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新Birth Shop
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過去何度か投稿されて、グダグダになって完結できなかったネタに再再挑戦してみたいと思います。
そのため、グランドルールを以下に定義します。
・妊婦、出産マニアである主人公の「私」が出産ノルマクリアーだけでなく、母親として生きながらも自分のマニア性癖を追い求めていくような感じにしていきたい。
・「私」の一人称視点。
・妊娠可能な上限数は15。胎児の大きさや妊娠期間は調整可能。
・最初の妊娠は普通に10ヶ月。数も単胎。一度出産してしばらく子育てして自信がついた辺りでエスカレートしだすような感じで。
・開始時点での「私」の年齢は20代前半。出産ノルマは3。
・流産、早産はなし。
・男性の妊娠もなし。
三度目の正直、キチッと完結させたいです。
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「はぁ………っ、んっ……ああ……ああんっ………」
パーソナル端末に映し出されている映像。
それを見ながら、私は一人、自慰行為に耽っていた。
我ながら、女性として有り得ない嗜好であると思う。
自慰行為のタネにしている映像は出産シーン。
しかも、難産のそれであったからだ………。
2XXX年、人類は宇宙に進出し、再びたくさんの人間が必要になった時代。
政府は出産と育児に報奨金を出し、子供の姿がかなり見受けられるようになった。
そして結婚適齢期前後いくつかの女性には、35歳までに一定数の子供を産まなければいけないという「出産ノルマ」が課せられている。
そんな時代に生きる、普通じゃない女性。
それが、私。
出産シーンとかが大好きで、事あるごとに妄想したり、それをネタに自慰行為したり。
やっぱり、我ながら変態だと思う。
こんな趣味を隠そうと必死だから彼氏はいない。
難産を自分で経験したいとは思えど、相手が居ないんじゃ夢のまた夢だ。
そんな風に諦めていた私だったが、親友で噂好きのユミから、ある一つの話を聞いた。
「Birth Shop?」
「そうそう、なんでも、人工的に妊娠させてくれるらしいよ?」
ユミが言うには、結婚相手が見つからなかったり、出産ノルマでそれどころじゃない人、さらに性的マイノリティーの女性向けとして、人工的に妊娠、出産させてくれる施設があるという。
さらに妊娠する数だとか、逆子かどうかとか、自由に選択することが出来るらしい。
私みたいな人からすれば、夢の様な施設だ。
でも、いくら技術が進歩しているといえども機械が人間を妊娠させるなんて嘘っぱちじゃなかろうか。
施設の存在そのものが、あまりにも都合が良すぎるし。
そのことをユミに告げると、
「そんなことないよ〜?実際知り合いに使ったって人いるし」
と、笑って否定された。
おまけに「嘘だと思うなら行ってみなよ」と、インターネットの地図サービスに手描きで色々と書き加えられた地図を渡された。
ユミがここまでするなら、いくしかないか………。
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3日後。
ユミに渡された地図を参考に、私は例の「Birth Shop」とやらがあるとされている場所へと足を運んだ。
そして、そこには確かに建物があった。
目立たないグレーであまり大きくもないビルだが、建物自体の背は高い。
ざっと見た限りは8〜9階立てと言ったくらいだろうか?
入口らしき扉の上の看板に小さく「Birth Shop」と名前が書いてあったが、それ以外目立ちそうな物はない。
その様子が、さらに胡散臭さを強調する。
何でこんな建物がここに?とも思ったが、今まで私に嘘をついたことのないユミの教えてくれた話だ。
とりあえずユミを信じよう。
意を決して、私は入口に入っていった。
ビルの中は、外観とは裏腹に明るくて、どこか未来的な雰囲気さえ漂っている感じだった。
人の姿は見当たらないが、気味の悪さはあんまりなかった。
しばらく辺りを見回していると、機械音声のアナウンスが聞こえてきた。
『Birth Shopへようこそ。ご利用のお客様は、壁面と床面の指示に従ってお進みください』
アナウンスが終わると、壁と床に緑色の光で矢印が浮かび上がった。
どうやらこれをたどっていけばいいらしい。
そのまま進んでいくと、ある個室の前に出た。
『当店のシステムではプライバシー保護のため、お客様一人一人に個室を提供しております』
そんなアナウンスが終わると、扉が自動で開いた。
その部屋の真ん中に置かれているベッド。
どうみても、分娩台だ。
『中央のベッドに寝てください』
ここまで来て帰るわけにもいかないと、アナウンスに従い分娩台に寝転がる。
すると、目の前にホログラム式タッチパネルが現れた。
『ご希望の胎児数、胎児推定体重、体位、妊娠期間、羊水量などをお選びください』
言われるがまま、タッチパネルに触れて選んでいく。
胎児数は1。
体位は通常(頭位)。
妊娠期間は39週を選んだ。
ここまでは、普通の妊娠なのだから当然といえよう。
問題は胎児の大きさと羊水量。
やっぱり妊婦さんといえば、大きいお腹がシンボルみたいなものだ。
だがいきなりで大きすぎると、私自身が想像している以上に苦しいんだろう。
そういうのは、これから妊娠するこの子が兄弟を欲しがった時に試すとしようかな。
5分ほど悩んで、胎児推定体重は3300g、羊水量は羊水過多と言われないくらいの多めを設定しておいた。
『設定完了しました。しばらくお待ちください』
アナウンスが流れると、私の顔に酸素マスクが取り付けられた。
ああ、こうやって麻酔をしている間に妊娠するんだな………。
そう考えたのを最後に、私は眠りに落ちた。
目を覚ましてすぐに、腕時計で時間を確認する。
どうやら、軽く5時間は寝っぱなしだったらしい。
部屋の様子自体に大した変化がないことを確認して、私は分娩台から降りようとした。
そのとき、枕元に何かがおいてあることに気づいたので、手にとってみる。
それは、市内一の大きさを誇る総合病院の無料診察券だった。
つまり、3ヶ月位してからここで診察を受けろ、ということだろうか。
色々と疑問をいだいたまま、私は帰宅した。
*鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹鼹*
できれば、次回は妊娠確定の診断の場面からお願いします
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「おめでとうございます。妊娠3ヶ月ですね。」
女医の言葉に思わず耳を疑う。
胃もたれがずっと続く感じ。それに、生理の不純。
Birth Shopに行ったことも考えて、無料診察券を使い総合病院に行った結果がこれだ。
まさか、本当に妊娠するなんて…
「パートナーに説明する場合は…」
などと女医が話をするのを上の空で聞き、私は診察室を退出した。
帰り、受付で母子手帳をもらう。
カード式で、ホログラムで情報が出るハイテクなものだ。
母子手帳を貰い、改めて自分が妊娠したことを実感する。
「凄いな…BirthShop…」
帰りの車を運転しながら私は呟く。
自然とお腹に手が向かっていた。
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家に帰ってからも、私はしばらくエコー写真を眺めていた。
母子手帳と診察券に、それぞれ立体映像で記録されているものだ。
その写真に、本当に小さな、小さな影が写りこんでいる。
(今、私のお腹の中に、本当にいるんだ……)
嬉しいのと不安なのとで、結局その日は上の空のまま過ごすことになった。
それからというもの、私は一心不乱に情報を集め直した。
していいこととダメなこと、するべきこと、とるべき栄養素などなど。
自分の人生の中で、一番まじめに勉強をしているんじゃないかというくらいだ。
そのさなか、ふとパソコンに保存した動画ファイルに目がとまる。
こういうのも好きだ。
けど、私はやっぱり「お母さん」になりたいんだろうか………。
2週間後、Birth Shopの事を教えてくれたユミにお礼をしたくてレストランでランチをしようか、ということになった。
だが、ここである問題が発覚してしまう。
どうやら私のつわりは、ご飯のにおいをかぐとダメな奴だったようだ………。
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ユミとランチを食べる約束をした日。
少し早めに着いた私は、街中を眺めていた。
出産ノルマのせいか、お腹がせりだした女性がそこかしこにみえる。
私も近々あの仲間になれるのだと、少し嬉しくなった。
「ごめーんサナエ!待った?」
そうこうしているうちにユミが到着した。
サナエは私の名前である。
「ううん、待ってないよ!今日はお礼にランチを奢りたくて。」
私は明るい声でユミに話す。
「あ、その分だとBirth Shopに行ったんだね?話、聞かせてよ。」
「うん。じゃあ何時ものイタリア料理店にね!」
そういって私とユミはあるきだした。
数分後。こじゃれたイタリア料理店についた。
チェーン店のわりに美味しい、行きつけの店だ。
だが、店に入るなり私は後悔する。
むせかえるような料理の匂い。
思わず唇をおさえしゃがみこんでしまう。
「大丈夫、サナエ…?ランチ、止める…?」
ユミの言葉に唇をおさえ無言でコクコクと頷く私。
あぁ、これがつわりなんだ−
私は青ざめた顔をしながらも、恐らく恍惚な顔をしていた。
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結局、あまり匂いのキツくない料理をということで、近所のパン屋でサンドイッチを購入。
それでなんとか誤魔化すことにした。
「もしかして、つわりそんなにキツいの?」
心配そうに私の顔を覗き込むユミ。
「いや、思ったより料理の匂いがキツかっただけみたい……サンドイッチ食べれるし」
実際、サンドイッチはイケた。
そんなわけでサンドイッチを頬張りつつ、なんとかユミを安心させる。
飲み込んで、まずは一言。
「Birth Shopのこと、教えてくれてありがとう。まさか、本当にそんなのがあるなんて」
その言葉を聞くとユミの顔はぱあっと明るくなった。
「でしょでしょ!噂聞いた時は嘘だと思ったよ〜。でも、サナエもこれで第一歩、だね!」
明るく騒がしいけど、根っからの「いい子」だからとてもここちの良い、そんなユミの笑顔が嬉しい。
いっその事、ユミをパートナーにして暮らしちゃうのもいいかも。
そんなことを考えながら、私は2つ目のサンドイッチを口にした。
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「ところでユミは、なんで噂を信じたの?ネットのクチコミなんかあまり信じないって言ってたじゃん?」
二つ目のサンドウィッチを飲み込んだあと、私はユミに質問をする。
「えへへ…実は、知り合いに使った人が居るって行ったじゃん、あれ、私なんだ!」
「え、そうなんだ?」
驚愕の事実…という程でもないが、私は驚いた。
「うん、サナエに話す1週間前くらいにね!あ、ちなみに週数は40週にしたんだ!」
「え、ユミが40週ってことは…私と同じ時期に出産じゃない?」
「えへへ…やっぱり、サナエと一緒の時期に出産したいしねー」
ニコニコと笑うユミ。ああ、やっぱりかわいいなぁ…
パートナーにするならユミだろうか。
そんなことを考えながら三つ目のサンドウィッチを手にした。
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そりゃあ、自分で試していたのだから自信を持って勧めてくるわけだ。
ユミらしいといえば、ユミらしい。
しかし、となるとユミのほうのつわりは?
「ああ、つわりは全然ないみたい。だからちょっと分かんなくてね」
こればっかりは、さすがに羨ましい………。
その言葉ごと飲み込むように、私は3つ目のサンドイッチを完食した。
ユミも妊娠しているとわかったので、翌日二人で役所に向かった。
「マザーハウス」制度の利用を申請するためだ。
この制度は、妊婦や母親向けに、子育てに適した立地のマンションを格安で提供する制度だ。
家族だけではなく、ひとり暮らし物件にも対応しているのが特徴だ。
窓口で二人揃って無料診察券を見せると、ちゃんと総合病院近くのマンション、2階の一番広い部屋を確保してくれた。
あとは数日掛けて手続きをすれば、晴れてユミとの新生活が始まる………。
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面倒くさい手続きは私とユミで分担してなんとかこなした。
役所を回る間、街中に流れる料理の匂いに嘔吐感を覚え、辛かった。
この辺りはユミの悪阻がないことが羨ましかった。
数日後。
広いマンションに、最低限の荷物だけを運びいれ、私はユミと同居を始めることにした。
まず最初に気付いたのは、ユミには悪阻がないと聞いていたが、それは吐きつわりのことのようだ。
しょっちゅう眠そうにしていたり、私が引くほど食事を食べたり。
聞いた話によると食べていないと逆に胃もたれがするとか。
それって眠りつわりとか食べつわりなんじゃなかろうか。
そんなことを考えながら、早々と1ヶ月が過ぎていった。
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4ヶ月目の検診を二人揃って終え、帰路につく。
相変わらずユミは眠そうだったが、私は最近になって、つわりが治まってきたようだ。
来月、5ヶ月目になったら安定期になるし、あのイタリアンレストランで今度こそ食事をしてみようか。
ユミも、あのお店に行きたくてたまらなかったようだし………。
翌日、今度はユミの提案で買い物に出かけることとなった。
マタニティの服一式を今のうちに買い込んでおけば、あとで困るようなこともないだろう、というのがユミの言い分だ。
たしかに、備えあれば憂いなしという言葉もある。
どういうものがあるのかを手軽なれど調べた上で、私達は電車で2駅ほどの場所にあるショッピングモールに向かった。
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ショッピングモール、マタニティセンター。
国内最大手の妊婦用ショッピングモールだ。
赤ちゃん用のオモチャや日用品から、マタニティドレスや妊婦用の栄養満点の料理店がそろう大きなショッピングだ。
初産の上、仕事に余裕がない今は流石にブランド物のマタニティドレスにはては出せない。
やましたという安価な洋服のチェーン店で私達は何枚かマタニティドレスを買った。
ついでに妊婦用の日用品も買い込み、つわりが軽くなったお陰で入れるようになった食堂でフランス料理を堪能してその日は帰宅した。
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帰ってきて最初にやったことといえば、二人っきりでのファッションショーみたいなものだ。
夏物冬物、季節を問わず揃っていたのと、その割に安かったせいでついつい買い込んでしまったのだ。
「見てみてサナエ〜、似合う?」
春物らしいオレンジ色のマタニティドレスを着て、ユミが言う。
正直、ユミの明るいイメージにはピッタリだ。
肩口や襟のフリルも、それを強調している。
一方で、私はマタニティ向けのシャツやパンツが気になっていた。
元々そういう格好で過ごすことも多かったので、馴染みがあるのだ。
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似合ってるよ、と話しかけ、私はマタニティ用のシャツやパンツを来てみる。
先程のフリルがついたドレスのように、フリフリながらもお腹や下半身を優しく包み込む下着。
「どう…かな?」
「うん!似合ってるよ、サナエ!」
ユミの言葉に自信をつける私。
自然とお腹を撫でながら、大きくなるお腹を想像してにやけていた。
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そのころには、こういった服装ももっと似合うようになっているだろうか。
これからに希望を抱きつつ、その日は割と遅くまでファッションショーを楽しんだ。
そこからしばらくは、のんびりとしているようで早かった。
初めての胎動の感覚に驚いたり、母親学級で他のママ友と出会ったり。
仕事も在宅勤務になり始め、自由に動ける時間はかなり増えた。
そんな感じなので、7ヶ月目に入る頃には、私たちは不思議と穏やかだった。
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「うー、暑いね…」
ユミが気だるそうに呟く。
時は夏真っ盛り。
クーラーを効かせたらお腹の子供に悪いかと思い出来るだけクーラーの温度は下げないようにしている。
そのせいもあるのか茹だるような暑さを感じる。
「うん…暑いね…」
日差しがよく当たることもあり、余計に暑さを感じる。
自然の明るさが赤ちゃんには良いかと思って日当たりが良い場所を教えてもらった。
それが裏目にでたかなぁ、と団扇をあおぎながら考えていた。
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部屋に籠もり続けるのもあまりよくはないし、どうしたものか。
そう思いながらふとチラシを整理していると、ある物が目に留まった。
総合病院からのお知らせと、水着のセール。
そうだ、マタニティスイミングに行こう!
まずは水着を買いに行ったのだが、種類が結構あって決めづらい。
だからといってユミに聞いたら、ビキニ系ばかり勧めてくる。
さて、どうしようか。
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本当は競泳水着やスクール水着のような物が欲しいのだが、ユミは
「お腹を締め付けるのよりビキニの方が良いって!」としきりに進めてくるのだ。
確かに一理あるけど、ビキニは流石に恥ずかしい。
間をとり、パレオに近い水着を選んでマタニティスイミングへ向かった。
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ユミは結局、私相手にしきりに勧めていた花柄のビキニを買ったようだ。
よくあんなに露出の多い奴が着られるなあ………。
少なくとも、今の私にはまだ恥ずかしい。
数日後。チラシに書いてあったとおりの場所である、総合病院指定のプールに来た私たち。
「マタニティスイミングはこちら」と丁寧に張り紙がしてある。
それに従って女子更衣室に向かうと、中には私たち以外にも数人ほど妊婦さんがいた。
お腹の大きさも千差万別だ。
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小さいお腹の人は露出の少ない競泳水着を着ている人も多い。
羨ましいなぁ…次の機会は妊娠時期をずらして初期にマタニティスイミングをしたいなぁ。
そんなことを考えながら私は着替えを終えた。
マタニティスイミングの会場。
プールサイドで結構な人数の妊婦さんがたむろしていた。
私のお腹は少し大きめのせいか、周りの人から注目の的になっていた。
お腹と顔に視線を感じ、なんだか心地いい。
最初に感じていた恥ずかしさはいつの間にか消えていた。
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「あら、初めての人かしら?」
プールサイドで順番待ちをしていると、ひとりの妊婦さんが私たちに話しかけてきた。
お腹は私よりも大きくて、見た感じ臨月近いだろうか?
