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バトル・ロワイアル 〜狭間〜
1
:
◆2zEnKfaCDc
:2020/04/18(土) 11:48:06 ID:EjSdNpAY0
【参加者一覧】
【ハヤテのごとく!】7/7
〇綾崎ハヤテ 〇三千院ナギ 〇マリア 〇鷺ノ宮伊澄 〇桂ヒナギク 〇西沢歩 〇初柴ヒスイ
【ペルソナ5】7/7
〇雨宮蓮 〇坂本竜司 〇高巻杏 〇モルガナ 〇新島真 〇明智吾郎 〇刈り取るもの
【はたらく魔王さま!】6/6
〇真奥貞夫 〇遊佐恵美 〇芦屋四郎 〇漆原半蔵 〇鎌月鈴乃 〇佐々木千穂
【小林さんちのメイドラゴン】6/6
〇小林さん 〇小林トール 〇小林カンナ 〇上井エルマ 〇滝谷真 〇大山猛(ファフニール)
【魔法少女まどか☆マギカ】5/5
〇鹿目まどか 〇美樹さやか 〇巴マミ 〇佐倉杏子 〇暁美ほむら
【暗殺教室】5/5
〇潮田渚 〇赤羽業 〇茅野カエデ 〇狭間綺羅々 〇烏間惟臣
【モブサイコ100】4/4
〇影山茂夫 〇影山律 〇霊幻新隆 〇花沢輝気
【虚構推理】4/4
〇岩永琴子 〇桜川九郎 〇弓原紗季 〇鋼人七瀬
合計 44/44
【まとめwiki】
ttps://w.atwiki.jp/hazamarowa/sp/
646
:
Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】
◆2zEnKfaCDc
:2022/10/09(日) 01:43:48 ID:/xQ2Ewqo0
「――巴さん!」
ボロボロになりながら駆け付けてきた少年の姿。
拘束されたままのマミは、その姿を見て名前を呼ぶ。その声に現れているのは、若干の焦燥と、また生きてここに現れたことへの安堵。
マミの知り合いであると察しをつけ、拘束を受けたマミに駆け寄ってくる少年に、マミの敵ではないと釈明を始める杏子。
それを受け、少年は落ち着いた表情で立ち止まって小さく笑みを零した。改めて、杏子がマミの方へと向き直り――
「……っ!?」
――次の瞬間、杏子の首筋に一筋の閃光が走った。
首から生えた、一本のナイフ。
「……お……前……まさ、か……!」
潰れた喉で、懸命に言葉を紡ぐ杏子。何とか振り返った彼女が、その眼に映したのは――
「……っ!」
――杏子が置いてきた二人、まどかと紗季さんが持っていたはずの、端末。
あの二人がどうなったのか、想像には難くない。現にこうして――自分は虚をつかれ、首を切り裂かれているのだから。
そして杏子の視界は、黒く、黒く塗りつぶされていった。
その執行者は、たった今、警戒すらされずに二人の前に現れた少年――潮田渚であることは、それを目前にしたマミには分かった。
「なぎ、さ……君?」
だが、その行動が彼と結び付かない。
だって、渚くんは。
魔女のような、誰かを傷付ける存在じゃなくて。
――この殺し合いで生き残ってほしいと願った、守られる側の人で、あるはずで。
「……嘘。」
「ごめんなさい、巴さん。」
渚の手には、もう一本のナイフ。
目の前には、拘束されたままのマミの姿。
首筋に、さらに一閃。
頸動脈を切り裂かれた少女が二人、その現場に出来上がった。
「――渚さん。急いで、この場を離れてください。」
電子音声に導かれるまま、渚は走り去っていく。
647
:
Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】
◆2zEnKfaCDc
:2022/10/09(日) 01:44:11 ID:/xQ2Ewqo0
■
「――スズノ、まだ息ある!」
「――頸動脈をこれほど深く損傷しているのに信じられないが……」
閉ざされた意識の中に、声が聞こえてきた。
杏子とマミの"死体"を見つけた鈴乃とカンナ。その身体に残された傷跡は、まどかと紗季のやり口と酷似している。そもそも、取り逃した相手が逃げた先。犯人は、考えるまでもなく分かっている。
「……あたし、は。」
死体が起き上がるような光景だった。
まどかと同じ程度に、首をぱっくりと斬られていた赤髪の少女が、何事も無かったかのように――とは言えないが、それでも傷口に対してあまりにも軽傷のように立ち上がった。
「っ……! おい、マミっ!」
弾かれたように、杏子は動き出した。連戦の疲れも、あるのだろう。自分より目覚めるのが遅く、横たわったマミに、手を伸ばす。
死んでいないのは、分かっている。魔法少女の生命を繋ぐコアはソウルジェムだ。首を切られたところで、それが原因で即座に死に繋がることはない。
だが、肉体の再生にも魔力を消耗する。いや、それ以前に、あれが少なからず信頼関係を築いていたように見えた相手からの、裏切りだったのはあたしにも分かる。
だってあの時、消えゆく視界の淵に映った、少年を見るマミの眼は――あの時と同じだったのだから。
嫌な予感がする。一度、掴めなかった経験に裏打ちされた、確かな予感。そして、その予感は――的中する。
「待ってくれ、マミ――」
伸ばした手の先、巴マミの髪飾りに装飾されたソウルジェムが、ドロドロとその色を濁らせていき――そして、砕けた。
「――っ!!」
直後、世界がぐにゃりと大きく歪んだ。
緑が広がる森は、クレヨンでされた子供の落書きのように、不気味に混ざった色に染まっていく。
「何だ……これは……!」
「何が起こってる!?」
「――くそっ……あたしは、また……!」
648
:
Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】
◆2zEnKfaCDc
:2022/10/09(日) 01:44:49 ID:/xQ2Ewqo0
■
かたちあるものは。
ㅤいつかはこわれて、きえてしまう。
ㅤぴしりと、おとをたてながら。
ㅤぽろぽろと、あふれるままに。
ㅤひびわれて、こぼれて。
ㅤそして、かたちをなくしていく。
ㅤ――ああ、まただ。
ㅤわたしのかたちが、とけだしてゆく。
ㅤこわい、こわいよ。
ㅤだけど。
ㅤわたしがいつか、かたちをなくしたそのあとは。
ㅤ――かたちなきしあわせを、つかめますように。
649
:
Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】
◆2zEnKfaCDc
:2022/10/09(日) 01:45:08 ID:/xQ2Ewqo0
【C-4/D-4境界付近/おめかしの魔女の魔女結界/一日目 午前】
※D-4境界付近に、『おめかしの魔女の魔女結界』が生成されました。おめかしの魔女(巴マミ)が死亡するまで残り続けます。また、近付いた人物が結界に取り込まれることも起こり得ます。
【おめかしの魔女(巴マミ)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:魔女化
[思考・状況]
基本行動方針:無差別
[備考]:魔女化に至るまでの状況が原作スピンオフとは異なるため、本ロワオリジナル要素が付与されている可能性があります。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品0〜2 ジュース@現地調達(中身はマッスルドリンコ@ペルソナ5)ㅤマンホール@モブサイコ100
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:現状を何とかする
2:鋼人七瀬に要警戒
※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません
【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.目の前の存在と戦う
二.千穂殿、すまない……。
※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
【小林カンナ@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:新勢力、カンナ勢を作ってみんな仲良くしたい!
一.姫神はたおす!
二.スズノをまもる!
