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【他】『PLイベント総合スレッド』
76
:
一人の男と一人の女
:2018/07/06(金) 21:54:54
一人の男が歩いてくる。
作業服姿の背の高い中年の男だ。
おもむろに立ち止まり、無言で笹を見上げる。
(『願い事を吊るす笹』――か。そういえば、そんな話があったな)
こうして笹を設置する催しは、最近になって始めたのだろうか。
あるいは、昔からあったのかもしれない。
少し記憶を探ってみるが、それらしい情景は思い浮かばなかった。
(生憎、俺には何も書くことがないが――)
ポケットから一枚の古い写真を取り出す。
その中では、かつての婚約者が変わらない笑顔を見せている。
今は失われた過去の断片だ。
(こいつがいれば――何か書いたかもしれないな)
――――――――――――――――――――――――――――――
やがて、反対側から一人の女が歩いてきた。
黒い帽子と喪服を身に着けた黒衣の女だ。
笹の前で足を止め、そこに吊るされた短冊を見つめる。
また、この笹を見ることができたことに、軽い安堵感を覚える。
それは、今この瞬間に自分が生きているという証なのだから。
右手の薬指に嵌められている指輪を軽く撫でる。
飾り気のない銀の指輪。
それは、掛け替えのない形見の品だ。
――……見ていてくれていますか?
――私は……あなたとの約束を守ります。
――だから、これからも見守っていて下さい……。
――――――――――――――――――――――――――――――
女が視線を上げると同時に、男が視線を下ろす。
笹を挟んで、二人の視線が空中で相対した。
互いに一言も交わさず、しばし沈黙の時が流れる。
まもなく、男が女から視線を外し、写真をポケットに戻した。
そのまま踵を返し、その場から立ち去っていく。
――――――――――――――――――――――――――――――
歩きながら、男の心には不可解な感覚が残っていた。
先程の女に、奇妙な親近感のようなものを覚えたのだ。
一言も喋らず、挨拶すらも交わさなかった。
だが、黒衣の女の瞳の奥に、自分と似た『何か』を感じ取った。
そこに秘められた意味に対して、男は考えを巡らせていた。
「――止めだ」
考えてみたところで、それが何になる訳でもない。
俺に彼女の心が分かる筈もない。
彼女に俺の心が分からないのと同じように。
そして、それは詮索するようなことではないだろう。
だから、この疑問は、このままでいいのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
立ち去る男を見送り、女は物思いに耽っていた。
男の目の中に、自分と似た『何か』を感じたのだ。
そのことが心に引っ掛かっていた。
――あの人は……。
考えても、その答えは分からなかった。
思考を中断し、白紙の短冊を手に取る。
そして、自らの想いを静かに綴り始めた。
サラサラ……
最初は、『これからも約束を守れますように』と書くつもりだった。
だけど、その願いは自らの意思で実現することにした。
その代わりに、こう書いた短冊を笹に吊るした。
『 この町と、この町の人達が幸せでありますように 』
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