「ええ、はい、まあ」
「私はリツコ。あなたたちからしたら先輩になるわね。よろしく」
リツコと名乗ったその妊婦さんに、せっかくだからと色々話を聞くことにした。
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「あー!リッちゃん、久しぶりー」
「ええ、ユミちゃん。久しぶり。お腹、随分大きくなったわねぇ〜」
どうやらユミちゃんとリツコさんは前からの知り合いのようだ。ということは…
「ええと、もしかしてリツコさんも…」
「ええ、Birth Shopで妊娠したの。ちなみに、常連ね。」
なるほど、ネットのクチコミが先なのか、リツコさんに知り合ったのが先かは分からないけど、ユミちゃんが知り合いなら少しは話しやすいかも。
マタニティスイミングが始まるまえに、Birth Shopについても聞いてみたいな。
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「成る程〜、ユミちゃん言ってた親友ってのがサナエさんなのね」
「ええ、Birth Shopもユミに教えてもらって、それで」
リツコさんから、色々話を聞く。
Birth Shopはどうも、複数回行くことでやれることが増えるらしいとか、色々サービスしてくれるとか、ユミはともかく、私の今後についてはかなり有用な情報だった。
また、リツコさん自身はこれで三回目の妊娠らしく、妊婦生活の心得などと一緒に、行きつけのお店なども教えてくれた。
母子手帳を見せると割引してくれるマッサージ店や、紙オムツをサービスしてくれるベビー用品店など。
お互いマタニティスイミングでいい感じに運動した後で連絡先を交換し、その日は別れた。
家に帰って調べてみたら、リツコさんオススメのベビー用品店が、どうも再来月にセールをするらしい。
せっかくだからそれ狙いで買い物をしよう。
時期的にも赤ちゃんの服やオムツや色々そろえておきたい時期だ。
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そして、妊娠9ヶ月。
私とユミはリツコさんと一緒にリツコさんが勧めてくれたベビー用品店に向かった。
リツコさんは、ベビーカーに赤ちゃんを乗せて歩いている。
4000gを超える大きな胎児を、安産で出産したらしい。
これもBirth Shopの機械の設定のお陰だとリツコさんは私達に教えてくれた。
リツコさんのパートナーは男性だそうだ。
Birth Shopでは精子を提供することにより遺伝子的にパートナーと同じ遺伝子をもつ子供も出来るのだとか。
今はユミと一緒に暮らしているが、将来的に恋も結婚もしたい。
そんな私にとってその情報は有意義な物だった。
ユミがどう考えているかは分からないが、やっぱり愛する人の子供を産みたい。
その気持ちは恋人がいない今でも持ち合わせていた。
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安産が設定できるってことは、つまり……。
まあ、それはいいとして。
今は人生の先輩が居るんだから、とにかく色々と聞いておこう。
一番安い紙オムツに、肌の弱い子でも安心して使えるウェットティッシュや肌着。
それと、私たち用の授乳ブラ。
リツコさんのオススメを聞きながら選んだ物を一通り買い揃えて、モールを出た。
リツコさんはこのまま帰るらしいけれど、私たちにはちょうど35週の検診がある。
そういうわけで、最寄り駅で別れることになった。
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私より1週間早く妊娠したユミが、先に健診した。
経過は順調だと、女医さんが話したらしい。
私もドキドキしながら診察室に向かう。
そこには大きなお腹をした女医さんがいた。彼女も妊娠してるらしい。
流石に週数は聞けないが、私と同じくらいだろうか。
ホログラムで胎児の様子も詳しく分かるが、あえて私は超音波エコーにしてもらっている。
理由は単純。性別を生まれるまで知りたくないからだ。
今までの健診もエコーにしてもらっている。
ちなみに、ユミはホログラムの方らしい。時々見せてもらってなかなか迫力がある姿を見ることができる。
次の出産はホログラムにしてもらっても良いかな。
そんなことを考えているうちに健診は終わってしまった。
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一人称視点なので、あくまでサナエの週数のみを書いていましたが確かにわかりにくかったですね。申し訳ないです。
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Birth Shopと関係あるのかないのか、私の赤ちゃんも順調そのものらしい。
いつものようにエコー写真と検診結果を記録してもらい、家に帰ってしばらくはそれを眺める。
ある種、今の私には至福の一時かもしれない。
私とユミの個人差なんかも分かったりして、面白いところもある。
在宅勤務もいよいよ産休に入り、のんびりとした日々が続く。
そんな中で、もうすぐ赤ちゃんに会えると言うことと、初めて出産を体験できるということが、私の期待を高めていた。
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妊娠も38週と、5日を過ぎた。
いよいよ、あと二日で39週だ。
ユミも39週と5日を迎え、40週まで後二日。
いよいよ、その時が来ようとしていた。
リツコさんによると、回数をこなすと日数まで決められるらしいが、今回は決められていない。
39週に入った瞬間に陣痛がくるのか、40週に近づいてから陣痛がくるのかは分からないのだ。
ドキドキしながら陣痛を待つのがいいから日数まで決めない方がいいかな。
そんなことを考えているうちにいよいよ、明日が39週突入になった…
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ユミはユミで相変わらずの様子。
何とかなる、というその気楽さはある意味尊敬物だ。
私のドキドキも悪いものではないから、イヤじゃないけどね。
翌日。
私の陣痛はまだだったけども、ユミが怪しいかも、というので私の運転で病院に向かうことにした。
万一私まで始まったら危ないから、何事も早め早めが肝心だろうしね。
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ユミのお腹の張りは結局前駆陣痛という診断が下った。
週数も週数なので、そのまま入院することに。
私も付き添いという感じで先生に許可をもらい、一緒に陣痛を待っていた。
一日後。
ユミの陣痛が本格化してきたようだ。
ウンウン唸りながら、体勢を変えている。
見ているうちに私もお腹の調子が悪くなってきた。
陣痛なんだろうか…
先生に相談するか迷っているうちに、ユミの出産はスムーズに進もうとしていた。
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そのとき、ユミの担当医が運良く部屋に入ってきた。
様子を見に来たようだし、ついでに相談しておこうか。
二時間後。
私も陣痛計をつけられ、ユミの隣で仲良く二人揃ってその時を待つことになった。
「この調子だと、お二人一緒になりそうですね」
担当のナースが微笑みかけてくる。
言われてみれば不思議なものだ。
大親友とはいえ、一緒に出産するなんて………。
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痛い。痛い。苦しい。苦しい。
必死に息みを逃すため、体勢を変えながら動き回る。
ベッドに横になるより歩き回る方が私は楽みたいだ。
ユミの方はベッドに横になったり、四つん這いになったり。
私もユミも思い思いの体勢で陣痛に耐えていた。
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生理痛を数十倍にしたような痛みが長々と続く。
自然と、呼吸が深く長くなる。
それはユミも同じようだ。
不安がないのは、きっとユミと二人で居るからだろうか。
うん、なんだか頑張れそうだ。
「ユミ、一緒に頑張ろう?」
ユミに返事する余裕はなかったみたいだけど、しっかり頷いてくれた。
それを確認すると、私はベッド横のポーチからある物を取り出した。
それは、ヘッドバンド式のハンディカム。
そう、私の目線でこの出産を、録画するつもりだ。
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ユミの姿をきちんと写したいが、私も陣痛が来ているため俯いたり天を仰いだりする。
おそらく映像はブレブレになるだろう。
それでも私はユミの姿をカメラに収める。
彼女の子供が、そして私の子供が成長したときに、産みの苦しみを伝えるために。
一瞬だけカメラをとめ、ユミの産道を覗きこむ。
すっかり子宮口は開き、頭が見える状態だ。先生にも確認して貰う。
先生の姿に安心しながら私はカメラの録画を再開した。
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陣痛が来るたびに画面は大きくぶれ、まああとで見返しても本当に見られたものにはならないだろう。
ユミのいきむ声や私の声が入るから、音声的にもうるさいことこの上ないだろう。
でもそれでいい。
綺麗に撮ることが目的ではないのだから。
ずっとカメラを回しているそのうちに、陣痛はどんどん強まり、今さっき破水したようだ。
ぶっちゃけると、細かいことを考えている余裕なんてない。
たまにユミの様子を写したりはするけど、私が分娩台に上がれそうにない。
まあ、初産からフリースタイルというのも、私らしいかもね………。
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ユミの方をみても、破水しているのは明らか。
それどころか胎児の頭が会陰の辺りまで来ていた。
私自身も股間に挟まる感覚を感じる。
もう少し、もう少しであえるんだ…
ユミの姿を映しながら、ユミのいる分娩台にすがり付き、私は息みはじめた。
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痛みと重み、そして股間が熱い。
意識しなくても、体が勝手に息んでしまっていた。
その様子を見て、四人居た助産師のうち二人がすぐに駆け寄ってくる。
「ゆ、ユミ……」
ユミもおそらくは同じ状態だろう分娩台に手をかけると、ユミが握り返してきた。
「次で、産んであげよう?」
ユミが頷くと同時に、陣痛の波が跳ね上がる!
体はそれを押しとどめるはずもないし、する必要もない。
私の求める物への第一歩。
それを今、踏み出すんだ!
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「うあぁぁぁあっ!」
一番激しい息みの衝動に合わせ、一気に息む私。
ユミも、同じように必死に息んでいた。
『おぎゃあ!おぎゃあ!』
シンクロするように、産声をあげる私とユミの赤ちゃん。
ユミの赤ちゃんも、私の赤ちゃんも、助産師さんの腕の中に無事に生まれた。
ユミはともかく、私の方は立ったままの出産に近く、危なかったかもしれない。
それよりも、私は心地よい疲労感と達成感に包まれ、気を失い−
気が付けば、病院のベッドの上。
隣には赤ちゃんがいて、向かいのベッドにはユミ。
ユミの笑顔に釣られ、私も笑顔を返していた。
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私が産んだのは女の子、ユミが産んだのは男の子だった。
健康面には何の問題もないということで、1週間もあれば退院できるらしい。
リツコさんにおっぱいのあげ方とか、産後のいろんなお手入れとか聞いていて良かったと思う。
頼れる人がいるというのは嬉しいものだ。
父母も、一人暮らしを始めて以来、久しぶりだったけど祝ってくれた。
そんなんだから、らしくもなく嬉し泣きしてしまったりもした。
これからは、この子と一緒に生きて行くのだ。
何よりも、母親として………。
第二部 結婚と進化する欲望
そして、私とユミの怒涛の三年があっという間に過ぎていった。
最初の子育ては両親やリツコさんに相談しつつとはいえ、激務にして地獄。
仕事のほうは昨今の世相に合わせてか、在宅勤務メインにしてくれたのがありがたかった。
私の娘、ノゾミとユミの息子、ダイチ。
二人ともスクスクと育っていった、ある日。
リツコさんとの食事の最中のことだった。
「二回目、考えてみたら?きょうだいの年齢差は3~4歳がベストなのよ」
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私自身も、そろそろ2回目の出産を経験したいと思っていた。
だが、私は躊躇していた。
そろそろ私もアラサーだ。
パートナーのユミには悪いが、結婚の願望が一気に湧きだしていたのだ。
だが、私には相手が居ない。
在宅勤務が増えたせいか、出会いも少ない。
その事を正直にリツコさんに伝えると、リツコさんから提案が出されてきた。
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「婚活パーティ、ですか……」
「そう。色々あるけど、私としてはこれがオススメかしら?彼ともこれで出会ったわけだし」
そういって差し出されたのは一枚のチラシ。
「一対一、個室でぶっちゃけ婚活パーティ」
話を聞く限りだと、大人数で集まった後、この人だ!と思った人と個室で話し込む、という物らしい。
スタッフが監視しているが外の部屋に音が漏れるわけではないため、突っ込んだ話も出来るのだとか。
居るわけがないとは思うが、私の性癖を受け入れてくれる人が万一居てくれることを願って、行ってみようか。
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そして、婚活パーティ当日。
一人では気が引けるのと、万が一私が結婚した場合に育児の負担が大きくなる事を考えて、ユミも誘ってパーティに来た。
最初は渋っていたユミも、私の結婚の意思を伝えたりしてなんとか説得した。
これでユミにもいい出会いがあると良いけれど…
そんなことを考えていると、パーティが始まる時間になった。
まず、パーティは立食パーティから始まった。
軽食を食べたり、お酒を飲んだりして歓談する。
ここである程度好みの人をさがしだすのだろう。
だが、元々引っ込み思案な私。
なかなか声をかけられない。
ユミはその明るさから何人もの人と話をしている。
…私が誘ったのに、何でうまくいかないんだろう…
やけ酒気味になり、少し酔ったので人の輪から外れると、近くに同じように人の輪から外れている人が。
眼鏡に、ヨレヨレのスーツ。背が高いが少しお腹が出ている、オタクみたいな風貌の男性だ。
名札にはフミヒコと書いてある。
あの人なら話しやすいかも…
そんなことを考えて、私は彼に近づいた。
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「あっ、あの……」
「な、なんでしょう?」
見た目ほどオドオドとはしていないけど、ちょっと驚き気味だ。
驚かせちゃったかな……?
「すっすいません、、男の人にこうやって声をかけるのって初めてで……」
「すっすいません、女の人にこうやって声をかけられるのって初めてで……」
二人の口から、同時に全く同じ言葉が出る。
さすがにこれには、笑ってしまう。
彼も、つられて笑っていた。
他に私に目を付けるような人はおらず、結局はフミヒコさんと個室に向かうことになった。
-
二次会場、個室での会話はホテルの一室を借りて行われるようだ。
部屋の中には、監視人の黒服のスーツの男性と、私とフミヒコさん。
見られていることに緊張するが、こればかりは規則だから仕方ない。
私はベッド、彼はソファに座り、会話を開始した。
先ずは差し障りのない、職業についての話だ。
彼は小さな会社の事務担当らしい。
私は今、一児の母で在宅勤務という事を伝えた。
「一児の母、ですか!出産は自然分娩ですか!?」
一児の母、という言葉以上に、何故か自然分娩という質問にたどり着く彼。
これは、ひょっとして…
「あ、あのぅ…」
「あ…あぁ、すみません…引いちゃいますよね、この会話…
僕、妊婦さんとか出産とか好きなんです…それで、つい…」
私の戸惑いに誠実に妊婦、出産フェチであることを伝える彼。
ああ、彼になら私の性癖を伝えられる−
そんなことを思わせる、彼の一言だった。
-
「え、えっと、あの、その、そのですね……そうじゃなくて、私も、その、女ですけど、そういうのが、好きで、その、だから、それで、妊娠して、その」
ああっ、何言ってるんだ私。
しどろもどろすぎるし、これじゃはっきり伝わらないだろうに。
「ほ、本当ですか!?」
だが、同好の士ゆえというかなんというか。
彼はしっかりと言葉を捉えて、食いついてきた。
「ま、まさかこの趣味を許容してくれる女性がいるだなんて……」
こっちの台詞でもある。
いいんだ、私で。
その後、他の話を色々と詰めていったら意外なことが分かった。
彼、フミヒコさんはなんと、結構稼ぎのいい一流企業勤務。
私が働かずとも、今のペースなら子供が10人になろうと育てられるとは本人の弁だ。
人柄も悪くないし、小汚く見えたのもこういう場に慣れていないからだと分かったからには、次のステップに進むしかない。
-
「えと、あの、その、それで…ば、Birth Shopって知っていますか…?」
うん、すこし前より落ち着いて話ができた気がする。
それでもしどろもどろには変わらないが。
「Birth Shop…ええ、出産フェチのアングラなサイトでよく見かける噂ですけど…あ!ひょっとして、サナエさんの出産も…?」
「あの、その、えと、そうなんです。友達に勧められて、それで…」
「へえ!そうなんですか!その話、ちょっと聞いてみたいです!」
ああ、やっぱりこの食い付き。
きっと、話が合うに違いない−
そんなことを考えながら、私はBirth Shopについての知りうる知識を話していた。
-
「実際に利用した人からの話は始めて聞きました……えっと、その、それで、自分と、その、サナエさんが結婚をしたとして、その、自分と、貴方との子供が生まれるとして」
突っ込んだ話になってきたからか、今度はフミヒコさんの様子がしどろもどろになってきた。
そういうフェチめいた話だけではなく、心根の優しい、いい人のようだ。
小さい会社ながら稼ぎもいいという現実問題も大丈夫そうだ。
そしてなにより、私の性癖を理解してくれている、同好の士だ。
私の心はもう、決まっていた。
「そういう話は、もっと仲良くなってからしませんか?」
「そ、そうですね……えっ、それじゃあ……」
「はい、お付き合い、しましょう」
私は、今作れる限りの、でも心からの笑顔でそう言った。
-
連絡先を交換し、部屋を退出する。
こうして、婚活パーティは終わりを迎えた。
ユミの方も、お目当ての男性を見つけたらしい。
顔も好みで、性格もよく、趣味があうとか。
嬉しそうなユミを見るとこっちも嬉しくなる。
フミヒコさんという、同志を見つけることが出来たことも一因だろう。
顔なんて二の次の私には出産フェチの人はうってつけの男性だった。
メールや電話のやり取りをしているうちに、いつの間にか初めての二人きりのデートの日が近づいていた−
-
二人っきり、という訳で、両親にノゾミを預かってもらう算段をつけてあるので、その心配はしなくていい。
うまく溜め込んだお金で、私は出来る限り身なりを整えてみた。
多分、以前の私を知る人が見たら驚くんじゃないだろうか。
伸ばしていた髪をポニーテールにまとめ、シャツの上にジャケットを羽織ってパンツルック。
つまるところ、好みの格好で纏めてみた。
待ち合わせ場所の、駅前時計。
その真下に、フミヒコさんはいた。
あの時の印象とはまるで違う。
眼鏡はそのままだけど、私服は意外とセンスがいいし、髪の毛も整えていた。
そして何より、この暫くの間でダイエットをしたらしく、以前よりしゅっとした雰囲気になっていた。
-
流行りの映画を見て、喫茶店で会話。
本当に何気ない、普通のデートだ。
街中を歩くと格好のせいか、チラチラと視線を感じる。
周りの人からみたらどう見えるんだろう。美男美女のカップルには見えないだろうけど、カップルには見えるのかな
すこし不安になりながらも、その視線を快感に感じていた。
ああ、やっぱり私、注目を受けるのが好きなのかな…
そんなことを考えながら。
-
決心がなかなかつかなかった私に最後の一押しをした出来事は二つ。
一つは出産ノルマの存在。
そしてもう一つは、ノゾミの発言だ。
そんなに深くは考えていないかもしれないけど、あの子ははっきり「きょうだいが欲しい」と言っていたのだ。
そこまで来たら悩むことなどなかった。
私の性癖を受け入れてくれる、数少ない人。
私の行動は早かった。
フミヒコさんと何回か身体を重ね、それで妊娠するようなことはなかったため二人でBirth Shopにむかう。
分かっている限りの予定を見ながら、色々と設定を進めていった。
出産ノルマのクリアが目的の一つだから、数は双子。
双子は小さめになり易いというので、万一を考えて二人とも3500g台に設定。
フミヒコさんと私の予定と、やりたいことの兼ね合いで、週数は思い切って42週に。
羊水量は、やはり二人とも危険すぎないレベルでの多めに。
個人的には、やっぱり大きなお腹が一番だ。
あとは体位だけど、頭位と単臀位を一人ずつ。
いよいよ、二度目の妊娠の時が来ていた
-
麻酔かなにかを吸わされ、意識がなくなっていき−
目が覚めると、消灯した機械の上に横たわっていた。
やっぱり実感は少ない。
待合室に座っていたフミヒコさんと一緒に、その日は帰宅した。
-
自然に妊娠したあとで、Birth Shopを利用したり出来るんだろうか?
