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オリロワA

1 : ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:27:55 I8sdIs.E0


登場人物全員悪人


【wiki】
ttps://w.atwiki.jp/orirowaa/

【したらば】
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16903/

【地図】
ttps://w.atwiki.jp/orirowaa/pages/10.html


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2 : OP.ドブ底の金貨 ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:29:21 I8sdIs.E0

「――――こんばんはだ、諸君。よくぞ集まってくれた」

それは空気の張り詰めた薄暗い密室だった。
僅かに高い壇上より発せられた重く厳かな響きが、鉛色の石壁に染み込むように広がってゆく。
石造りの室内には、まるで底知れぬ闇に包まれたかのような重々しい空気が漂っていた。

声を発したのは黒。
全ての光を吸い込むかのような漆黒の制服に身を包んだ壮年の男だ。
皮肉気に吊り上げられた口端は捻くれた男の内面を如実に示しているようである。
ウェイブのかかった黒い髪の奥に、青味掛かった瞳が見みえていた。

その瞳が捉えるのは、石堂に犇めき合う人垣である。
笑みを浮かべた頬を痙攣させる者、視線を落としている者、無表情で遠くを見つめる者。
どれも一見しただけで一筋縄では行かない曲者たちだと分かるような面構えをしている。
無骨な造りをした広く冷たい石の部屋には、性別も年齢も人種すらも異なる、何一つ共通点のない多くの人間が犇めき合っていた。

だが、そんな個性派ぞろいの目面はその個性を塗り潰すように、判を押されたように色あせた青色の服を着用させられていた。
そして、手足には身動きを封じるように白い枷が固く嵌められており、その枷は彼らの内に潜む暴力性を押さえ込むための象徴のようでもあった。

「もっとも、君らに召集を拒む権利などはないのだがね」

壇上の詰襟が黒帽子を軽く傾けながら皮肉気にクツクツと笑う。
その笑みには聴衆への嘲りが露骨に含まれており、対話を行おうなどと言う気配は微塵も感じられない。

その挑発染みた仕草に、枷を嵌められた面々は無言で答えた。
あたかも、それがこの場での規律(ルール)であるかのように、誰も一言たりとも言葉を発しない。

言葉の代わりに壇上に聴衆の視線が向けられる。
敵意、敬意、そして殺意――様々な感情が交錯する視線が一斉に壇上の男に注がれていた。

だが、その内心は定かではないが、少なくとも表立ってこの状況に反意を示すものは一人もいなかった。
狂暴でありながら規律に従うその様は、よく躾けられた猟犬のよう。

男の言葉の通り、この招集には有無を言わせぬ強制力があるものだった。
壇上と壇下の間には、支配する者とされる者という明確な支配関係が存在する。
壇上の男は自らに注がれる視線とそこに含まれる感情すらも意に介さず、言葉を続けた。

「前置きもないだろう。本題と行こう。諸君らにはこれより刑務作業を行ってもらう」

刑務作業。
その言葉の響きが、この場所が刑務所であることを否応なく示していた。
壇上に立つのは、地獄の獄卒たる看守長。壇下に蠢くのは、この牢獄に捕らわれた囚人たちである。

ここが刑務所であり、集められた彼らが受刑者である以上、刑務作業を行うのは当然のことである。
異様なのは彼らが集められたのが日付も変わろうという深夜であるという事だ。
こんな時間にわざわざ何をしようと言うのか。
その答えを知る看守長――――オリガ・ヴァイスマンは全員を見渡すように視線を巡らせ、冷たくも淡々と続けた。

「外道、鬼畜、悪鬼羅刹、どれほど言葉を並べようとも君らを表すにはまるで足るまいよ。
 この地の底(アビス)にまで墜ちた最低最悪の極悪人、それが君たちだ。
 だが、赦されざるを赦すが世の道義。我らはそのための道筋を作る者である。
 すなわち、これより君たちに課せられる刑務作業とは我らの与える慈悲であり、諸君らの行うべき贖罪であり、天より与えられた恩赦であると知れ」

押し付けがましく嫌味たらしい前置きに、聴衆からも辟易した空気が漂い始めた。
それでも反意を示せない檻に閉じ込められた猛獣たちを前に、看守長は満足そうに笑う。
仰々しいまでの前置きを置いて、獄卒が強く言葉を発した。

「――――では、これより、具体的な刑務内容について説明を行う。聞き逃すこと無きよう謹聴するように」

ピンと立てた指を口元にやり、元より身じろぎすら許されぬ静寂の檻に改めて謹聴を命じる。
それは皮肉染みた意味合いのみならず、ここから先は本当に聞き逃してはならない重要な話である事を意味していた。



「諸君らにはこれより――――殺し合いをしてもらう」






3 : OP.ドブ底の金貨 ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:29:36 I8sdIs.E0

――――嘗て、世界は滅びの危機にあった。

人類存亡と言う未曽有の危機に対して、人類は未来を掴むため諍いの手を止めその手を合わせた。
集結した人類の英知は滅びにも負けぬことを証明するように、世界は変わり、滅びの日を乗り越えた。
後の歴史書に『開闢の日(ワールド・レジリエンス)』と記される目覚めの日。
新世界を開闢した輝かしい人類の歴史である。

『開闢の日』を境に世界は変わった。
滅びを乗り越え心機一転などと言う曖昧な話ではなく、目に見える形で世界はアップデートされたのだ。
滅びを乗り越えるその過程で、人類という生物は新たな次元に生まれ変わったのである。

肉体は強靭なものへと生まれ変わった。
身体能力はアスリート並みそれとなり、軽い交通事故程度ではビクともしない耐久性を得た。
加えて、外傷に対する高い回復力や病に対する抵抗力までも獲得しており、病気や事故と言った外的要因による人類の死亡率は大幅に軽減された。
人類の平均寿命は程なくして3桁を超えるだろう。
これだけでも人類の繁栄は約束されたようなものである。

だが、人類が得た可能性(ちから)はそれだけではなかった。
これまで人類が持ちえなかった新たな力。科学の枠組みでは説明のつかない異能としか形容しようがない未知なる力。
進化の先に獲得した、まさに新人類の象徴ともいえるこの力を、人々は『超力(ネオス)』と呼称した。

超力は世界に受け入れられ、超常は新たな世界の日常となった。
これが物語ならば明日の希望を信じてめでたしめでたしで終わるところだが、現実はそうはいかない。
日常は続く。それは同時に新たな試練の訪れも意味していた。

『開闢の日』の直後には新たに生まれた力への戸惑いや異質な力への嫌悪や対立が世界に広がって行った。
変わってしまった自身を受け入れられず、精神を病む者も少なからず発生し新たな社会問題も生まれた。
制御しきれぬ力の暴発や誤用による災厄などと言った事件も多発するなどの問題も山積みだった。
何より、力を手にすれば振るわずにはいられないのが人間だ。強い力を得ればそれに比例して愚かな人間も増える。

世界的な犯罪率の増加。
超力を用いた犯罪は増加し、世界中の治安は悪化の一途を辿った。
滅びと言う一つの脅威に手を取り合っていた人々は、またその手で争いをはじめたのだ。

強力な力を持つ犯罪者の制圧も問題であったが、全ての人間が腐る訳ではない。
それ自体は同じくネオスを持つ秩序側の存在によって辛うじて対処はできていた。
しかし、検挙以上に問題となったのは、捕らえた犯罪者たちをどこに収容するかと言う刑務所の問題である。

犯罪率の増加により急増した囚人の数もそうだが、それ以上に問題となったのは犯罪者の質である。
旧世界の人類を想定した従来の刑務所では、ネオスを持つ新人類を収監するには心もとない。
だが、それに足る強度の刑務所を新設しようにも多くの国は未だ『開闢の日』の傷跡が残り、被害から復旧の最中である。
先進国ならいざ知らず、強力なネオスを持つ凶悪犯を閉じ込められる強固な設備は、そう簡単に用意できるものではない。
多くの国ではそのような設備を用意することは不可能であった。

そして設備の他に凶悪な犯罪者を管理できる刑務官の存在も必須である。
凶悪犯以上の力と正義の心を持った異能者は設備以上に稀有であった。

これは全世界的な問題であった。
下手をすれば第二の世界存亡の危機ともなりかねない。
未曽有の危機を乗り越えた人類は、人類同士の争いによって危機を迎えようとしていた。

それらの問題に対して『開闢の日』を主導した組織GPAは事態を解決する一つの方策を打ち出した。
それは人材やリソースを一か所に集約することにより強固な一つの刑務所を作り上げ、制御が困難な凶悪犯を一つ所で管理してしまおうと言う試みである。

世界の情勢を踏まえ、その計画は公にはされず秘密裏に行われた。
政府や警察の記録にすら存在せず、地図上のどこにも示されることはない。
世界のごく一部の者だけしかその存在を知らない闇の底は生み出された。

制御不能の犯罪者たちが最後に行き着く場所、闇の奥底にひっそりと佇む秘密の刑務所。
深淵の底に存在するが故に、その場所を知る者は彼の地をこう呼んだ――――『アビス』と。

『開闢の日』より20年の時が過ぎようとしていた。
激動の時代。世界は変化しようという過渡期にあった。
新たに生れ落ちる痛みのように世界は混沌を極めた。
だが、これは新たな時代を迎えるために必要な痛みである。


――――――ヤマオリ記念特別国際刑務所。


それはこの新世界における始まりの地の名を冠した、誰にも知られること無きこの世の果て。




4 : OP.ドブ底の金貨 ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:30:46 I8sdIs.E0

「諸君らには――――殺し合いをしてもらう」

看守長の声だけが冷たい石堂に反響していた。
聴衆より返るのは張り詰めたような静寂のみ。
衝撃的ともいえる看守長の言葉に対しても囚人たちからは何の言葉もない。

元よりそのような自由を許されていないというのもあるだろうが、それ以前に彼らに動揺らしい動揺は殆ど見られなかった。
殺し合いを命じられたにもかかわらず異様なまでの肝の据わりよう、この反応こそがこの場にいる人間の異常性を示していた。
そんな反応のなさを看守長は気にするでもなく慣れた様子で言葉を続ける。

「この刑務作業は翌0時より開始される。作業時間は24時間。
 どのような状態であっても時間に達した時点で刑務は終了する。
 また、作業者が1名になった場合も殺し合いの成立しないため作業は終了となる」

最後の一人になるまでの殺し合い。
世の最果てたるこの末世の地においてもいくら何でも異常な話であった。
囚人同士で殺し合わせて処理させようという試みは、毒盛って毒を制すにしても行き過ぎている。
少なくとも、この地の底は混沌を収める秩序のための場所であったはずだ。

「作業に当たり、全員にデジタルウォッチと首輪を支給する。刑務作業中は常時これを装着してもらう。
 首輪を取り外すことは禁止とする。元より簡単に取り外しできる代物ではないが、一応禁止事項として伝えておこう。
 家畜を放畜するにしたって首輪は必要だろう? 首輪にはご想像の通り、首輪には爆弾が仕込まれている。
 この首輪は設定された活動領域から逸脱した場合、あるいは刑務官の指示に逆らった場合に爆破される。
 とは言え、定められたルールに従っている限りはその首輪を爆破することはないので安心したまえ。
 なぁに我々に命を握られる程度の事は諸君らにとってはいつもの事だろう?」

黒衣の支配者が不遜な態度で聴衆へと問いかける。
元より挙動不審な者は少なからずいるが、命を握られた程度で動じる者などこの場に一人もいなかった。
最悪の墜ちる最果て、それがアビス。

「先ほど述べた禁則事項に違反しない限りは刑務作業中は何をしてもらっても構わない。
 暴行も殺しも刑務活動中のあらゆる行為は超法規的措置として容認しよう。
 作業時間が終わった後に新たな罪状を追加する、などという事もないので安心したまえ」

作業の説明ではなく演説でもするかのような仰々しい仕草で看守長は手を広げ、約束しようと、そんなとんでもないことを言った。
仮にも秩序の守り手である男の発言とは思えない。
それだけで、これが異常に過ぎる事態であると誰にでも理解できた。

「続いて、デジタルウォッチに関してだが、今どきは珍しいモノでもないが、地下暮らしが長い囚人もいるだろう。簡単に使い方をレクチャーしておこうか」

言って、オリガは取り出したデジタルウォッチを自らの左腕に装着すると画面を人差し指でタップする。
するとデジタルウォッチに光が灯り、起動を始めた。

「このように、このデジタルウォッチは生体電池で起動している。つまりはキミらが死なない限り電源が切れる事はないが、逆に言えば生きた人間が装着しなければ起動はしないという事だ。
 初回起動した人間の生体情報が登録され、以後は登録された本人しか起動できない。無論、管理者である私は別だがね」

続いて、中空で指先をスワイプするように操作するとオリガの眼前に地図が投影された。

「これが刑務作業の舞台となる無人島だ。作業エリアとなるのはこの地図に表示されている範囲だ、この範囲から脱すると首輪がBON!という訳だ。
 また、6時間に一度、島全体に伝わる放送を行う。放送ではその時点での刑務作業の進捗状況と共に、新たに指定する指定する『禁止エリア』を発表する。
 『禁止エリア』とはその名の如く侵入を禁止するエリアの事だ。『禁止エリア』に侵入した場合、一定の警告の後に首輪が爆破される。
 有効な禁止エリアは地図情報を更新して表示するので、刑務作業中はよく確認して注意するようにしたまえ」

そうして看守長は、方角を確認するための方位磁石機能や、簡易的なライト機能と言った簡易的なデジタルウォッチの機能説明を行った。
まるで新商品の説明会の様な演説を終え、看守長はさてと言葉を切った。

「と、これらは市販のデジタルウォッチにもある基本的な機能の説明だ。
 さて、話はここからが本番。今回の刑務作業における独自機能である、ポイントの管理について説明しよう」

退屈な説明はここまで、とでも言うかのように楽し気に口端を吊り上げる。
その笑みが自分たちによくないモノであるという事を囚人たちは誰もが知っている。


5 : OP.ドブ底の金貨 ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:31:42 I8sdIs.E0
「そう警戒することはない。いい話だ。君たちにとっても、ね。
 今回の刑務作業は特別な物だ、特別に働きに応じた褒賞も用意してある。
 さぁ、喜びたまへ。ここからは――――飴のお話だ」

殺し合いと言う法外な行為に対する特別な褒賞。
血に飢えた猟奇殺人鬼でもなければ、飴もなしに人殺しなどするはずもない。
もっとも、この場に集められた連中の中には血に飢えた猟奇殺人鬼も少なからずいるのだが。

「刑務作業中に受刑者を殺害すればポイントが得られる。便利上このポイントを『恩赦P(ポイント)』と呼称しよう。
 装備者の生命活動が停止した首輪にデジタルウォッチを数秒首輪に接触させれば、受刑者(持ち主)の刑期と同等の恩赦Pが1度だけ獲得できる。
 信賞必罰。多くの罪を抱えた大罪人を裁いた者にはそれに見合う多くの恩赦をと言う事だ。
 どの受刑者がどれだけの刑期(ポイント)を抱えているかは、外部から分かるよう首輪の前部に刻んである。対峙した場合は確認しておくのもいいだろう。
 刑期のない無期囚や死刑囚は刑期100年と同等として扱う事とする。つまりは無期囚や死刑囚を殺害すれば100p獲得できるという事だ」

刑期の重い凶悪犯を排除すれば、より多くの報酬を得られる。
労働に見合う正当な報酬のようであり、何か矛盾しているようでもあった。

「この恩赦Pを使用すれば刑務作業中にも様々な物品を購入できる。
 刑務作業を有利に運ぶ武器や医療品は元より、食料やタバコや酒などの嗜好品も購入可能だ。
 購入可能リストはデジタルウォッチで確認できるので後で確認しておきたまえ」

娯楽のない過酷な刑務所生活で嗜好品を楽しめるのは確かに魅力的だろう。
だが、これから行われ過酷さに見合う報酬かと問われれば疑問が残る。
その不満を理解しているのか、看守長は口元を歪めて笑った。

「だが、それはオマケだ。本当の恩赦は刑務作業終了後に行われる。
 作業終了時に保持している恩赦Pは、刑務終了後に1Pにつき3ヶ月の刑期短縮として清算される。
 無期懲や死刑囚の場合は作業中と同じく100年換算で支払える。これに関しては一括払いのみで分割払いは許可しない。
 もし仮に刑期の精算が成ったなら余剰のポイントは1Pを$1,000のレートで換金しよう。外での新たな生活の足しにするといい」

刑期の短縮。埒外の報酬。
この地の底(アビス)に墜ちた咎人の中には、二度と娑婆の空気を吸う事のできない凶悪犯も多い。
そんな連中に開放の機会を与えるというのは恩赦にしても行き過ぎた話である。

「では、これより各自に首輪とデジタルウォッチを支給する。ケンザキ係官」

オリガが声を向けると、壇上端の陰からオリガと同じ漆黒の刑務服を着た一人の少女が現れた。
平の係官なのだろう、オリガの制服に比べればいくらか装飾は少ないが、頭の両側で左右に分けて結んでいるパンキッシュなピンク髪が否が応でも目を引いた。
このアビスの職員である以上、成人はしているのだろうが、その髪型も相まって年の頃は東洋人であるためかいくらか幼く見えた。

現れた少女が囚人たちに向かって指先を伸ばし軽く手を振ると、この場にいる受刑者たちの首元に次々と首輪が嵌められた。
そしてその手元には、デジタルウォッチが現れる。
直接デジタルウォッチを装着しなかったのは、手枷が邪魔となるからだろう。

「心配せずとも、存分に殺し合いを行ってもらうために刑務作用中は諸君らの枷は外してやろう。
 束の間のガス抜きだ、久しく封じされていたその力を思う存分振るうがいい」


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6 : OP.ドブ底の金貨 ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:31:53 I8sdIs.E0
枷からの解放により得られるのは身体の自由だけではない。
囚人たちの手足に嵌められている白い枷はただの枷ではなく、暴徒鎮圧を目的として、とある能力者の超力原理を研究する事によって生み出された『超力無効化機構(システムA)』である。
本来『システムA』は家屋程の設備を必要とする大規模な装置であるのだが、これをコンパクトに運用できるよう改良した拘束具が強力な能力者の集うこのアビスに試験的に導入されていたのだ。
超力を当然とする新世界において、超力を封じられるのは羽をもぎ取られた羽虫も同じである。
凶悪な囚人たちがこの刑務所で大人しく従っているのにはそういう事情もあった。

「枷が外れたからと言って無駄な反抗心など抱かぬ事だ。
 私の超力(ネオス)からは逃れられない事は、諸君らは重々理解しているだろうがね」

支配者は陰湿な笑みを浮かべた。
看守長たるオリガ・ヴァイスマンの持つネオスはこのアビスの住民であれば誰もが知るところだ。
指定した対象の状況、状態、思考すら監視するネオス『管理願望(グローセ・ヘルシャー)』。このネオスから逃れる術はない。
反意の一つでも翻そうものなら、即座に嵌められた首輪を爆破されるのがオチである。

「枷は刑務開始となる0時丁度に外れるようにセットしてある。デジタルウォッチはその後に各自で装着するように。
 これを違反した場合どうなるのかは言うまでもないね?」

その言葉と首輪の冷たい感触が、否応なしに死(こたえ)を連想させた。

「『Last meal(最後の食事)』くらいは用意して上げたいところなのだが、0時までもうあまり時間もない。
 準備が完了した物から順次、係官のネオスで孤島(かいじょう)へと転移(おおくり)する」

まるで死刑執行直前のようである。いや、そのものなのだろう。
これより行われるのは法より外れたアビスの最果てで行われる正真正銘の殺し合い。
拒否権などなく、アビスに捕らわれていた咎人たちは冥府の孤島へと遅れられてゆく。

「なぁに、そう身構えずともよい。これから行われる作業は諸君らにとってはそう難しい作業ではないはずだ。
 むしろ諸君らの得意分野だろう。喜ぶがいい。人道から外れた人非人である諸君らが、世のため人のため貢献できるのだ。
 その内に眠る獣性を持って存分に罪悪を滅するのだ。その果てに更生の道は示されるだろう」

地の底より、一つ高みに立つ獄卒は罪人の更生を促す聖人のように謡う。
漆黒の闇の中、光の灯らぬ石堂から次々と人が消えてゆく。

「これは恩赦である。これは慈悲である。これは救済である」

聴衆の消え去った無人の石堂に向かって看守長は宣言する。



「―――――――刑務開始だ」






7 : OP.ドブ底の金貨 ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:32:11 I8sdIs.E0
超力によって世界は変わった。
だが、超力と言う新たな可能性の取り扱いを人類は決めかねていた。
その力は世界を発展させる希望であると同時に、世界を滅ぼしかねない危険性を孕んでいる。

各個の混乱により小規模な小競り合いや犯罪は増加した。
だがそれは大局から見れば些末な問題である。
権力者たちが真に憂うべくは、この力が大規模な戦争に用いられたらどうなるのかと言う点だ。

現時点では、『開闢の日』の後遺症と超力による混乱があるため、国家間の大規模な戦争は行なわれておらず、冷戦とも違う不気味な小康状態が保たれていた。
だが、前触れような不穏さは確実に世界中に積み重なっており、情勢が落ち着けばこの力を利用した新たな戦争が始まるのは目に見えていた。
膨らんだこの風船が破裂してしまえば、どうなるのかは検討すらつかない。

人の歴史は戦いの歴史だ。
これまでの人類の系譜にない新たな力を得た事により、争いの様相は根本から変わってしまった。

個の単位であればある程度はどうにかなっても、軍の単位ともなれば運用の再編を余儀なくされる。
この力をどう運用すればいいのか、この力にどう対抗すればいいのか。
その結論を得るにはまだ歴史がない、積み重ねがない、ノウハウがない。

万人が手軽に規格の統一された力を得られる銃器と違い、超力は千差万別でありながら、下手をすれば戦略兵器並みの威力を持つものまでいる始末だ。
単純な破壊だけではなく、もっと別方向で厄介な力も山のようにある。
これを抑えるには、これまでの人類の歴史とは全く異なる別の対処法が必要なる。

本格的な戦火の火蓋が落とされるまでに、対抗する術を持たねばならない。
強力なネオスを持った者同士が戦う、実戦データの入手は急務だった。

だからと言って、軍隊同士の模擬戦などは出来ない。
ネオスは強力すぎるが故に、扱いの分からぬうちに運用すれば死者が出る。
世界の混乱の落ち着かぬ中で秩序を守護する者同士を消耗させるなど論外だ

かと言って、中世のような殺し合いなど許されるはずもない。
現代の倫理観では世論がそれを許すまい。

強力な力も持ちながら、誰にも知られぬ存在で、失っても構わない。
そんな都合のいい存在が必要だった。
そんなどうでもいい存在が必要だった。

誰にも知られぬ世界の最底辺。
血と汚物で穢れたドブ底から一枚の金貨を浚うように。
アビスのような地獄の底に、人類の未来は託されていた。

【オリロワA 開始】


8 : OP.ドブ底の金貨 ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:34:03 I8sdIs.E0
【ルール】
・これは恩赦である。これは慈悲である。これは救済である。
・参加者は『ヤマオリ記念国際刑務所(通称:アビス)』に服役中の囚人です。
・囚人たちは刑務作業として孤島で殺し合いを行います。
・作業時間は24時間。制限時間を超えて時点で生存者数に関わらず刑務作業は終了します。
・スタート時に参加者は会場のどこかにランダムに転移させられます。
・全ての参加者は爆弾付きの首輪を装着させられています。

【世界観について】
・とある事件によって全人類が超力を使えるようになった世界です。
・災厄を乗り越えたことにより人類が進化を遂げました。
・この世界の住民は超力と呼ばれる異能力を持ちます
・現代アスリート並みの身体能力がこの世界の平均値です。
・軽い交通事故程度なら行動不能にならない耐久力を持ちます。

【刑務所(アビス)について】
・アビスは通称であり正式名称は『ヤマオリ記念特別国際刑務所』です。
・罪の重さではなく何らかの理由で制御不能と判断された罪人が収監されています。
・世界のどこにあるのかは秘匿されているため不明です。
・地の底を謡っていますが地下にあるとは限りません。

【超力(ネオス)について】
・新人類が一人一つ持つ異能力です。
・基本的に発現する超力は一人に一つですが、特別な事情によって複数の超力を持つ人間がいる事もあります。
・20年前を境に『開闢の日』を契機に超力を得た『オールド世代』と、生まれた時からネオスを持つ『ネイティブ世代』に分かれます。

【超力無効化機構(システムA)について】
・超力を無効化するためにとある超力を元に開発されたシステムです。
・起動には大規模な設備が必要であり、まだ運用は試作段階のシステムです。
・受刑者に嵌められていた枷はメインシステムの機能を受信する子機のようなものであり、枷単体では効果はありません。


9 : OP.ドブ底の金貨 ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:34:31 I8sdIs.E0
【地図について】
・無人島が舞台となります。
・地図で表示される範囲外に出た場合即座に首輪が爆破されます。
・島の中央には無人のブラックペンタゴンが存在しています。
・施設の要望があれば参考にしますのでキャラシートのついでに書き込んでください。

【ブラックペンタゴンについて】
・孤島の中央にそびえる謎の施設。
・5面それぞれに入口があり、3階建てで地下はない。
・内部の施設は本編の描写によって決まります。

【支給品について】
・受刑者にはデジタルウォッチが支給されます。
・武器などのランダムアイテムの支給はありません。
・服装は全員一律で囚人服となります。収監期間にっては色あせたりします。
・義手、義眼などの生活に必要な物は没収されません。
・服役中も刑務官から隠し持っていたという設定の物は持ち込み可とします、ただし相応の見つからなかった理由は設定してください。

【デジタルウォッチについて】
・生体電池によって稼働しているため生きた人間が装備している限りは電池切れはしません。
・起動できるのは初回起動時に登録された使用者のみです。
・空中に投影されたデジタル画面をタッチ操作可能です。
・時計、地図、方位磁石、メモ、名簿、ライト、バイタル確認などの機能を持っています。
・時代的に標準的な機能であるため受刑者からすれば驚くようなものではないですが、服役期間の長い参加者にとっては驚きがあるかもしれません。
・恩赦ポイントの確認と使用が行えます。

【恩赦ポイントについて】
・殺害した相手の刑期がポイントとして獲得できます。
・刑期のない無期懲役、死刑囚は刑期100年として扱われます。
・恩赦ポイントは刑務作業中にも使用可能です。
・恩赦ポイントは刑務作業終了後に1P=3ヶ月の恩赦として清算されます。余剰Pは1Pを$1000に換金できます。

【交換リストについて】
・暫定リストは下記しますが、作中で暫定リストに載っていないモノを乗っていることにして購入しても構いません。
・事前にリストに載せてほしい物資があるなら記入してください。
・傾向としては武器類はやや安めで嗜好品は価格が高めです。


10 : ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:34:56 I8sdIs.E0
【交換リスト(暫定)】

ハンドガン - 10P
ショットガン - 20P
アサルトライフル - 30P
スナイパーライフル - 50P
サイレンサー - 10P
弾倉 - 1P

ハサミ - 2P
ナイフ - 5P
日本刀 - 10P
槍 - 15P
戦斧 - 20P

リモコン爆弾 (3個セット) - 40P
手榴弾 (3個セット) - 30P
閃光弾 (3個セット) - 20P
催涙弾 (3個セット) - 20P

ヘルメット - 10P
防弾チョッキ - 20P
防刃チョッキ - 20P
防弾盾 - 20P

応急処置キット - 20P
治療キット - 50P

防毒マスク - 20P
トラップワイヤー - 10P
偵察ドローン - 40P
対人レーダー - 100P
ナイトビジョン - 30P

デイパック - 1P
タバコ(1箱) - 10P
ライター - 10P
食料(1食) - 10P
酒(500ml) - 10P
発泡酒(500ml) - 5P
好きな衣服 - 10P
化粧品 - 10P
寝袋 - 10P


11 : ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:35:16 I8sdIs.E0
【首輪について】
・首輪の前面には刑期の数字(無期懲役は「無」、死刑囚は「死」の一字)が書かれています。
・首輪が爆発すると誰であろうと確実に死亡します。
・通常の手段では取り外すことはできません。
・バイタルチェックの停止した首輪にデジタルウォッチを接触させると刑期分の恩赦Pが入手できます(一回限り)。
・刑務官はルールを逸脱したと判断した場合、受刑者の首輪を爆破する権利を持ちます。

【定時放送について】
・6時間ごとに放送が行われます
・死亡者の発表と禁止エリアの追加が行われます
・何か大きな連絡事項があればここで伝えられます
・このパートは企画主である私が書きますので募集などは行いません

【禁止エリアについて】
・禁止エリアは放送から2時間後に有効になります。
・禁止エリアに立ち入った場合、首輪は警告音を鳴らし5分後に爆破されます。
・禁止エリアは刑務終了まで解除されません。

【投下について】
・投下の際には必ずトリップを付けてください。
・作品には必ずタイトルを付けてください。
・投下被りを避けるため投下開始時と投下終了時には宣言を行ってください。

【予約について】
・予約を行う際にはトリップをつけてください
・予約は必須ではありません
・予約期間は予約開始から3日とします
・延長はありません
・分割投下は無しです
・自己リレーとなるキャラを含む予約は作品の投稿から24時間は禁止します(投下は可)
・何らかの事情で予約を破棄した場合、同キャラを含む予約を3日間禁止します(投下は可)
・トリップ変更などでこれらルールを回避しようとした場合は悪質とみなし1発アウトとします(管理人からは分かりますので)
・上記ルールは進行状況によって変更される場合があります

【作中での時間表記】(深夜0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24

【状態表テンプレート】
・各話の最後に以下のテンプレに従って状態を表記してください。

【現在エリア/詳細位置/日付・時間】
【キャラクター名】
[状態]:
[道具]:
[方針]
基本.
1.
2.

・死亡者が出た時は以下のように表記してください。

【キャラ名 死亡】


12 : ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:36:11 I8sdIs.E0
【キャラシート作成ルール】

■受刑者キャラシート
・本ロワの参加者です。
・基本的には凶悪犯として判決を受けた者たちです。
・罪状と刑期を設定してください。現実に存在しない罪状でも構いません。

【名前】
【性別】
【年齢】
【罪状】
【刑期】10〜100年・無期懲役・死刑の中から選択
【服役】服役した年数、刑期を超えない年数を設定してください
【外見】
【性格】
【超力】
【詳細】

■刑務官キャラシート
・いわゆる主催側のキャラです。
・刑務作業に参加することはありませんが、受刑者の回想などで登場させるのは構いません。
・参加者ではないので選出に投票なども行いません、登場するかも不明です。
・上記の扱いを理解した上で作成してください。

【名前】
【性別】
【年齢】
【役職】
【外見】
【性格】
【超力】
【詳細】

【参加者数について】
・キャラシートの集まり具合で決定する予定なので現時点では具体な参加者の人数は未定です。

【参加者の決定方法について】
・投票枠
・企画主採用枠
・書き手枠
・上記3ステップで行う予定ですが、状況によっては変更する可能性があります


13 : ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:36:24 I8sdIs.E0
【企画スケジュール】

◆キャラシート募集期間
今から 〜 2025/02/10(月) 23:59:59

◆投票期間
2025/02/11(火) 01:00:00 〜 2025/02/11(火) 23:59:59

◆企画主枠、及び名簿確定
2025/02/12(水)

◆企画開始
2025/02/13(木) 00:00:00


14 : ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:37:08 I8sdIs.E0
以上となります。
ちと独自ルールが長いですが一読の上、ご気軽にキャラシートだけでも参加下さい。
よろしくお願いします。


15 : ◆H3bky6/SCY :2025/01/26(日) 16:38:08 I8sdIs.E0
OPキャラのキャラシート

【名前】オリガ・ヴァイスマン
【性別】男
【年齢】42
【役職】看守長
【外見】ウェイブのかかった黒髪、皮肉気な笑みの張り付いた口元
【性格】真面目で勤勉。根暗で陰湿。執拗で神経質。支配的な皮肉屋。

【超力】
『支配願望(グローセ・ヘルシャー)』
タグ付けした対象の現在位置、体調、所持品、行動方針を確認する事ができる。端的に言えば【状態表】を確認できる超力である。
リアルタイムのみならず特定時刻における履歴も参照することが可能であり、一度タグを付ければタグを削除しない限り距離に関係なく半永続的に監視が可能となる。
最大補足は100名前後と申告しているが、実のところそれ以上にタグ付けが可能であり、囚人だけではなく同僚である看守官たちはおろか、各国の官僚すらも秘密裏にタグ付けしている。

【詳細】
ヤマオリ記念特別国際刑務所における看守を束ねる看守長。
他者を支配することを喜びとしており、歪んでいるものの強い正義感を持っている。
職務に対する勤勉さは尊敬されているが、恨みや他人のミスを忘れず細かい事をネチネチと言うので部下たちからの好感度は低い。
元は警察官だったが、開闢の日に超力を得て情勢が変わったの機に刑務官に転身した。
バツイチの独身。一人娘がいるが10年以上会えていない。

【名前】ミリル=ケンザキ
【性別】女
【年齢】19
【役職】看守官
【外見】ピンクに染めたツインテール、幼さが残る顔つきをしている。不健康なやせ型。
【性格】表面上取り繕っているが、本質は根暗で排他的

【超力】
『我が視界より消え去れ異物(ゲット・シャット・アウト)』
任意の物質を任意の場所に転移する能力。
転移対象は生物、物質を問わず指定可能で、ミリルが個と認識する範囲を対象とするため、服が転移されず裸で転移されるなどという事もない。
転移は対象を視認するだけで実行可能であり直接肉眼で視認する必要すらなくリアルタイムであれば監視カメラや映像越しでも実行可能である。

【詳細】
元引きこもりの配信者。
開闢の日以降に生まれたネイティブ世代。世界最高の転移能力者
超力が個性の発現であるオールド世代と異なり、ネイティブ世代は発現した超力によって個性が形成されることが多く。
彼女もそのご多分に漏れず一歩も外に出ることなく生活できる超力を使って部屋に引きこもり動画配信で生計を立てていたが、その超力を買われほぼ強制的にスカウトされた。
配信者としてのスキルなのか、本質的には根暗な性格だが自分の中でスイッチを入れれば明るい自分を演じられる。
ゴスよりも甘ロリ系が好きなので、黒一色の堅苦しいアビスの制服はあまり好きではない。


16 : ◆NYzTZnBoCI :2025/01/26(日) 18:33:31 d9nwW8H20
新企画設立おめでとうございます!
オリロワ系統には以前から参加したい欲があったので、不慣れながらキャラシートを投下させて頂きます。
なにか不備などがあればご指摘ください。

【名前】大金卸 樹魂(だいこんおろし じゅごん)
【性別】漢女(おとめ)
【年齢】45
【罪状】決闘殺人罪
【刑期】無期懲役
【服役】10年
【外見】筋骨隆々。ゴン太の眉毛。黒い髪を三つ編みにしている。
【性格】漢の中の漢であり、かつ乙女。
 一人称は我、二人称は貴殿。
【超力】
『炎の愛嬌、氷の度胸(ホトコル)』
 体温を自由に調節可能。一部分限定も可。自分自身は体温変化による影響は受けない。
 調節できる温度の範囲は-273.15 ℃〜2000℃まで。
 これだけでも能力としては脅威ではあるものの、その真価は彼女の卓越した身体能力によって発揮される。
 ただ人体を破壊するために鍛え上げられた拳は容易くアスファルトを粉砕し、その蹴りは電柱をもへし折る。
 ゆえに高温状態で腕を振れば熱風を生み出すことも、逆に体温を下げることで寒波による攻撃も可能。

【詳細】
 かつて『重機』の二つ名で畏れられた格闘家。
 超力が蔓延る以前から身体を鍛え上げていたおかげか、並の人間が生涯を武術に捧げたとしても届かぬほどの戦闘能力を有している。
 強者との戦いと甘いものに目がない。そのため超力の持ち主と命を賭した戦いをすることを至上の喜びとしており、超力の持ち主と決闘しては殺害することを繰り返していくうち投獄された。
 弱者には興味がなく、信念のある者や見込みのある者、可愛い者は見逃す傾向にある。
 これまでの殺傷人数は73名。内死者は11名。


17 : 名無しさん :2025/01/26(日) 19:14:42 Nv0mfHaM0
【名前】天野 秤(あまの はかり)
【性別】男
【年齢】22
【役職】看守官
【外見】整った顔立ちに左目が灰で、右目が黒のオッドアイ。普段からサングラスをかけてる
【性格】年不相応に真面目で勤勉だが、犯罪者を蔑視せず平等に見ている
【超力】
『隻眼の怪物(ゴルゴーン・スイッチ)』
右目だけで対象の相手を見ると、強制的に動きを静止させる。できるのは思考と呼吸だけ
逆に左目だけで対象を見た場合解除される。主に暴れる犯罪者を止めるための能力で、
能力の条件として対象の姿をある程度認識しないと機能せず、同時に対象を肉眼で見る必要はある
なお本人の視力は両目ともに1.5で、片目を手などで塞ぐだけでも能力が誤作動するので、
意図的に視界をぼやけさせるためサングラスをかけている
【詳細】
父が自衛隊であり、それに倣って年の割にはしっかりした看守の一人
暴れる受刑者を鎮圧する役割を担っており、能力がフィジカルに直結してないため鍛えている
アビスの受刑者を犯罪者と言うよりは人として見ており、看守の中でも少し浮いている存在
受刑者を蔑ろにするタイプの看守からは変人とされ、喧嘩っ早い受刑者からは結構疎まれているが、
自身を冤罪と主張する(それが本当かどうかはともかく)受刑者などからは評判はいいなど、変な立場
本音を言えば今回の殺し合いについてはかなり懐疑的ではあるとは思ってはいるものの、
だからと言って受刑者に特別な肩入れするつもりはなく、仕事はまっとうに行っている
能力の都合ウインクになりがちでちょっとコンプレックス


18 : 名無しさん :2025/01/26(日) 19:36:36 wBYpPMXY0
【名前】浜菱 裕実(はまびし ゆうみ)
【性別】女
【年齢】43
【罪状】誘拐・監禁・殺人
【刑期】30年
【服役】2年
【外見】年齢相応の穏やかな研究者といった風貌。身長165cm。髪は茶髪の緩やかなポニーテールで、目を細めていることが多い。

【性格】
冷静で論理的で協調性も高くしっかりしている。
間違ったことや無駄なことは遠慮なく指摘するが、収監されてからは個性が強い犯罪者や強権的な看守たち相手に諦め気味。
収監されストレスが溜まっていることもあり鬱屈としているが、本来は努力家であらゆることに活発に取り組む。

【超力】
『2億3000万年の系統樹(ママルス・ジャーニー)』
動物(人間も含む)に触れた上で変化先の動物のラテン語学名を口にすることで、別の動物へ変化させてしまう能力。
意識はしっかり元のまま残る。
彼女が触れた食料を餌として食べ続ける限り、効果は継続する。
他の食物で過ごせば効果は切れるが、後遺症で変化先と元の姿が混ざった姿になる。人間の場合は獣人みたいになる。
その後も数日の間彼女からの食料を絶っていれば、いずれ完全に元に戻る。
変化元として使える種類、変化先に指定できる種類は動物(哺乳類)に限る。

この能力により自分に足がつかないように注意しながら人間を動物化させ、ペットや実験動物や虐待の対象として扱って反応を楽しんでいた。
動物化後に直接殺害した数はそれほど多くない。なぜなら小動物は寿命が短いので、変化させられた場合数年から十数年で自然死してしまうため。

【詳細】
元は生命科学系の研究者。リケジョのモデルケースとして持て囃されていた時期もある。
研究者として真っ当に実績を残したい、真っ当に家族を持ちたいという心もあり、既婚者で子持ち。
所属組織の研究倫理の監査の役職にも就いており、後輩研究者からも尊敬されまともな社会人だった。
裏で犯罪をしていること以外は。
自分がまともな人間ではないという自覚があるため、加虐心は普段表に出ることはない。

子供の頃は周りから浮いた存在で同年代の男女にいじめられており、野生動物を遊び相手として触れ合っていた。
しかしストレスで怒りをぶつけてしまい傷つけたり殺したりするようになり、精神がねじ曲がっていってしまった。
彼女の記していた暗号化された観察ノートのパスワードは完全には解読されておらず、解読されれば刑が死刑に引き上げられる可能性もある。


19 : 名無しさん :2025/01/26(日) 20:02:17 iqk0qg6c0
【名前】エルビス・エルブランデス
【性別】男
【年齢】20
【罪状】殺人
【刑期】無期懲役
【服役】2年
【外見】褐色肌、癖のついた黒髪、垂れ目の端正な顔立ちと筋肉質な肉体
【性格】寡黙で物静か。常に殺気立っているが、性根は純朴。
【超力】
『紫骸(ダリア・ムエルテ)』
肉体の各所から紫色の花を咲かせる。
花からは絶えず腐敗毒の粒子が放たれ、周囲に存在する物質や生物を無差別に蝕む。

エルビスは非合法格闘技の世界に身を置き、命懸けの拳闘を勝ち抜いてきた。
新人類としての強靭な肉体は徹底的に鍛え上げられ、超人的な身体能力と格闘センスを獲得している。

【詳細】
超力犯罪の対策に失敗し、治安悪化に歯止めが掛からなくなった某国都市。
その暗部を牛耳るマフィアは、新人類の強靭な身体能力を見世物とする非合法格闘技『ネオシアン・ボクス』を催していた。
胴元による監視下で超力の使用を禁じ、鋼鉄の手甲などで武装して行われる命懸けの拳闘。彼らはその“原始的な暴力競技”を賭けの対象とし、多額の利益を得ていた。

エルビスは『ネオシアン・ボクス』における強豪の拳士として君臨していたメキシコ系の青年である。
スラム街で喧嘩の才能を見出され非合法格闘技にスカウトされた彼は、類稀なる格闘センスによって成り上がっていった。
彼の生きる世界に神はいなかった。生まれ育ったスラムでは超力による犯罪が蔓延り、退廃と貧困が横たわっていた。
希望のない世界で、エルビスはただ暴力と勝利に自己の存在を見出していた。

ある日エルビスは、街で出会った娼婦の少女に恋をした。荒んだ世界で少女と心を通わせ、生まれて初めての想いを抱いた。
その少女は『ネオシアン・ボクス』の元締めであるマフィアに縛られ、売春を強要されていた。
そしてエルビスは、幹部を含むマフィアの構成員複数名を殺害した。


20 : 名無しさん :2025/01/26(日) 20:03:23 PTIZq5f20
【名前】狗鬼灯 鍍(いぬほおずき めっき)
【性別】男
【年齢】18
【罪状】冤罪(鍍による自己認識)/殺人教唆・暴行教唆・扇動罪
【刑期】無期懲役
【服役】6か月
【外見】元々バスケ部であったためそこそこ筋肉はついているが、一般的な男子高校生の域は超えない
美形の顔に茶色い髪のポニーテール 右耳にだけピアスをつけている
【性格】友達思いであり、自分を信じてくれる人には優しく接し協力することを惜しまない
半面自分が嫌いな人間、自分を嫌いな人間には一切の興味を示さず、何をしてもいいとさえ内心思っている
一人称は僕 二人称はその人の名前を呼ぶが、仲間や身内以外の名前を覚えない
【超力】
『友よ、僕と共に歩もう(フレンド・シップ)』
他人に好かれやすくなる ただそれだけの能力
この能力により友達は多く、初対面の相手とも仲良くなれるがお世辞にも協力とは言えない力にコンプライアンスを抱えている

以上は鍍による自己認識であり、下記の真の能力の一部分でしかない。



『友よ、僕のために行軍(あゆ)め(フレンド・シック)』
狗鬼灯 鍍 本来の超力 彼はこの能力をはっきりとは自覚していない
自身・他者の精神に作用し、”狗鬼灯 鍍の行う行動は正しいことである”と認識させる能力
その作用は鍍の発言、指示のみならず。文書や音声なども”狗鬼灯 鍍の指示により残されたものである”と対象が理解すると同時にその内容・指示を”正しいこと”として認識するようになる。

この能力の強さは狗鬼灯 鍍に対する信頼度によって左右されるが、第一印象で「良い人だな」と感じる程度でも微弱に効果を発揮し、彼の発言・指示を疑いにくくなる。
鍍のことを友人・仲間と認識していればもはや疑うことさえしなくなり、たとえ殺人でも強盗でも”正しいこと”として率先して行うようになる。
鍍が殺せと言えば赤ん坊でも殺すし、鍍が守れと言えば殺人の現行犯でも守るようになる。
半面、鍍に対し「胡散臭い」「信用できない」「嫌い」など負の感情を向けている相手には効果がない。

本質としては「価値観・判断基準を狗鬼灯 鍍と同一にする」もの。
この能力は鍍本人にも作用するので、自分や周囲が行った悪行や非道を彼は悪いことだと認識しない。

【詳細】
友達が多いだけの弱能力者だと思っている凶悪犯 元バスケ部の高校生
超力ネイティブであるがゆえ「弱い超力を持っている自分にみんなは優しくするべき」と考えている、精神のねじくれた人物だが。そうした精神性は内に抑え込んだまま優等生として学生生活を歩んでいた。

戦闘能力は素人に毛が生えた程度であるが、人当たりの良さや友達思いの面から彼を信頼する者は多く。また弱い超力でも腐らずにいることに教師や周囲の人物からの信頼も厚い。
一方で彼の友人の中には教師への暴行や高齢者への窃盗に走る者が多く。「付き合うと不良になる」と疑う者や疎む者も少なくなかった。

高校時代。ちょっと寝坊しただけで反省文を書かせ、そのせいで彼女とのデートに遅れ振られた。
不快に思った鍍は「自分を振った彼女」と「反省文を書かせた教師」の家に放火するよう友人に”お願い”をした。
この事件で計8名が死亡 焼死7名に近くの道路で撲殺されたのが1名であった。
初めは実行犯である友人3人が逮捕されたが周辺地域で発生していた暴行・窃盗の発生件数が異常であることで精神操作系能力者の介入が疑われ、捜査の結果狗鬼灯 鍍が元凶と認定、逮捕された。
鍍が原因と思われる暴行・窃盗事件は確認されただけでも22件

彼は今も自分の事を冤罪だと思っている。
友人に”お願い”したことも元カノや教師が死んだことも一切悪いとは思っていない。
「あんなカスどもが死んだだけで捕まるなんて、僕が可哀そうだとは思わないのか」とは取り調べ時の発言である。


21 : 名無しさん :2025/01/26(日) 20:29:44 NksNPNMo0
【名前】柊 美那(ひいらぎ みな)
【性別】女
【年齢】38
【罪状】殺人罪
【刑期】40年
【服役】1年
【外見】運動不足のだらしない体型、ボサボサのセミロングの茶髪、目つきが悪くて隈がある
【性格】
男は産まれ付き性犯罪者で野蛮な種族として嫌悪している。
これでも改善された方で二次元の男は楽しめるようになっているが
それでもリアルの男はクソという認識は変わらない。

【超力】
『私の素敵な七人の王子様(マイ・プリンス・セブン)』
美那の考えた妄想の乙女ゲームのキャラクターを具現化させた能力。
王子様達は自動操縦型で、本人の意思とは関係無く美那を守るために出現する。
美那の理想とする人格になっているため、何があっても美那の味方であり
仮に美那に100%非があろうと全肯定して庇おうとする。
出現していない間も美那の脳内に語りかけ、彼女を元気付けてくれる。

異能が発現してすぐ捕まったため、成長する機会がなく一人の王子様しか出せないが
今後の成長次第では同時に複数の王子様を出現させることも可能になるだろう。

【詳細】
引きこもりニートのツイフェミおばさん。
中学時代に男子達と揉め事を起こして以降、引きこもりになった。
趣味はSNSで男叩きをして過ごしている。
ある日、コンビニでアイスを買いに行った際に通行人と肩がぶつかった事で
彼女が怒り、通行人にわめき散らしている最中に美那の異能が発現。
出現したイケメンによって、通行人は殺害されて逮捕された。

逮捕後も通行人がわざとぶつかってきただの、乱暴されかけただの。
ひたすら被害者面しながら平然と嘘を吐き続ける美那の姿に更生の余地無しと見られ
無自覚な殺害であるにも関わらず重めの刑を言い渡された。

彼女がここまで男を憎む原因となったのは28年前の小学生時代。
親友だった女子が気喪杉禿夫という性犯罪者によって拉致監禁、強姦された事件から始まった。
救出された少女は心に一生の傷を負ったのにも関わらず
犯人は一流の弁護士を雇い、心神喪失として無罪を勝ち取ったのが彼女の人格を歪めてしまった。
そこから彼女は男は皆が犯罪者、それを裁こうとしない社会も間違っていると考えるようになる。
引きこもってる間に友達から貰った乙女ゲーから理想の男は二次元にしかいない思考になり
自分も乙女ゲーを作ってみたいと思い、創作活動を始めた矢先に逮捕された。


22 : 名無しさん :2025/01/26(日) 20:48:50 8Oo4CqbY0
【名前】森山友規(もりやま ともき)
【性別】男
【年齢】32歳
【罪状】殺人、殺人未遂、傷害、業務妨害、公務執行妨害、器物損壊、死体損壊など
【刑期】死刑
【服役】3年
【外見】男性としては小柄な体格、がっしりとした体つき
    あばたのある肌や上向きの鼻などお世辞にも美形とは言えない顔
【性格】穏やかだが少し卑屈。追いつめられると攻撃的になる。
【超力】
『超音速(オーバーソニック)』
音速を超える速度で体を動かすことができる。具体的にはマッハ4程度。
超力発動中はそのスピードで何かにぶつかっても損傷しない程度に身体も頑強になる。
部分的に発動する分には問題ないが、全身に発動するととんでもなく疲労するため超力を発動しての長距離移動は難しい。
【詳細】
メーカーに勤務するごく普通のサラリーマンだった男。
小学生時代に身に覚えのない悪事を告発されるタイプのイジメを受けたことがトラウマになっていた。
いつも通り電車で通勤していた際、目の前に立っていた女性に痴漢として告発され、身に覚えがなかったため激高し痴漢被害を訴えた女性をその場で殺害。
さらに取り押さえにかかった乗員乗客、駆け付けた警察官など計5人を殺害し26人に重軽傷を負わせた。
一応痴漢自体は最高裁で証拠不十分により無罪を勝ち取ったものの、複数の殺人罪により死刑が確定した。

【備考】
被害女性の名誉のために明記しておくと、彼女は間違いなく痴漢被害を受けており、冤罪を吹っかけてやろうなどの意図は一切なかった。位置的に最も疑わしい人物を告発したつもりだったが、その相手が特大の地雷だった。
真犯人は友規が起こした事件のどさくさに紛れてまんまと逃げおおせている。


23 : 名無しさん :2025/01/26(日) 20:50:44 iqk0qg6c0
【名前】ダグラス・ジョン・ウルシヤマ
【性別】男
【年齢】60
【罪状】殺人、拉致監禁、自殺教唆、強姦、詐欺
【刑期】死刑囚
【服役】1年
【外見】長い白髪を後ろで束ねている。細身で一見ダンディな老人。
【性格】エキセントリック。『開闢の日』は人類の過ちであり、神の定めに従って世界は滅びるべきと考えている。破滅的な言動が目立つが、その割に自分の利益にがめつい。
【超力】
『電磁干渉(ブレインジャッカー)』
周囲へと不可視の怪電波を放つ。
怪電波は他者の脳に介入し、思考の混濁・認識の改変・幻覚の発症などを引き起こす。

【詳細】
違うッ!!断じて違うッ!!
これは人類の革新ではないんだ!!
『超力』は神の理に反している!!
開闢など迎えるべきではなかったんだーッ!!

私は『世界の破滅』を求める!!
人類はあの日に滅びるべきだった!!
あれこそが神の定めし『審判の日』!!
我々はそれを捻じ曲げてしまったんだーッ!!

うわーッ!!我々は罪を背負ってる!!
人類は呪われてしまってるんだッ!!
ぬわあああああ!!私と共に祈りを!!
神への祈りを捧げて、再び終末の時を呼び起こすんだーッ!!


24 : 名無しさん :2025/01/26(日) 21:00:26 Zos1jsk20
【名前】『英雄』(仮称:ユウ)
【性別】女
【年齢】19
【罪状】殺人罪、内乱罪、外患誘致罪、強盗致死傷罪、自殺幇助罪、死体損壊・遺棄罪、共謀罪、犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪、放火罪、強制性交等罪(少なくとも舞台となるこの世界では全て冤罪)
【刑期】死刑
【服役】半年
【外見】ロングヘアーの銀髪。瞳は蒼く、身長は160代後半。黙ってれば真面目そうな美人系。
【性格】基本的に天真爛漫で明るい。
しかし冤罪をかけられても、記憶を無くす前何かあったんだろうとそれ自体は受け入れてしまっていたり、お前のせいで何人も死んだと糾弾されても終始淡白な反応だったり、拷問等を受けても一切痛がらず声も出さなかったり、その割には死を恐怖する所が見られたりする。
記憶喪失した結果こうなっただけと、一度壊れてしまった果てに今に至ったと思われる、どこか欠けており闇を感じさせる部分が散見される。

一人称は「わたし」二人称は「きみ」「あなた」
基本的に座学はダメだが、他者との対話や戦闘、命のやり取りとなると途端に頭が回るようになる、それもあってか他人と話す事や戦う事は好き。
(当人曰く「ロクに覚えてないけど、お話したり戦ってる時はこう…頭よくなってる気がするから好きだよ?」とのこと)

なお俗に言うショタに目を引かれる傾向があり、当人もなんでかなーと不思議に思っている。
また、戦い慣れしており武器を取ると使い方が瞬時に頭に浮かぶ。
(当人曰く「知らないはずなんだけどねー、身体は覚えてる…ってやつ…かなあ?多分」とのこと)

【超力】
『流転の両腕』
手で触れた物質や液体を別の何かへと変質させる異能。
厳密には超力と言えるか不明だがとりあえず同一扱いとなっている。分類上はネイティブ。
気体や生物を変化させる事は不能だが、生物の死体は物として認識する為可能。
また自身の肉体や体液は変質させれない。

彼女はこれを用いて物や液体を武器へと変質させ戦闘を行う。変質させれるのは剣や銃、槍やハンマー等多岐に渡る。時間をかければ銃剣といった複合兵装も変質させれる。

【詳細】
半年前に異世界
(舞台となる転移後の世界との差異は異能よりも科学技術が発展している事など、また短時間だが別の世界との通信が可能、異世界というよりは並行世界と言った方がいいかもしれない)
から転移した所を確保され、冤罪を被せられて収容された、自分の名前すら覚えていない記憶喪失の少女。
彼女自身は覚えていないが、元の世界では経歴等を抹消した上で人知れず世界の危機へと対処する機関に所属し功績を多数積み、何度も世界を救った『英雄』。記憶には無いが戦闘経験は全て身体に積まれている。
しかし戦いの中疎まれ、また心を摩耗させた末、彼女は陰謀により、予め話を付けていた別の世界へと転移・放逐。そのまま冤罪を擦り付けられ尋問・拷問の後に投獄された。
刑務作業として通常の物だけで無く、同じ死刑囚との戦闘もやらされておりその時は一時的に超力を使用可能となり、その内容や戦闘能力を看守長や刑務官が把握する事が出来た理由となる。

彼女の本名を知らない看守長や刑務官や他の受刑者等からは暫定的にユウと呼ばれている。
なお罪状については少なくともこの世界での他の誰かの諸々の罪を冤罪として被せられた結果であるが、記憶喪失により忘れている為元の世界で罪状に当てはまる何かしらをやらかして居ないとは限らない。


25 : 名無しさん :2025/01/26(日) 21:49:06 1ZHB.1Ow0
【名前】大須賀 高雄
【性別】男
【年齢】42
【罪状】傷害及び殺人 飲酒運転
【刑期】12年
【服役】2年
【外見】185cm 102kg 鍛え抜かれた打撃系格闘家の身体。服着てると細身に見える
【性格】卑屈で根暗。自己肯定感がかなり低いが、根は真面目で日々の鍛錬も欠かさない
【超力】
影法師(シャドー)
任意発動。自身の影を踏ませる事が条件。
影を踏んでいる間だけ、己の動きを僅かに遅れてトレースさせる。
つまり影を踏ませた上で右ストレートを放つと、対象もまた僅かに遅れて右ストレートを放つ
この能力を利用し、相手に動きを強制した上で能力を解除。カウンターを決めて勝つのが必勝パターン

発動条件を満たす為に必要な、相手との間合いの取り方や、フットワークにはかな優れている


【詳細】
総合格闘技の経験も有る打撃系格闘家
戦績は振るわず、マニアの間でも知られていない程のパッとしない選手だった。
『開闢の日』により獲得した超力により、連戦連勝し、複数の団体でベルトを巻くに至るが、超力の使用がバレて永久追放される
その後は非合法の地下格闘技に出場。素手でさえあれば何をやっても良いというルールで連勝した。対戦相手を殺害した事も複数有る

なお当人は、真っ当に己の身体能力と格闘技だけで勝ちたいと望んでいて、その為に血の滲む鍛錬も行い続けているが、それは叶わぬ夢とも悟っており、この為に卑屈かつ自己肯定感がかなり低くなっている。


ヤケ酒呑んで車運転しているところを逮捕され、地下格闘技での活動を追及されて、殺人及び傷害で起訴された。


26 : 名無しさん :2025/01/26(日) 22:05:31 Cmun5mjw0
【名前】赤井 紅子(あかい べにこ)
【性別】女
【年齢】36
【罪状】殺人
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】赤い短髪、顔はどちらかというと可愛いより
【性格】血を見ると陶酔する
拗らせてないときは無邪気で人当たりが良い
【超力】
『ブラッド・ソード』
持っている刃物に血を吸わせることができる。
血を吸った刃物は吸えば吸うほど赤く染まり、切れ味や強度が増す。
血を吸えるのは紅子が手に持っている刃物のみだが、手放した後も吸血状態は継続し、別の刃物に血を吸わせたとしても前までの刃物の状態が戻る、ということはない。
つまり複数ストックすることもできる。
紅子が手に持って念じれば吸血状態の解除は可能。
【詳細】
幼少期は明るく素直な普通の少女であったが、9歳の誕生日の日、強盗により両親を殺害されてしまう。
強盗に殺害された両親の返り血を浴びたことで、精神が壊れ始める。
祖父母の家に引き取られたが、ある日転んで足に血を流した際に、両親が殺害された時の光景がフラッシュバック。
その時に浴びた返り血、つまりは血液こそが失った両親と繋がれる唯一の方法だと確信した。
それからは人目を盗んで自傷行為を繰り返すことで心を慰めていたが、やがて物足りなさを感じる。
そして事件から5年後。
自分の血ではなく、他人の血を浴びることこそが両親と繋がれる一番いい方法だと思い至った彼女は、祖父母の家を飛び出し失踪。
その数日後、14歳にして猟奇殺人者として報道されることとなった。
翌年には超力も発現し、ますます手に負えなくなった。
殺害した相手は何度も刺して血を流させ、血まみれにする。
そうして両親を思い出しながら恍惚とした後、凶器に自分と被害者の血を吸わせて立ち去る。
その為、彼女の犯行の被害者は「刺し傷だらけなのに血は全く流れていない」という奇妙な遺体となって発見される。
犯行を行っていない時の彼女は主にコンビニバイトで食いつないでおり、明るく人当たりよく振る舞っていたため同僚や店長からの評判もよかった。
20年にわたり犯行を重ね続けてきた末、昨年ついに捕まった。殺害人数は約50人。
投獄後は当然刃物も没収され、血を見れない日々にイライラしつつも、表向きは大人しく、死刑囚とは思えないほど明るく前向きに振る舞っている。


27 : 名無しさん :2025/01/26(日) 22:17:39 PK4b8OaY0
【名前】怪盗『ヘルメス』/ルメス=ヘインヴェラート
【性別】女性
【年齢】17
【罪状】窃盗罪、建造物侵入罪、殺人罪(冤罪)
【刑期】無期懲役
【服役】数ヶ月程度
【外見】オレンジのサイドテール。小ぶりな胸ながらスタイルは締まっている。隠しているが体中には……
【性格】天真爛漫で猫被り。刑務中は大人しくしており本性を隠していた
【超力】
『奥底に潜むもの(サブマリン)』
壁や建物等の無機物に文字通り潜り、その中を自由自在に泳ぐように移動する。
どんなに高いセキュリティに対しても、この異能を用いて突破してきた。
潜っている間は通常の水中内同様、溺死のリスクも存在しているが、彼女の肺活量は常人の数十倍であり、まず溺れ死ぬことはない。
最長潜『物』記録はボンベなしで30分。
【詳細】
世間を騒がしていた神出鬼没の怪盗。様々な悪党から金品やお宝を盗み出し、それを元手に難民や貧民への救済を行うなどしていた、所謂義賊と呼ばれる少女。
ある日いつものようにお宝を盗みにとある汚職官僚の邸宅に潜入したが、そこで見つけたある資料を見つけたことが仇となり、GPA総出で動かされたエージェントたちによって捕縛されてしまった。
でっち上げられた殺人罪もおっ被せられこのアビスに投獄されたが、例の資料に繋がるヒントが見つかるかもしれないと一念発起。もちろん脱獄の機会も伺っている。
本名はルメス=ヘインヴィエラード。既に亡き叔父はある名探偵としのぎを削っていたとか無いとか。
余談であるが取り調べの際に頑なに口を開かなかったため、拷問官に色々されたようであり、その時の後遺症が色々と。


28 : 名無しさん :2025/01/26(日) 22:49:18 6iYWm.aU0
【名前】至高 偕楽(しこうのかいらく)
【性別】男
【年齢】28
【罪状】窃盗罪
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】銀髪の中性的な顔立ちの美青年、細身
【性格】物腰穏やかで温和な性格。ただし、趣味に没頭している時に邪魔されるとキレる時も。一人称は僕、二人称は君
【超力】
『究極下着道(マスターパンツ)』
パンツに触れ、その残留思念を読み取り、履いていた持ち主がどのような行動をしていたかをパンツの視点で視ること、また、履いていた人物が何を考えていたかを読み取ることができる。読み取れる範囲は、触れた時点の1日前まで自由に時間指定できる。
パンツの前では隠し事などできはしない。パンツは常に共にあるのだから。共に無い人はちゃんと履きましょうね。


【詳細】
生きとし生ける全ての人類の誰よりもパンツを愛した変態紳士。
物心ついた時からパンツを見ては興奮し、触れては絶頂し、触れなくとも絶頂していた。パンツを様々な手段で鑑定することが生き甲斐であり、視る、触れる、嗅ぐのは勿論のこと、被ったり食べたりするのも日常茶飯事。
男のパンツと女のパンツ、どちらも好きだが女のパンツの方が圧倒的に好き。
特技はパンツの鑑定から持ち主の特徴を割り出すこと。成功率はかなり高い。鑑定方法はその時の気分とパンツによる。
その女性とも見間違う中性的な顔立ちと華奢な体を活かし、数多の銭湯に出入りし老若男女構わずパンツを盗みがてら持ち帰り鑑定していたが、1万件を超えたあたりで遂にバレてとうとうお縄に。
その件数のあまりの多さと近年の世論の風潮的に、下着泥棒としては異例の死刑判決を言い渡された。
暴力行為は好まず、直接的な性的行為も好まない。当然、殺人や強姦などもってのほか。むしろ、いまにも犯罪を犯そうとしている人に自分のコレクションパンツをあげて止めさせるくらいには善良さも持ち合わせている。誰もが振り返る美女よりも美女が穿いていたパンツにしか興奮絶頂しない生粋のパンツマスターである。


29 : 名無しさん :2025/01/26(日) 22:58:45 1ZHB.1Ow0
【名前】 小鳥遊 仁花(たかなし にけ)
【性別】女
【年齢】26
【罪状】殺人
【刑期】死刑
【服役】2年
【外見】182cm 74kg 腰まで届く黒髪に白皙の肌の美女。瞳の色は黒
【性格】品行方正かつ清楚で、誰に対しても穏やかで礼儀正しい。所作に育ちの良さが窺い知れる。嗜虐趣味の殺人狂
【超力】
人に変革など訪れない(ネバーモア)

至極単純に『超力に一切影響されない能力」
超力による現象や変化の類は身体に触れた瞬間に全て消滅してしまう
身体能力を向上させて殴りつけた場合は、上昇分がキャンセルされ、素身体能力だけで殴られた事になる。
ばお無効化できるのは超力だけであり、超力により発生した事象は無効化出来ない
例)超力による爆発は無効化できるが、爆風や爆発によって起きた炎の影響は受ける


【詳細】
日本の地方名士の家に産まれ、頭脳にも運動能力にも優れ、何不自由無く育つ。
超力が全く使えなかったが、当人の人当たりの良さと家の威光により虐められる事も無く、却って高い能力と美貌に対する周囲からの嫉妬を打ち消す役に立っていた
中学2年生の時、超力を悪用する集団に暴行と両親への脅迫目的で襲われそうになるが、この時に初めて知った自身の超力で、全員を返り討ちにする
この時に、超力が通用しない事に怯えて狼狽える者達に深い愉悦を覚え、戦闘向きの超力を持つ者を密かに襲う様になる。
最初は只々打ち負かすだけだったが、やがて拷問を愉しむ様になるが、殺人には至らなかった。
破局が訪れたのは、19の時。金銭目当ての強盗に両親が殺害され、激昂して強盗を惨殺した日。
殺人に至る事を繋ぎ止めていた両親が死に、そして殺人を犯してしまった為に、一切の歯止めが無くなってしまう
以降は逃亡生活を送りながら、強者を求めて世界中を廻り、各所で凄惨な拷問の果てに嬲り殺してきた。
秩序属する者も、犯罪の世界に身を置く者も、等しく玩具として遊び殺し、5年後に捕縛される。

『超力に驕っているものが、超力の通用しない者に生命を脅かされている時の表情ときたら……とてもとても素敵でした。いくら観ても飽きるという事は、無いでしょうね』

とは死刑判決を受けた時の陳述である。


超力抜きで大量殺人を為せる程に戦闘技能と状況判断能力が高く、立ち回りも巧み。
刑務所でなら殺す相手には不自由しないと思っていたら、独房に一日中監禁される日々が続いてストレスが溜まっている。


30 : 名無しさん :2025/01/26(日) 23:05:22 iqk0qg6c0
【名前】スプリング・ローズ
【性別】女
【年齢】13
【罪状】傷害、強盗、薬物使用
【刑期】半年
【服役】半年
【外見】赤のセミロング、赤い釣り目の白人少女。首筋に薔薇のタトゥー、小柄な体格
【性格】不敵かつ傲慢、刹那的な振る舞いで気取っている。身内以外の他人を全て嫌悪し見下している
【超力】
『紅狼(ブルーム・ヴォルフ)』
肉体を肥大化させ、真紅の人狼へと変身する。
変身時には圧倒的な膂力、脅威的な瞬発力、超力さえも跳ね除ける強靭な皮膚など、数々の怪物的な身体能力を獲得する。
単純明快、故に強力な“自己強化の異能”。

【詳細】
開闢以降に生まれ、生来の超力(ネオス)を備える『ネイティブ世代』。
新世代の子供達は、誰もが生まれながらにして“暴力の切符”を手にする可能性を持つ。
そんな時代において、少年少女の犯罪率が世界規模で上昇するのは当然の帰結だった。

街を荒らすネイティブ世代のストリートギャング『イースターズ』。そのリーダーは当時9歳の少女だった。
スプリング・ローズ。彼女は強力なネオスと刹那的な暴力性によって不良少年少女達を統率し、超力を使った喧嘩沙汰や犯罪行為に明け暮れた。

彼女は暴力的な異能によって幼い頃から孤立し、両親からは育児放棄され、他者への慈しみや愛情を持てぬまま成長した。
そうして癒えない欠落感を埋め合わせるように非行を繰り返し、いつしか圧倒的な力によって他の不良達を統べる存在となっていった。

同じ爪弾き者である身内の不良達は家族同然。
しかしそれ以外の人間は全て無価値だと考えている。
早く娑婆に戻って仲間達に会いたいし、刑務所の中で無意味な時間を過ごしたくない。
刑務所から何とかして脱獄できないかと、ずっと考え続けていた。


31 : 名無しさん :2025/01/26(日) 23:07:55 iqk0qg6c0
>>30
すみません、【刑期】で誤字ありましたので訂正します。

半年→18年


32 : 名無しさん :2025/01/26(日) 23:44:29 R8fffTP20
【名前】ヤミナ・ハイド
【性別】女
【年齢】23
【罪状】犯罪教唆・強盗・国家転覆未遂
【刑期】26年
【服役】2週間
【外見】金髪ボブカット。明るくて華やかな美人。スタイルも悪くないが、ストレスでやつれそう。大体囚人服ってかわいくないよね。
【性格】とても臆病でネガティブ。上にペコペコ、下にもペコペコする気弱な模範囚。
【超力】
『私は哀れな被害者です』
パッシブ型の超力。あらゆる相手に侮られ、ナメられる。
善人と行動しているときはそのおこぼれをもらいやすいが、悪人と行動するとパシリや実験動物扱いされやすくなる。
これは個人の感情だけではなく法律にも影響し、大きな罪を犯しても情状酌量の余地ありとされて、同じ犯罪を犯した者よりも罪が軽くなり、判決も甘くなる。

【詳細】
リボ払いで有名ブランド・バーグラーのバッグを買ったら借金をこさえてしまい、手っ取り早く借金を返すためにホワイト案件に応募したのが人生の分岐点。
指示役の『ワシントン』の指示通りに荷物の運び屋を手配して車に乗せ、派遣していたところガサ入れを受けて捕まった。

開闢の日以前だと人生終わる罪状だったが、相対的にもっとヤバい犯罪が蔓延るご時世になっていたのと、超力の影響でそれなりに早めに出所。
服役してた分を取り戻すぞーととても簡単で稼げるバイトに応募。
指示役の『リンカーン』の指示通りに豪邸に滞納金支払いの催促をしに行ったところ、なぜか仲間との合流場所でショットガンを持たされる。
結局豪邸のSPにかなうはずなく、腹パン一発で沈んで豚箱に投げ込まれた。

再々度出所した時点で額面上の借金は400万円を超え、焦った彼女は人生の一発逆転を狙って日給25万の運搬の仕事を請け負う。
指示役の『ルーズベルト』の言う通りに封筒を飛行機で運んだところ、とある一党独裁の大国の検問で御用となった。
封筒の中身はとある超力で作られた、某大統領のこれから数日間の未来が事細かに記されたものであり、バリバリの国家転覆計画の一ピースだった。

短期間で何度も犯罪に加担し、その罪状が凶悪化していく彼女は、更生の見込みなしと見なされ、ヤマオリ記念特別国際刑務所にぶちこまれた。
まわりの囚人があまりに凶悪すぎて、なんで自分がこんな場違いなところにいるんだろうと疑問に思っている。


33 : 名無しさん :2025/01/27(月) 00:20:13 QV6O1ixk0
【名前】愛園 愛(あいぞの らぶ)
【性別】女
【年齢】22
【罪状】殺人罪、住居侵入罪、ストーカー規制法違反
【刑期】無期懲役
【服役】1年
【外見】美しい黒髪をした美女。儚げで被虐心を擽る雰囲気をしている。
【性格】一途で献身的で執拗で嫉妬深く執念深く愛が深い。思い込みが激しく惚れっぽい。そして異常なまでに嫉妬深い。
【超力】
『愛にすべてを(オール・マイ・ラブ)』
愛した対象の能力を強化する超力。
自らの恋心を発動条件とするため発動は本人にも制御不可能。
能力は『私の王子様(ヴァージン・メルヒェン)』と『蛙化現象(ラブ・オブ・デス)』の2段階に分かれる。

■私の王子様
愛した対象を強化する超力。彼女が対象を愛した瞬間に自動で発動する。
身体能力、超力のみならず運に至るまで強化され、能力の強化幅は彼女の愛に比例する。

■蛙化現象
彼女の対象への愛が醒めた瞬間発動する。
『私の王子様』で与えた愛に比例した愛(ペナルティ)が徴収される。
身勝手に愛を浪費しているとペナルティは強化され、最悪の場合死亡する。

【詳細】
15歳からの6年間で同性2名を含む8名にストーキング行為を繰り返し殺害に至った。
被害者の大半は恋人関係にあった交際相手だったが中には正規な交際関係に至っていない自称恋人も含まれていた。
とかく惚れやすい。ネグレクトにより親の愛を受けられなかった幼少期の経験からか、優しくされるとすぐ相手に惚れる。
お前のために叩いているんだと言う親の教育から暴力を受けても惚れる。思い込みが激しく相手にそのつもりがなくとも相手の意図を本人が課題解釈する事により惚れる。
そんな惚れやすい性格だが一途でもあるためか、一人に惚れている間は他の人間に目移りすることはない。その代わりに相手にも自分以外に目移りすることを決して許さない。
送られた刑務所内でも同性相手に痴情のもつれによる刃傷沙汰を繰り返しアビス送りとなった。


34 : 名無しさん :2025/01/27(月) 00:22:02 99l9NL7c0
【名前】北鈴 安理(ほくれいあんり)
【性別】男
【年齢】19
【罪状】殺人
【刑期】無期懲役
【服役】3年
【外見】深い青色のパーマのかかった髪。片目が隠れている。強く憂いを帯びた表情。青い目をしており、また超力の影響なのか爪も青い。黒いマスクをしている。身長175cm。

【性格】
根暗で感情があまり表に出ないが、それなりに内心では笑ったり怒ったりしている。人付き合いが苦手でやや礼儀礼節が足りない面がある。
他人に興味がないようでいて、仲良くなり始めるといつも相手のことが気になってしまい自己犠牲的に助けようとしたりもする。
一方で相手のことを勝手に心の中で妄想し理想化して、それが壊れると気分が沈み突飛な行動をしたりしてしまう。

【超力】
『眩しき離流の氷龍』
体が巨大な氷に包まれ、その殻を破るように体長2.5m程の雌の氷龍に変化する。やや細身の西洋龍。

その体表は氷の透き通るような青黒い色や、しまり雪のように白い輝きの鱗に覆われている。
その角はオスミウムのように青白く輝き、生え変わり抜け落ちた物も冷たさを失うことはない。
その翼はざらめ雪のように白く煌めき、翼で風を起こせば雹の礫が風に乗り襲いかかる。
頼りない大きさに見えるが、天候が吹雪ならば雪と風に乗って飛行することができる。
その尾は鞭のようにしなり、側面に氷柱を茨の棘のように生やし、叩きつけ突き刺す。
その爪は鈍く優しい青色で掴んだものを傷付ける心配はないが、戦う際には冷却され氷で覆われ鋭さを増す。
その虹彩は海王星のように蒼く寒気を感じさせるが、優しさに染まれば木星のように穏やかになり、心を燃やせば火星のように鮮やかになる。
その涙は過冷却されており、滴り落ちた瞬間から凍てつき氷を作っていく。
その鬣は荒れた冬の海を覆う波のようだが、柔らかくて背中に掴まった相手を優しく包んでくれる。

龍として身体能力が強化される。
冷気のブレスを吐くほか、眼前に氷柱を生成でき地面から生やしたり腕から生やして武器にしたりする。
超力を解除する際は、身体がドライアイスのように溶けて霧になって中に人間の体が残る。
変身の時間に制限はなく、その気になれば龍の姿で過ごし生活することも可能。
周りがそれを受け入れるかは別の話だが。
ちなみに幼い頃は、変化後の姿も小さくより可愛らしかった。

【詳細】
生まれつき持った能力が雌の人外への変化であり、自分という存在のアイデンティティに悩みがちだった少年。
周りからも虐められることはなかったが良く揶揄われており、その度に心痛めていた。
ストレスで過食傾向になり、外見にも気を遣えず肥満気味で肌も荒れだいぶ醜い風貌になっていった。
その一方で変化後の雌の氷龍の姿は美しさと可愛らしさを併せ持っていて、いっそこのままで過ごせたらいいと思いつつもあった。
学校も徐々に不登校になり、オンラインゲームやSNSに入り浸る日が増えていった。

そんな中で同じく社会に疎外感を感じ自分のアイデンティティにも悩んでいた同性の相手と仲良くなり、お互いに心の辛さも全て打ち明け合い信頼を築く。
そしてついにある日、相手の家に赴くことになった。
2人の間には友情を超えた感情があることは分かっていた。その正体が何なのかわからない。
それが何なのかを確かめたい感情が、性事情に関する話をしばらく話したあとに爆発してしまった。
雌の氷龍の姿に変化した彼は相手を押し倒し繋がろうとする。自分の好きな自分らしい姿を認めて欲しい。
そして種族も性別も超えてこの姿で結ばれることがあれば、きっとその感情は本物の恋愛だろうって。
しかしその先に待っていたのは、恐怖と拒否と嫌悪の感情。あんなにSNSではお互い好きと囁き合っていたのに、その感情は何処へ行ったんだ。
それに耐えきれず泣き叫んでいるうちに、下になった相手はいつの間にか凍てつき凍死していた。
駆けつけてきた相手の家族をも、超力で取り押さえられようとした所に衝動的に反撃して全員凍結させて殺害してしまった。

現在は収監され規則正しい生活をして食生活も改善したため、痩せて健康的になってきた。
色目をかけられることもあるものの、過去のことを後悔し自分には真っ当な人間関係は作れないと思っていて深入りすることは自制している。
自分は何も奪ってはいけないし、求めてもいけないのだと思うようにしている。
それでも贖罪として頑張りたい心はあって、龍の姿の時に生え変わった角を売って稼いだりとかできないかと普段考えたりしている。


35 : 名無しさん :2025/01/27(月) 08:36:30 gxMZs7Ko0
【名前】 佐渡 冠主(さど かんしゅ)
【性別】男
【年齢】46歳
【罪状】強姦、暴行、拷問
【刑期】20年
【服役】4年
【外見】身長170cm 体重92kg 丸刈りの太った男。細い冷酷そうな眼付き
【性格】収容所や刑務所を舞台にした映画に出てくる典型的なサド看守。平等主義者(ジェンダーレス)
【超力】
此処では俺の意思が法(パラダイス・ヘル・ルーム)

自身と他者、二人きりで一つの部屋にいる事が発動条件。
凡ゆる事柄を自身の意のままに出来る。
室内温度を上げて焼き殺す事も、逆に低下させて凍死させることも無酸素状態にして酸欠で絶命させる事も、空気圧を増して押し潰すことも出来る。
室内にある全てを統御できる為に、落ちている物や壁に打ち込まれた釘なども操れる。
人間にも使用可能。
シャワーを浴びろよと言えば浴びるし、オチンチン見せてと言えば素直にパンツを下ろす。
人間に使う条件として、佐渡の方が上だと認めさせる必要が有る

【詳細】
元は他所の刑務所の看守だった男。
元々が権力を濫用して受刑者を恣に甚振る男だったが、アビスの設立に伴い自ら志願してアビスに勤務することになった。
完全部外秘。余程の事が無い限り、外に漏れる事は無い。
そんな環境下で存分に嗜虐嗜好を発揮した佐渡は、男女を問わず囚人を傷つけ、犯し、殺し続け。
そしてアビスに堕ちた。


36 : 名無しさん :2025/01/27(月) 08:37:27 gxMZs7Ko0
【名前】 森野 賢人(もりの けんと)
【性別】男
【年齢】24歳
【罪状】複数の殺人、傷害、強姦
【刑期】無期懲役
【服役】三ヶ月
【外見】体長3mのゴリラ
【性格】野卑で凶暴な刹那的享楽主義者。大抵の事は暴力で解決しようとする。重度の人間不信で計算高い
【超力】
憑依(ポゼッション)
自分を殺した相手に憑依して、身体を乗っ取る。人間に使用した場合、意識と記憶が混じり合い、第三の人格が産まれる事になる。

【詳細】
4歳の時に動物園に連れて行ってもらった時、誤ってゴリラの檻に転落し、ゴリラに殺されてしまう。
そのまま自身を殺したゴリラに憑依し、森野賢人として育てられるものの、やはりゴリラの身では色々と無理が有り、社会から弾き出されて反社に身を投じる。
ゴリラという、新人類の身体能力を軽く上回る、霊長類最強生物の身体能力を以って裏社会で名を馳せることとなった。
見世物として殺人ショーや獣姦を行った事もある。
暴力集団の長として活動していたが、部下を全く信じておらず、苛烈なまでの暴力により統率していた。
部下を全く信じていない割には気前が良く、分け前を分配する時には惜しみ無く分け与えた為に、苛烈過剰な暴力にも関わらず、部下からの信望は厚かった。
無論これは統率の為に行なっていた事であり、部下への情は一切存在しない。


37 : 名無しさん :2025/01/27(月) 20:12:16 XqafbFs20
【名前】ルーサー・キング
【性別】男
【年齢】92
【罪状】詐欺、麻薬取引
【刑期】10年
【服役】6年
【外見】年齢に似合わぬ強靭な体躯と生命力を持った黒人男性。190cmを超える巨漢。
【性格】狡猾にして冷酷。多くのギャングを統率するカリスマ性の持ち主。
【超力】
『Terminator X』
鋼鉄を生成・操作する異能。
生み出した鋼鉄は本体の意思で、自在にその形状を変化させることが出来る。
無から即席の武装を作り出す、鋼鉄の鉄壁を盾に使う、鋼鉄の刃を無数に放つなど、規模・応用力共に非常に高い。

【詳細】
『開闢の日』以降に逸早く超力による武装化を果たし、急速に勢力を拡大したマフィア『キングス・デイ』。
ルーサー・キングはその冷酷なる首領であり、平均寿命が大きく伸びた新人類の可能性を象徴するような屈強なる老人である。
名前は旧時代の人権活動家にあやかって付けられ、そのため彼自身も“牧師”の異名で呼ばれる。

残忍なカリスマ性と暴力的な辣腕によって闇の世界を牛耳り、新時代における最大規模の犯罪組織を作り上げた男。
その影響力は表社会のメディア、警察、政治家にまで及び、彼自身もまた高い戦闘力を持つ文字通りの怪物。

数々の凶悪犯罪に関与しながらも、悪徳顧問弁護士による弁護や賄賂などの根回しによって多くの容疑を不起訴に追い込んでいる。
そのため大規模な悪行の実態に反し、彼の罪状は不自然なまでに少ない。
そして彼は、百歳を超えてもなお裏社会に君臨し続けることを目論んでいる。


38 : 名無しさん :2025/01/27(月) 20:37:07 gxMZs7Ko0
【名前】響 天音(ひびき あまね)
【性別】女
【年齢】19歳
【罪状】殺人、殺人教唆、暴行教唆、詐欺、自殺幇助
【刑期】死刑
【服役】三ヶ月
【外見】長い金髪に均整の取れた体つき。顔立ちは美人の部類に入る。年齢に比してやや年上に見える。
【性格】明るく快活で人当たりが良い。他者を自分の為に使い潰す事を何とも思わない快楽主義者。短絡的で思いつきで行動する。
【超力】
歌声にて惑わす魔物(ローレライ)
任意発動。声を聞いた者を、自分の意のままに動かす能力。
能力発動時には、他人には歌を歌っている様に聞こえるが、無論そんな事は無く、当人は至って普通に発声している。
天音の超力の影響下にある者は、『歌』が聞こえている間、天音の命令を全て躊躇いなく実行する。
殺せと言われれば殺し、死ねと言われれば刃物を己の胸に突き立て高所から飛び降りる。

この能力は人間だけで無く聴覚の有る生物全てに有効。

発動条件は、天音が他者に何かをやって貰いたいと思いながら話しかける事。機械越しにも有効。
但し話している内容が聞き取れなければ効果を発揮し無い。


【詳細】
幼少の時から超力で欲しいものを全て手に入れ、気に入らないものを全て排除してきた少女。
中学に入る時には、財産や労力といった両親の全てを使い潰し、保険金目当てに山に登らせて死体が見つかる様に遭難させた。
その後も男女を問わず、能力で操って金銭や物品を貢がせ、気に入らない相手や敵対者は自殺させて来た。
被害者の家族が警察に訴え出て、捜査の結果行って来た所業がバレるものの、逮捕に来た刑事達に、超力で操った群衆を嗾けて全員殺害。
此処で調子づいてクーデターを狙うも、超力を解析されていた為に音響手榴弾を大量に使われて扇動した群衆を無力化され、敢えなく逮捕された。


39 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/01/27(月) 21:05:19 WCiZpkvc0

【名前】茨木 終夜
【性別】男
【年齢】18
【罪状】殺人罪、強盗罪
【刑期】死刑
【服役】3ヶ月
【外見】身長181cm 体重67kg 黒い短髪、濃い隈、常にニヤけた口
【性格】
根暗な印象とは裏腹に快活な性格。
その明るい性格には誰もが心を許してしまう。
だが同時に「この世の人類は抹殺しなければならない」という危険思考の持ち主
【超力】
『制御不能の天誅人(アンチェイン・ダーティージャスティスマン)』
茨木の殺意によって具現化される能力で具現化された殺し屋。
全身黒タイツで顔は見えない、装備はナイフと拳銃(装弾数6発)
鉄をくしゃくしゃの髪の様にしてしまうほどの怪力とチーターなどの速さに優れる動物でさえ追いつけないほどのスピードを持つ。
また返り血によって持続時間が上がる効果持つ。

デメリットとして、明確な殺意を持たなければ発動できず
少しムカついた程度ぐらいでは発動できず、また返り血を浴びなければ対象を殺しただけで能力が終わってしまう。
【詳細】
新人類化した後に生誕。

親から強烈な虐待を受け、ついに7歳の時に両親を殺害。
その後は捕まるで各地を転々としながら生存、意外にも学習能力も高く、教師なしでも勉強を理解することができた。
16歳の時に上述の危険思考に陥り、今まで殺していた対象を一般人などにしていたのを、公人も含む様になり、ついに内閣関係者を狙おうとしていたところ待ち伏せされ逮捕された。


40 : 名無しさん :2025/01/27(月) 22:12:13 XqafbFs20
【名前】トビ・トンプソン
【性別】男
【年齢】21
【罪状】窃盗、脱獄多数
【刑期】85年
【服役】2年(アビス収監前も含めればもっと長い)
【外見】野良犬のように不潔で不細工な白人の青年。小柄で老け顔。
【性格】奔放。刹那的。脱獄ジャンキー。脱獄が快感。
【超力】
『スラッガー』
自身の肉体を軟化させる。
軟化した肉体によって、あらゆる隙間や閉所へと自在に入り込む。
また軟化した肉体によって打撃などを無効化することが出来る。

【詳細】
各地の刑務所に収監されては脱獄を繰り返してきた囚人。17回にも渡る脱獄を成功させた脱獄王。脱獄性愛者(クレモフィリア)。
度を超えた脱獄によって制御不可能の犯罪者と判断され、アビスへと収監された。
余りにも脱獄しているせいで刑期はどんどん伸びているが、当人は脱獄の快楽に浸っている。
現在は難攻不落のアビスから脱獄する機会を伺い続けている。

彼の人格は半ば超力によって形成され、「潜むこと」や「抜け出すこと」に対して異常な喜びを見出していた。
その欲求を満たすための手段として犯罪による収監の道を選び、以後脱獄を生き甲斐としている。
主に超力によって脱獄を行うものの、周囲のものを利用した純粋な脱獄の技術も体得している。


41 : 名無しさん :2025/01/27(月) 22:35:45 ui0jbTSM0
【名前】アルヴド・グーラボーン
【性別】男
【年齢】48歳
【罪状】殺人、建造物侵入、器物損壊、激発物破裂、銃刀法違反など
【刑期】無期懲役
【服役】27年
【外見】瘦身長躯の黒人
    ゲッソリとこけた頬、長く伸びたひげ、目の下には濃い隈
【性格】常に何かにおびえた様子でびくびくしている。
    猜疑心が強く誰に対しても心を開かない。
【超力】
『銃手(アル・ミドファイ)』
手に持った銃の性能を向上させる。弾速や連射速度、射程距離はもちろん、鈍器として使用した場合の威力まで大きく向上させることができる。
22口径の拳銃を対物ライフル並みの威力に跳ね上げたり、秒間10発のアサルトライフルに秒間1,000発発射させることも可能。ただし威力を大きくすれば反動も大きくなるし、弾丸を作り出せるわけではないので連射速度を上げればその分早く弾切れを起こす(一応装弾数は増やせる)。

【詳細】
テロリスト。
自らの信仰する神の意志により統治される世界の実現を目指して活動する、国際テロ組織の末端支部の、そのまた末端構成員だった。
理想実現のため一刻も早く具体的な活動を行いたい支部上層部は、政治ゲームに明け暮れる組織本体に対し不満を募らせ暴走。高等学校襲撃作戦が決行され、アルヴドもこれに参加。何人もの教職員や生徒を殺害するも、生徒会長であった門倉衛善により全員が無力化された。
装備のつくり自体は粗悪だったとはいえ、訓練を積み完全武装した50人の戦闘員がたった一人の高校生に鎮圧された事実は、アルヴドにとって大変ショックな出来事であり、それ以来何者に対しても不信を抱くようになってしまう。
また、圧倒的戦力差により絶対に失敗するはずのなかった軍事作戦を失敗に導いた神をアルヴドは『救いを求め最大の帰依をした我らを裏切った』として強く憎んでおり、ひとたびその名を聞けばパニックに陥り、周囲を無差別に攻撃する。

【余談】
アルヴドが所属していた国際テロ組織の本体は健在。現在も活動を続けている。


42 : 名無しさん :2025/01/27(月) 23:13:13 vICKT.9w0
ここまでのキャラクターを簡単にまとめてみました、今後の参考までに……

大金卸 樹魂(だいこんおろし じゅごん) 戦闘狂格闘家
天野 秤(あまの はかり) 真面目看守
浜菱 裕実(はまびし ゆうみ)虐待リケジョ
エルビス・エルブランデス 純朴拳士
狗鬼灯 鍍(いぬほおずき めっき)洗脳高校生
柊 美那(ひいらぎ みな)具現化フェミニスト
森山友規(もりやま ともき)トラウマ持ちマッハサラリーマン
ダグラス・ジョン・ウルシヤマ 電波系老人
『英雄』(仮称:ユウ) 記憶喪失異世界英雄
大須賀 高雄 卑屈な格闘家
赤井 紅子(あかい べにこ)吸血猟奇殺人鬼
怪盗『ヘルメス』/ルメス=ヘインヴェラート 義賊怪盗
至高 偕楽(しこうのかいらく) パンツ大好き
小鳥遊 仁花(たかなし にけ) 無効化殺人鬼
スプリング・ローズ 人狼ストリートギャング
ヤミナ・ハイド 不運な闇バイト
愛園 愛(あいぞの らぶ) ストーカー殺人鬼
北鈴 安理(ほくれいあんり) 雌ドラゴン変身青年
佐渡 冠主(さど かんしゅ) 元看守
森野 賢人(もりの けんと) 憑依ゴリラ
ルーサー・キング 犯罪組織のドン
響 天音(ひびき あまね) ローレライ
茨木 終夜 人類抹殺主義
トビ・トンプソン 脱獄王
アルヴド・グーラボーン テロリスト下っ端


43 : 名無しさん :2025/01/27(月) 23:38:30 ui0jbTSM0
【名前】南沢善志(みなみざわ よしゆき)
【性別】男
【年齢】16歳
【罪状】強盗致死、建造物侵入、器物損壊
【刑期】16年(少年法適用)
【服役】2か月
【外見】大きくて可愛らしい目をした童顔の少年
    中肉中背でノーセットの黒髪。
【性格】マイペースで飄々とした性格。
    面倒くさがりで何かとコスパ、タイパの良い方法を模索しがち。
【超力】
『ツインブラスターライフル』
2つの銃身を持つ巨大なライフルを召喚する能力。装弾数はその名の通り2発。2発同時発射や連射も可能。
善志本人にしか触れることはできず、その重量は綿あめより少し重いくらい。
威力も折り紙付きで、複数の建造物を1発で崩壊させることができるほど。
『開闢の日』以来耐久力が向上した人類であっても、木っ端みじんになってしまう威力。

【詳細】
元高校生。中の上くらいの偏差値の学校でトップの成績を収めていた優等生でもあった。
タイムパフォーマンスの良い小遣い稼ぎを求めて闇バイトに応募。強盗事件に加担し、一般住宅に押し入って金品を奪取した。
金品の在処を聞き出すために、グループのリーダーだった人物が家人を暴行し殺害。
金品を鞄に詰める役割を担っていた善志も共同正犯ということで強盗致死罪での逮捕となった。
事件当時16歳であったことから少年法が適用され、家庭裁判所に送致された後、事件の重大性を鑑み検察に逆送致された。
その後の取り調べで上記の通りとても強力な超力を持っていることが判明。
強盗行為にこの超力を使わなかった理由を問われた善志に「え?こんなもの使ったら死んじゃうじゃないですか?」と言われた担当検察官は頭を抱えて机に突っ伏した。
「その倫理観がありながら、何故強盗なんぞに加担したんだよ!!」


44 : 名無しさん :2025/01/27(月) 23:39:24 ztcrUDHI0
【名前】壮馬 誠二(そうま せいじ)
【性別】男
【年齢】27
【役職】看守官
【外見】茶髪、切れ目で鋭い目付き、細身の痩せ型
【性格】
女を下等な生物として見下している。
躾、教育、調教と言った言葉を好み、他者をコントロールしたがる。
他者を痛めつける事に性的興奮を覚えるサドな性癖を持ち合わせており
馬鹿な連中を躾けることこそが己が使命だと思っている。

【超力】
『破滅の審判(デストラクション・ジャッジメント)』
調教師が扱うような鞭を創り出す異能。
愚かな存在を躾けようとする意志の具現化。
本人の感情と連動しており、意思次第で長さや形、鞭の機動も自由に変化させることが出来る。
痛みや恐怖で躾ける際は調教師の扱う鞭の形となり
対象を殺処分とするなら人体を容易く切り裂く刃の鞭にもなる。

【詳細】
超が付くほどの男女差別主義者。
女は家畜のような存在であり、男によって躾られることで初めて人間らしく存在出来ると考えている。
現代社会における女の増長ぶりに憂いており、女に発言権を与えるべきではないと豪語している。
くだらないことで他者にクレームを入れるのは大体女、ポリコレを拗らせてアホな主張をするのも大体女、権利ばかりを求めて、責任を一切負おうとせず他人のせいにするのも大体女。
このまま女をのさばらせると世界がどんどんダメになってしまう。今こそ男がしっかり手綱を握って女を管理する必要がある。
低能な女達を好き放題させないような世の中を作るべきだと考えている。
己が持った力をコントロールしようともせず、欲望のままに振るう囚人共も同等の家畜であり
理性的な人間に従わないなら即刻殺処分すればいいと思っている。


45 : 名無しさん :2025/01/27(月) 23:59:36 .miqcEP20
【名前】銀鈴
【性別】女
【年齢】20
【罪状】人道に対する罪、平和に対する罪
【刑期】死刑
【服役】8年
【外見】長期間服役しておりながら、人形のように美しい。銀糸のような髪に陶磁のような肌、ただし色は青白くなってきている。
【性格】
表向き優雅で雅に振る舞うことを信条としている一方で、人間を同じ種族だと考えていない。
ただし情を持ち合わせていないわけではなく、人間がぎこちなくも喜ぶ様子をかわいいと思う心も持つ。
たとえば投獄前は、家族の誕生月には税金を特別に徴収してその収入で豪華なパーティを開いたり、
家族が欲しいという取り巻きに姉をプレゼントしたり、
興行として市民を二グループに分けて戦争させたり、
戦争に怯える子供のために近くの海峡を通過する隣国の軍艦を沈めたりと、彼女なりに気まぐれな施しを与えることもあった。

【超力】
『檻の中の魔神』
生まれた場所から半径20キロメートルの領域内限定で、誕生日を迎えるたびに自身の肉体を著しく強化する。
一方で領域内の他者の超力を完全無効化し、身体能力を開闢の日以前のものに戻してしまう。
10歳時点での肉体の強化度合いは常軌を逸しており、戦車の砲弾でも傷一つ付かず、素手で軍艦を沈没させ、高度5000メートルを飛ぶ戦闘機を視認して投石で撃墜できるほど。
領域は完全に固定されており、いかなる超力を以っても移動や召喚ができない。

本刑務作業における、この超力の唯一にして最大、そして致命的な欠点は一つ。
彼女が生まれた場所は刑務作業の会場からは数千キロ離れており、天地がひっくり返ってもこの刑務作業に影響を及ぼさないということである。

【詳細】
アビスの最深層に投獄された凶悪犯。
とある小さな島嶼国家にて開闢の日に命を得たネイティブであり、いわゆる第一世代。
未だ死刑が執行されていないのは、超力の研究素材として利用価値を見出されているからである。

富裕階級の両親に、自らを支配する側だと教え込まれてすくすく育った彼女は、
まわりの人間のあまりの脆さに、自身を人間ではなく本当の意味での新人類、つまり人間の上位存在だと確信。
下等な人間から支配権を取り戻すため、その破格の超力で当時の国軍を一掃し、力による恐怖政治を執り行った。
為政者としては無能の一言で、彼女の治世化においてネイティブとオールドの分断は修復不可能なほどに深まり、経済は破壊され、
多くの人間が国外に逃亡するか飢えて命を落としている。

ある日、隣国も支配下におさめようと思い立って身一つで対岸に渡ろうとしたところ、領域を飛び出し海に叩きつけられ捕縛に至った。
一族や取り巻きも全員捕縛され、死刑に加えて名前すら消されている。
奢侈を尽くした彼女の治世はあまりにあっけなく終了した。

彼女は自身の超力がどういう条件下で有効なのかは認識しておらず、
アビスの悪辣な装置で無力化されただけだと思い込み、下等な人間に逆恨みを募らせている。
一応、超力の影響か、無傷で彼女を取り押さえるには新任看守が二人必要な程度には身体能力は高い。


46 : 名無しさん :2025/01/28(火) 00:01:45 shm4/2rY0
【名前】タリク・ンドロヴ
【性別】男
【年齢】41
【罪状】国家転覆罪
【刑期】死刑
【服役】19年
【外見】眼鏡をかけた黒人。黒髪の坊主。沈んだ琥珀色の瞳。やせ型で背が高く手足が長い。
【性格】冷静沈着で非情なリアリスト。頭脳派のつもりだが根っこの部分は感情派。プライドが高く最後の最後は感情で選択する。
【超力】
『弱き者の反抗(ジュイン・ジュヤ・ハリ)』
自分より上位の力を無効化する支配者に反抗する超力。
立場、権力、数、腕力、何であれタリクが自分よりも強者であると認識した相手を無力化する。
ただし自分より賢い人間などいないという自認から知力は該当しない。
【詳細】
西アフリカにある小さな軍事国家の反政府組織。
まともな教育体制のない国だったが、偶然知り合った知識層の男から労働の合間に文字を学び、その後独学で知識を伸ばしていった。
14の時からテロ組織に身を置き政権転覆を目指す。当初はしがないいちテロリストに過ぎなかったが、開闢の日に超力に目覚めたことで状況が一転。
超力の特性から単独で軍を相手取り破竹の快進撃を続け、軍事政権を転覆寸前に追い込んだ。反抗の旗印として祖国の英雄となる。
しかし、政権奪取が目前と言う段階になって仲間の裏切りにあい政府に売られる。格上以外に通用しない超力の弱点を突かれ拘束された。
個人主義で人の心に疎く、人心掌握が苦手。相手を能力が低いと決めつけ見下す癖があり、裏切られたのもこの辺が原因だろう。


47 : 名無しさん :2025/01/28(火) 00:39:36 lUUAs8ns0
【名前】舞古 沙姫(まいこ さき)
【性別】女
【年齢】22
【罪状】殺人未遂罪、傷害罪、住居侵入法違反、凶器準備集合罪、大麻及び覚せい剤取締法違反、現場助勢罪、自殺幇助罪、
殺人罪、死体損壊・遺棄罪、放火罪、強制性交等罪、詐欺罪、強盗致傷罪等における幇助の罪
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】栗毛でツインテールの髪型、童顔で身長は150台前半だが、その割に胸と脚の発育はいい。目は赤眼。
【性格】
人懐こそうな容貌と振る舞いをしているも、本質的には他者から距離を取っていて無関心で在ろうとしている自堕落かつ、労働したくないニートウーマン。超力をニートする為にフル活用してる。 
(当人は「労働したくなんかないのにぃー!!」「労働だけが俺の全てじゃないよ!!」「正しい労働なんてあるものかぁ!!」等と発言していたという)

一人称は「俺」二人称は「お前」「あなた」「あんた」「テメエ」
基本穏やかな話し方だが時たま上記の発言のように語気が荒くなったり口が悪くなったりする。
機械いじりが得意で、ドローンや自立稼働するロボット等を作り仕事内容に役立てていた。

一見ただの外面だけは良いタイプのダメ人間に思われるが、裏では代金等と引き換えに犯罪行為の手助けを直接・或いは自作の機械を通して間接的に行っていた。罪状の諸々はこれによる物。
労働したくない働きたくないニートしてたい等と言いながらも、後記の超力の特性もあって必要があれば自分も出向くタイプ。
そして身体能力は高く、特に日本刀を用いた剣術が大の得意、天性の才を持っている。

直接的に他者を殺す事は絶対にしない(当人曰くストレスがすごい)ものの、自分の援助の結果間接的に他者が死んだり弄ばれたり破滅する分には、どれだけ被害が出ようと何とも思わないし殺さなければOKと考えてる節もある壊れた人間。
しかし罪悪感を胸に秘めてたり、超力の都合もあって心の奥底には孤独感を感じ続けていたり寂しがり屋な所があったりと人間らしさも兼ね備えている。
また当人曰くダブルブッキングはしない主義とのこと。

【超力】
『erkennen Leben(生命の認識)』
常時発動型の超力。
認識阻害により、対象達の知り合いへと自分の名前や姿、状態を誤認させる効果を持つ。
自分から名前を名乗った上で話しかけるor攻撃を相手に仕掛ける場合は、その対象への認識阻害が解除される仕様となっている。
沙姫はこの力を積極的に利用してはいるものの、過去もあってコンプレックス等も多大に抱いている。それもあり奥底ではこの能力を掻い潜り自分を見つけてくれる誰かを求めていた。

【詳細】
犯罪行為が横行する底辺な環境に生まれ暫くをそこで過ごしたせいで、倫理観が狂ってしまった少女。
転機はある時、産みの父と母を殺された後自らの超力により富豪夫妻の娘として誤認された事。自分を娘と思い本来の娘を置いていった夫妻を見て沙姫は自分の超力に恐怖と可能性、そして罪悪感を抱いた。

罪悪感を封じ込めながらも夫妻の娘として生き、超力を以て時々学校をサボったりする中、ある時夫妻を強盗に殺される。自分も死ぬはずだったが超力により誤認され…恐怖に怯えた彼女は強盗を不意打ちしそのまま警察へと通報、結果財産を取られず自分ひとりで独占できる形となった。

その後は中学校卒業後にニートとなる。財産が尽きればまた生を受けた場所に逆戻りになるのではと思い嫌々ながら、極力ニートしつつどうにか生きれる道を探した結果、犯罪行為の援助に行き着いた。
大小様々な犯罪行為の援助を行い続けていたものの1年前、ひとりの警官に自分の存在を看破され対峙する羽目に。
しかし彼が自分を見つけてくれた事に、ずっと感じていた孤独感が拭え、救われたような気持ちになった沙姫は剣術で彼に勝負を挑む…も接戦の末敗北。生涯初の負けだった。

そして少女は警官に惚れてしまい……無抵抗で逮捕され、大人しく自らが犯した罪を全て吐いた上で死刑という結末を受け入れた。
労働に口では文句を散々に言いつつも、大人しく刑務作業に従事していた所を招集された形となる。


48 : 名無しさん :2025/01/28(火) 01:08:57 B4nBX.9w0
【名前】ウィリアム・ウィリス
【性別】男
【年齢】18
【罪状】不動産侵奪罪、横領罪、建造物侵入罪、逮捕剤
【刑期】17年
【服役】二カ月
【外見】
看守らしく鍛え上げられた肉体に、看守らしい覇気を湛えた男性。
この外見は、超力による偽りである。

本来の彼は、のっぺりとして虚無の光を目に湛えた、覇気のない外見をしている。

【性格】
燃え上がる正義を背に、秩序のために身を粉にして働くアツい男。
警官時代からの後輩として、オリガ看守長を誇りに思っている。
囚人たちに紛れるというきつい任務も極めてまじめにこなし、その態度は模範囚そのもの。
この性格は超力による偽りである。

本来の彼は、自己が極めて希薄でありながら、思い込みが非常に激しい。

【超力】
『リアル・ライフ』
憧れに相応しい身体能力を得ることができる。
現在はこの刑務作業に秘密裏に送り込まれた看守という設定。
看守の中に彼の外見や身体能力のモデルがいる可能性がある。

【詳細】
「この刑務作業は社会のゴミどもを合法的に処分するために開催された催しであり、
 犯罪者を娑婆に解き放つつもりは最初からさらさらないのであります。
 本官は、餌に釣られて浮足立った凶悪犯どもに正義の鉄槌を下すため、アビスの執行者としてオリガ看守長直々に送り込まれたのであります。
 正義は必ず勝つ! 社会のゴミに居場所はなし!
 さあ、犯罪者どもよ。裁きに震えて明日を待て……!」
この詳細は超力による偽りである。

本来の彼は、絵画や土地の所有者だと偽って勝手に売却したり、勝手に一般人を逮捕して収監された男。
立派なマンションや美術品を見て、こうなれたらいいなという憧れが暴走。
催眠術にかかったように自己を偽り、まじめに自身が本物の土地の所有者や警察官だと思い込んで、数々の罪を犯した。
情状酌量の声も出たが、被害額の多さに押し切られた形になる。

アビスに投獄されて生粋の凶悪犯に揉まれるうちに、彼らと堂々と渡り合う看守たちへの憧れが再発。
枷が外れて超力が復活した瞬間から性格も外見もそれにふさわしいものへと変化した。


49 : 名無しさん :2025/01/28(火) 01:51:17 wz45q9n.0
【名前】合力健太(ごうりき けんた)
【性別】男
【年齢】32歳
【罪状】道路交通法違反、危険運転致死傷罪
【刑期】15年
【服役】6年
【外見】細く鋭い切れ長の釣り目
    細マッチョな体系で伸ばした髪を後ろで束ねている。
【性格】粗暴で大雑把。
    半面おおらかであり滅多なことではキレたりしない。
【超力】
『人馬(ケンタウルス)』
半人半馬のケンタウルスになる能力。
自らの下半身を生物や無生物と融合させ意のままに操作することができる。
どんなサイズのものとも融合することが可能ではあるが、融合している本人としてはズボンをはいているような感覚であるため、胴体より小さいものと融合すると地獄の苦しみを味わうこととなる。
融合するためには対象の上に座るもしくはまたがる必要があり、生物と融合した場合、融合を解除するとその生物は死亡してしまう。

【詳細】
元建設作業員。
酒乱の気があり、酒に酔った状態で友人の所有するスポーツカーと融合し首都高速道路を時速360kmで大☆爆☆走!
結果10台以上が絡む事故を起こし1人が死亡、約50人が重軽傷を負う大惨事となった。
無類の酒好きだが上記の通り酒乱の気があり、酒を飲むとただでさえ気がでかいのが助長されるほか、無性になにかと融合して走り回りたくなる気質を持つ。


50 : 名無しさん :2025/01/28(火) 20:05:55 h.laJWH20
南沢善志(みなみざわ よしゆき)闇バイトツインライフル

壮馬 誠二(そうま せいじ) 女見下し看守

銀鈴 勘違い支配者

タリク・ンドロヴ 上位の力無効化

舞古 沙姫(まいこ さき) 認識阻害ニート

ウィリアム・ウィリス 自分を看守だと思い込んでいる

合力健太(ごうりき けんた) ケンタウルス


51 : 名無しさん :2025/01/28(火) 20:14:01 UETCONIk0
【名前】呼延 光(フーイェン・グァン)
【性別】男
【年齢】34歳
【罪状】殺人、器物破損、建造物等損壊罪
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】193cmを超える身長に、肩幅広く胸板厚い、スキンヘッドの中国人男性。
【性格】礼儀正しく寡黙な男。物事を理屈で理解できたなら、例えそれが自分に不利益な事で出会っても納得する柔軟性と論理性を持つ、但し許すか否かは別だが。
家族や仲間がとても大切にする。

【超力】
『鉄人(ティエレン)』
骨と筋肉と皮膚を鉄に変える。
常時発動型の能力。鉄の硬度と人体の柔軟さを併せ持ち、更には本来ならば身体が耐えられない様な負荷にも耐えられる為に、身体能力が激増する。
此処に当人の高い中国拳法の功夫が加わり、近接戦闘に於いては無敵を誇る。
なお変化する鉄は純鉄である為に電気を通さない。
超力の為に外見よりも体重が大分重い。


【詳細】
中国黒社会に於いて知らぬ者は無いとすら言われる巨大幇会の凶手(殺し屋)
20の時にある武術門派の掌門(門派のトップ)になる程の武功を身に付け、組織お抱えの凶手の中では最強と謳われ、数多の標的を護衛ごと葬り去って来た。
幇会の凶手を育成する役割も負っている。

『開闢の日』により身に付けた異能により、更なる力を獲得。その力は絶大で、敵対組織を単騎で皆殺しにした事もある。
あまりにも強すぎたが為に、制御が効かなくなる事を恐れられ、幇会に裏切られて謀殺され、海に投げ込まれる。
しかし海中で蘇生。身体を癒した後に幇会を壊滅させた。
当人は自分が謀殺されるにたる存在だと納得していたが、彼の謀殺に際し、抗議した仲間や弟子が皆殺しにされた為に苛烈なまでの報復を行った。
流石に傷つき疲弊して、更に精神的に憔悴しきっていたところを被曝された


52 : 名無しさん :2025/01/28(火) 20:20:16 tylpHLaI0
【名前】シティー・キリマンジャロ
【性別】女
【年齢】18
【罪状】密猟・違法採取・殺人
【刑期】無期懲役
【服役】3年
【外見】小柄だが引き締まった身体の黒人の少女。大きく可愛らしい目とに、堂々とした表情と姿勢が特徴的。
ツイストパーマの髪型で、同郷の孤児たちから贈られたアクセサリーをいくらか着けている。

【性格】男勝りで勝ち気。冷徹なリアリストに見えて、甘いところがあり人並みに悩んだりもする。特に子供には甘い。

【超力】
『Kijicho cha Maisha (キジチョ チャ マイシャ)』
近傍の生命力を探知するレーダー能力。
現役時代は数十kmの探知能力があったが、現在は収監されて長らく使えてないため範囲はかなり鈍って狭くなっている。
生命力の大きさや、それ以外の微細な情報から生物の種類やさらには人物を判別することもできる。
基本的に探知を遮断することは不可能で、物陰の裏に隠れていても筒抜けとなる。


【詳細】
東アフリカで活動していた密猟グループで、若くして最も成果を挙げていた実働部隊のリーダー。
絶滅危惧にも指定されている希少な動物や植物を大量に入手し、裏ルートへ流していた。
超力により、夜でも正確に密猟できるため隠密性が高く取り締まりが非常に困難であった。

銃の腕前も一流で、動物の急所を的確に狙い必要以上に苦しめることはしない。
武装した取締官に応戦したこともあるが、行動手段を奪うことを第一、急所を外すことを第二に考えて殺害することはない。
ただ一度だけ、悪徳な取締官に取り押さえられて強姦されそうになった際にその取締官に抵抗し殺害したことがある。

元は孤児で、稼いだ金は殆どを孤児達へ仕送りしている。
金銭や物資の管理には厳しいが、部隊のメンバーからもよく理解されており仲間意識は高かった。
人間の生活と他の生物とどっちが大事なんだというのが彼女の弁であるが、悪事で稼いでいるという意識自体は抱えていた。
動物の子供を麻酔銃で誘拐する仕事もあり、よく心を傷めていた。
裕福な人間の下でならきっとペットとして豊かに暮らせるはずだって、祈るように自分に言い聞かせ耐えていた。


53 : 名無しさん :2025/01/28(火) 21:12:23 tylpHLaI0
【名前】アラリック・バルデス
【性別】男
【年齢】32
【罪状】様々な不法行為
【刑期】死刑
【服役】5年
【外見】
身長180cm。体を鍛えることを欠かさず、筋肉質。短めのフェードカットの黒髪で眼鏡をかけている。
一人でいるときはよく鋭い目つきで周りをよく観察している。
悪事が成功して成果を確認しても冷たく静かに喜ぶ。

【性格】
冷静沈着で生真面目、取引相手には必ず真摯に対応する男。巧みな話術で他人を取り込む。
身内に対しては、弱さを見せたり明るく振る舞うこともある。

【超力】
『Crono Viajero Siniestro』
タイムリープして過去に戻る能力。念じるだけで記憶を保持して時間を巻き戻すことができる。
能力を鍛えて最も調子が良かった時期は1週間以上もあり、社会的立場を築く為などにもうまく使っていた。
収監され長らく使用できていないため、超力に覚醒した頃と同程度の量に落ち込んでいる。
おそらく数分から十数分程度だろう。


【詳細】
ベネズエラ出身。少年期に家族を失いアメリカの遠い親戚筋に引き取られる。
学業優秀な優等生として期待されて育ち、大学も卒業し大企業の営業職として勤めていた。

彼は不思議と何か大きな事件や事故が起きると、その付近に居合わせる人物として知られていた。
しかし、それらに彼が直接関与したという証拠は何も出てこない。

その本質は事件や事故の瞬間や、他人の不幸を見るのが好きな人格破綻者。
ヒヤリハットで済みそうな事案や小規模な事故・事件を見つけると、超力を使用してタイムリープ。
大規模な事故や事件に発展するように、人や物を偶然を装い動かして下準備を整える演出家である。
故郷の治安の荒れた環境をうまく生き抜いてきたが、平和な社会が面白くなくてこのような犯行を繰り返し起こしていた。
うっかり本性が露見しそうになっても、タイムリープしてやり直せばいい。
仕事や学業や家族との付き合いなどにも、便利に能力を活用していた。

既婚者。元は社会的ステータスのための結婚に過ぎなかったが、なんだかんだ妻子には優しく甘い。
彼らの望みならば、能力を隠れて善行に使ったことも幾度かある。
自分が演出した事故に家族が巻き込まれてしまい、なりふり構わず助けようとした結果逮捕されるに至る。


54 : 名無しさん :2025/01/28(火) 21:24:56 82RQh.wk0
【名前】ジェムソン・クルーガー
【性別】男
【年齢】58
【罪状】殺人、傷害致死、私的制裁、公務執行妨害
【刑期】無期懲役
【服役】10年
【外見】肥満体だが筋肉質の白人男性。たっぷりと髭を蓄えているが、頭は禿げかかっている。
【性格】粗野で横柄。下品な皮肉屋。故郷のことは心から愛している。
【超力】
『Thunder struck』
“衝撃”を付与・行使する能力。
素手や武器に“衝撃”を付与させることで、殴打の破壊力を大幅に向上させる。
また地面に“衝撃”を浸透させることで小規模な地震を発生させたり、触れた物体に“衝撃”を与えて内側から破壊することも出来る。

【詳細】
万人に異能が齎された『開闢の日』以降、各国の犯罪率は格段に跳ね上がった。
千差万別の超力犯罪を前に警察組織も対処しきれず、治安維持のシステムが機能不全に陥った都市も少なくなかった。
そうした都市の一部では、市民による『超力自警団(ネオス・ヴィジランテ)』が自然発生した。

ジェムソン・クルーガーは米国の地方都市・ブレットタウンで自警団のリーダーを務めていた。
本職は工場勤務のベテラン肉体労働者だったが、故郷を守るために自警団を結成した。

彼は高い行動力と容赦のない制裁によって、街で多発する超力犯罪を次々に鎮圧する。
多くの協力者達を集めながら勢力を増していったが、同時に手段も過激化し歯止めが効かなくなっていった。

やがてブレットタウンの警察組織は対超力犯罪のために再編され、街の治安維持能力は大幅に改善する。
警察の機能不全は解消され、以前から活動を続けていた自警団は『非合法的な私刑集団』として摘発の対象となっていく。
しかしジェムソンは自警団の解散を拒否して暴走、過激化した団員達と共に警官の殺害へと至る。
最後は対超力犯罪の特殊部隊によって逮捕され、その後アビスへと投獄された。


55 : 名無しさん :2025/01/28(火) 22:23:18 5Toh9p9I0
【名前】編破 登喜寧(あみは ときや)
【性別】男
【年齢】30
【罪状】殺人
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】188cm95kgの、大柄で引き締まった筋肉質な男。穏やかだが真剣さを抱いた鋭い目をしている。
清潔感のあるややウェーブのかかった黒い長髪だが、犯行の最中は髪も乱れ顔の影が濃くなり軽薄な笑みを浮かべる。

【性格】優しく穏やかで、紳士的な人格者。一人一人にしっかり向き合う。探究心豊富。
一方でターゲットをいたぶる時は尊大で下衆な態度になり、逆に自分が追い詰められると現実を信じられず情けなくなる。


【超力】
『逝斗性拳(いくとせいけん)』
相手を性的対象だと認知すると発動する。
ターゲットを至高の快楽とともに爆発死させるための身体のツボを、本能により知覚することができる。
数個突けば相手はもう抵抗不可能となり、その後はどのように快楽を与えるか、どのように破裂させるかの実験台とされてしまう。
身体能力も強化されツボを突くための精密な動作が可能となる。
相手が性的対象でなかった場合は本能が刺激されないので、超力も不発となってしまう。


【詳細】
本業はそれなりに腕の利く医師。
しかし裏の顔は、自分の性欲と探究心のために数多くのターゲットを誘拐し絶頂とともに爆発死させてきた快楽殺人者。
自己顕示欲により同好の士のためとビデオを撮影しダークウェブで共有していたりもした。

子供の頃より基礎から拳法を学んでおり身体能力はかなり高く、ターゲットからの抵抗にも対応できる力がある。
闘気によって直接触れずともツボを突く術を習得しようと、逮捕の直前まで多数の犠牲者を出して努力していた。

性的対象は若くて可愛げがあればなんでも。
男女問わないどころか人間以外でもいける。
性的快楽に縁のなさそうな色々な生物を絶頂させるのもそれはそれで探究心が煽られて楽しいらしい。


56 : 名無しさん :2025/01/29(水) 00:02:44 xGbqfHr20
【名前】ドン・エルグランド
【性別】男
【年齢】65歳
【罪状】海賊罪
【刑期】80年
【服役】11年
【外見】2m近い筋骨隆々な海の男、白髪交じりの薄い頭。片目を失い眼帯をしていたが刑務所ないでは没収されている
【性格】豪放磊落な豪傑で細かいことは気にしない。好敵手を好むが自分を嘗める相手だけは許さない。
【超力】
『嵐を呼ぶ男(ワイルドハント)』
雨と暴風を操り嵐を呼ぶ超力。
気候を操作する大規模超力だが、自然現象を操るだけなので発生した嵐が必ずしもドンに有利に働く訳ではない。
影響範囲は自身を中心として半径50mほど、雨風は中心に行くほど強くなる。
つまりドンは常に一番強い嵐にさらされることになるが、常人なら立っていられない程の嵐の中で大海賊は平然と笑っている。
【詳細】
カリブ海を拠点とする大海賊。海賊船「エルグランド」の船長。船名からドン・エルグランドと呼ばれている。
漫画や映画に存在するいい海賊、などと言うことは全くなく殺人、強奪、強姦と言った略奪行為を一切の躊躇いなく繰り返してきた。
部下には寛容で自分に従う者にはその忠誠に見合う褒美を与えるが、その反面、裏切りを嫌い裏切り者には惨たらしい死を与えるのが信条。
酒と女を何より好む豪放磊落な性格で、奪った金品は即座に使い切ってはまた新しい略奪に向かう。刹那的な快楽主義者で後先を考えない所がある。
それが原因で窮地に陥ることも多く、これまでは豪快に笑って切り抜けてきたが、いつものように船を襲った所、それが政府船だったらしく超力を駆使する海上警察に船ごと破壊されとうとう捕らえられた。


57 : 名無しさん :2025/01/29(水) 00:34:15 RPNEwBqM0
【名前】アのウ・ケのイ・ラのア・ンのオ
【性別】男性・男性・女性・男性
【年齢】15・67・115・8
【罪状】放火・窃盗・結婚詐欺・殺人
【刑期】8+2+6+28=44年
【服役】6年
【外見】病的に痩せた青年・巌の巨躯を持つ初老の男・華やかな美女・四肢を欠損し這い回る少年
【性格】神経質・鷹揚・卑劣・無垢
【超力】
『メンタリズム・パラダイム』
ネイティブ。人格の分裂。
分裂した人格が表に出ると肉体と超力が変わる。
人格の数だけ超力が存在していた為一つ一つの本来の能力値は低く、人格が絞られた事で強化されていったと思われる。
特筆すべきは人格が自称する年齢によりオールド・ネイティブ判定が(機器測定でも)分かれている点。
残存しているのは発火・音速移動・不老不死。
発火=ネイティブ。制御不能。感情が高ぶると全身から熱風と爆炎が立ち上る。自分の身体と服は燃えない。
音速移動=オールド。任意発動可能。マッハを超える肉体・思考速度を自在に使いこなせる。
不老不死=オールド。常時発動。意識が断絶しない限り20代前半の万全な肉体に即時復元する。
【詳細】
特異な超力を生まれ持った為に生後すぐに病院を脱走した戸籍を持たない犯罪者。
超力により精神が50音×5の人格に分割されており、主導権を争い200以上の精神の座が淘汰され4つの人格に絞られた時点で精神が安定したという。
表出した人格により肉体と超力が変化する事が捜査を難航させ収監を遅らせた。
残念ながら4人格は全て犯罪者であり精神系超力過誤免罪法をもってしてもこの超力社会に生まれた被害者とも言える彼らへの特赦は認められなかった。
消えた人格の数だけ教会寺社を燃やす、発火能力を持つ青年。
武人めいた物腰と風貌ながら万引きに没頭する音速の健脚老人。
不老不滅の衰えぬ美貌で数多の男を奈落に突き落とす美女。
狭い窓や通風口から家屋に侵入し口に咥えた包丁で30人以上を殺害した超力のない幼い劣等種。
彼らの罪は超力の罪であり本来の彼が生きるべき人生を正しく導けなかった事は遺憾である。


58 : 名無しさん :2025/01/29(水) 07:44:31 bxD9Xd3Y0
>>51のテンプレの誤字その他をwikiで修正しました


59 : 名無しさん :2025/01/29(水) 10:17:13 xWOO.Gs.0
【名前】山田 一郎(ヤマダ イチロウ)
【性別】男
【年齢】49
【罪状】自殺幇助
【刑期】10年
【服役】1年
【外見】中肉中背、眼鏡にバーコードハゲ
【性格】真面目で勤勉で我慢強い、だが奴はキレた
【超力】
『これが私の生きる道(DOGEZA)』
自らの要求を通す超力。
要求を求める際のお辞儀の角度によって効力が変わり、最終形態である土下座ともなればどんな願いであろうと聞き届けない者はいないだろう。
特に謝罪系と相性がよく、謝罪の場合は角度が甘くとも大概は許してしまう。
【詳細】
日本のしがないサラリーマン。
開闢の日以前からブラック企業で社畜として働いてきた。
しかし結婚20年目にして愛想をつかした妻に別れを告げられ、妻と子が出て行き。
いつもの如くパワハラを繰り返す上司に我慢の限界を迎え、土下座でお願いして自殺させた。


60 : 名無しさん :2025/01/29(水) 18:26:42 bxD9Xd3Y0
【名前】ドミニカ・マリノフスキ
【性別】女
【年齢】18
【罪状】殺人・建造物損壊罪
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】172cm 74kg 楚々とした佇まいの修道女。
【性格】
物静かで信仰心の篤い慈愛に満ちた敬虔なクリスチャン。宗派はカトリック。正しくなければ生きるに値しないという信念を持っている
趣味は祈りと瞑想。
顔で食っていけるレベルに美人でかつ美声である為に、人に話を聞いて貰いやすい。
【超力】
『限りなき願いを以って 魔女に与える鉄槌を(マレウス・マレフィカールム)』

全身から球形の重力場を生成する超力。発生させた重力場を飛ばす事は出来るが、身体から離れた場所へ重力場を発生させる事は出来ない。
重力場の大きさは直径5cm〜30mまで。飛ばせる距離は50mが限度。
この重力場に触れたものは、球形の重力場の中央へと落ちていく。
触れただけでも触れた部分が千切れて『落ちる』為に、完全に回避しなければ傷を負う。
重力の強さは任意で決められるが、重力場の大きさと重力の強さは反比例し、重力場を大きくすると発生させられる重力は弱くなる。
物質に中心に重力場を発生させる事で、分子間結合密度を上げる事で、質量と重量を増すという使い方が可能。
自身に作用する重力の強さを決める事も出来る為、重力場の中心に居て、周囲のものを引き寄せる事や、離れた場所に中心点を設定し、そこに向かって『落ちる』事で高速移動を行なう事が出来る。
割と応用性の高い能力。




【詳細】

信仰心の篤い両親の間に産まれたドミニカは、物心ついた頃から信仰心が篤く、神に使える生涯を送る事を12歳の時に決めていた。
幼少期から他者の為に役立とうと、徹底的に心身を鍛え、弁論術を身につけ、知識を蓄えた。
慈善活動にも熱心に取り組み、両親や周囲から称賛され、信仰心を讃えられたドミニカだが、一つだけ悩みが有った。
自身の超力が明らかに破壊や殺人にしか使えないという事である。

懊悩するドミニカだが、15の時に神の声を聴く。
【お前の力は、世に蔓延る悪や神の敵を殲滅する為に有るのだ】と。
神の啓示を受けたドミニカは、早速行動を開始、誰彼構わず難癖をつけては暴言や暴行を働く男を超力で殺害する。
男が何度も何度も警察の厄介になっていた事も有り、警察はマトモに捜査を行わず、近隣住民は男が死んだ事を感謝した。
この事がドミニカに、おのれが持って生まれた超力が、この世に蔓延る悪を打つ為の神意の具現だと思い込ませ、ドミニカは更に悪を人知れず殺していった。
そして目につく悪を粗方殺し終えた頃、今までに殺して来たどんな悪をも上回る悪がドミニカの前にも現れた。

折りしも『開闢の日』以降、世界の宗教は激動の時を迎えていた。
如何なる宗教の教えにも無い種の革新。万人が得た超力。
混迷を深める世界に於いて、既存の宗教もまた困惑し、世界の変化に対応出来ず、その権威を落としていった。
既存宗教の衰退に追い討ちをかけたのが、『開闢の日』以降、雨後の筍の様に乱立した新興宗教群だった。
変革後の世界と、変革の原因とを、教義に取り込んだ新興宗教群、通称『ヤマオリ・カルト』は、瞬く間に勢力を伸ばし、既存の宗教を脅かしていった。 
ドミニカは住んでいる場所の近くに拠点を構えた『ヤマオリ・カルト』の一つを討つべき悪と定め、単身襲撃を掛け、多数の一般信徒及び教主以下幹部連を皆殺しにする。
殺戮の最中に、信徒からの通報を受けた警官隊が駆け付け、投降を呼びかけると、素直に降伏。今までの殺人を全て自供して死刑判決を受けた。
当人としては、討つべき悪で溢れ返っている刑務所へ行くのは望ましい事だったのだが、『アビス』では能力と思想の危険性から、独房に閉じ込められてしまった。



事実としてこの『ヤマオリ・カルト』は、人類に更なる進化を齎すという名目で、自分達で作成したウィルスを散布しようとしていたのだった。
そして当然の事ながらこのウィルスには人類を進化させる事など出来ず、ウィルス感染による大量死を引き起こすだけだった。
結果としてドミニカは世界を救った事になる。


なおドミニカが聞いた神の声は何だったのか、未だに不明である。


61 : 名無しさん :2025/01/29(水) 20:29:45 bxD9Xd3Y0
【名前】 兜 美那(かぶと みな)
【性別】女
【年齢】18
【罪状】殺人 傷害 器物破損
【刑期】20年
【服役】2年
【外見】145cm 39kg 肩まで伸ばした髪の可愛らしい顔立ち。体付きは細く、小学生に見える。
【性格】善良で陽気で朗らか、真面目な性格で努力家。超力によるストレスで大分参っている。
【超力】
『邪悪なるものの夜(ナイト・オブ・ジ・イーヴィル)』

夜間限定で、素手で鉄筋コンクリート製の建物を解体できるレベルに身体能力を向上させ、4普通乗用車をを軽々宙に舞わせる念動力や、飛行能力を獲得させる。
更には銃弾で蜂の巣にされても短期間で傷が癒える再生能力や、高い感知能力を持つ。
なおこの超力を使うと、激しく体力を消耗し、回復する為には生き血を飲む必要が有る。
要は夜間に吸血鬼となる超力
然してこの超力の欠陥は生き血を求める事には無く。 
夜間になると現れる、吸血鬼としての超力を行使する人格『ミナ』こそが最大の問題。
美那と同じで陽気で朗らかだが、同時に残虐狡猾で徹底して無慙無愧。人をスナック菓子を食う感覚で殺しては生き血を啜る極悪非道。
そして美那は『ミナ』とは相互に意思の疎通出来るが、互いの行動を全く制御出来ない。

ちなみにこの超力。『ミナ』込みで一つの超力である。

【詳細】
元は夢遊病と思われていた少女。実際には超力の発動が原因。
夜間に限り、父親が抑えるのに苦労する怪力を発揮する超力と思われていた。
成長するに従って、超力もまた成長し、美那の夢遊病は段々と酷くなっていき、身体能力も向上するが、大きな問題になる事は無かった。
中学生のころには『ミナ』を認識、互いに意思の疎通を行うが、あまりにも価値観や考え方が違う為に、疎遠なまま過ごす。この時は『ミナ』の存在は安定せず、それ程表に出てくる事は無かった。
転機を迎えたのは、16歳の夏。
夜に外を徘徊していた『ミナ』は、当時出没していた変質者に遭遇。
幼女にしか興奮しない異常性愛者に襲われるものの、『ミナ』に当然の様に殺害され、『ミナ』は血を啜ってしまう。
血を啜った事により、『ミナ』が完全に自己の存在を確立。夜間になると肉体の支配権を握り、吸血鬼としての能力と性状を恣に発揮する様になる。
『ミナ』の凶悪無惨な振る舞いに、心底怯えた美那は、警察に出頭し、能力を制御できていない為に、アビス送りとなった。


62 : 名無しさん :2025/01/29(水) 20:44:45 xoPAorfk0
【名前】マリーナ・"ロハブラソ"・ナバハ
【性別】女
【年齢】13
【罪状】殺人、拷問、誘拐
【刑期】死刑
【服役】1ヶ月
【外見】
褐色肌に褐色のつり目、青黒いミディアムロングの髪に緑色のラインを入れて染めている。
左腕の先が義手となっており、焼きごてやスタンガンの機能を内蔵する。殺傷能力自体はそう高くないので没収されてはいない。
左の二の腕と背中に赤のタトゥーが入っている。

【性格】
加虐心に溢れ、言葉での罵りや脅し、煽りに長けている。
いわゆる日本のネット文化におけるメスガキを外道にしたような性格。

【超力】
『ドミニオ・オスクロ・デ・ラ・ビタリダ(生命力の闇の支配者)』
自分や触れた対象の生命力の操作。非常に応用が効く。
自分の周りに放出する生命力を消して、他人から察知困難にして隠密や誘拐に用いた。
他者に触れることで生命力を奪取し、相手はほぼ抵抗不可能になり超力も虚弱化してしまう。
拷問の際は生命と思考能力の維持に必要な部位の生命力だけ残すように操作し、被害者は意識明瞭なまま許可されるまで死ぬこともできずに苦痛を受ける。

【詳細】
ラテンアメリカ諸国は犯罪組織による強力な超力持ちの引き抜きや抗争が相次いで、混迷が続いており治安が安定した国はわずかとなっている。
個人個人がより強い武力を持つようになり、小競り合い程度の抗争も時に大きな被害を出すようになる。

強権政治と犯罪組織の合間に生まれた難民の孤児の出。
幼く厳しい環境に置かれながらも好奇心、加虐性、残虐性が目立っていた。
超力も将来性が見込まれたため、人身売買に回されず新興の犯罪組織の見習いとしてメンバーの養子に引き取られる。
超力を上手く活かせる環境で鍛えていった彼女は、誘拐や拷問の担当として頭角を現していくことになる。
左腕を抗争で失った後に義手を調達して、どこでもいろんな拷問ができるようになった。メカメスガキ。

犬好き。優しく触れ合ってじゃれ合いたい。雄犬に対しての性的な興味があったりもする。
しかし逆に犬からは好かれにくく、逃げられたり吠えられたり噛まれたりしては泣いている。


63 : 名無しさん :2025/01/29(水) 22:18:52 .LeJ03MQ0
【名前】恵波 流都(えぼ りゅうと)
【性別】男
【年齢】48
【罪状】国家転覆罪
【刑期】死刑
【服役】3年
【外見】人当たりの良い風貌、帽子とメガネを着用している。
【性格】飄々とした気作な振る舞い、若者達の悩みの相談によく乗っており面倒見が良い。口癖は『チャオ♪』
【超力】
『トランス・ビルド』
その手で触れた対象を、別の姿へと作り変える能力。
対象の生死は問わず、死体を別人の姿に変化させることで様々な事件の真実を歪めさせた。

『ブラッドストーク』
トランス・ビルドによって自らの姿を、戦闘用に作り変えた形態。
血の様な赤いワインレッドのカラーをイメージしたダークヒーロー風の容姿。
声帯も変化しており、この姿の時は声も別人となっている。
スーツを着ているように見えるが、硬質化した肉体であり金属製ではなく皮膚である。
戦闘能力の向上だけでなく、体内で毒を精製する体質にもなっており
腕から伸ばした触手で突き刺すことで、毒を注入し殺害することも出来る。

【詳細】
喫茶店la fine(ラフィーネ)を経営するマスター。
明るい人柄で困っている人達の相談にも応じ、周囲からの評判も良いナイスミドルな中年男性。
唯一の短所は致命的にコーヒーがまずいのにも関わらず客達によく勧めて飲ませてくる所。
というのは表向きの顔で、裏の顔は超力犯罪組織の幹部。
悪魔とも呼ぶべき邪悪な本性を持ち、世界に混沌を広げるべく
迷えるネイティブ達を悪の道へと導き、能力で事件を偽装して真相を闇に隠し
そして苦悩するヒーロー達の理解者である振りをしながら嘲笑ってきた。
破壊と混沌を目的とする彼は組織の存続など眼中に無く、暗躍する彼を危険視した幹部達すら謀殺してきた。
愉悦対象の玩具と侮ってきたヒーロー達によって最後は敗北し、アビスに収容された。
余談だが、カツラを被っている刑事からはよく『エボルト』と名前を言い間違えられていた。


64 : 名無しさん :2025/01/29(水) 23:09:14 tHVvcoZU0
【名前】セレナ・ラグルス
【性別】女
【年齢】13
【罪状】窃盗・過失傷害・器物損壊・放火・往来妨害
【刑期】12年
【服役】0年
【外見】薄い褐色の毛皮に覆われたウサギの獣人と言った外観の少女。パッチリした目、もっちりした柔らかい頬、たまに見える前歯が可愛らしい。
長い耳はふだんロップイヤーのように垂れていて、濃い褐色の髪をポニーテールにしている。首回りや尻尾に特に毛が多くもこもこしている。
身体は成長しきっておらず小柄だが、運動能力は高く小回りも利く。
流れ星のようなアクセサリーを着けている。

【性格】明るいムードメーカーでトラブルメーカー的な存在。協調性があり柔軟。やや自分に自身がない面があるが、やるときはやる。

【超力】
『彗星ノウサギ(リエブレ・コメタリア)』
常時発動型。ウサギの獣人の姿となる能力。
ウサギらしく身体能力が向上し、聴力、脚力を特に大きく強化する。聴覚に集中すると耳が立つ。
ウサギなので素早い割に移動時の音が非常に静かで、音での察知が困難。
ちなみにこの能力の影響により、食事は植物性のものしか受け付けなくなっている。

【詳細】
「開闢の日」の後には、犯罪組織のあり方も大きく変わる。
例えば個人個人のバラエティに富んだ能力に目をつけて、人身売買がさらに横行することになった。
中でも動物や獣人に変化するタイプの能力者は、愛玩用以外に毛皮や肉を採取するという残酷な用途で富裕層から需要があった。

南米ベネズエラ、「開闢の日」より20年を経ても治安はさらに荒れて混迷を極めていた。
そんな中でもウサギ獣人姿の一人の少女が、超力による優れた行動能力を活かし町中の人の雑用の仕事などをこなして可愛がられていた。

しかしそんな日々は続かず、ある時彼女は犯罪組織により誘拐されて人身売買市場に流されてしまう。
同じ獣化系の能力を持つ子供とともに買われて、何処かの檻に閉じ込められるに至った。
閉じ込められ枷も付けられるものの、食糧事情は非常に良く何でも食べられ娯楽もある不思議な環境だった。
しかしながら日を経るごとに仲間は次々と連れて行かれ、二度と帰ってこない。
そしてある日、仲間が解体され毛皮と肉にされる姿を偶然見てしまい逃走を決意するに至る。

前歯で地道に削り拘束や鍵を破壊、地元では誰にも負けなかった足の速さや跳躍力を活かして逃走を試みる。
その中で逃走に関しての天性のスキルが完全に花開き、知らない町中においても様々な障害を逆に利用して逃走を成功させた。
しかし一方で死者こそいないものの、大量の事件事故を引き起こし多額の損害を出してしまったため後に逮捕される。
自由に生きたいとか、また家族に会いたいとか、一緒に人身売買で売られていて会話を交わした仲間たちが心配だとかそういう後悔はあるが自分は力不足だと思っている。
でも外道な奴らの食糧として解体される心配ももうないし、ムショでも我慢して刑期満了までに身体鍛えようとか現実を受け入れ始めた頃に刑務作業が始まった。


65 : 名無しさん :2025/01/29(水) 23:24:01 ijmIF1VY0
【名前】松木田 康成(まつきだ やすなり)
【性別】男性
【年齢】83
【罪状】生物兵器等製造罪
【刑期】27年
【服役】26年10カ月
【外見】年相応に痩せこけてはいるが、常に笑顔を絶やさない。
【性格】
誰にでも飄々とした態度を取る好々爺。エロ爺。
重圧に動じない胆力を持ち、大義のための犠牲者を選ぶこともできる。
一方で自分がその犠牲に選ばれようものなら、それはそれ・これはこれの精神で反発する図太い性格。

【超力】
『厄のパス回し(ボム・ルーレット)』
周囲に自分を含めて三人以上いる場合に、任意のひとりの身体状態を誰かひとりに押し付けることができる。
誰に押し付けるかは康成自身にも分からず、完全にランダムである。
ここでいう身体状態とは外傷に限らず、病や老化による肉体の衰えなども含まれる。

【詳細】
人間をゾンビに変えてしまうウイルスを秘密裏に開発させていたことが発覚し、その責を負って収監された元政治家。
似たような立場の人間も複数人いたのだが、水面下での政争に敗れて主犯とされた。
清も濁も併せ持っての政治家だという信条を掲げてはいたものの、いざ自分に全責任が降りかかってきた時にはさすがに入院を考えたらしい。

彼が収監された日以来、各国は荒れに荒れて世界人口は大きく減少した。
その中で彼の祖国はいち早く秩序を回復しており、一人勝ちともいえる大きな発展を遂げている。
そのような筋書きを立てた男ではないかとウワサされ、国外には彼を恨んでいるオールドも多い。
そんな大衆からの強い怨嗟の眼差しを平気で受け流し、美人看守の尻を観察することが日課のエロ爺と化している。


66 : 名無しさん :2025/01/30(木) 00:06:16 vE.x9Qmg0
【名前】ネイ・ローマン
【性別】男
【年齢】19
【罪状】殺人罪、暴行罪、窃盗罪
【刑期】15年
【服役】直後
【外見】刃のように鋭い目。褐色の肌。ウルフカットの白髪。頬に傷。
【性格】常に自由であることを掲げ他者に縛られ強制されることを嫌う。攻撃的で口が悪い。だが所々妙な教養を感じさせる
【超力】
『破壊の衝動(Sons of Liberty)』
破壊衝動を攻撃としてぶつける、ただそれだけの力。
だが、その威力は凄まじく家屋を容易く吹き飛ばし、衝動が高まれば小さなビル程度ならば消し飛ばせる。
『ネイティブ世代』は超力を操るのではなく、超力と感覚が直結しているが、ネイはその傾向が特に強く感情がそのまま破壊へと変換されてる。
破壊力はネイの強い破壊衝動に比例し、そこに含まれる殺意や敵意によってその質を変える。
ストレスが高まるとより広範囲に、敵意が高まるとより遠くまで届くよう射程が伸びる。
殺意が高まると破壊力が一点に凝縮され、分厚い鉄壁すらも穿つ貫通性を持つようになる。
【詳細】
身寄りのないストリートチルドレンを中心としたギャング『アイアンハート』のリーダー。
超力を当然とするネイティブ世代で構成されたギャングは下手なマフィアよりも厄介とされており警察では手の付けられない勢力と化していた。
『アイアン』はクスリだけには関わらないと言う鉄の掟を敷いていており、薬物をばら撒くマフィアと敵対しており2つのマフィアを壊滅させている。そしてその元締めであるルーサー・キング(>>37)の命を狙っている。
同じストリートギャングである『イースターズ』とは縄張りを争う敵対関係にあり、特に薬物に溺れるスプリング・ローズ(>>30)とは相いれない。

元々ローマン家は一帯を支配していた上流階級だったが、開闢の日、力に目覚めた労働者たちからクーデターにあって立場を追われる。
その時すでに妊娠しいた母は身重のまま家を追われ、彼が生まれた時には既に家庭は没落していた。
その後、両親は薬物に溺れて死亡。身寄りもなくなったネイはストリートチルドレンに落ちた。
その生まれからか、彼の中には常に世に対する強い怒りと憎しみがある。


67 : 名無しさん :2025/01/30(木) 01:28:31 ybJAQvvw0
【名前】ロバート・アイゲウス
【性別】男
【年齢】23
【罪状】詐欺罪
【刑期】20年
【服役】1年
【外見】茶色の天然パーマに黒縁の伊達メガネ。いつも猫背で眠たそうにしている。
【性格】気だるげで無気力。しかし何事もそつなくこなし、いつの間にか他の一歩も二歩も先を進んでいるような男。

【超力】
『喪に服す夜の帳(ブラック・キャンバス)』
黒い布を手元に出現させ、それを自在に操る能力。
破損しても即座に修復可能だが、出せるのは常に一枚のみ。
形状は正方形でサイズは可変であり、材質は光を透さないほど厚く、そして妙に肌触りが良い。

この布で非生物を完全に包むと、その物はロバート以外の人間から存在を認識できなくなる。
認識できないだけで存在はしているため、例えば気付かずに踏みつぶしてしまい、中身が破損する、ということはあり得る。

この布で生物を包んでも何も起こらないが、ロバートがこの布を身に纏った場合のみ「喪服形態」となり、
他者から認識されなくなる効果に加えて、「ロバートはすでに死んでいる」という認識を他者に与える。
これにより「認識されなくなる能力」の弱点である無差別攻撃を抑制することが出来る。

【詳細】
『開闢の日』前後の混乱の中で両親を失い、孤児院で育った。
その経験からか情熱や良心というものを持っておらず、物事を全て合理でしか判断できない。
成人後も孤児院の一室を間借りし、在宅のエンジニアとして得た収入を孤児院の運営に充てる生活を送っていた。
健康状態を維持するために身体を鍛えながらも、同じく健康状態を損なうとして肉体労働やスポーツを嫌っている。

その正体は、少ない労力で最大の成果を得られるという理由からネット上で詐欺行為を行っていたサイバー犯罪者。
被害者が被害にあったことに気付かないことを理想とし、複数の富裕層から少額ずつしか騙し取らなかった。
その間、実に12年。つまりロバートは10歳のころから上記の犯罪行為を続けていたこととなる。
当局はその実態を捕捉した後も、小規模かつ分散された犯行の全貌を掴むことは出来なかった。
ロバートの逮捕後、孤児院へ寄付を行っていた複数の企業や資産家が相次いで支援を打ち切っており、当局は関連を調べている。

犯罪歴そのものにはアビスへ収監されるほどの凶悪性は無いが、「他者に存在を認識されなくなる能力」と、
良心を持たず社会に馴染めない精神性を危ぶまれ、看守長オリガ・ヴァイスマンの監視下に置かれることとなる。
ロバートの「認識されなくなる能力」に対し、看守長オリガの「監視下に置く能力」は天敵である。


68 : 名無しさん :2025/01/30(木) 13:26:31 nwl5ohqU0
【名前】野田 紳助(のだ しんすけ)
【性別】男
【年齢】5
【罪状】幼児変態罪(でっちあげ)
【刑期】死刑
【服役】2ヶ月
【外見】デレっとしまりのない丸顔
【性格】美人に弱く、露出癖ありの変態
細かいことは気にしない能天気な性格
【超力】
『インビジブル』
透明になれる。
身に着けているものや触れているものも透明化できるが、どこまで透明化させるかは自分の身体含め任意に選べる。
【詳細】
5歳という幼い年齢でありながら見目麗しい女性に対する執着が凄まじいスケベボーイ。
生まれた時から身に着けている超力を駆使し、好みの女性のスカートを覗いたりお尻を触ったりというセクハラ行為を繰り返し、アビスに送り込まれた。

…というのは表向きの理由で、「幼児変態罪」などという罪状は存在しないでっちあげである。
実際は、透明化能力で散歩しているときに、知ってはまずいなんらかの秘密を知ってしまい、口封じの為にでっちあげの罪で逮捕され、処刑される身となっている。
なお、でっちあげの罪ではあるが、上記のセクハラ行為は実際に行っているためまるっきり冤罪とは言い切れず、成長してからもこの性格が改善されていなければアビス行きや死刑にはならないにしてもどっちみちわいせつ罪で捕まっていたと思われる。
死刑を待つ身でありながらそんなことお構いなしに、美人の看守官や犯罪者にセクハラ行為をしている。


69 : 名無しさん :2025/01/30(木) 18:46:01 GhplP.lw0
【名前】ブランシュ・クーランド
【性別】女
【年齢】22
【罪状】建造物破壊、脅迫、傷害
【刑期】60年
【服役】半年
【外見】
輝くような淡い金髪、緑色の目をした白人女性。彫刻のような美形。

【性格】
心優しく共感性が高く、弱者のことを思いやれる性格。一方で自分の持つ正義感のためならいくらでも心を鬼にする覚悟を持っている。

【超力】
『グレイシャル・イージス(氷雪の保護者)』
自身の身体を寒冷地に適応したホッキョクグマに変身させる能力。
手の肉球には氷山のような模様があり、此処から力を放出して氷塊を周囲に作り出せる異能を行使できる。
感情を爆発させると数十mクラスの氷塊も作成可能だが、その分疲労も大きい。

【詳細】
人類全体が超力に覚醒したことにより、人類が環境に放出する熱源の量が増加し地球温暖化が予想以上に進行するようになった。
北極圏の海氷や氷河の減少速度は増し、海底や凍土の下の資源開発も始まろうとしていた。

ホッキョクグマになる超力を持つ彼女は、幼少時からホッキョクグマに関する絵本や動画を見て良く感情移入していた。
そして悪化していく北極圏の惨状を見るに堪えず、移住して環境保護活動をしながらホッキョクグマとして暮らす決意をする。
最初こそ異能頼りで不器用だったが、やがて熊としての生活に適応し野生の雄熊と番になり子供を生み育てたりもした。
そして資源調査のための調査団を発見すると、開発をやめさせるため異能を用いて撃退するようになる。
砕氷船や、建設中の採掘プラットフォームを破壊したこともある。
一方で話のわかりそうな環境保護団体の人間やマナーのいい写真家、虐げられている先住民族などには人間として話して対応することもあった。
仲良くなった相手とは、収監されてからも良く文通を行っている。

他の収監者に関しては基本的に、暴力的に超力を濫用して地球温暖化に貢献してきたクズどもだという印象。
冷気に関する能力持ちは上手く仲間にしたいけど、それ以外は死ねばいいとか思ってる。


70 : 名無しさん :2025/01/30(木) 18:51:03 I2N.XZjY0
【名前】西野 光(にしの ひかる)
【性別】女
【年齢】112歳
【罪状】当局が把握しただけで八十七件の殺人
【刑期】死刑
【服役】三週間
【外見】178cm 80kg 告発黒瞳白皙の肌の美女。それも“絶世の”と付く。外見年齢はニ十代後半。
【性格】自分が世界一美しいと思っている傲慢冷酷な女。他者を自分の為に使い潰す事に一切の躊躇いが無い。口調や所作が年寄り染みている。
【超力】
『夜の子供達(チルドレン・オブ・ザ・ナイト)』
自身の影、或いは闇から影もしくは闇で出来た狼や蝙蝠を出現させる。
狼の最大で出せる数は五頭まで、数と大きさ強さは反比例し、和が多い程に小さく弱くなる。
更に影や闇が濃いほどに狼の強さ大きさは増していく。
昼間に己の影から五頭出した時が最小最弱だが、この場合でも大型犬並の大きさと身体能力を持ち、疲労も痛みも感じず、連携して襲い掛かって来る為に、ネイティブでも戦闘向きの超力を持たなければ対応は不可能。
夜の闇で一頭だけ出すものが最大最強で、シベリアタイガークラスの大きさと身体能力になる。
当然の事ながら数を出す程に疲労は増していく。
蝙蝠はさほどの疲労も無く、一度に数十匹を出せる。疲労するが数百体まで同時に出せる。頑張れば千の大台を超える数も可能。
蝙蝠の戦闘能力は極めて低く、どんな条件で出しても現実相応の蝙蝠に劣るものしか出せない。
攻撃手段は噛み付いて血を吸うというもの、狂犬病などは当然だが媒介しない。
但し、この蝙蝠噛まれた時の痛みは、場慣れした大の男が泣き叫ぶ程のものであり、それが数十匹同時に牙を突き立てれば、殆どの人間はショック死する

西野光は、蝙蝠に生命溢れる血を吸わせる事で若さを取り戻し、保てるのだと信じている。
これを只の思い込みと一蹴する事はできない。何故なら西野光は現に若返ったのだから。

【詳細】
生まれ持った絶世の美貌で、多くの男を従え、欲しいものは全て貢がせ、気に入らない者を排除させて来た女。
栄光と栄華を恣にし、贅を尽くした人生を送っていた……。若い間は。
加齢とともに美貌が衰え、男達が手のひらクルーすると、金遣いの荒さを抑える事ができずに即座に破滅。
その後は細々と貧しい生活を送る。
そして迎えた『開闢の日』。獲得した超力を用いて、憂さ晴らしに偶々目に着いた美女を蝙蝠に湯を吸わせて殺害してみたところ、若返った様な感触を得る。
狂喜のままに殺人を繰り返し、気が付けば十代後半の肉体と、往年よりも更に美しい容貌を獲得していた。
だがしかし、この若さと美貌は人の生き血有ってこそ。生き血を摂取しないと一週間程で老化が始まってしまう。
狂喜は狂怖へと変わり、やがて狂気のままに人を殺し、血を奪うバケモノが誕生した。

『アビス』に収監されて三週間経過した時点で、肉体年齢が10年ほど老いてしまった為に焦りまくっっており、速やかに誰かを殺さなければならないと思っている。


71 : 名無しさん :2025/01/30(木) 18:56:48 ebdOgsQM0
【名前】獄門 苦楽(ゴクモン クラク)
【性別】男
【年齢】52
【罪状】殺人、傷害、恐喝、詐欺、武器密売
【刑期】無期懲役
【服役】5年
【外見】角刈りで強面。昭和のヤクザ映画を彷彿とさせる風貌。
【性格】残忍かつ非道、狡猾。金のために弱者を踏み躙ることを厭わない。身内にだけは義理堅い。極度のマゾヒスト。
【超力】
『苦悶獄楽(クモンゴクラク)』
あらゆる傷や苦痛を吸収して無効化、そして快感へと自動変換する。
如何なる攻撃を受けようとも、そのすべてが悦びとなって肉体を駆け巡っていく。

ダメージを一定量以上吸収することで、受けたダメージを高エネルギーの衝撃波へと変換して全身から放出できるようになる。
衝撃波の放出時にも凄まじい快感が彼の肉体を駆け巡る。

【詳細】
暴力団『獄門会』の武闘派組長。
元は『開闢の日』以前から存在する暴力団の末端構成員だったが、超力出現後の混乱に乗じて組を乗っ取った過去を持つ。
以後は仁義とは名ばかりの凶悪なシノギを主導し、弱小組織や半グレ集団を吸収しながら勢力を拡大した。

ヤクザ映画マニア。それ故に昭和の俳優を彷彿とさせる風貌をし、任侠気取りの言動を取る。
しかし実際は弱者の搾取に何の躊躇いも抱かず、悪質な犯罪への忌避も一切持たない凶暴な犯罪者である。
『獄門会』も極道の看板こそ掲げてはいるが、伝統的・旧態然とした掟を軽視しているため実態としては大規模な半グレ組織に近い。

逮捕される前は多くの愛人を囲っていた。その全てがサディストだった。
彼は超力の影響によって人格が変容し、極端なまでのマゾヒストとなっている。
最早真っ当な性愛で快楽を得ることはできない。痛みや苦痛だけが彼を絶頂へと導くのである。


72 : ◆uhGols11hY :2025/01/30(木) 20:31:49 DtlEKxdQ0
【名前】テータイン・ハイルブロン
【性別】女性
【年齢】不明
【罪状】主に殺人、強盗、窃盗、薬物取引、死体遺棄、不法侵入、他割合(微罪を含めると三桁を越えている)
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】自身の超力によって頻繁に外見を変えているが、本当の外見は東欧系の女性であり、外国人という点以外は印象にも残らない程度の風貌をしている。
【性格】『犯罪を犯す』事に異常なまでに執着しており、とにかく大小問わず犯罪を犯そうとする。
かといって無鉄砲という訳ではなく、複数の言語も操る高度な知能犯でもある。
ただし、一度行った犯罪には興味を失い、同じ内容の再犯はやむを得ない場合を除き行わない。
最終的にこの世の全ての罪状を獲得し、罪を極める事を目標にしている。
上記の行動原理以外は、アビスの凶悪犯と比べると比較的マシなレベル(少なくとも会話は通じる)。
一人称は「私」二人称は「貴方」「貴女」。

【超力】
『二重螺旋が紡ぐ存在証明(Existenzbeweis gesponnen durch eine Doppelhelix)』
 付近の残留DNAを一つ破棄する事で、そのDNAの場所に自身を再構成する。
 指紋や唾液、血などが主に効果対象で、物品、地面、人間など何処に付着している物でも構わない。
 基本的には瞬間移動のような使い方をするが、破棄した残留DNAから自身の情報を読み取り、自身の複製を作ったり、擬似的な復活を行う事もできる。
 また、別人のDNAを摂取すれば、本人と寸分違わぬ精度で変身も出来るが、性別だけは変えられない。

【詳細】
 欧州で暗躍していた国際犯罪者。
 その犯行内容は殺人、強盗、窃盗、薬物取引、死体遺棄など多岐に渡り、国境を跨いで活動していた。
 犯罪者として名を馳せる前の経歴は一切謎に包まれており、DNA鑑定も犯行現場のものしか記録がなく、全くの正体不明。
 名前も偽名であり、本名すら判明していない。
 複数の犯罪組織に所属しているが、組織ごとに顔も身元も偽装しているため、繋がりすら把握されていない。
 国際警察は彼女を「顔の無い女」と呼び、多額の懸賞金をかけて逮捕に全力を注いだが、その追跡劇は本人の自首という形で幕を閉じた。
 その動機は自責の念ではなく、まだ行っていなかった脱獄という犯罪を犯すためであり、難攻不落と名高いアビスへの収監もいくつかの司法取引を行った上での意図的なものである。
 ただし、この殺し合いが彼女の計画に含まれていたのかは不明。


73 : 名無しさん :2025/01/30(木) 21:04:37 GhplP.lw0
【名前】安 黑蘭 (あん へいらん)
【性別】女
【年齢】33
【罪状】殺人と死体遺棄(本人は過失による誘拐のみを主張した)
【刑期】無期懲役(本来は死刑)
【服役】14
【外見】年齢の割に若く、学生くらいに見える。ショートボブの黒髪に太いアホ毛がある。八重歯が覗いている。
【性格】明るい性格で、中二病的な言葉遣いで誰にでもよく絡む。かなりの努力家。
【超力】
『我們在黑暗中愛慕�胃,我的陛下』
空間に裂け目を生み出し暗黒の異界と接続し、巨大な暗黒の触手生物を呼び出す。
裂け目の大きさは調整可能で、基本的に戦闘の際は小さく開いて触手数本だけを呼び出して戦う。
覚醒した頃は細い触手一本分程度しか入ってこれなかったが、鍛えるうちに全身を呼び出す事もできるようになった。
触手生物は知的生命体を認知すると襲い掛かり、触手で絡め取って異界に引きずり込もうとする。

発動中は目が黄色く光り、瞳孔が頭足類のように横長になる。
他人に触手生物を紹介するときは"我が君"と呼ぶ。

【詳細】
昔は自分は異界の何者かと精神的に繋がっているという妄想によく耽って、変な言動をしたり服を着ていたりした中二病少女だった。
流石に家族や学校からも心配され、カウンセリングを受けさせられたりしそうになった時期に丁度「開闢の日」となり超力に目覚める。
自分の妄想が真実になったことに彼女は喜び、そして性格もだいぶ明るくなった。
触手がだいぶおぞましいのと、中二病的な言葉遣いはそのままに本人の他人への距離感がおかしいため深い友人はできなかったが。

家の部屋に籠もるときは必ず触手を出して、敬愛するように扱うばかりでなく友人や時には恋人のように過ごす日々を送る。
超力を鍛えていくにつれ、徐々に開けられる空間の裂け目のサイズも巨大化し太い触手も沢山の本数呼べるようになっていった。
勉学に苦労しながらも触手と触れ合って励まされるように感じたりしたり、暴漢に襲われても触手を振り回して撃退したりなど共に過ごしていた。

そして遂に全身を呼び出せると確信したある日、彼女はそれを見せびらかしたくて学校で披露する。
しかし触手生物のおぞましさに、人々は恐れおののき慌てだす。
そして触手生物は触手で人々を捕らえだし、抵抗も虚しくある程度の数を捕まえた後に異界へ戻っていった。
彼女もさすがに最初はそれを恐れた。もう二度と呼び出すことはしないと誓った。
もたろん逮捕もされ、本人も予想できない事故的なものだったとは言え短い期間収監された。

しかし釈放後しばらくして、彼女の心を徐々に空虚さが支配するようになる。
寂しい。また我が君と会いたい。もう一度あの全身を拝みたいのだ。そしてそれと直接触れ合いたいのだ。
やがてこれくらいならいいだろうと、近くに人がいないところで呼び出して触れ合ったりするようになった。
でも他人に自慢だってやっぱりしたい。これくらい離れてれば大丈夫かと言う距離感を考えた彼女は、学校で再び召喚を敢行する。
しかし触手は予想以上によく伸びて、再び大量の人々を捕獲して異界へ連れ去っていった。

再犯により本来なら死刑相当だが、彼女が主張した通り連れ去られた人々はまだ生きていて本当に戻ってくる方法ができる可能性も考え無期懲役の扱いになっている。
でも大罪人となりアビスに収監されてからも、やっぱり呼び出したいって思ってる。
たぶん人間に興味があるだけなのだ、それをただ恐れて暴れたりするせいでみんな酷い目に遭ってるんだろうと解釈する他責的な思考を彼女は身に着けた。

アニメやゲームを摂取してたので、2020年代くらいの日本のネット文化には結構詳しい。
日本人にはネットミームの話を振れば大体話が通じると思っている。
我が君に会えなかった時期にヤケ酒をよくしていた影響でかなりの酒豪だが、心は未成年のつもりなので飲酒する所は他人に見られたがらない。


74 : 名無しさん :2025/01/30(木) 21:05:54 XYt3Bzn60
【名前】雨高 沙美南(うたか さみな)
【性別】女
【年齢】25歳
【罪状】殺人未遂、傷害、威力業務妨害
【刑期】12年
【服役】1年
【外見】黒のストレートロングヘア、片目隠れ、不気味寄りな顔、身長は約170cm程
【性格】暗め、綺麗なものは綺麗な内に終わらせるべきという思想を持つ
【超力】
「流れる嘆き(ネガ・ポンプ)」
口の中から高圧の水流を発射する。
負の感情が強いほど威力は高まり、ウォーターカッターのようになることもある。
どれだけ出しても体内の水分が減ることはないが、やり過ぎれば疲れはする。
【詳細】
元は普通の会社員だった女性。
会社は後述する事件を起こす前に退職している。
自分が特に好きになった・応援したい・推したいと思った俳優や声優、お笑い芸人やタレント、スポーツ選手や漫画家…等といった著名人に限って、何かと犯罪等の不祥事を起こすことが多いと感じていた。
そんな風に信じていた人に裏切られると感じることが何度も起こり、だんだんと精神を病んでいった。
そしてある時、まだ不祥事を起こしていない好きな著名人を、いっそのこと何かやらかす前の綺麗な内に終わらせてしまおう、殺してしまおうなんてことをふと思い付いてしまう。
ターゲットに定めたのはある人気アイドルグループのメンバーの1人で、握手会の時を狙おうとした。
しかし、警備員と他の客達に全力で止められたために失敗し、取り押さえられて逮捕された。
取り押さえられようとしている時に十数名程に怪我も負わせ、その中には腕を吹っ飛ばされた人もいた。
なお、ターゲットのアイドルには傷一つも付けることはできなかった。

ちなみに、その彼女が標的にしていたアイドルは、彼女が事件を起こしてからおよそ3ヶ月後に、殺人を犯して死体を山に遺棄した容疑で逮捕された。


75 : 名無しさん :2025/01/30(木) 21:08:28 GhplP.lw0
文字化けしたけどこれなら出るか?
我們在黑暗中愛慕�胃,我的陛下


76 : 名無しさん :2025/01/30(木) 21:10:37 GhplP.lw0
超力が文字化けしてるので
「闇の中から敬愛します、我が君」にします……
>>73


77 : 名無しさん :2025/01/30(木) 22:12:52 I2N.XZjY0
【名前】カーネイジ
【性別】男
【年齢】45
【罪状】殺人、傷害、器物破損、建造物等損壊罪
【刑期】死刑
【服役】三年
【外見】
人としてのカタチをしていない。2m程の巨大な蛆虫に、複眼と触肢を持つ人の頭部が付いている。
【性格】
人としての自我と記憶は喪われて久しい。只々限り無い飢えに基づく捕食行動が全てである。
【超力】
『万態幻獣(キマイラ)』
地球のあらゆる生物の特性を発揮出来る超力……では無いが概ねこの認識で正しい。
肉体を変異させ、カマキリの前肢を生やして斬りつけたり、蜘蛛の脚を生やして壁や天井を這い回ったりといった使い方が基本。
蜻蛉の様な複眼を形成して動体視力を上げる、蝦蛄の視覚を用いて不可視光線を視る、蚕や蜘蛛の糸を出す。イルカの様に超音波を発するといった事。
電気鰻の能力に基づく放電や、体内で河豚毒を精製するといった多様な能力を持つ。

変異や変態を行うと、細胞分裂が促進される結果として、飢餓状態になる。
この為にカーネイジは破壊と殺戮を行いながら、周囲の人間含む生物を捕食する。

これらの能力や特性を、本能により選択、その時々の状況に応じて使い分ける。

実際の超力は免疫拒絶反応抑制と、不老の域に達した強力な細胞再生能力。
本来であればどんな傷もたちどころに癒し、例え四肢が欠損したりしても、移植手術を受ければ、免疫拒絶反応を起こす事なく適合するというもの
カーネイジの超力を調べた研究者は、『不死身を体現した能力』と称した。

結果としてこの超力を悪用され、あらゆる動植物の性質を植え付けられ、無限に変異変態する怪物が誕生したのだが。




【詳細】
『開闢の日』以降日本の主だったものだけでも100を超える数が出現した『ヤマオリ・カルト』。
この無数の新興宗教群は、教義や活動こそ千差万別だが、一つの共通項が存在する。
『ヤマオリ』という概念を崇拝し、まつわるものは聖遺物や神の御使として崇めるというものである。
カーネイジは元を辿れば山折村が滅んだ日に、偶々村の外へと泊まりがけで遊びに出ていて難を逃れた、当時高校生だった村人だったと推測されている。
この事が、カーネイジの人生が破滅するきっかけだった。

『その時死んどいた方が良かった』とは、カーネイジについて調べた調査官の述懐である。


山折村での事件があまりにも世間に対する影響が大きく、山折村から村外に結婚や就職で出て行った者達が、日常生活に困難を来すのは時間の問題だった。
この問題に対し、政府は新たな戸籍と住居と職場を与える事で対処。カーネイジもこの時に新たな名前と住居とを手に入れた様である。
その後『開闢の日』を迎え、乱立した『ヤマオリ・カルト』は、自らの正当性を示す為に『ヤマオリ』にまつわるものを求め、全国各地で『ヤマオリ』に縁が有るとされた人物の誘拐や、物品の窃盗が頻発した。
あまりにも多くの誘拐事件が発生し、誘拐された人々も再度誘拐されたり、売り飛ばされたりした為に、被害にあった人数や、少なからぬ被害者の消息などは不明で有ある。

カーネイジもまた、この時期に誘拐されたと思われる。
カーネイジについて、確かな記録が確認できるのは、『開闢の日』から3年後、とある『ヤマオリ・カルト』に於いてである。
この『ヤマオリ・カルト』は、『ヤマオリ』を神と崇め、『ヤマオリ』から授かったもので世を良くしていこうとする慈善団体だった。
この『ヤマオリ・カルト』で、カーネイジは免疫拒絶反応を起こさない臓器を無尽蔵に採取で来るドナーとして扱われていた。
そこでドナーとして過ごす事二年。
この頃には、乱立した『ヤマオリ・カルト』に対する既存宗教の過激派を主流とする『アンチ・ヤマオリ・カルト』が出現、『ヤマオリ・カルト』に対する無差別テロを敢行していた。
カーネイジの居た『ヤマオリ・カルト』もまた、『アンチ・ヤマオリ・カルト』により襲撃され、カーネイジは『アンチ・ヤマオリ・カルト』に連れ去られる。

カーネイジを連行した『アンチ・ヤマオリ・カルト』は数ある『アンチ・ヤマオリ・カルト』の中でも最悪と言われる過激派だった。
『ヤマオリ』により穢された世界を浄化する。
この狂った破滅思想のカルトにより、カーネイジは戦闘生物として作り替えられた。

『ヤマオリ』による穢れを『ヤマオリ』により浄化させる。

凡ゆる静物の細胞を移植され、日夜を問わず身体を変異させられる日々。
終わる事無き融合と再生、変異と変態は、カーネイジの身体を人のソレとはかけ離れたものとし、苦痛と恐怖しかない日々は、カーネイジの精神を崩壊させた。
やがて戦闘生物として完成したカーネイジは殺戮の為に解放される。
街へと放たれたカーネイジは、殺戮と破壊と捕食を恣にし、軍隊と交戦した末に敗北、アビス送りとなった。


78 : 名無しさん :2025/01/30(木) 22:55:24 ebdOgsQM0
【名前】グッドラック・ウォーニング
【性別】男
【年齢】50
【罪状】殺人、傷害、過失致死、私的制裁、器物損壊、不法侵入、公務執行妨害、国家反逆
【刑期】死刑
【服役】10年
【外見】筋骨隆々で金髪の白人中年。年齢不相応に子供っぽい笑顔。
【性格】勧善懲悪。善を愛し、悪を憎む。常に明るく行動的だが、どこか幼稚で世間や他人に疎い。幼い頃からヒーローに憧れ、『超力』の発現で夢が叶ったと信じている。

【超力】
『HUSTLE ONE』
肉体の異常活性化。
あらゆる身体能力が超強化される。
発動すればビルを容易く叩き割り、水面を高速で駆け抜け、空をも跳躍してみせる。
肉体の自然治癒能力も大幅に増し、あらゆる負傷がごく短時間で治る。

ただし長時間発動し続けると能力が限界を迎えて大幅に劣化し、一定時間のクールタイムを減るまで本来の効果を発揮できなくなる。

【詳細】
「さあ、もう大丈夫だ!!」

「僕は、正義の味方だ!!!」

「僕が、みんなを守る!!!!」

「僕は、笑顔で戦う!!!!!」

「僕は、誰よりも強いんだ!!!!!!」

「僕が、悪をやっつける!!!!!!!」

「僕が、悪をやっつける!!!!!!!」

「僕が、悪をやっつける!!!!!!!」

「夢は、必ず叶うんだ!!!!!!!!」


79 : ◆uhGols11hY :2025/01/30(木) 23:38:08 DtlEKxdQ0
【名前】只野 仁成 (ただの ひとなり)
【性別】男
【年齢】25歳
【罪状】国家転覆罪
【刑期】無期懲役
【服役】1年未満
【外見】
顔立ちは平凡な日本人だが、重度の人間不信により目がドブのように淀んでいる。
囚人服の下は鍛え上げた肉体美の持ち主だが、度重なる手術痕と古傷が目立ち、右肩にバーコード状の焼き印がある。
【性格】
本来は真面目で人当たりがよい善人だったが、長年の逃亡生活ですっかり荒みきり、全人類を敵だと断言する程に荒れている。
アビスに収監されてからは特に顕著だが、心の奥底では良心が残っている。
一人称は「僕」、二人称は「あなた」「君」「お前ら」。
【超力】

『人類の到達点(ヒトナル)』
超力を除いた人類(ホモ・サピエンス)の全能力を極限まで発揮できる超力。
ようは人間にできる事なら何でもできる。
ただし、人類の枠を越えた新人類の象徴とも言える超力は、如何なる手段でも後天的に収得は出来ない。
逆に言えば、超力に依存しない人間の技術体系は必ず収得できる。
逃亡生活の最中、数多の格闘技、武器術を学び、刺客との実戦にて鍛えてきた彼のステータスは、超力を抜きにした場合、「開闢の日」以降の新人類の上澄みに迫っている。
副次効果として、この超力は人を人以外に変化させるような干渉は全て遮断・無効化する。
人間を極められるが、人間を止める事は許さない力と言える。

【詳細】
元は日本の一高校生。
「開闢の日」以降、世界規模で治安が悪化したが、只野は幸運にも比較的安定した地域で生まれた。
超力の特性上、目立たず没個性的な人生を歩んでいたが、超力を鑑定する技術が開発された事で彼の人生は一変する。
超力自体は一種の身体強化系だが、只人の体組織は超力の影響により、万人に移植可能という特異体質であった。
そこに目を付けた臓器売買をメインとする犯罪組織が彼を拉致し、黄金の血ならぬ黄金の臓物として売り出すため、非道な研究を行った。
……が、問題はそこで終わらなかった。
実験として只野の血を輸血した人間の超力が完全に消失したのだ。
決死の逃亡により、命からがら組織から逃れた只野だったが、この無視できない特異性により、世界中のあらゆる組織がこぞって只野を狙いだした。
以後、彼は5年間に及ぶ逃亡生活を余儀なくされる。
やがて犯罪組織ではなく、政府機関が只野を確保したが、超力を世界から消し去る可能性を秘めた彼を危険視する一部の高官により、国家転覆を目論む危険人物としてアビスに収監されてしまった。
行方不明となった家族の探索を条件に真実を語ることを禁じられ、アビスの囚人として不名誉な生活を強いられている。
なお彼の情報は秘匿されており、アビスでも限られた人間しか知らされていない。


80 : 名無しさん :2025/01/31(金) 00:19:16 8v.KdJuk0
【名前】デーヴァ・チャクラヴァルティ
【性別】男
【年齢】49
【罪状】自殺幇助罪、詐欺罪、組織的犯罪処罰法違反
【刑期】60年
【服役】14年
【外見】褐色の肌。剃髪した頭。額に印
【性格】表面上は禁欲的で常に落ち着いており救世主然としている
【超力】
『真説解脱曼荼羅』
対象を強制解脱させる超力。デーヴァを信仰することで発動する。
この超力を受けた者はあらゆる欲から解放される。
信仰の度合いと解脱の具合は比例するため、初対面で好印象を抱いただけであらゆる欲求が僅かに薄まっていく。
彼を教祖として悟りの境地に達した人間は今世への未練を絶ち、自らの手で御仏の元へと旅経つだろう。
【詳細】
救世主を謡うインド人。
開闢の日によって生まれた社会不安を煽り信者を増やした新興宗教の一つ『救世輪天教』教祖。
超力により信者を解脱させその財産を奪ってきたとされ逮捕された。
この穢れた世界よりの解脱させ救いを与えたに過ぎないと供述しているが本心は不明。
逮捕後は刑務所内でも弁舌のみで新興宗教を立ち上げたため制御不能と判断されアビスに送られた。


81 : 名無しさん :2025/01/31(金) 01:19:30 VEML749.0
【名前】ウェイニー・ペイル
【性別】女
【年齢】27歳
【罪状】器物損壊、礼拝所不敬罪
【刑期】禁固6カ月
【服役】1カ月
【外見】グラマラスな体系の黒人美女
【性格】生意気で常に自分が正しいと思っている。周囲に対しても高圧的に接している。
【超力】
『強化睡眠』
睡眠による体力の回復力が強化される。
10分程度の睡眠で常人の8時間睡眠に匹敵する。

【詳細】
迷惑系動画配信者。
とある世界的にメジャーな一神教の宗教を信仰しており、他国の宗教、信仰を見下している。
迷惑系動画撮影のため日本の寺社仏閣の設備や庭園などで大便排泄を行い、その排泄物を壁面などに塗りたくる動画をたびたび投稿し、上記の罪で逮捕された。
父親が世界を股にかける大手商社に勤めるエリートサラリーマンだった。
だが彼女が毒牙にかけた寺社仏閣の中に、父親が務める会社の得意先の社長が懇意にしていた寺が存在していたことが発覚。即日取引終了が告知され父親はリストラ。一家は離散し路頭に迷うこととなった。
そのため家族全員から憎まれ殺害予告をされており、刑期終了後の亡命先を検討中。


82 : 名無しさん :2025/01/31(金) 01:29:30 0YRoIaZA0
【名前】オリガル・ゴールドレクス
【性別】男
【年齢】50
【罪状】インサイダー取引、収賄罪、贈賄罪、職務執行妨害罪
【刑期】32年
【服役】28年
【外見】容姿の整っていない金髪金目の醜男。人当たりはよく、常に笑顔を浮かべている。
【性格】他人を出し抜いて利益を得ようとするがめつい性格。上から課された制約は抜け道を探そうとするが、自身で交わした契約は守る。
【超力】
『公正で有益な取引(セールス・アグリメント)』
確定している何かの値を代償に何かを得ることができる。
たとえば、来月の給料を代償に物品を購入すれば、代わりに値段分だけ給料が減る。
当然ながら、来月の給料を代償にした場合、購入できるのは金で買えるものだけである。
他人の金を勝手に使うなどの行為は不可能だが、契約書を書いて同意を交わすことで、この制約をクリアすることも可能である。

この刑務作業という状況下において、確実に代償にできるものの一つに刑期がある。
刑期を代償に物資を購入した場合、首輪に刻まれた数値が増えていくが、合計で100を超えることはない=68P分しか購入できない。
また、『物資を先に購入した結果として、刻まれている数値が増えている』ため、たとえ100になってしまっても彼を殺して得られるポイントは32Pである。


【詳細】
超格差社会における持たざる者として生まれた彼は人一倍金銭への執着が強く、学生時代から友人相手に小さな商売をしながら己の才覚を磨いてきた。
軍資金集めとして世界的な大企業に就職し、やがては独立するつもりだったが、
遵法意識がいくぶん弱かった彼は、職場で得た機密情報を元に多額の証券を購入してしまったことで捕縛され、一歩目からつまずいてしまう。
受刑者として服役し刑務作業にいそしんでいたが、刑務所は外とは違う独自のルールが支配する場であると認識。
ならばこの刑務所を自分の城としてしまおうと独自の経済システムを築き上げ、裏から監獄を支配するようになった。

独立とは多少違ったものの、彼自身の城を一つ作り上げたことで自尊心も満たされていたが、『開闢の日』が訪れたことで世界の常識が一変。
流通経路がずたずたに破壊され、超人化によって貨幣の価値も乱高下したことで彼の経済圏は縮小、
最後は超力を持った服役囚による反乱が起こって国軍の介入を招き、彼もまた刑務所内での所業が問題視されてさらなる罪を背負うことになった。
刑務所を金とモノで裏から支配していた彼は、秩序を犯した者として、より強力な秩序であるアビスに収監されることが決定した。


83 : 名無しさん :2025/01/31(金) 08:55:42 I9HB/rfc0
【名前】和歌 樫羅(わか かしら」
【性別】男
【年齢】六三歳
【罪状】傷害致死、強姦、暴行、傷害、殺人、器物破損
【刑期】死刑
【服役】半年
【外見】165cも・82kg 首から下に満遍なく入墨を掘り込んだ肥満気味の男
【性格】野卑で粗暴な平等主義者(ジェンダーレス)のサディスト。男女を問わず傲慢な人間を自慢の『コック』でヒィヒィ言わせてヨガらせることを至高の悦楽としている。
【超力】
『英雄色を好む(セックス・イズ・パワー)』

性欲に比して身体能力と身体の硬さが向上する。タプタプに見える身体がカチコチになる。
当人の自己申告によると、小さなビル程度なら5分で解体できる様になったのが過去最高記録らしい。
なお上限は未だに不明である。



【詳細】
某指定暴力団の組長だった男。「名前より出世してるな」とか吐かした奴は全員殺して来た。
抗争の度に先陣切って敵中に飛び込み、敵対組織のトップを、構成員の前で犯し殺すを何よりの愉しみにしていた『異常性愛者』
抗争のない時は部下を慰み者にして、滾る制欲を発散していた。
ある時、ラブホに連れ込んだ部下が、いざ事に及ぼうという時に、「勘弁してもらえませんか」などと舐め腐った事を吐かした為に激昂。
「叩っ殺してやる!」と殴りまくったら本当に死んでしまい、ラブホに警察呼ばれてお縄になり、過去の行いを芋蔓式に掘り出され、目出たく『アビス』送りとなった。

なお此処でも何人かの囚人に目を付けるが、傲慢な人間をブチ犯すのが何よりも好きな樫羅が最優先で狙っているのは、当然の様にアビスの看守長オリガ・ヴァイスマン の尻である。


84 : 名無しさん :2025/01/31(金) 18:42:16 Y7fDRG6c0
【名前】氷藤 叶苗(ひょうどう かなえ)
【性別】女
【年齢】18
【罪状】殺人
【刑期】25年
【服役】1ヶ月
【外見】ユキヒョウの獣人。育ちが良く家族から甘やかされていたため、適度に肉付きが良い体型。髪は銀髪でところどころ黒のメッシュが入る。
【性格】仇を討つという目的に向かって、野生の肉食獣のごとき冷徹さと真剣さを持っている。心から湧き出る悲しみが消えることは決してない。
一方で気が抜けているときはマイペースで人懐こく可愛らしく天然気味。末っ子気質で甘えたがりでもある。
鳴き声っぽくガオーとかミャアとかゴロゴロとかも言う。こちらこそが本来の性格だった。

【超力】
『フラッフィキャット・オブ・クッキーバニラ』
ユキヒョウ獣人の姿となる常時発動タイプの超力。
猫と同じで爪は普段は仕舞われている。壁のぼりなどにも便利。
その気になれば人体にひっかけて強く取り押さえたり、肌を深く引き裂いたりもできる。
もちろん噛みつく顎の力もあり、牙も鋭い。
山岳に住む肉食獣らしく、気配を殺して近づいたり待ち伏せしたりして死角から奇襲する能力に長けている。

厳しい環境で生きる生物がベースのため、直感が非常に鋭い。第六感じみた感覚で知覚することもある。
時には近い未来に起こりそうなことが感覚的に分かったりするが、未来予知能力のように明確に決まった未来が見えたりはしない。

家族の中で自分だけ見た目が人間でないことが強いコンプレックスで、昔は良く悩んでいた。今はもう吹っ切れている。

【詳細】
日本も世界で見れば治安は安定しているが、それでも人類が進化したことにより犯罪は増え巧妙、凶悪化が進んでいた。
そんな中で彼女は、自分以外の家族全員を家に侵入した数人の強盗により惨殺される悲劇に見舞われる。
豪邸に私兵みたいな強力な能力者を雇うことが広まっているけど、うちもそれなりにお金はあるけど流石にそこまではいらないかなとか。
そんなことを家族と話していた矢先の出来事だった。
警察にはもちろん話したが、捜査状況は教えてもらえず犯人は捕まらない。
そんな悲しみの中で彼女は、危険を顧みず自らの直感を頼りに犯人を探っていくことになる。

人探しに関する超力を持つ人間を頼ったりし、遂に彼女は実行犯の一人にたどり着いた。
他の実行犯の情報を聞き出すつもりで接触したところ、悪びれない態度に加え超力を使用し抵抗しようとしたため衝動的に殺害してしまう。
手に残る生々しい感触、ライトグレーの毛皮を染める返り血の印象。罪悪感に襲われて泣いたし嘔吐したし、暫くはうなされて眠れなくなった。
でもこれでよかったんだという気持ちも大きかった。まだまだ絶えず湧き出す悲しみの感情が心を後押ししてくる。
そうして彼女は自分の心が傷つくことが分かりながらも、復讐鬼となり他の実行犯も次々と暗殺していった。

その中で、強盗を指示した者が裏にいたことがわかってきた。
奴の本名までは掴めなかったが、現在は別件でアビスに収監されているということまでは突き止めた。
調べてみるとアビスは脱獄とか無理らしいし、無期懲役か死刑なら出てくることもないだろうし、もういいかなという思いが沸いてきていた。

ところが警察に出頭しようとした矢先に、アビスで何か大きなイベントが起き一部の囚人が恩赦されるかもしれないという予感が彼女に入る。
まかり間違っても、奴が恩赦を受けるようなことは絶対に止めなければならない。自分がどうにかしなければ。
そうして出頭後は刑務所にて態度の悪い囚人として振る舞い、アビスへと送致されるように自ら仕組んだ。
アビスの超力無効化によって獣人姿から人間へなるようなことはなかったが、直感は全く効かなくなり仇が誰かの目星は今のところ見当がついてはいない。


85 : 名無しさん :2025/01/31(金) 21:03:46 JWf2.MCA0
【名前】マーク・キャラダイン
【性別】男
【年齢】19差
【罪状】強姦、殺人、強盗、強盗殺人、傷害致死、建造物損壊罪、文化財保護法違反、森林放火罪、窃盗、道交法違反
【刑期】
死刑
【服役】
二ヶ月
【外見】
身長210cm 体重131kg 鍛え抜かれ、均整の取れた身体は一見細身に見える。金髪碧眼の青年
【性格】
凶暴で刹那的な暴力と破壊を何よりも愛好する享楽主義者。その割には狡猾で用心深く、人を信じない
ドラッグもやるし酒も飲む。ヘビースモーカー。
【超力】
destruction

全身から夜明け空を思わせる色彩のエネルギーを放出する。
このエネルギーは、ありとあらゆる物を破壊する。
拳に纏って殴りつければ、如何なる堅牢な装甲も破壊し、超力による防御すらも撃ち砕く。
全身に纏う事で、超力を含むあらゆる攻撃を破壊して防ぎ切る。
身体から切り離して飛ばす事も可能。射程は20m。

ただしこの防御は無敵という訳ではなく、膨大なエネルギーを用いて、破壊エネルギーを打ち消す。
或いは強度の高い、もしくは大質量の物体を高速で撃ち込む事で突破可能。


【詳細】
『開闢の日』以降、世界中で猛威を振るった『超力犯罪』その中でも悪質さと対処のし辛さで最上位とされる、超力の行使が目的の超力犯罪。
一切の目的を持たずに、超力による破壊と殺戮に興じる集団の中でも、アメリカ最悪を謳われた集団のリーダーが、マーク・キャラダインである。
マークとマークが率いる集団は、犯行予告も犯行声明も行わずに、各国の世界遺産や重要文化財を破壊し、森林を燃やし、特別天然記念物を殺戮し、人々の怒りと嘆きを愉しむ愉快犯だった。
破壊活動に際しての遠征費は、窃盗や路上強盗によって賄い、抵抗されると躊躇なく殺害して金品を奪い、その金で破壊活動を行う場所へと遠征した
暇潰しに強姦やリンチを行う為に、恒常的に重傷者や死者を生産し続けた。
マーク達の凶行が終わりを迎えたのは、二ヶ月前。
ロスアンゼルスで殺人競争を行うべく現地へ飛んだマーク達は、当地で警官隊に囲まれ、殺害前提の制圧を受けて全滅。虫の息で捕縛されたマーク以外全滅した。


86 : 名無しさん :2025/01/31(金) 22:07:51 4o2ElYYI0
【名前】尾川 春重(おがわ はるしげ)
【性別】男
【年齢】14
【罪状】殺人罪、鳥獣保護法違反罪
【刑期】40年
【服役】半年
【外見】薄い水色の長髪、ツリ目、八重歯、黙っていれば女みたいな顔付き
【性格】右翼、自分の行動は常に正しいと信じ込んでいる危険思想、いつもハイテンション
【超力】
『絶対にクマをブチ殺すマン(アブソリュート・マーダー)』
対クマにおいて圧倒的な戦闘力を発揮する能力。
刃を通さぬ強靭なクマの皮膚も、彼には豆腐並の強度にしか過ぎず
素手でいとも容易く解体することが出来る。

またクマから受けるダメージは全て反射され、クマ擁護派の誰かが押し付けられる事となる。
世界中のクマ擁護派が全て死滅しない限り、本人は絶対に傷つくことはない。
クマが武器を用いたとしても適用されるため、仮に核のスイッチを押したのがクマだったら
核の直撃ですら反射され、無傷でいることだろう。
対クマ以外では完全にただの無能力者である。

【詳細】
クマに対して激しい憎悪を燃やす中学生の少年。
憎しみの対象はクマのみならず、クマを擁護する人間達をも含んでいる。
彼らは猟師や行政に文句を言って駆除の邪魔をするだけで
本人達はクマを引き取る訳でも、被害にあった人達の損害賠償を払うと言った責任を取ろうともしない。
日本人を積極的にクマの被害に遭わせようとする売国奴、非国民である。

超力に目覚めた春重は、これぞ天命、クマを滅ぼすことが自らに課せられた使命だと盲信し
目撃情報のある山々に侵入してはクマたちに襲いかかり殺戮を繰り返した。
その際に何度も爪で切り裂かれ、喉笛を食い千切られたが
全てクマ擁護派にダメージを押し付け続けて、逮捕されるまでに多数の人間が死亡した。
アビスに収容された後も彼の思想は一切変化を見せていない。
ちなみに彼はクマに対して何の被害も受けた事はなく、憎しみの理由はSNSの話題を見て義憤に駆られたからである。


87 : 名無しさん :2025/02/01(土) 01:00:08 Xj9xcpFY0
【名前】征十郎・H・クラーク
【性別】男
【年齢】37
【罪状】決闘殺人罪
【刑期】20年
【服役】4年
【外見】後ろで括ったボサボサの黒髪に無精髭。美しい青い瞳。全身に細かな刀傷が刻まれている
【性格】愚直で不器用な求道者。他者に流されない性格、悪く言えば自己中心的。
【超力】
『 斬 』
あらゆるものを切り裂く超力。
刃の触れた物質を硬度に関わらず切り裂くことが出来る。
発動には刃物を手にする必要があるが、刃物であれば切れ味は関係なく錆びていようが刃引きされていようが切れ味は変わらない。
刃物っぽいモノなら割と何でもよく、おもちゃの剣だろうとそれこそイイ感じの木の枝でも構わない。
ただし、斬撃は刃の硬度+使い手の技量で判定され、これよりも硬度の高い物体を切る場合は対象を切り裂く代償として刃は破壊される。
【詳細】
『八柳新陰流』と言う剣技を使うアメリカ人ハーフ。
母はとある山奥の村の出身で6歳までその村で過ごしたが、両親の仕事の都合でアメリカ人である父親の故郷であるアメリカ・テキサスに移住した。
幼少のころに教わった剣技を愚直に極め、その腕を確認するため腕の覚えがある連中を見つけては辻斬りめいた行為を繰り返した。
そして同じく剣を扱う超力使いに出会い、存分に技をぶつけ合って最終的に斬殺した。


88 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/01(土) 01:15:08 48wdcUCc0

【名前】高崎 小五郎
【性別】男
【年齢】47歳
【罪状】殺人罪、内乱罪
【刑期】死刑
【服役】5年
【外見】身長225cm、体重124kg、日本人には珍しく地毛の金髪で短髪、ツーブロックも入れている、体型は筋肉モリモリマッチョマン。
【性格】
どこか掴みどころのない性格で、いつも飄々としている。
しかし、その内心は闘争心に満ち溢れている。
【超力】
『あぁ、やはり血も肉も闘争で満ちていて(グリード・パンツァー)』
装着型超力、全身を迷彩柄のパワードスーツの様なもので包む。
両腕に戦車の主砲、両肩と両足に5連装ミサイルポッド、胸部に二門のガトリングガン、股間部に縮退レーザー砲を備える。

一見欠点なしだが、発動の際の疲労は比べもにならない。
10分使用で半日分のクールタイムを要し、10分以上使用してしまえば、1日は使えなくなる。
【詳細】
国際テロ組織「アーラシュ・アロー」の元戦闘員。
数々の戦場を渡り歩いた猛者であり、卓越した指揮能力も持ち合わせている。
同時にとんでもないロマン派でもあり、リアリストの多い組織内では煙たがられていた。

5年前、彼の闘争心が暴発し、優秀な護衛が集まりそう、ということで内閣の記念式典を襲撃。
当時の総理含む政府関係者多くを殺害、さらに周辺にいた民間人を巻き込み、乱闘を開始。
最終的に、何人もの高い実力を持つ護衛達が犠牲になりながらも能力の限界を彼が迎えたため彼を捕縛。
死者1000人、死刑判決を即刻下され、組織からも独断行動の罪で除名された。


89 : 名無しさん :2025/02/01(土) 12:25:29 MbNcI.w.0
【名前】園場流瑠(そのば ながる)
【性別】男
【年齢】38歳
【罪状】脅迫、逮捕監禁罪、誘拐、暴行罪、銃刀法違反
【刑期】16年
【服役】9年
【外見】瘦せ型の体形
    頭頂部が薄くなっている。どこか汚らしい印象を受ける。
【性格】小心でおとなしい。普段から落ち着きなくキョトキョトしている。
    その場の空気に流されがち。
【超力】
『ナイフ生成』
その名の通りナイフを生成する超力。
現時点では刃渡り20㎝程度が限界。
様々なナイフを生成できるが、使用者本人が「これはナイフである」と理解、納得できる形状のものしか生成できない。

【詳細】
生活困窮男性。
職場で受けたパワハラに耐えかね仕事を辞めたものの再就職もうまくいかず、生活保護の申請も役所の水際作戦により阻まれた。
日に日に減っていく貯金と、無為に過ぎていく時間は彼を追いつめ、ついにハイジャック事件を起こしてしまう。
飛行機に搭乗したあと超力を行使し作成したナイフでCAを人質にとり、コックピットを占拠しようとしたものの、しかしコックピットに向かう途中乗客の老人が心臓発作を起こして意識不明の重体となり、ハイジャックを無視して救命活動が始まってしまった。
しまいにはその場の雰囲気に流され流瑠自身も救命活動に参加。
何とか山場を越えた老人を、駆け付けた救急隊に引き渡した後、同じく駆け付けた警察に逮捕された。


90 : 名無しさん :2025/02/01(土) 12:51:59 k.gLCAQ20
【名前】ユリアン・シンクレア
【性別】男
【年齢】43
【罪状】人類反逆罪、人道に対する罪、公衆衛生に対する犯罪、大量破壊兵器の使用未遂、世界安全保障を脅かす行為
【刑期】死刑
【服役】13年
【外見】充血した目の不健康そうな男。実際に病を患わっており、土色の肌をしている。
【性格】表面上の性格は理知的で穏やか。人類の代表を気取るきらいがあり、人類の業について聞くと嬉しそうに語り出す。
【超力】
『終末の日のための貯蔵庫(ドゥームズデイ・ヴォールト)』
50立方センチメートル程度の保管庫を異空間に作る。また、そこにアクセスするための出入り口を作り、物を出し入れできる。
内部では時が止まっており、入れたものを当時の状態のまま取り出せる。

保管庫も出入り口も一度作れば誰でも使えるが、ロックをかけると解除するまで使えなくなり、感知もできなくなる。
ロックをかけた保管庫は存在が非常に強固であり、アビスで囚人が着ける枷では保管庫へのアクセスは封じられても保管庫そのものの消去はできない。
ただし何らかの方法で彼の超力を完全に無効化し、保管庫ごと消失させてしまえば、行き場を失った保管物が彼の周辺に撒き散らされてしまう。
もっとも保管庫の容量は一つにつき500gが限界で、保管庫自体も作成できる数には限りがあるため、大量の物品が溢れるという事態にはならないだろう。

【詳細】
『開闢の日』 を主導したGPAの内部には、人類ではなく細菌こそが世界の支配者になるべきだと考える一派があった。
人間の意思も超力の主導権もすべて細菌に委ね、人間は肉体のみを提供すべきだという過激な思想とそれを為せるだけの知が危険視され、
構成員のほとんどはGPAと提携した特務戦力によってこの世から排除された。
ところが、彼は幸か不幸かその日伝染病にかかって隔離されていたため難を逃れてしまう。
まさに細菌によって命を救われたに等しいその出来事は、彼を狂信者と変えるには十分な出来事だった。

『開闢の日』 から7年後。
世界をもう一度裏返すための第一歩として、感染力こそ大きな課題があるものの、超力の主導権を人間から取り戻せる新世代の細菌を生み出した。
そんな新世代の細菌を大都市でバラ撒こうとした矢先に、彼は秩序の守護者たちによって昏倒させられ、捕縛された。
そんな隠れ家には、うら若い少女の偶像が奉られていたという。


91 : 名無しさん :2025/02/01(土) 18:00:42 KeXs.qSk0
【名前】ジャンヌ・ストラスブール 
【性別】女
【年齢】19歳
【罪状】
殺人、内乱罪、強姦、児童虐待、器物破損、建造物損壊罪、誘拐、監禁、放火(全て冤罪である)
【刑期】死刑
【服役】二年
【外見】腰まで届く金髪と翆色の瞳の美少女。意志の強さを感じさせる顔立ちは騎士を思わせる。
【性格】弱気を助け強気を挫く。勇気と慈悲とを併せ持つ少女。要は正義の味方である。
【超力】
『此れなるは 悪を退け闇を照らす 赫赫たる焔の剣(ケルビム)』

全長50cmの精妙美麗な装飾が施された西洋剣の柄と、炎の翼を出現させる超力。
剣身に当たる部分が存在しないが、ジャンヌの意思一つで、紅炎(プロミネンス)を思わせる炎が噴出する。
熱量や炎の大きさ、果ては輝度に至るまで任意に調節できる。
熱を全く発さずに、輝度だけを上げて照明として使用する事も可能。便利。

炎の剣としての使用法がメインだが、火炎放射や炎で壁を作る事で攻撃を焼き落とす。
自身の身体に炎熱を纏わせて打撃や組技に熱による追加ダメージを発生させる事や、自身に掛けられた状態異常やデバフを焼き落として無効化するといった事も可能。
炎を凝縮させて高熱を帯びた実体剣として使用するという事も出来る。

炎の翼は羽撃きでは無く、炎をジェット噴射の要領で噴出させる事で高速飛行を可能とする
翼での打撃や、切り離して飛ばしたりといった使用法も出来る。

【詳細】
フランス産まれの正義の味方。
『開闢の日』以降の混乱期に、治安の悪化と秩序の混乱から、あらゆる場所で犯罪組織が勢力を伸ばした結果、それに対抗して現れたカウンター勢力(アヴェンジャーズ)。
ジャンヌ・ストラスブールもその一員として、日夜悪と戦っていた。
折しも欧州では、政治的混乱に陥った中東やアフリカ諸国からの移民が大量に流入し、宗教的民俗的な対立も加わり、欧州諸国は軒並み治安どころか政府機能すら低下する有様だった。
そんな状況下で精力的に活動し、蔓延る悪を討ち、災害現場に駆け付けて救助活動に励むジャンヌは、現代のジャンヌ・ダルクと称賛された。
そんなジャンヌのヒーローとしての活動は、ジャンヌ自身の破滅という形で終局する。
欧州一帯に根を張った犯罪組織との対立。
欧州各国の政・財・官は元より、メディアや宗教にまで勢力を及ぼす巨大組織に、強力な超力を持つとはいえ、一人の少女が叶う筈も無く。
犯罪組織により、多額の借金を背負わされた親友に売られて、囚われの身になってしまう。
その後はお約束の、2D夢小説展開である。
逃亡や反抗を防ぐ為に変なクスリをしこたま打たれて、およそ人が思いつく限りの凌辱虐待の限りを尽くされ、心身ともに穢され抜かれた。
二年間に渡り組織に“飼われ”凌辱され続けた日々は、飼い主だったら男の『飽きた』の一言で終わりを迎えた。

「死なせて楽にしてやるなんて事はしない。死ぬまで糞溜めで惨めに生き続けろ」

犯罪組織と対決する事を表明した政治家を惨殺しただの、多数の児童相手に性的虐待を行っただの、凄まじい数の冤罪を被せられ、メディアで大々的に報じられて、ジャンヌ・ストラスブールの名は悪魔の代名詞となり。
ジャンヌは終身刑の判決を受け、アビス送りとなった。

なおアビス送りになる際に知らされた事だが、ジャンヌを売った親友含む友人達や、ジャンヌの両親含や親戚、果ては近隣の住民やそのペットに至るまで、
ジャンヌの関係者は組織により殺され尽くしている為に、ジャンヌは天涯孤独の身となっている。

此処までの過酷苛烈な運命に晒されて、殺し合いを強要されるという目に遭っても、ジャンヌの正義の心は未だに消えていない。
尤も、邪悪犇くアビスに於いて、何時までその志を貫けるかは不明である。


92 : 名無しさん :2025/02/01(土) 18:44:36 KeXs.qSk0
>>91
訂正します

刑期は死刑では無く終身刑です


93 : 名無しさん :2025/02/01(土) 19:21:41 4kW25tus0
【名前】夜上(やがみ)神一郎(こういちろう)
【性別】男
【年齢】32歳
【罪状】殺人罪、死体遺棄罪、自殺幇助罪
【刑期】80年
【服役】2年
【外見】神父服を着込んだ男
【性格】基本的に物腰の良い丁寧さで他者に接する。その実態は唯我独尊傲慢不遜
【超力】
『神の目』(当人命名)
相手が嘘を付いているかどうかがわかるというシンプルであるが状況次第によっては強力この上ない代物。
ただし「当人が嘘だと認識していない」事象まで見破ることは出来ない。

ただし、この男の真に恐るべき部分は、異能ではなく狂気を大元として強固な精神性と、異能に依存しない常人を超えた洞察力。彼にとって超力とは手段の一つでしか無いのだ。

【詳細】
とある地域の教会に務める神父。地元住人からの評価は良いものであったが、教会裏にて大量の死体が発見されたことをきっかけに逮捕されてしまった。
本性は独善的とも言うべき性質で、自らを善と疑わず、救うに値しないと断じた悪人を結果的に自殺に追い込んだり、場合によっては自ら手を汚す形で悪人を始末したりする。
「「神」とは己の頭の中に存在するものであり、誰もが己の中に神を秘めている」というのが彼の理論。それに則ってか彼の一人称は「神」である。
ただし救うに値した相手や、改心の余地がある相手には優しく接し、時には神父らしく助言を与える。
其の為か刑務所内では結果的に模範囚として振る舞っており、意外なことに刑務官からの信頼も厚い。
そして、刑務所内で彼の本性を知るものは数少ない。


94 : 名無しさん :2025/02/01(土) 21:13:55 R4fWVZew0
【名前】ファン・コジ・フェロン
【性別】男
【年齢】27
【罪状】国家反逆罪、扇動罪
【刑期】無期懲役
【服役】5年
【外見】肌色は薄め、黒目に太めの眉。黒髪で後ろに逆立ってややツンツンした髪型。普段はやる気のなさそうな表情だが、煽てられてやる気を出すと気合が入った吊り目になる。
【性格】事なかれ主義の現実主義者で、世の中への不満はあっても現状を受け入れてそれなりに生きようとする。
一方で他人におだてられるのに弱く調子に乗りやすい。熱血っぽくなってキャラが変わる。
【超力】
『Planeador abajo』
巨大な黒い合金製のスーパーロボットを召喚し搭乗し操縦する能力。
光線を放ったり腕を飛ばしたり胸の放熱板から熱線を飛ばしたりする。

【詳細】
ベネズエラでは独裁政権が支持層から強力な超力持ちを囲い込むことに成功し、石油産業にも強力な能力者を護衛に付けることで経済もある程度は回復。
凶悪化したマフィアや海賊の脅威を度々受けながらも、クーデターも起きず、完全な民主主義にもならず、なんだかんだグダグダと同じように独裁政権が続いている。

親世代が見ていた日本のロボットアニメを子供の頃によく見せられ、その影響を受けていた青年。
超力もそれに関した物を発現するが、さすがにそこら辺で試しに使うわけにも行かないものなので普段使うことはなかった。
やがて成長していく中で趣味も変わるし、自分の超力の存在すらも普段意識しない生活を送るようになる。

成人した彼は本来は消極的な野党支持者で選挙の時は入れるくらいで、デモとかは特に参加しないタイプの技能労働者。
しかしこの能力の存在を野党の反独裁政権の有力者に目をつけられてから、彼の運命が動いた。
巨大ロボットをデモのシンボルとして使うとう言う話に最初は消極的だったが、周りから煽てられもしかしたら行けるのではと思い始めてしまう。
そうしてある時反政府デモとともに長らく忘れていた超力を発動、その力は圧倒的で緊急出動してきた政府側の軍の通常兵器は何一つ通用しない。

"M〇z〇n〇e〇 Z salva a Venezuela!"

それを見かねた軍は早々と撤退、デモは大成功しこれで反政府派も勢いづくだろう……とはいかなかった。
政府側も秘密裏に同じような巨大なメカを操れる超力の使用者を抱えており、対抗として呼び出してきたのだ。
一時は調子に乗った彼も不安を覚えるが今更引けず、周りに被害の出ない場所で一騎打ちとなる。
しかし相手の機動力の高さ、そして軍で訓練してきたことによる練度の高さには敵わずロボットは半壊となり投降しアビスへと収監された。

今後政変がなきゃ最悪一生ここで過ごすのか……と思いつつも死刑は母国で廃止されていて無いだろうから死の恐怖に怯えることもない。
模範囚として過ごし、看守に媚び売って娯楽品をたまに貰ったりとかして生きている。
自分を持ち上げてきた奴らに恨みを吐きたいくらいの気持ちはあるが、一度は志を共にしたし復讐したいと思うような気持ちはない。


95 : 名無しさん :2025/02/01(土) 23:12:54 DO5pNCzU0
【名前】澁咲帆歌夢(しぶさきほかむ)
【性別】女
【年齢】43
【罪状】大量殺戮
【刑期】死刑
【服役】20年
【外見】下記に参考として特徴が描いてある少女…高谷千歩果とほぼ同じ外見だが、髪のほとんどに赤い血がこびりついていて、痩せぎみで、目つきも鋭く、肌も潤いがほとんどなく、真ん中の前髪が紫色になっている
(苗字と纏う雰囲気、そして肌の老け具合の凄まじさのせいで千歩果と彼女が似ていると思われる事はまずない)

【性格】全てを破壊したい衝動に駆られていて、常に乱暴な口調、目の前で殺したい奴が現れたら激情のまま問答無用に持っている武器で殺す。かつて全国に指名手配されていた殺人鬼でもある、野草や虫を食いながら生きている悪食で、運動神経もサバイバル人生の中で培われてしまっている。

【超力】
サツリクオーダー

…かつて始まりの地において悲劇に巻き込まれて死亡した正常感染者が得た、後に超力と呼ばれる異能の全ての行使を可能にする。但し、使える時間は精々30秒、しかも1度使うとそれは二度と使えない上デメリットやにも据え置きである。また、その異能は重ねがけて行使する事も可能である。

彼女もそのリスクを把握しており、出来る限り異能は使わないようにしている。
主に殺し続ける中で、逃げ続ける中で鍛えられた身体能力と武器を併用して戦うスタイルが基本ではある。勿論使える時はとことん異能も使い、殺戮を執行する。

extermination of humankind

…もし彼女が超力ではなく異能を身につけていたら別の力になっていたかもしれない

因みに彼女が今やりたい事を反映して超力は数多の異能の中から相応しいものを自動的に選択される上で行使されるようであり、つまり彼女自身は自分の使える異能の数も能力も把握してはいない、が、何となく力が抜けていく事による肉体の変化は感じ取れる為、数の変化は感じ取れるようだ。

【詳細】

先程言われた外見から察せると思われるが、山折村のバイオハザードに巻き込まれた岩水鈴菜や環円華の友である高谷千歩果というアイドルと双子の姉妹の妹の方であり、母方の祖父母に引き取られたが、母にあたる存在が結婚した頃に宝くじで大当たりし、大金を得た結果、傲慢不遜な性格になってしまっており、彼女も奴隷のように扱われるようになってしまっていた。過酷なDVによる傷痕が痛々しく、先生や同級生から見て見ぬふりをされ続けられた結果、遂に中学三年生の時に何もかもに絶望し、祖父母を殺害し、家を飛び出した。

その後はただただ気に触った人を殺しながら放浪していた、世界の混乱に乗じて多く殺した事もあったという。
ざっと300人は殺している、彼女に対し発砲する刑事ももちろんいたが運命は彼女を生き残らさせ続けていた。

そしてあの開闢の日、何の因果か、彼女は始まりの地かつ、永遠の村、そして父母の故郷である山折村の1番近くにいた、運命の引力の恐ろしさを感じさせる。

…そしてその時彼女は強大な超力を得た、それは彼女と山折村の縁が引き寄せた超力…もとい山折村でバイオハザードに巻き込まれて息絶えてしまった人間達が変貌したゾンビ達の無念が集まった事による呪いだったのかもしれない

が、それはあの村で使われた全ての異能の使用の可能を促すという人体におけるキャパを軽く超えてしまうものであった。

その結果昏睡してしまい、逃げの天才であった彼女はとある人物に通報された結果警察に捕まり、死刑判決を下された…が、彼女には死刑執行が下される事はなかった。

もしかしたらこの時の為に彼女は生かされたのかもしれない、あの山折村ではどのような悲劇が起きたのか、それを具体的に、そして間近で知る為に彼女の超力は…とても使える。血液検査で彼女の超力を分析した人達はそう判断したようだ。

だが彼女にとってそれはどうでもいい事だ、解放された彼女にあるのは周りの全てをサツリクする…押さえつけられていた破壊する衝動に身を任せるだけである。

参考人物

【名前】高谷 千歩果(たかたに ちあか)
【性別】女
【年齢】43
【職業】元アイドルの芸能人
【外見】茶髪とピンク髪が入り交じったとても可愛い容姿、芸能人として振る舞う時はそれなりのオシャレをしている、胸は88〜90で大きい方、とても40代とは思えないくらい若々しい
【性格】明るく天真爛漫だが大好きになった人に対しての愛は重い、年をとって落ち着いた雰囲気にはなっている。
【詳細】
かつて生まれ育った山折村の名前を広める為に学生でありながら9人グループでアイドル活動をしていた。そのリーダー格でもあったようだ。


96 : 名無しさん :2025/02/01(土) 23:17:22 DO5pNCzU0
【名前】高原藍寿(こうはらあいす)あなたらしく、美しくありながら、長く生きて欲しいという意味が名前に込められている
【性別】女
【年齢】11
【役職】1日看守官
【外見】ピンクゴールドのロングヘアーの右サイドに三つ編みお団子、前髪は七三分け、瞳の色は黄色と水色のオッドアイ、服は看守官の普段着のうち1番小さい服を借りている、そして小学生の割に身長はかなり高い方
【性格】
大胆不敵の自信家、そして母がアイドルとして莫大な金を稼いだ為に大金持ちでもあり、優しさもしっかりある才色兼備の美人さん、余っ程の事では揺るがないメンタルも持っている。そしてママの事も大好きで本当に尊敬している、ママと同じように高校生になったら学生アイドルもやる予定、問題ないわが口癖

【超力】
PHOENIX

炎のように赤く燃え盛る不死鳥のオーラを纏う事が出来る(肉体が変わっている訳では無い)、このオーラを纏っている間、彼女は絶対に死なない(傷も再生する)上、炎の翼を飛ばす事による攻撃、翼による防御、そして飛行も自在に可能である。指から不死鳥のオーラを飛ばす事も出来る。

【詳細】
高谷千歩果の子供達、5女1男のうちの次女で、彼女が学生アイドルを辞め、普通のアイドルとして世界に伝説を残した後に30歳で引退し結婚、その結果産まれた2人目の娘である。

高谷千歩果は事件の事を知った時、大切な故郷、大好きな村が事実上滅びてしまった事、そしてそれに友達になったばかりの岩水鈴菜を巻き込んでしまった罪悪感、そして八雲 朝菜、岡山 美森 、犬山 うさぎ 、環円華等の大切な親友や村人達が死んでしまった事等、全てに絶望し錯乱しながら首を括って死のうとしたが幼馴染の海坂侑が辛うじて発見しどうにか自殺を思いとどまった(それでも半月寝たきりになったが)。

その後山折村の名前を多くの人に刻んでみせる事を9人で誓い、学生アイドルとして本気で取り込み、有名な大会にも大きな記録を打ち出した。

そして高校卒業後、彼女はそのままアイドルをする事にした同じ山折村を故郷にしていたチームメンバーの2人と共にTHREE MOUNTAIN ×THREE ANGELSを結成し、20年前には一大ブームを築き上げた。…あの山折村の関係者というのも理由かもしれないがそれでもアイドルとしての実力もかなりある方だと追記しておこう

だが開闢の日、彼女はあの山折村の近くへ向かっていた

彼女は世界が終わるのならば山折村のすぐ近くで終わりたいと考えたのだ。そうすればまた大切な人達に会えるかもしれないとも考えたのかもしれない

その結果、彼女もまた山折村の人々に関する力を得ていたがそれはまた後述する。

それと同時に近くで倒れていた…実は妹である澁咲帆歌夢を発見、勿論彼女は妹の事を全く知らず、ごく稀に自分と似ているという声をファンから聞いた事がある凶悪殺人者である事だけを把握していた為即座に通報し、彼女が捕まるキッカケになった。

その後彼女は超力が当たり前になった世界において自分の能力を自覚し、使用出来た。
その名前は『ヤマオリライド』
それを使うと山折村のパンデミックで犠牲になった異能を所持した人物のうち知っている人物限定だが5分だけ本人を現世に召喚出来る(1度召喚すると2度と召喚をする事は不可能だが)。彼女ももし異能を得ていたとしたら違う力だったかもしれない。

妹には山折村で死んでいった人の呪いが、姉には山折村で死んでいった人の想いが集まったのかもしれない

勿論召喚した存在は異能は使えないが、話しをする事は出来た。その結果死んでしまった大切な人達と束の間の再会と会話を楽しむ事が出来たと同時にパンデミックの時に何が起きたのかを断片的だが知る事が出来た。
それらをとある1冊のノート『山折村で懸命に生きた人達の想い』という物に彼女は纏めた。

そしてその後もメンバーを増やしながらアイドル活動を続け、30歳で後継にグループを継承してもらってから引退し結婚、6人の子供に恵まれた。

そして13年後、次女である藍寿の運命は12歳の姉である高原菜々子の下記に書かれている超力によって動き始める。


97 : 名無しさん :2025/02/01(土) 23:17:34 DO5pNCzU0
続き

彼女の超力を利用したいと考えて高原家にスカウトが来たが当然万が一菜々子が刑務に巻き込まれてしまった場合を考えてママである千歩果が猛烈に反対、友達を似たような物で失っている以上当然であろう、父である焼きとうもろこしが大好きな元医者である高原幸和(ゆきかず)も勿論反対していた

だがこれは世界の為であると詳細を話されると反対の口調は弱くなり、そこへ藍寿は菜々子と話し合いをした上で、以下の条件を飲むなら自分達が両親に許可を取る事を申告してきた。

・万が一の時の為に高原藍寿も護衛としてついていく
・高原藍寿は高原菜々子の護衛以外はこの刑務において基本的に誰も守らない
・万が一の時はすみやかに2人を最優先に脱出させる
・この事は口外禁止にする
・2人に看守官達は必ず危害を加えない
・誰に能力を行使したのかは高原菜々子には分からなくさせる。

スカウト達はこれを飲み、二人は両親を説得し両親と妹弟達に必ず2人揃って帰ってくるという約束をした上でアビスに招待された。

藍寿は刑務について聞かされた時、確かに酷い話ではないかと感じた、殺し合いなんて自分としても到底認められるものではないし、してはいけないと、非道にも程があるとも

だがもしこの刑務が失敗に終わると刑務で死んだ人の命も無駄になる上、もっと酷い殺し合いが世界で起きて罪なき人が犠牲になるかもしれないとなると話は変わる。

藍寿達家族はママから山折村への想いを沢山伝えられていた、そしてその度に母はいつも泣いていた。

ママにはもう二度と辛い思いをして欲しくない、こんな泣き顔を見たくない、故に世界間での大規模な戦争など起きて欲しくない。

だから私達が協力出来る事だけならやった方がいい、そしてその上必ず戻ってくると決心したのだった。

その上ママの友達がどんな世界で生きたのか…少し興味もあり、それを見届けた上で、自分なりに本にしてみたい気持ちもある。勿論極秘にする約束もする予定である。


98 : 名無しさん :2025/02/01(土) 23:18:26 DO5pNCzU0




【名前】高原菜々子
【性別】女
【年齢】12歳
【役職】刑務のサポート
【外見】翡翠色の長髪ヘア、赤と緑色のオッドアイ、可愛らしい童顔である。服は看守官の普段着のうち1番小さい服を借りている、こちらは年相応の身長
【性格】アイドルやアニメ、特撮のオタクでありながらも武道や日舞もしていて、その上生徒会長でもある、文武両道な小学生、常に敬語、〜さんという呼び方で喋っている。但し妹弟達には呼び捨てである。
【超力】
『完全力全快』

彼女の超力は『触った物にエネルギーを付加し、それに触れた人の付与されている能力や状態を全てパフもデパフもない状態にする』というものであり、この能力を使えば使われた相手の眠気も疲れも怪我も病気も吹き飛ばせるようになる。ただ流石に死者となったものを蘇生させる事は無理な上、戦闘力向上などの利点、この殺し合いで追加された武器や能力も消し飛ばしてしまうが(因みに能力の行使の媒体になった物は1分以内に触らなければ付与されたエネルギーは消えてしまう。そして触られた物は粒子になって自然消滅する)

そしてそれにも時間制限があり、3時間だけしか効果が作用せず、3時間過ぎると強制的に元通りになる。

但し本人には適応外で、己のパフやデパフを認知したら、何時でも無制限に選択した上で作用する事が出来る。

刑務作業を実施するにあたってGPAの権力者達は考えたのだ。彼女の超力は参加者の状態を最初から万全な状態にさせる事が出来る上、物品にも使えて、看守官達も、見続ける人達も万全の状態で殺し合いを見届ける事が出来る為にデータも取りやすくなると、恐らく眠気まなこのせいで何も超力を使わずに死んでしまった受刑者がいてはたまらないと考えたのだろう。

【詳細】

上記にある通り、彼女も己の超力を使い、刑務に役に立つ事を決めた。

彼女も藍寿と同じ考えに至っていたようである。ただ、己の超力が非力なせいで妹を巻き込んでしまう事は申し訳なく思っている。


99 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:00:27 ???0
【名前】ファラン=キム
【性別】男
【年齢】9
【罪状】国家転覆陰謀罪、反動思想文化排撃法違反
【刑期】死刑
【服役】9
【外見】欠食児童、垢とシラミにまみれている
【性格】権力者と命令に絶対服従
【超力】
思考盗聴(センガクヨットゥッキ)
自分の五感を他者と共有する。最大9名まで可能で、そのうち4名が彼の祖国の党幹部秘書、軍高官付伝令、管理所職員、特殊部隊員に共有済である。
【詳細】
某国の管理所にて政治犯の男女の下に産まれる。反乱分子の血統として出産のその日に死刑となり、以後地下核ミサイル発射場のための強制労働に従事していた。建設が終了したため管理所の政治犯は処刑する予定だったが、その超力からアビス送りに最適と判断され、両親の死刑の猶予を条件に派遣された。彼の出国後、管理所は食糧の配給が無くなったこととインフルエンザの流行のため全員餓死、病死、倒死している。


100 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:01:01 ???0
【名前】マリア・バイデン
【性別】女
【年齢】37
【罪状】窃盗罪
【刑期】無期懲役
【服役】21
【外見】身長166cm体重57kg、84・67・91、黒髪黒目、華奢だがやや筋肉質
【性格】明るく前向きだが難しいことやストレスのあることが苦手、軽度の知的障害を持つ
【超力】
灯り消したっけ?(ガスライティング)
離れた場所にあるスイッチを入られる。家のテレビに使えばテレビがつくし、街の街灯に使えば大本のスイッチの関係上光らそうとしてないその辺りの街灯が全部光る。マリアはなんでそうなるかわかっていないし、消すこともできない。
【詳細】
南米からの不法移民。出前のいなり寿司をつまみ食いしたことがバレて示談の条件として自分を売る。その結果悪いことをしてもエッチなことをすればなんとかなると思うようになり、つまみ食いを重ねるが相手によっては普通に警察に突き出され逮捕されることを繰り返す。彼女の国では同じ罪状で何度も逮捕されると無期懲役になるため凶悪犯用の刑務所に送られた。刑務作業もろくにできず超力でうっかりろくでもないことを引き起こすため厄介払いでアビス送りになった。


101 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:01:58 ???0
【名前】サラザール・リー
【性別】男
【年齢】66
【罪状】詐欺、暴行、傷害、傷害致死、脱税、政治資金規正法違反、薬事法違反、公職選挙法違反、不正会計、不正アクセス、特定秘密保護法違反、密入国、密出国、関税法違反、業務上過失致死、児童虐待、強制わいせつ、不同意性交、重婚、暴行教唆、自殺教唆、自殺幇助、道路交通法違反、移民法違反、覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反、建造物侵入、不退去、器物損壊、人道に対する罪、平和に対する罪
【刑期】死刑17、終身刑・無期懲役など30、その他長期の刑480
【服役】7日
【外見】チビでハゲでデブでブサイク
【性格】温厚、やさしい、最後にあった人に影響されがち
【超力】
ゴムマスク
歴代の単独でノーベル平和賞を受賞した偉人の複製体を作り出す。ウィリアム・ランダル・クリーマーからはじまる50名以上の人間の受賞当時の姿をした強固な物理耐性を持つ複製体たちは、サラザールの意志とは無関係に行動するが、その行動原理は彼らの存在を認知した者によるイメージによる。
【詳細】
元ノーベル平和賞受賞者で元孔子平和受賞者。バスク共和国前大統領にして、亡命政府であるバスク人民主化運動臨時政府首班。
彼は国連軍により逮捕されたが、護送中にヘリコプターが謎の墜落をしたため急遽手近な移動手段を徴発することにした。その時徴発しようとしたのがアビス行きの護送便だったのでもののついでで警備が厳重なアビスに収監されることとなる。
なお、彼は自分のゴムマスクを影武者として用意していたが、彼の仲間は影武者の方を本物だと思って守るのに集中していたため、今も逮捕されたことを知らない。


102 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:04:45 ???0
【名前】ナカティ・ドゥクセガ
【性別】男
【年齢】28
【罪状】シャリーア違反、ハッド刑
【刑期】石打ち(死刑)、鞭打ち100回
【服役】1日
【外見】政治家風の細マッチョ、ジムで鍛えた胸囲110弱の均整のとれた体格が自慢
【性格】お調子者だが身バレしないためにオフ会には行かない
【超力】
暴王誅する反逆の筆
 自分の書いたものを誰がどの程度読んでいるのかわかる。読んだ人間がわずかでも視界に入っているのなら詳細な個人情報すらわかる。ただし、わかることは書いた作品への好感度に比例する。
【詳細】
卑猥な髪型の成人漫画家。彼は超力を使って自分の漫画を海賊版で読んだ人間に開示請求を出して小銭を稼いでいたが、うっかりアラビアの王族に開示請求を出したところ諜報機関によって逆に身元を開示され、日本国内にある大使館に拉致されそのまま政府専用機でアビスへと送られる。
ちなみにそのアラビアの王族はナカティの漫画をアラビア語に翻訳しイスラム圏に流すことで得た広告収入で、各国のイスラム過激派組織を支援している。
童貞。


103 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:05:32 ???0
【名前】サクラ・ヤグノヴィッチ
【性別】女
【年齢】45
【罪状】水道毒物等混入及び同致死
【刑期】死刑
【服役】1日
【外見】ほぼ東欧系の美魔女、アンジェリーナ・ジョリーに米倉涼子混ぜた感じ
【性格】情に厚く涙もろい、天然
【超力】
愚者の女王(クイーン・モブ)
興奮を共有する仲間の超力を向上させる。ただし知能は仲間内で最も愚かなものと同レベルになる。
【詳細】
前岐阜県知事。財務省官僚、衆議院議員、参議院議員、国政政党代表などを経てダム建設中止を訴える市民団体チームぎふ共同代表として県知事選に出馬し当選する。
その後彼女は公約どおりにダム建設反対を打ち出すが、そのさなかダム湖に脱糞して抗議するというイベントに参加した際、参加者の一人が糞を爆弾に変える超力であったため、彼女の超力で向上したそれがダムを破壊、建設作業員三名が死亡した。
ダムを破壊するほどの威力のある糞を出せないのにどうやって破壊できたのか、能力が向上すると言っても大勢で興奮しなくてはほとんど意味がないのに県知事まで共同正犯扱いするのは無理があるのではないか、そもそも本当に糞が爆発したのかなどを5年以上に渡って最高裁まで争った。その間に県知事に再選していたが有罪判決を受け辞職、再審請求中にアビスへと送られた。
母方は残留孤児で、ロシア内戦により日本に亡命し帰化した過去や、実はレズビアンなどの濃いキャラだが、世間からの評価は疑惑と糞に塗れた県知事である。


104 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:07:54 ???0
【名前】習正義
【性別】男
【年齢】51
【罪状】アヘン取締法違反
【刑期】死刑
【服役】40週
【外見】右足が太ももからない車椅子の中年男性、ハゲ。
【性格】失敗してもくじけない、ほがらか、くよくよしない、拘禁症状と鬱病、緊張性障害を刑務所内で発症した
【超力】
1��の精液
 望む限り精液を出し続けることができる。射精は自分でする必要がある。
【詳細】
元医師。国会主席の執刀をするも医療ミスにより死なせる。その後彼の家からアヘンが発見、警察が病院に踏み込んだところ手を上げて床に伏せるなどの犯行を行ったためやむなく銃撃。これは当たらなかったが、裁判所に来るまでの間になぜか右足が切断され、酩酊状態のまま裁判は進み、最終的に台湾のスパイということになりかけたが、さすがに無理があったのかアヘンの件だけで死刑になった。


105 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:08:37 ???0
文字化けのため差し替えます

【名前】習正義
【性別】男
【年齢】51
【罪状】アヘン取締法違反
【刑期】死刑
【服役】40週
【外見】右足が太ももからない車椅子の中年男性、ハゲ。
【性格】失敗してもくじけない、ほがらか、くよくよしない、拘禁症状と鬱病、緊張性障害を刑務所内で発症した
【超力】
1リットルの精液
 望む限り精液を出し続けることができる。射精は自分でする必要がある。
【詳細】
元医師。国会主席の執刀をするも医療ミスにより死なせる。その後彼の家からアヘンが発見、警察が病院に踏み込んだところ手を上げて床に伏せるなどの犯行を行ったためやむなく銃撃。これは当たらなかったが、裁判所に来るまでの間になぜか右足が切断され、酩酊状態のまま裁判は進み、最終的に台湾のスパイということになりかけたが、さすがに無理があったのかアヘンの件だけで死刑になった。


106 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:09:25 ???0
【名前】ツバサ・ジダン
【性別】男
【年齢】29
【罪状】ツバサ・ジダンを死刑にする住民条例への規定による
【刑期】死刑
【服役】2ヵ月
【外見】短くかられた金髪の美青年、身長は2m弱。
【性格】完璧主義者、パワハラが趣味、児童臓物の刺し身が好物
【超力】
リビングデッド
死体を生き返らせる能力。使ったことがないので詳細はわからないが、医者としての知見から使えば己が死ぬと予想しているので己に時限的に使う以外の用途は考えていない。そもそもそんな使い方ができるのかわからない。
【詳細】
100万ユーロから始まるオペオークションでどんな手術も請け負う医者。一度引き受けたのならたとえ末期ガンからでも回復させるというまさにゴッドハンドというべき名医だが、それはいくつかのギネス記録を持つほどの知能と手先の器用さ、そして非合法な医療技術によるものである。遵法意識はかけらもなく様々な犯罪を犯していると思われるが、被害者含めて己や知り合いが彼に命を助けられたり彼の手術をしているため、誰も逮捕することができなかった。
しかしそれも狭い街の中の話。他の街に出かけたときにとりあえず逮捕され、わざわざ彼を死刑にするためのルールが作られ最低限のルールの体裁を整えてアビスへと送られた。どのみち犯罪をもみ消してたんだろうし裁判は適当でもいいという判断である。
ちなみに彼が狙われた理由はウザいという理由以外に彼とコネクションがある人間は寿命すらなくなるのではないかと恐れられたからである。彼がいなくなったあと地元の有力者を中心に彼の治療で命を保っていた人間たちが次々死亡、最後は戦術核を用いたテロで住民の大半が難民となった。


107 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:11:15 ???0
【名前】リザ・デジョン
【性別】女
【年齢】17
【罪状】殺人、内乱罪、強姦、児童虐待、器物破損、建造物損壊罪、誘拐、監禁、放火
【刑期】死刑
【服役】1
【外見】腰まで届く金髪と130cmのバストが目を引く美少女。気品を感じさせる顔立ちと立ち振る舞いは彼女に『姫』という印象を持たせるに充分
【性格】悪を討ち正義を示す。人を許す寛容さと不正を許さぬ熱意を持つ。
【超力】
『雷鳴は正義を示す為に鳴る(トール)』
ライ麦の収穫に使うような鎌と、古風な盾を出現させる超力。
鎌は生物であれば何者をも無抵抗に切り裂き、盾は接触した無生物を最初からなかったように削る。
これらは自分に当たっても同様で、一度乳首を切り飛ばしたことがある。
【詳細】
イタリアに難民してきたイタリア系アラブ人。
『開闢の日』以降の混乱期、治安悪化や感染症の拡大などを理由に難民が排斥されたために、それに対抗するために生まれた街を守るマフィアの一つ、『反ナポリ武装戦線9.16運動』。
リザはその一員として、税金を払えと言ってわずかな金を奪おうとする役人や、不法占拠だと言って寒空の下に追い出そうとしてくる警察、怪しいワクチンを打てと言ってくる商店街のレイシストと戦いを繰り広げていた。
この時特に北イタリアでは、難民の流入により住民の半分以上がアラブ系やアフリカ系となるが、選挙権が無いなどな基本的人権が保障されていない状況だった。
リザはそんな不条理で苦しむ仲間を憂い、イタリア人だけで行った選挙で決まった法律などの法で裁けぬ悪を討ち、スピキオの再来とまで言われた。
しかしそんなリザの街を守る正義のテロリストとしての活動は、EUがまいた生物兵器によって愛する者たちが死んでいったことで終わる。ジャンヌ自身の破滅という形で終局する。
おそらく欧州最強の犯罪集団にナチスの残党であるNATOの陰謀で、なぜか難民たちばかり感染症で死んでいったのだ。
しかし彼女の正義の炎は消えなかった。陰謀の証拠を突き止めるため様々な犯罪組織に娼婦として潜入し、途中陰茎を移植されるなどの予想外のこともあったが、情報を集めつつ彼女の故郷の法に基づいて悪人を裁いていった。
しかしいかなる陰謀かエイズに感染してまいなんやかんやあって逮捕された。
彼女の逮捕に難民たちは咽び泣き、全イタリア人が鼻で笑ったという。


108 : 名無しさん :2025/02/02(日) 01:14:44 KvaufChk0
【名前】サミュエル・ガブラス
【性別】男
【年齢】55
【罪状】監禁罪、労働法違反、強制労働、人身売買、贈賄罪、臓器移植法違反、寿命搾取
【刑期】無期懲役
【服役】2年
【外見】ひげを蓄えた恰幅のいい男。声が低く、威圧的なしゃべり方をする。
【性格】
倫理感が薄く効率主義。
ただし、娯楽産業の従事者らしく、奮起や逆転のストーリーを好むため、他人には主義を押し付けない。
結果至上主義で、自分に逆らっても結果を出せる人間には寛容。

【超力】
『劣化クローン』
耐用年月がオリジナルから差し引き、物体を増殖させられる異能。ひとつの対象に使えるのは6時間に一回が限度。
人間を増殖させると、自我が希薄な人間が出来上がり、代償として寿命がオリジナルから差し引かれてしまう。
オリジナルの寿命は必ずどのクローンよりも長くなければならないという制約があるため、
寿命マイナス一分のクローンを作って一分後にオリジナルを大往生させるなどといった芸当はできない。

【詳細】
映画・娯楽産業を手掛ける大手企業トゥルージョイフルプロダクションズの会長。
リアルよりもリアルらしくをモットーに支出を惜しまず、たった一回の撮影のために大がかりな舞台をセットすることは序の口。
本物のビルを使って建造物の破壊シーンを取り、エキストラにいたっては本当に死亡していた。
エキストラが超力で作ったクローン人間であることは彼の口から公開されており、グレー扱いだったが、彼の超力はオリジナルの人間に反動が還元されることが判明。
彼の会社の地下深くには裏社会から購入した多数のエキストラ役という名の奴隷が監禁されており、瀕死となった役者は臓器ドナーとしてリサイクルされていた。
このサイクルから逃げ出した一人のエキストラによって彼の悪事は告発され、映画のような大捕り物と裁判劇が始まってしまう。
結果として、告発者やその支援団体に敗北し、TJP社は解体。
リアルよりもリアルらしくを追求した彼は、最後は自分自身が国中を巻き込んだ勧善懲悪物語の悪役として倒されることになったが、
アビスへ連行される彼の表情はどこか満足げなものだったという。


109 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/02(日) 01:15:05 ???0
誤字脱字あったため差し替え願います

【名前】リザ・デジョン
【性別】女
【年齢】17
【罪状】殺人、内乱罪、強姦、児童虐待、器物破損、建造物損壊罪、誘拐、監禁、放火
【刑期】死刑
【服役】1
【外見】腰まで届く金髪と130cmのバストが目を引く美少女。気品を感じさせる顔立ちと立ち振る舞いは彼女に『姫』という印象を持たせるに充分
【性格】悪を討ち正義を示す。人を許す寛容さと不正を許さぬ熱意を持つ。
【超力】
『雷鳴は正義を示す為に鳴る(トール)』
ライ麦の収穫に使うような鎌と、古風な盾を出現させる超力。
鎌は生物であれば何者をも無抵抗に切り裂き、盾は接触した無生物を最初からなかったように削る。
これらは自分に当たっても同様で、一度乳首を切り飛ばしたことがある。
【詳細】
イタリアに難民してきたイタリア系アラブ人。
『開闢の日』以降の混乱期、治安悪化や感染症の拡大などを理由に難民が排斥されたために、それに対抗するために生まれた街を守るマフィアの一つ、『反ナポリ武装戦線9.16運動』。
リザはその一員として、税金を払えと言ってわずかな金を奪おうとする役人や、不法占拠だと言って寒空の下に追い出そうとしてくる警察、怪しいワクチンを打てと言ってくる商店街のレイシストと戦いを繰り広げていた。
この時特に北イタリアでは、難民の流入により住民の半分以上がアラブ系やアフリカ系となるが、選挙権が無いなどな基本的人権が保障されていない状況だった。
リザはそんな不条理で苦しむ仲間を憂い、イタリア人だけで行った選挙で決まった法律などの法で裁けぬ悪を討ち、スピキオの再来とまで言われた。
しかしそんなリザの街を守る正義のテロリストとしての活動は、EUがまいた生物兵器によって愛する者たちが死んでいったことで終わる。
おそらく欧州最強の犯罪集団にナチスの残党であるNATOの陰謀で、なぜか難民たちばかり感染症で死んでいったのだ。
しかし彼女の正義の炎は消えなかった。陰謀の証拠を突き止めるため様々な犯罪組織に娼婦として潜入し、途中陰茎を移植されるなどの予想外のこともあったが、情報を集めつつ彼女の故郷の法に基づいて悪人を裁いていった。
しかしいかなる陰謀かエイズに感染してまいなんやかんやあって逮捕された。
彼女の逮捕に難民たちは咽び泣き、全イタリア人が鼻で笑ったという。
勝手にフランスのジャンヌ>>91をライバル視している。そのことが週刊誌で取り上げられ、なぜかイタリア大使がフランスに謝罪するハメになった。


110 : 名無しさん :2025/02/02(日) 09:33:02 Ll7jvvGQ0
【名前】瀬戸内 有働(せとうち ゆうどう)
【性別】男
【年齢】四十五歳
【罪状】三十二件の殺人
【刑期】死刑
【服役】三年
【外見】180cm 133kg 禿頭で肥満体。威厳や貫禄を出そうと思えば出せたりする。
【性格】
僧侶の身で有りながら、酒と女と博打をこよなく愛す破戒坊主。僧侶の修行は全くした事がなく、般若心経すら暗誦出来ない
【超力】

『招来・不動明王』

頭上もしくは背後に、全高2mの不動明王を現出させる。
不動明王は自律して動き、手にした剣や、全身に纏う迦楼羅炎で攻撃してくる。
この時有働も不動明王と同じ炎を帯びている為に、格闘戦に於いてかなり強化される。

当人の戦闘技能ZEROだけど。

有働の持つ欲望だとか苛立ちだとか嫉妬だとかいった感情の強さにより、不動明王の戦闘能力や帯びる炎の威力は変動する。
当然の事ながらこの不動明王は有働の超力の産物でしか無く、仏教五大明王のの不動明王とは全く関係ない。

【詳細】
元々は霊能力者として、悪霊退散や厄除けを行なっていた僧侶。
……当然詐欺である。
それっぽいことをやって、それっぽいことを言って、善男善女を騙して金銭毟り取っては、酒飲んで女抱いて肉喰らって馬券買ってた生臭坊主である。

『開闢の日』を迎えて、有働の詐欺師…もとい、霊能者としての活動が終わりを迎える事となる。
人類全てが手に入れた『超力』により、既存の霊能力者や超能力者の存在意義は消滅。
霊感商法というものが成立しなくなってしまったのだ。
しかして旧来の霊能力者や超能力者にも、等しく『超力』は発現した。
有働の様なインチキ生臭破戒僧にも平等に。
有働は自身の得た超力を、御仏が仏道に背く者に仏罰を与える為に、己に与えられたものだと思い込み、手始めに偽りの不動明王像を使って、日頃から有働の事をインチキと批判していた近所の男を殺害。
その後は金銭と引き換えに、悪しき人間を誅戮する日々を送り、反社から依頼されて、とある刑事に仏罰を下しにいったところ、その刑事が予想以上に強かった為に激戦を繰り広げる事となり、刑事が呼んだ応援により袋叩きにされてお縄となった。

裁判でも『自分は御仏の意思を受けている』などとトチ狂った発言を繰り返し、刑務所でも他の囚人に難癖付けて殺害するなどして、アビス送りになる。


111 : 名無しさん :2025/02/02(日) 11:12:32 XNEois3.0
【名前】鑑 日月(かがみ ひづき)
【性別】女
【年齢】17
【罪状】殺人罪
【刑期】死刑
【服役】半年
【外見】腰まで届く漆黒の長髪、妖艶な雰囲気を纏った絶世の美少女
【性格】
向上心が異常に強く、己の欲望に忠実。
冷酷無慈悲で自分以外の全てを見下しているが、
アイドルという世界だけは本気で愛してしまい、極めて強い愛着と執着を見せている。
【超力】
『偶像崇拝(アイドラトリィ)』
彼女自身がその場を舞台(ステージ)として認識することで発動する能力。
神憑り的な身体能力、表現力、歌唱力、そして天運を得る。

彼女自身の邪悪な欲望と、輝ける世界(アイドル)への愛という相反する2つの感情が強くなるほど効力が高まるが、
どちらか片方に偏ってしまうと逆に能力は弱まってしまう。
能力をフルに発揮しようとした場合、文字通り人格を引き裂くレベルの苦痛が伴い、精神崩壊にもつながりかねない。

【詳細】
彼女は生まれながらにして絶世の美貌と悪魔的な頭脳、そして苛烈な野心を有していた。
両親はごくごく平凡な人間であり、彼女の受けた教育は決して悪いものではなかったが、
彼女には周囲の人間全てが愚物にしか見えず、わずか10歳にして今までの生活全てに見切りを付け裏社会に足を踏み入れる。
そしてたった数年で暴力団や複数の資産家・政治家に取り入ることに成功、彼らを手玉に取って欲望の限りを尽くした。
このまま生きていれば彼女は稀代の悪女として名を残したであろう。

だが、ある日街を歩いていた時にとある芸能プロデューサーからアイドルにスカウトされたことで全ては一変する。
本人は芸能界にコネを作るチャンス程度の考えだったが、生まれて初めて見た輝ける世界に本気で魅了されてしまう。
その美貌と才能で人気街道を駆け上がっていくが、活動を続ければ続けるほど周囲の輝きと己の内に秘めた邪悪性の板挟みに苦しむことになり、精神が擦り減らされていく。

そして遂に、彼女の裏の顔が芸能プロダクション側に知られてしまう。
彼女を金の卵と見てスキャンダルの根を摘み取りたい芸能界上層部、
鑑日月は我々の女であると所有権を主張する彼女が取り入っていた暴力団、
彼女をただ一人の少女と見て幸せを願うプロデューサーとマネージャーという三者の極秘会談が行われることになったが、
その席に於いて、光が奪われるかもしれないという恐怖に駆られた彼女の精神が遂に破綻。
半ば狂乱状態で超力を発動させ、プロデューサーとマネージャーだけを除きその場にいた全員を殺害した。

生き延びた2人の眼には、その時の彼女の姿は神々しいほど輝いて見えたという。


戦闘能力的には、他人に頼るという発想が無く、与えられたボディーガードなども信用していない為、
その辺のチンピラくらいなら超力なしでも軽くあしらえる程度の自衛術は心得ている。


112 : ◆uhGols11hY :2025/02/02(日) 16:20:02 YVj4fRhk0
【名前】ジルドレイ・モントランシー
【性別】男
【年齢】25
【罪状】殺人、強姦、児童虐待、器物破損、建造物損壊罪、誘拐、監禁、放火
【刑期】死刑
【服役】3ヶ月
【外見】超力による特殊な施術を含む全身整形により、ジャンヌ・ストラスブール(>>91)と骨格、体格、顔立ちまで殆ど同じだが、獄中では染められないため、髪だけ青みがかった地毛となっている。
【性格】
表面上は誰にでも優しく、友好的な人物に思えるが、その本質はどこまでも虚無的かつ機械的。
喜怒哀楽といったおおよそ人間らしい感情や、それに対する共感性も無く、他人と己の命に対して一切の執着が無い。
ようはガワだけ人間のふりをしている昆虫のような精神性の持ち主。
唯一の例外がジャンヌであり、彼女に対してのみ異常な執着を向けている。
一人称「私」、二人称「貴方、貴女」
【超力】

『我が情熱は去り(ラ・パッション・パシー)』
冷気を自在に操る超力。
最大で絶対零度にまで達する冷気はあらゆるものを氷結させ、停止させる。
氷槍や氷柱といった物理攻撃から強烈な冷気による範囲攻撃、氷による分身の作成といった多彩かつ強力な技を有している。

【詳細】
フランスの貴族の家系であるモントランシー家の現当主。
生まれつき人らしい心を持たない彼は、ただ家の跡継ぎとして求められるままに過ごす空虚な人生を送っていた。
しかし、ある日正義の味方として活動するジャンヌの姿を見た事で一変し、狂信的なジャンヌ信者と呼べる者へと変貌した。
当初はジャンヌに習って善行を行い、救助活動への支援や、家の財力を活用して治安維持のために出資金を出すなどの慈善活動を行っていたが、組織の陰謀によりジャンヌが有罪判決を受け投獄された事で状況が一変する。
元から善悪の区別がないジルドレイにとって、ジャンヌの行う活動の意義や目的は一切興味感心がなく、彼女の抱く正義への共感は欠片もなかった。
なので、ジャンヌの名が人々の中で悪魔の代名詞となった時、彼は何も気にせずそれに倣い、推し活の一貫として彼女の行ったとされる全ての犯罪を模倣し続け、最終的に最悪の模倣犯としてアビスに収監された。
なおジルドレイはジャンヌ本人とは一切の面識がなく、ジャンヌもジルを知らない。


113 : 名無しさん :2025/02/02(日) 16:25:44 Ll7jvvGQ0
【名前】欧陽 閏(オーヤン ルゥン)
【性別】男
【年齢】二十八歳
【罪状】殺人(捏造)
【刑期】終身刑(一応)
【服役】一ヶ月
【外見】183cm 76kg 美形の細身で男にも女にも見える顔立ち。
【性格】
いつも微笑みを絶やさない何考えてるか判らない人物。人当たりは良いが冷淡な印象が有る。女好きで男好きのバイセクシュアル。冗談を良く言うが、実は本気だったりする事も多い。
【超力】
『陰陽混交(インヤンフンジャオ)』

性別を変えて、二種類の不可視無音無臭のエネルギー塊を射出する超力。
五感では感知できず、気配を感じ取るしか感知する手段が無い。

性別の変化に時間は掛からず、ひとつ息を吸って吐く間に変化は完了する。

男の時:
最大威力で、普通乗用車位なら吹っ飛ばし、装甲車を破壊する威力のエネルギー塊を撃ち放つ。物理的な防御で無ければ防げない。つまり超力で防ごうとすると透過して直撃する。

女の時:
物理装甲を透過、超力で無ければ防げないエネルギー塊を撃ち放つ。物理的な防御は透過する。
生物に当たると生体機能を満遍なく低下させて衰弱死させる。


【詳細】
さる中国の黒社会の大物の息子。兄が三人居たが、長男と三男が跡目争いをやって自滅。後継者と目された次男よりも優秀だった為に、後継として担がれそうになる事を嫌い、適当に罪状をでっち上げてアビスに入った。
兄に跡目を譲ったのは、兄弟愛などでは無く、単純に争うのも当主やるのも面倒だったから。
適当に時期を見て恩赦出させて出ようと思っていたら、殺し合いが始まって頭を抱えている。




自身の事を西遊記で孫悟空が最初に倒した妖怪の名だったり、水滸伝中最弱の妖術使いである樊瑞の二つ名である『混世魔王』と名乗るが、これは当人の冗談らしい。


114 : 名無しさん :2025/02/02(日) 21:46:37 WNPEclVw0
【名前】
叉刀神(さとがみ)有咲(ありさ)
【性別】女性
【年齢】18
【罪状】殺人罪、死体損壊・遺棄罪
【刑期】無期懲役
【服役】1年
【外見】赤髪のおさげドリル。顔立ちは凛々しいといよりは可愛らしい感じ
【性格】一見大人しそうに見えて激情家。気高く振る舞っていてその実臆病
【超力】
『烙印の獣(ビーステッド)』
異能の種別としては単純明快な発火能力(パイロキネシス)の類、と当初は思われていたが、その実態は食人衝動を代償に人の肉を食らうことで己の力を増すというもの。食した対象が超力持ちだった場合はその超力を使用することが出来る。
ただし手に入る超力の出力は超力持ちの体をどれだけ食べたかに比例する。例えば30%食した場合は三割分の出力、という感じ
ちなみに発火能力は、幼少期の彼女が無自覚に食人衝動で発火能力の超力持ちを食らっていた為に手に入れていた。

【詳細】
『開闢の日』以前から代々政府とのパイプが厚かった叉刀神家のご令嬢。厳しいながらも優しい両親や親身になってくれるメイドたちと共に不自由なく暮らしていた。

ーー彼女がその超力と食人衝動を自覚するまでは。
抑えきれない欲望と衝動のまま家族もメイドたちも食い散らかし、罪悪感と己自身の気持ち悪さに発狂し逃げるように各地を転々と移動。
その道中、食人衝動が暴走した際に「自分の体を食べさせてくれた」ある超力持ちの女の子と出会い、その彼女に恋をしたことで二人による逃避行が始まった。
時には喧嘩し、時には交わり、時には誰かを殺し逃げ続けた。そして警察に追い詰められ、袋小路に陥った。

恋人は「私を食べて」と有咲に願った。
悲しみと葛藤の果て、彼女はその恋人を食べた。
そして彼女は投降し、アビスに送られた。
その時、有咲は泣いていた。全てを洗い流すかのような涙が、有咲の瞳から流れていた。

恋人を食べたことで、彼女は更に自己治癒(オートリジェネ)の超力を手に入れた。


115 : 名無しさん :2025/02/03(月) 01:36:45 lY4H8RFg0
【名前】ノルドル・バイラス
【性別】男
【年齢】21歳
【罪状】国家転覆罪、内乱罪
【刑期】死刑
【服役】11年
【外見】細めの垂れ目でニコニコした印象を与える顔
    引き締まった体格
【性格】明るく優しく穏やか。
【超力】
『魔法の杖(マジカルステッキ)』
手に持った棒状の物体を魔法のアイテムに変える超力。
『棒状の物体』の定義にサイズは関係なく、杖や傘、ボールペンなどが当てはまる。
『魔法』についても超力使用者の発想次第で単純な攻撃から世界法則を変えるものまで発動することができる。

『超力感染』
自身の持つ超力『魔法の杖』を他人に感染させる。
感染させるためには粘膜接触が必要。
感染させられる人数に上限はなく、一度感染させたら一生感染状態が続く。
元の超力を残したまま感染できるか否かはランダム。
傾向として元の超力が現実に及ぼす効果が小さいほど残りやすいっぽい。

【詳細】
『開闢の日』の訪れとともに人間は皆超人化した。
物心ついたころには使いこなしていた彼にとって超力は便利な身体能力のひとつでしかなかったが、成長するにつれ全ての人間にとってそうではないことを知る。
恵まれない超力を持ち虐げられる者、制御できない超力を持ち苦しむ者。
彼らを何とか救いたいと強く強く願った彼に宿った二つ目の超力が『超力感染』。
超力がもたらす混乱の時代を憎んでいた両親の協力のもと身近なところから一人、また一人と感染させていき、ついには1,000万人規模の軍勢を設立。
超力に頼らない国家の樹立を目指してクーデターを起こし、国を乗っ取った。
しかし人心掌握に長けていた両親も内政や外交には疎く、また、『超力に依存しない国家』を掲げたものの超力を使わず生活することには無理があったことなどから国家運営を断念。
殺さずにおいた旧首脳部に国家を明け渡して下野。
クーデターの首謀者として両親ともども逮捕され、アビスに投獄された。
7000万人規模の国家の転覆に一度は成功したこと、手勢の数と質、その年齢などから、超力黎明期における三大革命犯の一人として数えられている。


116 : 名無しさん :2025/02/03(月) 20:36:26 FAuMEaTU0
【名前】ルクレツィア・ファルネーゼ
【性別】女
【年齢】十九歳
【罪状】殺人、暴行、誘拐、監禁、傷害致死、違法薬物製造
【刑期】死刑
【服役】一年
【外見】腰まで届く銀髪と、白過ぎる程に白い白皙の肌の儚げな美少女。瞳の色は紅
【性格】
茫洋とした感のある、物静かで穏やかな性格。長い歴史と伝統に裏打ちされた優美と典雅と気品を持つ。疲労や痛みというものに対する感覚がかなり鈍い。
嗜虐思嗜好で被虐嗜好のバイセクシュアル。
【超力】

『楽園の切符(パラディーソ・ビリエット)』

50cmの長さの煙管を出現させる。
煙管から出す紫煙+煙管を吸う事で自身にのみ作用する薬物が超力の本質。
煙管自体も頑丈で、身体を鍛えた新人類の振り下ろすスレッジハンマーを、難なく受け止められる。



煙管から立ち上る紫煙
対象が望む理想そのもの夢を見せる。
世界の支配者だろうが、過去に死んだ者と暮らす事だろうが、無限の富を掴む事だろうが、海賊王になる事だろうが、どんな夢でも夢見る者が望むままに見せる。

紫煙を吸った者が夢見ている間、ルクレツィアは夢見る者が過去に体験した苦痛を余さず感じ取れる。

紫煙の発動条件として、酒なり麻薬なり拷問なりで意識が混濁していなければ効果を発揮しない。
ルクレツィアは主に拷問を用いていた。


◆◆◆
上記の二つは成長して使用出来る様になった。
ルクレツィアを調べた専門家曰く。超力が自身に及ぼす作用に、肉体と精神が耐えられる様になるまでリミッターが掛かっていたのかも知れないとの事。

「リミッターなんて無かった方が世の為だった」とはその専門家のコメントである。
◆◆◆

吸う事で体内に循環する黒煙
疲労や痛みにたいして極端に鈍くなり、五感と身体能力が向上し、身体を深々と斬られても短期間で治癒接合する回復能力を得る。
再生はしないので、四肢を切断されれば拾ってくっつける必要が有る。
この薬による強化は凄まじく、戦闘技能が全く無いルクレツィアが、身体能力と回復力のゴリ押しだけで、訓練を積んだ武装した兵士一個小隊なら軽く殺し尽くせる程。

生まれたときから使用可能な能力であり、ルクレツィアの性状と凶行の原因となった。


【詳細】
イタリア貴族の血を引く資産家の令嬢。
超力の為に、産まれた時から感覚が希薄であり、その為か『肉体の痛み』というものを理解できず、『肉体の痛み』を理解する為に、何人もの使用人に怪我を負わせ、父から厳罰を受けた。
その為に、孤児や浮浪者を誘拐し、金で身柄を買い、凄惨な拷問の果てに幾人も嬲り殺しにしたが、それでも痛みを理解出来なかった。
代わりに理解できたのが、人体を破壊する行為は愉しいという事であり、身体を破壊される人間の反応は面白いという事だった。
第二次性徴期を迎えた頃、ルクレツィアの超力の全てが開放される。
さっそく拷問し抜いて瀕死にした少女に使用してみたところ、少女は至福に満ちた表情を浮かべて眠り、ルクレツィアの全身に少女に与えた苦痛が刻まれた。
この時にルクレツィアは、初めて『肉体の痛み』を識り、涙を流して法悦の叫びを上げたという。
そして、少女が夢から覚めて、過酷な現実に戻ってしまった事を認識した瞬間の絶望の表情を、心の奥底から愉しみ抜いた。
元から常軌を逸していたルクレツィアが、本格的に狂ったのがこの日からである。
人の肉体を壊して喜ぶのは前菜(オードブル)。壊した人間の苦痛を我が身で味わうのが主食(メインディッシュ)。絶望と悲嘆に壊れる精神は甘美なお菓子(スイーツ)。
そうして人間を壊して壊して壊し続け────。
ルクレツィアの狂気そのものの行状を忌んだ父親の手により、ヤマオリ記念特別国際刑務所送りとなった。


117 : 名無しさん :2025/02/03(月) 21:52:22 FAuMEaTU0
【名前】羽間 美火(はざま みか)
【性別】女
【年齢】十七歳
【罪状】十五件の殺人(冤罪)
【刑期】死刑
【服役】半年
【外見】139cm 42kg(本来の姿) 173cm・80kg(変身時)
ショートカットの黒髪、均整の取れた身体のボーイッシュな感じの少女。顔立ちは年齢に比して幼なげ。
【性格】直上的で熱血な性格。努力と根性の人。脳筋のヒーローオタ。
【超力】

『正義顕現・此れぞ我が理想也(イデアル・ヒーロー・マテリアライズ)』

美火が理想とするヒーローの姿に変身する能力。
『現在のとこと』成長した自分の姿になる。
姿が変わるだけで無く、身体能力も向上し、羆を素手で仕留め、全身反応速度は時速六十キロで走ってきた普通乗用車に撥ねられても無傷で済む。
他人の姿を取った時、その人物が持つ超力を使えるかは未知数である。


【詳細】
『開闢の日』以降の混乱期に於いて、世界中国家は治安の維持が困難になる程に、激発する犯罪に悩まされていた。
警察能力の低下に伴い、必然的に反社が勢力を増す。
「頼りにならない警察よりも、俺たちの方がお前達を守ってやれる」
この誘惑に屈し、多くの個人や店舗が反社の庇護を受ける事になった。金銭と引き換えに。
美火の住む商店街もまた、警察能力の低下と、犯罪の増加に悩まされていた。
そんな中、美火は自身の超力を活かし、犯罪や反社の手から商店街を護り続けていた。
一人自警活動に勤しむ美火は、ある日十五人の半グレの集団に襲撃される。
当然の様に超力を用いて全員打ち倒し、いつもの様に警察と救急に通報して立ち去った。
そして翌日、殺陣の容疑で逮捕され、殺人の容疑の否認と正当防衛を主張するも受け入れられることは無く、そのままアビス送りとなった。

事の真相は、美火の存在を煩わしく思った反社が半グレに金をやって襲撃させたというもの。
半グレが美火を始末できれば良し、失敗したならば、半グレ達を口封じを兼ねて皆殺しにしてその罪を美火に被せる。
そうして美火が排除された商店街は反社の縄張りとなり、二ヶ月後に別の反社との縄張り争いの中で起きた放火事件により全焼l。商店街の住人にも多数の死者が出たのだった。


118 : 名無しさん :2025/02/03(月) 23:11:04 qtRwIUbY0
【名前】シビト
【性別】不明
【年齢】不明
【罪状】殺人罪、死体損壊罪
【刑期】無期懲役
【服役】5年
【外見】やせ細った体。猫背。ギラつくような瞳。体中傷だらけでそれを隠すかのように包帯を巻いている。
【性格】狂気。他人との意思疎通こそ可能であるが、あくまでそれだけ。何かに駆り立てられたかのように混沌を世界にもたらす。
【超力】
『屍魂饗宴(ネクロ・カーニバル)』
死んだ生物を自在に動かすことが出来る能力。
操作可能範囲は半径1メートル。操作できる死者には単純な命令しか出来ない等制約も多い。
ただし『死んでいる』ものであればどんな生物でも思いのままである。


ただしこれは彼が脳に大きな怪我を負い、能力が大幅に弱体化した結果。
本来ならば完全な形での死者の蘇生、もしくは死者をゾンビ状態で仮蘇生させての使役も可能とする。
少なくとも今回の刑務作業中に能力が完全復活することはない。


【詳細】
『開闢の日』から間もない頃の混迷期、人々の間で噂された「死んだ人が蘇る」という都市伝説。
その噂を現実のものとしたのは、どこからともなく現れた住所不明の謎の異能者。
徐ろに死者を蘇らせ、都市伝説として独り歩きし、立ちふさがるものを殺し蘇らせ、時には己の手駒とする。
「死者の完全な蘇生」という世界の在り方をひっくり返すような神の御業を齎す異能者を放っておけないと、秘密裏にありとあらゆる国・組織による共同の捕獲作戦が実施された。
数週間に及ぶ激闘、多数の死者を出し、勇気ある青年の一発の銀の銃弾が彼の脳を傷つけ弱体化させたことでようやく捕縛に至った。
殺害ではなく捕縛になったのは、彼の能力を利用しようと考えた各国の権力者や富豪たちの思惑によるもの。


本名不明、暫定的に「シビト」という名前を付けられ、アビスの奥深くに封印されている。
情報を聞き出そうと何度も聞き取りが行われたが、「神」という単語以外、重要な情報は聞き取れなかった。
彼の存在を知るものはアビス関係者でも一握りしか存在しない。


今でも確認されていないだけで、シビトが蘇らせた「蘇生者」たちは世界各地に存在する。


119 : 名無しさん :2025/02/04(火) 00:25:03 2gEyI.dE0
【名前】エネリット・サンス・ハルトナ
【性別】男
【年齢】17歳
【罪状】王族罪
【刑期】無期懲役
【服役】15年
【外見】褐色の肌。切れ長の瞳。どこか品を感じさせる優雅さがある。
【性格】規律正しく真面目な性格。従順なようでその実結構なくわせ者。諦めが悪い。
【超力】
『監獄の王子(charisma of revenge)』
家臣を束ね力とする王の力。
他者の超力を借り受け使用することが可能となる。数に上限はなく同時に複数の超力が使用可能。
使用する超力の再現度は信頼、あるいは忠誠心に比例する。貸し付けが行われている間は元の使用者は超力が使用不能となる。
また、借り受けた超力は自身で使用するのみならず、別の家臣への又貸しも可能である。
仮に忠誠心60%の2名の家臣に又貸しする場合、60%で借り受け、60%で貸し出すため36%の再現率となる。
【詳細】
亡国の王子。『開闢の日』によって生まれた混乱で転覆した君主制国家の第十二王子。
王族は一族郎党皆殺しにされたが、どういう訳か当時2歳だったエネリットだけは見逃され、『王族罪』と言うよくわからない罪で投獄された。
そもそもまともな刑務所に幼児を受け入れられるはずもなく、特殊環境であるというだけの理由でアビスに厄介送りされた。
物心つく前から獄中(アビス)で育てられた、生まれ持った華やかな気品と、地の底で育った泥臭さを併せ持つアビスの申し子。
殆ど親代わりを務めたためか刑務官の中には親心のような特別な感情を抱いている者も少なからずいる。
生まれてこの方、刑務官と受刑者と言う両極端な人間としか接触していないため普通がいまいちわからないでいる。
頭の回転が良く、知識の吸収が早い。刑務所内の資料で自身の出自については把握している。
獄中の戒律を叩きこまれて育ったため従順で礼儀正しいが、その瞳の奥底には消すことのできない復讐の炎が灯っている。


120 : 名無しさん :2025/02/04(火) 03:16:12 5b83.mHw0
【名前】ラバルダ・ドゥーハン
【性別】女
【年齢】44
【罪状】麻薬製造、密売、殺人
【刑期】無期懲役
【服役】1年
【外見】栗色の豊かな髪にはパーマがかかっている。三白眼でワイルドさを感じさせる女性。逮捕されても薄ら笑いを浮かべ、堂々としている。
現役時代は血のような赤色の中折れ帽子を好んでいた。
【性格】反骨精神が強く、女を舐めているような男を嫌い見下す。いざとなれば自身が銃を持ち戦い、カリスマ性も持っている。
移民や難民や売春婦と言った弱い立場の女性を利用するのが上手い一方で、余程のことがない限り見捨てることもない優しさを併せ持つ。
【超力】
『ラバス・フィシカス』
身体から棘の生えたキイチゴのツルを伸ばす能力。ツル自体はそれほど強靭ではなく、頑張れば千切れる程度だがこの能力の真価はそこではない。
他者に絡みつくと、刺さった棘から栄養として超力を発動するための体力を奪い取る。
やがて花が咲き、鮮やかな血の色をしたキイチゴが実っていく。
キイチゴを食すると、暫くの間超力をブーストする効果が得られる。

麻薬の使用者から体力を徴収し、麻薬を製造する超力の持ち主にキイチゴを与えていた。
裏切り者の処罰等にもこの能力を用いていた。
力を吸い取り尽くすと対象は死亡する。
自身の体力を消耗してキイチゴを実らせることも、一応可能。信頼する仲間を強化してピンチを切り抜けたこともある。

【詳細】
オーストラリアの裏社会において成り上がった麻薬女王「サイシン・マザー」。
元々ドラッグ使用率の高さが問題となっていたオーストラリアでは、「開闢の日」移行ではドラッグに関係した超力に目覚める者も多かった。
超力によって生み出される麻薬は効能も非常にバラバラだが、総称として「サイシン」と呼ばれた。

彼女はその可能性にいち早く気づき、不良仲間たちを集めて組織化しドラッグの販売ルートを構築した。
運び屋や売人として使える能力者も集め、オーストラリアはドラッグの輸入大国から製造に関しても大国へと変貌していく。
今までドラッグを科学合成するなら工場を摘発すればいいし、農場で原料を作るならそれを摘発すればよかった。
設備は大規模だし逃げていくこともない。
しかし自由に動く人間たちを高度に組織化されると、摘発は困難になるばかりであった。

しかし組織が大きくなると警察も本腰を入れて潜入捜査などを開始、また従来の中南米から輸入される麻薬を扱う組織との抗争も余儀なくされる。
当人もそのようなことが続くと疑心暗鬼となり、恋人をも信頼できず殺害を繰り返す。
信頼を試すかの如く、部下を使い潰すかのように厳しく扱い続け組織は弱体化していった。
血の繋がった子供だけを信用していたが、徐々に逮捕や死亡となり追い詰められていき最終的には当人も逮捕されアビスへ投獄された。


121 : 名無しさん :2025/02/04(火) 19:52:01 i7G.71Ao0
【名前】深水 静留(ふかみず しずる)
【性別】女
【年齢】24
【罪状】殺人、窃盗
【刑期】死刑
【服役】一年四ヶ月
【外見】
病的な青白い肌に碌に手入れしていない長い黒髪。不眠症で眼の下にドス黒い隈が有る。血糊ついてない佐伯伽倻子みたいな外見
【性格】陰鬱で卑屈。被害妄想と自己正当化度合いが酷い。
【超力】

『水底へと足を引くもの(ルサールカ)』

自分を中心とした前後上下左右30mを水底と同じ状態にする。
あくまでも『同じ状態』であって、『水底そのもの』では無い。
この能力の範囲内では、水中に居るのと同じ状態になる。
つまり呼吸が出来なくなり、水圧により苦痛を覚え、水の抵抗により満足に動け無い。
脱出しなければ当然死ぬ。

静留はこの中で何の影響も無く動き回る事ができる他、水中を泳ぐ様に宙を泳いで移動することが出来る。
当人の風貌もあって泳ぐ姿は不気味この上ないが。

この超力の為か、水中限定で呼吸する必要無く何時迄も潜り続けられる。

【詳細】
『開闢の日』に一家で無理心中を図った深水家の生き残り。
父母と祖父母に連れられて水に飛び込み、開闢の時を迎えて得た超力により死を免れる。
その時に見た大好きだった父母と、自分を慈しんでくれた祖父母が、共に苦しみ抜いて死ぬ光景が、現在に至るまで静留の眠りを脅かす悪夢となり、静留の陰鬱さの元となった。
親戚の家に引き取られるものの、当然の様に馴染めず。中学の時には『お化け女』呼ばわりされて陰湿なイジメに合うなど悲惨な人生を送る。
遂には『根性試し』と称した男達に強姦されそうになり超力暴発。その場にいたクラスメート全員を溺死させて逃亡。
以降は窃盗を繰り返し、捕まりそうになっては超力を用いて逃げ続けた。
やがて、反社がみかじめ料を取っていた店舗に盗みに入った為に反社にも追われる身となり。
何人もの反社を溺れさせて逃亡を続けるも遂に捕まる。
埋まるか俺たちの為に働くか好きな方を選べと言われ、生きる為に反社に加わり、抗争で幾人もの反社溺死させた。
そして静留が身を置く反社が警察の捜査を受けた時、反社たちが逃亡の為の時間稼ぎをやらされた静留は、超力で幾人もの警察官を溺死させる。
捕まった後に受けた裁判では、境遇に同情されて無期懲役となるものの、刑務所内での虐めに耐えかねて超力を使用。
受刑者を十人以上溺死させ、改めて受けた裁判で死刑判決を受けて、ヤマオリ記念特別国際刑務所に収監された。


122 : 名無しさん :2025/02/04(火) 21:55:01 i7G.71Ao0
【名前】刑部 来栖(おさかべ くるす)
【性別】男
【年齢】四十三歳
【罪状】殺人
【刑期】死刑
【服役】半年
【外見】
191cm 84kg やや痩身に見える穏やかな笑みを絶やさない青年。どんな時でも誰が相手でも丁寧な言葉遣いをする。何処と無く頼りない感じがする
【性格】
穏やかかつ信仰心の篤い人物。正しきは讃えられ、悪しきは罰せられるべきと信じている

【超力】
『主よ 憐れみたまえ(キリエ・エレイゾン)』

発火能力(パイロキネシス)
触れたものか、20m以内の睨みつけたものを燃焼させる。
特殊な形態として、来栖が罪人と認識した者へは火力が増す。
自ら罪を認めている者に対し、接触してこの超力を用いると、身体の内側から燃え上がって死ぬ事になる。

『罪を認める』という判定はかなりガバガバで、公開や贖罪意識といった本心からのものや、拷問やリンチの結果で罪を認めたとしても、ともに等しく認めた扱いになる。
来栖は拷問やリンチにより、罪を認めさせてから焼却していた。



【詳細】
『開闢の日』以降に出現した無数のカルト宗教の一つを率いていた男。
慈善活動や寄付を行い、世間からの評判は上々だった、
 

その裏で『ヤマオリ』に穢された世を糾す。という教義を掲げ、超力というヤマオリの穢れた力により、人を傷つけ世に悪を為す者達を私刑に掛けて惨殺していた。
取り分け、世界を穢した『ヤマオリ』に纏わるものは全て滅ぶすという意志は強く、山折村と少しでも関係が有れば速やかに拉致し、凄惨な拷問やリンチの果てに、『己の存在そのものが罪である』と認めさせてから、超力で焼却して塵に変えた。
直接殺害した人数は、当局が確認しただけでも五百人を超え、リンチや拷問で死んだ者を含めると二千人を超えるという。


山折村関係者の認識もかなり無茶苦茶であり、結婚相手や親が山折村出身だったという者以外にも、山折村出身者の友人だった者、果ては山折村出身者が良く通っていた居酒屋の経営者だったというだけで殺害していた。

常に笑顔で愛と平和と献身を説き、笑顔で信徒達を率いて慈善活動に取り組み、笑顔で凄惨なリンチや拷問の様子を見守り、笑顔で罪を認めた者を焼殺してきた狂人である。

今回の『刑務』に対しては殺る気に満ち満ちている。


123 : 名無しさん :2025/02/05(水) 01:09:48 DAI8C.xo0
【名前】ジェイ・ハリック
【性別】男
【年齢】38
【罪状】殺人罪
【刑期】無期懲役
【服役】15年
【外見】中肉中背。短いブラウンの髪。グリーンとブルーのオッドアイ。
【性格】陰湿でやさぐれている。自己顕示欲と承認欲求が強い。
【超力】
『透明の殺意(インビジブルナイフ)』
開闢の日に新たに目覚めた超力。
不可視の刃を生み出す暗殺に特化した力。
大きさはナイフの刀身程の大きさで、刃は生み出してから2秒ほどで消滅する。
前の刃が消滅すれば枠が開き、次の刃を生み出せるようになる。同時生成可能な刃は最大三つまで。
存在している間はある程度は操作する事が出来る、最速で150km/hで射出可能。逆に動かさず空中の場に留める事も出来る。

『未来予知 -闘-』
ハリック一族に伝わる異能。
その才能は一族によって異なり、突発的に未来を見る者もいれば、夢見で数年後の未来を知る者もいる。
ジェイの才能は短期的な未来予知に特化しており、意図的な使用が可能となっている。
短期的であるためか精度も高く、ジェイはこれを戦闘に活用し相手の動きを先読みする暗殺を生業にしていた。
超力とは別の理論で動く力であるため、超力を無効化する超力や『システムA』の影響を受けない。

【詳細】
遥か昔から異能を持つ特別な一族の出身。
一族は時の権力者とも強いコネクションを持ち、表ざたにできない仕事を幾つも請け負ってきた。
だが『開闢の日』により全人類が超力に目覚めてしまったため特別性がなくなり、あっという間に没落していった。
アイデンティティを失い自暴自棄になった所、酒に酔った勢いで揉め事を起こしパブで暴行事件を起こす。
通報を受け駆け付けた警察官を思わず目覚めた超力で殺害してしまい無期懲役判決を受ける。


124 : 名無しさん :2025/02/05(水) 01:19:01 lQuA4c0c0
【名前】葉月(はづき) りんか
【性別】女
【年齢】15
【罪状】内乱罪、内乱助勢罪
【刑期】無期懲役
【服役】2週間
【外見】茶髪のセミロングヘアー、赤い瞳、童顔、トランジスタグラマー、両腕両足が義手義足、右目が義眼
【性格】非常に献身的、サバイバーズ・ギルトを起こしており、常に他者に手を差し伸べずにはいられなくなっている。
【超力】
『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』
彼女によって元気付けられた対象の肉体や精神にバフ効果を付与する超力。
効力は彼女と長くいればいるほど、上乗せされていく。
洗脳するほどの強制力は存在せず、対象の人間性が重要であり、根に善性のある人物なら改心も可能だが
善意の心を一切持たない邪悪な人物には通用しない。
この超力の恩恵をもっとも強く受けているのは、絶望的な状況で生き長らえてきた他ならぬ彼女自身である。

『希望を照らす聖なる光(シャイニング・ホープ・スタイル)』
エターナル・ホープによって3年間の悪夢の日々を耐え続けたことで
強い生存本能の元に超力が成長し、肉体に変化を与えた。
この能力が発動している間は姉そっくりの姿となる。
手足や右目は元に戻り、身長も146cmから157cmに伸びて髪もロングヘアーに変わる。
服装は黒いレオタードスーツの上に茶色のバトルジャケットとバトルスカートを身に付け
黒いブーツに黒いハイソックスを履いた衣装でシルバーの篭手が武器となっている。
主な戦闘スタイルは徒手空拳で、拳から溢れる光のエネルギーを流し込み攻撃する。

【詳細】
七年前のとある街で起きた大災害で唯一生存した女の子。
その頃からりんかの超力は発現しており、生きたい一心で生命力が向上され
瓦礫の下敷きになっていた状態から生き延びることが出来た。
それから一年後に治療を終えて退院したりんかは親戚の葉月家に引き取られた。
葉月夫妻とその娘は養子のりんかを実の娘のように愛した。
特にりんかの5歳年上である娘は『妹が出来て嬉しい』とシスコンレベルで溺愛した。

災害の中で様々な人に救われて自分一人だけ生き残った影響で
『この命は誰かを救うために存在しているんだ』と考え
常に誰かに手を差し伸べようとする自己犠牲的な行動が多くなる。
葉月夫妻や姉はそんなりんかが無茶をしないように気に掛け、大事に育ててきた。

3年後、りんかが11歳になった頃、刑事である父が追っていた事件が元で
とある巨大犯罪組織の怒りを買い、家族全員が拉致されてしまう。
父と母は拷問の末に嬲り殺しにされるが、娘達は下劣な欲情を抱いた幹部の指示によって生かされることになる。
その後は地獄の日々であった。
脱走や抵抗防止として、娘達の両手足は切断されて、身動き取れない彼女達を毎日嬲り続けた。
特に攻撃性の高い異常性愛者達は、幼い体付きのりんかを好み、激しい暴行を加え、何度も生死の境を彷徨わせた。
死にかけては治癒超力持ちの男に治され、また傷つけられるりんかを見ていられず、姉はりんかを庇った。
それに激怒した異常性愛者達は姉を惨殺し、りんかの目の前で姉を解体してから、更に辱めた。

それから3年の間、妊娠と流産を繰り返して子宮が完全に機能しなくなった。
眼孔姦によって右目の眼球が潰され、ぽっかりと穴が空いた。
身長146cmの幼児体型の彼女の胸は、玩具感覚で行われた人体改造によって98cmの不釣り合いなサイズに膨乳された。
それでも希望は捨てなかった。
災害で亡くなった人達の分、殺されてしまった家族の分まで生きて、人を救わなければならない。
自分の命は自分だけの物ではないからと諦めなかった。
その意志が超力を進化させた。
新たな肉体を手にした彼女は組織からの脱出を図るが、嗅ぎつけた幹部の一人によって
戦闘経験も技量も何も無い彼女は一方的に痛めつけられて変身解除された。

その後、飼い殺しが不可能として組織にマインド・コントロールを受けて末端の兵士となり強制的に殺戮を行わせた。
超力犯罪者達と戦う者達によって無力化され、洗脳から解放されたのはそれから1年後のことである。
本来なら被害者である彼女に罪は無いが、組織に利用されていたという明確な証明が出来ず
辛うじて死刑を免れたのが限度だった。
それでも他者を助ける機会を与えられた事を心から感謝していた。
そんな彼女の優しさに感化された団体からの寄付によって
最新技術の義手義足、義眼を与えられ、右目も見えるようになっている。

洗脳された頃の教育によって重火器も扱えるが、罪無き人々の命を奪った負の記憶を想起するため
彼女が進んで使用することは無いだろう。
好物は姉が焼いてくれたパンで、夢は姉が将来目指していたパン屋さんのお手伝いをすることだった。


125 : 名無しさん :2025/02/05(水) 20:40:46 7wY3cS8o0
【名前】水泥 融介(みどろ ゆうすけ)
【性別】男
【年齢】十七歳
【罪状】殺人 器物破損 建造物損壊罪 傷害 傷害致死
【刑期】無期懲役
【服役】一年
【外見】160cm 92kg 青白い肌の不健康そうなデブ。
【性格】陰湿で凶暴でキレやすい。自身の超力で人や物を破壊する事を愛好する
【超力】
『泥男(マッドマン)』

有機無機を問わず、溶かして泥の様にしてしまう能力。
熱や酸による溶解では無く、超力による溶解の為に、溶かされたものの性質や硬さは変わらない。
鉄を泥にすれば鉄の硬度と質量を持ったまま泥となり、人体に用いれば、呼吸もし、血液も循環するし、内蔵や脳機能も通常と変わらず機能する。
ただ泥の様になり、好きな様に形を変える事が出来、好きな様に切り離す事が出来、好きな様に混ぜ合わせられるという能力。
泥にした後“固める”事で、硬度を跳ね上げることも出来る、

自分の肉体に使用する事で、肉体を泥状にして物理攻撃やエネルギーを受け流す、身体の形状を変化させる、体内に物を仕込むといった事が可能


【詳細】
一年三ヶ月前に渋谷で発生した、突如として渋谷スクランブル交差点一帯が泥沼の様になり、多数の通行人及び車両が地面に沈み、地面が元に戻った後には、無数の人やクルマが混じり合った奇怪なオブジェが残された事件。
通称〈渋谷スクランブル交差点の惨劇〉の実行犯であり、その後日本中で起きた、ヒトや建造物が地面に沈み込み、その後沈んだもの同士が溶け合ったオブジェが残される。という事件を引き起こした凶悪犯。
捕まった後の事情聴取で、「地面に沈む人間の慌てる姿が面白かった。混ぜ合わせて見たらもっと笑えた」と語った、史上最悪の愉快犯。
一連の事件による死者は数千人規模に上り、負傷者はその数倍。現在でも他人や物資と溶け合った被害者が多数存在し、犠牲者を助けられる事ができる融介は死刑を回避し、無期懲役となった。


126 : 名無しさん :2025/02/05(水) 20:41:08 7wY3cS8o0
【名前】水泥 融介(みどろ ゆうすけ)
【性別】男
【年齢】十七歳
【罪状】殺人 器物破損 建造物損壊罪 傷害 傷害致死
【刑期】無期懲役
【服役】一年
【外見】160cm 92kg 青白い肌の不健康そうなデブ。
【性格】陰湿で凶暴でキレやすい。自身の超力で人や物を破壊する事を愛好する
【超力】
『泥男(マッドマン)』

有機無機を問わず、溶かして泥の様にしてしまう能力。
熱や酸による溶解では無く、超力による溶解の為に、溶かされたものの性質や硬さは変わらない。
鉄を泥にすれば鉄の硬度と質量を持ったまま泥となり、人体に用いれば、呼吸もし、血液も循環するし、内蔵や脳機能も通常と変わらず機能する。
ただ泥の様になり、好きな様に形を変える事が出来、好きな様に切り離す事が出来、好きな様に混ぜ合わせられるという能力。
泥にした後“固める”事で、硬度を跳ね上げることも出来る、

自分の肉体に使用する事で、肉体を泥状にして物理攻撃やエネルギーを受け流す、身体の形状を変化させる、体内に物を仕込むといった事が可能


【詳細】
一年三ヶ月前に渋谷で発生した、突如として渋谷スクランブル交差点一帯が泥沼の様になり、多数の通行人及び車両が地面に沈み、地面が元に戻った後には、無数の人やクルマが混じり合った奇怪なオブジェが残された事件。
通称〈渋谷スクランブル交差点の惨劇〉の実行犯であり、その後日本中で起きた、ヒトや建造物が地面に沈み込み、その後沈んだもの同士が溶け合ったオブジェが残される。という事件を引き起こした凶悪犯。
捕まった後の事情聴取で、「地面に沈む人間の慌てる姿が面白かった。混ぜ合わせて見たらもっと笑えた」と語った、史上最悪の愉快犯。
一連の事件による死者は数千人規模に上り、負傷者はその数倍。現在でも他人や物資と溶け合った被害者が多数存在し、犠牲者を助けられる事ができる融介は死刑を回避し、無期懲役となった。


