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【Fate】アースセル「真なる聖杯を手に入れろ」【避難所】

1 ◆XFKJOt0a3Y:2014/03/02(日) 00:17:34 ID:lveRSLdE

                    ―――極めて近く――

                   ―――限りなく遠い世界――

                 ―――誰も彼もが真理を求め――

                 ―――世界に淘汰されていく―――

―――貴方は .                                  ./\貴女は―――
                         ――何を目指す?――    /:::::::::::\
                                     _/:::::::::::::::::::::::\
―――世界は常に修正するのなら               ヽ ̄ !:::::::::::::::::::::::::::::::\
           ┌─――──┐               /|  !:::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
          `ヽ r―――´                r┐:::::! .!:: ::::::::::::::::::::::::::::_::::::\世界が願いを拒むなら―――
            | |   _         ___     /:l !:::::::|  レ. ̄\::::::::::::/  \::::::\
            | |__ノ |    _   |: レ―┐ ノ .|___::|  __  :!:::::/     \::::::\
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―――我々は    ! !        ゙冫'´,. |   ! !:::::::::::::::::|  |:::::!  !::::::::! |\         /::::::/
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              | |_ノi    | |_     | |___  | |___     \/
              .'ー‐ ′   └―‐    └――. └――
               ―――新たな世界を作りだそう―――

69 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:22:43 ID:YeNr5gUc

 数時間後の、更に夜遅くの事。

ハサン「ランサーと交戦したセイバーは、左手に言えない傷を負いました」

ハサン「恐らくは、ランサーの宝具の効果だと思われます」

ハサン「そのまま戦闘が続行されようとしたが、ライダーの介入によって戦闘は中断」

ハサン「その時、ライダーがかの征服王イスカンダルであると本人が明言しました」

ハサン「ライダーの呼びかけによりアーチャーとバーサーカーも集結しますが、些細な争いが起きました」

ハサン「その後の負傷は、誰もが大したことが無い模様です」

 それは、ハサンを通して綺礼たちは伝えられた全ての情報。
 正確にいえば、アサシンは脱落してはいなかった。
 アサシンの宝具で、ハサンは個ではなく群になることが出来るのだ、
 生前の多重人格を原典とした宝具「妄想幻像(ザバーニーヤ)」によって、複数の個体として活動できる。

麗羅「ハサンの宝具って、マスターの居場所さえわかれば全員殺せるんじゃないの?」

 誰もが思うであろうことを、泰山の麻婆豆腐を食べながら麗羅は呟いた。

綺礼「私は聖杯を求めていないから、そこまでして勝ちを取りに行こうとは思わん」

綺礼「それに他のサーヴァントも無能ではない。そうそうマスターの寝首はかかせてはくれんだろう」

 同じく泰山の麻婆豆腐を食べながら、ハフハフと口に麻婆豆腐運びながら綺礼は答える。


 何故泰山の麻婆豆腐を教会で食べているのかと聞かれれば、無論食したいからだ。

 教会に保護されているという建前の為、出前を取ってみた。


 二人は食べ終わると、皿を言峰教会の玄関前に置いて部屋に戻る。

 綺礼は初めて出前を取ったのだが、素晴らしいと感心していた。

 頼んだらすぐにやってくる。食べたら後で皿を回収しに来るときた。

 そのサービス精神は、聖職者である自分も学ぶべき点があるだろう。

麗羅「綺礼君綺礼君、お話の続きをしない?」

 食べ終わると、麗羅が口を開く。

 普段は無口な少女なのだが、時折子供の様に質問をしてくる。

 ……ああ、そういえば子供だった。

綺礼「聖杯戦争の事か? 私には左程興味が無いと言っているだろう」

麗羅「でもさっき、王様と一緒にお話してたでしょ?」

 王様という言葉に、綺礼は目を見開いた。

綺礼「……麗羅、貴様はどの王様の事を言っている?」

麗羅「もちろん、英雄王の事だよ。綺礼君」

綺礼「あれを聞いていたのか……」

 はあ、とため息を吐く綺礼。

 この麗羅が言っていることは事実だ。

 自分の魔術の師である時臣のサーヴァント、アーチャーである英雄王。

 その会話を、この少女に聞かれてしまったのだ。

綺礼「別に、愉悦だのなんだの言われただけに過ぎん。気に止める事は無いだろう」

麗羅「ああ、そうなの」

 ただ話題に上げただけなのか、麗羅はつまらなそうに返した。

麗羅「まあ綺礼君の愉しみが分かったら、私に教えてよ」

綺礼「別にそれは構わないが、貴様はどうするつもりだ?マスターの情報が着々と手に入っているが?」

麗羅「私もただの暗殺者だし、貴方達が命ずれば今すぐにでも行くけど?」

 黒い瞳で綺礼を見つめる麗羅。

綺礼「……そうか。いつお前を動かすかは、考えておこう」

 なれたように、綺礼は目をそらした。

.