今度リツコさんに会ったら聞いてみよう。
多分、私の知り合いの中では彼女がいちばん詳しいはずだ。
二度目の悪阻は、なかなかそうと気づきにくい物だった。
前と違って今回は食べ悪阻らしく、常に何か口にしていないと落ち着かない。
そろそろだとは思っていたけど、自分のことなのにフミヒコさんに指摘されるまで気づけなかったのは恥ずかしい限りだ。
今回は時間の都合もあって、ノゾミを迎えにいったその足で診断に向かうことになった。
-
「おめでとうございます。妊娠7週目ですね」
この前と同じ女医さんが、今回も診断してくれた。
フミヒコさんが隣にいるから、前より嬉しさも倍になった気がする。
診察券と母子手帳をもらい、その日は帰宅した。
帰宅した後、ユミに話すとユミも嬉しそうに祝福してくれた。
ユミの話を聞くと、彼女も恋人との子供が欲しいと言っていた。
婚活パーティは私達二人にとって有意義だったらしい。
数日後。ノゾミを保育所に連れていき、市役所でパートナー変更の手続きをしたあと、リツコさんと待ち合わせをした。
自然妊娠後のBirth Shopでもやれることがあるのか聞くためだ。
-
「自然妊娠後にBirth Shopを使えるかって?」
「はい。結婚してから、ちょっと気になってて……」
しばらく考え込んだ後で、リツコさんはひらめいたように言った。
「それじゃあ、試してこようか?ちょうど、もう一人欲しいって考えてたところだし」
渡りに船とはこのことだろうか。
「そ、それじゃあ、お願いします」
リツコさんの結果次第で、私の人生設計もかなり変わるかも、ね……。
双子だからなのか、今回はお腹が目立つのが早い。
四ヶ月目だけど、服の上からでもはっきりと分かる位になっている。
私がマタニティとはいえ、パンツルックなのも影響しているとは思うけど。ここまで違う物なんだ、と我ながら驚いていた。
-
「久しぶり。Birth shopにいってきたわよ。」
4ヶ月に入ってすぐに、リツコさんから電話がきた。
「ど、どうでした?」
「結論から言うと、週数は選べなかったけれど胎児の数は選べたわ。他にもロックがかかった項目は有るけれど、Birth shop利用の回数によって解除されるみたいね。
ただ気を付けて。妊娠数週内でないと使えないみたいよ。出来れば1週間以内。
細胞分裂とかの影響のせいか、その辺りはシビアなようね。」
「なるほど…」
詳しい話はわからないが、着床前や直後に行かないと駄目なようだ。
計画妊娠というか、危険日に性行為をしてすぐにいく方が良いみたい。
有意義な情報を得た私はお礼を言って気分よく電話をきった。
-
使えないわけではないと分かっただけでまずは十分だ。
フミヒコさんが帰ってきたら、まずはそれを伝えないと。
軽く家事を済ませてのんびりとしていると、リツコさんから文章メールが届いた。
件名を見るに、メモをとってくれていたようだ。
さっそく、文面を覗いてみる。
自然妊娠後の利用について、週数の下限は変えられないが、上限は次回利用(リツコさんの場合、と考えれば五回目から?)可能に。
胎児の推定体重と数は最初から変更可能。
体位は3回目の利用から可能で、羊水量の変更は4回目からのようだ。
フル活用するのなら、私で後三回利用する必要があることになるのか。
フミヒコさんと、そこら辺の話もしなきゃならなくなったなあ……
-
他にも読み進めてみると、胎児の数も上限があるらしい。
自然妊娠後の利用の場合、二人から六人のようだ。
これはおそらく自然に排卵した卵子の数によるものだ、と書かれていた。
となると新たな疑問が起こる。
自然妊娠の前に排卵だけBirthshopで起こさせ、行為の後Birthshopで週数や羊水量等を選ぶことが出来るのか。
つまり、Birthshopの二重利用ができるかどうかだ。
これは今の私にもリツコさんにも調べられない。
直ぐに調べるにはユミに協力を頼むしかないだろう。
もしも、可能ならば。
フミヒコさんの子供かつ10人以上の妊娠を、臨月まで持たせられるかもしれない。
そのときのお腹を想像しながら、私は思わずにやけていた。
そうこうしているうちに、フミヒコさんが帰ってきた。
先ずはリツコさんが教えてくれた自然妊娠後の利用も可能であることを伝えないと。
私はウキウキしながらフミヒコさんを玄関で出迎えた。
-
「そんなにうれしそうな顔して、どうしたんだい?」
キョトンとしているフミヒコさんに、そっと耳打ち。
彼の顔が、みるみるうちに笑顔になる。
とりあえず、興奮状態で詰めた話をしても纏まりにくいからということで話を切り上げた。
今後のことを考えるのもいいけど、まずは今お腹にいる双子をちゃんと産んで育てることが第一だ。
それにもう一つ、私の野望も達成しなきゃならない。
そのための42週、「予定日ウェディング」。
注目を集めるにはうってつけの考えだから、ね。
それを終えてから、これからを話してもいいだろう。
6ヶ月目になり、お腹はますます大きくなる。
双子のお腹は2ヶ月から3ヶ月先の成長を目安にしろ、とは言われるがその通りだ。
もう、かなり大きい。
誰がどこからどうみても妊婦に違いない。
マタニティシャツとパンツはよく耐えてくれているから、冬になるまではこの格好でいいかもしれない。
-
ユミにはまだリツコさんのくれた自然妊娠の情報しか伝えていない。
楽しみは後にしておきたいし、今は双子を無事に産んだりノゾミを育てるのに手一杯だからだ。
そのノゾミも最近は私の大きなお腹をペタペタさわるようになっていた。
赤ちゃんがいる、というのが3歳ながら分かるのだろうか。
触りながらうっとりした目で見るときもある。…この辺は私の娘と言えるかもしれない。
ひょっとしたら大きくなって、「お母さんと一緒に赤ちゃん産みたい!」なんて話さないだろうか。
ちょっと不安になりながらも、私はノゾミにお腹を触らせていた。
-
今のうちはまだ、物珍しさとかそういうものだと思いたいけれど、どうなるだろうか………。
Birth Shopのおかげで流産や早産はないといえど、私自身に起きるマイナートラブルは普通の妊娠と何ら変わりない。
激しく動けばお腹は張るし、四六時中双子の胎動がある。
しかもノゾミの時とは違って、昼夜問わず二人揃って活発だ。
ホログラムで見る限りだと、下側の子が頭位で、上側の子が複臀位。
そのせいか、胎動の場所もきっちり分かれている。
-
在宅勤務の仕事は減らして貰っているが、胎動と家事で寝不足気味になっていた。
寝不足は胎教にも悪いとか聞くが、こればかりは仕方がない…
そう思っていると、フミヒコさんから数日旅行に行ってきたらどうだ、と提案された。
ノゾミを数日預かって貰えるらしい。聞いた話だとフミヒコさんに有休を取って貰いたいと会社側から話されたようだ。
よっぽど仕事、頑張っているんだな…
嬉しくなりながら、私はユミとリツコさんを誘って温泉宿まで旅行することにした。
-
行き先は温泉宿とは言っているが一風変わっており、妊婦でも問題なく入れるのだという。
家族旅行コースや妊婦向けの宿泊プランなどもあるようだ。
無論、遠出する前にきっちりと検診は受けてきて、お墨付きをもらってからなのは言うまでもない。
妊婦は私とリツコさんで、ユミは妊娠していないけど宿泊プランを取ることができた。
まあ、間違いなくすぐには生まれないし、のんびりと羽根を伸ばすとしようか………。
そして数日後、私達は温泉宿に向かうバスに乗っていた。
リツコさんは緩めのマタニティ、ユミは普段着と、いつもの見慣れた服装だったのですぐに分かった。
一番後ろの三人がけの席に、並んで座る。
リツコさんはいろいろ聞いていたからともかく、ユミはやはり双子のお腹に興味津々だった、
-
「いいなぁー、6ヶ月の割りに凄く大きいね!やっぱりBirth Shopで?」
ユミが核心をつく質問をする。
「うん!フミヒコさんの遺伝子をもつ赤ちゃんでね…」
私はリツコさんから教わった答えと、以前思っていた質問を伝える。
疑問に思った点はフミヒコさんには内緒にしておく。
今回は双子にする、と言った時も渋り気味だった。
フミヒコさんが言うには、多胎の分娩は母体の負担が大きいに違いない、そうだ。
私は大きいお腹が好きなのに…
子供は多くても大丈夫って言ったのに、多胎については否定的なのはちょっと不満かな。
「なるほどー。うん、わかったよ!サナエ!サナエの疑問、私がやってみてみる!でも、サナエと同じ2回目だから、出来ることは少ないかな?」
ユミもその気になったみたいだ。
よろしく、と言ってお願いした。
もしも二重利用が可能だったら、フミヒコさんに内緒で利用しようかな。
そんなことを考えているといつの間にか温泉宿についていた。
-
そんなわけで、二泊三日の温泉旅行の始まりだ。
私達が借りたのは本来四人部屋なので、少し広め。
その一人分開いたスペースは、強制的に私へと回されることとなった。
リツコさんだって妊婦だろうに、と反論してみたら、「私は慣れてるからいいの」と言われてしまった。
一日目は到着が夕方を過ぎていたので、美味しい夕食のあとで露天風呂につかって寝るだけ。
たまには家事から開放されて、こういうことするのも悪くない。
-
二日目。
一日目より余裕がある今日は海水浴をすることにした。
宿から歩ける範囲に大きな海水浴場があるらしい。
今回は私もビキニを用意してきた。恥ずかしさよりも注目されたい気持ちが上回ったからだ。
宿で着替え、私たちは海水浴場へ向かった。
海水浴場へ向かう間。そして、海水浴場で海に浸かる間。
周りの視線が私に突き刺さる。
ああっ…ゾクゾクする…
おそらく顔は紅潮し、吐息も甘くなる。
「大丈夫…?気分悪そうだよ…?」
ユミが心配してくれるが、私は大丈夫だと安心させた。
そうしているうちに、時間は刻々と過ぎて行く。
-
周囲の人達の視線を感じながら海水浴をしばらく楽しみ、部屋に戻ってきてからのこと。
ユミが心配そうに聞いてくる。
「さっき、ほんとうに大丈夫だったの?息荒かったよ?」
「大丈夫、久しぶりの海で、つい興奮しちゃっただけだよ」
ならよかったけど、とユミは不安げに言う。
つい興奮したのも、はしゃぎすぎてしまったのも事実。
お風呂からあがるとどっと疲れが襲ってきて、そのまま私は眠ってしまった。
おまけに3日目の朝。
寝坊してしまったため、ろくに観光する暇もなくおみやげを買い揃えて帰りのバスに飛び乗るはめになってしまった。
「双子で負担も倍なんだから、無理しちゃだめじゃない」と、ごもっともすぎる注意をリツコさんから受けた。
そんなてんやわんやの旅行を終えて、十分にリラックスした私はやるべきことがあった。
挙式の前に、フミヒコさんとよく話し合わなければならない。
彼の言葉が心配からきていることは、よく分かっているからだ。
でも、そのあまり大事なことを忘れているんだし、それを言ってあげる必要がある。
「フミヒコさん、多胎は負担が大きいって話、確かにそう思うわ。でも、私からこれだけは言わせて欲しいの」
「サナエ、何だい?」
意見を押し通し切るような顔には見えないし、言うなら今だ。
「私との子供についてだけど、野球のチームどころかサッカー対決が出来るくらい欲しいって言ってたよね?」
「あ、ああ」
「毎年一人ずつじゃ時間が掛かり過ぎちゃうし、何よりそうなるとそれこそ私の負担が大きいじゃない。だから、これからも双子ぐらいなら、いいでしょ?」
フミヒコさんは「しまった」と言わんばかりの表情をしている。
「そ、そうだった……一回分の負担を考えすぎて、継続的な問題を忘れるなんて……ごめん」
-
素直に謝って貰えて、凄く嬉しい。
取りあえず双子なら大丈夫と言うことにしてもらった。
その内胎児を増やしても良いし、なんなら羊水過多にしてもいいだろう。
取りあえず今はそれで満足だ。
妊娠八ヶ月。お腹はノゾミが居たときより明らかに大きくなっている。
日々の買い物は億劫だが、周りの視線を感じたくてついつい毎日行ってしまう。
そろそろ結婚式の準備もしないといけない。
臨月での結婚式。ひょっとしたら出産も式の途中でしてしまうかもしれない。
注目を浴びての出産。ああ、どんな快感を得られるのだろう…
まぁ、出産が起きなければそれはそれで仕方がない。フミヒコさんとノゾミ、三人での出産。それも良いだろう。
どっちにしろ、臨月での式はとても楽しみだ。
-
式の段取りやスタイルなどは、洋風でオーソドックスに。
数年前の私からしたら、まさかウェディングドレスを着るとは夢にも思っていなかっただろう。
でも、もうすぐそれが現実になる。
しかも、ある意味私の望んだ形で。
段取り自体は安く済ませるためにもプランから選んだので独特の何かがあるわけではないけど、私には何よりもっと私らしい物がある。
私専用の、特注品。
真っ白の、マタニティウェディングドレス。
せっかくだからと、体のラインがはっきり出るようなウェディングドレスを改造してもらうことにした。
具体的には、腰回りをストレッチ生地にしてもらう位だろうか。
-
式場は、なかなか人気の場所らしく、42週の2日目に取れた。
Birth shopで42週に設定したとはいえ、通常の妊娠期間は超えている。
万が一前日に出産してしまったら…
そんなことも考えていたが、前回の出産を考えると少し余裕はあるはずだ。
一応念のため助産師も、担当の女医さんも式に呼ぶことにした。
これで出産に至っても大丈夫だろう。
私達は安心しながらイベントや祝辞のスピーチを頼む人を考えていた。
-
スピーチを両親以外に頼める人なんて、ただ一人。
今の私の生活、そのすべてのきっかけをくれたユミしかいない。
電話越しとはいえ、彼女も快諾してくれた。
出産するかどうかはさておき、特異なイベントは資金的にも用意できないだろう。
そのぶん、結婚式のお約束はきちんと抑えてある。
招待客もあまり多くないだろうけど、納得のいく物になりそうだ。
毎週の検診でお墨付きをもらい、ノゾミから急かされ、とうとう予定日を越え。
126cmのお腹をかかえて、私はとうとうその日の朝を迎えた。
-
結婚式と披露宴当日。
数日前からお腹が固くなっている。
出産が近づいているのは確実だ。
式の最中に出産するか、披露宴の最中に出産するか。
そんな予感が私を興奮させる。
結婚式の会場には助産師さん、女医さん、私やフミヒコさんの仕事仲間や学生時代の友人、そしてユミとリツコさん。
ユミは少しお腹が目立ち始め、リツコさんもそろそろ出産時期。
どうやらユミは私の質問に挑戦してくれたみたいだ。
式と披露宴の空いている時間に聞いてみたいな。
そしていよいよ、私の結婚式が始まろうとしていた−
-
とうとう、待ちに待った時が来た。
父に連れられ、ヴァージンロードを歩く私。
大きなお腹を抱えて、というのは他の人にはない、ある意味私らしい個性だろう。
歩いて行く先で待っているのは、フミヒコさん。
しっかりとした、白いタキシード姿だ。
父の手を離れ、彼の元へと歩く。
お父さん、お母さん、ありがとう。
そしてよろしく、フミヒコさん………。
式の間は我慢できるくらいだったため、特に問題はなく終えることができた。
だが、式が終わった辺りから徐々に強く、長くなるお腹の張り。
ユミに質問する余裕はあまりなく、控室で耐えるのに必死だった。
そして披露宴が始まったが、私が覚えているのはユミや同級生のスピーチまで。
というか、そこまでは頑張って耐えた。
その直後くらいからはますます強まってくる陣痛に耐えるのがやっと。
3年ちょっとぶりの苦しみが私を襲い、気合でケーキへの入刀を終えた直後。
耐え切れなくなりしゃがむと同時に、私は破水したらしかった。
-
騒然とする来賓達。
ユミやリツコさんには先に知らせてあったせいか、動揺は少ないようだ。
ガヤガヤと騒ぎだし、全ての来賓の視線が私に注がれる。
ああ、これだ。この快感だ−
女医さんと助産師さんが駆けつけるまで、私はその視線に酔っていた。
-
陣痛のあとに破水がきたということは、子宮口はもうしっかりと開いている。
慌てて駆け寄ってきたフミヒコさんにしがみついて、いきむ。
ちょっとお母さんには悪いことをしただろうか。
心配もしてくれていたし、この日を楽しみにしてくれていて、なおかつ記録に残そうとビデオを回してくれていたのに。
まさか、娘の出産シーンを撮ることになるだなんて。
でも、私はそれを望んでいたの。
ごめんね、お母さん………。
当初のプランでは担架で運んでいく気だったらしいが、この状況ではとても乗れないし、担ぎあげられても困る。
女医さんと助産師さんがフミヒコさんと相談の末、少なくともいま出かかっている一人目はこのまま産ませよう、という方向で固まったようだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
先ほど見返していたら、自分の中で考えていた文章と文面で、Birth Shopにおける操作可能になるまでの利用回数を体位と羊水量とで違うものにしていたので、両方共3回めからに統一したいと思います。
-
フミヒコさんにもたれかかり、蹲踞(そんきょ)の様な姿勢をとる。
さっきの体勢よりは息みやすい。
3年前に感じたあの、股間に異物が挟まる感覚。
少しづつそれを覚えていた。
お母さんのカメラはズームになっているのかな。
私の晴れ舞台、キチンと映ってるかな。
そんな不安を忘れさせるほど、陣痛はきつくなっていた。
-
助産師さんも慣れているのか、指示が的確だ。
波が静まるときは力を抜き、波の盛り上がりに合わせていきむ。
「頭出てきたよー、その調子、その調子……」
その言葉を信じて、次の波に合わせて、いきむ!
