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児童文庫ロワイヤル

1◆BrXLNuUpHQ:2023/11/02(木) 07:41:52 ID:???0



いろんな児童文庫作品でバトル・ロワイヤルするリレー小説です。2スレ目です。
いっしょにリレーしてくれる方募集中、リレーしたくなくても感想レスとかもらえたら企画主が喜びます。

有志の方が作ってくださったまとめウィキです。
https://w.atwiki.jp/jidoubunkorowa/

338◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:26:11 ID:???0

 急増したカカシに悲鳴が上がるが無視して担ぎ上げると穴から飛び降りて行く。それを60回煙が回る前にやらなくてはならない。
 そして問題はそれだけでは無い。炎上を始めた飛行機から離れようとする影分身のカカシ達に向かって、黒いスーツにサングラスの男が駆け寄ってくる。その異常さに気づけたのは、影分身のカカシも写輪眼を持つからだ。
 人間ではない。鋭い忍の洞察力で瞬時に見抜いた。最寄りの1体が子供を地面に置くと、迎撃に向かう。敵か味方か判断がつかない。傀儡のような物なのだろう、殺気も何も感じないので目的が読めない。ひとまず取り押さえたところ、影分身のカカシの首輪から光が生じた。

(触れただけで首輪が作動するだと!?)

 ボン!と音を立てて影分身が消える。そのことがフィードバックでカカシ達に共有されるのと、脱出したカカシ達にカザンが襲いかかるのは同時だった。

「カカシ先生!」

 穴から脱出した直後の1体に担がれているイオリが叫ぶ。咄嗟に影分身は右後方から襲ってきたカザンをかわすが、その直後上から降ってきた堀内が直撃した。

「待て! 飛び降りるな!」

 やられた、更にフィードバックされて全カカシが感じる。飛び降りて脱出するカカシの姿を見て、子供達は自分も飛び降りれると思いだしていた。殺戮と煙が正常な判断能力を奪ったところで飛び降りて行くカカシ達の姿は、判断を誤らせるには充分なものだった。とはいえ、飛び降りた堀内は着地の際に異能力で衝撃を抑える気だったのだが、そこをカザンが狩りに行く。

「足があ……やっべ!」

 イオリを下敷きにした堀内にカザンが迫る。ギリギリで異能力で弾くが、それは影分身のカカシが投げたクナイまで弾く。そしてその隙をカザンは逃しはしない。
 素早いステップで堀内の前から消えると後ろに回り込む。カカシが叫ぶ間もなく、即座に首が噛み砕かれた。咄嗟に投げたクナイは、加えたままの堀内を振り回すことで防がれる。戦い慣れている。少なくとも60体にまで分身したカカシよりもスペックで上回られている。
 急いで駆け寄りイオリまで殺させないとするのは3体の影分身。そのうちの1体は、堀内と同じように飛び降りてきた矢部を受け止めるために足を止め、もう一体は投げつけられた堀内を受け止めようとするも叶わず消滅する。
 そのことにカカシの焦りが増す。脆すぎる。いくら60体とはいえ子供一人受け止めきれないなどありえない。その異常事態の理由は、写輪眼。影分身達も写輪眼のために、チャクラを浪費し続けている。それはただでさえ少ないチャクラを使い続け、影分身が維持できる時間を残り数十秒にまで縮めていた。
 間に合わない。まだ半分以上の子供は機内だ。穴と言ってもそこまで大きくはないのだ、1人出すのに数秒はかかる。両方から出たとしても出し切れない。
 そしてそれに向き合う時間もない。カザンは一度距離を取り、飛行機から離れて他の影分身から援護しにくい者を狙いだした。それを止めるために更に影分身が割かれ、その隙にさっきの黒スーツの傀儡が手を伸ばしてくる。カウンター気味に腹にクナイを突き入れるが、止まらない。人ではないのなら急所ではないのだろう、そのまま黒スーツは影分身に触れると、影分身は音を立てて消滅した。
 状況は更に悪化の一途を辿る。既に影分身は10体消滅している。チャクラの配分が不均等だったにしても異様に早く影分身が消滅していく。今も遠くでカザンを抑えるために影分身達が秒殺されていっている。悩み数秒足を止めたカカシに迫るのは黒スーツの傀儡こと──ハンター。

(しまった、死角から──)

 触れられる寸前、気配を感じて身をよじったのはやはり天才か。だがその反応に体がついてこない。膝から力が抜けて態勢が崩れる。いかに写輪眼で見えていようとも、動けなければ意味が無い。
 ハンターのサングラスに、尻もちをつく自分の姿が映る。それがハンターの伸ばした手によって消えていく。
 結局カカシはまたも守れなかった。最適と信じた判断は誤りだった。カカシが死ねば影分身も消滅する。そうなれば子供達を助ける手立てはない。

(だらしない先生ですまない。)

 思えば、放送で春野サクラの名前が告げられてから冷静さを失っていたのだろう。6時間もの無為に過ごした時間がなければと何度も思った。最後の気がかりは、サクラと同じように巻き込まれているかもしれないうちはサスケとうずまきナルトのこと。彼らに詫びる時間もなくハンターの手がカカシに触れた。
 だが、首輪は作動しない。その寸前、ハンターの腕は断ち切られていた。

「ボサッとしてねえで立ちな。アンタはまだ動けるだろ。」

 そう言う少年の一太刀で、ハンターの首が斜めに跳んだ。

339◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:27:14 ID:???0


「総悟!!」

 着陸が始まり、機体が跳ね終わった時、後方のシートにいた土方は顔の右半分にお湯をかけられたような感触がした。息と共に鼻を通った臭いでそれが血だと気づくのは即座、だがそれを現実と受け止めるにはわずかに時間がかかった。
 真選組として刀を振るう中で返り血を浴びることもある。血飛沫が顔に降りかかる感触も知っている。だからこそその違和感が拭えない。顔にコップ一杯の血をぶちまけられたかのような水飛沫感覚を感じ、右眼が上手く見えなくなるほどの血が、すぐ隣に沖田が座っているのに掛かるはずがない。

「なんでえ……土方──」

 言い切れず沖田の首が前に落ちる。頭の重量を支えきれず、肩の皮膚が裂けた。
 沖田の右半身は、千切れていた。
 肩から腰まで一直線に、座ったまま斬られたかのように、2つに分かたれていた。倒れるのを土方が支えようとして、掴んだ肩からブチリという感触がした。呆然とする土方の手には、千切れた沖田の右肩から先が残された。

「土方さん! 土方さん!!」

 我に返る。どれだけそうしていたのだろうか、土方はライターで沖田の傷口を炙っていた。血が吹き出るところを焼き続け、火傷で肉をくっつけて止血する。そんなことをしても助からないことはわかっているのに、体が2つに分かれた人間が助かるはずないとわかりきっているのに、知り合いの声を聞くまでやり続けていた。

「メガネ。」
「土方さん、しっかりしてくれ! アンタじゃなかったらどうにもできないんだ!」

 顔を上げる。新八は肩を手で抑え、少年に支えられていた。肉はごっそりと削られ、骨まで見えている。沖田に比べれば明らかに軽傷だった。新八を支える少年によって、顔の前に刀が差し出される。土方の物だ。沖田の刀も、新八の木刀もある。持ってきたのだろう。少女の悲鳴が聞こえた。「押さないで!」という声が悲鳴に変わり、「ひとみ!」と叫ぶ声もそれに続く。ふと目の痛みを覚えた。薄っすらと、煙が機内に回りだしていた。腕を掴まれる感触がした。力強いものだ。視線を落とすと見えたのは真選組の隊服。沖田の残った左手が、土方の腕を握りしめていた。

「とっとと脱出するぞ。」

 刀を取る。己の物と沖田の物を。
 土方は沖田を抱きかかえると、新八を先導して壁へと向かった。まさかコイツをお姫様だっこすることになるとはなと、腕にかかるゾッとするほどの軽さを無視して歩く。窓ガラスから下を見る。人はいない。

「おおおおおっ!!」

 裂帛の気合いと共に片手一本で、土方の刀が壁を切り裂いた。斬鉄、その域に至った斬撃は、分厚いアルミ合金すら切り裂く。
 悲鳴も無視して土方は飛び降りる。他の子供のように転落死したりなどしない。両の足で大地を踏みしめる。そっと沖田を横たえると、刀を滑走路に突き立て叫んだ。

「飛び降りろ! 俺がゼッテー受け止める! 新八手本を見せろ!」
(やっぱそうでねえと。)

 新八が飛び、彼を支えてい少年、リオンが飛び、次第に子供達も覚悟を決めて飛び降り始める。
 それを見届けた沖田は、愛刀を杖代わりに片足一本で立ち上がる。体には欠片も力が入らない。だが今そんなことはどうだっていいんだ、重要じゃない。肝心なのは何もできずにただわけのわからないまま死ぬようなことは、沖田自身が沖田を許せないということ。
 一際大きく息を吸い込み、奥歯を噛みしめる。左足一本で突っ込み、息を吐きつつ歯で鞘を噛み抜刀する。狙いは、この場で最も失ってはまずい男に迫る魔手。

「ボサッとしてねえで立ちな。アンタはまだ動けるだろ。」

 それが沖田総悟の最期の言葉だった。

340◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:28:22 ID:???0


「久美子……起きてよ……ねえ。」

 大根おろしの上にトマトを転がしたらこんな感じになるのだろうか。ひとみが割れそうな頭を抑えながら目を開けると、見えたのは頭から血と何かをはみ出させてピクリともしない久美子の姿だった。
 あの時、穴からカカシが子供達を抱えて降りていた時、穴に向かって素早く移動していたひとみと久美子は、自分たちも脱出させてもらおうとしていた。
 風向きが変わったのは、機内に煙が立ち込めてからだ。満足に呼吸ができなくなった子供達は酸欠気味の頭で本能的に外に出ようとする。その人の群れに影分身が身動きしにくくなり、脱出の効率が落ちる。結果穴の周りには加速度的に人が滞留した。そして最後は、後ろから押される形で転落というわけである。
 それでも即死しなかったのは、下で影分身が1体クッションになったのと、久美子が庇ったからだ。あの落ちる寸前、なぜ自分は手を伸ばしたのか、なぜ久美子はひとみの手を掴んだのか。落下の際のわずかな間に久美子はひとみを抱き締め、くるりと空中で入れ替わった。自分の景色が反転したのを覚えている。久美子をクッションにしなければ即死していたかもしれない。
 だがそれはひとみが無事であることを意味しない。

(立てない、足に力が入らない。)

 神経をやったかぎっくり腰のようなものか、ひとみが動くのは上半身のみだった。これが一時的なものなのか永続的なものなのかなどわかるはずもないが、なんとか久美子にのしかかるのは止めようとしても満足に体が動いてくれない。悪戦苦闘しても体の痛みがどこか鈍い。おまけに雨まで降ってきたと、一瞬そう思った。
 水たまりに強い雨が降りつけた時のように、滑走路の表面が爆ぜるのが見えたのだ。そんな光景など雨ぐらいでしかありえない。しかし飛行機から上がる炎で照らされるにつれてそのおかしさに気づく。雨など降っていない、それは感覚のおかしくなったひとみにも見ればわかる。そしてその雨が降ると、増殖したカカシたちが煙と音を上げて消える。ぴしりと、小石のようなものまで飛んできた。
 ようやくゴロリと久美子の上を転がることでひとみはのしかかるのを止められた。仰向けになってはじめてこの地の異常さに気づく。赤い霧だ。空も赤く、そこに黒い雲が雷鳴と共に蠢いている。そこに一点、雷とは異なる光点を見つけた。断続的に、素早く明滅を繰り返している。そしてそれと同時に雨が降る。

「上になんか飛んでる!」

 ひとみは叫んだ。同時に久美子の手に握られていた拳銃を手に取った。赤い霧と赤い空で見えにくいが、黒い雲が背景になったことでそれに気づけた。赤い長方形のなにかが飛んでいる、あるいは浮いている。その長方形が光ると同時に雨が、銃弾の雨が降り注いでいると!
 ひとみは満足に動かない腕を動かし、銃口を向けた。引鉄を引き、弾が出ないことを不思議に思い、そういえば安全装置とかあるんだっけと、映画で見たような操作をする。再び銃口を天に向ける。手が震え全く狙いは定まらない、それでも引鉄を引いた。
 ダン、ダダン。
 銃声が響く。当たった、とは思えない。それでも長方形は今まで動かなかったにも関わらず急速に移動を始めた。確か向こうは空港だったか。なにはともかく、これでもう銃撃はされない。
 バタンと手が落ちる。もう指1本動かせなかった。全ての力を出し切ったと言う感じだ。体は倦怠感に覆われ、炎で炙られているのに冷えていくのを感じる。

(ごめん久美子、助けてもらったのに。あー、もう一度みんなで──)

 次の瞬間、爆発。ひとみと久美子は爆炎の中に消えて行った。

341◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:28:54 ID:???0



「これは……絹ではないな。装飾も豪華とは言い難いが……しかし、質は良い。」

 時は数時間前に遡る。
 会場にある24時間営業のホームセンターで、場違いなアラビアンな格好をした男が真剣な面持ちで大量生産されたカーペットを手に取っていた。
 その美男子の名は、サウード。数時間後には10名以上の死のきっかけとなる魔法使いは、陳腐な柄の赤いカーペットに、そしてこの店の品揃えに恐怖すら抱いていた。
 男は異世界の出だ。砂漠の国々を超えて権謀術数を巡らせた彼はここでもそれを基本方針としていたが大きな問題に悩まされていた。
 言葉が通じないのだ。

「この……なんだこれは? なんに使うものなのだ……な、なにもわからない……」

 それどころか文字も読めない。そのことで受けたショックは計り知れなかった。
 修めてきた教養、研鑽した魔道、磨いたカリスマ、それら一切を覆す圧倒的な文明格差。1000年近い差のある日本の文明の発達度。そしてそれを学ぶことすら許さぬ言語の壁。これでいったいどうやって勝てばいいのか、というかどう生き抜けばいいのかと、絶望的な笑いさえ出てくる。なにせサウードは水の一杯も飲むことができずにさまよっているのだから。
 サウードは呆然と猫の肉球拭きを棚に戻した。薄々、薄々勘づいてはいたのだ。ここが異国であることは。だがそれだけならなんとかなる。彼が見つけた他の参加者も、この会場の様子には困惑していたようなのだから。それならばフェアだ。
 問題は、どうやら他の参加者同士ではコミュニケーションが取れるということだ。さっき宇野達を襲撃したのもそれが理由である。話術を得意とする者から話術を取り上げるなど片手落ちで戦えと言っているようなものだ。無論、それだけで負けるようなヤワな人生は歩んでいないが。

「いや……この精巧な猫の絵……おそらくは猫に使う何かだろう。他の棚の物も多くに猫の絵がある。さっきの場所には絨毯が、あちらには金物……店なのだろうから、何か共通点はあるはずだ。」

 喉の渇きを覚えながらも、思考を巡らす。この程度のピンチ、太陽が照りつける砂漠で野垂れ死にかけたことに比べればどうということはない。一面の砂と違い物自体はあるのだ、そうサウードは己の勇気を奮い立たせる。こんなところで死ねはしない、その一心で血まなこになって商品を見ていく。
 見つけたカートにカーペットを入れ、途中で見つけたレインコートも積み込む。確認していく間に使えそうなものを手に入れることも怠らない。時間はある。今の己の体調なら今日明日は死にはしない。数時間なら万全に動ける。ならなこの建物1つ捜索することなど造作も無い。

「やった! あったぞ!」

 試練は乗り越えられぬ者に訪れはしない。サウード行った見つけたのは併殺されたドラッグストアだった。深夜ということもあり閉店しているがそんなことは当然忖度するはずもない。いそいそと入店すると、水の入った容器へと近づいた。
 ペットボトルなど当然知らないので開け方はわからない。だがとりあえず飲める物を見つけられたと、サウードは安堵した。棚のポップに描かれた美味そうにジュースを飲む子供の絵すら、写真という未知のものに驚いていた身からすると安らぎすら感じられる。更に近くには食料と思しきものもあった。軽く一月分はあると見えるそれに、生きる活力も湧いてくる。これだけの食料が手に入るということは相当な長期戦になるかもしれないが、餓死の心配が無ければ採れる手も増えるというものだ。

「しかし、どう開ければ良いものか……うん? そうか。」

342◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:30:53 ID:???0

 とりあえず手に取った駄菓子に頭をひねる。食べ物が見つかったとなると、悩みまで程度の低いもので済む。それもすぐにさっき手に入れたハサミを思い出して、サウードはスパイシーなそれを頬張った。

「……先に水を飲むべきだったな。」

 パッサパサなタイプだった。口の中の水分が持っていかれる。味は、まあそこそこだが、これはまず水を飲もうとサウードが歩くと、やけにヒヤリとする棚に出くわした。
 氷室か。そう思うが、どうにも小さすぎる。アイスのケースなどもちろん知らない彼は、しばしの洞察の末に無事に蓋をスライドさせると、アイスを手に取った。
 砂漠でもアイスというものはごちそうである。冬の頃にできた氷を砂漠の下の洞窟などに置いておき、そこに乳と果汁を混ぜたものなどだが、とにもかくにも概念自体は知っているものだ。ご禁制の酒を「トッピング」として楽しむ口実に使われもするが、サウードはまた推察の果てに蓋を開けると一口口に入れた。

(これは!)