※トールとエルマが仲直りした以降からの参戦です。
650
:
Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】
◆2zEnKfaCDc
:2022/10/09(日) 01:47:19 ID:/xQ2Ewqo0
「……何、これ。」
渚は自分の行動の結果起こった出来事について、詳細を把握していない。鈴乃とカンナに気づかれ、それだけの時間は与えられなかった。律の言う通りの攻撃を行い、言われるままに立ち去った結果、背後の景色が消失したという現状。それは、殺せんせーという常識を逸脱した超生物と関わってきた渚から見ても異常な出来事だった。
『――なるほど。現状は把握しました。向こうで参加者巴マミと佐倉杏子が交戦中なのですね。』
律と手を組み、殺し合いに乗ることを決めて間もなく。二人の殺し屋は大まかな状況を共有し合っていた。
『――でしたら、作戦があります。』
律の提唱した作戦は、以下の通り。
『――作戦その1。二人の戦闘に割り込んで、佐倉杏子と巴マミの両名を殺害してください。おそらくは死にませんが、殺す気で構いません。』
律は、紗季に支給されていた頃、杏子と紗季の情報共有のすべてを聞いていた。その際に、彼女たちの交友関係と、魔法少女とは何であるのかを含め、情報を"学習"していった。
『――作戦その2。その際に可能であれば、佐倉杏子に私のいる端末を見せてください。彼女に鹿目まどか、弓原紗季の死を伝達するにはそれで充分でしょう。』
魔法少女が魔女と化す条件――絶望。
杏子とマミの関係性や、彼女たちの人格を統合して計算した結果、最も最悪の形で彼女たちの絶望を引き起こす計画を、律は導き出したのである。
『――作戦その3。その後、可能な限り素早くその場を撤退してください。それに失敗したら、その時は……死を覚悟した方がいいかもしれません。』
そして渚は、鈴乃とカンナの介入という想定していない自体に遭いながらも、それを実行し、そして成功させた。
それは偏に、渚の才能の結果である。
暗殺の才能のみならず、死をも恐れずに窮地に飛び込んでいけるその胆力。
「上手くいけば二人の魔女が生まれているはずですが……少なくとも一人は成功したようですね。」
「えっと、ひとまず……何が起こっているのか説明してもらってもいい?」
「はい、もちろんです!ㅤでは……どちらに参りましょうか?」
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカㅤ死亡確認】
【弓原紗季@虚構推理ㅤ死亡確認】
【残りㅤ34人】
651
:
Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】
◆2zEnKfaCDc
:2022/10/09(日) 01:47:37 ID:/xQ2Ewqo0
【D-4/教会付近/一日目 午前】
【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 モバイル律 不明支給品(0〜2) 、鹿目まどかの不明支給品(1〜2)、弓原紗季の不明支給品(0〜1)、ジュース@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む
一:どこかで腰を据えて律と詳しい情報共有をする。
二:何ができるか、何をすべきか、考える。
※参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
【支給品紹介】
【マンホール@モブサイコ100】
佐倉杏子に支給。何の変哲もないただのマンホール。
【羽鳥のラジコン@モブサイコ100】
弓原紗季に3個セットで支給され、渚に渡ったのちに鈴乃たちによって破壊。
原作では詳細が判明する前に破壊されたが、何らかの武器が搭載されていたものとしている。
652
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/10/09(日) 01:47:52 ID:/xQ2Ewqo0
投下完了しました。
653
:
◆2zEnKfaCDc
:2023/01/08(日) 04:01:07 ID:nYiRLucc0
ゲリラ投下します。
654
:
眠り姫を起こすのは
◆2zEnKfaCDc
:2023/01/08(日) 04:01:43 ID:nYiRLucc0
C-2にある森の中の木かげで、僕――桜川九郎は思索していた。
岩永を巻き込まないよう単独で初柴ヒスイを追うという行動方針を決めたのはいい。岩永が僕との合流を考えているのであれば向かう先はおそらくB-2、真倉坂市工事現場だろう。それ以外に僕らの知る固有名詞の地名は地図上に存在せず、暗黙の了解的に集まろうと企てられる場所が存在していない。
また、同様の理由で紗季さんもB-2での集合を目指し得る。元より地図の端にあるB-2に、積極的に他害を試みる者が向かうとも思い難い。僕がいなくても、B-2を目指す岩永の安全は比較的確保されているのだ。安心、と呼んでしまえる状況ではないけれど、少なくとも危険は未来決定能力のない僕がいたところで大きく改善されるものでもない。
それよりも、気にすべきはヒスイの側だ。彼女は六花さんのことを語っていたし、僕の不死の力と未来決定能力についても知っているようだった。未来を掴めなくなった僕が唯一、この両手で掴めるもの。絶対に、逃がしてなるものか。
それに、殺し合いに乗っている彼女を止めることは岩永や紗季さんの安全にも直結する。個人的な事情を抜きにしても、彼女を追わない理由はなかった。
だが、一度不覚を許し、海に落ちたところからスタートしているのだ。岸に上がった時にはすでにヒスイの姿は見えなくなっていたし、石製の港であったために足跡を辿るようなこともできそうになかった。つまり今は、海に落とされる前にヒスイが向いた先に向かって何となく進んでいるに過ぎない。彼女が進路を僅かばかり逸らしてしまえば見失ってしまう。
もしもくだんの力がパレスの制約を受けていなければ、死んでは未来を掴み取って、正しい方角へ向かうことができただろうが、この世界でそれは叶わない。
さらに、くだんの力に制約があるのならば、殺し合いを茶番と化してしまうだけの人魚の力すら、どうなっているのかは分からない。怪我を避けるよう行動するのは、一般的な人間が当たり前のように行なっているものでありながら、それが習慣から抜けてしまった僕にとっては簡単なものでも無い。高低差があろうものなら安易に飛び降りてショートカットしそうになる。入り組んだ地形では足場の悪さに足を取られれば、立ち止まらなければ足を欠損し得る。
……何とも、不都合だ。
一応、伊澄さんに爆殺された時に人魚の力で蘇ってはいる。これからも復活できるのか、どこまで機能するのかなどは分からないが、それでも普通の人間とは異なる身体ではあるらしい。だというのに、命を惜しまないといけない限り、この身体はただの人間よりも動きが鈍くなってしまう。
655
:
眠り姫を起こすのは
◆2zEnKfaCDc
:2023/01/08(日) 04:02:07 ID:nYiRLucc0
(伊澄さんといえば……どうやら亡くなってしまったみたいだ……。)
今しがた思い起こした名前を、放送から聞こえた声と重ね合わせた。ゲームが始まって間もなく出会った少女。自分を殺した相手であるとはいえ、それでも和解に至り、情報交換のためにひと時を共にした彼女の死に、思うところがないはずもない。
鷺ノ宮伊澄は、口を閉ざした岩永と同じようなお嬢さまらしさを備えながら、岩永と違う意味で心配になる少女だった。まるで彼女の周りだけ違う時間が流れていると錯覚させてしまうような。他者を惹き付け、釘付けにしてしまうような。高嶺の花、と言うとうまく言い表せているだろうか。この催しは、そんな花を無理やりに摘み取ってしまった。
何故、殺されなくてはならなかったのか。そんな哲学的な疑問よりも先に、浮かぶ疑問がある。
何故、彼女が殺されたのか。
何せ、僕はそんな彼女に一度殺されている。
仕組みなんて分からない、遠距離からの有無を言わさぬ爆殺。たとえ殺意をもって襲ったとしても、普通の人間であれば彼女に近付くことすらできないだろう。
不意打ちで殺したか、伊澄さんの射程外から銃殺でもしたのか、それともその相手が伊澄さんを超える超常的な力を持っていたのか。だとして、一般人だったはずの小林さんが同行しながらも生きているのはどういう状況なのか。
(……なんて考えても、仮説を出すことくらいしかできないな。深入りはやめておこう。)
結局、伊澄さんの力をこの目にした以上、心に留めておくしかないのだ。この世界ではどんな不思議な事が起こってもおかしくないのだ、と。
656
:
眠り姫を起こすのは
◆2zEnKfaCDc
:2023/01/08(日) 04:02:32 ID:nYiRLucc0
――そして僕は、その心持ちを改めて実感することになる。
考え事に耽っている間に、木々の合間から陽の光が差し込んだ。そろそろ放送から一時間が経過し、時刻にして七時頃。本来だったらベッドから目を覚ます時間か、と、恨めしげに眠い目を擦る。
「……ん?」
そんな時、ふと、背中に違和感を覚えた。
いつの間にかザックの重量が変わっているような気がする。
いや、そればかりか――確認しようとザックを降ろしてみれば、明らかにザックの中で何かが暴れている。幼い頃に受けた実験の代償に、全身の痛覚が機能していない僕は衝撃を信号として受け取ることはなかったが、一体何時から暴れていたのだろうか。
「いや、でも最初に支給品を確認した時は生き物の類は入っていなかったはず……。」
それに最初から暴れていたとしたら、一時的に同行していた小林さんか伊澄さんが気付くだろう。
と、これまでのゲームの流れに思考を回したところで――気付く。そもそも、何故このザックは、伊澄さんに殺された時、身体が爆散するほどの衝撃に見舞われながらも、無事でいるのか?
「……見てみるとするか。」
不死身の癖はなかなか抜けない。危険物かもしれないというのに、気付けば躊躇無くザックを開け放っていた。
657
:
眠り姫を起こすのは
◆2zEnKfaCDc
:2023/01/08(日) 04:03:03 ID:nYiRLucc0
「……う?」
中から出てきたのは――幼子であった。
「子供……?」
見るに、3歳かそこらといったところだろうか。背丈ほどある銀髪の中に混ざるメッシュの、瞳と同じ紫色の髪が文字通り異彩を放っている。
「……君は、一体……。」
「なまえ?」
見てくれは外国人のそれをしている幼子は、感嘆交じりに漏らした言葉に、同じ日本語で返してきた。
「――アラス・ラムス。」
「アラス・ラムス……?」
「う。なまえ。」
教養レベルの外国語知識の辞書の中にないその名前が、どの国の言語体系に沿うものなのか分からない。だが、それを差し置いても疑問は山ほどある。
アラス・ラムスはいつからザックの中に入っていたのか。
アラス・ラムスはこれまで何をしていたのか。
アラス・ラムスは何者なのか。
だが、それらの疑問を差し置いて、真っ先に込み上げてきたものがあった。
自立歩行が自在にできる年齢ではないアラス・ラムスは、やむを得ず僕の腕の中に収まっている。得体の知れない存在であるとはいえ、この殺し合いの環境の中で放置するほどの薄情さはさすがに備わっていない。
そう、僕は今――まるでこの子の父親のように赤子を抱き抱えている。平凡な顔つきだという自覚はあるが、それ故に、20代前半の父親というパブリックイメージにも相応に沿っている光景なのだろう。
(なんていうか、岩永には見せられないな……。)
ショウジョウバエの如く喚く自称恋人の面持ちを脳裏に浮かべては、小さくため息。
ああ――どうやら今日は、厄日の予感だ。
658
:
眠り姫を起こすのは
◆2zEnKfaCDc
:2023/01/08(日) 04:03:18 ID:nYiRLucc0
【C-2/草原/一日目ㅤ朝】
【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 全身が濡れている
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)、進化聖剣・片翼(アラス・ラムス)
[思考・状況]
基本行動方針:初柴ヒスイを追う。
1.桜川六花の企みを阻止する。
2.もしかして不老不死にも何か制限がかけられているのか?