「上手いよ上手いよー、グッと出てきたよー、そろそろハッハッハッハッとねー」
言われたとおりに、息の仕方を切り替えて。
次の瞬間、大きな塊が私の中から抜け出ていった………。
-
3年前に感じた心地よい疲労感と達成感。
それを再び感じることができた。
だが、今回はそれだけではない。
もう一人、赤ちゃんはお腹の中で産まれるときを待っているのだ。
流石に、単臀位の赤ちゃんはここで産むのは厳しい。
披露宴は後日途中から再開してもらうことをアナウンスしてもらい、私はフミヒコさんの付き添いでお色直し用の控え室に担架で運ばれた。
-
担架の上でも、助産師さんは繰り返し声をかけてくれる。
「辛いよねー、出て来ちゃいそうだよねー、でももうちょっとだけ待ってねー」
それはいいんだけど、私の方はそれどころじゃない。
いきまないように耐えるので必死だ。
冗談抜きで、それがしんどい。
どうしてもいきみそうになる。
助産師さんもお医者さんもいるし、もう担架の上で産んじゃってもいいよね………。
-
そんな弱気になる私を支えてくれたのはやはりフミヒコさんだった。
「担架の上では揺れて危ない。下手したら赤ちゃんが落ちてしまう。
あともう少しだ、頑張って、サナエ」
優しい声と、強く握られる手。
フミヒコさんのお陰で何だか耐えられる気がする。
必死に息みを逃していると、いつの間にか控え室に着いたようだ。
ソファーの上に、ゆっくりと横たえられる。
やっと、やっと息めるんだ−
フミヒコさんやノゾミ、助産師さんと女医さんが見守るなか、私は必死に息みを始めていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すっかりノゾミの存在を忘れていました。
披露宴の時にはお祖母ちゃん(サナエの母)と一緒にいたが、担架で運ばれるときにフミヒコの背中に乗せられて着いてきた感じで。
-
「逆さまだからねー、するっと出てくるからねー、気をつけてねー」
右手をフミヒコさんに握られて、言われたとおりに。
全身全霊の力を込めて、進む動きを意識して。
渾身のいきみをかける。
すると、あっという間に赤ちゃんの身体が進んでくる感覚があって………。
ふっ、と軽くなった。
一瞬の間をおいて、やかましいぐらいに元気な産声が響く。
「ママ!あかちゃんうまれた!!」
ノゾミが明るい顔で、大声で話す。
2度めだからか、今回は気を失うようなことはなかった………。
生まれたのは男女の双子で、それぞれツナグ、ユカリと名付けられた。
かなり時間を開けてから再開された披露宴では、みんなのアイドル状態。
ノゾミも、姉として誇らしそうだ。
そんなときでも、今回は双子だから次までにはもうちょっと間を置こうと決心しつつ、どれほどのレベルがいいかを計算している私は懲りてない上に治っていないな、と自分で呆れていた。
-
第3章 膨腹への憧れ、そしてエスカレートする希望
ツナグ、ユカリの出産から7年。
私もいよいよ30代中盤、ノゾミは中学生、ツナグ、ユカリは小学生になった。
双子の育児は苦労も2倍で、ノゾミの育児もあり流石に仕事はきつくなり専業主婦になった。
仕事がなくなった分はフミヒコさんの稼ぎが増えたことと、育児助成金で賄えている。
ツナグ、ユカリの育児も少し楽になった今、考えるのはBirth Shopのことだ。
私はリツコさんとユミから得た情報を思い返していた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ノゾミも出産に興味をもつ頃。今回の出産で興味を持たせてみたい。
次の出産で同時出産?
-
私に決心を付けさせたのは、双子に誕生日プレゼントを聞いたときの事だった。
二人揃っての発言。
「きょうだいが欲しい」
そんな言葉を聞いてしまえば、私もヒートアップしてしまって当然だ。
フミヒコさんも乗り気となれば、行く道は一つ。
フミヒコさんと子供たちは心配させてしまうけど、今回は私の欲望を注がせてもらう。
フミヒコさんには内緒で、翌日すぐにBirth Shopに向かった。
私の中に出来たばかりの命。
羊水過多(大)と巨大児(6kg)になるようにしてもらった。
苦しいのは覚悟だけど、今までと違ってノゾミも手伝ってくれるから、頑張ってみないと。
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同時出産は〆に持って行きたいので、間にもう一つサナエの単独出産(多胎自宅出産)をさせて、そこで本格的に目覚めるとバランスがいいかなーと。
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性行為は前日に行った。
お腹の中で、フミヒコさんの遺伝子をもつ受精卵が巨大児にむけて成長している。
その想像だけで私は恍惚を覚えていた。
数週後。
激しい嘔吐感が私を襲う。
これも巨大児の反動なのだろうか…
私はすぐに何時もの病院に向かっていた。
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了解しました。ノゾミは高校生で出産も良いかと思ったのですが、それならば高校生で興味をもち大学生、社会人あたりで出産くらいになるでしょうか
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結果は予想通りというか、なんというか。
案の定、私はしっかりと妊娠していた。
まだホログラムを見る限りだと異常はないが、私は、これからどうなるかを知っている。
喜んでくれた家族を心配させてしまうのは心苦しいけど、私が望んだから仕方ない。
羊水過多だからなのか、みるみるうちにお腹は膨らんでゆく。
6ヶ月目にして、臨月かと見紛う程だ。
検診によれば、かなり羊水が多いのに赤ちゃんに異常がないため、どう対処すればいいのかお医者さんにも分からないのだとか。
私も、この時期まではまだなんとかなっていたので特に気にしていなかった。
問題は、前人未踏の領域と言える8ヶ月目からだった……
-
8ヶ月。
ツナグ、ユカリの時よりも遥かに大きなお腹になってしまった。
検査の結果巨大児と言うこともあり、7ヶ月半から入院することにした。
もうすでに動くのも辛く、身の回りの世話はノゾミとユミ、リツコさんがメインになってしてもらっている。
フミヒコさんは仕事が忙しいことと、勝手にBirth Shopを使ったのを薄々感じたのか、なかなか会う機会が少なくなってきた。
やっぱり勝手に行ったのは不味かったかな。
次の出産はキチンと話し合ってから行こう。
そんな事を思いつつ、私はベッドの上で過ごしていた。
-
8ヶ月半のある日のこと。
珍しく、フミヒコさんが一人で来てくれた。
私が開口一番謝ろうとすると、フミヒコさんがそれを遮っていきなり頭を下げてきた。
キョトンとする私に彼は、
「まさか今回、ここまでのことになるなんて……一番苦しいのは君なのに、仕事を言い訳にしてなかなか様子を見てやれなかった。ごめんよ」
と謝りはじめたのだ。
さらに彼は言い続ける。
「それに……不謹慎だけど、君が難産に苦しむと考えたら、その……悪い想像じゃなくて……その」
ああ、なんだ。
フミヒコさんも、私がこうなるのを少しは望んでたのか。
「いいわよ、別に。私だって、同じ趣味なんだから」
入院生活ではあるが、健康状態には特に問題なし。
それで安静にするのは退屈すぎると先生に相談したところ、赤ちゃんも順調ということなので、動きすぎないことを条件に二週間後から一時帰宅の許可をもらうことが出来た。
期間は約一ヶ月。
よりによって一番しんどい時期だが、ベッドに縛られるよりはマシだろうか。
まずは双子の相手をうんとしてやらないと。
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家族の料理を作ったり、ベランダで洗濯ものを干したり。
簡単な家事を久しぶりにする。
ベランダで洗濯ものを干していると、ギョッとした目をしたり二度見したり、凝視されたりする。
その突き刺さる視線が私には快感だった。
そうこうしているうちに、あっという間に1ヶ月が過ぎてゆく…
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私としても、いいリラックスになったのだろう。
それからの日々は割と穏やかだった。
そして38週目の検診、先生から出産について告げられる。
羊水過多なので、赤ちゃんに異常がないように見えるが分からないところも多いので、出来る限りお腹のなかで育てておいておきたい、とのこと。
その一方で羊水が多いわりにはちゃんと下がってきているらしく、どうしても危険なら切り替えるが、自然分娩の方が医師のスケジュール的にも影響が少ないと言われた。
私はもちろんそれを快諾し、いつものように検診を受けた。
羊水の多いお腹は、寝転がっても大きく目立つ。
腹囲は、その状態で135cmもあった。
そんなのだから、病室まで歩いて帰るだけでも驚かれる。
当然その後、とてもお腹が張るのだけど、さすがと言うべきか産まれない。
両親にも会う度驚かれる毎日。
そしてとうとう、その日を迎えることになる……。
-
妊娠39週目。
その日は前日から雪が降っていた。
ツナグとユカリは病院の中庭で雪合戦をしていた。
それをベンチから眺める私とフミヒコさん。
幸せな時間が流れていた。
それを遮ったのは急な腹痛。
7年以上ぶりに感じたその痛みは、間違いなく陣痛だ…
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痛いんだけど、鈍い。
双子の時以上に子宮が引き伸ばされているからだろう。
鈍いから、今はまだ耐えられる。
フミヒコさんがちらりとこっちを向いたので、頷く。
まあまだ初歩も初歩。
何ともないに等しいし、ちょうど寒くなってきた。
「寒くなってきたから、お母さん部屋に戻るからね」
双子にそう伝えて、フミヒコさんと一緒に部屋に戻る。
ちょうどそのタイミングで、終業式を終えたノゾミも病室に来ていた。
「ママ、お腹大丈夫?あとパパ、これ」
私の心配をしつつ、フミヒコさんに手渡したものは録画用のメモリーカード。
ノゾミの時にも似たようなことはしたし、双子は奇しくも結婚式のビデオがそういう形になった。
なら今更やらない理由もないということで、今回の出産を録画することにしたのだ。
「ありがとう、ノゾミ。ツナグとユカリも呼んできてやってくれ。せっかくだからみんなで集まろう」
フミヒコさんはカードを受け取りビデオカメラに入れると、そう微笑みかけた。
12月22日、長い長い出産の始まりは、想像以上に穏やかだった。
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12月23日。
陣痛はまだまだ強くなる途中だ。
この痛みの分だと、明日か明後日になるかも。
そう言えば、明日はクリスマスイブ…
ひょっとして、家族へのクリスマスプレゼントが赤ちゃんとか、クリスマスが誕生日って場合もあるかもしれない。
フミヒコさんがカメラを回し、ノゾミやツナグ、ユカリが交互に背中を撫でてくれる。
そのお陰か痛みはすごく和らいでいた。
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Wikipediaによると、厳密な話になるとクリスマスイブはクリスマスに含まれ、24日の日没から25日0時まで。25日0日から日没までがクリスマスだそうです。
つまり24日日没から25日日没までがクリスマスのようです。あくまで参考に。
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経験上わかったことだけど、陣痛は歩きまわって耐える方が私には向いているようだ。
身体を動かしながらのほうが、気が紛れるのかもしれない。
そういうわけで私はベッドから降り、フミヒコさんの肩を借りて病室内を歩くことにした。
ノゾミにカメラを預けたフミヒコさんが、私の手を引いてくれる。
「あー、痛ーい……」
ついついそんな言葉が口から出る。
このお腹ではしゃがむのも一苦労だけど、そんな風にして痛みをやり過ごす。
ノゾミも、ちゃんとカメラを回してくれているし、双子もなにかしようといろいろ聞いて回ったりしているようだ。感心感心。
そんな優しいお姉さんたちがいるから、早く生まれておいで。
私は心のなかでそう、語りかけた。
「それじゃあ内診しますね?」
2時間ほどして、担当のお医者さんが内診のために来てくれた。
「よく閉じていて、頑丈」と表現していた私の子宮口は、頑丈さを全く失っていなかったらしい。
少し開きが悪い、とまで言われたほどだ。
と、いうことは………。
この子、イブは越しちゃうかもなあ………。
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24日。いよいよクリスマスが近づいてきた。
子宮口の開きはゆっくりだが、徐々に開きつつあるらしい。
正午を過ぎて、夕暮れ。いよいよ、イブになる。
子宮口の開きは全開になっていた。
フミヒコさんもノゾミも双子も、甲斐甲斐しく世話してくれている。
歩き回るのを止め、私はいよいよ分娩台に上がろうとしていた。
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だが、ここで医師から一つの問題を告げられる。
お腹が大きすぎて血管を圧迫しているため、仰向けに寝ると血圧が急に下がって危険性が増すらしい。
そういうわけで、私は分娩台の上で四つん這いになり、出産することとなった。
ノゾミは、自分から立候補してカメラを回している。
その左右では、双子とフミヒコさんが見守ってくれている。
そして助産師の視線も、医師の視線も私に向いている。
そして、助産師さんが言った。
「破水はまだですけど、もう開いてるのでいきんでみましょうか」
-
クリスマスイブ、真っ只中。
いよいよ私は息みを開始した。
開始してすぐに、パシャリと音がする。
羊膜が破れ、破水したようだ。
みるみるうちに羊水が流れていく。
普通の臨月程度になった時に、羊水の排水が止まる。
どうやら胎児の児頭が栓になり、蓋をした形になったようだ。
いよいよ、本格的な出産が始まる…
時刻は10時半を過ぎようとしていた。
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陣痛は鈍いけれど、間隔は分かる。
波が引いて……押し寄せて。
それに合わせて、力を入れる。
「せーの、うーん」
タイミングに合わせて声をかけられ、いきむ。
波が引いて、息を吐く。
「その調子ですよー、もう一回。せーの、うーん」
同じように、もう一度。
私の中から、巨大な塊が動きつつあるのを感じ取る。
そして、もう一回。
ノゾミが、カメラで私の顔を映しているようだ。
すぐに元の位置へ戻っていったが、ちゃんと記録係をしてくれているらしい。
普通だったらこのあと数回で産まれるんだろうけど、この子はなにせ帝王切開を勧められる程の大きさだ。
一筋縄で行くわけがない。
ここからが本番とも言えた。
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12時を過ぎ、クリスマスイブも終わってしまった。
だが、胎児はなかなか産まれようとしない。
児頭は見えているのだが、肩がなかなか通過しないらしい。
助産師さんが、胎児に無理がかからないように頭に手をかけていた。
ノゾミの顔は紅潮している。
息も荒い。それはまるで、私が周りから視線を感じているときのよう。
ひょっとして、出産している姿を見るのが好きなのだろうか。
そんな事を考える暇もなく、陣痛は襲いかかってくる。
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ノゾミにたいする少し早い出産フェチフラグを。ノゾミの出産自体は次々回のクライマックスでサナエとの同時出産。ノゾミの相手は、幼馴染みでありユミの息子であるダイチ、って感じでどうでしょうか。
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そのたびにいきんではいるのだけれど、あまり進展はない。
赤ちゃんの肩がしっかり引っかかっているのが、自分でも感じられるくらいだ。
ああ、昔は何度も画面越しで観ていたような存在に、私自身がなっているんだ………。
苦しいけれど、そう思うと気分は少し楽だった。
更に時間が過ぎ、あと3時間以内に出産できないと、帝王切開をするしかないという話になっていた。
悪いけど、そんなのはゴメンだ。
助産師さんもここまで来たら、といった感じで、あの手この手を試してくれている。
そして、ここで初めて仰向けになるように言われた。
普通の分娩台での体勢だ。
ちゃんと仰向けになったのを確認し、助産師さんは二人がかりで私の脚をそれぞれ持つと、合図とともに私のお腹の方へ思い切り押し付けた。
「マクロバート技法」という産科介助技術の1つで、正にこういう状況下で行われる。
いきんで、と言われてその通りにいきむ。
一回では今ひとつだったので、もう一回。
複数回やっているうちに、助産師さんの「やった」という声が聞こえた。
そこからはもう早い。
ちょっと引っかかり気味ながらも、残った羊水を全部ぶちまけながら、とっても大きな男の子が生まれた。
6212gもあり、この病院での新記録だそうだ。
あとで胎盤も見せてもらったが、サイズは普通の倍以上あったらしく、我ながらよく産めたなあ、と感心してしまった。
こうして第五子のイツキを加えてますます賑やかになった我が家だったが、私にもフミヒコさんにも心残りが約1つ。
年齢を考えて諦めようかと思ったが、フミヒコさんに「私のワガママを通していい」と言われたので、40になる前にチャレンジすることにした。
いっその事、メディアに取り上げられるくらい話題になってもいいだろう。
フミヒコさんとの行為の翌日、私はいつもの様にBirth Shopに向かった。
4回目なので、色々と解禁されている。
ルールが変わったのか、リツコさんに聞いた時では無理だった「週数の上限」も変えられるようになっている。
それだけではない。
「胎盤機能強化」「子宮強化」など見慣れない言葉が並んでいる。
私は迷わず、次々とタッチしていった。
超多胎児の自宅出産という、他に類を見ない経験をするために………。
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ノゾミの相手については異論ありませんが、サナエの妊娠する数などについてはどうします?