 驚くほど甘い。そして冷たい。いや、美味い。臭みが無い。非自然的な風味を感じる。旨いのだが、何か不安になる。
 サウードはなんとも言えぬ顔でミネラルウォーターのペットボトルを手に入れると、逆に回したりして混乱しつつも水を飲んだ。今度は信頼できる味だ。ほっと息が漏れる。
 そして1時間ほどして、サウードはホームセンターを後にした。休憩はとれた、拠点になりそうな場所も見つかった。ひとまず水があれば生きていけるので、ミネラルウォーターの入った段ボールをはじめ旅支度も整えた。なら後はサウードの知恵次第である。

「ふうむ……やはり、言葉がわからないことはまずいな。図書館を探すか。」

 サウードは赤いカーペットを広げる。それは地面に落ちる寸前で止まると、ホームセンターで集めた物資が積み込まれていった。まさしく魔法の絨毯である。あまり魔力を使うのも考えものだが、それを押しても早く言葉を学びたい。そしてその手がかりになりそうなものも見つけている。
 サウードは水道橋だと思い線路の高架へと近づいた。水は見えないがレールが敷かれていることから意味あっての建造物だとはわかる。そしてその両端に何か造る必要性があろうとも。
 サウードはカーペットを空高く飛ばすと一路霧の果てまで向かうこととした。地上から見つけにくいことも考えて赤い物を選んだが、万が一ということもあるので手出しし難い高空(と言っても100mほどだが)を飛ぶ。それに霧の果てと言えど視界が悪いのだ、すぐに果てまで行けて何かしらあるだろうと飛ぶ。が、そうはいかない。

「またこの建物か。宿場にしては距離が近すぎるな。城や要塞にしても、あけすけだ。」

 電車の高架なのだから当然駅があるのだが、そんなことなどわかるはずもないサウードは首を傾げる。わざわざ降りるのも危険なのでそのまま飛ぶが、このまま見えなければ他のアプローチも考えなくてはならないか。そんな風に考えつつしばらく飛ぶと、視界が開けた。空港だ。

「神殿か?」

 滑走路や駐機場の広大さに目を見開いたサウードはそう呟くと中庭に降り立った。重要そうな拠点とみて、見張られている可能性を考えたからだが、あいにく無人である。もっと早く来ていれば安西こころと遭遇した可能性もあったが、サウードに知る由もなく。それでもこれだけ広大ならば言葉を学ぶ手がかりとなる巻物なり書物なりが手に入ると動き出す。
 もちろん見つかることはなかった。売店に本は売られていたが、それが文字を理解する手がかりになどなりはしない。せいぜい、館内の案内地図で建物の内部に詳しくなった程度である。代わりに大量に見つかったのは。

「またこれか。これほどまでの武器がこうも必要になるのか? 魔神のたぐいでも出るのだろうか。」

 地対空ミサイルだった。

343◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:43:02 ID:???0



「ちいっ! 欲張りすぎたかっ!」

 そして現在へと時間は戻る。
 何発もの地対空ミサイルを手に入れたサウードが、自分の上空に旋回する航空機に気づいたのは、彼もまた空を征く者だったからだろう。悪魔は彼に微笑んだ。鷲や鷹の如く旋回するそれをやり過ごすのではなく仕留めにいく。
 翼で空を飛ぶのならその動きは鳥と同じだろう。つまり、着陸の際に頭を上げる。その減速するタイミングを狙うのだ、鷲や鷹を狩るときのように。
 どこに降りるかも予想はできた。滑走路は線上なのだから、中央に陣取っていればどちらから降りてきても狙えるだろうと。そして着陸のためにオートパイロットが減速をかけた瞬間、サウードは担いでいたミサイルを撃ち下ろした。撃ち終わったものを投げ捨てるように手を離し、即座にもう一発撃ち込む。似たようなものは前にも撃った。飛行機の巨体を見て一発では不安に思ってだが、それはかえって飛行機の墜落を避けたことを彼は知らない。反撃される可能性も考え、機関銃を乱射した。それが鉛の雨となり、機体中央部を縦に撃ち抜き、弾丸とそれによって生まれた破片が内部の参加者を殺傷していく。
 そして脱出と炎上が始まった時、サウードは己の天佑を感じた。あの飛行機は、マーダーにとってはボーナスステージだった。故にひとみが気づき発砲された際には、その驚きはひときわ強いものであった。

「だが10人は殺せただろう。」
「そうかい、じゃあアンタが生きてたら次の放送で首輪が外れちまうのか。」

 咄嗟に抜刀したサウードの剣ごと斬られて首が宙を舞う。もうさんざん殺したのだから選手交代だと言わんばかりに現れたのは、ずっとスタンバっていた攘夷志士・岡田似蔵。

(なにぃ…!! 迅速やすぎる……!)
「どいてなモブキャラ。こっからがハイライトだ。」

 ここからが本当の殺陣の始まりだ。
 盲目の似蔵に視界を奪う霧など関係無い。獲物を求めさまよう間に放送も迎えてしまい、その間殺せたのはゼロというのは人斬りの名折れ。そんな中で聞こえてきた奇妙な音に釣られて向かったのがこの空港である。飛行機の騒音は常人でも気になるものだ、超感覚を持つ似蔵からすれば気づかないはずがない。
 とはいえ、ようやく見つけた鉄火場も空中という手も足も出ないところから銃撃をするサウードの存在でみすみす黙って見ているだけだった。そんな厄介者が自分から地面に降りてきてくれたのだ、斬らないわけがない。

(彼奴にだいぶ殺されちまったならなあ、急がねえと。)

 似蔵が狙うのは、放送で追加されたキルスコアレースによる首輪解除だ。参謀役の武市変兵太も放送で名前が呼ばれ死亡は確実となった今、誰かに義理立てる必要も無くなった。ようやくいつもどおりに動けると、遠路遥々歩いてきた甲斐というものを楽しむために燃え上がる航空機へと向かう。

「大変そうだねえ、何があったんだい?」

 他にもマーダーがいるのか、それとも火事で銃が暴発しているのか、銃声が悲鳴に混じって聞こえてくる。似蔵は点鼻薬を使いながら、逃げ出したらしい一人の子供に声をかけた。

「飛行機に乗っていたんですが、墜落して──」

 その声色は本当に心配しているようで、声をかけられた少年、ライは警戒はしつつも事情を説明した。実際似蔵の狙いは、飛行機の人間を1人でも多く助けることにある。そうして全員で1か所に集まりリラックスしたところで皆殺しにする。今のように散らばられていれば余計な鬼ごっこをすることになる。
 後で殺すために真剣に助ける、それが似蔵の目的だったが。が。

344◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:43:55 ID:???0

「あっ……こりゃダメだ、はあ、めんどくさいが、しゃあなしか……」

 抜刀、ライの首を刎ねる。
 そして返す刀で土方の一太刀をいなした。

「てめえは岡田ァ!」
「まいったまいった、真選組がいちゃ潜り込めねえわ。」

 軽口を叩きつつ、踏み込んでくる土方の刃を弾く。生まれた隙に突き込むが、体を深く沈みこまれかわされる。そのまま切り上げられた斬撃を後方へ飛んでかわすと、燃え盛る飛行機へと向かった。
 作戦は変更だ、ステルスしようにも正体が知られている以上やりようがない。だったらせめて、火事で死にそうになっている奴を殺してキルスコアを上げるとしよう。

「ソイツから離れろぉ!」

 追おうとする土方だが、近くの子供にカザンが襲いかかろうと駆けてくるのを見てそちらへと駆ける。手が足りない、ただでさえマーダーがいるところに追加でマーダーが現れたことは彼のキャパシティを超える。土方の叫びも悲鳴と火災の音にまぎれて届かない。機体左側の穴の下、反対側で起こった爆発から逃げた子供と脱出した子供が多くいるそこに、影分身を切り捨てて迫る。それを遮る者はただ一人。

「はあっ!」
「お、生きのいいのがいるねえ。」

 堀内の落下によって死亡したイオリを片手で心肺蘇生しようとしていた志村新八が、木刀を一閃させる。それを難無くかわした似蔵は素直に賞賛した。動きのぎこちなさと血の匂い、相手が手負いであることはわかる。それでもその太刀筋は幕末の猛者に近い凄みを感じさせるものだ。まあそんな猛者でも斬り捨てるのが似蔵なのだが。

「じゃあ、死のうか。」
「グウ!?」

 背後をとり耳元でささやく。斬ってから言わないのはその強さへの敬意である。嘘だ、煽りだ。背中を蹴り飛ばして四つん這いにさせ、斬りおろしやすくなった項に向けて刃を向ける。

「みんな! この人敵だよ!」
(なんて?)

 そこに割って入るのは、クロスボウの矢。音が聞き辛いそれを既のところで切り落とす。そして先に何語かで呼びかけた射手を斬らんと間合いを詰めたところに、銃弾が撃ち込まれた。これも斬り落とすが、追撃をかわすために方向転換を余儀なくされる。

「なんやアイツヤクザか!」

 撃ったのはパステルと矢部だ。冒険者としての経験と貧乏性からとっとと武器を取り戻したパステルは、実は一番最初にカカシが抱えおろした相手である。彼女はその後カザンを射ろうとしていたのだが、カカシの影分身が翻弄される相手に通じるはずもなく、どんどん減らされていく彼らをやきもきしながら見ているしかなかった。その後矢部たちが降りてきたのを見て善後策を話しているところでモモが聞きつけた土方の叫びで新八のピンチに気づけたというわけである。

「いいね、燃えてくるぁ。」

 似蔵は舌なめずりしながら言う。この6時間で斬ったのはガキ1人だったが、ここでもあれより弱いガキばかり殺すことになると思っていた。だが思いも他楽しめそうだ。
 似蔵は駆ける。真選組も殺したいが、あっちは何か獣とやり合っているらしい。寄らば切るが、先に此奴らを斬ってからでも充分だ。

「消えたっ!?」

 パステルや矢部の声が聞こえた位置から少年の声が聞こえる。矢部と同じように銃を構える麻倉の声だが、それは似蔵にとってガイドビーコンの如く働く。似蔵もこの状況では沈黙してじっとしている相手にはなかなか気づけないが、だからこそパステル達は位置がはっきりしているので狙いやすい。懸念事項は周囲の手応えのない奴らだが、攻撃手段はほぼ近接のみのため対処はしやすい。

345◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:45:06 ID:???0

「はいもう1つ!」
(まずい……もう半分も残っちゃいない。)

 その理由は、クナイや手裏剣を投擲すると似蔵が弾いてそれが近くの子供に当たりかねないからだ。もしそうなった場合火花から引火して爆発しかねない。カカシに航空燃料の知識は無いが可燃性のガスの存在ぐらいは知っている。故に先ほど矢部が発砲した時は肝が冷えたものだ。つい今ほど爆発したのに酔のせいか単に気づいていないのか。そしてカカシから見た似蔵は、投擲を容易に弾く侍だと見なされていた。
 加えて、チャクラ切れの面が大きい。影分身といえども術は使えるのだが、そんなことをすればただでさえ少ないチャクラを使い切ってしまう。そうなれば最悪、術が不発に終わり影分身が消えるだけとなる。これは忍術だけでなく体術にしても同じである。忍者の体術はチャクラをコントロールすることにより身体を活性化している。つまりチャクラが切れるということは超人的な身体能力を失うのと同義だ。
 残りの影分身は30体を割っている。外にいるのは数体で、大半は内部で同じ数の人間の脱出に従事している。カカシは緊張して、しかし冷静に周囲を見渡すと、彼我の戦力を分析した。敵は化け犬(カザン)と岡田と呼ばれた侍。どちらも同じ程度と見る。一方こちらはほぼ土方1人だ。2対1ではないが、劣勢なのは否めない。今は土方がカザンを抑えているが、岡田の方は動けば影分身が消えそうなカカシ本体と、そのカカシの影分身数体、手負いで片手で木刀を振るう新八、クロスボウを持っているパステル、拳銃を持っている矢部と麻倉だ。新八はともかく、パステル達のグループは明らかに荒事の経験が無いとカカシは判断する。事実上戦力は影分身達と新八のみだ。
 やむを得ず、外で子供の避難誘導と護衛に当たっていた影分身まで全て使って似蔵に向かわせる。そうしなければ拮抗状態を維持できない。こうしている合間にも、飛行機は業火に包まれだした。まだ少なく見積もっても20人以上内部にいるはずだ。彼らが脱出するまでの数分間持たせるにはこれしかない。

「斬り応えがない。」

 そんなカカシの事情など知ったことなく似蔵は影分身を斬り進む。実のところ似蔵も焦りだしてはいる。自分が斬っているこの人間のような何か、無視できないほどの強さを持っているくせに斬っても血の一滴流すことなく消えている。どういうトリックかは知らないが、これをいくら斬ろうとも点にはならないのだろう。斬るのは楽しいとはいえこのままではとんだ骨折りだ。
 だがそれもここまで、近場はあらかた片付けた。ついにノーガードになった新八達と、そこに降りてくる人間を殺しに向かう。それを見た土方が割って入ろうとするも、同時にカザンも突貫した。彼からしても最高のタイミングで牙を向いたはずが思いの外キルスコアを上げられていない。これまでは自分が土方の相手をすることで似蔵がめんどくさい影分身の処分をしていってくれていたが、このまま奴を見過ごせばみすみすポイント稼ぎのアシストをすることになる。それではダメだ、奴に自分のアシストをさせなければ。
 2方向から同時に似蔵とカザンが迫る。それに対応できるような人間はパステル達のグループにはいない。ただ1人新八だけが両者を素早く見て、カザンの迎撃に動いた。それを見たカカシは素早く印を結ぶ。ここで勝負をかける。ボフンと全ての影分身が消滅した。
 その瞬間、カカシの姿が消えた。その場にいる誰よりも素早くカカシは動いた。
 『已・未・午・卯・未・午・卯・在』手が残像を残して動き印がまたたく間に結ばれた。

「ありえねぇ……!」

 似蔵の顔が驚愕に染まる。謎の音に咄嗟に足を捌くが、その足に奇妙な感覚がして飛び退く。だがその背中もまた何かにぶつかり、振るう刀も阻まれ、異様に体が重く感じる。一体何が起こったのかまるで音からはわからない。
 なぜ突然、自分は水の中にいるのか。

346◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:45:54 ID:???0

「カカシさん! 任せるぞ!」
「ああ!」

 追いついた土方は似蔵を追うのは止めて、新八の元へと駆ける。そんな2人の声すら濁って聞こえる。そしてこの臭い、この戦場に乱入してからずっと感じていたこれは。

(ガソリンか!)

 正確には航空燃料に囚われていることに似蔵は気づいた。
 似蔵を囚えたカカシの忍術、その名は水牢の術という。水を操り相手を球形の水塊に沈めるという、高い拘束性能を持った技である。先日カカシがこれを鬼人・桃地再不斬に喰らった際には、ほぼ完全に無力化されたほどだ。しかし本来この技は水の無いところではまず使えないというデメリットもある。
 だがこの場にはおあつらえ向きの液体があった。翼から流れ出て今も気化しつづけている航空燃料が。

「お前はここで沈んでいけ。」

 そう呟くと、カカシは膝からストンと落ちた。震える手で額当てに指をかけるとなんとか左眼を覆う。これ以上写輪眼を使い続ければ命は無い。まして水牢の術を維持するのが困難だ。本来であればこんな無様な戦いなどしないが、今は1秒でも長く術を維持して似蔵を沈殺するためになりふり構っていられない。
 後は土方に託すしかない。
 この場に残るマーダーは、カザンのみ。

「撃つな! 燃える!」

 猛然と駆ける土方の先で、麻倉が発砲している。なんとか木刀で凌いでいる新八をかわして、カザンは後ろのパステル達に迫る。パステルのクロスボウもかわすと、狙ったのは、矢部。

「おおアカン誰か弾──」

 言い終わる間もなくそのまま加速したカザンは矢部を跳ねた。サイズからは考えられない、まるで大型トラックにでもぶつかったように矢部が宙を舞う。それを呆然と見送る麻倉達に同じように突っ込もうとする寸前に、彼らの前に立ち塞がるものがいた。モモだ。
 これまで1人武器を持たなかったモモがカザンに向かっていく。そこになんの勝機も生存の算段もない。ただ体が動いたのだ。だがカザンはそう判断しなかった。きっとこいつも何か技なりあるのだろうと、これまでの戦いの経験から迂回を選ぶ。その隙が土方を間に合わせた。
 カザンの口が歪む。実のところ、カザンもこれまでの戦闘で息が上がっている。外見が犬なのでわかりにくいが、着陸寸前から暴れ出し、フウリとソラウには苦戦し、カカシの影分身と土方と渡り合っていた。目立ったダメージこそないが、動きのキレが落ちだしている。
 あの分身が無ければ、そう思うも後の祭りだ。後悔するよりもより獲物を狙いに行く。なに、土方に邪魔されない場所にたくさん残っているのだから。

「まずい、炭治郎上行った!」

 今土方と戦っても良くて相打ちだ。それよりは狙いやすい子供を狙う。今までの戦闘で安全に飛行機から脱出できなかったため、機内にはまだかなりの人間が残っているとカザンは見ていた。影分身に邪魔されている時にほとんど子供を殺せなかったどころかそもそもの人数が少なかったからだ。
 「離れて」と中の炭治郎が言う間も無い。人混みに邪魔され、その場から跳躍し壁を蹴って穴の間近にゆく頃には、カザンは前脚をかけていた。そして乗り込むと一番近くにいた少年へと襲いかかる。炭治郎は彼がケイという名前だとはわからない。コックピット周りの作業では何人もの子供が作業や討論をしていたので顔と名前が一致しきっていない。ただ彼がこんなところで死んで良い人間ではない、それしかわからなかった。
 炭治郎の口から独特な呼吸音が一際大きく鳴る。迷っている間は無かった。残った片手一本で、片目で距離感の掴めない相手に向かって、日輪刀をぶん投げる。鬼相手であれば唯一の武装を捨てる愚考でも、この場はこうするしかない。

347◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:46:39 ID:???0

「グガァ!?」

 そしてそれが吉と出た。カザンは内部に銃があるのを見ていなければ、今頃少年は齧り殺されていただろう。だが警戒して周囲に気を配ったがために、わずかに勢いが落ちた。それゆえに投擲が間に合い、それゆえに回避する間が生まれる。
 無理やり勢いを止めて逆方向に飛び出る。日輪刀の方が早くカザンの胸に突き刺さり、体の内側から一気に温度を持っていかれた。まるで心臓に氷柱を打ち込まれたような感覚。
 だが、カザンは依然として動けた。出血覚悟で日輪刀を引き抜く。そしてよくよく理解した。ここまでだ。
 傷の感じから急所は奇跡的に外れている。といっても妖怪基準なので普通の犬なら死んでいたのだが、そんなものはカザンには当てはまらない。だがそう強がったところで、深手を負ったのは間違いなかった。まだ仕掛けられる余裕があるというのは過信だったと言わざるを得ない。

「今だ、降りろ!」

 後ろから叫ぶ土方の声がする。せっかくのチャンスではある。だがもうダメだ、カザンも限界である。それに仮に土方をどうにかして、さっき刀を投げてきた炭治郎をどうにかしても、あの飛行機はもう無理だ。爆発すると臭いでわかる。
 後ろから物音が聞こえて最後に振り返った。なにか滑り台のようなものが飛行機から生えていた。あんなものがあるとは思わなかった。もっと早く出していてくれれば皆殺しにできたのに。
 一方土方はそんなの使えるならとっとと出しとけよと思ったが、そうも言っていられないので似蔵を斬りに向かう。「そいつは置いてけ、もう死んでる」と、矢部やイオリの蘇生や移動を試みている麻倉たちに言って逃げさせると、穴の間近にはカカシと似蔵と3人で残った。
 マーダーは撃退した。機体から安全に脱出する方法もできた。あとはコイツにとどめを刺して逃げるだけだ。

「待たせたな、後は俺がやる。」
「いや……こいつはまだ息がある。せめて失神するまでは。」
「火が回ってきたんだ、とっとと行け。それにコイツは俺らの山だ。」

 刀を平突きに構える土方の瞳を、額当てで目隠ししたカカシは見ることができない。カカシは小さく頷くと水牢の術を解いた。
 その途端、それまで力無く囚われていた似蔵が勢い良く土方へと飛びかかる。全身を燃料に塗れながら、言葉にならない絶叫を上げる、その喉に土方の刀が突き刺さった。その刀を掴み、似蔵は己の刀を叩きつける。
 その瞬間生じた火花が似蔵と土方を焼き、飛行機は中程から爆発した。



【脱落】
【長嶋ケンイチロウ@生き残りゲーム ラストサバイバル でてはいけないサバイバル教室(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【峰岸遼太@そんなに仲良くない小学生4人は無人島から脱出できるのか!?@小学館ジュニア文庫】
【松野チョロ松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【ロボ@天才謎解きバトラーズQ vs.大脱出! 超巨大遊園地(天才謎解きバトラーズQシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【ソラウ@新妖界ナビ・ルナ(5)刻まれた記憶(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【フウリ@新妖界ナビ・ルナ(5)刻まれた記憶(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【蛇野杏奈@トモダチデスゲーム@講談社青い鳥文庫】
【渡辺イオリ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【ハンター@(逃走中シリーズ)@集英社みらい文庫】
【堀内優大@異能力フレンズ(1) スパーク・ガールあらわる! (異能力フレンズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【沖田総悟@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【堀場久美子@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【中山ひとみ@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【サウード@シェーラひめのぼうけん 魔神の指輪(シェーラひめシリーズ)@フォア文庫】
【大井雷太@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【矢部謙三@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【土方十四郎@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【岡田似蔵@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【はたけカカシ@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】

348◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:47:39 ID:???0



【0714 『中部』空港】


【麻倉良太郎@黒魔女さんのクリスマス 黒魔女さんが通る!! PART 10(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 みんなで脱出する。主催者には落とし前をつける。
●中目標
 飛行機から離れる。
●小目標
 ???

【モモ@モモ@岩波少年文庫】
【目標】
●大目標
 みんなで脱出する。
●中目標
 飛行機から離れる。
●小目標
 ???

【竈門炭治郎@鬼滅の刃ノベライズ 〜遊郭潜入大作戦編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 巻き込まれた人を殺し合いから脱出させる。
●中目標
 飛行機から残っている人を離れさせる。
●小目標
 また爆発!?

【志村新八@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 みんなで脱出する。
●中目標
 飛行機から離れる。
●小目標
 ???

【大道寺知世@小説 アニメ カードキャプターさくら さくらカード編 下(カードキャプターさくらシリーズ)@講談社KK文庫】
【目標】
●大目標
 さくらちゃんを探してみんなで脱出する。
●中目標
 みんなで空港の建物に避難する。
●小目標
 ついに爆発してしまいました……土方さん達は無事でしょうか……

【吉田歩美@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 死んだ光彦のためにも事件を解決して脱出する。
●中目標
 知世さんに着いていって空港の建物に避難する。
●小目標
 早く逃げないと。

【紅月圭@怪盗レッド(1) 2代目怪盗、デビューする☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出し、主催者を討つ。
●中目標
 飛行機から離れる。
●小目標
 ライやロボたち首輪解除要員と合流したい。

【パステル・G・キング@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 ノルの生死を確かめて殺し合いから脱出する。
●中目標
 飛行機から離れる。
●小目標
 ???

【水守理音@かがみの孤城@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 生きてここから脱出する。
●中目標
 飛行機から離れる。
●小目標
 志村さんを連れて逃げる。

【カザン@妖界ナビ・ルナ(10) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
●大目標
 タイと合流する。
●中目標
 竜堂ルナを殺す。
●小目標
 キルスコアを稼ぐが、まずは傷を治す。

349◆BrXLNuUpHQ:2025/04/17(木) 05:48:49 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『お客様の中にパイロットはおられますか?』になります。

350名無しさん:2025/04/17(木) 21:48:44 ID:vpsZVh/c0
149話「ここまでされるいわれはない!」の登場人物一覧について
神田あかね(映画版)になっていたのを神田あかね(原作版)に修正しました

351◆BrXLNuUpHQ:2025/04/27(日) 07:37:14 ID:???0
編集ありがとうございます。
投下します。

352◆BrXLNuUpHQ:2025/04/27(日) 07:38:57 ID:???0



 帰りは行きよりも倍の時間がかかった。
 藤山タイガたちが出会った2つの少女の死体と1人の瀕死の少年。その正体に心当たりのある人間に巡り会えたことは、霧深いこの地ではとても稀有なことだろう。もっとも、仲間の死とその容疑者を知らされることになったうちはサスケ、そして仙道ヒカルにとっては全く嬉しくないことだが。

「おい、ほんとにこっちであってんのか?」
「悪い、近づいてはいるんだけど。」

 苛立ちを隠さずに言うサスケに、ハンドルを握るタイガは申し訳なさそうに、しかしこちらも苛ついた様子で答える。そもそもはタイガが少年を助けようと言い出したがために、6人いたグループを3人ずつに分けてしまっている。大怪我をした人間を前に我が身を省みなかったからだが、そのために4人も殺しているかもしれない少年のために仲間まで危険に晒してしまっている。そのことが初めて運転する車を自然とスピードを上げさせていた。数時間前に乗ったときにはおっかなびっくりだったのが、今はどうせ殺し合いに巻き込まれた人間しかいないのだからと赤信号を無視するまでになっている。「待て、停めろ!」と言うサスケの声も虚しくバァン!

「ぐあっ! わ、悪い、みんな大丈夫か?」
「なんとか……それよりあの子は!?」

 エアバッグに埋まりながら蒼い顔でそう言ったタイガに、横のヒカルは肋の痛みに悶えながらもなんとか答える。タクシーから3人の少年たちが降りると、その近くの路上では金髪の美少女が腰を抜かして尻餅をつき、その横で青いパーカーの少年が呆然と立っていた。

「……ごめんなさい。」

 交通事故を起こしかけたとき、どんなことを言えばいいのだろうか。危うく少女を跳ねかけた張本人のタイガは何と言えばいいかわからず、ひとまず頭を下げた。横では同じようにヒカルも頭を下げ、サスケは油断無く少年の後ろを取っていた。


「──それで、あの人が二神・C・マリナさんです。」

 数分後、落ち着いて話せるようになった一同は、近場の民家の居間で情報交換をしていた。
 先ほど跳ねられかけた少女の名はマリナといいアイドルらしいと説明したのは、マリナと近くの森で出会ったという少年、智科リクトだ。そういえば結構可愛かったなとタイガは思ったが、そんなことより彼女の容態が気が気でない。今は別室でサスケが手当てをしているが、もし大きな怪我をしていればと思うと、別れた仲間のこと以上に不安になってくる。危険な目に合うかもしれない5人と自分が殺しかけた1人なら、後者の方が肝を冷やさせる。
 そんなタイガを横に黙り込むヒカルは、アイドルということからどうしても同級生の夢見キララのことを思い出す。そもそも彼がタイガを急かしていたのはキララの死体の写真を見せられたからだ。マリナたちと出会ったことで焦る気持ちはなおのこと増していた。そしてそれは同じように春野サクラを失ったサスケも同じである。ガラリと襖が開くと、どことなくホッとした感じの、それでいて焦った様子のサスケが、その後ろから神妙な様子のマリナが出てきた。

「怪我は無かった。車が当たったわけじゃなかったようだな。」
「おしりは打ったけどね。」
「悪かった! あんな怖い思いさせて!」

 冷ややかなマリナの視線と言葉にタイガは土下座で謝る。そこまでしなくてもとサスケは思うが、同じようにいたたまれない様子のヒカルを見て自分も改めて頭を下げておく。一番に急かしたのはサスケ自身という気も割とある。
 それから5人はギクシャクとした雰囲気ながらも情報交換を始めた。空気を変えたいからである。さすがにこの状況で、「仲間の死体を探しに行きたいからここで別れましょう」と言い出せるほど無神経な者はいない。そもそもの話、その死体があった場所にまで戻ることができないのだ。加えて他の知り合いの情報を持っているかもしれない。

353◆BrXLNuUpHQ:2025/04/27(日) 07:39:28 ID:???0

「えっと、こんな感じかな?」

 あらかじめ情報を共有しているリクトとサスケが代表となって互いのグループの情報を話し合う。それをチラシの裏にマジックでメモしたリクトは、全員に見えるようにちゃぶ台の真ん中に置いた。

リクト→イノスケさん(猪のマスクをした上半身裸の侍みたいな人)、ゼンイツさん(イノスケさんの仲間の金髪の中学生ぐらいの人、森の中の廃村で殺されていた)、頭が馬の人間の死体(頸が斬り落とされていた)
マリナ→次元さん(スーツで銃を使うのが上手いオジサン)、ゼンイツさんのゾンビ(襲ってきた)
サスケ→春野サクラ(仲間、タイガが死体を見つけた)、宮美ニ鳥(ツインテールで髪飾りを着けている、妹を探している少女)、石川五エ門(怪我をしている侍)、クロトリチヨコ(ニ鳥の知り合いの少女)、ヨシナガフタバ(大怪我をしている少女)、天地神明(顔の良い少年)、山田奈緒子(怪我をしている長い黒髪の女性)、おっこ(着物の少女)、松野おそ松(目つきの悪い男でトト子の知人)、弱井トト子(目つきの悪い女でおそ松の知人)、銀髪の侍(警察署を襲った)
ヒカル→小栗旬(銀髪の侍、神楽の知り合いの銀ちゃん?)、夢見キララ(クラスメイト、タイガが死体を見つけた)
タイガ→スドウジュン(黒髪ロングで背の高い小学生、オオバカレンの知り合い)、オオバカレン(ツインテールの小学生、スドウジュンの知り合い)、タキザワミナ(ショートカットの小学生)、春野サクラ(死体を見つける)、夢見キララ(死体を見つける)、少年(神楽が襲われた?)
サスケたち共通の知り合い→ナハミドリ(黒髪ロングの中学生)、タマノメイコ(黒髪ロングでメガネの中学生)、カザマトオル(幼稚園児)、神楽(怪我をしている赤い服に茶色い髪の変な語尾の少女)

 「だいたい25人ぐらいね」と言うマリナ。これまでろくに人と出会っていない彼女からすると一気に情報が増えたことになる。特に自分の家族や知り合いの一条大和たちがいないことに少し不安が薄らいだ。もちろん心細くはあるが、彼女は探偵を目指している身だ、知っている人間が確実に巻き込まれていることがわかるよりは、まだ希望が持てる。
 それはリクトも同じである。彼も知り合いの名は呼ばれていない。とはいえ、ゼンイツがマリナを襲ったということは改めて聞くと困惑するのだが、ゾンビのように襲いかかってきたという話から少なくともなんらかの為に正気ではなかったのだろうと考える。
 一方サスケは渋い顔をしていた。まず彼らがタイガの知り合いである少女たちと出会っていないこと。そこから考えるにまだまだサクラが殺された現場からは遠い可能性がある。そしてニ鳥の妹の情報が手に入らなかったこと。これが痛い。
 そもそもの話、サスケとナルトと神楽が警察署を離れた理由の一つにニ鳥の妹の目撃情報があった。一応、怪我人を助けるための病院の捜索がメインではあるのだが、それを受け持つ前から探しているのもあって並行して進めていた。
 問題は病院は見つかったものの肝心の医者がいなかったことと、仲間の死を知ったことと、その容疑者の情報が手に入ったこと、そしてそれらが同時だったことだ。医者がいないのなら怪我人を助けることはできずこれ以上病院にいる意味が薄い。サクラが殺されその下手人が瀕死というのなら、仇を討ちサクラの死体を回収しなくてはならない。これは単純に弔うためだけでは無い。忍者の死体は情報の宝庫であり、それを流出させるわけにはいかないという事情もあるのだ。
 ニ鳥の妹を探す、医者を探す、サクラを殺した犯人を探す。やることがどんどん増えた為に、サスケ達は手分けして当たることにした。まず双葉を助けるために病院を熱心に探していた神楽が医者を探すことになった。ちょうど病院には彼女の仲間の銀ちゃんも戻ってくるらしい。それもあって神楽が病院付近を捜索する。ニ鳥と付き合いの長いナルトはニ鳥の妹探しだ。病院から警察署の方向のエリアを重点的に探す。そして彼らに比べて負傷も消耗も無いサスケが一番遠出してサクラの元へ征くこととなった。これは同じくキララの元へ向かいたいヒカルと、仲間に危機を知らせたいタイガが往くことになった。そしてヒカルが病院から離れることで風間トオルが1人になるため、名波翠と玉野メイ子が入れ替わりで残る、という具合である。

354◆BrXLNuUpHQ:2025/04/27(日) 07:39:51 ID:???0

「なあ、2人とも俺らと一緒に来ないか?」
「ありがとう、でも、まだ近くに伊之助さんがいると思うんだ。」
「私は……」

 悩むサスケをおいてタイガは話を進めていく。そんな折──突如として首輪から音楽が鳴り出した。
 一同に驚愕が、そして困惑が走る。突然の現象に誰も心当たりが無い。だが彼らの衝撃は首輪から告げられた名前によって更に大きなものとなった。

「善逸さん、やっぱり……」
「アケチって兄弟か親戚で殺し合わされたのか?」
「戦国武将じゃない。しかも信長?」
「蜘蛛の鬼かっこ兄ってなんだよ、かっこ父ってなんだよ。」
「小林も2人呼ばれたぞ。」
「次元さん……うそ、四道さんも……」
「なんだ大富豪って……」
「野原……また兄弟か?」
「松野さんすごい呼ばれたな……」
「いやチョロマツってなんだよ呼ばれすぎだろ。」
「おい宮美って……」

 知り合いの名前が呼ばれた。そのことで改めて衝撃は受ける。受けた上で、サスケとヒカルは思った。今の放送は本当なのだろうか?
 どう考えても普通の人名でないものが多すぎる。というか何回か同じ名前が呼ばれている。メモを取ったリクトも混乱の顔だ。というかと多かれ少なかれ全員がそうだ。それは知り合いが2人も呼ばれたマリナも例外では無い。
 そして最大の問題は、人数の多さだ。81人、実に100人近い人間の名前が呼ばれた。情報共有で上がった名前から相当な人数がいるとは思ったがここまでとは。
 困惑する5人から段々と言葉が失われていく。もたらされた情報はそれぞれの方針を再検討させるには充分なものだった。

355◆BrXLNuUpHQ:2025/04/27(日) 07:40:11 ID:???0



【0606 『不明』 森近くの民家】


【藤山タイガ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶちのめして生き残る。
●中目標
 胸に刃物が刺さってる男子(タイ)から情報を吐かせる。
●小目標
 今の放送、本当なのか?

【うちはサスケ@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 サクラを殺した奴を殺す。
●中目標
 宮美三風を探す。
●小目標
 ミヤビシヅキ……ニ鳥の家族か?

【仙道ヒカル@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 この殺し合いから脱出する。
●中目標
 胸に刃物が刺さってる男子(タイ)から情報を吐かせる。
●小目標
 2人も……明莉たちは大丈夫かな……

【智科リクト@怪奇伝説バスターズ 科学であばく!!旧校舎死神のナゾ!?@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを破綻させる。
●中目標
 伊之助と合流する。
●小目標
 今の放送、本当かな?

