したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

だれも死なない

14あおぞら:2007/12/30(日) 15:12:26
メイエル・サイドフィールドの話をしよう。

切り立った崖を見下ろす。えぐりこむような急速下降。
眩暈を誘発するかのごとく鋭き先鋒をあざ笑うように、遥か重力の寄せる先、波打つ荒海へと一直線。
矢か投げ槍か。砲弾とでも形容すべきか。
否、彼女の動きはいずれでもない。
彼女は一枚の羽。滑空する鳥の羽。

それは言葉そのままの意味である。

メイエル・サイドフィールドは比翼鳥の風切り羽の一枚である。
ヨンダヴァナラウンドのセドナという世界で、鳥たちは支配種族の地上の拘束から逃れた自由なる種族として一身に尊敬を集めている。
軽やかなる姿態、美しきその躍動。

蒼穹の色と溶け合う羽毛と瞳はどんな宝石の煌きにも勝るであろうと誉めそやされる。

なかでも風切り羽は特別である。無数の神経線維と生殖細胞、「もうひとつの脳」としての遺伝情報などの記憶保持はもちろんのこと、
飛行中の補助思考や速度計算を一手に請け負う重要な器官なのである。

メイエル・サイドフィールドは己の軸から幾本も縦に連なって垂れ下がる感覚野から一杯の風を受けた。
根元、意識総体が集い「本体」へ情報を送り出すための根幹へ全ての感覚があふれる。
快。
感情は羽から「本体」へ伝わり、比翼鳥は歓喜の歌をうたいだす。
縦長の全身を傾けつつ、メイエル・サイドフィールドは飛行する。滑空から急上昇、海面すれすれまで「本体」をかすめさせ、震える総体の加重バランスと慣性を調整しつつ自らの角度をもたげるのだ。
全身の軸が回る感覚。

人で言えば、腕を動かし歩き出すのと同じく、メイエル・サイドフィールドが最も普遍にして常とする基本動作。
その躍動が、メイエル・サイドフィールドと「本体」を、快へ快へ押し上げる。
満天の青。天地同色の絶景は「本体」経由の認識だ。
視界を持たない風切り羽は、しかし全身で風を感じ熱を察し分子運動の未来すらをも読み取っていく。そうしなければ総体は墜ちるからだ。
今この瞬間を快と思う。「本体」と風切り羽、それらが合わさってこその総体なのであるゆえに。

雲は無い。水分の枯渇した世界で、凝結する水蒸気は変わって熱風を渦巻かせる。

暖かなる空。
「ここ」こそが、メイエル・サイドフィールドの世界である。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板