3.アラス・ラムスについて知る。
※件の能力が封じ込められていることを自覚しました。
※不老不死にも何か制限がかけられているのではないかと考えています。
【支給品紹介】
【進化聖剣・片翼(アラス・ラムス)】
桜川九郎に支給された意思持ち支給品。
「イェソド」の欠片の一つである宝珠のアラス・ラムスが、遊佐恵美の持つ進化聖剣・片翼と融合し、意思を持った聖剣となった。
殺し合い開始時は0時であり、九郎の支給品袋の中で聖剣のフォルムで眠っていた。005話では、聖剣の力で鷺ノ宮伊澄の「八葉六式『撃破滅却』」を防いでいる。
7:00に起床。幼子のフォルムへと変化した。
659
:
眠り姫を起こすのは
◆2zEnKfaCDc
:2023/01/08(日) 04:03:53 ID:nYiRLucc0
以上で投下を終了します。
660
:
ニアミス
◆EPyDv9DKJs
:2023/09/29(金) 18:21:09 ID:qA5aa4tg0
投下します
661
:
ニアミス
◆EPyDv9DKJs
:2023/09/29(金) 18:22:54 ID:qA5aa4tg0
滝谷は静かに昇りきった朝陽を眺める。
夜通しのネトゲや、デスマーチを終えた朝とかの気分以上に重いものだ。
こうも簡単に人が死んでいくのは分かるが、それにしてもあっさり過ぎる。
世間的には自殺、事故、他殺問わず日々多くの人が死んでいくが、基本それは縁遠いものだ。
一日中ずっと歩いていればの話だが、壱日もあれば外のエリアぐらいは一周できるはず。
その範囲内で死ぬのは別だ。海の向こうの国でも、数百キロ離れた土地の人間でもない。
人。龍。魔法少女。他にもいるであろう存在が一堂に他者の意によって集められ死んでいく。
鋼人七瀬みたいな怪異とかでもなければ、その道を選ばなかったかもしれない人でも、
殺すと言う選択肢が生まれてしまった世界で、そうせざるを得なかった理由を抱いて挑む。
そういった人達の思惑の一時的な結果。ただの言葉の羅列。しかし聞き流すことはできない。
律が提示したカエデと言う少女は、自分達の預かり知らぬ場所で命を落としたようだ。
彼女を警戒するようにと言った発言はなかったのを見るに、元は温厚な人物だったのだろう。
恐らくその道を選ばざるをえなかった側。姫神によりコミュニティを破壊された被害者と言ってもいい。
事実、滝谷自身も姫神達によってそのコミュニティを破壊されてしまったようなものだから。
「……そっか……」
トールの死。
小林でも自分でもなく、ドラゴンである彼女が真っ先に。
ファフニールの方が強いとしても、そもドラゴンの力は別格だ。
制限はされていようともその強さは並の人間の比にならないのは、
カエデや鋼人七瀬との交戦からも十分に伺うことができる。
トールも同じぐらいの強さにオミットされてる可能性は高い。
あれだけあれば大概は殺せる。別に殺してほしいわけではないが、
今まで出会った人物であればほぼ全員一人で倒せてしまうだろう。
それでも死ぬ。あってほしくなかった現実を突き付けられたが、
「随分落ち着いているようだな。」
思いのほかあっさりとした一言だけで終わったことにファフニールが訝る。
ドラゴンにとって人間の生は余りに短いし、同時に長すぎるファフニールにとっては、
人の死と言うものに対する感情は希薄になりやすい。滝谷が死ぬ場合は分からないが。
一方で人は人の死を重くとらえるものだ。どのような経緯であっても基本は揺るがない。
だからこそ葬式、埋葬と言った儀式のような行為が存在している。
昔から続く人の習わしでもある。
「そもそも、ファフ君たちがいる時点予想できたことだからね。
参加者か支給品か、ドラゴンキラーができる人がいるのは予想できるよ。」
予想するべきことでもないけどね、とぼそりと呟く。
と言うより、最初の襲撃を考えればこれは予想できた話である。
姿を変えれず、ドラゴンが使えるやりたい放題な魔法もあらかた制限。
左腕がなかったとはいえ続けて出会った鋼人七瀬も(一応)ヒナギクと協力もあった。
これだけの制限を受けていては、エルマやトール、カンナでも十分殺せる。
もっとも、滝谷が仮に殺し合いに乗ったところで勝てる気はしないが。
支給品のアレを使わない限りは、と言う注釈もつけて。
「それでいい。奴らの言葉を鵜呑みにするつもりはないが、
仮にそうであるならばそれぐらいの冷静さを持っておくことだ。」
脳内に送られたキュウべぇと名乗った放送の人物は、
マイナスの感情が増幅している人たちが次第に増えている様子を伝えた。
いかにどれだけ平常心を保っていられるかもこの戦いの鍵になるはずだ。
だから、そういう意味でも表であろうとそういう風に装える気概が必要だと。
(なお、テレパシーをやられたことでファフニールは露骨に不愉快な顔になっている)
「奴がもし死んだとするならば、人を知りすぎたかもしれんな。」
共に生きることを後悔しない。その為に彼女は戦って死んでいった。
もし彼女が死ぬビジョンがあるとするなら、そういうものだと思える。
昔のように自身やケツァルコアトル、神々の軍勢に殴りこんだような、
ただの混沌派なドラゴンとは違う、何かを守るために抗ったのだと。
人間にかぶれた故に死んだかもしれないと考えると、
それは皮肉なものだが同時にそれはらしくもあった。
だから悼みはしない。仮にらしくなかろうと悼むことはないが。
「さて、放送も聞いて何処へ行くのが先決か。ファフ君は何かあるかな?」
662
:
ニアミス
◆EPyDv9DKJs
:2023/09/29(金) 18:23:26 ID:qA5aa4tg0
当面の方針通り、放送を聞いてから動く考えをするものの、
放送の死者にはカエデやさやかなど、気になる名前は他にもあった。
しかしそれを聞いたとしても具体的に何かが変わるわけでもなく。
あるとするならばヒナギクも杏子達も他の人達は南の方角へと進んでいる。
西から東へ行くように行った今、行くとするならば北か東の二択だろうと。
尋ねてみても返事がなく、顔を向けるとファフニールは南へと顔を向けていた。
普段不機嫌そうな視線ではなく、どちらかと言えば凝視する類の眼差しで。
「どうしたんだい?」
「変な魔力を感じている。」
「魔力はさっぱりだから分からないけど、
南なら魔法少女である杏子ちゃんってことは?」
魔女の結界。
渚の手によって発生したそれは、
多くの参加者が認識するのは容易ではない。
魔女の結界は普段は外からすれば何の変哲もない空間だ。
条件を満たしたりこじ開けたり引きずり込まれると空間ががらりと変わる。
あくまでドラゴンであるファフニールだから揺らぎを感じただけのもの。
「どうだろうな。異なる世界の魔力だ。
これが呪いの類かどうかも判断がつかん。」
一方であくまで揺らぎ程度だ。
本来ならばもっと細かく把握できたかもしれないが、
現状ではその程度のことしか認識できなかった。
「どうする? 弓原さんやまどかちゃんも一般人みたいだし加勢も……」
窮地の可能性だってある。
救援要請で魔力を発したのも否定できない。
滝谷としては行こうと思っていたところだったが、
「その話、詳しく聞かせてもらえる?」
後頭部に硬いものを押し付けられながら、
背後に突如として現れた少女が冷徹に呟く。
後頭部のそれが何か見えずともすぐに理解し両手を上げる滝谷。
(気配は感じていたが、この小娘……今のは時間に干渉したのか?)
ファフニールが行くかどうかを尋ねなかったのは、
その前に人の気配が近くにあったからと言うのはあった。
だが高速移動と言ったものではない。ケツァルコアトルのような、
時間に干渉でもしなければなしえないような気配の移動をしている。
つくづく此方が後手に取られるような相手ばかりに出会い舌打ちをかます。
(シャドウ、か。)
インキュベーターが主催
それについてほむらは余り驚かなかった。
いてもおかしくはない。そういう奴だと認識してるから。
問題はシャドウ、認識。それらのワードが何を意味するのか。
それがほむらにとってはどういう意味かはまだ分からなかった。
此処まで出会えた参加者は道を違えた少女ただ一人だけ。
その少女だってまともに話し合っていないのだから、
彼女は致命的なまでに情報戦において乏しい領域にいる。
事実上誰一人として参加者の情報を持ち合わせていない。
何より、まどかの名前が出た以上知っていると思って動いた。
……なのだが、まどかの名前を聞いたことで少しばかり先走りすぎて、
交流すればいいだけの所を半ば脅しをかけるようになってしまっている。
「そいつを殺した瞬間貴様を殺す。」
663
:
ニアミス
◆EPyDv9DKJs
:2023/09/29(金) 18:24:48 ID:qA5aa4tg0
インキュベーターが主催。
それについてほむらは余り驚かなかった。
いてもおかしくはない。そういう奴だと認識してるから。
問題はシャドウ、認識。それらのワードが何を意味するのか。
それがほむらにとってはどういう意味かはまだ分からなかった。
此処まで出会えた参加者は道を違えた少女ただ一人だけ。
その少女だってまともに話し合っていないのだから、
彼女は致命的なまでに情報戦において乏しい領域にいる。
事実上誰一人として参加者の情報を持ち合わせていない。
何より、まどかの名前が出た以上知っていると思って動いた。
……なのだが、まどかの名前を聞いたことで少しばかり先走りすぎて、
交流すればいいだけの所を半ば脅しをかけるようになってしまっている。
「そいつを殺した瞬間貴様を殺す。」
オーラを醸し出しながらファフニールは拳を作る。
魔女と何度も、飽きるぐらいに戦ってきたほむらでも気圧されそうな殺意。
先の少女も偶然が重なって勝てた。だがそれが今回もとは限らない。
選択肢を見誤ったかと頬に汗が伝うも、
「まあまあ。見たところまどかちゃん達と同学年みたいだし、
友達の安否って言う可能性もあるかもしれないんだからさ。
だから銃を降ろしてもらえないかな? 時間的にも精神的にも不安だから。」
先の魔力が何かを知りたい。
そういう意味でも早く話し合いのテーブルにつけたい。
勿論現代的な武器と言う存在はドラゴンと交流こそあれど、
終焉帝に出会った小林みたいな危機的状況とは縁遠い彼なので、
銃と言う武器であれば彼女以上に驚くべきものではあるし不安もある。
下手に動けば撃たれる焦燥感をずっと維持されると、
本当にもしもだが変な気を起こしそうなのも含めての提案だ。
ドラゴンと人間が一緒に過ごす非日常的な日常を過ごしていても、
滝谷はどちらかと言えば小林程踏み込んでもいない人間なのだから。
「戦闘はそっちの彼に、交渉はこっちに……仲がいいみたいね。
少し急いでたから、そこについては謝るわ。それで、話を伺いたいのだけど。」
かなりふてぶてしい態度ではあるが、
別に滝谷もファフニールも気にしない性格なのと、
時間も押してる可能性があるので搔い摘んでではあるが話し合う。
カエデを仕留めたのは彼女であったことが分かってもさして驚くことも、
精々狙われたことをちょろっと話す程度でそれ以上のことはなく。
一方でほむらにとっては今までの分を巻き返せるだけの人物を、
更に杏子とまどかの認識のずれも含めて多くの情報を得られている。
「それで南へ行ったはずんだけど、
ファフ君が魔力を感じたみたいだからどうしようか、って状態だね。」
「……まさか、魔女化?」
ファフニールが感じ取った魔力。
単なる魔力ではない可能性を考えると、
最もありうるのであれば魔女化が妥当だと思えた。
「小娘が言ってた奴だな。さやかと言う奴もそうなったと。」
「……答えが分からないわね。」
放送で死亡と言われたさやかは、魔女になっただけで死んでないとか。
マミか杏子のどちらかが何らかの原因で魔女になってしまったのか。
或いは、まどか自身が魔女……なんてことはさすがにないことは分かっている。
あれが出てしまえば世界が終わる。殺し合いそのものが破綻してしまう最早核爆弾。
これだけはないにせよ、此処に来る時間のずれが明確な答えを出すことはできない。
「どちらにしても、まどかがいるなら私は行くわ。
来るかどうかは好きに任せるけど、もし魔女ならやめておきなさい。
何があってもおかしくない。そこの彼を死なせたくないなら、尚更ね。」
一途に想うまどかと言う存在の居場所を教えてくれたからか、
或いはファフニールの在り方が何処か自分に似ていたからか。
その忠告と共にほむらは時間停止を使いつつ移動を始める。
「とのことだが、どうするつもりだ?」
「餅は餅屋かな。それに、魔法少女と関係が深いなら、
杏子ちゃんとも連携はうまくできるだろうから安心だと思う。」
「そうか。」
とりあえず人探しに北か東に行く。
結局のところその方針に何が変わるわけでもなかった。
何も変わらない。二人の関係性のように、ただ淡々と。
此処でついていかなかったのは、ある意味幸運かもしれない。
ファフニールが観測した先にある結界の中にはまどかの死体もあるのだから。
それを見れば、ほむらが何をするかは……最早語る必要はないだろう。
【C-4/一日目ㅤ朝】
664
:
ニアミス
◆EPyDv9DKJs
:2023/09/29(金) 18:25:07 ID:qA5aa4tg0
【滝谷真@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×0〜2(確認済み)、試作人体触手兵器@暗殺教室
[思考・状況]
基本行動方針:好きなコミュニティーを維持する
一.北か東へ。
二.ファフ君がドラゴンとして殺し合いに乗るのを防ぐためにも、まずは自分が死なない。
三.小林さんの無事も祈る。
四.そっか、彼女が……
五.餅は餅屋、向こうの事は彼女に任せよう。
[備考]
※アニメ2期第6話(原作第54話)より後からの参戦です。
【大山猛(ファフニール)@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:左腕喪失(再生中) 人間に対するイライラ(低)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品×0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を殺す。
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ひとまずは滝谷を守りながら脱出の手段を探す。
三.……トール、逝ったか。
四.あの小娘(ほむら)時間に干渉してるのか?
