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海未「私が悪の組織の怪人に!?」

1 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 17:20:49 ID:.NYd9Kao
海未「くっ、もう追いつかれてしまうのですか…!」

なぜこんなことになってしまったのか、と海未は自問する。

「おまたせ、魔法戦士ホムラだよ!」

「キャプテンアンカー、到着であります!」

「瞳に翠玉、髪に黒曜!胸に秘めるは――」

海未(ええ、そんな自己紹介をされずとも当然知っています…私たちの暮らしを守るヒーローですから)

海未(昨日まではあの姿をテレビの中に見ていたはずなのに、どうして私は)

海未(怪人として相対しているのでしょうか?)

海未「ああもう!考えていても始まりません!とにかく生き延びさせてもらいます!」

海未(とは言っても、本当にどうしてこんなことになってしまったのか…朝はいつもの日常だったというのに…)

595名無しさん@転載は禁止:2018/11/19(月) 08:27:10 ID:5tKHmNqo
乙です
やっぱり姉様は強い

596名無しさん@転載は禁止:2018/11/23(金) 17:05:01 ID:3qoWl5I.
やっぱり姉様はすごい
誰よりも強くてしかも美人
控えめに言っても最高の姉だと思う
絶対そう

597 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 19:36:24 ID:tYBKIVVk
善子「ご、ぼっ…!」

「……!」

梨子「う、そ…」

梨子の体には痛みは無い。ジェミシスの振り下ろした大剣は、咄嗟に間に割り込んだ善子の体へ深々と突き刺さっていた。

「この一撃をかばったところで──」

善子「ピアシング、シェイド…!!」

ずるりと地面へ崩れ落ちる瞬間、善子は大鎌の刃を地面へと突き立てる。次の瞬間、善子と梨子の周囲、波紋が広がるように大量の漆黒の棘が地面から突き出し始める。

「くっ…!」

ジェミシスは苛立たし気に眉根を寄せると、その場から一気に跳躍してその棘が届かない位置まで距離を取る。

598 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 19:37:03 ID:tYBKIVVk
梨子「善子ちゃん…!大丈夫…!?どうして、こんな…!」

善子「…リトルデーモンを、守るのは…主の務め、よ…?」

梨子は涙をこぼしながら、力なく浅い呼吸と共に弱々しく言葉を繋ぐ善子の手を握る。

善子「リリー…私の事はいい、から…逃げて…」

梨子「善子ちゃ──」

善子「ディム、グルーム…!」

善子が最後の力を振り絞り大鎌を振るうと、二人のいる解体工事現場は一瞬にして黒い霧に包み込まれる。

そして次の瞬間、大鎌は霧のようにその姿を消し、握っていた手はだらりと地面へと落ちる。

599 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 19:38:01 ID:tYBKIVVk
梨子(どうしよう、どうしよう、どうしよう…!私のせいだ、私が戦えてたらこんなことにならなかった…!)

梨子は真っ青な顔で力なく垂れ下がった善子の手を握りしめる。

梨子(今はこの霧があるけど、これだけだと逃げ切れない…!)

梨子(私じゃ善子ちゃんの傷も簡単な処置しかできない…戦えもしない…)

梨子は、ぐったりとした善子の顔を見つめながら必死に頭を働かせていく。


梨子(けど、今はここに私しかいない…善子ちゃんを残していくなんてこともできない…)

梨子(私にできることを考えるの…私が、やらなくちゃいけないんだから…!)

600 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 19:40:08 ID:tYBKIVVk
「目くらまし…確かに、あの状況での最善手ではありますね…」

手を伸ばした指先も闇に溶け込むほどの暗闇の中、ジェミシスは考えを巡らせる。

(あの傷では堕天使のヒーローは動けはしないでしょう…そしてそれを背負って移動するのであれば、音のヒーローもまともに動き回れはしないはず…)

「…どちらか一人は確実に始末できますね」

ジェミシスは両手に短剣を握ると、感覚を頼りに先ほどまで二人がいた位置へと跳ぶ。

「いない…血の痕は残っていますし、場所は間違っていないはずですが…」

ジェミシスが地面を調べると、まだ新しい血だまりが残っているものの、それが続いている様子は見えなかった。

「止血はした、と…ですが…」

次の瞬間、暗闇の先に瓦礫か砂利を踏みしめるような音が微かに響く。

「……!」

ジェミシスは音を頼りに跳躍すると共に短剣を振るうが、感触は無い。

「この場にいるなら逃げ切れるはずはありません」

じき確実に捉えられる、その確信を得たジェミシスは酷薄な笑みを浮かべ、周囲の気配へと意識を向け始めた。

601名無しさん@転載は禁止:2018/12/27(木) 21:32:00 ID:iR6N4Xv.
待ってた

602 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 21:37:24 ID:tYBKIVVk
梨子「はあっ…はあっ…」