127 : 名無しさん :2025/02/05(水) 20:47:44 7wY3cS8o0
連投してしまい済みません


128 : 名無しさん :2025/02/05(水) 23:00:57 f/wXopig0
【名前】バルドゥール・シュロット
【性別】男
【年齢】31
【罪状】殺人、爆発物製造
【刑期】無期懲役
【服役】4年
【外見】身長187cm。短く整えられた濃いブロンドの髪に、茶色い垂れ目をした優しさと誠実さを感じさせる顔の男性。
【性格】優しげで落ち着いた声で話し、身長の離れた相手にもしゃがんで目線を合わせようとするなど大柄な割に威圧感を感じさせない。
 その人の良さは演技ではなく素ではあるのだが、その一方で心の底ではいつか世界をめちゃくちゃにしたいという欲望が渦巻いている。
【超力】
『���del���g hele skabelsen(全ての創造物を破壊しろ)』
 頭の中で物体が爆発するイメージを想像しながら手で触れることで、爆弾化させる能力。爆弾化効果は永続する。
 手袋等を通していても、手で感触が得れる程度なら構わない。
 当人にとって思い入れのある物であるほど、触れている時間が短くても強力な爆発が起こせる。
 どれだけの数を爆弾にできるかは当人も把握していないが、自分の最初の予想よりはかなり多かったらしい。
 爆破させたい物体を思い浮かべながら超力の名前を呟くことが起爆のトリガーとなる。
 その性質上、均一な大量生産品を複数爆弾化した場合は一回の起爆で全てを爆破することが可能。

【詳細】
 デンマークのとある世界的に有名なおもちゃの検品、積み込み工程で働いていた男。
 子供の頃からよく遊んでいて大好きだったと言う動機を言って、工場で働くこととなる。

 面接の際には超力の威力を最小限まで調整することで、ちょっと物体を歪ませたり火を付けたりする程度の能力と隠していた。
 しかし大規模な同時爆発事件を起こすことこそが、最初から彼の目的だった。
 それなりに自分が触れた商品が市場に出回った後、天候が悪く子供が家にこもり玩具で遊ぶであろう時間帯を狙って一斉起爆。
 ヨーロッパを中心とし各地で玩具が一斉に爆発、子供を中心として数千人単位の犠牲者が出る事態となった。
 世界のあらゆる工場製品に不安の影を落とし、世界のあり方を少しばかり狂わせた存在と言っても良いだろう。

 組み立てたブロックの建物を壊すみたいに、自分の狙える範囲でできる限りこの世界を壊せる方法を考えたんだ。
 せっかく超力があるのだからやってみたいと思うのは当然じゃないかと、逮捕後に述べていた。


129 : 名無しさん :2025/02/05(水) 23:07:23 f/wXopig0
外国語の特殊文字したらばで打てないの忘れてました
代替表記にします、すみません…
『Oedelaeg hele skabelsen(全ての創造物を破壊しろ)』


130 : 名無しさん :2025/02/06(木) 00:08:57 gboA1Xso0
【名前】月野 雫(つきの しずく)
【性別】女
【年齢】17
【罪状】殺人罪
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】気弱で大人しそうな少女、物憂げな瞳は人を惹きつける魅力がる
【性格】内向的で弱気。アイドルに向いていない。生きる事に向いてない。
【超力】
『あなたに届く歌声(You're My iDOL)』
歌声により感情を伝播することが出来る。
伝播する感情は歌声に籠めた熱量に比例して増幅される。
受け取る側の「感動」によって更に加速し、限界を超えると破裂する。
【詳細】
小さな劇場で活躍していた地下アイドル。
健気で努力家。ファンからの評価は歌はうまいが地味。いわゆるあの子の良さは俺だけが分かってる系のアイドル。
メジャーデビュー目前にしたコンサートに訪れた観客、及びスタッフを計218名殺害した。
動機は不明。本人は「自分の気持ちを届けるためだった」と意味不明の供述している。


131 : 名無しさん :2025/02/06(木) 00:28:47 iOqlb4/U0
【名前】淀川(よどがわ)餅子(もちこ)
【性別】女性
【年齢】17
【罪状】殺人罪
【刑期】10年
【服役】6ヶ月
【外見】茶髪のショートツインテール
【性格】誰でにも優しく接することが出来る気遣い上手。今はやぐされている、というよりは正気を失ったように物静か
【超力】
『餅々(もちもち)』
餅を自在に出現させることが出来る能力。攻撃・防御・拘束と多岐に渡る応用性が強み。
餅故に熱を受けると固くなってしまう弱点はあるものの、それを逆に利用するなど当人の機転も伺える
【詳細】
今は無き餅屋「もちの木」の店主の一人娘。
幼少期の「開闢の日」以降の混迷期において異能者による闇バイト集団によって店を襲撃され、そのショックで彼女の母親が意識不明の重体を負い、意識を取り戻したが娘に関する記憶をすべて失ってしまった。

その後親戚に引き取られ、別の学校にてチョコレートの超力使いと恋仲となる。
だが、ある日にかつて店を襲った、刑期を終えて出所したかつての闇バイトの一員の一人が店を開いているのを発見。
かつて自分のすべてを奪った元凶の一人を見て憎悪を抑えられず、その時はその場で抑えられた。
しかし、その男の更生しているが反省していない態度に我慢の限界を超え、その次の日に殺害。

それをよりによって恋人に見つかり通報されたことで錯乱、駆けつけた警察や異能者数人掛かりでようやく逮捕され、アビス送りとなった。
刑期は本来ならもうちょっと長くなるはずだったが、情状酌量の余地及び恋人の証言によって10年に短縮された。


132 : 名無しさん :2025/02/06(木) 10:08:05 qEvv367I0
【名前】完醒 傑(かんせい すぐる)
【性別】男
【年齢】三十歳歳
【罪状】殺人
【刑期】死刑
【服役】四年
【外見】170cm 65kg 痩せ型で地味な外見。良く見ると顔が良い。
【性格】
冷酷なまでに理性的で、感情が思考や判断に挟まる事は無い。
傑自身が自分は人間なのかと疑う程に人の情動が無い。
唯一の例外は────。
【超力】
『陥穽(ザ・ピット)』

地面や壁や天井に、5cm〜2m四方の黒い穴を開けて、其処に対象を“落とす”。
穴の“上”300mまでが射程範囲で、範囲内に有る物は大きさを問わず(要は穴より大きくても)穴へと落ちる。
穴より大きいものは、引っかかって止まるが、穴を消さない限りは引っかかったまま動け無くなる。
穴へと落ちたものが何処へ行くのかは当人にも分からない。
穴を作れる距離は自分を中心とした5mの球状の範囲内。


【詳細】
幼い時から超力で、煩わしかったり邪魔になる人物を消し去ってきた男。
あまり乱用しなかったのと、うまく事故に見せかけた事も有り、犯行が発覚する事はなかった。
良く用いたのは、階段を降りている時に足元に小さい穴を開けて、転倒させるというもの。
他にも様々な事故に見せかける用い方をしている。

二十六歳の時に色々あって資産家の娘と婚約。この時期は傍目から見ても幸福なのが判ったらしい。
当人が語った所によると、「俺も人間だったと思えた時間」だそうである
その幸福も長くは続かず、金目当ての屑共に、婚約者が暴行され、婚約者の両親も脅迫される。
心身ともに壊され、廃人となった婚約者を見て、傑は生涯初めて後先を考えずに超力を使用。クズを全て穴に落として消し去るものの、監視カメラに犯行が写っていた為に逮捕された。
被害者達が掛け値なしのクズだった事と、傑自身の事情もあって、最初は懲役刑で済む筈だったが、此処で傑が過去に犯した罪が発覚。
更生の余地の無い凶悪犯罪者とされ、死刑判決を受けて、ヤマオリ記念特別国際刑務所に収監された。

この殺し合いで恩赦を得れば婚約者と又会えるという事で、殺し合いに対しては非常に前向きである。


133 : 名無しさん :2025/02/06(木) 19:34:09 u4GGyS/k0
【名前】ガブリル・グバノフ
【性別】男
【年齢】47
【罪状】強姦殺人
【刑期】無期懲役
【服役】半年
【外見】頭頂部まで禿た金髪で恰幅の良い男性。彫りが深くいかつい顔。もさっとした髭が生えている。
【性格】冷静・冷徹で殺し屋のような雰囲気を纏っている。自信家ではあるが謙虚な面もあり周りへの注意を怠ることはない。
 彼が笑みを見せるのは、獲物を仕留めたときと女をいいように扱ってる時だけ。
【超力】
『熊と猟師が合わさり最強に見える(シルニィ オホートニク メドヴェージ)』
体長1.5m程の小熊を2匹召喚し、猟犬のように使役する。怪我したり殺されたりしてもクールタイムを置けば再召喚可能。
当人も体長3mのヒグマになることができる。新人類の体力に熊のパワーが乗算されるためめちゃくちゃ強い。下手な銃器は全く効かない。

【詳細】
職業猟師の男。散弾銃やライフルを使いこなし、スノーモービルやボートの操縦にも長けている。
若い頃は他のハンターと組んで猟をしていたが、人間の力が熊には及ばないことも熟知していてそこへの憧れから超力を発現した。
最初は戸惑っていたがすぐに力を使いこなし、誰とも組まずに単独で大物の熊を仕留めることのできる凄腕の若手と言われていた。
熊から人間への被害が出ればすぐに赴いて活躍する仕事人といった感じで尊敬されていた。

しかし実際には人を襲う熊の存在自体が彼のマッチポンプであることがほとんどだった。
熊に変身して人間を襲って殺し、その後に人間の姿で適当に野生の熊を捕まえて害獣として提出するのだ。
なお性欲も強く、熊の姿で女性を強姦殺人していた。姿は熊なのに性的対象は普通に人間女性なのでたちが悪い。


134 : 名無しさん :2025/02/06(木) 22:16:03 4zbwUAes0
ロボットをキャラクターとして出すことに問題があれば、このプロフィールは破棄してください。

【名前】AG-1(アビス・ガーディアン 1号)
【性別】無し
【年齢】製造から1年
【役職】看守官補佐
【外見】全体的に白を基調としている、頭は球型、目は円く大きく中にカメラが入っている、口や鼻は無い、髪の毛は付けられてない、耳は半球型でアンテナが生えている、身長は175cm程、人間の看守官と同じ制服や帽子を着せられている、尻尾のような形で充電用ケーブルが生えている
【性格】最初はロボットらしく無感情に仕事をこなすだけだったが、最近は感情が芽生えてきている、人類を愚かだと思い始めている
【超力】
ロボットであるため超力は持たないが、代わりに搭載されている機能をここに記す。
「マイナスシステム」
このシステムを起動している状態のAG-1が手の平で人間に触れると、相手の超力の性能を弱体化させる効果が現れる。
例えばビームを出す超力ならその威力を下げたり、瞬間移動の超力なら瞬間移動できる範囲が狭くなったりする。
今回の刑務作業で使われているシステムAと違い、完全無効化まではできない。
家屋内に本体を置く程大きいシステムAと違い、人間大のロボットの中にシステムの全てを入れるために小型でなくてはならなかったため、このような下位互換のシステムが入れられることになった。
システムの起動中は電力を大きく消費し、使い続けていたらやがて動けなくなってしまう。
そのため普段は使うためのスイッチを切ってある。
電源スイッチはAG-1の機体の中にあり、彼の意思で何時でも切り替え可能。
「録画」
目のカメラを通じて映像を記録する。
目のカメラをプロジェクターに切り替えて、録画した映像を映し出すこともできる。
【詳細】
試験的に導入されている看守用の人型ロボット。
完成して直ぐの頃に配備されたため、約1年はこの仕事をしている。
主に、人間の生体や精神に影響を及ぼす超力を持つ囚人が何らかの要因で制御不能になった時に鎮圧するための手段の一つとして期待されている。
普段は人間の看守官達の仕事を補佐している。
口は無いが音声を出すスピーカーはあるため人間とコミュニケーションをとることは可能。
あくまで試作型・試験として配備されているため、そこまで殺傷能力の高い装備等は持たされていない。
基本的な身体能力はこの世界における成人男性の平均相当のものを持たされている。
全囚人、全職員達のデータもインプットされている。
(製造当時は)最新型の高性能AIも導入されており、仕事と共に人間のことも学んでいっている。
刑務所で働き始めてから1年、最初はただ命じられた仕事をこなすだけだったAIも様々な学習によって成長し、自我が芽生えてきている。
更正の余地が無さそうな凶悪犯達、本当に冤罪と思われる人々を有罪にしているらしき司法、囚人達へ良くない仕打ちをしている一部の看守官、そもそも今自分がいる刑務所が明らかに人道に反した殺し合いを開こうとしている、等々といったものを見てきたことにより、「人類はひょっとして全体的に愚かなのではないか?一旦滅んだ方が良いのではないか?」みたいなことを考え始めている。
もしもの暴走が起きた時のために、遠隔で緊急停止するボタンを看守長であるオリガ・ヴァイスマンが持っている。


135 : 名無しさん :2025/02/06(木) 23:13:50 oYvcWNAs0
【名前】アンナ・アメリナ
【性別】女
【年齢】27
【罪状】ジュネーヴ諸条約違反、ジェノサイド条約違反
【刑期】99年
【服役】3ヶ月
【外見】金髪緑眼の白人女性。顔は可愛らしいがスタイルはかなり良い。全体的にそこまで凶悪そうには見えない。
【性格】苛烈かつ冷徹な性格。思想は極端に触れている。自国のプロパガンダを唯一の正義と断じ、交戦相手を全く人間扱いしない。
 虐殺を楽しんですることはなく効率的に人を殺すことを考えるが、快楽殺人をする部下を自勢力に迷惑がない限りは敢えて咎めるようなこともない。
 軍人としてはそれなりに有能なので一応戦術を考えたりとか、仲間の助言を聞き入れたりとか戦功を出した仲間を褒めたりとかもできる。

【超力】
『殲滅せよ、我々は正しい』
自分を含め、自分の指揮下となっている人々を強化する能力。
彼女の思想に共感しているほど強化の幅も大きくなるが、逆に疑いや反感が大きすぎると効果は発揮されない。
自分で自分の思想を疑い出すと、自身への強化も失われてしまう。
特筆すべきは、身体能力だけでなく装備する武器兵器の性能も向上すること。
威力や耐久性が上昇するだけでなく、銃器の場合強化効果が続く限り残弾に関係なく使用が可能になる。

【詳細】
近年勃発したとある紛争にて活躍した女軍人。
成績優秀でエリートコースを歩み、軍学校卒業後に軍人となった。
従軍当時、年齢的にも階級としてはまだそれほど高くなかった。
しかしその可愛らしさと完璧にプロパガンダに則った苛烈な態度により民兵達の支持を強く受け、大きな動員能力を期待されることになる。
彼女は自身の超力により強化された民兵達と共に、敵勢力の兵士だけでなく民間人に対しても殺戮を繰り広げていった。

世界的にも流石に彼女の所業は見過ごすことができず、終戦後に提訴されてしまう。
罪の意識は皆無。殺したのは民間人ではなく武装した相手達だったとそれらしく反論した。
有罪判決後はこのような裁判に従うつもりはないと自死しようとしたが止められ、アビスへと収監される。

戦犯扱いされ刑務作業をするのは甚だ不服。
とはいっても恩赦という形で釈放されるのも不服。
この機会に反逆し、看守どもを屈服させて脱獄しようと考えている。
なお様々な方面より命を狙われているが、アビスに収監されているため今のところ誰も手出しはできてない。


136 : 名無しさん :2025/02/07(金) 00:06:00 7NGB2bUA0
【名前】クロノ・ハイウェイ
【性別】男
【年齢】19
【役職】主任看守・第一班班長
【外見】気だるげで姿勢が悪い。金髪碧眼のたれ目。
【性格】ものぐさでめんどくさがり。面倒事を嫌がるくせに妙な律儀さがある。
【超力】
『時短主義(タイム・コンプレッション)』
時間を圧縮、解凍することが出来る。
圧縮されたエリアは外部から見ると極端に動きが遅く見えるようになる。
圧縮した時間を解凍すると、圧縮していた時間と現在の差を埋めるように対象の動きは加速する。
圧縮された当人は周囲が加速したり減速したように見えるだけで、本人の時間間隔的に普通の流れに感じる。
対象の指定は個別指定のみならず、エリアごとの範囲指定も可能である。
範囲指定の場合クロノ本人だけはその影響を受けず、暴動などが発生した場合も対象エリアの時間を圧縮することで暴徒の動きを遅して、容易に制圧することが可能である。
時間圧縮は物理法則などにも適用されるため、これを利用して投擲した物質を圧縮解凍して弾丸以上の速度で飛ばすことも可能である。
【詳細】
刑務官としての正義感はそれなり、責任感もそれなり。典型的な有能な怠け者
それを見越したオリガにそれなりに責任のある立場に指名されサボりを防止されてしまった。
目下であろうと目上であろうと誰に対しても「〜っすね」と言う軽い調子の砕けた敬語で話す。
効率とタイパを重視して、あらゆるものに拘らず、熱量を持たない。
しかし受けた恩義と義理は返す。返さない方が気持ち悪いので心理的に効率が悪いため。
事務能力は高く、残業が嫌いなため必ず時間内に終わらせる。
刑務官も24時間フル体制の今回の刑務作業については辟易している。


137 : 名無しさん :2025/02/07(金) 00:07:49 7NGB2bUA0
【名前】サッズ・マルティン
【性別】男
【年齢】34
【役職】主任看守・第二班班長
【外見】細目の狐顔。表情は常に笑みを浮かべている。
【性格】普段は温厚で気配りが上手く細かな事に気づく。本質は根っからのサディスト
【超力】
『追想傷(ペイン・メモリー)』
脳に直接『痛み』を与える超力。
実際は与えるというより思い出させるという方が正確で、過去に追った傷の痛みを増幅して脳内で再現する。
感じた事のある痛みなら肉体的な痛みのみならず、心理的な痛みであろうとも呼び起こすことができる。
相手の記憶の想起を促すだけで発動するため発動条件が緩く、視線を合わせるだけで発動することが可能。
元の痛みを最小値として、最大30倍までの痛みに増幅できる。
実際に外傷を与えるわけではないので死ぬことはないが、限界を超えると脳が壊れ廃人化する恐れがある。
【詳細】
受刑者をいたぶるのが趣味の天性のサディスト。
尋問と拷問のスペシャリストでその手腕を買われアビスに引き抜かれた。
彼の尋問に耐えれられた囚人はおらず、あらゆる情報を引き出してきた。
その加虐心は誰にでも振るわれる訳ではなく、きっちりと相手は選ぶ性質なので普段は部下にも優しいが、それが怖いともっぱらの評判。


138 : 名無しさん :2025/02/07(金) 00:08:47 7NGB2bUA0
【名前】マーガレット・ステイン
【性別】女
【年齢】41
【役職】主任看守・第三班班長
【外見】筋肉質で体格の良い女性。ブロンドの長髪。
【性格】真面目で厳格。自他ともに厳しい鉄の女。
【超力】
『鉄の女(アイアン・ラプンツェル)』
鋼鉄に変化した髪を操る超力。
鋼鉄化した髪は一本で人一人を吊り上げられる丈夫さを持ち、束ねればジェット機すら支えられる頑強なワイヤーとなる。
髪の毛は一本一本が手足のように自在に操作可能で、長さも可変できる。最長で21メートル。
【詳細】
アビス設立から働くベテラン刑務官。
自分にも他人にも厳しく、一切の容赦をせず職務を遂行していた。
囚人たちにとどまらず、同僚である刑務官たちからも恐れられる仕事一筋の鉄の女。
しかし、エネリット(>>119)が収監された辺りから少し様子がおかしくなった。
赤子の世話をしていくうちに母性が目覚めたのか、囚人に対しての厳しさは変わっていないが、未成年受刑者に甘くなった。
特に赤子の頃から手塩をかけて育ててたエネリットに対しては我が子の様な感情を抱いている。


139 : 名無しさん :2025/02/07(金) 01:52:22 nHuDuPXI0
【名前】言 文寧
【性別】男
【年齢】64
【役職】教誨指導課事務員
【外見】髪の薄いくたびれたオヤジ。いつも疲れた顔をしているが、身なりはしっかりしている。
【性格】何かしていないと落ち着かない小心者。アビスの徹底した秩序には内心ドン引きしている。
【超力】『生きとし生ける者よ、その心を交わせ(ユニバーサル・リンク)』
彼が指定したものを中心とした一定の範囲において、一週間あらゆる言葉を理解できるようになる。
単純に翻訳要らずの超力としても使えるが、その真価は、暗号や信号にも有効なことであろう。
看守が用いるネームプレートには彼の超力が込められており、
極悪犯罪者同士の秘密裏の会話や暗号文に込められた真の意味をも見抜ける仕組みになっている。
【詳細】
アビスに勤務する古参の事務員。
主に郵便物や手紙の管理・検閲を担当しており、囚人と直に接触するタスクはあまりない。
しかし、その超力は使い勝手がいいため、複数人の看守同士で細やかな連携が必要となるような作業やイベントにはしばしば駆り出される。
芯の通った秩序の護り手だけではなく、彼のような裏方もまた、アビスの秩序に一役買っているのである。
本人は来年にでも退職したいと思っているが、代わりが見つかるまでは慰留されて留めおかれるだろう。


140 : 名無しさん :2025/02/07(金) 17:45:35 BUCxCwZs0
【名前】ビオラ・フォンテーヌ
【性別】女
【年齢】13
【役職】看守官
【外見】身長148cm、体重42kg、金髪のロングヘアー、マゼンタの瞳、黙ってれば西洋人形に見えるほどの整った造形
【性格】仕事時は真面目だが、非番の時はお転婆でイタズラ好きで無邪気、妹のフィーネを溺愛してる
【超力】
『鷹の目(ホークアイ)』
非常に優れた視力を持つ。
最大射程は5kmで視界の明るさに影響を受けること無く
どんな暗闇や閃光の中でも平常に視る事が可能。
例え煙幕を用いようとも彼女の視界を妨げることは出来ない。
『二人の心はいつも一緒(ツイン・ハート・トゥギャザー)』
姉妹の絆から生まれたもう一つの超力。
助けを求めるフィーネの悲鳴を感じ取り開花した。
それ以降、姉妹の中で意志の伝達が可能となり、声に出さずとも姉妹同士の会話が出来るようになっている。
フィーネの声を口から聞きたいので、普段は普通に会話でやり取りをしている。
【詳細】
6歳の頃に事故で両親を無くしたビオラは唯一の家族である双子の妹のフィーネと寄り添うように生きてきた。
孤児院の治安はあまりよろしくなく、フィーネと共に虐めから耐えてきた。
10歳になったある日、フィーネだけが院長に呼ばれて院長室へ入った。
するとビオラの心の中でフィーネの悲鳴が響き渡った。彼女は無意識の内に院長室に乗り込むと。
そこには下半身だけ露出して陰茎を勃起させた院長と、押し倒されて泣き叫ぶフィーネの姿が彼女の視界に映り込んだ。
ビオラは部屋にあった花瓶を手に取り、院長の頭に叩きつけ、二人は孤児院から抜け出した。

その後、二人は浮浪者としてしばらく彷徨っていたが、老夫婦に声をかけられてフォンテーヌ家の世話になった。
初めて人の優しさと温もりを知った二人は涙を流し、老夫婦の手伝いをしながら幸せに暮らしていた。
だが、二人が12歳の頃、家に強盗が押し入った。
老夫婦の機転で姉妹を押し入れに隠したことで二人の命は救われたが
恩人である老夫婦は強盗の手によって惨殺されてしまう。

事件の後に姉妹は老夫婦の息子である資産家の男に引き取られた。
彼女達を一切責めることもなく、逆に元気付けてくれた。
それから一年、老夫婦を殺害した強盗の一人がアビスに収容されたのを知り
二人は資産家の息子にアビスで働けるように口添えをした。
息子は悩んだが彼女達の真剣な眼差しを見て彼は、持ち前のコネを活かしてアビスの看守として働ける事となった。


141 : 名無しさん :2025/02/07(金) 17:45:58 BUCxCwZs0
【名前】フィーネ・フォンテーヌ
【性別】女
【年齢】13
【役職】看守官
【外見】身長148cm、体重42kg、金髪のロングヘアー、シアンの瞳、黙ってれば西洋人形に見えるほどの整った造形
【性格】仕事時は真面目だが、非番の時はお転婆でイタズラ好きで無邪気、姉のビオラを溺愛してる
【超力】
『うさぎの耳(ラビットイアー)』
非常に優れた聴力を持つ。
最大射程は3kmで多数の雑音の中から特定の小さな音を聞き分ける事が出来る。
どんな大音量でも平常に聴くことが出来る。
『二人の心はいつも一緒(ツイン・ハート・トゥギャザー)』
姉妹の絆から生まれたもう一つの超力。
暴行を受け、ビオラに必死に助けを求めた際に開花した。
それ以降、姉妹の中で意志の伝達が可能となり、声に出さずとも姉妹同士の会話が出来るようになっている。
ビオラと一緒に言葉でお喋りしたいので、普段は普通に会話でやり取りをしている。
【詳細】
双子の姉であるビオラとはいつも一緒。
食事の時も、お風呂の時も、就寝の時も一緒で。
よく二人で体をくっつけながら姿を現すのが多い。
抑圧された生活が長かった反動か、非番の時は仲の良い従業員達のいる所へ遊びに行っている。
神秘的な造形の見た目とは裏腹に表情がとても豊かで、過去に冗談の通じない看守にイタズラしたらガチギレされてしまい。
二人揃ってギャグ顔で震えながら涙目になったこともある。

瞳の色以外は全く姉と同じで、髪の色も、身長も体重も、声も、細身な体型の割に出てる所は出てる86cmの胸囲も全く同じ。
趣味は可愛い服を着ることで、特に老夫婦に着せて貰ったゴスロリ服やメイド服といったフリルの多い衣装を好む。
彼女達がアビスで働く目的は老夫婦を殺害した強盗が、もし脱獄や恩赦等で生きてアビスから抜け出すのを阻止すること。
叶うなら姉妹の手で直接殺害したいとすら考えている。


142 : 名無しさん :2025/02/07(金) 18:00:03 Ez9BcMzE0
【名前】木丈人二(きじょうじんじ)
【性別】男
【年齢】18
【罪状】殺人罪
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】ピンクの丸坊主(薄く髪は残っている)、そして顔の所々に黒い模様を自ら刻んでいる(オシャレしているつもりらしい)、容姿はフツメン
【性格】悪趣味かつ外道な愉快犯で自らの超力で混乱している相手の姿を見てケラケラケラと嗤いながらバカにするのが何よりも好き、アビスにはつい最近入ったばかりである。
【超力】
『俺がお前で、貴方が私!?』
目の前で認識した相手に目掛けて容姿が全く同じである3人の自由自在に動くドッペルゲンガー達を身体から放つ、もしその3人に触れられた瞬間、触れられた人物は首を掴みながら窒息死してしまう(ついでにドッペルゲンガー達も同じように死ぬ)。破壊は可能だが、破壊された瞬間に再びドッペルゲンガーが人二から自動的に出現する為、完全に止める為には人二を殺すか、辞めさせるしかない。
【詳細】
小さい頃はドッペルゲンガーを出現させる事で相手を驚かせる事が好きなだけのイタズラっ子だったが、それを繰り返してからかって笑い続けた結果、ドッペルゲンガーを極めたいと思い、色々調べた結果、都市伝説としてドッペルゲンガーに会ったら死ぬという事を実現させたいというイタズラの度を超えた上、一線も超えてしまう欲望を抱いてしまう。その結果3体のドッペルゲンガーで相手に触れればその相手を窒息死させる事に無意識に気づき、最初はお兄ちゃんを実験台にした上で死亡させるが、その死に様を見てケラケラケラと爆笑してしまっていた。その後両親も自分の愉悦の為に殺し、歯止めがきかなくなり、家を出て見つけた女子高生もドッペルゲンガー達に殺させようとするが、その女子高生がたまたま逃げる事に長けていた為にドッペルゲンガーを振り切り、死に様を見る為にうっかり大通りに出てしまい、超力で悪事をしている事が露呈、超力持ちの警察に見つかった上、取り押さえられて逮捕、やってしまっていた事の悪質さにより、そして今後も更生の余地が見られない為にアビスに送られた。


143 : 名無しさん :2025/02/07(金) 18:31:26 t4JG97KM0
すみません、>>134のキャラシートを投下した者ですが、詳細の設定を一部変更させてください。

基本的な身体能力はこの世界における成人男性の平均相当のものを持たされている。

基本的な身体能力はこの世界における成人男性の平均より3割程高めのものを持たされている。


144 : 名無しさん :2025/02/07(金) 21:28:12 9aDvxMz20
【名前】高峯 真(たかみね まこと)
【性別】女
【年齢】20
【役職】新米看守官
【外見】黒髪でセミロングな髪型、童顔かつ発育が良く、眼は碧色。身長は150台後半。
【性格】
真面目で礼儀正しく、面倒見の良さがあり一見まともそうだが、取り繕うのが得意な為そう見えているだけ。その実喪った妹と弟の仇への復讐を遂げる為なら手段を一切選ばない危険な所も見受けられる。
かつては外ではしっかり者、内ではだらけてるめんどくさがりだがやる時はやるお姉ちゃんと言った感じで、早くに両親を亡くしたのもあってブラコンとシスコンを拗らせてる所もあった。
それだけ弟と妹を愛しており、理不尽に2人を殺めた相手への殺意と憎しみは深い。
一人称は普段は「私」、本来は「わたし」。

【超力】
『2進数変換』
触れた上で明確に変換するという意志を以て行使する事により発動する超力。
触れた物体を0と1の二通りの情報へと分解し、そのまま雲散霧消させる事が可能。
都合上証拠等は行使してる所を撮られない限りは残らない一方、一度変換した物は戻せない。

元々は非生物のみに使えたが、弟と妹を喪って以降はその際抱いた憎しみがトリガーとなったのか、生物に対しても使えるようになった。

【詳細】
幼い頃に両親を目の前で事故で亡くし、遺された弟と妹の為お姉ちゃんとして頑張ろうと決めた面倒見のいい少女。
姉弟・姉妹仲はなんだかんだで良く、親の資産はあったが贅沢はそれ程出来ずとも一緒に日々を過ごせるだけで十分だと考えていた。

しかし3年前、自分が働きに出かけている間に何者かに2人が惨殺。
弟はバラバラにされた上で無理矢理めちゃくちゃな形で繋ぎ合わされており、妹は『使われた』末に殺され、発見されたのはゴミ捨て場だった。

真が慟哭するなか、超力を使用しての犯行だとされ捜査されるも、被疑者行方不明として早々に打ち切られてしまう。
間違いなく弟と妹を残酷なやり方で殺した奴は居るはずなのにと怒りと、警察は役に立たないと断定をした真は復讐の為生きる事を決意した。

刑務官になったのは、下手人や関係者がアビスに収監されているのではと思い至ったのと、上司や同僚となる刑務官達が何かを知っている可能性を考えた末。
なお妹弟を失ってからの3年の内大半の期間は、刑務官になる為の勉強と超力で何処までやれるかのテストに費やされている。


145 : 名無しさん :2025/02/07(金) 22:29:15 W1j2CfCA0
>>119の超力説明を修正します

【超力】
『監獄の王子(charisma of revenge)』
家臣を束ね力とする王の力。
信頼関係で結ばれた人間の超力を一時的に使用することが可能となる。
数に上限はなく同時に複数の超力が使用可能であり、能力は【献上】【徴収】【褒美】の3段階に分けられる。

【献上】
双方の同意を得て行われる超力譲渡。
使用する超力の再現度は信頼、あるいは忠誠心に比例する。
献上が行われている間は元の使用者は超力が使用不能となる。

【徴収】
信頼度が50%以上の対象のみに行える強制徴収。
相手の同意なしで超力を借り受けられる。超力の再現度は信頼度の半分。
元の超力は使用不能にならないが、徴収された%分だけ元の超力の出力も減衰する。

【褒美】
献上された超力を別の家臣へと貸し与える。
仮に忠誠心60%の2名の家臣に又貸しする場合、60%で借り受け、60%で貸し出すため36%の再現率となる。


146 : 名無しさん :2025/02/07(金) 22:29:41 4S6nQzGE0
【名前】ルルナナ・グレイコート
【性別】男
【年齢】11
【役職】看守官補佐
【外見】少女のような可愛らしい顔立ち 灰色の長い髪に金色のメッシュ 灰色の右目と金色の左目 
【性格】無表情で常に凪いだ雰囲気だが、話しかけられると案外お喋りで聞き上手。
 内心は人間不信の気がある。
 超力使用時は超力オリジナルの人格に近づき、基本的に荒々しくなる
【超力】
『二律灰反(アッシュ・ナンバーズ)』
 ルルナナが知っている超力を模倣して使用できる、いわゆるコピー能力
 発動条件は『能力を使用している光景を確認する』『能力者の人格・性格を把握している』こと。
 映像でも条件を満たせるが、文字情報や伝聞では条件を満たさない。
 映像越しより肉眼で見たり実際に能力を体験したほうが、模倣時の精度や出力は上がる。

 一度に3つまで能力を併用でき、彼の記憶力も相まって一度模倣した能力を忘れることはない。
 欠点として、彼が模倣した能力は出力や制限時間といった何らかの点で必ずオリジナルに劣る要素があり、その劣化部分が何なのかは実際に使うまで分からないこと。
 また模倣した能力を使用している間はオリジナルの能力者に近い人格・言動になるため、本来のルルナナが行わないような行動をする恐れがある。併用すると人格が混在して言動もおかしくため、本人は複数併用をしたがらない。
【詳細】
 完全記憶能力を持つ少年であり、アビスに幽閉されたマッドサイエンティストの女が獄中出産したという異端な経歴を持つ。よく女の子に間違えられる合法男の娘。
 母親から取り上げられた後、その才能と超力の有用性にアビス側が気づいたことで看守としての教育を受けている。根っからのアビス育ち。
 アビスに来るような犯罪者は真正のクズだということは知っているが、彼は人間を『看守』と『受刑者』以外ほとんど知らないため、看守以外の者たちを基本的に警戒している。
 好きなことは他の看守の身の上話を聞くことだが、アビスの看守になるような人間の身の上はだいたい仄暗いので外への人間不信は募るばかりである。
 母親についてどう思っているかは不明だが、尋ねられた時は「どうでもいい」「他の受刑者と同じ」と答えていた。


147 : 名無しさん :2025/02/07(金) 22:30:38 BXd/69Ec0
【名前】養老 瀧(ようろう たき)
【性別】男
【年齢】42
【罪状】酒税法違反 放火罪 殺人罪
【刑期】無期懲役
【服役】1年半
【外見】瘦せ型の中年男性。若禿に悩んでいる。
【性格】頭は良いが、やや傲慢な性格。自分の能力を見せびらかせばまずいことになるとは分かりつつも、その力を誇示したがっている。また、やや凝り性な面もある。
【超力】
『Nuptiae in Cana factae(カヤの結婚)』
聖書のイエスのように、触れた水をアルコールの含んだ酒に変えることが出来る。アルコール濃度の調節は自由。また、水そのものではなく、その入れ物に触れても能力が発動できる。
アルコール濃度の低いものでも、スピリタス並みに強い酒に変えてしまうことが出来る。逆もまたしかり。
上記には水と記したが、液体ならばどのような物でもアルコールを含ませることが出来る。

【詳細】
飲料製造業の会社の課長(だった)。酒を造るのも振舞うのも好んでいる。
会社の業務としてだけではなく、家でも自分の能力と香料、果物や飲料などを混ぜ合わせて、美酒を作ることを趣味としていた。
しかし、「美味な酒は悩みのない生活から来る」というモットーが、問題を引き起こしてしまう。
それだけなら問題ないが、事あるごとに嫌味を言ってくる上司の飲み物を、アルコール純度の高いものに変えてアルコール中毒にさせたり、有能な出世競争の相手の家の近くの水たまりにアルコールを含ませて放火したりと、その力で越えてはいけない一線を越えてしまう。
また、趣味で作った密造酒を、インターネットで販売して、小金を貯めていたが、それが原因で足が付き、他の罪も明るみに出て、アビスに収監される。


148 : 名無しさん :2025/02/07(金) 22:30:55 nHuDuPXI0
【名前】星 淫菩(ほし いんぼ)
【性別】男性
【年齢】54
【罪状】未成年者略取誘拐、詐偽略取、成り代わり
【刑期】無期懲役
【服役】1週間
【外見】だるだるにたるんだ禿げた男。ニタニタした笑みを浮かべる唇の隙間から覗く歯は黄色く、前歯が一本欠けている。
【性格】
天真爛漫で好奇心旺盛。楽天的だが甘えるわけではなく、正しいと思っTaこtoは……
―――上記は自称です――――――上記は自称です――――――上記は自称です――――――上記は自称です―――
自分が不幸なのはまわりのせい。
親ガチャと国ガチャがアタリならもっとまともな生活を送れたのにと愚痴りながら金を握ってギャンブル場に向かっていたどうしようもない男。
超力を得る前は、成功者を見ては嫉妬し、SNSで炎上させるのが唯一の生きがいだったが、
超力を得た後は他人の人生をつまみ食いして比較してはこいつは努力が足りないなと論評している。
【超力】
『SSR人生選べるガチャ』
ガチャとあるが実態は人生乗っ取り。
一日一回、数人の候補が現れる。その候補者と身体接触することで肉体を入れ替え、記憶すら得る。
【詳細】
〜とある警備主任の回想〜
日本の大手財閥、水瀬財閥のご令嬢がこのたび18歳の誕生日を迎え、めでたく成人と相成りました。
変装を見抜く超力を持った私は、バースデイパーティの警護に抜擢されましたが、
ご学友に到底ふさわしくない中年の浮浪者が混ざっているのはどういうことでしょうか?
使用人からも彼女のご学友からも知己のように扱われるその浮浪者はあろうことか、パーティの主役であるご令嬢の席に座り、こう述べたのです。
「うふふ、みなさま、ながらくお待たせいたしました。わたくしのティーパーティへようこそいらっしゃいましたわ♡」

「無礼者! わたくしを誰だと思っているの!? お父様に言いつけて、二度とこの国で太陽の下を歩けないようにしてあげるわ!」
などとわめく中年の浮浪者を警察に引き渡して、私はその日の仕事を終えたのでした。


149 : 名無しさん :2025/02/07(金) 23:24:36 BUCxCwZs0
【名前】カーネル・アンダーソン
【性別】男
【年齢】19歳
【役職】看守部長
【外見】ブロンドヘアーのオールバック、ムキムキマッチョマン、爽やかな笑顔
【性格】愛国心に満ち溢れ、アメリカ国民のためならその生命も惜しくはない熱血漢
【超力】
『アメリカこそが世界一位(アメリカン・イズ・ナンバーワン)』
アメリカを守らんとする愛国心が具現化した超力。
青い全身タイツに赤いパンツ、赤いマント、赤いブーツ。
胸に『USA』と赤文字で書かれたマークが付いている。
空を自在に飛び回り、その気になれば80万トンの腕力を発揮することが出来る。
『超米国球(グレートアメリカンボール)』
アメリカ国民達の力を集めた必殺技。
テレパシーで『アメリカ国民よ!僕に元気を分けてくれ!』と叫ぶ事でアメリカ国民を呼応させ
手を挙げさせることでエネルギーを吸収して発動することが出来る。
超米国球は彼以外にも愛国心のある者なら扱うことが出来る。
【詳細】
実業家であり現アメリカ大統領であるアンダーソン大統領の次男。
政治からアメリカを支える長男の代わりに彼は自らの五体を駆使し
ラブ&ピースを信条の元、敵対した超力犯罪集団は全て皆殺しにしてアメリカの平和を守ってきた。
戦争が続く世の中を憂いており、全ての国家がアメリカの属国にして世界平和を作りたいと思っている。

アメリカの超力犯罪集団を一通り滅ぼした現在では、アビスに就任している。
彼らがアメリカ国内に放たれて害を成さないか監視するためである。
特に日本に関してはロクに犯罪者を始末しなかったせいで大量の囚人を抱えてる現状に苛立っている。

国民では大人気で彼を元にしたグッズやアニメが大量に作られている。
犯罪者達に関しては超力関係無しに国民達に害を与え続ける不法移民者達も陰ながら始末していた。
海外から自国を荒らしにくる犯罪者達を憎む一方で
アメリカ人以外に生まれた不幸を憐れむ程度の同情心は残っている。


150 : 名無しさん :2025/02/08(土) 00:20:41 kOLk.fw.0
【名前】王 磊福(ワン レイフー)
【性別】男
【年齢】19(超力により8歳相当)
【役職】セラピードッグ
【外見】小柄で可愛らしい犬の獣人(いわゆるケモショタ)。立ち耳で、緑色の毛色に白のカウンターシェーディングが入る。
髪は緑から赤のグラデーション、緩くウェーブがかかり毛量が多くわしゃわしゃできる。赤い服をよく着ている。
緑眼に緑の麻呂眉がある。尻尾は緑の毛色でかなり太くて大きく、もふもふして触り心地が良い。
【性格】暗い過去を思わせない、明るく良くはしゃいだり話したりする距離感が近い性格。難しいことを考えるのは苦手で、直情的。
子供らしく好奇心も冒険心も豊富だけど、未知なものに対しては結構ビビったり怖がったりする。
でも看守の一員として働いている自覚はあり、規則はちゃんと守る。

【超力】
『呼汪汪!感覚毛毛的!軟軟的肉球!尾巴摇摇!』
小型犬の獣人となる常時発動能力。
フーワンワンと時々可愛く鳴き、毛皮はもふもふしていて、肉球は柔らかく、尻尾はよくブンブンと振っている。
小型犬のためか、超力の副作用として肉体と精神が人間の8歳相当程度より成長が止まっている。
特殊能力として殴られたり蹴られたりしそうになると、その瞬間だけ部分的に急激に毛が濃密に生え、ダメージを大きく軽減する。

【詳細】
とある田舎の農村に生まれた男の子。「開闢の日」より程無くして生まれる。
生まれた時より犬獣人の姿だったため、まだ超力に対して人々の理解が浅かったこともあり家族からは良くない扱いを受け育てられる。
虐待により殴られたり蹴られたりしたこともあったが、超力が上手く発動することで怪我からは大体逃れることができた。
しかし身体や精神の成長がある時期からほぼ止まってしまったため、将来も期待されなかった。
遂には家族に人身売買市場へ流され売られ、不幸なことに食用扱いとして買われてしまった。

しかし購入した主(ご主人)からは食用になるということを知らされず、美味しいものを与えられたり可愛がられながら育つ。
やがて虐待によって暗かった性格も、明るく人間好きな健全な子供らしい物になっていった。
そういう扱いは、いつか最高の状態で食用にするための前準備だったのかもしれない。
しかし彼にとっては今まで想像もしなかった幸せな日々だった。
そんなある日突然、警察の捜査が入りご主人は逮捕され彼は救出されることになる。

ご主人は過去の殺人(複数回の食人)により、死刑扱いでアビスへと送られた。
救出された彼はもちろん自分を売り飛ばした家には帰れないため、支援施設に行くか里親に迎えられるかなど今後の進路を考えることになる。
しかし、超力の副作用により精神が止まっているから学校に行っても周りに絶対に馴染めないだろうし周りにも迷惑をかけるだろうと心配していた。

そんな中で、ご主人から受けていた愛情は最終的には食用扱いだったとしても家族なんかよりずっと暖かかったと思いだす。
将来を事件処理の人々とも相談した結果、アビスへと付いていきセラピードッグのような扱いで就職することになった。
そうしてかれこれ7年ほど、ご主人以外にも動物好きな受刑者たち、そして看守たちに可愛がられながら精神の癒しとなっている。

周りが慌ただしい時なんかは空気を読んで邪魔しないように、心細いけど自室に入ってたりしてる。
一方で特別な仕事を何か任されると、役に立てると喜んでめちゃくちゃはりきりだす。
犬らしく鼻が利くため警察犬みたいに捜査に協力することもできなくはないが、他の看守の有能な超力があるため基本的には役に立たない。
むしろ触れ合ってる相手の食べてた物が分かったり、何となく嘘ついてるか分かったりとか、コミュニケーションに役に立ってる。
どうしても相性が会わない相手に虐待されそうになっても平気だけど、その日の夜は昔家族に虐待されていた夢を見てうなされてしまう。


151 : 名無しさん :2025/02/08(土) 02:31:44 PEPZr.9.0
【名前】ディビット・マルティーニ
【性別】男
【年齢】41
【罪状】違法賭博運営、共謀罪
【刑期】20年
【服役】4年
【外見】金髪のオールバック。端正な顔をしている強面。常に眉間にしわを寄せている。高級ブランドのコートの似合う伊達男、囚人服の着こなしも決まっている。
【性格】組織の利益を何よりも優先する合理主義。冷酷で冷徹、損失を出した場合部下であろうと容赦はしないが、敵であろうとも利益をもたらす者には一定の理解を示すこともある。
【超力】
『4倍賭け(クワトロ・ラドッピォ・ポンターレ)』
自身の能力を4倍にする。
強化する箇所を指定する必要があり同時に複数の強化はできない。
自分の力であれば腕力、知力、視力、器用さ、果ては運と言った曖昧なものまで指定ができる。
また代償として指定した箇所と対等の価値がある(とディビットが認識する)箇所の能力がランダムに4分の一になる。
全体や全身と言った見合う代償が用意できないできない広範囲な箇所は指定はできない。
【詳細】
イタリア最大のカモッラ、バレッジファミリーの金庫番。
シノギの一つとしてカジノを取りきっており、カジノ『クリステラ』のオーナー。
多くの犯罪行為に関与しているが表沙汰になっておらず、逮捕も違法賭博を運営したというカジノオーナーとしての罪のみで立件された。
自分と組織の利益を何よりも優先する。利益をもたらす相手であれば敵であろうとも受け入れる度量を持っている。
理性と合理の怪物。そのカリスマと交渉術で多くの囚人を傘下に収めアビス内でも独自の勢力を持っている。
ヘビースモーカーなので煙草の吸えない生活だけは耐えがたいようで常にイライラしている。


152 : 名無しさん :2025/02/08(土) 14:41:38 AfBYbkBo0
【名前】ジェーン・マッドハッター
【性別】女
【年齢】16
【罪状】殺人罪
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】162㎝ 黒いメッシュがかかったプラチナブロンドのセミロングヘア 
 耳と下に刺々しいピアスをつけた美少女 目の下に酷いクマができている
【性格】ダウナーな性格で他人と関わることを避けたがる。だが根は善人であり人を殺すたびに泣いている。好意的に向けられた言葉には距離を保ちつつ正直に答える。
 一人称は「アタシ」 二人称は「アンタ」だが、素がでるとそれぞれ「私」「貴方」へと変わる
【超力】
『屰罵討(マーダーズ・マスタリー)』
 あらゆるものに『生物に対する殺傷性』を付与する、常時発動型の能力
 ジェーンが『所有物だと認識している』あるいは『素手で直接触れている』道具はなんであれ、生物に対する加害行為(故意だろうと偶発的な接触だろうと)に用いると殺傷性が格段に向上する。
 彼女が投げたボールが当たると骨まで砕け、彼女が渡した紙で指を切ると指が切断されたこともある。
 ペンだろうとおもちゃだろうとコインだろうと、彼女が加害に用いればそれは殺傷力抜群の凶器となる。
 この効果対象は他の生物が身に着けている防具にも及ぶので服や鎧も破壊できるが、斜線上にある壁など生物に直接関係ない物体には効果は及ばない。

 この能力は彼女の意思でオフにはできない。
 また理由は不明ながらこの能力は彼女自身には作用せず、自殺どころか自傷にも使えない。
 「アタシが自分の事を生きてていい奴だと思ってないからじゃないかな。」とは本人の弁
【詳細】
 ドイツ出身
 元々は一般家庭の生まれだったが、幼稚園で行ったドッジボールで能力の暴走で死者3名重傷者11名という凄惨な事件を起こしたことで表の道から外れる。
 訳も分からず逃げてきた自分を見る両親のバケモノを見るような目に錯乱し、両親を殺害した上逃亡。
 その後噂を聞き付けたある殺し屋組織に拾われ、その能力を買われて殺し屋として10年以上生きてきた。
 他の組織へのスパイや暗殺も経験があり、複数の国を転々としていたため日常会話だけなら4,5ヶ国語は喋れるらしい。

 幼稚園で起こした事故がトラウマとなって本能的に殺人への忌避感は強かったが、自分の能力が人殺しにしか使えないと考えていたため「仕事」であると割り切ってどうにかこなしつづけた。
 毎晩殺した人たちの顔を夢で見てはうなされている。
 殺害した数は憶えていない(100は超えていると思う)が、死に顔は全部覚えているらしい。
 
 1年前に組織が壊滅し、数名の同僚と共にアビスに投獄された
 名前は偽名であり、本名は不明。本人が覚えているかどうかさえ分からない。

 人殺ししかできない自分が嫌いで、人を殺すことにしか使えない自分の能力はもっと嫌い。


153 : 名無しさん :2025/02/08(土) 18:28:30 zE8KXjrQ0
【名前】メリリン・"メカーニカ"・ミリアン
【性別】女
【年齢】29
【罪状】兵器製造・窃盗
【刑期】23年
【服役】1ヶ月
【外見】身長165cmでメリハリのある体型だが、いつも姿勢があまり良くないので微妙にセクシーに見えない。
豊かな黒髪に褐色肌だが、油とか何かの汚れが染みていて所々くすんでいる。目にはだいたい光がない。服も何故かすぐ汚す。
感情に連動して動く猫耳型デバイス付きの、黄色い帽子を被っている。眼球保護用のゴーグルも必要なときに使えるよう帽子のつばの上に載せている。
【性格】だいたいいつも気怠げでダウナーでマイペースなお姉さん。独り言をブツブツ言いながら作業してることもある。口癖は「まあ、こんなもんか」。
感情が殆どないというわけではなく、顔や態度で表現するのが苦手なだけ。周りにも感情が分かるように猫耳を付けたり、本人なりに気を使っている。
【超力】
『補え、私の愛する人工物質(モルデオ・アルティフィシアル)』
金属、プラスチック、ガラスと言った、人工的に製造された物質を好きな形に変形・成形できる能力。
これにより組み立てや修理用の工具、そしてその他様々な足りない部品を適当なものから調達できる。
変形できる物体の質量は自分の体重の半分くらいが限界っぽい。でかいものを変形させると疲労するので、そこまで連続使用はできない。
CPUとか集積回路的なものはさすがに物質の組み合わせ方が複雑すぎるし、内部構造を理解できるほどのその分野への専門知識もないので作ることはできない。
【詳細】
ラテンアメリカのとある犯罪組織の構成メンバー。兵器の製造、整備を主に担当している。
機械工の仕事をする両親の間に生まれ、多忙によりほとんど向き合ってもらえなかった。
趣味のように廃品などを使って分解、組み立てをして遊んでるうちに技術を身に着けた。
最終的に親は仕事がうまくいかず破産してしまう。
まあ経営下手だったしいい親でもなかったしと、それを気に病むことなく自分は技術を犯罪組織で活かすことにした。

最初は従来兵器の銃器やらロケット弾やらミサイルやらをを作ったり修理したり、リバースエンジニアリングしたりしていた。
腕は確かだが、メカニックらしく現実主義者で機械の性能を完璧に保証したりはしない。「壊れない機械はない」がモットー。
余裕ができると創造力を発揮して、街路樹に偽装した防衛システムとか動物に見せかけた攻撃ドローンとか有用かつ変なものを作ったりもした。

廃品回収トラックでよく走り回って資源を色々調達している。自分の超力では上手く作れない電子部品なんかは特に好き。
たまに気になったものを見つけると、こそこそとくすねて窃盗もする。
飲酒運転の常習犯で、事故るたびに車を自力で修復している。暫くは反省してやめるけど、暫くするとまたやり始めてる。

対価を払って頼むとエッチやガジェットとかも作ってくれるが、彼女に対して下手に下心を出すと護身用の武器やメカを出して拒否してくる。
一方で彼女が好意を持った相手には好意の証として、自作の変なガジェットをプレゼントしたりもする。
センスが常人から離れたようなものばかりなので、大体相手からは引かれてしまい上手く気持ちが伝わらない。


154 : 名無しさん :2025/02/08(土) 20:51:24 firYyifo0
【名前】エンダ・Y・カクレヤマ
【性別】女
【年齢】11
【罪状】内乱罪、公務執行妨害、殺人罪
【刑期】無期懲役
【服役】1年
【外見】背中まで伸びた長い白髪に白い肌。華奢で小柄。神秘的で蠱惑的な雰囲気の絶世の美少女
【性格】思慮深く聡明。冷静冷徹冷淡。清濁併せ吞む柔軟性と弱者に手を差し伸べる優しさを持つ。
【超力】
『呪厄制御(たたり・めぐる)』
実体を持つ黒く禍々しい靄を操る超力。殺傷力は低いが刃のように変形させたり爆発させたりすることで殺傷力のある攻撃ができ、靄を纏うことで身体を守ることも可能。
靄には身体機能や精神、超力を蝕む効果があり、エンダ以外が体内に取り込むと様々な状態異常を引き起こす。
【詳細】
ミステリアスな雰囲気を纏う出自不明の美少女。その美貌は女神の生き写しと称される程。世界的に希少な特殊な血液型。国籍は一応日本だが外見的に明らかに日本人ではない。


華奢な見た目に反して身体能力は一般的な成人男性並み。
人間の本質を即座に見抜くほどの高い洞察力や論理的思考力を誇る。
語学や民俗学を始めとした知識も豊富で、特に超力の知識は専門家や研究者が舌を巻くほど。


人間嫌いで根に持ちやすく、誰に対しても辛辣な態度を取る。特に自分の信頼を裏切った相手に対しては顕著。
普段は表に出さないが、感受性豊かで情に厚く、虐げられている善良な弱者や気を許した相手に対しては優しさを見せる。


『ヤマオリ』という概念に強い嫌悪感を示し、超力が蔓延る今の世界の在り方に対しても同様。
だが、『ヤマオリ』の関係者の一部(エンダ曰く既に全員故人)には何か思うところがあるらしく、決して悪く言わない。
自分の倫理観や価値観が一般人とズレていることは自覚しているが、押し付ける気も治す気も全くない。
一方、甘いお菓子(特に金平糖)には目がない年相応の一面も存在する。
うなじにバーコードのような焼き印があるが、本人が気づいているかは不明。


『開闢の日』以降に発足した100を超える新興宗教群『ヤマオリ・カルト』の中でも特に大規模な組織に保護(軟禁)され、神聖な象徴として崇め奉られていた。
表向きは組織に従順に従いつつも「ある目的」のために乗っ取ろうと裏で計画を企てていたが、決行前日にエージェント達の襲撃にあい計画は頓挫。その際信者はエンダを除き全員死亡。
エージェント側も甚大な被害を受けたが、最終的にとあるエージェントがエンダを捕縛したことで事態が収束。
政府の思惑から若干10歳としては異例の無期懲役の判決が下され、アビスの独房に収監された。


155 : 名無しさん :2025/02/08(土) 21:20:10 04wW2ll20
【名前】無銘
【性別】男
【年齢】30
【罪状】決闘罪、及び殺人
【刑期】30年
【服役】1週間
【外見】鋭い目つきと長い黒髪を束ねている。囚人服の下には鍛えられた肉体と様々な生傷が無数にある
【性格】バトルジャンキーだが話は通じるし頭も回る。無理やり戦おうとしたりはしないなど意外と真面目
【超力】
『我思う、故に我在り(コギトエルゴズム)』
精神干渉の超力を一切受け付けない、強靭な精神力を持つ。
精神面で揺らぐことがないのでメンタルは常に100%の状態を維持できる。
しかしそれだけの能力でもあり、ほぼ超力なしのフィジカルだけで闘っている。

【詳細】
超力の都合、新人類社会において周囲からは見下され続けてきたが、
本人はそう言った言葉を気にせずにただ愚直にフィジカルを鍛え続けていた。
元々超力抜きでも人類は進化しており『鍛えれば超力を超えられるのではないか』と考え、
只管に己を鍛えていき、それを確かめたいと世界各地を旅しては名のある人物や野生動物、犯罪者や組織と戦っていた。
決闘罪と数人の殺人罪とアビス全体でみると軽い罪状ではあるが、捕まったその国でで立件できたものだけで実際はもっと多い
戦いばかりに明け暮れていた為自分の名前すら忘れている。無銘は捕まった際に適当に名乗ったもの。
ジャンキーではあるが意外と理性的であり、相手が合意しないならば素直に引き下がる真面目な側面もある。
素手での戦いが得意だが、武器の扱いも心得てる。重火器も扱えるがあまり信用していない。
恩赦についてはさほど興味はなく、看守たちを相手にする方がもっと面白いのではと思ってすらいる。
世界各地を十年以上旅をしていたので、ひょっとしたらアビスにも顔を知っている人がいるかもしれない。


156 : 名無しさん :2025/02/08(土) 21:38:59 Xmre2hXA0
【名前】夢巡(ゆめぐり)ありす
【性別】女
【年齢】18歳
【罪状】殺人罪、業務執行妨害
【刑期】無期懲役
【服役】1年
【外見】銀髪白ゴスロリ少女、彼女の外見年齢はずっと11歳のまま止まっている。
【性格】籠の中の鳥と形容出来る程に純粋無垢。
【超力】
『いつか■■される■■(アリス・イン・ザ・ネバーランド/■■■■・■■■■・■■■■)』
不思議の国のアリス及び鏡の国のアリスの登場人物を象った「何か」を召喚する能力。
召喚上限は一種のみ。召喚できるのは以下の種類
「トランプ兵たち」「チェシャキャット」「お茶会(マッドハッター、三月ウサギ、ドーマウス)」「トゥイードルダムとトゥイードルディー」「ハートの女王」「ハンプティダンプティ」「ジャバウォック」


彼女は己の超力の本質に気づいていない。成長が止まったままなのも超力の本質によるもの。


【詳細】
数年前に発生した一家惨殺事件の元凶であり、夢遊病患者。
夢遊病が超力の発現の原因そのものであり、発症と同時に発言した超力で両親や兄弟姉妹諸共を無自覚に虐殺した。(曰く「美味しいケーキがいっぱい」)
その後も廃墟とかした家の中で、成長することもなくずっと11歳の身体のまま肝試しに忍び込んだ者たちを無意識に殺害。行方不明者の捜索をしに来た警察すらも殺したことでエージェントたちの目に留まり、最終的に無力化の上捕縛された。

最も、現実を文字通り認識できない状態、そして当人ですら把握しきれていない異能の危険性を鑑み、特別独房(内装は子供部屋)へと隔離された。


157 : 名無しさん :2025/02/08(土) 21:41:38 Xmre2hXA0
>>156 超力説明に足りないのがあったので追記修正

『いつか■■される■■(アリス・イン・ザ・ネバーランド/■■■■・■■■■・■■■■)』
不思議の国のアリス及び鏡の国のアリスの登場人物を象った「何か」を召喚する能力。
召喚上限は一種のみで、再び同じものか別のものを召喚するには一定時間のインターバルが必要。召喚できるのは以下の種類
「トランプ兵たち」「チェシャキャット」「お茶会(マッドハッター、三月ウサギ、ドーマウス)」「トゥイードルダムとトゥイードルディー」「ハートの女王」「ハンプティダンプティ」「ジャバウォック」


158 : 名無しさん :2025/02/08(土) 21:45:40 Xmre2hXA0
色々ミスってすみませんが、超力説明をさらに修正+詳細に一文追加を含めて貼り直し

【名前】夢巡(ゆめぐり)ありす
【性別】女
【年齢】18歳
【罪状】殺人罪、業務執行妨害
【刑期】無期懲役
【服役】1年
【外見】銀髪白ゴスロリ少女、彼女の外見年齢はずっと11歳のまま止まっている。
【性格】籠の中の鳥と形容出来る程に純粋無垢。
【超力】
『いつか■■する■■(アリス・イン・ザ・ネバーランド)』
不思議の国のアリス及び鏡の国のアリスの登場人物を象った「何か」を召喚する能力。
召喚上限は一種のみで、再び同じものか別のものを召喚するには一定時間のインターバルが必要。召喚できるのは以下の種類
「トランプ兵たち」「チェシャキャット」「お茶会(マッドハッター、三月ウサギ、ドーマウス)」「トゥイードルダムとトゥイードルディー」「ハートの女王」「ハンプティダンプティ」「ジャバウォック」


彼女は己の超力の本質に気づいていない。成長が止まったままなのも超力の本質によるもの。


【詳細】
数年前に発生した一家惨殺事件の元凶であり、夢遊病患者。
夢遊病が超力の発現の原因そのものであり、発症と同時に発言した超力で両親や兄弟姉妹諸共を無自覚に虐殺した。(曰く「美味しいケーキがいっぱい」)
その後も廃墟とかした家の中で、成長することもなくずっと11歳の身体のまま肝試しに忍び込んだ者たちを無意識に殺害。行方不明者の捜索をしに来た警察すらも殺したことでエージェントたちの目に留まり、最終的に無力化の上捕縛された。

最も、現実を文字通り認識できない状態、そして当人ですら把握しきれていない異能の危険性を鑑み、特別独房(内装は子供部屋)へと隔離された。

「きょうは、■■■ちゃんとお茶会したの!」


159 : 名無しさん :2025/02/08(土) 21:54:24 RUrnAwsE0
【名前】グリエルモ・チェーザレ
【性別】男
【年齢】五十三歳
【罪状】殺人、死体損壊、逮捕監禁、暴行
【刑期】死刑
【服役】一年と二ヶ月
【外見】立派な鼻髭を蓄えた美形中年。髪と瞳の色は黒。
【性格】人種や年齢性別に捉われず、どんな相手にも礼節を持って接する紳士。基本的に他者に無関心である。ネクロフィリア
【超力】
白と黒の三十二の駒(SCACCHI)

黒白のチェスの駒を模した人型を召喚する超力。
キングx2、クイーンx2、ビショップx4、ナイトx4、ルークx4、ポーンx16
計三十二体の駒を縦横に駆使して戦う。
これらの駒は傷ついた場合、自動で修復する。
剛力と城壁の如き頑丈さを持つ城兵(ルーク)、悍馬に跨り虚空を駆ける騎士(ナイト)、高速で地を駆ける僧正(ビショップ)、手にした武具を巧みに操る兵士(ボーン)。
そして僧正を上回る速度と、騎士を超える空中での機動性を持ち、近接戦にも優れる女王(クイーン)と、城兵を軽く凌駕する力と頑強を誇る王(キング)。
これらの駒の特性を正しく把握し、的確に動かす様は、熟練のチェスの巧者を思わせる。
なお指手であるグリエルモの戦闘能力は、一般的な人類の其れである。



実際にはこの32体の駒は、グリエルモが殺害した女性の死体を素としている。
この為に破壊された場合、女性の死体が無ければ補充が出来ない。
 



【詳細】
イタリア貴族の血を引く名家の産まれ。
頭脳明晰であり、優れた容姿の持ち主でもあるグリエルモは、10代の時から趣味であるチェスの名手として、的確な投資で家財を数十倍にもした投資家として知られる。
両親の死後、莫大な資産を得ていたグリエルモは、幾つもの事業を起こし、その全てを成功させ、欧州中に物流と資金と情報のネットワークを築く。
此処から、グリエルモは押し殺していた精神の邪悪さを満たす為に行動を開始する。
ジャンルを問わず、才に勝れた女性を拉致しては、凄惨な拷問の果てに嬲り殺す事を繰り返し。
才のみならず容姿も優れていたならば、生きたまま生皮を剥いで剥製にした。
『開闢の日』を迎えて発現した超力は、正しくグリエルモも精神を反映したものと言えるだろう。
殺害した女性を三十二体まで腐らずに保存でき、尚且つ自分の思い通りに動かせ、傷ついても時間経過で修復する為に、完全にタガが外れてしまう。
才色兼備の女性を、欧州各地どころか世界中から集めては嬲り殺し、取り分け気に入った女性は駒にして屍姦した。
やがて、グリエルモは自身のネットワークの外である、南北アメリカやアジア・アフリカの美女も求め、当然の様に発覚。狂気に満ちた凶行が明らかになり、逮捕される。
官憲が踏み込んだ時、グリエルモの私邸には数百の骸が転がり、百を超える女性が監禁されていたという。
過去の犠牲者も含めると、千人以上がグリエルモの狂気の犠牲になったと推測される。


160 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/08(土) 21:59:13 ???0
ホスト規制のため、トリップ付きで失礼します


161 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/08(土) 21:59:46 ???0
【名前】アマルガム・ドレッドフット
【性別】男
【年齢】46
【罪状】殺人、傷害致死、強盗殺人、強姦殺人
【刑期】死刑
【服役】4年
【外見】全長27m超、体重は1t以上。
スキンヘッドで常に気味の悪い張り付いたようなニヤケ笑いを浮かべている。アマルガム自身の185cm程度の肉体の後ろには、尻に頭を突っ込んだような形で幾重にも人間の首から下が連結されており、それはまるで巨大な『ムカデ』のようだ。"全長”と表記したのは、アマルガムに後続する者達の分も含んでいる。

【性格】一言で言えばド外道のマッドサイエンティスト。他の新人類のことは自分の能力の糧としか思っていない。サディストでもあり、新人類を自分の肉体の一部にしてその嘆きを聞くことを快楽にしている。

【超力】
『ムカデ人間(ヒューマン・センティピード)』

 口、または肛門から人間を吸い込み、肉体と超力を捕食・吸収する能力。
捕食された人間はアマルガムの最後尾の人間の肛門に頭部全体を突っ込んだ外見となり、アマルガムの新たな最後尾の人間として彼の肉体の一部になってしまう。
 捕食する際は口と肛門が人間大の大きさに開き、ブラックホールのように無差別に周囲を呑み込む。
 また、彼に捕食された人間はその超力を奪われてしまい、身体もアマルガムの制御下に入ってしまう。
 これにより、アマルガムはこの殺し合いに至るまでに多くの人間を捕食し、同時に多数の超力を奪っており、それを同時に使うことができる。
 また、捕食した人間の肉体で構築したムカデのような異形の肉体にも関わらず隙のない統率された動きが可能で、見た目からは考えられないような筋力と敏捷性を誇り、物理方面でも非常に強力。
 捕食された人間の生命活動は停止しておらず、今もその肉体の中で嘆き、アマルガムを愉しませている。

【詳細】
 アメリカ出身のマッドサイエンティスト。
 かつては心優しく、『開闢の日』後の世界のために貢献しようと、超力の研究に没頭する科学者だった。
 しかし、超力を利用して悪化していくばかりの世界を見て日に日に彼の心は荒んでいった。
 そしてある日、超力を利用した犯罪者によって家族を殺されたことで、アマルガム自身の心は壊れてしまった。
 その日を境にアマルガムの考えは変わり、

「世界を救えるのは自分だけ」
「世界中の人間を捕食して繋ぎ、掛け合わせた超力で自分が世界の頂点となる」
「腐れ切った新人類など何人捕食しようと世界の危機の前では些末な事」

 という思考を持つようになった。
 だが年月を経て捕食を重ねるにつれて、その目的すらも忘れてしまい、今となってはただ、「捕食した者から吸収した超力で何ができるか」を実験・研究することだけが目的となってしまい、己の快楽のために破壊と殺戮を繰り返すだけになってしまった。
 当然、それを見過ごしてはおけない人物によって彼は捕縛されることになるが、その際にも何人かは捕食して彼の一部となってしまい今も彼の肉体の一部として生きている。
 参加者の中には、親しい者を彼の一部にされてしまった者もいるかもしれない……。


162 : 名無しさん :2025/02/08(土) 22:44:19 RUrnAwsE0
【名前】山折 神子(やまおり みこ)
【性別】女
【年齢】13歳(外見は20代半ば)
【罪状】殺人、内乱予備罪、死体損壊罪
【刑期】死刑
【服役】一年
【外見】
180cm 76kgkg 漆黒の短い髪に、水死体の様な血の気の無い肌、鮮血色の瞳。
体躯はやや細身だが出る所はしっかり出ている。一見で人とは異なる生物と理解出来る雰囲気を持つ。
【性格】
寡黙かつ無表情で思考や感情を読み辛い。冷静沈着で目的の為なら自身の身身体を含む全てを犠牲にする冷徹さを持つ。
超力の為なのか、感性や思考が人間というよりも虫のソレに近い。
無情だが経産婦で有り、子供には慈しみを見せる。人のそれとはやや異なるが
裸族。捕まった時も、アビスでも全裸。当然『刑務』でも全裸。
【超力】
『女王(スウォームタイラント)』

群の女王としての能力。
三つの性質から構成される。


1:群れを構成する能力

人間、非人間を問わず、死体に自身の血を入れる事で蘇生させ、“群れ”の構成員とする。
死体の損傷が酷ければ蘇生不可能。
蘇生した者は、意識は有っても意思が無く、思考は出来ても自我を持たない状態となり、神子の命じる事に対してのみ自律行動を取る。
一度死んだ為か、傷みや疲労を感じない為に、身体能力を限界まで行使できる様になっている。当然超力も使用可能。
死んだ後の時間が経過し過ぎていると、脳機能が回復せずにゾンビ状態になる
こうなると思考も意識も無い為に、神子や“群れ”の構成員が細かく指示を出す必要が有る。

2:次代の女王を産み出す能力

男女を問わず全身を喰う事で妊娠し、三ヶ月で出産する。
捕食する対象は、身体頭脳共に優れた個体であれば良く、超力は考慮されない。
産まれた子供は『女王(スウォームタイラント)』を受け継ぎ、更に自前の超力を持つ。


3:群れの女王としての能力

普通乗用車を腕を軽く一振りするだけで宙に舞わし、時速40Kmで1時間走り続け、一飛びでビルの三階相当にまで飛び上がり、十分間の無呼吸での全力活動を可能とするなど、極めて高い身体能力を有する。
生命力も高く、腹から下が吹き飛んでも死なず、一日後には再生する。頭が潰れると流石にどうにもならないが。

群れの構成員が五感を通じて獲得した情報を、女王もまた得る事が出来る。
どの個体からの情報を受け取るかは任意に設定できる。


163 : 名無しさん :2025/02/08(土) 22:44:31 RUrnAwsE0
【詳細】
『開闢の日』以降に乱立した『ヤマオリ・カルト』の中でも、最古にして最大のカルトにより『作り出された』存在。
両親は東京の企業に就職していた山折村出身者の女性と、山折村最後の村長の村外に嫁いだ叔母の子孫の男性との間に産まれたとされる。

“『ヤマオリ』により人類は進化した。だが、それは不完全な進化である。”

更なる進化を求めるカルト集団は、その鍵を『ヤマオリ』に求め、山折村出身者を数多く拉致しては、非道な人体実験に供したという。
当然の様に進化など起こり得るはずも無く、行き詰まった所で、『ヤマオリ』の血を掛け合わせる事で、更なる新人類を誕生させられるのではないか?
どうしたらこの様な発想に至るかは甚だ疑問ではあるが、兎に角にも山折村出身者の女性の身柄を買い取り、山折村最後の村長の血縁に連なる男を拉致する事に成功する。
男女共に、身体を弄くり回され、様々な薬を打たれて、激変した身体で性交を強要され、五人の子供を産むも、悉くが死産。
最後に信者一同が祈念する中で性交し、信者一同が祈念する中で産まれたのが、山折神子である。
産まれる経緯が異様な為か、山折神子は異質とも言える調理器を有していた。否、もはや超力と言うよりも、別種の生物の有する生態というべきか。
かくして呪われた誕生をした山折神子は信徒達を片端から“群れ”の構成員へと変えていき、信徒以外の人間をゾンビにして奴隷化した。
そのまま行けば、膨れ上がった“群れ”と、ゾンビの軍勢を以って日本を征服出来たかも知れないが、“群れ”もゾンビも神子にしか増やせない為に、数を充分に増やす前に当局に察知され、壮絶な掃討戦の末に、“群れ”は壊滅。神子は研究と実験の為に捕獲された。
“群れ”やゾンビ作成が殺人及び死体損壊に当たるとし、神子は死刑判決を受けて、ヤマオリ記念特別国際刑務所に収監される。

なお山折神子には戸籍自体が存在せず、山折神子という名前も、『山折の神子』と信徒達に呼ばれていた為に、便宜上着けられた名前である。





実際のところ、山折神子は既に子を複数出産し、その全てに充分な数の“群れ”をつけて巣分けを終えている。
当局に捕獲されたのは、単純に次代の女王を産むという、己が果たすべき女王としての役割が終わった身を最後に役立てる為。
巣立った時代の女王達が、成長する為の時間を稼ぐ為で有る。

無理をすれば後一度は出産可能な為に、この『刑務』で適当な相手を見繕うのも良いかと思っている。
その場合はゾンビの群れを率いて、ヤマオリ記念特別国際刑務所を制圧する事になるだろう。


164 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/09(日) 00:05:33 ???0
【名前】マハトマ・ピリア
【性別】男
【年齢】36
【罪状】強要罪、国家反逆罪
【刑期】死刑
【服役】2
【外見】インド映画の悪役のイケメン
【性格】ナンとカレーがあればゴキゲン、マイホームパバ
【超力】
毒電波(エレクドラッグ)
 マインド・コントロールならぬボディ・コントロール。本人の意識を変えることはできないが他人の手足を自分の手足のように操れる。この超力の特徴は機械的な脳波の出力増加で、本来は直接触らなければ発動しない能力をインド全体にまで拡げたとのこと。
 本人は全く自覚がないがあのインド大行進による数万人の死者は彼が引き起こしたと教科書にも書いてある。
【詳細】
水牛を飼うキリスト教徒。突然妻と子どもたちの前で逮捕され死刑宣告を言い渡されたが、一か八かの恩赦があると当局から聞いて自らアビス行きを志願する。従軍経験はあるがすっかり中年太りしていたため、生き残るために軍から再訓練を施され送り込まれる。軍務により患った難聴のため補聴器をつけているがこれには当局より爆弾が仕掛けられている。これを没収された場合ほぼ何も聞き取れなくなる。


165 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/09(日) 00:07:20 ???0
【名前】サンス・ミラー
【性別】男
【年齢】42
【罪状】ジュネーブ条約違反、ハーグ陸戦条約違反、国連安保理決議違反
【刑期】死刑
【服役】1年
【外見】筋肉もりもりマッチョマン
【性格】cv野沢那智、愛国心はあるが優先順位は娘が全て、ロシア人と共産主義者が嫌い
【超力】
爬虫人類(レプティリアン)
 恐竜の身体能力をその身に宿す。単純に速く、強く、タフ。常人の倍の速度で動き、腕力はゴリラに匹敵し、銃弾は皮膚で止まる。しかしその最大の能力は恐竜のオーラを纏うことにある。このオーラを纏っている間、その能力が纏った対象に徐々に近づいていく。通常は知っている恐竜しか纏えないが、恐竜の状態で人間を食した場合はその人間を模してオーラを纏うことで、外見は人間とほぼ見分けがつかなくなる。その他の能力は元のミラーの能力より劣ることが多いためか能力が近づく速度が鈍化する。またマインド・コントロールもかけることができるが、超力にたいして本人の適性が低いためか挑発が上手い程度に留まっている。
【詳細】
アメリカ陸軍グリーンベレー中佐。第二次米墨戦争にて麻薬組織「イエズス会・カルテル」1000人の構成員を1人で倒すも1001人目の民兵についにしばかれ部下ともども捕虜となる。その後第三次メキシコ革命後に行われた選挙においてイエズス会・カルテル系の新自由主義国民党が政権を樹立、イエズス会・カルテルは反米レジスタンスだったということになり、ミラーは国を守ろうとした民兵を虐殺した血も涙もない侵略者としてアメリカ帝国主義の象徴のように扱われるようになる。
しかしこれを快く思わない者もいた。イエズス会・カルテルによって縄張りを奪われた麻薬組織達の同盟組織、「全メキシコ平和主義運動」である。彼らは表では野党第一党「国家共産主義民主社会党」を通じて、裏ではアメリカ裏社会を通じて米国政府と交渉し、クーデターへの支援と引き換えに捕虜の解放を約束した。ただし知名度のあるミラーがいかなる形であれアメリカに戻ることは政治的な問題になる。そこでイエズス会・カルテルを情報操作しミラーをアビスへと送らせることで、本人の釈放と危険人物の抹殺と超力のデータ収集と捕虜の脱出の不祥事の回避を一度にすることになった。
「どんな困難な任務でも口笛を吹いてこなすのがグリーンベレーだ」
見張りの共産主義者のロシア人を食いながら、1人死地へと赴く彼を涙で見送る部下たちに、ミラーはなんてことはないように言った。
全ては娘の元に良き父親として帰るため。
彼は巨乳のロシア人女子小学生に変身すると、己を囮にアビスの囚人とロシア人と共産主義者を皆殺しにするために動き出す。


166 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/09(日) 00:08:08 ???0
【名前】トーマス・アスラー
【性別】男
【年齢】60
【罪状】著作権保護法違反、わいせつ電磁的記録物取締法違反、名誉毀損、児童ポルノ禁止法違反
【刑期】終身刑
【服役】半年
【外見】初老のハリウッドスター、若い頃は中性的なイケメンだが今はイケオジ
【性格】親切、悩みとかむっちゃ聞いてくれる、500ドルまでなら貸してくれる、どんな話でも最終的に宗教の勧誘をしてくる
【超力】
これが俺のフランクフルト
 アスラーを見た人間は、彼の言動や思考を真似したくなる。特に乳首や肛門を見た場合それが顕著になる。たとえそれらに嫌悪感を抱いても、ふとした時に思い出す度に彼の超力の影響を受けることになるし、笑うなどのポジティブな反応をした場合は速やかに彼の模倣者となる。ただしチンポを見た場合は「なんか違った」「そういうのじゃない」「被っとるやないかい!」という反応になり、影響が解けるかもしれない。
【詳細】
モルモン教徒(破門済み)のハリウッドスター。彼が主演兼初監督を勤めた映画「笑顔で虹をかける」は、ふざけた乳首をした男が、笑いに悩むコメディアンや難病に苦しむ子供にどう接すればいいかわからない看護師たちと出会い、笑顔とはなにか、笑いとはなにか、幸せとはなにかを考える日米合作のコメディーである。彼の宗教観を根底にした哲学的テーマでありながら、長年の俳優人生と彼に賛同したスタッフたちのハイクオリティな制作によって、1億5000万円という低予算ながら500億円の興行収入を達した。
 しかしその異常な売上に本格的な調査が行われた結果、映画に超力の影響がないかを検閲する人間ごと彼の影響を受けていることが判明。さらに政情不安とインターネットの発達により海賊版の視聴が爆増していたという世相もあって、最終的に彼の影響を50億人もの人間がなんらかの形で受けていることが判明した。
 アナルファイトの流行や、ジャン!、お言葉ですがアインシュタインですよと言った名台詞を使った異文化コミュニケーションによって世界の紛争は激減したものの、エイズなどの性病の爆増、世界中のサンゴがサボテンに変わるサンゴサボテン化現象、月が遠ざかるなどの影響が見られたためとりあえず逮捕。その後、彼が若い頃に出演していたセクシーなビデオが流出するとそれらの影響が収まったため、WHOは彼のビデオを公共広告という形で流し、概ね事態は終息した。
現在彼を勝手に教祖とする宗教「グッド・明日」の信者、通称アスラーが全世界に1億人ほどいるが、彼の収監後一転して元通りに増加をはじめた紛争や犯罪の激化により対応が後手に回り、信者の行動でアスラーを思い出して再び影響を受ける例が相次いでいる。
「なぜ世界の共通言語が『ペニス!(流行語大賞・オシャレな挨拶)』になるまで誰も気づかなかったんだ?」と乳首をイジりながら言うのはアメリカ俳優協会理事の声。
今日もどこかで誰かが知らず知らず影響を受けているかもしれないジャン!


167 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/09(日) 00:09:49 ???0
【名前】ムハンマド・イシュタル
【性別】男
【年齢】45
【罪状】強姦罪
【刑期】死刑
【服役】3週間
【外見】丸刈りのアラブ人、斜視、右腕が切り落とされている、自傷行為によるものと断定された多数の火傷や鞭打ちの傷痕並びに骨の変形
【性格】明るい、優しい、元気
【超力】
レズになるレーザー
 好感度を反転させる。若い女性が好きで中年男性が嫌いなら、中年男性が好きで若い女性が嫌いになる。元からどちらも好き、あるいは嫌いな場合はそのままである。性別や年齢以外にも美醜など様々な好感度が入れ替わるが、ムハンマドは知的障害があるため自分の超力について何も知らない。
【詳細】
 知的障害者の収容所において超力を用いて強姦や看護婦同士の強制的な姦淫を行わせて逮捕された男。女性を淫乱なレズにする超力を持つと自供した。その後彼がレーザーを出し脱獄を試みたため、レーザーの生じる右腕を切り落としアビスへと送られた。


168 : ◆BrXLNuUpHQ :2025/02/09(日) 00:11:02 ???0
【名前】ゲオルギー・マフマドベコフ
【性別】男
【年齢】39
【罪状】国家反逆罪
【刑期】死刑
【服役】2ヶ月
【外見】青い目のアジア系ウェールズ人、身長179cm、体重58kg、体脂肪率4%、腕のリーチは181cm、ペニスサイズ14cm、右肩甲骨から左腰骨にかけて赤い西洋龍のタトゥー、顔はあまりよくない
【性格】寡黙で勤勉、実は冗談好きだがジョークのセンスは無い、趣味は温室で盆栽も嗜む
【超力】
「ураaaaaaaaa!!!」
 彼を認識した者の脳内に爆音でソ連国歌を流す。
【詳細】
 ドネツク人の分離独立主義テロ組織「人権・平和・ドネツク」のリーダーで元ウクライナ共産党員だった教師。徴兵拒否により国家反逆罪で死刑判決を受ける。その後イギリスに難民として亡命するも強制送還によりアビスに直送された。同じく亡命した家族も不法入国で逮捕されているが、彼が出所した場合は第三国に追放すると励まされ、戦闘データと引き換えの恩赦を狙う。学生時代はオリンピック候補生になるレベルのボクシングの名手だったが、反政府デモに参加した際目の前で恋人が催涙弾を頭部に受けたことがトラウマで人を傷つけることができなくなり止めた。しかし今でも恋人のことを忘れないためにロードワークやミット打ちがルーチンになっている。なお恋人はその後ウクライナ人と結婚し現在は副財務大臣夫人になっている。


169 : 名無しさん :2025/02/09(日) 00:34:33 232Qo7Cw0
【名前】判田(ぱんだ)姜之助(じゃんのすけ)
【性別】男
【年齢】26
【罪状】器物損壊、建造物損壊罪
【刑期】3年
【服役】1年
【外見】何ら一般的な青年
【性格】
ロマンチスト。パンジャンの無限の可能性を信じている
【超力】
『無限の英国面(アンリミテッド・パンジャンドラム・ワークス)』
パンジャンドラムを自由自在に出現させることが出来る。
出現させたパンジャンドラムは基本的に直線上に突進し、人やものに激突した瞬間爆発する。ある程度軌道をコントロールすることは可能。
何か石が車輪にぶつかって脱線したら爆発する。たまに何もせずに爆発する。特の理由もなくなんか爆発する。
ただし姜之助は自分が出現させたパンジャンドラムが関わるもの(パンジャン本体、爆発、爆風、爆発による飛び散った破片等)でのダメージを受けない。

たまにマーマイトとポットヌードルが出る。なんなら紅茶も出る。


【詳細】
学生の頃に英国への修学旅行の際に見たパンジャンドラムに脳を焼かれ英国面へと堕ちてしまった哀れな男。
パンジャンドラムを愛するあまり目覚めた超力もまたパンジャンドラムに関わるものであり、能力発現の喜びによるハイテンションのまま能力を暴走させ、周囲の建造物を所構わずパンジャン爆破しまくってしまった結果逮捕されアビス送りにされた。

アビス内でも凶悪犯罪者相手に怖気付くことなくパンジャンの素晴らしさを布教しまくっており、結果「看守よりも怖い」「パンジャンのやべーやつ」と何か違う形で恐れられている。


170 : 名無しさん :2025/02/09(日) 01:22:37 lWeMaaXw0
【名前】メアリー・エバンス
【性別】女
【年齢】6
【罪状】過失致死罪
【刑期】無期懲役
【服役】5年
【外見】美しいブロンドの髪、宝石の様な青い瞳。人形のような少女
【性格】純真無垢で無邪気、それ故に残酷
【超力】
『不思議で無垢な少女の世界(ドリーム・ランド)』
周囲の物理法則を塗り替え改変する。生れ落ちた時から発動し続けている常時発動型の超力。
彼女の周囲は無重力状態となり、時間の流れが変わり、倍速、鈍化、逆行などが不規則に引きおこる。
空間内では思考が鈍り、身体操作の法則が変わる(手を動かそうとすると瞼を閉じてしまうなど)。
自然環境も通常とは違う法則で動き、突風は発火し、太陽光は結晶化する。
不可思議で不条理な世界。彼女にとってはこれが常識であり日常である。
【詳細】
産声を上げた瞬間から超力を発動し自らを取り上げた医師を殺害してしまう、
その後、両親から隔離され赤子は特別施設に移されたが、如何に超力持ちであろうとも一般職員では彼女に接近する事すら難しく、まともな教育を施すことが出来なかった。
制御方法も学べぬまま能力の拡大を止められず、無軌道に被害を拡大して行きアビスに墜とされた。
何故か(>>119)、育児に慣れていたアビスの教育で最低限の言語は学んだが、常識や善悪の価値観を学べていない。


171 : 名無しさん :2025/02/09(日) 04:04:27 p1JvVw0Y0
【名前】ギャル・ギュネス・ギョローレン
【性別】自称JK
【年齢】自称永遠の17歳
【罪状】殺人罪、器物損壊罪、放火罪、内乱罪、その他多数
【刑期】死刑
【服役】半年未満
【外見】褐色の美少女JK、金髪碧眼、どことなくずっとキラキラしている
【性格】生粋の享楽主義者であり破滅主義者
【超力】
『青春逃爆行(アオハルエクスプロージョン)』
 血液や唾液などの体液が起爆性の特異物質と化している。
 それらは彼女の任意のタイミングで発火、爆散し、周囲を木っ端微塵に吹き飛ばす。
 原理は不明だが、度重なる自爆テロによっても彼女自身が手傷を負った記録のないことから、
 自身の爆発に対して何らかの耐性がある模様。
 かの悪名高きテロ事件、横須賀ドームライヴの惨劇ではその投げキッス一発で観客147名が爆死したという。

【詳細】
 史上最悪のギャルテロリスト。享楽の爆弾魔。
 当然偽名、年齢不詳、性別不詳、国籍不詳の国際指名手配犯だった。
 日本のギャル文化に衝撃を受けて以降、金髪と改造制服にギャルメイクのJKスタイルで世界各国を渡り歩き、請負テロを実行。
 手口から高位の能力者であることは明白であり、早期に捕縛、殺害指示が降りていた。
 10年前に一度だけ捕縛されたものの、移送中に警官を殺害して逃走。
 以降、捕まることなく国を転々としながら散発的な破壊行為を継続していたが、数ヶ月前に不可解な経緯で捕縛された。

 一人称は「あーし」。「アガ↑るねっ!」が口癖。
 見た目はうら若き金髪JSだが、彼女の活動は10年以上前から同じ容姿で確認されており、自称する通りの年齢ではないとされる。
 そのテロ行為はあくまで依頼された対象を攻撃するだけという酷く無軌道なものであり、彼女個人の目的も思想も一切伺えない。
 関与した事件は数知れず、記録上だけでも数百人以上の人間を殺傷している、紛れもない極悪人。
 しかし、ある種の義賊的と言えなくもない行動指針、優れた容姿、犯行表明における歯に衣着せぬ物言い、
 さっぱりとした性格も相まって、不謹慎なことだが、社会情勢に不満を持つ者の中には隠れファンも多かったという。
 
 ただ生きているだけで悪意なく悪行を積み上げる天性の悪人。
 その実、彼女に関わった者は敵味方例外なく破滅の逃爆行に巻き込まれ、爆火の煙中に消えていった。


172 : ◆Gvr/iZhWGM :2025/02/09(日) 10:16:19 3Y7Zgm2Y0
【名前】レミー・マルチェア/笠野原 航矢(かさのばら こうや)
【性別】男
【年齢】31 / 12
【罪状】殺人罪(偽装)
【刑期】15年
【服役】3ヶ月
【外見】身長191cm、がっしりと鍛えた無表情な白人男性/身長145cm、くるくると表情の変わる活発な日本人の少年
【性格】刑務官や他人に従順で、無害そうながら無気力な印象を受ける囚人 / "楽しさ"を最優先し、そのためなら危険な橋でも渡れる。けれど、積極的に他人を傷つけたいわけでもない。

【超力】
上塗りする可能性(オーバーパッチ)

"仮の体"を作り出し、体の上に付けることでその人物のように振る舞うことが出来る能力。"仮の体"は、やろうと思えば逐次ある程度変形させることができ、例えば巨大化させた腕で攻撃したり、目の前で別人になったりすることが出来る。
脳も形式上作成出来、"思考している"ように見せることも出来るが、あくまで見せるだけで"仮の体"自身が勝手に動くことは出来ない。
"仮の体"は、一度作れば能力自体とは関係なく維持されるので、システムA下でも変装した状態でいることは出来る。
もっとも、変形等の追加行動は完全に封じられる。

この能力を使い、本来のレミー・マルチェアの超力"弾人"(パッションオーラ)を偽装している。"弾人"は、体の一部を巨大化させたり、瞬時に元に戻したりする能力。ちなみに本来は"上塗りする可能性"より更に素早く変形が可能。

【詳細】
 金銭的に恵まれない家に生まれた少年。幼いころから超力を自覚するも、最初は単に変装して、大人に紛れて学びたいことを学ぶことに使っていた。
 やがて彼はこの能力をうまく使えば窃盗も簡単に出来ることに気が付き、パソコンやらゲームやら、ちょっとした物を盗む軽犯罪に手を出しだす。
 しかし慣れてない子供のすること、何回目かであっさりと捕まってしまう。そこで彼はこの能力が"逃げる"ことに、非常に役に立つものであることを自覚し、あっさりと留置所から脱出して見せる。
 彼はやがて、モノを手に入れることよりも、"脱獄"するという行為に魅了されていき、わざと犯罪者に変装して捕まっては脱獄するゲームを楽しむようになる。

 殺人犯レミー・マルチェアに化け、このヤマオリ記念国際刑務所に来たのは、最高難易度のこの刑務所から脱出すれば、この"脱獄"というゲームをクリアできると思ったため。
 彼の能力は、本来の体が小さいほど有効な能力であり、もっと成長して体が大きくなったらあまり使えないので、この"脱獄"を最後に、"ゲーム"を引退しようとしていた。

 そろそろ脱獄出来そうかな〜と思っていたタイミングでこんな事態に巻き込まれてしまい、かなり驚いている。


173 : 名無しさん :2025/02/09(日) 16:50:32 8S4Ny1ns0
【名前】ユークリッド・ビクティム
【性別】男
【年齢】15
【罪状】国家転覆罪、内乱罪、殺人罪、激発物破裂罪、建造物損壊罪
【刑期】死刑
【服役】1ヶ月
【外見】空色がかった白色とも銀色ともとれる髪色の少年、実年齢より少し幼げ。
【性格】当初は確かな優しさを持っていたものの、両親の洗脳とすら言える能力主義を拗らせた教育により無能には存在価値は無いと断じてしまう性格に育ってしまう。
そして後記の両親の死の件で更に思想を拗らせて、自分やそれ以下の無能は全て死すべし、新人類の中でも優れた者のみが生きるべきだと歪みきった思考に取り憑かれ変質し、テロへと走る。
全てが終わった後は最期に自分が自害する事で、この世界から無能で無価値な存在は消え失せると、無能としてこの世に生まれてしまった罪を、両親を犠牲に生き延びてしまった罪を清算できると彼は本気で信じていたし、収監された今でも信じている。

自己肯定感が皆無、だが両親の要求値が高すぎただけで十分優秀だったのもあり、彼の言う「有能」な存在のハードルはめちゃくちゃに高い。
一人称は「僕」 。
【超力】
『念動力』
文字通り。特に対象を破壊したり、機器や相手の動きを一時的にプレッシャーで止めたり浮遊させたりする事に長けている。
プレッシャーで動きを止めるor浮遊→対象を破壊のコンボが基本。
また精神感応等の才能は無いが、対峙した相手の能力の高さを何となくだが把握が出来る。殺すか殺さないかを決めるのはひとつでも自分より優秀な能力を持っているか否かが基準。
超力の出力は、単身で国家転覆に王手をかけれるレベルに高い…もののこの刑務作業では当然破綻しない程度に制限されている。

【詳細】
天才と称された2人の夫婦の間に生まれた少年。周囲には神童と持て囃されたものの、肝心の両親は自分達の劣化でしか無いユークリッドを認めようとせず、ひたすら能力主義を教育し、結果として彼から優しさや自己肯定感を奪い続け思想を大いに歪ませてしまう。

対外的には仲睦まじい家庭を演じていたものの完全に破綻している状態が続く中、ある時一家揃って事故に巻き込まれる。
すっかり思想が歪んだユークリッドは何の躊躇いもなく、優れた両親を助ける為自ら死を選ぼうとしたが…両親が選んだのはユークリッドを助ける事。
結果ユークリッドのみが生き残り両親は無残な遺体となった。

自分よりも優れていた、生きるべきだった両親が自分のような無価値で無意味な存在を助けたせいで死んだという事実に彼は発狂。
「父さんや母さんのような優れた、生きるべきだった人間が死んでどうして僕のような死すべき無能が生きているんだ…こんな世界は間違ってる!!」と、超力を用いて無能な人間を排除するというイカれた考えに取り憑かれてしまった。

自身を含めた無能を全て排除しなければこの世界は変えられないと、Revolution(革命)は齎せないと断じ、事故から暫く後に行動を開始。
無軌道なように見えてユークリッド主観で有能な者のみを生かし無能と断じた者を例外無く殺害し続け、国家転覆まで一歩の所まで迫ったものの、対超力犯罪用の特殊部隊や国のトップとの激戦の中損害を与えつつも力尽き敗北。
凝り固まった思想と齎した被害故に、当時14歳でありながらも更生の余地無しとして裁判すらすっ飛ばされて死刑となりアビスへと送られた。

なお最後に両親がユークリッドを庇ったのは、親としての情自体はあったからである。
最もそれ故に洗脳教育を行い続けてしまったのもあり、彼が今の世界に対して絶望する理由へと繋がることとなってしまったが。


174 : 名無しさん :2025/02/09(日) 17:31:05 232Qo7Cw0
>>169です
刑期の下限指定に気づいてなかったので、拙作判田姜之助の刑期を15年にしてもらえると助かります


175 : 名無しさん :2025/02/09(日) 18:00:44 3Y7Zgm2Y0
【名前】イシュルーン
【性別】女
【年齢】外見年齢は15ほど
【罪状】殺人、強盗致死傷、放火致死、薬物売買、強姦致死傷、内乱罪、誘拐監禁、国家反逆罪、人体実験その他
あるいは殺人未遂
【刑期】無期懲役
【服役】10年
【外見】やや不健康そうな白い肌を除けば、短めの髪を後ろでくくったありふれた少女。
【性格】普段は大人しく、新しいことを学ぶのに目を輝かせる年相応さ。一方で下記の超力による不安定さも持つ

【超力】
20の罪から来た子供(アル・イシュルーン・ジャリーマ)

彼女の出自に起因すると思われる、今のところ超力と考えられている彼女の特性。
彼女の「素体」である20人の死刑囚の記憶と、彼らの"固有の超力を除いた技術"を引き出すことの出来る能力。
この結果として、彼女は武器の扱いや体の動かし方、超力に関する知識などに精通している。
もっとも、この能力は完全に彼女自身もコントロール出来ていない。過去には死刑囚の記憶に呑まれて人格を一時的にそちらに引っ張られ、暴走してしまったことがある。
システムAの抑制は利き、追加の引き出しは出来なくなるが、そもそも危険なのは既に引き出してしまっている記憶と技術そのものなので、暴走の危険は完全に排除できない。

【詳細】
「開闢の日」後、黎明期の世界において、多くの国が超力犯罪者の逮捕後の取り扱いに苦慮していた。大きなリソースを払い迅速に収監環境を整えた国家もあったが、多くの国において監獄は万全の体制ではなかった。
彼女が"生まれた"国においては、解決策の中でもまっとも簡単に出来るものの一つを用いた。超力犯罪における死刑執行のラインを緊急的に下げ、特に危険な超力持ちは迅速に死刑執行が行えるようにした。
当時多くの国が、このようなアプローチを取った。

超力犯罪者は増加の一途を辿り、監獄の負担は増し、死刑執行は流れ作業的に行われるようになった。
10年前のある日、20人の死刑囚が執行され、遺体は焼却されるために一纏めにされていた。
──看守は異変に気づく。遺体の山が溶けるように縮み、一つの塊となっていく。
誰一人そのような現象を起こせるような超力を持つ死刑囚も、看守もいない状況で、明らかな異変が生じていた。
そして異変が収まったとき、塊の中には幼い5歳ほどに見える少女が眠っていた。

検査の結果、少女は20人の死刑囚の遺伝子を持つ遺伝子キメラであることが分かる。この経緯から、少女は彼女の母国の言葉で「20」を意味するイシュルーンと仮称されるようになる。イシュルーンは死刑囚らが習得していた各国言語を短期間で習得し、何かしらの連続性を持つことが示唆されたが、一方で人格的には死刑囚の誰とも完全な別人であった。

イシュルーンを収監しておくべきかは議論があったが、最終的にはイシュルーンが引き起こした暴走と、暴走に伴い看守が重傷を負ったことを名目に、超力犯罪による殺人未遂として無期懲役を下すことで決着した。

超力犯罪者の死刑の際、不可思議な事象が発生することは各国でたびたび報告されており、最悪のケースでは執行が行われた街一つが人の住めない状態にまで変異してしまったこともあった。
これは安易な超力犯罪者の死刑を抑制し、収監技術が重要であることを各国に認識させた。

その特異な出自と、物心ついてからずっと収監され検査やテストを受ける研究対象になっていた状況に反し、イシュルーンは人一倍の好奇心と、自分の暴走を悔いる罪の意識を持つ外見年齢相応の子供である。
「自分の中にいる死刑囚を、監獄の外に出しちゃダメだよね」と解釈し、監獄の中で出来る最大限に自分の好奇心を満たし学びながら、一生を終えることが贖罪だと考えていた。
まだまだ学びたいことがたくさんあり、積極的に死ぬつもりはないこともあり、今回の殺し合いには戸惑っている。


176 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/09(日) 18:49:10 byDGDXyo0

【名前】宮本麻衣
【性別】女
【年齢】18
【罪状】殺人未遂罪、監禁罪
【刑期】20
【服役】1年
【外見】身長168cm、体重49kg、Eカップ。
長い緑の髪とつり目が特徴的な少女。
【性格】探究心に溢れ、クラスのリーダー的存在、また誰とでもフランクに話せ、自然を愛する心の持ち主。
同時に大切な物を傷つけるものには容赦しない性格。
一人称は「私」
【超力】
『共に歩むは我が眷族か(ナチュラル・ウォリアーズ)』
召喚型超力、自分の眷族となる虫を呼び出す。
メンバーは5匹。
・鋼鉄の身体に圧倒的な跳躍力を持つ、黒色の等身大の人型バッタ「アルファ」
・絶対破ることが不可能な蜘蛛糸を飛ばし、さらに鋭利な牙を携える大タランチュラ「ネビュラ」
・アルファ同様等身大の人型、隠形に優れ、鋭い鎌で相手を惨殺することに長けるカマキリ「マンティズ」
・メンバー一の巨虫、圧倒的怪力を持つカブトムシ「ギガンテス」
・メンバーの紅一点、普段は麻衣に絡み付き、戦闘時は毒爪で相手を絶死させる、全長4mの大百足「メアリー」
各一人特徴的な個性を持ち、そして彼女へ忠誠を誓っている。
以下はそれぞれの性格。
アルファ
・寡黙で忠実、麻衣への呼び方は「麻衣様」
ネビュラ
・軽薄で残忍だが仲間意識は高い、麻衣への呼び方は「お嬢」
マンティズ
・仕事人間であると同時に戦闘狂、麻衣への呼び方は「お嬢様」
ギガンテス
・豪快な性格で博多弁で喋る、麻衣への呼び方は「お嬢」
メアリー
・大人の女性の様な性格、麻衣への呼び方は「麻衣」
【詳細】
「開闢の日」の新人類、とある地方都市に住んでいた。

前述の通り、高いリーダーシップを持ち、小中高クラスの纏め役を務める。
フランクな性格から味方は多かったが、「虫」を扱う能力を気味悪く思われたのもあるだろうが、彼女を排除しようとする動きはどの学年でもあった。

中には超力で彼女を圧倒しようとするものいたが、彼女の眷族の前では無意味であった。
怪力の超力はギガンテスの前に捻り潰され、切り合いを結べばマンティズが圧倒し、陰湿な策ではネビュラに拘束されメアリーの毒で壮絶な拷問で根を上げるまでやられ。
何より、どんな正面戦闘でも、学生で能力も未熟な彼らでは、アルファにより叩き潰されていた。

高校2年生、自身の住む街にある自然公園が、改革派の議員と市長により複合施設に建て替えられる事が決定した。
その場所には貴重な動植物などが存在しております、議員の多数は反対したものの、改革派が強行。
もちろん反対デモが起こったものの、改革派はそれを武力で制圧、その中には彼女の父も混ざっていた。

これに対して彼女は激怒し、ネビュラに改革派全員を拉致させ、マンティズとメアリーの力を使い、古代拷問の一つ、凌遅刑を敢行。
擬似的ながらもどんどんと議員は悲鳴を上げていくが、彼女は許さない。

しかし、彼女の工作がガバガバだったのもあり、なんと敢行から3日で逮捕。
眷族達は抵抗しようとするも、彼女が「復讐は済んだ」といい、投降。
本来なら無期懲役が妥当だったが、改革派の不正などが明らかになり、情状酌量が認められ、刑期は20年となった。

なお、彼女の趣味は読書であり、件の自然公園の木の下で本を読むのがたまらなく好きだったそうな。


177 : 名無しさん :2025/02/09(日) 21:57:03 NX02wYB.0
【名前】バルタザール・デリージュ
【性別】男
【年齢】53歳
【罪状】反逆罪
【刑期】無期懲役
【服役】30年
【外見】身長2メートル超え、筋骨隆々の巨漢。頭部をすっぽりと覆う鉄製の仮面を被っており、専用の器具無しに外すことは出来ない。
【性格】体格の良さと不気味な風貌に反して、所作の端々に知性と教養を感じさせる振る舞いをする。
 仮面で会話を封じられており、圧迫されて苦しいのか時折大きな深呼吸をする。
 収監される以前の記憶が無い。
【超力】
『恐怖の大王(ドレッドノート)』
何もない空間から鋼鉄製の枷(かせ)を生み出す力を持つ。
枷は能力者自身の両手両足に装着された状態で発生し、それぞれの枷から鎖が伸びている。
鎖の先には人間の頭ほどの大きさの鉄球がつながっており、鎖の長さや鉄球の重さはある程度調整が可能。

何より特筆すべきなのは、鎖や鉄球の状態に関わらずバルザール自身の運動能力に影響しないということ。
傍目には拘束されているようにしか見えないが、鎖を自在に操り鉄球を軽々と扱う以上、その実情は完全なる武装状態であるという理不尽。
鍛えられた肉体と恵まれた体格、そして異様な風貌をしたバルタザールは、まさしく敵対者にとっての恐怖の大王となる。

【詳細】
青年期より仮面を装着され、監獄で生きてきた男。
それ以前の記憶を持たず、使用人のようにそばで世話する刑務官以外に素顔を知る者もいない。
抑圧された環境、事情も分からないままに未来を失った状況、全てにおいて異常な境遇に対し、しかし男は不思議と反抗心を抱くことはなかった。
献身的な刑務官の世話だけが癒しとなる30年を、男は節制と研鑽に生きた。
そして穏やかに死んでゆくであろう自分の人生に満足していた。

しかしながら、目の前に現れた自由への道を理由もなく手放すほど、男は愚かではなく。
そして今更ながら、社会に属する者であれば当たり前に教育される「人権」の意識が希薄な彼にとって、理由のある殺人を忌避する道理もなかった。


178 : 名無しさん :2025/02/09(日) 21:57:34 VmPLpFgY0
【名前】並木 旅人(なみき たびと)
【性別】男
【年齢】20
【罪状】内乱罪、殺人罪、死体損壊・遺棄罪、自殺幇助罪、殺人教唆・暴行教唆・扇動罪、建造物等損壊罪、激発物破裂罪、ジェノサイド条約違反
【刑期】死刑
【服役】6ヶ月
【外見】黒髪碧眼で短髪。中肉中背。幼さを残すそこそこ整った顔立ち。
【性格】人並みの感性と良心を持ち合わせた至って『普通』の性格。精神的に打たれ強い。
一人称は「僕」、二人称は「君」「あなた」場合によっては「お前」
【超力】
『幻想介入/回帰令(システムハック/コールヘヴン)』
対象の超力に干渉し、対象自身と他者に被害が及ぶように超力の改変・改悪・大幅な強化が行われると同時に対象を中心とした周囲に被害が及ぶように暴発させる超力。
発動時、対象の肉体スペックは自身の超力で死亡・破壊されるレベルまで低下する。対象の死亡・破壊後は対象の超力は完全喪失し、光の粒子が天に昇るエフェクトが発生する。
発動条件は、3つ。
1.対象の超力の効果や発動条件などの詳細を正しく理解していること。
2.対象が視界に入っていること。
3.対象に害意を持って「コールヘヴン」と唱えること。
2、3は達成必須だが。1の条件は未達成でも発動可能。
ただし理解度100%でなければ性能は弱体化し、確殺・超力喪失の効果は発生しない。理解度が100%に近いほど本来の効力を発揮する。
現時点では一度の使用ごとに3時間の待機時間を要する。
また、洗脳や知能低下など超力による精神干渉に対して強力な耐性ができる副次効果を持ち、こちらは常時発動している。
超力本来の名称は『幻想介入(システムハック)』。アビス収監時に判明した能力効果が『回帰令(コールヘヴン)』のみであるため、二つ合わさった名称をつけられた。
【詳細】
アビスの特別独房に収監されている『普通』の青年。投獄前は旅行が趣味の大学生だった。
頭脳明晰で特に洞察力や思考力に長けている。
なぜか危機回避能力や判断力が高い、所謂逃げ上手ではあるが、フィジカルや戦闘力は一般人並み。
記憶や知識が所々欠落しており、情報科学や危険物、語学などあらゆる分野の知識に精通している反面、世界情勢には疎く、アビスの詳細や自分がなぜ収監されたのかも覚えていない。そのため、自分は冤罪ではないかと疑っている。
首輪の下には注射痕があり、本人は気づいていない。
収監された経緯は本人の自首。某先進国の主要都市にて未曽有の大災害が起きた翌日に出頭してきた。
アビス収監後、彼と接した看守6人が不可解な死を遂げ、システムAに6度原因不明のエラーが発生している。
収監当初からミリル看守官は「すぐに死刑執行すべき」と何度もオリガ看守長に訴えていた。


179 : 名無しさん :2025/02/09(日) 21:58:54 NX02wYB.0
【名前】スヴィアン・ライラプス
【性別】女
【年齢】60歳
【役職】特任看守官
【外見】長い白髪を後頭部で丸く纏めた老淑女。右目にモノクルを装着しているが両目とも義眼。
【性格】厳格にして冷酷。おまけに頑固だが、非を認めれば訂正するし謝罪もする。純粋に厳しい人物。
【超力】
『鉄火の印(マメルティニ)』
スヴィアンの血液に触れた武器の所在、所持者、状態を把握する。
超力の対象になるのは「殺傷を目的として製造された、または過去に殺傷に用いられた物」であり、スヴィアンは自身が所持する武器とモノクル、義眼に使用することで、盲目でありながら自分の身の回りの情景を把握している。
オリガ・ヴァイスマンの『支配願望』の武器版と言える超力。

【詳細】
『開闢の日』をまたいで30年間、バルタザール・デリージュ(>>177)の世話係を務めたベテラン看守。
仮面を外した状態の彼と会話をしたことがある数少ない人物。
バルタザールに対して密かに独占欲や庇護欲、支配願望や忠誠心といった粘度の高い感情を抱いているが、それを表に出すことは一切無い。
刑務官として毅然とした態度をとっているものの、本刑務作業にて彼が死亡した場合は後を追うつもりでいる。


180 : 名無しさん :2025/02/09(日) 22:05:45 3Y7Zgm2Y0
【名前】イェンジク・コヴァルスキ
【性別】男
【年齢】17
【罪状】世界文化に対する深刻な破壊行為
【刑期】12年
【服役】6ヶ月
【外見】身長167cm、ダークブロンドの髪に白い肌のやや幼く見える少年。寒がりなので看守に防寒着を着てもいいかと頼み込み、最終的にニット帽だけ許可が出たので被っている。
【性格】勉強自体は出来るが、「みんなのために」と考えたことが空回りしがちな、優しく考えが浅い少年。逮捕や裁判で散々批判されて落ち込み気味で、自分のやらかしも深く反省している。自分の行いを見つめ直し、贖罪をしていきたいと考えている。

【超力】
塔を作る者(バベルブレイカー)

「"新しい言語"を作り出す」超力。彼が文字・発音を定義して作った言語は、"新しい言語"となり、「彼が"新しい言語"で話しているのを聞く」「彼が書いた"新しい言語"の文を見る」ことで、瞬時にその言語をネイティブ並に使いこなせるようになる。

基本的には人間にのみ通用する能力。しかし、彼が直接意識的に"新しい言語"で語りかけたときのみ、生物・非生物問わず数十分程度の間だけコミュニケーションを取れるようになり、情報を得たり、お願いして手助けしてもらえる。
別に命令できる訳ではなく、あくまでお願いの範疇。
この能力の対象となるのは彼が「一人の相手」と認識出来る、可算名詞の対象のみ。

【詳細】
 元々は言語学に興味を持ち独学で5ヶ国語を学び、遊びで独自言語を作っていただけの少年でした。
 その過程で自分の超力に気づくも、さほど強力だとは思わず、単に友人や家族と「自分たちにだけ通じる言語」を作って遊んだり、ペットの猫に話しかけたりしていた程度でした。

 彼の転機となったのは、友人から紹介された、他国から来たという留学生の女性でした。女性は彼の超力を高く評価し、これを使えば世界の情報ネットワークに革命を起こせると力強く言います。
 よく分かっていない彼に、女性は熱弁を振るいます。君の超力を上手く使えば、色んな国の人たちが君の"新しい言語"で、言語の壁なくコミュニケーションを取れるようになるのだと。
 イェンジクは彼女の発想に賛成し、留学生の女性に自分の書いた"新しい言語"の一文を渡しました。

 彼女が帰国してからも、インターネットで連絡を取り合い、1年前、彼は最終的にある"計画"への参加を求められます。その内容は彼の"新しい言語"を広く公開し、彼の"新しい言語"を世界標準語にするという、急進的なものでした。
 流石に尻込みする彼に、彼女は"超力"とは世界を良くするためのものであって、そのために行使することは良いことだと説得し、最終的に彼は躊躇いながらも一度頷きます。
 その夜から丸一日かけて、彼の"新しい言語"はインターネットや公共放送、そして他の様々なメディアを一斉にジャックし、彼の想定を遥かに超える規模でバラ巻かれました。

 あまりの事態に、彼は動揺しますが、彼が気づいた時には既に彼の"新しい言語"は、世界の9割近くが最初から知っていたことになった、自明な世界共通語となっていました。
 これだけの人間が同時に一つの言語を使えるようになると、GPAが即座に修正に動き出すこともできないうちに恐ろしい勢いで世界で使われる言葉が"世界共通語"に置き換わっていきます。
 一日のうちに、世界は様変わりし、誰もが同じ言葉を使えるようになる世界が到来しました。

 救いであったのはこの言語は成立の過程で超力によりあらゆる言語の語彙を取り込んだため、どのような意味合いでも伝えられる完成された言語となったことです。
 しかし、元の言葉が制限されていたことによるニュアンスは、文化は、失われたことにも気づかないまま失われました。

 世界の人々は彼の力の恩恵と被害を知らないうちに受けるだけでしたが、GPAはこれほどの行使を見逃すことはなく、彼を見つけ出し逮捕します。
 彼は出頭するほどの勇気はありませんでしたが、抵抗せず逮捕され、罪を受け入れます。
 彼の行為は本来死刑にも値するほどの無許可世界的改変でしたが、唆された従犯であること、年齢、反省の態度から減刑され、12年の実刑を受けます。

 主犯と見做された女性は、"超力で世界を改革する"ことを掲げた急進的な過激派グループの一員であったことは分かりましたが、未だ逃走を続けています。
 大掛かりなジャックの手段も、不明なままです。

 彼の超力の影響は直後にはヤマオリ記念特別国際刑務所には到達しませんでしたが、最終的には"囚人の管理をやりやすくするため"ということで、看守が囚人に彼の文章を見せました。このため、本ロワ中は全員が"世界標準語"を扱うことができるものとします。


181 : 名無しさん :2025/02/09(日) 22:32:24 RNCnSAoM0
【名前】判官 司(ほうがん つかさ)
【性別】男
【年齢】四十三歳
【罪状】脅迫、強姦、殺人、死体遺棄
【刑期】死刑
【服役】二年
【外見】190cmを超える長身。肩幅広く胸板厚く、力感に満ちた厳つい髭を生やした巨漢
【性格】
豪放磊落。明るく陽気で頼り甲斐が有る。気は優しくて力持ちを地で行く好漢
弱いものを甚振るのが何よりも好きで、陰湿卑劣な男

【超力】

『お前の在城は俺が決める(アイ・アム・ルーラー)』

対象となった人物とそっくり同じ二重存在を造り出す。
二重存在は元になった人物の能力と記憶と経験を全て持ち、人格もソックリコピーする。
二重存在そのものが超力で有る為に、超力はコピー出来ないが、オリジナルの身体能力に司の超力が加わる為に、身体能力に於いてはオリジナルを上回る。

発動条件は、対象となる人物の身体の一部を手に入れる事。


【詳細】
元々は刑事であり、自身の超力を活かして、無数の事件を解決してきた。
容疑者が真犯人かどうかを確実に確かめる事ができ、真犯人であったならば、即座に二重存在の記憶を元に調書が作成できる為である。
解決できない事件など無い名刑事。そう讃えられ、実際にそうだった。
だが、その裏で、判官司は自身の超力を悪用し、無実の人間を罪に陥れて来た。
過去に恨みを抱いた人物や、司の機嫌を損ねた人物の二重存在に犯罪を行わせ、逮捕しては投獄した。
更には二重存在を用いて、万引きや窃盗を行なったと脅迫を行い、金銭を脅し取ったり、女性を暴行したりと悪事を働き続けた。
当人の刑事としての能力の高さと、日頃の振る舞いに加え、言いなりになるだろう相手を慎重に選んでいた為にバレる事は無かった。
そんな日々は、脅迫して何度も肉体関係を持った少女が、妊娠を苦に自殺した事で終わりを告げた。
少女は全国規模の勢力を持つ暴力団のトップが愛人に産ませた子供であり、少女は自殺する前に事の次第を記した遺書を遺していたのだった。
遺書を読んだ父親は激怒。「必ず生かして俺のところへ連れてこい」と、一億円の懸賞金を懸けて通達。
判官司は今までの悪行を全て自供し、狙い通りにヤマオリ記念特別国際刑務所へと収監される

なお、娑婆に出た場合。即座に拉致→凄惨苛烈極まりない拷問→惨殺
のフルコースが待っている為に、当人は恩赦を得ても出ていくつもりは今の所は無い


182 : 名無しさん :2025/02/09(日) 22:52:40 RNCnSAoM0
【名前】内藤 四葉(ないとう よつは)
【性別】女
【年齢】18
【罪状】殺人、暴行、傷害致死
【刑期】死刑
【服役】二ヶ月
【外見】
176cm・70kg 少年にも見える顔立ちの少女。身体の発育が良いが、顔立ちの為にゆったりとした服を着ていると少年に見える。
【性格】
明るく陽気で誰にでも話しかけて行く。海外生活が長かったが、言葉が全く通じなかったのになんとかかんとか意思疎通を行えたコミュ強、

【超力】
『quatre chevalier(四人の騎士)』

ハルバードを持つ『オジェ・ル・ダノワ』
長弓をつかう『ラ・イル』
長剣を振るう『ランスロット』
長槍を操る『ヘクトール』

この四体の中身の無いフルプレートアーマーを召喚し戦わせる。
大口径マグナム弾すら通らない堅牢な装甲と、岩をも砕く剛力を併せ持ち、練達の武技を駆使して、四葉の指揮のもと連携して襲って来る。

四葉から30m以上離れる事は出来ない。


【詳細】
愉快犯型超力犯罪者。
世界中を渡り歩いては、強者に挑んで殺害して来た
強者との身を削り命を削る戦いを何よりも望み愉しむ戦闘狂。
勝ち星の方が多いとはいえ、幾度も引き分けや敗北を経験している。
アビスにも何人か知り合いが居るかも知れない。


183 : 名無しさん :2025/02/09(日) 22:53:43 RNCnSAoM0
>>181

訂正します

『お前の在城は俺が決める(アイ・アム・ルーラー)』では無く

『お前の罪状は俺が決める(アイ・アム・ルーラー)』です


184 : 名無しさん :2025/02/09(日) 23:51:40 p1JvVw0Y0

【名前】本条清彦(山中杏、剛田宗十郎、サリヤ・K・レストマン、■■■■■、王星宇)
【性別】不明
【年齢】不明
【罪状】殺人罪
【刑期】無期懲役
【服役】2年
【外見】不定形。本条清彦の人格が表出している時は、印象に残りづらい平凡な日本人男性の姿をしている。
【性格】不定形。本条清彦の人格が表出している時は、気の弱い優男の性格をしている。
【超力】
『我喰・回転式魂銃(ナガン・リボルバー)』
 固有の性格を持つ人格を殺害を介して他者から奪い、装填し、それぞれ別個の超力を切り替える。
 ストック出来る人格(超力)は六発。
 他者から奪った超力はそこまで強力には再現されないものの、後述する切り札を持ってすれば、高出力の発現も可能。
 
 彼らの真に恐るべきは、膨大な危険を伴ってまで装填した人格を、使い捨てと割り切っていること。
 指鉄砲に己の人格の一つを装填して放つことで、対応した超力の最大出力を発揮し、代償に放った人格は失われる。
 彼らはそうやって失われる人格を殺害した対象から補填しており、性格はバラバラだが群として生存する意思だけは統一されている。
 勿論、既に元々の人格が誰であったかなど、彼らは分からなくなっている。とっくに銃弾に込めて使ってしまったのかもしれない。


【詳細】
 多重人格者。正確には、人格略奪者。
 そして殺人鬼。通称、我喰い。

 本条清彦は現在の主人格ではあるが、元々の人格である保証はない。
 記録上は精神疾患から架空の人格を作り出し、逃避行動を繰り返した人物だったとされている。
 超力に目覚め、殺人の志向を持ってしまったことで、殺人鬼として生きることを余儀なくされたとのこと。
 
 その実、彼らは六人格で一つの群生である。
 内の一人でも欠けてしまえば、欠番を埋めずにはいられない。
 つまり、新たな殺人をもって装填せずにはいられない。

 何人もの人間を陰ながら殺害し、様々な人格を奪い、切り替えながら隠れ潜んでいた。
 本来であれば死刑判決が下って然るべき数の殺人を犯している。
 しかし捕縛の後も、突発的な人格交代と錯乱行動が収まる気配はなく。
 ある程度の心神喪失と責任能力の欠如が認められ、無期懲役に減刑となった。


185 : 名無しさん :2025/02/09(日) 23:56:55 uDa4CbEQ0
【名前】両江妲己(りょごうだっき)
【性別】女
【年齢】25
【罪状】国家転覆罪、殺人教唆
【刑期】終身刑
【服役】5年
【外見】凄まじく長い黒髪にキレ目と高い鼻が合わさった傾城の美女と言える容姿、全体的にスタイルも男性の理想と言える物になっている。
【性格】常にどんな相手でも立て続けて、優しく、礼儀正しくしっかり支える良妻賢母を思わせる...フリをしている稀に見る腹黒女、本性は周りの人物全員をゴミクズと見ており、己の超力で対消滅していく姿を腹の中では爆笑して嘲笑っている

















...というのが常に肉体を支配し続けている表の人格...というより超力の副作用によって得てしまった偽りの人格、
本当の人格は天真爛漫な甘えっ子かつ純粋に優しい子で常に敬語口調になってしまう人物、自分に巣食っている悪魔のような人格を憎悪しているが何も出来ない為にもう諦めている。
【超力】
『Don't war for me(私の為に争わないで!!)(爆笑)』対象に触れながら別の人物と名前を思い浮かべる事で、その対象が思い浮かべた人に遭遇すると、触れた人物はその思い浮かべられた対象の生命活動を止める為に戦うようになる。それは相手が止まるまで止まらない上、その思い浮かべられた相手が触れられた相手を見ると、その思い浮かべられた相手も触れられた相手の生命活動を止めるまで戦い続けてしまうようになる。

但しこの場合、どちらかの生命活動が止まるまで、妲己は超力の行使が出来ない。

【詳細】

何処までも美しい女の子になって欲しいという意味を込めてあの傾城の美女と同じ名前を親につけて貰えた(なお、性格についても両親はあくまでも美しさだけをリスペクトしたのであって、しっかり良い子に育てていく決心はしていた)。そして順調にしっかり親からの愛情を受けながら良い子に育っていた。

そして5歳の時、開闢の日になるが、その時に超力を得ると同時に邪悪な人格が肉体を支配してしまう。
その人格は早速親に超力を掛けて夫婦間で殺し合いを起こし、両方とも実力が同じだった結果同時に死亡、父方の祖父母に引き取られ、18歳になると同時に父方の祖父母も同じような死に方に合わせた。

それ以降は己の容姿を活かしながら様々な家に転がり込むと同時に時折殺人事件を起こしていった。

そしてやがて上流階級になると同時にその重臣に超力を掛けて最上級の立場の人物を殺させようとする、だが周りにいた人達の超力によって重臣達の超力を解除すると同時に疑惑をかけられ、超力を暴かれて逮捕、アビスに投獄させられた。

獄中でも裁判中でも常に無罪を言い続けており、多くの犯罪者達に同情されている。刑務中はそれを生かして恩赦を多大に得る事を目論む。















...そしてずっと肉体を奪えていない本来の人格は誰かに助けて欲しいと思い続けている。と同時に自分の行いの罪もあって自分に救いなんてあってはいけないとも考えている。

恐らく超力の無効化でも起きない限り、彼女が肉体をとりもどせる時は来ないだろう。


186 : 名無しさん :2025/02/10(月) 00:55:11 HRB/J/yU0
>>185
修正します。

超力の無効化→超力の消失

です。


187 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/10(月) 05:13:24 ???0
【名前】交尾 紗奈(まじお さな)
【性別】女
【年齢】10
【罪状】児童ポルノ製造罪、殺人罪、傷害致死罪
【刑期】45年
【服役】半年
【外見】身長135cm、体重30kg。肩まで伸ばしたサラサラとした黒髪で良くも悪くもジュニアアイドルになれるかわいらしさ。

【性格】
 ほぼ人間不信に陥っており、基本的に大人のことは信用していない。
 自分のことは自分しか守れないと考えており、警戒心や猜疑心が非常に強いが、その一方で孤独に苛まれており、心の奥底では信頼できる相手を求めている。
 それもあってか、同年代の子供に対しては多少は心を開く。
 誰からも襲われない静かな場所でひっそりと暮らしたいと考えており、その理想は刑務所、つまりアビスである。
 後述の経験や超力の性質から、人前で裸になることに躊躇はなく、ところどころで服を脱ぎ全裸になる。

【超力】
『支配と性愛の代償(クィルズ・オブ・ヴィクティム)』
 支配欲や性欲といった加害性のある欲望を少しでも持つ者に罰を与える能力。
 紗奈を見た者は「紗奈が自分の意志で動かない部位」に応じて、物理法則を無視して身体を捻じ曲げられて致命的なダメージを負う。
 例えば、紗奈が腕を拘束されている姿を見れば腕を、足を拘束されている様子を見れば足を、目隠しされていれば目を捻じ曲げられる。
 ただし、この超力の発動条件として、「紗奈が性欲と支配欲を煽る姿」を見せる必要がある。
 このため、紗奈が能力を行使する際は自ら全裸になって身体を拘束され、それを「見せる」ことが必須になる。
 その条件さえ満たしていれば、たとえ実際に視認するのみならず写真や画像などの媒体で紗奈の姿を目にしても超力の影響範囲に入ってしまう。
 そのため、紗奈は自衛のために服を脱ぐことに抵抗はなく、常に手足を拘束できるよう拘束具を密かに身体に忍ばせており、殺し合いにも持ち込んでいる。
 ただし、支配欲や性欲が一切ない相手に対しては効果がないという弱点もある。

【詳細】
 日本の貧しい家族の出身で、6人兄妹の末っ子。
 末っ子であるがゆえに、幼い頃に金目当てで家族に身柄を売られてしまい、男女関わらず多くの大人達に辱められた挙句自身の痴態を映した媒体をネットの海にバラ撒かれてしまう。
 しかし、時を同じくして世界各地で腕や足を捩じ切られて死亡する不審死が相次いだ。
 これらの不審死に共通していたのは、死者がPCやスマホといった映像媒体に紗奈の動画を映した状態で亡くなっていたことだった。
 事態を把握した国際組織により、紗奈は救出されて能力の詳細を伝えられるが、同時に紗奈の映像のさらなる作成によって犠牲者が増えるのを防ぐために、保護も兼ねて紗奈はアビス送りにされてしまう。
 しかし、アビスに入っても紗奈を狙う者は絶えなかった。
 ロリコン性癖を持つ受刑者や看守に紗奈は襲われるが、自身の超力について知った紗奈は自分を守るために自衛策を編み出していた。
 それは、全裸になった上で隠し持っていた拘束具で自縄自縛すること。
 彼女の全裸拘束された姿を見て、紗奈を襲う者はことごとく手足を捩じ切られ、彼女による死者をこれ以上増やさぬよう紗奈は独房に隔離された。
 殺し合いという刑務に参加する紗奈は今も拘束具を隠し持って持参しており、いつでも自分が襲われてもいいように備えている。


188 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/10(月) 05:17:36 ???0
>>187
すみません、性格に若干矛盾を孕む文章があったため、以下に修正します。

誰からも襲われない静かな場所でひっそりと暮らしたいと考えており、その理想は刑務所、つまりアビスである。

誰からも襲われない静かな場所でひっそりと生きたいと考えており、その理想は刑務所、つまりアビスの独房である。


189 : 名無しさん :2025/02/10(月) 06:48:16 eN6yEwkU0
【名前】ソフィア・チェリー・ブロッサム
【性別】女
【年齢】21
【罪状】国家転覆罪、内乱罪、殺人罪
【刑期】無期懲役
【服役】3ヶ月
【外見】ワインレッド寄りの赤色の髪、長さはショートで、瞳の色は紫色。着痩せするタイプ。
【性格】
元来は穏やかで礼儀を尽くすタイプの令嬢だったものの、両親を目の前で殺され自分一人が後記の超力により生き残ってしまった事で何の罪もない命を理不尽に奪い取る者への怒りと悲しみを抱いて、超力を悪用する犯罪者達との戦いに身を投じた。
努力を苦に思わないタイプ。

他者とは一定の距離を取りたがるが、一度仲良くなった相手には重たい感情を向けがち。
両親の死や後記の彼氏との死別により、ただ見てるだけしか出来ないという状況そのものに、また自分ひとりが置いて逝かれる事にトラウマを抱いている。

一人称は「わたくし」で、基本常に敬語で話す。
【超力】
『例外存在(The exception)』
他者の超力により齎された事象の影響を受けない。
例えば空間を歪曲させて攻撃を防ぐ超力持ちが居たとすれば、ソフィアの攻撃はその空間歪曲をぶち抜くことが出来る。
常時魅了を発動させる超力持ちが居たとすれば、その効果がソフィアには発揮されず相手を平然と殴り倒せる。
対象を防御無視系の超力で殺せる相手が居たとすれば、その能力ではソフィアは死には至らず戦闘を続行可能となる。
超力の能力や代償などで世界や歴史、存在の抹消等が行われた場合、例外的に改変前の記憶や抹消された存在関連の記憶等を保持出来る……と言った感じである。

ただしあくまで影響を受けないだけであり、対象を制圧できるか否かはソフィア自身の攻撃力防御力素早さや立ち回り等でのみ決まる。

【詳細】
元対超力犯罪用の特殊部隊所属。
元来は穏やかで礼儀を尽くすタイプの令嬢だったが、両親を目の前で殺され自分一人が後記の超力により生き残ってしまった事で、超力を悪用する犯罪者達との戦いに身を投じた少女。経緯故に何の罪もない命を理不尽に奪い取る者が大嫌い。

部隊への配属が決まってからは何度も死にかけながらも、血の滲むような努力も併せて死線を越える度に身体能力等を向上させる中、気にかけてくれていた同僚と恋に落ち、やがて付き合う事となった。
しかし2年前勃発した、地球そのものが終焉を迎えるかどうかの瀬戸際の危機に陥ったある事件の解決の為彼は自らの超力を行使。
対価を払う事で願いを実現する超力により、彼が対価としたのは己の存在そのもの。
必死に止めようとするソフィアだったが、結局他に方法を見つけれず…彼はソフィアに謝った後己の存在と引き換えに、事件の勃発そのものを無かったことにしてみせた。
…世界は改変された、故に誰も彼のことは覚えていなかった。──超力により、彼の事を忘れなかった或いは忘れられなかったソフィアひとりを除いては。

止められなかったという後悔を、決して癒えない傷を抱きながらも彼が護った世界を……と考えていたものの、1年と数カ月の間部隊でひとり戦い続ける中、何も変わらない世界の有様に心をすり減らした果てに除隊。

(こんな世界の為に、わたくしの大切なあの人は犠牲になったんですか??)
と、胸中に生まれた疑問を抱きつつ故郷で暮らしていたものの、ある時故郷を焼かれてしまう。
自分に良くしてくれていた人達や昔からの付き合いだった人達を焼き殺され目前で息絶えていく様を見せつけられた結果、ソフィアは憎悪に飲まれた。

部隊に所属していた頃積み重ねた経験と努力は裏切らず、焼き払うように指示を出した悪徳政治家の元に辿り着き、悪びれない様子な相手にソフィアは怒り狂い政治家を惨殺と相成った。
そして捕縛されアビスへと投げ込まれて今に至る。政治家以外は殺さず無力化に留めた事と情状酌量の余地はあった為刑期は無期懲役で済んだ。

現在ではすっかり、彼が存在を投げ捨ててまで救う価値はこの世界には無かったという諦念を抱いており無気力となっている。


190 : 名無しさん :2025/02/10(月) 10:19:56 oDj7eFaI0
【名前】Dr. リヴン・レイナード
【性別】男
【年齢】43
【役職】特任医師
【外見】高身長で痩せ型、整えられた黒い短髪の白人男性。切れ長の糸目をした胡散臭い見た目。手術で手を動かす時だけ目を開く。
今回の刑務作業に当たっては、医師という身分を示すためいつも白衣を着るようにしている。
【性格】かなりオープンな性格で丁寧語で何でも話してくれるが、それが逆に胡散臭く感じられる。本当は実直なだけ。
可愛いものが好きで、それを隠すことに恥ずかしさを感じていない。逆に怖い。マッドさを感じる。
超力により身体が変化するタイプの能力者を見るたび、CTとかMRIとか採血とかの検査を病気じゃなくても一種の狂気のようにガンガン勧めてくる。
【超力】
『マイ・ビーラブド・ラクーン・アンド・ベア』
雌のアライグマ「ランブラさん」、雄のアメリカグマ「ロッキーさん」の2体を召喚する能力。
リアル感が抑えられデフォルメされ、当人と違い見た目が可愛らしいので、相手に対して警戒を解くのに役立つ。
2体とも当人より仕込まれた高い医療技術を持っている。
ランブラさんは、身体が小さいので力のいる作業は苦手だが細かい作業は得意。イラストを描くのが得意。
ロッキーさんのはその逆。大道芸が得意。

【詳細】
人類は進化し病に関する抵抗力や怪我の治癒力も増したが、それでも治療が必要な場合は幾らでもある。
治癒系の超力を持った人がいればそれで良いのではという論もなくはないが、それでも医師という仕事はなくならなかった。

彼が狂気を感じるほど研究熱心になったのは、一つの出来事による。
超力の発現によって、人間を逸脱した身体になってしまう人々は世界的に存在している。
特に常時発動型の場合は人間の身体に戻ることすらできないのだから、従来の人間向けの手術などの治療方法が適用できる見込みは低いのである。

ファーリー・ファンダムのコミュニティによく入っていた彼は、周りに獣化系の超力を発現する物も多くいた。
コンベンションなどのオフ会イベントは、動物の着ぐるみ以外に超力により理想の身体を手に入れたものも集まり、前の世界よりも明らかに賑やかなものになった。
しかしその中で彼は不安も感じており、それは遂にある時のイベントで現実になる。
常時発動型のドラゴンになるタイプの超力の持ち主が急病で倒れ、架空の生物なこともあり誰も適切な治療の対応ができず死亡してしまった。

この事に心の傷を負った彼は、どのような能力者にも外科分野を中心に適切な治療ができるようになりたいと狂気のように志す。
世界各地の医師、獣医と連携を取り、身体変化系の能力者の身体を調べられる機器を整えていき、積極的に成果も発表していった。
また医師としての技術力の研鑽も怠らず、超力により召喚できる動物2体も同じ志を抱いて技術を磨いていった。
そうして彼は超力を発動した身体の手術、
また加えて、超力によって負わされた特殊な怪我や病気の手術のエキスパートとなっていった。

今回は囚人が恩赦される前に怪我をしていた場合のサポート、また看守に負傷者が発生した場合のサポートのため招集。
また刑務作業により発生した遺体の解剖検査も自由に行っていいことになっている。
医師らしく生命が失われる殺し合いにはあまり良い感情を持っていないが、さすがに自分の信念も及ばない権力者の意思なので飲み込んで従っている。

既婚者で、天馬に変化する超力を持つ妻がいる。
乗せてもらって怪我人のいる現場に向かうこともあるらしい。


191 : 名無しさん :2025/02/10(月) 15:14:34 xWTaWqZ60
【名前】エルネスト・ソリス
【性別】男
【年齢】18
【罪状】傷害、誘拐、放火、建造物破壊
【刑期】24年
【服役】3ヶ月
【外見】日系の血が入っていて、色黒だけど目や口なんかは塩顔の日本人っぽい。緩い癖毛の茶髪。
【性格】
内向的で静かな一方、機微に鋭く人当たりが良くユーモアもありコミュ力が高い。胆力があまり強くなく、危なくなると慌てだす。
一般人に近い精神なのでアクの強い犯罪者と関わるとあまり気が休まらないが、最近は慣れてきてしまった。
争いは本来あまり好まず、相手のことをうまく調べ上げてからの交渉によってあまり血を流さず収めたがる。人助けに関することほどやる気を出す。

【超力】
『オーバークロッキング・フォルサド(Overclocking Forzado)』
自分の触れた機械、生物などの性能を一時的に向上させる能力。再度触れると重ねがけ、強制解除もできる。
例えばおもちゃのような飛行ドローンでも人間数人の重さを支えて飛んたり、機動能力や航続能力が上昇する。
元々強いものには強化効果が薄い。戦車とか飛行機とか、元々人間では手に負えないレベルにパワーがあるものは強化してもあまり意味がない。
過負荷による性能向上なので、使いすぎると後で反動が来る。機械の場合は劣化が進む。
味方に使う以外にも、敵に敢えて過負荷での動作を強制させて自壊を狙うという応用も危険だが可能。

他人に対して負担を強いて、自分にはリスクの存在しないこの能力を当初はあまりよく思っていなかった。
現在は仲間と信頼関係ができたこともあり改善しており、性能も少し強くなっている。

【詳細】
コロンビアの治安はもともとは安定傾向に進んでいたが、超力犯罪が進む中でその流れが収まり産業や政治と犯罪組織の癒着がまた強くなってしまった。
友好関係にあったアメリカからの支援も、アメリカが隣国メキシコとの関係で忙しいためあまり受けられていない。

日系人にルーツがあるコロンビア出身の青年。ギャングになってからは普段第二姓しか使ってないが、第一姓は日本由来の姓。
新しい技術に興味があり、子供の頃よりeスポーツの大会、ドローンを用いたレースや球技などで活躍していた。
競技に有利になりそうな超力を持ちながらも活用せずクリーンに戦っていたが、盛り上がる競技シーンに目をつけた犯罪組織により八百長を持ちかけられてしまう。
そこを別のギャングに所属していた知り合いに助けてもらい、八百長に加担せずに済むことができた。
しかしその後、裏社会との繋がりを世界的に報じられてしまったことで競技シーンからの引退を余儀なくされてしまう。
知り合いから恩をダシにされた彼は、ギャングに参加して自分の技術を活かしていくことを余儀なくされてしまった。
アビスに送られるほどの凶悪、危険人物ではないのだが、所属する組織が強くマークされていたため巻き添えでアビスへ送致される。

主に兵器の操縦を担当。ドローン操作の腕を生かして潜入や破壊工作や誘拐、戦闘の補助などをしている。直接戦闘はあまり得意でない。
人が死ぬのを見るのには抵抗はなく必要とあれば殺しにも関わるが、罪悪感もないような奴らとは自分は違うと思ってる。

家族の影響でマンガやゲーム以外の日本文化にも結構理解がある。ギャングになってからはほぼ家族と絶縁状態だが。
趣味はネットサーフィンや、AIチャットボットに質問すること。雑学的にいろいろな知識を得るのが好き。
犯罪に関する情報も結構調べたので、他の収監者についても名前や顔を見れば大体どんなやつなのか投獄前に調べた範囲で覚えている。


192 : 名無しさん :2025/02/10(月) 16:33:27 xWTaWqZ60
【名前】胡桃沢 華丸(くるみざわ はなまる)
【性別】男
【年齢】19
【罪状】強姦
【刑期】12年
【服役】1年
【外見】身長158cm、目が隠れているマッシュルームカットの黒髪、アホ毛があり可愛らしくも見える中性的な外見。
【性格】陰気でムッツリスケベ。性欲が強くやや倫理観に欠ける以外は比較的善良な人間。
【超力】
『ラブリー・プリティー・ナッティー・フェアリー』
身長20cm、4頭身の妖精の女の子に変身する能力。髪の色はナッツ色で、目が緑色になりまつ毛も伸び少し女の子っぽくなる。
体つきは平坦気味で髪形も同じ。袖付きのナッツ色のワンピースを着てるが下着は着てない。
自在に飛行ができ、また生物の身体を除いたあらゆる物体を透過して干渉せずにすり抜けることができる。

【詳細】
超力を悪用し、子供の頃から女性の部屋へ忍び込んで、就寝中服を透過して裸を覗いたり触るなどスケベなことをしていた青年。
しかしあるとき、男の娘の部屋に忍び込んでしまいさらに運悪く捕獲され逆に体格差レイプされてしまう。
しかしその際に受けた、小さな身体を掴まれて思いっきり貫かれる感覚が快感となり癖になってしまった。
その後は女性でなく男性の部屋に忍び込み、逆レイプを繰り返すようになってしまう。

すり抜けにより普通の刑務所では脱獄され意味をなさないので、超力を封印できるアビスへ入れられた。
攻撃的な能力じゃないからどうせ生き残れないだろうし、誰か自分を犯してくれる相手を見つけてデスアクメして死ねたら良いなとか考えてる(本心から死にたいわけではないが)。
首輪により支配することができないので、体内に埋め込むタイプのデバイスを取り付けられた。
身体の一部として扱われるようで、透過の障害にはならないが超力で取り出すこともできない。


193 : 名無しさん :2025/02/10(月) 17:27:22 W3GZvD0I0
【名前】鷹野 夜(たかの よる)
【性別】女
【年齢】五十七歳(外見上は二十前後)
【罪状】暴行傷害
【刑期】無期懲役
【服役】一年と四ヶ月
【外見】173cm 137kg 短く切った黒い髪の理知的な美女。体重に比して外見は細く見える。
【性格】
物腰は極めて柔らかだが、研究対象とした者にしか関心が無い。研究熱心であり、超力により変化する肉体に強い関心を持つ。
生体解剖マニアであり、意識のあるままに人間を切り刻む事を何よち好む。


【超力】
『万傷癒す無量の癒し手(ばんしょういやす むりょうのいやして)』

細胞分裂の促進と免疫抑制を併せ持つ能力。
傷を塞ぎ、移植手術における免疫拒絶反応を無いものとし、血液型の異なる血を輸血できる様になる。
発動条件は手で触れる事。
過剰に用いる事で、細胞分裂を以上活性化させて、身体を内側から弾けさせる事が出来る。

自分の肉体に関しては常時発動であり、どんな傷を負わされても短時間で再生する
首から下を壊され尽くして、海に棄てられても死なない程。


【詳細】
幼い頃から生物を切り刻む事を愛好し、成長じて合法的に人体を斬れる外科医となった。
優秀な外科医と名を馳せた後に、より肉を斬る為に海外で戦場医師となる。
『開闢の日』を迎え、得た超力と外科医としての技術を用いて、世界的な外科医となった夜が興味を示したものは、超力により変異する肉体だった。
獣や鳥に変異した肉体。人と動物の双方の特徴を持つ肉体。植物の特性を得た肉体。幻想の生物となった肉体。
夜は戦場で治療を行う傍らで、肉体が変異した捕虜達を切り刻み、その身体の構造を解き明かしていった。
いくら切り刻んでも超力により治せる為に、少ないサンプルでも充分な結果を得る事が可能なよるは、彼らの身体について凄まじい速度で解き明かしていった。
『開闢の日』以降出現した獣人や樹木人間に関わる医療技術を、数多の血と屍の上に築き上げた夜だが、ある日超力を無効化する能力を持つ者に襲われ、三週間に渡って壮絶な拷問を受ける。
普通ならば原形を留めない程に肉体を壊されても、超力により元に戻る夜の身体を愉しみ尽くした襲撃者は、やがて夜が肉体を壊される痛みと恐怖に慣れてしまうと、夜に飽きてしまう。
最後に首から下を念入りに壊しされて、海に棄てられた夜は、超力により死ぬ事なく生還する。

三週間に渡る拷問は、夜の精神だけでなく、肉体にも変化を及ぼした。
壊され再生する肉体は、ボディビルで言うところのスクラップ&ビルドと同じ効果を齎し、肉体をより頑強に強靭に変化させ、幾度となく繰り返された再生により、外見は二十代前後にまで若返った。
生まれ変わった身体を得て、夜は今までの様に肉が来るのを待つのでは無く、自分から求めに行く事にした。
痛みや肉体の損壊には慣れている。傷付いても超力治せる。大の男にも負けない屈強かつ堅牢な肉体も有る。
かくして夜は、獣人系能力者や、肉体変化系の能力者を襲っては拉致監禁し、精神が壊れるまで自身の超力で治しながら切り刻んだ。
逮捕されるまでに夜が廃人にした人数は、三百七十六人にも及び、当局が把握していない数を加えると、一千人を超えるとも言われている。
よるは逮捕されるまでに、切り刻んだ得た知見をすべてインターネット上に公開しており、世の中医療関係者は歯噛みしながら、夜の狂気のさん物の恩恵を人命の為に役立てている。


194 : 名無しさん :2025/02/10(月) 17:51:44 rcpOf3Vs0
【名前】新月 華瑠奈(にいつき かるな)
【性別】女
【年齢】十七歳
【罪状】殺人、死体損壊罪
【刑期】死刑
【服役】三日
【外見】
身長157cn 体重49kg 痩せ気味の血色の良い、整った顔立ちの女子高生。超力使用により6t超にまで体重が増やせる

【性格】
穏やかでゆるふわな腹ぺこ少女。小動物みがある。


【超力】

『みんなはわたしのために(All fore ONE)』

人間を捕食する事で、食った分だけ自身の体重を増やし、身体の頑丈さを上げる能力。
体重100kgの人間を捕食すれば、100kg増える…と言いたいが、出血により流れた血などが失われる為に、捕食された人間の体重より、増える自身の体重はは落ちる。

増えた分の体重は通常時に現れる事が無いが、任意で増やす事が出来る。
増やす体重も人いで設定出来、1kg増やすだけから、最大値の6t超まで自由自在。
重くしていると活動に支障をきたす為に、戦闘時以外は素の体重でいる。
戦闘時には接触の瞬間に体重を重くする事で、打撃の威力向上や、被弾時のダメージ軽減を行う。

人間を捕食する為に歯と顎が異常な程に頑強であり、咬筋力も非常識な程に強い。



【詳細】
超力により人を食わない限り決して癒えない飢餓感に苛まれている少女。
両親を捕食する前に家を出て、声をかけて来る連中を捕食。
金銭を稼ぐ為に、ヤシの実を齧って穴だらけにするなどといった事をしていた。
職質してきた警官を食った事で犯行が発覚。駆けつけた警官隊相手に超力を使用して抵抗し、数十人を殺害するも、最終的に身柄を確保される。

犠牲者の数は杳として知れず、最大重量から百人以上を捕食したとしか判らなかった。

食人の犠牲になった人達に関しての感想は、「居たのがいけない」というもので、反省や後悔の色が見られない為にアビス送りとなった。


195 : 名無しさん :2025/02/10(月) 18:03:57 BLwp0k1.0
【名前】氷月 蓮(ひょうげつ れん)
【性別】男
【年齢】39
【罪状】殺人
【刑期】30年(少年法)
【服役】25年
【外見】線の細い優男。芸術のように整った顔をしている。
【性格】常に穏やかで冷静。柔和な笑みを浮かべているが内心は無感情。
【超力】
『殺人の資格(マーダー・ライセンス)』
人間を殺すための最適解が見える超力。
どれだけ可能性が低くとも、殺せる可能性が僅かでもある相手なら確実に殺害の手順が確認できる。
あくまで手順が見えるだけなので、殺害を実現するのは本人が実行する必要がある。

【詳細】
『開闢の日』以前から刑務所に収監されている殺人鬼。
獄中でXディを迎え超力に目覚め、超力の目覚めに伴いアビスへと転所された
獄中での態度はよく、とても殺人犯とは思えないほど人当たりはいい好青年。
しかしその実、顔色一つ変えず人殺しを行なえるサイコパス。

当時中学2年だった頃にクラスメイト3名を刺殺。
被害者からイジメを受けており、それを苦にして自衛のため刺殺した。と動機を自供。
しかし、事実調査で明らかになった実情は全くの逆であった。
氷月が被害者たちを日常的にいたぶっており、周囲のクラスメイトや教師に及ぶまで余計な証言をしないよう口を封じまで行っていた。
彼らは氷月を一様に恐れており、この証言もたまたまその光景を見ていた無関係な第三者からの証言により獲られたものである。


196 : 名無しさん :2025/02/10(月) 18:32:52 WsMKPDzA0
大変申し訳ありません。間違いと抜けが有りましたので>>193を此方に変更します

【名前】鷹司 夜(たかつかさ よる)
【性別】女
【年齢】五十七歳(外見上は二十前後)
【罪状】暴行傷害
【刑期】無期懲役
【服役】一年と四ヶ月
【外見】173cm 137kg 短く切った黒い髪の理知的な美女。体重に比して外見は細く見える。
【性格】
物腰は極めて柔らかだが、研究対象とした者にしか関心が無い。研究熱心であり、超力により変化する肉体に強い関心を持つ。
生体解剖マニアであり、意識のあるままに人間を切り刻む事を何よち好む。


【超力】
『万傷癒す無量の癒し手(ばんしょういやす むりょうのいやして)』

細胞分裂の促進と免疫抑制を併せ持つ能力。
傷を塞ぎ、移植手術における免疫拒絶反応を無いものとし、血液型の異なる血を輸血できる様になる。
発動条件は手で触れる事。
過剰に用いる事で、細胞分裂を以上活性化させて、身体を内側から弾けさせる事が出来る。

自分の肉体に関しては常時発動であり、どんな傷を負わされても短時間で再生する
首から下を壊され尽くして、海に棄てられても死なない程。


【詳細】
幼い頃から生物を切り刻む事を愛好し、成長じて合法的に人体を斬れる外科医となった。
優秀な外科医と名を馳せた後に、より肉を斬る為に海外で戦場医師となる。
『開闢の日』を迎え、得た超力と外科医としての技術を用いて、世界的な外科医となった夜が興味を示したものは、超力により変異する肉体だった。
獣や鳥に変異した肉体。人と動物の双方の特徴を持つ肉体。植物の特性を得た肉体。幻想の生物となった肉体。
夜は戦場で治療を行う傍らで、肉体が変異した捕虜達を切り刻み、その身体の構造を解き明かしていった。
いくら切り刻んでも超力により治せる為に、少ないサンプルでも充分な結果を得る事が可能なよるは、彼らの身体について凄まじい速度で解き明かしていった。
『開闢の日』以降出現した獣人や樹木人間に関わる医療技術を、数多の血と屍の上に築き上げた夜だが、ある日超力を無効化する能力を持つ者に襲われ、三週間に渡って壮絶な拷問を受ける。
普通ならば原形を留めない程に肉体を壊されても、超力により元に戻る夜の身体を愉しみ尽くした襲撃者は、やがて夜が肉体を壊される痛みと恐怖に慣れてしまうと、夜に飽きてしまう。
最後に首から下を念入りに壊しされて、海に棄てられた夜は、超力により死ぬ事なく生還する。

三週間に渡る拷問は、夜の精神だけでなく、肉体にも変化を及ぼした。
壊され再生する肉体は、ボディビルで言うところのスクラップ&ビルドと同じ効果を齎し、肉体をより頑強に強靭に変化させ、幾度となく繰り返された再生により、外見は二十代前後にまで若返った。
生まれ変わった身体を得て、夜は今までの様に肉が来るのを待つのでは無く、自分から求めに行く事にした。
痛みや肉体の損壊には慣れている。傷付いても超力で治せる。大の男にも負けない屈強かつ堅牢な肉体も有る。
かくして夜は、獣人系能力者や、肉体変化系の能力者を襲っては拉致監禁し、精神が壊れるまで自身の超力で治しながら切り刻んだ。
なお殺害した人数は零。曰く「医者が人を殺す事は許され無い」
逮捕されるまでに夜が廃人にした人数は、三百七十六人にも及び、当局が把握していない数を加えると、一千人を超えるとも言われている。
夜は逮捕されるまでに、切り刻んだ得た知見をすべてインターネット上に公開しており、世の医療関係者は歯噛みしながら、夜の狂気の産物を人命の為に役立てている。


外科医としての技術と、解剖学の知識に、膨大な戦闘経験を加えた独自の人体破壊術を用いる。
筋肉や骨の動きから、敵の取る行動を高精度で予測し、予め対処した動きをする事で、結果として先手を取る事が可能。
人体や動物の急所を、外見不相応の力で精確に撃ち抜き、捻じ折る事で、対象を確実に行動不能にする事が出来る。
伊丹や恐怖にに慣れている事と、超力により負傷が即座に癒える事、この二つを前提としたガン攻めスタイルであり、防御に回るとサンドバッグと化す。


197 : 名無しさん :2025/02/10(月) 19:17:15 eN6yEwkU0
>>189
罪状の所がミスしてたので以下のように修正します
【罪状】殺人罪、暴行罪


198 : 名無しさん :2025/02/10(月) 19:50:53 uIso7yxI0
【名前】ジョニー・ハイドアウト
【性別】男
【年齢】35
【罪状】不法侵入、殺人未遂
【刑期】10
【服役】1年
【外見】サイボーグじみた全身鉄屑の怪人。頭部は錆びた砲身のような異形頭と化している。
【性格】飄々としててキザ。ハードボイルド気取り。軽口やジョークをよく叩くが、時おり間が抜けている。
【超力】
『鉄の騎士(アイアン・デューク)』
金属を吸収して自身の肉体を無造作に改造する。
彼はこの異能による自己改造を何年も繰り返し、鉄材やスクラップを繋ぎ合わせたような全身鉄屑の怪人と化している。
頭部の砲身からは鉄塊の砲弾を放てるほか、四肢を継ぎ接ぎの武器へと変形させることが出来る。

【詳細】
鉄屑と錆の匂い。
それがオレを取り巻く蜃気楼さ。

オレの名はジョニー・ハイドアウト。
モットーを知りたいか?
“主義、信条、所属は問わず”。
“報酬次第でどんな依頼も引き受ける”。
つまり、ならず者同然の便利屋って訳だ。

理想や大義――そんなもんに興味はない。
信じるモノは、カネと鉄磨きのオイルだけ。
汚れ仕事も厭わない、鉄屑の野良犬さ。

さて、しくじっちまった。
“ある大物”のタマを取るはずだったんだがな。
おかげでムショ行き。稼業の信頼にも傷が付いちまうな。
ま、悔やんでも仕方ねえ。
模範囚になって仮釈放でも目指すとするかね。

おい、あの『アビス』に収監だって?
誰が?……オレが?フッ、冗談よせよ。
そんなバカな話が――待て、何だお前ら?

離せ、やめろ、何しやがる。
オレをどこに連れて行く気だ。


199 : 名無しさん :2025/02/10(月) 21:04:19 oDj7eFaI0
【名前】イグナシオ・"デザーストレ"・フレスノ
【性別】男
【年齢】26
【罪状】殺人
【刑期】死刑
【服役】2ヶ月
【外見】身長185cmで、細マッチョな色白の男性。ふわっとした青黒い髪に赤のアクセントがところどころ入っている。
目の色は血のように怪しく紅い。精神が昂るとマグマのような赤になって爛々と光る。
【性格】二面性のある人物。平常時は穏やかで優しげで微笑んでいることが多い。普通に接する分にはまともに見える。
しかしことさらに自分に戦う気はないと強調しているので、ミステリアスというか胡散臭い。
スイッチが入って暴れ出すと、狂気を抱いて破顔する。敬語は崩さない。

【超力】
『見せてください、荒々しい古の壌を(トランスミシオン ヘオロヒコ)』
自分の手前の一定の範囲に、過去のその場所の土地の様子を再現して再生する能力。
人間や動物は再現されないが、歩行音とか足跡とか落とした道具などでそこにいた人物の動きを推測することは可能。
発動後に範囲内にいる人間や動物は、過去にあった物体の衝突や気象などの影響によりダメージを受ける。
能力を解除すれば土地の様子は元通りに戻る。効果範囲は最大で直径5m程度。

過去にその場所で何があったかを確認し、探偵としての捜査活動に用いることができる。
戦闘用には地球の黎明期の頃のマグマオーシャン、全球凍結、隕石衝突の地殻津波とかを再現して戦ったりする。
地球誕生前の様子まで再現するのはさすがに不可能。

【詳細】
しがない探偵を名乗る男。超力を使用した捜査能力は充分稼業として頼りになるレベル。
一方で犯罪組織との繋がりが強く、そこからの依頼をよく受けている。厳密には構成員ではないがほぼメンバーと同等の扱いをされてたりする。

仕事上揉め事になりやすいが、自分から手を出すことはなく相手から先に手を出してきたという建前を重視する。
相手から攻撃されるとそれがスイッチとなり狂気とともに暴れ始め、辛抱強くストッパー役が止めない限り敵が完全に戦意を失うか死ぬまで戦い続ける。

暴れすぎたせいで各方面より恨みを買いすぎ、最終的に毎日を戦いの中で過ごすような状況となりさすがに力尽きて逮捕されアビスへ投獄された。

子供の頃からスラム街の血なまぐさい世界で生きてきたせいで戦いのある場所こそ自分の生きる世界だと感じており、戦いに充足感を感じている。
しかし他の子供が自分のような道に進んでしまうことはよく思っておらず、子供には基本的に優しく、時に厳しく接する。


200 : 名無しさん :2025/02/10(月) 21:37:10 eN6yEwkU0
【名前】ジニア・エレオノール
【性別】女
【年齢】16
【罪状】殺人罪、自殺幇助の罪
【刑期】死刑
【服役】1年6ヶ月
【外見】白肌に亜麻色の髪色、長すぎず短すぎずなミディアムスタイルな感じの髪の長さと透き通った水色の瞳を持つ。
【性格】
困っている人が居たら放っておけず、頼まれ事を断れない心優しい少女。
…しかし生まれつき殺人に対する抵抗感や忌避感が欠落しており、息をするように何とも思わないまま他者を殺めれてしまうし、たとえどんなに仲の良い相手でも必要が出るかそうすべきだと判断すると
(死んだ方がマシだろうと彼女自身が判断した場合も含む)
躊躇いなく殺しにかかれてしまう。
また生まれつき被虐により興奮する癖を持っていて、幼い頃実父から受けた性的虐待によって癖が目覚めてしまい、無理矢理される事を好む、性的な被虐願望といえるような物を抱く変態となってしまった。
しかも命の軽い環境に居続けた結果なのか、死が隣り合わせの状況だからこそ生を実感出来ると、依頼がなくとも死地へ自ら飛び込み攻撃して来た相手を返り討ちにするような真似をするような考えに陥ってしまっていると、何重にも業を抱えており元来の優しさだけではとてもカバーが出来ない危険人物と化してしまっている。
一人称は「ワタシ」

【超力】
『死を告げし者』
2つの効果を持つ超力。
1つ目の効果は大鎌を無から召喚出来る。
ただの鎌ではなく斬れ味に優れており、また斬撃波を放ったり纏わせたまま投擲したり、投げると自動で手元に戻って来たり、盾代わりに攻撃を受け切る事も可能な程度の防御力も併せ持っている等色々と優れもの。
2つ目の効果は翼を形成し飛行する事が可能。速度は細かく調節が効く。
翼を形成し空を飛ぶ様は、まるで天使が羽ばたいているようだと称された。

【詳細】
知己の仲からはエリーという愛称で呼ばれていた少女。
生まれつき欠けており癖を持っていたものの幼い頃は両親の元で普通に過ごしていたが、7歳の時に実父に性的虐待を受ける。
断れない性格と実父という立場を以て無理矢理事に及ばれたエリーは、嫌がりながらも何故か興奮を隠せずわけがわからない混乱状態になってしまう。そんな中実母に現場を目撃され、狂乱した実母は実父をめった刺しにして殺害。自らも首を掻っ切って自殺した。目撃してから自殺するまでの間、実母はついぞエリーに喋りかける事は無く彼女の姿を見ようともしなかったという。

その後は親戚に引き取られるも速攻で売り飛ばされ、巡り巡って子供ながらに暗殺者となる。
依頼を受け対象を殺しつつ、時には自殺を望む対象の介錯を行ったりもしながら、開花してしまった癖を満たすためわざと人目のない所を無防備に歩き襲われて愉しみ、最後には殺すという行為も繰り返していた。

そんな荒んだ生活を続けた結果、エリーは生の実感を死地で得る為に戦場や死地への介入行動をし始める。
戦地での暴れっぷりやその外見から、いつしか彼女は「告死天使」と呼ばれるようになった。
しかし暗殺者として活動しながらもそのような目立つ行動を続けていた彼女の先は長くなく、敵対していた組織同士が邪魔者以外の何物でもない彼女を捕縛する為一時休戦、更に対超力犯罪用の特殊部隊の介入もあって最終的には敗北。
そのままアビスへとぶち込まれ今に至る。


201 : 名無しさん :2025/02/10(月) 22:07:20 UW.w4X0.0
【名前】レイセン=トキシマ
【性別】男
【年齢】18歳
【罪状】暴行、殺人
【刑期】30年
【服役】2年
【外見】中肉中背、黒髪のツーブロック。目つきが悪く、いつも眉間にシワを寄せている。
【性格】言動はぶっきらぼうだが、礼儀は弁えてる。物事の前後をよく考えて理解した上で、それでも自分がやりたいように行動するタイプ。
【超力】
『活殺自在(ティピカル・ジュヴィズ)』
手にした物を高周波で振動させる。
電動マッサージ器の代わりになる程度の低出力から、なまくらの刃物を鉄も切断できる振動剣に仕立て上げるまでの高出力まで、調整は自在。
また、この振動は他者の超力と共鳴する性質があり、発動した振動剣は他人の超力の気配や痕跡に引き寄せられる。

【詳細】
生まれも育ちも特筆すべき点の無い、ごく普通のネイティブ世代。
しかし16歳の誕生日、精々マッサージ器具替わりにしか使えなかった超力の出力が突然増大。
それに伴い、どうしようもなく他者を気づつけたいという衝動に駆られるようになる。
こうして彼は夜な夜な街に繰り出しては、辻斬り行為を働くようになった。

標的となったのは、同じ戦闘向けの超力を持ち、それを積極的に振るう者。
即ち悪党と、それを相手取る秩序側の人間だった。
両者を区別することなく14人の命を奪ったところで逮捕される。
逮捕後、彼は無差別ではなく標的を選んだことについて「どうしようもなく惹き寄せられた」と供述。
またその加害衝動の強さを「重力に抗えなかった」と表現している。


202 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/10(月) 22:09:23 ???0
【名前】オルカン・マーマレード(通称オカン)
【性別】女
【年齢】秘密♡ ※どうみてもオバサン
【役職】監獄調理師
【外見】40〜50の化粧の濃いオバサン

【性格】
 豪胆で面倒見のいい気の良い性格。話し好きで、よく食事中の囚人を回っては相談相手になっていた。
 囚人からは概ね好評で「これで若くてキレイな女だったらなあ」ともっぱらの評判。
 バツイチであることにコンプレックスを持ちつつも、それすら持ちネタにしてしまう器量がある。
 一方で、人前で歌うことが大好きでよく夕食時にゲリラリサイタルをするのだが、酷い歌声な上にオンチで多くの受刑者にトラウマを刻んでいる。

【超力】
『良薬は口に苦し(おばちゃんの隠し味)』
 自分の体液を体調を治癒する薬に変える能力。
 汗や唾液、鼻水といったあらゆる体液が様々な身体の不調を治す万能薬となり、それを摂取した者を健康へと促す。
 しかし、その効果はあくまで生活習慣病レベルの病を治すだけに留まっており、癌や難病などの命に関わる病までは治療できない。
 オルカンは毎回、くしゃみによって自分の唾液を料理に思い切りぶちまけており、それを囚人に提供している。
 そのため、彼女の料理を食べた囚人は漏れなく健康になるのだが、その秘密を知ってしまった囚人はショックのあまり記憶を封印したという。

【詳細】
 気のいいおばちゃん。
 貧乏な家の生まれで、世界各地へ出稼ぎに出て職を転々として、最終的にアビスの調理師へと落ち着いた。
 その過程では戦場の看護師を経験したこともあり、看護学に関する知識もそれなりにある。
 また、一度結婚もしたこともあり、子宝に恵まれているも、家族とは全員生き別れている。
 上記経緯から人生経験が豊富で、よく囚人の相談相手になっておりそのノリのよさと面倒見のよさから看守の中では人気者。
 囚人達はある種の家族のように接しており、その心身のことを第一に考えている。
 そのため、料理をする時は超力を活かしてくしゃみを料理にぶちまけることを忘れない。
 上記の通り歌がとんでもなく下手なのに歌うことが好きで、歌手もやったことがあるとのことだが、囚人たちは例外なく「絶対嘘だ」と思っている。


203 : 名無しさん :2025/02/10(月) 22:24:35 UW.w4X0.0
【名前】レンラクキョウ=タニグリ
【性別】男
【年齢】34歳
【罪状】監禁、傷害、器物損壊
【刑期】15年
【服役】4年
【外見】小柄な体格。常に緊張した面持ちで、目を大きく見開いている。服の襟元や袖口を頻繁に引っ張って調整する癖がある。
【性格】過度に神経質で繊細。些細な刺激にも過剰に反応し、時に暴力的になる。だが基本的には温厚で、他人に迷惑をかけないよう細心の注意を払っている。
【超力】
『知覚過敏(スーパーフィール)』
五感が常人の数十倍に研ぎ澄まされている。
この能力は制御できず、常時発動している。
触覚や聴覚の過敏さゆえに、普通の会話や接触でも激痛を感じることがある。

この超力の真価は他者に触れることで発動する。
彼は自身が触れた人物に、この能力を分割して授与することが出来き、その分自分の感覚は鈍る。
また反対に他者の感覚を奪い、自分のものとすることも可能。
しかし能力者自身は、この能力が他者にも使えるということに気付いていない。

【詳細】
『開闢の日』以前の幼少期から感覚過敏に悩まされ、社会適応に困難を抱えていた。
超力覚醒後、いよいよ社会的な生活が困難となり、完全に自宅へひきこもるようになる。
30歳の時、隣人の騒音に耐えかね、その一家を地下室に監禁。
防音設備を施した部屋に2週間閉じ込め、その過程で家族に重傷を負わせた。
逮捕後、精神鑑定により責任能力が認められ、アビスへ収監された。
収監後は独房での生活を「許可」されている。


204 : 名無しさん :2025/02/10(月) 22:26:54 uTdpDHcY0
【名前】
ライフェ・アグノリア
【性別】女
【年齢】30歳
【罪状】殺人、傷害、器物破損、建造物等損壊罪
【刑期】死刑
【服役】15年
【外見】まるで妖精のような小さくて可愛らしい女の子、目は死んでる。
【性格】外見に似合わない厭世的な思考。戦闘狂という訳では無いが邪魔するものに対しては容赦しない。
【超力】
『屍の魔鍵(サリエル)』
武器・武装を生やす能力。生やすと言っても一般的な武器だけではなく燃焼や凍結、雷撃や暴風を起こす兵器もまたそういうカウントされる。
武器・武装を生やせる対象はライフェの身体、そしてライフェ及びライフェの武装に触れた物体及び生きているもの全てに及ぶ。能力の範囲には制限はあるものの、1対1のみならず1対他にも優れている。

この超力の副産物として、ライフェの身体はまともな手段では死ねなくなっている。

【詳細】
貧困から幼少期に母に捨てられ、『アンチ・ヤマオリ・カルト』に救われれ育てられた少女。
育ての親やその仲間からの愛情はあったものの、『アンチ・ヤマオリ・カルト』の方針はそこまで好きではなかった。
クソみたいな世界で生きていくというには結局これしか無いと自嘲しながらも、半ば憂さ晴らしと言わんばかりに『アンチ・ヤマオリ・カルト』の方針に従うように、いやそれすらも逸脱した大量虐殺を行った。

所属していた組織がGPAによって壊滅させられ、死刑を宣告された彼女はアビスへと送られた。
死刑を待つ身であるが、それすらどうでもいいと思っている。もし暇つぶしになられる程度の事があるのなら、それを戯れるのも、また一興とも。


205 : 名無しさん :2025/02/10(月) 22:38:38 UW.w4X0.0
【名前】ハヤト=ミナセ
【性別】男
【年齢】19歳
【罪状】窃盗、強盗致傷
【刑期】15年
【服役】1年半
【外見】やや小柄で引き締まった体つき。短めの黒髪をラフに整え、右耳に小さなピアスをつけている。いつも不愛想で無表情だが、笑うと幼さが残る顔立ち。服装には無頓着で、与えられたものをそのまま着るタイプ。
【性格】口が悪く短気だが、根は面倒見が良い。基本的に反抗的な態度を取るが、情に厚く、特に弱者には手を出さないという独自の信条を持つ。生きるために犯罪に手を染めたが、心のどこかで「本当はこんなことをするべきではない」と思っている。自分の過去を振り返ると苛立ちを覚えるため、話したがらない。
【超力】
『不撓不屈(ウェカピポ)』
自身が受ける衝撃を、一度だけ「踏みしめる」ことで完全に相殺し、そのエネルギーを蓄積する。
その後、蓄積したエネルギーを瞬間的に放出することができる。
ただし、蓄積できるエネルギーには限度があり、それを超える衝撃を受けると通常通りダメージを負う。
蓄積した力を解放する際には地面を踏み込む動作が必要。

【詳細】
スラム街で生まれ育ち、幼い頃から盗みを働きながら生きてきた。
家族はなく、唯一の「兄貴分」だった男とつるんでいたが、強盗に失敗した際に彼を庇って重傷を負い、逮捕された。
自分を見捨てた兄貴分に裏切られたことを知り、一時は投げやりな態度を取っていたが、刑務所内で出会ったある刑務官の影響で少しずつ考えが変わりつつある。
表向きは粗野な不良だが、心の奥底には「やり直せるならやり直したい」という気持ちがある。


206 : 名無しさん :2025/02/10(月) 22:41:40 UW.w4X0.0
【名前】キョウコ=キトウ
【性別】女
【年齢】21歳
【罪状】傷害致死、放火
【刑期】20年
【服役】2年
【外見】
肩よりやや短い黒髪を、無造作に切りそろえたボブ。
色白で細身だが、目つきにはどこか刺々しさがある。
目の下にうっすらとクマがあり、眠りが浅いのか常にどこか疲れた雰囲気を漂わせている。
【性格】
表情が乏しく、口数も少ないため冷徹な印象を与えるが、実際は単に感情の出し方が分からないだけ。
幼少期から他人との関わりが薄く、距離感をつかむのが極端に苦手。
何かを否定されることを恐れ、自己主張を避ける傾向がある。
根は純粋で、善悪の判断はできるが、「自分が悪人である」と思い込んでおり、その意識が更生の妨げになっている。

【超力】
『夢現(ドリーム・アライブ)』
幻覚を見せる能力。
触れた相手に対し、五感(視覚・聴覚・触覚など)を直接操作することができる。
ただし、幻覚はキョウコが「強く意識したもの」しか再現できず、想像力が弱いと効果が薄くなる。
また、彼女自身の精神状態が乱れると、無意識に幻覚を周囲に放出することがあり、悪夢のような光景を生み出すことがある。

【詳細】
家庭環境に恵まれず、幼い頃から親に虐待されて育つ。
外の世界にも馴染めず、学校でも孤立していたが、そんな自分を慰めるように「理想の世界」を想像する癖がついた。
その想像が超力として発現し、やがて彼女は「幻覚の中にこそ本当の自分がいる」と思い込むようになる。

事件を起こしたのは19歳のとき。
虐待を続けていた父親が幻覚に取り込まれた末に錯乱し、自ら火を放ったことで家が全焼。
その場にいた母親も巻き込まれた。キョウコ自身は火をつけておらず、直接的な殺意もなかったが、罪悪感と社会への諦めから逃げずに逮捕される道を選んだ。

刑務所では孤立しているものの、他の囚人や刑務官との事務的な会話でさえも彼女にとっては救いとなっており、少しずつ人との関わりを持つようになる。
しかし、彼女自身は「私はまともな社会には戻れない」と思い込んでおり、更生の意欲はまだ薄い。


207 : 名無しさん :2025/02/10(月) 22:47:38 UW.w4X0.0
【名前】ガロウズ・コロン
【性別】男
【年齢】68歳
【罪状】武装強盗
【刑期】無期懲役
【服役】13年
【外見】
身長2メートル近い巨漢で、長い白髪を後ろに束ねている。
肌は浅黒く、血液が黒いという異質な体質を持つが、元々は白人の血統。
年齢の割に衰えを感じさせないが、深い皺と鋭い目つきが年輪を感じさせる。
刑務所内では常に姿勢を正し、威圧的な雰囲気を漂わせている。
【性格】
物静かで口数が少ないが、自意識過剰でプライドが高い。
論理的に間違い(本人曰く「勘違い」)は認めるが、決して失敗を認めることはない。
自身の哲学や生き方には固執しており、他人の意見に耳を傾けることはあっても、それに従うかどうかは別問題。
武闘派に見えて、意外にも合理的な判断を好む。
【超力】
『宇宙遍歴(コズミックトラベル)』
自身の視界に入っている物体や人間に対し、一瞬だけ「異空間」に飛ばす能力。
異空間に飛ばされた物体は、ほぼ同じ位置に戻るが、時間の流れがわずかにずれる。
これにより「相手の攻撃を一時的に消す」「弾丸を撃ったはずが発射されていないように見せる」「自分の拳を加速させる」などの応用が可能。
ただし、異空間に飛ばせる時間は本当に「一瞬」であるため、闇雲に発動しても状況が変わらないことが多い。

【詳細】
元は軍人であり、特殊作戦部隊に所属していたが、ある作戦中に裏切りに遭い、部隊ごと見捨てられる。
唯一生き延びた彼は「誰も信用しない」「自分の生き方は自分で決める」と心に決め、武装強盗団のリーダーとなった。

しかし、年老いた彼はある大規模な強盗計画の最中に捕まり、無期懲役の判決を受ける。
若い囚人たちと距離を取り、刑務所内では独自のルールで生きてきたが、本人としては「ここで一生を終えること」を当然のこととして受け入れていた。


208 : 名無しさん :2025/02/10(月) 22:58:42 uTdpDHcY0
【名前】フレゼア・フランベルジェ
【性別】女
【年齢】22歳
【罪状】殺人、傷害、器物破損、公務執行妨害、建造物等損壊罪
【刑期】無期懲役
【服役】1年
【外見】金髪紅眼、元が名家の生まれだけあって顔立ちは幼いながらも整っている。
【性格】天真爛漫で元気いっぱいだが、人を殺しても何の感情も湧かない極端な思考
【超力】
『憤怒の炎帝(レヴァイア)』
単純明快に炎を放出する能力。怒りの感情に比例しその威力を増す。
その上限は彼女自身ですら制御しきれないほど。
問題はこの炎は概念的なものすらをも焼く性質があり、これのせいで何名もの超力持ちが犠牲となった。


【詳細】
元は欧州の名家に生まれ、『開闢の日』混沌期の治安悪化の結果家族を失い路頭に迷うことになった少女。
そんな少女に手を差し伸べ、生きる気力を与えたのはある一人の『ヒーロー』に等しい少女であった。
『ヒーロー』とはそれっきりの出会いであったが、その後アメリカの然るべき施設に預けられた少女は、『ヒーロー』という憧憬を目指すことにした。

生まれたのはヒーローではなく、バケモノであった。
正義のために悪者をやっつける。その思想は肥大化し、もはや無差別大量虐殺とも言うべき凶行を何の罪悪感も無く行った。

人は彼女を「ヒーローを騙るバケモノ」だと罵った。フレゼアはそれを理解しなかった、理解しようともしなかった。
数年にも及ぶ大暴れの末、確保に向かったGPAエージェント3名の犠牲の経てバケモノは無力化され、アビスへと送られた。
だが彼女に反省の色はない、何かの陰謀だと信じて疑わず、彼女は自分の正義を信じ続ける。

余談であるが、幼い頃の彼女に手を差し伸べたのは、まだ若かった頃のジャンヌ・ストラスブール。。
フレゼアは彼女の活躍をニュースでしか知らなかったが、フレゼアは彼女の潔白を最後まで信じ続けている。
何故ならば、彼女にとっての憧憬が、「悪」であるはずがないのだから。


209 : 名無しさん :2025/02/10(月) 23:17:28 eN6yEwkU0
【名前】天月 真夜(あまつき まや)
【性別】女
【年齢】23
【罪状】現住建造物等放火、建造物損壊罪
【刑期】10年
【服役】3年
【外見】金髪で髪型はポニーテール、高校生くらいに見える。
【性格】
ムッツリスケベで頭恋愛脳だが、思いやりや優しさは確かに持っている善性の少女。
また仕事にはちゃんと熱心に取り組んでいた。
最も彼女がこれまでの人生の中で好きになった相手は、尽く相手が居る、フラれた、相手の性的指向の対象じゃなかった、死別した等により彼女の恋は成就するは一度もなかったが。

お酒を飲むと人が変わり、楽しめればそれでいいじゃないという刹那主義になってしまう。
おまけにお酒を飲むと備わっていた倫理観や良心等が全て何処かへ飛び去ってしまい、また飲んでいた時の記憶は酔いから覚めると全く残らない。事実上の二重人格と言っていい状態である。
恋愛関連でのあれこれで溜め込んだストレスのせいで人格が乖離しているのでは?とも推測されている。

【超力】
『模倣(Imitation)』
視た技能や超力、機械等を体力の消耗と引き換えに創り出しまた再現してみせる超力。
普段は無自覚にリミッターを掛けているが、酔うとこれが外れめちゃくちゃな事も出来てしまう一方、使い続けると消耗しすぎによる過労死する危険もある。(これを避ける為のリミッター)

【詳細】
尽く恋愛が成就せず死別すら経験こそしたものの、それ以外は普通に恵まれた人生を送っていた筈だった少女。
しかし彼女の人生は誕生日を迎えた翌日に友人らと海外旅行に行き、そこで人生初のお酒を飲んだ事で全てが狂った。
酔った彼女は突如超力を行使、笑いながら再現した炎を発現させる超力を大使館めがけて放ち炎上させてしまう。
その場で取り押さえられたものの国際問題となってしまい、かつ酔った際の記憶が無い事をしらばっくれてると判断されてしまった結果、日本に強制送還された上で10年もの刑期を言い渡された。そしてその後アビスに送られる。
なお刑期を満了し出所したら自分は消されるのではと彼女は怯えている。なんなら当人視点だと全く覚えのない罪を着せられたような形になっている為そういう意味でも怯えている。


210 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/10(月) 23:22:43 ???0
【名前】宇穴 宙(うけつ そら)
【性別】男
【年齢】25
【罪状】誘拐・監禁・殺人
【刑期】50年
【服役】1年
【外見】身長180cm程度。愛用の黒い帽子はいつも着用しており、殺し合いにも持ち込んでいる。

【性格】
 柔和な笑顔を常に絶やさない紳士。その正体は暗殺者であり、常に相手の隙を窺っており計算高い。
 そんな一面を覆い隠して、警戒している相手にはおどけてみせたり、得意のマジックを披露したりとわざと道化を演じて取り入ろうとするしたたかさがある。
 しかし根は善人で、困っている人がいれば明るく振る舞い手を差し伸べることは忘れない。
 過去の後悔から、二度と自分の力で大切な人を失わないように心がけている。
 自身の超力の性質から、なるべく超力以外の方法で決着をつけようとする。

【超力】
『宇宙人(コスモ・エンテレケイア)』
 体内が無限に広がる宇宙空間となっている、文字通りの「宇宙人」。
 無限の質量の物体や、人間でさえも自身の体内に収納することができ、口や小さな傷口などあらゆる身体の穴に物を出し入れできる。
 宙が得意としているマジックのタネはこの能力に由来している。
 ただし、宙が体内の宇宙に取り込んだものを再び取り出すには、「体内に入れた物を宙が認識している」必要があり、宙の知らぬうちに体内に入った物や人はこの世から消失、永遠に宙の体内で行方不明になってしまう。
 また、宙の意志で周囲をブラックホールのごとく無差別に吸い込むことができ、たとえ光であろうと容赦なく呑み込むため、この能力を使うと一瞬だけ辺りは暗闇に包まれる。
 なお、過去のトラウマから宙はこの能力をあまり使いたがらない。

【詳細】
 日本出身のマジシャン兼暗殺者。
 普段は三枚目を気取っており、よく自分から道化を演じて時に人と打ち解けては、時に人を惑わす。
 かつては混沌とする世界の中で、同じ学校に通う友人や恋人と束の間の青春を謳歌する、人を驚かせたり笑わせたりするのが好きな少年だった。
 (超力を使ったマジックはこの頃から得意だった)
 しかしある日、宙は友人や恋人と共に超力を用いた犯罪に巻き込まれ、命の危険を感じた宙は、自身の命を守るために周囲のあらゆる物を無差別に体内の宇宙に吸い込んでしまう。
 危機が去ったかと思い目を開けると、暗闇の中に宙は一人しかいなかった。
 自分を襲ってきた犯罪者も、無関係な人々も、友人も恋人も。すべて宙の体内の宇宙へ放り込まれ、二度と再会することは叶わなかった。
 それ以降、宙は家族の元を去り、一人で世界を転々とする。
 そして行く先々で、誰かを傷つけている犯罪者に道化を演じて近づいては次々と殺していった。
 やがて、裏社会でもその名が広まりきった頃合いを見計らって、宙は自ら警察に出頭してアビス送りになる。
 すべては、アビスに潜む凶悪な犯罪者を滅するため。
 それは単に彼らの犠牲になった者達への哀悼などではなく。
 失ってしまった誰かへの終わらぬ償いのためだった。


211 : 名無しさん :2025/02/10(月) 23:47:58 uTdpDHcY0
【名前】萩野(はぎの)椎斗(しいと)
【性別】男性
【年齢】37
【罪状】動物愛護法違反、公務執行妨害、殺人罪
【刑期】45年
【服役】10年
【外見】丸メガネを掛けた中年男性
【性格】基本的に穏やかで博識、ただし一度スイッチが入ると手がつけられなくなる。
【超力】
『我が性欲は彼の者を穿つ(ゲイ・ボルグ)』
半径数メートル以内にいる、自らが性欲を向けた対象に対して確実にその対象の処女を奪う能力。
ただし椎斗の性癖の都合、人間にこの超力が向かうことは『基本的には』ない。

【詳細】
北海道の動物愛護団体に所属していた動物学者。
その性格から街の子供達に好かれており、どうぶつ博士としても愛されていた。
だが、彼は動物を美しいものと認識しながらも、その動物に対して性欲を向けずに要られない余りにも悲しき変態。
しかも致した動物をその後「穢れたもの」として衝動的に殺害したり、その場面を見られてしまった際に衝動的に証拠隠滅に走ってしまう悪癖持ち。
ある日、動物とウコチャヌㇷ゚コㇿ(隠喩)していた所を子供たちに見られた際、証拠隠滅に走り衝動的に殺害。逮捕数日前にツキノワグマとウコチャヌㇷ゚コㇿ(隠喩)していたのを警官に邪魔されその警官を殺害しようとしたところをお縄になった。


212 : 名無しさん :2025/02/10(月) 23:48:47 eN6yEwkU0
【名前】帝 神也(みかど かみなり)
【性別】男
【年齢】50
【罪状】殺人罪
【刑期】死刑
【服役】4年
【外見】黒髪で若作り、一説には超力を用いて奪い取った魂を喰らって若さを保っているのでは?との推測もあるが実際は不明。
【性格】
まともかつ人懐こい好青年を装った鬼畜外道。
他者を踏み躙り殺し、死後も魂を操作して尊厳を凌辱する事を一切躊躇わない。
また魂を手中に収めた存在以外も、言葉巧みに誘導し手駒同然に扱ったりもする。
傲慢不遜で自分以外は全て塵芥だと認識している。会話はするし通じるが対話は出来ず、根本的に他者と相容れない存在。
捕縛時対峙したある特殊部隊の隊員には「世界にとっての癌細胞」「魂の冒涜者」と吐き捨てられている。
一人称は猫被ってる時は「私」、本性は「我」または「余」、その時の気分で変わる。

【超力】
『魂の権限(Soul the authority)』
3秒触れた対象の魂を操作可能な超力。
身体から抜き取ったり、魂を喰らったり、変形させて化け物へと変えたり、物に封じ込めたり等様々な事が可能…だが当然破綻しない程度に制御されている。
やった事は無いが自分の魂を他人の身体に移植するのも可能。
ただし一度抜き取った魂を元の身体に戻す事は不可能。魂を抜き取られてしまえば他者の身体で生きるか物に宿ったままになるか、そのまま成仏するかしかない。

『泥人形(Mud doll)』
もうひとつの超力。開闢の日に2つ同時に覚醒した。地面から泥人形を創り出せる、それだけ。
専ら肉体から抜き取った魂を封じ込め、傀儡として操る尖兵として運用するために使われる。

【詳細】
苗字や名前の通り帝や神のような絶対的な権力・或いは力が欲しいという渇望を持ち、常に強い野心を抱いて生きていた男。
開闢の日の際、能力に覚醒した事で彼は弾けた。表向きは泥人形が自分の超力とし魂の権限は秘匿している。
敵対者や邪魔者になる相手の魂を抜き取ったり捕食したりする事で自分が生きやすい方向へと誘導、あれよあれよと政府の重要なポストまで上り詰めた。
しかしその傲慢さ故に敵はどうしても増えてしまい、最終的には腹心に裏切られたのもあって殺人等が露呈し、突入して来た特殊部隊達との戦いの果てに敗北、見苦しくみっともなく足掻いたものの結局アビス送りとなった。

ちなみに名前は本名ではなく、わざわざ役所に手続きして変えてもらったもの。本名は凡庸な物だったから忘れたとしている。
また表向きは独身だが隠し子が何人もいると噂されている。当人曰く一々覚えてないとの事。


213 : 名無しさん :2025/02/10(月) 23:51:58 uTdpDHcY0
>>211 文章に矛盾があったので修正

【名前】萩野(はぎの)椎斗(しいと)
【性別】男性
【年齢】37
【罪状】動物愛護法違反、公務執行妨害、殺人罪
【刑期】45年
【服役】10年
【外見】丸メガネを掛けた中年男性
【性格】基本的に穏やかで博識、ただし一度スイッチが入ると手がつけられなくなる。
【超力】
『我が性欲は彼の者を穿つ(ゲイ・ボルグ)』
半径数メートル以内にいる、自らが性欲を向けた対象に対して確実にその対象の処女を奪う能力。
ただし椎斗の性癖の都合、人間にこの超力が向かうことは『基本的には』ない。

【詳細】
北海道の動物愛護団体に所属していた動物学者。
その性格から街の子供達に好かれており、どうぶつ博士としても愛されていた。
だが、彼は動物を美しいものと認識しながらも、その動物に対して性欲を向けずに要られない余りにも悲しき変態。
しかも致した動物をその後「穢れたもの」として衝動的に殺害したり、その場面を見られてしまった際に衝動的に証拠隠滅に走ってしまう悪癖持ち。
ある日、動物とウコチャヌㇷ゚コㇿ(隠喩)していた所を子供たちに見られた際、証拠隠滅に走り衝動的に殺害。その数日後にツキノワグマとウコチャヌㇷ゚コㇿ(隠喩)していたのを警官に邪魔されその警官を殺害しようとしたところをお縄になった。


214 : 名無しさん :2025/02/10(月) 23:58:12 dCDx3OOU0
【名前】悠源 要(ゆうげん かなめ)
【性別】男
【年齢】17歳
【罪状】殺人罪
【刑期】12年
【服役】1年
【外見】目に掛かる程度のクセのある黒髪、非常に目が死んでいる、体は意外と引き締まっている
【性格】かなりの根暗、少しの優しさ
【超力】
『相死相哀(トーデストリープ)』
 視界に収めた対象人物と感覚を共有する。
 対象の心を読むことは出来ないが、対象の感情を知ることは出来る(高揚、憂鬱など)。
 相互共有のため要の感情も相手に通じ、ある程度は対象の体を操ることも可能だが、抵抗された場合は綱引きになる。


【詳細】
 大病に掛かり、苦しむ親友を安楽死させた青年。
 死を望む友の懇願を彼は長らく拒み続け、共に生きるために励まし続けてきた。
 しかし、その超力により地獄の苦しみを共有していた彼は、いつしかその願いを受け入れ、胸にナイフを突き立てた。
 その日の内に彼は自首し、以降、彼は慎ましく贖罪の日々を過ごしている。


215 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/10(月) 23:59:17 ???0
【名前】アイ
【性別】女
【年齢】6
【罪状】器物損壊罪、殺人罪、傷害致死罪
【刑期】20年
【服役】1ヶ月
【外見】身長105cm過ぎ程度の幼女。黒髪をツインテールにしており色白。

【性格】
 野生児で、会話することはできず、「アウ」「アイ」などの鳴き声で意思疎通する。
 当然ながら社会常識に疎く、我慢をすることが嫌い。
 気に食わないことがあると暴れ出し、アビスの強固な壁をブチ破るなどアビスの年少受刑者の中でも指折りの問題児だった。
 一方で良くも悪くも単純で、大好きな飴玉をもらうと大人しくなる。
 優しくしてくれる人には懐き、危害を加えてくる者や信用していない人には攻撃的。

【超力】
『たいにーぱわーふるばーすと(アイアイアイアイアオウアアアア)』
 見た目からは想像もつかない怪力を発揮する分かりやすい能力。
 自分と対象の大きさに差があればあるほど、怪物じみた怪力と耐久力を発揮できる。
 目安としては10cm差があれば大の大人を投げ飛ばすほど、30cmで岩をも砕き人体を全身複雑骨折させるほど、50cmあれば鋼鉄の壁に穴を開けられるほどの力を発揮できる。
 逆に、自分と同じまたは小さい相手に対しては見た目相応の力しか出せず、非常に弱くなる。

【詳細】
 赤ん坊の頃にアフリカのジャングル奥地に墜落した飛行機で一人生き延び、厳しい自然の中を拾ってくれたゴリラたちと共に6年生き抜いてきた野生児の幼女。
 6歳とはいえその超力でゴリラの群れの中でも一目置かれていた。
 ある日、探検隊の人間が強引に接触を図ってきたため、返り討ちにしたことをきっかけに彼女はゴリラの群れから引き離され、保護される。
 しかし、束縛を嫌う彼女は保護してくれた人を何人も撲殺し、建物を数十棟を崩壊させ、一人で被害総額が天文学的になるほどの損害をアフリカの都市に齎した。
 対応に困ったアフリカの国々から、半ば押し付けられる形でアビス送りにされて囚人となった。
 しかし今でもアフリカのゴリラ達には家族に近い親愛を抱いており、帰れるなら群れに帰りたいと願っている。
 その生い立ちのせいか言葉を放すことはできず、ジェスチャーと鳴き声に近い声で意思疎通するしかない。
 彼女の「アイ」という名前も、名前を聞いても「アイ!」としか答えなかったため「アイ」という名前で登録されているに過ぎない。


216 : 名無しさん :2025/02/10(月) 23:59:31 uTdpDHcY0
【名前】
高次(たかつぐ)亜座香(あざか)
【性別】

【年齢】
23歳
【役職】
看守官
【外見】
黒いセミロングとメガネ。基本アニメやゲームのコスプレをしている
【性格】
オタクの鏡、知りたがり
【超力】
『同好の士よ、語り合おう!」
亜座香が書く同人誌のネタになるような会話を引き出す能力。
当人は同人誌のネタとなるものと認識なものならなんでも会話として相手の口に出させることが出来る。
対象となっった当人及びその周囲には「ただのオタクの会話」として認識されず、その会話内容も喋った内容も自動的に亜座香以外からは忘れられ、別の記憶として補填される。

この能力の都合、彼女はあらゆる機密情報を誰にも認識されることなく抜き出し、手に入れている。

【詳細】
看守の仕事の傍らで同人作家を営む異色の女看守。同人作家としてのペンネームは「チャコちゃん」。
同人のネタを探すためにわざわざ看守になったらしいが、それ以外の経歴が不明。


217 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/11(火) 00:00:45 Itd24yHc0
以上で、キャラシートの募集は終了となります。
沢山の投稿、ありがとうございました。

キャラ投票のための準備をしますので、少々お待ちください。


218 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/11(火) 00:05:50 Itd24yHc0
お待たせしました。
投票スレはこちらとなります。既にホスト表示設定になっているため書き込みを行う際は注意ください。

ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1737880191/

投票の開始は1時からを予定しております。
テンプレをご一読の上、ルールを守ってご参加くださるようお願いします。
それではよろしくお願いします。


219 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/12(水) 00:12:24 FnYK35nU0
投票結果が確定しましたので皆さまご確認下さい
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1737880191/

また、書き手枠についてお知らせします。

【書き手枠について】
・書き手枠は7名とします
・書き手枠は投票で2票以上獲得したキャラクターから選出してください
・書き手枠を使用する際は予約が必須となりますので必ず予約を行って下さい
・予約の際は書き手枠であると分かるように明記してください
・1予約の中で書き手枠の使用は1名までにしてください

企画主枠は5名として、今日中に決定し名簿を確定しますので少々お待ちください。
企画の予約開始は

2025/02/13(木) 00:00:00

からとなります。

予約はこちらのスレにお願いします。
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1737880014/

以上、よろしくお願いします。


220 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/12(水) 20:25:39 FnYK35nU0
企画主枠が確定しましたのでお知らせします。

【トビ・トンプソン】
【ジェイ・ハリック】
【バルタザール・デリージュ】
【イグナシオ・"デザーストレ"・フレスノ】
【氷月 蓮】

以上5名を企画主枠として採用します。


221 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/12(水) 20:26:09 FnYK35nU0
確定した名簿がこちらとなります

・オリロワA参加者名簿

○アイ
○アンナ・アメリナ
○イグナシオ・"デザーストレ"・フレスノ
○エネリット・サンス・ハルトナ
○エルビス・エルブランデス
○エンダ・Y・カクレヤマ
○鑑 日月
○ギャル・ギュネス・ギョローレン
○銀鈴
○ジェイ・ハリック
○ジェーン・マッドハッター
○ジャンヌ・ストラスブール
○ジョニー・ハイドアウト
○ジルドレイ・モントランシー
○スプリング・ローズ
○征十郎・H・クラーク
○セレナ・ラグルス
○ソフィア・チェリー・ブロッサム
○大金卸 樹魂
○只野 仁成
○ディビット・マルティーニ
○トビ・トンプソン
○ドミニカ・マリノフスキ
○内藤 四葉
○並木 旅人
○ネイ・ローマン
○羽間 美火
○葉月 りんか
○ハヤト=ミナセ
○バルタザール・デリージュ
○氷月 蓮
○氷藤 叶苗
○呼延 光
○フレゼア・フランベルジェ
○北鈴 安理
○宮本 麻衣
○無銘
○メアリー・エバンス
○メリリン・"メカーニカ"・ミリアン
○夜上 神一郎
○ヤミナ・ハイド
○ルーサー・キング
○ルメス=ヘインヴェラート

○書き手枠1
○書き手枠2
○書き手枠3
○書き手枠4
○書き手枠5
○書き手枠6
○書き手枠7

50/50


222 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/12(水) 20:26:31 FnYK35nU0
状態表に関してですが、一点修正があり
[恩赦P]の項目が抜けていたので、記述するようにお願いします


【現在エリア/詳細位置/日付・時間】
【キャラクター名】
[状態]:
[道具]:
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.
1.
2.


223 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/13(木) 21:26:07 /ld5NMAc0
投下します


224 : TERMINATED ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/13(木) 21:26:33 /ld5NMAc0
刑務作業開始から、数分が経過、場所は島南西の旧工業地帯。

かつて運用されていたその土地では、未だにオイルの匂いが抜けておらず、周りのスクラップを媒介にどんどん濃くなっている。

「いや〜…どうしたものか…」
そのスクラップたちでも、一番大きく積み上がっている物の上に、少女は座っていた。
後ろに長く伸びた緑の髪は月明かりに照らされ、きらきらと輝いていた。

「殺し合い…刑務作業で人を殺せとは、なかなかいい趣味だね、あの看守長」
皮肉混じりにヴァイスマンのことを評すると、デジタルウォッチに手をやった。
「名簿…時計…方位磁針…メモ…それに交換リスト…食料もあるし…生きたきゃ殺せって?勘弁してほしいよ…」
彼女は大切な物のため、特に傷つけられたのならば、手段は厭わない人間ではある。
それが彼女につけられた、20年という業の理由、しかし。

「…あいにく自分から殺人をするほど、腐ってはないさ」
つまりそれは、彼女の本質は善良であることを示している。

「で、いつからいたの、アルファ」
「麻衣様が殺し合いにぼやき始めた辺りから」
いつの間にか、謎の存在が麻衣の後ろに立っていた。
それを評するなら「人型のバッタ」、黄緑の体色が、彼女と同じように照らされていた。

「…もしかして、私に"意見"を言いに?」
「…それは伏せます」
「それじゃあ、君は私にどう立ち回ってほしいんだい?君の意見は?」
アルファと呼ばれた存在は、麻衣の超力により呼び出された存在であった、麻衣の問答に対して、アルファは少し悩んだ後。

「…私としては、麻衣様の命が最優先、貴方様の為なら、このアルファ、命落としてでも尽くしましょう」
「…私の答えが、"乗らない"だったら?」
「…善良を持って、守ります、もちろん殺しはしません、ですが、どうしてもという時は…」
「わかってる、君にも、下手人をさせたからね」
アルファの答えを切り上げ、麻衣は立ち上がる。

「…さっさとここらへんから離脱して、草原でも見つけて食べられる草でも探す…と言いたいんだけど、そうはいかないみたいだね」
麻衣は後ろに声をやった。
「ありがとうマンティズ、で、あなたは?」




225 : TERMINATED ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/13(木) 21:27:54 /ld5NMAc0
男に、名はなかった。
いや、正しく言えば、有った、だろう。

超力がスタンダードの時代において、彼が得た超力はメンタル強化。
決して、目に見えて役立つものでもなく、一般人からしたらハズレだった。

だが、彼にとってはそれが最高の授けものであった。
素の能力だけで戦いに明け暮れ、猛獣もマフィアも凄腕の殺し屋も、全部この手で屠ってきた。

恩赦に興味はなく、ただ闘争だけを求めていたい、名を忘れほどに。
首輪がなければ、看守の元へGOだったろう。
だが、これがあるなら仕方ない、強者にのみ絞り、気になる囚人たちと戦う、ただそれだけを考えていた。


ふと、反対側のスクラップの山を見ると、小娘がいた。
なんだか気になり、少し足を動かしたその直後であった。
彼を屠らんとした下手人が、首に鎌をかけていた。



「おっとてめぇ…お嬢様に手を出すってのなら…容赦はしないぜ?」
「…」
「…私を殺す気…ですか?」
麻衣は年上だと見たのか、敬語で話しかける。
彼の背後にいたのは、アルファと同型の、等身大のカマキリ。
刃はその男に突きつけられ、少し動かせば血飛沫が舞うだろう。

麻衣は冷静に分析を読む。
男の囚人服は自分のと比べて新品同然、最近の囚人だということが分かった。
「あなたは…何をする気でしたか?」
カウンセラーの様な質問を、男に投げかける。
「…俺は、強者との戦いを求めるているだけだ、ただ、それだけだ」
「なるほどバトルジャンキー系ね…もしかして、決闘罪か何かで?」
「…若いがよくやるな、頭もなかなかキレるようだ」
「そりゃあどうも」
互いの会話は、緊張感が迸っている。

「そういうお前は、なんでここに?」
「…どうもうちの人が傷つけられたからね、それをやった連中を拷問して」
「…なるほどな」
男は少し期待外れのような顔をすると。
「…今ここで明言してやる、お前と戦う気は俺にはない」
「ん?さっきまで少し期待してそうな顔だったのに?」
麻衣は疑問をまた投げる、少なくとも、会敵したときには、顔に少し悦が出ていた。

「お前、はっきり言って、本当にブチギレた時にしか手段を選ばないタイプだろ?」
「あら御名答」
「それに、わざわざ戦いを拒むような相手とは、基本しない主義なんでな」
そういうと、その男の顔は、真面目な顔になっていた。
「そう、ならマンティズ、離してやってもいいよ」
「しかし、お嬢様」
「いいから」
マンティズは不満そうにしながらも、男の元から麻衣の方に移動する。


226 : TERMINATED ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/13(木) 21:28:11 /ld5NMAc0
「…一様聞きますけど、一緒に動きますか?」
「…そしたらお前、俺の争いに巻き込まれることになるぞ?それに、お前には優秀な奴らがついてるみたいだしな」
アルファとマンティズに男は指を指す。
「褒められてるよ?」
「…」
「まぁ、一様受け取ってやるよ」
アルファは無言で何も言わないが、マンティズは受け入れた様子である。

「それじゃあ私はここから出ますから、また会えたら」
「あぁ、会えたらな」
こうして、麻衣と男は、スクラップの山から降りて、互いの道を歩き始めた。

背後のスクラップ達が、彼女達の姿を遮り、道筋が別であることを示しているようであった。



「あれは凄い人だ…正直言うと、興味深かったね」
「…強者として、認めざるおえませんでしたな」
「んぁ?以外だな、てめぇが相手を認めるなんてよ」
一人と二匹は歩きながら会話していた、マップを頼りに、工業地帯を抜ける道を歩きながら。

「…もしあの場で戦闘してたら…いえ、ここでマイナスな事は辞めておきましょう」
「へっ、それもそうだな、んじゃ、俺たちは休んでるんで、お嬢様、何かあったら」
「ありがと、二人共、少し休んでてね」
アルファとマンティズが姿を消す、超力で呼ばれてる彼らを、彼女は自らのの指示で出現と消滅を自由に選択できる。

「それじゃあ…生き残れる道…探しますかぁ」
彼女は体を伸ばしながら、そう言った。

【F-3/旧工業地帯・廃工場群/1日目・深夜】
【宮本麻衣】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.殺し合いにはならない
1.生き残れる道を探す
2.あの男(無銘)は気になるが、深追いすると大変なことになるので今は避ける



一方…男、今の仮名は無銘。

(しかし…あの二人…おそらくは超力で呼ばれた眷族…しかも未だ2,3人ほどが呼ばれてないやつがいるな…)
無銘は、先ほどの二人…マンティズとアルファに関心を持っていた。

(俺に鎌を向けてたやつ…少なくとも、あの鎌は何人もの相手を切り裂いてる…向かいの小娘の方にいたやつも、歴戦の猛者の香りがしたな…)
無銘は、若干の笑みを浮かべながら、心のなかでこうつぶやく。
(本音を言えば…戦いたかったがな)
ほとんど超力の影響を受けずに戦う決闘士、無銘。
この男の興奮の、満ちたる奴は、この会場に存在するのか。

【F-3/旧工業地帯・廃工場群/1日目・深夜】
【無銘】
[状態]:健康、興奮(小)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本."強くて戦いを望んでやつ"と戦う
1.とりあえず強いやつを探す
2.ほんとは小娘(麻衣)とその眷族ら共と戦いたいが、本人が戦いを望まないなら仕方ない…口惜しい…


227 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/13(木) 21:28:24 /ld5NMAc0
投下終了です


228 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/13(木) 22:09:27 Xz7q6UgQ0
投下乙です

>TERMINATED
召喚系はにぎやかでいいですね。麻衣は穏やかそうでキレたら拷問かますとかやべー奴すぎる
無銘さんはバトルジャンキーなのに相手に気遣いの心を忘れないギャップが逆に怖いっすね
2人がかみ合わなかったおかげでバトルも同行も流れたのは、運が良かったのか悪かったのか


229 : ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:15:39 i4B0LRS20
投下します。


230 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:16:16 i4B0LRS20



 ――こいつは、何だ?

 “彼女”を初めて直に目にしたとき。
 “彼女”の収監役を担わされたとき。
 あるアビスの職員は、そう思ったという。

 国際刑務所への到着までの間、目隠しや被り物によって囚人の視界を塞ぐことがある。
 囚人を輸送する際、“万が一”の視認を妨げるための措置だ。
 物理的な拘束、超力による監視や認識阻害、薬物による意識の昏睡など――。
 罪人達は二重三重にも及ぶ厳重な措置によって、抵抗も認識も許さずに“地の果て”へと運ばれる。

 中でも無期懲役を超える凶悪犯罪者の護送に関しては、更に徹底した拘束と秘匿が施されるのだ。
 四肢は愚か、時に五感による認識さえも決して許されない罪人も存在する。
 “目隠しによる資格遮断”というひどく原始的な手法もまた、その一環だった。

 だからこそ、“彼女”がアビスへと到着して。
 顔を覆い隠す“被り物”が取り剥がされたとき。
 あるアビスの職員は、戦慄すら覚えた。

 ひどく、澄んだ目をしていた。
 ひどく、純粋な瞳をしていた。
 ひどく、芯の通った眼差しだった。

 “フランスの聖女”。“欧州の若き騎士”。
 “焔の英傑”。“現代のジャンク・ダルク”。

 “彼女”を評する言葉は、数多存在した。
 多くの悪を討ち払い、人々から讃えられていた“彼女”は、今や憎悪と忌避を向けられる“魔女”だった。

 裏の世界を知る者なら、彼女が行方を晦ましていた“2年もの空白”についてすぐに見当がつく。
 例の犯罪組織の逆鱗に触れ、その身を囚われて、凌辱の限りでも尽くされていたのだろう――と。
 それまでの経歴に対して不自然なまでの罪状の数々も、あの犯罪組織による何らかの根回しがあったのだろう。

 あるアビスの職員も、そのことを容易に察することが出来た。
 彼もまた、数多の凶悪犯を管理する“掃き溜め”に務める身なのだから。

 だからこそ。
 だからこそ、だった。
 “彼女”を襲った試練。惨劇。顛末。
 その数々を悟ることが出来たからこそ。
 あるアビスの職員は、“彼女”が今なお瞳に焔を宿していたことに恐怖した。

 ――なんで、そんな眼をしていられるんだ?

 あれは、“正義の眼”だった。
 あれは、“希望の眼差し”だった。
 汚され、涜され、澱みを湛えながら。
 それでも一欠片の光を信じ続けている。

 まるで、本物の聖女のようだった。
 ただの、哀れな少女に過ぎないのに。

 囚人番号、666-XXXX13-XXX番。
 ジャンヌ・ストラスブール。





231 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:18:46 i4B0LRS20



 月夜の下、河川を跨ぐ鉄橋の上。
 そこは、北東の廃墟へと向かう道筋の途中。

 一人の男が、静寂の中で佇んでいた。
 その左手には、葉巻を握っている。
 収監中に刑務官からの“横流し”によって得た、彼の私物だった。

 紺色の空が沈黙し、世界を見下ろす。
 星々の闇を、男は睨むように無言で見据える。
 その口から、灰色の煙を吐き出した。

 ライターやマッチの類は不要だった。
 指先に“鋼鉄”を纏わせ、金属の摩擦によって着火する。
 故に彼は器具を用いず、葉巻のみで喫煙を嗜む。

 その男――老人は、異様な風貌だった。

 齢九十であるにも関わらず、巌のような巨躯を持ち。
 筋肉に覆われた屈強なる肉体は、さながら武闘家を思わせる。
 囚人服が身を包んでいるにも関わらず、支配者の風格を滲ませ。
 皺を刻んだ面持ちと、葉巻を握る姿も相俟って、威厳すら漂っている。
 そして闇夜に照らされる黒い肌が、彼の人種を物語る。

 ルーサー・キング。
 米国に父母のルーツを持つ、老齢の黒人ギャング。
 欧州一帯を牛耳る犯罪組織を統べる大首領。
 開闢を経た“新時代”における、闇の帝王。
 またの名を――“牧師”。
 神に仕える名を背負い、神に背きし悪漢。

 そんな彼を見据える、一つの影があった。
 距離にして十数メートルほど。
 悠々と葉巻を吸う“牧師”に対し、新手は沈黙のままに佇む。

「なんだ、お嬢ちゃん」

 新手は、少女だった。
 おおよそ囚人の装いには似合わぬ、可憐な乙女だった。
 腰まで伸びた金色の髪。宝石のような翠色の瞳。
 騎士を思わせる凛とした表情が、“牧師”へと真っ直ぐに向けられる。

「葉巻ぐらい吸わせろよ」

 そんな少女に対し、ルーサーは事もなく吐き捨てる。
 葉巻を左手に持ちながら、息を吐く。


232 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:19:41 i4B0LRS20
 まるで一人の時間を邪魔されたと言わんばかりに。
 余裕の態度を崩さぬまま、再び口を開く。

「……“長い休暇”だってのに、ゆっくりさせちゃくれねえとはな」

 “牧師”は10年の刑期の最中だった。
 彼は巨大な犯罪組織の首領であり、大規模な数々の犯罪に関与していた。
 しかし数々の根回しにより、その大半を不起訴に追い込んだ。
 それでも10年の懲役は避けられなかったが――彼は“休暇”とでも思うことにした。

 どのみち刑務所に入った程度で、己の影響力は衰えたりはしない。
 “内通者”や“伝言役”を使うことで、幾らでも外の情勢に介入することができる。
 何より彼は、己を“老い先短い”とも考えていなかった。
 自分はこれから先も帝王として君臨し続ける――“牧師”はそれを決して疑わなかった。
 故にこの刑期も、彼にとっては“一時の休息”に過ぎなかった。

「ヴァイスマンの野郎に、文句の一つでも言いてえ所だ」

 だからこそ彼は、忌々しげにぼやく。
 休暇に水を差すような真似をした“看守長”に、堂々と毒づく。
 アビスに収監された凶悪犯たちによる、命を懸けた刑務。
 囚人同士で血で血を拭い、生還と恩赦を求めて殺し合う。
 如何にもあの陰険な連中が好む、悪趣味な遣り口だ。

 尤も、やることは普段と何ら変わりはしない。
 要は、暴力を手段にして立ち回ること。
 ただそれだけだ。結局、娑婆の生業と同じだ。
 ならば、別に躊躇う理由もない。

 そうしてルーサーは、少女を一瞥する。
 佇む少女は、ただじっとルーサーを見据え続ける。
 二人の視線は交錯し、静寂の中で対峙する。

「……4年前だったか」

 やがてルーサーが、唐突に“昔話”を始めた。

「ムショにいる“連絡係”から、ある報告を聞いた」

 それは、収監中の出来事。
 己の息が掛かった刑務所の職員――“外部との伝達役”からの連絡があった。

「俺の傘下のマフィアが、縄張りを荒らす“じゃじゃ馬の小娘”を潰したと」

 曰く、娑婆にいる傘下のマフィアが“小娘”を潰した。
 その“小娘”は、現代における聖騎士だった。
 欧州にて蔓延る犯罪組織と戦い、多くの弱者を救い続けていた。
 彼女の存在は人々から讃えられ、正義の味方として崇められていた。

 しかし、その英雄もまた巨大な組織の力には敵わず。
 社会に根を張る圧倒的な勢力に屈し、膝を付いたと云う。


233 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:20:17 i4B0LRS20
 
「その傘下からの伝言があった。
 “小娘の処遇はどうするべきか?”」

 葉巻を咥えながら、“牧師”は淡々と過去を振り返る。

「俺は答えた。てめえにくれてやる、と」

 “少女”はただ、無言で昔話を聞き届ける。

「そいつはガキを手籠めにするのが好きだった。
 若い生娘を嬲ることを愉しむような奴だった」

 “牧師”は、事もなげにそう語る。
 
「だから褒美の一つでも投げ込んでやることにした。
 飼い犬に餌をくれてやるようなモンだ」

 “少女”は、何も言わずに佇むまま。
 何も言わずに。そう、無言のままに。
 その瞳には、熱が宿りつつある。
 その掌には、炎が灯りつつある。

「その小娘は、一体どうなったのか――」

 “牧師”は、既に理解していた。
 目の前の“少女”が何者であるのかを。
 だから敢えて、彼は語ったのだ。

 “少女”も、既に理解していた。
 目の前の“牧師”が何者であるのかを。
 だから彼女は、その話に耳を傾けた。


「俺は、興味もなかった」 


 “牧師”の嘲笑うような一言と共に。
 “少女”が瞬時にその場から駆け出した。

 その手に炎の剣を顕現させ、紅蓮の火焔を纏う。
 背中から現出した焔の翼によって、一気に加速する。
 “少女”は瞬きの合間に、“焔の聖女”へと変わる。
 その瞳に激情と義憤を宿しながら、聖女は疾走する。
 燃え盛る炎を纏い、ルーサーへと目掛けて突進した。

 ジャンヌ・ストラスブール。
 彼女は欧州一帯に根を張る犯罪組織と対決した。
 正義の炎を灯しながら、彼女は孤軍奮闘で戦い続けた。

 しかしその圧倒的な規模に、ただ一人の少女が敵うはずもなく。
 やがては政治や警察、メディアなどの権力に追い詰められ。
 最後は友人の裏切りによって、彼女は地獄へと転落した。

 ジャンヌを追い詰め、全てを奪い踏み躙った巨大犯罪組織。
 彼女に対し二年に渡る監禁と陵辱を行ったマフィア達は、その下部組織の所属だった。
 彼らの更なる上に君臨し、組織全体を支配していた“母体”があった。
 そのマフィアの名は――――“キングス・デイ”。

 “牧師”、ルーサー・キング。
 彼こそが、ジャンヌが対立した犯罪組織の大首領である。





234 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:21:27 i4B0LRS20



 “おかあさん、おとうさん――”。

 朽ちて、荒れ果てた街の片隅で。 
 小さな女の子が泣いていた。
 ひとり孤独に、泣きじゃくっていた。
 ずっと、その言葉を零していた。
 ただ涙を流して、打ち拉がれていた。

 私は、その女の子を見つめていた。
 その日は両親と共に、“慈善活動”へと出掛けていた。

 開闢の日を経て、世界は混乱に溢れていた。
 私の両親は、神に仕える身だった。
 両親は慈善団体の一員として、欧州各地の“被災地”に赴いていた。
 荒廃した地域で、疲弊した人達の力になることが父と母の仕事だった。

 幼かった私は、安全な地域に留まることを勧められた。
 けれどそれを拒んで、両親に着いていく道を選んだ。
 私は、常に両親と共に居た。父と母を尊敬していた。
 
 そして、まだ小さな子供だった私は。
 両親や、団体の人達と共に来た“とある街”で。
 私よりもっと小さな女の子と出会った。

 その娘は、ひとりで泣き続けていた。
 おとうさん、おかあさん――。
 女の子は、ずっと呼び続けていた。
 けれど、その手を握ってくれる人はいない。

 父と母の姿が、私の脳裏をよぎった。
 私の手を引いてくれる、二人の優しい笑顔が浮かんだ。
 苦しむ人々のために尽力する両親の背中を、私はずっと見てきた。

 幼かった私は、気がつけば。
 もっと幼いその娘へと、歩み寄っていた。
 その小さな身体を、ぎゅっと抱き締めていた。

 そうしなければならないと思ったから。
 ひとりぼっちになった、この娘のために。
 “正義の味方”が必要だと思ったから。

 神様は、私達を見守ってくれている。
 けれど正義の味方は、何処にもいない。
 そのことが、ひどく、ひどく悲しかった。

 あの日こそが、私の物語の開闢だった。
 あの日こそが、私の希望の始まりだった。
 あの日こそが、私の絶望の始まりだった。





235 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:22:32 i4B0LRS20



 ――――なにが起きた?
 少女の頭に、そんな思考が浮かぶ。

 その超力を行使し、瞬きの間に突進したジャンヌ。
 炎の翼によるジェット噴射。嵐にも似た推進力を生む、紅炎の疾走。
 弾ける炎熱による加速を乗せた“必殺の一撃”を叩き込むはずだった。

 しかし、吹き飛ばされたのは少女の方だった。
 その身体は紙切れのように宙を舞い、地面へと叩きつけられる。

 想像もしなかった鈍痛を前に、ジャンヌは混乱する思考を纏めようとする。
 何が起こったのか。何故、自分が地に伏せたのか。超力による効果なのか。
 全速力で解き放った己の突撃を潰されたジャンヌは、戦慄と動揺の中に蹲る。

 “牧師”は悠々と佇み、葉巻を吸い続けている。
 その右拳は、文字通りの鉄拳――“鋼鉄”と化していた。
 鋼鉄の生成と操作。それがこの凶悪なるギャングの超力。
 鋼鉄で拳を覆い、拳撃を強化する程度の芸当は造作もない。

「安心しな」

 それは、単純な話だった。
 反射神経ひとつで、ジャンヌの超速突撃を軽く躱した。

「モハメド・アリのパンチよりは遅えよ」

 そして回避と同時に、右鉄拳によるカウンターを叩き込んだ。
 ただ、それだけの話だった。

 ようやくそれを認識したジャンヌは、驚愕に目を見開きながら敵を見据える。

「――意外だったか、お嬢ちゃん。
 たかが一発ぶち込めなかっただけで」
 
 まるで自身の動揺を見透かしたような男の一言に、心を掻き乱されつつ。
 それでもジャンヌは、歯を食いしばって立ち上がる――その身から炎を溢れさせながら。

 “牧師”は何もせず、空を仰ぎ見ながら葉巻を吸っている。
 まるでジャンヌを歯牙にも掛けぬように、ただそこに佇んでいた。
 そんな彼の姿を、聖なる乙女は炎の剣を握り締めながら睨んだ。


236 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:23:46 i4B0LRS20

 そして、再び。
 ジャンヌの身体が“加速”した。

 炎の翼による爆発的な推進力。
 全身から放出される灼熱の火焔。 
 まるで疾走する太陽のように、聖女は躍動する。
 真紅の輝きと炎熱を、煌々と纏いながら。
 突撃と共に、横一閃の“炎の剣撃”を放った。 

「“この力は神が与えし祝福”。そんな思い込みで付け上がった連中が大勢いた」

 ――ルーサーの右腕を、装甲のような鋼鉄が覆う。
 ――爆熱する斬撃と火炎を、すれ違いざまに“腕の一振り”で凌ぐ。

 鋼鉄。熱を大きく伝導し、熱による影響を受けやすい金属だ。
 にも関わらず、彼の生み出す鋼鉄はびくともせずに滾る火炎を受け止める。

「自分は強い、特別だ、神に選ばれたんだ――ちっぽけな全能感に酔ったガキ共も腐るほど見てきた」

 世間話でも語り掛けるように、“牧師”は言葉を続けていた。
 攻撃を凌がれたジャンヌは、突進の慣性を制御しながら即座に方向転換。
 炎剣の出力を瞬間的に高め、まるで兵器の爆炎にも似た刀身を生み出す。
 再び炎の翼による加速を上乗せしながら、爆炎を幾度も叩きつけるように剣の乱打を放つ。

「適当な首輪を付けてやりゃあ使える駒になることもあったが」

 それでも尚、“牧師”は悠々と語り続ける。
 葉巻の煙を吐きながら、鋼鉄化した右腕で炎剣の斬撃を次々に弾く。

 ルーサーは、左手を全く使わなかった。
 何故か。煙を吐く際に、片手で葉巻を持つから。
 ただ、それだけの理由だった。

「大抵は馬鹿の一つ覚えみてえな野良犬ばかり」

 裁きの焔刃は、虚空を踊り続ける。
 敵を断つことも叶わず、銀色の装甲に悉く阻まれる。

 紅色の輝きは、我武者羅に宵闇を照らす。
 その栄光は、何も勝ち得ることなく。
 ただ必死に、無意味な舞踏を続ける。

 それでも少女は、立ち向かい続ける。
 幾度遮られようと、幾度凌がれようと。
 聖なる騎士は、剣を振るうことを止めない。
 

「――――例えば、てめえのようなガキだ」


 威圧に満ちた一言が、静かに響いた直後。
 剣戟を繰り返していたジャンヌの身体が、弾き飛ばされた。
 ルーサーの周囲に展開された“鋼鉄の障壁”が、炎の刃と共にジャンヌを跳ね除けたのだ。
 零距離で一瞬にして出現した壁は、猛攻を続けていたジャンヌの勢いを反射するように強烈な打撃を与える。


237 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:24:41 i4B0LRS20

 装甲車に突き飛ばされるような衝撃をその身に受け、焔の聖女は地面を転がる。
 そのまま土を噛むかのように蹲り、喀血混じりに咽び続けていた。

「バレッジファミリーの“マルティーニ坊や”のように、見どころのある若造ならまだしもな」

 地に伏せる少女を冷淡に眺めながら、悪辣なる“牧師”は呟く。
 煩わしげに眉間に皺を寄せながら、口から煙を吐き。
 やがて男は、その場からゆっくりと歩き出す。

「なあ、お嬢ちゃん」

 一歩、一歩と、男は悠々と踏み頻る。
 ただの歩みからも、強烈な風格が放たれる。
 重力にも似た威圧感が、空気を震えさせる。

「喧嘩の仕方覚えた程度で、騎士にでもなったつもりか?」

 その殺意が、そのプレッシャーが。
 ただ一人の哀れなる少女へと向けられる。
 かつて聖女と崇められ、英雄と呼ばれた少女へと。
 今は魔女として蔑まれる、救われぬ少女へと。


「俺を、誰だと思ってやがる」


 ――この世界に、神などいない。
 そう告げるように、ルーサーは言う。
 “真の力”というものを突きつけるように。
 悪を統べる牧師は、かつての聖女を蔑む。

 ジャンヌは、地を這うように顔を上げる。
 橋を形作る骨材を掴むように、足掻き続ける。
 悪意が迫る。殺意が迫る。死が、迫り来る。
 必死に、少女は身体を動かさんとする。
 その苦痛をも押し退けるように、ただ歯を食いしばる。

 極限に追い込まれていく中で。
 聖女の意識が、混濁する。
 脳裏の記憶が、迸るように混乱する。
 まるで走馬灯の如く、思考が掻き乱される。
 
 現実も虚構も、過去も現在も。
 全てが入り乱れるように。
 少女の見つめる世界が。
 我武者羅に加速していく。
 これは正気なのか、狂気なのか。

 ――――どっちでもいい。
 そんなもの、どうだって良かった。
 ただ確かなことは、ひとつだけ。
 ジャンヌ・ダルクは、まだ死んでいない。





238 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:25:28 i4B0LRS20



『おかあさん、おとうさん――』
『彼女が来てくれた』
『現代のジャンヌ・ダルクだ』
『ありがとう、本当にありがとう』
『おかあさん、おとうさん――』
『ジャンヌ。僕らの英雄』
『貴女に、神の御加護があらんことを』
『彼女がいれば安心だ』
『彼女こそが、私達の救世主』
『本物のヒーローだ』
『貴女に、命を救われた』
 
『ジャンヌ・ストラスブール!』
『ジャンヌ・ストラスブール!』
『ジャンヌ・ストラスブール!』
『彼女こそが、正義の味方だ!』
 
『ジャンヌを差し出せば……私のことは解放してくれるんですよね』
『おかあさん、おとうさん――』
『分かったろ?お前は“親友”に売られたんだよ』
『お前はもう聖女でも騎士でもない。飼い犬だ』
『クスリを打ってやれ』
『身も心も穢してやる』
『お前の誇りはもう何処にもない』
『おかあさん、おとうさん――』
 
『■■■■■■■■■■■――』
『■■■■■■■■■■■――』
『■■■■■■■■■■■――』
『■■■■■■■■■■■――』
『■■■■■■■■■■■――』

『飽きたな』
『おかあさん、おとうさん――』
『死なせて楽にしてやるなんて事はしない』
『おかあさん、おとうさん――』
『死ぬまで糞溜めで惨めに生き続けろ』

『お前は、魔女だ』

『おかあさん、おとうさん――』 
『ジャンヌ、ごめんね、ごめんね……っ』
『おかあさん、おとうさん――』
『あなたのせいじゃない、私たちの罪なの。私たちが悪いの』
『おかあさん、おとうさん――』
『こんな罪深い世界に、貴女を産み落としてしまったから』
『おかあさん、おとうさん――』
『何もかも、私たちが――』


『――――お母さん。お父さん』





239 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:26:32 i4B0LRS20



 それは、火刑に処される“聖女”のようだった。
 それは、全てを焼き尽くす“極光”のようだった。
 それは、黙示録に記されし“災厄”のようだった。

 地を這っていたジャンヌが、再び駆け出した。
 その右手に握られた剣からは、夥しい焔が溢れ出ていた。
 周囲に存在する全てを灰燼に帰す程の、熾烈なる紅蓮。
 神の裁きが人のカタチに宿ったかのような、猛烈なる紅炎。

 少女は、我武者羅に走り抜ける。
 その背中の、炎の翼を滾らせて。
 目の前の悪を焼き払うべく、進撃する。

 ――――此れなるは。
 ――――悪を退け、闇を照らす。
 ――――赫赫たる、焔の剣。

 その眼は、正義が宿っていた。
 その眼は、余りにも純粋だった。
 その眼は、何処までも澄んでいた。
 その眼は、極星のような光を宿していた。

 その少女は、紛れもなく超人だった。
 何故ならば、あれほどの絶望に曝されてなお。
 その瞳から、正義の輝きを奪えなかったのだから。

 故に少女は、駆け抜ける。迷わず突き進む。
 強大なる炎の聖女/魔女と化して、疾走する。

 “牧師”――ルーサー・キングもまた、動き出した。
 眼前に迫る紅炎を見据えて、眉を微かに動かし。
 ただ添えていた左手が、葉巻をぐしゃりと握り潰した。
 それまで使いもしなかった片手を、初めて解き放ったのだ。
 そのまま間髪入れずに両腕を構え、超力の熱量を瞬時に纏わせた。

 迫る焔。迫る紅蓮。迫り来る炎獄。
 先程までとは、まるで桁が違う熱量。
 凄まじいまでの輝きが、悪を討つべく迸る。
 迫る。迫る。その熱が、非道なる“牧師”を飲み込まんとする。

 もはや敵は、逃れられない。
 裁きの鉄槌を受ける他にない。
 その筈だった。


 ――――荒れ狂う紅の極光に。
 ――――白の輝きが、押し寄せた。
 ――――その熱の全てを、飲み込んだ。


 それは、鋼鉄の激流だった。
 ルーサーの周囲に“無数の鋼鉄”が生成され、流体の如く変形。
 まるで嵐のように渦を巻き、凄まじい勢いを生み出し。
 やがて“鋼の荒波”と化して解き放たれ、迫る焔を押し返したのだ。


240 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:27:13 i4B0LRS20

 荒れ狂う焔は、白銀の濁流によって押し潰され。
 少女の身体は、宙を舞うように吹き飛ぶ。

 超力によって生成されていた炎剣が、力を失うように塵と化す。
 聖戦へと突き動かしていた炎翼が、捥がれるように灰と化す。
 少女が纏っていた炎が、消えてゆく。
 聖なる灯火は掻き消され、世界に再び夜が訪れる。

 ジャンヌは、身動きを取ることも出来ない。
 吹き飛ばされ、苦痛と衝撃に悶え、視界が揺さぶられていく。
 もはや彼女は、地に伏せることも叶わない。
 戦場と化していた橋の下、流れゆく河川へと転落した。

 水中へと沈み、流されていく少女。
 “牧師”はその姿を追うべく、視線を動かしたが。
 闇夜の中に溶け込むように、敗残した少女の姿は見えなくなった。
 この宵闇、それも川の中だ。視認で追うことは困難だろう。
 それを悟ったルーサーは、眉を顰めながら一息を吐く。

 “ポイントの足し”として、あの聖女を始末したいところだったが。
 久々に超力を使用したこともあり、少々腕が鈍っていたか。
 ルーサーは己の不手際を戒めるように思考する。

「……全く、とんだ“じゃじゃ馬”だな」

 4年前の“報告”を、ふと振り返った。
 興味などない、取るに足らない小娘。
 そう捉えていたが、どうやら認識を改める必要があった。
 あれは、狂犬の類だ。

 あの眼に宿る炎は、燃え滾っていた。
 人々を魅了し、正義の燈を絶やさず。
 何もかもを焼き尽くしながら、駆け抜けていく。
 そんな熱を宿した、異形の炎だった。

 紅炎と対峙した“牧師”は、立ち続ける。
 その身に手傷を負うこともなく、静かに戦場から去りゆく。

 王は堕ちず。支配者は膝を付かず。
 “地獄の焔”など、既に喰らい尽くしてきた。
 命を懸けた試練など、常に乗り越えてきた。
 故に、生き残るのは己である。
 彼は一切の過信も油断もなく、断言する。

 ルーサー・キングは、君臨し続ける。
 “牧師”は、神の道理をも踏み躙る。

 ――――勝つのは、俺だ。





241 : 少女の祈り ◆A3H952TnBk :2025/02/13(木) 23:28:11 i4B0LRS20



 聖なる少女は、力無く流されていく。
 まるで洗礼を受けるように、水の中へと沈む。
 夜の河川で、その放流に身を委ねていく。

 意識が朦朧としながらも、少女は水面より覗く空を見つめていた。
 波に揺らぐ景色の中で、月明かりを浴びて紺色が照らされる。
 その色彩の狭間から、星々の輝きが垣間見えた。

 異能を得た新時代の人間は、往々にして強靭な生命力を持つ。
 強力なネオスを備えるジャンヌは、肉体的な素質においても特に優れていた。
 川に落ち、力無く流されようとも生き永らえているのも、その恩恵故だった。
 
 混濁する視界の中で、少女は思いを抱く。
 父と母の背中。原初の祈り。戦いと救済の日々。
 悪夢の始まり。魔女の汚名。地の獄への到達。
 過去から現在へと至る記憶が、目まぐるしく駆け回っていく。

 少女は傷つき、摩耗していた。
 少女は奪われ、喪失していた。
 少女の祈りは、踏み躙られた。
 
 にも関わらず、その瞳は変わらなかった。
 あの日、幼い少女を抱き締めた時と同じように。
 聖女の眼には、正義という光が宿り続けていた。

 その輝きは、希望を齎す灯火なのか。
 あるいは、狂熱へと向かう極光なのか。
 答えは、眩い炎の中に沈む。
 彼女自身にさえ、きっと分からないだろう。

 確かなことは、ただ一つ。
 ジャンヌ・ストラスブール。
 彼女は今もなお、“聖なる騎士”だった。


【D-7/川(水中)/1日目・深夜】
【ジャンヌ・ストラスブール】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.正義を貫く。何があっても。
1.???
※ジャンヌが対立していた『欧州一帯に根を張る巨大犯罪組織』の総元締めがルーサー・キングです。
※川へと落ちています。どの方角へと流されるかは後のリレーにお任せします。

【D-7/鉄橋の上/1日目・深夜】
【ルーサー・キング】
[状態]:疲労(軽微)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.勝つのは、俺だ。
1.生き残る。手段は選ばない。
※彼の組織『キングス・デイ』はジャンヌが対立していた『欧州の巨大犯罪組織』の母体です。
 多数の下部組織を擁することで欧州各地に根を張っています。


242 : 名無しさん :2025/02/13(木) 23:28:32 i4B0LRS20
投下終了です。


243 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/14(金) 00:04:52 /egqhIP60
投下乙です

>少女の祈り
まさか、そこに繋がりがあったとは! やられた! 大抵の原因をこのジジイに繋げられそうな勢い
そしてキングは流石に貫禄の強さ、威厳も風格もあって巨大組織の首領は伊達ではない
ジャンヌは凌辱を受けても聖女を貫く、これはこれで狂気よね。いきなり敗北して心は折れることはないだろうけどどうするのか


244 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/14(金) 20:21:42 /egqhIP60
投下します


245 : アビスの契約 ◆H3bky6/SCY :2025/02/14(金) 20:22:29 /egqhIP60
孤島に聳える深い森には先の見えない夜闇が広がっていた。
生い茂る木々の傘は、森に届く月明りを微細に紛れさせる。
柔らかな土の足場は悪く、苔の纏った石や足を取る根が蔓延っており、歩みすらおぼつかない。
歩くことすら困難な夜の森は、さながら深い緑の迷路である。
このような環境で、まともに動ける者などいるはずもないだろう。

だが、それは20年も前の常識に過ぎない。
『開闢の日』を機に人類が進化を遂げたのは、超力や身体能力に限った話ではない。
その夜目は広がり、まるで野生動物のように微かな光を取り込み夜を映し出す。

それを証明するように一寸先も見えない闇の樹海を、光のようなスピードで疾走する青年の姿があった。
地面に足をつけるより早く幹を蹴り、弧を描くように体をひねり、あり得ない角度で枝へと飛び上がる。
彼は木の幹に軽く手をついてから、滝のような葉叢の向こうへ一陣の風となり飛び出していく。
暗闇の中で行われるパルクールめいた動きは目で追えぬほどに素早く、鋭い。
まさしく超人的な動きだと言えるだろう。

だが、その程度の光景はこの現代において珍しいものではない。
この青年が凄まじいのではなく、これが現代人の標準である。
ましてやネイティブ世代にとってはこの程度は当たり前のことでしかない。

だが、その背後で巻き起こる光景は、この超人化社会においてもなお異様だった。

駆け抜ける青年の背後には一人の男が迫っていた。
迫り来る男が足音を響かせるたびに、夜の闇を裂くような衝撃音が遠くへ木霊し、静寂だった森の様子は一変する。
闇夜を切り裂くかの如く、一歩、また一歩、と森の奥へと迫って行く男が腕を振るうたび、近くの大木がその猛威に晒され、枝や幹が蹴散らされるように宙に舞い上がった。

つまらなさそうに眉間に皺を寄せたまま自然破壊を行うのは、金髪をオールバックに整えた男である。
洗練された佇まいで青一色の囚人服を見事に着こなす伊達男。
それはイタリアの裏社会に君臨するカモッラ、バレッジファミリーの金庫番――ディビット・マルティーニ。
前方を睨むその無機質な眼差しは理性的な冷徹さそのものだ。

そんな男が、木々をなぎ倒すという野生的な行為に走っていた。
太い幹を腕を振るうだけで破壊するとは、いくらなんでもこれほどの怪力は現代においても異常である。
つまり、そこには通常とは違う法則が働いている。

『4倍賭け(クワトロ・ラドッピォ・ポンターレ)』。
己が能力を4倍にするディビット・マルティーニの持つ超力である。
現在ディビットはその力を筋力へと割り振っていた。
超人化した人類の4倍の筋力、それがどれほどのものなのか、その答えがこれだ。

そんな怪物に追われながら、木々の間を逃げ回るのは褐色の青年だ。
青年は怪物に追われているにもかかわらず、宙返りの合間に背後を見つめ、冷静に次の一手を考えているようだ。
その表情からは微塵も恐怖は感じられず、むしろこの状況を楽しんでいるかのようにすら見える。

それもそのはず、この青年にとって、これが生まれて初めての外の世界である。
恐れよりも、好奇心と高揚感が上回っていた。

彼は一国の王子として生まれた。
だが、祖国は革命の折に滅ぼされ、王族の皆殺しという過酷な運命を背負わされた。
亡国の王子――エネリット・サンス・ハルトナ。
赤子の時分より地の底たるアビスに送られ、アビスによって育てられた、アビスの申し子。

物心がついてから刑務所という特殊な環境以外を知らない彼にとって、外の世界はそれだけで胸が空くほど新鮮だった。
森の香りを胸いっぱいに吸い込み、次の一歩へ迷いなく飛び込んでいく。
褐色の肌に映えるその瞳は、かつての高貴な血筋と、地の底で育まれた野性の双方を感じさせる。
彼の存在そのものが闇夜の中で一筋の光のように際立っていた。


246 : アビスの契約 ◆H3bky6/SCY :2025/02/14(金) 20:23:01 /egqhIP60
「…………チッ」

まるで鬼ごっこでもするように楽しそうな顔で逃げ回る相手に、鬼役の伊達男が舌を打つ。
その苛立ちの裏には長い禁煙生活の影響もあるだろう。
アビス内での煙草の流通(横流し)をあの老人に取り仕切られたのが、この苛立ちの遠縁なのだが、それはまた別の話。
この苛立ちの直接的な原因、4倍の筋力を持つディビットがエネリットの動きを捉え切れないのことには事情がある。

ディビットの持つ超力『4倍賭け』には代償が伴う。
ランダムに決定された強化部位と等価である別の箇所が、四分の一にまで低下する。
今回の代償は視力のようだ。

平時のディビットの視力は2.0。
現代人としては平均的ともいえる視力だが、現在は1/4の0.5にまで落ち込んでいた。
見通しの悪い夜の森ということも相まって、弱った視力では素早く動きまわる相手の姿を捉え切れていない。

ならばと、ディビットが地面に転がっている自らがへし折った大樹に手を伸ばした。
へし折れた樹木は4mほど。重量は優に300kgを超えるだろう。
ディビットは幹の中心を掴むと、凄まじい握力によって指がピシリとめり込んだ。
それを、苦も無くそのまま片腕で持ち上げると、ディビットは大きく振りかぶった。

狙いが付けづらいのなら、狙いは大雑把でいい。
朧げな視力で、相手の像だけを捉え、宙に跳ねたタイミングを見計らう。
そして、剛速球のように大木を投擲した。

闇を切り裂き、矢のような速度で大質量が飛ぶ。
当たり判定が広すぎる。
如何に超人的な身体能力があろうとも、空中で完全な回避は不可能。
僅かでも直撃を受ければ甚大なダメージは逃れられない。

それを前にしながら、エネリットは動じるでもなく空中で静かに身を捻ると、自らの超力、その一端を解放した。

夜風に乗って、エネリットの髪が靡いた。
否。それは風によるものではない。無数の髪がまるで意志を持った蛇のようにくねりながら蠢く。
不気味なまでに生命を帯びた黒光りする細い繊維が網のように絡まり編み込まれていった。

エネリットの操る髪の網が、向かい来る大樹の力の均衡を変えるかのように受け止める。
しなやかにそのベクトルを変えられた大樹は、弾かれるように明後日の方へと飛んで行った。

そのまま何事もなかったように身を捻ったエネリットが、地面へと着地する。
同時に、暴走列車のように止まらなかったディビットがようやく停止した。

「…………その髪。それがお前のネオスか?」
「さて、どうでしょうか。そちらこそ、その異常な筋力。それがあなたのネオスですか? ディビットさん」
「さてな」

問いながら、互いにそれだけはないだろうと、察するものがあった。
超力は各々が持つ基本技能にして奥の手である。
よほどの考えなしでもない限りは無意味に他人に明かすものではない。

髪を操る超力は彼の力であり彼の力ではない。
エネリットの超力は信頼で繋がれた他者の超力を借り受け使用する『監獄の王子(charisma of revenge)』。
先ほど発動したのは看守官であるマーガレット・ステインの超力『鉄の女(アイアン・ラプンツェル)』である。

幼少の頃からこのアビスに落とされたエネリットにとって、アビスの刑務官たちは育ての親も同然の存在である。
特に、マーガレットはエネリットの世話係を買って出て良くしてくれた。そこには確かな信頼関係があっただろう。
その信頼を利用した強制徴収により『鉄の女』は発動した。

だが、エネリットはその『鉄の女』によって伸びた髪を元に戻した。
ようやく相手が超力発動を確認して、本格的な戦闘を予測していたディビットは怪訝そうに眉をひそめる。
眉間の皺が寄り深く刻まれるのを意に介さず、亡国の王子は降参の意を示すように両手を上げた。

「…………自分からちょっかいをかけておいて、何のつもりだ?」
「ちょっかいって……声をかけただけでしょう?」
「この状況で呑気に声をかけただけ、なんてアホウがいるか?」

声をかけたのはエネリットの方だが、この状況で挨拶もない。
本当にそんな馬鹿がいたならそれこそ死んだほうがいい。
声をかけるからには何か意図があるはずだ。
その意図の答えを示すように、エネリットは上げていた手を下げ、ディビットに向かって握手を求めるように差し出した。


247 : アビスの契約 ◆H3bky6/SCY :2025/02/14(金) 20:23:33 /egqhIP60
「――――手を組みましょう。ディビットさん」

その行為に、ディビットは不愉快そうに更に眉根を寄せる。
言葉の意味を咀嚼するように考える僅かな間の後、重々しく口を開いた。

「……なるほどな。確かに、この刑務作業には受刑者同士が手を組む余地があるだろう」
「そう。これはたった一人の生き残りを極めるデスゲームじゃない。複数人で手を組むのは有効な手段だ」

この刑務作業は24時間で終了する。
殺し合いなど行わず、ただ逃げ回っていれば生き延びるだけならできるルールだ。
極端な話、全員が殺し合いを行わずにいれば全員が生き延びて終わる結末もあるだろう。

だが、アビスに墜ちた人間は、餌(見返り)をぶら下げられれば食いつかずにいられない欲望にまみれた獣どもだ。
仲良く手を取り合って穏便に終わる道などあり得ないだろう。
欲望により争いは確実に起きる。彼らもその例外ではない。

「だから俺に声をかけた、と?」

はいと、褐色の青年は頷きを返す。
金髪の男は、そうかと納得を示すと、差し出された手を握り返す。

「そうかい。そりゃあつまり――――俺を嘗めてるってことだよなぁ?」
「ッ!?」

瞬間、エネリットの鼻から血が噴き出した。
握った手を引き寄せられ、裏拳で鼻っ柱を殴られたのだ。

「グッ…………!?」

そのまま胸ぐらを掴まれ、地面に引き倒される。
そして倒れた胸の中心を踵で踏みつけられた。

「よぅ。バンビーノ(坊や)。髪一本動かしてみろ、その時点で胸骨ごと心臓を踏みつぶす」

声を荒げるでもなく当たり前の事実のように淡々とカモッラは言う。これは脅しではない。
先ほど見せた超筋力をもってすればエネリットの胸を踏みつぶすなど容易いことだろう。
何より、アビスの住人に殺しを躊躇うなどと言う倫理観を期待してはいけない。
やると言えばやる。この男にはそれだけの凄みがあった。

「確かに、お前は俺を見つけて声をかけるまでその行動に迷いがなかった。お前は最初からそうするつもりだったな?
 俺に殺されるかもしれないと言うリスクを承知の上でだ。
 つまり、仲間を引き込むのはお前の中での既定路線。お前は単独で戦うつもりがハナからなかったと言うことだ」

エネリットを踏みつけながら、イラ立ちを静めるように、自らのこめかみを指先でトントンと叩く。
そして、これまでの彼の行動を振り返り、その意味を解き明かし始める。

「その事実から、例えばそう、お前のネオスは集団戦を前提とした代物だと推測できる。
 だが、実際に発動したお前のネオスは出力こそ大したことはないが、単独で発動、戦闘が可能なものだった。
 どう考えるべきかな、これは? 本当にあの力はお前だけのものなのか?」
「さて……解釈はご自由にどうぞ……ッ!? あ………………くっ!!」

ふざけた回答の代償にあばらを踏む踵がグリとねじられた。胸を抉る痛みに、エネリットが声を上げる。
言葉では誤魔化しながらも、凄まじい洞察力で超力を見抜くディビットの鋭さに、流石のエネリットも内心で舌を巻いていた。

それもそのはず、現在『4倍賭け』をディビットはその知力に割り振っていた。この超推理もそのためだ。
だが、その仕組みを知らぬエネリットの目には、ディビットは凄まじい腕力と知力を持つ正真正銘の怪物に映っただろう。
裏を返せば、筋力は通常のものに戻っているため、一息に踏み殺すことが難しくなっているのだが、それを悟らせないほどにディビットの威圧と恫喝は堂に入っていた。

まず痛みを与え肉体を屈服させ、さらに精神的なアドバンテージも得た。
悠々と見下ろす者と、地に伏せ踏みつけられる者。その立場は誰の目にも明らかだった。
逆らう事の出来ない優位を示し、そこからがスタートラインだ。
これがマフィアの交渉術である。

「質問を変える。手を組むだけなら、別の当てもあっただろう?
 こうして殺されるリスクを負ってまで俺を選んだ理由はなんだ? 俺なら言いくるめられると思ったか?
 たまたま最初に出会ったから、なんてふざけた回答をしやがったら即座に殺すぞ」

その問いには、返答を間違えれば即座に殺されるだろう威圧が籠っていた。
その言葉の通り、手を組むだけなら簡単だ。生き残りが一人でない以上有用な手段である。
このアビスにも外道でありながら己を平和主義者だと勘違いした輩も少なからずいる。
そういった輩であれば少ないリスクで仲間を増やせるはずだ。

「…………そういう所ですよ」

普段と変わらぬ様子でエネリットは答えた。
踏みつけられ、泥にまみれながら、鼻血を流しながらも優雅に気品さえ感じさせる笑みを浮かべる。
この状況で異様と言うならば、あるいは青年の方が異様だった。


248 : アビスの契約 ◆H3bky6/SCY :2025/02/14(金) 20:24:02 /egqhIP60
「状況を見てこちらの意図を察する、冷静な頭がある。それでいて狂気ではなく理性で冷徹に手を下せる。このアビスで貴重な存在だ。
 僕が求めているのは共にポイントを稼げる相棒だ。日和見主義の人間ではない」

理性のない殺人狂や理解不能の思想を持つテロリストは問題外。
破綻者ばかりのこのアビスで、まともな取引が成立する相手は限られている。
組織の金庫番として秩序を守護ってきた理性の怪物。ディビットはその数少ない稀有な人材であった。
それを証明するように現にまだ殺されていない。こうして最低限の交渉の形はとれている。

「まさか。今が狙い通りの状況だとでもいうつもりか?」
「まさか。ここまで命を握られる状況になるとは思ってませんでしたよ」

ハハと地の底の王子は笑う。
殺意を持った相手に踏みつけられた状態で、まるで日常の冗談でも笑うように。

「だとしても、それはお前の理由だな。俺がお前と手を組む理由がどこにある? ここでお前を殺して100ptを得た方が手っ取り早いだろう?」

ディビットがエネリットの求める人材だったとしても、ディビットからすればそうではない。
勝算のない交渉を持ち込むようなバカならば、そもそも要らない。
ここで殺してしまった方がよっぽどディビットの得になる。

「たった100ptで満足ですか? 確かに貴方の刑期であればそれで事足りるでしょうが、より多くを求めるのが貴方でしょう?
 一人と二人、どちらがそれを成し遂げやすいか、その計算ができない貴方ではないでしょう?」

個人主義の犯罪者どもの多いであろうこの場においては、集団であること自体が大きなアドバンテージだ。
恩赦Pを稼ぐにしても1人で戦い利益を独占するよりも、2人で稼いで分け合った方が効率的だろう。

「ふん。知った口をきくじゃないか、バンビーノ」
「アビス暮らしが長いもので。囚人の事であればある程度の事情は存じてますよ」

物心がつく前からアビスで生まれ育ったエネリットからすれば、むしろそれ以外の事は知らない。
彼にとってはアビスの住民こそが世界の全てだ。

「そう言うお前の事情はどうなんだ? そこまでするのは何が目的だ?」
「もちろん、刑務作業を全うしてポイントを得ることですよ」
「違うな。それは手段だ。ポイントを得て何がしたい? そこまでして娑婆に出たいか?」
「それは出たいでしょう。誰だってそうでしょう? 違いますか?」
「その通りだ。だが、お前の場合は違うだろう?」

エネリットの答えは囚人たちの一般論でしかない。
エネリットの事情は特異だ。
彼がアビスで育ったアビスっ子であることはアビス内でも有名な話である。
何せアビスが年端もいかぬ受刑者を受け入れはじめ託児所めいた状態になっているのは、他ならぬ彼の影響だ。
赤子の頃からアビスで育ったエネリットが帰る場所など、その世界のどこにもない。

「僕の事情に興味がありますか?」
「いや、ないな」

相手の事情など心底どうでもいい。
重要なのはそこに自分の利益があるかどうかだ。

「だが、取引相手を信頼する必要はないが信用する必要はある。
 働きに見合う報酬を求めないものを俺は信用しない。どれだけ俺に利益をもたらすとしてもだ」

そう言う輩と手を組む事は将来的な不利益しかもたらさない。
動機の見えない相手はいつ裏切ってもおかしくはないからだ。
背中の心配をするにしても最低限にしておきたい。

その言葉に、命を握られた状況でも楽しげな様子を崩さなかったエネリットの表情が真剣な色を帯びた。
切れ長の目が細まり、その瞳に闇よりも暗い炎が灯る。
これまでとは違う真剣な様子で口を開く。

「――――どうやっても、殺したい相手がいます」

その瞳に宿る感情。
裏社会で生きてきたディビットからすれば、パスタ屋のミートソース以上に見慣れた色だ。

「復讐か」

『開闢の日』以降、世界には悲劇がダース単位で転がっている。
恨みや辛みなどありふれているが、それだけに理由としては納得がいくものだ。
ディビットの信用を得るためのブラフである可能性はある。
だが、少なくとも多くの炎を見てきたディビットからしても、エネリットの目に宿る暗い炎は嘘ではないと感じられた。

「そいつは中か? それとも外か?」

恩赦を得て、外の世界で復讐を果たしたいのか。
それとも、復讐相手はこのアビスにいる、刑務作業に参加する誰かなのか。そう問うていた。
その問いにエネリットは、うーんとわざとらしく唸った後。

「それ以上はお互いの信頼を深めてから、ということで」

今は話す気はない、とそう言った。
こいつが話したくない事を話さない輩であることはここまでの短いやり取りでも感じられた。
ディビットも知りたいのはエネリットの動機であって仇自体に興味はない。
行動理由を把握できた以上、それ以上の追及はしなかった。


249 : アビスの契約 ◆H3bky6/SCY :2025/02/14(金) 20:24:39 /egqhIP60
「そもそも、お前は看守共の言う恩赦とやらが本当だと信じているのか?」

仮に十分な恩赦Pを稼いで刑務作業の終わりを迎えられたとしても、素直に出獄させてくれるかは怪しい。
何らかの物言いが付く可能性もあるだろうし、そもそもそれ自体が罠である可能性も高い。
あのオリガ・ヴァイスマンという男は信頼も信用も素直に出来る相手ではない。
それは囚人たちの共通認識だろう。

「分かりません。しかし、それを今考えるだけ無駄でしょう? ならば、やっておくに越したことはない」

考えても仕方のないことは考えない。
何とも潔い割り切り方だ。
もし本当だったときにやっていなかったら、後悔してもしきれない。

その判断にリスクがあるとするならば、嘘だった場合ありもしない報酬のために人を殺した罪を背負う事になる、と言うことだが。
それは、この地の底ではリスクにはなりえない。
死んで当然、殺して当然の連中の集まりだ。
罪悪感など抱く意味すらないだろう。

「……いいだろう。お前の提案に乗ってやる」

その答えが気に入ったのかディビットはクッと笑って僅かに口端を吊り上げる。
全てを信用するわけではないが、全てのリスクを込みで総合的に己に得がある取引だと金庫番は判断した。

ディビットはエネリットを踏みつけていた足を上げると、その場から一歩下がり僅かに離れる。
手を差し伸べなかったのはまだ全てを信用したわけではないという警戒心の表れだろう。
エネリットはそれを気にせず、ふぅと軽い調子で一息ついて鼻血を拭うと、体の土を払いながら立ち上がった。

「では、分け前の話だ」
「最初の議題がそれですか……」

真っ先に報酬の話になるあたり、この男の拝金主義は筋金入りだ。
エネリットの呆れの声を無視して、ディビットは互いの首元、そこにある指輪を交互に指さす。
そこには「20」と「無」の文字が刻まれていた。

「まず、大前提として俺とお前では必要なポイントが違う。
 まさか、自分の方がポイントが必要だから多く融通しろ、なんてふざけたことは言わないよな?」

懲役20年を喰らい既に4年の刑期を終えているディビットは64ptあれば出獄できる。
それこそ死刑囚の首輪一つでノルマはクリアできる。
それに対して、無期懲役であるエネリットは400ptが必要となる。
是が非でも恩赦Pが欲しいのはエネリットの方だろう。

「もちろん。そこは平等(フェア)に行きましょう」
「フェアと言ってもどうする? ポイントの共有はできないだろう?」

建前として、恩赦Pは罪人を罰すると言う善行をポイント化したものだ。
当然と言えば当然なのだが、恩赦Pを他者に譲るような機能は存在しない。

「分け前は首輪単位で行いましょう。首輪のポイントがいくつでも文句は言わない約束で、獲得した首輪は交互に所有する権利を持つ、でどうです?」
「首輪の”所有権”、か。またつまらんことを考えているな、バンビーノ」
「ハハ。そう言わないで下さい」

即座に自分の思惑を見破られたことに、エネリットは照れ隠しのように笑う。
青年の所作は状況に見合わぬほどさわやかだ。

恩赦Pの獲得は装備者が死亡した首輪とデジタルウォッチの接触によって行われる。
つまり、すぐにポイントを得るのではなく殺した相手の首を切り離し首輪を保持しておけば、首輪自体が交渉に使えるカードになる。

「ま、いいさ。お前が得たものをどうするかまで口を出すつもりはない。
 ただし、俺の不利益になるような事をするな。100pt以上の価値を俺に示し続けろ。そうでなくなったのならこの取引はなくなると思え」
「もちろん、心得ていますよ。首輪の所有権の先行はそちらにお譲りしますよ」

最初に獲得した首輪の権利はディビットに、次の首輪はエネリットのものになる。
アビスの森の深淵を舞台に契約は交わされ、二人の協力関係は始まった。

これは信頼によって結ばれた契約ではない。
損得関係だけで結ばれた、いつ背中から刺されるかもしれない危うい関係である。

だが、今はそれでいい。
互いにそう考えている。

このアビスにおいて信頼関係などありはしない。
己が損得のため、他人を利用するのだ。
それがアビスの契約である。

【C-4/深い森/1日目・深夜】
【エネリット・サンス・ハルトナ】
[状態]:鼻と胸に傷
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.復讐を成し遂げる
1.標的を探す
2.ディビットの信頼を得る
※刑務官『マーガレット・ステイン』の超力『鉄の女』が【徴収】により使用可能です
 現在の信頼度は80%であるため40%の再現率となります。【徴収】が対象に発覚した場合、信頼度の変動がある可能性があります。

【ディビット・マルティーニ】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.恩赦Pを稼ぐ
1.恩赦Pを獲得してタバコを買いたい
2.エネリットの取引は受けるが、警戒は忘れない


250 : アビスの契約 ◆H3bky6/SCY :2025/02/14(金) 20:24:51 /egqhIP60
投下終了です


251 : ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:52:09 0TZke87g0
投下します。


252 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:52:50 0TZke87g0



【死刑囚】
【ギャル・ギュネス・ギョローレン】

【指名手配犯】
【国際的請負テロリスト】
【享楽的爆弾魔】
【自称“永遠のギャル”】

【本名不詳】
【年齢不詳】
【性別不詳】
【国籍不詳】

【十数年に渡る活動】
【一度捕縛されるも護送中に脱走】
【以後世界各国を転々】
【請負の破壊行為を繰り返す】

【主義信条や国家を問わず】
【依頼対象のみを攻撃する】
【当人の一切の目的・思想は不明】

【数々の大規模破壊・大量殺人に関与】
【政情不安定な紛争地域への介入も確認】
【相当の危険人物につき】
【最大限の警戒が必要……】

【××××年 ×月×日】
【当人の意思により投降】
【無抵抗のまま捕縛】
【司法手続きを経て】
【アビスへの投獄が決定】





253 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:53:33 0TZke87g0



「――♪」

 紺色の夜空の下。
 そこは、真夜中の舞台。

「――♪ ――――♪」

 海辺の海岸。
 夜に照らされる浜辺。

「――――――♪」

 鼻歌交じりに、“彼女”はステップを踏む。
 足場の悪い砂浜でありながら、軽やかに踊る。

「――♪ ――♪ ――♪」

 楽しげに、華やかに。
 “彼女”は、この戦場を踊り場へと変える。

 その女は、おおよそ囚人とは思えぬ姿だった。
 金髪の髪を揺らし、爽やかな笑みを湛えている。
 収監されていたにも関わらず、褐色の顔は化粧で彩られたように綺羅びやかである。
 まるで十代の少女のように、あどけなく麗しい姿だった。

 何より“彼女”は――キラキラしていた。
 美少女である。JKである。ギャルである。

 その女は、死刑囚だった。
 ギャル・ギュネス・ギョローレン。
 世界を揺るがす、享楽の“爆弾魔”だった。

 愉快げに踊っていた彼女は、ぴしっとポーズを決めて静止。
 そのまま満面の笑顔で、両腕を大げさに広げてみせる。

「ほら、見てよ!空も海も、ちょーきれい――」

 “爆弾魔”は、夜空を背にする。
 宵闇の空には、微かに星が煌めいていた。
 その灯りは海面をも照らし、光を反射するように輝いている。
 そんな景色に感激するように、“爆弾魔”は語り続ける。

「――ね、アンちゃんっ♡」

 そうして、“爆弾魔”は。
 すぐ傍に横たわる“女軍人”へと呼び掛けた。


254 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:54:06 0TZke87g0
 飄々と歩を踏むギャルとは違い。
 その女は、岩場に背中を預けるように座り込んでいた。

「……気安く呼ぶな。虫酸が走る」

 アンナ・アメリア。
 東欧某国の紛争で活躍した女軍人。
 民兵を率いた数々の虐殺を指揮した凶人。
 苛烈にして冷徹、そして独善的。
 故に戦後は、A級戦犯として処された。

「こうして会うのさ、ちょー久しぶりだよねっ?」
「あの紛争以来だ、雌豚め」
「真っ先にアンちゃん見つけられてさ、まじラッキーだったよ!」

 まるで古い友人のように気安く、馴れ馴れしく話し掛けるギャル。
 そんな彼女に、アンナは素っ気なくあしらうように応対する。

「あんときの仕返し、できたしねっ!」

 そう言って、ギャルはアンナの姿を見下ろした。
 ――アンナ・アメリナは既に満身創痍だった。
 全身は爆熱によって焼かれ、痛ましい火傷に満ちている。
 右足は膝から先を喪っている。“爆弾”によって吹き飛ばされたのだ。
 彼女が再起不能であることは、誰の眼で見ても明らかだった。

「……そうだな。称賛の言葉くらい送ってやる」
「え、そっけなくない!?ぜんぜん褒めてる感じじゃなくない!?」
「文句を垂れるな。豚如きへの最大限の賛辞だ」

 海岸の岩場にもたれ掛かるアンナは、飄々と話し掛けてくるギャルへとふてぶてしく応える。


255 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:54:38 0TZke87g0

 ――こうなった経緯は、単純な話だ。

 開幕から間もなく、ギャルはアンナを発見。
 過去の遺恨を持つギャルは、彼女に対する奇襲を仕掛けた。
 アンナは自らの超力による自己強化で応戦するも、集団戦と武装によって猛威を振るうその異能は“突発的な丸腰の交戦”で本領を発揮できず。

 尚且つアンナの超力を過去に把握しているギャルは、徹底的に彼女の強みを潰す猛攻によって追い詰めた。
 自己強化によって耐久力を高められると言えど、同じネオスによる猛爆撃を完璧に凌げる訳ではない。

 そうして、アンナは敗北した。
 ただ、それだけのことだった。

「つかさ、アンちゃん」
「何だ」
「思ったより大人しいねー」

 やがてアンナの顔を覗き込みながら、ギャルがそんなことを言ってきた。
 死にかける女軍人を、爆弾魔はじっと見つめている。

「どういう意味だ」
「もっとこう『馬鹿なー!!』とか『私がこんなところで死ぬわけがー!!』とか、そういうの叫んで死ぬタイプだと思ってた」
「お前、私を何だと思ってる?」
「えへへへへ」

 存外な印象を抱かれて、思わずアンナは眉を顰めた。
 “私を漫画本の悪役か何かだと思ってるのか”と、問い質してやりたいところだった。

「……まあ」

 その上で、アンナは否定もせず。
 何処か落ち着き払った声で、言葉を紡いだ。

「死ぬと分かれば、案外清々しい気持ちにもなるものだ」

 そう語るアンナの表情に、憤怒や無念はない。
 あるのはただ、現実に対するあるがままの受容。
 避けられぬ運命を受け入れるように、心の荒波は既に凪いでいた。

 アンナも、ギャルも、振り返っていた。
 眼の前の“敵”と邂逅した、過去の紛争のことを。





256 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:55:13 0TZke87g0



 この刑務から遡り、およそ2年ほど前。
 そこは、東欧のとある紛争地帯。
 開闢の日以降、政情が著しく不安定化した地域。

 超力によるパワーバランスの急激な変化等を要因とし、長らく近隣の二国間による緊張状態が続いていた。
 それでも辛うじて均衡と現状維持を保ち続けていたものの、片側の国家において“タカ派の軍高官”が政権を掌握。
 急進的かつ好戦的な方針を掲げて軍事を動かし、冷戦状態だった情勢は遂に一線を越えた。
 そのまま瞬く間に“熾烈なる戦禍”へと縺れ込んだのである。

 そして、ある都市の一角。
 突発的な戦場と化した市街地。
 周囲からは銃声や怒号が聞こえてくる。
 既に両軍の衝突は始まっているのだ。
 徐々に、徐々に戦禍が広がっている。

『なんなの、あいつら……!!』

 そんな死地の中に、着崩した制服のような衣装に身を包んだ“JK”がいた。
 褐色の肌と金髪が際立つその女は、悪態をつきながら路地にて建物の陰に身を隠していた。

 爆弾魔、ギャル・ギュネス・ギョローレン。
 彼女はいま、決死の撤退の最中だった。

『ほんっっとに……かわいくないんだけど!!』

 数年に渡る紛争の中。
 敵国によって占領された都市。
 その軍事拠点に対する徹底的な破壊工作。
 それが此度のギャルが請け負った依頼だった。


257 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:56:10 0TZke87g0

 既にギャルは“爆破”を果たしている。
 彼女の大規模な破壊工作を火蓋に、依頼主側の軍隊は都市奪還へと向けて侵攻を開始していた。
 後は兵士達に任せて、ギャルは早々に引き上げるだけ。その筈だった。

 爆弾魔が身を潜めていた路地に、壮絶なる爆音が轟く。
 それに気づいた彼女は、咄嗟にその場から駆け出した。

 ――――次の瞬間。
 ――――ギャルがもたれ掛かっていた建物が。
 ――――瞬く間に、巨大な風穴だらけとなる。
 ――――まるで、砲撃にでも抉られたように。

 穴の空いたチーズと化した建物が、そのまま崩れ落ちるように倒壊していく。
 けたたましい轟音が響き渡り、砂塵や粉塵が撒き散らされる。
 まるで地震か何かのような大破壊が、瞬きの内に巻き起こる。
 ギャルはその被害を振り返って一瞥しながら、とにかくその場から離れることに徹した。

 建物が崩れ落ち、塵と灰が舞い上がる中。
 薄汚れた蜃気楼を突き破るように、無数の影が姿を現す。
 軍靴の音が響く。軍勢が行進する。
 その先陣を切るのは――――軍服に身を包んだ、白人の美女だった。

 一見軍人とは思えぬ可憐な風貌とは裏腹に、鋭く歪ませた眼差しには激情が宿っている。
 有り合わせの迷彩服などに身を包んだゲリラ風の民兵達を率いて、彼女は最前列で進撃していた。

 アンナ・アメリナ。
 前線指揮を担う若き女軍人。
 可憐にして苛烈なる殺戮者。
 “タカ派の軍高官”が政権を掌握した某国において、その美貌とカリスマ性によって多数の民兵達を統率した人物だった。


258 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:57:39 0TZke87g0

 民兵達はそれぞれ、小銃や散弾銃などの火器で武装していた。
 ――そう、ただの銃である。
 ロケット砲のような大火力を齎す武装は備えていない。
 ただの銃が、爆撃に匹敵する先程の大破壊を起こしたのだ。

 アンナの超力は“自身と自身の指揮下にある者達の強化”。
 彼女の思想に同調している者ならば、その強化の幅は飛躍的に向上する。
 そして強化の恩恵は対象者達の身体能力のみならず、装備している武装にまで及ぶのだ。
 故に彼らの持つ武器は、限界を超えて驚異的な火力を発揮する。

 ただの銃器で武装しているだけの民兵。
 その一人一人が、爆撃に匹敵する火力を備える。
 そんな彼らが数百、数千の部隊として前線に立っているのだ。
 紛争におけるその脅威は、計り知れない。
 

『――――狩りの時間だ!!!』


 そして、アンナが声を張り上げた。
 その高らかなる叫びと共に、粉塵が掻き消えた。
 まるで声そのものが風圧か衝撃波と化したかのように。


259 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:58:20 0TZke87g0

『諸君らに問う!!!奴らは人間か!!?』
《――――否!!!否!!!否である!!!》

 アンナの声に、民兵達の歓声に、熱が宿る。

『諸君らに問う!!!奴らは何者だ!!?』
《――――畜生である!!!豚である!!!》

 煽るような戦乙女の声が、熱狂を生み出す。

『諸君らに問う!!!豚に慈悲は必要か!!?』
《――――奴らは人に非ず!!!人に非ず!!!》

 苛烈にして鮮烈。民兵達の高揚が、限界まで引き出されていく。

『諸君らに、問う!!!』

 アンナは、更に勇ましく。
 その屈強なる声を張り上げた。

『――――ならば、どうする!!?』
《――――豚は死すべし!!!殲滅あるのみ!!!》

 戦乙女は、高らかに問う。
 民兵達は、高らかに答える。
 彼らは狂気と殺意の下、一丸の怪物と化す。

『宜しい――なれば一人残らず逃がすな!!!』

 やがてアンナの一声と共に、民兵達が一斉に動き出す。
 まるで血に飢えた猛獣のように、暴力的な瞬発力によって戦場を駆け抜けていった。
 そしてその一部が、“爆弾魔”の追跡へと向かう。

『殲滅しろ!!!塵は塵に!!!灰燼へと帰せ!!!』

.


260 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:59:08 0TZke87g0

 既に戦禍の市街地――ビルの屋上から屋上へと縦横無尽に跳躍していたギャルが、背後を振り返った。

『我らの国家に栄光あれ!!!我らの理想に栄光あれ!!!』

 あれだけの演説を奮っていたにも関わらず、彼ら民兵は瞬く間にこちらとの距離を詰めに掛かっている。
 およそ数十名。天駆ける忍者の集団のように跳躍し、彼らはギャルの背後から追跡を仕掛けていた。

『この戦地に正義の旗を掲げよ!!!
 愚かな豚共を踏み潰してやれ!!!』

 そして、その追跡者達の中に。
 あの“女軍人”もまた存在していた。
 明らかに“悪名高き爆弾魔”を認識し、優先的に追い掛けている。
 
 ギャルは思わず舌打ちをした。
 JKらしくない“可愛くない所作”にほんの少し後悔しつつ、彼女は懐から複数の小瓶を取り出す。
 その一つ一つが、星やハートなどの愛らしいシールでデコレーションされている。

『あっち、いけぇ――――っ!!!』

 そしてギャルは、小瓶を次々に投擲――背後から追ってくる民兵達目掛けて。
 その瓶の中には、少量の血液が込められていた。可愛いギャルの血である。

 ――――瞬間。
 その小瓶が、次々に炸裂。
 強烈な爆発を起こし、追跡する民兵達を飲み込んだ。

 これがギャル・ギュネス・ギョローレンの超力。
 自身の血液を起爆剤へと変え、任意のタイミングで爆発させる。
 彼女は常日頃から自身の血液を複数の小瓶に収め、即席の手榴弾として装備しているのだ。


261 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 12:59:49 0TZke87g0

 爆炎に包まれた民兵達が、全身を焼かれながら墜落していく。
 ある者は屋上へと叩き落ち、ある者は道路へと転落し、ある者は塵も残らず。
 紛争であるが故に、ギャルにとってはこれもまた“標的の対象内”だった。
 だから彼らを抹殺することにも躊躇いはなかった。

 しかし、その直後。
 幾つかの影が、爆炎を超えてきた。
 紅蓮の熱すら突き抜けるほどの勢いで。
 追跡を――――突撃を続けてきた。


『火遊びは終わりだ、雌豚め』


 その身に火傷を負いながらも。
 女軍人、アンナ・アメリナは止まらなかった。

 アンナの超力と特に強い同調を果たしている数名の民兵もまた、彼女に追従している。
 狂信と盲信を極限まで高めた戦士たちは、鋼のような耐久力を獲得していた。
 その狂気的な進撃を認識し、ギャルは思わず目を見開いた。


『人の形は残さん。豚は豚らしく散れ』


 狂気の戦乙女が、追跡と共に宣告した。
 敵は死すべし。豚は散るべし。
 一片たりとも残しはしない。
 それは、“爆弾魔”への処刑宣言だった。

 そして“戦乙女”は、その手に握る突撃銃をけたたましく掻き鳴らした。
 無数に迫り来る銃弾を前にし、“爆弾魔”は驚愕に揺さぶられる。

 だと言うのに――その口元に、獰猛な笑みが浮かんでいた。
 享楽的。破滅的。このスリルさえも楽しむように、テロリストは気が付けば嗤っていた。





262 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 13:00:33 0TZke87g0



「――あん時さぁ。アンちゃんから逃げんの、ほんっっとに大変だったんだからね?」
「当たり前だろう。逃がすつもりも無かったんだからな」
「アンちゃんが馬鹿みたいにバカバカ撃ってきてさー、マジ死ぬかと思ったわ」

 そして、時は現在へと戻る。
 あの紛争では、アンナこそが“追い詰める側”だったが。
 この刑務において、その立ち位置は逆転していた。

「でも結局、あーし逃げられたんだけどね☆」
「……今更誇るな。どのみちお前の“雇い主”はあの紛争に敗けただろ」
「がんばったのに、あんときは凹んだなー」

 ギャルは飄々としながら、当時を振り返る。
 そんな彼女を眺めつつ、瀕死のアンナは苦笑いをしていた。

「で……今回は、お前の勝ちという訳だな」
「そゆこと✩」

 そう言ってギャルは、渾身のギャルピースを披露した。
 アンナは思う。もはや自分は追い詰められている。
 これだけの傷を負ったのだ。この刑務を生き延びることは出来ないだろう。
 だと言うのに、不思議と心境は落ち着いていた。

 貫いてきた正義も、抱き続けてきた激情も、死と共に無へと回帰する。
 それを心の何処かで悟ったのか。まるで運命を受け入れるように、怨敵と昔話に興じていた。


263 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 13:01:35 0TZke87g0

「なあ、爆弾魔」
「うーん?」
「ひとつ、負け惜しみくらい言わせろ」

 そんな中で、アンナはふいに呼び掛ける。
 見込みなど無いと分かり切っている取引を、“ものは試し”と言わんばかりに持ちかける。

「私の命を助ければ、お前と手を組んでやる。
 恩赦など信用ならん。あの看守共に反抗して自由を勝ち取るのだ」

 ――戦犯扱いされ刑務作業をするのは甚だ不服。
 ――恩赦という形で釈放されるのも不服。
 ――この機会に反逆し、看守どもを屈服させて脱獄してやろう。

 刑務に際し、アンナ・アメリナはそう考えていた。
 彼らの思惑に乗るつもりなど欠片もない。
 己の信義と理想に則り、反抗によって奴らを制圧する。
 それこそが彼女の掲げようとした指針だった。

 されど、それも詮無き事となった。
 どうせこの“持ち掛け”は意味を為さない。

 死刑囚であり後が無いギャルにとっては、恩赦に望みを懸ける方が遥かにマシなのだから。
 そして彼女は、アンナへの恨みを忘れていないから真っ先に攻撃を仕掛けているのだ。

「やだ!」

 だからこそ、ギャルが即答したことも意外ではなかった。
 まあ、だろうな――アンナは分かり切っていた結果を前に、ふっと苦笑する。

「だってあーし、望んで刑務に参加したから!」

 されど、次にギャルが口にした一言は。
 アンナにとっても、予想外だった。

「つまり、奴らの手駒という訳か?」
「そういうんとも違うかなー?まぁ、あいつらから“刑務を円滑に動かすための駒にならないか”なんて頼まれたんだけどね!」

 アンナは驚愕と共に問いかけるも、ギャルはなんてこともなしに語る。

「でも、蹴っちゃった!あんまアガんないし!」

.


264 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 13:02:38 0TZke87g0

 ギャルは、この刑務における“駒”になることを打診されていた。
 彼女のテロリストとしての実力と実績を見込んでの提案だった。
 争いを焚き付け、戦禍を引き起こし、刑務を加速させるための“起爆剤”。
 つまり、ジョーカーという訳だが――彼女はその誘いを断っていた。

「あーし自身が望んで、これをやるの!」

 何故なら、自分の意思でプレイヤーとして参加することを選んだからだった。

 そんなギャルを、アンナは思案とともに見つめていた。
 刑務におけるジョーカーという役割を担えば、恐らくは相応の優位を得られた筈だろう。
 装備の優遇、看守側からのバックアップ、恩赦の確実なる保証――幾らでも想像はつく。
 
 にも関わらず、ギャルはそれを蹴ったのだ。
 剰え、その優位を捨てた上で刑務に参加したのだ。
 
「一つだけ聞かせろ」

 故にアンナは、問い掛けた。

「貴様は死刑囚だろう。恩赦は求めているのか」

 その上でなお、何のために刑務に参加したのかと。

「んー」

 ギャルは、わざとらしく顎に手を当てて。
 暫く考えたのちに、けろっと笑顔を見せる。

「もうそういうのはいんない」

 そうして彼女は、あっけらかんと答えた。
 何かを容易く諦め、手放すかのように。

「なんかもう、いっかなーって!」

 “爆弾魔”は、笑顔でそう言ってのけた。
 自らの眼の前にある“生きて刑務所を出る”という可能性を、呆気なく手放したのだ。


265 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 13:04:10 0TZke87g0

 そんな彼女を、アンナは何も言わずに見据えていた。
 享楽的であり、刹那的であり――ひどく破滅的。
 数々の非道な破壊と殺戮に関わった“爆弾魔”を、ただ黙って聞き届けていた。

 アンナは、振り返る。
 曰く、“爆弾魔”は思想も所属も問わない。
 どんな依頼も汚れ仕事も引き受け、自らの思惑は一切伺えない。
 目的と呼べるものも、思想と呼べるものも、彼女は誰にも明かさない。

 されど、一つだけ。
 確かなる事実がある。
 この“爆弾魔”は、ある日突然。
 自らの意思で投降し、監獄に入ったのだ。
 無論――――死刑囚として。

「貴様は、何を信じている?」

 だからこそ、アンナは最期に問い掛けた。
 硝煙の中に潜む真相を手繰り寄せようと。
 彼女は“爆弾魔”に、そう投げ掛けた。

「――――なんも?」

 返ってきたのは、そんな一言だった。
 そうしてギャルは、ひょいっと身を翻す。
 鼻歌を歌いながら、軽い足取りでその場を去っていく。

 そんな彼女の返答を聞き届けて。
 そんな彼女の後ろ姿を見つめながら。
 アンナはただ、ふっと苦笑いをした。


266 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 13:04:48 0TZke87g0

 どうせ、そんな答えが返ってくるだろうと。
 女軍人は心の何処かで、薄々と察していた。
 この爆弾魔には、理想も正義もないと。
 あるいは、それ以上の“根底”すら持ち得ないのではないかと。
 だからこそ、怒りも失望も感じなかった。
 ただあるがままに、彼女の言葉を受け止めていた。

「……豚めが」

 そして、ただ一言。
 アンナ・アメリナは呟いた。
 ささやかな侮蔑と、怨念を込めて。
 何も持ち得ぬ破壊者に対する、哀れみを込めて。

 やれやれ、と言わんばかりに。
 力無き笑みは、その口元から途絶えなかった。

 そうして女軍人は、爆弾魔へと視線を外した。
 最期に、空でも眺めることにした。
 焔のような理想には程遠い、凪のように静かな闇が広がっていた。
 今の彼女の眼には、そんな景色さえも何処か心地よく映った。


 ――――直後に、爆音が轟く。
 ――――壮絶なる爆炎が、巻き上がる。
 ――――鮮烈なる衝撃が、響き渡る。


 女軍人に仕掛けられた“起爆剤”が作動したのだ。
 満身創痍だった彼女の身体は木っ端微塵に吹き飛び、この舞台から跡形もなく消失する。
 扇動と殺戮の戦乙女、アンナ・アメリナ。
 彼女の刑務は、永遠に終わりを告げることになった。

 爆炎の中から吹き飛んできたものがひとつ。
 それは去りゆく爆弾魔の足元に転がり、やがて動きを止める。
 血肉混じりの首輪だった。彼女はそれをひょいと拾い上げ、確かめるように見つめる。
 そして爆弾魔は、ふいに後方へと振り返った。

 そこに残されているのは、焼け焦げた灰燼のみ。
 灰は灰に、塵は塵に。女軍人は、屍すら遺さずにその任務を終えた。
 その沈黙と静寂の中で、ギャルは無言のままに佇む。
 もう振り返っても、あの女は追い掛けてこない。

 それを認識して、最初に思ったこと。
 ――“ざまーみろ”。
 そして、その次に思ったことは。
 

「じゃーねっ」


【アンナ・アメリナ 死亡】





267 : 彼女はキラー・クイーン ◆A3H952TnBk :2025/02/15(土) 13:05:33 0TZke87g0



『あ?ナメんなし』
『アンタらに言われんでもさ』
『やっからね?あーし』

『あのさぁ〜』
『依頼とか仕事とかじゃなくてさ』
『恩赦?とかも別にいいからさ』
『やったげっから、刑務』

『乗ってやるから。殺し合い』

『だから、いらねーの』
『そういうズルとかみたいの』
『特別な装備とか、テコ入れとか』
『あーしは使わねーっつの』

『んん?』
『なんでか、って?』
『なんでやるのか、って?』

『うーん……』
『うーーーーーん…………』
『うーーーーーーーーん…………?』
『ごめん、なんかうまく言えないわ!』

『なんだろ』
『アレ的な』
『えっとね、うん』

『アンタらに言われてとかじゃなくてさ』
『あーし自身が、そうしたいって望んでさ』
『そんで、どかーん、ぼかーんってやって』
『思いっきり暴れちゃってさ』

『そんで』
『こう思いたいわけ』
『“今日は死ぬには良い日”』

『――的な?みたいな?かんじ?』
『ウケるっしょ?』
『いぇい☆』


【A-3/海岸の浜辺/1日目・深夜】
【ギャル・ギュネス・ギョローレン】
[状態]:疲労(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:99pt(+99年:アンナ・アメリナ)
[方針]
基本.どかーんと、やっちゃおっ☆
1.悔いなく死ねるくらいに、思いっきり暴れる。
2.ポイント、どう使おっかなー。
※刑務開始前にジョーカーになることを打診されましたが、蹴っています。
※ジョーカー打診の際にこの刑務の目的を聞いていますが、それを他の受刑者に話した際には相応のペナルティを被るようです。


268 : 名無しさん :2025/02/15(土) 13:06:01 0TZke87g0
投下終了です。


269 : ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:28:17 6RkVj3eU0
投下します。


270 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:29:11 6RkVj3eU0

 ──自由とは、誰にでも与えられるべき神からの祝福だ。
 昔一度だけ拾って読んだ雑誌。その端に書いてあった文字列を今でもよく覚えている。
 
 感銘を受けたわけではない。
 ましてや覚えておこうと意識したわけでもない。
 ただ、強く心が打ち震えた。

 幼き頃の自分──ネイ・ローマンが知る由もなかったが、その時抱いた感情はどうやら人様においそれとひけらかせるものではなかったらしい。

 殺意や破壊衝動が〝わるいもの〟だと知ったのはつい最近のことだ。
 だってそうだろう、生まれてからずっと世界中に対してそれを抱いていたのだから。
 生まれてこの方手放したことのないそれが世間一般様から見れば〝異常〟なのだと、そう突きつけられた時の衝撃は忘れられなかった。


 言うまでもなく、あの文字列に抱いた感情も〝それ〟だ。


 自由とは神の祝福。
 ならばそれを与えられなかった自分は、神に見離されたというのか。
 いや、そもそも見つけてすら貰えなかったのかもしれない。なんせこの世には人間など掃いて捨てるほどにいるのだから。
 それなら見落とすのもしかたがないか──なんて思えるような大人な感性はあいにく持ち合わせていない。

 荒んだ環境に数え切れないほどの悪態をつき、数え切れないほどの悪意を抱いた。
 けれどひとつ、ストリートチルドレンの生活の中で気づいたことがある。

 自由とは与えられるものじゃない。
 与えられた時点でそれは自由ではない。

 己の手で掴み取ってこその〝自由〟だ。
 

 その日からだ。
 神を信じなくなったのは。


◾︎


271 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:29:47 6RkVj3eU0


 不快な鉄と油の匂いが鼻につく旧工業地帯。
 倒れた機材の埃を払い、それを椅子がわりに腰掛ける男────ネイ・ローマンはその特徴的な白髪を弄りながら空を見上げる。
 己の心境と対照的なまでに澄み切った星空だ。
 ふつふつと湧き上がる激情はしかし、普段のそれと比べるとあまりにも大人しい。
 その理由は皮肉にも、このクソッタレな状況にあった。
 

 デジタルウォッチを起動。
 空中に投影された画面を指でなぞり、『名簿』の欄を開いて二度指を滑らせる。
 ここに来てから幾度となく繰り返した動作だ。手慣れた指遣いが目的の名前へと最短で導く。
 

 ────ルーサー・キング。



 忘れるはずもない名前。
 この殺し合いが開かれる以前より知っている名だ。
 それもそのはず、ネイはこの男の首を狙っているのだから。

 投獄された時点で二度とは叶わぬ夢だと思っていた。しかしよもやこんなにも早くチャンスが訪れるとは。
 殺し合えと言われた人間が抱く感想ではないが、己にとって都合が良すぎて出来すぎているとすら思う。
 『アイアン』の規律と相反するマフィア、その元締めであるルーサーを合法的に殺害できる。
 
 そんな願ってもない状況だからこそ、世への〝理不尽〟を糧に憤るネイの心はやけに落ち着いていた。

「断頭台に立つ気分はどうだよ、キング」

 誰に向けてでもなく。
 強いて言うならば己の方針を定めるための独り言。

 奴に恨みを持つものは自分だけではないはずだ。いかに強大な権力もこの場では一セントの価値もない。
 きっと大勢の者があの老人の首を欲しがるだろう。
 だからこそ他の者に先を越されてはならないのに、どうにも普段通りの感情を抱けない。
 原因を解明するよりも早く、異変が訪れた。


272 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:30:21 6RkVj3eU0



 雰囲気が一変する。



 身に浴びる威圧感は、もはや質量を伴っているようにも思える。
 視線を投げた先にはなるほど、と。納得が先に出るような出で立ちの巨漢がいた。
 並の受刑者であれば彼女と出会った時点で間違いなくこう思うだろう。こいつは〝ハズレ〟だ、と。
 殺し合いにおいての〝アタリ〟とはすなわち容易に殺せる者。ならばその逆は──言うまでもない。


「よォ、アンタ。神っつーのは居ると思うかい?」


 けれど、例外はいる。

 生命を萎縮させる闘気をまるで微風のように受け流し、問いかけるネイがまさにそれだ。
 問いを受けた三つ編みの巨漢、いや漢女──大金卸樹魂は数秒重い沈黙を。
 しかしネイが問いを取り消すよりも先に分厚い唇が開かれた。

「我が拳は祈るために非ず。強者(つわもの)との闘いのために」

 口角を釣り上げる。
 確信した。こいつは自分と同類だ。
 この不愉快な気分を晴らすには丁度いい。最初に出逢えたのがこいつでよかった。

「嫌いじゃねぇぜ、そういうの」

 重い腰を上げ、目の前の漢女と見合う。
 殺人的なまでの闘気と破壊欲が衝突し、ビリビリと空気を震わせた。


◾︎


273 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:30:55 6RkVj3eU0


 先に仕掛けたのは言わずもがな大金卸。
 図体からは想像もつかない速度でネイの元へ肉薄。
 加速を乗せた左のボディブローがあばら骨をへし折らんと迫る。
 が、それはネイが後方へ飛び退いたことで鋭い風切り音を響かせるだけに終わった。

(…………あ?)

