末を決めかねていたこと。
 自分がこの冥界を踏破した末に何を求めるのか、どこへ行くのか――その答えをまだ出せていないことだった。

 ムリアンには、戻るべき世界が存在しない。
 彼女は確かに死者である。
 命を落として冥界へ落ちてきた、まさにこの聖杯戦争に相応しい葬者のひとりだ。
 だが、死んだのは彼女だけではない。
 遅いか早いか、最高か最悪かの違いはあれど、彼女は自分の生きた世界が既に死んでいるだろうことを理解していた。
 
 妖精國ブリテン。
 妖精達が織りなし生きる、神秘の大地。
 色とりどりの命と幻想が群れなす、美しい世界。
 決して救われることのない性を抱えた、愚かな生き物達の虫籠。
 自業自得と因果応報の末にか。
 もしくは、命を全うして枯れる大樹のようにか。
 定かでないが、もうとうに眠りについただろう世界。
 ムリアンは死者である。死者の國、もうどこにもない國からやって来た妖精である。

 ――自分の前にも後にも、こぼれ落ちるように死に果てていった。
 ――愚かな彼らと同じ穴から生まれた、ちいさなちいさな生き物である。


「そんなに迷うなら、いっそやってみればいいんじゃないか」
「何を」
「セカイの再生。アンタが王になり、二度と繰り返さないように統治するんだ。
 そうすれば見えてくるものも、つかめる幸せもあるかもしれないぜ」
「……意地の悪い人ですね。皮肉を言うならもう少し隠しなさい」
「へへへ、悪いね。隠そうにも隠す皮と肉がないんだ。スケルトンだからな」

 
 当初、ムリアンはそのつもりだった。
 暴政の女王は、玉座を追われて惨殺される。
 であればその暁には自分が女王の座を奪い、盟友と共に世界の敵たる一行を撃滅すればいいと考えていた。

 今思えば、それはあまりに無垢な展望だった。
 世界の真実を何も知らない者の、幼心の大言壮語。
 ムリアンは、すべてを知った。だから殺された。
 そして今、彼女の手は伸ばせば"命"を掴める状況にある。
 自分の命のみならず。きっと、消えてしまった世界さえも蘇らせられるだろう奇跡がすぐそばにある。
 だというのにそこへ飛びつけないくらいには、ムリアンが死に至るまでに知り、味わったものは重かった。
 今でさえ飲み込みきれず喉の奥につかえているくらいには重く、どろどろとした真実だった。

95Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:07:20 ID:Qh50YQ4I0

「……ねえ、キャスター」

 ムリアンは、世界の終わりに立ち会ったわけではない。
 彼女はその前に、とある男の手によって命を落としたからだ。

 それでも、その終わりが幸福なものであったことを彼女は信じている。
 何かと話も気も合う、契約にだけは誠実な盟友への信用がその根拠だ。
 彼女は仕事を果たし、そして世界の敵(カルデア)は無事にブリテンを葬った。
 そういうものだと信じている。それを踏まえて、考えに耽っていた。

「幸せだったでしょうか。私の生きたブリテンは」
「千里眼の持ち合わせはなくてね。オイラには知る由もないな」
「じゃあ質問を変えます」

 庭に用意した椅子に腰を下ろして。
 飛び交う蝶々の群れを見ながら、寝転んだスケルトンに問う。
 その問いは少しばかりの意地悪を込めた、それでいていつか問うと決めていた言葉。

「アナタの世界は、どうでしたか? サンズ」
「……まいったな。初めてやり返された気分だ」
「嘘をついてもいいですが、ますます私との主従関係が悪化します。
 具体的に言うとアナタが庭に持ち込んだハンモックなんかが今日付けで撤去されるでしょう」
「ま……待てよ。探してくるのタイヘンだったんだぞ、新品同然のヤツは……」

 妖精の眼は特別だ。
 妖精眼(グラムサイト)。
 あらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼。
 ムリアンのそれは既に衰えて久しいが、それでも色の違いくらいは分かる。
 自分と似た境遇の存在が相手ならば尚更だ。
 ムリアンは既に、このおどけたスケルトンの色に気付いていた。
 白。見果てぬ白。空虚の白。
 死んだ世界の、白――。