[備考]
※アニメ2期第6話(原作第54話)より後からの参戦です。
※ほむらの能力を何となく感づいてます。
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:89式小銃@現実
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3)、ゴーストカプセル(エクボ)@モブサイコ100
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを保護し、主催側と接触する方法を探す
一.まずはまどかの安全を確保しに南へ向かう。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
665
:
ニアミス
◆EPyDv9DKJs
:2023/09/29(金) 18:25:38 ID:qA5aa4tg0
投下終了です
666
:
◆2zEnKfaCDc
:2023/09/29(金) 19:09:36 ID:bvZj3FOA0
投下お疲れ様です。
滝谷とファフニールから見たトールの死、悲しむというよりはどこか達観して外側から眺めているかのような温度感が好きです。特に開幕のコミュニティに対する滝谷の価値観の描写が本当に滝谷らしくて、メイドラゴン勢の中でもイロモノ感の拭えない彼を参戦させた甲斐があったなあと思いました。
そしてマミさんのところにほむらも向かうことで、そろそろまどマギ勢全体の命運が大きく左右されそうですね。まどかの死自体はいずれ放送での伝達が確定事項ですが……果たしてどうなるのか。
667
:
◆2zEnKfaCDc
:2024/07/15(月) 01:56:14 ID:qTeh7OUw0
霊幻新隆、芦屋四郎予約します。
668
:
◆2zEnKfaCDc
:2024/07/21(日) 18:57:47 ID:Yug6C7So0
投下します。
669
:
亀裂 〜ただ一つ〜
◆2zEnKfaCDc
:2024/07/21(日) 18:59:14 ID:Yug6C7So0
店員の姿を見たきり呆然と動かなくなった芦屋をよそ目にイートインスペースへと足を運んだ俺はまだ、自分の目を疑っていた。
簡潔に言うと、モブの弟、影山律が死んでいたのだ。全身におびただしい数の殴打痕を残して、二度と曲がることの無い手足を糸の切れた人形のようにだらんと垂らし、眼球が飛び出るくらい驚愕に見開かれた目には頭から流れた血が染み込んで。今どきスプラッタ映画でも見ないようなグロテスクな光景が、目の前に展開されていた。
襲い来る吐き気。死体そのものへの忌避感。様々に思うところがあるが、良くも悪くも長い人生でいくつか修羅場をくぐって来たおかげで、どこか麻痺しているところもあるんだろう。流されるほどの感情に襲われることはなかったし、ショックで気絶するようなこともない。
(まずいな、こりゃ。)
だから、悲しみとか怒りとか、そういった感情の代わりに俺に浮かんできたのは、嘆息にも似た率直な感想だった。
まずいというのは、仮にも超能力者である律を殺した存在が近くにあることではない。はたまた、律の死に動揺したモブが暴走しかねないことだけではない。確かにどちらも俺の身の安全に直結する重要事項であるが、そうではないのだ。
ㅤ開始から6時間が経過しようという今になってようやく、この催しが殺し合いであると身に染みて理解したこと。それはかなりまずいことだ。
我ながらあまりにも、認識が甘すぎた。またいつものように口先だけで何とかなると、殺し合いをどこか楽観的に捉えている俺がいた。
(そうだよな。多分、おかしいのは俺たちだったんだよな。)
モブを含む40人以上と真っ当に殺し合って生き残れるなんざ俺は最初っから思っちゃいねえ。生存を優先して考えるなら、脱出を目指すのが一番に決まってる。俺が殺し合いに乗らない理由なんて、それだけで良かった。
そして、芦屋とトールは自分より優先して生き残って欲しい奴がいる。だったらそいつの為に自分を含め他を皆殺しにするという選択肢は浮かびつつも、少なからず自分のことも可愛い以上は共に生き残りたいという欲を最後まで捨てきれないのも当然だ。そんな二人だからこそ、一触即発の空気を醸し出しつつも、対話で何とかなったことについて理論的に説明できる。
……と、まあそういう事情がある俺たちが特殊なケースなんだよ。
芦屋とトールですらも、献身先の生死ひとつでどう動くか分かったもんじゃないんだ。それなら他の奴らなんてなおさら、誰が乗ってても何ら不自然じゃねえ。殺さないと殺される。生存本能に訴えてくる単純明快な恐怖は、法律だとか倫理観だとかそんな一切合切を当然のようにそっちのけにさせて人を獣へと変えてしまう。そんでそいつに、モブみたいな特別な力があろうもんなら、そりゃ人くらい簡単に死ぬに決まってるだろうよ。
670
:
亀裂 〜ただ一つ〜
◆2zEnKfaCDc
:2024/07/21(日) 19:00:35 ID:Yug6C7So0
「……もしかして、お知り合い、ですか。」
「っ……。あ、ああ…………。」
背後から、芦屋が俺に話しかける。先ほどまでと全く変わらない落ち着いた声色だ。だというのに俺は――怖いと思ってしまった。最初から分かっていたことだというのに、今さらになって、人は人を殺すのだと実感してしまった。たとえ相手が休戦の約束を交わした隣人だろうと、所詮は口約束でしかないと思えずにいられようか。
(……まずい。)
この想いを悟られるのは、都合が悪い。そもそも霊能商法は、信用、ただそれだけがカギだ。自分は相手を騙す気がありませんよと、相手に思わせなければならない。しかも、霊能を商売とする人間は少なからず警戒される。騙そうとしていない部分ですらも、歪んだ解釈をされ得る。こっちを警戒している相手に信用を与えるには、自身の人柄に少しの妥協も許されない。
信用、それだけを武器に、芦屋が殺し合いに乗ることに24時間の猶予を取り付けているというのに、俺の側がその約束にヒビを入れてしまっているのが現状だ。俺は今この瞬間、芦屋を信用しきれずにいるのだ。
「わ、わりぃな。ちと、死体にビビっちまったみたいだ。あー……アレだ。ほら、外の空気でも吸ってくるわ。」
「え、ええ……。お気をつけて。」
不自然なほどにぎこちない素振りで、俺はマグロナルドを出ていった。変に勘繰られちまったかもしれないが、背を向けたがために芦屋の視線が如何なるものか分からない。
外に出ると、太陽が顔を出そうとしていた。見るのが最後になるかもしれない日の出を前に、綺麗だなんて、どこか浮かれた感想が湧いてくる。
何をするでもなく、無気力にただぼーっとしていると、どこからか声が聞こえてきた。
「――やあ、調子はどうだい?」
「のわっ!?」
テレパシーによってなされる第一回放送。突然の声に驚いてピンと張る背筋。痛めた背中を擦りながら、その続きを聞き始める。
予想通りと言うべきか、影山律の名前も読み上げられた。いつかの時みたくモブの感情に火をつけるために死体を偽装しているんじゃないか、なんて希望的観測も湧いてこない。
それよりも問題なのは、その後だった。
「――小林トール。」
「……は?」
たった一言、名前だけの情報伝達。
俺たちの元同行者の名前を呼んだ放送は、間もなくして終わる。再び静まり返った空気の中、力無く一言。
「誰なんだよ、おめーは……。」
当然、返事は返ってこない。
早朝の冷たい風だけが耳を通り抜けていった。
671
:
亀裂 〜ただ一つ〜
◆2zEnKfaCDc
:2024/07/21(日) 19:01:31 ID:Yug6C7So0
(さて、どうするかな、これから。)
芦屋も、おそらくは同じ内容を聞いているんだろう。
テレパシーなのだから、個人ごとに異なる内容を与えてこっちを撹乱することも可能かもしれないが、そんなことをしても少しの対話によってその矛盾は明かされる。そんなことをする労力と得られる結果が全く釣り合っていない。
つまり、放送内容に嘘偽りや撹乱なんてものはなく、本当にトールは死んだと考えるのが妥当だ。
そして、それ自体は何もおかしくはない。銃撃戦の起こっているところに単身乗り込んで行ったのだから、そんな結果にもなりうるだろう。ドラゴンなのだから死なないなんて、そんな無根拠な空想はナシだ。俺はドラゴンの頑丈さを知らないからな。
となるとこれからやるべきことの話か。
第一に決めるべきは、トールの向かった場所をどうするかだよな。トールが死ぬような戦場がそこにあるのなら芦屋は魔王様とやらが心配だろうが、俺は断固として行きたくない。銃弾が飛び交う戦場なんざ生身で向かおうもんなら1秒で死ねる。
じゃあ霊とか相談所で脱出の手がかりを探すって方向性で言いくるめるしかないか。
まあそっちなら安全ってわけでもないんだがな。安全な場所なんてどこ探してもねえだろ。
つまり今からやるべきは、芦屋との対話だ。
トールの向かった場所が気になるであろう芦屋を、どうにか霊とか相談所に向かう自分の護衛に方針転換させる。相手のやりたいことを捻じ曲げようってんだから骨も折れるってもんだろう。24時間の期限を守れと主張するのも手だ。トールよりも芦屋の方が、堅物というか義理堅いというか、契約をたてに迫るのが効果的なように見える。
――と、そこまで考えて。
(……なんつーか全部、どうでもよくなってきたな。)
なんて。
土壇場で突然めんどくさくなるのは、よくある話だ。
気が付くと俺は、元いた場所へとのそのそと歩き始めており、自動ドアをくぐって芦屋の方へと歩いて行った。
「待たせたな。俺はこのまま事務所に向かうが、お前はどうする?」
