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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ファイナルファンタジー5部門〜

1名無しの勇者:2002/10/18(金) 20:12
FF5の小説専用スレです。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

42名無しの勇者:2006/04/04(火) 15:26:57
も・・・萌えス・・・( *´д`)
バッツたん受けって希少価値高いですね。
何度も読み返しちゃいました。神!

43名無しの勇者:2006/04/25(火) 22:31:33
職人さんカムバック…

44名無しの勇者:2006/05/05(金) 19:16:38
半年遅れながら
ギルバツネ申!! マヂネ申!!

ギルカワユス(*´д`*)ハァハァ

45名無しの勇者:2006/05/05(金) 22:28:56
自分の中でギルバツが今最高潮に盛り上がってる・・・
けど同志が少なくて淋しいorz
GBA版出たら少しは活気が出るんだろうか・・・。

46名無しの勇者:2006/06/04(日) 23:17:15
ギルバツ萌えですが、ギルガメッシュの外見をどう想像するべきか迷う…。

47名無しの勇者:2006/06/14(水) 00:41:28
とりあえず見た目だけは12のギルガメッシュにしてる

48名無しの勇者:2006/06/14(水) 23:18:17
うちのギルは5の変身前ダナー
程よくかっこよくw

4946:2006/06/17(土) 00:53:51
レスまりがとう

自分は5のギルガメッシュが好きなんだけど気がつくと8のギルガメッシュ想像しちゃってる…。
ドット絵と天野絵しか見たこと無いから、5のギルが上手くイメージ出来ないんだ。
己の想像力の貧困さを痛感するよ…ファンアートとかもほとんど見たこと無いし…。

50名無しの勇者:2006/08/20(日) 22:25:26
狭間スレ設定でギルバツ書いて下さる神はおりませんか?

51名無しの勇者:2007/04/04(水) 02:12:29
ギルバツ萌えは定期的に襲いくるなぁ
そのたびにここの小説読んで栄養補給させてもらってる。
何度読んでも萌えだ…

52名無しの勇者:2007/04/14(土) 17:40:27
ギルバツは萌えるよなぁ

53sage:2007/10/10(水) 18:10:27
よつべ動画でギルガメッシュに「じばく」をさせないで戦闘終了、っていうのにキュンとした。
実質じばくと変わらないみたいだけど。
その流れでED後に再会とかしないかな…ギルバツ萌へ……

54名無しの勇者:2007/10/10(水) 18:12:53
うは、まつがえた…
こうなったら自給自足しようかなorz

55名無しの勇者:2007/10/15(月) 21:39:47
>>54
是非とも頼みます!

自爆させない動画にはかなり感動した。
自爆してこそのギルガメッシュという意見もあるけど
ギルバツ好きーとしては、生きてまたバッツと再会して欲しい…。

56名無しの勇者:2007/10/26(金) 22:32:03
閉じ込めで書いてみたいけどスレのログがみつからない
ギルバツに飢え飢えです ああ…

57名無しの勇者:2007/10/27(土) 12:07:25
>>56
あなたが神か

ちょっと前までまとめサイトにログがあったんだけど消されちゃったんだよね…
新しい保管庫にはログが無いみたいだし
どなたかログをお持ちの方うpお願いします…

58名無しの勇者:2007/10/27(土) 13:30:35
>>56,57

1だけログを持っていたのでうpします。
自分もギルバツ読みたい……

ttp://watercolor.s41.xrea.com/cgi-bin/yaoi/img20071027132741.lzh

59名無しの勇者:2007/10/28(日) 00:21:36
56ですが
>>58 ログありがとうございます!
まだ読み途中だけど、ツンなバッツがたまらn…

>>57 食指がわきわきしてきたので山隠りしてきますヽ(´∀`)ノ

60名無しの勇者:2007/10/28(日) 00:57:34
>>58
あなたも神か
ありがとう…ありがとう…!

>>59
作品投下楽しみにしてます!

61名無しの勇者:2007/12/12(水) 16:24:38
こんな神スレがあったなんて…!
FF5はバッツと同年代の男があまり出てこないから801萌えしにくいのかな?
もっと見たいのに…

そして誰かこそ泥一匹狼×バッツとか書いてくれませんか?
恩を仇で返す悪党に襲われるバッツたん萌え。

62名無しの勇者:2007/12/16(日) 22:55:40
「地形」に「蔦地獄」なんて効果があるのを知ってから
混乱した仲間が地形攻撃→バッツに蔦が絡みつく→いつの間にか触手エチーに
という妄想が止まりません…orz