梨子は、血の痕でたどられることのないように善子の傷に応急処置として止血だけを施し、善子の事を背負い、暗闇の中を歩いていた。

善子が気を失ったことでシステムの共鳴は止まり、ジェミシスの位置すらも分からない状態だが、梨子の足取りに迷いは見られなかった。

善子「ぅ、あ…?」

梨子「善子ちゃん…!よかった…ごめんね、揺れて傷に響くかもしれないんだけど…」

善子「な、んで…一人で、逃げ…」

梨子「それは聞けないよ…絶対に、二人で逃げるの」

それに──、と梨子は言葉を繋ぐ。

梨子「策は、ある…っていうより、今もやってるところ、だから」

梨子の額には脂汗がにじみ、痛みに耐えるかのように顔を歪ませながら、しかし強い意志のこもった目で暗闇の先を見据える。

603 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 21:37:48 ID:tYBKIVVk
ガシャン、と梨子の足にぶつかった瓦礫が大きく音を立てて転がる。それどころか、梨子は足音をまるで潜めることもなく足を進めていく。

善子「リ、リー…足、音…あいつが…」

梨子「ううん、音は…わざと立ててるの…」

梨子にかかっている負担は、善子を背負っているものだけではなかった。梨子が操るのは音、それは自身のシステムから放たれるものにとどまらず、周囲に発生した音も例外ではない。

それはつまり、限界ぎりぎりまで能力を引き出した梨子のシステムは周囲一帯の空気振動全てを支配したに等しい。

梨子(っ…!動いた…!)

ジェミシスが風を切る音を感じ取ると、梨子は顔を歪めながらもひときわ大きく足元の瓦礫を蹴り上げながら歩く。
しかしそうして転がるつぶてはその場に音を響かせることは無く、梨子のシステムによって全く違う場所──ジェミシスを自分たちから遠ざける方角へと操作される。

梨子(脳の神経が、焼ききれそう…けど、まだ倒れるわけにはいかない…!)

周囲の音の操作、ジェミシスの出す音の捕集、そして暗闇に包まれた空間での逃げ道の確認。システムの性能だけでなく、自身の脳をも限界近くまで酷使する梨子の視界は、暗闇によるものではなく、確実に狭くなっていく。

604 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 21:45:45 ID:tYBKIVVk
「……」

ジェミシスは何度目かの空振りののち、静かにその場にたたずみ訝し気に眉根を寄せる。

(聞こえた音はそう遠くなかった…そして私の追撃を逃れるほどに早く動けるはずもない…何か小細工をしているということですか…)

そこまで考えを巡らせたところで、ジェミシスは一瞬だけぴくりと目を見開くと、煩わしそうに歯を噛みしめる。

「音…なるほど、そういう事でしたか…」

ジェミシスが頭を一度振り、手にした短剣を消し去ると同時、周囲を包み込んでいた漆黒の霧が徐々に晴れていく。
瓦礫が転がる解体工事現場、ジェミシスが予想した通りそこからは梨子と善子、すでに二人の姿は消えていた。

「…視界を制限された時に出口を押さえなかった私のミスですね…」

そう呟き、ジェミシスは軽くため息を吐き出すと、手を耳元へと当てる。

「──こちらジェミシス、状況報告です」

『…その名前は使わなくていいと言ったはずよ』

帰ってきた声は、一切の感情を殺したように冷たく、乾ききった物。

605 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 22:00:41 ID:tYBKIVVk
「申し訳ありません、作戦行動中でしたので…」

