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コンペロリショタバトルロワイアル Part4
コンペロリショタバトルロワイアルへようこそ
俺ロワ・トキワ荘にて進行中のリレーSS企画です。
当企画では新規書き手様を随時募集中です。
流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。
wiki
ttps://w.atwiki.jp/compels/
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【参加者名簿】
1/6【忍者と極道】
○輝村照(ガムテ)/●割戦隊(赤)/●割戦隊(青)/●割戦隊(黄)/●割戦隊(緑)/●割戦隊(桃)
3/3【遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's】
○海馬モクバ/○インセクター羽蛾/○龍亞
3/3【NARUTO-少年編-】
○うずまきナルト/○奈良シカマル/○我愛羅
3/3【無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜】
○ルーデウス・グレイラット/○ロキシー・ミグルディア/○エリス・ボレアス・グレイラット
3/3【名探偵コナン】
○江戸川コナン/○小嶋元太/○灰原哀
3/3【Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ】
○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/○美遊・エーデルフェルト/○クロエ・フォン・アインツベルン
3/3【Fate/Grand Order】
○キャプテン・ネモ/○ジャック・ザ・リッパー/○メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)
3/3【ちびまる子ちゃん】
○永沢君男/○城ヶ崎姫子/○藤木茂
2/3【クレヨンしんちゃん】
○野原しんのすけ/○佐藤マサオ/●ボーちゃん
1/2【ドラえもん】
○野比のび太/●骨川スネ夫
1/2【サザエさん】
○磯野カツオ/●中島弘
1/2【SPY×FAMILY】
○ベッキー・ブラックベル/●ユーイン・エッジバーグ
2/2【ひぐらしのなく頃に 業&卒】
○古手梨花(卒)/○北条沙都子(業)
2/2【Dies Irae】
○ウォルフガング・シュライバー/○ルサルカ・シュヴェーゲリン
2/2【金色のガッシュ!!】
○ガッシュ・ベル/○ゼオン・ベル
2/2【ローゼンメイデン】
○水銀燈/○雪華綺晶
2/2【To LOVEる -とらぶる- ダークネス】
○結城美柑/○金色の闇
2/2【BLEACH】
○日番谷冬獅郎/○リルトット・ランパード
2/2【BLACK LAGOON】
○ヘンゼル/○グレーテル
2/2【ハリー・ポッター シリーズ】
○ハーマイオニー・グレンジャー(秘密の部屋)/○ドラコ・マルフォイ(秘密の部屋)
1/2【ONE PIECE】
○シャーロット・リンリン(幼少期)/●ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵
2/2【そらのおとしもの】
○ニンフ/○カオス
2/2【アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
○櫻井桃華/○的場梨沙
2/2【彼岸島 48日後…】
○山本勝次/○ハンディ・ハンディ(拷問野郎またはお手手野郎)
2/2【ドラゴンボールZ&ドラゴンボールGT】
○孫悟飯(少年期)/○孫悟空(GT)
2/2【グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
○風見雄二(少年期)/○風見一姫
2/2【ジョジョの奇妙な冒険】
○ディオ・ブランドー/○マニッシュ・ボーイ
1/1【とある科学の超電磁砲】
○美山写影
1/1【東方project】
○フランドール・スカーレット
1/1【鬼滅の刃】
○鬼舞辻無惨(俊國)
1/1【魔法陣グルグル】
○勇者ニケ
1/1【HELLSING】
○アーカード
1/1【ロードス島伝説】
○魔神王
1/1【NEEDLESS】
○右天
1/1【葬送のフリーレン】
○フリーレン
1/1【オーバーロード】
○シャルティア・ブラッドフォールン
1/1【ハッピーシュガーライフ】
○神戸しお
1/1【11eyes -罪と罰と贖いの少女-】
○リーゼロッテ・ヴェルクマイスター
1/1【エスター】
○エスター(リーナ・クラマー)
1/1【鋼の錬金術師】
○セリム・ブラッドレイ(プライド)
1/1【アンデットアンラック】
○リップ=トリスタン
1/1【その着せ替え人形は恋をする】
○乾紗寿叶
1/1【お姉さんは女子小学生に興味があります。】
○鈴原小恋
1/1【血界戦線(アニメ版)】
○絶望王(ブラック)
1/1【うたわれるもの 二人の白皇】
○キウル
1/1【ポケットモンスター(アニメ)】
○サトシ
1/1【アカメが斬る!】
○ドロテア
1/1【ご注文はうさぎですか?】
○条河麻耶
1/1【カードキャプターさくら】
○木之本桜
1/1【おじゃる丸】
○おじゃる丸
1/1【【推しの子】】
○有馬かな(子役時代)
0/1【犬夜叉】
●悟心鬼
0/1【高校鉄拳伝タフ】
●石毛(チンゲ)
0/1【魔法少女リリカルなのはA's】
●ヴィータ
0/1【刀使ノ巫女】
●糸見沙耶香
80/94
『ロワルール』
※候補話における作中時間、殺し合いは深夜(0:00)から開始(キャラクター登場候補話は既に募集を終了しました。)
候補話募集後、本編開始の作中時間は深夜(1:00)より開始。
※最後の一人まで生き残った者を優勝者とし一つだけどんな願いでも叶えることが可能となる。
※6時間毎に放送で死亡者の名前が読み上げられる
※参加者が所持していた武器は基本的に没収。かわりに支給品が最大三つまでランダムに再配布される。
※一部の参加者には制限が掛けられている。その他にも様々な変化を施されている可能性がある
※参加者によっては様々な制限を掛けられている。制限については各々に支給された説明書に書かれている
※参加者名簿はタブレットから見れる。第1回放送後、観覧可能。
※候補話募集後の本編開始時の第0回放送(OP2)にて、禁止エリアの説明を行う。
『参加者の初期所持品について』
何でも入る四次元ランドセル(参加者及び、死亡した参加者の死体の収納は不可)
不明支給品1〜3
マップや参加者名簿を見れるタブレット
文房具一式
水と食料
『放送、禁止エリア、作中時間について』
【放送】
朝(6:00)、日中(12:00)、夜(18:00)、真夜中(0:00)
上記の時間帯に放送を行う。基本は乃亜の姿がソリッドビジョンで上空に映し出され、バトルロワイアルの主催者の声が島中に響き渡る。
【禁止エリア】
放送毎に3エリアずつ禁止エリアとなり、放送から2時間後にそこに踏み入れた参加者の首輪は数十秒の警告音の後に爆破される。
禁止エリアは、原則ゲーム終了まで解除されない。
タブレットのマップには禁止エリアは反映されないので、タブレットのメモ機能を使って指定されたエリアをメモするのが良い。
【作中での時間表記】(候補話は0時スタート、候補話募集後の本編は1時以降からスタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【状態表】
キャラクターがそのSS内で最終的にどんな状態になったかあらわす表。
〜生存時〜
【現在地/時刻】
【参加者名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:
1:
2:
※その他
〜死亡時〜
【参加者名@作品名 死亡】
『ランダム支給品について』
当企画に登場するキャラクターたちに最大三つまで、ランダムでアイテムを支給出来ます。
以下のルールを守っていただければ、基本的には何でもいいです。
【バトルロワイアルを破綻させるかもしれないアイテムには制限を掛けること】
強力過ぎるアイテム、死者蘇生、どんな願いも叶えてしまう。
このようなアイテムは、制限を掛けて支給してください。
【作品の把握難易度を下げる為、参加者名簿に表記された参戦作品に登場するアイテムのみを支給可能とします】
本編開始以降、キャラクターが名簿にはない、未参加作品のアイテムは支給禁止とします。
更に候補話内で一話退場したキャラだけが名簿に表記された、以下の作品からもアイテムの支給は禁止とします。
犬夜叉
高校鉄拳伝タフ
刀使ノ巫女
魔法少女リリカルなのはA's
【意思持ち支給品について】
意思を持ったアイテムや、一部の生物を支給品として出せます(限度はあります)。
そこまで厳しく制限することはありませんが、一例として、一部名指しで例を挙げます。参考にしてください。
支給禁止アイテム(キャラ)
マリィ@Dies irae
ガイモン@ONE PIECE
要制限アイテム
神鳥の杖@ドラゴンクエストⅧ 空と海と大地と呪われし姫君
ドラクエⅧキャラも居ない為、封じられている暗黒神ラプソーンの復活は重制限とし、企画の進行に伴い制限が解除されるような展開も禁止とします。
その他、支給品の汎用枠になりそうなもののルール
【遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's】
カードを実体化させて、戦わせたり効果を使用することが可能です。出せるカードはデュエルモンスターズと5D'sを出展とするカードのみ。
一度の使用で、使用不可になる時間が設定されています。
時間制限の基準として、例を貼ってみますので参考にどうぞ。
※神のカード、青眼の白龍(攻撃力3000)などの攻撃力の高いモンスターや、強力な効果を持つモンスター、魔法罠カード等は一度の使用で24時間使用不可。
青眼の白龍には及ばないものの、ブラック・マジシャン(攻撃力2500)等の高い攻撃力を持つモンスターは一度の使用で12時間使用不可。
エルフの剣士(攻撃力1400)などの、あまり強くないモンスターは一度の使用で6時間使用不可。
【ジョジョの奇妙な冒険】
弓と矢は支給不可。理由として、オリジナルスタンドを考えるのが大変なため。
スタンドDISCで支給できるスタンドは、原作本編に登場するスタンドで6部までとします。(7部以降や外伝作品に出てくるようなものは禁止)
【本来の所有者以外が使用する斬魄刀について@BLEACH】
乃亜によって調整され、始解まで使用可能とします。所有者によって相性が存在し、始解が使えないという展開もあり。
斬月のみ常時開放型なので、始解のまま支給。
卍解に関しては現状では、使用出来ないものとします。
【本来の所有者以外が使用する聖遺物について@Dies irae】
乃亜によって調整され、一つの武器の範疇として使用可能とします。所有者によって相性が存在し、うまく使えないという展開もあり。
聖遺物以外の要因でも普通にぶっ壊れますが、壊れてもその所有者は死にません(一体化してないので)。
現状では聖遺物と、霊的に融合するのは不可能です。(つまり、活動、形成、創造、流出等は不可、その他諸々も全部なし)
ただし、多少の身体能力向上と、一部の能力は使用できるものとします。(戦雷の聖剣なら雷を出して操ったり、緋々色金なら炎を出して操ったりする等)
【ポケモンの支給について@アニメポケットモンスター】
遊戯王のカードとは違い、それぞれが明確に意思を持つ存在である為に、登場数にルールを設けます。
『ポケモンの登場は先着五匹まで』
以下が、現在の登場しているポケモンになります。
○サトシのピカチュウ/○フェローチェ(SM編第114話に登場した個体)/○サトシのピジョット/○/○
実質、残り3枠となります。
『2023/5/28以降、ポケモンを支給品として登場させられる書き手様は、当企画に於いて候補話を除き、本編を6話以上書いて頂いた方のみに限定させて頂きます』
『書き手様一人につき、ポケモンを登場させられるのは一匹のみとする』
既にポケモンを支給した以下の書き手様は今後、ポケモンを新しく支給させることは禁止とさせて頂きます。
◆lvwRe7eMQE(企画主)
◆s5tC4j7VZY様
◆dxXqzZbxPY様
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『伝説のポケモンなど、ロワを破綻させたり、今後の本編執筆に支障をきたすようなポケモンには別途制限を課すこと』
これは参加者、支給品、全てに共通する制限とさせて頂きます。ポケモンも例外ではございません。
『参加キャラクター達の制限について』
バトルロワイアルを破綻させない程度に全員弱体化、能力に制限が掛かっています。
詳細はそれぞれのキャラの状態表より。
『本編の執筆に関して』
【原則、トリップを必ず付けて作品をご投下下さい】
※トリップとは
酉、鳥とも言います。
名前欄に#を打ち込んだあと適当な文字(トリップキーといいます)を打ち込んでください。
投稿後それがトリップとなり名前欄に表示されます。
忘れないように投稿前にトリップキーをメモしておくのがいいでしょう。
#がなければトリップにはならないので注意
。
【代理投下の際は、その代理投稿者様は、必ずその作品の作者様と分かるトリップを書いて下さい】
本編以降は、作品を投下した作者様の識別に必要ですので、お手数ですがご協力お願いします。
【予約について】
キャラ被りを避けたい、安定した執筆期間を取りたいという場合はまず予約スレにて書きたいキャラの予約を行ってください。
予約はトリップを付け、その作品に登場するキャラの名前を書きます。
キャラの名前はフルネームでも苗字だけでも構いません。
あくまでそのキャラだと分かるように書いてください。
自己リレーは、絶対ダメというわけではないので、予約自体が落ち着いてきた時には、自己リレーと予め言っておけばいいと思います(時と場合によるのと、限度はあるので)。
予約なしのゲリラ投下も可能としますが、書きたいキャラが取られて書いた分が無駄になってしまうこともあるので、そこはご了承下さい。
【予約期間について】
候補作を除き、本編開始から執筆数が1作までの書き手様の予約期限は5日間。2作以上執筆して頂いた書き手様は、5日間の期限に加えて、更に2日延長可能とします。
つまり、最大7日のキャラの予約が可能となります。
2024/01/22現在、延長期間込みで最大7日間予約できるのは以下の書き手様になります。
延長可能の書き手様
◆lvwRe7eMQEa(企画主)
◆/9rcEdB1QU様
◆2dNHP51a3Y様
◆/dxfYHmcSQ様
◆.EKyuDaHEo様
◆s5tC4j7VZY様
◆RTn9vPakQY様
◆ZbV3TMNKJw様
◆ytUSxp038U
破棄または予約期限を過ぎた場合の、同キャラの再予約は3日後まで禁止とする。
ゲリラ投下に関しても、万が一に揉め事にならないよう、破棄や予約期限を過ぎた場合は、そのキャラの投下を三日間禁止といたします。
厳密な予約期限について。
予約日から、その期限日当日の24時までを期限とします。
ですので、例えば2023/6/18の17:44に予約した場合、延長も利用したとして、2023/6/25の24:00までが厳密な予約期限になります。
当日の17:44を過ぎても、まだ予約期限の超過とはなりません。
企画の進行に支障が生じていると判断した場合等、企画主としてその書き手様の予約に介入する場合もございます。ご了承願います。
【登場させたキャラクターの自己リレーについて】
自作に登場したキャラを、自己リレーで予約出来るのは三日後とします。
これはゲリラ投下も一緒で、投下出来るのも三日後です。
※一部アニロワwiki様とアニロワIFwiki様より、ロワルールを引用したり参考にさせて頂きました。
孫悟空、リルトット・ランパード、鈴原小恋、北条沙都子、カオス
予約します
キャプテン・ネモ、神戸しお、藤木茂、魔神王、フランドール・スカーレット、勇者ニケ、ゼオン・ベル、ジャック・ザ・リッパー
予約と延長します
すみません、一旦予約を破棄します
破棄したメンバーで予約し、投下します
「い、いぢぢぢぢ……ひ、ひで〜目に遭ったぞ………」
かつて宇宙にその名を馳せた戦闘民族サイヤ人。
その最後の生き残りである孫悟空は、肩に負った傷の痛みに呻いた。
バビロンの魔女が放った貫通魔法の不意打ちは、彼をして覿面の効果を発揮しており。
びりびりと上着の道着を破いて包帯代わりに巻いてみたが、暫くは動かせそうにない。
(あのリーゼロッテがネモの奴を追うかも知れねぇ。そうなったら最悪だ。
そんな事になる前に、早いとこカルデアっちゅう場所に行きてぇけど………)
肩に負った傷は貫通している。服で止血こそしているが、本来なら絶対安静の傷だ。
だからこそネモが待っており、尚且つ医療設備の整ったカルデアに早く向かいたいが…
───だ、けど……誰も、助けて、くれないじゃないか……
脳裏に過るのは、蹲って此方を恨めしそうに見つめてきた藤木の言動。
恐怖に怯え、凶行に及ぼうとしていた子供の姿だった。
孫悟空は自分がこれまでの行動で間違った選択をしたとは思っていない。
事実ネモは悟空と共に過ごした数時間余りで、一定の成果を上げた。
サンプルが無いため首輪の解除にこそ至ってはいないが。
それでも乃亜が科した死の戒めを解くのに、この島で最も近い存在だと考えている。
だから、他の子供より優先するのは当然だ。ネモの役割は替えが効かないのだから。
それでも、実際に犠牲になるであろう少年を目の当たりにすると……
後ろ髪を引かれる様な複雑な思いが、胸中で渦巻く。
───弱虫なんじゃないの、おじさん。
ベジータの息子であるトランクスと、実子の悟天。
魔人ブウの一件の時に二人から向けられた視線と厳しい言葉が蘇ってくるようだ。
あの時も結局、二人をちゃんと納得させる事は出来なかったな、そんな事を考えた。
「────すまねぇ」
孫悟空と言う男は、犠牲になる子供達に心を痛める善良さを有していたが。
同時に、感傷を何時までも引きずるほどの青さもなかった。
これまで助けられなかった犠牲者の子供達と。
これからも助けられないであろう犠牲者となる子供達に、短い謝罪の言葉を贈って。
そして、カルデアの方角に視線を向けた。
方針に変更はない。まずはネモとしおの二人と合流し、体勢を立て直す。
カオスやリーゼロッテの様なマーダーとネモ達が遭遇する前に、急がなければ。
硬い決意と共に、未だ肩に走る鋭い痛みを捻じ伏せ。
駆けだそうとした、その時の事だった。
「孫悟空さん………ですわね?」
空から声を掛けてきた、金髪の少女と銀髪の甲冑の少女に気づいたのは。
□ □ □
シャーロット・リンリンの襲撃から一足先に難を逃れてから暫し。
聖ルチーア学園にて、メリュジーヌを待っていた沙都子達だったが。
そこにメリュジーヌの姿は無く。
連絡を試みると、此方の方で30分程休息を取ってから合流すると告げられた。
まさか不覚を取り深手を負ったのかと考えたが、それはないと一言で返され。
そして、一方的に通信は切られた。
実にマイペース。沙都子は嘆息せずにはいられない。
とは言え彼女が告げてきた現在位置は既に目と鼻の先で、ならば焦る必要も無いか。
いざとなればカオスと共に迎えに行けばいい。彼女はそう結論付けた。
「沙都子おねぇちゃん……!」
それからすぐ後の事だった。
修道幼女の姿に戻っていたカオスが、突如急に緊張した面持ちを見せたのは。
人の目が無いからと存分に甘えていた先ほどまでとは違う。