あと「色目」を使ったら敵が欲情してきて襲われるとか…

63名無しの勇者:2008/05/21(水) 21:51:34

FF5、エンディング後のギルとバッツの話を投下させていただきます。
エロなし、死にネタあり
長文21コマ失礼します。

641/21:2008/05/21(水) 21:52:22
森の向こうへ沈む夕日を浴びながら、バッツはゆっくりと歩いていた。
道連れは誰もいない、たったひとりきりの旅の途中だった。
世界が平和になって、仲間たちはみな王族の政務だの何だので忙しい。
友達のボコにも家族ができたから、もう気ままな放浪なんてしていられないのだ。
旅を続けるバッツはまたひとりになった。父親を失った時と同じように。
ひとりには慣れていたはずだったのに、やりきれない寂しさがこみ上げてくるのはどうしてだろう。
そんな切ない疑問だけを道連れに、バッツは大地を踏みしめ歩き続ける。
見上げれば、巣へ帰る鳥の群れが、長く尾を引く切ない鳴き声と共に
茜色の空を横切っていった。金色の雲がゆったりと流れ、風が頬を優しく撫ぜていく。
何も知らずにさすらっていた時も、穏やかな夕暮れにはこんな風が吹いていた。
色々なことが起こり、世界が大きく変わって、それはずいぶん遠い昔のことのように思えた。
けれどもバッツはよくわかっていた。――あの時と同じ風はもう吹かない。
色々な人と出会った。出会いだけではなく、悲しい別れもたくさんあった。
一つ一つかけがえのない記憶は心に刻み込まれ、もう決して消えることはない。
去っていった人々の名の数だけ胸にこみあげる思いがあり、風はその思いをはらんで遠く吹き渡る。
森から歩み出たバッツの視界が突然開けた。海からの強い風が髪をかき乱し、バッツは目を細める。
沈む夕日の名残が、この世の果てまで続いているような大きな橋を照らしていた。
かつてここで激しい戦いが繰り広げられたのが夢であるかのように、
訪れる者もないその場所はひっそりと静まり返っていた。
燃え立つような真紅の光の中、ひとつの記憶が鮮やかに呼び起こされた。
耐え難い程に胸がひどく痛み、バッツは一歩も動けなくなる。
最後の悲しい別れ。
勝手に、ひとりで格好つけて逝ってしまったあいつ。
自分を守ってくれた大きな背中。
体中から真っ赤な血を流しながら駆け去っていく背中。
(お前とは一度、一対一で勝負したかったぜ! いい友達を持ったな!)
場違いに明るい声が、その最期の言葉が、まるで昨日のもののように鮮やかに頭の中に響き、
バッツは思わず瞼をきつく閉じた。
噛み締められた唇が開かれ、一つの名前が風の中に紡がれた――

652/21:2008/05/21(水) 21:52:58

名前を呼ばれたような気がしてギルガメッシュは立ち止まった。
しかしその途端、足元が抜けたように体が落下していく感覚に襲われよろめく。
そして、目を開けた彼の前には今、海面があった。
「うおおおっ!」
なすすべもなくそのまま頭から海に突っ込んだ。
溺れそうになって必死で水をかきながら必死で考えをめぐらす。
(今度はいったいどこに来ちまったんだ?)
ギルガメッシュの身には妙なことばかり起こっていた。
確かにネクロフォビアと刺し違えたと思っていたのに。
大体、死んだはずなのにまたここで溺れて死にそうになっているのは何故なのか。
さっきは、何がなんだか分からずにさまよっていたらどこかから剣をくれたから、
バッツだと思って一撃を加えたら実は人違いだった、なんてこともあった。
自分でも意味がわからない。夢にしても脈絡が無さ過ぎる。
(しかし、バッツは金髪じゃねえのになあ。見間違えるなんておかしいぜ、オレ)
もがきながらやっと水面に顔を出す。
新鮮な空気を胸に吸い込むと、水平線の向こうに夕日が沈んでいくのが見えた。
その風景があまりにきれいで、思わずギルガメッシュは泣きそうになった。
今の自分の状況。いったい何がどうなっているのか。
次元の狭間で襲い来る敵と無茶苦茶に戦っていた時よりもわけがわからない。
第一、自分は死んだはずなのに。
ふと、想像したことに背筋が寒くなる。
まさか、しくじったのか。しくじって、おめおめと生きながらえて……
「嘘だろ、ちくしょー!」
叫びながら思わず頭を抱えるが、水をかくのをやめると途端に体が沈む。
とりあえず地面に上がろう、と思ってあたりを見回すと、意外にもすぐそばに陸地があった。
何か柱のようなものが目に入る。
運が悪ければ激突だったのか、と薄ら寒くなりながら、その柱に手をかける。

663/21:2008/05/21(水) 21:53:54

ギルガメッシュが泳ぎ着いたのは橋の支柱の一つのようだった。
橋の欄干が、見渡せないほど遠くまでどこまでも続いている。
よく見覚えのある長い橋。これは。
(ビッグブリッジだ、間違いねえ!)
先ほどの不安もどこかへ吹っ飛んだような気分になり、ギルガメッシュは勇んで柱をよじ登った。
少なくとも馴染みのある世界にたどり着いたのだ。何かわかるかもしれない。
それに、もしかしてあの四人の誰かに、……バッツに、会えるかもしれない。
淡い期待を抱きつつ、ギルガメッシュはやっと地面に手をかけ、頭を陸地の上に出した。
途端、自分を見下ろす青い瞳と目が合う。明るい茶色の髪が風にそよいでいる。
「……え、バッツ?」
夕焼けの光が、見間違えようも無いよく知った顔を照らしている。
「おまえ、ギルガメッシュなのか?」
聞きなれた声が名前を呼んだ。四つんばいになって下を見ていたのか、顔がずいぶん近い所にある。
(嘘だろ?)
けれども、この深く青い瞳は。この声は。
(いきなり会えるなんてそんなバカな夢かよ)
間違いない。本物でしかありえない。
途端に頭の中で何かが音を立ててスパークし、気づいた時には眼前のバッツに掴みかからんばかりに叫んでいた。
「信じらんねえ……信じらんねえよ!オレどんなにおまえに会いたかっ……!」
勢いあまって柱にかけた指が滑った。
思わずバッツの手を掴んだが、バッツの方も支えきれなかったらしい。
「ギルガメッシュ! 重いっ……!」
あえなく、二人一緒にまっさかさまに海へ転落してしまった。
水しぶきが盛大に上がる。
しかしギルガメッシュは水を必死でかきわけ、水面に顔を出したバッツの頬に両手を添えて無理やり向き直らせる。
「夢じゃないよな!?」
「ひっつくな沈む!」
「バッツおまえ本物だよな? 頼むからそうだと言ってくれえぇ!」
「ああそうだよ、おれだよ! 放せって! 本気で溺れる!」
「ホンモノなんだな!? 嬉しいぜちくしょおおおー!」
雄叫びの最後は水の中にぶくぶくと消えていった。