『…まあ、いいわ──報告を』

「目的は余剰込みで完了…ですが、理亞は戦闘でのダメージから継戦不能と判断し帰投の指示を、私は…ヒーローを二人、仕留めそこないました」

『理亞の件は詳細も聞いている…キャプテンアンカー相手では分が悪い』

「キャプテンアンカーでしたか…」

『ええ、それで──あなたが交戦したのは?』

「…どこにでもいるような、凡百のヒーローでした」

『負けた、と言うこと?』

「負けた──はい、そういう事になります…細工に気付くことができず──」

『そう、実力で負けたのでないなら構わない…次もみすみす逃がすことがなければね』

「分かっています…次は、必ず」

『ええ、それでいいわ──残りの掃除は私達で済ませる、あなたも帰投しなさい』

「了解です」

その返事を最後に通信は途絶え、ジェミシスは一瞬だけ目を閉じると、その場から離れていった。

606 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 22:29:08 ID:tYBKIVVk
お待たせしました。今日はここまで
明日また更新します

607名無しさん@転載は禁止:2018/12/27(木) 22:34:14 ID:iR6N4Xv.
乙です
年末で連続更新は期待

608名無しさん@転載は禁止:2018/12/28(金) 06:44:08 ID:hexBzqsM

年末の楽しみが増えたよ

609 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:13:54 ID:H2x5wkpE
海未「ふう…」

怪獣を引きつけながら学校から十分に離れると、海未は自身のあとを追ってきた怪獣を即座に切り伏せ、刀を鞘へと納める。

海未(やはり怪獣もほぼ打ち止めのようですね…これ以上被害が広がらないのはいいですが、穂乃果とはまだ連絡がとれていない…)

焦りを抑えながら海未がまだ探していない場所に見当を付けようとすると、海未の携帯が着信を知らせる。

海未「っ…穂乃果…!」

その画面に表示されたのは『高坂穂乃果』の文字。即座に電話を取ると、海未は携帯を耳に押し当てる。

海未「穂乃果!無事ですか!?」

穂乃果『う、海未ちゃん!ごめんね、何回も電話してくれてたみたいで…』

電話の向こうから聞こえてくるのはいつもと何も変わらない幼馴染の声。海未は安堵しため息をつくと、口を開く。

610 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:19:48 ID:H2x5wkpE
海未「いえ、無事でいるのならいいんです…どこか、避難所に逃げ込めていたのですね…」

穂乃果『う、うん…!そうそう、ちょっと取り込んでて電話は出れなかったんだけど…』

少し慌てたように話す穂乃果の声に、海未は眉をひそめながら話を続ける。

海未「それならいいのですが…」

穂乃果『そ、そうだ、海未ちゃん今どうしてるの?なんか外にいるみたいな音だけど…』

海未「い、いえ…少し外の様子を見ようと思って──」

海未はそこまで言いかけると、言葉を止める。いや、海未の口は、そこまでしか動かない。
海未が感じたのは一言で言うなら、悪寒。しかしそれは、刺し貫くような、押し潰されるような、全身を何かが這いずるような、感じ得る限りの嫌悪感を固めたような、巨大なものだった。

穂乃果『海未ちゃん…?』

耳へと響く穂乃果の声に反応を返すこともできず、どす黒い気配が放たれる方角へと目を向ける。

611 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:50:55 ID:H2x5wkpE
海未の視線の先には3つの人影。それは海未の記憶にもある姿。

一人は、背中に翼を広げ、羽根の装飾を施したベージュを基調とした衣装を纏った小柄な姿。一人は、全身が紫と銀色の機械的なアーマーで覆われた紫の長髪の姿。一人は身体のラインが浮き出る黒いスーツを身に纏ったボリュームのある茶髪の姿。

海未(アステグレス、フォートレイ、バビロット…!)

それは、最強にして最凶と謳われる、今の時代の『怪人』を象徴する存在。

穂乃果『ねえ!?何かあっ──』

海未「すみません、あとでまたかけ直します…!」

海未は穂乃果の声を遮るようにして電話を切ると、後ずさってしまいそうになる足を必死で止め、刀の柄へと手を伸ばす。

「…あれは?」

「あの姿は確かに気になるが…」

「確実に裏切り者の子、よねえ…?」

三人の口ぶりにも、視線にも、敵と対峙している風はまるでなく、ただ目の前にいる虫を潰そうとしているかのように、無感情に話を続ける。

612 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:52:11 ID:H2x5wkpE
海未(どこまでやれるか分からない…!ですが、ここで負けるわけには──)

「なら、ここで潰すべきね」

そう言ってベージュの衣装の怪人──アステグレスが翼を大きく広げると、紫のアーマーで身を包んだ怪人──フォートレイがそれを手で制する。

「ゴミの掃除なら、私が適任だろう」

「そうそう、だからアステグレスちゃんはいったんお休みね?」

黒いスーツの怪人──バビロットがそう言うと、アステグレスは不満げに眉根を寄せる。

「…その名前で呼ばないで」

「ふふ…分かってるわ?」

「さて…!」

二人の会話を微笑と共に眺めていたフォートレイは短くそう言うと、一歩前に踏み出し胸部のアーマーを展開させ、機械的な内部構造を露出させる。

613 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:52:37 ID:H2x5wkpE
海未(あれは…砲台…!来る…!)