不安に駆られ、縋るような眼差しが、沙都子へと向けられていた。
どういう事かと尋ねてみると、カオスは無言でそっと沙都子を抱きかかえ。
教室の窓から飛翔し、補足した対象へ向けて指さしてくる。
尤も、沙都子の視力では小さな人影にしか見えず、説明を仰いだ。
するとカオスはいかにも自信なさげな表情で、その名を呼ぶ。
「悟空お兄ちゃんが……」
孫悟空。
この殺し合いの当初にカオスが出会い、惨敗を喫し。
そしてメリュジーヌをして死力を尽くして戦い勝利できるか否かと語った男。
怪物の様なその男の生体反応を、カオスのレーダーがキャッチしたという。
彼女の索敵能力は人間の比では無い、間違いは無いはずだ。
その話を聞かされた瞬間、沙都子が考えたのはまず逃げるか否か、という事だった。
孫悟空と言う男は孫悟飯の話によればとても殺し合いに乗るような人間ではない。
つまり、沙都子の敵にしかなりえない人間だ。
そしてカオスの話によれば、真っ向からぶつかれば玉砕になる可能性が高い相手でもある。
このタイミングでみすみすカオスを失いたくはない。
相手は未だ此方に気づいていない様だし、選ぶのは逃げの一手。
即座に結論を出し、カオスに命じようとしたその時だった。
「あれ……でも………」
沙都子が命じる前に、カオスは怪訝そうな声を上げて、何某かを調べ始めた。
真剣な彼女の様子に沙都子も口を挟めず、黙ったままカオスの横顔を見つめて待つ。
数十秒程の時間をおいてカオスは、調べ終わった孫悟空の情報を沙都子に述べた。
「お兄ちゃん……ケガしてるみたい……」
報告を聞いた瞬間、建てられた方針の風向きが変わった。
カオスすら真っ向から打ち破った男が、手負いになっているという。
優勝を目指す沙都子にとってそれは、とても看過できる情報では無かった。
カオスも沙都子の様子が変わったのを感じ取ったのか。
指示を求めるように、上目遣いで見つめる。
「どうする…?もしかしたら、今ならメリュ子おねぇちゃんを呼べば勝てるかも……」
相手は手負いの獅子。今が討ち取る絶好のチャンスなのかもしれない。
逃走。その二文字で決定したはずの方針に、今度は三択の選択肢が浮かび上がる。
このまま当初の予定通り離れるか。接触してみるか。
それともメリュジーヌを無理やりにでも呼び戻し、抹殺を試みるか。
「………………………」
曲げた人差し指を顎に絡め、黙考を行う。
今度はカオスが、思索を巡らせる沙都子の横顔をじっと眺める番だった。
一分ほど経って、孫悟空が自分の道着を損傷した肩に巻くのに手こずっている間に。
北条沙都子は、新たな決断を下した。
「………これから、孫悟空さんと会って来ましょうか、カオスさん」
真剣な表情で、沙都子は出した決断を口にした。
カオスは彼女の言葉を聞いて、びくりと肩を震わせた。
当然だ、自身の最強兵装であるアポロンすら真っ向から打ち破る相手。
そんなカオスの知る地蟲(ダウナー)の常識から外れた男を相手取るのだ。
緊張も不安も、ロールアウトしてから幼いカオスが抱かぬはずも無かった。
「…安心してください。今回は彼と事を構えるつもりはありませんから」
カオスの不安を表情から察したのか。
沙都子はそっとカオスを抱き寄せて、そう告げた。
だが、言葉の意図を理解できずにカオスの表情が怪訝な感情を含む。
一か八か手負いの内に奇襲をかけるというのなら分かる。
だが、ただ接触するだけでは余りにもハイリスクかつローリターンだ。
もし自分達がマーダーだとバレたら。当然の不安だった。
「勝てる状況を作った上で挑むなら兎も角、場当たり的に勝負するのはナンセンスですわ。
ただ、どうあっても我々が優勝するには、あの方にもいずれ勝たなければなりません」
孫悟空は強敵だ。カオスもメリュジーヌもそう評価を下している以上、間違いはない。
よって偶発的な遭遇戦で勝負を挑むのは沙都子にとって愚策。
討ち取ることに成功しても、その時点でカオスとメリュジーヌが相打ちになっていれば。
そんな状況になってしまえば、沙都子の優勝も絶望的になってしまうのだから。
勝負をかけるのなら、こちらがアドバンテージを握れる状況に誘い込んだ上で挑みたい。
そしてそのために、探りを入れられるなら早い段階で探っておきたい。
最強の対主催である男が、血を流した原因を。
優勝に近づくほど、彼と対決する未来は避けられないのだから。
「大丈夫、彼も首輪を嵌められている以上、乃亜と違って此方と条件は同じ。
それに血を流せるのなら───殺せない相手ではありませんわ。それだけは確かです」
カオスの頬に優しく手を添えながらほほ笑む沙都子。
そんな彼女の不敵な態度は、カオスにとって頼もしく思えた。
動力炉に渦巻く不安が、晴れていく様だ。
表情が変わっていく己の左腕の様子を確かめつつ、沙都子は続ける。
守っていては勝てない。カオスさんが負けたからこそ、だからこそ行く。
一度コテンパンにした相手が、進んで近づくなんて普通ならば考えない。
だからこそ、相手の意表を突ける。
語る魔女の言葉は、自信に満ち満ちていて。
だからこそカオスは、沙都子の為に問わねばならなかった。
もし自分達がマーダーだと気づかれた場合、若しくは既に他の参加者から悪評を聞いていた場合、どうするのか、と。
「そうですわね……その時は、大人しく降参しましょう」
「……え?」
カオスの表情が、さっきまでの曇ったモノに変わっていく。
失望すら孕んで居そうな、その表情を前に。
沙都子の態度は変わる事無く不敵なままだった。
カオスの失望を払しょくする為に、再び彼女は考えを述べる。
「悟飯さんの言葉が正しければ、それはそれは人格的にも素晴らしい方の様です。
なら抵抗しなければ、マーダーとバレていた場合でも殺される事は無いでしょう」
「で、でも……」
余りにも楽観的に過ぎる様に思える言葉に、カオスの表情が更に曇る。
殺されない、と言っても支給品などは没収されてしまうだろうし。
拘束だってされてしまうだろう。もしそうなったら、優勝の望みが潰えてしまう。
そんなカオスの懸念に沙都子は、「だからこそ、メリュジーヌさんを呼び戻さないのです」
そう語った。
「カオスさんなら、もうメリュジーヌさんの持つ通信機に呼びかける位は可能でしょう?」
「え、う、うん……」
沙都子の持つ玉虫色のイヤリング型携帯電話を手渡され。
シナプス最高の科学技術を結集して作られたエンジェロイドが解析を行う。
シナプスの技術と比べれば流石の天才の技術も骨董品と言う他なく。故に結果は当然、
周波数さえ合わせればメリュジーヌの持つ通信機にカオス自身が呼びかけられると言う物だった。
「…これでカオスさんさえいればメリュジーヌさんといつでも通信ができます。
別動隊で動いてくれる彼女がいれば、例え我々が捕まったとしても………」
「そっか、メリュ子おねぇちゃんを呼べばいいのね!」
その通り、と沙都子は首を縦に振った。
例え孫悟空が沙都子達の悪評を知っており、掴まって拘束されたとしても。
殺されさえしなければ頃合いを見てメリュジーヌに救援を頼み、脱出が可能だ。
沙都子がメリュジーヌを別動隊としたのは、アリバイ作りのためだけでなく。
こう言った相互に支援し合える関係の構築のためでもあった。
「……とは言え、絶対に安全とは言い切れません」
沙都子は自分が撃てる手は全て打った自負がある。
しかし、それでも今から行おうとしている事は綱渡りである事は否めなかった。
既に孫悟空が沙都子達の悪評を認知しており、殺しにかかってくるかもしれない。
或いはメリュジーヌの通信機が破壊され、脱出不可能な状況に陥るかもしれない。
リスクを挙げて行けばキリが無くなるほどだ。しかし、それでも。
「それでも……今危ない橋を渡っておくべきだと、私は考えますわ」
それでも、シカマルや一姫の撒く悪評が周知され切っていない今のうちに仕掛けるべきだ。
綱渡りをしなければ、格下は下剋上を仕掛けるチャンスを失ってしまう。
その想いを胸に、沙都子はカオスに今一度問いかける。
───私に、命を預けて下さいますか?
雛見沢の魔女は不敵な笑みを保ったまま、幼き天使を抱擁する。
抱きしめられたカオスは、沙都子の体温を感じながら暫く沈黙したあと。
やがて、意を決した表情を浮かべた。
そう、沙都子の言う通り、いずれ大博打は打たなければならない。
シナプスの最新鋭エンジェロイドでも及ばぬ怪物を、超えなければならないのだ。
だったら、今から臆している訳にはいかない。
臆していたら、きっと沙都子おねぇちゃんは一人でもやろうとするから。
沙都子おねぇちゃんにまで、要らないって言われてしまうかもしれないから。
それだけは、幼いカオスにとって、絶対に嫌なことだったから。
「───うん、一緒にやろう。おねぇちゃん」
沙都子の身体を潰さぬように優しく抱きしめ返しながら、カオスは力強く言葉を紡いだ。
その言葉が聞きたかった。沙都子はほくそ笑みながら体をゆっくりと離す。
そして片手でカオスの頭を撫でつつ、もう片方の手に握った拳銃をカオスに差し出す。
「これ、預かっておいてください」
そう言って、沙都子は拳銃を手放し、カオスに渡した。
別に隠し持ったまま接触してもいい。だが、数時間前のシカマルの事もある。
元々拳銃程度ではビクともしないであろう相手ではあるが。
それでも持ったまま接触すれば意識が拳銃に向かって、感知されてしまうかもしれない。
ならば最初から丸腰で接触し、殺気などを気取られるリスクを下げたほうが合理的。
その考えての譲渡だった。
同時に沙都子は、カオスに瞬間的な防衛行為を除く戦闘行為の一切を禁じた。
下手に抵抗しないほうが、捕虜として扱われる可能性が高いのだから。
渡された拳銃と、厳命された専守防衛の指示。
カオスは拳銃と沙都子の顔に何度か視線を彷徨わせた後、しっかりと頷く。
彼女の感情制御は幼いものの、決してバカではない。
沙都子の指示の意図を、即座に理解する聡明さがあった。
「さて…では、そろそろ行きましょうか」
カオスが自らの拳銃をランドセルに仕舞い、メリュジーヌの姿に変身するのを確認し。
沙都子は微笑みながら、彼女に抱きかかえられた。
不安はある。緊張はある。だが臆することはない。
直後、少女の矮躯が一瞬にして浮き上がり、負担のかからぬギリギリの速度で空を進む。
「──雛見沢に祀られるオヤシロ様として、孫悟空さんに挑戦です」
妖しい笑みを浮かべて、少女は征く。未来の栄光を得るために。
今の自分達の力量では決して及ばぬ相手を下すために。
この接触を、近いうちに来る勝利へとつながる布石とするために。
野心に燃えるその姿を知らない第三者が形容するなら、大胆不敵な策謀家の少女。
同時に、彼女の親友である古手梨花が見れば、きっとこうコメントするだろう。
アンタ、その無駄な情熱をもっと勉強に向けなさいよ、と。
□ □ □
北条沙都子らと孫悟空のファーストインプレッションは、険悪な物では無かった。
まだシカマルや一姫ら一派と遭遇しておらず、悟空は沙都子の悪評を知らなかったからだ。
加えて、沙都子がシカマル達との交戦の反省から武装解除していたのも功を奏した。
元々悟空はシカマルと違い誰も彼も疑ってかかる性格ではなく。
接近するまで気づかぬ気の大きさの、それも丸腰の少女を、最初から疑ってかかる要因も無かった。そして何より、
「悟飯の奴と会ったのか!?」
「えぇ、残念ながら直ぐに別れて、今どこにいるかは分かりませんが……
悟空さんの様に、このゲームに抵抗するとおっしゃっていましたわ」
沙都子が、彼の息子である悟飯の事を知っていたのが大きかった。
伝えられる特徴は、間違いなくセルゲームの時代の悟飯だ。間違いない。
悟空は破いた道着を沙都子の手でしっかりと巻き直されながら、それを確信していた。
今どこにいるかは定かではないにせよ、やはりこのゲームを打破するべく動いてくれているらしい。
「そうか…居場所が分かれば合流してぇ所だったんだけどな……」
「悟飯さんも言ってましたが、悟空さんも気で探す事はできませんの?」
依然悟飯と接触した際。
そう長い時間一緒にいたわけではないが、沙都子は彼と情報交換を行っていた。
その時に、気の探知がこの島では上手く働かないと伝えられていたが。
どうやら悟飯だけではなく、目の前の男も同じであるのか。
そう指摘してみると、悟空はあっさりと首を縦に振った。
「この島では気の探知が上手く働かなくてよ、それでも強ぇ奴なら分かるんだけんど──
…そうだ沙都子。おめぇの隣に立ってるそいつ、もしかして機械だったりすんのか?」
「……は?」
「おめぇみたいな気の小さい奴は分かりにくいけど、それでも近くに来れば分かるんだ。
でもそいつ全く気を感じねぇから、もしかして機械なんじゃって思ったんだ
人造人間って、オラ昔そういう奴らに会ったことあるからよ」
そう言って彼はメリュジーヌを指さして、能天気に尋ねた。
彼の問いかけに、メリュジーヌに扮するカオスはポーカーフェイスのまま考えを巡らせる。
不味い、どう答えるべきか。下手な答えではボロが出てしまう。
こういった服芸は、如何なシナプスの第二世代エンジェロイドでも門外漢。
固まってしまいそうになる彼女に、沙都子は先んじて助け舟を出した。
「メリュジーヌさんは人とは違う種族の方ですから。
その気とやらの感じ方も違うのでしょう、ただでさえ乃亜に何かされているようですし」
あっけらかんと。眉一つ動かさずに沙都子はブラフを述べた。
本物のメリュジーヌは恐らく気と言う物を纏ってしまっているだろうが。
それでも今孫悟空を欺くにはこれしかない。
彼は本物のメリュジーヌと出会ってはいないだろうから、勝算は十分にある。
とは考えつつも、冷や汗を禁じ得ない瞬間だった。
「すまない。私は君の言う気というものを知らないから…
君の言う人造人間と同じかどうかは判断ができない」
沙都子のフォローに合わせた答えを、カオスも続ける。
正直流石に苦しいかと沙都子もカオスも思ったが、嘘だと断じるのも難しいはず。
祈るような気持ちで、二人は悟空の反応を待った。
「そうか……まぁ確かに普段と比べれば気そのものが感じにくくなってるしなぁ……
でもカオスやメリュジーヌみたいな奴が他にもいると、気の察知だけに頼るのも危ねぇな」
どうやら、納得はして貰えたらしい。
特に反論することなく、悟空は自身の置かれている状況を考え込んでいる様子だった。
それを見て、話題を変えようと沙都子が口火を切る。
今の沙都子たちにとって、最も知りたい情報について切り込んだ。
「私からも少しいいですか?悟空さん。
その、貴方に大怪我を負わせた相手について知りたいのですが……」
目の前の悟空はどう考えても一戦交えた直後の様子だ。
であれば、交戦の原因と肩を撃ち抜くという凶行に及んだ下手人のことが知りたい。
おそらくは沙都子が対主催であっても尋ねていたであろう問いかけだった。
「あぁ、おめぇ達に会うちょっと前に、長い白髪に黒い服の女に会って───」
長い銀の髪をした黒い服の女。
それが、最強の男の肩の風通しを良くした張本人だという。
単純な強さでいえば自分に劣るが、とにかく頭が良いらしい。
更に様々な魔法が使えて、人類を皆殺しにしようとしている危険な女だとか。
(その方が悟空さんの肩を撃ち抜いた相手…)
伝えられた女の情報を口の中で反芻しながら、沙都子は考える。
その内容は件の女に交渉の余地……否、利用価値があるか否かだ。
悟空の話では、痛み分けに近い結果に終わった様子だが。
となれば、相手も決して軽くないダメージを負っていて、単騎で勝つのは難しい。
そういった結論に至っていても不思議ではないし、もしそうなら交渉の余地がある。
孫悟空を倒すために、結託する余地が。
メリュジーヌと合流して以降になるが、可能であれば接触してみたい。そう思った。
「その女には私たちも気を付けておきますわ。ありがとうございます。
……あと、もう一つだけ宜しいでしょうか。その、何故子供の姿に?」
もう一つ、沙都子には知っておきたい事があった。
それは、そもそも何故孫悟空と言う男が子供の姿でここにいるか、だ。
悟飯の話によると彼は立派な成人男性で、身長も相応の大きさだったという。
サイヤ人という人間に近しい宇宙人らしい、というのは悟飯から聞かされていたし。
実際目の前で尻尾を揺らす少年を見れば疑うべくも無いが。
まさか子供と同じ背丈になる術でも身に着けているのか。
そう尋ねると、やはりあっさりとした態度で彼は返事を返した。
「あ〜その、色々あってさ。少し前に不思議な力で子供の姿にされちまったんだ。
ま、オラにとっちゃ対して困る事でもねぇけど」
「成程……その不思議な力というのは魔法か何かで?」
「あぁ、ドラゴ───おわ〜〜たたた!!!………うん、まぁ、そんな所だ」
「………?」
何だか話の結び付近が不自然なやりとりになりとなり、怪訝な感情が湧いた。
それに従い少し追求してみたが、その後の悟空の返答は歯切れが悪く、曖昧な物で。
挙句オラの話はこの辺にして、次は沙都子の話も聞きてぇと誤魔化されてしまった。
(とは言え何か特別な能力であれば……彼の身体にも通じるできるという事でしょうか)
悟空が飲み込んだ話は気になる物の、これ以上食い下がった所で心証を悪くするだけだ。
それに聞いてばかりと言うのも此方を探っているのかと、疑心を抱かれるかもしれない。
収穫はあったし、この辺で納得しておこう。
「では、私たちの方からも、これまで出会った方々の話を───」
話を聞いて抱いた考えはおくびにも出さず。
今度は自分たちが話をする番だと、沙都子は口を開こうとした。
だが、その前に、悟空は片手を前にして制止するようなポーズをとった。
同時に視線を、目前の少女二人から傍らへと移す。
カオスも既にそうしており、気づいていないのは沙都子だけの様子だった。
まだ呑み込めていない魔女を尻目に、戦士は誰何の声を上げる。
「隠れてねぇで、そろそろオメェらも出てきたらどうだ」
なるほど、これが気の探知というものか。
頼りにするのも頷ける察知力だと感じながら、遅れて沙都子も悟空らと同じ方向を向く。
するとそこには、純白の制帽を被った、不愛想そうな金髪の少女と。
金髪の少女の傍らに並び立つ、沙都子たちよりも一回り年下と見られる紫がかった髪の少女が立っていた。
「よく言うぜ。とっくに気づいてた癖によ、猿ヤロー」
初対面なのに、随分な物言いだ。
沙都子が他人事ながらそんな感想を抱いた少女が、リルトット・ランパード。
その隣に立ち、此方を興味深そうに見つめるのが、鈴原小恋。
それが彼女らの名乗った名だった。
□ □ □
正直、その霊圧を感じ取った時、それなり以上に緊張を覚えた。
何故なら、その霊圧を知覚してまず脳裏を過ったのは。
見えざる帝国の主、ユーハバッハが定めた特記戦力。
藍染惣右介だったからだ。
ユーハバッハによって完聖体の力を奪われた今、戦闘になればまず勝ち目はない。
そんな相手が、降って湧いたように近隣に現れた。
そんな状況下で意識を尖らせないのは、リルトットから言わせれば間抜けもいい所だ。
(ま、とは言え……)
警戒は杞憂だったらしいけどな。
リルは目の前の孫悟空の実態を目にして、そう独り言ちた。
「へぇ〜…小恋は今までずっとリルと一緒にいたんか」
「うん!おねえちゃんが、小恋とずっといっしょにいてくれたの!」
七歳のガキと意気投合する姿を見れば、警戒したのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
受け答えからロリコンと言う訳ではなさそうだし、単純に精神年齢が近いのかもしれない。
というか、これ以上変態が現れられても困る。
「ロリコンじゃねーならガキに構ってないで、さっさと本題に入ろうぜ」
「ロリコンってなんだ?」
「………………」
変態でないのは結構だが、これはこれで接しにくいな。
そう考えていると、悟空を挟んで立つ少女が、ずれかけた場の雰囲気を戻す。
「悟空さん、急いでいるのでしょう?
