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【場】『 歓楽街 ―星見横丁― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:01:26
星見駅南口に降り立てば、星々よりも眩しいネオンの群れ。
パチンコ店やゲームセンター、紳士の社交場も少なくないが、
裏小路には上品なラウンジや、静かな小料理屋も散見出来る。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
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                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
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★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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178小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/19(月) 00:05:19

歓楽街――路地裏の薄汚れた地面に、一人の女が壁に背中を預けて座り込んでいた。
その細身の身体を覆っているのは、楚々としたツーピースの喪服と、
フェミニンなシルエットの黒いキャペリンハットだ。
心ここにあらずといった様子の放心した表情で、何もない虚空を見つめている。
足元には、口の開いたハンドバッグが転がっており、中身が周囲に散乱していた。
そして、捲り上げられて露になった色の白い右腕からは、
一筋の血が流れているのが見える。
血の付いた果物ナイフが手の中から滑り落ち、地面の上に落ちた。

   ――間に合った……。

やがて、瞳に光が戻ってきた。
呼吸を落ち着けながら、ここに至った経緯を思い返す――。

町を散策している途中で道に迷ったことが始まりだった。
そのせいで、今まで来たことがなかった横丁方面に迷い込んでしまった。
間の悪いことに、その時ちょうど、強い『発作』に襲われたのだ。
慌てて人気のない場所に駆け込み、急いで果物ナイフをバッグから取り出して、
自らの腕を傷付けた。
幸いにも、『鎮静剤』が効いたお陰で、徐々に発作は鎮まっていった。

   ――人が来る前に……片付けておかないと……。

もし、今の光景を誰かが見たとしたら、
何か事件があったかと思われるかもしれない。
できることなら、騒ぎを起こしたくはなかった。
無理に身体を立たせようとするが、脱力した身体は力が入らず、
立ち上がることができない。

                 ガタンッ

   「!!」

背後から物音が聞こえ、地面に座り込んだ状態のまま、驚いて振り返る。
         
       ミャー

しかし、それは人ではなく、一匹の野良猫だった。

179のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/09/19(月) 01:37:14
>>178

やぁ諸君。僕だ。
かつて僕の尊敬する文豪は走る男の話を書いた。
人質の友人のために自らが死ぬために走る男である。
しかしあの話、文豪が借金を返さねばならないが返すのが嫌だという話だったとする噂がある。
真実は闇であるが事実であるならばそれもまた闇である。

僕はその小説の主人公もかくやと思うほどに走った。
すでに心臓は破裂しそうなほどに暴れだし、息は切れ、口の中には鉄くさい味が広がっていた。
走らねばならない。僕自身の犯しかねない罪から逃げるために。
服は汗でべったりと張り付き不快感すら発生させているが走らねばならない。
僕をかわす人々は皆振り返り僕を見るが気にせず走らねばならない。
逃げなければいけないのだ。でも、どこかと問われば答えは闇の中であった。

僕は足を止めた。さすがにいいだろうと思ったのと、僕の体がこれ以上の逃走を拒み始めたからである。
体力はつき、今にも倒れそうであったが持ち前の紳士ぶりでこれをこらえた。
ぜいぜいと息を切らし、いまにもすべてを吐き出しそうになりながら顔を上げた。
そこには、一匹の野良猫がいた。
知らぬ猫ではない。この辺りに来たときには見かける猫であった。
僕は彼、いや彼女かもしれないがその猫に勝手に「あい」と名付けた。

「あい」

そう呟いて重い足を引きずって猫を追うと
知っている女性がいた。

「あなたは……」

180小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/19(月) 21:38:01
>>179

   「――あっ……。卜部……さん……」

安心した直後に現れた顔見知りの少年の姿を見て、びくりと身体を震わせる。
その拍子に、被っていた帽子が脱げて、地面に落下していく。
予想外の事態に直面したために、表情には激しい動揺の色があった。
確かに、また会ってみたいとは思っていた。
しかし、こんな形で再会することになるとは思ってもみなかったのだ。

咄嗟に、今しがた右腕に付けた生傷を左手で隠す。
しかし、冷静な状態だったなら、
そんなことをしても意味がないことは分かったはずだった。
左手の下からは、未だ止まらない血が滴っているし、
近くの地面には血の付いた果物ナイフが転がっている。
傷口が目に触れないようにしたぐらいでは、隠し切ることなど無理な話だった。