674/21:2008/05/21(水) 21:54:32

「食料もテントも何もかもびしょぬれだ」
「ホントに申し訳ございません」
「おまえが抱きつくからマジ死ぬかと思った。ウォルスの水没塔より死ぬかと思った」
「返す言葉もございません」
たらふく海水を飲んだ後、なんとか海から這い上がったギルガメッシュとバッツは、
ほうほうの体で近くの森にたどり着いた。
焚き火を起こし、近くの泉で塩と砂を落とした服を乾かしながら、
ギルガメッシュは反論もできずに縮こまっていた。
「もういいよ、別に」
借りるぜ、と呟き、バッツは焚き火の上に乾かしてあったギルガメッシュの外套を奪い取って
素肌に纏い、たっぷりとした布に埋もれるようにうずくまった。
「優しいなあ、おまえ……」
「これ以上何言っても体力の無駄かなと思って」
「そ、そっかぁ」
ギルガメッシュはちょっぴり泣きそうになりながら座り込んだ。
隣のバッツはどこからか林檎を取り出し、「今日の夕飯はこれだけかあ」などとぼやきながら、
ナイフで半分に切った。
「おまえも食べる?」
「オレはいいよ」
バッツは一瞬複雑な表情を浮かべたが、小さく頷いて林檎をかじり始める。
それを見つめながら、ギルガメッシュは体の奥から笑みが沸きあがってくるのを抑えることができなかった。
「なんだよニヤニヤして」
バッツが訝しげにギルガメッシュを見やる。
「オレはよう、おまえに会えて嬉しいんだよ」
「おれは災難だよ」
ギルガメッシュは一瞬凍りつくが、すぐに気を取り直してまた喋りだす。

685/21:2008/05/21(水) 21:55:12

「そ、それより悪いんだけどバッツ、今いつなのかと、ここはどこなのかと、
教えちゃくれねえかな。もう訳わかんねえんだよ。
知らない世界に飛ばされておまえかと思ってためしに切りつけたらやっぱりおまえじゃなくって。
そいつ、とばっちりくらって吹っ飛んでったよ。かわいそうなことしたよ」
「おれかと思って切りつけたって意味わかんねえよ」
「いや他意はなくって! 不用意に近づいてまたおっかねえ魔物だったらいやだなと思って!」
「あ、そ」
バッツは小さくため息をつくと語りはじめる。
二つの世界が一つになったこと。
エクスデスは倒され、世界が平和になり、四つのクリスタルがよみがえったこと。
ここから見える橋はまぎれもなくビッグブリッジであること。
今は最後の戦いから一年余りが過ぎたところで、
旅の途中でこのあたりを通りすぎようとした時に上空から何か落ちてきたから、
びっくりして海面を覗き込んでいたこと。
「なるほどな。世界は救われてめでたしめでたしってわけだなあ」
バッツの長い話を聞きながら、ギルガメッシュの頬に自然と笑みが浮かんできた。
けれど、バッツは無言のまま外套の前をきつく合わせ、沈んだ面持ちで焚き火をじっと見つめていた。
「どうした?」
「どうした、じゃねえよ」
バッツは林檎の芯を焚き火に放り込む。青い瞳が、はぜる火花を移してきらりと輝いた。
「なあ。こんなこと言うの悪いと思うんだけど」
「ん?」
「おまえさ、その……いっぺん、死んじまったんだよ」
「やっぱりそうなの?」
バッツは無言で頷いた。さっきの複雑な表情もそれを気にしていたためだと悟る。
どうりで妙なことばかり起こるわけだ、とギルガメッシュは逆に大いに納得して頷いた。

696/21:2008/05/21(水) 21:55:49

「そっかあ、ユーレイか、オレ」
「そうだよ」
「でも良かったかな、ユーレイで」
「なんで」
「仕損じてたんだったら、オレ死んでも死にきれなかったよ。ははは」
「……わけわかんねえこと言ってんじゃねえぞ」
笑ってごまかそうとしたギルガメッシュだったが、
バッツの声に本気の怒りが滲んでいるのに気づき、思わず黙った。
と、バッツが思い切り睨みつけてくる。
(な、なんで?)
心中慌てふためくギルガメッシュをよそに、バッツは俯いた。
「ユーレイでよかったって何だよ。おれがどんな気持ちでいたかわかるのかよ」
「バ、バッツ、どうして怒ってんだ」
「あの時!」
バッツは視線をそらした。
「あの時、おれ、おまえが何やろうとしてるのかわかって、でも体が全然言うこと聞かなくて。
ただ見てることしかできなくて!」
「……」
「爆風が収まったら嘘みたいに何も残ってなくって……おれ……」
バッツは言葉を詰まらせ、唇を噛み締める。
「ひでえよ。ひとりで格好つけて」
喉から搾り出すように呟き、嗚咽をこらえるかのように手で口を覆うバッツを、
ギルガメッシュは何も言えずに見つめるしかなかった。
思い定めてやったことを悔やんだりはしていないが、
こんな思いをさせたのは酷くかわいそうに思えてきて何も言えなくなる。