「さあ、まずは一撃だ…!レックレスカノン!」

次の瞬間、フォートレイの胸部砲台から海未の身長を越えるほどの紫色の光線が放たれる。

海未(速い…!回避は不可能ですか…!)

凄まじい圧力を持って迫る光線は周囲の建物や地面のアスファルトを砕いていき、その速度に海未は即座に刀を鞘から抜き去り頭上へと振り上げる。

海未「閃刃・断空…!」

感情エネルギーを溜める隙は無く、迫る光線と比べると心もとない細さの黒く染まった刀を振り下ろす。

海未「くっ…おおおぉぉぉ!!」

刀と光線が交わった一瞬の間だけ拮抗を保つが、次の瞬間には海未の姿は紫色の光の中に飲み込まれてしまう。

614 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:54:59 ID:H2x5wkpE
海未「ごほっ…!」

一瞬にして瓦礫が散らばる破壊の跡の中、海未は身に纏った鎧も肉体も傷だらけになりながら地面へと投げ出される。

「ほう…しのいだか…!」

フォートレイは自身の攻撃の中を生き残った相手の姿を認めると喜色を浮かべる。

海未(立て…!あの相手では呆けている暇はない…!)

海未は軋む体を無理やりに立ち上がらせ、急激に迫る殺気に対して刀を構える。

「っ…!」

ほぼ反射のようにして海未が振るった刀が捕らえたのは鋭利な鉤爪。一瞬にして懐にまで飛び込んだアステグレスは追いきれないほどの速度で爪を振るっていく。

海未「ぐっ…!」

致命にならないものは身体に当たるに任せ、海未はアステグレスの連撃の隙を突いて斬撃を繰り出す。

「その程度…?それじゃ私には届かない」

アステグレスは振り抜かれる刀を真下から蹴り上げて弾き飛ばすと同時に右腕を大きく後ろへと振りかぶる。

615 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:55:23 ID:H2x5wkpE
「イーグレット」

海未「閃刃・断空!」

弾丸のように振る抜かれるアステグレスの爪に、海未は咄嗟に刀にエネルギーを込めてそれを受け止めようとする。

海未「ぐ、ううっ…!」

しかしその勢いを止めることはできず、刀から伝わる衝撃に後方へと吹き飛ばされてしまう。

海未「っ…!黒散華っ!」

背中から地面へと倒れこむ中、海未は刀を手放し弓を構えると頭上へ向けて漆黒の散弾を発射する。

「ははっ!いい反射だ!」

海未が見上げた先には無数の小型ミサイルが海未目掛け飛来しており、それを放ったフォートレイは海未の判断に無感情な声の中に感嘆を浮かべる。

海未「っ…」

海未の放った矢ではミサイルの全てを撃ち落としきれず、周囲の地面もろとも海未は爆撃を食らう。

616 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:56:22 ID:H2x5wkpE
海未「っ…!?」

硝煙が立ち込め、爆撃によって方向感覚も鈍る中で海未はふわりと体が宙に浮かぶような、そして腰に何かが巻き付く感覚を感じ、次の瞬間。

海未「がはっ…!」

全身が砕けるような衝撃を感じ、次の瞬間にようやくバビロットが手にした鞭によって建物の壁面へと叩きつけられたことを理解する。

海未「こ、のっ…!」

瓦礫と化した建物に半ば埋まった体を無理やり動かし、地面へと転がるようにその場から逃れると、今まで海未の頭があった場所へとアステグレスの爪が突き刺さる。

海未「黒華──」

「遅いな」

弓をアステグレスへと向けるものの、海未が矢を放つ前にフォートレイの手のひらから細い光線が放たれ、海未の肩を貫く。

617 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:57:09 ID:H2x5wkpE
「トマホーク」