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今回の胎児の数は限界より少し少ない13人。
今回の出産で調度野球チームが2つ作れる人数にした。
排卵誘発剤をした記録は15人、自然妊娠だと12人らしい。
ちょうど中間の人数になっている。話題になるのは確実だ。
妊娠期間は少し少ない38週。流石に40週は厳しいと判断した。
羊水の量は普通にした。普通でも充分大きいだろう。
検査の時を楽しみにしながら、私は週数を過ぎるのを待っていた。
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最後のサナエとノゾミの出産の人数はあえて少なく、二人で4人でどうでしょうか。ちょうど22人、サッカーチームが2つできる感じで。
サナエの方は週数を超過したり羊水過多、巨大児と言うことでお腹のサイズを調整、ノゾミは始めてなので普通の感じで。
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意気込んでそのような挑戦をしてみたら、早速笑うしかなかった。
まだ妊娠2ヶ月目だというのに、私は何処からどう見ても妊婦。
この人数になれば、当然の話だった。
ここからどれほど大きくなるのか、どれほどの物になるのか。
私の胸は期待でいっぱい。
そして、高校生になったノゾミの、私を見る目が変わりつつある。
やっぱり、血は争えないってことなんだろうか?
なにはともあれ、Birth Shopの力を借りて、私の5回目の妊婦生活が始まった………。
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たしかにそのくらいがちょうどいいかもですね。
私からの提案としては、最後のサナエの妊娠はあえて、Birth Shopに頼らない形でこうなった、という形でもいいのではないかと思います。
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妊娠3ヶ月。すでにツナグとユカリがいた頃の5ヶ月腹を過ぎていた。
流石に少し後悔を覚えていたが、それ以上に注目を浴びたいと言う気持ちが勝っていた。
そして、二度目の検診の日。
女医さんは明らかに動揺していた。13人もいたらそれはそうだろう。
私は最初から知っていたので動揺しなかったのだが。
何時ものように母子手帳をもらい、その日は帰宅した。
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あえて、Birth Shopに頼らないというのもいいですね。
今回の多胎でBirth Shopが明るみになり、世間の議論や問題点が浮き彫りになり、Birth Shopが閉鎖される、
或いはサナエ自身の心境の変化でその辺りを表現したいです。
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今回に限って言えば、フミヒコさんも承知の上。
だから家族は暖かく迎えてくれるし、両親も気にはしていない。
リツコさんもユミも、一応私の趣味を知っているためか、呆れつつも応援してくれている。
そうだそうだ、ユミといえば、彼女の息子のダイチくん。
どうやら、ノゾミの事が好きらしい。
「小さい頃は一緒だったから、姉か妹みたいなもんだ」って照れ隠しをしているみたいだけど、あれは完全に思春期の目だ。
そのノゾミのお母さんとして、ちょっと応援してあげてもいいかな。
機能強化のおかげか、悪阻は非常に軽くすんだ。
そんなこんなで、あっという間に安定期。
女性ホルモンとかあるのか、私も年齢と比べると身体が若いと言われる。
なんだかんだでストレスを貯めずに生きているのが影響しているんだろうか………?
そんなわけで、ボディラインには自身がある。
ノゾミには嫌がられるけれど、まだまだババ臭い服は着たくない。
どっちにしろ、ボディラインの維持は健康にもつながるしね。
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若いと言われる、というのはバラしてしまいますが伏線です。
カオス化してしまった方からネタを拾ってきて、サナエの身体にBirth Shopのシステムの効果が異常残留してしまい、その結果老化が遅れつつある、ということです。
社会的な問題点だけでなく、その「利用者に与える影響」が明るみに出て最終的には閉鎖されるものの、その影響はサナエの子孫に受け継がれてしまう、みたいな感じのラストを考えていました。。
当然、サナエ本人も満足して「もういいや」って感じで。
今回の出産で脱却し、最後の妊娠はアクシデントといったイメージです。
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安定期には入ったが、すでにノゾミがいた頃の臨月は越えてしまった感じのお腹になってしまった。
イツキがいたときの、7ヶ月くらいだろうか。
思った以上の膨腹だが、これも私が決めたことだ。
キチンと受け入れ、助産師や女医さんの意見も聞かないと。
でも、ちゃんと自宅出産についての意見も話さないと。
忙しくなってきたな…
ちなみに、イツキの世話はノゾミがメインでしてくれる。
「私も将来お母さんみたいに出産がしたいんだよね」
なんてことを言い出すこともある。
やはり私の娘だな…
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なるほど、了解しました。ただ、その辺りの設定はあまり得意ではないのでぼかすか描写を任せてしまうことになるかと…
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「健康状態には問題無いですね……そのお腹なのに」
検診のさなか、女医さんにそんなことを言われてしまう。
Birth Shopさまさまといえようか。
「5ヶ月でここまで大きくなるだなんて思わなくて、入る服もあんまりなくて……」
そんな雑談を交えながら、女医さんはやはり帝王切開を薦めてくる。
理由としては、やはりこの状態そのものが異常ということ。
それに、臨月になるころにはどれほどかはわからないので、早くて7ヶ月、遅くとも8ヶ月半で出すべきだ、という話だった。
強要はできないけれど、と言うので、私はそこにつけ込むことにした。
「もし7ヶ月以降も健康であったなら、自宅出産を挑戦させて欲しい」と。
無論こっぴどく叱られたが、医療チームを待機させるということで渋々OKをもらうことが出来た。
後半になると動けなくなるかもしれないし、なによりそこから数年は自由などありはしないだろう。
フミヒコさんと私の貯蓄もちょうどよくなったので、行けたらいいな、位の感じで世界一周旅行の懸賞に応募してみたのだが………。
なんと、当たってしまった。
私はこれ幸いと、家族だけでなく余ったチケットでユミ一家も誘い、世界一周旅行へ行くことにしたのだ。
検診については、私のモバイル端末で簡易的だが可能なんだとか。
帰ってくる頃には臨月で、その頃にはお腹はすさまじい重さになるだろう。
なので、今まで溜め込んだ助成金や貯蓄を使い、本来障害者用のパワーアシストスーツなんかを買った。
写真とか、うんと撮りまくろう………。
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了解しました。とりあえずBirth Shopがバレるのはもっと後の展開になると思います。
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妊娠6ヶ月。お腹の大きさはイツキがいたころの8ヶ月を越えようとしていた。
そんななか、いよいよ世界旅行の日が近づいてくる。
そんななか、あるテレビ局からオファーがやってきた。
超多胎の、自宅出産の噂を女医さんかユミ、リツコさん辺りから聞いたらしい。
今から密着取材をして、出産も取りたいらしい。
注目を浴びたい私にとって渡りに船だ。
フミヒコさんに一応相談し、許可を得て、テレビ局のオファーを受けた。
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出航前の軽いインタビューといった感じで、それ自体は十数分ほどでおわった。
やはり育児絡みの話題は女性相手に人気が高いらしい。
自分なりの意見などをひと通り収録し終え、とうとう私は日本を出発した。
最初の目的地に着くまではしばらく船上での生活が続く。
せっかくだから、どういう施設があるか見てこようと思う。
家族みんながそれに賛成してくれて、私はフミヒコさんとイツキ、ツナグとユカリを連れて。
そしてノゾミは、ダイチくんと一緒だった。
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豪華客船の中身は、レストラン、カジノ、温水プール、屋外プール、エステルーム、大浴場、映画館、ショーの舞台などに別れているようだ。
レストランの食事は毎食三回、無料らしい。
カジノとエステは有料だが、屋外プール、室内の温水プール、大浴場、映画館、舞台は無料らしい。
早速ダイチくんはノゾミを誘ってマジックショーを見に行った。
恋が育まれたらいいな、なんてことを思いつつ初日は終わってしまった。
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第五子という表現に釣られましたが、計算間違いでなければサナエが出産したのはノゾミ、ツナグ、ユカリ、イツキの四人ですかね。
ということは13人では野球チーム2つにはちょっと足りなく、サッカーチームを作るには5人になります。
サナエが3人〜4人、ノゾミが一人〜双子、というパターンになりますかね。
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私がこの世に生み出した命が、こうやってそれぞれの道を行く。
それって凄いことだし、なかなかできることじゃないと思う。
だから、そういうことをするのが好きでも、いいよね?
女の人にしか、出来ないし。
最初の寄港地は東南アジアのタイ。
このあとインド、アラビア半島、スエズ運河を通ってエジプト、アフリカ、ヨーロッパ、ブラジル、アメリカ、ハワイ、オーストラリアを通って帰るコースなのだという。
到着時期の都合もあり、とても蒸し暑い。
そのため私は、黒のノースリーブにグレーのホットパンツという、場所に合わせた格好へと着替えていた。
当然、このお腹はむき出しになる。
タイでも子供は増えており、妊婦さんをそこかしこで見かけるけれど、私ほどの人はいない。
言うまでもなく、注目の的だ。
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完全に計算をミスしていました。
では、サナエは四つ子を、ノゾミは一人ということで。
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ああ…やっぱり、この視線、注目だ…
見ると、フミヒコさんも嬉しそうにしてくれる。
側に居てくれて、本当に嬉しい−
私は幸せを感じていた。
タイを出港して数日。
意外と早く、次の寄港地インドについた。
世界で一二をあらそう人口のインドでは妊婦さんも多い。
だが、やっぱり私ほどのお腹の大きさは居なかった。
それに優越感を覚え、インドの旅行を楽しんでいた。
ちなみにノゾミは本格的なカメラを持っている。
私の妊娠、出産を密着したいと言っていたテレビ局の人が小さめのを貸してくれたのだ。
テープもテレビ局持ちらしく、大分大量のテープを貰っていた。
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インドでは、ヒンドゥー教のお守りらしきものを買ったり、道行く人に拝まれたりと様々な体験が出来た。
料理は思ったより口にあったし、向こうの民族衣装はゆったりとしていて今の私でも着られそうだった。
それにしても、本やテレビで見たとおり、そこかしこに牛が居るのには驚いた。
なんだかんだでペースは早く、すぐにアラビア半島に向かうことになったのだが、ちょっと残念なお知らせ。
現地の気候風土を鑑みると、妊婦の私は船内待機が望ましいんだとか。
砂に足を取られて転んだら一大事、とのことらしい。
大丈夫とわかっていても、見ず知らずの人を心配させてしまうのはダメだし、仕方ないか。
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折角だから、船内の施設を利用しよう。
先ずは温水プールと屋外プール。
何時ものように派手なビキニと大きなお腹で、周りの注目を集める。
次に、カジノでスロットやポーカー。
あまりギャンブルはしたことがないが、お腹の赤ちゃんの運も貰ったのか、それなりに稼げた。
最後にエステにいって、アラビアでの旅行は終えた。
大浴場は毎日通っているからという理由で、映画館と舞台は私に合うようなサイズの席が無かったという理由で断念した。
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妊娠7ヶ月半、この頃になると胎動がとても激しくなる。
私が起きていても寝ていても、四六時中動いているくらいだ。
13人も入っていれば当然なんだけど、ひとりが動き出すとみんなが次々動き出してしまう。
おかげで、あちこち蹴られて痛かったりも。
次はエジプトなんだけれど、こっちは道の安全が確保されたらしくわたしでもいけるらしい。
上るのは無理だけれど、ピラミッドを間近で見たりは出来そうだ。
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そして、エジプトの旅がはじまる。
ピラミッドを間近にみることができ、スフィンクスもみることができた。
優しくエスコートしてくれるフミヒコさんが嬉しい。
ノゾミはというと、最近はずっと私にべったりだ。
羨ましそうにお腹を映している。
やはり妊娠に興味があるのだろうか。
ダイチくん、これはチャンスだよ?
ユミの目を掻い潜ってデートしたらどうかな?
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いろいろはなしているうちに、どうも私とノゾミとで行きたい場所が食い違っていることがはっきりしてきた。
いってらっしゃい、と私は背中を押す。
恋愛、応援してるよ。
土産物やらなんやらを一通り見て、次の行き先であるアフリカへとむかう。
ただし、私ははしゃぎ過ぎたのか、お腹が張ってそれどころではなかった。
-
フミヒコさんが治安もそんなに良くないし、と心配してきた。
お腹の張りもあるし、今回はやめておこうか。
私は部屋で大人しくすることにした。
ベッドに横になりながら、映画鑑賞。
借りてきたブルーレイを、スクリーンとサラウンドで。
映画館ほどでは無いけど、迫力はある。
フミヒコさんとユミが子供の世話をしてくれるから、私はゆったり出来る。
たまにはこう言う時間が有ってもいいよね。
でも、暇だなぁ。おみやげ持って、早く帰ってきて欲しいかも。
-
そんな退屈さを打ち破ってくれる出来事があったのは3日目のこと。
日本語を話せる現地のガイドさんの都合がついたということで、国立公園への自然観賞ツアーの段取りが出来たのだという。
子どもたちにも、図鑑やテレビでしか見たことのない動物を生で見せるチャンスだ。
それに、自分で歩くわけでもないから負担は少ないだろう。
私は快諾し、そのツアーに参加することにした。
「ハジメマシテ、ヨロシクオネガシマス」
微妙にたどたどしいガイドさんに会釈をし、私達はオープントップのバギーに乗り込んだ。
道の都合上、この車が一番なのだという。
-
道悪の道をバギーで進んでいく。
ガタガタと振動が伝わり、お腹が揺れる。
そのたびに胎児が押し合い圧し合い。
ちょっと苦しいし、負担は少ないけど大丈夫かな…
私はちょっとだけ後悔した。
そんなことを思っているうちに草原についた。
周りには、生のライオンやハイエナ、シマウマ等が見える。
子供たちは笑顔で身を乗り出している。
ああ、やっぱりこの笑顔をみてるのはいいなぁ。
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なかなか見ることの出来ない象やキリン、水牛などの群れを見ることが出来、疲れたけれどもなんというか、生命のパワーみたいなものを感じられたと実感出来た。
言葉にするのが難しいけど、とにかくそんな感じのものをもらえた気がする。
その証拠、とは少し違う気もするけど、赤ちゃんたちも元気に動いている。
なんというか、人類発祥の地故の、不思議なものはあった。
ノゾミが買ってきてくれたのは、現地の人が作ったアクセサリーだった。
日本ではみないような雰囲気で、気に入ったので常用することにした。
次は二週間の後、いよいよヨーロッパにたどり着く。
-
二週間のうちに、胎動は少し収まっていた。
おそらく胎児も窮屈なのだろう。
お腹もかなり大きくなり、パワードスーツなしには動けなくなっていた。
お腹の張りは小さいので、今回は普通に旅行しよう。
いく先々で奇異の視線に去らされるのが楽しみだ。
-
イタリアの歴史的建造物の多い地区が、まずはメインだ。
妊婦さんや親子連れの姿は見かけるけど、私ほどの人がいるわけがない。
男女問わず、行く先々で注目を集めている。
それもそのはず、私はお腹をおもいっきり晒しているからだ。
イタリアの男性は女性をよく口説くというが、流石にこんな妊婦を口説く人なんていないだろう。
大昔の映画で有名なコースをたどるのが基本なのだが、昼食時、ある1つの問題にぶち当たった。
レストランのテーブルにお腹が引っかかってしまうのである。
-
流石にこればかりは仕方ない。
私は皆と別れ、公園のベンチにすわる。
しばらくすると、フミヒコさんがピザを持ってやってきた。
聞いた話だと、テイクアウトにしてもらい、ユミやノゾミに子供を任せ、一緒に食べに来たらしい。
その心遣いが嬉しい。
私たちは私のお腹に箱をのせ、ピザを食べながら久しぶりの二人きり(正確には赤ちゃんを含め15人だが)の時間を過ごしていた。
-
「あの時、君と出会ってから、まさかこうなるなんてね」
フミヒコさんは笑う。
「私も、まさか本当にお母さんになれるだなんて」
同じ様に返す。
二人でピザを分け、食べ合って。
かなり久し振りな、二人きりの時間だった……。
再び船内。
イタリアの次はスペイン、その次は海を北上してフランス、ドイツ、ドーバー海峡を渡りイギリス、そしてアメリカらしい。
-
数日後。
スペインに到着した。
スペインといえば闘牛とかサッカーのイメージだけど、どちらも私用の席は確保出来ないかな。
他には何処か行けそうな所があっただろうか。
私はスタッフさんに相談をした。
-
「それでは、マドリードの市内観光などいかがでしょうか?」
スタッフさんが言うには、マドリードは世界でも有数の美術館や博物館などの密集した地域であり、著名な場所だけで5〜6軒の美術館があるという。
そこを1日1件くらいのペースで回っていけば、滞在期間はすぐに終わるのではないかという話だった。
まずそれにノッてみたが、どうもサッカーも1試合だけなんとか行けるのではないか、という話が出ているらしい。
スタジアム側に相談したところ、車いす用スペースに簡易の座席を据え付けて対応してくれるそうだ。
どっちに行こう………?