707/21:2008/05/21(水) 21:56:40

「……ごめん」
思わず呟いた途端、思い切り睨まれる。
「謝ってんじゃねえよ」
「は、はい!」
心なしか潤んだ目で凄むバッツのわけのわからない迫力に押され、
ギルガメッシュは思わず諸手をあげる。
と、座り込んだままのバッツは、ギルガメッシュに向かって深く頭を下げて言った。
「ごめんな」
「え?」
「おれ、ずっと謝りたかったんだ。だっておれたちのせいで、おまえ」
バッツはゆっくりと首を横に振った。白い腕が赤い外套から覗き、肩まで顕わになる。
「ごめん……」
聞いたこともないような、かすかに震える弱い声だった。
ギルガメッシュはようやく我に返った。
ため息をつくと、久しく忘れていた温かい感情が胸に溢れた。
「やっぱり優しいなあ、おまえ」
バッツの背中から今にもすべり落ちそうな外套に手をかけて肩を覆ってやる。
「確かに、おまえらにはこてんぱんにされたし、盾とかいろいろ盗まれたし、
その挙句が狭間送りだったし、結局はああなっちまったけど。
でもオレは、おまえを恨んだりしてないぜ」
うつむいたバッツの髪をさらりと撫ぜる。
「だってオレは、オレ……あの……その……」
浮かんできた言葉に自分で気恥ずかしくなってきて、バッツをそろりと見下ろした。
「……何か言ってくれよ」
バッツはただ、続く言葉を待ってじっと見上げてきた。何も言えなくなってしまう。空の色よりなお青い瞳に魂ごと吸い込まれそうになる。

718/21:2008/05/21(水) 21:57:25

「ああ、もう!」
ついに耐えられなくなって、バッツの肩にかけてやった赤い外套を一気に引っ張り上げて顔までばさりと覆い隠してしまった。
「なにすんだよ!」
さすがに驚いて暴れるバッツの頬に両手を添えて、ギルガメッシュはやっと先ほどの続きを口にする。
「オレは後悔なんてしてないんだ。だから謝ったりしないでくれよ……な?」
急に大人しくなったバッツの布越しに額を合わせる。
「おまえを助けられて本当に良かったと思うし、いったいどういう巡り合わせなのか知らねえけど
ここでおまえに会えたのもすっげえ嬉しいよ。
オレ、オレはおまえの……仲間になりたかったんだから」
布の下でバッツが笑った気配がした。
「散々やりあっといておかしいんだけどよ、でもホントなんだ。
オレ、最後に……な、仲間を助けられて本当に良かったと思ってるんだ!」
そこまで言い終わると、ギルガメッシュはバッツの体から手を放して背中を向けた。
(シラフで恥ずかしいこと言っちまったよオレ)
頭を抱えていると、バッツが話しかけてくる。
「結構な告白してくれるじゃねえか」
からかうような言葉とは裏腹に、低い囁き声が優しく耳朶をくすぐった。
「そういうことはちゃんとおれの目を見て言えって」
「勘弁してくれよ……」
「意気地なし」
バッツが小さく笑い、背中にもたれかかってくる。すとんと預けられた体の重みは、涙が出そうになるほどに心地よかった。
(いつも正面きって切り合ってたけど、背中合わせもいいもんだなあ)
背中の温かさを噛み締めながらギルガメッシュはしみじみと思った。

729/21:2008/05/21(水) 21:58:07

「ギルガメッシュ」
「ん?」
「……おれもすっげえ恥ずかしいよ」
「バッツおまえ、かわいいところもあったんだ!」
振り向こうとすると、頭の後ろをぎゅうぎゅう押さえられた。
「何言ってんだよ。絶対こっち向くなよ」
「意地っ張り」
「うるせえ」
二人とも黙りこむと木々のざわめきだけが響いた。
静かな夜だった。何物にも代えがたい静寂だけがあった。
森の清浄な空気を吸い込みながら、ギルガメッシュは、
時間がこのまま止まってしまえばいいのにな、とふと考えた。
「なあ、ギルガメッシュ」
長い長い沈黙の後、眠そうな声でバッツが囁く。
「ユーレイが現世をさまようのは良くないよ。おまえ、ここにいちゃいけないよ」
バッツが自分のことを思って言ってくれているのはわかっているのに、突き放されたようで少し切なくなった。
「そう、だな」
「おまえ、朝起きたらいなくなってたりしない?」
「わかんねえ」
「でも、会えて嬉しかった。今夜だけの夢でもいいかなって……思ったんだ……」
「な、おまえ、何言って……バッツ?」
背中から体の重みが離れて行き、ギルガメッシュは振り向いた。
「おっと……」
傾いで地面に倒れこみそうな体を慌てて抱きとめ、ほっと息をつく。
バッツは、赤い外套にくるまって安らかな寝息を立てていた。
体勢を変えて火の側に寝かせる。縮こまって辛そうにしていたので膝を貸してやると、
バッツは気持ち良さそうな吐息をつく。
ギルガメッシュは苦笑しつつ呟いた。
「ったくよう、このオレを枕にするなんて世界におまえくらいだよ」
そろそろと手を伸ばして触れてみたバッツの髪は、まだしっとりと濡れていてほのかな潮の香りがした。