70 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:25:21 ID:YeNr5gUc

 その頃、アインツベルン城にて、衛宮切嗣は頭を抱えていた。

セイバー「……すいません、切嗣」

切嗣「いや、一夜を乗り切った。それだけでも十分助かる。ありがとう、セイバー」

 まさか、こんな呪いを持つサーヴァントがいるとは思わなかった。

 ランサーと戦い続けていれば見事撃破し、呪いも解くことができるであろう。

 しかし、それはサーヴァントが一騎落ちるという事になる。


 それを衛宮切嗣は望まない。

 アイリに負担が、大きくなり、人間としての機能が失っていく。

 既に一騎落ちているのだ。これ以上は何としてでも阻止しなくてはならない。

 正直あの場面で真名を名乗るバカなライダーが出てきてくれて助かった。

 こちらの戦闘力が格段に落ちてしまったが、サーヴァントが落ちてしまうよりは良いだろう。

セイバー「ランサーとは同盟が組めそうにはありませんね。ランサー自身は協力してくれそうですが……」

切嗣「ああ、あのマスターの性格は典型的な魔術師のソレだ。アイリやイリヤの事なんて、気にも留めないだろうね」

セイバー「……ライダーの傘下に入るかどうかはともかく、同盟はした方がよかったかもしれません」

切嗣「ああ、多少は正直あの時は時間が欲しかったね」

 聖杯を譲る気はさらさらないが、同盟を結んでおけば二騎落ちることを阻止できる。

 カリスマのあるライダーの事だ。きっとアイリ達の事を考慮してくれることだろう。

 あのマスターはへっぴり腰だし振り回されているので、有って無いに等しい存在だ。

 ……そんなマスターだが、居場所が未だに割り出せないのは褒めるべき点だろう。

セイバー「……申し訳ありませんでしたマスター」

 そう考えていたら、セイバーが落ち込んでいた。

 アホ毛までシュンと萎れてしまっている。

セイバー「アイリスフィールの事を考えればあそこで同盟を組んでおくのが得策」

セイバー「ましてや私は負傷の身。もっと考えて行動をするべきでした……!」

 一生の不覚と言わんばかりにその場に崩れ落ちるセイバー。

 侍ではなく騎士であるセイバーだが、このままでは切腹しそうだ。

切嗣「いや、何もセイバーが悪いってわけじゃない」

切嗣「君の戦いにおいての判断は的確だし、ライダーのマスターは師の聖遺物を盗むような奴だ」

切嗣「信頼における相手とは言えないし、よかったんじゃないかな」

 士郎を引き取って育ててきたためか、落ち込んでいる様を見ると励ます癖が付いてきてしまった。

 対応が子供に対するお父さんになってしまうのは仕方がないと言える。

.