アステグレスは一気に加速し海未の懐に飛び込むと、背中から生えた一対の羽根を束ね合わせ、それを海未の腹部へと振り抜いた。

海未「ご、ぼっ…!」

海未は防ぐ事すら間に合わずにその攻撃を食らい、後方へと吹き飛ばされていく。そして受け身すら取れず、地面へと投げ出される。

海未「う、ぐ…」

腕すら動かせないほどに全身を駆け巡る痛みにも関わらず、海未は必死に立ち上がろうと力を振り絞る。

「へえ…ここまでやられてもまだ立とうとするのねえ?」

「その意気はさすがだとは思うが…」

「…何をしようと、ここで消す」

海未(動け、動け、動け…!ここでやられるわけにはいかない…!動け…!!)

一歩ずつ近づいてくるアステグレスの足音を聞きながら激痛の走る体を動かそうとする。しかし深いダメージを負った海未の体は身じろぎをすることしかできなかった。





「うわあ、もうボロボロになっちゃってるよ…」

618名無しさん@転載は禁止:2018/12/29(土) 09:54:19 ID:xQr9h7Kc

最後のは誰かなん?

619 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 23:43:27 ID:6ZxU0Wgc
海未「っ…!?」

突如として聞こえた声、そしていつの間にか海未の傍らにはしゃがみこんで海未の顔を覗き込んでいる女性の姿があった。

「余裕で間に合うって言ってたのに全然間に合ってないよね…うーん、けどあんまり早く着いちゃってもダメなのかな?」

黒の浅いニット帽から明るめの茶髪を背中まで流し、どこか海未にとって既視感のある青い瞳の女性は誰に向けるでもなく話す。その声はハスキーな中に幼い無邪気さを感じさせ、それもまたどこか聞き覚えのあるものだった。

「あれは…なんなのかしら…?」

「いや…そもそも、どこから現れた…?」

目をそらしたわけでも、離したわけでもない、それにもかかわらず気付いたら海未の傍らに現れていたその女性にフォートレイとバビロットは警戒を強める。

「そんなことはどうでもいいわ…私たちの前に出てきた以上、ここで殺す…!」

そう言うとアステグレスは背中の翼を羽ばたかせ、一気に加速を始めようとする。

620 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 23:55:10 ID:6ZxU0Wgc
「あはは…やっぱり三人とも荒んでるなあ…まあそれも仕方ないか」

女性は困ったように笑うと、口元の笑みは残したままに真剣な瞳で怪人たちを見据え、右腕を前に突き出す。

「けど今はみんなと話す時じゃないから、ごめんね」

その言葉の直後、海未達とアステグレスたちの間には眩く燃え盛るオレンジ色の炎の壁が現れる。

海未「あな、たは…?」

「ほらほら、喋るだけでもつらいでしょ?無理しなくていいから私の話だけ聞いててほしいな」

傷だらけとなり地面へと伏せる海未の体に優しく触れ、安心させるようにその女性は海未へと語り掛ける。

「って言っても、あんまり長くおしゃべりしてる時間もないんだけど…」

621 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 23:56:51 ID:6ZxU0Wgc
「さてと、まずは…きっとこれからも、戦っていくつもりなんだよね?あ、返事はしなくても大丈夫、分かってるからね」

海未が声を絞り出そうとするのを分かっていたかのようにその女性は海未の事を制し、話を続ける。

「きっとその中で、えーっと…友達、に、何か大変なことが起こっちゃうかもしれなくて…だから、これ」

そう言いながら取り出したのは、炎を固めたかのような結晶であり、それを海未の手へと握らせる。

「もしそんなことになった時のために、これ、持っててほしいんだ」

海未(あたた、かい…)

感じたことのあるような、そんな仄かな温かさ。海未はそれを手放さないように、力の抜けそうになる手で握りしめる。

「それと──」

その女性がそう言いかけた時、二人の目の前の炎の壁が引きちぎられるように裂け、かき消される。

622 ◆JaenRCKSyA:2018/12/30(日) 00:33:05 ID:0IUx28MQ
「こんなもの、時間稼ぎにもならない…!」

明確な殺意と共にアステグレスが大きく翼を羽ばたかせ、いつでも飛び掛かれる体勢で爪を構えながら吠える。

「時間稼ぎ…まあ、お話しする時間が欲しかったから間違ってないんだけど…なんか勘違いしてない?」

立ち上がり、三人の怪人を見据えると。

「変身」

言葉を唱えると共に、その姿は燃え盛る炎へと包まれる。

海未(これ、は…)