-
結局、両方行くことにした。
行けない美術館や博物館は残念だけど、折角だからサッカーも見たいしね。
スタッフさんに、滞在最終日前日に席を用意してもらい、博物館を回ることにした。
フランス、ドイツ、イギリスでも見れたらちょっと見たいかな、サッカー。
流石に座りっぱなしも不安だし迷うけれど。
まあ、それは後で考えるとして。
取りあえずは博物館巡りを堪能しよう。
-
まず最初に向かった美術館は、数百年の歴史があるという場所だ。
昔の王様のコレクションが元になっているらしく、その都合なのか宗教画が非常に多い。
聖母マリアや、キリストの生誕を題材にした絵画が特に目立つ。
今の私からすると、なんだか不思議な魅力を感じる絵ばかりだった。
とても鑑賞しきれる量ではないので、足早に2軒めへと向かう。
こっちも建物自体は古いのだけれど、中身は20世紀以降の芸術家の絵や彫刻がメイン。
教科書や雑誌で見たような絵を生で見られたので、子どもたちにもいい勉強になったんじゃないだろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この旅行を終えて日本に帰ってくると、Birth Shopのことが話題になり始めている(問題視される前)というイメージで流れを考えています。
-
2ヶ所いってつかれたので、今日は早めに宿に戻った。
二日目。
昨日は美術館だったので今日は博物館へ。
中世の宮殿を一般解放した場所だ。
インテリアや内装を見ながら、翻訳を聞く。
だが、集中出来ない。
周りから突き刺さる奇異の視線からだ。
流石にそろそろ注目を浴びるのも辛い。
私たちは早々に博物館を後にした。
-
3日目は予定を変えて、船内でのんびりすることにした。
さすがに、ちょっと疲れてしまっただろうか。
時差ボケもないのに、一眠りしたらあっというまに昼を過ぎていた。
本を読んだり、自室からインターネットを見たり。
たまにからだを動かすときは、温水プールに向かう。
あと2日、なんとかサッカーまで人と会わずに済む方法はないだろうか。
のんびりだらりとしたまま、一日が終わってしまった。
-
四日目。ノゾミ以外の子供たちはフミヒコさんとユミが連れて観光に向かう。
ノゾミの方から相談があるというのだ。
ノゾミが自分から相談してくるのは珍しい。
私は快諾して一緒に部屋にいることにした。
ちょうど私も周りの視線から逃れたいしね。
船の私たちの部屋。
しばらくの沈黙の後、ノゾミはポツリと話し出す。
「最近ダイチくんの顔を見るたびに、動悸がして、上手く話せない」と。
-
「誰かを好きになるって、素晴らしいことなのよ。それがお見合いだろうと、普通の恋愛だろうとそれは一緒」
「へ?」
きょとんとするノゾミに、私の言える限りのことを言う。
「ダイチくんも、きっと照れてるだけよ。ああいうタイプは、女の子の方から寄ってこられるのに弱いのよ」
しばらく黙っていたノゾミが、不意に口を開く。
「そ、その、ダイチくんのこと、きらいじゃないけど、えっ、その」
-
「自分の気持ちに素直になりなさい、ノゾミ。私も、フミヒコさんと素直に話し合って。
その結果ツナグ、ユカリ、イツキという貴女の兄弟たちが生まれたの。」
まぁ、その素直に話した内容はノゾミには話せないけれどね。
「自分の気持ちに、素直に…」
ノゾミも深く考えている。
少しはノゾミの背中、押せたかな?
その後、ノゾミと他の話をしたり、ゲームをしたりして1日はすぎていった。
-
いよいよサッカーの試合当日。
応援グッズをいくらか買い揃え、スタジアムに向かう。
トップチーム同士の、地元の人でもチケット倍率の異様に高いだとか。
ダイチ君とノゾミが、何かを見つけて向かう。
どうやら、格安でフェイスペイントをしてくれるようだ。
せっかくなので空気に乗ろう、と私も列に並ぶ。
すると、フェイスペイント担当の職人さんが私に手招き。
列を外れてそのひとのところに向かうと、今度は何やらジェスチャー。
服をちょっと捲り上げろ、ということだろうか?
言われたとおりにすると、職人さんは笑顔でサムズアップ。
一気に真剣な目つきになると、ものの数分で私のお腹にチームのロゴマーク入りのサッカーボールを描き上げた。
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目立つのは苦手になりつつあったが、これはこれで記念になる。
あ、でも毎回されるのは弱るな。
サッカーは今回だけにするのもいいかな。
取りあえずダイチ君に記念撮影をしてもらい、私たちは席に向かう。
席は思っていたよりゆったりしていた。
前の席までも距離がある。これならお腹は邪魔にならないだろう。
私はサッカーの観戦を楽しもうとしていた。
まさか、テレビ局の試合中の観客席撮影で私が映り、そこだけが切り取られた動画が動画サイトで1000万再生を超える有名動画になるとは、この時思っていなかった。
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みんな、盛り上がっているようだ。
特にダイチ君がサッカーファンらしく、合間合間にノゾミが質問してはそれにこたえている。
いいじゃないか、そのまま距離を詰めちゃえ。
そう思って視線を外した隙に、3点目のシュートが決まっていた。
試合は4-3でホーム側チームの勝利。
後で知ったが、日本にも衛星放送で中継されるくらいに有名なチーム同士の試合だったらしい。
とてつもない熱気に、私は圧倒されていた。
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その日はなにごともなく船に帰ることができた。
問題が起きたのはフランスに向かう船内の中。
周りの視線が前より鋭くなった気がする。
不思議に思いつつ、何気なくネットで動画を見ていた。
おすすめ動画は出産やボテ腹関係が多い。
何気なくみていると、数日で600万再生を超える動画が。
サムネを見ると、あのときのスタジアムの写真。
嫌な予感がして見てみると、1分ほどの動画にでかでかと私の映像が流れていた。
私は少し後悔した。まさか、テレビ局が映像を撮っていたなんて…
違反報告もしようかと考えていたが、世界中の大勢の人が私に注目をしていると考えると前までのゾクゾク感が襲いかかり、あえて通報しないことにした。
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なんだかんだで、有名になりすぎるのは嫌だけど、有名になるのは悪くない………。
フランスでも、道行く人の注目の的になるのは相変わらずだった。
エッフェル塔や凱旋門、ベルサイユ宮殿と観光名所を周るコースなのも大きいだろう。
そのさなかでも、ノゾミが年頃の女の子らしくパリのブランド服に目を奪われがちなので、服選びに付き合ってあげることにした。
二人っきりのほうが、ノゾミも話しやすいかもだしね?
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「お母さん、これ、似合うかな?」
ノゾミが見せてきたのは無地のスーツとスカート姿。それにYシャツと、勝負下着だ。
「うん、似合ってる似合ってる。きっと、ダイチ君も誉めてくれるよ。」
私の台詞に真っ赤になるノゾミ。
かわいいなぁと思いつつ、私はさりげなくノゾミに質問しようとしていた。
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「ダイチくんの好みとか、聞いてみたの?」
「そ、それはその、まだ……」
なるほど……じゃあ次の質問だ。
「それと、ダイチくんとはどこまで考えてる?」
「どこまで、って……」
「将来の事とか、ね」
すると、ノゾミはますます真っ赤になる。
まだ早すぎたかな、この質問………。
-
「えっと、あの、その、お母さんみたいに、その、赤ちゃんとか、欲しいな、って思う。ダイチくんの。」
真っ赤になりながら、たどたどしく話すノゾミ。
まるでフミヒコさんと最初に会った時の私みたい。
クスリ、と笑顔になりながら、アドバイスでもしてあげようかな、なんてことを考えていた。
-
自信をつけてくれたお礼だと、ノゾミはあとで、私にネックレスをプレゼントしてくれた。
あの子も、成長したもんだなあ………。
その後もドイツ、イギリス、アメリカと、私は注目されつつも充実した旅行体験を過ごした。
そして私にとってはある意味待ち望んだ場所、ハワイに到着する………。
-
妊娠も8ヶ月を過ぎいよいよ終盤だ。
お腹はもうすっかり前にせりだしている。
もう寝ているとき、横になる以外は四六時中パワードスーツを着けている状態だ。
ワイキキビーチで水着を着ながら、ビーチパラソルの下でひと休み。
周りの視線が疲れるが、もう諦めてしまった。
動画サイトの再生数も伸び続けてるみたい。
そのせいか、サインを欲しがる人まで現れる始末。
ああ、もう、そっとして欲しい…
注目を浴びすぎて、感覚が麻痺してしまいそうだ。
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それにしても、ハワイに来て急に注目をあびるようになった気がする。
たまたま、別件でキていたらしい日本人観光客に話を聞いてみると、驚くべき事態になっているのがわかった。
出航前のインタビューをきっかけに色々と調べられていたらしく、Birth Shopによる妊娠がちょっとしたブームになっているのだという。
結果的に医師の手間も減らせるというのが、大きいらしい。
日本を離れている間にそんなことになっていたとは、驚きだ………。
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利用者をあまり見かけなかったBirth Shopだが、最近は増えているのか。
急な人数の増加で問題が起きてないといいけど。
この時私は軽く考えていた。
その後、ホテルに泊まったり、ロコモコを食べたり。
色々なことをして、最後の寄港地、オーストラリアに向かう。
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オーストラリアでも、アフリカのように自然を見るのがメインらしい。
海の方にも行くという話だ。
今回もスケジュールはみっちりと詰まっている。
どんな感じになるかな?
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ハワイを出て数日、オーストラリアへついた。
初日はエアーズロックへ。
神聖なる場所だとガイドさんに言われ、なんだか不思議な雰囲気を味わっていた。
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私が上まであがるのは難しそうだけれど、安産祈願の願掛けとかで登る妊婦さんもいるらしい。
なら、やってみようか。
フミヒコさんとユミ、リツコさんの助けを得て、私はエアーズロックに登ることにした。
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落ちて亡くなる人も少なくないとガイドさんから聞いたので、慎重に、慎重に。
数時間かけて、ゆっくりと登っていく。
頂上に着き、周りを見渡すと、見渡すかぎりの大地。
地球の中心に居るような感覚を覚える。
パワースポットのように、不思議な感覚を覚える。
一時間ほどそこにいただろうか。
今度は逆に、ゆっくり、ゆっくりと降りていく。
数時間かけて降りた先には、心配そうなノゾミとダイチ君。
ちょっと無理しちゃったかな。
私はそんなことを思いつつ、一日目は終了した。
-
2日目は、国立公園を見て回るルートだ。
アフリカの時と比べると、乗り物はしっかりしている。
どれくらいかというと、ドライバーさんとガイドさん以外に、私達家族全員が乗れるくらい。
アフリカに続けて、本やテレビでしか見たことのない生き物が間近で見られるという事実に、双子が特に喜んでいた。
3日目の朝になり、船長から突然の説明があった。
気候の都合で、当初の予定を早めて今から日本への帰路につくことになったという。
なんでも、ニューギニア島沖で突風が発生しているらしく、スケジュールに間に合わせるためには今出るしかないのだという。
もうちょっと楽しみたかったが、安全が一番だ。
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少しの心残りはまた次に来る事で補ってもいい。
私はそれくらいの気持ちで日本への帰路についた。
1週間程度が過ぎた。
突風の影響は少なく、無事に日本についた。
港についてすぐ、違和感がする。
余りに記者が多い。
最初の行くときは一社のテレビ局だけだったのに。
誰か他に有名人居たっけ。
不思議に思いながらも私は甲板から降りたった。
-
すると早速、一人の記者がマイクを差し出してくる。
「Birth Shopによる妊娠出産の変化についてどう思われますか!?」
私は、何がなんだかわからなかった。
とりあえず港を出て、適当な建物に取材陣を集めてもらい、話を聞く。
なんでも、Birth Shopの存在が私のインタビューをきっかけに明るみに出たのだという。
どういうルートなのかは知らないが、いまや一定の年齢の女性の間ではちょっとしたブームになっているらしい。
いまや合計特殊出生率は2を超え、雇用環境の整備も今まで以上に進んだ結果、日本は人口問題の解決だけでなく、将来的な成長の可能性がおおきく変化したそうだ。
私のちょっとしたインタビューが、まさかここまでのことになるだなんて………。
-
「ええと、そうですね。恋人が居ない人も、パートナーの子供を産みたい不妊症の人も、使うのはいいと思います。
ただ、やっぱり自然の摂理に乗ったほうも…」
私なりの意見を話そうとすると、
「でも、そのお腹!Birth Shopの利用の結果ですよね!」
なんて風に返された。
しどろもどろになりながら、自分の意見を真摯に伝える私。
こんなに大事になるなんて…
私は少し後悔をしていた。
Birth Shopの問題が明るみに出るのは、それから暫くしてからだった−
-
世間では何やら話題になっていたようだが、私はそんなことを耳に入れる余裕など、ありはしなかった。
理由は単純。
いよいよ37週と6日、どうあがいても数日以内に出産を迎えるわけだから、その準備で忙しかったのだ。
175cmのお腹を抱えては、満足に動くこともできない。
楽な姿勢について試行錯誤のすえ、今回は横向き、側臥位での出産が最適という話になった。
自分のわがままを詰め込んだ出産、なんとしても頑張らないと。
-
38週、当日。
少しずつ腹の張りが強くなってくる。
それは、明らかに陣痛の始まり。
だが、大きくなった子宮の収縮は鈍いみたい。
これはイツキの時より時間がかかりそうだ…
そんなことを思いつつ、私は陣痛に耐えていく。
密着取材のカメラマンが忙しそうにしているが、私は気にする余裕がなくなりそうだな、なんて思っていた。
-
このお腹では動き回ることなんてできず、ひたすら呼吸で耐えるしかない。
子供たちが周りの片付けをしてくれているうちに、担当の女医さんが内診。
そんな流れを、何回も繰り返していた。
そのさなか、別の人に交代した直後らしいカメラマンさんが話しかけてくる。
「歴史的瞬間は、僕らに任せて下さい」
歴史的………そうか、ズルしたとはいえ産科医療史くらいに名前は残るよなあ、私。
そう思うと、ちょっとだけ気が紛れた。
-
二日目も陣痛だけで過ぎていく。
息みの衝動はまだ来ない。
女医さんも、子宮口の開きはまだまだだね、なんて話してくれる。
もう少し待っててね、私の赤ちゃん。
特注のトイレでフミヒコさんの介助で用を足したり、ユミやノゾミの介助でお風呂に入ったり。
そうこうしているうちに時間は過ぎていく。
進展が有ったのは三日目、昼。
子宮口が全開になったらしい。
胎児も下がってきたのか、息みたい。
いよいよその時が来ようとしていた。
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フミヒコさんと子供たちが、声をかけてくれる。
ブランクがあっても、さすがにこうなんども経験していれば、イヤでもわかる。
陣痛の波も、タイミングも、何もかも。
そのことを一番良く知っているのが、他ならぬフミヒコさんのはず。
私はフミヒコさんの手を握り、カメラの回されている真ん前でいきんだ。
女医さんの反応を見るに、破水していないようだ。
でも我慢できる感じではない。
私は波に合わせて、いきむしか出来なくなっていた。
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最後の妊娠については、バグであると強調するために、サナエにとって苦しいものとしたいです。
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いつの間にか破水して、児頭が挟まる感覚。
いつもの出産と変わらない。
多胎児といっても楽じゃないか、なんて余裕も出てくる。
やっぱり巨大児のイツキを経験したからかな。
そんなことを思っていたら、いつの間にか最初の胎児が現れていた。
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了解しましたが、苦しい、の意味が色々とれますね。妊娠期間が精神的に、とか。
自分的には出産の時、陣痛が今までと違う(Birth Shopでは楽に出産出来る)みたいなイメージもあります。
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そこから4人目辺りまでは、すんなりと普通に産むことができた。
だが、私も地味に体力を使っていたのだろうか。
徐々にだけれど、いきみ方が弱いと注意されるようになっていた。
まだあと9人もお腹の中に残っているのに、だ。
それでも私は逃げられない。
そもそも、これは私のワガママだ。筋を通さなきゃいけない。
強引に気合を入れなおし、私はもう一度いきんだ。
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自分の考えでは精神的な面も(特に年齢的に)そうですし、バグで色々と乗っかってしまったため羊水過多な上に大きめ、さらに出産時も苦しいといったイメージです。
ついでに、サナエ自身の理想としていた難産に一番近いものである、といった感じでもあるようにしたいかと。
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四日目に突入して、ようやく9人目が産まれる。
あと四人だが、息むのも限界だ…
「フミヒコさん…お腹、押してくれる…?」
弱々しく、私は話しかける。
フミヒコさんが、陣痛に合わせてお腹を押してくれる。
同時に息んでいく。
あと少し、あと少しだ。
カメラマンも集中して私の姿を映していた。
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了解です。バグについては今一分かりにくいので、大筋はお任せしますね。
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あと4人、あと4人だ………。
嬉しいけれど、それ以上に疲労感が上回る。
ヘトヘトになりながら、家族一同の手助けを受けて10人目もなんとか産みだした。
正直、体力が限界だ………。
そんな私の様子を察したのか、フミヒコさんだけでなく、子どもたちやカメラマンまでもが手助けをしようと集まってきていた。
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了解しました。ではこのパートの締めはよろしくお願いします。
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5日目の朝。
家族やテレビ局のスタッフの介助を受け、いよいよその時が訪れようとしていた。
13人目。その赤ちゃんが、とうとう産まれる。
Birth Shopを使ったとはいえ、自然妊娠の出産記録。
それを、自宅出産でむかえた。
計算を間違えて、野球チームを2つ作るには一人足りないけど、そんなことは関係ない。
疲労感は半端じゃなかった。
注目を浴びるのももう十分だ。
この時、私はBirth Shopの利用を完全に終了させた。
私の身体に起きている異変を、この時誰も気付いていなかった。
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異変に気づいたのも、知ったのもすべて数年後の話。
きっかけは、何の気なしに受けた肉体年齢診断だった。
結果が出た時に、驚かれてしまったのだ。
「いくらなんでも、肉体年齢が若すぎる」と。
最初は何かの間違いだと思っていたが、何度やっても結果は同じ。
謎の不安にかられる私だったが、帰宅した後でノゾミからの言葉を聞いて我に返った。
ダイチくんとの子供を、妊娠したのだという。
祝福ついでに、母親として人生の先輩として、いろいろ話に乗ってあげよう。
そう思っていた矢先、もう一つのニュースが飛び込んできたのだった。
吐き気を感じ、心因性のものかと思って受診したところ、なんと妊娠していると告げられた。
まさかこの年令で、もう一人!?