71 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:29:54 ID:YeNr5gUc

 そこで切嗣、何かを思い出し、袋を取り出す。

切嗣「そうだ。ハンバーガーを買ってきたんだ。食べるかい?」

 袋の中からは、香ばしいジャンクフードのにおいが漏れ出てきた。

 セイバーは、口元をおさえながら切嗣を睨みつける。

セイバー「切嗣、私が食べ物で釣られるとでも思っているのですか?」

セイバー「ましてやそのような雑な料理で私のご機嫌取りとは、腹立たしいにも程がある!」

セイバー「私の機嫌を取りたいなら『ガー』ではなく『グ』を持ってきなさい!」

 色々と矛盾しているセイバーの発言。

切嗣「がーん! セイバーまでそんな事を言うのか!」

切嗣「士郎にはジャンクフードを食べてはいけないと言われ、アイリには口に合わないと言われる始末……!」

切嗣「味方は舞弥だけなのか! いいじゃないかジャンクフード!」

切嗣「まずは照り焼きバーガーを一度食すんだ! 話はそれからだ!」

セイバー「く! 私はそんな誘惑には負けません! ざ、雑な料理など、おいしいわけがない!」

 実はセイバーが手傷を負った後、二人の前にキャスターが訪ねて来たのだが。

 今の二人の前では些細な事であった。

          ◇

アイリ「あらあら、二人とも元気ね」

 その会話を隣の部屋でクスクスと笑っているのはアイリスフィールである。

舞弥「ええ、全くです」

 それに同意するのは舞弥。

 在り方の違いで険悪な仲になってしまわないかと一度は心配したりもしたが、それも杞憂の様だった。

アイリ「お腹の赤ちゃんは、ジャンクフードが好きだと良いわね」

舞弥「マダム、かといってジャンクフードをたくさん分け与えてはいけませんよ。栄養バランスが偏ってしまいますから」

アイリ「もちろん。ちょっと切嗣がかわいそうだから、味方が一人くらいいた方がいいんじゃないかって、思っただけ」

舞弥「そうですか」

 二人は切嗣とセイバーの会話を聞きながら、楽しく談笑に耽る……はずだった。

          ◇

 ハンバーガー戦争の結果、うまいけど雑すぎる! というセイバーの前に、衛宮切嗣は敗北した。

 何がどう敗北したとか、深いことを考えてはいけない。

切嗣「……それは置いておいてだ。 一番の問題はキャスターだ」

 こんな茶番をしている暇ではなかった。

 ランサーや他の英霊たちが集り、帰宅の途中ジ・ルド・レイという英霊の妄言に付き合わされたのだ。

セイバー「ええ、私をジャンヌという英霊と間違えていたようですね。……臣下に間違えられるとは、ジャンヌという英霊も報われない」

切嗣「いや、むしろ報われないのは君の方だよセイバー。ジャンヌという英雄は実在するが、僕から言わせてみれば、あれはチアリーダーみたいなものだ」

切嗣「君みたいに前線では戦っていない、フランスの英雄だよ」

セイバー「そうなのですか?」

切嗣「まあ、最期には変な責任を負わされて、民衆の前で焼かれた女の子だけどね」

 切嗣のジャンヌの知識はその程度だ。

セイバー「……成程。ならあのキャスターの変貌ぶりも分かるような気がする」

 ふむふむと頷くセイバー。

切嗣「あのキャスターはジル・ド・レェと名乗っていたな」

切嗣「ブラフにしては随分マイナーな英雄だし、君への執着ぶりから見ても本当の事だろう」

切嗣「よくやったセイバー。いい情報が手に入ったぞ」

セイバー「別段、私が何かをしたわけでもありませんが……この時ばかりは自分が女だという事に感謝するとしましょう」

 その時、部屋の扉が開き、舞弥が入ってきた。


舞弥「マダムから報告です」

切嗣「どうした?」



舞弥「――――キャスターが、こちらに向かって来ているとの事です」


.