   「あの……」

何か言おうとしたが、混乱した頭では取り繕う言葉も出てこない。
結局、言いかけた言葉の先は続かず、ただ沈黙を守ることしかできなかった。
今、心の中では、どこか後ろめたい思いを感じていた。
できれば、こんな姿を見られたくはなかった。
そう思うと、目を合わせることができず、思わず顔を伏せる。

181のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/09/19(月) 23:02:28
>>180

「小石川さん……?」

僕はどきりとするのを感じた。
またこの女性と出会えることの喜びと
なにやらこの女性から流れる赤いものに対してだ。
吹き出ていた汗はやがてじっとりとした冷や汗に変わり僕の背骨をなぞるように体を伝う。

「……どこの悪漢ですか?」

「襲われたのだろう?」

英国の切り裂き魔の真似事か?
それとも外科医ごっこか?
とにかく許せはしない卑劣漢。
僕は善性の人ではなかったが同時に悪性の人間とも言い切れぬ精神を持っていると認識している。
それは持ち前の紳士性とは無関係の魂の問題だ。

「……まさか、あなたが自分で切ったとなんてことはないはずですから」

「小石川さん。顔を上げてください……つらいのなら、私はあなたの思うように……」

182小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/19(月) 23:30:23
>>181

自分で切ったはずはない――その言葉が心に深く刺さる。
もちろん、そう考えるのが普通なのだろう。
しかし、実際は違う。
この腕の傷は、紛れもなく自分の手によるものだ。
そのことを話すべきかどうか、躊躇いがあった。
だが、黙っていては、事態を大事にしてしまうかもしれない。
なにより、この少年に対して、誠実な態度であるとは言えない。

意を決して顔を上げ、少年の顔を正面から見つめる。
それでも、まだ迷いはあった。
心の動きを反映しているように、睫毛が小さく震えている。

   「私が……」

   「私が切ったんです」

   「だから――」

   「だから……私は……大丈夫です……」

途切れ途切れに言い切る。
今の自分には、それが精一杯だった。

183のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/09/19(月) 23:44:49
>>182

「……」

「……そう……でしたか……」

僕はどうしていいのか分からなかった。
今までの経験を探しても、これまでの読み物を漁っても
このような状況で女性にかけるべき適切な言葉は思い浮かばない。
思い浮かびはしなかった。
我が知識の沼からすくい上げられた汚泥の如き思考と言葉は彼女にふさわしくないように思える。

「襲われたわけでなくてよかった……」

帽子を拾う。軽くはたく。ほこりや汚れが付いていれば落としておくべきであろう。
かぶせるべきか、渡すべきか。それとも放置しておくべきか。
しかし彼女の手がそうなっている以上僕にはかぶせるか持つかしかない。

「止血をしなければいけませんね」

とりあえずハンカチを彼女に差し出す。
止血はできないが拭うことはできるだろう。
野良猫はまだ視界の端にいた。
僕には目の前の女性よりあの「あい」と名付けた野良猫の区別はついている。
しかし今の彼女はあの野良猫のように強くはないように思えた。

「……小石川さん。あなたはなんで……」

「いえ、その……答えたくないのなら、あなたの好きなようにするといいでしょう」

184小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/20(火) 00:19:08
>>183

   「ごめんなさい。驚かせてしまって……」

謝罪と共に、軽く目を伏せる。
すると、少年が帽子を拾ってくれるのが見えた。
差し出されたハンカチを受け取り、大方の血を拭き取る。

   「ありがとう……。あ……帽子……。
   ……少し持っていていただけますか?」

口の開いたバッグ――その中から、ガーゼと包帯を取り出した。
それらを普段から持ち歩く人間は多くはないだろう。
ガーゼを傷口にあてがい、包帯を巻きつけて、手早く止血を済ませる
その手際の良い動作から、慣れた行為であることがうかがえる。
一連の動作を終えると、散乱した品物を拾い集め、元通りバッグの中に収める。
やがて、その場で立ち上がり、少年から帽子を受け取った。