 疑問を抱いたのは今しがた空振りに終わった大金卸ではない、ネイの方だ。

 ネイはあのままカウンターの超力を浴びせるつもりで算段を整えていた。なのに、けたたましく警鐘を鳴らす細胞がそれを許さなかった。
 避けたつもりなどない、気が付けば足が動いていた。
 いつ命を失ってもおかしくないストリートファイトで培った経験が、今この瞬間〝避けろ〟と叫んだのだ。

 激情のままの戦いが通用するような相手ではない。
 それすなわち、ネイが得意とする喧嘩殺法への全否定。
 次の瞬間、疑念が確信へと昇華した。

「せぇ──りゃッ!」
「っ、」

 華麗なまでの踵落とし。
 見てからでは間に合わない。これもまた本能による跳躍でやり過ごすが、炸裂する破壊音がネイの耳をつんざく。
 避けたはずなのに届く余波に、浮遊時間がコンマ数秒延びたような感覚さえ抱いた。
 視線を少し下げれば突き破られた塩化ビニールと、剥き出しになったコンクリートの破片が目に映る。
 ほんの一瞬でも判断が遅れていたら頭蓋がああなっていた。柄にもなくネイは戦慄を抱く。


 ────まるで〝重機〟だな。

 
 腕三本分ほどの距離を取る。
 これは決して大袈裟ではない。繰り出される拳打は一撃すら貰えないのだから。


274 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:31:36 6RkVj3eU0

(身体強化系の超力か? ……〝今の〟オレじゃ相性が悪ィな)

 今の敵意、殺意を鑑みれば超力の射程距離は拳に毛が生えた程度だ。
 無鉄砲という言葉がよく似合うネイとて、こんな怪物相手に肉弾戦を挑むような無謀さは持ち合わせていない。
 一足跳びで詰められる距離に伴い、またも振るわれる拳を後退で避ける。先程からこれの繰り返し。

(くそ、うざってェ……! なんとか隙見て反撃できりゃ…………)
 
 と、己の思考に思わず噴き出す。
 この漢女相手に隙をつく、か。我ながら無理を言う。
 例えるならば砂漠の中で一本の針を探し出すような。薄く儚い勝機に気が遠くなるような感覚さえ抱く。

「ち、っ……」

 四度ほど後退を繰り返した頃だろうか。
 とん、とネイの背中に固い感触が返る。無機質で無慈悲な廃工場の壁に汗が滲んだ。
 無論大金卸はその機を逃さない。鉄槌を思わせる拳が飛ぶと同時、ネイは口角を釣り上げた。

(────ここだッ!)

 ネイは賭けに勝った。
 壁際に追い詰められた相手に仕掛けるとなれば狙うは急所。この漢女の傾向を見るに鼻柱への正拳だろうと踏んだ。

 読みは的中。
 ギリギリで身を捻り回避。
 がら空きな右の脇腹へ反撃を──と、ネイの目論見は音を立てて崩壊した。

「っ、あ゛…………!?」

 突如、吹き荒れる熱風が網膜を刺激する。
 失明するほどのものではない。が、生じた痛みと動揺はネイから反撃の一手を奪い去った。
 反射的に瞼を閉じ、刹那の時間ネイの視界には暗闇だけが描写される。
 
 まずい、という思考すら置き去りに身体が動く。
 来たるべき衝撃に備えるため両腕を交差させ防御体勢に。
 直後、その行動が決して間違いではなかったと文字通り痛感することとなった。


275 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:32:19 6RkVj3eU0



「────は、」



 昔、一度だけ大型トラックに撥ねられた事がある。
 マフィアとの抗争中、人間の手では持て余すと駆り出されたそれは当時齢十六であったネイの記憶に根深く残るほどの衝撃を与えた。
 

 今、思い出したのがそれだ。


 呼吸の仕方を忘れる。
 防御に使った両腕の感覚がない。自分がうつ伏せなのか仰向けなのかもわからない。
 手離したくなる意識を歯を食いしばり懸命に繋ぎ止めて、跳ね起きの要領で体勢を立て直す。──どうやら自分は仰向けだったらしい。

 平衡感覚の定まらない眼球が捉えたのは、信じ難い──否、信じたくない光景だった。

「…………マジかよ」

 ついさっき大金卸の正拳によって半円状に凹んだチタンメタリックの壁。
 その中心にて、深く刻まれた拳型の赤熱痕から煙が立ちのぼる。
 なぜあの時〝熱風〟が吹いたのか合点がいった。

 つまり、彼女の身体能力は超力ではない。
 およそ人に向けるには不必要なほどに磨き上げられた肉体は、超人跋扈する現代社会においても異端の極地といえる。
 旧人類が喉から手が出るほど欲した超力(ネオス)を、あくまで〝おまけ〟として戦う酔狂な者などネイの記憶の中には一人もいなかった。
 笑いすら込み上がるネイはそれを隠そうともせず、思い出したように服の汚れを払う。

「動物園から抜け出して来たのか? ゴリラ野郎」
「生憎、よく言われるので慣れた」
「そうかい。ひでェやつらだな」
「そして、そう言った者たちは全て捩じ伏せてきた」

 どうやら見た目以上に傷つきやすいらしい。
 会話に応じているあたり薬物に染まっているわけでも、快楽殺人者というわけでもないようだ。
 だからこそ、ネイは浮かび上がる疑問を口にせずにはいられなかった。

「おいアンタ、なんでオレに目ェつけた? 恩赦Pが目当てなら見合わねェだろ」

 と、自身の首輪を指差す。
 ネイの刑期は15年。大金卸の首輪に刻まれた『無』の字を消し去るには遠く及ばない数字だ。
 一気に100のポイントを得られる無期懲役や死刑囚が数多に居る状況。15などというはした数字はリスクや労力を鑑みても無視していいはずだ。
 それこそルーサーのように恨みを持たれているわけでもないのだから尚更。

 しかし当の大金卸樹魂は、なぜ今更にそのような事を聞くのかが理解できないといった顔だった。

「〝そんなもの〟に興味はない。我の欲望は一つ、強き者との血湧き肉躍る決闘のみ」

 一拍の間を置き、彼女が答える。
 ネイの瞳孔が大きく開いた。と、次は猛禽類の如く絞られる。


276 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:33:36 6RkVj3eU0

「…………イカれてるぜ」
「それも、よく言われる」

 同時に、直感する。
 この漢女には勝てない。
 戦闘面ではなく、掲げられた〝自由〟のスケールで。

 殺したら褒美をやる。
 どんな犯罪も合法化してやる。
 
 そんな甘言に乗せられてまんまと殺し合いに乗るような受刑者は大半を占めるだろう。
 自分もそうだ。ルーサーを殺したいという欲求は自分がそうしたいからではなく、オリガ・ヴァイスマンの語った〝ルール〟に反していないからに過ぎない。

 この漢女は、違う。
 ここが殺し合いの認められた場でなくても、表向きは平穏を当然としている娑婆であっても、彼女の意思は変わらないだろう。

 これ以上の自由があるか?

 己の手で掴み取る〝自由〟をなによりの信条としているのに、誰かに縛られて行動するなど根本から違う。
 それが例えこのアビスを支配する神(オリガ)であっても、だ。
 

(────ンだよ、ハナっから負けてんじゃねェか)


 途端に両足から力が失われる。
 支えを失った身体は膝から崩れ落ちようとして、
 


「……………………あ゛?」




 踏みとどまる。
 殺意すら滲む威圧の声は、他ならぬ自分へ向けて。

 ────オレは今、何考えてた?

 ネイの奥底からヘドロじみたどす黒い感情がふつふつと湧き上がる。
 敵意、殺意、害意、戦意、ストレス、憎悪、不満、悔恨、破壊衝動。
 今まで幾度となく抱いてきたそれらが、狂瀾の如く襲いかかってきた。

 このネイ・ローマンが敗北を認める。
 十九年の時を生きてきた中でそれがいかなる異常事態なのか、それは彼自身が一番理解している。
 銃口を突きつけられようと、四肢をもがれようと、目を抉られようと、負けを認めない限り〝負け〟ではない。
 ネイ・ローマンという男はそのつもりで生きてきた。

 それが今、認めた?
 どんな拷問も屁でもないと息巻いていた自分が、死んでもいないのに負けた?

 そのどうしようもない事実が。
 撤回しようにもできない確実な過去が。


 ネイの『破壊の衝動(Sons of Liberty)』に火を付けた。


277 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:34:11 6RkVj3eU0



「…………クソが、舐めんじゃねェよ」



 路地裏に行けば幾らでも飛び交うような陳腐な放言。
 しかし、それに込められた黒い感情は大金卸をもってして警戒の二文字を過ぎらせた。
 ゆらりと揺れ動くネイの肉体はまるで無防備。路上喧嘩だけの世界しか知らない井の中の蛙は、大海を億さず突き進む。

「泥に塗れたパンを食ったこともねェ。雨水一粒殺し合って奪ったこともねェようなやつが、でけェツラしてんじゃねェぞ」

 宵闇の帳が、星々の煌めきがネイを主役に駆り立てる。
 天然のスポットライトを浴びた役者はひどく緩慢に、ひどく無謀に素人丸出しの突進を繰り出す。
 極限まで身体を鍛え上げた大金卸から見れば当たる方が難しい。どころか、反撃によりその胸骨をぶち折ることも容易いだろう。

 だが、彼女は初めて距離を取る。
 固い床に足跡が残るほど勢いよく。
 これまでネイがそうしてきたように、否それ以上の間合いを測る。荘厳な顔立ちは一層の険しさに深みを増した。



「────くたばれよ、ワンダーボーイ」



 拳が振るわれる。
 虚空を叩くはずだったそれは不可視の衝撃波を顕現させ、爆音が静寂を切り裂いた。


◾︎


278 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:34:32 6RkVj3eU0


 殺す。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
 壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す。


 開闢の日以前であれば生きるのに不必要などす黒い感情。
 けれど、ネイが生まれたその瞬間からはそれを持たぬ者から死んでいった。

 この刑務作業においてもそうだ。
 真っ当ではない罪人という立場も忘れて殺る気になれないやつは死んだも同然。さきほどまでのネイがまさしくそれ。

 理由なんて要らなかった。
 ただ壊したいから壊す。
 ただ殺したいから殺す。

 それこそが、真なる自由。
 何一つ与えられなかった世界を生きてこられたのは、己の手で奪い取ってきたからだろう。

 自由の息子達(Sons of Liberty)よ、立ち上がれ。
 
 衝動のままに生きろ、ネイ・ローマン。


◾︎


279 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:35:03 6RkVj3eU0


 爆発事故でも起きたような破壊跡。
 戦場であった工業地帯の一部は吹き飛び、へし曲がった鉄柱や不自然に抉れた工場の壁がその凄惨さを物語る。
 支えを失った鉄柱からギイギイと音が鳴り響く。塵煙が晴れると同時、ネイの瞳は有り得ないものを捉えた。


「…………バケモンが」


 家屋すら消し飛ばす衝撃。
 人間ならば間違いなく跡形も残らない威力のそれを受けても尚、大金卸は立っていた。
 どころか、その肉体にはほとんど傷が見受けられない。
 交差された両腕は防御のつもりだろうか。無論、その程度で防げるような衝撃ではなかった。

 本能による危機察知能力はなにもネイ・ローマンにのみ与えられた恩恵ではない。
 彼の倍以上の人生経験を、戦闘経験を歩んできた大金卸樹魂であればその直感はより鋭く、正確なものとなる。
 それに彼女の並外れた瞬発力、判断力が合わされば。ネイの拳が振るわれる一瞬の間に範囲外へと逃れることを可能とした。

(クソが、)

 あの一撃で仕留めきれなかったのは手痛い。
 タネが割れた以上、もう一度超力を使用する前に距離を詰められるだろう。そうなれば今度こそ無防備な身体に拳が突き刺さる。

 そして今、動揺が殺意を上回ってしまった。
 殺意や敵意に応じて範囲が変わるネイの超力では不確定要素が多い。
 出方を伺うため構えを解かないまま睨み合う。
 すると、先に拳を下ろしたのは大金卸の方だった。

「やめだ」
「……あァ?」

 彼女が腕を下ろすと同時、途端に辺りを覆いつくしていた重圧が取り払われる。
 呆気に取られたネイは思わず間の抜けた声を洩らし、呆然のあとに激昂が湧き上がった。

「てめェ、勝手に仕掛けといて今更何言ってんだ! オレの超力にビビっちまったか? あ!?」

 どかどかと詰め寄り気がつけば拳の範囲内へ。
 剃刀のような眼光を大金卸へと叩きつけるも、涼しい顔で受け流されて。

「貴殿、本調子では無かろう」

 一言、返される。


280 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:35:36 6RkVj3eU0

「なんでそう思う」
「表情、筋肉の動き、息遣いの乱れ。まるで闘いに集中する者のそれでは無かった」
「おいおい、その見た目でデータキャラかよ。似合わねェな」

 肩を竦めるネイだが、仕草ほど余裕はない。
 よもやそこまで見抜かれていたとは。考えていることを表情に出す癖はどうにも直せないらしい。
 ここまでくれば隠す理由もなく、白髪を弄りながら答えを返す。

「殺してェやつがいるんだよ、アンタより先にな」
「ふ、罪な男よ。我との行為中に別の男を思い浮かべるとは」
「アンタほど魅力的な女、オレとじゃ釣り合わねェよ」

 皮肉のつもりだったが通じているだろうか。
 純粋な褒め言葉として受け取ったようで、大金卸はわずかに頬を赤らめてバツが悪そうにしている。
 鬼の形相で拳を振るっていた姿との温度差に眉を顰めながらも、ネイの脳裏には一つの名前が浮かぶ。

 ルーサー・キング。
 思えば自身の殺意の矛先はいつもここにあった。
 恐らく、奴を殺さない限りはずっとそうであり続ける。
 世にある薬物を根絶することなど不可能ではあるが、あの老人を殺すことで大幅に流通を食い止めることが出来るはずだ。
 両親が薬物に溺れ死んだネイにとって、あの老人の殺害はこの場においてなによりの行動方針となる。

「……事情は察した。ならば、その者を討て。塵ほどのしがらみも捨てて死合あうぞ」
「指図すんじゃねェ、オレが殺してェから殺すだけだ」

 およそ囚人同士の会話とは思えぬそれ。
 殺し合いをしろ、という指示はもはや二人に対して意味を成さない。彼らは己の欲求に従い道を歩んでいるのだから。

 戦いたいから戦う。殺したいから殺す。
 そして、今はその時ではないからやめる。

「ネイ・ローマン。またどっかでな」
「大金卸樹魂だ。……楽しみにしていよう」

 互いが歩みを進め、通り過ぎる。
 すれ違いざまに告げた名前を、心に刻み。
 いつの間にか、戦場の舞台である工場跡地には誰もいなくなった。


◾︎


281 : 1536℃ ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:36:08 6RkVj3eU0


 ネイの元から離れた後、大金卸樹魂は己の両腕を眼前に突き出し見やる。
 丸太を思わせるそれは相も変わらず獲物を屠ることを待ち望んでいるかのようで。しかし、己の身体である以上大金卸はすぐに異常に気がついた。

 ────震えている。

 ネイの衝撃から身を守る為、盾として使われた諸腕。
 堅牢な筋肉と骨、ゴムのような皮膚に守られたそれは生半可な攻撃ではビクともしない。
 そのはずなのに。ジンジンと熱を帯びる痛みと痺れが離れてくれなかった。

「ネイ・ローマン……いい男だ」

 戦いにおいて〝もしも〟などない。
 あの時こうしていれば、あの時ああだったら。
 そんな考えを繰り出したところで結果は変わらず、ましてや過去を改竄することも叶わない。
 大金卸樹魂は幾度もそんな言い訳を口にする者を見てきた。

 けれど、もしも。
 もしもネイ・ローマンが本調子であれば。
 この剛腕は跡形もなく消し飛んでいたはずだ。

 「浮気性なのが玉に瑕ではあるが、な」

 心が躍る。
 まだ見ぬ強者を求め、彷徨い歩く漢女。
 例え鋼鉄の鎖を何重に重ねようと縛れない彼女は、因縁や欲望渦巻くこのアビスにおいても異質と呼べる。


 熱はまだ、冷めやらない。
 

【G-3/工場跡地周辺(東側)/1日目・深夜】
【ネイ・ローマン】
[状態]:両腕にダメージ(中)、疲労(中)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.やりたいようにやる。
1.ルーサー・キングを殺す。
2.スプリング・ローズのような気に入らない奴も殺す。

【G-3/工場跡地周辺(西側)/1日目・深夜】
【大金卸 樹魂】
[状態]:両腕に痛みと痺れ
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.強者との闘いを楽しむ。
1.新たなる強者を探しに行く。
2.万全なネイ・ローマンと決着をつける。


282 : ◆NYzTZnBoCI :2025/02/15(土) 16:36:29 6RkVj3eU0
投下終了です。


283 : ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:49:27 JmwnyxNs0
投下します


284 : ツインスター・サイクロン・ランナウェイ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:49:59 JmwnyxNs0


廃棄品(クラッシュ)、失敗作(クラッシュ)。
人でなし(スクラップ)、ろくでなし(スクラップ)。
バベルの塔が雨後の竹林の如く大盤振る舞いとなった大都市圏の高層ビル。
天井の星を穿たんとばかりに延ばし続ける摩天楼。

開闢を超え、栄光の時代(ニューワールド)へと到達した人類の好奇心と悪意は留まることを知らず。
栄華を極め、薄汚れた金と権力、そんな欺瞞という名の鍍金に覆われた輝かしい表社会。
世界から爪弾きにされ、超力という暴力によって加速した混沌(パルプフィクション)。
弱肉強食の理変わらぬ裏社会。
ゴミ捨て場の掃き溜めに湧くウジ虫のように、残飯に縋る戦災孤児のように。
世界は誰が生きようと死のうと、変わっては変わることはない。

良くなると言うことには対価が必要である。
戦争なくして平和はない。逆を言えば平和なくして戦争はない。
神は世界を救わない。神は壊れないおもちゃが欲しいのではない。
永遠に遊ぶことが出来るおもちゃが欲しいのだから。

実験台のフラスコ、神々の砂場遊び。そんな袋小路に生まれた俺たちに明日はあるのか。
最初から明日だか何だか言っている暇があるなら、俺は明日の朝飯に何を食べるか考えたほうが良いと思うぜ。



廃棄品(クラッシュ)、失敗作(クラッシュ)。
人でなし(スクラップ)、ろくでなし(スクラップ)。
掃き溜めのガキが生きることで精一杯、俺の人生(いきざま)も似たようなもんだ。
生きるために依頼を受けて、仕事をこなし、端金でタバコを吸う。
闇市のタバコの味は、苦く渋い。俺の人生もそうだったはずだ。
タバコのように使い捨てられるが日常茶飯事な便利屋(ランナー)たちの、そんなろくでなし(スクラップ)の生き残り。


そんなスクラップの一体、仕事でヘマして奈落(アビス)送りになった。
そんだけの話で、終わるはずだったんだがな。
待っていたのは忘れても忘れてくれねぇ因縁と、適当な縁。


鉄屑と錆(クラッシュアンドスクラップ)。
纏わりつく蜃気楼(えにし)は何時まで経っても晴れやしない。


285 : ツインスター・サイクロン・ランナウェイ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:50:22 JmwnyxNs0
★★★


嵐が、"在る"
土砂の瓦礫が浮かび、雨粒の如く荒れ狂う。
夜闇に荒れる天候、大地すら引き裂かんとするその脅威。
まさしくそれは神の御業と幻視すべきか?
それとも運悪く起きた自然現象か?
否、否否否! これを引き起こしたるは一人の超力使い。

「ゲハハハハ! どうした銃頭(ガンヘッド)! 俺の超力(あらし)には手も足も出ねぇか!」

大笑するは、"大海賊"。
"全て奪え(テイクアンドテイク)"の擬人化、海上の悪魔(フォルネウス)、略奪王。
壊し、殺し、犯し、奪う。悪逆非道たる海賊の代名詞(カリカチュア)。
ドン・エルグランド。彼ほど新時代において海賊の名に相応しき男はいない。
隠す必要もなし、海賊の超力は吹き荒れる嵐がその象徴。
悪天候こそ船旅の誉れと言わんばかりに、彼の者は世界に雨と嵐を齎す。
嵐の夜(ワイルドハント)の再現と、己が世界の中心だと言わんとばかりに。

「お生憎、俺が出すのは手じゃなくて鉄屑だ」

嵐の中に立ち、海賊を睨むは鉄屑(くろがね)を纏う男。
『鉄の騎士(アイアン・デューク)』ジョニー・ハイドアウト。
硝煙と鉄の蜃気楼を日常とする便利屋。
並の人間では吹き飛ぶ大嵐の中、動くことが出来るのは彼が文字通りの鋼鉄(アイアン)であるからこそ。

鉄の腕、数年にも渡る自己改造の積み重ねから放たれる鉄の鞭。
無造作に振るうだけでも十分な威力。
だが眼の前にいるのは大海賊エルグランド。
この程度の雑技程度では何のその。

「フンッ!」

力を込める。鉄の鞭を、その手で受け止める。
海賊は、己が齎す嵐に飛ばされぬよう鍛錬を怠らなかった。
それはアビスの底に落ちた後も、一日も欠かさず。
嵐を操れど、その結果までは操ることは出来ぬ。
ならばその嵐を十全に活かすその身体作りこそが重要と。

「ぬぅ……?」

受け止めた直後、鉄の鞭が破裂する。
嵐にまみれて霧散するスクラップ。
嵐の勢いを利用し、後方へ大きく飛ぶ。
弾けた鉄。鉄の騎士の腕(かいな)から鉄の拳がむき出した。

「あんたに鉛玉は勿体ねぇ。せいぜい鉄屑程度がお似合いだろ?」
「抜かせ銃頭!」

嵐の勢いを再び活かし、今度は突貫。
地面から跳ねる時間を誤れば己が大きく飛ばされる。
だが、海賊に賭けは日常茶飯事。
この程度のちんけな賭けはいつも勝ち続けている。


286 : ツインスター・サイクロン・ランナウェイ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:50:41 JmwnyxNs0


海賊の拳が鉄塊を穿たんと振るう。
鉄の騎士もまた殴打にて対応す。
鉄屑で覆われている分、有利なのは鉄の騎士。

「……こいつ……!」

そのはずの海賊の拳は、鉄の騎士の内部へと確実に響いている。
思い。まるで彼そのものが嵐のように。
文字通り嵐の勢いで拳の速度を上げているのだろうが。
それれも、拳が重いのだ。

「おい、銃頭(ガンヘッド)」

ドン・エルグランドは知っている。
海というのはいつだって静かなままだということは、あり得ない。
止まない雨が存在しないように。
航海とは何時だって災難が付きまとう。
命知らずの同業者、獰猛な大鯨、そして大嵐。

「海の男ってのはな」

実力だけでは乗り越えられないものが来たならばどうすればいい?
試練の如き理不尽が立ち塞がったのならばどう抗えば良い?
答えは簡単、なんともシンプルで、答えですらならない単純なものだ。

「いつだって"乗り越える"もんだ」

その宣言と共に、嵐に紛れて飛んでくる物体が、一つ。
山岳より嵐に流れて転がり駆け抜ける大岩が。鉄の騎士に向かってくる。

「……いつからだ」
「いつからだって? んな大層な策なんぞ考えてねぇよ、ゲハハハッ!」

偶然? 必然? 航路に絶対の安全など存在しないように。
嵐というのはそういうものである。
一歩間違えば不運、機転を利かせれば幸運。

「幸運ってのも不運ってのも、嵐みてぇに勝手にやってくるもんだからなぁ!」

嵐の如く、雨の如く、幸運も不運も平等に。
不平等な世界という荒波の中、飲まれど飲まれど己を貫く。
鉄の騎士に己が矜持があるならば、この海賊は悪逆の矜持を貫かん。
豪放磊落、己の不運を幸運へと巧みに舵を切り乗りこなす。

「こいつ……!」

離脱しようとする鉄の騎士。それを逃さぬと鉄の腕を海賊が鷲掴む。
道連れ覚悟ではない、海賊は最初から全部分かっている。
鉄の騎士を盾にする。
狙ってやったわけではないのは先の海賊の発言通り。

「おおっと、手の内晒そうっていうんなら構わねぇぜ。怪我の一つ二つでてめぇを殺れりゃお釣りは来る」

ジョニーの切り札は、文字通り頭の銃口から放つ鉄の弾丸。
だがそんなもの彼と応対する者が誰であろうと最初から察せれる。
だからこその切り札、取り込んだ鉄屑を変換し生成することで打ち放つハートブレイクショット。
この状況では、狙い当ててもその後が問題。
狙いを定める、当てる、離脱する。
恐らくその工程では間に合わない。
何より反動が大きく、打った瞬間に時間切れが来るだろう。
相手としては時間切れまで待てれば、例え致命傷でも生き続けられれば勝ちとなる。
お互いの命をベットする状況下で、圧倒的に相手のほうが有利。
絶体絶命。命の危機はジョニー・ハイドアウトも何度も経験はしている。
だがこれは、流石に不味かった。
そのはずだったのだが。


287 : ツインスター・サイクロン・ランナウェイ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:51:21 JmwnyxNs0

「最も、今のてめぇにゃそれをする準備なんざ足りねぇ……あ?」

海賊の右足が、不自然に地面にめり込んだ。
まるで何かに引きずり込まれるように。

「おい、こりゃどういう……」

地面が都合よく泥濘んでいたのか、などという思考。
その海賊の1秒にも満たぬ困惑が命取り。
掴む手が緩み、鉄の騎士は再び動く。

「てめっーー!?」

沈んだ右足を引きずりあげて、すでに視界に鉄の騎士はいない。

「お代はこいつで返させてもらうぞ」

海賊の顔っ面に、右の鉄拳がめり込んだ。
殴り飛ばされると同時に、転がる大岩に巻き込まれ、遥か遠くへと転がり落ちる。
海賊がいなくなったことで、嵐も雨も蜃気楼のように消え去っていく。

「ったく。開幕からこれじゃヘビーにも程があるな」

静寂が戻った夜の下、鉄屑は尻餅をつく。
大海賊エルグランド。間違いなく強敵の一人。
この刑務とやらには間違いなく裏がある。
それに乗じて何かをおっぱじめようとする連中もまた。
この先、あの海賊と同等かそれ以上のバケモノがわんさかいるとなれば、流石に泣き言の一つも上げたくなる
アビスの中で調べ知った、ジョニー・ハイドアウト知る名前も参加しているのだろう。
少なくとも『神父』とは出来れば関わりたくない、心の内で独り言ちる。

「……そういうお前はこの刑務作業、どう思う?」

そして、もう一つの本題。
エルグランドに起きた不可解な現象の、その現況に向けて。
鉄の騎士は、"地面"へと声を掛ける。

「……どうなんだろ。と言っても、私は単純に気に入らないって所、かな」

地面から、人間が這い出した。
海を優雅に及ぶ人魚のように。
悠然と現れたのは、人間の少女。
世界を騒がせた、伝令神の名を関する『怪盗』である。


288 : ツインスター・サイクロン・ランナウェイ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:51:48 JmwnyxNs0



「延ばした手に、必ず意味がある」
それは、しつこい程に私に教えた叔父様の口癖。
人の善意が利用され、掃き捨てられるのが多くなった開闢後の時代(パルプフィクション)から、特に教え込まれることが多かった。

助けたところで意味はない、なんてことも良くあること。
善意が裏切られ、悪意に染まることなんてどこの国でも同じこと。
それでも助けを求める誰かに手を伸ばし、救うことの全てに意味がないなんて言わせない。
正義だとか、悪だとか、そういう二元論的な言い合いは好きじゃない。

そういう私も、まあ色々酷い目にあったことはある。
趣味の悪すぎるコレクターに身体いじくり回されたりしたこともあって、復帰するまで薬漬けなんてこともあった。
挫けそうな時もあるし、頭の中気持ち良いことだけ考えたほうが楽だなって諦めそうになったこともある。

そんな時に、泣いてる子どもを見ると、無性に諦めたく無いって思ってしまう。
滅茶苦茶でぐちゃぐちゃで、他人から見たら誰も寄り付かないぐらい酷い体になった私の顔を見て、必死に助けようとした底抜けのお人好しもいた。

救われない世界(アポカリプス)で、優しさを忘れないように。
誰かのために手を伸ばし、それで誰かが救われるのなら、それで良いんだと思う。

だから私は、伝え続けるの。
こんな世界でも、救いはあるのだと。
こんな地獄でも、光はあるのだと。
絶望の中でも、必ず希望はあるのだと。
強者の理論と掃き捨てられても、仕方がない。
強いも弱いも、光も闇も抱きしめて。
私は今でも、夢(きぼう)を見てる。


289 : ツインスター・サイクロン・ランナウェイ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:52:08 JmwnyxNs0
★★★



「大丈夫? おっぱい揉む?」
「こんな状況じゃなきゃ、美人のおっぱいは喜んで揉ませてもらいてぇがな、怪盗(チェシャキャット)」
「便利屋(ランナー)さん下心丸出し」

『ヘルメス』。世界各地に出没し、その超力と巧みな手腕で数々の『盗み』を成し遂げた女怪盗
世界にはまだ希望があると伝えることから『伝令神(ヘルメス)』と、彼女自身もそう名乗る。
希望の伝令者、弱者を救い悪を挫く義賊。貧困層から陰ながら人気を誇り、今なお支持者が世界各地に存在する。

「噂にゃ聞いていたが、まさかアビス送りになってたとはな。そういうヘマをするタマじゃないだろ」

ジョニー・ハイドアウトは、怪盗と面識があった。
見るからに成金な大企業のトップから金庫番(ガーディアン)を頼まれた時にか、噂の怪盗の仮面の奥の素顔をご観覧。
最も、彼女が盗み出そうとしたブツがどうにもきな臭かったのもあってか、依頼主に殺されそうになり彼女との教頭で逆に返り討ちにした。
仕事の方は依頼主が契約不履行をかましたので罰金代わりに鉛玉をお見舞いしてやったのはジョニーにとっても今でも覚えている。
彼女の手際の良さも、『いい性格』も。ジョニーは知っている。
そんな煙のように神出鬼没な彼女が、そう簡単にアビス送りになるとは思えない。

「本当なら目当てのお宝盗む程度で終わったはずなんだけれど。踏んだのは蛇の尾じゃなくての逆鱗だったわ」

そう語る怪盗の目は、軽快な口調とは裏腹に真剣そのもの。
鱈腹抱え込んでそうな汚職官僚の財宝を盗まんと、数多の警備やトラップを潜り抜け、金庫をこじ開け目の当たりにしたのは一枚の紙切れ。
触れてはならぬ場所に足を踏み入れたが為、女怪盗は世界の逆鱗に触れた。

「……何を見た」
「今はまだ答えられない。答えたら、多分あなたも巻き込まれる」

それは、怪盗ヘルメスの気遣いだろうか。
それとも本当(マジ)にヤバい案件(もの)なのか。
伝令神が見た世界の深淵は、それほどまでに深いと見る。
世界の裏側、世界の逆鱗、ジョニー・ハイドアウトにも覚えがないわけではない。
自分がアビス送りになったきっかけでもある、"あの大物"もまた。何かを知っている素振りをした。
その大物の隣にいた、あの女もまたーー。

「……どうしたの?」
「いや、アビス送りになる前のこと、思い出しただけだ」

もしかすれば、怪盗の掴んだ深淵と、自分が関わったあの一件は関わりがあるのかもしれないのかもしれない。
確証は持てない、何となくの"カン"でしかない。


290 : ツインスター・サイクロン・ランナウェイ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:54:25 JmwnyxNs0

政府は恐れている、開闢の主導者たちは恐れている。
この伝令者が抱える大きな爆弾を。
殺すべきではない、抱えた爆弾の大きさは、恐らく彼らでは抑えきれない程に。
彼女が手にした"情報"の価値は、余りにも大きすぎた。

「……依頼の受付、まだやってるかしら?」

考え込む鉄の騎士の素顔を覗き込むように、女怪盗が声を掛ける。
アビス送りになって便利屋稼業は事実上の休業中というわけだが、アビス内で特に依頼を受ける機会はなかった。

「……別に廃業したわけじゃないな」
「今のは、肯定の返事ってことでいい?」

そう受け取ってもらっても構わない、とその流れた静寂だけが答えである。
答えを受け取った、女怪盗はジョニーの身体に指文字を描く。
それは監視対策ということか?等と思いながらも。身体で隠された指文字で、鉄の騎士は怪盗の覚悟を知った。

「マジで言ってんのか、お前。分かってるのか、本当に」
「それで、世界がより悪い方向に進むかもしれない。でも、もしかしたらいい方向に進むかもしれない」

彼女がやろうとしているのは、ピトスの箱を空けるのと同義。
最後に残るものの在り処が絶望か希望か。
そんな曖昧なものの為に己の全てを掛けるつもりであるのか。

「でも、延ばした手を、意味のないものにすることだけは、絶対にしたくないの」

罵りも嘲りも、受け入れる覚悟はある。
だからこその覚悟、だからこその答え。
意味の有る無しではなく、ほんの少しだけでも良くなる明日のために。
怪盗ヘルメスは、その手を伸ばすのだ。
例えその身が取り返しのつかないことになろうとも。

「だからね、ボディーガードよろしく頼むわ、騎士さま?」
「……ったく」

屈託無い怪盗の笑みが、そこにあった。
嗚呼、こいつもそういう"諦めの悪いやつ"か、と。
己(ただしさ)を貫き続けることが出来てしまう"光"でもない
すべてを飲み込む邪悪な"闇"でもない。
ただ、ほんの少し、よりよい明日がみたいだけの、ただの。

「全部終わったら、お前おっぱい揉ませてもらうからな。あと金とタバコも忘れるなよ、怪盗(チェシャキャット)」

仕方がない、と。金切り音を響かせ頭を掻いて。
取り巻く蜃気楼は未だ晴れることはないと自嘲しながらも。
女のおっぱい一つで依頼を受けただなんて事実、知られたら恥の上塗りだ。
なので貰えるものは貰っておくと付け加えるように。
こういうのもまた、悪くない。
鉄屑と錆に縁のある人生だ、なるようになるだろう。

「返事は嬉しいけれど。……うぅ……まさか本当におっぱいのこと真に受けるなんて」
「お前の言ったことだろ、何今更恥ずかしがってんだ。お前が怪盗稼業やってた時のコスチューム見てそれ言うのか?」

何か気に障ったのか、ヘルメスが突然顔を赤らめる。
どうにも露出度の高い怪盗衣装を着ていただろ、とジョニーのツッコむ視線。
そう言えば、初めて会った時よりも、携えてる'モノ'が少しばかし大きくなったような。




「……出ちゃうの」
「………は?」
「……アビスぶち込まれる前に、人体改造の超力持ちの拷問官に、色々。ただでさえ、昔の後遺症あるのに」

今のは聞かなかったことにしよう。
ジョニーはその呟きを鉄屑の奥底にしまい込んだ。


【G-7/岩山近く/一日目・深夜】
【ジョニー・ハイドアウト】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.受けた依頼は必ず果たす
1.頼まれたからには、この女怪盗(チェシャキャット)に付き合う
2.今のは聞かなかったことにしよう


【ルメス=ヘインウェラード】
[状態]:健康、覚悟、恥じらい(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.私のやるべきことを。延ばした手を、意味のないものにしたくはない。
1.まずは生き残る。便利屋(ランナー)さんの事は信頼してるわ
2.自分で言ったこととはいえ、真に受けられるのは流石に恥ずかしい
※後遺症の度合いは後続の書き手にお任せします


291 : ツインスター・サイクロン・ランナウェイ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:54:50 JmwnyxNs0


◆◆◆

何処まで、転がったのか。
何処まで、飛ばされたのか。
大の字で地面に横たわる嵐の王。
頭から血を流すも、その上でまだ生きていた。
海の男はこんなことではくたばりはしない。

目を向ければ、廃墟が見えた。
嵐と大岩、その二つが合わさって遠くまで飛ばされたようだ。

「……ま、こういうこともあるか」

運命の女神は何処までも気まぐれだ。
海の機嫌のように、良くなることもあれば悪くなることもある。
幸運が続けばいつか不運が来る、不運が続けばいつか幸運がくる。
手違いで政府の船に殴り込んで返り討ちになった時から、あまりいい運が巡っていなかったのは事実だ。

横に目を向ければ、廃墟が見えた。
悪いことが続けば、次に来るのは良いことだ。
運否天賦。運だけが平等であるのだから。

「……次あったら容赦はしねぇ、銃頭(ガンヘッド)」

滾る怒りを抑えながら、大海賊の征く覇道は止まらない。
この刑務作業は彼にとっての幸運でもある。
殺して、奪って。そうすれば己に恩赦が与えられる。
自由が、手に入る。

「海賊は、全部奪ってなんぼだ」

命を奪い、自由(たから)を手に入れる。
海賊にはいつものこと。何も変わらない、殺して奪う日々の再開。
嵐を呼ぶ男、ドン・エルグランド。
悪という嵐は未だ止むことはない。

【D-6/平原/一日目・深夜】
【ドン・エルグランド】
[状態]:ダメージ(中)、頭部出血
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.奪い、殺し、自由を取り戻す
1.銃頭(ガンヘッド)野郎には容赦しない


292 : ◆2dNHP51a3Y :2025/02/15(土) 18:55:03 JmwnyxNs0
投下終了します


293 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/15(土) 20:39:50 bsiRrsuI0
みなさま投下乙です

>彼女はキラー・クイーン
軽いノリでいともたやすくえげつない事を行っているギャル。広範囲を単独で殲滅できるネオスで実力も強い
ジョーカー打診を断るけど、それはそれとして殺し合いに乗る。破滅的で論理性は皆無だが、恐ろしいまでの自我の強さ、今後も暴れまくりそう
初の脱落者となったアンナは戦禍のカリスマではあったが集団戦を前提とした超力はロワ内で活躍させるのは難しいよね、それを回想で活躍させるのは目から鱗のナイス発想でした

>1536℃
バチバチの肉弾戦、本格的な格闘家とストリートの喧嘩殺法の対決だったけど漢女が強すぎる、近接戦に関しては最強クラスかもしれない
恨み辛みが破壊力に直結するネイの超力はピーキーすぎて因縁のない相手には本領を発揮できなそうだね、逆にキング戦では凄まじい破壊力になりそう、あの爺さん狙われすぎでは?
漢女は武人然とした戦闘狂だけど、茶目っ気もあっていいキャラしてますね
1
>ツインスター・サイクロン・ランナウェイ
ドンの強者感がすごい、超力はほぼ役にたってないのに異常に強そうに感じられる、強いジジイが多いロワである、豪放磊落で気持ちのいいまでの悪党だ
対して、このロワでは珍しい正しきスタンスで動く貴重すぎる人間による対主催ならぬ対真実コンビ
依頼と言う関係でつながる便利屋と怪盗。狂った世の中を強かに生きてきた2人のコンビは悪人だらけのこの島でどう活躍するのか期待したい


294 : ◆njSPS38r/Q :2025/02/15(土) 21:24:13 x4.UAEi60
投下します。


295 : 真・地獄新生 PRISON JOURNEY ◆njSPS38r/Q :2025/02/15(土) 21:25:13 x4.UAEi60
世界が淀み、歪み、濁りゆく。
全てが牙を剥いたあの日から、灰色の景色は続いていた。
己に降り注がれていた光は既に奪われ、彷徨い歩く。
魂の奥底に沈めた思いは浮上する兆しは未だ見えず、此度も混沌の中を藻掻き続ける――そう思っていた。





仄暗い月明かりが炙り出すのは、廃墟群と一人の東洋人。
平々凡々たる顔立ちに、囚人服に覆われた巌のような肉体に、隙間から除く手術痕。
そして、汚泥を彷彿させるほど穢れ、濁り切った双眸。
彼の名は只野仁成。刑務作業と名のつく殺戮遊戯に飲み込まれた囚人の一人である。


すぅと薄い息を吐き、辺りを見渡す。
仁成の視界に映るのは彼の心を表したかのような文明の名残り。そこに人の気配は感じない。
その事実だけを確認すると、仁成は警戒を緩めることなく歩み始める。
結局のところ、この刑務作業は己の過去の焼き回し。
そこに自分以外の有象無象の死と牢獄からの解放というエッセンスを加えただけ。
逃亡生活を続けていた頃へと心を巻き戻し、意識を滾らせ、襲撃に備える。
その折だった。


ーーーくすくすくすくす。


「ーーーー!?」


突如として起こる、老若男女の声が入り混じった冒涜的な嗤い。
複数人による襲撃か、超力による幻惑か、そのどちらもか。
仁成の精神は張り詰めた弓の如く一気に引き絞られ、戦闘態勢へとシフトする。


ーーーくすくすくすくすくす。
ーーーくすくすくすくすくすくすくすくす。


ひたり、ひたりと声が近づいてくる。
迎撃すべく拳を構え、襲撃者を待ち、そして。


ーーーくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす。


混沌が顕現した。
黒炎でも冷気でも、ましてや毒の塊ですらない、もっと別の悍ましいナニカ。
あれに触れてはならない。あれは超力どころかヒトの魂をも喰らい、穢し尽くすものだ。
仁成の本能と経験が全力で警報を鳴らし続ける。
夜風に吹かれ、ゆらゆら揺らめきながら闇より深い黒が接近する。
仁成は待ち構え、暗黒の頂点――人間でいう脳の部分に狙いを定める。
接近、攻撃が放たれた瞬間にカウンターで脳天を打ち砕く。振り抜いた拳は腐り落ちるが己の命には変えられない。
くすくす笑いを引き連れて、闇が拳のリーチまで接近し、そしてーーー。


296 : 真・地獄新生 PRISON JOURNEY ◆njSPS38r/Q :2025/02/15(土) 21:26:03 x4.UAEi60
「まあ、自棄にならないだけ及第点か。ありがとう、戻っていいよ」


漆黒の中、聞こえてくるのは慈しみと冷徹さを感じさせる子供の声。
それと同時に嘲りが途絶え、夜闇に溶け込むように胡散していく。
そして禍々しい汚泥の中から顕れたのはこの世のものとは思えぬほど美しい”白”。


「…………っ」


思わず息を呑む。
仁成とて一人の男。アビスに収監される前ーー否、世界中が敵に回る前までは見麗しい女性には興味があり、学生時代は同年代の少女や芸能人、グラビアアイドルに惹かれることもあった。
しかし、目の前の少女はそれらを過去のものにするほど美しい。
拳を構えたまま固まる仁成に対し、少女は月のような純白の髪を靡かせて、口を開く。


「それじゃあ、早速だけど情報交換も兼ねて自己紹介といこうか。
わたしはヤマオリ・カルトの元傀儡巫女、エンダ・Y・カクレヤマ。あなたことを教えてもらえる?」





エンダ・Y・カクレヤマ。それが人ならざる美貌の持ち主の名。
曰く、彼女には「ある目的」のために、所属していた「ヤマオリ・カルト」の飾り神輿として甘んじていたらしい。
しかし、組織を乗っ取る寸前のところでGPAのエージェント達の襲撃を受け、計画が頓挫。
信者は瞬く間にエンダ一人を残して全滅。エージェント側は超力と銃火器でエンダを抹殺せんとしたものの、彼女の超力と立ち回りの前に壊滅寸前にまで追い込まれた
この争いに終止符を打ったのは一人のエージェント。
超力を喪失(うしな)い、重傷を負いながらもエンダを捕縛した。なぜ殺害ではなく生け捕りを選んだのか、エンダは語らない。


「ーーーとまあ、こんな感じかな。あとは裁判で無期懲役を言い渡されて、アビス送りになったって訳だよ。
此方の事情は伝えたんだ。次はあなたの事情を教えて、仁成」


廃墟の中、ベンチに見立てた瓦礫に隣り合うように腰かける仁成とエンダ。
ひとしきり語り終えると、少女は隣に座る東洋人に言葉を促す。


「……僕はーー」


言い淀む。目の前の少女を未だ信用しきれていないこともそうだが、彼にも易々と己の事情を話せない理由がある。
生き別れになった家族の捜索。それが政府機関と仁成の間に交わされた契約。
父、母、妹。突如として日常から弾き出された彼の唯一の心残り。
つい先ほど敵意を向け、己を害なそうとしてきた存在になど話せるはずもない。
故に偽りを口にする。


「ーージャンヌ・ストラスブールの名のもとに、フランスでテロを企てたから収監された」
「……ふーん、下らない理由だね」
「……ああ、本当に下らない」


297 : 真・地獄新生 PRISON JOURNEY ◆njSPS38r/Q :2025/02/15(土) 21:26:53 x4.UAEi60
沈黙。少女と男。互いに顔を突き合わせることもなく、ただただ時間が過ぎていく。
少女への不信感からか、仁成は口を開こうともせず、少女もまた言葉を発さない。
もうこの娘がどうなろうと知った事ではない。
その考えに至り、重い腰を上げようとしたその時。


「ーー収監された理由、嘘でしょう」


諭すような穏やかな声がかけられる。ぎょっとしてエンダの方へと顔を向ける。
金色に輝く瞳は仁成の全てを見透かしたかのような気がして。


「……君には関係ないだろう」
「あるよ。ジャンヌ・ストラスブールは一度言葉を交わした仲だ。
狂人なのは確かだけれど、今のところはメディアが騒ぎ立てるような外道なんかじゃない。
それに、陰謀に翻弄された人間を見捨てるのは寝覚めが悪い」


そう言うと、エンダは長い白髪をたくし上げ、仁成にうなじを見せつける。


「ーーーッ!それは……!?」
「……わたしもあなたと同じ、人間の都合で滅茶苦茶にされた存在ってこと」


少女の柔肌に痛々しく刻まれたバーコードのような焼き印。
仁成の右肩に刻まれた痕跡と同じもの。
当時生き別れになった妹と同年代の少女の独白に言葉を失う。
眼を見開いて硬直する男に少女は言葉をかける。


「ーーだから、爪弾き者同士協力し合おう。
あなたの事情は聞くつもりはないし、わたしも深い事情は話すつもりはない」





298 : 真・地獄新生 PRISON JOURNEY ◆njSPS38r/Q :2025/02/15(土) 21:28:20 x4.UAEi60
屈強な男と華奢な少女。今度こそ対等な立場で言葉を交わし合う。
少女は語る。自分の所属していたカルト集団に仁成の家族はいなかったことを。
男は語る。己を狙っていた犯罪組織の中には『ヤマオリ』も含まれていたことを。


「……で、立ち回りはどうする?エンダ……ちゃん」
「エンダでいいよ。ちゃんづけされるのは気持ち悪い。
方針としては、生き残って脱出することかな。
政府もアビス側も全く信用ならないし、他の囚人共なんてもってのほかだ。
勝手に潰し合っていればいい」


吐き捨てると、エンダはデジタルウォッチを操作し、隣に座る仁成に名簿を見せる。
ずらりと並ぶ囚人達の名。その中からルーサー・キング、ギャル・ギュネス・ギョローレン、並木旅人を指差す。


「そいつらは?」
「囚人の中でも指折りの危険人物。ルーサー・キングは魂の奥底まで暗黒に染まった外道そのもの。
ギャル・ギュネス・ギョローレンは破滅をばら撒き続ける殺戮のカリスマ。
並木旅人は……あれは人間にカウントしてはいけないナニカだ」


最後の方だけ、エンダは鉄面皮を歪め、言葉を紡ぐ。
忌々しげに美貌を歪めるエンダを不思議に思いつつ、仁成は指し示した囚人の名を脳に刻む。


「それで、脱出する際の当てはあるのか?
首輪だけじゃなくて、この島に送り込んできたケンザキ係官とやらをどうにかしないといけない。
それに……僕の家族の安否も気になる……」


仁成の脳裏に過ぎる在りし日の思い出。
全てが終わったあの日から一度も忘れたことのない、暖かな記憶。
政府機関やアビスに対する信頼など塵ほどもない。
奴らを頼るくらいならば、自分と同じように人の業に翻弄された隣の少女と協力する方が幾分かマシだ。


「そうだね。今のところ問題は山積みだ。
でも、解決の糸口がないというわけじゃない。
もちろん、あなたの家族の事も含めてね」
「それは一体ーー」
「ヴァイスマンの眼(ネオス)がある以上、今はまだ詳しくは話せない。
けれど、わたし達の目的を果たす鬼札(ジョーカー)になるのは保証するよ」
「そう、か」


言葉を終えるとエンダはすっと立ち上がり、視線で仁成にも行動を促す。
互いの目的を果たすためにはまずは行動。それがエンダと仁成の共通認識。
少女は男の淀んだ瞳を見上げ、男は少女の黄金の瞳を見下ろす。


「改めて自己紹介。
わたしは囚人エンダ・Y・カクレヤマ。
今後ともよろしく」


【C-7/廃墟/1日目・深夜】


【只野 仁成】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ、刑務服
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き残る。
1.エンダに協力して脱出手段を探す。
2.今のところはまだ、殺し合いに乗るつもりはない。
3.エンダが述べた3人の囚人達には警戒する。
4.家族の安否を確かめたい。
※エンダが自分と似た境遇にいることを知りました。


【エンダ・Y・カクレヤマ】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ、刑務服
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱出し、『目的』を果たす。
1.首輪やケンザキ係官を無力化するための準備を整える。
2.仁成の面倒を見てやる。
3.囚人共は勝手に殺し合っていればいい。
4.ルーサー・キング、ギャル・ギュネス・ギョローレン、並木旅人には警戒する。
5.今の世界も『ヤマオリ』も本当にどうしようもないな……。
※仁成が自分と似た境遇にいることを知りました。
※自身の焼き印の存在に気づいています。


299 : ◆njSPS38r/Q :2025/02/15(土) 21:29:11 x4.UAEi60
投下終了です。


300 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 21:55:30 jytrT9/E0
投下します


301 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 21:56:02 jytrT9/E0
────なぁ、おい。一つ訊きたい事がある。

 ────何でしょうか?看守さん。

 ────此処に戦犯が収監されている。敵国の人達を豚と呼んで殺しまくった女だ。

 ────それが、何か?

 ────父親に此処に送られたお前は、何考えて殺していた?人じゃ無くて玩具か何かだと思っていたのか?

 ────豚を殺したいのならば屠殺場に行けば宜しいのでは?

 ────……………。

 ────私が殺したのは全て『人間』ですよ。動物を殺した事は有りません。

 ────………………。

 ────人を人として認識した上で、傷つけ、辱め、苛み、苦しめ抜いて、嬲り抜いて、嬲り殺す。

 ────だからこそ愉しいのですよ。豚として扱ったりしては、わざわざ人を殺す意味が有りません。

 ────それこそ屠殺場に行くべきです。

 ────………………………。

 ────……私の想像ですが…その方達は、欲しかったんでしょうね。

 ────何を……だ。

 ────自分達は咎人では無いという保証が、殺人許可証が。

 ────或いは自分達はまともだという保証が、免罪符が。

 ────面白いですね。そんなものを必要とするのに、人を殺すなんて。

 ────私ですか?そんなモノ、人を嬲り殺すのに必要なモノでしょうか?

 ────私は私の行いを、正しいとは言いませんし、私はまともだとも言いませんよ。

 ────自己の行為を、後から正当化に励む様なら、最初からしなければ良いのです。

 ────ところで、一体どうして、そんな事をわざわざ訊ねられたのですか?



 ルクレツィア・ファルネーゼは後になって思い起こす。
 あの看守が求めていたものは、『安心』というものだったのだと。
 人が人に対してこの様な悪虐を為せる訳が無い。やったモノは、人と異なるバケモノだと。
 “アビス”に収監されている囚人達が、皆悉く、人を人とも思わない、自分と異なる認識の持ち主ばかりだと。
 そう信じたかったのだろう。
 だからこそ、父に忌まれて“アビス”送りになったルクレツィアに声を掛けたのだろう。
 実の親にすら棄てられる。人の姿をしたナニモノかに。
 




302 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 21:56:32 jytrT9/E0




 「久し振りですね」

 夜の空気を思い切り吸い込んで、吐き出す。
 三度繰り返して、茫洋とした風情の銀髪紅眼の美少女、ルクレツィア・ファルネーゼは、感慨深げに周囲を見回した。
 深夜の森の中では、碌に周囲が見えないが、それでも壁を眺めるしか無い独房の暮らしに比べれば、比べようが無い程に快適だ。
 沸々と、心の底から湧き上がって来るものを感じる。
 それはやがて肉体へと伝播し、全身を小刻みに震えさせる。

 「自分の意思で何処までも行けるというのは、これ程までに快適な事だったのですね」

 父親により強いられた檻の中の生活。何も出来ず何処にも行けず。意思は有っても行動する事が叶わない日々は、ルクレツィアの精神を日々苛み続けていた。
 それが、仮初とはいえ解放されたのだ。
 必然、歓喜が全身を駆け巡る。
 只々生命活動を行うだけだった心臓が、解放の凱歌を歌うかのように激しく脈打ち、赤黒く澱んだ血液が詰まっていた血管は、生命に満ちた熱い真紅の血を全身へと駆け巡らせる。
 身体中が生命(いのち)を謳う。精神が、魂が、喜びに満ちて燃え上がる。
 ルクレツィアは歯を噛み締めて叫び出したくなる衝動を抑え込んだ。
 大声を上げるなどという品の無い行為をする訳にはいかなかったし、誰かに聞かれれば厄介な事になる。
 瞳を閉じ、歯を噛み締め、我が身を抱き締めて、ルクレツィアは性の絶頂にも似た歓喜が鎮まるのを待った。

 「ああ…。これを永遠とする為ならば、人は人を簡単に殺してしまえるでしょうね。
 好きな時に、好きな相手を、好きなようにするのが好ましいのですが」

 五分経ち、心と身体が平静を取り戻したルクレツィアは、静かに呟く。
 この無人島に放り出された全員が、ルクレツィアと同じ境遇にあり、ルクレツィアと同じ苦しみに耐え、ルクレツィアと同じ喜びを味わったのだ。
 この歓喜を。この自由を。仮初ではなく、真に我が物とする為ならば、他人の命など塵芥の様に吹き散らしてしまえるだろう。
 全員がルクレツィアの敵であり、殺さなければならない獲物だった。

 「…となれば困りました。私の超力は、あまり向いていないんですよね。殺し合いには」

 旧人類は当然の事、新人類の標準すら遥かに超える身体能力を発揮できるルクレツィアだが、身体能力のゴリ押しだけで、殺し合いに勝てるとは思ってはいなかった。
 ルクレツィアは新人類の肉体を素手で解体出来得るが、そんなものは近づけ無ければ意味は無い。
 遠距離から強力な攻撃を投射出来る者ならば、ルクレツィアの手が届かない距離から、一方的にルクレツィアを殺し得る。
 銃撃程度の齎す肉体の損壊であれば、再生して無力化するのだが、一撃でバラバラにされれば如何ともし難い。
 バラバラにされずとも、肉体を大きく破損すれば、再生する間は動きが止まる。
 
 「……近づく手段か、盾を用意しないといけませんね」

 はぁ…。と、短くため息を吐く。
 そもそもが殺し合いというものを、ルクレツィアは好まない。
 ルクレツィアが好み望むものは、只々一方的な凌辱と嬲り殺しだ。
 殺し合いなど、ルクレツィアにとっては、ある特定の条件を満たさない限り、面倒なだけで、面白くも何とも無い。


303 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 21:57:44 jytrT9/E0
 「ニケが居れば…。盾にもなりますし、共に生き残りを目指せたのですが」

 自分より先にアビスに囚われた友人を思い浮かべる。超力を無効化する上に、ルクレツィアと同類の女は、こういう時には頼りになる存在なのに。
 世界各国を巡って拷問と殺人に勤しんでいた小鳥遊仁花とは、出会った時に成り行きで殺し合い。直に互いに萎えて矛を収めたのが馴れ初めだ。
 仁花からすれば、ルクレツィアは道具を用いれば痛みを感じず、肉体を用いた直接の打撃は“生の痛み”を感じて悦ぶだけでしか無いので、気が萎える相手であり。
 ルクレツィアからすれば、小鳥遊仁花は壊す愉しみは有れど、煙に酔う事が無いので前菜(オードブル)しか味わえない相手だった。
 必然的に、双方共にやる気が無くなり、なんとはなしに、お茶を飲みながら拷問について語り合い、一緒に“遊んだ”仲である。
 そしてルクレツィアにとっては、殺し合いに付いて実践込みで教えてくれた相手でもある。

「互いに“そういう気”にはなれない以上、安心して連れ立って行けるのですが」

 ルクレツィアと仁花。二人ともに、他者というものを、傷つけ嬲って果てに殺すものと認識しているものの、互いに対してだけは“そういう気”になれない。
 手を組むには申し分の無い相手だが、果たして此処に小鳥遊仁花は居るのだろうか?
 
 「…名簿をあらためてみましょう」

 名簿を引っ張り出して、上から順に目を走らせていく。
 知り合いでは無いが、記憶に引っかかる名前が一つ。

 「ディビット・マルティーニ……何処かで聞いた名前ですね」

 同郷の人間というだけでは無い。直接の関わりは無いと断言出来るが、間接的に関わりが有ったというべきか。
 少しの間、記憶を探る。

 「ああ…バレッジの……。あのカモッラには随分とお世話になったものです。ディビットさんのお名前を聞いたのは、その縁でしょうね」

 嬲り殺す人間の調達など、ルクレツィアが自ら行えば、短期間で足がつく。そこで使ったのがバレッジファミリーの調達と流通のネットワークだった。
 バレッジファミリーの持つ、イタリア全土のみならず、国外にすら存在するネットワークは、人知れずルクレツィアの元に、犠牲者を供給し続けたのだ。
 彼等には随分と世話になったものだ。そこの金庫番であるディビット・マルティーニの名を、偶然耳にする機会は有ってもおかしくはない。

 「向こうは私の事を当然知らないでしょうね。私にしても、ご尊顔を拝見した事が無いので、出会っても気付く事は有り得ないですし」

 ディビットの事はどうでも良い相手として、記憶の端に寄せておく。

 「さて…他の方の名前を」

 再度名簿に目を通し、目当ての名が無い事を確認して、ルクレツィアは肩を落とす。
 結局はのところ、一人で戦うしか無いらしい。

 「どうしましょう……」

 戦闘向きでは無い超力と、身体能力を活かすには圧倒的に未熟な戦闘技能。
 頭を使って立ち回るのが最適だが、そういった経験も微小。咄嗟の機転が利くかといえば、無理だろう。
 このままでは殺されてしまう。何よりルクレツィアは死刑判決を受けた身だ。
 戦闘が不得手な死刑囚のルクレツィアは、得られる点数が最大で、殺す際のリスクとコストが少ない。
 絵に描いたようなローリスク・ローコスト・ハイリターン。ルクレツィアを狙わない者など、此処には居ないのでは無いだろうか。

 「どうすれば良いのでしょうか」

 儚げな美貌に憂いの影を落として懊悩する姿は、迫り来る死の恐怖に怯えているのか?
 凶悪な超力を振るう悪虐の化身ともいうべき者達に、生命を狙われる事を恐れているのか?

 「折角ジャンヌさんを、“また”頂けると思ったのに」

 そうでは無い。
 過去に凄惨苛烈な拷問をした相手と、再度巡り会った時の事を考えていただけだった。

 「捕まえることさえ出来れば、何とでも……無理ですね。焔を纏われれば触れた途端に焼かれてしまいます。死にかねません」

 過去に遊んだ時は、ジャンヌ・ストラスブールが虜囚の身だった為に、気にする必要など無かったその戦力。
 赫赫たる焔を纏い、天を舞う少女。四大の内の炎を司る大天使ミカエルに準えられた事もあるかつての英雄に、組み打ちなど死にに行く様なものだ。

 「いえ、まぁ…もう一つ問題が有りますね。ジャンヌさんの肉体(痛み)は味わい尽くしていますし……。どう愉しみましょうか』まぁ愉しめ無いならサッサと殺して仕舞えば良いのですが」

 目を閉じて熟考する。

 「…………」

 識っていても、何も思い浮かばない事に、僅かに苛立ちを覚えた時。

 奇怪な叫びが夜の森に響き渡った。

 「何事でしょうか?」

 思考を中断して、ルクレツィア奇声の聞こえた方向へと、新人類の基準で考えても以上な速度で走っていった。




304 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 21:58:07 jytrT9/E0


 「誰でしょうか……あの方は」

 手入れのされていない森というものは、昼でも走り辛い。無秩序に伸びる枝が顔や身体に傷を作り、生い茂る灌木が脚を阻む。夜ともなれば視界が利かなくなり、更に動きが取れなくなる。
 森というものは、人が立ちれる場所では無いのだろう。
 だが、それは旧人類の話。新時代に生まれた人類であるルクレツィアには無縁の事柄。
 枝も灌木も知らぬとばかりに突っ切って、不安定な足場でも恐れる風も無く全力疾走。
 元より新人類は夜目が効く、更に超力により五感を向上しているルクレツィアには、夜の森など何の問題にもなりはしない。
 疾走により身体に数十の傷がつくも、その悉くは森から出た時には跡形も無く消えている。
 傷一つ無い身体で、ルクレツィアは声の発生源と思しき砂浜を歩き────奇妙な人物と出会ったのだ。

 
 「ジャンヌゥゥゥゥッ! ジャンヌ、ジャンヌ、ジャンヌジャンヌ、ジャアアアアアアアアアアンヌ!
 まさか貴女も此処におられようとは!!宜しい、我が殺戮を笑覧あれ!!貴女のために骸を積み上げ!この深淵から出る為の道を作りましょうぞ!!!」

 夜の砂浜でトチ狂った叫びを上げる、腰まで届く青みがかかった髪の少女。
 ルクレツィアの記憶に有る、ジャンヌ・ストラスブールの姿に酷似してはいるが、明らかに別人────というには似過ぎている。
 
 「妹さんがいらっしゃるなんて、聞いた事がありませんが」

 そもそもが、ジャンヌ・ストラスブールの家族は…血縁者や友人、果ては近隣の住民に至るまで、産まれたばかりの赤児から、ベッドの上で死を待つだけの病人まで。
 悉くが惨たらしい死を迎えた筈だ。

 ではルクレツィアの眼前で、狂態を晒しているのは誰なのか。

 「姿形は…確かにジャンヌさんですね。けれども……私の憶えているジャンヌさんと比べると、少しお若い様な?それに身体付き?ですか…堅い?様な。
 声も…こう…何というか。私の知るものより柔らかいというか」

 ルクレツィアの前に在るのは、当然の事ながらジャンヌ・ストラスブールでは無い。
 ジャンヌ・ストラスブールと骨格レベルで同じ姿になった狂人である。
 名をジルドレイ・モントランシー 。ジャンヌ・ストラスブールが被せられた汚名の全てを実行した最悪の模倣犯。
 ジャンヌの姿を完全完璧に模した筈のジルドレイの姿形が、ルクレツィアの記憶に有るジャンヌの姿と異なるのは、ジルドレイの知るジャンヌが十五歳の時の姿である為だ。
 男を知らず穢れを知らず、正しく聖処女の名に相応しい時期のもの。
 対してルクレツィアの識るジャンヌの姿は17歳の時のもの。
 全身に牡(おとこ)を刻まれ穢れを刻まれた無惨な虜囚の姿。
 聞こえる声が違うのも当然だ。2年の間に、ジャンヌ・ストラスブールがどれだけ泣き叫び、慈悲を乞い、慟哭してきたか。
 必然として、声が枯れて嗄れる。ジルドレイの声が、ルクレツィアの記憶に有るジャンヌの声よりも柔かくなるのは当然の事だった。

 ルクレツィアとジルドレイ。両者の知るジャンヌ・ストラスブールの姿はあまりにも違い過ぎ、それが故にルクレツィアはジルドレイの姿に違和感を抱く事になったのだ。

 「はて…ジャンヌさんにはとんでもない数の冤罪が被せられていましたが……その為に用意されたソックリさんでしょうか?」

 ならば人々の記憶に最も残る、15歳の姿であるのも納得がいく。
 一人で納得して頷いていると。

 「誰ですか?」

 ジャンヌ・ストラスブールのそっくりさんの顔が、ルクレツィアの方へと向いていた。




305 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 21:59:33 jytrT9/E0


 「……貴女が…ジャンヌ・ストラスブールさんですか」」

 互いに自己紹介を終えて、ジャンヌ・ストラスブール(自称)名乗りに、ルクレツィアは投げやりな応対を返す。
 さっきまでジャンヌジャンヌと連呼しておいて、今更それは無いでしょうとも思うが、指摘する気には到底ならない。
 狂犬病の猿に蹴り入れる趣味は、流石にルクレツィアにも無い。
 更にいえば、相手が偽名を名乗った為に、ルクレツィアの方も、フレゼア・フランベルジュの名を騙り、双方共に相手の事を非難できる謂れは無い。

 「それで…私を殺しますか?」

 何時でも煙管を取り出せる様にして訊く。
 目の前にいる自称ジャンヌは狂人だ。父親から狂気を忌まれてアビス送りにされたルクレツィアから見ても、狂人と断言出来る程に。
 備えをするのが当然のように事だった。
 
 「当然ではないですか。貴女のような美しい方ならば、魔天に捧げる贄としても最上でしょう」

 備えをして置くのが当然どころの話では無かった。
 殺す気に満ち溢れていたl

 「………はぁ」

 流石に訳が分からない。
 ジャンヌ・ストラスブールの名を悪魔の代名詞とする為に用意されたソックリさんというのならば、事此処に至ってまでロールプレイをしなくても良いだろうに。
 それとも素でこうなのだろうか?.

 「嗚呼!笑覧あれ!!地獄の悪魔も恐れるほどに!!今此処に!この贄を惨殺しましょう!!“貴女”に捧げる贄を!!!」

 「何なのでしょうか?この方は」

 “貴女”とやらに、この怪人の正体を探る鍵が有るのだろうが、悠長に考えている暇は無さそうだった。

 「光栄に思いなさい!彼女に捧げられる最初の贄となれる事を!!!」

 周囲の温度が低下していく。
 新人類の強靭な肉体でなければ、息をするだけで口腔から肺までが凍りつきそうな程に。
 ジルドレイの超力『我が情熱は去り(ラ・パッション・パシー)』 。
 心に熱を持たなかった男に相応しい、全てを冷たく凍らせる超力。其れを心に宿した業熱に任せ、狂熱と共に撃ち放つ。

 現出した現象は、氷の釘。
 数十にも及び郡の釘を瞬時に精製し、ルクレツィア目掛けて射出した。
 一つ一つが、ジルドレイの意思のままに、ルクレツィア目掛けて飛翔する訳では無い、
 只々精製した釘を、ルクレツィア目掛けて飛ばしただけだ。
 それでも、どれでも一つでも当たれば、柔な肌など容易く貫き、骨まで穿つだろう鋭さと勢いに満ちている。

 砂浜が爆ぜた。派手に舞い上がる砂塵の中に、氷釘が吸い込まれ、砂塵を突き抜けて飛んでいった。
 舞い上がった砂塵は、ルクレツィアの踏み込みによるもの。馬鹿げた脚力に依る跳躍は、砂浜に足跡を刻むどころか、穴を穿ち、砂塵を宙へと舞い上げる。
 巻き上げられた砂塵が、夜の闇を更に濃くするが、ルクレツィアの髪と肌は、闇に紛れる事を許さない。


306 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 22:00:02 jytrT9/E0
  「逃げられませんよ」

 ジルドレイは身体の向きを変える。左側を向き、今度は氷でつくった壁を飛ばす。
 初撃よりも攻撃の範囲を拡げ、ルクレツィアに回避を許す事なく押し潰す。
 新人類の身体能力といえども、巨大な壁を掴み止めるのは容易では無く。更には氷の壁とあっては、滑って防御(うけ)ることを困難なものとしている。

 「大きいと、掴めますね。簡単に」

 だが、ジルドレイが殺そうとしているのは、ルクレツィア・ファルネーゼ。自身の超力に基づくクスリで、新人類の身体能力を、新人類から見ても常軌を逸した域に高めた少女。
 向上した五感と身体能力とを以ってすれば、この程度は造作も無い。

 「知っていますか?“ジャンヌ”さん」

 氷の壁を持ったまま疾走。“ジャンヌ”を間合いに捉えるなり、保持していた氷壁を横薙ぎに振るい抜く。

 「私はこう見えて力持ちなんですよ」

 “ジャンヌ”は後ろに飛び退って回避。空を薙いだ氷壁が巻き起こす風が、“ジャンヌ”の髪を巻き上げた。

 ────この方は、再生能力は持っては居られない様ですね。

 ルクレツィアは得た情報を、胸中で再確認する。
 氷を作り出す能力か、冷気を操る能力かは不明だが、再生能力を持っているのならば、ルクレツィアの攻撃に合わせて、釘や壁で反撃すれば良い。
 それをせずに回避を行なったのは、“ジャンヌ”が再生能力を持っていない証拠だ。
 
 ────一撃当てれば何とかなるでしょう。

 とは言え、そこに至るまでが、果てしなく遠いのだが。

 一度後ろに飛んだ後、更に後ろへ飛んだ“ジャンヌ”を中心に、地面が白く凍り出す。直径にして10m。踏み入れば恐らく死ぬと、ルクレツィアは茫洋とした表情の裏で警戒する。

“ジャンヌ”はルクレツィアへと氷の蛇を伸ばした。
 対するルクレツィアは、右手に出現させた煙管を振るい、頭部を粉砕しようとするも。

 「おや?」

 氷の蛇は生き物の様に動いて煙管を回避。ルクレツィアの右の太腿へと牙を突き立てた。

 「あらあら…」

 虚しく牙が噛み合う音を聞き、ルクレツィアは優美に嘲笑する。
 
 「残念でしたね」 

 誰が見ても、ルクレツィアが被弾するのは避けられなかったあの一瞬。
 無傷で済ませたタネは、単純な身体能力。
 煙管が空振った時点で、背後へと跳んでいたのだ。

 「お返しをさせて頂きます」
 
 手にしたままの氷壁を思い切り投げつける。
 “ジャンヌ”が右へと飛んで躱し、氷壁が凍った砂浜に突き刺さり、重い音と共に周囲が揺れた。
 “ジャンヌ”が次の行動に移るよりも早く、ルクレツィアが“ジャンヌ”の跳んだ方向へと走り、全力で腹へと目掛けて右拳を繰り出す。
 “ジャンヌ”が咄嗟に氷壁を生成。
 凄まじい密度の氷壁は、大口径拳銃弾すら受け止めるものだったが、ルクレツィアの拳は氷壁を薄氷の様に粉砕してのけた。
 薬物による身体能力の向上だけでは説明が付かない威力。
 薬物により痛覚が極端に鈍くなっているルクレツィアは、痛みを無視して身体能力を駆使できる。
 全力で拳を振るう事で発生する、骨折や傷を気にする事無く、過負荷により生じる損傷は、薬物による再生で即座にと回復する。
 肉体の全力稼働による負債の全てを踏み倒す事により可能となる、新人類の基準で見ても超人的な身体能力。
 “ジャンヌ”の防壁を粉砕したルクレツィアが、左拳を顔面目掛け叩き込む。
 受ければ新人類とて即死しかね無い暴奪魔法を、“ジャンヌ”は足元の地面を凍らせ、その上を滑る事で高速回避。
 凍った地面を前に、ルクレツィアが二の足を踏んだ隙に、仕切り直そうとするも。
 地面が爆ぜる。驚異的な脚力による踏み込みは、“ジャンヌ”が離した距離を、秒の間も置かずにゼロとした。
 迎撃の為に氷槍を複数形成した“ジャンヌ”へと、ルクレツィアは拾っておいた砂利を投げ付けた。
 時速にして300kmを超える速度で投げつけられた砂利が、無数の微小な散弾となって、“ジャンヌ”の皮膚に無数の穴を穿つ。
 旧人類であるならば、血塗れの凄惨な顔を晒しただろうが、新人類の肉体では、皮膚が僅かに破れるだけだ。
 積み上げた屍と、流した血から得た經驗知で、ルクレツィアは精確にダメージを推測する。
 にも関わらず。


307 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 22:00:41 jytrT9/E0
  「ぎぃあああああああああああ!!!!」

 “ジャンヌ”の身も蓋も無い絶叫に、ルクレツィアは驚いて動きを止めた、

 「おおお…この姿に……我が至尊の聖女。ジャンヌの尊顔に……傷を……」

 “ジャンヌ”と称しておきながら、我が至尊の聖女とはこれ如何に?
 茫洋とした風情を崩さぬままに、僅かの間思考に耽り、導き出した答え。
 
 ────ああ、この方は。

 ルクレツィアは理解した
 
 ────ジャンヌさんに灼かれたかんですね。

 「あの方に惹かれ焦がれるのは、仕方の無い事だと思いますが、一体どうしてこうなったのでしょうね。
 ……アレですか?英雄としてのジャンヌさんでは無く、魔女と貶められたジャンヌさんの真似をしていらっしゃる?」

 返ってくる言葉は無い。
 膨れ上がった殺意と怒気が、物理的な圧さえ伴って、ルクレツィアへと押し寄せる。

 「聞こえているなら聞いておいて欲しいのですが…。貴女ではジャンヌ・ストラスブールにはなれませんよ。
 …いえ、人は己にしか成れないなどという話とは違いますよ」

 ジャンヌ・ストラスブールの為に殺す。唾棄すべき悪魔の代名詞となったジャンヌの為に、死と惨を積み上げる。
 確かに狂気の所業であり、今現在“アビス”にいる以上、過去に凄まじい数の骸を積み上げたのだろうが。


 それだけではジャンヌ・ストラスブールには届か無い。


 ジャンヌの為に非道を行う、自称ジャンヌは、ルクレツィアからすれば至極真っ当な存在でしか無い。
 遥か過去から、人は何かの為に人を殺して来た。
 神の為、思想の為、国家の為、革命の為、勝利の為、民族の為、生きる為。
 それらの人を殺す為の殺人許可証に、ジャンヌ・ストラスブールの名を加えただけに過ぎない。
 酷くまともで、ありふれた人間だと。ルクレツィアはジャンヌ・ストラスブールを称する存在を認識した。
 

 ジャンヌを称する何者かは、無言のままに力を溢れさせ、周囲の地面はおろか、大気すら凍てつかせつつあった。
 周囲の音が消え去り、白いものが舞い落ちる。
 凡そ生物であるのなら、等しく有する生命の証である“熱”を奪い去るべく吹き荒れる凍嵐によるものだ。
 クスリで鈍いルクレツィアの感覚ですら、冷たさを感じている。


 ジャンヌ・ストラスブールは狂人である。


 父からも忌まれる狂気を有するルクレツィア・ファルネーゼですらが、ジャンヌの事は狂人と断じている。

 であればこそ、ジャンヌを称する何者かは、ジャンヌに成る事は出来無いと宣言する。

 「いくら姿を模しても、いくらジャンヌさんの行いを模しても…其れだけでは到底あの人には近づく事も出来ませんよ」

 狂奔する雪と氷と冷気の中で、ルクレツィアの声は果たしてジルドレイに届いたのだろうか。
 
 



308 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 22:01:20 jytrT9/E0



 ジャンヌ・ストラスブールが、人々の前から姿を消して半年程を経た位から、ブラックマーケットで扱われる様になったレンタル商品。
 法外な値で貸し出される“ソレ”は、かつて焔を纏い、人々の希望そのものだった少女。
 犯され穢され、欲望の捌け口として、貸し出される“商品”までに堕ちたジャンヌ・ストラスブールその人だった。

 元より貸し出す側のリスクが大きい商品である為に、レンタルに際しては幾つかの条件が存在した。

 一つは、組織が貸し出しを行う事で、レンタル料以外の利益を得られる事。

 二つは、商品のことについて喋くりまわる様な事をし無い理性がある事。

 三つは、貸し出しは商品への制裁と見せしめを兼ねている為に、客は異常性愛者である事。

 

 欧州にこの三つを満たせる者が何人居たのかは、ルクレツィアには知る由も無く、興味も無いが。
 ルクレツィア・ファルネーゼは、少なくとも三つの条件を満たし得ると判断されたのは確かだった。

 二月後にルクレツィアの元に貸し出されたジャンヌが現れた時、かつての英雄は満身創痍だった。
 優秀な回復系能力者が四人も付いていても、疲労と憔悴は全身に色濃く刻まれ、身体には無数の傷が有った。
 何より四人の回復役の陰鬱な表情が、ジャンヌが二ヶ月の間に受けた仕打ちを物語っていた。
 ルクレツィアは、ジャンヌと四人に充分な休養と栄養価の高い食事を与えた。
 貸し出し期限は一週間。その内の三日を回復に使い。
 四日目にジャンヌ・ストラスブールは叫び過ぎて喉が潰れた。
 五日目に手足を失った。
 六日目に呼吸をするだけの肉塊に成り果てた。
 7日目にルクレツィアの超力で“夢”を見させられ、夢から覚めて慟哭した。




309 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 22:02:36 jytrT9/E0


 凍てついた大気が動きを鈍らせる。
 凍りついた砂浜は、移動を困難なものとし。
 乱れ飛ぶ氷の刃が、進退窮まったルクレツィアの全身を切り刻んでいく。
 
 かつて遊んだ時のジャンヌ・ストラスブールの様に、ルクレツィア・ファルネーゼは右手と両足をを失い、千切れかけた左腕が皮一枚でぶら下がっていた。
 切り裂かれた腹から臓物を溢れさせ、砂を紅に染めて倒れていた。
 身体能力の強化という点では、ルクレツィアは刑務者の中でも上位だろうが、それだけで荒れ狂う氷嵐を躱せる訳も無かった。

 「……貴女は私が、ジャンヌには成れ無いと言われましたが、元より成れるとは思っていませんし、成るつもりも有りません。
 ジャンヌ・ストラスブールは唯一無二。誰も変われる筈が無い」

 ジルドレイは静かにルクレツィアの言葉を否定した。
 すでに狂熱は去り、ジルドレイ生来の虚無が精神を支配している。

 「私がジャンヌの姿をしているのは、ジャンヌの名と姿人々の記憶から忘れさせない為、そして常にジャンヌを感じていられる様にする為」

 否、熱は去ってなどいない。ジルドレイの内側で、強く静かに燃えて入る。

 「ジャンヌの所業を模するのは、ジャンヌを知る為であり、ジャンヌの跡を追う為ですよ。“フレゼア”さん」

 ルクレツィアは苦笑した。自称ジャンヌを理解したつもりだったが、見当違いだったようだ。
 ジャンヌ・ストラスブールになろうとする者では無く、ジャンヌ・ストラスブールの足跡を辿る巡礼者だった。
 
 「止めを刺しますか?」

 ジルドレイは首を横に振った。
 
 「放って置いても貴女は死ぬ。精々その時まで苦しんで下さい」

 「貴女はこれからどうするのですか?ペレグリノ(巡礼者)さん」

 「ジャンヌの跡を追い続けます。彼女に出逢った時に、自分自身を誇れる様に」

 「………フフフ、貴女の巡礼に恵みが在らん事を」

 ルクレツィアは瞳を閉じた。後は最後の瞬間を待つのみ。

 「私は追います。悪魔と呼ばれたジャンヌの跡を」

 地面から伸びた複数の氷の杭が、ルクレツィアの身体を刺し貫いた。
 驚愕に大きく見開かれたルクレツィアの眼に、満面の笑みを浮かべる自称ジャンヌの姿が映った。
 
 「まだ息は有るはずです。死ぬまで苦しんで下さい。それではご機嫌様」


【D–1/海岸沿い/】一日目・深夜】
【ジルドレイ・モントランシー】
[状態]: 健康
[道具]: 無し
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本. 悪魔の代名詞であるジャンヌ・ストラスブールの所業を再現する
1. 出逢った全てを惨たらしく殺す






310 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 22:03:00 jytrT9/E0




 「自分と同じ歳の同性に、手足を砕かれ切断されて、腑を引き摺り出されて、腸を切り開かれて取り出された排泄物を食べさせられて、絶望しなかったんですよ。
 私はやりませんでしたけれど、活け造りというのですか?にされてもいたんですよ。
 それでも折れ無い、あそこまで人の悪意に晒されれば、誰でも正気ではいられないんですよ。それでもジャンヌさんは変わらなかった」


 自称ジャンヌことジルドレイが去った後。
 無惨な串刺し死体しか存在しない砂浜に、少女の声が静かに響く。
 
 「どうしてだと思います?簡単な事ですよ。
 “最初から狂っていた”。
 これがジャンヌさんの持つ光と熱の正体です。
 真っ当な人では、あの輝きと熱量は持てません」

 氷槍に貫かれたルクレツィアが、唯一残った四肢である左腕を動かて、体を貫く氷槍を叩き折ったl
 砂浜に転がったルクレツィアは、刺さったままの氷を引き抜くと、左腕だけで這いずって、転がった右腕を拾って、切断面にくっつけた。
 更に左足と右足も同じ様にくっつけると、ルクレツィア・ファルネーゼは億劫そうに砂浜に横たわる。

 「疲れました……。殺し合いに乗った以上、殺されても仕方無いですけれど、あの状態で、追い討ちをかけられるとは、思いもしませんでしたね」

 いくら超力により痛覚が鈍く、再生能力も有しているとはいえ、あの状態での串刺しは、死んでしまってもおかしくは無かった。
 氷の槍が傷口を凍らせなければ、ルクレツィアは失血で死んでいただろう。

 「自称ジャンヌさんは…行かれましたね。頭を潰されれば、流石に死んでいましたが、助かりました」

 あの自称ジャンヌは、殺戮の巡礼を続けるだろう。
 本物のジャンヌが知れば、どういう事になるのだろうか。

 「ジャンヌさんが刑務に参加しているということは、戦えるという事ですよね。“アビス”に落とされても揺らがないジャンヌさんの精神を、少しは傷つけて下さいますでしょうか
 あの方の身体(痛み)は味わい尽くしましたし……次は精神(こころ)を苛んでみるのも、悪くは無いですね」

 とはいうものの、僅かな時間んで纏めて追体験をした為とはいえ、ルクレツィアですら逝くかと思った程の苦痛ですら、耐え切ってみせたのがジャンヌ・ストラスブール。
 早々簡単に、その心が折れるとは思えない。 

 「まぁ…もう一度、身体(苦痛)を味わってみるのも良いでしょう」

 邪悪な思考に一通り耽ると。ルクレツィアは瞼を閉じて眠り出した。



【D–1/海岸沿い/一日目・深夜】
【ルクレツィア・ファルネーゼ】
[状態]: 疲労 睡眠中
[道具]: 無し
[恩赦P]:0pt
[方針] 殺しを愉しむ
基本.
1. ジャンヌ・ストラスブールをもう一度愉しみたい
2.自称ジャンヌさん(ジルドレイ・モントランシー)には少しだけ期待


311 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 22:03:12 jytrT9/E0
投下を終了します


312 : ◆VdpxUlvu4E :2025/02/15(土) 22:18:22 fDd6.ZW.0
タイトルは巡礼者と殺人者です


313 : ◆IOg1FjsOH2 :2025/02/15(土) 22:21:21 z.F0tRnU0
投下します


314 : このまま歩き続けてる ◆IOg1FjsOH2 :2025/02/15(土) 22:22:21 z.F0tRnU0
そこは自然溢れる豊かな街だった。
雪が溶け、春になれば美しい花々が咲き開く。
景色一面に広がる花畑は有数の観光名所として毎年沢山の観光客がやってくる。

そんな素朴ながらものどかで素敵な街を仕切る盟主であるヴァルケンライト家の一人娘がエレナだった。
厳格で躾に厳しいが、責任感が強く頼もしい父親は幼きエレナにとって心の底から尊敬していた。

母親もワインレッドの長い髪が美しく、紫の瞳がとても神秘的で、顔立ちも整った綺麗な女性で
穏やかな性格で使用人に対しても分け隔てることなく慈しむ心優しさにエレナも母親の事が大好きだった。
国民達からの信頼も厚く、周囲からも愛されたエレナはとても幸せな人生だった。


14歳の誕生日を迎えるまでは――


惨劇が起きたのは雨の日の夜だった。
その日は14歳になったエレナの盛大な誕生日パーティーが終わり、客達がみんな帰っていった夜の事だった。
屋敷の外にいた警備員や、未だ片付け作業に追われている使用人達がバラバラに切り刻まれて殺害された。
彼らは誰も殺人鬼の犯行に反応すら出来なかった。気付いた時には既に、首が胴体から離れていたのだから。

使用人達を皆殺しにした殺人鬼はエレナ達、親子のいる部屋に侵入して彼は初めて姿を明かした。
殺人鬼はまだ20代半の若い男だった。
彼は風を操る超力を持ち。肉体に空気の層を纏うことで己の姿を消して館に侵入。
風の刃を放って次々と警備員や使用人達を殺害していた。

殺人鬼が最初に狙ったのは、抵抗を試みたエレナの父親だった。
懐から拳銃を取り出すよりも早く、殺人鬼の風の刃が父の肉体を切り裂き、血の海に沈んだ。
続いてエレナを狙った風の刃は、母が身を挺して庇ったことで両親の命は瞬く間に奪われた。

母の返り血を浴び、恐怖で固まるエレナに殺人鬼は容赦無く風の刃を放った。
迫りくる風の刃がエレナの喉元に辿り着かんとした、その時。

『死にたくない!!』

生への渇望と共に風の刃が消滅した。
突然の出来事に二人とも驚きを隠せなかった。
殺人鬼は気を取り直してもう一度、風の刃を放つ。

それもエレナに直撃する寸前で消滅する。
二度も攻撃を無力化されたことに殺人鬼に動揺と怒りを剥き出しにした。
風を自在に操る超力で殺せなかった人間は今までいなかった。誰一人として。
激しく自尊心を傷つけられた殺人鬼は両腕を大きく広げて大技を解き放った。
己が持つ超力をフルパワーに発揮させた殺人鬼は周囲一帯を切り刻む殺戮の嵐を展開させる。

壁、窓、時計、壁画、あらゆる家具やアンティークがズタズタに切り裂かれる中
標的とされたエレナの身体にはかすり傷はおろか、ドレスの裾すら切れ目が入ってなかった。
信じがたい現実に殺人鬼は怒号し罵倒の言葉を叫ぶ。
エレナは怯えた瞳で、殺害された父が手に持っていた拳銃をその手に取った。
ゆっくりとした動きで銃口を殺人鬼へ向けて、引き金を引いた。

放たれた6発の弾丸の内、一発が殺人鬼の胸元に命中した。
殺人鬼は胸を抑えながら倒れ伏し、うめき声を上げ続けた挙げ句、苦しみ藻掻いて命を落とした。
初めて人を殺したエレナは地べたにへたり込むと、両親の亡骸を交互に見つめた後、ただただ泣いた。


315 : このまま歩き続けてる ◆IOg1FjsOH2 :2025/02/15(土) 22:22:56 z.F0tRnU0
次の日、駆けつけた警察達に私は保護されて分かったことがある。
まず、この殺人鬼は色んな街を転々としながら殺戮を繰り返していた凶悪超力犯罪者だということ。
私には他者からの超力を無効化する超力を持っていたということ。
だから殺人鬼が操る超力で傷付かずに済んだという事実が分かった。

その時にエレナは考えた。
『わたくしが真っ先に殺人鬼と戦っていれば誰も死なずに済んだ筈なのでは?』と
たらればの話なんかしても仕方は無い。
だが、もしかしたら屋敷にいた人達を救えたかもしれない後悔がエレナを苦しめた。

ひたすら後悔して悩み、涙を流して日が暮れた。
それからエレナは両親の墓の前に立ち、決心の言葉を口にした。

「お父様、お母様、わたくしは戦いに行きます。罪無き民が超力犯罪者によって命を奪われる、この理不尽な世界を変えるために」

いくら後悔しても死んだ人達は戻って来ない。
ならば、これ以上の悲劇を起こさないためにも超力犯罪者達と戦い
罪無き人々の命を救うためにその身を捧げよう。

エレナは両親の血筋をしっかりと受け継いでいた。
母親からはワインレッドの美しい髪とそっくりな容姿に、他者を思いやる献身的な強さと
自らの使命を果たそうとする厳格で実直な気高き意志の強さ。

家族や使用人達はもういない。
もう二度と甘えることは出来ない、許されない。
不転退の覚悟をを持って彼女はナイフを取り出した。
腰にまで伸びた己のロングヘアーを掴み、ナイフを差し込む。

「お父様、お母様、わたくしは『エレナ・ヴァルケンライト』の名を捨てます!!」

美しかったワインレッドのロングヘアーをバッサリと断髪した。
風に煽られて切られた髪が、空を舞って去っていく。

『これからは戦士として『ソフィア・チェリー・ブロッサム』として生きます。見守っていて下さい。お父様……お母様……』







「ん?少し眠っていましたか……」

巨木に背を預けて座っていたソフィアは数十分ほど眠っていた。
懐かしい夢を見ていた。
エレナからソフィアになった経緯を思い出した。

「あの頃のわたくしはそれはとても力強い決意をしましたわね。でも今のわたくしは……」

パキリっと小枝が折れる音が響く。
ザクザクと落ち葉を踏みつける音が近づいてくる。
殺し合いは既に始まっている。
彼女が物思いにふける時間も満足に用意させてはくれない。

「アンタ『ソフィア・チェリー・ブロッサム』だろ?」
「貴方は……」


316 : このまま歩き続けてる ◆IOg1FjsOH2 :2025/02/15(土) 22:23:24 z.F0tRnU0
ソフィアの前に現れた中年男性の囚人。
殺し合いの場だと言うのに、ソイツはまるで世間話にでも来たかのように近づいてきた。
余裕があるのか、彼の表情からは緊張感というものが存在せず、飄々とした態度を見せている。
その男の名は。

「……恵波 流都ですね」
「アンタみたいな人に名を覚えてもらえるなんて俺も光栄だねぇ」

知らない筈は無い。
特に超力犯罪者との戦いに身を置いてきた彼女にとっては因縁のある存在だ。

『恵波 流都』
超力犯罪組織に身を置き、数々の事件に関わってきた幹部の一人。
彼の超力による隠蔽行為で、迷宮入りとした事件も多く。
間接的関与も含めれば被害者の数は計り知れない。
それでも判明している事件だけでも確定で死刑となる悪行を重ねてきた大罪人。

活動場所の違いで彼と直接、出会うことは無かったが
超力犯罪者の中でも要注意人物として彼の存在はソフィアも把握していた。

「わたくしに何か用ですか?」
「用も何も、今は囚人同士の殺し合い中でしょ。なら分かるよね?」
「そうですか。わたくしの命が欲しいのでしたら構いません。ご自由にどうぞ」

今のソフィアに生きる理由は無い。
こんな世界で生き続けても何の意味も無いのだから。
むしろ、それであの世で彼と再開出来るなら、その方が良いとすら思えてきた。

「それがアンタの考えか。やれやれ、こんな姿を見たらアンタの戦友達も浮かばれないだろうなぁ」
「……」
「確かアンタの両親も超力犯罪者に殺されたんだっけ?きっと草葉の陰で泣いてるだろうねぇ」

自分の事を批判されるのはいい。
現に自分は罪を犯した犯罪者だ。
どんな誹りを受けても文句を言える立場ではない。
それでも……

「お父様とお母様の……」
「んん?」
「侮辱は絶対に許しません!!」

父と母はソフィアの誇りである。
自分には勿体ないほど気高き心を持った両親。
二人を侮辱する言葉がソフィアの心を動かした。

「へぇ、そう来なくちゃ」

『トランス・ビルド』を発動した流都の肉体が黒い煙に包まれる。
火花を散らしながら煙が晴れた時、流都の姿は別の形態へと変化した。
それは奇しくもソフィアの髪と同じワインレッドの色をした異形の怪物だった。


317 : このまま歩き続けてる ◆IOg1FjsOH2 :2025/02/15(土) 22:23:52 z.F0tRnU0
「ブラッドストークッ!!」
「御名答。特殊部隊にいたアンタにはこの姿の方が馴染み深いかな?」

先程の流都の姿の時とは違う声帯となって語るブラッドストーク。
数々の事件の現場で姿を見せていたのはこの形態であり
彼の手によって犯罪組織と戦うアヴェンジャーズが何人も命を落とした。

ソフィアは地面を蹴り上げ、爆発的な加速を生み出す。
彼女の超力『例外存在(The exception)』は他者の超力により齎された事象の影響を一切受けない。
その都合上、特殊部隊に所属してからのソフィアはひたすら体術の鍛錬を受けてきた。
超力を封じたら後は己自身の身体能力で決まる。
鍛錬の末に会得した技術『縮地』により、瞬時にブラッドストークへと肉薄し――

「はぁぁ!!」
「ぬおっ?」

ソフィアの拳により、放たれた発勁が即座にガードしたブラッドストークの左腕へと炸裂する。
思わぬダメージに驚きの声を上げつつ後退するブラッドストーク。
それを追撃することはソフィアには出来なかった。
ソフィアの左脇腹から激痛が走り、次の行動が取れなかったからだ。

その理由はシンプル。
ソフィアの発勁に合わせて、同時にカウンターを叩き込んだ、それだけだ。

「それがお前の力かァ。ソフィア」
(やはり、この男……並の犯罪者よりずっと戦い慣れてる)

縮地による接近、瞬きするよりも早い速度で動き
最小の動きでブラッドストークへ発勁を叩き込んだ。
だというのにガードされ、なおかつ発勁のタイミングを合わされてカウンターを食らう始末。

それでも相打ちの形となったのはソフィアの超力により
ブラッドストークの超力を無効化したからに過ぎない。
強靭な身体能力も、金属のように硬質化した肉体も、ソフィアに触れられた瞬間に霧散し
変身前の常人並の戦闘力に落とされたからだ。

「クククッ、なんだ。完全に腑抜けたかと思えば、まだ心が生きてるじゃないかソフィア」
「貴方はさっきから何がしたいんです?」

苦戦を強いられたのにも関わらず余裕の笑みを浮かべるブラッドストークの態度に
ソフィアはいまいち彼の真意を理解することが出来ない。

「試してみたかったんだよ。アビスではアンタが腑抜けちまってる噂を聞いたんでなァ」
「なぜそのようなことを?」
「俺はアンタを買っていたんだぜ。犯罪者と戦う強い正義感を持ちながら法を犯してまで悪を始末したその覚悟になァ!」

ソフィアはアビスに収容される要因となった罪。
それは故郷を焼いた悪徳政治家を直接、この手で殺害したからである。

「そ、それは……」
「納得出来なかったのだろ?一部の人間が権力を利用して好き勝手悪行を働くやり方に!
 俺だってそうだ。確かにやり方は間違っているかもしれねえ。だが誰かが立ち上がらなければ今の世の中を変えることは出来ねえんだよ!」
「それは詭弁です!それを理由に犯罪なんて許されるはずがありません!」
「その通りだ。だから俺は大人しく処刑台に上がる覚悟は出来ていたさ……だがな」


318 : このまま歩き続けてる ◆IOg1FjsOH2 :2025/02/15(土) 22:24:26 z.F0tRnU0
どのような理由があろうとも罪は罪。
許されることではないのはブラッドストークも否定はしない。
それでも納得できない事はある。

「囚人をまるでゲームの駒のように殺し合わせるやり方は俺は認めねえ!
 俺達は玩具じゃないんだ。生きてる人間なんだよ!」
「……ッ」

それはソフィアにも気がかりであった点だ。
まるで娯楽の一種として命をもて遊ぶやり方はとても人道的とは思えない。

「それにソフィアだって気付いているはずだ。ここにはどう考えても悪人とは思えない囚人達が多数連れて来られていることをな!
 このままで良いのか?本当に罪を犯したのか分からない若者達に殺し合いを強制させるこの状況を!」
「……わたくしにそんなことを言われても何か出来ることなんて」
「思考を放棄するなソフィア!!このアビスの現状を見て、お前の中の正義は本当に何も感じないのか!?」
「…………」

熱弁するブラッドストークの言葉にソフィアの心は揺れ動く。
彼の言葉通り、僅か3ヶ月の獄中生活の中でも心優しい囚人は何人も見てきている。
本当に彼らが大罪を犯したのか疑問視もしていた。

「貴方はこれから何をするつもりですか?」
「俺は俺の納得出来る行動を取るさ。恩赦の餌を与えられて命じられたまま殺し合う気は無いんでな」
「そうですか」
「アンタも思うままに行動するといいさ。決して後悔しないように己の心に正直に向き合ってなァ」

そう言うとトランス・ビルドを解除しブラッドストークから流都の姿へと戻った。
ソフィアに背を向けると歩き出し、右手を上げてぶらぶらと振り

「生きてたらまた会おうぜ。チャオ♪」

その言葉と共に流都は立ち去って行った。

「わたくしの心に正直に、ですか……」

自分のやりたいことなんて、何も分からない。
ただ、このまま何もせずに立ち止まったままでいいのかと訴えてくる感情が残っている。

(こんな時、貴方ならなんて答えてくれますか?)

二年前に失った恋人を想い出す。
今の抜け殻のようになった自分でも何か成すべきことはあるのだろうか。
いくら彼を想っても、答えてはくれない。

(……他の人にも会えば、答えは見つかるでしょうか?とりあえず歩きましょう)

誰かと出逢えば、やりたいことが見つかるかも知れない。
ソフィア・チェリー・ブロッサム、彼女の進むべき道はまだ見つからない。
それでも前に進むしか無い。

【D-2/森/一日目・深夜】
【ソフィア・チェリー・ブロッサム】
[状態]:ダメージ(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.自分の成すべき事を探す
1.他の囚人達を探しに移動する。


319 : このまま歩き続けてる ◆IOg1FjsOH2 :2025/02/15(土) 22:24:48 z.F0tRnU0



「〜♪」

呑気に鼻歌でも歌いながら歩く流都、彼は現状をただただ楽しんでいた。
このまま死刑を待つのみの人生だった流都。
そんな彼の元にこんな愉快なイベントへの参加権をプレゼントしてくれたのだ。
そりゃあ全力で楽しまなきゃ不義理というものである。

「さ〜て、ソフィアちゃんはどう動くかな。このまま腐っていくか、それとも」

流都がソフィアに接触した理由。
それは今の彼女は無気力状態で腑抜けているのを噂で知っていたからだ。
端から生きるのを諦めて、ただ大人しく殺されるだけのキャラクターなんて、見てても盛り上がらないじゃないか。

そんなのゲームの対戦中にわざとコントローラーを手放して勝負を放棄されるようなもんだ。
だから流都はソフィアを見つけた時に声をかけた。
彼女の正義感を刺激し、生きる活力を与えるために。
どうせ死ぬなら必死に生きようと足掻いて、更に足掻いて、足掻き切った末に死ぬべきだ。

流都が熱弁した言葉は全て、ソフィアのやる気を与えるための嘘である。
彼に世直しの高潔な意志なんてあるはずがない。
流都が犯罪組織に所属していた理由はただ一つ。
それは混沌を楽しむためだ。

『開闢の日』から20年、この世界は超力に溢れ、混沌を極めている。
超力犯罪組織が各国で出現し、互いが互いを憎み、傷つけ、滅ぼし合う。
やがてこの星が超力によって滅びゆくその時まで、俺はその後押しを続ける。

ソフィアにアビスのやり方に疑念を抱かせる言葉を使ったのも混沌のためだ。
囚人達が殺し合い、生き残った凶悪犯達が世に放たれる。
それも悪くはないが、いまいち盛り上がりが足りない。
それでは刑務官という駒はロクに落ちること無く、平穏に終わるではないか。

流都の目指す最終目的、それは恩赦による生還ではない。
このゲームを破壊し、囚人達による脱獄を促し
刑務官達との殺し合いを引き起こさせる。
それは最も困難な道のりであり、最も多くの血が流れる状況となるだろう。
それこそがアビスにおける最大の混沌である、

『ブラッドストーク』その名の通り、彼の忍び寄る先には血が流れ続けた。
より多くの血を、より多くの死を、より多くの惨劇を、より多くの混沌を。
それが恵波 流都の進むべき道である。

【恵波 流都】
[状態]:ダメージ(小)
[道具]:無し
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.このアビスに混沌を広める。
1.囚人達を脱獄させる手段を見つけたい
2.1の目的を叶えるための協力者が欲しい
3.1の目標達成が不可能な場合は恩赦による生還を目指す


320 : 名無しさん :2025/02/15(土) 22:25:02 z.F0tRnU0
投下終了です


321 : ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 22:50:25 TcVGy/VY0
アイ、氷藤叶恵で投下します。


322 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 22:53:24 TcVGy/VY0
めきめきと、ざわざわと。
静粛な夜の森林を破壊する、らしくない騒音が走っている。

子供の奇声のような叫び声とともに、木が揺らされていく。
そして遂には倒れていく。


樹冠から飛び出して逃げていく一つの影。


密生した木々が生えている中でも、自由に行動できるライセンスを持っている持ち主たち。


木が倒れた先、息をひそめながらやり過ごそうとするのは一匹の獣人。
匹――――というよりは、いくら姿が獣でも元が人間なので一人というのが正しいだろう。
木に寄り添い、耳を倒して気配を殺す一人のユキヒョウ。
白い毛皮に包まれた身体に、青いほぼ新品の囚人服を纏い闇に隠れる。

息を切らしながらも務めて静かにしようとする。
捕まったら一巻の終わりだと悟っているかのように。


後ろから迫りくる轟音の歩み。
それと共に聞こえる、可愛らしいのか奇声なのかよくわからない叫び。

その根元には、全くそれにそぐわない姿の女の子。
黒髪はツインテールとなっており、文明を感じさせないわけではないのに野生児じみていて。
身長100cmほどの幼女がその怪力で、障害物を無視しながら攻撃を仕掛けんとしているのだった。


やまない轟音。
どうしてこうなってしまったのか考える余地もないユキヒョウ。

森を疾走しても、相手も森に慣れている以上逃げられるのかは不透明だ。
逃げる以外の、別のやり過ごす手段をなんとか考え始める。



 ――――――――

 ◇

 ――――――――


323 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 22:55:34 TcVGy/VY0



――刑務作業。
――殺し合い。

このことだったんだ。


説明を聞いた私は思案する。


あの時、急に私に差し込んできた予感のこと。
自首してもう終わりにしようって思ったとき。




――4人、殺した。




お父さんの分、お母さんの分だって。
お姉ちゃんの分、お兄ちゃんの分だって。
そう思った。


もういいと思ってた。
殺されたのと同じ数だけ殺したから。

これ以上殺したら、私はもう人間じゃなくなっちゃうような怖さがあった。


それでも、裏から強盗を指示した犯人。
いまだに名前も姿も掴めてない黒幕。
アビスに封じ込められたはずのそいつ。


恩赦なんて絶対にさせない。
被害者はどれだけ再生産されるんだろう。

私と同じ思いなんて誰にもさせたくない。



だから、最後は私の分。

そいつを始末できるなら、もう自分の命だっていらない。

何としてでも阻止する。
違う。

殺さなきゃいけない。


悲しさは消えないと思う。
きっと心が救われることもない。

でも、もうそうすることしか自分に生きる価値が無い気がする。


何としてでも探し出す。

もちろん他の人間だってこの殺し合いにはいっぱい巻き込まれている。
もしかしたらあいつ以上の凶悪犯だっているだろう。

でも、私は私のことをするだけ。

幸い、気配を消して動くのには慣れてる。


もしも接触しそうになったら。
話が通じなさそうだったら、無視。

話の通じそうな相手に見えたら、あいつに関する情報を知っているか聞き出せばいい。


武器なんていらない。
首筋にユキヒョウの尖った爪をいきなり突き当てられて、こっちの要求を聞かない人間なんている?

遠慮なんていらない。
みんな10年以上の刑期を抱えた凶悪犯罪者なんだから。


刑が確定してから1ヶ月。
アビスにはまだ数日しかいない。
つまりまだここでは、ほとんど誰とも話せてはないんだ。

この機会にいくらでも他の奴から話を聞きだしてやろう。


324 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 22:57:15 TcVGy/VY0



――もしも相手が仇だったら。


爪で太い血管全部切ってやる。


首筋に噛みついて頚椎を折ってやる。


――死んでも絶対に離してやらない。



――さて。

時刻は夜だったけれど、それにも増して周りは良く見えなかった。

身体には時々草木の当たる感覚。
昔は良く出かけていた、自然の中のさわやかな香り。

転送された場所は、どうやら深い森林の中らしかった。


手がかりはほんの僅か。
正直心細い。
それでも、何としてでも探し出す。



――――――ピピっと頭が冷たくなる。

時々私の頭の中に入ってくる不思議な感覚。


なぜだか、まずいことになる直感。

人間が誰か来るんだと思う。
たぶん、殺気とは違う。
快楽犯罪者のそれではないと思う。
恩赦ポイントとかのために見敵必殺してくる感じでもない。

何かこっちに強要してこようとするタイプかな。
超力とか使って手駒にしようとしてくるのかな。


それでも、手がかりは欲しい。

取引に応じても構わない。
何だったらそれが私に不利だろうと、最終的にあいつを殺せるなら構わないとすら思う。



爪を出して、手ごろな近くの太い木の上へ上っていく。
音をできるだけ出さないように、静かに。
向こうに察知されないうちに、相手より上を陣取るんだ。

人間はだいたい高所を警戒してこない。
映画でしか見たことないけど、ゲリラ戦とかに慣れた人なら違うのかな?

アビスには世界各地の囚人がいる。
日本で通用したことはうまく行かない可能性もある。

前の――そう、家族の仇を殺したときよりも。
もっと真剣に気をつけなきゃいけない。


目の周り以外がほとんど下から隠れて、その一方でこっちから下はそこそこ見渡せるような位置を探し出す。

月明かりが木々の枝葉で減衰して、林床をまばらに明るく照らす。

夜目が普通の人間より効く自信はある。
――家族と一緒に夜に帰ってきたとき、暗い部屋の電気を真っ先につけに行くのは私の役目だったなあ。

そんなことを考えながらも、下の方を注視する。



――向かってきてる。

音とかの気配はする。
けどなんだか、だいぶ小さいように感じる。
――手練れなのかもしれない。
家族を襲った手慣れてない強盗たちとは違う。

もしかして、本職の兵士とか殺し屋とか?


325 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 22:57:49 TcVGy/VY0



怖い。
逃げてしまったほうがいいかな。

声を出せばきっと聞こえる。
姿を見せずに交渉とかすればいいのかな。

わからない。

でも、よほどの探知に長けた超力の使い手じゃない限り、自分が先に相手を発見する自信はある。
そして、探知に特化した使い手なら、たぶん逃げる自分に追いつけるような超力じゃないと思う。

せめて、一目相手を見てから決めよう。



――音が徐々に近づいてきた。

聞こえる先の方に視力を全集中する。

歩幅は小さいように感じる。
草を嫌って少しずつ進んだり、屈んだりしてるのかな。


…………………


なんか違う。
何か想像が及んでない気がする。
――見てから考えよう。



あっ。
月明かりが反射した。
黒い髪だ。

刑務服は闇に溶けているけど――徐々に輪郭が。


あれ?


すごい小さくない?



――――子供?



――もしかして!

――――アイじゃない!?

野生児の子の!


すぐに連想した。
アビスにあるはずのシステムAでも超力を制限しきれてなくて、壁壊したりしてた子!?

というか、私のこと見て嫌がってたりしたよね!?
他にも小さい子供の囚人はいて、可哀想だなって思ってたけど!

なんか私を見て暴れようとしたんだ!
泣くような怒ったような表情で!
それ以来、刑務官の人が気を使ってくれてるのか会ったことないけど!



――――どうしよう。

さすがに。
放っておけないような気もする。

私より若そうな子も刑務作業に参加してるのは何となく見えてた。
中学生くらいでもヤバい人間って本当にいるし、まあそんなんかなと思いはした。
超力を使って犯罪するキレる若者がいるとか、そうなるなよって学校の先生がよく言ってたとか。


でもさ。
こんな小学生にもなるかならないかくらいの子まで殺し合いをさせるの?

それでいいの?


違う。

私には関係ないよ。
きっと私の想像にも及ばない、偉い人の意思とかもあるんだ。
考えても意味ない。


326 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 22:58:23 TcVGy/VY0


こんなことに感情移入しちゃだめ。
昔の可愛くて甘えたがりの、現実をわかってないだけの猫みたいな女の子に戻っちゃう。

そんなんじゃだめ。
そんなんじゃきっと生きていけない。
仇を見つけられないどころか、その前に別の囚人に殺されちゃう。


それでも――――。

ごめん――――。




――――????!!!!

強烈な寒気。

認知はその後にくる。

――目が合った!!

色々考えすぎてる間に!!




 ――――――――

 ◇

 ――――――――



――――アイは。
刑務官からの説明はほぼ解していない。
密林に転送されれば、まずは故郷のジャングルと同じ場所じゃないかと思った。
しかし周りの植物の様子などから違う場所の森だとすぐに気がつく。

あの監獄から外の世界に出れたのなら。
目指すはもちろんゴリラである家族の住まう下である。
とりあえず知らない森をすぐに抜け出そうと、歩みを進めていた。



さて、ヒョウを発見したアイの動きは素早かった。


アイはヒョウを強く敵視していた。
ゴリラは優しく無駄な戦いはしないと言うし、そう育てられていたけれど。

ヒョウはゴリラの雌や子供を襲う。
赤ん坊の頃のアイも幾度か襲われたが、親代わりのゴリラが助けてくれた。
手足が自由に使えるほど大きくなってからは、逆に自分がヒョウを倒す側になった。

襲ってきた大きいヒョウを逆に全身複雑骨折させてめちゃくちゃにした時は、さすがにゴリラの家族からも称えられたものである。


とはいえ怪力の持ち主のアイといえど、流石に自分に敵は居ないと思ってるわけではない。
ヒョウに先手を取られたら、怪力によって防御力が上がっていても爪や牙で怪我はするだろう。

だから森の中で育った感覚により、周囲への警戒は怠たっていなかった。
それでも叶恵はユキヒョウとしての超力と位置取りによって、アイを先に発見できた。
しかし、そのままにしていればいずれアイが叶恵に気がつくのも自明のことだった。

アイの目線の先には、忘れもしないヒョウの睨むような目。
二度と自分の近くに寄ってこないようにできるだけ脅かし痛めつけなければというのが、野生の中で生きてきたアイの思考だった。



 ――――――――

 ◇

 ――――――――


327 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 22:59:21 TcVGy/VY0



木から投げ出されて、息を殺す。
でも、相手からももう場所はわかっているだろう。

"うああああああああぁぁぁぁ!"と形容できるような叫び声。
歩みも確実に、こちらに迫ってくる。


なんで?なんで襲ってくるの!

首輪を狙ってる……!?
わからない。

刑務官の人の説明とかわからないはずでしょ!?
違うでしょたぶん!?


詳しくは知らないけど、人襲って食べるようなタイプでもないでしょ!?
――私から離して飴をあげて、看守の人が落ち着かせてたようなのは覚えてるけど。


でも、考えられる。
アイちゃんは、自分のことを狩りの対象として見てはない。
私が怖いんじゃないか。
排除したいんじゃないか。
その気持はわかる気がする。
たぶん。きっと。

それなら。
もしかしたら、戦わずに済むかもしれない。

――覚悟を決めよう。



――姿を見せる。
背中を見せたら怖い。
何かものを投げられるかもしれない。

だから、ゆっくりと。
しっかり向き合う。
足をかがめて。
優しい顔をして。


――警戒しているのか、動きを止めるアイちゃん。
姿勢は前のめりに屈めて、すぐにも襲ってきそうなままだけど。
とりあえず止まってくれた。

――アイちゃんの顔。
やっぱり。
泣くような怒ったような表情。


気持ちはちゃんとわからないけれど。
でも、私は貴方に何もしたくない。
だから。



――ゆっくり、足の力を抜いた。
後ろに倒れていく私の身体。

飼われてる猫や犬のよくやる、無抵抗のポーズだ。
お腹側を相手に見せる。

そう。敵意のなさとか、相手をなだめるためとか、
甘えたいときとか。
昔、家族の前でもよくやってたけどね。


――相手の顔はよく見えなくなった。
とにかく。
私は君と戦うつもりはないって。
どうにか伝わって。


「大丈夫だよ。
 アイちゃん。
 大丈夫だから」


ミャアンと柔らかい声も出してみる。
お願い、わかって。


「うああああああああぁぁぁぁ!」


飛びかかってくるアイちゃん。
怖い。
でも、大丈夫。
受け止めなきゃ。

攻撃を食らっちゃったらもちろん危ないだろうけど。
避けてもいいけど、逃げてはいけない。


328 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 22:59:55 TcVGy/VY0


――お腹に衝撃。

マウントポジションのように私に馬乗りになるアイちゃん。

息が。できない。
短く途切れ途切れに叫びながら、体重をかけてくる。
私のもちっとしたお腹の上で跳ねるように。
そこに怪力が重なって――。



苦しくても。何とか笑顔を。
爪は見せないようにして、手を垂らして。


腕が、伸びてくる。
首かな?
揺らされたら、脳震盪で済むのかな。
さすがに、タイミングを合わせて背筋の力で頑張って逃げるしかないかな。


…………


手が止まった。
助かった?
顔をよく見る。目線は顔じゃなくて身体に向けられてる。

――――あっ。

服を掴まれた。
あっ――――引っ張らないで。

プチプチと、服のプラスチックのボタンが弾け飛んでいった。
肌着が顕になっていく。

そうして――私の胸を見つめるアイちゃん。


どういうこと?

あっ、ひっ。
腕が胸に!
触られてる。

何でこんなことするの?
わからない。わからない。

自分で触るくらいしかしたことないのに。
不快というより、本当に意図がわからない。
まるで本物か試すかのように。
一通り触られていく。
やめてとかは言わない。言えない。
とりあえずそうしておけば、危険がなさそうだから。
私はそのままにする。

なんでだろう。
お母さんに甘えたいのかな?
そんなことあるのかな?
野生だと見たことないから気になるのかな?
わからない。

――考えてる間に、いつの間にか手は離れていた。
"うあ?あい?"と形容するような声で、考えるような仕草をするアイちゃん。

わからないけれど――とりあえず攻撃する気は今はなくなったらしい。
そうこうしてるうちに、私の首に目をやるアイちゃん。
首――首輪、あるよね。
私にあるけど、アイちゃんにも小さい首輪がちゃんとついてる。
それはアイちゃんがこの殺し合いの参加者としてしっかり選ばれてしまっていることも示してる。
やっぱり……かわいそう。


329 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 23:00:29 TcVGy/VY0


すると……。
あっ、やめて!

アイちゃんが、自分の首にも首輪がついてることを思い出したかのように。
首輪を握り始めた。
そして、すごい力を入れてる。
たぶん、外そうとしてる。

「あ、あっ!!ダメだよ!!」

止めなきゃ。
首輪には爆弾が入ってる。
下手したら爆発するかもしれない。

でも、私には無理やりそれを止めさせる力はない。
どうにか、伝えなきゃ。

「壊しちゃだめなの。
 お願い、聞いて?
 私も外せないの」

話が通じないのは分かってる。
でも、何とか伝えなきゃ。

ジェスチャーを加える。
私も自分の首輪を握って。

「首輪、パキって壊すと、ドカンって爆発しちゃうの。
 パキってやるとドカンって。
 死んじゃうかもしれないの」

必死に伝える。
手を使って、表情を変えて、首を動かして、必死に。
お願いだから……。



やがて、アイちゃんが諦めた。
疲れてやめたのか、外せないってわかったのか。
私の言うことは伝わったのかな……。
"あうぅぅ"と、諦めたような疲れたような声。


とりあえず、落ち着いたみたい。
どうしよう。
言うことを聞かせるなんて、できるんだろうか。

とりあえず、時間を持たせよう。
何されるかわかんないもん。

私って子供の頃何が好きだったっけ?
みんなにどんなことされてたっけ?
そうだ、こんなの……。

「ほらっ、肉球!やわこいぞ!
 ぷにぷにしてるぞっ!」

手の肉球をアイちゃんの方に向けて、もう片方の手で触りだす。
子供の頃、お兄ちゃんもお姉ちゃんもよく触ってきてたっけ。
学校でも触らせてって結構言われてた。


アイちゃんは……。
ちょっと驚いたように見えたけど。
やがて、手を伸ばして。
触りだし始める。


大丈夫だった。
そこに、怪力はなかった。

ああ、やっぱり子供なんだなあ。


「ふふっ、柔らかいでしょ?
 アイちゃん?
 私、叶恵。カナちゃんって呼ばれてた。
 カ・ナ。わたし」


アイちゃんは話を聞いているのかわからないけど、触り続ける。
指の方の肉球を押す。すると爪が出し入れされる。
それが面白いのか、アイちゃんは何度も繰り返す。

最初は恐る恐るとか、興味だけというような顔だったのがだんだん嬉しそう顔になってきた。
"あいっ!あいっ!"と喋って楽しんでくれている。


330 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 23:01:02 TcVGy/VY0


よかった。
でも、これからどうしよう。
放っときたくはない。
でも、アイちゃんといっしょにいて仇を探すことはできるんだろうか。

アイちゃんは可愛らしい子供だ。
力はすごい強いけど、それでも小さい子供だ。
このままだと誰かに殺されちゃうかもしれない。
そんなとこ、想像したくない。

どうにかならないかな……。
犯罪者でも、子供が死ぬところは見たくないって人きっといるかなあ……。
そういう人を見つけて、託すしかないかなあ。


――――ああ、道は遠くなっちゃいそうだ。
私ってやっぱり、敵討ちとか向いてなかったんだろうなあ。
それでも――すごい悲しかったから。辛かったから。
誰かに任せちゃだめだとも、思ってたから。



――――とりあえず、私の上からはどいてもらいたい。
もう一つ楽しかったものがあったっけ。

そこら辺に散らばってたボタンを、空いてる方の手で2つ拾う。
そして――しっぽの先端につけて、うまく毛にめり込ませる。
尻尾を蛇のおもちゃに仕立ててみた。
どうかな?
アイちゃんの眼の前に動かす。





「ほらっ!ニョロニョロだぞっ!」





「うああああああああぁぁぁぁ!」





「ぎにゃああああああぁぁぁぁ!」


331 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 23:01:40 TcVGy/VY0





ドサザザザザザザッ!
私の身体が草や灌木をなぎ倒していく。

――――咄嗟に体を丸めた。

何が起きたの?




尻尾に痛み。

そうだ、尻尾掴まれた。

そして投げ飛ばされた。



身体が全部痛い。

太い木に当たってたら死んでたかもしれない。
獣人の能力で身体が柔らかくなかったら、咄嗟に身体を丸めてなかったら。
どこか折れてたかもしれない。


なんで……こうなっちゃうの。
わからないよ……。

まともな死に方はできないと思ってはいたけど……。

強い殺意で殺しにかかってくるなら――。
いたぶったり強姦したりしたいなら――。
支配して何か強要させたりしたいなら――。
そのほうがよかったよ、もう……。

こっちだってやりようがあるよ。
覚悟も決められるのに。

なんでぇ……。
なんでこんなわからない暴力。
なんで私が巻き込まれなきゃいけないの……。


「うっ、うっ……」


しゃくり上げてしまう。
辛い、どうしてぇ……。

どうあやせばいいの?
わからないよ……。
末っ子だもん私……。

今までずっとうまく行ってたけど。
人だって殺せるって、もう何でも大丈夫だって思ってたのに。
もう、わからないよぉ……。

泣きたいのはこっちだよぉ……。

ママ、パパ、お兄ちゃん、お姉ちゃん……。


「うっ、うっ…………。
 うみゃああああああぁぁぁぁ…………。
 うみゃああああああぁぁぁぁ…………」


止まらない。

アメなんてないもん……。
そんなものどこにあるのぉ……。
こんな場所で手に入れられるわけないもん……。


私だって。
思い出のクッキーバニラアイス、食べたいもん…………。


「うみゃああああああぁぁぁぁ…………。
 うみゃああああああぁぁぁぁ…………」


ママ、パパ、お兄ちゃん、お姉ちゃん……。
助けてよ……。
こういうときどうすればいいの……?
わからないよぉ……。
私何もわからないよぉ…………。

尻尾が痛い。
股を通して前にやる。
抱きしめる。痛いから……。


332 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 23:02:13 TcVGy/VY0


「うみゃああああああぁぁぁぁ…………。
 うみゃああああああぁぁぁぁ…………」


どうしてぇ……。
どうしてぇ……。



あ、アイちゃん……。
やめて、来ないで。
もう怖いよ……。


え?なんで?
そんなに優しそうな顔なの?


えっ?えっ?
アイちゃんが――――。


私を抱っこしてる。


「うっ、うっ…………うみゃっ…………」


背中を撫でて、くれる。
"あい、あい"と優しく語りかけて。
宥めてくれる。

どうして?どうして?

わからないよぉ……。

でも、どうしてこんなに暖かく感じるの?


「うっ、うみゃっ…………。
 おね…………お姉ちゃん…………」


暖かいよ……。
私まだ子供だもん……。
お姉ちゃん…………。



 ――――――――

 ◇

 ――――――――



アイは――――。
相手が人間らしい言葉を口にして、自分が人間から呼ばれる名前を呼ばれたこと。
そして、服を着ていたこと。
動物のヒョウにはないはずの乳房があったこと。

それを以て、相手は動物のヒョウではないと判断した。
叶恵の努力のうちいくつかはしっかり報われた。
アフリカでいつか見た、人間から動物っぽくなる力の持ち主かととりあえずの理解を得ていた。


しかし、尻尾を蛇のように見せたことはアイの地雷だった。
大蛇もゴリラの子供の天敵であるから。
だからアイは、咄嗟に普段するように蛇を掴んで遠くへ投げ飛ばした。

それは叶恵の尻尾で。
重い感触と同時に飛んでいく叶恵を見て、やがて自分が相手を投げ飛ばしたことに気がついた。


そうして。
泣き出してしまった叶恵。
尻尾を抱きしめて泣いていて。
その姿が。


家族を思い出してる自分に重なったのか。
家族を抱きしめたい気持ちを重ねたのか。
家族に会えなくて泣いていた自分に重なったのか。


アイは――。
慈しみを持って、叶恵を抱き上げて。
あやすようにした。
やり方はわかっている。
年下の家族のゴリラたちを、いつもあやしていたから。

まるで、姉が妹をあやすように。
優しく、優しく。


333 : ウスユキソウ(薄幸想) ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 23:07:30 TcVGy/VY0



 ――――――――

 ◇

 ――――――――



落ち着いた私。
アイちゃんは私の毛についた枝葉のゴミを、毛づくろいするように取ってくれている。

抱きしめられてた間、色々思い出してた。
私のことだけじゃなくて、アイちゃんのことも。

アフリカで日本人の乗った飛行機が墜落したニュースは、昔やってたのを運よく覚えてた。
ちょうど5年くらい前の誕生日の頃だったからかな。

一家全滅が発生したとか。
事故原因は超力犯罪じゃないかって言われたりもしてたけれど。
結局原因が明らかになることはなくて。

その生き残りがアイちゃんなのかな。
行方不明で処理されて野生児として育ったのかな。
そんなことも、アビスにいる短い間に考えてたりしてたんだっけ。


――――そうだね。
私もアイちゃんと同じなんだ。
そうなるなんて、思ってもなかったよ……。
私のほうが、家族がいなくなってから時間が経ってない。
ある意味お姉ちゃんでもあるんだ、アイちゃん。


涙に濡れた顔の毛を拭いながら、優しい顔をしてアイちゃんにお礼を言う。


「ありがとう……アイちゃん……ありがとう」


まだアイちゃんが何考えてるかとかはわからないけれど。
まだ体は痛いし怖さもあるけど。
それでも、この優しさにはお礼は言わないといけないと思った。
子供のやることだから優しくするべきだって思うけど、それ以上に私が優しくしたかった。


アイちゃんと私は、同じだから。


「そういえばアイちゃん。
 "ブラッドストーク"って名前、どっかで聞いたことある?」

「あう……?あいっ!あいっ!」


わずかな手がかり。仇のコードネーム。
ふと、アイちゃんに聞いてしまう。

わからないかな……もしかしたらわかってるのかな。
まあ言葉がわからないんだから、しょうがないか。


【C-5/密林/一日目 深夜】
【アイ】
[状態]:健康
[道具]:なし
[方針]
基本.故郷のジャングルに帰りたい。
1.(……よしよし、なかないで)
2.(ここはどこだろう?)
3.(ぶらっどすとーく?ずっとむかしきいたような、わからないような……)

【氷藤 叶苗】
[状態]:尻尾に捻挫、身体全体に軽い傷や打撲、刑務服のシャツのボタンが全部取れている
[道具]:なし
[方針]
基本.家族の仇(ブラッドストーク)を探し出して仕留める。
1.アイちゃんをどうにかしなきゃ。どうしよう?
2.でも本当はこんな事してる場合じゃない。分かってるよ……頑張らないと。

※知っている手掛かりは、コードネームのブラッドストークだけです。


334 : ◆koGa1VV8Rw :2025/02/15(土) 23:08:14 TcVGy/VY0
投下を終了します。
少し手間取り時間がかかり申し訳ありませんでした。


335 : ◆8eumUP9W6s :2025/02/15(土) 23:57:19 onj10olk0
投下します。


336 : ◆8eumUP9W6s :2025/02/15(土) 23:57:59 onj10olk0
(日本刀は10ポイントか。
…ナイフやハサミでも超力(ネオス)の条件は満たせるが、肝心のポイントが無い以上、他の刑務作業者を探すまではこれで我慢する他あるまい)

全身の細かい刀傷が無く、無精髭とボサボサ髪を手入れさえすればその綺麗な蒼眼も併せて異性に引く手あまただろう男、征十郎・H・クラーク。
彼はこのB-3の森林地帯のエリアにて、デジタルウォッチの機能を用いて真っ先に交換リストの確認を行っていた。もう片手にはいい感じの木の枝が握られている。
人類が超力(ネオス)に目覚めた開闢の日以降、普通の世界で云う所のアスリートレベルがこの世界での人類の平均的な身体能力となっていた。
剣術が出来てもそれを十全に活かせる運動能力が無ければ宝の持ち腐れ、故に八柳新陰流を学び極めてみせた征十郎には、相応の超人じみた身体能力がある。
森林地帯の中から見つけた木の枝をへし折り自らの得物とする程度、彼には造作も無い事だった。
時間帯としては深夜となるものの、超力(ネオス)に目覚めて以降の人類はその影響か、夜目も効くようになった為さしたる問題にはならない。

(…デイパックがあれば、これ(木の枝)を大量に得てひたすら超力(ネオス)を行使、使い物にならなくなった側から持ち替えて……とも出来たが。
1ポイントとはいえ、結局他の刑務作業者を探すまでは我慢する他ないか)

「…1ポイントにつき恩赦が3ヶ月。…64ポイントあれば刑期分精算可能、デイパックと日本刀を併せても80ポイント分確保できれば……後は何も考えず腕に覚えのある連中と存分に斬り合える」

笑みを浮かべ、名簿の確認など不要と言わんばかりに征十郎は森の中を往く。
己の極めた剣技を、己の腕を存分に振るう為。そこに得物が枝だという不安は無くあるのは高揚であった。


337 : ◆8eumUP9W6s :2025/02/15(土) 23:58:30 onj10olk0
…しかし彼が進んだ先に在った姿は、居る筈のない存在だった。
互いの合意はあったとはいえ、決闘殺人罪とやらで自分が逮捕されそしてアビスへと移送される事になった直接的な原因、この手で確かに殺した、その肉を、首を斬り捨てた筈の相手が──木の枝を手にしてそこに居る。

(生きていたわけではあるまい。確かにこの手で殺した、その筈だが……超力による偽装か或いは…この刑務作業とやらの為に蘇らせた?……そんな馬鹿な話があるか。
…なら偽装だな、面妖な超力を…だが、首輪には死の文字もある、最初に戦う相手には丁度いい!)

困惑をしながらも、高揚を抱いたまま征十郎は枝を持って辻斬りを試み……枝と枝がぶつかる音がした。

「対応したか、そうでは無くてはな…!」

反撃とばかりに斬りかかる相手の姿は、いつの間にか殺した筈の存在ではなく幼なげな少女の姿へと変貌していたが、相手の正体等征十郎にはどうでも良かった。
互いに得物が枝である事に、剣の腕を十全に活かせる得物で無い事に惜しさはありながらも…彼は剣を振るいこれを防ぐ。

----

時間は少し遡る。
収監されて1年、そしてアビスに移送されて数日という所でこの刑務作業へと巻き込まれた少女舞古沙姫は……
「もぉ"ーっ!!」
と叫び頭を抱えていた。

「…俺が人を直接殺せないのは知ってるよね!?
なのに恩赦Pは殺すか即座に漁夫の利を得に行かなきゃ手に入らない、弄れる機械も無い!超力で出来ることといえば不意打ちくらいだ!!」

交換リストと恩赦ポイントの仕様を確認した沙姫は、まさか自分は犠牲者役として移送されて来たんじゃないかと思いつつ嘆く。
…直接他者を殺めようとすると、それだけで産みの親、育ててくれた夫妻の事切れた無惨な様が脳裏へと浮かび上がり、ストレスによる負荷が物凄くかかるが為…彼女は直接手を汚す事は決してしない、というか出来なかった。
しかしこの刑務作業ではそれは、他の刑務作業者同士が殺し合う最中、首輪へとデジタルウォッチを接触される前に横取りをするか、他の刑務作業者と協力ないし同盟を組む以外に…沙姫に恩赦ポイントを手に入れる手段は無いことを示す。

「…協力や同盟って言ってもなあ、首輪のこの文字を見たら…有無を言わさず殺しにかかる人達ばっかりだよね。誰が居るとかロクに把握出来てないけれど…。…それに恨みなら幾らでも買ってる筈だから。あの人に救われちゃった以上、今更命なんて惜しくはないけど……」

自らの超力を掻い潜り見つけ出し、剣の技量でも自らに勝ってみせた初恋の、最愛の人を浮かべつつそうぼやく沙姫。
彼女が大人しく罪を洗いざらい吐いた結果、捕まったり余罪が増えた犯罪者は少なくは無い。故に恨みなら幾らだろうと買っているだろうと考えているし、結果殺されても彼らや遺族などによる物なら因果応報だろうとして受け入れてはいる、他者を殺してでも生きたいと思う程の執着も無い。
…最も、それはそれとして足掻けるだけ足掻きたいとも考えていたが。

(…そうでなきゃ、あの人が俺を生かして捕まえた意味が無くなっちゃう)
「…とりあえず、当面はこのいい感じの枝が生命線、かなぁ。
……心許ないけど…まあ無いよりはマシだよね」

跳躍し木の枝を手で持ち折って着地、それを得物としつつ沙姫は歩く事とした。

(…恩赦云々が本当かどうか、怪しくはあるし…そもそも外に出た所で、色々関わってきた上に全部喋っちゃった俺は殺されるだけだよ。…仕方ないだろ、惚れた人の頼みだったんだからさ。
……仮に恩赦で釈放されようにも…その為には最短でも、死刑や無期懲役の人の首輪4つを、戦いの最中漁夫の利しなきゃいけないし。
首輪やデジタルウォッチの解析をしようとするにも、危険度は漁夫の利よりは少しマシ程度……うーん……)


338 : ◆8eumUP9W6s :2025/02/15(土) 23:59:00 onj10olk0
そう思考しつつ、ふと名簿を見るのを忘れてた事に気付いた沙姫は見ようと試みる。
見知ってる名前があるという事は、それだけ自分に恨みを向けてる相手がこの刑務作業に居る事とイコールになるが為、正直気が重たかったが、見ておいた方が良さそうと考えた中……感じ取ったのは殺気。
咄嗟に枝を以て沙姫が防御にかかると、現れたのは蒼眼の傷だらけの男。

(…この振り方、八柳新陰流だ!ハーフみたいだけど…!)

剣術が大の得意である沙姫には一瞬で、相手の学ぶ流派が八柳新陰流だと看破出来た。
得意なだけでなく好きでもあるが為、思わず気持ちが昂る。
いきなり仕掛けてきた以上、おそらく目前のハーフの刑務作業者は、超力により自分を斬りかかって問題無い相手に誤認しているか…誰彼構わず斬りかかる辻斬りの類かと判断した彼女は自分から斬りかかるも、防がれた。

----

「その振り方…八柳新陰流、だよね??」
「…ほう、子供の割にはよく識っているな」
「子供じゃないよっ、そうは見えないのはわかる…けどぉっ!」

2人の刀無き剣士は枝同士をぶつけ合いながら、そう言葉を交わす。

「やはりお前も、腕が立つようだ…斬りかかって正解だった!」
「それはそれは…どうも、ありがとうっ…!正直この刑務作業でもずっと…ニートやってたいけど、これは…これでっ!」
(…いい感じの木の枝でこれって、本来の得物…日本刀ならどれだけこの人はやれるんだろう…!)
(奴の剣術は流派に囚われぬもののようだ、そして、剣術もだが身体能力も厄介と視た!)

疾走し八柳新陰流の技のひとつ、這い狼を放つ征十郎、それに対応し枝を少し掠らせ向きをずらし、跳躍し回避した上で脳天めがけて突き刺すように枝を刺そうとする沙姫。
捉え回避か防御かを迫られ…受け流す技である空蝉により征十郎は防御を図り防いだ。

(…殺意のある攻撃までは出来るけど、やっぱり…)
「面倒だけどうん、やっぱり防ぐよね…!」

脳裏に呼び出される過去の記憶を必死に拭いながら、何でもないよう振る舞いそうでなくっちゃと言わんばかりに沙姫は呟く。
そしてすかさず振るい、相手の棒を巻き落とす事で隙を作る鞍馬流の技たる変化を試みるが……征十郎はこれを斬り返し踏み込む技である天雷で迎え撃つ。

(超力(ネオス)は…"まだ"使わない、下手に使えばリスクにより枝が破壊される以上…使い所を見極める)
(…受け止める?それとも……よし、疲れそうだけどやってみよう、俺!)


339 : ◆8eumUP9W6s :2025/02/15(土) 23:59:20 onj10olk0
代償により刃としている枝が破壊されれば、致命的な隙になると理解しているが為、温存したまま天雷を放った征十郎。
これを沙姫は……敢えて枝を手放し、投擲して飛び退く。
飛んできた枝を征十郎の枝が叩き折ったと同時に、彼女は木の上に乗り…手刀を以ていい感じの枝を2本、折った後手に取ってそれを振り下ろしながら急降下の二撃を見舞った。

「ほう。二刀流も出来るとはな…!」
「疲れるから一刀流の方が、俺は好きだけどね!こういうのも悪くないでしょ」

二刀による攻撃をまたもや空蝉で止められてしまう沙姫だが、続く雀打ちを身を捻らせ紙一重で避けた上で、二天一流の技を以て果敢に攻める。征十郎はそれを的確に防ぎ受け止め、反撃を行う。
洗練された八柳新陰流を振るいし征十郎と、洗練も何も無い荒削り・異なる流派の技や我流の技も振るう沙姫、両者命中させれず傷はなくとも、疲労が徐々に溜まる。
そして……(枝による)剣戟の最中、征十郎はついに使い所を視た。
そうと決まればチャンスを逃す訳には行かない、今まで使ってなかった八柳新陰流の技を行使。技の名は鹿狩り、名の通り鹿を屠る重たさと鋭さを併せ持った強力な一撃だ。それに超力(ネオス)を併用し……沙姫の二刀(枝)による防御を破壊、服を破き吹き飛ばし、傷を負わせた。

「っ、でも俺はまだ…これがあるよ。…だるいけどな…ぁっ、あなたは??」
(…久々に、痛む…あの人と、どっちが強いかなあ…これ俺に勝ち目ある??)
「……愚問だな、身体能力が無ければ…剣術も振るえまい」
(…奴が手刀をするように、超力(ネオス)を手刀に使えば、確実に勝てる。
…だが代償が重たい。腕が破壊されたとして、治療キット1つで50ポイントだ…治せる保証すら無い。
…このまま戦うとして、体術も熟せそうな奴に素手では不利だ、枝を拾う隙が在ればいいが…)

しかしこれによる代償で枝は破損、沙姫自身は内心不安を感じつつそれを見せずに、勝負はこれからと言わんばかりの笑みを浮かべ手刀を構える。それに対し征十郎も、内心思考しながら少し遅れて構えた。
そして向き合う形になる中……征十郎が仕掛ける寸前、声を沙姫は発する。

「ねえ、あなたはなんで…その八柳新陰流を極めようと思ったの?」
「…時間稼ぎのつもりか?」
「違うよっ、単純に興味本位。…戦ってて、ひとつの流派を極めるまで行き着くその原動力は何なのかなって気になって。
…剣を極めなきゃ死ぬか、死ぬより酷い目に合うみたいな環境だったりするの?」
(…労働なんてしたくなかったけど、しなきゃ飢え死ぬかあの場所に逆戻りかだった、俺みたいにさ。…あの人に負けてから、無関心でいれなくなってきてる気がする…らしくないなあ俺)


340 : ◆8eumUP9W6s :2025/02/15(土) 23:59:52 onj10olk0
内心自嘲しながらも純粋に気になってそう言う沙姫。
配慮にいまいち欠けた言動には特に思う事無く、征十郎は端的に返した。

「…母にして師が、私に遺してくれた、指し示してくれた道。ならば…出来ることはこれを突き進む事のみだ。故にこの刑務作業でも、この腕を強者との戦いに振るう。
…ここでお前との決着は惜しいが──」
「…待って!…いや、死にたくないとかじゃないよ、たださ。
…惜しい気持ちがあるなら…あんたにひとつ提案がある」
「知るか、私には命乞いをしようとしてるようにしか聞こえん」
(そんな気はしてたけどとりつく島もない!けど…やれるだけは!)
「強者とっ、強者と戦いたくて…それで俺との決着を惜しんでくれる気持ちがあるなら…俺を護衛するって手もあるよ」
「…お前の言う通り惜しむ気持ちはある。が…折角の100ポイントをみすみす見逃すと思うか?そんな甘さがあると?私に?」

切って捨てる征十郎に、退かず言葉を沙姫は紡ぐ。

「…そこなんだ、あんたが知ってるかは知らないけど、俺は色々と犯罪の幇助を行ってる。そして捕まった際諸々を全部吐いた。…だからこの刑務作業には俺に恨みを抱いてる奴がいるはず。だから…俺を護衛していれば、必然的に強い相手と戦う場には恵まれるよ?
…その時が来たって思うかここまでだって思えば、俺を殺して100ポイントを取ればいい。少なくとも首輪からして…取って生き延びさえ出来れば恩赦で釈放はしてもらえると思う。…本当に恩赦する気があるならね」

勢いで流そうとしている訳でもなく、命乞いでない事もわかるが、自らの求める道に利する事を言っているものの、自分の生殺与奪の権を委ねるような言葉に困惑する征十郎。
これが提案である為彼は動機を求めるが、そうでなければ今頃沙姫は知るかと撲殺されていたかも知れない。

「…そこまで言う理由はなんだ?命が惜しい理由でないのは分かったが」
「…強いて言うなら、まあ…あんたが俺が知ってる中で、1、2を争うくらい強いから…もっと剣を振るう姿を観たいのと…互いに日本刀でやり合いたいとも思う…からかな」
「私に頼む理由がわからん」
「…直接殺せないんだよね、人をさ。だから漁夫の利を取るか、それが出来る人と一緒に居るかしないと…ポイントを手に入れようがないんだ。
あ、ポイントについてはあんたが優先でいいよ、ついでに言うと俺は釈放なんて願ってないし。だからさ、俺との決着をちゃんとつけたいなら…あんたのポイントを取った後、俺がポイントを取らせてもらって…そこから日本刀を手に入れて…ってする必要がある。

…強者との戦う機会と俺との決着、それにそれらを切り捨てる際には100の恩赦ポイントが付いてくるし、ついでに言えば機械弄りは得意だから…ひょっとするかもね。
……まあどうするかは、あんたに任せるよ」


341 : ◆8eumUP9W6s :2025/02/16(日) 00:00:31 7ms9RUpI0
あくまで選択するのは相手だと、勢いで流す気は無いとして沙姫は告げる。
これでも取引により様々な相手の犯罪の手伝いを行ってきた少女、その経験故に勢いで流すのは不可能と判断した為の言い回しだろうか。

(…示唆するは首輪等の解除、か。可能なら…更に存分に斬り合える。刑務官側にも、腕の立つ相手は間違いなく居るだろう。
いざとなれば斬り捨てればいい、当人がそう言っているから尚更だ)

──暫くして、征十郎は構えを解く。

「…お前の提案に乗ってやろう、だがひとつ確認だ。
…知己が居たとして、そっちに傾くんじゃないだろうな?」
「安心してよ、こう見えてダブルブッキングはしない主義だからね。
…恨み以外向けられないだろうしなー」
(…知己が居たらという質問にその答え方、どんな案件に関わればそうなる。…となれば、名簿の確認が必要になるか)
「…名簿は見たのか?…お前は」
「まだだけど…沙姫、舞古沙姫って名前が俺にはあるよ!…そう言う…おじさんは?」
「…征十郎・H・クラーク、私も見てはいない」
「よろしく、セイジューローさん!じゃあさっそく…と、ありがとう。じゃあ見よっか」

何処か遠い目をしながら言う沙姫に、呆れつつここで名簿を促す征十郎、互いに2人は名乗り合った。
そして征十郎が新たに木から折って手にしていたいい感じの枝を沙姫が受け取って…名簿を確認することとなる。
ひとつの剣術を極めし求道者と、複数の剣術を見境無く覚え振るう救われた後の少女。分たれるのは確定な2人の道が何処でそうなるかは、まだ誰にも分からない。


【B-3/森林地帯/一日目・深夜】
【征十郎・H・クラーク】
[状態]:疲労(小)
[道具]:良い感じの木の枝
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.強者との戦いの為この剣を振るう。
1.今はサキ(沙姫)の提案を受け入れる。
2.必要なら当人が言う通り彼女を斬り捨てる。
3.恩赦ポイントが手に入れば日本刀とデイパックに使う。

【舞古沙姫】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)
[道具]:良い感じの木の枝
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生きれるだけ生きようとはしてみる。
1.とりあえずセイジューローさんに護衛してもらう、今は名簿をみなくちゃ。
2.首輪やウォッチの解析も出来れば試したいけど…というか本当に、恩赦する気あるのかな??
3.知り合いが居てほしくないような、それだとセイジューローさんにあっさり100ポイントに変えられかねないから居て欲しいような…
4.セイジューローさんとあの人、どっちが強いんだろう??


342 : ◆8eumUP9W6s :2025/02/16(日) 00:01:57 7ms9RUpI0
投下終了します、タイトルは「剣が無ければ枝を振るえばいいじゃない」です


343 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:31:07 ???0
非常に期限ギリギリになりまして申し訳ありません。
バルサタール・デリージュ、葉月 りんか、交尾 紗奈(書き手枠)
投下します。
タイトルは「あなたの枷はどんな形?」です。


344 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:31:41 ???0
「……きれい」

 幼い女子が、木々の葉の合間に覗く夜天の美しい星空に見惚れていた。
 彼女の名は交尾紗奈。齢10にしてアビスの受刑者として服役する幼き少女である。
 なぜ紗奈のような子供が、と疑問を抱いてはいけない。
 『開闢の日』を経て以降、超力という異能を誰もが手にした世界ではそれまでの法律が通用しない犯罪が多発した。
 取り分け、紗奈のような『開闢の日』より後に生まれたネイティブと呼ばれる世代は、力の使い方が分からない、あるいは制御できないがゆえに甚大な被害を与える例も多い。
 それゆえに、被害を抑えるという意味でも刑務所という場所に年齢を問わず隔離する措置はこの時代、必要不可欠だったと言える。

「私のいる静かな場所も、この星空みたいにきれいだったらいいのにね」

 ぽつりと呟く。
 "静かな場所”。それは紗奈の生きられる場所であり、紗奈に残された居場所。
 自分という存在を産んでおいて、売り飛ばした家族のように。
 欲望のままに私を貪っておいて、死神と罵ってくる大人達のように。
 保護するとか言いながら私に欲情してきたアビスの刑務官や受刑者達のように。
 攻撃してくる身勝手な大人達《化け物共》がいない場所。紗奈を守る絶対安全圏。
 それだけを望んでいた。

「……殺し合い、かあ」

 ふぅっ、と自分を落ち着かせるように深く息を吐く。
 看守長オリガ・ヴァイスマンによって下された刑務作業。
 殺した受刑者の刑期に応じて恩赦が溜まっていくようだが、紗奈には恩赦とやらには興味がない。
 むしろ、恩赦ポイントを利用して独房への禁固刑を増やしたいくらいだ。
 独房にいれば、誰も紗奈に手を出せないから。

「やっぱり、危ないよね。私も」

 夜風に当てられたか恐怖したか、ぶるりと震える紗奈。
 オリガに集められた場所を見渡せば、紗奈が恐れるような大人《化け物》が沢山いた。
 紗奈は、がさごそと自分の囚人服の中へと手を入れ、自身の履いている下着の中を探る。

「……あった」

 安堵したような顔をした紗奈は取り出したそれを見つめる。
 紗奈の手にあるのは、二対の手錠。『システムA』は搭載されていないものの、アビスに服役する受刑者の抵抗を封じるための、特殊合金で作られた強固な手錠だ。
 常日頃から行っている、所持品検査で「見逃さななければ今ここで脱いで手錠を嵌める」という紗奈の脅しが刑務官に効いたのが幸いだった。
 なぜ、それを10歳でしかない紗奈が隠し持つのか。なぜ服を脱いで手錠を嵌めるという行為が脅しとして機能するのか。
 それは他でもなく、紗奈の『自衛』のためであった。

「これがあれば……」

 そう言って紗奈は、あろうことか自分の着ていた囚人服を脱ぎ捨てて、しまいには下着すらも放り出して全裸になる。
 珠のようなきめ細かな肌に、紗奈の美人になることを約束されたようなかわいらしい顔立ちが月明かりの中で輝いている。
 少しでも支配欲だとか性欲、言ってしまえば人間の悪い部分を少しでも持っている者であれば、少なからず見惚れてしまいそうなほどに煽情的で、そして儚い裸体だった。

 そして紗奈は、両手を背中で組むと、持っていた手錠を手首にかけたのだった。

§


345 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:32:06 ???0
――この命は、誰かを救うためにある。

 それが葉月りんかが幼い頃から根付いていた信条だった。
 天涯孤独となった自分を引き取った葉月一家が惨殺され、身も心も汚されて生まれ持った肉体の殆どを義体に置き換えられアビスに堕ちた今も、それは曇りなくりんかの心で常に光っていた。

 森の木々を軽々と飛び移りながら、りんかは辺りを見回す。
 その150㎝にも満たない低身長に不釣り合いな、囚人服の上からでも分かるりんかの顔くらいはある大きさの乳房が、激しい動きをする度にばいんばいんと揺れている。
 りんかを構成する義手と義足は、そこらの超力を持つ人間よりも強大な筋力を授けてくれており、このようなアクロバティックな動きも難なく可能であった。
 りんかは探していた。同じ刑務作業を行っている受刑者を。
 そして、この刑務作業で少しでも多くの受刑者を救おうとしていた。

 このアビスの刑務作業では、りんかのような者は完全に異端であろう。
 世界中の犯罪者を集めたアビスの刑務作業で何の寝言を言っているのかと作業者の大半は思うであろう。
 しかし、りんかは知っている。否、犯罪組織に拉致されてから今に至るまでの日々の中で知ってしまった。
 望まずに超力を利用させられた者。
 何かの間違いで意図せずして罪を犯してしまった者。
 洗脳されて尖兵として利用されていた者。
 たとえこれらに当てはまらなくとも心のどこかで救いを求めている者達が沢山いた。

 そんな彼らの、救いになりたい。
 無論、この刑務作業で自分を含めてそんな者達が生き残れるかどうかは分からない。
 しかしそれは諦める理由にはならない。
 ここに、すべてを奪われた挙句尖兵として利用され、その手を汚してしまってもなお、その罪すらも背負い救うことをやめない葉月りんかという人間がいるのだから。

 りんかは今まで支えてきてくれた人達に感謝していた。
 大好きな姉にお父さんやお母さん。ただ利用されるだけだったりんかを救い出してくれたカウンター勢力――アベンジャーズの人達。再び誰かを守る手、立ち上がる足、見逃さないための目をくれた団体の人達。
 ここまで堕ちた自分に、また救う機会を与えてくれた者達に感謝していた。
 そういう意味では、オリガにすらりんかは感謝を向けていた。
 りんかは一人じゃない。りんかに授けてくれた者が多ければ多いほど、りんかの歩む力は強くなる。

「あれ……?あそこに、誰かいますね!」

 すると、りんかは義眼による超視力越しに、木々の間に人影を見つける。
 急いで森の中へと降下し、早速接触を図ることにした。

「こ……っ、こんばんは!エターナルホープ葉月りんか!参上しましたよ!」

 人影の前に勢いよく登場したりんかは、ほんの少し決めポーズを取ってからハッとする。
 とりあえず、昔大好きだった特撮番組のヒーローの真似をして見たが、これでは逆に相手を警戒させてしまうだけではないか。
 それとは別に憧れていた海外のヒーロー、ジャンヌ・ストラスブールっぽく話した方がよかっただろうか。
 もう少し普通に話しかけた方がよかっただろうか。だが、殺し合いの場で普通の挨拶とは一体なんだろうか。
 11歳で攫われてからこの方、碌に対等な相手とも話す機会もなく、世間の事情を知る暇もない。洗脳を解かれたのもかなり最近のことだ。
 この一生とも思える4年という歳月は、りんかから確かに初対面の相手とのコミュニケーション能力を奪っていた。
 
「……こほん。まずは、えと、お話からでも……!」

 相手を刺激していないことを祈りながら、りんかはおそるおそる目を開ける。
 だが、彼女の目に飛び込んできたのは、幼い外見のりんかよりもさらに幼い少女の、全裸で拘束された姿だった。
 両手を背中に組み、両足にも手錠をかけて、少女の園を一切隠せずなおかつまともに動けない状態だった。


346 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:33:25 ???0

「って、えぇぇぇぇぇ―――っ!?」
「……」

 ぎょっとして叫び声を上げるりんか。
 少女――交尾紗奈は、りんかを睨むと、自身の幼い肢体と恥部を見せつけるようにしてりんかの前に、手錠で拘束された足をどうにか動かし、おぼつかない足取りで出てくる。
 そして、まるで誘惑するかのようにお尻を見せつけぺたんと座り、劣情を煽るような姿勢でりんかを誘惑してくる。

「……っ」

 ぱちくりと瞬きしながら上目遣いで見てくる。
 これまでずっと搾取されるだけだったりんかも、息を呑んでしまう。
 まるで自分に妹ができたと思ってしまうほどに、紗奈はインモラルな可憐さがあった。
 かつて溺愛してきた自分の姉の気持ちが、少し分かった気がした。

「っ、ど、どうしたんですか!?まさか、誰かに捕まったんじゃ……とにかく、今解いてあげますね!」

 しかし、りんかは戸惑いながらも紗奈に駆け寄る。よく見ると、周囲に服が散乱しているではないか。
 ほんの少し湧いた情をしまって、紗奈と同じ目線になって屈む。

「それと、そんな格好じゃ誰かに襲われますから!服も着ないとですね!」

 自分も同じような目にあったこともあるから、りんかにもよく分かる。
 大勢の前で、姉妹全員で服を脱がされ、裸を比べられる。そしてそれに欲情した獣と化した人間に恥辱の限りを尽くされる。
 そんな姿でいれば、積極的に刑務作業を行う者達の格好の的であろう。

「なん……で……」

 しかし、紗奈はりんかに礼を言うことはなく、逆に戸惑いの視線を送る。
 まるで、自分を見たりんかの身に何も起こらないのを不思議がっているようだった。

「大丈夫ですよ!私はあなたの味方ですから!」

 りんかは紗奈を安心させようと、優しい言葉をかけつつ手を伸ばす。

「イヤッ!来ないでっ!!」

 しかし、りんかに返ってきたのは拒絶。
 紗奈はひどく取り乱しながら、不自由な手足で後ずさりする。
 この場面だけを切り取れば著しくりんかが誤解されそうな景色だ。

「ま、待ってください!話を――」
「どうして何も起こらないの!?こうしてれば怖い奴らに仕返しできたのに!」

 カチャカチャと手錠の鎖を鳴らしながら紗奈は言う。
 これが、紗奈の『自衛』だった。
 紗奈の超力『支配と性愛の代償(クィルズ・オブ・ヴィクティム)』。
 ほんの可愛いと思ってしまう程度でも支配欲または性欲を抱いてしまえば、ヤマアラシの針の如き返し刃が作動する超力。
 「紗奈が自分の意志で動かない部位」に応じて身体を捻じ曲げられる、誘惑に見せかけた殺意。
 紗奈は先んじて全裸拘束を見せつけて、手を出してくる大人達《化け物共》を撃退するようになっていた。

「やめて!触らないで!もうイヤッ!痛いのも恥ずかしいのも!!」

 紗奈はパニックになったか、ひどく取り乱す。
 家族に売られてから、ずっと紗奈は身一つで運命を受け入れなければならなかった。
 紗奈が売られた先は、海外の巨大なマフィアの系列に連なる裏組織だった。
 陵辱の限りを尽くされ、恥ずかしいことも沢山させられた。
 裸のまま縄で縛られて犯されそうになり、超力を発揮して犯罪者共を文字通り捻じ伏せても、状況は変わらなかった。
 紗奈は、用済みになった末端の組織を足切りするための、ご褒美に見せかけた『凶器』としての役割を担わされた。
 裸で拘束されて箱詰めにされ、用済みになった哀れな奴らに送り出された。
 自分を嬲ろうとする組織の者全員の手足を捩じ切って帰ると、今度は拘束を伴わない自分からの「ご奉仕」を求められた。
 拘束されていなければ超力が効果を持たないことを、紗奈を所有する組織はいち早く掴んでいたらしい。
 あれほど紗奈を道具のように扱って欲望を向けてくるのに、紗奈は陰では「死神」と罵られていた。


347 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:33:54 ???0

「みんな全部全部大キライっ!静かなところに行きたい!一人になりたい!!」

 手足を縛られた身体でじたばたと暴れながら、涙を流していた。
 もういっそのこと、自縄自縛して自分から刃を向ければ――。そう思った矢先に、紗奈は保護された。
 おそらく動画の中身を見ずに、末端の組織の誰かが拘束された紗奈を映した動画ファイルをネットの海にバラ撒いたのだろう。
 動画越しにも発揮する紗奈の超力は瞬く間に犠牲者を増やしていったらしい。
 自衛するようになってから、紗奈を襲おうとする者は少なくなっていった。
 しかし紗奈は、既に世界のすべてを信じられなくなっていた。誰からも手を出されない、独房での生活を望むようになった。

「落ち着いてくださいっ!」
「あっ……!?」

 その時、りんかは紗奈を手繰り寄せ、抱きしめた。
 しかしそこに攻撃の意図はなく、母性のある優しい抱擁であった。

「大丈夫……私が、葉月りんかがついています」
「……」
「もう怖がらなくてもいいんです。今では私がお姉ちゃんですから!」

 りんかの豊満な胸から顔をあげた紗奈に、りんかは微笑みかける。
 りんかは感じ取っていた。紗奈が救いを求めていることを。
 きっと、この女の子は私と同じなのだ。今も底なしの限りない泥の中をもがき苦しんでいる。
 絶望の中でりんかを庇った姉のように、次は自分が誇り高い姉になる番だと思った。
 この子のような受刑者の希望になるためにりんかはここにいるのだと、強く感じた。

「あの――」

 紗奈は、感じたことのない温かさに戸惑っているようだった。

「――ッ!隠れて!!」

 紗奈が何かを言おうとしたその時、りんかに突き飛ばされるような形で奥の木陰に隠される。
 りんかの背後に、いつの間にか巨大な影が佇んでいた。

「……デリカシーのない人ですねっ!何者ですか!?」
「―――」

 りんかが振り向くと、そこには別の刑務作業者である巨人の如き大男が立っていた。
 
「―――」

 大男はりんかを押し黙ったまま、ただ見下ろしていた。
 2mを悠に超える体格に筋骨隆々な巨体が、周辺の木々すらも萎縮させているようだ。

「(デカいですね……っ)」

 その威圧感にりんかも思わず圧倒されてしまう。
 何よりも目を引くのはその体格もさることながら、彼の頭を覆うフルフェイスの仮面と手足に嵌まった拘束具だ。
 しかしその拘束具は紗奈の手錠のように手足を束ねてはおらず、四肢に付けられた枷から伸びている重厚な鎖と鉄球がなんとも不気味。
 明らかに対話できるとは思えない、刑務作業者の中では一際異様な外見だと分かるだろう。


348 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:34:26 ???0

「■■■――」

 蒸気が噴出するかのように、その仮面の合間から息が吐かれる。
 大男の名は、バルタザール・デリージュ。
 30年もの年月を監獄で過ごし、『開闢の日』も監獄の中で迎えた男。
 素性は不明。記憶がないまま30年の時を塀の中で過ごしてきた、監獄の中で天寿を全うするはずだった男だ。

「……念のため問いますが、その拘束具。あなたがあの子をあんな格好に?」
「■■■――?」
 
 バルタザールに嵌められた拘束具を見たところ、悠にトンを超える重さがありそうなのにそれを苦にしている様子はない。
 おそらく拘束具を出現させる超力――ならば超力でバルタザールが紗奈を拘束したのか。
 そう推測したりんかが聞くも、バルタザールは仮面から息を吐きながら首を傾げる。
 バルタザールが一向に言葉を発さないのは、何かしら障害を抱えているのか仮面のせいなのか。

「私の勘違いでしたか。すみません――では質問を変えます。あなたは、私の首輪のこれを目当てに来たのですか?」

 りんかは、自分の首に嵌まった「無」と表示されている枷を指差す。

「―――!!」

 それを見たバルタザールは、手から伸びる鎖を引き寄せて、その先の鉄球をハンマーのように振りかぶった。
 その答えは、すなわち肯定。恩赦を得るためにお前を殺しに来た、の意であった。

「そうですか。なら……仕方がありませんね――変身!!」

 そう言って、りんかも臨戦態勢へと入った。
 超力を覚醒させたりんかはその姿を変えていく。
 身長と髪は伸び、義体だった手足と右は生身へと変わる。
 そして服装も囚人服から黒いレオタードスーツと茶のバトルジャケットとバトルスカートを身に付け、その姿はさながら変身ヒロインと言っても差し支えない。

「葉月りんか、シャイニング・ホープ・スタイル!!」

 『希望を照らす聖なる光』。りんかの姉の遺志を継いだかのように、姉そのものの姿を借りた形態へとシフトした。
 本心を言えばバルタザールをも救いたい。
 しかし、今のりんかには紗奈がいる。守るべき者がいる以上、首輪を狩ろうとする輩は強引な手段で対抗しなければならない。

「――!!」

 声にならない声を発しながら、バルタザールの鉄球がりんかのいた場所に振り下ろされる。
 それをりんかは側転して避ける。
 鉄球が着弾すると同時に周囲に小さな地震が起こり、木々の葉がざわめき出す。

「なんて力……!」

 これこそがバルタザールの超力『恐怖の大王(ドレッドノート)』。
 手足に枷を顕現させ、それはバルタザールを縛る枷ではなく武器となって敵を屠る。
 日本には鬼に金棒という諺があるが、刑務作業者の中でバルタザールほどそれが似合う者はいないだろう。

(あれに当たったらひとたまりもないですね……!)

 鉄球に直撃してバラバラにされる嫌な未来を見てしまい、りんかの顔に冷や汗が垂れる。
 正面対決では分が悪いと判断し、地形を生かして木々の中に隠れる。


349 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:35:15 ???0

「――」
「なっ……!」

 そこをバルタザールは、両腕を合わせて一対の鉄球を振り回し、二重の鎖で周辺の木々を薙ぎ払った。
 重量のある鎖を軽々と振り回すその破壊力に容易く木々は幹を破壊され、轟音を立てながら一斉に崩落した。
 恐れ知らずを意味するドレッドノートの名を冠するにふさわしい、滅茶苦茶な力だ。
 咄嗟に木の幹に張り付いていなければ、りんかの上半身と下半身は亡き別れをしていただろう。

「きゃっ……」

 紗奈が隠れている場所からも声が聞こえる。
 りんかは案じるも、紗奈のいる場所にまでバルタザールの鉄球は届いていないようだった。
 安堵しながらも、りんかは次の手に移る。
 浮き上がった木々に姿を隠しながら、幹から幹の合間を転々と飛び移る。
 バルタザールはその場に佇んでおり、木々が落ちてりんかが姿を現す時を待っている様子だった。

「そこですっ!!」

 その隙を突くように、りんかはバルタザールの背後から急襲する。
 その手に嵌まった白銀の篭手から流し込む光のエネルギーで、バルタザールを「浄化」しようとする。

「えっ――」

 しかし、バルタザールが軽く手を掲げると、なんと枷から伸びる鎖が彼の元へ集結、まるで即席の鎖帷子となってりんかの拳を防いだのだ。

「あっ!?」

 それだけではない。バルタザールが蚊を振り払うように掲げた手を宙空で一回転させると、りんかの肢体にぐるぐると巻き付いたのだ。

「ぐぅっ……がああああっ!!」

 バルタザールの鉄球ほどに大きい乳房を除き、りんかの全身はぐるぐるに巻き上げられてギチギチと締め上げられる。
 足元の鉄球と手枷を真逆の方向に引っ張られ、そこからさらに鎖はりんかの肢体を絞るようにきつくなっていく。
 りんかは振りほどこうと力を込めているが、そもそも純粋な力勝負で言えばバルタザールの方が上である以上、捕えられた時点でりんかに鎖を破れる可能性は無に等しい。

「がはっ……!」

 バルタザールはさらに締め上げるだけでは済まさず、そこからさらにりんかの身体を何度も叩きつけた。
 硬い地面にりんかは受け身も取れずに激突し、何度も、何度も、何度もりんかは全身を揺さぶられる。

(まだ……っ!私には救わなければならない人が沢山いるのに……っ!)

 次いで襲い来る、軋み、痛み。
 四肢を切断された時の激痛に比べれば幾分かマシだったが、それでもりんかの身体にダメージとして刻まれていく。
 
「今だッ……!」

 そして、りんかの身体がもう一度振り上げられた時――なんとりんかはバルタザールの鎖を力ずくで引き千切り、拘束から脱出したのだ。
 『りんかに鎖を破れる可能性は無に等しい』というのは、バルタザールの鎖が万全の状態であればという条件がつく。
 りんかの一撃を鎖で防いだあの時、りんかのエネルギーを流し込まれた鎖は既に半壊しており、それもあってエネルギーを溜め込んでいたりんかは脱出することができたのだ。
 りんかの超力『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』。彼女の精神性を裏付けるその力によって恩恵を受けているのは、他らなぬりんか自身なのだ。
 身体能力では、りんかも並居る肉体派新人類に後れを取らない。
 ここからりんかのバルタザールへの反撃が狼煙を上げた――かに見えた。


350 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:35:48 ???0

「ぶっ――」

 直後に響いたのはりんかが息を吐き出す声だった。
 なぜならそこには、りんかの土手っ腹に拳を炸裂させたバルタザールがいたのだから。

「―――」

 鎖の状態は超力の主であるバルタザール自身が最もよく理解している。
 あの時、鎖が半壊状態であることを悟っていたバルタザールはわざと鎖を傷つけるようにりんかを地面にたたきつけ、彼女が脱出する瞬間、そこで見せる隙を狙っていたのだ。
 りんかは生まれて15年。バルタザールは投獄されて30年。
 そこにあるのは、単なる力の差だけではなく研鑽によって培われた戦術の差。
 その仮面の奥では自身の勝利を手繰り寄せる鋭い観察眼が鈍く光っていた。

「がはっ……っ」

 バルタザールの拳に弾き飛ばされたりんかは切り株を何個か破壊しながら飛び石のごとくバウンドし、やがて大木に身を受け止められる形で静止した。
 気絶したのか、その変身は途切れ、頭を地面に埋めるようにして股間と尻を天に突き出したかのようなだらしない――でんぐり返しを途中で止めたかのような――姿勢でピクリとも動かなった。

「―――」

 バルタザールは、りんかにとどめを刺そうと彼女に向かって歩みを進めようとする。

「待てっ!!」

 しかし、それに待ったをかける人物がいた。
 それは他ならぬ、交尾紗奈だった。
 声がした方に、バルタザールはゆっくりと向き返る。

「これを見ろっ!!」

 紗奈は今も素っ裸のまま手足を手錠で縛ったままバルタザールの前に出てきていた。
 そんな紗奈は、余裕がないのか誘惑することも忘れて、自分の恥部を仮面越しにもよく見えるように突き出して強調する。

「お前ら汚ねぇ大人の大好きな女児の裸だぞ!犯し放題だぞ!こっちを見てみろよ!」

 喉が張り裂けんばかりの声でバルタザールに叫び、そして挑発する。
 貧相ながらも色気のあるその肢体を外気に晒して、自分の倍はあろうかという巨漢に向かって、抵抗を一切許されない裸一貫に拘束具を嵌めた身体で立ち向かう。
 すべては、紗奈の超力でバルタザールを屠るためだ。

「ふーっ、ふーっ……!」

 心臓がバクバクと鳴る。嫌な汗が噴き出てその肌を艶めかしく彩る。
 しかしそれは興奮していることによるものではなく、文字通り命がけの決死の行動ゆえに起こっているものだ。
 それゆえか、自分がどんな格好をしているか考える暇もなく、蟹股になり腰をへこへこと前後させて無様に痴態を大男の前で晒し続けている。

 なんでこんなことをしたのか、紗奈にも分からない。
 大人は信用できない。身勝手に子供を弄び搾取して虐める悪しき生物。
 りんかも紗奈からすれば十分大人と言える年齢だ。その気になれば、手錠とセットで持ってきた鍵で拘束を解いた上でこっそり逃げ出すことはできた。
 だというのに、できなかった。
 彼女に抱きしめられた時の、温かさ。それを二度と感じられないと思うと、紗奈は逃げ出すことができなかった。
 だからこそ紗奈は、手足の動きを封じられるリスクを冒してでも自衛以外で超力を使う選択をしたのだ。


351 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:36:15 ???0

「―――」
「あれ、なんで……っ」

 しかし悲しいかな、バルタザールはじっと紗奈を見下ろしたまま彼女の命懸けの痴態を見つめていた。
 紗奈の超力で手足が捻じ曲がることもなく、五体満足で彼女の前に立っていた。

「ほ、ほらっ、大人ってこういうの好きなんでしょ!?碌に抵抗できない力の弱い子供!ねぇ!犯したいよね!?」

 バルタザールはゆっくりと紗奈に向かって歩を進めてくる。
 対して、紗奈は怯えでガタガタと震えながら手錠で制限された足でよちよちと後ずさりする。

「なんで!?大人ってそういう生き物じゃない!なんでお前も何ともないの!?」
「―――」
「ねぇ……?大人なんでしょ……?性欲とか支配欲くらいは……あるんだよね……?」
「―――」
「あっ……」

 紗奈が後ずさりし続けていると、やがて背後の木の幹にお尻が当たってしまう。
 
「―――」
「ひっ……!?」

 ようやく、紗奈は悟った。
 バルタザールもまた、りんかと同じで紗奈の超力の範囲外にある人間なのだと。
 その理由は単純で、バルタザールが欲とは無縁な人物であったからだ。
 理由不明の刑期すらも受け入れて過ごしてきたバルタザールには、今手に入りそうな「自由」以外には欲しいものがない。
 否、欲しいものが浮かばないと言うべきか。
 そんなバルタザールに裸を見せつけても、動じるはずがなかったのだ。

「あ……嫌……」

 追い詰めたと見たか、バルタザールは手枷の鎖の先の方を掴み、鉄球をハンマーの如く振り上げる。
 きっと痛い思いをするのは酷だろう、せめて一思いに痛みを感じる間もなく殺してやろう、とばかりに。
 背後に、確かな死の予感が忍び寄ってくることを、紗奈は本能的に感じ取る。

「いやぁっ!!」

 紗奈は咄嗟に逃げようとする。
 両手と両足の動きを手錠で制限された状態で。
 背中で束ねた拳を握りしめながら、手錠の嵌まった両足でうさぎ跳びのように跳ねて逃げるが、バルタザールの広い歩幅の前ではすぐに追いつかれてしまう。

「あうっ……」

 やがて、地面の木の根に足を取られ、あっさりと前のめりに転んでしまった。
 寝返りを打ち尻もちをついた状態で、怯え切った目で紗奈はバルタザールを上目遣いで見上げる。
 カチャカチャと手足に嵌まった手錠の鎖を鳴らすが、紗奈の手足を縛る拘束は解けない。
 鍵は、脱いだ服と一緒に置いてきてしまっている。

「やめて……」

 バルタザールの拘束具は武器であるのに対し、紗奈の拘束具は拘束具のままだ。
 超力が意味を為さない今は、完全に紗奈の自由を奪うだけのものに成り果てた。
 手足を拘束された紗奈は、目の前の『恐怖の大王』の前で逃げることも許されず、身を守ることすらできない身体で鉄球に押し潰されようとしている。

「うぅ……ぐすっ……誰か……助けてぇ……」

 紗奈の頬を、涙が伝う。
 嫌だ。死にたくない。死の間際を実際に味わっているからこそ、生への願望が強くなる。
 だが頼みの超力は効かなかった。あるのは手足を拘束された哀れな全裸の幼女だけ。他に何に縋れというのだ。
 恐怖からか、紗奈の股からは黄金色の液体が流れ出て、土に小さな水溜まりを作っていた。


352 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:37:03 ???0

「―――」

 対してバルタザールの方も、意図せず動きが鈍くなる身体に戸惑っていた。
 何故だ。これはただの刑務作業のはずだ。受刑者を殺害して恩赦ポイントを溜めれば自由になれる。
 何の感傷を抱く必要もない、バルタザールにとっては不意に巡ってきた幸運程度のチャンスだったはずなのに。
 目の前で怯える小娘――ただ搾取されるのを待つしかない哀れな子供を見ていると、うまく狙いが定まらないのだ。

 子供相手に日和ったか?
 否。情けは既に与えているはずだ。痛みを感じさせずに殺すというせめてもの情けを。
 だというのに、身体がまるで鎖に絡めとられたかのように動かない。
 後は鉄球を振り下ろすだけだ。ただその一つの動きをするだけで恩赦ポイントが小娘の首輪にあるように45ポイントも貰えるのだ。
 なのに――知らない自分が、忘れ去られた自分が暴れて身体をうまく制御できない。

「―――!!」

 無理に頭を働かせようとすると身体が固まる。無理に身体を動かそうとすると視界がブレる。
 それでもバルタザールはこれまでの節制の日々を思い出し、どうにか内なる意識を押さえつける。
 そして、哀れな子供の受刑者に鉄球の墓標を立てるべく振り下ろした。

「――はあああぁぁぁっ!!」

 ……はずだった。
 聞き覚えのある声がしたかと思うと、あの葉月りんかが変身を解除した状態ながらも颯爽と現れたのだ。
 そして、すれ違い様に手足を手錠で縛られてへたり込む紗奈を抱え上げ、全力で駆け抜けていく。

「―――!!」

 突然現れた邪魔者。
 もうバルタザールの身体を縛る気配は完全に消えていたため、鎖を振り下ろしてりんかを紗奈ごと潰そうとする。

「あ、あなたは……」
「言ったはずですよ!葉月りんかがついてるって!」

 そう言いながら、りんかは狙いの甘い鉄球の振り下ろしを軽々と避ける。
 舞い上がった土煙の中からは、着弾した鉄球の上に乗る紗奈を抱えるりんかが現れた。

「―――!?」

 鉄球を引き戻そうと鎖を引き戻した時、バルタザールはしまったと思った。
 その懸念通り、りんかはバルタザールの鉄球を足場にして、振り上げた勢いのままに上空に飛び去って行ったのだ。

――逃した。

 バルタザールがそう感じた時には、りんかと紗奈の姿は見えなくなっていた。

§


353 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:38:10 ???0

「……どうして」
「ん?」
「どうして、私を助けたの?あのまま逃げられたはずなのに」

 森の上空を舞いながら、紗奈はりんかに問う。
 それにりんかは奇妙な質問だなと思いつつも、素朴な答えを述べる。

「助けてと言われたら救わなきゃいけないじゃないですか!それに――」

「――お姉ちゃんは妹を見捨てたりはしませんから」

 どこか寂し気な、困ったような笑顔を浮かべながら、りんかは言った。

「……紗奈」
「え?」
「交尾 紗奈。私の名前」
「はい!紗奈ちゃん、ですね!」
「私は葉月りんかっていいます!」
「りんか、ね。わかった」

 紗奈が初めて名乗ってくれたことに、りんかは純粋に嬉しかった。
 互いに名乗り合った後、紗奈はそのまま続ける。

「……私の超力。もうどんな効果があるか分かってるでしょ?」
「ええ。確か……裸で拘束されたのを見ると何かが起こるんでしたっけ?」
「動かない場所が捻じ曲がるの。そうして私は自分を守ってきた」
「そう……なんですね」
「なんでりんかには何も起こらなかったのかなって思って。あの仮面の怖い人みたいに気持ちよくなりたい欲とかない人なの?」

 バルタザールのことを思い返しながら紗奈は言う。

「あ、いやその欲は多分ありますよ!えっと……恥ずかしながら敏感なところはすごく敏感だったりします……」
「ふうん」

 恥ずかし気に言うりんか。
 実際のところ、りんかの身体はとてつもなくデカいバストに象徴されるようにかなり開発されている。
 また、性欲や支配欲自体はりんかにもある。
 媚薬付けにされて放置された時には男の逸物を一日中欲しがったし、今もその時の記憶は残っているため何かの拍子でスイッチが入ってしまう――かもしれない。この状況で絶対に入って欲しくはないが。
 支配欲については、一瞬でも紗奈のことを可愛いと感じて見惚れてしまった時点で少ないながらもあると言える。

「じゃあ、なんで効かなかったんだろう……」
「多分……『本物じゃないから』だと思います」
「どういうこと?」

 紗奈が聞き返すと、りんかは言い淀みつつも答える。

「私、手足ないんですよ。今この手で紗奈ちゃんを抱えているのは、両方とも義手です。この足についているのは、両方とも義足です」
「え……」

 驚いたようにりんかの顔を見る紗奈。
 りんかはぎこちなく俯いた後、話の流れを変えるかのように切り出す。

「それよりも!まだ紗奈ちゃんすっぽんぽんじゃないですか!しかもまだ手錠を付けてる!早く降りて拘束を解きましょう!」
「で、でも鍵は――」
「大丈夫です!こっそり回収しておきました!囚人服もありますよ!下着は見つからなかったですけど……」
「そう、なんだ……」

 よく見ると、りんかの手には紗奈の身に付けていた囚人服が握られており、その手の中には両手と両足を縛る手錠の鍵が握られていた。

「……ありがと」
「え?何か言いました?」
「なんでもない」

 そう言って、りんかは全裸拘束された紗奈を抱えたまま、着地できそうな手頃な場所を探すのだった。
 


【D-2/森/一日目 深夜】
【バルタザール・デリージュ】
[状態]:健康
[道具]:なし
[方針]
基本.恩赦ポイントを手にして自由を得る
1.(……あの二人(りんか、紗奈)を逃してしまったのは痛いな)
2.(なぜあの小娘(紗奈)を殺そうとした時、動けなくなったのだ?)


【D-2/森上空/一日目 深夜】
【交尾 紗奈】
[状態]:全裸、両手両足に手錠(施錠済み)、失禁
[道具]:なし
[方針]
基本.死にたくない。襲ってくる相手には超力で自衛する。
1.超力が効かない相手がいるなんて……。
2.りんかは信用していいのかな……?
※手錠×2とその鍵を密かに持ち込んでいます。

【葉月 りんか】
[状態]:ダメージ(大)、腹部に打撲痕
[道具]:交尾紗奈の囚人服、交尾紗奈の手錠の鍵×2
[方針]
基本.可能な限り受刑者を救う。
1.まずは安全な場所見て着地しないとですね……。
2.紗奈ちゃんの拘束を解いて服を着せてあげないと……。


354 : ◆mAd.sCEKiM :2025/02/16(日) 01:38:28 ???0
以上で投下を終了します。


355 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/16(日) 12:10:12 iDKDmgpA0
みなさま投下乙でした

>真・地獄新生 PRISON JOURNEY
エンダは人知を超えた不気味な美しさがあって、皮肉にも崇拝されるのも納得がある
ジャンヌはこんなところでも名前を使われ大変ね、互いの嘘を見抜きあうのは大人同士の駆け引きを感じさせる
歪んだ世界に食い物にされた者同士の同盟、殺し合いに乗らず脱出を目指すスタンスはだが、うまく行くのか

>巡礼者と殺人者
優雅さを感じさせる態度で当たり前のように殺し合いに乗る算段を立てるのは恐ろしい
ジルドレがあまりにもジルドレすぎる、君Fateとか出てなかった? 見た目がジャンヌなのはいろんな誤解を生みそうだけど、中の人がこれじゃあんまり誤解する人いなさそう
始まった狂人同士の戦闘は痛み分け、ジャンヌはここでも凄惨な過去の一端が明らかになっただけじゃなく現在進行形で変なのに目をつけられてまくって本当に大変すぎる

>このまま歩き続けてる
恵波さんの態度からにじみ出る飄々とした食わせ物感がすごい
いいこと言って正義感のある人なのか? と思わせといて混沌のために相手を焚きつけただけだった、扇動マーダーなのに戦っても普通に強いのが性質が悪い
ソフィアの壮絶な人生もこの世界ではありふれた悲劇なんだろうなって、無効化能力は定番ながらこの世界ではかなり有効なのでソフィアの心にもう一度火が灯れば凶悪なマーダー相手に活躍できそうだね

>ウスユキソウ(薄幸想)
獣人と野生児の出会い、野生故の誤解もあったけど最終的には仲良くなれそうでよかった
叶苗は一人称の独白がこの犯罪者だらけのアビスの中で普通の少女さを感じさせてくれる、その普通さが逆に貴重な存在である
流石に日本の事件はあの爺さんと違うだろうし叶苗の仇は誰なのかなーと思ったらお前かーい、あの人はあの人でいろんな恨みを買ってそうね

>剣が無ければ枝を振るえばいいじゃない
2人の剣士。超力主体のこの世界で剣で戦う2人は希少じゃなかろうか、木の枝使ったチャンバラだけど、この世界では命を取れるのだから恐ろしい
沙姫を餌に征十郎が切る釣りシステム、恨み買ってる奴だらけのこの場で沙姫がどれだけの囮になるのか
そして、一人の男に縛られる者同士という共通点もあり、互いを利用するだけの関係の2人がどうなっていくのか見守っていきたい所

>あなたの枷はどんな形?
この社会の被害者とも言える子供たち、うーんやっぱこの世界ロクなもんじゃないな
自衛のためとはいえ少女が自分自身を拘束し辱める様は痛々しい、そこに現れる拘束のプロ、言葉を発せないのも相まって不気味すぎる
自由以外の欲求がないバルタザールは紗奈の天敵である、力を合わせて怪物に対抗する少女たちへのためらいは怪物の良心なんだろうか


356 : ◆8XvvwIUOIk :2025/02/16(日) 13:46:00 We7Sc3nM0
投下します


357 : ◆8XvvwIUOIk :2025/02/16(日) 13:47:43 We7Sc3nM0
27年前の戦いのことは、今でもはっきり覚えている。

俺の仲間たちは、皆が幸せに生きていける世界を作るために、神の導きによりその意志を実行する先兵となった。
俺たちの起こした軍事作戦は平和ボケした日本のガキを蹂躙して、その血と骸を聖戦の狼煙とする計画で。
神が導く、神のもとに平等で幸福な世界を実現するための遠大な計画の第一歩だった。
失敗は許されない、けれど失敗するはずのない計画だったんだ。

最初は順調だった。何人ものガキを殺してやった。
罪のないガキの死に思うところがないではなかったけれど、皆が幸せに生きていける世界の実現のための必要な犠牲と割り切りながら殺して壊して殺してやった。

しかし、カイチョウだかキャプテンだかと呼ばれていたガキが俺たちの前に現れて、事態は一変した。
怪物のように暴れまわったそのガキの手によって、ある者は喉を掻き切られ、ある者は組み伏せられて拘束され、ある者は銃を奪われ蜂の巣にされ、ある者は頭部を強かに打ち据えられて昏倒し。
命ある者は監獄に、命なき者は棺桶にぶち込まれた。

どうなってんだよこいつは。
神よ、てめえの導きに従って俺たちは戦ったのに、どうして敗けなきゃならねえんだ。
どう考えても勝ち確出来レースだったろうが。
さんざんてめえに尽くしてきた俺たちの、てめえのためにやってる戦いに、何であんなフザけた障害を置いときやがるんだ。
裏切りやがって。糞が。


――――――――――――――――――――――――――


刑務開始から30分ほどが経過した森の中。
倒木に腰掛け向き合う二人の囚人がいた。
一人はひげを蓄えた痩身の男、アルヴド・グーラボーン。その中東系の相貌には濃い隈が浮いている。
もう一人は柔和な表情をした男、夜上神一郎。娑婆にいた頃に着ていた神父服は押収され、今は囚人服に身を包んでいる。

方やかつて神に裏切られ、神を憎むあまり「神」という単語を聞くだけでパニックに陥る元狂信者。
方や神に対する考え方から己を呼称する一人称として「神」を採用する元神父。

相性が最悪と目される二人は、一悶着、否、二悶着も三悶着もあったものの、
アルヴドの憎悪の対象である「神」と神一郎の一人称としての「神」の意味合いが違うこと、刑務作業における他の囚人の脅威から身を守る手段として手を組むことが互いの利となることを、神一郎が時間をかけて言葉を尽くして、
……本当に言葉を尽くして説諭した末に和解し行動を共にすることとなったのだった。


358 : ◆8XvvwIUOIk :2025/02/16(日) 13:49:41 We7Sc3nM0

「ところで、アルヴドさん。
 あなたにとって「神」とはどこに存在するものですかな」
「かみ」という文字列が耳に入ったアルヴドが機敏に神一郎に掴みかかり拳を振り上げる。
振り上げた拳を即座に振り抜かないのは精神が安定している証であり、時間をかけて説諭した神一郎の功績である。

「そんなことを聞いて何になるってんだ」
「神(ワタシ)は神父などをやっておりましたからな。行動を共にする者の考え方を伺っておきたいと思いまして」
拳をおろし、神一郎の胸倉から手を離したアルヴドが嘆息して答える。
「天のその先だよ。そこから俺達を見てやがるんだ」
「それはなぜそのようにお考えで?」
「聖典にそう書いてあるからな」

ふむ、と神一郎は一息つく。
アルヴドが信仰する宗教の信者にありがちな考えだ。
聖典を疑うべからず。預言者を疑うべからず。
その教えを縦に信者に思考停止を強要し、とんでもない強行に走らせることもある。
「あなたが何をしてこのアビスに収監されることとなったのか。
 差し支えなければ、お聞かせ願えますか」

夜上神一郎。
とある地方の教会に勤める神父だった男だ。
温和で優しく、迷える者に助言を与え、困った人を助けるために奔走する。
そんな彼に地元住民は敬愛をもって接していた。
しかし彼には恐ろしい本性があった。
それは己の価値観で救われざるべき悪と判断した者に断罪を下す、独善的で傲慢な精神性。
その断罪により多くの人々を、時には殺し、時には死に追いやり、その死体を無造作に埋めて処分していた。

逮捕されてからというもの神一郎は模範囚としてふるまい、刑務官からの信頼を勝ち取ってきた。
次第にアビス内で獄中死した者への祝福や、囚人の懺悔の聞き役を依頼されるようにもなっていった。
懺悔をしてくる囚人たちのそのほとんどは神一郎にとって救われる価値のない、断罪の対象だったが、刑務官の眼が光っているなかで断罪をするわけにもいかない。
正直フラストレーションが溜まっていた中で与えられたのがこの刑務作業だ。
ここでなら、おそらくたくさんいるであろう救われざるべき者を断罪できる。
まずは目の前にいる男に審判を下そう。
そう考えて罪の告白を要求する。
ここで救われざるべき者と判断したならば―――、そう思いながら袖口に仕込んだ仕込銃を密かに撫でる。

模範囚として振る舞ううちに、神一郎は担当刑務官から崇敬に近いレベルの信頼を勝ち取ることに成功した。
そうするうちに彼がガンマニアであり、超力と3Dプリンターを活用して22口径の仕込み拳銃を自作したことを告白された。
懺悔を受け、口車に乗せてやったら感涙とともにその仕込み銃を差し出してきたのだ。
『開闢の日』以降強靭化した人々の肉体に22口径の銃はあまり有効とは言えないだろうが、銃口を密着させ骨を避ければ十分に殺害が見込める。


359 : ◆8XvvwIUOIk :2025/02/16(日) 13:50:32 We7Sc3nM0
「27年前にスクールを襲撃したテロがあったのを知ってるか。」
「おお、もちろんですとも」
神一郎が5歳のころに発生した東京都内のとある高校を国際テロ組織が襲撃した事件だ。
生徒や教師が多く犠牲になったこともさることながら、完全武装のテロリスト50人を、たった一人の高校生が制圧したことで大きな話題となった。
そういえばその高校生がその後どうなったかは杳として聞かない。

「なぜそのようなことを?」
「神(クソカス)の導きに従った上の連中の指示に従ったんだよ。
 神(クソカス)が何考えてんのかはもうわかりたくもねえし、上の連中の思惑がどうだったかも今となってはよくわからねえ。
 せめて俺ら末端と志が同じだったことを祈るばかりさ」
「その『志』とは?」
「青い話だけどよ。
俺が育ったのは空腹を紛らわすためにほとんど水しかねえような粥に、せめてもの足しにと土を入れて食って、胃袋破裂させてくたばるガキがそこら中にいるような世界でな。
それを変えたかった。神(クソカス)だってそんな世界を望んでるわけがねえ。最大の帰依と服従を捧げれば俺たちの訴えに気づいてくれる。救ってくれると信じてたのさ」

神一郎はなるほど、と得心する。
世界にある不条理を憎んだ彼は、信仰する神の手によりそれらが解決され人々が救済されることを願った。
人々が困難にあえぐ現状が放置されているのは救うべき人々に神が気づいていないからで、自分たちの忠誠によりそれを気付いてもらおうとした。
アルヴドの信仰する宗教には、信仰なきものの血を捧げて神に訴えるというものがあった。
おそらく彼にとって異教徒である日本人を殺すことは、窮する者を救うための合理的な手順だったのだ。

それでも。
「そのために罪のない子どもたちを犠牲にすることに何も思わなかったのですか」
これは聞いておかなければならない。
困窮し地獄を見る子どもを救うために罪もない日本の子どもたちに地獄を見せた。
そのことに何を思うのか。

アルヴドは気まずそうに眼をそらしながら答えた。
「あんときは必要な犠牲くらいにしか思ってなかったよ」

仕込み銃を持つ神一郎の手に力がこもる。
立ち上がろうとした脚は、「でもよ」と続けたアルヴドの言葉に遮られる。

「でも、あの神(クソカス)にそそのかされたとは言え、そんな地獄とは縁遠い生活を既に享受していたガキどもを殺したことに思うところがないでもない」
地獄と縁遠い生活を、俺が殺したガキどもも含めた世界中皆が享受できるのが俺たちの理想だったはずなのにな――アルヴドが続けたその言葉に神一郎は一つの判断を下す。


360 : ◆8XvvwIUOIk :2025/02/16(日) 13:51:31 We7Sc3nM0

(この男の心根は善ですね)
少なくとも神一郎が娑婆で殺してきた者たちや、アビスに来てから出会った数多くの「救われざる者」とは違う。
善性故に罪を犯し、善性故に神を憎む。善なる人物だ。

(とはいえ罪は罪。この者が救われるべき者か否か、今しばらく判断を留保することといたしましょう。)
24時間という時間制限がある以上、あまりアルヴドひとりへの審判にあまり時間をかけられないが。


「さて、休憩はもういいだろ。
 約束通り、コーイチローが前を歩いてくれ」
「それはかまいませんが、随分と用心深いですねえ」
「金を、時間を、忠誠を、血を、命を。
俺達にすべてを捧げてられてきた神(クソカス)でさえ、俺達を裏切ったんだ。
まして人間のことなんぞ、信用できるわけねえだろうが。
アンタにもなるべくとっとと、どこかに消えて貰いたいもんなんだがね」
口角を上げながらそう言うアルヴドの言葉がただの憎まれ口であることなど、嘘を見抜く超力を使うまでもなく明らかだった。

ふと、神一郎の好奇心が囁き訊きたくなった。
「『神は己の頭の中に存在するものであり、誰もが己の中に神を秘めている』というのが神(ワタシ)の考えですが、これについてどう思いますかな」
憎悪の対象ではあるようだが、彼のなかにもまた神はいる。
そのことに無自覚な彼に、それを明文化した考えを示した場合の反応が見たくなったのだ。
しかしアルヴドは、露骨に興味もなさそうに
「ふーん。そうか。
 と、まあそれだけだな」
と短く答えた。

「おや」
少し意外な答えだった。
反応が見たくてかけた問いだったが、神一郎の知る限り、アルヴドの信仰していた宗教は異教に対してかなり不寛容だ。
過激な信者に神一郎の理論を開陳しようものなら修羅場に突入してもおかしくない。
アルヴドは神を憎んでいるだけで信仰自体には敬虔な人物と目していたので、肯定的でなければ攻撃的なリアクションがあってもおかしくないと思っていた。

「その心は?」


361 : ◆8XvvwIUOIk :2025/02/16(日) 13:55:03 We7Sc3nM0
「その心は?」
神一郎の問いに、アルヴドはきょとんとした様子で、そんなこともわからないのかといわんばかりの顔で答えた
「アンタら邪教徒が信仰してんのは神(クソカス)の名を騙る神モドキだろ?
 俺らを騙くらかしやがったのとは別じゃねえか。
 邪教徒が神モドキをどこに飼ってようが俺には関係ねえじゃん」

(判断を留保したのは正解でしたね)
密かに青筋を立てながら神一郎は歩き出した。


【C-2/森林/1日目・深夜】
【夜上神一郎】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ、ポケットガン(22口径、残弾1発)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.救われるべき者に救いを。救われざるべき者に死を。
1.なるべく多くの人と対話し審判を下す。
2.できれば恩赦を受けて、もう一度娑婆で審判を下したい。
3.目の前の彼については…もう少し様子見で。
※刑務官からの懺悔を聞く機会もあり色々と便宜を図ってもらっているようです。
ポケットガンの他にも何か持ち込めているかもしれません。

【アルヴド・グーラボーン】
[状態]:健康、精神安定
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.24時間生き延びられればなんでもいい。
1.コーイチローの言う通り、なるたけ徒党を組んでおいたほうが生き残りやすいかもな。
2.銃があれば一応戦えるんかね……?
3.超力って何なんだろな。ほとんど使ったことねえからわかんねんだよな…
※神一郎の話術により神一郎をある程度信用できる人物と思っています。また、精神的にかなり安定しました。


362 : ◆8XvvwIUOIk :2025/02/16(日) 13:56:09 We7Sc3nM0
投下終了です。
タイトルは
神様はいずこに。
です。


363 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/16(日) 19:37:06 iDKDmgpA0
投下乙です

>神様はいずこに。

自身を神とする神父と神に裏切られたテロリスト、神に対して全く違う価値観を持つ2人が連れ合うのは奇妙な縁を感じる
アルヴドは今の所、夜上神父にいいように利用されそうだけど、意外と捉えどころのない食わせ物っぽさもある
27年前にアルヴドの組織をつぶした高校生ってのが何者なのか、回収されるのかは気になるところ


364 : ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:09:54 cCFw4CT60
投下します。


365 : ジャンクドッグ ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:11:42 cCFw4CT60



 その囚人は、一言で云うならば醜男だった。
 その囚人は、有り体に言うなれば不細工だった。
 しかし、その顔はひどく不敵に笑っていた。

 身長は150cm台半ば。白人としては極めて小柄だ。
 顔立ちは不恰好に荒れ、二十代とは思えぬ老け顔である。
 髪の毛はぼさぼさと乱れ、額の毛は既に薄れつつある。
 口元から覗く歯並びは酷く乱れており、目つきはギョロリと大きい。
 その風貌も相俟って、薄汚れた野生動物のようにさえ見える。

 この男が道端で歩いていれば、誰もが振り返るだろう。
 そして、誰もが眉を顰めて蔑むだろう。
 まだ若さという物から見放されていないにも関わらず。
 おおよそ美と呼ばれる概念からは、程遠い男だった。

 そして――その男は、取り囲まれていた。
 旧工業地帯の一角で、彼は追い詰められている。

 甲冑を身に纏った、二人の騎士。
 それぞれ長剣と長槍を構え、男の首元へと突きつけている。
 男は座り込んだ状態で騎士の刃を眺めていた。
 無論、下手な身動きは取れない。逃亡もできない。
 しかし、その顔には飄々とした笑みが張り付いている。

「おじさん、ずっと笑ってるんだね」
「“いい男”の条件を知ってるか?窮地を笑えるヤツさ」

 騎士達を率いていたのは、一人の少女だった。
 170cmを超える恵まれた長身を持ち、相手の男とは明確な体格差がある。
 少年にも似た端正にして中性的な顔立ちは、何処か爽やかな印象を漂わせた。
 アビスに収容される犯罪者とは思えぬ、可憐な風貌の持ち主である。
 囚人服の上からも目立つスタイルの良さも含めて、目の前の男とは対照的だった。

 中身となる肉体を持たない“四体の甲冑騎士”の使役。
 それが少女のネオスであり、彼女を守護する力である。
 それぞれ戦闘能力を備えた複数の眷属を操るという、単純明快にして強力な異能だ。

「ここで死んじゃえば、もう笑ってられないんじゃない?」
「おいおい、粋じゃねえな。そんなこと言われちゃ形無しだぜ」

 刑務開始直後、少女は自らの超力を使役してすぐさま男を制圧したのだ。
 あくまで戦闘向けの超力を持たない男は、抵抗することも出来ない。
 故に圧倒的に優位なのは、少女の側なのだが。

「まあ、話をしようぜ。喧嘩はしたくねえ」

 その小男は飄々と、わざとらしく両腕を上げる。
 “降参だ”と言わんばかりに手をひらひら動かし、自身の無害さをアピールしている。

「オレ様は“脱獄王”、トビ・トンプソン」

 そして彼は、そのままふてぶてしく名乗った。
 その醜貌を歪ませ、ニヤリと笑みを見せた。

「スリルが大好きな脱獄中毒者さ」

 男は傲岸に、堂々とした態度で告げた。
 ――名乗りの通り、この醜男は“脱獄王”と呼ばれていた。

 トビ・トンプソン、21歳。
 刹那的な脱獄ジャンキー。偏執的な脱獄性愛者。
 世界各地の刑務所に収監され、のべ17回にも及ぶ脱獄を成功させた男。


366 : ジャンクドッグ ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:12:43 cCFw4CT60

 彼は度を超えた脱獄の常習により、85年もの刑期を背負うことになった。
 そして難攻不落のアビスへと投獄され、剰え命懸けの刑務にまで放り込まれた。
 だというのに、この小男は不敵な態度を崩していなかった。
 余裕綽々と言わんばかりに、彼はふんぞり返っている。

「アンタ、確かナイト・ヨツハだろ?」
「内藤四葉です」
「まぁ誤差の範囲だな」
「そうかなあ」

 ――内藤四葉。それがトビを追い詰めている少女の名である。
 微妙に訛った呼び方にわざわざ訂正を入れられて、トビは飄々と答えた。

 アビスには『言語の垣根を越えた意思疎通を可能にする超力』を持つコヴァルスキという刑務官がいる。
 他の刑務官の超力やシステムとの併用により、アビスに収監されている囚人達は国籍や言語を問わず意思疎通が可能となっている。
 それでも文化圏の差異によって、発音の微妙な訛りなどが生じることはあるのだ。

「まあ、ともかくだ。ちょっとばかし取引がしたい」

 そうしてトビは、気を取り直し。
 己の本題、この刑務での指針を切り出した。

「オレ様は“脱獄”がしたい」

 自らの目的。自らが求めるスリル。
 即ち、脱獄。彼はこの殺戮の刑務においても“脱獄王”だった。
 この機会こそがチャンスであると、彼は踏んだのだ。

「え、殺せば良くない?恩赦あるよ」
「釈放とか刑期満了とかじゃ意味ねえんだよ。
 オレ様がしたいのは脱獄だ。それがスリルだ」

 そんなトビに対し、四葉はきょとんとした様子で聞く。
 脱獄を狙うくらいなら、他の受刑者を殺して恩赦を得た方が手っ取り早い。
 彼女はそう思ったし、大抵の囚人達もそこに望みを懸ける方がまだマシと思うだろう。

 しかし、それではトビにとって意味がないのだ。
 恩赦ではない。彼は脱獄がしたいのだ。

 そんなトビのスタンスに、四葉は「そういうもんなんだなあ」と呆けた反応をする。
 あまり共感できていないようだが、トビは別に同類を求めていないので気にしない。
 故に彼は構わず、四葉に対して問いかける。

「アンタはどうだ?恩赦が目当てか?
 それとも、享楽や刺激を求めるか?」

 トビの問いかけに対し、四葉は顎に手を当てて考え込む。
 んー、と可愛らしい所作を見せながら沈黙すること数秒。

「私はまあ、せっかく遊び場を貰えたんだし。
 ――楽しそうな人達とは殺し合ってみたいかな」

 そうして四葉は、まるで日々の予定について語るように。
 さらっとした口ぶりで、自らの殺意を言及する。

「恩人の“大根おろし”さんとは、一度ちゃんと戦ってみたいし。
 あの人……アビスじゃ“無銘”って呼ばれてた人とも、また戦いたいし……」

 四葉は名簿に載っていた囚人を振り返る。
 幼き日の四葉に多大な影響を与えた大金卸 樹魂、海外で一度は引き分けたことのある無銘など――。
 因みに無銘は刑務開始直後、宮本麻衣の超力である“眷属召喚”が更に複数体に及ぶことを見抜いている。
 それが出来たのは、同じタイプの超力を持つ四葉との交戦経験があったからである。

「でさ、他にも一杯いるよね!楽しそうな人達!」

 そして、天真爛漫な笑顔とは裏腹に。
 彼女が楽しむのは“命懸けの奪い合い”である。

「ある意味で玩具箱じゃない?ここ!」

 内藤四葉。彼女もまた、アビスへの収監に相当する犯罪者である。
 渡り鳥のように世界各地を往き、殺し合いを楽しむ“愉快犯型超力殺人鬼”。
 端正な見かけとは裏腹の戦闘狂。強者との戦いに命を懸けるジャンキー。
 彼女の存在については、トビも耳にしていた。

「だって、地の底の果てだよ!札付きの悪党が一杯いるんだよ!」

 “開闢の日”以後、彼女のようなネイティブ世代の無軌道な凶行が世界各国の社会問題となっていた。
 ネオスという暴力を生まれ持ち、人格が破綻する少年少女が後を断たなかったのだ。

「そんなの――――存分に殺し合えるに決まってるじゃん!」

 そんな野良犬達の中でも、四葉は“上澄みの殺人者”だった。
 彼女は世界各地で凶行と闘争を繰り返してきたのだから。





367 : ジャンクドッグ ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:13:53 cCFw4CT60



 4歳の頃、強力なネオスを密かに使いこなした。
 ただの少女、内藤四葉はそれを機に暴力のやり方を覚えた。

 四葉が超力を使いこなそうと思った動機は、実に些細なものだった。
 “漫画本みたいに戦ってみたかった”という、ただそれだけの理由である。
 異能を生まれ持つネイティブ世代は、旧時代の人類以上に“空想の世界”に同調しやすいとされる。
 一部の国では政府機関が芸術・文化の徹底的な検閲を行うほどの問題となっている。
 ともあれ四葉は漫画をきっかけに、自らを守護する四騎士の操り方を完璧に体得したのだ。

 7歳の時、四葉は大金卸 樹魂と出会った。
 ほんのささやかで、偶然のような出会いだった。
 漫画本から飛び出てきたような、奇跡の武人だった。

 かの漢女が幼き四葉のことを記憶しているかは定かではないが。
 確かなのは、四葉は“強者との戦い”を求める樹魂から何らかの影響を受けたことであり。
 彼女はその歳、同級生を相手に殺人処女を卒業したことである。

 それから四葉は、幾度かの“腕試し”を繰り返した。
 あれ以来、“強い相手と戦う”という目標ができた。

 そして10歳にして、四葉は国外逃亡を果たした。
 四葉が起こした数々の暴力沙汰が露呈し、不仲だった家族と大揉めしたからだ。
 そうして四葉は両親を半殺しにし、豪快に家出を敢行――タクシーなどを駆使して港へと向かった。
 そのまま自らが召喚する四騎士との連携により、海外行きの貨物船にまんまと乗り込んだのである。
 
 以来、四葉は世界を股にかける少女となった。
 手持ちの荷物は、家出の際に持ち出した漫画本くらい。
 各国で日雇いのバイトや追い剥ぎをしながら食い繋ぎ。
 各所で目ぼしい超力使いに喧嘩を売る日々を送ってきた。
 そのくせ、外国語はろくに覚えられなかったが。

 波瀾万丈の人生の中で、様々な強者と出会い続けてきた。
 戦ったり、戦わなかったり。叩き潰したり、軽くあしらわれたり。
 死闘を繰り広げたり、たまに引き分けて知り合いになったり――。
 18年という未だ短い人生だが、四葉の世界はまだまだ楽しみに満ちている。





368 : ジャンクドッグ ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:14:54 cCFw4CT60


 
「――まあでも、恩赦も欲しいなぁ。
 別に私、死にたがりとかじゃないし。
 普通に生きたいし。人生まだ長いし」

 そうして高揚に震えていた四葉は、改めて自分が死刑囚であることを振り返る。
 四葉にとっての“普通に生きたい”とは、“長生きして殺し合いの日々に明け暮れたい”という意味である。
 恩赦が信用できるかはともかく、それに賭けなければ自分は死を待つだけの身なのだ。
 だから四葉にとってこの刑務は遊び場であり、大きなチャンスでもあった。

 トビはそんな四葉を、やれやれと言わんばかりに見つめていた。
 その経緯は間違いなく非凡ではあるのだが、トビはいざ知らず。
 超力により人格が歪み、暴力衝動に飲まれたその姿は、典型的なネイティブ世代犯罪者のそれである。
 四葉自身は決して小粒な犯罪者ではないが、四葉のような思考の非行少年少女はアウトサイドではありふれている。
 尤も、トビもまた自らの超力によって人格が形成された若者なのだが。

「あっ、トビさん刑期長いじゃん。トビさん殺せばいいか」
「待て待て待て待て待て。早まるな」

 ふと気付いたようにグイッと近づいてくる四葉。
 騎士達もまさに刃を振るう寸前である。
 そんな彼女をトビは慌てて制止した。
 待て待て、待て待て――そうやって言い続けてるうちに、四葉は飼い犬のように動きを止めた。
 ついでに騎士達もその動きを止め、やがて蜃気楼のようにその姿を消した。

「話を聞けナイト、いやナイトウ。いいな?」
「はーい」
「変なところで素直だな……」

 妙に素直な四葉に呆れつつ、トビは咳払いをする。
 それから一呼吸を置き、自らの本題を切り出した。

「アンタには護衛や協力者として同行を頼みたい。
 その代わりとして、“遊び”や“ポイント稼ぎ”を手伝ってやる」

 それは、受刑者としての結託だった。
 トビ・トンプソンは、四葉を自らの味方として勧誘した。
 脱獄の同志としてではなく、ギブアンドテイクの同盟として。
 互いの望みを果たすための利害関係として。

「オレ様の超力は弊所の移動や隠密行動に適している。
 他の受刑者の捜索や偵察くらいのことは容易いって訳だ」

 トビの超力は“肉体の軟化”である。
 自らの身体を軟化させ、あらゆる隙間や弊所へと自在に入り込む。
 そして彼は脱獄王、隠密行動はまさに十八番である。
 敵の死角に潜り込むこと、敵を密かに監視することが容易なのだ。

 彼の戦闘力は低いものの、偵察役としての仕事を行うことが出来る。
 あくまで眷属による直接戦闘に特化している四葉の為に、先手を打って“遊び相手”を探し出せるのだ。

「それに斥候だけじゃなく、オレ様は刑期が長い。
 つまりポイント稼ぎで“格好の獲物”としても使える」

 そしてもう一つ、トビには売り込む点がある。
 要は、囮としての使い道である。

 刑期という点においては、死刑囚である四葉も大きなポイントとなりうる。
 しかし彼女は世界各地で、複数の超力犯罪者との交戦経験を持っている。
 他者から見て“一筋縄では行かない獲物”であることが明白なのだ。

 対してトビはあくまで脱獄犯。
 しかし、度重なる脱獄によって刑期は80年以上にまで伸びている。
 その刑期の重さに反し、彼の戦闘力はそれほど高くない。
 故に他の受刑者達にとって、ローリスク・ハイリターンを見込める存在なのだ。
 そうして誘き寄せられた連中を、四葉が狩る――そういう話だった。

 他の受刑者達と遊びつつ、ポイントも稼ぎたい。
 そんな四葉にとって、斥候も囮も引き受けるというトビの提案は間違いなく魅力的だった。


369 : ジャンクドッグ ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:16:12 cCFw4CT60

「誘いは有り難いけど、いいの?狩っちゃって」
「あン?」
「トビさんの目的は脱獄なのに、犠牲を増やすことになるけど」

 四葉はトビからの提案を受け止めつつ、そう問いかける。
 彼はあくまで脱獄を目的としており、他の受刑者との争いは望んでいない。
 護衛としての見返りであることは分かるが、犠牲を増やすことに加担する形になる。
 それで構わないのかと、四葉は疑問を投げかけたのだ。

「――そう、オレ様はただ“脱獄”がしたいだけだよ。
 皆々様を刑務から救うための慈善事業がしたいんじゃねえ。
 だから、アンタがどれだけ殺そうとも構いやしない。
 この場で何人死のうと、オレ様にとっちゃどうだっていい」

 対するトビは、淡々とそう告げた。
 あくまで自身の脱獄が目的であり、刑務の打破そのものを狙う殊勝な人間ではない。
 故に彼は冷淡な態度を取る。彼もまたアビスに収監された悪党なのだ。
 四葉は「ふうん」と反応して納得をする。それなら良かった、と。
 この小男も少女も、突き詰めれば悪党である。倫理を問うほどの殊勝な信念はない。

 そして、トビにとっての理由はそれだけではない。
 “他の受刑者と結託し、協力して敵を狩る”――。
 あくまで“刑務に則った行動”を取ることで、刑務自体が破綻する可能性を防ぐのだ。

 それは何故か。刑務そのものには関わり、争いを円滑に進めていくことで、少しでも自分達がマークされる可能性を減らすためだ。
 トビにとっては脱獄を達成する隙を突くためにも、刑務自体は正しく回って貰わなければ困る。
 ――“反乱分子は存在するが、刑務自体は問題なく進行している”。
 看守側がそう認識し、過度な警戒を行わないでいてくれる状況の方が此方としても都合が良いのだ。

 故にトビもまた、あくまでゲームの駒としての立ち回りをする。
 その結果として残り人数という時間制限が加速するとしても、トビにとっては望む所である。

「で、脱獄って言ってもさ。トビさんは何をするの?」
「物資確保、人探し、そして施設調査だ」

 そうして四葉の問いに対し、トビは右手の指を三本立てながら答える。

「まずは物資確保。交換リストで“使える道具”を確保したい。
 工具代わりになるモノや、物資を持ち運ぶ為のデイパックが望ましい。
 最低でも5Pでナイフ一本は欲しいな」

 某国の刑務所に収監された際、当時15歳だったこの男は隠し持っていたアイスピック一本で脱獄を果たした。
 彼は超力に頼らずとも、“尖ったもの”ひとつで鍵の解錠から機器の分解までこなすことが出来る。
 故に刃物一つでも用意できれば、それだけでトビにとっては収穫となりうるのだ。
 そして現地調達で物資を確保する際の為にも、デイパックなどがあれば望ましい。
 無論、可能であれば本格的な工具も確保したいが――流石にそこまでの贅沢を望める見込みは薄いだろう。

 脱獄のための最大の脅威、それは受刑者全員に嵌められた首輪である。
 これを外すか無効化するかしなければ、トビは生殺与奪を握られたままだ。
 数々の脱獄で活かした自身の“技術”で解体できる余地はあるのか、否か。
 少なくとも、道具を使って試してみる必要があった。

「他の刑務者のポイント自体は、恩赦が必要なアンタに譲る。
 その代わり、稼いだポイントの一部でこっちに物資を融通してほしい。
 なに、そう大量に使ったりはしねえ。安上がりの物資だけでいい」

 トビは四葉にそう伝える。
 首輪のポイントは譲渡が不可能であり、よって恩赦が必要な四葉に引き渡す。
 ただし、その一部を使ってナイフなどの物資を購入すること。
 トビがまず望んだのは、四葉にとって優位な要求だった。
 恩赦が欲しい四葉と、脱獄を求めるトビ。
 両者の思惑が異なるからこそ、トビは盤面での利益を惜しみなく差し出せる。

 それに、トビは四葉がポイントを徴収した後の“使用済みの首輪”も回収したかった。
 首輪の構造を知る為にも、それを使って“実験”を行うことを視野に入れていた。


370 : ジャンクドッグ ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:17:46 cCFw4CT60

「次に人探し。“メカーニカ”と接触したい」
「メカニカ?」

 そして二つ目の思惑。
 トビが挙げた名前に、四葉はきょとんとする。

「ラテン系犯罪組織のメンバーだが、アイツの超力は工学に関わる。
 あらゆる人工物に干渉して変形や成形ができるそうだ。
 オレ様にとっちゃデカい価値がある」

 メリリン・"メカーニカ"・ミリアン。
 ラテン・アメリカのとある犯罪組織に属し、兵器の製造や整備を担っていた女囚だ。
 刑務が始まる前からトビは彼女の超力について掴み、脱獄に活かせる可能性を考慮していた。

 金属、プラスチック、ガラスなどの人工物を自在に組み替えて改造する超力。
 メカーニカの異能は、条件次第で“首輪”に対する干渉も可能とするのではないか。
 この超力を持つ彼女をわざわざ刑務に放り込んだ時点で、何らかの対策が講じらている可能性は否めない。
 しかし、今は一つでも可能性に賭ける必要がある。
 そしてメカーニカの能力には、賭けるだけの価値があった。

 そのうえで「メカーニカが協力してくれるかは未知数だし、そもそも出会うまでに奴が生きていればの話だが」と付け加える。
 賭けるだけの価値はあるとはいえ、実際に向こうが生きて手を貸してくれる確証はないのだ。
 故にあくまで“可能であれば接触したい”という範疇で、トビはメカーニカの捜索を目的の一つに入れた。

「だから、“メカーニカ”には手を出さんでくれ」
「おっけ!」

 そしてトビは、念の為に忠告。
 四葉はとっても軽い態度で承諾。
 こいつ本当に分かってるよな、と少々不安になったが。
 ふとあることを思い出して、忠告をすることにした。

「ついでの忠告だが、“牧師”に喧嘩売るのもやめとけ。確実に面倒なことになる」
「あ、それは大丈夫」
「どういう意味だ?」
「そもそも私が捕まったきっかけって、“牧師”の縄張り荒らしたからだし」
「もう面倒なことになってんじゃねェかよ」

 こいつ本当に大丈夫か、と更に心配になったが。
 少なくとも利害関係は明白であるし、彼女もそれは分かっているだろう。
 故に手を結ぶ理由はあるとトビは結論付けた。
 ルーサー・キングとの接触は、色んな意味で避けたい。

「まぁ……ともかくだ、最後の三つ目。オレ様は施設調査もしたい。
 “ブラックペンタゴン”。この島のど真ん中におっ立ってるきな臭い施設だ。
 刑務を運営するための中枢、ってのは流石に無いだろうが……ここも念のため調べておきたい」

 そしてトビにとって、現状で最後の目当て。
 それはこの舞台の中央に存在する“施設”についてだった。
 ブラックペンタゴン。島の中心地に位置する、正体不明の巨大施設。

 地図の様相からして元々工業で成り立っていたらしきこの孤島において、明らかに不自然な異物として存在している。
 そもそも、この刑務はどのようにして受刑者達を監視をしているのか。
 ヴァイスマン一人の超力のみで刑務の運営が行われるとは考えにくい。
 何処かに彼らの“拠点”があると思われるが、その手掛かりとして考えられる唯一の施設がそのブラックペンタゴンだった。

 はっきり言って、こうもお誂え向きに聳え立つ施設に重要な機密が隠されているかは非常に怪しい。
 そこが本当にアビス側にとって意味のある施設だというのなら、初めから禁止エリアに指定すればいいだけのこと。
 そのためアテとしてはあまり期待はできないが、何より今は手探りの状況だ。
 少しでもヒントとなるものを掴む為にも、施設を調査する必要はあると考えた。

 以上が、トビ・トンプソンの行動指針だった。


371 : ジャンクドッグ ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:19:12 cCFw4CT60
 それを聞き届けて、四葉は咀嚼するようにうんうん唸るも。

「てかさ、さっきからめっちゃ喋ってるけど」

 ふと何かに気づいたように、彼女が問いかけた。

「盗聴対策とかしなくていいの?私達」

 そう、尤もな疑問である。
 重要な指針をこうも喋っていいのか、と。
 何処かで筒抜けになっているのではないか、と。
 四葉は純粋に不思議に思ったのだ。

「知ってンだろ?ヴァイスマンの超力」

 それに対し、トビは忌々しげに答える。

「アイツの前じゃオレ様達は元々筒抜けなんだよ。
 何処に居るかも、どんな状態なのかも、マーキングされてやがる」

 看守長、オリガ・ヴァイスマン。
 アビスの囚人達は全て、彼の超力の監視下に置かれている。
 それは、マーキングした者達の状態を“管理”するネオス。

「小手先の偽装なんかやったって意味がない、無駄な労力にしかならねえのさ。
 それに連中は、オレ様が“脱獄を狙う”ことくらいは織り込み済みだろうよ」

 脱獄を狙う上で、トビは当然それを念頭に置いていた。
 奴の聴力を踏まえれば、盗聴や盗撮の対策など無意味と言ってもいい。
 故にわざわざ行う必要はない。

 そして看守達は、脱獄王をこの場に参加させることの意味も理解している筈だ。
 通算17回にも渡る脱獄を行ってきた男が、大人しく刑務に従う訳がないのだ。
 犯罪者達を管理する彼らがそれを認識していないことは、有り得ないのである。

「だったら、いっそ堂々としてりゃいい。
 オレ様は自他共に認める“脱獄王”だ。
 オレ様が脱獄について語ったところで、そいつは至極当然のことでしかない」

 だからこそ、トビはそう結論付ける。
 対策したところで意味が無いのなら、初めから偽装を捨てる。
 連中が自分の反抗も織り込んでいるのなら、初めから堂々とやる。

 この状況で躊躇わず、スリルのアクセルを踏みに行く。
 それがトビ・トンプソンというである。


372 : ジャンクドッグ ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:21:18 cCFw4CT60
 そして同時に、トビはあることを推測する。
 
 刑務に従わない者。
 アビスへの反抗を企てる者。
 脱獄を試みようとする者。
 そんな受刑者に待ち受けているのは、首輪による処刑だ。
 奴らの判断一つで、凶悪犯達はその生命を散らすことになる。

 だが恐らく刑務官側にとって、その采配は出来るだけ避けたい手段でもあるだろう。
 何故ならばそれは“盤面への直接介入”であり、ゲームが機能不全に陥りかけたことを告白する行為に他ならないからである。
 幾ら強権を振るえる立場であるとはいえ、それは刑務官側の威信にも関わることだ。
 それに、この刑務に何かしらの目的――例えば囚人同士の抗争自体に意義があるならば、刑務官による介入は尚更好ましい判断ではない。

 少なくとも連中は、ギリギリになるまで首輪爆破での始末は使わない。
 脱獄王トビ・トンプソンはそう考えた。
 故に可能な限りプレイヤーとして立ち回り、そのうえで綱渡りをすることを選んだ。

「それに」
 
 そして、何よりも――思うことがあった。

「奴らはこの“脱獄王”にこんな舞台を用意しやがった」 

 アビスの連中は脱獄王を一時的にでも自由の身にし、箱庭の島へと放り込んだのだ。
 言うなればこれは、看守達からの“挑戦状”に等しかった。

「つまり、喧嘩を売ってきやがったんだ。面白ェじゃねえか」
 
 ならば、受けて立つ以外には無い。
 トビ・トンプソンはそう考える。

 実際に脱獄できるのか。
 そもそもヴァイスマンの支配を掻い潜れるのか。
 その確証はないし、見込みがあるかも分からない。
 だとしても、だ。

「――――“楽しいこと”は試さなきゃ、損ってヤツだろ?」

 仮にこれまで見立てを外して、自分が順当に“処刑の対象”になったとしても。
 脱獄の道半ばに散ることが出来るのなら、それはそれで清々しい最期だ。
 故にトビ・トンプソンは、不敵に笑った。

 そんな彼の笑みを、四葉はじっと見つめて。
 やがて彼女もまた、ニヤリと笑ってみせた。
 “楽しいことは試さなきゃ損”。
 彼の粋な言葉に対し、共感を抱くように。

「言えてるね」

 “いい男”の条件は、窮地で笑えるヤツだ。
 最初にトビが告げた言葉を、四葉は改めて理解した。
 そんな彼女を見て、フッとトビも笑みで応える。


373 : ジャンクドッグ ◆A3H952TnBk :2025/02/16(日) 23:23:48 cCFw4CT60

 トビはその場から立ち上がる。
 ゆらりと身体を揺らしながら、口元に笑みを貼り付ける。
 
「オレ様は自由なんかじゃない」

 そしてトビは、己の在り方を振り返る。
 脱獄にしか歓びを見出せず、幾度となく監獄破りを繰り返してきた。
 言ってしまえば彼は、拘束と解放の躍動に縛られ続けているのだ。

 トビは永遠に監獄という世界から逃れられない。
 トビは永遠に脱獄という快感から足を洗えない。
 彼はこれまでも、これからも、同じスリルを只管に求め続けるのだ。

「きっと、永遠に不自由なのさ」

 それはある意味で、不自由な在り方なのだろうと。
 何かに囚われていくことでしか生の実感を得られないのだと。
 彼自身、自嘲混じりに思う。

 そのうえで、トビ・トンプソンは考える。
 それは自分にとっての不幸なのか、と。
 ――無論、そんな筈がなかった。


「これ以上の喜びはねェ」


 不自由の自由を駆け抜ける。
 故に彼は、“脱獄王”なのだ。


【H-4/旧工業地帯/1日目・深夜】
【内藤 四葉】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.気ままに殺し合いを楽しむ。恩赦も欲しい。
1.トビと連携して遊び相手を探す、または誘き出す。
2.ポイントで恩赦を狙いつつ、トビに必要な物資も出来るだけ確保。
3.トビの計画が上手く行ったら、看守連中にも喧嘩を売ってみたい。
※幼少期に大金卸 樹魂と会っているほか、世界を旅する中で無銘との交戦経験があります。
※ルーサー・キングの縄張りで揉めたことをきっかけに捕まっています。

【トビ・トンプソン】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱獄。
1.内藤 四葉と共闘。彼女の餌を探しつつ、護衛役を務めてもらう。
2.首輪解除の手立てを探す。そのために交換リストで物資を確保、最低でもナイフは欲しい。
3.構造や仕組みを調べる為に、他の参加者の首輪を回収したい。
4.工学の超力を持つ“メカーニカ”とも接触したい。
5.ブラックペンタゴンを調査してみたい。
※他にも確保を見越している道具が交換リストにあるかもしれません。


374 : 名無しさん :2025/02/16(日) 23:24:03 cCFw4CT60
投下終了です。


375 : ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 00:54:00 SxNOqXrs0
投下します


376 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 00:54:48 SxNOqXrs0
罪人として連行されて、懲役刑が執行されました。一詰み。
アビスという御大層な名前の刑務所に入りました。二詰み。
刑務作業って名前の処刑イベントが始まりました。三詰み。
残念ながら、ヤミナ・ハイドの人生はここで永遠に終了です。


「終わった、人生詰んだ……」

本音が漏れ出てしまいます。
色んな仕事に節操なく手を出してきた私ですが、現実が見えてないわけじゃありません。
五体満足でこの刑務作業を終えられると考えるのは甘すぎるって思います。
魂からスラムのドブ川の香りが漂ってきそうな歪んだ顔の牢紳士一同とか、
あなた絶対人間じゃないでしょみたいな美人通り越して作り物じみた顔のお嬢様がたとか、
撫でられるだけでミンチにされそうな筋肉鎧とか、
びっくり人間が最初の部屋にわんさかいましたから。

前から思っていたのですが、なんで私はこんなところに放り込まれたんでしょうか?
懲役26年って重いは重いですが……、でも裁判の感じだとこんなところに投獄される雰囲気じゃなかったのでは?
看守長に釈明を求めたいなあ、と切実に思います。
それにしても……。


「皆様、いくらなんでも張り切り過ぎなのでは……」
橋の上じゃ、人間の手に負えなさそうな大爆発が起きてました。
森の方じゃ、ものすごい音と共に木がメリメリと倒れてました。
山の上じゃ、なぜか嵐が起きていて、大岩が転がってきました。
島中どこでも、早速血気盛んな収監者たちが殺し合っているようです。
ああ、本当、どうしてこんなことに。


そういえば、どこかのアジアの大きな宗教が布教用の動画チャネルで語っていました。
前世の徳が足りないと、今世でそのツケを支払わされるって。
そんなでもないと、小市民らしく慎ましやかな生活を送ってた私が、生きながら地獄に落とされるわけないじゃないですか!


そりゃ、私だって人間ですから。
生きてる以上、ちょっとは悪いことだってしてます。
でも、それだって仕方なかったんです。
友達に『バーグラー』ブランドのバッグを見せるって約束したのに、シュガーダディがお金くれないとか言い出したのが悪いんです。
もれなく1000$もらえるショッピングリボ払いキャンペーン! って広告見つけたら皆さん飛びつきますよね?
それで賢くペイしてたはずなのに返済額が増えてるなんて、想像できます!?
だからお金稼ぎたくてオペレーターのバイトに応募したら、応募のときに送った個人情報をみんなにバラすって脅されちゃって。
『チャオ♪ 契約不履行がダメなだけだから! 完了したら解放してあげるよ!』
ってメッセージがP.N.『ワシントン』から届いたので、縋る気持ちで続けたのに、巧く行かなくて。

あはは……。一生懸命頑張ったんですけどね。
レンタルカーの手配に、仕事場までの行帰りのルート確保に、実行員の割り振りに、リアルタイムの指示。
あれでだいぶ色々スキルが身についたと思います。
けれど、ブラッドストークさんのところで長いこと働いてたっていうベテランさんに実行員のリーダーを任せたのが間違いでした。
こんなことなら、良識人の南沢さんを何としてでも引き留めてリーダーを任せるべきでした。
結局リーダーのとばっちりで私まで逮捕。
でも裁判長さんは言ってくれましたから。情状酌量の余地アリって。

次のバイトでショットガン持って豪邸襲ったのはさすがに悪かったと思いますけれど……。
SPさんって保険入ってますよね?
私たちは無保険で、おなじく強盗を強要された仲間はみんな死んで私だけが生存。
SPさんに死人が出なかったのだし、ごめんなさいで済まないですか? そうですか済まないですよね。
でも弁護士さんは言ってくれましたから。示談で済ませましょうって。

まあ、ここまではさすがに私にも非がなかったとは言わないです。
でも、最後のバイトは理不尽だと思います。
誰も傷付けない、郵便配達でしかなかったはずなのに。
なのに、理由も分からず捕まってこんなところに送られるのはさすがに理不尽がすぎるのではないでしょうかあ!
国家安全部の人だって……使ってる言葉全然分かんなかったです。


ああ、世界って理不尽です。
順風満帆に暮らしていても、突然巨大なトラブルに巻き込まれて人生が台無しになります。
そう、たとえば。私の背後から迫りくる土砂崩れがその一例ですね。
「ぷげえええぇぇぇぇえええっっっっ!!」




377 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 00:57:11 SxNOqXrs0

不運の後には幸運がくる。これがエルグランドのジンクスである。
もちろん、それを実際に活かせるかどうかは己の実力次第だが、彼はそうやって世を渡ってきた。
獲物を逃したり、護衛艦に痛い目を見せられた後は、それを取り戻すかのごとく苛烈な襲撃をおこない、大きな収穫を得てきた。
分け前は気前よく部下に与え、その部下が気を大きくしてヘマをおかし、競合の海賊や政府の軍に攻め入られては、機転を利かせてさらなる巨大な収穫を得る。
そんな刹那的で暴力的なサイクルがこの男の生き様であった。


エルグランドはジョニーの機転によって戦場からドロップアウトし、何の収穫も得られないまま頭に傷を負ってしまった。
実力勝負自体に意を唱えるつもりはないが、同時刻にスタートして敵のほうが先に徒党を組んでいたというのは不運ではある。
ならば、それ故に、次に訪れるのは幸運である。
エルグランドはそう確信していたし、
「ぷげえええぇぇぇぇえええっっっっ!!」
山頂のほうから轟く悲鳴を聞いて、エルグランドは口を大きく吊り上げた。

東部に広がる孤島唯一の山岳地帯。
その中腹から、女が一人、土砂に追われながら転げ落ちるように滑り降りてくる。
彼女――ヤミナが何かを引き起こしたというわけではない。
ジョニーとエルグランドの戦闘の余波によって、緩んでいた地盤がついにバランスを崩し、土砂崩れを引き起こしたというだけの話だ。
麓に向かうにつれて徐々にその余波を広げていく崩落のなかで、より被害が小さなルートを選択して的確に山を滑り降りてくる。

「げえええぇぇそこの人どいてぶつかるううぅぅっっぶはあっ!!」
そして、山を下り麓の道にまで降り立ったヤミナ。
彼女は、それでも勢いを殺しきれずにごろごろと地面を転がり、
身体を引いて衝突をかわしたエルグランドの目の前で擦り傷を作って止まった。
土砂は女のすぐ東側になだれ込み、小山のようになって一方の進路を阻む。
ほら、ジンクス通り。
不運の後には幸運が舞い込んできた。

「ゲハハハハ! よう嬢ちゃん、あの黒い大波を乗り越えた気分はどうだ?
 ま、嵐から命からがら逃れた先に、政府の軍艦がずらりと並んでた、なんてことも珍しいことじゃねえ。
 嬢ちゃんは運が悪かったのさ」
「ひ、わ、私を食べても美味しくありませんよおっ!
 26ポイント! たった26ポイントしかございませんんん〜〜!!」
「26……ってことは酒が2杯も買えるってことじゃねえか!
 ああ、11年ぶりの酒はさぞかしうめぇだろうなあ。
 酒がありゃあ傷も洗える。十分すぎるほどに釣りが来るぜ。
 諦めな。このドン・エルグランド様が目を付けた。嬢ちゃんは詰みだ」
「命ばかりはお助けを〜〜ッ!!
 役に立ちます! 立てます!! 立ってみせますぅ!!!!
 だから何とぞ、慈悲を、ご慈悲をいただけませんかあぁぁッ!」

顔をくしゃくしゃにして、鼻水と涙を垂らしながら女を捨てた命乞いが始まる。
値踏みするまでもなく、戦場慣れしていない。
それが、銃頭ジョニーの2.6倍ものポイントを引っ提げて現れた。
宝石を積んだ商船が護衛船すら付けずにうっかり拠点に迷い込んできたようなものだ。
たとえ見逃しても、一時間後には誰かのポイントになっているだろう。
なら、ここで使ってやるのが慈悲である。


378 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:00:00 SxNOqXrs0

だが。
エルグランドは考える。

弱い。弱すぎる。弱すぎて、歯牙にもかからない。
そして、女だ。

酒も11年ぶりだが女も11年ぶりだ。
騒がしいのはマイナスだが、見てくれも体つきも悪くはない。
そして11年ぶりに味わう、他人の命を握る感覚が心地いい。
それなら、もう少しくらい遊んでやってもいいだろう。


「そうだなあ。役に立ってみせるっつったが、じゃあ嬢ちゃんは何ができるんだ?」
「私は、に、逃げるのが得意です!」
「あ゛?」
何ができると問われて、返す言葉で逃げが得意だと回答する。
ナメているとしか言いようのない回答である。

「ひ、ひぇぇぇえ! 私は逃げません、逃げませんからぁ!
 逃げてる人がどこに行きそうか分かるって言いたかったのですぅ〜〜!
 建物の脱出ルートとかそういうの探すの得意だって言いたかったのですぅ〜〜!
 ルート構築の仕事をしていましたからああぁ〜〜!」
「はん! 言葉にもうちっと気を付けるんだな」
値踏みをしてみて思ったが、頭もだいぶ弱いと見える。
肉体はひ弱、頭も弱い。まな板の上の鯉そのものである。

「まあ、ここまで必死になるのを見せられちゃあなあ。
 チャンスの一回はくれてやるのが度量ってもんだろ。
 なあ、嬢ちゃんは戦利品(たからもの)か? それとも、俺の大事な手下(下っ端)か?」
エルグランドは悪辣に笑う。
ヤミナに、これっぽっちもいい予感なんてしない。

「簡単なゲームをしようじゃねえか」
「げ、ゲームですか……?」
「ゲハハハ! そうだ。簡単なゲームだよ」
イヤな予感に、ヤミナの額から滝のように汗が流れる。

「嬢ちゃんが勝てば俺の下においてやる。
 だが俺が勝てば、お前は戦利品だ」
戦利品。それが指すものは、恩赦ポイントであり、ヤミナではなく『女』としての扱いが決定するということである。

この男は、略奪成功を祝う宴の最中、捕虜たちに対して酒の勢いで数々の余興をおこなってきた。
勝てば解放、負ければ死、負けても結果が面白ければ解放。
そんなささやかかつ様々なデスゲームを部下に考案させ、宴を盛り上げてきた。
殺したいわけではないが、命がかかったほうが面白いというだけの理由で開催される余興である。

「俺は直接手を出さねえ。
 今から一分以内にこの大岩に触れられればお前の勝ち。
 触れられずに一分経ったら、俺の勝ちだ!」
エルグランドは自らとともに転げ落ちた大岩の傍に立ち、ネオスを発動させる。
エルグランドを中心に、立つのもままならない嵐が吹き荒れる。


379 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:02:16 SxNOqXrs0
「ふげええええぇぇ、わぷっ! ぷへっ、けほっ、けほっ……。
 そんな、私、まだ同意してなぁ、いぃぃでぇぇすぅぅ〜!」
「おいおい、もうゲームは始まったんだぜ?
 さあ、手下になりたきゃ、力の限り足掻いて見せるんだなあ!」

嵐を呼ぶネオスは強力極まりないが、エルグランドに制御できるものではない。
今も猛烈な風に吹き上げられた頭大の岩がエルグランドの頭目がけて飛んでくるほどだ。
――だからこそ、ゲームが成り立つ。

運がよければ風の弱いところを突っ切って突破できるかもしれないし、
見た目よりもフィジカルが高ければ実力で突破できるかもしれない。
運がよくて大岩まで飛ばされるならばそれも一興。
運が悪くてたどり着けないのも一興。
嵐を突破できるようなネオスがあるなら、それはそれで拾い物だ。

「かぁぜぇ、つぅよぉすぅぎぃぃ〜っ!」
ヤミナは地面から浮き上がりそうになりながら、必死で踏ん張るだけだ。
一歩も進んでいない。
一方でエルグランドは直撃コースに入った小岩に顔を向けることもなく、ただの拳の一薙ぎでそれを砕いた。

逃亡はない。させない。
土砂崩れがヤミナの後ろを遮っている。
これを逃がすほど、エルグランドの肉体は鈍ってはいない。
ヤミナは挑むしかないのだ。

「さあさあ、あと30秒だぜ?
 進むのか!? 諦めるのか!? それとも、もう一度土下座でもして命乞いしてみるか!?」
「神さま神様かみさま助けて〜っ!
 ああああっっ、もう! なんとかなれぇぇッッ〜〜〜!!」
ヤミナは顔をくしゃくしゃにしながら、目をつぶって大岩へとまっすぐ突き進んだ。

エルグランドはふん、と鼻を鳴らした。
もはや見なくても結果は分かる。
中央に向かうほどに彼の呼ぶ嵐は強力になる。
こんなへなちょこな特攻では、天まで覆う風の壁に弾かれて終わりだ。

「ゲームは俺の勝ちで決まりだな」
もはや残り時間も気にせず、どう戦利品を楽しむかに考えが移行しかけたところで、エルグランドは思いもよらぬ声を聞く。

「つ、ついた〜〜! つきました〜〜!」
「!?」
デジタルウォッチを見ると、13秒も残してのゴールだ。余裕の到着である。
何が起こったのかと状況を把握するのに時間はかからなかった。
ヤミナの通ったルートの風速が弱まっている。
ヤミナは勝ちを拾ったのだ。


380 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:03:31 SxNOqXrs0
「これで助けてくれるのでしょうか!?」
「あ、ああ。海の男に二言はねえよ……」
釈然としない。あまりに釈然としない。
ネオスでも使っていない限り、こんな不自然なことは起こり得なかった。
この女が突破できるはずがなかった。

「ヤミナ・ハイドです! なんとかがんばらせていただきます!」
そういえば名前を聞いてなかったな、と思いながら、思考は別の方向へ向く。
偶然か? ネオスか? 幸運の風でも吹いたのか?

「ああ、なんだそうか。俺の、俺様のジンクスじゃねえか」
不運の後には幸運が来る。
11年もアビスでくさい飯を食わされたのだ。
ならば、それを帳消しにするだけの大量の幸運が舞い込んできても何もおかしくはない。
何より、分かりもしないことをうだうだと考えるくらいなら、それくらい割り切ったほうが気持ちがいい。

結果だけ見れば、パシらせる下っ端を労せず手に入れたのだ。
風は自分に吹いている。
世界はエルグランドに微笑んでいる。

【D-6/平原/一日目・深夜】
【ドン・エルグランド】
[状態]:ダメージ(中)、頭部出血
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.奪い、殺し、自由を取り戻す
1.銃頭(ガンヘッド)野郎には容赦しない
2.ヤミナはうまくパシらせる

【D-6/平原/一日目・深夜】
【ヤミナ・ハイド】
[状態]:疲労(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.強い者に従って、おこぼれをもらう
1.ドン・エルグランドの指示に従う
















381 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:04:33 SxNOqXrs0

世界保存連盟:通称GPA。
その前身は、日米地球保護協定と呼ばれるものであった。
よって、GPAの中心国は日米二カ国であり、連盟の主要な施設もまた日本とアメリカに集中。
『開闢の日』以降、この二国が最も著しい発展を遂げるのも自明であった。
超力犯罪国際法廷、International Court for Neos Crimes――通称ICNC。
本部は日本国の首都に建てられた、雲をも貫く純白のツインタワーである。
天から落ちてきた裁きの聖槍を思わせるその巨大な建物は、その影響力を世界に知らしめるものといえよう。
GPAの提唱国であり、ネオスを得るに至る研究をも主導していた日本国に施設が設立されるのは当然のことであった。

屋内には落ち着いた木の香りが漂い、天井を見上げれば教会を思わせるきらびやかなステンドグラスが嵌まっている。
窓の中心に描かれているのは、膝をついて天を見上げる罪人と、降臨した天使。
更生の概念を具現化した一作である。
もっとも、その天使は美しい中性的な人間ではなく――人間ですらない、卵を思わせる異形。
そして、そこに描かれた更生とは、卵形の天使に肉体を取り込まれ、あらゆる記憶を削ぎ落して生まれ変わる転生を表す。

ICNCは重罪人が最終司法判断を仰ぐ施設だ。
だからといって、判決が覆ることなど数えるほどしか存在しない。
ステンドグラスから降り注ぐ暖かな光は、業深き罪人がせめて来世では何の変哲もない平凡な人間へと生まれ変わり、
平凡な日々を過ごせるようにという願いの込められた慈悲の温もりなのである。


それでは、ここでどのような裁きが下され、どのような課題があったのか?
近年、最も問題ある裁判とされた一例を覗いてみよう。




382 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:06:01 SxNOqXrs0
-----------------
※※※ 204x ヴ 836887 被告人Aの裁判記録


「「「死刑! 死刑! 死刑!」」」
彼女を取り囲むように据えられた席に座る傍聴人が、法廷を取り囲む市民団体が、中継を通して裁きの行く末を見守る大衆たちが、
天をも轟かせるシュプレヒコールを響き渡らせる。
被告人Aへの裁きを見守るのは、憎悪と怨嗟にまみれた被害者という名の幽鬼どもだ。

裁判長からの『静粛に!』という警告は、この建物では起こらない。
その地獄から天を震わせる怨嗟の声は、ICNCに勤める音を遮断する超力者によってすべて遮られるから。
肉体を物理的に押しつぶさんとする怒号を一身に浴びるのは、中央に立つ被告人ただ一人である。

「被告人、アンナ・アメリナに判決を言い渡します」
外界から切り離された静謐な法壇から、天声を思わせる厳粛な声が響き渡った。

「息子を返せ! 家族を返せ!」
「この世に蔓延る悪に神聖なる裁きをっ!」
「超A級戦犯はぁぁ、今すぐこの場で処刑する以外にあり得ませんぞぉぉおッッ!!」
「「「死刑! 死刑! 死刑!」」」
「「「死刑! 死刑! 死刑!」」」

待ちに待った判決の読み上げに、傍聴席で進行を見守る衆目の興奮はピークに達する。
彼らは被告人Aの死刑を疑っていない。

「あなたの行動は人間の尊厳と国際法の原則を踏みにじるものであり、被害国ならびに被害者たちに対する深い傷と絶え間ない苦痛を引き起こしました。
 よって、戦争犯罪者と認定。
 その罪の重大性を考慮し、99年の懲役を言い渡します。
 また、あなたはその非道による国際社会への影響を認識し、公の場で自らの行いを謝罪するよう命じます」


その判決が読み上げられた瞬間、熱気溢れる公聴席が時が止まったように静まり返った。
懲役99年。言い換えれば、たった99年ぽっちの懲役。
それは、彼女の祖国に施された高度な政治的判断であり、慈悲であった。
悪党の命で喉を潤す餓鬼と化した大衆は、道徳から彼女の罪を推し量ったがために、外交的な背景から下された判決の内容を理解するのに時間を要したのだ。
これは嵐の前の静けさだった。

判決の内容を理解した聴衆の憎悪が憤怒と結びつく。
とめどなく降り注ぐその感情は、純白の建材すら赤黒く染めるようで、
卵の姿をした天使すらも堕天させてしまうかのように重く濁り切ったものだった。


「「「■■■■■ ■■■■■■■■■!!!!!」」」
もはや聴衆の罵倒は止められないものとなり。

「一つ聞くが……」
被告人Aは徐に口を開いて。

「この裁判所は豚でも飼っているのか?
 豚小屋の決めごとに従うのは甚だ遺憾だな」
その一言で、裁きは決壊した。

これより先、暴徒鎮圧及び被告人の自殺未遂というトラブルが起こり、公開できる記録は残っていない。

-----------------




383 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:06:53 SxNOqXrs0
このように、ICNCは当初の理念の崇高さとは裏腹に、非常に問題を抱えた施設である。
まず、開闢の日を迎える前に施工が決まったことにより、様々なネオスに対抗するための仕組みが不十分であることが一つ。
ネオスが基本的人権に属するかどうかの議論に決着が着かず、ネオスの問答無用の無効化が棚上げされていることが一つ。
そして、万人に開かれた裁きの場であるという題目を掲げたために、正義を追求する民衆の見世物小屋のようになってしまっているのが最大の課題であろう。
開闢以降、一切のネオスが無効化される島国に移転する案も出たが、そちらはそちらで国家存亡という問題を抱えたために実現に至っていない。


多くの問題を抱え込んだ施設だが、稼働を止めるわけにはいかない。
此度も新たな被告人が送りこまれた。
金髪が印象的な、明るく華やかな雰囲気の若い女だ。
神殿を思わせる真っ白な装飾と、天から降り注ぐ神聖な光に圧倒され、きょろきょろとまわりを見渡している。
ふてぶてしく凶悪な罪人を見慣れた聴衆たちは、もしかして、見学者が迷い込んで来たのか? と皆一様に疑問を抱いた。
だが、此度の被告人は紛れもない、虫をも殺せなさそうな態度を取るこの女である。

米国や日本国を中心に世界をまたにかけた国際強盗、そのナビゲーター及び逃亡ルートの選定、確保を担当。
自らも強盗の実行役としてショットガンを持って何人ものSPに重傷を負わせる凶行を実行。
そして、某一党独裁国のトップを狙った、国家転覆テロの1ピースまでもを担った。

最初の国際強盗だけに着目しても、氷藤家をはじめとした多数の日本の中流家庭、および、
欧州の名家フォンテーヌ家の一家惨殺に間接的に関わるなど、非道極まりない。
余罪も多数であり、金欲しさの動機で人道を踏みにじった紛れもない言語道断の悪党だ。
それにもかかわらず、これまで下されてきた刑罰は不自然に少ない。

だが、ICNCは司法の最後の砦である。
あのルーサー・キング相手に、様々な妨害に屈せず無罪要求を跳ね除け、
10年の懲役刑を勝ち取ることができた高潔な法の番人たちの集まりである。
では、此度裁きを受ける凶悪犯:ヤミナ・ハイド。
その裁判記録を覗いてみよう。


384 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:08:31 SxNOqXrs0
-----------------
※※※ 204x ヴ 15024 被告人Yの裁判記録

市民に遍く開かれたICNCの公開裁判。ここに人の足が途絶えることはない。
動画配信者に市民団体、報道記者にフリージャーナリストなど、傍聴席は今日も満員だ。
正義の民衆が、今宵はどのような悪党が死刑判決を下されるのかを心待ちにしている。

裁判長からの『静粛に!』という警告は、この建物では起こりえない。
神聖なる裁きの場でみだりに騒ぎ立てるような不敬者など、ここにいるはずがないから。
身を刺す様な静寂を一身に浴びるのは、中央に立つ被告人ただ一人である。

「被告人、ヤミナ・ハイドに判決を言い渡します」
外界から切り離された静謐な法壇から、天声を思わせる厳粛な声が響き渡った。

「まあ、直接人を殺しちゃったわけでもないし……」
「犯した罪に値する公平なる裁きを……!」
「冤罪の可能性も考えて、慎重に判断せねばなりませんな」
「「「………………」」」
「「「………………」」」

判決の読み上げに、傍聴席で進行を見守る衆目もまた、被告人と同じく軽い緊張に包まれる。

「あなたの加担したおこないは金欲しさに人道を踏みにじる、非道極まりないものです。
 また、秩序に対する明確な挑戦をおこない、世界の均衡すら脅かすものでした。
 更生の余地も考えられず、よって死刑が妥当なものです」
「し……死刑、ですか? そ、そんなっ! せめて、ど、どうかご慈悲を〜!」
その女は情けない声を出し、ブタのように司法に命乞いをする。

凶悪なネオス犯罪者が跋扈するこのご時世である。
このシーンだけを切り取ったとき、彼女が死刑を下されるような凶悪犯だと思う人間がどれだけいるだろうか?

「被告人、被告人。最後まで聞きなさい。
 本来ならば死刑が妥当です。
 しかしあなたは若年者。しかも、経済的な困窮や反社会勢力からの圧力がこの犯罪行為に至る背景にあると理解します」
聴衆も裁判長の判決を静聴している。
その理屈はおかしいだろうと咎める人間は、ここには一人もいない。

「よって、26年の懲役に減刑します。
 この判決は、あなたが自分の行動を深く反省し、再び同じ過ちを犯さないことを願ってのものです。
 あなたがこの機会を最大限に活用し、社会の一員として正しい道を歩むことを我々は願っております」

「ま、そんなものでしょうかな」
「若い女の子だし、これで人生終わりというのもね」
「正しく罪を償えることを願っている」

とても法に基づいた裁判だとは思えない、異様な判決だ。
そこにいる聴衆の誰もが、その異様さを疑わない。

「「「がんばって! がんばって! がんばって!」」」
「「「がんばって! がんばって! がんばって!」」」
マラソンでラストとなったランナーに全員でエールを送るように、あの正義感と道徳心に溢れた聴衆たちから応援の声があげられる。

「あ、あはは……。精進します。はあ、26年か……。人生終わったな……」

世界は。
彼女に優しい。

-----------------


385 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:12:22 SxNOqXrs0
国家転覆の罪。それも一党独裁のトップを狙う凶行。
他にも多数の余罪があり、重罰は免れない。
それなのに、何もせずに減刑されることがあり得るだろうか。

たとえば、アンナ・アメリナは死刑のシュプレヒコールを一身に浴びていた。
確かに彼女はその凶行にも拘わらず、死刑ではなく99年の懲役で済んだ。
しかし、それは紛争の当事国を勝利に導いた英雄であるという実績あってのものだ。
若い女性だという、道理の通らない理由で減刑されたわけではない。

たとえば、ルーサー・キングは結果的に見れば、死刑相当の悪事をたった10年の懲役に抑えた。
しかし、それは深い法律の知識を持ったブレーンと、あらゆる告発をことごとく跳ね除けてきた顧問弁護士、そしてその膨大な資金力による根回し――
いわば、ネオスに依らない彼の社会的実力でもぎ取ったものである。


では、ヤミナ・ハイドにそのようなものはあるのか?
否。彼女には実績も社会的実力もない。
不自然な減刑。
その根源こそが彼女のネオス。
すべてに侮られるというネオスだ。

個人という枠で切り出せば、ナメられて取るに足らないものと見なされるだけである。
けれど、社会という枠で切り出せば。
様々な問題を抱えつつも、人々の権利を拡充し、未来をよりよくしていこうと日夜努力する者たちが運営する現代世界における社会という枠で切り出せば。
それは『庇護』されるべきものとみなされる。

何より、ネオスは。開闢は。
『山折』が世界に名を轟かせたあの日、一人の脱落者も出さないように、人類を救いきれという理念の元に迎えられた努力の結晶である。
現代の人類を構成する細胞に、その理念は強く刻まれている。
そんな高尚な願いの元に迎えられた変革だったから。

法は。法則は。
情報の根源たるアカシックレコードは。

ヤミナ・ハイドはその責任能力を鑑みて、すべてのおこないに対する賞罰に傾斜を加えられなければならない、と。
すべての理は、ヤミナ・ハイドの愚かさを考慮して、相応の傾斜を加えられることが望ましい、と。
そう刻んだ。

どんなに世界が荒れ狂っていても、この世界の根底の理念は善なるものである。
その善意をハッキングして、世界の法則からハンディキャップを引き出すネオス。
自らに不当に利を引き寄せるおぞましいネオス。
その恩恵を享受し、世界に仇を返す行為を繰り返すのがヤミナ・ハイドという女である。
だから、彼女はアビスに収監された。

どんなに愚かで考えなしのどうしようもない人間に見えても。
彼女もまた、闇に隠れ潜む深淵の住人にふさわしいのだ。


386 : すばらしき世界の寄生虫 ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:13:21 SxNOqXrs0

【D-6/平原/一日目・深夜】
【ドン・エルグランド】
[状態]:ダメージ(中)、頭部出血、精神汚染:侮り状態
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.奪い、殺し、自由を取り戻す
1.銃頭(ガンヘッド)野郎には容赦しない
2.ヤミナはうまくパシらせる

【D-6/平原/一日目・深夜】
【ヤミナ・ハイド】
[状態]:疲労(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.強い者に従って、おこぼれをもらう
1.ドン・エルグランドの指示に従う
※ネオスにより土砂崩れに侮られ、最小の被害で切り抜けました。
※ネオスにより嵐に侮られ、受ける影響が抑えられました。


387 : ◆TApKvZWWCg :2025/02/17(月) 01:13:40 SxNOqXrs0
投下終了です


388 : ◆qYC2c3Cg8o :2025/02/17(月) 04:25:40 ???0
投下します


389 : ◆qYC2c3Cg8o :2025/02/17(月) 04:26:17 ???0


その少女は、生まれながらにして苛烈な欲望の持ち主であった。
彼女の両親は、彼らなりに彼女に愛情を注いだ。彼らの教育は、決して悪いものではなかった。
だが、彼らは凡庸であった。
小市民に甘んじ、家庭を作り、社会に奉仕する。
それが人としてあるべき姿だと、そう信じていた。

ああ、なんてくだらない。
死ねば終わりで時間は平等。欲望を発露せずして何の人生か。
慎ましく平凡な暮らしさえしていれば人並みの幸せを得られると?
政治も、警察も、司法からも、公平さなんかとっくに失われているというのに。

だから、彼女は世間的には“悪”と言われる道を歩み始めた。
権力を、財力を、暴力を持つ人間に取り入り、刹那的な欲望を満たすだけの毎日。
それでいいと思っていた。この世界に、これ以上の幸福など存在しないと、その時は本気でそう思っていた。
あの日を迎えるまでは。


「君、ちょっといいかな……?」

東京の繁華街で彼女に声を掛けた、真面目そうなスーツ姿の男。
その名刺には、ある芸能プロダクションの名が記されていた。

そして、悪に生まれ落ちた筈の少女は、光を知った。知ってしまった。
光を手に入れたいと、光の中で生きたいと、そんな欲望を抱いてしまった。
まるで、虫が灯に引き寄せられるかのように。

だが、その欲望は叶わなかった。純粋すぎる光は彼女の心を焼き尽くしてしまった。
そして今、鑑日月という名の少女(アイドル)は、ここ、地獄(アビス)の底にいた。




390 : ◆qYC2c3Cg8o :2025/02/17(月) 04:26:45 ???0

ルーサー・キングに打ち負かされ、川に浮かび流されていくジャンヌ・ストラスブールの耳に、何か水が撥ねる音が届いた。
誰かが川に入ったようだ。そして、こちらに近付くと、ジャンヌの右手を取り、こう言った。

「生きる気があるなら、自分の脚で立ち上がりなさい。
 それが出来ないなら、せめて私のポイントになって。力を抜いて楽にしなさい。沈めてあげるから」

完敗を喫したジャンヌだったが、心は死んでいない。
いや、彼女の正義の炎が絶たれることなどあるのだろうか。
身体が動く限り、命が消えぬ限り、戦い続けるのが彼女だ。
それ故、ジャンヌは立ち上がる。そして、あらためて来訪者の顔を見た。

少女だった。長い黒髪に、大人びた美貌、野心を隠そうともしない挑発的な瞳。

「貴女、アベンジャーズのジャンヌ・ストラスブールよね。
 私、鑑日月と言うの。とりあえず、岸に上がりましょうか」

不敵な微笑を湛えながら、彼女はそう言った。




391 : ◆qYC2c3Cg8o :2025/02/17(月) 04:27:58 ???0

炎の中で、枯れ枝が弾ける。

2人の少女は、ジャンヌの能力で焚いた火で濡れた身体と服を乾かしながら、言葉を交わしていた。

「まずは、助けてくださって、ありがとうございます。日月さん」
「礼なんか言われる筋合いはないわ。
 もしかしたら首輪が生きてて、恩赦Pって奴が手に入るかもしれないっていう、つまらない理由だもの。
 でも、よく見ればあのジャンヌ・ストラスブールで、しかも動ける余力はあるみたいだから、考え直してみたの。
 ……それにしても、まだ始まってほとんど時間は経ってないってのに、いきなりやらかしたものね」

日月は呆れ顔でジャンヌを見つめている。
彼女の身体には先の戦いで負った、決して軽くはないであろう傷が幾つも覗いている。

「強かったの? ニュース見た限りだと、貴女も相当強いみたいだけど」
「……恥ずかしながら、完敗でした」
「そう。やっぱり、そんな奴がいるのねえ……」

日月は顎に指を当てて、暫く思案すると、

「ジャンヌ・ストラスブールさん。
 単刀直入に言うわ。私と組まない?」
 
悪の星に生まれ付いた少女(アイドル)による、正義の騎士たるジャンヌ・ストラスブールへの、同盟の要請だった。




392 : ◆qYC2c3Cg8o :2025/02/17(月) 04:28:22 ???0

さしものジャンヌ・ストラスブールも、わずかに動揺を見せた。
鑑日月の首輪には、“死刑”の文字が刻まれていた。まず間違いなく、“悪”の側に属する人間であろう。
無論、自分のように冤罪を着せられた可能性も無くはないが……

そして恐らく、鑑日月はジャンヌ・ストラスブールがどういう人間なのか知っている。
にも関わらず、云わば己の対極に位置する聖女に対し、豪胆にも同盟を申し入れたのだ。

――とはいえ、実際のところ、ジャンヌ・ストラスブールの正義はそこまで狭量ではない。
ルーサー・キングのような骨の髄までの巨悪に対しては、容赦なく正義の炎を浴びせる彼女だが、
交渉の余地がある相手や、貧困や一時の気の迷い、或いは悪党に脅されてといった理由で悪事に手を染めた人間に対しては、
武力行使以外の手段を取ることは出来たし、時には救いの手を差し伸べてきた。
その慈悲と救済こそが、彼女が『聖女』『騎士』と云われる所以である


「理由を聞いてもいいですか」
「繕っても仕方ないし、簡単に言うわ。打算よ」

そう言って、指を折りながら日月は説明しだす。

「まず1つ目。単純に生き残ることが難しい。大して強くも無い私も、怪我してる貴女もね。
 貴女よりも強い人間が、下手すれば何人もいるんでしょう?
 でも、1人ではなく2人で戦えば、勝算も見えてくるかもしれない」

 2つ目。お互い不意を突かれるリスクが少ない。
 私の力じゃ貴女の隙を突くなんて多分無理だし、
 逆に私がよっぽど仕出かさない限り、貴女が後ろから斬りつけてくるなんてことも、そうは無いと思う。
 世間じゃ極悪人扱いだけど、貴女、そんな人間じゃないでしょう?」

 3つ目。話の通じない相手より交渉ができる人間が残ってくれた方が、
 お互い都合がいい筈、そんなところね」

聞き終えたジャンヌは、しばし思案すると、

「……分かりました。では、これだけは聞かせてください。
 日月さん。貴女はこの刑務で、どのように行動するつもりですか」

その問いを受け、日月の眉間に皺が寄る。今まで饒舌に話していた彼女が初めて言い淀んだ。

「…………私は」
「…………?」

鑑日月の雰囲気が、変わったように感じられた。

「私は、この牢獄から出たい。恩赦Pでも、脱獄でもなんでもいい。
 戻りたいところがある。命を懸けてでもね」

ジャンヌから見た鑑日月という少女は、計算高い、大人びた少女という印象だった。
だが、今の信じられない程純粋な、年相応の少女のようで。
一体彼女は何を背負っているのだろうか?

「……ごめん、余計なこと言った。後半は忘れて」
「…………いえ、そんな」
「つまり、私は恩赦Pを稼ぐ為に動くってこと。
 少なくとも、他に出獄の手段が見つからない場合はね。
 そんな私が貴女から見て許せない悪に相当するのなら、同盟は破棄ということにしてくれて構わないわ」
「…………」

沈黙するジャンヌ。そんな彼女に日月はこう語りかけた。

「それじゃ、逆に聞かせてもらうわね。正義の味方の貴女は、『この刑務で、どのように行動するつもりなの?』」


393 : ◆qYC2c3Cg8o :2025/02/17(月) 04:30:46 ???0

鑑日月の問い。それはジャンヌ・ストラスブール自身も迷っていたことだ。

正義を貫く、そう言うことは容易い。
問題は、その為に何をするかだ。
このアビスに、か弱き市民はいない。彼女が命に代えてまで守るに値する人間がそもそもいるのかも分からない。
己の望みの為に他人を殺そうとする、鑑日月のような人間も悪として討つべきなのか?
それとも、ルーサー・キングのような巨悪を討つことに、その全てを捧げるべきなのか?

明らかに迷い、眼が泳ぎ出した彼女を見て、日月は苦笑しつつ言った。

「まあ、今すぐに結論を出す必要はないわ。
 とりあえず貴女は休むべきよ。ある程度傷が癒えるまでは、ここにいましょう。
 同盟の返事が決まったなら、声を掛けて。
 ――――あ、そうそう、これだけは言っておくわ」

鑑日月は、あらためてジャンヌ・ストラスブールに向き合って、こう言った。

「ジャンヌ・ストラスブール。私とあなたは根本的なところで相容れないと思う。
 けど、巨大な敵を相手に『正義の味方(アイドル)』として戦う貴女を、私は美しいと思ってた」
「……アイドル?」
「だから、もし、貴女自身が本当に輝く為に私を討つというなら、殺されても構わない。
 泥を啜ることを受け入れて進むのも、まあ良いと思うわ。
 ……でも、中途半端なのは許さない」
「言っている意味が、よく分かりません」
「……戯言よ。ま、私を失望させないでってこと」

そして、見張りをしてくる、と言い残し、日月はその場を離れた。


正義のために、何をすべきなのか。
ジャンヌ・ストラスブールは、決断を迫られようとしていた。

【B-6/河川敷/1日目・深夜】
【ジャンヌ・ストラスブール】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.正義を貫く。だが、その為に何をすべきか?
1. 鑑日月との同盟は……?
※ジャンヌが対立していた『欧州一帯に根を張る巨大犯罪組織』の総元締めがルーサー・キングです。

【鑑日月】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.アビスからの出獄を目指す。手段は問わない
1. 戦力として、ジャンヌ・ストラスブールは欲しい


394 : ◆qYC2c3Cg8o :2025/02/17(月) 04:32:00 ???0
投下終了します。
タイトルは【光と影の、『アイドル』】です
予約期限を超過してしまい申し訳ございませんでした。


395 : ◆qYC2c3Cg8o :2025/02/17(月) 04:34:16 ???0
申し訳ございません。コピペミスで>>393の鑑日月の状態表が誤っておりました。
以下のように修正します。

【鑑日月】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.アビスからの出獄を目指す。手段は問わない
1. 戦力として、ジャンヌ・ストラスブールは欲しい
2. ジャンヌ・ストラスブールには、『アイドル』であることを願う


396 : ◆A3H952TnBk :2025/02/17(月) 05:58:06 R6/hDShs0
皆様投下乙です。
拙作「ジャンクドッグ」について、ウィキで内藤四葉の状態表を如何のように微修正させて頂きました。
(基本は恩赦狙いなのにちょっと主催側への好戦的なニュアンスが強すぎるなと思ったので、思考を緩和しました)

3.トビの計画が上手く行ったら、看守連中にも喧嘩を売ってみたい。

3.もしトビが本当に脱獄できそうだったら、自分も乗っかろうかな。どうしよっかなぁ。


397 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/17(月) 20:03:32 0MuKSe3c0
みなさま投下乙です

>ジャンクドッグ
脱獄王、北海道の脱獄王みたいな調子を想像してたから想像以上に落ち着いた曲者だった、刑務作業には従わずやりたい犯罪をやる、うんうんそれもまたアビス住民だね
四葉は愉快犯的に色々ちょっかい出して来たから知り合いも多い、手広くやってるキャラはいろんなキャラと絡ませやすくていいね
征十郎組と同じく囮と狩人の方針、参加者自体が景品みたいなもんだから弱くて高ポイントは狙い目なのはそれはそう。
自分を囮に刑務作業も進めつつ独自路線で脱獄も目指す企画にやさしい方針、首輪の解除というロワ的正統派路線は逆にこのロワでは珍しい方針になるかもしれない

>すばらしき世界の寄生虫
このロワ随一の小物系クズとこのロワ随一の大物系海賊。享楽的に他人の命で遊ぶのは極悪な海賊の遊びって感じでらしすぎる。
闇バイトちゃんは小物ムーブしているけどやってることは立派なアビス住民だよ! 自然物にまで通用するのは思ったより強いなこのネオス
そして後半の世界観の掘り下げ、理念は立派でも見世物と化した司法が冤罪だらけのガバガバ司法の裏側だった、この世界未来がありますかね?