【二神・C・マリナ@ミステリー列車を追え! 北斗星 リバイバル運行で誘拐事件!?@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 この事件を解決したい。
●小目標
 次元さんまで……

356◆BrXLNuUpHQ:2025/04/27(日) 07:40:30 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『リロード』になります。

357◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:00:08 ID:???0
投下します。

358◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:01:05 ID:???0



「──でもできることはやったと思うぜ? マメちゃんは立派だよなあ、隼人?」
「…………え、ああ、そうだな。」
「おいおいお前まで気にしすぎだって。あんだけ燃えたら消防士だって逃げ出すだろ。だよなレナ?」
「…………あっ、うん、そうかな? かな?」
「そうだよ、そうに決まってる! いやそれにしても鱗滝さんどこまで行ってんだぜんぜん追いつかねえな。ていうか、足めちゃくちゃ速くない? なあ猛士?」
「ああ……」

 柿沼直樹は1人で話し続けていた。
 火災現場で出会った双葉マメと利根猛士と共に歩き出してからずっと、チームには重たい空気が流れている。デスゲームなので当然と言えば当然なのだが、1人2人ならともかく3人4人と増えられると、さすがの直樹もしょげてくる。まだ全員同世代だからマシだが、これが大人にまで伝播されたら溜まったものではない。
 もとより直樹は能天気に片足突っ込んでいる明るさである。楽観的な陽気さはここでも変わらず、たとえガタイのいい怪物と遭遇しても、そんな存在と殺し合うことよりも、そんな存在から助けてくれた人と助かった人がいることに喜びを感じる人間だ。
 まあ、さすがに病院が燃えているのを見たときは言葉を失くしたのだが。しかし怪我人がいると聞かされた時のマメの絶望的な表情に比べれば、この5人の子供の中では一番動揺は小さかった。それは怪我をしている日向冬樹ともそれを看ている有星アキノリとも知り合いでないから、というだけではない。それなら他の4人も同様だし、それぞれに気がかりなことを抱えている彼らよりもショックは大きかったはずだ。
 その理由は彼の育った環境にある。直樹の家は医者だ。産婦人科の開業医だ。だから町医者の息子にしては、死というものが身近だった。
 どうあっても助けられない命があることを直樹は知っている。産まれてくることを望まれない命も、望まれていても別の誰かのために犠牲にせざるをえない命も、時にはある。他ならない直樹も、妊娠した先輩を助けるために、自分が妊娠させたと嘘をついて堕胎させようとしたことがある。
 命は平等だが公平ではない。死ぬときは死ぬし生きるときは生きるのだ。それは元の東京でもこのデスゲームのステージでも変わらない。いや、なおのことあからさまだ。こんな場所に医者がいるとは思えないのだ。鱗滝は必死に病院を探していたが、たとえ見つかったとして、たとえ鱗滝に救急救命の知識があったとして、助からない可能性が高いだろうとずっと思っていた。
 だが彼が燃える病院から離れて怪我人の元へ向かうと言い出したときは少し驚いた。たしかに助からないだろうとは思う。だが、それでもという気持ちがある。自分でもバカでガキ臭いとは思うが、そう言ったバカさとガキ臭さは決して嫌いではない、はっきりいえば好きなものだ。だから鱗滝も同じタイプの人間だと思っていたが、しかし直樹が思うよりも大人だったのだろうか。
 このチームは鱗滝の方針に従って動いてきた。どこに何があって誰がいるかもわからないので、人を助けるというわかりやすい目標を持つ彼に着いてきていた。それに責任を感じたのだろうか、そんなこと気にせずわがままになってもいいのに、そんなふうに思う。

(どうせならかわい子ちゃんのわがままに振り回されたいけどな。にしても足速いな、天狗の面着けてるからか? なんかスピード上がる効果とかあんのそれ?)
「左之。ここを頼む。」
「ああ。行ってこい。」

 鱗滝と別れてからどれくらい歩いただろうか。突然最後尾を歩いていた緋村剣心がそう言うと直樹を追い抜いて小走りで、しかしマラソンランナーのような軽やかさで駆け出した。先頭を歩いていた相楽左之助も以心伝心といった感じで送り出している。いったいなんだ?そう思った矢先、横を歩いていた竜宮レナがボソリと呟いた。

359◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:03:08 ID:???0

「血の臭いがする。」
「血ぃ? マジで?」
「本当だ……」

 レナに続いて鑑隼人も言う。マジかよこいつらすっげー鼻効くなと、血の臭いうんぬんより先にそっちが気になった。
 しかしそんな軽口とは裏腹に、鉛を飲み込んだような重さを感じた。本当に鉛を飲んだ試しなんか無いし、そもそも鉛がどんな物かよくピンときてはいないが、この胃の重さはヤバいなと感じざるをえない。
 そもそもの話、今こうして直樹たちが怪我をした冬樹の元へ向かっているのに、当の鱗滝本人がいないのは、彼が数分前に「銃声がした」と言い出して駆け出したからだ。

「やはり今のは銃声か。かなり遠かったようだが。」
「霧で音の通りが悪いのだろう。ここから冬樹のいる家まで程近い。剣心、追ってこれるな。」
「……ああ。ここは拙者たちに任せるでござる。」
「有り難い。」

 それだけ言うと鱗滝は駆け出していった。「物音はしたけどよくわかったな」と左之助がこぼしたが、そもそも直樹には全く聞こえなかった。強い男は耳まで強いのだろうか。そんなことを考えつつ、沈みがちな空気をなんとかしようと喋り続けていたが、それまで付き合ってくれていた左之助まで緊張した空気をまといだし、結局直樹1人で話し続けてここまで来た。
 そして歩くこと数分、鱗滝に続いて今度は剣心まで走って行った。となるとすることは1つ。追うのだ。

「な! お前待ちやがれ!」
「やっぱバレっか。」
「あったりまえだろ!」

 急に黙って最後尾まで行き、道を一本入って追おうとしたが即バレた。だがこれで2人きりだ。

「死んだか?」

 小声で問いかける直樹に、胸ぐらを掴んで説教しようとしていた左之助の口が止まる。「チっ」と舌打ちすると乱暴に離された。

「俺たちを気づかってんだろうけど、それ、逆効果だと思うぜ。ここがマジにデスゲームなら、いつかは死体と出くわすだろ。今見えなくしたって、いつか必ずな。」
「わかったような口ききやがって。」

 呆れたように、しかし勢い無く言う左之助からは先程までの覇気はない。代わりに鉄の冷たさを感じさせる怜悧な雰囲気がある。

「あいつだってわかってるさ。それでも見せらんねえかもしんねえから、こうしたんだ。」
「そんなにひどいのか?」
「さあな、血の臭いはかなり遠くまでするが、この霧なのにそんだけするってことは……」

 足音が聞こえてきて、左之助はまた胸ぐらを掴むと直樹を立ち上がらせる。

「とにかく勝手に動くな!」
「いってえ!」

 最大限加減した、それでいて的確に脳天をつく拳骨に直樹が悶えたタイミングで、心配そうな顔で手榴弾を構えている隼人が、家の角から顔を出す。「コイツがフラフラしないように見張ってろ」と左之助に振られた彼は、困惑した様子ながらも頷いた。

『いつかは死体と出くわすだろ。今見えなくしたって、いつか必ずな。』
(わかってるっての。)

 子供に見せられない死体も、この先見ることがあるかもしれない。今こうしていることも、単なる剣心の自己満足かもしれない。それでも止める気は無いと思い直して、左之助はもと来た道を行くと剣心を待った。
 剣心が帰ってきたのはそれからすぐのことだった。
 そして直樹たちが冬樹とアキノリの死体と、新たな参加者と出会うのも、またすぐのことだった。

360◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:06:16 ID:???0



 戦々恐々。
 それが、鈴鬼の心境だ。
 禍福は糾える縄の如しと言うが、今の自分は幸運と不運のどちらにいるのだろうか。
 殺し合いを強制された不運、天照和子という協力者を得られた幸運、謎の白髪の殺人鬼の少女を目撃した不運、その少女から逃げ延びて彼女を撃退する正義の味方と出会えた幸運、その正義の味方たちの奮戦虚しく命を落とした子供たちという不運、そして彼らの仲間と合流できたという幸運。
 上がったと思えば下げられ、下がったと思えば上げられる。激しいアップダウンはジェットコースターのようで、1人ではろくに動けない鈴鬼は翻弄されるしかない。

『強くなれる理由を知った――』
「6時か。」

 首輪から、スマホから、カーステレオから流れ出す紅蓮花に、鈴鬼をポケットに入れる和子はよく通る声で呟くと、スマホの画面を鈴鬼にも見えるように持った。
 目下の問題は、2つあった。
 1つは鱗滝と彼が助けた近藤勇の2名が重傷を負っていたことだ。特に近藤は左目を失明しただけでなく左脇腹、左肩、左太腿の4ヶ所の銃創と、臀部を中心とする背面の10数ヶ所に手榴弾の破片を受けていた。幸い神経や大きな血管は無事なようだが、背骨に金属片が突き刺さっているのを放っておけるわけがない。鱗滝も同様で、こちらは数え切れない程の破片が同じように背中に刺さっている。なぜこれでなんの傷も受けていないかの如く動けるのかとんとわからない。鬼の鈴鬼が言うのもなんだが人間離れしている。しかしそんな彼らでも出血がこのまま続けば死に至るだろう。
 もう1つの問題は、先程の少女が再度襲撃をかけてくるかもしれないことだ。和子が近藤たちと話しているところに現れた時代錯誤な侍、剣心。そして彼が少しして連れてきた左之助と子供たち。和子を入れて6人もの子供が、戦えない人間がここにいる。たいして万全に動けて戦える大人は剣心と左之助の2人、近藤と鱗滝も戦えるだろうが、あの怪我で戦うということは先が長くないことを意味する。なにより、超人的な侍が4人いようが40人いようが、回転式機関砲1つあれば守るべき存在を守り切るのは困難なのだ。それより連射が早くてしかも手軽に撃てるものがそこらじゅうに落ちているこのバトルフィールドでは、剣で守れるものなどたかが知れている。
 ゆえに、急いで離れる必要性があった。徒歩で移動するか車で移動するかで一悶着あったが、車ごと撃たれる可能性を考えても徒歩よりはマシという話になって、近くの民家にあったワンボックスカーを使うこととなる。和子含めて歩き疲れて小休止がほしい人間も多く、また歩いていいわけのない怪我を負っている人間もいる。いざという時に一番動ける剣心と左之助がワンボックスの上へと登ったのを最後に、アキノリと冬樹の遺体を残して直樹はアクセルを踏み込んだ。
 さて、次はどこに行くかだったが、病院を目指すのは当然として、これは1つの目安があった。即ち、火災地帯を突っ切る。この近辺に使える病院が無いことは他ならぬ鱗滝本人が知っている。それならまだ行っていない火事が拡大しているエリアの向こう側へ向かうしかない。また、火災によって鬼たちの動きが制限されるとも鱗滝は読んでいた。鬼には火など効きはしないが、あの鬼は人間と手を組んでいた。それならば、煙に巻かれるあの場所を生身で征くのは無理だ、と。
 そうして直樹がおっかなびっくり運転し、比較的火の手が回っていない、それでいて煙で燻されている道路を突っ切った先で、また別の煙が登るのを見たところで、行き先が決まった。
 他の場所でも火事が起きている。つまり負傷した人間がいる可能性がある。自身も怪我をしている近藤たちはそう主張し、車は炎を背後に黒ぐろとした煙の火元へと向かう。
 そうして火元の学校が見えたこの時、時間は6時ちょうど。はじめにあの家から離れて他の民家で改めて小休止と手当をしたことと、直樹が何度も壁や電信柱に擦ったこと、見つけた歯医者で応急手当をしたのもあって、随分とかかったところでやっと見つけたその場所に突入する寸前に、放送が始まった。

361◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:10:22 ID:???0


──明智光秀

(やっぱり、あの方は本物の……)

 まず最初に顔が曇ったのは和子だ。件の鬼と組んでいる少女が蹴り殺したおじさん、それが彼女の敬愛する戦国武将となれば、歴女として嘆かずにはいられない。せっかく本物の生きている武将に出会えたのに、殺し合いに巻き込まれたことすら一時忘れるほどの興奮だったのに、口惜しくてたまらない。

──天野司郎

「は? 天野? おい嘘だろ。」

 今までなんとかムードを変えようとしていた直樹は、それまで出したことの無い低い声が出た。なんだかんだ戦国武将の名前が呼ばれたりしたためいまいちリアリティを感じずにいれたのに、突然自分の胸によくわからない衝動を覚えた。天野が死んだ、たしかに、あいつも危なっかしいところはある、仲間の中ならまあ死ぬかもしれない1人ではある。だが実際に死者として名前を呼ばれることなんてないと、直樹は当たり前に思っていた。それが否定されれば、どんな風に振る舞えばいいのかわからない。

──有星アキノリ

(すまぬ……)

 天狗の面の下で、鱗滝の顔が曇る。隣の近藤も同様だ。彼の判断が違えば、少なくともアキノリが死ぬことはなかった。もっと思慮深ければ、多少戦う力があろうとも怪我人を任せるようなことはしなかった。そう悔いても失われた命が戻ってくるはずもなく。ただ己の無様さを責めることしかできない。だが果たして、それは近藤よりもマシかもしれない。任されておきながら、せっかく無事に合流しておきながら、目を離した隙にむざむざ殺されていたのだから。ほんの数メートル、壁を1枚か2枚挟んだだけのところで、無残にもアキノリは殺された。それだけでなく、治療した冬樹まで撃ち殺された。近藤が守ろうとした子供は僅かな間に近藤のすぐ側で命を落とした。己の傷の痛みも飛ぶほどに、やり場のない感情が体を埋める。

──小黒健二

(しかも小黒、小黒お前も──)

 更に仲間の名前が呼ばれ、直樹は麻痺しかけていた頭を無理やり覚醒させられる。小黒は割と慎重というか仲間内では常識がある。普通に比べれば型破りなんだろうが、そうそうドジを踏む奴ではない。その小黒まで呼ばれて、直樹はなんの意味もなく車の中をキョロキョロと見回した。

──織田信長

(……え? 信長様……?)

 光秀に続いて呼ばれた名前に、和子は固まる。この間信長の霊に出会い言葉を交わした、あの信長のことだろうか? にわかには信じられない。彼は死んでいたのだ、死者として名前が呼ばれるわけがない、それとも光秀の如くタイムスリップしてきたのか? それとも、単に同姓同名か?

──菊地英治

「菊地までかよ!?」

 ついに直樹から言葉が出た。これで3人目。3人目だ。たった6時間で仲間が3人死んだ。しかもたちの悪いことに、菊地の行動力なら危ない橋を渡るのが簡単に想像できる。だがそれでも菊地なら、あの菊地なら悪運強く切り抜けているだろうという謎の信頼がある。もしかして首輪を今頃外してたりしてるんじゃないかと思っていたために、名前が呼ばれた事実をどう受け止めればいいかわからない。

──蜘蛛の鬼(兄)
──蜘蛛の鬼(父)

362◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:15:19 ID:???0

 鬼という呼び方に鈴鬼と鱗滝が反応する。この呼称では判断材料が乏しくなんとも考察しようがないが、鬼が複数参加者としていることはそれぞれ肝に銘じた。

──定春

 万事屋の犬の名前と同じだと近藤は気づいた。別人かもしれないが、下の名前だというのが印象に残る。犬まで参加者にしているとは思わないが、もしそうならアイツらは悲しむだろうなと思った。

──仙川文子

 五十音順だからそろそろだと思っていたが、いざ本当に呼ばれると猛士は身を硬くした。自分が殺した人間の名前を改めて呼ばれると冷静さを装うのは難しい。しかしそれでもやることは生き残ること、そのためなら殺してやるという気概は持ち続けなければならない。

──大富豪のカラ松氏

 ようやくタ行かと剣心は渋い顔になる。名前も気になるが、あまりに死者が多い。6時間という短さを考えると尋常ではない。この事実から相当数の人斬りが参加者とさせられていると読む。

──チョロ松
──チョロ松警部

 同じ名前が2回呼ばれた。メモをとっていたマメが聞き間違いか言い間違いかと思ったが、訂正もないのでそのまま書く。人数も呼ばれている名前もおかしいが、犯人からようやく得られた情報だ、マメ本人は推理とかは苦手だが自分より賢い人を助けられるようにメモを続ける。

──手鬼
──富竹ジロウ
──なごみ探偵のおそ松

(富竹さん。)

 放送内容そのものを疑っているレナは、知った名前に驚いた。先からやたら鬼の名前が呼ばれているし、松の名前が呼ばれている。何かの暗号かと思うほどにリアリティのなさを感じるが、そこに突然知り合いの名前を呼ばれると考察も困るものだ。

──日向冬樹

 ついに呼ばれたその名前に、近藤の、そして鱗滝の心がざわつく。彼の頭を撃ち抜かれた死体の顔が、自然と2人のま豚の裏にこびりつく。後悔は先に立たず、今更できることなど全く無いというのに。

──松野一松
──松野十四松
──松野チョロ松
──水沢光矢

 同じ苗字の名前がまた続き、隼人は手を固く握りしめる。頼む、呼ばれないでくれ。そう願いながら聞こえてきた名前に、手のひらに爪が食い込んだ。ついにここに来て知っている名前が呼ばれたこと、そしてそれが、パセリではなかったことに、安堵と絶望が同時に襲う。呼ばれてしまった、光矢でも呼ばれてしまうのか、この戦場では。呼ばれなかった、パセリはついに呼ばれなかった、彼女はまだ生きている、あるいは、そもそもここにはいない。