7310/21:2008/05/21(水) 21:58:47

ふとその体に目をやったギルガメッシュは思わず息を呑んだ。
バッツの体の上には無数の傷痕があった。
胸元に、背中に、体中の青白い肌に残るいくつもの戦いの痕。
もちろんバッツはこう見えて歴戦の戦士だし、戦士に傷痕がつきものなのは当然だった。
しかしギルガメッシュには、いま自分の膝の上で休むこのあどけない寝顔に、
このあまりにも多い傷痕は全くそぐわないものに思えた。
喉元に、治り切らない長く深い痕を見つけた。下手をすれば死に至るほどの傷だったかもしれない。
痛々しさを感じながら思わず指で傷痕をなぞった。首筋から肩、胸へ。
と、バッツが嫌がるように小さなうめき声を上げる。
その体のぬくもりに名残惜しさを感じながらも、ギルガメッシュは肌の上を滑る指を引いた。
露になった肩や胸をもう一度布で覆ってやりながらじっと考えた。
バッツはこの細い肩に重い運命を背負って戦い抜いたのだ。
たくさんの傷を負い、たくさんの涙も流しながら世界を救ったのだ。
「よくがんばったよ、おまえ」
髪をそっと撫ぜてやると、安心したように唇にかすかな笑みが浮かんだような気がした。
どうか安らかな眠りをバッツの上に。柄にもなく、ギルガメッシュはひそかに願った。

7411/21:2008/05/21(水) 21:59:27

翌日、一夜の寝床の森を発ち、ビッグブリッジに差し掛かった時には既に太陽が高く昇っていた。
二人は並んで、かつての戦場だった橋の上をゆったりと歩いていた。
陽光に青くきらめく海を眺める。風景は何も変わらないまま、自分たちの関係は驚くほど変わった。
眩しそうに目を細めるバッツの穏やかな横顔を見ていると、
最初に会った日から随分と長い時間が経ったように思えてならなかった。
最初にまみえた時を昨日のことのようにはっきりと覚えている。
長柄物を敏捷にかいくぐる身のこなし。迷いのない斬撃。思わぬ死角からの鋭い蹴り。
ギルガメッシュはバッツの戦い方が好きだった。
けれど、何よりも好きだったのは戦うバッツの目だった。
激しい攻勢に押された挙句、たまらずに身を翻して逃走を図ろうとした時、
追い討ちをかけてくるバッツと目が合った。
稲妻のような激しい斬撃とは裏腹に、バッツの青い双眸は信じられないほどに冷静そのもので、
冴え冴えと光りながら揺らぐことなく自分を見据えていた。
気を抜いたらやられる、と全身の細胞で悟った刹那、
背筋に走ったのは戦慄とも快楽ともつかないゾクゾクした感覚だった。
負け知らずだった身に降りかかった完膚なき敗北の記憶とともに、
その感覚は忘れたくても忘れようがなかった。
再戦のたびごと、雪辱をはらそうという大義名分に隠し、
更なる命のやりとりを求めずにはいられなかった。
冬の孤星のような冷たい輝きを求め続けて今、ギルガメッシュはここにいた。

7512/21:2008/05/21(水) 22:00:16

ふと視線を感じて隣を見下ろす。何やら神妙な面持ちで、バッツがじっと見つめてきていた。
視線が絡むと、バッツはふいと目をそらしてしまったが、
しばらくして意を決したように、ギルガメッシュを見据えて口を開いた。
「おまえさあ」
「なんだ?」
「おまえ、どうしておれたちを助けてくれたんだ」
真剣そのものの口調だった。ギルガメッシュはしばらく考えて呟く。
「おまえたちを死なせたくなかったんだよ」
「なんでだよ。散々今まで問答無用で切りかかってきてたじゃねえか」
バッツの問いに、ギルガメッシュはぐっと言葉に詰まった。
「あー、まあそうだけど。そうじゃなくて。まあ言ってみれば独占欲みたいなもん、かなあ」
バッツはぽかんとして、顔中に疑問符を浮かべている。
「おまえをやっつけるのはオレ以外に有り得ねえぞ、みたいな」
「意味わかんねえ」
「わかんねえよな。そうだよな」
ギルガメッシュはひとしきり笑ってため息をついた。
「オレだってわかんねえよ。体が勝手に動いたんだから。
でも、あのおっかねえ所でおまえに会えて、で、やっと何かわかったような、そんな気がするんだ」
眉をひそめてうつむくバッツに向かい、慌てて付け加える。
「何度も言うけどオレは納得してるんだって。おまえを助けられて本当によかったんだって」
「ギルガメッシュ」
「悪いけど説明とかは苦手なんだよ。もう勘弁してくれよ」
本当にもう言葉が出てこなかったので、ギルガメッシュは思い切り笑って見せた。
つられたようにバッツも唇にかすかに笑みを浮かべた。
二人の沈黙を柔らかく抱くように優しい風が吹く。