「……わかったよ。言うよ」

 サンズはやれやれと腰を上げた。
 そして目を閉じ、開く。

96Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:07:52 ID:Qh50YQ4I0


「オイラのはサイアクだった」


 そこに宿る感情には、彼の地金であろうものが透けていた。
 冷めた白骨のようであり、対して地獄の業火のようでもある。
 そんな熱が伝わってきて、ムリアンは静かに背筋を粟立てた。

「アリの巣に熱湯を流し込むとか……そういうのじゃない。
 そうだな。アリの巣に入り込んで、一匹一匹殺すんだ」
「……それが、アナタの世界の最期だったと?」
「それが最後のひとりまで続いたよ。そして最後は、セカイまで壊されちまった」

 虐殺(ジェノサイド)だ。
 サンズはそう言い、笑みを浮かべた。
 今度のは、ムリアンには自虐的なそれに見えた。

「アンタは託した側だろ。ムリアン」
「……アナタは?」
「オイラは託された側だ。オイラがやらなくちゃいけなかったんだ」

 でも失敗した。
 失敗しちまったんだ。オイラはな。
 サンズはそう言って、さっきムリアンがしたみたいに空を見上げた。

「そして物語は畳まれちまった。本のページを閉じるみたいにあっけなく、全部が台無しになった」
「なら。アナタの方こそ、やらなきゃいけないことがあるのでは?」
「そうかもな。もしかしたら死んでいったアイツらだって、オイラにそうしてほしがるかもしれない」

 死者の祈り、想いの残滓を集めて滴った聖杯の雫。
 今や願望器として大成したそれは、きっと勝者の願いを完璧に叶えるだろう。

 此処は冥界。死者の国、死者の界。
 そこにはある意味で、嘘がない。
 生者の織りなす物語よりも純粋で、純朴で、残酷なほどに誠実だ。
 そんな世界に生じた願望器であれば、可能かもしれない。
 もう失われてしまった物語を綴り直すなんて偉業にも、手が届くのかもしれない。
 それがムリアンの考えだ。そしてサンズも、認識は同じだった。
 その上で、妖精に問われた白骨は――首を横に振った。

「でも、いいんだ。オイラはもういい」
「……理由を聞いても?」
「死んだヤツがよみがえるなんてことが、どだいまずおかしいんだ。
 セカイの行く末なんてものを……外から賢しらに弄り回せるなんてことがあっちゃいけない。
 そういうのはよ、クソ野郎の特権なんだぜ」

 世界とは、命を持ち、自分の身体で歩む者だけが変えることを許される領域だ。
 死者が平気な顔で結末を覆し、あまつさえ自分の望む通りに"やり直す"など道理に反している。
 それは、あるべきでない物語だと。
 サンズは普段のおちゃらけた落伍者然とした姿とはかけ離れた、確かな含蓄を持って語っていた。

97Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:08:28 ID:Qh50YQ4I0

「ある日突然、なんの前触れもなくすべてがリセットされるとか。
 負けちまったから、ウィンドウを閉じてもう一回やり直すとか……。
 そういうのは、オイラはもういい。オイラはもう、たくさんだ」
「……キャスター」
「とはいえ、まあオイラも人様に説教できるほど立派なホネ生を送ってきたわけでもない。
 アンタが何を選ぶかはアンタの自由だ。アンタのケツイがどこに向くにせよ、それなりに応援してやるよ」

 サンズの眼が、ムリアンの眼を見据える。
 衰えたとはいえ、今も人の本質を透かし見る程度は可能な妖精眼。
 ムリアンは、サンズが自分と同じ死界の死者であると見抜いていた。
 けれどそれは、サンズの方も同じだったのだ。
 彼もまた、その眼で――かつては世界の外側の理すら感知した眼で、色を見ていた。
 何の因果か自分みたいなろくでなしのマスターになってしまったいじらしい妖精の、色を。
 そこにあるEXPを。LOVEを。そして、Karmaを。
 
「見たとこ、アンタはまだ大丈夫だ。穢れちゃいるが、腐っちゃいない」
「節穴ですね。私のしてきたことを、アナタは理解しているのではないですか?」
「言わぬが花さ。ただまあ、そうまで言うなら一応聞いておこうか。怒んなよ」