 あまりに、あまりに多くの名前が呼ばれた。その数81名。その中に知り合いの名前がいないのは剣心と左之助のみである。
 車の中、アイドリングの音だけが響く。放送が始まって一時停止したが、再び動き出す気配は欠片もない。
 ギっと音を立てて直樹はキーを回したエンジンが止まり一定の間隔で体を揺らす振動も無くなり、沈黙と静寂が車内を占める。それを嫌うように直樹は頭を振ると、トントンと人差し指をハンドルに叩きながら一言言った。「どう思う?」と。

363◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:21:12 ID:???0

「俺バカだからわかんねえんだけどさ……チョロマツって、人の名前なのかな。」
「……犬とかの名前じゃないかな。ヒグマも呼ばれてたし。」
「いや動物と殺し合わせるっておかしくないか?」
「いや、そうとも言えねえ。定春ってのは、俺の知り合いの飼い犬の名前と同じなんだ。それに人と動物を殺し合わせる見世物も昔はあったっていうじゃねえか。」
「いやでもさ……松野チョロマツって呼ばれてたし、同じ苗字の人何人も死んでるし、なんか今の放送おかしくないか。」

 直樹の言葉に、マメも近藤も何も言えなくなる。見かねたのか鱗滝が「わざわざ殺し合わせている者が、嘘を言って信用を落とすようなことはしまい」と言うが。

「でもさ……チョロマツだぜ?」

 そう直樹が再度言うと、車内には再び重苦しい空気が満ちた。車体が揺れて左之助がドアを開けるまで誰も喋らない。

「おい、こんな道っぱたでいつまでちんたらしてんだ。とっとと学校入ろうぜ。」
「ああ……でもさ左之助さん。」
「でももクソもねえ。あんなん確かめようがねえんだし考えてもきりがねえだろ。後にしろ後にしろ。」
「ここで考えるよりは目的地に着いてから考えたほうが落ち着いてできるでござろう。」

 続けて剣心にまでそう言われると、直樹もしぶしぶ頷いた。たしかに考えようと思えば時間はいくらでも掛かりそうで、だったら数分もなく着くであろう学校で腰を据えて考えたほうがいい。だがそれでも引っかかるものを感じざるをえない。
 剣心は左之助と視線を交わすと、屋根には戻らず徒歩で車の前を先行した。本音を言えば、剣心は直ぐに学校に向かうべきではなく、可能ならここで直樹たちには待ってもらいその間に単独で伺ってくるのが望ましいと思う。鱗滝と合流した時のようにそうしないのは、左之助1人に車を守らせるのが不安が残るというだけでなく、このまま彼らが移動しないことを選んでしまいかねないからだ。
 幸運にも剣心も左之助も、親しい者の名前は呼ばれなかった。アキノリたちにしても顔を死体になってから知った間柄で、それで感傷に浸るようなことはない。このチームの中で最もドライにことを受け止めている左之助から見ると、車内の空気は最悪だった。彼らはこのままじゃ動けなくなる。知り合いが死ぬはその情報が信用できないはでは、どうしても頭はそれに向かう。攻撃されれば逃げ場の無い車の中で。
 足を止めた騎兵は良い的である。騎馬武者など廃れて久しい幕末とはいえ、馬というのは補給や兵站にも重宝されていたことに変わりはない。その時代に生きていた剣心などからすると、こんな大きなものが止まっているなど炸裂弾の1つでも投げれば大勢殺せる絶好の機会であり危機だ。というより、剣心ならば忍び寄って車の外壁ごと斬鉄して内部の人間を殺傷できる。彼と同レベルの猛者ならば走る馬車に走って追いつき中の人間を斬り殺せさえするのだ、止まっていて身動きできないほど大勢乗っている車など、戦場ではありえないものだ。
 早足で進む剣心を追い、ノロノロと直樹は車を進ませる。それでもだんだんと距離が開いてしまい、剣心は期せずして先行する形になった。ペースを落とすか?そう考えたが、ますます直樹が遅くなりそうな上に、偵察できるのもそれはそれで良しとそのまま駆ける。
 そして校門に差し掛かって、剣心はより一層足を早めた。遠くから見えてはいたが、その正体がようやくわかった。熊だ、熊の死体だ。ヒグマが放送で呼ばれていたが、もしやこれは本当にヒグマそのものかもしれない。いくらなんでも渾名でもなんでもなくヒグマが参加者とはさすがに思わなかったがこうして死んでいるのだから信じざるをえない。そしてもう1つ気になったことがある。その死体に刀傷のようなものが刻まれているのだ。

364◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:28:07 ID:???0

「止まれ! 拙者は殺し合いに乗っていない!」

 突如として感じた殺気に、剣心は足を止め叫んだ。これまで誰かに見られている感覚は無かった。視線を感じた瞬間に、武器を向けられた気配を覚えた。相手は殺気だっていて、そして手練では無いことがわかった。
 素早く電信柱の陰に隠れ、振り返る。同じように左之助も隠れ、後ろの車に止まるよう合図を送っていた。剣心よりも車のほうが目立つだろうに、現れた子供たちは銃口を剣心へ向け、次に左之助に車にと慌ただしく動かした。明らかに戦い慣れていない。
 だがこれは厄介だと思った。数が多い。銃を向けてきたのが5名ほど、そこに10名ほど校門近くから現れ、更にその後ろから軽く20名近くの銃を持った子供たちが出てくる。彼らは明らかに興奮していて、前の人間に当たりかねない位置から剣心たちに向けて銃を構えている者すらいた。

(まずいな、落ち着かせなければ、俺はともかく同士討ちが起こる。)
「こらお前はまた!」

 表情は崩さず、しかし冷や汗をかく思いで悩む剣心の後ろから左之助の声と足音が聞こえる。何事かと振り返ると、直樹が車から降りてこちらへと駆けていた。そして止める間もなく叫んだ。

「安永! 安永か!?」

 誰何する声に、子どもたちの中から1人の少年が出てくる。年は操と同じぐらいかと剣心がのんきに思ったのは、彼が銃を構えていなかったからだ。

「柿沼! 本物か!」
「俺は世界に一つだけのカッキーだよ!」
「たぶん本物だけど聞くぞ! お前廃工場でなにしてた!」
「誘拐されてた!」
「みんな! アイツは本物の柿沼だ! 俺の知り合いだ!」
「お前俺のことネタにしてただろ!」

 距離をとって会話していた2人が駆け寄る。ハイタッチすると、それぞれ後ろに向かって手招きした。
 共通の知り合いというものは、この場では得難いものだ。少なくとも全く知らない人間よりかは知り合いの知り合いなら信用しやすいのが人の心である。一斉に安堵の雰囲気になった子どもたちを見て、剣心もため息をつく。一触即発だったが、どうやら穏便に済みそうだ。その考えが甘いことを剣心はすぐに思い知ることになる。

「どうしたんだよ本物かって。ドッペルゲンガーでも見たか?」
「放送聞いてなかったのかよ、同じ名前呼ばれてたじゃねえか。お前が俺の知ってる柿沼か確かめねえとな。」
「お前どうした? スベってんぞ?」
「ギャグで言ってんじゃねえ、そう思ってる奴も俺らのグループにはいるんだ。」
「だからさっきのか? そんなことまで考えなきゃなんねえって何が起きたんだよ。」
「2人殺された。放送の後にな。」
「……え?」

 苦々しい顔で言った安永と、言葉を失くした直樹。それを傍から見ている剣心は、鋭い目を学校へと向けた。
 放送が終わってから今まで10分もない。その間に2人。銃声などは聞こえてこなかったので、刀や素手で殺している。放送について考えるよりも、そうしている他の参加者を殺すことを選ぶ、危険な思考回路をした人間がいる。よりによって怪我人を直せる場所を探して目的地についたと思ったらこれか。

「待て待て、俺らじゃないからな。」
「わかってる、でもタイミングが悪かった。まだみんな疑ってる。」
「どうすれば信じてもらえる?」
「今はやめとけ、みんな放送でパニックだ。落ち着くまでどっか近くにいろ。」
「いやそれじゃだめだ、大怪我してる人が2人もいるんだよ。なあ、そっちに医者とかいないか?」
「看護師ならいるけど、こっちも何人も怪我してて手が足りてないらしい。病院とか知らないよな。」
「火事で燃えちまったよ。ほら、あっちの。」
「何だあれメチャクチャ煙出てんぞ。」
「うわマジだ何だあれさっきはもっと小さかったぞ。」

 結局その後、鱗滝と近藤の2名が徒歩で安永と柿沼と共に学校へ向かうこととなった。殺人事件が起こっているところに避難するなどありえないからだが、鱗滝たちはむしろだからこそ率先して向かった。怪我人ならば子どもたちを刺激せずに加われて見守れるからだ。剣心たちはすぐ近くの雑居ビルを拠点とすることにしたのだが、このとき彼は知らなかった。彼に復讐を誓う者たちが、その1つ隣のビルをつい先程まで拠点にしていたことを。

365◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:36:14 ID:???0



『強くなれる理由を知った――』

 自分の首から突如として歌声が流れ出して、雪代縁はうたた寝から飛び起きた。そのまま闇雲に何度か刀を振り回し、それが原理はわからないが首輪からしていると知り、ようやく落ち着いた。
 ヘリの墜落を耐え、離脱して安全そうなビルに転がり込んでからしばらくたった。縁は少しでも傷を治そうと適当な床に腰を下ろして仮眠をとっていたが、その状態でも当然近づくものがいれば勘づく。故に全く人の気配も無く鳴り出した怪音には大いに驚いたが、それが人ならざるものからだとわかると一転して落ち着いた。
 首輪や縁にはわからないがパソコンなどからは謎の曲をバックに2人の人物の声が聞こえてくる。日本語と少々丁寧すぎる中国語が同時に流れてくるが、既に縁の関心は無かった。よくわからない機械が今更増えようと、そもそも天候からしてよくわからないので思うものもない。だが死者の名前が読み上げられるとなると、さすがの縁もメモをとることとした。緋村抜刀斎の縁者の名前が呼ばれていればそれで奴を煽るためである。
 聞いているうちにやけに古風な中国語も聞こえるようになったが、早い話、縁が期待した名前は呼ばれなかった。妙な名前も人数も関係なく縁は直ぐに放送への興味を失うと、窓辺へと向かう。傷も多少は癒えた。血は止まり打ち身も強ばりが減じている。超人的な感覚を持つ縁は痛みも猛烈に感じるが、それが彼の憎悪を呼び起こし、憎悪が痛みを飛ばさせる。それはそれとして負傷の具合も多少はマシになったとも分析した。放送で動揺する人間もいるかもしれないので良い機会だ、先の学校を襲おうと考えつつ校舎を睨むと、彼の鋭敏な感覚が人の気配を捉えた。
 相当な使い手だ、すぐ近くにまで来ている。これほどまでに間合いを詰められるなど、相手はよほど陰行に慣れた者だ。そして縁はそんな手練を知っている。

「乙和サンか?」
「──やっぱり君か。」

 現れたのは、派手な格好の男だった。半端に落ちた白塗りにザンバラの髪という出で立ちのその男の名は、乙和瓢湖。縁と共に抜刀斎抹殺のために動く同志が1人である。

「歩いていたら聞こえてくる言葉が変わってね、もしかしてと思ったが……」

 そう言いながら乙和は縁の頭から爪先まで視線を巡らす。

「訛が出てるよ……そっちもかなりの手練と戦ったみたいだね。」
「……抜刀斎を知る者は?」
「いや。」

 互いの負傷を見ても縁に感慨は無い。実は乙和は大した相手と戦っていない上一番彼にダメージを与えたのは一般人の女子小学生なのだが、格好悪いので強者感を醸し出す。縁は全くそんなことには関心無く、また学校へと目を向けた。それに続いて乙和も火元へと目をやる。数時間経とうが景気良く燃える墜落したヘリコプターは、縁の憎悪を現しているようだ。

366◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:45:09 ID:???0

 互いの負傷を見ても縁に感慨は無い。実は乙和は大した相手と戦っていない上一番彼にダメージを与えたのは一般人の女子小学生なのだが、格好悪いので強者感を醸し出す。縁は全くそんなことには関心無く、また学校へと目を向けた。それに続いて乙和も火元へと目をやる。数時間経とうが景気良く燃える墜落したヘリコプターは、縁の憎悪を現しているようだ。

「かなりの人数がいる。襲おうカ。」
「……今なら隙もあるか。殺していいんだろ?」
「何人か残そう。抜刀斎に伝わるように。」

 ぶっちゃけた話、乙和は結構疲れているので休みたいし、銃を持っているかもしれない相手に突っ込むのは愚策だと思うが、プライドがあるので賛同する。それに縁がいる。この男ならば軍隊相手とも正面から渡り合えることは知っている。コイツを囮にすればどうとでもなるだろう。

「見張りがいるようだな。裏から回って引きつけよう。」
「好きに動いていいですヨ。」

 全く眼中にない、おざなりな敬語だが、元からこんな男だしその方が好都合なので肩をすくめるだけにする。そういえば途中から聞こえてくる中国語が2つになった、と言おうとした頃には既に窓から縁は飛び降りていた。まあ気にすることでもないかと、乙和は階段で降りる。彼が道路に出る頃には、縁はとっとと学校に向かって歩いていた。あの調子ではろくに連携など考えていない。

「まあ、やりやすいからいいがな。」

 乙和は別のルートで走り、学校へと近づいた。素人の、しかも子供の見張りなどかい潜るのは容易い。ものの数秒でフェンスを乗り越えると、素早く壁面のパイプを登った。
 乙和の目的はまずは首輪の解除だ。毒薬付きの首輪など誰がいつまでも着けていたいか。大勢殺せば外せるというのなら、彼にとっては好都合。
 闇乃武としての経験を活かして学校に潜り込み、内側から1人1人気づかれないように殺していく。そう思った彼の計画は。

「大変だぁ! 星乃さんが、星乃さんが死んだぁ!」

 いきなり崩れた。

(バカな早すぎる!)

 縁が殺ったのか? そう考えるが、いやしかし自分はそうさせないようにわざわざ走って先回りしたのだ。それに銃声も聞こえなかった。縁が刀で殺したとして、それがこの程度の見張りに伝わるまで早すぎる。

「待った、沖田。その、星乃さんって誰だ?」
「戦車で乗ってきた高校生だ。」
「どの?」
「怪我人じゃないほう。」
「あああのガタイのいい。」
「違う、女子高生の方だ!」
「いたっけそんな人……?」

 しかも会話が意味不明である。沖田と呼ばれた少年ともう1人、小林というらしい少年が話しているが、本人たちも要領を得ないのだ、今来て屋上のへりに張り付いている乙和にわかることなど何もない。

「マジかよ……ど、どうしよう?」
「とにかくみんなに知らせないと。交代にはまだ早いけど、呼んでくるよ。」

 そう言い沖田がドアを開け屋内に入った瞬間、乙和は飛び出した。
 状況は不明だが、自分以外にも殺しに動いている人間がいる。おおかた乙和と同じように、放送で告げられた大量殺人による首輪解除を狙ってのことだろう。自分がやろうとしているがゆえにすぐに察しがついた。

「──かっ?」

 痛めつけたいが効率を優先して割り切り、一瞬で首を�惜き切る。赤い血飛沫がコンクリートに広がる。乙和は小林が持っていた銃を奪うと素早く校内に突入した。これを使う気はない。ないが、殺した相手から武器を奪わないのは不自然だし、あって困っても捨てれば良いだけだ。
 乙和が狙うのはステルスキル。50名近い人間が蠢く校舎に殺戮者がエントリーした。

367◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 00:55:21 ID:???0


「え……な?」

 引き抜いたゴルフクラブで星乃美紅を殴打して、芦川ミツルは思った。失敗した、と。
 女装しているために女子トイレに入ったミツルだが、そこで彼女に言われたのだ、「ふしぎな雰囲気がする」と。
 思えばそれは、女装への違和感から出た言葉だったのかもしれない。だがミツルは感じ取ったのだ。彼女の中に自分とは毛色の違う魔力を。
 殺さなくては。彼女は旅人の可能性がある。もしそうならミツルの悪評を知っている可能性もある。魔法は使えない。だが音を立てずに殺せる物は、変装のために用意した物の中にある。
 ズガン!
 個室から出てきた彼女を、隣の個室で待ち構えていたミツルは殴打した。鈍い音と美紅の声が思いの外大きくて、何度も何度も振り下ろした。手の感覚がなくなるまで後頭部を殴りつけた。床との間に挟まれ頭蓋骨が折れ、脳みそが飛び散って、血が辺り一面に広がるまで殺して、そこでようやく気づいた。殺ってしまったと。
 計画とは違った、予想外だった、まさか、まさか魔力の持ち主がいるとは。想定外だった、こんなはずではなかった、こんな衝動的で無計画な殺しをするはずではなかったのに。せっかく見つけた集団なのだなら、もっと穏便に、いやでも首輪解除のためだから殺して回ったほうが──

「美紅ちゃん、いるー?」

 その時聞こえてきた女の声、ミツルは名前を知らないがサネルの声に、とっさにトイレの個室に隠れた。魔法を使おうかとも考えたが、杖を取り出す時間が無い。息を潜めて待つこと3秒、4秒──

「美紅ちゃ……きゃあああ!!」

 絶叫が響いた。こうなったら殺るしかない。そう思い杖を取り出すか迷っていると、走る音が聞こえた。気配が遠ざかる。今だ、今やるしかない。
 ミツルは素早く魔法で浮き上がると、杖で窓ガラスを叩き割った。一度外に出かけて、慌てて得物にしたゴルフクラブをとって戻る。そのまま屋上に上がろうとして、そういえば見張りがいたなと思い出した。上へは逃げられない。下には多くの人間がいる。必然、横へと逃げる。適当に窓ガラスを割って入ると、大急ぎでドアに鍵をかけた。