逸れた仲間が危険な目に遭っているのでしたら、早く行って差し上げませんと」
そんな北条沙都子の理知的な物言いは、リルにとって微妙に違和感を覚えるものだった。
霊圧の大きさは疑いようもなく普通の人間の子供のそれだ。
自分が今まで面倒を見てきた鈴原小恋と同じ。死神の平隊士にも及ばない。
にもかかわらず、態度はまだ十の歳を数えた子供のそれではない。
ロリビッチの様に幼さから事態をよく理解していない訳でもなく。
むしろ正確に殺し合いという状況を理解したうえで、楽しんでいる様にも思えて。
どうにも掴みどころがなく、その立ち振る舞いは不気味ですらあった。
(妙な二人組だな)
掴みどころがないという点では、沙都子の隣に立つメリュジーヌもそうだ。
沙都子は流魂街の子供程度の霊圧しかないが、メリュジーヌに至っては霊圧を感じない。
にも拘らず、沙都子の言ではボディーガードには十分すぎるくらい強いという。
同行者の背後に佇み、口数が極端に少ない彼女の素性は沙都子に輪をかけて分からない。
まるで、少しでも所作を記憶されないようにワザと何もせず振舞っているようだ。
(ま、オレにとっちゃどーでもいいか)
妙な点は他にもいくつか見受けられたが。
彼女達は殺し合いに乗っていないといい、事実何か仕掛けてくるようには見えない。
悟空の事を警戒しているのかもしれないが、ならわざわざ刺激して一戦交えるのも徒労だ。
リルにとっては自分の安全が第一。相手が自分から大人しくしてくれるならその方がいい。
自分は探偵ではないのだから。藪をつついて蛇を出すのは他の奴がやってくれ。
脳内でそう結論を出し、沙都子たちのスタンスに思考を割くのをいったん中断する。
(ロリビッチの世話役は目途がついたし、次はテメェの身の振り方も考えるか…)
目の前の男はどう見ても首輪を外せるような技術があるとは思えないが。
少なくとも、小恋を押し付けるに足る善性と腕っぷしはあると見受けられる。
となれば、後はリル自身の動向だ。
このまま悟空達と一緒に行動するか。
それとも、単身で身軽に首輪を外せる技術者を探すかの二者択一。
選択肢が浮かんだ当初は、後者を選ぶつもりだった。
押し付け先が見つかった以上、お守りを続ける義理も必要も無いからだ。
それよりは、手分けして首輪を外す方法を探す方が合理的。
彼女のそんな考えは、悟空が次に発した言葉で大きく方向転換を成すことになる。
「……おめえら、ちょっとこれ、首に巻いてくれ」
重苦しい、声だった。
その声が響くと同時に、リルたちと沙都子達の手元に、タオルが放り投げられる。
どこかの施設の備品と思わしき、古ぼけたタオルだった。
特に怪しい所は見受けられない。
それを投げ渡して、悟空は真剣な顔で首の回り…首輪を覆う様に巻くことを促してくる。
リルはそれを見ると、特に異を示す事なく巻き付けて。
そして、悟空の雰囲気が変わった事に戸惑っている様子の小恋に近づき、彼女の首にも巻いてやる。
沙都子達も、怪訝そうな顔をしながら言うとおりにした。
「…よし」
確認後短い呟きを漏らし、悟空は自身のランドセルから1枚の紙を取り出す。
そして、もう一度沙都子達の首にタオルがしっかりと巻かれているかを確認してから。
短い文章が書かれたその紙を、リル達に提示した。
『首輪を外せる方法が分かった』
文面を見ると共に、リルの目が僅かに見開かれる。
一瞥してみれば、沙都子の方も似たような表情をしていた。
ぽかんとしているのは、ひらがな以外読めない小恋だけだ。
「………当然、お話はして下さいますのよね?」
僅かな沈黙の後。
詰問する様に、沙都子は紙を懐に仕舞いなおした悟空に尋ねた。
リルも無言のまま頷いて、小恋が口を挟まない様に口を抑えて、返答を待つ。
「あぁ、勿論だ。けど、すぐっちゅう訳にもいかねぇ。そういう約束だかんな。
………だからまずカルデアって場所で仲間と合流して、それから話すことになる」
悟空達が得た首輪に関する情報は、文字通り対主催にとっての切り札になり得る物だ。
同時に、悟空達がどれほどの情報を知っているか。
乃亜がそれを把握すれば即刻他の参加者に広められれば口封じに動かれてもおかしくない。
そうでなくともマーダーに密告されれば、乃亜に先回りで対処されてしまうかもしれない。
となれば、軽々に流布できる情報では決してなかった。
───もし、今後逸れたり、僕の身に何かあった時は、君の判断で伝えてくれ。
そうネモは言っていたが。
結局の所、彼の補足が無ければ説得力のある話をするのは難しい。
何故なら。
(考えてみりゃネモが書いてる以上の事を聞かれたら、オラじゃ何も答えられねぇ)
ブルマならまだしも、何一つ知識のない自分が上手く説明できる気はしなかった。
要領を得ない話とならざるを得ず、何か尋ねられればもっと答えられる筈もない。
それに沙都子達を疑うわけではないにせよ、見極める時間が欲しかった。
脱出計画を明かすに足る者であると、判断するに足る時間が。
(……要は内容を聞かせてほしかったらついてこい、って話か)
要求を聞いて即座に、リルは要点を把握した。
まず仲間と最優先で合流を目指して、その過程で自分達が信用できる相手か測り。
お眼鏡に叶ってやっとこのうざい首輪を外す方法を教えてくれるという訳だ。
勿体ぶっているのは気に入らないが、勿体ぶるだけの情報を掴んでいるのだろう。
「───いいぜ、このロリガキとオレはお前と一緒に行ってやる」
即決だった。
自分の脇に控える鈴原小恋の口から手を離し、ぷは、と息をするのを聞きながらリルトットは返答を返した。
「おねえちゃん……これからも小恋といっしょにいてくれる?」
子供と言うのは大人の想像以上に大人の事を良く見ている物だ。
小恋は今迄唯一頼れる相手であるリルトットの事をずっと観察していた。
だから言葉にしないまでも、彼女が何となく自分と離れたがっているのではないか。
そう感じており、それ故に彼女はこの時リルにそう尋ねたのだった。
「あぁ。もう暫くは、な」
懐かれる様な事はした覚えはないし、こいつ絶対これまでの話の流れ理解してねぇな。
ドライな感想を抱きつつもリルは小恋の問いかけを否定することなく、ぽんぽんと頭を叩きながら肯定した。
「えへへ〜……!ありがと、おねえちゃん」
頬に手を当てて嬉しそうにしながら、小恋は無邪気に笑う。
全く犬じゃああるまいし、何故ここまで見ず知らずの相手に懐けるものか。
子供(ガキ)は能天気で羨ましい。
案外みのりちゃんとやらもこいつが誑かしたのかもな。そう考えずにはいられなかった。
「────おし、オメェら二人は一緒に来るって事でいいんだな」
「うん。小恋、おねえちゃんといっしょにいく!」
小恋がリルの代わりに元気に返事を返して。
温度差はあるものの話は纏まったと悟空は認識した。
となれば後は、残るもう二人。
悟空は沙都子とメリュジーヌの方へと向き直り、もう一度尋ねる。
「そんで、オメェらの方はどうする?」
悟空の予想では彼女達も着いて来るだろうと、そう思っていた。
だが、彼女等の返事は、彼が予期した物とは違うモノとなる。
向き直られてから一拍の時を置いて。
────申し訳ありません。我々は直ぐにはいけません。
北条沙都子は、孫悟空にそう告げた。
□ □ □
「なぁ、どう思う?」
「何がだ?」
「惚けてんなよ猿野郎、北条沙都子達のことに決まってるだろーが」
情報交換はつつがなく終わった。
状況がひっ迫しているため詳らかに語り合う事は叶わなかったが。
それでも信用に足る人物と、危険人物の情報は共有することができた。
信用に足る人物として、悟空はネモと悟飯の名前を。
沙都子の方はエリスや写影達の名前を挙げた。
逆に危険人物として悟空はカオスや長い銀髪に黒衣の女(リーゼロッテ)、場合によってはフランの名前を。
沙都子は赤髪に隈取の少年や、桃色の髪をした巨人の少女、
そして、他人に変身して他の参加者を襲い、不和をばら撒く参加者の存在を提示し。
リルトット達はこれまで碌に参加者に出会っていないため、余り貢献できなかったものの。
近場で大きな霊圧が激突していたことを、その代わりとして伝えた。
後は、褐色の少女と、銀の髪にこれまた喪服を来た女が危険だとも。
一連の情報交換はつつがなく進み、特に何か起こる訳でも無く沙都子達を別れたのだが…
「んー…少しひっかかる所はオラもあったけどよ、別に何もしてこなかったしなぁ」
「お前の息子からお前の事を聞いてたんなら、猫を被ってた線も無い訳じゃねぇだろ」
沙都子の挙動は確かにリルトットが見ても怪しい所は見受けられなかった。
だが、彼女の背後に控えていたメリュジーヌは別だ。
借りてきた猫の様に大人しく、発言も少なかったが。
視線だけは孫悟空の事をずっと注視し、挙動を警戒している様な節さえあった。
話が確かなら孫悟空とメリュジーヌは今この場が初対面であったにも関わらず、だ。
もし、単純に強大な力を持つ悟空を畏怖していた、と言う話ならそれで済むが……
(妙な所があったのはメリュジーヌだけじゃねぇ。あのエセお嬢も同じだ)
北条沙都子も立ち振る舞いとは別の視点で、違和感を持つところが無い訳ではなかった。
彼女の霊圧は大きさこそ流魂街のガキと同程度の大きさしかなかったが。
質の観点から言えば、普通の人間が放つ物とは違っていたのである。
(発信源が弱くて断定はできねぇが、それでもあの霊圧には……)
虚(ホロウ)と似た性質を感じた。
無論彼女が銀城空吾の様な完現術者(フルプリンガー)と言う訳では無いだろう。
しかし経験か能力か…何方かが過去に接点を持っているとしてもおかしくはない。
(──とは言え、何か訳アリでもイコールそれがマーダーって話にゃならねぇか)
痛くない腹を探られるのは誰だっていい気はしない。
リルだって、自分が滅却師である事は明かしていないのだし。
北条沙都子が腹の内を明かしていないからと言って危険人物だと判断するのは勇み足か。
少し違和感があったといっても違和感止まりで、断定できる要素は何一つないのだから。
「それに、乃亜に尻尾振ってるマーダーなら……
首輪を外す方法が分かった奴を放って置くのも考えにくい。今は保留にするしかねぇか」
もし沙都子達がマーダーなら、首輪を外せるという参加者を放って置くのは考えづらい。
首輪を外されれば殺し合いそのもの、ひいては優勝して得られる権利が成立しなくなるし。
乃亜の対応次第ではとばっちりを受ける可能性もゼロではないからだ。
それなのに、沙都子達は悟空に襲い掛かろうだとか、そういう挙動は見せなかった。
その事から考えれば彼女等は本当に対主催であるか。
マーダーであっても生存優先で、戦意の薄い者たちなのかもしれない。
何より。
────私達は梨花を探さなければなりませんから、一緒には行けません。
あの時の、北条沙都子の。
哀切を帯びた表情は、嘘ではない様にリルトットの目には映ったのだ。
だから、彼女が選んだ結論は保留。
北条沙都子達を信用はしないが。過剰に疑ってかかることもしない。
そう言う話で、一先ずの決着はついた。
「あぁ、誰も彼も疑ってかかるのはしんどいしよ。それでいいんじゃねぇか?」
お前はもうちょっと疑えっつーの。
悟空の能天気な言葉に心中でそう毒づきつつ、リルはそれじゃあさっさと行くぞと急かす。
目の前の猿男のツレとやらが死んでしまえば、脱出計画も水の泡になるようだし。
さっさと合流し、地盤を固めたい所だった。
「あぁ、そんじゃあ悪ぃけど、小恋はオメェが背負ってくれるか?」
「………構わねぇが、トチ狂った馬鹿が襲ってきた時はお前が相手しろよ」
折角押し付け先が見つかったのに、結局お守りをする羽目になるのか。
そう考えつつも、リルが悟空の要請に異を唱える事は無かった。
肩を損傷した奴が背負うよりも自分が背負う方が、不都合が無い。
しかしここまで巨大な霊圧を内包する男に小さくない傷をつける女がいるとは。
自分と出会わないまま、どっかでくたばっていて欲しいものだ。
面倒な相手とは関わり合いになりたくない思いを膨らませつつ、リルは同行者の少女を担ごうとする。
その時の事だった。
「………おにいちゃん、かたのけが、だいじょうぶ?」
ここまで自分よりも大きなお兄ちゃんとお姉ちゃんが必死に何かを相談していて。
話に一向に入れなかった鈴原小恋が、声を挙げたのは。
彼女の視線は、血の滲んだ道着が巻かれた悟空の肩へと向けられていた。
「ん?あぁ…確かに痛ぇけど、放っておきゃその内治───いぢぢぢぢぢ!?」
幼い少女が怯えぬよう空元気を見せたが、直ぐに呻き、体を丸めてしまう。
そんな悟空を小恋はじっと見つめ、とてとてと可愛らしい歩幅で詰め寄り。
そして、朗らかな普段の彼女からかけ離れた、真剣な表情で悟空の肩の近くに手を添える。
「いたいのいたいの、とんでいけー」
そっと痛くない程度に傷口に手をやり、愛らしい響きで、お馴染みのおまじないを行う。
何故なら今の彼女は、ブラックマジシャンガールだから。
痛ましい目の前のお兄ちゃんの様子が不憫で、何かしてしてあげたいと思ったから。
お姉ちゃん達の難しい話に入っていく事ができなかった小恋も、役に立ちたかったから。
「ぶらっくまじさんがーるのおまじない…ちょっとは、いたくなくなった?」
そう言って小首を傾げて、少女は尋ねる。
その様を冷めた様子で、リルは見つめていた。
精神的な物なら兎も角、肉体的な傷がそんなまじないで回復するわけがない。
さっさと担いで出発するよう促そう。そう考えながら小恋に手を伸ばす。
それと殆ど同じタイミングの事だった。
孫悟空が、「おおっ!」と、驚いた様な声をあげたのは。
そしてするすると、巻いていた道着を取り払う。
「痛っ゛………ど、どうなってんだ……?」
まだ痛みは感じている様子だったが。
それでも彼の肩には劇的な変化が表れていた。
貫通し、風穴が空いたはずの肩の傷が塞がっていたのだ。
まだ傷口は痛ましく、痛みもある様子だったが、通常ではありえぬ回復だった。
それを見たリルはばっと小恋の方を向き、問い詰める。
「おい、どういう事だ」
「………?ぶらっくまじしゃんがーるのおまじないだけど」
「お前のまじないで怪我が治ったりするわけねぇだろ」
「でもみのりちゃんはこれだけでひゃくねんはたたかえるって」
「それはその女がおかしいだけだ」
「そんなこといわれても………」
困った様な表情を浮かべる小恋を前にして、リルは少し考えてから。
もう一度同じおまじないをやってみろと命じてみる。
特に断る理由もなく促されるまま悟空の怪我に向けて、小恋は再びおまじないを行った。
しかし、その効果は先ほどと比べるとかなり鈍い。その後も何度か試すが結果は変わらず。
貫通した肩の傷を癒すほどの目に見えた治癒効果は初回だけだった。
「んだよ。凄かったのは最初だけか」
「いやーそんな事もねぇぞ。まだ痛ぇけど、傷が塞がっただけでも大したもんだ!
それに、疲れとかは大分マシになったしな!」
なははと笑って肩を回した後、また走った痛みに呻く悟空を眺めながら。
リルは己の記憶を辿っていた。
最初からこのロリガキが傷を癒せる井上織姫の様な能力者だったことは考えにくい。
本人の認識的にも、能力を隠していたとも思えない。
元々そう言った才覚がありこの異常な状況下で後天的に発現した可能性はなくもないが。
ここまでずっと一緒だったリルの目には、そういった兆候は見られなかった。
それに支給品は痴女ビッチに奪われているため支給品を使ったというのも考えにくい──
と、そこまで考えて、一つの可能性に行き当たる。
「おい、お前。オレと会う前に道具かなんか使わなかったか」
「え?」
「支給品だよ支給品。元から怪我を治す力があったわけじゃないだろ」
「うーん……あ、そう言えば、ドーナツたべるまえに、へんなきのみはたべたよ?