72 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:36:24 ID:YeNr5gUc

 すぐさま重火器を手に取り、戦場に立つ男の顔になる切嗣。

切嗣「行くぞセイバー」

セイバー「対応のほうはどうしましょう?」

切嗣「生け捕りがいいが……あれだとまともな精神を持っちゃいない」

切嗣「追い払うだけでも構わないが、最悪殺してもいい」

セイバー「わかりました」

 鎧を身に纏い、セイバーは立ち上がる。

 そこにはもう、先ほどのような空気はなかった。

          ◇

 セイバーがキャスターと交戦している頃。

 綺礼も同じくアインツベルンの森にやってきていた。

麗羅「……早速お仕事ね」

 正確には、アインツベルンの森を走る綺礼と麗羅だ。

 麗羅は寒いといって、フード付きの黒いコートを着て来ている。

 四歳児には大きなもので、手は出ておらず、足もようやく見えるといった物だ。

綺礼「私と衛宮切嗣の邪魔をさせぬよう、この辺りにいるマスターを殺して来い」

麗羅「うん、いいよ。綺礼君は自分の答えを教えてもらいなよ」

 そういうと麗羅は姿を消していた。。

 恐らく、キャスターの方に行ったのだろう。

綺礼「……さて、一人くらいは落としてくれよ?」

 綺麗は溜息を吐くと、森の中を疾走していった。

          ◇

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、アインツベルンの森の中を歩いていた。

 彼は時計塔の優秀な魔術師であり、ランサーのマスターだ。

 自分の経歴に『戦歴』という『箔』をつけるためにこの聖杯戦争に馳せは参じた魔術師でもある。


 彼はこう考えた。

 魔術師たちに恐れられている『魔術師殺し』を倒したとなれば、自分の『箔』もさぞ良いものになるであろう。

 その為、『魔術師殺し』の拠点たるアインツベルンの城までやってきたのだ。

 ……別段、自分の婚約者に尻を叩かれてわけでは決してあるまい。

「た、助けて」

 震える少女の声がした。

 振り向けば、黒いコートに身を包んだ少女が、こちらに走り寄ってくる。

 その少女に対してケイネスは優しく囁いた。

ケイネス「――――Scalp≪斬≫」

 自分のすぐさま水銀が展開され、少女に切りかかる。



 どうせ魔術師殺しが罠にでもと仕掛けた子供だろう。

 なら、排除しておいた方が得策だ。


 だが、思いもよらない出来事が起きた。

 水銀が襲い掛かるよりも早く、ケイネスの前に現れたのだ。

ケイネス「――――な!?」

 ケイネスが反応するよりも早く、まだ残っている水銀が少女を打倒すべく襲い掛かった。

 そう、ケイネスの水銀――『月霊髄液ヴォールメン・ハイドラグラム』は自動で術者を守る、一級品の魔術礼装なのだ。

 ――――何だかよくわからんが、これで終わりだ!

 ケイネスが勝利を確信したその時。

 少女が手を振るい水銀があっけなく弾け飛んだ。

麗羅「――――脆い」

 この礼装にはケイネス自身知りえない幾つか弱点があった。

 その一つが、瞬間的に水銀の圧力を超えるだけの威力がある攻撃を撃ち込まれてしまえば、簡単に突破されてしまうという事であった。


 勿論、少女がそんな事を知る由もない。

 ただ単に、少女は己の技と力で振り払ったに過ぎないのだから。

ケイネス「―――がハァ!?」

 そのまま、首根っこを掴み、時速300キロで近くの木に頭を叩きつける。

 この時、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの命は絶たれた。

 麗羅はケイネスを投げ捨て、助走をつけて思いきりその頭を踏み潰す。

麗羅「つまらない」

 だが、それで器《心》が満たされる事は無い。


 里で縊り殺した暗殺者でもまだ足りない。

 この程度の魔術師を殺しても、まだ足りない。

 無機質な少女は、人を殺しても殺シテもコロしてモ――――

麗羅「――――ハ」

 虚木麗羅は、無意識に息を吐く。

 自分に溜まった毒を吐くように。


 決して満たされる事はない。


 自分が満たされるモノ。

 自分が探し求めるモノ。

 それは、どこにあるのだろう。


 今考えても答えは出ない。


.

73 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:38:31 ID:YeNr5gUc

 ともかくランサーのマスターは落としたのだ。

 これで一つ、一騎落ちることになる。

 固有に持っている魔力で、ランサーは暫くこの世に残っているだろう。

 しかし、ランサーは騎士道精神溢れた英霊だと聞く。

 キャスターとの戦いですぐに魔力を消耗し、落ちる事は確実だ。

 そう、算段を付けていた時だった。


 そして、何の前触れもなく、麗羅の手の甲に熱い感覚が走った。

麗羅「……何、これ?」

 もしやあの液体に何かやられたかと思い、袖をまくって手の甲を見る。

 手の甲に赤い紋様――――令呪が刻まれていた。

 それを綺礼によって教えられていた麗羅は、あんぐりと口を開ける。

麗羅「……私に、令呪?」

 これは、ランサーと契約しろと言う天啓か?