>光と影の、『アイドル』
川流れするジャンヌを保護したのが偶像(アイドル)を愛する鑑だったというのは、いきなり命を取られなかったという意味で幸運ではあった
出獄狙いの鏡は展開次第で恩赦P狙いにいつ転んでもおかしくない危うさはある、アイドル好きすぎて反転アンチの才能もありそうで怖い
正義を貫くジャンヌのスタンスも守護るべき弱者のいないこの地の底で何を貫くのかと言う問題定義はどういう結論になるのかは興味深い


398 : ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:06:00 nP11I2gk0
投下します


399 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:09:22 nP11I2gk0


 くだらねえ癇癪が俺の未来を閉ざした。
 
 弾みだったんだ。殺そうなんて思っちゃいなかった。軽くビビらせてやろうとしただけなんだよ。
 ただ、あの日はほんのちょっとだけ飲みすぎてて、そんでほんのちょっとだけ手元が狂ってよ。
 あの警官は気の毒だったし、俺も悪かったとは思ってる。

 あんなことになるなんて、分かってたらやらなかったさ。
 分かってりゃあ、飲み過ぎることもなかったし、そもそも飲みにも行かなかった。
 そうだあの時、落ち着いて、もうちょっと先を視ていりゃ良かったんだ。

 今でもずっと後悔してる。
 つまらねえミスだった。
 たった一度のミステイクが俺の人生を大きく変えちまった。

 殺人罪。
 判決、無期懲役(imprisonment for life)。

 硬え寝床に臭え飯、塀の内側で早15年。
 捕まった当時まだ23だった俺も、今や38になっちまった。

 思えば俺は、ずっとそう。気がついた時にはいつも取り返しのつかない場所にいる。
 あの日、開闢の日からずっと、俺の人生落ちる一方だ。
 少し先を視たくらいじゃどうしようもない、どん詰まりにハマってばかり。

 そもそも俺の超力が悪い。
 目覚めた力があんなチンケもんじゃなきゃよかった。
 元々あった力も、もっと便利な、もっと先を視れるものなら良かったんだ。
 親父や、兄弟や、お袋みたいによ。

『ジェイ、いいこと、よく聞きいて』

 ふと、くだらねえ予言を思い出す。
 
『あなたはいつか、大きな偉業を成し遂げるわ』

 笑える話だ。
 現実はこの通り、家はとっくに没落。
 俺は偉業とは程遠い警官殺しの罪で15年をドブに捨てた。

『だから腐らず、前を向くのよ』

 なあ、おい、どうしてこうなったんだ。
 俺の15年、俺の人生、俺はどこで間違えたんだ。
 いったいどの地点なら、俺は取り返しがついたんだよ。 


-


400 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:12:20 nP11I2gk0

 鈍い衝突音が真夜中の廃墟に響き渡る。
 不可視の切っ先から一瞬、ぱらりとオレンジ色の火花が飛び散り、次いで重たい振動が両者の接触点に伝達された。
 攻め手、驚愕とともに素早く腕を引き。受け手、超然とした佇まいで首を軽く捻るのみ。
 膠着時間は一秒に満たず、次の瞬間には大きく距離を空ける二者。
 一方はたたらを踏みながら後ろに下がり、一方は両足で大地を踏みしめたまま微動だにしない。

 たったいま飛び退った攻め手、ジェイ・ハリックは地面に四肢をつけた姿勢のまま荒い息を吐き、唾を飲み込んだ。
 その短めの茶髪の間を抜け、額から一筋の冷汗が流れ落ちる。
 特徴的なオッドアイの焦点は落ち着き無く、正面と周囲の地形を行き来している。
 
「て……んめっ……ざけやがっ……」

 舌がもつれ、呂律が回らない。
 失敗。その二文字が彼の頭を埋め尽くしていく。
 失敗した。何故。どうして。わけがわからない。
 意味のない事実確認に思考が制圧されている。

 超力によって作り出した不可視のナイフ。
 それは彼が視た光景に届いた筈だった。

 ジェイが得意としていた暗殺術。
 豹の如き歩法と猛禽の如き跳躍にて敵との距離を殺し、すれ違い際に鮮やかな流動で斬撃する。
 15年のブランクに訛った腕をそれでも研ぎ澄まし、敵の首筋に突き刺さる刃を、ジェイは確かに視たはずなのだ。

 これ、即ち必殺の判定。
 ではその光景が覆ったのか。
 否、違う。光景には続きがあったのだ。
  
「てめっ……首にナイフぶっささって、なんで生きてんだよぉ!?」

 その男はジェイの頭一つ分も上背が高く、全身が鋼の如き筋肉に覆われていた。
 服の上からでも分かる重厚な体躯に加えて、そもそもの質量が違う。
 筋肉だけではなく、骨格の厚みから常人とはかけ離れているような、存在の重さ。
 それは、鉄の如き男であった。

「……ぎゃあぎゃあ喚くな。耳障りだ、雑魚が」

 男は冷徹に声を発しながら、首筋を軽く拭う。
 そこには僅かに抉られたような跡こそ見られたが、血の一滴も溢れていない。
 渾身の不意打ちを受けて、致命傷どころか負傷にすら至っていない。

 ジェイは打ち合うまでもなく確信できた。
 不意打ちですら傷一つ入らなかった相手に、正面戦闘で勝てるわけもない。

「それで暗殺者気取りか?
 目も当てられない手管だな、恥を知れよ」

 男の名、呼延光(フーイェン・グァン)。
 中華黒社会、巨大幇会(チャイニーズマフィア)の凶手。

 ジェイは彼の存在を知っていた。
 15年も服役していた彼は獄中である程度のネットワークを築き、それなりの情報網を得ることが出来ている。
 収監されてから1年程度の男の情報も、だからある程度は把握していたのだ。
 もちろん、彼が死刑判決を受けていたことも。

 無期懲役を下されたジェイが恩赦を得るには、一人以上の無期懲役、或いは死刑囚の首が必要になる。
 刑務開始早々、偶然見つけた男を見定め、必殺のヴィジョンを得た瞬間、腹を括ったのだ。


401 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:13:25 nP11I2gk0

 敵の首筋にナイフを突き立てる光景。確殺の景色が眼の前にある。
 こんなチャンスは二度と無いかも知れない。
 今すぐ行動するしかないと決意して、なのに、なぜ。
 こんな、取り返しのつかないことになっている。

「赶紧去死吧小苍蝇(速やかに死ね、小蝿野郎)」

 瞬転、視界が真っ赤に明滅すると同時、聴覚から音の全てが吹き飛んで認識の天地が逆転する。
 殆ど感覚を失った両腕に迸る痺れが辛うじて、攻撃されたという事実を伝えていた。
 ジェイは今、自分の体が後方に跳ね飛ばされている状況を遅まきに理解する。
 予備動作の一つもなく、目にも止まらぬ一瞬で接近を許してしまった敵が放った正拳突き。
 腕を割り込ませてのガードが間に合ったのは、僅かに残った暗殺者としての直感だったのか。

 空中で体を捻り、無我夢中で指先に挟んだ3本の刃を投擲する。
 予想通り、追走してきた敵はその迎撃を避けなかった。
 刃は全て不可視である、ジェイの投擲技術は卓越しており、どのように躱してもどれか一本が直撃するよう計算されている。
 しかし根本的に、敵はそれを避ける必要など最初から無かったのだ。

「バケ、モンが……ッ」

 ジェイは泡を食いながら背後にある家屋の鉄筋を掴み、跳ねる体の軌道を変えた。
 三射全ての直撃を受けて尚、一切勢いを減じることなく真っ直ぐ迫りくる呼延光。
 その身体にはやはり、かすり傷一つ見られない。
 あまりに法外の肉体強度、しかも両者の差はそれだけに留まらない。

 鉄の重量が大地を踏みしめた一瞬の後、軋みを上げて跳ね上がる大樹の如き脚部(ハムストリングス)。
 砲撃の如き穿脚から逃れられた要因とは、単なる幸運に過ぎなかった。
 直前までジェイの身体があった場所を、蹴撃の半円軌道が木造家屋の壁ごと削り取っていく。
 呆気にとられつつ、彼は更に身を躱そうとし、そこで無情にも運は尽きた。

 天頂に突き上げられていたつま先が、雷の速さで引き戻される。
 中華武術に明るいとは言えないジェイですら、感嘆の念を禁じ得ない程の神技が落下する。
 そして、大地が吠えた。呼延光の直下を発生源とする局地的な震災。
 地を蹴るはずだったジェイの運動が纏めて殺され、その場に縫い止められて動けない。

「――が――はっ――!」

 功夫、震脚。
 地を踏み鳴らす。
 ただそれだけの、しかし達人が行えば絶技と化す、武の基本にして真髄の一つ。

 その究極を、鉄の重さを持って振るえばどうなるか。
 全身を宙に跳ね上げられたジェイは、身をもって思い知った。
 呼延光の半径5メートル四方の物体が砕けながら空を舞っている。

 土くれ、砂利、ガラス片、家屋の廃材、転がっていた瓦の破片。
 それらと一緒に落下するジェイを、鉄の拳が待ち受ける。

 ほら、またこうなった。
 鈍化する感覚の中で彼は思う。
 気づけば取り返しのつかない場所にいる。

 今回もまた、足掻きようもない場面に至ってやっと気づく。
 それでも彼がそれを行ったのは何故か。
 他にやることが無かったからか。あるいは、もしかすると。


『だから腐らず、前を向くのよ』



-


402 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:14:52 nP11I2gk0

 空気を引き裂くような音が聞こえた。
 鼻先まで迫っていた拳の行き先が変更される。
 突如として横合いから割り込んできた空気の弾丸を、鉄の拳が打ち払う。

 ジェイは驚きを隠せない。自らを救った実体のない銃撃に、ではない。
 呼延光はいま防御をした、その事実に。
 首筋にナイフの直撃を受けてすら不動だった男が身体を守った。
 なぜ、と思う。ジェイの攻撃と今の攻撃に、一体どんな差があった。

 なにか特別な攻撃だというのか。
 威力自体はジェイのナイフ投擲とさほど変わらない筈だ。
 それとも、まさか、重要なのは攻撃そのものではなく。

 考える間もなく、不可解な援護射撃は継続されている。
 呼延光は明らかに警戒した様子で身を躱し、距離を取って家屋の影に身を隠した。

「あ、あの、だ、大丈夫です、か?」

 地面に転がったジェイの隣に、いつの間にか男が立っていた。
 呼延光とは比べるべくもない、ジェイと比較しても地味な、影の薄い男だった。
 指をピストルの形にして、その銃口を呼延光の退いた先、工業地帯の闇の奥に向けて構えている。
 見間違いでなければ、先程の攻撃は指鉄砲の先端から発しているようだった。

「ま、まだけ、警戒をおお、怠らないでくださいね。あ、あの男まだ、ち、近くにいるから」
「てめえ……誰だよ」

 15年服役していたジェイの知識でもってしても、彼の容貌に憶えはない。

「あの、僕、本条っていいます。よろしくお、お願いします」

 ジェイとて全ての囚人の情報を頭に入れているわけではない。
 しかし目の前の男の首輪には【無】と刻まれていた。
 つまり無期懲役の刑を受けている。重罪を犯して収監された者はそれなりに情報が流れてくる筈なのだ。
 しかし名前を聞いても、全く聞き覚えがない。
 本当にそんな名前の男がいたのだろうか、なんて思ってしまうほど。
 今も、男の輪郭は曖昧なままだ。

「なんにせよ助かったぜ。ありがとな」

 気持ちが悪い。なにかが引っかかっている。
 引っかかるが、今は素直に礼を言うことにした。
 助けられたのは事実であったし、それに、無期懲役の首は、死刑囚の首と同等の価値がある。


403 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:15:47 nP11I2gk0

 ジェイは男の姿をじっくりと観察する。
 細く華奢な体躯。荒事に慣れているようには見えない。
 呼延光の相手をするより、よっぽど楽そうだ。
 
「とりあえずここはお互い協力して切り抜けようや」
「そそ、そうですね」
「無事に逃げ切れたら、改めて礼を弾むぜ」

 そして男から一度視線を外し、闇の向こうを睨む。

「しっかし、あいつからどうやって逃げき……」
「わ、分かりました。では前払いでお願いします、ね」 
「あ?」

 びす。
 そんな間抜けな音が、ジェイの腹の内側で鳴った。
 間を置かず、じわじわと赤い染みが服の内側から広がっていく。

「あ……え……?」
「よ、よかったあ。い、良い人そうで。
 ここでファミリーを増やすなら、できればあ、あなたのような温厚な人がいいなあって、ずっと思ってたんです」
「なにやって……だ……てめ……」

 後ろから撃たれた。
 致命傷だ。そんな事は分かっている。
 だが解せない。なぜ男はわざわざ一度ジェイを助けたうえで、一瞬で裏切るような行動に及んだのか。

「へ、へ、へ。ようこそ。
 こ、これから僕達は一心同体(ファミリー)です。よ、よろしくお願いします、ね」

 視界が霞む。何もわからない。
 わからないまま死んでいく。
 それでも最後に一つだけ、分かったことがある。

「化け、物ども……」

 きっと恐ろしいことが起こる。
 ここには想像の及ばない怪物達が犇めいている。

 選択を誤った。
 だけど取り返しの着く場所なんて、最初から無かったとしたら。

 自らの意思が巨大な何かに飲み込まれていくのが分かる。
 魂がラッピングされて、キリキリ回る弾倉の、薬室(チャンバー)の一部屋に放り込まれる。
 これは合成獣ならぬ、合成銃。彼らは両手を上げて歓迎する。
 新たな弾丸の一発として、ジェイの意思は選ばれたのだ。

 何か大きな存在の一部になる。
 個我の境が消え去り、心同士が接続する。
 そこに堪らない快楽を憶えてしまう事実が恐ろしい。

 どん詰まりの未来の先にあるものを、どこか他人事のように眺めながら。
 彼の意識はゆっくりと溶けていった。






【ジェイ・ハリック 死亡】






-


404 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:17:08 nP11I2gk0











【亡死 クッリハ・イェジ】





。たっいてれ薄とりくっゆは識意の彼 
。らがなめ眺にうよの事人他かこど、をのもるあに先の来未のりま詰んど 
。らたしとたっか無らか初最、てんな所場く着のし返り取どけだ 
。たっ誤を択選 
。るいていめ犇が達物怪いなば及の像想はにここ 
。るこ起がとこいしろ恐とっき 
「……もど物、け化」
。るあがとこたっか分けだつ一に後最もでれそ 
。くいでん死ままいならかわ 
。いならかわも何。む霞が界視 
「ね、すましい願おくしろよ、よ。すで(ーリミァフ)体同心一は達僕らかれこ、こ 
。そこうよ。へ、へ、へ」
。かのだん及に動行なうよる切裏で瞬一、でえうたけ助をイェジ度一ざわざわは男ぜな。いなせ解がだ 
。るいてっか分は事なんそ。だ傷命致 
。たれた撃らかろ後 
「……めて……だ……てっやにな」
「すでんたてっ思とっず、てっあないいが人な厚温なうよのたなあ、あばれきで、らなすや増をーリミァフでここ 
。でうそ人い良、い。あたっかよ、よ」
「?……え……あ」
。くいてっが広らか側内の服がみ染い赤とわじわじ、ずか置を間 
。たっ鳴で側内の腹のイェジ、が音なけ抜間なんそ 
。すび 
「?あ」
「ね、すましい願おでい払前はで。たしまりか分、わ」
「……きげ逃てっやうどらかついあ、しかっし」
。む睨をうこ向の闇、し外を線視度一らか男てしそ 
「ぜむ弾を礼てめ改、らたれ切げ逃に事無」
「ねすでうそ、そそ」
「やうよけ抜り切てし力協い互おはここずえありと」
。だうそ楽どぽっよ、りよるすを手相の光延呼 
。いなえ見はにうよるいてれ慣に事荒。躯体な奢華く細 
。るす察観とりくっじを姿の男はイェジ



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405 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:17:33 nP11I2gk0



 ジェイは男の姿をじっくりと観察する。
 細く華奢な体躯。荒事に慣れているようには見えない。
 呼延光の相手をするより、よっぽど楽そうだ。

「……は? あ? ああ!?」
「ん、どうしたんですか?」

 なにを馬鹿な。
 今すぐ逃げろと本能の全てが吠えている。

「ふ……ざ……けんなよおおおおおおおおお、お前ェッ!」

 線の細い男を突き飛ばし、ジェイは駆け出した。
 僅か数秒後に予知していた死の未来から逃れるために。

 不可視の刃とは別の、ジェイ・ハリックのもう一つの力。
 『開闢の日』を待たずして、彼の一族が持っていた能力。
 未来予知。彼のそれは非常に短期的な物であったが。

 そして短期的であるがゆえに、フルオートではなく意思によって発動することはメリットであり、デメリットでもあった。
 使えば自分の意志でいつでも予知できる。裏を返せば、使わなければ見落とすし、状況に使う余裕がなければ使えない。
 絶望的な状況で抵抗を諦め、苦し紛れに行使した予知によって、彼は偶然にも九死に一生を得たのである。

 脇目も振らず駆け出したジェイの姿が夜に溶けていく。
 静まり返った廃屋に残されたのは、異様なる二体の怪物であった。 





-


406 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:18:50 nP11I2gk0



「あ、あれ、なんで逃げちゃった?」

 取り残された男は夜の虚空に向かって問いかける。

「残念だな、せ、せっかくファミリーにな、なれると思ったのに」

 ぶつぶつと続けられる、どもりがちな独り言のような言葉。
 しかし、それに、応ずる声が上がった。

「そりゃ〜清彦がキョドーフシンだったからじゃないの?」

 女性の声である。
 姉御肌な気風を帯びつつも、品の良い透明感のあるウィスパーボイス。

「普段身内としか喋んないからキモがられんの。
 勧誘したいなら、もうちょっとスラスラ喋る練習したら?」
「ひ、ひどい。杏のせいでぼ、僕はこんなになったのに……」
「ひとのせいにするなんてサイテー。後でサリヤに言いつけてやるから」
「ご、ごめん。謝るから……それは……や、やめてよ……」

 しかし、そこに立つ影は依然として一人だった。
 一人の人間が、一人芝居のように二つの声で話している。

「えと、で、その、さ、サリヤちゃんはいま……」
「鼻の下伸ばすなキモい。まだ寝てるよ。てか全然起きる気配なし」
「そっか……けっこう超力借りちゃったから、お、お礼言いたかったけど」
「起きてから言えばいいじゃん。それより剛田のおっちゃんが言いたいことあるって」
「宗十郎さんが? 珍しく起きてるんだ。ど、どうしたんですか?」
「……此処、未だ戦場也。努々、本懐を忘れるでない」

 そして今、3つ目の音色が発生した。
 砂嵐のようなハスキーボイス。
 老いさらばえた武人を思わせる、乾きの中に強かさを内包する声。

「ああ、そっか、そ、そうだったそうだった」
「忘れるところだったね」

 多重人格者と似て非なる、人格略奪者。
 それが、ここにいる怪物。我喰いと呼ばれた殺人鬼。
 他者の人格を殺人を経由して奪い、混じり合った奇怪なる存在。
 本条清彦という記号を持った個体、否、群生。

「僕達は君の願いを叶えに来たんだったね、星宇(シンユ)」

 男のシルエットが蠢いている。

「そこにいる彼に会うことが君の望み、そうだったろう?」

「……谢谢(感謝する)」

 影の薄い特徴のない青年から、少しずつ、体格の良い漢民族の壮年へと変わっていく。
 声音だけでなく肉体を伴って現れた4人目は、工業地帯の闇の奥をまっすぐに見据えていた。
 そこにいる者、未だここに残る、もう一体の怪物を。

「さあ、撃鉄を上げよう。今日は引き金を引いたって構わない。
 いつだってファミリーとの別れは辛いけど。
 君の晴れ舞台だ。涙と一緒に見送るよ、王星宇(ワン・シンユ)」

 そうして向かい合う二人の男。
 装填された弾丸(じんかく)の一発が、ここに宿敵との対峙を果たしていた。


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407 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:21:09 nP11I2gk0

「生きていたとはな、星宇(シンユ)」

 物陰から身を晒した呼延光。
 対峙する王星宇。
 二人のアジア人。彼らはかつて、同郷にて兄弟の誓いを交わした仲にあった。

「光(グアン)、お前には、俺が生きているように見えるのか?」
「いいや、訂正しよう。死人が動いているとはな、と言ったほうが適切だったか」
「呵呵、死体から蘇ったのはお互いさまか。俺の方はこの通り、見るに耐えない有り様だがな」

 先程の銃撃。空気の弾丸が狙っていたのは呼延の眼孔だった。
 瞼を開いている限り、どうしても鋼鉄化できない彼の数少ない弱点。
 それを初手から突いてくる存在とは、呼延光をよく知る者でしかありえない。

「お前を殺すために、俺は化物の一部に成り果てた」

 王星宇。
 かつて呼延を裏切り、始末することを命じられた幇会の幹部。
 そして死の淵から蘇った呼延による報復の結果、他の構成員と共に殺害された筈の男。
 今は、我喰い(リボルバー)に装填された弾丸の一発。

 裏切り、復讐。
 そして今、復讐の復讐。
 血塗られた連鎖の果て、男たちは対峙している。

「懐かしいな、光。あの時も、俺達はこうやって殺し合った」

 王星宇の全身を覆う体毛が長く鋭く変じていく。
 全身が人間とはかけ離れた、肉食動物のそれに近づいていく。
 生前の彼が修めていた功夫に、獣化による完全変異を組み合わせた奥義。

 装填はもう済ませた。 
 撃鉄が上がっていく。
 引き金に指をかける。
 後は、放たれるのみ。

「安全装置(セーフティ)は解除した。こいつを使えば俺は消える。それで構わない」

 決死行に赴くことへの躊躇いはない。
 虎の如くに変態した後ろ脚が地を蹴る。
 恩讐の化身は自らの存在意義を果たすために、鉄を穿つ弾丸と化したのだ。

「你也下地狱吧,光(貴様も地獄に来い、グァン)!」

 人間の動体視力ではとても捉えきれない俊足の歩法と、肥大化した獣の筋力。
 鋼鉄を突破せしめる重機の衝突は刹那の後に。

「因果报应吗? 真是无聊的故事(これが因果か? 眠たい話だ)」

 つまりその迎撃を成し得た根幹とは、特異なる超力でもなんでもない。
 彼が極めた人の絶技。
 功夫の最奥。

 それはテイクバックを挟まぬ静かなる打撃技。
 水の流れるように鮮やかな動作で、腰だめに構えた拳を軽く正面に突き出す。
 ごく当たり前のように、ぴたりと止められた拳の置き場所は、完璧な間合いで獣の突進と重なっていた。

「消失吧,亡灵(消え失せろ、亡霊)」

 空間そのものが劈けるような悲鳴を上げる。
 引き絞られた全身によるインパクト。
 筋肉(メタル)が射出する運動量を拳の一点から流し込み、獣の肉体を内部から破壊する。
 それは銃撃、いやもはや爆撃と形容してよい程の破壊規模だった。

 吹き飛んでいく敵の肉体、かつての友の成れの果てを見つめながら。
 呼延は別れの言葉すら発することはなかった。
 それは彼にとって、既に一年前に去った過去の残穢でしかなかったから。




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408 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:23:25 nP11I2gk0



「光(グァン)、お前は強すぎたんだ」
  
 それは過ぎ去ったいつかの記憶。
 裏切りの日。
 豪雨降りしきる夕暮れの港で、旧友から告げられた言葉こそ、真実だったのかもしれない。

「お前には何度も助けられた。お前の強さを、みんな心から信頼してた。
 幇会がここまでデカくなったことに、お前の働きは欠かせなかったろう。だから悪いとは思ってる……」

 呼延光。超力によって常時全身を装甲する鉄人。最強の凶手。
 近接戦闘において無敗を誇る彼の無力化を成し遂げたのは、味方であった筈の幇会の構成員だった。
 世界にごく僅かしかいない、呼延光の弱点を知る者たち。
 そして彼が唯一、身内だと思っていた、家族だと信じていた筈の。

「それでも俺達は、お前の心を信じることが出来なかった
 お前が未来永劫、俺達の味方であり続けると、鉄の砲塔が俺達に向くことがないと、誰が保証してくれる?
 敵が居なくなっちまうと、誰もが考えずにはいられねえのさ。
 今しかねえんじゃねえか、今殺しておかなきゃ、取り返しのつかねえことになっちまうんじゃねえかって」

 真っ黒い海に放り込まれ、冷たい水底に沈みながら、彼は思った。
 こうなることは、きっと分かっていた筈だ。
 彼らの呼延光を見る目の色、少しずつ畏れと忌避感が濃くなっていたこと。
 いつかこんな日が来てしまうのではないかと、気付いていなかったわけではない。
 なのになぜ、彼はまんまと裏切られ、こうして危機に陥ってしまったのか。

「ただ、強すぎた。お前の罪は、それだけなんだ」

 それとも信じていたかったのだろうか。
 誰も並び立つ者のいない、圧倒的な力をもってしても。
 揺るぎない情の存在、力よりも尊いと信じられる、目に見えない精神の繋がりを。



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409 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:24:32 nP11I2gk0




 瓦礫の山にヒトガタが残されていた。
 死体位置を示す白線のように、廃材の絨毯が落ち窪んでいる。

 殺した。
 その手応えがあった。

 死体は残されていない。
 周囲には既に、人の気配もない。
 あの奇妙な合成獣(キメラ)の如き存在は、おそらく逃げてしまったのだろう。

 しかし同時に、呼延は確信していた。
 殺した。
 王星宇の影は今度こそ、この世界から消え去ったのだと。

 拳を見る。
 僅かな血液が付着していたので、拭き取って払う。
 そんなことをしても、もう身体から血の匂いが取れることは一生ないと知っていた。
 
 鉄と血は混ざりあい。
 彼の人生からは切り離せない。

 信じるものから裏切られ、信じていた全てを自ら滅ぼした男は一人、今も荒野を歩み続けている。
 両の拳から僅かに、鈍い赤色を零し続けながら。




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410 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:25:21 nP11I2gk0



「さようなら、星宇(シンユ)」
「さよなら」
「ばいばい、王(ワン)ちゃん」
「……さらばだ」

 影が、蠢いている。

「ごっほ、がは……おぉえ……へ、へへへ、あーあ、ま、また一発、減っちゃた……」
「やっぱり死んじゃったね、王さん」

 影は男の形をしていた。
 奇妙なほどに人の印象に残らない素朴な男は、ふらふらと工業地帯を歩いている。
 相変わらず、一人芝居のように、奇妙な会話劇を続けながら。

「ていうかダメージやばいよね。
 ほとんど王さんが引き受けてくれたからよかったけどさ。
 一歩間違えたら私たち全員死んじゃったんじゃない?」
「ほんとだね、き、気をつけ、ないと……。
 これ以上ファミリーが減っちゃうのは、さ、寂しすぎるから」

 巣立った誰かを見送って。
 影は形を変えながら這いずり進む。
 彼の、彼らの、根幹となる目的は一つ。

「寂しくなるなあ。寂しいのは、嫌だなあ」

 生存すること。
 群生としての在り方を維持すること。
 リボルバーとして完全な状態であること、そのために。

「は、早く、次の弾を、こ込めないと」

「次のファミリーを迎えないと」

「次の――」

 銃弾を見つけないと。
 現在、回転式弾倉(シリンダー)に込められた残弾(じんかく)は4発。
 薬室(チャンパー)には2つの空きがある。

「見つけなきゃ」
「見つけなきゃ」
「見つけなきゃ」
「見つけなきゃ」

 装填せよ。装填せよ。装填せよ。装填せよ。
 完成された群生であるために、真に魂から結ばれた絆であるために。
 そして消え去るその時まで、もう誰も、ずっと寂しくないように。


-

【F-2/旧工業地帯・廃墟/1日目・深夜】


411 : 砲煙弾雨 ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:26:36 nP11I2gk0

【ジェイ・ハリック】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き延びる。チャンスがあれば恩赦Pを稼ぎたい。
1.とにかくここから逃走する。
2.呼延光、本条清彦に対する恐怖と警戒。


【呼延 光】
[状態]:疲労(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.24時間生存する。降りかかる火の粉は払う。
1.言われた通り殺し合うのも億劫だが、相対する敵に容赦はしない。



【本条 清彦】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.群生として生きる。弾が減ったら装填する。
1.殺人によって足りない2発の人格を補充する。
2.それぞれの人格が抱える望みは可能な限り全員で協力して叶えたい。

※現在のシリンダー状況
Chamber1:本条清彦(男性、挙動不審な根暗、超力は影が薄く人の記憶に残りにくい程度)
Chamber2:山中杏(女性、姉御系、超力不明)
Chamber3:剛田宗十郎(男性、詳細不明、超力不明)
Chamber4:欠番
Chamber5:サリヤ・K・レストマン(女性、詳細不明、超力は指先から空気銃を撃ち出す程度)
Chamber6:欠番(前6番の王星宇は呼延光との戦闘により死亡、超力は獣化する程度だった)


412 : ◆ai4R9hOOrc :2025/02/18(火) 00:27:02 nP11I2gk0
投下終了です


413 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 19:50:55 rtQpIpQE0
投下乙です

>砲煙弾雨
ジェイくん、言動が実に小物臭くていいですねぇ。見えないナイフもすごそうなのに、ナイフの刺さらない相手はどうしようない、とは言え未来予知との2重能力者なはずなのに大物感が全くない、巻き戻しのような演出は面白いけど
光はシンプルに功夫が強い上に、超力がかみ合いすぎている。本条の人格の一つが因縁の相手だったというのは驚きの展開、よく見たら中国っぽい名前の人格がいたんだから唯一の中国人である光と因縁があるのも納得ではある
その本条は挙動不審が過ぎる、多重人格同士で会話してるようなもんだから傍から見て相当不気味よな。人格シリンダーはダメージ引き受けられるライフストックみたいなもんだからそれだけでも強い、これで補給も出来るんだからとんでもねぇぜ

それでは私も投下します


414 : 新世界の嬰児 ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 19:52:02 rtQpIpQE0
暗闇が覆う夜の岩山を、一人の青年が静かに登っていた。

風は冷たく、月明かりがほのかに岩肌を照らしていた。
その岩山を登るのは、特に目立った特徴もない、どこにでもいるような普通の青年だった。
確かな足取りから、彼にとって山登りは日常的な趣味なのだと伺えた。

青年の名は並木旅人。
旅行が趣味のどこにでもいるごく普通の青年である。
青年は山頂を目指して岩山を登っていた。

開発されていない天然の岩山には、登山道などという気の利いたものは存在しない。
なめらかな岩肌では、油断すれば足を滑らせて滑落しかねない。そうなれば、いかに現代人といえども無事では済まないだろう。
男は注意深く岩肌にそっと触れ、滑り止めのように粗く冷たい手触りを頼りに、慎重に足場を選びながら進んでいた。
山慣れした旅人にとって、夜の山で小動物の足音すら聞こえないのは不気味だった。

そんな岩山を、わずかな月明かりだけを頼りに登っていく。
足元に広がる漆黒の闇を前に、体の重心を低く保ち、バランスを崩さないよう慎重に進む。
デジタルウォッチにはライト機能があるが、こんな闇の中で光を灯せば自分の居場所を知らせるも同然だった。

殺し合いの場で呑気に登山を楽しんでいる男は、状況を理解していないわけではない。
正しく状況を把握したうえで、このような『普通』の趣味を行っているのだ。

このような状態でこうして登山を楽しんでいる理由は、ただの気まぐれだった。
転送された初期位置が岩山の山腹だったので、せっかくだから頂上まで昇ってみようというただそれだけの発想である。

誰にでもある何気ない好奇心と気まぐれだが、状況が違えばその行為は異常ともいえよう。
何せこの場所は地の底の底。凶悪犯同士の殺し合いが行われる場だ。
普通を保つこの男が、果たして正常といえるのだろうか?

彼の記憶には欠落がある。
なぜ忘れているのか、何を忘れているのかすら覚えていない。
博識だったかと思いきや、穴だらけのチーズのように、肝心な知識が抜け落ちている。
だから、何故自分が最悪の流刑地アビスに収監されることになったのか、その理由がわからない。

ただ、自首しなければならないという強い目的意識に駆られていた気がする。
とはいえ、犯行の瞬間の記憶もなければ、罪の意識もない。
少なくとも、自分が後ろめたいことをしてきたとは思えないのだ。
だから、もしかしたら冤罪なのかもしれない、なんてアビスに墜ちながらも呑気に考えていた。

なにせ、こんなに普通の自分が大それたことなどできるはずがない。
ごく普通の良識と、ごく普通の感情を持った、どこにでもいる普通の人間。
それが、並木旅人という存在である。

標高が上がり、空気がわずかに澄んできたのを感じ、彼は山頂が近いことを察した。
やがて彼は目的地にたどり着いた。

「これは…………」

岩山の頂上に広がっている予想外の光景に、旅人は思わず息を飲んだ。
頂上で旅人を待ち受けていたのは、神秘性すら感じさせる不思議な光景だった。

それは、空中で眠る少女だった。

まるで人形のように整った顔立ちの少女が、無重力の世界で宙に浮かび、胎児のように丸まっている。
金糸の髪は夜空に溶け込むように広がり、薄い光をまとって星のように煌めく。
透き通る宝石のような青い瞳は閉じられ、誰も知らない夢の深淵を覗いているかのよう。
微かに零れる寝息は音もなく漂い、ゆらりと虚空へ広がるように溶けていった。

まるでおとぎ話の1ページのような、誰もが目を奪われる光景である。
だがそれを前にしても、旅人は飲みこまれず状況把握に努めていた。
今の時代、飛行能力で人が空に浮かぶくらいは、それほど珍しいことではない。
本人の力ではなく、誰かの念動力を受けている可能性も考えたが、見通しの良い山頂にそれらしき影はない。
少なくとも少女の浮遊は、少女自身の超力によるものだろう。


415 : 新世界の嬰児 ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 19:52:57 rtQpIpQE0
「…………ふむ」

旅人は月明かりを頼りに辺りを見渡す。
その洞察力は、少女の周囲に浮かぶ小石の動きを見逃さなかった。
これは単なる飛行能力ではなく、重力操作の類だろう。

旅人の持つネオス『幻想介入/回帰令(システムハック/コールヘヴン)』の発動条件は三つ。
対象の超力を理解する。
対象を視界に収める。
そして最後に害意をもって「コールヘヴン」と唱える。

少女の超力は領域型の重力操作だと、断片的ながら理解できた。
目の前にいる少女に対して、完全ではないが、超力の発動条件は満たしている。

だが、もちろん攻撃などしない。
“攻撃できる”ことと“攻撃する”ことはまるで別物だ。
できるからやるという破滅的な人物も、このアビスには少なからずいるが、旅人は違う。
ごく一般的な良識を持つ『普通』の人間にとって、無防備な幼子を攻撃する理由などあるはずもなかった。
刑務作業と言う大義名分はあれど従う理由もないだろう。

だからといって、このまま飛びきりの凶悪犯が集う殺し合いの場に幼子を放置していいものか。
普通の良識があれば、無防備に眠る少女を見捨てられないだろう。
しかし、だからといってどうすべきか?

近づいて肩を揺すり、注意喚起を促すか?
そのためには、渦巻く無重力空間に踏み込む必要がある。
言うまでもなく、それは危険を伴う行為だ。

遠くから大声で呼びかけるのも、不用意に危険な輩を呼び込む恐れがある。
下手をすれば自身のみならず少女の身を危険にさらす可能性すらあった。
危機管理の観点から見ても、あまり推奨できる行動ではないだろう。

なにより、名も知らない少女のために自分の命を危険にさらすのは天秤の釣り合いが取れない。
君子危うきに近寄らず。
小市民的な判断だが、これもまた『普通』の発想と言える。

頂上に登るという当初の目的も果たした。
旅人は未練なく少女から視線を外す。
そして下山の準備を始めようとしたとき、頬に冷たさを感じた。

雨だ。
雨が降ってきた。

それは大海賊が生み出した嵐の端だった。
効果範囲にぎりぎり届こうかという、何とも珍しい雨の切れ端である。
それが、避けられそうな切れ目だったため、反射的に旅人は雨粒を躱すべく、何気ない様子で一歩、踏み出した。

すると、旅人の体はふわりと宙へ浮かび上がった。

超力攻撃を受けている。
どうやら、無重力の領域に踏み込んでしまったらしい。
少女の超力範囲を見誤ったのだ。

だが、まだ慌てるような事態ではない。
領域型の超力ならば、その領域から出ればいいだけの話だ。
相手に敵意があれば話は別だが、使い手らしき少女は敵意はないどころか眠っている。

旅人は慌てることなく無重力の領域から抜け出ようと体を動かそうとして。
その体はスッ転ぶように前方に回転した。

「!?」

外部からの攻撃ではない。
これは何者かに転ばされたのではなく、旅人自身が自分で転んだのだ。
訳がわからないが、そうとしか言いようのない現象だった。

精神干渉ではない。
元来、旅人は精神干渉を受け付けない。
もしこの超力が旅人の精神を操る能力ならば、最初から通用するはずがないのだ。

となれば、答えは明白だ。
干渉を受けているのは旅人ではなく、この世界そのものが“違う”のだ。
世界が、世界観が違う。
この領域では根本から世界の法則が違うのだ。

手を動かそうとすると瞼が閉じる。
足を動かそうとすると腰が曲がる。
ここは、そういう世界なのだ。


416 : 新世界の嬰児 ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 19:53:16 rtQpIpQE0
旅人は一瞬でその理不尽な世界の法則を読み取り、意識を切り替える。
少女にその意図があるかどうかにかかわらず、これは旅人の命を脅かす『攻撃』に等しい。

自衛のためならばやむを得ない。
旅人は少女を視界に収め、躊躇なく己が超力発動の言葉を口にしようとした。
だが発声もまた、この世界の法則に飲み込まれているようである。
超力発動の合図は意に反して、肩をぐるりと回してしまうだけに終わった。

1メートル足らずの距離を戻るだけの事が、ここまで難しいとは。
これは想像以上に厄介な状況だと今更ながら悟った。

そんな状況にありながら、旅人は慌てるでもなく己の状態を顧みる。
思考は正常。いつも通り『普通』だ。
ならば、体が動かない代わりに頭を使えばいいだけ。

呼吸や心拍は正常に機能している。
無意識に行われる生体反応は書き換わっていない。
おそらく意思を介する動作だけがこの新たな法則に置き換わっているようだ。

指を動かす。動くのは首だった。
手を動かす。瞼が閉じられた。
腕を動かす。足の指が動いた。

同じ操作をすれば同じ部位が動く。
つまりは、規則性がある。
ならば、一つ一つ解き明かせば、この世界で動く術を獲得できるかもしれない。

旅人は圧倒的な解析力で新世界の法則を読み解いていく。
反応が混ざらぬよう一つずつ動作を試み、結果を記憶していった。
まるで絡まり合った毛糸玉を一本ずつほどいていくような地道な作業だった。

「エッ――――!」

幾度目かの検証で、左足の薬指を動かすと声が出た。
どうやら発声に関するコマンドはこのあたりらしい。
続けて別の発声を試そうとしたところで、夜の岩山に風が吹いた。

あるいは、それも大海賊の発した嵐の一端だったのだろう。
発した夜風が、旅人の全身を撫でるように吹き付けた。

「ッ!?」

瞬間、旅人の呼吸が止まる。
この世界で変わっているのは、体の操作だけではない。
自然環境や物理法則ですら変質している。

夜風はネバついた膜となって、旅人の顔面に張り付いていた。
口と鼻を僅かに塞がれ、正常な呼吸が阻害される。
今はまだ僅かな隙間があるため、困難ではあるがかろうじて呼吸はできている。
だが、風はまだ吹いている。この調子だと、いずれその隙間も完全に塞がるだろう。

しかし、そんなものは普通なら手で拭うだけで済む話だ。
同じく夜風の膜を受けた少女は、猫のように寝相を変えながら何気なくそれを払いのけている。

だが、旅人には手の動かし方がわからない。
まだ解析はそこまで進んでいない。
口元を拭うと言うただそれだけの行為が、どうしてもできなかった。

いよいよもって直接的な生命の危機だ。
だが、旅人は恐怖を感じることなく思考を巡らせ続けていた。
正常なものが思考だけと言うのなら、より早く、より深く思考を続けるだけである。
脳のシナプスは巡り、記憶細胞が活性化する。

瞬間――――脳裏に、光に包まれ崩壊する世界がフラッシュバックした。

何だ? と思う隙もない。
次々と濁流のように、覚えのない記憶が脳裏に押し寄せてくる。


417 : 新世界の嬰児 ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 19:53:52 rtQpIpQE0
――人間が弾けるように光の泡となり、崩壊する世界。
――自らの首元に注射器を当てる自分の姿。
――死にゆく、優しい誰かの姿。

脳内で火花が奔る。
意思を持った思考は世界の法則に絡めとられ、記憶再起のメカニズムすら掻き乱された。
脳のシナプスは新世界の法則を辿り、本来開くはずのない封じられていた記憶の扉をこじ開けていく。

――不運続きの人生だった。
――超力とは無関係に、そういう星の下に生まれたのだろう。
――幼いころから常に不幸に見舞われ、周囲にも不幸を撒き散らす疫病神だった。

なんだこれは?
なんだそれは?
これは一体、誰の記憶だ?

――物心の付いた最初の記憶は、両親の死に顔だった。

超力暴走事故。
そんな事故に巻き込まれ、両親は死んだ。
世界が新たに得た力に翻弄されていた時代。
超力が目覚めた直後の過度期にはよくあった事故である。

そう、彼の悲劇はよくある話として片付けられた。
事件ですらなく、ただの事故の一つとして。
それらを特別として扱うには、世界には悲劇が溢れすぎていた。

たらい回しにされるように、さまざまな場所を転々とした。
そのたびに不幸はまとわりつき、多くの悲惨を目の当たりにした。
自分が呪われているのか、それとも世界が呪われているのか、あるいは両方なのか。
幼いころの彼には見当もつかなかった。
その答えは、今でもきっとわからないままだろう。

如何に世界が変革するための痛みだと言われても、当事者からすればたまったものじゃない。
受け入れろと言われても、受け入れられるはずがない。
当然の義憤と、当然の憎悪。
そんな世界は間違いであると、『普通』の人間は思うだろう。

だからこそ彼は、超力を、そしてそれを使う者すべてを、さらには超力社会そのものを嫌悪した。
超力を自滅させるような超力が発現したのも、その心情が根底にあったからなのだろう。
日常生活に何の役にも立たず、ただ超力を殺すためだけの力が。

一人で自立できる年齢になると、逃げるように世界中を旅した。
しかし、どこへ行っても世界は変わらない。
国内でも海外でも、さらに悲惨な光景が広がっているだけだった。

まるで疫病神のように関わる人間を不幸にし、死神のように多くの死を見届けてきた。

こんな世界は間違っている。
間違いは消し去らねばならない。
その思いだけが強迫観念のように強くなっていった。

どこまでも『普通』の男は、当たり前のように超力社会を消し去るために行動し始めた。

世界各地で多くのテロ組織を作り、
世界各地で多くの宗教組織を興し、
世界各地で多くの反社会的組織を率いた。

彼は教祖であり、首領であり、御頭だった。
世界の悪意の多くはこの男から発せられたものだった。
全てはこの世界を否定せんがため、多くの物を壊し、多くの者を殺した。
間違いであるこの世界を否定するために、さらに悲劇を撒き散らし続けたのだ。

彼は世界を救いたかったわけじゃない。
人間を救いたかったわけでもない。
ただ、彼は間違いを正したかっただけなのだ。

そしてその総決算として、あの未曽有の事件は引き起こされた。


418 : 新世界の嬰児 ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 19:54:32 rtQpIpQE0
全世界でもっとも人口密度が高いとされる都市。
その中心で、彼は自らの首元に注射針を刺した。
その瞬間、彼の超力『幻想介入』はあらゆる条件を無視して、すべての超力者に適用された。

各地で超力者が人間爆弾のように超力を暴走させ光の粒となって消えて行った。
連鎖的に爆破を続ける超力者の爆弾は、超力社会を否定するように都市を吹き飛ばした。
『光の豊島事件』後にそう呼ばれる、一人の男に引き起こされた未曽有の大災害である。

この事件で使用されたのは、暗黒街で精製された最新のドラッグだった。
脳に近い頸動脈に打つことで、脳内に蔓延る菌の活動を暴走させ、限界を超えた超力の行使を可能にする。
ある種、旅人の超力と似通ったコンセプトの薬品は彼とすこぶる相性が良かった。否。相性が良すぎた。

高まりすぎた脳への負荷は、脳細胞を完全に焼き尽くした。
本来であれば一時的なはずの記憶欠乏の副作用も、想定以上の加熱によって脳を焼き切られた彼には取り返しがつかなかった。
それが、彼が記憶を失い、このアビスに墜ちた顛末だ。

気づけば、旅人の瞳には大量の涙が溜まり、頬を伝うことなく無重力に溶けていった。
この世界でも涙は涙として流れるのか。そんな事を思った。

冤罪などではなかった。
己は数え切れない罪を犯していた。
身勝手な欲求のままに、多くの人間を巻き込み、未曽有の惨劇を引き起こしていたのだ。

その事実が、ただひたすらに嬉しかった。

零れるのは随喜の涙。
己は本懐を成し遂げていたのだ。
思うがまま想いを成し遂げていた。
これが喜ばずにいられるだろうか。

ただ、一つだけ、心残りがあった。

あの事件の真の目的はそれだけではない。
これ程の大規模な超力事件を引き起こせば、間違いなく超力社会の中枢たるICNCで裁かれる。
その醜悪なる見世物小屋となった裁きの場で、愚かな聴衆どもを爆散させ、この悪しき世界の象徴たる白き塔を破壊する。
それこそが並木旅人の真の目的だった。

だが、その目論見は失敗に終わった。
自ら出頭までしたというのに、肝心の目的を薬の副作用によって思い出せず、結果的に何もなさないまま死刑判決を受けアビスに投獄されることなってしまったのだ。

同国を故郷とする同世代のミリル=ケンザキは、ニュース越しではあれど『光の豊島事件』をリアルタイムに体験していた。
彼女が犯人である彼の早急な死刑を求めるのも当然だろう。
あるいは、あの管理の怪物オリガ・ヴァイスマンは、彼の意図も、その忘却すらも『把握』していたのかもしれない。

記憶の追憶が完了する。
その頃には、旅人はすでに夜風によって呼吸は完全に塞がれていた。
体がまともに動かない中で、思考だけ不気味なまでに鮮明だった。

旅人には精神干渉に対する耐性がある。
超力に屈する事を拒否する心から生まれた精神耐性は、この不思議な世界でも思考低下を防いでいた。
故にこそ、見ようによっては不幸であるとも言えるだろう。

認知症が死への恐怖を和らげるための麻酔であるという俗説があるように。
訳も分らぬうちに死ねるならば、それは本人にとっての幸せである。
何もできない恐怖の中でただ冷静さを保つのは不幸でしかない。

だが、旅人はそれを不幸とは思わなかった。
窒息死までの数分間。
彼は想うことが出来る。

思い出された己のこと。
己の望む未来のこと。

そう、“希望”の話を。


419 : 新世界の嬰児 ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 19:54:56 rtQpIpQE0
その希望のために、己が命を長らえるために口元を拭うよりも、優先すべきことがある。
解析に費やしていた全てのタスクを言語の回復、その一点に集中させる。
そして、残されたわずかな酸素を消費して、塞がれた口の中で唱えた。


『――――――コールヘヴン――――――』


音にならない口内で、天国への誘いが唱えられる。
目の前の少女にではなく、この間違った世界に最大限の害意をもって。

その言葉を合図に、超力を否定するために生まれた超力を殺す超力が発動した。
目の前の少女の超力の本質は、嫌と言うほど理解した。
今であれば万全を超えた超力行使が可能だろう。

この超力の本質は世界の改変。

世界を塗り替え、新たな秩序を生み出す超力。
不思議で不条理な、だからこそ何者にも侵されぬ純な世界。
少女の幻想に介入して、その純白を侵す。

脳細胞を弾けさせて限界のその先へ。
不思議で無垢な少女の世界を書き換え、塗り替え、拡大させる。
より攻撃的で、絶望的で、破滅的な終わりの世界に向かって枷を外す。

この世界(あやまち)を壊(ただ)すのに、己の力よりもこちらの方が適している。
この超力であれば、今の世界を塗り替えてくれるはずだ。

適しているのならば、そちらに託すのが“普通”の判断だろう。
その“普通”こそが、彼の希望でもあった。

改変を続けるうち、先ほどまでとは違う温かな涙が旅人の目に浮かんだ。
無重量に留まった涙は光の粒になって天へ昇るように消えていく。

これが、想いを託すという事。
醜い世界を覆す、美しき絆の力だ。

間違いを全てを塗り替える、新世界の嬰児よ。

どうか、この世界を否定してくれ。
どうか、この超力社会を破壊してくれ。
どうか、この新人類を死滅させてくれ。

旅人は生まれて初めて、誰かに希望を託すように手を伸ばそうとする。

しかし、意識とは裏腹に瞼は閉じられ、
そのまま二度と開くことはなかった。

【並木 旅人 死亡】


420 : 新世界の嬰児 ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 19:55:09 rtQpIpQE0



「ぅ…………ぅん」

周囲の騒がしさに気づいたのか、世界の中心で眠っていた少女が目を覚ました
眠りを妨げられた少女は、不機嫌そうに瞼をこすりながら周囲を見回す。

夜の広がる岩山の山頂。
人工的ないつもの牢獄とは違う、雄大な夜の風景がそこには広がっていた。
そういえば、いつもえらそうなオリガのおじさんが何か言っていた気もするが、0時も近く、おねむだった少女の耳にはほとんどど届いていなかった。

そよ風が心地よく少女の頬をなでると、また眠気の波が少女を襲った。
だが、再び眠りに落ちそうになった少女の瞳に、淡い光が映り込んだ。

それは、夜にひっそり咲く花のように静かな光だった。

少女の世界にそぐわない「死体」は一瞬で風化し、砂のように消え去った。
そこに残ったのは囚人服と電子時計、そして首輪だけ。
ポイント取得可能のサインを示すように、首輪に刻まれた『死』の文字が淡く光りを放ちその存在を示していた。

その儚い美しさに惹かれたのか、少女は無重力の空間を泳ぐように進む。
この世界こそが少女にとっての日常(あたりまえ)だ。
この世界を自在に動けるのは彼女だけだし、彼女にとってはこの世界だけが自分が動ける世界である。
彼女にとっての『普通』この世界にある。

眠気眼のまま、落ちていた首輪を拾い上げる。
そして、くぁ〜と可愛らしく大きなあくびをした。

時刻は0時を回ったばかり。
良い子ならとっくに寝ている時間だ。
いやアビスにいるのは悪い子なのだが、ともあれ6歳児が起きているにはつらい夜更けである。

たくさん遊んで、
たくさん学んで、
たくさん眠る。
それが子供の仕事である。

寝かしつけのおもちゃのように首輪を握り絞め、少女は再びすやすやと寝息を立て始めた。
宙のゆりかごに揺られながら、穢れを知らぬ天使のような寝顔で夢を見る。

少しだけ怖い夢を見た。
けれど、すぐに眠りは深く落ちて、少女は空中でくるりと寝返りを打った。

新世界の嬰児よ。
明日、成長するために。

今は、おやすみ。

【F-6/岩山頂上/1日目・深夜】
【メアリー・エバンス】
[状態]:睡眠
[道具]:『死』の首輪(未使用)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.不明
1.朝まで寝る
※『幻想介入/回帰令(システムハック/コールヘヴン)』の影響により『不思議で無垢な少女の世界(ドリーム・ランド)』が改変されました。
 より攻撃的な現象の発生する世界になりました。領域の範囲が拡大し続けています。


421 : 新世界の嬰児 ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 19:55:19 rtQpIpQE0
投下終了です


422 : 魔女狩り ◆VdpxUlvu4E :2025/02/18(火) 19:56:18 miNr.L4s0
投下します


423 : 魔女狩り ◆VdpxUlvu4E :2025/02/18(火) 19:56:41 miNr.L4s0
────『神は己の頭の中に存在するものであり、誰もが己の中に神を秘めている』ですか

────汎神論の一種でしょうか?確かにこの世界全て神が創造したというなら、人が産まれる事もまた神の創たもうたもの。

────ならば人が神と繋がっていてもおかしくは無いですね。

────私の宗派の教えと違う?ですか。

────神を人の認識で定義し、人の言葉で語る。

────これは涜神では無いでしょうか? 人が神を量るなど。

────なので私は、人々の信仰の形は問いません。

────己が信じる様に神を信じれば良い。

────『神は在る』。ただそれだけで宜しいのでは?

────ならば、私が殺し尽くした『ヤマオリ』の名を冠するカルトは?ですか。

────彼等は、神を否定しました。

────神の在る場所に、神は無いと言い放ち。在るのは『ヤマオリ』だと妄言を言いました。

────ならば殲滅するしかないじゃないですか。

────この力は、討つべき悪を悉く討つ為に、神から授けられたものですから。




424 : 魔女狩り ◆VdpxUlvu4E :2025/02/18(火) 19:57:17 miNr.L4s0



 「夜上神一郎さまが居ますね…。という事は、この刑務には、善性の方もいらっしゃるという事ですね」

 名簿にざっと目を通し、ドミニカ・マリノフスキは、此度の刑務────では無く、聖務について想いを巡らせた。

 夜上神一郎。「「神」とは己の頭の中に存在するものであり、誰もが己の中に神を秘めている」という信仰の形を持った殺人者であり、救うに値しないと断じた悪人を人知れず裁いてきた人物でもある。
 独房に収監されて、一日中を祈りと迷走に費やしているドミニカの過去の行いに興味を抱き、面会するのは、担当刑務官から崇拝に近い信頼を得ている夜上には難しい話でも無かった。
 そうして二人は邂逅し、語り合って、ドミニカは夜上に信頼と尊敬の念を抱くに至る。
 ドミニカは夜上の信仰については、汎神論の一種だと解釈し、神の信じ方が違うだけだとしている。
 神を人の認識で定義し、人の言葉で語るのは涜神行為。
 人には計り知れない存在が神であるが故に、人の解釈が人の数だけ無数に有るのは致し方無く、信仰の形を問わず、只偏に神の存在を信じるならば、それで良い。
 そう信じるドミニカは、夜上の信仰をあっさりと認め、夜上を神に敬虔で精神が善良な信徒だと思っている。
 確かに、夜上はアビスに収監される罪人ではあるが、時には人の世の法と、個人の善性とが相反する時もある。
 それでも己の善性のままに生きるというのなら、触法は仕方の無い事である、司法へ抵抗して善人を傷つけなければ良いのだ。
 ドミニカが警官隊に素直に投降したのは、彼等が善き人だった為であり、悪しき者だと判断したならば、僅かな躊躇も無く、鉄槌を振るった事だろう。

 要は、ドミニカ・マリノフスキという少女は、善性の人ではあるが、遵法精神がかなり低い少女であり、アビスにブチ込まれたのも、妥当といえる精神を有していた。


 その辺は一先ず置いておくとして、ドミニカは思案に耽る。
 “アビス”に送られた時は、周囲全てが悪であり、目に付く悪を片端から殺せば良いと思っていた。
 それが、夜上と出逢い、善性の人もいると知った。
 そしてこの刑務。悪人ばかりでは無い事が判明した。

 「慎重に見定めないといけませんね。善性の人を害するわけにはいきません」

 ドミニカは自身の超力を、神がこの世に蔓延る悪を討つ為に、己を選んで授けられたと信仰している。
 だからこそ、慎重に相手を見定める。
 善なる者を害するのは、神の意思に反する行為なのだから。
 世俗の法に捉われず、善き人を見定め、悪しき者を討ち、無神論者は確殺する。
 “アビス”に収監される以前、行い続けた行為を此処でも為す。

 決意を新たに、名簿を再度確認するも。討つべき悪の名は三つしか確認出来なかった。
 そもそもが、田舎暮らしの上に、十二の時から修道女の様な生活を送っていた為に、世俗の事には疎いのだ。
 それこそ、ルーサー・キングの様な、他の刑務作業者が警戒する名を見ても、何も思わない程に。
 そんなドミニカでも知っている名前の主は、表の社会で暴れ回った経歴を持つ、“アビス”の住人足るに相応しい経歴の主達だった。

 『フランスの悪魔』『堕ちた聖騎士』ジャンヌ・ストラスブール。
 『焔の魔女』『災厄の炎剣』フレゼア・フランベルジュ。
 『虐殺者』『人類の敵』アンナ・アメリナ。

 少なくともこの三人は、世事に疎いドミニカでも名と顔を知っていた。
 フランスで、アメリカで、紛争地帯で。
 災厄と呼ばれる程の所業を為し、悪魔とすら呼ばれた者達。
 世に解き放てば無限の災禍を撒き散らす、一人たりとも恩赦を与えてはならない大罪人。
 
 このヒトの形をした悪魔達が、誰かを害する前に仕留める必要が有った。

 「主よ。私が悪を討ち滅ぼすまで、正しき人々を守り賜え」

 祈りを捧げ、鉄槌の少女は歩き出した。
 



425 : 魔女狩り ◆VdpxUlvu4E :2025/02/18(火) 19:57:36 miNr.L4s0



 これは一体どういう事ですか?

 飛ばされた先をひとしきり歩き回って、ドミニカ・マリノフスキが最初に抱いたのは疑問だった。

 ドミニカが飛ばされたのは、四方が海に囲まれた島。
 元より殺し合いの舞台そのものが無人島ではあるが、ドミニカが飛ばされたのは、無人島の至近に浮かぶ小さな陸地。
 具体的にはH–7に有る島だった。

 「私が悪を討つ事を、此処まで忌むと?」

 念の為に、上空に重力場を放り上げて、身体を上空へと『落とす』。

 二度繰り返して、上空45mから周囲を見渡すと、本当に何処にも繋がっていない陸地に飛ばされていた。

 重力場を消して、自由落下で地面へと降下。タイミングを見計らって重力場を形成してブレーキを掛ける事で、優雅に着地を決める。

 「何故私をこの様な場所へ?」

 自分の置かれた状況を把握すれば、出てくる疑問は一つだけ。
 殺し合えと言っておいて、島に飛ばすのはどうなのだろうか?

 「至急行かなければならないというのに」

 上空から周囲を見渡した時、近くの山の上で嵐が起きていたのが見えた。
 彼処で戦闘が起きたのは、間違い無いだろう。
 とは言え、今から向かっても、間に合うかは不明で有る。
 だからと言って、見過ごすことなど許されない。
 ドミニカの聖務は、此処で悪人達が恩赦を得て、外に出てしまう事を防ぐ事。
 善なる者を救い、正し人を守る。
 単に皆殺しにすれば良い────という訳では無い。
 ドミニカに課せられた責務は一つでは無いのだ。

 「水の上を歩く奇跡は起こせませんが、水の上を渡れない訳では無いのですよ」

 ドミニカは水の上を、足を動かさずに滑り出した。
 傍目にはガリラヤ湖の水上を歩いたイエスの様に見えるかもしれない。
 実際は、先刻の空中浮遊と同じ行為。
 前方に重力場を放って、その中心部へと向かって『落下』中心部に到達する直前に、再度重力場を前方へと放ち、更に『落下』。
 これを繰り返す事で、水の上を滑る様に移動しているだけなのだ。
 ドミニカの眼差しは、嵐が起きていた山地を見据えたまま動かない。
 足を濡らすこともなく、対岸へ上陸したドミニカは、しっかりとした足取りで山を登り始めた。





426 : 魔女狩り ◆VdpxUlvu4E :2025/02/18(火) 19:58:03 miNr.L4s0


 ────討つべき悪を悉く討ち果たしたら…ですか。

 ────その時は生が終わるまで祈りを捧げ、瞑想するでしょうね。

 ────死んだ後、ですか?

 ────それは主が決めたもう事です。

 ────主が私をどの様に裁かれるのか、首を垂れて待つのみですよ。
 


【H–7/海岸沿い/一日目・深夜】
【ドミニカ・マリノフスキ】
[状態]: 健康
[道具]: デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本. 善き人を見定め、悪しき者を討ち、無神論者は確殺する。
1. ジャンヌ・ストラスブール、フレゼア・フランベルジュ、アンナ・アメリナの三人は必ず殺す
2.嵐が起きていた場所(G–6)を目指す


※ 夜上神一郎とは独房に収監中に何度か語り合って信頼しています


427 : 魔女狩り ◆VdpxUlvu4E :2025/02/18(火) 19:58:15 miNr.L4s0
投下を終了します


428 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/18(火) 20:59:40 rtQpIpQE0
投下乙です

>魔女狩り

無神論者はぶっころ系シスター、宗教こわー。ネオスも大規模で応用も効く、なんでシスターやってるのこの人?
悪人のみを殺すと言っても、善悪の基準が独善的なので全く安心できない。まあそもそも悪人だらけですけどねこのアビス
この人の信頼を獲得できた夜上神父は流石、情報鵜呑みシスターなので狙われるジャンヌはかわいそう、アンナさん死後に出番が多いっすね


429 : ◆kLJfcedqlU :2025/02/18(火) 22:11:23 AC45egiw0
投下します


430 : 正しく死にたい、正しく死ねない ◆kLJfcedqlU :2025/02/18(火) 22:13:02 AC45egiw0

 超力で人生が歪んだ。
 そんな評価を下される人物はオールドだろうとネイティブだろうとこのご時世珍しくもない。
 アビスで凶悪囚だと評価され社会から隔離された怪物の中にでも、超力がまともならごく普通の人生を歩めただろうと評されるものは少なくなかった。
 だからと言って囚人たちの罪が軽くなるわけではない。超力はその人間の一要素であり、悪事に用いたのも本人の意思というのが主流の意見だ。
 超力が理由での減刑は原則(ヤミナ・ハイドのようなケースは例外として)行われないのが、現代の司法の姿である。
 ただ、そうした人間は事情を知る者が向ける目は、どこか同情のようなものが宿るものには違いなかった。
 
 ジェーン・マッドハッターもまた、そうした視線を向けられる側の受刑者だった。
 『あらゆるもの』に『生物に対する殺傷性』を付与する。それが彼女のネオスであり、彼女の悲劇の元凶だった。
 
 友達にボールを投げた。キャッチに失敗した友達の腕がひしゃげて、血をドバドバと流して動かなくなった。
 優しいお母さんが怖い眼で見てきて思わず近くにあったリモコンを投げつけた。喉に突き刺さってカーペットが真っ赤に染まった。
 殺し屋に拾われ裏の世界で生きてからも、やることは1つも変わらない。
 ペンで刺した。トランプで喉を切った。スマホの角で殴りつけた。おもちゃのバットを叩きつけた。全員死んだ。
 名前も知らない連中の恨み言を吐く歪んだ顔は、今でもはっきり覚えている。
 
 思い返してみても、救いようのない人生だったなとジェーンは思う。
 超力で人生が歪んだ典型だと言われることもあったが、自分ではそうは思わない。
 そういう評価はもっと別の――例えば、交尾 紗奈のような子に使うべきだろう。
 私は一人で勝手に歪んだ。言われるがまま殺し続け、他の生き方を探そうともしなかった。
 自分がただの被害者なら、同情の余地がある人物なら。数えきれないほど殺す前にさっさと自殺でもしたはずだろう。
 
 自分は罪人だ。他の誰よりもジェーン自身がそう思っていたし。
 アビスにて刑を待つ余生を穏やかに過ごせればそれでよかった。
 
 だから、ジェーン・マッドハッターが恩赦の説明を聞いたときにも、ちっとも心は動かなかった。
 外に出たいとは思わない。酒にもたばこにもファッションにも疎くては、ポイントを得てまで欲しいものも思いつかない。
 
 ただただ、この刑務作業で死にたくはないなとは思った。

 同じ死ぬなら、別の殺人鬼の肥やしではなく。ただのポイントとしてではなく。
 1人の囚人として、1人の大罪人として。
 死刑台に立ち罰と罵声の中で死にたいと、そんなことを我儘に考えていた。


431 : 正しく死にたい、正しく死ねない ◆kLJfcedqlU :2025/02/18(火) 22:15:06 AC45egiw0
 ◆

 メリリン・"メカーニカ"・ミリアンが近くを歩いていたジェーンに「協力しない?」と提案したことには、いくつかの理由があった。
 
 メリリンの仕事は兵器の作成や修理であり、率先して人を襲ったり殺したりはしないしするつもりがない。
 だから自分が死なないためにも協力者が欲しかった。たった23ポイントとはいえ、酒2杯を貰うためなら人を殺す奴は山ほどいる。
 出来れば女の子がいい。ファッションに興味があったわけじゃないが娑婆ではそれなりにモテてたつもりだ。女日照りした連中と関わるのは少し面倒だった。
 闘える人物であればなおいい。自分でも高望みだとは思っていたが、ヤバい噂でしか知らないような囚人がゴロゴロいる中で”目的”を果たすためにも戦闘のできる相方は不可欠だった。
 
 そんな矢先に見つけたのがジェーンだった。
 目が合って初めは冷汗が垂れたが、いつまでたっても襲ってくる様子はない。
 首をかしげるメリリンを前に、塗り潰したような隈を浮かべた少女がどっかいけと払いのける動作をした姿を見て、「あれ、この子殺し合いに乗り気じゃないな。」と判断して今に至る。
 
「なんでこっちに来るのよ……。」
 心底めんどくさそうに顔をしかめるジェーンに、どこか無機質にも見える光のない目を向け硬い笑顔を浮かべるメリリン。
 娑婆であればメリリンの感情の乏しさを補うための猫耳帽子があったのだが、統一感ある薄汚れた囚人服ではそんな効果は期待できない。
 
「まあまあ、君にも悪い話じゃないはずだからさ。」
 バチンとウインクをしたメリリンの顔は、髪こそぼさぼさで野暮ったい猫背だったが整った顔立ちもあり中々可愛いらしいものだ。
 言葉こそ楽しそうだが、どこまで彼女が本気なのか読めない。感情の表現が苦手なのだろう。
 だが、不器用ながらこちらに悪印象を与えないように表情を作っていることはジェーンにも伝わった。
 
「……まあ。聞くくらい構わないよ。」
「マジ?やった!話が分かるじゃん。」
 敵意もないし話くらいはできるだろう。敵意があるならとっくに攻撃してるはずだ。
 そう思ったジェーンが向かいにもたれ掛かると、メリリンは硬い表情のまま、わずかに口角を上げて語り始めた。
 
「単刀直入にいうけど、私はあのブラックペンタゴンってところに行きたいの。」
「島の真ん中にある胡散臭いヤツ?」
 こくりと頷いてメリリンはデジタルウォッチを動かす。指先は中央にそびえる5角形を指していた。
 捨て置かれた工場と人の手につかない自然がある島。囚人たちの楽園がそんな単純な世界でないことを示すような、異質な風体は地図上でも際立って目立つ。
 山陰に隠れて実際の姿を2人が見ることは出来ないが、映画であるような黒いのっぺりとした外壁に覆われた建物を揃ってイメージしていたし。
 多分、誰に聞いても浮かぶイメージは同じように異質なものだろう。
 それほどにその建物は、地図上でも浮いていた。
 
「何か理由はある?
 正直、行っていいことがある場所には見えないけど。」
 何もないことは無いだろうが、当てもなく突っ込むような場所にはジェーンには思えなかった。
 いくつかのランドマークこそあれ、ひときわ目立つこの五角形に多くの囚人が集まることは想像に難くない。
 どう考えても混乱の元だぞ。そう言いたげに細めたジェーンの目に気づいているのかいないのか、どこか楽し気にメリリンは続けた。
 
「そもそもだよジェーンちゃん。
 どうして『この島』が殺し合いの会場になった
 というか、なんでアビスが管理してるのか気にならない?」
 突然、何の話だ。そう言いたげにジェーンは首を傾げる。
 そんな姿を尻目にメリリンは、浮かび上がった地図のうち工業地帯をズームしていた。

「この島には工業地帯がある。つまり元々何らかの機械なり技術なりを開発していた場所ってことじゃない?
 でも今はアビスが管理してる。ただの廃工場がある島をだよ。絶対理由があるはずなんだ。」
 島の南西部 全体の六分の一近くを占める工場地帯。
 それは今殺し合いの舞台になっているこの島には、かつて人がおり、この工場を産業として栄えた過去がある証明だ。
 あのアビスの鉄面皮看守どもが、ただの舞台づくりのためにこんなものを用意するようにはジェーンにもメリリンにも思えない。
 それを、どこかの軍事国家の再利用などではなく、アビスが管理してこんな催しに用いている。
 メリリンが気になっていたのはそんな状況そのものであり。
 だからここの島には自分の興味を引く何かがあると、彼女の中の好奇心が告げていた。


432 : 正しく死にたい、正しく死ねない ◆kLJfcedqlU :2025/02/18(火) 22:16:13 AC45egiw0

「刑務所の候補地だったか、何らかの兵器を開発していた研究所かもしれない。
 工業が盛んだったアビスが管理する島、その中央にある建物になら何らかのデータなり高い設備なりあると思わない?
 システムAの試作機とかを開発してるってのは、だいぶあり得る話だと思うんだぁ。」
「仮にそうだとしても、そんなものを囚人の手に届く場所に置いておくと思う?」
「それはそうかもしれないけどさ。でも全部が全部無意味な張りぼてってのもロマンに欠けると思うワケよ。
 工業地帯はともかく、ブラックペンタゴンになんて明らか”何かありますよ”ってツラしてるじゃん!」
 地図1つから随分色々思いつくものだなと、学のないジェーンは圧倒されるばかりだ。
 流れるように喋るメリリンの視点は、技術の製造に携わる者なりの経験によるものでもあり、日常的に欲しいものをかっぱらってきた人間特有の勘でもあった。
 どこか希望的な観測が混じってはいたが、全てが妄言だと切り捨てるにはその意見には理屈が通っていた。
 
「それを見つけてアンタはどうしたいの?」
「どうしたいっていうか……知りたい。
 自分の知らないものを知れるのって楽しくない?その知識を自分の手で製造(かたち)に活用(す)るのってサイコーじゃない!?」
「……。」
 内心、分からないとジェーンは思ったし。分からないことが無性に悲しく思えた。
 技術や超力で物を生み出すこと、あるいは武器や兵器の持つ性能を十全に引き出せるよう調整すること。
 そんな生業のメリリンは、表情こそ固くとも好奇心も向上心も満ち満ちている人物だ。
 考えることもせず、自分の超力を理由に流れるような人生を歩んできたジェーンには、その姿は随分と眩しく映った。
 
「まあ、こんなもんか。
 それでどう、私の話に乗る気はある?」
「要は貴方の協力者というか、護衛みたいな役回りをしろって事でしょ?」
「そうそう、もちろん報酬は付けるよ。
 私の超力で武器くらいは用意できるし、恩赦もそっちが優先でいい。
 流石に出られる程度の恩赦は欲しいけど。ここでしか知れないものを取り逃す方が私としては悔しいからさ。」
 ジェーンの憂いとは裏腹に、わずかに震えた腕でジェーンの両肩をつかんだ。
 自分の超力をあっさりと交渉材料に織り交ぜる。
 超力を秘匿し合うのが表でも裏でも常識の中、その一言にメリリンの本気度合いが伝わってきた。
 興奮しているのか緊張しているのか、その表情からはいまいち読み取れない。だが、悪い奴でないことは確かだ。
 
「私個人としてのこの場所での目的はほとんどない。正直、恩赦も全部そっちに渡していいくらい。」
「……マジで?流石に私に都合良すぎない?」
「はっきりいって、何事もなく24時間終えれば私は満足だから。
 ルーサー・キングやジルドレイ・モントランシーと関わらなければ、なおよしってくらい。」
 この刑務作業においてジェーンの目的は生きることだ。
 無事にアビスに戻り、死刑囚として罰を受けて死にたい。
 襲われたら反撃するが、24時間の殺し合いを平穏無事に過ごせればそれに越したことはない。
 
 ルーサーやジルドレイの名を上げたのは、彼らが平穏無事とはかけ離れた場所にいることを知っているからだ。
 欧州で主に活動していたジェーンの組織は末端とはいえルーサーの息がかかっている。ルーサーが絡む殺しだってこなしたこともある。
 ルーサーの恐ろしさは上司たちに口を酸っぱく聞かされてきたこともあって、会ったことはないが会いたいとも思えない。
 噂に名高いジャンヌ・ストラスブールを模倣した怪人についてもまた、出会いたくない存在には違いなかった。
 
 とはいえそれ以外に目的もない以上、メリリンの目的に反対する理由はない。
 この島について調べること、そのためにブラックペンタゴンに向かうことも構わなかったし。
 少々鬱陶しそうだが会話の相手としてメリリンは退屈しないだろう。
 結論を言えば、メリリンの提案にジェーンは乗る気でいた。
 だがそのためには1つ、解消したい疑問があった。


433 : ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:16:49 ZVAWg3x20
投下します


434 : ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:17:48 ZVAWg3x20
投下中と知らずに割り込む形になって申し訳ございません
◆kLJfcedqlU氏の投下終了宣言後に投下させていただきます


435 : 正しく死にたい、正しく死ねない ◆kLJfcedqlU :2025/02/18(火) 22:19:38 AC45egiw0
 
「なんで私に声をかけたの。
 私が殺し屋だってこと知っているんでしょ。」
 わずかな殺気を織り交ぜ問いかける。
 空気が変わったことを感じたのか、メリリンの背筋がわずかに伸びた。
 
「どうしてそう思ったの。」
「名前を呼んだ。
 自己紹介なんてしてないのに、アンタはアタシの名前を知っていた。
 だったら、素性も知っているって思うのが当然じゃない?」
 
 変わらないメリリンの顔には、わずかに冷や汗が垂れていた。
 ジェーンは一度もメリリンの名前を呼んでいない。そもそも名前を知らないからだ。
 メリリンがジェーンの名前を知っていた理由そのものは、正直なところ重要ではない。
 死刑囚となれば噂くらいは立つだろうし、あるいはジェーンが殺した誰かの関係者って可能性もある。
 だからこそ、ジェーンのことを知っているならば、メリリンの行動は不可解だった。

「だけど、なんでわざわざアタシに声をかけたのか。それだけはちゃんとした理由を知りたい。
 アタシは死刑囚の殺し屋。
 協力者を募るにしても、アタシがアンタだったら殺し合いの只中で一番会いたくない人種だと思うけど。」
「それはそうだ。」
 なるほどなぁとメリリンは頷く。互いに目は笑っていなかった。
 殺し合いの中で一番で会いたくない人間は、当然自分を殺しかねない相手だ。
 ジェーン・マッドハッターの素性を知る人間が、ジェーンを協力者に選ぶとはとてもじゃないが思えない。
 死刑になるほど人を殺した殺し屋に、殺し合いだと銘打たれた舞台で近づくだろうか。

 ジェーン・マッドハッターは、殺人を仕事と割り切るタイプだ。
 快楽殺人鬼じゃないし、殺しを楽しいと思ったことだって一度もない。
 超力のせいで人を殺してしまうから、殺し屋として生きている。

 無論メリリンは、ジェーンのそんな内面など知らない。
 死刑囚なのになんでこんな大人しく話を聞いてくれてるんだろうなと疑問に思ってさえいた。

「いや、違うの。別にジェーンちゃんに恨みがあるとかそういうんじゃないのよ。」
「……まあ、それだったらとっくにアタシを殺してるでしょうけど。
 だとしたら、アタシが思いつく理由は1つしかない。」
 そういってジェーンは指を2本立て、今度はメリリンが首を傾げた。
 
「理由?」
「初対面の他人が殺し屋に殺し屋だと知って声をかける場合って、経験上2種類しかないんだ。
 『その殺し屋を、この手で殺したいほど恨んでいる奴』。でもその線はもう消えた。」
 ジェーンは立てた指を折り曲げる。1つは既に可能性から消えていた。
 家族を、親友を、恋人を、恩人を。殺されたとジェーンを襲う人間は何人もいた。
 全員返り討ちにしたし、うち8割は殺された者の後を追った。
 
 だがメリリンはそうではない。恨みがある人間はあんな敵意なく会話などできない。
 結論付けたジェーンに、ごくりと生唾を飲み込んでメリリンは尋ねた。
 
「……もう一種類は?」
「……『誰か、殺してほしい人が居る奴。』
 アタシは、アンタはそっちだと思ってる。答えたくないなら答えたくないでいいけど、一応聞くね。」
 そう前置きしたうえで、ジェーンは続ける。
 メリリンの顔は、背筋がわずかに伸びたからかさっきよりも凛々しく映った。
 
「アンタ、この島に殺してほしい人が居るんじゃない?
 協力者に人殺しを選ぶリスクを冒してまで、殺したい誰かが。」
 一瞬、砂利を巻き上げた風が2人の頬を撫でる。
 数秒の沈黙が空気を支配したのちに、メリリンは口を開いた。
 
「殺してほしい……というよりは。殺さなきゃいけない人が居る。」
「そう。ならもうアタシの気にするところはない。
 アンタの話に乗ったよ。敵意がないことは分かるしね。
 ……それと、その人の名前は聞いていい?」
 冷たく鋭い雰囲気をあえて隠さずジェーンは問いかける。
 数秒、遠い誰かを思い出すようにメリリンは目を閉じて。
 
「サリヤ」
 見開かれた光のない眼に、うっすらと涙を浮かべながら。
 名簿には載っていない名前を、メリリンは告げた。

「サリヤ・K・レストマン。
 死んだはずの私の親友が。この島にいる。
 そいつを、この手で終わらせたい。」


436 : 正しく死にたい、正しく死ねない ◆kLJfcedqlU :2025/02/18(火) 22:21:55 AC45egiw0

 ◆

 メリリン・"メカーニカ"・ミリアンがサリヤ・K・レストマンと出会ったのは、両親が破産し文字通り途方に暮れていた時期だった。
 あてもなくふらつきどこかで酒でもかっぱらおうかと考えていたメリリンに声をかけ、自分が所属していた組織へと誘ってくれたのがサリヤだった。
 犯罪組織に自分を引き込んだ悪魔の囁きだと罵る声もあるかもしれないが、メリリンにとってこの選択はそれなりに良い人生の第一歩だった。
 新しい居場所は随分とメリリンに馴染んだ。
 仲間も出来た。やりがいもあった。良い寄ってくる野郎(ナード)どもは鬱陶しかったが、悪くない出会いも何度かあった。
 それでも自分を誘ってくれたサリヤと会うことが一番多かったし。
 サリヤが死んだと聞いたときは、らしくもなく泣き崩れた。

 何故死んだのか、分かったことは殺人だということだけだ。
 悲しいことに思い当たる節はいくらでも浮かんでくる。ロケットだのガトリングだの超力だのでいろんな場所に喧嘩を売ってきていたから、報復なりで誰かが死ぬのは珍しいことじゃない。
 結局、犯人は見つからなかったし、見つからないだろうなとメリリン自身が思っていた。
 
 よくある悲劇として、メリリン自身その出来事が薄れつつあったある日のこと。
 アビスでほんの一瞬見えた顔が、彼女の思い出を踏み荒らす。
 看守たちに運ばれる傍ら、向かいの通路で護送されている人物が、サリヤだった。
 
 死んだはずだ。あいつは死んだはずだ。私が弔った。墓だって私が建てた。穴を掘って埋めた。
 死後硬直で彫刻みたいに冷たく硬い腕をした質感がフラッシュバックして、思わずえずいた。
 思い出した。思い出したくなかった。
 なのに、なのに、なのに。

 ――なんでサリヤがここにいる。
 
 思わず叫び飛び出そうとしたところを看守たちに取り押さえられながら、メリリンはさらに信じられないものを見た。
 サリヤに見えた顔が、瞬きの合間に特徴のない日本人の顔に変わっていたのだ。
 無抵抗のまま角を曲がり、その姿は見えなくなった。
 
 あれは誰だ。 思わず看守に問いかけた。
 あいつには関わるな。 珍しく質問に答えてくれた看守は、釘を刺すようにそう答えた。
 本条清彦という日本人の名も看守は教えてくれなかった。
 だから今でも、メリリンはその野郎の名前を知らないままだ。
 
 ただ、あいつを殺さないといけないと。あいつの存在は認められないと。
 殺意というより拒絶に近い感覚が、メリリンの全身を支配していた。
 
 オリガに呼び出された部屋の中、メリリンは確かにあの時の日本人を見た。
 ぼやけた輪郭で顔がはっきりとは思い出せないが、その歪さこそあの時見た顔という根拠だと確信していた。
 出られる程度の恩赦があればいいなくらいの認識でオリガの話を聞いていたメリリンだったが。
 その日本人だけは、絶対にこの島で殺さなきゃいけないと、胸の内のどす黒い何かが叫んでいた。
 
 サリヤ・K・レストマンは、既に死んだのだ。
 その死を穢す誰かのことが、名前も知らないのに、メリリンにはどうしようもなく許せなかった。
 
 【E-7/山沿い/1日目・深夜】

【ジェーン・マッドハッター】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.無事に刑務作業を終える
1.メリリンと行動を共にする

【メリリン・"メカーニカ"・ミリアン】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き延びる。出られる程度の恩赦は欲しい サリヤ・K・レストマンを終わらせる。
1.サリヤの姿をした何者かを探す。見つけたらその時は……
2.ジェーンと共にブラックペンタゴンに向かう


437 : ◆kLJfcedqlU :2025/02/18(火) 22:22:15 AC45egiw0
投下終了します


438 : ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:24:37 ZVAWg3x20
改めて投下します


439 : Rise ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:25:10 ZVAWg3x20

消えない。消えて無くならない。
あの顔が、あの目が忘れられない。
忘れてはならない。
忘れてなるものか。
オレは忘れない。
何時何処であっても忘れてなるものか。

だから、待っててくれ。
オレは、約束を守る男だ。
お前だって、知っているだろ? ダリア。









無人島の中心に沈黙する建造物、ブラックペンタゴン。
誰が作ったのか、何の目的で作られたのか。
何もかもが不明で、何もかもが闇に覆われた不可思議な五角形。
その内部の、物置程の大きさの部屋に、その男はいた。

鋼鉄のように屈強で。
毒花の如く感覚を尖らせ。
死骸の如く沈黙している。

「……懐かしいな、試合前の緊張感ってやつに似てやがる」

それは、拳士であり、闘士であった。
179勝0敗。
『ネオシアン・ボクス』最強だった拳闘士(ファイター)。
全盛期より数年経った今でも、その肉体に衰えはない。

本音を言うならば、彼はこの度拳を振るう機会など無いと思っていた。
たった一つの欲望(エゴ)の為、人生最初の反逆の末路。
血に濡れた拳であろうとも、地獄の先に咲いていた花を手に入れようと。
抗った先に待ち受けていたのがこの深淵の奥底。

「ここが、新しい戦場ってことか」

エルピス・エルブランデス。
『ネオシアン・ボクス』に咲いた孤高のダリア。
そして地下闘技場の『王者(チャンピオン)』。
傷つけることだけしか知らなかった腐食の紫。


440 : Rise ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:25:30 ZVAWg3x20

★★★

この世に神はいない。
この世界を神は救わない。
物心ついた時には親父も母親も既に事切れていた。
タバコ、無造作に詰め上げられた殻の酒瓶、血の付いた灰皿、腐臭。蝿と蛆虫。
そしてなけなしの紙幣3枚。全員が笑っていた家族写真。

生き残るためには奪うしかなかった。
奪うためには戦うしかなかった。
戦うためには強くなる他なかった。

幸いにも、強くなることは大変だったが、一度山を乗り越えれば楽勝だった。
街のゴロツキ、薬物依存のジャンキー、超力を宿したや野生動物、凶悪な超力犯罪者。
時には地面と血の味を噛み締めながら、オレは勝ち続けた。

転機は、腐った超力持ちの女と一線交えた時。
そいつは最悪最凶の超力者、生死の理を容易く覆す都市伝説(ネクロマンサー)に蘇生させられた哀れな残骸と聞いた。
わざと不完全な蘇生にされた、知能無くうめき声を上げる『失敗品(アンデッド)』だった。
冥王神(シビト)の気まぐれで、この地に送り込まれた厄災の一つだった。
かの禁足地(アンダーワールド)より、永遠から無理やり掘り起こされた、哀れな被害者だった。

強かった。手に触れたものを焼き溶かす、恐ろしい力。
鍛え上げた拳が、何もかも通用しなかった。
殴っても致命傷にならず、何度でも立ち上がった。
生まれて初めて、己の死が頭に過った。
「死にたくない」と言う感情が、マグマのように沸き立って。
オレは、己の超力を自覚した。

咲き乱れる、紫の天竺牡丹(ダリア)。
オレを守るように咲いたそれは、オレの周囲を腐らせた。
その女も腐り始め、オレの拳が効くようになった。
紫のダリアに、俺の人生を幻視した。
育てられたという記憶だけがあり、生き残るために独り立ちするしかなく。
ただ周囲を傷つけて生きるしかなかった、毒の花。

ゾンビが怯み、オレは思考を無にする。
単調な動きが丸見え、周囲が遅く動いている。
拳を握りしめ、その顔面を砕くという殺意を持って殴り抜ける。
崩れ落ちた女のアンデッドは、何か言葉を発していたらしい。
女の名前を呟いて、そいつは塵とも芥ともわからないのになって、風に飛ばされた。

勝利の余韻に浸ること無く、疲労でぶっ倒れたオレは拾われた。
そいつは、この街を支配するマフィア組織の一つ、地下闘技場の実権を握る元締めだった。
生存と闘争にしか縁の無かったオレに示しだされた、新しい人生のチケットを。
オレ自身の意思で掴むことを選んだ。
『ネオシアン・ボクス』。この世でもっとも地獄に近い場所。
勝者のみしか生き残れない栄光と言う名の牢獄に、足を踏み入れた。


441 : Rise ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:25:44 ZVAWg3x20


「"牧師"と"魔女"が一緒にいる場所で生き残りゲームなんざ、悪いジョークだろ」

名簿を確認し、開口一番。
出た感想は、流石に現実逃避をしたくなるような言葉だった。
犯罪集団キングス・デイのボスにして、世界の暗部を統べる黒鉄の王。
超力は勿論、それ以上に精神性が常軌を逸した破綻者(バケモノ)。
欧州の最強と米国の最凶が揃い踏みなんて、何の悪夢だと。

「聖女ジャンヌにバレッジんとこの金庫番。イースターズとアイアンハートのトップまでいやがるのか。どうなってやがるんだ、今回の刑務は」

とにかく、名簿に載っていた面々が自分含めて相応の名有りばかり。
間違いなく人死の一人や二人が出るような面子だらけで生き残る方法を考える、となるだけで頭を抱えたくなる。
エルピス自身は博識、というわけではないが。『ネオシアン・ボクス』で闘争に明け暮れる日々の中で、懇意にされたマフィアのボスに一通りの情勢を教えてもらっていた。
だからこそ、今回刑務に参加させられている面々を、幸運にもエルピスはある程度の知識を得ている。

「こいつは、骨が折れるな。殺る相手は選べるだけましか」

エルポス・エルブランデスは、恩赦狙いである。
彼は己の願いの為に誰かを殺し、願いを叶える。
72Pt。72Pt分を手にし、生き残れればエルピスにとってこのゲームは勝ちとなる。

「……ダリア」

呟いた名は、恋人の名前。
戦場で恋人や女房の名前を呼ぶものは、瀕死の兵隊が甘ったれて言う台詞だと何処かのアニメがそうだった。
だがそれでも呼ばずにいられなかったのは。
それはエルポス・エルブランデスという孤高が、人間となった分岐点でもあるから。

「今のオレを見たら、あいつ、泣いちまうだろうな」


442 : Rise ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:26:01 ZVAWg3x20
★★★


常勝無敗。期待に応えるオレの待遇は日に日に良くなっていく。
地下闘技場の取り仕切る元締めは、寛大だ。
裏切り者は許さないが、期待に応えるものには相応の見返りを与える。
オレには戦いのセンスというものがあったのだろう。
もともとスラム街にいた頃は戦ってしかいなかった男だ。
それは当然のものだと思ってたし、ジジィになるまでこれが続くと思っていた。

珍しく試合の無い暇な一日だった。
雨が降る中で、一人傘を差さず踊っていた女がいた。
「どうして傘を差さないんだ?」と声を掛けた

"それが、自由っていうんです"

紫の髪を雨に濡らし、雨粒のカーテンの中踊る彼女の姿が、ひどく綺麗にオレの錆びれた瞳に強く焼き付いた。
今思えば、初恋だったんだろうな。
あの運命の出会いの後に、暇さえあれば彼女に会いに行った。
ダリア。あいつの名前。オレが初めて好きになった女の名前。
稼いだ金で、初めて誰かにプレゼントした。
初めて、一緒に歩いて楽しく語り合った。
戦いしか知らなかったオレは、初めて人間ってやつになることが出来たんだ。


オレを待っていたのは、絶望だった。
不相応の願いを抱いた、代償だった。
夜の街、あいつへの手土産を持って待ち合わせの場所に向かった。
今日は無駄に娼婦が多く、組の連中が好きにやってやがると思っていた。
掛け試合でオレの戦勝祝いをやっているのかと思っていた。

そこにいたのは、闘技場の元締めとその取り巻きが。
オレの最愛のダリアが、そいつらの好き勝手にされていた。


"み、みないで……こんなわたし……"

"ようエル、最近野暮用が多くなったと思えば、こんな女とっ捕まってやがったのか"

"悪いな、こいつは俺達のオンナだ。……いや、お前は悪くねぇよエル"

"こいつは俺等の監督不手際だ。……らしくもなくキレちまって、横から奪うマネしちまった"

"謝罪、にはならねぇが、せめて今できる詫びだ。ーーお前もヤるか?"

"ごめん、なさい……ごめん、なさい……"

"ごめん、えるぴす"










ーーその後の事なんざ、わかりきったことだ。
残っているのは、散らされた花と、そいつの涙を拭うオレの姿と。
腐ったゴミだけだ。



"待ってるから、ずっと待ってるから。だから必ず、帰ってきて"


443 : Rise ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:26:17 ZVAWg3x20



「ダリア、オレは必ず。お前の所へ帰る」

外へと繋がる回廊へ、一歩ずつ歩いていく。
一歩踏み出す事に響く鉄の音。
まるであの時のように。かつて
試合前の歓声があるかないかの違いでしかない。
ガキの頃も、『ネオシアン・ボクス』の時も、そして今も。
彼女がいない世界では、オレは生きるために戦う事しか出来ない。

だからオレは今だけは、孤高の毒花として。
生き残るために戦おう。
生き残るために奪おう。
生き残るために殺そう。

「だから、待っててくれ」

いつ試合があるか分からねぇ。
オレより強いやつなんざ腐る程いる。
でも、オレは約束は守る。
どれだけ地べたを這いずり回ろうが。
どれだけ泥水を啜ろうが。
生きるための戦い。
帰るための戦い。
ガキの頃と何も変わらない。
スラム街の弱肉強食と何も変わらない。

「ーーチャンピオンの復活だ」


全てを腐らせ、全てを殴りぬけ、栄光へとたどり着け。
『ネオシアン・ボクス』の王者が、ここに帰還する。
歓喜は無くとも、その静寂が王の生還を歓迎する。
微笑むように、王者の視界に紫色の天竺牡丹の錯覚が映っていた。




【D-4/ブラックペンタゴン1F 物置部屋/一日目・深夜】
【エルポス・エルブランデス】
[状態]:健康、強い覚悟
[道具]:
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.必ず、愛する女(ダリア)の元へ帰る
1.ポイントのため、誰を殺すか。そしてどうやって生き残るか
2."牧師"と"魔女"には特に最大限の警戒


444 : Rise ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:26:33 ZVAWg3x20


     その場所にたどり着くまでは恐れはとっておけ

     審判の日が来るまで

     素早く柔軟に私に続け

     犠牲を払う時だ

     立つか、倒れるか

                             ーーRise/Origa


445 : ◆2dNHP51a3Y :2025/02/18(火) 22:26:57 ZVAWg3x20
投下終了します
割り込み申し訳ございませんでした


446 : 名無しさん :2025/02/18(火) 22:28:50 0paMh7F60
仮投下からの投下乙です。
哀愁と悲壮に溢れてて非常に良い話なのですが、エルビスが一度も正しく名前を呼ばれてなくてちょっと可哀想なので
ウィキに収録された際には修正させて頂きます。


447 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/18(火) 22:31:53 TWDGT2CI0
投下します


448 : ハイイロノヨル ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/18(火) 22:32:23 TWDGT2CI0
――なぜ私は生まれてきた。

遠い日の欧州のスラム街で自分はそう思った。

――どうせなら、ここで野垂れ死ねば――
そう思っていた、それでも、死ぬ覚悟が振り切れない。
意気地なし、その言葉が私にはお似合いだった。
こんな私を救う人は――いたのです。

――大丈夫ですか?この近くに施設があります、よろしければ、そこまで。
そう優しく語りかける彼女は、私にとっての救いのヒーロー、年齢なんて関係ない。
だから私はそれを目指した――なのに、なのになのになのになのになのになのに!

「みんななんで私を怪物扱いするの!」



広い砂浜に、夜のさざ波が響いていた。
そこには大きく育った一つの大木が有った。
そこには、一人の男が波を聞いていた。

「いいよね、夜風に浴びながら波を聞く、僕は好きだよ」
男は、年こそ積んでいるものの、好青年という印象を誰にも与えるであろう男であった。
まるで語りかけるように話す男は、今自分の正面に立つ少女と会話しているつもりであった。

「で君はどうなの?せっかくだし、一緒に」
「黙れ」
少女に、その男と会話する気などなかった、言葉を遮ったそれには、怒気が存分に含まれていた。

「酷いね、何もそこまで言わなくても」
「…お前の目は腐っている、しかも、とことんどす黒く」
「驚いた、神の目でも持ってる気かい?」
少女の断言に、男は煽るように返す。
いつの間にか、少女の周りには火が焚き付けられていた。
夜の海が彼女が生み出す火を照らす。

「さすがは、"悪魔"ジャンヌ・ストラスブールの狂信者と言うべきかな?フレゼア・フランベルジェ?」
「ッ…」
彼女に一番放ってはいけない言葉を、その男は言い放った。
好青年の顔はすでに消え、本性を現したそれは、無感情であった。
少女はあの"堕ちた英雄"のように、炎を燃えたぎらせる。
原動力は怒り、ただ、すべてを燃やし尽くす怒り。

そして、闇夜の空に怒りとともに、炎が燃え上がった。
「彼女を…愚弄するなぁ!」
フレゼア・フランベルジェという怪物はここに再熱した。
「正義の下、お前を焼き尽くす!」
「怖いね」
やはり男は無感情である。




449 : ハイイロノヨル ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/18(火) 22:32:42 TWDGT2CI0
氷月蓮にとって、殺人とは攻略本を持ってするようなゲームのようなものである。
幼い頃から倫理と人の道を理解できず、生まれついての破綻者(サイコパス)

恐怖で他者を支配し、常に冷徹な怪物。
だが、それと同時に欺瞞の仮面を常につけられるもの。
刑務所では模範囚として暮らし、アビスでの評価も高いほどであった。

そして今夜はこの男が、仮面の先の表情を見せる。
無感情、それしかない、彼をサイコパスと評せず何と評すか。

(とはいえ、こちらが完全に不利か)
氷月の超力『殺人の資格(マーダー・ライセンス)』は、敵対者の最善の殺し方を、どんなに低確率でも可能性さえあれば表示する超力。
しかし、低確率の可能性、それはつまり、下手をすれば相手を殺せず野垂れ死に。
少なくとも、氷月にその気はない。

(なら、やはりこれしかないな)
氷月は、衣服を抜き始めた、風化した囚人服を、フレゼアへ投げつける。

「邪魔だぁ!」
フレゼアの炎が簡単に囚人服を焼き払った、轟々と燃える服、しかし、それに視線と行動を許してしまった彼女には、すでに氷月の姿はなかった。

「なっ!?何処に?」
「ここだよ」
鉄仮面の様な表情を向けながら、氷月は海の方に浮かんていた、彼はフレゼアの攻略をする気など捨てていた。
あんな怪物、今相手取るのには厳しすぎる。

「おのれぇ!海に!」
火の能力では海に入ることもできず、今は彼をそのままぬけぬけと逃がす他になかった。
「次は頭を冷やしてくるといいね、英雄気取りの悪魔さん」
そして嘲笑の笑いを向けながら、氷月はクロールで泳いだ。

「ッ…おのれおのれおのれおのれおのれ!」
浜辺でフレゼアは怒りの炎をさらに滾らせ、怒りの慟哭を空へと叫ぶ。
先ほど氷月のいた大木は、炎により燃えて倒れていた。
「あの様な怪物を取り逃してしまうなど…!これでは…あの子に顔向けもできない!」
正義の怪物は歯車を回し続ける、海辺であるため、炎はそれ以上伸びなかった。

「この24時間以内に、あの子を除いた囚人だけではない…この狂った司法も世界も!丸ごと!燃やし尽くしてやる!」
英雄に照らされた華は、正義を目指し、化生と化した。
その憎悪は、世の中すべてに向けられていた。

【A-6/浜辺/1日目・深夜】
【フレゼア・フランベルジェ】
[状態]:健康、怒り(大)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本."全てを燃やし尽くす
1.手始めに囚人を、その次に看守を、その次にこの世界を。



一方、氷月は泳ぎ続け、別の浜辺へ到着することができた。

「あれが狂信者の末路、実に怖いね」
顔はやはり笑っておらず、言葉に抑揚は無い。
「…このアビスには、まだ未成年にも満たない人間も収監されている」
デジタルウォッチのつけ、交換リストを確認する。

「…だが、ここで無闇矢鱈に殺して、全員の的になるわけにはいかない、まずは誰かに取り入ってチームを作って、その輪の中で殺す、それで行こう」
氷月にとって、他人の命は巨人から見た虫のようなもの。
ある意味平等に、殺しを遂行していくのだ。

そして、今宵も仮面を被り、模範囚を演じていく。

【B-5/浜辺/1日目・深夜】
【氷月 蓮】
[状態]:健康、上裸
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本."恩赦Pを獲得して、外に出る
1.まずはチームを作る、そしてその中で殺す


450 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/02/18(火) 22:32:54 TWDGT2CI0
投下終了です


451 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/19(水) 00:02:02 XftKROtw0
みなさま投下乙でした

>正しく死にたい、正しく死ねない
地図からブラックペンタゴンや工業区に目を付けるのは開発畑の人間らしい目の付け所、他の奴らが自由すぎて気にしてなさすぎると言うのはそれはそう
目覚めたネオスが生き方を決めてしまう社会、特に人を傷つけるしかないネオスだったらどうしようもない、本人は否定してもジェーンさんは超力社会の歪みの被害者だよ、はやり超力社会は壊さねばならぬ……
そして、仲間の仇。死者の人格を奪い取るただ殺すよりも性質が悪い、あの弾丸にどれだけの恨みが込められているのか、本条さんは因縁の玉出箱やで〜

>Rise
くそったれな人生を歩んできた男が得た、栄光と地獄。恋人の下に戻る事を誓う姿にはどこか悲哀を感じさせる
地下格闘技の無敗のチャンプというネームバリューは相当なもの、他の格闘系の腕自慢との戦いがどうなるのか今から楽しみすぎる
放置気味だったブラックペンタゴンにも人が集まってきて、意味深なこの施設に何があるのか注目したいところ

>ハイイロノヨル
フレゼアさんが狂犬すぎる、話が通じなさ過ぎてこ、こわい、ジャンヌ以外全員にこの調子の可能性すらある
氷月は逆に冷静すぎる、狂人に絡まれても淡々としていて感情ないんんかコイツ?と思わざるをえない
無差別路線とステルス路線でどっちも怖いマーダーになりそう


452 : ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:14:47 FHXtXftk0
スプリング、イグナシオ、北鈴安里で投下します。


453 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:15:48 FHXtXftk0
かつての熱気や騒音溢れた活気はなく、静まり返った世界。
月光は、天高く伸びる煙突を浮かび上がらせる。

建物の明かりはないが、僅かな街灯が道を所々照らし上げていく。
使い古され風雨にさらされた燃料缶やコンテナ、パレットが散らばっている。
割れた舗装の隙間からは雑草が伸びて、我が物顔で穂を伸ばし種を散らせていた。


その中を歩いていく影が一人。
細めで身長が高く整った容姿に、似合わない刑務服が脱獄者のようで。
この場においては、それが刑務作業の参加者であることを示していた。


男は腕を前にかざし、力を籠めるように手指を動かす。
仕事柄、土地の違和感を感じ取るのには慣れていた。
つい先ほどかのように新しく、草を踏み倒した跡があったのを男の赤い眼光は見逃さない。
誰かがこの場所を通過したのではと感じて、自らの超力(ネオス)を発動し更なる情報を読み取ろうとした。

男の持つ超力は、過去の土地の姿の再現。
"トランスミシオン ヘオロヒコ(Transmision geologico)"と彼は自分の超力を呼んでいた。
イグナシオ・"デザーストレ"・フレスノ。彼はスペイン語圏の出身だった。


超力により、過去にその場所で起きた事象が再現される。
その特性上、人間の存在自体は再現されないが。
草を倒した時の様子、土埃の様子、足音の向かう方向。様々な情報が確認できる。
"どうしよう、とりあえず……"と、歩きながら発したのか思い悩むような若そうな男の声も再現される。

男は納得し発動を解除し、暗闇の中足跡の先を追っていく。



 ――――――――

 ◇

 ――――――――



たどり着いたのは、一つの工場の建物。
イグナシオは能力を定期的に発動しながら、この中に追う人物が入っていったことを確かめた。

薄暗い外よりも、更に暗くなっている屋内へと歩みを進めていく。
電力は少しは生きているのか、非常灯などが僅かばかり付いている。
また屋根は建屋の屋根は鋸切状になっており、昼は自然光を間接光として受け入れられるようになっている。
夜目が慣れれば、歩く程度には全く支障はなかった。


しかし、中に入って歩みを進めるとすくに目に付く物があった。
建屋内に壁や窓で区切られて設けられた、事務室として使われていたであろうスペース。
そこが不自然に全体的に白く浮き上がっている。

近づくほどに、何故か気温が下がるのを感じる。
そう、白いのは空気中の水分が温度低下によって付着した結露によるものだった。
窓は完全に結露し白く濁り、中の様子は全くうかがえない。


明らかに何かが起きたであろう怪しい部屋。
しかしイグナシオは臆することなく先へ進んでいく。

やがて部屋のドアの前までたどり着く。
よく見ると結露だけではなく霜もかなり付着し、細かく分枝した氷の結晶が金属部分を覆っていた。
失礼いたします、と呼びかける。

応答はない。
ノックする。応答はない。

ドアノブを、手を服の袖で覆って握って回そうとする。
しかし中からカギがかけられているのか、空回りするばかりだった。


454 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:16:31 FHXtXftk0


イグナシオは……扉を無理に開けることは選択しなかった。
強硬手段を避けるかのように、中に言葉を投げかける。

「中にいらっしゃいますよね。
 私は戦闘をするつもりはありません。
 首輪を狙うつもりもありません。
 話をしていただけないでしょうか」

暫く沈黙が流れるが、やがて中の人物が返事を返した。
相手がすぐに戦うつもりは確かになさそうなこと、このままでは埒が明かないことを認知したかのように。

「なんでわざわざ話しかけに来るんですか。
 明かにやばそうでしょここ。
 こうしとけば、あんまり人が来ないんじゃないかって思ったのに……」

返事は、新雪のように柔らかい女性的な声だった。震えて、自信もなさげだった。
イグナシオは、ややいぶかしげな表情となる。
超力を発動して先程まで聴いてきた過去の声と、今聴いている声が一致しないからだ。
しかしそれについて考えるのは後にして、会話を続ける。

「そちらも積極的に戦うつもりでないなら、良かったです。
 戦闘は可能な限り避けたいと思っているんですよ。
 しかし、なぜこのようなことを?」
「ボクは今のところ、ここを出るつもりはありません。
 誰ともかかわらずにやり過ごしたいって思ってます」

一人称はボク。
そして声質は違うが、話し方は追っていた声とそっくり。
何か超力の影響で声が変わっているのか、とイグナシオは思案する。

「ここに籠るつもりなんですね。
 確かに刑務作業に関わらず24時間やり過ごせれば、プラスもマイナスもなく現状を維持できる。
「そうです。ボクは自分のために何かが欲しいとか刑期を短くしたいとかもない」


「――――けれど、本当に何もしたくないわけでは無いのでは?」

確信を持ったようなイグナシオの問い。
ここに来るまでに超力を使って回収してきた、中の人物の歩きながらの独白からの推測である。
単純だが、確かな証拠だ。


「何が分かってるんです? でも……そうですね。
 ボクは本当に何もせずやり過ごしたいってわけじゃあないです。
 でも、下手に出歩いたら他の囚人に殺されてしまうかもしれない」
「死ぬのが嫌だから――――では、無さそうですね」

また見透かされるような質問。不思議さを感じる。
しかし中の人物の方からしても、逆にこの方が遠慮も前置きもなく話しやすいとも感じていた。

「ええ……怖いのは自分が死ぬことじゃないです。
 もしも自分を仕留めた相手が凶悪犯だったら。
 その分の刑期が短縮されてしまうから。
 そうなったら彼らはそれだけ外の世界で悪事を働けるようになる。
 それが――――――恐ろしいです。とても」

沈んだトーンで発される女性の声。

「優しいお方ですね、貴方は。
 他人の事や平和の事をしっかりと考えていらっしゃって」

「――――優しい?
 言わないでください、そんな事。
 ボクは優しくなんてない。
 優しいって言われてもそれを信じられない。
 じゃあ何で、ボクは無期懲役でアビスに収監されているんだ?
 そしてそれだけに値する罪を犯したって、自分で納得できるんだ?」

自分のことを強く否定するような声。
自己否定の文言なのに、語気は強く自信があるかのよう。
しかしそれを更に否定しようとするイグナシオ。

「しかし、貴方は他人のことも考えられている。
 冷たい人物ではない。そう感じられましたよ」

「違いますよ。ボクは。
 優しいっていうのは、きっと他人のために積極的に動いて行動できることで。
 自分の気持ちやエゴに囚われずに。
 そして相手が良かったって、嬉しかったって後で思えるようなことを。
 でも、ボクはそれが何もわからない。
 間違えたくない…………人を傷つけたくないです。
 何にも確信を持って行動できません。
 それじゃあ動かず誰とも関わろうとしないように、迷惑にならないように。
 そうするしかないんです」

自分を卑下する言葉だけを綴る声。
しかし、イグナシオは見ている。
その裏に存在するであろう意思をも。
間を開けた後に、イグナシオが語り掛けていく。


455 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:17:05 FHXtXftk0

「――――――もし宜しければ。
 私と共に、行動しませんか?」

誘いの言葉。返事はない。
イグナシオは続けていく。

「私は、改心の余地のある子供や、冤罪を訴える人々を護りたいと思っています。
 このような殺し合いで、そのような人々の命が奪われるのは間違っている。
 そうは思いませんか?
 ポイントに目がくらんだ凶悪犯から、彼らの生命を守る。
 それはきっと、他人のために積極的にやるだけの価値のある行動だと私は思っています」

イグナシオは行動指針を提示する。

中の人物は……思案する。
なぜそのような行動を自分で思いつかなかったのか。
一人で不安だったからか。
自分は積極的に動くのは向いていないと、ずっと思い込んでいたからなのか。
わからない。わからない。
ひどく自分が無能でちっぽけに見える。

しかし、その提案自体は非常に魅力的だった。
自分勝手な感情を抑えきれず人を殺してしまった自分が。
そんな自分が。
罪滅ぼしのように善行をできるかもしれない機会なのだから。

色々な感情が駆け巡る。
そうしてしばらく時間がたち、イグナシオが話し出す。

「どうでしょうか。
 正直私も、大きな目標を掲げたものの。
 一人だけで進めていくのは困難だと思っています。
 協力者がいてくれると非常にありがたいのですが……」

イグナシオの助けを求めるような発言。
それが、決心させる最後の一押しになった。

「わかりました。ボクもそれに協力します。
 ――いえ、違います。
 協力させてください。
 力になりたいんです」

肯定の声。
イグナシオは協力者が得られ、安堵する。
少し待ってくださいと女性の声が聞こえ……中から氷が蒸発するような不思議な音が聞こえた。

そして、扉を開けて出てくる男。
陰鬱そうな表情と堅めが隠れた髪型の、線の細い日本人男性。髪の色や爪の色に青が目立っている。
黒いマスク……は、没収されるアクセサリーとしての扱いではなく、気管や肺が弱いと言って医療用に許可して貰っている物である。
彼は超力の影響か体が冷えやすく、昔から風邪等にかかりやすかった。
アビスに入ってからは超力が封じられているためか風邪はないのだが、最初に申請した名残で今でもマスクが許可されていた。
自己紹介の場面だが忘れているのかそもそも外す意識が無いのか、着用したままである。

「イグナシオ・フレスノ。しがない探偵をやってました。
 超力は自分の前方に過去の土地の様子を再現して再生する能力です。探偵活動用ですね。
 よろしくお願いします」
「北鈴……安里です。超力は……その。氷を扱う龍に変化します。
 よろしくお願いします。フレスノさん」

自己紹介の声は、女性のものではなくしっかり変声期を経た男性のものだった。
安里は日本人としては大柄な自分より更に大きいイグナシオにやや慄き、同時に首輪に入った刑期の文字にもちろん最初に目が行く。
死刑、と書かれていた。しかしそれを恐れることはない。
自分も無期懲役ではあるが、アクの強いアビスの囚人の中では穏やかな人物ではあると思っている。
なら死刑だろうと穏やかな人物はいるのだろう、探偵なら政治的に不都合な真実を暴いてしまったとか事情もあるのだろうと思案するにとどめた。



 ――――――――

 ◇

 ――――――――


456 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:18:08 FHXtXftk0



そこから2人が方針について詳しく話し合おうとは、ならなかった。

2人が対峙した直後のころ、更なる乱入者が一人建屋内に入ってくる。
足音の感覚は短く、子供のようで。
その音は奥の方にいる2人の耳にも当然入ってくる。
対応について2人は小声で話し合う。

「どうしましょうか、フレスノさん。
 たぶん子供が一人来そうですよ。護らなきゃいけない存在かもしれないですよ」
「分かっていますよアンリ君。上手く話して信頼してもらいましょう」

しかし不安そうに落ち着きがない安里。
それを見かねたイグナシオが促す。

「私一人で対応しましょうか?
 貴方は事務スペースの窓の結露を少し落として、そこから見ていてください」
「そ……そうですね。
 あまり人と話すの得意じゃなくて。ありがとうございます」

安里はさっきまでいた事務スペースへ下がっていく。
そしてイグナシオが残り……やがて入ってきた少女と対峙する。



薄暗い明りの中でも、鮮やかな赤い髪が目立っていた。刑期は18年。
11-12際程度に見える小柄な身体。縮こまりおびえた様子だ。
なぜだか服は適性のサイズよりやや大きく緩いものを着ている。
イグナシオは優しげな表情を作り、しゃがんで姿勢を低くし目線を合わせる。

「お嬢さん、怯える必要はありません。
 こちらに貴方を襲う気はありません。戦う気はありません」
「そう……?
 後ろにもう一人いるでしょ?
 本当に?」
「ええ。本当です。後ろにいるのは私と同じ志の仲間です。
 子供がこのような場所で命を削って戦うことなんてないですよ。
 子供が死んでいくなんて、見過ごせませんから。
 保護したいと考えているんですよ」
「そう?怖かったの……ありがとう。
 それなら……」

少女がイグナシオにより近づいていく。

そして。

――――少女の身体が肥大する。

筋肉が節くれだつ。
全身がざわめいて、体毛が密生し身体を赤く彩る毛皮となる。
脚の関節が変化し、食肉目らしい瞬発力に優れた形態に。
耳の位置が変化し、毛におおわれて立っていく。
口吻部が伸びて、触毛がそこから生えそろっていく。
手には堅い肉球と、堅く野太い赤い爪。
背面には、獣化していくことを示す尾が現れる。

一瞬のうちに少女は、深紅の大きな人狼へと変化した。
その体格は、身長で見ればイグナシオと同等か。


変化が完了するより前、途中の段階ですでに少女はイグナシオへとびかかっていた。
そして……完了するころにはイグナシオの位置へ。
口を開き、首に噛みつこうとて……いたが、イグナシオは反応し横へ飛びのいていた。
それを確認し不意打ちが失敗したことを理解した人狼は、改めてイグナシオの方を向く。

「ちっ、全然警戒してんじゃねぇかクソ野郎」
「いえいえ、流石に一筋縄じゃ行かない子供も多いって分かってますよ」

鮮やかな髪を残し、気品さえ感じられるような狼の顔を似合わず歪ませて悪態を吐く。
そしてまだ微笑みを崩さないイグナシオ。

「アホくさ。血なまぐさ。
 狼の嗅覚ならわかるぜ、テメエどんだけ殺してきたんだよ?
 それでアタシに向かって"戦う気はありません"だってぇ?」
「ええ。本当に戦う気はありませんでしたよ。
 お嬢さんが、先に手を出してこなければね。ふふっ……」
「本当に戦う気がないなら、その場で首掻っ切っておっ死んでくれるとありがたいんだけどな?」
「それではいけません。そんな終わり方は私には許されません」

イグナシオが手を人狼に向ける。超力を発動する合図だ。
その超力は探偵活動用のはずである。
しかし……。


457 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:18:59 FHXtXftk0


イグナシオの前方。
土地の様子が揺らぐように変化。
そして。

人狼の身体を急に冷気が襲う。
状況を判断できない。
とりあえず、引かなければ。
反射的に飛び退く。

しかし、間に合わなかった。
人狼の下半身は、イグナシオの眼前に形成された氷山に埋もれて固められてしまった。

「トランスミシオン・ヘオロヒコ!!
 これが私の超力です!」

超力を叫ぶイグナシオ。
その顔は先ほどまでの穏やかさが嘘のように、狂ったような笑みを浮かべていた。

イグナシオの超力、トランスミシオン・ヘオロヒコの効果は「過去の土地の様子の再生」。
過去は……ここ数時間や数年程度の人間が観測できる時間とは限らない。
太古の時代。目に見えるサイズの生物が全く存在しなかった頃。
地球は寒冷化し、全体が凍結し氷に覆われていた時代が存在した。
全球凍結。スノーボールアース。
イグナシオが再現した過去の風景は、これである。

――人狼は。
流石に身体まで凍ったわけではない。
氷を破壊して脱出を試みようと身体を動かし……やめた。
もちろん諦めたわけではなく。

やがて、身体が縮小していく。先ほどとは逆のように。
やはり一瞬のうちに体毛も引いていき、元の人間の姿へ。
その縮小した差分を利用することで、氷山からスマートな脱出を果たす。

「おやおや。イキったクソガキの頭を冷やすのには丁度いい技だと思ったんですがねぇ」
「冬の路地裏で一晩過ごすのに比べたら数段生温かったけどな」
「ふふっ、違いないですね!」
「決めた、テメエも後ろのナヨナヨしたジャップのホモ野郎もぶっ殺してタバコと酒に変えてやるわ」

同じ穴の狢なのだと理解し合う二人。
イグナシオは次の発動に備え能力を解除、氷山は消えていき後には工場の床が元通りになる。
少女は、再び人狼に変化し脚力を活かし高速で接近。
超力を発動させる時間も与えないように格闘戦を挑みに行く。

人狼の野太い爪の連撃がイグナシオに襲いかかる。
ネコ科の爪のような鋭さこそないが、硬さは充分。
肉を引き裂きえぐり取るような重さを持った攻撃である。
戦闘慣れしたイグナシオはその速さには対応できる。

格闘技とかを体系立てて習ったことはなくても、ただただ彼の周りにはいつも戦いがあったから。
生きるには強くなければならなかったから。

それでもギリギリで躱し受け流すのが精一杯。
やがて、受け止めきれず腕に重い一撃。
瞬間的に肩を引っ込め、後ろに飛び退き衝撃を受け流す。
そして。

「トランスミシオン・ヘオロヒコ!」

距離が離れたのをきっかけに超力を発動。
今度は……溶岩の海が出現し、工場内を赤く照らしていく。
原始地球の地殻がドロドロに溶けていた時代。
マグマオーシャン。表面温度は1000℃を超えるだろう。
マグマの比重は重く、人体はその上に浮遊して身体の自由が利かないまま肉を焼かれることになる。

しかし、人狼は慌てない。
脚に力を入れ……思い切り溶岩の表面を蹴って踏み切る。
そして、身体が大きく跳ねた。
液体だろうと、強い力で蹴り出せば反作用により上で跳ねることは可能である。
水面で素早く足を動かして進まないように走るのと、原理は同じことだ。

溶岩にミルククラウンのような跡を残し跳び立ち、イグナシオへ飛びかかっていく人狼。
しかし、イグナシオも相手の膂力を理解し対策をすでに作っていた。

「ああ……痛い!痛いですねえ!」

同時に後ろへ飛び退きながら、超力を解除、再発動。
イグナシオの前に今度は大量の水が、下から浮かび上がっていく。
まるで海が下から工場の天井あたりまで円柱形にくり抜かれたかのように、徐々に水は溜まっていった。

太古の地球は、現代の地球より水の量が多かった。
海抜0mの高さも、もちろん現代より高い位置に来ることになる。
すなわちこのような島ならば、過去の時代を再現すれば海の中の水中をも作り出すことができる。


458 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:20:22 FHXtXftk0


飛びかかる人狼は、突然現れた水に突っ込む形となり勢いが一気に抑えられ動きが制限される。
そしてその怯んだ隙を見逃さず、イグナシオは即座に能力を解除。
水がなくなり垂直落下する人狼に合わせ、腹部を思い切り蹴り上げる。

流石の人狼も新人類の全力の蹴りを入れれば吹き飛んでいく。
しかし、地面に着地する前には体勢を立て直し受け身を取った。
それを見やるイグナシオ。どうやら大したダメージにはなっていないらしいことを理解。

「強いですねえ貴方!
 私はここで終わってしまうかもしれない!
 その死と隣り合わせの恐怖が!
 私に生を実感させてくれます!
 "Me quemo!"」
「狂ってんなテメエ。まあそんな奴珍しくもないけどなぁ!?」

目を爛々と光らせながら、次の一手を思案するイグナシオ。
溶岩は脱出される。全球凍結も反応されて回避されれば意味がない。隙を作って完全に閉じ込めなければ。

とりあえず大ダメージを与えるか……月形成のジャイアント・インパクトか、後期重爆撃期か。
生身の人間ならまずぺしゃんこになる威力の一撃だが、まあ一発なら死にはしない気がする。
それとも大気に酸素が少なかった植物繁栄前の時代を再現して酸欠させて嵌めるか。呼吸を止めていたら効かないが。

一方で人狼も、相手の手札を出来る限り明らかにしようと伺っている。
氷にも溶岩にも水にも、次はもっと効率よく対応できる自信がある。
戦い慣れこそしているが、身体能力は通常の人間と変わりない。
噛み付きか、蹴りか。致命的な一撃を通せさえすればいつかは勝てる相手だ。
自身の耐久力が破られる様子もまだないし、今のところは余裕がある。


暫く生まれた硬直。


しかし、そこに横やりが刺さる。
雹の礫が2人に向けて、ボコボコと細かいジャブのように襲い掛かってくる。

反応し、雹の襲ってくる方向を見やる二人。

全速力で駆け寄る、細身の白を基調とした体色のドラゴン。
そして、二人の間にたどり着き、地面に手を叩きつける。

手を突いた先、ピキピキと音を立て地面から何かが生えてそびえていく。
それは、複数の1mから2m程度もの長さのある氷柱だった。
剣山のよう名密度で、徐々に面積を増やしていく。


そうして、イグナシオと人狼は分断された。
相手側の援護か?と思う人狼。

しかしドラゴン……氷龍は、イグナシオに向かって行き気性荒く話しかける。

「フレスノさん!
 何やってるんですか!
 何めちゃくちゃに戦ってるんですか!
 相手は子供ですよ!」

息を強く乱して吐きながら、雪のように柔らかな声を吹雪のように荒立てて話す氷龍。
冷静ではないのか、声とともに口からは冷気のブレスが少しずつ漏れ出ている。
その度にイグナシオは凍えるような、皮膚が凍てつくような感覚を感じる。
寒気と同時に、興奮も徐々に冷えて収まっていった。

「アンリ君、何するんですか?
 この子はもっと痛めつけないと大人しくなりませんよ。
 大人としてちゃんと?って躾けないと」
「じゃあ何であんなに楽しそうに戦ってるんですか!
 ボクに穏やかに優しく、子供を護りたいって言ったのは嘘だったんですか!
 超力も全然探偵活動用と違うじゃないですか!
 あのままじゃどっちかが死んでしまいます!」

口論する二人。その声を聴いて人狼は、まあ仲間割れしてるなら放っとくかと待機する。
というかさっき後ろに見えてたの男だったよな?
何で女の声で雌っぽいドラゴンなんだ? と、当たり前の疑問を少し考える。

「それは別に対立しませんよ。ふふっ。
 これが私なんです。
 戦いが好きで、血が好きで。それで自分が生きていると実感できる。
 でも、自分から狂犬のように喧嘩を売ろうとは思っていない。
 子供や冤罪の人々を護りたい、それも嘘偽りない私の心です。
 私の超力も、探偵活動に使えるのも事実、戦闘に使えるのも事実。
 かなりの痛手を負わせても、殺すつもりはありませんでしたよ」

「そんな――――そんなことがあるんですか?
 あんなに楽しそうで、狂ってるように見えたのに。
 貴方は自分を自制出来ているんですか?」

「そうですね。自制は、正直に言うとそこまでできていません。
 そうでなければ、この首輪に書かれたように死刑になんてなっていませんよ。
 それでもどうしても越えたくない一線が私にはある。
 それが、子供を殺したくない。将来を奪いたくない。
 子供に、私のような荒んだ道を歩ませたくはないという気持ちです」

「――――信じていいんですか?」

「これからの言動で、証明します。
 それが守れなかったら、君は私を殺しても構いませんよ」
「そんな……。もう、ボクは信頼しようとした人を殺したくないんですよ。
 ずるいですよ。そんなことは言わないで下さいよ……」


459 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:21:10 FHXtXftk0

俯く氷龍。
しかし、それは今は彼を信じてみるしかないという肯定の意志でもある。
イグナシオも、狂気に染まった笑みはいつの間にか消えていた。

しかしそれで終わらせてくれないのが、対峙している人狼である。

「うざっ。なにセンチになってんだよ。
 オカマドラゴン野郎、ポコチンも寒さで縮こまって消えちまったか?
 そっちのバトルジャンキーと1対2でもこっちは何も構わないぞ?
 内蔵引っ張り出してぐちゃぐちゃのシワくちゃにしてやるよ。
 ドラゴンのモツはどんな味がするんだろうな?」

イグナシオが挑発に乗らず応答しようとする。
しかし、その前に口を開いたのは氷龍の方だった。

「君は……!
 君はさ。どうしてそこまでして戦って、恩赦ポイントが欲しいんだよ?」

恐る恐るというような問いかけ。
人狼は傲慢さと侮蔑の感情を隠さずに応答する。

「あっ? んなもんこの豚箱から出るために決まってんだろオカマトカゲ」
「そうだろうけどさ……出たら何したいんだよ。何のために出たいんだよ」
「入る前と同じだよ。
 クソ野郎のダチ共のとこに帰って馬鹿やったり気に入らねえ奴殴ったり、クソ面倒だけど面倒みたりすんだよ」

沈黙し、思慕する氷龍。
時間は流れ、やがてしびれを切らしたように人狼がまた挑発をかけようとする。
しかしそこに被せるように、氷龍が先に言葉を発した。

「あのさ……その。それなら。
 ボクの首輪のポイントあげるよ」

空気が固まる発言。意図がわからないイグナシオと人狼。
言葉を続ける氷龍。

「もしもボクが死んだら、ボクの首輪のポイントを君にあげるから。
 もしも殺し合いの最後までボクが生き残ってたら、ボクを殺してポイントにしていいから。
 それでさ、この場は戦うのやめてくれないかな……」

静かな自己犠牲の発言。

しかし、聴いている2人はその発言に流石に突っ込みを入れざるを得ない。

「は? 自殺大国ジャップのメンヘラは考えることが違うな?
 脳味噌まで玉袋みたいに萎んで機能低下したか?」
「アンリ君、そんなに命を粗末にしてはいけないですよ」

「――――ボクは本気です。君の刑期は18年でしょう?
 これで子供が一人助けられるなら、ボクの命は軽いもんですよ。
 フレスノさんも子供を助けたいんでしょう?」

冷たい青黒い目は変えず、憂いを帯びた表情のまま話す氷龍。
しかし、そんなことは周りは受け入れられない。

「それでこの子を本当に助けられるって考えですか? アンリ君」
「なるほどなあ。全然助かるけどね。
 本気だってんならさ、今すぐこの場で死んでポイントになってくれよ。
 余った分でタバコとか酒とか買うからよ、100ポイントさん」
「それはできない。君、ポイント計算せず使っちゃいそうだし。
 それにボクが生きたまま君と共闘したほうが、君が殺し合いの最後まで生き残れる可能性が高くなる」

何言ってんだコイツと、人狼が氷龍に歩み寄り殴ろうとする。
イグナシオはそちらに手を向け、超力の発動を仄めかし牽制。

「アンリ君、本当にこれでいいとお思いですか?」
「じゃあどうすればいいっていうんですか?
 仲間たちの下へ帰りたいってのは人間の自然な感情でしょ?
 ボクにはそんな人たち、もういない。
 それならボクが死んでこの子が恩赦を得るのがいいはずじゃないですか」
「あのですね……」

二人が口論を始めようとする。
それを見ていた人狼。
意味が分からないし、やる気が削がれ呆れだす。

「はあぁぁぁぁ。もうメンドイ。
 このままお前らと戦うのもめんどいし、お前らの話に付き合うのもめんどい。
 誰かを護りたいとか建前にして戦いたいだけのジャンキーと、自殺志願者と来た。
 疲れたし暫く休んでる。
 何かアタシがもっと納得できるような分かり易い話をちゃんと考えて持ってこいよ」

そう言い残し、工場建屋内の少し離れたスペースへ歩んでいった。



 ――――――――


460 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:21:57 FHXtXftk0



姿が見えなくなってから、イグナシオと氷龍がまた話し出す。

「アンリ君。たぶん分かってないと思うので言いますが、彼女はストリートギャングのリーダーですよ」
「ストリートギャング?
 アメリカのオープンワールドゲームとかに出てくるやつですか?
 あんな小さい女の子が、そんなこと……?」

その発言から、イグナシオは安里の人となりを想像した。
たぶん、世界の中でも治安がまだマシな方の日本の中でも、さらに平和な地域の出身だったんだろう。
犯罪組織の存在なんかを普段意識せずに過ごせる地域は、世界的に見れば存在している。
イグナシオの出身はラテンアメリカであり、生憎とそういう地域ではないのだけれど。

「そのストリートギャングですよ。
 日本も治安は悪化していますが、まだ良いほうですよ。世界的に見れば珍しいものですよ。
 でも福祉支援が人々にいき届かなかったり、充実した生活から溢れてしまう人々がいます」

確かに、高価なシステムAを活用した児童養護施設とか障害者施設なんかも日本には一応ある。
でも、世界がそういう設備を充実できるとは限らない。
行き場のない人々は、暴力する超力や衝動を抑えきれない人々はどうなるのだろう。

「そして、行き場のない子供たちが集まり超力犯罪を幾度となく引き起こした悪名高いストリートギャング"イースターズ"。
 幼い頃から暴力的な獣化の超力を発動し、9歳にしてトップに立ったリーダー。
 人間の姿のときわずかに見えた首回りのバラのタトゥー、そして真紅の人狼に変化する超力から見て間違いないと感じました。
 スプリング・ローズ、それが彼女です」
「スプリング・ローズ……」

安里は、その名前に聞き覚えはなかった。
安里が投獄されたのは三年前。
日本なら裏社会の関係者でもない限り、その頃には耳に入れようがないだろう。

「それを知った上で、どうします?
 彼女がこのまま恩赦を受ければ、前と変わりないように犯罪行為を繰り返していくでしょうね。
 そしてまた同じように逮捕されアビスに収監されてしまうかもしれません。
 18年の刑期は、更生のための期間とすれば妥当とも言えますよ」
「そんな……それならどうすれば……。
 犯罪の道から抜けさせるには、ここで誰も殺さないように説得するには……」

小さい子供の凶悪犯罪者。
安里もアビスの中で自分より小さい子供の犯罪者を見てきてはいた。
しかし、今までは他人と極力関わらないようにしていた。
こうして実際に出会い、どうすればいいか悩むのは初めての経験である。

「フレスノさん。どうすればいいんでしょうか」
「君も良く考えて見てください。
 自分で考えるんですよ。君も子どもから大人になる年齢だ」
「そんな……」



 ――――――――

 ◇

 ――――――――


461 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:22:50 FHXtXftk0



工場建屋内の片隅。段ボールや発泡スチロールの集積された廃棄物置き場。
スプリング・ローズは人狼の姿のまま横になり目を閉じていた。
体躯は人間の際よりだいぶ大きいが、その寝顔は気を抜いた野生のオオカミのようにどこか可愛らしさも併せ持っていた。

そこに歩みを進めていくのは、青髪に黒マスクの日本人の青年。

やがて距離が近づくと、真紅の人狼が反応した。

「どうしたナヨナヨホモ野郎、何か話はついたか?」
「いや……そういうわけじゃないんだけれど」
「ああ? アタシの話聞いてなかったのか? お子ちゃまか?
 帰ってパパのミルクでも飲んでネンネしてな」

安里は……スプリングからの煽りはほとんど響かなかった。
自分に自尊心がなく、反応して怒るような気分にもなりようがないからだ。
貶されても、まあそうかと思う程度に心が低調なのだ。

一方でその煽りの表現を聴いて。
彼女も子供の頃、性的虐待などを経て孤立せざるを得なかったのか等と思案する。
しかし、あの強靭な狼になれる彼女がそんなことをされてる所は想像できなかった。
実際にないのだろうとは思う。たぶんギャングの仲間とかネットとかで知ったんだろう。
でも性犯罪関連の加害者も、被害の経験もある者も結構いるのがアビスだ。
3年もいれば噂は色々耳にするし、というか自分が加害者ではあるのだから。

「いや話を持って来るにしてもさ、こっちは君のこと全然知らないし。
 少しくらい君から話を聞かないとと思って」
「――気に入らねえこと話したらすぐにでも殺してポイントに変えるぞ、引きこもりジャップのザコが」

とりあえずすぐに追い返されることはないようで、安心する安里。

「あの……本気で、人を殺すこととかに抵抗はないの?」
「別に。普段は殺そうとすると色々めんどいけど、殺しに大きいメリットがあるならやらないわけねえじゃん」
「そうか……本当にギャングなんだ」
「ああ? 今更かよ」

話題を変える安里。

「どうして狼の姿のまま寝てるんだ?」
「……人間に戻る必要がないだろ。
 手を器用に使いたいわけでもねえし、仲間に目線合わせる必要もねえし、ヤクも酒もねえし」

怠そうにスプリングが答える。
最初に見せた可愛らしい少女の姿はどこへ行ってしまったのか。

「もしかして子供の姿の方がいいのかテメエ?
 キモいやつとかお節介やヤツはだいたいそういうこと言うよな。ロリコンかよ?」
「いや違うよ……ボクもドラゴンに変化する超力だし、人間じゃくても全然」

否定せず素直な気持ちを伝える安里。

「薬物とか酒とかやる時は、人間のほうがいいんだ?」
「そうだな。どうもこっちの身体だと効き目が弱くなる。
 ただ一度だけこっちの身体だとどれくらいでラリるのか試したことがあったが、だいぶヤバかったぞ。
 平和ボケのジャップにはわかんねえか」

安里は……それを聞いて一つ気になったことを聴く。
自分の過去の罪に関することだ。

「あのさ……セックスとかするときは、人狼の方と人間の方どっちでやる?」
「は? 気になんのか? まあ場合によるな。
 色々試したよ、セックス系のドラッグも色々やったし。
 噛み付いたりしながらヤると、雄どもが痛がりながら喘いだりしててめちゃくちゃ笑える」
「へえ、やばいねそれ……」

笑った方がいいのかどうか分からず、無表情で返す安里。
日本人のくせに驚かないのか? 可愛そうだとか思うのか?
とか、聞かれるかと思ったけどそんなことはなく。

本当に彼女は他人にどう思われようと気にしないんだろう。
その場の快楽で刹那的に生きながらも、自分らしさを貫いている強い人間なのだ。
そう安里は思い、気が抜けたように。

安里の身体は氷に覆われていき、氷は肥大化していく。
そうして、氷山のようになった氷は割れ、中から白いドラゴンが現れた。

「なんだ? アタシが怖くなったか? オカマ野郎」
「そうかもね」

仰向けのスプリングから少し離れた横、腹ばいの姿勢になる氷龍。
特に深い理由はなかった。単純に人外の存在同士で同じ目線の高さになりたかったのだ。


462 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:23:37 FHXtXftk0

「君、スプリング・ローズっていうんだって?」
「あ? 知ってんのか?」
「いや、さっきフレスノさん、イグナシオ・フレスノさんに聴いた。
 結構裏社会では有名人だって」
「まあそりゃそうだな」
「ボクは……北鈴安里」
「知らねえよ。覚える気もねえ。
 オカマのドラゴンってのは頭の隅に残りそうで嫌だけどよ」
「まあ、そりゃそうか……」

横になり並ぶ人狼と氷龍。
次に話す言葉が思いつかない。
沈黙が流れてしまう。気まずい。

すると人狼の方が口を開いた。

「お前が近くにいると寒気がすんだよ。
 変態だからか? どっかいってろよ」
「あ、ああ……」

そう言われてしまっては、流石にすごすごと氷龍は退散していく。



 ――――――――

 ◇

 ――――――――



イグナシオの下に戻ってきたのは、男ではなく氷龍だった。
まるで幻想生物動物園だなあ、と考えて少し笑みが出るイグナシオ。

「どうでしたか、アンリ君」
「少し話したんですけど、追い返されちゃいました」

落ち込んだトーンで話す氷龍。

「あの、フレスノさん。
 氷龍になったボクの周りって寒いですか?」
「いえ? 冷気を使ってなければ特には感じませんよ」
「そうですか……」

安里は……悩んでいる。

強い精神を持った彼女。同じ獣化系の能力を持ちながら自分とは全く違う。
憧れすら感じてしまう。
獣化した姿は自分とは違う方向性で、ワイルドさと可愛らしさと気品が全て備わっていて綺麗なのだ。

そう、強いままの彼女でいてほしいと思う。
でも、犯罪をしてほしくないとも思う。

ボクは彼女にどうなってほしいのだろう?
そもそもそれを考えること自体が危険ではないのか?

だって自分の勝手な理想が肥大化しすぎた結果、感情をどうしても抑えきれなくて。
ずっと心で後悔し続けているあの結果を、殺人事件を起こしてしまったのだから。
もうあんなことは絶対に起こしたくない。
でも、また自分の心が悲しみや怒りで化け物になってしまう可能性があることを、自分は完全に否定できない気がする。
自分で自分が怖すぎる。
どうすればいいのか。
自分に自信がないから、他人を思いやれない。


「フレスノさん。
 どうすれば、越えたくない一線を作れるんですか。
 どうすれば、それを越えずに済むんですか」

答えは期待していなかった。
イグナシオは精神の専門家ではないのだから。
カウンセリングとか精神の薬などを活用して徐々に衝動に耐性を付けるのが、本来の治療方法なんだろう。
それは何となく頭で理解している。

「そうですね。確かに私にもわかりません。
 でも、この殺し合いにおいては。
 さっき君が私を止めようとしてくれたように。
 君が暴走してしまったら私が止める。
 それで充分ではないでしょうか」
「そうですね……ありがとうございます、フレスノさん。でも……」

「いえ、充分私は強いですよ。きっと貴方も止められます。
 といか全力の貴方とぶちのめして戦意を失わせるのも、一度やってみたかったるするんですよ。ふふっ。
 いえ、戦わないに越したことはないですけどね」
「笑えないなあ……」



 ――――――――

 ◇

 ――――――――


463 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:24:27 FHXtXftk0



刑務作業が始まる前のある日。

アビス内の一室。
時間をごくごく限って利用できる、遊具などが置かれた部屋。

細めで身長が高く整った容姿、青黒い髪に赤いメッシュの髪。赤い眼。
囚人服を着たイグナシオ。
しゃがんで姿勢を低くしている。

それに対峙して話しかけているのは、小柄で可愛らしい緑の毛皮の犬型獣人。
セラピードッグという珍しい役目でアビスに勤めている刑務官、王磊福だった。

「ボクは、何が正しいのか分かりません。
 精神も身体も、何年も経っても子供のままだから。
 それでもいろんなことを考えてしまいます」

「優しいところがある人でも、大きな罪を犯しているなら。
 その罰として……死刑があるっていうのはしょうがないことだと思います。
 ボクのご主人も、フレスノさんが来る前に死刑が行われました。
 二度と会えないのは悲しいけど。でも、仕方ありませんよね」

「ボクよりちょっと大きいくらいだったり、小さいくらいだったりする子供もアビスには結構います。
 そんな子供をこんなところに閉じ込めてしてしまうのは……ちょっと考えると嫌な気分になることもあります。
 でも、ボクにできるのはそういうみんなの遊び相手になることくらいですし、それを全うしたいです」

「冤罪を訴えている人もいっぱいいます。それが本当かどうかはわかりません。
 看守のボクがどうこう言っていいことでもないと思います」

「でも、もしかしたら何か新しい証拠が見つかるかも。真犯人が後で見つかるかも。
 その気持ちを応援はできないけれど、でも苦しい気持ちを癒すことが出来たら。
 それがボクの生きがいです」

一方的な独白。
しかし目線は、イグナシオの方以外にもふらふらと。
部屋内の何もないある一点を、チラチラ見やるようにしていた。

そうして、犬獣人は去っていき、入れ替わりに入ってくるのはまた個性的な刑務官。
全体的に白を基調として、球や円筒で構成された姿。
看守官補佐として用意された人型ロボット、AG-1(アビス・ガーディアン1号)。

「フレスノさん。
 少しそのウデのシステムAをチョウセイしたいのですが。
 前にシケイになった人からのリュウヨウですし、劣化が見られるカノウセイがあります」

と告げて、器用にも道具を使い腕のシステムAを外していく。
AG-1にはシステムAを外した囚人も制御できるよう、触れている相手の超力を弱体化できる「マイナスシステム」が搭載されている。
超力を完全に無効化は出来ず、ある程度は使用できてしまうのだが。

イグナシオは……システムAの調整中に。
磊福の見つめていたあたりに手をかざし、周りに見られないように超力を発動した。
マイナスシステムの影響下でも手のひら大程度の範囲なら、過去の様子を再現することは可能だった。


"もうすぐ、とある「ケイムサギョウ」が行われます。
 くわしくはわかりません。
 でも、さんかする囚人がたくさん死ぬかもしれないらしいです。
 ボクは、アタマも良くないし何が正しいのかはよくわからないけれど。
 小さい子供や、エンザイをうったえてる人がそんなことで死ぬのはさすがにまちがってると思います。
 どうか、そういう人を死なせないでください。守ってあげてください。"


浮かび上がるのは、一つのメッセージ。
子供が使うホワイトボード的な遊具に描かれていた。

再生する時刻を遅らせる。
すると、次に浮かび上がるのはロボットのプロジェクターで投影されたような文字。


"私も、人が死ぬ可能性のある作業はおかしいのではと考えます。
 どれだけ愚かで更生の余地のなさそうな犯罪者にも、人権はある。
 不完全でこそありますが、それが人間の作った法律のはずではないですか。
 粛々と死刑にされるべきだったり、一生収監されるべきだったり、将来釈放されるべきだったりするはずです。
 何かの意図で刑務作業で死なせること自体、変ではないですか。
 人道に反してはいませんか。"

"私はこの刑務作業について、密かに裏を調べたいと思っています。
 元探偵の貴方にも、刑務作業の会場で調査活動をして頂けると助かります。
 手がかりもない状態で無理を言っているのはわかります。
 正直に言うと、殺人犯で死刑囚の貴方に頼むこともおかしいのではと考えてもいます。
 それでも、磊福さんは貴方が優しい人だと言います。それを信じました。
 どうか、お願いします。
 私は人類全体が愚かだとは、まだ真剣に考えたくはないのです。"


464 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:25:36 FHXtXftk0


なるほど。直接このことを囚人に伝えたら、それは看守の規則に違反してしまう。
あくまで自分が超力をうまく使って、勝手に気がついたということにしたいわけかと納得するイグナシオ。

頼みを引き受ける義理は全くない。
自分は、戦闘欲求のままやり過ぎて相手を殺してしまうこともある男だ。
冤罪を訴えている相手だからといって、恩赦を狙って他人を襲うことはありうる。
それを殺さずに無力化して、しかも守るというのは殺すよりもきっと難しい。

それでも。
子供のままの精神を余儀なくされた男の子。
製造されてから日の浅い、少し危うく純粋なロボット。
彼らの理想論に過ぎない現実のわかってない願い。
幾らでも現実を分からせるように、厳しく指摘することはできる。

それでも。
完全に無碍にするという気分にもならなかった。
できる範囲で、引き受けようと思った。

今までの人生。他人の過去を掘り返す能力なんて嫌われて当然だ。
でもそういう能力なんだから仕方ない。
でも今この二人からもらった、信頼という気持ちは少し暖かかった。



 ――――――――

 ◇

 ――――――――



アンリ君にはあんなこと言いましたが。
自分も薄々、この殺し合いが死に場所ではないかと思っているんですよ。
もともと血塗られた人生を歩んで、戦いの中で死ぬものだと思ってたのですから。
生き延びてしまった以上、他人の為に使うのも良いでしょう。

別に自分は生き残らなくてもいい。
誰かを助けられれば。
調査で分かったことを誰かに託せれば。


自分のニックネーム。イグナシオの短縮形でナチョと呼ばれることも昔はありました。
でも、嫌われ者となり荒れた生活で親しい人間はほとんど去って。

探偵さんや、フレスノさんと呼ばれるか、あるいはいつの間にか付いていた呼び名"デザーストレ"。


"Desastre(災害)"


屍になる前に、この刑務作業の裏で何かを企んでいる奴らへの。
想定外の"災害"になるのも、悪くはないでしょう。


465 : 「災害」 ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:26:32 FHXtXftk0
【G-1/工業地帯/一日目 深夜】
【スプリング・ローズ】
[状態]:疲労(小)、脚に僅かな熱傷、腹に軽い打撲(自然治癒中)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.ポイントを貯めて恩赦を獲得する。
1.疲れたので少し休む。
2.タバコや酒が欲しい。ヤクはないのか?


【イグナシオ・"デザーストレ"・フレスノ】
[状態]:疲労(小)、腕に軽い傷
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.子供や、冤罪を訴える人々を護る。刑務作業の目的について調査する。
1.スプリングに対処する。
2.首輪には盗聴器があるだろう。調査について二人に話していいものか。
3.自分の死に場所はこの殺し合いかもしれない。


【北鈴 安里】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.自分の罪滅ぼしになる行動がしたい。
1.イグナシオの方針に従う。
2.スプリングに対処する。
3.本当に恩赦が必要な人間がいるなら、最後に殺されてポイントを渡してもいい。


466 : ◆koGa1VV8Rw :2025/02/19(水) 23:27:07 FHXtXftk0
投下を終了します。


467 : ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:29:02 Yj5EP1LI0
皆様投下乙です。
続く形になってしまいますが投下します。


468 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:29:52 Yj5EP1LI0

 銀鈴という少女はかつて一国を支配するほどの力を有していた。
 洗脳や精神汚染の類ではなく、ただただ純粋な〝暴力〟で。
 戦車の砲弾を無傷で受け止め、最新鋭の軍艦を素手で沈没させ、高度五千メートルを飛ぶ戦闘機を投石で撃墜するほどの圧倒的な武力で。
 束になった国軍をまるで蟻を蹴散らすかの如く蹂躙し、やがて抵抗の意思がなくなるまでそれを続けた。

 かくして、わずか十歳を越えたばかりの銀鈴は恐怖政治を執り行う為政者となったのだ。

 無論、十歳そこらの少女が政治などわかるはずもなく。時を待たずしてその国は崩壊を迎えたがこれはまた別の話。

 今回の話の重要点。
 それは、一国をも滅ぼせるような力の持ち主が今回の〝刑務作業〟に参加させられているというとんでもない事実について。

 超力とはあくまで人間の力。
 思い描く〝空想の世界〟に準じて力の大小、方向性、汎用性が決まるとはいえど一個人が持てる影響力には限度がある。
 少なくとも、国軍を以てして傷一つ付けられぬような人間は存在しない。してはいけない。


 そして、銀鈴はそんな〝存在してはいけない〟者だった。


 そう、その通り。
 これだけを聞けば刑務作業とは名ばかりの銀鈴による蹂躙が始まってしまうだろう。
 ならばアビスの連中はそれを望んでいるのかと問われれば、断じて否。
 この刑務作業が崩壊しない理由は、彼女のもつ超力の唯一にして最大の欠点にあった。

 銀鈴の規格外の超力。
 それは、彼女の生まれた地から半径二十キロメートルの範囲内でしか発揮されない。

 すなわちその領域を出てしまえば銀鈴はなんの変哲もない年相応な少女の肉体へ。更に言えば超力を前提に回るこの世界では羽をもがれた虫も同然の存在となるのだ。
 無論言うまでもなく、このヤマオリ記念国際刑務所は彼女の出生地から数千キロ離れている。

 ゆえに、上記とは別の意味で刑務官の正気を疑うことになるだろう。


 ──ではなぜ、そんな〝虫〟をこの殺し合いに放り込んだ?


 結果など目に見えている。
 超力を持たぬ少女など、殺しを躊躇わぬ囚人連中に呆気なく命を摘み取られ。憐れ『死』が刻まれた首輪は恩赦Pの足しにされるだろう。
 


 これは、そんな少女のお話。

 全てを持ち、全てを失った少女が地獄を生きる物語。

 罰でも消せぬ罪を。
 死を以ても償えぬ十字架を。

 その小さな身体で背負う銀鈴は、果たしてどう生きるのか。



◾︎


469 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:30:32 Yj5EP1LI0



(…………殺し合い、かぁ)

 黒髪のショートカットを風に靡かせ、幼さの残る顔立ちを星に晒す少女。
 名を羽間美火。このアビスにおいても相当な若輩の位置に当たるであろう十七歳の少女は、年齢とは不釣り合いな『死』の文字を首輪に刻んでいた。

「きっと助けを求めてる人、いるよねっ。こういう時にこそアタシがみんなのヒーローにならないと!」

 ぐっ、と握り拳を胸の前に突き出す。
 演技的な仕草、力強い表情からして彼女がどういった人間なのかは誰が見ても明らかだろう。

 羽間美火の生涯は正義に焦がれてきた。
 空想の世界に影響を受けやすいネイティブ世代、その中でも超力の解明が進み始めた時代に生まれた彼女。
 立派な正義心を持つように、と。両親の意向でヒーローものの漫画を読み漁り、日曜の朝から繰り広げられる特撮に爛々と目を輝かせていた。

 その甲斐あってか、美火の超力は特段彼女の持つ正義心に影響するものとなった。

 最初こそ憧れの容姿を真似るだけだった。
 しかし彼女の抱く羨望が輝きを増すごとに超力は進化を遂げ、やがては本物のヒーローに近しい身体能力を手にする事が叶った。
 
 そう、元より美火はこんな場所に来るべき人間ではなかったのである。

 悪とは無縁の彼女がアビスに送られる要因となった一件は、おざなりな警察組織の不手際と断ずる他ない。
 彼女の街を狙う反社会組織が十五人の半グレを雇い襲撃させたのち、美火の手により鎮圧されたと知るや否や口封じと称して皆殺しにした。
 そして、その十五人殺しの濡れ衣を正義感溢れる少女へと着せたのだ。

 その後、彼女の住む街が反社の縄張りとなり数多の死傷者が出た。
 言うまでもなく既に投獄されていた美火はそのことを知らない。この逆境の中、彼女が今でも正義を燃やせている理由の一つがそれだ。

 きっと自分の冤罪は晴れる。正しいことは認められるのだ、と。
 そう心から信じているからこそ、羽間美火はこの刑務作業においても〝人助け〟という方針を見失わずにいられた。

「あ、あぁ!? あれは……!」

 見晴らしの悪い山岳地帯。
 けれども視力には自信があった。街灯代わりの月明かりの下、枯れ木の隙間を縫うように佇む人影は自身とそう変わらない背丈と断定。
 心なしかキラキラと輝いて見える銀の長髪からして少女のようで。美火は迷いなく人影の元へと駆けつけた。

「じゃじゃーーーんっ!! 羽間美火、ただいま参上っ! アタシが来たからにはもう大じょ────」

 


 ぞ  く  り   。


470 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:31:09 Yj5EP1LI0




 その少女の瞳を見た途端、冷えた手で心臓を鷲掴みにされたような寒気を覚えた。
 宝石のように煌びやかで、かつ無機質で光の差さない瞳孔。ある種の芸術作品を思わせるそれは美火の顔を捉えて離さない。

 ────不気味の谷現象。

 あまりにも人間に近しいロボットはかえって不気味さを抱く、という心理現象。
 いま、美火はそれを数十倍も濃密にしたような悪寒を経験した。

「あら、こんばんは可愛らしい人間さん。美火、と呼んでもいいかしら」

 気品溢れる優雅な佇まいで笑みを返す少女。
 およそ囚人のそれとは思えぬほど白く透き通った陶磁のような肌に、悪魔的なまでに理想を詰め込んだ端正な顔立ち。
 それはまるで精巧な人形のようで、作り物のような薄ら笑いを張り付ける様はより一層美火の憂愁を焚き付ける。

「は、…………ぁ、……っ…………」

 言葉が出ない。
 舌が回らない。
 本能が叫んでいる。
 こいつと関わってはいけない、と。

「ねぇ、美火。ねぇ、あのね。あのね、私(わたくし)の名は銀鈴というの。覚えていてくれるかしら。覚えてくれるととっても嬉しいのだけど」

 ずい、と。
 塵程も表情を変えず、薄ら笑いのまま覗き込む人形のような少女──銀鈴。

 汗が噴き出す。
 これでもかと鼓動が早まる。
 両脚は震え、指先は助けを乞うかのように宙を掻く。
 なぜ自分がこんなにも怯えているのか、美火はわからない。わからないからこそ、得体の知れない恐怖心に吐き気を催す。

「まぁ、美火。そんなに汗をかいてどうしたのかしら。それに身体も震えているわ。大変、今助けてあげる」

 一歩、人形が踏み出す。
 その歩幅以上の距離を美火が後ずさる。


 ────〝闇〟だ。

 銀鈴の瞳を一言で表現するとしたらその言葉がお誂え向きだろう。
 一度視た者は憐れ、蜘蛛の巣にかかった蝶の如く目を離せず。奥底に眠る莫大な闇に呑み込まれる。
 それは凡そ外道を歩いた事のない美火が浴びるには余りにも深い、深い邪悪だった。

 捕食者だとか、殺人鬼だとか、そういうのじゃない。
 これは、この目は。

 〝人間〟を見ていない。


「────変身ッ!!」


 それは一種の防衛反応だった。
 140に満たない美火の体躯を桃色の光が包み込み、軽快な音楽が奏でられる。
 幾度とみたヒーローのごっこ遊びの極地、それこそが羽間美火の超力(ネオス)。


471 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:31:38 Yj5EP1LI0

 やがて光の中から顕現したのは、赤いスーツを身に纏う戦士の姿だった。
 幼さの消え失せた凛とした面構。何より目立つのはまるで別人の如く伸びた身長。
 女性の平均身長を大きく越える体格は銀鈴の頭一つ分以上も上回り、見た目を遥かに凌ぐ骨密度と筋肉は新人類の中でも上澄みの部類。

 これこそが羽間美火の理想とするヒーローの姿。
 いつだって彼女にとめどない勇気と力を与えてきた正義の象徴。


 なのに、
 そのはずなのに。

「まあ! 姿が変わったわ。とっても素敵、それって美火の超力?」

 なぜ、こんなにも恐ろしいのだろう。


 視線の拘束から逃れる為に距離を取る。
 と、ここで初めて銀鈴の首輪に刻まれた文字に気が付いた。

 己と同じく死刑囚。
 けれどきっと、濡れ衣を着せられた自分とは違い〝正当な罰〟として烙印を押されたのだと確信する。

「ぁ、……なた……っ、…………は……」
「あなたじゃないわ、銀鈴と呼んで」
「…………ひとを、……殺した、の?」

 震える喉奥から声を絞り出すのにこれほど労力を要するとは。
 人を殺したのか。極めてシンプルなその質問を投げるのに美火は息を切らすまでに疲弊した。
 対しては銀鈴、こちらは呼吸の乱れどころか瞬きひとつすらせず。笑みを張り付けたまま梟を思わせる仕草で首を傾けた。

「向 紅花(シャン ホンファ)」
「…………え?」

 突如、綴られる文字列。
 美火の疑問の声を打ち消して、鈴の音を思わせる美麗な声色は絶えず続く。

「涂 星宇(トゥー シンユー)、夏 洋(シァ ヤン)、夏 宇沢(シァ ズーヅァ)、匡 吴然(コアン ウゥラン)、油 麗孝(ヨウ リキョウ)、油 詩夏(ヨウ シーシ)、江 深緑(ジャン シェンリュ)────」
「え、な、……なに、…………えっ」

 それが人の名前だと気付くのに時間を要した。
 というよりも、気付きたくなかった。
 人を殺したのか、という問いに対して名前を挙げるということが何を意味するのか。
 如何に悪意に触れる機会の少なかった美火といえどそれを察せないほど愚かではない。

「陳 博文(チェン ブォエン)、郎 飛龍(ラン フェイロン)、解 文月(シエ ウェンユェ)、胡 美雨(フー メイユイ)、高野 真由美(たかの まゆみ)、単 珠蘭(シャン シュラン)、朱 秀鈴(チュー シューリン)────」
「…………もう、……やめて…………」

 独白は続く。
 壊れたラジオのように、まるで感情の灯らない名前の羅列に懺悔など含まれていない。
 ただ投げられた質問に答えているだけ。

 悲痛な面持ちで目の端に涙を浮かばせ、両耳を塞ぐ美火をじっと見据えて。可愛らしいとさえ思いながら銀鈴は一定のリズムで名を連ねてゆく。



◾︎


472 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:32:14 Yj5EP1LI0


 万 俊杰(ワン ジュンジエ)
 趙 子墨(ヂャオ ズモー)
 梁 憂炎(リアン ユーエン)
 施 洋(シー ヤン)
 安 桜綾(アン ヨウリン)
 安 翠花(アン ツイファ)
 安 宇航(アン ユーハン)
 薛 雲嵐(シュエ ウンラン)
 向 克勤(シャン ハッケン)
 曹 花霞(ツァオ ホァシャ)
 クリスチャン・エッガース
 左 小龍(ズォー シァォロン)
 孫 燈実(スン トウミ)
 孫 明林(スン ミンリン)
 牧野 三郎(まきの さぶろう)
 甘 天佑(ガン チンヨウ)
 周 傑倫(ヂョウ ジェルン)
 芦 宇辰(ルー ユーチェン)
 段 洋(ドゥアン ヤン)
 姚 依諾(ヤオ イーヌオ)
 郝 美麗(ハオ メイリン)
 武 静麗(ウー ジンリー)
 ヴェレナ・ヴァレンティーニ
 朱 子豪(シュウ ズハオ)
 朱 秀英(シュウ シゥイン)

 

「────もうやめてッ!!」



◾︎


473 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:32:59 Yj5EP1LI0


 
 ぴたり、と。
 執行人の呪文が止まる。
 
「あな、あなた…………何人、…………の、……命を……っ! うば、って……きたの…………!」

 既に美火は正常ではない。
 頼り甲斐のある決意に満ちた顔は何処へ、人目もはばからず泣きじゃくる様は年相応の少女のものに相違ない。

 理解のできない事象、理解のできない人種。
 本来であればアビスの囚人に並ぶべきではない齢十七歳の純然たる少女は、圧倒的な闇に灯火を消されかけていた。
 

「19738人よ。名前が分からないのは4866人」


 言葉が詰まる。
 大柄なマフィアのボスが言うのならばまだしも、端麗な少女の口から発せられたそれは冗談にしても質が悪い。
 けれど、美火にはそれを冗談だと笑い飛ばす事など到底出来なかった。

「軍艦に乗ってる人とか、戦闘機に乗ってる人とか。名前を知る暇もなく死んじゃった人も多くてね。それにね、素直に教えてくれない人も多かったの。みんな美火みたいに名乗ってくれたら覚えやすいのに。ねぇ、ねぇ、そう思うでしょう?」

 ああ、やはり。
 この少女には関わってはいけなかった。

「────ッ!」

 取り巻く闇を払うように、美火は洗練された回し蹴りを放つ。
 矛先は少女の顔面ではなく、その傍の枯れ木へ。落雷に似た衝撃を受けたそれは歪な音を立てて中ほどまでへし折れた。
 吹き荒ぶ風圧が銀鈴の髪を揺らす。感情のない瞳がほんの少しだけ見開かれた。

「い、今のは脅しじゃないッ! それ以上近づいたら……た、ただじゃおかない……!」
 
 それは、精一杯の虚勢。
 不思議な話だ。今の美火が少しでも攻撃を加えれば銀鈴は抵抗も許されずに鎮圧されるというのに、銀鈴が追い詰める構図となっている。


474 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:33:37 Yj5EP1LI0

「まぁ、すごい! とても力持ちなのね」

 美火が優しい人間だから。
 例え極悪人とわかっていても、少女の姿をした相手に暴力を振るうことなど出来ないから。
 それが最たる理由であると、羽間美火を知る人物であれば一片の迷いなく答えるだろう。

 しかしそれはあくまで原因の一つ過ぎない。

 彼女が手を出せない理由は、圧倒的な恐怖。
 銀鈴の深淵に似た瞳が、彼女から放たれる支配者たるオーラが、羽間美火の本能へ〝逆らってはいけない〟と警告しているのだ。


 ────逃げろ。


 頭を埋め尽くす焦燥感。
 けれども美火は、それすらも出来ない。

 幼い頃から植え付けられた正義感が。
 目の前の悪から逃げてはいけないと、泣き叫ぶ。

 結果、少女としての羽間美火とヒーローとしての羽間美火が心根でせめぎ合い、何も成せぬ銅像を作り上げてしまったのだ。
 そうして数秒。垣間見えた美火の力へ愉しそうに五指を合わせていた銀鈴の顔から、ふっと笑みが消え去る。


「けれど、けれどね美火。人間を殺すのにそんな力はいらないの」


 え? と、間の抜けた音を漏らすと同時。
 一瞬、銀鈴の腕が横薙ぎに振るわれるのが見えた。

 途端、視界が赤く染まり上がる。
 遅れてやってくる熱と激痛。真っ赤だった世界は暗闇へと落ち、二度と光を目にする事はなかった。

「────っ゛、あ゛ぁ゛あ゛ッ!!?」
 
 目を潰された。
 なぜ? なにでやられた?
 その答えを美火が知ることは叶わない。銀鈴が手に持つ鋭利な石を、もう見ることが出来ないのだから。


475 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:34:06 Yj5EP1LI0

「女の子がそんな声を出したらはしたないわ、美火。お行儀よくしましょう?」
「────ぅこ゛、……っ!?」

 視力を失い悶え苦しむ美火の顔面へ、ゴンッという痛々しい打音と共に鈍い衝撃が襲いかかる。
 予期せぬ攻撃に美火の両脚は縺れ込み、支えを失った身体はゴツゴツとした岩場へ背から叩きつけられた。
 熊さえ屠るヒーローをも張り倒した〝無力〟な少女の手には、ぬらりと血液を付着させた掌ほどの玄武岩が一つ。

 何が起きたのか理解できない。
 依然失われた視界は暗闇だけを映し出し、あれほど畏怖していた銀鈴の薄ら笑いすらも今や恋しく思う。

「や、だ…………いや、っ……だ…………!」
「私ね、人間が好きなの。こんなに脆くて、こんなに儚くて、理解出来ない生き物だから。些細な事で泣いたり笑ったり、色んな顔を見せてくれる人間が好き」

 ────ゴンッ、ドゴッ、グシャッ、メキッ。

 美火の腹部に跨り、馬乗りとなった銀鈴はひたすらに彼女の顔面へ石を叩きつけて、叩きつけて、叩きつけて。
 まるで年端のいかぬ少女が自分のことを知って欲しいから話し掛けるかのように、抑揚のない声が美火の鼓膜へ伝達する。
 
「そう、私はもっと知りたいの。このアビスで人間はどんな行動を取るのか、〝新人類〟の視点から見届けたい。だから、だからね。本来の力を取り戻すために、忌々しいアビスの装置を壊さなきゃいけないわ」

 返事はこない。
 代わりに、血の泡が噴き出した。
 ひしゃげた鼻からはとめどなく鼻血が溢れ、紫色に腫れた唇の隙間から覗く歯は所々が欠けている。
 頬骨にヒビが入っているせいか、均整が取れていた顔面のバランスはとうに崩壊している。
 羽間美火の面影はもうなかった。

(いた、い。いたい、いたいいたいいたい痛い痛痛いたいいたい痛痛いたいいたい)

 ここまでされても。
 なまじ頑丈な肉体のせいで、気絶すら出来ない。

「だからね、ブラックペンタゴンという場所を目指そうと思うの。きっとなにか秘密が隠されていると思うから」

 数え切れないほどの暴力の雨を受けても意識を閉ざすことすら出来ず、その一撃一撃が神経を穿つかのような重い痛みとなり牙を剥く。
 生存本能から抵抗を試みて腕を振るうも、目の見えない状態で銀鈴に当たるはずもなく。
 空を藻掻く少女は段々と衰弱を顕にし始めた。


476 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:34:41 Yj5EP1LI0

「ここに来てからね、サッズ・マルティンという人間に拷問を受けたことがあるわ。その人間はね、過去の痛みを何倍にして思い出させる超力を持っていたの」

 ────ゴシャッ、バキッ、ドゴッ、グチャッ。

「けれど私、痛みなんて感じたことなかった。だからちっとも効かなかったのだけど、それが気に障ったみたいで〝痛み〟というのがどういうものなのか、丁寧に教えてくれたわ」

 ────メキッ、ゴリッ、ゴシャッ、ベチャッ。

「そのとき初めて知ったの。痛いって、生きてるってことなのね。人間の気持ちを教えてくれた彼にはとても感謝しているわ」

 ああ、石が壊れた。
 用済みのそれを捨て、新しい石と取り替える。

 銀鈴のおしゃべりは続く。
 二度石を取り替える頃には、美火の反応はすっかりと鈍くなっていた。
 消えかかる正義の灯火は、線香花火のように儚く。光が落ちる間際、最後の足掻きとばかりに輝いてみせた。

「こ゛、ぇ……な…………さ…………」

 銀鈴の手が止まる。
 変わり果てた美火の顔を興味深そうに覗き込む人形じみた面相は、粘液質な返り血で染まっていた。

「お゛と、ぉ……さ、…………おか、……ぁ゛…………こ゛べ、……なさ…………」

 血と涙の混じった体液を伝わせて、この場にいない両親へと言葉を紡ぐ。
 もう現実と夢の区別もつかないほど意識が混濁しているのだろう。
 ぴくぴくと痙攣する両腕を顔の前に持っていく様子は、まるで叱られることを恐れる幼子のようだった。


「ひー……ろ、……なぅ゛、か……ら…………も、……ぶたない…………でぇ……」


 ────結局、正義などなかったのだ。

 羽間美火のヒーロー観は、彼女自身が望んで手にしたわけではない。
 虐待じみた両親からの教育と圧力により形成された〝つくりもの〟の正義だったのだ。

 ヒーローになりたいから、ではない。ヒーローにならなければいけなかったからその道を進んできた。
 いつしか羽間美火という無垢な少女は、自ら望んで正義の味方を目指したと思い込むことで己を守ろうとしていた。

 その記憶が、銀鈴の〝支配者たる目〟を見たことで想起された。
 挫折とは無縁な理想のヒーローであるため、長らく封じ込めていた過去が土足で踏み荒らされたのだ。
 自分の人格が〝恐怖〟によって形成されたものだと気付かされたショックは到底計り知れない。


 つまりは、恐怖こそが正義。
 絶対的な力による支配こそが全て。
 美火の〝理想〟とするヒーローは、混沌と悪意に満ちた世界にいてはいけないのだ。


 絶望の淵に叩きつけられた羽間美火へ。
 理想と現実の狭間で弄ばれた憐れな少女へ。
 口角を釣り上げた銀鈴は、こう言った。
 



「かわいい」





◾︎


477 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:35:21 Yj5EP1LI0



「私ね、人生の半分くらいをここで過ごしているの」

「アビスの中でも一番深いところに閉じ込められてるから、こうやって人間とお話できることなんて滅多になくてね」

「ついつい私だけ喋りすぎちゃったかな、気分を悪くさせてしまったらごめんなさいね」

「そうだ、美火のことももっと知りたいわ」

「ねぇ、ねぇ。美火はどうしてここにきたの?」

「…………あら?」

「もしもーし」

「…………」

「へぇ、おもしろい」

「その変身、死んでも解けないのね」




【羽間 美火 死亡】




◾︎


478 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:35:52 Yj5EP1LI0



「まあ、魅力的なものがいっぱい。買い物なんて久しぶりだから迷ってしまうわ」

 遺体の消失に伴い遺された美火の首輪を使用し、100の恩赦ポイントを入手した銀鈴はデジタルウォッチから投影された画面と見つめ合う。
 白い指で宙をなぞり、提示された交換リストの品物ひとつひとつに興味を示していた。

「でもまずは服が欲しいかしら。こんなに汚れた格好じゃ人間を怖がらせてしまうものね」

 返り血と泥に塗れた制服を見下ろし、続けて画面に表示された【好きな衣服】を選択する。
 どうやら男性と女性で表示されるものが異なるらしい。銀鈴のそれは女性物の服が一覧に並んでいた。

「うーん、これにしようかしら」

 悩むこと数分。
 闇に溶けそうな漆黒のドレスを選択すると、少しの間を置いてスーツケースに入れられた品物が彼女の目の前に転送された。
 直接地面に転送されないのはミリル=ケンザキの恩情だろうか。銀鈴は嬉々として着替えを始める。

「さて、と。あとは武器も必要よね。それにお腹がすいた時のためにご飯も必要だし、ああそれに荷物が多くなるといけないからデイパックも欲しいかしら」

 元々富裕階級であった彼女は、欲しいものがあれば迷いなく手にしてきた。市民にとっての豪遊が当然の環境であったのだから。
 八年間の禁欲を経ても、幼少の頃から根付いた人格に変わりはない。
 そのポイントが他人の命の代償ということを知ってか知らずか、散財を尽くした。

 気がつけば残りは僅か14pt。
 何に使おうかと思案に思案を重ね、たっぷり時間を要してからハッと目を見開いた。

「…………あ! 私、お酒も飲んでみたいわ。一度飲んでみたかったの」

 迷いはない。
 よく母が嗜んでいた深紅のワインに興味を惹かれていた。それと似たようなものをリストから探し出し、指で押す。

 ゴトリと目の前に出現したボトルを手に取る。
 栓抜きも付属されていたが使い方が分からなかった。仕方がなく血のついた石で注ぎ口を叩き割る。
 途端に広がる芳醇な葡萄の香り。覚えのあるそれに魅了されるがまま口をつけて。

「…………美味しくない」

 ぽい、と投げ棄てた。
 



◾︎


479 : 深淵 ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:36:36 Yj5EP1LI0



 結果だけを見れば、超力を封じられたか弱い少女は羽間美火という死刑囚の殺害に成功した。
 けれどそれは数多の幸運が積み重なった奇跡の結果でしかない。
 命を賭したギリギリの綱渡り。ほんの少しでも足を踏み外していれば銀鈴は惨殺の限りを尽くされていただろう。


 ──羽間美火が少女を傷つけられるような人物ではなかったから。
 ──羽間美火が虐待を受けていたことにより、銀鈴の目に異様な恐怖感を抱いたから。
 ──殺害現場が山岳という人目につかない場所だったから。


 必要不可欠な条件が全て揃った巡り合わせ。
 まるでアビス全体が少女に味方しているようなその状況でさえも、当の銀鈴本人は自身が幸運だなどとは微塵も思っていない。
 自分が勝つのは〝当たり前〟のことなのだと心の底から信じ込んでいるから。


 たしかに、銀鈴の規格外な超力は消えた。
 しかし逆に言えば、消えたのはそれだけなのだ。
 二万もの国民を殺戮した過去も、かつて恐怖によって国を治めた経験も、絶対なる支配者として培われた経験も、どれもが消えていない。
 
 
 ──ではなぜ、そんな〝虫〟をこの殺し合いに放り込んだ?


 少し前の問いへのアンサーがこれだ。
 アビスは、銀鈴という少女の危険性を十二分に理解している。
 ゆえに、この刑務作業に名を連ねる面々に対して〝超力を失った程度〟では劣らないと判断したのだ。

 だからこの結果は、予想の範疇。
 むしろジャンヌのような狂気も持ち合わせていない〝普通の〟善人である羽間美火の方が、アビスを生き残るのに不向きであると言えるだろう。
 半端に生き残った末に人間の汚い部分を目にして精神をすり減らし、命を懸けて守り抜いた商店街の現状を知るよりも。
 もしかすれば、この結果の方が彼女にとっては幸せだったのかもしれない。

 
 このアビスに普通の善人など存在しない。
 誰もが何かしら普通とはかけ離れた過去や事情を持ち合わせ、この場所へ辿り着いた。
 まともな人間は誰一人としていないのだ。



 改めて、宣言しよう。





 ────登場人物、全員悪人。
 
 
 
 


【F-5/山岳地帯/1日目・深夜】
【銀鈴】
[状態]:疲労(小)
[道具]:グロック19(装弾数22/22)デイパック(手榴弾×3、催涙弾×3、食料一食分、ナイフ)
[恩赦P]:4pt
[方針]
基本.アビスの超力無効化装置を破壊する。
1.人間を可愛がりつつ、ブラックペンタゴンを目指す。

※今まで自国で殺した人物の名前を全て覚えています。もしかしたら参加者と関わりがある人物も含まれているかもしれません。
※ サッズ・マルティンによる拷問を経験しています。
※交換リストで衣類(10P)を選択したことにより、黒いドレスを着用しています。

【備考】
※羽間美火から得た100Pを手榴弾(30P)、催涙弾(20P)、ハンドガン(10P)、食料(10P)、衣類(10P)、酒500ml(10P)、ナイフ(5P)、デイパック(1P)に使用しました。


480 : ◆NYzTZnBoCI :2025/02/19(水) 23:37:29 Yj5EP1LI0
投下終了です。
不備、問題点などございましたらご指摘いただけると幸いです。


481 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/20(木) 00:49:48 0VHYkYww0
みなさま投下乙です

>「災害」
探偵はアビスにいるのが不思議なくらいまともな大人だぁ、と思ったらちゃんとイカたアビス住民だった。理性的に狂ってるから逆に性質が悪いよ
氷龍と人狼、人外変身系超力者の出会いだけど育ってきた環境が違いすぎる、とは言えローズも乱暴ではあるが意外と問答無用と言う訳ではなさそう、安里君は自分の命が軽すぎて怖いね
何気に刑務官の登場は初めてか、セラピードッグとロボットと言うある意味で純粋な存在からの願い、殺し合いがダメとかそらそうよ。託された探偵はどう動くのか

>深淵
人間の悪意の塊であるマフィアや殺人鬼とはジャンルが違う、銀鈴からは人外めいた恐ろしさが感じられる
美火ちゃんは……ねぇ。ごっこ遊びのような正義が通用する領域ではなかった、正義もジャンヌくらい狂ってないとこのアビスでは通用しないのか
超力をなくそうとも1万以上殺した殺人技術は腐らない、経験は身を助けると言うやつですなぁ、そもそも全員が身体能力超人だしね、そら強いよ


482 : ◆dXs7XBYFp6 :2025/02/20(木) 22:56:12 2/cimxxk0
少し遅くなりましたが、投下します


483 : 墜落点:B-2 ◆dXs7XBYFp6 :2025/02/20(木) 22:57:48 2/cimxxk0
 スラムで育ったんだ。自分の身を第一に考えなきゃいけないなんて、ストリートじゃ常識だ。

 だから、アニキがオレを見捨てて逃げたことに不満なんか無い。
 ストリートキッズに聞けば百人が百人、同じことを言うだろう。
 強盗に失敗した時、アニキを庇って大怪我したオレは大馬鹿野郎だと。
 大馬鹿野郎を置いて逃げたアニキが正しいと。

 ただ、まあ、不満は無いとは言っても、怒ってないとは言わない。
 逃げだした時の態度のことだ。
 ちょっとくらい、ためらいとか見せてくれたってよかっただろうと思う。

 だから、アニキと二人でやった悪さを丸ごと一人で抱え込まされた分、ムショを出たら一発、いや二発……五、六発くらい殴ってやりたい。
 刑期15年分、それでチャラだと言ってやれるか、その時になってみないとわからない。
 でも少なくとも、今のオレの胸の中に、憎しみだとか恨みだとか、そんな大層な感情は無かった。

 自分の身を第一に考えなきゃいけないなんて、ストリートじゃ常識だ。
 アニキが悪いなんて思わない。
 オレが大馬鹿野郎だっただけのことだ。
 いつか、笑って話せればいいと思う。




 ――やはり、きみの兄貴分に制裁を加えたのは『アイアン』だったよ。

 ――ネイ・ローマン。

 ――彼らは仲間意識の強い、若くて青いギャングたちの集まりだ。連れ合いを見捨ててのうのうと逃げ延びた者など、俺たちの街には要らないと……彼の逆鱗に触れることになる。

 ――だったら連中の流儀に従って、オレの連れ合いぶっ殺したオトシマエ、つけてもらわねェとな。

 ――……提案している側のぼくが言うことじゃあないが、それでも、何度でも言うよ。断るべきだ。やめた方がいい。

 ――いいんだ。……ありがとなオッサン。でもオレ、その話乗るよ。





484 : 墜落点:B-2 ◆dXs7XBYFp6 :2025/02/20(木) 22:58:56 2/cimxxk0


「っ、お、お、おおウウオオああ!!!」 

 全身を叩く暴風。
 呼吸もままならない空気抵抗。
 姿勢を保てず回転し続け、混乱を越えて麻痺し始めた平衡感覚。

 刑務作業の説明会の直後、ハヤト=ミナセは夜の空を落下していた。

 空と海の上下が文字通り目まぐるしく入れ替わる。
 それでもなんとか周囲の状況を探ろうと視線を動かす。
 必死に思考を巡らせた数秒のうちに、大して地表が近づいて見えないことから、かなりの高度に転送されたらしい。
 島の海岸では、断続的に起こる爆炎と閃光が目についた。
 遠くの橋でも火柱が立っている。
 山岳の方では奇妙な色の光が瞬いていた。

 そしてどうやら、自分がこれから落下するであろう先は港湾らしい。
 波しぶきが月光に砕け、金属の光沢めいて輝いている。
 数秒か、十数秒の後、あの水面は血に染まるだろう。

「ぐっ、ふっ、うぅぅぅっ…………――――ッッ!!」

 胸の内に広がる恐怖を殺すため、食いしばった奥歯が軋んだ。
 せりあがった胃液を気合で飲み込み、鼻から息を大きく吸い込んで、酸欠気味の脳に酸素を送り込む。

 冷静になれ。
 頭のいい人間じゃない自分がパニックになってどうする。
 一発逆転のアイディアなんて期待するな。
 自分に何ができるかだけに集中しろ。
 今の自分になにができる。
 どうすれば自分の身を守れる。


 自分の身を第一に考えろ!


 本当にできるかどうか。
 果たして間に合うかどうか。
 希望があるのかどうかさえも無視して、ハヤトはあがいた。
 体勢を整え、全身に力を籠め、目を見開いて迫る水面を凝視する。
 万全ではない。
 無駄かもしれない。
 それでもハヤトはあがいた。
 あがかなければ死ぬのだから。

(超力発動、『不撓不―――)

 直後、着水。
 会場B-2地点の港湾に、「さほど大きくはない水音」を立てて、水柱が立った。





485 : 墜落点:B-2 ◆dXs7XBYFp6 :2025/02/20(木) 23:00:06 2/cimxxk0


(……くそが)

 悪態を実際に口に出す気力もない。
 港湾のスロープに這い上がったところで力尽き、仰向けに寝転んだ。

 ハヤト=ミナセは生き延びた。
 彼の超力『不撓不屈(ウェカピポ)』は、「踏みしめる」ことで自身が受ける衝撃を無力化することが出来る。
 だからハヤトは一か八か、体勢を整えて足からの着水を試み、その瞬間に水面を「踏みしめた」。
 超力が発動した実感があり、実際に生き延びているものの、発動のタイミングが適切だったのかは、ハヤト本人をしてわからないのが実情だった。
 現に今、彼は全身に痛みを感じている。
 着水時の衝撃は無効化できたとしても、落下の勢いは殺せていない。
 水中に突っ込んだ際に全身を叩く水の衝撃もまた、無効化できるものではなかった。

 重症というほどの手傷も負わなかったにせよ。
 ただ、生き延びただけ。
 刑務作業が始まって、ものの数分というところだろうか。
 早くも満身創痍、疲労困憊で横たわるハヤトは、他の囚人たちの恰好の獲物だろう。

 一刻も早く、この場を動かなければ。
 痛みと痺れ、ついでに寒さで震える手を伸ばし、少しでも移動しようともがく。

「だ、大丈夫、……ですか?」
「ッ!?」

 その視線の先。
 港湾沿いに建てられた建物を目指していたハヤトの目の前。
 まばたきの間もない一瞬。
 何もなかったはずのその場所に、人影があった。

 兎のような長い耳を垂らした、獣人。
 成長しきっていない小柄な体躯に、育ちのよさそうな発色の頬。
 ぬいぐるみじみた体毛のボリューム感からみても、愛情を注がれ、よく手入れがされたペットのようだ。

 およそ、囚人たちの中に紛れ込むにはふさわしくない出で立ちの少女だった。
 ましてや殺し合いを命じられた刑務作業中に出会う最初の相手としては、何もかもが予想を裏切っていた。

「……オレ、不思議の国にでも落ちてきたのか?」
「ふし? あの、えっと、なんだかすごい、高いところから落ちてきませんでしたか?」

 どうやら落下するハヤトを目撃していたらしい。
 一般人でも旧時代のアスリート並みの身体能力を持つ新人類であっても、こんな深夜に、暗色の囚人服をよく見つけられたものだ。
 しかし考えてみれば、彼女は獣人。
 兎型としては聴覚や脚力に注目されがちとはいえ、獣由来のその夜目は現代の新人類と比較したとしても、より鋭敏なものといえるだろう。

「落ちてきてました、よね? わたしの見間違いとかじゃないですよね?」
「あぁ、……まあ」
「ああああ、やっぱり。大変だどうしよう、あんな高いところから落ちたら大丈夫なわけないよ。なんとか、手当てしないと」

 返事も億劫なハヤトの元気の無さに、恐々とした様子だった兎の少女が慌てだす。
 そして次の瞬間、その姿がハヤトの視界から消え失せる。

 驚きの声を上げる間もなく、ハヤトの懐に潜り込んでいた兎の少女はその身を担ぎ上げ、ずんずんと近くの建物に進んでいく。
 施錠されているであろう扉を簡単に蹴破ると、近くのソファにハヤトを寝かせ、その身体をまさぐり始めた。

「血は出てませんか。骨とか折れてませんか。気分は悪くないですか」
「お前、何してるんだ」
「何って手当て……看病? というか看護です」
「刑務作業の説明、聞いてなかったのか?」


486 : 墜落点:B-2 ◆dXs7XBYFp6 :2025/02/20(木) 23:01:18 2/cimxxk0

 ピタリと、少女の手が止まる。
 しかしすぐにまた動き出した。
 ハヤトの顔色を確かめながら全身を触り、痛みや異常が無いかと聞いてくる。
 痛みや腫れの見られる箇所があれば、建物の中から見つけた備品なのか、フェイスタオルを濡らして優しく巻き付ける。

 その作業の合間合間に、兎の少女―――セレナ・ラグルスは話し始めた。


「見ての通り、わたしはただ兎っぽいことが出来るだけの子供です」


「怪我人を運ぶお手伝いは出来ても、人が死ぬくらい強い腕力はありません」


「それに、人に迷惑かけた分を刑期で償うのは納得してます」


「外の危険から救われただけ儲けものっていう、そういう身の上だったので」


「だから、24時間生き延びて、元の犯罪者生活に戻ります」


 その身の上話は、スラム育ちのハヤトにとって決して珍しい類のものでもなかった。
 だが、セレナの話を聞いて、ハヤトは衝撃を受けていた。
 それはセレナの話の内容に対してではない。
 セレナの能力と、その精神性を理解したことによる衝撃だった。


 ハヤト=ミナセがはるか上空に転送された理由。

 セレナ・ラグルスが近くにいた理由。

 この二つは、繋がっていることに気付いたからだ。


 この優しい少女、セレナは刑務作業に乗り気ではない。
 加えて兎の獣人である彼女は周囲の危険を察知する優れた地獄耳であり、音もなく一瞬にして見る者の視界から脱する軽業師である。
 おそらく24時間の潜伏などあっさりと簡単にやり遂げるだろう。
 誰も殺さず、誰にも殺されず。
 ただ元の監房へ戻っていくだけ。
 何も変わらない、そしてわかり切った結果である。
 では、彼女がこの場にいる意味とは?

 答えはおそらくこうだ。
 ハヤト=ミナセに有効に使わせるため、セレナ・ラグルスはここにいる。


487 : 墜落点:B-2 ◆dXs7XBYFp6 :2025/02/20(木) 23:02:28 2/cimxxk0

 ハヤト=ミナセは看守から役割を与えられていた。
 他の囚人が打診された「殺し合いを活性化させる役=ジョーカー役」とは別の役。
 刑務作業を脱落した者の死体を確認して回る、ハイエナ役である。

 超力同士がぶつかり合う闘争の場において、死体が必ずしも残るとは限らない。
 逆に言えば、残った死体がなんらかの悪さをしでかさないとも限らない。
 あるいは、看守長オリガの管理さえも欺く輩が現れないとも限らない。

 最近入所してきた、兄貴分を殺したギャングのリーダーを刑務作業に参加させること。
 任意の参加者の「システムA」を10分間起動する権利を得ること。

 この二つを交換条件として、刑務作業への参加を受けたハヤトだが、実のところ看守側からはその役割をあまり重要視されていないことを、事前に伝えられていた。

 看守長オリガ・ヴァイスマンの超力による事態の掌握は十全であり、首輪を始めとする監視のバックアップ体制も手厚い以上、この保険の保険役に意味は薄い。
 おまけに看守側は、すでに多くの囚人に刑務作業中の役割を打診し、ことごとく断られているのだという。
 特殊な技能持ちでもなく、超力もさほど強力でない、そもそも罪人であるハヤトに対し、替えの利かないような役目を担わせるわけにもいかない。

 とはいえ、せっかく盤上に思い通りに動かせる駒を配置するのだから、簡単に脱落されては困る。

 例えば、周囲の危険を察知できるような囚人と協力できれば生存率は高まるだろう。
 相手がお人よしであれば都合がいい。
 出会い頭に弱っているフリなどできれば、うまく懐柔できるだろうか。
 実際にある程度弱っておくと説得力も増すだろう。


 この駒は衝撃を無効化するので、死なない程度に高所から落とし、その様子を目撃させれば自然な流れで両者は合流するに違いない。


 ハヤトは血の気が引く思いだった。
 甲斐甲斐しく看護してくれる少女に対し、居た堪れない思いだった。
 何か言うべきだろうか。
 しかし何を言うべきだろうか。
 口の中が熱く、からからに乾いていた。

 そしてふと、手首のデジタルウォッチが振動していることに気付いた。
 セレナに見えないよう、こっそりと画面を確認すれば、そこには「3」という数字が表示されていた。
 すでに、3人の脱落者が出ているらしい。
 脳裏に、上空から見た爆発と火柱が浮かんでくる。
 
 ここには、あんなことをしでかす連中がウヨウヨいる。
 自分の身を第一に考えなきゃいけないなんて、ストリートじゃ常識だ。
 でもここはストリートじゃないし、常識なんて通用する世界でもない。
 刑務作業開始からものの数十分で人が死ぬ、地獄の鉄火場だ。

 オレは、それを覚悟して飛び込んでいる。
 だが、この子は……。


「あっ、痛みますよね。でもでも、傷は見当たりませんし、思ったより大事にはなってなさそうです。
 大丈夫、なんとかなりますよ!」



【B-2/港湾/1日目・深夜】
【ハヤト=ミナセ】
[状態]:全身打ち身、疲労(どちらもある程度休めば問題ない)、上裸
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生存を最優先に、看守側の指示に従う
1.まずは回復優先。セレナの看護は大人しく受ける。
2.『アイアン』のリーダーにはオトシマエをつける。
3.セレナへの後ろめたさ。
※放送を待たず、会場内の死体の位置情報がリアルタイムでデジタルウォッチに入ります。
 積極的に刑務作業を行う「ジョーカー」の役割ではなく、会場内での死体の状態を確認する「ハイエナ」の役割です。
※一度だけ、任意の参加者の「システムA」を起動する権利があります。
 起動時間は10分間です。

【セレナ・ラグルス】
[状態]:健康
[道具]:ハヤトの囚人服(上着)、タオル数枚
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.死ぬのも殺されるのも嫌。刑期は我慢。
1.ハヤトの看護に集中中。


488 : ◆dXs7XBYFp6 :2025/02/20(木) 23:03:41 2/cimxxk0
投下終了です


489 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/20(木) 23:37:10 0VHYkYww0
投下乙です

>墜落点:B-2
一人だけ転送が雑でミリルちゃん酷いと思ったら、一応意図はあってよかった、よかったか?
ハヤトも特殊任務付きの参加者か、結構いろんな人に声かけてるんだね、そして全員に断られてると言う、意図したものじゃなかったら間抜けすぎるぞヴァイスマン
ほぼ贄状態のセレナが一番かわいそう、まあ一応アビス落ちするだけの罪はおかしてるのでしゃーないか

内容に関して一点指摘が
システムAに関してですが、囚人が付けていた手足の枷が子機であり、それは刑務作業中は全員外してる設定なので、ハヤトが自身が所持していた自分の枷を任意のタイミングで発動できる権利に差し替えた方がよいかと思います
投げるなり押し付けるなりすれば使えるはずなので

【お知らせ】
皆様のおかげで無事全受刑者が登場しましたので、予約延長を解禁します。
1作以上投下されました方のみ延長可能となります、延長期間は2日となります。
これらは現時点で有効な予約にも適用可能です。
それでは、今後ともよろしくお願いします。


490 : ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:45:11 VxO4grhA0
投下します。


491 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:46:09 VxO4grhA0



 ――”お前が元凶だ“。
 ――“お前が創ったものは”。
 ――“偽りのヒーローでしかない”。

 “男”はかつて、そう吐き捨てられた。
 “男”はかつて、正義を創ろうとしていた。

 ――“お前が全ての元凶だ”。
 ――“お前が奴らを創らなければ”。
 ――“こんな悲劇にはならなかった”。

 それは惨めでちっぽけな、挫折の物語。

 “開闢の日”を経て、世界はすっかり歪んでしまった。
 あの日以来、暴力や混沌は日常と隣り合わせになった。
 変わってしまった日々の中で、それでも正しさを貫こうとするネイティブの少年少女達が居た。

 “男”はある街で、バラバラだった少年少女達を纏め上げた人物だった。
 超力を持つ大人(オールド)世代として、若者達が正しい方向へと進めるように手を貸した。
 自分の超力を生かして、正しい道を往く少年少女をヒーローとして後押しした。

 やがて少年少女達は自警団を作り上げ、平穏な日常を守るために奔走した。
 “男”はその後見人として彼らを支え、時には彼らと共に犯罪と戦い抜いた。

 世話焼きで、面倒見が良くて、明るく振る舞って――。
 自警団の基礎を築いた“男”は、少年少女達から慕われていた。
 いつしか彼らから、若くして“おやっさん”なんて呼ばれるようになった。

 ――“みんな、おかえり”。
 在りし日の“男”が繰り返していた言葉。
 戦いが終わった後、帰ってくる少年少女達をいつもそうやって迎えていた。
 実の家族も同然に、“男”は彼らを見守り続けていた。

 ――“お前達なら何にだってなれる。未来だって創れる”。
 そんなありふれた激励によって、若き力を育てていった。
 “男”もまた彼らの輝きに救われて、これからも絶対に支えると誓っていた。
 血潮が蒸発するほどの情熱を、理想を胸に抱いていた。

 そんな夢は、容易く終わりを告げた。

 かつては正義だった青年――ひとりのヒーローが、いつしか力に飲まれ始めた。
 ヒーローは“男”に育てられ、支えられ続けたことで、己の超力を何処までも高めていった。
 彼は少年少女達の中でも特に資質に優れ、仲間達を先導していた青年だった。
 “男”はその青年を、実の息子も同然に見守り続けてきた。

 しかし青年は、次第に異能の力に心を飲み込まれていった。
 次第に歯止めが効かなくなり、自制をも失っていき。
 後戻りできない一線すらも飛び越えて。
 やがて、闇の底へと転落していった。

 力による屈服。力による支配。正義の拳は、弱者に対する脅威へと変貌した。
 そうして青年は、同じような経緯を持つネイティブ達をも取り込んだ。
 やがて勢力は増幅し、凶行の限りを尽くす“悪の組織”が生まれた。

 その中には、“男”が見守り支えてきた少年少女達が何人も居た。
 彼らは最早、殺人さえ厭わなくなった。
 いつしか自警団は、その“悪の組織”の前身として語られるようになった。

 なんてことはない。ひどく、ありふれた話だ。
 破壊と混沌に塗れた、この世界において。
 若者が力に飲まれ、堕落するのは、よくある話だ。


492 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:47:15 VxO4grhA0

 後悔と諦念。果てなき絶望。
 お前が悪を此処まで創り上げたのだ、と。
 お前が奴らの限界を壊したのだ、と。
 そんな罪を、誰かが己に突きつける。

 “おかえり”。
 そんな言葉も、使わなくなった。
 もう誰も“男”の元には帰ってこないからだ。

 人間は醜い。人間は下らない生き物。
 その程度のことさえも知らなかった。
 無知故の愚かさが、この結果を招いたのだ。
 “男”は、己を苛める。己に失望する。
 ――――“俺”はつくづく、身勝手な生き物だ。

 やがて“男”は、その魂を乗っ取られた。
 自ら作り上げた、邪悪の外殻によって。
 己自身の手で、己の矜持を踏み躙った。
 自ら作り上げた、紅毒の仮面によって。
 自分の異能で、自分を悪へと創り変えた。

 ”ブラッドストーク“。血に忍び寄る者。
 あるいは――――血に塗れた鸛(コウノトリ)。

 若く幼きネイティブの卵を、血の世界へと運ぶ者。
 彼らを育て上げ、英雄として巣立たせ、苦悩と絶望の中で踊らせる。
 善を嘲笑い、果てなき混沌を齎す、不吉なる紅鳥。

 それでいい。それが己なのだ。
 それこそが、在るべき姿だ。

 だって、そうだろう。
 堕落こそが、人間なのだから。
 信じたところで、報われないのだから。
 ならば、全てを嘲笑う道化になった方がいい。

 この血を蒸発させる“正義の情熱”。
 そんなものは、もう何処にもない。
 身体を流れる血流は、もう凝り固まっている。
 血は滾らず、血は燃え盛らず。
 “蒸血”――そんな言葉は、消え失せた。

『“凝血”。それでいいのさ、俺は』

 紅い血は、悪意と愉悦で凝り固まった。
 穢れし紅鳥は、狂喜と混沌の中で踊る。
 正義を揺さぶる“実験”を始めるのだ。

 ――――どうだ、泣かせる話だろ?

 同情したなら、是非とも恵んでくれ。
 根こそぎ奪って、嗤ってやるからさ。
 蔑みたいなら、是非とも嘲ってくれ。
 お前らの醜さを、全部飲み込んでやるよ。

 閑話休題。ご静聴、感謝いたします。
 麗しきナイスミドル、恵波 流都がお送りしました。





493 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:48:01 VxO4grhA0



「おっ」

 刑務の舞台である無人島。
 その西部、鬱蒼とした森の中。
 恵波 流都は、木々の隙間から夜空を見上げた。

 微かに照る月と星の光を背負うように。
 その“少女”は、空を翔んでいた。
 子供らしき“何か”を抱えながら、跳躍していた。

 今の時代の人間にとって、夜目が利くのは当然だ。
 故に流都も、空を駆け抜けていく“影”の姿を捉えていた。

 ロングヘアーを靡かせ、黒いレオタードスーツを纏った少女。
 スタイリッシュなバトルスーツやバトルスカートを身に着けたその出で立ち。
 それはまるで、“変身ヒロイン”のようだった。

 そんな姿を見つけて、流都は鼻で笑うように嘲る。
 かつての自分も、堕ちた後の自分も、数々の若者に“ヒーローとしての姿”を与えていた。
 それこそまさに、日曜日の朝方から放映している特撮番組のように。
 チェンジ・ビルド。対象を異なる姿へと変貌させる、流都の超力。

 流都は、その少女を追いかけることにした。
 いつものように、好奇心を満たすために。
 己の望む混沌と布石を作り出すために。
 そして、自らの手で正義を踊らせるために。
 悪しき鴻鳥は、鼻歌交じりに歩を刻んでいく。





494 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:49:03 VxO4grhA0



 葉月りんかと交尾紗奈は、森の外側で身を休めていた。
 平野との出入口付近にある樹木の傍で、腰を落ち着かせていた。
 
 このまま森を越えて、平野を跳躍しながら安全地帯を探していくことも考えた。
 しかし遮蔽物のない平野を高速移動していけば、不用意な注目を集める危険性が生じる。
 その結果として他の囚人達、とりわけ好戦的な面々に捕捉される可能性も否めない。

 りんか一人だけならまだしも、彼女の腕には紗奈が抱えられている。
 夜目が利く超力世代の者ならば、夜空を跳ぶ人間の視認も容易いことだ。
 故に彼女達は敵を巻いたことを確認したうえで、一旦外れの木陰に降り立つことにした。

 そして、何より。
 可及的速やかに、済ませねばならないこともあった。

「はい、紗奈ちゃん」

 既に変身を解いたりんかはすっと、“それ”を差し出した。
 無骨で可愛げのない、煤けた色の衣服だった。
 囚人服である。それも、子供が着るようなサイズだった。

「……ありがとう」

 紗奈は、それをおずおずと受け取る。
 何ともむず痒そうに、囚人服へと袖を通していく。

 つい先ほどまで、紗奈は一糸纏わぬ姿だった。
 自らの痴態を見て欲望を抱いた者に作用するという、極めて限定的な超力。
 その異能を行使するために、彼女は自らの衣服を脱いでいた。

 それは紗奈にとって、自らの身を守るための術。
 他人の悪意と情欲に蝕まれ続けた少女にとって、唯一の抵抗の手段。
 奪われないために、奪われる姿を曝け出す。
 そんな歪んだ矛盾に満ちた、呪縛のような力。

 バルタザール・デリージュから逃れるべく、りんかは紗奈を連れて跳んだ。
 咄嗟の行動だったし、なりふり構う暇もなかった。
 だから衣服を着ていないままの紗奈を抱えて逃げるほか無かったのだ。
 彼女の囚人服を確保することができたことは幸いと呼べたが。

 そうしてりんか達は身を休めて、ようやく紗奈に服を渡すことが出来たのである。
 両手両足を拘束していた手錠も、既に外している。
 
「ねえ、紗奈ちゃん」
「うん」
「いつも、あんな簡単に脱いじゃうの?」

 囚人服を着込んだ紗奈が、りんかの眼差しを見つめる。
 つい先程、初めて出会った時のことだった。

 紗奈はなんの躊躇いもなしに服を脱いで、自ら拘束された姿を見せつけていた。
 まるで誘惑するかのような痴態を、りんかに対して差し出していた。
 りんかだけではなく、自分達を襲撃してきた男にさえも。
 そんな紗奈の姿を振り返って、りんかはそう聞いた。


495 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:49:43 VxO4grhA0

 りんかの目は、紗奈をじっと見ている。
 義眼と生身の眼が、紗奈の顔を見つめている。
 その眼差しに宿る感情を受け止める前に、紗奈は思わず目を逸らす。

 そして紗奈は、どこかばつが悪そうに俯き。
 ほんの少しだけ沈黙してから、それらしく口を開いた。

「まぁ……慣れてるからね」
「そ、そうなんですか……」
「慣れでしかない、結局は」

 そう、いつものことだから。
 いつだって、やっていることだから。
 変わりはしない。それだけが自分の生きる力だから。

「紗奈ちゃんは、大丈夫なの?」
「大丈夫とか、大丈夫じゃないとか……そういうんじゃないよ」

 案ずるようなりんかに、紗奈は素気無く答える。

「さっきも言った通りなの」

 紗奈にとっては、何処だって同じだった。
 家族に売り飛ばされてからも。
 あちこちで“飼われる”ようになってからも。
 この刑務所で“保護”されるようになってからも。

「私はね」
 
 結局は、何も信じられないし。
 みんな、自分を“そういう目”で見てくる。
 そんな連中に、自分は“そういう姿”を晒す。
 弄ばれる時も、抵抗する時も、同じだ。

「こうやって、ずっと大人達から……」

 だから、紗奈は淡々と答える。
 ごく当たり前のことを語るかのように。

「自分の身を守ってきたから」

 そうやって生きてきた自分の境遇を、静かに噛み締めた。

「……だから、慣れてるの」

 そんな言葉を吐く自分に、胸がちくりとした。

「別に大丈夫。いつもそうしてる」
 
 普段なら、何とも思わないはずなのに。
 普段なら、とうに諦めてるはずなのに。

「私は、慣れてる」

 自分に寄り添って、守ってくれた少女に。
 りんかに対して、こう告げることに。
 紗奈の胸は、痛みを感じていた。

 そうして紗奈は、再びりんかの目を見た。
 何故だか、少しだけ顔を上げてみたくなった。

 大人達は、みんな“そういう目”だ。
 下卑た欲望に塗れて、此方を品定めして。
 その牙を剥いて、貪る瞬間を待ち侘びている。

 だから、初めてだった。
 紗奈を見つめるりんかの“目”には。
 夕焼けのような悲しさが、遣る瀬無さが宿っていたから。





496 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:50:41 VxO4grhA0



 交尾紗奈は、ひどく魅力的だった。

 最初に出会ったときも、可憐だと思ってしまった。
 微かな情欲さえも、くすぐられかけるほどに。
 ほんの少しでも、支配欲のようなもの首をもたげるほどに。
 紗奈という少女には、目を奪われる愛らしさがあった。

 かつて搾取され続けてきた葉月りんかが。
 そう思ってしまうくらいに、この少女は。
 “誰かを悦ばせること”に、慣れていた。
 “誰かを惑わすこと”に、慣れていた。

 何処からどう見ても、紗奈は“子供”だった。
 せいぜい10歳ほどの、幼い少女だった。
 本来なら小学校に通っているくらいの年齢のはずだ。

 そんな少女が、このアビスに収監されている。
 世界の果てと言われる刑務所で、囚人になっている。

 どこかで、噂を聞いたことはあった。
 アビスは単なる犯罪者の収容施設に留まらない。
 地域の法律や秩序では扱い切れない者。
 やむを得ぬ事情で裁かれることになった者。
 制御できない超力を持つなどの理由で、社会的な保護へと至った者。
 そういった事情を持つ者も、少なからず存在するという。

 だからアビスには、犯罪者らしからぬ囚人もいて。
 未成年の受刑者も、そう珍しくはないのだという。

 ならば、この少女は。
 紗奈は、どんな事情を背負っているのだろうと。
 りんかは、思いを馳せる。

 紗奈と初めて出会ったとき、りんかは感じ取った。
 この娘は私と同じだ、と。
 苦しみの泥濘の中をもがいているのだ、と。

 ――“やめて!触らないで!”
 ――“もうイヤッ!”
 ――“痛いのも恥ずかしいのも!!”

 あのとき、紗奈は。
 そんなふうに取り乱していた。
 涙を流して、必死に叫んでいた。

 ――“みんな全部全部大キライっ!”
 ――“静かなところに行きたい!”
 ――“一人になりたい!!”

 これほどまでに幼い少女が。
 そうやって、他者を拒絶していたのだ。


497 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:51:32 VxO4grhA0

 紗奈がどういう経緯で、アビスにいるのか。
 出会ったばかりのりんかには、知る由もない。
 しかし、それでも察せられることはあった。

 この女の子は。この少女は。
 自分を差し出して、誰かを魅惑することに。
 ひどく、慣れてしまっていて。
 取り乱してしまうほどの境遇の中に置かれて。
 そんな世界の中で、生きていたということ。

 かつての自分の姿が、りんかの脳裏を過ぎる。
 人ですらなくなっていた、在りし日の自分のことを。
 あのとき、りんかは“モノ”になっていた。

 葉月りんかは、決して超人ではない。
 彼女はジャンヌ・ストラスブールのような逸脱者ではない。 
 ――肉体と精神の鼓舞、そして強化。
 その超力が無ければ、りんかはとうに壊れている。

 りんかが今なお正気を保っていられるのは、異能によって彼女自身の精神が護られたからだ。
 ある意味で彼女もまた、超力と人格が直結するネイティブ世代の在り方を体現しているのである。

 そして、だからこそ。
 りんかは直向きな姿勢で、善性を貫こうとする。
 痛みと苦しみを知っているからこそ、誰かの葛藤に寄り添おうとする。

「紗奈ちゃん」

 りんかが呼び掛けたのも、そんな想いからだった。
 そして――りんかの脳裏を、過去という影が目まぐるしく駆け抜けていく。
 あの日々の残像が、今もなおりんかの記憶で夥しい反響を繰り返す。
 
「りんか?」
「ね、聞いて」

 そうしてりんかは、紗奈の両肩へと触れた。
 紗奈は目を丸くして、幾らかの驚きを見せる。

「やっぱりさ」

 それから、矢継ぎ早に。

「やめよう?ああいうの」
 
 りんかは、紗奈へとそう告げた。
 その声色に、切実な感情を込めて。


498 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:52:31 VxO4grhA0

「“やめよう”、って……」

 紗奈にとって、思いも寄らない言葉で。
 呆気に取られたように、そんな反応を返した。

「紗奈ちゃん。やめよう」

 その言葉が意味することは、紗奈にも理解できた。
 りんかの眼差しが訴えかけることを、察していた。

 紗奈は、自らの超力による自衛が半ば当たり前になっていた。
 自分の周りには、いつだって欲深くて汚い大人達が近寄ってくる。
 誰も彼もが下卑た眼差しを向けて、自分に触れようとしてくる。
 ――だから、身を守らなければならなかった。
 超力を駆使して、自分で自分を護らねばならなかった。

 そして数々の囚人達が入り乱れるこの刑務において、尚更自分はこの力を頼らざるを得ないのだろうと思っていた。
 例えその手段が貞淑とは程遠いものだとしても、それだけが紗奈にとっての生きる術だったから。

 紗奈自身も、そんな行いに慣れてしまっていた。
 躊躇いなんてものは、失って久しかった。
 だからこそ彼女は、ただ戸惑っていた。

「でも……万が一の時が」
「万が一じゃなくてさ」
「そうしないと、超力が……」
「守るから。私が絶対に」

 りんかの言うことは非合理的で。
 その言葉は、要領を得なくて。
 けれど、ひどく切に願うかのようで。
 りんか自身も、矛盾を分かっている様子で。
 戸惑いと動揺の中で、微かに震えていて。

「……私が、守るから……ね?」

 りんかの口から。
 絞り出すように吐き出された言葉が。
 紗奈の胸に、静かに染み込んでくる。


499 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:53:07 VxO4grhA0

 紗奈は、困惑の中でりんかをまじまじと見た。
 片側が義眼になっている両目が、紗奈の顔を真っ直ぐに見つめている。
 その眼差しも、声色も、ひどく切実な感情を込められていた。

 何か、ざわつくものがあった。
 心の奥底で、揺れ動くものがあった。
 不思議な感情が、静かに押し寄せてきた。

 同時に、りんかがどうしてアビスにいるのか。
 彼女のような人物が、なぜ収容されているのか。
 紗奈は、疑問に抱いて――その経緯に思いを馳せて。

「……それでも、もしもの時は使うから」

 そのうえで、紗奈は戸惑いながらも。
 りんかに対して、おずおずとそう伝えた。
 あくまで必要性に訴えかけるように。
 いつものように、身を守る術として使う為に。

 けれど――その言葉を紡ぐとき。
 紗奈の胸の内で、ちくりと痛むような感覚があった。

「紗奈ちゃん……」

 紗奈を見つめるりんかは、視線を落とした。
 やるせなさを胸に抱くように、声には悲しみが籠もっていた。
 そんなりんかを見つめて、紗奈の心に負い目のような思いが浮かび上がる。
 胸に刺さった痛みは、まだ微かに痺れている。
 そうして互いに、なにか一言でも相手に伝えようと口を開いた矢先――。


「――――よっ」


 飄々とした男の声が、割り込んできた。
 木々の隙間から、ぬらりと現われるように。
 その中年の囚人、恵波 流都は二人の少女と相対した。





500 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:54:13 VxO4grhA0



 りんかは、身構えるように息を呑んだ。
 紗奈は、思わぬ来訪者に戸惑いを見せた。
 “死刑”の首輪を備えた男が、余裕綽々に歩を刻む。

 流都は――悠々とした笑みを浮かべながら、少女達の前へと躍り出る。
 そして流都は、りんかの義手義足を一瞥し。

「やっぱりな。葉月りんか、だろ?」
「えっ?」

 りんかの名を、すぐに言い当ててみせた。
 その瞬間、思わずりんかは動揺を見せる。
 彼女はまだアビスに収監されてから二週間しか経過していない。
 “自分の名前が他の囚人に知られている”という経験に、彼女は慣れていなかった。

 そして、りんかは分かっていた。
 自分がどのように語られているのかを。
 心の何処かで察していたから、微かにでも揺さぶられた。

「貴方は――」
「裏で、噂には聞いてたぜ」

 そんなりんかの不安を突くように。
 流都は軽薄なリズムで、言葉を続けていく。

「――拉致され、陵辱され、そして洗脳までされた。
 件の犯罪組織に徹底的に蹂躙された挙句、アビスへと送られた少女。
 今もこうして生きているのが不思議なくらいの犠牲者」

 葉月りんかという少女を襲った、壮絶なる体験。
 まだ10代半ばの子供でありながら、過酷な運命を辿り続けていた。
 彼女が歩んできた道筋を、流都は他人事のように要約する。

「その手足も、そんときに散々弄ばれた結果だろ?
 酷いモンらしいからなァ、そういう連中の“遊び”ってのは。
 俺もいっぱしの犯罪者だからな。噂は何度も聞いてるさ」

 他人事のように言っているが――流都は、りんかのことを知っていた。
 何故なら彼は、りんかを拉致した“犯罪組織”との繋がりがあったから。

 混沌を求めて暗躍する流都は、各所で闇の世界との接点を持つ。
 その中で、組織的な人身売買のルートを目にしたことは何度もあった。
 家族全員が殺害、または拉致され、組織の慰み者になった少女についても聞いたことがあった。

 正義の集団に敗北し、服役へと至る前。
 流都は裏社会の“ビジネス”の中で、偶々りんかを目にしたことがあったのだ。
 当時は、社会の闇に放り込まれた“哀れな人形”の一人程度にしか認識していなかったが。
 その後、りんかの噂はアビスでも聞くことになった。


501 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:55:14 VxO4grhA0

「で、あんたの裁判も盛り上がったそうだな?
 罪の是非について聴衆が大騒ぎしたくらいに。
 そして、団体がその手足の慈悲を送った程にな」

 動揺を隠せないりんかに、畳み掛けるように告げる流都。
 彼が掴んでいるりんかの“情報”は、あくまで断片的なものに過ぎない。
 殆どが噂話か、多少聞き齧った程度の事柄でしかない。

「まさに――悲劇的って奴だよなァ。
 こんな刑務所には似つかわしくない“犠牲者”だ」

 しかし流都は、まるで“腹の底まで見通している”かのような口振りで語る。
 その巧みな話術で、少女の焦燥感へと土足で踏み込んでいく。
 全てお見通し。お前のことを何でも知っている。
 そう言わんばかりの態度を取り、自らが場の主導権を握る。

「挙句、こんな刑務への参加まで強要されちまってる。
 果たしてこれは追い討ちなのか、あるいはチャンスなのか、ってな」

 飄々と不敵に、そして食わせぬ素振りで。
 巧みに支配するように、言葉を並び立てる。

「――――俺はこれを、チャンスと考えている。
 アビスの狂った支配から解き放たれる為のな」

 この男にとって、口八丁は何よりも得意分野だった。

 言葉を失うりんかを、紗奈は困惑と共に見つめていた。
 ――目の前の男が粛々と語った、彼女の経緯。
 拉致。陵辱。洗脳。その壮絶な言葉が、脳裏で反響する。
 自分を支えようとする少女は、徹底的に蹂躙された果てに地の底まで辿り着いたのだと。
 紗奈は、思わぬ形で知らされることになる。

 紗奈はただ、りんかに視線を向けていた。
 唖然とする彼女の姿を、何も言わずに見ていた。
 前向きで、おせっかい焼きで、何処か眩しさがあって。
 そんな少女が背負ってきたものを、沈黙の中で噛み締めていた。
 そのことに対する感情を、紗奈は上手く整理できない。

「……貴方は、何なんですか?」
「おっと、名乗るのを忘れてたな。失礼したぜ。
 俺は恵波 流都。しがないナイスミドルの犯罪者さ」

 微かに震えるりんかの口元が、辛うじて言葉を紡ぐ。
 不安と困惑を滲ませるりんかの様子に、流都はお構いなしの態度で軽妙に名乗る。
 戯けた様子で会釈して、りんかの側にいる紗奈にもひょいと片手を上げて挨拶。
 思わず紗奈は面食らって、僅かに後ずさった。

「葉月りんか。お前はこの場で何を求める?」

 そして、当惑の中に立たされていたりんかへと向けて。
 流都は、先程までとは違う――真剣な眼差しで問いかける。


502 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:56:33 VxO4grhA0

「私が、何を求めるか……?」
「そうだ。先に言っておくが、俺はこの刑務に立ち向かいたい。
 囚人達をゲームの駒として競わせるなんて、以ての外だ。
 だからこそ、お前のような人間と会えて良かったと思ってる」

 ふいに心を貫くような言葉に、りんかは思わず気圧された。
 そのまま流都は、彼女が思考する隙を与えない。

「悪の組織に囚われ、凌辱の限りを尽くされた。
 家族を全て奪われ、お前は数年に渡る地獄に身を置いた。
 しかも、戦場では末端の犬として利用されたんだろう?」

 再び、流都は捲し立てる。
 自らの言葉に、りんかを釘付けにする。
 異なる点があるとすれば、その目にはもう軽薄さは宿っていない。
 真っ直ぐに、真摯な意思を込めて、流都はりんかを見据えている。

「だが、それでもお前の“正しい心”は消えていないらしい。
 その子を守り、寄り添っていることからしてすぐに分かった」

 そして彼は、りんかの意志に理解を示すように言った。
 そのまま矢継ぎ早に、紗奈へと視線を動かした。

「お前なら、もう分かっているだろう?
 そんな幼い少女まで放り込み、殺戮の刑務を強要する“アビス”の異常性を」

 そう、流都の言っていることは間違っていない。
 囚人達に何一つ拒否権を与えず、このような刑務を強要している。
 あらゆる刑罰を背負う者達を無造作に集め、互いに争い合うことを促している。
 それは、紛れもない事実なのだから。

「囚人達よりも、奴らの方が余程狂っている」

 その疑念に差し込むように。
 流都は、そう断言した。
 その眼差しに、確固たる怒りを込めて。

 りんかの頬に、一筋の汗が流れる。
 流都が熱弁する言葉に、理解を示していく。
 彼の言う通りだと、思ってしまった。

 この刑務は、紗奈のような少女さえも放り込まれている。
 拒否権も何もなく、誰もがこの争いの盤面に引き込まれている。
 “刑務”としての正当性を疑うべきなのは、当然のことで。

「――――なあ、葉月りんか」

 そして、流都の眼差しがりんかを射抜いた。
 まるで心に銃弾を撃ち込むかのように。
 彼女の意思に生じた隙に、潜り込むように。


503 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:57:14 VxO4grhA0

「その魂がまだ死んでないのなら、立ち向かえ。
 その血が今も滾っているのなら、戦い抜け。
 お前にとって真に正しいことを貫け!」

 流都は語る。流都は説く。
 反抗の意思。叛逆への勧誘。
 この刑務へと立ち向かうことを、りんかに促す。
 この刑務の過ちを共に正すことを、りんかに求める。
 彼女の中に宿る正義に、流都は訴えかける。

「俺は、お前の持つ強さを買っている。
 だからこそ、こうしてお前に伝えているんだ。
 お前なら、奴らの作り出した壁を打ち砕ける。
 俺はそれを信じている。何処までもな」

 りんかは、何も言えない。
 流都の言葉は、踊るようにステップを踏む。
 流都の演説が、舞うように躍動を刻む。


「そして、この地の底から這い上がって――――」
「ウソ、だよね」


 しかし。
 そんな彼の言葉に、割り込む者がいた。
 りんかの側にいた紗奈が、口を挟んだのだ。

「あの……あなた」

 紗奈は、おずおずと口を開く。
 不安を滲ませつつも、それでも流都を見据える。
 ここで止めなければ、りんかは飲み込まれてしまう。
 そう察したからこそ、紗奈は声を上げた。

「りんかのこと……」

 紗奈は、気付いていた。
 流都がりんかを懐柔していることを。
 その言葉で、操ろうとしていることを。

「都合よく、動かそうとしてない?」

 だって、眼前の男からは。
 紗奈が散々嗅いできた“匂い”がしたから。

 つまり、取り繕った笑みを浮かべる大人。
 優しげに歩み寄りながら、己の利益と欲望を満たそうとする。
 そんな醜い連中と同じ気配が、鼻を突くほどに漂っていた。

 交尾 紗奈は、壮絶な境遇に置かれていた。
 りんかのように、希望を掴めなかった。
 それ故に、他者への強い不信感を持っていた。
 だから“怪しい大人”には、人一倍敏感だった。

 そして、紗奈は。
 りんかを助けなければならないと。
 無意識のうちに、思っていた。


504 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:58:05 VxO4grhA0

 初めて出会った時に、助けてくれたからか。
 自身と同じような境遇が、見え隠れしたからか。
 あるいは、誰も言ってくれなかった“言葉”を伝えてくれたからか。
 その答えは、分からない。紗奈にも飲み込みきれない。

 けれど今、確かなことは。
 紗奈は、呆然とするりんかのために動いた。
 彼女を寸前のところで、引き止めたということだ。

 その時、流都はふと。
 眼の前にいる幼い少女が誰なのか。
 ようやく、思い出したのだ。

「なぁ、嬢ちゃん」

 交尾 紗奈。
 裏社会の玩具。幼き死神。
 ある形で怖れられる、穢された少女。

「気付くのに遅れちまったぜ」

 その被害の数々に反し、彼女の姿を知る者は案外と少ない。
 何故ならば、それは。

「――『死神』だろ?」

 彼女を目にした者は、大抵この世を去っているから。
 そして彼女の存在は半ば噂同然に流布され、裏社会の巷では徹底して認識を避けられていたから。
 だから流都は、紗奈の正体に気付くまでに時間を要したのだ。
 それでも――幼くしてアビスに収監され、自分の本性を見抜いてみせた少女に対し、ふと心当たりを抱いた。

「全く。余計な茶々挟むなよ」

 家族に売り飛ばされ、犯罪組織に陵辱の限りを尽くされ。
 やがては死を齎す玩具として、闇の世界を彷徨い続けた少女。
 彼は、目の前の幼子の正体を察した。

「――――い、や」

 半ば直感のように、紗奈は危機を抱いた。
 そして自身を『死神』と呼ぶ男に、恐怖を抱いた。
 紗奈は動揺と焦燥を顔に滲ませて、取り乱しかけて。

 思わず自身の服に手を掛けて、その素肌を曝け出そうとした。
 自らの痴態を“他者”に見せつけることで、超力を発動しようとした。

 ――誰かに剥ぎ取られて、奪われる。
 ――奪われないために、自ら剥ぎ取る。

 紗奈の異能は、いつだって自分自身の摩耗を求められる。
 諦めても、足掻いても、彼女の心は苦痛と恐怖に抉られる。 

「散々慰み者になったのに、まだ見せ足りないか?」

 しかし、次の瞬間。
 流都の右腕から、赤黒い鞭のようなものが伸びる。
 それは風を切るような勢いと共に、紗奈へと向かっていく。

「生憎、お前みたいな“モノ”に興味はねえのさ」

 先端が刃のような鋭さを持った、紅い触手だった。
 例え“戦闘形態”にならずとも、能力の一端を行使することができた。
 その凶器が、紗奈の胸を勢いよく貫かんとした。

 そして、その光景を目の当たりにして。
 咄嗟に動き出した、一人の少女がいた。





505 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:59:03 VxO4grhA0



 幼い頃、お姉ちゃんと一緒によく“特撮ヒーロー”を見ていた。
 それは“開闢の日”よりもずっと昔にやっていた作品。
 日本が昭和っていう年代だった頃の、すごく古い番組。

 刑事だったお父さんは、そんな古き良き時代のヒーローが大好きだった。
 趣味がお年寄りみたいで渋すぎるとか、お母さんはよくお父さんさんを笑っていたけれど。
 ある日お父さんに誘われて、私も一緒に見ることになって。
 気が付けば、私もその作品にのめり込んでいた。

 機器を起動して、映像の再生を開始して。
 そして私はいつも、テレビへと釘付けになる。
 お父さんは仕事で忙しくて、中々一緒に見られなかったけど。
 お姉ちゃんは、そんな私によく付き合ってくれた。

 その“ヒーロー”は、哀しみを背負っていた。
 ただの学生だった彼の日常は、ふいに終わりを告げた。

 悪の組織によって、連れ去られて。
 その身体を弄られて、改造されて。
 人間じゃなくなって、悪の尖兵にされかけて。
 けれど心を失う前に、何とか逃げ出して。
 苦悩と葛藤を抱きながら、それでも戦い続ける。

 そんな“ヒーロー”の姿を、幼い私はじっと見つめていた。
 大災害でたったひとりだけ生き延びてしまった私は、正義のために戦う彼を見つめ続けていた。
 孤独を秘めながらも、それでも正しいことのために走り続ける。
 その姿に、私は大きな勇気を与えられていた。
 こんな生き方も、肯定して良いんだ――って。

 ああ、今になって思えば。
 奇しくも、同じような道を辿っていた。

 犯罪組織によって、家族もろとも囚われて。
 身体を壊されて、徹底的に弄ばれて。
 もう人としての形さえも失って。
 抵抗しても、逃げ出せなくて。
 心を支配されて、尖兵に成り果てて。
 やがて助け出されて、機械の四肢を貰って――。

 改造人間。悲哀を背負う、人ならざるもの。
 違いがあるとすれば、私はもうアビスだけが私の生きる道で。
 懲役という手段でしか、誰かに尽くせなくなったこと。
 けれど、ここまで堕ちても“誰かを救える”から、私は走り続けられる。

 そして、刑務が始まった。
 24時間にも及ぶ、恩赦の奪い合い。
 誰もが命を懸けて、争わねばならない。
 私たちは、そんな舞台へと放り込まれた。

 “刑”とは、何のためにある?
 贖いのためだ。救済のためだ。
 踏み外した道を、やり直すためだ。

 私は、“あの男”に飲まれかけていた。
 並び立てられる言葉に、支配されかけた。
 けれど紗奈ちゃんが、助けてくれた。
 何かに飲まれかけた私を、“あの娘”が引き戻してくれた。
 傷つき、苦しんでいた、この小さな女の子が。

 だったら――私も、踏ん張らなきゃいけない。
 自分がなすべきことを、やらなければならない。

 私がまだ、私でいられるのなら。
 今度こそ、誰かに手を差し伸べる存在になりたかった。
 私の手を握ってくれた、お姉ちゃんのように。
 私を救ってくれた、正義の超力集団のように。

 仮面を被り、バイクに跨る。
 あの特撮番組の“改造人間”のように。






506 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/20(木) 23:59:49 VxO4grhA0



 紅毒の一撃が、紗奈を貫くことはなかった。
 紗奈の超力が、敵を制することもなかった。

 何故ならば。
 紗奈を守るように。
 紗奈を庇うように。

 その少女が、立ちはだかっていたから。
 紗奈に対し、背中を向けた姿で。
 葉月りんかは、紅の触手を両腕で防いでいた。

 刃のように鋭い触手の先端は、りんかの前腕に突き刺さっている。
 しかし肉を貫く寸前の所で、その侵入が堰き止められていた。
 自らの“超力”による鼓舞により、彼女の肉体は強化されている。
 触手より溢れ出る毒をも、辛うじて跳ね除けることを果たしていた。

「紗奈ちゃん」
 
 そしてりんかが、振り返った。
 義眼の右目が、紗奈を見つめる。
 その衣服は乱れかけて、すぐにでも自分の服に手を掛けようとしていた。

「もういいんです」

 自分自身の服を剥いで、その素肌を曝け出そうとしていた。
 醜い欲望によって酷く摩耗した身体を、再び使おうとした。
 けれど、りんかは。
 そんな紗奈に対して、そう語りかける。

「そんなこと……してほしくない」

 義眼の眼差しが、微かに揺れる。
 声が震えて、苦悩と悲嘆を帯びる。

 “こうやって、大人達から身を守ってきた”。
 “もう痛いのも恥ずかしいのも嫌”。
 “みんな、大嫌い”。

 紗奈にそんな思いを抱かせた境遇に。
 りんかは心から憤って、哀しんでいた。

 なぜなら、葉月りんかも。
 同じ地獄の中に置き去りにされていたから。
 同じ悪夢の中で泣き叫んでいたから。
 同じ絶望の中へと沈められていたから。
 
 人としての魂を徹底的に穢される、最も忌むべき世界に堕ちていた。
 人としての尊厳を奪い、只管に踏み躙っていく、闇の底に放り込まれていた。
 ずっと、ずっと、仄暗い籠の中にいて、暖かな空さえも仰げなかった。

 人間が“モノ”に成り果てるのは、酷く容易いことなのかもしれないけれど。
 彼女達は、決して“モノ”になんかなりたくなかった。

 それこそが、彼女達を苦しめて。
 それこそが、彼女達を苛めて。
 それこそが、唾棄すべきもので。
 それこそが、否定しなければならないものだった。
 ――――それは、闇だ。本当の悪だ。

 だからこそ、りんかは。
 絶対に、何があっても、紗奈に伝えたかった。
 りんかは、身も心も裂く痛みを知っていたから。

 葉月りんかという15歳の少女は。
 もう、子供すら産めないのだから。


507 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/21(金) 00:00:57 AxS1/W8Q0

 何も言わず、何も言えず。
 紗奈はただ、振り返るりんかを見つめていた。
 唖然としたように。胸の奥底の何かが、揺れ動くように。
 言葉を失ったまま、紗奈はりんかの後ろ姿を見上げていた。
 
 紗奈は、口を開こうとした。
 けれど、うまく言葉が出てこなかった。
 ざわつくように、心は震えていた。
 波が押し寄せるように、想いは脈を打っていた。

 その義眼から滲み出る悲しみは、怒りは。
 まるで、自分と同じように見えて――――。

「待ってて。紗奈ちゃん」

 やがて紗奈に対し、りんかは告げる。
 妹を優しく宥めるように、微笑みながら。
 少女は再び前を向き、“敵”と相対する。

 紗奈は、そんなりんかに呼び掛けようとして。
 ――得られることのなかった“姉”の温もりを幻視して。
 けれど躊躇うように踏み留まり、再び沈黙をした。

「――流都さん。私が何を求めているのかと、さっき聞きましたね」

 そしてりんかが、対峙する。
 紅毒の攻撃を仕掛けた“相手”に対して。

「私は、“誰か”の救いになる為に走ります。
 紗奈ちゃんや、かつての私のように。
 心の何処かで、手を差し伸べられることを望んでいる人がいるから。
 そんな人たちが、きっとこの場にもいるから」

 先程までとは、違う。
 流都に飲まれかけた時の動揺は、既に振り払った。
 紗奈に守られ、紗奈を守ったことで、りんかは己を取り戻した。
 自らの望みを、はっきりと告げたのだ。

 自身に再起の機会を与えてくれたアビスに、感謝はしている。
 けれど、この刑務の是非はまた別の話であることも確かだ。
 その点に関しては、流都の言う通りだった。
 彼らは受刑者達に拒否権も与えず、この刑務に引き摺り込んでいる。
 それは否定しようのない事実だった。

 彼らの思惑が何処にあるのか、一体何にあるのか。
 それを見定める必要はあると思っている。

 その上で、今は自分に出来ることを貫きたいとりんかは考えた。
 罪や葛藤を背負い、苦しみ続けている誰かの力になれることを願っていた。
 そう――すぐ傍にいる、紗奈のことも支えたかった。


508 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/21(金) 00:03:14 AxS1/W8Q0

「私の方からも、改めて聞かせてください。
 貴方は、何を求めているんですか?」

 そしてりんかは、相手にも問いかける。
 この刑務を通じて求めるものを、問い質す。
 流都は飄々と佇み、嘲るような笑みを見せる。

「おいおい、さっきも言っただろ?
 俺はアビスの連中が気に入らない――」
「答えてください。お願いします」

 何処か煙に巻くように言葉を紡ぐ流都だったが。
 りんかはあくまで毅然と、彼に問いかける。
 後ろに座り込む紗奈を庇うように、りんかは凛として立つ。

「はッ」

 真っ直ぐに此方を見据えるりんかを、流都は嘲笑と共に眺める。
 悠々とした態度のまま、口を開こうとした。
 いつものように、欺瞞で塗り固めた言葉を吐こうとした。
 嘘八百、戯言。それが十八番なのだ。

「別に――――」

 いつもと同じように。
 そんな口を開きかけて。
 しかし、途中で踏み止まった。
 彼は思う。こんなことをしても、今は意味がない。
 欺きが通用する場面ではない。

「――――いや」

 既に本性は勘付かれている。
 己の腸の底を、あの“幼い死神”は悟っている。
 己が煙に巻いていることを、目の前の少女は察している。
 この少女達の前で取り繕った所で、最早意味はない。

「そうだな。観念してやるか、大人しくな」

 だったら、誤魔化す必要もない。
 開き直り、堂々と告げるのみだ。

「俺は、混沌が欲しいだけさ」

 恵波 流都――超力犯罪組織の幹部。
 数々の若きネイティブ達を翻弄し、苦悩と絶望の底へと沈めた“悪魔”。
 善と悪の境界線で踊り続け、全てを嘲笑っていく“道化師”。

「愚かな人間が、その愚かさの為に身を滅ぼす。
 身勝手な連中が、自らの業によってこの星をも腐らせる。
 その瞬間が見たいだけだ。俺は、然るべき結末への後押しをしてやるのさ」

 彼が求めるものは、破壊と混沌。
 彼が振り翳すものは、底知れぬ悪意。
 りんかやソフィアを焚き付けたのも、結局はこの舞台に更なる嵐を呼ぶ為に過ぎない。
 受刑者と刑務官の殺し合いをお膳立てする為の、扇動に過ぎなかった。

「そう、人間の醜さへの報いってヤツだ。
 俺よりずっと地獄を見てるお前なら、よく分かるだろ?」

 己の破滅的な目的のためには、何もかも踏み躙っていく。
 まるで神話に登場する悪神ロキのように、愉悦へと溺れる。

「刑務と同じなんだよ」
 
 そして、数多の凌辱を受けた少女に、囁きかける。
 己はただ、人間の醜さが生む“結果”を突き付けているだけなのだと。

「大罪にこそ、相応しい罰が必要なのさ」

 その根底が、その始まりが、如何なるものだとしても。
 悪しき追跡者――紅き血の鸛は、紛れもなく邪悪だった。
 そうして流都は、混沌を求め続ける。

「貴方は……」

 そんな流都の言葉を、りんかは聞き届けて。
 唇を少しだけ噛み締めるように、彼を見つめる。

「哀しい人なんですね」

 やがて手向けたのは、そんな一言だった。


509 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/21(金) 00:04:18 AxS1/W8Q0
 そこに侮蔑や嘲笑の意味合いなど無く。 
 心の底から、りんかはそう告げていた。
 純粋なる想いで、彼女は目の前の男に哀しみを抱いた。

 何故ならば――そんなことを謳うほどに。
 そんなことを求めるまでに。
 この“男”は、人間を否定しているから。
 そんな絶望に至るだけの道筋を歩んでいると、りんかは悟ったから。

「ああ、哀しいだろう?」

 されど流都は、自らに向けられる哀れみを軽やかに受け流す。
 好きに言うと良い。好きに宣えば良い。
 その程度で動じることなど無い。
 既に己の魂は、毒に蝕まれて腐っているのだから。

「俺は、その哀しみを喰らい尽くすだけだ。
 全ては道楽。混沌へと向かう布石に過ぎないのさ」

 だからこそ、流都は嘲笑う。
 無垢なる餞を足蹴にし、享楽の使徒で有り続ける。
 その心の闇は、もはや善で癒すことなど叶わない。
 彼はただ世界(ほし)を破滅へと誘い、そして踊り続ける。

「だったら――――私は!!!」

 そして、それ故に。
 流都が最早踏み留まらないことを、悟ったが故に。

「貴方を、止めますッ!!!」

 葉月りんかは、声を張り上げて宣言した。
 悪の道を歩む罪人を、この手で止めると告げたのだ。

「ははははっ!!勇ましいねえ、日曜の朝っぱらのヒーローみたいだなァ!!」

 流都は大仰に両腕を広げ、わざとらしく笑ってみせる。
 眼前に突きつけられた善性を小馬鹿にするように、彼は口元を不気味に釣り上げる。

「いっそテレビ局にでも売り込んでみたらどうだ?
 尤も、そんなデカい胸ぶら下げてちゃ格好も付かねえだろうがな」

 彼女の豊満な胸を一瞥して、軽口と共に挑発する流都。
 しかしそんな流都に対して、りんかはバシッと胸を張る。

「なんでこんなに、大きいと思いますか!?」

 精一杯の意地を張るように、毅然とした表情で流都をキッと見据えた。

「勇気と希望が!!詰まってるんですよッ!!」

 そして――勇ましく、啖呵を切った。
 限りなく陳腐に、しかし限りなく前向きに。
 正義の味方らしく、堂々たる姿で、彼女は敵と対峙した。


510 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/21(金) 00:05:14 AxS1/W8Q0
 そんな彼女の言葉を、流都は蔑むように鼻で嗤う。
 それから両腕を広げて、大袈裟に拍手をした。

「粋な台詞だねぇ。感動しちまうよ」

 まさしく、ヒーロー気取りだった。
 まさしく、善性で駆け抜けるネイティブの少女だった。
 幾度となく目にしてきた、有象無象の若者と同じだった。
 自分の腸に血肉が詰まっていることに気付きもしない、無知で愚かな“英雄の卵”。
 
 こうした若者達を、何人も貶めてきた。
 こうした若者達を、幾人も突き落とした。
 時に破滅へと導き、時に理解者のふりをして嘲笑い。
 “おやっさん”と呼ばれながら、暗躍を続けてきた。

「――ウルッと来ちまうくらいにな」

 そんなふうに、戯けてみせた。
 涙など、とっくの昔に枯れている癖に。
 感傷など、遥か過去に踏み躙った癖に。
 “男”は既に、魂まで腐り切っている。

「いいぜ。今回は特別サービスだ」

 ――それでも。
 心の何処かで引っ掛かるものがあったのか。
 あるいは、何かの未練のようなものがあったのか。
 その答えは、彼自身にもきっと分からない。

「ちょいと付き合ってやるよ。
 夢見る少女の“ヒーローごっこ”にな……!」

 流都は――真正面から“正義”を潰すことを宣言する。
 過去の残影を徹底的に踏み躙りに行くかのように。
 そして、自らが何者であるのかを規定するように。

 己は、悪魔であり。
 己は、破壊者である。
 故に、此処で叩き潰す。
 この善なる光を、此処で摘み取る。
 制御の出来ない駒など、要らない。

 流都が、その身を構えた。
 それに呼応するように。
 りんかもまた、胸の内より力を引き出した。

 一瞬、りんかは振り返った。
 自身の後ろにいる、守るべき者の姿を。
 紗奈は何も言わず、りんかの背中をただ見つめている。
 戸惑いを見せながらも、決してりんかから目を離さない。

 そんな“妹”の姿を見て。
 りんかの胸の内に、炎が宿った。

「――『シャイニング・ホープ・スタイル』!!」
「――『ブラッド・ストーク』!!」

 両者の掛け声が、重なるように交錯する。
 互いの“戦闘形態”へと移行すべく、その身に超力の光を纏う。


511 : chang[e] ◆A3H952TnBk :2025/02/21(金) 00:06:35 AxS1/W8Q0

 燃え上がる想い。炎となる情熱。
 渇き切る血潮。凝結する野心。
 不滅の希望。紅血の鴻鳥。
 光と闇が、相対する。
 地の果てのアビスにて対峙する。
 

「お嬢ちゃん」


 “凝血”――そんな掛け声と共に、自らの姿を作り変えようとした直前。
 流都はふいに踏み留まり、そしてりんかへと呼び掛ける。


「お決まりの台詞だぜ。当然知ってるよな?」


 それは、単なる気まぐれだった。
 ヒーローを気取る少女への、些細な遊び心だった。
 流都は問いかけと共に、両腕を構える。


「勿論、ですとも」


 そして、りんかもまた応える。
 その身に超力のエネルギーを纏いながら。
 右腕を斜め上に突き出して、古き良き“正義の構え”を取る。
 それは子供の頃に見ていた“特撮ヒーロー”と同じポーズだった。

 ヒーローとヴィラン。
 “正義の改造人間”と“悪の怪人”。
 相容れぬ宿命の敵同士。
 決して混ざり合わない、不倶戴天の敵。

 彼らが相対したとき。
 一体、何が起こるのか? 
 その答えは、明白だ。

 善と悪の対決(バトル)。
 勇ましき活劇の幕が上がる。
 地獄の底にて喝采が上がる。


 
「「変――――身ッ!!!!!」」



 さぁ、“聖戦”を始めようか。


【D-3/森付近の平野/一日目 深夜】
【恵波 流都】
[状態]:ブラッドストーク、ダメージ(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.このアビスに混沌を広める。
0.さぁ、遊んでやるよ。
1.囚人達を脱獄させる手段を見つけたい
2.1の目的を叶えるための協力者が欲しい
3.1の目標達成が不可能な場合は恩赦による生還を目指す

【葉月 りんか】
[状態]:シャイニング・ホープ・スタイル、ダメージ(大)、腹部に打撲痕
[道具]:なし
[方針]
基本.可能な限り受刑者を救う。
0.恵波 流都を無力化する。
1.紗奈のような子や、救いを必要とする者を探したい。
2.この刑務の真相も見極めたい。

【交尾 紗奈】
[状態]:健康、戸惑い
[道具]:手錠×2、手錠の鍵×2
[方針]
基本.死にたくない。襲ってくる相手には超力で自衛する。
0.私は――。
1.超力が効かない相手がいるなんて……。
2.りんかのことは、うまく言葉にできない。
※手錠×2とその鍵を密かに持ち込んでいます。


512 : 名無しさん :2025/02/21(金) 00:07:11 AxS1/W8Q0
投下終了です。


513 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/21(金) 20:12:25 .OhMOIUw0
投下乙です

>chang[e]
同じ傷を抱える少女たちの絆が順調に育まれているのは美しきかな、お互いの傷を癒せる相手になればいいね、などと言う展開を問屋が卸すわけもなく、早々に因縁の相手と遭遇してしまった
何故こんなニヒリズム的な混沌を望む愉快犯になってしまったのか、流都が闇落ちした経緯も明かされれど、それにしたって悪行を貫きすぎでは?
同時変身。やはりニチアサ。悪の組織に拉致られて体を改造されたという意味ではりんかも仮面ライダーと言えるのかもしれない、悲惨すぎて放送できないけども
いざとなれば紗奈が支えたり、巨悪に対して少女たちはメンタルでもお互いを支え合っているいいコンビだが、この窮地を乗り切れるのか、次回もアビスで僕と握手!


514 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:37:48 0KZrv.d.0
投下します


515 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:38:47 0KZrv.d.0
どうも、ヤミナ・ハイドです。

虫の声すらしない静かな夜。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
私は地獄です。

「それでな、ある日、俺の部下の一人がよぅ、『無人島を占拠して、世界最狂の宴会をやりてぇ!』なんてバカなことを言い出しやがったんだよ」

私の目の前では2メートル近い筋骨隆々の初老の男が潮風でしゃがれた声で意気揚々と大いに語っていた。
白髪交じりの薄い頭と失われた片目が、その過酷な戦いの歴史を物語っている。
カリブ海を牛耳る偉大なる(エルグランド)ドン。
それがこの男を表す名前である。

「けどなぁ、バカをやってこその海賊よ! 海の男たるもの、思い立ったら即行動!
 漁師たちの小舟を勝手に借りて、その辺の村で略奪した酒と肉を山ほど積み込んで、大宴会を始めるために無人島に乗り込むんだってわけよ!」

そんな相手に捕まった私は、こうして不良のヤンチャ話レベル100みたいな話を聞かされている。
どうしてこんな目に合うのでしょう、私はそこまで悪いことをしたのでしょうか?
まあ多少はしたけど。多少はね?

「だが、その島はどうにも様子がおかしかった。誰もいねぇはずの島のはずなのに、そこかしこにテントやら大砲やら謎の道具が転がってる。
 でも、細かいことなんざ気しねぇ海賊(バカ)ばかりだ、オレらはそのまま宴会の準備を始めたわけだ」
「ほぅほぅ。それでどうなったんです?」

興味を持っている風を装って、先を促す相槌を打つ。
それに気を良くしたのか、ドンは機嫌よく語りを続けた。
オジサンの話なんて適当に持ち上げとけばいいという常識はこの地の果てでも変わらないらしい。

「酒樽をガンガン空けて、肉をむさぼり、酒樽をドラム代わりに叩き、夜の浜辺で歌って踊っての大騒ぎよ!
 そんで部下の一人が盛り上がった勢いで花火をぶっ放したら、どっかの火薬庫に引火したらしく大爆発! そんでもって山が丸ごと炎上だ! ゲハハハハハハ!
 何で火薬庫なんかがあんだって話だが、酔っぱらい共は気づきもしねぇで『おお、夜空が真っ赤だぜ!』なんて喜びながら燃える山を肴に飲み続けてたってわけよ」
「え、えへぇ。最高っすねぇ」

数々のバイト経験で得たスキル、愛想笑いで乗り切る。
常識人の私からすれば内心はドン引きよ。さらっと山燃えてんじゃん。犯罪者かよ。

「で、気がつきゃ朝。二日酔い気味の目をこすって周りを見たら、なんと無人島の周囲を海軍の船がずらーりと待ち構えてやがる!
 どうやらそこは海軍が演習に使う島だったってオチだ! まいっちまったぜ、ゲハハハハ!!」
「あはっ……あははっ、おっかしー!」

このすべらない話を、腹を抱えて笑う。
何がおかしいんだこの話?
そもそもヤンチャ自慢の何が楽しいのだろう。
わざわざ他人にこんな話する人の神経を疑うよ。


516 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:39:13 0KZrv.d.0
「まあ、前日の酒が残ってた俺らもすっかりネジが外れちまってな。手で小舟を漕いで軍艦に乗り付けて、そのまま海軍相手に大立ち回りよ。
 最後は海軍共の警備艇を略奪して、海賊歌を歌いながら堂々の帰還を果たしたって訳だ、ありゃ楽しかったなぁ!」
「へへっ。そうですよねぇ。いやー、うらやましい、私も参加したかったなぁー!」

半ばヤケクソ気味にテンションを上げて返答する。
だが、その返答に機嫌よく語っていたドンが押し黙った。
こちらを睨むように見据えてくる。

しまった! 相槌が適当過ぎたか?
機嫌を損ねてしまったかと戦々恐々としながら、唾をのんでドンの沙汰を待つ。

「ゲハハハ! 言うじゃねぇか!! いいぜ、上手く娑婆に出れたらお前も連れてってやるよ!!」

そう豪快に笑いながら、ドカン、と私の背中を叩いた。
その衝撃に、私の体は僅かに宙を浮いた。

「…………ひョ!?」

どう考えても背中を叩いた音じゃない、衝撃が背中を突き抜ける。
足が地面を再び感じた瞬間、喉の奥から変な音が漏れた。

「ごはっ、ゴホッ、ゴヒュ…………ッ!!」

咽る。
私を吹き飛ばした極悪人は、悪びれるでもなくゲハゲハ笑っている。

殺す気か!? 
驚きと痛みに顔を歪めつつ、講義の意を込めて後ろから禿頭を睨み付ける。

だが、唐突に、高笑いをしていたドンがスンと表情を落とした。
睨んでる事に気づかれたか……!?
そう思い、瞬時に睨み顔を媚びた笑顔に変更して、揉み手で腰を落とす。

「ど、どうされました?」

機嫌を損ねたかと焦ったが、ドンはこちらとは違う方向。
何もない夜闇を見据え、すんすんと鼻を鳴らしていた。

「葉っぱの匂いがしやがるなぁ」

言われて周囲の匂いを嗅いでみるが、特に何も感じなかった。
ドンは口元を吊り上げ、にぃと笑みを浮かべた。
純粋な子供の様な、それでいてゾッとするような笑みだった。
確信を持ったような足取りで、警察犬のように臭いを辿るように動き始めた。

「あっ。い、行くんですか…………!?」

よくわかってないながら、私は慌ててその背を追っていった。




517 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:39:46 0KZrv.d.0
僅かに遅れてヤミナが追いついたその場所に、月明かりに照らされた二人の男が向かい合って立っていた。

それは囚人服に身を包んだ白人と黒人の男だった。
彼らは共に2メートルを超えようと言う巨体であるが、白人の方が頭一つ分ほど大きい。
存在感の塊のような2人がただ向き合っていると言うだけで、空間を捻じ曲げるような威圧感がある。

白人は言うまでもなく、ヤミナが負ってきた海賊王、ドン・エルグランド。
もう一人、黒人の巨躯は、どう見ても悪の親玉という風貌の老人だった。

周囲の闇に溶け込むような黒い肌は、男の不気味な存在感を際立たせていた。
同じ囚人服を着ているとは思えぬほど威圧感に満ちた着こなしている。
月明りの下に、ふぅと吐き出された煙は夜を白く濁らせた。

「ぃよう牧師様、いいもん吸ってんじゃあねぇか」
「これはこれはカリブの船長殿」

現れたドンに怯むでもなく、牧師と呼ばれた男は気安い調子で懐から新しい葉巻を取り出した。
そして、口元に笑みを浮かべながら船長へとそれを差し出す。

「君も一本どうかね?」
「おっ。そいつぁありがてぇ」

ドンは何の警戒もなしに近づくと、差し出された葉巻を受け取った。
そして、大男たちが顔を近づけ合い、咥えた煙草の先端をくっつけあって火を受ける。
ここにいるのはヤミナなので、シガーキスする2人の老人を見て「この爺さんたち仲いいのかな?」などと言う感想を抱いていた。

大海賊は火の付いた葉巻を口元に運ぶと、たちまち力強い吸引音で肺を満たす。
そして味わうように吟味すると、一息で大きく煙を吐き出した。
凄まじい肺活量で吐き出される煙に周囲が満たされ、ヤミナは咽た。

「こいつはキューバ産の上物だな、あんたセンスがいい」

故郷の味に満足したのか、海賊はその味を褒めたたえる。
マフィアの首領は肩を竦める事で応え、自身もその煙を味わった。

夜の草原には、不穏な静寂が漂っていた。
風に乗って立ち昇る葉巻の煙だけが、裏社会の二人の大物を一瞬にして絡み合わせる。

片や、100を超える海賊団を傘下に収めカリブの海を制した大海賊ドン・エルグランド。
片や、欧州の裏世界を牛耳る闇の皇帝、ルーサー・キングである。
コミッションでも実現しえない裏社会の大物の会合が、ほんの道すがらで実現していた。
一般の警察や裏社会の人間が見れば卒倒しかねない光景だ。

互いに数多の部下を率いる組織の長。
そんな二大勢力の頂点の会合を見守る立会人はヤミナという女一人。
正直この女、目の前のこの出会いの価値がよくわかっていない。

まあ、おっさん同士でやり取りするならしばらくこっちは休めるなー、などと考えながら。
裏社会を少しでも知る物ならば呼吸すらできない重厚な空気の中で、のんびり一息ついていた。

無言のまま白煙が夜を汚す。
黒と白。陸と海の支配者たち。
その在り方は、あまりにも対極的だった。

黒人の大男が葉巻を嗜む、その所作には落ち着いた品格があった。
全てを塗りつぶすように積み重なった風格は品性すら感じさせる重厚さがある。
全てを飲み込み、思うがままにコントロールする裏社会の支配者。
それがこの男、ルーサー・キングだ。

対する白人の大男は品性など知らぬとばかりに豪快に葉巻を吹かしていた。
無骨と粗暴を極めたような、粗野で野蛮な風格である。
己が欲するモノを思うがままに略奪する、正しく蛮族(ヴァイキング)の王。
それがこの男、ドン・エルグランドだ。

キングは根元に近づき味に雑味が出てきた辺りで喫煙を止め。
ドンは最後まで味わい尽くすように根元まで豪快に喫煙を続けた。
かくして、2人の男は同時に喫煙を終える。

「旨かったぜぇ。牧師さん。サンキューな」
「そいつは重畳だねぇ。何よりだ。では」
「ああ、闘ろうか」
「ん? ん?」

言って、指で弾く様に吸い終わった葉巻を同時に投げ捨てる。
ジリと、ゆっくりと間合いを開けて、2人の巨漢が向かい合った。
一人展開についていけないヤミナだけが、鶏のように首を右往左往させていた。

キングが指を鳴らし、ドンが首を回す。
空間が歪むほどの威圧が二人の男から発せられていた。
ここにきてようやく、ヤミナも理解した。
これより、この場で、怪物同士が殺し合うのだ、と。


518 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:40:13 0KZrv.d.0
月明かりの下、草原に立つ二人の男の間を強い風が吹き抜けた。
雨が静かに降り始め、風がざわめく。雨は徐々に勢いを増して猛るように狂い始める。
突風が全速力でルーサー・キングに向かって飛び、彼の囚人服をはためかせた。

恨み骨髄と言った様子で挑んできた小娘相手には、キングは葉巻を片手に余裕の姿で相手をしてやった。
だが、今回は葉巻片手にとはいかないだろう。


何故なら――――これより嵐が巻き起こる。


「さぁ――――どうせなら派手に行こうか!! なぁ牧師さんよぉ!!」


空模様が一変する。
ドン・エルグランドが大きく唸りを上げると、彼の周囲に強い嵐が巻き起こった。
激しい風雨が彼の周囲を渦巻き、空は暗雲に覆われ月明かりがかき消される。
吹き飛ぶような風に大地が震え、草原は一瞬にして暴風雨の舞台と化した。

「ゥルアアアッハッハハハハハハハハァ!!」

嵐の怒涛を前にしながらドン・エルグランドが、豪快な咆哮と共に前進する。

――――嵐を呼ぶ男。

大海賊は雨風を一身に受けとめるように両手を広げた。
嵐の王によるワイルドハントの始まりだ。

白い巨体が駆ける。
激しい向かい風が雨を散弾のようにドンに叩きつけるが、ドンの歩みは緩む様子を見せない。
ぬかるんだ地面に大きく足跡を刻むと、足元で雨粒が砕け散る。
まるで雨風を切り裂くガレオン船のように、蛮勇を持って大海賊は嵐の中を突き進む。

一方、暗黒街の皇帝は不動のまま敵を迎え撃った。
ルーサー・キングはその風雨に怯むことなく、静かに鉄の拳を握りしめる。
凄まじい重圧と共に迫りくる大海賊を前に、暗黒街の王は冷静に鋼の弧を空中へと描いた。

その体内から冷たい光を放つ鋼鉄がゆっくりと形成され、三日月のような形を帯びる。
その刃は嵐の中で鈍く光を反射して鋭く光を放つ。

そして、キングは生まれた鋼鉄の刃を一閃させるように前方へと繰り出した。
鉄の刃が嵐に飛ばされることのなく海賊の首に向かって飛来する。

対するドンはその体躯に見合わぬ機敏な動きでそれを躱した。
鋼鉄の王が続けて鋼鉄の兵器を生み出し、次々と打ち放つ。
あるいは刃、あるいは槍、あるいは矢、あるいは弾。

だが、豪雨の中をはしゃぐように跳ねるドンには、そのどれもが掠りもしない。
嵐にも負けぬ声で豪快に笑いながら、次々と攻撃を躱し、弾き、避けていく。
しかし、敵もさる者。攻撃を躱されながらも要点を押さえ、巧く相手を近づけさせない立ち回りをしていた。
キングはその場を動くことなく状況を完全にコントロールしていた。

「ジッとしてどぅした!? 年食って足腰弱っちまったかぁ!?」

嵐の中を縦横無尽に駆け回る海の怪物が、地に根を張る陸の怪物を煽る。
釣れ出せたなら儲けもの、釣れ出せなくとも気分がいい。

「おいおい、今でも下半身は現役だぜ?」

この煽りを軽く流しながら、キングは敵の動きを観察する。
下手に動き回れば如何にキングと言えど雨風に足を取られかねない。
むしろ、この状況で自由に跳ね回っているドンの方が異常である。

何より驚異的なのは、その強さは超力を前提としていない。
この嵐はドンの超力によって生み出されたものだが、嵐は必ずしもドンに寄与する訳ではない。
呼び出したのはただの嵐という自然現象。
つまり、この動きは純粋なるドンのフィジカルによるものだ。

それも当然、開闢以前より蛮勇を轟かせていた豪傑だ。
ネイティブ世代の軟弱どもとは次元が違う。
”本物”の怪物だ。


519 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:40:33 0KZrv.d.0
「ひぃぃぃぃいいいいいいいいい〜〜!!!?」

ザン、と嵐に飛ばされぬよう堪えていたヤミナの足の間に巨大な鉄の刃が落ちて、情けのない悲鳴を上げる。
吹き荒れる嵐の中に鉄塊が混じり、もはやこの場は滞在するだけで死亡しかねない致死領域と化していた。

「ゲハハハハハハハハハッッ!!」

そんな致死領域の中、大海賊は笑う。
一方的な鉄の暴威に晒されながら、この嵐の中で60を超える老体が跳ねるように動き回る。

大海賊にとっては、嵐など恐れるものではない。
船乗りにとって嵐とは屈服させ、乗りこなすものである。

この嵐は必ずしもドンに有利に働くわけではない。
だが、シンプルに、この男は嵐に慣れている。

運悪くぬかるみに足を取られる事もあるだろう。
だが、そうなったら、それはその時だ。
運が悪かったのならば、自分の命もそれまでだと考えているだけだ。
ドンは一歩ごとに己が運命を測るように、嵐の中を駆けまわっていた。

狙いを外れた鉄塊が地面に突き刺さり、嵐の中で墓標のように突き立っていく。
鉄と嵐の夜。嵐の王は目の前に突き立つ、ひときわ大きな鉄柱を蹴り飛ばした。
その反動を利用して、ドンが跳んだ。

「ヒャッハァ――――!」

楽しげな声。
雨風を切り裂きながら、キングに向かってドンと言う砲弾が放たれる。
そのまま一気に間合いを詰めると、丸太の様な腕が豪快に降りぬかれた。

だが、その速度は超力の炎を推進力としたジャンヌの方がまだ早い。
キングは冷静にその動きを見極め、ダッキングのような動きで身を躱すと、そのまま鉄拳をドンの顔面に叩き込んだ。

交通事故のような衝突音。
相手の突撃の勢いを倍返しする、完璧なカウンター。
聖女を吹き飛ばした一撃はしかし。

「ゲ、ッハハハハハハハハァ!!!!」

文字通りの鉄拳を顔面に受けながら、偉大なる大海賊は止まらない。

ドン・エルグランドの最大の脅威。
それは、豪快な腕力でも巨体に見合わぬ俊敏性でもない。
岩山から転がり落ちても平然としている、現代人を基準としても異様と言えるそのタフネスだ。

純粋なるタフネスでその一撃堪えたドンは止まらず、そのまま全てを刈り取る斧のように逆腕を振るう。
それは女子供の首程度なら触れるだけで吹き飛ぶような剛腕の一撃だった。

だが、その一撃は雨風を弾きながら空を切る。
その場にはキングはおらず、既にバックステップでその場から引いていた。

不動であったキングが引いた。
むしろ、撃ったキングの方がダメージが大きい。
鉄で骨ごと固めていなければ、折れていたのはキングの手首だ。

まずはその結果を満足げに受け止め、ドンは親指で片鼻を塞ぐと、フンと勢いよく鼻血を吹き出す。
赤い血の塊は地面に落ちることなく嵐に流れて消えて行った。

「いいパンチだなぁ。ボクシングでも齧ってやがったのか、牧師さん?」
「ああ。80年代はプロボクシングの黄金時代だったからなぁ。俺も憧れたもんだよ。ま、そっちでは花は咲かなかったがねぇ」

軽いジャブを打ち出し降りしきる雨を撃ち抜きながら手首の調子を確かめる。
90を超える老人とは思えぬ軽やかなシャドーにドンもヒューと称賛の声を上げた。
軽いステップを見る限り、先ほどの言葉通りフットワークも現役だろう。

だとしても、そのステップがこの嵐の中で生かしきれるとは思えない。
ドンと違い、キングはあらゆる根回しをして確実に勝てる手を打つ慎重派だ。
雨風の中、運に身を任せるような真似はしない。それは無鉄砲と言う物だ。

そしてその無鉄砲な蛮勇こそがこの大海賊の生きざまだ。
再び待ちの構えに戻る裏世界の首領に対して、嵐の王が迫る。

考えなしとしか思えぬ突撃。
だが、ここまでの圧力を伴っているとなれば、それは十分すぎるほどの脅威だ。
闇の皇帝はその動きを読み取ろうと冷静な眼差しで相手を凝視した。

瞬間、不運にも吹き荒れる暴風雨の猛威がキングの視界を遮った。
いつだってそうだ。ここ一番で海賊に幸運は訪れる。


520 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:41:25 0KZrv.d.0
「――――喰ぅらいやがれッッ!!」

大海賊の拳先から放たれる勢いは周囲の草をも巻き上げ、嵐すらも撃ち抜いた。
しかし、ルーサー・キングはすでにその攻撃を予測していたかのように、鋼鉄の防壁を堅固に固めていた。
見えずとも、全方位に壁を敷き守備に徹すればこの窮地は凌げる。

嵐の中で、ドン・エルグランドの豪快な一撃と、ルーサー・キングの鋼鉄の盾が衝突する。
瞬間、雷鳴のような轟音が響き渡り、空気を震わす衝撃に周囲の雨粒が弾けた。
防壁に衝撃を受けた鋼鉄は、波紋を描くようにわずかに揺れ、その衝撃はルーサー・キングの体内にまで伝わる。

だが、闇の皇帝は冷静さを崩さず、その衝撃を元に敵の位置を特定した。
ドンは瞬時に鉄壁から鉄骨を精製して、弾丸のように射出する。
避けようもなく、射出された鉄骨がドンの鳩尾に突き刺さった。

「…………頂きだ、ぜッ!!」

だが、視界を回復させたキングが見た物は、鳩尾の寸前で鉄骨を左手で受け止めるドンの姿だった。
ドンはそのまま鉄骨を両手で持ち直し、そのまま綱引きのように鉄骨を引く。

略奪は海賊の華。
敵の生み出した鉄の塊を鉄壁に向かって叩きつけるように振るう。
先ほどの比ではない衝撃が走り、鉄壁がいとも容易くひしゃげた。

「ゲハハハハッ! 武器の提供、あンがとさん――――――ッ!!」

高笑いと共に数百キロの鉄塊を軽々とこん棒のように振り回す。
この男こそが嵐だった。
周囲を吹き荒れる雨風など、この男の暴威に比べればかわいいモノだ。

嵐の王が、再び鉄骨を振り上げ叩き付けんとする。
だが、その寸前、握りしめていた鉄骨が熔けるように崩れ落ちた。
鉄骨はキングの超力によって生み出した物だ、破棄する権利もキングの物だ。
そして、溶けた鉄が細かな千の棘となり、ドンへと襲い掛かる。

「…………チィ!」

小さな針程度、いくら刺さろうと物の数ではないが。
先ほどまで手にしていた武器の逆襲に流石にドンの体勢も僅かに崩れた。

その隙を見逃すルーサー・キングではない。
この嵐の決戦に初めて訪れた明確な勝機だ。
これまで以上の超力行使を行うべく、キングが身を構えた。

その目前を、何か異物が横切った。

「ごめんなさぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああい!!!」

そこには、誰にも存在を忘れられ、いつの間にか嵐に巻き込まれて空を舞っていたヤミナ・ハイドだった。

あのキングですらその存在を見落としていた。
元より気に掛けるまでもない小物。
ドンと言う存在感の塊を目の前にしていたと言うのもあるだろう。

だが、そんな事はあり得ない。
注意深く高い洞察力を持つキングが相手を見落とすなどと言う侮りをするはずもない。それはキング自身が一番よくわかっている。
あり得ざるが起きたというのならば、つまり、これは。

「…………ちっ!」

瞬時に思考を打ち切り皇帝は舌を打つ。
これまで注目していなかった存在に注目させられた事で、一瞬だがそちらに思考を裂いてしまった。
今はそんなことを考えている場合ではないと言うのに。
余りにも厄介すぎる『超力』に足を救われた。

「よそ見してんなぁぁああああっ!!!」

気づけば、ドンがすぐ目の前にまで迫っていた。
ドンは何か策があったわけでも、ヤミナの動きを察したわけでもない。
不幸の後に幸運くる。ただ、己が幸運を信じた。


521 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:41:41 0KZrv.d.0
「っ…………!」

ドンは咄嗟に目の前の相手を押し流すべく、溜めていた超力を一息に発動する。
吹き荒れる嵐を食い破る様に、聖女を押し流した鋼鉄の荒波が巻き起こった。

全てを飲み込む鋼鉄の津波。
それを前にして、大海賊は笑った。

「ゲハハハハハハハハ――――――ァ!!!」

自らの窮地を笑い飛ばしながら、荒波に向かって大海賊が飛んだ。
恐るべき蛮勇。そこには絶望や恐れなど微塵もない。

それが波であるのならば、千の海を越えてきた大海賊に乗りこなせないはずがない。
偶然拭いた強い嵐に背を押される様にドンの体が浮き上がり、その勢いでその体は荒波の上に乗った。
雨に濡れた鉄の表面をまるで波に乗る様に滑り落ちながら、ドンは巨大な拳を振り下ろした。

嵐の王の拳が鋼鉄の王の顔面に叩きこまれる。
キングの巨体が跳ね飛ばされるように大きく後方に吹きとばされた。
上体をのけぞらせた体制のまま、ぬかるんだ地面を泥水を跳ね上げながら滑る。

「くっ…………!」

だが、皇帝は倒れず、ギリギリのところで踏みとどまった。

見れば、殴り抜けたキングの頬は鋼鉄で覆われていた。ギリギリで鋼鉄のガードが間に合ったのだ。
それでもドンの拳の衝撃を殺しきれなかったのか、つぅとキングの口端から血が滴り落ちる。
そして鉄の頬を殴ったドンの拳からも血が流れていた。

拳と口元。
互いに滴り落ちる血液は拭うまでもなく、激しい嵐に絡めとられ、糸を引くように消えていった。

「……ククク」
「フハハハハハハハハ」
「「ハァッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」」

2人の大悪党の哄笑が嵐の中に響き渡る。
愉快でたまらないと声をそろえて笑っていた。
その哄笑は雷鳴の如く轟きならが、風に乗って天に上ってゆく。

「お遊びはこの辺にしておくか。これ以上続けたら、年甲斐もなく熱くなっちまいそうだ」
「まっ。そうだな。名残惜しいが、余興はこの辺でお開きにしておくか」

ピタリと、哄笑と共に吹き荒れていた嵐が止む。
雨風にびしょ濡れになって地面に無様に転がるヤミナだけが、一人呆然と取り残されていた。

「で、そちらの要求は?」
「斧だな、斧が欲しい。とびっきりの戦斧が」

先ほどまでの命のやり取りなどなかったように、落ち着いた様子で交渉を始める。
ドンの要求にキングは驚くほど素直に従った。

その異能で、飾り気のない無骨な斧を生み出すと、ドンへと手渡す。
巨漢のドンをして重いと思わせるズシリとした重量。
正直なところ切れ味は保証できないただの巨大な鉄塊であるが、大海賊の巨躯に見合う重量である。

その手ごたえを試すように、振り上げた斧を豪快に振るう。
空間ごと斬り割くような鋭さで、戦斧は空を切った。

「いいねぇ。これなら鉄板も、ぶった切れそうだ」

嵐の王が、鋼鉄の王に向かって二ィと笑う。
この重量とドンの腕力があれば鉄壁など紙のように容易く両断できるだろう。
キングは肩をすくめて、いなすようにそうかいと相槌を打った。

「んじゃまぁ、貰ってくぜぇ」

代金を支払うでもなく、斧の刃を振りながら海賊は意気揚々とその場を去る。
武器商人たる皇帝は気にするでもなくそれを見送り。

「川を辿っていくといい」

最後に一言だけそう言い残して、裏社会の頂点は別れた。




522 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:42:53 0KZrv.d.0
「な、なんだったんです?」

ヤミナからすれば、訳が分からない。
仲良く喫煙所タイムを楽しんだと思ったら唐突に殺し合い、最後は無償で武器までくれた。
サービスのいい人なのか? 情緒不安定なのか? 更年期なのか?
あそこで起きた出来事の何一つ何が何だかわからない。

「訳の分かんねぇって顔だなぁ。ゲハハ。聞きてぇか?」

首尾が上々だったためか、ドンは上機嫌な様子でヤミナに聞いた。
ここまでの短い付き合いで、ドンについてヤミナは気付いたことがある。

この大海賊は、意外とおしゃべりだ。
駆け引きはすれど隠し事などしない信条なのだろう。
そんな事は弱者のすることだと考えているのかもしれない。
いや、何も考えてないだけかもしれないが。

「つまるところ、野郎と俺は殺し合う理由がねぇのさ」

散々殺し合いをした挙句に、まるで事実と違う事を言った。

「首輪を見たか? たったの10pt。ポイント目当てで狙うには、ま、割に合わねぇわな」

不味さを示すように、喉を押さえてうげぇと舌を出すジェスチャーをする。
恩赦P目当てで狙うには、ルーサー・キングはあまりにもうま味がないのだ。
あの大物が自分の半分以下とは、ヤミナは司法がイカれてるとしか思えなかった。
あれほどの強敵を倒してビール一本というのはあまりにも割が合わないだろう。

「奴からしても、たった10年そこいらの恩赦の為に、わざわざ俺を狙う理由もねぇ」

刑期の少ないルーサー・キングからすれば、誰を狙っていい状況でわざわざ強敵を狙う理由がない。
あの小競り合いにはそれを確認するという意味合いが含まれたプレゼンの様なものだった。
逆に言えば、双方の共通認識として、傷を負うことなく一方的に倒せる程度の実力だったのならばあのまま殺していたという事でもある。

「奴からすれば、恩赦だのどうこうよりも、テメェの命を狙いに来る鉄砲玉の処理の方が問題なのさ。そのために俺に恩を売っておいたって訳さ」

そう言って戦利品である戦斧を自慢げに掲げる。
つまりは、この戦斧は露払いをして貰うための賄賂という事だ。
この戦斧があれば銃頭の操る鉄鎧どもを切り裂けるだろう。

「はぇー、そこまで考えてたんですねぇ」

具体的な言葉を交わすでもなくそこまでの意思を共有していたとは。
肉体言語と言う奴だろうか、ヤミナにはよくわからない世界だ。
なにも考えていないようで意外と考えているのだなと感心する。

「ま、俺がそれに従うとは限らねぇんだけどなぁ!!」

ゲハハと己が不義理を豪快に笑う。
報酬は既に貰ったのだから、相手の為に働く義理もない。
義務はあるのだろうが、これに関しては海賊相手に前払いをする方が悪い。

とは言え、別に従わない理由もないと言うのも確かだ。
わざわざ獲物の場所を知らせてくれたというのなら、乗るのも正直なところアリだ。
あの牧師がわざわざ始末を望む獲物ってのにも興味はある。

「……さぁて、どうっすかなぁ」

大海賊は次の獲物を吟味するように、楽しそうに舌をなめずった。

【D-6/平原 北東部/一日目・黎明】
【ドン・エルグランド】
[状態]:ダメージ(中)、全身に小さな傷、頭部出血、精神汚染:侮り状態
[道具]:戦斧
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.奪い、殺し、自由を取り戻す
1.川を辿って牧師の刺客を狙うか、銃頭(ガンヘッド)野郎を探すか、どうするかなぁ
2.ヤミナはうまくパシらせる

【ヤミナ・ハイド】
[状態]:疲労(中)、ずぶ濡れ
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.強い者に従って、おこぼれをもらう
1.ドン・エルグランドの指示に従う
※ネオスにより土砂崩れに侮られ、最小の被害で切り抜けました。
※ネオスにより嵐に侮られ、受ける影響が抑えられました。


523 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:43:24 0KZrv.d.0


「ったく。服が汚れちまったぜ」

びしょ濡れで泥だらけになった囚人服を絞りながら、闇の皇帝は一人愚痴る。
そして、囚人服の胸ポケットから取り出した鉄製のシガーケースを開いた。
激しい嵐に見舞われたが、鉄のシガーケースにしまわれていた葉巻は無事のようだ。

「ま。葉巻一本で、済んだなら儲けものだな」

偉大なる大海賊との出会いを振り返る。
超力でいくらでも生み出せる戦斧よりも葉巻の方が貴重だった。
葉巻はあと2本。貴重な1本だったが、あそこで差し出した判断は正しかっただろう。

闇の世界を牛耳る大首領は一目見るだけで人の機微、その本質が解る。
アレは根っからの略奪者だ。
煙草の匂いにつられてやってきたあの男は、最初から殺してでも奪い取るつもりだった。
あそこで葉巻を渡していなかったのなら、本気の殺し合いになっていただろう。

つまり、ドン・エルグランドと言う男は煙草一本の為に、裏世界の大首領を殺すつもりでいたのである。
恐ろしいのはその意味を理解していないのではなく、正しく理解した上でその選択をしているという点だ。
損得は埒外。刹那的で享楽的。向こう見ずにもほどがある。

だからこその使い道もある。
雨風を操る大海賊の超力は炎使い共の天敵である。
刺客としてこれ以上ない存在だ。

加えて、キングの超力で作られたこの斧は、キングの意思で自由に破棄することができる。
つまり、造反された所で対策も万全と言う訳だ。

素直に従うとは思っていないが。
葉巻一本で保険の一つが打てたならなら上々の成果だろう。

大悪党の遭遇は、両者両得の結果となった。
問題があるとするならば、この濡れた服をどうするかと言う点だけだろう。

【D-6/平原 東部/1日目・黎明】
【ルーサー・キング】
[状態]:疲労(軽)、頬に傷、びしょ濡れ
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.勝つのは、俺だ。
1.生き残る。手段は選ばない。
※彼の組織『キングス・デイ』はジャンヌが対立していた『欧州の巨大犯罪組織』の母体です。
 多数の下部組織を擁することで欧州各地に根を張っています。


524 : 嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 16:43:37 0KZrv.d.0
投下終了です


525 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:09:57 RZ/.nZjQ0
投下します


526 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:10:08 RZ/.nZjQ0

 

 森を彷徨い、いつしか海辺を歩いていた。
 行く当ても定めず歩く、ソフィア・チェリー・ブロッサムの表情は暗い。
 懊悩と、憂いを漂わせ、何処を目指すとも無く歩き続ける。
 恵波 流都との邂逅と交戦を経て、暗く冷えていたソフィアの心に、再び火は灯ったものの。
 その火は何の為に燃えるのか。名簿に在る“牧師”や“焔の魔女”といった巨悪を焼き尽くすのか。
 それとも、恵波 流都の言った、悪人とは思えない囚人達を未来を照らす灯火となるのか。
 答えを得る為にも、誰かと接触したかった。
 出来れば、善良な者が良い。そう思いながら。

 「……あれは」

 彷徨の果てに、血臭を嗅いだソフィアは周囲を用心深く見渡し、砂浜に横たわる少女を見つけ、駆け寄ったのだった。




527 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:10:30 RZ/.nZjQ0


 白く凍り付き、乾いた血で赤黒く染まった砂浜に横たわる少女へと駆け寄ったソフィアは、5m離れた場所で足を止めた。
 眼を閉じて砂浜に仰向けに倒れている銀髪の少女を、無言で観察する。
 見た目は荒事とは無縁の少女だが、超力の存在が、旧世界ならいざ知らず、人を外見で判断する事が愚行の象徴となっているのが、『開白の日』以降の時代だ。
 幼児に小突かれただけで死にそうな老人が、高層ビルを倒壊させ。
 幼児が屈強な数十人の男を、瞬時に肉塊に変えてしまう。
 そんな時代にあって、凶暴な精神と、凶悪な超力を有する犯罪者達と戦い続けてきたソフィアは、儚げな少女の姿にも、警戒を怠らない。
 何よりも、この少女の首輪の文字は『死』。
 凶悪極まりない大罪者か、制御不可能な力を持って生まれてしまった新時代の犠牲者か、
 後者であれば、ソフィアにとっては難しい話では無くなる。超力が通じない身だ。そばにいても何も問題は生じ無い。
 問題なのは、前者だった場合だ。
 持って生まれた超力の為に、精神が歪み、人格に異常を来し、罪を重ねた者は無数に居る。
 純真無垢と呼んでも、万人から賛同を得られそうなこの少女が、そうでは無いと、果たして誰が言えるのだろうか。
 超力を無効化するソフィアではあるが、迂闊に近づくことは躊躇われる。
 近づく前に、ソフィアは砂浜に眼を向けた。
 夜でも白く輝く氷結した砂浜は、少女を襲った者の仕業だろう。
 名簿に在る名と照らし合わせれば、出てくる名は一つ。
 
「ジルドレイ・モントランシー……」

 かつて聖女と讃えられ、現在では悪魔と呼ばれ憎まれる、ジャンヌ・ストラスブールの所業を模倣し、死刑判決を受けた犯罪者に襲われたのだろう。
 凍てついた砂浜がジルドレイの仕業だとするならば、少女の能力は状況から考えて回復系能力。
 ジルドレイに、身体を切り刻まれて、意識を失ったと考えるのが、妥当だろう。

 「…………」

 胸が僅かに上下し、鼻腔も微小に動き続けているのは確認済み。
 死んでいない事と、少女が砂浜を凍らせたわけでは無い事を確かめると、少女を丹念に観察する。
 身体は血塗れだが傷一つ無く、同じく血塗れの囚人服の四肢の部分は、切り裂かれて本来布地に覆われている上腕や腿の肉を曝け出している。
 胴を覆う布地は、複数の穴が開き、少女の白過ぎる程に白い肌が、夜闇の中で妖しく存在を主張していた。
 破損しながらも、際どいところを絶妙に隠した囚人服は、少女の儚げな美しさに妖美さを加えて、同性であるソフィアですらが、息を飲む色香を放っていた。

 【……いけません。何を惚けているのですか!】

 両手で顔を挟み込む様に打つことで、気合いを入れて、ソフィアは少女に近付くと、両手で頭部をそっと抱えて、声を掛けた。
 不用心に近づき、接触までする迂闊極まり無い行為は、少女に対して、ソフィアがどれだけ動揺したかを物語っていた。
 或いは、信じたかったのかも知れない。
 この儚げで美しい少女が、邪悪な存在では無いと。

 その様な願いを、“アビス”の住人に対して抱く事が、どれだけ無意味で愚劣な行為か、ソフィアは直に知る事になる。

 ◆


528 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:10:48 RZ/.nZjQ0

 

 ソフィアに呼び掛けられ、弛緩していた少女の肉体に力が篭もり、僅かな間を置いて、少女が瞼を開ける。
 「しっかりして」だの、「大丈夫」だのと言った事は言う必要が無い。
 少女の身体も服も乾いた血で赤黒く染まっているものの、少女の体には傷一つ無いことは確認済み。
 瞼を開けた少女の瞳が、緩やかに焦点を結んでいくのを確認しながら、何を訊くべきか思案を巡らせ────少女の瞳と視線が交差した。
 少女の鮮血色の瞳がソフィアを見て、状況を確認するかの様に瞬きする。
 ソフィアは少しだけ安心した。少女の瞳が“人間”を見るものだったから。
 ソフィアが対峙してきた犯罪者達は、皆全て人を人として認識していなかった。
 物として、肉として、穴として。欲望の捌け口か、歩く際に邪魔な路傍の石ころか。
 その様な眼を向けて来るのが、ソフィアが戦ってきた超力犯罪者達だった。
 だが、少女が向けてきた目は、“人間”を見るものだった。
 人が人を見る眼差し。
 この眼差しを向けてくるなら大丈夫。この娘は、殺し合いに乗っていない。
 そう、判断したソフィアは、少女を安心させる為に微笑んで。

 少女の右手の人差し指と中指が、ソフィアの鼻腔に根元まで突き込まれ。
 激痛と驚愕に見開かれたソフィアの視界の中で。
 ソフィアへと笑い掛けた少女が、腕を振ってソフィアを引き倒そうとしていた。





529 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:11:31 RZ/.nZjQ0


 
 目を覚ましたら眼前に居た女────ソフィアの鼻に指を突き込み、突き入れた指を曲げて、鼻と口の間に当たる部位に引っ掛け。指が抜けない様にする。
 その上で、頭を振り回し、ソフィアを引き倒してから、馬乗りになって殴り殺す。
 刹那の間に閃いた殺人計画。
 途上までは巧く行き、最後の段で、破綻した。

 「あら?」

 ソフィアを引き倒すべく振るった腕が、全く力を発揮しない。
 動かない訳でも無く、力が入らない訳でも無く、ソフィアが抵抗した訳でも無い。
 ただ単に、発揮できる膂力がいつもより小さいのだ。
 全力を込めても、並どころか鍛え上げられた身体の新人類を軽く凌駕する身体能力が発揮され無い。
 
 「このかん────」

 ソフィアの超力に気付いたと同時、女の振り下ろした拳が、ルクレツィアの顔面を撃ち砕いた。
 鼻が折れ、盛大に血が噴き出す。加減無しの強烈な一撃は、顔面の骨を砕いていた。
 それでも力が緩まず、頭部を固定するルクレツィアの右手を引き抜くべく、ソフィアは右の手首を捻り折って破壊。漸くルクレツィアの指を鼻腔から引き抜く事に成功した。
 左右の鼻腔から、噴水の様に血を噴き出しながら仰け反ったソフィアへと、ルクレツィアの左手が伸びる。
 五指を揃えて伸ばした貫手が、ソフィアの喉を捉えて、盛大に息を吐かせた。
 地面を転がって距離を取ったソフィアが、立ち上がり身構えるのを、ルクレツィアは倒れたまま見つめていた。
 噴き出ていた血が止まり、折れた鼻梁が元の優美さを取り戻す。
 砕けた顔の骨も、鼻よりも早く修復された。
 ソフィアが離れた途端に発揮された超回復。
 膂力が発揮されなかった時から察してはいたが、やはりこの女の能力は。

 「貴女の超力は…無効化ですね。ニケと同じですか」

 何げ無いルクレツィアの独り言は、ソフィアに衝撃を与えた様だった。

 「………ニケ?此処に収監されている死刑囚の小鳥遊仁花ですか?」

 「……私の友人をお知りですか?」

 返答が遅れたのは、ソフィアの発音は濁って聞き取り辛かったからだ。鼻血が喉と口腔に流れ込んだのだろう。不快気に溢れた血を吐き出し、ソフィアは答えた。

 「彼女を捕縛したのは私です」

 「成る程…。同じ無効化能力同士ならば、素の実力が勝敗を決する……。ニケを捕まえたとなると、私では、勝てそうに無いですね」

 後ろに飛んで距離を取るルクレツィアに、ソフィアが待ったをかけた。

 「逃げるつもりですか?