驚く私に、女医さんは冷静に話す。
「Birth Shopを以前お使いになられた経験は?」
話を聞いて、私は動揺するしかなかった。
13つ子の出産と子育てで忙しく、とても周りのニュースを知る余裕などなかったが、Birth Shopについての重大な欠陥が見つかっていたのだという。
人体の機能を無理やり調整するBirth Shopは人の細胞にかける負担が大きく、あまり繰り返し、大規模に利用するとある副作用があるのだという。
1つは、妊娠率の異常な向上と、胎児以外の異常の頻発。
もう一つは、おそらく妊娠出産をさせやすくするためだろうか。
老化が、ある程度遅くなるのだという。
-
私は不安を覚えていた。
フミヒコさんは、既に年相応の雰囲気を出している。
だが、私はまだ、30代ほどの肉体年齢だと言われたのだ。
このままでは、フミヒコさんに先立たれてしまうのではないか。
そんな不安が、私の悪阻をよりいっそう悪化させているみたいだ。
ちなみに今回の赤ちゃんは四つ子らしい。
13人産んだ私には楽だろう。
それだけに私は油断をしていた。
-
深夜、子どもたちが寝静まり、部屋には私とフミヒコさんの二人っきり。
知ったことや、私の不安を全部ぶちまけた。
多分、5分は言いとおしていただろうか。
私がすべて言い終わったあと、フミヒコさんは優しく微笑んで、私を抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ。キミのお腹の中にいる子が立派に育つまで、死ぬわけにはいかないからね」
そう言って、私を強く抱きしめてくれた。
フミヒコさんがそう言ってくれたのもあるが、私が落ち着くようになった大きなきっかけはもうひとつ。
ノゾミに私の妊娠のことを話すと、ニッコリと笑って祝福してくれたこと。
そうしてもう一つ「これでおんなじだね」と言ってくれたことだった。
-
そうか、ノゾミと一緒に出産出来るんだ。
時期からしてもほぼ同時だろう。
ということは、同時出産もあるかもしれない。
ユミと私が同時出産したときに生まれた、ノゾミとの同時出産。
物凄く、ワクワクしてきた。
そんなとき、新しい情報が私に届く。
Birth Shop問題で先伸ばしになっていた私の密着ドキュメントの放送日時が決まったらしい。
三時間スペシャルだそうだ。どんな出来になってるか、楽しみだな。
-
放映を楽しみにしようと思っていたら、テレビ局から呼び出しが。
実在の人物を扱ったドキュメンタリーということで、私にこれでいいか、という許可をとるため試写を見て欲しいのだという。
無論、そう言われれば見るしかない。
結論から言わせてもらうと、最高の編集だったといえよう。
変に好奇心を煽るようにはせず、かといってありきたりになりすぎず。
個人的には、とても好みだった。
-
そして、放送が始まる。
CMを挟むと少し印象がかわり、先が見たくなる作り。
日本中に私の出産がながれるのは凄く快感だった。
すぐさまネットの評判をみる。
概ね好評だが、なかには厳しい意見も色々ある。
例えば、赤ちゃんの気持ちを無視してるとか。
その厳しい意見を見て、私は少し気鬱になった。
その気持ちが赤ちゃんに影響したのか。
4ヶ月の健診で流産の危険があるといわれ、暫く入院することになった。
-
四つ子だから、負担は大きいと言われた。
Birth Shopが絡んでいない以上、普通はこうなる訳だから、仕方ない……。
入院して3日目、フミヒコさんと、検診の帰りらしいノゾミが私の元を訪れた。
-
「大丈夫かい、サナエ」
優しい顔のフミヒコさんが柔らかく話す。
「もう、無理しないでよお母さん!もう一人の身体じゃないんだよ?」
ノゾミが強い口調で話す。
そう、始めての、Birth Shopを利用しない妊娠。
無理したら、流産しちゃうんだ…
私は少し感慨深い気持ちになった。
一月後。
流産の危険が無くなったということで、帰宅できる事になった。
久しぶりに子供たちと会えるのは嬉しいなぁ。
-
帰宅前に検診を受けてみたが、やはりBirth Shopの影響なのだろうか。
あれほどまでに流産しそうだと言われたのに、今の段階ではもうその心配はないんだそうだ。
帰宅してすぐに、13人もの子どもたちが出迎えに来る。
聞き分けのいい子たちだからあまりワガママを言わないのは嬉しい限りだけれど、ちょっと我慢させすぎなのかもしれない、と思えてくる。
-
一人一人に、分け隔てなく愛情を与えるのは結構大変。
それでも、自分の子供たちなんだから、キチンと愛さないといけない。
それでも愛情を注ぎきれない場合がある。
ダイチ君の専業主婦になったノゾミやツナグ、ユカリ、イツキが世話してくれるのはとても有りがたかった。
六ヶ月を迎えたが、お腹の大きさは双子の時の8ヶ月くらいになった。
聞いた話だと、羊水過多と巨大児を併発しているらしい。
これもBirthShopの影響なんだろうか。
私は少し不安になりながら、日々を過ごしていた。
-
家のことはフミヒコさんと子どもたちが分担してやってくれている。
なんだかんだでこのお腹の大きさではいろいろ苦しいことこの上ない。
そのせいもあってか、同じく妊娠中のノゾミと話す機会が増えているように思う。
悩みを共有できる相手というのはやっぱり貴重なものだ。
それに、ノゾミの方も不安を相談できる相手がいるというのは嬉しいらしい。
ああ、この子はやっぱり、私の娘だな………。
-
ノゾミの不安は子供を上手く育てられるか、らしい。
出産の不安は無いようだ。
むしろ想像するだけで興奮するという。
その辺りも私の娘だなぁ。
ノゾミには、ツナグ、ユカリ、イツキと育てるのに上手く行ったじゃないか、と安心させることにした。
ノゾミもそれを聞いて、安心したらしい。
笑顔も増えて、嬉しそう。
幸せそうなノゾミを見て、私も幸せを感じる。
そうしているうちに、1ヶ月が過ぎていった。
-
私のお腹はもうパンパン。
流石に前ほどではないものの、かなり大きい。
一番下の子供たちは興味深そうに私を見る。
こういう注目のされかたなら、悪い気はしないよね。
今日は二人揃っての検診の日。
せっかくだからと、二人をいっぺんに見てもらうことにした。
-
「それじゃあまず、サナエさんからですね。」
いつもの女医さんがホログラムの機械を当ててくる。
そのお腹はノゾミくらい。
後でちょっと話を聞いてみたいな。
「うーん…少し胎児が大きいですねぇ。それに、大分羊水も多いですね。」
前回の健診とかわらない台詞だから私は気にしていないけど、女医さんは少し気になるようだ。
ホログラムには、ゆったりとした空間に四人の大きい赤ちゃんが。
13人のときはギッシリしていたから、大分違うなぁ。
そんなことを思っていると私の健診は終わった。
「じゃあつぎはノゾミちゃんね。」
そう言うとホログラムの機械をノゾミのお腹に当てる。
ホログラムに写し出されるのは至って普通の赤ちゃん。
羊水も普通だし、元気そうだ。
ノゾミの時もこんなだったのかなぁ、と思いつつ、健診は終わった。
健診の終わりには雑談を。
女医さんの出産予定日も私達と変わらないらしい。
同時に出産したら面白そうですね、なんて冗談半分ではなしていた。
-
帰り道、ふと思い出したので、ノゾミに昔の話を少しほど。
最初の、つまりノゾミを妊娠していたときの思い出話。
ホログラムでなくエコーを使ったとか、出産の時の話とか。
それを聞く度に、ノゾミの目がきらきらとしているのがわかる。
他にも、話すことは山ほどあるし、私の無理にならない範囲で一度出かけてみたいな……。
-
数週後。
フミヒコさんやツナグ、ユカリ、イツキ、それにユミとリツコさんが、13人の子供たちの世話をしてくれると言うので、ノゾミと二人で、以前ユミとリツコさんと行った温泉宿に行くことにした。
パワードスーツは必要ないが、流石に動きにくいので、前の方の座席を2つ使う。
他のお客さんはそんなにいなかったので、邪魔にならないのが幸いだ。
温泉宿に着くまでの間、私達はいろんな話をしていた。
-
妊娠中のいろんな思い出や、そのときの気分。
私が言えたことじゃないかもだけど、ノゾミの不安を聞いてあげたり。
あとは最近の悩みとか、ダイチ君の様子とか。
とにかく、取り留めのない雑談をしていた。
偶然、私達がとった部屋はあのときと同じ。
私からすれば古びていても、記憶に残っている部屋そのものだった。
-
前は三人だったので少し広さを覚える部屋に二人きり。
今回は三泊四日の予定だ。
一日目は温泉に入るだけで終わる。
二日目はこの前と同じ海水浴。今回私は競泳水着だ。流石にもう注目を浴びるのも十分だしね。
対するノゾミはビキニ。うん、派手さはないけどよく似合ってる。
この前の様に宿で着替え、ゆっくりと歩いていく。
-
注目を集めるのは十分と言っても、このお腹の大きさでは目立つことは避けられない。
凝視されたりするのも相変わらずだけど、昔と比べると段差の近くなどで手を貸してくれる人が増えているように思う。
やっぱり、時代が変わってきたのだろうか。
このお腹を抱えて満足に泳げるはずもなく、ほとんど浮いているだけみたいな状態。
でも私は、不思議と落ち着きを感じていた。
-
十分海を堪能して、三日目。
今回はこの前行けなかった、山にある天然の露天風呂に行くことにした。
そこまでの山道は妊婦には少し辛そうだが、露天風呂はとても気持ちがいいらしい。
運動もかねて、気を付けながら進んでいこう。
-
前と比べると、道は整備されている。
それに、帰りは別ルートのロープウエーがあるらしい。
目的が目的なので、今日は動きやすい半袖の上からウワギヲキテ、ランニングスタイルの格好で。
軽いウォーキングのつもりで、水も持参。
ノゾミもそれなりに動きやすい格好をしているが、私ほどではないみたい。
流石に驚いている。
-
舗装された山道を、ゆっくりと歩いていく。
妊婦さんの姿もちらほら見受けられる。
世間が変わったんだなぁ、なんてことを思いつつ進んでいく。
一時間後。
ようやく山奥の露天風呂にたどり着く。
河が近くに流れ、水を引いて温度を調節するらしい。
私にはちょっと辛いから、露天風呂の管理人さんに手伝ってもらった。
-
ちょうどいい温度になったのを確認して、入浴タイム。
周りに人もいない感じだし、タオルを巻く必要もないだろう。
私はノゾミに手伝ってもらい、ゆっくりと入った。
「お母さん、こうやって二人っきりっていうのも、久しぶりだね……」
ふと、ノゾミがそんなことを言う。
-
「そうね、ツナグ、ユカリが生まれて、イツキが生まれて、13人も産んで…忙しくて、なかなか愛情を注げなくてごめんなさいね。」
思えばノゾミには寂しい思いをさせたかもしれない。
それが少し心残りだ。
「ううん。妹弟たちの育児を手伝って、お母さんの大変さは分かったし…賑やかで楽しかったから、問題はないよ。」
そう言ってくれると有難いけど、やっぱり心残りだ。
今日1日くらいは、思いきり甘えさせてあげよう。
-
「だから、私お母さんには本当に感謝してるの。この子を育てることに、それほど不安を抱かなくて済んだから」
そういうノゾミは、もうとっくに母親の顔をしていた。
その言葉に触発されて、私もふと思い返してみる。
変わったこと、変わらなかったこと。
次の出産に向けて………。
-
30分ほど入っただろうか。
あまり長風呂するのも胎児に悪いかと、早めに上がる。
ノゾミも上がって、ロープウェイで宿の近くまで。
時間は三時くらいだろうか。
残りの時間はノゾミと二人きりの時間をゆっくりと過ごそうかなぁ。
私はノゾミと色んな話をすることにした。
-
雑談を交えながら、子供の名前だとか、いろいろな話をする私達。
せっかくだし、ということで私は切り出した。
「ノゾミ、あなたは、どういうふうな出産や子育てがしたいとか、希望はある?」
ふたりきりだからこそ、ぶっちゃける。
私達はあれから、結構長い間話した。
何を話したかは、秘密。
出産の時まで、周りには明かせないかな。
ただひとつ言えるのは、やっぱりノゾミは私の娘だってこと。
ただそれだけだった。
いよいよ、8ヶ月目。
私はとうとう、家事すら難しくなってきた。
お腹が大きいだけでなくよく張るので、動くに動けない。
-
こんなときにノゾミ、ツナグ、ユカリ、イツキが手伝ってくれるのは有難い。
フミヒコさんも出世して、大分時間に余裕が出来たみたい。
13つ子の育児を手伝ってくれている。
みんなの思いやりが嬉しい。
そうしているうちに、月日は過ぎていく…
-
Birth Shopの効果が残っていたのかどうなのか、私はなんとか臨月を迎えることが出来た。
ちょっと無理するとすぐ張ってしまうし、何よりお腹が大きすぎて本当に動けない。
ノゾミとは全然違うし、はっきり言って羨ましい。
そんな理由で、ノゾミよりも一足先に入院することになってしまった………。
-
私が入院してから毎日、ノゾミが話し相手に来てくれるようになった。
ノゾミが来てくれるのは嬉しいが、負担にならないか心配だ。
フミヒコさんも、毎日一緒に来てくれる。
フミヒコさんとノゾミ、三人で過ごした日々を思い出していた。
そうしているうちに、刻一刻と運命の日は近づいていく−
-
ノゾミも入院となり、気を利かせてくれたのかベッドは隣同士。
自分が最初に産んだ子供と、一緒に子供を産む。
不思議な話だけど、幸せだ。
ベッドに横になると、ノゾミが何の気なしに話しかけてくる。
「お母さん、今なら、お母さんの辛さとか、色々分かるな……」
親子の、その中でも特別な絆。
今のノゾミと私には、其れがあるんだろう。
だから、決めた。
あのときノゾミの言っていたとおりに。
「二人で、手をつないで、助け合って」出産したい。
そして私たちは、その日の朝を迎えた………。
-
その日は前の日からお腹の調子が良くなかった。
定期的に、お腹が固くなる。
ノゾミも、お腹が張るようになっているらしい。
いよいよ、その時が始まろうとしていた…
少しづつ痛みに代わりつつある腹の張りは、今までの出産とは少し違う。
なにか不安を覚えながら、私は陣痛に耐えていた。
-
いくらブランクがあっても分かる。
今までが弱すぎたのか、それとも今回が強過ぎるのか。
今までより、波の強弱が明らかに激しい。
でも、まだ序盤も序盤、耐えるしかない。
近くに据え付けられたノゾミのベッドに手を伸ばし、互いに手を握っていた。
-
「痛い…痛いよ、母さん…こんな痛みを、私達を産むときに感じてたんだね…」
ノゾミも凄く辛そうだ。
Birth Shopの出産は楽だったよ、なんてことも伝えたいが、陣痛に耐えるだけで精一杯。
ウンウン唸って、苦しむしかなかった。
初めての、BirthShopを使わない出産は、未知の感覚に襲われそうだった。
-
そこから更に数時間。
ようやく学校が終わったのか、仕事帰りのフミヒコさんに釣れられて、双子とイツキが来た。
さすがに下の子たちに見せるのはまだ早いし、何より数が多すぎる。
ダイチくんなんかも来ることを考えれば、このくらいが限界だろうか。
いよいよ、皆に見守られて。
私の、いや「私達の」出産が始まる………。
-
皆が集まって二時間。
子宮口の開きは私もノゾミも7センチ程度に。
陣痛はますます激しく、短くなっていく。
明らかに以前の出産とは違う事を感じていた。
それがノゾミに伝わったのか。
不安そうに、手を握り返してくる。