7613/21:2008/05/21(水) 22:01:02

満たされた気持ちでギルガメッシュは思った。
(このまま一緒に、おまえと旅がしたいなあ)
最初は旅慣れたバッツのお荷物になるかもしれないが、なんといっても自分は疲れ知らずの幽霊だし、
きっとそこまで邪魔にはならないだろう、とギルガメッシュはうきうきと考える。
「なあバッツ、おまえさあ」
オレと一緒にどこまでも行かないかと、ギルガメッシュは口を開きかける。
その時、ゆっくりと歩いていたバッツは橋の真ん中の堅牢な建物の前で立ち止まった。
「どうしたんだ」
問いかけてみると、うつむいていたバッツが意を決したようにギルガメッシュを見上げて言った。
「ギルガメッシュ。……おれは一度、死んだはずだった」
「嘘だろ」
ぎょっとして身を乗り出すギルガメッシュに向かい、バッツは首を振る。
「本当だ。最後の戦いでおれは死んだはずだった。なのに、おれはここにいる。生きてるんだ。
ガラフたちや、この風のクリスタルのおかげで」
バッツは唇を噛み締め、ギルガメッシュの目を射抜くように見つめる。
「なあ、こんなの不公平じゃないか? ギルガメッシュ、おまえは死んでしまったのに。
ガラフやレナの父さんたちも、みんな死んでしまったのに。どうしておれだけ生きてるんだ」
バッツは苦しげに声を絞り出す。
「わかんねえよ。目が覚めたら世界は平和になってた。みんな、それが当然みたいな顔して生きてた。
だけどおれは……」
バッツは一息に言い、黙り込んだ。自分の手を見つめながら呟く。
「おれにはわかんねえ……」
目を伏せた横顔がたまらなく弱々しく見えて、ギルガメッシュは焦った。
いま触れれば、あの『無』の中へと消えてしまいそうなほどに。
バッツは、こんなふうにずっと迷っていたのだろうか。
無と有、死と生の境目を危うく縫ってここまで歩いてきたのだろうか。
だとしたら、それはとても痛々しいことに思えた。どうしても考えてしまったのかもしれない。
――もし自分ではなく他の誰かが蘇っていれば、もっと幸せになれる人がいたのではないか、などと。

7714/21:2008/05/21(水) 22:01:39

けれどもギルガメッシュにとっては、ここにいるのはバッツ以外に有り得なかった。
他の誰も代わりにならなかった。
ギルガメッシュは、バッツの底知れない問いかけに対するたった一つの答えを見出した。
自らの魂を駆り立て、熱く揺さぶり、乱暴ながらもこの場所まで導いてきた切実な思いだった。
うつむき背を向けるバッツに向かい、ギルガメッシュは背負った剣をゆっくりと抜いた。
刀身がすらりと鞘から抜き放たれる音に、バッツはびくりと身を振るわせる。
ギルガメッシュは呟く。
「バッツ。……オレにとっては、おまえじゃなきゃ駄目なんだ」
バッツは背中を向けたままでいる。
「オレはおまえとずっと一対一でやりあいたかった! そのために、オレはここに来たんだ」
届かない切っ先が、海からの光を照り返し輝いた。
「だからオレと戦え。そんな顔するな。……頼むよ」
バッツは答えない。二人の間に風だけが吹く。
と、背中を向けたままのバッツが持っていた荷物を放り投げ、腰の鞘から二振りの短刀を抜き放った。
バッツはギルガメッシュに向き直り、両手に持った短刀を胸の前で交差させ、低く身構える。
向かい合う刃に緊張がぴりぴりと走る。愛しさすら覚えるその感覚。
「……ありがとよ」
ギルガメッシュが呟くと、バッツの瞳がほんの少し切なげに揺らいだ。
だがそれもわずかな間のことだった。
瞬きをし、もう一度目を見開いたバッツの青い双眸はますます冷たく、辺りの空気すら冷えていくようだ。
息をすることすらためらわれるほどの沈黙。

7815/21:2008/05/21(水) 22:02:30

その一瞬、風が止まった。
刹那、バッツが地面を蹴った。ガキン、と刃が合わさる重い手ごたえ。ギリギリと金属が軋む音。
バッツの両の短刀が絡むようにまとわりつき、武器を持っていかれそうな感覚に襲われ、
ギルガメッシュは剣を大きく横に薙ぎ払った。
後ろに跳び退るバッツに向かい追い討ちをかける。
踊るように軽やかなバッツの短刀裁きをかいくぐりながら、
ギルガメッシュは重い斬撃を加え続けてバッツを橋の欄干の方へじわじわと追い込む。
と、ギルガメッシュの一撃を受け止めたバッツが地面に膝をつき、体勢を崩した。
その隙を逃さず、ギルガメッシュはまっすぐに剣を振り上げ、打ち下ろそうとした。
鈍い音が響く。
しかし、ギルガメッシュの剣は振り下ろされることなく中空で止まった。
いつの間にかバッツが欄干の上に飛び乗っていた。
その足の下に、ギルガメッシュの剣の切っ先を強く踏みしめて。
はっとして、ギルガメッシュはバッツを見上げた。
両手の短刀が猛禽の爪のように鋭く光る。
夕日を背負ったその髪は燃えるような赤に染まり、逆光を背負ってなお青い瞳が冴え冴えと輝く。
ぞくりと背筋が震える。あの戦慄が駆け上る。
バッツはそのまま剣の上を走るかのように跳躍し、短刀を額めがけて振り下ろしてくる。
手甲でなんとか受け止め、バッツの体を力任せに投げ飛ばす。
地面を転がったバッツは受身を取り飛び起き、両手の武器を振りかざし再び打ちかかってくる。
「ギルガメッシュ!」
バッツが叫んだ。
名前を呼ばれた途端、ギルガメッシュの脳裏に一つの記憶が鮮やかに閃いた。