 Execution Points。誰かに与えた痛みの量。
 LEVEL of VIOLENCE。ぼうりょくレベル。
 Karmic Retribution。犯してきた罪のすべて。
 
 ムリアンは美しく可憐な妖精だが、しかし既に彼女は三種の罪に穢れてしまっている。
 そのことをサンズは見通していたし、ムリアン自身も隠すつもりはなかった。
 生涯を通して追い求めてきた、悲願の顛末。
 高揚のままに働いた、妖精君主の大虐殺。


「気に入らないヤツらを、有無を言わさずブチ殺した気分はどうだった?」


 ――忘れられない、怒りがあった。
 時の流れなどでは到底薄れることのない、憎悪があった。

 選択肢はきっと、他にもあっただろう。
 煮えたぎる憎悪と折り合いをつけ、中立(Neutral)に生きるか。
 罪を許し、怒りを自ら進んで鎮め、平和主義者(Pacifist)となるか。
 それでも、翅の氏族の生き残りであるグロスターの君主は虐殺(Genoside)を選んだ。

 妖精領域(むしかご)に閉じ込めて。
 殺した。
 一匹一匹、しっかりと潰した。
 殺して、殺して、殺して、殺して。
 彼らがかつてそうしたように、癪に障る弱者を虫のように潰してやった。
 例外はない。ムリアンは、忌まわしい牙の氏族のすべてを虐殺した。
 ひとつの氏族を滅ぼしたのだ。そうすればきっと、さぞや楽しいだろうなと思ったから。

 長い時をかけた復讐は、遂げられた。
 大虐殺の夜は明け、残っている獣(モンスター)は一匹もいない。
 痛みと暴力を肯定して、妖精の翅は罪に染まった。
 念願叶ってムリアンが得たもの。
 得た、感慨。それは――

98Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:08:56 ID:Qh50YQ4I0


「そうですね。最悪の気分でした」


 決して。
 清々しい爽快感などでは、なかった。

「だから私は、もういいです。あれは、もういい」

 そこに残ったのは、底なしの嫌悪感だけだった。
 夢にまで見た光景は、実際目の前にしてみるとどこまでも気味の悪いものでしかなかった。
 生涯をかけて追い求めてきた景色が"それ"であることが理解できなかった。
 認められなかった。認めれば自分が自分でなくなってしまうからと、その事実から目を背けた。

 ……そうして辿った結末は、想像の通りだ。
 賢者の愚行。まさにその通りだと思う。
 
 二の舞にならないようにと知恵を尽くし生きてきたのに、それをひとつの愚行で台無しにしてしまった。
 それが彼女の人生。Genoside Rootの顛末。
 だからムリアンは、もういいと肩を竦めるのだ。
 世界を救うか、救わないか。
 失われた記録(セーブデータ)を修復(ロード)するか否か、その葛藤とは別のものとして。
 虐殺(あれ)は、もういい。友人のそんな答えを聞いて、スケルトンは満足げに目を伏せた。

「せいぜい悩みな、チョウチョの女王サマ。最終的に意味があろうがなかろうが、……悩むってのはいいモンさ」

 そう言ってひとりさっさといびきをかき始めてしまった相棒に、ムリアンは何度目かもわからない嘆息をこぼす。
 地金をさらけ出して対話をすれば少しはやる気を出してくれるかもと期待したが、この様子ではそれも望み薄らしい。

「……もう悩んでますよ、十分すぎるくらい。誰かさんのせいでね」

 おそらくは汎人類史と呼ばれる世界に近いのだろう冥界の街並みを、領域の内側から遠く見つめて。
 期せずして箱庭の外へこぼれてしまった妖精は、小さく言った。
 答えは依然籠の中。彼女のルートは、今も定まらぬまま。

 穏やかな館の庭園で、墜ちた君主はしばし美しい世界の似姿を眺めていた。



◆◆

99Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:09:20 ID:Qh50YQ4I0



 *まあ これだけ見たら十分だろ。
 *不運で苦労人なお姫さま。それがオイラのマスターさ。
 *安心しろよ。アイツがまだ"G"だったなら オイラが会った瞬間殺してる。
 *そうしてないってことは まあ。
 *愚かをやったものだからこそ 見えるモンもあるってことなんだろうさ。

 *――え?
 *オマエは本当にいいのか、って?