 自分の願いも、求めるモノも分からない麗羅には、過ぎた代物だ。

 今なら綺礼君の気持ちが理解できるかも、と一人頷いた。


 しかし妙だ。

 自分は戦う者ではあっても、魔術を行使するものではない。

麗羅「これ、どうするべきかな」

 麗羅は首を傾げながら、元来た道を走り出した。

          ◇

キャスター「ジャンヌ、次こそは、次こそは――――!」

 そういって、キャスターは海魔を引き連れ、アインツベルンの城から去っていく。

 危ない所だった。ランサーがやってきてくれなかったら、もっと過酷な状況に陥っていただろう。

セイバー「……ランサー、助かった」

ランサー「いや、騎士として当然のことを――――な!?」

 突如、ランサーが驚愕したような表情を浮かべた。

セイバー「どうした、ランサー?」

ランサー「ああ……、我が主との繋がりが、今切れたのだ」

 その言葉を聞き、セイバーは少しすまなそうな顔を浮かべる。

セイバー「……すまない、ランサー。恐らくそれは私のマスターの仕業に違いない」

 そんなセイバーに、ランサーは笑みを浮かべる。

ランサー「仕方がない。これは戦争なのだ。勝ち残る者もいれば、敗北し散る者もいる」

ランサー「きっと、我が主も正々堂々と戦い、戦場の花として散って行ったのだろう」

ランサー「ああ、だがしかし! 俺は主の為に何もできはしなかった……!」

ランサー「無念! ディル・ムッド、一生の不覚!」

 言えない。

 アインツベルンの城にありとあらゆるトラップをマスターが使っているだろうことを。

 恐らくはそれに引っかかって死んだなんて。

 これから去って散り行くランサーには言えない。

セイバー「……貴公もそろそろ消えてしまうのだろう」

 言いながら剣を構える。

セイバー「これも騎士の情けだ。現世から去る前に、一手お相手しようか?」

 そういうと、今度はランサーが気まずそうな顔を浮かべる。

ランサー「……その件だが、何というべきだろうか」

 腕を組み悩むランサー。

ランサー「私にはマスターが二人いるようなものでな……。令呪が消えただけの様なもので、魔力供給は十分に出来ているのだ」

 それを聞いてセイバーは驚愕した。

 まさかマスターが二人もいるという変則的な契約方法があったとは、アインツベルンに関わるセイバーでも知らなかった。

セイバー「それはよかったというべきか……いや、まずそれを私に教えてよかったのか?」

ランサー「セイバー、お前にはその手の傷や真名の事もある」

ランサー「何、この程度で俺は負けはしない。ソウラ様とこれからについて話すさ」

 そうか、とセイバーは頷き、ランサーに背を向ける。

セイバー「嫌な予感がする。次に相見えた時に、決着をつけよう」

ランサー「ああ、それまでは達者でな」

 セイバーは魔力放出スキルを使ったのか、すさまじい速さで森を駆け抜けていく。

ランサー「……主の遺体をソウラ様に届けなくては」

 ランサーは亡くなった主を思い、森の中を走り抜けていった。

.

74 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:43:10 ID:YeNr5gUc

 麗羅が颯爽と綺礼の元に戻れば、綺礼が妊婦に黒鍵を向けている所だった。

 その足元には黒い中国拳法でもしそうな服装の女性が倒れていた。

 どちらも気絶している様だ。

麗羅「……何をしているの。綺礼君? 殺せばいいじゃない」

 麗羅がいたことに気が付き、震えながら振り向く綺礼。

綺礼「私は聖職者だ。――――祝福すべき命を、殺すことは出来ない」

麗羅「バカみたい」

 この男は何を言っているのだろうか?
 お笑いにしてはレベルが低すぎる。
 無意識に笑う事ができない麗華にも分かる事だった。
 空っぽの自分が言うのもなんだが、ちょっとどうかしているんじゃないだろうか。

麗羅「それって確か聖杯の守り手……」

麗羅「確かお人形? 気絶しているうちに殺しちゃいなよ」

麗羅「私がそれを言峰教会に持って行かないといけないのは綺礼君も知ってるでしょ?」

麗羅「お仕事の一つに、聖杯の確保ってヤツがあるの」

 麗羅は妊婦であるアイリスフィールに手を伸ばす。

 その手は凶器に他ならない。

 その手は首をいともたやすく潰し。

 その手は心の臓から流れる気を乱し。

 その手は頭蓋骨を陥没させる――――!

綺礼「その女を殺すな!」

 綺礼が麗羅を声で抑止する。

 仕事の条件の一つに、言峰綺礼の命令は絶対と言っておいたのが幸いだった。

麗羅「……綺礼君がそういうなら、止してあげる。暗殺者は雇い主の命令には絶対だものね」

 表情を変えることなく、麗羅はその手を引いた。

 虚ろな黒い目で、綺礼の目を覗く。

 まるで、自分に答えを求めているようで――――。


 その時女のアサシンが顔を出した。

アサシン「セイバーと衛宮切嗣がこちらに向かってきています。ここは撤退をした方がいいかと」

 アサシンの言葉を聞くと、綺礼はアイリを捨て元来た道を走り出す。

 その後を追いかけてきながら、麗羅が問いかける。

麗羅「あれ? 今は衛宮切嗣に答えを聞かなくてもいいの?」

綺礼「今はまだ早い」

麗羅「じゃあ、なんでここに来たの?」

綺礼「――――」

 言えない。

 言えはしない。

 まさか衛宮切嗣に理解者がいたなんて、口が裂けても言えない。

 いや、そんなことがあってはならない。

 衛宮切嗣は孤独でなければならないのだ。

 言峰綺礼は、自分の心を整理するためにも教会へと走って行った。

.