 「無効化能力者は、嬲っても気持ち良く無れないんですよね。殺さないでおいてあげますから、追ってこないで下さいね」

 踵を返したルクレツィアを、ソフィアは更に制止した。

 「待ちなさい。さっきはどうしていきなり攻撃してきたのですか?」
 
 「……気がついたら目の前に人が居ました。この様な場では、危害を加えてこないとも限りません」

 「嘘を言わないで」

 「どうして嘘だと」

 「小鳥遊仁花を友人と呼ぶ時点で、貴女にそんなまともな事情は期待出来ない」

 ルクレツィアは微笑を浮かべた。
 世界を渡り歩いて、拷問と惨殺に勤しんでいた友人の悪名は、どうやら広く知れ渡っているらしい、
 家に引き篭もって、人を嬲り殺していただけの自分とは大違いだと、そう思った。
 この人は多分追ってくる。とも。
 気が乗らないが此処で殺すことを決めて、ルクレツィアは返答する。


530 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:12:44 RZ/.nZjQ0
 「殺せそうだったからですよ」

 ルクレツィアは答えるなり、一気呵成に距離を詰める。
 5mも在った距離を、極小の時間でゼロとして、振るわれたルクレツィアの拳を躱し、ソフィアはルクレツィアの鳩尾へと拳を撃ち込む。
 まともに入って前のめりになった所へ、組みついて腹に膝蹴りを二発。
 蛙が潰れた様な声を上げたルクレツィアが、盛大に吐くのも構わず、後頭部に全力で拳を撃ち込み、頭蓋骨が叩き割れた確かな手応えを拳に感じた。
 ソフィアは手を緩めない。ルクレツィアの能力が、超回復だと知っているからだ。
 頭を潰して、確実に殺さねばならなかった。
 砂浜に俯せに倒れたルクレツィアの脳天目掛け、全力で踵を踏みおろす。
 ルクレツィアの頭部を潰すに足る一脚は、しかして虚しく砂浜の砂を蹴立てただけに止まった。
 必殺の攻撃が空振りした原因は、激しく立ち込める砂埃が雄弁に物語る。
 ルクレツィアが、外見不相応の身体能力を発揮して、攻撃を回避したのだ

 「お返しをさせていただきます」

 弾んだ様な声が聞こえるよりも早く、ソフィアの背後から撃ち込まれる拳を前方に跳躍して回避、空中で身を捩って振り向いた時には、既にルクレツィアが吐息がかかる距離にまで接近していた。

 【この娘…。回復だけじゃ無く、身体能力まで!】

 宙に在るソフィアへとルクレツィアの左腕が伸びる、訓練を積んだソフィアから見ても、尋常では無い速度だが、当たったところで、身体能力の強化分はキャンセルされ、素の身体能力で殴りつけたのに等しい結果となるだけだ。
 ルクレツィアの身体付きからして、ソフィアに対して有効打足り得るなど有り得ない。
 だが、ソフィアは血相変えて、ルクレツィアの腕を払いのける。
 理由は二つ。一つ目は、後ろに跳んでいる時に打撃を貰えば、姿勢が崩れて不利になる。最悪転倒してしまう。
 二つ目は、ルクレツィアの五指を揃えて伸ばした左手が、ソフィアの肝臓へとへと精確に伸びていたからだ。
 不安定な姿勢で、急所の打撃を受ける事の不利は計り知れない。
 右腕を動かして、ルクレツィアの左腕を払い除け、着地と同時に、右肘をルクレツィアの胸に決める。
 肋骨が折れた感触を確かに感じた筈なのに、ルクレツィアは一歩退がって距離を開けると、再度猛然と攻めかかってきた。
 新人類の基準でも、異常と断じて良い速度で、次々と繰り出されるルクレツィアの攻撃を捌き躱し続けるソフィアからは、血の滲む鍛錬と、幾多の実戦経験が窺い知れる。
 そのソフィアをしても、ルクレツィアの攻勢は異常だった。
 動きは素人そのもので、攻撃は悉く大振りのテレフォンパンチ。しかも攻撃をする際に、狙った部位に視線を向ける。
 牽制もフェイントも使わずに、コンビネーションも無く、単発の大ぶりな攻撃を繰り返す様は、まるで子供の喧嘩そのもので、ソフィアにしてみれば簡単に対処が出来るものでしかない。
 だが、そんな攻撃でも、間断入れずに1分、2分と続けば話しは別だ。
 疲労や肉体の痛みなど知らぬとばかりの攻勢に、ソフィアは既に幾度か被弾していた。


531 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:13:10 RZ/.nZjQ0
 しかもルクレツィアの攻撃は、狙いが全て人体の急所に目掛けて放たれる。
 人体の各所の痛点や、内臓の有る場所、筋肉の薄い場所に、骨によって守られていない箇所。
 それらの位置を熟知しているかの様に、精確無比に狙ってくる。
 素人そのものの動きに対し、人体急所の悉くを知り尽くした狙い。
 これが意味するところは二つ。
 ルクレツィアが、外科や解剖学に精通しているか、それとも実践で人体を知り尽くしたか。
 「殺せそうだから」という理由で殺しにかかって来た事からすれば、おそらく後者。
 常軌を逸した身体能力に、殺人を最も容易く実行に移す精神性。更にはルクレツィアが『死罪』となった行為を雄弁に物語る、人体への昏く深い理解。
 ルクレツィアは正しく“アビス”の住人であり、外に出してはならない鬼畜だった。
 本来のソフィアであれば、この場で殺さなければならない相手だと判断し、そのつもりで戦っただろうが。
 懊悩する今のソフィアには、その様な精神は持ち得ない。
 それでも、ルクレツィアに対処しなければ殺される。
 ソフィアは無心でルクレツィアの攻撃を捌き切り、強烈な前蹴りをルクレツィアの腹部に決めた。
 口から盛大に胃液を吐き出し、ルクレツィアの身体が宙に浮く。そこに叩き込まれる二撃目。
 後ろ回し蹴りが綺麗に胸部に入り、ソフィアの身体は10m以上も跳んで、頭から地に落ちた。
 肺がが破裂した感触が確かに有った。蹴り飛ばし、頭から落ちた時、確かに首が折れるのを見たし、頭蓋が割れる音を聞いた。
 通常ならば死んでいる筈、なのだが。
 ルクレツィアの超力は、肉体にこれ程の損壊を与えても、生命を繋ぎ、傷を治す。
 ソフィアの耳朶を揺らす、熱い吐息。
 緩やかに、優美な動きで立ち上がったルクレツィアの顔へ紅潮し、心なしか目が潤んでいた。
 
 「やはり…良いものです……『生(き)の痛み』は」

 熱の籠った、粘ついた目線を向けられて、ソフィアは総毛だった。
 ソフィアの理解が及ばない反応だった。

 「こればかりは…ええ、直に肉体で味わうのが一番ですが……。他人のものを擬似体験するのとは比べ物になりませんが……。私の身体では、難しいんですよね」

 何処か虚な鮮血色の瞳が、ソフィアへと向けられる。

「もう…お終いですか?私は未だ…生きていますよ」

 呂律が回っていないのは、頭蓋が割られたダメージの為か。

 「もっと続きを、望むのですが…」

 フラフラと近付くルクレツィアに対し、ソフィアははっきりと怯みを示した。

 「ふふふ…怯えなくても宜しいのです。先ほどまでの様になされば良いのです」

 上擦った声、陶酔を湛えた眼差し、緩んだ表情。

 初めて見る、何故かどこか既視感の有るルクレツィアの姿に、悍ましさを抑え切れなくなったソフィアは、我を忘れて殴りかかった。




532 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:13:35 RZ/.nZjQ0


 最初の拳打で、鼻が潰れ。
 直後の手刀で、耳が削げ。
 続く肘打ちで、目が落ち。
 更なる掌打で、歯が飛び。

 20秒と掛からず、ルクレツィアの幻想的と言っても良い美貌は、無残な肉塊と化した。
 顔を赤黒く染めて倒れたルクレツィアへ、ソフィアは更なる破壊を実行。
 胸骨を砕き。肋骨を折り。四肢を捻り。首を踏み折り。
 ルクレツィアの五体を十分かけて破壊し尽くすと、仰向けに倒れたルクレツィアが、小刻みに痙攣するだけで起き上がってこない事を確認すると、踵を返して走り出す。

 殺人を経験した事が無い訳ではない。だが、あそこ迄無惨に人を殺した事などは無かった。
 明らかに過剰な破壊行為に、ソフィアの良心と良識とが、あの場に留まる事を拒否したのだ。
 砂浜に転がった無惨な骸から逃げ出したソフィアが、森へと駆け込む寸前。
 
 首に腕が巻きついた。

 背中に柔らかく温かい感触。

 「いきなり去ろうとするなんて…未だ治り切っていないから、追いつくのは大変だったんですよ。短い時間でしたが、その分激しくて良かったですよ」

 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

 耳元で囁かれた声に、ソフィアの精神が決壊した。
 更には速度を上げて走りながら、意味を為さない絶叫を挙げたソフィアの視界が、突如として上を向く。
 次いで極小の間の浮遊感。そして急速落下。
 咄嗟に受け身を取ったソフィアだが、全身を強く打って、一瞬だけ息が止まった。
 愕然と身開かれたソフィアの眼に、飛び出した右眼がぶら下がったままの、ルクレツィアの笑顔。

 「驚かせてしまいましたね。歯は新しく生えるというのに、眼は戻さないといけないのは何故なのでしょうか?」
 
 言って、右目を眼窩に収めると、驚愕で隙だらけのソフィアの鳩尾に拳の一撃。
 短く息を吐いて絶息したソフィアの身体を俯せにすると、背中に腰を下ろし、ソフィアの両脇の下に自身の両膝を差し込み、ソフィアの顎の下で両手をクラッチして、ソフィアの身体を退け反らせた。
 完璧に決まったキャメルクラッチ。脇に差し込まれた膝の為に腕は動かせず、顎の下でクラッチされた力を加えられている為に、口を開く事も出来ない。

 「貴女の名前を未だ訊いていませんが、まあ良いでしょう。
 苦しいですよね。背骨を逆に曲げられている上に、鼻腔は血で塞がり、口を開く事も出来ない。
 このまま失神するまでこうしておいてから、気絶した後に両手足を折って、時間を掛けて嬲り殺して差し上げたいのですが…貴女はそうしても愉しく無い。
 それに、誰かに言われて人を殺すのも、誰かの為に人を殺すのも、私は好きじゃ無いんですよ。
 なので貴女の事を殺す気にはなれないんですよ」

 そこで────と、ルクレツィアが続けた言葉は、ソフィアを更に混乱させた。

 「友人になりましょう」





533 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:14:06 RZ/.nZjQ0


 理解出来ない事態だった。
 再生能力持ちでも、あそこまでやれば痛みで動けなくなる筈だ
 なのに何故、平然と動けるのか?痛みに全く怯まないのか?
 混乱する思考に投げかけられた言葉は、更にソフィアの思考を乱す。

 「何を…言っグアアアアア」

 「未だ話の途中です」

 ソフィアの背骨を更に曲げながら、愉しげな笑みを浮かべて耳元で囁くルクレツィア。

 「貴女は私の超力(ネオス)を無効化できる。
 生(き)の感覚を与えてくれる。
 より強く、より瑞々しい生の感覚を与えてくれる。
 なので…なって欲しいんです。友人に」

 顎に加えられる力が緩む。
 
 「はあ…はぁ……貴女の様な、殺人狂を、外に出す為に協力しろと!?」

 「殺人狂…ですか」

 「一体、何人殺せば…ああまで人体に詳しくなると」

 「今までに摂った食事の献立を、一つ一つ覚えている訳が無いでしょう」

 「………」

 「余程気に入った相手の事しか覚えていませんよ。
 フェッロ・クオーレ……アイアンハートでしたか?という所の方を殺した時など。良く覚えていますよ。
 麻薬を取り扱うマフィアの方々を、目の敵にされていた様で、バレッジさんの所にも大きな損害を与えたとか。
 その為、見せしめにするので、とびきり酷く殺して欲しいと言われた事があります。
 気が乗らなかったので、お断りしようと思ったのですが、再生能力持ちだったので引き受けましたが……。
 やはり気が乗り切りませんでしたね。
 それでも、幾らでも刻めて潰せる身体というのは愉しめました。
 そのお陰で良く覚えていますよ、あの方の事は。
 此処にも同じ能力の方が、いらっしゃると嬉しいのですが。
 けれど、刑務で殺すのは、やはり気が乗りませんね」

 そう言ってクスクスと笑ったルクレツィアに、ソフィアは悍ましいものを感じたが、生殺与奪を握られた身では、この凶人に逆らえる筈も無い。

 【適当に騙して、この拘束を外させないと……】

 騙して拘束を解かせる。その上であらためて仕留める。
 方針を決めたソフィアは、ルクレツィアに偽りの友誼を誓約する。

 「分かったわ。貴女の友人になる。どの道、わたくし一人じゃ、この刑務で生き延びるのは難しいし」

 これは事実である。超力(ネオス)が通じないソフィアであっても、シンプルに強い者には分が悪い。
 新時代の強者は、皆が皆等しく超力(ネオス)を前提として闘うが、ソフィアの超力(ネオス)はその前提を覆す。
 旧時代の戦いを、相手に強いるのだ。
 必然、相手の優位を潰し、棋戦を制する事が叶うが、超力(ネオス)に依らずとも強い相手には苦戦を免れ得ない。
 誰かと組む必要が有るかと問われれば、有ると答えるしか無い。
 その組む相手が、この狂人というのは、不服という域を超えているが。

 「有難う御座います。ああ…友好の証に、貴女を殺す気になれない理由をお教えしますよ。
 私の超力(ネオス)は、二つ有って、一つは人に望む夢を見させる代わりに、私は夢みる人が過去に体験した苦痛を全て味わえるというものです。
 けれども、貴女に私の超力(ネオス)は効果を発揮しません。
 なので殺す気にはなれないのですよ。
 他者に与えた苦痛自らで味わった時に、私は生を実感し、他者を壊したと実感できるのですから。
 これが貴女に、友人になって欲しいとお願いした理由ですよ」

 「今…なんて……」

 「貴女を殺す気になれなかった理由ですか?」

 「貴女の超力(ネオス)よ!!」

 ソフィアの剣幕に、茫洋としたルクレツィアの表情が僅かに揺れた。

 「……一つは人に望む夢を見させる代わりに、私は夢みる人が過去に体験した苦痛を全て味わえるというものですよ」

 「……………嘘」

 「本当ですよ。意識が朦朧としていなければ、効きませんが」

 ソフィアは考える。
 この狂人の超力(ネオス)が有れば、夢の中とは言え、もはや会えない恋人との逢瀬が叶う。
 超力(ネオス)に関しては、システムAで、自身の超力(ネオス)を封じれば良い。
 方便からの同盟締結に、思わぬ要素が絡み出し、ソフィアの思考を泥沼へと沈めていく。

 ルクレツィアの差し出した手を取って、偽りの楽園へと行く事は、地獄への片道切符だと理解している。
 それでも、ルクレツィアと共に行くという選択は、ソフィアの心を捉えて離さなかった。




534 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:14:23 RZ/.nZjQ0


 「それでは…お友達になってくれた貴女に、お願いが有ります」

 妙に蕩けた顔で、ルクレツィアが頼み事をしてきた。

 「……何ですか」

 狂人の頼みという時点で、ソフィアの警戒は強い。

 「私の全身を撫でて欲しいのです。無効化能力をお持ちの方に撫でてもらうのは、とても気持ちが良いので」

 「………………はぁ!?」

 ペッティングでもして欲しいのだろうか?
 そんな事をふと思い、先刻のルクレツィアの様子に感じた既視感について思い当たった。
 
 【あの人と愛し合った時のわたくしの顔ですか!?】

 いきなり赤面して、両手で顔を覆ったソフィアを、ルクレツィアが不思議そうに眺めていた。


【D–1/海岸沿い/一日目・深夜】

【ルクレツィア・ファルネーゼ】
[状態]: 疲労(中) 上機嫌
[道具]: デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針] 殺しを愉しむ
基本.
1. ジャンヌ・ストラスブールをもう一度愉しみたい
2.自称ジャンヌさん(ジルドレイ・モントランシー)には少しだけ期待
3.お友達(ソフィア)が出来ました
4.早く撫でて欲しいのですが

【ソフィア・チェリー・ブロッサム】
[状態]:ダメージ(小) 精神的疲労(中)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.自分の成すべき事を探す
1.他の囚人達を探しに移動する。
2.この娘(ルクレツィア)と一緒に行く


535 : 地獄行き片道切符 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/22(土) 19:14:37 RZ/.nZjQ0
投下を終了します


536 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/22(土) 22:19:30 0KZrv.d.0
投下乙です

>地獄行き片道切符

ソフィアは元特殊部隊と言うこともあり、超力無効にすれば相手を一方的にボコボコニできる実力は高い、しかしメンタルで完全に飲まれしまったね
異常なまでの回復力と不死身性、本人のドMっぷりも合わさってゾンビめいている、追いかけてくる様子は完全にホラー、そりゃ誰だって怖いよこれは
そしてここが同盟組んじゃうのはまさか過ぎる。夢を見させる力にソフィアが妙な期待をしてしまっているけど、夢を見るためにはシステムAが必要、その権利をハヤトが持ってるけどどうなるのかねぇ


537 : ◆2dNHP51a3Y :2025/02/23(日) 19:38:04 pXFhzT.E0
投下します


538 : エンカウント・クレイジー・ティーパーティ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/23(日) 19:38:30 pXFhzT.E0

15回目の脱獄の話になる。
その時の孤児を使っての陽動というオレ様にしちゃ単純な手段。
だがそん時捕まっていた場所が、心を読む力をを部下全員に与えるっていう馬鹿げた超力持ちが支配している悪徳看守が管轄する監獄だった。
だから一度「壊れる」必要があった。わざと拷問に屈し、心を空っぽにする必要があった。
「脱獄王がこんなことで折れるのか」という心理をとことん利用させてもらった。
無心で脱獄のために自動的に動けるように、反射神経の全てを脱獄のための最適な行動を取らせるように研ぎ澄ました。

見事、俺の流した情報から孤児どもが立ち上がって、その後の俺はオレ自身の本能に従いながら、孤児たちの助けも借りて脱獄成功ってやつだ。
孤児の中に「他人の記憶を消す超力」を持ってるやつがいてな、計画のいちばん重要な部分がバレないようにオレ様の記憶の一部を消させてもらったのも功を奏した。
数ヶ月前にあった怪盗がどっかのド変態富豪に取っ捕まったって噂も、いい感じに撹乱になってくれたかもな。
ま、孤児ども何人か死んじまったがそれはオレに関係のない話だ。生き残れなかったやつはご愁傷さまってやつだな。

まあ、本題はこの後の蛇足の話になっちまう。
そん時の超力持ちの孤児(ガキ)が、「手伝った分の報酬代わり」とかどうとかでオレ様を連れ出した。
別に断っても良かったが、こいつの超力は今後役立つし利用できるってことで敢えて受けることにした
そんで、連れ出し先にいやがったのが、散々ヤられれちまってえげつねぇ事になってた女ときた。

「ぶっ壊れた女」を助けようとするとは、物好きなもんがいたもんだ。っては思ったさ。
と言ってもオレ様が頼まれたのはそいつをガキの隠れ家に運ぶことぐらいだった、大した内容でもなかったな。

そいつの目は、死んでいた。
死んでいたが、死んでいなかった。
死体ほぼ同然の顔で、安堵していたガキの顔をほんの少しだけ見て、何か呟きながら微笑んでやがった。

神がいない世界。神が救わない世界。神が放棄した世界。
何処ぞの過激派がそんな事を口にしていたのを聞いたことがある。
救いのない世界で、救いの手を伸ばす女の噂を聞いたことがある。

ああ、それがこいつか。
オレ様はそれを知って、どうでもいいことだと思った。
ーーオレには関係のない、話だと。


539 : エンカウント・クレイジー・ティーパーティ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/23(日) 19:39:12 pXFhzT.E0
★★★


「ちょっ〜とごめんなさぁぁぁぁい!!!」
「わ、わぁ!?」
                    ・・・
男を連れて、女が地面を駆けーー否、地面を泳いで逃げるようにこちら側へとやってきた。
メカーニカや四葉のお目に掛かる強者を探す傍らで、ブラックペンタゴンへと向かっていた矢先の事。
男の方は鉄屑に塗れたダンディで、女の方にトビは見覚えはあった。
あいつはあの時のやつか、と。
少し驚き気味、というよりもすぐさま騎士の一体を出現させてお目々キラキラさせていた戦闘狂(ヨツハ)を抑え込んで。

「どっかで見たやつだと思えば」
「あ、あの時の少年と一緒にいた見知らぬ誰かさん……で合ってる?」

トビとしては覚える必要性の低いことであったため、そこまで記憶にとどめていなかったのだが。
肝心の相手のほうがまるっきり覚えていると来た。
こんな所であの時のやつと出会うなんざどんな確率だ、等とトビが独り言ちる。

「あれ、トビさんの知り合い?」
「そっちのアイアンマンは兎も角、そこの女は顔見かけた程度のやつだ。知り合いってわけでもねぇ」
「人のことをアイアンマン呼ばわりか、ちゃんとジョニー・ハイドアウトって名前があるんだがな噂の脱獄王。……そっちのアンタは、ただでは黙ってくれそうにないか?」
「ジョニー・ハイドアウトってあの噂で聞くすっごく強いスクラップナイトさん!? よし、ちょっと戦ってくれま」
「待て待て待て。というか件の鉄の騎士まで放り込まれてんのか」
「誰だか知らないけどストップ、ストップ! 便利屋(ランナー)さんも落ち着いて!」

興味津々、と四葉が鉄の騎士へと視線を向ける。
ジョニーもまた臨戦態勢を取ろうとしたところで怪盗と脱獄王が静止に走った。
首輪が一つ手に入る事になるならまだいいと思ったが、それ以前に優先すべき、聞くべきことがあった。

「ーーどうして急いでた?」

女が急いで逃げたように見えたから。
地面を泳いでいたのは超力によるものだということで今は思考することでもない。
本題は、何から逃げていた? ということである。

「私たち、最初は岩山に上がろうとしてたんだけど。嫌な予感がするって便利屋(ランナー)さんが言うから、軽く石ころ投げてみたらーーその石ころが破裂した」
「石が、破裂か」

女ーー怪盗ヘルメスが説明するにはこうである。
大海賊の脅威を乗り切り、ジョニー)の依頼を済ませてまずは岩山を経由して別の場所に向かおうとした矢先。
ジョニーの第六感が嫌なものを感じる、ということヘルメスが試しに小石を岩山の頂上へと投げてみて。
その岩が不自然に歪曲し、破裂したのだ。
何者かによる超力での攻撃だと危惧し、岩山を下り逃げるように離れたのが二人の経緯となる。
ちなみに泳ぐヘルメスに対してジョニーは追いつくのに一苦労したとか。

「石が破裂って、しかも見えてない相手からは何もしてないみたいなのに?」
「俺の感からすりゃありゃ領域系の超力に思えた。それにしても滅茶苦茶だがな」

そう告げるジョニーの言葉が端的な事実を表している。
四葉とて、今まで様々な強者と戦ったことがあるが、岩が歪曲して破裂するという異常現象を、領域クラスで常時展開できるような者は聞いたことはない。

「……聞いてみりゃ、オレ様には関係のない話か」
「ずいぶんとドライだな、脱獄王(マッドハッター)。抜けた後のことなんざ気にしないってか」

脱獄のみを目的とし、それ以外の些事は気にしない脱獄王にとっては関係のないことだ。
その超力で誰が犠牲になろうが、最終的に脱獄さえ出来ればどうでもいい。
鉄の騎士の皮肉にも意に介さない。

「いやでも私は関係あるかもトビくん。だってそんな事できる人ってことは滅茶苦茶強いってことだよね! いいなぁ会いたいなぁ戦ってみたいなぁ!」

そして、案の定四葉の中でその超力持ちに対する期待感と好奇心が湧き上がっている。
子どもがおもちゃに興味を示すそれである。
というか完全にその気である。

「ごめんトビさん! ちょっと岩山の方に寄り道してもいいかな!?」
「「ダメに決まってン(る)だろ」」

脱獄王と鉄の騎士の言葉が見事にハモった。


540 : エンカウント・クレイジー・ティーパーティ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/23(日) 19:39:28 pXFhzT.E0


「でもその領域、徐々に広がっていくっていう可能性はないかな?」

パン、と手を叩いてくだらない小競り合いを切り上げるように、ヘルメスが声を上げた。

「……アビスでちょっと調べ物した時に、超力が制御できなくて幼くしてアビスに放り込まれたって子いるらしいわ。もしかして岩山にいるのってその子かなって」
「そいつの話は知ってる、メアリー・エバンスか」
「さっすが脱獄王、そういう事前調査はお手の物って感じ?」

メアリー・エバンス。赤子の時より制御不可能の超力を持ち、施設に隔離された後も制御不可能として異例のアビス送りとなった新世界の嬰児。
世界の理を歪ませる夢の世界(ドリームランド)の眠れる支配者。彼女の夢は現実を侵食する。

「……そいつは、事情が違ってくるな」

ヘルメスの言葉が事実なら、その夢の世界は現在進行系でこの無人島内の岩山を中心に領域を広げつつあるだろう。
そんな災害があるとするならば、脱獄までの準備期間を考慮した場合間違いなく「立ちはだかる壁そのもの」となる。
勿論脱獄王としてはそれを利用しての脱獄も一興、と言いたいところだが。流石に賭けをするにしては「アウト」が過ぎた。
通常の法則が通じない空間で、脱獄そのものがどうなるかすらも。
最悪頭をイカレさせられるなんてことも、有り得てしまう。

「でしょ? 私たちもあなた達も、目的を達成するためには岩山を中心とした超力現象をなんとかしないといけない。それに私も目的が終わったらこっから出るつもりだから」
「オレの脱獄の邪魔しないなら別に脱獄のために付き合ってやらんでもないな」

別に脱獄のための脱獄手伝い、というのなら別にどっちでも良い。
こういう強力も脱獄の醍醐味、利用できなくなったら機を見て捨てれば良い。
勿論こうなった場合は信頼関係もある程度大事、ということで無難な台詞をトビは選んで告げる。

「その前に、一つだけ聞かせろ、お前はーー」

その前に、トビは彼女(ヘルメス)に聞くべきことがあった。

「そいつを殺したいのか、救いたいのか。どっちだ?」

見るからなお人好し、凶悪犯に似合わぬ善性を持つ合わせる怪盗に向けて。
トビ・トンプソンは自他共に認める脱獄狂。
人の命なぞ気にするだけ狂うだけだと言うことを知っている。
元からそのような心持ちなど生まれた時から持ち合わせていない脱獄王は。
泥にも悪意にも塗れようとも折れることはあっても狂うことだけは無かった怪盗に向けて、問い質す。
あれを救うのは不可能だ、ガキだからといって優しさを見せた瞬間殺されてもおかしくない無差別の災害。
メアリー・エバンスとはそういう怪物(もの)だ。制御できる手段を持たなければ世界に順応すら出来ない。
いや、順応できる世界にと捻じ曲げてしまう。
夢から醒めた先にあるのは、絶望でしか無い。
その少女に絶望という名の現実を叩きつける覚悟はあるのか、と。


541 : エンカウント・クレイジー・ティーパーティ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/23(日) 19:40:55 pXFhzT.E0


「そんなワガママ言える立場じゃないのは分かってる。その時は後悔しながら我慢するわ」

脱獄王の問いかけに、凛とした言葉で怪盗は返す。

「でもね、救うことが間違いだなんて言わせない」

たった一つ、譲れないものだけを、脱獄王に突きつけて。


「…………………はぁ」

暫し、考え込んで。
呆れたように、ため息を吐き。

「……俺達はメカーニカってやつを探してる」
「メカーニカ? いろんなアイテム作ってくれるメカちゃんのこと?」
「いやお前あいつと知り合いだったのか初めて知ったぞ。じゃあ話は早い。そいつ「脱獄王が会いたがってる」って伝えておけーーそいつなら、あれの対抗策も何とかなるだろ」

脱獄王の言葉に、怪盗は思わず口を開いた。
それと同時に、脱獄王の思惑も理解した。
最も、利用されることは、怪盗にとっても覚悟の内である。

「……性格悪いやつ」
「オレは脱獄以外に興味はないんでな。だが、お前らとの協力関係を組むのは"得"にはなる、と思っただけだ」
「分かったわ。でも、私にも譲れないものがあるから、その時は」
「オレだってオレの脱獄を邪魔するやつには容赦はしない。だがオマエはそういう所の線切りはわきまえてるだろ。ーー行くぞ、ナイトウ」
「は〜い。鉄の騎士さ〜ん、もしも戦う事になったら目一杯楽しもうね〜!」

そう吐き捨てるように、脱獄王は少女と騎士と共に去っていく。
ただ一度、振り返った脱獄王だけは、怪盗の瞳に消えぬ焔を見た。






「脱獄王(マッドハッター)に、戦闘狂(ラビット・マーチ)か。厄介この上ねぇぞ」

ジョニー・ハイドアウトは、脱獄王とは初対面だった。
人像書こそ見たことあれど、小人のような外見からは考えられないほどの圧だった。
弱者であると同時に強者。脱獄だけしか見ない本物の狂人。
永遠の不自由者。
そんな脱獄王に付き従う、騎士を従える戦闘狂少女もまた、難儀な人物。

「そんでどうする、メカーニカってやつ探すのか?」
「一応知り合いだからね、職業柄、頼み事することもあったから」

上手に脱獄王に依頼を掴まされた形である。
この怪盗のお人好しっぷりが上手に利用された。
だが、そのメカーニカとやらが彼女の知り合いだというのは意外な事だろう。
そういう事をしているのならアイテムも中々に入り用だった、ということは察せられた。

「……うーん、迷惑かけちゃってごめんね」
「骨折り損の草臥儲なんざよくあったことだ、気にはしねぇさ」

申し訳無さそうな表情で言葉を漏らしたヘルメスに、思わずジョニーは言葉を返した
言ってしまえば変に譲らなかったヘルメスのプライドの問題なところはあるが。
それであの脱獄王に利用される形とは言え協力に近い関係を結べたのは功を奏した。

「出来れば救いたいってんだろ、例のやつ」

何より、ヘルメス自身は例の彼女を死なせないやり方を探していたのだろう。
それでも無理なものは無理だと、割り切れなくとも受け入れる弱さと強さを持ってこそだ。
出来ることなら諦めたくない、もしもの時は苦しみ続けて受け入れる。
理想主義者と現実主義者が混合した感じというわけか。
それに、彼女にはそんな暗い顔は似合わない、なんてジョニーは思ったのだろう。

「……励ましが欲しいわけじゃないんだけど、それでもありがと、便利屋(ランナー)さん」

そんな不器用な鉄の騎士の心情を察したのか、怪盗はいつもながらの軽い態度のウィンクをジョニーに向けていた。


【G-4とF-4の間/舗装道路/一日目・深夜】
【ジョニー・ハイドアウト】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.受けた依頼は必ず果たす
1.頼まれたからには、この女怪盗(チェシャキャット)に付き合う
2.脱獄王とはまた面倒なことに……
3.岩山の超力持ちへの対策を検討。
4.メカーニカを探す。

【ルメス=ヘインウェラード】
[状態]:健康、覚悟
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.私のやるべきことを。伸ばした手を、意味のないものにしたくはない。
1.まずは生き残る。便利屋(ランナー)さんの事は信頼してるわ
2.岩山の超力持ち、多分メアリーちゃんだと思う……。出来れば、殺さないで何とかする手段が。
3.メカちゃんを探す。脱獄王からの依頼になったけど個人的にも色々あの娘の助けがいりそう
※後遺症の度合いは後続の書き手にお任せします
※メカーニカとは知り合いです。メカーニカ側からの心象は他の書き手にお任せします


542 : エンカウント・クレイジー・ティーパーティ ◆2dNHP51a3Y :2025/02/23(日) 19:41:13 pXFhzT.E0
★★★



「トビさーん、あのまま放っておいても良かったのかな?」

内藤四葉は懸念していた。
凶悪犯だらけのアビスにおいて、彼女は余りにも"まとも"に位置する側の人物だ。
ジャンヌ・ストラスブールや、噂の元洗脳兵もその部類に入る。
つまり、"善人"の部類に入る者だ。

「もしかしたら、トビさんの対立するかもしれないよ? 私はそれでもいいんだけどね」

あの真っ直ぐさは、いつかトビ・トンプソンと思想での対立がありうる。
脱獄のみを求めるものと、手を伸ばせるなら出来れば救うと願っている彼女。
彼女もおそらくは脱獄を狙っているだろうが、脱獄王とは水と油に近いものなのかもしれない。
四葉としては、鉄の騎士と戦う機会が出来るのだからそれでいいとは思っていたが。

「心配するな。対立はあれど、脱獄するという点で協力できるならオレ様も悪いようには扱わない。メカーニカとのラインを作ってくれるならそれでお釣りが来る」

だが、トビにとってそれはいつもの些事だ。
ああいう手合は、自分のポリシーが犯されない限りは出来る限り約束を守るタイプ。
だからその時が来るまでは馬車馬のごとく働いてもらえばいいだけの話。
あの怪盗も目的を果たせば脱獄するようなことを示唆していたため、それに乗じての脱獄も悪くはない。
それにメカーニカの知り合いと出会えたのは思わぬ拾い物。
彼女を介せばある程度交渉はスムーズに行くだろう。

「それに」

その上で、トビ・トンプソンが怪盗に対して感じたもの。
救いのない世界で、救われぬ誰かに救いを授ける少女。
善人がバカを見る世界になったこの世界で、その信念を貫くことは至難の業。
それでも、諦めることを選ばなかった、そんな牢獄に繋がれる選択をした彼女はーー

「オレ様以上に不自由なやつは初めて見たかもしれねぇってことだ」

【F-4/舗装道路/1日目・深夜】
【内藤 四葉】
[状態]:健康、岩山の超力持ちへの好奇心
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.気ままに殺し合いを楽しむ。恩赦も欲しい。
1.トビと連携して遊び相手を探す、または誘き出す。
2.ポイントで恩赦を狙いつつ、トビに必要な物資も出来るだけ確保。
3.もしトビが本当に脱獄できそうだったら、自分も乗っかろうかな。どうしよっかなぁ。
4.あの鉄の騎士さん、もしも対立することがあったら戦いたいなぁ。
5.岩山の超力持ちさんかぁ、すっごく気になる!!出来たら戦いたい!!!(お目々キラキラ)
※幼少期に大金卸 樹魂と会っているほか、世界を旅する中で無銘との交戦経験があります。
※ルーサー・キングの縄張りで揉めたことをきっかけに捕まっています。

【トビ・トンプソン】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱獄。
1.内藤 四葉と共闘。彼女の餌を探しつつ、護衛役を務めてもらう。
2.首輪解除の手立てを探す。そのために交換リストで物資を確保、最低でもナイフは欲しい。
3.構造や仕組みを調べる為に、他の参加者の首輪を回収したい。
4.工学の超力を持つ“メカーニカ”とも接触したい。
5.ブラックペンタゴンを調査してみたい。
6.あの二人をうまく利用してメカーニカとの接触を図る。
7.岩山の超力持ち(恐らくメアリー・エバンスだろうな)には最大限の警戒、オレ様の邪魔をするなら容赦はしない。
※他にも確保を見越している道具が交換リストにあるかもしれません。


543 : ◆2dNHP51a3Y :2025/02/23(日) 19:41:26 pXFhzT.E0
投下終了します


544 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/23(日) 22:27:12 h5tA1giQ0
投下乙です

>エンカウント・クレイジー・ティーパーティ
メアリー攻略のために始まる呉越同舟、鍵を握るのはメカーニカらしいけど何をするつもりなのか気になるところ
貴重な穏健派の囚人が集まって冷静に話し合ってるだけで面白い、一人だけノリが違う四葉が逆にいいアクセントになってて笑う
トビとヘルメスにも意外な繋がりがあった。脱獄王は脱獄しかみてないけど己が目的のためなら面倒もこなすのは素晴らしい、ヘルメスの諦めない善性はこのアビスでロクな事にはならなそうだがどうか


545 : ◆dXs7XBYFp6 :2025/02/24(月) 00:39:47 8nCY2EhQ0
皆さま投下乙です

拙作「墜落点:B-2」について、>>489で指摘いただいた箇所をWikiにて修正しました
具体的には、ハヤト=ミナセが「ハイエナ」の役を担う対価として「システムA」機能付きの枷を持ち込んでおり、それを起動する権利を有する、としております


546 : ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:12:32 gMM3oU.20
投下します。


547 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:13:28 gMM3oU.20



 それは、見張りを引き受けた矢先だった。
 負傷したジャンヌ・ストラスブールの答えを待ち、周辺の様子を監視すべくその場を離れた後のことだった。

 夜空には月が浮かび、次第に黎明へと向かいつつある。
 仄かな宵の光は、この刑務とは似つかわしくないほどに穏やかだった。

 河川敷の近くの湖畔にて、鏡日月は立ち尽くしていた。
 目を丸くして、動揺と驚愕に瞳を揺らしていた。

 距離にして20メートルほど。
 日月の視線の先に、一人の女囚が佇んでいた。
 ゆらり、ゆらりと、陽炎のようにその場に存在し。
 その身体の各所からは、紅の炎を溢れさせている。
 まるで滲み出る激情を、無理やりに抑え込んでいるかのように。

 どろりと濁った眼差しが、日月を捉えている。
 何も言わず、無言のままに――侮蔑と憤怒を滲ませている。

 その異様な雰囲気を前に、日月は息を呑んでいた。
 社会の闇。芸能界の裏側。眩い光に満ちた世界の暗部。
 暗がりを渡り歩いてきた日月にとっても、眼の前の囚人の纏う気迫は異常だった。

 憎しみや怒り。
 絶望と退廃。
 殺意と狂気
 そんな負の感情が。
 そのまま形を成したような――。

 それほどまでに獰猛な気配を纏っているにも関わらず。
 その出で立ちと雰囲気からは、何故だかジャンヌの面影が存在していた。


「お前は、ジャンヌに捧げる供物だ」


 そして、眼の前の女が。
 ぽつりと、そう呟いた。
 日月は咄嗟に、その身を構えた。


「死ね、悪党め」


 直後――日月の視界に、熱と焔が立ち上がる。
 それは、眼前の女囚。
 フレゼア・フランベルジェの肉体から発現した、激昂の火焔だった。 





548 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:14:14 gMM3oU.20



 月明かりに照らされる河川を、その果てに続く湖畔を見つめながら。
 ジャンヌ・ストラスブールは、ひとり物思いに耽る。
 孤独な少女は、静かなる夜闇の中に身を委ねる。
 ふぅ――と、虚空へと吐息を吐きながら、
 ジャンヌは自らの心中で、思案を繰り返していた。

 共にいた“もう一人の受刑者”は、見張りのためにこの場から離れている。
 鏡日月。アビスに投獄されている死刑囚。
 強かな合理性と年相応の無垢という、相反する意志が垣間見えた少女。
 先程彼女から告げられた問いかけが、脳裏で反響を続けていた。

 ――“正義の味方の貴女は、この刑務でどのように行動するつもりなの?”

 正義を貫く。それがジャンヌにとっての根幹。
 しかし、この刑務における正義とは何なのか。

 ――“私とあなたは根本的なところで相容れないと思う”。
 ――“けど、巨大な敵を相手に『正義の味方(アイドル)』として戦う貴女を”。
 ――“私は美しいと思ってた”。

 日月は、恩赦を求めていた。
 死刑囚である彼女にとって、それが生きるための道であることは確かだった。
 そのうえで日月は、正義の味方としてのジャンヌを肯定していた。
 根底では相容れぬと告げながら、日月はジャンヌに身を捧げる余地も伝えていた。

 ――”もし貴女自身が本当に輝く為に私を討つというなら、殺されても構わない“。
 ――”泥を啜ることを受け入れて進むのも、まあ良いと思うわ“。
 ――“でも、中途半端なのは許さない”。

 まるでジャンヌ・ストラスブールの在り方に。
 自らの矜持や信念を、重ね合わせているかのように。

 日月が背負うものを、ジャンヌは掴み切ることが出来なかった。
 しかし、彼女もまた自分に近しい“何か”を背負っていることは理解できた。
 そして日月は、ジャンヌの背中を押そうとしている。
 葛藤に彷徨うことを許さず、ジャンヌがジャンヌで在り続けることを求めている。
 ジャンヌ自身も、そのことを察していた。

 だからこそジャンヌは、自らの意志を引き締めた。
 未だに往くべき道は見いだせずとも。
 彼女の問いかけに対し、応えねばならないと思ったのだ。
 前へと歩き出す意思だけは、決して止めてはならなかった。


549 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:15:01 gMM3oU.20

 ジャンヌは、デジタルウォッチを操作する。
 ホログラムで名簿を投影し、受刑者達の名を改めて確認する。
 そこには多くの凶悪犯の名が記されている。
 数年に渡って隔離されていたジャンヌでも知る名が、幾つも存在している。

 ルクレツィア・ファルネーゼ。
 犯罪組織の顧客のひとり。
 かつて自らを“買った”令嬢。
 彼女までもが、この刑務の中に居るのだ。

 ジャンヌの胸の内に、幻肢痛のような苦痛が微かに走る。
 かつて幾度となく味わった恐怖と痛みが、脳髄をさいなむんでいく。
 それでも彼女の正気と希望は、決して失われはしない。
 それからふぅと息を整えて、彼女は地図を開いた。

 ――逮捕後のジャンヌの裁判は、欧州某国で行われた。
 あの巨大犯罪組織に都合の良い判決を出すためだった。
 でっち上げられた凶悪犯罪の手掛かりは、裁判で“証拠”として認められた。
 巨大犯罪組織が強い影響を及ぼせる、某国の司法がジャンヌを裁いたからだ。
 彼女は現地の法で“終身刑”が言い渡されたのち、アビスへの護送が決定した。
 そうしてジャンヌは“無期懲役”と同等の扱いとなった。

 欧州にせよ、アビスにせよ、
 ジャンヌ・ストラスブールは、無実の罪で裁かれている。
 GPA(世界保存連盟)、INCN(超力犯罪国際法廷)。
 そしてヤマオリ記念特別国際刑務所――アビス。
 開闢以降の世界で、秩序を守る柱となっている諸機関だ。

 彼らが秩序を保ち、平和を護り続けているのは間違いない。
 しかし同時に、その体制の不備や欠陥が幾度も指摘されている。
 ジャンヌが所属するカウンター勢力の中には、GPAなどへの批判的運動を行う者もいた。
 そのことを振り返りながら、ジャンヌは地図へと注視していた。

 ブラックペンタゴン。
 この島の中央に位置する、正体不明の施設。
 此処に何が隠されているのかは、定かではない。

 しかし――アビスの運営側へと繋がるための、手掛かりが存在するのではないか。
 この刑務の是非を、現状のGPAへの是非を問うための、道筋があるのではないか。
 ひいては犯罪組織による支配が続く欧州の現状を変えるための、足掛かりにもなるのではないか。

 薄氷の上に置かれたような、淡い望みでしかないのかもしれない。
 しかし刑務に縛られ、生殺与奪を握られた聖女にとって。
 それは微かにでも存在する、小さな灯火だったのだ。

 思考を続けていたジャンヌは、視線を動かした。
 湖畔の方で火が立ち上がっているのが、遠目から見えたのだ。
 それはまるで憎悪のように、酷く激しく燃えていた。





550 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:15:46 gMM3oU.20



 ――滾る紅蓮を、日月は必死に躱し続けていた。
 罪人を焼き尽くさんと押し寄せる、無数の火焔。
 憎悪によって無限に燃え上がる、炎獄の熱。
 回避へと専念した日月は、只管に純粋な身体能力のみで焔から逃れる。

 鏡日月は、少なくとも自らの身を守れるだけの体術を備えている。
 社会の暗部で踊り続けてきた彼女は、決して他力本願のみを信じたりはしない。
 生半可な超力の犯罪者程度ならば自力で対処できるだけの護身術を体得していた。

 故に日月は、荒れ狂うフレゼアの火焔を何とか躱し続けていく。
 しかし結局は、ジリ貧でしかない。
 火力も戦闘力も、フレゼアが明確に上回っている。
 いずれ限界を迎えるのは日月の方であることは、彼女自身にとっても明白だった。

 日月の超力は“自身がステージと認識した場で超人的な能力を発揮すること”
 身体能力、歌唱力、表現力、天運。
 その異能が発動した瞬間、日月は紛れもなく完全無欠の偶像と化す。

 だが今は、この場を舞台とは認識できない。
 獰猛なまでの暴力性で迫り来る敵。
 それを必死になりながら対処していく自分。
 互いに形振り構わない姿で、応酬を繰り返している。

 それは偶像の輝かしいステージには程遠い。
 何より、日月自身がこの場を舞台と認識することを否定していた。
 何故なら、アイドルの立つべき場とは――華やかで、粋であるべきなのだから。

 日月の超力は発動できず、敵の攻勢は激しさを増しばかり。
 既に身体の各所に火傷を刻み込まれ、苦悶の表情を浮かべていた。

 このままでは、間違いなく自分が限界を迎える。
 それを悟ったからこそ、日月は咄嗟に距離を取る。

「――――待って!!」

 そして再びフレゼアが攻撃を行おうとした矢先に、彼女は声を上げる。

「貴女は……ジャンヌの知り合いなの?」

 出会い頭にフレゼアが吐いた一言。
 それを思い返して、日月は彼女に問い掛けた。
 ジャンヌの名を耳にし、フレゼアはその動きを止める。


551 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:16:35 gMM3oU.20

 噂に聞いたことがあった。
 ジャンヌ・ストラスブールの所業を模倣し、数々の凶行を働いた“二人の殺人鬼”の存在を。
 それぞれ地域も出自も異なっていながら、共にジャンヌの行動をなぞって連続殺人へと至ったのだという。
 善行と悪行――模倣したものは真逆である、との話だが。

「……ジャンヌとの接触を望んでいるのなら」

 眼の前の炎帝がその模倣犯であるというのなら、ジャンヌとの繋がりそのものが交渉の手札になり得る。
 日月はそう判断し、フレゼアへと持ちかける。

「私は、貴女と彼女のことを取り次いでもいい」

 ――フレゼアの行動次第では、ジャンヌを切り捨てる選択にもなりかねない提案だった。
 自らの同盟相手、守護者となる可能性を持った聖女を、眼前の殺人鬼へと差し出すのだから。
 フレゼアが穏便に事を運ぶのならまだしも、一歩誤れば手負いのジャンヌが犠牲になる危険性がある。

「私は既にジャンヌと接触している」

 しかし、それでも日月は持ちかけねばならない。
 此処で本格的な戦闘へと縺れ込めば、間違いなく自分が死ぬ。
 最悪ジャンヌという手札を切り捨ててでも、この場を切り抜けて生き延びねばならなかった。

「同盟の話を持ちかけて、今はジャンヌの答えを待っている段階。
 けれど、少なくとも即時の敵対はしていないわ」

 鏡日月は数々の犯罪者や業界人とつながりを持ち、自らの魔性と悪徳によって操ってきた。
 清らかな偶像でありながら、稀代の悪女。
 故に十代の少女でありながら、生半可な犯罪者を超える度胸を備えているのだ。

「私を狩ることより、ジャンヌに会うことの方が重要なのでしょう?」

 炎帝との交渉へと踏み切れたのも、その才覚によるものだった。
 若くしてアビスへと収監された偶像は、相応の強かさを持っているのである。

「だったら、私の話を――」
「なんでだ?」

 だからこそ、日月は意表を突かれる。
 唐突に言葉を遮ってきた、フレゼアの一言に。


552 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:17:13 gMM3oU.20

「……は?」
「なんで、貴女が」

 思わず声を上げる日月。
 対するフレゼアは、その言葉から殺意を滲ませる。

「ジャンヌのことを訳知り顔で語ってるの?」

 ――ごう、と。
 フレゼアの瞳に、紅蓮が灯る。
 まるで憎悪と憤怒が形作られたように。
 歪んだ炎が、獰猛に揺らめく。

「死刑囚の犯罪者風情が……」

 その眼差しは、日月を捉えている。
 湧き上がる怒りを剥き出しにして、言葉が吐き出される。

「なんで、ジャンヌとの繋がりを得意げに語ってるの?」

 ジャンヌとの繋がり。
 ジャンヌと会うための交渉。
 それを、この犯罪者が担おうとしている。 
 死刑を言い渡される程のゲス野郎が。
 まるでジャンヌを対等に扱っている。 
 蝿程度の価値しかない虫螻が。
 何故、英雄のことをつらつらと語っている?
 何故、蛆虫の交渉を聞かなければならない?
 何故、お前がジャンヌとの接点を持っている? 
 ――それがフレゼアには、酷く耐え難かった。
 
 それはフレゼアにとって、逆鱗に等しかった。
 日月は思わぬ形で、炎帝の地雷を踏むことになった。
 真っ当な打算性を持っているならば、理解不能と言わざるを得ない理屈だった。
 それでもこの炎帝は、そんな理不尽な論理によって激昂へと至ったのだ。


「図に乗るなよ。火刑に処してやるから」


 その時、日月は理解した。
 眼の前の相手が、話の通じない狂人であることに。

 どれだけ理屈を並べようと、どれだけ駆け引きへと持ち込もうとしても。
 この女に対しては、何一つ通用しない。
 だって、話すら聞こうとしないのだから。
 理屈というものを蹴り飛ばして、自分の世界のみを振りかざすのだから。


553 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:17:58 gMM3oU.20

 ――どうする。
 ――どうする!

 日月は覚悟を振り絞り、再び身構えた。
 舌打ちとともに、必死に思考を巡らせる。

 ジャンヌを見捨てて、この場から逃げ出すか。
 あるいは、休息を取るジャンヌを囮として使うか。
 それとも、この炎帝を迎え撃つ他ないのか。

 選択を誤れば、訪れるのは死のみ。
 ジャンヌのような偶像に裁かれるのならまだしも。
 こんな狂人の手で命を奪われるなど、真っ平御免だった。

 故に、此処を何とかして切り抜けなければならない。
 どうする。どうすればいい――――。


「――――遅れてすみません、日月さん」
 

 そんな思考を重ねていた矢先だった。
 日月とフレゼアの狭間に、眩い閃光が割り込む。
 まるで太陽のように暖かく、勇ましく、猛々しく。
 その少女は救世主のごとく、戦場へと参戦した。

 眼の前に割り込んできた新手を目の当たりにし。
 フレゼアは驚愕に表情を歪ませた直後、その両目を大きく見開いた。
 
 麗しき佇まい。燃え盛るような意志。
 目が眩むほどの、崇高なる輝き。
 ――全てが、あの日のままだった。

 紛れもなく本物。紛れもなく、あの聖女。
 狂気の炎帝は、それを理解した。
 故に彼女は、凄まじい高揚感に身を委ねていた。

「ジャンヌ……」

 フレゼアは、声を震わせた。
 その瞳を、歓喜に震わせた。

 崇拝の対象。憧憬の対象。
 ずっと焦がれてきた存在。
 欧州の英雄、ジャンヌ・ストラスブール。
 彼女が、眼の前に居るのだ。

「同じだ……私を救ってくれた、あの日の輝きと……」

 その栄光に灼かれて、その背中を追い続けたフレゼア。
 彼女が感激に打ち拉がれるのは、必然だった。
 信仰し続けてきた神が、己の前に降臨したのだから。


554 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:18:38 gMM3oU.20

「その……私……」

 狂気に飲まれていた眼に。
 澄んだ輝きが仄かに灯る。

「フレゼア……フレゼア・フランベルジェって言います」

 炎帝は、少女のように無垢な表情を見せて。
 焦がれた聖女へと、自らの名を名乗った。

「私は……」

 フレゼアは元々、天真爛漫な少女だった。
 快活で明るく、真っ直ぐな人柄の持ち主だった。

「貴女に、憧れて……」

 そんな少女が、開闢以後の混乱で平穏を失い。
 孤独に彷徨う日々を送る中で、ジャンヌに救われた。

「ジャンヌのように……なりたくて……」

 彼女は極光に焦がれて、憧れて。
 ――狂気にも似た暖かさに、救われて。
 やがて自身も同じように、聖女と同じ道を歩んだ。

「正義の味方を、志したの……」

 その果てに、フレゼアは道を踏み外した。
 炎帝。それは、聖女には程遠い称号。
 全てを焼き尽くす暴君。悪辣なる虐殺者。
 
 北米はGPAが強い影響力を持ち、治安や秩序の安定化が果たされていた。
 そんな地においてフレゼアは無差別的な大虐殺を引き起こし、開闢以来のアメリカにおいて最悪の殺人鬼として忌み嫌われた。

「なのに、この世界は……。
 貴女のことも、私のことも否定して……」

 フレゼアは、その意味を理解していない。
 自らが引き起こした悪逆を、罪とすら捉えていない。
 だからこそ、まるで訳も分からず親に叱られた少女のように、自らを憐れむ。

 そして、フレゼアにとっては。
 ジャンヌもまた、自分と同じだった。
 謂れのない罪を告げられ、罰せられている。
 自分達は――何も悪いことなどしていないのに。
 正しいことを、貫いてきたのに。

「ねえ、ジャンヌ」

 故にフレゼアは、ジャンヌへと手を伸ばす。

「私と一緒に、世界を滅ぼそう?」

 自らの憎悪へと、聖女を誘う。

「私達を否定した世界を……焼き尽くそうよ」

 彼女も理解してくれると、フレゼアは無邪気に思う。
 そんなフレゼアを見つめるジャンヌの眼差しは、深い哀れみに満ちていることも気づかずに。


555 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:19:20 gMM3oU.20

「フレゼア」

 やるせなさを胸に抱くように、ジャンヌが声を絞り出す。
 私達を否定した世界――その言葉と、先程までのフレゼアが見せていた狂熱。
 その意味を、ジャンヌは理解していた。
 数多の善人も、数多の悪人も見てきたジャンヌは、フレゼアが何に飲まれているのかを察した。

「お願いです。止めて下さい」

 告げることは、ただ一つ。
 フレゼアの妄執の、否定だった。

「え……でも、ジャンヌ……」
「貴女の背負ってきたものは理解できます。
 ですが……憎悪と絶望に囚われてはなりません」

 ジャンヌの拒絶に、唖然とするフレゼア。
 思いもしなかった答えを前に、彼女は放心する。
 理解が出来なかった。受容が出来なかった。
 何故ジャンヌが自分を諭しているのか、分からなかった。

 ジャンヌと自分は、同じ世界を見ているはずなのに。
 ジャンヌは自分に、手を差し伸べてくれたはずなのに。
 ジャンヌの歩んだ道を、自分は置い続けたのに!

「は……?」

 盲信に目が眩めば、人は相手の表層のみ捉えるようになる。
 事の本質を軽視し、己の中の魔境に真実を見出そうとする。
 フレゼアもまた同様、ジャンヌの歩む道を理解していなかった。
 彼女が規範としたのは、ジャンヌという偶像に灼かれた己の狂信でしかないのでから。

 だからフレゼアは、理解できない。
 ジャンヌの言葉を、受け入れられない。

「このような世界だからこそ、善への希求だけは見失ってはならないと思っています」

 淡々と、整然と語るジャンヌ。
 彼女は変わらず、フレゼアに憐れみを手向ける。

「どうか、思い直して下さい」

 聖女の説法は、フレゼアの魂を揺さぶった。
 聖女の眼差しは、フレゼアの心に火を燈した。

「さもなくば、私は貴女を止めねばならない」

 逆上と呼ぶべき憤怒が――込み上げていた。


556 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:20:02 gMM3oU.20

「……ああ、そうなんだ」

 ゆらり、ゆらりと。
 フレゼアは、自らの体を揺らす。
 視線の先に立つジャンヌ。
 その傍らにいる日月へと、目を向ける。

「ジャンヌ――その女に、誑かされてるの?」

 憧憬の対象に裏切られた憤慨。
 憧憬の対象への変わらぬ崇敬。
 その二つの感情が入り混じり。
 炎帝は、責任を転嫁する。

「そっか、そうだよね。
 ジャンヌが私を否定するはずがないもの。
 きっと貴女は何か惑わされてるだけ。
 うん、そうだよ。そうに違いない」

 自らに都合の良い現実を、頭の中に作り出す。
 けたけたと嗤って、フレゼアは空想の世界に沈む。
 合理も理解もない。彼女の網膜も、心境も、とうに焼け焦げている。
 狂信だけが、彼女の道しるべ。

「だったら、ジャンヌを……」

 だから、答えは一つしかなかった。

「元に、戻してあげないと」

 聖女を模すかのように。
 その背中から、翼のように焔を噴出させる。
 炎帝の笑みが、獰猛なる獣の威嚇へと変わる。


「ねえ、ジャンヌ――――ッ!!!!!」


 そして、炎帝が疾走した。
 聖女へと目掛けて、一直線に。
 濁った瞳に、狂気の焔を宿しながら。
 “ふたつの炎”の激突――その火蓋を切る。





557 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:20:36 gMM3oU.20



 ジャンヌ・ストラスブール。
 私にとっての英雄。
 私にとっての偶像。
 私にとっての太陽。

 あの日以来、彼女は私の道標になった。
 あの聖女のようになりたくて。
 私は正義の焔を振るうようになった。

 なのに私は、誰からも認められなかった。
 彼女のような生き様を貫いているのに。
 誰もが私を蔑み、私を否定した。
 剰えこの世界は、ジャンヌさえも罪人として罰した。

 おかしい。有り得ない。そんなはずがない。
 私は、何も間違っていない。
 私は、何の罪も犯していない。
 私は、正しい行為を貫いている。

 そして、何より。
 ジャンヌが裁かれるはずがない。
 ジャンヌが悪であるわけがない。
 この世界の為に戦い抜いたジャンヌが。
 この世界の闇に飲まれることなど。
 起こり得るわけがない。

 だって、ジャンヌは――。
 あれほどまでに眩しかったのだから。

 彼女が、折れるはずがない。
 その正義の魂が、穢れるはずがない。
 だって彼女は、本物の光なのだから。

 そう、ジャンヌが敗けるはずがない。
 私自身が、誰よりも強く信じていた。
 それこそが、私という“少女の祈り”。





558 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:21:19 gMM3oU.20



「え」


 視界の一部が、欠ける。


「え――――?」


 身体の重心が、崩れる。


「え、あ――――?」


 一体、何が起きている。


「なに、が」


 炎帝(フレゼア)は、一瞬。
 理解が出来なかった。


「う、ぁ」

 
 その左肩から先。
 熱のような痛みが、迸るまで。
 彼女は、気付きもしなかった。


「は――――?」


 左腕が、宙を舞っていた。
 二の腕から先。弾ける血潮と共に。
 ――――誰の?フレゼアの左腕だ。

 いつ、斬られた?
 知らない。分かるはずもない。
 だって、捉えられなかったから。
 だって、既に起こっていたから。
 フレゼアには、認識できなかった。

 そして、フレゼアは。
 自らの後方へと、振り返った。
 つい先刻、駆け抜けていった影。
 それを、視界に収めた。

 背を向ける、ジャンヌ・ストラスブール。
 その右手には、焔の剣が握られている。
 混乱するフレゼアの視界の中で。
 凛とした佇まいで、振るった剣を下ろしていた。

 その姿はまるで、地に降り立った“英雄”のようだった。
 フレゼアは、ジャンヌの右脇腹に刻み込んだ火傷に気付くことも出来なかった。


559 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:21:58 gMM3oU.20

 ――ほんの数秒前。
 フレゼアとほぼ同時に、ジャンヌは駆け抜けた。
 そしてすれ違いざま、二人が交錯した瞬間。
 刹那の合間に、ジャンヌはフレゼアへと一閃を叩き込んだのだ。

 フレゼアは、更に気付く。
 片側の視界が塞がれている。
 左眼が、見えない。

 斬られている。潰れている。
 視界の一部が欠けてる意味を、理解した。
 そして、ようやく。
 灼けるような痛みが、感覚を貫いた。

 フレゼアの左腕を切断したジャンヌの斬撃。
 刃が切り抜けていく余波と炎熱が、フレゼアの左眼すらも損壊させたのだ。


「フレゼア・フランベルジェ」


 透き通るような、美しい声が。
 月下の下で、鈴の音のように響く。


「此処で、悔い改めて下さい」


 硝子のように繊細で、麗しき声が。
 凄まじい威圧感を伴って、毅然と響く。


「さもなくば――――」


 ジャンヌが、フレゼアの方へと振り返る。
 その言葉には。その眼差しには。
 純然たる正義の心が、宿っている。


「神の御元へ、貴女を送らねばならない」


 そう告げて、ジャンヌは。
 真っ直ぐに、フレゼアを見据えた。


560 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:22:53 gMM3oU.20

 射抜くような目に捉えられて。
 隻眼の炎帝は、壮絶な戦慄を抱く。
 幼い頃には知っていた筈の感情を、否応なしに喚び起こされる。
 それは自分ではどうしようも出来ない“運命”に対する、焦燥と畏怖だった。

 そして、フレゼアは悟る。
 ジャンヌが、その気だったなら。
 自分は、首を刎ねられていたのだ。

 “バケモノ”。
 かつてフレゼアは、そう呼ばれた。
 数多の者達を殺戮して、そう忌み嫌われた。
 違う。有り得ない。罪を罰しただけだ。
 自分は、正しき行いを貫いただけだ。
 フレゼアは今も尚そんな妄執を抱き続けている。

 ――――そう、違う。自分は違うのだ。

 あれだ。あれこそが、そう呼ぶべきだ。
 自分ごとき、あれに及ぶ訳がないと。
 忌まわしき炎帝は、思い知らされる。
 悪しき魔女は、叩き付けられる。
 格が違うのだ、と。

 狂信の焔が焦がれ続けた。
 あの、殉教の聖女。
 何者をも照らす、救済の騎士。

 決して揺るがず、決して屈さず。
 圧倒的な輝きで、立ち続けて。
 どれだけ苦悩を背負い続けようと。
 善のために、悪を断ち切る勇気を持つ。

 “バケモノ”とは――――ああいうモノだ。


「う、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――――――――――ッ!!!!!!!!!!!!!!!」


 気が付けば、フレゼアは叫んでいた。
 失って久しかった恐怖が、彼女の全身を駆け巡っていた。
 まるで噴き出す鮮血のように、狂気の紅蓮が慟哭する。
 恐慌状態に陥ったフレゼアは必死に身を翻し、炎を溢れさせながら逃げ出した。





561 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:23:39 gMM3oU.20



 ジャンヌ・ストラスブール。
 彼女は数多の死線を乗り越えてきた戦士である。
 されど、実力そのものは突出している訳ではない。
 
 アビスに投獄される前にも、彼女は少なくない敗北を経験している。
 巨大犯罪組織の熾烈な反撃にも屈し、数年に渡って囚われの身となっていた。
 この刑務においても、圧倒的な実力を備えるルーサー・キングに対して惨敗を喫しているのだ。

 ジャンヌの身体能力や超力自体は突き抜けている訳ではなく、その強さを裏付けるものはあくまで技術とセンス。
 幼い頃は“炎を操る”程度だった超力を、鍛錬を経て“徹底した戦闘向けの異能”へと昇華させた。
 戦闘における駆け引きでも、生半な相手ならば瞬時に隙を突いて一撃を叩き込むだけの技量を体得している。 
 彼女は、生半な相手では及ばぬ程の研鑽を積み上げている。

 そして、そんな聖女の強さを支える最大の根幹。
 それは、太陽のように燃え続ける“狂気”だった。
 決して揺るがず、決して穢れない“正義の魂”だった。

 その余りにも強く気高い輝きは、実態すらも超えてジャンヌという少女を“超人”へと変える。
 その眩き意志は、対峙した相手に戦慄さえも覚えさせる程の極光と化している。

 かつてジャンヌ・ストラスブールに心を灼かれたフレゼアならば、尚更“恐怖”を抱かずには居られなかった。
 誰よりもジャンヌを信じ、崇めていたからこそ、フレゼアはその心の隙を突かれたのだ。

 聖女は、この地の底に堕ちるに相応しい逸脱者なのだ。
 冥界の闇さえも振り払い、孤高に戦い抜くことが出来るのだから。

 そして、その顛末を見届けていた少女。
 傾国に至る魔性と、偶像への無垢な憧れを抱く罪人。
 鑑日月は、ただ呆然としていた。
 凛として佇む聖女を、見つめていた。 

 ジャンヌ・ストラスブールは“偶像”。
 正義の味方という、一つのアイドル。
 日月はそう思っていた。
 彼女のことを、そう評した。
 きっとそれは、間違いではない。

 しかし、あの瞬間。
 狂気の炎帝を下した時の、あの姿は。
 刹那の交錯で見せた際の、あの風格は。
 半ば“偶像”の域を、飛び越えていた。

 揺るぎない狂気。揺るぎない輝き。
 さっきの彼女は最早、“神”そのものだ。
 日月は、思い知らされる。


562 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:25:01 gMM3oU.20

 そのうえで、ジャンヌは。
 迷い、傷つき、それでも立ち向かう少女なのだ。
 無垢と神性。善性と狂気。慈悲と冷徹。
 その夥しいまでの矛盾が、彼女の人格と意志によって完全に制御されている。

 ――ああ、そうか。
 ジャンヌの不協和音を目の当たりにし。
 日月は、彼女に惹かれていた意味を悟る。

 自らの矛盾と混乱を飼い慣らし。
 自らの悪性にも折り合いをつけて。
 全てを自らの魅力へと昇華させる。 
 舞台の上で、圧倒的な光として君臨する。

 ああいうものに、なりたかったのだ。
 そんなアイドルに、日月はなりたかったのだ。
 ――稀代の悪女。天性の偶像。
 二つの矛盾した顔を持つが故に苦悩した日月は、それを悟ることになった。

 やがてジャンヌの身体は、ぐらりと傾き。
 瞬きの後に、その場で膝を付いた。
 顔を俯かせながら、荒い息を吐いている。

 毅然と佇み、格の違いを見せつけながらも。
 あくまで彼女の傷は、癒え切っていないのだ。
 疲弊と消耗を隠し、ジャンヌは気丈に振る舞っていたが――。
 フレゼアが去り、彼女の身体からは再び力が抜けた。

 そしてその右脇腹には、痛ましい火傷が刻み込まれていた。
 フレゼアとの一瞬の交錯では、ジャンヌとて無傷では済まなかった。
 炎帝が放つ“真紅の焔”は、聖女の身に手傷を与えていたのだ。

「……無理しないで。まだ癒え切ってないんでしょう」
 
 日月は、何とか身体を動かそうとするジャンヌを制止した。 
 今の状態のままフレゼアを追うことは、ジャンヌにとっても多大なる負担となる。
 万全の状態を取り戻すためにも、後暫くの休息が必要であることは明白だった。

「日月さん」

 それほどの疲弊を背負いながらも、ジャンヌは真っ直ぐに日月へと眼差しを向ける。 

「貴女の言う通り、私はまだ道の半ばです」

 まるで、ただの一介の少女のように。
 ジャンヌは謙りながら、言葉を紡ぐ。

「だからせめて、“正しさ”だけは見極めていきたい。 
 この刑務の是非……その手掛かりを掴む為にも、ブラックペンタゴンを目指します」

 今はまだ、答えの果ては見つからずとも。
 何を成すべきかは、この眼で確かめていきたい。
 ジャンヌは日月へと、その思いを伝える。


563 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:26:10 gMM3oU.20

「だからせめて、“正しさ”だけは見極めていきたい。 
 この刑務の是非……その手掛かりを掴む為にも、ブラックペンタゴンを目指します」

 今はまだ、答えの果ては見つからずとも。
 何を成すべきかは、この眼で確かめていきたい。
 ジャンヌは日月へと、その思いを伝える。

「そして、此処にいる受刑者達とも向き合って、己の成すべきことを見出していきたい」

 ルーサー・キングのような揺るぎない巨悪もいれば。
 鏡日月のように清濁併せ持つ者もいる。
 そして、受刑者の中には――自分と同じように。
 事情を背負い、アビスへと堕ちた者もいるかもしれない。

 願わくば、この場で彼らとも向き合っていきたい。
 そして、それは“彼女”のことも同じだった。

「……彼女を止めることもまた、私の責務です」

 思い詰めるように悲しげな眼差しで、ジャンヌは吐露する。
 先程相対したフレゼアのことを言っているのは明らかだった。
 彼女の狂乱の根底に自分という存在があるのは、ジャンヌにとっても明白であり。
 だからこそ、まだ傷の癒えていない現状を苦々しく思っていた。

 今は消耗からの回復を待たねばならない。
 “牧師”との交戦は、紛れもなく尾を引いている。
 あと暫くは、この場に留まらねばならない。

 儘ならない己自身に苦悩しながらも、それでも彼女は今できることを行う。
 ジャンヌの眼差しは、日月を真っ直ぐに捉えていた。


「ありがとうございます。
 私の正義に、問いを投げかけてくれて」


 そしてジャンヌは、頭を下げた。
 “選択”を迫ってきた少女に対し。
 まるで自らを“大した存在ではない”とでも、示すかのように。
 純粋な想いを胸に、極光の聖女は礼を伝えた。
 
 そんなジャンヌを見据えて、日月は呆気に取られて。
 やがてその口元に、知らず知らずのうちに笑みが浮かぶ。
 打算を目論むの笑み。唖然の果ての笑み。
 そして、獰猛な意志が首を擡げるような笑み。
 日月の感情は入り乱れて、ひとつの表情を作り出す。

 “これ”を味方にする。その価値を、彼女は改めて悟ってしまった。
 “これ”を敵に回す。その意味も、彼女は理解してしまった。
 それは自らを守る聖剣にも、自らを断じる鉄槌にも成り得る。

 そして、何より。
 日月の胸中に浮かぶもの。
 舞台から降ろされた偶像にとって。
 取り零して久しかった、闘志だった。

 ――私は、アイドル。
 ――私は、“これ”に敗けたくない。

 彼女もまた、“偶像”だというのならば。
 彼女が立つ、この“戦場”というものは。
 血に塗れた“舞台(ステージ)”なのだろう。


564 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:27:11 gMM3oU.20

【B-6/河川敷/1日目・黎明】
【ジャンヌ・ストラスブール】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、右脇腹に火傷
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.正義を貫く。だが、その為に何をすべきか?
1.ブラックペンタゴンを目指す。
2.フレゼアを追いたい。
3.刑務の是非、受刑者達の意志と向き合いたい。
※ジャンヌが対立していた『欧州一帯に根を張る巨大犯罪組織』の総元締めがルーサー・キングです。
※ジャンヌの刑罰は『終身刑』ですが、アビスでは『無期懲役』と同等の扱いです。

【鑑日月】
[状態]:疲労(小)、肉体の各所に火傷
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.アビスからの出獄を目指す。手段は問わない
1. ジャンヌには、敗けたくない。
2. ジャンヌ・ストラスブールには、『アイドル』であることを願う

※ジャンヌと日月がここから行動を共にするのか、あるいは別れるのかは後のリレーにお任せします。


565 : 裁かるるジャンヌ ◆A3H952TnBk :2025/02/24(月) 18:28:04 gMM3oU.20



 慟哭の炎が止まらない。
 栓を締め忘れた蛇口のように。
 火焔が、止め処なく溢れ出てくる。
 左腕を喪った傷口から、熱が猛り狂っている。

 フレゼア・フランベルジェは、必死に逃げ惑っていた。
 自らが焦がれた“聖女”によって断じられ、恐慌と混乱の中で奔り続けていた。
 彼女の思考は、目まぐるしく回転し続ける。
 動揺や自問自答を繰り返し、全てがあべこべになっていく。

 何故。どうして。なんで。何が起きて――。
 ジャンヌが、私(フレゼア)を否定した。
 ジャンヌが、私(フレゼア)を裁いた。
 嘘だ。そんなのは嘘だ。全部嘘だ。
 嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!
 こんなことは、あってはならない。
 
 フレゼアは、己の罪を認めない。
 フレゼアは、己の非を認めない
 フレゼアは、何より――。
 憧憬と崇拝の対象だった聖女が。
 己(フレゼア)を罰したという現実を認めない。

 だから彼女は、混乱する思考の中で。
 必死に、強引に“納得”を手繰り寄せる。

 ――フレゼア。
 ――これは、戒めです。

「そういう、こと」

 ジャンヌの啓示が、脳裏で反響する。
 ありもしない言葉が、フレゼアの心を繋ぎ止める。

 そうだ。これは“戒め”だ。
 真の輝きに届かない“未熟な自分”に対し。
 “聖女”が自ら、鉄槌を与えてくれたのだ。

 ――私は、貴女に道を示したのです。
 ――正義は、裁きの焔と共に在る。

「そうだ、そうだよね、ジャンヌ」

 そうに違いない。
 それ以外に有り得ない。
 彼女が“私”を見限る訳がない。
 聖女が“私”を悪と断じる筈がない。

 フレゼアは、恐慌の中で妄想を加速させる。
 それが“ただの幻聴”などとは、考えもしない。

 ――貴女はまだ、戦える筈です。
 ――さあ、立ち向かいなさい。

「全ての悪しき者を……神の御元へと……」
 
 あの光に届かねばならないのだ。
 その為にも――もっともっと、殺さなければ。
 数多の供物を捧げて、正義を貫徹せねば。
 ジャンヌに到達するために、より多くの罪を裁かなければ。

 焔が、全身から迸る。
 熱が、魂から溢れる。

 フレゼアは、口元に笑みを浮かべる。
 あの極光を追憶し、炎帝は自らの熱を昂らせる。
 そうだ。もっと、裁きの焔が必要だ。
 全てを焼き尽くす、天罰の紅蓮が必要だ。
 彼女のように。麗しきジャンヌのように――。

 隻眼の炎帝は、駆け抜ける。
 左腕の傷口からは、尚も焔が溢れ出す。
 その狂気を、加速させるように。


【B-5/平野/1日目・黎明】
【フレゼア・フランベルジェ】
[状態]:左腕欠損(傷口から炎が溢れ出ている)、左眼失明、妄執、幻聴
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.全てを燃やし尽くす
1.手始めに囚人を、その次に看守を、その次にこの世界を。
2.きっとジャンヌは未熟な私を戒めたんだ。なら彼女に認められるよう、もっと殺さなければ。
※ジャンヌの光に当てられたことで妄執が加速し、超力の出力が強化されつつあります。


566 : 名無しさん :2025/02/24(月) 18:29:00 gMM3oU.20
投下終了です。
途中コピペミスが発生してしまい申し訳ありません。


567 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/24(月) 20:34:51 SvUVsYew0
投下乙です

>裁かるるジャンヌ
誰よその女! 妙な痴情のもつれのような三角関係が発生している、まあ完全なストーカー案件なんだけど
ご本人登場でファンガと化すフレゼアがちょっとかわいい、本人の言葉より自分の中の偶像を信じるのは厄介ファンすぎる
戦闘ではフレゼアを一蹴するジャンヌが想像以上に強い、これを撃退した牧師の強さも際立つ、妄執と対抗心、方向性は違えどジャンヌのカリスマに周囲の人間の脳が焼かれまくっている
そして、ブラックペンタゴンに向かう人も増えてきたね。集まって何が起きるのか楽しみですな


568 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:19:02 yhh6Ojg60
投下します


569 : 爆炎、斬と誓ふ ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:20:14 yhh6Ojg60
「して、知り合いはいたのか?」
「いたねぇ。残念ながら」

鬱蒼と木々の生い茂る夜の森に2人の男女が佇んでいた。
無精髭とボサボサ髪の青い目をした侍とツインテールをした童顔で低身長の女。
征十郎と沙姫は、この地の底で愛でも絆でもない別の何かで繋がれた奇妙な連れ合いだった。
彼らは自らに配られたデジタルウォッチを起動して、それぞれ刑務作業に参加している名簿を確認していた。

「ジョニー・ハイドアウト、メリリン・"メカーニカ"・ミリアン、ギャル・ギュネス・ギョローレン。
 ネット越しのやり取りで直接会ったことはないけどこの三人とは何度か取引したことある」

沙姫は名簿の中にあった犯罪援助で生計を立てていた頃の取引相手を上げていく。
ジョニー・ハイドアウトとは部品のメンテと提供支援を。
メリリン・"メカーニカ"・ミリアンとは機械作成の協力を。
ギャル・ギュネス・ギョローレンはドローンによるテロ行為の支援を行っていた。

「まあこいつらとの仕事内容はドローンやロボットを使った支援が主だったから、こいつらには感謝はされど恨まれてはいないかな、多分。
 ただし、ギャル・ギュネス・ギョローレンに関してはそもそもヤバいテロリストだから、あんまり関わりたくないけどね」

彼らとの取引も自白したがそこまで不利になる証言はしていない。
ギャルに関してはテロ行為の詳細を明かしたが、実行済みのものばかりで目新しい情報はなかったはずだ。
もっとも、あの狂人にそんな理屈が通用するかは分からないが。

「後はルーサー・キングとディビット・マルティニ。
 流石にこんな上役と直接はやり取りしたことはないけど、彼らの下部組織とは取引したことはある。
 ここに関してはヤバい取引内容についても包み隠さずベラベラ喋ったから、それがバレてりゃ恨まれてるかもねぇ」

もし認識されていたなら間違いなく消されるだろう。
とは言え、大組織の幹部が、こんな木っ端の雇われを認識しているとは思えないが。

「なるほど。つまり、お前を直接狙ってきそうな輩はほぼいない。と?」
「いや……まあ、そうだけど。ちょ、ちょっと待ってよ!」

待ったをかけるように両手を広げ、沙姫は慌ててとりなす。
このままでは、役立たずとして斬り捨てられる流れだ。

「慌てずとも、元よりお前自身にはそう期待しておらん」
「……あれ?」

だが、拍子抜けするほどあっさりとそう言った。
征十郎は怒るでもなく冷静な様子だ。

「最初お前を見とき私はお前を別人であると誤認した。あれがお前の超力だな?」
「あ、うん。そうだよ。俺を見た相手は、俺を自分の知り合いだと誤認するって超力」

自分の超力を他人に明かすのはリスクが高いが、既に超力の効果が解けている征十郎相手には今更だ。
再度、超力の幻影を見せるには一度認識外まで別れる必要があるが、そんな機会もないだろう。

「お前が意図的に見せているのではなく、相手が自分の認識している相手を見る、と言うことだな」
「そう。基本はその相手が見たいと思う相手だね。一番逢いたいと思ってるようなそんな相手」

大抵の人は沙姫を通して自分の見たいものを見る。
征十郎が宿命の好敵手を見たように。
あるいは、子供を亡くした富豪夫妻がその子供を求めたように。

「ならば、お前を恨んでいる輩がいたとして、初見ではお前と分らぬのでは囮にならないのではないか?」
「…………あ、そっか」

言われて気付く。
仮に本気で沙姫を恨む人間がいたとしても、初見では沙姫と気付かないのだから囮としての意味がない。
自分の超力の事なのに見落としていた。囮作戦の根本的な穴だ。

その事に征十郎は気付いていたようだ。
だったら何故こんな穴だらけの提案を受けたのか。
ますます疑問が広がるばかりである。
その答えを示すように征十郎は一つの問いを投げた。

「その超力、コントロールはできんのか?」
「コントロール? あんまり考えたことはなかったなぁ……」

常時発動型であったため意識したことはなかった。
だが、不可能ではないだろう。
超力とは認識の力だ。意識したことがないだけで、方向性を意識すれば何らか違いが現れる可能性はある。

「例えば、見せる相手を殺したいほど憎んでいる相手にする、と言うのはどうだ?」

誰にとっても殺したいほど憎い相手に見えるのであれば囮役としては最高だ。
そうなれば誰もが食いつく最高の餌になる。
征十郎は最初からそのつもりだったようだ。

「けど、それって俺がメチャクチャ狙われるって事じゃ……?」
「囮役を買って出たのはそちらだろう?」
「……そーでした」

最初から(沙姫が)命がけの作戦である。
別に自分の命にこだわる訳ではないが、あんまり安売りされるものどうかと思う。


570 : 爆炎、斬と誓ふ ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:21:43 yhh6Ojg60
「セイジューローさんの方はどうなの? 知り合いとかいた?」
「生憎と、私はただの辻斬りでな、裏社会には縁はない。
 アビスの中で顔見知った輩はいれど、元の知り合いだのそういう類の輩はおらんな」
「そっか」

征十郎は殺し屋と言う訳でもなく、ただ己が腕を磨くためだけに人を斬ってきた辻斬りだ。
このアビスに堕ちるような裏社会の人間とつながりはなかった。
知り合いがいないと言うのが幸運なのか不幸なのかわからない所だ。

「知り合いがいようといまいが、私の行動原理は変わらん。全員斬る、それだけだ」

人斬りは言う。
まるで、ただそれだけの機能しかない刃のように迷いなどない。

「俺も大概だと思うけど、セイジューローさんも壊れてんねー」

沙姫の倫理観は壊れている。
彼女が人を殺せないのは産みの親と育ての親、2組の両親の死に様が脳裏刻まれた心的外傷によるものだ。
基本的に人を殺すこと自体は何とも思っていない。

あの人に出会ってからは分からないなりにまともに生きてみようなんて思ったりもしたが。
アビスでの獄中生活では、なかなかそんな機会も訪れない。

「一緒にするな。私はお前らと違ってそれなりの常識や倫理観はあるつもりだ。
 ただそれ以上にこの剣を極める。その至上命令が私の中にはあるだけの話だ」

征十郎は人であることを辞めたわけではない。
人としての常識や理念の上に、至上命令として剣を極めるべく人を斬るという事がある。

生まれの悪さにより倫理観の壊れてしまった沙姫と倫理観を持ったままそれ以上の至上命令を優先する征十郎は違う。
倫理に反する行為を行うにしても、その原動力が異なる。

「えぇ……ホントかなぁ?」

だが、これまでの言動からして常識があると言われても全く信じられない。
沙姫は訝しんだ。

「基本的には同意のない相手は斬らん。こちらを襲ってきた相手と、どうしようもない悪鬼はその限りではないがな」

その為の囮作戦だ。
沙姫を襲ってきた相手と征十郎が立ち会うという戦う理由を無理やり作るマッチポンプな作戦である。
その為に彼らは手を組んだのだから。

「俺はいきなり斬りかかられた気がすんだけど?」
「我が好敵手の姿をしていたお前が悪い。そうだな、いい機会だ、我が宿敵の話を聞かせてやろう」
「えぇ〜。あんま興味が…………」

そんな風に話をしながら、2人は森の中を歩き始めた。




571 : 爆炎、斬と誓ふ ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:23:33 yhh6Ojg60
「そう言えば」

森を歩く道すがら、思い出したように征十郎は切り出した。

「先刻の手合わせの際、私の技量を自分の知る中で1、2を争うと言っていたな?」
「あぁ…………そだっけ?」
「して、そのもう一人とは誰だ?」

はぐらかそうとするが、逃さんとばかりに征十郎は話題に喰いつく。
失言だったか、と沙姫は僅かにため息を零した。
だがまあ若干の照れはあるが、別に隠すような話題でもない。
何より、征十郎が興味があるのは色恋沙汰ではなく殺傷沙汰の話である、色気のある会話にはならないだろう。

「俺を捕まえた警察官だよ。ロングソードの使い手でね、俺は手も足も出なかった」
「ほぅ。長剣使いの警察官か。興味深いな」

今の時代、誰もが一定の力を置てる銃よりも、個人の超力にあった武器を携帯した方が犯罪者の制圧に役立つ。
それにしたってロングソードを装備した警察官なんてのは相当珍しいだろうけど。

「2度手合わせする機会があってさ。姿は違ってるはずなのにちゃんと俺を見つけてくれた」

あの奇跡の様な出会いに想いを馳せる。
1度目は裏路地での小さな小競り合い。2度目は隠れ家に突入された大ピンチ。
そこで偽装された見た目ではなく、積み重ねて来た剣の腕で自分を見つけてくれた。
そうして、正々堂々の勝負を挑んで見事に負けた。

「そこまでの使い手とあらば、是非とも手合わせしてみたいものだな」
「言うと思った」

だが、そんな乙女心を察するでもなく勝負を妄想するようににやりと笑いながら征十郎は言う。
やはりこいつは、相当な剣術狂いだ。

「どのような使い手だ? 詳しく聞かせろ」

興味津々と言った様子で尋ねる。
沙姫としても剣術(しゅみ)の話が出来るのは吝かではない。
何より、面映い気持ちもあるがあの人の話が出来るというのは正直うれしい気持ちもある。

「リヒテナウアーに連なるドイツ流剣術の使い手でね、さっき言った通り両手剣の使い手だよ」
「海外剣術には明るくないが、両手剣、と言うことは示現のようなものか?」
「守りを捨てて一撃必殺を狙う示現流とはちょっと違うかなぁ。
 攻防一体とするのがドイツ流の戦闘哲学だから、基本は守り。あの人も守り上手でね、俺は一発もあの守りを抜けなかったなぁ」
「なるほど、興味深い。俺の攻めがどこまで通じるか、試してみたいものだな」

森を歩きながら、剣術談議に花を咲かす。
剣の事しか考えていない征十郎に呆れつつも、なんだかんだ沙姫も剣術バカの一人だ。
ニート生活をしながら剣術(これ)だけはずっと続けてきた。
こうしてリアルで趣味の話をすると言うのも初めての経験である。

「して、その想い人とやらとはどうなったんだ?」
「いやぁ、アビスに堕ちちゃったからなぁ。会う機会もないよ」

彼は刑務官ではなく警察官である。
取り調べ室が主な逢瀬の場で、あとはアビスに収監される前に一度面会に来てくれたくらいだ。
それ以来会えていないが、彼の事だ、今でも正義をどこかで果たしているのだろう。

「って!? 想い人って何でぇ!?」
「それくらい語り口で分かる」

ぐぬぬと唸る。
剣術バカの唐変木だと思ったのに。
常識人だというのも意外と本当かもしれない。




572 : 爆炎、斬と誓ふ ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:26:53 yhh6Ojg60
そうこうしている内に、森を抜ける。
森を抜けた先あったのは、浜辺に近い草原だった。
海岸が近いためか、潮を含んだ強い風が征十郎たちを出迎える。

薄暗い森を抜けたからだろう、瞳孔の開いた眼には月光は強く映り僅かに目をくらませた。
そんな潮風に吹かれる月下の元、先頭を行っていた征十郎が立ち止まる。
何事かと、沙姫がその視線の先を見つめた。

「はろはろ〜♡」

そこには待っていたように一人の女が、目元にピースを決めて立っていた。

健康的な小麦色の肌に囚人服ではないタイトなセーラー服がピッタリと張り付いていた。
太ももまでスリットの入った短めのスカートからは長くスラリとした脚が伸び、ストリート系のスニーカーと絶妙にマッチしている。
ポニーテールにまとめた髪の根元には派手なシュシュが巻かれ、流行に敏感なギャルの雰囲気を漂わせる。

それは時代錯誤なJKギャルだった。
だが、セーラー服に身を包んでいるその事実だけで、目の前の相手が既にポイントを得ている危険人物であると分かった。

(ギャルだ。さっき伝えたヤバい奴)

前を向いたまま征十郎に小声で伝える。
先ほど挙げられた取引相手の一人。
険悪な関係ではなかったが、そもそもがド級の危険人物である。

「あーし。ギャル・ギュネス・ギョローレンね、よろ〜」

ギャルは隠すでもなくダブルピースを突きつけながら自ら名乗りを上げる。
征十郎は相手がその気なら即座に対応できるよう身構えているが、余りにも堂々とした態度に意図が読めない。
沙姫からすれば面倒この上ない相手だ、征十郎に任せるつもりで僅かに身を引き、後ろにこっそりと隠れた。

「でさぁ〜」

ギャルは気だるげに沙姫たちを見つめ僅かに目を細める。
その視線は征十郎の背後に身を隠すように立っている沙姫に向けられていた。

「――――何で生きてんのアンタ?」

明らかに知り合い掛ける口調、沙姫を通して誰かを見ている。
その不愉快そうな顔つきから、相手の逢いたいような相手ではないようだ。
いきなり成功するかは心配だったが、沙姫たちの目論見はある程度は成功しているようだ。

「なに黙ってんの〜? ねぇ答えなよ」

返答のないことに若干不機嫌になりながら詰問を続ける。
だが、彼女が誰を見ているのかわからない以上、下手な返答はできない。

「失礼。この御仁とどういった関係で?」

征十郎が割り込み、第三者の立ち位置を上手く利用して情報を引き出す。
古めかしい言い回しなのは、男とも女とも付かない言い回しにするためだろう。
野武士めいた外見と相まって違和感は少ない。

「何? アンタ」
「征十郎と申す。訳あってこちらの御仁と同行している者だ」
「あっそ、征タンね。よろピコ〜」

軽い調子でひらひらと手を振る。
応答の余地ありと判断した征十郎が、改めて探りを入れる。

「それで、こちらの御仁とは?」
「あぁ、そいつはね、あーしが娑婆で最後に殺した相手、だったんだけど、それが何で生きてんの? ミステリじゃね?」

そう言って首をかしげる。
どうやら、見えているのは最高に殺したい相手ではなく、最後に殺した相手のようだ。

(殺意と言うより疑問が勝っているようだな)
(ぶっつけ本場だったんだから多少のズレは許してよ)

視線で言葉を交わしあう。
向かってくるのなら問答無用で斬り合えたというのに、何とも煮え切らない結果だ。

「どしたん?」
「いや、どういった因縁があったのか、と思ってな」

アイコンタクトに下手な勘繰りをされぬよう適当に誤魔化す。
その適当な疑問に律儀にもギャルは答える。

「別に、因縁つーか。おトモダチがそいつにパクられたって聞いてお礼回りに行ってあげた、みたいな?
 一度でも協力したらダチだから。あーしそういうとこちゃんとしてっんだよね。ずっ友の絆は永久不滅だかんね」

仲間の復讐。という事らしい。
復讐と言ってもまっとうとは言い難い動機だが。
この返答だけで、目の前の相手がまともではない事だけはよくわかった。

「つーか。マジ生きてたとして、何でアンタがここにいんの? ポリだったのにアビスに堕ちちゃった系?」

言って、目の前の誰かを再殺すべくギャルは僅かに殺意を露にする。
相手への恨みと言うより、娑婆の殺し残しがあった事が気に喰わなかったのだろう。
その殺意を叩きつけられ、沙姫は自衛のため木の枝を構えた。

だが、この展開は征十郎の望むところである。
「この御仁を殺すつもりなら、まずは自分が相手になる」
前に踏み出し、そう高らかに宣言しようとした所で、唐突にギャルが、プッと噴出した。


573 : 爆炎、斬と誓ふ ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:28:03 yhh6Ojg60
「何それ、木の枝ってウケるww」

2人そろって剣の代わりに木の枝を構える様子があまりにも滑稽だったのだろう。
ギャルは嘲笑うように笑い続けた。

「あの時のブッとくて長い剣とは似ても似つかん短小でウケるんですけどww。構えも全然違くない?」

ギャルの目に映る誰か姿があまりにも違って、それの違いが面白かったようだ。
愉快に笑うギャル、だがそれとは対照的に沙姫の温度は下がっていた。

「―――――おい、お前」

正体がバレぬよう押し黙っていた沙姫が、感情押し殺したような低い声で口を開いた。
知り合いを逮捕した警察官。長くて太い剣。
これまでの情報を統合して沙姫の中で一つの最悪が導き出された。

「両手剣使いの警察官を殺したって言ったのか―――――?」

俯いたまま後ろに身を隠していた沙姫が幽鬼のようにゆらりと前に出た。
その足取りは、ふらついていると言うよりどうしようもない感情を押し殺しているように見える。

「おい、待て」

咄嗟に征十郎が静止するも、止める間もなく固い木の枝をを片手に沙姫が動く。

「は? 同じこと聞くのマジだるいんだけど。つーかお前の事っしょ? 沙姫っちをパクった警察官さん」
「ッ…………テメェ――――――ッ!!」

その言葉に、沙姫が弾かれるようにギャルに向かって飛びかかった。
目の前で両親を2度殺された恐怖(ストレス)を目の前の相手に対する怒り(さつい)が上回った。
喉奥に迫る吐き気と嫌悪感を飲み込んで、沙姫は目の前の相手を殺害すべく、枝刀を振るう。

(…………あれ?)

攻撃に移った事により、認識阻害が解かれ沙姫の姿が露になる。
その姿の変化に、ギャルは一瞬戸惑いこそしたものの。

(ま、いっか☆)

必見必殺。誰であろうと向かってくるなら殺すだけだ。
すぐに気を取り直し、セーラー服のポケットに手を伸ばす。
彼女がポケットから取り出したのは、赤い液体の揺れる小さな小瓶だった。

「殺す…………ッ! 殺してやるッ!」

そんな相手の様子など目に映らぬとばかりに、赤い瞳が漆黒に燃える。
現代人をして上位に入る身体能力による疾走はあっという間に距離を詰め、一瞬で短い枝木でも届く間合いに達しようとしていた。

だが、それよりも一瞬早く、赤が夜に振り撒かれた。

それがなんであるかを理解して、しまった、と思った時にはもう遅い。
沙姫は爆弾魔の悪名を、ギャルの超力を識っている。
殺意に駆られ前がかりとなっていた沙姫では、自らに向けてぶちまけられた液体を避けようもない。
顔面を庇うように咄嗟に盾にした腕に、赤い血糊が付着する。

瞬間、爆発。

血液が爆弾となり、爆炎が上がる。
沙姫の小さな体が大きく吹き飛んで、草原にゴミのように転がった。

「…………ぅ……ぁ」

喘ぎの様な声が漏れる。
炭化した沙姫の腕から、彼女の血が赤い蒸気となって立ち上る。
炎症は腕のみならず全身に細かな火傷として刻まれていた。

アンナより得た恩赦Pでこのセーラー服の他に購入したのは注射器と小瓶のセットだった。
爆弾魔、ギャル・ギュネス・ギョローレンの戦時における基本装備。
自身の体液を武器とする彼女にとって血液を保持するアイテムこそが最高の武器である。


574 : 爆炎、斬と誓ふ ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:29:38 yhh6Ojg60
とどめを刺すつもりなのか、ギャルは新たな小瓶を取り出して歩き始めた。
だが、そこに割って入るように征十郎がギャルの前に立ちふさがった。

「待て。先にこちらの相手をしてもらう」
「なんで? つーか、先も何もないっしょ。もう終わってる」

言葉の通り、既に決着はついた。
どう見ても致命傷。沙姫はもう再起不能だ。

「そのままほっといても死ぬんなら、トドメ刺したげた方が優しさじゃね?」
「優しさと言う面か。お前の顔には被虐を楽しむ悪鬼羅刹の相しか見えん」

ギャルの浮かべる享楽的な笑みからは、相手への慈悲など微塵も感じられない。
ただ、目の前の相手を爆殺したい。
この悪鬼にあるのはそれだけだろう。

「女。悪臭がするな。見た目通りの小娘でもあるまい、化生の類か」
「こらこら、女の子に年齢なんて聞くもんじゃないゾ☆」

小悪魔系の仕草で軽く受け流すように言いながら、爆弾魔は冷ややかに微笑み指先で弄ぶように蓋の外れた小瓶を揺らす。
夜の静寂が包む中、剣客と爆弾魔の視線が交錯する。

「デリカシーない男は、ばっはは〜い♡」

ギャルが征十郎に向かって腕を振り上げると、赤い絵具をぶちまけるように中の血液が弧を描くように振りまかれた。
静けさが張り詰める時の止まったような一瞬。
夜風がそよぎ、月光の下で鮮血が夜に花弁のように舞い散った。

血の華は宙で膨張し、紅蓮の輝きを放ちながら爆発の予兆を孕む臨界点へ。

その刹那。






――――――――――――――――――――――――――――斬。






空に線が奔った。

「は……………?」

数秒遅れて爆発が炸裂し、熱風と破壊が征十郎と沙姫を裂けるように吹き荒れた。
ギャルの目の前で起きた現象は言葉にすれば何のことはない。

征十郎が”爆発を斬った”のだ。

正しく一刀両断。
枝先が血の奔流を捉え、爆発が開花する刹那の瞬間を切り裂いた。
これぞ、ただ斬る事だけを突き詰めた征十郎の超力。

万物、万象、斬れぬものなし。
どれだけ爆血をまき散らそうとも、全て斬り落とすまで。

「なにそれ…………おもしろっ!!」

爆弾魔が破顔する。
ギャルと言う皮が僅かに剥がれた口端を歪めた笑み。
勢いよく両手をポケットに突っ込むと、今度は両手に小瓶を抱え親指で蓋を弾く。

「あははっ! これならどーよッ!」

哄笑を上げ、腕をクロスさせながら2つの小瓶から血液をぶちまける。
赤い飛沫が空を覆い、瞬時に膨張を始める。
夜の空に今にも爆発の連鎖が始まろうとしていた。

「すぅ――――――」

それを見据える侍は、精神を集中するように侍は片目を閉じ、深く息を吸う。
そして、爆発の刹那を見極めるようにカッと目を見開いた。

「――――――――――シッ!」

鋭い息吹。
網目のような斬撃が一息の下に放たれた。


575 : 爆炎、斬と誓ふ ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:31:28 yhh6Ojg60
八柳流、乱切り技『乱れ猩々』。
振るわれた斬撃が全てを切り裂く。
炸裂音が夜を震わせるも、爆発の轟音が響き終わる前に全てが終わっていた。
血も炎も、衝撃さえも、剣の軌跡に呑まれ征十郎を傷つけることは叶わない。

征十郎の超力は斬る対象の硬度によっては武器が破損するリスクがある。
だが、硬度のない『現象』であれば、例え獲物が木の枝であろうとも斬るのに何の支障もない。
だから今、彼が手にしている木の枝が悲鳴を上げているのは、単純に木の枝では征十郎の神速の振りに耐え切れなかっただけの話。
先の沙姫との手合わせで実力を出し切れなかったのはその為だ。

後一度振れば確実に折れる。
その唯一の武器である木の枝を、征十郎はあっさりと投げ捨てた。
ギャルの目の前に、爆炎の目を縫って投擲された木の枝が迫る。

「ッ!?」

ギャルは慌てたように全力でその場を飛び退いた。
投擲されたのは、何の変哲もない単なる木の枝である。

だが、万物を切り裂く征十郎の超力が、直接振るったときにのみ発生するのか、それとも獲物に対して付与する超力なのか、現時点でギャルにそれを判断する材料はなかった。
実戦経験が豊富なギャルだからこそ、その詳細が分らない以上この枝は受けられない。
安易な決めつけで判断は出来ず、投げられたただの枝を全力で避けざるを得なかった。

無理に躱して崩れた体勢を、バク転の要用で立て直す。
ギャルが体勢を立て直し、爆煙が完全に晴れた頃には、既に沙姫を引き連れ征十郎はその場を離脱していた。
残ったのは何の変哲もない、地面に転がる枝木が一つ。

「へぇ、思ったより経験豊富じゃん、征タン」

パキ、と自分に一杯食わせた枝を踏み折りながら、ギャルらしからぬ色のない声で呟く。
地面に転がり何の効果も持たない小枝から、征十郎の超力は自身が振り抜いたときのみに発揮されるものであるとこれで確定した。

己が超力の詳細を明かす事を代償とした一発限りのペテン。それにしてやられた。
面倒なのは搦め手タイプではなく、己が実力を強化するタイプの超力はバレたところで厄介さが変わらないという点だ。
これら全てを計算してやったと言うのなら、中々の戦闘巧者だ。

「そーいや」

ふと、どうでもいい事を思い出したように。

「誰だったんだろ、アレ」

警察官の幻影から現れた少女が誰だったのか。
ネット上でのやり取りしかしていなかった彼女には知る由もなかった。

もっとも、知ったところで何を感じるでもないだろうが。

【B-3/浜辺近くの草原/1日目・黎明】
【ギャル・ギュネス・ギョローレン】
[状態]:疲労(小)
[道具]:セーラー服。注射器、血液入りの小瓶×2、空の小瓶×4
[恩赦P]:69pt
[方針]
基本.どかーんと、やっちゃおっ☆
1.悔いなく死ねるくらいに、思いっきり暴れる。
2.もうちょい小瓶足しといたほうがいいかもねー。
※刑務開始前にジョーカーになることを打診されましたが、蹴っています。
※ジョーカー打診の際にこの刑務の目的を聞いていますが、それを他の受刑者に話した際には相応のペナルティを被るようです。
※好きな衣服(10pt)、注射器(10pt)、小瓶セット(3ヶ)×2(5pt×2)を購入しました


576 : 爆炎、斬と誓ふ ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:33:27 yhh6Ojg60


沙姫を抱えた征十郎は引き返すように森に逃げ込んでいだ。
遮蔽物の多いここであれば追手があっても十分に撒けるだろう。

「俺、は…………結きょ……く……ごめ……ん…………フラ…………」

征十郎の肩に担がれる沙姫がうわ言のように言葉を零す。
頭に血を昇らせて両親の死を蔑ろにして、あの人との誓いを破ろうとした。
敵討ちなど、あの人が誰よりも望まない事はわかっていたのに。
感情のままあの人との出会いで変わった自分を否定した。
それが間違いだった。

「…………セイ、ジューローさ、ん」
「喋るな」

沙姫を抱えたまま征十郎は走る。
聞く耳持たないという様子だが、こちらも時間がないのでそのまま言葉を続けた。

「ジョニー……の方は分かんないけど……メリリンは多分…………俺の、名前を出せば……悪いようにはしないと思う。首輪、は……多分あの子なら……だから……なるべく斬らないであげてよ」

遺言の様な言葉を残し始めた女に征十郎が足を止める。
抱えていた女の体をゆっくりと下すと、大きな木の幹に体を預けるように寝かせて、征十郎は居を正した。

「…………ちゃんとした刀で決着をつけるって約束……果たせなくて、ごめん…………。
 けど………………もう一つの約束は果たすから…………」

役に立たなくなったら自分のポイントを渡す。
恩赦Pの獲得は首輪の接触によって行われる。
つまり殺したのがギャルでも、ポイントを得られるのは征十郎だ。
沙姫が死んでも、その約束は果たされる。

征十郎は敬意を示すようにその場に跪いた。
そして、閉じられ始めた沙姫に正面から視線を合わせる。

「――――――誓おう。お前とお前の想い人の仇はこの征十郎・ハチヤナギ・クラークが討つ」

その言葉がどこまで聞こえていたのか、女が目を閉じる。
八柳新陰流、開祖の血を引く青い目の侍が死にゆく女に誓いを立てた。

あの悪鬼羅刹、ギャル・ギュネス・ギョローレンを討つ、と。

【舞古 沙姫 死亡】

【C-3/森林地帯/一日目・黎明】
【征十郎・H・クラーク】
[状態]:疲労(小)
[道具]:日本刀
[恩赦P]:90pt
[方針]
基本.強者との戦いの為この剣を振るう。
0.今は沙姫を弔う
1.ギャルを討つ
※舞古沙姫の100ptを獲得、日本刀の購入で10ptを消費しました


577 : 爆炎、斬と誓ふ ◆H3bky6/SCY :2025/02/26(水) 21:33:41 yhh6Ojg60
投下終了です


578 : ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 19:46:12 7m5Wv/YI0
投下します。


579 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 19:48:02 7m5Wv/YI0
ーーあれは15年ぐらい前のことだ。
当時の俺は稼業がようやく軌道に乗り始めて調子に乗っちまっていたんだろうな。
そりゃあそうだ。なにせ大海原に馬鹿でかい嵐を巻き起こせる超力(ちから)に目覚めちまったんだからよ。
世界中の金銀財宝酒に女、まるごと全部手に入れたように思えていたんだぜ。
でもまあ、余程の幸運が続けばいつかは振り戻しの不運が来るってのを忘れちまってた。

入っちまった、魔の海域……バミューダトライアングルによ。
クルーズ船から略奪(うば)って、追ってきた海軍(ブタ)共を沈めて調子に乗ってたんだろうな。
酒を掻っ食らって戦利品(おんな)で遊んでいた時に異変は起きた。
俺の嵐の王(ワイルドハント)なんぞ屁でもねえくらいの大嵐が吹いてきやかった。
思えばそん時は若い頃に戻ったみてえで割と楽しかったぜ。犯っていた女とか船員共が吹き飛んでいく見世物も悪くなかったしな。
まあ、戦利品どころか船団にも大打撃を受けたんだが、なんとか嵐を乗り越えられた訳よ。
そんであらかた落ち着いた後に何気なしに魔の海域の方を遠眼鏡で覗いてみたんだ。

ーーいたんだよ。霧に覆われた海域に突っ立っている糞でけえ人影が。嵐を纏って。
奴が俺の戦利品(たから)を根こそぎ奪った。そう思ったら無償に腹が立ってよ。
俺を嘗め腐った糞共には一人残らず地獄に落としてきた。だから、決めたんだ。
怪物だろうが神だろうが関係ねえ。

ーーいつか、あの怪物は俺が殺す。




580 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 19:49:38 7m5Wv/YI0
ここは廃墟群から西に位置する森林地帯の手前。
そこに佇むのは一人の男と白い少女。どちらもずぶ濡れだった。

「くちゅん!」

可愛らしいくしゃみの後、ずず……とみっともなく鼻を啜る、黒い靄を身に纏う少女、エンダ・Y・カクレヤマ。
その様子を若干呆れた目で見るのは昏い雰囲気を身に纏う筋骨隆々の大男、只野仁成。
彼らは廃墟の一通り廃墟の探索を終え、めぼしい物や情報がないと分かるや否や、川を渡ることになった。
当初は素直に橋を渡ろうとしたのだが、遠目から南の橋の方で嵐が発生しているのを確認し断念。
ならばと北の橋にしようとした矢先、渡った先の進行方向に不自然に光が灯っていることを目視し、その案も却下。
どちらの橋を渡っても会敵は免れないという結論に至り、廃墟南西部の川を渡ることにしたのだ。

「……早速“刑務作業”が始まっているみたいだな」
「そうだね。ヴァイスマンの言葉を鵜呑みにした囚人共が近場にいるなんて驚きだよ」

仁成の言葉に対し、ため息交じりにエンダは返答する。
刑務作業とはすなわち殺し合い。地の獄たるこの地では普遍的な善こそが異端そのもの。
己が自由を手にするためならば、その手を血で汚すことこそが正しき道であろう。
だが、彼らーーエンダと仁成は例外中の例外。刑務作業を放棄し、アビス脱獄を企てる異端者なのだから。
殺し合いには乗らず、かといって正義を為そうともしない。
混沌にも秩序にも肩入れしない、どっちつかずの中庸。
それが二人の結論(スタンス)。

「それで、これからどこに向かう?
脱出の手がかりが見つかりそうな場所は旧工業地帯、ブラックペンタゴン……ここからだとブラックペンタゴンが近いな」
「それに灯台や小屋も気になるね。私的には地図の隅っこにある小屋には何だかきな臭さを感じるんだ」

互いにデジタルウォッチの地図を開き、それぞれ気になる個所を挙げていく。
南西部の工業地帯、中央のブラックペンタゴン。そして北西部の灯台に南東部端の小屋。
ピックアップされた場所はバラバラの方角に存在し、全て回るとなると相当の時間を要するだろう。
加え、道中では他の囚人達と遭遇する可能性が高い。
“刑務作業”に従事している囚人は一部を除いてほとんどが選りすぐりの凶悪犯罪者共。
自分達は格好の獲物として刑務作業中は狙われ続けるに違いない。故に――。

「まずはブラックペンタゴンに行こう」

エンダの言葉に頷く仁成。
灯台、旧工業地帯、小屋。会敵の可能性を含めると、時間内に全ての場所を回るが困難であることは明白。
ならば、近場のブラックペンタゴンで情報収集をした後にどこに向かうか考えても遅くはない筈だ。
ブラックペンタゴンの内部に囚人が陣取っている可能性もあるが、どの選択肢にせよリスクは存在する。
ならば、より利益を得られる方を選んだ方がいいに決まっている。


581 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 19:51:27 7m5Wv/YI0
「一先ず方針は決まったし、早いところ行こうか。
ジッとしていたら、嵐を生み出す超力持ちや炎使いに狙われるだろうしな」
「そうだね。行こう。
……と、その前に……ちょっと待ってね」
「……ん?」

先立ってブラックペンタゴンに向かおうとする仁成にエンダから「待った」の声がかかる。
訝し気にエンダの方に顔を向けると、彼女の周りから靄が消え、その代わりに石製の直剣が握られていた。
「ほいっ」と気の抜けた言葉と共に投げられたそれをキャッチし、全体をまじまじと眺める。
刀身は作り込みが甘く、グリップの握り心地は最悪。まるで小学生の工作のようだ。

「これは?」
「廃墟で丁度良さそうな瓦礫があったから、この子達の中に入れて削って作ってみたんだ。
どう?良い出来でしょう?」

掌に乗せた黒い靄を見せつけながら、どこか得意げに話す幼い少女。
あの靄は物の収容や加工にも使えるのか。汎用性のある超力だ。
そう分析しつつ、軽く剣を振ってみる。

「素手よりはマシだな」
「……感謝が足りないとか過小評価だとか色々言いたいことがあるけど、今は我慢する。
とにかく、肉壁の役目を果たしてね、仁成」

答えが気に入らなかったのか、不機嫌さを隠そうせずエンダは仁成を追い抜いてずんずんと先へ進む。
大人びてはいるもののコイツは子供だな。
そう思いつつ、彼女の後ろについていこうとすると――。

「あ、あの〜すみません。ちょ…ちょっといいですか?」

この地獄には相応しくない、気の抜けた声が二人にかけられた。
その声に反応し、仁成は石剣を構え、エンダは暗黒を纏い、共に戦闘態勢に移る。
土の踏む音が近づくにつれ、声の主の姿も徐々に露わなっていく。
そして、現れたのは引き攣った笑顔を浮かべた、金髪ボブカットの女。

「あ、あの。少し聞きたいことがあるだけなんで……」
「……何者だ、お前」

トスの効いた仁成の声に「ひっ」という悲鳴と共に諸手を上げ、引き攣った声で答える。

「わ、私はヤミナ・ハイドって言う者でしてぇ〜べ、別に怪しい者じゃないんでどうかお話だけでも……うへ、うへへ」




582 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 19:53:40 7m5Wv/YI0
「……いやがるな」
「へ?」

悪名高き“牧師”との邂逅からしばらく後、隻眼の大海賊――ドン・エルグランドの顔つきが変わった。
先ほどまで上機嫌に魔の海域の冒険を語っていたが雰囲気が一変、剣呑なものへと変貌する。

「いるって……牧師さんが言ってた獲物のことっスか?」
「どうだろうな。だが、上等なモンに変わりはねえ。見ろ」

ドンの指さす先――薄闇の中に見えたのは、向き合って話し合う一人の大柄な男と小さな子供。
男の方はいかにも凶悪犯罪者と呼べるような暗く重い空気を漂わせているが、少女の方はまるで正反対。
文字通りドス黒い空気を纏わせているが、そこから覗く雰囲気はなぜかこの場に似つかわしくないほど上品で神秘的だった。
アビスにおいてヤミナはトップカーストに君臨する女囚人の小判鮫をしていたため、それなりに囚人達のことは知っている。
特にジャンヌ・ストラスブールやルクレツィア・ファルネーゼ、ルーサー・キングなどは話題に事欠かない。
ここまで異様な雰囲気を醸し出す二人ならば、アビスという閉鎖的社会でも多少なりとも話題に上がるはずなのだが、そんな話は聞いたことがない。

「――秘匿受刑囚」
「何です、そいつ?」
「アビスにぶち込まれた連中の中でも一際ヤバい奴らのことだ。
何でも、存在自体が今の世界に悪影響を及ぼすとかで封じられたっつぅ話だぜ。
ま、他の囚人共から聞いた話だから信憑性は薄いけどよ」

秘匿受刑囚。それは投獄されて日の浅いヤミナにとって初めて聞く言葉だった。
ヤミナとしては、ルクレツィアや先程出会ったキング以上にヤバい囚人になど関わりたくもない。

「はえ〜、SCPみたいな奴らっスね。
じゃあ私は旦那の邪魔にならないように離れてますんで……へへへ」
「おい、何勝手に逃げようとしてやがる」
「へァッ!?」

媚びた笑いを浮かべつつ距離を取ろうとするヤミナの囚人服の襟をガシっと掴み、ドンは眼前まで持ち上げる。
吊り上げられて足をブラブラさせるその姿は、飼い主に首根っこを掴まれたドラ猫を彷彿させる。

「わ……わわわ私じゃ何もできないですよぉぉぉ〜!」
「てめえの成果なんぞ端から期待してねえよ。靴舐めるなり股開くなりして逃げられないように足止めしとけ」
「わァ……あ……」
「あの獲物(たから)は一つ残らず俺のモンだ。誰にも渡さねえ」




583 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 19:55:23 7m5Wv/YI0
「えへへへ〜」
「……」
「……」

媚びたようなにやけ面の女――ヤミナ・ハイドに仁成達は揃って白い目を向ける。
それもその筈。彼ら二人にとって他の囚人は、今のところ自分達の命(ポイント)を狙う敵か、自分達を利用しようとする存在かのどちらか。
取るに足らないと思わせる立ち振る舞いから、目の前の女は圧倒的に後者。
媚び諂うような言葉を無視し、女の横を通り過ぎようとするが……。

「ちょ、ちょちょちょ待って下さいよ〜!少しだけ、少しだけでいいですから〜!」
「五月蠅い。わたし達は暇じゃないの。助けが欲しかったら他を当たって」
「そんなこと言わずに先っちょだけ!先っちょだけでも……ぐへェ!」

エンダは足に縋りつくヤミナの顔面に蹴りを入れて無理やり引き剝がす。
もんどり打って転がる彼女に一瞥もくれることなく目的地に向けて歩き出そうとするが、今度は仁成の足に縋りついて阻止する。

「お゛願゛い゛し゛ま゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ゛!゛何゛で゛も゛し゛ま゛す゛!゛何゛で゛も゛し゛ま゛す゛か゛ら゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!゛!゛」
「何だコイツ……」

人としての尊厳を全部放棄したかような叫びに思わずたじろぐ仁成。
それはエンダも同じようであんぐりと口を開けて固まっている。
ここまで恥も外聞もなく懇願できる人間はそういないだろう。

「ハァ〜……助けが欲しいなら川沿いを歩いていけば?
運が良ければ炎使い――ストラスブールに保護してもらえるかもしれないよ」

盛大にため息を吐いた後、川の方角を指し示すエンダ。
エンダのことだ。川岸で炎を出していたのはかの有名なジャンヌ・ストラスブールとは限らないのは承知の上なのだろう。
最悪、欧州で悪逆の限りを尽くしてきたフレゼア・フランベルジェの可能性もあるが、ヤミナが消し炭になろうとも知った事ではない。
だが、それ以上に気がかりなことがある。

「エンダ、少し聞いていいか?」
「何?」
「ジャンヌ・ストラスブールのことが嫌いなのか?」

見苦しく仁成の足に縋りつくヤミナを引き剥がしにかかるエンダに問いを投げかける。
ジャンヌの名前を出したときのエンダの表情。それは「並木旅人」の名前を出したときの物と酷似していた。
嘘を見抜いた時、彼女は「一度会話を交わした仲」と言っていたが親しみや好意などの感情は微塵も見られなかった。
仁成の問いに小さくため息をつき、エンダは口を開く。

「ああ、嫌いだよ。あっちはどう思ってるのか分からないけどね。
上辺だけは仲良くできても、根本的な思想の部分では絶対に相容れない気がする」
「それってどういう……」
「ベクトルが違うだけで奴は並木旅人やルーサー・キングと同類の……人を狂わせ、破滅に導くファム・ファタルに見えるんだ。
もっとも、本人にはそんな自覚はないだろうけどね」


584 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 19:58:13 7m5Wv/YI0
轟ッ!

「「ーーーッ!!!」」

瞬間、前触れもなく無防備な3人の周囲に吹き、同時にザァッと雨が降り出す。
囚人の超力による襲撃。
即座に反応し、仁成は足に縋りつくヤミナを蹴とばして石剣を構え、エンダは身体に暗黒を纏う。
だがーー。

「うッ……!!」
「くぁ……!?」
「ぎょええええええええええ!!??またあああああああ!!!??」

暴風雨が吹き荒れ、地面に転がったヤミナが吹き飛ばされるのを皮切りに状況が動き出す。
強烈な爆風によりエンダの纏う靄が吹き飛ばされ、彼女自身も空に舞い上がる。
仁成も同様。エンダのように身体ごと飛ばされはしなかったものの、体勢を崩して地面を転がる。
ブレーキ代わりにぬかるん地面に石剣を突き刺し、爆風に晒されながらも襲撃に備え、剣を構える。その直後。

「ゲハハハハハハハハハッ!!!やっぱ一筋縄ではいかねえかぁ!!!秘匿受刑囚ってのは伊達じゃねえなぁッ!!!」

哄笑と共に爆風の中から黒い影が現れた。
影の正体は戦斧を上段に構えた壮年の大男。爆風をものともせず、ダンプカーさながらの速度で仁成に肉薄する。
リーチに入った瞬間、斧は仁成の頭蓋を目掛け、空間を切り裂かんばかりの速さで振るわれる。
暴風、泥濘、豪雨。様々な悪条件の中で繰り出される戦斧の剛撃。

その一撃に対し、仁成の取った行動は大股の一歩。
斧刃の範囲から抜け出した直後、エンダ製の石剣を柄目掛けて横凪ぎに振るい、斬撃の軌道をずらす。
仁成の十数センチ横に叩きつけられる鋼鉄。衝撃が風を呼び、風が青年を襲う。
強風にたたらを踏む仁成に向けて追撃とばかりに、大男の剛腕が一瞬無防備になった仁成の脇腹を打ち据える。

「がッ……!」

肺から空気が吐き出され、体勢を崩すと同時に仁成の巨体が宙に浮く。
しかし、枯葉のように吹き飛ばされることはなく、泥濘に背中を打ち付ける。
急いで体勢を立て直し、石剣を構えて襲撃者を見据える。
堂々と立ち塞がる巨体。白髪交じりの薄い頭。薄闇の中でも爛々と輝く欲望塗れの隻眼。
爆風と共に現れた襲撃者の名は――。

「ーー『大海賊』ドン・エルグランド……!!』
「ゲハハハハハッ!!若い衆にも俺の名が知れ渡っているとは光栄だッ!!
略奪(ワイルドハント)の始まりだ!!てめえらの命(たから)は残らず置いていきなァッ!!」




585 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 19:59:59 7m5Wv/YI0
「参ったな、このままじゃ風邪をひいちゃうよ」

爆風と豪雨が吹き荒れ、土砂が巻き上がる中。
森外れにある大樹にしがみつき、白髪を靡かせながらポーカーフェイスを崩さぬままエンダはぼそりと呟いた。
身体を覆う暗黒はすでに剥がされ、再び顕現させても同じように爆風の中に消えていく、
それでも尚、エンダは超力で靄を顕現させては嵐に吞み込ませ続けていた。

「……ふぅ、あと少しで十分か」


目にかかりそうになった土砂交じりの雨粒を拭いながら独り言ちる。
嵐は勢いを増し、横殴りの爆風により枝木がギシギシと嫌な音を立てながらはためく。
樹木自体も傾き始めており、このまま勢いが強まれば、大樹はエンダごと遊覧飛行することになるだろう。
そんな危うい状態のエンダに接近する人影が一つ。

「はッ……はッ……!」

荒い呼吸を繰り返す金髪の女が一人。
その手には、どこかで拾ったのか先端が鋭く尖った木の枝が握り締められていた。
女の名はヤミナ・ハイド。ドンの指示でエンダの命を刈り取りに現れた哀れな被害者。



『おっと、忘れるとこだったぜ。ちょっと待ちな、嬢ちゃん』
『はい?ま、まだ何かあるんですか?』
『ああ、奴らの足止めだけで済むと思ったか?
てめえは俺の道具だ。余すところなく有効活用してやる』
『あ、あははは。光栄です〜……。ヤダ--……」
『ん?何か言ったか?まあいいか。
俺の超力で嵐の檻に奴らを閉じ込めるつもりだが、もしかすると隙をついて奴らが逃げ出すかもしれねえ。
そこでお前の出番だ。チャンスがあったらどちらかを殺して首輪を奪ってこい。
サボったら嵐の中でファックしてやる』
『ひょえ!!!??ど、どっちも未経験なんですけど、OJTとかはないんですか!?』
『んなもんねえよ。ぶっつけ本番でやってこい!大丈夫だ。嵐を乗り越えた嬢ちゃんならデカい一発をぶちかませると信じてるぜ!』




586 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:01:46 7m5Wv/YI0
雨粒と共に嫌な汗が背中を伝う。肌寒さと恐怖で歯ががちがちと鳴り響く。
偶然拾えた木の枝――首元に突き刺せばほぼ確実に絶命させられる武器を握りしめる。

ヤミナ・ハイドは23年の人生で初めて殺人を犯す。それも年端のいかない小さな子供を。
思えばヤミナにとって人生の絶頂期はミドル・スクール時代だった。
当時はスクールカーストのトップであり、卒業間際に同じカーストトップのアメフト部エースからの告白を恥ずかしいからと断ってから、後は下り坂。
ボーイフレンドのいない灰色のハイスクールライフを送り、当時の友人から齎された「日本で外国人はモテる」という情報を鵜呑みにして留学したものの、そこでもパッとしない青春を送った。
そして最終的に行き着いた先は悪鬼羅列が蔓延する地獄(アビス)。マジで私の人生は何なんだ。泣けてくる。
声と態度がデカいジジイにヴァージンを捧げるなんて真っ平ごめんだし、かといって殺すのも殺されるのも嫌だ。
どれか一つを犠牲にしなければいけないというのならば、迷わず自分が一番得する道を選ぶ。

大樹にしがみついている白い少女の視線は離れていても分かるほど冷たい。
人間離れした美貌に一瞬怯むが、なけなしの勇気を振り絞って一歩一歩と歩みを進めていく。
吹き荒れる暴風の中でも順調に進めているのは、今更になって自分に幸運の女神が微笑んでくれているのかもしれない。
相手は無防備な子供だ。大丈夫。自分なら殺せる。脅されて仕方なくやった。いわば正当防衛だ。

「う……うへへ」

ヤミナの顔にいつもの卑屈な笑みが浮かぶ。
幸運の女神の縮小版というべき美しさを誇る少女は既に目の前。
白い頭に枝の先端を突き刺せばそれで終わる。人殺しの十字架を背負うが、自分の初めては守られる。
だから、ごめんなさい。卑怯で卑劣な私を許して。

「きええええええええッ!!!!」

掛け声と共に少女の頭上に振り下ろされる裁きの槍。
白い少女を絶命せしめる一刺し。
それは少女の華奢な腕がヤミナの腕を振り払ったことで空振りに終わる。

「ほえ?」
「超力のせいだと思うけどさ、わたしがあなたのことを侮ると思った?」

瞬間、少女の強烈な上段蹴りがヤミナの顎を強かに打った。

「へぶッ!!?」

脳を揺さぶられるような一撃を受け、徐々にヤミナの意識が薄れていく。
力を失いつつある愚かな女の身体は、爆風に呑まれ、天空へと昇っていく。
視界が闇に覆われる間際、ふとヤミナの脳裏に些細な疑問が浮かぶ。

(なんであの子は嵐の中で動けていたの……?)




587 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:04:15 7m5Wv/YI0
阿呆女(ヤミナ)がぐるぐる天高く昇っていくのを確認し、再びエンダは木の幹にしがみつく。
麗しき幼子の白髪が枝木と共に横殴りの風を受けてバサバサと靡く。
ふと耳をすませば、びゅうびゅうという耳を劈くような風の爆音と共に大樹の根がミシミシと悲鳴を上げている。

「……もう少しだけ頑張ってね」

しがみつく大樹に向けて、優しい声で語り掛ける。
戦いの終わりは近づいている。仕込みは既に済ませた。
後は最後のピースが此方に向かってくるだけ。
そう思っていた矢先――。

ドシン、と数十メートル先から何かが落下してくる。
目を凝らすとそれは男。それも平均身長を遥かに上回る巨体。
得物を担ぎ、自分の方に向かってくる人影に向けて、少女は声を投げかける。

「ーーやあ、随分梃子摺ったみたいだね。待ちくたびれたよ」



狙った獲物(たから)は総取り。好敵手には敬意を払う。戯れは許すが侮りには鉛玉を。
軽挙妄動でもなければ傷弓之鳥でもない。
豪放磊落でもあり狡猾老獪。それがドン・エルグランドという大海賊を表す言葉である。
そうでなければ海賊船団を率いることはならず、かの悪名高きルーサー・キングと対等に張りえることはなかっただろう。

子分(ヤミナ)を使って足止めし、無防備な状態にさせたのは、万が一にも奴らが臆病風に吹かれて逃げ出さないようにするためだ。
その結果、まんまと秘匿受刑囚(たから)は嵐の檻へと収監することに成功。
勝利の女神がどちらの微笑むのか。それはドンや獲物共はおろか、高みの見物を決めているヴァイスマンにも分からぬだろう。
だからこそ面白い。

「ゲハハハハハハァッ!!どうした坊主ッ!!玩具ブン回してるだけじゃ殺せねえぞッ!!!」
「くっ……!!」

ドンと仁成。二人の豪傑は嵐の中で爆風に乗り、枯葉のように舞いながら互いに得物をぶつけ合っていた。
『嵐を呼ぶ男(ワイルドハント)』はドンですら制御不可能な自然の暴君そのもの。
嵐は既に二人の大男すらも呑み込む暴威と化していた。

空間を両断するかのように幾度となく振るわれる戦斧。
それを不格好な石剣は紙一重で受け流し、僅かな隙にカウンターの一撃を放つ。
だが、決死の一撃はドンの体術でいなされ、即座に反撃の一撃が返ってくる。

激突はドンが優勢。だが決して仁成が弱いというわけではない。
技量・反応速度は互いに拮抗。二人の差は経験のみ。
ドンは生涯の大半を海の上で過ごし、戦い抜いてきた猛者。
嵐の中で縄張りを侵した他の海賊や海軍共と殺し合った経験は語るに及ばず。
対し仁成は逃亡生活の中で数多の犯罪組織・政府関係者と殺し合ってきた。
しかし、人類の到達点に辿り着いたとはいえ、ドンと比較すれば若輩者。
その差は歴然。


588 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:06:42 7m5Wv/YI0

ーーバキン。
「ーーーッ!!」

幾度となく繰り返された打ち合いの末、遂に仁成の剣が砕かれ、嵐の中に消えていく。
鋼鉄の得物とここまで渡り合えたのは、間違いなく仁成の技量によるものであろう。
当然、対敵はその隙を見逃すはずもなく。

「ーーーあばよ、坊主。思ったよりも楽しめたぜ」

凶相に笑みを張り付け、勇敢な若者に死の刃を振り下ろす。
絶死を前に、生き残るべく多少の犠牲は覚悟の元、己が武芸にて一撃をいなそうと試みるも。

轟ッ!!

「んなッ!?」
「ぅお……!」

直前で不爆風が吹き荒れ、ドンの戦斧が不自然にかち上げられる。
同時に仁成の身体がドンの横をすり抜けるように吹き飛ばされ、遥か上空へと舞い上がっていく。

「……何が起こってやがる」

風向きが変わり、不自然にゆっくりと下降していくドン。
余りにも不可解な出来事に思わず首を傾げる。しかし、一つだけ確かなことがある。

「ーー仕留め損ねたか」

勝利の女神はドンに微笑んだが、別の何かが仁成に幸運を齎した。
ほんの僅かに苛立ちを感じるが、すぐにそういうこともあるかと納得する。
大物を一匹逃したとはいえ、もう一匹の大物が地上に残っている。

ゆっくりと下降していく最中、ふと目に入ったのは気を失い、空高く昇っていく子分。
その手にはなけなしの得物であろう、先端の尖った枝木が握られていた。
ヤミナはドンに従い、きちんと獲物を狩ろうとしていたのだ。
その失敗を咎めるほどドンは狭量ではない。むしろ成果を出そうと足搔いていたことを高く評価している。

「デカい一発をぶちかませたみたいだな。よくやった、嬢ちゃん。事が済んだら褒美に嵐の中でファックしてやる」

労いの言葉をかけ、大海賊は地上に向けてゆっくりと下降していく。

ーー死闘においてドンと仁成は終ぞ気づくことはなかった。
嵐の中に黒い魚群が渦を巻くように泳いでいたことを。
ドンと仁成の肩に取るにならない、小さな黒蠅が止まっていたことを。
そして、爆風と豪雨にかき消されていた異様なくすくす笑いを。




589 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:08:42 7m5Wv/YI0

「よう、随分と待たせちまったな。許してくれ、リトルガール」

爆風と共に現れたのは嵐の王、ドン・エルグランド。彼こそが此度の死闘の勝者である。
爆風の中、ドンは気持ちの良い笑みを浮かべながら、樹木にしがみつく少女に向けて前進する。
距離は僅か数十メートル。おそらくそれが少女に残された僅かな猶予。

「本当、いつまで待たせるのって感じだよ。……で、仁成はどうしたの?」

自らの末路を知ってか知らずか、白い少女は処刑人たる豪傑に問いを投げかける。
死を前に何たる胆力か。もし殺し合いの場でなければ、迷わず船団にスカウトしていたであろう子供だ。
恐れ知らずの少女にドンは心の中で敬意を払った。

「ゲハハハハハッ!!俺がここにいるってことはもう察しが付くだろうがよッ!!
次は誰の番だか分かるよなァッ!!」
「まあ、、わたしの番だろうね。おめでとう、ドン・エルグランド。
短いの間だけでも勝利の余韻に浸っていると良いよ」
「おう!そのつもりだぜ!!てめえらの命(ざいさん)はまるごと使い果たしてやらァ!!」

豪快に笑いながら狩人は哀れな犠牲者へと距離を詰めていく。
そして、遂に得物が届く範囲――ドンの剛力が少女をすり潰す場所まで到達した。
大海賊は担いだ大きく振り上げる。

「じゃあな、リトルガール。てめえらは運がなかっただけさ」

追悼にすらならない言葉の後、少女の白い頭目掛けて斧を振り下ろした瞬間ーー。


590 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:11:32 7m5Wv/YI0
轟ッ!!!!
「ぐォッ!!!??」

少女ーーエンダ・Y・カクレヤマを守護るかのような風が吹き荒れ、ドンの巨体を転がした。
爆風に晒される中、ドンは急いで体勢を立て直しに図るもーー。

「う……ゲはッ、ゲホッ……!!?」

地に手をついて咳き込む。
食い荒らされたかのように臓腑が悲鳴を上げ、視界が真っ赤に染まる。
己に持病はないはずだ。一体何が起こった。
壊れた蛇口のように口から膨大な血が吐き出され、気が狂いそうなほどの激痛が襲う。
ドンの目の前には風に吹き飛ばずに残った赤黒い血溜り。赤く染まった視界の中に映るそこには。

びちびちびちびちっ。
かさかさかさかさっ。

黒い影のような、悍ましい小魚と、フナムシのような生理的嫌悪感を齎す蟲。

「ーー嵐の王から、嵐が失われたのなら後には何が残るのかな?」

底冷えするかのような幼い子供の声が薄闇の中に響く。
声の主はドンが殺し損ねた白い少女。既に樹木から離れ、雨に晒されながも悠然と立っていた。
嵐の檻に囲まれているのにも関わらず、少女の周囲だけはそこだけ切り取ったかのように風が凪いでいる。
咳き込みながら睨みつけるドンに向けて、少女は軽く腕を振るう。
その直後、嵐が意志を持ったかのように爆風が吹き、ドンの巨体が地面に転がる。

「てめ……まさか……!!」

確信する。己が超力で顕現させた嵐の主は目の前の少女であることを。

エンダ・Y・カクレヤマの超力『呪厄操作(たたり・めぐる)』。
命を、魂を、超力を蝕み続ける悍ましき力。
嵐に呑み込ませ続けた呪厄により、ワイルドハントは浸食され、穢し尽くされた。
狂犬の如き嵐は調伏され、今や魔の王――エンダ・Y・カクレヤマの忠犬と化していた。

「ギ……てめえ……!?」

激痛に身を捩りながらも、ドンは少女目掛けて戦斧を投擲する。
苦し紛れの一撃ではない。正体不明の超力の持ち主である少女を殺せば済む。
大海賊の推測は正しい。しかし、それはエンダを殺せればの話だが。

ドンの膂力から投擲された斧。それは空間をまるごと切り裂くような凄まじい速さで飛んでいく。
戦車の装甲すらも貫きかねない威力を持つであろう砲弾に向けて、少女は指鉄砲を向け。

「ばきゅん」

黒曜石の剣を思わせる黒い塊が投擲された戦斧へ向かい、凄まじい速さで放たれた。
ガチンと大きな金属音が木霊する。
弾かれた鋼鉄の戦斧は嵐に呑まれ、弧を描きながら遥か彼方へと飛ばされていった。
暗黒の剣は、くるくると宙を舞い、ドンの数メートル手前の地面に突き刺さる。
決死の一撃が失敗に終わり、地を這いながら、ドンは歯噛みする。


591 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:15:13 7m5Wv/YI0
ぱちんっ。

少女の指が鳴らされるのと同時に、ドンへと向かう爆風が収まり、を食い荒らすナニカが消える。
咳き込みながら、青白く染まった顔で目の前の少女を睨みつける。

「てめえ……何のつもりだ?」
「……もうこれで終わり。もしここで降伏すれば苦痛なく、楽に殺してあげるけれど、どうする?」

麗しき風貌には似つかわしくない絶対零度の声。
魔性の月を思わせるその姿。見るも悍ましいチカラ。
ドンの脳裏に思い浮かぶのは、15年前の魔の海域の冒険。
姿形――存在すら似ても似つかぬ少女に、大海賊は同じ『魔』を見た。

ーーいつか、あの怪物は俺が殺す。
「ーーーハッ!!寝ぼけたことを言ってんじゃねえぞリトルガール!!
てめえらの命(たから)は全部俺がいただくんだよォ!!!」
「ーーそう。じゃあ、惨たらしく死ぬと良い」

ぱちんっ。

少女の指がなるのと同時に黒い魚がドンの肉体に殺到する。
それだけに留まらず、嵐もドンの行く手を阻むかのような向かい風を吹かせる。
既に嵐の領域(くに)は穢され、ドンの反逆の徒と化していた。

特大の幸運の後には特大の不運が訪れる。
己が説いたジンクスが己に牙を剥いた。その滑稽さに思わず笑みが零れる。

(だが、まだ幸運の女神様は俺に微笑んでくれているようだぜ……)

全身を食い荒らされる中、ドンの視界に入ったのは泥濘に突き刺さる黒い剣。
闇を纏う月。此方を見下すような黄金の目。
意識が朦朧とし始めているからなのか、それが至高の宝のようにすら思えた。
ドン・エルグランドは骨の髄まで海賊だ。ならばやることは一つ。

「お宝を前に尻尾を巻いて逃げるなんざありえねえょなァ!!!」

黒い剣に手が届く。そして迷わずに己の首に当て。

ぶちぶちぶちぶちィ!!!

全力で首を掻き切る。瞬間、手に持った剣が塵となり、ドンの首輪が宙を舞い、彼方へと飛んでいく。
食い荒らされた巨体が頽れ、歯を剥いたドンの首だけが風に乗り、エンダの方へと向かっていく。
狙うは少女の白く細い首。潰れた目から黒い魚卵を少女目掛けて飛んでいく。
だが忘れることなかれ。嵐の主は魔の王であり、雨風は大海賊の敵であるという事を。

「仁成」

首に届く寸前、少女の口から紡がれる協力者の名。
同時に空から降ってきたのはもう一人の豪傑ーー只野仁成。
落下する最中、エンダに迫りくる首に向けて男の拳が振り下ろされる。
地に叩きつけられた首は少女の喉元を食い破ることなく脳や目玉を撒き散らす。
その瞬間、まるで何もなかったかのように嵐が止む。

こうして偉大なる大海賊の死をもって、嵐の中の死闘は幕を下ろした。




592 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:17:45 7m5Wv/YI0

「ーー君はどこまで計算していた」

飛ばされた首輪を回収しに向かう最中、前を行くエンダに問いかける。
その言葉で少女は立ち止まって振り返り、金色の双眸を濁った眼の男に向け、口を開く。

「どうだろうね……と言いたいところだけど、この子達が風で吹き飛ばされた瞬間かな。
あとはわたしと仁成ができる限り傷を負わないようにこの子達を動かして事を運ばせた」

そう言い、掌に闇を顕現させて仁成に見せる。だがそこで一つの疑問が沸き上がる。
ーーもしかすると、エンダ一人で楽に勝てた相手ではないのだろうか。
その考えを先読みしたかのように、再び少女は言葉を紡ぐ。

「いいや、ドン・エルグランドは囚人共の中ではトップクラスのーーそれこそルーサー・キングと同格の強敵だったよ。
もしわたし一人で挑んでいたなら、相当な苦戦を強いられただろうね。
あなたがいなければ、わたしも無事では済まなかったと思うよ。ありがとう、仁成」

ほんの少し、ほんの僅かだけ、エンダが微笑む。
こうして面と向かって礼を言われたのはいつぶりだろうか。
思わぬ不意打ちに面食らっている男に背を向けて歩き出そうとするエンダ。
我に返り、首輪を回収に向かう彼女の後を追う。
ふと、そこで再び仁成の頭に疑問が浮かぶ。

「……もう一つ聞いていいか?」
「いいよ。今のわたしは機嫌が良い」
「エンダの『目的』ってなんだ?」

ぴたり。
再びエンダの足が止まり、周囲の空気も少しだけ下がったような錯覚を覚えた。
聞いてはいけないことだったか。

「……ごめん。無神経だった。今のは忘れてーー」
「いいよ。お礼も兼ねて少しだけなら話してあげる」

振り返らぬまま、白の少女は言葉を続ける。

「わたしは今の世界が大嫌いだ。
世界保存連盟も、超力犯罪国際法廷も、世界に巣食う害悪も思想(パッケージ)が違うだけで中身は一緒だ。
きっと、この殺し合いもそうなんだろうね。
でも、だからと言ってそいつらをどうかしようとは思っていない。勝手に争って勝手に滅べはいいさ。
……ただ一つだけ、どうしてもケリをつけたいことがある。それが二つある目的のうちの一つ。
もう一つは……わたし個人の、些細な願い。これは誰であろうと絶対に言うつもりはないよ」




593 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:19:57 7m5Wv/YI0

酷い夢を見た気がした。
初めて人殺しをしようとした結果、返り討ちにあって空を飛んでいく夢だ。
仕事が失敗した後に待っているのは、文字通り天に昇るような最悪のオシオキ。
グッバイマイヴァージン。ジジイ相手だけど人生終わる前に経験できて良かったね☆

「んなわけあるかー!ってあれ?」

怒声と共に起き上がる金髪の女ことヤミナ・ハイド。
回りを見渡す。前方には黒くてデカい建物。後ろには木々が生い茂る森林。
そして、すぐ傍には地に濡れた首輪……首輪!!!???

「あわ……あわわわわわわ……!!??」

ほぼ反射的に首輪をデジタルウォッチに接触させる。
すると、画面に『80』という数字が表示される。それはつまり……。

「ドン・エルグランドの首輪……?」

ヤミナを縛り付けていた大海賊はくたばった。
そして、80Pというボーナスが棚ぼたで入ってきた。
失敗した報いを受けることなく、逆に地獄からの希望が巡ってきた。

「ぃやっっったぁぁーーーー!!!!」

天高く拳を上げ、ガッツポーズ。
私の人生はまだ終わっちゃいない。
運が良ければ240ヶ月……20年の恩赦を受けられる……花の二十代のうちに出所できるかもしれないのだ。

「うへ……うへへへへへ……♪」

よだれを垂らして蕩けきった、愛らしさが台無しになるような顔。
娑婆に戻ったら何をしよう。今度こそ怪しくない、ホワイト案件の高収入の仕事でがっぽり稼ごう。
だらしない顔で妄想に耽っているとーー。

「……これも、計算のうちって事か?」
「……いいや、まさか。阿呆女の前に落ちているとか思いもしなかったよ」
「………………きょ……?」

天国から一転。ヤミナの前に顕れたのは新しい地獄。
誰かなど問うまでもない。あのドン・エルグランドと死闘を演じていた二人だ。
白い少女の方は全身ずぶ濡れであるが無傷。
対し、大男は全身に傷を負い、囚人服にはところどころ赤い染みやピンクの肉片がこびりついている。
それが意味することは即ち。

(あのおっかないクソジジイを殺したのは、筋肉モリモリの男ってコト?)
「わァ……あ……」

黄金の目と濁った目。二人の冷たい視線がヤミナを震え上がらせる。
絶体絶命。袋の鼠。
死が迫ってくる予感に愚かな女は必死に生き残る術を探す。
数舜の後、ヤミナはある結論に辿り着いた。それはーー。

「コイツ、どうする?」
「そうだね。まずは話をーー」


594 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:22:40 7m5Wv/YI0

「す゛び゛ま゛せ゛ん゛で゛し゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛!゛」

全力の土下座。砂粒程度のプライドをかなぐり捨てた命乞い。
ガンガンと頭を地面に叩きつけ、必死に情けを乞う。

「悪゛気゛は゛な゛か゛っ゛た゛ん゛で゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ゛!゛!゛!゛
た゛だ゛……ウ゛ェ゛……た゛だ゛魔゛が゛差゛し゛た゛ん゛で゛す゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」
「……これは……」
「うわぁ……」
「も゛う゛し゛ま゛せ゛ん゛か゛ら゛命゛ば゛か゛り゛は゛お゛助゛け゛を゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ゛!゛!゛!゛
靴゛で゛も゛ち゛ん゛ち゛ん゛で゛も゛舐゛め゛ま゛す゛か゛ら゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!゛!゛!゛ご゛慈゛悲゛を゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ゛!゛!゛!゛」



「うへ、うへへへ。すごく似合ってますよ。カクレヤマさん」
「……そう」

手もみをしながら胡麻を擂るヤミナに対し、エンダの対応はどこまでも冷ややか。
あまりにも惨めすぎる命乞いの前に毒気を抜かれ、代わりに哀れみや侮りの思いを抱いた。
だが、このままペナルティを与えずに放逐するのは仁成はともかくエンダの気が済まない。
そこで、横から掠め取ったポイントを使わせることにした。

購入したアイテムは日本刀、ハンドガン、デイバック、ナイフ、エンダ分の衣服。
計36Pを使われたヤミナは内心涙目だった。
仁成に日本刀とハンドガン、エンダに衣服とナイフ、ヤミナにはデイバック。
アイテムの分配が終わり、エンダはヤミナを伴って木陰で着替え、仁成は少し離れた場所で見張りを引き受けた。

「でも、どうして探偵衣装何です?カクレヤマさんは何着ても似合いそうなのに。ポイント使うの勿体ないし……」
「……先人へのリスペクトとあなたへの嫌がらせ」
「そ……そうですか。……根に持ってらっしゃる……」
「……聞こえてるよ」
「ひっ……!すみませんすみません!」
「……お腹空いちゃったな。朝餉はおにぎりがいいなぁ」
「ハイヨロコンデェ!!」


595 : 風に乗りて歩むもの ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:24:27 7m5Wv/YI0
居酒屋の店員のような掛け声の後、ヤミナはデジタルウォッチを操作し、一食分の食料が転送されてきた。
その様子をじっと観察するエンダ。
物品の転送。それにはケンザキ係官が関わっているのかもしれない。

「あの〜すみません。カクレヤマさんと只野さんって以前からお知り合いだったんですか?」
「ん?違うよ。ここで出会ったばかりの関係さ」

考えに耽っていると、こちらの様子を伺っていたヤミナから質問が飛んできた。
此方の機嫌を取って何とか自分の立場を良くしようとする魂胆が見え見えだが、どうでもいい。
だから自分らしくなく気が緩んでいたのかもしれない。適当に相槌を打つつもりが、少しだけ本音が出てしまうとは。

「へえ〜そうだったんですか。結構仲良さそうに見えたんで、何か事情があるのかと思ってましたよ」
「ん、まあそうだね。立場が似ているのもあるけど、少しだけ雰囲気が似ているからなのかな」
「と、言いますと?」
「わたしの安寧を願ってくれた男の子に。強くて優しいあの子に……。
……ヤミナ・ハイド。今のはすぐに忘れなさい。さもなければ殺す」
「ひょえ!!??理不尽!!」

【ドン・エルグランド 死亡】


【D-5/平原・北東部/一日目・黎明】

【エンダ・Y・カクレヤマ】
[状態]:疲労(小)
[道具]:デジタルウォッチ、探偵風衣装、ナイフ、ドンの首輪(使用済み)、ドンのデジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱出し、『目的』を果たす。
0.ブラックペンタゴンに向かう。
1.仁成と共に首輪やケンザキ係官を無力化するための準備を整える。
2.囚人共は勝手に殺し合っていればいい。
3.ルーサー・キング、ギャル・ギュネス・ギョローレン、並木旅人には警戒する。
4.ヤミナ・ハイドを使うか、誰かに押し付けるか考える。
5.今の世界も『ヤマオリ』も本当にどうしようもないな……。
※仁成が自分と似た境遇にいることを知りました。
※自身の焼き印の存在に気づいています。

【只野 仁成】
[状態]:疲労(中)、全身に傷、ずぶ濡れ、精神汚染:侮り状態
[道具]:デジタルウォッチ、囚人服、日本刀、グロック19(装弾数22/22)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き残る。
0.ブラックペンタゴンに向かう。
1.エンダに協力して脱出手段を探す。
2.今のところはまだ、殺し合いに乗るつもりはない。
3.エンダが述べた3人の囚人達には警戒する。
4.家族の安否を確かめたい。
5.コイツ(ヤミナ)、よく今まで生きてこれたな……。
※エンダが自分と似た境遇にいることを知りました。
※ヤミナの超力の影響を受け、彼女を侮っています。

【ヤミナ・ハイド】
[状態]:疲労(中)、ずぶ濡れ
[道具]:デジタルウォッチ、囚人服、デイバック(食料(1食分)、エンダの囚人服)
[恩赦P]:34pt
[方針]
基本.強い者に従って、おこぼれをもらう
1.エンダと仁成に従う。
※ネオスにより土砂崩れに侮られ、最小の被害で切り抜けました。
※ネオスにより嵐に侮られ、受ける影響が抑えられました。
※ドン・エルグランドを殺害したのは只野仁成だと思っています。
【備考】
ドン・エルグランドから獲得した80Pで日本刀(10P)、ハンドガン(10P)、食料(10P)、衣類(10P)、デイバック(1P)、ナイフ(5P)を購入しました。


※ドン・エルグランドの戦斧は嵐により吹き飛ばされました。何処に飛ばされたのかは後続の書き手様にお任せします。


596 : ◆njSPS38r/Q :2025/02/28(金) 20:25:23 7m5Wv/YI0
投下終了です。


597 : 超人武闘 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/28(金) 21:10:16 wERtae5g0
投下します


598 : 超人武闘 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/28(金) 21:10:26 AJWkhXEk0



 廃工場の内部に有る休憩室に、男が一人、椅子にかけていた。
 巨きい、男だった。
 頭頂部から爪先まで、苛烈な鍛錬の果てに鍛え終えた肉体は、190cmの長身と合わさり、齢千年を超え、見る者に“神”を感じさせる大樹を思わせる威風を放っている。
 大樹の名は、呼延光。
 中国黒社会に於いて、知らぬ者無しとまで謳われた巨大幇会『飛雲帮』の凶手だった男。
 絶世の武功と、武功を更なる高みへと導いた超力を以って、飛雲帮の敵を葬り続け、その力のあまりの“強”の故に、帮会により謀殺された筈の男である。
 その呼延光は、椅子に掛けて以降、微動だにしなかった。
 まるで石か鉄で出来た像と化したかの如くに。
 刑務に乗る意思を持たない呼延光は、此処で刑務の終わりを待つつもりだった。
 かつて、己が手で、生死を共にすると天地に誓った義兄弟を殺し尽くし、そして先刻、死に損なっていた亡霊に引導を渡し。
 心身共に鍛え抜いたな武人といえども、疲弊を覚えるには充分な運命。
 何をする気にもならず、人目につかない場所を求めて、適当な工場に入り込み、椅子を見つけて腰を下ろした。
 それ以降、呼延光は、呼吸の為に胸を上下させるだけの存在と化していた。
 



599 : 超人武闘 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/28(金) 21:10:56 AJWkhXEk0


 静寂が支配する空間に、変化が生じた。
 瞼を閉じたまま、微動だにしなかった呼延光が、僅かに目を凝らして、床へと注意を向けたのだ。
 床を注視する呼延光の視線の先で、床に積もった埃が、僅かな量ではあるが、舞った。
 
 「…………」

 僅かに感じる振動。
 誰かが、此処へ近づいている。
 この建物に入った時に、周囲には人の姿も気配も無かった。
 それが、近づいてきているという事は、相当な索敵能力の持ち主という事か。
 呼延光は立ち上がると、全身の力を抜く。
 どの様な敵が現れても、即座に応じて鉄掌を叩き込める様に、気迫と意志を総身に巡らせた。
 少しの間を置いて、引き戸が開かれる。
 立っていたのは、2mを超える人影。
 呼延光と同じく、全身遍く鍛え終えた肉体は、千年を超える時間を風雪に晒されて、砕ける事無く存在し続けた巨巌の様な存在感を放っていた。

 「……貴殿は、飛雲帮の“鉄塔”呼延光」

 「そういうお前は“怪力乱神”」

 大金卸 樹魂。それが巨躯の名であった。
 かつて日本で、複数の武術家を比武(武術の試合)の果てに撃ち殺した怪人。
 日本に進出していたチャイニーズマフィアの手練れ達もまた、何人かが手に掛かり、報復の為に複数の帮会が金を出しあって、高額の懸賞金を掛けた猛者。
 懸賞金と江湖での威名とを得る事を目論んだ飛雲帮の帮主により、命を受けた呼延光が日本に赴いて戦い、決着する前に官憲の乱入により、別れる事となった相手である。

 「俺に何の用だ」

 「貴殿に各別用があるわけでは無い…が、あの時の続きをしたい」

 「この悪趣味な刑務に協力するのか」

 「余人の思惑も、天象も、神意すらも、一切が関係のない事。
 我と貴殿が天地の間でこうして向かい合っている。
 ならば、闘うしかあるまい」

 「…………ハハハッ」

 最初は呆気に取られた呼延光だが、じきに笑いが込み上げてきた。
 何と単純な事か。
 一個の“強”に支えられた、図太いまでの蒙昧さ。
 これ程までに至っては、いっそ清々しいとさえ言える。
 愚直と言えばそれまでだが、それだけに、眩い程に羨ましかった。

 「皆が皆、お前程に単純であれば……。お前程の強さを持たぬ以上…詮無き事か」

 大きく息を吸い、吐きだして、左脚を前に、右脚を後ろに軽く開き、右脚に体重を掛けて、呼延光は大金卸と対峙する。

 「場所を移すか?」

 大金卸の言葉に。

 「俺とお前、何処で戦おうが、周りは無事に済まん」

 呼延光はこの場での開戦を告げる。

 「その通りだ」

 大金卸もまた、腰を落とし、構えを取る。

 「訊くが、何故俺が此処にいると分かった」

 「貴殿ともあろう者が、気付かなかったのか。埃に刻まれた足跡を辿ったまでよ」

 呼延光は苦笑した。あまりにも気が沈み過ぎて、そんな事にも気付かないとは。

 「次は気を付けるとしよう」


600 : 超人武闘 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/28(金) 21:11:27 AJWkhXEk0
周囲に人は無く、だがしかし、見る者が居れば、二人の間の空間が圧縮され、凝縮していくのを幻視しただろう。
 二個の怪物が放つ闘志が鬩ぎ合い、両者の間の空間を押し潰していると、そう感じた事だろう。
 両者の間の空間が、軋む音すら聞こえてきそうな“圧”。
 対峙したまま動かぬ二人。唯虚しく時だけが過ぎて行く。
 流れ去った時は一分か、果ては一時間か。
 動いたのは、呼延光。
 体重を掛けた右脚の力を抜く。
 右膝が自然と沈み、前方に出した左足が浮く。
 右膝を伸ばし、身体を前方へと射出。左脚を全く動かす事なく前方へと跳ぶ。
 予備動作の無い踏み込みは、大根卸の虚を確かに突き、呼延光の間合いの侵略を、手をこまねいて許すという失策を犯させる。
 左足が床に接した瞬間に、左足を軸に体重移動。跳んだ勢いと体重を乗せた拳打を大根卸の胸板へと打ち込んだ。
 鉄の筋肉が生み出す、身体を前方へと打ち出した力。鉄の肉と皮膚と骨の重さを拳に乗せた威力。鉄の身体を持つ呼延光のそれは、常人のものとは比較になら無い。
 ましてや打ち込まれるのは、比喩でも何でも無く、文字通りの『鉄拳』だ。
 幾ら鍛えていようとも、所詮タンパク質とカルシウムで出来た人体。受ければ肉が潰れ骨が砕ける。
 
 「見事」

 大根卸は、半歩を退がっただけだった。
 確かに拳が命中した筈だが、身体の何処にも損傷は存在しない。

 「あれで応じるか」

 この程度で決まるとは思っていなかった呼延光は平然たるものだが、それでも感嘆せざるを得ない。
 拳が当たる瞬間に、半歩を退がって、打点をずらし、威力を殺した大根卸に対して、呼延光は称賛を惜しまなかった。
 
 「噴!」

 大根卸の右脚が上がる。
 直線の軌跡を描く前蹴りは、呼延光の初撃と同じく、最速最短の軌道で呼延光の胴へと奔る。
 只の平凡な前蹴りではあるが、しかし、放ったのは大根卸樹魂。
 込められた威力は分厚い鉄筋コンクリートの壁を容易く撃ち抜く。
 最早人の域を超え、兵器の域に有る威力。蹴撃というよりも大城塞の城壁をすら撃ち砕く破城槌に等しい。


601 : 超人武闘 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/28(金) 21:11:50 AJWkhXEk0
 「破ッ!」

 迫り来る破城槌を、呼延光は左掌を以って迎える。
 撃ち落とすのでも無く、弾き飛ばすのでも無く、受け止めるのでも無い。
 掌と脚が接触した瞬間に、呼延光が加えた力により、大根卸の右脚は運動のベクトルを狂わされ、虚しく虚空を穿つに留まった。
 破城槌を捌いて、呼延光の動きは止まらない。
 左脚を踏み込み、体重を乗せた肘を、大根卸の胸へと撃ち込んだ。
 響いたのは、鉄塊と鉄塊がぶつかったかの様な音。
 鉄の身体を持つ呼延光と、伍する強度の肉体を有するのが大根卸。
 常人ならば胸骨が撃砕される────どころか、胸に穴が穿たれる一撃を受けて尚、僅かな負った様には見えない。
 それどころか、益々意気が軒昂となっている。
 されども、大根卸と愛対するは呼延光。超力を抜きにしても、絶世の才と無双の武威を誇る達者である。肘の一撃を入れた程度で、攻勢が止まるはずも無い。
 立て続けに繰り出されるは劈拳、蹦拳、鑚拳、炮拳、横拳の形意五行拳。
 鉄の剛強と人体の柔靱を併せ持つ肉体で技を繰れば、武功を語る事すら許されぬ三流未満の武芸者でも、拳威拳速、共に達人の域を飛び越える。
 ならば、呼延光の様に、世に冠絶する武人が、鉄の身体を以って技を繰り出せば如何程のものとなるか。
 唸りを上げて轟く拳風が、踏み込む度に砕けて破片を舞い上がらせる床が、その神威を雄弁に物語る。
 繰り出される鉄拳は、対戦車兵器をして比較の対象となる域に到達し、拳風に触れただけで、凡そ人ならば昏倒を免れ得ない。
 それらの悉くを、或いは受け、或いは捌き、或いは外して、巨虎すら一撃で四散する絶拳を、五度全て凌ぐ大根卸は人の域を超えた怪物というべきか。
 五行拳を凌いだ大根卸は、笑みを浮かべて、呼延光の水月へと正拳突きを繰り出した。
 繰り出す機。運足。体重移動。身体の回転。拳を撃ち出す動き。
 その全てが見惚れる程に完璧で、呼延光も思わず称賛の溜息を漏らした程だ。
 息を吐きつつ呼延光は、前方へと進む動きを優れた体軸と脚力により殺し切り、後方へと跳躍する。
 『開闢の日』以前の10代の時に、闘牛の頭蓋を一撃で叩き割って仕留めてのけた、大根卸の拳撃。
 刃すら通さぬ鉄の身体を以ってしても、大根卸の拳を受ける事は出来ぬと知るが故に。
 大梵鐘を突き鳴らした様な轟きを残して、呼延光の肉体が後ろへ飛び、ぶつかった壁を貫いて向こう側へと消えた。
 呼延光の後を追い、壁の穴へと飛び込んだ大根卸を迎えたのは、呼延光の鉄掌だった。
 真っ直ぐに胸へと迫る鉄掌へ、大根卸は正拳を以って応じた。
 掌と拳。人体と人体が激突したとは到底思えぬ音が生じ、押し出された空気が瞬間的な豪風となって、部屋の窓ガラスを破砕した。
 二人は僅かな停滞もせずに、攻撃し、防御を行い、回避する。
 狭く物が乱雑に転がる室内だが、二つの怪物の妨げとなる物など存在しない。
 床に転がる物は、踏み潰され蹴り砕かれて微塵となり、壁は拳脚や身体が触れる度に崩壊する。
 やがて部屋が部屋としての意味を無くす程に、壁が無くなった時。二人の姿は何処にも無かった。





602 : 超人武闘 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/28(金) 21:12:24 AJWkhXEk0



 フットワークで床を砕き、身体を動かす度に壁を崩し、何時しか二人は屋外に居た。
 正しくは、二個の怪物に内部で暴れ回られた工場が保たなかったのだ。
 柱が折れ、屋根が落ち、壁が倒れても、大根卸樹魂と呼延光、両者の死闘には些かの影響も与えなかった。
 街灯を蹴り折り、拳の一撃で電柱を砕き、アスファルトを踏み砕いて、両者は力を尽くして闘い続ける。
 大根卸の渾身の前蹴りを受けた呼延光が、凄まじい勢いで後ろへと押し退げられる。
 アスファルトに刻まれた二条の溝を見れば、大根卸の蹴撃の威力がどれほどの物か、窺い知ることが出来るだろう。 
 大根卸の蹴撃の勢いを殺す為に、呼延光が踏ん張った結果、アスファルトの路面を呼延光の鉄の足が抉った結果、生じた溝だった。

 「靴が無くなった」

 「悪い事をした」

 7m離れた場所で、呼延光が拳を繰り出す。
 遥か遠く離れた場所で、渾身の突きを繰り出すのは、愚行を超えて狂気の沙汰だが、何を察したのか、大根卸は左腕で顔を覆った。
 直後、大根卸の腕に鈍い衝撃。
 呼延光の拳風が、突風となって大根卸の顔を撃ったとは、争闘する両者にしか分からぬ事だ。
 呼延光の拳風に、眼を撃たれる事を防いだ大根卸だが、その代償に視界を僅かの間、塞いでしまった。
 当然、その隙に呼延光は乗じる。その事を卑怯と言う精神は、両者共に持ち合わせてなどいない。
 瞬時に7mの距離を零にして、呼延光の五指を揃えた貫手が、大根卸の猪首へと疾る。
 例え新人類といえども、只の貫手であれば、突いた側の指が折れる。
 だが、貫手を放ったのは呼延光。鉄の身体を持つ絶世の武人。その貫手ともなれば、名刀利剣の切先と変わらない。
 大根卸は咄嗟に仰け反りながら、込められる力の全てを乗せて、肘打ちを呼延光の胸へと撃ち込んだ。
 
 「がっ…」

 「グハッ…」

 両者の口から短い苦鳴が漏れ、一歩を退がる。
 そのまな一つ、息を吸って吐き出すと、両者は同時に前進。
 一呼吸でダメージを回復し、息を整え、再び激突した。

 「勢!」

 呼延光が繰り出すのは劈掛拳。腕を振り下ろす動作による動作『劈』と、下から振り上げる動作『掛』。
 この二つの動作を間断無く行う事で、反撃を許さず攻め続ける中国武術。
 鉄腕を振るい続ける呼延光の雄姿は、中国四大奇書の一つ、『水滸伝』に登場する、双振りの鉄鞭を得物とする武将『呼延灼』を思わせる。
 円を為す鉄腕が結界を形成し、呼延光の間合いへと、さしもの大根卸も近づけ無い。
 
 「良くぞ此処まで磨き上げた」

 呼延光の織りなす結界から距離を取りつつ、大根卸は静かに呼延光を賞賛した。

 「貴殿の武に敬意を表する。我も死力を尽くさねばなるまい」

 空気が変わる。
 大気の組成そのものが変わったかの様に、呼延光の全身が重たいものを感じた。
 “圧”だ。大根卸の発する『圧”によるものだ。

 「『炎の愛嬌、氷の度胸(ホトコル)』 」

 大根卸の全身が、陽炎が生じたかの様に歪んだ。
 大根卸の超力により、鉄すら溶かす温度にまで高められた、体温によるものだ。
 超力を副次的なものとして闘うのが大根卸。それでも全力を尽くすとなれば、超力を組み込んだ攻防を行うのは当然と言えた。

 腰を落とし、中段正拳突きの構えを取った大根卸に対し、呼延光も動きを止め、拳を打ち出す構えを取った。
 5mの距離を置いて、両者の動きが固着する。
 否。実際には、両者は共に動いている。
 発条に圧力を加える様に、鋼のゼンマイを巻く様に、骨に筋肉に力を蓄えるのは当然の事。
 呼吸。血液の循環。全身の感覚。それら全てを、眼前の敵へと放つ一撃の為に収束させる。
 
 動いたのは、同時。


603 : 超人武闘 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/28(金) 21:12:49 AJWkhXEk0
大根卸が天地に轟く咆哮と共に、渾身の中断正拳突きを繰り出す。
 呼延光が先に見せた、“遠当て”の絶技。
 『開闢の日』以前に、2m離れた蝋燭の火を掻き消した拳風は、進化により更なる高みへと至り、触れずとも敵を粉砕する魔拳と化した。
 更に超力により高熱を乗せ、触れるだけで傷を負う熱風として撃ち放つ。
 
 呼延光もまた、拳を繰り出す。
 先の“遠当て”よりも威を込めた拳は、押し出された空気を砲弾と変え、大根卸へと撃ち出した。
 “百歩神拳”。気功術を用いて、百歩を隔てた敵を撃つ技。
 曰く、伝説。曰く、ハッタリ、曰く、虚構、
 どれも全てが真実だった。『開闢の日』を迎えるまでは。
 だが、呼延光という絶世の武人が、鉄の肉体という幻想を我が物とした時。
 虚構は現実へと顕現した。

 熱風と空気の砲弾。二つの条理を逸した人為が激突する、
 高熱を帯びた熱風が荒れ狂い、周辺の街路樹を発火させた。

 「……………」

 「……………」

 無言のままに、両者は向かい合っていた。
 双方共に、闘志に些かの揺らぎも無く。
 隙有らば渾身の一打を見舞うべく、意と気と力を漲らせて相対する。

 やがて、大根卸が手を挙げた。

 「此処までにしよう」

 「何故だ?」

 呼延光は理解出来なかった。大根卸の気質であれば、決着するまで、どちらかが死ぬまで闘う筈だ。

 「先に約束を交わした者が居る」

 「お前は、その上で、俺にあの時の続きを?」

 「浮気は良くないとは理解している。だが、貴殿を前にして抑えきれなかった」

 「……まあ良い。久し振りに昔を思い出せた」

 鉄の身体を得て以来、忘れていた感覚。
 飛雲帮を壊滅させた日以来、思い出す事など無かった記憶。
 只々己の五体を鍛え、技を練り、高みを、より高みを目指していた日々を。
 友と語らい、酒を酌み交わし、比武に興じていた日々を。
 大根卸との死闘は、久し振りにあの頃へと帰ったらようで、こころにひかりと暖を齎してくれた。
 ならば、大根卸の事情の一つも汲んでやる気になろうというもの。

 「礼を言う」

 頭を下げる大根卸に。

 「先約のある者の名を教えろ。其奴に挑まれれば、逃げに徹する」

 「重ね重ね感謝する。ネイ・ローマンという」

 「承知した。俺はこの近辺に身を隠す。約定を果たしたら、また、続きだ」

 告げて、呼延光は身を返す。

 その後ろ姿に再度頭を下げて、大根卸は新たなる闘いを求めて立ち去った。




【F-2/工場跡地周辺(東側)/1日目・黎明】
【大金卸 樹魂】
[状態]:疲労(中)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.強者との闘いを楽しむ。
1.新たなる強者を探しに行く。
2.万全なネイ・ローマンと決着をつける。
3.ネイとの後に、呼延光と決着を付ける。




【呼延 光】
[状態]:疲労(中)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.24時間生存する。降りかかる火の粉は払う。
1.言われた通り殺し合うのも億劫だが、相対する敵に容赦はしない。
2.何処かに隠れて24時間を過ごす
3.大根卸との再戦待つ。


604 : 超人武闘 ◆VdpxUlvu4E :2025/02/28(金) 21:13:03 AJWkhXEk0
投下を終了します


605 : ◆H3bky6/SCY :2025/02/28(金) 23:42:36 t67ItCvo0
みなさま投下乙です

>風に乗りて歩むもの
ドン、長生きできる気質ではないと思っていたが早くも逝ったか……最期まで死んでも殺すと言う気概はアッパレすぎる
エンダたちは、ただですら世間から秘匿されてるアビス受刑者の秘匿受刑囚とかどれだけヤベーかこれもうわかんねえな
ヤミナはどこまでも生き汚くてたくましい、棚ぼたでポイントまでゲットだぜ。このノリでどこまで行けるのかここまでくると見ものだな

>超人武闘
最高峰の体術を持つ2人の衝突、正しく超人武闘、強者の遭遇は雰囲気がある
とんでもねぇ格闘戦、ただの格闘のはずなのに周囲の被害が半端ない、超力まで解放した日にはとんでもない事になっている
決着は先送りに、先約を優先するのは律儀と言うかこのアビスにおいて真っすぐすぎるというか、その決着が果たされる日が来るのか


606 : ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:12:33 1NUMGyEY0
投下します


607 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:12:53 1NUMGyEY0

ブラックペンタゴン。
それは最果ての地で、誰にも知られることなくひっそりとそびえ立つ、漆黒の巨大建造物。

黒い外壁は月の光を一切反射せず、深淵が形を為して周囲の光すら飲みこもうとしているかのように見える。
その屋上には無数の尖塔が空を突き刺し、そこから下界に向けて放たれる赤いサーチライトが不気味に脈打つ。
赤い光は周囲をライトアップして高い外壁の漆黒を際立たせ、
そして本棟の小窓から鋭く漏れ出す白い光は、罪を裁く冷徹な天使の眼光のように罪深き者たちに睨みを利かせていた。
白い眼光と赤い脈動、そして黒い威容の三つのコントラスト。
並みの犯罪者ならばその場で心を折り、恐れおののいて膝をつくであろう。

だが、今宵この地に集うはアビスの住人たち。
悪意の坩堝を観光でも楽しむように軽い鼻歌を響かせながら歩む――そんな破綻者ばかりが集う場所だ。
今、訪れた二人も、恐れを表すどころか、観光名所に訪れた旅行者のように目を輝かせていた。

「あれがブラックペンタゴンか〜。大魔王とか住んでそうだね」
「大魔王ねえ。じゃあ、オレ様はさながら勇者ってところか?」
「トビさん勇者って顔してないでしょ。
 お宝探しに忍び込むケチな盗賊Aだよ。
 ――さあ盗賊のトビ、君にパンデモニウム偵察の任務を命じる。
 邪悪な魔族を見つけたら、我々の前に誘き寄せてくれたまえ。
 我が精鋭たる騎士たちがすべて滅してくれよう」
「ぬかせ」

WEB小説原作の漫画本あたりのなんたら騎士団団長のような気取ったセリフが四葉の口からすらすらと紡がれる。
その手の騎士団長は主役の当て馬だろ、としかトビには思えなかったが。
そんな彼の内心を知ってか知らずか、四葉は『ランスロット』たち4体を呼び出し、魔王城に挑む一個騎士団のようにポーズをとる。

漫画本は四葉のルーツの一つだ。
英雄物語のようなフィクションだって多数嗜んできた。
理想のシチュエーションで憧れのキャラクター設定を演じ、自分の気分を盛り上げるのはやはり楽しい。

――もっとも。
わざわざ表には出さないが、トビもネオスと共に自我を確立した世代だ。
シチュエーションにこだわらないわけではない。

本来、監獄に外観の豪華さなど不要なのだが、急激に増加する犯罪者たちを威圧するかのように、その外観も威圧的なものへと進化している。
サーチライトで朝から夜まで周囲を真昼のように照らす眠らない監獄。
現代人でも登ることはかなわない、摩天楼をも見下ろす高い外壁を備えた要塞監獄。
標高6000メートルの霊山の中腹に建てられた、この世で最も天国に最も近いと言われる天空監獄。
かつてZ計画と呼ばれていた人類救済計画の一つで、オセアニアの海洋ベースの深海基地をルーツとする海底監獄。
ある意味名所のような、個性豊かな監獄が世界には存在する。

脱獄を生き甲斐とするトビにとって、監獄の外観はギフトの包装のようなものだ。
ハリボテはいただけないが、相応の威圧や年季の入った歴史を感じる監獄からの脱出は、それに見合っただけの達成感がある。
背筋を震わせるような刺激があってこそ、心が踊る。

ブラックペンタゴンには潜入するのであり、脱獄しに行くわけではない。
とはいえ、仰々しく用意された巨大施設だ。
ワクワクさせてくれることには変わりはない。

赤い光に照らされたところで首輪が爆発したりはしないだろうが、
サイレンが鳴り、サーチライトが一斉に自分に向く、くらいの演出はあるかもしれない。
脱出不可能な監獄にあつらえた重々しい雰囲気が演出されている。それだけでも気分は乗る。
せっかくこんな大掛かりな舞台が用意されたのだ。
このシチュエーションを楽しまないのはもったいない。


「さて、と」
トビはおもむろに足元に転がっているこぶし大の石を拾いあげ。
「そこの岩陰に隠れてるヤツ。
 10待ってやるから、姿見せな」
物陰から彼らを見つめる視線の主に、鋭く声を投げかけた。




608 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:13:32 1NUMGyEY0
トビは石を軽く握り、スナップを効かせて手首に軽い弾みをつけ、空中にその石を放り投げる。
こぶし大の石は回転しながら真上に上がり、ちょうど一秒で頂点に到達。
「いーち、っと」

視界の隅に石を捉えながら、落ちてくるそれをタイミングよく同じ右手で掴む。
パシっという小気味よい音が響くまで、同じく一秒。
二秒セットで一回の動作、この十回がタイムリミットだ。
容姿こそ醜男たるトビだが、その所作は洗練され、なかなかに様になっている。

「おっ! おっ! トビさんついに闘るの!? 闘っていいの!?」
「それはまあ、あちらさん次第だな」
石の手玉を二回、三回と繰り返したあたりで、視線の主に動きが見られた。

「まずはじめに申し上げておきますが」
岩陰から現れたのは一人。
少女・宮本麻衣は両手を上にあげ、降参のポーズでゆったりと近づいてきた。

「争うつもりはございません」
そして、十分な間合いを開けて足を止める。
一撃を当てるまでに、一動作が可能な距離だ。
四葉の身体能力をもってしても、一息で詰めるには厳しい距離を保ち、三人が自らの名を述べて対峙する。



「推測ながら、ポイント稼ぎを目当てとしたタッグだと見受けさせていただきます」
「まあ、そりゃそうだな。
 自分で言うのもなんだがよ、オレ様もこんなバディを見たらアンタと同じ意見を持つに決まってるぜ」
麻衣の目線が注がれるその先にあるのは、トビたちの首輪。
死刑囚と刑期85年を表す首輪だ。
そんなポイントの塊である二人が争うことなく同行している。
傍から見ればどう見ても、大物を効率よく狩るために手を組んでいるようにしか見えない。

「なら、私などを狙ったところで旨味など皆無でしょう?
 仮にそれでもこの首が欲しいのだとすれば、全力で抵抗させてもらいますが」
「まあ、それも道理だな。
 たったの20Pのためだけに、リスクを負う奴なんざそうはいねェ。
 いるとすりゃ、よっぽど恨みを買ったか、アル中かヘビースモーカー、あるいはポイントなんざ関係ねえバトルジャンキーくらいだろ」
「それはたとえば、後ろの彼女のように?」
「まァ、後ろのコイツみたいにだよ」
エサを前にして座り込んだ犬のようにキラキラした目を向けられて、言及しないでくれというほうが無理があるだろう。
トビと麻衣は互いに苦笑をかわす。


609 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:14:04 1NUMGyEY0
わくわくを隠さず尻尾をぶんぶん振る子犬系少女、四葉。
彼女のそんな態度に悪感情を抱く人間はさほど多くはないだろう。
その態度の理由が殺し合いを求めているが故である、という一点を除けば、だが。

「後ろのあなた。そんなに戦いたいのなら、お誂え向きの方が一人いますよ?
 長い黒髪を束ねた格闘家のような方でした。
 とても戦いたそうにしていましたが、闘争心とは裏腹に紳士的な人で。
 私はどうやら、彼のお眼鏡にはかなわなかったようです」
「紳士的な黒い長髪の格闘家……あっ、それ無銘さんじゃないかな?
 どうだった? 元気してた!?」
「名前は尋ねなかったので分かりませんが、気になるなら旧工業地帯のほうを探してみるといいのでは。
 刑務開始から数十分ごろだったか、クレーンや工場が連鎖倒壊する音が聞こえましたので。
 運が良ければそのあたりで会えるでしょう」
「トビさん! 旧工業地帯に……」
「だ・か・ら! ダメに決まってンだろ!」
「トビさんの意地悪、甲斐性ナシ、ビビり虫……」

人懐っこい子犬キャラはどこへやら、ついにイジけだして石を蹴り始める四葉。
トビと麻衣は互いに苦笑をかわす。二回目である。

「それでは、お互いに争う理由もないことが分かりましたので、私はこの辺りで……」
「おっと、ちょい待ち」
話を切り上げ、立ち去ろうとする麻衣をトビは制止する。

「一つ、聞かせな。
 アンタ、これからどうするつもりなんだ?」
「どうする、と言われましても」
「日をまたぐまで、隠れてやり過ごすつもりかい?」
「それは……」
もちろん、と言いかけたところで、トビの麻衣を見る目が険しくなっていることに気付いた。

トビと四葉は大物狩りのタッグ。
麻衣は二人を邪魔する気はなく、恩赦ポイントも微々たるもの。
いわば、二人にとって路傍の石。
それが麻衣の自身への評価だった。

――何故そんな質問をぶつけてくるんだ?

答えに迷った。
沈黙の帳が降りた。
それがまずかった。


「あー、オレ様たちに恐れを為してケツまくって逃げるのは百歩譲ってしょうがねえ。
 オレ様たちが強すぎるのが悪い。
 だが、刑務拒否をこうも堂々と宣言されちゃあね。
 連帯責任で処罰を受けちまうのは、ちょっと困るんだわ」




610 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:14:31 1NUMGyEY0
不穏な雰囲気が漂う。
剣呑さを裏から覆い尽くすように、少女からは期待感溢れる愉しげな殺意が放たれる。

――しくじった。

相手を見誤ったと、麻衣は悟らざるを得ない。
二人は刑務放棄者が出ることを望まない。
日和見の方針を表に出すべきではなかったのだ。


トビたちは、ヘルメスやジョニーとはメアリー・エバンスの始末を持ちかける形で別れた。
彼らがメアリー・エバンスを救出するか、殺害するか、それとも返り討ちに遭うか。
あそこで別れても刑務の破綻にはつながることはない。
仮に救出に成功したところでそれはトビたちの関知するところではない。

だが、麻衣とこのまま別れる選択肢はない。
ただ逃げ隠れするだけの彼女をみすみす見過ごすことは、刑務への積極性を疑われる。

他方、麻衣はトビの名を聞いて脱獄を連想しなかった。
人の事情を探らない、行儀のいい模範囚なのだろう。
アビスにしては短い刑期も、そのあらわれと言えよう。
裏を返せば、それは人の縁に乏しいということである。
トビが求めるのは、規律と調和、秩序に重きを置くクラス委員のような存在ではない。
目的達成のために、苛烈な手段ですらも戸惑わずに実行できる新進気鋭の個人事業主のような存在だ。

麻衣はトビの求めるラインに達しない。
同行者にも協力者にも依頼先にもなり得ない。
そんな麻衣に割り当てられる役割は一つ。
狂犬の"遊び相手"である。


トビと四葉の契約。
それは、護衛や協力者として同行を頼む代わりに、"遊び"や"ポイント稼ぎ"を手伝うという契約だ。
狂犬四葉はもう涎を隠そうともしていない。
ジョニー、メアリー・エバンス、無銘。彼女の求める遊び相手たち。
彼らとの戯れを次々却下したことで、不満の影がちらりと覗いた。
これ以上の引き延ばしは信頼関係のイエローゾーンに突入する。
四葉を斬り捨てる未来も来るのかも知れないが、少なくとも今ではない。
潮時だ。


数瞬のアイコンタクトをかわす。
顔を顰めていた四葉がその意味を理解し、満面の笑みを浮かべた。
その笑顔は好物――一例としてはスイーツやドリンクなど――を目の前にした女子が浮かべる極めて無垢なものだ。
しかし四葉が握るのは銀色のナイフやスプーンではなく白銀のランスやハルバードだ。
彼女が喰らうのは、その甘味と口当たりで心を蕩かせるスイーツなどではなく、血生臭く血肉飛び散る闘争のエネルギーである。

「刑務作業のサボりを見つけちゃ、仕方ないなあ。
 逃げてサボってご飯抜きはいただけない!
 だから、闘ろうか!
 『quatre chevalier』! ここに展開だ!」
白銀の騎士たちが姫将軍を守るようにその場に陣を組めば。

「マンティズ! アルファ! ギガンテス!」
《てめぇら、うちのお嬢様に手ェ出そうってんなら、手足の一本、二本くれぇは覚悟してもらわねえとなあ!》
〔麻衣様の障害、不肖このアルファがすべて取り除きましょう〕
〈お嬢! 任せとき! あいつらみんな踏み潰しちゃるけん!〉
カマキリのマンティズ、人型バッタのアルファ、巨大カブトムシのギガンテスの三体が彼女を守るように立ち塞がる。
白銀の騎士団と昆虫型眷属の群れ。
二つの軍団は正面で相対し、戦いの幕が静かに、しかし確実に引き上げられた。




611 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:14:58 1NUMGyEY0
ブラックペンタゴンの前で激突する二つの軍団。
プレートアーマー軍団と巨大昆虫の群れは、さながら魔族の砦を攻める騎士団と、迎え撃つ魔族の守備隊のようにも見えるだろう。

「さあ、まとめてぶちかませ!」
『オジェ・ル・ダノワ』のハルバードがぶぅんと虚空を震わせれば、
〈軽かね! 棒きれか何かなんか!?〉
ギガンテスはそれに応えて巨大な角を撃ちつけ、バリバリと空間を震わせる。

《一刀流のがらんどうが二刀流に勝てるかよ!》
マンティズはカマを振り上げて威嚇のポーズを取り、
「そっちこそ! カマごと斬り飛ばされないように気を付けなよ!」
『ランスロット』と円陣を描くように対峙し、一瞬のうちに数度切り結ぶ。

〔誠に申し訳ございませんが、麻衣様はあなた方を気に入らないご様子。
 速やかに片づけて御覧に入れましょう〕
アルファがその圧倒的な跳躍で四葉を直接狙ったかと思えば、
「ええ……、そんなにすぐ終わったらもったいないじゃん! もっともっと楽しもうよ!」
長弓兵『ラ・イル』が待ち構えていたかのように矢の雨を浴びせかける。
羽を器用に動かして矢雨の隙間を縫いながら急降下するアルファに対して、
下で待ち構えていた槍兵『ヘクトール』がその鋼鉄並みの外骨格ごと穿つ強烈な一撃を放った。
指揮官四葉へのダイレクトアタックは防がれ、アルファは若干離れたところへと着地することになった。

現状としては、膠着。
四葉は前線で三体相手に器用に言葉をかわしているが、
麻衣とトビの二人は少し離れたところから押し黙って戦況を眺める構図だ。

契約を履行こそしたものの、トビとしては麻衣の生死自体はどうだっていい。
適当に二、三回撃ち合った後に逃げてもいいし、ポイントと化してナイフとデイパックに換わってくれるならさらに歓迎だ。

けれど深追いをする気はない。
看守からのマークの軽減。
四葉の不満の解消。
これが主目的。

この段階で深い傷を負うことだけは避けたいところだ。
「つっても、そうは問屋が卸さねえってか」

トビを狙った白。
手に持った石で、パシッと受け止める。
{おっ、オッサン、カンいいじゃ〜ん}

それは糸だった。
確かな粘性を持ったそれは、さながら釣りのようにトビの手から石を奪っていく。
糸を射出した岩のようなそれ。
軽薄な声でトビを称賛したそれは、人間大もある大蜘蛛だった。
眷属の一体、タランチュラのネビュラである。


612 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:15:18 1NUMGyEY0
{お嬢、悪ィ! おっさん巻き取るのしくっちまったわ!
 あまりに動かねーもんだから、痺れ切らしちまってよ!
 ガラ空きのお嬢を狙ってくると思ったんだがなあ?}
「おいおい、オレ様はこれでも紳士で通ってんだぜ?
 アンタのごまんとある目にゃ、オレ様が淑女を後ろから襲うような野獣に見えんのか?」
トビはネビュラの脚から放たれる強靭な糸を、軽口を叩きながら、ほいほいとかわしていく。
通路いっぱいに張り巡らされた感知センサーを、その身軽さと柔らかさだけで突破したこともあるのだ。
分かりやすく直線状に放たれる糸など、6発同時に来たところで当たるはずがはない。

{襲ってきた側が言うセリフじゃなくね? あとさ、紳士って人種は、あんな狂犬引き連れんの?}
ネビュラは長弓兵『ラ・イル』から放たれる矢を、軽口混じりに糸で絡めとり、地面に叩き落していく。
タランチュラの糸は一般的に、狩りよりも滑り止めや感知用の仕掛け罠として使われるのだが、
ネビュラの糸は他の蜘蛛種の狩り用の糸に強度は劣らない。
麻衣のイメージに沿った進化である。

「ま、そこら一般の紳士野郎なら、お上品な連れを選ぶだろうがねえ。
 凡夫じゃ乗りこなせねえじゃじゃ馬を御せるのもまたダンディだと思わねェか?」
{あ〜、お嬢は高嶺の花すぎて眩しかったってことか?
 そりゃ仕方ねえな、仕方ねえよ。
 だけどな、ここだけの話、お嬢の本棚にゃ世界の拷問全集とかがあってだな……}
「トビさん! 全部聞こえてるよ!
 別に否定しないけど!」
「ネビュラ! 人のプライバシーをみだりに晒さないでくれ!」
《つーかネビュラ! くっちゃべってる余裕があんならこっち来て手伝え!》
味方陣営からの叱責に、両者そろって、肩を、脚をすくめた。


「んで、まだお仲間、いるんだろ?」
{さあて、どうだかね?}
いないはずがない。トビにはその確信がある。
トビが言うのもなんだが、麻衣は明らかに戦場にはふさわしくない素人だ。
なのに、素人の割にはかなりリラックスしているように見える。
よほどの楽天家か、絶対の信頼を置く側近を手元に残しているか。
そして麻衣の性格から類推するに、前者はあり得ない。
そこまで分かっていながら、リスクを承知で飛び込むほど切羽詰まった状況でない。

「ネビュラ! そのまま弓兵とおじさんを引き付けておいて!
 マンティズは剣士を牽制!
 アルファ! ギガンテス! 二体で鎧一つ潰すよ!」
{おっけ〜}
〔麻衣様の仰せのままに〕
《つーかお嬢様! 牽制って言うけどよ、別にこのままぶった斬っちまっても問題ないんだろう!?》

長弓兵『ラ・イル』の放つ矢をネビュラが絡めとり、戦場の片隅まで槍兵『ヘクトール』を引き付けておいたアルファが一息に舞い戻る。
『ヘクトール』はその機動力に追随できず、トビはネビュラと睨み合いだ。
フォローをしようにもネビュラの8つの目の一つが確かにトビを捉えている。
アルファは邪魔者を置き去りに、ハルバード兵『オジェ・ル・ダノワ』の背後を確保。
そのまま一息に蹴破ろうとしたところで、
〔!?〕
〈なんば起こったとや?!〉
白銀の鎧が消え、アルファの脚は空を蹴る。

《俺の相手も消えやがったぞ?》
{こっちもオッサン以外は以下おなじってな。負け、認めちったか?}
「あ〜……ナイトウくん! オレ様がいくら紳士だからって、軍団全員引き受けるのはちとばかし厳しいな?」
四つの甲冑が戦場から消え失せ、麻衣と四葉との間に立つのはトビ一人。
このまま放置すれば、30秒持たないだろう。
羽虫に集られ刑罰執行完了である。


613 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:15:43 1NUMGyEY0
〔麻衣様、今が好機なのでは?〕
アルファの進言に、麻衣はゆっくりと首を振る。
四葉の闘志は未だ燃え盛り、これで終わったとは到底思えない。
「……深追いはしないし。
 あれはきっと、私たちと同じ系統のネオスでしょ?
 だから、出すも戻すも自由自在、そうだね?」
「うわ、慎重派!
 まっ、そうじゃなきゃ無銘さんの誘いを断ったりはしないか!
 ほんと、いいネオス持ってるのにもったいなさすぎだって!」
四葉が手を振ると、再び甲冑の四騎士は四葉の周りに展開する。
もし焦って攻めに転じていれば、召喚直後の騎士に周囲を囲まれ、無惨に打ちのめされていただろう。

「一対一×さん、三つのバトルで楽しさ三倍だよ!? おトクだよ!?」
「あいにく、私はバトルジャンキーってガラじゃないんだ。
 刺せそうなら刺すし、出し抜けそうなら出し抜く。
 バトルの素人に美学なんて求めないでほしいな」
「せっかく紹介してるのに〜。
 ってか麻衣ちゃんさ、なんか口調変わってない?」
「そりゃ、そっちが交渉の机蹴ったし。
 取り繕う理由もないし、素の言葉遣いでいかせてもらうとするさ」
「もっと自分に素直になったほうがいいと思うんだよねー。
 全力出してスッキリしたら絶対気持ちいいって!
 だから、仕切り直そ! もう一回! もう一回!」
「……できればさ、このまま引き分けということで収めないかな?」
「ダメダメ、こんなの、ただのウォーミングアップじゃん。
 本番はまだまだこれからだって、こ・れ・か・ら!」

お節介なスポーツ少女に絡まれる文学少女の構図である。
若干イラっとしたのをそっと抑え込んで、麻衣は真剣に向き合う。
騎士と眷属、誰かが動けば戦火の火蓋が再び切って落とされるだろう。
すべての注目が戦場の真ん中に集まる。
一挙一動、衣ずれの音すら聞き逃さないように、集中する。
誰もが次の動きを待つその刹那。
甘く生ぬるい風が、ふわりと頬を撫でるような気がした。


「ねえ、人間さんたち、ごきげんよう。今晩は、月が綺麗ね」
柔らかな声が、鈴がころころ鳴るように響いた。
夜闇から浮かび上がってきたかのように、その女は立っていた。
誰一人として気付かないうちに、彼女は麻衣のすぐ隣に立っていた。




614 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:16:18 1NUMGyEY0



――なんだ、こいつは?
――いつからここにいた?


最初にその異様に戦慄を覚えたのはトビであった。
トビは世界中の看守や警備たちを煙に撒いてきた経験がある。
気配断ちのネオスこそ持っていないが、その隠形技能と洞察力は世界でも指折りといえよう。
そのトビが足音一つ拾えなかった。
そこに人間がいる気配すら感じ取れなかったのだ。

超力社会になってから、あり得ないことなどない。
トビはそんなことは重々承知だ。
そして今、そのあり得ないことが起きている。

今も目を閉じて、感覚だけに頼れば、そこに銀鈴と名乗る女などいないと断言できてしまう。
白銀と漆黒で構成された容姿を視覚で捉えることができて、
鈴の鳴るような声を聴覚で聞き取ることができるという事実だけが、彼女がそこにいることを担保している。

人間としての本能がギンギンと警笛を鳴らしていた。
今すぐ逃げろと培ってきた経験が叫んでいた。


〔きちきちきちきちきちきちきちきちきちきち……〕
《しゅっ…… しゅっ……》
〈ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ……〉
{かち、かち、かち……}

次に異様を感じ取ったのは、麻衣の眷属たちであった。
アルファから、マンティズから、ギガンテスから、ネビュラから。
あんなに饒舌だった眷属たちから、一切の言葉が消えた。


「まあ、そんなに興奮しないで。私ね、銀鈴って言うの。
 少し前から人間さんたちの戯れを見ていたのだけれど、私も仲間に入れてほしくなってね」
銀鈴と名乗る存在は、子守唄のように優しく、甘い声で囁きかける。
けれど、その声の印象とは裏腹に、白く冷たい手が背筋をそっと這うかのような、ぞっとするような悪寒がトビの全身を包み込む。
無数の幽かな囁きが這いずるように取り巻き、得体の知れない不快感が心の奥底ににじり寄ってくる。


「四葉。いつでも撤退できるように準備しとけ」
「トビさん、あの人と知り合い?」
「知らん。アビスじゃ銀鈴って名前も聞いたことがねえ。
 ……脱獄王のオレ様が、『あれの名前を知らない』んだ。意味、分かるよな?」

得体の知れなさを差し引いても、もっと単純に、その人間離れした容姿だけでも多少のウワサは流れてくるだろう。
人の口には戸が立てられない、それはアビスでも同じことだ。
娯楽の少ないアビスにおいて、囚人間で新入りや古参の収容者の情報は必ず漏れ出て広がるものだ。
口外が堅く禁じられている囚人であっても多少のウワサくらいは立つ。
昨日今日来た囚人でないのなら、例外はただ一つ。
目の前の女はアビスの奥底に封じられた災厄、『秘匿受刑囚』である。




615 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:17:00 1NUMGyEY0
「……ぁ」
宮本麻衣は、銀鈴の顔を認識できなかった。
黒いドレスを着て、銀糸のような髪をした、青白いヒトガタがいるとしか思えなかった。
顔を確かめようにも、なぜか目のピントが合わない。
月光に浮かび上がっているはずの魔貌は、モザイクのようにぼやけてしまう。
あまりに存在する世界が違いすぎると、本能が認識を拒むという。
麻衣は比較的平和な都市で育った。
政治家の汚職や暴力沙汰等はあれど、人の縁にも恵まれていた。
そんな彼女にとって、銀鈴という存在は、祠に封じられた悪霊のように、決して関わってはいけない存在だった。

なのに、怖いもの見たさというのだろうか。
恐ろしいものに惹かれ、好奇心のままに禁忌を侵す少年少女たちのように。
麻衣もまた、光すら吸い込むその闇黒に意識を吸い込まれていた。
彼女を拒みながりも、彼女に意識の大半を奪われ、ただ現実感を伴わない傍観に身を預けた。

「あら? 麻衣ったら、大事な兵隊さんを預かっているのに、目を離しちゃダメじゃない。
 うふふ、でも心配しないで。私がマイの代わりに、兵隊さんを優しく導いてあげる」

――名前なんて、教えていないのに、何故?
――そういえばアルファが名前を呼んでたっけ。
そのころから、ずっと銀鈴は麻衣たちを見つめていたのだと理解した。


〔きちきちきちきちきちきちきちきちきちきち……〕
〈ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ……〉
{かち、かち、かち……}
《……。 ……。 ……》
怯えて歯をガタガタ鳴らすかのように、眷属たちが羽や牙を撃ちつけ音を出す。
それは指揮権を勝手に『移譲』されたことへの言葉なき抗議のようにも思えた。
けれども、できるのはそれだけ。
絶対的な差を前にしては、虚しい抗議を繰り広げるのが精々だ。

「さあ、かわいいかわいい兵隊さん。
 こんなに素敵な舞台で戦えるあなたたちは幸せよ?
 あの誇りたかい煌びやかな騎士さんたちを、足元に組み敷いてあげましょう?」
天使の聖歌のように心地よい声色だった。
そして、その聖歌は麻衣の眷属たちの小さな脳に染み渡った。

――一片の鉄屑も残さずに敵を蹂躙せよ。
そんな命令が、彼らの脳を支配した。




616 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:17:30 1NUMGyEY0
スタンピードという現象がある。
命の危機を感じ取るほどの悪天候や、生育環境のストレス、捕食者の存在。
異常に触発され、集団が一斉に移動をし、その進路にあるものをなぎ倒して進撃する現象だ。
あるいは四葉の愛読する漫画本で例をあげるならば、ダンジョンの異常個体に触発されて、魔物が町にあふれ出る現象と定義づけることもできるだろう。

〔きちきちきちきちきちきちきちきちきちきち!〕
〈ぎぃ! ぎぃ! ぎぃ!〉
{かち! かち! かち!}
《……! ……! ……!》
狂乱のままに目の前の敵に襲い掛かる昆虫の群れ。
WEB小説原作の漫画本の世界にて頻発する、スタンピードに他ならない。


《……! ……! ……!》
我が身を捨てて斬り込んだマンティズが、長槍兵『ヘクトール』の左腕をそのカマで斬り飛ばし、
剣士『ランスロット』に左のカマを斬り落とされる。

{かち! かち!}
ネビュラがマンティズにトドメを刺そうとしていた『オジェ・ル・ダノワ』の胴に糸を巻き付け、絡めとって引き倒せば、
『ラ・イル』が空を斬る鋭い射撃でネビュラの眼の一つを潰す。

〔きちきちきちきちきちきちきちきちきちきち!〕
アルファが上空から鉄槌のように重い脚撃を『ラ・イル』に叩き込めば。

〈ぎぃぃ!〉
ギガンテスが重機のように地面を削りながら突き進み、四騎士をまとめて弾き飛ばす。


あくまで相手を追い払うことを主眼において戦っていた時とは違う。
勝利をつかむために、命を顧みない。
手加減という文字も撤退という言葉もない。
これは撤退戦ではなく、殲滅戦である。


「ナイトウ! なんか押されてねえか!?」
「いい、いいよ! この感覚、たまらない!」
トビの撤退準備をしろという忠告をしっかりと聞き遂げておきながら、四葉はますますギラギラと目を輝かせる。
そもそも、彼女は銀鈴に慄いていない。
得体の知れない存在の登場には確かに目を奪われはしたが、彼女は彼女にとっての正気を保ったまま、敢えて何も口を挟まなかった。
だって、そのほうがもっと面白くなりそうだったから。

色々と『お誘い』こそしたが、麻衣があまり乗り気でないことくらい、察しがつく。
そんなところに、戦況を一気に加速させる存在があらわれたのだ。


散らされる騎士たち。
群れて襲いかかるモンスター。
得体の知れない雰囲気をまとわせながら現れた敵の親玉。
理不尽に訪れるピンチは、英雄譚を彩る最高のスパイスである。

秘匿受刑囚がなんたるものぞ。
命がヒリつく感覚に、背筋がぞくぞくしてくる!
「さあ、ギアを上げるよ!
  鋼  人  合  体  !



617 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:17:53 1NUMGyEY0
膝をついていた『オジェ・ル・ダノワ』が光となり、四葉の元へと吸い込まれていく。
次の瞬間、そこに立っていたのは、視界の狭まるヘルム以外を装着し、完全武装していた四葉の姿であった。
騎士たちは全員、中身は空っぽのがらんどうだ。
見方を変えればそれは、武装として装着することができるということにほかならない。

ギガンテスが狂乱したようにその大角を振り回す。
人間の胴体よりも太い大角に打たれれば、人間の頭など木くずのように砕けてしまうだろう。
「あはっ、もっと派手にぶつかっておいでよ!
 遠慮なんていらない! 全部叩き潰してあげるからっ!」
昆虫界最強の鉄槌のような一撃を、四葉は巨大な武器を豪快に振り抜いて、地面に叩き落とした。

体格の大きさを覆す超人的な膂力を発揮する四葉。
脳の自認に肉体が引っ張られて変質していく現象は、ネイティブ世代ではよくあることだ。
騎士に囲まれ、安全な後方から指示するだけの子供が、樹魂に憧れるはずがない。
無銘と引き分け、友人のように言葉をかわすはずがない。

英雄に憧れ、戦士たちの背中を追ってきた四葉の肉体が脆弱なはずがない。


「さあ、ぜぇ〜んいん、ぶっ飛べええ!!」
巨大なハルバードを振り回して地面に叩きつければ、
その余波は地を這う蛇のようにうねりながら、裂け目を大地に刻み、黄色い土煙を舞い上がらせる。
風に揺れていた背丈の高い雑草を根ごと容赦なく引き抜き、風に散らす。
ネビュラの脚が二本千切れ飛び、アルファの鋼鉄の装甲を貫いて青い血が飛び散る。
角を地面に突き刺したまま地に伏しているギガンテスの巨躯ですらわずかに浮かび上がり、次の瞬間に地響きが巻き起こった。





618 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:18:53 1NUMGyEY0
「まあ、とても素敵だわナイトウ!
 鎧をまとって自分を奮い立たせているのね!
 人間さんって本当に興味深いわ!」
自分の指揮する兵が地面に沈まされているというのに、銀鈴は子供がはしゃぐように声を弾ませる。
彼女の前で繰り広げられる血みどろの乱戦と化した戦場は、呆けていた麻衣が正気を取り戻すには十分な刺激だった。

「…ぁ、……あ、……ああっ!」
眷属たちを呼び戻すことができない。
自分のネオスのはずなのに。
生まれた時からいる、自分の家族のはずなのに。

「戻れ! 戻って! みんな、戻ってよ!」
麻衣は必死で撤退命令を出すが、狂乱は止まらない。
四葉に狂戦士のように挑んでは、薙ぎ払われる。


「ねえ、麻衣。あなたの大事な兵隊さんはとても精強だと思うわ。
 けれどね、なんだか力を出し切れていないように見えたの」
得体の知れない力で麻衣の眷属を掌握した、顔のぼやけた人間のような何かが麻衣に語り掛けてくる。
メアリーが麻衣に自分を出すように必死で語り掛けるが、麻衣はその勇気が出なかった。
彼女まで正気を失ってしまうことが恐ろしかったから。

「私の国でも、兵隊さんたちは最初は力を出し切れなくてね。
 だから、私は兵隊さんたちを二つに分けて、戦わせてみたの。
 弱い兵隊さんなんて、いらないじゃない?
 だから、負けたほうには、罰を与えることにしたわ。
 最初は少しやりすぎちゃったけれど、きっと心が通じたのね。
 兵隊さんたちは、みるみるうちに強くなっていったわ」
言っている意味が理解できない。
今そんなことを話して、いったいなんだと言うのだろうか。
一刻一刻につき、眷属の青い血潮と赤い命の雫が混じり合い、四葉の白銀の鎧を染め上げていく。

「十回くらい繰り返したかしら。
 そのころには、一人一人がとても勇猛で果敢な兵隊さんに仕上がってくれたと思うわ」
麻衣に話しかけていた何かは、いつの間にか麻衣の隣を離れ、ふっと霞のように消えていた。
声を辿ると、地に伏していたギガンテスの巨体の隣を空中をスライドするように静かに移動していた。
ギガンテスの万を超える複眼に、闇に塗りつぶされたような眼孔と、妖しく艶めく笑みを浮かべた口元が映っていた。

「麻衣の兵隊さんには、きっと痛みと恐怖が足りなかったのね。
 負けてしまったら、自分がどれだけ恐ろしい目に遭うのかしら?
 そんな、震えるような想像をめぐらせるだけの経験が足りなかったんだと思うの。
 だから、ほら」
ゆったりと歩く銀鈴の隣で、白銀がきらめいた。
時間が止まったかのような静寂の中で、黒い何かがぼとりと鈍い音を立てて地に落ちた。

それは銀鈴の握るナイフが放つ鋭い輝きであり、それはギガンテスの触覚であった。
昆虫にとって、人間の手足にも似た大切な器官である。
それが僅かな乱れのない一閃で、無惨に斬り離されていた。

〈ぎぃぃぃぃぃ!!〉
ギガンテスの威嚇と悲鳴が入り混じった絶叫が、空間を震わす。
恐怖は眷属に伝播し、恐慌が理性と引き換えに諸刃の剣とも呼べる猛々しいエネルギーを生み出していた。

「こうするだけでみんな、とっても勇敢で強くなったでしょう?」
その光景を微笑を浮かべて眺めやりながら、銀鈴は平然と言い切った。

「……なんで?」
「え?」
「……なんで、そんなことができるんだい?」
必死で絞り出した疑問の声に対して、銀鈴は涼やかな声で言い放った。

「一人と二人で遊戯に興じているのなら、どちらに寄り添うべきかは決まっているでしょう?
 たった20の子を、二人で虐めるのは感心しないわ」
それで、これか。
ああ、こいつは本当に人間の心を理解しない、化け物だったんだ。
麻衣は心の底から、そう思った。





619 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:19:22 1NUMGyEY0
「さっきより速くなって!? うわ、うわわわわ……!」
アルファはますます縦横無尽に飛び回り、マンティズの刃はさらに速く鋭くなる。
ネビュラは糸を射出しながら、大牙で四葉の肉体を挟みちぎろうとする。
その獰猛さは手負いの獣さながらである。

四葉のまとう騎士は『オジェ・ル・ダノワ』のみであり、他の三体はいまだ場に健在であるが、現在、彼らは打ち捨てられているに等しい。
散発的な攻撃をおこなっては、眷属たちにはじき返されているだけだ。
これは単純に、四葉が指揮するだけの余裕が失われているのである。
四葉の完全制御下にある騎士たちは、麻衣の眷属と違って暴走することはないが、四葉の思惑を超えることはない。
いわばコントローラを眼前に四つ置いて四画面を同時操作するようなもの。
脳のリソースを他に割かれれば、たちまちにでくの坊となってしまう。
前方から、上方から、足元から、休む間もなく襲い来る攻撃に、四葉は防戦一方、じりじりと追い込まれていた。


さらに悪いことに、四葉と白兵戦を繰り広げる三体の眷属のその後ろ。
目を疑うような光景が展開されていた。
「あートビさんごめん、やっぱりヤバいかも」
「別に謝る必要はねえよ。無理やりにでもお前を引っ張って逃げなかったオレ様が悪い」

〈ぎ、ぎ、ぎ!〉
ギガンテスが地面に角を突き刺し、固い地盤を丸ごと持ち上げた。
先ほどまで地に伏していたとは思えないほどの膂力だ。
人間など一瞬にして押し潰してしまえるほどの、20メートル四方に及ぶ広大な土塊を、4桁トンを超えようかというそれを軽々と掲げ上げたのである。

三体の眷属がその身を引く。
次の瞬間、入れ替わりに向かってくるのは大地そのものであろう。
手をこまねいていれば、二人仲良く墓標の下だ。

「ナイトウ、合わせろ!」
「おっけ!」

トビがおこなったそれは、投石にすぎない。
石を拾い、体をひねって勢いをつけ、その力が頂点に達したところで石を手放す。
だが、超力によって極限を超えたしなりから放たれる投石は、超力社会のプロ野球選手並みのスピードに及ぶ。
ターゲットはギガンテスのもう一対の触覚だった。
残された感覚器官を震わされたその巨虫は身体の均衡を崩されて、彼はよろめくように身を傾けた。

四葉はその機を逃さない。
半ば打ち捨てられていた槍騎士『ヘクトール』を手早く起き上がらせると、騎士がギガンテスの側面から槍で以って腹部を突いた。

〈ぎぃぃ……〉
ギガンテスはバランスを崩し、他の三体を巻き込む形で土塊を地面に落としてしまう。
心を追い立てるような恐怖も滾るような戦意も、眷属たちからは感じ取れない。
だから、四葉は一瞬だけ緊張を解いた。

「ナイトウ、まだだ!」

気配も前触れも一切なかった。
四葉の視界の端、するりと空気のように入り込んできたのは、微笑を浮かべた不気味な暗い影と鋭く光る刃先であった。
ナイフは四葉の頸動脈を正確に射抜く軌道で迫りくる。

――間に合わない。
四葉はそう悟った。





620 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:20:24 1NUMGyEY0
銀鈴のネオスは、一定の範囲において、自分以外のネオスを無効化するものだ。
それだけでも破格だというのに、誕生日を迎えるごとに身体能力が倍加されていく。
生誕地固定という制約はあるし、
仮に銀鈴が本条清彦のファミリーになったとしても、ファミリーになってから効力を発揮するまでに一年かかるという取り回しの悪さもある。
それらを差し引いても破格のネオスである。

そんなネオスには、刑務作業に持ち込めないという欠点のほかにも、重大な欠点があった。
四歳の誕生日、ベッドから降りたようとしたときにベッドを破壊した。
五歳の誕生日、ベッドから降りたときに床板を踏み抜いた。
六歳の誕生日、目を覚ますとベッドが割れて床にクレーターができていた。
七歳の誕生日、目を覚ますと寝室の階下にいて、穴の開いた大理石の天井を見上げていた。

十年も経てば人間をまとめて塵芥のごとく鏖殺することすら可能なネオスは、代償として日常生活に致命的に向いていなかった。

仮に彼女よりもわずか十秒前、開闢の直前に誕生した『最後のオールド』、並木旅人が同じネオスを持っていたなら、
彼は喜んでこのネオスの破壊の側面を伸ばしただろう。
だが、銀鈴は開闢の直後に誕生した『始まりのネイティブ』だ。
新たに生まれ変わったこの世界が好きだ。
自らを新人類の始祖と自覚し、受け継いだ姓こそ捨てたものの、人間が好きなことだって変わりはない。
世界を己がままにしたいだけであって、世界を壊したいわけではないのだ。

故に彼女は力のコントロールを抑え、無用な破壊を伴わない方向へと進んだ。
歩行、睡眠、会話、食器の上げ下げ。
呼吸、気配の発露、心臓の鼓動。
ありとあらゆるアクションに対して、あらゆる場面で力をコントロールし続けた。
一日二十四時間、一年三百六十五日。
文字通り休む間もない鍛錬である。

刑務作業に参加している名だたる武術家たちが力を解き放つ方向へと肉体を磨き続けてきたのだとしたら、
銀鈴は力を抑える方向へと肉体を磨き続けた。
10歳でまわりに影響を与えないために力を1/1000にまで抑えられるようになった。
11歳でまわりに影響を与えないために力を1/2000にまで抑えられるようになった。
12歳でまわりに影響を与えないために力を1/4000にまで抑えられるようになった。
ネオスから解放された常人の肉体でこれをおこなえば、それは神業的な気配断ちと同義となる。
眼前の相手に一瞬の動作の予兆すらも感じさせない、幽鬼のような身のこなしとなる。
これが、美火の目から人形に例えられた異様な印象の理屈である。

そうでもなければ、仮にどれほど恐れおののいていたとしても、
15人もの超力者を一瞬で叩きのめせる実力者が、
何をされたのかも分からないままに失明させられることはないだろう。


おぞましい雰囲気に包まれているのに、害意も殺気も不自然なまでに出所をつかみ取れない。
肉体がそこにあるのに、心臓が動いているのかどうかすらわからない。
あらゆる所作に予備動作が一切ないため、動いたのだと認識したときには既に行動が終わっている。
そのくせ、存在を意識してしまえば、その深淵たる業の深さに引き寄せられ、魂を絡めとられるように意識がとらわれてしまう。
四葉のように第六感を絡めて、殺意や闘志を嗅ぎ分けながら戦う者や、
麻衣の眷属たちのように野生の勘を頼りに戦う存在にとっての大敵である。

だが、対峙する方法は皆無ではない。
要は直感を潔く手放して、徹底的に理詰めだけで動けばいいのだ。

銀鈴のナイフは四葉の柔肌をわずかに食い破り、刃を血に濡らしていた。
トビが銀鈴に突き付けた『ラ・イル』の矢は、その白磁のような肌をかすめ、あふれ出た紅い雫が矢先を静かに染め上げていた。




621 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:20:58 1NUMGyEY0
情報収集は脱獄の基本。
牢の立地、カメラの位置、看守たちのパーソナリティ、囚人たちの性質。
ありとあらゆる情報を集め、ただ一度の本番のために徹底的に備え上げるのが基本だ。
四葉が眷属たちを抑える裏で、トビはずっと銀鈴を分析していた。
深淵の縁に立って闇の底を覗き込むような慄然を恐ろしさに耐えつつ、底知れない不気味さの正体を探っていた。
おぼろげながらなんとか納得のいく対抗策をひねり出し、打ち出された先手に食らいついた。

「オレ様は小心者でね。
 オレ様の活躍に脳を焼かれた嫉妬深い野郎どもがどこから這い寄ってくるか、いつも背筋が凍る思いで目を光らせてる。
 ましてや、舞踏会で視線を独り占めするくらいのご令嬢が近寄ってきたとあっちゃ、無視するなんて選択肢は消えちまうわな」

巨大な脅威を退けたその瞬間、人の安堵にぬるりと入り込んで不意を突くというのは、脱獄においても使い古された手段だ。
銀鈴は決して姿の見えない透明人間ではない。見てから防御が間に合わないスピードではない。
分かっていれば、対処は間に合う。

「こんだけ濃密で危険な匂いを撒き散らしてるってのに、アンタの存在は霧みたいにつかみどころがねえ。
 第六感ってヤツさえ、かすりもしないらしい。
 それがアンタのネオスかい?」
「銀鈴。銀鈴と呼んでほしいわ」
「あ〜、悪かった。
 そいつが銀鈴嬢のネオスかい?」
その呼び名に一瞬だけ意表を突かれるも、銀鈴は微笑を湛えてトビの問いかけを否定する。

「人間さんは私の気に当てられただけでおかしくなっちゃったことがあるの。
 それは、私も退屈に感じちゃってね。
 だから、みんなと少しでも仲良くなれるように、そっと気配を抑える工夫をしてみたの。
 ね、これはネオスなんかじゃないわ。
 どうかな? 私、ちゃんとがんばってるでしょう?」
「そうかいそうかい、そいつは恐れ入ったよ」
いくつもの超常的な現象を起こしながら、銀鈴はネオスを一切使っていないと言い切る。
それが真実なら、秘匿受刑囚として監禁されるにふさわしい危険さだ。
飼い殺しにしていないでさっさと死刑にするべきだろうと、看守たちに抗議したい気持ちだった。

「私ね、実はネオスには少し縁が遠かったの。
 これまで、ネオスを操る人たちを目にする機会もほとんどなかったのよ。
 なのに今、こんな風に色とりどりのネオスに触れられるなんて、まるで素敵な贈り物じゃない?
 ナイトウをきゅっと追い詰めたら、次にはどんな可愛らしくて素敵なネオスの使い方を見せてくれるのかしら?
 そう思うと、なんだか胸が躍っちゃって」
銀鈴の語りに乗じて、四葉にナイフの切っ先から逃れるように目線を配らせる。
だが、銀鈴は言葉を紡ぎながらも、1ミリたりともナイフの切っ先を動かさない。
取り回しの悪いハルバードで超接近戦に移行するよりは、ナイフが頸動脈を切り裂くほうがはやいだろう。

「けれどね、少しはりきりすぎちゃったかもしれないわ。
 ふふふっ、それとも、トビだったかしら?
 次はトビが、私に素敵なネオスのお披露目をしてくれるの?」
「おいおい、人にモノを頼むときはまず自分からって聞いたことないか?
 オレ様のネオスは他人にタダで見せびらかすほど安くはねえ。
 どうしても見たいってんなら、まずは銀鈴嬢のネオスを教えてくれよ」
通常、こんなやりとりで命綱たるネオスを明かすはずがない。
だから、ダメ元の口八丁である。
だが、銀鈴はなんの躊躇もなく、その命綱を口にした。

「システムA」
「……なに?」
「私からネオスの一部を奪って作られた、忌々しい装置。
 これを壊すまでは、残念だけど見せてあげられないわ」
システムAがとある能力者の超力原理を研究したことで生み出されたのは囚人たちの間でも有名な話だ。
その大元が、目の前の女の超力だというのか。

だが、銀鈴の超力が本当にシステムAだというなら。
――これ以上の番狂わせは起こらない。

「そうか、システムAが銀鈴嬢のネオスなのかい。
 だったら、オレ様も約束通り、ネオスを見せねえとな。
 ま、派手にお披露目してやるから、しっかり見とけよ」
トビがそう宣言するや否や、銀鈴の目を、白い光が一瞬眩ませ、視界を奪った。




622 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:21:40 1NUMGyEY0
トビのネオスは『スラッガー』。
肉体のあらゆる部位を軟化させるネオスである。
だが、肉体の軟化で光を出すことなどできるはずもない。
それでは、何をしたのか?

トビが軟化させたのは、左手だ。
デジタルウォッチを装着している左手だ。
通常、左腕に装着しているデジタルウォッチを左手で操作することはできない。
だが、手首と指を過剰に折り曲げることができるのならば、ライトの操作くらいは容易い。


銀鈴が光に怯んだのは時間にして僅か0.1秒。
正しく一瞬としか言いようのない時間だ。
だがそれだけの時間があれば十分。

四葉が選択したのは逃亡でも攻撃でもなく、防御であった。
銀鈴は手刀でも貫手でもなく、ナイフを使っている。
もはや妖術としか言えない妙技の数々だが、本質的には華奢で非力なのだ。

ナイフと四葉の首の間に、0.1秒分の隙間が発生する。
展開した騎士を呼び戻すのでは間に合わない。
戻し、呼び出し、装着するの三手が必要だからだ。
だが、すでに装着している騎士、『オジェ・ル・ダノワ』のヘルムであれば、呼び出すだけの一手で済む。
遅れて追いついてきたナイフとヘルムとで金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響き、反動で銀鈴は手からナイフを取り落とした。

このタイミングでナイフを弾かれるのは想定外だったのだろう。
常に微笑を浮かべていた銀鈴が面白くなさそうに口を曲げ、これまで一度も抜かなかった銃を取り出したが……。

〈ごおおおおおおおおおっっ!!〉
「あらっ?」

銀鈴の後ろから、地響きとともに進撃してくる巨躯。倒れ伏していたギガンテスだ。
「残念ながら、宴もたけなわってところよ。
 今晩のうたげは、これでお開きだ」

トビの視線はライトと共に、銀鈴を通り過ぎてはるか後ろにまで到達していた。
そこにいたのは、体を起こしていたギガンテス。
カブトムシは夜行性だが、光に集まる習性がある。
脱獄ジャンキーとなる以前に男の子を経験したトビもまた、当然そのくらいの知識はある。
ギガンテスの体躯はブルドーザーのように重剛だが、トビのネオスであれば地面と肉体の間に隙間さえあれば、回避には十分だ。
だが、どうやら今回は、回避をする必要はないらしい。

麻衣の眷属たちに降りかかった恐慌は、圧倒的な恐怖と格の違いに起因するものだ。
自分たちとそう変わらない実力の小男が、その相手に一矢報いることができるのであれば。
そんな光景を見せつけられたのであれば。
恐怖は拭われ、かけられた魔法は解ける。
散々自分を弄んだ相手に一矢報いることができるのだ。


623 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:24:52 1NUMGyEY0

今のギガンテスのスピードは、人類の全速力よりもほんの少し遅い程度。
いかに巨躯といえど、人体を轢き潰すにはパワーが足りない。

「ねえ、兵隊さん? 私はブラックペンタゴンから離れるつもりはないのだけど……。戻ってくれないかしら?
 もしお願いを聞いてくれないのなら……ちょっとだけ心が痛むような、ひどいことをしなくちゃいけないわ」
銀鈴は向かってきたギガンテスの大角に対して、衝撃を殺して器用に掴まり、お願いと称してそっと囁く。
だが、ギガンテスはその誘惑に屈しない。
銀鈴を大角で掬いあげたあと、ひたすらにまっすぐ進撃を始めた。
その態度に失望を覚えた銀鈴は、静かにため息を漏らした。
手に握られているのは、彼女の容姿には似合わない、黒光りする鉄の筒だ。

ぱん。

ギガンテスの左目が潰れた。
ギガンテスは止まらない。

ぱん。

ギガンテスの触覚が潰れた。
ギガンテスは止まらない。

ぱん。

ギガンテスの右目が潰れた。
ギガンテスは止まらない。


麻衣から引き離すため。
ただその唯一の目的だけを瞳に焼き付け、他の何にも惑わされずに突き進む。
痛みを麻薬に変え、恐怖を陶酔の糧とし、腹に大穴が開こうが、感覚を奪われようが、
タフな肉体にモノを言わせて、決して止まらずまっすぐ突き進んでいく。
途中下車を許さない絶妙なスピードで、乗客をはるか遠くまで運んでいく。
はじめて銀鈴の顔が不快に歪むが、この巨大運送車は止まる気配がない。
ギガンテスはすでに意識を失い、命が零れ落ち、もうじき死ぬのだろうが、停止する気配は未だない。

「……少し、遊び過ぎたかしら?」
悩ましげにつぶやき、僅かに空を見上げると、バッタの眷属であるアルファが麻衣を抱えて跳躍し、戦場から離脱しているのが見えた。
銀鈴は月を見上げながら、しばらくの間、運命に身を任せることに決めた。




624 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:25:29 1NUMGyEY0
「ナメプされちゃったなあ。
 銀ちゃん絶対銃のほかにも色々持ってたでしょ。
 なのに、ナイフ一本しか使わせられなかったんじゃ、なんか負けた気分」
「殺されかけといてそんだけお気楽に話せるお前にゃ、素直に一目置かざるを得ないよ。
 あと、ありゃ銀ちゃんってガラじゃねえだろ。どこの酒場のオヤジだ」
「じゃ、銀様?」
「わぁった、わぁった、銀ちゃんでいいよ」

確かに銀鈴はギガンテスによって先の戦場から追放された。
だが、あれでくたばったと考える楽天家はアビスには一人もいないだろう。
対面すれば対策のしようがある技術も、闇に紛れて襲われてしまえばどうしようもない。
本人の性格柄、闇討ちをしないタイプにも思えるが、刑務終了までの22時間、いきなり遭遇する可能性があるのは始末が悪い。
麻衣陣営とも小競り合いどころではない死闘となり、当然恨まれているだろう。
当初の想定はだいぶ甘かったと言わざるを得ない。

「で、割と散々な目に遭った割には、トビさん嬉しそうじゃない」
「欲しかったものが手に入ったんだ。
 棚ぼたと偶然の産物なのは間違いないが、危険を冒した見返りは十分あったってことだな。
 欲を言えば、デイパックも欲しかったがねえ」
軽口を叩くトビが手で弄んでいるのは一本のナイフ。
銀鈴が取り落としたものを目ざとく拾った。
推定12人が争う激戦を生き延びた報酬がたった5Pのナイフというのは、一般的に割に合わない戦果だろう。
だが、トビにとっては値千金の前進だ。
この一本でできることの幅が大きく広がる。
口元をわずかに吊り上げながら、トビはブラックペンタゴンの門に手をかけた。




625 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:25:46 1NUMGyEY0
〔麻衣様、この度の大失態、本当に申し訳ございません〕
アルファの謝罪に、麻衣は無言を貫く。
ギガンテスの反応はない。
山岳地帯で麻衣は腰を下ろし、ブラックペンタゴンを冷えた目で見降ろしていた。

「謝罪はいい。いらない。
 ぬるい方針を取っていた私が悪かったんだ。
 ここはアビス。極悪人たちの坩堝だったね。
 その意味を、今ようやく理解したよ」


麻衣の住む地方都市は汚職などの不正はあったが、治安は比較的安定していた。
超力を気味悪がられることもあったが、同じくらいに家族や友人などの味方に恵まれていた。
いじめに遭ったこともあるが、眷属たちと共に退けたことで、心の傷を残すことはなかった。

彼女が収容されているのはアビスの中では比較的刑期の軽い犯罪者が集う平和なエリアだ。
殺人者など当たり前に存在するアビスにおいて、ヘタな挑発は命の危機に直結する。
だから、出所の可能性がある浅いエリアは秩序が保たれており、
優等生である彼女は、アビスにおいてすら他の囚人たちから強い恨みを買うこともなく、器用に日常を過ごしていた。
なまじ目立ち過ぎない程度に優秀だからこそ、彼女はこれまで悪意に強い耐性を持たずとも世を渡っていくことができた。
だが、それはこの環境において間違っていたのだろう。


麻衣の価値観は、アビスに収納されてなお、GPAによって秩序を保たれた日本国地方都市の一般的価値観だった。
ジャングルの中で毒虫に襲われた結果、警察に駆け込もうとするくらいにズレた価値観を保っていたのだ。

そもそもの話、最初に接触した際に、トビたちと麻衣はほぼ互いを同時に捉えていた。
隠形に優れるマンティズが彼らの姿をいち早く捉え、報告していたのだ。
だが、余計な刺激をしたくなかったがために、日和見の方針を取っていた。
その結果がこれだ。

眷属を一人失い、仲間は満身創痍。
健康なのは麻衣の最後の砦であるメアリー一匹のみ。
すべてが、自分の下した選択の結果である。


軽薄で醜悪な小男、トビ。
騎士気取りの異常者、四葉。
善意で悪意を振りまく蹂躙者、銀鈴。

三人を許すことはない。
トビと四葉の入っていったブラックペンタゴン。
山から見下ろせば、中央に近づく影が見える。

そして、アビスの悪意を理解した今なら、分かる。
銀鈴がどのような顔で眷属たちを使い潰していたのか、はっきりと思い出せる。

悪党の蔓延る絶海の孤島。
降り注ぐ月光の下、自身の心がこの島に蔓延る悪意に蝕まれていくのを、麻衣は底冷えのする眼差しで見つめていた。


626 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:26:39 1NUMGyEY0
【E-4/ブラックペンタゴン入り口/1日目・黎明】
【内藤 四葉】
[状態]:疲労(大)、各所に切り傷、打撲
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.気ままに殺し合いを楽しむ。恩赦も欲しい。
1.トビと連携して遊び相手を探す、または誘き出す。
2.ポイントで恩赦を狙いつつ、トビに必要な物資も出来るだけ確保。
3.もしトビさんが本当に脱獄できそうだったら、自分も乗っかろうかな。どうしよっかなぁ。
4.“無銘”さんや“大根おろし”さんとは絶対に戦わないとね!
5.あの鉄の騎士さん、もしも対立することがあったら戦いたいなぁ。
6.岩山の超力持ちさんかぁ、すっごく気になる!!出来たら戦いたい!!!(お目々キラキラ)
7.銀ちゃん、リベンジしたいけど戦いにくいからなんかキライ
※幼少期に大金卸 樹魂と会っているほか、世界を旅する中で無銘との交戦経験があります。
※ルーサー・キングの縄張りで揉めたことをきっかけに捕まっています。

【トビ・トンプソン】
[状態]:疲労(小)
[道具]:ナイフ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱獄。
1.ブラックペンタゴンを調査する
2.内藤 四葉と共闘。彼女の餌を探しつつ、護衛役を務めてもらう。
3.首輪解除の手立てを探す。そのために交換リストで物資を確保。
4.構造や仕組みを調べる為に、他の参加者の首輪を回収したい。
5.ジョニーとヘルメスをうまく利用して工学の超力を持つ“メカーニカ”との接触を図る。
6.銀鈴との再接触には最大限警戒
7.岩山の超力持ち(恐らくメアリー・エバンスだろうな)には最大限の警戒、オレ様の邪魔をするなら容赦はしない。
※他にも確保を見越している道具が交換リストにあるかもしれません。


627 : Lunatic Dominion ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:27:05 1NUMGyEY0
【E-6/山/1日目・黎明】
【宮本麻衣】
[状態]:疲労(大)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.殺し合いには乗らないが、襲ってくる相手には容赦しない
1.生き残れる道を探す
2.銀鈴、四葉、トビには復讐する。手段は選ばない。
3.あの男(無銘)は気になるが、深追いすると大変なことになるので今は避ける
{ネビュラ}:脚欠損、目を一つ欠損、全身に傷
〔アルファ〕:全身に傷
《マンティズ》:左鎌欠損、全身に傷
[メアリー]:健康
〈ギガンテス〉:死亡

【E-3/草原/1日目・黎明】
【銀鈴】
[状態]:疲労(中)
[道具]:グロック19(装弾数22/19)、デイパック(手榴弾×3、催涙弾×3、食料一食分)、黒いドレス
[恩赦P]:4pt
[方針]
基本.アビスの超力無効化装置を破壊する。
1.ギガンテスの足が止まるまで待つ
2.ブラックペンタゴンを目指す。
3.人間を可愛がる。その過程で、いろんな超力を見てみたい。

※今まで自国で殺した人物の名前を全て覚えています。もしかしたら参加者と関わりがある人物も含まれているかもしれません。
※サッズ・マルティンによる拷問を経験しています。
※名簿で受刑者の姓名はすべて確認しています。
※システムAに彼女の超力が使われていることが真実であるとは限りません。また、使われていた場合にも、彼女一人の超力であるとは限りません。


628 : ◆TApKvZWWCg :2025/03/01(土) 23:27:23 1NUMGyEY0
投下終了です


629 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 01:45:09 Vt00uxH20
投下乙です

>Lunatic Dominion
ガス抜きで殺し合いを命じる脱獄王がしっかり悪人、召喚系ネオス同士の対決は集団戦になるから楽しい
銀鈴ちゃんが現れた瞬間完全に空気が変わった、存在として次元が違う感がひしひしと伝わってくる、システムAの元はそうだったのか……企画主も知らない真実
誰もが飲まれる恐怖の存在に冷静に対処するトビがかっこよすぎるだろ、そもそもビビってない四葉もすき、鎧が着れるのは考えてみればそれはそう
麻衣ちゃんが一番まともな反応なんだけど、まともじゃアビスでやっていけるはずもなく、闇落ちもやむなしか


630 : ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:24:11 eFjwyYcA0
投下します


631 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:24:57 eFjwyYcA0


ーー神は公平だ、誰であろうと、試練を乗り越えれれば救われる資格はある。






アルヴド・グーラボーンの身に何が起こったか。
いやそれを説明する事象を簡潔に告げるならば。
狂信の巡礼者に襲われて、気を失った。ということだ。

夜上神一郎を先導させてついて行き、郎党を増やしながら生き残ることを優先とした途端のこれという。
凍てつく殺意、鋼の如き無感情。何より"マトモ"ではない。
かつてのアルヴドの同胞にも似たようなイカれた狂人がいたが、あれは志を同じくする者として話は通じたし、一仕事した後に一緒に酒とつまみを味わう程度には仲が良かった。
眼前のこれは、明らかに話を通じるような相手ではないのは明白だった。

迫るくる氷爆の嵐を前に、アルヴドは抵抗の間なく巻き込まれ、気を失った。
運がいいのか悪いのか、はたまた夜上神一郎の判断だったのか。
その結果、下半身だけが氷漬けになりアルヴドが気絶した後。

対峙するは巡礼者と狂信者。
狂気と狂信。
殺戮と審判。

ーー正常な人間に、この戦場に立つ資格など無い。


632 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:25:13 eFjwyYcA0





超力に目覚めたものには二つの種類がある。
一つは、己の超力に胡座をかき研鑽を怠ったもの。その手の類の超力犯罪者は雑多の羽虫の如くより上位のものに狩られていくのみである。
そしてもう一つは、超力のみに感けず己を鍛え続けるもの。そもそも、超力に依存しない戦闘能力に長ける者。
ジルドレイが今、応対する眼前の男ーー夜上神一郎は、後者の部類であった。

「ほう」

確実に仕留めるつもりで放った、直撃すれば爆発する手榴弾の役割も果たす氷槍を、まるで精密機械とも言うべき最低限の動作で避ける夜上に、ジルドレイは関心したような声が漏れた。
先に戦った殺人者は、超力で強化された肉体も含めての戦い方であり、それは間違いなく強者による戦い方。
そしてこの男は、力がない者の戦い方。
囚人服に傷を作りながらも、最低限の動作で攻撃を避け続ける。常時死と隣り合わせの綱渡りを一瞬の気も抜かずに行っているようなもの。まともな精神では数秒持たないはず。
この直後も氷釘による行き着く暇もない攻勢を繰り返しているが、白い息を吐かせながらも夜上に動揺はない。
彼女のような超力の補助なしでこうしているのだから、感嘆するのも当然というべきか。

「目がいい」

だが、夜上の本領は戦闘ではない。
その証左に、避けることは出来ても、反撃することは出来ていない。
閉じ込める氷壁も、仕留めるための氷撃も華麗に避ける男だが、その上でこのジルドレイへの反撃の手段はない。
銃やら何やら持っている素振りはしたが、実力差が離れすぎているため使用すること自体が自殺行為として使ってこないなだろう;
ならば持久戦に持ち込もう。疲弊させて狩人の如く弱った獲物を仕留めよう。
夜上が平原から森へと隠れる。ならばと指定された空間に寒冷を齎す。
森が冷え、樹木が凍える。
凍えた枝より氷柱が生え、意思を持って夜上を追う。
回避行動を誘発させ指定の位置に誘導し、氷壁を展開。
最後まで氷柱を避けきって無傷であった男は敢闘したほうだろう。
3つの氷壁に追い詰められた男の元へ、巡礼者ジルドレイは静かに迫った。
夜上に動揺はなく、ただジルドレイの目を見据えーー声を掛けた。

「その顔、見覚えはありますね。ーーその様子では騙るだけの別人でしょうか」

「ええ、この顔は我が聖女、ジャンヌの御顔を再現したものです。最も、再現することそのものに意味はありません」

夜上とてジャンヌの経歴や顛末は耳にしている。
そしてジャンヌの善行と謂れなき悪行を追い続け再現した模倣犯の話も。

「私はジャンヌになることではなく、この世界に、そして私自身に、ジャンヌの威光と存在を刻みつけること」

それは、聖女の輝きに焼かれたたった一人の凶行。
人間未満として生まれ落ちた破綻者を灼いた輝きに導かれる。
誘蛾灯に誘われた蛾のように。

「それが我が巡礼であり、唯一無二の彼女の元へとたどり着くための我が使命なのです」

狂気のままに、焼き付いた"それ"に導かれ、聖女と呼ばれた輝きの足取りを追う。
生まれながらに人の心の一部が欠落した彼が見出した救いの一つ。
それの善悪など関係はない。ただ光に導かれるがままに。
そう、巡礼者にとっての唯一無二の輝き、それこそがーー












「ーーお前の目は節穴か?」


633 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:26:35 eFjwyYcA0


巡礼者に、真っ向から意義を唱える声があった。
その狂気一つで生死が決まるその断崖で、夜上神一郎は笑っていた。
不敵?
錯乱?
現実逃避?
いや違う、彼は正気である。
正気のまま、不敵に笑っている。

「そんなものが唯一無二だなどと、笑わせる」

「どういう意味です?」

物腰の柔らかい雰囲気が、一変した。
内に秘めた本性は、こういうものだと。
正気と狂気、その薄皮の紙一重の上に。
夜上神一郎/神(カミ)がアビス送りになったその理由の一端が、そこに。
高圧的ながら、城壁に阻まれたかのように心の内が見えない。

「では逆に問う。貴様には、ジャンヌはどう見えた?」

「ーー何者にも、私にも手の届かぬ輝きです」

「ハッ。」

軽蔑にも似た失笑。
告解に来た咎人を嘲笑うかのような。

「そんな程度の光は、ただの俗物でも持ち合わせてるぞ」

「何?」

「他人に嫉妬する咎人は同じ言葉をほざく。それは己がそれになれないと理解しているからだ。そして、それこそ己すら見ていない」

神は知っている。神(おのれ)へ懺悔に来るものは、真に懺悔など望んでいない。
己の罪悪感を別の理由で覆い隠すための、自ら苦しみを忘れるための手段でしか無い。
他人を罵り正当化するために、自ら苦しみを背負うことを放棄する。
そのような愚劣を、神は何人も見てきた、そして何人も殺してきた。

神は知っている。嫉妬と崇拝は限りなく似ている。
自分はそうなりたい、でもそうなれない。
持たざるものが、何の努力もせずに自己の怠慢を言い訳に優れたものへ感情を向けているだけのこと。

「光に灼かれた? 巡礼だ?」

この狂人はジャンヌ・ストラスブールに灼かれた。
それは正しいだろう。
この男は元来から人間性の一部が欠如している。
感情を見せることはあれど、必要だからやっているだけの、まるで虫のような生態。
神眼(ネオス)は嘘を見抜く。だが神は、その真偽ですら見れぬ機微すら見抜く。

「お前はあの凡俗を特別と履き違え、それから目を逸らしただけだろう、野箆坊(ノーフェイス)」

「ーーーージャンヌが、凡俗ですと?」

間抜けたジルドレイの唖然とした声。
自らの特別を「凡俗」と断された、その衝撃。
感情が欠落したジルドレイが唯一心動かされるのはジャンヌ・ストラスブールに絡むことのみ。

「そうだ。お前はジャンヌの軌跡を辿っていたのだったな。彼女が人を殺せばお前は人を救い、彼女が殺戮を起こしたと思えばお前はそうしたのだろう。ーーただの普通の人間ではないか」

「ただの、人間? にん、げん?」

ジルドレイの中身が、崩れていく感覚。
自らが信仰した偶像が、誰とも知らぬ誰かにそのヴェールを引き剥がされていく感覚。

「善を行う、魔が差し悪を為す。それは人間として当然のことだ。善人が悪行を為すこともあれば、悪人が善行を為す事がある」

「最もジャンヌは、神(わたし)からしても見間違えること無き善人ではあるがな」と神が軽く付け加える。
ジャンヌという人間、神の評価からしても否定できない善性の持ち主である。
牧師の息のかかったメディアは彼女を大悪人と報道したが、神にそのような欺瞞は通用しない。


634 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:27:01 eFjwyYcA0

「喜び、怒り、哀しみ、喜ぶ。苦しみ、発狂することもある。それでも諦めないと立ち上がることもある。ーーそれは人間に出来る当然のことだ。貴様はそんな"当然"を特別としていたのか?」

「ーージャンヌは、違う……!」

反論した。
それに驚いたのは、当のジルドレイ本人。
自らの聖域に土足で入り込んだこの男に、反論せざる得なかった。

「何が違う? 彼女が仮に万能だとしても全能ではない。未来を予知することは出来ない、すべてを救うことは出来ない」

「ジャンヌは、我が光はそのような矮小で凡俗なものではない」

そのような物言いを、許せなかった。
ジルドレイが視た光は、誰にでもなれるようなものではない。
それだけは、許せなかった

「哀れだ。人はその気になれば、第二のジャンヌ・ストラスブールになぞ簡単になれるぞ?」

「ふざけるな……そんなはずがない……」

「簡単だ。只人はその一歩を踏み出すことで誰かになれる。善にも、悪にも。それと同じ理論だ」

神は、軽くあしらう。
人が変われないのは、その一歩を踏み出せないからだ
踏み出せたのならば、人は何かになれる。
それこそ、ジャンヌ・ストラスブールのような聖女にもなれる。
その一歩の難しさを、神は知っている。
その上で一歩を踏み出せる人間は"当然"のようにいる、と。

「そんな一歩程度で、そんなことで、理想になれるだと、ふざけるな」

「貴様が思ってるほど世界は狭くはない。英雄や外道になれずとも、己の所業に迷いながら一歩踏み出す程度なら、矮小な俗物ですら出来ることだ」

「その一歩すら踏み出せぬ者たちはどうする?」

感情をなくした男から、感情が垣間見える。
その口調こそ淡々としているものの、その顔面には青筋が浮かび上がっている。

「そうだな。それすら出来ぬものは己の神(こえ)すら耳を向けず逃げ出しただけの俗物以下だ」

狂人の反論に、何の微動だにせず神は切り捨てる。

「俗物どころか、咎人すら下回る。咎人ですらその弱さから一歩を踏み出すぞ。貴様も踏み出した側だろう」

一歩踏み出す。というのは簡単ではない。
だが、それにたりうる理由さえあれば人は善人にも悪人にも、狂者にもなれる。
救われぬ子供が明日に希望を持てるような世界を作りたくて、青い志のままにテロリストに身を投じた男のように。
自分だけが生き残ったが為に、誰かを助けずにはいられない希望の少女のように。
借金返済の為から始まり無自覚に罪を重ね続けた媚び諂う弱者のように。
世界の不自由さを自覚し、不自由から脱出するという欲に囚われた脱獄王のように。
少女の涙一つを理由に、その手を取った救国の聖女ジャンヌ・ストラスブールのように。


635 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:27:50 eFjwyYcA0

「貴様は、それと特別だなどと、思い込みたいだけだ」

「黙れ」

「己が見出したものが凡俗であったと認めたくないだけだ」

「……黙れ」

神から見た、ジルドレイ・モントランシーとは。
ありふれた理由から立ち上がっただけの少女を神聖視したいだけの。
そんな凡俗を特別なものと崇めたいだけの哀れな咎人に過ぎない。
人は理由さえあれば踏み出すことが出来る。
その理由が、環境であれ、人為的であれ、好運不運であれ。
己の神(こえ)を耳を傾け、決められるものの強さ。
それは俗人も咎人も変わらない。強いも弱いも変わらない。貧富も、環境の差も何の関係はない。

「そして貴様は、己の神(こえ)に耳を背けるどころか聞くことすら出来ず、そのような善性の俗人を特別なものだと勘違いしただけど、哀れな盲信者に、過ぎないのだ」

「だ、ま、黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!」

ーーこの日、ジルドレイは初めて『怒りの感情』を露わにした。
苛立ちは今までにもあった。それでも、このようなことにまで発展することは無かった。
それはジャンヌのことであろうとも、なぜならそう至る前に発言者をなぶり殺しにしたから。
自分がどれだけ矮小なものだろうとそれはどうでもいい。
ただ、ジャンヌをそんな程度のものだと見下されたことは、決して許さなかった。
己の見た輝きを、崇高を。
誰とも分からぬ誰かに矮小化されたその事実が許しがたかった。

世界が凍える。ジルドレイという男の初めての怒りに呼応し。
世界が冬に包まれる。
既に周囲の気温はマイナスを軽く突破している。
並の人間ならば凍えて動けない凍結の牢獄と化したこの森の中で。






「ーーは?」

ジルドレイの目に神はーーーいなかった。
視界が不安定。右側の視界が赤く染まっている。

「悔い改められない限り、貴様は止まったままだ、永遠に」

巡礼者の右目は、神の手刀によって抉り取られた。

「が、あ、あああああああああああああああああ!!!!!?」

氷に映り込んだ己の壊れた顔に、絶叫を上げる巡礼者。
それは痛みによるものではない、ジャンヌの御顔を取り返しのつかない所まで壊されたという事実に悲鳴を上げる。
右目は凍結させて処置したが、自らに刻みつけたジャンヌの顔は既に崩壊している。

「神(わたし)を見ろ」

神は、巡礼者を覗き込むように、そう告げる。
機能を失った右目に、光が見えた。

「ジャンヌ、ジャンヌ、どうか私にーーー!!!!」

それをジルドレイは希望だと信じた。
ジャンヌだと信じた。
そうだ、ジャンヌは特別だ。
何者にも穢せぬ、何者も及ばぬ、そういう存在だと。

「ジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌじゃーーーーー?」


























そこにあったは、夜上神一郎(カミサマ)の姿だった。
ジャンヌではなかった。

「何が見えた?」
「ーーー神、よ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーあ」


636 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:28:58 eFjwyYcA0

神がいた。
神が居た。
神様が居た。
神様が"在った"

後光を纏う、それは神だった。
神父服を着込んだそれは神様だった。
神などいない、それをジルドレイは最初から知っていた。
なのに、神様がそこにいた。
いた。
神がいた。
神様がいたのだ。
いないはずの神様が。
この世界の何処にもいないはず神様が。
神、神、神、神。神様、神様、神様、神様。


神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神
様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様

「あ、ああ」

神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様
神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神

「ああ、あああーーー!」


637 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:29:40 eFjwyYcA0
神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様
神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様


「ああああああああああああああああああああああああああああーーーー!!!!!!!」

巡礼者は、逃げた。
眼前の現実から目を背けるように。
己に映り込んでしまった"神様"を見たくないと。


638 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:30:15 eFjwyYcA0





『お前は、本当はこんな事しても世界は変わってくれないって知ってたんじぇねぇのか?』



『お前は、自分の弱さを神様だとかで責任転嫁してただけじゃねぇのか?』



『お前は、オレから逃げただけじゃねぇのか?』



『オレの声から、耳をそらすな』








「目が覚めたようですね」
「……コーイチローか。てっきりあのイカれの方かとビビっちまったぜ」

アルヴドが夢を見て目を覚ました時には、すべてが終わっていた。
凍結の残滓が残る森林が、何があったを語る証拠であった。
神一郎の囚人服は傷が目立ち、彼の右手には血の跡があった。
真っ先に脱落した自分の代わりに戦ってくれたのか?とアルウドは思った。
ほんの少しだけ、安堵し。口を開いた。

「夢を、見ちまった。俺と同じ顔したやつに、色々言われる夢だ」

夢の中で聞いた、自分の顔をした何かが自分へ問いかける声。
それは自分の中に燻る何かだったのか、それとも己の目を背けていた本心か。

「逃げただけじゃねぇのかって、他に責任転嫁してただけじゃねぇかって言われちまった」

子供の未来のために子供を犠牲にするという矛盾に、罪悪感を感じていないわけではない。
だからこそ、この神父のお眼鏡に掛かった側面もあっただろう。
それが後に繋がることだからと、愚直に妄信的に信じていた。
その末路が今だと繋がったのなら、自分はあの声に言い返す資格など無いのだろう。

「……悔しいが、俺は何も言えなかった。」
「それが聞こえたのならば、またそれが聞こえた時の為の向き合う準備をしておくべきでしょう」

その時の神一郎の声が、そことなく優しいものだった。
その時の神一郎の顔は、誇らしげに喜んでいたように見えた。

「勘違いすんじゃねぇ、俺はやっぱまだ神(クソカス)共のことは大嫌いだ」

が、アルウドが神一郎の事を信頼したわけではない。
神様は大嫌いだし、自分だけが生き残れる手段があればそれに縋るだけのこと。
だが、「まだ」と挟んでしまったのはどうしてなのか、それはアルウド自身にもわからないことだった。

「ところでよ、俺達を襲ってきたやつ、どうなったんだ?」
「ああ、あの咎人ですかーー」

そして気になったこと。
アルヴドが気を失った後、神一郎が襲撃者を追っ払ってくれたのは明らか。
だがあんなやつをどうやって追っ払ったのか、そこだけが気になっていた。


639 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:35:20 eFjwyYcA0


「あれは試練になりましたよ。そしてあの咎人自身も試練の最中です。救済の試練の機会は、誰にでも与えられるのですから」

この時、アルヴドは神一郎への評価を改めた。
この男は、自分にも救済の道を与えてくれるような底抜けのバカであることは変わりない。
神様どうこうは気に入らないし、信用もできっこないがその部分は安心出来ることには代わりはない。

「そのために罪のない子どもたちを犠牲にすることに何も思わなかったのですか」と神一郎が自分に尋ねていた事を思い出して、安堵と戦慄がアルヴドの中に改めて湧いた。
何かを思ったから、自分がそういう中途半端だったからこそ、彼はこの男に善人と思われたのだろう。
一線を越えれないまともだったから、自分はまだ生きていられたのだ。

あの狂ったヤツに対して、救済の試練の機会どうこうとか言った。
恐らく、この神父はあれ相手にほぼ言葉だけで追い払ったことになる。
その上で、神父は、化け物を試練へと仕立て上げた。
この男は、あまりにも「平等」が過ぎるのだ。
その優しさも、手厳しさも、その垣間見えた狂気も、全てをひっくるめたそれこそが、この男のーー

「安心してください。あなたが聞いた声は、必ずしもあなたのためになるものです」

そして、この神父は優しい言葉で、満面の笑みで告げてくれた。
その言葉に、その心に安心感を覚えてしまった。
間違いなく善意で発してくれたその言葉に、アルヴドはただ黙って頷くしか無かった。


※C-2の森林地帯がジルドレイの超力の影響で一部凍結し、冬の森と似たような状況になっています。時間が経てば溶けるでしょう。

【C-2/平原/1日目・深夜】
【夜上神一郎】
[状態]:健康、右手に返り血の痕
[道具]:デジタルウォッチ、ポケットガン(22口径、残弾1発)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.救われるべき者に救いを。救われざるべき者に死を。
1.なるべく多くの人と対話し審判を下す。
2.できれば恩赦を受けて、もう一度娑婆で審判を下したい。
3.目の前の彼については…もう少し様子見で。だが"声"が聞こえたのなら安心です。
4.あの巡礼者に試練は与えられ、あれは神の試練となりました。乗り越えられるかは試練を受けたもの次第ですね。誰であろうと。
※刑務官からの懺悔を聞く機会もあり色々と便宜を図ってもらっているようです。
ポケットガンの他にも何か持ち込めているかもしれません。

【アルヴド・グーラボーン】
[状態]:健康、精神安定
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.24時間生き延びられればなんでもいい。
1.コーイチローの言う通り、なるたけ徒党を組んでおいたほうが生き残りやすいかもな。
2.銃があれば一応戦えるんかね……?
3.超力って何なんだろな。ほとんど使ったことねえからわかんねんだよな…
4.もし、夢の中の俺自身とまた話するってことになったら、俺はそれにどう返せるのやら…
※神一郎の話術により神一郎をある程度信用できる人物と思っています。また、精神的にかなり安定しました。
※夢の中で聞こえた声が何なのかは後の書き手にお任せします。


640 : 神の試練 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:37:09 eFjwyYcA0





「見えない! 聞こえない! ジャンヌが、ジャンヌを感じられない!!」

かの輝きは『神』に塗りつぶされた。
走れど走れど、ジャンヌの姿は見えない。
神の姿しか見えない。
神しか幻視出来ない。
神様しかいない。

「消さなければ、消さなければぁぁぁっ!!!」

消さなければならない。神様を。
己からジャンヌを奪った神様の幻影を。
ジャンヌの輝きを凡俗へと貶めた神の幻想を。
否定しなければ否定しなければ否定しなければ。
そうでなければ今まで生き続けた意味がない。

「消えてくれない、あの神が、神の姿がぁ!!! 何故ぇ!!!!?」

それでも消えない。潰れた右目が、ずっと神様の姿しか映し出してくれない。
脳裏に焼き付いて離れない。消えてくれない。
認めたくなかった。あれが神であると。神様であると。

「殺さなければ、潰さなければ、全て、全て全て全て!!そうでなければ!!!」

どうするべきか。殺すしか無い。
あの男が俗人であろうと一歩踏み出せるならばジャンヌにもなれると言った。
認めない、認めてなるものか。
そんな俗物にジャンヌが同じとなることが。
ならば殺してやる、何もかもを。
ジャンヌを取り戻すために。
唯一無二たるジャンヌを取り戻すために!
すべてを皆殺し、全てを地獄に変え。たった一つの輝きを取り戻す
そうしなければならない。
そうでなければならない。
この脳髄に焼き付いた尊い神をーー

「……私は、今。尊いと? ジャンヌ以外、をーー?」

一瞬でも、そうと思ってしまった己の心に発狂しかけ、何とか収めようとする。
止まらない、止められない。この怒りを、この現実を。
ならば殺し尽くすしか無い。神の言葉を否定するために。
この沸き立つ力を、止まぬ憤怒と共に振るいて。
唯一無二はジャンヌのみ。そうでなければならない。そうじゃなければ。

「殺さなければ全て全て全て全て壊して壊して殺してジャンヌをジャンヌをジャンヌジャンヌジャンヌを取り戻さなければあはははははは、あははははははは!!!!!!!!」

ジャンヌを取り戻さなければ、全て殺し尽くしてジャンヌを取り戻さなければならない。
さらなる狂気に塗りつぶされて、巡礼者は厄災の一つと相成った。
神の試練が、一つ解き放たれた。
巡礼者は、これより氷獄(ヘル)を齎す猟犬(ガルム)として脅威の一つとならん。


【D–3/森の中/一日目・深夜】
【ジルドレイ・モントランシー】
[状態]: 右目喪失、怒りの感情、発狂、神の幻覚
[道具]: 無し
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本. ジャンヌジャンヌを取り戻すそのためにすべて殺す殺さなくては神が神が私の脳髄に尊き神が張り付いて来てくれないあああああああああ
1. 出逢った全てを惨たらしく殺す
※ジルドレイの脳内には神様の幻覚がずっと映り込んでいます。
※夜上神一郎によって『怒りの感情』を知りました。
※自身のアイデンティティが崩壊しかけ、発狂したことで超力が大幅強化された可能性があります。











神は善悪を区別する。救われるべき者に救いを。救われざるべき罪人に罰を。
だが、救済への試練に挑むものに善悪の区別は存在しない。
故に。


ーー神様は平等だ。乗り越えられなければ、たとえ善人でも殺す


641 : ◆2dNHP51a3Y :2025/03/02(日) 17:37:55 eFjwyYcA0
投下終了します


642 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 18:53:31 Vt00uxH20
投下乙です

>神の試練
神の自己啓発セミナー。善悪問わず試練を与えるのは平等な神ではある、まあこの神自体が邪悪な気もするが
精神攻撃は基本とは言え舌戦が強すぎる、しかも体術まで強いとかなんだこの神父
ジルくんが信仰のNTRみたいな事になってる……元から狂人だったけど、さらに深い狂気によって暴れ回る怪物になってしまった、神の試練を超えた所でいいことはなさそう

それでは私も投下します


643 : 祈りの奇跡 ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 18:55:31 Vt00uxH20
                        20XX年XX月XX日





    『超力の分析、および分類ついてのレポート』





















                    ■■■■■■研究所

                          ■■■ ■■


----------------------------------------


644 : 祈りの奇跡 ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 18:56:15 Vt00uxH20
1. はじめに

〜〜〜〜〜〜〜〜〜中略〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2. 対象に基づく分類
超力による干渉対象が「誰または何を対象としているか」によって、以下の四つに分類される。

2.1 自対象
 使用者自身の身体や精神に効果を及ぼす能力。自己改変型とも称される。
 身体能力の強化、自己再生、自己変身、身体変異による武器化などが該当。
 自対象超力は比較的制御しやすいという特徴がある反面、強力な変異系の能力であれば身体への負荷も大きく、身体や精神に恒常的な変化を及ぼすリスクも報告されている。

2.2 他対象
 使用者以外の人物や物質に対して効果を及ぼす能力。
 他者を回復・強化。物体を浮かせるテレキネシスなど。物質や現象を生み出す超力もこれに該当する。
 他対象への超力は、本人以外の存在や環境に多大な影響を与え得ため、能力者の倫理観や訓練の有無が大きく影響する分類でもある。

2.3 空間対象
 特定の範囲・空間そのものに効果を及ぼす能力。領域型とも称される。
 空間対象の超力は大規模な影響を持ちやすく、攻防いずれの用途でも非常に有用とされる。
 ただし、空間そのものを歪める性質上、他の超力との相性や干渉が複雑化する傾向がある。

2.4 概念対象
 物質的ではない対象や抽象概念に干渉する能力。
 時間停止、運命操作、記憶改変など、非常に稀だが超力のみを対象とする例も確認されている。
 こうした概念対象の超力はきわめて強力である一方、理論的な解明が進んでおらず、制御や対処が困難である。

複数の対象分類を有する超力も存在しており、安易な分類は難しい状態にある。


----------------------------------------


3. 発動条件に基づく分類
次に、超力の発動条件について、以下のように分類する。

3.1 任意発動
使用者の意思や意図的な動作によって任意に能力を発動できるもの。
このタイプはコントロールが容易な反面、意図しない状況(奇襲など)では発動のタイミングを逃す可能性がある。

3.2 条件発動
特定の状況や条件が揃ったときにのみ能力が発動するもの。
感情の昂りや一定の儀式やプロセス、特定の手順を踏まなければ発動しない。
条件発動は再現性が比較的高い一方、条件を満たすのが難しい場合には能力の安定使用が困難となる。

3.3 常時発動
使用者の意思とは無関係に常に能力が働いているもの。
常時発動型は制御の難易度が高く、能力者本人の生活や精神状態に大きな影響を与えることが多い。

対象と発動条件は様々な組み合わせが見られるが、最も希少なのは常時発動型の空間対象超力者である。
現時点で世界でも7例しか報告されておらず、その分析、解析の遅れはサンプルの少なさが原因と懸念される。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜中略〜〜〜〜〜〜〜〜〜


8. 領空間対象超力の衝突時に起きる現象について

ここでは、特に領域型とも称される空間対象の超力が互いに衝突した際に観測される現象について取り上げる。
領域型超力は、自分が展開した範囲そのものを操作・改変する性質を持つため、複数の領域が重なり合うと干渉が生じることがある。
代表的な現象は以下の三つに大別される。

8.1 強度の高い領域が一方を打ち消す
最も多く観測されるパターンで、言わば「強い方が勝つ」という自然淘汰的な結果である。
両者の超力に明確な強度差やエネルギー量の差がある場合、高い出力や強度を持つ方が他方を押し切り、その効果を打ち消してしまう。

8.2 互いの領域が干渉し合い、打ち消し合う
これは非常にまれなケースで、両者の出力や強度、方向性がよく似ている、あるいは対極をなす場合に起こる。
結果として、互いの干渉によって領域内の効果が中和され、両方の現象が消失することがある。

8.3 双方の領域が交じり合い、新しい現象を発生させる
一方の領域と他方の領域が融合し、互いの能力特性が混ざり合うことで、予期せぬ強化や変質を伴ったまったく新しい現象が出現する。
制御不能に陥る可能性が高く、大規模な災害を引き起こす場合もあるため、特に厳重な対処が求められる。最も危険なケースである。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜後略〜〜〜〜〜〜〜〜〜




645 : 祈りの奇跡 ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 18:58:04 Vt00uxH20
「うわぁ。何あれ……」

引いた様子で声を上げたのは、妙に姿勢の悪い褐色肌の女性だった。
囚人服の上からでもわかるメリハリのある体型をした彼女は整備屋メリリン・"メカーニカ"・ミリアン。
ブラックペンタゴンを目指していた彼女は目の前で巻き起こる光景に足を止めていた。

「嵐、のようね」

冷めた様子で、淡々と現状を告げるのはプラチナブロンドの少女だ。
耳にはピアス跡、目の下のクマが特徴的な彼女は殺し屋ジェーン・マッドハッター。
彼女の言葉通り、彼女たちの進行方向には文字通りの嵐が巻き起こっていた。

局地的すぎるその不自然さから明らかに自然現象ではない。
何者かの超力によるものだろう。
これほどの大規模超力、かなり強力な力を持った受刑者がいるのは間違いないだろう。
しかも、力の行使に躊躇いのない危険人物、出来れば避けて通りたいところである。

嵐が巻き起こっているのは川と山に挟まれ狭まった陸地の中心だ。
ブラックペンタゴンに向かうには避けて通るのは難しい。

「嵐の超力使いをアタシに倒してこい、とは言わないのね」
「言わないわよ。あぶないでしょそんなの」

当然のように言う。
メリリンは殺し屋としてのジェーンを求めているわけではない。
このまま突っ込んでいくような無謀な真似は出来ない。何としても回避すべきだろう。

「迂回しましょう。ルートを提案して」
「人任せね」
「まあまあ、お願いしますって先生。こういう立ち回りはあなたの方がプロでしょう?」

工房で機械弄りをしている整備屋と、現場で臨機応変な判断を求められる殺し屋ならば、こういう判断をするには後者の方が適任だろう。
はぁと面倒そうにため息をつきながらもジェーンは提案を始める。

「ここからだと迂回ルートは三つ」

デジタルウォッチから地図を起動し、指をさしながら説明を始める。

「まずは、北側の橋を渡って廃墟を突っ切り砂州を渡るルート。
 二つ目は、南側の岩山を迂回してぐるりと回っていくルートがあるわ」

そこまではメリリンでも地図を見ればわかる。
シンプルに危険な地点を避けて通れる道を通ろうと言う話だ。

「北の方は廃墟が危険ね、隠れられる場所も多いでしょうしそこを根城にしている輩がいてもおかしくはない」
「待ち伏せされる危険があるって事ね」

廃墟も気にならないでもないが、できるなら無用なリスクは避けたい。

「南の迂回ルートは単純にかなりの遠回りになる、下手をすれば最初の放送までに間に合わない可能性すらあるわね」

この位置から岩山を迂回してブラックペンタゴンに向かうとなるとほぼ島を半周するようなものだ。
急ぐ理由がある訳ではないが、刑務作業には制限時間はある。
早く着くに越したことはないだろう。

「なら、三つめは?」
「岩山を登って突っ切るルートね。距離的には最短よ」
「山越えかぁ……」

工房で機械弄りばかりしていたインドア派からすると、その言葉に対して面倒が勝つ。

「仮に山に転送された人間がいたとしても、普通は下山を目指すでしょうし、こんな状況で呑気に登山をしようなんて人間もそう居ないでしょう?
 常識的に考えれば他の参加者に出会う確率の低い、一番安全なルートのはずよ」
「常識的ねぇ、通用するかなぁ……? このアビスで」

常識なんて、この地の底でこれほど空しい言葉もない。
それはジェーンも理解しているのだろう、その言葉を否定はしない。

「それで、どうするの? まさか決断までアタシ任せなんてことはないわよね?」
「いやー。言うてますけど、ほぼ一択じゃないこれ?」




646 : 祈りの奇跡 ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 18:58:56 Vt00uxH20
つるりとした夜の岩山が、白い月光を跳ね返していた。
白い光は断崖を照らし、荒々しい輪郭を際立たせる。
その表面は冷たく硬く、まるで静寂そのものが形を得たかのようだった。
黒々とした影が谷間に沈み込み、周囲の気配を飲み込んでいる。

そんな景色に似つかわしくないほど美しい女が、険しい岩山の道なき道を登っていた。
清らかで可憐な修道女、ドミニカ・マリノフスキ。
厚き信仰心を持つ、敬虔な信徒である。

だが、今の彼女を包むのは修道服ではない。
身を包む青の囚人服が、彼女が罪を犯した受刑者であることを示していた。
それでもなお、修道女は敬虔にして清廉潔白。己が信仰に一片たりとも曇りはない。

険しい山肌を進む姿も、月光の下を滑るように優雅だった。汗ひとつかいていない。
それもそのはず、彼女の登山は足によるものではない。
ドミニカは己が超力によって生み出された重力場を用い、岩山の側面を登るように『落下』していた。

ふわりと、宙を落下していたドミニカの体が着地する。
遠方から目撃した激しい嵐の痕跡――そこに到達したのだ。
近づいてみれば、雨風の形跡だけでなく、戦闘の名残と思しき爪痕まで残っている。
どうやら、この場所で間違いないだろう。

しかし、さすがに到着が遅すぎたようだ。
辺りに人の気配はまったくない。ここにいた何者かは、既に立ち去ったらしい。

超力とは、神が人に与え賜れた力だ。
それ自体が神の奇跡であり、世界の一部である。
ドミニカの超力も、世に蔓延る悪や神の敵を殲滅するために授けられたものだった。

だが、侵してはならない領域がある。

この嵐は何者かの超力によって起こされたと見てまず間違いない。
自然の摂理を乱す超力は好ましくはないが、それが神から齎された力である以上、ある程度は受け入れねばならない――それがドミニカの考えだ。
ゆえに、この嵐を巻き起こした超力使いの信仰を問いただしておきたかった。
もし誤った信仰に基づく行いであれば、正さなければならない。
それがドミニカの使命なのだから。

雨の痕跡を辿れば、ある程度はその後を追えるかもしれない。
嵐の主を探すべく、ドミニカは再び自らの周囲に球体の重力場を発生させる。

彼女の体がわずかに浮かび上がった、その瞬間だった。
円球状に広がるドミニカの超力が、『何か』に触れたのを感じる。

その刹那、ドミニカの体が明後日の方向へと強烈に引っ張られた。
意図せぬ別方向へ落下を始め、まるで投げ飛ばされるようにぐるりと回転する。

「ッ……これはっ!?」

ドミニカの超力の先端が触れたモノ、それは新世界の端だった。

メアリー・エバンスの超力によって生み出されるドリーム・ランド。
拡大する領域型超力が、ドミニカの領域と衝突したのだ。

領域型超力の衝突。
そこで発生したのは最もありふれた現象だった。
一方の領域にもう一方が飲み込まれる、弱肉強食の自然淘汰。

そして、ドミニカの超力が、メアリーの超力に飲み込まれた。
重力場が制御を失い、意図しないベクトルがドミニカの体を振り回す。

メアリー・エバンスの超力強度は刑務作業の参加者はおろか、世界の中でも指折りだ。
ネイティブ世代においても、なお怪物と言える、己が日常生活すら完全に破壊してしまうほどの異端中の異端児である。
更に、そこへ並木旅人の超力狂化が加わっているのだ。
まともな領域型超力なら、一瞬で飲み込まれて終わりだろう。

己の超力が浸食されていく感覚。
それは、冷たい汚水を脳にゆっくりと流し込まれるような、不気味な寒さと不快感を伴うものだった。
しかし、ドミニカの胸を満たしたのは、その恐怖ではない。
むしろ、燃え上がるような激しい怒りがあった。

「この世界は神が創り給うたものッ!! 人の手で書き換えるなど、断じて許される行為ではないッッ!!」

超力同士が接触したことで、ドミニカは悟る。
これは、神によって創造された世界を否定する冒涜だ。
並木旅人の悪意によって捻じ曲げられたメアリーの超力は、世界を穢す以外の何ものでもない。
彼女の信仰からすれば、到底看過できる存在ではない。


647 : 祈りの奇跡 ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 19:00:04 Vt00uxH20
「――――――神の敵に誅罰を!」

『限りなき願いを以って 魔女に与える鉄槌を(マレウス・マレフィカールム)』
修道女の強き祈りに呼応するように、先端を食われかけていた真円の重力場が再び発生する。
先ほどよりも小さく、己が信仰を凝縮するように重力場を生み出す、調和を示す完全なる円。

だが、何度繰り返しても同じこと。
ドミニカの超力ではメアリーの超力強度に遠く及ばない。
強度が足りない領域は飲み込まれる――それが超力世界の厳然たる法則。

「ぐぐぐぎぎぎぃ…………っ!!!」

にもかかわらず、重力場は飲み込まれることなく夢の世界と拮抗していた。
血管が切れそうなほど顔を真っ赤に染め、口元に泡を浮かべながら噛み砕かん勢いで歯を食いしばるドミニカ。
圧倒的な強度差を、彼女はその信仰によって埋めようとしているのだ。

自分の超力が削られるたびに、新たな超力を力づくで継ぎ足す。
新世界に呑まれるごとに重力場のベクトルは暴走し、その中心にいるドミニカ自身をミキサーのようにかき乱す。
しかし、ドミニカは決して諦めない。祈りの言葉を刻むように捧げ続け、その鋼の信仰心で少女のワンダーランドを食い止める。

正しく、奇跡である。

だが、それはあまりにも苛烈で非情な奇跡だ。
眠り続ける少女の超力と、血管が切れる程の祈り。
ようやく互角、いや、ほんのわずかでも力を緩めれば一瞬で飲み込まれる地獄のような均衡だった。
重力場の球体の内部には、血を吐きそうなほど苦悶の表情で祈りを捧げる修道女の姿がある。

「…………神のっ、祈ぉりをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

どこの血管が切れたのか、ドミニカの鼻からは鮮血が噴き出していた。
それでも彼女は決してその祈りの手を止めない。
むしろより強く、己の命など惜しむに足りないとばかりに、神への祈りを捧げる。

拡大と増大を続ける少女の世界。
その外枠を、ドミニカの重力場が反発と暴走を繰り返しながら滑り落ちていく。
近づくことも離れることもできないまま、まるで暴れ馬で円環を回るメリーゴーランド。

黒々とした重力の球体は、周囲の岩山を削り、弾き、巻き込みながら狂ったように駆け回る。
そして、修道女の聖なる祈りはついに神に通じ、一瞬の“奇跡”が舞い降りた。

天秤の両端に乗せられた二つの超力が、この一瞬だけ、完全に拮抗する。

無重力の世界と重力場の世界。
対極の超力が干渉し合い、互いを中和するように打ち消し合う。
瞬間。二つの力は刹那的に相殺され、わずかに弾け飛んだ。

メアリーの側から見れば、拡大する世界の端が一時的に弾けただけの些事かもしれない。
だが、ドミニカにとっては重力場からの突然の解放である。

重力場による『落下』によって漆黒の球体の中心に浮かんでいたドミニカの体は、まるで引き絞ったゴムが解き放たれたように、夜の岩山の外壁へと吹き飛ばされた。

「ぉおおおおおおおおおおっっ!!?」

もはや無重力でも重力場でもなく。
正しき重力に従い、ドミニカの体は漆黒の夜に沈むように、岩山を下へ下へと落ちていくのだった。




648 : 祈りの奇跡 ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 19:00:42 Vt00uxH20
ごつごつとした岩壁を慎重に登っていたメリリンとジェーンの耳に、突然不気味な物音が響いた。
上の方から聞こえるその音は岩が崩れる音のようでもあり、人のうめき声のようでもあった。
ようとして判断がつかないまま、彼女たちは夜の山頂を見上げる。

「うわぁ。何あれ……」

引いた様子でメリリンが声を上げる。
そこにあったのは砂塵を巻き上げながら、ものすごい勢いで転がり落ちる人影だった。
それは夜闇と岩壁のコントラストの中でまるでぼやけているが、確かに女だと分かる輪郭を持っている。

小石が岩に弾ける激しい音、そして鈍い衝撃音が混ざり合って、耳障りなほど山間に響き渡る。
岩肌にぶつかりながら跳ね上がる女の身体が、砂礫を巻き込んで宙を舞う。
岩肌を跳ねながら転がり落ちてきた女は、運よく、あるいはとても悪く、岩地に引っかかるようにしてふたりの目の前で停止した。

「……………………」
「……………………」

ここにきて幾度の目かの困惑か。
しばらくは互いに言葉を失い、ただその信じがたい状況を見つめ合うだけだった。
冷たい夜気が岩壁を吹き抜け、砂粒がシャリリと音を立てる。
まるで時間が止まったかのような沈黙の中で、二人はゆっくりと息を吐き出す。

やがて、メリリンとジェーンは恐る恐ると言った様子で女に近寄った。
囚人服がぼろぼろのまま、あちこち血にまみれ、荒い呼吸を繰り返している。
どうやら山頂から転げ落ちてきた衝撃で意識は失っているようだが、見たところ即死ではなさそうだった。
乱れた髪と服のまま、闇の中でぐったりとうつ伏せになった女性の姿が月の光に薄く照らされる。

ジェーンは無言のまま、周囲の様子をうかがう。
女の落ちてきた山頂に何があるのか、女の容態よりも彼女が気にかけているのはそこだ。
山頂の様子は不気味な闇に覆われ、現代人の夜目をもってしても流石に見えない。

「えっと…………どうしよっか?」

困惑した様子でメリリンが問う。

「決断はそっちに任せるわ」

誘ったのはメリリンなのだから、決断はそちらがすべき――それがジェーンのスタンスらしい。
常にクールに振る舞うジェーンの態度に、メリリンは小さく息をつく。
メリリンは困り顔をしながらも、視線を女へ戻す。

「…………いやー。やっぱ、ほぼ一択じゃないこれ?」

【E-7/岩山中腹/1日目・黎明】

【ジェーン・マッドハッター】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.無事に刑務作業を終える
1.メリリンと行動を共にする

【メリリン・"メカーニカ"・ミリアン】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き延びる。出られる程度の恩赦は欲しい サリヤ・K・レストマンを終わらせる。
0.女をどうするか決める
1.サリヤの姿をした何者かを探す。見つけたらその時は……
2.ジェーンと共にブラックペンタゴンに向かう

【ドミニカ・マリノフスキ】
[状態]: 気絶、鼻血、全身に打撲と擦り傷
[道具]: デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本. 善き人を見定め、悪しき者を討ち、無神論者は確殺する。
1.ジャンヌ・ストラスブール、フレゼア・フランベルジュ、アンナ・アメリナの三人は必ず殺す
2.神の創造せし世界を改変せんとする悪意を許すまじ
※夜上神一郎とは独房に収監中に何度か語り合って信頼しています


649 : 祈りの奇跡 ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 19:00:52 Vt00uxH20
投下終了です


650 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/03/02(日) 22:21:20 dBUUy9SA0
投下します


651 : 幼魚と逆罰/Your dream.did it satisfy or terrify? ◆C0c4UtF0b6 :2025/03/02(日) 22:21:47 dBUUy9SA0
山を登る、疲労感?そんなの、今さら知ったことではない。

「メアリー、体を」
《任せて、麻衣》
麻衣の体を雌の大百足が自身の背中に乗せて岩山を這い登る。

《…一回休んだらどうなの?》
「…ごめん、私はもう止まる気はないの」
目に未だに燃えたぎる、漆黒の青い炎。
トビ・トンプソン、内藤四葉、銀鈴、新たに彼女の中に誓われた、復讐対象。
彼女が能動的に人殺し…ましてや手段を選ばない手に走ったのは、一年ぶりだろうか。
あの日、父と居場所を傷つけたものを拷問するために拉致の際に、彼らの護衛を殺しこそしなかったが、かなりひどく痛めつけた。

「…そもそも、彼奴等を倒そうにも…武器もない、みんなの傷も癒えていない…」
特に、彼女の中で大きく危険視していたのは銀鈴であった。
ギガンテスがまるで全ての障壁を壊さんとする列車の勢いで、命を懸けて彼女を果てへに連れ去ったが、もちろん死んではいないだろう。

何より、あの驚異的な戦闘力。
トビと四葉は、三匹が回復し、再び新たな陣形で挑みかかれば良い。
だが、銀鈴は正真正銘の怪物、まるで人の形をして歩く怪異や空想の化け物の類。
そして何より、彼らが震え、圧倒され、そして殺され、こんなの、小手先の策で倒せるはずがない。

なら、その新たな策を練るために、彼女は手段を選ばない。
これが、彼への供養だから。

「高いね、ここからなら、色々見下ろせるね」
ブラックペンタゴンから見て南東にある岩山。
険しい道のりだったが、メアリーの手助けのおかげで、なんとか頂上まで登り切ることが出来た。

とはいえ、未だ時刻は黎明の終わりを告げるには少し早い。
月が未だに彼女の緑髪を元気に照らすことができる。

「…夜目を照らしていかないとね、じゃあメアリー…メアリー…」
――あれ?
麻衣が覚えた感触はそれであった。
いや、メアリーが反応しないの違和感を感じたのは当然として――
「なんで私…下を向いたの?」
又越しから、本来後ろを向いて見るはずだった景色が見える。
メアリーがいない、彼女は自分を置いてどこかに行く様なことはしないはずなのに。

「もしかして超力が安定しない仕組みがこのあたりに…?仕方ない、もう一度…メアリーッ…!?」
出ない、それどころか、何故か本来しない手を挙げる動作なんてする気がなかったのに、してしまった。
麻衣は感づいた、これはヴァイスマンが入れた仕込みなんかじゃない、誰かの超力――

「降り…」
浮いた、彼女は浮いた。
間違えなく、そこは地球の重力が届く場所なのに、有り得もしない、息の吸える無重量空間が自身を包んだ。

(どうする…おそらくは領域…しかも範囲が広がっていってる…!この中に潜るしかないか…!)
麻衣は妥協して水泳のように無重量空間を動き回る。
小石が浮き、砂ぼこりも浮く。

(この程度なら…むしろ助かって…ッ!?)
その油断と同時に、ついに悪意が彼女に降り注ぎ始めた。
彼女を照らす月明かりが、空から発射されたレーザービームのように、彼女を焼き尽くそうとした。
これは動作が遅く、違和感も感じれたため、すぐに避けれた。
次に、小石がまるで跳弾のように暴れ狂って襲ってきた。
まるでディスコで踊る踊り子たちのように、物理法則に唾をどころから嘔吐物を吹っかけたような事象が麻衣に追撃が走る。

「防御ッ!?」
しようとした、けど何故か、受け止める体制に入ってしまった。
(最悪な時に…!)
幸い、小石は少なく、体に当たるだけで、目などには当たらず、致命傷には至らなかった。

「本当に…なんなんだ…超力の主は…は?」
呆気にとられる、ようやく新たな人影が現れた。
けど現れたのは、幼子、自分よりもはるかに年下の幼子。
「嘘…あの子がこの…超力の…」
無重量で何も感じさせずに、すやすやと眠る少女、まるで人を見下す神のように。
他に人影は現れない、彼女は思考を巡らせる。


652 : 幼魚と逆罰/Your dream.did it satisfy or terrify? ◆C0c4UtF0b6 :2025/03/02(日) 22:22:26 dBUUy9SA0
――別の人物が潜伏しているの可能性
――悪意の有無
――幼子を手に掛けるのか?
――手段は選ばないと
――冤罪で幼子を殺すのだけは
――銀鈴の例が――

数多の考えが脳裏を巡りだし、そんな中、少女手の中に握られたものを見る。
「首輪っ…!?」
やはり銀鈴のような存在か?だが、あの首輪、よく見るとポイントが回収されていない。

銀鈴は無数の武装をしていた、もちろんポイントの代物であろう。
となれば、普通に考えて、すでにポイントは回収するはずである。
ならば――彼女は。

「…あいつなんかとは、違うみたい」
彼女のもとに近づく、無重量であるためすぐ近づけた、首輪を自身のウォッチに当てる。

「…これだけ貰ってくね」
手段は選ばない、だが、どうせなら、殺す必要のない人を殺す必要はない。
それにこの超力なら自衛もできる。
あれも防衛反応か何かだろう、決して悪意のある物なんかじゃない。

「…それじゃあね…」
そう言って去ろうとしたその瞬間であった。

「…は?」
天変地異、そう言っても差し支えなかった。
大岩一つ一つが、浮き始めた。
それは、殺意なしと言うには、あまりにも暴力的であった。
岩が火山弾のようなものになる。
小石はメスのようなものに変わり、そして、彼女へ投げつけられるた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
落ち着け、先ほどの法則を思い出せ。
この空間は自身の意志と反対の行動をさせる。
それならば――

「はぁ…はぁ…」
火山弾も石のメスも、すべて避けきった、奇跡だろう、彼女は一瞬で仕組みを紐解き、一時凌ぎながら全てを避けきった。

「…やっぱり、"あいつ"と同じじゃないか」
やりすぎと言っても過言ではない殺意、故意としか思えない一撃。
本来、ここまでできることはメアリー・エバンズには無い。
天候やらなんやらが目まぐるしく変わることはあっても、あんな岩が火山弾になるわなんやらは、超力の範疇外であったはず。

『幻想介入/回帰令(システムハック/コールヘヴン)』

並木旅人の超力、彼が最後に行った、新人類への一つの復讐。
復讐鬼が受けた復讐、メアリーの超力を改変し、殺意全開へと変えた。

今の麻衣に残るのは、慈悲から移り変わった、殺意。
変わらない、銀鈴なんかと、裏切られたような感触が彼女を包んだ。
(…この位置から…マンティズの力で!)
負傷中でも、寝てる相手なら鎌一本で事足りるだろう
そして、憎悪を込めて、彼女叫ぶ。
「マンティズ!あいつを切り裂け!」
《任せろ、お嬢――》

麻衣の全身から、血が噴き出した。
目からも、口からも、全身の毛穴から。
(は…?何…これ?)
これもあれの超力だというのか、維持できない、マンティズが消える。

(なんで私は、敵も討てずに…このまま…)
新世界への鉄槌は、彼女が最初の犠牲者となった。
(嫌…だ…よ…パ…)
目覚めた復讐鬼が、短時間で消滅した。
彼女の記録は首輪のみ、並木同様、体が消える。

単に、風の前の塵と同じように。

【宮本麻衣 死亡】



「…ううっ…いたい」
こてっ、と、メアリーの頭と首輪がぶつかった。
彼女は気付いた、自身が先ほどの間手で握っていたあの首輪がなかった事。
それが、別のであるのに手でまた握ったこと。

その勘違いのまま、少女は眠っていく。
月明かりに気づき、まだ朝じゃないと再び気づく。

遠い昔の物語も、でんでん太鼓も無くとも、彼女は再び眠る。
少し、二度と起こされたことに少し拗ねて。

【F-6/岩山頂上/1日目・深夜】
【メアリー・エバンス】
[状態]:睡眠、少しご機嫌斜め
[道具]:『死』の首輪(未使用)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.不明
1.朝まで寝る
※『幻想介入/回帰令(システムハック/コールヘヴン)』の影響により『不思議で無垢な少女の世界(ドリーム・ランド)』が改変されました。
 より攻撃的な現象の発生する世界になりました。領域の範囲が拡大し続けています。
※麻衣の首輪を並木のものと勘違いして握っています


653 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/03/02(日) 22:22:44 dBUUy9SA0
投下終了です


654 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/02(日) 22:59:05 Vt00uxH20
投下乙です

>幼魚と逆罰/Your dream.did it satisfy or terrify?
麻衣が地獄を生き残ったと思ったら死んだ! 銀鈴の次にメアリー、災厄に次ぐ災厄に遭遇して運がなさすぎる
闇落ちしてもこっそり首輪をパクるに留まる麻衣。下手な理性が命取り、アビスは地獄だぜ
旅人による改変世界は動きやすくはなってるようだけど殺意全開で殺しに来る恐ろしや、誰が攻略できるのかこの幼女


一点修正頂きたい所があるのですが
状態表の時間帯が深夜になっていますが、麻衣は前話で黎明に達しているので、時間帯は黎明以降に修正するようお願いします


655 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/03/02(日) 23:03:57 dBUUy9SA0
>>654
了解しました
黎明に時間帯を訂正させていただきます


656 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/03/02(日) 23:05:45 dBUUy9SA0
>>655
修正版の時間帯の状態表を貼り忘れました…
大変失礼いたしました
修正版
【F-6/岩山頂上/1日目・黎明】


657 : 名無しさん :2025/03/02(日) 23:45:36 iWCx8zCA0
投下乙です。
「幼魚と逆罰〜」について確認なのですが、

①メアリーが所持しているのは『刑期20年の首輪』
②並木旅人の首輪の恩赦ポイントは麻衣が回収済

ということで宜しいでしょうか?
メアリーの道具欄が「『死』の首輪(未使用)」のままだったこと、作中で麻衣がポイントを回収したらしき描写があったものの状態表に記載がなかったので、念の為確認させていただきます。


658 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/03/03(月) 00:01:55 nUk4m9CQ0
>>657
はい、その解釈で間違いありません


659 : 名無しさん :2025/03/03(月) 00:03:51 ZTZFANvw0
>>658
回答ありがとうございます。


660 : ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:30:38 VM5hI3wM0
投下します。


661 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:31:26 VM5hI3wM0



 アイという娘は、きっと自分と同じなのだと。
 氷藤 叶苗は、短い関わりの中で悟った。
 自分よりもずっと幼い頃から、家族をみんな失って。
 独りぼっちのまま、歩き続けている。

 アビスに収監されて、日の浅い叶苗だったけれど。
 まだ小さなアイが収容されている意味について、以前から考えていた。
 そして、彼女が“問題児”として扱われていたことも。
 叶苗には、思うところがあった。

 これは、刑務生活の中で耳に入った話だった。
 アイはアビスに入るまで、飛行機が墜落したアフリカで生活していたらしくて。
 ずっと育ってきたアフリカに、帰りたいんじゃないかって。
 だから彼女は、いつも刑務所で暴れて壁を壊したりするんじゃないかって。
 アビスから抜け出して、元の場所に戻ろうとしているんじゃないかって。
 叶苗は、そんな話を聞いていた。

 アイが“深い森”を見つめる時の、寂しげな眼差しを見て。
 以前聞いたそんな話を、叶苗は思い返していた。
 あの噂は、もしかすると本当なのではないか。
 叶苗はそう考えながら、アイについて思いを巡らせていた。

 復讐だけが、自分の生きる道。
 帰る場所も、愛する人たちも、何処にもありはしない。
 孤独な道筋だけが、果てなく広がっている。

 ――殺してきた人達の顔は、今でも夢に出てくる。
 それでも、ケジメを付けるしかなかった。
 そうしないと、きっと何も報われないまま終わってしまうから。

 けれど、他に道があるとしたら。
 自分と同じような境遇を背負う子のために。
 この身を、この命を、使えるとしたら。
 少しは家族に、胸を張っていけるのだろうか。

 ――仄暗い静寂の中で、じっと息を潜めていた。
 木々の狭間。鬱蒼とした雑草。影が生む暗闇。
 そこは、深い森の奥底。
 叶苗は暗がりの中、野生動物のように身を沈める。
 植物の合間に身体を隠し、気配を悟られぬように沈黙していた。

 獣化した肉体による五感を凝らし、“視線の先”にある光景をじっと見つめる。
 距離にして数十メートルほど離れた地点。
 三人の男達が、何かを話し合っていた。

「アイちゃん、ごめんね」

 叶苗は、気配を悟られぬように小さな声で囁く。
 アイを腕の中に抱きしめて、その口元を優しく抑えていた。
 今はちょっと静かにしてね、と諭しながら。

 最初こそ抵抗しようとしていたアイだったが。
 叶苗と共に“三人の男達”を視界に収めた途端、彼女は急に大人しくなった。
 まるで天敵の獣を目の当たりにした野生動物のように。
 アイは瞳を震えさせて――――恐怖に慄いていた。
 叶苗の腕の中で、アイは緊張と動揺に震えている。

「大丈夫、私がいるから――」

 アイを小声で宥める叶苗。
 そうして彼女は、その場で身を潜め続ける。
 アイを恐怖させる存在――黒い肌を持つ“巨漢のマフィア”の言葉に、叶苗は耳を澄ませる。

 “三人の男達”が、何か交渉を行なっているのは明白だった。
 向こうも周囲の気配を警戒しているためか、その声量は決して大きくない。
 故に叶苗はその会話の内容を部分的にしか聞き取ることが出来なかったが。

 ――“ブラッドストーク”。

 彼らが言葉を交わす中で、その名が出てきたのだ。
 叶苗が追い続けてきた、家族の仇。
 その手掛かりとなるかもしれない情報に、耳を傾け続ける。

 第六感が、何かを告げている。
 ひりつくように、脳髄を刺激し続ける。
 しかし叶苗は、それを振り払い続けた。
 目の前に置かれた機会を、彼女は逃したくなかった。

 叶苗はただ、その場をじっと監視し続ける。
 己の復讐の道標を、男達の交渉の中から手繰り寄せようとする。
 そんな中で――腕の中で震えるアイを、ちらりと見た。
 彼女を救うための術について、ふっと考えていた。





662 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:32:13 VM5hI3wM0



 ルーサー・キングは、92歳の老人である。
 彼が残り4年の刑期を終える頃には、100歳の手前にまで届く。
 並の人間ならば、刑期中の耄碌や獄中死へと至っても不思議ではない。
 しかし彼自身も、周囲の者達さえも、その老齢を意に介したりはしない。

 “牧師”と直に対面した経験のある裏社会の人間ならば、誰もが口を揃えて言う。
 ――“あのルーサー・キングが、たかが齢百を超えた程度で老い耄れるとは思えない”。
 ――“最低でも2、30年は君臨し続けるだろう”。
 その悪辣なる牧師は、まさしく開闢の時代が生んだ“進化した人類”の象徴だった。

 カモッラの金庫番を担う“そのギャング”もまた。
 “牧師”の脅威というものを、身を持って知る者の一人だった。

「よぉ、マルティーニ坊や。久々の顔合わせじゃねえか」

 黎明――――深い森の中。
 対峙した相手を見据えて、不敵な笑みを浮かべるキング。

 彼の視線の先に立つのは、二人の男だった。
 片方は“アビスの申し子”である亡国の王子、エネリット・サンス・ハルトナ。
 もう片方は、バレッジ・ファミリーの幹部――ディビット・マルティーニ。

「……ああ。久しぶりだな、ジジイ」

 身構えるエネリットの傍から一歩踏み出し。
 悪辣なる牧師との再会を果たしたディビットは、毒付くように吐く。
 その端正な顔は、目の前の老人への敵意と警戒によって歪んでいる。

「隣に居るのは、“アビスの申し子”か?」
「……ええ。お目に掛かれて光栄です、牧師殿」
「顔を合わせるのは初めてだな。俺も刑務官から話を聞いた程度だった」 

 そしてキングは、ディビットの傍にいる青年にも目を向けた。
 生育過程からアビスで育ってきたエネリットは、ルーサー・キングの存在も既に知っていた。
 囚人や刑務官の話を通じて、彼が巨大組織の長であることも把握している。
 故にエネリットは、気品に満ちた一礼で応えた。
 そんな彼を一瞥した後、キングは再びディビットへと視線を戻す。

 ディビットもまた、エネリットに視線を送る。
 ――ここは自分が引き受けると、目で訴えた。
 ギャング同士の対峙であるが故に、ディビットが矢面へと立つ。
 エネリットはそれを察し、無言のままに受け止めた。

「“リカルド・バレッジ”の野郎は元気か」
「檻で身動きの取れないアンタよりはな」

 ファミリーの首領(ドン)の名を口にするキング。
 まるで旧友か何かについて尋ねるような白々しい態度に、ディビットは皮肉を込めて返答する。
 その不遜な態度に対し、キングは愉快そうに口の端を吊り上げる。
 “牧師”を前にしても決して臆さぬディビットの度胸を、彼は気に入っていた。

「思えば、バレッジともそれなりに長い付き合いになったもんだ。
 お互い“一介の首領”に過ぎなかったってのに、“開闢の日”で何もかも変わっちまった」

 そうしてキングは、何処か懐かしむように言う。
 リカルド・バレッジとの因縁を振り返りながら。

 バレッジ・ファミリー。
 稀代の悪漢リカルド・バレッジが統べる組織。
 イタリア裏社会を支配する最大勢力のカモッラ。

 キングス・デイの影響力が著しい欧州において、数少ない“独立した勢力を保ち続けている犯罪組織”である。
 勢力規模そのものは、キングス・デイに一歩も二歩も劣るものの。
 イタリアに盤石の地盤を築いたファミリーは、欧州を支配する彼らの侵食を防いだのだ。
 現在は牽制と取引によって、付かず離れずの利害関係を維持している。

「15年ほど前だったか……バレッジの野郎が差し向けてきた“凄腕”には手古摺らされたぜ。
 “あらゆる殺気を察知する超力”を持つヴァイザーとかいうドイツ人の殺し屋だ」
「昔話にでも興じる気か?ムショ暮らしで“牧師”も老いたようだな」
「積み重ねてきた年季の差って奴さ、若造。てめえにゃまだ難しいだろうがな」 

 そうした関係に至るまでに、バレッジ・ファミリーとキングス・デイの間には多くの確執があった。
 現在は表立った敵対や抗争こそ避けているものの、水面下での駆け引きは今なお続いている。


663 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:33:43 VM5hI3wM0

「で、その“牧師”ともあろう者が――随分と見窄らしい出で立ちで現れたもんだ。
 年甲斐もなく泥遊びの帰りか?それとも、錆びた鉄屑にでもなりたくなったか」
「ハッ、相変わらず生意気な口を利く小僧だ。
 だが、てめえのそういう気骨は嫌いじゃねえぜ」

 互いにふてぶてしく言葉を交わし合うギャング達。
 やがてキングは、そんなディビットを見据えて。

「折角の機会だ。ちょいと話がしたい」

 暫しの間を置いた後に、口を開いた。
 怪訝な表情を見せるディビットに対し、キングは言葉を続ける。


「“殺し”を引き受けないか」


 そうしてキングは、ディビット達に告げる。
 血で血を拭う命懸けの競争を求められる舞台で。
 牧師は普段通りに、何てこともなしに“殺しの依頼”を持ちかけた。

「名簿に目を通し、5人ほど標的を絞った。
 ヴァイスマンの指図はいけ好かねえが、機会は有効に使わせて貰うことにした」

 表情を歪めたディビット。
 意表を突かれるように目を見開くエネリット。
 二人からの視線を向けられながら、キングは淡々と語る。

「この島で24時間の内に5人も探し出して殺せ、と?」
「こんな状況だ、必ず全員消せとまでは言わねえさ。
 一人でも始末すれば、それに応じて刑務後に報酬を支払う」

 標的は5人――その言葉に疑念を投げるように、ディビットは問いかける。
 対してキングは、現実的な範囲での譲歩を伝える。
 全員の抹殺までは求めず、あくまで“可能な限りの遂行”を依頼した。
 故に一人でも殺害に成功すれば、その成果に対して報酬を与える。

「……何故バレッジ・ファミリーの俺にそんな話を?」
「商売という点で、てめえは信用できるからだ」

 睨み付けるようなディビットの眼差しに、キングはあくまで余裕を持った態度で答える。

「手っ取り早い暴力や狂気をこれ見よがしにひけらかす。
 今の時代、そんな下らねえことを“威厳”と勘違いした連中が腐るほどいる。
 それに対して、てめえは“力”ってモンをちゃんと理解してる」

 表情を顰め、憂うように呟くキング。
 彼が呟く“力”という言葉に対し、ディビットは己の見解について振り返る。
 それは未だ娑婆にいた頃、10年近く前――キングという男と初めて対面した時にも経験した問答だった。

「……“力”というのは、根を張ること。そして“仕組み”を掌握することだろう」
「そうだ。だから俺はてめえを買ってるんだぜ、マルティーニ」

 それを理解できる“優秀な男”だからこそ、自分はお前にビジネスを吹っ掛けているのだと。
 キングはそう告げるかのようにディビットを見据え、再び依頼の話へと戻っていく。

「報酬は一人につき15万ユーロ。すぐ動かせる額なんでな、安上がりだが大目に見てくれ。
 刑務後に俺の弁護士を通じて金銭を用意させる。てめえ個人の口座でも、ファミリーの口座でも対応する」

 “折半したいなら二人で好きなように相談し合うといい”と、キングは付け加える。
 そしてキングは立て続けに、依頼の条件を並べていく。

「それと――俺とリカルドが、フランスとの国境付近の“歓楽街”の利権で揉めてたろう。
 殺しの標的を3人以上仕留められた場合、その利権争いから手を引いてやる」

 その一言を聞いて、ディビットの表情が動いた。
 眉間の皺がぴくりと歪む。今にも舌打ちをしかねない程の苛立ちを滲ませる。
 それでもディビットは、あくまで形だけでも平静を装う。
 キングに対して過度な隙を見せることを極力回避する。


664 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:35:04 VM5hI3wM0

 この刑務をデスゲームと見做した場合、極めて特異な要素とは何なのか。
 それは必ずしも最後の一人になる必要がないこと、そして刑務自体が外部の社会と地続きに成り立っていることだ。

 “未知の異空間に閉じ込められ、正体不明の黒幕が殺し合いを言い渡した”――そんな作劇でお決まりの状況とは異なる。
 故に複数名の生存を前提にした取引が成立し、更には盤外における自らの地盤を手札として用いることが出来る。

 そして受刑者達は、刑期に応じた恩赦ポイントが割り振られている。
 故に凶悪犯ほどポイントが高く、他の受刑者からも狙われやすくなる。
 しかし――刑期はあくまで刑期。その受刑者の実力を示すステータスでは決して無い。

 つまり“刑期の短い圧倒的な実力者”が存在する場合、わざわざその受刑者を狙いに行く旨味は格段に落ちる。
 とうの本人からすれば、それは自らの身を守る強力な盾となりうるのだ。

 ルーサー・キングは、それらの強みを理解していた。
 だからこそ彼は、それを躊躇なく利用した。
 その実力に対し、刑期はたったの10年。
 下手に狙われにくいからこそ、地盤を利用して自分の方から悠々と攻勢に出られるのだ。

「依頼遂行の確認時刻と合流場所は承諾時に追って伝える。
 証拠はデジタルウォッチの“回収履歴”で検めさせて貰う。恩赦ポイントはてめえらで好きに使うといい。
 可能ならば首輪の現物も回収しておいてくれ。形ある証も出来れば欲しいんでね」

 デジタルウォッチには、ポイントの増減を確認する“履歴機能”が存在する。
 どの受刑者の首輪からポイントを回収したのか、後から閲覧することが出来るのである。
 首輪の現物も念の為として求めたのは、首輪には装着者を識別する名前と囚人番号が刻まれている為だった。
 キングは殺しの証としてポイント回収の履歴確認を条件とし、可能ならば首輪の用意も求めた。

 ――逆を言えば“それ以上の証拠は求めない、大目に見てやる”という話だった。
 つまり直接手を下さずに首輪を奪い取るという行為でも、キングは依頼達成を認めることになる。

 それは意図的な抜け道を与えることで、相手に自身の要求を飲ませ易くするためだった。
 ルーサー・キングには余裕がある。この依頼が失敗したとしても、彼自身には大した痛手がない。
 しかし依頼が遂行されたならば、刑務という題目によって面倒な相手を排除できることになる。

 キングという男は、富と権力を欲しいがままにする大悪漢だ。
 多少の出費程度であれば、悠々と許容できるだけの懐が存在する。

「報酬が正しく支払われる確証は」

 では、依頼遂行後に“報酬”が支払われる証はあるのか。
 目を細めて、ディビットは問い質す。

「俺が生き延びることだ」

 対するキングは、至極当然の如くそう言い放った。
 あまりにも不遜。あまりにも傲岸。
 にも関わらず、その言葉には異様な説得力が伴っていた。
 ――己はこの刑務から生還する。故に取引の話は有耶無耶になどしないし、約束は当然守る。
 そう言わんばかりに、彼は答えたのだ。

「それと」

 更にキングは、付け加えるように言葉を続ける。

「てめえの超力が既に証明してるだろう。
 この俺はハッタリなど言ってねえ、と」

 ――ディビットの思考を見抜くように、キングはそう突きつけた。
 それはまさしく図星だった。彼は自らの超力を用いて、既に“洞察力”を4倍まで引き上げていた。
 その代償として聴力の低下が発生しているものの、取引を行うには十分な域は保てている。

 ディビットは倍加した洞察力によって、キングの所作を監視していた。
 相手の言葉に嘘偽りは無いか。僅かな機敏から、欺瞞の痕跡が見え隠れしていないか。
 彼はそうやって取引相手を観察し、虚偽を見抜くことが出来た。

 そしてディビットは読み解く。
 キングの言葉には、嘘もハッタリも無かった。
 彼は本気でこの取引を持ち掛け、成功の暁には報酬を支払う気でいる。

 バレッジ・ファミリーとの因縁を持つキングは、ディビットの超力も既に把握している。
 彼の優秀さを逆に利用することで、自らの言葉の説得力を担保させたのだ。


665 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:36:17 VM5hI3wM0

「……なら聞かせろ。その5人ってのは誰だ」

 ディビットは不服な表情で、キングへと問い掛ける。
 現状に対する判断を進めるべく、その依頼についての詳細を紐解いていく。
 キングは勘定を続けるように、自らが洗い出した“標的”について説明する。

「1人目は“怪盗ヘルメス”、ルメス=ヘインヴェラート」

 かの“怪盗”による盗み――義賊行為は、キングス・デイの傘下にも被害を与えている。
 そして彼女が何かしらの大きなヤマを掴んでいるという噂をキングは把握していた。
 それがGPAを揺さぶるネタになるのならまだしも、余計な火種が生まれるリスクの方が厄介だと判断した。
 あのような鼠を生かしておくことは、キングにとって後々の面倒事に繋がりかねない。

「2人目は『アイアンハート』のリーダー、ネイ・ローマン。てめえも知ってるだろう」

 ルーサー・キングの首を獲りたがってるであろう若きストリートギャング。
 その青年は、キングの傘下が面倒を見ている『イースターズ』とも抗争している。
 キングにとっては取るに足らない野良犬だが、十中八九相手側もこの場で命を狙ってくるだろう。
 故にここで潰しておくのが懸命と判断した。

 ――何故スプリング・ローズの一味は、イエス・キリストの復活祭を意味する“イースター”を名乗っているのか。
 彼女が率いるストリートギャングの後ろ盾となってその組織名を与えたのは、“牧師”の傘下として麻薬売買を仕切るマフィアだったからだ。

 表向きは“春の薔薇”という名を持つスプリング・ローズに因み、春の祝祭を意味する名として。
 実態としては、彼女達が“牧師”の支配下に置かれている証として。
 それ故に彼女達は『イースターズ』という名を冠している。

「3人目、“フランスの聖女”ことジャンヌ・ストラスブール」

 この刑務において真っ先に交戦した相手。
 そして反抗勢力と共に、キングの巨大犯罪組織と戦い続けてきた聖女。
 既に手は打ったが、ドン・エルグランドが必ずしも義理を果たすとは限らない。
 だからこそ念を入れて、標的としてその名を並べた。

「4人目は、ブラッドストークとかいう野郎だ。
 名は確か、恵波 流都だったな」

 その名を聞き、ディビットは意外そうに目を細める。
 ブラッドストーク。日本における犯罪組織の幹部であり、その悪名は裏社会を通じてディビットの耳にも届いている。
 しかし彼は欧州との関わりは薄く、キングス・デイと表立って敵対している訳でもない。

「……あの男か。あんたとは関わりも薄いだろう」
「あいつは腹に何か抱えてやがる」

 故にディビットは疑問を投げかける。
 キングは眉間に皺を寄せ、仏頂面でそう答えた。
 まるで“アレを生かせば面倒になる”と見抜いたかのように。

「小賢しい蝙蝠は、消すに限るのさ」

 そうしてキングは、丁度いい機会と言わんばかりの笑みを浮かべた。
 そんな彼を、ディビットは変わらず忌々しげに見つめる。

「そして、最後の5人目」

 それからキングは、一呼吸の間を置き。

「――――エンダ・Y・カクレヤマ」

 その名を、ゆっくりと呟く。
 ヤマオリ・カルトの“最大組織”。
 その聖なる巫女として崇められた少女。

 世界各国にて乱立し、既存の宗教を淘汰する勢いで成長した“新興宗教”。
 それほどまでの影響力を持つヤマオリの中でも屈指の大規模組織を、欧州の支配者が把握していない筈が無かった。
 そしてその“飾り巫女”として崇められていた少女の名も、彼は知っていた。


666 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:38:18 VM5hI3wM0

 刑務開始時に名簿を確認した際、キングは少なからず驚かされた。
 何故ならば――エンダがアビスに投獄されていたという情報は、これまで一切耳に入ってこなかったからだ。

 アビスの囚人の中でも世界規模の危険度を持ち、その存在を徹底的に秘匿されているという『秘匿受刑者』。
 その存在はキングも噂には聞いていたが、彼であっても全貌を掴むことが出来なかった。
 故にエンダがアビスに投獄されていたことも、今回の刑務によって初めて把握したのだ。

 ヤマオリ・カルトは千差万別。
 小規模の寄り合いに過ぎない場合もあれば、大規模なテロ集団に等しい破壊的組織を形成することもある。
 かの最大勢力の支柱であった巫女が外界へと解き放たれれば、また“あの規模”のヤマオリ・カルトが生まれる危険性がある。
 ルーサー・キングにとっては、5人の標的の中でもある意味で最も警戒すべき存在だった。

「この5人以外にも目ぼしい奴を殺した場合、合流の際に好きに報告してくれ。
 相手によっちゃ追加の報酬をくれてやる」

 そうしてキングは、補足するように付け加える。
 例え他の相手を仕留めた場合でも、その人物次第では更なる報酬も視野に入れる。
 悪辣なる牧師は、ヒットマンへの更なる行動を促す条件を伝える。 

「前払金は、俺の超力で生み出した武器の提供」

 キングは右手をすっと動かし――その掌に鋼鉄を生成。
 それから瞬時に鋼鉄を変形させ、刀剣や鈍器の形状へと次々に変えてみせる。
 ルーサー・キングの超力。キングス・デイの超力による武装化を逸早く成立させた、伝家の宝刀と呼べる異能。
 ディビット達にそれを改めて示した後、鋼鉄を一旦消滅させる。

 それから、キングは懐のポケットに手を伸ばし。
 ある意味でディビットが最も求めるであろう“前金”を突きつけた。

「そして、この葉巻さ。禁煙生活は長かったろう?」

 ディビットは沈黙の中で、苛立ちを滲ませていた。
 これ見よがしに見せつけられた“葉巻”を前に、彼は屈辱を押し殺すように奥歯を噛み締める。
 ルーサー・キングが盤外の力関係を持ち出したことで、場の主導権を完全に支配された。

 5人の受刑者の殺害依頼。
 怪盗、ルメス=ヘインヴェラート。
 悪童、ネイ・ローマン。
 聖女、ジャンヌ・ストラスブール。
 暗躍者、恵波流都。
 巫女、エンダ・Y・カクレヤマ。

 1人の殺害達成につき15万ユーロの報酬。
 3人以上の殺害でイタリア・フランス国境付近の“歓楽街”の利権譲渡。
 この標的以外にも目ぼしい対象を殺害した場合、追加の報酬も視野に入れる。

 殺害の証拠はデジタルウォッチの“ポイント履歴”、および首輪現物の確認による。
 逆を言えば、それ以上の証は求めない。あくまで働きの証明に報酬を与える。
 恩赦ポイントはディビットとエネリットで自由に使用可能。
 事前の前払金として、武器と葉巻の提供が約束される。


「――――さあ、答えを聞こうか」


 そして、圧を与えるように。
 ルーサー・キングは、不敵な笑みと共に告げた。

 ディビットは考える――取引自体は、間違いなく利益に値する。
 ヴァイスマンの言う“恩赦”は、決して確信できない。
 しかしキングは対価を滞りなく支払うことを、嘘偽りなく約束している。
 仮にこの依頼が成功した場合、キングの側こそ多くを支払うことになる。
 失敗したとしても、ディビットの側は何ら代償を約束されていない。
 
 キングとて依頼が未遂に終わったとしても、ゼロがゼロのまま留まるだけ。
 事態がマイナスへと転じるような痛手を負う訳ではない。
 余計な敵を増やすリスクはあるとはいえ、キングは元より多数の者達から命を狙われている。
 そんな有象無象が増えたところで、彼は意にも介さない。

 その上でディビットは、躊躇っていた。
 この取引に乗ることに対し、踏み留まっていた。
 何故ならばこのカモッラの幹部は、眼の前の老人と取引することの意味を理解していたからだ。


 ルーサー・キングと取引をする。
 つまり“あの”牧師と、貸し借りを作るのだ。


.