おいしくなかったから、ドーナツのほうがよかったけど」
そう、鈴原小恋が、リルトット・ランパードと邂逅する、その三分前。
その時に食べていたのが、彼女が今しがた見せた快癒の奇跡の原因だった。
チユチユの実という、偉大なる航路に伝わる実を口にして。
鈴原小恋は悪魔の実の能力者となっていたのである。
とは言え、支給品の説明書に書かれていたことは漢字が多かったため彼女には読めず。
口にしてからも自分が能力者になった自覚がなく。
霊圧の大きさはほとんど変わらなかったためリルも気づくことがなかった。
「変な木の実、ねぇ………次美味そうなモン見つけたら、ちゃんと話しとけよ」
リルの予想は正しかった。
しかし確認しようにも、支給品の説明書は金髪ビッチに盗られてそのままだ。
現状では確証を得る方法は何もなかった。
とは言え、ハッキリさせておかなければ困る話でもない。
安定性はまるでない上に、本人が能力の事をまるで理解していないが。
これで面倒を見るだけの利用価値は生まれたという訳なのだから。
それに、いざとなれば。
食いしんぼう(ザ・グラタン)の能力を行使し、自分がもっと上手く使ってやる事も──、
「えへへ…小恋、すごい?みのりちゃんちゃんがしったらほめてくれるかな」
「あぁ、またオラ達が怪我した時は治してくれっと助かるぞぉ」
はぁ、とため息を吐いた。
無邪気に笑う小恋を見ていると、何故自分だけが真面目にやっているのか。
そんな気分になって来る。
何時だって能天気で、無邪気で。たまに蠱惑的で。
一言で言って、扱いに困る。彼女はリルトットにとって、そんな少女だった。
「………無駄話してないで、さっさと行くぞ。腹減ってきたしな」
ここまで殆ど他の参加者との交流を絶ってきたが。
この孫悟空と言う男と、この男のツレと接点を持ったことはきっとマイナスではない。
後は勝ち馬かどうかを見極めるだけ。
そして、その見極めの為には、今のこの流れを断ち切るべきではない。
さっさと孫悟空の仲間と合流し、首輪の解除方法とやらを聞きたいものだ。
小恋の首根っこを掴んで、強引に担ぎ上げながら、リルはそんな風に思考を巡らせていた。
「おう!そんじゃあ行くか。ネモの奴なら、何かうめぇもん昼飯に作ってくれっぞ」
「しゅっぱーつ!」
………叶うならば。
孫悟空のツレは、もう少し緊張感を持ってる奴であって欲しい。
あと、料理が美味いと良い。
リルトット・ランパードはそう願わずにはいられなかった。
【E-5/1日目/午前】
【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:右肩に損傷(中)、ダメージ(小)、界王拳の反動(小)、悟飯に対する絶大な信頼と期待とワクワク
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済み)、首輪の解析データが記されたメモ
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:首輪の解析を優先。悟飯ならこの殺し合いを止めに動いてくれてるだろ。
2:悟飯を探す。も、もしセルゲームの頃の悟飯なら……へへっ。
3:ネモに協力する。カルデアに向かいネモと合流する。
4:カオスの奴は止める。
5:しおも見張らなきゃいけねえけど、あんま余裕ねえし、色々考えとかねえと。
6:リルと小恋もカルデアに連れていく。脱出計画の全容を伝えるのはネモと合流後。
7:リーゼロッテを警戒する。
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
【リルトット・ランパード@BLEACH】
[状態]:健康、銀髪(グレーテル)に対する嫌悪感(中)
[装備]:可楽の団扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、トーナツの詰め合わせ@ONE PIECE、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:脱出優先。殺し合いに乗るかは一旦保留。
0:悟空と共にカルデアに向かう。
1:チビ(小恋)と行動。機を見て悟空達に押し付ける。
2:首輪を外せる奴を探す。ネモって奴が有力か?
3:十番隊の隊長(日番谷)となら、まぁ手を組めるだろうな。
4:あの痴女(ヤミ)には二度と会いたくない、どっかで勝手にくたばっとけ。
5:あの銀髪イカレ過ぎだろ。
6:二つの巨大な霊圧に警戒。
[備考]
※参戦時期はノベライズ版『Can't Fear Your Own World』終了後。
※静血装で首輪周辺の皮膚の防御力強化は不可能なようです。
【鈴原小恋@お姉さんは女子小学生に興味があります。】
[状態]:精神的疲労(中)、チユチユの実の能力者。
[装備]ブラック・マジシャン・ガールのコスプレ@現地調達
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:みのりちゃんたちのところにかえる。
1:おねえちゃん(リル)といっしょにいる。
2:おにいちゃん(悟空)といっしょにカルデアってばしょにいく。
[備考]
※参戦時期は原作6巻以降。
※チユチユの実の能力者になりました。
※カナヅチになった事を知りません、また、能力についても殆ど把握していません。
※能力も発現仕立てなので、かなり未発達でムラがあります。
孫悟空たちと別れ、その姿が見えなくなってから数分後。
聖ルチーアの屋上へと戻ったカオスは、浮かない顔で沙都子へと問いかけた。
「おねぇちゃん……これで良かったの?」
カオスには、不安だった。
自分を超える強さを有する孫悟空が、首輪を外す方法まで知ったのかもしれない。
その可能性は、カオスを酷く動揺させた。
別れるまでは何とかポーカーフェイスを保ったが、心穏やかにはいられない。
それ故に、沙都子が選んだ判断の真意を求めたのだ。
そんな彼女に対して、沙都子は落ち着いた態度で考えを述べる。
「そうですわね。確かに、安穏と待てる状況ではない様です。
ただ……考えなしに妨害しようと襲い掛かっても、結果は付いてきませんわ」
あそこで孫悟空に襲い掛かった所で、沙都子達が得る物は何もない。
返り討ちにされるか、勝っても悟空が首輪を外す手立てを有している訳では無いからだ。
だから沙都子は、直接的な行動を起こさず、悟空達の状況の把握に努めた。
恐らく、次は無いだろう。悟空達の目には、今回の邂逅の時点で僅かに疑心の彩があった。
それを警戒して、沙都子は敢えて一姫やシカマル達の悪評を流さなかった。
もし沙都子が彼らを悪く言えば、沙都子自身が彼女等と出会っていた事が明白になる。
他人の姿を借りて人を襲う殺人鬼という架空の存在に押し付けるのには、都合が悪い。
そこまでやっても恐らく次に会う時は、沙都子がマーダーである事を認識しているだろう。
だから、次は無い。直接情報を得られるのは、きっと今回が最初で最後。
それでも、今回得た情報のカードを最大限有効利用すれば、勝機はある。
「悟空さん達は私達の悪評を知りませんでした。
となると、今迄行動した範囲はそう広くは無いのでしょう」
悟空の話から出た限られた情報から、推論を組み立てていく。
「そして、拡声器なんてモノを使われて、危険人物が集まりやすくなった場所の近く…
カルデアと言う場所で待ち合わせているのも変ですわ。別に待ち合わせ場所を話していないとも思えませんし」
沙都子の見立てでは、悟空は頭の回転は決して悪い男には見えなかった。
そんな男が、予め逸れた際の合流地点を複数示し合わせておかないとは考えにくい。
にも拘らず、態々危険地帯の近辺であるカルデアを指定するという事は……
となれば、首輪解除にはカルデアという施設が関わり、そこでしか叶わない可能性がある。
もしそうであれば、カルデアと言う施設を破壊してしまえば、脱出計画は頓挫。
そうでなくとも、大いに停滞するはずだ。
「でも……」
だが、沙都子の立てた策略を聞いても、カオスの表情は晴れない。
結局の所、悟空が守っている限りカルデアは陥落できないのではないか。
勿論、肩に怪我を負っていた事から彼もこの殺し合いにおいて絶対ではないのだろう。
だがそれでも、他の対主催を協力され、守りを固められれば……
自分とメリュジーヌだけではどうにもならなくなるのではないか。
そんな懸念が、彼女の思考回路を占領していた。
「えぇ、貴方の心配は分かっていますわ、カオスさん。
だから我々はもう一勝負、博打を仕掛けなければなりません」
カオスの懸念を見透かしたように、妖しい笑みを浮かべて。
沙都子は脳裏にある絵図を示しだす。
「簡単です。悟空さんにカルデアの守りを固められれば困るというなら……
自分でカルデアの守りから離れて貰えばいいのです」
「どうやって?」
そんな方法があるのか。
さっぱり見当がつかないカオスに、沙都子は事も無げに告げた。
「孫悟空さんの息子である、孫悟飯さんを扇動して差し上げましょう」
彼等親子の強さは、この殺し合いでも群を抜いている。
少なくともこれまで出会った対主催で、彼等と並ぶ者はいない。
それが、メリュジーヌとカオスの見地だった。
という事は、彼等のうちどちらかがもし殺し合いに乗れば……
────止められるのは、片割れだけという事になる。
「そして、そのための布石はもう打ってあります」
図らずも雛見沢症候群の投与は、親子で殺し合わせるのにうってつけの干渉だ。
孫悟飯を最低でもL4…叶うならL5の末期症状に罹患させ。
その上で、暴れまわるL5の悟飯を悟空と潰し合わせる。
悟空の話によれば今の悟飯より彼の方がずっと強いらしいが。
恐らく乃亜のハンデにより、実力は横並びにされているだろう。
それが、悟空の語った見立てだった。実に好都合である。
「彼等の拠点は分かっているのですから、親子で殺し合いをしている間に襲撃するもよし、
疲弊した悟空さんを暗殺するのも良し。叶うなら、彼の肩に大穴を開けた方ともコンタクトを取りたいですわね」
雛見沢症候群の末期症状の凄まじさは沙都子自身が身をもって理解している。
どんなに心を通わせた仲間でも、肉親でも、脳漿を弾けさせる事に躊躇が無くなる。
孫悟飯にH173を盛ったのは、我の事ながら数奇な巡りあわせだが、この気運を活かさぬ手はない。
「………危なく、ない?」
「ハッキリ言って、メチャクチャ危ないですわ」
一連の計画を聞いて、一先ずの納得を得たカオスだったが。
あの孫悟空の息子を扇動するというのは、沙都子も危険ではないか。
そう考えての指摘を、沙都子は即答で肯定した。
雛見沢症候群の凄まじさは百年の惨劇の中で飽きるほど体験してきたのだから。
暴走した悟飯の矛先が沙都子に向いたとしても、何らおかしくはない。
「だとしても、危ない橋でも渡らなければ、私達は勝てません
私達は高みから追われる側ではなく、高みに立つ悟空さん達を追う立場なのですもの」
紛れもなく、これから沙都子がやろうとしている事は大博打だ。
だがそれでも、此処を通さなければ優勝という空の玉座へと繋がる道は辿れない。
対主催も、マーダーも、例外は無く。挑まぬ者に、奇跡は微笑まない。
雛見沢で、百年のカケラ巡りを追体験した今。
それが彼女の矜持であり、信仰だった。
「もう一度、尋ねましょう───ついて来てくれますか?カオスさん」
雛見沢の新たなるオヤシロ様として、瞳を紅く煌めかせ。
禍神の依り代となった少女は、笑みを浮かべて天使を誘う。
例え天使の答えが決まっているとしても、自分で選択させるために、彼女は問いかけた。
悟空に会う前の様に問いかけられた天使は数秒の間、沙都子の紅い瞳をじっと見つめて。
こくり、と。小さく、だが確かに意志が籠った頷きを見せてから、口を開く。
「メリュ子おねぇちゃんとこのまま会えたら……
直ぐに悟空お兄ちゃんに似た生体反応のサーチ、始めるね」
告げる声色に迷いはもう感じられず。
本当に主に使える御使いであるかのように。
混沌の名前を冠する、シナプス最新鋭にして、最高峰の第二世代エンジェロイドは。
尚も地蟲の少女の命運を護る剣となる事を選び続ける。
「任せて、おねぇちゃん」
【E-6 聖ルチーア学園/1日目/午前】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:今度こそメリュジーヌさんと合流する。その後悟飯さんを探し、扇動する。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:悟空さんと悟飯さんは、できる事なら二人とも消えてもらいたいですわね。
9:悟空さんの肩に穴を開けた方とも、一度コンタクトを取りたいですわ。
10:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス半壊、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、メリュジーヌに変身中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品2〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。メリュ子おねぇちゃんが待ってる場所に行く。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
【チユチユの実@ONE PIECE】
超人系の悪魔の実。
食す事でカナヅチとなる代償と引き換えに、生物のあらゆる傷を治癒させることができる。
この治療能力は肉体損傷だけでなく、精神ショックも回復することができる。
他者から治癒力を提供してもらい、別の者の治癒にも使うことができる他、
切断された部位を治すこともできる(ただし、縫い合わせる必要がある)。
涙を流す事で、一時的な超回復の効果を持つ花を咲かせる事等もできるが、
今回食べた小恋は、上記の能力を何一つとして認識していない。
投下終了です
すみません>>11 のレスは此方に修正します。
「い、いぢぢぢぢ……ひ、ひで〜目に遭ったぞ………」
かつて宇宙にその名を馳せた戦闘民族サイヤ人。
その最後の生き残りである孫悟空は、肩に負った傷の痛みに呻いた。
バビロンの魔女が放った貫通魔法の不意打ちは、彼をして覿面の効果を発揮しており。
びりびりと上着の道着を破いて包帯代わりに巻いてみたが、暫くは動かせそうにない。
(さっきの女がネモの奴を追うかも知れねぇ。そうなったら最悪だ。
そんな事になる前に、早いとこカルデアっちゅう場所に行きてぇけど………)
肩に負った傷は貫通している。服で止血こそしているが、本来なら絶対安静の傷だ。
だからこそネモが待っており、尚且つ医療設備の整ったカルデアに早く向かいたいが…
───だ、けど……誰も、助けて、くれないじゃないか……
脳裏に過るのは、蹲って此方を恨めしそうに見つめてきた藤木の言動。
恐怖に怯え、凶行に及ぼうとしていた子供の姿だった。
孫悟空は自分がこれまでの行動で間違った選択をしたとは思っていない。
事実ネモは悟空と共に過ごした数時間余りで、一定の成果を上げた。
サンプルが無いため首輪の解除にこそ至ってはいないが。
それでも乃亜が科した死の戒めを解くのに、この島で最も近い存在だと考えている。
だから、他の子供より優先するのは当然だ。ネモの役割は替えが効かないのだから。
それでも、実際に犠牲になるであろう少年を目の当たりにすると……
後ろ髪を引かれる様な複雑な思いが、胸中で渦巻く。
───弱虫なんじゃないの、おじさん。
ベジータの息子であるトランクスと、実子の悟天。
魔人ブウの一件の時に二人から向けられた視線と厳しい言葉が蘇ってくるようだ。
あの時も結局、二人をちゃんと納得させる事は出来なかったな、そんな事を考えた。
「────すまねぇ」
孫悟空と言う男は、犠牲になる子供達に心を痛める善良さを有していたが。
同時に、感傷を何時までも引きずるほどの青さもなかった。
これまで助けられなかった犠牲者の子供達と。
これからも助けられないであろう犠牲者となる子供達に、短い謝罪の言葉を贈って。
そして、カルデアの方角に視線を向けた。
方針に変更はない。まずはネモとしおの二人と合流し、体勢を立て直す。
カオスやリーゼロッテの様なマーダーとネモ達が遭遇する前に、急がなければ。
硬い決意と共に、未だ肩に走る鋭い痛みを捻じ伏せ。
駆けだそうとした、その時の事だった。
「孫悟空さん………ですわね?」
空から声を掛けてきた、金髪の少女と銀髪の甲冑の少女に気づいたのは。
□ □ □
投下ありがとうございます!
感想はまた後ほど投下させていただきます。
そして、すいません。
予約を破棄します。
メリュジーヌ、シャルティア・ブラッドフォールン
予約します
感想投下します
>Ave Maria
初手から藤木君の狂乱を見ながら、すまないと謝れる悟空さ。
戦うのが好きで優しいサイヤ人というベジータの評価がほんと的確なんですよね。
藤木君自体、大分身勝手に暴れまわってるろくでもない男なんですけど、本質は怯えた子供というのも悟空は見抜いている。
その上で合理的に判断してネモを優先するのも悟空らしさがある。
沙都子にも、二度目は確実にマーダーだと見抜かれると警戒されているのも、ブウ編終了後時系列の大人な雰囲気があって良いですね。
しかし怪しさに気付いても、沙都子も中々尻尾を出さない訳で。
これを見過ごしてしまったのが、今後どう響くか気になりますね。
沙都子ももう危ないと分かっていても、ブレーキを踏めない崖っぷちに居るのが分かりますね。
悟空の損傷理由を何とかして解明しないと、自分に絶対に勝ち目がないし、弱気になり過ぎるとカオスはともかくメリュジーヌに見切られてしまう。
脱落したエスターやセリムは最悪生還さえ出来れば優勝に拘る必要もないので、そんなに危ない賭けに出ずに強そうな悟空一派に便乗すれば良いんですけど、沙都子は絶対に優勝しなきゃいけないのが面白い。
ループできない環境で重曹ちゃんや、梨花ちゃまを殺してしまって完全に後戻りできないのかも。
殺伐とした中で和やかなムードを流してくれる小恋ちゃんは癒し。みのりちゃんの気持ちがちょっと分かってきますね。
やばい幼女ばかりなんでね、このロワ。
真っ当に運用すると、かなり強いチユチユを漢字が読めないってことで制限を付けたのも上手い。
まあ、普通の小1は漢字ろくによめないんですよね。
ハリー勢やエスターが日本語翻訳されてるのに、小恋ちゃんは漢字駄目なの、乃亜君の細やかな嫌がらせなのかもしれない。
しかし、何かの手違いでヤミちゃんが食べたら、再生能力持った変質者が誕生してたの悪夢すぎますね。
キャプテン・ネモ、神戸しお、藤木茂、フランドール・スカーレット、勇者ニケ
予約します
すいません
◆ZbV3TMNKJw様にお聞きしたいことがございます
>A ridiculous farce-お行儀の悪い面も見せてよ-
こちらの作品内にて中央司令部の位置がG-6とありましたが、地図を確認したところ中央司令部が存在するのはF-6でした
私の方で位置だけG-6からF-6に変えてもよろしいでしょうか?