7916/21:2008/05/21(水) 22:03:23

「ギルガメッシュ……」
話終えたギルガメッシュは、背にかばったバッツが茫然と呟くのを静かに聞いた。
相対した時にはいつも真っ先に切り込んできた好敵手が、今は傷だらけの体で両膝をついていた。
剣を支えになおも立ち上がろうとするバッツを背に、ギルガメッシュはネクロフォビアへ向き直ったのだった。
次元の狭間に放り込まれた時の怯えなどない。忘れかけていた闘志が湧き上がってくる。
「なにをごちゃごちゃと。まずはお前から始末してやる」
冷たく言い放つネクロフォビアが詠唱の構えを取る。
刹那、剣を水平に構えてギルガメッシュは地を蹴った。
「うおおおおおっ!」
とっさにかわそうとする敵の一瞬先を捉えた。刃の食い込む手ごたえを確かに感じる。
だが、敵の顔が苦悶から嘲笑に変わった。
訝る間もなく、その手から無数の真空波が放たれた。眼前に刃が迫る。
今ならかわせる。かわせるが。
(避けたら、あいつらに……)
ギルガメッシュは避けなかった。とっさに腕をいっぱいに広げた。
鈍い音。右半身の鋭い痛み。繰り出された真空波に腕が巻き込まれる。
受身も取れずにギルガメッシュはしたたかに地面に打ち付けられる。
そこへ追い討ちで飛んでくる見たことも無い魔法の連撃に体の皮膚が爆ぜる。
爆音の向こう、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がする。
痛みを堪えて何とか立ち上がるが、体が自分のものではないように力がどんどん抜けていく。
目がかすむ。傷口が熱い。呼吸が整わない。
カラン、と乾いた音を聞く。力の入らない拳から剣が滑り落ちた音だった。
背筋がぞっと冷える。おしまいか、と悟る。
このままでいても血を失って死ぬだけだ。
ならば。
無駄死にだけはしない。
ギルガメッシュは固く目を閉じ、生まれて初めて心から祈った。
(神様……!)
どうか、どうかしくじらせないで下さい!
最後の力を振り絞って目を見開き、敵を見据える。
「死ね!」
「それは! こっちのセリフだぜ!」
ギルガメッシュは駆けた。己の命一つを武器として。

8017/21:2008/05/21(水) 22:04:04

バッツの短刀を構えた剣で受け止める。
そのままつばぜり合いを押し切ろうとしたが、
ギルガメッシュの体の下に潜りこんだバッツが不意打ちで足払いをくらわせてくる。
間一髪、かわして渾身の一撃を加えるが難なく受け止められる。
しゃがみこんだバッツが、跳躍の勢いで短刀を下からえぐり上げてくる。
かわしきれなかったその切っ先がギルガメッシュの頬を掠めた。
久しく感じなかった痛み。熱い血が溢れる傷。――幻などではありえない感覚。
何度も切り合っては離れ、また刃を合わせる。
この命のやりとりを永遠に続けていたい思いにかられる。
幾度とも知れない打ち合いの中、いつしかバッツは笑っていた。子供のように。
ギルガメッシュも笑った。屈託なく心から笑い、叫んだ。
「バッツ! おまえは……おまえは本当にいい男だよ!」
「おまえに惚れられたって嬉しくもなんともねえよ!」
額の汗を乱暴にぬぐい、バッツは肩で息をする。
と、バッツの体が不安定にぐらりと傾いだ。
それが隙なのか罠なのか、もうギルガメッシュにはわからなかった。
しかし、それもどうでもよかった。
誘い込まれるようにギルガメッシュは走り体当たりをくらわす。
小さくうめいて倒れこんだバッツの体に覆いかぶさり、剣を振りかざす。
ギルガメッシュの腕が止まった。
剣の切っ先は真下のバッツの眉間を垂直に狙っていた。
しかし、バッツの短刀はギルガメッシュの鎧の隙間をかいくぐり、心臓の上にぴたりとあてがわれていた。
どちらかが動けば双方命が無くなる、ぎりぎりの体勢だった。
気づけば息がずいぶん上がっていた。顎を汗の雫が伝った。頬の傷がじんじんと痛みを訴えていた。
たまらなく懐かしい感覚だった。

8118/21:2008/05/21(水) 22:04:48

「ふっ。……ははははは!」
こらえきれず、ギルガメッシュは腹の底から笑った。
剣を置き、バッツの体の上からどいても笑いは収まらなかった。
いつしか目尻からこぼれてきた涙をぬぐいながら、ギルガメッシュは孤島の神殿の壁にもたれて座った。
海の向こうに沈んでいく夕日を眺めて思う。
神様。オレなんかにここまでしてくれるなんて、あんたはなんて偉大な方なんでしょうか。
「どうも、ありがとうございました」
心の中に自然に湧き上がって来た言葉を呟き、ギルガメッシュはそっと頭を垂れた。
いつの間にか、武器を収めたバッツが隣に座り込んでいた。
微笑みながらも、身を切るような切ない目をして見つめてくる。
目が合うと、バッツはうつむき、ぽつぽつと語り出した。
エクスデスが無に呑み込まれて誕生した『ネオエクスデス』と名乗る魔物との死闘の最中だった。
皆、満身創痍の状態で、立つのがやっとだった。しかし敵も弱っていた。
捨て身のつもりで攻勢をかけた時、確かな手ごたえとともに全身が千切れるような痛みを感じ、
刺し違えるようになってしまったという。
「力を使い果たして、とても眠くて、無から抜け出すことができなかった。
このまま消えていくんだと思った。なのに、……おれだけが戻って来ちまった」
かける言葉はどうにも見当たらなかったが、ギルガメッシュは明るく笑ってみせた。
「そんなこと気にするなよ」
「そんなことって……」
「だっておまえ、死にかけたところを爺さん達に助けてもらったんだろ?
ってことは、みんな向こうで元気にやってるってことじゃねえか」
うつむいたままのバッツは顔を上げようとしない。
「オレにはそうとしか思えねえがなぁ。案外、こっちの世界と向こうの世界なんて、
そんなに違わねえのかもしれねえぜ? 
まあ、オレがうろうろしてたところがあの世なのかはわかんねえけどよ」
それでも黙りこくっているバッツの肩を軽く叩きながら、ギルガメッシュは言う。