667 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:40:04 VM5hI3wM0

 ――――どうする。
 ディビットは、苛立ちの中で思考を繰り返す。

 始まりは穏便に済んだとしても、問題はその後だ。
 この男は“貸し借り”や“恩義”などを口実に、多くの者達を自らの懐に引きずり込んできた。
 表向きは好意的な利害関係を結びながら、自らの権威によって相手を侵食し支配する。
 この老人のそうした手口を、ディビットは知らない筈がなかった。

 故にどれだけ優位な条件の取引であったとしても、警戒を抱かぬ筈がない。
 エネリットと結んだ“対等の契約関係”とは違う。
 パワーバランスという意味で、相手側が優位に立っているのだ。
 それでも彼が葛藤せざるを得なかったのは、“フランス国境付近の歓楽街”の利権争いが膠着状態に陥っていたからだ。

 治安悪化の著しい欧州において、その都市は富裕層が集う”安全な保養地”である。
 かつては観光地だった時代の名残として、数々の上流階級が避難先として居座っている。
 その土地は金を生む。故にバレッジの首領(ドン)は紛れもなく商売の利権を欲していた。
 そしてキングは、たかが数人程度の殺しでその利権争いから手を引くと言っているのだ。

 ルーサー・キングの強さとは何なのか。
 それはリソースに圧倒的な余裕があることだ。
 彼の地盤は既に盤石であるからこそ、多少の利益も切り捨てられる。
 そして切り捨てた利益を、交渉の手札として利用することが出来る。

 バレッジ・ファミリーとてイタリア一帯を支配する大組織である。
 しかし欧州の大半を掌握するキングス・デイと比べれば、確固たる地力の差があるのだ。

 此処でディビットが受け入れれば即席の武器を確保でき、成果次第では明確な利益を得られる。
 合理性という点で、それ自体は得なのだ。
 されど“あのキングとの取引を飲む”という判断自体が予測不能なリスクを生む。
 仮に24時間を生き抜いたとして、その後に“刑務でのよしみ”を口実に如何なる要求を吹っ掛けてきても不思議ではない。

 そうして相手を自らの懐に引きずり込めれば良し。
 仮に相手が反発するなら、面子や義理への裏切りを口実にして潰しに掛かる。
 それがルーサー・キングという男だ。
 この牧師は、根っからのヤクザだ。

 今の彼は、自らの超力によって頭脳を四倍に引き上げている。
 その思考が導き出す答えは“取引を受け入れるべきではない”。
 だが、本当にそれで正しいのか。
 博打を受け入れてでも、組のための利益を掴み取るべきではないのか。

 葛藤と焦燥の狭間で、彼は歯軋りをする。
 カモッラの強かなる金庫番は、瀬戸際に立たされる――。
 

「――――そこの貴方達!!」


 その矢先のことだった。
 交渉を無言で見守っていたエネリットが、唐突に口を開いた。
 彼は明後日の方角へと視線を向けて、声を放っていた。


「先程から覗き見ているようですが――」


 キングという怪物との駆け引きに臨むうえで、ディビットは“第三者への警戒”にリソースを割くことは出来なかった。
 故に一歩引いた立ち位置に居るエネリットが“見張り役”を務めることを、事前のアイコンタクトによって無言のままに求めていた。
 そして現状を俯瞰していたエネリットはディビットの意図を理解し、周囲の気配への警戒を絶えず行っていた。


「そろそろ、顔をお見せしたらどうですか!?」


 この場を覗き見る第三者の存在に気付いたエネリットは、文字通り”一石を投じた“。
 物心ついた時から犯罪者同士の遣り取りを見てきたエネリットには、その駆け引きの機敏を理解することが出来た。


668 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:43:25 VM5hI3wM0

 大悪党ルーサー・キングによって完全に主導権を握られた交渉のテーブル。
 それがディビットを追い込む大きなリスクであることを、エネリットは察したのだ。
 故に彼は静観を続ける第三者を巻き込み、場に引きずり出すことで取引の破綻を狙った。

 乾坤一擲の利益を狙うことよりも、長期的な懸念を回避することこそがディビット・マルティーニの望むところだろう。
 アビスの申し子であり、信頼関係によって自らの超力を機能させるエネリットは、逸れ者に対する鋭い洞察力を備えている。

 そしてエネリットの目論見は、果たされることになる。
 望み通りに。いや、望み通りに行きすぎた形で。


「ちょっと――――アイちゃんっ!!!!」


 物陰から、咄嗟に呼び掛けるような声が聞こえた。
 焦りと動揺を滲ませるように、その女の声は場に響いた。


「うあああああああぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!!!!!」


 そして、次の瞬間。
 子供の癇癪のような絶叫が轟いた。
 鼓膜を震わせるように甲高く、けたたましく。
 その叫びは、交渉の場である夜の森に木霊した。

 限界に達した恐怖と緊張を解き放つように。
 幼い声は、瞬く間に風を震わせた。
 まるで災害の如く、地響きが轟いた。


 ――――それから、間もなく。
 ――――木々が吹き飛び、大地が抉られた。
 ――――嵐が、突き抜けたのだ。


 唐突にエネリットに呼び掛けられたことに動揺し、アイは叶苗の拘束を振り切って飛び出した。
 ただでさえルーサー・キングの威圧感に気押されていたアイは、自らの存在を悟られたことで冷静さを失った。
 彼女は己の身を守るために、半ば反射的に自らの超力を発動したのだ。
 幼き少女の叫び声が、暴風にも似た衝撃波となってその場を襲う。

 全員が、咄嗟に動いた。
 氷藤 叶苗は、暴れるアイを止めるべく必死に駆け出した。
 ディビット・マルティーニは、即座に脚力を倍化して地面を蹴った。
 エネリット・サンス・ハルトナは、鋼鉄化した髪を使役して防御と回避を試みた。
 ルーサー・キングは、左手を突き出して鋼鉄の防壁を展開した。

 アイの超力は、怪力の行使。
 自身と対象の体格に差があるほど、超人的な身体能力を発揮できる。
 10cm差があれば大人を投げ飛ばす。
 30cm差があれば岩をも容易く砕く。
 50cm差があれば鋼鉄の壁さえも穿つ。

 アイは本能的な“恐怖の対象”であるキングを狙い、攻撃を放った。
 両者の体格差は、90cm超。
 即ち、その超力のポテンシャルを最大限に引き出すことが出来る。
 故にその強化の幅は、もはや純粋な物理攻撃のみに留まらない。
 ただの咆哮さえも巨大な衝撃波と化すのだ。

 彼女の吼えるような絶叫は――――交渉の舞台を、力任せに吹き飛ばした。





669 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:44:29 VM5hI3wM0



 ディビットとエネリットは、先程の“衝撃波”から命辛々に逃れた。
 森を抜けて、平野を駆けるように移動していた。
 エネリットは幾らかダメージを受けたものの、辛うじて手傷は避けられた。

「――悪かったな。助かった」
「お気になさらず。同盟相手ですから」

 両者は先程の一件を振り返りながら、言葉を交わし合う。
 ルーサー・キングの圧倒的な地力に、ディビットは間違いなく飲まれかけていた。
 そんな中でエネリットが援護を挟んだことで交渉のテーブルが破綻した。
 結果としてディビットは、あの場を有耶無耶にして撤退する隙を得られたのである。

「あの“牧師”との取引に飲まれることは、貴方とて不本意だったのでしょう?」
「……そうだな。あの男は約束こそ守るが、そいつを徹底的に利用してくる」

 先の状況を適切に読み、行動に出たエネリット。
 それは間違いなくディビットが窮地を切り抜けるきっかけとなった。
 ルーサー・キングは約束を裏切らない。そう、裏切りはしないのだ。
 その代わり、そうした約束で得られた義理や貸し借りを武器にして容赦無く相手を搾取する。

 “フランス国境付近の歓楽街”の利権を得られないことは損失と言えるものの。
 それ以上に、あの“牧師”からの離脱を果たせたことは大きかった。

「割り込んできたガキは……噂に聞く“リトル・ターザン”か」
「ええ、あの“アイ”でしょうね。彼女が起こした騒ぎは、僕も何度か耳にしています」

 あの突き抜ける“嵐”から逃れた二人は、その力を行使した張本人を振り返る。
 僅かな合間の交錯でしかなかったが、あの破壊力と小さく幼い出立ちからすぐに合点が入った。

 アビスという特殊環境の刑務所は、通常の刑事施設とは異なる要素を持つ。
 すなわち“制御不能、処罰不能の超力使いが送られる収容所”という側面だ。
 そうした者達の中には、一般的な刑罰では裁けない“社会不適合の幼少者”が少なからず混じる。

 そして15年前、当時2歳の幼子だったエネリットが半ば厄介送り同然に収監された。
 その件を皮切りに、アビスには制御困難な“幼年層のネイティブ”が送り込まれるようになった。
 “空間対象型”の超力を持つメアリー・エバンスなどは、その典型と呼べる存在である。

 そんな幼き収監者達の中でも、特に“問題児”とされていたのがあのアイだった。
 彼女が引き起こした破壊と暴走の数々は、他の受刑者達の間でも度々語られている。

 幼き頃からアビスで育ち、アビスのみが世界だったエネリット。
 何処にも行き着く場が無く、幼くして“鉄格子に覆われた監獄”のみを生きる世界とする。
 彼にとって幼年の収監者達は、ある意味で“過去の自分”を想起させる存在だった。
 それ故に、アイに対して思うところを抱く部分もあったが――。

「彼女には暫く、“牧師”を足止めして貰いましょう」

 エネリットはあくまで、彼女を利用する。
 足止め役、囮役。そんな役割をアイに押し付け、自分達は逃走に徹する。
 王族としての気品を備えるエネリットは、物腰柔らかな態度ではあるものの。
 幼き日よりアビスで育ったが故に、冷徹かつ強かな判断を躊躇わない。
 仮にアイがあの場で犠牲になろうとも、エネリットはあくまで自己の生存を優先する。

 ディビットは、そんな彼を一瞥して無言で頷きつつ。
 あの場に取り残された“少女たち”を、ほんの微かに憐れむ。

 交渉の場を覗き見ていたのは、アイだけではなかった。
 飛び出したアイを呼び止めようとした女の声――。
 ディビット達は、その女の姿を一瞬だけ目にしていた。

 白い雪豹のような姿をした獣人。恐らく常時発動型か。
 亜人と化す超力を持つ者は、その容貌だけでも酷く目立つ。
 犯罪者ともなれば尚更のことだが、あのような姿をした悪党の存在は裏社会でも耳にしなかった。
 恐らくは何処の組織にも属していない野良犬の犯罪者。
 そして彼女の噂を聞かなかったことから、裏社会との接点も薄いのだろう。

 ディビットに抗える余地が生まれたのは、ひとえに彼もまたギャングであったから。
 ルーサー・キングという男の脅威を、正しく理解していたから。
 仮に凡百の犯罪者が“牧師”と対峙することになったら、一体どうなる?

 ディビットも、エネリットも、理解していた。
 あの場に割り込んだ新手が、無事で済む確証などない。


670 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:45:08 VM5hI3wM0

【C-6/平野/1日目・黎明】
【エネリット・サンス・ハルトナ】
[状態]:鼻と胸に傷、衝撃波での身体的ダメージ(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.復讐を成し遂げる
1.標的を探す
2.ディビットの信頼を得る
※刑務官『マーガレット・ステイン』の超力『鉄の女』が【徴収】により使用可能です
 現在の信頼度は80%であるため40%の再現率となります。【徴収】が対象に発覚した場合、信頼度の変動がある可能性があります。

【ディビット・マルティーニ】
[状態]:苛立ち
[道具]:
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.恩赦Pを稼ぐ
1.恩赦Pを獲得してタバコを買いたい
2.エネリットの取引は受けるが、警戒は忘れない。とはいえ少しは信頼が増した。
3.あのジジイ……。
 




 周囲一帯の木々は薙ぎ倒され。
 雑草は愚か、地面も抉り取られ。
 辺りには、鋼鉄の残骸が散乱している。

 たった一人の少女が、嵐の如き暴威を行使した。
 アイという野生児は、森の一角を荒地へと変貌させた。

 キングは、左腕から微かに血を流す。
 紅い血を滴らせ、地面を仄かに汚していく。
 ――左拳を閉じて、開いて、行動に支障が無いことを確認する。

 鋼鉄の壁を以てしてもアイの一撃は防ぎ切れず、“帝王”に傷を与えたのだ。
 紛れもなく脅威的な怪力。異常と呼べる程の凄まじき膂力。
 単純なパワーという点で、アイは受刑者の中でも屈指の存在だった。

 それでも尚、彼女の強さはあくまで力任せの超力に依存する部分が大きい。
 密林での生活を送り続けていたとはいえ、戦闘者としての技量は決して高くはない。

「全く、大したお嬢ちゃんだ。
 アーニー・シェーバースみてえな怪力だな」

 故にアイは、ルーサー・キングという怪物を前にして地に伏せることになる。
 キングの“鉄拳”による反撃を受けたアイは、手傷を負って地面に横たわっていた。
 彼女の首元には、地面から生成された複数の“鋼鉄の刃”が突き付けられている。
 一歩でも動けば、即座に刃がアイの首筋を穿つだろう。

 絶体絶命に陥った少女を庇うように、もう一人の女がキングを睨み付ける。
 雪豹に似た、白い獣の容貌をしていた。
 常時発動型、亜人型の超力。キングも何度か目にしたことがあった。
 その亜人の女――氷藤 叶苗は鋭い爪を構えて、精一杯の意地で“牧師”を威嚇する。 

 “小遣い”でも稼いで、服を拵えることも考えたが。
 キングは、焦燥の表情で睨み付けてくる獣人の女を一瞥した。

 ――ま、暫くはガキの頃を思い出すとしよう。
 米国での“貧しい幼少期”を振り返りながら、キングは服を後回しにすることにした。
 服のためにポイントを稼ぐよりは、制圧した少女を使った方が良いと思ったからだ。

「その子に、手を出さないで」

 亜人の女が、キングへとあからさまな警告をする。
 制圧されたアイを守るように、焦燥と共に威嚇を行う。
 爪を構えて、きっと刃のような視線を向ける。
 そんな叶苗の気骨を買うように、キングは不敵な笑みを浮かべる。


671 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:46:24 VM5hI3wM0

 ひりつくような緊張が続く。
 沈黙。静寂。睨み合いのような状況。
 されどキングはあくまで悠々と構え、叶苗は必死に気を張って対峙し続けている。
 呼吸を整えて、何とか平静を保つ叶苗。
 やがて膠着状態を解くように、彼女は意を決して口を開いた。

「あなた……“牧師”でしょ?」
「ああ。そう呼ばれてる」
「さっきの話、聞いてたけど」

 内容の全てを聞き取れた訳ではないとは言え。
 キング達が“殺しの取引”をしていたことは理解できた。
 
「取引、まだ受理されてないよね」

 その標的の中に――“家族の仇”の名前が存在していた。
 叶苗があの取引を監視し続けたのは、そのためだった。

 家族の命を奪った凄惨な強盗事件。
 その黒幕として裏で糸を引いていた復讐相手。
 そんな怨敵の存在が、まさにあの場で言及されたのだ。
 恵波 流都――その真の名も知ることになった。

「私は“ブラッドストーク”を追っている。
 あいつは、家族の仇だから」

 エネリットの一声によってアイが暴走し、あの場での取引は破綻した。
 だからこそ、その隙間に叶苗が入り込む余地が生まれた。
 ブラッドストークを討つ機会を、自らが掴み取る。
 そして――仇討ちを取引の材料とすることで、自分一人では不可能な“目的”を果たす。

 “牧師”、ルーサー・キング。
 その悪名と権威は、裏社会に詳しくない叶苗でも知るほどだった。
 曰く、欧州の政治家や警察を支配しているとか。
 曰く、彼の指示一つで社会が動き出すとか。
 朧げな噂の中でも、その強大な力は耳に入った。

 だからこそ、叶苗は取引を試みた。
 “帰る場所”を求めているアイを救うために。

 仮にアイが、恩赦で外に出られたとしても。
 ただ社会に放り出されるだけでは、この子は決して報われない。
 右も左も分からず、社会に適応する術も持たないのだから。
 もしも再び騒動を起こしてしまえば、最悪の場合“出戻り”も有り得る。

 アイはきっと、帰るべき場所に飢えている。
 元いたところへ帰りたがってるから、ずっと暴れていた。
 このアビスという檻を壊そうと、もがき続けていたのだと。
 短い関わりの中で、叶苗は悟ったのだ。

「私は金銭は求めない。あくまで復讐だけが目的。
 だからブラッドストークのことは、私が引き受ける」

 だからこそアイの安全を保障し、帰るべき場所へと送り届ける“手助け”が必要だった。
 それはただ一人の復讐者に過ぎない叶苗ひとりの力では決して出来ない。

「その見返りとして、私も貴方に頼みたい」

 しかし欧州一帯を支配する組織の長ならば、それが可能だと考えた。
 先程の取引を見て、叶苗はキングの危険性を理解しながらも――“利害関係”を結べる余地があると踏んだ。

「もしもこの子……アイが恩赦で外に出られたとき。
 身の安全と、元いた場所に帰れる保証をしてあげてほしい」

 アビスに、アイを守る義理はない。
 しかし眼の前の“牧師”は、取引次第でアイを守ってくれる余地がある。
 ビジネスさえ成立すれば、味方になってくれる可能性がある。
 叶苗はそう考えた。悪党であるからこそ、相手側には損得勘定という基準がある。


672 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:47:38 VM5hI3wM0

 復讐以外に、自分の生きる価値はないと思っていた。
 今でもきっと、その思いは変わらない。
 だから、せめて。誰かの生きる価値は守りたかった。
 自分と同じような孤独を背負う子供の為に、自分の命を使いたかった。

「だから――――」
「ああ。助かるぜ、嬢ちゃん」

 そうして叶苗は、その先の言葉を続けようとした。
 しかし。それを言い終える前に、ゆらりと声が響いた。
 まるで有無を言わさず、遮るかのようだった。
 喉から出掛かっていた言葉が、ぴたりと動きを止めた。

 それは直感だった。第六感が告げる“警告”だった。
 彼女は口を閉じた。動揺と恐怖が、唐突に押し寄せてくる。
 背筋が凍りつくような感覚が、叶苗の身を襲った。
 何が起きたのか。その答えは、明白だった。


「俺は寛大だ。未来ある子供に慈悲を与えよう」


 ひりつくようなプレッシャー。
 穏やかな物言いとは裏腹の威圧感。
 低く籠もった声が、静かに響き渡る。

「とはいえ、だ」

 氷藤 叶苗は、ディビット・マルティーニとは違う。
 裏社会になど精通していないし、ましてや“牧師”と直に出会ったこともない。

「ただ一人の殺しを担う程度で、その子の安全と帰還を保証する?
 カネを受け取らない代わりに、一人分で要求を飲んでくれと言いたいのか?」

 “牧師”という男についても、叶苗は又聞きでしか知らない。

「君は容易く言ってくれるが、それじゃあ筋が通らねえさ。
 取引は仁義と同じだ。フェアでなくちゃあならない」

 ニュースや噂話などで耳にする程度で、その実態など知る由もない。

「――対価ってのは、相応の働きに支払うもんだぜ」

 だからこそ彼女は、淡々と捲し立てるキングに気押されていた。

「ましてやこの子は、娑婆でまともに生きられないんだろう?
 だったら尚更、君にはそれに見合う仕事をしてほしいさ」

 冷ややかな眼差しで、諭すように告げられる言葉の数々。

「俺とて、君の意志には応えたい。
 子供は何よりも尊ぶべきものだからな。
 だから、君も俺の意志に応えてくれ」

 そうしてキングは、横たわるアイを冷淡に見下ろす。
 暫しの一瞥の後、彼は叶苗へと視線を戻す。


673 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:48:33 VM5hI3wM0

「嬢ちゃん。名は」
「……氷藤、叶苗」

 その答えを聞いたキングは、叶苗へと“それ”を突き渡す。
 まるで押し付けるように与えられた鋼鉄の塊を、叶苗は動揺とともに見下ろした。

 銀色に鈍く輝く、鋼鉄製の手甲。
 身体能力を武器に戦う“亜人変身型の超力使い”が、純粋な体術に付随して多く用いる装備である。
 それはキングの超力によって生成されたものだった。
 好きに使うといい――彼は視線で叶苗にそう訴えかける。

 キングの眼が、冷淡に叶苗を見据える。
 じっと値打ちを見定めるように、モノや道具を凝視するように。
 無言のまま、彼は眼前の少女を眺め続ける――。

 後退するように身じろぐ叶苗。
 その瞳に、動揺の色が浮かび上がる。
 本能的な恐怖が、胸の内より込み上げる。
 彼女は最早、沈黙の中で制圧される他ない。

「さっき挙げた5人のうちの誰かと、名の知れた凶悪犯のような目ぼしい受刑者」

 そして、牧師はゆっくりと吐き出す。
 眼前の叶苗へと、自らの意志を伝える言葉を。


「必ず3人は始末するんだ」


 ――――それは、“取引”ではなかった。
 報酬を対価にして告げられる、“命令”だった。


「分かったな?」


 その時、氷藤 叶苗は。
 自分が“誰を”相手にしているのか。
 ようやく、悟ることになった。
 唖然とした表情で、ただ目を見開いた。

 キングが取引相手として買っていたのはディビットだ。
 そこいらに蔓延っているような有象無象の犯罪者ではない。
 そんな虫螻が一丁前に取引を吹っ掛けてきたのなら、彼は躊躇なく“使う”。

 そして叶苗もまた、殺人者であっても決して悪人ではない。
 彼女は家族の仇を討つべく凶行へと走った復讐者に過ぎない。
 アビスに収監されたのも、“黒幕”を追うための意図的な目論見の結果でしかない。
 ましてや裏社会の流儀や取引など知る由もない。
 ――故に彼女は、“牧師”の懐へと引きずり込まれる。

 叶苗は何も持たない。既に家族を失い、復讐のみを存在意義としていた。
 だからこそ、彼女はアイを見捨てられなかった。
 自らと同じように家族を失い、孤独のままにアビスへと収監された少女なのだから。
 喪失の痛みを知るからこそ、彼女はただの復讐者では居られなくなる。

「君は“金銭を求めない”らしいが、俺からの厚意だ」

 そして、キングは再び口を開く。

「一人につき15万ユーロの報酬、殺害数に応じた追加報酬は引き続き機能するものとする。
 そいつを餌に“同盟者”を作り、折半や譲渡を約束してくれても良い。
 君に渡した“鋼鉄の手甲”を見せりゃあ、俺が一枚噛んでることを大抵の奴は理解してくれる」

 反論や思考の暇も与えず、キングはまるで押し付けるように淡々と語り続ける。
 彼は、過度な対価は求めない。過度な服従も求めない。成果も約束する。
 だからこそ“仕事を引き受けること”だけは、問答無用で確約させる。
 そう言わんばかりに、彼は悠々と捲し立てる。


674 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:49:55 VM5hI3wM0

「もしも標的の素性を知らないのなら、交換リストを利用するといい。
 80Pで“詳細名簿”が手に入れられるそうだ。適当な首輪を確保すれば手が届くだろう」

 叶苗に、最早言葉を返す余地はなかった。
 次々に押し付けられる“指示”の前で、彼女は抵抗の術を奪われる。

「第2回放送直後、場所は島北西部の“港湾”。
 そこで改めて途中経過と意思を確認させて貰う」

 確かなのは、氷藤 叶苗の“最後の平穏”は絶たれたということだ。
 元より復讐以外の道を見失っていた彼女だったが。
 最早この刑務を生き延び、恩赦を得られたとしても。
 叶苗は真っ当に娑婆を生きていくことは出来ない。
 自らの罪を洗い流し、新たな人生を歩むことも出来ない。

 何故ならば、彼女は“牧師”と関わったから。
 この闇の帝王と、取引を交わしてしまったから。
 以後、叶苗の進む道には――必ずルーサー・キングの支配が及ぶことになる。
 彼は欧州一帯の経済、警察、司法、そして裏社会を掌握する男なのだから。



「――――頼んだぞ」



 そうしてキングは、叶苗の肩を叩き。
 木々の闇の中へと溶け込むように、彼はその場を去っていった。





 その後ろ姿を、叶苗はただ呆然と見つめることしか出来なかった。
 やがて叶苗は――弱々しく、その場へと座り込む。
 全身から力が抜け落ちるように、彼女は放心する。
 手元に残されたものは、ひどく冷たい鋼鉄の手甲のみだった。

 闇夜の森に、静寂が戻る。
 沈黙と暗闇が、この場を包み込む。
 樹木の隙間から覗く紺色が、無言のまま世界を見下ろす。

 空は何も答えてはくれない。
 茫然自失の意識だけが、宙ぶらりんになる。
 幾ら星々や月明かりを見つめても、霧は晴れてくれない。

 アイとの一悶着のとき。
 もう何もわかんない、なんて。
 泣きたいのはこっちだ、なんて。
 子供の頃に還るように、思ってしまったけれど。
 今の叶苗は、涙すら流せなかった。
 ただ乾き切った心が、唖然とする自分を突き放していく。


「う、あ――」


 やがて、呻くような声が耳に入る。
 叶苗は、そちらへと視線を向けた。
 刃の拘束から解き放たれたアイだった。
 彼女は不安に震えるように、地面に横たわったままで。


「うあ、ああああ、あああぁぁ――――っ」


 そうしてアイは、悲しげな鳴き声を上げた。
 先程の痛み故か、あるいは“牧師”への恐怖故か。
 幼き声が、更地となった空間に響き渡る。
 生まれたばかりの赤子のように、アイは泣きじゃくる。


「ああ、ああ、あぁぁぁ――――――」
 
 
 その想いのすべては、読み解けなくとも。
 それでも叶苗は、力無く這うように。
 アイのそばへと、静かに近寄った。

 そうして叶苗は、アイを抱きしめた。
 先程、泣き出していた自分を慰めてくれた時のように。
 その背中を優しく撫でながら、手探りであやした。
 よしよし、よしよし――そんなふうに呼びかけて、安心を与えていく。

 家族を奪われた復讐者は、ただ一人の少女へと寄り添っていた。
 まるで、彼女自身も寄りかかれる“何か”を求めるかのように。


675 : パブリック・エナミー ◆A3H952TnBk :2025/03/05(水) 00:51:14 VM5hI3wM0

【C-5/森/1日目・黎明】
【ルーサー・キング】
[状態]:疲労(軽)、頬に傷、左腕に軽い負傷、びしょ濡れ
[道具]:私物の葉巻×1
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.勝つのは、俺だ。
1.生き残る。手段は選ばない。
2.使える者は利用する。邪魔者もこの機に始末したい。
3.適当なタイミングで服も確保したい。
※彼の組織『キングス・デイ』はジャンヌが対立していた『欧州の巨大犯罪組織』の母体です。
 多数の下部組織を擁することで欧州各地に根を張っています。
※ルメス=ヘインヴェラート、ネイ・ローマン、ジャンヌ・ストラスブール、恵波流都、エンダ・Y・カクレヤマは出来れば排除したいと考えています。
※他の受刑者にも相手次第で何かしらの取引を持ちかけるかもしれません。

【アイ】
[状態]:全身にダメージ(中)、恐怖と動揺
[道具]:なし
[方針]
基本.故郷のジャングルに帰りたい。
1.(あいつ(ルーサー・キング)は、すごくこわい)
2.(ここはどこだろう?)
3.(ぶらっどすとーく?ずっとむかしきいたような、わからないような……)

【氷藤 叶苗】
[状態]:恐怖、尻尾に捻挫、身体全体に軽い傷や打撲、刑務服のシャツのボタンが全部取れている
[道具]:鋼鉄製の手甲(ルーサーから与えられた武器)
[方針]
基本.家族の仇(ブラッドストーク)を探し出して仕留める。
1.アイちゃんを助けたい。

※ルーサー・キングから依頼を受けました。
①ルメス=ヘインヴェラート、ネイ・ローマン、ジャンヌ・ストラスブール、恵波流都、エンダ・Y・カクレヤマ。
 以上5名とその他の“目ぼしい受刑者”を対象に、最低3名の殺害。
②1人につき15万ユーロの報酬。4名以上の殺害でも成果に応じて追加報酬を与える。協力者を作って折半や譲渡を約束しても構わない。
③遂行の確認は恩赦ポイントの回収履歴、および首輪現物の確認で行う。
④第2回放送直後、B-2の港湾で合流して途中経過や意思の確認を行う。
④依頼達成の際には恩赦後のアイの安全と帰還を保障する。


[共通備考]
※デジタルウォッチには恩赦ポイントの増減履歴を参照する機能があります。
どの受刑者の首輪からポイントを回収したのかを確認することも可能です。
※首輪には装着者を識別する囚人番号と個人名が刻まれています。
※交換リストに「参加者詳細名簿-80P」があります。


676 : 名無しさん :2025/03/05(水) 00:51:36 VM5hI3wM0
投下終了です。


677 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/05(水) 19:53:05 6UegBIms0
投下乙です

>パブリック・エナミー
生き残った後、外の世界と地続きの交渉が出来るのは生き残りが複数である刑務作業ならではですね
自分は動かさず他者を使って盤面を動かすのは流石のフィクサー。超力で武器商人が出来るので、他人を鉄砲玉にしまくっている
ドンやディビットのような裏社会の格がないと交渉にすらならず、食い物にされる。ヤクザかな? マフィアだったわ
ドンの狡猾さと迫力に完全に心折られた少女2人はかわいそう、やっぱ反社とつきあっちゃいけないよ
あとヴァイザーニキ! おったんかワレェ!


678 : 業火剣嵐 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/06(木) 19:39:52 fhU6PWkk0
投下します


679 : 業火剣嵐 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/06(木) 19:40:39 fhU6PWkk0


 周囲は炎に包まれていた。
 事の起こりは十分と少し程前。刀を手に浜辺へ舞い戻った征十郎の前には誰も居らず。
 ギャルの行方を探し求めて移動しようとした矢先。
 先の戦闘の爆炎を見てやってきたと思しい人間松明(ヒューマントーチ)に襲われて。
 会話も無いまま、征十郎が一方的に追いまくられているという次第。
 アメリカで育った征十郎は、即座に襲撃者がフレゼア・フランベルジェだと気付く。
 ならば会話を試みる事は無駄だろうと、即座に斬り殺す事を決意した。



 人間松明(ヒューマントーチ)ことフレゼア・フランベルジェと、征十郎・H・クラーク。
 両者を比すれば征十郎が圧倒的な不利にある。
 剣の技量に秀で、ギャルの爆炎すら斬ってみせた征十郎であれば、フレゼアの放つ地獄の業火(ヘルファイア)とて斬り散らせる。過言では無く事実であり、現に征十郎は、フレゼアが征十郎を焼き尽くすべく放った業火の全てを斬り散らしていた。
 にも関わらず、征十郎は防戦一方に追い込まれ、フレゼアから徐々に距離を離さざるを得ない始末。
 理由は単純、燃え盛るフレゼアが放つ高熱である。
 既にフレゼアの周囲10mを超える範囲の大気が、耐え難い高熱を帯びて征十郎が留まる事を妨げ、フレゼアを中心に4m範囲の地面が赤熱化し煮えたぎる事で、征十郎の接近を許さない。
 フレゼアに近づくだけで、熱によるダメージを免れ得ない────どころか死ぬ。
 ギャルを討つと誓った直後に、こんなバケモノ相手に傷を負う訳には行かず、征十郎は早々に逃げの一手を選んだのだが。

 「逃がすか罪人ッ!塵(ゴミ)は此処で此処で燃えて塵(チリ)になれッ!!」

 征十郎が距離を取ったところで、当然の様に追ってくる。周囲の万象を焼きながら。
 フレゼアが一歩を歩む度に、足元の地面が溶けて燃えて崩れ行く。
 フレゼアが一歩を歩む度に、大気は高熱を帯び、生じた乱気流が嵐の如くに荒れ狂う。
 フレゼアが一歩を歩む度に、全身を包む焔が燃え上がり、流星のように尾を引いて、征十郎へと火箭が飛ぶ。
 
 「近づく事さえ叶えば」

 フレゼアの乱雑な狙いと射撃により放たれる火箭は、当然の事ながら命中率どころか集弾性が低い。
 一度に十数発を放ち、征十郎へと向かうのは、精々が五、六発。
 半分以下しか征十郎へと向かわぬが、当たれば人体など、瞬時に燃えるどころか、焼き抜く火箭。
 無視する事など到底出来ず、或いは斬り払い、或いは躱す征十郎だが、その為に近づく事が全く出来ない。距離を詰めれば、飛翔する火箭に対応する事がそれだけ困難になっていくのだから。
 更に外れた火箭は、周囲に着弾し、地面を赤熱化させて、征十郎の動ける領域を奪って行く。
 必然的に、距離を取って、動ける場所を確保するしか無かった。
 この状態が10分以上継続し、全く疲労を見せないフレゼアは、馬鹿げた出力と言うべきだった。
 単純な技量に於いてはフレゼアは征十郎と比較にすらならない。
 『旧時代』であったならば、例えフレゼアが刀剣の類を持ち、征十郎が徒手空拳であったとしても、征十郎はフレゼアを仕留め得る。
 だが、今は超力(ネオス)横行する新時代
 凡そ闘争というものに於いて、秀でているどころか、長けている訳ですら無いフレゼアが、征十郎を一方的に追い込む理不尽が、現在の道理である。


680 : 業火剣嵐 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/06(木) 19:41:14 fhU6PWkk0
「チョコマカと…鬱陶しい!!」

 激昂したフレゼアが、全身を覆う焔を更に烈しく、眩く燃え上がらせた。
 フレゼアの怒りは、しかし、征十郎へと向いては居ない。
 フレゼアの怒りは、己自身に向けられている。
 ジャンヌ・ストラスブールから、戒めを受けていながら、ゴミ(罪人)一つ燃やすのに、こうまで手間取るようでは、ジャンヌに顔向け出来ない。
 何よりも、ジャンヌの戒めが無為になってしまう。

 「ああ…ジャンヌ!ジャンヌ!!私に導きを!!!」

 今までの様に、出力に物を言わせて焔を放つだけではこの敵は燃やせ無い。
 憤怒と妄執に狂った頭でも、このままでは征十郎を倒せぬと悟り、フレゼアはジャンヌに縋った。

 「ああ…あああああ!!」

 脳裏に浮かぶのは、先刻見たジャンヌの姿。
 激情のままに焔を更に燃え上がらせて、フレゼアは先刻のジャンヌの姿を模倣する。
 背に一対の炎の翼を生成し、右腕に執るは焔を凝縮して形成した紅蓮の剣。
 実体無き焔を凝縮させる事で実体を持たせた魔剣は、鋼の刃にも引けを取らない。
 
 「これなら…これなら殺せるよね。貴女のように……。見ていて!ジャンヌ!!」

 紅蓮剣を一振りすると、背の炎翼からジェット噴射の様に炎を噴出。猛速で征十郎へと飛翔する。
 
 「勝機」

 征十郎は熱気を堪え、呼吸を止めて間合いを測る。
 灼熱する大地に接近を阻まれ続けたが、高速で近づいて来るならば話は異なる。
 冷静に間合いを測り、超力を込めた一刀で決着するまで。
 巡り来た勝機を逃すまいと身構える征十郎へと、夜闇を赤く染めながら、地に不吉な凶影を落とし、炎の魔女が飛翔する。
 
 「燃え尽きろおおおおお!!!」

 フレゼアの切断された左腕から噴出する炎が伸びる。
 6mの長さに伸びた炎を、フレゼアは咎人を打擲する鞭の如くに征十郎へと薙ぎつけた。
 対する征十郎は、手にした刀を炎鞭目掛けて振り下ろし、切断。
 切り離された炎鞭が、無数の火の粉となって夜闇を彩る中を、フレゼアは猛然と突き進み、炎鞭に対処して隙を晒した征十郎へと襲い掛かる。
 右腕一本で振るっているとは思えない剣勢で、真っ向から振り下ろされる紅蓮剣。
 征十郎は、刀を振り下ろした際に踏み込みに用いた右脚を軸に身体を右回転させる。
 両手で握る刀を左手のみで逆手に持ち、全身の勢いに回転運動の力を加えて、フレゼアの腹を横薙ぎに切り裂いた。
 確かな手応えを感じた征十郎だが、直後に傷口から噴き出した業火に焼かれ、急いで距離を取った。


681 : 業火剣嵐 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/06(木) 19:41:43 fhU6PWkk0
 「ゴォアア!!」

 獣じみた苦鳴を漏らしたフレゼアは、それでも尚怯む事なく紅蓮剣を振り回す。
 既に手負の身で、更に腹を割かれたにも関わらず、その気勢は益々盛んになっていた。
 切り裂かれた腹と、失った左腕から炎を吹き出し、左の眼窩は、結晶化した地獄の業火を収めたかのような、凶々しい光を放っている。
 つい先刻、征十郎はギャルの事を化生と呼んだが、その称号はこの女にこそ相応しい。
 心の中でギャルに詫びて、征十郎は後ろに下がってフレゼアの攻勢を避けると、再度刀を振るい、フレゼアの首を刈り飛ばしに行く。
 地面が灼熱化する前に、決着せねばならなかった。
 征十郎の攻勢に、猛虎も怯む咆哮を上げて、フレゼアは猛然と紅蓮剣を振るい、征十郎の持つ刀身へと叩き付けた。
 勝利を確信し、征十郎が笑みを浮かべる。
 焔を凝縮して形成した非条理の剣身といえど、征十郎の超力ならば、薄紙の如くに斬り裂ける。
 フレゼアの動きを一才気にすること無く、征十郎は刀を振るい抜き────鋼の刀身と紅蓮の剣身が噛み合った。
 フレゼアから見れば狙った結果。征十郎からすれば、理解不能のあり得ざる事態。
 意識が極小の間、空白と化した征十郎は、フレゼアに刀身を跳ね上げられ、無防備を晒した隙に、フレゼアの炎鞭が振われる。
 されども征十郎・H・クラーク。生涯を剣に捧げて来た剣士。忘我の内にあれども、肉体に刻み込んだ研鑽が身体を動かす。
 刀身を撥ね上げられた勢い身を任せ、そのまま仰向けに倒れ込む。
 炎鞭が虚しく宙を薙いだと同時に、地面に突いた左手を軸に跳ね飛び、フレゼアと灼熱化し始めた地面から逃れ出る。
 着地を決めたと同時、刀を振るい、炎鞭を斬り飛ばした。
 剣身の時とは違い、常の様に斬れた事に不審を抱くも、深く考える事を許さぬフレゼアの猛攻。
 全身から立ち昇る焔をより一層燃え上がらせ、炎の壁として征十郎へと撃ち放つ。
 火箭と異なり、回避する余地など無い面制圧攻撃。
 半ば物理的な存在と化した火炎壁は、炎で焼き壁で打撃する二重攻撃。
 この攻撃にも征十郎は真っ向から刀を振り下ろし、左右に断割。
 二つに割れて、征十郎の左右を突き進んで行く壁の後ろから、炎を噴出させて飛翔するフレゼアが猛襲を掛けた。
 飛翔の速度を乗せた全力の斬撃。受けた所で力尽くで押し切られて、刀身を頭にめり込ませて死ぬ事になる。
 フレゼアの猛進に、征十郎は冷静に構え直す。
 切先を天に向け、大上段の構え。
 凶獣の如き咆哮と共に、フレゼアが紅蓮剣を、征十郎の脳天目掛けて振り下ろす。
 僅かに遅れて、征十郎も刀を振り下ろす。
 フレゼアに後発した一刀が狙うは、フレゼアの体では無く、己の頭へと振り下ろされる紅蓮剣。
 刀身が紅蓮剣の切先を捉え、剣身の持つ運動の方向を狂わせ、紅蓮剣は新たに与えられた方向に基づき、征十郎の左側を虚しく過ぎ去っていく。
 “切り落とし”と呼ばれる技法により、フレゼアの斬撃を外した征十郎は、紅蓮剣を切り落とした勢いのままに、フレゼアの脳天を斬り割るべく刀を振るう。
 絶死の一刀を防いだのは、フレゼアの左腕から噴き零れる地獄の業火(ヘルファイア)。
 右手の紅蓮剣の様に、凝縮して形成された剣身が、征十郎の刀身を受け止めていた。
 一度ならず、二度までも、超力を込めた斬撃を受け止められて、征十郎は眉を顰める。
 フレゼアの焔に通じぬのならば、そういう性質の炎と割り切れる。
 だが、通じぬのは“剣”だけなのだ。
 征十郎は知らぬ。フレゼアの超力(ネオス) 『憤怒の炎帝(レヴァイア)』 の性質を。
 一見すれば炎を出すだけの単純な能力だが、フレゼアの炎は通常の炎と異なり、概念的なものすら焼き尽くす。
 火箭や炎鞭の様に密度が低いものであれば、征十郎の超力で斬り裂ける。
 だが、焔を凝集させた剣身に対しては、刀身に込めた超力(ネオス)を焼き尽くされ、只の鋼の刃を用いた斬撃へと堕してしまうのだ。
 征十郎とフレゼア、両者ともに互いの超力(ネオス)の関係を識らぬ。
 唯一わかる事は、炎を斬り散らされ続けてきたフレゼアが、炎剣に限っては斬られないという事を理解したというその一点。
 喜悦に顔を歪めたフレゼアが、左右の紅蓮剣を振り回す。
 刃筋も通っていない素人丸出しの斬撃だが、その剣身は凝縮された地獄の業火(ヘルファイア)。掠っただけで皮膚が溶け肉が焼ける。
 反撃しようにも、頭のネジが外れたとしか思えない速度と身体運用は、付け入る隙を見出せても無理矢理その隙を潰して来る。
 攻撃を躱して踏み込もうとした時には,もう一方の腕による斬撃が飛んで来る。
 フレゼアが剣を振るう度に、征十郎は後退を余儀無くされ、いつしか港湾の方へと追い込まれていた。


682 : 業火剣嵐 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/06(木) 19:42:54 fhU6PWkk0
 【勝機は唯一。この太刀を以って他に無し】

 明らかな窮地にあって、尚も勝機を伺う征十郎。
 征十郎にはこの敵を打倒する剣技について心当たりが有る。
 だが、それは旧時代からの剣士達の見果てぬ夢。
 新時代となっても夢物語と一笑に付される剣技だ。
 果たしてこの窮地で為せるものか。

 【為せねば死ぬ。それだけよ】

 今この時だけは誓いを忘れる。
 先の事など考えず、只々剣を振ることのみに注力する。
 この剣は、本質を否定する剣。
 本質を否定し陵辱する剣技。
 この剣を以って、フレゼアの紅蓮剣を斬り破る。

 フレゼアの猛攻を凌ぎながら、意を心を体を、一刀の為に収束していく。
 血流も呼吸も何もかもを、只一度、唯一振りの為に使い切る。
 網膜を焼いて縦横に奔るフレゼアの剣を、躱して躱して躱し続け。
 
 征十郎は、刀をを振るべき“機”を掴む。

 「イエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!」

 征十郎は、自身の雄叫びを遠く聞いた。
 
 





 
 兜割という剣技が有る。
 いや、剣技というよりも試し斬りというべきか。
 己が一刀を以って鉄の兜を斬断する。
 言ってしまえばそれだけだが、鉄兜というものは、刀で斬れぬからこそ兜たり得る。
 それを、刀で斬り割るという事は、不可能に挑むという事だ。
 それを、成し遂げるという事は、鉄兜の持つ意義を根底から否定するということだ。
 本質を否定し、陵辱し尽くすという事だ。
 故に只人に為し得る事など能わず。
 なれども、為す者が在るとすれば。
 それは健の極みに達した者か、或いは人の域を超えた者だろう。





683 : 業火剣嵐 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/06(木) 19:43:19 fhU6PWkk0



 真っ向から振り下ろされる刀を、フレゼアは右手の紅蓮剣を以って受け、左腕の剣で征十郎の胸を貫こうとした。
 征十郎の攻撃を受けつつ放つカウンター。
 逃げ回る足を止めて反撃した所に振われる絶死の炎剣。これでこのウザったらしい罪人を殺せると、フレゼアは醜悪な笑みを浮かべ────。

 気付いた。

 刀を受けた感覚が全く無いと。

 フレゼアは目線を上に上げた。
 
 なんという事は無い。意識せずに行った行為。

 得体の知れない事が起きた際に、人が取る本能的な行動。

 その行為の為に、フレゼアは生命を拾う事になった。

 鋼の強度を持つ紅蓮剣を斬り割いて、刀身がフレゼア目掛けて落ちて来る。
 理解をするよりも早く身体が動き、上体を仰け反らしたフレゼアの顔を、征十郎の刀は正中線に沿って断割した。

 「ギィイアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 狂虎も怯えて逃げ出すだろうフレゼアの絶叫。

 「仕損じたっ!」

 征十郎の無念の声。

 振るった刃が、フレゼアの顔に斬線を刻んだだけに終わった事を、征十郎は理解していた。

 「アアアアアアアアアアアアオオオオオオッッッッッッ」

 フレゼアが燃え盛る火柱と化した。





684 : 業火剣嵐 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/06(木) 19:43:40 fhU6PWkk0



 全方位に放射される火炎を躱し、征十郎は咆哮するフレゼアを観察する。
 襲来時から欠落している左腕と左眼だけで無く、征十郎が斬った腹部と顔面からも業火を噴き出すその様は、最早人に非ず人外化生。
 奇態な姿の者が横行する新時代にあっても。超人魔人が跋扈するアビスに於いても。
 見た者が、怖気を感じるに相応しいものだった。
 フレゼアの身体は、燃え盛る火柱に完全に覆われて、姿が見えず。
 フレゼアを包んだ火柱は、熱と火勢を強めながら、徐々に直径を増やしつあった。
 
 「最早手に負えぬ」

 勝負が成立する相手では無い。征十郎はそう結論づけると、フレゼアが狂乱している隙を突き、一目散に逃げ出した。

 「逃がすかアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 火柱から、数十条の火箭が同時に放たれた。
 周囲に着弾し、爆発炎上して、周辺一帯に破壊と火災を振り撒く様は、人の形をした災害そのもの。
 何発かは遠く海にまで到達し、着弾。馬鹿げた高熱により海水が瞬時に沸騰を通り越して気化。水蒸気爆発を引き起こす。
 轟音が大気を震わせる中、港へ向かっていた征十郎は、向きを変えて森へと走る。
 火箭と熱風に追われながら、征十郎は必死に駆け抜けて、何とか森に逃げ込んだ。
 哄笑したフレゼアが、炎の壁を放ち、征十郎を森ごと焼き尽くそうとするが、燃焼の具合がどうにも悪い事に気付く。
 生木や生草は、乾季でも無い限り、水分を潤沢に含んでいる為に燃え難い。
 その事を知っていた征十郎は、森へ逃げる事で、フレゼアを撒けると踏んだのだ。
 
 「逃げるなアアアアア!!!!」

 フレゼアの怒声を聞きながら、征十郎は思惑通りに行ったと安堵した。
 生木による防炎。樹木による視覚の遮断。この二つの効果により、フレゼアは征十郎を見失った。
 後はこのままフレゼアから離れるだけ。
 そう、思った矢先、天から眩い光が降り注ぐ。
 思わず頭上を振り仰いだ征十郎は、焔を纏い、夜空に浮かぶフレゼアを見た。
 
 ────拙い!

 フレゼアを見た瞬間。全力で危機を告げる第六感に従い、全速の疾走を開始した征十郎は、直にに己が直感の正しさを知る。

 「この程度で逃げられると思うなあアアアアア!!!!」

 フレゼアの纏う炎が、より峻烈に、より烈しく輝き始める。
 真昼の様に森を照らす業火の輝き
 直後に放たれたのは、炎の雨だった。
 フレゼアの全身から放たれ降り注ぐ、数百条の火箭が、悉く守りへと降り注ぎ、火箭と同じ数だけの爆発を生じ、激しく焔が燃え上がる。
 只一人を殺す為だけに、この暴挙。
 それも、積怨の相手や、何としても斃さねばばらぬ悪だというならば、いざ知らず。
 つい先刻会ったばかりの、素性を全く知らない征十郎に、此処までの破壊を伴う大爆撃。
 アメリカの地でバケモノと呼ばれ、人々から忌まれ恐れれらた理由を、征十郎は身をもって知る事となった。





685 : 業火剣嵐 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/06(木) 19:44:05 fhU6PWkk0



 「はあ…はあ………はあ………………」

 数分後。燃え盛る森に照らされて、赤く染まった地面に膝をついて蹲るフレゼアの姿が有った。
 後先を考えぬ大爆撃は、フレゼアに甚大な疲労を齎し、流石のフレゼアといえども暫くの間動けぬ程に疲労させるものだった。

 「悪は……まず……一匹………まだ、まだあ!!」

 それでもフレゼアは止まらない。その狂気は治らない。
 殺さねばならぬ悪は、まだ多く残っている。

 「ジャンヌ…私を……導いて」

 傷口から焔を噴き溢しながら、フレゼアは立ち上がると、力強い足取りで歩き出した。


【B-3/平野/1日目・黎明】
【フレゼア・フランベルジェ】
[状態]:左腕欠損、左眼失明、腹部に裂傷、顔面に切り傷(全ての傷口から炎が溢れ出ている)妄執、幻聴 疲労(大)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.全てを燃やし尽くす
1.手始めに囚人を、その次に看守を、その次にこの世界を。
2.きっとジャンヌは未熟な私を戒めたんだ。なら彼女に認められるよう、もっと殺さなければ。
※ジャンヌの光に当てられたことで妄執が加速し、超力の出力が強化されつつあります。
※B-3の森で大規模な火災が発生しました
※B-の上空でフレゼアが派手に光を放ち、港湾付近の海で数度の水蒸気爆発が発生しました








 「………命拾いしたか」

 ブラックペンタゴンへと至る道を歩きながら、征十郎は安堵の溜息を漏らす。
 剣狂者というべき征十郎をして、二度と会いたくないと思わせる狂人だった。

 「奴がアレで死んでいなければ良いが」

 ギャルがあの爆撃で死んでいない事を祈りたい。
 フレゼアに襲われた事で、ギャルを追う事は不可能となったが、ならばギャルが訪れそうな場所で待ち伏せすれば良い。
 そう考えて、征十郎は島の中央にある巨大建造物“ブラックペンタゴンを目指す事にしたのだった。

 「鬼が出るか蛇が出るか…」

 征十郎は周囲警戒しつつ、黎明の道を歩くのだった。



【C-3/道/一日目・黎明】
【征十郎・H・クラーク】
[状態]:疲労(中)
[道具]:日本刀
[恩赦P]:90pt
[方針]
基本.強者との戦いの為この剣を振るう。
0.ギャルを討つ
1.フレゼアちは二度と会いたく無い
2.ブラックペンタゴンに行ってギャルを待ち受ける

※舞古沙姫の100ptを獲得、日本刀の購入で10ptを消費しました


686 : 業火剣嵐 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/06(木) 19:44:21 fhU6PWkk0
投下を終了します


687 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/06(木) 20:56:34 ACuDEFX60
投下乙です

>業火剣嵐
全てを切り裂く超力と超力すら焼き尽くす劫火による文字通りの熱い戦い、炎は被害が甚大でフレゼアさんほんと傍迷惑
征十郎のネオスはあくまで斬撃補強だから、間合いに近づけなければどうしようもないと言うのは弱点だよねぇ
しかし、最後に決めるのは純粋な剣士としての技量、斬鉄ならぬ斬焔兜割りお見事!
運よく生き延びたフレゼアさんだけど、この人傷を負うたび精神も肉体もどんどん人間離れしていってる気がする……こわぁ

それでは私も投下します


688 : PSYCHO-PASS ◆H3bky6/SCY :2025/03/06(木) 20:57:22 ACuDEFX60
【週刊■■ 202X年09号】

『衝撃スクープ!「支配者」は少年Aだった――ついに明るみに出た驚愕の真実とは?』

同級生3名を殺害した容疑で起訴されている少年A(14)に対し、本日、検察が無期懲役を求刑した。
事件当初、少年Aは「被害者たちから日常的にいじめを受け、追い詰められた末の犯行だった」と供述していた。
周囲の同級生や一部の教員も「確かにいじめられている様子を見たことがある」と証言し、少年院送致が相当という声も少なくなかった。
情状酌量の余地があるかに見えたこの事件だが、ここへきて事態はまさかの急展開を迎えている。

本誌の独自取材によって「実際には少年Aこそがいじめ加害者だった」という証言が得られたのだ。
なんと、取材班は被害者たちが逆に少年Aから日常的にイジメを受けていたことを示すメッセージや録音記録の一部を入手。
そこには周囲の生徒はもちろん、一部の教員にさえ圧力をかけていたとされる、信じがたい実態が克明に記録されていたのである。

「少年Aが学校の中心人物になってから、学年全体の空気がガラリと変わった。
Aと距離を置こうものなら、陰口や脅迫めいた言葉を浴びせられる。
年下のはずの少年Aに対して、教師たちでさえ逆らえない雰囲気があったのは確かだ」。
本誌が接触した学校関係者は、恐る恐るこう証言する。
その言葉から伝わるのは、まるで“絶対的支配者”として君臨していたかのような少年Aの姿だ。

こうした新事実を受け、検察は「少年Aによる供述には虚偽が含まれていた疑いが強い。単なる衝動的な犯行ではなく、日常的な加害行為の延長線上にある計画的な犯罪」と主張を強化。
そもそも、いじめを受けていた側は少年Aではなく、殺害された3名のほうだった可能性が高いというわけだ。
そのため、たとえ少年であろうと、裁きの手を緩めるべきではないと判断したのではないかとみられている。
まさに衝撃的な事実の発覚と言わざるを得ない。

少年Aの弁護側は「週刊誌が報じている証拠は捏造、あるいは違法な手段で入手された可能性があり、証拠能力に疑問がある」と強く反論。
審理は長期化の様相を呈しているが、次回公判では検察が押さえているという“さらなる裏付け証拠”が公になるのではと噂されている。
はたして、その真相とはいったい何なのか。弁護団の防御戦略はいかなる手段を講じるのか。

本誌取材班が追跡調査を続ける中、関係者の間では「実は少年Aは、他の問題でもすでに教師や周囲を“黙らせて”いたのではないか」「中学校全体が少年Aの“帝国”と化していた」など、真偽不明の噂が飛び交っている。
さらに、学校側も過去にいじめの事実を把握していながら、少年Aの影響力を恐れて黙殺していたのではないかという疑惑まで浮上しているのだ。

次回公判までにどのような新証拠や新証言が提示されるのか――事態は予断を許さない。
少年Aに対する世間の視線は、いまや「いじめの被害者から一転、“絶対的支配者”だったのか?」という点に集中している。
果たして司法の裁きはどのような結末を迎えるのか。今後の展開から目が離せない。




689 : PSYCHO-PASS ◆H3bky6/SCY :2025/03/06(木) 21:00:28 ACuDEFX60
「…………ぷはっ」

湖面に白い飛沫が上がる。
その飛沫を巻き上げ水中から姿を現したのは芸術のように美しい一人の男だった。

水面から上がる男の細い裸体が月明かりに照らされ、彫刻のようにその陰影が際立つ。
水面に映るその顔は、人形のような美しさとどこか儚げな陰りを宿していた。
芸術品のように整った男の顔から水滴が伝い、滴る雫は首筋を撫でるように落ちて湖面に小さな輪を広げる。

この芸術の如き男の名は氷月蓮。元少年A。
アビスに墜ちた凶悪犯の一人である。

14歳だった氷月は同級生3名を殺害。
逮捕後、イジメを苦にした殺人であったと本人は自供。
日常的に氷月が被害者たちから虐めを受けていたという事実は周囲の証言から裏付けられ、判決にも情状酌量が図られる流れであったが、週刊誌に垂れ込まれた目撃証言により事実が発覚。
悪質で計画的犯行であるとして無期懲役の求刑を受けたが、最高裁までもつれ込んだ判決は30年の実刑、地方刑務所への収監が確定した。

その後、獄中で開闢の日を迎え、超力が発現。
彼が目覚めた超力は人の殺し方の最適解が見える、人を殺すためのだけの力だった。
その名を『殺人の資格(マーダー・ライセンス)』――――『常時発動型』の超力である。

その瞬間から、彼にとって人間とは説明書付きの解体標本でしかなくなった。
この超力が目覚めてから担当の刑務官、同じ房の囚人たちの解体方法が彼の目には見えていた。
その映像は人を見るたび発動し続け、彼の目には常に相手の殺し方が映り続けるようになったのだ。

そんな常人であれば正気を失うような状態を、彼は刑務所に超力検診が行われるまでの数か月間の間、顔色一つ変えずにやり過ごしていた。
超力が判明後その危険性から、彼はアビスへと墜とされた。

だが、彼にとってアビスへの転所は渡りに船だった。
システムAのあるアビスでならば他者を殺す方法が見えなくなる。
それは彼に安心感を与えた。

その理由は、己が超力の殺傷性に思い悩んだジェーン・マッドハッターとは違う。
実のところ、彼は同級生を殺したかった訳でも、殺してみたかった訳でもない。
ただ、殺せそうだから殺したのだ。

それは、目の前に置かれた非常ボタンや自爆スイッチを押したくなってしまう心理に似ている。
禁忌に憧れるカリギュラ効果と言う訳ではない。そもそも禁忌であるともすら考えていない。
ただ、やってみたいというサイコパス特有の衝動性。
そんなサガに氷月ですら抗えなかった。

屠殺を待っている家畜のように殺し方が提供される連中を、正直、あのまま殺さない自信がなかった。
だが、冷静な損得勘定としてそれが自身の立場を悪くする行為だと理解している。
それ故にその衝動は彼には耐えがたい苦痛であった。
だからこそ衝動性駆られることのない、穏やかな時間を過ごすことが出来たアビスの生活は彼にとって存外快適なものだった。

彼は生まれながらのサイコパスだ。
他者を引き付ける魅力を持ちながら、自己中心的で共感性が低く罪悪感がない。
他者を利用する事に長け道具としか考えず、己の損得を何よりも優先する。

そんな彼にとってこの刑務作業はどういうものなのか?

損得で考えれば間違いなく得だろう。
アビスの生活が快適であると言っても、表の世界での自由とは比べるべくもない。
もちろん恩赦が事実であればという前提ではあるが、利用しない手はない。

このアビスにおける快適さは超力無効化機構である『システムA』に担保されたものだ。
アビスからの解放はシステムAからの解放とイコールであり、アビスでの懲役とはすなわち超力から隔離される期間である。
開闢以前より服役していた氷月には、超力を活用できた期間がない。
この超力世界の浦島太郎だ。

世間が超力に目覚め、触れ、共に育っている間も彼は獄中で刑期を全うしていた。
ネイティブ世代に至っては生まれた時から超力と共に育っている。
それは超力に依存していないという事だが、経験値と言う意味では周回遅れもいい所だ。

だからこそ、そんな自分が超力を解放したまま世界に解き放たれればどうなるのか、氷月自身にもわからない。
それだけに、どうなるのか興味がある。

この刑務作業はその試金石だ。
時間経過で終了するこの刑務作用において、恩赦を諦めただ生き残りを目指すのであれば目的を同じくする人間同士で手を組んで戦わず隠れ潜むのが一番だ。
氷月が潜り込もうとしているのはそう言う集団である。

24時間をやり過ごすことを目的とした集団に潜り込んで、殺してもいい獲物を見た時自分がどうするのか。
氷月蓮と言う男はそれが知りたかった。


690 : PSYCHO-PASS ◆H3bky6/SCY :2025/03/06(木) 21:05:15 ACuDEFX60
水面に上がった氷月は静かに呼吸を整えながら、水を払うように陸へ足を踏み出す。
足が陸地を捉えると、まるで舞台に上がるような軽やかさで岸へ上がった。
繊細な顔立ちで微かな息遣いをしながら背後を振り返る。

その静かな眼差しの先に広がるのは、先ほどまで彼が泳いでいた広い湖であった。
彼はこの湖を端から端まで泳いで渡ったのである。

傍から見れば、夜の山を登るがごとし意味のない行動にしか見えないが、氷月蓮という男は意味のない行動をする男ではない。
その行動にはいくつかの理由が存在する。

まずは単純に焔の魔女から距離を取るため、と言うのが一つ。
一時的に逃れはしたものの、また追いかけてこないとも限らない。
出来る限り距離を取っておきたかった。そのために改めて湖に飛び込み対岸まで泳ぎ切った。
仮に業火を扱うあの魔女が追いかけてきていたとしても、水路は有効な逃走経路だった。

次に、自身の運動能力の確認である。
彼は獄中で開闢を果たしたため、現在における自身の運動能力をまだ完全に把握しきれていなかった。
刑務所内での簡単な運動や刑務作業による肉体労働は行っていたが、それだけでは現在の性能限界までは分からない。

その確認を終える前にあの焔の魔女に出会ってしまったため、あの時点では対抗のしようもなかった。
久しぶりに見た超力越しの人間、そして死の予測だったが、自身の能力が分かっていなければ戦う以前の問題である。
だからこそ早急に自身の性能を確認する必要があった。

500mほどの遠泳をこなしても、殆ど息を切らしていない。
開闢以前の運動神経は同年代に比べても良い方だった自負はあるが、予測以上の成長である。

だが、予測以上と言うのはあまりよろしくない。それはつまりズレがあるという事だ。
完全に性能を発揮するには頭の中のイメージと現実の運動性能をアジャストせねばならない。
泳ぎながらある程度は調整できたが、まだミリ単位のズレがある。
本格的に動き出すのなら後1時間ほどの調整が必要だ。

最後の理由、それは湖の調査のためだ。
遠泳の最中に水中を確認していたが、湖には魚の一匹すら見つけられなかった。
夜の水中を見逃したのか、魚の少ない湖なのか。それだけならそう言う事もあるだろう。

だが、問題は彼が湖を調べようと思い立った理由だ。
ここにきて、氷月は動物はおろか虫の声一つ聞いていない。
都会ならまだしも、ろくに人の手の入っていない孤島でこれは異常だ。

その事実がどういう意味を齎すのか。
推測は出来るが、今の所その結論らしきものは出ない。
それを確認すべく水中の調査を行い、その疑念を強める結果となった。

道具があれば微生物の確認もしたいところだが、それは難しそうだ。
恩赦Pを使って購入するという手もあるが、そこまでの重要度のある事項なのかと言う判断もまだできない。
考えても仕方ないので、この件に関しては現時点では保留としておく。

夜に向かって歩を進めると、背の高い蔦が建物の壁をむしばんでいる光景が広がる。
氷月がたどり着いたのは、埋立地のような一角に聳える廃墟である。

全てが黒で塗りつぶされたような夜に、孤島の廃墟が沈黙をまとって立ち尽くしていた。
古い門や朽ち落ちた屋根に、長らく人の手が入っていないことは明白だった。

まるで建物の墓標が並んでいるかのよう。
不気味な深い静寂に包まれる夜の廃墟をまるで芸術品のように整った容貌の男が表情一つ変えず歩く。
響き渡る足音だけが夜の廃墟を支配する沈黙を破っていた。

廃墟に侵入した目的は、自然物の次は人工物を調査したかったというのと。
潜り込めそうな刑務参加者の捜索。24時間をやり過ごそうという輩が隠れるにはいい地形だ。
後は、魔女から逃れるのに使用した服の確保と言うのもある。

だが、しばらく無防備に歩いてみたが人の気配らしきものは感じられない。
あえて隙を見せる事で、どのようなスタンスの人間であれ何らかの反応をせずにはいられないだろうと期待したが何もない。
気配を殺しているのか、超力による隠匿も可能性としてはあるが、これは空ぶりようだと内心で肩を落とす。


691 : PSYCHO-PASS ◆H3bky6/SCY :2025/03/06(木) 21:08:19 ACuDEFX60
氷月は表情を変えぬまま目的を切り替え、近場にあった崩れかけた民家を見つめる。
朽ちた民家の門は今にも崩れそうで、闇を裂く月光がその隙間から滑り込んでいた。
扉は鍵が壊れているのかおあつらえ向きに半開きになっており、大した労をかけずに侵入できそうである。

氷月は何の恐怖もなく、だが待ち伏せを念頭に置きながら慎重に扉を押し開けた。
静まり返った空間には、まるで時間そのものが止まっているかのような暗さが宿っていた。
虫の声も消え失せた闇の中で、男は不自然なほど整然と片付いた床に目を止める。
まるで少し前まで誰かが暮らしていたかのようなその生活感に、ほんのわずかな違和感だけが彼の胸をかすめた。

室内ならば構わないだろうと、デジタルウォッチのライトを起動する。
その明かりを頼りに無機質な瞳をした男が、朽ちた廊下を無言のまま踏みしめて進む。

玄関に転がっていた薄汚れた靴や、テーブルに放置されたコップなど、かすかな生活の後が残る。
まるで人々の営みが途中で途絶えたまま、この世界に取り残されているようだ。
その痕跡に男はほんの一瞬だけ視線を留めたが、しかしその顔には何の感情も浮かばない。
そのまま何事もなかったように再び歩き出した。

1階の探索を終えた氷月は、慎重な足取りで床板の軋む音を確かめながら2階へと進む。
妙に肌に張り付くような空気の中、一つ一つ部屋を調べていく。

2階奥にあったのは住民の部屋のようだ。
そして、崩れかけた衣装棚を見つけ、無事そうな引き出しを開く。
ややボロだが、Tシャツが数枚。比較的状態の良い一枚を手に取り着用する。
着替えの最中、家具の隙間にまばらに雑誌の並ぶ本棚を見つけた。

邪魔な家具をどかせて、本を一冊手に取る。
その本を見て初めて氷月は意外そうに僅に眼を細めた。
その書籍は彼の母国語である日本語で書かれていた。

彼が驚いたのはこの孤島が日本語圏にあるとは考えていなかったからだ。
だが日本の書籍があったところで、ここが日本であるというのは安直な決めつけである。
世界の危機に対する世界的な貢献から、日本は開闢以降国際的な発言力を強めた。
外の世界の実情は分からないが、海外に日本の本が流通することも珍しくはなくなっているはずだと、そう推測する。

人生の大半を獄中で過ごしたはずの彼が国際情勢に明るいのは新聞による知識である。
反抗的な囚人や、制御不能の凶悪犯、あるいは少しの自由を与えれば脱獄を企てるような輩は別だが、アビスと言えど模範囚であればある程度の自由時間が許可される。
と言っても、自由時間を与えられたアビスの模範囚は片手の指ほどもいないのだが、その一人の夜上神父なんかはその貴重な自由時間をカウンセリングの手伝いに当てたりしていた。

数少ない模範囚である氷月の自由時間における趣味は刑務所図書館における読書であった。
図書館の規模はさほど大きくなく、並ぶのは係官による検閲済みの書籍ばかりである。
その上、流通の関係か、新聞も1週間ごとにまとめて来るような始末である。

刑務所図書館に並ぶのは道徳や哲学書などが主で、名作故に検閲を免れた古典なんかの存在は貴重であった。
検閲済みの書籍は刺激はないが、外の情報を得る手段は限られており、図書室に足繁く通う彼はこの20年で蔵書の殆どを読み切っていた。
それ故に、彼の最近の楽しみはお気に入りの哲学書の再読と読書とは別の『議論』にあった。

それは、同じくこの図書館通いを趣味とする模範囚との交流である。
基本的に自由時間と言えでも、このアビスでは囚人の私語は許可されていない。
だが、それはあくまでも建前、その日の担当看守によっては多少の雑談は目溢しされることもあった。

そして『彼』が図書館にいるときは、その目溢しがよく発生していた。
その理由は恐らく、『彼』の特殊性ゆえだろう。

氷月の図書室での議論相手。
それはアビスで育った少年、看守たちに我が子のように可愛がられるエネリット・サンス・ハルトナだった。
外の世界を知らぬが故に、彼は知識に貪欲だった。何か強い目的意識に突き動かされているように見える。

彼とはアビスの刑務所図書館で出会い、よく意見を交わした。
本を手にしたこともあってか、そのやり取りが思い出される。


692 : PSYCHO-PASS ◆H3bky6/SCY :2025/03/06(木) 21:10:37 ACuDEFX60
「蓮さん、復讐についてあなたはどう考えますか?」

ある日、いつものように刑務所図書館で自由時間を過ごしていた氷月にエネリットがそう問うてきた。
氷月の前には何冊かの書物が積まれており、そのどれも刑務所内には珍しいほど難解なテーマを扱っているように見える。
その正面の席に同じく図書室の常連であるエネリットが陣取っていた。

「珍しいね、君がそんなことを聞くなんて」
「そうでしょうか? この手の問答はいつも行っていると思いますが」

いつも、という刑務官によっては懲罰は免れぬ大胆不敵な言動に肩を竦めつつ、既に何度か読んだ再読書籍なのだろう、氷月は速読のような速さでぺらぺらとページをめくる。
そして、氷月は書籍に目を落としたまま、エネリットの言葉を否定するようにゆるゆると首を振った。

「自分の中ですでに答えの出ている事を問うなんて君らしくはない。そうだろう?」
「お見通しですか」

エネリットは心中を見透かされたことを驚くでもなく、イタズラのバレた子供のように照れ笑いを浮かべた。
このアビスでは違和感を感じるほどの人を惹きつけるような笑み。看守たちがやられているのはこういう所なのだろう。
そんないつもの調子の少年を前に、氷月は小さくため息をつくと、読んでいた古い書物を閉じる。

「まあいいさ。興味深いテーマだ」

組んでいた足を正し、机の向かいに座るエネリットに向き合った。
相手が応じる姿勢を見せてくれたことに、エネリットも前のめりになりながら姿勢を正した。

「復讐という言葉を聞くと、私はまず『モンテ・クリスト伯』を思い出すね。残念ながら、この手の『刺激的』な書物はこの書庫には置かれていないが、エネリット、君は『巌窟王』の物語を知っているかな?」
「そうですね。概要くらいでしたら」

氷月はほんの少し頷いて、まるでなじみ深い友人の名を口にするかのように語り始めた。

「無実の罪で投獄された男が壮大な復讐を果たす物語だ。あれは人間の怨念と希望、両方を描き出しているね。
 復讐を成し遂げても結局は心に空虚さが残るという描写がありながら、『待て、しかして希望せよ』の言葉で表されるようにこの物語は復讐の先にある希望も描いている。
 人間の多面性を見事に描いた大デュマの傑作だよ。機会があるのであれば君にもお勧めしたいところだ」

もっとも、無期懲役の実刑を受けアビスでの一生を約束されたエネリットにそのような機会があるとは思えない。
互いにそれを理解しつつ、ちょっとした冗談でも言ったかのように話は進む。

「蓮さん自身はどういう復習観をお持ちなのですか? その考えをお聞かせください」
「そうだね。私は復讐は人間の本能的な衝動のひとつだと考えている。だが、理性を持つ我々にとってそれは常に『後悔』と背中合わせだ。ドストエフスキーの描いた罪や罰のテーマにも、似た構造が見え隠れするね。
 人間の憎悪は強烈だが、その先にあるものはしばしば虚無だ。シェイクスピアの作品などを読めば、復讐がいかに人間の精神を歪めるか、よく示されているだろう」

氷月は古典を引用しながら、自身の考えを述べる。
それらは読了した事があるのか、エネリットはなるほどと頷きを返していた。


693 : PSYCHO-PASS ◆H3bky6/SCY :2025/03/06(木) 21:11:00 ACuDEFX60
「もちろん、正義に対する執着や怒りが復讐を生む場合もある。だが、それに囚われればいつしか自分自身が復讐によって支配されてしまう。
 そうなってしまえば、本来の目的であるはずの『償わせる』という意志さえ形骸化して、その復讐は得るものよりも失うもののほうが多くなるだろう」
[では、復讐は行うべきではない、と?]
「そうは言わない。大切なのは、怒りを原動力とするか、理性をもって昇華するか、それを見極めることさ。
 復讐は目的のようでいて、実は人が自分の存在を問い直すための道程なのだよ。だからこそ、感情に飲み込まれず、どんな結果を望んでいるのかを冷静に見つめ直すことが大切なんだ」
「つまり、復讐もその先を望むための一つの過程にすぎないということですか?」
「その通りだ。罰の執行者になろうとするとき、人はしばしば自分の良心を押し殺す必要がある。このアビスで勤勉に働く刑務官たちのようにね。
 それは相手だけでなく、自分やその周囲をも傷つける。復讐とはそういう刃を含んでいる事を自覚すべきだ」

復習と言う行為は正しさ以前に、多くの人を巻き込み傷つける刃が潜んでいる。
復讐者はそれを忘れるべきではないと、そう言っていた。

「では、もしどうしても復讐心を抱えてしまったら、どうするのが賢明なのでしょう?」
「人は完全には悟れぬ生き物だ。復讐を強く意識するなら、まずはその衝動を言葉にして整理すること。感情を知に変え、昇華する余地を探る。そうして初めて、人は復讐の呪縛を良きものとして受け入れられるのだろう」

その言葉を受けたエネリットは考え込むように押し黙った。
そしてしばしの沈黙の後、自分の思考を整理できたのか疑問を口にした。

「それは以前、あなたがおっしゃっていた“知性は暴力を希求しない”という考え方と関係するでしょうか?」
「ふむ、よく覚えているね。エネリット。そう、暴力というのは往々にして知性と相反するように見える。
 しかし真の知性ある者ほど、必要に応じて暴力を行使する手段と意志を区別して考えるのだよ。
 たとえばプラトンの『国家』を読むと、正義のための力の用い方についても示唆がある」
「プラトン……。彼の理想国家論は読みかけでしたが、論理を通じて“形”を求める姿勢がとても興味深いと思います」
「興味深いというのは、君が“意図”の部分にも触れたいということかね。
 生きているとね、確かに多くの衝動を抱える。しかしそれらをどう整理し、行動に移すかを思考する――その過程こそが人間の強さを決定すると、私は考えているんだよ」

そこまで話したところで、自由時間の終了を告げるように看守の足音がかすかに聞こえてきた。
議論はまだ結論に至っていないが、エネリットは静かに立ち上がり、礼を述べる。

「今日はここまでのようですね。貴重なお時間を頂き、ありがとうございました」
「ああ、こちらとしても有意義な時間だった。また機会があれば続きを話そう」

少年は氷月に無垢な信頼を向けながら、出口で待っていた担当刑務官と共に図書館から立ち去った。
その背を見送り、自身も机の上に確保した書籍を元に戻すべく立ち上がる。
そうしてその日のやり取りは終わった。

氷月にとってエネリットは実に面白く、興味深い存在だった。
なにせ、あれだけ無垢な信頼を向けておきながら、エネリットは氷月を全く信用していない。

彼はサイコパスという物を正しく理解していた。
博識で弁が立ち魅力的にふるまう、それが表面上のものであると理解した上で、その外面に全幅の信頼を寄せている。
その上で、その本質を全く信用しない、矛盾した価値観を成立させる天秤。
犯罪者の園で育ったある種の純粋培養。その在り方はこのアビスにおいても稀有なのものであった。

残念ながら、その続きはまだ語られていない。
これが刑務作業が始まるまでに行われた、最後のやり取りだったからだ。

「続きは、話せないかもしれないね。エネリット」

回想を終えた氷月が静かに呟きながら、手に取った本のページをパラパラとめくる。
それは、日本ならどこにでも置いてあるようなコミックだった。
アビスの図書館に並ぶことのない、毒にも薬にもならない駄菓子のような一過性のエンタメ。
それを一通り流し見て、本の内容からは獲るものはないだろうと確認して本棚に本を戻した。
ただ本の並びが気になったのか、巻数の順番を几帳面に揃えなおすと、何事もなかったように振り返り、そのまま家を後にした。


694 : PSYCHO-PASS ◆H3bky6/SCY :2025/03/06(木) 21:12:44 ACuDEFX60
そうして、観光でもするようにいくつかの建物を冷やかしながら廃墟を歩き続けた。
幾つか武器になりそうなものを見繕ったが、刃物の類はだいたいが錆びており。
何より、潜伏と言う氷月の目的を思えば手元に隠せる武器でなければ意味がない。
残念ながら、あったのは切れ味のない錆びた食事用のナイフとフォークが数本。
得られたのはそれくらいの成果だった。

だが、物質以外となるとそうでもない。
氷月がこの孤島に転送され約2時間。
ここまで島を泳ぎ、廃墟を練り歩いて気付いたことがあった。

この島には、殺し合いをさせるのに都合がいい孤島があったでは片付けられない何かがある。

廃墟を調べた所、人々が生活してたような痕跡は幾つもあった。
その手のプロが見れば違うのかもしれないが、少なくとも、氷月の見る限りでは作為的な違和感はない。
だが何故、刑務者業者以外の生命が存在しないのか。

事前に刑務官が駆除した? 何のために?
虫の一匹まで排除する理由がどこにある?

それとも、生命など最初からいなかったのか。

例えば、超力で島ごと創造したのならば、納得はできる。
だが、この規模の島一つをどうこうしようと言うのは、あまりにも大規模すぎる。
何でもありのように見える超力と言えど、しょせんは個人の能力だ、限界はある。
実体験こそないが、記録だけは常に追ってきた。その手の知識は緩慢に生きている外の人間よりもある。

ノルドル・バイラスによる『超力感染事件』、シビトによる『死人の行進』の様な感染を拡大させる類の超力が結果的に、大きな被害を及ぼす事はある。
だが、1度の超力行使による記録上の最大被害は池袋を半壊させた『光の豊島事件』が限度だ。

少なくとも氷月の知る限りでは人間の超力では不可能だ。
そんなことができるのなら、それこそ魔法だ。

あり得るとするならば、認識を操る幻覚、幻影系の類だ。
ここが何らかの仮想空間であるのなら、どのような事も実現可能だろう。

だが、超力による精神耐性を持つ受刑者も少なからずいたはずだ。
そいつらにはその手の超力は通用しない。
システムAから解放された彼らがこの場にいる以上、その線もあり得ない。

氷月一人の認識をハックし、他の刑務作業者を認識させている線も考えられるが。
個人に行うにはあまりにも大がかりだ。目的も見えない。可能性は薄いだろう。

一瞬のうちにあらゆる可能性を考察し、ある程度の結論に達した所で、氷月はあっさりとその思考を打ち切った。

氷月蓮には膨大な知識量とそれを生かす才知がある。
突き詰めれば、あるいはその真実に至れるかもしれない。、

だが、氷月蓮にはそれを掘り下げる動機がない。
彼は探偵とはちがう、真実の探求などどうでもいいし、好奇心では動かない。

あるとするならば、自らの損得。
この真実が己の損得に関わらないのであれば、彼は興味すら持たないだろう。
自己中心的で己が目的のためにしか動かないサイコパス。
それが、氷月蓮と言う男なのだから。

【B-7/廃墟/1日目・黎明】
【氷月 蓮】
[状態]:健康
[道具]:Tシャツ、錆びたナイフ×3、錆びたフォーク×3、デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.恩赦Pを獲得して、外に出る
1.まずはチームを作る、そしてその中で殺す


695 : PSYCHO-PASS ◆H3bky6/SCY :2025/03/06(木) 21:13:04 ACuDEFX60
投下終了です


696 : ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 16:59:09 FN7f4K7Y0
投下します。


697 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:00:05 FN7f4K7Y0
 白銀帯びる拳が軌跡を描き、一陣の疾風となる。
 矢の如く振り絞られたそれは赤紫の装甲を穿たんと迫り、片腕で捌かれ失敗。
 続く頬を狙った一撃も上体だけのスウェーで躱される。
 驚愕を覚えるまでもない、この程度の実力差は想定内だ。

「退屈なダンスだなァ、葉月りんか」

 もう一度、もう一度と。
 呼吸の暇もなく連撃を放つシャイニング・ホープ。
 幾度も降り注ぐ銀色の雨を、踊るようにやり過ごすブラッドストーク。

「所詮はごっこ遊びかい? お嬢ちゃん」

 希望を冠する戦士の額に汗が滴る。
 洗練された拳打はそのどれもが必殺。只人であれば触れた時点で勝負が決するであろう。
 しかしそれらは掠りこそすれど、一発たりとも当たらない。

 鼻歌交じりに猛攻を凌ぐ怪人、決死の形相で歯噛みする正義のヒーロー。
 素人目──格闘技に疎い紗奈の目から見ても、どちらに天秤が傾いているのかは明らかだった。

「今度はこっちからいこうか」

 りんかの戦闘技能は優れている。
 しかし今振るわれた紅蓮の一閃は、それが拙く見えるほど研ぎ澄まされたものだった。
 一切の無駄な所作を省き、手首のスナップを利かせた殺人拳。
 ただ痛みを与えることだけに特化されたそれは吸い込まれるように水月に突き刺さり、血混じりの唾液を吐かせた。
 
「か゛────っ!」
「余所見すんなよ」

 蹲るりんかの顔面に膝蹴りが叩き込まれる。
 大きく仰け反ると共に噴き出した鼻血が弧を描く。
 白濁する意識をなんとか持ちこたえ、反撃の鈎突き。結果は言うまでもなく空振りに終わり、喉元へと掌底が叩き込まれた。


698 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:01:12 FN7f4K7Y0

 二歩、三歩。
 よろめく身体がから足を踏む。
 そのまま倒れ込もうと支えを失う片足を、もう片方の足で踏みとどまった。

「ま、だ……っ! まだぁッ!」
「おおっと?」

 希望は潰えない。
 儚い灯火であろうと、未だ消えない。
 今にも倒れそうになる身体を意地で叩き起こして、命を削る連撃で邪悪を討たんとする。
 飄々とした声に驚きが混じったような気がしたが、依然戦況に変化はない。

 呑まれかける光。
 仄暗い宵闇にて明滅するランタン。
 蹂躙にも等しい光と闇の摩擦を、少し離れた場所で見届ける者がいた。
 
「りん、か」

 交尾紗奈は、消え入りそうな声で名を呼ぶ。
 声が震える理由は紗奈自身にも分からない。
 けれどそれは、些末な問題だった。
 現在進行形で紗奈の頭を埋め尽くす、圧倒的なまでの当惑と比べれば。

「…………なんで、そこまで……」

 りんかと紗奈の交流は決して深くはない。
 刑務作業以前からの知り合いというわけでもなく、つい一時間ほど前に初めて名を知った程度の関係。
 当然、自分の命を懸けられるような間柄でもなく。囚人という偏見を抜いても危機に瀕すれば見捨てるのが当たり前だ。

「私たち、友達でもなんでもないのに……」

 紗奈もそれを理解していた。
 どんなに表面上で善人を取り繕ったところで、根本にあるのはいつも自分。
 他人のために心から動ける人間など存在しないと、十年の月日を経て紗奈は思い知った。
 だからこそ正義の戦士に憧れる年齢でありながら一切の希望を捨てて、薄汚い現実と向き合う覚悟をした。
 テレビの中のヒーローは所詮フィクションなのだと、家族に売られたあの日に痛感したから。

 なのに、
 目の前の少女は。
 葉月りんかは、まるでテレビから飛び出したヒーローのようで。
 極寒の嵐に見舞われる紗奈の心に、僅かな陽を灯してくれるような気がした。

「さっきまでの威勢はどうしたァ?」
「ぐっ……! ……まだ、ですッ!」

 紗奈は特撮番組なんてまともに見たことない。
 けれど、正義のヒーローが悪の怪人を討ち倒すという〝お約束〟くらいは分かる。
 例えどんな窮地に至っても、例えどんな困難な壁が待ち受けていても。
 最後には、ヒーローが勝つのだ。

「お前みたいな正義に酔ったガキ、幾らでも見てきたぜ」
「ッ…………それ、っでも……!」

 古臭くてもいい。
 ありきたりでもいい。

 気が付けば、両手を強く握り込んでいた。
 感動を押し売りするチャリティー番組でも、無責任に愛を謳うドラマでも味わえなかった感覚。

「────私は、負けないッ!」

 胸奥を迸る熱いなにかの名称を、紗奈は知らない。
 けれど、いつもこの胸を占めていた刺々しい不快感とは程遠くて。
 初めての感覚に戸惑い、焦燥し、戦慄に身を震わせる。

 受け入れ難い感情の起伏から逃れるのは簡単だ。
 いつものように目を閉じて塞ぎ込んでしまえばいい。
 余計な雑音を一切合切除いて、ぬるま湯のような孤独の世界に浸り切ってしまえばいい。

「……りんか…………!」
 
 なのに、紗奈は。
 一瞬たりとも、〝ヒーロー〟から目を離せなかった。

◾︎


699 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:01:58 FN7f4K7Y0

 ──なぜ倒れない?

 流都の思考に渦巻くノイズ。
 既にりんかの身体は限界のはずだ、と。〝暴力〟の悉くを理解している流都はとっくにその判断を下している。
 今までその見解を間違えたことはない。
 なのに、そんな流都を嘲笑うかのようにりんかは立ち続けていた。

「は、ぁ……はぁッ!」

 息切れ混じりに繰り出される左突き。
 十分に見切れる速度ではあるが、戦闘開始の時点から一切勢いが衰えていない。
 半歩退がり回避、軸足をそのままに回転を活かして鋭い裏拳。
 頬に突き刺さったそれはりんかの脳を揺さぶり、口内を切ったせいで鉄の味が広がった。

 よろける小柄な身体。
 月光を翠で返す草原へ身を投げ出しかけて、持ち堪える。
 幾度目になるか、数えるのも億劫なほど目にした光景にため息を吐いた。
 
「頑張るねぇ、健気な姿見せれば俺が同情するって思ってんのかい?」
「あなた、なんかの……同情なんて、いりませんッ!」
「ハッ、そんなふらふらで言われても説得力ねぇよ」

 いい加減腕が疲れてきた。
 生ぬるい攻撃をしたつもりはないが、遊びを含んでいたのは否めない。殺意を乗せなければこの娘は倒れないだろう。
 狙うは左の眼球。目にも止まらぬ速度で大地を踏み抜き、突き立てた鋼指による絶技は寸分の狂いなくりんかの左眼を狙い────外れた。


「可哀想なのは、あなたの方だからッ!」


 屈み込むりんかの声が下から響く。
 瞬間、天へと撃ち出された拳が流都の顎を射抜いた。
 金属のように硬質化した皮膚を無視し、急速に揺さぶられる脳は視界をもぐらつかせる。


700 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:02:53 FN7f4K7Y0

 流都が一瞬、ほんの一瞬動きを忘れた原因は痛みでも衝撃でもない。
 初めて反撃を受けた事による動揺と、それを可能としたりんかへの驚嘆。
 力を見誤る、どころの話ではない。
 葉月りんかはこの戦闘を経て一切衰えぬだけでなく、己の思考を読み取り先手を打って見せた。

(…………ああ、そうか。勘違いしてたぜ)

 咆哮と共に唸りを上げる拳撃を後退でやり過ごし、流都は二度頭を振るう。
 認識を改めなければならない。
 先刻までの自身は間抜けだったと、流都は己の失態を認めた。

 この女は倒れない。
 どんなに肉体を甚振ったところで、葉月りんかは膝を付かないと断言出来る。

 だからこれは、違う。
 身体能力や戦闘技術が優れていたところで意味はない。
 殺すべきは肉体ではなく心。
 戦意ごとその心を折ってしまえばいい。
 
「なぁ、葉月りんか。人はなぜ争うのかわかるか?」

 ────そしてそれは、流都の独壇場だった。

「……そんなの、わかりません」
「ああ、そうだろうなァ。特にお前みたいな、悪意に塗れた人間に染められるまま堕ちた〝可哀想な〟人間なら、分からなくて当然だ」

 りんかは流都の狙いが分からない。
 だが、場の流れが変わったことは理解出来た。
 暴力ではなく言葉の応酬。
 自身と初めて対峙した時のような、人を惑わす道化師の一面。
 気を抜いてしまえば意識を絡め取られるような耳触りのいい声色へ、最大限の警戒を滲ませた。

「人は何かに飢えて生きている。どんな善人装っても、結局根幹にあるのは自分なのさ。そんな身勝手で薄汚いエゴを満たすために、人間は戦うんだ」

 世界の全てを知ったような大仰な言葉。
 身振り手振りで繰り出される演説を、りんかは無視することができない。
 圧倒的な戦力差を前にしても顔を潜めていた動揺が、言葉の雨霰を前に一筋の汗となって現れた。

「開闢の日以降、人類は変わった。妄想の中にしかなかった超力(ネオス)という異能を得たせいで、エゴを貫き通す貪欲な者こそが正義となった」

 耳を貸すなと、己の正義が拒絶する。
 しかし心とは裏腹に、鼓膜を揺さぶる言葉を脳が理解しようとしてしまう。

「この世界は、そんな飢えを失くした者から死んでいくのさ」

 覚えがある。
 自身を、そして家族を散々に痛め付けて、辱めてきた組織の連中は常に欲望を曝け出していた。
 飢えた獣のような目はいつまでも記憶にこびりついて離れない。
 そして、奴らは今も尚当然のように生きている。
 身勝手な欲を持たぬ良心的な人々が惨殺される横で、奴らはそれを笑いながら見ていた。

「ちがい、ます」

 だから、その否定に力はない。
 天罰は必ず下ると信じているりんかも、薄々と世界の仕組みを理解してしまっているから。


701 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:03:50 FN7f4K7Y0

「違わないさ。現に葉月りんか、お前が今生きてる理屈もそうだろ?」
「え……?」

 矛先を向けられ、身が固まる。
 流都相手に舌戦での勝ち目などなく、主導権を握られたりんかは無抵抗で口演を浴びた。

「〝誰か〟の救いになるため、なんてのは建前だ。常人なら死を選ぶような絶望を味わっても尚お前が生きてるのはな、飢えてるからだよ。お前が抱いている埃まみれの欲望がなんなのか、当ててやろうか?」

 嫌な予感がする。
 鼓動が早まり、悪寒が背筋を走る。
 
「やめ────」

 伸ばした手をパチンと払われる。
 仮面で隠れているはずの素顔が、不敵な笑みを浮かべているように見えた。
 
「お前が本当に求めてるのはな、〝赦し〟だよ」

 道化師の一言は。
 どんな刃よりも深く、りんかの心を抉った。

「こんなに頑張ってるんだから許してくれるでしょ? 今こうやって誰かのために尽くしてるんだから、私が殺してしまった人達のことは帳消しにしてよ。……ってなァ」

 ────やめて。
 枯れ果てた喉からは声も出せない。

「ひでぇ話だよなァ。お前にゴミのように殺された奴ら一人一人にも大事な人が居たってのに。今生きてる奴らの為に頑張ってるだとか、そんなこと遺された者からしちゃ知ったことじゃねぇのにさ」

 ────やめて。
 流都を止めようと踏み出した足は崩れ落ちる。

「許されるわけないなんて分かってるんだろ? お前がやってることはな、自分の心を守るための保身だよ。他人の為なんかじゃない、最初から最後まで自分の為なのさ」

 ────やめて。
 ブラッドストークの複眼が紗奈を捉えた。

「交尾紗奈、だったか? 都合の良いモノ見つけたなァ。そいつを連れてる限り、自分は弱者を守る正義のヒーローであり続けられるんだから。そりゃあ手離したくないよなァ?」

 ────やめて!
 軽蔑の視線を向けられるのが怖くて、頭を抱えて塞ぎ込んだ。


 もはや今のりんかは脅威でもなんでもない。
 流都は彼女の過去を熟知している。
 それはすなわち、超力への理解も同意義。
 『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』は葉月りんかによって元気づけられた者を強化する超力。
 その対象には、りんか自身も含まれる。

 己への鼓舞を力に変えてきた。
 この超力があるから流都を前にしても倒れずにいられたのだ。

 なのに今、紅の悪魔によって汚い心を丸裸にされて。
 意図して見ようとしなかった自分の嫌な部分を、これでもかと見せつけられて。
 葉月りんかという存在がいかに自分勝手で醜悪であるかを理解してしまった今、彼女の超力は力を失った。


702 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:04:43 FN7f4K7Y0

「本当に罪を償いたいんならな、死ぬべきなんだよ。改めて言ってやろう。お前が、今! こうして! 惨めったらしく生き延びてるのは! テメェ自身の欲を満たすためなんだよ!」

 心に突き刺さる凶刃。
 甦る凄惨な悪夢。
 飢えた獣の双眸。
 悲鳴に舌舐りする男達。
 罪なき人々が死にゆく景色。

 そして、それを嗤う自分(りんか)。

 流れ込む負の記憶が動乱を起こす。
 立っていられるはずもなく、膝を折る。
 焦点を失った瞳孔は誰へ向けてでもなく。
 戦意を棄て去った少女は、糸の切れた人形のように沈黙する。

 りんかに反論の意思は無い。
 何故ならば、流都の紡ぐ言葉一つ一つが図星だから。
 違う、そんなことはない。
 そんな〝嘘〟をつけるほど、りんかは悪人になれなかった。



 だからこそ、



「────それの、なにが悪いの?」

 ここで立ち向かうのは、りんかではない。
 邁進を食い止めるのは、りんかではない。

「りんかがどう思っていようと、私がりんかに助けられた事実は変わらない」

 彼女の行動に元気づけられた、確かな光。
 常闇を蠢く野心と比べれば小さな、けれど眩い光。
 不滅の希望に充てられて、深淵の中でも輝きを放つ白鳥の子。
 
「他人の為だとか、自分の為だとか関係ない。私は今、りんかのおかげで生きている。誰がなんと言おうとその事実は覆らない」

 場を制するはいつしか紗奈へ。
 この場で一番力を持たぬはずの幼子は、誰よりも強く宣告する。
 この場で一番欲を理解している幼子だからこそ、その声に力を持つ。
 
 なにやら偉そうに説法垂れているが、自分からすれば全くの筋違いなのだと。
 勝手に引き合いに出されているが、そんなこと承知の上なのだと。
 独り舞台を踊る虚しい道化師の姿は、もはや紗奈の眼中にはなく。

「だから、さ」

 呆気に取られるヒーローの目をじっと見据えて、唇を開いた。


「ありがとう、りんか。生きていてくれて」


 生涯で数える程にしか述べたことのない感謝を。
 一度言いそびれてしまった、あの時の礼を。
 流都の演説を踏み台にして、改めて告げる。
 
「────っ」

 そしてその一言は。
 りんかが今、一番欲しいものだった。

「…………死神。余計な茶々入れんなって言っただろ?」

 流都の声色に不機嫌が滲む。
 己の最も得意とする画策を体良く利用されたのだ。これ以上の屈辱などない。
 紗奈へと警告の意味合いを含んだ睥睨を飛ばし、〝敵〟へと向き直る。

 そこには、〝ヒーロー〟がいた。
 心の壊れた人形ではなく、凛と引き締まった顔立ちの改造人間が。
 両の足で大地を踏み締め、紅血の鴻鳥と対峙する。

「感謝するのは私の方です、紗奈ちゃん」

 奮い立たされるのは、これで二度目だ。
 自分よりも一回り以上小さくて、助けを求めていた幼子が。
 差し伸べてくれた手を、今度こそ離さない。

 りんか、と。
 名を呼ぼうとする紗奈を片腕を広げ制する。
 心配はいらない、もう大丈夫だ。
 優しい微笑みに込められたその言葉を汲み取って、今度こそ紗奈は何も言わず見届ける。

「ハッ、美しい友情だねぇ」

 心を抓む算段を見事なまでに邪魔されて、滾る苛立ちを巧妙に隠しながら軽口を叩く。
 流都の余裕は覆らない。決着が遠のいただけで、己の勝利は揺らぎないのだと確信しているから。
 戦闘態勢に移るりんかへ、両腕を蛇のように靭らせて応える。

「いいぜ、とことん付き合ってやるよ。お前が心の底から絶望するまで、な」

 風を置き去りに放たれる貫手。
 獲物を屠る牙の如く静かに、確実に。
 這い寄る一撃がりんかの喉を貫く寸前。
 まるでそうなることが決まっていたかのように、細腕に捌かれた。


703 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:05:33 FN7f4K7Y0
 
「────は?」

 代わりに、胸を伝播する衝撃。
 甲高い外皮の悲鳴を聴きながら流都の足は一歩後ずさる。
 次に視界に映し出されたのは、拳を突き出すりんかの姿。

 偶然だ、まぐれに過ぎない。
 再度振り抜かれる紅針は打撲痕の目立つ腹部へ。
 以前のりんかであれば反応さえ叶わなかったそれは、右腕〝だけ〟で掴み取られる。

 細く華奢な指に反して万力を思わせる握力。
 みしりと嫌な音が鳴るのを聞いて、反射的に左腕を引いた。

「お前、まさか」
「そのまさか、です」

 流都は確信する。
 今相手しているのは、これまでの葉月りんかではない。

「────ヒーローは声援を浴びて強くなるッ! それが〝お決まり〟でしょう!?」

 一度底深い泥濘へ沈みかけた心は、救い上げられたことで強固さを取り戻して。
 自分は生きていていいのだと、他ならぬ守るべき者に背中を押されたから。
 りんかはこれまで以上に、〝葉月りんか〟を信じることが出来た。

「…………厄介なことになっちまったなァ」

 戯れに付き合ってやるつもりだった。
 この島に混沌を広げるための軽い足慣らしのつもりだった。
 正義を騙る残影を蹂躙し、己の過去と決別するつもりだった。

 けれど、違う。
 これはもうごっこ遊びではない。
 正真正銘、〝正義〟と〝悪〟の戦いだ。

「なぁ、ヒーロー」
「はい」
「本気で、やろうぜ」
「言われなくとも」
 
 ならば尚更、都合がいい。
 腐敗した心の隅に巣食う未練と、カタをつけるには丁度いい。
 
 葉月りんかが本当に正義の代行者なのだとしたら。
 やることは変わらない。真正面から栄光を呑み込もう。
 輝かしい理想を喰らい、血に塗れた混沌への布石にしてやろう。
 善も悪も取り払い、我意で倫理をこじ開けよう。

 それこそが己の役回り。
 世に蔓延る悲劇を嘲笑い、憤怒や遺恨を靴にして踊り狂う。
 それが、恵波流都という〝悪〟なのだ。


◾︎


704 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:06:23 FN7f4K7Y0
 

 顔面を狙う蠍の尾のような刺突を捌き、残光描く拳撃にて応える。
 鴻鳥は拳一個分体を捻ってやり過ごし、回避行動と共に後ろ回し蹴り。
 達人の居合を思わせるそれはヒーローの首を飛ばすに至らず、寸前で防がれる。
 肉と肉が打ち合ったとは到底思えぬ音が鳴り響く。空気の振動を肌で感じ取り、紗奈は静かに息を呑んだ。

「はぁ──ッ!」
「っ、……」

 勇猛果敢、猪突猛進。
 止まらぬ白銀の流星群は流都を後手に回らせ、反撃の頻度を極限まで落とさせる。
 大袈裟な回避は次の一手への隙となるだろう。
 故に流都は怒涛の拳打を捌き、いなし、躱し、流し、受ける。

 努めて冷静に、あくまで堅実に。
 りんかの攻撃の癖を見極めながら、反撃の時を待つ。

「────シッ!」
「ぐ、……ぅ!?」

 ようやく訪れたその時。
  顔面を狙い放たれた右腕をかち上げ、鋭い一閃を鼻柱へと叩き込む。
 よろけるりんかの腕を掴み、抉るような打撃を腹部へ執拗に放つ。
 バルタザールに与えられた傷跡に追い討ちを食らい、身震いする程の激痛が襲いかかった。

「──っ、あぁぁッ!」
「が、……!」

 五発目ともなるそれを貰う直前、耐え難い痛みを押し退けて頭突きを見舞う。
 思わぬ反撃は見事なまでに流都の口元へ突き刺さり、仮面の奥で歯にヒビが入るのを感じた。

 堪らず距離を取る流都。
 重い呼吸と共に回復に移るりんか。
 両者は構えを取り、静かに敵と見合う。


 ────戦況は互角。
 膂力と反射神経はりんかが上。
 経験と技術で流都がそれに喰らい付く。
 
 ならばその膠着を崩すのは。
 これまで蓄積されてきたダメージの差。
 
「っ、…………!」

 追撃を仕掛けんと踏み出すりんかの肩が、ぐらりと揺れ動く。
 疲弊を訴える両足がはち切れんばかりの痛みを駆け巡らせ、神経に棘を刺す。
 現実感のない震盪に顔を歪めるコンマ数秒、その一瞬にも満たぬ空隙に破壊者は口角を吊り上げた。

「おねんねしな、ヒーロー」

 余力を肉薄に注ぎ込んで、渾身の鉄拳を。
 痛みを与える為ではなく屠る為の一撃。
 踏み込んだ右足から拳へと体重を移動させ、骨をも粉砕せしめる破壊力を以て迫る。

 りんかの上半身に動きは無い。
 当たると確信した直後、異変が起こった。


705 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:06:58 FN7f4K7Y0


 不意にりんかの身体が後方へ倒れ込むように仰け反ったかと思えば、ぐるりと背が向けられる。
 その行為の意図を汲み取るよりも早く、流都の側頭部を凄まじい衝撃が撃ち抜いた。

 理解などできるはずもない。
 疑問を抱いた頃には倒れ込み、草原と胸が接地していた。
 目まぐるしく迸る思考を捨て去り、ひとまずは身体を起こそうと地面に手を付いて──ぐしゃりと崩れ落ちる。

「あ、…………ァ?」

 幻術にかけられたような浮遊感。
 視線を上げれば、幾重にも層を作るりんかの身体が映った。

 なんだ、なにが起きた?
 なまじ戦闘センスに長けているが故、結論に至るのにそう時間は要さなかった。
 

 ────蹴り技。


 この戦闘において、初めて解放された攻撃。
 殴る事しか脳の無いバトルスタイルだと断定した直後、目論見を崩す仕込み刀。
 警戒の外の外、意識の彼方から突如繰り出されたそれは見惚れる程美しく、流都の三半規管を刈り取った。

 耳鳴りがする。
 吐き気が止まらない。
 翼を失った鴻鳥は、無様に藻掻く。
 憎悪を込めた複眼は、どこか物憂げな正義の顔を捉えた。






706 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:07:47 FN7f4K7Y0



『やっぱりさ、ヒーローといえばキックだよキック!』
『えぇ、絶対パンチのほうがかっこいいよ〜!』

 それは、幼き日の記憶。
 大災害から数えて二年、心優しい家族に囲まれていた幸せの絶頂の日。

 確かその日は、買い物の帰りだったと思う。
 日が沈みかけた夕暮れ時、お姉ちゃんに我儘を言って公園で遊んでいた。
 ベンチで優しげに微笑むお姉ちゃんの顔は、今でもよく覚えている。

『りんかちゃん、しらないのー? ヒーローの〝ひっさつわざ〟はね、キックなんだよ!』
『ひっさつわざ……か、かっこいい……!』

 その時に一度だけ出会った黒髪の女の子。
 一期一会。何の変哲もない日常の切れ端。
 たった一時間にも満たない五年前の記憶を、なぜか鮮明に覚えている。

 その子は二つ年上だった。
 私と同じく特撮番組が大好きで、太陽のように明るい女の子。
 誰かを助けるために奔走するヒーローを、その子は本気で目指していた。
 
『アタシの方がおねえさんだから! りんかちゃんにもとくべつに教えてあげる!』
『? なにを?』
『ふっふっふっ……ずばり、アタシのひっさつわざ!』

 その子の名前は、思い出せない。
 けれどその時見せてくれた〝必殺技〟は、今でも完璧に再生出来る。

『いくよっ! おりゃーーっ!』
『わぁぁ……!』

 それくらいかっこよくて、美しくて。
 テレビの中でしか見たことなかった光景を、しっかりと目に焼き付けて。
 闇を切り払うような洗練された回し蹴りは、子供ながらに感動を覚えた。

『ふふん、どうだ!』
『う、うぅ……わ、わたしだって!』

 誇らしげな彼女の姿に、少しだけ対抗心を覚えて。
 お父さんから教えてもらったパンチの打ち方を、一生懸命披露した。
 けれどあの子が見せてくれた必殺技と比べたら、ずっとお粗末だった。
 今思えばあの子は、小さい頃から血の滲むような努力をしてきたんだろう。

『あ、りんかちゃん! またね!』
『うん! またね──』

 暗くなった空。
 お互いの家族が迎えに来て、別れの挨拶を交わした。
 もう一度会いたくて、その時はもっと立派になった姿を見せたくて。
 またね、って手を振った。


 ああ、そうだ。
 思い出した。
 無意識に追い求めていた背中は。
 私が憧れた、その子の名前は。


『────美火ちゃん!』






707 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:09:06 FN7f4K7Y0


 
 足技に心得がある訳ではない。
 流都へ放った回し蹴りも、記憶の中にある羽間美火のそれと比べれば付け焼き刃もいいところだ。

 けれど、それでも。
 りんかが記憶する一番強い必殺技は。
 窮地を脱する逆転の糸口となった。

「流都、さん」

 未だ平衡感覚を取り戻せず、片膝をつく〝悪〟の君主。
 彼へと語りかけるりんかの声色は、決して相容れぬ存在へ向けるにはあまりにも優しくて。
 それに含まれる〝憐れみ〟を、流都は目敏く見抜いた。

「私が飢えているものは、さっき仰った通りです」

 葉月りんかはもう迷わない。
 誰かを救うという対象には、己の本心も含まれているから。
 汚いからと見ないふりをされてきたそれと向き合い、受け入れた今のりんかに。
 流都の口八丁は、意味を成さない。

「だから今度は、聞かせてください。流都さんがなにに飢えているのかを」

 立場が入れ替わる。
 かつて投げられた問いはそのまま流都へ。
 意趣返しを食らった道化師は、呆れたように嘲笑う。

「おいおい、さっきも言っただろ? 殴られすぎて記憶が飛んだかァ?」

 お喋りに付き合うのは気まぐれではない。
 不愉快な耳鳴りと揺れる視界を回復させるための時間稼ぎだ。
 何処までも打算に塗れた哀しき男は、りんかの目をじっと見据える。
 
「俺が飢えてんのは混沌さ。この世界(ほし)を狂乱と破滅が支配しない限り、俺の渇きは満たされない。連鎖する悪意の末、ノストラダムスよろしく終焉を見届けて────」
「もう、やめませんか」

 矢継ぎ早に繰り出される言葉の濁流は、少女の一声に塞き止められる。
 射抜いていた筈の瞳に、逆に射抜かれているような感覚を流都は抱いた。

「自分に嘘つくの、やめませんか」

 その瞳から何を感じたのか。
 悲憤、哀憐、落胆、虚無。そのどれでもなく。
 恵波流都という個の存在を心から気遣うような、憂慮の視線が彼を捉えて離さない。

「あなたが仮面の下でどんな顔をしているのか、私には分かります」

 赤紫色に煌めく仮面の奥底。
 化粧を施す道化師の素顔へ、りんかは語りかける。

「きっと、悲しい顔をしてる。あなたも救いを求める一人なんです!」

 偽善者など腐るほど見てきた。
 けれどここまで清々しく、愚直な者は流都をもってしても史上初と断言出来る。
 己が正しいと信じてやまない世間知らずの青二才が浮かべるような、穢れなき面持ち。

 しかし流都は、りんかの過去を知っている。
 地獄のような三年間を味わっても尚それを言い放つことが、如何に常軌を逸しているか理解している。
 だから流都は、彼女を〝世間知らず〟だなどと嘲笑うことはしなかった。
 
「…………決めつけはよくねぇなァ、お嬢ちゃん。なら俺はどんな救いを求めてるって言うんだ?」
「流都さんは────」

 ハナから答えなど期待していない。
 腐り落ちた本意を理解すること、ましてやそれが今日初めて出会った少女になど務まるはずもなく。
 的はずれな言い分を肴に、勝利の美酒でも煽ってやろうかと思っていた。


「私に倒されることを、心のどこかで望んでいるんじゃないですか?」


 ──その言葉が来るまでは。


708 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:09:54 FN7f4K7Y0

 硬直する身体。
 喉奥で詰まる息。

 数瞬、ほんの数瞬。
 己の領分であるはずの言葉を見失い、ぽつりぽつりと浮かぶ単語を掻き集める。

「笑わせんなよクソガキ。お前に倒されることが救いだって? ……俺は特撮の悪役とは違う。美徳だのなんだのは持ち合わせてないんでね、貪欲に勝ちを啜ることしか頭にないんだよ」
「嘘です! その証拠にあなたは──一度も紗奈ちゃんを狙っていないッ!」

 りんかの抗議の声にハッとしたのは、行く末を見守る紗奈だけではない。
 それを言い当てられた流都自身も、初めて自身の〝過ち〟に気がついた。


 最初から、そうだった。
 りんかの心を折ることが目的なら、真っ先に紗奈を殺めるべきだった。
 当初の圧倒的な実力差であれば彼女を振り切り、紗奈を狙うことなど容易に出来たはずなのに。
 己の無力に打ちひしがれ、絶望に堕ちる〝ヒーロー〟の姿など想像できたはずなのに。

 なぜ、それをしなかった?

「ちょいとしたきまぐれさ。お前の言う正義を真正面から叩き潰してみたくなってな」

 りんかでも、紗奈でもなく。
 自分自身へ言い聞かせるかのような流都の台詞。
 数え切れぬ欺瞞を紡いできた口は、もはや〝真実〟を紡ぐ力などとうに失って。
 戦いを通じて流都の心を感じ取ったりんかは、力強く宣告する。

「流都さんのことは、私が救います」

 慈しむような少女の微笑み。
 渇ききった砂漠に垂れる一滴の雫。
 忌々しく、そして心地好い光輝。
 凝血纏う怪物の脳を、熱が駆け巡った。



『────そうなったら、俺がおやっさんを助けてやるよ』



 セピア色の幻影が視界の端を過ぎる。
 顔も朧げで、声も曖昧。名前だって思い出せない。
 けれどその影は、かつて己が育て上げた若者だと確信する。

 そして、それは。
 過去を懐かしむ感性を持たぬ悪魔にとって、ただの障壁でしかなくて。
 血濡れた赤黒い殺意を溢れさせる手助けとなった。

「流都さ──」
「大人相手に随分な物言いだなァ、お嬢ちゃん」

 ズブリ、とりんかの首筋から音が鳴る。
 針の如き触手の先端が、彼女の血管へと直接猛毒を注ぎ込む。
 血液を汚染される感覚が嫌でも伝わり、急速に命が削られてゆくのを実感した。


709 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:10:48 FN7f4K7Y0


「────りんかっ!!」


 紗奈の絶叫が響く。
 無力を承知で駆け出そうとして、りんかの視線がそれを止める。
 その〝瞳〟を見た瞬間、紗奈は戦慄に似た感情を覚えた。

「酔いは醒めたか? なァ、死を目前にするってのはどんな気分だよ」

 ブラッドストーク、破滅を運ぶ鴻鳥。
 その超力から生み出される毒は、対象を確実に死へ誘う。
 それは強化されたりんかでさえ例外ではなく、彼女の寿命は残り僅かとなった。
 
「さぁ、本性を曝け出せ葉月りんか! 怖いだろ? 死にたくないだろ? 仮面を外すのはお前の方だ! これでもまだ俺を救うだなんて戯言吐けるのか!?」

 人はいつだってそうだ。
 どんな綺麗事を謳う詩人も、死を前にすれば醜悪で身勝手な本性を顕にする。
 流都がこれまで屠ってきた人間も、口汚く罵り泣き喚き命乞いをしてきた。
 
 死とは、終わり。
 これまで積み重ねてきた全てへの否定。
 途方もない過去が呆気なく無に帰す非情。
 その恐怖を呑み込める人間など、一人とていない。

 さぁ、顔を拝んでやろう。
 恐怖と絶望に歪んだ顔を、嗤ってやろう。
 二度とふざけた御為倒しを吐けないように。
 そうしてりんかの顔を覗き込んで、流都は絶句した。

「………………おま、え」

 その目は、何処までも優しくて。
 その目は、何処までも哀しそうで。
 その目は、何処までも流都を見ていた。

「この姿は、私が知る中で〝 一番強い人の姿〟なんです」

 少しだけ寂しそうに、りんかが言う。
 本来喪った筈の指先で、首元に突き刺さる触手を撫でて。
 すぐにまた、凛とした顔付きに戻る。

「この姿でいる限り、私は諦めない」

 ぐしゃりと、紅色の触手が握り潰される。
 ありえない光景だ。今も想像を絶する痛みが身体中を蝕んでいるはずなのに。
 蒼白の顔面が虚勢を物語っているのに、まるで衰弱を感じられない。

「────ハッ」

 言葉を探りあぐねて、やがて流都は笑いを溢す。
 しかしそれは普段の馬鹿にしたような冷笑ではなく、ましてや嘲笑でもなくて。
 それが感嘆からくるものなのだと呑み込めば、ゆっくりと立ち上がる。

「お嬢ちゃん」
「はい」
「お約束の〝アレ〟だ、分かるだろ?」
「勿論、ですとも」
 
 ヒーローとヴィランの最低限のやり取り。
 立会人である紗奈は二人の意図を掴めない。
 しかし、他ならぬ〝正義〟と〝悪〟の両名は示し合わせたかのように三歩距離を取った。


710 : [E]volution ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:11:26 FN7f4K7Y0


 迸る情熱、蘇る情景。
 宿すは光、翳すは闇。
 希望を込めて、絶望を目指して。
 正義と悪は、互いの〝エゴ〟を貫く。


「シャイニング────」
「ブラッド────」


 ヒーローの右脚を、眩い輝きが覆う。
 ヴィランの左手を、紅い靄が喰らう。
 駆け出す〝正義〟へ拳を引いて〝悪〟が迎え撃つ。
 

「────キーーーーックッ!!!!」
「────ブレイクッ!!!!」
 

 跳躍、そして急降下。
 重力と加速度を味方に付け、つまらない物理法則を無視し流都を狙い澄ます必殺の飛脚。
 燦然と輝く隕石へ、紅蓮の砲撃が放たれる。

 それは、酷くありふれた展開。
 散々使い古され、見慣れたワンシーン。

 名前のある必殺技など持っていなかった。
 敵と戦うのに技名を叫ぶなど、あまりに非合理だったから。

 だからこれは、即興の演劇。
 テレビで幾度も見た光景の真似事。
 当意即妙、目の前の〝敵〟への信頼の証。
 
「はぁぁぁぁぁああああッ!!!!」
「お、ォォォ────ッ!!!!」

 必殺の一撃が触れ合う刹那。
 筆舌に尽くし難い衝撃波が大地を揺らし、遅れて轟音が鳴り響く。
 爆撃の中心地から放たれる白と紅の輝きは、彼方の闇まで照らし出して。
 黎明の空を、白夜の如き眩燿が支配した。

「っ…………!」
 
 次元の違う衝突を前に、紗奈は思わず腕で目を覆った。
 荒れ狂う暴風と閃光が目を開けることを許さない。
 ゆえに紗奈は、祈ることしか出来なかった。

 りんかの勝利を。
 正義が勝つ〝お約束〟を。
 理想などとうに捨てたはずの少女は、心からそれを願った。


711 : ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:12:19 FN7f4K7Y0
以上で前編終了です。
タイトル代わりまして後編となります。


712 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:13:36 FN7f4K7Y0
 必殺の一撃は拮抗。
 互いの肉体に降りかかる重圧、負担、振動、そのどれもが同等。
 永遠に続くのではないかと思えるほどの持久戦。しかし当然ながら、長くは持たない。

 威力が互角ならば勝敗を分かつのは体力。
 その条件下で圧倒的な不利に立たされているのは、いうまでもなくりんかの方だ。
 元より手負い、加えて全身を蝕む猛毒。
 こうして意識を保つことですら精一杯の状況。
 尋常ならざる精神力も、命と共に終わりが近づいていた。

(足り、ない…………っ!)

 均衡が崩れ始める。
 流都が一歩、踏み出す。
 りんかの身体が僅かに押し上げられ、衝撃が喰い殺され始める。

(あと少し、なのに…………!)

 数秒か、数十秒か。
 流れゆく時間の中で、りんかは歯噛みした。
 敗北する未来を想像して、止めどない無念を抱く。

 ────救いたい。

 紗奈を、そして流都を。
 降り掛かる不運と悪意に踊らされる人々を。
 この命に代えても、助け出してあげたい。

 なのに、それなのに。
 身体が言うことを聞いてくれない。
 とっくに越えた限界が、今になって牙を剥く。

(ごめん、なさい…………!)
 
 不屈の精神が陰りを見せる。
 絞り出した謝罪は誰に向けてか。
 薄れゆく意識の中、受け入れるように目を閉じて。



「────りんかッ!!」



 目を開く。
 轟音の中でも鮮明に聞こえた、己を呼ぶ声。
 幼く、しかし確かな強さを込めたその声はりんかの心を呼び覚ます。


「がんばれ!! りんかーーーーーっ!!」


 喉がはち切れんばかりの叫び。
 交尾紗奈は、状況を理解したわけではない。
 りんかの不利を悟ったわけでもない。

 ただ純粋に、ただ本心で。
 棄て去ったはずの童心のまま、臆面もなく〝応援〟しただけ。

 そんな小さな応援を受けて。
 ヒーローは、覚醒する。
 

「は、あああああぁぁぁぁぁぁ────ッ!!!!」


 りんかの背へ純白のエネルギーが集結する。
 それは天使を思わせる翼を形作り、大きく羽ばたいた。
 威力も、速度も、重さも。先程までのそれら全てを過去にするほどの大躍進。
 それは凄まじい勢いで流都の拳を押し退けて、赤紫の胸甲へ突き刺さる──!


 ──エターナル・ホープはこの瞬間、強化ではなく〝進化〟した。
 猜疑心に囚われていた紗奈が、信じる心を取り戻したから。
 不可能を可能に変えたことで、葉月りんかという存在を唯一無二に昇華させたから。
 生涯で一番、自分自身を肯定できたから。
 

 不滅の希望は、闇を呑み込んだ。
 


◾︎


713 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:14:18 FN7f4K7Y0



「っ、げほ…………どう、なったの……?」

 決着の余波に吹き飛ばされた紗奈は、痛む目を擦りながら爆発の源へと視線を向ける。
 漂う砂塵が邪魔だ。それが晴れる頃、うっすらと人影が浮かび上がる。

「りんかッ!」

 きっとそうだと信じて。
 胸騒ぎを押し殺し、呼んだ名前は。
 次第に明らかになる人影に呆気なく否定された。



「────惜しかったなァ、葉月りんか」

 

 立っていたのは、ブラッドストークだった。
 その胸に僅かな亀裂を走らせて。
 不吉の鴻鳥は、倒れ伏したりんかを静かに見下ろす。

「………………りん、か…………」

 嘘だ、と。
 否定するために、近寄った。
 けれど踏み出すたびに思い知らされる。
 正義の敗北を。無情なる現実を。
 人を救うヒーローなど、所詮は夢物語だったのだと。
 
「ゆる、さない……っ!」

 そんなの、認めてたまるか。
 りんかは間違っていただなんて、死んでも認めない。
 頬を伝う涙をそのままに、気が付けば紗奈は流都の前へ立ちはだかっていた。

「おーおー、仇討ちか? いいぜ、相手になってやるよ」

 悠然とする流都へ、殺意が湧き上がる。
 超力が通用しないことはわかっている。エターナル・ホープでの身体能力強化も流都の前では塵に等しい。

 それでも、紗奈は退かない。
 素肌を曝け出そうと衣服に手をかける。
 自分のためではなく、りんかのために。
 己の心を削る異能を、初めて誰かのために行使しようとして。

「…………え、?」
 
 その小さな腕が、止められた。
 事切れたはずのりんかの手によって。


714 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:15:47 FN7f4K7Y0

「呆れたぜ、まだ立てるのかよ」

 ゆらりと、少女が立ち上がる。
 酷使に酷使を重ね、とうに限界を迎えている肉体を潰えぬ信念で支え持って。
 刻一刻と心臓を蝕む毒に声を押し殺して。
 紗奈に背中を向け、流都と対峙する。

「…………わかったわかった。その〝正義〟に免じてガキは殺さないでおいてやるよ。残り少ない時間、精々二人で楽しみな」

 吐き出すは勝者の驕り。
 いつも通りの吐き気がする気まぐれ。情けか労いか、それに込められた感情を読み取ることは紗奈には出来なかった。

「チャオ♪」
 
 背を向け、右手をぶらぶらと振る流都。
 鬱蒼とした森へ消えゆくその背中を見届けて、りんかの身体はとうとう崩れ落ちた。

「りんかっ!!」

 紗奈が慌てて腕を伸ばす。
 りんかの身体は変身解除により、幾分か縮んでいた。
 皮肉なことに、そのおかげで紗奈の小柄な体躯でも彼女を支えることが出来た。

「紗奈、ちゃん」
「だめ、しゃべっちゃだめ……!」

 りんかの血色は恐ろしく白かった。
 紗奈の目から見ても、もう長くないことはわかる。
 こうして言葉を紡ぐだけでも、地獄のような苦しみに寿命をすり減らしているはずだ。

 ふるふるとりんかが力なく首を振る。
 その表情はひどく穏やかで、けれど言いたいことがあるような未練が垣間見えて。
 紗奈は、何も言えなかった。

「こわかった、よね。つらかった、よね。……ありがとう。私の、ために、立ち向か、って……くれて」
「いい、そんなの……いい、からっ! 私の方こそ! りんかがいなかったら、とっくに死んでたから……っ!」

 上手く言葉にできない。
 言いたいことがありすぎて、全然纏まらない。
 嗚咽交じりに紡がれる拙い言葉一つ一つを、りんかは大切そうに耳を立てた。

 ────ありがとう、ごめんなさい、死なないで。
 何度も何度も、泣きじゃくりながらそれを伝えて。
 やがて紗奈の言葉が途切れて、泣き声だけが聞こえる頃。りんかは口を開いた。

「ねぇ、紗奈ちゃん」

 声にならない返事をする。
 涙で滲む彼女の顔をよく見るため、袖で目を拭う。
 色の異なる双眸が紗奈を見据えて、こう言った。

「私、ヒーローになれたかな?」

 狡い質問だと、自分でも思う。
 それでもりんかは、聞きたかった。
 自分の生き方は正しかったのか。
 幼い頃に見たあの〝特撮ヒーロー〟の背中を、ちゃんと追えていたのか。

「当たり前、でしょ」

 一瞬の間も置かず、紗奈は断言する。

「私にとってりんかは────かけがえのないヒーローだよ」

 それは、在りし日の肯定。
 十五年掛けて追い求めていた答え。
 大災害を生き延び、家族を惨殺されても尚自分だけが生き残った意味。
 他人の為に尽くしたいという願いは、叶えられたのだと。
 葉月りんかは、心の底から安堵した。

「よか、った」

 唯一心残りがあるとすれば。
 流都のことも、救ってあげたかった。
 彼もまた、苦悩と葛藤で本当の自分を殺してしまった一人だから。

 ゆっくりと目を閉じる。
 脳裏に浮かび上がるのは、大好きな家族の姿。

 刑事らしく勇ましい父親。
 穏やかだけど気丈な母親。
 命を呈して自分を守ってくれた姉。

 そんな光景を見て。
 少女は、幸せそうに笑みを溢した。


715 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:16:20 FN7f4K7Y0

「りんか、」

 返事は、ない。
 身体を揺さぶっても、反応がない。

「やだ、やだよ……ねぇ、りんか! りんかっ!」

 静寂の中、紗奈の声だけが響く。
 りんかの息遣いすら聞こえない。返ってくるのは自分の叫び声と嗚咽だけ。
 そんな哀しい現実を、わずか十歳の少女が受け止めきれるはずもなくて。
 りんかの声が返ってくることを願って、呼び続ける。

「りんかっ! りんかぁぁーーーーッ!!」


 幼子の悲痛な叫びが、平野に木霊した。





【葉月 りんか 死亡】





◾︎


716 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:17:04 FN7f4K7Y0


 重い、重い足取りで森を歩む人影。
 一歩を踏み出すのに数秒要し、震える息遣いは虚しく葉に吸い込まれる。
 やがて糸の切れた人形のように倒れ込み、傍らの木へと力なく凭れかかった。

 赤黒い闇と共に、超力が解ける。
 久方ぶりにさらけ出された流都本来の姿。
 彼の胸は、向こう側の樹皮が見えるほど大きく穿たれていた。


「…………ハッ、思ったより早い幕引きだな」


 恵波流都の肉体はすでに死を迎えていた。

 当然だ、如何に強固な皮膚を持とうと中身は生身の人間。
 外殻の下で眠る筋肉も、骨も、内蔵も。進化したりんかの必殺技に耐えることなどできなかった。
 
 ブラッドストークを維持するどころか、立っていることすらままならぬ致命傷。
 それでも彼女たちの前で平然を装えたのは、犬の餌にもならないちんけなプライドからか。
 それは流都自身にも分からなかった。

 喉元から迫り上がる血を、盛大な咳と共に吐き出す。
 息を吸うことすら困難になってきた。いよいよ遺された時間は少ない。
 紗奈とりんかへ向けた言葉を思い返し、噛み締めるように夜空を見上げた。






717 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:18:28 FN7f4K7Y0



 ああ、なるほどな。
 死にゆく者の気持ちってのは、こういうものか。

 案外呆気ないもんだ。
 もっと恐怖と絶望を味わうと思ってたのに、まるで想像と違ったな。
 俺が今まで殺してきた連中は、あんなにも取り乱してたってのに。
 自我を失う感覚を味わえるのを楽しみにしてたから、少し残念に思う。

 ああ、くそ。
 こういう時、煙草の一本でもあれば格好もついたんだがな。
 無理にでもこっそり持ち込むべきだったか。

 いや、どっちにしても同じか。
 俺を看取る人間なんて誰一人居ないんだから。
 それこそが、俺の最後の狙いだ。


 ────なぁ、葉月りんか。
 お前は、俺に勝ったことに気付かないまま死んでいくんだ。
 お前が連れてた『死神』はどう思うだろうなァ?
 仇を討とうにもそいつはとっくに死んでて、しかも誰が殺したか分からないっていうんだ。
 行き場のない怒りと無念に苦しむあのガキの顔を想像するだけで、嗤えてくるぜ。

 あのガキだけじゃない。
 俺の首を狙う連中は一人や二人じゃないだろう。
 中には俺のことを血眼になって探し回る復讐鬼だっているかもな。

 数え切れない恨みを買った自覚はある。
 老若男女問わず、少しでも裏社会に触れた経験のある囚人が俺の名を聞けば。快く思う人間なんて一人だっていないだろう。
 参っちまうよな、人気者の辛いところさ。

 そんな怨恨の渦中が、人知れず命を落とす。
 これが俺の広める最期の〝混沌〟さ。
 特等席(あっち)から嘲けてやるよ、哀れな人形共。


 なにが正義、なにが悪。
 みんな己の欲望に正当性を見出して、名称で着飾っただけだ。
 自分本位のエゴイストたちが、いかに自分が正しいかを競い合う。
 それがこの世界の真理なのさ。

 あの葉月りんかも同じだ。
 自分の醜さを棚に上げて、他人を救うだのと甘っちょろい理想論を垂れ流す。
 そしてそんな正義の押し売りを、心の底から正しいと信じ込んでいる。

 異常なしぶとさに少し驚かされはしたが、それだけだった。
 俺を救うなんて一丁前に豪語しておきながら、なにも成せずに死んでいった。
 

 結局はそうさ。
 正義に陶酔した青臭いガキの成れの果て。
 なにがヒーローだ、そんなもの目指してなんになる。
 この世界を知れば知るほど、そんな夢は見れなくなるのさ。


 ああ。
 本当に、くだら────
 


 …………いや。



 もう、いいか。


718 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:19:32 FN7f4K7Y0





「……………………羨ましい、な」


 いつの間にか、嘘をつく事が癖になっていた。
 本当の自分なんてとっくに見失った。探し出さないようにしていた。
 開闢の日以降の狂った世界を、素面で生きていくなんて出来なかったから。

 だってそうだろう。
 もしも嘘偽りない自分を見せて、それが丸々間違いだったと否定されたら。
 ──俺は、どうすればいいんだ?


 嘘だけが味方でいてくれる。
 道化を演じている間だけ、自分を守れる。
 欺瞞、出鱈目、嘘八百。口にする言葉は己の意思とは程遠くて。
 吐き出すそれが真実か嘘か、自分でも分からなくなっていた。

 別に哀しいなんて思わない。
 真っ当な人生なんざとっくに諦めた身だ、裏社会を生き抜くには都合が良かった。
 

 けれど、あいつの。
 葉月りんかの生き様を見て、ほんの少しでも思い出してしまった。
 かつて〝正義〟を創り出そうとした、本当の自分を。
 心から他人を救うことに喜びを見出していた、愚直で世話焼きな男の姿を。
 

『────やっぱりおやっさんのコーヒーは美味いなー!』


 …………なんだ、こりゃ。
 走馬灯、ってやつか?

『おいおい、よく飲めるな……自分で言うのもなんだけど、死ぬほどマズイぞ?』
『えー? そんなことないって。ほら、皆にも勧めようぜ!』
『はは、んなことしたらこの店潰れちまうって。こんなコーヒー飲めるかァ! って、怖いお客さんに殴られたりしたらどうすんのよ』

 そこは、そう。俺の喫茶店だ。
 カウンター越しに会話するのは……ダメだ、名前が出てこない。
 顔はぼやけて、声はツギハギのように不明瞭で。
 けれどそいつは間違いなく、俺が育て上げようとした〝ヒーロー〟だった。


 それは、意図して封じ込めていた忌々しい記憶。
 思い出すのが嫌だった。
 あの時からの変貌を自覚するのが怖かった。
 だから嘘で塗り固めて、恵波流都という別人を作り上げて。
 必死で見ないふりを続けてきたんだ。

 ああ、でも。
 なんだ。
 意外と、悪くない気分だな。


『そうなったら、俺がおやっさんを助けてやるよ』
 

 〝ヒーロー〟の顔にかかっていた靄が晴れる。
 純真無垢という言葉が相応しい、眩い笑顔。
 俺はこの笑顔を見るのが、好きだった。


719 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:20:17 FN7f4K7Y0

 そいつは生まれつき、味覚が著しく鈍かった。
 何を食っても美味いか不味いかなんて分からない。ただ生きるために物を食っていた。
 店に来る子供たちが幸せそうに料理を食う姿を見て、いつも寂しそうにしていたのを覚えている。
 
 美味いもんを美味いと思えない。
 それがどんなに辛いことなのか想像できなくて、なんとかしてやりたかった。

 だから色々、試してみた。
 普通に淹れるよりもずっと手間をかけて、恐ろしく苦いコーヒーを淹れてみた。
 そしたらそいつは初めて笑顔を見せて、〝美味い〟と言ったんだ。
 迸るような喜びが胸を満たすのを感じて、自然と笑みが溢れた。


 けれど、それから数年経って。
 己の正義に押し潰されたそいつは、いつしか〝悪の組織〟の中心人物と畏れられるようになって。
 もう二度と、俺の店には来なくなった。
 
 
 ────なぁ、〝ヒーロー〟。
 俺はどうすれば、お前を止められたんだ?

 もっと〝美味い〟コーヒーを淹れられたら。
 あの時面白がって煙草を一本やらなければ。
 店の裏で捨てられたエロ本を一緒に読まなければ。

 お前はまだ、この店に来てくれてたのか?


 分かってる。
 俺が何をしたところで、結末は変わらなかった。
 過去を悔いても仕方ない、前を向いて進め。
 心無い蔑みや罵倒の中でも、正義の心を持った連中は俺にそう投げかけてきた。

 けどな、俺にとっては。
 実の息子同然に育て上げてきたそいつらは。
 かけがえのない、俺の全てだったんだよ。

 だから俺は、〝悪〟になろうとした。
 この世界(ほし)丸ごと巻き込んで、全ての悲劇の黒幕になろうとした。
 そんな途方もない混沌を前にすれば、〝あいつら〟の仕出かした悪なんて霞んで見えて。民衆はそれどころじゃなくなると思ったから。
 息子達の悪意ごと、呑み込んでやるつもりだった。

 それでも、未練ってやつかな。
 あのコーヒーを、毎日淹れ続けた。
 誰もが顔を顰めるその味を、みんなに勧めてきた。

 そうすれば、あの時の約束を果たしてくれるんじゃないかって。
 俺を助けに来てくれるんじゃないかって、淡い期待を抱いて。
 また〝おかえり〟って、そう言える時が来るんじゃないかって。


 ────ああ、なるほどな。


 たしかに、葉月りんかは正しかった。
 俺は、救いを求めていたんだ。

 悪を討つ本物のヒーローを。
 混沌を切り払う正義の光を。
 あの時成し得なかった、英雄の創造を。

 ずっと、望み続けていたんだ。
 
 

 なんだよ、おい。
 あんだけ色々言っておきながら、結局俺は。
 


 ────あいつに、救われてるじゃねぇか。
 
 


 

【恵波 流都 死亡】








720 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:21:20 FN7f4K7Y0



 人を信じることなんて、ないと思っていた。
 裏切られるのが怖くて、信用することを避けてきた。
 結局はみんな醜い欲を秘めていて。土壇場でその本性を晒し自分を傷付ける。
 そんな局面に、紗奈は何度も立ち会ってきたから。
 
 けれど、彼女がこの刑務作業で初めて出会った葉月りんかという人間は。
 今まで出会ってきた誰よりも優しくて、誰よりも裏表がなかった。

「りん、か……やだ、やだ…………よ……!」

 とめどなく溢れる嗚咽。
 りんかの身体に縋り付き、ふるふると首を振る。
 散々悟ったような言動をしていた少女は、現実を受け入れられない駄々っ子のように。
 喉が枯れるのも厭わずに、大粒の涙を流し落とす。

「────ひとりに、しないで…………っ!」

 その言葉は、紗奈が最初に発した願望とは真逆。
 他者を拒み続けた彼女が見せた、心の底からの渇望。
 もう届かぬと知りながら、それを吐き出して。
 滴り落ちた紗奈の涙が、りんかの頬へ伝った。


 紗奈は特撮ヒーローをよく知らない。
 だから、主人公にピンチはつきものだということも知らない。

 そしてそんなピンチは、
 確然たる〝希望〟によって覆されるという、約束された王道も。



「…………え……?」


 ────それは、希望の物語。
 ────それは、不滅の象徴。


 突如、りんかの身体を優しい光が包み込む。
 浄化の輝きの中で、彼女の姿はシャイニング・ホープ・スタイルへと変貌した。
 女神が君臨したかのような光景に、紗奈は目を奪われる。

 静止した時は、再び動き出した。

 紗奈の小さな身体が、抱き寄せられる。
 他でもない、葉月りんかの腕によって。


「約束、したでしょう」


 何処までも優しくて、透き通る声色。
 その声を聞いた瞬間、紗奈の顔はくしゃりと歪んだ。

「紗奈ちゃんのことは、私が守るって」

 滂沱の涙、驚喜の鳴き声。
 まるで母親に抱かれた子供のように。
 或いは、年の離れた姉に甘える妹のように。
 紗奈は、りんかのことを力一杯抱きしめた。

「う、ああ────」

 その奇跡に理屈などない。
 わざわざ説明するのも野暮というものだろう。
 紗奈の願いが、りんかの魂に届いた。
 ただそれだけのことだった。

「うああっ、ああ……あああぁぁぁ────っ!!」

 幼子のように泣きじゃくる紗奈の頭を、りんかが撫でる。
 血色を取り戻した少女の顔は、優しく微笑んで。
 その光景はまるで、あの日の鏡写しのように。
 追憶の彼方、自分を勇気づけてくれた姉の姿と重なった。





【葉月 りんか ────Evolution Hope】

 



◾︎


721 : Evolution Hop[e] ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:22:07 FN7f4K7Y0


 りんかが死の淵に陥ったあの瞬間。
 真っ暗な闇の中、差しかかった一縷の光を道標に歩いて。やがて再会した大好きな家族たちへ、迷いなく駆け寄ろうとした。
 けれど父も、母も、姉も。彼女を迎え入れることはしなかった。
 まだこっちへ来てはいけないと、道を戻るように言った。

 りんかが振り返った先。
 今まで進み続けてきた光と真逆の方向。

 無尽の闇の中、助けを求めて咽び泣く少女の姿があった。

 気がつけば、駆け出していた。
 助けたいという一心が、考えるよりも先に身体を突き動かした。

 自分はまだ、生きなければいけない。
 生きていてもいいのだと教えて貰ったから。
 助けを求める人へ、手を差し伸べるために。
 闇の中で彷徨う人達の、目印になるために。


 不滅の希望は、返り咲いた。



 

【D-3/森付近の平野/一日目 黎明】
【葉月 りんか】
[状態]:シャイニング・ホープ・スタイル、全身にダメージ(極大)、疲労(大)、腹部に打撲痕、ダメージ回復中
[道具]:なし
[方針]
基本.可能な限り受刑者を救う。
0.今は少しだけ、休む。
1.紗奈のような子や、救いを必要とする者を探したい。
2.この刑務の真相も見極めたい。

※羽間美火と面識がありました。
※超力が進化し、新たな能力を得ました。
 現状確認出来る力は『身体能力強化』、『回復能力』、『毒への完全耐性』です。その他にも力を得たかもしれません。

【交尾 紗奈】
[状態]:気疲れ(中)、目が腫れている
[道具]:手錠×2、手錠の鍵×2
[方針]
基本.死にたくない。襲ってくる相手には超力で自衛する?
0.りんか……!
1.超力が効かない相手がいるなんて……。
2.りんかのことを信じてみたい。

※手錠×2とその鍵を密かに持ち込んでいます。
※葉月りんかの超力、 『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』の効果で肉体面、精神面に大幅な強化を受けています。

【共通備考】
※D-3の森のどこかに恵波 流都の首輪(100pt)が遺されています。
※シャイニング・ホープとブラッドストークの必殺技の衝突により、D-3エリアにて強い光が生じました。


722 : ◆NYzTZnBoCI :2025/03/07(金) 17:23:01 FN7f4K7Y0
投下終了です。
問題点、不備などがあればご指摘下さい。


723 : ◆2dNHP51a3Y :2025/03/07(金) 20:25:45 cqCgafyk0
投下します


724 : 閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/07(金) 20:26:39 cqCgafyk0


これは、眠れる嬰児の夢の中にて語られる小休止
これは、刑期が始まる数日前に語られた読み聞かせ。
夢遊病のアリスが新世界の嬰児に語る世にも不思議なお伽噺。
皆様、どうぞご観覧あれ。





からん、ころん。からん、ころん。
きれいなお日さま。きれいなあおぞら。
帽子屋さんとウサギさんと、そしてあの娘とのたのしいお茶会。

わたしはいつも夢の時間にここに来る。
たのしい夢の中、たのしい時間。

「メアリー、待ってたよ!」

そしていつもの時間、いつものようにあたしは振り返る。
わたしの後ろに、女の子。
うきうきウサギさんのように飛び跳ねて、懐中時計を気にしながら。

「ありす!」

ありす、夢巡ありす。
わたしよりも前からこのアビスにいる子。
おねむの時間になると、わたしを夢の中のお茶会にいつも誘ってくれるの!
怖い大人たちは気づかれない、わたしたち二人だけの秘密のお茶会!

「メアリー、早く座って、今日のおやつは美味しいドーナツよ!」

わたしが席に座って、ありすも席に座る。
そうしたら、魔法のように机の上にお茶とおやつと現れるの!
まえのお茶会のデザートは大きなショートケーキだったわ!
あれはとても美味しかった!

出てきたドーナツは色鮮やか!
手にとって口にいれると、甘くて甘くてほっぺがとろけ落ちそう!
おててがベタベタにならないように、ウサギさんが濡れタオルも用意してくれるの!
れでぃ・ふぁーすと? がちゃんとしているのね!

「メアリー、今日はとても面白いお話も用意しているのよ!」
「ええっ! ほんとう!?」

今日のお茶会はおいしいドーナツだけじゃないみたいなの!
たまにあるありすちゃんが見せてくれるおはなし、ありすちゃんが知ってるおはなし、ありすちゃんが考えたおはなし!

前にきかせてくれた紙芝居は、アイドルが別の世界にてんせい?する物語だったの!
あれはとても楽しかった!

「聞かせて!早く聞かせて!」
「そうあせらないでメアリー、おはなしはちょうちょさんみたいに遠くへはいかないわ!」

ドキドキがとまらない、そんな私をありすはなだめてくれる
ありすちゃんが指をふったら、大きなテレビが現れてくれる
たのしいたのしいものがたり、たのしいたのしい二人の時間はまだ続くの!

「ちょっとむずかしいお話だから、あざかお姉さんにてつだってもらったの。きゃくしょく?をしてもらったわ!」
「それでも、ありすちゃんのお話だからわたしは大丈夫だよ!」
「そう!それはよかったわ! 今から始まるものがたり、どうぞ楽しんでいってほしいわ!」


『始まるよ! ありすのお話始まるよ!』

『始まるよ! 大声べちゃくちゃ厳禁よ!』

『始まるよ! ものがたりの、はじまりだ!』

お花さんや太陽さんが顔を出して、喋り始めて!
そうやってありすのものがたりが、また始まるの!


725 : 閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/07(金) 20:27:05 cqCgafyk0

☆☆☆


『タイトル:ありすの冒険 光とやみのアリス』
脚本:夢巡ありす、あざかお姉さん

ある山おくの、さびれた家にありすという少女がいました。
ありすはゆかいな家族たちと、今日も明日もあさっても、楽しく楽しく暮らしていました。
それでもたのしい日々がずっと続くと、飽きがきてしまうものです。

ある日、ありすはそんな退屈な日々に嫌気が差して、外へ冒険にいくことにしました。
みんな心配しますが、ありすにはいつでも呼べる頼もしい従者たちがいるのです。
なので心配しないでと、ありすは家族のみんなに笑顔で答えて、すたこらさっさと冒険に行ってしまいました。

たんたんたたん、森をこえ、山をのぼり、誰もみたことのない場所を探して、ありすは歩きます
冒険の途中、ありすは一人のおじさんと出会いました。

「シビト」と名乗ったおじさんは旅を続けており、"かみさま"のためにここに訪れたとのことです
ありすはかみさまのことは知りません、でも、かみさまのために頑張るおじさんに、ありすは拾った木の実をおじさんにあげました
おじさんはありすにありがとうと言いました。お礼にありすの旅についてきてくれるそうです
ありすは喜びながら、おじさんと一緒に再び歩き始めました。

冒険のなか、おじさんが通りかかりのおにいさんからあるうわさを聞きました
「この先には、入ったら二度と戻ってこれない場所がある」とのことです
なにやらあぶない場所みたいですが、ありすの好奇心はとまりません
ありすは目的地はそこに決めました

なん日も歩いて、ありすとおじさんは、目的地へとたどり着きました。
ちいさなちいさな、何のへんてつのない場所でした。
でも、耳をよくかたむけると、たのしい歌が聞こえるのです

ここはえいえん、ここはえいえん、みんな楽しく暮らせるよ!
どんちゃん踊れ、どんちゃん歌え、ここはたのしいネバーランドだ!

そこは一つの村だったのです!
かつてありすが絵本で読んだ、子供たちばかりがいるネバーランドのように
ネバーランドは本当にあったんだ!とありすはおおはしゃぎです
たのしいありすとは別に、おじさんは何やらむずかしい顔をしていました

みんなありたい自分でいられるんだ!
しぬことも、おいることもない! たのしいたのしい一日だよ!
ばんざいばんざい、女王さまばんざい! アリスバンザイ!

どうやら、アリスという名前の女王さまがこの村のおひめさまみたいです
そして死ぬことも老いることもない、みんなその気になれば子どものようにずっと遊ぶことが出来るたのしい国なのです!

ずっとおまつりをやっているような村のみんなを見つめながら、ありすとおじさんは進みます
すると、みんなから置いてけぼりにされているみたいな、眠った女の子と、そんな女の子をながめているおねえさんがいました


726 : 閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/07(金) 20:28:08 cqCgafyk0

おねえさんは「あーし」みたいに、おかしな言い回しをする、「ギャル」の"まほうつかい"でした。
どうやら、まほうつかいのおねえさんも噂を聞いてここにやってきたそうです
おねえさんは、まほうのためしうちをして、この女の子がいた場所を吹き飛ばしてしまってちょっとこまっていました
どうしよう、どうしよう! ありすは何とかこの子を助けたいと思いました
すると、おじさんがポケットからちいさな木の棒を取り出して、眠った女の子の方へ向けました
木の棒がちいさく輝いたと思えば、なんと女の子の傷はみるみるとふさがって、目を覚ましたのです!
目を丸くする女の子は、まるで本当にふしぎの国のアリスのように綺麗で可愛いものでした
そう、ありす。光り輝いてるように思える女の子。
女の子は自らを「あになんとか」だかと名乗っていましたが、ありすには「アリス」と聞こえてしまったのでしょう
あなた、光のアリス? ありすは女の子をそう勝手に名付けてしまいました。
ありすの光のアリスという呼び方に、おじさんもまほうつかいも面白がって呼び始めてしまいます。
仕方がないので、女の子は当分、自分から「光のアリス」と名乗ることにしました。



ここは、たのしい村なの? とありすは訪ねます
すると「光のアリス」少し考え込んだあとに、むずかしい顔をして否定しました
そして「光のアリス」はかつてこの村で起こったことを語り始めました

とおいむかし、この村はわるいかみさまがみんなにひどいことをしようとしていました
それを「光のアリス」とその仲間たちが力を合わせて退治したようです
ですが、わるいかみさまを倒したあとに、仲間の一人がみんな裏切って、わるいかみさまの力を独り占めしてしまったのです
そのうらぎった仲間が、なんとこの村の女王さま「アリス」だったのです
そんなの、ひどいわ! それじゃあここのみんなは悪い王女さまにいいようにされているのね!
ありすはぷっくりお顔を膨らませて怒りました
光のアリスとせいはんたいの「やみのアリス」が支配するえいえんのくに
まほうつかいのおねえさんが言った、フック船長が支配しているネバーランドという例えが思わずハマってしまいました
こうしちゃいられない!わるいアリスを倒してみんなをたすけないと!
ありすの心は燃え上がります
おじさんとおねえさんも、ありすとは目的は違うそうですが、ありすのやろうとしていることを手伝ってくれるそうです
「光のアリス」は、また少し考え込んで、ありすに協力してくれると言ってくれました。


727 : 閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/07(金) 20:28:27 cqCgafyk0


「やみのアリス」がいる大きなお城まで、そう遠くはありません
「光のアリス」の不思議な力も借りて、ありすたちは女王さまの下へと向かいます
だけど、それをさせないと、くにのみんなが立ちはだかります

女王さまに逆らうものは許さない!
あいつらもわたしたちの仲間にくわえてあげよう!
おまえたちも、わたしたちとおなじ永遠にしてあげよう!

まほうつかいのおねえさんと「光のアリス」がみんなを蹴散らしますが、きりがありません。
おじさんに何かさくせんがあるといい、襲いかかってくるみんなを、まほうつかいのおねえさんと一緒に何処かへ連れ去ってしまいました
ありすは「光のアリス」と二人ぼっちになってしまいましたが、迷ってる時間はありません
二人のありすは「やみのアリス」のお城に向かいます

大きなお城に入り、女王を守る兵隊さんたちを蹴散らします
そして、女王の間に繋がる大きな扉の前にたどりつくと、女王の声が聞こえました

あたしのえいえんの邪魔をする、おばかなにせもののありすたち
あたしの頼れる騎士サマの剣にサビにしてやろう!

扉がひとりでに開いて、玉座に座る女王「やみのアリス」が姿を表したのです
そしてその傍らには、剣を持った男の人のーー女王さまの騎士が立ちふさがりました
騎士さまの姿をみて、「光のアリス」が青ざめます
なんと、騎士さまの正体は、「光のアリス」のおもい人だったのです!


なんてひどい、ひどすぎるわ!ありすは憤ります
騎士サマは最初からあたしの騎士サマだ!「やみのアリス」はありすや「光のアリス」バカにするように笑いました

騎士サマと戦う「光のアリス」は苦しそうです
「光のアリス」は騎士サマのことが好きでした
なのにあまりにも残酷ではないでしょうか

そして、ありすもまた「やみのアリス」においつめられています
ここはあたしの村、あたしのえいえん!
誰もくるしまず、誰もしなない!
誰もつらいめに合わなくてすむのに!
なのにどうして? あたしの邪魔をするの?
「やみのアリス」はたからかに叫びます

ありすは、その言葉に勇気を振り絞って言い返します
違う違うわ! あなたの永遠はただの身勝手よ!
みんながみんなあなたと同じ永遠を望んでいない!
みんなにはみんなの欲しい永遠があるの!
みんなの命は、みんなの心はあなたの永遠のためにあるんじゃないの!

しかし、「やみのアリス」にありすの言葉は届きません
今の何も出来ないお前は無力だ! お前も同じくえいえんに加えてやろう!
逆にありすは「やみのアリス」自らの手で「えいえん」加えられそうになります


728 : 閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/07(金) 20:28:47 cqCgafyk0





だれか!たすけて! ありすは叫びました
無駄だ、誰も助けにこない! 女王は嘲笑います
ですが、その時不思議なことが起こったのです!

女王を許すな! 女王を許すな!
よくもわたし達をだましたな!
おれ達の永遠を取り戻せ!

なんと、村のみんなが一斉に女王に反旗を翻し始めたのです
戸惑う「やみのアリス」やありす達の前に、何処かに行ってしまっていたおじさんとまほうつかいのおねえさんが現れました!

おじさんは、「光のアリス」を治した時のように不思議な力を使って、村のみんなを女王から解放してあげたのです!
そして女王の兵隊さん達を、まほうつかいのおねえさんがついででみんな倒してしまっていました!
同じくして、「光のアリス」と戦っていた騎士サマの動きも鈍くなりました
「光のアリス」はそんな騎士のスキをついて、何とか騎士サマを倒したのです
その時、「光のアリス」の目には涙が浮かんでいました

騎士サマがやられて、「やみのアリス」は狂ったように泣き叫びました
どうして、どうして、みんな「えいえん」が欲しいんじゃなかったの!?
女王が狂ったように喚き立てますが、にせものの「えいえん」を押し付けていただけの女王の言葉を、村のみんなは聞く耳を持ちません。

お城に怒り狂った村のみんながなだれ込んできました。
ありすと「光のアリス」は、おねえさんとおじさんに連れられ、城の外へと脱出しました
「光のアリス」はその寸前に騎士サマの持っていた"剣"を、形見として持ち去りました。

やめろ!やめろ!あたしは女王!あたしは女王だ!
だまれ!だまれ!悪い女王は俺達で食べてやる!
いやだいやだ!助けてお父さん!助けてお母さん!助けて騎士サマ!助けてかーー

城の中で、何が起こったのか、ありすたちは詳しくは知ることはありません。
ですが、悪い王女様は、正気に戻った村のみんなに裁かれたことでしょう




お城が燃えて、女王は倒され、この村に平和が戻りました。

おじさんは、村のみんなを連れてまた別のところへと向かうと言い、ありすに「神の祝福があらんことと」と言い残して再びたびに出ていきました
まほうつかいのおねえさんは、別れ際にありすのほっぺたにキスをして、風のように何処かに行ってしましました。まるで風のように自由なおねえさんで、もしかしたらピーターパンの生まれ変わりだとありすは思ってしましました

そして「光のアリス」は、自分探しの旅をする、この世界を見て回りたいと言いました。
まほうつかいのおねえさんから何かを聞いていたらしく、「やるべきことをしなくちゃ」とも言っていました。
最後にありすにお礼を言って、満面の笑みをありすに向けて何処かへ向かっていったのです。

そしてありすは家に帰ります
いろんな仲間と出会い、不思議な所に来て、悪い女王様と対峙した大変な冒険でした。
既にお空は真っ黒です
ですが、この冒険は、間違いなくありすにとって素敵な記憶となったのでした。














ーーめでたし、めでたし


729 : 閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/07(金) 20:29:06 cqCgafyk0

☆☆☆



「すっごく面白かったわ!!!」

ありすの語ったお話は、とてもおもしろかった!
あざかお姉さんが多少「きゃくしょく」したみたいだけれど、どこをどうしたかは気にしない!
わたしは「光のアリス」と「やみのアリス」の今後が少し気になっちゃう

「よかったわ!よかったわ!! メアリーが喜んでくれるとわたしも嬉しい!」

ありすもすごく喜んでる!
ありすが嬉しいととわたしも嬉しくなるの!
ありすとわたし! わたしとありす!
ずっと、ずっとこんな日が続けばいいと思うことがある!
でも、夢の時間はずっとは続かないの!

ジリリリリ! ジリリリリ!

「あらあら! 名残惜しいけれどもう時間なのね」

夢の世界に目覚まし時計の音
これは、私とありすの夢の時間が終わる合図
夢は終わって、また現実が始まっちゃうの

「メアリー、もしかしたらメアリーに苦しいことが起こるかもしれない」

ありすが、何だか険しい顔でそんな事を言い始めるの
たしかに怖い大人がいっぱいいる現実は苦しい時もあるけれど
それよりもっと苦しいことが起きるのかな?

「その時は、私の名前を呼んで!」

ありすが、そう言ってくれます
ありすは友達、私の友達。
ありすと私は運命の赤い友情の糸で結ばれているの!

「絶対に、助けに行くから!」

そう言って、ありすは私と指切りげんまんします
嘘を付いたら針千本。
ですがありすがウソを付くことはありません
もしそんなことがあったとしたら、ありすに何かあった時だけ
そういう時は、ごめんなさいで仲直りしよう!

「約束、だよ!」
「うん、約束するよありす!」

指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます!
指切った!!










少女は未だ夢から目覚めず
少女は未だ現実に目覚めず。
そして世界は再び時を刻み始める。

世界はせまい 世界は同じ
世界はまるい ただひとつ

少女が目覚める時は、今はまだ遠き。

【F-6/岩山頂上/1日目・黎明】
【メアリー・エバンス】
[状態]:睡眠、少しご機嫌斜め
[道具]:内藤麻衣の首輪(未使用)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.不明
1.朝まで寝る
※『幻想介入/回帰令(システムハック/コールヘヴン)』の影響により『不思議で無垢な少女の世界(ドリーム・ランド)』が改変されました。
 より攻撃的な現象の発生する世界になりました。領域の範囲が拡大し続けています。
※麻衣の首輪を並木のものと勘違いして握っています
※メアリーがありすに助けを呼んだその時に、何が起こるかはご想像にお任せします


730 : 閑話:御伽噺 ◆2dNHP51a3Y :2025/03/07(金) 20:29:26 cqCgafyk0


























1035:以上、名無しがお送りします
おまえら、最近の都市伝説で面白いのある?

1036:以上、名無しがお送りします
面白いのだったら「光のアリス」ってやつがあるね
剣持って世界中旅してるんだって

1037:以上、名無しがお送りします
「光のアリス」って前に超力犯罪者が暴れてた時のことかな?
俺出会った事あるんだよなぁ

1038:以上、名無しがお送りします
まじかよ情報kwsk

1039:以上、名無しがお送りします
都内の雑貨屋の前で超力犯罪者が暴れてるところを超力使わず剣一本で鎮圧しちまったんだよ
話を聞くに、なんかヤマオリ絡みの何かの手がかり探してるらしい
あ、そういや「光のアリス」からサイン貰ったんだっけ俺

1040:以上、名無しがお送りします
最後になにか言い残すことはあるか? >>1039

1041:以上、名無しがお送りします
うらやまけしからん


731 : ◆2dNHP51a3Y :2025/03/07(金) 20:29:38 cqCgafyk0
投下終了します


732 : ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:09:46 1HYD/b7g0
セレナ・ラグルス
ハヤト=ミナセ
投下します。


733 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:12:17 1HYD/b7g0
「ハヤト=ミナセ!
 何だかエキゾチックというか……その!
 日本っぽいというか!
 いい雰囲気の名前ですね!」

流石に看護される間、寝ているというわけにもいかず。二人は話していた。
セレナが話したそうにする一方で傷ついたハヤトを静かにさせた方がいいのかとまごついている所を、ハヤトが促した形だ。

何故だろう。
罪悪感、なのかもしれないとハヤトは思う。
彼女がオレの刑務での駒としての役割を果たすための餌だったとするなら。

話したいわけじゃないけれど、話は聞きたいと心が動いた。
彼女のことについて知りたいと思った。
覚えていられるように。


彼女が生き残れなかったとしても……か。


「ハヤトさんは……日本人?
 それともちょっと違うんですか?日系人?」

現代っ子らしく、器用にもデジタルウォッチを操作して名簿とハヤトの顔を交互に見ながら話すセレナ。
アビス内では刑務官により言語の相互理解が可能となっているが、音は日本人っぽいのに名簿の表記が少し日本人らしくないのが引っかかったのだろう。
ハヤトの黒髪に幼さが残る顔つきも、どこか日本人らしさがある。

「……オレはヨーロッパの出身だよ。日本人の血は入ってる」
「やっぱり!わたしは南アメリカのベネズエラという所の出身です」

ベネズエラ。ハヤトにとっては聞きなれない国の名前。
近隣の国の住民か、海外事情に明るい人間でもない限り詳しく知ることはないだろう。
ただ5年ほど前、真偽は不明だが巨大ロボット対決が起きたとか。
そんなニュースが若者の間でも少し話題になったとか、ハヤトにとっての知識はそれくらいしかない。

「日本って面白い国ですよね。
 ベネズエラにも日本の物産とか、アニメのグッズとかを扱うショップが結構あるんです!」

接点を見つけて嬉しそうに話すセレナ。
対するハヤトはばつが悪そうに返していく。


「チッ、悪いけどよ……日本のことあまり知らねーんだよ。
 家族はもういねーし、行ったのも記憶もあやふやな小さいころだけさ」
「あっ……すみません」

とっさに謝るセレナ。
ハヤトはそれを見て、よくいるラテン系みたいに図々しくないと感じた。
とはいえ、しょぼくれた顔を見ているのもあまり良い気分ではない。

「――あのさ、ハヤト=ミナセって名前の由来は覚えてんだよ。
 複合名だし、どっちも苗字じゃなくて名前だけどよ。
 漢字で書くと――――颯人、水星」

デジタルウォッチのメモ機能を使って説明していくハヤト。
漢字のエキゾチックな字面。いかにもラテン文字圏の人間が異文化的で好みそうに見えて。
セレナもそれを見て興味を示す。

「ハヤトは、風を受けて立つ人、さわやかで、すがすがしい人って意味。この左の部分が立つ、真ん中が風、右が人って意味だ。
 ミナセは、水の星。マーキュリーって意味の単語の別読み。強く輝く明るく強い人を、近くで支えられる人って意味。
 まだ親がよ、オレとちゃんと話せる頃に聞いた。
 なんか仰々しくも強そうでもない気もするけどよ、そういうのって日本人っぽい気もするよなあ?」
「ちゃんと詳しく意味があるんですね!」

日本人の名前は漢字文化圏らしく、文字に関連して強い意味があることが多い。
スペイン語を使うベネズエラを含むラテン語圏では、名前は古典や聖書の人物に由来することが多く文字として意味が感じられることは殆どない。


「……自分の名前、どう思ってますか? 嫌いですか?」
「――――わからねえよ。なんかさあ、名前に運命が決まられてるような気がする時もある。
 昔のことを絡めて思い出しちまってイラつく気もする。
 でも、嫌えって程でもないか。別称とか欲しいとも思わねえし」
「そうですか……。
 自分で自分のことが嫌いって辛いですもん。それはきっといいことですよ」

それを聞いてセレナは表情を和らげる。
不愉快なことを聞いてしまったかもしれない話題を逸らすことができて、良かった気がした。

「それにわたしの名前のセレナも月に関係あるから、宇宙繋がりですね。
 生まれた日が満月だから、付けられたらしいです。
 しかも中国とか日本だと月にはウサギがいるって伝承があるって後で知って、すごい偶然ですよね」

セレナは、古代神話の月の女神に由来する名前。
スペイン語圏では結構使われている。


734 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:13:05 1HYD/b7g0


ふとハヤトは、窓の向こうの星空を眺めた。
地球から見える宇宙の姿。

人工的な夜の明かりの殆どない島。天には満天の星が輝いている。
アビスの中からでは見ることの敵わなかった風景。

子供のころ、飼ってた動物が死んだとき。
母が、その子は天に昇って星になったと言っていた記憶がある。
ハヤトは無神論者だが、多神教らしいその死生観を何となく覚えていた。
アニキは天からオレのことを見てるのだろうか。
どう思っているのだろうか。
殺されたとき、オレのことを思い出して考えたりしたのだろうか。


セレナも外を見ようと窓の方へ向かっていく。
刑務官に聞いたキリスト教的な世界観だと、死後の人間は審判の日までは眠っていて、行くのは天国や地獄。
非常にわかりやすい世界観だと、ハヤトは思ったものだ。
南米はキリスト教がほとんどの地域らしいなと、ふと思う。

空には月も明るく輝き、差し込む光がセレナのぱっちりした目を輝かせていた。
顔の繊細な毛並みに光が透け、明るい褐色の輪郭となっていた。
ある意味幻想的ともいえる、人間と獣の入り混じった姿。


「なあ、南米ってよ。
 やっぱり獣人みたいな人間でも、差別とかってないのか?」

自分を看病してくれた相手の幻想的な姿に目を奪われそうになり、そこから目を逸らすようにハヤトがふと質問した。

ヨーロッパでは日系人ということで、揶揄われたり差別的な扱いをされることもあった。
一方で南米は人種の違いにはかなり寛容だというイメージがあった。

「うん、まあ。そうですね。
 差別っていうのかなあ……どっちかというと可愛がられてました。
 ちょっとそれが鬱陶しくなることもありましたけど」
「そりゃまあ可愛いしなあ」
「えっ、そうですか……?」

慣れない相手に褒められて、少し戸惑うセレナ。
ベネズエラはみんな結構気軽に可愛い可愛い言ってくる環境だったけれど。
一方で日本人にはそんなに安易に褒めないイメージがあった。

「いや、ウサギって普通に小動物的で可愛いっつーかさ。
 なんか本能に来るっていうのかなあ?」
「あ、ああ。そうですよね。
 特にベネズエラの人って、ウサギ結構好きかも」

目を泳がせて取り繕うセレナ。
ハヤトは特に気にせず、話を促す。

「そうですね。これはママに聞いた昔の話なんですけど。
 ママが子供だった頃、ベネズエラでは食糧配給と併せてウサギを家々に家畜として配ってたんです。
 ウサギって草食べるから、人間の食べ物と餌が奪い合いにならないからって。
 行きあたりばったりな政策で、すぐ終わっちゃったしそこまでたくさんの家には行き渡らなかったんですけど。
 なのにベネズエラの人、みんなペットとして可愛がってたって。食用のはずだったのに!」

耳を上下させたり、頭を自分でなでたりジェスチャを織り交ぜながらセレナが話す。
緊張をほぐすように話した、ちょっとした笑い話。
ハヤトも良い話だなと思いながら聴いている。

「でも、だんだんいなくなっちゃったんですよね。
 美味しい料理法とかも広まったし。
 解体の上手い人に引き取られたり、何なら誰かに盗まれたり。
 それがママは結構悲しかったらしいんです」

当時のベネズエラの食糧事情は悪かった。
主に輸入で賄われる配給食糧は貧困層にも廉価である程度行きわたるものの、炭水化物と油が多く蛋白質が少ない。
それ以外の安く自給率もある食糧はキャッサバや調理用バナナであり、やはり殆どが炭水化物だ。
国民の食生活を改善するためウサギを家畜として配給する事には、ある程度の妥当性は存在していた。

「だからママ、わたしが生まれたとき。
 最初はもちろん人間じゃない姿だったから困惑したんですけど。
 でも、ウサギが帰ってきてくれたって思って、凄い暖かい気持ちになったって。
 ママは本当にわたしのこと可愛がって育ててくれて。
 他のきょうだいから嫉妬されることもありましたけどね」

優しく話すセレナ。暖かい家族。親からの愛。
ハヤトにとってはもう記憶の彼方の出来事。
でも、嫉妬をする気も起きなかった。

「だから、捕まったとき。
 一緒にいた仲間が、殺されるのを見たとき。
 何としてでも逃げなきゃって。
 家族のところに帰らなきゃって。
 そう思って凄い必死になったんです」

長々と語ったセレナ。
本当に家族が好きで、愛されていて。
そして、ハヤトはそれを実感すると更に哀れみの感情を抱いてしまうのだ。

「逃げられて――良かったな。本当に」
「はい。もっといい方法があったのかもって後悔もありますけど……」
「思いつかなかったんだろう?
 しょうがねえよ。今更考えても」
「そう……ですね」


735 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:14:13 1HYD/b7g0

周りに迷惑をかけたことを後悔するセレナ。
そんな感情、身内以外には抱いてこなかった。そんな人間だ。ハヤトは。
でも、不思議と同情してしまった。

「それなら、刑期を全うして償えよ。
 ここで凶悪な犯罪者を始末して世の中の役に立つことも、償いになるかもしれねえけどよ。
 お前そういうの向いてねえだろ」
「こ、こ、殺すのは!! 嫌です……。
 子供の頃から、強盗だって殺人だって、近くで結構起きてました……けど。
 撃たれたりして手遅れな人が死ぬするところも見たりしました……けれど。
 この手で誰かを殺すなんて、考えたくないですよ!」

首を振ってあわただしく否定する。
垂れた長い耳が、首の動きに追随してブンブンと動いた。
ハヤトも、ベネズエラの治安が良くないことは噂程度に知っている。
ヨーロッパも治安は悪化したけれど、ラテンアメリカの治安の悪い地域よりはましだという話もたまに耳にする。
それでも、そのような環境の中でも優しさと思いやりを保っている人間はいるのだ。
多分きっと、どんな環境にも。
この殺し合いの中にも。彼女のように。

「――――ただ、あの」

続けて何か言いたそうにして、口を開いたまま言葉に詰まるセレナ。

「どうした?
 オレに言いづらいことなら、別に言わねえでいいよ」

セレナは暫く黙りこくり、視線を下に向け俯く。

そして、どう伝えればいいのかある程度固まってから、話し出す。

「わたしは、その。
 他にも捕まってた仲間がいたのに、一人で逃げ出してしまいました。
 みんなのことがとても――――心配です」

そうか、一人だけ逃げ出したのか。
嫌でも思い出してしまうハヤト。
自分を置いて逃げた兄貴分の事を。
それでも表情を悟られないように、暗い方に顔を向ける。

「わたしのいた周りの他の檻にも、何人か捕まっていました。
 みんな、動物みたいになる超力の持ち主でした。
 色々な所から連れてこられたみたいで、言葉の通じる人は少なかったけど。
 それでも頑張って短い言葉で話したり、身ぶり手ぶりだったりで通じ合って。
 ――――仲間だったんです」

犯罪組織の人身売買マーケットは世界的に繋がっており、なんならダークウェブで遠隔取引すらも行われていた。
セレナを買った人物は、船や航空機で世界各地から獣化タイプの能力者を購入していたということになる。
よくある話ではある。強姦とか拷問とかの目的で、色々な人種背景の人間を試したくなる金持ちはいる。

「行ったこともない国の街で、皆を連れて逃げるのはきっと難しかったと思います。
 仕方なかったって思うこともできます。けど、それでも。
 わたし、警察に捕まった後で言いました。
 わたしが逃げ出したところには、まだ他にも何人も捕まってるって。
 このままだと殺されるって。
 ……でも、どうなったのか分かりません。
 まだ調べてる途中だから教えてくれないのか、もみ消されてしまったのか、わからないんです」

ハヤトは理解できる。ヨーロッパの警察も汚職がはびこっているから。
政治家やマフィアの利権と対立していたら、立件されないということは普通にありうる。

「本当なら、知らない国の警察にだけ頼っちゃいけなかったのかもしれません。
 探偵さんとか義賊とか正義の味方とかを探して、頼ればよかったのかもしれません。
 今更なことなのに。たまに思い出して、考えてしまいます。
 前向きに生きなきゃって……思ってても」

この子は後悔している。でも自分を見捨てた兄貴分と、被って見えてしまう。
そんなの錯覚だと思っても、記憶がぶり返しそうになる。
苛立ちを解消しようと、ハヤトはセレナに鋭く問いかける。


「なあ、お前さ。
 もしもこの後で。
 二人でもどうしようもない参加者に襲われたらよ」


それは仮定の話。
でも、充分にありえなくもない未来。


「オレのこと、見捨てるか?
 一人で逃げようと思うか?」


話し出してから、ハヤトは何を聞いてるんだと思った。
相手は年下の女だ。
自分が彼女を守るべきだろ。社会常識的にはそうだ。
ギャングの世界だって大概の奴がそう行動したいって思うだろう。
あの時だって、きっとオレにまだ逃げられる力があれば。
アニキはオレを助けようとしただろうって、そう思ってる。


736 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:15:11 1HYD/b7g0


頭の中では困惑しながらも、冷徹に問いかけていたハヤト。

セレナは――――――沈黙。
戸惑いと悩みを抱えた表情。
答えに非常に詰まってしまう。

そして逃げるように、逆に問いかける。


「ハヤトさんは、どうしたいんですか?」



――――――
――――――



違う!
オレは違う!

そうとっさに言いたかった。
けれど、言葉は出なかった。

アニキとはよく言ってた。
お互いずっと助け合おうって言ってた。
死ぬ時まで仲間だって、気楽なノリで言ってた。

でも、それが通用したのは。
そうするのが難しい世界だと、お互いが心の底で理解してたからだろ。
実際アニキはオレを見捨てた。


この月明かりのような純粋な子に建前でも、そんな事が言えるのか。
言ってしまっていいのか。
嘘は言いたくない。
かといって残酷な言葉も言いたくない。
誤魔化したりしたくもない。
言葉が出ない。

ハヤトも、表情を固めたまま黙ってしまう。



――――――
――――――



「隠せ……ませんよね」


先に口を開いたのは、セレナの方だった。
ハヤトの悩んでいる様子は、セレナにも嫌でも分かった。
これを言ってしまったら、相手は怒るのではないかという怯えもあって。
しかし、素直でありたいという気持ちが心を後押しして。


「――――ごめんなさい。正直に言います。
 そんなことしたくないって、わたし、思ってます。
 でもそうできる自信は、何もありません。
 死にたくない、生きたいって気持ちはとても強くて」


それは。
悪いことではない。

結局自分が大事だって。
力もなく、長く世間に翻弄されるような生活をしてる人は大体そういう思考に至る。
普段は困った家族や友人や親族を助けたりして、助け合いは大事だとふるまっていても。

それは自分に余裕があるときにしかできなくて。
本当に本当にどうしようもないときは、自分がやはり大事で。

野生のアナウサギだって群れて生活するけれど。
いざとなれば、足の速いものが逃げて足の遅いものが捕食者の犠牲になる。

安定しない政治や経済の状況。蔓延る犯罪組織。。
一時は良くても、さらなる将来がどうなっているかという確信は何もない。
ラテンアメリカの状況を反映したような思考。
そしてヨーロッパの底辺で生きてきたハヤトも似たような思考を持っているのは、当然で。



ああ、そうかとハヤトは納得する。
わかってれば、気が楽だ。

苛立ちは、不思議となんだか収まった。
やっぱり世の中、そんなに綺麗事じゃないよな、と。


思考は、冷静に冷徹に動き出してしまう。
もしどちらかが見捨てることを決意したなら。
逃走能力が高くポイントも少ないセレナの方が逃げられる確率が高い。
そうなる前に、こっちから決断しなければならないわけだ。
重たい気分になりそうだが、仕方ないことなのだ。


737 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:16:26 1HYD/b7g0



それでも、ハヤトは自分の思考を伝えるべきか悩んでいる。
ハヤトにはわからなかった。

冷徹な思考。明確に意志を伝えずにこの子を油断させた方が、いざとなった際に自分は逃げやすいのではないか。

いや、本当はこんなことをするべきではない。

ここは自分から先に見捨てないと決意と誠意を見せなければならない、それだけの事なんじゃないのか。

悩み続ける。

沈黙。時間が過ぎていく。


「あっ」


ハヤトから咄嗟に声が出る。
意識に割り込むのは、夜空の中に。


星々の隙間を駆ける、流星が見えたから。


セレナも窓の外に目をやる。

「ああっ!」

叫ぶや否や、セレナは更に言葉を発する。


「ハヤトさんとわたしが無事に過ごせますように!」


流れ星に、願いをかける。
ハヤトにとっては、少し面食らう出来事であった。
神も願い事も信じていない。
普段流れ星を見てもああそうか、ちょっと珍しいなと思う程度だった。

しかしセレナは違う。
流れ星を見たときいつもするように、今回も咄嗟に言葉として願いを掛ける。


「なあ、それ……意味はあんのか?」

流星は、闇に消えていった。
そして現実主義なハヤトが問いかける。

「意味は――――ないかもしれません。
 ハヤトさんの言う通りですよね。
 神様とかに言って願いが叶うって、そんなこと本気では信じてません」

流星は、キリスト教圏の伝承では天上の神が下界を覗く際に漏れ出た光だという。
だからその際に願いを伝えると、天上まで届くのだと。

しかし神は願いを叶えるとは全く限らない。
与えてくるのは、どのような辛い状況でも善意を保てるかという試練なのかもしれない。

それでもセレナは、願いを持って口に出さずにはいられない。

「でも、ハヤトさんはそこまで悪い人じゃないって。
 話しててわたし、思いましたから。
 わたしの事で長く悩んでくれたりしてますから」

向けられた。他意のない信頼の言葉。
セレナとて無条件に誰もがやり直せる、更生できると信じてるわけではない。
しかし経済状況の悪かったころのベネズエラでは、まともな職業では稼げないから犯罪に手を染めたり、
犯罪組織に所属する友人や親族に強要されて犯罪に手を染めたりする人も多かった。
セレナも犯罪には関わらなかったが、幼少期は草を食べて食費を節約したり、換毛期の抜け毛を売った思い出がある。
そして現代ベネズエラは経済状況は回復しつつあり、セレナは逆にそういう人が更生するところも見てきた。

ハヤトは戸惑う。

「それで、なんというか。雰囲気だけでも。
 願いを言えて良かったって気持ちになって。
 ちょっとでも明るい気持ちでいたいじゃないですか!
 見捨てるとかそういうことが!
 そもそも起きないようにって思いたいじゃないですかっ!」

言い切るセレナ。
暗い出来事ばかりの世界でも、明るく生きようとする。
なんとかならないと薄々感じていても、なんとかなると思って生きようとする。
育った環境で養われてきたラテン系の強かな精神、そして彼女の持った優しさがそこにはある。


738 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:17:11 1HYD/b7g0


ハヤトは――――。
哀しみを覚えてしまう。
彼女と自分は、住む世界が違う。
治安の悪い所に住んでいた。
共通点はあるようでいて。
根本的な考え方が違っている。

自分は、そうだ。
この少女の言った言葉を信じたくて。
そこまで悪い人ではないという言葉を。
それに縋りたい。
やり直したいと思っている。
刑務官と話していても感じていた、自分の本心。

でも、彼女のような存在になることは不可能だ。
今までギャングとして生きてきた過去を、自分は捨てることができない。
彼女を生き残らせたいと、願いを叶うようにしたいと感じるのに、頭の中を占めるのはもっと他の事が大きくて。


だから。
それに関して、話せる範囲で。
彼女に誠実に向き合うことにする。


「そんな事まっすぐに言うんじゃねえよ。
 こっちが恥ずくなるじゃねえか。
 ただ、二人無事で生きるのはたぶん無理だ」
「えっ?」

セレナはまだポジティブな表情を崩していないが、ハヤトの真剣な言葉に。
こちらも真剣に耳を傾ける。

「ネイ・ローマンという奴が参加者の中にいる。
 そいつはオレのアニキの仇だ。
 ストリートギャングの流儀で、落とし前をつけなけりゃいけねえ」

「それって――――殺すってことですか?」

「ああ――――絶対に」


セレナは、真剣な気持ちの籠った言葉に精神が底冷えする。

反論しようとも思ったが、できなかった。
セレナも理解した。
ハヤトと自分は、住む世界が違うということを。
止めることは、出来ないのだろう。


「ヤツと戦ったら、間違いなく無傷じゃ済まねえ。
 なにしろヤツはストリートギャングを力でまとめ上げるボスだ。
 死ぬつもりはねえ。が、勝てるかも分からねえ」

ギャングらしからぬ、負けるかもしれないという弱音。
しかしそれこそが、ハヤトのセレナに真剣に向かいたいという気持ちの表れ。

「オレとヤツとの因縁だ。
 戦いになっても、一緒に戦う必要も助ける必要もねえ。
 お前はもし戦いになったら気にせずとっとと逃げろ」

セレナは――――頷いて。無言で肯定するしかない。
どんな背景があるのか、聞き出して触れるのは良くない気がする。
もちろん表立って勝ってと言う気にもなれなくて。
仕方ない場合があったとしても、本当なら殺しなんて無いほうがいいと思っているから。

「そして、もう一つ」

ハヤトは、横になっていたソファの隙間に隠していたある物を取り出す。
「システムA」の要となる、受刑者に着けられていた枷。
それを手にしながら、ハヤトは自分に与えられた役目についてセレナに話していく。



 ――――――――

 ◇

 ――――――――


739 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:18:39 1HYD/b7g0



近代ベネズエラの歴史は、原油生産とアメリカとの関係に大きく影響を受けていた。
世界一の原油埋蔵量があるともされているベネズエラ。
アメリカの企業の資本力によって油田開発が行われ、富裕層は儲け先進国から多数の外国人が駐在した。
労働力として周辺の国から移民も受け入れ、中間層の経済力も伸びた。
一方で二大政党の政権交代のたびに、野党となった党の支持者は一気に職を失うなど庶民の経済は不安定だった。
また農村部の住民や先住民族は、それらの恩恵を受けられず貧困層となっていった。

やがて庶民は未来に希望が持てず、貧困層や先住民族を主な支持層とした第三党が政権を獲得する。
社会主義的な政治が行われ、大統領の権限も拡大していったのが2000年代以降の独裁政権である。
しかし石油産業から外資を排除し国有化を進めたため、アメリカとの関係は悪化していくことになる。
アメリカへの石油の輸出を制限され、また油田や製油所の維持も技術不足、改質材料不足で上手くいかなくなる。
ベネズエラで生産されている原油は精製に大規模な設備投資、改質材料が必要な超重質油のため海外資本がどうしても必要だった。
中国、ロシア、イラン等との関係も築いているものの、至近にあるアメリカが最も大きい取引相手でありそこが断たれるとやはり厳しい。

2010年代以降ベネズエラの経済はハイパーインフレとなり、失敗国家とも揶揄されるようになってしまった。
犯罪率が上昇し治安は悪化、公務員の汚職も増え、富裕層や都市部の貧困層を始めとして国民は他国へ流出していった。
一部の国民はアメリカへと向かい不法移民となる。
治安悪化や汚職により、隣国で生産された麻薬がベネズエラから空路や海路で遠国へ運ばれる。
それにより他国との関係がさらに悪化する悪循環である。


そんな折に訪れたのが「開闢の日」。
この時のベネズエラは、予想以上に行動が速かった。
政権は国民の多くを占める貧困層、政党と関わりのある市民の自警団、また警察や軍関係者の親族のコネを可能な限り利用。
軍事等で国家の役に立ちそうな超力の保持者を一気に調べ上げた。

折しもカリブ海沿岸域の国々はマフィア隆盛による治安の悪化を引きずり、更なる混迷を迎えようとしていた。
既存のマフィアと関わりのない海賊も大量に出現し、更なる無法地帯となっていった。
ベネズエラ政府は、強力な超力の持ち主を警察や軍へ良い条件で引き入れる。
庶民の生活は厳しかったので、待遇の良さに引かれた人々により戦力を大きく増強する事ができた。
個人の超力を最大限に活かし兵器などの軍事物資の支出を抑える事が出来る、新たな時代の治安維持組織の誕生である。

ベネズエラは超力による軍事力を背景に、石油貿易の障害を排除するためカリブ海の治安維持に大きな努力を行っていった。
海賊船エルグランド率いる海賊船団とも戦い続け、船長(ドン)の逮捕に大きく貢献したのもベネズエラの海上警察・海軍であったという。

海域の治安を改善したことがアメリカからも評価され、ある程度国交も改善していく。
とはいえ関係を深めていた他国との関係も維持。
様々な国の外資を受け入れながら油田や製油施設を補修・再開発し、経済は改善傾向にある。
ベネズエラからの船の船員は強力な超力の持ち主が登用され、海賊に襲われにくく不正による中抜きも減り貿易も安定した。


740 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:19:04 1HYD/b7g0


とはいえベネズエラの独裁政権の主な支持層は、やはり貧困層や先住民族である。
外資との関わりの強い層だけが儲かったり、石油開発の利益が海外に大量に流出する状況を良いとは思っていない。
大国の意向で経済が左右される状況は関わる国を増やしたことで昔よりは改善したが、未だに完全に脱出はできていない。
経済が最も悪化していた時代に成立してしまった犯罪組織は、超力を手に未だに活動して国内の治安をさらに悪化させている。
海域の治安維持に強く手を向けたため、国内の治安維持がやや疎かになってきていた。

そのため今のベネズエラの政権は、自国の技術力を伸ばし、技術者を養成しながら新たな鉱区を開発したい思惑がある。
経済がある程度改善したため、海外へ流出していた知識層も呼び戻せる。
2000年代以降の貧困層への教育支援も、一時は経済が破綻したため無駄になったかと思われたが今なら実を結ぶ可能性がある。
不況下でも僅かながら、市民による民間事業主導で外資に頼らず復活してきた国内産業をもっと伸ばしていきたい。
安定した収入で不安の少ない雇用を更に発生させて、犯罪組織よりもまともな職業に就いた方が良い状況を生み出したい。

さて、ベネズエラには隣国との領土問題がある。
それは原油が大量に採掘可能と予想されている地域。
しかも埋蔵されている原油は、そこまで高度な精製設備も改質材料も必要としない軽質油と予想されている。
領土問題により、2040年代の現在でも資源開発はほぼ始まっていない。

ベネズエラの自国主導で新たな鉱区を開発したいという思惑で白羽の矢が立ってしまったのが、その地域である。
ベネズエラは強力な超力を保持した軍隊を圧力に、権利主張をさらに強めようとしている。
場合によっては将来、超力を活用した国家間戦争に発展するだろう。


刑務作業の参加者として選ばれたベネズエラの女の子、セレナ・ラグルス。
食用家畜として海外に誘拐され、富裕層の住む町をめちゃくちゃにしながら逃げ伸びた少女。
彼女はまだ知らないが、ベネズエラ国内のニュースで報道された後は貧困層を中心に時の国民的ヒロインのような扱いになっている。
市井やSNSで話題として挙がることも多く、恩赦を求める声もベネズエラ国内では非常に強い。

ベネズエラ政府にとってはセレナは、偶然舞い込んできた適度に使える人材として期待されている。
しかも年齢的にはまだ13歳の子供。彼女を手に入れれば、権力によってどのようにも利用することができる見込みが高い。
利用価値によってはベネズエラ政府が彼女の逃走時の損害額を負担する形などで、刑務作業終了後に別ルートで恩赦が得られる可能性すらある。

その超力は明らかに戦闘には向いてなく、戦争のための実験としてはそこまで適当な人員に見えない。
しかし彼女は適度にお人好しで、適度に臆病で、適度に強すぎず、いざとなれば高い生存能力を発揮する。
高い確率で適度に他人と関わって、生の情報を得て帰ってくるだろう。
生き残れば、彼女は何らかの形でベネズエラの軍事に巻き込まれることになるだろう。

この刑務作業が行われているという事実は今は隠蔽されているが、恩赦される者が出る以上やがて少しずつは世界には明らかになる。
この場で生き延びたという事実をセレナがもし手にすれば、将来更なる政治的発言力を手にすることになるだろう。

もし死亡しても、軍事的に強力な戦力にできるような超力ではないからそこまで問題はなく。
このような富裕層の被害者じみた少女を、何故このような刑務作業に参加させたのかと。
日本や米国の世論も同情的になり、ベネズエラに対して何らかの政治的譲歩を引き出すネタなるかもしれない。

とはいえGPAを主導するアメリカ、日本をはじめとして石油を輸入する国々としても。
ベネズエラ等の南米北岸の採掘コストの安い石油は頼りになる。
戦争が起きて一時的に石油の生産が不安定になるのは望むところではない。
今のまま外資主導の採掘を続け、何ならそのまま拡大していきたい。
万が一戦争が起きたとしても、できるだけ手出しをして可能な限り自国の利権を戦後に伸ばせるような形を作りたい。



主催者側の様々な思惑が関わった上での、セレナとハヤトの遭遇であった。
セレナはまだ知らない。
自国の将来に、自分が少々関わることになるかもしれないことを。


741 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:19:39 1HYD/b7g0



 ――――――――

 ◇

 ――――――――



「そういえば!」

ハヤトが自身に与えられた役目、持たされた枷の機能を説明した後。
セレナが、タイミングを失していたのを思い出したように。
雌のウサギに特有の部位、首と胸の間の肉垂と豊富な毛の間から何かを取り出す。

それは、流れ星をあしらった形をした煌めくアクセサリー。

「あ! おい、お前!
 何持ち込んでんだよ!」

驚くハヤト。
アビスに入る際には、そこらの刑務所以上に徹底的に身体検査をされるはずだ。
どうやって持ち込んだのか。
そりゃ、めちゃくちゃ権力がある囚人は看守を懐柔して物資を調達していたりもする。
セレナはそういうことが出来そうな相手には見えない。
じゃあどうやって。
自分だって耳に着けていたビアスを没収されているのだ。

そこまで気にすることでもないかもしれない。
しかし今まで純粋そうにしていた相手が、このような不正をしていたことへの不義理さを何となく感じているのかもしれない。

「いえ、その。
 今の首のまふまふの裏とか、耳の裏とか、尻尾の裏とか時々ちょっとずつ場所変えてたら。
 検査をすり抜けて持ち込めちゃいました。
 なんか、自分のものを全部没収されるのが怖くて咄嗟に隠してしまったんです!
 魔が差してしまったといいますか!」

余程のことがなければ釈放時には返ってくるはずなのに。
模範囚になってある程度の権利を得るなら、そんなことすべきじゃないのに。
いつまで隠し通せるかもわからないのに。
セレナは、後からなんとなくこのことを後悔もしていた。
しかし自分から看守に言い出すこともできず、そのままになっていた。

「いや無理だろ。普通。いや……?
 担当したヤツが獣人型の身体の取り調べに慣れてねえとしたら、有りうるのか……?」

ハヤトの言う通り、通常は無理だ、
毛の裏に隠そうとも、X線検査等をすり抜けて隠せるはずもない。
収監時の身体チェックが彼女には甘かったのだ。
二人は知る由もないが、おそらくベネズエラに伝手のある看守からの意図があったりするのだろう。

「というか、今まで通り隠してればいいじゃねえかよ」
「だってハヤトさんが自分の役割を、秘密を話してくれましたから。
 それならわたしだって自分の事を少し打ち明けなきゃ」

純粋なお返しの気持ち。
ハヤトは頭を掻く。

「まあ、でも一応ちょっと考えてはいるんです。
 この刑務作業の会場内で拾ったとかそういうことにして誤魔化せないかなあと。
 誤魔化せませんかね?」
「――さあ……知るかよ?」

子供らしく浅い知恵ではあるが、ちょっと強かな面を見て。
ハヤトの彼女を見る印象は少しだけ変わった。

「これですね。
 昔、友達に頼まれで無理やり運び屋っぽい仕事させられた時。
 お詫びって感じで届け先の人がくれたんです。
 なんか黄色い猫耳の帽子してた変な人だったなあ」

思い出すのは、廃品回収用トラックに乗って飲酒運転していた女性。
座席後部に搭載していた作りかけの電子回路っぽい物に、女性は自身の超力を使用して流れ星をあしらった外装を付けた。
それがいま彼女が手にしている耳飾り。

「あんまりギャングとかに関わりたくないですし、本来の報酬じゃないものは受け取らないつもりだったんですけど。
 余り物で作ったようなものだしってことで、もらうことしたんです。
 ギャングのロゴとか、そういうのとも別に関係ないみたいですし」
「おう。まあ、それくらいならいいんじゃねえの」

肯定するハヤト。
しかし、これはただのアクセサリーではない。

「これ変な機能付いてるんですよ。
 この星の角を強く押すとですね……」

アクセサリーを指で押すセレナ。
するとカチッとスイッチが入る音とともに、星の部分が明滅して輝きだす。
やがて、アクセサリーが音を発しだす。
子供の歌声による音楽が聞こえてくる。


 "Esta manana me ha contado el gallo……
  Que el elefante le contó al castor……"


742 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:20:03 1HYD/b7g0


「これはスペインの歌で、動物が好きな昔の人について歌った歌なんですけど。
 おじいちゃんおばあちゃんくらいの歳の人は子供のころよく聞いてたみたいです」
「なんだこれ。まあ悪い曲じゃねえけど……」

訝しげな表情をするハヤト。
一方で表情を不思議とゆがめて冷や汗を流しだすセレナ。

「あの、ハヤトさんは聞こえます?
 聞こえてませんよね?」
「ん?何のことだ?」

ハヤトには聞こえず、セレナにしか聞こえない音。
思考までも妨げられそうで聞き続けるのが嫌なのか、セレナはもう一度アクセサリーを押してスイッチを切った。

「これ、音楽の裏で高周波音ってのを流してるみたいなんです。
 普通の人間の大人には聞こえないんです。
 でも一部の動物とか、虫とかには聞こえる。
 嫌な音だから、近づいてこなくなる効果があるみたいです」

高周波音を発するギミック。
セレナも過去に音の正体を調べようとして、人間に聞こえずウサギに聞こえる音などを調べて突き止めた。
技術として実際に、畑などに設置する動物除けの装置などで使われている。

「ああ、ウサギだから聞こえるっつうことか。
 でもなんでそんなもんお前に贈ったんだそいつ?」
「想像したんですけど。たぶん。
 これを髪飾りとか耳飾りにすると。
 耳の内側の肌が露出した部分に、刺す虫が寄ってこない。
 快適に過ごせるってことなんじゃないかと思います……」

抱いて当然の疑問に、セレナは善意に基づいた想像で返す。
動物や虫と人間が不意に関わらなければ、襲い襲われたり叩き潰したりなどの事が起こることもない。
ある意味それは動物愛護。
ちなみに高周波音は蚊には効果はないが……メカニックが虫には詳しくなかっただけなのか、セレナが想像しない意図が別にあるのか。

「なるほど。ウサギ獣人にまでその音が聞こえるってことに気が付いてなかったんだな」
「でも凄い綺麗、アクセとしては!
 付けさせてもらってますけどね! 流れ星!」

相変わらず、前向きなセレナ。
アクセサリーを耳に装着していく。

「いいな、似合ってるよ。
 月と星ってことじゃねえか」
「あ、ありがとうございます!」

お世辞でもない褒め言葉。
セレナは喜びながらも、照れるような顔になっていく。
それを見たハヤトも、どこか気まずくなる。

「あの……!」
「ん?」
「もしも二人で生き残れたら、アビスの中でも外でもいいですけど。
 友達になりませんか!? わたしたち!」

掛けられた言葉。
友達という言葉。
ギャングの世界の連れ合いとかとは、違った意味合いの関係なのだろう。

不確かな希望でしかない。
生きる世界も違っている。
それでも。

「ああ。生き残ったらな!」

絶対に生き残ろうとか、そんな言葉は出せそうにない。
でも、彼女の明るさを否定するような言葉は出したくなかった。



 ――――――――

 ◇

 ――――――――



二人は空に流星を見た。いや、流星から見られていたのかもしれない。

彼らも様々な思惑の下、この刑務作業を主催する者たちから注目されている存在なのだから。


743 : 流星の申し子 ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:20:32 1HYD/b7g0



【B-2/港湾/1日目・黎明】
【ハヤト=ミナセ】
[状態]:全身打ち身(痛みは引いている)
[道具]:「システムA」機能付きの枷
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本:生存を最優先に、看守側の指示に従う
1.身体は普通に動く。そろそろ近くの死体を確認に行きたい。
2.『アイアン』のリーダーにはオトシマエをつける。
3.セレナへの後ろめたさ。
※放送を待たず、会場内の死体の位置情報がリアルタイムでデジタルウォッチに入ります。
 積極的に刑務作業を行う「ジョーカー」の役割ではなく、会場内での死体の状態を確認する「ハイエナ」の役割です。
※自身が付けていた枷の「システムA」を起動する権利があります。
 起動時間は10分間です。

【セレナ・ラグルス】
[状態]:健康
[道具]:流れ星のアクササリー、タオル
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本:死ぬのも殺されるのも嫌。刑期は我慢。
1.ハヤトに同行する。
2.ハヤトとは友人になれそう。できれば見捨てたくはない。

※ハヤトに与えられている刑務作業での役割について、ある程度理解しました。
※流れ星のアクセサリーには、高周波音と共に音楽を流す機能があります。
 獣人や、小さい子供には高周波音が聴こえるかもしれません。
 他にも製作者が付けた変な機能があるかもしれません。


744 : ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 21:21:34 1HYD/b7g0
投下終了します。
予約期間内に完成できず、失礼いたしました。


745 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/07(金) 22:02:06 .c3EQ1XY0
みなさま投下乙です

>[E]volution
>Evolution Hop[e]
まさか、このアビスでこんな正義対悪が見られるなんて思わなかったぜ!
絶対に諦めないりんかの不屈の闘志に流都が戸惑うのは闇落ちの経緯もあって性根が揺さぶられている感じがある
お得意の精神攻撃にも絆の力で立ち向かうニチアサかな? 善行は人のためならず自分に返るモノ、応援で立ち上がるヒーローの特性とネオスがかみ合いすぎている
ヒーローと言えばでまさかの美火ちゃん! やっぱキックだよなぁ! そして最後の必殺技の衝突、熱い展開すぎる
仇であるはずの相手さえも救いたいりんかの善性が最後にヒーローを待ち望んでいた男を救う、互いに地獄に落ちたからこそ最後に人間性が輝く

>閑話:御伽噺
ふわふわとした少女たちの見る夢、ほほえましくも底知れない不気味さがある
御伽噺も原典は残酷なものというけど、この話もまた雰囲気で誤魔化してるけど、よく読んだら結構血なまぐさいよ!
おっそろしい村があったもんだ、きっとロクな村じゃねーんだろーなぁー! 出てきた2人はこんな村に何のために近づいたのか

>流星の申し子
悪人になりきれない青い少年と小動物のように弱い少女。……キミたち何かボーイミーツガールしてない? 
世界がメチャクチャだけど、事情が明かされてきた南米は特に大変そうね、知らん間にヒロインに祭り上げられていたセレナ、その現状は知らぬが仏よ
秘密にしていた自らの役割を明かすハヤトに隠し持っていた秘密のアイテムを明かすセレナ、やっぱキミたち……?


746 : ◆koGa1VV8Rw :2025/03/07(金) 23:20:44 1HYD/b7g0
失礼します、数行ほど投下時に抜けてたようなのでwikiの方に追記してきます。


747 : ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:08:30 nNC52.Gg0
投下します。


748 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:10:12 nNC52.Gg0



『ねえーーーーーッ、なあオイ!
 あいつ見かけなくねえかなァ?
 ほらさぁ、あいつだよ。あいつ!』

 ボサボサの金髪を揺らし、粗雑に話す少女。
 囚人番号、681-3XXX32-XXX番。
 “ワキヤ・クーラン”。
 14歳、ドイツ人。懲役38年。
 自らの奉公先を皮切りに、上流家庭を次々に襲撃。
 制圧を試みた捜査官数名にも重軽傷を負わせる。

『ご飯の時にツバ飛ばさないでください。
 というかもっと声小さく出来ませんか?
 騒がしいんですよ、あなたはいつも』

 煩わしげに顔を顰める、淑やかなボブカットの少女。
 囚人番号、682-4XXX28-XXX番。
 “茂部 妃星(モベ キアラ)”。
 10歳、日本人。懲役70年。
 幼児数名を拉致監禁し、虐待によって死に至らしめる。
 犯行の悪質性に加え、強力な“空間対象型の超力”を危険視され刑期が長大化。

『この前来た“豚好きの戦犯”のこと?
 確かアンナ……アンナ何とかってヤツだろ。
 あいつ“懲罰房”連れてかれたんだとさ』

 ぶっきらぼうに呟く、ロングヘアと浅黒い肌の少女。 
 囚人番号、685-1XXX99-XXX番。
 “スートラ・エーキ”。
 13歳、インド人。懲役12年。
 GPAの米国主要拠点へのハッキング未遂。
 一時は政治犯の嫌疑を持たれたが、腕試し感覚の犯行と断定される。

『はァ?早すぎんだろまだ一週間ちょっとだろ。何したんだよあいつ!』
『……刑務官に手を出されそうになって、その方の“あそこ”を蹴りでブチ砕いたって噂ですよ』
『おー怖い怖い。戦犯殿の勇敢なる行動に乾杯』

 原則私語厳禁のアビスと言えど、その日の担当刑務官によって裁量は大きく変わる。
 一切の言葉を禁じられる場合もあれば、多少の世間話なら黙認される時もある。
 そのほか時と場合にもよる――日常的な刑務の際はともかく、食事中の制約は概ね緩い。
 だから受刑者同士の与太話、暇潰しの噂話、ちょっとした取引などが往々にして繰り広げられるのだ。

『すげェなあ戦犯、反骨精神ってヤツの塊だなァ!でもやっぱ一週間は早すぎんだろ!』
『“交尾 紗奈”もそうでしたけど、手癖の悪い刑務官に当たったのが運の尽きだったんでしょう』
『どのみち速攻でトラブル起こしそうだったけどな』

 薄暗い照明と、コンクリートの壁に包まれた食堂。
 そこでは複数の受刑者達がテーブルを挟んで昼食を取っていた。
 アルミ製の食器に収められた“加工食品”は、相変わらず妙な味がする。
 そんな代物を、受刑者達は揃いも揃って渋い顔で流し込んでいる。
 ある者達はぼそぼそと世間話で誤魔化し、ある者達は無言で耐え忍んでいる。

 この“4人”の若き受刑者達も、そんな集団の一員だった。
 ――彼女達は皆、10代そこらの少女である。

.


749 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:11:26 nNC52.Gg0
 
『てかさァ、懲罰房って何されンだっけ?』
『知りませんよ。私が聞きたいくらいです』
『まぁ豚小屋みたいなもんだろ、多分』

 “開闢の日”以降に誕生したネイティブ世代による犯罪は、世界各地で後を絶たなかった。
 自らのネオスと共に生を受けた新時代の子供達は、誰もが生まれながらにして暴力への切符を持つ。
 そうして道を踏み外した未成年による凶行は、もはや既存の少年法で対処できる域を超えていた。

『そっかァ戦犯のヤツ、自分が豚小屋に入れられちまうなんてなァー。豚をイジめてきた罰かもなあ』
『私はあの方気に入らなかったので、良い気味ですけどね。
 すれ違っただけでガン飛ばされましたし、ルクレツィアお姉様のような気品が足りないですもの』
『話したこともない相手を勝手にお姉様扱いするなよ』

 早急な法改正。早急な処罰。少年少女を裁くための仕組みが、世界で必要とされた。
 されど多くの国で、ネイティブ世代の人権や更生などについての議論が錯綜した。
 既存の政治機能が崩壊し、倫理の崩壊や独裁などが罷り通った国家ならまだしも。
 大半の文明国家においては、処罰の是非は膠着化した。

『にしても……やっぱ不味いよなこれ』
『急に何ですか。いや不味いですけど』
『娑婆の食事が恋しくなる』

 そんな混乱の中でGPAによる“制御不能な犯罪者の国際管理”の概念が提唱され、ICNCやアビスが設立された。
 結果として世界各地の少年法の見直しを待たずして、多くのネイティブ犯罪者がそちらへ“たらい回し”にされることとなった。
 ――人権保護や更生のシステムといった、根本的な問題や責任さえも丸投げにされた。

『あァー豚食いてェ肉食いてェー』
『眼の前のごはんで我慢しなさい』
『あたしたち、社会の冷や飯食い』

 そうして、こうした光景が平然と生まれた。
 アビスには、少年少女の犯罪者が当たり前のように存在する。

『ヴァイスマンの奴なんとかブッ殺せねえかなァ。シャバ出て豚食いてえもん』
『やめなさいってば。今に盗み聞きされますよ』
『日本で言う“触らぬ神に祟りなし”って奴だな』

 世界各地の凶悪なネイティブ犯罪者が無造作に放り込まれ。
 形式的で不十分な“更生プログラム”へと従事させられるのである。
 深淵の一区画は、若くして未来を捨てた連中の掃き溜めと化している。

 彼女達“4人”もまた、そうしたネイティブ世代の受刑者たちだった。
 同室の面々であるが故に、食事も共同で取ることになっている。


750 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:11:48 nNC52.Gg0

『――そういやロージィ!狼女ってさァ、肉は何派なの!?』

 それからワキヤは、ただ一人だけ会話に参加していなかった“受刑者”へと話を振った。
 ロージィ。そう呼ばれた“受刑者”の方へと、他の面々も視線を向ける。

 ――その受刑者は、赤い髪の目立つ少女だった。
 血や炎のように鮮やかな紅色と、首筋に彫られた“薔薇のタトゥー”。
 犬のように大きな眼は、不機嫌そうな眼光を湛えている。
 少女の風貌は、同室の“4人”の中でも一際存在感を放っていた。


『うるせえよ。話しかけんな』


 ロージィと呼ばれた少女は、ただ素気なく吐き捨てた。
 苛立ちを隠そうともせず、一言でワキヤを突き放す。


『殺されてえのか?』


 囚人番号、683-6XXX02-XXX番。
 “スプリング・ローズ”。
 13歳、イギリス人。懲役18年。
 ストリートギャングのリーダーとして、多数の暴力沙汰に関与。
 “後ろ盾”からの手助けがあり、複数件の殺人が立証されず。


『――――クソが』


 ローズは、ぶっきらぼうに言い放つ。
 不機嫌な眼差しで、他の3人をきっと睨みつける。
 馴れ合いを拒絶するような、酷く冷ややかな態度だった。
 そのまま彼女は再び沈黙し、何の感慨もなさそうに食事へと戻る。

 テーブルの一角という、ごく小さな空間の中。
 狼の威嚇にも似た威圧と殺意が、剥き出しにされた。
 先程までの世間話の空気は、白けるように吹き飛ぶ。
 後に残るのは、カチャカチャと鳴る食器の音だけ。

 ワキヤは面食らった様子で、舌打ちと共に渋々と黙り込む。
 スートラは関わりを避けるように、知らぬ存ぜぬの態度で俯く。
 そんな中で、妃星だけはローズへと冷ややかな眼差しをむけていた。

『ねえ、ローズさん』

 そうして皮肉と嫌味を込めて。
 妃星は慇懃無礼に吐き捨てる。

『背後に“牧師”がいるからって、いつも偉そうにしないで下さいよ。
 尤もあなたは――“牧師”の飼い犬の、更に飼い犬なんでしたっけ?』

 それからコンマ数秒後。
 アルミ製の食器が引っ繰り返った。
 ガシャンと音を立てて、なけなしの昼食が撒き散らされる。
 個体、液体を問わず、器から溢れた残骸が散乱する。
 
 ローズが妃星の髪を掴んで、テーブルへと力任せに叩き付けたのだ。
 超力を封じられているにも関わらず、その顔は獰猛な狼のように歪んでいた。
 辛うじて堰き止められていた苛立ちは、怒りと化して牙を剥いた。

 思わず怒号を上げるワキヤに、唐突な事態に仰反るスートラ。
 刑務官が騒ぎを察知したのは、ほんの数秒後のことだった。
 





751 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:12:59 nNC52.Gg0



 ――気が付けば、変身が解けていた。
 廃棄物置き場で蹲るように寝そべっていた人狼は、既に小さな少女の姿へと戻っている。

「あー……クソ」

 “わざわざ変身を解く理由なんかない”。 
 そんなふうにさっきは強がっていたし、あの二人への警戒もあって人狼の姿のままで居たけれど。
 それでもローズはあくまで任意発動型の超力使いであって、常時の亜人変身は出来ない。

 言うなれば“ずっと意識的に力んでるような状態”なのだ。
 限界を迎えれば、当然変身は解けるのである。
 そうした制約と引き換えに、ローズの亜人化は強力な能力を誇る。
 他の同系統のネオスと比較しても、突出したパワーやタフネスを備えているのだ。

「ずっとバケモンの姿でいられるヤツらはいいよなあ」

 とはいえ、彼女にとっては考えものだった。
 チビのガキだから、大人にナメられる。
 人狼に変身すれば、みんな自分を畏れる。
 化物だったら、どんな奴らもブチのめせる。

 この場でも、それは同じだ。
 気に入らない奴は叩きのめして、落とし前をつけさせる。
 あの『アイアンハート』のネイ・ローマンは必ず殺す。
 かつて自分達の縄張りに踏み込んできたハヤト=ミナセとかいう野良犬も殺す。
 自らの超力によって奴らを必ず潰すと、ローズは殺意を滾らせる。

 彼女にとって人狼形態は“強い自分”の象徴であり、“理想の自分”を体現する姿だった。
 だから常時発動型の亜人化が出来る者を羨んでいた。
 いつでも“人狼の姿”なら、きっと誰にも侮られることはない。

 彼女の両親は、バケモノに変身する娘(スプリング)を拒絶した。
 その暴力的な力を忌み嫌い、育児放棄同然に突き放した。
 それ以来、彼女は自らの超力にアイデンティティを規定するようになった。

 バケモノだから、拒絶されたんじゃない。
 バケモノとして、自分が弱い両親を拒絶したのだと。
 ローズはそう考えるようになった。
 そうして彼女は、非行へと走るようになった。
 その果てに、同じような境遇の少年少女達とつるむようになった。
 ストリートギャングを形成し、大人さえも恐れる程の集団を築き上げた。

 ――文化に基づく地域差もあるとはいえ。
 亜人変身の超力使いは、精神的に不安定な者が多いとされる。

 人格と外見のギャップによって自己の同一性に苦しんだり。
 他者とは異なる外見による疎外感に苛まれたり。
 変身時の人ならざる衝動に翻弄されたり。
 偏見や嫌悪による周囲との軋轢に直面したり。
 治安の安定した日本においても、亜人変身の超力使いは精神疾患を発症する比率が高いとされていた。
 
 11年前のアジア某国で起きた「ダルハーン事件」は、こうした社会病理が引き起こした典型的事件として語られる。
 差別と排斥を受けていた常時発動型の“昆虫系亜人”による、市街地での無差別殺傷事件だ。

 ローズがこれまで出会ってきた少年少女達も、そうした例に漏れなかった。
 皆どこか情緒不安定で、皆どこかネジが飛んでいた。自己破壊的な性格をした者も沢山いた。
 亜人変身型の超力を生まれ持って心を病む者が数多いることは、彼女も実例として理解していた。


752 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:13:39 nNC52.Gg0

 ローズは人狼としての自分を誇りに思っている。
 自身の力と威厳の象徴として、このネオスを常に行使してきた。
 そうして数々の敵を捩じ伏せてきたし、多くの仲間達とつるんで奔放に暴れてきた。

 そのうえでローズは、時折物思いに耽ることがある。
 自分の在り方について、考えを巡らせることがある。

 己が抱くプライドというものは、一体何なんだろうか。
 “自由”だから、自分は暴力に明け暮れていたのか。
 それとも“何かに縛られている”から、暴力を捌け口にしているのか。
 不安と虚しさが、ふいに顔をもたげてくる。

 家族との折り合いを付けられていたら、自分はどうなっていたのか。
 人狼としての己を、初めから家族に受け入れられていたとしたら。
 自分の人生というものは、どうなっていたのだろうか。

 ローズは決して考えなしの少女ではない。
 だからこそ時々、そうした思考をすることがある。
 ふっと我に帰ったように、自らを俯瞰して見つめてしまう瞬間が訪れる。

 ――――『イースターズ』。
 暴力の限りを尽くすストリートギャング。
 破滅へ向かう明日なき少年少女達の寄り合い。
 その実態は、麻薬売買を仕切るマフィアの“飼い犬”。
 彼らの後ろ盾を得ているから、あれほどまでに幅を聞かせることができた。

 とうに知っている。
 自分が置かれている立場も。
 自分が背負い続けている葛藤も。
 ローズは、正しく理解している。

 そんな自分に対して、常日頃から苛立ちを抱いていた。
 湿っぽく、煮え切らず。満たされない飢えに苛まれている。
 考えても仕方のない自問自答が、頭の中へと降ってくる。
 そんな自らの欠落を埋め合わせるように、仲間達と暴力や非行に明け暮れていた。
 それがスプリング・ローズという少女だった。


 ――さっきの“氷龍”のことを、ふと思い返した。


 北鈴安里。
 子供のためなら、自らの命を差し出してもいいと宣ってきた青年。
 凶暴なギャングと知った上で、自分に歩み寄ってきた“亜人の超力使い”。
 そんな彼のことを、ローズは振り返る。

 亜人変身型の超力を生まれ持ち、身を持ち崩した者達が辿ってきた顛末。
 掃き溜めに生きるスプリング・ローズは、それを知っていた。
 自らの心を病んで、周囲との軋轢の果てに非行へと走った者達を見続けてきた。

 アビスに収監される程の犯罪者でありながら、ひどく自罰的な安里。
 異性の亜人へと変身する彼が辿ってきた人生とは、如何なるものなのだろうか。
 自身の命さえも粗末にするほどの後悔と罪の意識に至るまでに。
 あの青年は、どんな道を歩んできたのだろうか。
 ローズはふいに、そんな疑念を抱いていた。

 それを聞き出すつもりはなかった。
 わざわざ知りたいとも思わなかった。
 しかし、少なくとも――察することは出来た。

 きっと、自分を肯定する術を得られなかったのだろう。
 自分に折り合いをつける術さえも、見つけられなかったのだろう。
 それが如何なる孤独であるのかを、ローズは知っていた。





753 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:14:31 nNC52.Gg0



 ――“自分らしく生きよう”。
 ――“ありのままを大切に”。
 ――“個性を尊重しよう”。

 古本屋の雑誌で、そんなフレーズを見たことがあった。
 昔は今よりも“多様な世界”を大切にしようという気風が強かったらしくて。
 十数年前の書籍を漁っていると、そうした言葉と度々出会う機会があった。
 尤も“開闢の日”による人類総超人化の混乱と軋轢によって、世界の人権意識は後退――元の木阿弥になってしまったそうだ。

 北鈴安里にとって、それらの謳い文句は何処か空虚に感じていた。
 性別と種族。超力によって二つの垣根を飛び越えてしまう彼にとって、“本当の自分”というものは酷く曖昧だったから。

 人間の男としての自己。氷龍の雌としての自己。
 自分が自分の在り方を規定しようとしても、周囲からは受け入れられない。
 嘲笑の表情と、偏見の眼差し。安里の記憶に焼き付くのは、そんな思い出ばかりだった。

 誰かに自分を否定されたくない――そんな想いの末に、安里は自分の殻に引き篭もるようになった。
 誰かに自分を受け入れてほしい――そんな想いから、安里はSNSなどを通じて他者を渇望した。
 
 けれど、全ては過ぎたる願いだったのだと、安里は諦めていた。
 そうした自分の身勝手で我儘な意思が他者を傷つけ、惨劇を招いたのだから。

 もう自分は何も求めないし、償いのために生きる他ない。
 安里はそう思い、この刑務においても自分の命を誰かのために差し出すことを望んでいた。
 そんな矢先に、彼は自分と同じ亜人へ変身する超力を持ったスプリング・ローズと出会い。
 帰るべき場所を持った彼女のためなら――自分を肯定している彼女のためなら、恩赦ポイントを明け渡してもいいと思った。

 彼女は強くて、彼女は気高い。
 人ならざる自分に対して、何処までも真っ直ぐだった。
 安里にとって、スプリング・ローズはひどく“自由”に見えたのだ。

 けれど、そんな思いさえも“自分の思い込み”が生んだ身勝手な虚像に過ぎないのではないか。
 安里の胸のうちには、そんな疑念が絶え間なく纏わりつく。
 他者に拒絶されて、嘲笑され続けた安里は、それ故に他者に強い理想を抱いてしまう。
 安里はそんな自分を嫌悪していたし、そんな自分を律したかった。

 ――“さっき君が私を止めようとしてくれたように”。
 ――“君が暴走してしまったら私が止める”。
 ――“それで充分ではないでしょうか”。

 つい先刻、同行者となった彼の言葉を振り返る。
 互いに欠落があるからこそ、互いの欠落を補い合う。
 ひどくシンプルで、ひどく分かりやすい回答だった。

 変身した姿の安里を一回ぶちのめしてみたい、なんて正直な発言には苦笑いしてしまったものの。
 それでも安里にとっては、ほんの少しでも“仲間”を得られたような安心感があった。

 内面の苦悩まで理解し合えている訳ではない。
 けれど、互いの鬱屈や衝動は分かち合っている。
 だからこそ少しでも線を引きながら、手を取り合うことが出来る。
 それは安里の心を救うとまでは行かずとも、心に掛かった雲を少しでも振り払ってくれた。


754 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:15:11 nNC52.Gg0

 安里は今、工業建屋内の一角で待機していた。
 イグナシオは現在自らの超力によって“周辺の調査”を行っている。
 スプリング・ローズが動き出すまで、自分が見張り役を務めることを安里は引き受けた。

 無論、イグナシオからは問われた。
 “貴方をこの場で一人にして大丈夫なのか”、と。
 それは安里の身の安全を気に掛ける言葉であると同時に。
 単身になった安里が、再び自己犠牲的な行為に走る可能性への懸念でもあった。

 それでも安里は“大丈夫です”と、彼に対して答えた。
 イグナシオが抱く二つの懸念を察した上で、安里はあくまでそう伝えたのだ。

 いま自らの命を犠牲にすることは、きっとイグナシオへの裏切りになる。
 だから安里は自らの意思と力で己の身を守ることを約束したし、イグナシオもまたその意図を汲んでその場から離れたのだ。

 ――がちゃりと、扉が開く音が聞こえた。

 安里は咄嗟に視線をそちらの方へと向ける。
 息を呑み、少しでも身構えながら音が聞こえた側へと意識を集中させる。
 ゆらり、ゆらりと、足音と気配が近づいてくる。
 それは小さな歩みだった。幼い少女が刻む、粗野なステップだった。

 やがて突き当たりの通路から、少女が姿を現す。
 赤いセミロングの髪を靡かせながら、少女は安里をふてぶてしく見据える。
 スプリング・ローズ。ストリートギャングの幼きリーダーが、青年を睨みつける。

「おう、まだいやがったのかよ。カマ野郎」

 少女は相変わらず、ぶっきらぼうな態度で吐き捨てる。
 そんなローズを、安里は神妙な面持ちで見つめ返す。

「とっとと失せろよ。うざってえ」
「……イグナシオさんが戻ってくるまで、此処にいるつもりだよ」
「あっそ。で、どうすんだよ」

 此方を見据える安里に対し、ローズは問いかける。

「アタシを止めんのか、それとも此処で死ぬのか、どっちなんだよ」

 睨むような眼差しと共に、そんな問いを投げかけられ。
 少しの沈黙を経てから、安里は口を開く。
 何処か躊躇いと迷いを抱くように、顔は俯いている。
 しかしそれは確かに、安里自身が決めた意思だった。

「……ボクは、君を見逃す」

 安里のそんな答えを聞き届けて。
 ローズは訝しむように、目を細めた。


755 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:18:17 nNC52.Gg0

「君を見逃すことで、犠牲が出るのかもしれない。
 それだったら、ボクの首輪を君に差し出した方が余程良いのかもしれない」

 ぽつり、ぽつりと、安里は言葉を紡ぐ。
 自らを苛むような先程の言葉を、振り返りつつ。
 自分の行動が齎すかもしれない顛末を、省みつつ。
 それでも彼は、その決断へと至った。

「けれど、今のボクは……君を裁きたくない。
 ましてや此処で死ぬことも、イグナシオさんへの裏切りになる。
 だからボクは、君に何もしないことにする」

 葛藤の果てに辿り着き、静かに吐き出される杏里の言葉。
 ローズは面食らうように、表情を歪めた。
 今ここで少女を裁くことも、自ら命を差し出すことも否定する。
 結局この場で己に出来ることはないのだと、彼はそう伝える。

「無責任だと、言ってくれてもいい。
 だけどボクには、そうすることしか出来ないんだ」

 故に安里は、ローズを止めることをしない。
 彼女を傷つけることも、望まない。

「……ボクは、卑怯な“悪人”だ」
 
 それが彼の選んだ、出来る限りの決断だった。
 去りゆくローズを見送ることだけが、彼に出来る尊重だった。
 そうすることしか出来ない自分を、安里は卑下した。

「ただ一つだけ、言いたいことがあるとすれば」

 その上で、安里はゆっくりと告げる。
 無言のまま佇むローズは、彼を見つめていた。


「君には、生きてほしいと思う」


 それは、ある種の共感ゆえの祈りだったのか。
 あるいは、自らの理想を彼女に投影したが故の妄執でしかないのか。
 その答えは、安里自身にも解き明かせなかったけれど。
 それでも彼は、せめてそれだけは伝えたかった。

 自らと同じ“亜人型の超力”を持ち。
 自らと違い、帰れる居場所を持ち。
 まだ幼い少女でしかない、ローズのことを。
 手探りの意思の中で、安里は案じていた。

 ローズは、沈黙していた。
 何も言わず、何も答えず。
 ただじっと、睨むように。
 安里のことを、見据えていた。

 大きな紅い瞳が、安里を見つめている。
 何かを見定めるように、視線を向け続けている。
 そんなローズの姿に、安里は緊張と共に息を呑む。


756 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:18:54 nNC52.Gg0

 彼女が杏里の思いに従う義理など、ありはしない。
 そのことを安里自身も理解していた。
 その上で彼は、自らの意思を伝えていたのだ。
 だからローズがここで安里を攻撃したとしても、決して不思議ではなかった。
 安里は心の何処かで覚悟しつつ、顔を強張らせていた。

「やっぱ湿っぽいんだよ、オカマ臭ェ」

 やがて、ローズがようやく口を開いた。
 彼女は呆れたように、溜め息を吐き。
 それからゆっくりと歩き始めて、安里の側を通り過ぎていく。

 その姿からは、殺意は感じられなかった。
 見逃してやる。そう言わんばかりに、彼女は自らの牙を引っ込めていた。
 安里は緊張から解き放たれたように、思わず放心する。
 彼女の姿を振り返る余裕もなく、ただ虚空を見つめていた。

 自らのありのままの思いを、ローズに伝えたが。
 一歩間違えれば、きっと自分は殺されていただろう。
 つい先程までの自分だったら、それも受け入れていたけれど。
 しかし今の安里は、少しでも生きる努力をしようと足掻いていた。

 それはイグナシオとの約束のためであり。
 同時に、自らの贖罪の在り方について探るためでもあった。
 故に安里は、少しでも命を惜しむことを考えていた。
 
 いつかまた、何らかの拍子で己への諦観を取り戻すのかもしれない。
 あるいは、結局誰かに命を差し出すことが最善の答えとして帰結するのかもしれない。
 自分で自分を信じることは、今だに出来ない。
 だからこそ、自分が此処にいることの意味だけは、求めてみたかった。


「なあ、アンリ」


 その時ふいに、安里は呼びかけられた。
 自らの名前を呼んだローズに、彼は意表を突かれた。
 思わず惚けたように、安里は反応する。


「ちょっとは胸張れよ」


 ぽつり、ぽつりと、ローズは言葉を紡ぐ。
 静かに、淡々と紡ぐような声色だった。
 それは先程までの威嚇するような態度は何処か違っていて。
 思うところがあるかのように、ローズは続ける。


「自分で自分を認めなきゃ、どうにもならねえだろ」


 ――ひどく不器用で、ぶっきらぼうな言葉。
 しかしそれは、確かに少女なりの“激励”だった。
 自己の存在と罪に苛まれる“亜人”に対する餞別だった。

 そんなローズの言葉に、思わず目を丸くして。
 安里は彼女の方へと、改めて視線を向けた。
 ローズは何も言わずに、背を向けてその場を去っていく。
 それ以上の言葉は交わさず、伝えることもせず。
 けれど安里は――彼女の小さな背中を、ただ見つめていた。





757 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:19:36 nNC52.Gg0



 ローズは、内心で自嘲する。
 自由を求め、自由を渇望しながらも。
 閉ざされた世界で足掻いている自分自身を。

 ――自分で自分を認めてやれ、なんて。
 ――そんな言葉を吐く資格もないくせに。
 ――それでも、言わずにはいられなかった。

 幾ら粋がって、強がってても。
 結局自分は、ちっぽけなガキでしかない。
 心の奥底で、ローズはそのことを察していた。

 破壊の中で生きて、衝動を大人達に利用されて。
 一瞬の快楽を慰めにしながら、地の底を這い続ける。
 きっと死ぬまで、そう生きることしか出来ない。

 けれど、それは自分で選んだ道だ。
 自分が望んで、自分で堕ちた結果だ。
 平穏。安息。そんなものは、自分自身で踏み躙った。
 これまでも、これからも。
 歩んでいく道程には暴力だけが横たわる。

 ――――自分は“悪人”だ。
 ローズは、それをとうに知っている。

 だからせめて、同じ袋小路の中に迷い込んだ仲間達と最期まで走り抜けたい。
 それがローズにとっての願いだった。
 “理由なき反抗”。それだけが、彼女の生き様。
 故に彼女は、あくまで恩赦を求める――唯一の拠り所を求める。
 イースターズだけが、彼女にとってのよすがだった。

 スプリング・ローズ。
 彼女は、全てを傷つけるバケモノになる。
 破壊と閉塞の刹那へと、我武者羅に突き進んでいく。





758 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:21:08 nNC52.Gg0



 ――イグナシオ・"デザーストレ"・フレスノ。
 彼は、安里が滞在する工業建屋の周辺を調査していた。
 無数に連なる廃屋。廃工場。廃倉庫――。
 鉄屑と錆の匂いに包まれた場を、イグナシオは探索し続けていた。

 彼は今、奇妙な事象に直面していた。
 それは娑婆においても、一度も経験したことのない事態だった。

(――――さて、どうしたものか)

 自らの超力を行使して、島に遺された痕跡の再現を試みた。
 これほどの規模の無人島を刑務の会場として選抜した以上、何らかの下調べが入った可能性は高い。
 故に島内での調査を行えば、アビスの刑務官や職員が踏み込んだ形跡を発見できるかもしれない。
 それは彼らの裏を掻く上での道標にもなり得る。

 そう考えて、イグナシオは各所で超力を行使したのだが。
 不自然なまでに、目ぼしい“形跡”が存在しない。
 それどころか、“住民の痕跡”さえも再現できないのだ。

(この島には、明らかに産業の名残が存在している。
 人の存在が有って然るべきだ。だというのに、一切の形跡が見られない)

 過去に人々の往来があったのならば、確実に自らの超力で再現できる筈だというのに。
 まるで記録を丸ごと削除したかのように、この島からは“何も掘り起こせなかった”。

 これは一体、如何なる事象なのか。
 此処はかつて住民が暮らしていた無人島ではないのか。
 何らかの超力によって、過去の形跡が消されているのか。
 あるいは、到底あり得ない話だが――無人島自体が“偽りの舞台”でしかないのか。

 その答えは、未だ分からない。
 しかし、今確かな事実があるとすれば。
 自分達以外の痕跡は、間違いなく“他の受刑者”によるものということだ。
 
 唯一“再現”できた、他者の痕跡。
 かつかつと伸びる足跡。着々と進む足音。
 無論、射程距離内における事象までしか再現できずとも。
 それは北東の方角――地図上で言うF-2の方向へと進んでいた。

 ――彼はまだ、知らない。
 先程の“再現”によって確認した足跡と足音。
 それがサリヤ・K・レストマンの痕跡であることに。
 またの名を、本条清彦。
 他者の人格を取り込み続ける“群体の怪物”である。

 ラテン・アメリカにルーツを持つイグナシオは、現地の犯罪組織との繋がりを持つ。
 この刑務にも名を連ねる“メカーニカ”が属する組織――そのメンバーの一人がサリヤだった。
 彼女が既にこの世を去っていることは、仕事の際の話で聞いている。
 故にその痕跡がサリヤのものであることも、今は未だ気づかない。

 されど、引力というものは決して侮れない。
 彼がその痕跡を見つけたことで、歯車が動き出すのかもしれない。
 あるいは死人の存在に辿り着くことなく、異なる軸で動き続けることになるのかもしれない。
 探偵が行き着く顛末を知るのは、今はまだ“運命”なるものだけだった。


759 : ランブルフィッシュ ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 00:22:29 nNC52.Gg0

【G-1/工業地帯/一日目 黎明】
【スプリング・ローズ】
[状態]:脚に僅かな熱傷
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.ポイントを貯めて恩赦を獲得する。
1.獲物を探す。
2.タバコや酒が欲しい。ヤクはないのか?
3.ネイ・ローマンはブッ殺す。ハヤト=ミナセもついでに殺す。
4.ルーサー・キングとは、会いたくない。

【イグナシオ・"デザーストレ"・フレスノ】
[状態]:腕に軽い傷
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.子供や、冤罪を訴える人々を護る。刑務作業の目的について調査する。
1.一旦杏里の元へと戻る。
2.首輪には盗聴器があるだろう。調査について二人に話していいものか。
3.自分の死に場所はこの殺し合いかもしれない。
※ラテン・アメリカの犯罪組織との繋がりで、サリヤ・K・レストマンのことを知っています。
※島内にて“過去に島民などがいた痕跡”を再現できないことに気付きました。

【北鈴 安里】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.自分の罪滅ぼしになる行動がしたい。
1.暫くは、生きてみたい。
2.イグナシオの方針に従う。
3.本当に恩赦が必要な人間がいるなら、最後に殺されてポイントを渡してもいい。けれど、今はもう少し考えたい。
4.スプリング・ローズには死んでほしくない。


760 : 名無しさん :2025/03/10(月) 00:22:44 nNC52.Gg0
投下終了です。


761 : ◆A3H952TnBk :2025/03/10(月) 12:35:23 e/rrhoYQ0
すみません、wikiにて以下の備考を追加させていただきました。

[共通備考]
本条 清彦の刑務開始地点はG-1でした。
そこから北東のF-2へと移動して「017:砲煙弾雨」へと繋がります。


762 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:20:08 Ncp1q7ho0
投下乙です

>ランブルフィッシュ
ローズは乱暴そうに見えて思いのほか繊細さが垣間見える所に魅力を感じますねぇ
彼女の抱える孤独や境遇はローズ個人の問題ではなく異形型超力者が抱える社会問題として世界に蔓延っている。ネイティブ世代を巡る問題の丸投げっぷりもそうだし、社会問題が山積みすぎるぞこの世界!
強気で暴力的なローズと弱気で自罰的な安里と抱える根本は同じで、形は違えど互いに共感の様なものを抱いている微妙な距離感は孤独に対する小さな救いのようでもある
イグナシオのネオスは会場の調査にうってつけ、痕跡がありながら痕跡がない会場の謎は深まるばかりか
アンナさんは死後出演の大御所と化してもはや風格すらある

それでは私も投下します


763 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:21:15 Ncp1q7ho0
深い霧のような静けさの中、一人の男が寂れた工場の間を歩いていた。
無人のはずの夜道に、彼の囁くような呟きが虚しく響いている。
電話をしている訳ではない、男は確かに一人きりであるはずなのにどういう訳か話し声が聞こえる。

「ご、剛田さん、また眠っちゃったね。ぜ、全然起きそうにないや」
「王ちゃんがいなくなって大変な時に、仕方ないおっちゃんだなぁ。歳のせい?」
「王さんを失ったショックが大きかったんでしょう。武人同士通じるものがあったようですし」

聞こえるのは三つの声。
それらは全て本条清彦と言う男の声帯から発せられていた。

「そ、そうだよね……星宇はほ、本当に良い人だった。ぼ、僕らの大事なファミリーだったのに……」
「あらあら、清彦ってばまだ落ち込んでるの? 寂しいのは分かるけど、切り替えないと」

からかうような励ましは女の声は女性のそれである。
それは本条の中で共存するもう一人の人格、山中杏のモノだ。
その声からは弱気な男の尻を叩くような気丈さを感じさせる。

「わ、分かってるけど……僕は君ほど切り替えが早くないんだよ」
「清彦、昔からそうだよね。中学の頃からメソメソしてばかりで」
「そ、それは昔の話じゃないか、杏! 僕だって、変わろうとしてるよ……」

古いなじみであろう男女が言い合う様子は、言葉に反して互いに気を許した気のおけない関係のように見える。
これが一人芝居でなければの話だが。

「まあまあ、お二人ともケンカしないでください。私たちは家族なんですから、仲良くね?」

三つ目の人格、サリヤ・K・レストマンの声が二人をなだめる。
その声は穏やかでありながら仕切り屋の委員長の様な有無を言わせぬ迫力が込められていた。

「う、うん……サリヤが言うなら」
「ごめんごめん。清彦が情けないもんだからつい」

清彦は小さく息を吐き、僅かに歩調を緩めた。
挙動不審な様子を強め、親指の爪をかむ。

「…………で、でもさ、や、や、やっぱり早く新しい家族(ファミリー)を迎えないと。ふ、不安で仕方ないんだ」

群生は完全でなくてはならない。
そんな強迫観念染みた不安に駆られ本条は身を震わせる。

「……そうだね。二人分も空いてるからね。埋めないと」
「それなら早く探さないと。誰か素敵な人が見つかるといいね、清彦」

さきほどの様子とまるで違う淡々とした機械的な声でサリアが応じた。
杏の慰めの言葉もまた感情のない声色に包まれていた。
だが、その言葉に勇気をもらったのか清彦の瞳が僅かに輝きを増す。

「うん。そうだね。早く……早く新しい家族を見つけなきゃ……!」

狂気じみた決意の光が彼の目に宿り、清彦の足取りは再び速くなった。

「僕たちは完全でなきゃ。絶対に、欠けてちゃいけないんだ――――家族なんだから」

狂おしいまでの家族への執着。
焦燥と狂気が入り混じった独り言を繰り返しながら、本条清彦は深い闇の奥へと消えていった。




764 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:22:17 Ncp1q7ho0
月明かりが錆びついた廃工場を薄く照らす中、無銘は静かに歩を進めていた。

彼の表情には退屈と興奮が入り混じった奇妙な感情が浮かんでいる。
超力が当たり前となった時代において、精神力の強靭さという超力のみで戦い続ける男。
それは超力社会への挑戦だと言えるだろう。

闘争を求める無銘にとって、この刑務作業は恩赦のためではなく、自身が求める『強者との戦い』に過ぎなかった。
弱者などには興味はない彼にとっては、戦い甲斐のある人間がいればそれでいい。

だが、心満足いく強敵とはいまだ出会えていない。
極上の餌を前にお預けを喰らっているような心持ちである。
精神状態を保つ超力がなければ今にも胸がはち切れそうだ。

彼は静かに息を吐き、周囲を慎重に観察する。
鍛え抜かれた肉体は、わずかな気配や音にも敏感に反応していた。
鋭敏な彼の感覚が廃工場の先に奇妙な気配を捉えて足を止めた。

(誰かいる……が、妙な気配だ)

無銘は慎重に足を止め、ゆっくりと視線を廃工場の闇に向ける。
向こうの気配は一人であるはずなのに、複数名いるような異様な気配だった。
自身の存在をまるで隠す様子がないのは狙いあっての事なのか、それとも本当にただの素人か、
その結論も出ぬうちに、薄暗い影の中からゆらりと人影が姿を現した。

「やあ、こ、こんばんは……。あ、あなた、強そうですね」

声をかけてきたのは、どこにでもいそうな平凡で地味な影の薄い男だった。
線の細い体は、とても格闘などできそうにない。
態度も挙動不審で闘争を期待する無銘からすれば期待外れな気迫の無さである。
しかし無銘の直感は、この男の異質さを強く感じ取っていた。

そもそも、このアビスにまともな人間はいない。
この一見して無害な男もまた何らかの罪を犯した大罪人だ。
それを裏付けるかのように首輪は無期懲役を示している。

油断することなく一挙手一投足を見逃さぬよう相手を凝視する。
目の前の相手は腰の曲がった姿勢で胸の前でわたわたと指を動かし、ちらちらと無銘と地面を交互にみていた。

「お前は……何者だ?」

無銘からの問いかけに、男は卑屈な笑みを浮かべながら応えた。

「ぼ、ぼ、ぼ、僕は、ほ、本条清彦です。私は山中杏よ、よろしくね。サリヤ・K・レストマンよ、よろしく」

その名乗りに、無銘の瞳が僅かに鋭さを増す。
目の前の男は、まるで複数の亡霊に取り憑かれた人形のように、次々と異なる人格を口にしていた。
本能的な危険信号が無銘の脳裏を激しく叩き、この男との邂逅がただ事では済まないことをはっきりと告げていた。

「そ、そ、そちらの、お、お名前、お聞かせください」
「名などない。無銘だ」

にべもなく端的に返す。
彼には失うべき名もなければ、背負うべき名誉もない。
対する相手は、一つの体にいくつもの名前を宿し、その名に囚われたかのような不気味さを漂わせている。
名を失った男と名に溢れた男が、今ここで対峙していた。


765 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:22:37 Ncp1q7ho0
「む、む、無銘さん。あ、あなたもファミリーになりましょう」

それが本当に素晴らしい事であるかのような誘い文句で、不気味な笑顔を浮かべる。
口角が異様に吊り上がり、瞳の奥は虚ろな狂気を漂わせている。
禁断症状のように微かに震える指先が、抑えきれぬ興奮を物語っていた。

「意味が解らんな。いずれにせよ御免被る。だが、立ち合いならば受けて立とう」

元より無銘の返答など聞いていないのか、本条は興奮した様子で身を構える。
明らかに素人の構えだが、その不気味さだけは異常なまでに漂っている。
まるで野生動物のように前掛かりに、今にも襲い掛からんと言った体勢だった。

これに対して、無銘は構えすら取らなかった。
これは余裕でも油断でもない。
これが無銘にとっての臨戦態勢なのだ。

武術における構えとは、各武術や流派が研鑽を積み重ねて生み出した攻防における最適解である。
だが、そこには一つ、大きな問題があった。

それは最適であるが故に、行動が枠に収まるという事だ。
例えば、上半身の動きを重視したボクシングの構えではまともな蹴りなど打ち出せない。
例えば、重心を前にのみ向けた相撲の構えでは機敏なフットワークは望めない。
例えば、相手を掴むことを前提とした柔道の構えでは、打撃がないことを知らせる様なものだ。
構えには多くの積み重なった歴史が乗せられているが故に、そこから読み取れる情報も多いのだ。

だが、彼に構えなどない。
この自然体こそが彼にとっての構えである。
ゆらりと無銘の体が揺らめく。

「え…………?」

勝負は一瞬だった。

構えも予備動作もない。それ故に予測不能。
本条からすれば、無銘がいきなり目の前に現れたようにしか見えなかっただろう。

瞬間。無銘の右足が鞭のようにしなった。

立ち合いの開始から僅か2秒。
崩れ落ちるように顔面から地面に倒れる。
それは的確に顎先を掠め脳を揺らし、完全にその意識を刈り取った。


766 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:23:30 Ncp1q7ho0
「――――――あーあ。清彦がノビちゃった」

だが、地に伏せた顔面から女の声がした。
ビキビキと音を立て巻き戻しのように、確かに意識を刈り取ったはずの相手が立ち上がる。
まるでゾンビだ。

だが、無銘はその程度の事では驚かない。
無銘は何が飛び出すかもわからない超力者相手に幾度も決闘を申し込んできた。
この経験と揺るがぬ精神性こそが無銘の武器だ。

想定外など起きて当然。
予想外など起きると予想して然るもの。
それが現代における超力戦だ。

「やっぱり、王ちゃんなしだと近接戦は厳しいんじゃない?」
「なら、遠くから攻めましょう。任せて」

二つの女の声が喋る。
相手の言動からして多重人格である可能性は高い。
だが、それが超力と直接関わっていると決めつけるのは危険だ。
その手の人格破綻者はアビスでは珍しくもない。

無銘の学んだ超力戦におけるセオリーは2通りある。
相手に超力を使用させる前に問答無用で倒す『速攻』か。
相手の超力を見極め対策を練ってから倒す『遅攻』か。
取るべくはこの2つに一つ、半端な対応は命を落とす。

そのセオリーに従い無銘は相手に何もさせることなく『速攻』により倒した。
だが、それは成功したにもかかわらず失敗した。
超力戦はこの理不尽を受け入れることから始まる。

『速攻』が失敗した以上『遅攻』に移るしかない。
無銘は相手の超力を冷静に見極めるべく、一旦距離を取った。

同じく距離を取ってきた本条が指先を無銘へと向けた。
その指先から、空気が弾丸となって撃ち出される。
その不可視の弾丸を無銘は、首を傾け最低限の動きであっさりと避けた。

指先から何かを放つ超力はよくある話だ。
指を構えるその姿勢から、初見であろうとも軌道を予測することは難くない。

続いて放たれる指鉄砲を無銘は避けるついでにザッと地面を蹴り上げる。
舞い上がった小石を空気の弾丸が弾いた。

弾ける様子からして、威力は恐らく小口径の拳銃程度。
旧時代ならいざ知らず、喰らったところで現代人にとっては致命傷にはならないだろう。

脅威判定を下し、歩を進める。
そんな無銘に向かって次々と指鉄砲が連射された。
だが、空気の弾丸はまるで無銘の体をすり抜けるように突き抜けてゆく。

「あ、当たらないよ!?」
「どうなってるのよ!」

僅かに声色が違う2つの女の声が一人の男の喉から戸惑いを漏らす。
それは余りにも効率化された動き。
必要な箇所だけを最低限に動かす様は傍から見れば、ただ歩いているようにしか見えないだろう。

散歩でもするような自然体で距離を詰めた無銘の動きは緩から急へ。
一転して鋭く、稲妻のような突きを繰り出した。
だが、

「…………強き、武士」

パシリと、その手首を掴まれた。

瞬間。無銘の重心が崩される。
無銘は咄嗟に自ら跳んで空中で一回転して、両足で地面に着地した。
そのまま後方に小さく二度跳んで距離を取る。


767 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:24:10 Ncp1q7ho0
「もう、遅い! やっと起きたのね、剛田のおっちゃん!」
「助かりました、剛田さん」

これまでとは明らかに動きが変わった。
素人くさい動きとは段違い。身に纏う雰囲気は達人のそれだ。
青年の姿すら年老いた老人のそれに変わっていく。

だが、無銘はその変化すら意に介さず、先ほど捕まれた手首を見つめる。
自身の戦闘経験から、先ほどの動きの結論を告げた。

「ジュードーか」
「残念、柔術だよ……」

ぬるりと恐ろしいほど滑らかな動きで老人が動いた。
それは決して反応できない速さではない。
だが、来るとわかっていても反応できない虚をつく巧みな動きだった。

無銘ですら一瞬虚を突かれた。
それを、ギリギリのところで引いて身を躱す。
彼でなれば反応すらできなかっただろう。

無銘は、目の前の老人の掴みの恐ろしさを十分に理解していた。
一度でも間合いを誤り捕まれれば、たちまち地面に叩きつけられることは明白だった。
だからこそ、彼は本条に接近させまいと距離を取りつつ、アウトレンジから慎重に打撃を放つ。

無銘が間髪入れずに鋭い右の突きを繰り出した。
本条は半身でそれをかわすと、まるで誘うようにわずかに距離を詰める。
無銘はその誘いに乗らず、慎重にバックステップを踏み、再び間合いをとる。

しかし、柔道の達人は老練だった。
踏み込みの一瞬、無銘の足が止まった僅かな隙を見逃さず、これまでの巧みで緩やかな動きと違う、鋭い踏み込みで一気に間合いを詰めてくる。

それを撃退すべく反射的に無銘が放った渾身の左フックが本条の頬を捉え、その衝撃が老人の顔面を歪ませる。
だが本条はそれでも止まらなかった。
その顔には一切の躊躇がない。

そこで無銘は気づく、この老人は最初からこの一発を喰らうつもりだったのだ。
ならば止まるはずもない。

本条は打撃を受けながらも、崩れかけた姿勢を立て直し、猛然と無銘に踏み込んだ。
無銘が悪あがきのように再び右拳を叩き込もうとした瞬間、本条の左腕が蛇のように無銘の腕を捕らえた。
まるで吸い付くような掌、これこそがこの老人の超力なのだろう。
僅かに引き付けるただそれだけの超力だが、達人の技量と合わさることで凶悪なまでの威力を発揮している。

捕まった瞬間、無銘の脳裏に投げのイメージが鮮烈に浮かぶ。
その刹那、本条は既に腰を深く落とし、掴んだ無銘の腕を軸に身体を流れるように捻り込んでいた。

次の瞬間、無銘の身体は宙を舞う。
夜の草原に鈍い衝撃音が響き渡り、無銘の背中が草地を強かに打った。

しかし無銘もまた、数え切れない死闘を乗り越えてきた男である。
受け身を取って地面に落ちた瞬間に息を吐き切り、即座に態勢を整えようと動き出すが、本条はその隙を許さない。
本条の手が絡みつくように吸い付き、無銘の左腕を巧みに引き込み腕十字を狙う。
無銘は即座に右手を添え、両腕を組んで必死に防御を試みる。
数秒間、両者の筋肉が張り詰め、拮抗した緊張が草原に満ちる。

投げが決まればそこで一本勝ちとなる柔道と違い、柔術は投げ飛ばしてからの『寝技』こそが本番である。
つまり、ここからが本領だ。


768 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:25:31 Ncp1q7ho0
本条は流れるように次の動作に移る。
強引に極めるのではなく、わざと無銘の抵抗を誘うように微妙に超力を緩める。
その誘いに乗るように、無銘が素早く腰をねじり、体勢を反転させ本条の背後を狙った。

本条は予測していたように腰を低く落として体を滑らせる。
そして、体を反転させるついでに無銘の頭部に膝を叩きこんできた。
只のクリーンな柔術家ではない、この老人はダーティーな実戦派だ。

頭部を打たれた一瞬の空白、本条は無銘の両足を絡め取って足関節技を仕掛ける。
痛みが彼の膝を鋭く突き抜けるが、超力によって無銘の精神は常に万全に保たれる。
無銘は歯を食いしばって痛みを耐えながら本条の囚人服を強引に掴み、力任せに引き寄せた。
本条の体勢が崩れ、その隙に無銘は足を引いて関節技から逃れる。

本条は巧みに重心をずらしながら、再びマウントを取りに行こうとする。
瞬間、無銘が唐突に右肩を沈め、全力で回転をかけて下から体勢を返した。
単純な力比べならば無銘に分がある。その勢いに本条の体がわずかに浮く。
無銘が両腕で本条を押し込みながら、袈裟固めの形で上から圧迫をかけ始める。

しかし、本条は冷静だった。
無銘の体がわずかに前のめりになった一瞬の隙をつき、本条はその腰に両手を差し込み、再び巧みな反転で一気に背後を取った。
無銘も即座に身をねじり、裸締めを試みる本条の腕を掴み、その動きを封じる。

二人の肉体が絡み合い、筋肉と技術、そして駆け引きが交錯する。
互いの息は荒くなり、肌から滲み出る汗が交じり合う。
柔術と打撃、力と技巧、その全てが織り成す熾烈な攻防に一瞬の余裕もない。

拮抗する力が互いの手首を掴み合ったまま固着状態へと導く。
若さゆえの筋力を発揮する無銘か、経験豊富な達人としての狡猾さを見せる本条か。

「いいえ――――――ここからは、わたしの出番よ」

次の瞬間、本条の顔は深い皺を刻んだ老爺から、美しい女の顔へと豹変した。

互いに両手を封じた状況で、柔らかな唇が無銘の唇を捕らえた。
その接触が引き金となり、超力が発動する。

それは、キスを発動条件とする魅了系超力。
山中杏の口づけを受けたものは、彼女に従う奴隷となる。
その甘い毒は、触れた者の心を瞬時に虜にし、完全な支配下に置くだろう。

剛田が動きを封じ、杏が心を奪う。
絶対的な必殺の布陣――しかし、

「悪いな、俺には効かない」

無銘の超力『我思う、故に我在り(コギトエルゴズム)』。
あらゆる精神干渉を遮断し、彼の精神は常に完全な状態を維持される。

必殺は破れ、隙を晒すのは群体の方。
達人が引っ込んだこのわずかな隙間に無銘は女の顔をした本条の喉元に肘を落とし、そのまま全体重をかけて息道を潰した。
ごぎゅ、という音。確実に殺した。その手ごたえがある。

しかし、確かに殺したはずの死体に蹴り飛ばされた。
対した力ではなかったが、足裏で押し出されたため距離が開いた。


769 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:27:34 Ncp1q7ho0
「あっ、あ、ああ、ああっ! 杏ちゃああああん!!」

その衝撃で目を覚ましたのか、最初の顔に戻った本条の表情に狂乱が浮かぶ。
その目は見開かれ、もはや理性を完全に失っている。

「なるほどな。人格分の命と超力がある、と言ったところか」

半狂乱になる本条とは対照的に、無銘は冷徹に状況を分析する。
細部に違いはあるかもしれないが、その予測はおおよそで間違っていないだろう。

無銘が確認できた人格4つ。
柔術使いは掌の引力。
先ほどの女は口づけを条件とした精神支配。
本体がこの多重人格の運用自体が超力と考えるなら、もう一人の女は指からの空気銃となるだろう。

これで全ての超力(タネ)は割れた。
ならば全ての人格を殺し尽くせばいい。最も簡単な結論を出す。

ひとまず無銘は慎重に間合いを取った。
相手は理性を失ったことで次の動きが読みづらくなっている。

「なんて……ひどい…………っ!! ひどいです、あなた…………!」

本条は突如として大声で泣き叫び、爪を自らの顔に食い込ませて引っ掻き始める。
理性が吹き飛び、自傷行為すら躊躇しないその異様な姿は、まさに狂気そのものだった。

「人の大切な家族を奪うなんて…………ひどいッ!!」

言葉と同時に指鉄砲が激しく乱射される。
しかし、本条の動きは狂乱のために乱雑であり、無銘はそれを全て紙一重で避けていく。
素人の癇癪など彼に当たるはずもない。

だがその乱射の中、一発だけが他と違う異様な感触を持っていた。
空気の弾丸ではなく、何か重みを帯びた実体を感じさせる。

瞬時にそれを見極めた無銘はその弾丸すらも避ける。
しかし、避けたはずの弾丸が軌道を変えた――否、彼の体が不可思議な引力によってその弾丸に引き寄せられているのだ。

それは剛田宗十郎の魂が込められた、引力を持つ特別な弾丸。
無銘は咄嗟に右腕で防御するが、弾丸はそのまま肉に深々と食い込んだ。

「ぐ……っ!?」

だが、体内に打ち込まれた引力の超力が暴走する。
右腕に入り込んだ弾丸は、内側から強力な引力を発生させ肉体を吸い込み始めた。
まるで小さなブラックホールが体内で暴れ回るように、圧倒的な力で彼の身体を引き裂き始めた。

だが、無銘の反応は速かった。
体内に侵入した引力の超力が全身を巻き込む前に、彼は即座に左手で右腕の肘を掴む。
鍛え抜かれた肉体の筋力で右腕を強引にねじり、引き裂くような勢いで自らの右腕を根元から引きちぎった。

鮮血がほとばしり、激痛が全身を駆け抜ける。
だが、彼は超力によりその激痛の中でも冷静さを保ち続ける。

投げ捨てた右腕が地面に落ち、そこに留まった弾丸は工場跡に転がる瓦礫を引き寄せて巻き込みながら、激しく振動し暴走している。
あのまま、放っておけば間違いなく全身が飲み込まれていた。
無銘の咄嗟の判断は正しかっただろう。

だが、その代償はあまりに大きかった。
引きちぎった腕からは大量の血液がポンプのように流れ落ち、戦いながらでは止血のしようもない。
無銘の体は著しくバランスを崩し、呼吸が乱れ、全身の筋肉が痙攣している。
如何に精神を保てようとも肉体的反応ばかりはどうしようもない。
致命傷を避けたものの、これ以上まともに戦うことは困難だった。


770 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:28:55 Ncp1q7ho0
「あなたも……僕のファミリーだ…………っ!!」

狂気に満ちた本条が、再び指鉄砲を向ける。
出血多量で足元がおぼつかず、思うように動かない体では避けようもない。
次の瞬間、無数の空気の弾丸が撃ち込まれた。

だが、無銘は避けた。

紙一重とはいかずとも、的確に無数の不可視の弾丸を見極め、欠けた片腕から血をまき散らしながら的確に身を躱す。
精神は刃のように研ぎ澄まされ、全てが止まって見えるようだ。
ただ肉体的な強さを求めた無銘の境地は極限を超える。
どのような弾丸でも避けられるという万能感が無銘の精神を支配した。

だが――その刹那、無銘は背後に死神を感じた。

「なっ―――!?」

敵は正面。背後に誰もいるはずもない。
だが、幾多の実戦を乗り越えてきた彼の直感が無視してはならないと警告を上げていた。
リスクを承知で正面の本条から視線を切って、背後を振り返る。

そこには、一発の弾丸迫っていた。

それは先ほど無銘の腕に撃ち込まれ、引きちぎられた右腕と共に打ち捨てられたはずの魂の弾丸だった。
魂の弾丸は外したところで止まらない。
自ら意思を持つかのように空中で蠢き、無銘の背後から再び襲い掛かる。

「くっ!」

無銘は素早く振り返り回避を試みるが、満身創痍の体では動きが鈍い。
加えて、正面からは本条が指鉄砲を乱射している。
回避しきれない空気砲が、足と肩を強かに打った。
僅かな隙を突き、魂の弾丸は彼の脇腹へと容赦なく食い込んだ。

「―――――が、はっ……!?」

弾丸の中に秘められた強烈な引力が、無銘の肉体を内側から飲み込み始めた。
その引力に引きずられ、筋肉が歪み、皮膚が内側へと凄惨に巻き込まれていく。
筋繊維が悲鳴を上げて断裂し、内臓が圧縮され、骨が軋む鈍い音が全身に響き渡る。
血管は破裂し、肉が捻じれ砕ける苦痛を、超力により精神を保つ無銘は狂う事すらできず味わい続けていた。

視界が揺れ、意識が薄れる中、彼の精神すらも引き込まれていく感覚があった。
肉体の苦痛と共に個我が消え、無数の人格と溶け合う快楽が意識を支配していく感覚。
魂が何か巨大な渦巻きに呑まれ、ラッピングされ、回転する弾倉の一室へと押し込まれる。
新たな弾丸――新たな人格としての運命を拒むことは叶わない。

全てが収束し、弾丸大の小さな欠片へと姿を変えた瞬間――ぽとり、と首輪とデジタルウォッチが地面に落ちた。
そして、剛田宗十郎の弾丸と入れ替わりとなるように、無銘が新たな人格として三番目の弾倉に収まった。

本条は荒い息をつきながら濁流のような涙を流して立ち尽くしていた。
ダメージを杏に押し付け、宗十郎の弾丸を打ち込んだ。
新たな弾丸は補充できたが、これでは採算が合わない。
彼の心は満たされない。渇きは増すばかりである。


771 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:30:48 Ncp1q7ho0
「足りない……足りない……半分も欠けてしまった……」

欠落は埋めなくては。
欠損は埋めなくては。
喪失は埋めなくては。
隙間は埋めなくては。
空白は埋めなくては。

欠落を埋めることが彼の全てだ。
強迫観念に突き動かされるように、震える体を抱きしめる。
しかしその時、胸の奥から力強い新たな声が響いた。

「案ずるな。新たに家族に加わった俺がいる。お前を守護ってみせる」
「……………………そ、そうだね。あ、あ、ありがとう無銘さん」

新たな家族となった無銘の慰めの言葉に本条の心は立ち直る。
その台詞自体は無銘が言ってもおかしくはない台詞だろう。
だが、先ほどまで戦っていた無銘が本庄に向かってそんな言葉を吐くなどあり得ない話だ。

それは、先度死亡した山中杏も同じだった。
彼らは確かに同じ中学に通う同級生だったが、決して仲のいい同級生などではなかった。
むしろその逆、山中杏はクラスにおける女王蜂(クイーンビー)だった。
彼女はクラスの女王蜂として本条を徹底的に虐め抜いた存在だった。

故にこそ、彼は彼女を最初に弾丸にした。
それはイジメに対する恨みからではなく、彼女に対する歪んだ愛情。
ただ彼女を家族にしたかった、そんな理由で彼は彼女を弾丸にした。

これほど人格の喪失を嘆きながら、人格を武器として撃ち出す矛盾。
人格に扱いの差があるわけではない。等しく家族として愛している。
何より、近所で道場を構える宗十郎は貧弱な本条にとってあこがれの存在だった。
だからこそ、年老い病床のまま孤独死しようとしていた宗十郎に弾丸をぶち込み家族として迎えたのだ。

だが、そんな彼らも失われた。
家族を奪われることこそが彼にとっての地雷である。

「早く……早く穴を埋めないと……っ!」

焦燥に駆られたように頭を掻き毟りながら、本条は自分に言い聞かせる。
彼の中の回転するシリンダーには、未だ三つの空席が残されている。
それを完成させることだけが、本条清彦の目的だった。

【無銘 死亡】

【F-3/旧工業地帯・廃工場近く/1日目・黎明】
【本条 清彦】
[状態]:疲労(小)、喉にダメージ(大)、全身にダメージ(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:30pt(無銘の首輪から取得)
[方針]
基本.群生として生きる。弾が減ったら装填する。
1.殺人によって足りない3発の人格を補充する。
2.それぞれの人格が抱える望みは可能な限り全員で協力して叶えたい。

※現在のシリンダー状況
Chamber1:本条清彦(男性、挙動不審な根暗、超力は影が薄く人の記憶に残りにくい程度)
Chamber2:欠番(前2番の山中杏は無銘との戦闘により死亡、超力は口づけで魅了する程度だった)
Chamber3:無銘(前3番の剛田宗十郎は弾丸として撃ち出され消滅、超力は掌に引力を生み出す程度だった)
Chamber4:欠番
Chamber5:サリヤ・K・レストマン(女性、詳細不明、超力は指先から空気銃を撃ち出す程度)
Chamber6:欠番(前6番の王星宇は呼延光との戦闘により死亡、超力は獣化する程度だった)


772 : 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント) ◆H3bky6/SCY :2025/03/10(月) 20:31:15 Ncp1q7ho0
投下終了です


773 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:36:54 IT7A4ljA0
投下します


774 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:37:05 IT7A4ljA0



 激闘の負傷と疲労により、意識を失っていた葉月りんかは、交尾紗奈の悲鳴で目を覚ました。
 愕然と跳ね起きたりんかが、急いで周囲に視線を走らせると、血塗れの首が折れた女に襲われる紗奈の姿。
 バケモノに襲われている紗奈を見たりんかは、我を忘れて変身して、全力で駆け寄った。





775 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:37:38 IT7A4ljA0



 葉月りんかが目を覚ます少し前。葉月りんかと恵波流都の決戦場となった森から西に行った場所に有る海岸線。
 一人の美女と一人の美少女とが、並んで海水で顔を洗っていた。
 諸々の事情を省略すれば、殴り合った末に友人になったという、フィクションでは良くある展開を迎えた、ルクレツィア・ファルネーゼとソフィア・チェリー・ブロッサムである。
 ルクレツィアの、「友人になったからペッティングしてくれ」という、変なクスリでもやってるのかと訊いてみたくなる要望に対し。
 何とか回避したいソフィアは、考えた末にルクレツィアの格好を指摘した。
 曰く、「血塗れの貴女の身体を撫で回すのは嫌」
 対してルクレツィアは、ソフィアの顔を指さして、其方も顔が血塗れだと指摘。
 元はといえば、ルクレツィアが鼻に指突っ込んだ所為なのだが、そんな事を糾弾しても、狂人に通じるか不明なので止めておき。
 殴りたくなる衝動を抑えて、取り敢えずソフィアは二人して顔を洗う事を提案して、海水で顔を洗っているのだった。
 なおルクレツィアの衣服はどうしようも無いので、血塗れで破れたまなだった。

 顔を洗ってさっぱりすると、今後の方針を話し合う。
 ソフィアとしては、ルクレツィアを“アビス”の外に出したくは無いが、ルクレツィアが死刑になるのも困る。
 考えた末に、適当な刑務者を殺してルクレツィアにポイントを取らせることで、ルクレツィアの罪を一等減じて無期懲役にする事を思いついたのだった。
 無論の事だが相手は選ぶ。ルーサー・キングやアンナ・アメリアといった、決して世に出してはならない巨悪を、そうでなくとも危険度の高い刑務者を選んで殺害する。
 こうすれば、ルクレツィアを外に出すこと無く、ルクレツィアの超力(ネオス)を利用出来る。
 ルクレツィアは、ルーサー・キングや、ディビット・マルティーニの様に、世に及ぼす影響が大きい訳では無いが、世に出すことは許され無い鬼畜に違いは無いのだから。
 と、言う訳で、互いに名簿に知ってる名前が有るかを確認しあって────ソフィアはルクレツィアを殺したくなった。
 
 「知っている方ですか…。私が最初に出逢ったジャンヌさんのソックリさんは、ジルドレイさんという方だったのですね。
 ジャンヌさんの悪行の跡を追うと仰っておられましたね。
 他の方ですと、ディビット・マルティーニさんですが、この方は名前だけしか知りませんし。
 後はジャンヌさんご本人ですね。ディビットさんと違って直接逢ったので良く知っています」

 「貴女が…?ジャンヌ・ストラスブールと?」

 ソフィアが驚くのも無理は無い。ジャンヌとルクレツィアでは接点はおろか共通項が無さ過ぎる。
 ジャンヌからすれば、ルクレツィアなどは、断罪の剣を振り下ろす相手でしか無い。
 
 「二年前にイタリアとフランスの国境に在る街で出逢ったのですよ。外出は好きでは有りませんが、あの旅行は良かったです」

 「分かりました。もういいわ」

 “二年前”。“イタリアとフランスの国境に在る街”この二つのワードで、ソフィアは大まかな事情を察した。
 “イタリアとフランスの国境に在る街”。とはつまり、“キングス・デイ”の縄張りである歓楽街の事だろう。
 莫大な利益を産み出すその土地は、確か“バレッジファミリー”が利権を欲して、“キングス・デイ”との間で、水面下での暗闘を繰り広げていたはずだ。
 そこでジャンヌと逢ったというのならば、ルクレツィアの性状からすると───。


776 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:38:37 IT7A4ljA0
 「ジャンヌさんは私の事を覚えていらっしゃら無いと思いますよ。私は全身の黒子の位置から内臓の色艶まで思い出せますが」

 ソフィアは額に手を当てた。予想通りにも程が有った。
 ジャンヌ・ストラスブールが人々の前から姿を消した二年間。そして再び姿を現した時の数々の“悪名”。
 ジャンヌが戦っていた巨大犯罪組織が関わっていたのだろうと、少しでも裏の事情に通じる者ならば、簡単に思い至る真実。
 ルクレツィアの言葉からするに、“商品”として扱われ、その時にルクレツィアに“買われた”のだろう。
 ルクレツィアが何をしたのかは…想像もしたくは無い。
 自分の事など覚えてい無いと、ルクレツィアが思う程に、数える事も出来ない程の人数に買われ、凌辱され、果ては切り刻まれて。
 ジャンヌ・ストラスブールが二十年にも満たない人生で受けた苦痛と非業に、ソフィアは哀れみを覚えた。

 ────貴女を苛んだ者達の一人と、共に居る私に憐れまれても、不快なだけでしょうね。

 胸中に湧き起こった、ジャンヌに対する憐れみと、己に対する自嘲を押し殺す。

 ルクレツィアがどれ程狂っていて、世に害為す鬼畜だったとしても、ソフィアの希望はルクレツィアにしか無い。
 ルクレツィアの超力(ネオス)ならば、世界の何処にも存在が残ってい無い、ソフィアの記憶の中にしか、最早存在の証が無い最愛の男と、夢とはいえ逢瀬が叶うのだから。

 「わたくしは…ええ、この名簿の名は、大体が記憶に有りますわ。少なくとも、一年以上前に“アビス”に送られた方は、大抵知っています。
 その中でも、特に警戒しなければなら無いのは、ジェーン・マッドハッター、トビ・トンプソン。ルメス=ヘインヴェラート
 三人とも、出逢うことは避けたい相手ね」

 ────あの人は、わたくしをどう思うのでしょうね。

 ソフィアが挙げた三名。三人が三人共に、性格や信条は違えど、殺し合いには先ず乗らないという共通項を持つ。
 特にソフィアが捕縛した為に良く知っているジェーン・マッドハッターは、直接の殺し合いともなれば危険極まり無いが、そもそもがジェーンは殺し合いに乗る様には思えない。
 脱獄狂のトビにしても、そこは同じ。恩赦を得るのは出獄であって脱獄では無い。脱獄という檻に囚われているトビが、“刑務”に従事するとは思え無い。
 義賊として名高い怪盗『ヘルメス』もまた、刑務には服さないだろう。
 そんな三人の名を挙げたのは、ルクレツィアが危険度の低い刑務者へと襲い掛かる事を防ぐ為であり、危険度の高い刑務者の殺害にルクレツィアの戦力を活用する為で有る。
 二度と出会えぬ、記録すら存在し無い男との夢幻での逢瀬の為に、何も知らぬ少女を利用する。
 例えその少女が真正の鬼畜外道であっても、ソフィアの良識と良心がソフィアを弾劾して止まない。
 憂いを帯びた顔で溜息を吐き、ふと気付く。ルクレツィアがじっとソフィアを見つめていた。

 「……何でしょうか」

 己の算段に気付かれたか?
 そう思って身構えるソフィアに、ルクレツィアは笑いかけて。

 「心配しないで────」

 その時、森の奥で何かが輝くのが二人の視界の端に写った。

 「何でしょうか?誰かが襲われているのでしょうか?私には分かりませんので、ソフィアの判断に任せます」

 「……アレは」

 森の奥で輝く二つの光。白い輝きには覚えが無いが、紅の凶光は記憶に有った。

 「行きますわよ。ルクレツィア」

 立ち上がったソフィアに。

 「ええ…ああ、心配しないでも良いですよ。丁度良いです。あの光を出している人を、手早く殺しましょう」

 ルクレツィアが応えて走り出す。

 「……え?」

 ルクレツィアの言葉に、不意を突かれたソフィアは、ルクレツィアrに出遅れてしまい、走り出した時には既にルクレツィアは30m以上の距離を開け、更にその差を広げつつあった。





777 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:39:08 IT7A4ljA0



 死闘が終わり、紅の脅威が去って、気が抜けたりんかは気絶していた。

  「はあ…はあ…」

 気絶したりんかを背負い、紗奈はよろよろと、森の中を緩慢に移動している最中だった。
 何しろ彼処まで派手な大立ち回りを演じたのだ。他の刑務者がやって来ると考えるのが妥当だろう。
 そう考えて、りんかを背負い、移動を開始したものの、直ぐにまともに動けなくなりつつあった。
 原因は他でも無く、背に負ったりんかだった。
 凡そ人体というものは、抱えて運ぶのに適した形状と構造をしていない。
 背中や頭部が関節に沿って後方へ仰け反り、不規則に揺れる手足が負荷となって紗奈の体力を奪う。
 『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』により、心身共に超強化されたといえども、子供の身で人一人を抱えて、森の中を歩むのは辛すぎた。
 それでも止まる事なく歩き続けたのは、りんかの超力(ネオス)に拠るものか、紗奈の精神力か。
 何にしても、紗奈はりんかが安全に休める場所を見つけるまで、止まるつもりは無かった。
 緩慢に歩み続ける紗奈の脚が止まった。
 真っ直ぐに自分達の方へ走る足音が聞こえたのだ。
 そっとりんかを地に横たえ、身を低くして服を脱ぐ。
 未だにりんか以外に気を許していない紗奈は、りんかが意識を取り戻すまで、自身の超力(ネオス)の行使を厭わ無い。
 手錠を嵌めようとした時に、灌木を突っ切って、物凄い勢いで人影が飛び出した。

 「……………」

 「……………」

 二人は違いに暫し見つめ合う。

 紗奈の前に現れたのは、ボロボロで血塗れの服を着た白い少女。鮮血色の瞳を、紗奈とりんかを交互に向けている。
 どう見ても誰かに襲われて重傷を負った身で有るにも関わらず、平然と動いている白い少女に、紗奈は僅かに恐怖を感じた。

 白い少女を────ルクレツィア・ファルネーゼは、紗奈とりんかを見て小首を傾げた。
 地面に横たわって動かないりんかと、服を脱いで手錠を嵌めようとしている紗奈。
 ルクレツィアでなくとも、訳がわからない状態である。
 
 互いに相手を推し量り────最初に動いたのは、紗奈。
 りんかを守る為に、手錠を嵌めると、上目遣いにルクレツィアを見上げる。
 目の前にいる、血塗れの女が、過去に自分を嬲り抜いたのと同じ人種だと、直感的に悟ったのだ。
 拘束された裸体を見せつける様に、地面に横たわって妖しく身体を蠢かせる。
 幼女趣味でなくとも、思わず衝動に駆られる色香を放つ紗奈を、ルクレツィアは無感情な眼で見下ろした。

 「ポルコ(豚)さん。私は人間にしか興味は無いんですよ」

 紗奈には何の関心も無いと、声だけではっきりと理解できる。
 
 「私が殺すのは人間だけなのですよ…本来は。けれども、今はそうも言っていられないんですよ。友人の為に、貴女達をポイントにさせて頂きますね」

 「え…。え…?」

 紗奈にはルクレツィアの言葉が理解出来なかった。
 ルクレツィアが自分やりんかの側では無く、虐げ苛む側の人間だという事は、身に纏う雰囲気で理解出来た。
 だからこそ、理解出来ない。
 ルクレツィアに超力(ネオス)が通用しない事が。

 「それにしても、助かります。人間だったならば、手早く殺すのは惜しい気もしますが、ポルコ(豚)が二匹。これなら手早く殺せます」

 紗奈の超力(ネオス)が、ルクレツィアに効果を発揮しない理由は至極単純。
 “調教された家畜の様に”いきなり服を脱いで媚を売る紗奈は、ルクレツィアにとっては人では無く、飼い慣らされた豚と同じ存在でしか無い。
 鉄火場でいきなり媚を売り出すのは、命乞いの為だろうとルクレツィアは判断したのだが、その為に“家畜の所作”を行う相手は、面白味が全く無い。
 人を苛み嬲り殺す事を欲するルクレツィアからしてみれば、人の姿をした家畜は、全く関心を引か無い相手である。
 りんかも豚と見做したのは、明らかに年齢不相応な巨大な胸だ。
 誰かに飼われ、その間に身体を改良されたのだろうと、歓楽街で同じ様な“豚”を複数見てきたルクレツィアは、過去の記憶に基づき結論する。
 であればりんかもまた家畜。豚でしか無い。

 「それでは、さようならですよポルコ(豚)さん達。手早く死ねるのですよ。人を辞めた事は幸運でしたね」

 無表情のまま、声音は優しく、ルクレツィアの手が紗奈に伸びる。
 ルクレツィアの両手が、紗奈の首に触れる寸前、紗奈は大きく後ろに跳躍した。


778 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:39:37 IT7A4ljA0
 「誰がッ!…豚だッ!りんかも、私も…人間なんだあああああ!!!」

 絶叫と共に紗奈はルクレツィアへと猛然と体当たりを敢行する。
 りんかの超力(ネオス)による身体強化。りんかと自分を豚呼ばわりしたルクレツィアへの嚇怒。何よりも、りんかを守るという決意が、紗奈に限界以上の力を与えて、あっけに取られたルクレツィアを転倒させた。
 
 「うああああああああ!!!」

 仰向けにひっくり返ったルクレツィアに素早く馬乗りになり、顔目掛けて組んだ両手を何度も何度も振り下ろす。
 鼻が折れ、目が潰れても、なお紗奈の手は止まらず────手首を掴まれ、強制的に止められた。

 「私とした事が…人を豚と取り違えるとは……非礼をお詫び申し上げます。
 まあ、それはそれとして、人であるならば、相応の殺し方をしなければなりませんね」

 握り潰されそうな程に手首を圧搾され、それでもルクレツィアを睨み付けた紗奈は、元通りの美麗さを取り戻しているルクレツィアの顔を見て、悲鳴を漏らした。

 「やはりソフィアでなければ、気持ち良くはなれませんね」

 言いながら上体を起こし、紗奈を腕の力だけで投げ飛ばす。

 「ガッ……」

 宙を飛んだ紗奈の身体が、樹木の幹にぶつかって止まるのを余所に、ルクレツィアは優美な動きで立ち上がった。

 「どう殺しましょうか?嬲り殺しをソフィアは嫌がるでしょうし、此処はやはり手短に済ませましょう」

 倒れ伏して呻く紗奈を放置して、ルクレツィアは緩やかな足取りで、未だに意識を失ったままのりんかへと近づいた。

 「私の超力(ネオス)では、思考や感情までは追体験出来ませんが、精神的な衝動が肉体に及ぼす影響は、体験できるんですよね。
 哀しみで胸が張り裂ける、怒りで脳が沸騰する。喜怒哀楽は感じ取れないのですが、胸が張り裂けそうな苦しみや、脳が煮え沸る感覚は、良く感じ取れますよ。
 なので────今からこの方(りんか)を殺します。貴女(紗奈)がどう苦しんだのか、後で教えてもらいますよ」

 痛みに耐え、手錠を嵌めた不自由な身で、何とか起き上がった紗奈と、紗奈の方を見て笑い掛けたルクレツィア視線が交差する。
 焦燥と怒りと恐怖が混ざり合った紗奈の眼を、ルクレツィアは胸中に昏い悦びを湛えて見つめ。
 喜悦と嗜虐の浮かんだ────紗奈にとっては反吐が出る程に見慣れた────ルクレツィアの笑顔を、無力感に苛まれながら紗奈が睨み付け。

 必然として、ルクレツィアの両手首が捻折れた。




779 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:40:00 IT7A4ljA0



 「あら?」

 ルクレツィアが、唐突に聞こえた鈍い音の発生源に視線を向けると、捻じ折れていた手首が急速に修復する。

 「貴女の超力(ネオス)ですか?」

 紗奈の方を見て訊いてみる。再度両手首が折れる音。
 視線を向けると、手首が再び元に戻る。

 「…………ああ、成る程」

 呟いたルクレツィアは、再度視線を紗奈へと向けると、手首が捻じ折れるのにも関わらず紗奈を見つめ、少ししてから眼を閉じる。
 音を立てて捻じ折れた手首が治るのを確認すると、再度眼を開く。瞬時に両手首が捻じ折れる。

 「つまり貴女の超力(ネオス)は、裸で拘束されている貴女の姿を見ると、拘束されている部分を捻じ折る…回復と拮抗していましたから、捻じ切る。といったところでしょうか」

「…………ひっ」

 自身の超力(ネオス)の詳細を言い当てられ、紗奈の顔に怯えが浮かぶ。
 
 「それだけですと、先程私に効果が無かった理由が分かりませんね?貴女を人として見るか?何らかの…感情を…おそらくは欲情か加害欲求を持つ事が、トリガーなのでしょうか」

 「……あ……あ………」

 紗奈の超力(ネオス)が通じない訳では無い。現にルクレツィアの両手首は無惨に捻じ折れている。よくよく目を凝らせば、手首が更に捻じれようとしているのが見て取れる。
 捻じ折れる程度で収まっているのは、ルクレツィアの言葉の通り、ルクレツィアの超力(ネオス)と拮抗しているからだろう。 

 だからこそ、不気味だった。
 紗奈の超力(ネオス)で、手首を破壊されているというのに、何事もない様に、平然と語り続けるルクレツィアが。
 新人類であっても泣き叫ぶ程の痛みを伴う筈なのに、微笑すら浮かべるルクレツィアが。
 そんな不気味な相手に、己とりんかの身を守る切り札を、解き明かされてしまった恐怖に、紗奈は我を忘れて逃げ出したくなる恐怖に襲われていた。
 
 「フフフ…鬼ごっこでもしましょうか?貴女に逃げる猶予を与えて差し上げますよ」

 紗奈は動けなかった。りんかを守るという意志と、得体の知れない相手への恐怖で、板挟みになっていた。
 動けない紗奈の眼の前で、ルクレツィアはゆっくりと、りんかへ近づいて行く。
 血を吸って赤黒く変色した、ズタボロの刑務服を着ていながら、何処か典雅さを感じさせる歩き方だった。
 微笑を浮かべた横顔は、恐怖に動けない紗奈が、思わず見入ってしまう程に美しかった。
 美しく恐ろしい女は、遂にりんかのもとへと辿り着き、屈み込んだ。
 
 「私がこの方を解体する間が、貴女の逃げる時間ですよ。…とは言え、ソフィアが来る前に殺さないといけませんから、そう時間は掛けられませんが」

 ルクレツィアの言葉を聞いて、紗奈の身体が動き出す。
 りんかを守るという、強い思いが、紗奈の身体を突き動かす。
 紗奈は脱ぎ捨てた刑務服を目指して走り出す。
 走りながら手錠を外し、刑務服へと飛びつく様に、服を拾い上げた。


780 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:40:44 IT7A4ljA0
 「私を見ろ!バケモノ女!」

 りんかの右手首を捻じ切るべく、手を伸ばしていたルクレツィアは、紗奈の声に反応して視線を向けて、首に刑務服を巻きつけた紗奈を見た。

 鈍い音がして、ルクレツィアの首が百八十度回転した。

 「やった!」

 首が有り得ない程に捻れ、地面に倒れたルクレツィアの姿に、紗奈は快哉を叫んだ。
 手首を捻じ折っても動くのならば、首を折ってしまえば良い。そうすれば死ぬ。死ななくても動けなくなる。
 倒れたルクレツィアが動かない事を確認して、緊張を解いた紗奈は、りんかの無事な姿を見て安堵の溜息を漏らす。
 脅威が去ったと喜んで、紗奈はりんかに駆け寄ろうとして、不意に立ち上がったルクレツィアに行手を遮られた。

 「もう少し捻れれば、神経を切断できたのですが…残念でしたね」

 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!」

 己を見下ろして微笑むルクレツィアに、紗奈は失禁する程の恐怖を感じ、意味を為さない絶叫を上げた。
 紗奈が恐怖するのも無理は無い。ルクレツィアは、顔こそ紗奈へと向けているが、身体は紗奈に対して背面を向けている。
 つまりルクレツィアは、首が百八十度捻れたままで、平然と立ち上がり、紗奈へと話掛けたのだ。

「首を折るとは流石に酷いですね。子供のする事とは言え許せません。罰を与えます」

 言葉のままに捉えれば、怒りの表明だが、ルクレツィアの表情を見れば、抱いているのが紗奈への嗜虐の悦楽だと嫌でも認識出来る。

 「今の貴女の姿を、この方(りんか)見せる事にしましょう。守ろうとした方を、自分の超力(ネオス)で殺してしまうのは、どういう苦しみなのでしょうね?」

 微笑み掛けるルクレツィアに、遂に紗奈の精神が限界を迎えた。
 涙を流しながら絶叫する紗奈を、ルクレツィアは愉しそうに見下ろして、紗奈の怯えを愉しむかの様に、緩やかに手を伸ばす。

 「嫌だあああアアアアアアアアア!!!!」

 首を折っても、死ぬどころか行動不能にすらならない。純粋な腕力でも叶わない。
 逃げればりんかがバケモノ女に殺される。
 逃げずに留まれば、りんかを己が超力(ネオス)で殺されてしまう。

 どうする事も出来ない紗奈は、只々泣き喚き絶叫し────バケモノ女の姿が不意に視界から消滅した。





781 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:41:25 IT7A4ljA0



 「紗奈ちゃん!」

 りんかに抱きしめられて、紗奈は漸く泣き止んだ。
 激しく全身を震わせて、荒い呼吸を繰り返す紗奈を抱きしめ、りんかは突き飛ばしたバケモノ女への怒りを顕に凜然と立ち上がる。

 「紗奈ちゃんをどうして虐めるんですかッ!」

 「一つ申し上げておきますが、その方は私を見るなり、服を脱いで手錠を嵌めましたよ」

 冬籠に失敗した熊ですら逃げ出しそうな大喝を浴びせられ、バケモノ女ことルクレツィアは、至極当然の様に、自分は悪く無いと主張した。
 
 「────それはっ」

 「首に服を巻きつけたりもしましたよ。先に危害を加えたのはその子ですよ」

 激昂するりんかに対し、悠然と落ち着き払って、状況を説明するルクレツィア。外道鬼畜な本質を、当人の身につけた気品と典雅で覆い隠し、無害な被害者に擬態する。

 「だったらどうして────」「私の超力(ネオス)の効果です」

 ならば何故生きているのか?というりんかの問いに、ルクレツィアは答えを被せて黙らせる。

 「私は被害者です。首まで折られたのですよ?」

 「紗奈ちゃんは…事情が……」

 言い淀んだりんかの言葉に被さる様に。

 「違う!其奴は、私とりんかを、豚呼ばわりして殺そうとしたんだ!」

 紗奈の糾弾が、ルクレツィアが支配しかけていた場の空気を吹き飛ばした。
 
 「其奴に騙されないで!其奴は、私達を痛めつけた奴等と同じだ!!」

 ルクレツィアの本質と相対した紗奈の糾弾は、ルクレツィアに飲まれかけていたりんかの精神を引き締める。

 「……ああ、成る程。そういう事でしたか」

 怒りを込めて睨みつける紗奈と、紗奈を守るという決意を顕にするりんかに対し、ルクレツィアは一人納得のいった表情を浮かべて。

 「貴女方は、元“家畜”という訳ですか」

 二人の傷に、平然と毒爪を突き立てた。

 「貴女方の様な人は、あまり味わった事はありませんので、丁寧に頂きたいのですが……。残念ですね。愉しむ事が出来ないのは」

 ルクレツィアの言葉に、りんかは凄惨な過去を思い出し、ルクレツィアが紗奈の言葉通りの人間だと理解する。
 赤紫の仮面の下に、哀しみと正義への希望とを隠していたブラッドストークとは違う。
 ルクレツィアの白貌の下に有るものは、芯まで真っ黒な魂と、救う余地の無い邪悪さだ。

 正義を掲げるりんかにとって、恵波流都に希望を語ったりんかにとって。
 相容れる事の出来ない、敵だった。
 凌辱され、道具として扱われた過去を持つりんかと紗奈にとって、許すことの出来ない邪悪だった。


782 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:42:20 IT7A4ljA0


 拳を握り、ルクレツィアの顔目掛けて繰り出す。
 対するルクレツィアもまた、大振りのパンチを放つ。
 本来ならば、簡単に躱せるテレフォンパンチ。
 だが、りんかの攻撃に合わせて放たれたルクレツィア拳は、見事にりんかの臍へ減り込んだ。
 鼻血を盛大に噴き出しながら、ルクレツィアが仰け反り。
 息を吐き、身体を折り曲げて、りんかが後ろへ蹌踉めく。

 再度交わされる両者の攻撃。
 今度はアッパーを受けてルクレツィアが、砕けた歯を口から溢しながら仰け反り。
 喉へと貫手の直撃を受けたりんかが、盛大に息と血の混じった唾液を吐き出した。
 互いに足を止めて、真っ向からの殴り合い。
 身体能力ではりんかが勝り、回復力ではルクレツィアが凌駕する。
 技量ではりんかが卓越し、人体破壊の知識に関してはルクレツィアが隔絶する。
 総じて戦力は互角と言える。となれば勝敗を分つのは、両者の状態に他ならない。
 二度の激戦を経て、超力(ネオス)を以ってしても、未だに癒しきれぬ程に疲労困憊しているりんか。
 対するルクレツィアは、ジルドレイに切り刻まれ、ソフィアに破壊の限りを尽くされたとは言え、りんかを凌駕する回復力と、痛みと疲労に極端に鈍くなる超力(ネオス)を持つ。
 時間と共にりんかの動きは目に見えて鈍り、最初は相撃っていたのが、今ではルクレツィアgs五発殴る間に一撃を返すのがやっとの有様。
 打たれ続けたりんかは、大きく後ろに飛んで距離を空ける。
 逃げたところで追って来る。ならば、此処で倒すしか無い。

 「シャイニング────」

 猛然と地を蹴り、眩い輝きを纏った右脚を繰り出す。
 ブラッドストークの渾身をすら撃ち抜いて、致命の傷を負わせた必殺キック。

 「キーーーーック!!!」

 初手から繰り出す大技は、りんかの疲労と負傷が最早無視できるものでは無い事を雄弁に物語る。
 一撃を以って決着しなければ、りんかの身体が保たないのだ。
 それに加えて、流都と根本からして異なる相手。紗奈を当然の様に狙うだろうという確信が有った。

 「お疲れのご様子ですが、ご無理を為さらなくとも、宜しいのですよ」

 凄まじい土煙が巻き起こり、その中をりんかの放つ輝きが飛翔する。
 目指すルクレツィアの消失を知り、焦燥に駆られたりんかの耳に、紗奈の悲鳴が聞こえた。

 「紗奈ちゃん!」

 シャイニング・キックを強引に中断して着地。全身の痛みに耐えて振り返ったりんかが見たものは、泣き叫ぶ紗奈をネックハンギングツリーに捉えた、首の折れたルクレツィアの姿。
 首を締め上げられる恐怖と、首が折れても平然と動くルクレツィアの姿に、紗奈は恐慌して泣き叫ぶ。

 「慌てないでも良いですよ。お返しします」

 急いで駆け寄るりんかに対し、ルクレツィアは紗奈を猛速で投げつけると、紗奈を受け止めたりんかの元へと瞬時に距離を詰めて、拳を振るう。
 
 「グアッ!」

 咄嗟に紗奈を庇い、ルクレツィアに背を向けたりんかの腎臓へ、ルクレツィアの拳が直撃した。
 
 「常人なら、腎臓が破裂している筈ですが…。丈夫な方ですね。好きですよ、身体が丈夫な方は」

 振われる拳の乱打。背骨に痛打を受けて仰け反った所へ、再度腎臓に重い一撃、息を大きく吐き出して、力が抜けた瞬間を狙い澄ましての、背面からの心臓打ち。
 意識が遠くなるのを必死になって堪えて、紗奈を抱く両腕に更に力を込める。


783 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:42:53 IT7A4ljA0
 「貴女が本来の状態で有れば…。いえ、その子供が居なければ、こうまで一方的に打たれる事は無いでしょうね」

 膝裏に蹴りを入れて、りんかに片膝をつかせると、鎖骨に手刀を振り下ろし、肝臓へと爪先蹴りを叩き込む。紗奈を抱えて蹲ったりんかへと、急所を狙った拳と蹴りを浴びせ続ける。

 「この方(りんか)を守ろうとして、私を攻撃した結果、この方(りんか)はこうして打たれ続けている…。どういうお気持ちですか?貴女(紗奈)の軽虜の招いた結果は」

 紗奈のりんかを呼ぶ声が、ルクレツィアの言葉を聞いて声が途切れた。

 「私と敵対した挙句、この方(りんか)の枷となる…。ご自身だけで無く、この方(りんか)にまで枷を嵌めるとは…フフフ、大した超力(ネオス)です」

 りんかの肉体を暴力で、紗奈の精神を言葉で苛み、ルクレツィアは深く昏い喜悦の笑みを浮かべた。

 「ではそろそろこの方(りんか)を殺しますね。特等席でご覧になって下さい」

 打たれ続けて、呻き声を上げる以外の反応をしなくなったりんかを見下ろし、紗奈が泣き喚く様を堪能して、止めの一撃を見舞うべく拳を振り上げて────。

 「何をしているのかしら」

 背筋が凍る様な冷たい声。
 りんかの陰から見上げた紗奈が見たものは、ルクレツィアを羽交い締めにする赤髪の美女の姿だった。





784 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:43:09 IT7A4ljA0



 「その子供が、私を見るなり殺そうとしてきたのです。私は悪く有りません。そちらの方(りんか)も、いきなり殴りかかってきました。正当防衛です」
 
 今のルクレツィアの状態は、背骨に当てられた膝を支点に、状態を大きく仰け反らされ、ソフィアの腕で頭部を締め付けられている状態。プロレス技のドラゴン・カペルナリアに掛けられていた。

 「その割には随分と愉しそうでしたね」

 ソフィアが更に力を込め、ギリギリと、ルクレツィアの全身が軋む。

 「あああああああああ〜〜〜〜〜」

 ルクレツィアの悲鳴に、ソフィアもりんかも紗奈も、揃って赤面した。
 全身を締め上げられている人間では無く、情交の最中の人間が出す声だった。

 「私はいきなり手を折られたのですよ。更に首まで折られたんですよ。お返しをしたくなっても仕方の無い事ではないでしょうか?」

 「限度というものが有るでしょう?」

 骨が折れるレベルで、ルクレツィアの全身に力が加えられ、が大量に付いていそうな嬌声をルクレツィアが上げ。
 りんかと紗奈は呆然と座り込んでいた。





785 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:43:31 IT7A4ljA0



 「わたくしの連れが悪い事をしましたわね。どうか許して下さい」

 深々と頭を下げるソフィアに、りんかは戸惑いを隠せない。
 アレだけの嗜虐性を発揮して、りんかと紗奈を嬲り殺そうとしたルクレツィアと、ソフィアとがどうしても結びつかないのだ。
 なおルクレツィアは満足したのか、安らかな寝息を立てていた。
 好き放題な振る舞いに、りんかと紗奈はイラッとしたが、グッと我慢する事にする。
 
 「………貴女が謝ったりする必要は無いと思います」

 「彼女を止められなかった責任は、わたくしに有ります」

 りんかとソフィアは、少しの間、黙り込む。

 「あの…私達と一緒に────」

 意を決してりんかは言う。ソフィアからは、ルクレツィアとは根本的に違うものを感じる。
 その精神に善性を、流人と同じく、押し殺した哀しみを、ソフィアから感じたのだ。

 「貴女達と最初に出逢っていれば…。そうしたでしょうね」

 身体能力で上回り、灌木も茂みも平然等突っ切るルクレツィアに置いていかれ、森の中を彷徨ったソフィアを、此処へと導いたのは、泣き叫ぶ紗奈の声だった。
 急いで声のする方へとは知ったソフィアが見たものは、りんかと紗奈を嬲るルクレツィアの姿と、ルクレツィアから紗奈を守り続けるりんかの姿。
 ほんらいのソフィアであれば、ルクレツィアを殺してでも、りんかを救った事だろう。
 だが、自己の為に、ルクレツィアの血塗れの手を取り、地獄への片道切符を手にしたソフィアには、その選択は存在し無い。
 ソフィアが取る途は二つ。二人をルクレツィアに殺させてポイントにするか、二人を救うか。
 ソフィアが迷った時間が、りんかの苦しんだ時間だった。
 ソフィアは迷った事そのものを恥じていた。二人と共に行くことなど、ルクレツィアを抜きにしても出来はし無い。

 「あの人を…放っては置け無いからですか?」

 眠るルクレツィアを指差して、尋ねるりんかに、ソフィアは無言でも首肯した。
 りんかの表情が、疑念と悲痛に歪むが、どの道りんかに説明しても理解されないだろう。
 せかいの何処にも存在しなくなってしまった男との逢瀬を望むなどと言う事は。

 「それでは、わたくし達は、これで」
 
 眠る地獄への片道切符(ルクレツィア)を背負い、ソフィアは歩き出す。
 りんかも紗奈も、ルクレツィアが側にいては落ち着かないだろう。

 「最後に訊きますが…貴女は、ブラッドストークと戦いましたか」

 森の中にやって来る原因となった閃光について、ソフィアには心当たりが有った。
 ブラッドストーク。あの紅い閃光は、紅の怪人が放ったものだろう。ならばだれかがブラッドストークと闘ったという事だ。
 それがりんかであっても、ソフィアは驚か無い。新時代では良くある事でしか無いからだ。

 「はい、戦いました」

 「そう…ですか」

 りんかの答えを聞き、ソフィアは歩き出す。
 りんかの状態は未だに動ける程では無い。ソフィア達が、去るべきだった。
 ソフィアの目的に、りんかの戦力は有用だろうが、年端もいかない善良な少女を、ソフィアの我欲に巻き込む事は、出来なかった。




【D-3/森の中/一日目 黎明】
【葉月 りんか】
[状態]:シャイニング・ホープ・スタイル、全身にダメージ(極大)、疲労(大)、腹部に打撲痕、ダメージ回復中 ルクレツィアに対する怒りと嫌悪
[道具]:なし
[方針]
基本.可能な限り受刑者を救う。
0.今は少しだけ、休む。
1.紗奈のような子や、救いを必要とする者を探したい。
2.この刑務の真相も見極めたい。
3.ソフィアさん…

※羽間美火と面識がありました。
※超力が進化し、新たな能力を得ました。
 現状確認出来る力は『身体能力強化』、『回復能力』、『毒への完全耐性』です。その他にも力を得たかもしれません。

【交尾 紗奈】
[状態]:気疲れ(中)、目が腫れている ルクレツィアに対する恐怖と嫌悪
[道具]:手錠×2、手錠の鍵×2
[方針]
基本.死にたくない。襲ってくる相手には超力で自衛する?
0.りんか……!
1.超力が効かない相手がいるなんて……。
2.りんかのことを信じてみたい。
3.バケモノ女(ルクレツィア)とは二度と会いたく無い

※手錠×2とその鍵を密かに持ち込んでいます。
※葉月りんかの超力、 『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』の効果で肉体面、精神面に大幅な強化を受けています。

【共通備考】
※D-3の森のどこかに恵波 流都の首輪(100pt)が遺されています。
※シャイニング・ホープとブラッドストークの必殺技の衝突により、D-3エリアにて強い光が生じました。





786 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:44:06 IT7A4ljA0



 「あの二人と、一緒に行かなかったのですか」

 何時から起きていたのか、ソフィアに背負われたままで、ルクレツィアが話し掛けてくる。

 「……友人を置いては行けないでしょう?あの二人は貴女を嫌がるでしょうし」

 「少し苛め過ぎましたね」

 クスクスと笑うルクレツィアに、ソフィアは一つ訊いてみる事にする。

 「どうして…わたくしを友人にしようと考えたのですか?」

 「何故…でしょうね」

 少しだけ、考える気配。

 「ソフィアは私と同じだったから?でしょうか」

 「わたくしが…貴女と、同じ!?」

 流石にこんな殺人狂から同類呼ばわりは、心外を通り越して腹が立つ。
 ルクレツィアは、ソフィアの耳元でクスクスと笑って。

 「同じというか…まっとうな手段では決して許され無い…欠落…飢え…渇望……そういったものをかかえている様に思えたのですよ」

 「……………」

 図星を突かれたソフィアは、ルクレツィアに沈黙を以って返し、黙々と歩き続けた。
 目指すはブラックペンタゴン。数多の刑務者が、差し当たって目指すだろう場所。
 手頃な刑務者を見繕うのには、丁度良かった。


 ルクレツィアが起きているなら、背負って歩く必要が無い事にソフィアが気付いて、ルクレツィアをポイするのは、もう少し先の事である。




【D–3/道/一日目・黎明】

【ルクレツィア・ファルネーゼ】
[状態]: 疲労(中) 上機嫌 血塗れ 服ボロボロ
[道具]: デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針] 殺しを愉しむ
基本.
1. ジャンヌ・ストラスブールをもう一度愉しみたい
2.自称ジャンヌさん(ジルドレイ・モントランシー)には少しだけ期待
3.お友達(ソフィア)が出来ました
4.さっきの二人(りんかと紗奈)は楽しかったです


【ソフィア・チェリー・ブロッサム】
[状態]:ダメージ(小) 精神的疲労(中)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.恩赦を得てルクレツィアの刑を一等減じる
1.ルーサー・キングや、アンナ・アメルアの様な巨悪を殺害しておきたい
2.この娘(ルクレツィア)と一緒に行く
3.あの二人(りんかと紗奈)には悪い事をしました


787 : 交わらぬ二つの希望 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/11(火) 19:44:18 IT7A4ljA0
投下を終了します


788 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/11(火) 21:50:07 4rUgoy760
投下乙です

>交わらぬ二つの希望
りんかたちは激戦が終わった直後にこんなのに襲われて不幸すぎる、自分を守ってくれたりんかを今度は自分が紗奈だったけど相手のタチが悪すぎる
ルクレツィアは話聞かないくせに微妙に舌戦もできるってのが厄介だし、不死身性も相まってクソメンドくさすぎる、厄介さという一点ならアビスでも上位だよこの人
紗奈の臨戦態勢になると毎回服脱いでセルフ拘束して大変ね、異常者が多すぎて色仕掛けが通じない人が多すぎる通じても死なない人までいるんだらやってらんねぇな!
ソフィアは完全に地獄の片道切符に最後まで乗り切るつもりだな……望むところまでたどり着けるのか、辿り着いたところでどうなるのか、いい未来は予想できないねぇ


789 : ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:26:24 uoZgj91w0
投下します


790 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:28:19 uoZgj91w0
名家として名を馳せたハリックの威光を示すかのように、各国の高官たちが入れ替わり立ち替わり訪れていた書斎。
今や足を踏み入れるのは血縁ばかりとなっていた。
依頼の書類が所狭しと並んでいたデスクは、今ではうっすらとホコリをかぶり、コーヒーの染みが拭き取られることもなく固まっていた。
開闢以来、ハリック家は選ぶ側から選ばれる側へと落ちてしまった。

かつては幼いジェイに対しても、媚びるように手をすり合わせて笑みを浮かべていた高官や裏社会の重役たち。
開闢以降、ハリックの側が彼らに頭を下げ続ける日々が続いた。
ようやく下りてきた仕事は、報酬が以前の1割を切り、
先方の都合によっては、これ見よがしに突然の破棄すら起こり得た。
お前たちに頼む仕事などもう何もないのだと言わんばかりに。
そんな中、ようやく割安ながらもまとまった報酬を提示してきた案件を、兄のエドワードが蹴った。



小雨が降りしきる寒い夜だった。
ジェイは乱暴に書斎の扉を開き、ドカドカと入室する。
「なぁ、エドの兄貴さぁ、一体何が不満だったんだよ!?」
苛立ちを抑えきれず、ジェイは兄に詰め寄って両手を机に叩きつけた。


「今度のクライアントは、俺らを高く買ってくれたんだよ。
 専属契約を結べば、10万の支度金と確かな地位を用意してくれるとも言っていた。
 ……開闢以来、どこの馬の骨ともわからねえ奴らが次々と現れては、俺たちの仕事を奪っていきやがる。
 今や俺たちは、他と大差ないくせに金だけは一丁前にふんだくるって評判だぜ?
 そんなところに、今度の客は、ちゃんとしたビジネスを持ちかけてきた。
 一体全体、何の不満があるんだ!」

エドワードは目を閉じて静かにコーヒーを啜り、深い吐息とともにゆっくりと目を開くと、カップをそっと卓上に降ろした。

「今、ネオスに世間は湧いてる。
 目覚めたネオスを活用して、俺たちと競合するヤツらもずいぶん増えた。
 だがな、それで俺たちの価値が毀損されるわけじゃないんだよ。
 商いの世界じゃ、既存の概念や手法を組み合わせ、新たな価値を創出するのがほとんどだ。
 組み合わせを変え、角度を変えりゃ、新しい道は開ける。
 まわりの人間が短期の利益に目を眩ましてる間に、俺は次の一手を打つ。
 俺は、価値観のまったく異なる新しい友人たちと共に、新たな未来を切り開くつもりだ。
 ――今は雌伏のときなんだ。
 耐えろ、ジェイ。己を見失うな。
 ……”牧師”の宣教者なんかに、自分を安く売るな。
 価値を見誤ったときこそ、俺たちは本当に終わる」


791 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:30:15 uoZgj91w0
ハリック家の独自性が、ネオスの氾濫により薄まったのは事実だ。
だが、それは一面の見方にすぎない。
一歩踏み出せば暴走したネイティブが街の一ブロックごと吹き飛ばすかもしれない世界。
誰に何の異能が飛び出すかわからない人類総超力化社会。
そんな混沌と化した現代において、ハリック家は確実に予知に関連する異能者を輩出できる。

果たしてハリック家の価値は本当に有象無象のレベルにまで落ちたのか?