位置が変わっても、他話や今回のお話の中で矛盾や問題は生じないかと思います
お手数ですが、ご確認よろしくお願いします
<削除>
すみません。誤爆しました
>>35
すみません、間違えていました
お手数おかけしますが氏の指摘通りの修正の方をお願いします
>>38
了解しました
投下します
「早い再会ね、ネモ」
「フラン、それ……」
フランドール・スカーレットが引き摺る赤黒いボロ雑巾のような薄汚い物体。
キャプテン・ネモは一目見て、それが最悪の結果を形にしたものではないかと想像する。
まさか、彼女は一線を超えてしまった。
理由を知りたい。理由があれば許していい物でもないが、再び彼女が殺し合いに乗っていない事を願いたい。
「うん。処刑したの」
返ってきた言葉は無慈悲に。
ただの肉塊となった、無惨な人だった物を指差して。
フランは笑顔で言った。
【勇者ニケ@魔法陣グルグル 死亡】
「……ま、前が見えねえ」
【勇者ニケ@魔法陣グルグル 生存】
ボロ雑巾からまるで漫画の次コマに移ったかのように、一瞬でそこそこ小奇麗に治ったニケは、ひしひしと悲惨な目にあった経緯を話した。
頭をぶつけて、フランに捕まってぶん殴られた。証拠に顔面は真ん中から凹んでいて、視界はとても確保出来ない程、鼻から減り込んでいた。
もう顔の人相が確認できない程で、さながら妖怪のようだった。
「ニケお兄さんはのっぺらぼうなんだね」
「いやいや、もっとイケメンなんだぜ俺」
「顔がないから、いくらでも美形に書けるもんね」
「何なの、この娘」
神戸しおからすると、あまりにも唐突な場面転換と再生能力に驚くが。
ニケがコミカルな性格なのもあって、すぐに話が弾む。
「あの声をジャックが聞いてるかもと思ってこっちまで来たの」
「君が来てくれたのは、ありがたいよ」
運が良かったというべきか。
胸を撫でおろしながら、ネモは少し安堵する。
藤木茂の拡声器によって拡散された叫びは、マーダーを呼ぶ恐れがあるが、先に来てくれたのは友好的なフランだったのは不幸中の幸い。
彼女の強さは身をもって知っている。
それに拡声器の声を聞いて、ジャック・ザ・リッパーが来るかもしれないという理由で、カルデアで共に滞在して貰えるかもしれない。
(な、なんだか……あんまり怖くない女の子だな……)
同じように藤木も安心していた。
飾りのような羽が付いている以外は、全然世間知らずの女の子が居るだけだ。
やろうと思えば、いつでも自分でも殺せる気がする。
「……はぁ、全く酷い目にあった」
ニケの顔が再生し素顔が露わになる。一瞬で場面が切り替わるような再生は、ギャグマンガのように。
彼は再生力持ちなのか? ネモは少し考えてから、多分時々あるカルデアの変なイベントと同じだなと気にしないことにした。
(仮面が外れたのは良かったけど……もう嫌だな)
塩になるのを覚悟していたが、予想以上に使用回数に猶予は設けていてくれたらしい。
一度使った程度で、仮面が外れなくなる程ピーキーでないのは僥倖だ。
次、使うのは二度と御免だが。
「───ニケの言う人形と子供は、こっちでは見ていないね」
(この人、天使さんの仲間なんだ……)
しおはそれが黒翼の天使だとは分かったが、敢えて口にすることもない。
ニケの当面の目的は逸れた水銀燈とおじゃる丸との合流だ。
まだ水銀燈は良いが、不味いのはおじゃる丸だろう。ナカジマに襲われた、あの時は止む無く二人共逃がしたが、その後水銀燈がどんな扱いをするか分からない。
ニケといた頃は、これでもニケが目を光らせていたのでそう極端な行動には出なかったし、ジョークの範囲で済んだが、本当に二人っきりになれば話は変わる。
一刻も早く見付けてあげないと、おじゃる丸の生存確率は時が経つ度に下がっていくといっても過言ではない。
「雄二と会ったのは本当なのか?」
「コナンって子と一緒にマサオを探してたわ」
「マサオ?」
「ええ。そうだ、一応聞いておかないと。
おにぎり頭の男の子見てない? なんか大変なんだって確か───」
フランが話す内容から、マヤと別れた風見雄二が無事なのは良かった。それはニケにとって朗報で、ある程度居場所が絞れているのも良い。
「……そのマサオって子、探してあげないと駄目だろ」
ただ、フランの友達と言う野原しんのすけの友達である、佐藤マサオを方ってこっちに来たのは大丈夫なのだろうか。
フランも聞いた話をそのまま伝えているだけなので、ニケもちゃんと事態を把握出来ないが、どう考えてもマサオの状態は危険だ。
「コナンが探してるから大丈夫でしょ」
「そう言う話じゃなくて、しんのすけって子の友達なんだし」
「うーん……その前に、ジャックを探さないといけないし」
「友達の友達が気まずいのは分かる。……いやー微妙な距離だけどな? だけど、そこは行かなきゃ駄目だろ」
釈然としないながら、ニケもあまり深くは突っ込めない。
「……俺はもう行くよ。おじゃる丸を探してやらないと」
拡声器での助けを求める声もあったので、ボコられつつ暫くはフランと同行していたが、見たところマーダーは集まっていない。
後から来るにしても、フランとネモが居れば何とかなるだろう。
「ここに居た方が良いわ」
「だから、仲間と逸れたから俺は」
「良いから」
ニケの腕をフランが掴む。
「お、おいちょっと……」
振り解こうとしているのに、全く自分の腕が動かない。
万力のような握力と鉄のようにびくともしない手にニケもぞっとする。
「大丈夫だって言ってるでしょ。そのおじゃる丸って子も死んでも大丈夫よ」
「は?」
「フラン!」
フランはネモがドラゴンボールという、あらゆる願いを叶える最後の切札を握っていることを知っている。
この場の全員が死に絶えようと、意思を継いだ誰かがそれを使い蘇生を願えば全員が生き返る。
故に、対主催のニケがおじゃる丸という何の役にも経たなさそうな人間の為に離脱するより、ネモと共に脱出の為の準備を手伝う方が効率が良いと判断した。
そして、ネモと一緒に居る神戸しおと横の藤木茂という子供は信用できない。迂闊にそういった話をする訳にもいかないし、ドラゴンボール関連の会話は乃亜に禁じられている。
そこまで考えた上で、半ば強引かつニケを引き留めている。しかし、あまりにも会話と説明が足りていない。
「ニケ、君の事情は分かるが、少し僕の話も聞いて欲しい」
「貴方もネモと一緒に居た方が良いわ。おじゃる丸と居ても、何にもならないでしょ」
「フラン!」
フランは高い知能を持つ。理解力も高く、ネモと予め打合せないでも、咄嗟にしおと藤木との複雑な関係も察するなど、洞察力もある。
言っていることは正論だ。ニケがネモと協力し、後で犠牲者はドラゴンボールで何とかするのが、一番効率が良いのだから。
ただ、結論から話してしまう。周りの理解が追い付かず、困惑させ、フランも話せる内容が制限されているのと、元より人に懇切丁寧に説明するタイプでもない。
「あいつ、4歳か5歳位の子供だぞ!!」
当然、伝わる情報が極端な結論だけでは、ニケからも反感を買う。
「殺し合いなんかやらせて、生き残れるわけないだろ!」
ニケも焦っている為に声を荒げる。
魔神王との交戦時、水銀燈と纏めて一緒に逃がしたが、その水銀燈がおじゃる丸を見捨てないと言い切れない。
水銀燈は情も義理もない足手纏いを、長く連れて歩くような人物とは違う。
ほぼ間違いなく、何のしがらみもなくなれば何処かで見捨てる筈だ。
そうなれば、あの変な竹刀があっても絶望的になる。何なら、竹刀まで取り上げて放置もありうる。
確かに、おじゃる丸はろくでもない我儘な子供だった。クソガキなのは否定しないし、殴れるなら数発ぶん殴る位にはイラつきもしていた。
だが、死んで良いような子供ではない。そこまでされるような子供じゃない。
中島の件はどうしようもない程のやらかしで、マヤの件は言うにしても言葉を選ぶべきだし、色々しょうもない子供だった。
だが、アヌビス神や仮面のような呪いのアイテムセットを脅されるまでニケに押し付けない辺り、ケチなのもあるかもしれないが、多少の善性もあったはずだ。説明書を、その時まで読んでないだけかもしれないが。
だからこそ、フランのおじゃる丸を軽視するような言動には反発する。
「そんな大事に思ってる子なら一応謝るけど、そこまでニケが頑張る必要ないんじゃない?」
「……」
ニケは何も言わずに、身支度を整える。
明るくてちゃらんぽらんだが、何だかんだとお人好しのニケにとって。
冷たく命の勘定を行うようなフランは、何処かで気に入らなかった。
そもそも出会った後の境遇からして、ニケから頭をぶつけたとはいえ不可抗力なのにぶん殴られたのだから、あまり印象も良くない。
「ニケ、こっちで話したい。本当に少しだけで良い。フランも」
ネモは穏やかに、だが力強くニケを引き留める。
フランのせいでネモに対しても、不信感がないわけではなかったが。
殆どすべて、フランが先に口を開いてネモとはしっかり話をしていなかった気がする。
「……分かった」
少し迷ってから、ニケはフランと一緒にネモに連れられしおと藤木から離れた───二人をネモ・マリーンに見張らせ───場所で改めて説明を受けた。
ドラゴンボールという願望機があれば、全ての死者を蘇生させることが可能である。
この説明ができるか、ニケに試し。警告が鳴らなかったのを確認する。
ただ、マーダーと思わしき人物の前では、やはり説明が禁止されている可能性が高い。
あくまで可能性であり、乃亜の判断次第ではある為に、あまり公に話すことが出来ない。
ドラゴンボールの会話が可能かどうかで、殺し合いに乗ったかどうかを判断するのは非常に曖昧で危険であり、疑心暗鬼な推理ゲームになりかねないからだ。
スタンスを偽ったマーダーの前で会話が出来、逆に友好な対主催の前で禁止されるといった工作をされるかもしれない。
「じゃあ、しおと藤木は」
「藤木は100%黒だ。しおも……」
「なんで壊してないの?」
「まだ、誰も殺めてないからだ。二人とも、元の場所に帰してあげればただの子供のままで済む。
だから僕が責任を持って監視している。
それよりもフラン───」
言葉があまりにも足りな過ぎるとネモから説教を受けて。
フランは退屈そうに聞いていた。
そしてその後、首輪にタオルを撒くように指示しランドセルから民家で回収してきたタオルを二つ、二人に投げ渡す。
ニンフという参加者が首輪の解析を行い一定の範囲まで解析し終えたデータを入手し、これからカルデアという施設で首輪を調べると。
出来れば、同じカルデアに滞在して貰えると、マーダーからの妨害も防ぎやすい。
「……首輪のことは何とも言えないし、なんかイマイチそういうの分からないからさ。
だけど、ドラゴンボールってのは……」
「信じられないのも無理はないよ。でも、信憑性は高い。
実際、聖杯という願望機も存在していて───」
「いやそうじゃなくて、乃亜の奴が何の対策も打たないでいるかなって思って」
「それは、どういう意味かな」
「さっきの放送…あれ、乃亜がなんて言ってたか覚えてるか?
友達が居ないか、確認しろ。早とちりした、バカな女の子が居るなんて言ってたんだ。
早とちりは、きっと殺し合いに乗ったとかそう言う意味だと思う。
あいつ、一人の女の子が殺し合いに乗る為だけにわざと名簿の開示を遅らせて、放送で楽しそうに話してたんだぜ。そんな性悪な奴がドラゴンボールなんて切札、本当に許すと思うか?」
「……」
乃亜の悪辣さは度を超えている。
聡明さもありながら、根底は無邪気で幼い子供が罪悪感を何処かに置き去りにして。
玩具を壊すように人の命を弄ぶ輩だ。
もしも、全能の力を手にしているのなら。ドラゴンボールという、救済手段を見過ごすとは考え辛いか。
「お前の言ってる悟空ってのは地球をぶっ壊せるくらい強くて、それでも俺らと殺し合えるように制限されてる。
それなら、ドラゴンボールにも変なちょっかいだして願いを叶えなくさせるとか、出来たりすんじゃないか」
孫悟空という宇宙最強の戦士の一人に枷を付け、殺し合いを強制し、血まで流させている。
これだけの力と技術を手にした乃亜のことだ。ドラゴンボールを制御していないとも限らない。
「あと……やっぱ、そこまで割り切れない」
ニケにはおじゃる丸への思い入れなんて何もない。
ただ、おじゃる丸がずっと言っていたカズマという少年はきっと違う。
───ククリを生き返らせろ!!
ニケもククリが死んだと思った時、怒りに任せて激情し後から涙を流して悲しみに襲われた。
殺した相手に掴みかかって、それで生き返られるのが無理だと分かった時。
全てがやるせなくなり、項垂れた。
もしも、おじゃる丸が死ねばきっと次はカズマがニケに掴みかかって、同じような光景の繰り返しになってしまう。
もうあんなもの見たくないし、思いもしたくない。
「変なの。
生き返るって言ってるのに」
「それじゃあ、なんでお前はしんのすけの敵討ちをしたいんだよ。
生き返るなら、必要ないだろ」
そう言われて、フランは何も言えなくなった。
確かにネモからドラゴンボールの事を聞いて、脱出の為に動くネモに協力する方がジャックを殺す事よりもずっと大事な筈なのに。
自分が固執しているのはジャックへの復讐だった。
「それは……」
怒りが収まらない。今までに感じたことのないものだったから。自分でも、自覚するのが遅れたのかもしれない。
「ニケの言う事も一理ある」
決して感傷的になり過ぎているわけではない。
だが、ニケの乃亜という人間への評価はかなり鋭いと思えた。
ドラゴンボールの処遇に関しても、これ一つに望みを託し不用意に犠牲を容認するやり方は危ういかもしれない。
ニケ自身、大枠で言えば死人であることと悟空も何度も臨死体験を味わった為に、感覚が麻痺していたと言われたら否定は出来ない。
もしも本当に生き返れなかった場合、それは取り返しの付かない事態でもある。
『今まで散々多くの異聞帯(せかい)を消したカルデアがそれを言うのかい?』
「……」
ここに居ない、乃亜にそう嘲笑われた気がした。
「悟空を疑う訳じゃないし、僕自身の方針を変える気はない。
だが、ドラゴンボールにも致命的なエラーが存在しないとは限らない。悟空も知らないようなね」
一つだけ、ネモが気になったのはドラゴンボールの使用頻度だった。
世界中に散りばめられた7つの宝玉を集めて神龍と呼ばれる神格の化身を呼び出し、願いを叶える。
最初聞いた時、ネモはそれがとんでもなく手間な作業だと考えていた。悟空の世界が地球だと仮定して、掌に乗る程度の玉が地球中に飛び散っていれば、例え悟空の強さでも探すのは年単位は掛かる。
組織の長が人員を動かして探すという手もあるが、それも組織の規模や人材を集め報酬を払うというコスト面を考えれば、決して楽ではない。
だが、それらの問題を一気に解決するドラゴンレーダーという代物が開発され、場所さえわかれば悟空なら1時間もせずに全て集める事が出来るらしい。
レーダーを開発したブルマも気軽に数年の若返りに活用するなど、とても願望機としての扱い方ではない。
死者すら蘇る奇跡の行使を、こうも気安く多用して平気なものか。
元より本来の仕様想定では数年に一度、稼働するような代物だったのではないか。
それが年に一度程度の間隔へと短縮されている。
「それって、しんちゃんは生き返らないってこと?」
フランから怒気を帯びた声を浴びせられる。
殺気を感じながら、ネモはいつでも腰の銃を抜けるように意識する。
この仮説を考えた時点で、フランがまだ乃亜に従い優勝をする可能性は大きいと思っていた。
「そうは言っていない。乃亜の優勝特典よりはずっと信憑性はある」
だが、下手に隠し立てするよりはここではっきりさせた方が良い。
それがフランへの義理立てだ。
「良かった。まだ貴方を壊す事にならなくて」
フランは何事もなかったように、声を発して。
暗に誤魔化したり嘘を吐いたらぶち壊すわよと、警告して。
ネモも意識を銃から逸らしていく。
「……なあ、この娘本当に大丈夫か?」
「僕が生きてる間はね」
それを、大丈夫と言って良いのかよ。ニケは心の中で、ひっそりと突っ込んだ。
───
「……おじゃるの奴、クロと出くわしてノコノコついてったりしてないよな。洒落になんないぞ」
思えばあの子供、女好きだった。
水銀燈にデレデレしていたし、真紅という水銀燈の妹にもずっと胸を馳せていた。
なんでマヤには塩対応だったのか不思議なくらいに。
あんな子供がクロに出会えば、やはり目をハートにして付いていきそうだ。
殺されかけたが、外見は健康的な褐色の美少女だった。
ニケも初対面の時、こいつ小学生の色気じゃないなと驚嘆した覚えがある。
その後、剣を投擲されて小便を漏らしかけたのは、嫌な思い出だ。
「……ま、人が多そうなとこから探すべ」
頼むからじっとして無事でいろよ。
そんなことを考えながら、ニケは先を急いだ。
探し人は無惨な形で命を奪われ、既にこの世に居ないとも知らず。
【C-2/1日目/午前】
【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)、仮面の者(アクルトゥルカ)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's(搭乗中)
[道具]:基本支給品、丸太@彼岸島 48日後…、リコの花飾り×3@魔法陣グルグル、沙耶香のランダム支給品0〜1、シャベル@現地調達、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:おじゃる丸と水銀燈を探す。銀ちゃんは、マジで見捨てそうだから大急ぎで。
1:とりあえず仲間を集める。でもククリとかジュジュとか…いないといいけど。
2:クロエを探して病状を聞き出す。
3:マヤ……
4:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
5:フランはあいつ本当に大丈夫なのか?