ああ、全部どうでもいい。何でこいつのどうしたいかってことやどうすべきかってことまで俺が考えにゃならんのだ。俺はマネージャーじゃねえんだ。お前が決めろ、お前が。
「ご一緒しますよ。」
「そうか。じゃあ来い。」
拍子抜けするくらいに、話は一瞬で纏まった。うだうだ難しいこと考えるより、とりあえずぶつかってみる方が早い。万事に通ずる心構えってわけではないが、今回はそれでうまくいくパターンだったようだ。
「……良かったのか? トールが向かった先に行かなくて。」
何なら、あまりにもうまくいきすぎて逆に不安になってきた。
「ドラゴンすらも殺す敵がいるのに、その正体も分からぬまま向かうのは危険ですから。」
「まあ、それならいいんだが。」
「それより、脱出の手がかりを逃さない方が重要です。」
と、期待を込めた眼差しで俺の方を見つめてくる芦屋。大体俺は、PCを扱えるとはいってもあくまで人並みだ。解析とかハッキングとか、そんな外れ技はできないのだが……相手方の期待ばかりが先行している、いつもの状況。内心、少しため息をついた。
672
:
亀裂 〜ただ一つ〜
◆2zEnKfaCDc
:2024/07/21(日) 19:02:32 ID:Yug6C7So0
■
『――遊佐恵美。』
それは、咀嚼なしに飲み込むにはあまりにも衝撃的な内容だった。トールの死に驚愕しているところに、追撃とばかりに与えられた、信じ難い情報。
(まさか、勇者エミリアが死ぬとはな……。)
悪魔大元帥アルシエルこと芦屋四郎が放送から伝えられたのは、魔王様のライバルである、勇者の死だった。
真っ先に思い浮かんだのは、魔王様の安全について。
魔王様を優勝させることを目論んだ芦屋も、魔王様の実力に対し心配があったわけではない。魔王様は、これまでどんな苦境も"周囲を味方につける"という、ある種の自力で乗り越えてきた。まるで奇跡と言わんばかりの生還劇を、何度も何度も目にしてきた。
だが、ドラゴンであるトールが、そして魔王様を異世界にまで追い詰めた遊佐が死ぬこの世界。魔王様は大丈夫などと、軽率に言える事態ではなくなっている。
霊幻が脱出の手がかりを探すまでに24時間の猶予がある。だが、たったの6時間でトールや遊佐を含む7人もの人が死んだ。その4倍もの時間を、霊幻に投資する価値が果たしてあるのか?
「待たせたな。俺はこのまま事務所に向かうが、お前はどうする?」
「ご一緒しますよ。」
「そうか。じゃあ来い。」
見極めなければ。
この、霊幻新隆という男を。
もし、霊幻の力を以てしても脱出の手がかりが見つかる期待が薄いと分かったら、その時は――
【E-6/マグロナルド幡ヶ谷駅前店/一日目 朝】
【芦屋四郎@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:一先ずは霊幻に協力するが、優勝者を出すしかないなら真奥貞夫を優勝させる。
一.魔王様はご無事だろうか……。
二.魔王様と合流するまでは、協力しつつ霊幻さんを見定めましょう。もし、期待に沿わないのなら――
※ルシフェルとの同居開始以降、ノルド・ユスティーナと出会う以前の参戦です。
【霊幻新隆@モブサイコ100】
[状態]:健康
[装備]:呪いアンソロジー@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝以外の帰還方法を探す。
一.俺の事務所で情報収集できりゃいいんだが。
二.モブたちも探してやらないと。
三.殺し合いへの実感が、ようやく湧いてきやがった。
※島崎を倒した後からの参戦です。
673
:
◆2zEnKfaCDc
:2024/07/21(日) 19:03:00 ID:Yug6C7So0
投下完了しました。
674
:
名無しさん
:2024/07/21(日) 21:27:55 ID:fB3cT7NI0
投下お疲れ様です
応援していたロワなのにこのままエタるんだと思っていたので、更新が来てくれて非常に嬉しいです
霊幻の原作さながらのヘタレ入った内面の書き方、◆2zEnKfaCDc様にしか出来ないと思います
良いキャラしてますよね霊幻。実はこのロワをきっかけにモブサイコ100と虚構推理を呼んで、霊幻大好きになったので、今回も良いキャラしてる霊幻が見れて嬉しいです
芦屋四郎の方はもっと放送が響いているような気がしますね。渚やマミさんに次いでマーダー化するのか気になります
675
:
名無しさん
:2024/07/23(火) 22:48:45 ID:LQ3LhNlc0
投下お疲れさまです。
この先亀裂が更に増えそうな不安感漂う内容。
霊幻さん物や場所を探すより、他参加者との接触を増した方がペースを維持できるんじゃないかな。
心配とかではなくキャラの持ち味的に。
土壇場での底力に期待。
芦屋は霊幻さんより追い詰められてる様な感じ。
力は上でも長期的に頼りがいのありそうなのは霊幻さんの方で、展開が動く他参加者との接触か分岐になりそう。
程よい緊張を持たせるいい幕間でした。
676
:
名無しさん
:2024/07/26(金) 17:16:39 ID:qp9B3zUI0
投下乙です
霊幻の性格的に、目に見えてうろたえることは無いだろうとは思っていたけど。
ここで自分の認識の甘さを自覚して、そこから冷静に思考を重ねて……でも面倒になっちゃうのは霊幻らしさ、霊幻にしか出せない風味だと思うwww
不穏な芦屋もいることだし、今後の立ち回りは気になるところだなぁ
677
:
◆2zEnKfaCDc
:2024/08/01(木) 00:42:55 ID:gt.h8CI.0
皆さん感想ありがとうございます。
長らく離れていたので覚えてもらえているか不安もありましたが、これだけの歓迎の声で迎えていただけて、嬉しい限りです。
嬉しかったのでゲリラ投下します。
678
:
恋人未満でもキスが発生することはある
◆2zEnKfaCDc
:2024/08/01(木) 00:44:18 ID:gt.h8CI.0
殺し合いに乗っていたマリアさん。そんな彼女と共に元の日常に帰ることを諦めたくない歩は考えた。マリアさんを止められるのは自分ではなく、ずっと一緒に過ごしてきたナギちゃんであると。そう方針を決めるところまでは、スムーズだった。
「……で、どこにナギちゃんはいるのかなぁ?」
「や、俺知らねえ……。」
「うーん、前途多難の予感。」
結局、そこが分からずじまいでは何も進展しないというものである。手当たり次第にそこらの草むらをかき分けて探すその様たるや、まさにエサを漁るハムスターのごとし。
「そうだ、アテとかねえのか? アジトにしているとことか。」
「アジト?」
「あっ……。」
「……竜司君にはアジトがあるのかな?」
「う……。それは……。」
何故か、こういう時だけ察しがいいのが西沢歩という女の子だ。
竜司が地図を見た時に、真っ先に目に留まったのは純喫茶ルブランの名前だった。
学校で怪盗団について話し合っていて新島先輩に目をつけられてから、秘密の話をする時は、ジョーカーこと雨宮蓮の住む部屋を怪盗団のアジトとして使っていた。ルブランに向かえば怪盗団の皆で集まることもできるかもしれない、という思いは常にあった。
ゆえに、口をついて出た一言だった。何にせよ、口は災いの元とは、よく言ったものである。
「アジトといえば……そういえば竜司君、姫神って人に怪盗がどうとか言われてたよね?」
もう一度申し上げよう。
何故か、こういう時だけ察しがいいのが西沢歩という女の子だ。
「……だーっ、ここまでバレてちゃ誤魔化せねえっての。」
観念したように竜司は項垂れる。
「内緒にしといてくれよ? 俺、怪盗団なんだよ。」
「な、なんですとー!?」
と、大袈裟に驚いてみせる歩。しかし次の瞬間には、首を傾げて不思議そうな顔になる。
「……で、その怪盗団って何なのかな?」
「……へ、怪盗団知らねえの?」
それは、竜司には信じられない言葉だった。
元の世界では、少し外を歩いてみようものなら、そこら中から心の怪盗団【ザ・ファントム】の噂が聞こえてきた。それほどに、怪盗団の存在は世界を揺るがしていたはずだった。
だが、興味無いとか好きじゃないとかならまだしも、歩は怪盗団を知らないと言う。そんなこと、ネットの普及している現代で有り得るのだろうか。
679
:
恋人未満でもキスが発生することはある
◆2zEnKfaCDc
:2024/08/01(木) 00:45:29 ID:gt.h8CI.0
「テレビ見ねえとか?」
「家族でいっつもつけてるよ?」
「マジ?」
そして竜司は、怪盗団とは何か大まかに話した。だが、やはり要領を得ない。むしろ話せば話すほど、両者の溝は深まっていくばかりだ。
例えば、巷で起こる精神暴走事件が歩の知る元の世界では起こっていないこと。
例えば、歩がいた世界を賑わせたUFO墜落事件が竜司のいた世界では起こっていないこと。
例えば、水蓮寺ルカやりせちーという、それぞれの世界のお茶の間定番のアイドルを、相手が知らなかったこと。
「もしかしたら、私と竜司君、別の日本から来てる……とか?」
……と、最も核心的な事象を突いたのはやはり、何故かこういう時だけ察しがいい歩であった。
「いや、そんなわけねえだろ。」
「そうだよね、まさかそんなこと!」
しかし、核心には至らない。核心に近付くだけ近付いて全力Uターンをかますのが歩である。
「でも、悪い人を改心させちゃう怪盗かぁ。何だかそれ、ヒーローみたいだね。」
「へへ……そうだろ?」
どこか照れくさそうに竜司は鼻頭を掻く。怪盗団バレしたことはこれまでにもあったが、その時は知られてしまったことへの危機感が大きかった。
しかし今回は、歩が怪盗団を知らないという要素がある。世論とか立場とか、そういった煩わしいもの抜きに伝わってくる尊敬の気持ち。だから真っ直ぐに伝わって、素直に受け取ることができる。