「悪いんだけど、三人が束になっても私には敵わないよ」

その炎が掻き消え、その中から姿を見せたのはオレンジを基調とした服と顔の半分を覆うバイザー、手には炎の意匠をあしらった自身と同じほど大きな杖を携えたシルエット。

623 ◆JaenRCKSyA:2018/12/30(日) 00:39:37 ID:0IUx28MQ
「嘘…!?」

「ちっ…まさかとは思ってはいたが…!」

「ホムラ…!」

海未を相手取った時とはまるで違う、張り詰めた空気を三人は纏う。

海未(ホムラ…?ですが、どこ、か…)

海未は薄れゆく意識、かすんでいく視界の中に少しの違和感を覚える。以前に自身が対峙した時のホムラ、その姿は今と同じだっただろうか?

「これだけ覚えておいて?この力、この炎が使われた時がきっと、分かれ道だから」

海未「あな、た…は……」

暗く、落ちていくような感覚、それを感じながらも海未は自分を庇うように立つ姿へと問いかけようとする。


「ホムラ!!」


自身の名と同じ言葉を口にしたその瞬間、手にした杖からは太陽のような輝き。その眩いほどの炎も海未の視界から遠ざかっていき。



「おやすみ、海未ちゃん」


その言葉を最後に、海未の意識は闇に落ちていった。

624 ◆JaenRCKSyA:2018/12/30(日) 00:54:32 ID:0IUx28MQ
次回でアキバ侵攻編(?)終わります
年内は多分今回で最後です。ありがとうございました

625名無しさん@転載は禁止:2018/12/30(日) 09:56:58 ID:FlyOPqO.
お疲れさまでした! 次の更新も楽しみにしています!!!!!

626名無しさん@転載は禁止:2018/12/30(日) 20:08:35 ID:Sn/CU8ko
謎シンガーさん登場か

ともあれ乙でした、良いお年を!

627 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 18:04:39 ID:jJlFm0rU
梨子「ぅ……ん……」

梨子が目を開けると、背中からは柔らかい感触、そして視界には清潔感のある真っ白な天井が広がっていた。

梨子「ここ、は……」

「あら、目が覚めましたか?」

梨子が重い体を動かし、声のした方へと目を向けると、忙しそうな雰囲気ながら、柔らかい笑顔を浮かべた看護師の姿があった。

梨子「病、院…?」

「はい、そうですよ?それじゃあ…体は起こさなくて大丈夫ですからね、返事だけしてもらえれば──」

看護師の軽い質問や計算に答えているうちに、梨子は意識を失うまでの事を思い出していく。

梨子(そっか…私、ちゃんと逃げきれて──)


──私の事はいい、から…逃げて…


梨子「っ…!」

628 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 18:15:32 ID:jJlFm0rU
「うん、問題なし…大丈夫そうです──」

梨子「あ、あのっ…!私と一緒に運ばれた子は──痛っ…!」

飛び起きるようにして看護師へと聞こうとする梨子だったが、鋭く走る頭痛に顔を歪めてこめかみを押さえる。

「大丈夫ですか!?…ヒーローシステムを酷使した影響で脳に負担がかかっているそうなので、無理はせずに横になっていてください…」

看護師は慌てたように梨子の体を支えながらベッドに横にさせると、改めて口を開く。

「それと、一緒に運び込まれた子も傷は深かったみたいですけど、もう治療室から出たみたいなので安静にしていれば大丈夫ですよ」

梨子「そう、ですか…よかった…」

梨子は息を吐き出すとベッドへと体を埋めて表情を緩ませる。

「それじゃあ、今はなるべく頭を使わないようにして、安静にしていてくださいね?何かありましたら、そちらのナースコールでいつでもお知らせください」

梨子「はい、ありがとうございます…」

629 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 18:44:49 ID:jJlFm0rU
看護師が出ていくと、梨子はしばらくベッドに横たわりながら天井を見上げる。

梨子「よかったけど…今回は運がよかっただけ、だよね…」

梨子は顔を曇らせて今日の戦いを思い起こし、ぎゅっと目を閉じる。

梨子(バディレゾナンスさえ発動できてたら負けない、なんて思っちゃいけなかった…私は足手まといになってた…)