「こ、小林ーー!!」

 しばらくして聞こえてきたのは、知らない人間の名前だった。あの女は小林美紅なのだろう。目立たないようにするため没交流のため名前をほとんど知らないミツルはそんなふうに思った。そして少し冷静になれている気も。
 教室の中の鏡の前に立つ。ものの見事に返り血を浴びていた。せっかくの変装もこれでは意味が無い。すぐに着替えようとして、ゴルフバッグに伸ばした手が血に濡れていることに気づいた。服だけでなく顔や脚まで血塗れだ。着替えたところでとても出ないが誤魔化しようがない。

(シャワーを浴びないとどうしょうもない、しかたないな、一度学校から抜け出して──)
「クソッ、2人も死んだたと?」
(2人? どういうことだ? ああ、そうか。)

 廊下から聞こえてきた声は、たしか見張りの安永だったか。ということは今なら屋上は手薄かと思ったが、続いて聞こえてきた声で、どうやらそちらにもまだ見張りがいるらしい。これは学校から出にくいなと思ったが、それよりも良い情報が手に入った。
 ミツル以外にも殺した人間がいる。おおかたさっきの放送の首輪解除の新ルールを狙ってのことだろう。そう察すると一転して光明が見えた。
 自分以外にも殺し合いに乗っていることがわかっているのは、ミツル自身ともう1人の殺人者しかわからないことだ。そのもう1人に殺人を押し付けるもよし更なる殺人でキルスコアを伸ばす助けにするもよし、とれる手が広がっている。ミツルはこれまでに5名ほど殺しているが、全体では81名ということは、急げば次の放送での首輪解除も狙えるかもしれない。
 血に染まった顔でミツルは密やかに策を練る。その姿は、彼が魔法を手に入れたキッカケになる、無理心中を図った父親によく似ていた。

368◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 01:16:19 ID:???0



 そして学校近くではもう2人の参加者が、喧騒とは無関係な公園にいた。だが2人、というのは外見上は語弊があるだろう。女子中学生の額を慎重に肉球で押すその参加者は、どこから見ても虎だったのだから。

「ううん……イッタァ……ぐっ、なにこれ……」

 やがて少女の瞼がピクピクと動き、頭を抑えて上体を起こした。眉間にシワを寄せ、目をギュッとつむる。そうして数分すると、ようやく少女は目を開けた。

「どこ? ここ?」

 キョロキョロと辺りを見ながらなんとか立とうとする。そこで初めて、自分がいつの間にか何かにもたれていることに気づいた。生暖かく、ゴワゴワとしていて、獣臭い。痛む頭を抑えて後ろを向くと虎柄の毛皮が見えた。

「虎……虎!?」

 驚きの声を上げて飛びのこうとするが、全く足がもつれて転ぶ。彼女がいるのが公園の砂場ということもあって怪我は無い。それでも痛みよりも驚きで少女は声を上げそうになるが、脳を直接破壊するような強烈な頭痛がそうさせなかった。やがてそれが収まると、虎が大人しく見つめているのを見て、少女はひとまず冷静さを取り戻した。

「なにこれ……なんで……これ、夢だよね。」
「夢ではない。」

 虎が喋った。そのことでまた少女は腰を抜かしたが、またも強烈な頭痛でそれどころではなくなる。あまりの痛みに、空や霧が赤いことも、虎が喋ることもなんてことのないように感じるほどだ。

「自分は……李徴。故あって虎に変じた者だ。」
「あ、どうも、私は……」

 朗々と、しかし唸り超え交じりに名乗った虎こと李徴に名乗り返そうとして、その少女は口をパクつかせた。少女は信じられないという表情で、何度も視線を上下に、そして李徴に向ける。その異様な姿と、頭部の骨折と出血を見て李徴は気づいた。

「少女よ、あのウサギの言ったことを覚えているか?」
「ウサギ……な、なんのこと? ていうか、ここどこ?」

 そう言う少女、園崎魅音は、次から次へとわけのわからないことに直面して、年相応の反応しか示せなかった。
 李徴が縁によって担がれビルに安置されていた魅音を連れてきたのは、ちょうど放送中の時だった。彼は感じていた。初めての感覚だった。自分よりも虎に近い人間と出会うのは。
 李徴は感じていた。己の獣性が増している。この6時間人としての意識を保てたのが奇跡だったのだろう。聞こえてくる銃声も火事も無視して、なるべく外に出にくそうな建物を見つけてそこに潜んでいた。だがヘリコプターの墜落からの顛末を屋内から見ていて、縁を目にした時、彼は水鏡に写った己を見たような感覚を覚えた。あり得ざることだった。自分以外に、否、もしかして自分以上に獣に身をやつした存在など。
 それは恐怖だった。あの男の目的はわからない。だが、あの少女が側にいるには危険すぎる。
 そうして、李徴は待った。縁の隙を。薄れゆく理性の中で、恐らくこれが最期の人との出会いだと感じる。そして放送の瞬間、彼は動いた。音によって己の足音を消して近づく。自分の首輪以外からも音がしているということは、あの男の首輪からもしているのだろう。その可能性にかけて、寝かされていた魅音を攫った。
 実際は人間以外には人誅の意味も無いと縁が無視したからなのだが、彼はともかく魅音を攫うと近場の公園まで連れて来ていた。彼女の傷が縁によってつけられたかもしれないのだ、せめて理性があるうちは彼女の側にいようと。だが。

(なんで、ここ、どこなの? 私は……魅音、だよね。それとも、詩音? 今の私は、ううっ、頭が──)
(──もう己は、ここまでか。)
「さらばだ、少女よ。もし袁参という名の者に会えれば隴西の李徴は虎となったと話してくれ。それと、三谷亘という少年がいれば、李徴はもはや虎と化したと告げてくれ。」
「ま、待って!」

 李徴は己が魅音に向けて欲望が抑えられなくなっていくのを感じ駆け出した。虎が自分から逃げていくというその状況に、しかし魅音は恐怖を抱いた。思い出せない。自分がなぜここにいるのかも、自分がなぜこんなにも頭痛を感じているのかも、なぜ異様に身体が動かないのかも。彼女はわからない。神経に問題を抱えたがゆえに自分の肋にヒビが入っていることも、それ以外にも大小の怪我が彼女から動くことをできなくさせている。
 ついに火の放たれた火薬庫、そしてそこから離れて1人記憶を喪失した魅音、会場北部はついに等活地獄へと化す。

369◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 01:21:51 ID:???0



【0612 『北部』学校とその周辺】


【柿沼直樹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●中目標
 仲間を探す。
●小目標
 菊地たちは死んだし今度は別の奴が殺された……? どうなってんだ……

【鑑隼人@パセリ伝説 水の国の少女 memory(3)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 復讐完遂のためにはパセリを生き残らせる。
●小目標
 光矢……パセリは守るよ。

【竜宮レナ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
●大目標
 覚せい剤の幻覚をどうにかしたい。
●中目標
 単独行動して部活の仲間を探したい。
●小目標
 学校からは離れたい。

【利根猛士@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り人生をやり直す。
●中目標
 殺し合いに乗る。
●小目標
 ???

【緋村剣心@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 一つでも多くの命を救う。
●中目標
 鱗滝と近藤の治療の術を探す。
●小目標
 学校で殺しか……

【相楽左之助@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺し合いをぶっ壊す。
●中目標
 とにかく鱗滝のオッサンと近藤をどうにかしねえとな。
●小目標
 さっきの声はうさんくせえしあっちじゃ殺しだぁ?

【鱗滝左近次@鬼滅の刃〜炭治郎と禰豆子、運命の始まり編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●中目標
 鬼を斬る。
●小目標
 学校内にいる殺人者を止める。

【天照和子@歴史ゴーストバスターズ 最強×最凶コンビ結成!?(歴史ゴーストバスターズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する方法を探す。
●中目標
 鱗滝さんと近藤さんを助けられる人を探す。
●小目標
 緋村さんたちと一緒に動く。

【双葉マメ@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り、生きて帰る。
●中目標
 火事を止める。
●小目標
 鱗滝さんと近藤さんを助けられる人を探す。

370◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 01:23:31 ID:???0

【近藤勲@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺し合いに乗った連中を取り締まる。
●中目標
 白尽くめの女たちを殺す。
●小目標
 鱗滝と協力して学校の中のゲームに乗った奴を捕らえる。

【安永宏@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 このクソッタレなゲームをブッ壊す。
●中目標
 仲間と合流する。
●小目標
 菊地は死ぬし、小林も殺された? 学校の中に殺し合いに乗ってる奴がいんのか?

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。
●中目標
 緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。
●小目標
 学校を襲い内部の人間を半殺しにし緋村剣心を探させる。

【乙和瓢湖@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺しを楽しむ。
●中目標
 赤鼻の男(バギー)や角の生えた男(キリヲ)を殺せる手段を考える。
●小目標
 殺しまくって首輪を外す。

【沖田悠翔@無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回のバトル・ロワイアルを生き残って家族の元に帰る。
●中目標
 みんなと一緒に脱出の方法を探す。
●小目標
 そんな……さっきまで話してたのに……

【芦川美鶴@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームに優勝し、家族を取り戻す。
●中目標
 もう1人のマーダーを利用して学校の人間を殺していき首輪を解除する。。
●小目標
 まずは返り血をどうにかする。

【サネル@新妖界ナビ・ルナ(5)刻まれた記憶(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 ルナや姉のように自分も戦い、殺し合いを止める。
●中目標
 灯子の家族を探す。
●小目標
 そんな、美紅ちゃん……

【園崎魅音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 ???

【李徴@山月記(4)山月記・李陵 中島敦 名作選 @角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標(人間の心の場合/獣の心の場合)
 誰も殺さぬように隠れる/己の飢えを満たすために、食い続ける
●小目標(人間の心の場合)
 危険人物がいた時だけ、食い殺す

【鈴鬼@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出を図る。
●中目標
 自分の知る魔界の知識や集めた情報を残す。
●小目標
 ピンフリさん……



【脱落】

【小林旋風@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【星乃美紅@小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】

371◆BrXLNuUpHQ:2025/05/12(月) 01:24:31 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『虎は伏す、そして──』になります。

372◆BrXLNuUpHQ:2025/05/20(火) 07:22:49 ID:???0
投下します。

373◆BrXLNuUpHQ:2025/05/20(火) 07:23:53 ID:???0



 松野おそ松は、そっと、冷たい台の上に弟の体を横たえた。
 霊安室は冷え冷えとしていて、動くものは何もなかった。まるで時間まで凍ったかのようなそこで、弱井トト子と2人で立ちすくんでいた。
 十四松が死んでから2時間が経った。その背中は少し黒ずみだし、持ち上げると、かすかにこわばりを感じた。
 そんな弟を、冷蔵庫のような金属製の機械にスライドさせていく。人間が入るべきものとは全く見えないそれに、弟を入れることをおそ松は戸惑ったが、彼の横に立つトト子が押すと、十四松の姿は見えなくなった。

 警察署を出て小一時間か。探し当てた病院には、医者どころか誰もいなかった。患者も、殺し合いに乗った人間も、それ以外の参加者も。全くの無人だったと、来たときと同じように連絡すると、おそ松はスマホをズボンにねじ込み、窓から外を見た。
 ベッドなどはあるようだが、あまり大きな病院ではないようだ。全体的に古ぼけた感じがして、外壁にはヒビも入っていた。弟を寝かせるには嫌な場所だ。適当に入った病室から眺める空は、相変わらず赤く、そして、黒く、濁っていた。
 何度かスマホが鳴った。そのたびに煩わしく思いながらも、取り出して、終話のボタンを押す。それが二度、三度とあり、おそ松はマナーモードにして無視することに決めた。それからも何度か振動したが、そんなことはどうでもいいことだった。
 空には時々、稲妻が光った。黒い雲の間をつなぐように光が走った。赤い霧越しでも、怪しく輝くそれが、おそ松の目を焼いた。

『──強くなれる理由を知った』
「ん。」

 唐突に聞こえた歌声に、おそ松は寝転んでいたベッドから空を見ることをやめて、天井を見上げた。
 足音が聞こえてきたのでそちらを見れば、慌てた様子でトト子が、缶ジュース片手に、病室へ入ってくる。すると音楽もより聞こえるようになって、そこでおそ松はようやく自分の首輪やテレビから曲が流れていることに気づいた。

──大富豪のカラ松氏

「カラ松くん……」

 そして聞こえてきた声に、おそ松の意識は覚醒した。
 今、カラ松と言わなかったか? 前後の言葉は聞き取れなかったが、たしかに、たしかにカラ松という言葉が聞こえた。弟の名前なんだ、聞き間違えたりするはずがない。それも、十四松ではなく、生きているはずのカラ松の名前が。

「なあトト子ちゃん、今カラ松って──」

──チョロマツ
──チョロ松警部

「チョロ松くんも……!」

 おそ松は最後まで言い切れなかった。
 今度は2回も、2回もチョロ松の名前が呼ばれた。間違いない、チョロ松が2連続で呼ばれていた。
 意味がわからない。なぜチョロ松の名前が2度も呼ばれるのか。おそ松たちは六つ子だが、だからといって同じ名前を2度呼ぶのはおかしいだろう。だからきっと言い間違いか何かだ、他の弟をチョロ松と間違えたなんてことはない。

──なごみ探偵のおそ松

 そして呼ばれる自分の名。ほらやっぱり、この放送は誤報なのだろう。だって、自分はこうしてピンピンしているのだ。

──松野一松
──松野十四松
──松野チョロ松

 その希望が、否定される。
 一松が、そしておそ松が看取った十四松の名前が呼ばれた。今度はちゃんとフルネームで呼ばれていた。そしてまたチョロ松の名前も。
 今度は3人だ、3人も弟の名前が呼ばれた。松野家の糞ニート6人のうち、3人の名前が同時に呼ばれたのだ。
 おそ松は弟の死を告げたスマホを投げ捨てると、片手に銃を持ったままベッドから起き上がり、そして、意味も無く窓辺をうろついた。カラ松、チョロ松、一松、そして、自ら看取った十四松。放送で呼ばれた名前は、6人中5人、おそ松自身を除いても4人も死んだのだ。
 そのことを理解して腰が抜けそうになったおそ松は、しかし、駆け出した。突然、病室を飛び出ると、廊下から階段へと向かい、駆け下り、最後の1段で転び、立ち上った。そして病院を出ると、叫んだ。

「トド松!!!」
「お、おそ松、兄さん……?」

 おそ松はろくに動かない足を動かして駆け寄ると、自分と瓜ふたつの顔の男を抱きしめる。
 松野家の長男が、末男と出会ったのは、ゲーム開始から6時間ほど経った時のことだった。

374◆BrXLNuUpHQ:2025/05/20(火) 07:24:17 ID:???0



「うわー、カラ松死んだか。やっぱこれ全員巻き込まれてんのかな。」

 松野トド松は自分のスマホのレコーダーを起動して放送を録音しつつ、公園のベンチで声を上げた。
 学校で暴行された永沢を見たトド松は、その後街を徘徊していた。二階堂達と合流するなどという発想は全く無かった。むしろ、彼らとは会いたくないとずっと早足でこれまで逃げてきた。それも当然だろう、小学校低学年ぐらいの子供をボコボコにする連中などと一緒にいたくない。きっとあの学校でのなんやかんやはアイツらがやったんだろうと言うことになる。冷静になれば不自然なところがある考察だが、トド松に人が死んだ場所で冷静になれるようなタフなメンタリティも、真相に気づくクレバーなインテリジェンスもない。伊達にニートをやっていないのだ、そういった能力は進学なり就職なりしている同年代より確実に下である。
 だから彼は、自分がひたすらに学校の周りを螺旋を描くようなルートでさまよっていることにも気づいていなかった。そもそも土地勘の無い場所を歩いた経験も不足しているのだ。更に、標識や看板も当然読めない。そうなると人間は分かれ道に差し掛かった時に右に行くか左に行くか癖が出るもので、じわじわと遠ざかりつつも学校からはなかなか離れられていなかった。
 そしてろくに休憩もなしに歩き続けることがそれをエスカレートさせる。足が辛くて休もうとする度に、宇美原達が自分を追いかけてきている気がして、とにかくもっと距離を取ろうと思うのだ。そうして疲れて更に鈍くなった頭で彼は徘徊するのだが、そんな時でもデジャヴというのは感じてしまうもの。実際は単に同じ場所を何度も歩いているだけなのだが、それに恐怖を感じてまた歩き出すのだ。彼は結局3時間近くも、放送が始まるまでの間、ほとんど歩みを止めなかった。