大丈夫、不安にならないで。
そう伝えるように優しくノゾミの手を握る。
私は右手でノゾミを握り、左手でフミヒコさんを握り、陣痛に耐えていた。
-
「そろそろ移動しましょうか」
助産師の提案に頷く私達。
体を支えてもらいながら、ゆっくりと廊下を歩く。
-
陣痛に襲われるたびに立ち止まり、ゆっくりと分娩室へ。
用意されているのは二台の分娩台。
大きなお腹を抱えた女医さんもスタンバイしてる。
いよいよ、出産が近づいてきた。
-
2つ並んだ分娩台に上がり、二人並んでその時を待つ。
年齢差故か、それとも別の差があるのか。
ノゾミの方は順調らしいが、私の方はどうも進みが遅いらしい。
助産師がそんなことを言っている。
-
だが、私はそれを聞く余裕はなかった。
今までとは明らかに違う陣痛に翻弄され、体力だけが消耗していく。
難産になる予感と、それを想像するだけで少し嬉しい自分がいた。
-
でも、それでもはっきりと感じられるものがある。
お腹の中の、赤ちゃん達の産まれようとする動き。
私はたまらず声を上げる。
「もういきんでもいいですか!?」
助産師さんが、ゆっくり頷いた。
ほどなくしてノゾミにもゴーサインがでたらしい。
母と娘、揃っての出産。
今まさに、最高潮を迎えているんだろうか。
お互いの手をしっかりと握り、渾身の力でいきむ。
私の体の中を、大きな塊
が徐々に、こじ開けるように進んでくる。
久しく感じていなかった感覚。
画面越しではない、生の私の感覚。
ノゾミも、同じように感じているはず。
波が引くのに合わせ、力を抜く。
インターバルの時に、ノゾミがふっと呟いた。
「母さん、私達、今すっごく『綺麗』なのかな………?」
-
綺麗なのか。
その言葉に私は考えていた。
汗だくで、陣痛に苦しみ、歪んだ顔で、真っ赤になりながら息む。
赤の他人から見たら美しいとは言えないかもしれない。
だが、フミヒコさんや、ダイチさんから見たら。
愛する女性が、必死に、自分の子供を産もうとしている。
それは、恐らく、美しいと思えるのではないか。
そんなことを考えて、メグミには。
「見る人が見たら、『綺麗』に見えるわよ…うぅぅっ」
陣痛に襲われ語尾が弱くなったかもしれないが、私はそう断言した。
-
「そっか……っっっ!!」
私の手を握るノゾミの手に、ぐっと力がこもる。
私も、同じようににぎりかえす。
まっすぐ、押し出す動きをイメージして力を入れる。
そのたびに少しずつ、少しずつだけど、赤ちゃんがでてこようとしている。
二人でタイミングを合わせるように、離すまいとしっかり手を繋ぎ。
私達は何度もいきんだ。
そして、今までより強い陣痛の波が、一気に押し寄せる。
「頭出てきましたよー」
助産師さんがそう言ったのは、その直後だった。
-
助産師さんの声に励まされ、私はメグミとフミヒコさんの手を力強く握る。
メグミも、ダイチくんの手を握り、私の手を握り返す。
少しづつ頭が挟まる感覚を感じた。
そう言えば、私達の担当の女医さんはどうしているんだろう。
さっきから私達の近くに現れない。
インターバルの間、女医さんを探すと、お腹を抱え、苦しそうにする女医さんが椅子に座っていた。
あの分だと陣痛も来ているのだろうか。
ひょっとしたら、メグミの出産後にメグミが使っていた分娩台を使う展開も有るかもしれない。
そんなことを考えていると、女医さんが私達の様子を探りに来るのか、椅子から立ち上がりこちらに向かってきた。
-
「今まで診てきたけど、ごめんなさいね……少し、お手伝い出来そうにないかも……」
そう言う女医さんの顔は苦しげ。
陣痛はかなり激しいみたいだ。
「大丈夫です、心配、かけさせませんから」
そう返して、彼女を勇気づける。
そうだ、私からすればこんな状況、慣れっこだ。
イケる。
私なら。隣にノゾミがいれば。
-
「いよいよ頭が出てきたよーもう少しだからねー」
助産師さんが優しく語りかける。
私の一人目と、メグミの赤ちゃんが姿を見せ始めたのだ。
「女医さん…待っててください…もう少しで、ここ開きますから…」
メグミがインターバルに話しかける。
「無理…しないでね…私はまだ、破水してないし、我慢できるから…それより、貴女の身体と胎児が優先されるべきよ…」
女医さんも苦し気だがそう話しかける。
そう、先ずは無事に産むことを考えないと。
私は陣痛に苦しみながら、必死に腹圧をかけていた。
-
ノゾミと私、ふたりでしっかりと手を握り合い、お互いの力を伝えるようなつもりで。
親から子へ、そして私達から生まれようとしている、さらなる世代へ。
「はい出てくるよー。ハッハッハッハッとしてくださいねー」
言われるとおりの呼吸、短促呼吸にきりかえる。
そしてすぐに、元気な産声が聞こえてきた。
反応を見るに、ほぼ同時の出産となったらしい。
「お母さんも娘さんも、両方共赤ちゃんは女の子ですよー」
安堵の表情をノゾミが見せ、私に話しかける。
「これで、私も『お母さん』なんだね……」
その言葉に、私も優しく頷く。
やがて、へその緒がつながったままの赤ちゃんが私達の胸に抱かれる。
おかしなところなんてない、実に立派な「赤ちゃん」だ。
-
優しく抱き締めていると、再び腹痛が起きる。
そうだ、私のお腹の中にはまだ3人残ってるんだ。
ノゾミはそのまま、病室へ向かう。
ダイチくんや子供たちはノゾミの方に向かい、残されたのは陣痛が来ている女医さんと、フミヒコさんと、私。それに助産師さんだ。
女医さんはゆっくりと、ノゾミが寝ていた分娩台に横たわる。
彼女の戦いはこれから始まるのだ。
陣痛の間に女医さんと話をする。
彼女の夫はなんと私達の世話をしていた助産師さんらしい。
二人のお陰でノゾミは出産出来たのだと考えると感慨深い。
ちなみに女医さんのお腹の中には3人居るらしい。
私の今お腹に居る人数と同じというのはなにか心強い。
女医さんは助産師さんの、私はフミヒコさんの手を握りながら息みを始めていた。
-
結構陣痛が激しいようで、何かを話す余裕はあまりないらしい。
それでも落ち着いているのは、さすが本職の産婦人科医といった感じだ。
いきみ方もいいようだし、医者の不養生というわけではないようだ。
私の方も、繰り返す波にタイミングを合わせて何度も、何度もいきむ。
赤ちゃんの位置を感じて、真っ直ぐな道を意識して。
押し通るイメージで、力をかける。
徐々に、徐々に二人目が進んでいく。
でも、私の難産はここからだった………。
-
育ちきった胎児がなかなか娩出出来ない。
頭がなかなか出てこないのだ。
二人目はかなりの大きさみたいだ。
それでも胎児の命を助けるために必死に息む私。
おぎゃあ、おぎゃあ。
隣の女医さんの一人目の胎児が出るのと、ほぼ同じくして。
ようやく、私の二人目の頭が抜け出したのだった。
-
イツキの時にもやった、難産への介助技法が直ちに行われる。
私も強引に両足を抱え、全力でいきんだ。
助産師さんも、赤ちゃんの頭を優しく掴み、引っ張っている。
だけど、それでも。
この子はなかなか強情らしく、びくともしてくれない。
私は苦しみつつも、ふと昔のことを思い出していた。
この性癖を抱くに至った、きっかけを。
-
最初は小さなきっかけ。思春期にみた、性教育の映像。
その中に有った出産についての映像に私は惹かれてしまった。
産婦さんの苦しむ姿、大きなお腹、汗だくの身体。
その全てが美しいと思ってしまった。
18歳を迎え、18禁の映像を見るようになり。
いつしかその手は自然と難産の動画に向かっていた。
性教育の映像よりも、さらに苦しげにする、産婦さんの姿。
それに、欲情すら覚えていた。
いつの間にか、それが憧れになり、今に至る。
今、陣痛に苦しんだり出産で苦しむ姿は、自分から見たらどう見えるのだろう。
リアルタイムで見れないのが残念だ。
そんなことを考えながら、私は息んでいた。
-
私と女医さんのいきむ声が、室内に響く。
流石にカメラを回してるかどうかは知らないけれど、かつての「憧れ」に私が近づいている、そんな自覚はあった。
私の望んだものは、今ここにあるのかもしれない……。
女医さんの一人目が産まれたが、私の方は進んでいない。
どうやら、まだまだ長引くみたいだ………。
-
二人目を息みはじめてから一時間。流石に疲れが見えてきた。
手を握っていたフミヒコさんが、足元に向かう。
どうしたのか聞いてみると、今日という日のために助産師の資格を取ったとか。
今までサポートしてくれた助産師さんの代わりに、出産の介助をするみたい。
こんなに勉強熱心なお父さんと、私が居るんだから、不安がらなくて大丈夫だよ。
そんなことを考えながら息んでいた。
息みに合わせて、フミヒコさんが肩を優しく掴み、引っ張り出す。
フミヒコさんの介助がいいのか、私の思いが通じたのか、少しづつ胎児が出る感覚を感じていた。
-
そこから20分くらいかけて、ようやく二人目の男の子が産まれた。
長引いた割には問題ない、元気な子だ。
でも、安心しているヒマはない。
後二人、まだ残っているからだ。
でも、今は。
陣痛の無い今は、少し休ませて……。
-
少しだけ休んで、直ぐに陣痛が襲いかかる。
助産師さんによると女医さんは2人目が排臨状態になりつつあるらしい。
対する私の3人目は始まったばかり。
正直、体力を使いすぎて、女医さんのスムーズな出産が羨ましい。
でも、私のこの出産はBirth Shopを使いすぎた報い。
辛いのは仕方ないのだ。
そう思いながら、必死に息む。
フミヒコさんに介助をしてもらいながら、必死に息む。
-
実際はどのくらい時間が経っているのかよくわからないけど、女医さんの二人目は私からすればあっという間といえるくらいに早く誕生した。
いよいよ、最後の一人に取り掛かろうといったところらしい。
その一方で、私はといえばまだまだ苦労の真っ最中だった。
なかなか出てこないどころか、更なるトラブルが分かってしまったのだ。
どうも二人目出産時の勢いで逆子になってしまったらしい。
いまさらどうということはないかもしれないが、そうすんなりとは行きそうになかった。
-
まだ二人残っているのに、二人とも逆子なのだろうか。
だとしたら今まで以上に苦労するだろう。
せめて、四人目が正常位で産まれてくれれば。
そんなことを考えつつ私は息む。
少しづつ、お尻から胎児の身体が現れはじめていた。
-
逆子だからか、さっきよりはすんなりと進んでいる、ように感じる。
あくまでも「さっきと比べて」ではあるけれども。
そのぶん、急なトラブルは多そうだ………。
でも、フミヒコさんまで手伝ってくれている。
きっとなんとかなる、大丈夫。
私はもう一度自分を奮い立たせ、次の波を待った。
-
陣痛の波に合わせて、息みを続ける。
3人目の身体が全て現れる。
残りは頭だけだ。
フミヒコさんが優しく会陰を拡げながら手を入れ、頭と首を支える。
フミヒコさんと私の共同作業。
初めての共同作業、結婚式のケーキ入刀を思い出しながら私は息んでいた。
-
私も慣れたもので、先ほどみたいなことにはならずにすんなりと産むことができた。
三人目は女の子。
これで残るは後一人な訳だけど、その前に女医さんの出産がいよいよ終わりそうだ。
インターバルの私より、今はそっちを気にかけるべきだろう。
-
女医さんの顔は猿のように真っ赤。
それだけ力が入っているのだろう。
助産師さんも優しく励ましている。
女医さんの3人目は既に発露状態だ。
女医さんの方はいよいよ終わりといったかんじか。
「サナエさん、この子を産んだらサポートに回りますね…」
息を切らせながら、息みをくわえながら、女医さんがそう話しかけてくる。
「無理はしないでくださいね…」
そう言いながら、私も陣痛の波に合わせ息んでいた。
-
「先生、思ったより体力を使ってるんだからちゃんと休んでください」
助産師の一人からも、そうコメントが飛ぶ。
そういった直後、女医さんの3人目が見事に生まれ落ちた。
大きく産声を上げる赤ちゃんに、安堵する女医さん。
あとは、私だけみたいだ………。
最後の一人になって、ここで更に問題が起こった。
子宮が疲れているのか、陣痛が徐々に弱くなってきている、と助産師さんが教えてくれたのだ。
-
陣痛促進剤を使うことを女医さんから提案されたが、私は迷っていた。
もしも、陣痛促進剤が子宮に悪さをしたら。
もしも、私がこれ以上の陣痛に耐えられなかったら。
不安になる私の目に映ったのは、同じく不安そうなフミヒコさん。
…そうだよね、私が不安だと彼も不安になるよね。
私は不安をたちきり、女医さんに全てを委ねた。
-
即座に、既に準備されていたらしい点滴が持ち込まれる。
慣れた手つきで私の腕に、点滴の管が通される。
手際が良いからなのか、それとも私が疲れているからか、針を刺す痛みは全くない。
「急に強めると危険なので、ゆっくり効かせていきます。なので二時間くらいはかかりますね」
後二時間。結構長い猶予だ。
せっかくだし、フミヒコさんと話でもして気を紛らわせようか……。
-
「こんなに辛そうなサナエを見るのは始めてだな…すまない。」
フミヒコさんが悲しそうに話す。
「ううん、良いのよ。予想外の妊娠、出産だけど…始めて、自然に任せた出産って感じがするし…」
その言葉に私の本心で答える。
予想外の妊娠は、色々あったけど、楽しかった。
恐らくこれが、最後の出産。
キチンと、赤ちゃんを産んであげないとね。
二時間後。
第一子を産んだときくらいの陣痛が私を襲う。
いよいよ、最後の戦いが始まる−
-
女医さんはもう病棟に移ったらしく、代理の医師が一人、私についていた。
この人も丁寧な人で、私のことをしっかりと診てくれている。
「よし、じゃあ次の波でいきんでください。そろそろ頭が見えますよ!」
-
最初の頃の激しい陣痛が私を襲う。
だが、疲労でなかなか息めない。
体力がもう尽きようとしているのがわかる。
それでも私は息まなければならない。
この赤ちゃんを、無事に産むために。
フミヒコさんも、陣痛にあわせて、お腹を押してくれる。
二人とも頑張ってるから、赤ちゃんも頑張ってね。
そんな事を思いながら今できる力で必死に息んでいた。
-
間違っても、ここで死ぬわけにはいかない。
出産はスタート地点で、私はこれからこの子たちを育てなきゃならないのだから。
その思いで、私はなんとか意識を繋いでいた。
それに答えるように、最後の一人がゆっくりと、出て行くのを感じとれた。
「次のいきみで出しましょう」
その医師の声に応え、私は渾身の力でいきみをかけ、赤ちゃんがするりと抜け出ていくのを感じ………。
そのまま、気を失った。
-
目が覚めると、見慣れた天井。
何時もの病院の、病室だ。
今回は大部屋。部屋には女医さんやノゾミが横になっている。
ゆっくりと起き上がり、新生児室へ。
新生児室へ向かうと、フミヒコさんが先にいた。
声をかけ、一緒に眺めている。
おそらく、最後の出産だ。そう思うと感慨深い。
「これからもよろしくお願いしますね、お父さん。」
「こちらこそよろしくお願いするよ、お母さん。」
そんな会話をしながら時間は過ぎて行く。
これから先、何が起きるかはわからない。
だが、フミヒコさんと、ノゾミたち21人の子供たちが居ればなんとかなるだろう。
そんな期待を抱きつつ、二人きりの時間は過ぎていった−
新Birth Shop End
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