しかし、すぐに開いた瞳には強い意志が込められ、冷静に自身のシステムへと考えを巡らせる。

梨子(曜ちゃんや善子ちゃんが近くにいるから戦うことだけにとらわれちゃうけど、もっとサポートをこなせるように…)

梨子「…たぶん、逃げる時に使ったのがこのシステムの本来の使い方なんだよね…」

そこまで考えたところで、軽い頭痛が再び襲ってきたため、梨子は苦笑いをすると枕に頭を埋める。

梨子「まあ、今は難しい事考えないようにして休もうかな…元気になったら善子ちゃんに甘いものでもご馳走してあげなきゃね…」

そのまま、梨子は疲労で重い体を感じながら眠りに就いた。

630 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 21:02:51 ID:jJlFm0rU
────────────


声が、聞こえる。


記憶の先に残る声が。





──本当……んなことで……の?


──ふうん…私に……だ縁のない話だからよ……かんないけどなあ。


──ああ、けど海未……んがいなくなっ……て考えると、そう……しれないかも。




──こんな……悲しみを広げて………………私は、生きてい………………


──だから、今を………よう………………過去を変え………………

631 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 21:03:46 ID:jJlFm0rU
海未(姉、さん…?)

632 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:02:53 ID:jJlFm0rU
海未「今、のは…」

海未の意識は徐々に覚醒していく。自身がベッドに横たわっていることを自覚したのち、視界に映るのは、無機質な天井、そして癖のある赤髪を揺らす椅子に座った後ろ姿。

海未「真姫…?」

真姫「っ…!海未!起きたのね…!」

海未が声をかけると、真姫は弾かれたように振り返り、安堵したように表情を緩ませて海未の横たわるベッドへと近づく。

真姫「まったく…!あんなボロボロになって…!もしここまでたどり着けてなかったり、花陽がいなかったらどうなってたと思ってるのよ…!」

海未「心配してくれて、ありがとうございます──」

海未は言いかけたところで、真姫の言葉に引っかかるものを感じて言葉を繋ぐ。

海未「私がここまでたどり着いた、と言いましたか…?それに、花陽の事…」

真姫「何言ってるの?あなた、私の研究室の入り口で倒れこんでたのよ?自力で学校まで来たんじゃないの?…それと、一応花陽は同じクラスだし、ヒーローやってるっていうのも知ってるから…」

633 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:30:19 ID:jJlFm0rU
海未(あの方が私を運んでくれた…?私はずっと意識を失っていた…それにあの怪我ではここまでたどり着くなんて不可能のはずですし…)

真姫「…体の調子は、平気?」

考え込み始めた海未の子を覗き込んで真姫は声のトーンを落としながら問いかける。

海未「ええ、もちろん少し痛みが残る所はありますが十分元気と言っていいくらいにはなっています」

真姫「そう…ならよかったわ…」

海未が笑顔と共にそう返すと真姫は息を吐き出して表情を緩める。

海未「花陽が私の傷を治してくれたのですか?」

真姫「花陽の治癒能力と私の手術よ…大変だったんだからね?」

海未「真姫の手術、ですか…?」

真姫「何よ、不満?」

海未「いえ、そういうわけでは…えっと…花陽と知り合いということは、凛の事も知っているのですか?」

真姫「ん?ええ、もちろんあの子の事も、怪人って事も知ってるし──あ、そうね、凛の治療もしてあるから、安心して平気よ」

海未「よかった…!凛を見つけた時はどうなることかと…」

真姫「それは私のセリフよ…知り合いが立て続けに大けがで運び込まれてるんだからね?」

海未「それは…申し訳ありません…」

634 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:34:34 ID:jJlFm0rU
真姫「まあいいわ…それより、何があったの?あなたがあそこまでボロボロになるって、いったい…」

海未「そう、ですね…そのあたりの説明からする必要がありますね…」

海未はそう前置きをしてから、自身の身に起きたことを話し始める。



真姫「…そう、3人の怪人に、ホムラ…それも、一度ホムラと戦った海未が違和感を感じた…」

真姫は海未の話を聞くと、口元に手を添えて考え込み始める。

海未「…同じヒーローシステムを使っていて、姿が変わるというのはあり得ることなのですか?」

真姫「基本的にはあり得ないわね…出力を意図的に絞ったり、制限をかけたりすれば武装を減らす事はできるけど…」

海未「私のシステムはだいぶ特殊だったんですね…」

真姫「そもそも負の感情エネルギーを使ったシステムってだけで特殊なんだからね?」

635 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:39:53 ID:jJlFm0rU
真姫「…今、結論は出せないけど、私の方でも調べてみるから、海未もまた何かあったら私に教えてちょうだい…無理はしないでよ?」