「なんでチョロ兄さん松2回呼ばれた?」

 そんな彼を冷静にさせたのは、奇しくも放送だった。明智小五郎やら明智光秀やら、トド松でも偽名とわかる名前が呼ばれて一気に気が抜けた。とりあえずこれは真面目に聞かなくて良さそうだと思うとツッコむ余裕も出てくるものである。ここに来てようやく疲労を強く感じた彼は、公園のベンチにどっかりと座り込んだのだ。
 ただ、呼ばれた名前がトド松の予想通りの2人なのは少し引っかかった。トド松が考える六つ子の死にやすい順序はカラ松>チョロ松>おそ松>十四松>トド松>一松である。
 カラ松は無理だ、絶対にイタいことをしてつまらない死に方をしている。この順序はいわば余計なことをする順だ。その点でカラ松は六つ子の中では頭が回る方なのだが、性格がアレすぎてそれが全部裏目に出るタイプだ。1人で何かするとなるとほぼ100%ろくなことをしない。
 余計なことという意味では別方向にチョロ松もやらかす。こちらは一見常識人のように振る舞っているが、所詮は六つ子である。兄弟達の中ならまとめ役になれても一般社会でやっていけるほど人間ができていない。カラ松もそうだが、自分が社会不適合者の無能という自覚が薄いのに張り切ってやらかすのだ。
 そういう意味ではおそ松はだいぶ2人よりはしぶといだろう。どこに出しても恥ずかしい糞ニートだが、本人もその自覚があるので、こんな場所では無駄なことはせずに、ヤバくなったら子供だろうと親兄弟だろうと見捨てて逃げ出すはずだ。人からの評価はボロクソでも、生き残るということに関しては、まあ平均点は取れるだろう。
 そんな3人よりも意外にも死ななそうなのが十四松で、これは人間か怪しいところがあるという意味では無く、あんな天然な言動の割に常識というかそういった部分は最低限抑えて動けるタイプなのだ。ようは、他の4人とはヤバさのベクトルが違う。それに家でごろつくかパチンコするかの他と比べて曲がりなりにも体を動かしてるのも大きい。
 そしてトド松である。六つ子の中で唯一まともで交友関係も広いのだ、他が平均かそれ以下でも自分は生き残るだけならまず死なない気がしてきている。
 なお、一番死ななそうな一松は別の味で危険だ。殺し合いに乗ることはないが、殺されそうになった時に一番引鉄を引きそうなのが一松だ。それでいて本人もそのことの自覚があるので、極力人との接触は避けるだろう。なんなら、ゲームが終るまでどこかに引き篭もっているかもしれない。

375◆BrXLNuUpHQ:2025/05/20(火) 07:24:42 ID:???0

──なごみ探偵のおそ松

「あー、おそ松兄さんもか。てかなんだよその呼び方。」

──松野一松
──松野十四松
──松野チョロ松

「え。」

 おそ松の名前にツッコみながら、他の兄弟が聞いたら袋叩きにされそうなことを考えていると、ついにま行に放送が差し掛かる。そして彼の兄弟の名前がまた呼ばれた。今度のトド松からは、顔から血の気が引いていた。
 呼ばれてしまった、呼ばれないだろうと思っていた兄弟の名前が。
 それまで聞き流しかけていた放送に耳を傾けるが、もちろん言い直してくれるはずもなく。トド松はわけのわからない現実にただ驚くしかない。信じがたい、信じるわけにはいかない言葉だ。自分以外の松野家が全滅したなんて。
 思わず立ち上がり、意味も無く歩き出す。もう放送など頭に入っていない。どこへ向かうともなくただフラフラと公園をうろつくその姿に、彼が思い描いていたような彼自身は無い。

「トド松!!!」
「お、おそ松、兄さん……?」

 突然聞こえてきた声にも、トド松は緩慢な反応しか示さなかった。それが知った声だとわかり、もはや唯一の兄弟だとわかり、自分が抱きしめられているとわかって、ようやく涙が出た。

「兄さあだだだだだイッダィ!」

 抱きしめるを通り越して鯖折りにされたからかもしれない。我に返るとトド松は、凄まじい力で抱きついているおそ松をなんとか引き離すと、そこでようやくトト子もいることに気づいた。

「ゼェー……ゼェー……兄さん……無事だったんだね……」
「ゼェー……ゼェー………ああ……俺はな……」

 先の一幕でお互い息も切れ切れになりながら、まずは互いの無事を確認する。
 改めてトド松が見ると、その顔は間違い無くおそ松のものだった。

(──なんだよ、ほらね?)

 安堵の熱が胸から上がってくる。トド松は心底ホッとしたあと、急にバカらしくなった。
 冷静に考えれば、六つ子全員が殺し合いに巻き込まれている可能性は高くないだろうし、さすがに6時間程度で死にまくるのもおかしいし、そもそも名前の呼び方がおかしいのだ。あんなものを真に受けるなどどうかしている。

「あっ、トト子ちゃんも一緒だったんだ。ってそうだ、逃げないと、まだ近くにいるかも知んないんだ。」
「……逃げる?」
「それが聞いてよ、学校にいたんだけど、そこであった子供がもうヤバくて……」

 いつもの調子を取り戻しつつ言うトド松はそこで気づいた。シリアスだ、おそ松がシリアスすぎる。さっきのベアバッグのようなテンションと比べて、なんというか『陰』の気を感じる。それもトト子も同じくだ。

「そうか、じゃあ……戦わないとな。」
「へ? あっ、うん、いやでも逃げようよ、ボクらが戦う必要ないって、他の誰かに任せようよ。」
「……ダメだな、十四松もいる。」
「うえっ!? 十四松もいんの? あ、もしかして怪我したから病院に来たとか──「死んだよ」──へ?」
「大丈夫だ、お兄ちゃんに任せろ。」

 十四松が死んだ。突然のボケにトド松はツッコみそこねた。それを気まずく思う。相変わらずノンデリなボケだ、タイミングよくツッコまなければ変な空気になる。というよりも、言った本人がやけにシリアス入っている。いったいどういうことかと聞こうとして、トト子の顔を見た。

376◆BrXLNuUpHQ:2025/05/20(火) 07:25:11 ID:???0

(泣いてる。)

 トト子は泣いていた。それはもう、しめやかに泣いていたのだ。
 どうして?そう問う間もなく、突然泣き顔から目つきが変わる。「そこだっ!」という声と共にサブマシンガンを抱えると、病院の正面脇にある駐車スペースを銃撃した。

「なになになに!?」
「俺の後ろに来い!」

 突然のトト子の凶行に腰を抜かしかけてしゃがみ込みそうになるのを、おそ松が掴み上げて立たせる。
 「隠れて!」とどこからか少女の声が聞こえたが、状況が飲み込めない。

「さっきの人だよ!」
「撃ち返してやる!」

 今度は別の声も聞こえて、引っ張られる間も下を向いていたおそるおそる目を開けたトド松は息を呑んだ。いつの間にか病院の入り口の陰まで移動していて、トト子がサブマシンガンを車に向けて撃っている。その車の陰からも中学生ぐらいの子供が顔を出してこちらに銃を向けていた。そう冷静に観察できたのは、彼らの銃口がまるでこっちに向いていないからだ。

「あうっ!」
「直幸っ!」

 子供たちの銃撃はあさっての方向に飛んでいく。だがトト子の銃弾は彼らの隠れる車へと向かい、薄いアルミのボディを貫通したのか、悲鳴が聞こえてきた。

「トト子ちゃん!? マズいよ!!」
「チっ、弾ぁ!」

 勇気というよりはツッコみからトド松が上げた声に返ってきたのは、緊迫したトト子の声だ。その性格は明らかに豹変している。慌ただしくリロードするのを見てなんとなく、あんだけ撃ってるんんだから弾も切れるだろうと思っていると、ピン!という音がした。
 おそ松が何かを投げようとしている。その背景には、和服っぽい少女が、子供たちが隠れていた車とは別の車の陰から飛び出してこちらに駆け寄ってきていた。
 それらを見て、トド松にできることはない。ただ見送るしかない、おそ松が何かを振りかぶるのも、少女が肉薄してくるのも。例えるならば、ランナーが突っ込んでくる二塁から一塁へと送球してダブルプレーに討ち取るような、そんな構図。おそ松が何かを投げるのと、少女がおそ松に斬りかかるのはほぼ同時だった。
 おそ松が一瞬早く何かを投げる。少女は、それに向かってギリギリでジャンプした。斬りつけようとした刀でそれを弾こうとして、カンっと音を立てて何かの軌道が変わる。キャッチャーフライのようにふんわり上がったそれが落ちるのを追ったトド松の背中が思いっきり引っ張られた。

「爆発すんぞ!」
「きゃあっ!!」

 おそ松の言葉は爆音で聞こえなかった。煙と音がトド松を襲う。あまりのことに目を見開いたトド松が見たのは、爆発を背中に受けたのかアスファルトの上にしゃがみ込む少女。そしてその顔面をサッカーボールキックしようとしているトト子が、突然血を吹き出した光景だった。

「トト子ちゃん!」

 ピン!とまた音が聞こえた。
 手榴弾だった。おそ松は手榴弾を投げようとしていた。
 外野が送球するように大きく振りかぶる。狙いは、トト子に向かって銃撃した、銃を向けていた少年。そしてその脇にいる、第二の少女。
 トド松は彼女と目があった。彼女は武器を持っていなかった。その手は何かを訴えるようにこちらに伸ばされ、血に濡れていた。その横で何かが光る。おそ松はそこに向かって手榴弾を投げた。投げられた手榴弾が、コマ送りのようにゆっくりと飛ぶのがトド松にはわかる。そしてその手榴弾は、下から伸ばされた手によって掴まれた。ライナー性の当たりをファインセーブするようにアウトを取られ、バックホーム、そして。
 トド松は閃光と共に意識を失った。

377◆BrXLNuUpHQ:2025/05/20(火) 07:25:42 ID:???0



 知り合いの名前が呼ばれた、という以上の意味があることはわかっていた。
 宮美四月という同級生のことを弟が好きなのは、姉である彼女が一番知っているのだから。
 同じ中学に進学して、まだ大して時間も経ってないのに弟の心を奪った女に、思うところがないはずがない。むしろ彼女は、弟に何かしたのではと疑ったほどだ。
 そんな彼女が死んで。そして。

「直幸! なおゆきぃ!」
「だい、じょうぶ……だよ……ねぇ──」

 大河内杏は、目の前の光景に慟哭する他なかった。
 2時間ほど前に謎の男を撃退してから、彼女と直幸、そして神谷薫の3人は、薫の同行者という木之本桜を探していた。元いた民家からは逃げなければならなかったし、桜が小学生らしいこともあって、他に目的地などない大河内姉弟は自然と薫に引率される形で彼女と行動をともにしていた。
 話が変わったのは、あの忌々しい放送だ。ふざけた名前に混じって、宮美家の四姉妹の名前が呼ばれた、あの時だ。
 もちろん、杏はあんなものを信じない。なんの裏付けもない情報を鵜呑みにするなどメディアリテラシーの欠けた行為をするわけがない。だがそれでも、知り合いの名を呼ばれて動揺がないわけではなかった。

「待って、声が聞こえた。」

 そんな2人を前に冷静にそう言ったのは薫だ。知り合いの名前も桜の名前も呼ばれなかった彼女は、油断無く周囲に気を配り続けていた。そうして聞きつけたのだ、松野家の長男と末男が邂逅した時の声を。

「あれ、さっきの男じゃない。」

 そうして慎重に病院の敷地に入り見つけたのは、先程の男だった。しかも同じ顔をした男もいる。目つきは違うが、あれは双子か何かだろう。彼らは病院の向かいの公園で何か話している。その無防備な姿は先程の様子とは大きく異なるが、彼らも放送で動揺しているのだろう、とにかく危険人物を先に見つけられたのだからとっとと逃げよう、そう決めた薫が大河内姉弟を引率して離脱しようとしたその時、彼らを銃弾が襲った。

「そこだっ!」
「しまった、隠れて!」
(もう1人いたの!?)

 期せずして勘の良い伏兵に、見つかった。トト子が叫びながら撃っていなければ、咄嗟に飛び退けず薫は蜂の巣にされていただろう。しかしそれが明暗を分ける。銃弾の雨に分断されて、薫は2人とは真逆の方向に逃げざるをえない。ここで薫が撃ち返さなかったのは、結果論で言えば正解だった。回転式機関砲よりもなお連射できる銃器と撃ち合いになれば、直幸のように被弾しただろうから。

「さっきの人だよ!」
「撃ち返してやる!」
「ダメ! 逃げて!」

 逃げろと言っても、薫自身2人に逃げ場が無いのはわかっている。なんとか隙を作ろうと、物陰に隠れながらトト子に近づこうと急ぐ。

「あうっ!」
「直幸っ!」
「そんなっ。」

 そして聞こえてくる2人の悲鳴。臍を噛む思いで薫はなんとか車から車へと進む。そして好機は来た。トト子の弾が切れたのだ。そして危機もだ。そのタイミングで手榴弾を投げる準備をおそ松は整えた。

「チっ、弾ぁ!」

 今だ、そう思って駆け出した薫と、おそ松の目が合った。相手は丸腰だ、撃たれる前に間合いを詰めて──そんな風に、手榴弾が投げられる直前まで考えていた。
 何かまずい。この土壇場で投げつけようとしているのだ、止めなければ。だが間に合わない。自分の上を通り過ぎようとする何かに、薫は咄嗟に刀を伸ばした。柄の先が僅かに触れ、姉弟の隠れる車の前にポトンと落ちる。それを目で追わなかったのは不幸中の幸いだろう。その直後に起爆した手榴弾が顔面を襲わなかったことで即死を避けられたのだから。

378◆BrXLNuUpHQ:2025/05/20(火) 07:26:04 ID:???0

(これ、炸裂弾、だったの……)

 爆風に耐えて立ち続けられたのはさすがというべきか。数秒耐えた後ついに膝を折るが、薫は前を見続けていた。
 「トト子ちゃん!」と声が聞こえる。あの女が間合いを詰めてきている。耳も目も使えるのに、身体が動いてくれない。あと数秒、数秒あれば膝が言うことを聞いてくれるのに。
 徐々に薫の視界がスローモーションになる。そして浮かぶのは、剣心の、死んだ両親の、そしてこれまでに出会って来た人たちの顔。
 ああ、これは、走馬灯だ。そう思った矢先、薫の顔に血飛沫がかかった。トト子が蜂の巣になっていく。その後ろではまた男が炸裂弾を投げようとしている。

(まだ、死んでる場合じゃない!)

 そう思うと急に体に活力が戻った。ピン!という音が聞こえる。薫は反射的にジャンプしていた。きっとあれはまた同じように飛んでいく。今度は取りこぼさない。
 スローモーションはまだ続く。飛んでくる黒いマツボックリのような炸裂弾の、表面の溝まで見える。イケる、そう思った。右手1つで掴む。そして投げ返す。それを一動作で淀み無く。ただ前へとぶん投げる!
 おそ松と目が合う。今度は立場が逆転した。後ろに倒れていくトト子のスレスレを飛び、おそ松の元へと飛んでいく。おそ松はそれを、両手で掴むと、自分の胸に抱くようにした。
 そして今度の起爆が、おそ松の、トト子の、そして薫へと殺到したのだ。


「薫、さん……」

 杏は顔面に破片が突き刺さり、首から血を流して動かなくなった薫から手を離した。その手は真っ赤に染まっている。つい数秒前まではしていた心臓の脈が、ついに止まった。
 戦闘終了から5分。その場には3つの死体が出来上がっていた。一番損傷の酷いのはおそ松のものだ。胸部が完全に吹き飛び、その顔の判別は司法解剖のプロでもわからないほどに吹き飛んでいる。その少し前にいたトト子は後ろからの爆発と、直幸の銃弾により、おそ松とほぼ同時に即死していた。彼らに比べれば爆発直後は意識のあった薫は比較的軽傷とすら言える。五体満足の死体は彼女だけだ。

「どうしよう、直幸が……だれか! 誰か助け。」

 ズガン。
 訂正しよう。その死体はすぐに2つに増え、3つに増えた。
 トド松は杏を撃つと、足を引き釣りながら直幸の元に行き、彼が持っていた銃を乱射した。

379◆BrXLNuUpHQ:2025/05/20(火) 07:26:39 ID:???0



【0618 『南部』古めの病院】


【松野トド松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 ???
●中目標
 ???
●小目標
 ???