「っていうか歩はどうなんだよ?」
「どうって?」
「ここに呼ばれる前はどんな風に過ごしてたんだ?」
一方で、ダイレクトに褒められていると恥ずかしくなるのも男の性か。ついつい話題を変えにかかった。
「私はねぇ……」
ごくり、と竜司が唾を飲む。
怪盗団である自分が殺し合いに集められた。すなわち、この殺し合いには変わった経歴を持つ人間ばかりが集められているのではないかと、そんな予感がどことなく漂っている。
普通の女の子にしか見えない歩の口からは一体、どんな壮絶な過去が語られるのだろうか。
680
:
恋人未満でもキスが発生することはある
◆2zEnKfaCDc
:2024/08/01(木) 00:46:11 ID:gt.h8CI.0
「……高校に通ってたよ!」
時が止まった。
ちょうどその頃、どこかでパレス内の時間を止めている魔法少女がいたのだが、それは別の話。その場の空気が凍り付いたように会話が停止したのだ。
「えっと……他には?」
「あれっ!? もしかして私って、何も無い!?」
普通の女の子として生きてきた自覚はある。
……が、自慢できるのはそれだけだ。
ハヤテ君のように1億5000万円の借金などしていないし、ナギちゃんのように大金持ちでもないし、ヒナさんのように完璧超人でもないし、竜司君のように怪盗でもない。
そう、私には何も変わったエピソードが無いのである。
「私って、一体……。」
「ま、まあまあ。波乱万丈じゃねえのはいいことなんじゃねーの、多分。」
「もしかしてハヤテ君と恋人になれないの、こういうとこなのかな……。」
「……えーっと、ハヤテ君ってあれか? 名簿にいる綾崎ハヤテ……だっけ?」
「うん、そう……。昔から好きな人だったんだ……。まあこの前フラれちゃったんだけどね……。」
「あー……それはなんつーか、ドンマイ……。」
「やっぱり私なんか、死んだ方がいいのかも……。」
「イヤ、落ち込みすぎだろ……。元気出せって。」
「うん……死んだ方がいいのかも、じゃないよね。」
「ああ……って、わっ……ちょっ、おい、何だ?」
歩はゴソゴソと、竜司のザックを勝手に漁り始める。竜司から見て背中側に手を回しているため、何を取り出そうとしているのかは見えない。
間もなくしてザックを漁り終えた歩。振り返ってその手に持っているものを見た瞬間――竜司の目の色が変わる。
「――いっそ今すぐ死ぬべきなんじゃないかな?」
681
:
恋人未満でもキスが発生することはある
◆2zEnKfaCDc
:2024/08/01(木) 00:47:01 ID:gt.h8CI.0
歩が手にしていたのは、マリアから没収したチェーンソー。それを躊躇う素振りも見せず、自分の首筋に押し当てている。
もう一方の手が、チェーンソーの起動スイッチへと伸びる。そのスイッチが押されたら――その先の未来は、言うまでもないだろう。
「――キャプテン・キッドォ!」
咄嗟の判断で権限させたペルソナ。【電光石火】の如き一撃が、正面からチェーンソーを吹き飛ばした。
「はぁ……はぁ……危ねぇっての……冗談にしてもさすがにやり過ぎだろ……!」
湧き上がる恐怖心。
どこか虚ろな目でチェーンソーを自分の首筋に当てる歩のあの迫真さ、冗談でやっていい一線を完全に超えていた。
だが、竜司の恐怖はそこに留まらない。
「――竜司君、どうして意地悪するのかな?」
ふらふらとゾンビのような足取りで、竜司へと近付いてくる歩。またあの目だ。こっちを見ているのか、それとも自分を通してその奥の景色を見ているのかさえも分からない、虚ろな目。
「竜司君だってさっき、死のうとしてたよね! だから一緒に死んであげるって言ってるのに。」
「おい……歩……ぐうっ!」
竜司にとって、予想だにしていない襲撃だった。
首筋を掴まれて、そのまま力を込めて締め上げられる。それは、ただの同年代の少女とは思えないほどの力だ。
「独りって寂しいでしょ? だから私が一緒に死んであげるんだ!」
闊達な笑顔を振り撒きながら、手のあらゆる血管を浮き上がらせながら凄まじい力で竜司の首を絞める歩。
人は本来、他人を攻撃する時であっても無意識に力を抑えている。その要因は相手を傷付けることへの罪悪感であり、はたまた反力で自分が傷付くことへの忌避感でもある。今の歩からは、それが感じられない。肉体の限界まで、力が込められている。一般的な男女の体格差に加え、心の装甲を反映した怪盗服姿の時の力を以てしても、華奢な歩の腕から竜司は抜け出せない。
682
:
恋人未満でもキスが発生することはある
◆2zEnKfaCDc
:2024/08/01(木) 00:47:36 ID:gt.h8CI.0
「……させないわ。」
――間に、誰かが割って入るまでは。
何者かが歩を蹴り飛ばし、締まっていた竜司の首が解放される。
「げほっ……ごほっ……くっ、一体何が……」
咳き込みながらも現状理解のために、何とか前を向く。乱入者は、白い装束に身を包んだ黒髪の少女だった。その手には拳銃を手にし、歩を苦々しい表情で見ている。
「と……とりあえず待ってくれ! アイツ、突然暴れ出しちまったけど、悪い奴じゃねえんだ!」
「わかってる。」
次の瞬間だった。
何をしたのか竜司にも分からないまま、黒髪の少女――暁美ほむらは歩に足払いをかけて制圧していた。突然抜け落ちた足場に小さく「わっ」と間の抜けた声を上げながら倒れた歩。その後、ほむらの締め技によって昏倒し、その目を閉じる瞬間まで、ずっと虚ろな目でこちらを見ていた。
「な、何が起こったんだ……?」
まるで瞬間移動でもしたかのごとき動きを見せた少女。まだ信用していいのか以前に、どう警戒していいのかさえ分からない。歩の方に目配せしながら、出方を伺うしかなかった。
「――魔女の口付け。」
「……え?」
「この子の首を見て。」
言われた通りに歩の首筋を見る。そこにはいつの間にやら、蝶を模したような印が刻まれていた。
「何だ、これ……。」
「魔女は周囲の人間に、魔女の口付けという刻印を残すの。私はその元凶を、今から退治しに向かうところよ。」
「そうか……歩をこんな風に操った奴がいるんだな! じゃあ俺も……」
「やめておきなさい。」
意気揚々と前に出た竜司を、ほむらは冷たい口調で制止する。
「その子から目を離したらその子、また自殺し始めるわよ。……最悪の場合、さっきのあなたみたいな周囲の人間も巻き込んでね。」
「そんな……。」
竜司は、拳を握り込む。
この拳は、幾度となく振るう時を間違えてきた。
鴨志田の挑発に乗って手を出して、札付きのレッテルを貼られた時。
姫神への怒りのままに先走って、罪もない女の子が殺されてしまった時。
ここで元凶をぶちのめしたいという気持ちが、今度は歩を殺し得るというのか。
683
:
恋人未満でもキスが発生することはある
◆2zEnKfaCDc
:2024/08/01(木) 00:48:05 ID:gt.h8CI.0
「ちくしょう……俺は……無力だ!!」
握り込んだ拳は、思い切り地面に叩き付けられた。砂利が打ち付けた箇所に突き刺さり血が滲んでも、それ以上に痛むものが胸の中にあるのだ。
自分の身勝手な行動で他人を殺めてしまい、死のうと思っていたあの時。
息をして生を実感するのも痛いくらいに、感じる全ての感覚が憎らしくて、辛くて、苦しくて……。そんな感情を、歩に押し付けた奴がいる。
絶対に許せないのに、どうすることもできない。
その選択が歩の命を奪い得ると、突き付けられているのだから。
「……別にあなたのコンプレックスに構う義理も暇もないけれど、これだけは言っておく。」
だけど、その時。
時間停止による擬似的な瞬間移動によって、その場を立ち去る直前、ほむらはたった一言、竜司に言葉を残した。
「その手がどう汚れていたとしても、その手でしか掬えない命がある。それは無力さなんかじゃない。どうか、忘れないで。」
それは、優しさとは少し違う。
竜司は姫神に明確に反逆の意思を示した人物だ。ここでその牙を折ってほしくないという打算だった。
「……ああ、そうだな。」
だけど、その言葉は確かに竜司の胸に響いた。だからその言葉の真意など、些細なことなのだろう。
「情けねえ、また間違えるところだったぜ。」
奪われ続けた無力な者だからこそ、反逆の意思は牙となり強者を挫くことができる。それは、他でもない心の怪盗団の美学じゃあないか。
目の前には、気絶している歩がいる。
その目を開ければ「おなかすいた」なんて口走りそうなほどに、穏やかな顔つきだ。
とても、先ほどまで自殺未遂をしていたようにも、これからも自殺を図り続けるようにも見えない。
それくらい、落ち込んでいるのが似合わない歩。
そんな彼女だったからこそ、自分は救われたのだ。
(今度は俺が、絶対に救ってみせるから……歩も、魔女とやらのキスなんかに負けんじゃねえぞ。)
――ペルソナ使いには、パレスが生じない。仮に心が歪もうとも、その歪み自体を正しく認知できるからだ。
故に竜司は、魔女の口付けによる精神干渉を受けることはない。もう彼の反逆の意思は、正しい方向を向いているのだから。
【C-4/平野/一日目 午前】
【坂本竜司@ペルソナ5】
[状態]:健康 SP消費(極小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(未確認) マリアの基本支給品、チェーンソー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反逆する
一.歩の自殺を止める。
二.歩と共に殺し合いに反逆して姫神を倒す
三.三千院ナギを探し、マリアの下へ連れていく