75 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:46:05 ID:YeNr5gUc

セイバー「アイリスフィール!」

 セイバーが倒れているアイリスフィールに走り寄る。

 意識を確認するより、まずは体がどうなっているか調べなくてはならない。

 体に傷は無い。刺された跡もない。首が絞められた跡があるが、呼吸はしている。

 そしてなにより、赤ん坊が元気よくお腹を蹴っていた。

アイリ「……セイバー、ありがとうね」

 体を隅々さわっていると、意識を取り戻したらしく体を起こす。

セイバー「アイリスフィール。まだ体を起こしていけません。傷が無いとはいえ、首を絞められているのですから」

アイリ「いいえ、大丈夫よ。貴方のお蔭で元気が出たわ」

 セイバーの手を借り、起き上がり舞弥の元へ歩み寄るアイリ。

 治癒魔術で、舞弥の傷の手当てをするアイリ。

切嗣「アイリ! 舞弥! セイバー!」

 機銃を片手に、ロングコートを翻して切嗣が走り寄ってくる。

切嗣「アイリ! 体は大丈夫なのかい!? おなかの赤ちゃんは無事か!?」

切嗣「うわあー!? 舞弥、舞弥ー!! その刺し傷はどうした!」

切嗣「まさか言峰綺礼か……ッ! 許さん!!」

 いい大人が慌てているのを見て、クスリと笑う女性三人。

舞弥「切嗣、私なら大丈夫です」

アイリ「激しい運動は出来なさそうだけどねー。てぃ」

舞弥「あ痛ぁ!?」

セイバー「アイリスフィール! 傷口を叩くのはやめてあげてください!」

切嗣「大丈夫なのか!? 本当に二人とも大丈夫なのか!?」

 アインツベルンの森は喧騒を響かせながら、夜を過ぎていった。

          ◇

 朝日が昇る仲、二つの影が森を歩く。

 切嗣は舞弥を背負い、セイバーはアイリスフィールを抱いてアインツベルンの城へと戻っていた。

 アイリは既に寝てしまっている。

 セイバーは、キャスターを撃退し、ランサーのマスターが死んだこと。

 そしてそのマスターが二人いることを話した。

切嗣「何? ランサーのマスターが死んだだって?」

 セイバーの言葉が信じられず、思わず聞き返す切嗣。

セイバー「なんと、切嗣ではないのですか?」

切嗣「ああ、そもそもランサーのマスターは城にすら来ていない」

切嗣「変則契約の件もいいとして、これはおかしいな」

舞弥「切嗣……これを」

 その言葉を聞いていた舞弥が、ポケットからある物を取り出す。

切嗣「……テープレコーダー? それがどうしたのかい舞弥?」

舞弥「はい、以前士郎君から頂いたものです。『爺さんすぐもの壊しちゃうから、舞弥さんに上げる』と」

切嗣「……そういえば、最近買って失くしたヤツだ。それ」

 父の顔が無くしょぼくれる切嗣。

 切嗣の起源は『切り嗣ぐ』。それゆえに物を壊しやすかったり、片付けが苦手だったする。

 士郎は切嗣の起源の事は知らないが、そういう人物だと理解はしていたのだろう。

セイバー「それで、その記録媒体機器がどうしたのです?」

舞弥「いえ、大したことは無いでしょうが、念のため言峰綺礼との交戦時から今まで録音していました」

舞弥「私達が気を失っている間に、何かあるかもしれません」

切嗣「……でかしたぞ舞弥。この戦争が終わったら、士郎も褒めておかないといけないな」

 城に帰ると、アイリスフィールをベットに寝かせ、早速テープレコーダーを聞くことにする。

 随分と音割れなどが激しいが、大体の会話を聞き取ることができた。

 それは十分すぎる成果だった。

 まるで、抑止力が正体を暴けと言わんばかりの情報。

 美味しい情報がありすぎた。

切嗣「暗殺者……アサシンか」

 アイリが部屋にいない事をいいことに、タバコを吸う切嗣。

切嗣「言峰綺礼の声と、女子供の声が二つ……間違いない。この二人の声はアサシンのモノだ」

セイバー「つまり、アサシンは複数の個体になれる宝具を持っているという事ですね」

 セイバーは知力と直感を使い、彼女なりに推理して見せる。

 勘違いをしているというのに、大筋があっているのがシャレにならない。

切嗣「ああ、そういう事になる。でかしたぞ。舞弥」

 切嗣の賛辞に、照れる舞弥

切嗣「さて、それじゃあこれを、有効活用しようか」

 そう言いながら、衛宮切嗣は不敵な笑みを浮かべた。

.