【脱落】

【松野おそ松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【弱井トト子@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【神谷薫@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【大河内杏@四つ子ぐらし(3) 学校生活はウワサだらけ!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【大河内直幸@四つ子ぐらし(3) 学校生活はウワサだらけ!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】

380◆BrXLNuUpHQ:2025/05/20(火) 07:27:27 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『ツインプレー』になります。

381◆BrXLNuUpHQ:2025/06/04(水) 07:41:16 ID:???0
投下します。

382◆BrXLNuUpHQ:2025/06/04(水) 07:42:04 ID:???0



 コトコトコトコト。
 給湯室、と入り口のドアにプレートを付けられた部屋は、8畳ほどの広さの真ん中にテーブルが置かれている。そこに鍋敷きをひくと、エリンはコンロから鍋を持ち上げて慎重に置いた。

「陽人君。」
「うおっ!?」

 窓辺の和泉陽人は、声をかけられると飛び起きて、慌てて周囲を見渡すと。

「悪い、寝てたか……」
「だいじょうぶだよ、何もなかったから。」
「なにも、か。」

 バツの悪そうに言うも、エリンにそう言われて、心配そうな顔をした。

 エリンたちがこの美術館に来てから数時間が経った。ハンターから逃げようと動いていた時、周りが駐車場や庭園になっていて近づく者に気づきやすい建物を見つけて入ったのだ。屋内に入った途端に大量の銃器があることに驚いたり、監視カメラを見つけてホッとしたり、電話が繋がらなくてガッカリしたりと、他の参加者がここ数時間でやったことを一通り経験して。他のグループと違うところというと、その間陽人が気を張り続けていたことだ。

(長いな……)

 逃走中ではなかなか無い長丁場に、陽人はすっかり疲れ果てていた。彼のこれまでの経験が裏目に出ていた。これほどまでに何も無い時間が続いたことなど、逃走中では無かったのだ。
 立ち上がると、心配を顔に出しながらモニターを眺める。高価なものもあるからか、防犯はしっかりしているらしい。まさか殺し合いの場に怪盗などいないだろうに、どうやらちゃんと監視カメラ機能しているようで、その無意味さが不気味に感じる。視線を外しかけたその時、モニターに動く影を見つけて、陽人が二度見したと同時にけたたましいアラームが鳴った。
 敵か! ハンターか! そう思ってモニターに近づくと、制服姿の少女の慌てた様子が映っている。そしてカメラの方に向かって何やらジェスチャーをして、慌ただしく駆け出した。数分もせずにガチャリと部屋のドアが開く。だが陽人は動くことはなかった。それが誰かわかりきっていたからだ。

「ごめんなさい……」

 そう言いながら入ってきたのは、このチームでは最後の一人、小川凛である。陽人はため息をつくと笑って防犯センサーを切った。
 つくづく、自分の知るゲームとは違うと思う。こんな頼りになる設備を自分が使えれば、ハンターから逃げるのももっと楽になるだろう。時間といい自分の常識の通じなさを感じる。
 そう思うとようやく、少し肩の荷が下りた。これまでの何時間かは、いつハンターが四方から殺到してこないか、実は美術品に紛れていてタイマーで放出されるんじゃないかと気を張り続けていた。なにより、あまりに何も起きない時間が長過ぎたのだ。いつ襲われるかと思いながら過ごすのは、とてつもなく時間の流れを遅く感じさせる。

(こんなことなら、小清水を拾ってきてやったら。)

 そうなると自然、目の前で死んだ小清水凛のことが思い出される。あの硬直していく姿は、目を閉じれば今も瞼の裏にこびりついて離れない。あの死に顔を忘れることは、きっと無いのだろうと思う。
 それでも陽人は、冷静になろうと考えた。自分が一番ハンターの脅威をわかっている。彼女ですらハンターに見つかれば振り切るのは容易ではなく、あんなにもアッサリと命を落としたのだ。そしてアイテムのように置かれた銃や刀。仮にハンターがいなくても、危険な人間はおそらくいるだろう。そうなれば自分一人で死体を運ぶなど無謀でしかない。もちろんエリン達を巻き込むわけには行かないので、己一人で死体を──

(死体……アイツを死体として……)
「陽人君?」
「……ああ、ありがとう、いただきます。」

 見知った仲間を、人間ではなく物として運ぶような発想に行き着いて、陽人は不機嫌に立ちすくんだ。遺体1つ弔ってやれないことに、どんな顔をすればいいのかわからない。
 それでもエリン達が無理矢理でも明るく振る舞っているのを見て、陽人はなんとか強張った顔を緩めようとしつつテーブルについた。

383◆BrXLNuUpHQ:2025/06/04(水) 07:42:49 ID:???0



「この匂いなんだ……飯でも食ってんのか?」

 陽人たちがいるその美術館の駐車場で、毒づく1人の少女。
 名前は竹井カツエ。彼女のその手は、右手はテーピングで固められ、左手は拳銃が握られている。小学生には似つかわしくないその姿は、眼光の鋭さもあって、胡乱な雰囲気を感じさせるには充分であった。
 空寺ケンとの戦闘から時間にすれば、数時間というほどは経っていなかった。互いに空手の実力者、男女の性差も小学生同士ではむしろ女子に有利に働く。銃ではなくあえて己が信を置くステゴロを選んだ2人の戦いは、ルール無用のバーリ・トゥードと化し、最後はハンターの乱入によって決着となった。
 あれからしばらく。その間カツエは手傷の手当てに当たっていた。組手もやるのだ、その辺りの知識は運動しない子供よりはある。彼女はひとまず動けるようになると、街をさまよい、見つけたドラッグストアを漁って必要な物を手に入れた。熱を持った傷をアイシングし、ガチガチにテーピングで固める。彼女にできる限りのことをすると、最後に痛み止めをがぶ飲みした。
 それが効いてきたのか、しばらくすると小走りできるぐらいには痛みが引いてきた。傷を痛めないように念入りにストレッチすると、適当に食べ物を口にしようとした時、ふと防災バッグを見つけたのでそれに詰め込む。苛立たしげにグミを口に放り込んで、とにかくもう少し安全な場所に移動しようと、カツエは足早に、しかし痛みからゆっくりと歩き出した。このドラッグストアは外から中が丸見えすぎる。店としてはそれで良いのだろうが、安心して腰を落ち着ける場所には程遠い。

(なんなんだこの平たいビル、まあなんでもいい、中の奴をぶっ殺して……)

 そうして街を歩いている時に見つけたのが、凛たちがいる美術館だった。霧の中から突然現れた、開けた空間の奥にある建物。場違いに思えるほど手入れがされた庭園には、謎のオブジェも点在している。カツエは遠巻きにそれを見ると、侵入できる場所を探して駐車場へと行き着いた。1つだけ換気扇が回っている小部屋(といっても他と比べてだが)があり、そこからは美味そうな匂いが流れてくる。そう言えばここに来てからろくに何も食べてない、そんなことが頭をよぎった時だ、後ろからかすかに足音が聞こえたのは。

「しいっ!」
「うわっ!」

 ズガン!と銃弾が停車してある自動車を撃ち抜く。カツエが躊躇無く発砲した弾丸は、元々狙いなどつけていないのでどこかに飛んでいき、その隙に尻餅をついた少年、陽人は素早く車の影に転がり込んだ。

「待て! 殺す気はない!」
「るっせえ!」

 振り向きざまに撃って当たるなどカツエ本人も思っていない。拳銃を連射しながらダッシュすると、陽人を蹴り殺そうと距離を詰める。見敵必殺、人を見たら見つけ次第殺す、頭にあるのはそれだけだ。
 車の周りをカーブするタイミングで更に撃ち、すぐさま突っ込む。陽人は同じタイミングでカツエから対角線になる位置に駆け込んだ。発砲するが、素人の腕ではわずか数メートルの距離でも当たらない。舌打ちをして追いかけるが、再び角を回ったときには陽人の姿は無かった。どこに行った?その疑問は直ぐに解決した。視界の上方から何かが飛んでくる。とっさにバックステップをすれば、ボンネットから屋根を足場に飛び込んできた陽人が、目の前にいた。

「ヤバ──」「死ねえ!」

 叫んだのは同時、動いたのも同時。
 カツエが引鉄を引いた瞬間、陽人は反射的に腕を上げる。その腕がカツエの手をずらし、そして銃口からは弾が発射され、ない。

384◆BrXLNuUpHQ:2025/06/04(水) 07:43:51 ID:???0

(弾切れ!?)
「ガッ!?」

 撃ち尽くしたことを理解するより先に、今度はカツエが反射で殴りつける。今度も腕を動かされるが、体に染み付いた武道の動きは、人間の反射をも超える。鳩尾こそ外したとはいえ正中線にガードも虚しく正拳突きが突き刺さり、陽人は肺の中の空気を出しながら吹き飛ばされた。

「はっ……なるほど、罠だったってわけね。」
「違っ! ぐっ……!」

 上体を起こしている所に横から蹴りを入れてうつ伏せにすると、カツエはその上に乗った。にわかに鼓動を早くした心臓を落ち着かせるように深呼吸して辺りを見渡す。すると中空に赤い光が見えた。よく見ればそれが監視カメラだと気づく。なるほどこれで気づかれたかと、他にも何かないか探すと、車の脇に立ち竦む2人の少女と目が合った。

(……なんだこいつら。)

 少女たちが動かないように、カツエも硬直した。この銃弾が飛んでくるがもしれないところに突っ立っている2人は何なのか。殺し合いの場だどいうのに手ぶらである。ではカツエのように腕に自身があるのかというと、とてもそうには見えない。片方は中学校の制服だろうか、天然なのかパーマなのか、とにかくウェーブした髪が特徴的な少女だ。もう片方は、緑の髪に緑の瞳、さらに民族衣装らしきものに身を包んだ奇抜な格好の少女である。2人とカツエは見つめ合っていた。

「……お前ら動くな、コイツ殺されたくなかったら武器捨てろ。」
「は、はい……」

 弾の切れた拳銃を陽人に向け、弾が無いのだからこれでは脅しにならないかと2人に向け、いや2人に向けても脅しにならないのは同じだと思ったが、とりあえず格好として向ける。すると2人は、慌ててポケットなりから拳銃を地面におっかなびっくり置いた。
 すると拍子抜けするのはカツエである。まさかこんな、ド三流のチンピラムーブを自分がすることになるとも、それで相手が従うとも思っていなかった。コイツらは弾切れだと気づいてないのか?その可能性に気づいてカツエは薄く笑う。どうやら頭の弱いいい子ちゃんなのだろう。ならカモだ。

「あ、あの、こんなことやめませんか。」
「うるせえ! 早くその銃、こっちに滑らせろ。」
「そんな……」
「早くしろぉ! 撃つぞゴラァ!」
「凛さん、それは……」
「だ、大丈夫……もう撃てないから……」
「チっ!」

 いやバレている。ならなんなのだコイツらは。さっき銃を出したときそのまま撃っていれば良かったではないか。カツエから見れば不合理な行動に困惑が深まる。目的がわからない。殺し合いを前提としたその頭では。
 カツエは銃を捨てると、陽人にバックチョークをかける。もういい、まずはコイツを殺ってから、次はお前らだ。そう考えると、首輪が邪魔でうまく締められずまごついているところに曲が流れ出す。

『──強くなれる理由を知った。』
「なにっ?」

 陽人の首輪だけではない、カツエ自身の首輪からも、横に停まっている車のカーラジオからも、美術館の館内放送からも、エリンたちからの首輪からもだ。

「お前ら動くな!」
「ち、違うよ、私たちじゃないよ!」
「……ミッションか?」
「みっしょん?」

 混乱する3人と、1人ダメージに顔を歪めながらも冷静に何が怒るかを察する陽人。気色ばむカツエを無視するように、第一回放送が始まった。

385◆BrXLNuUpHQ:2025/06/04(水) 07:44:18 ID:???0



 コポコポコポコポ。
 ぬるめのお湯を注ぐと、4人分の湯呑みから茶葉の香りが匂い立つ。
 エリンはお盆を持つと、それをテーブルの上に置いた。

「ありがとう。」

 反応を示したのは陽人1人だ。カツエはポトフをがっきながら鋭い目を向けるだけだった。そして、凛は、泣いていた。


『広瀬崇』

 その名前が呼ばれた時が、戦いに水が入ったタイミングだった。放送が始まって直ぐにその趣旨が当の放送によって伝えられ、自然と全員がそれに耳を傾けることになる。エリンたち3人は元より、カツエも自分の家族の名前が呼ばれていないかは当然気になる。そうして無事に『た』で名前が呼ばれなかったことで安堵し、小清水凛の名前が呼ばれてもわずかに身じろぎするだけだった陽人を締め直し、さてこれからどうコイツらを片付けるかと思っていた時だ。

「広瀬、崇……?」

 膝から崩れ落ちる人間など、空手をやっていてもそうそう見ることはない。その貴重な実例をカツエは目にした。
 その名前が呼ばれた瞬間、凛の体から全ての力が抜けたように見えた。横のエリンがとっさに支えていなければ、打撲は免れなかっただろう、ストンという落ち方。
 カツエが何もしなくても、少女たちは無力化された。エリンは凛を見捨てて動けるようなたまでないことは短い間にわかった。その凛は明らかに顔面蒼白、1人では動けもしないだろう。そして陽人は自分が首に手をかけている。負ける要素など、ない。
 それでもカツエは、放送が終わるまで、自分の腕に陽人が手をかけるまで動けなかった。

「……殺し合いなんてやる気はないよ、みんな。あんたもそうじゃないか。」
「ア……チっ!」

 違う、そう言い捨てようとして、しかし、言葉に詰まった。殺し合いに乗っている。そう口にするには、あまりにも、あまりにもこの場の空気は死んでいたのだから。

(……いや、待てよ、そもそも、そもそも最初は同盟相手探そうとも考えてたんだ。ならコイツらって使えるんじゃねえか? たぶんクッソお人好しだもん。)
「俺は和泉陽人、あんたは?」
「……殺し合えば何でも願いが叶うんだろ? 信用できるか。」
「あんなくそみたいな放送の方が信用できねーよ。だろ?」
「……そうか、竹井カツエだ。」

 それにもう1つ、カツエが方針を改める理由があった。
 放送していた死野マギワは、カツエの参加していた絶体絶命ゲームの進行役である。ゆえに、彼女はその放送を真実だと受け取った。たとえ織田信長が呼ばれようが明智光秀が呼ばれようが、あの放送内容自体が何かのヒントも兼ねたのだと受け取った。残念ながらメモを取ることはできなかったので全部は憶えきれないが、それでも人数は把握した。
 だが陽人たちはマギワもツノウサギも知る様子を見せなかった。だから真に受けない、信じない、値千金の死亡者情報を。信じることなどできない、あんな非現実的な内容を。

(家族の名前とか呼ばれればともかく、そうじゃないなら信じないもんなのか。てことは、コイツらが殺しに行く可能性は低い……?)

 そして信じないからこそ安心できる。カツエは十中八九、追加ルールによるキル数レースは真実だと考えていた。あんなルールが追加されれば、集団で動くことなどできない。人数が集まれば集まるほど、殺し合いに乗るメリットが増える。だが、あの放送を信じないのであれば、その意味は大きく変わる。カツエだけが3人殺せるポイントをキープしているに等しい。

386◆BrXLNuUpHQ:2025/06/04(水) 07:45:13 ID:???0

(なら、今ここで無理して殺す必要はないよな……あと6時間、放送ギリギリまで、こういうバカを集めて、最後にぶっ殺せば──)
「あの……」
「あ?」

 エリンに声をかけられて、カツエはスプーンが止まっていることに気づいた。どうやら考え込んでいたらしい。ちょうど小腹も空いていたところに出てきた暖かくて優しい味の飯に、張っていた気が緩んだのは仕方のないことなだろう。これではいかんと出されたお茶をゴクゴクと飲み、飲んでからこれに毒が入っている可能性を考えて、青い顔になるが、何も起きないのでホッとする。当のエリンはというと、凛の横に座って話しかけていた。

(アタシだけかよ……)
「竹井、大丈夫か?」
「……なにが?」
「いや……ほら、手だよ。」
「あぁ……アンタは?」
「俺は……あー、いいパンチだったぜ。」
「あっそ。」

 陽人も、無理をしているのが明らかだった。顔は強ばり、じっと監視カメラの映像を見ているかと思えば、落ち着かないように部屋の棚や引き出しを漁ったりしている。そうしてしばらくすると、袋菓子の小袋を1つ開けて、また監視カメラの映像を見始めるのだ。
 誰も彼もが疲れた顔をしていた。たった6時間、知り合いの名前が呼ばれた信用できない放送が流れただけで、それまで保っていた連帯が崩れている。カツエはこの3人がまともなグループだった頃を知らないので、やけに辛気臭い奴らに潜り込んでしまったと思った。

(やっべ眠くなってきた……この空気も疲れるし……いやでも、さすがに寝たらやばいか?)

 現に今、こうして自分は飯まで食っている。エリンたちはあの戦闘にも関わらず、カツエをパニックになっていただけだと判断してなんと受け入れたのだ。実際問題あの時のカツエは殺られる前に殺ろうと思ったから撃ったので出会い方が違えばもっと表面上は穏便に殺るはずだったのだが、ともかく寝れるときに寝るのはいいかもしれない。自分に気づくぐらいには注意深いのだし、センサー代わりと考えればアリだろう。

「そこのソファー借りるよ。」

 これはある意味賭けだ。凛たちが度を越したお人好しならば、利用価値はでかい。なにせ81人の死者だ。カツエが首輪を外すには1人で10人近く殺さなくてはならないかもしれない。その時のために、同じようなお人好しを集めるお人好しホイホイとして、そして肉の盾として使えるか。

「カツエさん、どうぞ。」
「お、あんがと。」

 直ぐに立ち上がりパタパタと小走りで棚からタオルを渡してきたエリンを見て、カツエは思う。特にコイツは使える。何人だか知らないけどきっと利用できる。後は、カツエ次第だ。

(せいぜい利用させてもらうよ、エリン。)
(カツエさんはよく見張ってないと。)

 そのエリンがカツエを危険視していることに気づかぬまま、彼女は眠りにつく。その緑の瞳の慧眼さは、彼女の予想を超えていた。
 エリンはこのグループで、実は放送を真実だと誰よりも思っていた。そして同時に同じぐらいに疑っていた。いわばフラットな中立の視点である。
 親が処刑され天涯孤独の身となった彼女を助けた蜂飼いのジョウンから学んだ様々な知識は、この場ではほとんど役に立たない。だがそれでも、人の話というものが、時に自然と、つまり真実を言い表していることもあれば、誤りや過不足があることもあることは、変りなかった。
 エリンはツノウサギのことを知らない。死野マギワのことも知らない。彼女たちがどのような立場で、どのような知識を持って、どのような事情で、どのような目的であの放送をしているのか、正しいことは何もわからないのだ。また彼女がリョザ真王国の、大公領の、その中でも異端の霧の民ということも大きいだろう。生まれからして本来なら言葉が通じるかも怪しい異民族の中で、異民族の文化を受けて育ったのだ。必然的に己の見え方が他とは違うことを、環境が教える。たとえ差異が無くてもあることになる。
 だからエリンは、竹井カツエという生き物を最初から観察していた。彼女の闘蛇を思わせる殺気立ち方に、なぜそうなったのか気になったのだ。そうして気づいたのは、違和感だ。なにか、なにか思い違いをしているように思えてならない。凛や陽人と同じような、単に殺し合わさせられている子のはずなのに。
 緑の瞳は見えないものまでまなざせるのか?

387◆BrXLNuUpHQ:2025/06/04(水) 07:48:21 ID:???0
投下終了です。タイトルは『緑の瞳は見えないものまでまなざせるのか?』になります。


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