8219/21:2008/05/21(水) 22:05:23

「それに、こういうのはなんか照れるけど……おまえは一人じゃないんだ」
バッツが体を震わせ、はっと顔を上げた。
「オレも旅を続ける。そうだな、向こうの世界をゆっくり見て周るさ。
……そう、おまえと一緒だ。ずっと。だからそんな顔するのはやめろよ」
バッツは小さく頷き唇を薄く開くが、結局何も言わなかった。
そのかわり、バッツは腕を広げ、ゆっくりとギルガメッシュの体を抱きしめた。
「バ、バッツおまえ」
慌てるギルガメッシュをよそに、バッツはギルガメッシュの首筋に顔をうずめてじっと動かない。
おずおずと、ギルガメッシュはバッツの背中に腕を回してみる。
耳元で深い吐息が聞こえる。バッツの体温を味わいながら呼吸を聞いているうちに、
いつしか、陽だまりにいるような安らいだ気分に包まれる。
ギルガメッシュは考える。
自分は存分に生きた。
敗北の苦味を知り、命のやりとりの快感を知り、
そして誰かを守りたい思いの大切さを知り、守りきることができた。
今、最後の望みまで叶えられた。
思うように生き、もうこれ以上の望みはなかった。
ギルガメッシュは満足して、深い溜息をついた。

8320/21:2008/05/21(水) 22:06:39

やがてバッツが体を離して立ち上がった。
儚い迷いはどこかに吹っ切ってしまったように、大地を踏みしめて行く手を見つめるその姿はしなやかに強かった。
「もう行っちまうんだな」
「ああ」
頷いてみせるバッツに向かい、別れの言葉を告げようとして少し迷った。
迷った後、ギルガメッシュは言った。
「……またな」
バッツは驚いたように目をみはったが、すぐに小さく頷き微笑んだ。
五月の空のように晴れ晴れと明るく。
その笑顔は凛々しく強く、ギルガメッシュの脳裏に鮮やかに焼きついた。
バッツは踵を返し、橋を向こう側へと渡っていく。遠ざかるその背中を目で追う。
小さくなっていく後姿を惜しみながらも、ギルガメッシュは海を見つめた。
一日の最後の光が、水平線の向こうに赤々と灯っている。
息が止まるほどに鮮烈なその美しさは、まるで迷い人のための道しるべのようで、
自分のことをずっと待っているかのように海の上になおもとどまっている。
ギルガメッシュは目を閉じた。そうすると、指先から全身の感覚がなくなっていく。
体中に眠りが染みとおって行くようで、だんだんとすべてがぼやけていく。
一眠りするか、とギルガメッシュは考える。
けれども眠りで何もかもおしまいになる訳ではない。
この世界で自分がやるべきことを為し終えただけだ。
たぶん目覚めればまた、果てしない世界が広がっているのだろう。ここではない、もう一つの世界が。
そして旅の終わりに行き着く場所で、また会いたい。
ギルガメッシュは安らかに、全身を穏やかな眠りに委ねる。
海へと風が吹いた。すべてを運び去るように。

8421/21:2008/05/21(水) 22:07:22



風の向きが変わり、夕日の残照が海の向こうに消えた。
バッツは静かに足を止め、ためらいながらも振り返った。
あの姿はもうなかった。夕暮れの見せた幻が海へと吹き払われてしまったように。
闇が訪れる前のほのかな光の中、名もない草花が風にそよいでいるだけだった。
バッツは姿勢を正し、誰も居ないその場所へ、深く、深く頭を下げた。
やがて顔をあげたバッツの頬に涙が一筋伝った。
ゆるやかな風が、こぼれる一しずくの水滴を掬い取り、海の向こうへと運んでいく。
バッツは涙を振り払い、背を向け歩き出す。しっかりとした足取りで。
こことは違う大地を同じように踏みしめる足取りを思いながら、
新しい世界へと続く道をどこまでも歩き出す。
いつかたどりつく場所へ。はるかなる魂の故郷へ。
永い旅は、まだ始まったばかりだった。

85名無しの勇者:2008/05/21(水) 22:07:59



長々と失礼しました。
読んでいただきありがとうございました。
バッツとギル萌え。

86名無しの勇者:2008/05/22(木) 01:58:17
涙腺直撃されました
素晴らしいお話ありがとうございます

87名無しの勇者:2008/05/22(木) 21:28:04
作品来てたー!嬉し杉る。
ギルバツの微妙な距離感が最高に萌えました。
ギルはギャグも切ない系もこなせる心底かっこいい漢だと再認識。
すばらしい作品、堪能させてもらいました。
超GJ!!

88名無しの勇者:2008/06/04(水) 00:35:48
バッツもギルもめちゃくちゃカッコ良過ぎる…
戦いを通じての男の友情っていいなぁ。

今度再プレイするときこの話思い出して涙出そうかも…
職人さん有難うございました!!

89名無しの勇者:2008/07/07(月) 03:34:14
なんだこれ素晴らしすぎる!!
ありがとう!マジでありがとう!

90名無しの勇者:2008/11/17(月) 20:42:56
最近バッツ受けにはまって餓えてたらここ見つけてみなぎったよ。
萌えるし泣けるしで腹いっぱいだよ!
もっと盛り上がればいい!

91名無しの勇者:2010/07/31(土) 03:11:24
二年の時を超えて 職人さんGJ過ぎますですよ!!


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