76 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:51:18 ID:YeNr5gUc

 鶏が鳴く頃、礼拝堂には言峰親子と、衛宮切嗣、そしてセイバーがいた。

 件のテープレコーダーを聞かせ、勝ち誇った笑みを浮かべる。

切嗣「――――と言うわけで。言峰綺礼を聖杯戦争から排除していただきたい」

 唖然とする言峰璃正。

 呆然とする言峰綺礼。

璃正「そ、それがアサシンの声と何故決めつけるのですかな?」

切嗣「おや、まだしらばっくれる? 神父さまも、いいご趣味をしてらっしゃるなあ」

 不敵な笑みを浮かべながら、切嗣はテープレコーダーをしまう。

切嗣「このテープの人物が、自分を暗殺者と名乗っているんですよ?」

切嗣「それとも何かい? 貴方達は神に誓えるとでもいうのかな?」

切嗣「アサシンが群になれる宝具を持たず、尚且つ言峰綺礼は現在マスターではなく、尚且つ録音されている物にアサシンの声が入っていないと」

切嗣「お前達はそう神に誓えるのか?」

 切嗣の言葉に、二人はギリギリと首を絞められて行く感覚に陥る。

 彼の推測は間違った物であり、正しい物だからだ。

 どう否定しても、教会の不正が暴かれてしまう。

 それに何よりも、二人は立派な聖職者だ。神に嘘を吐けはしない。

 どうする?

切嗣「嘘を吐いていないのなら、神にそう誓ってみせてくれ」

切嗣「献身的な神父様たちなら、出来る筈だろう?」

切嗣「それとも……教会は暗殺者でも雇って、これまた違う方向で不正行為をしていたと?」

切嗣「そんなわけない筈だ。何せ、貴方達は監督役」

切嗣「不正なんて働いたら、この聖杯戦争はルール無用のモノとなり、聖堂教会の面目もがた落ちだ」

切嗣「これが魔術協会にばれたら、君たちは聖堂協会に然るべき処分をされるだろう」

切嗣「聖堂協会からは新しい監督役でも来るんだろうが。僕にはよくわからないな」

 煙草を吸いながら、衛宮切嗣は聖杯戦争の監督役に追求する。

 当てずっぽうに近い暴論だというのに、的を射ているから侮れない。

 聖堂教会からは特に罰はないだろうが、面目の為にも辞退されるのは違いない。

 それに、時臣には何かしらのペナルティが課せられるだろう。

 どうする?

切嗣「嘘を吐いていないのなら、早く誓って見せてくれないか?」

切嗣「さあ、さあ。さあ――――!」

 どうすればいい――――!?

 葛藤する言峰親子。

 そんな二人を見て、切嗣は璃正の肩にポンと手を乗せた。

切嗣「……別に、嘘を吐いているのなら、わざわざ神に誓う必要は無いんだ」

切嗣「誰だって、悪いことをする時がある。それを許すのが、神様っていう都合のいい存在なんだろう?」

 璃正の耳元に、そっと囁く切嗣。

 それを見て、歯ぎしりを立てる綺礼。

 拳を痛いほどに握りしめ、爪が食い込み血が溢れだす。

切嗣「僕だって鬼じゃない。情も人並みにある」

 ――――情? 笑わせる。

 ――――お前のそれは悪鬼そのものではないか。


 そう睨み付けながら、衛宮切嗣を睨み付ける。

 どうやら、契約書らしい。

 書かれている内容は、こうだ。

 一つ、言峰綺礼を聖杯戦争から排除すること。
 二つ、アサシンを全員令呪を持って自害させること。
 三つ、聖杯戦争を二週間停戦すること。

璃正「な、何だと……!」

 その内容の出鱈目さに、思わず頭を抱える璃正。
 対して衛宮切嗣は以下の通りの事柄を守ると記してある。

 一つ、衛宮切嗣が所持しているテープレコーダーは教会に渡す。
 
二つ、教会の不正を衛宮切嗣は誰にも話さない。

 衛宮切嗣はこの二つだけ。

璃正「……う、ぬぬぬぬぬッ!」

 しかし、しかしだ。

 それは教会の神父たる璃正にとっては、十分すぎる契約。

 かなりの痛手となるが、教会の本部にこれが知られれば大変な事になる。

 聖杯戦争は解体され、自分達親子は処されるだろう。

 自分はまだいい。だが、息子が処されるのはあってはならない。

 最悪、遠坂時臣が聖杯を掴めなくなってしまう事態にも陥るだろう――――!