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
※仮面(アクルカ)を装着した事で仮面の者となりました。仮面が外れるかは後続の書き手にお任せします。
「ジャックは君が相手をする。
その代わり、暫くは僕達の護衛代わりとして同行して貰える。
そう言う事で良いのかな」
「ええ、構わないわ。
藤木としおはニケが守ってね? 私、もう懲りたから」
ニケが去っていくのを見送った後、ネモとフランは今後について話し合う。
悟空の抜けた穴を埋めたいネモと、ジャックを始末する為にマーダーが集まるであろう、この近辺に留まるつもりのフランの思惑は一致した。
「ねえ、ネモ」
「なんだい?」
「私がジャックを狙ってるのは、やっぱりおかしいのかな」
───それじゃあ、なんでお前はしんのすけの敵討ちをしたいんだよ。
生き返るなら、必要ないだろ
あの時、頭の回転の早いフランは何も言い返せずにいた。
しんのすけの蘇生よりもジャックを壊す事を優先して、それを疎かにした自覚があったからだ。
「どうしても、ジャックの事考えると頭に来るの」
「……」
「生き返ると、分かってるのに。しんちゃんが死んだことが忘れられない」
ネモもまたどう応えるべきか、言葉選びに迷っていた。
ある意味では人に近づいてもいるかもしれないし、ある意味では悪い意味で人の負の面が顕現したともいえる。
それだけ、しんのすけという存在は大きくなったのだろう。
ただ、自分の中で大きすぎる他者というものは、何も良い事ばかりではない。
「きっと、しんのすけ君の事がとても大事だからですよ。
人は大切な人の為なら、強くもなれるしそれを傷付けられれば怒りもします」
フランに、温和に微笑みながら鬼舞辻無惨と名乗る少年はそう言った。
ニケと入れ替わった形で、新たにネモ達と合流した参加者の一人だった。
───
「しかし、やはり…中々に堪えますね……」
「すまない。念には念を入れたくてね」
非人道的だと分かっていたが、ネモは無惨と出会った当初、エーテライトを行使した。
理由は首輪の解体という重要作業の手前、そしてこの先マーダーとの交戦も予想される中、スタンスが曖昧な人物を受け入れるリスクは高い。
何より、無惨という名前が普通ではなかったし、ランドセルを持っていなかったのも不自然だった。
人には使わないと決めていたが、どうしても無惨から漂う異様な違和感を拭えず。
貴重なツールだが、何か嫌な予感して。
ネモは───それを使用した。
そして、無惨が鬼狩りと呼ばれる、異形を倒す剣士であったと認識する。
彼の世界は日本で言う大正頃で、その世界には鬼と称される人食いの怪人達が居て、無惨はそれらを討伐する組織の一員だった。
無惨はその中でも、柱と称される上澄みの一人というのも戦力の欲しいネモにはありがたい話だった。
「いえ、こう見えても鍛えておりますから。
何か剣があれば、もっとお力になれるのですが」
「剣、か……」
完全に信用を置いた訳ではないにしても。
ネモは多少の警戒を和らげた上で、無惨との対話に応じていた。
その正体が魔の王である事も知らずに。
時は僅かに遡る。
孫悟空がリーゼロッテ・ヴェルクマイスターと交戦していた頃、藤木の声を聞いた者はもう一人いた。
魔神王は映画館に潜伏しながら、考えを張り巡らせる。
ゼオン・ベルがこれを聞きつければ、狩場を求めそこへ赴く事は十分考えられた。
その背後から、奇襲を掛け奴の獲物ごとゼオン達を殺す事も難しくない。
ただ、問題はゼオンにも探知系の能力が備わっているかもしれない。
あの魔族は幼いながら、高い練度を以て技と肉体を極め抜いている。奇抜な戦略は即出し抜かれるだろう。
そこで、一度絶望王との交戦地点まで引き返す事とした。
理由は死体があるから。
絶望王も高い実力者だが、恐らくはあの足手纏い共は死んでいる。
本来はヴィータを喰らう予定だったが、どこにも死体がない。
元々、ヴィータという少女は魔力で構成されている。死んだ時点で消失してしまったのだが、それを魔神王は知らず。
またそれだけに囚われるぐらいなら、いっそあの二人を喰らうほうが回復にもあてられる。
そして丁寧に埋葬された跡を見付け、その時の魔神王は何を思ったのか。
どんな意味が含まれているのかは定かではないが、笑みは浮かべていた事だろう。
魔に連なるものが人を弔う事への皮肉か。
事を済ませ。
あとは、声の元へ近づき、見付けた対主催と思わしき者達へ。
ゼオンが居れば奇襲を掛けたが、そうでない為に情報を仕入れるのを優先し、しんのすけの剣を近くの物陰に隠し、接触を試みた。
(大したものだ。この者の閉心術というものは)
ネモは優秀なキャプテンだった。
優秀過ぎたが故に、念を入れて近づいた魔神王から僅かな異変を掴み。
エーテライトの使用に踏み切ったのは、判断として誤りではない。
一つの誤算は魔神王が取り込んだドラコ・マルフォイが閉心術の才を持っていたことだろう。
正史において訓練を積めば、セブルス・スネイプにすら通じる程の強固なものである。
その才を喰らって引き継いだ上で、魔神王レベルへと向上した閉心術はエーテライトの干渉を退ける所か、偽りの記憶を見せネモを騙し切る事に成功した。
ネモも本職の魔術師ではない上に、別世界の精神防御系統の魔法では太刀打ちできない。
(期待はしていなかったが、思わぬ拾い物をした)
ネモとフランからある程度は情報を引き出せた。
ニケがここから立ち去ったのも、魔神王にとっては都合がいい。
奴の光り輝く魔法だけは、魔神王にも脅威になり得たが、それも叶わぬ話。
無惨の容姿を借りた上で、奴の悪評を撒くのにこれ程適した対主催チームもそうはいまい。
場合によってはネモを喰らい、奴の得た情報全てを奪い去るのも面白い。
(フランドール・スカーレット……随分と人と馴れ合う輩が多いのだな。
お前のような怪物が、人間に歩み寄ろうとは)
そして魔神王は人との共生に近づく吸血鬼を嘲笑う。
(汝がまことに人を理解した頃には、人間は全て滅び去っているだろうよ)
魔神王が考えた結論は。
奇遇にも、この島で最も魔族を恨み憎しんでいる魔法使いと同じだった。
人と魔が寄り添う事などありえない。
【C-2/カルデア近く/午前】
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(中)、フランに対する嘲り
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る! 野原しんのすけ(頭部無し 近くに隠してある)
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:無惨の名と容姿を使い、ネモ達の中へ潜伏。頃合いを見て殺す。
1:絶望王は理解不能、次に出会う事があれば必ず殺す。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:江戸川コナンを殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
6:ニケ、コナンは必ず殺す。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※右天の脳を食べた事により、右天の記憶を獲得しました。バミューダアスポートは脳が半分しか無かった為に使用できません。
※野原しんのすけの脳を食べた事により、野原しんのすけの記憶と知識と技能を獲得。野原しんのすけの姿になっている時に、野原しんのすけの技能を使用できるようになりました。
※野原しんのすけの記憶により、フランドール・スカーレット及び佐藤マサオの存在を認識しました
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
※ドラコ・マルフォイ、灰原哀の知識と技能を会得しその姿にもなれます。
───苦い。
何の根拠もなかった。
ただ、私は一目見て無惨君をそう評した。
本当に空っぽで、何も感じないような人。
さっき会ったリーゼロッテという女も、とても怖かったけど少しだけさとちゃんに似てるような気がした。
凄く必死な感じがしたから。
どうして必死なのか、分からないけど。
悟空お爺ちゃんも、ネモさんも、ニケさんも、天使さんも、誰か多分好きな人が居る。フランちゃんもしんのすけという子から、きっと大事なものを受け取って変わってきている。
「し、しおちゃん……ちょっと待ってよ」
私の後ろを盾にするみたいに歩いている藤木さんも。
とても臆病なのは伝わってくる。
だから、やっぱり見ていて変だなと思った。
無惨君は良い人そうなのに。
「藤木さんはさ」
「な、なんだい……」
「やっぱり良い」
藤木さんに自分の思ったことを伝えてみようとして、やっぱりやめた。
あまり意味はないだろうし。
ネモさんに伝えたいけど、私の言う事をどれだけ信じてくれるかな。
今もネモさんの分身の、マリーンという人達が見張っているくらいだし。
悩んでも仕方なかった。
自分が不利なのはよく分かってる。ネモさん達は、ここから脱出する方法も徐々に見つけ出してるのも何となく分かる。
乃亜君にお願いを聞いて貰う為には、やっぱり勝たなくちゃいけない人。
これから起こる事を、しっかりと見て自分で判断しなくちゃ。
私は負けないってきめたから。
【C-2 カルデアの近く/1日目/午前】
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(小)、疲労(中)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、
オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、神威の車輪Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、
ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、エーテライト×2@Fate/Grand Order、
神戸しおの基本支給品&ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:無惨は一応、信用できるか? エーテライトでは問題なかったけど。
1:カルデアに向かい設備の確認と、得たデータをもとに首輪の信号を解析する。
2:魔術術式を解除できる魔術師か、支給品も必要だな……
3:首輪のサンプルも欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおとは共に歩めなくても、殺しあう結末は避けたい。
6:エーテライトは、今の僕じゃ人には使えないな……
7:リーゼロッテを警戒。
8:カルデアにマーダーが襲ってくる前に何とか事を済ませたいけど……。
9:悟空とも合流したいし、藤木もどう対処するか……。
10:ドラゴンボールのエラーを考慮した方が良いかもしれない。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、
優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※フランとの仮契約は現在解除されています。
※エーテライトによる接続により、神戸しおの記憶を把握しました。
※エーテライトで魔神王の記憶を読み取りましたが、それは改変されています。
無惨(魔神王)は鬼殺隊で、柱という地位に就いていると認識してしまいました。
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:無惨君(魔神王)は何か変な気がする。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
3:マーダーが集まってくるかもしれないので、自分も警戒もする。武器も何もないけど……。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:手の甲からの軽い流血、ゴロゴロの実の能力者、シュライバーに対する恐怖(極大)、泣いてる、自己嫌悪
[装備]:ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
[道具]:基本支給品、拡声器(羽蛾が所持していたマルフォイの支給品)
グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)、賢者の石@ハリーポッターシリーズ
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:第三回放送までに10人殺し、その生首をシュライバーに持って行く。そうすれば僕と永沢君は助かるんだ。
1:次はもっとうまくやる
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う
3:最優先で梨沙ちゃんとその友達を探して殺したいけど、シカマルが怖い。
4:僕は──神・フジキングなんだ。
5:梨沙ちゃんよりも弱そうな女の子にすら勝てないのか……
※ゴロゴロの実を食べました。
※藤木が拡声器を使ったのは、C-3です。
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:精神疲労(小)、たんこぶ
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:一先ずはまぁ…対主催。
0:一旦ネモ達と同行して、ジャックが来るか暫く待つ。
1:ネモを信じてみる。嘘だったらぶっ壊す。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か
5:マサオもついでに探す。
6:乃亜の死者蘇生は割と信憑性あるかも。
7:ニケ、不思議な子だったわね……。
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※ネモ達の行動予定を把握しています。
投下終了します
まず魔神王を追加予約させていただきました
それと投下直後に申し訳ありませんが
藤木君は無惨と面識があるという矛盾に気付いたので修正したのを後日投下します
予約期限の延長申請をここでさせて頂いて、その期限内に修正させていただきます
延長します
投下します
戦力が欲しい。
それがシャルティア・ブラッドフォールンの率直な心境だった。
何しろ、スキルは戦闘・移動用の物は使用回数が底をついている。
一応魅了スキルや鮮血の貯蔵庫などのヴァンパイアとしての種族スキルの一部と、
ワルキューレのクラススキルである死せる勇者の魂(エインヘリヤル)は使用可能で在るモノの、
前者は強者との戦闘ではどれもこれも役に立つとは言い難く。
後者は使用すればまず間違いなく、乃亜がハンデとして半日は使用不能にするであろう、
正真正銘の切り札だ。おいそれと切れるカードではない。
(私以外のナザリックの知己が参加していれば………)
忌々しい事に、アルベドが参加していないであろうことは予想がついていた。
乙女の物とはかけ離れた、駄肉そのものの肢体をした女だからだ。
デミウルゴス、コキュートス、セバスなどは語るべくもない。
だが、自分とそう変わらないチビ助のマーレやアウラはいてもいいのではないか。
せめてエントマのでもいれば、露払いとしては頼れたものを。
乃亜への不満が連なる中、一つの可能性に行き当たる。
(待って。もしや、大墳墓ではまた私が攫われたと騒ぎになっているんじゃあ………)
シャルティア、またしても独りかどわかされ、行方不明となる。
そう報告を受けた時の至高の御方、アインズ・ウール・ゴウン。
忠誠を誓った主の落胆した表情を想像するだけで、忸怩たる思いが噴きあがる。
自分一人が連れ去れた失態が再び浮き彫りとなり、今度こそ無能の烙印は免れないだろう。
(手ぶらでは帰れない……)
親指の爪を噛み締めながら、頭を悩ませる。
願望の成就。アインズ様とペペロンチーノ様の再会。
最低でもその権利を得て帰還しなければ、この失態に次ぐ失態の汚名を雪げない。
孫悟飯戦の大敗と、自身が孤軍である事を認識した事によって。
シャルティアは、追い詰められていた。
(落ち着け、冷静に。先ずは自身のコンディションを整える事が最優先)
ナザリックの守護者がいないことが確定した以上、恐らくは今後も孤軍となる。
となれば、早急に己の状態だけでも整えなければ。
支給されたランドセルから出した闇の賜物を使用する。
これでこの支給品は使い切ってしまうが、背に腹は代えられない。
使用して数十秒で効果が表れ、シャルティアの肉体の損傷とダメージを癒していく。
元々吸血鬼の再生能力の高さとの相乗効果で、HPに関しては完全回復することができた。
しかし、スキルの使用回数とMPの残量に関しては如何ともしがたい。
特にMPは乃亜のハンデだろう、普段と比べれば回復速度が二割程まで落ち込んでいた。
(スキルに関しては兎も角、せめて魔力は都合がつけば────)
臍を?む思いで、安定したMPの補給方法を思索する。
その果てに、シャルティアは二度目の放送前に得た戦利品の存在を思い出した。
背負っていたランドセルの中に勢いよく手を突き入れ、目当てのアイテムを引きずり出す。
『………っ!ぷはっ…!こ、ここは!?』
「はぁい☆鞄の中の居心地はどうでありんしたか?」
取り出したるは一本の桃色ステッキ。
ファンシーな装飾が成されたそれは、彼の魔導元帥が作り上げた愉快型魔術礼装。
マジカルステッキ・カレイドルビーを、シャルティアは鷲掴みにして。
愛らしく残酷な笑みを、未だ状況が呑み込めていない様子のステッキへと向けた。
『あ……貴方は!?くっ……離しなさい!離せー!!』
「まぁまぁ、そういけずな事はいいなんし。仲良くするでありんす」
シャルティアの笑顔を見て状況を把握したのか、うねうねとルビーが暴れる。
だが、上級サーヴァントに匹敵する怪力の前には意味をなさず。
無駄な抵抗を続けるルビーに、シャルティアは思い至った考えを告げる。
「ぬしを私の装備として使ってあげるでありんす。感謝してもいいよぇ?」
ニッコリと微笑みながら告げられた言葉に、わなわなとルビーの柄が震える。
そして、激昂した。ふざけるなと。美遊さんを殺しておいてよくもと。
貴方に使われるぐらいなら、破壊された方がマシだと。
元よりルビーも小太りの少年を殺した時点で覚悟はできている、さぁやるならやれ。
普段のふざけた態度とはかけ離れた覚悟と矜持を見せるルビーだったが。
だがシャルティアがそれを慮る義理は当然ない。無意味だった。
「成程、ご立派な覚悟でありんすね…………人殺しが使っていた道具にしては」
『うるさい!貴方が何と言おうと────っ!?……な、なんで、それを』
ステッキであるため、彼女が今どんな表情をしているか伺えないものの。
もし彼女に顔があれば、きっと激しく狼狽しているに違いない。
そう確信させるほど、シャルティアの手の中のルビーの様相は、動揺に満ちていた。
「おや?カマをかけただけでありんしたが、どうやら図星だったみたいねぇ?」
『はうっ』
そう言ってシャルティアは、ルビーの柄についた、固まった血痕を?がし、一舐めする。
舌の上に広がった血の味は、少し前に戦い殺した美遊という少女の物とは間違いなく違う。
となればこれは返り血であると考えるのが妥当だろう。
無論それで美遊という少女が人を殺したという証拠にはならない。
流血を伴う結果だとしても殺してはいないかもしれないし、正当防衛かもしれない。
しかし、少し前に出会った日番谷という少年からの証言。
彼の話に出てきた美遊らしき少女は、まず間違いなくマーダー行為を行っていた。
それ故にカマをかけてみたのだが……どうやら当たり玉を引き当てたらしい。
「何を考えて殺したのかは知りんせんが──どうせマーダーが使っていた杖。
それなら、私に使われても何も問題はないわよぇ?」
『美、美遊さんを貴方なんかと一緒にしないでください!』
ルビーは必死すぎるほど必死に、シャルティアの言葉に食って掛かる。
美遊・エーデルフェルトはイリヤさんの親友だ。
元よりやりたくて人を殺した訳じゃない。
彼女は目の前の吸血種の様な殺しを楽しめる様な人では断じてない。
美遊さんは悪くない。悪いのはこんな殺し合いを仕組んだ乃亜と。
彼女が道を誤るのを止められなかった、自分だ。
───あれ、でも。
美遊・エーデルフェルトが殺し合いに乗ったのはイリヤを助けるためで。
そのイリヤは健在のまま、此処にいた。
それは、やはり。美遊は、自分は。
殺さなくともいい少年を、殺してしまったということか?