海未「私も好きで危険に飛び込んでいるわけではないのですが…ええ、分かりました」

そこで海未は、先ほどは意図的に真姫へと話さなかったことを思い出し、口を開く。

海未「…以前少し離していましたが、真姫は、モビィディックのことを知っていたのですか?」

真姫「モビィディック?…ああ、もしかして会ったりしたのかしら?私は直接知ってるわけじゃないけど…まあ、知り合いの知り合いみたいなものだから、一応ね」

海未「そういうことでしたか…ええ、途中で遭遇して…私の目から見ても、信頼のおける人でした」

真姫「…怪人にも、色々な人がいる…やっぱり怪人に関してもっと知る必要があるわよね…」

海未「真姫?」

真姫「ううん、なんでもない…ただ、怪人について知らないことが多いと思ってね…」

636 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:47:12 ID:jJlFm0rU
海未「怪人について…普通はコアを埋め込められた人が怪人になるのでは?」

真姫「それにしたって凛だとかモビィディックだとか、怪人として動かないのが多すぎるでしょ?明らかに効率が悪すぎるのよ…」

海未「確かに…私や凛がそうでしたが、怪人や怪獣の被害に遭った人間が怪人にされると考えると…」

真姫「そうなのよ…やってることがちぐはぐすぎる…」

海未と真姫の二人は口を閉じ、それぞれで考え込み始める。

真姫「はあ、やっぱり分かんない事ばっかりだわ…あなたと会ってから立て続けに色々あるから大変よ…」

海未「それは…申し訳ありません…」

真姫「冗談よ…最近になって怪人と怪獣の活動が活発になっているから、なんとかしなきゃいけないのは事実だし」

海未「ええ、その通りですね…」

真姫「あ、そういえば、結構時間も経ってるけど家族とかに連絡入れておかなくても平気なの?」

海未「えっ…?」

637 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:53:02 ID:jJlFm0rU
海未がスマートフォンの電源を入れ直すと、瞬く間にメールと連絡用SNSの通知が増えていく。

海未「うう…心配をかけてしまったみたいですね…」

真姫「まあ、体の疲労とかはあるだろうけど動いても平気なはずだし、家に帰ったら?けど、運動は厳禁だからね」

海未「ええ、そうさせいただきます…」

海未は母親や幼馴染へと連絡を返しながらベッドから降りて身支度を始める。

海未「本当に今回も真姫にはお世話になりました…毎回毎回申し訳ありません…」

真姫「別に謝られるようなことじゃないわよ…けど、もう少し無茶を控えてもらえるとうれしいけど」

海未「肝に銘じておきます…それでは、また学校で会いましょう」

真姫「ええ、まあ私が登校したらだけど…そうだ、今度、浦女との交歓会があるでしょ?一応、浦女の生徒の中で判明してる限りのヒーローの情報を送っておくから確認しておくといいわ」

海未「本当ですか?ありがとうございます…!」

真姫「気にしなくていいわ…それじゃ、また今度ね」

海未「ええ、それではまた」

海未がそう言って出ていくと、真姫はデスクへと戻ると一人困ったような、それでも少し笑みを浮かべた表情で呟く。

真姫「はあ、調べることが多すぎるわよ…」

638 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:58:30 ID:jJlFm0rU
ここまで

639名無しさん@転載は禁止:2019/01/21(月) 01:10:46 ID:g2607tOY

次から新展開楽しみ

640名無しさん@転載は禁止:2019/01/21(月) 21:04:33 ID:012QEp72

いよいよ交歓会が見えてきた

641名無しさん@転載は禁止:2019/03/27(水) 23:42:28 ID:ZG.ffyOc
年号変わっちゃうぞ

642名無しさん@転載は禁止:2019/05/01(水) 09:41:24 ID:.TNs1rNE
年号変わっちゃったよ

643名無しさん@転載は禁止:2020/03/05(木) 09:14:13 ID:DdCQ2.jg
http://fanblogs.jp/inabata2019/archive/60/0

644名無しさん@転載は禁止:2020/05/17(日) 04:30:20 ID:TSC6WBPg
待ってる……


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