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278若い頃の木戸野:2007/11/01(木) 23:23:37
失神したおれは男から介抱を受けた。あとで知ったのだが、男は当時移民街を仕切っていたやくざハンドレッドドラゴンクライブのメンバーだった。半日ほどおれは眠ってから目を覚ました。
 暗い部屋のベッドで横たわっていたが、雨戸の隙間から漏れる光で昼間らしいと判った。発熱して怠かった。もう少し寝ていたいとおもったが、喉の渇きがつよくて上半身を起こす。骨や筋肉が痛んだ。おれは咳をする。骨格が軋んだ。そうとうひどく打たれたらしかった。
ドアを開けて目を細める。どことなく見慣れた光景だ。市営住宅の一室のようだ。そこは居間らしくてソファがあってテレビがあった。テレビがワイドショーを流している。ソファに座っている人物がふりむいた。
このときおれは軽く驚いた。そこにいたのはトカゲ人だった。トカゲ人なんてゆらぎ市では見慣れた存在だが、ここまでそばに近寄ったのはこのときが初めてだった。現在のゆらぎ市では信じられないことだ。
もう大丈夫なの?とトカゲ人はいった。もう動けますと答えながらおれはちょっととまどった。なぜここにいるのかわからなかったからだ。
すると察したようにトカゲ人は、リンさんが昨日連れてきたんだといった。
リンさんというのは昨日おれを助けて、それから金を奪った男だろうか。
リンさんは屋上にいるよ、たばこを吸っているの、ここは禁煙だからね。とトカゲ人。
それでおれは部屋を出て階段を登った。何度もへたばりながら階段を登ると屋上にたどり着いた。
屋上では昨日おれの金を取ったあの男がフェンスにもたれながらタバコを吸っていた。男はタバコをくわえたまま顔中にしわを寄せて笑った。
「木戸野青年、お前もタバコを吸いにきたのか」
「いや。そういうわけじゃなくて」
「そうかい。てっきり部屋を追い出されたかとおもった。トカゲ人ってのはニコチンが嫌いでさ」
「待ってください。なんでおれの名前を知ってるんですか?」
「原付の免許証があったから。こういう街で遊ぶときはそんなもの持ってきたらいけないぜ」
「金と免許証、返してください。それと電話を貸してください」
「どこに電話するのさ?」
「勤め先に。今日は休むって」
「フムン。なに、青年は新手の露天商とかテキ屋じゃないの?」
「子供堕ろすのに15万必要だって女からいわれたんですけど、金がなくて」
「なにそれ。おじさん、ゴシップ好きなの、もっとよく聞かせてよ」
おれはリンさんとやら女に利用されていたことを話した。それで自分自身に愛想を尽かして殴られたい気分になって殴られたことを伝えた。
 リンさんはフェンスによりかかりながら盛大に煙を吐いた。
「フムン。判った。で青年は工場でなにやっての?」
「プレス機でスプーン作ってます」
「板金をガチャコンガチャコンやってのか。機械に手をいれてみたくなったことない?」「ありません。でも頭ならありますよ」
「なんでさ?」
「考えるのが面倒くさくなるんですよ、よく」
「フムン。いいねいいね。おじさん、青年みたいなの好きよ。ところで青年、週末は暇かな、ボクシング見に来ない? 特等席でご案内するよ」
「特等席ですか?」
「そう、特等席!なんたって目の前!リングの中」
「!」
「なにそのいやそうな顔。金ほしいのでしょう?出てくれるなら15万出すよ。報酬として」
「その15万はおれが稼いだものです」
「おじさんにとっては不正な金だよ。だって私らの組織の所場代払ってない野郎の稼ぎだから。いいだろう、木戸野青年?お前の殴り屋見てたよ。あんな風でいいんだよ。あんな風でいいからちょっとでろよ」
「あんな風でいいんですか」
「そうさ。ちょうどあんな尋常でなさと地味さが必要だったのさ」
「わかりました」
おれはリンさんと約束した。
そして週末が来る。




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