四.死んでしまった女の子の関係者に出会ったら、許してもらうまで謝る
五.他の怪盗団のメンバーと歩の関係者に早く出会いたい
六.姫神を倒した後、歩にラーメンをおごる
※歩とのコープが4になりました。
※竜司に話しかけていたシャドウは幻覚か本当かはわかりません。また、出現するかは他の書き手様にお任せします。
※参戦時期は9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:気絶 魔女の口付けの影響下
[装備]:ヘビーメイス@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料消費小)、不明支給品0〜2(本人確認不明) マリアの不明支給品(0〜2)(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:死ぬ。
一.皆で死にたい。
二.ナギちゃんもマリアさんも一緒に死ぬ。
三.竜司君とも死にたい。
四.ハヤテ君…私、ハヤテ君だってあっちに連れて行ってみせるよ。
※竜司とのコープが4になりました。
獲得スキル
「ツッコミトーク」相手との会話交渉が決裂した時に、異世界の人物であれば、交渉をやり直せる
「ハムスターの追い打ち」竜司の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※参戦時期はアテネ編前
684
:
恋人未満でもキスが発生することはある
◆2zEnKfaCDc
:2024/08/01(木) 00:48:34 ID:gt.h8CI.0
「やっぱ甘ちゃんだな、お前は。」
時間停止の効力の範囲外にしているエクボがほむらに話しかける。
「何が言いたいの。」
「俺があの女の子に取り憑けば良かった話じゃねえか。俺が直接操れば、ながら作業での遠隔操作なんかに肉体と精神の主導権争いで負けるはずがねえ。そしたら、あの竜司って奴も戦いに加えることが出来てたんじゃねえか?」
そうすれば、竜司にわざわざ不器用な言葉なんか投げかける必要もなかっただろう。むしろ、竜司は魔女退治に加わることが本望だと言わんばかりの意欲を示していた。生き残るためには、利用して然るべき人材だ。
「別に、わざわざあの二人を巻き込むものでもないわ。特にあの女の子の方は戦闘力も無さそうだし。」
「でも弾除けにゃあなる。」
「……。」
「その発想が出ねえとこが甘ちゃんだっつってんだ。」
エクボは、茅野カエデを殺害したほむらに期待をしている。
モブとは違い、持っている力を合理的に、自分のために使うことができる人間。ほむらは進む先を間違えない、と――狂気にも似た鹿目まどかへの奉仕のスタンスを知らないからこそ、そう思っている。
だが蓋を開けてみれば、まだ甘さが目立つことにも気付いた。それでも歳不相応の合理性に基づいて行動していると言えばそうなのかもしれないが、今回の一件のみならず、滝谷真とファフニールをあえて同行させなかったことについても同じように思わずにはいられなかった。
「……それを甘さだというのなら、それでもいい。」
少女の首輪が爆破されるのを目の当たりにした竜司がこの世の終わりのような顔をしていたのを、ほむらは覚えている。
あれは、絶望の表情だった。姫神が"正義の味方"と評していたのも、頷けるというものだ。
そんな正義の味方に、魔女退治の片棒を担がせるわけにはいかない。
『――ソウルジェムが魔女を産むなら、皆死ぬしかないじゃない! 貴方も、私も……』
嫌な記憶に蓋をするように、小さく首を横に振った。
そう、私は――狩っているものの正体を知ってしまった正義の味方の末路を、知っているのだから。
「私はずっと変わっていないわ。全ての魔女は、私独りで片付けると、そう決めたの。」
そしてほむらは、辿り着いた。かつて正義の味方だった少女の、成れの果て――おめかしの魔女の魔女結界。
結界の入口付近に、周囲の空間ごと繋ぎ止めるかのごとく装飾されたリボンの数々。独りを受け入れられなかった少女を象徴するそれらを見て、魔女の正体に察しをつけたほむらは小さく、言葉を零した。
「……巴マミ。やっぱりあなたとはいつも、相容れないわ。」
【C-4/D-4境界付近/おめかしの魔女の魔女結界/一日目 午前】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:89式小銃@現実
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3)、ゴーストカプセル(エクボ)@モブサイコ100
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを保護し、主催側と接触する方法を探す
一.おめかしの魔女@魔法少女まどか☆マギカを討伐し、この方面に向かったというまどかの目先の危険を取り除く。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
685
:
◆2zEnKfaCDc
:2024/08/01(木) 00:49:07 ID:gt.h8CI.0
以上で投下を終了します。
686
:
名無しさん
:2024/08/02(金) 23:58:35 ID:29q9y6.I0
お疲れさまです。
ナギ・モルガナ組に次ぐライトなコンビが遂にシリアスな障害にダウンさせられましたか。
導入部の西沢さんの鋭い面と残念な面とハムスターな面が見れ、和んできたところで急転直下の心中ムーブでじわりと驚きました。
せっかくコープが4になったのに。
ドライに成り切れないほむらのフォローに彼女らしい安心と切なさが。
まどかはもう死んでるんだよ。
エクボの提案が俗欲的ながらも最善に近いのが皮肉と世の不条理の慣れが感じられて良いですね。
竜司の決意が目前の問題の解決に繋がるか、空回りの悲劇に終わるか気になる展開で、不透明さが堪らない話でした。
687
:
◆s5tC4j7VZY
:2024/08/13(火) 08:58:01 ID:Xwex7Q9o0
投下お疲れ様です!
それと遅くなりましたが、第一放送おめでとうございます。
ニアミス
ロワの放送後の話って、死者を弔う描写が肝だなと個人的に思っているので、冒頭の描写ですが、滝谷の描写が巧みだなと。着実に崩壊していくコミュニティ……今後に注視したいです。
「奴がもし死んだとするならば、人を知りすぎたかもしれんな。」
↑
個人的に凄くしっくりするセリフで好きです。
亀裂 〜ただ一つ〜
口約束で繋がっているこの二人にとって、今回の話はターニングポイントになりそうですね。
果たしてこちらのコンビの行く末にも個人的に注視しています。
そんな無根拠な空想はナシだ。俺はドラゴンの頑丈さを知らないからな。
俺は断固として行きたくない。銃弾が飛び交う戦場なんざ生身で向かおうもんなら1秒で死ねる。
俺はマネージャーじゃねえんだ。お前が決めろ、お前が。
↑読んでいて、霊幻が霊幻だと。好きです。
恋人未満でもキスが発生することはある
最初、タイトルを目にしたとき「なんですとー!?」とドキドキしちゃいましたが、キスはキスでも「魔女の口づけ」だと判明した時は、2zEnKfaCDc さんの手のひらで踊らされたな…と(笑)
果たして、一般人(佐々木千穂)を死なせてしまった正義の味方は、一般人(西沢歩)を守ることができるのか、先が楽しみです。
「別に、わざわざあの二人を巻き込むものでもないわ。特にあの女の子の方は戦闘力も無さそうだし。」
「でも弾除けにゃあなる。」
「……。」
「その発想が出ねえとこが甘ちゃんだっつってんだ。」
↑エクボのドライさが合っていて、やり取りが読んでいて脳裏に浮かびました。好きです。
投下します。
688
:
さらば青春の光
◆s5tC4j7VZY
:2024/08/13(火) 08:58:42 ID:Xwex7Q9o0
青春は短い。宝石の如くにしてそれを惜しめ。
倉田百三
「無事に下山できたわね」
「う……うん。……そう……だね」
あれから私たちは特に問題なく下山できた。
殺し合いに乗った参加者にも出会うことはなかった。
つまり、夜空から陽が出てくるまで二人きりで過ごしたということになる。
思春期真っ只中の中学生が夜から夜明けを過ごす……
こんな状況を殺せんせいーに見られたら、ネタにされるわね
地球を破壊しようとする超生物は、生徒の恋愛ネタを追い求める下世話の一面を有している。
※殺せんせーの弱点⑬ 下世話
チラリと彼を見る。
両手を膝に置いて深呼吸しながら肩を大きく上下に動かしている。
これでも無理しないコースを選んだはずだが、インドア派の彼にはやはりきつかったようだ。
でも普通の中学生はそれが当たり前。
多くの中学生は、裏山でフリーランニングの訓練なんかしない。
ナイフを使った戦闘術なんか体育の授業で教わらない。
私だって、E組の担任に殺せんせーが着任しなければこうした身体能力を身につけることはなかっただろう。
とはいえ、たしか超能力をもっているのよね
正直、最初【超能力】なんて聞かされたときは、”まぁ……そういう年頃ね”と軽く受け流そうと思ったが、実際に見た以上は受け入れるしかない。
というより自称超生物である殺せんせーの存在がまず超常現象なものだ。
案外、世界には彼のような力を持つのがごろごろいるのかも知れない。
そう考えると、普通の中学生の定義ってなんなのかしらね。
(……)
もし、影山がE組にいたら殺せんせーをどう暗殺するのかしらね。
ふと、ありえない想定をしてしまう。
超科学の結晶である律でさえ、単独では殺せんせーを暗殺することはできなかった。
なら、超能力では?磯貝やカルマの指揮を活用すれば、あるいは?