それは、数刻前に美遊・エーデルフェルトが行きついた結論であり。
遅れてルビーも行きついた袋小路だった。
『…………違う、違う──!美遊さんは、私、は───!』
「あ、ちょっと、暴れるんじゃありんせん」
普段のふざけた態度は消え失せて。
自分の取り返しのつかない、防げたかもしれない失敗を認識してしまったルビーは最早、シャルティアの手の中で暴れる事しかできなかった。
みしみしと軋んだのは、彼女の心か、それともボディか。それは定かではなかったが、
シャルティアが折角手に入れた戦利品が壊れる事を良しとするはずもない。
「あーもう、喧しい。道具は道具らしく、大人しく使われときなさいね?」
いい加減付き合うのも面倒になったと言わんばかりに。
シャルティアは自身の瞳を妖しく煌めかせた。
そして、現状の彼女でも使用できる魅了魔法を発動する。
『し、しまっ────!』
最高位の魔術礼装であるマジカルステッキに、本来魅了など通るはずもない。
例えそれをかけた相手が、稀代の吸血姫シャルティアであったとしてもだ。
だが、現状のルビーは、乃亜によって調整が加えられてしまっている。
その上、彼女の精神は犯した失敗で追い詰められ、巨大な陥穽が生じてしまっていた。
故に、シャルティアの側からしても物は試しと放った魅了の効果を弾く事叶わず。
ルビーの意識が、霞がかって薄れていく。
「安心しなんし、使うのは私でありんすから。ぬしが殺す訳ではありんせん────」
ルビーが最後に聞いた、シャルティアが発したその言葉は。
罪の意識を和らげようという気遣いから口にされた言葉ではない。
犯した罪から目を背けさせ、道具として扱いやすくするためのマインドコントロールだ。
(イ…イリヤさん………ごめんなさい…………)
それはルビーにも分かっていたけれど、現状の彼女に拒む手段も精神力もなかった。
最後にできたことといえば、元の持ち主であり、相棒の少女への謝罪で。
そのまま彼女の意識は、茫洋とした闇の中へと溶けていく。
後は、操り人形と化した一本の杖だけが残った。
「道具が使い手に逆らうな、という考えはどうやら乃亜も同じらしいでありんすねぇ」
意志を奪われ、物言わぬステッキとなったルビーを見下ろして。
酷薄な笑みのままに、シャルティアは独り言ちた。
そして、残存する魔力で魔法を一つ行使する。
───《オール・アプレイザル・マジックアイテム/道具上位鑑定》
ルビーが物言わぬ杖になってしまった以上、自力で使い方を理解する他ない。
手に持っただけではあの小娘どもの様に姿が変わらず、バフの恩恵を受けられないからだ。
支給品の説明書も手元にはなく、この魔法が無ければ扱い方は分からなかっただろう。
「ふむふむ…ここに血を塗る……と」
得られた情報は本当に簡素な物だったが、一応契約の方法は分かった。
鑑定魔法で得た情報を元に、指先に切り込みを入れて、己の血液を塗りたくる。
そして、もう一度握り締めた瞬間、契約を成す光がシャルティアを包み込んだ。
もう一つ変身に必要な、乙女のラヴパワーなる怪訝な要素は無視できたらしい。
それとも、アインズ様への愛が要素を満たしたのか。
『コンパクトフルオープン、境界回廊最大展開、真性カレイドルビー…』
『────プリズマシャルティア爆誕!』
感情の抜け落ちた機械的な音声から、これ以上なく胡乱な文字列を並べて。
シャルティアの纏っていた漆黒のドレスが眩い光の粒子となり、変貌を遂げる。
数秒後、赤と黒を基調とし、フリフリ且つ煽情的なコスチュームが彼女の身を包んだ。
「おお…成程、これは悪くないでありんすね」
鑑定スキルを使用した時からこの杖が神器(ゴッズ)級装備なのは分かっていたが。
これ程の逸品だとは、思っても見なかった。
変身を遂げた瞬間全身に力が満ち、杖を起点に魔力が流れ込んでくる。
ただの子供が、自分と一応戦いになるレベルまで強化されるのを鑑みれば当然ではあるが。
それでも期待以上の性能だったと言ってもいい。
「……クク…ッ!フフ…あははははははは!!」
返す返す愉快だった。
自分の邪魔をしてきた、イリヤの親友である美遊とかいう黒髪の小娘は、
イリヤの敵である自分に、左手だけでなく便利な武装までプレゼントしてくれたのだ。
つくづく自分の養分として優秀な小娘だと、褒めてやりたい気分だった。
「しかし…衣装のセンスはペペロンチーノ様には遠く及ばないでありんすね。
もっと私に似合う、気品と貞淑さと妖艶さのある恰好に──」
ともあれ、ステッキから流れ込んでくる魔力でMPの補給については目途がついた。
後は、デザインをもっと趣味に会う物に変えられれば言うことは無いのだが。
そう考えて、何とかコスチュームのデザインを変える方法はないか模索しようとした、その時の事だった。
「─────…!?」
元々人外のスペックを誇り、更にステッキの補助が付いた彼女の知覚機能が。
近辺に、強者の気配を感じ取ったのは。
孫悟飯の物ではない。この気配、別の強者の物だ。
シャルティアは、僅かな時間思索を行い、
「ふむ───鬼が出るか蛇が出るか」
その結論に至った。また、孫悟飯の様な輩と出会うかもしれないが。
今の自分にはツキがある。この流れを逃すべきではない。
そう判断して、シャルティアはふわりと空中を舞った。
普段は飛行魔法で空中戦を行うシャルティアではあるが、
それを用いずに空中を散歩するのは、これまでに余りない経験であった。
若干の新鮮さを感じながら、吸血姫は息を潜めつつ気配の下へと飛んでいく
その姿は、容姿だけなら見惚れるほどに美しい物だった。
□ □ □
無表情、無感情に。
妖精騎士ランスロット。暗い沼のメリュジーヌは。
石造りの中央司令部、その建物の頂上付近で。
建物の影で身を休ませながら、人間達の証拠隠滅作業を眺めていた。
当然と言えば当然の話だ。
如何にブック・オブ・ジ・エンドの効果を受けていたとはいえ。
彼女が標的の逃げて行った方角を確認していない筈もなく。
そして、戦闘後と言えど、子供の足でも一時間から二時間程で辿りつけてしまう距離。
最強の妖精騎士の飛行速度であれば、一分とかからず追いつけてしまう。
だが彼女は逃がした標的を補足してから、暫くは手を出すことは無かった。
少し前に戦ったサトシと呼ばれていた少年と、彼の相棒の電気鼠。
彼等が放った雷撃の痺れがまだ体に残留していたからだ。
ダメージの方はカードで回復したが、痺れ残して戦闘に至るのは望ましくない。
同時に、明確に襲った彼らをそのまま逃がすのも面白くなかった。
結果選んだのは察知されない上空で滞空しつつ、追跡監視するという選択肢。
まさかもう追いついてきているとは夢にも思わない少年二人と、
新たに加わった様子の玉ねぎ頭の少年は、メリュジーヌの姿に気づくことはなかった。
その後、三人はそこから更に見覚えのある金髪の少女と長髪の子供とも合流した。
人数は総勢五名となり、生き残りの人数を考慮すれば中々の大所帯であるが。
メリュジーヌの見立てから言って、全員を相手取ってもまず負けない集団だった。
一番強いのは金髪の少女だが、自分と戦うには弱すぎる。
唯一気を付けるべきは、自分を退けたカード使いと同じと思わしき長髪の少年か。
彼さえ真っ先に潰せば、後は問題にならない。
例え目を瞑って、両手を縛っていても皆殺しにできる。
慢心ではなく冷徹な観察眼で、メリュジーヌは一同を観察し続けた。
程なくして、一行がF-6にある中央司令部という施設に身を寄せたため、
メリュジーヌもそれに合わせて建物の影に身を潜める事を選んだ。
オーロラの剣として、数百年間汚れ仕事を担ってきた身だ、隠密行動も慣れた物で。
五人の中で最も強者と見られる金髪の少女ですら、メリュジーヌに気づく事は無かった。
しかしメリュジーヌ側も流石に建物の中の一行の様子は伺えなかったため、そこで思索に耽る時間が生まれる。
(さて、どうするかな)
完全な休息とはいかなかったが、龍の回復速度は人のそれを遥かに凌駕する。
痺れは抜けきったため、今なら攻め込むことも可能だろう。
だが、精神的にはもう少し休んでも良かったし、沙都子との待ち合わせもある。
どうするべきか通信を試みたが、通信機の向こうは丁度取り込み中の様子だった。
それを踏まえて、もう一度眼下の少年を見下ろす。
ほんの一時間程前に、中央司令部に共に入って行った玉ねぎ頭の少年を埋める少年少女。
同じくらいの背格好で、共に邪悪な笑みで土をかけて行く様は姉弟の様だ。
見張られているとも知らず、自分こそ強者であり支配者なのだという顔を浮かべる少年。
確か、ディオと呼ばれていたか。
彼の顔を見ていて脳裏を過るのは、牙の氏族の様な獣耳を生やした少年だった。
───命を賭すならば、その理由をお聞かせいただきたい。
自分を戦士の端くれだと自称し、己が殺し合いに賭ける願いを尋ねてきた少年。
彼の言葉は今のメリュジーヌにとって、何一つ響く者が無かった。
金髪の少年少女には争った形跡がない、つまり、仲間割れから殺害した線は薄いだろう。
もし玉ねぎ頭の少年が密かに抱いていた叛意を露わに襲ったのなら、他の二人もいなければおかしい。
(となると、内紛から殺害ではなく謀殺。目的は……首輪か)
冷徹に、興味すら薄いと言った双眸で、妖精騎士は推論を重ねる。
そも、あの玉ねぎ頭の少年なら獣耳の少年や金髪の少女で十分取り押さえられた筈なのだ。
何か支給品などを用いて抵抗し、結果、殺害に踏み切らざるを得なかった可能性もあるが。
それならあの清廉な戦士を自称する少年がいないのは絶対にいおかしい。
玉ねぎ頭の少年の抵抗の末獣耳の少年が怪我を負い、埋葬に参加できないとしても。
埋葬する者達があの様に目論見通りという実に楽し気な笑みを浮かべる筈がない。
金髪の少女の次に戦力として強いのが、あの獣耳の少年なのだから。
(あぁ本当に、何も響かない。伽藍洞だ)
となれば、導かれる答えは一つしかない。
獣耳の少年は、同志を首輪目当てに殺して笑みを浮かべる外道を守っているのだろう。
それ自体は尊ぶべき事なのだろうが、恐らくは守っている相手が外道だという自覚がない。
その在り方は戦士と言うより、道化の方が余程近い。
(もっとも、私も人の事は言えないだろうね)
道化かどうかで言えば、乃亜の甘言に乗り、奇跡を求める自分の方が余程道化だろうから。
その皮肉さに自嘲気に笑みを漏らし、今一度どうするべきかを考える。
自分が襲いマーダーである事が露見している相手と、疑っているであろう相手だ。
殺すことに迷いも躊躇も無い。思考の余地があるのは、このまま単騎で襲撃するか否か。
単騎であっても負けるとは思わないが、相手は四人。先程の様に取り逃がすかもしれない。
なれば沙都子と合流し、カオスを加えた万全の態勢で殲滅に臨む方が確実だろうが。
目を離した隙にどこかに逃げられたり、更に他の対主催と徒党を組まれる恐れもある。
沙都子と未だ連絡が取れない以上、どうするべきか。
考えながら、手甲からアロンダイトの名を冠した外皮を展開する。
「──────!」
彼女の視界の端に、黒い影が映ったのはその直後の事だった。
展開したアロンダイトを、目に映らぬ速度で振り上げる。
マイクがハウリングした様な耳障りな音と共に、メリュジーヌの腕を衝撃が襲った。
それも、一度では終わらない。
鋭く、研ぎ澄まされた剛打が豪雨の如く襲い掛かって来る。
一秒に満たぬ時間で、二十を超える連続攻撃。
例え達人の領域に達した剣士でも、人間であるならこの一合で叩き潰されているだろう。
───相手が、龍。それも最高位の冠位龍から生まれ落ちた妖精騎士でなければ。
襲撃者は強い。メリュジーヌは一瞬で確信した。
何故なら人を遥かに超えた龍としての速度、鋭さ、膂力だけでは最小の音で剣閃を捌けず。
女王モルガンが与えたギフト。妖精騎士ランスロットとしての能力。
無窮の武練の技量を発揮せざるを得なかったからだ。
ただ肉体性能だけで最強を誇る龍から、“技”を引きずり出した。
それは相対者もまた、人智を超越した戦徒である証明に他ならない。
「……君、名前は?」
時間にして五秒足らず。
交わした剣閃が丁度五十を超えたのを契機として。
まるで鈴の音が鳴った様な高音が鳴り響き、襲撃者が初めて後退する。
メリュジーヌはそれを確認後、眉一つ動かさず、襲撃者に対して誰何の声を挙げた。
変わった漆黒の異装に身を包み、突撃槍を携えた、人ならざる少女へと向けて。
「…ナザリック地下大墳墓第一層から三層までを預かる階層守護者
────シャルティア・ブラッドフォールンと申しんす」
漆黒のスカートの端を摘まみ、不敵な微笑を浮かべて。
銀髪の美しい少女は、メリュジーヌに向けて名乗りを上げた。
高位の吸血種。妖精國には存在しない、伝承に伝わる生粋の怪物。
だがそんな、稀代の怪物を前にしても、最強の妖精騎士は動じない。
シャルティアの名乗りに応えるべく、静謐さを纏い、囁く様に騎士としての名を告げる。
「───妖精國の女王、モルガン陛下より妖精騎士ランスロットの名を着名した。
暗い沼のメリュジーヌ。名簿には、メリュジーヌの名前で載ってる」
龍と、吸血鬼。
海馬乃亜が作り上げた殺し合いと言う蟲毒、その異聞の空で。
交わる筈のなかった、二人の超越種は相まみえた。
そして、相まみえて早々に、龍は吸血姫へと尋ねる。
先の襲撃は自分と雌雄を決するべく行った物か?と。
尤も、尋ねた時点でその答えは八割がた予想できたものだったが。
そんな龍の予想を裏切る事無く、吸血姫は簡潔に、己の目的を告げた。
────殺したい相手がいる、と。
□ □ □
シャルティア・ブラッドフォールンは、その騎士を、メリュジーヌを見た瞬間。
刹那の時間で、自分と手を組むに値するのはこの少女だと確信した。
まず、《マナ・エッセンス/魔力の精髄》を使うまでも無く。
至高の御方には届かないとは言え、莫大な魔力を内包している事を感じ取ったからだ。
突出しているのは、それだけではない。
(私の攻撃をここまで完璧に受け止められるとは、正直予想外でありんした)
殺意はなかったが、手を抜いていた訳では無い。
初見で感じた通りの力量かどうかを計るため、本気で撃ちこんだのだ。
だが、受け止められた。信じがたいことに完璧な奇襲だったにも関わらず。
ほんの僅かに、だが、確かに。後出しだったメリュジーヌが剣を振るう方が早かった。
しかし、剣速の冴えすら些事と思えるほどに異常なのは、その技量。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとの交戦時。
その時は、シャルティアの突撃槍とイリヤの振るう斧剣が激突する度に轟音が響いていた。
翻ってメリュジーヌと刃を交わした時は、殆ど音が響かなかった。
まず間違いなく、メリュジーヌが見張っていた、屋内にいる人間ども。
その者達が、聞き取れないであろう音量しか剣閃が響くことは無かった。
これが意味する所は、つまり。
ボクサーが扱うスリッピングアウェーの要領で、攻撃を受け流していた事となる。
凡夫なら兎も角、シャルティアの一撃をそんな風に止めるのは人間では不可能な技巧だ。
(種族は…セバスの様な竜人種が一番近いでありんしょうか。それなら強さも頷ける。
だが、不思議とアンデッド種の魔力も感じる様な………)
タフネスは種族柄此方の方が上だろう。膂力は撃ち合った感触ではほぼ互角。
だが、速度には明確にメリュジーヌが勝り。技量は完全に自身が後塵を拝する。
それがシャルティアの見立てだった。
魔法やスキルの存在を無視した大雑把な推測だが、相手方も奥の手がある事を考慮すれば。
スキルを消耗した現状の勝率は三割を切り、万全であっても六割には届かない。
例えスポイトランスと真紅の全身鎧を装備した、完全武装の状態であったとしても、だ。
孫悟飯程ではないが、パーフェクトウォリアーを使用したイリヤ以上。
傲慢な気性のシャルティアをして、最上級の評価と警戒を与えざるを得ない戦士だった。
そして、何より。
(何といっても顔が良いでありんす)
死体愛好癖(ネクロフィリア)かつ両刀(バイセクシャル)であるシャルティアにとって。
アルビオンの亡骸から形を得、眉目秀麗なメリュジーヌはド直球でタイプだった。
無論至高の主アインズ・ウール・ゴウンの荘厳さ、美しさには及ばない物の。
一夜の恋人にするならきっと最高の相手となるのは間違いない。
一瞥した瞬間マーダーだと確信するほど全身に満ちた殺意すら。
彼女を惹きたてるアクセントの様にシャルティアは思えてならなかった。
戦闘力、そして容姿。どれをとっても超一流。正に組むには理想の相手と言えた。
だからこそ、解せない点が一つだけ。
「何故ぬしは人間などに従っているでありんしょう?」
孫悟飯をブチ殺す事を目的とした、共闘の要請は即時に返事はもらえなかったものの。
決して悪い反応ではなかった。睨んだ通りメリュジーヌはマーダーだったらしい。
だが、その後彼女が述べた現状は、人間と行動を共にしているという。
不可解だった。敵ながらナザリックに末路わぬのが惜しいと思える騎士が。
何故、人間の子供などと行動を共にしているのか?
シャルティアの問いかけに対して、メリュジーヌは冷淡に返答した。
「従ってる訳じゃない、利用しているだけだよ。沙都子は頭が働くからね。
事実──君が返り討ちに遭った、孫悟飯すら手玉に取った女だ」
その言葉に、シャルティアは一層怪訝な表情を深めた。
狂戦士の如く自分をボコボコにしたあの少年が、ただの人間の少女に手玉に取られる?
悪い冗談もいい所だ。だが、メリュジーヌに冗談や韜晦を述べている様子は無く。
「君の話では孫悟飯は一切話を聞かず、狂った様に襲い掛かって来たんだろう?