   「――ありがとう。ハンカチは、洗って返しますから……」

手の中には、受け取った帽子がある。
しかし、それを被ろうとはしなかった。
帽子を胸に抱いて、おもむろに口を開く。

   「私には、愛した人がいたんです……」

   「でも、彼は事故で……」

   「そして、私も後を追うつもりでした」

   「でも、彼が言い残したんです。『自分の分まで生きて欲しい』と」

   「だから――私は生き続ける道を選びました」

そこで言葉を切り、両手の薬指にはまった指輪を交互に見下ろす。

   「でも、時々抑えられなくなるんです」

   「彼の下へ旅立ちたいという思いを……」

   「そんな時は――自分の身体を傷つけて、その思いを抑えているんです……」

告白を終えて、少年に微笑みを向ける。
それは、以前に会った時に見せた陰のある微笑だった。

185のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/09/20(火) 00:51:25
>>184

「いえ、もうそのハンカチは差し上げましょう」

どうせ燃やされるのだと心の中で付け加えながら。
恐らくあれも燃やす。きっと僕は焼いてしまうのだから彼女の手の中にあった方がいいだろう。
彼女は自分の身を切った。ならばそこにいるがいい。

「あなたは愛情深い人だ」

「その人を私はとても羨ましく思いますよ。人ひとりに後を追わせようとさせるほどの人間なんて」

「でも、あなたが傷つくのは私は悲しい」

だが誰が彼女のその行動を止められようか。
僕は神ではない。天才でもない。神童でもなければ秀才でもない。
ただの人であった。
ただの人に人の人生をどうこうしようなどという考えは重すぎる。
だがそれでも差し伸べたい手というのはある。

「私はあなたの力にはなれませんか?」

186小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/20(火) 01:23:11
>>185

   「……分かりました」

親からは、もらったものは返すべきだと教えられてきた。
そして同時に、相手の気持ちを無駄にしてはならないとも言われていた。
だから、素直にハンカチを受け取っておくことにした。
もちろん、彼の心の中など分かるはずもない。
しかし、彼の意思は尊重しなければならないと感じていた。

   「――ありがとう、卜部さん」

突然の話にも耳を傾けてくれたこと、理解を示してくれたことに対して、
感謝の言葉と共に頭を下げる。
彼の優しさが胸に染みた。
心なしか、さっきまでと比べて、気持ちが軽くなったような気がした。
きっと、それは気のせいではないのだろう。
こうした人との繋がりが、大きな心の支えになってくれることは、
少なくとも自分にとっては、紛れもない事実なのだ。

   「そんなことはありません」

   「今も十分に力になってくれていますから」

   「ただ、もう一つだけお願いがあります――」

胸に抱いていた帽子を被り直す。
沈んでいた気持ちを切り替えて、少年に微笑みかける。

   「実は、道に迷ってしまって……。」

   「もし、お時間があれば、星見街道の方まで案内していただけないかしら?」

そう言いながら、自然と片方の手を少年に差し出していた。
それを彼が取ってくれるかは分からない。
自分でも、無意識の内に行っていた動作だった――。

187のり夫『ザ・トラッシュメン』:2016/09/20(火) 01:42:16
>>186

「私はなにもしていないのです。きっとね」

だが、今は彼女の言葉に従うべき時であった。
人ひとりの重みを誰かがどうこうしようとしてはいけない。
その沼に踏み込むものは一切の望みを捨てなければならない。
相手が手を伸ばさないかぎり、誰にも誰かに触れていい道理などない。

「えぇ、ご案内しましょう」

僕は彼女の手を取った。
いつかの少女の時のような胸の高鳴りはなかった。
ただ彼女の手を取った、それだけだった。
だが少し嬉しかった。
僕はいつか彼女に僕の悪癖を語れるのだろうか。
それは非常に傲慢で強欲で罪にまみれた欲望だが。
望むだけならばいいだろう。
責任者は僕だ。

「どこへでも」

さぁ行こう。
彼女の求める場所へ。
僕如きの人間でも紳士を気取っても、騎士を気取ってもいいだろう。
こんな場面だけでも格好をつけさせてほしいものだ。
観客はいない。どこに。

「ばいばい。あい」

「あぁ、あの猫にあいと名前を付けているのですけれど」

今はあなたの歪みを愛しましょう。
今はあたなの全てを忘れましょう。
そうすれば僕はいつものようにあなたに話せるだろう。
そうしなければ僕は僕の思うようにあなたと話してしまうだろう。

さぁ行こう。
彼女の行くべき場所へ。


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