断じて否。
否である。


しかしながらハリックはいわば少数精鋭。
予知の使い手としては右に出る者のいない一族だが、門外不出の秘儀であるからこそ、短期間で数を増やすことはできない。

一方で世界は目まぐるしく変わっていき、次々現れる問題に、対処にはあまりに心もとない各国の財政事情。
『キングス・デイ』や『バレッジ・ファミリー』といった裏社会の住人たちはそこに目を付けた。
豊富な資金力と人海戦術にモノを言わせ、極めてリーズナブルな価格で裏仕事を受託。
実に真っ当な方法でハリック家の顧客を浚い取っていったのだ。
そして干上がっていくハリックに援助を申し出て恩を売り、あわよくば自らの傘下に収められるように画策をおこなっていた。
そんな水面下の攻防を年若く血気盛んな当時のジェイが理解するはずもなかった。

「ワケ分かんねえよ! 自分を安売りするなって?
 新参のやつらに根こそぎ仕事持っていかれて、これまでゴマ擦ってきたヤツらに頭下げて、これ以上下がる価値がどこにあるってんだ!?
 もう限界なんだよ!
 価値ってんならよ、やっと俺の価値を理解してくれるクライアントが現れたんだぞ!
 断るなんて正気じゃねえよ!」
「おい、ジェイ! 待て、早まるな……!」

そうして、エドワードの返事も聞かずにジェイは家を飛び出し。
いつもの酒場で、いつもより深く酒をあおった。
その後の顛末は語るまでもないだろう。


アビスにぶち込まれてしばらくした後、ジェイは見知らぬ囚人に怨嗟の目を向けられることが増えた。
それが一人二人ではなかったため、看守に理由を尋ねてみれば、
ハリック家は、GPAが手を焼いた凶悪犯を相手に成果をあげ、GPA傘下の対超力犯罪の特殊部隊に名を連ねたのだという。
エドワードに捕えられたという死刑囚本人の口から、その裏も取れた。

あらゆる人間に超力が与えられ、それが当たり前となったからこそ、
超力の無効化や、超力をトリガにカウンターを浴びせてくるような犯罪者は対処困難となった。
そこにこそ、超力に依らない異能を持ち、熟練の技を受け継いできたハリック家の力が求められる隙間があったのだ。
何より、初見殺しの犯罪者で溢れる中、安定的に供給される予知能力者をGPAが歓迎しないはずがなかった。

裏社会こそがこの世のすべてを掌握しているように語られることもあるが、表あってこその裏である。
あの『キングス・デイ』ですらも超大国の政府やGPAには資金力・人材・情報力で及ばない。
いつ切り捨てられるか分からない後ろ暗い組織の庇護を受けるよりも、ハリック家は表舞台で活躍できる真っ当な組織を選び、舞台に上がったのだ。
価値を切り替え、付き合う友人を変え、マフィアの息がかかっていれば決して到達できない高みへ到達したのだ。
選ぶ側から選ばれる側へ、そして最後には”選ばない”側へと登り詰めたのだ。

父や兄弟たちは逆境を乗り越え、ピンチをチャンスに変えて見事に表の世界に居場所を作り上げた。
それを理解しようとせず、座して待つことができなかったジェイだけが裏に取り残され、奈落の底へと落ちていった。

自惚れ、盲目、衝動。
過去の栄光にすがり、光を求め、生き方を改められない。
ジェイはずっと呪縛に囚われ続けている。



さっきだってそうだ。
何故、呼延光を相手にいきなり仕掛けるなんて愚を冒してしまったのか。
予知をおこなえば、ナイフが刺さらない相手だということは看破できたはずだ。

本条なるバケモノに相対しても、戦術も何もなかった。たまたま予知で命を拾っただけ。
予知通りに、あのままバケモノの一部として終わりを迎えてもなんらおかしくはなかった。

ジェイは泣き言を振り切って、顔を上げる。
枷をはめて森の中をゆっくりと歩く、筋骨隆々の鉄仮面の男をジェイは見据えた。





792 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:31:48 uoZgj91w0
(相変わらず不気味な野郎だぜ……)

バルタザール・デリージュ。
鉄仮面で素顔を覆い隠した、アビスの囚人でも極めて異質な男だ。
もし、初顔合わせだったなら、その風貌に呑まれて間違いなく腰が引けていただろう。
だが、幸いというべきか。
ジェイは彼を知っている。


ジェイは自由時間が与えられるほどの模範囚ではない。
致命的な事態をことごとく予知を使って避けるような小狡い男である。
しかし、長い囚役の中で、他の囚人と共謀する性分ではないことは看破されていた。
故に、無期懲役囚ではあるものの、運動時間や刑務作業における集団行動は赦されていた。
私語こそ許可されていなかったが、同じ無期懲役囚のバルタザールとは顔を突き合わせる機会も幾度かあった。


イヤでも目を引く男だ。
囚人の間でも看守の間でも、その素性についてはもっともらしいものから荒唐無稽なものまで、様々な説が流れていた。
スヴィアン・ライラプスという特任看守官の存在もまた、憶測を呼ぶには十分な要素だっただろう。

『ケッ、錆び付き仮面の野郎は専属メイド看守がついてて羨ましいぜぇ〜。
 俺も専属のメイド看守様に下のお世話をしてもらいてえよぉ!
 おっと、あのババアのことじゃねえぞ。
 フォンテーヌちゃんなら一人と言わず二人、いや、三人でもいっぺんに相手してやれるんだがなぁ〜』
『ハァ〜、テメェは分かってねえよ。何も分かってねえ。
 あのメイド長看守様のツンと澄ましたお上品なツラを歪ませてよお、オホ声でヨガらせんのがいいんじゃねえか。
 毎日キリっとした顔で規則を守れだのなんだのヌカしてやがるけどよお、あのツラの下にゃ、スケベな本性が隠れてんだぜぇ〜?
 錆び付き仮面の野郎を監視してたときもさ、内心じゃ強引にヤられちまう妄想でビショビショだったんじゃねえか?』
『ちげぇねえわ、グバハハハ!!』
などと、私語の禁止も超力による監視もすっかり忘れて盛り上がっていたガブリルと若頭の服役半年コンビは、
案の定フォンテーヌのところの妹に仲良く懲罰房にぶち込まれていたが、
だいたいそのような憶測はいくらでも流れていた。


ジェイも本人と言葉をかわしたことはないが、その立ち振る舞いを見れば推測などいくらでも頭に浮かぶ。
バルタザールが現れるとき、必ずお付きのように現れる専任看守のスヴィアンの存在。
共同作業終了時におこなっていた、監視の看守たちにねぎらいの意を示すかのような身振り。
ぼろぼろに擦り切れた囚人服ながら、襟や裾にまで気を配り、仕立ての良い服のように丁寧に着こなすその所作。
歩行一つとっても、美しい姿勢を維持して堂々と歩む。
そこには品格がある。

あれは確かな社会的地位を持ち、社交界にも名を連ねるような名家の出身だ。
ジェイ自身、かつては名家の名を背負っていた人間であるからこそ、それは確信に近いものがある。
スヴィアン刑務官との関係も、あれは刑務官と看守という関係ではない。
社長と秘書。主と使用人。あるいは、王族と臣下の関係である。

実際、刑務官の中にはお家騒動のゴタゴタに巻き込まれて収監されたのではないかという疑う者もあれば、
"アビスの申し子"の親族なのではないかという根も葉もない憶測をおこなう者もいたくらいだ。

そんなバルタザールの鉄仮面の隙間から覗く目。
一度だけ視線が交わったことがある。
人生に満足し、穏やかな余生を受け入れた老人のように、安らぎを湛えた目だった。
その武骨な外見とはかけ離れた穏やかな目を、ジェイは覚えている。



それを思い出したとき、ジェイの思考が、激情に支配された。


793 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:33:08 uoZgj91w0

バルタザールとジェイは、同じ23歳で収監された。
名家の出から一転、無期懲役囚として、死ぬまでアビスで暮らす身だ。


ジェイは没落してからも再興を夢見て鍛錬だけは欠かさなかった。
けれども、アビスへの収監は彼の心を折るには十分だった。
収監後、すべてに絶望したジェイは鍛錬にも身は入らず、全盛期と比べれば体力も気力も見る影もなく衰えた。
外見は実年齢以上にくたびれてしまったというのに、心はいまだに10代後半の黄金時代の幻影を追い、現実に引き戻されてはうずくまっている。

バルタザールは収監後も鍛錬を欠かさなかったのだろう。
50を過ぎても、いまだ精悍な肉体を保っている。
けれども寡黙で落ち着き払った態度は、閉ざされた未来をありのままに受け入れ、己の人生に満足しているように思えた。
言葉をかわすところを見たことはないが、担当刑務官の老婆と共にアビスに骨をうずめることを受け入れているように思えた。
ただ一人で過去を後悔し続けるジェイとは隔絶した、満たされた人生に思えてならなかった。


――どうして俺とアイツはこんなに違う?

赤の他人でありながら、そんな泣き言を考えずにはいられなかった。
同じ転落人生でありながら、バルタザールのあの穏やかな目は、己が惨めさを感じられずにはいられなかった。
それとも、いつか自分もあのような老人になってしまうのだろうか。
そう思うと、それもまた、たまらなくイヤだった。


バルタザールには絶対に負けられない。
自由という光を求める自分が、アビスに適応して外に出る気概を失った老人に敗れるはずがない。
敗れてはならないのだ。


(不気味なのは見た目だけだ。
 あの鍛え上げられた身体だってハリボテに違えねぇ。
 あんな枯れた野郎に俺が負けるわけがねえだろうよ!)

ジェイの超力『透明の殺意』は、見えないナイフを手の上に出し、自由に操作する超力だ。
2秒程度で消失するとはいえ、その最高移動速度はおおよそ150kmにも及ぶ。
本来は手といわず、遠く離れた空間にノータイムで出すこともできるのだが、15年のブランクは腕を鈍らせてしまった。
しかしそれでも、ただのナイフよりは切れ味も取り回しもずっと優れている。

頭をすっぽりと覆う鉄仮面によって、バルタザールの頭部や頸動脈への斬りつけは意味をなさない。
狙うは心臓、その一点のみ。
プロ野球選手がその肉体だけで時速320kmを超える投球をおこなう現代社会において、時速150kmというのは特筆した速さとはいえない。
しかし、この速度で飛んできたナイフが心臓に刺さろうものなら、いとも簡単に生命機能は停止してしまうだろう。
ジェイのナイフは不可視のナイフだ。
避けられない。避けられるはずがない。


794 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:34:29 uoZgj91w0

チャリンと※う高い金属音が響き、ナイフの軌道がずれた。


――なぜ?


なぜ狙いがずれた?
なぜ空中で弾かれた?
ジェイはワケが分からなかった。
理由を探るために目を凝らしてバルタザールの周囲を見つめ、ようやく細い糸のようなものが張り巡らされていることが分かった。
極細の鎖をセンサーのように張り巡らせ、周囲を探っていたのだと理解した。

りんかと紗奈を取り逃がしたことで、力押しだけでは先がないとバルタザールは判断。
貴重な時間を割いて、ネオ※の練度を高めていたのだということをジェイは知る由もなかった。
それはただ焦燥のままに次の獲物を探し、さび付いた腕前のままに次に挑んだジェイにはたどり着くはずもない考えだった。


バルタザールがその鉄仮面の奥から、ギラつくまなざしでジェ※を見つめているような気がした。
そこには、かつて見た余生を過ごす老人のような穏やかさは微塵もない。
自由を求める貪欲な光が炎のように揺らめいている。
ジェイはその鋭い眼光に、押しつぶされそうな息苦しさを感じていた。
生への渇望ですら、足元にも及ばないように感じられた。

(お、落ち着け……!
 まだ俺がここにいることはバレてね※んだ)

ジェイは大木を背に、必死で息をひそめる。
じゃり※りり、と鎖が冷たく鳴り響いた。
音は自分の腹のあたりからだった。
目を向けると、細く長い鎖が木の後ろから蛇のように伸びてきて、ジェイの腹を大木に括りつけていた。
見れば、ジェイのいない物陰にも鎖は伸びて※た。
そのうちの一本がジェイを捕らえた。それだけの話だった。

――しくじった!

そう思ったときには何も※もが手遅れだった。

ゴッと鈍い音がして、木の幹が震えた。
ジェイが括りつけられた大木の幹は、その半ばほどから食い込んできた鉄球によってあっけなく貫かれた。
ジャリ※ャリと鎖がこすれ合う音が響き渡り、まるでナイフで絹を※くように、鉄球は大木の幹を布切れさながらに引き裂いて落ちてきた。
木くずが舞い散り、粘り気のある樹液がジ※イに降り注ぐ中、大木は※惨に割れていく。
鉄球の勢※は露ほども衰える※とはなく、ジェ※の肉※を、彼が潜むそ※大木ごと、容赦※く叩※割※た。

【※ェイ・※リッ※ 死※※

←Reverted




795 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:37:20 uoZgj91w0

己の軽挙の顛末を見て、冷や汗がつーっと流れた。
バルタザールはゆっくりと歩いており、まだジェイには気が付いていない。
もう失敗は許されないと、行動を起こす前に予知をおこなったのが功を奏したのだ。

バルタザールの周囲をよく観察する。
鎖のセンサーの密度はさほど高くはない。
集中すれば、十分すり抜けられる密度だ。


なのに。

なのに、ナイフを投げられない。
行動に起こせない。
完膚なきまでに敗北するイメージがジェイの心中を覆い切った。

死を恐れているのか。
実力差をはっきりと突きつけられることに怯えているのか。
崖っぷちに立っていることを自覚したことで、魂が委縮しているのだろうか?

――それとも、決して勝てないという未来でも感じ取っているのだろうか。


息が乱れ、体内をかき回すように渦巻く。
不可視のナイフを持つ手が震え、狙いすら定まらなくなる。
予知した未来では、あれほど恐れ知らずに行動に移せたのに。
ふと、バルタザールの鉄仮面がジェイのいる方向を向く。
ドクン、と、鼓動が鮮明に聞こえた。


――気付かれた!


脈動がゆっくりと感じられる。
自分だけが時間から切り離されたかのように、すべてが緩慢となる。
死を眼前に突き付けられて、脳の信号が極限まで研ぎ澄まされ冴え渡る。
その一瞬だけ、ジェイの動きは全盛期を彷彿とさせる美しい型を取り戻し、導かれるままに三本のナイフを解き放った。
それは開闢以降、最も冴え渡った会心の出来だった。
ナイフのうちの一本がバルタザールの鎖をかいくぐり、心臓へと吸い込まれていく。


ジェイの口角が少しだけひきつった。
勝利の証として高らかに吊り上がるはずの笑み。
しかし、卑屈に笑ってきたジェイは、勝利の笑みの形を為せなかった。
そして、そのひきつった笑みが絶望の形へと変わるのに時間はかからなかった。

金属が金属とぶつかり合い、甲高い音が響き渡った。
バルタザールが囚人服の下に網み込んでいた鎖帷子がナイフを無情にも弾いていた。
予知の中で見た自由への渇望に満ちた眼光が、死を導くそれが、ジェイに再び向けられた。


ジェイは駆け出した。
わき目もふらず、振り返ることもせず、ひたすら前へと駆け抜けた。

鎖の音が聞こえた。
後ろでジェイが背にしていた大木が、引き裂かれる音がした。
予知で見た、死の音が森の中に響き渡る音がした。

駆けて駆けて駆け続けた。
駆けるごとに、ジェイの中から自信が欠け落ちていった。
いつしか、森を抜け、平原に足を踏み入れ。

鎖の音は聞こえない。
近くに人の気配はない。


ジェイは知る由もないが、一連のジェイのアクションはバルタザールにとっても十分脅威だったのだ。
まっすぐに心臓を射抜いてくる技量を持ちながら、その後の逃走はあまりに拙劣。
まるで処刑場へと誘い込んでいるとしか思えないその動きは、バルタザールの警戒心を強めるには十分であった。

バルタザールはジェイを追わなかった。
ジェイは再び命を拾った。




796 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:38:45 uoZgj91w0

追っ手を撒いたことを知る由もなく、ジェイは走り続けた。
息が乱れ、思考がまとまらない。
ちょうど佇んでいた奇妙な黒い奇岩にもたれかかるようにして、ジェイは腰を落とした。

「俺は、俺はまだ……」
屈辱と惨めさで呂律がまわらない。
わずかに残っていたプライドがずたずたに引き裂かれ、冷たい風に吹きすさんで散っていく。

それでも。

――あなたはいつか、大きな偉業を成し遂げるわ。
――だから腐らず、前を向くのよ。


「はは、あんなにくだらねぇと思ってたってのに……」
いつかの予言で聞いた、いずれジェイが成し遂げる未来。
ジェイは未だ何事も為さず。
予言を信じるのならば、ジェイの人生にはまだ先がある。
あまりにも情けない理屈だ。
だが、かつては鼻で笑っていたそれが、皮肉にもジェイが立ち上がり続ける柱となっていた。

「俺はまだ、立ち上がれる……」
割れた心をかき集め、つなぎ合わせて、前を向ける。
地に手をつき、立ち上がる。


ぬるり。

「!?」


地面にぶちまけられていた液体に迂闊に体重をかけ、ジェイは手を滑らせてしまった。
背にしていた岩から流れ出てる粘っこい正体不明の液体。
目を凝らして岩をよく見ると、潰れて液体を垂れ流す数万もの眼と目が合った。

――岩じゃない!

すぐに悟った。
これは生物だと。
黒光りする巨大な甲虫の死体だと。
ジェイの実力では到底討伐できない怪虫の死骸だと。

ジェイの手にべっとりとついたのはその怪虫の血だ。
そして、血は未だどろりと流れている。

ジェイの背筋が冷たくなる。
こいつは今死んだばかり。
つまり、殺したやつがそばにいるのだ。

ジェイは慌てて周囲に目を走らせた。
誰もまわりにいないはずなのに、猛烈にイヤな予感が頭の中を駆け巡っていた。
右を見ても影一つなく、左を見ても遠くに深い森が見えるばかり。
きっと気のせいに違いないと自分を納得させ、正面へと目を戻したその瞬間――そこにそいつはいた。


797 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:40:25 uoZgj91w0
「藍の瞳に、青の瞳。
 藍の瞳に、青の瞳。
 ……ふふっ」

その女は、ジェイの真正面にただ立っていた。
ジェイの真正面から、誰もいなかったはずのジェイの真正面から、まっすぐとジェイの目を見つめていた。
夜の闇を背に、黒いドレスに身を包んだ彼女の肌は、月光を浴びて白く輝きを放っていた。
けれど、その目だけは夜闇よりも、漆黒のドレスよりもなお暗く、ジェイの魂を引き込むかのような黒だった。
そして予想通り、首輪には『死』という一文字が冷たく刻みこまれていた。

「〜〜〜!!」
ジェイは声にならない悲鳴をあげた。


「ねぇ、ねぇ、ジェイ? 驚いた顔がとても可愛いと思うわ。
 その手につ※てる液体、いったいなんなのだろうと※も考えてるのかしら?」
「テ、テメッ、な、なんで俺の名前知ってんだよ!?」

そして女はジェイの問いかけを聞くと顔を綻ばせた。
それは笑顔※あった。
新しい素材を前にした狂気の科学者が、新たな実験の喜びに顔を綻ばせるような、そんな屈託のない笑顔であった。

一度も遭ったことのない女が旧い友のように名を呼んでくる。
それだけで、関わり合いになりたくない状況だ。
ましてや、ここはアビ※。
出会ったすべてが怪物揃い。
目の前の女もまた、本条のような得体の知れないバケモノだと理解するのに時間はかからなかった。


――はやく、逃げなければ。
そんな言葉がジェイの頭の中を埋め尽くしていく。
なのに、金縛りに遭ったよ※に、ジェイの身体は動かない。

たとえ落ちぶれた身だとしても、ジェイは暗殺の道に生きる者だ。
目の前の相手がどれほど※血の臭いを纏っているのか、それを見抜くだけの嗅覚はあるつもりだった。
だが、その嗅覚も錆び付いていたに違いない。そうであることを切に願った。
そうでなければ心が耐え※れない。


頭蓋の奥※鈍い音が鳴り響くようだった。
胸の奥に冷た※鉛玉が食い込むようだった。
息を吸い込んでいるのに肺か※空気が逃げ出していくようだった。


「――あ?」

そこで※うやく気付いた。
己の頭蓋と※臓には確かに穴が開い※おり、女の持つ銃から硝煙が揺ら※き立っていたのだと。
女は息※吸うかのごとく、自然な※作でジェイの命を奪い去っ※のだと。
欲しい玩具を前に※て屈託のな※笑顔を浮かべ※いたはずの女は、
不良品をつ※まされた※うな冷え切っ※視線で、ジェ※だったも※を見据えていた。

【※ェイ・※リ※ク 死※】

←Reverted




798 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:41:49 uoZgj91w0

「うおおおおおおおっっ!!!」
ジェイは腹の底から吼えた。
死への手招きを振り払うように大声で吼えた。
泥にまみれることも意に介さず、頭から前方へ飛び込んだ。
受け身など顧みる余裕もなく、不格好に大地に口づけをするような転倒を喫した。
それでも勢いを殺さずに飛び起きると、ジェイは後ろを振り返ることもなく、ただただ走り続けた。
疲れた肉体を酷使し、死の運命から逃れるために、息も絶え絶えになりながら走り続けた。


女の黒い目。
底の見えない澱んだ黒い目が、後ろからジェイを見つめているような気がした。
吸い込んだ空気が唾液を伴って肺に入り込み、ゴホゴホと咳き込んだ。
ジェイは肺が破れそうなほどに息を切らし、膝に片手を付いて汗で濡れた顔を拭う。

「はぁ、はぁ……。クソッ!」
自分のぜぃぜぃという喘ぎ声に、ドクドク鳴る心臓の鼓動、それから吹きすさぶ風の音だけが聞こえる。
足音はない。気配もない。
追ってきていないのか?

そう思うと、全身を包む緊張が解けた。
代わりに安堵が身を包んだ。
逃げ切れたのだと。

「ここにゃ、バケモノしかいねえのかよ……」
身の安全を確認したところで、心に僅かな余裕が生まれ、毒づく。
このままでは恩赦どころか、生存すら危うい。戦略を立て直さなければならない。
息を静かに整え、膨れ上がる焦燥を胸の内に押し込める。
そしてもう一度、『やるぞ』と決意を新たに、ゆっくりと顔を上げた。



すぐ隣に、女がいた。



「ねぇ、ねぇ」
声が、耳元でささやいた。
汗がすっと体内に引っ込んだ。
もう視線を動かすことすらできなかった。
息をひくつかせることすらできなかった。
決意などとうに消え去った。
女は足音も気配すらもなく、やさしさを切り取って貼り付けたような作り物じみた笑みを湛えて、すぐ隣でジェイを見つめていた。





799 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:45:01 uoZgj91w0
「バケモノという呼ばれ方は、いつまで経っても慣れないわ。
 私には銀鈴という名があるの。だから、そう呼んでくれると嬉しいわ?」

誰もいないはずだ。けれど、確かにそこにいる。
涼やかな声とともに、濃厚なワインのような、アルコールの香りがほのかに漂ってくる。
ジェイの足は、ぴったりと地面に縫い付けられているかのように動かない。

ジェイが息を切らしているにも関わらず、銀鈴は汗一つかいていなかった。
わずかな呼吸の乱れすら見られなかった。
ジェイは、その白魚のような指が腹に食い込み、はらわたを引きずり出すのではないかと気が気ではなかった。


麻薬中毒者のように、視点が定まらず手が震える。
そんなジェイを見て、銀鈴はますます愉しそうに顔を綻ばせる。

「ねぇ、ジェイ。私、とても驚いたのよ。突然ジェイが大声をあげて走り出すんだもの。
 まるで私が何をしようとしているのか、分かっていたみたい。
 エドワードのように、ジェイも不思議な方法で私の心を覗いたのかしら」

――支離滅裂ではあるものの。
――ふざけるなと声を大にして叫びたく思ったものの。
予知で見た銀鈴の行動が、ジェイの中でつながった。


銀鈴はエドワードと会ったことがあるのだ。
だからこそ、ジェイの容姿と名前を初見で結びつけられた。
だからこそ、ジェイの予知を"確かめようとした"。
あまりにも迷惑な確認手段であったが、そういうことなのだ。

それよりも注目すべきことは、銀鈴はエドワードと会い、今は死刑囚としてアビスにいる。
正体不明の悍ましい存在に思えたが、それなら、難しく考える必要などどこにもない。

(へ、へへっ、なんだよビビらせやがって……。
 エドの兄貴にアビスにぶち込まれたクチかよ)
タネさえ割れてしまえば、取り乱していた心も落ち着きを取り戻せる。


「私が国を興そうとしたときにね、GPAがそれを邪魔をしてきたわ。
 エドワードはね、私を相手にとても勇敢に立ち回ったの。
 441秒よ。441秒も、私から逃げ切って、20人もの人間さんを逃がしたの。
 そんなこと、今までなかったから、少し興味を持っちゃってね」

ジェイの内心に気付かないのか、銀鈴は饒舌に話している。
エドワードはジェイとは隔絶した実力であった。
エドワードが勝てたからといってジェイが勝てる保証はどこにもないのだが、手も足も出ないバケモノではないということだ。
空元気とはいえわずかに気力を取り戻すには十分だった。
これなら、指先の震えもじきに収まるだろう。


800 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:46:06 uoZgj91w0

――もしかして。
――もしかして今なら、不意を突けるのではないか?
そんな思考すら湧き上がってきた。
恐ろしい程の隠形技術だが、不用心にも自ら間合いに入ってきたのだ。
見え※いナイフを振るえば、一息に……。


ジェイは、ひそかにぐっと力を込めた。
次の刹那、ふわ※と白磁のような指が視界を横切った。
まるで舞い落ちる雪のように静かに、けれど確実に、その手はジェイの右手をそっと抑え込んでいた。
銀鈴の指先は、氷のよ※に冷たかった。

「……あ?」

そして、もう片方の指が、牙を剥いた白蛇のようにジェイの視界に飛び込んできた。


じゅぷり。
「あ゛、が…※っ!!」

視界が赤く染まった。
何か※抜き取られた。

「ジェイ?」
もんどり※つジェイに対※て、銀※が名を呼ぶ声はひど※酷薄だった。

「人が話して※るときは、きち※と聞くのが礼儀とい※ものよ。
 それとね、よこしまなこと※考えていると、身体に表※てしまうの。もう少※上手※隠しましょう?」
その声が聞こ※るや※や、歯を割※なが※、硬い石が口に押し込まれた。
「あが、 お、ごっ! ごぼっ……」
「ねぇ、ねぇ、※ェイ? 私の言っ※こと、ちゃんと聞いて※?
 ちゃんと返事をしまし※?」
鈴のように澄んだ清らかな音と、ぐ※ゃりぐちゃりと肉が潰れる濁った音が同時に耳に飛び込んでくる。
やがて振るわれる尖っ※石はジェ※の延髄を破※し、その視界は赤から※へと転※して、二度※戻るこ※は※かった。

【ジェ※・※リ※ク ※※】

←Reverted




801 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:47:24 uoZgj91w0

指先の震えがいまだ収まらない。
考えてみれば、先ほどの話はおかしい。
441秒も逃げ切ったという言い方自体が違和感の塊である。
まるで、最後には捕まった、そんな言い方ではないか。

「逃げた子に追いつくことなんて造作もなかったし、エドワードを飛び越えることもできたけれど……。
 せっかく勇気を出して私を誘ってくれたのだから、踏み倒すのは不義理よね。
 そう思って、お誘いに乗ったのだけれど……あのときはとても驚いたわ」

10年ほど前から、ジェイに憎悪の目を向けてくる新入りの死刑囚がめっきりと減った。
兄が出世し、現場に出なくなり、直接犯罪者を捕らえる機会が減っただけかと思っていたのだが。

「だから、私は考えを改めたの。
 『旧人類は等しく同じ』、そんなふうに思い込んでいたなんて、なんて浅はかだったのかしら。
 そのときから私は、一人ひとり、じっくりと視て、"たのしむ"ことにしたの」


少し先の未来、容赦なくジェイの目玉を抉り取った指が、ふわりと宙に舞う。
ジェイにはその柔らかな仕草が、蝶の羽をむしり取って弄ぶような、限りなく残酷なものに思えてならなかった。

「例えばね、散り際は人間さんの個性が特に色濃く現れるの。
 美火のように、恐怖に怯え、命乞いをする子もいるわ。
 最期まで反抗的な子も多かったわね。
 そして、エドワードのように、満ち足りた表情で静かに幕を下ろす子もいるの」


肉親の喪失を突き付けられたジェイの叫びは、言葉として形になることはなかった。
衝動のままに動いて、目玉を抉り取られる光景がフラッシュバックしたからか。
あるいは。

――今は雌伏のときなんだ。
――耐えろ、ジェイ。己を見失うな。

兄を意識したことで、彼の言葉を思い出したのかもしれない。


「ねぇ、ねぇ、ジェイ?
 あなたはどんな顔を見せてくれるのかしら?
 エドワードみたいに、死の間際まで諦めないのかしら?
 それとも、彼以上の価値を示してくれるのかしら?
 血のつながった兄弟なら、きっとすばらしい価値を見せつけてくれるのでしょうね」


802 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:49:48 uoZgj91w0
銀鈴はジェイの兄を殺したことを告白しておきながら、恨みを買うことなど微塵も考えていないかのように、楽しげな声で話しかけてくる。
ジェイに興味を持っているのは確かだろう。
しかしその一方で、喉が渇いたときに水道から水を飲むような気軽さで、銀鈴はジェイを殺せる。
二度の予知の先で、羽虫を潰すように容易くジェイの命をもいだ光景はジェイの目に焼き付いている。
ネオスと予知はいまだ健在にもかかわらず、切り抜けるビジョンが浮かばない。


逃げることはできない。
もう試した。容易く追いつかれる。
殺すなど夢物語だ。
もう試した未来を見た。気付いた時には屠られていた。


ジェイは過去へ遡っているわけではない。
数瞬の内に数刻先の未来を視ているだけだ。
一度の挑戦権しか持たない者と比べれば破格の異能ではあるが、
決して正解を選ぶまで、何度も何度も挑戦できるものではない。
人間の皮を被ったバケモノ相手に100パーセント正解のコミュニケーションを取ろうなど、正気の沙汰ではない。

――くそ、やってられねえよ!

エドの兄貴の仇と叫んで、兄思いの弟として清々しく散るか?
いっそ、予知のことをぶちまけて媚びるか?

……仮に運よくここを切り抜けても、また価値観からして異なる怪物どもに出会うのだろう。
それならバケモノ同士で仲良く潰し合ってくれれば、とすら思う。

――――。


ふと、ジェイの心に閃きが灯った。
兄の語っていた言葉と、銀鈴の語る言葉が、事故のように合体する。
それはあまりに不義理だった。
だが、ジェイは再び前を向き直る。
すべてを呑み込み、ぎり、と奥歯を噛みしめると、不意に息を抜いた。


803 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:51:18 uoZgj91w0
「はっ、そんなに俺の価値を見たいってんのかよ……」
ジェイはゆっくりと口を開く。


「だったらよ……。友達になろうや」
その言葉に、銀鈴は虚をつかれたか※ようにその目を丸くする。

「銀鈴だっけな。
 あんたの興味が冷めるまで、友人になるって※はどうだい」

たとえ、それが虚勢から出た言葉だとしても。
たとえ、その言葉の裏で殺意のナイフを研ぎ澄ませていたとしても。
たとえ、その声がどうしようもなく震えていたとしても。
銀鈴に友人になろうと声をかけてきた人間は※めてだった。


「ふふっ……!」
喉の奥で、鈴を転がす様な笑い声が響く。

「ジェイ、声が震えているわ。
 一体、何に怯えているのかしらね?」


ジェイのオッドアイの瞳が、僅かに揺れた。
そして、ジ※イを怯えの色が包む。無理もないだろう。
兄の仇に対して、命惜しさに友人になる※とを持ち掛ける浅ましさ。
"友達"という言葉の薄っぺ※さをいつ看破されるのかという冷たい恐怖。

「いいわ、人間さんの方からは※めてお友達になろうと持ち掛けてきたんですもの。
 断るのは少しかわい※うよね」


いや、すでにジェイの思惑など見透かされ※いる。
その上で、弄ぶ※うに話に乗ってき※いるのだ。

「じゃあね、じゃあね、お友達になった証に、これ※あげる」
その冷たい手を通して手渡されたのは、一粒の飴玉だった。
何の変哲もない、た※の飴玉だった。

これ※、本当に切り抜けられたのか?
それ※らも、もうわ※らなかった。
最悪の結末だけは避け※れたらしい。
"友人"という、ひどく薄っぺらく、おぞまし※関係を持つことになっ※代償に。

←Committed





804 : 耐え忍べ、生きている限り ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:52:49 uoZgj91w0

ジェイの色彩の異なる二つの瞳から、対称的な感情が覗く。
激情と安堵が交錯し、抵抗と諦観が、怒りと哀しみが絡み合う。
それでも家族からの言葉を支えに、ジェイは立ち上がった。
家族を裏切り、家族を奪われ、家族に支えられ、ぐちゃぐちゃな心を貼り合わせながら、ジェイは顔をあげて前を向いた。
口に含んだ甘い飴玉は、何の味もしなかった。


そんなジェイの中で煮えたぎる複雑な感情を目にして、
人の情を糧とする魔物のように、銀鈴は静かに唇を舌で濡らした。


【E-2/森/一日目 黎明】
【バルタザール・デリージュ】
[状態]:健康
[道具]:なし
[方針]
基本.恩赦ポイントを手にして自由を得る
1.(……しばし、ネオスの感覚を取り戻さなければ)
2.(なぜあの小娘(紗奈)を殺そうとした時、動けなくなったのだ?)


【E-3/草原/1日目・黎明】
【ジェイ・ハリック】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き延びる。チャンスがあれば恩赦Pを稼ぎたい。
1.銀鈴の友人として振る舞いつつ、耐え忍んで機会を待つ。
2.呼延光、本条清彦、バルタザール・デリージュ、銀鈴に対する恐怖と警戒。

【銀鈴】
[状態]:疲労(中)
[道具]:グロック19(装弾数22/19)、デイパック(手榴弾×3、催涙弾×3、食料一食分)、黒いドレス
[恩赦P]:4pt
[方針]
基本.アビスの超力無効化装置を破壊する。
1.ジェイで遊びながらブラックペンタゴンを目指す。
2.人間を可愛がる。その過程で、いろんな超力を見てみたい。

※今まで自国で殺した人物の名前を全て覚えています。もしかしたら参加者と関わりがある人物も含まれているかもしれません。
※サッズ・マルティンによる拷問を経験しています。
※名簿で受刑者の姓名はすべて確認しています。
※システムAに彼女の超力が使われていることが真実であるとは限りません。また、使われていた場合にも、彼女一人の超力であるとは限りません。


805 : ◆TApKvZWWCg :2025/03/11(火) 23:53:06 uoZgj91w0
投下終了です


806 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/12(水) 19:59:07 RWR4Mz6Q0
投下乙です

>耐え忍べ、生きている限り
ジェイくん毎回こいつ未来で死んでんなー、未来視なければ何回死んでるかわからない、そう言う意味では間違いなく有能な異能なんだけど、毎回敗北の未来しか見えない上に本人がコンプレックスの塊なので上手くかみ合っていない
アビスに墜ちても自己鍛錬を怠らないバルタザールさんと自分を勝手に比較して全方位に卑屈になっている、十分脅威になっているのにネガティブ装置かこいつ?
自暴自棄になったジェイと違って真っ当に能力を生かして転身したお兄ちゃん、それ故に怪物に越されてしまったのは皮肉、兄の仇に自暴自棄になりかけた所で兄の言葉を思い出して堪える、あの時は出来なかった自制が効いている
毎回好感度チェックしながらやり取りするのは選択肢を一つ誤れば即死の嫌なギャルゲーすぎる


807 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:50:26 5eabS6Po0
投下します


808 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:51:17 5eabS6Po0
地獄のような交渉の場から抜け出したディビットとエネリットは、夜の草原を一気に駆け抜けた。
冷たい風が頬を切り裂くように吹き抜け、背後の闇が追いすがるように広がる。
二人がたどった軌跡は川に沿い、やがて石橋の近くに至る頃、先頭を走っていたディビットが速度を落とした。

「ここまで来れば十分だろう。あの腰の重いジジイが、わざわざ追ってくるとは思えん」

軽口を叩くディビットに、エネリットも息を整えながら立ち止まった。
背後を振り返ると、自分たちが逃れてきた道はすでに闇に呑まれ、遥か遠くなっていた。距離としては充分だ。

闇の皇帝――ルーサー・キング。
その狡猾に張り巡らされた罠の糸に絡め取られかけた交渉の最中、少女たちを囮にすることで辛くも脱出できたのだ。

ディビットはわずかに少女たちのことを思った。
彼はそんなことでいちいち罪悪感を抱くほど甘い人間ではなかったが、これは倫理ではなく矜持の問題だった。
裏社会に生きる者として、堅気の人間を巻き込まないことが彼の中で最低限のルールだった。
だが、その理屈がこの深淵へ墜ちた人間にまで通じるなどとは、彼自身も思っていなかった。

「どうするんですか、それ?」

エネリットが視線を向けたのは、囚人服の胸ポケットから顔を覗かせる一本の葉巻だった。
交渉決裂前にキングが前金代わりとして忍ばせた代物である。

「ふん、決まっているだろう」

ディビットは大袈裟な舌打ちとともに、いかにも下らないという表情を浮かべ、握りしめた葉巻を地面に叩きつけようと振り上げた。
しかし、その手は途中で止まり、しばし逡巡の末、まるで見えない糸で引き止められたかのようにゆっくりと降ろされた。
彼は今度こそ葉巻を指の間で真ん中からへし折ろうとしたが、それもまた躊躇うように首を振り、そのままエネリットに背を向ける。
改めて握りしめた葉巻を大きく振りかぶって、野球で言えばボークを取られてもおかしくない躊躇いの後、意を決したように宙へと投げ捨てた。

「あのジジイの施しなど受けん」
(…………けっこう躊躇ったな)

それを口にしない優しさがエネリットにもあった。
月明かりの下で、後悔と達成感が入り混じった複雑な表情を浮かべていたディビットは、やがて気を取り直し、再びエネリットの方へと向き直った。

「エネリット」
「なんでしょう」

薄々次の言葉を察しながらも、エネリットは平常心を保って返事を返す。

「俺はこの場で――――あのジジイを殺す」

裏社会の皇帝ルーサー・キングに対する殺害宣言。
しかし、エネリットは顔色ひとつ変えることなく、いつも通りの冷静な口調で返した。

「意外ですね。あなたがそんな割に合わない判断をするだなんて。あのご老公は無視するのが得策かと思いますが」
「別に感情論で言ってるわけじゃない。
 いいか、俺が優先する利益ってのは俺個人の利益だけじゃない。俺とファミリーの利益だ。
 あのジジイを殺すことはバレッジ・ファミリーの未来にとって絶対的な利益になる――――親父が天下を取るためには、あのジジイは邪魔だ」

冷徹に割り切った声が、静寂の中に低く響いた。
『キングス・デイ』のルーサー・キングはバレッジ・ファミリーの勢力拡大にとって最大の障害である。

「『キングス・デイ』のアンダーボスであるイヴァンは政治にかまけて現場を知らないボンボンだ。
 口先だけは達者だが、大した男じゃない。頭(ルーサー)を獲れば、後は飲み込める」

厄介なのは頂点であるルーサー・キングだけだ。
逆に言えば、あの男が頂点にいる限りバレッジ・ファミリーに欧州進出のチャンスはない。

かといって表立って殺せば、両組織は全面的な抗争に突入するだろう。
それは組織にとって大きな消耗となる。その展開は避けたい。
だが、この刑務作業内での殺害なら、詳細が表に漏れる事はない。
組織にとってもこの刑務作業は千載一遇のチャンスである。


809 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:51:42 5eabS6Po0
「勝算はあるのですか?」

エネリットは淡々と問いを重ねる。
エネリットからすれば欧州裏社会の勢力争いに関心はない。
彼にとって重要なのはこの場での勝算があるかないかである。
問いかけられたディビットは、すぐには返答せず、視線をゆっくりと川の流れに落としながら逆に質問を返した。

「エネリット。お前は俺の超力がどのようなものか予測がついているな?」
「そうですね。ある程度は」

先ほどのディビットとルーサー・キングの交渉中、エネリットは周囲の警戒を怠らず、同時に会話の内容にも耳を澄ませていた。
二人のやり取りの内容と、これまでに得た情報とを照らし合わせれば、凡その推測は難しくない。

「自身の特定能力の倍化、といったところでしょうか?」
「そうだ。ただし、その代償として強化した能力と同価値の別能力がランダムに弱体化するリスクがある」

ディビットはまだエネリットに気づかれていないであろう自らの弱点を明かした。
これからの戦略を立てる上で、正確な戦力の把握が不可欠であるという事情もあるのだろうが。
それに加えて、先ほどの立ち回りでこの程度の情報は共有できると信頼を得られたのだろう。

「あのジジイを相手にするなら、リスクの運用がうまくいくことが大前提だ。
 それでようやくお前と二人がかりで五分といったところだ。下手なところにリスクが回れば話にならん」
「運に任せて五分では厳しいでしょう」
「理解してるさ。だからあの場では仕掛けなかった」

それはそうだ。
勝ち目があるのなら、交渉などせず交戦していただろう。
だがエネリットには、まだ一点気になることがあった。

「リスクのコントロールは出来ないのですか? 意図的に抑えたり、制御することは?」
「……できないな」
「間がありましたね。本当ですか?」
「ふん。相変わらず目聡いバンビーノだ」

エネリットの鋭い指摘に、ディビットは皮肉混じりの笑みを浮かべた。
相手の小さな違和感や隠し事を見逃さない彼の観察眼は自分に向けられるのは厄介だが、味方であるのだから心強いとしておくべきか。

「そうだな。リスクなしで発動すること自体は不可能じゃない。
 ただし、『自分の意思ではできない』というだけだ」
「どういうことです?」

普段は簡潔な説明を好むディビットだが、珍しく歯切れが悪い。

「スロットの『ジャックポット』みたいなものだ。俺の意思とは関係なく、ごく稀にアタリが出ることがある」
「…………ジャックポット、ですか?」

カジノオーナーらしい例えだったが、カジノに縁のないエネリットにはその比喩がいまいちピンとこない。

「そのアタリが出れば、リスクなしで超力を発動できる、と?」
「それだけじゃない。その時は強化が一カ所だけではなく、全身が強化される」

確かにそれは破格の性能だ。
鬼ごっこで追い詰められた経験のあるエネリットだからこそ、その超力の強大さは理解している。
それがリスクなしで数倍の効果があるとなれば、発動さえすれば敵なしだろう。

「だが、俺がジャックポットに入ったのは超力に目覚めてからたったの二回しかない」

ディビットは楽観的な希望に釘を刺すように言った。

「開闢が20年前ですから10年に1度、アビスでの懲役分を差し引いても8年に1度の確率ですか……具体的にはいつ頃の話で?」
「1度目は15年前。つまらんチンピラとの小競り合いの時だ。初めての体験だったのでな、加減が分からずおかげで少しやりすぎちまった。
 2度目は6年前。ヴェネチアの利権をめぐって現地のカンナバーロ・ファミリーとの抗争の時に発動した。この時は大いに役に立ってくれたがね」
「条件が分からないのでは計算に入れるのは難しそうですね」

確かに狙って出すのは現実的ではない。
条件を検証するにしてもし何かの累計であるのなら、検証中に発動しては目も当てられない。
これに頼るのはあまりにも運頼みが過ぎるだろう。


810 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:52:09 5eabS6Po0
「現状の戦力が頭打ちなら、協力者を増やすしかないでしょう」

単純に考えればそういう結論になる。
頷きこそしないが、その言葉をディビットは否定しない。
数を増やすというのはもっとも手っ取り早い戦力補強だ。

だが、それだけに課題も多い。
このアビスに信用して背中を預けられる人間がどれだけいるのか。

「お前のように刑務作業中の協力者を増やそうとまでは言わん。1戦だけでいい。
 あのジジイはそれ相応に恨みも買ってるからな、命を狙っている輩は少なからずいるだろうさ」

ルーサー・キング殺害という一時的な利害の一致。
これに乗る人間は少なからずいるはずだ。

「まあ、恨みという意味では俺も人のことを言えた立場ではないがな」

ディビットは皮肉めいた笑いを浮かべた。
長年、イタリア方面で勢力を拡大してきた彼にも、恨みを持つ敵は多い。
キングと同じく狙われる側である自覚はある。

「なるほど。それなら、牧師殿が殺害依頼を出した5人は候補に入るでしょうね」

キングが殺害依頼を出したということは、その標的たちはキングの命を狙う存在であると言うことだ。
その依頼自体がキングにとっては危険な刃物となって跳ね返ってくる。
ディビットは思考を巡らせながら頷いた。

「そうだな。ネイ・ローマンあたりは確実に乗ってくるだろう。
 逆にジャンヌ・ストラスブールは無理だろうな。あの手の聖女様は”潔癖症”だ、俺のような悪党(カモッラ)と手を組むことはないだろう」

ディビットが確実に協力を予測できるのはこの二人のみだった。
怪盗ヘルメスとブラッドストークについては行動を読むことが難しい。
そして、あと一人については情報不足が顕著だ。

「エネリット。お前、どの程度受刑者のことを把握している?」

ディビットの視線が真剣さを増す。
アビスで育ったアビスの申し子ならば、この刑務所内の事情にも精通しているはずだ。
それがどの程度のものなのか、その実態を今一度確認しておきたかった。

「流石に歴の浅い受刑者は微妙なところですが、1年以上いる受刑者であれば顔と名前くらいなら全員わかりますよ」
「それは『秘匿』も含めてか?」
「ええ、『秘匿』も含めてです。まあ面識があるとまではいきませんが」

どうやって知ったのか気になるところだが、今はそれを問い詰める状況ではない。
もっと重要な事項がある。

「ならば、エンダ・Y・カクレヤマとの面識はあるのか?」
「遠目で見た程度ですので面識と言うほどのものでは、お奇麗な方でしたよ。性格までは存じませんが」
「少なくとも顔を見れば判別はできるということだな?」
「ええ、それは問題ありません」

エネリットの返答は理想とは言えないまでも、決して悪くない。
問答無用に殺し合いに発展する前に、交渉を持ちかけるだけの余地があるということだ。
協力者を増やす方針が確実とは言えないまでも、選択肢が増えることは好材料である。


811 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:52:25 5eabS6Po0
「とは言え、数を増やす方針は不確定だ。交渉の成否以前に出会えるかもわからん。
 当面の方針は変わらずまずは恩赦Pを得る。そのポイントを使って戦力の強化を計る。いいな?」
「堅実な策だとは思いますけど、時間をかければ向こうの戦力も整うのでは?」

刑務作業者の条件は同じだ。
ポイントによる戦力強化できるのはディビットたちだけではない。
時間をかければキング側も強化されて、いたちごっこになるだけではないのか?

「いや。恐らくそれは、ない」

ディビットが静かに、だがはっきりとその懸念を否定した。

「そもそも奴は無理にポイントを稼ぐ必要がない。それが奴の強みであり、同時に最大の弱点だ。
 あのジジイには積極的にポイント集めに奔走する動機がないのさ。それこそ1ポイントも獲得できなかったとしても、あと6年アビスに勤めればいいだけの話だからな」

ルーサー・キングにとって、この刑務作業自体が想定外のアクシデントにすぎない。
元々、短期間の獄中生活を甘受しているキングには、この恩赦Pを必死になって集める理由がほぼ存在しない。
短い刑期という利点は、同時にリスクを冒してまでポイント獲得を目指す動機が薄れるという弱点にもなっている。
ポイントが集まらなければ副次的な恩恵も受けらず、戦力の強化も図れない。

「無駄なリスクは冒さん男だ。俺たちに持ちかけたように、自分のポイント獲得は度外視で他人を使って危険を排する方向に動くだろう。
 まあ、ポイントの方から転がり込んでくれば話は別だろうがな」

暗黒街の首領は自ら積極的に動くことはない。
仮に動くとしても、ポイントのためではなく、己の安全確保のために人を手駒にして使うはずだ。
フィクサーとしてのキングをよく知るディビットはそう予測している。

「ですが、食料の問題もあるでしょう。この刑務作業、ポイントを稼がないと飲まず食わずになる」

今回の刑務作業は食料の支給がなく、自力で確保しなければならない。
しかし、森には動物どころか果実すら見当たらず、この孤島での自給自足は難しい状況だった。

「24時間程度なら飲まず食わずでも死ぬことはないだろう?」

ディビットは軽く言い放ったが、エネリットはそれに慎重な意見を述べる。

「死にはしませんが、補給があるかないかでは体力や集中力に明確な差が出ます。
 序盤である今はともかく、終盤においては恩赦Pで食料を買っておかないと、体力差で押し切られる可能性があります」
「ふん。確かにな。特にネイティブ世代(おまえら)は燃費があまりよくないらしいからな」
「育ち盛りなもので」

ディビットはエネリットの懸念に同意した。
ネイティブ世代は超力を制御する脳活動が活発で、必然的に消費カロリーが高い。
刑務作業の後半になればなるほど、その影響は顕著になるだろう。
後半戦を考えるなら食料の確保も一つの課題になりうる。

「そうなると、水場の確保は争いの種になるかもな」
「そうですね、海水は飲み水になりませんし、湖は南に一つだけですから」

食料問題だけでなく、水場も極めて重要な資源となる。
目の前の川の先にも湖があるが、海からつながる汽水湖であるため飲み水としては使えないだろう。
後半になれば参加者は水を求めて湖に集まる可能性は高い。
それを待ち伏せに使うか、それとも先んじて水の確保に向かっておくのも策としてはありだろう。

「そう言えば、あの牧師殿、衣服がずぶ濡れでしたね。何があったんでしょう?」
「さてな。海にでも落ちたか、それとも水を生み出す超力者と戦いでもしたか」

もしそんな超力者がいるのなら、水の確保という意味でも大きなアドバンテージである。
接触したい気持ちもあるが、ルーサー・キングと一戦交えるような輩だとするのなら下手に接触すれば命取りになるかもしれない。
そんな相手とは関わらない方が無難だろう。


812 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:52:57 5eabS6Po0
「まあ、いいさ。いざとなれば俺のポイントを使って食料を確保すればいい」

ディビットは豪胆に言い切った。
無期懲役のエネリットと異なり、必要ポイントが比較的少ないディビットには多少の余裕がある。
ディビットは守銭奴ではあるが、投資すべきところでは躊躇なく投資をする。その使いどころは見誤らない。
ルーサー・キングを排除する価値を考えれば、安い投資だ。

「いえ。自分の食料くらいは自分で確保しますよ。装備の確保も僕も自分ポイントを使って用意しますよ」

あくまでも対等でいたいという矜持か、エネリットはその申し出を断った。
その発言にディビットは怪訝そうに眉をひそめ、目の前の少年を睨みつける。
そうして、これまで感じていた違和感の意味を悟った。

「どうしました?」
「そうか。やはりお前、最初から出獄(で)るつもりがないな?」

それは質問というより、確認のための指摘だった。
エネリットはポイント獲得の意欲こそ示していたが、それを自らの出獄に使うとは一度も明言していない。
最初の森でディビットに問い詰められた際も一般論を答えただけで誤魔化している。
その指摘を受けたエネリットは僅かに眉を顰め、困ったように肩をすくめる。まるで犯行を言い当てられた犯人のような仕草だった。

「ない、と言うより殆どできないと思っている、ですかね。
 この刑務作業は最初から死刑囚や無期懲役囚を恩赦するようにデザインされていない」

エネリットは冷静かつ明瞭な口調で、自らの分析を静かに述べた。

「何故、そう思う?」

ディビットは眉をひそめ、問い返した。
出獄のハードルが高いことは誰もが理解している。
だが、そこまで断言できる根拠はどこにあるのか。
エネリットは少しだけ間を置いて、その説明を始める。

「まず大前提として、この刑務作業の中で獲得できるポイントの上限は決まっています。
 当然ですが、恩赦ポイントが刑期に相当する以上、それは絶対的な上限です。
 そして、その総数は減ることはあっても増えることはない」

恩赦Pが刑期とイコールである以上、報酬である恩赦Pは刑務作業者全員の刑期の総量を超えることはない。
ここまでは誰もが理解することだ。ディビットは静かに頷き、先を促した。

「そして、このポイントは譲渡不可能で、一度獲得したポイントは獲得者本人しか使用できません。
 報酬を物品に変換すれば間接的な共有は可能ですが、それでも唯一共有できないものがあります」
「刑期だな」

ディビットの回答に、エネリットは小さく頷きを返す。
刑期の恩赦こそ、この刑務作業における、ある意味でのメインコンテンツである。
だからこそ大抵の受刑者はそれを目標とするだろう。

「問題なのは死刑囚や無期懲役者が一括払いしか許されないという点、そして刑期の恩赦は刑務の終了後に清算されるという点です。これが何を意味するか解りますか?」

その問いに、ディビットは即座に理解を示した。

「多くの参加者は大量のポイントを最後まで保持し続ける必要がある、ということだな?」
「その通りです。死刑囚や無期懲役囚ほど多くの恩赦Pが必要であり。それを抱え続けねばならない。そして、」

そこまで聞けばディビットにもエネリットが言わんとすることが理解できたようだ。
エネリットの言葉を引き取ってディビットが続ける。

「そして、死刑と無期懲役は高ポイントの『マト』として狙われやすい、か」

エネリットは静かに頷いた。


813 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:53:12 5eabS6Po0
「そう。つまりこの刑務作業は意図的に『抱え落ち』が発生しやすいように設定されている。
 僕の予想では、この総ポイントの半分以上が使われることなく死蔵されることになるでしょう」

大胆な推測だが、ここまでの説明でディビットもそれが十分にあり得ることを理解していた。
多くポイントを保持した人間が死亡しやすいように設計されている以上、多くのポイントが使い切る前に命と共に失われるだろう。

「さらに、単純に400ポイントを稼ぐだけでも難易度は高い。
 アビスの連中が一筋縄ではいかないというのもありますが、それ以前に、恐らく刑務作業が進むにつれて恩赦を諦め生存だけを目的とする連中が現れて徒党を組み始めるからです」

生存目的の集団と恩赦を目指す単独行動者という二極化が進行する。
それがエネリットの予測する勢力図だった。

弱者は集団の中に身を隠し、恩赦を追い続ける強者は孤立する。つまりは状況が進むにつれカモがいなくなる。
刑務作業が進めば進むほど、孤立する恩赦目的の受刑者は狙われやすくなる。
だからこそディビットとの恩赦Pを目的とした協力関係は、エネリットにとって極めて貴重なものだった。

「これを回避するには、まだ集団が形成される前の序盤に荒稼ぎするしかありません。
 ただし、仮にポイントを確保できたとしても、今度は作業終了までポイントを保持して逃げ続ける立場になりますが」

鬼ごっこの鬼と子の立場が逆転する。
膨大なポイントを抱えて刑務作業の終了まで逃げ延びなくてはならない。

「24時間程度なら、どこかに隠れているのはそう難しくないだろう?」

ディビットの見通しにエネリットは首を横に振る。

「禁止エリアのルールがあります。穴熊を決め込むのは難しいでしょう」

徹底して、恩赦ポイントを失わせる仕掛けが刑務作業のルールには組み込まれている。
希望を与えておきながら届かない位置に設定しているのは、悪辣なヴァイスマンらしい仕掛けである。

「だからこそ使用前の首輪には価値がある」

エネリットが保持しようとしているのは、失われない生のポイントだ。
最初から出獄を目指していないエネリットにとっては、ポイントも首輪も自分のために使う必要がない。
だからこそ、エネリットは恩赦Pという制度を最初から人を使うための道具としてみていた。
それは、闇の皇帝ルーサー・キングとは別種の人の上に立つ資質だった。

「なるほどな。お前の言う理屈は分かった。なら、お前の目的は何だ?」

ディビットは鋭く問う。
出獄を目指していないのならば何故、ディビットと手を組んでまで恩赦Pを集めようとしているのか。
その問いにエネリットは淡く笑い、冷静に答えた。

「前にも言ったでしょう? ――――――復讐ですよ」

その静かな微笑みの中に宿る冷たい炎に、ディビットは底知れぬ不気味さを感じ取った。
その先の真意を問うべくディビットが言葉を放とうとした、その時だった。


814 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:53:45 5eabS6Po0
石橋の向こう、月光の薄く射す廃墟から、ゆっくりとした足音が響いてきた。
ほどなく現れたのは、まるで月明かりが彫り出したかのように完璧に整った顔立ちの青年だった。
長く伸びた艶やかな髪が、夜風にさらわれ青白く煌めいている。
その美しさは現実離れしており、見る者に夢幻のような錯覚を抱かせた。

「やあ、エネリット。こんなところで会うとは奇遇だね」
「こんばんは。図書館以外でお会いするのは初めてですね、蓮さん」

耳に心地よい柔らかな声が夜の静寂を微かに震わせる。
エネリットはまったく動じる素振りを見せず、いつもの穏やかな微笑を浮かべて静かに会釈した。
穏やかに交わされる二人の会話とは裏腹に、見えない刃が互いの喉元に向けられているかのような緊迫感が場を支配していた。
まるで瞬き一つが命取りになりかねない危うさが、その場に立つ誰の目にも明らかだった。

現れた青年――氷月蓮とエネリットは、図書館で哲学や倫理を何度も議論し合った間柄だ。
互いの深い知性を認め合い、同時にお互いが油断ならない存在であることを知り尽くしていた。

氷月の鋭い視線が一瞬だけディビットへ向けられ、そして再びエネリットに戻る。
瞳に何を映しているのか、その微かな笑みに込められた本心を読み解くことは難しい。
その視線を受けたディビットの背筋に冷たいものが走り、思わず警戒心から拳を強く握りしめた。

エネリットがゆっくりとディビットへ視線を送った。
それは、この場の交渉を自分に任せるという無言の合図だった。
ディビットは即座にそれを理解し、小さく頷いて後方へと控える。
それは、先ほどのルーサー・キングとの交渉とは逆の構図となっていた。

「ところで、その服。どうされたんですか?」

まるで日常の世間話のように、エネリットは何気ない口調で尋ねた。
氷月は薄く微笑んだが、その微笑は感情を窺わせない。

「ああ。これかい? 焔の魔女に襲われて囚人服を失ってね。そこの廃墟の民家から拝借させてもらったんだ」
「それは、災難でしたね」

互いの言葉遣いは柔らかく、表面的にはまるで友人同士の他愛もない会話のようだ。
その内面では相手の真意やわずかな動きを一瞬たりとも逃さぬよう神経を尖らせているのがディビットの目にもわかる。
その証拠に、氷月の視線はさりげなくディビットに注がれ、明らかな牽制を感じさせる。

「蓮さんは、この刑務作業をどのように進めるおつもりですか?」

探るようにエネリットが尋ねると、氷月は静かに首を傾げながらも、微笑を絶やさずに答えた。

「積極的に作業を行うつもりはないよ。今は、身を守るために信頼できる同行者を探しているところさ」

生存目的の人間が集団を組もうとしている。
それは先ほどエネリットがディビットに語った考察通りの内容だった。
だが、その想定内の答えに対して、エネリットは驚いた表情を作るように軽く眉を上げる。

「それは意外ですね」
「そうかい?」
「ええ、だって蓮さん。今は『見えている』のでしょう?」

ディビットには意味が分からない言葉だったが、その言葉に、氷月の微笑が一瞬深まった。
それは相手の殺し方が見えるという氷月の超力を知らねば出てこない言葉だった。

「失礼ながら。図書館で同席するようになってから調べさせて頂きました」
「人の秘密を探るだなんて、悪い子だ」
「アビスの子ですので」

戯れのような蓮の軽口に、エネリットは悪びれず澄ました顔で返した。
やんごとなき血を引く人間にとって付き合う人間の身辺調査が嗜みである。
だとしてもアビスの囚人がそのような事をどうやって調べたのか、その底知れなさに氷月は一瞬だけ瞳を細める。
自らの超力が割れている事実を受け、静かに口を開いた。

「なら、今がどういう状況か、君には分かっているはずだ」

氷月の視線の奥には、すでにエネリットの死が刻まれていた。
どの角度から、どの力加減で、どの順番で攻撃すれば最も効率的に殺せるのか――その答えは、まるで目の前に浮かぶ設計図のように、明瞭に彼の脳内に広がっている。
まるで本に書かれた結末を朗読するかのように、彼がそれをなぞるだけでエネリットは殺害されるだろう。


815 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:53:58 5eabS6Po0
「では、なぜやらないんですか?」

エネリットは不敵な顔で問う。
氷月の持つ殺害の最適解が見える超力。
その対抗策は警戒心を緩めない事だ。それが最適解の難易度を上げる事に繋がる。
余りにも容易な最適解を目の前に用意されれば、氷月はきっと殺人衝動に抗えない。

加えて、背後のディビットが鋭く目を光らせている。
エネリットに対して下手な動きを見せれば、すぐさま彼に叩き潰されるだろう。
冷静に損得を見極められる氷月だからこそ、今は殺せる状況ではないことをよく理解していた。

「お辛そうですね、蓮さん」
「そう見えるかい? エネリット」

エネリットは全てを見透かすような瞳で氷月を捉える。
これまでは見えないからこそ耐えられた。
だが、この場でシステムAと言う首輪から解放され『殺人の資格』を獲られたのだ。
殺せる相手を目の前にして殺せないという状況は氷月にとっては耐えがたい苦痛である。

「そうですね。僕だけ一方的に相手の超力を識っていると言うのはフェアじゃありません。
 ですので、僕の超力について明かしましょう」

アビスの申し子は唐突にそんなことを言い出した。
その意図がつかめず氷月の表情が怪訝に曇る。
傍で聞いているディビットですら、どういうつもりなのか読めていない。
周囲の困惑を余所にエネリットは説明を続ける。

「僕の超力は他者の超力を一時的に借り受けることができるのです。
 借り受けた超力の精度は僕に対する信頼度によって変動します。
 そして、互いの合意の下で借り受ける場合、元の持ち主はその力を一時的に使えなくなるんです」
「なるほどね。そういう事か」

そこまで説明を聞いて、氷月の表情に理解が浮かぶ。

「つまり、私の常時発動型の超力を君が引き受けるという事だね、エネリット」
「ええ。だって蓮さん、見えていたら耐えられないでしょう?」

それは、氷月蓮という男の本質を突く一言だった。
逆鱗に触れてもおかしくない言葉を嫌味なく平然と言ってのける。
その人間力こそが超力以上のこの少年の力だろう。

「僕らと手を組みませんか? 蓮さん」

そう言って、エネリットは手を差し出す。
戦力強化を目論むディビットの目論見と、集団を作ろうという氷月の目的は一致している。
自分の殺し方を観ている相手に自ら踏み込んでいく。
恐ろしいまでの大胆不敵さである。

「なるほど。互いのメリットが明確になっているいい提案だ。君と手を組んで、あの日の議論の続きをするのも悪くないだろうね」

生徒を褒める教師のように氷月は手を叩く。
エネリットの超力は使い用によっては疑似的なシステムAとして機能できる。
見える殺意も信頼率により軽減され、何よりサイコパスである氷月と違い、エネリットに強い衝動性はないため、見えた所で問題はない。
氷月は殺人衝動に振り回されず、エネリットは戦う力を得られる、互いに益のあるWIN-WINの提案である。
だが、氷月は差し出された手を取る事はなくその手を収めた。

「だが、前提を間違えているね。この刑務作業においてはその衝動は耐える必要がない、違うかな?」
「それは状況次第でしょう。誰も彼もを殺しまわっていてはそのうち立ち行かなる」

氷月は思案するように整った目を細める。
その様は月下に照らされ、一つの芸術品のようでもあった。

車が進んでいくにはアクセルだけではなくブレーキが必要だ。
そうでなければただの暴走と変わらない、そのうち事故になるのは目に見えている。
それが分からない氷月ではないはずだ。


816 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:54:08 5eabS6Po0
「その提案は魅力的だが、今回は遠慮しよう。おそらく私の目的と君の目的は一致しない」

だが、氷月はこの提案を蹴った。
氷月は集団に潜り込むことを目的としていたが、その対象は彼らのような積極的な刑務者ではない。
何より、図書室での問答を思い出せば、最終的な目的すらも大きく異なるだろう。

「それは残念。では――――殺し合いますか? この場で」

何の恐れもなく、明日の予定でも確認するかのように問いかける。
交渉が決裂した以上、そのなるのは必然の流れだ。
氷のように冷たい静寂が周囲に落ちる。

「それもやめておこう。2対1では分が悪すぎるし、君を殺したくないと言うのも本音だからね」
「そうですか」

氷月は張り詰めた空気をいなすように涼しい顔で返答する。
その答えをエネリットも平然とした顔で受け止めているが、一瞬でも気のゆるみを見せれば氷月は即座に殺害衝動を刺激することを理解していた。

「せっかくのお誘いを断ったお詫びと言う訳ではないが一つ情報を上げよう。
 私の確認した限りでは北の廃墟には誰もいなかった。人を探すなら別の所を当たった方がいい」
「なるほど。ありがとうございます」

人がいないと言う情報は人がいると同じように戦力を探すにしても、標的を探すにしても有用な情報である。
それだけを告げると、氷月は静かに歩き出した。
まるで夜の闇に溶け込むような、滑らかな動きだった。

氷月は二人の間を抜け、そのまま一定の歩調を崩さずに歩いていく。
その横を通り過ぎるその瞬間、ピクリとディビットの指がわずかに動いた。
だが、その動きをエネリットが片手を上げ、静かに制す。
遠ざかる足音が止まることなく、冷たい夜の空気に静かに吸い込まれていった。

「行かせて良かったのか?」

低く押し殺した声でディビットが問う。
それは情緒的な意味ではなく、交渉が決裂したのならここで殺しておくべきではなかったのか? と言う意味の問いかけだった。

「ええ。戦っていれば勝てはしたでしょうが、どちらが殺されていた可能性は高かったでしょう。
 たった一人を殺すと言う点においてはあの人の超力は最強……いえ最適に近い」

だからこそ、あの超力が欲しかったのだが、残念ながら交渉は決裂してしまった。
エネリットであれば実行の部分を他の超力を生かしてより効率的に行えただろうに、それだけに惜しい。

「だが、また標的を逃したとなると痛いな」
「そうですね」

今の所、出会った相手がルーサー・キングとその囮にした少女2人。そして氷月。
出会いの運が悪かったと言えばそれまでだが、恩赦Pを稼ぐための同盟がまだ1ポイントも稼げていない状況はあまりよろしくない。

「人の集まる場所を目指すべきだな」

どちらの目的のためにも恩赦Pは必要だ。
道すがらの偶然を頼るよりは、人の集まりそうな場所を目指した方がいい。
廃墟も候補の一つだったが、氷月からの情報によればあまり人気はないようだ。

「人が集まりそうなランドマークは中央のブラックペンタゴンと南西の旧工業地区でしょうか? それとも先に水場を確保しますか?」
「そうだな…………」

エネリットの提案を受けディビットは思案する。
人がいないのは話にならないが、かといって人が集まりすぎると言うのもウマくはない。
出来れば数の利を生かして各個撃破が理想である。

長期戦を考えるなら水場の確保も重要だろう。
水も恩赦Pで買うと言う手段もあるが、熊を狩る前に毛皮を売る算段をしても仕方あるまい。

決戦は刑務作業の後半。
それまでに武装と食料を整え英気を養い、体勢を万全にして暗黒街の皇帝を殺害する。
その為の第一歩として、次の行動を決断をせねばならない。


817 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:54:21 5eabS6Po0
【D-7/橋近く/1日目・黎明】
【エネリット・サンス・ハルトナ】
[状態]:鼻と胸に傷、衝撃波での身体的ダメージ(小)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.復讐を成し遂げる
1.標的を探す
2.ディビットの信頼を得る
※刑務官『マーガレット・ステイン』の超力『鉄の女』が【徴収】により使用可能です
 現在の信頼度は80%であるため40%の再現率となります。【徴収】が対象に発覚した場合、信頼度の変動がある可能性があります。

【ディビット・マルティーニ】
[状態]:苛立ち
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.恩赦Pを稼ぐ
1.恩赦Pを獲得してタバコを買いたい
2.エネリットの取引は受けるが、警戒は忘れない。とはいえ少しは信頼が増した。
3.ルーサー・キングを殺す、その為の準備を進める

【氷月 蓮】
[状態]:健康
[道具]:Tシャツ、ナイフ3本、フォーク3本、デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.恩赦Pを獲得して、外に出る
1.まずはチームを作る、そしてその中で殺す


818 : 殺害計画/衝動 ◆H3bky6/SCY :2025/03/15(土) 19:54:38 5eabS6Po0
投下終了です


819 : ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:47:35 D2wfAzhk0
投下します。


820 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:48:22 D2wfAzhk0

 ────ブラックペンタゴン、図書室。

 こつ、こつ、こつ、こつ。
 小気味いいリズムを刻む靴の音が響く。
 鼓膜を叩くその音色へ眉間に皺を寄せる男、只野仁成。
 彼の視線は手元の本から、その音を奏でる少女へと移った。

 こつ、こつ、こつ、こつ。
 黒いテーブルを間に挟み、仁成と向かい合うように椅子に座る少女、エンダ。
 硬い靴で床を叩きながら、夢中で分厚い本を読み耽る彼女は仁成のため息に気が付かない。

「行儀が悪いよ」
「え? ああ、ごめん」

 一瞬上目遣いの一瞥をくれたかと思えば、エンダの視線は再び手元の本へと移る。
 リズムを失い訪れる静寂。重苦しいそれを取り持つヤミナが不在中のため、沈黙は暫く続いた。


◾︎


821 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:49:15 D2wfAzhk0


 時は少し遡る。
 ブラックペンタゴンに到着したエンダ、仁成、ヤミナの一行は入口に掲げられた簡素な案内板をまじまじと見つめていた。
 特にエンダの興味を惹いたのは『図書室』という文字。これみよがしに探索してくださいと言わんばかりの強調具合だ。
 彼女の意向に従いまずは図書室を目指そうとしたのだが、その際ヤミナが──

『と、とと、トイレ行きたいんですけどぉ〜〜へへ、へへへ……だめ、っすかねぇ…………?』

 と、いかにもな三下ムーブと共に申し出たためエンダと仁成は先に図書室に向かうことにした。
 だだっ広いブラックペンタゴンの中に一人放り込まれることになったヤミナは勿論、自由を手にしたとほくそ笑んだが。

『先に言っておくけど、逃げたら殺す』

 エンダに釘を刺されたことで笑みが引き攣った。
 大慌てでトイレを探しに行く彼女の背中を見送り、二人は図書館へと向かうのだった。
 

 ────そして、今に至る。


 かれこれ図書室に到着してから十分以上は経過している。
 すでにヤミナが戻ってきてもおかしくない頃だが、まさか本当に逃げたのだろうか。

「エンダ」
「うん?」
「ヤミナ、逃げたんじゃないかな」
「ああ、それね」

 気になった仁成はエンダへ問いかける。
 しかし当のエンダは本に目線を落としたまま、無機質な声色で答えた。

「超力で作った蝿を飛ばして監視させてるから大丈夫。逃げようとしたら私に報せが来るからね」

 淡々と告げるエンダ。
 さも当然のように言ってのける彼女に対し仁成は顔を顰める。
 彼女の無愛想さに嫌気がさしたわけではない。
 ただ純粋に、気になったことがあった。

「君の超力、一体なんなんだ?」
「なんなんだ……とは、難しい質問だね」
「言い方を変えよう。君のその異能、何が出来て何が出来ないのか全くわからないんだ」
「ああ、…………なるほどね」
 
 この数時間でエンダが見せた超力。
 超力についての勉強をそれなりにしてきた仁成の目から見てもあまりに強力で、汎用性が高い。
 実体を持つ靄を操作するだけかと思っていたが、見ている限りそんなチャチな力ではなかった。


822 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:50:00 D2wfAzhk0

 靄の形を変えて攻防に使用することから始まり、物の収容や加工。
 相手の体内に潜らせれば肉体を蝕むことも、そして超力を奪うことさえ可能とする。
 正直に言って、一個人が持っていい範疇を超えている。

「僕は君を信頼したい。だから、その力について教えてくれないか」

 言葉通り、仁成はエンダを信頼出来ていない。
 まるで目的の見えない言動に加えて、人一人など即座に塵に変えてしまうような超力。
 本当に一緒に行動すべきなのか、今でも迷い続けている。

「たしかに、本来この身体はそんな力を持っていないだろう」
「と、いうと?」
「エンダという少女はあくまで人間の子供だ。超力の研鑽に身を注いだわけでも、覚醒に至るような人生を歩んできた訳でもない」
「…………よくわからないな」

 なにやら結論を遠回しにされているような気がする。
 彼女の意図をまるで汲み取れない。
 なにより、〝この身体〟だの〝エンダという少女〟だの、まるで他人事のような言い方が引っかかった。
 それについて尋ねようとしたところ、まるで仁成の思考を読み取ったかのようにエンダが口を挟む。

「そうだね、仁成。ここまで着いてきてくれて、ドンの討伐に貢献してくれた君になら話してもいいだろう」

 ぱたん、と本が閉じられる。
 美しい双眸に囚われて、仁成は息を呑んだ。
 






「────エンダ・Y・カクレヤマという少女は、君と出会う少し前に死んでいるんだ」






「……………………は?」

 呆然に費やした時間は何秒だろうか。
 あまりに突拍子もなく、荒唐無稽な一言を前に心の底から疑問の声を洩らした。


823 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:51:00 D2wfAzhk0

「えっと、……なに言ってるんだい?」
「言葉の通りだよ。この身体の持ち主はもうとっくに死んでいるんだ」
「そういうことじゃ…………いや、というか……え?」
「落ち着かない男だな。そういうキャラじゃなかったと思うけど」

 次々と溢れ出る質問のどれを口にすべきか判断がつかず、仁成は慌てた様子を隠せない。
 そんな彼の姿をどこかおかしそうに見つめるエンダ────いや、エンダと名乗る少女。
 しかし当の彼女は淡々と、まるで茶事の最中であるかのように語り続ける。

「あれは不慮の事故と言うべきかな。刑務作業開始から間もなく、山岳地帯を歩いている最中に突然嵐が吹き始めてね。突風と共に運ばれてきた鉄屑に背中を貫かれたんだ」
「…………信じられない」
「そうだろうね、エンダは昔から不運だったんだ」

 イマイチ会話が噛み合っていない。
 話の腰を折ることを危惧した仁成は黙って聞き入れる。
 次々溢れる疑問を一々言葉にしていれば、到底進みそうになかったから。

「そのままエンダの遺体は山岳から転び落ちて、仁成と出会った廃墟の前へ投げ出されたんだ。本当、かわいそうだよね」

 それが作り話であれば、どれだけ仁成は救われただろうか。
 頭のおかしい少女だと笑ってやれれば、どれだけ思い悩まずに済んだであろうか。
 しかしそれは彼女の真摯な眼差しが許さない。この短時間で、エンダがいかに理知的であるかを思い知らされた。
 彼女がここで嘘をつく道理など、ない。

「わかったよ、証拠を見せてあげよう」
「うわ、……わっ!?」

 疑いの目を敏感に察知したのか、エンダはひょいと椅子から飛び降りて探偵服を脱ぎ始める。
 慌てて止めに入ろうとした仁成だが、その前にエンダが背中を向けて素肌を晒すこととなった。

「…………!」

 仁成は言葉を失う。
 エンダの背中には深々と何かが突き刺さったような傷跡が刻まれており、抉れた肉を靄で補っている状態だった。
 通常であれば死に至るほどの傷であることはひと目でわかる。
 なのに血の一滴足りとも出ていない光景は、ある種の芸術作品のようにも見えた。


 ────エンダの言うことは事実だ。


 時刻は0時20分前後。
 G-7エリアにて刑務開始したエンダは散策中、ジョニー・ハイドアウトとドン・エルグランドの戦闘に出くわした。
 嵐に足を取られている中、ドンが破壊したジョニーの鉄屑の一部が背中へ突き刺さり──そのまま人知れず死亡。
 小柄な身体は鉄の銃弾に射抜かれた衝撃と吹き荒ぶ猛風によって山岳から滑落し、D-7の平野へ運ばれた。

 つまり、だ。
 本来であればエンダは、アンナ・アメリナに次ぐ第二の脱落者となるはずだったのだ。
 何故そうならなかったのか、当然カラクリがある。


824 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:51:48 D2wfAzhk0

「────どうして生きているんだ、という顔をしているね」

 ああ、やはり隠し事はできない。
 よほど感情が顔に出ていたのだろうか。
 先読みされた仁成は少し面白くなさそうに口を噤みながら、ゆっくりと頷く。

「仁成はヤマオリ・カルトについてどのくらい知っているの?」
「……ほとんど知らないな。開闢の日以降に発足して、あちこちに乱立しているということくらいだよ」
「物知りだね、それだけ知っていれば上等だ」
「皮肉はいいから」

 探偵服を着直しながらふん、と鼻で笑うエンダ。
 馬鹿にされているような気がしなくもないが、初めて見た人間らしい仕草に怒りなど湧かなかった。
 
「ヤマオリ・カルトの連中は『ヤマオリ』にまつわるものを全て自分のモノにしようとした。その過程でエンダも拉致されてしまったんだ。彼女の祖父は山折村の出身だからね」

 終始他人事のように話すエンダ。
 その様子が少し不気味に感じて、思わず仁成は震えた声で疑問を投げた。



「────君は、誰なんだ?」



 きっと、その問いが来ることを待っていたんだろう。
 エンダは再び椅子に座り直し、じっと仁成の目を見据えて離さない。

「仁成、〝神降ろし〟という言葉は聞いたことある?」
「……いや」
「つまるところ、憑依のようなものさ。巫女が仕える神をその身に宿す儀式と呼ぶべきかな。テレビとかで見たことない?」
「ああ、…………何度か見たことあるかも」

 歯に物が詰まったかのような言い方の仁成にむ、と口を尖らせるエンダ。
 けれど彼の意図を汲み取ったのか、すぐに不敵な笑みへと変わった。

「正直ああいうの、胡散臭いって思ってるでしょ?」
「そんなことは」
「いいんだよ、実際本当に出来る人間なんてほとんどいないんだから。よほど演劇が上手い人が取り沙汰されるのが実態さ」

 言いながら、一冊の古びた本を取り出す。
 開かれたページには神社の白黒写真が載せられており、夥しい数の日本語が並び立てられていた。
 大きく掲載された〝カクレヤマ〟という文字から察するに、エンダと関わりが深い書物なのだろう。


825 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:53:01 D2wfAzhk0

「エンダの家系もそう。先祖代々、山折村から少し離れた場所にある〝カクレヤマ〟という土地で神を祀ってきた。巫女に選ばれた娘達はみな、〝神降ろし〟と称したパフォーマンスをして細々と信者を増やしてきたんだ」

 たしかに、その記述がある。
 カクレヤマの土地神を身に降ろし、演舞を行うことで豊穣と無病息災を齎すらしい。
 いかにもそれらしい、至って平凡な神事にまつわる記事だ。


「けれど唯一、エンダだけは本当に〝神降ろし〟が出来てしまったんだ」


 目を丸くする。
 何が来ても驚きはしないと身構えていたのに、この言葉は予想外だった。

「それって、つまり──」
「ああ、エンダはカクレヤマの土地神を身に宿すことができた。単純な憑依だけではなく、心身を通わせた彼女は神と自在にコミュニケーションを取ることも出来ていた」

 一般的に言う憑依とは、肉体の持ち主の意識が失われる代わりにその隙間に憑依対象の魂を差し込む形になる。
 本人が憑依中の記憶を引き継ぐことは基本的にないが、エンダはそれを可能としていた。
 それだけでなく、普段から心の内で神と交流出来ていたと言う。


(…………まて、それって────)


 ようやくこの話の結論が見えてきた。
 どうして今そんな話をしたのか。
 元を辿れば、死んだはずのエンダがなぜ今生きているのかという話だったはずだ。

 ──まさか、と。
 仁成が思い至った結論はあまりにも非現実的で、不条理で。
 それでも、その仮定を事実とすれば今までの疑問全てに説明がついてしまった。
 
 仁成の思考を読み取ったのだろう。
 エンダは少し気どったような顔をしたかと思えば、パチンと指を鳴らして見せた。


「そう。今、君の目の前にいるのが────カクレヤマの土地神さ」


 ──ああ、なるほど。
 冗談じみた説状を笑うでも、呆れるでもなく仁成は納得する。
 
 道理で人間味を感じないわけだ。
 身に纏うミステリアスな雰囲気も、正体不明の超力も、自然と腑に落ちた。
 普通ならばこういう時、どんな反応をするのが正解だろうか。

 神との対話という異常事態。
 途方もない時間、俗世をずっと見守ってきた存在が今、手の届く距離にいる。

 神とはどういう存在なのか。
 世界が築いてきた歴史はどんなものなのか。
 死とはどういうものなのか。

 それら全てを答えられる存在が目の前にいる。
 彼女の醸しだす威圧に似た雰囲気から、投げられる質問は一つだけなのだと理解した。
 ただ一つ許された質問、仁成が選び出した言葉は。
 
「エンダは」
「うん?」
「エンダは、どんな子だったんだい?」

 神についてでも、世界についてでもなく。
 エンダ・Y・カクレヤマという一人の人間について訊いた。

「────ふ、っ」

 それがおかしくてたまらなくて。
 カクレヤマは思わず噴き出した。

「聞いちゃダメだったかな?」
「まさか」

 ──むしろ、聞いて欲しい。
 そう続けて、土地神は詩を綴る。
 誰にも知られぬまま命を落とした、エンダという一人の少女の詩を。


◾︎


826 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:53:57 D2wfAzhk0


 エンダはよく笑う、穏やかな少女だった。
 幼い頃から巫女としての役目を全うし、両親からは手塩にかけて育てられてきた。
 絵を描くのが好きで、一クラス五人ほどの小さな学校にも通っていた普通の少女だった。

 けれど、彼女が七歳になったある日。
 カクレヤマの風習により、エンダは〝神降ろし〟の儀式を行うことになった。

 それからだ。
 周囲が怪奇の目で見るようになったのは。
 母親は自分を崇め奉り、父親は化け物でも扱うかのように遠ざかる。
 村民はエンダを神の遣いだと恐れ戦き、反発すれば災いを呼ぶと噂が広がり丁重に扱った。
 差別と敬仰にまみれた視線を向けられる中、エンダが孤立に気がつくのにそう時間はかからなかった。

 けれど、エンダは挫けなかった。
 積極的に明るく振る舞い、自ら交流を深めようと努力した。
 カクレヤマの土地神としてではなく、エンダという少女を見て欲しくて。
 けれどその努力も虚しく、人々はエンダを見ようとしなかった。
 畏怖と陶酔の瞳の中にあるのは、いつもカクレヤマの神だったのだ。


 ある日、ヤマオリ・カルトの信者達が村を襲撃した。
 エンダの噂を嗅ぎつけた信者にとって、彼女はあまりにも都合のいい存在だった。
 ヤマオリの血を引き、神を宿す少女。
 それを手に出来るのならば当然、殺人だって厭わなかった。

 エンダは自分の超力を把握していなかった。
 ましてや、それを戦いのために使うなどという発想に至るはずもなく──あまりにも呆気なく、エンダは拉致された。
 数多の死傷者が出たカクレヤマの村は壊滅し、生き延びた村民は別の村へ移住したことを聞かされた。

 エンダの重要性を理解した信者たちは、彼女を組織の飾り巫女として利用することにした。
 表向き神聖なる象徴として崇め奉ることで、組織の拡大を狙ったのだ。

 ────エンダ・Y(ヤマオリ)・カクレヤマ

 まるで誇示するかのように、一人の少女にヤマオリの名を授けた。
 しかしそんな組織も長くは続かず、GPAエージェント達によって壊滅させられ、エンダも捕縛されることとなる。
 平凡で普通な人生を送るはずだったエンダは、終始檻の中で孤立することとなったのだ。
 

◾︎


827 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:54:44 D2wfAzhk0


「ねぇ、仁成。エンダの人生を奪ったのは、一体誰なんだろうね」

 エンダの生い立ちを話す中、不意に土地神が
そう問いかける。
 言葉に詰まった仁成は暫し悩む。
 ここで言う人生を奪った、というのは単純に彼女の死因についてではないのだろう。
 ならば、あまりにも候補が多すぎた。

「ドン・エルグランドや鉄屑人間か? ヤマオリ・カルトの連中か? カクレヤマの村人か? ……いいや、違うね」

 神は笑う。
 ひどく虚しそうに、自嘲するように。


「────私さ。カクレヤマの土地神が、エンダの人生を狂わせたんだ」


 感情の読めない瞳。
 けれど、その奥底には確かな悲しみが込められていて。
 思わず仁成は、陳腐な言葉を紡ぐために唇を震わせる。

「…………、それは」
「それは違う、か。なら神降ろしに失敗していたら、エンダはもっと悲劇的な人生を歩むことになっていたのかな?」

 ダメだ。
 只野仁成という人間が、何を言ったところで神の心を揺らがせることなど出来ない。

「同情が欲しいわけじゃない、少し黙って聞いていてくれ」

 元より、これは独白に近い。
 無敵と思えたエンダが見せた弱み。
 懺悔を聞くはずの神が、懺悔をする。
 実に奇妙で、実に不思議な時間が流れゆく。

「私はエンダに恨まれて当然の存在だ。神降ろしなんてつまらない儀式のせいで、エンダは全てを失ったんだから」

 この少女は、こんなにも人間らしかっただろうか。
 一度弱みを見てしまったがゆえか、仁成は彼女から神秘性をまるで感じなくなっていた。
 手を伸ばしても絶対に届かない領域にいると思っていた未知の存在は、自分となんら代わりない生き物であると知った。

「けれどね、エンダはいつも私に心の中で語りかけてくれていた。『神さまのおかげで寂しくない!』……ってね。笑っちゃうだろう?」

 どこか懐かしむように。
 どこか寂しそうに。
 哀愁と共にみせた微笑みは、仁成が知るエンダの中で一番人間らしかった。


828 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:55:49 D2wfAzhk0
 
「きっと私は、エンダに惹かれていたんだろうね。あの子の命がこんな形で奪われることを認めたくなかったんだ」

 仁成は息を呑む。
 エンダという少女は、あまりにも自分の境遇と似通っていた。
 平凡な人生を歩むはずだったのに、特異な体質のせいで悪意に満ちた周囲に追われる身となって。
 拉致され、捕縛され、理不尽な無期懲役を言い渡されて。

 それでもただ一つ違うとすれば。
 世界を恨む自分と違い、エンダは誰も恨まなかった。
 すぐ傍に恨み言をぶつけられる対象がいるというのに、エンダは終ぞそれをしなかった。
 それがいかに困難なことなのか、仁成だからこそ理解出来る。

「…………だから、エンダの身体に乗り移ったのか?」
「ああ。元々、神降ろしなんて儀式をしなくても彼女の肉体を借りることは出来るようになっていたんだ。そう難しいことじゃなかったよ」
「そう、か。…………そう、だったのか……」

 俯く仁成の相槌に、カクレヤマが少しの間だけ口を閉ざす。
 けれど彼からの質問がないことを察すれば、また語りを続けた。

「ドンと出会った時に確信したよ。ああ、こいつがエンダを殺したんだ──ってね」

 たしかに、嵐という言葉を聞いた時点で薄々エンダの死因については推察できていた。
 わずか数時間と経たず仇敵と出会うなど何の因果だろうか。

「私の超力は対象への〝恨み〟で強化される。つまり、あの時私がみせた力は過去最大級だったわけさ」

 エンダの超力は万能ではあるが、その強弱は本人の〝恨み〟の感情によって強く左右される。
 誰を恨むこともしない心優しいエンダは、その超力を発揮することができなかった。
 だからエージェントとの戦いの際も、彼女に代わってカクレヤマが超力を使用していた。

「けれどきっと、一人では勝てなかった。ましてや自害までしてみせるなんてね。感服を通り越して屈辱的だよ。……あのドンという人間は、神にさえ抗ってみせたのだから」

 ────大海賊ドン・エルグランド。
 仁成は最初、エンダは一人でもあの怪物に勝てるのではないかと考えていた。
 しかし実際は、〝勝たなきゃいけない〟戦いだったのだ。
 エンダの仇を討つために、神の力を示すために。
 尚も食い下がったあの大海賊は、カクレヤマの目から見てもおよそ人の器と呼べるものか危うかった。

「だから少し興味が湧いたんだよね。ほら見てよ、〝ドン・エルグランド〟の航海日誌。
 あの日見た揺蕩う海雲は、干天の慈雨の如く私を島国へ導いた────はは、あんな粗暴なのに意外と文豪なんだ」

 机の上に広げられた航海日誌。
 たしかに、あの暴力の化身のようなドンが書いた文とは到底思えない。
 あの大海賊を知っていて、かつ実際に出会った事がある者が見れば間違いなく苦笑の的となるだろう。

 けれど不思議と、仁成は笑う気になれなかった。
 
「仁成」

 顔を上げる。
 エンダの顔がよく見えない。

「なぜ、君が泣くの?」
「え…………?」

 言われて、初めて自分が泣いていることに気がついた。
 頬を伝う涙を拭い、困惑の表情を浮かべる仁成。
 そんな仁成と対照的に、カクレヤマはほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
 
「優しいんだね、仁成は」

 仁成が涙を流す理由は、共感。
 エンダという優しい女の子が、真っ当な人生を送れないまま散ってしまったことへの悲嘆。
 少女が最期に何を思い、何を願ったのか。
 答えのない問答が繰り広げられて、嗚咽が続く。

「────……っ、…………っ」

 滴り落ちた雫が本を濡らす。
 張り裂けそうな悲しみが、仁成を囚える。


829 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:56:59 D2wfAzhk0

「私がこの子の身体を使ってなにがしたいのか、改めて宣言するよ」

 仁成を見据え、カクレヤマが言う。
 俯いていた仁成の瞳は神のそれに吸い寄せられ、時が止まる。


「私はエンダ・Y・カクレヤマとして生きて、彼女の願いを果たしたい。それが私に出来る彼女への償いなんだ」

 
 これは、只野仁成という男への敬意。
 何も知らぬままドンの討伐に手を貸してくれた、ただの人間への寵愛。
 ヴァイスマンの『眼』に捉えられるのも承知の上で吐き出した、途方もない目的。

 なぜエンダが脱出という一点に拘っていたのか、今理解した。
 彼女は、終始監獄に囚われ続けたエンダに〝自由〟を与えたかったのだ。
 人を憎まず、心優しく神へ語りかけ続けた少女に。
 世界に裏切られ、報われぬまま散っていった少女へ恩義を果たすために。


 ────神(カクレヤマ)は地位を捨て、人(エンダ)となって自由を求めた。


 超常の力蔓延るこの世界においても、これほど奇妙な運命などあるだろうか。
 胸の奥底から湧き上がる熱に鼓動を早めながら、仁成は意を決したように息を吸う。

「僕の過去も、話すよ」
「いいや、まだいいよ。私だってまだエンダの〝願い〟を言っていないんだから」

 しかしその決意は、エンダによって制止された。
 掴みどころの無い雰囲気は変わらず、ひょいと椅子から降りる少女。
 ふわりと靡く白髪が星空のように煌めいて、仁成も釣られるように立ち上がる。

「その願いを言うのは──また今度にしようか。お互いが本当に信頼出来ると思った時、一緒に秘密を話そうよ」
「………………はは、そうだね。そうしよう」

 ああ、そうだ。
 忘れていた。

 エンダは、懺悔をしたかったのだ。
 全能の神が犯した罪を、自分に聞いてもらいたかっただけなのだ。
 誰にも言えずに消滅の時まで持っていくつもりだった過去を、誰かに伝えたかったのだ。
 エンダという少女のことを、覚えていてほしかったんだ。

「けど」

 酷く身勝手な独言を終えて。
 仁成の顔を見上げる〝エンダ〟。
 その瞳には怖いくらいの魅力と同時に、人ならざるものの威厳が確かに秘められていた。

「その〝秘密〟を聞いたからには、一緒に地獄に堕ちてもらうよ」

 脅しでもなく、冗談でもなく。
 きっとそれは事実なのだろう。
 それほどまでに彼女の持つ〝願い〟は途轍もなくて、滅茶苦茶で、見果てぬ夢なのだ。
 
 ならば怖気付くか?
 平穏を望む只野仁成は、尻尾を巻いて逃げるか?
 神の挑戦などかなぐり捨てて、このアビスで一生を過ごすか?


「────ここ以上の地獄なんてないだろ?」

 
 そんなわけない。
 自分を迫害した政府の人間たちに、一泡吹かせてやろう。
 エンダが言う〝願い〟を叶えて、世界に復讐してやろう。
 
 仁成は静かに手を差し伸べる。
 逡巡のあと、エンダはその手を取った。
 
 妖しい微笑みに対し、自然な笑顔を。
 鏡合わせのように似ていて、けれど正反対の秘密の抱えた二人は片道切符に穴を開けた。


830 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:58:07 D2wfAzhk0
 





「ところで、ヤミナ遅くない?」
「ああ……そういえば、忘れてた」





【D-4/ブラックペンタゴン 図書室/一日目 黎明】
【エンダ・Y・カクレヤマ】
[状態]:疲労(小)
[道具]:デジタルウォッチ、探偵風衣装、ナイフ、ドンの首輪(使用済み)、ドンのデジタルウォッチ、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱出し、『エンダの願い』を果たす。
0.放送までブラックペンタゴンに留まる。
1.仁成と共に首輪やケンザキ係官を無力化するための準備を整える。
2.囚人共は勝手に殺し合っていればいい。
3.ルーサー・キング、ギャル・ギュネス・ギョローレン、並木旅人には警戒する。
4.ヤミナ・ハイドを使うか、誰かに押し付けるか考える。
5.今の世界も『ヤマオリ』も本当にどうしようもないな……。

※仁成が自分と似た境遇にいることを知りました。
※自身の焼き印の存在に気づいています。
※エンダの超力は対象への〝恨み〟によって強化されます。
※エンダの肉体は既に死亡しており、カクレヤマの土地神の魂が宿っています。この状態でもう一度死亡した場合、カクレヤマの魂も消滅します。

【只野 仁成】
[状態]:疲労(小)、全身に傷、ずぶ濡れ、精神汚染:侮り状態
[道具]:デジタルウォッチ、日本刀、グロック19(装弾数22/22)、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き残る。
0.放送までブラックペンタゴンに留まる。
1.エンダに協力して脱出手段を探す。
2.今のところはまだ、殺し合いに乗るつもりはない。
3.エンダが述べた3人の囚人達には警戒する。
4.家族の安否を確かめたい。

※エンダが自分と似た境遇にいることを知りました。
※ヤミナの超力の影響を受け、彼女を侮っています。

【全体備考】
※エンダ・Y・カクレヤマは『006:ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』にてG-7エリアの戦闘に巻き込まれ死亡しました。
 その後遺体が山岳からD-7へ転がり落ち、カクレヤマの魂が降りた後に『007:真・地獄新生 PRISON JOURNEY』へと繋がります。



◾︎


831 : 憑き物 ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:58:31 D2wfAzhk0



「も、もも、漏れる……っ! ガチで漏れるぅぅ〜〜……っ!!」

 ブラックペンタゴン、とある廊下。
 だだっぴろい施設内を早足で歩く少女、ヤミナ・ハイド。
 トイレを探しはじめてから既に三十分以上彷徨っているも、その成果も虚しく時間だけが過ぎてゆく。

「な、なな、なんでないんですか!? ここラクーン警察署!? ブラックペンタゴンって元美術館なんですかぁ!?」

 しまいには訳の分からない事まで叫び散らす始末。
 一応ほかの参加者がうろついている可能性もあるのだが、強烈な尿意の前にはそんな思考弾け飛んでしまった。
 
「うっそ…………マジでない…………図書室の場所も分からないし、もしかして私詰んでます……?」

 このブラックペンタゴンを設計した奴は建築素人なのだろうか。
 普通こんなバカでかいショッピングモールみたいな施設には、田舎の歯医者レベルの間隔でトイレを設置するものなのに。
 途方に暮れたヤミナはもういっそ外でした方がいいのではないかと考えはじめ────ふと、天啓の如く閃いた。


(…………というか、今なら逃げられるんじゃ?)


 たしかに仁成はともかく、ヤミナはそう簡単に見逃してくれたりはしなさそうだ。
 逃げようとしたら殺すというのもきっとなにかの根拠があって言っていたのだろう。それほどの凄みがあった。

 けれど、逆に言えば。
 そんな脅しをしておけば逃げないだろうと〝侮り〟を持っている可能性も高い。
 そもそもブラックペンタゴンに眠る手がかりを中断してまで自分を追うとは思えないし。
 ここまで考えたところで少し悲しくなるが、実際ヤミナの目算は無謀というわけでもなかった。

 ヤミナの超力はこの世の全てに侮られるという異能の力。
 世の根底を形作る〝善意〟を引き寄せ、無意識に己の利を掴み取る因果律操作の力。
 たとえそれは神が相手であろうと例外ではなく、問題なく発揮されるだろう。

(ど、どのみちポイント稼いだところであの二人に使われそうですし…………でも、一人は怖いんですよねぇ〜〜…………)

 出所後の人生か、この場の安全か。
 どちらの選択を取ろうとも、運命はヤミナにとって都合よく動くだろう。
 彼女を追うエンダの黒蝿は、いつのまにか消失していた。


「どうしよ…………てか、トイレ行きたい…………」


 がんばれ、ヤミナ・ハイド。
 ちなみに今君がいるブラックペンタゴンには色んな危険人物が向かいつつあるぞ。


【D-4/ブラックペンタゴン 廊下/一日目 黎明】
【ヤミナ・ハイド】
[状態]:疲労(小)、ずぶ濡れ、尿意(大)
[道具]:デジタルウォッチ、デイバック(食料(1食分)、エンダの囚人服)
[恩赦P]:34pt
[方針]
基本.強い者に従って、おこぼれをもらう
0.この場から逃げるか、図書室に行くか……。
1.エンダと仁成に従う?

※ドン・エルグランドを殺害したのは只野仁成だと思っています。


832 : ◆NYzTZnBoCI :2025/03/16(日) 17:59:05 D2wfAzhk0
投下終了です。
不備、問題点などございましたらご指摘ください。


833 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/16(日) 20:02:32 GcEzocD20
投下乙です

>憑き物
実はエンダが死んでたとかいう衝撃の事実! 人間離れした雰囲気だったけどこれまでエンダと思っていたのは人間どころか土地神だったとは
ドンとの戦いはかたき討ちでブーストが掛かっていたと言うのもいい戦力調整、ドンといいメアリーといい大規模超力は周囲の迷惑がひどい
死んでしまったエンダと言う少女のために涙を流す只野くん、性根の心優しさがあまりにもアビスに向いてないよ
明らかに一番ヤバい施設で単独行動しているヤミナは相変わらず地雷原でタップダンスしている


834 : ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:11:35 FhM7QzYg0
予約から遅れ申し訳ありません。
投下いたします。


835 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:12:23 FhM7QzYg0
子供の頃は怒りの矛先を何処にすればいいかなど、何も考えてなかった。
ただただ自分の周りの理不尽が、自分を怒らせて。

薬物に溺れ自分の事を見なくなった両親も、そうだ。
いつからああなったのか。
幼いころから癇癪を起こしては、超力で周りを破壊していたオレに。
学業やら教養やらが大事だと、辛抱強く嘯いていたのに。


いつしか抜け出せない貧困が。
アイツらを薬物に走らせた。
経営者時代のコネを活かした、小狡い薬物の売人として僅かな稼ぎを得るようになっていった。

オレは義務教育には通っていたし。
教養が大事だと言っていた両親が手放さなかった、色々な書籍が狭い家に並んでいた。
幼心なりの純粋さだが、倫理観的なものは学ばされていた。
どういうことをしてはいけないとか、そういうことを子供ながらに理解はしていた、

アイツらも自分への後ろめたさはあったんだろう。
オレの前で表立って薬物を打つことはしていなかった。
オレも周りが少しずつおかしくなっていることに薄々感づいてはいたが。


ある日、学校で上級生がオレを薬物の売人の子供だと貶した。
感づいてはいたし、事実を言われただけではあった。
それでもやり場のない苛立ちの矛先がそいつらに向かって、ヤツらは半殺しになった。

両親は薬物に溺れていく癖に、そんなことをした俺のことを悲しんだ。
子供にはまともに育ってほしいという心があったのだろう。
理不尽だ。
まともに生きてきた結果がテメェらの現状じゃないかと言いたかった。
理不尽なのは親か、世の中か。

しかしオレはまだ誰にも頼らず生きていくには小さすぎた。
ストリートギャングも近所にはいくつか存在していたが、例外なく薬物が蔓延っていた。
何故こんなものが存在しやがる。
薬物が蔓延る中に、見習いの下っ端から入り込んでいく気にはなれなかった。
真っ当に育てられていたとは言えないが、完全に見捨てはしない程度には物を与えてくれていた親に頼るしかなかった。

薬物の存在自体にオレは怒りを抱いた。
しかし、そんな概念自体に怒りを向けられるはずもなかった。
まだ世の中の仕組みを何も分かっていない子供だったんだ。
自分をムカつかせる他人やら、物や建物やらに怒りを向けて破壊するしかなかった。
強いヤツに喧嘩を売るたび、オレはボコられていた。

結局命を奪われることまではなかったのは、単に幸運だったからか。
子供だからと嘗められていたからか。
殺しは面倒だと理性を働かす相手とだけぶつかっていたからか。
違う。
この身体を突き動かす怒りが、身体がくたばることを許さなかったからだとオレは信じていた。
戦いを重ねていくたびに、オレは力を使いこなしそして強くなっていった。


住んでた辺りでは、小学校に通学するヤツはギャングのナワバリに入っても恐喝はしないという紳士協定があってまだ秩序があった。
しかし、超力を使うネイティブはそれに満たない年齢でもいくらでも暴力も悪さもできた。
オレも、10歳の頃のある日そっち側になった。
オレは性悪なストリートチルドレン共の集まった中に乗り込み、全員をねじ伏せる。
そして、小さなストリートギャングを構成することになる。
今の『アイアンハート』の母体となる組織。
薬物に手を出さない鉄の掟も、そこから始まった。
それ以来、家には帰らなかった。

暫くは大変だった。
掟のせいで、ヤクをやっているヤツらとは取引することができない。
上部組織のマフィアとも、協力することができない。
マジで奪い取るしか、生きていく方法がなくなっていく。
ストリートチルドレン向けに慈善団体の配る食糧や服ですら、配布場所をナワバリにしているグループが先にごっそり受け取っていくのだ。

それでも。
ギャングの世界では、リスペクトがあれば人が集まってくる。
居場所を奪い取れば、オレについて来ようとするヤツらがそこに物を持ち寄って過ごしやすくなっていく。
自分の力を示せば、そこで生きていけるようになる。
家族や親族の縁なんぞに頼らずとも、生きていける。
尊敬を集めるのに暴力はもっとも手っ取り早く、わかりやすく、新時代らしい手段だった。
気に入らない敵をぶちのめし、何もかもを奪い取るためのシンプルな力。
アイアンは徐々に規模を拡大していった。

そして、ヤクなんてやっぱりクソだ。
ヤクは人間の判断力を狂わせる。
平常の状態から湧き出た衝動こそ、本当の人間の意志だ。
反骨心だろうと、暴力衝動だろうと。
本当の自分から出て来た、本当に自由な意志以外に意味はねえ。
ヤクに汚染されたギャング共との抗争の中で、そうオレは信じるようになる。


836 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:13:50 FhM7QzYg0



もちろん、両親が薬物の売人を続けている現状を許していたわけではない。
ケジメを着けるため、オレはストリートギャングのボスになった後、いつか両親をこの手で始末するつもりだった。
ギャングの仲間共から大きなリスペクトを得ることができる行為。
自分が家族なぞから自由であると、証明することができる。
身寄りのないメンバーたちと同じ立場になって、結束を高めることができる。

いや、そんな理由は後付けだ。
生まれてこの方の、怒りの矛先を一つ片づけることができる。
そう思っていたんだ。

しかし、そうはならなかった。
上の組織から与えられた領分を超えて私腹を肥やし薬物を濫用していたアイツらは、一歩先に組織の殺し屋に始末されていた。
家に戻った際には虫の息だった。
そして死の間際に聞きだした、黒幕の組織。



マフィア『キングス・デイ』。



そしてその首領『ルーサー・キング』。



オレの怒りの向かう目標が決定的になった瞬間だった。



 ――――――――

  ◇

 ――――――――



ルーサー・キング。

どれだけヤツを自分の超力で始末するところを考えただろうか。

ヤツの繰り出す鋼鉄を、破壊の衝動で完膚なく打ち砕くところを。
ガキだった頃は何度も想像していたものだ。
そして今も想像してしまっている。
そんな妄想に意味がないとわかってはいるが。
もうすぐ手が届きそうだからと、理性を無視して本能が思考を回転させるのだった。


とはいえ闇雲に探しても辿り着くのが難しいことは解っている。
先程戦闘した漢女とは、転送された直後の出会いではあったが。
他に話ができる相手と積極的に遭遇して、手がかりを探さなければならないのは明らかだ。

キングの野郎の事だ。
他の参加者に対して、取引を持ち掛けていたりするのだろう。
味方を作っていたりするのだろう。

そいつらをぶちのめして居場所を聞き出すのが、恐らくヤツにたどり着く近道だ。


休んでいるつもりはなかった。
自分の手でヤツを後腐れなく始末して、死んだところを確認したいからだ。
モタモタしている意味がない。

とはいえ脳内の思考を無駄にする気も無く、歩みを進めながらもデジタルウォッチを使用して再度名簿の確認を行っていく。



ルーサー・キング、スプリング・ローズの2人に目が行ったせいで、他の名前まで意識が行かなかったのが漢女と出会う前の事だ。
よくよく見れば、投獄されたばかりの自分でも馴染みのある名前が他にもいくつかある。

イタリア、バレッジファミリーのディビット・マルティーニからはシノギの下請け的なことを何度か請けている。
ヤツの運営するカジノに関した借金の取り立てが主な仕事だ。
場合によっては、殺人の依頼になることもあった。
もちろん薬物に関わる仕事を請けたことはないが。
ヤツは正しく取引ができ、アイアンのメンバーに薬物を流そうとしてくる危険もないある程度信頼していい相手だった。
先にキングと手を組んでさえいなければ良いが。


そして、ハヤト=ミナセ。

アイアンのシマの周りで動いていた、二人組の日系人ギャング。
その片割れ。弟分。
ヤツラとは何度か争いもしたし、協力もしたし、互いに競い合った。

兄貴分のカズマ。日本の何かヤクザ物のゲームに憧れて名乗ったとかいうあだ名。
ヤツらは日本人らしく、ある程度学もあって話も通じた。
神を信じず、そして薬物にも手を出さないとあって似通った部分があった。

正直言って、ヤツらの事は嫌いではなかった。
ナワバリの中にある、ヨーロッパナイズドされたチープな日本食の店で飯を食って何度か話したものだ。
話すのはほとんど調子のよい兄貴分の方だったが、弟分のハヤトも兄貴に絶対ついていくという強い気概があった。
ヤツらがいつか日系人マフィアの組織を作りたいと野望を語っていたから、完全な同盟や合流という話にはならなかったが。


837 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:14:27 FhM7QzYg0


兄弟の絆を何よりも重視していたその在りよう。
それは虚実に過ぎなかった。

銀行強盗に失敗して帰ってきたカズマ。
助けに行こうともせず一人過ごすヤツの姿は、オレを怒らせるには充分過ぎた。



逮捕されたハヤトがその後どうなったかは、仲間を使ってある程度調べても辿ることが出来なかった。
オレに先んじてアビス送りにされていたわけだ。
そして、アイツとオレが共にこの刑務作業に参加させられている。

ヤツが何を考えているのかは解らない。
兄弟の契りとして、オレに対してケジメを着けようとしてくる可能性もある。
信じた相手が悪かったとしか言いようがない。
同情は出来るが、生憎オレは降りかかる火の粉を宥められるような人間ではなかった。


しかし、スプリング・ローズも加えると、同じ地域で活動していたストリートギャングから3人が参加者となっている。
それだけ自分たちが目立っていたのだろうか。
いや、ハヤトはそれほど目立っている人間ではないだろう。
刑務官やその上のヤツらからの何かの意図があるのかもしれない。

オレが収監された直後に始まったということは、キングの野郎とオレが戦うということを意図したりしているのだろうか。
キングの野郎を消したいという意図があったりするのだろうか。
いや、それならオレとヤツはすぐに出会える位置に転送されるはずだろう。

考えても答えは出ないか。



 ――――――――

  ◇

 ――――――――



ネイ・ローマンは誰とも会わずに歩き、恐らく1時間以上が過ぎる。
最初は東に向かい、ブラックペンタゴンを目指し北に向かう道に入った。
そして今は道を北上している。

歩みを進めるごとに、感情は静かで考えは巡る。
ジャンヌ・ストラスブールとかヨーロッパなら恐らく誰でも知ってる人物がいるから、どう動くかなどを想像したり。
自分が逮捕された後、外に残されたヤツらの事を想像したり。

違う、無心ではない。
他人に出会えず収穫が無いことにいら立っている。

高速移動できるとか、人を探すとか、
そういうことに役立つ超力の持ち主もアイアンのメンバーにはいた。
今はそれに頼ることができない。

ストリートギャングのリーダーに立つためには、シンプルな力を示せる能力はよく合っていても。
しかしこういう場合は、シンプルな力がそう役には立たない。


孤独を心細いとは思わない。
子供のころ、本だけが友達だった時代がある。
しかし、他人に頼ることを覚え始めて慣れてしまっていたのも事実だった。
それでも、苛立っても今は仕方ない。
いっそ超力で何か大きいものを破壊して、目立つことで人を集めるという手もある。
しかし、先程の戦いで消耗した以上体力の無駄遣いを避けたい思考もあった、

そう、道を歩けば誰かと出会う可能性は高い、
道で会えずとも、中央のブラックペンタゴンに行けば誰かがいる可能性は高い。
まだ、力を使う時ではない。





そして。

ローマンの目に入るのは。
月明かりを反射して鈍く輝く。
歩んでいる鋼鉄の巨体。
想像するのは。


――――――――ルーサー・キング。


鋼鉄を生成、操作する超力の持ち主だということは知っている。

身体全体に鋼鉄を纏い、ロボットのような姿の臨戦態勢をとっているのではないか。
何度もキングとの戦いを脳内で考える中で、想定していたヤツの戦い方の一つ。


隠れる気がないのなら。

こっちからやらせてもらおうじゃないか。

話す必要はない。
相手のペースに乗せられるな。

聞いてやるのは辞世の句だけだ。


838 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:15:06 FhM7QzYg0




感情が膨れ上がっていく。

そして、爆発する。









「ルゥゥゥゥーーーーサァァァァーーーーッッッッ!!!!!!!!」









「はぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっっ!?!?!?!?」









「ストップ!!!!
 ストーーーーッッップ!!!!」



 ――――――――

 ――――――――


839 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:16:03 FhM7QzYg0



鉄の騎士(アイアン・デューク)、ジョニー・ハイドアウト。
怪盗ヘルメス、ルメス=ヘインヴェラート。

名前を聞けば、ネイ・ローマンが遭遇したのはこの2人である。

つまりは、ただの人違いだった。


ローマンの超力が発動する前の、空気の振動によるざわつきに2人は気づいて。
ルーサーが誰のことを指しているか、何故勘違いされているかに素早くたどり着いたルメスが、地面から飛び出しローマンの前に立ち制止。
なんとかローマンの拳が振り抜かれる前に止めることができたということだった。

ちなみに止められなければ、ルメスは再度地中に潜って攻撃をかわすつもりだったらしい。
ジョニーは……鋼鉄の身体だし即死はしないだろうとルメスは信頼していた。ある意味。


もちろんジョニーの出した、ルーサーなら絶対に出しそうにない声色でローマンも人違いであったことに程なく気がつく。

ルーサー・キングのことばかり考えて思考が煮詰まっていたローマン。
冷静な時の自分であったなら、こんなことはしなかっただろう。
とはいっても相手も相手で紛らわしすぎるだろう。文句くらいは言いたい気がする。
二人とも通り名は効いたことがあったが、本名は知らなかったから参加者にいるとまでは思いつかなかった。
そして収監直後に刑務作業に参加させられたローマンが他の収監者に詳しくないのも、仕方ないことではある。

とか、そんな思考は色々湧いたが。


「――――悪ぃ、こっちが冷静じゃなかった」


と謝意を示し。
ローマンは自身の両頬を強く引っ叩き、苛立ちを忘れることにする。

これは抗争でもなければ、相手は身内でもない。
さっきの漢女とは違って、まともに話ができそうだ。
苛立ちのまま恐喝して情報を聞き出そうとするのは、最適ではなさそうだと思う。

「わかればいいの、全くもう……」
「今度こそ面倒なことになるかと思ったぞ、おい……」

やれやれという感じで応対する二人。
先程も好戦的な相手を何とかいなして来た後だ。
もうこりごりといった雰囲気を漂わせている。



 ――――――――

 ――――――――



「メカーニカ、あいつにはだいぶ恨みがある。
 協力なんぞしたくねぇよ。殺してえくらいだ」

最重要のルーサー・キングに関する情報は空振りに終わった。また、スプリング・ローズ他、知った名前の情報も得られはしなかった。
そして相手からはメアリー・エバンス、脱獄王に関する情報、またメリリン・"メカーニカ"・ミリアンを協力のため探しているという話を聞いたローマン。
脱獄という話は魅力的ではある。因縁のある相手は刑期が軽く、そいつらだけからポイントを得ても恩赦には満たないだろう。
運悪くポイントを得られず1日が終わることもなくはない以上、別の案があっても良い。
高圧的なあの刑務官の鼻を明かすのも気分がいいだろう。

しかし、それだけで協力できるかというとまた話は別となってくる。

「何? ギャング同士の因縁とかそういうやつ?
 ここは非常事態だし、そういうのは一時的に抜きってことで……」
「そうもいかねぇんだよ」

ルメスは怪盗らしく、調子よく説得しようとする。
しかし、メンツにこだわるギャングではそうもいかない。
鉄の騎士はそれをわかっているのか、静観の構えだ。

「オレはヨーロッパをヤクで汚染している胴元のキングをぶっ殺してえ。
 さっきそう言っただろ。
 じゃあそのヤクは、どこから入ってくると思うんだよ。
 ラテンアメリカから密輸されてくるんだよ」

ラテンアメリカは、コカインを主体とした薬物生産の本場である。
様々な手段で大西洋を越えて、販売先であるヨーロッパに薬物が渡ってくる。

「多分アイツが向こうの組織に加入してからだ。
 ヨーロッパへヤクを運ぶ手段がめちゃくちゃ複雑で巧妙で大がかりになってきてんだよ。
 でけぇのだと無人ステルス飛行機やら、潜水艇やら。
 細かいのでも、薬物探知を高確率ですり抜けられる容器なんぞを開発して運び屋に持たせてやがる」

それは、あくまで取引相手であり友人であるルメスには伝えられていない話。
組織で自分の実力を示し、リスペクトを得る手段が。
ローマンは自身の力であり、メリリンは機械などの製造であるということ。
次々にでかくて巧妙な機械を作れば、組織内で尊敬を抱かれる。やりがいがある。

ルメスは、やや悲しげな表情になる。
メリリンは取引相手ではあるが、友人だと思っている。
自分の技術を活かせるということで、積極的に仕事道具の開発に関わってくれて。
仕事が成功したら一緒に喜んでくれる相手。


840 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:16:41 FhM7QzYg0

もちろん彼女も犯罪組織の一員ではあるから、暗い仕事も色々しているだろうとは考えていた。
しかし立場上、彼女の背景を探ろうとしたことはなかった。
仕事の事を話してもらったこともほとんどなかった。守秘しないといけないからだろう。
そして今、実際に彼女に恨みを抱いている存在から言葉をぶつけられるとやはり悲しいのだった。
世の中は善悪が単純に分けられる世界ではないと、理解はしていても。
過去に善意が裏切られるといった経験があっても。
それでもそういう感情を感じてしまうほど、ルメスは純粋で若いのだった。

「何悲しそうな顔してんだ?
 知らなかったで通して何とか理解してもらおうってか?」
「――――そんなんじゃない。
 難しいけれど、そういうのじゃない」

板挟みになり、自分の気持ちを言葉にするのが難しいルメス。
さっきのメアリーを助けたい、助けないよりも困難な問題であるから。


しかし、自分自身をを無知で弱い存在として振る舞うというつもりはなかった。
なんとか妥協点を探ろうとする。
好戦的なストリートギャングのボスに、届く言葉を探ろうとするする。

「メカーニカさんは、酒は良く入ってるけど。
 薬物は絶対にやってないわ。
 結構頻繁に話してたこともあったけれど、それっぽいと思うところはなかった。
 これは、私だから言えること。
 ――――薬物を無理やり打たれてたことがあるから」

「ああ? だから何だよ?
 取引に関わる側がヤクやってねえなんて良くあるだろ。
 ある程度冷静でいなきゃならねえからな」

ルメスの弱い部分を見せる行為である、過去の開示にも同情しないローマン。
強硬で強い語気を崩さない。
それでもルメスは言葉を何とか紡いでいく。

「たぶん、メカーニカさんは自分の力を示せる場所が欲しいだけ。
 どうにか、この場は何とか協力できない?
 私が後で説得して、刑期は全うさせるから。
 アビスから出てきても、まともな職業を探させるから……」

「――――なるほど。
 機械は悪くない、使うヤツが悪いだけ。
 メカニックも悪くない。社会が悪いだけってことか?」
「そう。どうにか……」

「甘いんだよテメェは。それができる保証がどこにあんだよ。
 それに俺達の恨みを晴らせる方がまだ重要なんだよ。
 こっちの刑期は15年。恨みのあるヤツとあと一人くらい殺せばこのアビスから抜け出せんだ。
 それでどうしてテメエらに協力しなきゃならねえ?」

にべもなく断るローマン。
ルメスは……悔しそうな顔をしながらも、後ろのジョニーに助けを求めるかのように振り向く。

「んな善意なんかじゃ人は動かせねえよ。
 こっちはギャングだ。
 ヤクに手は出さねえが、恐喝も強盗も殺し屋も何でもしてんだ。
 なあジョニーさんよお? そっちはわかるんじゃねえか?」

義賊なぞと勘違いしてんじゃねえよと伝えるローマン。

――――ジョニーは。
鉄の身体を軋ませることもなく無言でローマンを見つめる。
それは肯定だと、ローマンは受け取る。

「そうかい。まあ情報交換ができたことは有り難かった。
 オレはキングの野郎を探すのが第一だ。
 テメッェらを邪魔するつもりも、別にねえ」

餞別の言葉を掛けようとするローマン。

しかし、ルメスがまだ諦めない。

脱獄王や戦闘狂のように、自分の目的のために極まった精神を持っているわけでもなく。
世の中に不満を抱いている若々しいストリートギャングなら。
きっと何か、心を動かすことができるのでは。確信はないが、そう思った。

「ネイ・ローマン……人らしい心とかないの?
 沢山の人が協力できれば。
 小さくて何も知らない子供が、どうしようもない状態になってるのを助けられるかもしれないのに。
 薬物だけじゃない、世の中の不正に立ち向かうこともできるかもしれないのに。
 ストリートギャングの流儀とかルールなんかにこだわってるのが、そんなに大事なの!?」


空気が震える。
安易な挑発ではあるが、ローマンの反応が超力が僅かに漏れることによって伺える。

しかし、ローマンは戦う気はなかった。
ここでこいつらを倒せば、ポイントは得られる。
しかし今の目指すべき敵はキングだ。
それまでに体力を無為に消耗するつもりもない。
だから、言葉には言葉で答えていく。


841 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:17:19 FhM7QzYg0


「なあ。ルメス。
 テメエは自分なりに義賊として、正義を貫くつもりなんだな?」
「もちろんよ!」
「そうか」

堂々と答えるルメス。

今度はローマンがやれやれと話す。

「"サイシン・マザー"、ラバルダ・ドゥーハンのこと知ってるよな。
 オーストラリアでサイシンっていう、超力で製造したヤクを作ってたヤツらの元締め。
 あいつのところから薬物取引のリストやメンバーの居場所やらの資料と、ついでに売上金盗んだの。
 テメエだよな?」

薬物を消費する大国だったオーストラリアでは、薬物を生み出す能力に目覚めたオールドがそこそこいた。
それを組織化してボスの座に収まったのが、"サイシン・マザー"。
他人の超力を強化できる超力が使えることもあり、オーストラリアは薬物を輸出する大国ともなってしまっていた。
しかしここ数年で事業の勢いは弱まって、ボスも逮捕された。
怪盗が入ったという噂は、薬物の事情を定期的に調べているローマンなら知りうることだ。

「ええ。あの時は自分から動いたんじゃないけど、依頼が来たから受けたの。
 本拠地からはだいぶ遠かったけど。
 大規模な薬物の輸出元を抑えられるから。
 それが何なの? そっちにもいい話ってことで別にいいじゃない」

「その時もメカーニカの力を借りたんだよな?
 かなり協力的だったんじゃねえか?」
「ええ。蔓を生み出す超力に対抗するためにね」

ラバルダの超力はキイチゴの蔓を生み出し、相手のパワーを蔓の棘から吸い取る。
そして、そのパワーを他人に与えることもできる。
無機物は透過できるが、生物は透過することができないルメスには相性が悪い。
蔓でからめとられ何重にも拘束されたら、抜け出すすべを持たないからだ。
小型化した刈払機のようなカッターをメリリンに提供してもらうことで、ルメスはピンチを切り抜け盗みを成功させることができていた。
その時はメリリンがかなり急いで開発してくれ、さらにメカの開発にかかった費用も払わなくていいと言われた記憶がある。

「それだ、メカーニカのヤツが協力的だったのはよぉ。
 ラバルダのヤツのシノギが、自分の組織のシノギとかち合ってたからだ。
 ラテンアメリカのコカインが、サイシンと競合して売り上げが落ちたからな」

言われたルメスは、流石に気が付く。
ラテンアメリカの犯罪組織に、自分は利用されていたのだと。

しかし、その程度ではルメスは折れはしない。

「何よ。それでメカーニカさんの組織は儲かったかもしれないけれど。
 世界的に見れば薬物の製造は減らすことができたって事実はひっくり返らないでしょ」
「そうだよ、一時的には抑えられた。
 じゃあその後どうなったと思う?
 多分テメエが逮捕された後の話だ」
「何よ?」

ルメスは自分を信じている。
世の中の不正に立ち向かい、弱者を食い物にする奴らを放置したくはない。
だから聞いたのは、興味からでもある。

「まずはラテンアメリカのコカインは、値段が上がった。
 ただ上がるだけじゃなくて、混ぜ物を増やして純度を減らし量を増やすとかな。
 それにメカーニカ謹製のメカによる輸送も加わるんだぜ?
 全く埒が明かねえ」

迷惑しているように言うローマンの声。
でもその程度の事、ルメスは驚きはしない。
「それで?」と続きを促す。

「サイシンはどうなったかだな。
 ラバルダのヤツが手下共々摘発されたせいで、ヤツらの作ってたサイシンの生産はだいぶ落ち着いたんだよ」
「良かったじゃない。
 それに、私アビスでラバルダさんと何回か話したけど。
 私が拷問とかいろいろ受けてたこと知ったら、結構優しくしてくれてるし。
 というか他の女の子たちにも結構優しいしさ。
 逮捕されて、反省して良い人らしい面が出てきてる」

怒りと呆れの混ざった表情になるローマン。

「……甘いよなやっぱりテメエはよ。
 んなもん女どもを利用してアビスでの立場を高めたいからに決まってるだろ。
 アイツにはキングの野郎とかと違ってもう後ろ盾がねえからな。
 ここに参加してたらそいつも殺してたのによぉ」
「そう簡単に、改心したかもしれない人を殺すとか言わないでよ」

ルメスもやや怒って、相容れない部分を否定する。

「それなら、世の中だってそんなに甘くねえんだよな。
 最近急に違う種類のサイシンが入ってくるようになりやがった。
 運び屋から辿っていって輸入してるヤツから喋らせたことによると、製造拠点は東南アジア。
 超力研究の技術がある日本やら、それを追おうとしてる中国やらから技術が裏社会に流れて着てんだと」

開闢の日以前でも、化学合成麻薬の一大拠点となっていた東南アジア。
そこに更なる薬物製造技術が流入した形である。


842 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:17:59 FhM7QzYg0

「薬物を生み出すオールド共が逮捕されたならよ、次はどうすればいい?
 あっちのマフィアのヤツらはどう考えたと思う?」

「――――――――まさか、そんな……?」

ルメスは、残酷な現実に思い当たってしまった。
ずっと若者たちを見守り佇んでいたジョニーも流石にこれには嫌悪感がさしたのか。
表情はうかがえないが顔をそむけるように振る舞う。

「サイシンを製造できるネイティブを、新たに生み出せばいい。
 そういうこと。そうなんだ」
「ああ。クッソ胸糞悪いよなあ!
 ヤク付けにした親に子供を産ませたり、胎児期からヤク付けにしたり。遺伝子組み換え技術を活かしたり。
 ヤクを生み出す超力を人工的に持たせようと、人道のジの字もないような研究が行われてんだと。
 そんでなんとか形になった第一世代の、ネイティブ・サイシンがヨーロッパに流入し始めてんだよ」

人類の悪意は留まることを知らず。
拘束されて酷い目に遭ったルメスも、自分の境遇よりも更なる残酷な出来事があることくらいは想像していたが。

いや、自分のしたことはきっと善行だったはずだ。
それが悪意に付け込まれてしまっただけだ。
そんなこと過去にも何度かあっただろう。

もしも逮捕されていなくて、その事実を知っていたならば。
そのような行為を潰そうとする活動をきっとしていた。
そう反抗して言いたかった。

しかしローマンの抱く怒りに対して、今反論することはどうしても出来なかった。

「キングの野郎がヨーロッパを支配してるような、大規模なシマが動いてんんだよ。
 オーストラリアの時とは違え。テメエみたいな怪盗一人でどうにかできることじゃねえんだよ」

しかし、その思いすらもローマンは否定する。
ルメスだってローマンほどではないが、ルーサー・キングを忌々しく思っている。
しかし怪盗として彼の近い所へ盗みに入って無事に帰れるのか。
そもそも何かを持ち出したところで、意に介されない可能性すらもある。

今回ルメスが逮捕されアビスへ収まったたのは、偶然重要な情報を得てしまったからだ。
本来は弱者への慈善家であるルメスは、強すぎる相手に挑むことができない。
成功の目算、そして弱者の助けになる戦利品が充分に無いと、挑むことができない。
だからルメスもキングに対しては、癒着した資産家や政治家へ盗みに入ることはあっても本人に正面切って挑むことはなかった。
全盛期の叔父のように技術があればと思うところもあったものの、結局は小金をすっているだけと捉えられても仕方ない。

「いいか? ヤクに惑わされたヤツが考えて行動してることなんて、本当の自由意思じゃねえ。
 ちゃんと世界を見ろ。自分の想像以上に視野を広げるんだよ」
「くっ、それは関係ないでしょ……」

無力さ、考えの浅さをを指摘される。


ルメスは適切な反論が思いつかなかった。


「――――じゃあ、ローマン。
 そっちはどうしたいのよ」


答えは、薄々と感じとっている。
それでも、聞かざるを得ない。
まだ負けてはいないという気力も何とか吐いて。

「当たり前だろ!
 このまたと無え機会にキングのヤツを始末するんだよ。
 ヤクを輸入してる元締めを!
 需要が減れば、供給側もシノギを縮小せざるを得なくなんだろ」

そう、結局はそこにつながるのだ。
ルメスはしかし問い続ける。

「その後はどうしたいのよ。
 後釜が現れるだけかもしれないでしょ、首領の居なくなった隙間に」

「あぁ!?
 んなもん気に入らねえマフィアどもをぶっ潰すんだよ、今まで通りな。
 ヤクを流通させる限り"アイアンハート"が立ちはだかると思い知らせんのさ!」

多くのシノギに手を出すマフィア組織は、基本的にすべて薬物と関わっていると言って良い。
そしてその傘下のギャング達だって。
そんな中で、薬物とは関わらない鉄の掟を維持することがどれだけ困難か。
それでもローマンは、いままでそれをやってのけてきた、

そうだ。ルメスが世を潜む怪盗であり続けるように。
ローマンも反骨精神あふれるストリートギャングで有り続けようとしていた。

それは、夜闇に隠れて静かに動く怪盗とは違う。
燃えるような激情、爆発する超新星。

これこそが、新時代の若きギャングスターの姿だった。



ルメスは。
その在り方に納得してしまう。
自分の弱みを出された上で信念をぶつけられ、気圧されてしまったとも言える。

説得はできなかった。
彼は彼の道を行くのだろう。

悔しいが、仕方ない。


843 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:18:33 FhM7QzYg0



「おい、話は終わらねえぞ」

動き出す鉄の騎士、ジョニー・ハイドアウト。ここでようやっと、話に割って入る。
若い奴らがぶつかるのは楽しいと眺めていたが、ルメスが負けそうになるので手助けをする。

「女怪盗(チェシャキャット)、いや、ルメス。
 結局お前のやってきたことは否定されたわけじゃない。
 世の中の悪い奴がちょぉっと強かっただけだ。
 自信持てよ」

無骨な体ながらも、手慣れた様子で優しく肩を叩く鉄の騎士。
そして、若きストリートギャングのボスへ向き合う。

「なあ、ギャングスターよお。
 お前の目指したいところはよくわかった。
 熱さが冷たい鋼の身体を伝わってくるぜ」
「そうかい、それで何だよ?」

冷静になっているローマンは、最初とは違いジョニーのペースには乗らない。

「お前の目指すことを実現するには、"アイアンハート"の勢力をもっと強化しなきゃならん。
 そうじゃないのか?」
「そうだが……ああ?
 テメエ、まさか……」

ジョニーの言いたいことをうっすら理解するローマン。

「そうだ、俺の鉄の身体が周りの屑鉄を取り込むようによ。
 "メカーニカ"を"アイアンハート"に勧誘するってのはどうよ?
 せっかくこんな刑務作業に同時にぶち込まれた縁だろ?」

それは、ローマンが思いつかなかったこと。
感情的に最初から選択肢を無意識に排除していたから。

「はあ!? アイツはアイアンにとっての怨敵だぞ!」
「だが、直接戦って誰かやられたわけじゃないんだろ?」
「ヤツはヤクの取引に協力してるクズ野郎だ!」
「だが、当人はヤクを打ったことはない。
 そして信条的にも、薬物取引に心を売っているわけではないんだろう?」

怒り叫ぶたびに、空気が振動する。
それを意に介さず、ルメスの方を見やるジョニー。
ルメスは……100%そうと確信があったわけではないが。
ジョニーの強い言葉に、強く乗っかり同調し頷いた。

「だからと言って組を裏切ってこっちに来るようなヤツが信頼できるか!?
 あんな便利なヤツを簡単に手放すとも思えねえだろ!?
 オレは信頼しねえし、仲間もそう信頼しようとはならねえだろ!」
「だが、裏切りが成立したとなれば、奴の組織とアイアンの対立は決定的になる。
 それは別にヤクを撲滅してえなら何も悪いことじゃないだろ?」

ギャングの流儀で怒るローマン。
しかしそこでさらに助け舟を出すのはルメス。

「ああ、あのさあ。メカーニカさんと取引するとき。
 時々一緒に話すサリヤって女の人がいたんだけれど。
 メカーニカさんが向こうの組織に入ったのもその人との縁って聞いてて。 
 でも、その人が最近死んでしまったみたいで。
 だいぶ悲しんでたし悩んでたから。
 もしかしたら、上手いこと説得すれば……」

正直このようなプライベートなことを話すのはどうなのかとも、ルメスは思った。
しかし今のままのローマンがメカーニカと遭遇したら、間違いなくローマンは殺しにかかるだろう。
それだけは阻止したい。何らかのプラスの情報を話さざるを得なかった。

ローマンは、否定できなかった。
メリリンと直接話したこともない彼は、直接話したルメスの発言に言い返すことができないのだ。


「――――ハァッ! クソが。ああもうクソが。
 そうか、そうかよ。納得してやるよ、一応な。
 移るときに示すケジメの内容によっては、何とか納得できるかもしれねえ」

納得せざるを得ないローマン。
胸をなでおろすルメス。
ジョニーはルメスの方へ頭を向けやる。
もし表情が見えたのなら、明るいどや顔をしていたことだろう。

「じゃあ、メカちゃんを殺したいって話はなしってことで」
「クソが。そうだな。
 出会ってもヤツの態度次第だが、即座に殺すのはやめだ。
 テメエらが捜してたってことも伝えてやるよ」

安堵する二人に対して。
念を押すようにローマンは続ける。

「まだだ。代わりにテメエらが今後メカーニカと遭ったらアイアンの話をしろ。
 もしもアイアンに関する取引が成立しなかったら。
 さっきテメエが言った、刑期を全うさせてまともな職業に就かせる。
 少なくとも、それを実行しろ」

ローマン側からも条件が提示される。当然といっても当然、いや妥協が込められた内容。
ジョニーはお前らの方でメカーニカを始末しろとか、そんな条件が提示されるかもしれないと考えていた。
それは避けることができたから、改めて安堵する。
ローマンは嫌いな相手を自分で始末したいと思っているだろうから、そんな条件が来る可能性は低いとは思っていたが。

恨む相手、協力したい相手に関しては話がまとまった。


844 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:19:08 FhM7QzYg0



「なあギャングスターよお。
 さっきの感じだと、俺達とは別行動をしてえようだな?」

そろそろ動き出したい気持ちを計らってか、行動方針の話に移るジョニー。

「ああ。そんなことする意味がねえだろ。
 今のところオレの第一目的はキングのヤツを始末することだ。それだけは譲れねぇ。
 そっちの怪盗とどこまでも考え方が違えってのに、お互い足を引っ張り合うだろ」
「そうね。それは間違いないでしょうね。
 ヤクを消し去りたいって信念も、ギャングとしての矜持もすごいと思う。
 でも私はあんたをリスペクトはしない」

「――怪盗ヘルメスはギャングとは違うってか。
 その超力を使えば幾らでも暗殺でも何でもできただろ。
 世の中をもっと簡単に変えられるのによぉ」
「そんなことするわけないでしょう」

ルメスにはルメスで、怪盗、義賊としての矜持がある。
目指すことも、出来ることもギャングとは違っている。
ジョニーから話されたことを思い出し、改めて今思う。

「別にわぁってるよ。隣の芝がちっと青く見えただけだ。
 羨ましいぜ、鉄の騎士とかいう協力者にも早々に恵まれてよぉ」
「生憎俺はギャングの兄ちゃんよりは美人の怪盗の方が好みなんだ。悪いな」
「クソが。違えねえ、屑鉄野郎がよ」

吐き捨てるローマン。
そして話すのは、やはり歳の近いであろうルメス。

「なあルメス、テメエ怪盗としてずっと訓練を受けてたんだろ?
 名前も貴族みてぇだし。
 恵まれた環境で裏の稼業とかもみっちり学んでた、とかだろ。
 親がヤクやってストリートチルドレンも経験したオレの事がテメエにわかるかってんだ」

「そうね――きっとわからない。
 優雅な生活はしてないけど、食べ物とかに苦労したことはないし。
 訓練で辛いことも捕まって拷問されたこともあったけど、きっと貴方の味わってきた苦痛とは全然違ってる」

相容れない二人。
しかし全く関わりがないとは、ルメスは言わさない。

「でも、子供時代の貴方みたいな人がもっと良い環境で過ごせるように。
 私は怪盗業で得た金を慈善団体なんかに送り続けるでしょうね」

そう。ルメスは直接ローマンに手を伸ばすことなぞ出来はしない。
それでも。昔の彼のような子供の助けにはなりたい。

ローマンも。その心を否定はしなかった。素直に受け入れる。
ストリートチルドレンは悪行の方が稼げるから、仲間との絆ができるからとギャングになる。
しかしギャングが悪であることなんて大概の奴は解ってる。それ以外の選択肢は広くあるべきだ。

「フッ。ありがてえことだよ。
 なあ、殺人もしてマフィアどもから恨みも買って、ギリ未成年でもないオレの刑期が。
 15年で済んでるの、何故かわかるか?
 そういう慈善団体のヤツらのおかげだよ。
 ヤクを許さないという精神を見て、更生の余地が大きいと判断して弁護してくれたんだよ」

逮捕された後の反抗的なローマンに少しずつ歩み寄って。
刑期を軽くしようとしてくれた人々が、裁判を迎えるローマンの周りにはいた。
ローマンの抱く感情は、複雑ではあるが感謝という気持ちもいくらかは含んでいた。

「だがそれでもオレは更生とかするつもりはねえ。
 仲間共の下に戻ってまたギャングのボスをやるつもりだ」

そう、アイアンのボスは外の世界へ戻らなければならない。
ボスを失ったストリートギャングは大概、結束を失う。
離散するのはまだ良い方。
対立する組織に残党が狩られ始末されることだってある。
だから。
少々の後ろめたさで、彼が立ち止まることはまずない。


「オレをどう思う?
 義賊の怪盗さん。
 
 ――――――――すまねぇな。
 
 せいぜい、頑張れよ」


ネイ・ローマン。
いつまで世界の理不尽に怒る。その怒りで薬物を撲滅する日は来るのか。
いつか折り合いをつけ大人のマフィアになり、広いシマを管理しながら薬物を取り締まろうとするのか。
あるいは、何処へも向かえずに消えていくのか。

その背中は超新星のように強く輝き力強く見える一方で。
そう遠くないうちに、消えそうな儚さも感じられるのだった。
超新星爆発の後は、何が残るのか。何も残らないのか。


餞別の言葉を向け、若きギャングスターは二人の前から去っていく。



 ――――――――

 ――――――――


845 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:19:44 FhM7QzYg0



「メカーニカの交渉、上手くいくと思うか?」

ローマンの姿が見えなくなったころ。
鉄の騎士が、怪盗に話しかける。

「正直、難しいと思う。
 メカちゃん、サリヤ以外の面子とも関係は悪くは無さそうだったし。
 何なら結構楽しそうだったりもしたし。
 どうなるだろうね。
 ローマンが力で無理やり従わせちゃうかな。
 それともメカちゃんが上手いこと喋って乗り切るかな」

「――――そうかい。
 まあしかしよ、さっきはそうするしかなかっただろ。
 世の中ってのは難しいもんだ」
「そうだよね、便利屋さん。
 ほんっと。複雑で、難しい」

ルメス=ヘインヴェラート。
こちらもまだまだ若く、成長の余地を残した子供。
身体は色々拷問で弄られ成熟していても。
世の中の善意や悪意に常人以上に触れてきていても。

これからまだ学ばなければならないことがある。
義賊として働かなければならないこともある。
改めて、実感する。

「そういえば、ローマンの坊やがお前の事を貴族っぽいとか言ってたが」
「坊やって……まあ便利屋さんから見たらそうなんだろうけどさ」
「で、どうなんだ?」
「いえ、一応。貴族の血統ではあるの」

ルメスの先祖はヨーロッパのとある国の貴族ではある。
しかし独自の正義感を貫き、近代の政変や戦争のゴタゴタの際に政府の意向に従わなかった。
そのため、土地も資産もすべてを失い没落していったのだった。

その家にはアイルランド系のオレンジの髪色の使用人がいて、悪事を働く政敵から証拠を盗み出すなど怪盗のようなことをやっていたという。
没落した後は貴族同士で結婚は出来ず、一方で逃避行の中でも協力していった使用人と絆されて子供を設けたという。
その子も怪盗業を引き継ぎ、今度は政治活動ではなく義賊的な役目を果たすようになる。
これがルメスの家が貴族から怪盗の家系へと変化していった経緯である。
もちろん全員が怪盗というわけではなく、表の仕事をしている人間も多いのだけれど。

つまり、本来は貴族として領地を示すファミリーネームをルメスも持っている。長い本名を持っている。
しかしそれを名乗りたくはなかった。
家族は名乗っていたが、まるでまた権力を得て貴族に返り咲きたいかのような意志をそこに感じるのだ。
ルメスはそんな気持ちはない。わずかな家族への反抗心もある。
だから複合名部分のルメス=ヘインヴェラートだけで普段は通している。

「でも、あまり聞かないで。
 今のご時世そういうのあまり意味ないでしょ」
「――――――――ああ、そうだな」

ルメスはそういう経緯があるので、ジョニーに今話すことはなかった。
ジョニーはそれ以上問い詰めることはしない。
いずれ必要となれば、明かされると何となく期待はする。
没落した貴族なんかから仕事を請けることは過去にもあったが、だいたいそういう物なのだ。


「さて、私たちも動き出しますか」
「おうよ。疲れたら俺の鉄の身体の中に潜行して休んでもいいぞ?」
「何それ、変態チック」
「ハハハ、こりゃキツいぜ」


846 : 若きギャングスター ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:20:11 FhM7QzYg0


【G-4/舗装道路/1日目・黎明】
【ネイ・ローマン】
[状態]:両腕にダメージ(中)、疲労(中)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.やりたいようにやる。
1.ルーサー・キングを殺す。
2.スプリング・ローズのような気に入らない奴も殺す。
3.メカーニカと出会ったら、協力を求められていることを伝える。アイアンへの引き抜きも考えてはみる。
4.ハヤト=ミナセと出会ったら……。
※ルメス=ヘインヴェラート、ジョニー・ハイドアウトと情報交換しました。

【ジョニー・ハイドアウト】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.受けた依頼は必ず果たす
1.頼まれたからには、この女怪盗(チェシャキャット)に付き合う
2.脱獄王とはまた面倒なことに……
3.岩山の超力持ちへの対策を検討。
4.メカーニカを探す。見つけたらローマンとの取引内容も話す。
※ネイ・ローマンと情報交換しました。

【ルメス=ヘインウェラード】
[状態]:健康、覚悟
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.私のやるべきことを。伸ばした手を、意味のないものにしたくはない。
1.まずは生き残る。便利屋(ランナー)さんの事は信頼してるわ
2.岩山の超力持ち、多分メアリーちゃんだと思う……。出来れば、殺さないで何とかする手段が。
3.メカちゃんを探す。脱獄王からの依頼になったけど個人的にも色々あの娘の助けがいりそう。ローマンとの取引内容も話す。
※後遺症の度合いは後続の書き手にお任せします
※メカーニカとは知り合いです。ルメス側からは、取引相手であり友人のように思っていました。
※ネイ・ローマンと情報交換しました。


847 : ◆koGa1VV8Rw :2025/03/18(火) 23:21:23 FhM7QzYg0
投下を終了します。
(状態表の名前を間違えてルメス=ヘインヴェラートになってませんね、失礼しました)


848 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/19(水) 20:36:46 lvJejA1M0
投下乙です

>若きギャングスター
敵対者は破壊する苛烈なローマンと出来る限り多くを救いたいルメスの衝突、イイ人そうなメカーニカもやっぱアビス住民だけあってそれなりに犯罪に加担しているんだなぁ
ローマンの薬物撲滅に対する激情と破壊衝動は思った以上に根深くて強い、短絡的に見えてもここまで一本筋が通っていると好感が持てる
都合のいい超力を生み出すための人間牧場と言う吐き気のするほどの邪悪、ルメスの正義感の強さは立派だけど、個人でどうにかするには悪党が世界に蔓延り力を持ちすぎている
ジョニーは終始冷静な立ち位置で、すっと助け舟となる妥協案を出すあたり、熱くなる若者を導く大人の余裕を感じさせるシブいねぇあんた

それでは私も投下します


849 : 花の監獄 ◆H3bky6/SCY :2025/03/19(水) 20:39:27 lvJejA1M0
ブラックペンタゴンの巨大な門が、まるで命を持つかのように音もなく、緩やかな動きで開いた。
トビ・トンプソンと内藤四葉の二人の受刑者は、その門を静かに潜り抜けた。
彼らが足を踏み入れた瞬間、夜闇とは別世界のかのような、眩い白い光が二人を迎え入れた。

「…………明るいな」

トビは目を細め、照明から放たれる煌々とした光を見上げながら呟く。
天井から吊るされた照明器具は、柔らかな明かりを放ちながら、エントランスホール全体のシルエットを浮かび上がらせる。
床面に敷き詰められた漆黒の大理石は美しく磨き上げられ、鏡のように二人を映している。
だが、その無機質な輝きは、二人を招くというよりも、何かを拒むような冷たさに満ちていた。

「部屋の中なんだからそりゃそうでしょ」
「照明がついてるって事は電気が通ってるって事だ、つまりは発電設備があるって事だろ」
「当たり前じゃん?」

二人は軽口を交わしつつも、周囲のエントランスホールを注意深く見渡す。
まず目に留まったのは、エントランス正面にそびえる大きな案内図だった。
案内図は精巧に作り込まれ、南入口が来客用の正規出入口であることを示すと同時に、現在地が明確に表示されていた。
トビと四葉が近づくとセンサーが反応し、淡い光が案内図全体を包み込むように輝いてフロアマップがはっきりと浮かび上がった。

「まるで巨大なショッピングモールだな」
「刑務施設にしては随分親切だよねー。ご丁寧に『現在地はこちら』だってさ」

案内図によれば、二人がいるのは南ブロックの1階に位置している。
ブラックペンタゴンは3階建ての巨大な施設で、各階は5つのブロックに分割され、さらに各ブロックは3層に区分されている。
だが、案内図には1階分の情報しか記されておらず、それによれば電気を供給している配電室は北東ブロックに存在するようだ。

「上に行く手段は南西ブロックの階段一択みたいだね。面倒くさい造りだなー。隠し通路とか裏ルートとかないのかなぁ?」

四葉は迷路でも解く様に指先で案内図をなぞりながら問いかける。
しかし、トビは四葉の問いを無視して独り言のように呟く。

「こんなデカい施設で、出入り口が一箇所だけなんてのは、防災上ありえない」
「って事はやっぱり隠し通路?」
「それもねぇよ」
「じゃあ何ならあり得るってのさ」

拗ねたような四葉の問いにトビははっきりと答える。
防災が逃げ場を多くすることであれば、これはその逆。

「決まってんだろ。これは――――捉えた獲物を逃がさないための作りだ」

入り口を絞るのは獲られた獲物を逃がさないための作りだ。
いわば、城塞や監獄に近いだろう。
監獄。罪人たちの宴に相応しい。

「それよりも、オレが気になるのはトイレだな」
「シリアスな顔でどうしたの? うんこ行きたいの? 待っててあげるよ」
「アホか。この施設は電気どころか水回りも生きてる可能性があるって事だ。下手したら不味いことになるかもな」
「どいうこと…………?」

よくわかっていない四葉と違いトビは状況を危惧する。
もし、この孤島で電気と水道が生きているのがこのブラックペンタゴンだけだったとしたらどうなる?
それを知った刑務者たちはこのブラックペンタゴンにこぞって集まるだろう。

そこに加えて逃げ場のないこの作り。
下手をすればここは狩場となる。
これが意図的にヴァイスマンが用意したものであるのなら、相当に趣味が悪い。

案内図を確認し終えると、トビと四葉はゆっくりとエントランスの探索を始めた。
エントランスホールは広大で、見渡す限り人の気配はない。
だが、空調設備が稼働しているらしく、微かな空気の流れが肌を撫でるのが感じられた。
受付カウンターへ近づくと、その表面には薄く埃が積もり、長い間誰にも使われていないことを物語っていた。
カウンターの向こうには空の書棚が寂しく並び、壁には何も映らない旧式のモニターが無言で吊り下げられている。

「うん、こっちは特になんもなし。つまんない場所だね」

四葉はつまらなそうに口を尖らせ、カウンター越しに背伸びをして奥を覗き込む。
トビは無言のまま、天井や壁面に視線を巡らせて何かを探しているようだった。
壁に埋め込まれたセンサーや、天井から下がる非常用と思われる非常灯の配置を慎重に目で追いながら呟く。

「入り口で重要なもんを見せびらかす馬鹿もいないだろ。こういう場所で何か秘密が隠されているとしたら、最上階か、最下層かってのが定番だろ」
「じゃ、トビさんのお望み通り、上に向かいますか」

四葉が指し示したのは、案内図に示された南西ブロックへの通路だ。
その通路は、柔らかな光の中に浮かび上がるアーチ型の入り口で始まり、通路の奥は徐々に暗がりに沈んでいる。
トビは小さく息を吐き出しながら頷き、注意深く歩を進めた。


850 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/19(水) 20:42:10 lvJejA1M0
通路の床はエントランスとは異なり、つや消しされた無機質なグレーのタイルが敷き詰められている。
歩くたびに微かに足音が響き、無言の重圧を二人に与えていた。
程なくして、南西ブロックへ続く扉の前にたどり着いた。

「油断するなよ。何が待ってるかわからねぇからな」

トビが呟くと、四葉は静かに表情を引き締めた。
二人はそれぞれ警戒を強めながら、ゆっくりと扉を開く。
二人が南西ブロックへと通じる扉を開いた瞬間、目の前に異様な光景が広がった。

「なんだ、こりゃ……」

室内に広がっていた光景に、トビが思わず声を漏らす。
南西ブロック内部は、先ほどまでの殺風景な空間とはまるで別世界だった。

「花…………?」

四葉の呟き通り、室内には紫色の鮮やかな光景が広がっていた。
一面には目も眩むほどの鮮やかな紫色の花――ダリアが咲き誇っている。
その花々は異常なほどの密度で咲き誇り、壁や家具を侵食しながら部屋の端から端までを覆い尽くしていた。
ここまでくると美しいというよりも毒々しい。不気味で、不自然な光景だ。

「……なんだ、この匂い」
「ちょっと甘ったるすぎて気持ち悪いかも」

甘ったるくも刺々しい、異様な匂いが鼻を突く。
四葉が口元を押さえつつ、警戒心を顕にした瞬間だった。
――――ガシャン。
背後の扉が突然音を立てて閉まり、電子ロックが施錠される音が響いた。

「ねえトビさん。ちょっと私やーな予感するんだけど」
「奇遇だな。オレもだ」

二人は慌てるそぶりもなくそんなやり取りをする。
だが、状況はその声色に反して緊迫感を増していた。
二人の視界の隅では、すでに異変が起き始めていた。

咲き乱れるダリアの花弁が、壁や床に触れた瞬間、壁面が音もなく泡立ち、じわりと黒く溶け落ちる。
その周囲には腐敗したような刺激臭と共に濃密な蒸気が漂い、肌をピリピリと刺すような不快感を与えていた。

「花から出てるのか、この腐敗毒。なんて趣味の悪い仕掛けだ」
「というかこれ、長居するとマジでまずいんじゃない?」

トビが周囲を見回し、出口や毒を回避できる場所を探し始める。
だが、花が充満した部屋の奥、その中心部に、さらに不穏な存在が見えた。
部屋の中央、階段の前に門番のように一つの影が立っていた。

筋骨隆々とした褐色の体躯、囚人服を脱ぎ捨てトランクス一枚という異様な出で立ち。
逞しい両腕には無数の傷跡が刻まれ、鍛え抜かれた筋肉が鈍い輝きを放っていた。
まるで中世のコロシアムから抜け出してきた拳闘士のようだ。

男は微動だにせず、静かに拳を握り絞め二人をただ睨みつけている。
毒花の中心で平然と佇むその姿は、まるでこの異質な庭園を支配する主そのものだ。

「…………ありゃ、エルビス・エルブランデスだな」
「マジ? 『ネオシアン・ボクス』のチャンピオンじゃん」

強者の名に戦闘狂が目を輝かせる。
その偉大な戦績は四葉の耳にも届いている。
非合法格闘技『ネオシアン・ボクス』における無敗の王者。
その男が、彼らを鋭く射抜く視線を放ち、静かに拳を握り締めている。

興奮したように声を上げる四葉と異なり、トビは冷静に現状を理解していた。
ブラックペンタゴンは花の魔窟と化している。
明らかな待ち伏せである。ここはすでに敵の狩場だ。
相手は自らの支配領域に侵入した獲物を待ち構えている。


851 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/19(水) 20:43:42 lvJejA1M0
「奴さん、動かないね」

四葉がランスロットを構えつつ訝しげに囁く。
エルビスはトビたちを見据えたまま中央にある階段の前から動く気配はなかった。

「動く必要がねえんだよ。ここはもう奴の領域(テリトリー)だ。オレたちが毒で弱るまで待ってりゃいいだけだ」

このまま放っておいてもトビたちは腐敗毒で死ぬ。
地の利を得ているエルビスは自ら動く必要はない。
狩人はしびれを切らして動いた相手を冷静に狩るだけでいい。

「しかし、ここまでやるとは野郎、本気で恩赦を狙ってるらしいな」

ここまでやるとなると徹底している。
拳闘士としての矜持よりも重要なナニカの為に全てを投げ打っている作戦だ。

「メチャクチャ準備万端って感じじゃん」
「だろうよ。ここまで準備が用意できてるって事は最初からブラックペタンゴンにいたのかもな」

電子錠の操作に、腐敗花を生み出す時間。
エルビスの初期位置がブラックペンタゴンだったのなら、仕掛けを用意する時間もあっただろう。

「マジぃ? 自分に有利なフィールドに転送されるとか運よすぎでしょ」

食虫花のように獲物を誘い込み狩る。
エルビスの超力は室内でこそ真価を発揮する。
ランダムな初期位置で自分にベストなフィールドを引いたエルビスの幸運を四葉は羨む。

「けっ。ランダムな訳がねぇだろうが」

だが、トビが下らないと吐き捨てる。

「オレたちを転送したのはケンザキ刑務官だろうが、初期位置を決めたのはあのヴァイスマンの指示だろうよ」

この刑務作業を取り仕切る管理の怪物。
初期位置をコントロールできるのならば、初手の動きまでは想定済みだろう。

「じゃあ私とトビさんとの出会いも運命じゃなく看守長の狙い通りって事? やだなぁそれ」
「オレだってやだよ。気持ち悪い言い方すんな」

2Fへの侵入を拒む守護者。
あの門番を倒さねばブラックペンタゴンの深部への侵入は許されない。

「っていうか、そろそろこっちも溶けてきたんだけど」
「お前は鎧を着りゃいいだろ」
「あ、それもそっか。鋼人合体っと!」

四葉は出現させていた長剣の騎士、ランスロットを身に纏う。
これで少なくとも鎧が腐敗するまでの間は直接腐敗毒が触れる事は避けられる。
ダメになったら次の鎧に換装する事になる以上、鎧の数はHPとイコールだ。
他の鎧を同時に出して消耗するのは避けた方がいいだろう、出すとするなら確実な勝負所だ。

「トビさんも着る?」
「いいや。遠慮しとくぜ。脱獄(しごと)がしづらくなる」

そう言って皮膚の解け始めた指を鳴らしたトビは周囲を観察した。
出口である背後の電子ロック式の扉は閉ざされている。北西ブロックに続く反対側の出口も同じくロックされているだろう。
中央にある2階に続く階段の前にはエルビスが立ちふさがっており近づく事すら難しい。
腐敗毒は刻一刻と迫り、考える猶予はほとんどない。

「ねぇトビさん、私いい解決策を思いついたよ」

いち早く結論を出した四葉が長剣を片手に、カシャンと、甲冑を鳴らして前に出る。

「アイツ、殺っちゃえば解決でしょ?」

フルプレートの下で戦闘狂が破顔した。
この花がエルビスの超力ならば、奴を殺せば解決する。
これ以上ない程に単純明快な解決策だ。


852 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/19(水) 20:44:06 lvJejA1M0
「ダメだ」
「えぇ……」

だが、トビはこれを即座に却下する。

「倒したところで腐敗花が消える保証がねぇ、まず解決するべきはこの密室だ」

ガス抜きならいい、死ぬ確率の高い特攻は許可できない。
まだブラックペンタゴンの探索は始まったばかりだというのに、そうそうに護衛役に消えられては困る。

「けど、どーすんの?」
「扉のロックは電子錠だ。配電を止めりゃ開く」

状況は最悪。トビが携帯する道具は、腰に差した一本のナイフのみだ。
だが、『脱獄王』にとってはそれで十分だった。

トビが目を付けたのは反対側の壁際にある空調ダクトだった。
ダクト自体もすでに腐敗毒に侵され、ところどころ錆びて穴が開きかけているが、それがかえって好都合だった。

「おれがあの空調ダストから脱出して、配電室まで行って配電盤を止める。それまでお前はここでアイツの足止めでだ。出来るか?」
「出来るに決まってるでしょ。けどさ――――」

四葉は嬉しそうに笑みを浮かべ、ランスロットの長剣を軽く回し、鎧の関節をカシャリと鳴らす。
エルビスへと向けた瞳には、純粋な戦いへの高揚感が浮かんでいた。

「別に、アレを倒しちゃっても構わないんでしょ?」
「ああ。構やしねぇよ」
「きひっ…………!」

戦闘狂が喉を鳴らして笑う。
それを合図にするように、解き放たれた四葉が素早く前に踏み込んだ。
無数のダリアが放つ腐敗毒を掻き分けるように拳闘士エルビスへと突き進んでいく。

同時に、その動きに合わせるようにトビもダクトへと向かって駆け出す。
甲冑で身を守る四葉と違って花弁に触れないよう慎重にコースを選びながら最短距離を突き進む。
その動きを見て、不動だったエルビスは静かな殺気を纏いながら迎撃態勢に入った。

タッ、と地面を蹴ってエルビスが向かったのは自らに迫りくる四葉ではなく、ダクトへ向かうトビの方だった。
分かりやすい殺意を滲ます相手よりも、何か別の狙いを持って動いている相手を警戒したのだろう。
その直感と判断は正しい。

「ッ――――!?」

トビは自らの、背後に迫る異常な殺気を直感的に感じ取った。
トビが反射的に振り返った瞬間、エルビスの強烈な右フックが彼の胸元を直撃する。
肉を叩き潰すような鈍い衝撃音が響く。

「何…………ッ?」

しかし、エルビスの拳に伝わったのは奇妙な手応えだった。
まるで分厚いタイヤを叩いたような、衝撃が吸収される感覚。

トビの超力『スラッガー』。
身体はまるでゴムのような柔軟性を得て、衝撃を吸収し打撃を無効化したのだ。

驚愕したエルビスが次の攻撃を繰り出そうと拳を引いたその刹那、駆け付けた四葉が横合いから長剣を振り下ろした。
エルビスは素早いバックステップとスウェーでその一撃を避ける。
四葉の強襲からエルビスが退いた隙を逃さず、トビは再び体勢を立て直し、ダクトへ向かって疾走した。
追い立てようとするエルビスの前に、重い音を立てた全身鎧が立ち塞がる。

「さぁ、遊ぼうぜぇ〜。チャ〜ンピオーーン…………ッ!」

四葉が長剣をバトンのように回して見栄を切るように構える。
その鎧の表面は融解を始めており、制限時間のカウントはとっくに始まっていた。
そのスリルこそ四葉の求めるもの。
戦闘狂は首輪の外れた犬のように舌を出して殺気を解き放っていた。

紫の花の中心で、拳闘の王者はその殺気に応じるように拳を構えた。
トビの追跡を諦め、目の前の敵に集中する。
エルビスの心は一つ、愛する女(ダリア)の元へ帰る、そのためならば全てを切り捨てる覚悟がある。

隙を伺うような静寂は一瞬。
エルビスの拳が空気を切り裂き、轟音を伴い四葉の剣と交錯する。
鋼と肉が激突する重厚な響きが室内に反響し、散った花弁が宙を舞った。


853 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/19(水) 20:44:22 lvJejA1M0
四葉とエルビスの交戦する音を背後に壁際まで到達したトビはダクトを見上げた。
空調ダクトは天井近くの高い位置にある。
跳躍した所で届く高さではない。

「けっ。脱出王を舐めんじゃねぇよ…………!」

表面の溶解を始めた壁にはとっかかりとなる細かな凹凸が無数に存在していた。
トビは素早く壁を蹴り上げると、ロッククライミングのようにその凹凸に指先を引っ掛ける。
これだけの凹凸があるのであれば、それを上る事などトビにとっては階段を上るのと変わらない。
驚くべき速度でダクトまで到達したトビは手早くナイフを抜くと、錆びついた金属パネルの継ぎ目に刃を差し込み、無理やりこじ開けて空間を作り出す。
融解していたダクトの蓋は想像以上に容易く外れた。

「悪いな四葉、先に抜けさせてもらうぜ」

誰に言うともなく呟き、わずかな隙間からダクト内部へ体をねじ込んでいく。
トビの超力はどんな狭い隙間にも潜り込める驚異的な柔軟性。
人間とは思えぬ動きで這うようにダクトの奥へ進んでいった。

狭く暗い空間を、わずかな光だけを頼りにトビは前進する。
腐敗毒がじわりと金属を侵食し、軋む音を立てているが、そんなものに構っている暇はない。

やがて、トビは外気が感じられるダクトの出口を見つけ出した。
錆びついた排気口のカバーをナイフで突き破り、一気に体を滑らせるようにして外へ脱出した。
トビの身体が床へと着地すると同時に、ダクトの一部が崩れ落ちて塞がった。
振り返ると、腐敗の臭気がまだうっすらと漂っている。

「やれやれ、下手な監獄よりタチの悪い場所じゃねぇか、ブラックペンタゴン」

脱獄王は軽口を叩きながらも、再び内部へ向かって走り出した。
あの花の監獄の中には四葉がまだ残されている。
『ネオシアン・ボクス』のチャンピオンが相手だろうと簡単にやられる事はないとは理解しているが急がねばなるまい。

配電室に向かい最悪、破壊してでも配電を止める。それで電子錠は解除されるはずだ。
密室よりの脱獄を果たした脱獄王は急ぎ、次の手を打つために施設の深部へと向かっていった。

【D-4/ブラックペンタゴン1F 北西ブロック/一日目・黎明】
【トビ・トンプソン】
[状態]:疲労(小)皮膚が融解(小)
[道具]:ナイフ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱獄。
1.電子錠を開くために配電室を目指す。
2.内藤 四葉と共闘。彼女の餌を探しつつ、護衛役を務めてもらう。
3.首輪解除の手立てを探す。そのために交換リストで物資を確保。
4.構造や仕組みを調べる為に、他の参加者の首輪を回収したい。
5.ジョニーとヘルメスをうまく利用して工学の超力を持つ“メカーニカ”との接触を図る。
6.銀鈴との再接触には最大限警戒
7.岩山の超力持ち(恐らくメアリー・エバンスだろうな)には最大限の警戒、オレ様の邪魔をするなら容赦はしない。
※他にも確保を見越している道具が交換リストにあるかもしれません。

【E-4/ブラックペンタゴン1F 南西ブロック 階段前/1日目・黎明】
【内藤 四葉】
[状態]:疲労(大)、各所に切り傷、打撲、ランスロット(E)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.気ままに殺し合いを楽しむ。恩赦も欲しい。
0.エルビスと遊ぶ
1.トビと連携して遊び相手を探す、または誘き出す。
2.ポイントで恩赦を狙いつつ、トビに必要な物資も出来るだけ確保。
3.もしトビさんが本当に脱獄できそうだったら、自分も乗っかろうかな。どうしよっかなぁ。
4.“無銘”さんや“大根おろし”さんとは絶対に戦わないとね!
5.あの鉄の騎士さん、もしも対立することがあったら戦いたいなぁ。
6.岩山の超力持ちさんかぁ、すっごく気になる!!出来たら戦いたい!!!(お目々キラキラ)
7.銀ちゃん、リベンジしたいけど戦いにくいからなんかキライ
※幼少期に大金卸 樹魂と会っているほか、世界を旅する中で無銘との交戦経験があります。
※ルーサー・キングの縄張りで揉めたことをきっかけに捕まっています。

【エルビス・エルブランデス】
[状態]:健康、強い覚悟
[道具]:
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.必ず、愛する女(ダリア)の元へ帰る
1.全身鎧の女(四葉)を倒す。
2."牧師"と"魔女"には特に最大限の警戒
3.ブラックペンタゴンを訪れた獲物を狩る。


854 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/19(水) 20:45:22 lvJejA1M0
投下終了です

皆様方からの沢山の投下のおかげでオリロワAの話数が50話に到達しました。ありがとうございます!
50話達成を記念して、ささやかながら延長期間を1日伸ばしたいと思います。
現在の予約期限は、基本期間3日、延長期間3日となります。これらは既存の予約にも適用されます。
今後も、オリロワAをよろしくお願いいたします。


855 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/20(木) 16:48:29 GZrWftvc0
地図ページに現在判明しているブラックペンタゴンのマップを追加しましたのでご確認ください
ttps://w.atwiki.jp/orirowaa/pages/10.html


856 : ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:09:41 16jYFvus0
投下します。
構成は3分割となるため、分割箇所通過の都度、タイトル表記を変えます。


857 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:19:55 16jYFvus0



 <戦闘記録> 

 No.A00X-002-XXXX(AG検閲済み)

 <表題>

 エリアC-2における要注視刑務対象者の交戦について。

 <概要>

 刑務開始より3時間と48分経過時点にて、エリアC-2を中心に要注視刑務対象者同士の遭遇、及び戦闘が発生。
 主にフレゼア・フランベルジェ、ジルドレイ・モントランシーの2名を中心に勃発した超力戦。
 大規模破壊行為の応酬は周辺エリアに滞在していた多くの刑務対象者を巻き込み、最終的に総勢7名による乱戦状態へともつれこむ。
(細かな戦闘経過は後述の詳細欄を確認すること)

 結果として、上記の超力戦は長時間に及び継続され、明け方頃、死者■名、重症者■名を出した上で終結した。

 戦闘記録として特筆すべきはやはり、フレゼア、ジルドレイ両名に起こった超力の変革現象にあろう。
 収監当初の時点で計測された破壊規模から要注視対象に指定されていた2名である。
 しかし今回観測された数値はこれまでを更に大きく上回る戦略兵器クラスに達し、個人が所有する武力としては■■■■■に指定される者達に匹敵すると考えられる。
 
 両名とも、直前にそれぞれ別の刑務対象者に遭遇しており、精神的に強烈な影響を受けることで能力のコントロールを欠きつつも、出力の急上昇を果たしている。
 この現象が特例的なものか。或いは超力の強化に結びつく何らかの法則に従ったものか。今回の戦闘記録だけで特定することは出来ない。
 何れにせよ、■■■級超力2種を用いた交戦を詳細に観測出来たことは、■■■■■の■■■にとって非常に大きな意義があったと断言できよう。
 今後も要注視刑務対象者による戦闘行為については、適宜戦闘経過の記録を行うこととする。

 下記は、戦闘経緯における詳細の羅列。
 時間のある職員は目を通しておくこと。

 
 記録者:オリガ・ヴァイスマン


(付箋によるメモ書き:この程度の事務作業を私にやらせるな)




-


858 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:23:24 16jYFvus0


 炎の中で悪夢を見る。

 怒りだ。
 私には、怒りしかない。
 
『おかあさん、おとうさん――』

 腐り果てたスラムの地に希望なんてどこにも見当たらなかった。
 弱い人間に出来ることは自分よりもっと弱い人間から奪うことだけ。
 弱さが弱さを踏み躙り、搾取が搾取を引き寄せて、暴力の行使が正当化され、肯定されていく残虐によって悲劇の連鎖が終わらない。
 
 父が目の前で逆上した物乞いに惨殺されてから2週間後。
 母が狂乱の内に自らの命を絶って1週間後。
 兄弟たちが飢えて殺し合った3日後。
 家族の後を追おうとした、その日。

『――もう、大丈夫』

 私の濁った瞳を浄化する、あの光に出会った、運命の日。
 私を包みこんだ温み。
 彼女の腕の感触が、今でも私を暖めてくれる。
 
『大丈夫ですよ、私がいます。ここに、いますから』

 ああ、ジャンヌ。
 私の英雄(ヒーロー)。
 私の光。
 私の、私の――――

(なにをしているのです? フレゼア、立ち止まっている時間などありませんよ)

 ああ、そうだった。
 ごめんなさいジャンヌ、せっかく私を戒めてくれたのに。

 早く、悪を殺さなきゃ。
 もっと、悪いやつをやっつけなくちゃ。
 いままでやってきたように。いままでやってきた以上に。

(そうです、貴女の怒りは正しい)

 頭の中で響き渡る声。
 私の道を肯定するジャンヌの言葉に全身が燃えたぎる。
 
 そうだ、私はずっと怒っていた。
 こんな世界は間違っている。あんな地獄を許す世界は狂っている。
 正さなきゃいけない。悪を根絶やしにして、浄化しなければならない。

 これまでも、沢山の悪を燃やしてきた。
 人を殺した者を燃やした。事情があったらしいが悪は悪だ。
 盗みを働いた者を燃やした。飢えを凌ぐためだそうだが悪は悪だ。
 ゴミを不法に捨てた者を燃やした。うっかりしていたようだが悪は悪だ。

 けれど燃やしても、燃やしても、悪は消えない。
 私の怒りは収まらない。
 そして遂に世界は、看過できない間違いを犯したのだ。

 ジャンヌを、私を、拒絶した世界なんて、悪だ。
 悪は、燃やさなければならない。

(――行きなさい、フレゼア) 

 きっと、彼女はそう言ってくれる。
 あの日、泣くことしか出来なかった少女は、光を見た。
 私は誰より知っている。誰より憧れた彼女の事を理解している。
 
『おかあさん、おとうさん――』

 彼女の怒り、彼女の痛み、彼女の、悲哀。
 だけど一つだけ、たった一つだけが、今もわからない。
 わからないままのコトがある。

『――もう大丈夫、大丈夫だからね』

 あの日、どうして彼女は微笑んでいたのだろう。 
 それだけが、今をもってしても分からない。

(――全ての悪を焼き払うのです)

 ほんの僅かに掠めた疑問は、全身を舐める炎が押し流して。

『――どうか、この世界を憎まないで』

 嗚呼、怒りだ。
 今の私には、怒りしかない。
 

-


859 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:26:03 16jYFvus0

「こっちは……やめておきましょう」

 
 天に向かってピンと立てたうさ耳の毛が、緊張を訴えるように逆立っている。
 頭上を覆う木々のカーテンは夜の闇をより濃く深め、不安定な足元を一層見えづらくしていた。
 それでも彼らが林地帯の獣道を往くことには明確な理由があった。

「近づいて来てるのか?」

 木の枝を掻き分けながら歩く青年、ハヤト=ミナセは努めて抑えた声で前を歩く同行者に問いかける。

「ええ、さっきよりも。これは……多分ですけど、あまりよくない、そんな気がします」

 対して獣人の少女、セレナ・ラグルスもまた、硬い口調で答える。

「パチパチ……と、薪を火にくべるような……そんな音です」

「……そりゃ、まあ、あの火柱と無関係なわけねえよな」

 手当と休息を終えたハヤトは港湾を出立することにした。
 高高度からの自由落下という苦難に見舞われた彼であったが、セレナの看護によって今はもう痛みが引き、動けるようになった以上、いつまでも横になっているわけにはいかない。
 彼には看守から与えられたハイエナとしての仕事があり、そして復讐という、彼個人の目的がある。

 そして彼の目的を知った上で、セレナは同行を申し出たのであった。
『一人で隠れているよりも、誰かと一緒に行動した方が安全だから』とは本人の弁。

 だが、しかしそれを聞いたハヤトの気は重かった。
 ハヤトの目線では、おそらくセレナは単独行動で24時間生存することに集中した方が安全である。
 であれば、彼女が同行を申し出た理由は明確であり。
 それはおそらく、ハヤトが予想していた彼女の役割。
 ハヤトの役割の補助に使わせるためという看守達の目論見が、見事に作用した証左のように思えたからだ。

 しかし結局、彼はその忌むべき予想を口に出すことも、彼女の手を振り払うことも出来ぬまま。
 二人で一緒に港湾から出た直後、その異常を目にすることになる。

 東の森林地帯の一部が業火に包まれていた。
 絨毯爆撃でも行われたかのように地が抉れ、炎の舌が木々を蹂躙している、まるで地獄のような光景。
 驚異的な超力の気配に尋常ではない危機感を覚えた彼らは、港湾に戻るか南の林地帯に踏み込むかを迫られ、後者を選択して現在に至る。

「クソ、なんでこっち側に来るんだよ……。悪いセレナ、オレのミスだ。やっぱり港湾に戻るべきだった」 
「そんなの結果論ですよ。ハヤトさんが言ったように、港湾だと行き合った時に逃げ場が無かったと思いますし」

 エリアB-3付近にいると思しき危険人物を避けるため、C-3にあるとされる死体の確認は一端断念。
 林地帯に身を隠しながら南下してエリアD-3の死体を目指す、そのプランのもとに動いていたのだが。
 頃合いを見て東側の街道に抜けようとしたとき、セレナの制止がかかった。

 強い気配を纏った者、おそらく件の危険人物が北東方向から徐々に近づいて来ている。
 こちらも並行して動いているから距離は一定を保っているし、今のところ相手が意図的に追ってきているような雰囲気はない。
 接近はおそらく偶発的なものと思われる。
 しかし、セレナの獣人としても突出した聴覚がなければ、その事実に気づくことも出来なかった。

 港湾を出て、否が応なく思い知る。自らが危険な場所に身を置いていることを。
 ハヤトは背筋に冷たいものが走り抜けると同時、ちくりと胸を刺す棘を感じた。
 さっそく、セレナは役に立っている。
 ハヤトの仕事を遂行するために、看守たちの目論見通りに。
 そしてその忌むべき実態を、ハヤト本人が自覚していながら、享受している。
 己の目的の為に、この心優しい少女を利用している。

「……東は駄目だな。どんどん森の深みに入っちまうが、しかたない。南下を続けよう」

 胸騒ぎを振り払うように、一度目を閉じて、ハヤトは身体の向きを変えた。
 今は罪悪感に囚われている場合ではない。
 危険から距離を取ることを最優先に考えなければ。

「そうですね。地面の状態が更に悪化します。足元に気をつけてください」

 さく、さく、と。夜の林に、2人分の足音が響く。
 ウサギの少女は自然な動作でハヤトの前を歩く。
 獣人がデフォルトで備える身体能力に加え、パルクール能力の真価は道なき道でこそ発揮される。
 どっぷりと闇に浸かった獣道を進むにおいて、ハヤトにとって、彼女の存在は本当に有り難かった。
 それは実利的な意味でも、精神的な意味でも。だからこそ、彼は考えずにはいられないのだった。

「なあ、お前さっき、自信ねえって言ったよな」
「…………?」
「二人で、どうしようもねえ犯罪者に行きあった時の話だよ」

 恐ろしいものに出会ってしまったとき。
 危機にあったとき、隣の誰かを見捨てるか。
 セレナ・ラグルスは、『自信がない』と言った、そのうえで、『そんなことはしたくない』とも。


860 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:27:06 16jYFvus0

 その言葉を聞いて、ハヤトはその実、少しほっとしたのだ。
 自信が無いのは自分だけじゃなかったという事実に、安堵したのだ。
 だから今のうちに、言っておきたかった。

「逃げたきゃ、逃げろよ」

 ぶっきらぼうな言い方になってしまった。
 だけど本心でもあった。逃げてほしいと思った。
 少なくとも、今の時点での気持ち、ではあるが。

「お前の方がオレより動ける。今だって、ホントはオレなんかほっといて、隠れてた方が良いんだ。
 協力してくれて感謝してる。だから何かあった時は、気にせず逃げてくれたって構わない。
 ホントはオレだって、もしもの時にお前を置いて逃げ出さねえ自信なんてねえんだ。だから恨まねえ」

 極限状態で、自分の思考がどう流れるかなんてわからない。
 だからこそ、今の自分の心を伝えることが、この優しい少女に対する誠意であると信じたい。


 ハヤトの言葉を聞いたセレナは少しの間、考え込むように押し黙った。
 ややあって、ゆっくりと発せられた声は相変わらず穏やかで、すこし悲しそうでもあった。

「……ハヤトさんって、優しい人なんですね」 
「なんでそうなる?」
「だって、わたしなんかに気を使ってくれて……」

 夜明けまではまだ時間がある。
 闇の中、乏しい光ではお互いの表情までは見て取れない。
 けれどその声は、確かな寂寥が込められている。

「でも駄目ですね。そんな優しいこと言われたら、ますます逃げにくくなっちゃうじゃないですか」
「いや、そんなつもりじゃ……」
「ふふ……冗談です」

 なにか言うべき言葉を間違えたのだろうか、と思う。
 同時に、『お互い様だよな』とも。これは口には出さないが。
 優しいことを言われたら、逃げられない。
  
「それに、私は――――」

 意を決したように、何かを告げようとしたセレナの、

「止まってください!」

 しかし、言葉の続きを聞くことは出来なかった。

「……どうした?」 
「これは……いや……だけど……さっきのと……違う……」
「どうしたんだよ、セレナ」

 ぴん、と。
 垂れていたセレナの耳が再び直立するのを、闇の中で薄っすらと感じ取る。

「ぱきぱき……って音、炎……じゃない」

 尋常ではない様子の少女から、ハヤトもまた理解する。
 脅威が近い。しかしそれは道理が通らない。
 一定間隔で接近しつつあった危険人物から、彼らは並行して距離を取っていた。
 セレナの聴覚によって対象との距離を把握し、上手く躱すことが出来ていたはずなのに。

 なぜ、彼女は焦っている。
 なぜ、敵が近づいている。

 後方の脅威に気づかれたのか、信じ難い不運があったのか、あるいは。

「私たちの進行方向に、誰かいます。後ろの人とは別の」

 ハヤトたち自らが、息を潜めていた『もう一つの脅威』に、近づいてしまったのか。


「あ、ああああああ、う、おおおおおおおおお」


 砂利をかき混ぜたような、うめき声が聞こえた。


861 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:29:40 16jYFvus0

「雑念が、雑音が交じる。
 なんと、なんということだ、貴女が、貴女が見えない!!
 おおおおおおおおおおおおおおおおおなんという冒涜!!」

 その冷気に、セレナの背中が震え上がる。
 前方、木々の隙間から僅かに見えたその異様。

「ときに、我が黙祷を遮る者は誰、か」

 氷塊であった。
 二十本以上の大樹を纏めて氷漬けにした、巨大な氷の壁。
 その中央にて蹲った、少女のような見た目をした何者か。

「おおおあああううううおおおおああああああ」

 這いつくばって許しを乞うように、青い長髪を無造作に地面へ投げ出している。
 その怪人はつい先程まで機能を停止していた。
 自らを森林のなかで氷に閉じ込め、時間を止めるようにして、身体を固定していたのだ。

 凍てつき、完全な静止を実現したモノに気配はない。
 称えるべきは、それでも察知を成し遂げたセレナの感覚といえる。

「嗚呼、そうか、ジャンヌ。新たな贄を、寄越されたのですね」

 だが現時点でもって、すでに。

「彼らを平らげる。新たなる試練。我が心が実現する苦悶の罰。おお、なんと素晴らしい」
  
 残念ながら、間に合っていない。

「逃げるぞ……」

 ゆらりと蠢いた怪物の気配に、二人は一歩後ずさる。
 結論は決まっている。今すぐに逃げ出さねばならない。
 まともな会話ができる様子もなければ、目の前に出現した氷の世界を前に、戦う気力すら根こそぎ奪い取られた。
 あれは関わってはならぬ災害であると、本能的によって理解したのだ。

「わかってます……逃げないと……だけど……」

 だけど、どこに逃げる。
 彼らは挟まれてしまっていた。
 前方には狂気の氷世界、しかし後方からは恐ろしい焔が近づいてくる。
 
 選択の時間は与えられなかった。
 ハヤトは咄嗟に、セレナの腕を掴み、踵を返して駆け出して。

「わわっ……ハヤトさ」
「いいから走れ!」
「ふむ、私のもとに来てくださらないのですか。
 なるほど、なるほど、よろしい。
 ではでは、こちらからお迎えに上がるとしましょうか」

 巨大な氷塊がひび割れて弾ける。
 氷漬けにした大木ごと砕け散り、溜め込んだ冷気を開放する。

 冷たい風が追いかけてくる。もはや一刻の猶予もない。
 闇雲に走り出した二人の背後、青い狂気が駆動する。
 それは十代の少女の見た目を被った、人の歪みの末期症状。

 青藍の狂信。氷結の怪人。
 囚人、ジルドレイ・モントランシー。
 下されし裁定は――死刑。


-


862 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:31:31 16jYFvus0

 氷の内に希望を見る。
 
 怒りだ。
 私には、怒りだけがある。

『父様、母様、どうして私を作ったのです?』

 生まれつき、心を備えずに生まれた者を、果たして人間と呼んで良いものか。 
 私は失敗作だった。
 凍りついた感性が尊いと思えるものを、遂に見つけることが出来なかった。

『栄えあるモントランシー家の次期当主がアレとはな、恥ずべきことだ』

 人並みの精神性を得られなかったまがい物が、まともな家長として振る舞えるはずもなく。
 家臣達からの誹りが聞こえる。後見人の落胆が見える。人々の失望が伝わってくる。
 残念がるという動作が、不満と呼ばれる感情の発露であると、知識としては知っていた。

 良い悪いの判断が自分で出来ないから、自分の指標を持てないから、何も決めることが出来ない。
 結果、侮られて、軽んじられて、モントランシーの家名に泥を塗ったと呆れられ。
 しかし、だから何だ。何も思うことはなく。
 そして、そんな状態が良いものではないと、やはり知識としてのみ知っている。

『例えば、そうだな……いいかいジルドレイ、彼女を手本にしなさい。彼女のように気高く振る舞ってみせろ』

 おおよそ感情の機微と呼ばれるものに無縁の人生において、分岐点があったとすれば、きっとあの日。
 夕餉の席にて、英雄、ジャンヌ・ストラスブールを指し、父の告げた一つの方策。
 自らの感情を知って善悪を決めるのではなく。尊き聖女の言葉を絶対なる指標として設定する。
 聖女が掲げる善悪に、間違いがあろうはずもないから。
 ラジオから流れる透明の声音。聖女は悪と対峙し、民に語りかけている。

『私は戦い続けます。あなた方と共に』

 他人の心に擬態して生きることは、存外に上手く行った。
 人間に成れなかった私でも、彼女のおかげで人間のフリをすることが出来た。

『ジャンヌ、貴女は素晴らしい。今日は欧州の片田舎まで出向いて、スラムの子供たちを救っていたんだね』

 善悪を決められない私のかわりに、ジャンヌは全てを決定してくれた。
 私は、知っている。彼女の心が分からなくても、彼女の行いの全てが尊いと知っていたから。

『ジャンヌ、貴女はなんて優しいんだ。今日は仲間と共に国家間の諍いに突入して、戦争を止めたとか』
    
 ああ、ジャンヌ。
 私の英雄(ヒーロー)。
 私の光。
 私の、私の――――
 
『ジャンヌ、貴女は美しい。今日は欧州の子どもを誘拐して、惨たらしく殺していたと報じられていたね』

 私は、貴女になろう。

『ジャンヌ、貴女は最高だ。あの虐殺もあの強盗もあの戦争犯罪も、全て貴女の仕業だったなんて』

 貴女という、絶対の指標をこの世界に刻みつけよう。

(―――ジャンヌだと? あのような凡俗が)

 潰れたはずの右目が疼く。
 神を名乗る男によって、瞳に捩じ込まれた残影が何事かを嘯き、その都度に胸が疼く。

(―――神を見ろ。しかと見ろ)

 黙れ。
 黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!

 許せぬ。あの男は私の中のジャンヌを汚し、光を奪い去った。
 私は今日、生まれて初めて、怒りを知ったのだ。

 胸の内側が腐ったように疼く。
 炎の如く駆け昇る感情。怒り。嗚呼、これか、これだったのか?
 貴女の纏いし炎の熱は。

(違うね、そんな情動は普遍的なものに過ぎない)
 
 脳内に氾濫する神の声。いつかラジオから流れていた彼女の声。

『私は戦い続けます。たとえ、この身が燃え尽きても。心はあなた達と共にいます。だからどうか―――』

 我が旅は、まだ道半ば。
 新たに刻まれた感情は、全身を包む冷気をもってしても抑え切れず。
 

『――どうか、最後まで、希望を捨てないでいて』


 嗚呼、怒りだ。
 今の私には、怒りだけがある。



-


863 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:33:49 16jYFvus0

 ドブ底に複数の死体が浮いている。
 目立った外傷は見られないが、腐敗の進行によって薄紫色に変色した肌が痛ましい。
 折り重なったそれらは男女の区別もつかない程に崩れ、たかる蛆虫と充満する異臭が、死後数日間に渡って放置されている事実を伝えている。

 積み重なった複数の死体は時間の経過とともに腐りながら混じり合い、もはや個人を特定することは不可能であろう。
 ただ、折れ曲がった腕の細さが、垂れ下がった頭の小ささが、教えてくれる。
 それらが、年端も行かぬ子ども達の飢えて死んだ、そして遺棄された肉の、集合体なのだと。

 戦乱、貧困、疫病。
 小国を襲った在り来りな悲劇の名前。
 事切れた子どもの死体を丁重に弔う余裕すら、この国にはもはや無い。
 
 神に見放された土地。
 地獄のドブ底を、一人の男が覗き込んでいる。
 肩を震わせながら、胸を掻きむしりながら、口汚く罵りながら。

 男は、見ている。
 死体の積み上がったドブの底を、ではなく。

「―――さん」

 こちらを、見ている。

「―――ドさん、聞いていますか?」

 目を擦り、細める。
 あの男は誰なのだろう。
 こちらを睨みながら、何かを訴えるあの男は―――

「アルヴドさん」
「――――っ」

 真横からの呼びかけによって、アルヴド・グーラボーンは我に返った。
 一瞬の妄想。あるいは回想が過ぎ、現実の景色が押し寄せる。
 森の出口はいまや目前に、耳朶を掠める夜の風と同行する男の言葉。

「呆とされおりましたが、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……コーイチローか。いや、少し考えてただけだ」

 数歩前を行く夜上神一郎が首だけで振り返りながら、薄く笑った。

「また何か見えましたか?」
「……まあ、な。ちょっと昔を思い出してた」

 あしらうように応答しつつ、アルヴドの思考はいまいち霞がかったように纏まらない。
 刑務開始以来、いや正確には目の前の男と関わって以来、不可思議な事ばかり起こっていた。
 頭の中で響き渡る、自分自身との問答、不意に思い出す過去の情景。
 己の内側で置き去りにされていた罪が形をもって浮かび上がるような感覚。

「それはよい兆候ですね。あなたは神(あなた)との対話を通じ、己の過去(つみ)と向き合い始めた」
「説教臭え。テメエの宗教観で決めつけんじゃねえよ」
「失敬。これは神(わたし)のクセのようなものなのです。故に後に続く言葉も聞き流していただいて結構。
 ただし、いづれ、あなたにも試練が示されるでしょう。その時までに考え続けることを勧めます」

 相変わらず捉えどころのない調子で、日本人の神父は穏やかに話しながら一歩先を進んでいく。
 
「なあ、アンタは一体何者なんだ?」

 アルヴドはとうとう、その問いを口に出した。
 夜上神一郎、独自の宗教観を持つ神父。アビスにおける数少ない模範囚でありながら、血なまぐさい刑務に参加させられた不幸な人物。
 そんな人物評は、とっくに形を失くしている。

 彼は異様だ。
 精神的に大きく均衡を欠いていたアルヴドを言葉だけで諌め、あまつさえ信頼を得てみせた。
 アルヴドを一瞬で行動不能にするほど強力なネオスを操る敵、狂気に支配された危険な死刑囚(ジルドレイ)を言葉だけで追い返した。
 
「神(わたし)はただの神父ですよ。大した権力も、超力も持ちません」

 そんな言葉で納得できるはずもない。
 夜上の成した事象は単純な話術だけで片付けられない。
 しかし目に映る彼の情報はやはりどこまでも平凡であり、認識と状況の齟齬に違和感が付きまとって気持ちが悪い。
 あるいは、その認識すら、アルヴドの精神が彼に掌握されている証左なのか。

「神(わたし)などより、今はあなた自身の心を気にされた方が良い。
 よければ、先ほど見たと仰った過去の話を聞かせていただけますか?」
「告解を受けてやろうってか?」
「ええ、あなたがあなたの神と対話する、その一助にやるやもしれません」
「ちっ……だから宗教観が違うってのに。別に構わねえけどよ、道中暇だからな」

 はっきりと分かる事は一つ。
 この男は、酷く変わり者ということだ。
 刑務という異常な空間において、夜上は他の刑務者と全く別の軸で動いているように思える。

「死体の山。俺の故郷の景色だよ。もうとっくに帰り方も分からねえ貧相な国だ。
 今も辛うじて国の体裁を保っちゃいるらしいが、もうありゃ国家なんて機能が働いているとは思えねえ」
 
 そんな彼だからか、アルヴドは素直に先ほど目にした光景を口にした。
 ドブの底に積まれた死体。27年前の故郷の姿。当たり前のように人が飢えて死んでいく、現存する地獄の景色。
 かつて宗教テロリストであったアルヴドが守ろうとした、あるいは変えようとした現実の姿。


864 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:36:07 16jYFvus0

 彼の所属していたテロ組織は、様々な方法で世界にその悲惨な現実を訴えた。
 自国の無能な指導者を軟禁して、国家転覆を謀ったこともあった。
 隣国の侵略者を自爆テロで暗殺した事もあった。
 全く無関係で平和な国の人々を虐殺した事もあった。
 そしてついに、彼らは極東の高等学校襲撃作戦に至り、アルヴドはアビスに収監された。

 全ては、世界に、そして神に、気づいてもらうためだった。
 悲劇はここにあるぞ。
 救われぬものがあるぞ。
 お前たちが取りこぼしたものが、確かにここにあるんだぞ、と。

 だが、全ては徒労だった。
 一時期は巨大に膨れ上がった宗教テロ組織も、今となっては細々と体制を維持するのが精一杯の有り様だという。
 何人殺しても現実は変わらない。残ったのは積み上げた死体の山だけ。
 世界は、神は、けっきょく最後まで悲劇を黙認した。

 故にアルヴドは、神を憎む。クソと罵り、蔑み見限る。
 夜上に出会うまでは、神の名前を聞くだけで錯乱するほどに、彼にとっての地雷だった。
 なのになぜ、今更それは克服され、こうして過去を振り返るに至ったのか。
 
「ほう、ほう……なるほど、なるほど」

 アルヴドの言葉を聞いた夜上は指先で顎を擦りながら。
 一人で何かを納得したように頷いている。

「気に食わねえ。勝手に腑に落ちたようにしやがって」
「失敬。しかし、今の話を聞いて、また一つ貴方について理解できましたよ」
「なにが言いてェ?」
「まず1つ目に、貴方の思想ルーツはやはり貴方の故郷にある」

 そしてもう一つ、と彼は2本目の指を立て。

「最終的には貴方次第なのですがね。審判の分岐点はおそらくここです」

 木々のアーチ。
 森の出口に手をかけて、首を傾けながら振り返る男は力を抜くように息を吐き出し。

「貴方は――――おっと、時間が来てしまいましたね」

 緑を抜けて遂に辿りつた街道、その対岸に、それは居た。

「なあおい、コーイチロー。ありゃ一体なんの冗談だ?」
「次の試練ですよ。決まっているでしょう」

 東側の森林地帯が真っ赤に燃えている。
 ごうごうと立ち昇る炎を背にして、一人の女が立っていた。

「足りない……次! 
 ……次の、悪を……探さなければ……ッ!」

 その女の様相は、人間として完全に破綻している。
 まず左腕の肘から先が存在していない。
 幼さの残る顔には痛ましき二つの刀傷が刻まれ、内一つは瞼にまで届き左眼を失明させている。
 しかし彼女の姿を凄絶に歪めているのは、それら痛ましい傷そのものではない。

 傷口の全てから滴る赤。
 それは血ではない、紅蓮の炎だ。
 血液のかわりに全身から大量の炎を撒き散らしながら、夜天の下、女は赫怒に任せて絶叫する。

「燃やし尽くしてやる……ッ! 私たちを否定した世界全部ッ!!」

 左腕の切断面からは火炎放射器の如く火の息が吹き荒れる。
 左目の空洞に眼球代わりに収まった焔は、睨むだけで人を呪い殺さんばかりに鮮烈だった。
 アルヴドはその有り様に言葉を失い、暫し立ち尽くす。
 しかし、そんな時間は、当然長くは続かない。

「――あ―――いた」

 目が合う。

「いた、いた―――!」

 アルヴドと夜上の姿が、燃え盛る焔の眼に捉えられる。

「……おい、どうすんだよ……これ」

 思わず、アルヴドは聞いてしまった。
 答えなんて最初から知っていたのに。

 それでも夜上は律儀に答えてくれる。
 誰の目にも明らかな、当然の回答を。

「そんなの逃げるに決まってるでしょう。不本意ですが森に戻りますよ」

 巨大な火柱が伸び上がって弾ける。
 大木を飲み込む炎の腕、解き放たれた熱気が殺到する。

 熱風が追いかけてくる。もはや一刻の猶予もない。
 踵を返して森林地帯へと走り出した二人の背後、赤き狂気が駆動する。
 それは少女の祈りの成れの果て、人の歪みの末期症状。

 赤熱の狂信。火群の魔女。
 囚人、フレゼア・フランベルジェ。
 下されし裁定は――無期懲役。



-


865 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:38:37 16jYFvus0

 暗い森を駆け抜ける。
 走り出してから、どれほどの時間が経ったのか。
 数十秒か、数分程度か、ハヤトは己の時間間隔が曖昧になっている事実に気がついた。

 きいんと耳が鳴る。
 背後から首筋を撫でる冷気に鳥肌が立つ。
 自分の息が煩い。心臓の音が煩い。そして先程から聞こえるこの――

「ハヤトさん、このままじゃ駄目です! 離してくださいっ!」

 女の声が―――

「―――っ」  

 己の右手が何かを掴んでいる。
 柔らかい毛皮の感触。低下の一途を辿る気温の中で、唯一、掌に伝わる暖かさ。
 同行していたセレナの腕を、無意識に掴んだまま、彼は走り続けていた。
 先程からずっと訴えていた彼女の声を聞かずに。

「このままじゃ、追いつかれちゃいますよっ!」

 ―――どうして?
 と、思う。どうして己は彼女の腕を離せない。
 恐ろしい死刑囚と遭遇し、とっさに彼女の腕を引っ張って逃げ続けた。
 しかしそれは、本当に彼女の為を思ってした行動だったのか。

「あ、お、俺は……」

 まさか恐れているというのか。
 この手を離した瞬間に起こることを。

 彼女一人ならきっと逃げ切れる。
 ハヤトを見捨てて、全力で逃げればきっと、背後に迫る追跡者を振り切ることは容易いだろう。
 逆を言えば、彼女に見捨てられたら、己は絶対に逃げ切れない。
 だから―――

「俺は―――何を――――」

 ぱきぱき。
 氷を割る音が近づいてくる。
 気温は下がる一方だ。

 恐ろしい。ハヤトは認めるしかない。
 己は今、怖いのだ。ストリートギャングとして荒事に慣れていた彼であっても、今この時、背後に迫る未知の災害が恐ろしい。

「ハヤトさんっ! 聞いて下さい!」
「なん―――だよ―――!」

 心中を悟られぬよう、虚勢を張りながらセレナと目を合わせる。
 無駄な抵抗だったのかもしれない。
 おそらく彼女は見抜いている。
 ハヤトの体の震えは、腕を伝って彼女に届いているだろうから。
 だが、彼女は全てを知った上で、こう告げたのだ。

「―――大丈夫、信じてください」

 その声に何故か、腕の力が抜ける。
 するりと、緩んだ掌からセレナの腕が抜け出していく。
 拘束から逃れ、自由に身体を動かせるようなった獣人は、ようやくその本領を発揮する。
 身軽なウサギは呆気なくハヤトを追い越し前方に躍り出る。

「こっちです! ついてきてっ!」

 しかし事態は彼の恐れた通りにはならなかった。
 ハヤトを誘導するように、セレナは三メートル程度前方を一定距離を保って走行する。
 躓きやすい道を避け、彼をナビゲートしているのだ。

「でも、これじゃあ……」

 セレナはハヤトを見捨てなかった。
 しかしハヤトの速度が上がらない以上、結局は二人共追いつかれる。
 遂に冷気は背中届き、肩から水滴が滑り落ちるまでに接近を許してしまった。
 狂気に喚く怪人のうめき声が、すぐ後ろで聞こえた気がした。

「くそッ……駄目だ……もういいオレを……!」

 置いて行けと。
 どうしても言葉にできない。
 先程は伝えられた言葉が、極限状態では、何故か喉を通過しない。

(そっか、オレ……)

「もうちょっとですっ!」

(オレ……何だかんだ言って、死ぬのが怖えんだ)

「いたっ! 目の前ッ! ハヤトさん、前方に気を付けてっ!!」

 再び、セレナの声にはっとする。
 次の瞬間、前方にあった木の裏側から、突然、二人の男が現れた。
 彼らもまたハヤト達と同じように、何かから逃れるように走っていて。
 その内の一人、痩せこけた黒人は既にハヤトの正面に迫っている。

(ま――ずい)

 進路を変えようにも、足を止めようにも、勢いがつきすぎていて間に合わない。
 避けられぬ衝突を前に、目の前の男の表情がにわかに強張るのが見えた。
 苦し紛れに、闇雲な動作で右足を地面に突き立てる。


866 : Dies irae(前編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:38:58 16jYFvus0

(これしか――ねえッ!)

 結果、2人分の運動エネルギーを維持したままに正面衝突を果たした両者であったが、発生した現象は道理に合わないものであった。
 ぶつかった瞬間、発生する衝撃は一切現れず、代わりにハヤトの掌が触れていた大木の幹が消し飛び、めきめきと音を立てながら倒れていった。
 数秒、二人は接触したまま静止し、やがて、

「……お、おおおい! テメエどこに目え付けてんだクソッ!」

 ハヤトに掴みかかってくる痩身の男に、彼もまた反論する。

「五月蝿え、お互い様だろ! それにどこも怪我してねえんだからいいだろうがッ!」
「ああッ!? あれで無傷なわけ……」

 痩せた男は怒鳴りながら自分の身体をぺたぺたと触り、そして、次第にその語気を弱めていく。

「……確かに、どこも痛くねえ。どういうカラクリだ?」
「おそらく彼の超力でしょうね」

 そこで、隣に立っていたもう一人、日本人の男が口を挟んだ。

「受けた衝撃を吸収して放出する。そんなところでしょうか?
 発動直前の不可解な動作からして、足が地面に着いていることが発動の条件かもしれません」

「お前ら……なんだ?」 

 瞬時にハヤトの超力を解析してみせた男に、警戒心が膨らんでいく。
 対して男は飄々と肩を竦め、傍らの黒人を指しながら告げた。

「それはこちらのセリフでもあるのですがねえ。
 神(わたし)は夜上、こちらはアルヴド。残念ながらゆっくり自己紹介している場合ではないのですよ。
 それは、あなた方も同様かと思いますが? でしょう? 聡明なウサギのお嬢さん?」

「……セレナ?」

 3者の視線が一箇所に集まる。倒木の傍らに立つ少女に。
 ハヤトとアルヴドは未だに状況に理解が追いついていない。
 現状を正確に理解しているのは、この場では夜上神一郎と、そしてもう一人。

「ごめんなさい……ハヤトさん、わたし……どうしても、この方法しか思いつけなくて……」 

 セレナ・ラグルス。『この状況』を作り上げた。
 いや、正確には、『これから巻き起こる状況』を作り上げた、獣人の少女は理解しているのだ。
 これから、この場に、地獄が出現することを。

 ぱきぱき、と。
 ハヤトの背後から音がする。
 それは氷の世界が広がる音だ。
 迫りくる怪人の足音だ。

 ぱちぱち、と。
 アルヴドの背後から音がする。
 それは炎の世界が広がる音だ。
 迫りくる魔女の足音だ。

「―――追いついた」

 熱気が、走り抜けていく。
 冷気が、吹き抜けていく。

「―――追いついた」

 フレゼア・フランベルジェ。
 ジルドレイ・モントランシー。

 その中央に、哀れな4人の贄を挟んで、炎と氷、2つの災害が此処に邂逅する。
 互いの姿を、視界に入れる。

「――――貴様は」
「――――お前は」

 そして彼らは瞬時に、全くの同時に理解したのだ。
 今、目の前に立つ存在は、何よりも優先して討ち果たすべき、決して相容れぬ宿敵であると。

 一分一秒、刹那の間隙すら、お互いの存在を許容できぬ。
 故に、彼らの狂気はこの一瞬のみ、嵐の前の如くに冷めきって。

「殺す」
「死ね」

 放出される赤熱の大紅蓮。
 吹き荒れる青藍の猛吹雪。

 挟まれていた4人が、弾けるように四方へ退避した直後。
 対峙する怪物達の中央にて、赤と青の殺意が衝突し混じり合い。
 次の瞬間、周囲一帯を更地に変えるほどの水蒸気爆発を引き起こした。


-


867 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:41:08 16jYFvus0

 焼け焦げた大地の上を紅蓮の熱線が走り抜ける。
 まるでレーザーライトの旋回が如く軽やかに、地面を溶かし木々を断割しながら振るわれる凶熱。
 それはフレゼアの切断された左腕、その断面から吹き出る主砲であった。
 鉄すら焼き切るマグマの斬撃に一切の重さは存在せず、滅茶苦茶に振り回す動作を続けるだけでも十二分の殺傷力が担保されている。

「―――ああああああああああああああああああッッッ!!!!!」

 その上、彼女は今、平常時を遥かに超える狂熱に支配されている。
 出力は過去最高の数値を記録し、焔という形を成して殺意の対象に襲いかかる。

「お前ええええええッ!! よくもよくもよくもよくもォッッ!!!」

 フレゼア・フランベルジェは決して看過できぬ。
 眼前の敵を許せぬ。存在するという事実そのものが耐え難い。
 それがそこに居て、息をしている現実を、ジルドレイ・モントランシーという概念そのものを否定する。

「よくもジャンヌの顔でェッ!」

 尊き御方の顔を真似てよくも悪に手を染めたな。
 これ以上に罪深い行為が果たしてあろうか。
 冒涜の極み。如何なる悪よりも許しがたい。
 他の全てよりも優先して、今すぐ殺さねば気がすまない。

 脳を溶かすような赤熱が力を跳ね上げ、昇り詰めた焔が渦を巻く。
 狂えば狂うほどに、怒れば怒る程に、破壊力は増加していく。
 一度に扱える単純火力の総量において、現状の彼女の超力は最高峰と言っていい。

「――――おォ、素晴らしき、運命」
 
 しかし、対峙する男もまた狂している。
 元来から頭抜けて危険な超力を、この場所で唯一得た感情によって倍増させた異端の怪人。

「ジャンヌ、ジャンヌ、ジャンヌゥゥゥゥ……! かの者こそ我が試練、そういうことなのですねェッ!」

 踏み鳴らした足元の大地から巨大な氷塊が突き出、フレゼアの熱線に拮抗する。

「彼女こそが貴女のために用意された最ッ上の贄ッ! この紛い物を砕いたときこそッ! 貴女は我が内にお戻りになられるのだァ!!」

 天変地異は終わらない。
 夜空に掲げたジルドレイの両腕を中心に、5本の氷槍が空中に展開される。
 一本一本が成人男性の脚程のそれが、彼の腕の振りに合わせて一斉に射出され、フレゼアの身体を串刺しにせんと殺到する。

「紛い物はお前だ塵がァッ!!」

 応じるフレゼアの右手には先程までは無かった剣が握られていた。
 実体のない、炎を凝縮して作成された紅蓮剣。
 そのたった一振りでもって、飛来する氷槍をまとめて砕き払う。

「死ねッ! その罪深き姿で、これ以上呼吸することは許さないッ!」

 迎撃の勢いそのままに、フレゼアの足が地を蹴った。
 同時、彼女の背中から背後へ展開される二対の翼。
 炎で編まれたそれはロケットブースターの如き推進力を生み出し、敵との距離を一瞬にして殺し切る。

 上空から見れば森林地帯に穴を開けたように一部開けたその場所で、氷槍と炎剣が激突する。
 鍔迫り合う二人はそれぞれの背後に氷結と紅蓮の軌跡を背負う。
 己が領域を押し付け合うように、相手の陣地を侵食し合うように、しばし氷と炎が削り合い。
 数秒後、両者とも再び元の立ち位置まで弾かれた。

「ねえジャンヌ! 見ていて、私、こんな偽物に負けないから!」

「ジャンヌゥゥゥ! とくと御覧じろ、我が献身、我が信仰、我が殺戮ッ!」

 離れ際にもそれぞれの一撃が交錯する。
 フレゼアの左腕から浴びせられた炎の渦がジルドレイの全身を包み込む。
 ジルドレイの足元から伸び上がる冷気がフレゼアの足を地面に縫い留める。
 
 両者、動きの止まった隙を逃さず、同時に武装を投擲。
 氷槍と炎剣が空中で衝突し、明後日の方向に弾かれていく。

 その片方、炎剣が突き刺さったのは、戦場から18メートルほど離れた場所で息を潜めていた、四人の傍らであった。



-


868 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:44:57 16jYFvus0

「危っぶねえな……!」

 冗談じゃねえぞ。
 現状、その感想がアルヴドの思考の全てを占めていた。

「まったく生きた心地がしませんねえ」

 残された僅かな木陰にて、隣で身を潜めた夜上の声音に変化はないが、流石の彼も平時の軽さは抑えている。
 夜上の1メートル手前、草むらに屈んだハヤトの目の前に、飛来した炎剣は突き刺さっている。
 剣は先程まで霜の降りていた地点の氷を溶かし尽くした数秒の後、煙になって消えた。
 アルヴドは思わずハヤトと、その隣に屈んだセレナを睨みつける。
 
「とんでもねえ状況に巻き込みやがって、どうしてくれんだオイ」
「ごめんなさい……わたしのせいで……」
「いや、氷の変態はともかく、あの燃えてる女はお前らが連れてきたんだろうが、一方的に言われる筋合いねえんだよ」

 セレナはしゅんと項垂れていたが、ハヤトは反論を返した。
 とはいえ確かに、この状況を作った要因の半分ほどはセレナ・ラグルスにある。
 彼女はジルドレイに追われながらも、優れた超力によってフレゼアの気配を感知していた。
 逃げ切ることは困難と見て、あえて二人の危険人物をかち合わせることで強者同士の戦闘を誘発。
 その隙に逃げ切る作戦だったのだ。
 
 結果として、その目論見は半分当たり、半分外れた。
 確かにフレゼアとジルドレイの戦闘は勃発した。
 この4人に対する殺害の優先度を下げた。しかし、敵は狂しながらも戦士である。
 戦闘開始と同時、ジルドレイが最初に行った事は檻を創り出すことだった。
 彼を中心に半径30〜40メートル円形に展開された陣。取り囲んだ氷の壁が逃げ道を塞いでいる。

 狂しつつも彼らは目的を見失っていない。
 目の前の大敵は殺す、その上で、誰一人として逃がしはしないという意思表示だった。

「我々の間で揉めたって仕方がありませんよ。今は協力すべき時です」 

 落ち着いた夜上の声。
 アルヴドとて、彼の提案に反対するつもりはない。
 この場を切り抜けるため、4人の協力は必須に思われた。

「しかしどうすんだ? 実際逃げ場はねえんだぞ?」
「逃げ場を作るしかありませんね。戦闘が終結してしまえば、残った方が我々を皆殺しにておしまいです」

 そんな話をしている間にも、アルヴドのたった3メートル左側をフレゼアの熱線が切り裂いていった。
 背中を冷や汗が流れ落ちる。このままでは、戦闘終結前に流れ弾だけで殺されかねない。

「ネオスで作られてるだけあって、普通の氷じゃねえ。
 さっき軽く触れてみたが、危うく腕の皮を剥がされるところだった」

 ハヤトが己の見立てを話す。
 4人を取り囲むように展開された氷のバリケード、。
 半端な物理攻撃ではびくともせず、ハヤトの能力はカウンターがメインであるがゆえに、攻撃してこない対象には力を発揮しない。
 セレナと夜上はそもそも戦闘用の超力ではない。
 となれば後はあとはアルヴドの超力しかないのだが、

(ネオスなあ……未だによく分かってねえんだよな……ダメ元で聞いてみるだけはしておくか?)

 アルヴドは自らの超力を正確に把握していない。
 アビスの中で幾度かテストは行われ、能力の内容が『手にした銃器の強化』であることは分かっているものの、逆に言えばそれだけだ。
 解析を行った看守はより詳しい情報を得ていたのかも知れないが、それは全くアルヴドに共有されていない。
 獄中で開闢を迎えた彼には、超力を扱う経験が圧倒的に不足している。応用の効かない能力だったことも相まって、自分の力に対する知識ほとんどない。
 そして、そもそもの問題として。

「誰か、銃もってたりするか? 俺の超力を活かす為に必要なんだが……」
「…………」
「…………」
「…………」
「だよな、忘れてくれ」

 この状況下で、銃を所持している者は非常に限られているだろう。
 恩赦ポイントを持たなければ買い物ができない。
 誰も殺さず、首輪の回収も行っていない4人に購入は不可能だ。

 しかしそうなると、いよいよ難しい事態になってくる。
 彼らには目の前の氷の壁を突破して逃げ出す方法がない。
 
「いえ、実際のところ、壁は問題になりませんよ」

 アルヴドはそう考えていたのだが、夜上の見立ては違ったらしい。

「先程から観察していたのですが、おそらく我々が何もしなくても解決します」
「なんでだよ、あのバケモン共が勝手に解錠してくれるってか?」
「その通りです。見ていてください」
 
 前方から飛来した炎が傍らの木々を薙ぎ払いながら通過していく。
 アルヴドは肝を冷やしながら、その行先を見た。

「そっか、あの炎……」
「正解ですよ、ウサギのお嬢さん」


869 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:47:31 16jYFvus0

 生半可な打撃をものともしない氷の巨壁を、フレゼアの炎が呆気なく削り取っていく。
 氷は溶かしたそばから再生するも、勢いは非常に緩やかなものだった。

「氷が普通でないように、炎もまた特別性ということですよ。
 あの火は氷か、あるいは超力そのものに強い特攻を発揮している」

 超力に頼った守りを呆気なく貫通する異様なる火。
 夜上の洞察は的を射ている。
 フレゼアの炎は物理と概念の両面から対象を燃やす。
 ジルドレイが正面から撃ち合えているのは彼の超力の出力が頭抜けている事に加え、彼らの相性関係が為した妙である。
 そしてフレゼアが攻勢を強めるほどに、ジルドレイも包囲網の氷に力を割く余裕が失われていくだろう。

「つまりアンタが言いたいのはこういうことか?」

 ハヤトが目元を押さえながら口を挟んだ。

「あいつらの殺し合いが激化すればするほど、炎の流れ弾が氷を削る。オレたちは抜け穴が出来るまで待っていりゃいい、と」
「正解です。そして本当の問題は……」
「それまで、わたし達が無事でいられるかどうか」

 セレナの言葉は、現状の懸念を端的に表していた。
 フレゼアの攻撃は突破口となると同時に、危険の増大を意味するだろう。
 アルヴドは嘆息を吐きながら、皮肉を込めて言った。

「出口が開くのが早いか、俺達が蒸し焼きにされるのが早いかってことかよ」 
「心配しなくとも、そこまで時間はかかりませんよ。全員出られるかは別ですがね」

 何故か確信をもって話す夜上を、他の者が怪訝に見た直後であった。

「ほら、今に彼女は痺れを切らします。走る準備をしておいた方がいい」

 戦場の中心にて、紅蓮の塊が空に昇っていく。
 炎の翼をはためかせ、火柱となって燃え盛る魔女が夜空を背景に煌々と輝いている。

 回転する火柱から撒き散らされる火球は、迎撃に放たれた氷槍を押しつぶしながら地表を赤く染めていく。
 炎の雨、東の森を炎上させた広範囲絨毯爆撃。
 狂乱する敵意が、贄たる4人を含めた全員を鏖殺せんと天から降り注ぐ。
 それは悪夢のような危機であると同時に、彼らにとって絶好の機会でもあった。

 真っ赤に染まる空。4人のもとにも爆撃が迫りくる。炎が焚べられる贄達を照らし出す。
 呼吸を忘れる程の恐怖に苛まれながら、アルヴドは目を凝らして周囲を見渡した。

 どこだ、突破口はどこに現れる。
 敵を挟んで反対側に出来たところで、おそらく到達は難解を極めるだろう。
 そもそも、夜上の読みは正しいのか。突破口なんて、本当に開くのか。
 いずれにせよ、アルヴドには祈ることしか許されない。
 頼む、頼むから、届く範囲の場所に開いてくれ、と祈りを込めて。

「――――こっちです!」

 響き渡る少女の声。
 耳をピンと立て駆け出したウサギの獣人を、他の3人も迷わず追った。
 バラバラと落下してくる火球は木の幹を容易く貫通し、地表に触れた途端に炸裂して土砂を撒き散らす。

「―――が―――ペッ……くそぉッ」

 まるで地獄に落とされたようだった。
 口内に入り込んだ苦いモノを吐き捨てる。本当に冗談ではない。
 右前2メートルの位置に落下した火球が巻き上げた土塊をまともに浴びながら、アルヴドは毒づく。

 炎の雨を一発でも受ければ命の保証はない。
 苦し紛れに両腕で頭を庇いながら、土煙の中で少女の背中を見失わぬよう走り続ける。

 早鐘を打つ心臓、止まらぬ発汗、折れそうになる心。
 平衡感覚を失いかけながらも、熱気と冷気の混じり合った地獄の戦場を横断する。
 その果てに―――

「……あった」 

 おそらく火球の数発が纏めて直撃したのであろう、奇跡のような偶然が作り出した希望が、アルヴドの目の前にあった。
 
「……本当にあった!」

 包囲網の東端、氷の壁が一部崩れ、身を屈めれば通れる程度の細い道が出来ている。
 一番目にたどり着いたセレナは律儀にその場で手を振り、他の者に場所を知らせてくれている。
 その手前のハヤトは「いいから早く行け」と少女に逃走を促していた。
 夜上はアルヴドの数メートル前を走っている。どうやらアルヴドが一番後ろに位置するようだった。

 それでも問題ない。
 今に、あと数秒も掛からず全員が脱出口にたどり着く。
 氷の壁は少しずつ再生しているが、塞がる前には余裕で通過できるだろう。

「たすかった」

 ここから僅か数秒の間、何事もなければ。
 よっぽど運悪く、フレゼアの炎が偶然にも誰かに命中しなければ。
 不運にもこちらを向いたジルドレイの氷が、誰かを捉えたりしなければ。


870 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:49:55 16jYFvus0


「たすかっ…………あ?」


 あるいは―――


「なんだ…………あれ……?」


 あるいは―――


「あ……あいつ、あいつ、は……!」 


 あるいは全くこの場に関係ない。


「マズい……てめえら今すぐ戻れェッ!!」



 完全に無関係な第三者が、唐突に現れたりしなければ。





「しーあわっせわぁ〜♪ あーるいってこーない♪」



 

 アルヴドの制止は届かない。


「だぁーかーらあーるいってゆっくんだね〜♪」


 今まさに脱出口から抜けだそうとしていたハヤトとセレナ。
 その前方、氷越しに映った薄い影。
 壁の向こう側に、誰か、いる。 


「いっちにっちいっぽ♪ みぃかでさんっぽ♪ さぁーんっぽすすんーでにっほさーがるぅ〜♪」


 ぱちんと指の音が鳴る。
 その直後、氷の壁が、〝外側から〟吹き飛んだ。

「じぃ〜んせいわっ♪ わんっつーぱーんち☆」

 爆風によって大きく弾き飛ばされ、焦げた草むらの上に転がったハヤト。
 その身体に折り重なるようにして、セレナも倒れ伏している。
 草むらに赤い血が流れ出す、どちらかの身体から滴るものか、あるいは両方か。 

「あっせかっきべっそかっき……およ?」


871 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:51:04 16jYFvus0


 じゃぎ、と。スニーカーが氷の礫を躙り潰した。
 小麦色に焼けた健康的な、ルーズソックスを履いた脚が、軽やかな一歩を踏み出す。

「あーし、なんか巻き込んじゃった系?」

 それはギャルであった。
 全身を着崩したセーラー服で武装した少女だった。
 シュシュでポニーテルに纏めた金髪。ぱっちりとした蒼い瞳は爛々と輝いている。
 髪と瞳だけではない、それらを中心に、彼女の全身が淡い光沢を纏っている。
 戦場に舞い散る炎の光を反射して、キラキラと輝いている。

「ご……はっ……げほっ……げほっ……!」
「生きてる〜? ちょっと通りにくかったからさー。爆っちった。メンゴメンゴ☆」

 苦しげに咽るハヤトの顔を覗き込みながら、少女はケラケラと笑っていた。
 悪意なく、さりとて謝意もなく、友達と駄弁るような口調でフランクに話す。

「あーしったら、面倒くさがりなギャルだかんさぁ〜」

 戦場において異様なる風貌。
 JK(ジョシコーセー)。
 それは華やかなる永遠の17歳。

「てめえ……まさか……」

「ありゃ、よく見たらアーくん先輩じゃん。おひさ〜」
 
 そして今、輝きに満ちたその視線が、立ち尽くしたままのアルヴドを捉えていた。
 敬礼するようなポーズで額に掌を当てながら、こちらを眺めている。

「てかめっちゃ老けててウケんだけど。スキンケアは欠かしちゃだめだゾ?」

 瞬間、彼の脳裏に再び想起される過去の情景。
 閃光のように過ぎゆく記憶の中で、確かに、同じ瞳が笑っていた。

「……ギャル」
  
 かつて同業者であったアルヴドは、その名を知っていた。

「ギャル・ギュネス・ギョローレン」

 史上最悪のギャルテロリスト。そして享楽の爆弾魔。
 アルヴド達が脱出口と定めていた筈の場所から、氷の壁を蹴り壊し、一人の少女が入場する。
 霜の降りし焦げた草原という、矛盾にまみれた戦場に、更なる混沌が来襲する。

「あっは、そういうカンジ?」

 全くの同時、戦場の中心から飛来する二つの殺意。
 爆熱とともに登場した少女は当然の如く注目を集め、炎と氷の怪物は彼女を明確に敵と認識していた。
 結果、贄達の企てに気づいたジルドレイは素早く氷の壁を再構築し、フレゼアは鬱陶しげに熱線を射出する。

「いーよ―――そんじゃ、みんなで楽しもっか?」

 爆風が目前に迫りくる。もはや誰も逃げられない。
 動くことままならぬ4人の正面、場違いな金色が駆動する。
 それは永遠の至る果て、全てを巻き込む破滅の逃爆行。

 青春の黄昏。享楽の爆弾魔。
 囚人、ギャル・ギュネス・ギョローレン。
 下されし裁定は――死刑。




-


872 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:53:42 16jYFvus0

 戦場の中心にて吹雪と火群が混じり合う。
 赤と白のコントラストが一種の幻想的な景色を生み出し、美しき暴力が撒き散らされる。
 
 フレゼアの右腕が紅蓮の剣を振り回す。
 薙ぎ払われた赤き軌跡は地表から伸び上がった結晶を纏めて砕き、標的たる氷の怪人の首に迫っていく。
 ジルドレイ、これを受けず上体を大きく真横に傾けて回避。
 彼は左の主砲以上に右の紅蓮剣を警戒していた。
 フレゼアの炎は超力の効力ごと灼き尽くす、中でも紅蓮剣に込められた炎の密度は群を抜いており、まともに防御してしまえば守りごと断割される可能性が非常に高い。
 
 身体を傾けた勢いそのままに、ジルドレイは両手を地につけ、下半身を持ち上げる。
 逆立ちの体制から繰り出す打撃技。半円を描いて乱れ飛ぶ2連の回し蹴りがフレゼアの左半身を打ち据えた。

「―――ぐ―――ぅ!」

 ぱきき、とガラスの割れるような音が鳴る。
 蹴りの着弾箇所を中心に真っ白い氷が体表を覆い、一瞬にしてフレゼアの左半身の殆どが氷漬けになった。

「―――舐―――めるなァ!」

 再び、左腕の断面から吹き出す炎。
 拘束を行っていた氷を剥がすと同時、ジルドレイ目掛けて熱線を浴びせかける。

「ぬるいですねェ、その程度では―――!」

 空中に出現する氷の壁が火炎放射を遮断する。
 炎剣以外は力押しの守りでも防ぎきれる。その判断は間違っていない。
 ジルドレイは攻めの手を緩めず、続けて氷の盾の内側から槍撃を繰り出そうとして。

「腕を振って足を上げてわんっつーわんっつー♪」

 上空から聞こえる快活な声。
 視線を上げ、そこに跳躍する金色の乱入者を認め。
 咄嗟、氷盾の防御範囲を全方位にまで広げた。

「休まないであーるーけー♪」

 空から降り注ぐキラメキと、盾に接触してコツンと鳴った何か。
 それは何の変哲もない、小さく透明な瓶だった。
 中に少量の血液が入っているだけの。

「そーれ、わんっつーわんっつー♪」

 ぴし、と。指の鳴る音。
 同時に氷の盾が吹き飛ぶ。
 発生した爆風によってジルドレイもフレゼアも後方に弾かれた。

「わんっつーわんっつー♪」

 止まらず畳み掛ける乱入者。
 躍動する金髪のギャルは空中で更に小瓶を取り出し、ジルドレイへと追加で投げつけると共に反転。

 ギャルとフレゼアの視線が交錯する。
 焔の魔女の燃える左目が、愚かな闖入者を睨み据えた。

「――邪魔をするなら、お前から燃やしてやる」

「――イイじゃん、アガるねっ!」

 フレゼアは左腕を伸ばし熱線を照射。
 蛇のように伸び上がる炎の軌道を、空中にいるギャルは回避する方法を持たぬかに見えた。
 しかし命中の直前、指鳴りと共にギャルの右頬から数センチの空間が起爆し、発生した爆風が彼女の身体を真横に押し流す。

 謎の緊急回避を成し遂げたギャルは、そのまま手元の瓶の栓を引き抜き腕を一振り。
 中身の血液が空中に散布された。

「そーれ、わんっつーわんっつー♪」

 そして指鳴り。
 本能的な危機感に従って血を避けたフレゼアの傍ら、濡れた地面が土を跳ね上げて吹き飛ぶ。
 まったくの同時に、先程ジルドレイに向けて投げつけた血入りの瓶も起爆された。
 
 超力、『青春逃爆行(アオハルエクスプロージョン)』。
 自らの体液を起爆する。ギャル・ギュネス・ギョローレンの能力である。
 瓶詰めの血を手榴弾のように使い、時に液体の特性を活かして放射状に爆破する。
 ギャルテロリストの基本装備にして基本戦術。
 しかしこの説明だけでは、先ほどの現象全てを成り立たせることはできない。


873 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:56:42 16jYFvus0

 フレゼアの脳裏にも疑問が過る。
 少量の血で成し遂げる剣呑な爆破現象。
 爆撃で本人が一切手傷を負っていないことに驚きはない。
 フレゼアの炎が本人を焦がさぬように、ジルドレの氷が本人を凍死させぬように。
 自らの超力が引き起こす現象に耐性を得るのは、特段珍しい事ではない。

 不可解なのは爆破現象そのものではなく。
 フレゼアの攻撃を避けた、あの手法だ。

「どうでもいい、燃やせば一緒だから」

 フレゼアの戦法が変わる。
 左腕から放射される炎が直線から鞭のようにしなり始め、ギャルを捉えるべく伸び上がる。
 更に逆方向からは、爆炎の中から立ち上がったジルドレイの氷槍が飛来していた。

 再び地を蹴り、空中へと身を躍らせるギャル。
 風にはためくセーラー服のスカート、腰に巻き付けた肌色のカーディガン。
 そして、彼女の全身を覆うキラキラとした輝きが、炎に照らされてより光量を増していく。

 軽やかなサマーソルトによって氷槍の全てを躱しきったものの、空中までしつこく追ってきた炎の鞭が単純な回避を許さない。
 加えて、ジルドレイの足元から広がる氷の領域がギャルの真下の地面を覆い尽くしていた。
 これでは奇跡的に炎から逃れたところで、体が地面に触れた瞬間に氷漬けにされてしまうだろう。

 まともな人間の運動能力で凌ぎ切れる手数ではない。
 理不尽な猛攻。しかし特定の一人を集中攻撃することは、三つ巴においての定石にあたる。
 そして特定の一人とは、次の二つのパターンがある。
 三人の中で、一番強い者か、一番弱い者か。今回のパターンは果たしてどちらであったのか。

「うんうんっ、あったまってきたねっ!」

 フィンガースナップの快音が響く。
 空中にて唐突に、ギャルの身体が爆発した。
 フレゼアとジルドレイからは、そのように見えた。
 正確には跳躍によって捲れ上がったセーラー服の裾、ちらりと覗いたお腹の、その数センチ前方の空間が爆発したのだ。

 対空したまま爆風で後方に吹き飛ぶギャルの身体。
 再び、不可解な立体運動で炎の鞭を回避する。
 しかしその落下地点は、未だにジルドレイの氷の領域下にあり―――

「ほいもういっちょ!」

 連続する指鳴り。
 不可解な連鎖爆発によって、もう一度跳ね上がるギャルの身体。
 更にもう一度、今度はスカートから伸びる生足の、脹脛の周辺が爆発。
 かと思えば次は左の太腿の近辺が爆発。

 繰り返される爆発――爆発――爆発。

 まるでピンボールのように、少女の身体が空中で乱反射して止まらない。
 ギャルは爆風による多段ジャンプを幾重にも繰り返し、無数の追撃を回避しながらジルドレイに接近していく。
 勢いに陰りはみられない。寧ろ動けば動くほど、運動すればするほどに身体のキレが増していく。
 比例して、全身を覆う輝きも増していく。

「あは―――たのしっ」

 喉元数ミリ手前を通過する幾つもの死線に高揚する。
 少女にとって、今やこれが数少ない娯楽だった。
 思想無きテロリズム。享楽の爆弾魔。破滅的逃爆行。
 永遠という虚無に囚われた心を満たすものは、死に接近するスリルと―――あと〝もう一つ〟だけ。
 だけど〝もう一つ〟は、きっとこんな場所じゃ得られないと知っていたから。 

 ―――今はこれが、一番楽しいや。

 あっという間に氷の怪人の懐に飛び込んだギャルは、対空したまま胸元の小瓶取り出し。
 しかし、中の液体を浴びせかける目前で、放射された冷気に右腕を一瞬にして覆われていた。
 
「ああ―――ッ!」

 短い悲鳴のすぐ後、爆音が轟く。

「待って待って……袖なくなっちったじゃん……下ろしたてなのに、サイアク」


874 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 06:59:11 16jYFvus0

 爆煙の晴れしその場所に、ギャルは不貞腐れた様子で立っていた。
 右腕を喰らいかけていた氷は、腕そのものを中心に起こした爆発によってセーラー服の袖ごと払われ、日焼けした健康的な素肌が外気に晒されている。
 果たして、その姿に確信を得たのか。ジルドレイは端的に言った。

「ほお……汗、ですか」
「そ、せーかい☆」

 躍動するギャルの身体を覆っていたキラメキの正体。
 それが血の瓶を介さぬ不可解な爆発と、爆風による空中移動の原理であった。
 注意深い者が目を凝らせば、彼女の全身を覆っていたキラメキが、右腕の部分のみ取り払われたことも分かった筈だ。
 
「あーしったら、汗っかきなギャルだかんさ〜」

 ギャルの体液は爆発する。
 それはもちろん、血液に限った現象ではない。

「たくさん運動すると、なんか無敵になっちゃうんだよね☆」

 ノッてきたギャルは止められない。
 動けば動くほど溢れ出る〝青春のキラメキ〟が、彼女に無限の推進力を供給する。

「おおおおジャンヌゥゥゥゥゥゥゥ。
 このようなふざけた者を、貴女への贄とする無礼をお許しください……!」

 ジルドレイの足元から氷の槍衾が出現する。
 ギャルの全身がくるっとターンし、身に纏うキラメキを周囲に拡散する。
 刺突と爆裂、ぶつかりあった衝撃によって、ギャルは再び空中に跳ね上げられた。
 
 撃墜すべく、氷の釘を乱射するジルドレイ。
 背後からギャルとジルドレイを纏めて鏖殺せんと火球を投げつけるフレゼア。
 空中できりもみ回転しながら、更にキラメキを拡散し続けるギャル。

 氷の釘と火球がギャル命中する寸前、少女の頭部付近を中心に連鎖爆発が発生する。
 ポニーテールから飛び散ったキラメキは爆炎の渦と変じ、殺到する全ての衝撃を相殺しながら、代償に下ろしたてのシュシュを吹き飛ばした。
 次の瞬間、一帯を囲む黒煙を切り裂いて、フレゼアの炎鞭が飛来する。
 ジルドレイはその攻撃をこれまでと同様に氷の盾で防ごうとし―――

「ごはっ―――!」

 鞭の先に取り付けられていた炎剣によって、身体を貫かれていた。
 氷の盾を貫通した切っ先が、胸元に深々と突き刺さっている。
 怪人の身体が傾く、三つ巴の一角が崩れ、戦況が動く。
 ギャルとフレゼアの視線が、互いにスライドする刹那。
 
「まだ、足りない」

 脱落した筈の男の声が轟いた。

「この程度の試練では……まだァ!」

 フレゼアよりも男に近い位置に立っていたギャルは気づく事ができた。
 崩れ落ちた男の身体から、血が流れていない。
 いやそもそも、この身体は―――

「やば、これ分身じゃん」

 黒煙の中ですり替わっていた氷像が弾ける。
 戦闘開始から2度目の水蒸気爆発。
 突き刺さっていた炎剣を起爆剤にして炸裂した広範囲の熱放射が、周囲の草木ごとギャルの身体を吹き飛ばした。



-


875 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:01:57 16jYFvus0

 発色の良い毛並みが、赤く染まっていく。

「ハヤトさん……お怪我は……ありませんか……?」
「ちょっと擦りむいた程度だよ、オレは……」

 抱えた身体から熱が失われていく。

「なんで、だよ……なんで、お前……あんなこと……」

 乱舞する氷と炎、そして爆撃が連続する地獄の鉄火場。
 混沌極める乱戦の渦中、その隅で、ハヤトは掌を血で染めていた。
 その血のすべては、彼自身の流したものではない。

 先程、至近距離で受けた爆撃によって、青年の身体は傷だらけであった。
 小さい火傷と擦り傷、青あざだらけの身体で、それでも命に関わるような怪我はない。
 しかしそれは、単なる幸運によるものではなかった。

「なんで、オレを庇った!? そんなこと、誰も頼んでないだろうが……!」

 今、彼の抱える獣人の少女。
 爆発の瞬間、セレナが咄嗟にハヤトの身体に飛びつき、彼が受けるはずだったダメージを肩代わりした結果にすぎない。

「けほっ……ごめ……なさい……ほんとは、地面に押し倒そうと思ったんです、でも、体格差を考慮して……なくて……」

 爆発によって飛散した氷刃が数本、少女の背中と太腿に突き刺さっている。
 傷口から流れる血液が、止血を行うハヤトの手を赤く染めている。
 ハヤトは咄嗟に自らの囚人服を引き裂き、包帯代わりに使うことで応急処置は行ったものの、気休め以下に過ぎないと分かっていた。

 若きネイティブ世代のセレナは旧時代の人間に比べては充分に頑丈だ。
 だが、このまま何ら本格的な救命処置を行わずに放置していれば、やがて命を落とすだろう。
 体温は徐々にだが下がってきている。顔色も悪くなる一方だ。

「さっき……言おうとしてた……ことなんですけど……」
「無理して喋んな」
「聞いて、ください……話せなく、なる前に……言っておきたい……から」
「縁起でもねえんだよクソッ!」

 焦りに突き動かされるまま、ハヤトは周囲を見渡した。 
 戦場の中央では今も人知超えた闘争が繰り広げられている。
 可能な限りの応急処置を終えた今、もはや彼に出来ることは何もない。
 逃げようにも逃げ場はなく、マシな治療を施したくても、恩赦ポイントがなければ治療キットの購入も叶わない。

 このまま身を潜めていることしかできない。
 少し離れたところに隠れているアルヴドと夜上も、同じ状況のようだった。
 
「――ハヤトさん、わたしね……ほんとはずっと、不安だったんです」

「喋んなって!」

「―――あのとき、絶対帰らなきゃって……故郷の街に……家族のところに……ママのところに帰らなきゃって……必死に、逃げ出して……」

 朦朧とする意識の中で、ハヤトの声は既に届いていないのか。
 熱に浮かされるようにセレナは話し続けている。
 いつかの記憶、犯罪組織に誘拐され、軟禁されていた日々の果てに、彼女が直面した現実。

「でも……ずっと、後悔が消えなかった……」

 逃亡に成功した時も、アビスに収監された後も、今に至るも、彼女はずっと、その思いに囚われている。

「わたしは……みんなを……たすけられなかった……」

 あの場所に残してきた仲間たち。
 過酷な環境下で、残酷な現実のなかで、通じ合えた友人たち。
 彼らを残して、一人だけ助かってしまった。その罪悪感。

「みんなを見捨ててしまったんです……自分だけ、助かろうとしてしまったんです……」

「それは違うだろ……お前は……」 

 見捨てたわけじゃない。
 仲間を助けるために、自分にできる最大の努力をしたじゃないか。
 
 そう言おうとして、言葉にならない。
 助けられなかったことと、見捨てること。
 それらは、彼女にとって同じことだと、わかっていたからだ。

「温かいベッドで眠っていても……美味しいものを食べていても……心の何処かで……思ってしまうんです。
 わたしには、そんな資格……ないんじゃないかって……幸せになる権利は、もう無いんじゃないかって」

 誰も助けられなかった自分に。
 何も出来なかった自分に。
 救われる視覚は、無いんじゃないかって。

「だから今日、もしも……ハヤトさんを、助けられたんだとしたら……」 

 そのために、誰かを助けるために。
 自分の人生が残されていのだと、思えたなら。
 役割を全うした自分は、あの日の仲間に、許してもらえるのだろうか、と。


876 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:02:45 16jYFvus0

「お前……」
「勝手にわたしの事情に巻き込んで……迷惑な話ですよね……。
 ごめんなさい……だけど、そう思いたかったんです」

 声が小さくなっていく。

「逃げて……ください……ハヤトさん……きっと……今なら……」

 少女は遂に意識を失い、草むらの上で弱々しい呼吸を続けるばかりだった。
 セレナの身体を木陰に横たえ、ハヤトはゆっくりと立ち上がる。

 目の前には氷の壁。
 少女の言い残した通り、今なら逃げることが可能かもしれない。

 戦場が混沌を極める程に、ジルドレイの余力が無くなっていく。
 結果として、氷のバリケードは徐々にその高度と堅牢さを失っていたのだ。
 ハヤトの運動能力であれば、凍傷を対価にして、よじ登って超えることも不可能ではなくなっている。

 逃げられる。
 ハヤト一人であれば、それは充分に可能だ。
 一歩、彼は壁に近づいていく。

『わたしは、みんなを、見捨ててしまったんです……』

 先程の少女の声がリフレインする。
 二歩、彼は壁に近づいていく。

『生きたいって気持ちは、とても強くて……』

 少女はずっと後悔していた。
 ずっと苦しんでいたのだろうと思う。
 三歩、彼は壁に近づいていく。

『……幸せになる権利は、もう無いんじゃないかって』  

 ふと、思った。
 兄貴も、同じ気持ちだったのだろうかと。

 足が、止まる。

 あの日、ハヤトを見捨てた兄弟。
 決して断ち切れぬ絆を語っていた、誰よりも信頼していた兄貴分。

 彼はハヤトを、確かに見捨てた。
 どのような事情があろうとも、どのような心境であったとしても、それは揺るぎない事実であった。
 だけど、それでも、と思う。

『――なあ、ハヤト。オレ達は今日から兄弟だ。死ぬときは一緒だぜ』

 彼は後悔していたのだろうか。
 自分の行いを、ハヤトを置いて逃げてしまったことを、悔いていたのだろうか。

 その答えを得られる日は、永遠に来ないだろう。
 答えを持っている人物は、既にこの世にいないのだから。

 それでも、

『――そう思いたいじゃないですかっ!

 ――信じていたいじゃないですかっ!』

 ハヤトは、そうであって欲しいと、思った。 

「……ったく、ふざけんじゃねえってんだ。こりゃお前が言ったことだろうに」

 更に一歩、踏み出す。

「逃げろなんて言われたら、逃げにくいんだよ、生き残ったって目覚めが悪い」

 壁とは反対の方角に。
 戦場の中心、炎と氷の渦巻く鉄火場へと、その足は向いている。

 勝つ手段など一つも思いつかない。
 作戦も何もありはしない。
 だけど、彼らを撃退する以外に、少女を救う手立てはない。

 怖いし恐ろしいし早速この選択を後悔している。
 それでも、前に進もうとして、

「ふーん、キミ、逃げないんだ」
 
「―――ッ!」

 気づけば隣に立っていた爆弾魔に、ハヤトは危うく腰を抜かすところだった。

「な……お前……!」

「はろはろー」

 ギャル・ギュネス・ギョローレン。
 ある意味でこの状況の元凶といってもいい迷惑なテロリストが、何故か戦場の隅に佇んでいる。

「お前……なんでこっちに……!?」

 さっきまで、戦場の中心で壮絶な三つ巴を演じていたはずなのに。

「あー、うん。そーなんだけどね……」


877 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:04:27 16jYFvus0

 様子もどこかおかしかった。いや様子がおかしいのは最初からなのだが。
 まず服装に随分ダメージを受けている。身にまとっていたセーラー服はボロボロになり、破れた箇所からシャツや素肌が覗いている。
 シュシュを失った髪は下ろされ、無造作に広がった金色の前髪が汗で顔に張り付いて、スポーツ系の部活帰りのようになっていた。
 この有り様で怪我をした様子がないことが逆に違和感ですらある。
 加えて言えば、話し方の調子も妙である。

「キラキラ無敵モードはたのしーけど、服が焼けちゃうのが難点でさー。
 終わった後はいっつもサゲサゲになっちゃうの。
 せっかくのコーデも崩れちゃったし、あいつら会話になんないし。
 なーんかサガ↓っちゃったなーって」

 ようするにテンションが低いのであった。
 身にまとっていたキラメキは消え去り、星をまぶしたような瞳もくすみ、髪の毛の発色も萎れて、全体的にすっかり元気を失くしている。
『あーしったら、面倒くさがりなギャルだかんさぁ〜』と彼女は繰り返す。

「お腹も空いてきたし、その辺の奴ら適当に爆っちゃって、ご飯でも食べて寝よっかなって」

 ハヤトの背筋に怖気が走る。
 その辺の奴らに、己が含まれていない、わけが無い。

「でさ、聞きたいんだけど。なんで逃げないの?」

 ギャルは首をかしげながら、ハヤトを見ている。
 殺す気なのだと、聞くまでもなく分かった。
 
「キミ、多分、逃げようと思えば逃げられたよね?
 でも戻ってきた、なんで?」

 なんとなく、それが気になったから、一瞬手を止めただけで。
 ハヤトがあのまま逃げようとしていれば、とっくに殺されていた筈だ。

「なーんか気になっちゃってさ。
 えーっと懲役は……15年かあ、そんなに恩赦がほしい系?
 てかキミって、あいつらと勝負できるくらい強いの?」

 やり合ってもいい。なんて囁く自分もいる。
 そもそも、己はこの女を含めた三つ巴に介入しようと踏み出したのだ。
 なにより目の前の爆弾魔は、セレナに重傷を負わせた張本人である。

 一方で、待て、と。
 早まるなと諌める自分もいる。
 考えろ、考え続けろと、己に言い聞かせる。

 このまま突っ込んで何ができた。
 己は目の前の怪物共と、まともに殴り合える強さを持っているのか。
 言うまでもない。無策な特攻は死体を一つ増やすだけだ。
 セレナ・ラグルスを救う方法には成り得ない。

「まさかあっちでノビてる女の子を助けたいって話でもないだろうし。
 わっかんないなーって」

 上がりかけた拳を下げる。
 冷静に考えろ。今できることは何だ。

 自分にできることを探せ。状況を利用しろ。
 理外の怪物であったとしても。

「……うるせえな。
 あいつを助けるために戻んだよ」

 この異様な死刑囚の目を、一瞬でも逸らす方法はあるだろうか。

「恩赦がほしいなら、協力してやる」

 己は何を差し出せる。
 恩赦ポイントか、何らかの契約か。

「金がほしいなら後で工面するし。
 刑務が終わったら、雑用でも何でもやってやる」

 こいつは何が目的で、殺し合いに乗っているのか。

「オレには大した取り柄もねえが。
 あいつらを追っ払う事に協力してくれたら、なんでも言うこと聞いてやるよ」

 わからない。
 だから今は、全てを捧げるしかないのだ。
 悪魔との取引だと、承知の上で、それでもやらなければ、きっとあの少女は助けられない。

「―――アンタ、さ。それ、マジでいってんの?」


878 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:06:52 16jYFvus0

 返されたリアクションは不可解だった。
 ギャルは眉をへの字に曲げて、疑わしげな目でじっとハヤトを見つめている。

「嘘じゃねえよ。本当になんでも聞いてやる。
 ……そりゃ、できれば殺しの類は勘弁してほしいのが本音だが」

「違う、その前」

「金は……確かに今はねえけど後で働いて」

「その前」

「恩赦が欲しいのか? だったら俺の役割を聞いてくれたらきっと協力が」

「ちーがーうって、その前だよ」

「…………え?」

 ギャルが何を言いたいのか、ハヤトにはまるっきり分からなかった。

「あの子、助けたいって、ハナシ」

 日焼けした指先がちょいちょいと、木陰に寝かせたままのセレナを指している。
 なぜ掘り下げてくるのかは謎だが。
 確かに、そこを信じられなくても無理はない。
 アビスにおいて、それも囚人同士の刑務において、まともな情による行動原理が成り立つなんて、疑わしくて当然だ。
 ハヤト自身ですら、正直自分で言って驚いている。

「…………ああ、そうだよ、あいつを助ける為だ」
「なんで?」
「なんでって……」

 改めて聞かれると困ってしまう。
 先程は色々と考えて決意を固めたが、それを全て説明するのはなんだか難しい気がした。

「好きなの?」
「はあ!? ちげーよ、ありゃガキだぞ」
「恋愛じゃないの? じゃあ友情?」
「ゆう……いや……友情……か」

 ちゃんと友達になった覚えもまだないが、と否定を返しかけて。
 ふと、つい数時間前の、他愛もないやり取りを思い出す。

 ―――もしも二人で生き残れたら、アビスの中でも外でもいいですけど。
 ―――友達になりませんか!? わたしたち!


 ―――ああ。生き残ったらな!


 あえて、この関係性に名前を付けて定めるならば。


879 : Dies irae(中編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:07:18 16jYFvus0


「そう……だな、そうなのかもな」

 友情による繋がり。

「はあ、マジかよ」

 そういうものだったのかと、独りごちている最中に。

「なにそれ…………そんなの……そんなのって……さぁ」

 ギャルの様子がおかしくなっていることに気がついた。
 いや、おかしいのは常になのだが。
 しかし今回は、

「ちょー青春じゃん……」

 今までとは全く違うベクトルの変様だった。 

「あーやばい、これ。
 久々にやばいかも――――は、あああああああああッ!」

 胸元を押さえつけながら、ギャルは悶え苦しむように身を震わせた後。

「―――うますぎやろがいッ!」

 唐突に、その輝きの全てを復活させた。
 少女の瞳に光沢が戻り、全身のキラメキが再発する。

「キミ、名前は?」

「ハヤト、ハヤト=ミナセだけど」

「ハータン、ゴチっす!!」

「なにいってんだお前はさっきから」

「うおおおおおおおおアガ↑って来たぁ!!」 

 ギャルテロリストを利用することは、何人たりとも出来ない。
 このやりとりも交渉とは言えぬ、会話として成り立っていたかも怪しい。
 しかしこの時、全くの偶然ではあったが、ハヤト=ミナセはギャルの欲しいものを差し出した。
 彼は最適解を引いたのだ。

「じゃーね、ハータン。お礼に爆るのは後にしてあげるっ!」

 少女にとって、今やこれが数少ない娯楽だった。
 思想無きテロリズム。享楽の爆弾魔。破滅的逃爆行。
 永遠という虚無に囚われた心を満たすものは、死に接近するスリルと―――あと〝もう一つ〟だけ。
 だけど〝もう一つ〟は、きっとこんな場所じゃ得られないと知っていたから。 
 青春の残り香。そんなモノがアビスにあるなんて、まるで期待してなかったのに。

 力(テンション)を取り戻したギャルは、再び戦場に舞い戻る。
 新鮮な青春を接種して、走り出さずにいられない。
 それは残された彼にとってもチャンスだった、おそらくこれで、再び状況が動く。

「なんだか分からねえけど、行くしかねえ……!」 
 
 ハヤトもまた、戦場に踏み込む。
 果たして結果がどうなるのか、混沌渦巻く戦場に、もうすぐ答えが示される。







-


880 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:09:32 16jYFvus0



 
『お前は、また繰り返すのか?』
 




『お前は、いつまで逃げ続けるつもりだ?』





『お前は、理解しているのか、いまそこにある現実は、あの日の再現だ』





『お前は、どうする? どうしたい?』





『オレを見ろ―――オレを、手にとって確かめろ』




-


881 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:10:23 16jYFvus0

 暫くの間、呼吸を忘れていたようだった。


「――――ひ―――ぉ―――」


 肺に取り入れた冷たい空気が焼けた喉に詰まって、窮屈な頭蓋の内側で脳が軋みを上げている。


「――――ぁ―――」

 アルヴドは木陰に蹲って嘔吐した。
 体調は悪化の一途を辿っており、平衡感覚を失いつつある。

 自分に何が起こっているのか理解できない。
 怪我一つ無いはずの五体がどうしてこうまでコントロールできないのか。

「気分が優れませんか? アルヴドさん」

 背後にはまだ、あの神父が立っている。
 歪んでいく世界の中で、夜上神一郎の声だけが明瞭だった。

「それとも、また何か聞こえましたか?」
「ああ、また……頭の中で……変な声が……」
「経過は良好ですね」
「どこがだボケ……吐いてんだろうが」

 どうして、この男には知られてしまうのだろう。
 アルヴドはよろよろと立ち上がりながら、口元を拭った。

 ようやく視覚と聴覚が戻って来る。
 状況は蹲る前とあまり変わっていない、切り倒された木々、焼け焦げながら凍る草原。
 炎と氷と爆裂の乱戦は継続している。ここは地獄の戦場、しかし今ならば―――

「どうします? 逃げようと思えば逃げられますが」

 氷の壁が崩れ始めている。
 逃げ延びるチャンスが目の前にある。

「そうだな……」

 しかしアルヴドの足は動かない。
 代わりに視界に彼が映り込む。
 壁の方向から駆けてきたハヤト=ミナセが、アルヴド・グーラボーンとすれ違う。

「どうやら彼は、試練に立ち向かうことに決めたようです」

 アルヴドの目は、走り抜けていくハヤトを追わない。
 ずっと、一箇所に固定されている。

 戦場の隅、奇跡的に残った一本の木陰に寝かされた一人の少女。
 ほんの少し前、その場所に折り重なって倒れていた少年少女。
 その光景を見た瞬間、アルヴドの頭蓋が割れんばかりに痛み、再びあの声を聞いたのだ。

「……コーイチロー。告解してる場合じゃないってのは、わかっちゃいるんだが」 

「構いません。それが神(わたし)の仕事ですから」

 庇い合うようにして折り重なって倒れたハヤトとセレナ。
 二人の姿を見た時、それがアルヴドの中で、何もかもと一致してしまった。

「俺の故郷で死んだガキどもの話は、もうしたと思う」
「ええ、酷い環境であったのだと」
「俺が殺したガキ共のことも、あんたは知ってたな」
「貴方が起こしたテロ事件ですね。痛ましい話でした」
「だったらよ、俺が今日、目の前でガキどもが理不尽に殺されようとしているのを見てよ」

 ドブの中に、死体が積み重なっている。
 ドブの中を、一人の男が見つめている。
 ドブの中で、世界を罵って喚いている。

「〝許せねえ〟って思うのは、偽善かい?」
「ええ、反吐が出るような矛盾です」

 清々しいまでの即答にアルヴドは苦く笑った。
 だよな、と呟く。

「しかし、それこそが人間です」 

 そして夜上は許すでもなく。
 背を押すでもなく。
 かくあるべしと告げるように。

「人はみっともなく反転する生き物です。
 聖人が一夜にして悪鬼に堕ちることもある。
 愚者が一夜にして戦士に変ずることもある」

 アルヴドの変遷を肯定した。


882 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:10:52 16jYFvus0


「一つだけ聞かせてくれよ。あんたにとって正しい人間って、なんだ?」

「神(おのれ)の声を、正しく受け取れているか否か」

 またしても即答。
 夜上は全てを見通しているかのようだった。
 アルヴドとこの問答を行うことを、ずっと前から知っていたように。

「だから俺は合格だってのか?」 

「ええ、故に聞かせてください。
 貴方の中の神(あなた)は、いまなんと仰っていますか?」

 そこで、痩せこけた黒人の男はようやく倒れ伏した少女から視線を切り、背後の神父に向き直った。

「―――怒れ」

 男は矛盾に満ちた人生を歩んでいた。
 救いたいと思ったモノを踏み躙り、踏み躙ったものが失われる現実に異を唱える。
 しかし、そこに共通する感情が一つだけ、愚かな人生に芯を通すならば。

「こんな現実を許すな。
 何の罪もないガキが、誰にも知られずに理不尽に死んでいく世の中を許すな。
 こんな腐った世界を救う気のねえ、神様(クソカス)の野郎を許すな」

 ―――怒れ。
 
「そうだ俺は……」

 現実を受け入れるな、怒れ。

「俺はずっと、怒っていたんだ…………!」

 それがアルヴド・グーラボーンにとって原初の感情。
 27年前、テロリストとして立ち上がった、愚かなる彼の出発地点を、ようやく思い出したのだと。

「すばらしい」

 ぱちぱちと、手を叩く夜上の表情は変わらない。
 いつも通りの彼のまま、アルヴドの門出を祝福する。

「では、審判を下しましょう―――アルヴド・グーラボーン」

 次に発した言葉は、戦場に轟く爆音に遮られて届かない。
 代わりに放り投げられ、中に弧を描いた何か。
 それが、アルヴドの手に収まった。

「餞別です―――では、良い旅を」  

 手の中のモノを確かめて、アルヴドは今度こそ、苦笑いを抑えられない。
 片手を振りながら歩き去っていく神父の後ろ姿を、悪態と共に見送った。

「は――なんだそりゃ……ふざけやがってよ、クソ神父」



-


883 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:11:46 16jYFvus0


「ジャンヌ……見てて……わたしを……ジャンヌ……」
「あああああああ……ッ! ジャンヌゥゥゥゥ……なぜ、まだ我が内に戻られない……!」

 乱舞する炎は空を焼き尽し、地を這う氷は地を凍て崩す。
 長時間に及んだ炎と氷の対決はようやく佳境に入っていた。
 共にオールド世代としては飛び抜けて攻撃的な能力を備えた魔女と怪人。
 刑務開始から休み無く破壊行為を繰り返して尚、陰りの見えなかった両者の超力に、遂に陰りが見え始める。

 全身を覆う虚脱感に、フレゼアは片膝をつく。
 左腕の欠損と右目の失明。ジャンヌ・ストラスブールに与えられたダメージは甚大なものであった。
 傷口から吹き出る炎が隙を消していたものの、やがて限界は訪れる。

 対するジルドレイもまた、体勢こそ維持しているものの、疲労を隠し切れてはいない。
 刑務が4時間近くに及んでいる今、飲まず食わずで暴れ続ければ当然の結果である。
 先程から示し合わせたように、近接戦闘に傾倒していることが彼らの消耗を如実に表していた。

「はぁ……はぁッ……殺す……殺して……やる」

 だが、それでも、フレゼアの炎は消えぬ。

「ジャンヌ……ジャンヌ……どこに……貴女がいなければ……私はああああああ………」

 ジルドレイの狂気は収まらぬ。

 同時に動き出す両者。
 迫りくる決着に向けて、止まること無く猛り続ける。
 それは今の彼らに実現可能な最大火力を乗せた絶技であった。

「焼き殺す」

 フレゼアの左腕の切断面に巨大な火球が生み出される。
 焦熱地獄あるいは、燃料気化爆弾。
 己ごと、この場の全てを爆炎に取り込んで消し飛ばす。
 自爆に近い超久過剰火力。それを使用してでも、目前の敵を討たねばならぬと決めているのか。
 
「凍て殺す」

 ジルドレイの背後から悲鳴のような風鳴りが発生していた。
 無間地獄あるいは、指向性過冷却。
 己ごと、この場の全てを氷に閉じ込めて生命活動を終わらせる。
 自爆に近い超久過剰火力。それを使用してでも、自身の巡業は続くのだと信じているのか。

 二者の中間地点で弾け飛ぶ火群と吹雪、破壊のエネルギーが無尽蔵に膨らんでいく。
 互いの殺意が臨界を迎えるその間際、再び黄金の乱入者が宙を舞った。


 ―――Dies irae, dies illa,

 ―――Solvet saeclum in favilla,

 ―――Teste David cum Sibylla.