(……)
はぁ……ばかね。出会ってまだ6時間程しか関わってない人間に、こんな想定をするなんて
そもそも、私って他人と交わるより影(一人)を好むはずだった。……自分で言うのもなんだけど、変わったものね
これもE組の連中と過ごした影響かしら
……そろそろ、移動を開始したほうがよさそうね
689
:
さらば青春の光
◆s5tC4j7VZY
:2024/08/13(火) 08:59:01 ID:Xwex7Q9o0
「どう?そろそろ歩けそうかしら?」
「うん……だ……大丈夫。待たせてごめんね」
「気にする必要はないわよ。ただでさえ整備されていない山道。並の中学生だったらへばっているわ。それなのに、そんな道を文句言わず歩いたのだから、肉体改造部で鍛えている体力がつきはじめている証。自信を持ちなさい」
「でも」
「?」
「狭間さんが、僕の体力に合わせてくれたのが伝わった。歩くスピードだって調整してた。出会ってからずっと思ってたけど、やっぱり狭間さんは良い人だ。ありがとう」
「……別に。疲労困憊な状況で襲われたらひとたまりもないっていう打算的な考え。お礼をいう必要はないわ」
「それでも、自分の気持ちを大事にすると決めたから。」
「……」
そう面と向かって感謝をいわれると照れるわ……
……そうね。この悪趣味な催しから生還できたら、寺坂達に加えて影山の分のチョコも作ってあげようかしらね。
そのためには、連絡先を聞かないと……って何考えてるのかしら
でも……私達は中学生。文字での世界でしか感じなかったけど、青春ってこういうことを指すのかもね
我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【魔術師】のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、更なる力とならん…
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!
コープのランクが4に上がった! ……ぬるふふふふ
「ねぇ……」
《え?》
「うちの担任みたいなふざけた口調ださないで。呪うわよ?」
《あ、はい……すみませんでした》
それにしても、姫神の狙いは何なのかしら。
影山にも話したけど、私達は蟲じゃない。
だからこその爆弾首輪(脅し)なんでしょうけど、裏を返せば、積極的な参加者は少数の可能性が高い。なら、スタート開始時刻から考えると、そこまで殺し合いも起きてないのでは。
つい頭をよぎる甘い考え。
だけど、そんな甘い考えはすぐに吹き飛ばされた。
放送が流れた。
先生と同級生の名前が呼名された。
2人の間にかすかにあった青い空気が殺された。
☆彡 ☆彡 ☆彡
690
:
さらば青春の光
◆s5tC4j7VZY
:2024/08/13(火) 08:59:54 ID:Xwex7Q9o0
「……」
烏間先生。
クラスの副担兼体育教師。
本職は防衛省の職員だけど、うちの担任(殺せんせー)を殺すために私達を鍛えてくれていた。まぁ、私の好みの顔ではなかったけど、倉橋をはじめとした一部の女子に人気があったし、いい先生だったと思うわ。
……少なくとも本校舎の教師達より教師だった。
エンドのE組に移籍させられて濁っていた私達にいつも真剣に向き合っていた。
堅物という言葉が合う先生だが、真っすぐな目で生徒(私達)を見てた。
片や本校舎の教師たちときたら、落ちこぼれはどこまでも落ちこぼれ。関わりたくない。厄介ごとに巻き込まれたくない。といった視線に態度。
お前のおかげで担任(オレ)の評価まで落とされたよ
唯一良かったのはもう陰気なお前を見ずに済むことだ
そう、お前。えーと、き……ん?お前なんて名前だったっけ?
侮辱。決めつけ。保身。無気力かつ無活発なでもしか先生ばかり。
そう……先生(あの人)にお礼(ありがとうございました)を伝えて高校生になることは、もうできないのね
「……」
そして、茅野カエデ・・・・・・クラスの同級生。
殺せんせーを殺すためにサポート役に徹するのかと思えば、巨大プリンを使った暗殺を計画し、陣頭指揮を行うなど行動的な一面もある子。
特段親しい仲というわけではない。
おそらく、卒業したら会う機会もほぼないだろう。
しかし、同じ教室で日々を過ごしてきた。
一つの目標(暗殺)に関わってきた。
無関心でなんかいられない。
それと、親しさでいうならむしろ、瀬田の方。
瀬田渚。一見、平々凡々としたクラスの一男子。
でも、あのクラス(E組)で一番の暗殺力を有している。
私は国語力だけの暗殺者。それだけに、嫉妬することもある。
だって銃とナイフと暗殺が先生と生徒を繋ぐ絆なんだから……
「本当……やってくれるわね」
691
:
さらば青春の光
◆s5tC4j7VZY
:2024/08/13(火) 09:00:12 ID:Xwex7Q9o0
理不尽。カフカの変身やカミュの異邦人の如く不条理の極み。
同級生は”殺し合い”だから”死にました”で、はいわかったわと納得なんかできるわけない。
姫神とその協力者であろうキュウべえを呪い殺せるなら殺したい。
だってもう、全員がそろっての卒業はできないのだから。
でも、先生と同級生の死を悲しむ暇はない
隣から怒りを感じたから。
今まで肌で感じた中で一番の怒り。
4月、潮田を脅して、自爆特攻を行わせた寺坂達に向けた殺せんせーの怒り以上の。
その怒りは殺気にも似ていて、それは最高と名高い殺し屋”死神”以上の。
その原因は直ぐに理解できた。
影山律。
そう、先ほどの放送では、私の知り合いだけではなかった。
影山の弟さんの名前も呼名された。
身内が亡くなったのだ。どす黒い闇の感情は当然。
そして、その顔は―――
――― 100% ―――
ブワッ!!!!!
周囲の地面は崩壊し、視界に映る世界は激変する。
私は抗うことが出来ずに吹き飛ばされる。
先ほどの顔を想起する。
……そんな顔するんじゃないわよ。
呪うに呪えないじゃない。
違った。
力を過信したかつての私達でも底知れぬ闇でもなかった。
あのとき私の瞳に映ったのは、涙を流す同じ中学生だった。
―――ガンッ!!!
かくして青春は過ぎ去った。
来るは嵐。
全てを吹き飛ばす暴風雨。
人はなべて吹き荒ぶのみ。
692
:
さらば青春の光
◆s5tC4j7VZY
:2024/08/13(火) 09:00:29 ID:Xwex7Q9o0
【A-5/崩壊した周辺/一日目 朝】
【狭間綺羅々@暗殺教室】
[状態]:気絶 負傷(中)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3(本人確認済) チョーク2本(現地調達)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。正当防衛くらいはする。
一.……
二.殺せんせーじゃないけど、影山の手入れをしてあげないと
三.そう、もうE組が全員そろって卒業することはないのね……
※わかばパークでのボランティア以降の参戦です。
※茅野の正体を知る前です。
※影山とのコープが4になりました。
獲得スキル
「E組の闇トーク」相手との会話交渉が決裂した時に、交渉をやり直せる
「黒魔術の追い打ち」影山の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※モブの暴走により吹き飛ばされた際に頭を木にぶつけ気絶しています。
【影山茂夫@モブサイコ100】
[状態]:覚醒100% ぐちゃぐちゃとした感情
[装備]:対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済) チョーク2本(現地調達)
[思考・状況]
基本行動方針:?????????
一.??????
二.……律
※ショウによって偽装された遺体を見せられ、家族の生存を確認して以降の参戦です。
※100%になり覚醒状態となりました。
※モブの覚醒によりA5周辺は荒れています。
※狭間とのコープが4になりました。
693
:
さらば青春の光
◆s5tC4j7VZY
:2024/08/13(火) 09:00:42 ID:Xwex7Q9o0
投下終了します。
694
:
名無しさん
:2024/08/25(日) 01:16:45 ID:AAES8m2U0
投下乙です
・恋人未満でもキスが発生することはある
このタイトルと和やかな会話から、こんな展開になる!?と素直に思いました。
>「その手がどう汚れていたとしても、その手でしか掬えない命がある。それは無力さなんかじゃない。どうか、忘れないで。」
>そんな正義の味方に、魔女退治の片棒を担がせるわけにはいかない。
大人びたことを言いながら、全てを自分で背負い込もうとする非合理性も持つ暁美ほむら。そこに突っ込むエクボも含めて、良い味を出しています。
・さらば青春の光
>もし、影山がE組にいたら殺せんせーをどう暗殺するのかしらね。
まさに暗殺教室のキャラクターらしい思考だと思いました。
ついに嵐と化したモブは、どんな被害をもたらすのか……今後も気になります!
695
:
◆s5tC4j7VZY
:2024/09/02(月) 23:28:11 ID:1DrwMmEQ0
感想ありがとうございます!
さらば青春の光
もう、これは一言でいえば
”放送後にモブが100%になる話”として書きました。
ただ、dGLETqAo0Iさんの【青春○○論】と2zEnKfaCDcさんの【泡沫の青春模様】というお二人が丁寧に描写したモブと狭間さんの青春関係が素敵すぎて、この距離感を大切にしなければと
”ぎょえーーっっ!!”といいながら書いていました💦
そして、タイトルは”青春”は外せないだろと。
果たして、モブと狭間さんの関係はどうなるのか……です
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