.

77 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:54:40 ID:YeNr5gUc

 そんな璃正をみて、首をかしげる切嗣。

切嗣「契約したくない? じゃあこのレコーダーを他のマスターに聞かせて回ろう」

切嗣「聖堂教会にもこのレコーダーを送っておこうかな」

切嗣「心配ないさ。君たちが神様に嘘を吐いていないと誓えば、何も問題はないんだから」

 契約書を璃正から抜き取り、礼拝堂から出ようとする衛宮切嗣。

璃正「契約をする! だから、だから待ってくれ!」

 それを、璃正の声が止めた。

 衛宮切嗣は思わず頬が緩んでしまうが、引き締めて振り返る。

切嗣「じゃあ監督さん。よろしくお願いしようか」

 だがその表情は、だらしないほどの笑みが浮かんでいた。

 教会は持っている全てのマスターの情報を明け渡した。

 更にはアサシンを自害させ、言峰璃正が持っている令呪を全て渡し、二週間の訂正を約束された。

 ――――そして言峰綺礼の聖杯戦争からの排除も決まった。

切嗣「いやあ、僕はこれで教会の不正を誰にも話す事が出来ない。悔しいな〜。そうは思わないかい? セイバー」

セイバー「ええ、全く貴方と言う人は外道にも程がある。しかし、交渉術としては中々だ。王とし褒めましょう」

切嗣「いやー、騎士王に褒められるだなんて、参った参った」

セイバー「素直に受け取りなさい切嗣」

 あっはっはと、白々しく煽るセイバーとそのマスター。

 戦場でのジョークも冴えわたることであろう。

 これは言峰親子にとって、人生最大の屈辱であった。

切嗣「さて、これで契約は完了した。さあ言峰綺礼。君はさっさとここから出ていくんだ。部外者さん?」

 自分の歯が噛み砕けてしまいそうな程歯ぎしりを鳴らし、血があふれ出るほど拳を握る。

綺礼「……了解した……ッ!」

 そう答えると、綺礼は教会の奥の方へと去って行った。

切嗣「ああ、残念だよ。僕は不正を訴える事が出来ないなんて、ああ、僕は人間失格だ」

切嗣「――――そう、僕は、ね」

 そう言い残し、衛宮切嗣もまた去って行った。

        ◇

 衛宮切嗣が去った後、分かる限りのマスター達に二週間の停戦を知らせた。

 三つの陣営から文句が来た。それも当然であろう。

 ランサー陣営、ライダー陣営、バーサーカー陣営からだ。

 しかし、内容は予想したものだけではなかった。


 内容は、教会の不正についても含まれていたのだ。

 衛宮切嗣が持ってきていたテープレコーダーと同じモノを、二人とも持っていたのだ。

 何でも、セイバー陣営の関係者と名乗る女性が、テープレコーダーを配りに来たのだとか。

璃正「な、何故……!?」

 自分の手にあるテープレコーダーを見つめる璃正。

 音声もキチンとある。

 だというのに、なぜ同じ音声を録音したものが複数存在するのか!?


 言峰璃正は知らぬところだが、科学は日々進化している。

 種はとても簡単なものだと言っておこう。


 更には時臣師からも使い魔を通し連絡が入ってきた。

時臣『……これをどう収集するつもりかね。言峰神父』

 流石の優雅も、どこか空の彼方へと飛んでいった声だった。

.

78 ◆K7pqbvuGjs:2014/07/08(火) 23:57:16 ID:YeNr5gUc
今日はここまで。

ただ愉悦が無自覚にドジって窮地に陥るところを書きたかっただけです。
(ペラペラ獲物の前でしゃべっちゃうという愚行)
聖堂協会が黙認(というか総意?)してたはずだけど、魔術教会からしてみればどんな対応取るかわからないので、十分脅せるかなと
あと……あれや。これ正直脅しとか焦る内容かはわからないけど、冷静じゃなかったってことで一つ。


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