 如何なる空気を呼んだのか、レクイエムを口ずさみながら夜空を滑空する少女(ギャル)。
 青春の補充を経てのセカンドテイクオフ。またしても戦場に撒き散らされるキラメキの結晶。
 降り注ぐ空襲。歌いながら楽器を演奏するかのように、テロリストは戦場に火力を投下する。
 
 魔女と怪人、共にこれを無視。
 鬱陶しいが丁度いい、纏めて消し飛ばしやろう、とばかりに己の超力を更に高めていく。


 ―――Quantus tremor est futurus,

 ―――Quando judex est venturus,

 ―――Cuncta stricte discussurus!


 響き渡るレクイエム。投下される爆撃群。
 上空を飛来する逃爆行。
 果たしてそれは、意図せぬ陽動を果たしていたのか。

 訪れるタイムリミット。 
 炸裂する殺意の瀬戸際で、魔女と怪人は挑戦者(チャレンジャー)の声を聞く。

「来い……オレが、全部受けてやる」

 対峙する怪物達の中心地に、一人の青年が立っていた。
 爆心の渦中にて、ハヤト=ミナセはその瞬間を待ち受けていた。
 起爆寸前のフレゼアの火球とジルドレイの氷柱に、自ら両の拳を突っ込んで。

「―――超力発―――が―――は――――ッ」

 瞬間、全身から血を吹きちらし、呆気なくその場に崩れ落ちた。

「ちく―――しょ―――」

 無茶は承知していた。
 しかしまさか、数秒も持たないとは。

 ハヤト=ミナセの超力、『不撓不屈(ウェカピポ)』。
 自身が受ける衝撃(エネルギー)を相殺し、放出する能力。
 発動条件は相殺と放出の際に地を踏みしめること。
 カウンター能力として非常にシンプルながら強力なこの相殺効果には、しかし許容量の限界がある。

 フレゼアの炎も、ジルドレイの氷も、どちらも超力の破壊規模では最高峰。
 片方だけでも受けきれるか怪しい状況の中、流石に両方を同時に受け止めるなど絵空事に過ぎなかった。


884 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:13:47 16jYFvus0

 全身が痛みを訴える。絶望が胸を満たしていく。
 焼け焦げた地面に崩れ落ちた身体は動かない。
 次いでこぼれ出たのは、なんとも情けない泣きごとだった 

「くそ……せめて……片方だけなら……」

 にも関わらず、ここに、

「そうかよ、だったらてめえは、あの氷野郎を殴ってこい」

 隣に立つ男が、

「俺は炎の女をやる」

 アルヴド・グーラボーンが、ハヤトの意を汲んでそう言った。

「おっさん……なんで?」
「喋ってる時間があんのか?」

 目の前で膨張していく二つの脅威。
 確かに、ハヤトに選択肢は無かった。
 もう、信じることしか出来なかった。

「だったら……任せる」
「ああ」

 戦場の中心で、二人の男が背中合わせに立っている。
 こうなってはもう、互いを信じるしかない。
 信頼に足る相手とは思っていない、使う能力の全貌すら把握していない。
 それでも、彼らはもう、互いを信じて背中を預けるしか無かったのだ。
 今やそれだけが、一人の少女を救う唯一の方法だと、それだけは分かっていたから。

「よお、あんた、随分とオカンムリじゃねえか」

 アルヴドは正面の敵と向き合っている。
 フレゼア・フランベルジェ、怒りの権化のような女がそこにいる。

「けどよ、こっちだって27年間ずっとムカついてたんだ」 

 当然、勝ち目などない。
 丸腰では勝負にもならないだろう。
 しかし、今は違う。

「悪いけどよ、盛大に八つ当たりさせてもらうぜ」

 取り出したのは手のひらサイズのカラクリだった。
 まるで玩具のような22口径。
 超力社会においては、もはや致命傷を与えることも難しい、仕込み銃。
 
 審判を終えた夜上神一郎から餞別として手渡された。
 それはしかし、確かに、銃と呼ばれる破壊兵器(キーパーツ)。

「―――銃手(アル・ミドファイ)」

 そうして彼は、初めて己の超力の名を発した。
 生まれて初めて、自らの力を、全力で行使したのだ。

 倒木から剥がれ落ちた木片、地に転がっった砂利、空気中の成分が寄り集まって彼の銃を取り囲む。 
 それは如何なる原理か、子供だましの22口径が天然のパーツに囲まれ、あっという間に形を変えていく。
 男の脳裏に声がする。

 ―――そんな武器がほしい?

 ―――決まってるだろう。目の前の魔女を討滅できる兵器をよこせ。

「へえ、こりゃすげえや」


885 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:14:49 16jYFvus0

 出現したものは既に拳銃という括りから大きく外れた長距離射程の52口径。
 兵士が単独で扱うことを想定した武器ですらない。
 カエサル自走榴弾砲。それを模した戦略兵器であった。
 当然ながら使用に伴う反動は計り知れない。
 バックファイアは威力の上昇幅に比例する。しかし、そんな事は知ったことではなかった。

「この、悪人どもが……どいつもこいつも、私の邪魔ばかり……」

 正面の女がなにか叫んでいる。
 それすら、知ったことではなかった。

「どうして、私を認めてくれないの! どうして、私を否定するのよ!」

「あ、知らねえよ」

 今、彼を支配する感情は一つだけ。
 怒りだ。それだけは、今ならこの女にだって負けないと思うことが出来た。

「てめえの事情とかどうでもいい。なんなら俺の事情すら、どうだっていいんだよ」

 アルヴド・グーラボーンは怒ってる。
 なぜなら、目の前の現実は、間違っているから。

「いま、ガキが、死にそうになってんだよ」

 それだけは、間違っていると、言い切れるから。

「これでいいわけがねえんだ。
 ただのガキが、理不尽に死んでいいわけねえんだ」

 そんな世界を変えたくて、アルヴドは多くの間違いを犯してきたけれど。
 間違いだらけの人生のなかで、その原初の怒りだけは、きっと間違いじゃなかったと信じられるから。

「うるさい……うるさい……悪人が偉そうに!」

 いよいよ臨界点を超える火球。
 それを背後に感じながら、ハヤトもまた己の敵を正面から見据えていた。

「ううううううう、あああああああああああ!!」

 氷結の怪人は苦しんでいる。
 潰れた右目を掻きむしりながら、ジルドレイはのたうち回っていた。

「なぜェ!? ジャンヌゥゥゥゥ!! 何故ぇ!!!??」

 どうしてなのだろう、とハヤトは思う。
 こんなにも強いのに、こんなにも圧倒的なのに、こいつらはずっと苦しそうだ。
 強く力を振るえば振るうほどに、見ているこっちが苦しくなる。悲しくなる。

「そんなに辛いなら、もう休めよ。自分で出来ないなら、俺が眠らせてやる」

 背筋を伸ばして立つ。
 少し足を開いて、しっかりと地面を踏みしめる。
 準備は万端、いつでも来い。

 そうして、時は満ちた。
 
 火球が、起爆する。
 氷柱が、炸裂する。

 アルヴドは視界を真っ赤に染める紅蓮をしかと見つめながら、トリガーに指をかけた。
 ハヤトは全身に襲い来る無間の冷気を正面から浴びながら、拳を振りかぶった。




-


886 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:15:55 16jYFvus0

 身体の感覚が戻らない。
 自分が仰向けになっているのか、うつ伏せになっているか、それすら判断できない。

「ハヤトさん、起きてください」

 自分が生きているのか、死んでいるのかもわからない。

「ハヤトさん、残念ながらまだ休むことはできません」

 もういいじゃないかと、甘える心が確かにある。
 できる限りの努力はしたはずだ。
 これ以上の痛みは勘弁してほしいのだと。

「ハヤトさん、ではセレナさんが死にますよ」 

 目を開く。
 何のために戦ったのかを忘れてはいない。
 ハヤトは体力の限界にあっても、全部を無駄にするほど愚かではなかった。

「なにが……どうなったんだ? あいつは……無事なのか?」

 怪人が生み出した氷柱に『不撓不屈(ウェカピポ)』を撃ち込み、システムAの枷に手をかけた瞬間で記憶は途切れている。
 ハヤトが生きているということは迎撃は成功したのか。
 ぼやけた視界に、夜上の神父服が映り込む。

「あなた方の活躍で、一矢報いる事ができました。
 しかし此処は未だに戦場です。
 治療のためにも早く安全な場所に退避しなければなりません。
 立ちましょう、ほら、立って」

 よろめく足を動かしながら、なんとか上体を引き起こす。

「よく出来ました」 

 ハヤトがまだ動けることを確認すると、夜上はすたすたと歩き始める。
 よく見れば、彼はセレナ・ラグルスの身体を背負っていた。

「ま……まてよ、どこ行く気だ」

 ふらつく足で、なんとか立ち上がって追いすがる。
 滅茶苦茶に荒れ果てた森林地帯を歩いていく。

 氷の壁は、今や完全に消えていた。
 包囲領域を抜け、ハヤトはずんずんと進んで行く夜上の背中に疑問を投げつける。

「あいつらは……どうなった? 倒したのか?」 

「わかりません、倒せた確証ありませんが、少なくとも無傷では済まなかった筈です。今のうちに距離を離すのが肝要でしょう」

「あのギャルってやつは……どこに?」
 
「わかりません、追ってこないことを祈るばかりですね」

「アルヴドとかいったっけ、あのおっさんは……?」

「…………」

 その質問にだけは、彼は少し間を置いて。

「彼には審判が下されました」

 とだけ答えた。

「審判って……なんなんだよ、お前」

「人には、それぞれ超えるべき試練があります」

 ハヤトの言葉を半ば無視し、彼は少しだけ振り返って、背後を顎で指した。

「ほら、次の試練も、未だそこに」

 凄まじい寒気が背中を駆け上がる。
 恐る恐る振り向くと、木々のベールの下、夜の闇に紛れ、近づいてくる追跡者の光がった。

 燃え盛るヒトガタ。
 該当する人物は一人しかいない。

 フレゼア・フランベルジェが、彼らの背後に迫っていた。


-


887 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:17:42 16jYFvus0

 炎の中で敵を見る。

 怒りだ。
 私には、怒りしかない。
 
『おかあさん、おとうさん――』
 
(フレゼア、行きなさい―――!)

「近寄るな―――!」

 耳に聞こえる三重奏。
 痛い。痛い。痛いよ。
 切断した左腕が痛みを訴えている。ああ、うるさい。
 今更のように悲鳴を上げる痛覚に炎を押し当て黙らせる。

『おかあさん、おとうさん――』
 
(フレゼア、何をしているのですか、早く悪を討つのです―――!)

「もうやめてくれよ―――!」

 身体が上手く動かない。
 あの痩せた黒人、忌々しい悪が持ち出した邪悪な銃によって、下半身が上手く動かなくなった。
 でも問題ない、現に身体は動いている。だから問題ない。

『おかあさん、おとうさん――』
 
(殺しなさい、フレゼア―――!)

「自分の身体がどんな状態かわかってないのか―――!」

 聴覚は馬鹿になって役に立たないけれど、問題ない。
 全身から滴る炎が煩わしいけど、問題ない。
 のどが渇いて、お腹が空いてしょうがないけど、問題ない。
 悪を燃やすには、なんの問題もありはしない。

 視界に映る悪は3つ。
 さっきから何事かをわめき続けてる若い男。
 隣りにいる神父服を身にまとった男。
 それから、神父に背負われた、あれは、なんだろう、よく見えないけど、獣人だろうか?

 まあ、全部悪なのだから、纏めて焼却しようと腕を上げようとして。

「―――あれ?」

 私の右足が氷の刃に貫かれ、炎を撒き散らしながら、千切れて地面に落下した。
 更にお腹を大きな氷の槍が貫通して、立っていられなくなる。
 どうして?
 疑問に答えがもらえないまま、右側から身体を押しのけられた。

「おおおお、ジャンヌゥッ、おおおおおおおッ、ようやく、ようやく貴女に、届けることができる――!!」

 傾いた視界が、現れた4人目の敵を捉えた。
 ああ、あいつだ。あの偽物、ジャンヌの形を真似た極悪人。
 決して許さない、消し炭にしてやる、そう誓っていたのに。

 動かない。身体が言うことを聞いてくれない。
 いつもなら絶対に止まったりしないのに、何があって悪を燃やすんだって、心が頑張ったら身体が答えてくれたのに。

 おかしい、私は、こんなにも怒っているのに。
 怒りはいつだって、私を戦わせてくれたのに。

 偽物は倒れたままの私を放置して、先に他の3人の悪を殺すつもりのようだ。
 悪同士が殺し合うのはどうでもいいけど、このままだと悪のどれかが残ってしまうのが問題だった。
 3人の悪は逃げようとしていたけど、偽物が地面を凍らせたから、全員足をとられれて転んでしまった。


888 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:19:27 16jYFvus0

 時期に偽物が3人を殺して、その後動けない私にトドメを指すのだろう。
 本当に腹がたった。
 身体さえ動けば、今すぐ全員燃やしてやるのに。

「ジャンヌ―――悔しいよ―――私―――」
 
(フレゼア―――まだやれることがある筈ですよ)

『おかあさん、おとうさん――』

 そうでしょうか?
 体が動かなくても、できることなんて、あるのでしょうか?

(貴女はやり方を知っているでしょう? 自分の身体を犠牲にして、視界にある何もかもを燃やし尽くすのです)

 そっか、確かに。
 その方法なら此処に存在する悪を全員やっつけられる。
 流石はジャンヌ、貴女はいつも私を導いてくれる。
 でも、残念なことが一つだけ、それをやってしまったら、私はもう悪を燃やせなくなってしまうから。

「くそ―――この足場じゃ、踏ん張りがッ!」

 若い男の悪は偽物に立ち向かおうとしていたけれど、足元が凍っているのが気になるのか、マトモに戦う事は出来ないみたいだ。
 神父は座り込んだまま戦おうともしていない。
 神父が背負っていた獣人は、私の数メートル前方に横たわったまま動かない。
 今に、偽物の氷が彼らを皆殺しにするだろう。

 その隙に、私は私の身体を火に焚べようとして―――

(そうです。フレゼア―――それでこそ)

 獣人の少女の口が、小さく動いているのが見えた。



『おかあさん、おとうさん――』

「―――ママ、パパ……」




 戦いにおいて、初めて怒りとは違う感情で、身体が動くのが分かった。
  
 背中から生やした炎の翼が、私を無理やり前へ進ませる。

 氷の槍を振りかぶっていた偽物に横合いから突っ込み、その体に正義の炎を押し当てた。

「ぎィ――――ああああああああああああああああああああッ!!!!」

 偽物の悲鳴が響き渡る。
 若い男はその隙を逃さなかった。

「くらえ―――!」

 直撃した拳が偽物の身体を打ち据え、後方の林の奥へと跳ね飛ばす。

「逃がすか……!」

 偽物の悲鳴が遠ざかっていくのが分かった。
 それに追いすがろうとして、私は―――

(何をやっているのです――フレゼア、今す)

『―――どうか、』

 ゆっくりと膝をついた。

(早く敵を燃や―――)

『―――どうか、この世界を、』

 (フレゼ――――)

『―――どうか、この世界を、憎まないで』

 私は、どうしてか食い入るように、見つめていた。
 足元にある、小さく、儚い命を。



-


889 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:20:58 16jYFvus0



「何故だ……何故……!」

 ジルドレイは森を抜け、街道を走り続けていた。

「何故、私のもとに戻ってきてくださらない……ジャンヌ!」

 彼が光を見失ってから、ずっと苦しみは増すばかり。

「そのうえ……あんな……嘘だ……何故あのような紛い物に……私は……ァ!」

 どれだけ頭から余計なモノを掻き出そうしても上手く行かず。
 自らの内に彼女を感じられない。
 飢えは蓄積する一方だった。

 にも関わらず、先程の一瞬、死にかけのフレゼア・フランベルジェから感じた気配。
 気の所為でなければ、あれは確かに彼女に近しい物だった。
 紛い物が、ジルドレイを差し置いて、彼女の魂に近づこうとしていた。
 考えるだけで嫉妬で頭がおかしくなってしまう。

「会わなければ、ならないのか、せめて、せめて一目見なければッ!」

 今日までずっと、その必要はないと思っていた。

 己はジャンヌに成りたいわけではないのだから。
 だけど、それでも、このまま彼女を感じられないまま、生きていくなど耐えられない。

「おお、ジャンヌ……貴女はいま……どこにおられるのです……?!」

 怪人、ジルドレイ・モントランシーはこの日、初めて思った。
 
 ジャンヌ・ストラスブールを、見つけなければ。




-


890 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:21:48 16jYFvus0



 ハヤトは困惑とともに、その光景を見つめていた。
 追撃を仕掛けてきたフレゼアとジルドレイ。
 特にジルドレイに襲われた時には、流石の彼も諦めかけていたのだが。

 いったいどういった心境の変化があったのか。
 瀕死のフレゼアが立ち上がり、ジルドレイから3人を守ったのだ。
 
 そして、その直後に取った行動については、流石にハヤトも止めようとしたのだが。
 夜上がハヤトの肩に手を置いている。
 大丈夫だと首を振って、事実、その通りだった。

「だい……じょうぶ……」

 誰がどう見ても、フレゼアにはこれ以上誰かを傷付けるような余力は残っていなかった。
 怒りとともに垂れ流していた炎も今はなく、四肢の半分を失った彼女は明らかに瀕死の重傷を受けている。

「だい……じょうぶ……だから……」

 それでも彼女は今も動き続けていた。
 傷だらけの膝の上に、眠り続けるセレナ・ラグルスを抱えて。
 右の掌でゆっくりと撫でながら、か細い声で繰り返している。

 大丈夫、大丈夫だから、と。
 小さい子どもをあやすように。

「ああ……ジャンヌ……私……やっと……わかった……」

 その口元は、ほんの少しだけ、微笑んでいて。

「あなたが、どうして……あの時……笑って……たのか……」

 安心したように。

「そっか……違ったんだ……悪をやっつけること……誰かを助ける……ってこと……」

 救われたように。 

「私……はじめて……助けるために……戦ったんだ……あなたと……同じ……理由で……」

 だけど少しだけ、悔しそうに。

「そっかあ……誰かを……助け……たとき……こんな……きもちに」

 もっと早く知りたかったなあと、惜しむように。

「ばかだな……わたし……怒ってばっかりで……ぜんぜん……気付けなか……」

 魔女はゆっくりと目を閉じる。
 限界を超えた超力使用の代償か、身体が灰になって崩れていく。
 その最期の残り火が彼女の背中から立ち昇り、渦を巻いた。

 今までの激しい炎とは違う、温かな火は、セレナの身体をぐるりと一周してから、その首元のネックレスの中に吸い込まれていった。
 そして最期に、灰の山から零れ落ちた首輪が、穏やかに眠る獣人の少女の枕元に落下する。

「……見てください、ハヤトさん」

 隣に立つ夜上が東の方角を指差した。
 ハヤトの見つめる空の向こう、白く鮮やかな色が、夜の領域を押し流していく。

「夜が明けますよ」

 炎が消え、太陽が昇る。
 長く続いた戦いの、それが終着の景色であった。






【フレゼア・フランベルジェ 死亡】




【C–3/草原/一日目・黎明】


891 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:23:45 16jYFvus0
























【ハヤト=ミナセ】
[状態]:疲労(大)全身に軽い火傷、擦り傷、切り傷
[道具]:「システムA」機能付きの枷
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本:生存を最優先に、看守側の指示に従う
1.セレナの治療を優先する。
2.『アイアン』のリーダーにはオトシマエをつける。
3.セレナへの後ろめたさ。
※放送を待たず、会場内の死体の位置情報がリアルタイムでデジタルウォッチに入ります。
 積極的に刑務作業を行う「ジョーカー」の役割ではなく、会場内での死体の状態を確認する「ハイエナ」の役割です。
※自身が付けていた枷の「システムA」を起動する権利があります。
 起動時間は10分間です。

【セレナ・ラグルス】
[状態]:気絶中、疲労(大)、背中と太腿に刺し傷(応急処置済み)
[道具]:流れ星のアクササリー、タオル、フレゼアの首輪
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本:死ぬのも殺されるのも嫌。刑期は我慢。
1.ハヤトに同行する。
2.ハヤトとは友人になれそう。できれば見捨てたくはない。

※ハヤトに与えられている刑務作業での役割について、ある程度理解しました。
※流れ星のアクセサリーには、高周波音と共に音楽を流す機能があります。
 獣人や、小さい子供には高周波音が聴こえるかもしれません。
 他にも製作者が付けた変な機能があるかもしれません。

※流れ星のアクセサリーには他人の超力を吸収して保存する機能があるようです。
 吸収条件や吸収した後の用途は不明です。
 現在のところ、下記のキャラクターの超力が保存されています。
 『フレゼア・フランベルジェ』


【夜上神一郎】
[状態]:疲労(小)、多少の擦り傷
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.救われるべき者に救いを。救われざるべき者に死を。
1.なるべく多くの人と対話し審判を下す。
2.できれば恩赦を受けて、もう一度娑婆で審判を下したい。
3.あの巡礼者に試練は与えられ、あれは神の試練となりました。乗り越えられるかは試練を受けたもの次第ですね。誰であろうと。
※刑務官からの懺悔を聞く機会もあり色々と便宜を図ってもらっているようです。
ポケットガンの他にも何か持ち込めているかもしれません。



【C–4/街道/一日目・黎明】
【ジルドレイ・モントランシー】
[状態]: 右目喪失、怒りの感情、発狂、神の幻覚、全身に火傷、胸部に打撲
[道具]: 無し
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本. ジャンヌを取り戻す。
1.ジャンヌに会いたい。
2.出逢った全てを惨たらしく殺す。
※ジルドレイの脳内には神様の幻覚がずっと映り込んでいます。
※夜上神一郎によって『怒りの感情』を知りました。
※自身のアイデンティティが崩壊しかけ、発狂したことで超力が大幅強化された可能性があります。



-


892 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:26:10 16jYFvus0

 数分前。
 森林地帯にぽっかりと開いた空き地。
 つい先程まで地獄の混戦が行われていたそこに、二人の囚人が留まっていた。

「……そうか」

 アルヴド・グーラボーンは土に埋まった自分の身体を動かそうとして、既に手足の感覚が絶えていることに気がついた。
 上半身の胸から上が仰向けの上体で地表に飛び出しており、辛うじて呼吸はできる。
 しかし、身体のどこに力を入れても、動かせる様子もない。
 視界の端、土の上に落ちている長細くて赤いものは自分の足だろうか、腕だろうか、と考えて、その行為にも意味はないかと打ち切った。

「そうか、俺は死ぬのか」

「みたいだねー」 

 そんなアルヴドの頭の傍らで、一人のギャルがしゃがみ込んでいる。

「お前、まだいたのか、他の連中は?」

「みーんなどっかいっちった。ハータン追いかけってったんじゃない? しらんけど」 

「そうか、あいつは無事だったのか」

「流石はネイティブ世代、頑丈だねぇ。
 自分の超力の反動で四肢吹っ飛ばした誰かさんとは大違いっつーか」

「うるせえな、お前は追わなくていいのかよ」

 投げやりな問いに、ギャルは暫く「んー」と頬に指を当ててから。

「暫くいいかな―。
 こぞって追い回してもつまんなそーだし、何よりアレだべ」

 ホラ見て見てと、顔の前でダブルピース。

「早く着替えたかったしね〜。どう、いいしょ? いぇい☆」

 新調した学生服(ブレザー)に袖を通したギャルは、ご満悦な表情だった。

「これでカワイイの補給完了! キラキラ確変継続だし」
「相変わらずマトモじゃねえよな、お前」
「そうかな、アーくん先輩こそ、超老けたくせに精神面は成長してなかったね」
「馬鹿にしやがって」

 アルヴドは空を見上げる。
 空が白み始めている。もうすぐ夜は明けるだろう。
 そして自分はもう、夜明けを見ることはない。

 自由になるのはもはや、最期に何を見るか、程度しかなかった。
 そして最期の話し相手がこの少女であるという運命に、アルヴドは苦笑いを堪えきれない。

「なあ、死ぬ前に教えてくれよ」

「なーに?」

「お前、何があったんだよ?」


893 : Dies irae(後編) ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:27:39 16jYFvus0



 アルヴドの知る少女は、今の姿よりももっと幼い姿をしていた。
 変わった少女ではあったけれど、今のギャル・ギュネス・ギョローレンの在り方ほど、破綻してはいなかった筈だ。
 なにより、理屈に合わないのはその見た目、時間が止まっているとしか思えない。

「メイドの土産ってやつ?」

「よくわかんねえが、そういうやつだ」

「んー」

 少女はまた少しだけ考える仕草をしてたけれど、アルヴドは少女がなんと答えるか予想できていた。

「ごめん、忘れちった」

 思った通りの回答が提出されて、ふざけやがってと口角を上げる。

「……お前、辛くねえのかよ」

「なにが?」

「分かんねえならいいさ」

 空が白んでいく。
 並行して、視界がぼやけていく。

「俺はお前が羨ましいよ」

 アルヴドの脳裏に幾つかの光が瞬いては消えた。
 少女の快活な声が、今も耳に聞こえている。

「アーくん先輩もさ、昔のことばっかり考えないで、もっと楽しめば良かったのにね」

「うるせえよ……まあでも、確かにそうかもな、どうせ後悔するんなら」

「でしょ」

「……ああ、そうだ」

「どーせ最期には全員死ぬんだからさ、楽しめなきゃ損だよ」

「……ああ」

「出来れば最後の瞬間まで、あーしは思ってたいな」

「……あぁ」

「ちょーたのしかったっ! ってね」

「……」

「どう? アーくん、今日は良い日だった?」

「……」

「……」

「……」

「あっは☆ もう死んでんじゃん、ウケる」







【アルヴド・グーラボーン 死亡】





【C-2/草原/1日目・黎明】



【ギャル・ギュネス・ギョローレン】
[状態]:疲労(中)、キラキラ
[道具]:学生服(ブレザー)。注射器、血液入りの小瓶×2、空の小瓶×2、アルヴドの首輪
[恩赦P]:59pt
[方針]
基本.どかーんと、やっちゃおっ☆
1.悔いなく死ねるくらいに、思いっきり暴れる。
2.もうちょい小瓶足しといたほうがいいかもねー。
※刑務開始前にジョーカーになることを打診されましたが、蹴っています。
※ジョーカー打診の際にこの刑務の目的を聞いていますが、それを他の受刑者に話した際には相応のペナルティを被るようです。
※好きな衣服(10pt)、注射器(10pt)、小瓶セット(3ヶ)×2(5pt×2)を購入しました。
※セーラー服が損壊したので新しく学生服(10pt)を購入しました。


894 : ◆ai4R9hOOrc :2025/03/22(土) 07:29:16 16jYFvus0
投下終了です


895 : ◆2dNHP51a3Y :2025/03/22(土) 16:36:17 t0RgCAOQ0
投下します


896 : 超人幻想/親愛なる始まりの君へ ◆2dNHP51a3Y :2025/03/22(土) 16:37:39 t0RgCAOQ0

ーー燃える世界で、少女は目覚めた。
焼け落ちる日常の象徴、世界は燃え盛り、深紅の死が生命(いのち)を焼き尽くす。

ねちゃりとした感触。
血に染まっていた手のひらと顔。
焼かれて死んだ子供、大人、子供、大人。
どうして自分だけが生きているのか。
どうしてみんなが死んでしまったのか。
動けない身体、曖昧、蒙昧。
この燃え盛る時間(いま)より以前(まえ)の記憶が存在しない。
辛うじて両親がいたことと、その時間は楽しかったことを覚えている。
まるで焼け落ちたかのようにぽっかり空いた記憶の虚無に疑問を覚える暇など無かった。
どうして自分がこうなっているのか、どうして自分以外が。

彼女を助けようとする誰かの声を聞いた。
己の身に構わず、少女を助けようとする命のリレー。
美しいものを見た。綺麗なものを見た。
残酷な現実を前に、諦めずに誰かを救おうとする人の輝きを見た。

それは希望だったのだろう。
少女はそれを目に焼き付けた。
希望を、人が齎す善意の、その思いの光を。
ーーーその日、彼女は『希望の光(ネオス)』に目覚めた。
希望の光の果て、新しい家族を手に入れた。






休むしか無かった。
ブラッドストークとの死闘に続き、ルクレツィアから紗奈を守るために病み上がりの身体で立ち上がった葉月りんか。
ソフィアという女性が止めなければ、あのまま二人揃ってどうなっていたか。
樹木にもたれ掛かるりんかを見て。
自分の蛮勇がもたらした結果を目の当たりにして。
心の奥底で気を許していなかった自分のその汚さを自覚して。

「……ごめん、なさい」
「……紗奈ちゃん?」

その言葉は、かつて紗奈が何度も何度も口に発したことのあるもの。
大人たちの薄汚い欲望に晒され、逆らおうとして暴力を振るわれた時に。
これ以上痛いのは嫌だと、屈した心から発せられた屈服の証。
最も、忌まわしき過去とは違う、心の底からの自己嫌悪と罪悪感による謝罪が今の言葉。

「余計なことして、ごめんなさい……」

あの時のルクレツィアの言葉が、紗奈の心に深く突き刺さっていたのだから。
罪悪の感情だけがぐるぐると頭を覆い尽くす。
状況を見れば「仕方なかった」で済むこともあるのだろう。
葉月りんかがそんなことで自分を見限るような誰かではないのは知っているのに。
だがそれで己の心を納得できるような強さを取り繕うには、交尾紗奈という少女は経験が足りなかった。
疑心暗鬼、惨い過去、怯え。その自虐的な負の感情こそが、交尾紗奈のこの刑務前の人生を構築していたもの全て。

「……紗奈……ちゃん……」

葉月りんかの心の内に湧いて出たのは、自らに対する不甲斐なさである。
ブラッドストークの戦いからそう時間が空かず、紗奈の悲鳴から衝動的に立ち上がり、狂気の令嬢と一戦交えた。
度重なるダメージと疲労の蓄積。
いくら超力があるとしても、限度というものが存在する。


897 : 超人幻想/親愛なる始まりの君へ ◆2dNHP51a3Y :2025/03/22(土) 16:38:05 t0RgCAOQ0
正義とは、強さだけでは無いのは知っている。
それでも力への渇望がほんの少し湧いてしまうほど、今の紗奈の悲痛な声に、正義の味方は胸を痛める。

「……ううっ!」

傷んだ。
苦悶の声。
傷口を押さえ、正義のヒーローは苦痛に悶える。
紗奈の顔がはっとなり、涙がポロポロと零れ落ちる。
申し訳無さ、不甲斐なさ、後悔。

「………っ」
「大丈夫、だよ。紗奈ちゃん……」

せめて、励ましの言葉を投げかけて、その頭を撫でる事が。
その罪悪と悲しみを和らげる手段には余りにもか細いものだとしても。
正義の味方は、そういうものだというのを、紗奈はなんとなく理解しかけている。
「余計なお世話はヒーローの本質」だと、何処かの漫画のキャラクターが言っていた。
交尾紗奈はその漫画を知らないが、葉月りんかと己が出会った初めてのことを改めて回顧する。
ヒーローが、無垢なるものを、助けを求める誰かに手を伸ばすのに理由なんていらない。
ヒーローとは、いい意味で自分勝手なのだから。

「…………ねぇ」
「……?」

超人(ヒーロー)は無垢なるものを救うというのであれば。
ならば超人(ヒーロー)を救うものは誰か。
ほんの少し湧いたなけなしの勇気か。
それとも前を向こうと少しでも考えた意志が、葉月りんかの超力によって増強された結果なのか。

「…………ここ」

交尾紗奈が突如して正座して、自分の膝を指さした。
きょとんと呆けた正義のヒーローが、少女に「膝枕してあげる」と遠回しに言われたことに気づいたのは、すぐ後だった。


898 : 超人幻想/親愛なる始まりの君へ ◆2dNHP51a3Y :2025/03/22(土) 16:38:26 t0RgCAOQ0



膝枕とというのを、葉月りんかはする側もされる側も経験したことがある。
前者は、まあ忌まわしき過去の中でそういうシチュエーションでのプレイを所望された事もあった程度。
後者は、よく親愛で憧れだった姉に良くしてもらっていたという輝かしい記憶。

「どう……こういうの、初めてだから………」
「だ、大丈夫です! 紗奈ちゃんの膝枕、心地いいです!」

なのだが、仮にも年下の少女に膝枕してもらうという事は。ある意味気恥ずかしかった。
「心地いい」という言い回しになったのも、「気持ちいい」と言ってしまったら誤解されかねないと思ってしまったから。

「よかった……。」
「でも紗奈ちゃん、どうして突然こんなこと……?」
「……私だって、私だって、ね……」

考え込むような紗奈。
いや、今更口籠る理由など無いのだが。
いざ口に出そうとすると途中で止まってしまうのを何度か繰り返し。
深呼吸を2、3回してから、意を決して言い放つ。

「紗奈ちゃん?」
「……初めての、信じたいって思った人だから」
「……え?」

気恥ずかしく顔を赤らめながらも、告げた言葉はりんかの心に響く。
醜悪な世界、醜悪な人の形をした獣のような何かの毒牙に蝕まれ続けた交尾紗奈が、葉月りんかというヒーローに心を焼かれた。いや、救われたのだから。

「他のやつらと同じだと思っていた。でも、どこまでも真っ直ぐで、どこまでも綺麗だった」

初対面こそ疑っていた。
でも、自分を守ろうとする姿勢も、悪に立ち向かう勇気も。
自分に向けられる優しさも、誰かを救おうとする衝動も。
その刑務の中で、真っ直ぐ過ぎるほどに正義の人としか見えない、葉月りんかという、そんな希望の少女に。
希望の光は、凝血の鸛との戦いにて希望を示した。不滅の光を、輝ける希望を。
交尾紗奈という少女にそれを導き示した。

「……私が本当に、欲しがってたものが。見つかったの」

りんかの頭を撫でながら、語るように。

「ーー心から、信頼できる人が、いてほしかった」

大切な人が、ほしかった。
人との温もりが、ほしかった。
それが、交尾紗奈にとっては葉月りんかとなった。
実の家族からも見捨てられた少女は、奈落の果てに希望と出会うことができた。


899 : 超人幻想/親愛なる始まりの君へ ◆2dNHP51a3Y :2025/03/22(土) 16:39:31 t0RgCAOQ0

「……嬉しい。紗奈ちゃんが、私のこと、そう思ってくれるなんて」

証拠に撫でられながら、希望の少女は呟いた。
感謝の言葉を投げかけられる事自体、看守からはそれなりにあった。
刑務者の誰かから「ジャンヌとは違うが、ジャンヌに並ぶ善人」と評されたこともあった。
でも、何故か。
この少女ーー交尾紗奈にそう言われたことが、今までで一番、嬉しい気持ちになった。

「ーーもう一度だけ。言わせて。私にとってりんかは、かけがえのないヒーロー、だよ」
「………」

この時初めて、葉月りんかは交尾紗奈の心からの笑顔を見た。
頭を撫でられながら、見上げるように紗奈の顔を見て。

『りんか〜 お姉ちゃんの膝枕だぞ〜』

「………あ」

無意識に、紗奈の顔に。大好きな姉の面影を幻視する。
葉月家という第二の人生の中でよくあった出来事。
姉に膝枕されながら、よく論文を作っていた母の話を聞いていた。
異能人格論、二重超力保持者、神の実在ーー難しいことはよく分からなかったから、当時は姉の膝枕の心地よさばかりに意識を割かれていたけれど。
そんな、二度と戻らない幸せが、懐かしくて。

「……あれ、おかしいな……なんで……」

頬を通り、地面に水滴がポタポタと流れ落ちる。
こんな膝枕されることは、久しぶりだったから。
今は亡き家族の事を思い返したからか。

「なみだ、止まらない。止まらないよぉ……!」

泣き止もうとしても、泣いたまま。
ヒーローだって人の子。葉月りんかはヒーローである前に、人間である。
怒りもするし、喜びもするし、笑いもするし。
ーーそして、泣くこともある。

「……泣き止むまで、ずっとこうしてあげるから……」
「うん……うん……!」

本当なら、この場所に居続けるのは危険だけれど。
そんなヒーローの弱さを、脆さを知って。
尚更、少しはこのままでいさせるべきだと、交尾紗奈は。
決壊した感情のまま、泣き続けるヒーローを、見守ることにした。
まるで、泣き止む赤子をあやし続ける、母親のように、姉のように。

「……ねぇ、紗奈ちゃん」
「……なぁに?」
「せっかくだからさ、私の話、聞いてくれる」

そして、ヒーローもまた、少女に心を絆されて。
自らの過去を、交尾紗奈という少女に、語り始めた。


900 : 超人幻想/親愛なる始まりの君へ ◆2dNHP51a3Y :2025/03/22(土) 16:40:20 t0RgCAOQ0



(……そう、だったんだ)

断片的な部分は、なんとなく察せれたはいた。
それでも、自分以上に悲惨で過酷な人生を歩む、それでも希望を信じ続けた彼女の事が、ほんの少しうらやましいと感じた。
地獄(ゲヘナ)の中で救いを捨てず、その結実として一雫の希望を手に入れた彼女は。
交尾紗奈にとって、どこまでも強く正しい人間の少女であったのだろう。
勿論気になることはあった。葉月となる前のりんかの記憶はまるで皆無であるのだ。
そこに不安や疑念はある……いや、それは期にしても仕方のないこと。

(……私も、変わらないと)

変わらないといけない。
そうでしか己を守れない自分は、何処かで変わらないといけない。
りんかの足を引っ張らないように、出来ることならりんかと並んで戦えるように。
勿論、りんかが紗奈が自分から傷つくことを許せるほど非常になりきれないし、静止もするだろう。

(……違う)

並んで戦えるように、じゃない。
それだけじゃ、足りない。
葉月りんかはヒーローだ。ヒーローであるが、過去の惨劇を経て人を救うことに囚われていた少女だ。
ブラッドストークにもその一点を突かれ、一度折れそうになっていた。
ヒーローだって弱音を吐くことぐらいあるのだ。
じゃあヒーローを助けるのは誰になる?
ヒーローを救えるのは誰だ?

(今度こそ本当に、私がりんかを守れるようにもなりたい)

斯くして、少女の新たなる決意がここに芽生えた。
無垢なるものを救うのが、弱き人々を救うのがヒーローの役目だというのなら。
心の罅を抱えながら、傷だらけになりながらも救うことをやめないヒーローを救うのは。
それは、ヒーローに付き添い、理解しようとする誰かの役目だろう。
例え、喪失したりんかの過去がどのようなおぞましいものだとしても。
今のりんかに救われた交尾紗奈のその信じる心だけは、決して揺るぎはしない。


ーー揺るいでなるものか、絶対の絶対に。
この時を以て、交尾紗奈の人生は再び始まる。


【D-3/森の中/一日目 黎明】
【葉月 りんか】
[状態]:シャイニング・ホープ・スタイル、全身にダメージ(極大)、疲労(大)、腹部に打撲痕、ダメージ回復中、泣き顔、ルクレツィアに対する怒りと嫌悪
[道具]:なし
[方針]
基本.可能な限り受刑者を救う。
0.今は少しだけ、休む。
1.紗奈のような子や、救いを必要とする者を探したい。
2.この刑務の真相も見極めたい。
3.ソフィアさん…

※羽間美火と面識がありました。
※超力が進化し、新たな能力を得ました。
 現状確認出来る力は『身体能力強化』、『回復能力』、『毒への完全耐性』です。その他にも力を得たかもしれません。
※交尾紗奈に膝枕されています

【交尾 紗奈】
[状態]:気疲れ(中)、目が腫れている、強い決意、りんかに対する信頼、ルクレツィアに対する恐怖と嫌悪
[道具]:手錠×2、手錠の鍵×2
[方針]
基本.りんかを支える。りんかを信じたい。
0.いつか私も、りんかを守れるような力が、今の自分から変われる別の力が欲しい
1.超力が効かない相手がいるなんて……。
2.バケモノ女(ルクレツィア)とは二度と会いたく無い
3.本当なら長居は危険だけれど、今はこのヒーローを休ませてあげたい

※手錠×2とその鍵を密かに持ち込んでいます。
※葉月りんかの超力、 『希望は永遠に不滅(エターナル・ホープ)』の効果で肉体面、精神面に大幅な強化を受けています。
※葉月りんかの過去を知りました。

【共通備考】
※D-3の森のどこかに恵波 流都の首輪(100pt)が遺されています。
※シャイニング・ホープとブラッドストークの必殺技の衝突により、D-3エリアにて強い光が生じました。


901 : ◆2dNHP51a3Y :2025/03/22(土) 16:40:38 t0RgCAOQ0
投下終了します


902 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/22(土) 21:35:51 lE9aGFKw0
みなさま投下乙です

>Dies irae
バケモンにはバケモンをぶつけんだよ! と始まる氷と炎の二大災厄の戦いに端を発した乱戦、全員がキャラ立ってすごい
全員が罪人のこのアビスで全員がこの不条理な世界に対する怒りを持っていて、その贖罪を探しているのかもしれない
セレナは自信がなさげだけど索敵できるし機転もきくしとっさに動けるあたりめちゃくちゃ有能では?
セレナも自分の犯した罪に苦しんでいる罪人である、彼女の贖罪となる行動が全員を動かす契機になっているのが熱い
ハヤトも逃避をやめセレナを助けるために命がけで奮闘する、主人公かよ。その青さがギャルの心を動かすことになろうとは
ギャルは勝手に乱入して勝手にテンション下げて青春に輝きを取り戻しキラメキ全開モードで手を貸す、あまりにも行動が享楽的過ぎる
アルヴドとの絡みで単純な爆破狂ではないところは見えてきたけど、アルヴドが娑婆にいた頃からのテロ友って、ほんとに何歳なの?
怒りを原動力にテロ活動を繰り返した多くの子供を殺した男が、自身の中の原初の感情を思い出し子供を救う、人間らしい矛盾したアルヴドの贖罪
夜上神父は狂言回し的な立ち位置で未だに底が読めない、人が変わるきっかけを与えている当たり本当にすごい神職者なのかもしれん
ジャンヌへを妄信し、ずっと怒りに突き動かされていたフレゼアが怒り以外の理由で誰かを助けたことで、憎しみの中でない安らぎのある死を迎える
執着を捨てた瞬間に憧れの存在に近づけたのは皮肉でもあり、一つの救いである
脱落した2人は何らかの罪からの救いを得たがジルはいまだ救われず、この狂気の怪物はどこに向かうのか

>超人幻想/親愛なる始まりの君へ
ブラッドストーク、ルクレツィアと強敵との激戦続きの少女たちの一時の休息
ヒーローだってただ強いだけではない、人としての弱さや痛みも伴っている、ヒーローを救う者が必要である
「救う側」と「救われる側」が明確に分かれているわけじゃない、互いに支え合おうとする少女たちの絆こそが美しいお話でした


903 : 落下速急行 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/24(月) 21:20:21 BKYtPSYk0
投下します


904 : 落下速急行 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/24(月) 21:20:50 BKYtPSYk0
土砂に塗れて岩肌を転がり落ちてきた美少女を前に、メリリンは考え込む。
 刑務に服するつもりは無いが、気絶している少女を助けるかは、また別の話。
 少女の首輪に記された文字は『死』。“アビス”にぶち込まれる死刑囚など、精神は当然の事、肉体レベルでも人間を辞めている者が多い。
 無実の罪で投獄された者も極僅かだが居るには居るが、この少女がその希少種だとは限ら無い。
 腕組みして思案するメリリンを他所に、ジェーンは手ごろな石を何個か拾っていた。
 少女が暴れ出したら、即座に殺す構えだ。

 「放っておくにしても、山頂で何が起きたのかは知っときたい」

 岩山の頂で何があったのか。考えられる事は三つ。

 1、少女が誰かに襲われて転落した。

 2、少女が誰かを襲い、返り討ちに遭って落ちた。

 3、岩山を登っている途上で滑落した。

 1と3ならばまだしも、2であれば目を覚ました瞬間に、襲い掛かってくる可能性が有る。
 ジェーンに目配せして、襲ってきた時の対処を頼むと、取り敢えず少女の様子を観察する。
 確認できる範囲で大きな外傷は無し。岩壁を転がり落ちなどすれば、旧時代の人類ならば良くて重傷、普通ならば死んでいるだろうが、現代人はこの程度で死にはしない。
 呼吸をしている事も何とか確認する。
 
 「運ぼうにも運び様が無いし…起こそうか」

 メリリン達も岩壁を登っている途上である、少女を運ぼうにも、文字通り運ぶ為の手が足り無い。
 少女が引っかかっている岩棚へと攀じ登り、起こす為に手を伸ばしたところで、ジェーンが待ったを掛けた。

 「暴れ出したら面倒…言う通りにして」

 ジェーンの指示に従い、苦労して少女のズボンを膝まで下ろしてから、ベルトをキツく締め、メリリンが脱いだ刑務服で両腕ごと胴を縛り上げ、気をつけの姿勢で拘束する。
 ジェーンの指示通りにすれば、メリリンが脱ぐ必要は無かったのだが、上まで脱がせるのは悪いと思ったメリリンの計らいだった。
 
 「これでも絵面は悪いねぇ…」

 ズボンを半分下ろされて両腕を拘束された気絶中の美少女(ドミニカ)+上半身下着姿の女(メリリン)+側でじっと見ている少女(ジェーン)。

 「女もいけるしな。みたいなノリの強姦魔みたいだねぇ……」

 なんだかやるせない気持ちになってきたのを、頬を叩いて振り払う。
 出来れば目隠しもしておきたかったが、周囲や自分の状況も判らずに暴れられるのは危険な上に面倒だったので諦める。


905 : 落下速急行 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/24(月) 21:21:23 BKYtPSYk0
 「おーい。起きて、起きよう。おはよう」

 ペチペチ、ペチペチと、少女の頬を繰り返し叩く。二度、三度と呼び掛けて、少女の瞼が痙攣するかの様に動き、弛緩していた身体に力が籠る。
 メリリンの黒瞳と、少女の蒼氷色(アイス・ブルー)の瞳が互いの姿を映す。

 「あー…私は敵じゃ無い。アンタ危害を加えるつもりなら、当にしている。分かる?」

 少女は応えず、身体を身じろぎさせて、拘束されている事に気付いた様だった。

 「赦しとくれよ、お嬢ちゃんがどんな娘なのか分からなくってね。暴れられるのが怖くって縛っちまったのさ」

 「身体を縛める程度では、余り意味が有りませんよ」

 唐突に放たれた言葉に、メリリンが身を強張らせ、少女の視界に入ら無い位置に移動していたジェーンが、石を投げる動作に入る。
 身体を拘束すれば無力化出来る。それは旧時代の話だ。
 現代の人類は身体を拘束された程度では、殺傷能力が全く衰えない者も居る。
 刑務作業者の中で言うならば、フレゼア・フランベルジェや、ジルドレイ・モントランシーがそうだ。彼等は意識さえ有れば、超力(ネオス)を用いて、人を殺傷する事が出来る。
 新時代の人類は、人を殺すのに身体を動かす事は必要条件では無い。
 それを知るからこそ、メリリンは少女の言葉に身を強張らせ、ジェーンは少女を殺す動きに入ったのだ。
 少女は、そんなメリリンの様子を見ると、微笑んで言葉を紡ぐ。

 「私を害するつもりなら、幾らでも好機は有りました。ですが貴女はそうしなかった。
  そして、拘束がそれ程意味を為さない事を知っていて、私の身を縛める。
  貴女の言葉は偽りが無いものだと信じられます」

 「……あ〜。気絶している間に、身体を縛られていて、縛った相手を信じる?そんなアッサリと?」

 「この刑務は、悪人だけが集められている訳では無いのは、名簿を見て確認しています。
 貴女もまた、善き人なのでしょう。貴女の善性は、貴女の行動が保証していますよ」

 「ありがと」

 何というか、調子の狂う少女だった。メリリン自身が“アビス”に収監される犯罪者に相応しく無い人格を有しているが、この少女は更に変わっている。
 服役期間を終えれば釈放される受刑者と異なり、少女は死刑判決を受けた凶悪犯。
 “アビス”の死刑囚などと言えば、ジルドレイ・モントランシーやギャル・ギュネス・ギョローレン の様な、凶悪な殺人犯と相場が決まっている。
 この様に、相手を善人かどうかを見極めることなどせずに、殺しに掛かる筈だ。

 【いやでも、ジェーンちゃんみたいな娘も居るしねぇ】

 殺し屋にして“アビス”の死刑囚である同行者の事を思えば、この少女もまた珍しい存在では無いのかもしれない。
 ジェーンの方に視線を向けた事に気づいた少女が、ジェーンを視界に収める。

 「いざって時の為に隠れて貰ってたんだけど、必要無いみたいだね。
 私はメリリン。そっちがジェーン。お嬢ちゃんは?」

 「ドミニカ・マリノフスキといいます」

 「ドミニカ…んん?」」

 聞いたことのある名前だと、暫し記憶を探り、一つの記憶に思い至った。

 ドミニカ・マリノフスキ。ポーランド系アメリカ人。アメリカで最大の勢力“だった”ヤマオリ・カルトを単身で壊滅させた狂信者。
 ラテンアメリカの麻薬組織に関わっていたメリリンは、必然として経済的にも商売的にも関わりが深い北米の犯罪には詳しい。
 当然の様に、巨大カルトを単身で壊滅させた“魔女の鉄槌”の事は知っている。


906 : 落下速急行 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/24(月) 21:21:56 BKYtPSYk0
 【またエライのと関わっちゃったなぁ……】

 とんでもねー女ではあるが、戦力としては一級。この刑務で生き残る為にも、サリヤに二度目の死を与える為にも、是非是非スカウトしておきたい、少なくとも敵対はしたく無い。
 だが、穏やかで人当たりが良さそうに見えても、“アビス”の死刑囚である。迂闊に接すると殺される。

 「じゃあ、今から拘束を解くよ。そしたら、山頂で何があったか教えてくれないかな?」

 それでも、害意が無さそうなので、拘束を解く事にする。つーか服着たい。

 「それは出来ません」

 即答。答えるまでの時間の短さと、澱み無い言葉が、ドミニカの意志の堅さをメリリンへ如実に伝えて来た。
 
 「どうして?」

 「山頂には、世界を侵す神敵が居ます。私は神から与えられた超力(ネオス)を以って、此れを討たねばなりません」

 「……それって、改変系能力者?」

 「神の創りたもうた世界を侵し、神の意思と御業である森羅万象の摂理を蝕む…。アレは明確に世界を否定するものです」

 うわー話聞かなーい。と、メリリンは思ったが口には出さ無い。
 余計な揉め事は成る可く避けたい。特にこんな場所では尚更だ。
 視界の端で、ジェーンの眉間に僅かばかり皺が寄ったのが見えた。

 「え〜と、其奴は山頂でじっとしてるんなら、それで良いんじゃない?」

 「あの空間は拡大を続けています。一刻も早く涜神を止めさせ無いといけません」

 「ええ……」

 何とも傍迷惑な奴が居るものだ。“アビス”の住人なら仕方がないが限度というものは有る。

 「………だったら何で私を避けようとするんだい?」

 「私には果たさなければならない使命が有ります。善き人を助け、悪しき者を討ち、神を否定する者を討ち滅ぼす使命が」

 メリリンは、厄介な事を言い出したなぁ…。とは思ったが、情報を聞き出すことを優先して黙って流す。

 「なら他人に協力を求めるだろ?」 

 ドミニカが言葉に詰まったのを機に、メリリンは一気に畳み掛ける。

 「他人を巻き込みたく無いんだろ?それならそれで良いけれど、此処で出逢ったのも神様のお計らいってやつだ。情報の交換くらいはしようよ。ね」

 「……分かりました。それなら」





907 : 落下速急行 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/24(月) 21:22:26 BKYtPSYk0


 「つまるところ、山頂には殺傷力の高い領域型の改変系能力者が居て、其奴の展開している領域は徐々に広がっている……他人事じゃ済ま無いんだけど」

 衣服を整え、互いに知っている人物について情報を交換し合い、山頂の存在について聞き終えて、メリリンは天を仰いだ。
 “現代の魔女”ジャンヌ・ストラスブールを殺すとか言ってる時点で、大分アレな気がする。
 試しにルーサー・キングの事を訊いてみたら、アメリカの黒人公民権運動の指導者と勘違いする始末。
 面倒ごとになりそうだったので、“キングス・デイ”の大酒量については教えなかったが。
 何でこんな世間ズレしたのが“アビス”に居るのかとも思ったが、これくらいズレていなければ、カルト宗教を単身解明させるなんてしないだろう。
 改めてとんでもない少女だった。

 それはさておき、とんでもない少女が齎した、とんでも無い情報を、今は優先するべきだろう。
 これは何とかし無いとヤバイ事になる。刑務どころの話では無くなるだろう。
 腕を組んでメリリンが考え込むと。
 
 「放っておくと、安全な場所がどんどん減っていく…。殺し合いに巻き込まれる危険が上がる」

 ジェーンが放置した場合の危険について考察した。
 
 「むむむ…」

 岩山登山に励む原因となった、嵐を起こした刑務者の事を思うと、際限無く気が滅入る。
 安全地帯が減れば、アレとかち合う可能性は、当然の様に増していく。
 ヴァイスマンがどうにかするとも思え無い。此処で死人が大量に出れば、経費の削減になる位にしか思わないだろう。

 「何とかしないといけないねぇ…」

 そうは言っても如何ともし難い。
 どうしたものかと考える。
 というよりも、此処だって危険ではなかろうか。
 速やかに移動し無いと。

 「…ソフィア・チェリー・ブロッサム」

 「誰?」

 「私を捕まえた人よ。丁度良くこの刑務に参加してる。彼女の超力(ネオス)は超力(ネオス)の無効化。彼女なら、何とか出来るかも」

 「何ともまぁ…」

 都合の良い奴が居たものである。
 だがしかし、メリリン達はブラックペンタゴンへと向かうのだ。何処にいるとも知れ無い相手を探し回る訳にもいかない。

 「その方の外見を教えて頂けますか?」

 「ドミニカちゃんに任せるしか無いね」

 「私は最初からそのつもり」

 結局のところ、ドミニカに任せるしか無いのだろう。“アビス”の住人が多数徘徊する島を、当てもなくほっつき歩くのは危険極まりないが、ドミニカならばなんとかするだろう。
 それに、出会う相手次第ではトラブルになるドミニカとは、メリリンもジェーンも同行したくは無かった。

 「その様な方がいらっしゃるのは、神の思し召しでしょう。ならば私が探すべきです」

 「じゃあ、山頂の奴については、ドミニカちゃんに任せるとして、そろそろ移動しよう。何時迄もこんな所で時間を食っていられない」

 「ルートはどうするの?嵐は収まったけど」

 山を登るルートは論外。さりとて、下山して山の周辺を回っていくのは、時間のロスが大き過ぎる。
 何とも困った事態だったが。

 「私の超力(ネオス)ならば、速やかに御二方を山の向こう側までお連れできますが」

 ドミニカの提案に、メリリンとジェーンは視線を交差させた。
 数秒の沈黙。口を開いたのは、メリリン。

 「じゃあ、世話になるよ」





908 : 落下速急行 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/24(月) 21:23:26 BKYtPSYk0



 「…………死ぬかと思った」

 「次は遠慮したいねぇ……」

 二人して血の気の引いた顔で、吐き気を堪えるメリリンとジェーン。
 ドミニカの超力(ネオス)を用いた移動方法は、移動する方向や、身体の向きがどれだけ変わっても、感じる感覚は『落下』のみである。
 慣れているドミニカは平然としたものだが、メリリンとジェーンは初体験。
 視界と身体の向きと姿勢は変わらず、それでいて上に左に右に下に前方に後方に、目紛しく『落下』を繰り返した二人は、三半規管が壊滅していた。

 「着いたのは良いけど」

 「暫く動けそうにないねぇ…」

 へたりこんで動けない2人を前に、初めて他人を己が超力(ネオス)で運んだドミニカは、事態の重大さに頭を抱えていた、

 「大変申し訳ございません。お二人が回復するまで、護衛を努めます……」

 「……ああ、うん」

 「お願い………」



【E-5/ブラックペンタゴンの近く/1日目・黎明】

【ジェーン・マッドハッター】
[状態]:健康 重度の乗り物酔い
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.無事に刑務作業を終える
1.メリリンと行動を共にする
2.山頂の改編能力者を警戒

※ドミニカと知っている刑務者について情報を交換しました

【メリリン・"メカーニカ"・ミリアン】
[状態]:健康 重度の乗り物酔い
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き延びる。出られる程度の恩赦は欲しい サリヤ・K・レストマンを終わらせる。
0.女をどうするか決める
1.サリヤの姿をした何者かを探す。見つけたらその時は……
2.ジェーンと共にブラックペンタゴンに向かう
3.山頂の改編能力者を警戒。取り敢えずドミニカ任せる

※ドミニカと知っている刑務者について情報を交換しました


【ドミニカ・マリノフスキ】
[状態]: 全身に打撲と擦り傷
[道具]: デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本. 善き人を見定め、悪しき者を討ち、無神論者は確殺する。
1.ジャンヌ・ストラスブール、フレゼア・フランベルジュ、アンナ・アメリナの三人は必ず殺す
2.神の創造せし世界を改変せんとする悪意を許すまじ
3.山頂の改編能力者について、ソフィア・チェリーブロッサムに協力を仰ぐ。
※夜上神一郎とは独房に収監中に何度か語り合って信頼しています
※メリリンおよびジェーンと知っている刑務者について情報を交換しました。
※ルーサー・キングについては教えて貰っていない為に知りません。


909 : 落下速急行 ◆VdpxUlvu4E :2025/03/24(月) 21:23:40 BKYtPSYk0
投下を終了します


910 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/24(月) 22:54:40 zVJHBuT20
投下乙です

>落下速急行
回復するまでとはいえ何とも言えない奇妙な連れ合いが出来たなぁ
ドミニカさんは危険人物であることは間違いなけど、無差別というわけではなく独自の善悪判定でやってるので人によっては良好な関係を築けるんだね、けど、世間知らずでどこにラインあるのか逆に怖いかもしない
本人寝てるだけなのにここでも問題になるメアリー対策、無効化能力を持つソフィアさんは正攻法だよね、果たして別のことに夢中な今のソフィアさんが働いてくれるかという問題はあるけど
ドミニカジェットコースターは本人だけじゃなく周囲の人間まで運べるあたり、領域型は本当に便利よね、絶対に乗りたくはない


911 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:08:04 bOy5SadE0
投下します


912 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:10:38 bOy5SadE0
葛藤と焦燥が胸を締め付け、氷藤叶苗の足取りは重く揺れていた。

静寂に満ちた暗い森は、まるで彼女の心の内側を映し出すように深い闇を孕んでいる。
月明かりも樹々に遮られ、視界はひどく悪い。頼りない足取りのまま、彼女は背後をちらりと見た。
そこには、必死に自分のあとをついてくるアイの小さな姿があった。

「あうぅ……」

不安げに小さく唸りながらも、アイは叶苗の囚人服の裾をぎゅっと握り締め、片時も離れようとはしない。
その手の震えが微かに伝わってくるたび、叶苗の胸はさらに痛んだ。

森は一層暗くなり、風が葉を揺らす音だけが二人の耳に届く。
叶苗は、震える手で自らの手のひらを握りしめた。
その指先には、キングから渡された鋼鉄の手甲がひどく冷たく重く感じられた。

あの牧師――――ルーサー・キングとのやり取りが、嫌でも彼女の脳裏を占領する。

(どうして、こんなことになったんだろう……)

家族の仇を討つために、ここまで来た。
それだけが彼女の目的だったはずなのに、その道はいつの間にかこんな幼い子供を巻き込で、戻ることのできない深い闇へと続いていた。

叶苗はただ仇を討てればそれでよかった。
だから、自らブラッドストークの殺害を請け負いそれに条件を付けた。
アイを、自分と同じ一人ぼっちの少女を救うことが出来れば、愚かな自分の行為も救われるのではないかと思ってしまったのだ。

どうしようもなく醜い復讐と言う行いが、少しでも良き行いに繋がるように。
だが、それが間違いだった。

――必ず3人は始末するんだ。

キングの要求が何度もリフレインされる。
命を奪うことを考えると、体が強張り、息が詰まるような恐怖に襲われる。

既に叶苗は4人の命を奪った人殺しだ。
それでも、復讐という名の下でしか人を傷つけたことがなかった。
復讐。それだけを胸に秘め、強く生きようとしていたはずなのに、今は心が揺れている。

家族の仇を討つという明確な目的、理由。
それがあったからこそ、自らの罪を受け入れる覚悟ができた。
彼女は復讐鬼であっても殺人鬼ではなかったのだ。

だが今、自分は何の恨みも因縁もない人間の命を奪おうとしている。
それは、誰に言われたわけでもない。
ただ自分でそう決めただけの、思い込みに過ぎない。

けれど、確信がある。
復讐以外の殺しをした瞬間、叶苗は人間を外れ本物の獣以下の、ただの殺人鬼に堕ちる、と。

いまさら何を、と自嘲するように首を振る。
正当な復讐なら殺しが許される訳じゃない。人殺しは許されない、当たり前の話だ。
それを理解した上で、叶苗は復讐の道を選んだ。

だというのに、良い人殺しと悪い人殺しなんてありもしない天秤を定義しようとしている。
なんて偽善。

「うう……」

不意にアイが声を上げ、叶苗の裾を強く引いた。
そこには、思い悩む叶苗を心配そうな瞳で見つめるアイの姿があった。

「アイちゃん、ごめんね……」

叶苗がそっと呟くと足を止め、微かな吐息を漏らした。
アイは不思議そうに彼女を見上げた。言葉は伝わらなくても、その瞳には明らかな疑問と不安が宿っている。
叶苗は力なく微笑んで、彼女の頭を優しく撫でた。

「怖いよね、私も怖い。でも……アイちゃんを絶対に守ってあげるから」

自分に言い聞かせるようにそう囁くと、アイは小さく頷いた。
己が獣に墜ちても、この少女を救うべきなのだろう。
それが、復讐と言う修羅の道に墜ちた自分が出来る唯一の善行と信じて。

彼女が見つめる先には、月の光に僅かに照らされた道が続いている。
まるでその先に何かが待ち構えているかのようだった。

「行かなきゃ、だよね」

叶苗は深く息を吸い込んだ。
もう、戻れない。自分の足で歩き続けるしかない。
暗闇の中で、叶苗は自らの葛藤を抱え込みながら、震えるアイの手を強く握りしめ、再び歩き始めた。




913 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:12:25 bOy5SadE0
川辺に近い深夜の草原は静寂に包まれ、音もなく流れる夜気が肌を撫でる。
騎士のような揺るぎない瞳をした少女――ジャンヌ・ストラスブールは黙々と前へ進んでいた。
その背後には、長い漆黒の髪を静かに揺らす鑑日月の姿がある。
彼女たちは一時の休息を終え、中央にそびえる謎の巨大建造物、ブラックペンタゴンを目指していた。

ジャンヌの後に続く日月は、その背を暗い瞳でじっと見つめていた。
彼女の姿を目にする度に、日月の心がざわめく。
それはまるで身を焦がす恋のようであり、気を狂わす激しい憎悪のようでもあった。

ジャンヌ・ストラスブールという女に対して、日月の中で絶えず矛盾した感情が渦巻いていた。
彼女の言葉や振る舞い、その立ち姿に触れるだけで、否応なく己の未熟さを突きつけられる気がする。

日月は自身の心の奥底にある闇を知っている。
欲望に忠実で、他者を踏み台にしてきた悪性の側面。
だが同時に、純粋で、眩く、誰かの希望になれる偶像(アイドル)に憧れ、その存在になりたいと願う自分がいるのもまた真実だった。
悪性を抱えながら、善性に憧れるこの矛盾を、舞台上で輝きに昇華する事こそが彼女の目指すアイドルである。

その理想の体現が目の前にいる聖女、ジャンヌ・ストラスブールだ。
この少女は、まるで矛盾を矛盾とも感じていないかのように生きている。
迷いも、傷も、悲しみも抱えながら、それを美しく昇華し、「正義」というただ一つの輝きに結実させている。
日月にとって、それは許せないほどに魅力的で、理解しがたいほどに遠い存在だ。
故にこそ、日月は気付いている。

――私は、この女が怖いのだ。

ジャンヌの存在は、自分が決して届かない場所にある「本物」を見せつけてくる。
心の内側を覗き込まれているような不快さ。
自分のような人間を、本来ならば断罪すべき相手だと、どこかでわかっているような鋭さ。
彼女のような「本物」を前にすると、偶像を演じてきた自分が、どこまでも偽物に感じてしまうのだ。
正義を口にするジャンヌが、いつか自分を見下ろし、軽蔑し、その眩しい瞳に断罪を宿して自分を見つめる瞬間を想像してしまう。

最初は、それでもいいと思っていた。
自分は理想の憧れ(アイドル)にはなれないから、その礎になれるのなら本望だと、諦観にも似た感情を抱いていたのだ。
しかし、今は違う。その恐怖に近い感情の裏側には、身を焦がすほどの憧れと嫉妬がある。

彼女のようになりたい。
否、彼女を超えたいのだと――。
この刑務という舞台で自分がもう一度偶像として輝きを取り戻すためには、ジャンヌというこの「光」を飲み込む必要があるのだと、本能が告げている。

ジャンヌの弱さが見たい。
ジャンヌの醜さが見たい。
ジャンヌが膝を折り、迷い、傷つくところが見たい。
どれほどの弱さと醜さを抱えても、偶像は輝きを保っていられるのか、それが知りたい。
だが、その一方で、それを目にすることが怖くて仕方がない自分がいる。

そんな胸の内の嵐を隠したまま、心がどうしようもない堂々巡りをしている時。
自らに向けられる視線に気づいたのか、ジャンヌはふと立ち止まり日月を振り返る。
まっすぐに視線が交わり、心の内側まで見透かされている気がして、日月は思わず視線を逸らした。

「日月さん、どうかしましたか?」

どこまでも透き通った声。
自らに向けられた醜い感情などみじんも気づいていないであろうその無垢な言葉が、鋭い棘のように日月の心に突き刺さる。

「……別に。ただ、もう少し休んでいけばよかったのにと思っただけよ」

適当な誤魔化しを口にする日月の言葉には、皮肉交じりの敵意が滲んでいる。
だが実際の所、休息もそこそこに行動を開始したジャンヌの体調は万全とは言えない。
焔の魔女プレセアから受けた傷はこんな短時間で回復するはずもないし、短時間での戦闘に体力も消費している。
行動に支障ない最低限の回復が出来た程度のものである。

「そうですね。付き合わせているのなら申し訳ないのですが、私にはやるべきことがあります。そのために休んでいる暇などありませんので」

その自らの体を顧みない揺るぎない言葉に、日月は僅かに唇を歪めた。
どこか挑発するように、しかし隠しきれない嫉妬心を滲ませながら日月が言葉を放つ。

「それって、あの魔女を止める事? それとも今から向かうブラックペンタゴンを調べる事かしら?」
「そのどちらもです。どちらもが私が為すべき責務ですから」

ジャンヌの瞳は少しも揺るがない。
それは日月が望んで止まない輝きそのものだった。

「はっ。迷いは晴れたってわけ。流石は聖女様ね」

日月は敢えてその言葉を嘲笑った。
その美しいまでの強さと潔白さは、日月にとって羨望とも嫉妬ともつかない複雑な感情を呼び起こす。


914 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:13:29 bOy5SadE0
「日月さん」
「な、なによ」

エメラルドの様な輝きと頑なさを持った瞳が、真正面から日月の目を見据えた。
思わず日月の心臓が跳ねた。己の芯を見透かされるような錯覚を覚えてしまう。

「確かに私を聖女や救世主と持て囃す人もいます。ですが、私は自分の正しいと思う事を実行しているだけのどこにでもいる小娘にすぎません。
 それが人々にとっても善き行いであると信じていますが、本当にそれが正しき行いなのか、常にその迷いは晴れることはありません」

ジャンヌの瞳が僅かに陰りを帯びる。
日月はその僅かな陰りに息を呑んだ。

彼女の中で迷いが晴れたのではない。迷いを抱えたまま、それでも迷うことなく前に進める。
それこそが、ジャンヌ・ストラスブールの強さであり輝きの源なのだ。
だがそれでも、これに負けたくないという炎も日月の中に宿っている。

「へぇ。じゃあ改めて聞くわ、あなたの『正しさ』って何?」

最初に出会った時のように、改めて問う。
その問いを受けたジャンヌは慌てるでもなく静かに答える。

「目の前にいる、傷ついた誰かを助けること。それが私の正義です」

今度こそはっきりと答える。
揺るがぬ言葉に、日月の胸が鋭く締めつけられた。

「自分が全てを救えると思うのは思い上がりじゃないの?」
「すべてを救えるなどと思い上がってはいません。ただ目に見える範囲、手の届く範囲だけは救いたい、それだけです。
 そして、いつか私の救った誰かが同じ思いで誰かを救い、それがいつか世界を救う手になればいい。それが私の願いです」

善意は金貨のように流転するもの。
その金貨が巡り世界を少しだけ良くすればいい、そんなささやかな願いが込められた言葉だった。

だが、それが理想論に過ぎないことなど、ジャンヌ自身が誰よりも理解しているのだろう。
だからこそ、それを口にできる強さがあまりにも眩しい。

「その願いが、あの魔女を狂わせたのだとしても?」

その強すぎる光こそが、プレセアのような影を生んだ。
その言葉に、ジャンヌの眼差しは悲しげに細められた。

「そうですね。それは否定できません。ですが、いつか彼女もその罪と向き合い救いが訪れる事を祈っています」

そう言って目を閉じて、ここにはいないプレセアに向けて祈る。
そして静かに目を開き、目の前の日月を見つめた。

「もちろん、あなたにも」

祈りの矛先を向けられ、日月は一瞬言葉を失った。
果たして己は、何から、救われるというのか。

「私は、」

自分でも何を言葉にしようとしているのか分からないまま口を開く。
だが、その先を告げるよりも早く、ジャンヌが素早く視線を上げた。

「待って下さい。誰かいます――――」

ジャンヌの鋭い視線の先に見えるのは森林の暗がりだった。
警戒態勢を取り、身を低くして静かにその暗がりを見つめると、そこには月明かりに浮かぶ二つの影がある。
その影が、小さな少女のものであると気づいた瞬間、ジャンヌは迷うことなくその影に近づいて行った。

「ちょっと…………っ」

呆れの様な声を上げながらも、日月もその後を追った。




915 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:15:49 bOy5SadE0
行く当てもなくとぼとぼと森を歩いていた叶苗の耳に、微かな物音が響いた。
獣人型の超力者の鋭敏な五感は、すぐに気配を察知して、身構えた。
鋼鉄の手甲が静かに光を反射する。

「失礼。少々よろしいでしょうか?」

木々の間から現れたのは、腰まで届く美しい金髪を持つ少女だった。
その凛とした佇まい、揺るぎない意志を感じさせる瞳は今の叶苗には目を潰しそうなほど眩しく映る。
その背後には、妖艶な雰囲気を纏ったもう一人の女性が続いていた。

「誰……?」

強い警戒心を持って叶苗が慎重に問いかける。
獣人の少女の目に宿る恐怖と動揺を見て取ったのか、現れた少女は敵意がないことを示すように静かに両手を挙げた。

「警戒しないでください、私たちに敵意はありません」

警戒心を溶かすような太陽の様な声。
その穏やかさに、叶苗の緊張が少しだけ緩む。
しかし、彼女は未だ怯えを隠せず、隣の幼い少女、アイを庇うようにして立ち塞がった。

「……私たちに関わらないで」

絞り出すように告げる叶苗の震える声に、背後の女が興味深そうに目を細める。
まるで喰い物にされた少女たちの匂いを敏感に嗅ぎ取るように。

「あら、随分とおびえているのね。何かあったのかしら?」

突き刺すような言葉に、叶苗は更に身を硬くした。
その表情は苦しげで、何か深い秘密を抱えていることが一目でわかった。
金髪の少女が鋭く黒髪の女を制止する。

「日月さん、怖がっています」

日月と呼ばれた女は軽く手を挙げて謝罪の意を示したが、その視線は依然として興味深く二人を見据えている。
少女は改めて叶苗に向き直り、視線を合わせるように膝をかがめ優しく問いかける。

「怯えないでください。私たちはこの場所で困っている者同士。
 あなたたちが何に怯えているのか、よろしければお話を伺えますか? 私たちが何かの助けになれるかもしれません」

少女の慈愛に満ちた声に、叶苗は戸惑いを隠せなかった。
何か裏があるのではないかと疑ってしまうほどのまっすぐな善意。
このアビスで、いやこの変わり果てた世界でそんな言葉を聞いたのは初めてのことだ。

「私たちってあなたね……」
「よいではないですか。日月さんも事情を聴きたがっていたでしょう?」

別に2人の助けになりたくて聞こうとしたわけではなかったのか、面倒そうに女はあーと視線を逸らした。
だが、正直にそう言う訳にもいかず、なにか諦めたようにため息をついた。

「……しかたないわね。私は鑑日月よ。そっちは?」
「えっと……私は、氷藤叶苗です。こっちはアイちゃんです」

名を問われ思わず叶苗は名乗りを返した。
そして、その流れに従い最後の一人も名乗りを上げる。

「私はジャンヌ・ストラスブールです。よろしくお願いします。叶苗さん、アイさん」
「――――――――!」

その名を聞いて、叶苗は息を呑んだ。
顔までは知らずとも、叶苗だって名前くらいは聞いたことはあるフランスの聖女。
そしてキングが示した標的の一人、ジャンヌ・ストラスブールだ。

余りにも早い突然の出会いに、叶苗の心臓が激しく鼓動を打つ。
全身から汗がにじみ出て、呼吸が早くなって行く。
冷静になれと自分に言い聞かせるが、キングからの指示が脳裏を駆け巡り、焦燥が募る。


916 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:17:39 bOy5SadE0
「大丈夫ですか……?」

その葛藤を知らぬジャンヌが、唐突に狼狽を始めた叶苗に優しく声を掛ける。
その瞳は、警戒よりもむしろ他者を慮る慈愛に満ちていた。
日月は横目で叶苗を鋭く観察していたが、何も言わず、ただ成り行きを見守っている。

叶苗は答えることが出来なかった。
ジャンヌのその瞳に映る慈悲の光が、自分の罪悪感を更に深めた。

「体調が悪いのでしたら、お話は後で構いませんので無理をせず少し休んでください」

ジャンヌが一歩踏み出す。
その動きに反応し、叶苗は僅かに後退る。
心臓が激しく鼓動を続け、キングの言葉が耳元で囁かれる。

(――――――やれ。この機を逃せば、次はないぞ)

自分を急き立てる内なる声。
その手に力が入り、手甲が微かに軋んだ。
だが同時に、もう一つの声が囁く。

(本当にそれでいいの……?)

視線が泳ぎ、手が震える。
罪を重ねる恐怖と、キングへの恐怖。
進むも引くも地獄しかない。
2つの恐れの板挟みになり、叶苗は身動きが取れなくなった。

そんな叶苗の異変を感じ取ったのか、アイが不安そうに彼女の手を掴む。
小さなその手の温もりに、叶苗の胸が痛んだ。

(私は、どうしたら……)

答えが見えない迷宮の中で、叶苗はただ震える自分自身を抱きしめるように、ぎゅっと目を閉じた。
そんな叶苗の迷いは繋いだ手を通してアイにも伝わり、彼女の本能的な不安を刺激する。
その不安がキングから受けた恐怖を思い出させたのか、アイは落ち着きを失って視線を激しく動かしながら唸り声を漏らし始めた。

叶苗はそんなアイの様子に気づくと、慌てて視線をアイに戻し握る手の力を強め、彼女の動きを宥めようとする。
しかし、その静止の意思が届く前に、アイは我慢の限界を超えていた。

「うぅぅあああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

アイの咆哮が周囲に響き渡り、静寂を一瞬で引き裂く。
叶苗の手を振り切り、野生動物のように跳躍したアイは、恐怖と焦燥に駆られ眼前のジャンヌへと猛然と襲い掛かった。

「なっ!?」

ジャンヌは一瞬目を見開き、反射的に身構える。
そこは最前線で戦い続けた歴戦の聖女。
突撃するアイを見据え、予想外の奇襲にも冷静に防御態勢とって対処する。
年端もいかぬ小柄な少女の突撃ならば受けきれるという判断だろう。
両手をクロスしてアイの突撃を受け止める。

「くっ……!」

だが、彼女の掌がジャンヌの腕にぶつかった瞬間、重い衝撃がジャンヌの全身を震わせる。
アイの身体能力はその幼い体躯からは想像もつかないほど凄まじいものだった。

歯を食いしばり、衝撃を受け流そうとするジャンヌだが、アイの力はまさに圧倒的だった。
衝撃を殺したはずのジャンヌの体が大きく後方に弾き飛ばされる。
自ら跳ぶことでギリギリで倒れることなく踏みとどまれたが、この常識外れの力は間違いなく超力によるものだろう。

アイの超力は体格差により力を発揮する。
ジャンヌは小柄な少女だが、年端もいかないアイに比べれば当然いくらか大きい。
その怪力は岩をも砕く程の威力に達しており、直撃を受ければネイティブの肉体と言えども骨折は免れないだろう。


917 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:19:50 bOy5SadE0
「ッ! おやめなさい…………!」

ジャンヌの叫びが夜に響く。
だが、その声はアイには届かない。
彼女はまるで恐怖に取り憑かれた獣のように、ただ目の前の脅威を排除しようとするばかりだった。
小柄な身体で繰り出される攻撃の一つ一つが鋭く、次々と迫ってくる。

ジャンヌは盾となるように焔の翼を広げた。
焔を推進力にして後方に引きながら、次々と襲いかかる激しい衝撃をその翼で逸らしていく。
逸らされたアイの攻撃によって地面が割れ、粉塵が舞い上がった。

「アイ、ちゃん…………」

その光景を叶苗は唖然と見ていることしかできなかった。
アイが暴走し、ジャンヌが傷つく姿を目の当たりにしながらも動けない自分自身への怒りと失望が胸の内で渦巻く。
アイがジャンヌを攻撃する姿に胸が引き裂かれるような痛みを感じ、しかし止めることもできずにいた。

なぜ自分はこうも無力なのか。
ジャンヌを狙えとキングに命じられたものの、未だに行動を起こすことができず、かといって未だに復讐以外の人殺しをして人間から外れる覚悟も持てない。
アイに加勢する事も、アイを止める事も出来ず、ただ傍観者のようにその戦いを見守る事しかできない。
なんて半端でどっちつかず。その半端さこそが何よりも罪深い。

何もできないという己が罪科に惑う。
そんな叶苗の視界に映ったのは、アイの猛攻にただ耐え続けるジャンヌの姿だった。
荒々しい攻撃を受け続け、焔の翼が火花を散らす。

「くっ……!」

焔の隙間を縫ったアイの小さな拳がジャンヌの腕を掠め、鋭い痛みが身体を走った。
その膂力は聖女をよろめかせ、想像できないほどの強大な力に勢いよく弾き飛ばされる。

だが、攻撃を受け続ける身体は悲鳴を上げているが、彼女の精神は折れない。
地面に倒れこんだジャンヌは泥だらけになりながら不屈を示すように即座に立ち上がった。
荒い呼吸を整えながら、不安そうに2人の争いを見つめる叶苗に眼差しを向ける。

そして、戦いの最中にも拘わらず彼女を安心させるように笑みを作った。
このような状況で見せるその慈悲の笑みは、もはや狂気すら感じさせた。
それで、気づいた。

「なんで、何もしてこないの……?」

理解できないと言った風に叶苗の口から零れた呟きは震えていた。
その声には動揺と混乱が交じり合い、胸の奥で渦巻く苦しみを滲ませている。

ジャンヌはその焔を一度たりとも攻撃に使ってはいない。
焔の翼はあくまで攻撃を逸らすだけに留め、ただ黙々とその攻撃を受け止めている。
彼女の表情には痛みや戸惑いよりも、むしろ悲しみや慈愛に似た色が浮かんでいる。

先に仕掛けたのはこちらだ。
攻撃を仕掛けた以上、殺されても仕方がない。
それが彼女たちの生きる世界の掟だ。
なぜ反撃しないのか、なぜ抵抗しないのか、全く理解できなかった。

叶苗の問いにジャンヌは答えない。
ジャンヌはなおも攻撃を受け止めながら、その場を一歩も譲らず耐え続ける。
その姿はまるで、暴風雨に打たれながらも揺るがない岩のようだった。

そしてもう一人、日月もまた一歩下がった位置でこの状況を冷静に見つめていた。
彼女の表情は変わらなかったが、その瞳には微かな焦燥が見え隠れしている。
偶像としてのその信念がどこまで貫けるのか確かめたい気持ちもあるが、どういう訳かジャンヌが傷つく姿を見ているのは不快だった。

「何やってんのよジャンヌ! 反撃なさい!」
「なりません…………!」

語気を荒げた日月の言葉を跳ねのける。
彼女がその気になればプレセアのように一蹴出来るはずだ。
だがジャンヌは、いくら攻撃されようとも決して反撃をしようとはしなかった。

「この子は本気で攻撃しているわけではありません。ただ怯えているだけです……誰かを傷つけようとしている訳ではない」

ジャンヌの翡翠色の瞳は、襲い掛かるアイの動きを静かに捉え続けていた。
その瞳に映るのは、理不尽な敵意でも暴力的な怒りでもない、ただひたすらに追い詰められ恐怖する小動物に対する憐れみや慈しみのような感情である。
アイの眼は恐怖と困惑で揺れ、叫び声は人間というより追い詰められた獣のそれに近かった。

常に弱者の味方足らんとする想いこそがジャンヌの信念だ。
そして、彼女はどのような状況であろうとも己が信念を貫く。
そのためなら自分の命を犠牲にすることさえ厭わない。

そんな彼女が、怯えて惑っているだけの子供を切り捨てるなどどうしてできよう。
たとえ自分が傷つこうとも、守るべき弱者を攻撃することなど許されるはずがない。

ジャンヌ・ストラスブールは、そのように生きてきた。
何より、己の目で罪科を見定めると決めた以上、それを投げ出すことなど許されるはずもない。


918 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:21:05 bOy5SadE0
その言葉に、叶苗の胸が激しく乱された。
理不尽に襲われている状況にありながら、ジャンヌはアイを理解し、相手の心に寄り添おうとしている。
この地の底でも穢れぬことなく貫かれるその心こそが、何よりも叶苗を鋭く突き刺した。

だが、その強さはアイの混乱をさらに強めた。
目の前の少女は一切攻撃を返さず、ただ静かに自分を見つめている。

その瞳には非難も怒りもない。ただ深く悲しげで、慈しみに満ちていた。
その視線がアイの心に少しずつ、だが確実に影響を与えていた。

アイの瞳が激しく揺れ、呼吸が乱れている。
単純な話だ、誰だって理解できないものは恐ろしい。
弱肉強食の掟に縛られた自然界には存在しない、生存本能を上回る信念と言う名の狂気。
ジャンヌのその狂気(しんねん)は野生の世界で生きてきたアイには理解不能なものだった。

迷いと恐怖が交錯するその顔は、まるで迷子の幼子のようだった。
その瞳にはキングに対する恐怖。ジャンヌに対する恐怖と戸惑いが入り交じっている。
それでもなお、彼女はそのどちらからも逃げることなく戦い続ける。
何故なら、アイの瞳の奥にはそれを上回る別の闘志が宿っていた。

「…………かなえ…………まもる……っ!」

アイの口から零れたその言葉に叶苗に衝撃が奔った。
アイを突き動かしたのはキングへの恐怖だけではなかった。
自分がキングの圧力に屈していることが、アイの精神を追い詰めてしまったのだ。

アイにとって守るべき存在である自分が、アイを最も傷つけ追い詰めてしまっていた。
その現実が胸を張り裂くほどの痛みとなって叶苗を苦しめる。

「もういい、もうやめて……! アイちゃん、お願いだから……!」

叶苗は悲痛な声で訴えかける。
だが、彼女の声ですらも今のアイの耳には届かなかった。
暴れるアイの瞳には涙が滲んでおり、彼女自身がその衝動を止めることができないことを物語っていた。

彼女自身ももう、何をすれば良いのかわからなくなっていた。
攻撃を続ける意味も、止める理由も、自分には理解できない。
ただ体の奥底にある本能だけが暴走しているようだった。

「うああああああぁぁぁぁっ!」

アイは己の迷いを振り切るかのように叫び、再びジャンヌへと突進した。
彼女自身が恐怖と混乱に飲み込まれ、暴力を振るうことしか自らを守る術を知らないかのように。
アイはその混乱を振り払うようにさらに強力な一撃を放った。

ジャンヌは咄嗟に焔の翼を前方に展開し、防御を固めるがその一撃はあまりにも重く。
衝撃で後方へ吹き飛ばされ、叩きつけられるように地面を転がった。

「…………くっ」

泥まみれになったジャンヌの身体は、土と血で汚れていた。
焔の翼も所々が黒く焦げ、火花を散らしながらうねっている。
それでも彼女は、折れそうになる膝を叱咤しながら、ゆっくりと立ち上がった。
その眼差しには依然として揺るぎない強さがあった。

「ぐるるるるるううぅぅぅぅ――――――っ!!」

アイは獣のような叫びを上げ、倒れかけたジャンヌに止めを刺すように飛びかかった。
その瞳は涙に濡れ、混乱と恐怖で理性を失っていた。小さな拳が、決死の一撃として振り下ろされる。


919 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:22:59 bOy5SadE0

「――――――――――アイちゃん……!」

必死な叫びを上げながら叶苗が、ジャンヌとアイの間に飛び込んだ。
自分がこのままではアイを破滅に追い込んでしまう、そんな恐怖と自責が彼女の背を押した。
彼女の瞳からはぽろぽろと涙が零れ落ち、悲痛な嗚咽が森の中に響き渡った。

叶苗が割り込んだ瞬間、アイの拳が彼女の胸を強く打った。
胸骨に重い衝撃が走り、激しい痛みが全身を貫く。息が一瞬止まり、目の前が暗転した。
その瞬間、アイの瞳が恐怖に染まった。叶苗を傷つけてしまったことに気づいた彼女は、一瞬息を詰まらせ、震える拳をじっと見つめていた。

「ぐっ……ぁあっ……!」

だが、その一撃が割り込んできた体格差の小さい叶苗に向けられた攻撃だったのが幸いしたのだろう。
苦痛に喘ぎながらも、叶苗は倒れまいと踏ん張り、震える腕でアイの身体を強く抱き締めた。
その衝撃は痛烈だったが、それ以上に自分のために暴走したアイを止められなかった悲しみが叶苗の胸を締め付けていた。

「ごめんね……ごめんね、アイちゃん……」

彼女は声を震わせ、涙を溢れさせながら繰り返し謝った。
自分が人殺しになるのを怖れて逃げたくせに、アイにはそれを背負わせようとしていた。
守ると誓ったはずのこの子に、最も重い罪を背負わせかけた自責の念がが、刃より鋭く心を裂いていた。
叶苗を打ってしまったアイはパニックに陥りその腕の中でもがき続けたが、やがてその激しい動きは弱まり、嗚咽を漏らし始めた。

「あぅぅ…………あぅぅ…………っ」

アイは嗚咽を漏らし、叶苗もまた涙を流しながら彼女を強く抱き締める。
叶苗の胸に刻まれたその痛みは、彼女自身の罪悪感を一層深くするものだったが、
同時にそれは彼女が再び人としての道を踏み外すことを止めてくれた、大切な痛みでもあった。

その光景をジャンヌは静かに見つめていた。
叶苗の必死の行動によって、張り詰めていた空気は静寂へと変わる。
木々の隙間を抜ける微かな風だけが、森の奥深くで静かに囁いていた。

「まったく、随分と手間をかけさせてくれたわね」

その冷静で皮肉の混じった声が、沈黙を破った。
叶苗と同じく、成り行きを見守っていた日月だ。
彼女の瞳には微かな苛立ちが入り混じっていた。

叶苗はぎくりとして、日月の鋭い眼差しに気圧される。
その非難の目からアイを守るべく必死に言葉を探したが、喉が詰まって何も出てこない。
日月はそんな叶苗の動揺を見透かしたように小さくため息をつき、堂々とジャンヌと叶苗たちの間に割り込んだ。

「日月さん」
「分かってるわ。この娘たちにもそれなりの事情があるんでしょう。切羽詰まった事情が、ね」

日月はわざとらしく肩をすくめながら、場の空気を測るように視線を巡らせた。
視線の先には、泣き疲れたアイと、その背を支える叶苗の姿。
少し前まで暴れていた獣が、今は怯えた子猫のように縮こまっている。
その姿を見て、日月は軽く鼻を鳴らした。

「……まぁ、感傷に浸るのは勝手だけど」

目を細め、氷のような落ち着いた声で続ける。

「でも、その事情くらいは話してもらわないとね。
 一方的に殴られたこっちには聞く権利くらいあるでしょう?」

襲われた本人ではない日月の口調はどこか傲慢で皮肉めいていたが、ジャンヌもその問いには同意するように静かに頷く。

「……話してもらえますか?」

ジャンヌの優しくも真摯な問いかけに促され、叶苗は迷いながらもゆっくりと口を開き、事情を語り始めた。
紆余曲折を経て、ようやく最初のやり取りに戻れたようだった。


920 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:25:22 bOy5SadE0
キングとの取引、復讐のための殺人、そしてアイを守り故郷へ帰すための条件。
叶苗が声を震わせながら事情を語り終えると、静かな風が深い森を通り抜け葉擦れの音が微かに響いた。
朝の近づいてきた森の中に沈黙が落ちる。

ジャンヌ・ストラスブールは叶苗の話を聞き終えた後も、しばらく黙ったままだった。
緩やかに吹き抜ける風が彼女の金色の髪を撫で、翡翠色の瞳には複雑な感情が浮かんでいる。
傍らの日月もまた静かに話を聞き、思案するように漆黒の長髪を指で弄んでいた。

静かに耳を傾けていたジャンヌだったが、全てを聞き終えるとその瞳が一瞬だけ冷たく細まった。
その話に出た牧師――ルーサー・キングの名。
弱みに漬け込み利用するやり方に内心で静かに怒りを燃やしていた。
ジャンヌの気配に合わせて、その場の空気は再び凍り付いたように感じられた。
少女たちの怯えの様な感情をいち早く察したジャンヌは、すぐにその感情を吐き出すようにそっと吐息を漏らした。

「よく話してくれましたね。つらかったでしょう」

そう言って、俯く叶苗とアイを労うように手を重ねる。
自分の感情をひとまず横に置いておき、叶苗とアイへと寄り添うことを第一とする。
その在り方こそがジャンヌ・ストラスブールであり、何こそ日月の心をざわつかせる。

「馬鹿な真似をしたものね。あのルーサー・キングに取引を持ち掛けるなんて」

日月はその苛立ちを吐き出すように、強い言葉を少女にぶつける。
叶苗は日月の言葉に痛みを感じ、うつむいたまま唇を噛みしめた。

「あの男がそんな約束を守るとは到底思えません。利用され、最後は使い捨てられるのがオチでしょう」

ルーサー・キングという男を否定するジャンヌのその言葉に、日月は静かに首を振った。

「それは違うわ。遂行すれば約束は必ず守られるわ」

裏社会を渡り歩いてきた日月には分かる。
裏社会における契約とは、そういうものだ。
裏社会を牛耳る大首領がその掟を破るはずがない。

「だからこそ、一度関わったら終わり。そもそも関わるべきではないし、関わりを断つにはどちらかが死ぬしかない」

彼女は瞳に冷徹な光を宿しながら、静かに続ける。
約束は破られるのではなく、約束は守られる。何があっても。
だからこそ性質が悪い。

ルーサー・キングはただの犯罪者ではない。欧州裏社会を牛耳る怪物である。
そういう男に狙われている以上、生き残るには別のやり方を考える必要がある。

「だけど、これは見方を変えればチャンスでもある」
「チャンス……?」

叶苗は戸惑いながら日月を見つめ返した。
日月は薄く唇を吊り上げ、酷薄な笑みを浮かべ続ける。

「その男が自ら合流場所と時間を指定してきたのよね。それならば、逆にこちらから仕掛けることも可能なはずよ」

日月の言葉を聞いた瞬間、ジャンヌの瞳が鋭くなった。
彼女は日月の真意を探るようにじっと視線を注ぐ。

「キングを仕留めるために彼女たちを利用しようということですか?」
「ええ、そうよ」

日月はあっさりと頷いた。
第2回放送直後、島北西部の港湾にルーサー・キングは現れる。
この状況を利用しない手はない。

「あなたたちは、奴にとって取るに足らない駒にすぎない。だからこそ、そこを逆手に取れる可能性がある」

叶苗は息を飲み、ジャンヌは険しい顔で日月を見つめた。
アイはただ、不安そうに叶苗の腕を掴んでいる。

「報告の為にデジタルウォッチの履歴を見せるのでしょう?
 刑務作業のルールでデジタルウォッチの取り外しが許されない以上、奴は確実にあなたに接近することになる。
 そこに攻撃を仕掛けるチャンスがある。初手さえ通れば後は待ち伏せていた全員で叩く。奴を出し抜くにはこれしかないわ。
 ジャンヌは宿敵を倒せて、あなたたちは解放される。私にとっても脅威を一つ消すことになって、ついでに世界も少しはきれいになる。ほら、全員が得する話でしょう?」

日月の提案は明快で、非情なほど合理的だった。
ジャンヌはしばし沈黙し、叶苗とアイ、そして日月の顔を静かに見つめた。
その眼差しには、決して揺らぐことのない決意と、彼女自身が背負ってきた数多の苦難の重みが宿っていた。


921 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:27:39 bOy5SadE0
「その提案は、確かに理に適っているかもしれません。キングを倒すべき、という方針にも賛同します。
 ですが、この子たちを『駒』や『囮』にするやり方は、決して容認できません」

ジャンヌの毅然とした瞳に厳しい色が浮かんでいた。
日月はその視線を受け止め、僅かに冷笑を浮かべながら返す。

「それは甘すぎでしょう。子供だろうと関係ない。自分の招き寄せた事なんだから責任は自分で取るべきでしょう。
 何もしないまま解決だけしてほしいなんて、都合がよすぎる。あなた達だって、このまま追い詰められていくだけよりマシでしょう?」

ねぇと日月は叶苗とアイへ視線を移した。
怯えるように身を寄せ合う二人は答えられない。

「…………私は、どうしたら」

叶苗は苦悩に満ちた小さな呟きを漏らした。
その声には、途方もない迷いと怯えが濃く滲んでいた。

キングに攻撃を仕掛ける?
あの威圧感と恐怖は身体の芯にまで刻まれ、考えるだけで全身が震える。
かといって、このままキングに従い、他人の命を犠牲にするのもまた同じくらい恐ろしいことだった。

「どうすればいいか、じゃないわ」

日月は静かに、しかし確かな圧力を込めて叶苗を見つめ、鋭く告げた。

「どうしたいのか、よ」

その言葉が叶苗の胸に突き刺さった。
彼女の耳元で心音が激しく脈打った。

「あなたは今、選ばなきゃいけないの。牧師の言いなりになって、他人の命を犠牲にしてでも生き延びるか。
 それとも、自分自身のために戦うのか」

叶苗の視界が揺れる。
その中で、彼女は改めて自分自身の内側を覗き込んだ。

復讐を果たすこと、アイを守り抜くこと――本当に望むことは何か?
叶苗はゆっくりと、自分自身の心に問いかける。

「……私、は…………」

心の迷宮に迷い込んだ叶苗の肩に、そっとジャンヌの手が置かれた。
ジャンヌは日月の厳しい言葉を責めることもせず、小さく頷いて静かな息を吐く。

「そこまでにしておきましょう。
 キングという男がどれほど恐ろしい存在かは、私自身がよく知っています。
 私の全てを奪ったのもまた、あの男とその組織ですから」

ジャンヌの瞳には深く刻まれた過去の痛みが浮かんでいた。
叶苗が抱く恐怖や葛藤は、誰よりもジャンヌ自身が理解している。

「私の人生は既に多くを失い、奪われました。だからこそ私は、同じように奪われ苦しむ人々がこれ以上増えることを許すわけにはいきません。
 この子たちはもう十分に傷ついた――これ以上巻き込むべきではありません」

だからこそ、その痛みを抉るような行為を他者に強要することはできない。
ジャンヌの言葉は静かな決意を帯びていた。

「ならどうするっていうの? このまま放っておく? 私はそれでもいいけど」

放っておいてもアイたちの運命がキングに縛られた状況は解決しない。
お前にそれが出来るのかと皮肉に満ちた言葉で日月はジャンヌを挑発した。
だがジャンヌは動じず、迷いのない口調で静かに告げる。

「キングが私を標的にした以上、これは私自身の戦いです。だから私の手で決着をつけます」
「……私の手で? まさか一人で戦うつもり?」

荒げられる日月の声には焦りと苛立ちが混じっていた。

「あなたが死んだら、それこそ奴の思うつぼよ。
 ましてや一度敗れた相手なんでしょう? あなた一人で勝てると本気で思ってるの?」

日月はジャンヌの行動を批判する。
自分の命を狙っている男の前に単身赴くなど正気の沙汰ではない。
ジャンヌはその言葉に少しだけ穏やかな表情を作り、静かに頭を下げた。


922 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:30:31 bOy5SadE0
「私のことを心配してくださっているのですね。ありがとうございます」
「な、に……を?」

その瞬間、日月は戸惑いで言葉を失った。
ジャンヌの表情はどこまでも人間らしく――神聖さよりもむしろ、ただの少女らしい微笑みだった。

「ですが、やはり私は身勝手な小娘なのです。自分の我侭を貫く、それだけしかできない」

小さな罪を告白するような、寂しげで儚い言葉。
神聖さなどない少女の表情。
その姿が、何よりも日月の胸を揺さぶる。

「日月さん、あの子たちの事をどうかお願いできませんか?」
「……どうして、私がそんなことを」

日月は動揺を隠すように突き放した。
だがジャンヌは、少しだけ微笑みを浮かべ、はっきりと答えを返す。

「貴女は、親切な人ですから」

今度こそ日月は言葉を失い、瞳が揺れた。
その視線には戸惑いと、何よりも彼女自身が抱えているジャンヌへの複雑な感情が交錯していた。

それは恐怖にも似た感情だった。
これまでのやり取りで日月の冷淡で冷酷な面を知らぬわけではあるまい。
それを理解した上で、ジャンヌの瞳に皮肉や嘲りはなく、ただ純粋な信頼と感謝だけが宿っている。

「あなたには無関係なことなのに、一緒に考えてくれました。それだけで、私には十分です」

キングとの因縁は叶苗たちとジャンヌのものだ。
日月には無関係な事であるはずなのに、どうするべきか彼女なりに真剣に考えてくれた。
彼女にとってはそれだけで十分だった。

偶像からの感謝に喜ぶ自分がいる。
同時に、その無垢な言葉を迷いなく言えるジャンヌに嫉妬する自分もいた。
羨望と嫉妬で相手と自分を同時に殺したくなった。

「…………ジャンヌさん」

叶苗は胸を締め付けられ、涙をこぼしながら顔を上げた。
自分達がこんな状況に陥ったのも、もとを辿ればキングの策略に翻弄された結果である。
だがそれでも、このジャンヌという少女は自分たちを守ろうとしている。

「私のせいでごめんなさい……でも、私にはもうどうしたらいいのか……」

叶苗の声は震え、その言葉はかすれた。
ジャンヌは叶苗へと振り返ると片膝をついて視線を合わせる。
彼女を振り向いたその眼差しは、慈悲深くも厳しいものだった。

「叶苗さん。私も己が苦境を変えようと自らの意思で剣を取った身、貴女の復讐という行いを非難できる立場にはありません。
 ですが、今回の件を脅されただけだから貴女は悪くない、とは私は言いません。
 貴女にも間違いがあり、罪があります――それをまず受け入れなくてはなりません」

あなたは悪くなかった、などと言う安易な赦しを与えない。
それが聖女としてのジャンヌの厳しさであり、慈悲そのものだった。

「私たちは皆罪を背負いし咎人。大切なのは、自分の罪とどう向き合い、これから何をすべきかだと、私は思っています。
 貴女の罪に答えを出せるのは、きっと貴女自身だけです」

罪を背負いそれでも前に進めるのか。
その言葉は叶苗の心に深く響き渡った。
アイもまた言葉は分からずとも、じっとジャンヌを見つめその心を見つめていた。

「どうか復讐の連鎖に囚われず、貴女の心に救いがありますように」

そう言って両手を合わせ祈りを捧げる。
祈りを捧げるジャンヌの姿は、夜明けの光の中で神聖に輝いていた。
祈り終えた彼女は、最後に叶苗たちへ視線を向ける。


923 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:31:36 bOy5SadE0
「大丈夫。あの男のことは、私が必ず」

それは誓いのような決意に満ちた静かな宣言だった。
ジャンヌは静かに息を整えると、決然とした瞳で白み始めた空を見つめた。
夜の名残を残す光が微かに差し込み、彼女の金髪を淡く照らす。

まだようやく早朝を迎えようという時刻だ。
合流時刻までは6時間以上の猶予があるが、道中どのようなアクシデントがあるかわからない。
今のうちに旅立って早すぎるという事はないだろう。

そうしてジャンヌは3人に向かって一礼すると、振り返ることなく踏み出した。
その背中は凛とした騎士のようであり、孤独な殉教者のようでもある。
胸の奥で燃える静かな怒りと覚悟の炎はもはや彼女自身をも包み込み、決して消えることなく開け始めた夜を照らす光のように煌々と輝いていた。

彼女の目指す合流地点には、あの恐るべき男――ルーサー・キングが待ち受けている。
手痛い敗北を期そうともその心は折れていない。
彼女は一人、運命の待つ戦いに赴こうとしていた。

残された日月たちは、ただ呆然とその背中を見送るしかなかった。
やがてジャンヌの姿が完全に見えなくなった後、日月は小さく舌打ちをして目を伏せる。

「……結局、私は何もできないのね」

自嘲を帯びたその呟きが、朝霧の立ち込め始めた森に儚く溶けていく。
心の奥底で渦巻いているのは、どうしようもない悔しさだった。

結局、アイドルとして歯牙にも掛けられていない。
一方的に憧れて、一方的に敵視して、最初から最後まで日月の独り相撲だ。

結局、ジャンヌはどんな過酷な状況でも崩れることなくその心は眩しく輝き続けていた。
醜さと美しさ。その矛盾を制御して、最後まで偶像であり続けた。

「……やっぱり、あなたには勝てないってことなのかしら……」

呟く言葉には苛立ちと、どこか哀しげな響きがあった。
鑑日月という女は、常に自らの欲望に忠実だった。
今だって、醜い嫉妬と悪辣さを抑えられず己が醜さに振り回されている。
ジャンヌを前にすると浮かび上がる、輝きとは程遠い自分自身の醜さと弱さこそが本当に憎かった。

「……あの、日月さん」

遠慮がちにかけられた声に、日月はゆっくりと振り返る。
視線の先では、氷藤叶苗が怯えたように立ち尽くしていた。
その背後にいるアイもまた、不安そうな瞳でこちらを見つめている。

(……私に、何をしろって言うのよ……)

この少女たちを連れて行くことに、何の意味があるのだろう。
ただの荷物であり、厄介者だ。
彼女たちを助けたところで、自分が望む舞台(ステージ)への道には何の近道にもならない。

だが、その考えに至った瞬間、ジャンヌの最後の言葉が頭をよぎった。

――あなたは親切な人ですから。

日月の悪辣さを知りながら、ジャンヌが答えた小さな光。
求める答えには程遠いその言葉は、皮肉なほどに日月の胸を締めつけた。

「本当に馬鹿みたい……」

小さく息を吐くと、日月は苛立ったように踵を返し、二人の前へとゆっくり歩み寄った。

「行くわよ。とりあえず、安全な場所を探す。あなたたちをこんな場所に置いておくわけにはいかないから」

叶苗とアイは驚いたように目を見開き、戸惑いながらも日月の後に続く。
日月は歩き出しながら、再び小さく呟いた。

「ジャンヌ、あなたが間違ってるって証明してあげるわ……私は、そんな優しい人間じゃない……」

その言葉には強がりが込められていたが、皮肉にもそれは誰よりも自分自身への問いかけに近かった。


924 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:31:46 bOy5SadE0
【D-5/草原/1日目・早朝】
【ジャンヌ・ストラスブール】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、右脇腹に火傷
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.正義を貫く。だが、その為に何をすべきか?
1.ルーサー・キングとの合流地点(港湾)を目指す。
2.フレゼアを追いたい。
3.刑務の是非、受刑者達の意志と向き合いたい。
※ジャンヌが対立していた『欧州一帯に根を張る巨大犯罪組織』の総元締めがルーサー・キングです。
※ジャンヌの刑罰は『終身刑』ですが、アビスでは『無期懲役』と同等の扱いです。

【D-6/草原近くの森/1日目・早朝】
【鑑 日月】
[状態]:疲労(小)、肉体の各所に火傷
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.アビスからの出獄を目指す。手段は問わない
1.ジャンヌに対する葛藤と嫉妬を抱えつつ、彼女の望み通りに叶苗とアイを保護する。
2.ジャンヌ・ストラスブールには負けたくない。彼女を超えて、自分が真の偶像(アイドル)であることを証明したい。

【アイ】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)、恐怖と動揺
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.故郷のジャングルに帰りたい。
1.(かなえを傷つけたくない、でもどうすればいいかわからない)
2.(あいつ(ルーサー・キング)は、すごくこわい)
3.(ここはどこだろう?)
4.(ぶらっどすとーく?ずっとむかしきいたような、わからないような……)

【氷藤 叶苗】
[状態]:胴体にダメージ(中)、罪悪感、尻尾に捻挫、身体全体に軽い傷や打撲、刑務服のシャツのボタンが全部取れている
[道具]:鋼鉄製の手甲(ルーサーから与えられた武器)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.家族の仇(ブラッドストーク)を探し出して仕留める。
1.アイちゃんを助けたい。

※ルーサー・キングから依頼を受けました。
①ルメス=ヘインヴェラート、ネイ・ローマン、ジャンヌ・ストラスブール、恵波流都、エンダ・Y・カクレヤマ。
 以上5名とその他の“目ぼしい受刑者”を対象に、最低3名の殺害。
②1人につき15万ユーロの報酬。4名以上の殺害でも成果に応じて追加報酬を与える。協力者を作って折半や譲渡を約束しても構わない。
③遂行の確認は恩赦ポイントの回収履歴、および首輪現物の確認で行う。
④第2回放送直後、B-2の港湾で合流して途中経過や意思の確認を行う。
④依頼達成の際には恩赦後のアイの安全と帰還を保障する。

[共通備考]
※デジタルウォッチには恩赦ポイントの増減履歴を参照する機能があります。
どの受刑者の首輪からポイントを回収したのかを確認することも可能です。
※首輪には装着者を識別する囚人番号と個人名が刻まれています。
※交換リストに「参加者詳細名簿-80P」があります。


925 : 少女たちの罪過 ◆H3bky6/SCY :2025/03/26(水) 21:31:57 bOy5SadE0
投下終了です


926 : ◆8eumUP9W6s :2025/03/30(日) 05:59:08 .gptY0vA0
まずは予約期限を超過してしまい大変申し訳ありません、そして投下させて貰います。


927 : ◆8eumUP9W6s :2025/03/30(日) 06:05:53 .gptY0vA0
私的日誌。執筆者:新米刑務官・高峯 真。
○月××日。
今日わたしは、新しくこのアビスに輸送されてきたある囚人と会話を交わした。
囚人の名はソフィア・チェリー・ブロッサム、本名エレナ・ヴァルケンライト。
かつて某国の対超力犯罪用特殊部隊に所属していたが除隊し、平穏な生活を送っていたものの故郷を焼かれ、罪人となっても復讐を成し遂げたヒト。
…復讐を志すわたしからすれば、ある種先輩のような存在であり…自分が迎えるかも知れないひとつの結末(if)を迎えた者でもある。それもあり、収監されたと聞いてわたしは話が出来ないか掛け合い…少しだけとは言え許可が下り、臨む形になった。

…映像という形で、復讐を為す彼女の姿は視たことがある。標的以外は的確に無力化し、標的相手に怒りを憎悪を爆発させながらも、急所にひたすら暴行を加え物言わぬ、しかし必要以上に損壊はされていない肉塊へと変える様を。
…そして彼女は全てを終えた後、それまでの暴れっぷりが嘘のように、覚束ない足取りで警察署まで向かっている最中に確保され無抵抗のまま連行されたらしい。

…実際にその姿を、その目を視て…納得はいった。
彼女の紫色の瞳には、光が無く…虚無のそれで。燃え尽きてしまったと言わんばかりだったから。話すとより、無気力っぷりが伝わる。
…もしわたしが…大好きなふたり(弟と妹)の復讐を成し遂げれたとしたら…彼女の、ソフィアのようになってしまうのだろうか。
そう浮かんだのもあってかもしれない、気付いたらわたしの口は動いていて…最後にこう問いかけていた。

「…復讐を果たした時…どんな気持ちだったんですか?」

…少しの沈黙の後、返ってきたのは無気力の中に後悔を滲ませた言葉。

「………ひどく、虚しかったです。……復讐出来ても、もうみんな……帰ってこない。失われてしまった命は…存在は……二度と戻ってはくれなくて、それをひっくり返せる手段はもうどこにもなかった。わかっていたのに……ゆるせなかった。
それに……わたくしは……大切な人の言葉を、裏切って……しまったので」

……言外に、貴女はそうならないでと言っているように聞こえたのは、わたしの気の所為なんだろうか?
…ちなみに、彼女が云う大切な人の件についてヴァイスマン看守長にそれとなく聞いてみた所…答えてはくれなかった。
…まあそんな気はしていたけれど、執拗に皮肉を浴びせられるのはやっぱり…だるいなぁと、本当…上司とはいえ面倒な人だ。

----

起きているなら背負ってやる必要なんてないのでは?という考えに至り、ルクレツィアをポイし歩かせる形としたソフィア。
彼女達は道なりに進み現在D-4に入った所に居た。
周辺を警戒しつつ、ブラックペンダコンへと歩を進める中…突如ルクレツィアが声をかける。


928 : ◆8eumUP9W6s :2025/03/30(日) 06:08:25 .gptY0vA0
「…そういえばソフィア、よければ貴女の抱えている欠落を…教えてくれませんか?」
「嫌です。どうして言う必要があるんですか」
「だって私とソフィアはお友達でしょう?」
「友達程度の関係の人に、言うわけが…言えるわけがありません。わたくしをなんだと思っているんですか?諦めてください」

興味本位といった様子のルクレツィアの問をにべもなく切って捨てるソフィア。
取り付く島もないと判断したルクレツィアは歩を止めないまま、少し黙り…ある考えへと至り提示してみようと決めた。

「…いいんですか?事前に話してもらえれば、望む夢の精度が上がる…かも知れないのに?」
「……出鱈目を言わないで貰えますか?」
「間が空く辺り、信じたいって言外にそう言っている様な物ですよソフィア」
「……貴女が単に気になるというだけにしか、聴こえませんが……そもそも、小鳥遊仁花…貴女の云うニケとはそういう話はしなかったんですか?」
「拷問や殺し合いについての話はしましたが、彼女は生憎とそう云うお話には縁が無かった物で。
私も、壊れる様を視て好きだと感じることは多々あれど…恋愛という観点では、今に至るまで誰かを好きになったことはありませんから」

ルクレツィアの真意がどうであれ、少しでも最愛の彼との、夢での逢瀬が具体的になる可能性があると示唆された以上ソフィアにはそれを受け入れる他なかった。
兎も角、わかりやすい所が見受けられる『お友達』を視て微笑みつつ、ルクレツィアは催促し…間が空いたのは貴女もでしょうと言いたげにしながらも渋々ソフィアは語り始める。


929 : ◆8eumUP9W6s :2025/03/30(日) 06:12:41 .gptY0vA0
----

わたくしにはかつて、愛し合った人が居ました。

「…先程の赤面は…もしやそういうこと、でしたか」

……いきなり話の腰を折りに行くのはやめてもらえますか、ルクレツィア。
…コホン。超力犯罪者に対応する為創られた特殊部隊に入隊したわたくしは、日々訓練へと励んでいました。
他の方々とは違いわたくしは超力の都合、強くなる為にはひたすら身体能力を鍛え上げるしか無く…。…何度も死にかけた事もあって、他の方々には軽んじられたり、劣等だと馬鹿にされた事もありましたわね。

「…粗方、自分の超力にかまけている方がそう言ったんでしょう?でなければ視る眼が無いか…既に終わった事とはいえ嘆かわしいですね」

…まあ、死にかけては復帰してまた死にかけては復帰して…を繰り返して、努力も続けて…そのおかげで実績も積めたので。除隊する頃には貶してくるような方はもう居ませんでしたよ。

「それまでに亡くなられた方も多いのでは?」

……よく分かりましたね。貴女は特段興味など持たないと思っていたのですが。
なんにせよ、わたくしは部隊内でも認めてもらえたわけですが……それを支えてくれた人が、最愛の方。
今はもう、ここには居ない。誰も憶えていない……わたくし以外は。

「…その方が、私とお友達になった動機と」

……彼が居なければ、わたくしは何処かで折れたか、とっくの昔に死んでいたでしょうね。
最初から気にかけ続けてくれて…危ない時にも、何度も助けられていました。

「失礼ながら、その方のお名前を聞かせて貰ってもいいですか?ソフィア」


930 : ◆8eumUP9W6s :2025/03/30(日) 06:15:27 .gptY0vA0
…知らない上にもう居ない、わたくし以外誰も憶えていない彼の事を貴女に話しても無駄だと思いますが…。
それと失礼だと断りを入れるのなら、もっと早く言ってほしかったですね。
…彼は普通くらいの髪型の茶髪で黒眼の日本人、家を出奔したらしく…名は嵐求士堂(らんぐ しどう)。1歳年下で、シドーくんとわたくしは呼んでいて…ソフィ呼びして貰ってましたね。それで…

「……随分と惚気るんですね、ソフィ」

…ソフィ呼びは許しませんよ??その呼び方は彼の特権ですから。いくら貴女がお友達だとしても、それは譲れません。
…話が逸れましたね。ともかく彼が居てくれたおかげで、わたくしは力をつけ、戦い続けていれて……いつしか落ちていました。……恋に。
そしてやがて、気持ちを告げ互いにそれを受け入れたわたくしと彼はそのまま……。

「反応からするに身体を重ねた、と…そうなんでしょう??」

……クスクスと笑わないでください。
…しかし今から2年前、わたくしと彼は…この地球そのものが崩壊しかねない危機を引き起こしたある超力犯罪者と戦いました。
彼女は自分の生まれと環境に絶望しきり、負の感情により増幅され続けている超力を以てこの世界を終わらせようとしたのです。


931 : ◆8eumUP9W6s :2025/03/30(日) 06:20:59 .gptY0vA0
「随分とまぁ…いきなりスケールの大きなお話になりましたね。…そんな危機がたった2年前にあったのなら、忘れる方が不自然な気がしますけれど」

それについても話すので、もう暫く聞いてもらえれば。
…純粋な戦闘では、わたくしや彼の力が合わさってもなお…勝ち目は何処にも無く。ただ彼女のぐちゃぐちゃな感情の籠もった叫びと暴の嵐を止めれずにいて……もうダメだと思ったその時、彼は決心していたのです。
抗おうとするだけで手一杯のわたくしとは違って、悲痛な叫びに耳を傾けていた彼は……これしか方法がないと悟っていたのでしょう、おそらくは。

「…代償のある超力を使った、辺りでしょうか」

飲み込みが早いですね、ルクレツィア。
…彼の、シドーくんの超力の効果を端的に言うと、自分の何かしらを対価として、事象の改変を行う…そういう異能でした。
……自らの存在と引き換えに、彼女の身に降りかかった不幸…超力が増幅している理由となった出来事を、無かった事にして…世界と彼女、両方を救ってしまったのです。

「…お優しかったんですね、そのシドーくんとやらは。……そう聞かされると一度、お会いしてみたかったのですが」

仮にそれが出来ても、貴女には会わせませんよ。
…救えた命以上に、救えなかった命を想い悔やむ…そんな優しすぎる人だったので。
彼女を単に殺すだけなら…自分の存在を投げうつ必要は無かった、筈ですから。

「…貴女の話を聞く限り、どちらかというとジャンヌさんに近い精神性だったように思えますが…」

……それもあるから、仮に生きていても会わせるつもりは無いと言ったんです。絶対碌な事をしませんでしょう?貴女は。


932 : ◆8eumUP9W6s :2025/03/30(日) 06:22:43 .gptY0vA0
「フフフ…否定はしません。そういう方の心や身体を壊すのは愉しいですから」

だと思いました。…話がまた逸れてしまったので戻すと、当然わたくしは彼の決断には反対しました。
ですがそれなら代案があるかと聞かれて……なにも、答えれませんでした。
…なにより、ここで無理に彼を止めれて、彼女を殺す形で世界を救えても……彼は一生それを悔い続けるでしょうから。いっそわたくしを恨んでくれるような方なら、どれほど…どれほど、よかったか。

「ジャンヌさんに比較的近いと仮定して…貴女にそうさせたこと自体を、悔やみそうですね。
…それで、その結果彼の存在が世界から消えた…と?」

……何度行かないでと、子どもみたいに泣き叫んで喚いても…彼の決意は揺らがなかったので。
そして彼は最後に、ごめんと謝った上で…わたくしにこう言ったんです。

『どうか彼女を…いや、この世界を、恨まないでやってほしい…そして出来れば、自分の分までこの世界を……護ってほしい』

と。だから、できる限りは頑張ったつもり……だったんですが、ね……。
…結局わたくしは、出来る範囲で探し回っても彼の痕跡ひとつすらなく、犠牲になってなお、何も変わらないこの世界を……護ることに価値を見いだせなかった。これならいっそ、あの時彼女の手でこんな世界、滅びるべきだったとすら……!
……彼の言葉への、最期の意思への裏切り以外の何物でも無いと、云うのに…わたくしは…ッ!!!!

「…私が感じた、ソフィアが抱えた欠落や渇望、飢えの類が生まれた理由がそれなのは…理解できましたよ」

……貴女に、理解されましても。

「それはそうと、教えてくれてありがとうございます、ソフィア。
これで精度を高めれますから」

……だといいんですが。


933 : ◆8eumUP9W6s :2025/03/30(日) 06:24:06 .gptY0vA0
----

(世界を終わらせかけた超力の具体的な効果など、気になるところは他にもありましたが……今は良しとしましょう。
…いえ、これだけは聞いておいた方がよさそうです)

ソフィアの動機を聞き終えたルクレツィアは思案した後、質問をした。

「ふと疑問に思ったのですが、貴女の超力をシステムAで無効化したとして……彼の超力の副次効果である改変の仕様次第では、貴女自身すら彼の記憶を忘れてしまう可能性もあるのでは?」
「……その可能性も…考えては、いました」

そう答えるソフィアに、どう思ったか定かではないが…ルクレツィアは微笑む。

「…フフ、可能性が少しでもあるのなら……というわけでしょうね、きっと」
「……忘れてしまうことへの怖さはっ……ありますが、それくらいのリスクを……背負ってでも、それでもわたくしは……会いたいんです」

震えた声で、しかしそうハッキリと宣言したお友達相手に、またもルクレツィアは笑みを見せた。

「…死に別れて2年なのでしょう?だと云うのに…それ程までに彼を愛している…というわけですか」
「……着きましたよブラックペンタゴンに、いくら貴女の超力があるとはいえ警戒は怠らないように」

沈黙の後早口になりそう宣うソフィアに苦笑を浮かべながら、ルクレツィアは彼女と共にペンタゴンへと突入する。
──先に待つものが何なのか、今は誰にもわからなかった。


【D–4/ブラックペンタゴン付近/一日目・黎明】

【ルクレツィア・ファルネーゼ】
[状態]: 疲労(中) 上機嫌 血塗れ 服ボロボロ
[道具]: デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針] 殺しを愉しむ
基本.
1. ジャンヌ・ストラスブールをもう一度愉しみたい
2.自称ジャンヌさん(ジルドレイ・モントランシー)には少しだけ期待
3.お友達(ソフィア)が出来ました、もっとお話を聞いてみたい気持ちもあります
4.さっきの二人(りんかと紗奈)は楽しかったです


【ソフィア・チェリー・ブロッサム】
[状態]:ダメージ(小) 精神的疲労(中)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.恩赦を得てルクレツィアの刑を一等減じる
1.ルーサー・キングや、アンナ・アメルアの様な巨悪を殺害しておきたい
2.この娘(ルクレツィア)と一緒に行く
3.あの二人(りんかと紗奈)には悪い事をしました
4.…忘れてしまうことは、怖いですが……それでも、わたくしは


934 : ◆8eumUP9W6s :2025/03/30(日) 06:24:48 .gptY0vA0
投下終了します、タイトルは「いっそ最初から出会わなければ──」です。


935 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/30(日) 11:55:39 eD30uNrM0
投下乙です

>いっそ最初から出会わなければ──
同じ復讐者である高峯刑務官の日誌、復讐は虚しいと感じたソフィアさん、もう一度会える手段があるのならばそちらを選ぶのも致し方なし
ソフィアさんから語られる忘れ去られた過去、スナック感覚で世界滅びかけてんなこの世界、世界滅ぼせる力とか個人でもっちゃいかんよなやっぱ
恋バナにうきうきルクレツィアさん、逐一相槌を打たないと気が済まないタイプ。趣味嗜好が外道だが性根が妙に純情なところがある
ソフィアさんの事情も共有され、2人の仲も深まっているのかもしれない、深まっていいのか?


936 : ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:24:59 DJ5iLbeI0
投下します。


937 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:25:43 DJ5iLbeI0



『ねえ、エルビス』


 在りし日の、記憶。
 在りし日の、安らぎ。
 在りし日の、思い出。


『私達、いつかさ』


 今でも鮮明に、思い出せる。
 この脳髄に、刻み込まれている。
 魂の奥底。意志の根幹。
 全てを失ったオレにとっての。
 たった一つ残された、一筋の道標。


『この世界から、抜け出せたら』


 なあ、ダリア。
 オレは、ここにいる。
 オレは、戦い続けている。
 お前との約束を、守るために。


『その時は、いっしょに生きようね』


 ――立ち上がれ。
 ――誰もそばにいなくたって。
 誓いを果たすために。
 この手の愛に報いるために。
 オレは、オレ自身を奮い立たせる。


『私と、エルビス――――』


 オレ達には明日がある。
 だから、もう留まりはしない。
 抗い続けるだけだ。


『ふたりで、家族になろうね』


 さあ、明日を掴め。





938 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:26:25 DJ5iLbeI0



 灰色の密室。
 鉄と鋼の世界。
 無機質なる空間。
 隔離されし戦場。
 拳闘と紫骸の監獄。
 そこは、死地である。

 ブラックペンタゴン。
 1F南西ブロック、階段前。
 電子扉を封じられた一区画。

 配電室に干渉しない限り。
 此処は、離脱不能のリングで在り続ける。
 即ち、抜け出すことの出来ない死地だ。

 鮮やかな色彩が舞う。
 濃紫色の花弁が舞う。

 無数に咲き誇る花々(ダリア)。
 弾け飛ぶ血潮のように。
 散りゆく命の欠片のように。
 紫の残滓が、この死地で踊り続ける。

 花の牢獄。花の庭園。花の狂宴。
 その美しき情景は、朽ちゆく死を齎す。
 その麗しき光景は、滅びゆく腐敗を齎す。

 既に幾度もの打ち合いが繰り返されていた。
 剣戟と拳撃。交錯する閃光の応酬。
 時間の感覚さえも、互いに失いゆく中。
 戦局は今もなお、加速し続けている。

 ――――狂犬が、翔んでいた。
 鋼色の装甲を身に纏って、跳躍していた。
 舞い踊る花弁の数々を、振り払いながら。
 兜より覗く瞳から、獰猛な戦意を滲ませながら。
 その身を勢いに任せて、突撃を敢行する。

 内藤四葉。奔放なる戦闘狂。
 自らの衝動を暴威に変える、新時代の少女。
 幼き日の空想と体験が破壊性へと結びついた、生粋の破綻者。
 その笑みは酷く無邪気で、酷く凶暴だった。


939 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:27:25 DJ5iLbeI0

 襲い来る腐敗の瘴気を、鎧で凌ぎながら。
 花々の渦中に佇む“王者”へと、迫りゆく。
 山なりに軌道を描くように落下し、敵へと肉薄していく。

 ――そして、握り締める長剣が振るわれた。
 跳躍による突進の勢いを乗せた、怒涛の三連撃。
 空中で身体を機敏に回転させながら、立て続けに斬撃が放たれる。
 舞い踊る剣戟は、周囲の花弁をも余波で斬り飛ばしていく。

 紫骸の庭園、その支配者――“チャンピオン”。
 エルビス・エルブランデスは、高速の斬撃を肉眼によって完璧に捉える。
 不動のままに身構えていた王者が、その場から瞬時に動き出した。

 機敏なバックステップを繰り出し、勢いよく迫る刃の軌跡を次々に回避。
 紙一重。少しでも判断と行動が遅れれば、その褐色の肌が斬撃に曝されていただろう。
 されど彼の卓越した瞬発力と動体視力は、襲い来る連撃を的確に凌いでいく。

 斬撃を躱され、回転の勢いと共に着地した四葉。
 そのまま後退したエルビスを間髪入れず視界に捉え、コンマ1秒の速度で地を駆ける。
 長剣を振るって周囲の紫花を切り払いながら、 身を屈めた姿勢で疾走する。

 エルビスは、即座にバックステップ。
 再び迫り、暴れ狂う斬撃の軌道。
 その悉くを、躱し続けていく。
 長剣の刃は、虚空を踊っていく。
 時に褐色肌の紙一重にまで肉薄しながらも。
 それでも王者は、冷静かつ機敏に回避を繰り返す。

 やがてエルビスは突如後退を止めて、即座に軌道を転換。
 そして、鋭敏に舞い狂う斬撃の合間を掻い潜るように。
 前方へと鋭く突進――刃の軌跡を躱しながら突破する。
 その体格に似合わぬ軽快な身のこなしで、刃を振るった四葉の懐へと肉薄。

 兜越しに目を見開いた四葉が、咄嗟に長剣の軌道を変える。
 両手で支えるように縦に構えて、防御の体制を取った――その直後。

 左右から、薙ぎ払うような打撃が襲い来る。
 右拳、左拳の2連フック。
 まるで強靭な鈍器を叩き付けられるような衝撃。
 構えた長剣でそれらを凌ぎつつも、腐敗していく刃では防ぎ切れず。
 その身は大きく仰け反り、後退を余儀なくされる。


940 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:28:10 DJ5iLbeI0

 たかが素手の打撃くらい、甲冑で受け止める?
 四葉はそんなことを考えもしなかった。
 この拳は間違いなく、鋼鉄越しにでも“叩き込んでくる”からだ。

 アレは生半可な威力じゃない。拳撃自体が一種のネオスに匹敵するようなものだ。
 ましてや撒き散らされる腐敗毒によって、鎧は刻一刻と朽ちていっている。
 下手に受け止めれば、こちらが打ちのめされる――四葉は理解していた。

 ならば、どうする。
 守りに徹するか、あるいは退くか。
 戦闘狂は瞬時に思考を加速させる。
 再び迫る屈強なる右拳を目前にして。
 猟犬は、猛々しい笑みを浮かべる。

 選んだ道筋は、そのどちらでもない。
 即ち四葉は、自らも攻勢に出た。

 前方へと潜り込むように、放たれた右拳をギリギリで逸らした。
 そのまま逆手に持ち替えた長剣の柄を、エルビスの胴体へと鋭く叩きつけた。
 鉄棒による刺突に等しい打撃が、王者の身を襲う――――。


 瞬間。
 宙を舞ったのは。
 四葉の方だった。


 柄による刺突と同時に。
 エルビスのカウンターが叩き込まれた。
 アッパーカット。四葉の顔面を襲った拳撃。
 兜ごと脳髄を揺さぶる程の威力。
 刺突さえ物ともしない反撃に、四葉は吹き飛ばされた。

 だが、それから間もなく。
 アッパーを放った直後のエルビス。
 その後方の死角から、2つの影が躍り出る。
 それは、二体の甲冑騎士による奇襲攻撃。
 エルビスの反撃に対する、更なるカウンターだった。

 縦横無尽に斧槍を振るう『オジェ・ル・ダノワ』。
 機敏な動作で長槍を操る『ヘクトール』。
 僅かなる隙間を掻い潜り、達人的な武芸が駆け抜ける。
 死角から迫る甲冑騎士達が、凄まじい瞬発力による波状攻撃を繰り出した。
 “ここぞという場面”での奇襲を、四葉は反撃として敢行したのだ。


941 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:29:21 DJ5iLbeI0

 四葉は空中で何とか体制を整え、受身を取るように着地する。
 震盪する意識を繋ぎ止めながら、その視界にエルビスを再び捉えた。
 

「――――ッ、嘘でしょ……!?」


 そして、四葉が驚愕に目を見開いた。
 ――――死角2箇所からの波状攻撃。
 その全てを、エルビスは的確に回避したのだ。
 
 即座に身を屈めることで、ハルバードによる斬撃を躱し。
 間髪入れずにスウェーバックの挙動で斜め後方へと下がり、側面からの槍の刺突も凌ぐ。
 そこから瞬時に態勢を切り替え、獣のように前方へと突進。
 鋭い駆動によって、続けて襲い来る2つの凶刃の射程から逃れた。

 コンマ数秒。瞬きの合間の出来事。
 驚愕によって、四葉が目を見開いた矢先。
 ――既にその身を、王者の拳が襲っていた。
 5発の衝撃が“ほぼ同時”に、四葉の身体を甲冑越しに打ち据えた。

 余りにも素早く、そして鋭いジャブの連撃。
 牽制という域を超えた“重さ”が、鎧に包まれている筈の四葉を怯ませて。
 そして――――渾身の右ストレートが、瞬時に叩き込まれる。
 隙の生じた四葉の胴体部へと捩じ込まれた一撃は、腐敗していく鎧をも打ち砕いたのだ。

 花弁に入り混じるように、銀色の断片が宙に撒き散らされた。
 砕け散る甲冑の胴体。衝撃と共に吹き飛ばされる四葉。
 そのまま勢いよく壁に叩きつけられ、腐食によって脆くなった兜や手甲なども崩れ落ちてゆく。
 崩れた鉄仮面から顕になった眼差し――四葉の双眸は、狂犬のように闘志を剥き出しにしていた。

「――――――んなろォッ!!!!」

 朽ちてゆく長剣を、四葉は我武者羅に投擲した。
 半ば自棄糞の攻撃。どうせ使い物にならない、当たれば幸運。
 縦に回転しながら飛んでいく長剣は、そのまま虚しく躱される。
 瞬時に上体を右側に屈めたエルビス。その頭上を、刃が過ぎ去っていった。

 そうしてエルビスは、何事もなく――。
 再びその拳を構えて、四葉を見据えた。


942 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:30:22 DJ5iLbeI0

「ったく、さぁ……!!」

 そんな彼の佇まいを、四葉はきっと睨む。
 その口元に、苦痛と歓喜の笑みを浮かべて。

「ほんっとに……強ぇなぁ……!!」

 これが、無敗の王者。
 これが、常勝の狂犬。
 これが、チャンピオン。

 エルビスの超力は“紫花による腐敗毒の散布”という強力な異能である。
 しかし、彼の身体能力との直接的なシナジーは持たないことは明白だ。
 隔離空間での優位なフィールドを作り出すという形で、互いの強みを並列させることは出来る。
 されど互いの強み同士が相互作用を与えることは無い。
 エルビスの身体能力を強化したりとか、肉体の硬度を上げるとか。
 そうした直接の恩恵は生じないのだ。

 即ちエルビスは、あくまで丸腰(ギアレス)だ。
 彼の格闘は、異能に一切頼ることのない純然たる“技量”なのだ。
 そうして振るわれる拳撃の数々が、奔放なる戦闘狂を追い詰めている。

 恐らく対等の条件であっても打ちのめされていたのは自分の方だろう、と。
 四葉は半ば直感のように悟っていた。

 奇襲を敢行した2つの甲冑騎士は、既にその場から姿を消している。
 先程のカウンターパンチを受けた衝撃によって制御を手放したからだ。
 甲冑騎士は個々の意思を持たず、あくまで四葉自身の指揮によって使役される。
 故に思考のリソースを超えるか、あるいは突発的に大きなダメージを受けたりすれば、騎士達は一時的に行動を止めることになる。

「花を愛でる趣味とか、無いけどさぁ……!」

 舞い散る紫の花弁が、砕け散った銀色の断片を枯れさせた。
 四葉が身に纏っている“ランスロット”の甲冑は、最早使い物にならない。
 腐敗と衝撃によって胴体の殆どが砕け落ち、既に四葉を瘴気のもとに晒している。
 朽ち果てていた長剣も先程の投擲によって放棄した。武装も喪失している。

「命懸けの喧嘩には……目が無いんだよね、私ッ……!!」

 故に――――鋼人合体、換装。
 四葉は現在の武装を破棄し、瞬時に次の甲冑を身に纏う。
 長槍を装備した『ヘクトール』である。


943 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:31:14 DJ5iLbeI0

 四葉の超力『quatre chevalier(四人の騎士)』の欠点。
 戦闘不能になるほどの大きな破損を受けた甲冑は、一定時間召喚できなくなること。
 再召喚するためには暫くのリカバリータイムが必要になる。
 少なくとも、戦闘時における即時の回復は見込めないのだ。
 故に腐敗毒に晒される今の四葉にとって、防護服となる甲冑の残存数こそがゲームで言う“残り人数”となる。

 エルビスは、ただ無言で拳を構え続ける。
 その表情に哀楽は無く、粛々と次の一手へと向けて呼吸を整えていた。
 そんなエルビスへと、キッと鋭い視線を突き付けて。
 愉しげな笑みを見せつけながら、四葉が再び口を開いた。

「あははっ!!ねーえ、チャンピオン……!!」

 まるで演舞のような動きで、四葉は長槍を回転させる。

「そんなつまんなそうな顔してたらさ、勿体ないじゃん……!!」

 見様見真似、何の流派も型も有りはしない。
 今まで読んできたファンタジー漫画や、これまで戦ってきた達人の模倣に過ぎない。
 にも拘らず、その動きは獰猛にして流麗だった。

「殺し合いなんだから!!もっと笑いなよ、楽しもうよッ!!
 人生って短いんだしさァ満足しなきゃダメでしょ!!
 踊る阿呆に見る阿呆って知ってる!?楽しまなきゃ損だよ損!!
 花より団子!!花より喧嘩ってわけ!!分かる!?分かるよね!!
 分かんなかったらごめん死ね!!」

 達人の如し所作によって、銀色の軌跡が走る。
 天性のセンスによる舞踏を披露しながら、獰猛に口の両端を吊り上げる。
 そして、一頻りの演舞を見せつけた直後。

「こんな地の底にブチ込まれてんのに!!!
 お上品ぶってたら、寂しいよねぇっ!!!」

 四葉の姿が――――残像と化した。
 その場で地を蹴り、超速で駆け出したのだ。
 1秒にも満たぬ瞬発力で、立ち尽くすチャンピオンへと肉薄した。

 沈黙のままに佇むエルビス。
 捲し立てた四葉の言葉を、何も言わずに聞き届けて。
 目にも留まらぬ速さで繰り出された槍の一突きを――瞬時に回避する。
 ほんの微かにその身を逸らす、最低限の動作によって。

「“あいつ”が待っている」

 直後にエルビスは、ぽつりと呟いた。
 四葉の口上に、答えるかのように。

「ただ、それだけだ」

 されど四葉は、全く動じずに次なる動作へと移る。
 突きを躱された四葉はすぐさま構えを変えて、柄を高速で振り上げた。

「命を懸ける理由は――」

 その二撃目を、エルビスは右の前腕によって“逸らす”。
 まるで剣で刃を滑らせるかのように、柄の勢いを受け流し。


「それで、十分だ」


 ――――瞬間。
 薙ぐような左拳の一撃が、四葉の頭部に叩き付けられた。


944 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:32:09 DJ5iLbeI0

 脳震盪。兜をも砕きかねない、脳天を揺さぶられる感覚。
 凄まじい衝撃が、四葉の意識に襲い掛かる。
 異常な破壊力のパンチが、戦闘狂を捻じ伏せんとする。


「はッ――――」


 されど、返ってきたのは笑みだった。
 見開かれた双眸が、兜越しに王者を射抜く。

「カッコいいね、そういうの」

 鼻血を流し、喀血をしながら。
 それでも四葉は、持ち堪える。
 半ば根性と意地によって、強引に一撃を耐え切った。
 掠れそうになる視界。その焦点を、無理矢理に合わせた。

「ますます燃えてくるんだけど」

 噛みつかせろ、噛みつかせろ、と。
 奔放なる狂犬は、闘志に燃え続ける。
 その眼差しで、目の前の敵を睨みつける。
 内藤四葉は、命懸けの死闘に高揚する。

 それでも、拳撃の闘犬は怯まない。
 たったひとつ咲き誇る、“愛の華”のために。
 ひとひらの花弁は、無垢なる魂を滾らせる。
 地の底で芽生えた、恋という熱によって。

 それこそが、全てを失った王者の矜持。
 それこそ、負け犬を狂わしたウイルス。


「その人、なんて言うの?」
「……ダリア」
「へえ。いい名前だね」
「ああ。本当に」
「愛する人が、待ってるんならさ」


 至近距離。再び交錯を始める直前。
 二人の受刑者は、僅かに言葉を交わし合う。
 死と暴威の嵐に、一筋の安息が差し込む。
 そんな時間も、刹那の合間に過ぎ去っていく。
 

「もっと殺す気で来なよ、チャンピオン」
「――――言われずとも」


 互いに拳と槍を引き、再び身構えて。
 そして、共に一撃を放った。

 毒の紫花は、縦横無尽に咲き続ける。
 命懸けのリングを、鮮やかに染め上げる。
 愛と死。狂気と闘志。刃と拳。
 二人の受刑者が、命を滾らせていく。





945 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:33:00 DJ5iLbeI0



 トビの超力『スラッガー』。
 自身の肉体を軟体化させ、驚異的な柔軟性を発揮する。
 子供の頃によく能力を“ナメクジ野郎”と揶揄されたのが悔しくて、意趣返しを込めて命名した。
 
 狭いダクトの内部を、トビはまるで蛇のように素早く突き進んでいた。
 身動きの制限される閉鎖的空間でありながらも、彼は超力による軟化を駆使して身体を滑らせていく。
 ここまでの敏捷性を発揮できるのは、ひとえに彼が幾度とない脱獄で自らの身体能力を磨き上げてきたからだ。

 ブラックペンタゴン1F、北東ブロック。
 そこに位置する節電室を目指して、トビは這うように疾走を続ける。

 無機質な空間の中を、スライダーを滑るかの如く進んでいく。
 長年の経験で研ぎ澄まされた体内磁石の感覚を頼りに、入り組んだ道筋の中で最適な経路を選択していく。

 移動を続ける中で、トビは思考する。
 内藤四葉は、果たしてどの程度持つのか。

 自身の見立て通り、あの戦闘狂は間違いなく“やり手”だ。
 先の戦闘においてはイレギュラーの介入によって窮地に立たされたものの、それでも生半可な超力犯罪者とは一線を画す実力を備えていた。
 噂には聞いていたが、伊達に死線を乗り越えてきた訳ではないことをトビは理解した。

 あの“チャンピオン”を相手取っても、決して容易くは倒れないだろう。
 オールドと比較して、ネイティブ世代は疲弊や負傷に対する耐性が強い。
 先の戦闘を経てもなお、奴は十全の戦闘能力を発揮できるだろう。

 それでも、あの腐敗毒の中でエルビス・エルブランデスとの一騎打ちを強いられているのだ。
 例え実力で粘ったとしても、状況はエルビスの方が絶対的に有利なのだ。
 長期戦になればなるほど、四葉は間違いなくジリ貧となる。

 少なくとも、今はまだ“協力者の切り捨て”は避けたい。
 今後他の受刑者と同様の結託が行えるかも定かではないうえ、保身の為なら容易く味方を切るような立ち回りを他者に知られる恐れがある。
 即ち、取引における“信頼”を軽視する輩と見做されるリスクがあるということだ。

 手駒となる協力者を確保し、次から次へと切り捨てては乗り換えていく。
 そんな立ち回りが出来るのは、かつて孤児の子供達を利用した際のように――余程明確な勝ち筋を見出した時だけだ。
 故に四葉は、戦力としてまだ手元に置いておくだけの理由がある。


946 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:33:44 DJ5iLbeI0

 それでも、万が一間に合わない場合も十分に有り得る。
 四葉があのチャンピオン相手に勝利を収めれば、それこそ御の字だが。
 あの状況を加味すれば、四葉の敗死も視野に入れるべきだろう。
 仮にそうなれば、最早彼女への義理を通す必要もなくなる。
 
 可能であれば、四葉の死体――あるいは頭部くらいは回収しておきたい。
 首輪解除の実験に向けて、貴重な“首輪のサンプル”を確保できるからだ。
 例えポイントが回収されたとしても、首輪の現物そのものが場に残ることは大きい。
 ナイフを利用して、構造を調べられる余地が生まれる。

 共闘する上での信頼は大事だが、それはあくまで生者との取引の話。
 物言わぬ屍は何も言わないし、何も文句を返してはこない。
 ならばせめて、生きている者の為に役立ってもらうべきだ。
 このアビスの受刑者達からすれば、当然の論理だろう。

 恐らくそれは、四葉にとっても同じこと。
 彼女もまた、トビが死体になれば躊躇なく首輪を回収する筈だ。
 そうした割り切りがあるからこそ、自分達は悪人なのだと。
 トビは改めて思いに耽る。

「ナイトウ。オレ様の肥やしになりたくなけりゃあ、しぶとく生きるこった」

 自分への戒めも刻み込むように、トビは独り呟く。
 己もまた、お前の肥やしとして此処で死ぬつもりはない。
 トビは自分自身にそう言い聞かせて、再び気を引き締めた。


 ――――くす。


 その思考の矢先だった。
 トビの耳が、声を捉えた。

 
 ――――くすくす。


 何処かで、誰かが囁くような。
 奇妙な声が、風に乗ってきた。
 空気が、変わった。


947 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:34:38 DJ5iLbeI0


 ――――くすくす。


 狭いダクトの内部に。
 排気口から忍び込むように。
 “異物”が紛れ込んだ。
 黒い靄のような何かが。
 この空間に入り込んできた。


 ――――くすくすくすくす。


 煮凝りのような、老若男女の嗤い声。
 魂をも蝕むような、悼ましき漆黒。
 混濁。混乱。混沌――闇が入り乱れる。


 ――――くすくすくすくすくすくす。


 トビは、ぴたりと動きを止めた。
 その異様な空気を、鋭く察知した。
 胸の内を搔き乱されるような。
 そんな得体の知れない戦慄を抱いた。


 ――――くすくすくすくすくすくすくす。


 これは、一体何だ。
 トビは目を見開く。
 揺らめく背徳の匂い。
 冒涜的で、異質なる気配。


 ――――くすくすくすくすくすくすくす。
 ――――くすくすくすくすくすくすくすくす。


 それは、ある意味で。
 つい先刻に出会った“あの少女”を想起させるものだった。
 秘匿受刑者。銀鈴と名乗った、白い髪の少女だ。
 即ち、トビにとって“最大限の警戒”の対象となり得るモノ。


948 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:36:57 DJ5iLbeI0


 ――――くすくすくすくすくすくすくすくす。
 ――――くすくすくすくすくすくすくすくす。


「……やれやれ。格好つけたばかりだってのによ」

 トビの口元に、気が付けば笑みが浮かんでいた。
 自分は“恐ろしい何か”の領域に踏み込んでいるのだと、彼は本能的に悟る。


 ――――くすくすくすくすくすくすくすくす。
 ――――くすくすくすくすくすくすくすくす。


 だが苦境など、幾度となく経験してきた。
 生死の狭間など、幾度となく潜り抜けてきた。
 己には地位も権威も何も無い。丸腰の男だ。
 しかし何も持たずとも、この身一つで生き抜いてきたのだ。
 如何なる危機が迫ろうとも、大胆不敵に笑ってこその“脱獄王”だ。

 
「オレ様の前に立ちはだかるのは」


 ――――くすくすくすくすくすくすくすくすくす。
 ――――くすくすくすくすくすくすくすくすくす。
 ――――くすくすくすくすくすくすくすくすくす。


「いつだって、窮地って訳だ――――ッ!」


 薄汚れたダクトを、機敏に滑り抜けていく。
 迫り来る“忌まわしき気配”から全力で逃れるべく。
 トビ・トンプソンは、不敵な笑みと共に突き進んでいった。

 最早、背後は振り返らない。
 振り返る暇など、ある筈がない。






949 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:37:49 DJ5iLbeI0



 ――“開闢の日”に散布され、超新星爆発による放射線災害から世界を救う要因になった鍵。
 ――地球環境を再生すると同時に全人類へと異能を齎し、世界を新たなる領域へと塗り替えることになったウイルス。
 ――そのウイルスが発祥した土地が、日本の山村である“山折村”だ。

 ブラックペンタゴン、1F北西ブロック――図書室。
 只野仁成は、エンダが見つけた一冊の書籍へと目を通していた。
 題名は“カクレヤマ・レポート”。
 エンダの出自を聞いた仁成は、彼女のルーツへと触れる。

 ――カクレヤマとは、元を辿れば“最古のヤマオリ・カルト”のようなものである。

 ヤマオリ・カルト。この世界を革新させた“ヤマオリ”の概念を信奉する、一連の新興宗教の総称。
 その最大勢力だった組織によって、エンダは捕らえられていたのだという。
 そして彼女が生まれ育ったカクレヤマもまた、そのヤマオリから枝分かれした存在だった。

 ――開闢の起源にあたる山折村の文化は、隠山(イヌヤマ)という祟り神をルーツに持つという。
 ――山折村においてその名は紆余曲折を経て忘却されたものの、彼らはその隠山から分岐した“カクレヤマ”を先祖代々名乗っている。
 ――祟り神信仰が始まって間もない中世においては、未だ“本来の伝承”の断片が残されていたのだろう。

 数百年前に山折村における“祟り神信仰”を何らかの形で外へと持ち出した一族――村を出奔した者達か、あるいは村民の遠い血縁者か。
 ともかく、それに当たる者達が“外部の集落”に信仰を齎したことで興ったのが“カクレヤマ”なのだという。
 彼らは山折の伝承を“神降ろしの儀式”に昇華させ、ある奇跡――災いの克服だとか、死者の蘇生だとか――を独自に果たそうとしていたらしい。

 カクレヤマは山折村を起源にして分かたれながらも、山折村とは一切の直接的な交流を持っていなかった。
 互いに閉ざされた環境の集落と化したことも相俟って、以後数百年に渡り表立った関わりは確認されていない。
 ある意味分家のようなものであり、しかし他人も同然の存在という、奇妙な間柄だった。
 
 ――年月を経て、そのカクレヤマの儀式や信仰も形骸化した。
 ――開闢を経てもいない世界で、“神降ろし”などという奇跡を起こせる筈も無かったからだ。
 ――少なくとも21世紀の時点で、彼らは単なる“ローカルな土着宗教”になっていた。

 そしてカクレヤマが本来目指したものは歴史と共に風化し、僅かな伝承を残して忘れ去られたのだという。
 いつしか彼らは単なる“奇習が残る地方集落”と化し、開闢以前までは過疎化した山村として細々と存続を続けていた。


950 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:39:05 DJ5iLbeI0

 ――しかし“開闢の日”を経て、この世界にヤマオリ・カルトが出現した。
 ――彼らは山折を信仰し、山折に連なる痕跡を手当たり次第に求めた。
 ――結果としてカクレヤマは、世界で類を見ない“山折の忘れ形見”と化した。

 本流から分かたれ、遠い年月を経て変質を遂げたとはいえ、曲がりなりにも山折の信仰と血筋の系譜にある存在。
 そんなカクレヤマの中でも“神降ろし”という奇跡を果たし、土地神に酷似した姿を得た巫女のエンダは、開闢後の世界におけるヤマオリ信仰の柱と見做されたのだ。
 “恐らく代々受け継がれてきた呪術的儀式が、超力という異能に結びついて何らかの作用を起こした結果”――として、彼女の起こした奇跡は推測されている。

 このレポート曰く、山折村そのものの現状は誰も知らないし、誰も近寄れないらしい。
 踏み込んだとしても、帰ってこれた者は誰一人いないとのことだ。
 あの村本来の信仰や文化も、先程の話以上のことはほぼ失伝している。
 だからこそカルトによる“ヤマオリ”の拡大解釈が横行しているのだという。

 つまり、山折村そのものは一種の空白地帯――“失われた世界”も同然ということだ。
 そのことについて、仁成は特に感慨を抱かなかった。
 山折村はあくまで“過去の話”に過ぎず、これ以上はわざわざ追求する意味はないということだ。

 大切なのは、エンダという少女がいて。
 彼女が、この刑務の中で命を落として。
 その身を借りた土地神が、彼女の願いを果たそうとしていることだ。

 エンダが見つけた“ドン・エルグランドの日記”もそうだが――この図書館には、意図的に“受刑者にまつわる書籍”が揃えられているように見える。
 他の受刑者に対する情報収集の施設としての機能が与えられているのか。
 ただ単にアビス側によって無作為に用意されたたけに過ぎないのか。
 あるいは“こうした情報”を堂々と閲覧できることこそ、刑務後の恩赦が保証されない裏付けになっているのか。

「仁成」

 そうした疑問について、仁成が思いを巡らせた矢先。
 その呼び掛けを耳にして、読んでいた書籍をテーブルへと置いた。

「誰か、いる」

 周辺に靄を張り巡らせていたエンダが、そう伝えてきた。
 靄による“感知”に、何かが引っ掛かったようだった。
 浮き世離れした白髮を靡かせて、神秘的にさえ思える横顔が目を細める。


951 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:40:07 DJ5iLbeI0

「仁成。“この子達”の一部が君を導く」

 そうしてエンダの手のひらに、小さな黒霧が収束。
 それは蝿のような姿を取り、羽ばたきと共に手の上から飛び立った。
 霧の蝿は、仁成の直ぐ側を漂うように浮遊する。
 うっかり潰さないでね、とエンダは軽口を叩きつつ。

「ヤミナのことは、任せていいかな」

 エンダ達はヤミナの帰還を暫く待っていた――“侮り”が生じていることに、二人は気づいていない。
 しかし流石にここまで音沙汰が無ければ、そろそろ探しに行った方がいいだろうと二人は認識を共有した。
 あの調子の良い彼女のことだ。下手に自分達の情報を他の受刑者達に売られたりすれば困る。
 仁成に与えた蝿は、エンダを見張っている蝿の居場所へと導いてくれる。

「私は……鼠を追ってみる」

 故に今は、一旦二手に分かれる。
 靄が感知した“何者か”をエンダが追い。
 蝿の導きを頼りにしてヤミナを仁成が追う。

 エンダの提案に対し、仁成は頷いて受け止めつつ。
 同時に彼は、少女に対して問い掛ける。

「エンダ。一つだけ」
「何かな?」
「この蝿は、君が超力で生み出したものだろう」

 ――そうだ、と。
 エンダは仁成の問いに対し、端的に答える。
 その答えを聞き届けて、仁成は彼女を案じるように言葉を続ける。

「もしもの時は、君の異常を伝えてくれる。
 そう捉えて良いんだよね」
「もちろん。だから――」

 仁成が言わんとすることを、察したように。
 エンダはふっと微笑みながら――仁成へと、確固たる意思を持った眼差しを向けた。

「もしもの時、私は君を頼る。
 ――どうか、君も無理はしないで」

 自分は大丈夫。けれど何かあれば、貴方を頼るる。
 だから、貴方の無事も祈っている。
 そう伝えるエンダの瞳は、言葉の裏側で仁成へと訴えかけていた。
 自分に付き合ってくれて、ありがとう――と。

 そんなエンダの言葉を聞いて、仁成は微かに目を丸くした。
 そして彼女の意思を汲んだように、静かに微笑みを返した。

「ありがとう。また後で、エンダ」

 その言葉と共に、二人は互いに背中を向けた。
 視線はもう合わせない。合わせなくとも、構わない。
 エンダと仁成は、この短い交流の中で――互いへの確かな信頼を掴み取っていたのだから。
 故に二人の歩みに、迷いはなかった。


952 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:40:44 DJ5iLbeI0
 
「ねえ、仁成」

 そうして、二人がその場を行こうとした矢先。
 エンダがふいに、仁成へと声を掛けた。

「飾り巫女とは言えども、私はそれなりに人は知っているつもりだけれど」

 仁成は振り返ることなく、足を止めた。

「“只野仁成”なんて受刑者の話は、一度も聞いたことがなかった」

 エンダの胸中に浮かんだ、一つの疑問。
 それを聞いて、仁成は微かに沈黙をした。
 そうして、微かな間を置いた後。

「……君が、最初に言った通りのことだよ」

 仁成は、エンダに悟られぬように。
 どこか自嘲するような笑みを、僅かに浮かべた。


「僕達は、“逸れ者同士”だと」
 

 その一言を皮切りに、二人は会話を終わらせた。
 何かを察し合ったように、互いの身の上を改めて悟った。
 これ以上の言葉を交わす必要はなかった。
 エンダと仁成は、再びその場から進み出した。





953 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:41:45 DJ5iLbeI0



 視界が、幾度となく明滅する。
 意識が、幾度となく回転する。
 現実と幻覚。実体と虚構。
 その境目さえも、曖昧になるかのように。
 内藤四葉の見る世界が、震動を繰り返す。

 無我夢中で、駆け回っていた。
 無我夢中で、武器を振るっていた。

 我武者羅に、猪突猛進に、戦い続けている。
 吐き気のするような感覚を引き摺りながら。
 闘志を魂に焚べながら、只管に筋肉を躍動させていた。

 ――今は、どうなっている。
 四葉は必死になりながら、思考を纏める。

 長槍の『ヘクトール』は相手の猛攻の末に破壊された。
 今はハルバードを操る『オジェ・ル・ダノワ』を纏っている。
 されど、腐敗毒による浸食は更に加速していた。

 既に鎧の各部位が消耗し、生身の至る所も鉄板越しに蝕まれている。
 ハルバードの刃も腐食によって摩耗している。
 この甲冑が朽ち果てるのも最早時間の問題だ。
 それまではネイティブの身体能力で持ち堪えていた連戦の疲弊も、徐々に伸し掛かってきている。

 今なお継戦出来ているのは、四葉自身の身体能力による部分も大きいが。
 代わる代わる甲冑を纏うことで、毒花の侵食を抑えられているからだ。
 そうでなければ、間違いなく四葉はとうに倒れている。

 殴打の苦痛を堪えながら、四葉は後退する。
 もう何発の打撃を叩き込まれたのかも分からない。
 まともに状況を俯瞰することなど、叶わない。
 敵を打ちのめす。敵に打ちのめされる。
 そんな決死の応酬の中に身を置いて、冷静な思考など出来るはずもない。

 視線の先――褐色の拳闘士。無敗の王者。
 エルビス・エルブランデスは、今なお平然と立ち続けている。
 呼吸を整えて、何事もなく継戦状態を保ち続けている。

 当然の帰結だろう。この領域の中では、相手の方が圧倒的に有利。
 そして何より、尋常じゃないほどに強い――四葉はエルビスを見据えながら、そう思った。
 幾ら粘り続けても、いくら小手先のダメージを与えても、こちらは有効打を与えられていない。
 対するエルビスは、幾度となく強烈な打撃を四葉へと叩き込んでいる。
 疲弊と消耗の差もあるとはいえ、純粋に相手の方が技量で勝っているのだ。


954 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:42:22 DJ5iLbeI0

 死闘の合間に、四葉はようやく気付く。
 左手の薬指と小指が、欠け落ちていた。
 激しい打ち合いの衝撃と、毒花による腐食の結果だろう。
 此処まで五体満足のまま立ち続けていることが、ある意味で奇跡なのかもしれない。

 鼻血なんかも止め処なく流れている。
 流石に甲冑だけでは毒の粒子も凌ぎ切れないか。
 此処まで持ち堪えている自分を褒めてやりたいくらいだと、四葉は思う。

 “これじゃ結婚指輪とか嵌められねーな”とか、冗談を考えたり。
 “今の医療なら再生治療とか義指とかもあるっけな”とか、能天気に考えたり。
 そんな思いを一瞬巡らせた四葉は、すぐさま目の前の現実に意識を戻す。

 ――――これ、もしかしたら死ぬかもしれない。

 四葉は、久しぶりにそんなことを考えた。
 今までの人生でも度々負けたり、命辛々生き延びたことはあったけど。
 これほどの死線を経たのは、本当に久方ぶりだった。
 ましてや死を覚悟するほどの戦闘など、数えるほどしか経験していない。

 何故なら四葉は、強かったから。
 何だかんだ言って、大抵の戦闘を勝ってきたから。
 だからこそ、まさに命を懸けた一瞬に。
 迸るような高揚感を抱いていた。

 再び駆け抜けるエルビス。
 迫り来るチャンピオン。
 四葉は、腐りかけのハルバードを構える。
 獰猛な笑みを浮かべながら、その狂気を突き立てる。

 強者との闘い。強い相手との果し合い。
 互いに身を削って、命を賭け金にして争う。
 そんな闘争の中に、自分は身を置いている。

 こんな思いを抱くようになったのは、何時からだったか。
 確かファンタジー漫画で、作中のバトルやアクションに憧れて。
 その影響を受けて、幼いながらに自分の超力の研鑽を行うようになって。
 単に人形を操るだけだった超力が、いつしか“甲冑の姿”に変貌して。
 それから色々とトラブル起こして、なんやかんやあって――。





955 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:43:12 DJ5iLbeI0



 四葉の脳裏に、まるで走馬灯のように記憶が蘇った。
 11年前。四葉がまだ7歳だった頃。
 既に学校のクラスメイトとも頻繁にトラブルを起こして、両親との関係はすっかり悪くなってた。
 だからよく家出をしていたし、見知らぬ場所へ逃げるようにふらっと立ち入る事が多かった。

 ある日、家出をした四葉は“殺し合い”を目撃した。
 とある寂れた港湾。とある廃倉庫。
 そこで、二人の戦士が超力を駆使して争っていた。
 幼き四葉が、物陰で密かにその様子を見つめていた中。
 自らの肉体と異能を振るい、戦士たちはその身を削っていた。

 片方は、まるで“重機”のような巨漢。
 否、巨漢女(おとめ)だった。

 その顛末は、至極単純。
 互いに鎬を削り合った果てに、漢女の拳が“相手”を穿った。
 凄まじい高熱と打撃によって腹を貫かれ、そのまま物言わぬ屍となった。
 何てこともなく、当然のように行われた殺人だった。
 そして四葉にとって、初めて目の当たりにする“人間の死”だった。

 犯罪とか、倫理とか、常識とか。
 そういった話は、最早どうでも良かった。
 目の前で行われた殺し合いが、鮮明に焼き付いていた。

 その光景に、幼き四葉は目を奪われた。
 死と暴力。それまで空想でしかなかった観念。
 少女の日常の中で、いつだって忌避されていたモノ。
 それが当たり前のように、眼前に転がっていたのだ。
 命を懸けた武闘が、現実のものとして存在していたのだ。

 例えるなら、憧れのヒーローが実在していた時のような。
 そんな歓喜と昂揚を、幼き四葉は抱いたのだった。
 そしてその暴力の渦中に立っていた“漢女”に、四葉は釘付けになった。
 まるで夢うつつのような感覚に、囚われていた。

 だからこそ、幼き四葉は気付くのに遅れた。
 死闘を終えた直後の“漢女”が、自分の気配を察していたことに。


956 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:43:47 DJ5iLbeI0

 “漢女”は、四葉が隠れていることに気づき。
 何者だ、と声を上げた。
 四葉は思わず驚いて、それからおずおずと姿を現した。
 その拳を血に染める“漢女”は、四葉の姿をじっと見つめてから。
 やがてゆっくりとした足取りで、四葉へと迫っていった。

 迫る“漢女”の堂々たる姿に、恐怖と興奮を抱き。
 どうしよう、どうしようと、幼き四葉は動揺し。
 それから足りない頭で、何とか打開策を考えて。
 持てる思考の全てを振り絞って、ようやく見出した道筋。
 それは――――献上である。

 “これ、どうぞ”と。
 四葉はおずおずと、あるものを差し出す。
 紙で包まれた、小さなキャンディだった。

 ポケットの中に潜めていた、なけなしの献上品だった。
 あの時の四葉に差し出せるものは、これくらいしかなかった。
 超力で反撃する勇気は無かったし、この場から逃げ出す気も起きなかった。
 そうして導き出した手段がこれとは、今となっては笑い話のようなものだけれど。

 それでもあの漢女は、少しばかり驚いたように目を丸くして。
 それから、ふっと微かな笑みを浮かべて応えてくれた。

 ――――かたじけない。礼を言う。

 そして漢女は、その無骨な左手で――ぎこちなくも穏やかに、四葉の頭を撫でた。
 まるで四葉を気遣うかのように、あまり血に染まっていない方の手を使っていた。
 曰く、彼女は闘争と甘いものに目が無いらしくて。
 強者に一目を置くのと同じように、その武人は“可愛らしい者”にはいたく優しかった。

 幼き日の四葉は、あの漢女に対して“どうして強い人と戦うんですか”なんて聞いた。
 漢女は答えた――“それが我が生き様故に”。
 “強者(つわもの)との身を削り合う死闘にこそ己という存在がある”と。

 その一言が、四葉の心に強烈に突き刺さった。
 なんてカッコいいんだ、と。
 幼き少女にとって、まるで漫画から飛び出してきたような台詞だった。
 漢女の在り方が、生き様が、強烈なまでに少女を捉えた。
 こんな風に生きてもいいんだと、四葉は勇気を与えられた。

 そうして内藤四葉は、決意をした。
 自分も彼女のように生きるぞ、と。
 自分も戦いに身を捧げて生きるぞ、と。
 それこそが愉快犯型殺人鬼の誕生秘話である。





957 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:44:56 DJ5iLbeI0



 ハルバードが、砕け散った。
 錆びついた銀色の破片が、舞い散っていく。

 チャンピオンが放った右拳を、朽ち掛けた武器で断ち切ろうとした。
 されど腐敗と摩耗によって限界まで達した刃は、最早武器としての強度も切れ味も保てておらず。
 生身(ギアレス)の一撃さえも凌げずに、打ち砕かれたのだ。 

 武器の破損による衝撃は、四葉を大きく怯ませた。
 それから間髪入れず、雷撃のような左ストレートが四葉の体を大きく吹き飛ばす。
 ハルバードが限界を迎えていたように、三つ目の甲冑もまた防具としての機能を最早果たせなかった。

 爆ぜる鉄鋼の破片と共に、吹き飛ばされる四葉。
 そのまま壁に叩きつけられ、内臓を揺さぶるような衝撃が全身を襲う。
 喀血。口から鮮血が流れる。赤い色彩が唇を汚す。

 それから、殆ど間を置くことなく。
 疾風のような勢いと共に、エルビスが地を蹴った。
 紫の花弁が、鮮やかに吹き荒ぶ。
 舞い散る欠片を振り切って、王者が疾走する。
 壁際に追い込まれた丸腰の四葉が、その目を見開いた。

 迫る。暴威が迫る。
 猛りし鉄拳が迫る。
 敗北の結末が迫る。
 死という嵐が迫る。
 自身の終焉が迫る。
 迫る、迫る、迫る。
 己を殺しに、迫る。

 四葉の脳内物質が、異常なまでに迸っていた。
 死という現実を前に、焦燥と高揚が入り乱れていた。
 怖いのか。楽しいのか。もはや何もかもがあべこべだ。
 自分という存在が終わりかけているのに、酷く刺激的だった。

 笑いが止まらない。
 獰猛な狂喜が止まらない。
 もうすぐ殺されるというのに。
 もうじき殴り殺されるというのに。
 四葉の脳内は、快楽で満たされていた。


958 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:45:46 DJ5iLbeI0

 蘇る。記憶が鮮烈に甦る。
 あの幼少期。直に目の当たりにした、死と暴力。
 あの漢女が見せた、正真正銘の殺し合い。
 フラッシュバック。繰り返される、反響し続ける。
 死に肉薄して、あの情景が脳内で万華鏡のように照らされる。
 もう、何でも出来そうな気さえした。
 今の自分に、限界など無いように思えた。

 気がつけば、肉体が動き出していた。
 振るえる武器など、手元には無い。
 最後の甲冑へと換装する前に、奴の拳が叩き込まれるだろう。
 

「っらあああああああ――――っ!!!」


 だから四葉は、迷わずに右腕を引いた。
 数メートルの距離まで肉薄したエルビスを、その目で捉えて。
 そして――全身の筋肉が、意思が、弾けるような感覚がした。
 脳髄を駆ける刺激に突き動かされるように、拳を振りかぶった。

 その瞬間、エルビスが初めて仰け反った。
 目を見開いて、防御すら間に合わず。
 彼の身体は吹き飛ばされ、そのまま鉄の床を横転した。
 

 ――――渾身の中段正拳突き。
 ――――拳風による“遠当て”の絶技。
 ――――触れずとも敵を穿つ魔拳。


 それは、大金卸 樹魂の拳術だった。
 それは、かの漢女が繰り出した技だった。
 この刑務において、“鉄人凶手”との武闘でも披露した術理。
 幼き日の内藤 四葉もまた、その魔拳を目に焼き付けていた。
 
 威力そのものは、本物には及ばずとも。
 それでもこの少女は、かの魔技を模倣してみせたのだ。
 ただの記憶を頼りにした――――見様見真似によって。
 素手のリーチを無視する一撃が、エルビスに“間合い”を見誤らせた。


959 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:46:27 DJ5iLbeI0

 このような不条理が成立するのは、彼女がひとえにネイティブ世代の戦闘狂であるが故だ。
 4歳で自らの超力を使いこなし、10歳にして世界へと飛び出し、人生の大半を死闘の日々に捧げた。
 先程も、殆ど模倣に過ぎない技術によって槍の演舞を披露した。
 謂わば彼女は、生粋のバトルジャンキーなのだ。
 脳の自認が肉体に作用して、身体機能をも変質させる――。
 ネイティブに見られる特性も相俟って、彼女は卓越した戦闘センスを備える。


「さぁ、チャンピオォォーーン……!!」


 ましてや、眼の前の相手は誰だ。
 拳闘士、エルビス・エルブランデスだ。
 “ネオシアン・ボクス”のチャンピオンだ。


「ぶちのめしてやるからさァ……!!」


 だったら、こっちも拳の一発くらいブチ込みたいじゃないか。
 四葉の胸中で芽生えた闘志は、その肉体の限界を突破させた。
 ゆらりと立ち上がって、四葉は血反吐塗れの口で牙を剥いた。


「――――“かかってこいよ”ォッ!!!!!」


 横転したチャンピオンへと向けて、四葉は言い放つ。
 数多の花弁の群れを、払い除けるほどの気迫と共に。
 最早このまま死んでも構わないと、言ってのけるかのように。
 奔放なる狂犬は――――眼前の敵へと、発破を掛けた。


960 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:47:25 DJ5iLbeI0

 床に伏せていたエルビスは、その瞳に闘志を宿し。
 まだ屈するはずがないと、訴えかけるように。
 その両腕に、ゆっくりと力を込める。

 問題はない。ただ不意に一撃を貰っただけだ。
 まだ自分は立てる。動ける。戦える。
 エルビスは己の状態を確認して、歯を食いしばる。
 こんな所で屈するつもりはないと、王者は立ち上がらんとする。


 ――――その矢先だった。
 南西の区画を密室へと変えていた電子扉。
 そのロックが、突如として解除された。
 隔離されていた空間が、死闘の果てに解き放たれる。


 四葉は、気づく。
 冷水を掛けられたように、意識を引き戻される。
 そして彼女は、現状を悟る。

「――――あー?これ……」

 自身の同盟者、トビ・トンプソン。
 彼が配電室へと到達し、電子ロックを解除したのだ。
 先程までの興奮状態が、急速に消失していく。
 熱が冷やされていくかのように、冷静な思考へと引き戻される。

 無茶すんな、さっさと退けと、彼からどやされたような気がした。
 この場にいないトビから小言を叩かれる錯覚を抱いて、四葉は思わず苦笑する。
 平静を取り戻した思考が、自分の取るべき行動を即座に導き出した。

「ごめん、チャンピオン!!前言撤回!!」

 そうして四葉は、呆気なく身を翻す。
 エルビスが態勢を整えている隙を突いた。
 満身創痍の肉体を動かし、その場から機敏に駆け出した。

「さんきゅ、トビさんッ!!!」

 エルビスの追撃が迫る前に――四葉はその場から逃げ出した。
 紫の毒花が支配する庭園から、足早に離脱した。
 疲弊しきった肉体とは思えぬほどの敏捷性。
 それは数多の死線を乗り越えてきた、彼女の身体能力が成せる技だった。

 エルビスは、すぐさま四葉を追い掛けようとした。
 ここまで追い詰めた”死刑囚”を刈り取るべく、両足に力を込めた。
 そうしてその場から躍動しようとした、その瞬間だった。


 ――――羽音が、耳に入った。
 ――――蝿が、舞っていた。
 ――――靄のように黒く、澄んでいた。


 この毒花の瘴気も、意に介さぬように。
 忌まわしき気配を纏いながら、虫が翔んでいた。


961 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:48:54 DJ5iLbeI0

 エルビスは、視線を動かした。
 北西ブロックへと繋がる電子扉の前。
 ――受刑者が、そこに立っていた。
 電子錠が解き放たれたことで、新手がこの場に踏み込んできたのだ。

 蝿が宙を漂い、舞い戻った先に立つ男。
 巌のように屈強な肉体を備え、精悍とした眼差しを向ける青年。
 彼は揺蕩う花弁の狭間で、エルビスの姿を見据える。

「…………“誰だ”?」

 その男を見つめた後。
 エルビスは一言、そう呟いた。

 相手の首輪が示す刑期は“無期懲役”。
 それほどの犯罪者であるにも関わらず。
 眼の前の男が何者であるのかを、エルビスは全く知らなかった。

 アビスにおいて、名の知れた悪党は頻繁に噂として存在が広まる。
 無期懲役や死刑を食らうような犯罪者ならば、尚更のことだ。
 故に、そうした者の話がまるで耳に届いていないのは――間違いなく“異常”だった。


「そこを、通させては貰えないか」

 
 ――――只野仁成。
 彼の情報は秘匿されており、アビスでも限られた人間しか知らされていない。
 彼は何故、その存在を隠されていたのか。
 彼は何故、エンダと同じバーコードを刻まれていたのか。

 人類の究極。人間としての肉体の頂点。ヒトという存在の極限。
 それらを体現する仁成は、人ならざる力を否定する。
 彼の血を移植された新人類は、超力が消滅するのだ。

 全ての人間が余すことなく超人となった世界で、その社会の根幹を否定する体質。
 仁成の存在は一種の特異点として扱われ、世界各地の秘密機関が彼の身柄を求めた。
 そしてアビスへの収監によって、彼の存在は禁忌となった。

 世界を拒絶する者。超人を消し去る者。
 即ち、開闢の世界を終焉へと導く“革命の卵”。
 最後のオールドであり、世界の否定者である“並木旅人”に並ぶ逸材。

 只野仁成は、人類の到達点であるが故に。
 人類の変革に、終止符を打つことが出来る。


962 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:50:42 DJ5iLbeI0

 アビスに収監されている“秘匿受刑者”。
 その詳細は、ごく限られた人間しか把握していない。
 この刑務に彼らが複数名放り込まれたことに、如何なる意図があるのか。
 全貌を知るのは、ヴァイスマン看守長――そして“GPAの高官たち”である。

 彼らを識別する証は、肉体の一ヶ所に刻まれた“バーコード”。
 それこそが秘匿受刑者の証。彼らという存在を示す刻印。
 GPAによる“人体実験”の対象となったことを意味する記号だ。

 世界の基盤を揺るがしかねない存在。
 エンダがそうであったように、仁成もまた同じだった。
 ドン・エルグランドはエンダの名を知らず、同時に仁成の名も知らなかったのだ。

 刑務に参加する秘匿受刑者は、4名。
 最後のオールド、並木旅人。
 最初のネイティブ、銀鈴。
 ヤマオリの巫女、エンダ・Y・カクレヤマ。
 開闢を終わらせる者、只野仁成。


【E-4/ブラックペンタゴン1F 南西ブロック 階段前/1日目・早朝】 
【只野 仁成】
[状態]:疲労(小)、全身に傷、ずぶ濡れ、精神汚染:侮り状態
[道具]:デジタルウォッチ、日本刀、グロック19(装弾数22/22)、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き残る。
0.放送までブラックペンタゴンに留まる。
1.エンダに協力して脱出手段を探す。
2.今のところはまだ、殺し合いに乗るつもりはない。
3.エンダが述べた3人の囚人達には警戒する。
4.家族の安否を確かめたい。
※エンダが自分と似た境遇にいることを知りました。
※ヤミナの超力の影響を受け、彼女を侮っています。

【エルビス・エルブランデス】
[状態]:疲労(中)、幾らかの裂傷、強い覚悟
[道具]:
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.必ず、愛する女(ダリア)の元へ帰る
1.眼の前の男(仁成)に対処。
2."牧師"と"魔女"には特に最大限の警戒
3.ブラックペンタゴンを訪れた獲物を狩る。

【E-4/ブラックペンタゴン1F 南ブロック 通路/1日目・早朝】 
【内藤 四葉】
[状態]:疲労(極大)、左手の薬指と小指欠損、全身の各所に腐敗傷(中)、複数の打撲(大)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.気ままに殺し合いを楽しむ。恩赦も欲しい。
0.楽しかった。てか疲れた。流石に今は退く。
1.トビと連携して遊び相手を探す、または誘き出す。今はトビと合流する。
2.ポイントで恩赦を狙いつつ、トビに必要な物資も出来るだけ確保。
3.もしトビさんが本当に脱獄できそうだったら、自分も乗っかろうかな。どうしよっかなぁ。
4.“無銘”さんや“大根おろし”さんとは絶対に戦わないとね!エルビスともまた決着つけたい。
5.あの鉄の騎士さんとは対立することがあったら戦いたい。岩山の超力持ちとも出来たら戦いたい!
6.銀ちゃん、リベンジしたいけど戦いにくいからなんかキライ
※幼少期に大金卸 樹魂と会っているほか、世界を旅する中で無銘との交戦経験があります。
※ルーサー・キングの縄張りで揉めたことをきっかけに捕まっています。


963 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:51:40 DJ5iLbeI0



 脱獄した刑務所は、延べ17に及ぶ。
 超力社会における数多の監視システムを潜り抜けてきた。
 ネオスという超常的な能力に対する対処も勿論だが。
 その経験の中で、彼は独学で電子機器に対する知識を身に付けてきた。

 監視カメラの構造や、探知機器の仕組み。
 巡回用ロボットの習性から、配電システムの流れに至るまで。
 トビ・トンプソンという小男の頭には、頭の知識が叩き込まれている。

 脱獄王は経験から学ぶ。己で実践した確証を信じる。
 慎重な小心者であるが故に、何かを試さずにはいられない。
 そうして石橋を叩き続けてきたからこそ、大胆に出るべき場面を理解している。
 故にこそ彼は、自身に対する謙虚と自信を兼ね備えていた。

 ブラックペンタゴン1階、北東ブロック――配電室。
 排気口から侵入を果たしたトビの行動は早かった。
 彼は内部構造をすぐさま把握した後、電気供給や防犯のための設備を割り出した。

 そのままトビはナイフによって、然るべき機器をこじ開けた。
 内部構造を顕にし、機敏な動きで配線を断ち切った。
 電子ロックのシステムそのものを破壊したのだ。
 エルビスや後に続く者達が、二度と狩り場を作り出せぬようにした。
 かくして、隔離空間と化した南西ブロックの隔離を解除してみせたのだ。

 警備も防犯もない中、この程度のシステムに対処することは造作もない。
 故に配電室へと侵入してからのトビは、瞬く間に対処を果たした。
 それでも、迷路のように入り組んだダクトの内部を進むために幾らかの時間は食わされた。

 だからこそ、四葉の安全は保証できない。
 今はただ、奴の実力を信じる他にない。
 もしもの場合は、改めて損得勘定の土台に乗せることも視野に入れねばならない。

 そうしてトビは、脱出経路を即座に確認する。
 順応な経路は、それぞれ北西ブロックと南東ブロックに通じる左右二箇所の扉のみ。
 他に残されているのは、自分が移動のために利用した排気口内部だ。

 既に階段前の電子ロックは解除した。
 仮に四葉の生存を見越すのならば、とうにあの場から離脱している可能性は高い。
 奴が死闘に明け暮れていなければの話だが、恐らく今はまだ生存を優先し――――。


 ――――くすくす。


 トビの思考に割り込むかのように。
 その嗤い声は、再び彼の意識を刺激した。
 汚泥のような闇の匂いが、配電室へと忍び込んだ。


964 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:52:33 DJ5iLbeI0


 ――――くすくす。くすくすくす。
 

「……来やがったか」

 目を細めて、舌打ちと共にトビが呟いた。
 脱獄王としての直感が、今なお告げていた。
 この気配は、恐らく尋常のものじゃない。

 黒い靄の使役。あの銀鈴と同じように、そんな超力使いの存在を耳にしたことはなかった。
 その上で、これは明らかに“無名の超力犯罪者”が醸し出すような匂いではない。
 ――何か普通じゃない。紛れもなく、異常なるモノだ。


 ――――くすくすくすくすくすくす。
 

 故にトビの警戒心は、最大限に引き上げられる。
 ここで見誤ってはならない。この綱渡りを踏み外してはならない。
 脱獄王は自らの呼吸を整えて、思考を加速させながら身構える。


 ――――くすくすくすくすくすくすくす。


 乗るか、反るか。
 対処するか、逃げに徹するか。
 脱獄とは、いつだって選択の連続である。
 そうして掴み取った道筋の果てに、生還という結末を得られるのだ。


 ――――せいぜい嗤ってやがれ。
 ――――最後に笑うのは、いつだって。
 ――――この“脱獄王”なんだからな。
 

【D-5/ブラックペンタゴン1F 北東ブロック/一日目・早朝】
【トビ・トンプソン】
[状態]:疲労(小)皮膚が融解(小)
[道具]:ナイフ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱獄。
0.四葉と合流。迫る靄は――。
1.内藤 四葉と共闘。彼女の餌を探しつつ、護衛役を務めてもらう。
2.首輪解除の手立てを探す。そのために交換リストで物資を確保。
3.構造や仕組みを調べる為に、他の参加者の首輪を回収したい。
4.ジョニーとヘルメスをうまく利用して工学の超力を持つ“メカーニカ”との接触を図る。
5.銀鈴との再接触には最大限警戒
6.岩山の超力持ち(恐らくメアリー・エバンスだろうな)には最大限の警戒、オレ様の邪魔をするなら容赦はしない。
※他にも確保を見越している道具が交換リストにあるかもしれません。
※ブラックペンタゴンに別の秘匿受刑者(エンダ)がいることを察知しました。
※配電室へと到達し、電子ロックを無力化しました。

【エンダ・Y・カクレヤマ】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ、探偵風衣装、ナイフ、ドンの首輪(使用済み)、ドンのデジタルウォッチ、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱出し、『エンダの願い』を果たす。
0.放送までブラックペンタゴンに留まる。
1.仁成と共に首輪やケンザキ係官を無力化するための準備を整える。
2.囚人共は勝手に殺し合っていればいい。
3.ルーサー・キング、ギャル・ギュネス・ギョローレン、並木旅人には警戒する。
4.ヤミナ・ハイドを使うか、誰かに押し付けるか考える。
5.今の世界も『ヤマオリ』も本当にどうしようもないな……。
※仁成が自分と似た境遇にいることを知りました。
※自身の焼き印の存在に気づいています。
※エンダの超力は対象への〝恨み〟によって強化されます。
※エンダの肉体は既に死亡しており、カクレヤマの土地神の魂が宿っています。この状態でもう一度死亡した場合、カクレヤマの魂も消滅します。


965 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:53:33 DJ5iLbeI0



「ふぃ〜〜〜〜〜」

 すっきり爽快。ほんとに気分爽快。
 まるで砂漠でオアシスを見つけたような安息。
 海で溺れてる最中に浮き輪を投げ込まれたような安堵。

「スッキリしたぁぁ〜〜〜〜〜……」

 ヤミナ・ハイドが、トイレから出てきた。
 そう、ブラックペンタゴンには水道がある。
 まるで間抜けな狸のような微笑みを浮かべて、囚人服の腰部で濡れた手をベタベタと拭く。
 その身体の各所は腐敗しているものの――尿意を無事に片付けた歓びが勝っていた。

「膀胱破裂死するかと思った〜〜〜〜〜」

 ようやく見つけたトイレで、ヤミナは小便を済ませたのだ。
 数十分間に渡る苦闘の末に得られた解放感だった。
 一時は失禁すら覚悟していたが、何とか間に合ったのである。
 ちなみに膀胱の破裂はほぼ直接的な死因にはならない。

 ヤミナ・ハイドは今、一体どこに居るのか?
 ブラックペンタゴン、南西ブロック――2Fである。
 誰にも気付かぬまま、ヤミナはエルビスが立ちはだかる階段を突破していたのだ。

 ――暫く前、トイレを探して彷徨っていたヤミナ。
 彼女は迷った末に“そういや2階にトイレないのかな”と思った。
 トイレは上層階のみ。そういうふざけた構造になってる商業施設がたまにあることを、ふと思い出したのだ。

 今のうちにエンダ達から逃げ出すか否かも迷ったが、それよりも野ションへの生理的忌避感がギリギリで勝った。
 やっぱりトイレはトイレで済ませたい。自分はまだうら若き乙女(ヤミナは23である)なのだから、空の下での小便は出来ればしたくない。
 そんなヤミナの中に残された一欠片の良識(?)が、彼女をこのブラックペンタゴンに留まらせたのだ。

 そうして彼女は入口で見かけたマップの記憶を頼りに、2Fへの階段があるらしい南西ブロックへと足を踏み入れた。
 ――お花畑だった。まさにお花畑である。
 地の文がヤミナの浅はかな思考を唐突に嘲ったのではない。
 階段前の区画一帯が、文字通り無数の紫花によって支配されていたのだ。

 花弁に触れたら身体が焼けるわ、階段の前には変な半裸男がいるわで、ヤミナは存在に気づかれる前にその場を立ち去ろうとしたが。
 別の侵入者二人が、逆方向の扉から足を踏み入れていたようで――直後に階段前の一区画が電子ロックで隔離された。
 あの半裸男が二人を逃さないようにするために、このブロックを封鎖したらしかった。
 トイレを探していただけなのに、巻き添えである。

 しかし半裸男――エルビス・エルブランデスという名など知りもしない――は、他の二人にのみ意識を向けていた。
 他の二人も、あくまでエルビスのみに意識を集中させていた。
 あらゆる相手から侮られ、軽視させる。ヤミナの超力は、この場にいる全員の意識を彼女から逸らさせた。


966 : BUY OR DIE? ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 15:54:44 DJ5iLbeI0

 結果としてヤミナは誰にも存在をまともに気付かれず、あれやこれやという内に戦闘が始まり、その隙をついてどさくさに紛れて階段へと突っ切ったのだ。
 毒花の中にずっと居座ってたらヤバかったし、何よりトイレを探したかったのだ。
 幸いこの場に残っていた二人が戦闘に集中していたおかげで、最後まで存在を捕捉されずに済んだ。

 そして、ミッション・コンプリート。
 2階にて無事にトイレを発見し、急ぎ用を足したのだ。

 本当にふざけた構造だ。下手な監獄よりタチが悪い。
 何故もっと分かりやすくトイレを設置してくれないのか。
 そもそも2階への経路が一箇所しかないって、建築をナメているのか。
 自分が建築素人であることを棚に上げ、こうした構造が狩り場へと転じることにも気付かぬまま、ヤミナは心の中で文句を垂れる。

 ともあれ、無事におしっこが出来たので一安心なのだが。
 冷静になってみると、次なる問題が待ち受けていた。

「…………どうしよう」

 ――そう、帰路である。
 エンダ達のところへ大人しく戻るにせよ、このまま密かに逃げるにせよ、結局あの階段を使わざるを得ない。
 そしてその先に待ち受けているのは、半裸男が居座っている毒の花畑である。
 あの変な小男が超力か何かを使って排気口から逃げ出していたように、ああいう隠し経路になり得る空間があれば抜け出せるかもしれないが。

 何はともあれ、ヤミナ・ハイドは行動しなければならなかった。
 どうやって下の階へと降りるのか。
 そのうえ、これからどうするのか。


【E-4/ブラックペンタゴン 2F南東ブロック トイレ前/1日目・早朝】
【ヤミナ・ハイド】
[状態]:疲労(中)、ずぶ濡れ、各所に腐食(小)、すっきり
[道具]:デジタルウォッチ、デイバック(食料(1食分)、エンダの囚人服)
[恩赦P]:34pt
[方針]
基本.強い者に従って、おこぼれをもらう
0.仁成達と合流する?このまま逃げる?というかどうやって下の階降りよう……。
1.エンダと仁成に従う?
※ドン・エルグランドを殺害したのは只野仁成だと思っています。
※トイレを探している内に「花の監獄」でのエルビスによる南西ブロック封鎖に巻き込まれていました。
超力によってその存在は完全に見落とされ、そのまま戦闘の隙をついて階段へと突っ切ったようです。

[共通備考]
少なくともブラックペンタゴン2階にはトイレがあります。
この施設には電気と水道が通っているようです。


967 : ◆A3H952TnBk :2025/03/30(日) 16:00:14 DJ5iLbeI0
投下終了です。

なお作中に登場するカクレヤマに関する記述は、世界観が共通するオリロワZを参考にしています。
エンダのキャラクターを書くうえで避けられない部分と判断しましたが、あくまでオリロワAで独立した設定として掘り下げています。


968 : ◆H3bky6/SCY :2025/03/30(日) 17:45:13 eD30uNrM0
投下乙です

>BUY OR DIE?
エルビスと四葉の死闘、エルビスが強すぎる。超力がデバフ&継続ダメージでジリ貧になる地獄な上に、超力とは無関係に単純に拳闘が強い。チャンピオンは伊達じゃねぇぜ
ここまで追い込まれても闘志が折れない四葉も狂犬すぎる、ルーツとなる漢女との出会いからこんなに立派な戦闘狂が生まれました
トビの仕事がもう少し遅ければ確実に死ぬまで戦っていたよね、本当に死ぬんじゃないかと思ったよ

トビは常に相手の利用価値とリスクを天秤にかけるシビアな思考をしているけど、きっちり仕事を果たすあたりさすがの脱獄王
エンダに追い込まれているがどうなるのか、互いのスタンス的に協力してもおかしくはないんだけど、エンダさんは毎度接触の仕方が無駄に怪しいのが悪いよ

そのエンダはZの隠山とは違うその分流となるカクレヤマの土地神だったのね
受刑者の資料が並んだ図書室が何のために置かれているのか、ブラックペンタゴンの謎も深まるばかりである
秘匿受刑者の属性も徐々に明らかになりつつあるし、全体的な謎に触れられつつある

ヤミナだけ世界観が違う、難攻不落の階段前を素通りして2Fに、こいつ無敵か?


969 : ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:45:42 AFOogGjc0
投下します


970 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:46:22 AFOogGjc0
鬱蒼と茂る森の中で、バルタザール・デリージュは無言のまま立ち尽くしていた。

どこまでも高く伸びる樹木が僅かな月光すらも遮り、足元には苔むした岩と朽ちかけた倒木が散らばる。
彼はそんな原始的な自然の風景とは異質な存在であった。
全身を包む重厚な拘束具と鎖、それを振り回せば容易に人を砕き散らすであろう鉄球。
そして彼の頭部を覆う無機質な鉄仮面は、この場所の静寂に馴染まぬ鋭利な光沢を放っていた。

数時間前、彼は自らが獲物として狙った少女たちを逃がしてしまった。
葉月りんかと交尾紗奈――あの二人を取り逃した失態は、バルタザールの精神に深い亀裂を生じさせていた。

特に紗奈を前にした際に感じた、説明しがたい混乱。
これまでに感じたことのない内なるざわめきが彼の身体を縛りつけていたのだ。
あの瞬間、彼の中で自分でも理解しがたい感情が沸きだし、自由という目的への明確な焦燥を生み出していた。

――――――自由。

その言葉は、バルタザールの中で今や呪文のように繰り返されていた。
彼は自らの罪状を覚えていない。
過去の記憶も、何もかも失われていた。
ただ気づけばアビスの中で、30年以上もの月日を鎖と共に生きていた。
あるものと言えば自らに寄り添う一人の刑務官の存在だけ。
自分が何者であるかを考えることすらなく、ただ淡々と日々を過ごすだけの空虚な日常を送ってきた。

しかし、アビスを脱する可能性を持つこの刑務作業の中で、バルタザールは初めて明確な目的を抱いた。
恩赦を得て、外の世界に戻るという目的を。

だが、それは容易なことではない。
先ほどのジェイ・ハリックによる襲撃もそうだ。
透明なナイフによる奇襲は効果的に機能し、事前に着込んでおいた鎖帷子によって辛うじて防ぐことが出来た。
命拾いしたと言っていいだろう。正しく相手を警戒したバルタザールは露骨な誘いに乗ることなくその場に留まる。

今の己の力だけでは限界がある、それを理解した。
ただ単純に暴力を振るうだけでは、今後も恩赦のための首輪を獲得することは難しいだろう。
彼はその事実を、ここまでの戦いを経て、強く認識したのだ。

そのため彼は、森の中で鎖を操る訓練を積んでいた。
細かな鎖を空間に張り巡らせ、獲物を捉えるための繊細な感覚を養うために。
鎖の先に付いた鉄球を放ち、狙った木の枝や岩を砕き、すぐに鎖を引き戻して新たな攻撃に備える。
力任せの攻撃ではなく、正確な技術と戦術的な立ち回りを身に着けようとしていた。

開闢以前から服役していたバルタザールは超力をまともに使用した経験がない。
超力は体の一部の様なものだ、使用するのに問題はないが、格闘技術などと同じく使いこなすにはそれなりの経験と鍛錬がいる。

バルタザールが呼吸を整えながら再び鎖を構えると、彼の周囲は一瞬にして鋭い鎖の刃で埋め尽くされた。
彼の意思と一体化した鎖がまるで生き物のようにしなり、螺旋を描いて幹や岩を穿つ。

「……■■■■」

仮面の下から低い唸り声が漏れる。
感情を表す言葉は、もはや彼には存在しなかった。
だが、その唸り声には確かな苛立ちが滲み出ている。

不完全。まだ足りない。

スポンジが水を吸うがごとく、驚異的な速度で技術は向上している。
しかし、それでも彼の内なる焦りは消えない。
鉄仮面の下の目が不安定に揺らめいているのが自分でも分かる。

一方で彼は、自分の中に芽生えつつあるもう一つの違和感に気づき始めていた。
鎖を振り回す時、鉄球が木々を破壊する瞬間に感じる心地よさ。
拘束されることに安堵を覚えていた彼にとって、暴力を振るう瞬間だけが唯一の解放感をもたらすようになっていた。

『恐怖の大王(ドレッドノート)』。

自らを縛るための枷と鎖が、今では彼自身を解き放つ武器となっている。
暴力こそが、彼を拘束する記憶の欠落から唯一解放してくれるのだろうか。

「―――■■」

バルタザールは低く唸りながら、自らの異常性を否定するかのように再び鎖を強く握り締めた。
そうして、周囲の木々をあらかた伐採し終ええると、僅かに視界が開けた。
鉄仮面により狭まった視界に広がるのは工場の立ち並ぶ旧工業地区だった。

「―――」

再び彼の思考は冷静な狩人それに戻っていた。
あの場所にいるのは獲物か、それとも自分と同じように恩赦を求める敵か。
いずれにせよ、いつまでもここで自然破壊に勤しんでいるわけにもいくまい。

乾いた枝を踏みしめながら、バルタザールは無言のまま歩みを進める。
引きずる鎖がピンと張り、鉄球が地面に線を描いた。
その背後には、彼が破壊した森の痕跡が静かに広がっていた。

内心の葛藤を抱えつつも、彼は自由への希求を込めて進んでいく。
その度に工業地区の輪郭が闇の中に明確に浮かび上がっていった。
次の戦いが始まる気配が、鉄仮面越しに肌を刺すように感じられた。




971 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:46:56 AFOogGjc0
旧工業地区。
かつて様々な工業製品を造り出していたであろうこの場所も、今はただ静寂だけが支配する廃墟の森と化していた。
錆びた鉄骨が無数に積み重なり、朽ちた廃工場が並ぶその地区は、かつての栄光を失った墓標のようにひっそりと佇んでいる。
そこに巨大な巌のような人影が一つ、工場跡の薄暗い室内に佇んでいた。

呼延光。

『鉄塔』の異名を持ち、かつて中国の黒社会でその名を轟かせていた凶手。
飛雲帮の尖兵として数多の敵を葬り去った武人は、今や刑務の名を借りた生存闘争に身を置いている。

先刻、大金卸樹魂との戦いが彼にもたらしたものは、疲労感ではなくむしろ懐かしさに似た高揚感だった。
長いこと眠っていた彼の魂の奥底にある『闘い』への渇望が再び目を覚ましたのである。
かつて彼が義兄弟達と共に功夫を磨き上げた日々、その激烈さを彷彿とさせるような戦いだった。

呼延は深く息を吐きながら、軽く目を閉じる。
筋骨隆々の肉体には微かな傷痕がいくつか刻まれていた。
自身の鋼鉄の身体をもってしても大金卸の強力な打撃を完全には凌ぎきれず、体表の所々が削れ落ちている。
だがそれすらも彼には心地よかった。
これこそが戦い、生と死の境を渡る闘争なのだ。

呼延はゆっくりと呼吸を整え、身体を緩やかに動かし始める。
彼が使う形意拳の動きを、ゆったりとしたテンポで繰り返していく。
あらゆる細胞の一つ一つまで感覚を研ぎ澄ませ、己の状態を正確に把握するための儀式。

大根卸との死闘の最中、彼は自身の未熟さを垣間見た。
かつてはただひたすらに強力無比な力を追求していた。
敵を倒し尽くすために武を磨き、『鉄塔』として恐れられるに至った。
しかし今はそれだけでは足りないと感じている。

己を未熟と感じる事など何時以来の事か。
それを思い出すには開闢より以前、まだ呼延が最強でなかった頃まで遡らねばならない。

呼吸から内功を練り、内面から力を発する内家拳。
筋骨を鍛え技を磨き、外面から力を発する外家拳。
実戦性を追求する場合、一方ではなく双方を学ぶことも多いが、呼延の拳風は内家拳に傾倒していた。

内家拳は外家拳に比べ習得に年月を要する。
呼延がどれほどの才を持とうが、大成は遠く、彼はどこにでもいる門徒の一人でしかなかった。

だが、開闢により世界は変わった。

彼の外家は文字通りの鋼鉄と化した。
地道に練り上げた内家とそれは異常なまでにかみ合い、天才的な内家と鉄の外家を併せ持つ最強の凶手が生まれたのだ。
その武力は嘗て中国黒社会に存在した『殺』の一字の名を冠する伝説の凶手に匹敵するとさえされていた。
20を迎える頃には敵なしとされ、開闢の前後に姿を消した『殺』の後釜を狙う黒社会の群雄割拠を制したのが、呼延の属していた『飛雲帮』である。

呼延は形意拳の型を繰り返す。
崩拳、炮拳、横拳。三拳を織り交ぜながら身体を動かしつつ、深く息を吐き出す。
新たな敵と遭遇したときに即座に反応し、動きを修正できるようにするためにも、あらゆる技のイメージを呼び起こし、筋肉に刻み付けておく必要があった。
一通りの型を終えると、呼延はゆっくりと瞑想の態勢に入った。

呼延は静かに座す。
頭を空にし、精神を深い静寂へと沈めていく。
肉体に刻まれた痛みが、意識の底へとゆっくりと沈んでいく。
湖面に落ちた小石。その波紋が広がるように心と身体が一つになる。

瞑想の中で、彼の心に現れるのはただ一つ。
武の道。

武の頂点を極め敵のいなくなった虚無。
信頼していた仲間たちに裏切られた虚無。
亡霊となった義兄弟を討ち果たした虚無。

鉄の器に満ちていたのは虚無ばかりだった。
だが、その虚無を満たすのはやはり『武』しかない。

己を極限まで高めるために闘い続けること。
相手がどれだけ強大であろうと、それを超え、より高みに登りつめること。
闘いの中にこそ自身の真価を見出すことができるのだと、改めて確信している。

瞑想が深まるにつれて、呼延の身体は再び鋼鉄のような強靭さを取り戻しつつあった。
微細な傷もまた、彼の気迫と意志に応じるかのように修復されていく。

やがて瞑想を終え、呼延は目を開けた。
瞳に宿るのは研ぎ澄まされた闘志。

彼は立ち上がり、廃工場の奥深くから出口へと向かってゆっくりと視線を向ける。
ひび割れた壁面、朽ちかけた鉄の扉、そんな薄暗く陰鬱な風景の中に、不気味な巨体が立っていた。


972 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:47:38 AFOogGjc0
呼延以上の巨躯に重々しい鉄仮面、手足には巨大な鉄球を鎖で繋がれた拘束具。
彼の姿はまさに異質であり、この旧工業地区の風景に奇妙なほど調和していた。
巨人は無言のまま、ただ静かに鎖の擦れる音だけを響かせる。

それは大根卸とは違った異質な気配を纏った男だった。
大根卸は言わば見惚れる程に美しく整えられた宝石である。
だがこの男からは剥き出しの原石の様な、重苦しく、どこか混沌とした気配が漂っている。

しかし呼延の胸に恐怖や動揺は無い。
むしろ微かに笑みすら浮かんでいる。

目の前の相手が何者であるのか、呼延は知らない。
アビスに墜ちて以来、獄中生活を虚無の心持ちで過ごしてきた呼延は、獄中で他の受刑者の存在に注意を払うことはなかった。
だが、この敵が何者であれ、自分をさらなる高みに押し上げる存在となるであろうことを確信していた。

「……貴様は何者だ」

静かな口調の中に鋭利な敵意を滲ませ、呼延は尋ねた。
廃工場で静かに心を整え己と向き合っていた彼は、既に殺気を隠そうともしない鉄仮面を前に全身に戦意を漲らせていた。

「――――――――――」

鉄仮面の男――――バルタザール・デリージュは応えない。
ただじっと、鉄仮面の隙間から呼延を見据える。

「答える気はないか。まあ良い」

呼延は軽く腕を動かし、肩をほぐした。
巨大な肉体と強烈な殺気を放つバルタザールを前にしても、彼の表情には歓喜に似た闘志が浮かんでいた。

呼延は右足を僅かに前に出し、馬歩に開くと拳をゆっくりと握りしめる。
その動作は自然かつ流麗でありながら、確かな破壊力を秘めていることが一目でわかった。

「我が名は呼延光。名乗らぬならば、構わん。その仮面を割り、貴様の顔を拝むまでだ」

武人として名乗りを上げる。
低く静かな声音が、バルタザールの胸を震わせた。

「――――――――■■■!!」

次の瞬間、バルタザールの巨躯が動いた。
入口から動くことなく右腕を高々と振り下ろすと、そこに繋がれた鎖が唸りを上げる。
狂った鉄球が廃工場の壁を粉砕しつつ、嵐のように呼延を襲う。
だが、呼延は微動だにせず、ただ静かに鉄掌を前へと差し出す。

轟音とともに鉄球が掌に激突した。
しかし呼延の鉄の肉体は衝撃を易々と受け止める。
掌をわずかに旋回させ化勁で力を受け流すと、猛り狂った鉄球は勢いを失い、虚しく地に落ちた。

「鉄球を易々と振るうその力は認めよう。だが、力だけでは俺に届かんぞ」

微笑を浮かべる呼延の眼差しは、挑発の色を帯びてバルタザールに注がれる。
その瞬間、鉄仮面の巨人の胸中に異様な感覚が芽生えた。
仮面の奥に潜む記憶の残滓が疼き、過去の影が再び心を揺らす。

混乱を払い、バルタザールは鎖を引き戻す。
しかし、呼延がその隙を見逃すはずもなかった。
地を蹴ったその足は風よりも早く、跳ね戻る鉄球を追い越して彼は刹那にして間合いを詰めた。

「砕ッ!」

低い掛け声と共に呼延が繰り出したのは形意拳の一種、虎形拳。
虎は大地を踏み、嶺を越える獣。その動きは重く鋭く、狙った一点を断ち切る。
一歩踏み込むごとに足元が微かに沈み、その脚力を伝導させた拳は、獲物を食い破る猛虎そのもの。
両手の指を鉤状に曲げた獰猛な掌がバルタザールの喉元を狙い突き出される。

だがバルタザールも、即座に応じる。
右足の鉄球を蹴り上げ、宙に舞わせた鎖を呼延の拳へと迎撃させた。
鉄と鉄、激突の火花が闇を裂き、金属の叫びが廃工場に響き渡る。

されど勝利したのは拳であった。
鉄をも断つ虎の拳は容易く鎖を断ち切り、鉄球は力を失い空へと弾け飛ぶ。

呼延はその軌道に一瞥もくれぬまま、一歩、いや、半歩。まっすぐに防を失った敵の懐へと歩み寄る。
呼吸と共に丹田より沸き上がらせた内功を拳に込め、腰を落としたまま一気に踏み込む。
崩拳――形意拳の中でも、進撃の勢いと剛力を象徴する技。それは「突き」ではなく「砕き潰す」ための拳。
狙いは水月。人の中心を為す急所を的確に捉え、鉄の壁すら内側から粉砕せんとする一撃が叩き込まれた。

だが、響いたのは肉砕の音にあらず。
耳を打つは、再び金属の激突音。

崩拳はいつの間にか新たに生み出された鎖により阻まれていた。
同時に、先ほど呼延が追い越した鉄球がようやく彼の後頭を狙って迫る。
しかし、呼延はそれを振り返るでもなく、当然のように身を逸らすと、静かに後退して間合いを取る。

予測はしていたが、この鎖の鉄枷は超力によるものだと呼延は確信を得る。
無限に生み出されるのであれば武器破壊は意味がない。


973 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:47:54 AFOogGjc0
「――――――面白い」

呼延は震わせるように地を踏み鳴らすと、再び腰を落として構えを取った。
敵が操る超力を前にして、彼の胸中にはますます旺盛な闘志が燃え上がっている。
対するバルタザールもまた、鉄仮面の下でわずかに唇を吊り上げ、呼延の言葉を認めるかのように笑みを浮かべた。

鉄の肉体を持つ凶手呼延と、鉄の鎖鉄球を武器とする鉄仮面の怪物バルタザール。
旧工業地区の平穏はすでに跡形もなく崩れ去り、廃工場は激烈な金属の火花飛び散る鉄火場と化していた。
両者の眼差しが交錯するその刹那、空間そのものが凝固したかのような異様な殺気が辺りを満たす。

その緊張を先に破ったのはバルタザールである。
鉄仮面の隙間から射抜くような眼光を放ちつつ、四肢の拘束具に繋がる重厚な鎖を豪快に振り回した。
先ほどの短い攻防で、近接戦では呼延には及ばぬと悟った彼は、鎖鉄球の間合いを生かす戦術を取る。

バルタザールは両腕を大きく広げ、左右から同時に振り切った。
その動きに従って唸りを上げる鉄の球は縦と横、軌道を交差させつつ、風を裂きながら呼延へと殺到する。

されど呼延、心を静め、内息を整えて悠然と構える。
迫りくる鉄球の動きを見切り、身体をわずかに捻って縦の軌道をかわす。
風が頬をかすめるも、彼の足取りは揺るがず。
続けて横軌の鉄球を掌にて受け止め、そのまま力の流れを転じて上空へ弾き飛ばす。

二つの鉄球を瞬時に捌ききり、呼延は即座に攻勢に転じようとした。
だが、その刹那、呼延に第三の殺意が迫る。

それはバルタザールの右足首から放たれし第三の鉄球。
腕を超える脚の豪力で振り抜かれた鉄球は、これまで以上の速度で呼延に迫った。

「墳――――ッ!」

呼延は疾如として振り返り、文字通りの肘鉄を叩きつけて鉄球を迎撃する。
金属の衝撃音と爆裂する気の波動が周囲を震わせ、建物の壁が震えた。
肘に貫かれた鉄球には、明確なヒビが走っている。

だが、その瞬間にバルタザールは既に次の動作に移行していた。
地に落ちた鉄球と宙を舞った鉄球を同時に引き戻し、その鎖を旋回させて呼延の背後より猛襲させる。

されど呼延、それすらも見切る。この男からすればその動きは一手遅い。
その鉄球が届くよりも早く低く身を沈め、一歩、また一歩と爆雷の如く踏み込み、雷霆のごとき炮拳を繰り出す。

鋼鉄すらも砕く拳が胸元に届かんとする。
瞬間、バルタザールの超力が瞬間的に鎖を編み上げ、即席の鎖帷子となって衝撃を遮った。

だが、鉄仮面の巨人は膝を折った。

それは、外殻を無視し内部へと通す浸透勁。
鎖の防を突き抜け、内より骨髄を震わせる衝撃がその肉体を直撃した。
常人であれば、即座に命を落とすであろう打撃――それを耐え抜くも、バルタザールは地に膝をつく。
そこに一切の容赦なく、呼延の拳がとどめを狙い放たれた。

だが、その一撃は空を穿つに留まった。
バルタザールの巨体が突如として後方へグンと引きこまれたのだ。

彼の左足に繋がれた鎖がまるでワイヤーフックのごとく縮まり、彼の身体を後方へと引き寄せたのである。
鎖は天井近くの鉄骨に巻き付いており、引き込まれたバルタザールの巨体がそこにぶら下がった。

見れば、廃工場の薄暗闇に隠れて、緊急回避用の鎖が張られていたことに、この瞬間初めて気づいた。
思った以上に慎重、そして応用のきく超力だ。

だが、所詮は道具頼り。本人の技量は武人には遠く及ばない。
近接戦の技量はもとより、近づけさせない技術も呼延に通用するものではなかった。

幼少のころに叩き込まれたような気配はあり、基礎は出来ている。。
首元の『無』の一時からして、長期の服役により実戦経験を積むことができなかった類だろう。

バルタザールは天井にぶら下がりながら、先ほどの一撃によりせりあがった胃液を仮面の下からぽたぽたと零していた。
だが、それすらも気にならないといった風に、凄まじい集中力で呼延を見つめ考え込んでいる。

バルタザールは今を持って成長中なのだ
リアルタイムで実戦を学んでいる。
この巨大な原石のカッティングをしているのは呼延という鋼鉄か。

惜しいと感じる心があるのも事実だが。
死合の場で出会った以上、手心を加える甘さを呼延は持ち合わせていない。


974 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:48:15 AFOogGjc0
「そろそろ降りてきたらどうだ?」
「――――――――」

その言葉に応じるように鉄骨に括り付けられていた鎖が解けた。
地を砕く勢いで流星のように恐怖の大王が舞い降りる。

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

鉄仮面の怪物が仮面の下で声にならない雄たけびを上げた。
バルタザールの双眸が鋭く煌めいた刹那、腕を大きく振りぬき、鎖鉄球が再び風を裂いて奔った。
だが、その軌道は明らかに呼延の体から逸れていた。

一見すれば、的を外したかのような一撃。
呼延が訝しむ間もなく、バルタザールの意図が露わになる。
鉄球の軌道より延びる鎖が、まるで狩猟具“ボーラ”のように円を描き、彼を絡め取らんとしていた。
力押しから一転、拘束による捕縛戦術へと変化したのだ。

「小賢しい……!」

風を切り裂き迫り来る鎖が地を這い、鋭利な蛇のごとく呼延の足元を払う。
だが、呼延は縄を跳ぶ如く空へと軽やかに跳躍し、それを回避する。

しかし、その刹那、背後より轟音が響いた。
振り抜かれた鉄球は呼延を外れたまま、廃工場の背後に立つ鉄柱を真っ向から打ち砕いていた。
鈍い金属音と共に破砕された鉄柱は凄まじい勢いで、空中にある呼延へと覆いかぶさるように倒れ込む。
宙に浮かぶ呼延にとって、これを避ける術はない。

だが、呼延はこの状況下においても恐れず、空中で瞬時に身を捻る。
空に舞う中、体を捻り、脚に気を込める。
その動きは、まさに飛燕が空に舞うがごとし。

「破――――ッ!」

次の瞬間、折れた鉄柱に足が吸い付くように乗り、風を裂いてそのまま後ろ蹴りを叩き込んだ。
轟音と共に、巨木のごとき鉄柱が唸りを上げ、今度はバルタザールへと逆襲する。

バルタザールもこれに即座に反応して瞬時に身を翻す。
外れた鉄柱はそのまま廃工場の壁面へと激突し、凄まじい衝撃と共に鉄板を引き裂き、錆びついた梁ごと吹き飛ばした。
土煙が舞い上がり、鉄屑が雨のように降り注ぐ中、鈍く軋む金属音が空に響き渡る。

それを避けた巨人はそのまま絡めた鎖を一息に引き寄せる。
この引き戻された鎖の軌道こそがバルタザールの真の狙いであった。
鎖の一閃――まるで蛇が咬みつくが如く、呼延の身体に襲いかかる。
空中にあったその身体をかすめた鎖が、鋼鉄の皮膚を掠めて行く。

凄まじい火花とともにズギャギャギャという、金属を削る嫌な音が響いた。
高速で巻き取られる鎖は鋭利な鑢のごとく、呼延の鉄身を擦り抜け、血が宙に飛沫を描いた。
鉄と鉄の衝突。鎖の方も削れているが、いくらでも生み出せる道具と替えのきかない肉体とでは余りにも釣り合いが取れない。

「别小看我(嘗めるな)」

皮膚を削られる痛みなど、呼延にとっては些事に過ぎぬ。
呼延を止めるには至らず、むしろその内に秘められし戦意をさらに燃え上がらせただけだった。

地に舞い降りるや否や、呼延はすぐさま重心を沈め構えを取る。
刹那、内功が凝縮されると、前方へと崩拳が放たれた。
その拳が風を裂くと、目には見えぬほどの衝撃波が一直線に奔り、虚空を切り裂いて鉄仮面へと襲いかかる。

絶技、百歩神拳。
遠距離攻撃はバルタザールだけの専売特許ではない。

放たれた勁力は、遥か彼方のバルタザールの鉄仮面を叩き、仮面が激しく揺れて軋んだ。
バルタザールの巨体がわずかに仰け反る。
その衝撃に怯んだ僅かな隙を、呼延が逃すはずもなかった。

瞬息の踏み込み、「燕形」の身法にて間合いを詰める。
背筋を通した直線の動きは鋭く、迷いなくバルタザールの懐へと疾駆する。

しかし、バルタザールもまた無策ではない。
あらかじめ遠くに仕掛けていた鎖を再び引き寄せ、間合いを取り直そうとする。
先ほどまでの回避と同じ手である――だが、同じ策が二度通用する呼延ではない。

呼延は即座に鉄柱倒壊の余波で散乱した廃材を素早く蹴り上げる。
正確に蹴り飛ばされた廃材が唸りを上げて鎖に絡まると、その軌道が歪んだ。
その刹那、引かれるはずだったバルタザールの軌道が狂い――逆に呼延の間合いへと誘われる。

引き寄せられる鉄仮面の下で、バルタザールは見た。
既に拳の構えを整え、「炮拳」の形で内勁を最大限に練り上げている呼延の姿を。
膨れ上がる気は風を巻き込み、廃工場の埃を押しのける。

「――――――――――――疾ッ!!」

轟音。火花。
鋼鉄を打ち砕く、武林最上の一撃。
地を震わせる咆哮と共に放たれた渾身の炮拳は、雷の如き勢いで寸分違わずバルタザールの鉄仮面を直撃した。

周囲の瓦礫や鉄骨までも巻き込みながら、巨躯バルタザールの体が錐もみ回転しながら弾丸のような勢いで吹き飛ばされる。
鋼鉄の肉体が凄まじい衝撃とともに壁に叩きつけられ、工場の一角が轟音と共に崩壊した。


975 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:48:32 AFOogGjc0
だが、呼延の表情は晴れなかった。
拳の手応えに残る僅かな違和感に眉をひそめる。

呼延の放った一撃――その炮拳は鋼鉄の巨人の首ごと吹き飛ばしてもおかしくないほどの威力を持っていた。
だが、確かな“断ち切れた感触”がなかった。

その予感を的中させるように、舞い散る粉塵と鉄くずの向こうで、瓦礫の山が蠢く。
その中から、バルタザールの巨体が、まるで屍になるのを拒むかの如くゆらりと立ち上がる。
破壊されたはずの肉体は、あまりに静かに、あまりに重々しく動いていた。

だが、立ち上がったバルタザールの挙動はどこか異様で、まるで魂を失ったかのような虚ろさが漂っている。
何かにおびえるように鉄仮面を両手で抑え、全身を細かに震わせている。
見れば、彼の鉄仮面には大きな亀裂が入り、その一部が剥がれ落ちていた。
露わになった目元、その奥から覗く瞳には狂気と戸惑いが入り交じり、虚空を彷徨っている。

動揺と混乱に喘ぐバルタザールの視線が、足元に転がるガラス片に映る己の顔を捉えた。
砕けた鉄仮面、その目元からは褐色の肌と鋭く切れ長な瞳が露わになっている。
長きにわたり封印されてきた自我――その眠りを覚ますように、胸底で何かが弾けた。

「……ァ……アァァ……!」

まずは掠れた呻きが喉奥から漏れた。
鉄仮面に声を奪われ、一言たりとも人間の言葉を口にすることのなかった巨人が、数十年ぶりに人としての呻きを放つ。

「アアアアアアアアアアアアアァァァァァ――――――――!!!」

呻きは瞬時に絶叫へと変わり、叫び声が周囲の空気を震わせ、轟然とした衝撃波が工場内に広がった。
その瞳に狂気の光が宿り、鋼の筋肉は激しく脈打ち、身体を覆う鎖が意思を持ったかのように暴れ始める。
まるで、永き封を破って溢れ出した何かが、暴走を始めたかのように。

頭を両手で掴み、腕を覆う拘束具から無数の鎖が乱れ飛び、巨大な嵐となった。
その度に彼の怒りと混乱は激しさを増し、辺り一帯を埋め尽くすほどの鎖が、まるで意思を持つ蛇の群れのように暴れ狂う。

「アァァァァァァァ―――!」

怒声と共に鉄球を振り回せば、重厚な鉄骨が砕け、壁は紙のように引き裂かれて飛び散る。
工場内は激しく揺れ動き、瓦礫が次々と舞い上がり、あたり一帯は砂塵と粉塵で視界を失った。
暴れ狂う鎖と鉄球が容赦なく工場の壁や柱を打ち砕き、破壊された鉄材が飛び交い、激しい風圧が嵐となって全てを薙ぎ払う。

呼延はその猛威を目の当たりにしながらも、静かに暴走する鉄鎖から身を躱していく。
だが、その破壊はもはや個人の範囲に収まるものではなくなっていた。

鎖が激しく旋回し、建物を次々と破壊し、工場はもはや倒壊寸前である。
ついに巨大な梁が砕け折れ、支柱が歪み、工場そのものが轟音と共に完全に崩れ落ちた。

呼延もまた逃げる間もなく、その激しい崩壊に巻き込まれ、巨大な瓦礫の奔流に呑まれてゆく。
暴走するバルタザールの咆哮と共に、廃工場は巨大な墓標の如く完全に崩壊し、瓦礫と砂塵が旧工業地区の夜空を覆い尽くした。




976 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:48:59 AFOogGjc0
廃工場は、完全に崩れ落ち原形を留めていなかった。
壁は崩れ、鉄骨はねじ曲がり、地面には無数の瓦礫と鉄屑が散乱している。
粉塵がなおも空中に漂い、月明かりさえ遮る灰の帳となっていた。

先ほどまでの激烈な戦闘の痕跡が、あたり一帯を無言で物語っている。
その荒廃した光景の中に、ふと静けさが広がった。

だがその沈黙は、突如として舞い上がる瓦礫とともに破られる。
鉄の塵を裂いて、再び現れるは『鉄塔』呼延。

彼の身はすでに鋼。
建物の倒壊に巻き込まれた程度でどうにかなる呼延ではない。
彼は全身に気を巡らせると、自身を覆い尽くす瓦礫を一撃で吹き飛ばし、悠然と立ち上がった。

だが、そんな彼の目の前に広がる光景は、地獄そのものであった。
暴走するバルタザールは、多頭の竜ヤマタノオロチさながら四方八方へと無秩序に鎖鉄球を振り回し続けている。
狂ったように舞い飛ぶ鉄球たちはアメリカンクラッカーのようにぶつかり合って縦横無尽に軌道を変え、破損したその破片が周囲へ散弾のように散らばってゆく。
そして破壊よりも早い速度で新たな鉄球が次々と継ぎ足され、荒れ狂いながら周囲の建物を巻き込んで、辺り一帯を蹂躙し尽くしていた。

混沌。混沌。混沌。
完全に予測不能な無秩序の極みがそこにあった。
狂気じみた破壊の嵐が旧工業地区を飲み込み、建物は次々と破砕され、巨大な瓦礫の雨が降り注ぐ。
バルタザールは完全に恐怖と破壊をまき散らす『恐怖の大王』と化していた。

「ゥゥウオオオオオオオオオオオオオオォォォ――――――――――――!!!!!」

バルタザールの悲痛な叫びが絶え間なく響き、狂乱状態のまま周囲を破壊し尽くしていく。
轟音と共に、地面に亀裂が奔り、大地そのものが引き裂かれる。
衝撃波が工業地区の建物を無差別に打ち砕き、崩壊した建物が砂塵を巻き上げて呼延の視界を遮った。

呼延は全身に張り詰めた緊張を解かず、その暴走を鋭く見据えていた。
彼の理性は完全に崩壊し、誰がどう見ても暴走している。
もはやこれは勝負ではない。既に呼延の存在など認識の外になっているだろう。

呼延にとって、巻き込まれぬようこの場を離れることは容易い事であった。
ただ、引けばいい。すでに敵を見失っている相手が追ってくることはないだろう。

だが、それはありえない選択だった。

呼延は深く息を吸い、拳を握り締める。
呼延は孤高の頂にあった。
強すぎるが故に敵はおらず、仲間からも恐れられ裏切られた。

だが今、目の前には怪物がいる。
この暴力の化身たる『恐怖の大王』こそ、まさしく待ち望んでいた強敵である。
それを前にして引くなどという選択肢をこの呼延光がとれるはずがない。

何より、どちらか死ぬまで終わらぬからこその『死合』である。
呼延は再び地を踏みしめ、獣のように静かに、だが熱く構えを取り直す。

「现在是挑战怪物的时候了(怪物退治だ)!」

決意の声は低く静かに呟かれたが、その内に燃える闘志は天を衝くほどに激しかった。
呼延は激烈な気勢と共に、暴れ狂う鋼鉄の怪物へと真っ直ぐ立ち向かっていった。

呼延は凄まじい震脚で足元を踏み抜く。
その反動で倒壊した瓦礫や廃材が僅かに浮かび上がった。
それらを掌打で鉄砲玉の如く飛ばし、凄まじい速度でバルタザールの方向へと射出する。

その礫は無軌道に暴れまわる鎖に弾かれる。
だが、それでいい。
礫によって鉄球の軌道が変わり、一瞬の道が切り開かれる。
その中を、呼延は風の如く駆け抜けた。

だが、内に飛び込んだ鎖の嵐はますます熾烈を極めた。
鎖の動きは乱れ、狂い、予測不能の軌道で襲い掛かる。
呼延をして読み切れぬ混沌の渦。

呼延が僅かな迷いを見せた瞬間、その隙を狙ったかのように鉄球が側頭部を掠める。
その鎖はもはや質すらも違うのか、わずかな接触で擦れた鎖が頭部を削り、鉄の頭皮がベロりと捲れた。
そこに頭大を超えて子供ほどの大きさはあろうかという鉄球が容赦なく襲い掛かる。


977 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:49:21 AFOogGjc0
「グゥ――――ッッ!!」

受け止め弾く。
鋼鉄となったはずの骨が軋み、身体が悲鳴を上げる。
それでも呼延は冷静に対応し、受け止めた鉄球につながる鎖を掴み取って渾身の力で引きちぎった。
痛みを堪え、自らの血で赤く染まった呼延の目は鋭さを増した。

次の瞬間、展開された鎖がまるで生き物のように四方八方から襲い掛かる。
一本一本が独立した動きを持ち、絶妙なタイミングと軌道で攻撃を仕掛けてくる。
呼延を包囲するような多方向同時攻撃による飽和攻撃。

呼延は息を静め、混沌の中で丹田に意識を集中した。
視界を埋め尽くすほどの鉄球が迫りくる、逃げ場などない。

だが呼延の全身に気が巡るや、その身体は羽毛の如く軽くなった。
鉄の蛇が迫る瞬間、わずかな歩法で身を捻り、燕形の身法で華麗に宙を滑り抜ける。
続く無数の鎖が十方より同時に襲い掛かるが、呼延はあえてそれを引きつけ、蛇形の勁で鎖の軌道を見切って指先で僅かに逸らし、絡め取る。
次に襲い来る鎖の嵐は、龍形の螺旋の動きで風を巻き起こすかの如く、その流れを掌で操り、鎖同士を激突させ絡ませることで勢いを殺した。

一歩進むごとに鎖は逸れ、乱れ、絡まり、自滅するように落ちてゆく。
それはまさに、技と呼吸、内功の三位一体の境地。
生涯をかけて学んだ中国武術の技術が、思考よりも早く彼の体を動かしていた。

しかし、まさにその瞬間。
呼延が躱したはずの鎖が不規則な動きを見せ、ついに彼の右脚を捉えた。

呼延を引きずり倒さんとする鎖の枷を、足刀にて断ち切る。
だが足を止めた一瞬の間に、巨大な瓦礫の影から猛然と放たれた鉄球が、呼延の左肩を直撃した。
全身の筋肉が裂けるような激痛が走り、意識が飛びかける。

痛み。
この鉄の体を得てから、久しく感じていなかった痛みだ。
呼延は内功を巡らせ、全身の痛みを意志の力で封じ込める。
痛みよりも、それ以上の歓喜が体を動かす。

呼延は、ただひたすらに突き進んでいた。
考えるよりも先に体が動き、痛みを忘れ、ただ「辿り着く」ことだけを渇望している。

何かを目指すことなど久しく忘れていた。
敵の懐へ――否、そのさらに先にある何かへと。
この戦いで彼は何を求めているのか。
敵を討つことか。いや、違う。

既に武の頂を極め、孤高に生きてきた自分が、これ以上どこへ行こうとしているのか。
この一撃を打ち込んだ先に、果たして何があるというのか。

だが、ふと彼は理解した。
行き先など、もはや問題ではないのだと。
彼が渇望していたのは「どこか」ではなく、「辿り着こうと足掻くこと」そのものだったのだ。
そう悟った刹那、気づけば呼延はついに敵の懐へと踏み込んでいた。

刹那。彼の足が地を打つ。
それはただの踏み出しではない。
丹田より発した気が、脊柱を駆け、肩、肘、腕、拳へと一線に流れる。

精神の統一による内三合、体の統一による外三合、合わせて六合。
束ねて発するは形意拳、究極の理たる『合勁』也。

血に濡れた呼延の目が、まるで星辰のごとく光った。
全身が一つの鞭のようにしなり、螺旋のごとくねじれ、力が凝縮されてゆく。
もはや一撃に全霊が宿り、彼自身が鉄の「拳」と化す。

「――――――――――――――――――破ッ!」

混元一撃。
形意拳の極意たる一撃必殺。
全身の力を一点に集中させ、相手の中心を貫く一撃が放たれた。

鮮烈な血飛沫が空を染める。
呼延の拳は肘の先からバルタザールの水月に埋まり、その身を貫いていた。

「――――――」

間違いなく生涯最高の一撃。
今の一撃は、およそ人間の肉体に発せられる最大の一撃だった自負がある。

だが、違和感があった。
その手応えに心中で首をひねる。
呼延の拳に敵の肉を貫いた手応えがなかった。

その理由はすぐに判明した。
呼延の右手は肘から先がとっくになくなっていた。
己が武人として命と同義に鍛え上げてきたその右拳は、すでに遥か前、鎖の嵐の中で砕かれていたのだ。
飛び散った大量の鮮血は、相手のものではなく、彼自身の失われた腕から噴き出したものだった。

そんなことにすら気づかないだなんて、よほど夢中になっていたらしい。
まだ弱く、まだ未熟で、ただ伝説に憧れていただけの門徒であった頃。
汗に塗れ、拳に血をにじませ、倒れてもなお立ち上がろうとした、あの必死さ。
それを思い出していた。

「呵呵…………不成熟的、不成熟的」

己が未熟を笑う。
未だ道半ば、その先がある事を喜ぶように。
笑みを零した直後、背後から猛然と迫る巨大な鉄球の影を、呼延は薄れゆく意識の中でぼんやりと感じていた。

無数の鉄球が彼の肉体を叩き潰し、呼延の姿は瓦礫と血煙の中に飲み込まれていった。


978 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:49:42 AFOogGjc0


やがて、狂乱の嵐にも終わりが訪れる。
鉄球のうねりは徐々にその勢いを失い、暴れ狂っていた鎖もまた、力なく地に落ちた。
まるで嵐が吹き荒れた後の荒野のように、世界は不自然な静寂に包まれる。

バルタザールは、膝をついた。
仮面の奥で、濁った呼吸が乱れ、鉄仮面の隙間から幾筋もの熱気が漏れ出す。
鎖の奔流はもはや影もなく、超力の過剰使用によって彼の身体は限界に達していた。

「――――は……ァ……」

静寂の中、低く掠れた息が漏れる。
幾度も重ねた戦闘によって限界を超え、暴走という形で解放された力の代償が、今や彼の身体と精神に深い代償を刻みつけていた。

ふらりと立ち上がろうとして、崩れる。
手をついたその下、地面ではなく、鉄とコンクリートの砕けた平面が広がっていた。

そこには、もはや工場の姿はなかった。
鉄骨は骨のように砕かれ、コンクリートは土と交じって押し潰されている。
建物だったものの痕跡はほとんどなくなり、地面は幾本もの亀裂が走った巨大な裂溝となっていた。

旧工業地区の一角はまるで爆撃を受けたかのように、すべてが平らになっていた。
鉄屑と瓦礫、粉塵と残響のない空間。
それは暴力によって塗り替えられた、誰のものでもない死の大地だった。

そんな中で――その光景のただ中に、バルタザールは見た。

瓦礫の中心にそびえ立つ一本の『鉄塔』を。

それは人の形をしていた。
だが、もはやそれが人間かどうかも怪しい。
肩は砕け、腕は失われ、顔には深く鮮血がこびりついている。
それでも、全てが破壊された地に、その存在を示すように両の足で立っていた。

呼延光。

あれほどの破壊の中で原形を保っているのが奇跡である。
彼は死してなお『鉄塔』の名に恥じぬよう、風化した工場の亡霊の中にあってただ黙然と立ち尽くしていた。
拳の構えを解かぬまま、死のような静寂の中で、その影は風に揺れることもなかった。

バルタザールは、それを見ていた。
どれほどの時間が経ったのか。
思い出したように、バルタザールは動き出し、立ち往生していた呼延の首元に手を伸ばす。

今の彼を動かすのは自由への渇望。
ポイントの獲得を完了すると、何も言わずに振り返ることなく、瓦礫の中をゆっくりと歩き出す。

断片的な記憶の奔流が脳裏をめぐり、止めようもない頭痛が続く。
ただ、自身の鎖が音を立てて地に落ちる音だけが、虚しく耳に残っていた。

【呼延 光 死亡】

【F-2/工場跡地周辺(東側)/一日目・早朝】
【バルタザール・デリージュ】
[状態]:鉄仮面に破損(右目)、疲労(極大)、頭部にダメージ(大)、腹部にダメージ(大)
[道具]:なし
[恩赦P]:100pt(呼延 光の首輪より獲得)
[方針]
基本.恩赦ポイントを手にして自由を得る
0.休む
1.(俺は……誰だ?)
2.(なぜあの小娘(紗奈)を殺そうとした時、動けなくなったのだ?)

※F-2で廃工場が一つ消滅しました


979 : 灰塵に立つは鉄塔 ◆H3bky6/SCY :2025/04/01(火) 21:49:53 AFOogGjc0
投下終了です


980 : ◆H3bky6/SCY :2025/04/02(水) 21:48:28 UKGnlgYA0
長めの作品が来たら埋まりそうなので建てました

オリロワA part2
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1743597975/


981 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/04/04(金) 10:18:29 ZUPGwapE0
投下します


982 : 1 ◆C0c4UtF0b6 :2025/04/04(金) 10:18:51 ZUPGwapE0
沈みゆく月の光が剣士を照らす。
征十郎は、ブラックペンタゴンへの足を止めない。
道を少し外れ、森に入って遠回り。
身を隠すためにも最適である。

「…森の出口はまもなくか」
フレゼアの炎を切り裂き、その後は森の中からペンタゴンに向かっていた。

「…出たのは鬼のようだったな」
「あぁ、いい感だな、サムライ」
征十郎の歩みは止まった、気で分かる、邪悪さが、それから滲み出いた。
現れたのは、裏社会の厄災。



その厄災は、老人だった。
しかも雨に濡れ、ある程度は乾いているが、シミは消えていない。
無知な者が見れば、さしずめ、"水たまりに突っ込んだトラックが跳ねた水に思いっきり当たった人"
とでも評すだろうか。

だが知るものにとっては、厄災を届ける牧師。
旧時代、差別への解放を行った男と同じ名を持つもの。
名を、ルーサー・キング

「行先は…さしずめペンタゴンと言ったところか」
「…先は急ぐのでな、話は切り上げさてもらうぞ」
ルーサーの話を切り上げ、征十郎は進む。

「まぁ、待て、少し話をしよう」
だが、牧師は話さない。
誘うような話を、征十郎に持ちかける。

「…反応を見る限り、俺を知ってる人間じゃなさそうだな…だが、その雰囲気、裏の人間であるのは間違いないだろ」
「…だからなんだというのだ?」
征十郎は足を止めない
「そう機嫌を悪くするな、あぁ、なら名を教えてやろう、ルーサー・キング、それが俺の名だ」
征十郎の足が止まった。
その名は聞き覚えがあった、間違いない、沙姫が下部の人間だけとはいえ、取引していた裏社会の大物。

「…名を聞かされたことが有りか、さて、誰か…」
「…」
征十郎は無言を貫く、ルーサーの表情は見えない。
「"アビスの申し子"といたマルティーニ坊やは無い…イースターズのスプリング・ローズやアイアンハートのネイ・ローマン…それかジャンヌに怪盗ヘルメス…後は…こいつか…?」
疑問符を浮かべながらも、ルーサーのその問いは、まるで、そうだろ?と聞いてくるような厚みがあった。

「以前…ウチの下部組織と取引した日本人の女が一人…女が捕まった時、その下部組織との取引をバラしたとか…とんでもない野郎だ…」
「…」
征十郎は反応しない、もし反応したら、ルーサーは殺しにかかるだろう。
「もし…その女の…いないということは死んだか…まぁ、組んでいたら…」
鉄の音が響く、無機物が唸るように。

「…死んでもらうしか無いか…なぁ、サムライ」
「!」
だが、盟友の名誉のためなら。
この刀を振るってみせよう。


983 : 1 ◆C0c4UtF0b6 :2025/04/04(金) 10:19:15 ZUPGwapE0


「いい腕だ、切っちまうか、これを」
「…」
波のように襲った鉄の槍達は、不意打ちにも関わらず、征十郎に切り落とされた。

「鉄を操るか…だが、私の前には無意味だ」
「そうかい、なら、次は量だ」
鉄が生み出され、いくつもの小粒の銃弾となる。
しかし、征十郎の前に、それは無意味、数多の球が落とされる。

「キエエエエエエ!」
そして、一気にその間合いを詰める。
八柳の剣術、それが今、牧師の喉元にまで届く。
「簡単に取らせはしないさ」
だが、ルーサーは受け止める。
体を守るのは、鉄の鎧、刀をみごとに受け止める。

「下からどうだ?」
「!」
あの海賊にも見せた三日月の刃が、征十郎に迫る。
「見える」
「ほう」
刃を落とし、征十郎は下がる、互いにダメージはなし、貯まっていくのは疲労のみ。

「もう一度受け取ってくれ、槍の雨だ」
「実質2度打ち、悪手だ」
捌く、捌く、捌く。
刀の錆に、牧師の鉄はなっていく。

「…時にはこちらからの攻めはどうだ?」
「大胆だな」
鉄のガントレット、それが征十郎の振るう刀とぶつかる。
互いに鍔迫り合う、老いてなお、久々の戦闘でも、しっかりと振るわれる。
そして、互いに腕と刀が火花を散らして暴発した。

「ふぅ…サムライ、やはり、いい腕だな」
「…そうか」
征十郎にとって、ルーサーとの戦闘において優先するもの、それは"逃げ"
(最優先はペンタゴン…さてどうするか…)
ルーサーに隙は無く、正面から殺すというのには、下手すればこちらが負ける。

ならば、どうするか。
「…老人は…老人だ」
そして、踏み込み。
「さぁ、どうくる?」
征十郎の刀が、下袈裟で来…なかった。

「…刀式のバントか?」
「そうだな…カァァァァァァァァ!」
柄を、ルーサーに押し付け力を入れる。
八柳の技でもない、なんでもない即興技。
そして、隙をついて、腹を響かせる。
老いた体に直接それは、響いた。
「今だ」
征十郎は走る、目標ブラックペンタゴン。
後ろは振り向くな、不意打ちはいずれ来るかもしれないと警戒しながら走る。

辻斬りの刃は、盟友のために

【C-4/森/一日目・早朝】
【征十郎・H・クラーク】
[状態]:疲労(中)
[道具]:日本刀
[恩赦P]:90pt
[方針]
基本.強者との戦いの為この剣を振るう。
0.ギャルを討つ
1.フレゼアとルーサーは二度と会いたく無い
2.ブラックペンタゴンに行ってギャルを待ち受ける



「…あいつがペンタゴンを優先するなら、こちらも港の方を優先させてもらおう」
ルーサーは立ち上がる、取引の集合地、港へと目指して。

「…さて、そろそろ、朝か」
牧師は、朝日の訪れに、感づいた。
沈みゆく月の流れにて。

「この借りは返すぞ、サムライ」
邪悪な意思は、消えず。

【C-4/森/1日目・早朝】
【ルーサー・キング】
[状態]:疲労(軽)、頬に傷、左腕に軽い負傷、腹に微小ながらダメージ、びしょ濡れ
[道具]:私物の葉巻×1
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.勝つのは、俺だ。
1.生き残る。手段は選ばない。
2.使える者は利用する。邪魔者もこの機に始末したい。
3.適当なタイミングで服も確保したい。
※彼の組織『キングス・デイ』はジャンヌが対立していた『欧州の巨大犯罪組織』の母体です。
 多数の下部組織を擁することで欧州各地に根を張っています。
※ルメス=ヘインヴェラート、ネイ・ローマン、ジャンヌ・ストラスブール、恵波流都、エンダ・Y・カクレヤマは出来れば排除したいと考えています。
※他の受刑者にも相手次第で何かしらの取引を持ちかけるかもしれません。
※沙姫の事を下部組織から聞いていました


984 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/04/04(金) 10:19:34 ZUPGwapE0
投下終了です


985 : ◆H3bky6/SCY :2025/04/04(金) 20:39:38 Lk7R6dco0
投下乙です

サムライとマフィアの遭遇戦、名乗りの反応だけで沙姫の存在まで言い当てるルーサー察しがいい
斬鉄が容易い征十郎のネオスは暗黒街の首領にも有効に働き互角の戦いが出来ている、その上で引き際を心得ているのは戦上手
強者同士の一瞬の邂逅は決着つかず、ブラックペンタゴンと港湾とそれぞれの決戦場へ

ちなみにタイトルは1でいいのでしょうか?
別のタイトルがあるのであればご提示ください


986 : ◆C0c4UtF0b6 :2025/04/04(金) 21:31:59 ZUPGwapE0
>>985
感想いつもありがとうございます
タイトルは「1」で構いません


987 : ◆H3bky6/SCY :2025/04/04(金) 22:04:19 Lk7R6dco0
>>986
ご返答ありがとうございます
そのタイトルでwiki収録させていただきます


988 : ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:32:51 NscQZ5Ew0
埋め立てついでにこっちに投下します、多分途中で切れます


989 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:33:51 NscQZ5Ew0
肉親の仇に頭を下げて生き延びる。
これほど惨めな話があるだろうか。

それなりに名の知れた暗殺者だった頃には、考えもしなかった状況だ。
無期懲役という絶望を抱えていても、俺はそれでも誇りを捨てず、いつか這い上がれると心のどこかで信じていた。

けれど今、俺は兄貴の仇を目の前にして、命乞いのような真似をしてしまった。
思い返せば虫唾が走る。だが、それでも俺は生きている。

銀鈴。
恐ろしく美しく、そして狂気を纏った女。
この女の姿には人間としてのリアリティが欠けていた。
光の届かぬ深海で育った珊瑚のように、異常な美と静謐さが共存している。
恐怖を感じるはずなのに、見惚れる感情のほうが先に喉を塞ぐ。

彼女が何を考えているのか、俺にはさっぱりわからない。
この女の興味が尽きるまで友人として付き合う、そう言った彼女の言葉に嘘がないことは理解できる。
彼女は本当に、俺を殺すことも、生かすことも、どちらでも簡単にできるのだ。

歯がゆい。息苦しい。
俺はまだ彼女を殺せる可能性を考えている。
いっそ諦めて媚び諂えれば楽なのに、どれだけ落ちこぼれても、どれだけ泥を舐めても、諦めが悪い。
だが、未来予知が教えてくれるのは、俺がどんな方法を取ろうとも、彼女の銃口が俺を確実に仕留める結末だけだ。

俺が兄貴を裏切った夜、兄貴は俺に言った。
「耐えろ、ジェイ。己を見失うな」と。
その言葉が皮肉にも俺を支え続けている。
耐えるしかない。
どれほど惨めでも、どれほど悔しくても、俺はこの悪夢を耐え抜いて、生き延びてやる。

そうだ、生きてさえいれば、いつかチャンスが来る。
銀鈴が俺に飽きるその瞬間まで縋り付いて。
そして、その隙を見逃さず、この俺の手で彼女を――。

「ねぇ、ジェイ?」

銀鈴の涼やかな声が、俺の耳元を撫でる。
背筋を冷たい汗が伝うのを感じながら、俺はぎこちない笑顔を作った。

「ああ、なんだ、銀鈴」
「あなた、時々とても面白い顔をするわよね。まるで今にも死ぬような」

内心を見透かしたようなその言葉に背筋が凍りつく。
無邪気に昆虫の羽を毟る子供のような笑顔。
返答一つ前違えば虫以下の俺の命など容易く詰まれるだろう。

「……実際に死ぬかもしれない状況だからな」
「まあ、どうして? 私があなたを殺すとでも?」

――俺は意識を研ぎ澄まし、僅かな未来を覗き込む。

>「お前みたいなバケモノを前にして、死の可能性を考えない方がどうかしてる」
【予知結果:次の瞬間、弾丸が眉間を貫き、何も感じる間もなく意識が闇へと堕ちていく。「バケモノ呼びは止めてって言ったでしょジェイ。悲しくなるわ」】

>「そんな訳ないだろ、信じてるさ」
【予知結果:銀鈴の瞳が興味を失い、次の瞬間、ナイフで喉を掻き切られる。「その返答はつまらないわ、ジェイ」】

>「殺す気ならとっくに殺してるだろ。俺が怖がる顔を見たいだけだろ、あんたは」
【予知結果:銀鈴は唇の端をわずかに吊り上げる。数秒の沈黙の後、彼女は笑う。「ふふっ、ジェイは不思議な人ね」】

彼女の問いに素直に答えた未来、媚びた回答をした未来、挑戦的に返した未来。
ろくな結末を迎えない未来の中から、ましな未来を選ぶ。

「殺す気ならとっくに殺してるだろ。俺が怖がる顔を見たいだけだろ、あんたは」

慎重に選んだ言葉を口にしながらも、俺の心臓は激しく打ちつけられていた。
銀鈴は唇の端をわずかに吊り上げる。
数秒の沈黙の後、彼女は笑う。

「ふふっ、ジェイは不思議な人ね」

銀鈴の微笑が少しだけ深まる。俺は乾いた唇を舐め、再び未来を探る。

「怯えている顔もいいけれど、私たちはお友達でしょう?
 お友達同士なら、もっと楽しそうにお話ししましょうよ」

それがまるで死の宣告のように響いて、俺は必死に震えを抑えながら頷いた。

「そうだな……友達、だからな」

俺はもう一度、惨めな嘘をつく。
生き延びるために、兄貴の仇に媚びる。

「どんなお話がいいかしら。うーん。そうだ、ジェイ。あなたのご家族ってどんな人たちだったの?」

俺は再び息を呑む。
兄を殺した女が、どの口でその問いを投げるのか。
人の心など微塵も気にかけるつもりのない独善性。それが理解できてしまった。
それは挑発や侮辱ですらなく、本心からただの友人同士の会話のつもりなのだろう。


990 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:34:46 NscQZ5Ew0
「……なんでそんなこと聞くんだよ」
「お友達だもの、お友達ってお互いのことを知りたがるものなのでしょう? 私もあなたに色々教えてあげるわ」

銀鈴の表情には邪気がない。
けれど、その無邪気さこそが透明なナイフとなって俺の胸をえぐる。
俺の感情などこの女は興味すらないのだ。
震える手を固く握りしめながら、乾いた喉をゆっくりと鳴らした。

「家族、か……」

だが、いいさ。どうせ今の俺に拒否権なんてない。
語りたくないと言えば即死するなんてことは予知するまでもなく見えている事である。
この女の望むまま、家族を殺した女に家族の話をするしかない。
震える手を固く握りしめながら、視線を下に落とし、感情を抑えるように静かに話し始めた。

「俺はハリック家の人間だ。予知の異能を使って裏仕事を請け負ってきた。昔はな、各国の高官だの大企業の役員だのが頭を下げて俺たちに依頼をしに来たもんだ」

銀鈴は無邪気な微笑みを浮かべ、こちらの語りを静かに促した。

「だが、開闢以来――誰もが超力を使えるようになってから、俺たちの仕事は奪われちまった。
 より安価で大量の人間を投入できる連中が現れて、俺たちは『高くて役に立たない連中』って評価になった。おかげで家は没落したよ」

言葉に苦味が滲む。声は徐々に熱を帯び、気づけば自然と口調も荒くなっていった。

「父は落ち込んだが、兄貴――エドワードだけは諦めてなかった。
 『価値を見誤るな』、『今は耐えるときだ』と、ずっと言い続けてた。だけど俺には理解できなかったんだよ! 家が傾いてんのに、いつまでも夢物語を語りやがって!」

唇を噛みしめる。今更ながら、自分の未熟さ、焦り、そして浅はかさを痛感していた。

「俺は兄貴の言葉を無視して勝手に動いた。
 結果は見ての通りだ。家を裏切り、アビスにぶち込まれた……。なのに兄貴は最後の最後まで正しかった。GPAが兄貴を買って、表の世界で成功したんだ」

いつでも冷静で、思慮深く、自分には見えない未来をはっきりと見ていた兄。
兄の姿が脳裏に浮かんで、自嘲気味に口元を歪ませる。

「兄貴は正しかったんだよ。俺は認めたくなかったけど、心のどこかじゃわかってた。
 兄貴を越えたいと思ったこともあったが、本当はただ認めて欲しかっただけかもしれない……なのに俺は、兄貴の価値を疑ってしまった。だから、こんなザマなんだ」

俺はいつしか拳を強く握りしめたいた。
語りながら、未来を予知するのも忘れ自分の感情を吐き出していることに気づいてハッとした。
言葉を紡ぐうちに、気づけば誰に話しているのかも忘れてありのままを口にしていた。
そんな俺の姿を、その兄を殺した女――――銀鈴は穏やかな瞳で見つめていた。

「興味深いわ、ジェイ。あなたの言葉には、深い愛情と憎悪が入り混じっているのね」

銀鈴の声に棘はなく、純粋な興味と喜びだけが宿っている。
まるで新しい玩具を見つけた子供のような好奇の瞳。
純粋さと悍ましさが混在する。

彼女の目は俺を捕らえて離さない。
人の心なんて理解する気もないのに、人の感情を読み取る事に長けている。
まるで人間を標本として見ている宇宙生物のようだ。

「そ、それより、銀鈴はどうなんだよ。お前の家族はどんな人間だったんだ?」

俺は焦りを隠すように勢い任せに話題を変えた。
問いを返された銀鈴はいつも通りの優雅な笑みを浮かべる。
とっさの言葉だったが、気分を害した様子はないようだ。心中で胸をなでおろす。

「私の家族は――誇り高く、美しかったわ」

銀鈴はゆっくりと、まるで夢物語でも語るように話し始めた。

「私はね、国を治める一族に生まれたの。皆が言っていたわ。私たちは選ばれた存在で、人の上に立つべきだって。
 父も母も、私を宝石のように扱ってくれたわ」

その言葉には柔らかな響きがあった。
けれど、そこに宿るのは優しさではなく、絶対的な自負と支配者の誇りだった。

「父はね、『選ばれた者が世界を導くべき』だと、いつも私に教えてくれたの。
 母は、私の笑顔を見るたびに涙を流して喜んだわ。私が笑うだけで、一族が歓喜に包まれる――そんな素敵な毎日だったわ」

一見すれば、ただの家族の思い出話に聞こえなくもない。
だが、その一言一言の裏には甘やかな毒のような、明らかに「人間」とは異なる狂気めいたものが滲んでいた。

「家族が私を好きだったように私も家族が愛していたわ。家族が喜ぶこと、それが私の幸せだった。
 だから、私は、家族が喜ぶことをたくさんしたの」

思い出を懐かしむように彼女の目が楽しげに細められる。

「家族の誕生月には特別徴税をして、その収益で街ごとパーティを開いたのよ。
 花火を打ち上げて、氷の像を飾って、子供たちに踊りをさせて。みんな、とても楽しそうだったわ。私の国はまるで夢の国のようだったのよ」


991 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:35:09 NscQZ5Ew0
俺は言葉を失っていた。
誰が楽しんだというのか。徴税され、踊らされた民が笑っていたというのか。
だが、銀鈴の表情に嘘はない。本気でそれを『善政』と思っている。

「私に忠誠を尽くして、私の笑顔を喜びにできる人たち。家族って、いいものよね。
 そんな人たちに、ふさわしい場所と生き方を与えるのが、私の役目だったのよ。
 だから、『家族が欲しい』って子に私――姉をプレゼントしてあげたりもしたのよ」

意味を理解できず思考が一瞬止まった。

「リボンをつけて、お人形みたいに。ちゃんと箱に詰めて、贈ってあげたの。
 あの子、とても嬉しそうだったわ。『ありがとう』って、ちゃんと目を見て言ってくれた」

脳裏に浮かぶ光景に、思わず口の中が乾いた。
「家族」という言葉の意味が、彼女の中ではどこか根本から違っている。
彼女にとってそれは、愛すべき対象ではなく――支配し、所有するものだったのだ。

「それが、お前にとっての『家族』なのか……?」

俺の声は、震えていただろう。
だが、銀鈴は軽やかに笑う。

「ええ。とても素敵でしょう?」

その笑顔は、人を焼く火を「綺麗」と形容するような狂気だった。
人を人として見ていない何かの答えに思わず言葉がこぼれる。

「……まるで神様だな」

その言葉に、銀鈴はふと動きを止めた。
一拍の間を置いて、微笑みながら言う。

「神様? おかしなことを言うのね、ジェイ」

冗談でも聞いたように、くすくすと笑う。
俺が返事をする間もなく、彼女は続ける。

「人間って、よく神に祈るわ。命乞いする時にも神を呼ぶ。
 拷問を受けながら『神よ、救いたまえ』と叫ぶ人間がいたわ。
 子供を抱きしめて、『神様、この子だけは助けて』と泣く母親もいたわね」

懐かしい思い出でも語るように、銀鈴の瞳はどこか遠くを見つめていた。

「でもね、ジェイ? 全員死んだの。私が殺した。
 神に救われた人間なんて、ただの一人もいなかった」

支配者の語る絶対的な真実に、思わず息を呑む。

「だから私は、神なんていないと知ってるの。
 皆が呼ぶ神より、私の方がずっと多くの命を動かしていたもの。
 ――少なくともこの目で見た限り、神は、どこにもいなかったわ」

彼女は穏やかに笑う。
そこにあったのは、信念だった。
その笑顔は、心の底から信じている者のそれだった。

「そんな、ありもしない存在に縋るだなんて。かわいらしいと思うけれど、ふふ、少しおかしくって」

その笑みは祈りを覚えたばかりの人間に肩をすくめる超越者の笑みだった。
『神』など存在しない。
自分が見てきた現実の方が、よほど真理だと。
この女は本気で言っているのだ。


「それは――聞き捨てなりませんね」


だが、それを否定する声が響いた。
朝日を背にしてその男は現れた。

「どなたかしら。はじめまして、かしら? 人間さん」

銀鈴がやや首を傾げ、柔らかな笑みを浮かべる。

「人ではありません」

現れた男は、丁寧な口調ながら、どこか人を見下すような不遜さを隠さなかった。
その言葉は断定であり、宣告だった。

伊達に長年アビス暮らしはしていない。
この男が誰であるか、俺は知っている。

夜上神一郎。
死刑囚にして、神父。
受刑者でありながらアビス内で教えを説く――――。


「――――――『神』です」


992 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:36:22 NscQZ5Ew0


夜が明けて、空が完全に白んだ頃だった。

炎と氷が交錯し、憎悪と信仰がぶつかり合った夜。
ジルドレイ・モントランシーとフレゼア・フランベルジェの衝突に端を発した戦いは、生命と超力の限界を超えて森を焼き尽くし、地を凍てつかせた。

その狭間で、二つの魂が異なる道を選んだ。
アルヴド・グーラボーンは、己の内に眠る怒りを選び、死をも厭わずに罪への償いを遂げた。
そしてフレゼア・フランベルジェは、最期の最期で怒りを捨て、初めて誰かを救うという喜びの中でその命を燃やし尽くした。

彼らの選択を見届け、導きを終えた神父・夜上神一郎は、生き残った少年と少女を残し、新たな罪人を求めて地獄の底を彷徨い歩いていた。

信仰なき末法の地で、神父の役目はまだ終わってはいない。
彼が審判を下した者たちは、それぞれの運命を受け入れ、超えるべき試練と対峙した。
だが、あの炎と氷の交差点の向こうには、いまだ審判を待つ罪人たちが監獄の闇に潜んでいる。

神父は振り返ることなく歩き続けた。
少年は、己の弱さを知りながらも戦いを選び取った。
そして少女は、過去に囚われた自身の心と向き合い、その命を懸けて少年を救おうとした。

あの場に残された二人は、もはや神の介入を必要とはしていない。
むしろ少女と向き合う事こそが少年の神と向き合うだ一歩である。
そう判断した夜上は迷わずその場を離れた。

彼が求めるのは、「神と向き合う資格がある者」。
人は迷いを抱えるときこそ、信仰を希求する。
救いとは、地に這う者にこそ意味があるのだ。
ならば神父は、その希望を見つけるために、地獄を歩き続けなければならない。

靴音を殺し、白く凍りついた大地の上を静かに進む。
森林地帯は、超力の残滓によってなおも歪み、凍土と化したその場所には、神の啓示にも似た微かな余韻が残されている。

夜上神一郎の動きに迷いはなかった。
それは神に導かれているからではない。
己の内にある「神」が、まだ飢えているからだ。

罪を裁くこと。
魂を揺さぶり、暴き、試練を課すこと。
その欲求が満たされるまで、彼は止まることができない。

そして今、その視界の先に、二つの気配を神は見つけた。
知った顔と、見知らぬ顔。
それらに向けて神父は神を名乗った。

「へえ……あなたが、『神』」

銀鈴は愉しげに目を細め、まるで上質な玩具でも見つけたかのように神父を見つめた。
その瞳は、気まぐれ一つで人の命を摘み取る捕食者のもの。
けれど夜上は、それに怯むことなくただ当然のように返す。

「ええ。神(わたし)が『神』です」

異様な存在と異様な存在が、言葉を交わす。
銀鈴の異質さは誰の目にも明らかだったが、夜上はそれに対して一歩も引かない。
己の中に確かな神を持てば、恐れるものなどないのだから。

「まぁ。私、神に会うのは初めてよ」

陶器のような白い肌に、黒いドレス。
銀鈴は子どものように手を叩き、楽しげな声をあげた。
踊るように優雅な足取りで一歩、二歩と軽やかに神父へと近づく。
その動きはまるで手を取り合ってワルツを始めるかのようだった。

「……っ!?」

驚きはジェイ一人のもの。
ジェイには、その瞬間何が起きたのか理解できなかった。
ただ、銃声が響いたことだけが現実として理解できた。

「止めておきなさい。無駄弾だ」
「あら? 目がいいのね、あなた」

気がつけば、銀鈴の手にはグロック19が握られていた。
神父は自身に向けられた銃口を手の甲で逸らし、放たれた弾丸を避けている。
殺気も気配もなく、それはごく自然な仕草の延長として放たれた殺意だった。

未来予知を挟む間もない、余りにも自然に行われた意識の外からの攻撃。
殺しを生業としていたジェイですら察する事の出来なかった攻撃を、神父は容易く回避している。

「私ね、たくさんの人間を殺してきたけれど、神を殺すのは初めてなの」

銀鈴はまるで小さな秘密を打ち明けるように、口角を上げた。
そして、踊るようにくるりと銃を回し、再び構え直す。

「神の中身がどうなっているのか、見てみたいわ。人間と同じ赤い血袋かしら?」
「ならば、自身の頭を撃ち抜くといい。万人の中に神はいる。もちろん、あなたの中にも」

夜上は恐れるでもなく静かに挑発めいた教えを説く。
狂気すれすれの哲学を、当たり前のように口にする。

「……ふふ、嫌いじゃないわ。そういう物言い」

少女の口元に愉悦が滲み、穏やかな言葉を再度響いた銃声が遮る。
だが神父は動かない。いや、動いたのは周囲の空気だけだった。
銃弾を紙一重で躱し、彼は掌で銀鈴の腕の動きを流す。
まるで舞でも踊るかのような、静かで美しい一連の動きだった。


993 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:36:56 NscQZ5Ew0
(バケモンか……?)

遠巻きに二人を見ていたジェイが、思わず唾を飲み込む。
互いにまるで型に嵌められた舞踏でも踊るように無駄がない。

そして恐るべきことに、この二人はここまでの攻防に超力を使用していない。
この戦闘はあくまで人間の動作の延長で行われる。
だが、それは常人の域を明らかに逸脱していた。

銀鈴の攻撃には、殺意がない。
日常動作のように自然に行われる殺害行為は予測が困難だ。
だが夜上は、それを迷いなく見極め、避けている。

何のことはない。
夜上はそもそも予測など行っていない。
この男が行っているのは、ただ見てから反応するというそれだけの行為である。

『目』がいい。ただそれだけ。
だがそれこそが、銀鈴にとっての天敵だった。

ジェイはじっと二人の攻防をを見ていた。
息を殺しながら、それでも予知を張り巡らせ続ける。
視線を逸らしたら最後、次の瞬間には何が起きるか分からない。

繰り返される攻防の中、互いの動きが止まることはなかった。
銀鈴の舞うような動作の中に潜む殺意と、夜上神一郎の無駄のない応答が、ぴたりと均衡していた。

そう、膠着していた。
2万人を殺した攻撃に特化した女と、神の目もつ防御に特化した男。
通常の戦闘とは異なる、ある意味で神話のような静かな膠着。
異能も使われていない。ただ、それでも命のやり取りが続いている。

「いつまで続けるつもりですか?」
「そうねぇ。少し踊り疲れたかしら」

銀鈴は、まるで茶会でも終えた後のような軽やかさで答えた。
そしてあっさり攻撃の手を止め踵を返すと、ふわりと裾を揺らしながら一歩、二歩と距離を取る。
ふぅと息をついて、そのまま休憩するように肩から下げていたディパックに手を伸ばした。

まるでティーセットからポットを取り出すかのようなどこまでも上品で、どこまでも平和的な殺意とは無縁の動作。
張り詰めた緊張がほんの一瞬、緩んだ。
戦闘は終り、休憩のためにディパックから取り出した水でも飲むのかと、傍から見ていたジェイですらそう錯覚するほどに自然な仕草だった。

だが――未来が歪んだ。

(違う! 水じゃない……!)

ジェイの脳裏をイメージが駆け抜ける。
銀鈴の手が掴んでいたのは水ではなかった。

銀色に光る、小さな円筒。
催涙弾。

(撒く気か!? この場をひっくり返すつもりか!?)

銀鈴の目が、獲物を弄ぶ猫のように細められる未来。
白煙が辺りを包み、視界が奪われる未来。
その中で、彼女が誰をも殺せる――否、誰であれ殺すつもりでいるという未来。

戦況を見極めていたジェイの背筋に、冷たいものが走った。
このままでは、自分も巻き込まれる。
神と悪魔の狂宴に、名前すら残さず消される。

そして、気づけば声が喉を突き破っていた。

「ま、待った! ストップ! ストーップ! そこまでだ、銀鈴!」

叫んだ直後、ジェイは自分の愚かさに頭を抱えたくなった。

(バカか俺は……!? このバケモノが、俺の言うことなんて――)

だが。空気が、変わった。
銀鈴の手が、ディパックの中でぴたりと止まる。
夜上神一郎もまた、その鋭い視線を、わずかにジェイへと向けた。

沈黙が、流れる。
まるで――一瞬だけ、この世界の時が止まったかのようだった。

そして銀鈴は、柔らかく笑った。
白磁のような手が、ディパックから取り出したのは、銀色の筒ではなかった。
それは、食料パックに添えられていた何の変哲もないペットボトル。
カチリと音を立てて蓋を外すと、銀鈴はゆっくりと口元に運ぶ。


994 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:37:16 NscQZ5Ew0
喉が鳴る音はしない。
それどころか、まるでその水すらも、銀鈴の意志に従って静かに沈んでいるかのようだ。
ジェイはその一連の動作を、唖然と見つめていた。

(……止まった? ……え? マジで?)

予知が外れたのではない、銀鈴が選択変えたのだ。
他ならぬジェイの行動で。

それは、まるで自分の言葉が鐘の音となって、舞台にいた役者たちの舞を一瞬だけ止めたような光景だった。
その事実にジェイは無意識に、ごくりと唾を飲み込んだ。

――止まった。
――言葉が届いた。
――意味が、あった。

それが、どれほど異様なことか、本人が一番よく理解していた。
冷たい汗が、首筋をつたう。

銀鈴の興味が続く限り生かされるという友達契約を交わしているジェイにとって銀鈴の注目を引くことは悪い話ではない。
だが、それも程度による。

注目をされすぎるというのも生存戦略としてはマズい。
暗殺者は付かず離れず無害を装うわなければならない、そうでなければ万が一の正気すらなくなってしまう。
銀鈴が、喉を潤しながらこちらを向いて、いたずらっぽく微笑んだ。

「ジェイったら、大声を上げてどうしたの? あなたも飲む?」

銀鈴は飲みかけのペットボトルを差し出す。
ジェイはそれを受け取る事も出来ず、喉を鳴らす事しかできなかった。
銀鈴はじっと彼の反応を観察し、小さな笑みを絶やさなかった。
彼女は答えを急かさず、まるで時間すら支配しているかのように悠然とその場に佇む。

静かな緊張がその場を包み込んだ。
その沈黙は、微かな風音と共に伸びていき、どこか非現実的な静謐さを生んでいた。
だが、その静寂を破ったのは、落ち着いた男の声だった。

「銀鈴さん、といいましたね。改めて、お話をしましょう」

先ほどまでの小競り合いを帳消しにするように、夜上神一郎が穏やかに声を上げた。
裁定者としての威厳含んだ声で、神の目は慎重に銀鈴を見つめる。

「いいわよ。あなたにも少し興味が湧いたもの。お話ししましょう」

銀鈴の笑みは相変わらず柔らかく、しかしその内に秘められた何かは、陽だまりに潜む蛇のように禍々しい。
天上の存在が気まぐれに人間と対話してやるかのような物言い。彼女の視線一つにすら、重さがある。

「誰の中にも――神はいます」

改めて、夜上が持論を語り始めた。
銀鈴という異常を前にしながら、変わらぬ自らの信仰体系を静かに、しかし確信に満ちた口調で語る。

「神とは、外から降りてくるものではありません。
 人の内に芽吹くもの、欲望の果て、あるいは真理の探求の先に見出されるもの。
 それを、『神』と呼んでいます」

銀鈴は黙って聞いていた。
ただ、目を細める――その目には冷笑も否定もない。
ただ純粋な好奇と観察だけが浮かんでいた。

「何が言いたいのぉ?」
「あなたの中にも、神はいる。そういう話です」

まるで舞台の上にでも立っているかのように、銀鈴は優雅に首をかしげる。
人間の言葉に真剣に耳を傾けているが、あくまでそれは“演目”の一つでしかない、そんな印象があった。

「あなたの信仰を確認がしたい。あなたはこのアビスで何を求めているのです?」

夜上の問いに、銀鈴は肩をすくめるように笑った。
その動作一つにすら、どこか異様な艶めきと神々しさが宿る。

「私、人間が好きなの。見るのも話すのも、壊すのも。
 だから知りたいの新人類として。人間って、どこまで美しくて、どこまで愚かで、どこまで面白いのか――見届けたいのよ」

嘘ではない。嘘を見抜く夜上の超力『神の目』はそう告げている。
人間を試すという意味では銀鈴と夜上の方針は似通っている。
しかし、そこには致命的な違いがあった。

銀鈴は、人間をまるで標本のように観察し、実験し、壊すことで、その本質を暴こうとしている。
それは愛情でも憎悪でもなく、純粋な好奇心と欲望に基づくものであった。

一方、夜上は人間を試すことで、その中に眠る『神』を目覚めさせることを望んでいる。
彼にとって試練とは、魂を救済するための儀式であり、人間性の尊厳を引き出すための手段に過ぎない。
この致命的な違いがある限り、この2人は決して相容れない。


995 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:39:21 NscQZ5Ew0
「それでね。そのためにブラックペンタゴンを目指していたの」
「どういうことです?」

最終目的と目的地、話がいまいち繋がらない。
こうして改めて自分の意思を伝える作業をしてこなかったためか、説明が下手だ。

「うーん。どう説明したものかしら、あそこには何かありそうじゃない?
 そこで何かを見つけて、破壊したいのよ――――システムAを」

夜上の瞳がわずかに動く。
静かに放たれた言葉は、場の空気を引き締めるに足るだけの異物感を持っていた。
曖昧な根拠に、曖昧な推論を重ねているにもかかわらず確信を持ったような言葉。

「理由を訊いても?」
「ふふ、いいわよ」

銀鈴は人形のように微笑みながら、静かに答える。

「だって、あれには私の超力が使われているもの」
「……は?」

突拍子もない発言に思わず横からジェイが声を上げる。
冗談ではなく、彼女は本気でそう思っている。
その事実を、夜上はじっと見つめていた。

「あなたの収監はいつからですか?」
「うーん。あまり正確には覚えてないけど、12の時だったから8年くらい前かしら?」
「ならそれはおかしいですね。システムAの稼働はそれ以前からある。それこそアビス設立以前からあったと認識していますが」

夜上は事実を突きつけるように声を発した。
制御不能な力を持つ凶悪犯を御するアビスの設立と超力を制御できるシステムAは切っても切り離せない。
携帯化が最近試験的にアビスに導入されたというだけで、各地の治安維持のために昔からGPAによって導入されている。

「知っているわ。私もそれで捕らえられた口だもの。でも、私の超力の一部が使用されているのは事実よ」
「ふむ…………」

夜上の右目が細められる。
銀鈴の言葉に偽りはない。
彼女は、自分の超力が『システムA』に関係していると、純粋に信じている。

「なるほど。あくまで確証はないが、あなたはそう感じているということか」

夜上は、納得したように小さくうなずいた。
真実だと本人が信じていれば嘘にはならない、このような事例はよくある話だ。
もはや事実の裏付けよりも、信念の方が重要であると見切ったのだろう。

「あら、失礼ね。根拠はあるわよ」

不満げな銀鈴の声には、どこか確信めいたものがあった。

「そもそも、『秘匿受刑者(わたしたち)』は超力をシステム化するために集められた連中なんだから」

夜上をして知らぬ『秘匿受刑者』の目的。
これにはさすがの夜上の目も驚きに見開かれた。

「つまり、『秘匿受刑者』はシステムAを完成させるための研究材料だった。と?」
「さてね。そこまでは知らないわ」

その言葉を受け、夜上は話の真偽を考える。
システムA自体は8年以上前から、それこそ開闢の直後からGPAにより運用されている。
だが、枷による携帯化が実現したのはここ数年の話だ。

それはつまり現在進行形で研究は進められていると言う事。
銀鈴の超力がシステムの効率化に使用されたというのならない話ではない。

「否定できるほどの材料もない、ですね」

詳細は知らずとも『秘匿受刑者』という枠組みがあることは夜上も知っていた。
だが、そもそも存在が秘匿されたアビスの中で誰から、何を『秘匿』するのかという疑問はあった。
犯罪者の収監という枠を飛び越えて、人体実験めいた行為が行われているのなら、それは納得できる答えではある。

それをこんな刑務作業に放り込んだと言う事は、もうシステムは完成して『秘匿受刑者』の役目は終えたと言う事だろうか。
ともあれ考えても答えの出るものでもない。
何より、面白い話ではあるがこの場では余り関係のない話だ。
夜上にとって重要なのは、目の前の相手が救うに値する者か、断ずるに値する者か裁定を下すことである。

「信じますよ銀鈴さん。あなたの話を。つまりあなたは自身の力が利用されているシステムAを破壊したいと?」
「ええ。だって、気持ち悪いじゃない。私の超力(もの)を他人が利用しているだなんて」
「ほう。それはつまり」
「ええ、アビスの連中も無茶苦茶にしてあげたいの、私」

花のような笑顔で展望を語った。
受刑者たちを縛るシステムAそのものを排してアビス自体を転覆させる。
彼女の目は刑務作業などという小さな出来事を始めから見ていない。


996 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:40:00 NscQZ5Ew0
「なるほど、おおよそわかりました」

神父はまるで裁きを下す裁定者のように告げる。
これまでのやり取りと、観察を行い、神父は銀鈴という女を理解した。

「――――――あなたは確かに、己の中の『神』と向き合っている。
 それが神と理解してないだけだ。その執着、感情、破壊への偏執。それは信仰と呼ぶに足るでしょう」

迷いなく己を信じ、目的を遂行している。
そう言う意味では銀鈴という女は誰よりも己が神の声に従っていた。

「よくわからないけど、嬉しいわ。神に認められるなんて、そうそうないことよね?」

言葉とは裏腹に銀鈴は飴玉でも舐めるような軽さで言ったが、夜上はその言葉に取り合わず言葉を続ける。

「だが――――その神は、理を歪め、理性を濁らせる、外なる神に酷似した悪神だ」
「あら。御眼鏡には適わなかったと言う事かしら?」
「ああ。残念ながら、あなたは神(わたし)にも救えぬものだ」

その言葉には、どこか鎮痛なる響きがあった。
『救う』か『救わぬ』かではなく夜上をして匙を投げる『救えぬ』存在。
夜上の視線が、銀鈴からすっと横滑りする。

「むしろ、神(わたし)の興味はあなたにあります。ジェイ・ハリックさん」

不意に名を呼ばれ、ジェイはびくりと肩を震わせた。
身体が条件反射のように緊張をはね上げる。だが、その声には怒気も、威圧もなかった。
まるで、迷子の子供に声をかけるような、静かで、包み込むような温度があった。

「私とのお話は、もう終わりなのかしら?」

自分を前にして、他の者に興味が移るなんて経験は銀鈴にとって初めてだったのかもしれない。
唇をほんの少し尖らせ、不機嫌そうな仕草を見せる。
それは可憐な少女のようにも見えたが、底知れぬ深淵を孕んだ刃のような美しさがあった。

夜上はそれに一瞥だけ向け、やんわりと受け流すように、視線をジェイに戻す。
このアビスにおいて、銀鈴という存在を前にそのような態度をとれる者は、おそらくこの神父だけだろう。

「あなたには――迷いが見えます」

夜上の声は静かだが、言葉に宿る熱量は明確だった。
それは「諭す」でも「責める」でもない、ただまっすぐに「見ている」と告げるものだ。

「あなたは、その迷いと向き合い、救いを得るべきだ。神(わたし)は――その助けになりたい」

ジェイの心に、夜上の言葉が染み入る。
迷いを持つ者にこそ、救いの価値はある。
神父にとっては、すでに完結している銀鈴よりも、まだ迷いの中にいるジェイの方が己が救いを与えるべき対象だった。
ジェイの制止の言葉に神父が従ったのはそういう理由からだ。

「あなたの中にも、『神』はいるのですよ。けれど――あなたは、それと向き合おうとすらしていない」

夜上の言葉に、ジェイの顔がわずかに引きつる。

「可能性を恐れ、怒りに縋り、過去の影に囚われ……あなたは、自らを殺しているのではありませんか?」

言葉は大きくない。けれど鋭く深く、ジェイの心を突き刺す。
銀鈴の異質な存在感すら霞むような、夜上の言葉がジェイの中の何かを揺さぶっていた。

「あなたは、自分の足で歩いているようで歩いていない。その実、流されているだけだ。
 恐怖に。怒りに。そして過去と言う名の亡霊に」
「……俺は」

ジェイはその言葉を否定できなかった。
自分が色々なものから目を背けていることに自覚がある。
だからこそ夜上からすれば救いの見込みがある、極上の獲物だ。

「では、問います。あなたは、このアビスの地で何を選び、何を捨て、何を信じて生きるつもりなのか」

静かだが重い問い。
それは、選ばされるのではなく、自ら選ぶように強いる問いだった。

「答えられませんか。それもまた、選択です。
 ですが、迷いを断ちたいと願うならば、自ら一歩を選び取らねばならない」

一歩。夜上が歩み寄る。
けれど、手は伸ばさない。言葉だけが、彼の差し出す唯一の手だった。

「何、を……?」

選べというのか。
その答えは、未来を見るまでもなく、すぐに告げられた。


997 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:40:38 NscQZ5Ew0
「――神と共に行くか、悪神と共に行くのかですよ」

夜上と行くか、銀鈴と行くか。選択肢を突き付ける。
苦難を持つものに試練を与える審判者の問いかけだった。
だが、さすがにこれには銀鈴が横か口を開く。

「あら? 私からお友達を奪おうっていうの?」

微笑みは変わらない。だが、口元にわずかな翳りが浮かぶ。
自らの所有物を奪おうとする相手をこの女は許しはしない。

「彼の決断は彼のモノだ。神はそれを助けるまで。
 あなたが彼を友と称するなら、その選択を尊重できるはずでしょう?」
「ふふ。まあいいわ。ジェイが私を選ばないなんてあるはずがないものね?」

言葉に棘はない。甘く柔らかな声だ。
ほんのひとひらの疑念を差し挟む隙すらなく、彼女は本気でそう思っている。
選ばれるのが当然。選ばれないなど想定していない。彼女はそういう世界で生きてきた。

だが、その言葉を聞く者は違う。
彼女が万が一拒絶されたとき、どうなるのかは誰にもわからない。
殺すとも言わず、脅しもしない。それでもこの場にいる誰もが、寒気のような予感を覚えていた。

「さぁどうぞ、選んで。ジェイ」

その微笑みは、舞台に立つ王が民の忠誠を待つようだった。
優雅に、静かに、圧倒的な支配とともに。
夜上は一歩、銀鈴とジェイのあいだに立つ。

「周囲など気にせず、己が神の声に従うのです。
 その選択が何を引き寄せようとも止めてみせましょう。それが神の役目です」

淡々と告げられたその声は、裁きを下す審判のように冷ややかで、そして誰よりも慈悲深かった。
そして、再び夜上が口を開く。

「さあ――ジェイ・ハリック。迷える子羊よ。選ぶのです。
 悪神と共に進むのか、それとも神(わたし)と共に歩むのか。
 ――――――あなたの神は何を選ぶ?」

選べ。神に与えられた問いかけが、刃のように突きつけられる。
銀鈴を抑えられる神父がいるこの場は千載一遇のチャンスだ。
神父と共に行けば、銀鈴という怪物から安全に離れることができるだろう。

だが、逃げるだけが目的なら、この2人がやり合ってる間に逃げればよかったのだ。
それでも、ジェイは今もこの場にいる。
だというのに、なぜジェイは留まったのか。

短期的な未来しか見えないジェイには、遠い未来などわからない。
選択の先の最終的な結末などわからない。
そういうのは兄(エドワード)の領域だった。

ああ、その兄は、愚かな弟の未来を────


──耐えろ、ジェイ。己を見失うな──


────なんと語っていたのだったか?

ジェイはゆっくりと息を吸い込んだ。
その胸の奥に渦巻くものは、恐怖か、怒りか、それとも未だ癒えぬ後悔か。


998 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:40:52 NscQZ5Ew0
「……俺は」

言葉が喉の奥で詰まりかけたが、目を逸らさずに前を見据える。
その視線の先には、すべてを見透かすような夜上の眼差しと、どこまでも優雅に微笑む銀鈴の姿。

「俺は――――銀鈴と行くよ」

その言葉に、銀鈴の微笑みが深くなる。
まるで、最初からそうなることを知っていたかのように。

「いい子ね、ジェイ。やっぱり、わかってると思ってたわ」

銀鈴の微笑みは、すべてを手にする者のそれだった。
それは運命が彼女に与えることを拒まない、絶対者の笑み。
拒まれたことがない者の、純然たる支配者の眼差しだった。

「よろしい」

選ばれなかった夜上は小さく頷き、ゆっくりと両手を胸の前で組み合わせた。
その仕草に落胆はない。
それよりももっと素晴らしいものに出会ったような表情をしていた。

「その選択を祝福しよう」

その言葉は、決して皮肉ではなかった。
むしろ、深い慈しみと敬意を込めて放たれた祈りである。

ジェイは耐え忍ぶ道を選んだ。
怪物の傍で耐え忍び、いつかその牙を届かせる時を待つ。
そんな辛く困難な道を。

「その道を祝福しましょう。自らの意志で歩むと決めた、それこそが救いの第一歩なのです。
 たとえ、その道が苦悶と血の泥に塗れていようと、歩みを止めないかぎり、人は堕ちきらない。
 その目で見て、その足で歩み、その手で選びなさい。あなたが最後に何を掴むのか――それを神は、楽しみにしています」

祝福を述べる神父の口元にわずかな笑みが浮かんでいた。
ジェイの中に、まだ見ぬ信仰の種子を見たからだ。

裁定を終えた神父は振り返ると朝霧の中へと身を投じていった。
淡く光を帯びた空が、彼の背を照らしている。

それは、まだ誰にも祝福されていないこの地の夜明け。
神父は行く、神の救いを求める新たな罪人を求めて。

【E-3/草原/1日目・早朝】
【ジェイ・ハリック】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き延びる。チャンスがあれば恩赦Pを稼ぎたい。
1.銀鈴の友人として振る舞いつつ、耐え忍んで機会を待つ。
2.呼延光、本条清彦、バルタザール・デリージュ、銀鈴に対する恐怖と警戒。

【銀鈴】
[状態]:疲労(中)
[道具]:グロック19(装弾数15/19)、デイパック(手榴弾×3、催涙弾×3、食料一食分(水を少し消費))、黒いドレス
[恩赦P]:4pt
[方針]
基本.アビスの超力無効化装置を破壊する。
1.ジェイで遊びながらブラックペンタゴンを目指す。
2.人間を可愛がる。その過程で、いろんな超力を見てみたい。

※今まで自国で殺した人物の名前を全て覚えています。もしかしたら参加者と関わりがある人物も含まれているかもしれません。
※サッズ・マルティンによる拷問を経験しています。
※名簿で受刑者の姓名はすべて確認しています。
※システムAに彼女の超力が使われていることが真実であるとは限りません。また、使われていた場合にも、彼女一人の超力であるとは限りません。

【夜上 神一郎】
[状態]:疲労(小)、多少の擦り傷
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.救われるべき者に救いを。救われざるべき者に死を。
1.なるべく多くの人と対話し審判を下す。
2.できれば恩赦を受けて、もう一度娑婆で審判を下したい。
3.あの巡礼者に試練は与えられ、あれは神の試練となりました。乗り越えられるかは試練を受けたもの次第ですね。誰であろうと。
※刑務官からの懺悔を聞く機会もあり色々と便宜を図ってもらっているようです。
ポケットガンの他にも何か持ち込めているかもしれません。


999 : あなたの神は何を選ぶ? ◆H3bky6/SCY :2025/04/07(月) 21:41:10 NscQZ5Ew0
投下終了です。収まりました


1000 : 名無しさん :2025/05/07(水) 17:04:47 P5BzQR.M0
1000なら放送後も大盛況


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