 *おいおい。
 *聞いてなかったのか?
 
 *いいんだよ。
 *オイラのセカイは確かに 褒められた最期じゃなかったさ。
 *虫みたいに踏み潰されて 跡形もなく消されちまった。
 *だけど リセットするのは もうコリゴリなんだ。
 *だから オイラはいい。
 *これはオイラじゃなくて 姫さんの戦いなのさ。

 *つーわけで 運よくまた会えたらよろしくな。
 *その時は ケチャップでもおごってやる。
 
 *アンタとまた会う時が こんないい日なことを祈るよ。
 *じゃあな。

 
 *(サンズは やみのむこうに さっていった……。)

100Deadmans Tale ◆0pIloi6gg.:2024/04/10(水) 17:09:54 ID:Qh50YQ4I0



【CLASS】
 キャスター
【真名】
 Sans(サンズ)@UNDERTALE
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具E

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:-
道具作成:-
 キャスターはこれらのスキルを保有しない。
 彼はあくまで魔術師ではなく、一匹のモンスターである。

【保有スキル】
最後の審判:EX
 裁くべきものを裁くため、最後の回廊にて立つ存在。
 攻撃が命中しない。キャスターは、すべての攻撃行為を確実に回避する。
 この"攻撃行為"には因果レベルでの追尾や結果の先取りなどいわゆる"必中"効果も含まれ、条件を満たすこと以外でキャスターに攻撃を命中させることは不可能と言っていい。
 このスキルを打ち破るにはキャスターと一定時間以上の戦闘を行い、後述する宝具を攻略することが必須。
 世界の理にさえ作用して自身の身を守る強力なスキルだが、その分キャスターの耐久性能は間違いなくすべてのサーヴァントの中で最弱である。
 審判を乗り越えた者が一撃でも彼に攻撃を当てられたなら、瞬時にキャスターの霊核は崩壊。死に至る。

無力の殻:A
 『もっとも ラクなてき。1ダメージしか あたえられない。』
 サーヴァントとしての気配ではなく、脅威として感知されにくい。
 キャスターは生前、最悪の虐殺者にさえ対面するまでその強さを悟らせなかった。

世界感知:E
 メタ世界、第四の壁を超えた先の世界を感知することができる。
 ゲームにおけるセーブ、ロード、リセットなどの行為を知覚する。
 だが当企画では既に彼の存在は『UNDERTALE』の外に出ているため、ほぼ機能していないも同然の死にスキルと化している。

【宝具】
『こんな日には、おまえみたいなヤツは 地獄で焼かれてしまえばいい(Should be burning in hell.)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1
本当に殺すべきものを前にキャスターが下す、無力の殻を脱ぎ捨てた処刑宣言。
この宝具が解放された時、彼の処刑対象に指定された人物は三つの観点からキャスターによって評価される。
一つは『EXP』。Execution Points。命ある他人に与えた痛みの量を示す。
一つは『LOVE』。LEVEL of VIOLENCE。他人を傷つける能力の高低を示す。
そして最後は『KARMA』。Karmic Retribution。因果応報。犯した罪の数々。
これら三種を総合し、敵が多くの殺戮を犯してきた討つべき巨悪と判断された場合、キャスターの放つ全ての攻撃には対粛清防御――世界の理さえも貫通してそれを処刑する呪いが付与される。
キャスターは嘘偽りなく最弱のサーヴァントであり、彼が与えるダメージは一切の例外なく理論上の最低値、数値に表すならば"1"となる。
だがこの状態に入った彼はそれを刹那の単位で無数に打ち込み、無慈悲かつ嘲笑的に巨悪の存在規模(ライフスケール)を削り取ってくる。
聖杯戦争の中で彼がこの宝具を使用できるのは一度きり。その戦いで勝とうが負けようが、二度と審判の法廷が開くことはない。
――決して認めてはならない、悪。滅ぼすべき、暴力。それを消し去るためだけに開帳される、サンズの一世一代の晴れ舞台。


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