それは、沙都子が話していた、彼に盛った毒の効果と同じだ」
雛見沢症候群というらしい、風土病。
罹患者の凶暴性を引き出し、幻覚や妄想で疑心暗鬼と極度の攻撃性を誘発する悪魔の病。
それを発症させる毒を、北条沙都子と言う少女は孫悟飯に盛ったという。
「では、あのクソガキは……」
「あぁ、早晩喉を掻きむしって自滅する公算が高いそうだよ。
それが一時間後になるか、はたまたこの殺し合いが終わるまで保つかは分からないけどね」
「それはそれは………」
良いことを聞きんした、と。シャルティアは邪悪に唇の端を吊り上げる。
全くあのクソガキには酷い目に遭わされたが、放って置いても自滅するなら話は別だ。
人間の少女如きに騙されて、喉を掻きむしり死ぬのを想像するだけで溜飲が下がった。
話を聞いて浮ついた雰囲気を纏うシャルティアに、メリュジーヌは釘を刺すように。
「浮かれている所悪いけど、まだ厄介な相手が名簿に載っているには気づいた?」
「う、浮かれてなどおりんせん!私だってちゃあんと把握しているでありんす」
メリュジーヌの言葉に、慌てて反論するシャルティア。
そう、彼女だって気づいている。孫悟飯の名前の隣に並ぶ、孫悟空の名前には。
ナザリックのメンバーの名前が無かったのと同じくらい、その文字列を読んだときは不吉な予感を感じたものだ。
「沙都子と、僕のもう一人の仲間の話では…孫悟空は孫悟飯の父親らしい。
そして、強さも───孫悟飯と同じか、それ以上だそうだ」
メリュジーヌ述べた孫悟空に対する情報は。
シャルティアにとっても重くのしかかった。
例え孫悟飯が自滅したとしても、その父親が優勝の玉座まで立ち塞がっている。
正しく、目の上の瘤に等しい存在と言えた。
そしてそれは、シャルティアだけでなく、メリュジーヌとっても同じ。だからこそ。
「君の要請は受け入れよう。だが二つ、条件がある」
メリュジーヌは、シャルティアの要請を条件付きで受け入れた。
「一つは、同盟は結ぶが、私達とは別行動を取ること
数時間後に落ち合う場所を決めて、もう一度合流しよう」
まず単純に、ぞろぞろと連れ立っていては殺す効率が悪い。
加えて、両者共に複数の対主催にマーダーとして認識されている。
連れ立って行動を共にしていたらマーダー同士結託している事が浮き彫りになり、
沙都子のアリバイ作りが無意味となってしまうのだ。
最悪の場合、孫悟空や孫悟飯が話を聞きつけて奇襲を仕掛けてくる恐れすらある。
そして、最大の懸念は。
「僕は割り切っているけど───君は人間に従うなんて、御免だろう?」
メリュジーヌは、北条沙都子に一定の利用価値を見ている。
彼女の語った言葉は、自暴自棄の極致にあったメリュジーヌの指針となったからだ。
だが、目の前の吸血種は違う。彼女は沙都子を見下している。
いざと言う時に足並みを乱す恐れがあり、それ故の条件と言えた。
そしてそれは、シャルティアにとって受け入れるに何ら問題がない。
ナザリックの階層守護者として、人間の少女になど従える筈もなく。
孫悟飯など規格外の存在はいる者の、単独でも十分この殺し合いを渡って行ける。
強者である自負が彼女にはあったからだ。だから彼女がこの条件を拒む理由は無かった。
こくりと頷いて、もう一つの条件を伝えるように促す。
「もう一つは……僕としても、組むに値する相手だという確証が欲しい」
告げるメリュジーヌの声色は、凍てついていた。
「それは、つまり………」
「あぁ」
シャルティアは、暫し無言で考えを巡らせる。
傷とダメージは支給品により癒し。スキルは未だ使用不能だが、MPの補給源も確保した。
そして、今はメリュジーヌもいる。それを考慮して考えれば……
あの日番谷と言う少年が来ても、二人がかりなら確実に勝てる。
孫悟飯だけは如何ともしがたいが、MPの補給ができる今なら上位転移の魔法で問題ない。
やって来た瞬間逃げの一手を打てば、近いうちに相手は自滅するのだから。
「ふむ…そう言うからには其方も今一度力を証明する気はありんすかぇ?」
「構わないよ、首級を挙げる競争と行こうか?」
力を、示す。
それにうってつけな人間どもが今いる施設の屋内にいる事をシャルティアも把握していた。
丁度、栄養補給の時間が欲しかったところだ。
見込みのある人間がいれば、血を吸って眷属にしてしまうのもいいかもしれない。
だから。
「───えぇ!丁度栄養補給のジュースが欲しかった所でありんすから」
そう返答したシャルティア・ブラッドフォールンの顔は、輝く様な笑顔だった。
□ □ □
その時、ディオ・ブランドーが中央司令部から出ていたのは偶然だった。
永沢の殺害と、ドロテアとの結託。モクバ達を丸め込む一連の喜劇。
それを終えると、一行は中央司令部からホテルに移動しようとしたが。
その前に、中央司令部は軍事施設だと見受けられたため、
医療品や食料、そして首輪の解析に仕えそうな道具を拝借してから行こう。
モクバかドロテアがそう提案し、ディオもそれに異を唱える事は無かった。
外を見張っていたキウルが、未だこの施設に近づく者はいないと言ったからだ。
十五分後に集合し、ホテルに出発しよう。そう決めて各々は散らばった。
そう、ほんの僅かな時間になる筈だったのだ。各々が別れた時間は。
「何だ……?」
ドロテアとモクバは首輪の解析に仕えそうな道具を、キウルは武器を。
そしてディオは医療品を探すべく、医務室に足を延ばそうとしたその途中の事だった。
外に、人影が見えた気がしたのは。
施設の奥に向かったドロテアやモクバ、キウルではない。
見えたのは一瞬で、気のせいかとも考えた。
だが、気のせいだと片付けて違和感を放置するのは、ディオからすれば間抜けの所業だ。
今は殺し合いの最中、油断した者から死ぬだから。
(モクバ達を呼ぶか?しかし、見間違いであれば………)
人影は、今は全く見られない。
少し通路の窓から覗いてみたが、外に人がいる気配はなく。
となれば、ドロテア達を迂闊に呼ぶのは一概に正解とは言えなかった。
気のせいだったとしたら、ドロテア達の時間をただ浪費させたことになる。
そう言った些細な失点を重ねた結果、永沢は無惨な末路を迎えたのだから。
悩んだ末に、少しだけ外に出て確認する事とした。
無論のこと何か危険を感じたら即座に屋内に引っ込み、キウルを呼ぼうと考え。
バシルーラの杖を握り締めながら、恐る恐る施設の外へと踏み出した。
「…………………気のせいか」
対主催も、マーダーの姿もそこにはなく、特に異変も見られず。
穏やかな日差しと、屋外の新鮮な空気だけがそこにはあった。
すー…と深く深呼吸をした後、再び司令部の中へと戻ろうとする。
ロスした時間の分、急がなければ、そんな事を考えて。
「いえ、気のせいではありんせんぇ?」
一瞬にして全身が凍り付いたのは、その直後の事だった。
ディオ・ブランドーの前に現れた二つの人影。その出現には前兆と言う物がなかった。
突如として、そう文の枕に着くほど唐突な接敵であった。
姿を認めた一人は、煽情的な漆黒の衣装に身を包んだ銀髪の女。
そしてもう一人の姿を認めた瞬間、最悪だ、と。ディオは泣きそうになった。
「………メリュジーヌ………!!」
総身に冷たい殺意を漲らせた、メリュジーヌが立っていたからだ。
目の前が真っ暗になるような恐怖と絶望感が、ディオに襲い掛かる。
先ほど永沢を殺害した高揚感など、台風の中のビニール傘の如く飛んで行ってしまった。
しかし、それでもなお。
「────ッッッ!!!」
絶望の淵に在ってなお、ディオ・ブランドーに諦観はなかった。
こんな場所で終われるかッ!その意地だけで、彼はその手の杖を振り上げる。
そのまま卓抜したガンマンの抜き打ち並みのスピードで、バシルーラの杖を振るう。
「喰らえェえええッ!!!」
裂帛の気合を込めて、魔法が放たれる。
ディオは祈るような心持だった。当たってくれ。どうか通じてくれ、と。
そして、運命の女神は彼の願いを聞き入れた。
「……………」
目の当たりしてなお、信じがたい光景だった。
ディオが放った魔法の光線が、メリュジーヌに当たったのだ。
それに伴い、メリュジーヌは無言のままに彼方の空に消えていく。
魔法が無効化されるだとか、そう言った事も無かった。
いける。当たりさえすればやれる。
確信と共に、ディオはまた杖を振るった。今度は黒衣を纏った、銀髪の女へと向けて。
メリュジーヌとどういう関係だったかは知らないが、どうせロクな奴ではない。
「おや」
また当たった。そして黒衣の女も惚けた声を漏らし、あっさりとその姿を消す。
拍子抜けな程だった。だが辺りを見回して見ても、やはり二人の姿はない。
やり過ごしたのだ。僅かな高揚感が、胸の奥からこみ上げてくる。
だが今は、喜びに浸っている場合ではない。
最早この地は死地。一刻も早く離れねばならないのだから。
弾かれた様に、司令部の中へと身を翻す。
「早くキウルのウスノロ達にッ!」
「伝えて、どうしんす?」
─────は?
その声を聴いた瞬間、再び全身の血の気が引いた。
だってその声は、今一番聞こえてはならない声だったのだから。
だが、振り返ると共に目に飛び込んできた少女の姿が、あらゆる可能性を否定する。
楽し気に槍を携えてほほ笑む、銀髪の少女がそこにいた。
「な、何故………」
「何故かって…ぬしの撃った魔法に合わせて、上位転移の魔法を使っただけでありんす。
移動阻害の完全耐性はこういう使い方もできるの、勉強になりんしたか?」
バシルーラの魔法を受けると同時に、シャルティアは魔法を使った。
《グレーター・テレポーテーション/上位転移》の魔法を。
通常なら先に受けていたバシルーラの効果が優先されるだろう。しかし。
シャルティアには移動の妨害に関する魔法やスキルの完全耐性を有している。
そして、彼女の耐性は転移魔法と激突したバシルーラの効果を、妨害と判定した。
結果、バシルーラの効果は相殺、無効化され。
正常に発動した転移魔法でディオの後方に表れたのだった。
そういった経緯でバシルーラの効果を無効化したと得意げに語るシャルティアに対して。
ディオにはシャルティアが何を言っているかさっぱり分からなかった。
ただ分かるのは、頼みの綱のバシルーラの杖は効果がない、という事だけ。
「な……ぁ…」
そして彼は、更なる絶望へと叩き落される事となる。
耳鳴りに似た風切り音。それを伴って。
中央司令部の上空に何か光るものが現れたからだ。
蒼く光るその飛翔物体は流れ星の様で。
しかしディオにとっては恐怖と絶望の凶星に他ならない。
上空に表れた禍つ星は、一瞬空中で停止した後、一直線に大地へと降り注いでくる。
そして、黒衣の少女の傍らに、音もなく降り立った。
流れ星の正体は、今最もディオが会いたくない殺戮者(マーダー)の姿を形どっており。
今度はより色濃い絶望と共に、ディオはその名を呼んだ。
メリュジーヌ、と。
「ぬし、どうしてわざわざあの程度の魔術に当たってあげたでありんすか?」
「別に、躱しても構わなかった。だけど………」
───此方の方が、手間が省けると思ってね。
そう言って、メリュジーヌは冷たい視線を目前のちっぽけな人間へと向ける。
ヒトを超えた超越者に射すくめられ、ディオは乾いた吐息を吐き出す事しかできない。
推察するに、メリュジーヌはただ飛行して戻ってきたのだろう。
バシルーラの力に真っ向から逆らって飛んできたのか。
それとも、飛ばされた先で真っすぐここを目指してやって来たかは分からない。
だがどちらにせよ、バシルーラはメリュジーヌには通用しない。
無駄だと思い知らせるために、ワザと受けて見せたのだ。
そして、その効果は抜群だった。
諦めの悪いディオをして、何をしても無駄だと諦観が過るほどの衝撃を与えていた。
「く………ま、待てッ!!」
だが、ディオは膝を折らない。
絶望的な状況下でも、諦める様ではこの男は本来辿る歴史で邪悪の化身。
悪のカリスマなどと呼ばれてはいないのだから。
ゆっくりと歩み寄って来るメリュジーヌ達の前に腕を突き出し、制止する。
そして、大きく後ずさりながら必死の交渉を試みた。
「僕の仲間に海馬モクバという乃亜の近親者がいるッ!奴の情報も当然あるッ!
その上奴は首輪を外せるかもしれないッ!僕を殺せば、それらが全てご破算だぞッッ!!」
乃亜や首輪の情報が欲しいのなら、手荒な真似はやめろ下賤の売女どもがッ!
そう叫びそうになるのを堪えて、何とか手持ちのカードでディオは保身を試みた。
いかなマーダーとて、乃亜や首輪に対する情報は無視できない筈。
その推測から出た言葉であり、そしてそれは的を射ていた。
メリュジーヌの傍らに立つ、銀髪の少女が反応を示したからだ。
「ふーん………では、そのモクバという子からは色々話を聞かないとね?」
そう言いつつも、彼女の手の突撃槍が下がる気配は無い。
ディオの全身が震える。冷や汗が止まらなくなり、表情は真っ青だ。
もう破れかぶれだった。
「と、止まれッ!それ以上僕に近づくなッ!!僕を傷つければ、当然───!」
ディオの悲鳴にも似た怒号を受けても、銀髪の少女はどこ吹く風で。
揶揄うように、諭すように、ディオの指示に従う理由が無いことを告げる。
「そうは言っても…私達はぬしらで力を示す約束で和議を結んだでありんす。
それを破れば隣のメリュジーヌが敵になるかもしれない。そんなリスクを私に負えと?」
頬に手を当て、メリュジーヌの方を一瞥しながら銀髪の少女はディオにそう語った。
ディオ達を敵に回すリスクと、妖精騎士を敵に回すリスク、何方が上かは明白だ。
立場が逆ならディオだって同じ選択をしただろう。
だが、それならメリュジーヌが心変わりすれば銀髪の少女の意見も変わる筈。
ディオがそう考え、メリュジーヌが先んじて興味は無いと返したのはほぼ同時だった。
「僕はシャルティアの様に元の世界に帰りたいと思っている訳じゃない。
願いさえ叶えばそれでいい。何人も殺して、自分だけ助かろうなんて思っていないさ」
メリュジーヌの願望の成就は、奇跡に縋る以外になく。
同時に、願望の成就さえ叶えば、此処で終わってもいい。
妖精國は滅び、生き残った所で帰るべき故郷は何処にもないからだ。
何より、愛(オーロラ)のない世界に、未練など無い。
例え首輪を外せず、願いを叶えた後に乃亜が首輪を爆破したとしても、それでよかった。
むしろ、自刃する手間が省けるというものだ。
「そして何より……君たちは信用に値しない」
「確かに、首輪目的で仲間を殺すような相手はねぇ?」
一部始終を見ていたメリュジーヌも。
メリュジーヌから話を聞かされたシャルティアというらしい銀髪の少女も。
ディオ達一向に対する信頼度は皆無に等しかった。
こう言って勧誘を行うのも苦し紛れ、この場を切り抜けるための方便でしかないだろう。
もし孫悟飯のような参加者と合流すれば、即座に自分たちを売ってもおかしくない。
シャルティアや沙都子、メリュジーヌが手を結ぼうとしているのも。
孫悟空という共通の敵と、お互いが複数の対主催にマーダーとして認識されている為、
容易にお互いを裏切る事ができないという立場に依る物が大きいのだから。
(ぐぐッ…!?こ、こいつら……話が通じん!)
元々、苦しい説得だとは思っていた。
だが、ここまで取り付く島もないとは。
言葉に詰まるディオを嘲笑うように、シャルティアは続ける。
「まぁ安心しなんし?私は首輪を外せるという話に興味が無いわけではありんせん」
「なら───」
「あぁ、勘違いしそうな所悪いけれど、私がぬしら下等生物と態々仲良くしてまで…
情報を吐かせる方法が無いって、本当にそう思ってる?」
ディオがその言葉を聞いて思い浮かんだのは拷問という手段だったが。
シャルティアにとって、拷問などするまでもない。
魅了(チャーム)の催眠がただの人間であれば通じるのは眼鏡のガキで確認済み。
血を吸って絶対服従の眷属にしてしまう手もある。
故に、こちらの不興を買えば情報が手に入らなくなるぞ。という脅しは通用しない。
「──ハッキリ言ってあげる。
私達がぬしらと“交渉”する必要なんて、何処にもありんせん」
力関係が圧倒的に違う相手に対して、交渉など成立しない。
あるのは屈従か、拒絶からの玉砕の二択だ。
正に絶体絶命。断崖絶壁の淵だった。
「どうやら理解した様だし、そろそろお喋りは終わりにするとしますかぇ」
獲物の顔が恐怖に浮かぶ様を眺め、獣の笑みでシャルティアが歩み寄ってくる。
この瞬間、ディオは全てを諦めた。
だがそれは己の生存を、という意味ではない。
モクバ達の生存を諦めたのだ。一瞬で彼らを見捨てる決断を、彼は成した。
伸ばしていた手とは反対の密かにポケットに突っ込んでいた手。
その手に握ったカードに念じる。
「『感謝』してやるぞ永沢───」
シャルティアが、目前で槍を振りかぶった。
間違いなく、ただの人間の少年である時代のディオを叩き潰せる一撃。
それを前にしても、ディオはシャルティアから瞳を逸らさなかった。
冷や汗をとめどなく流し、青い顔になりながらも。
その相貌は、真っすぐにシャルティアに向けられていた。
彼女らの背後で、ディオがポケットに手を突っ込んでいる事をメリュジーヌが気付くが、すでに遅い。
「貴様が僕の為に、このカードを遺しておいてくれた事をなッ!」
シャルティアの突撃槍が、ディオの頭蓋をカチ割るコンマ数秒前。
コンマ数秒の差で、ディオとシャルティアの間に眩い光が現れる。
光は質量を伴っており、ガァン!と音を立てて突撃槍と激突する。
だが、傷一つない。出現した光の十字架は、致死の一撃から見事ディオを護り通していた。
「光の護封剣…!」
ポケットから取り出した青い装飾が成されたそのカードを掲げて。
ディオは会敵から初めて、不敵に笑った。
得意げな下等生物の顔を見せられ、シャルティアは舌打ちを一つ打つ。
「ここからどんな策を考えているかは知りんせんが、無駄な足掻きを───」
<<魔力の精髄(マナ・エッセンス)>>を使って目の前の光の十字架の検分を行う。
現れた障壁は数秒ごとに魔力が薄れており、三分ほどで完全に消えてなくなる。
それを読み取ったシャルティアは、支給品を用いた無駄な足掻きだと評した。
例え僅かばかりの時間を稼ごうと、目の前の小僧にはどうにもならない。
シャルティア達を倒す事は愚か、走って逃げる事すら不可能だ。
敢えて出来る事があるとしたら───、
「策ではないッ!勇気だッ!」
シャルティアの想定通りの行動を、ディオは行った。
彼は先ほどと同じく、必死の形相でバシルーラの杖を振り上げていた。
効かないという現実を受け入れられなかったのか。
それとも、今度は通じる様に何か細工を行ったのか。
一体何方かを考えていたシャルティアだったが、答えは両方とも違う物だった。
「WRYYYYYYYYYY!!!!!!」
「!?」
必要な物は勇気である。
ディオが行った、起死回生の一手。
それは、自身にバシルーラの杖を振るう事であった。
これならば、例え目の前の敵にバシルーラの効果が効かなくとも。
同じ結果を導く事ができると、彼は事前にそう読んでいた。
そして、その読みは正しかった。
「く──待て!!」
その手があったか。
遅れて意図を理解したシャルティアが槍を振るう。
だが、やはり障壁に阻まれ彼女の殺意は届かない。
ガァン!と更にメリュジーヌもアロンダイトを叩き付けるが、やはり結果は同じだった。
障壁の向こう側で、ディオの身体が浮き上がる。
「これが僕の逃走経路だッ!貴様らはこのディオとの知恵比べに負けたんだッ!!」
高笑いと共に、ディオの肉体が彼方の空へと消えていく。
だが、障壁がある以上二人のマーダーは見送るほかなく。
結局、光の護封剣の効果が切れたのは、ディオの高笑いすら聞こえなくなった後だった。
□ □ □
死地から一人脱出したディオ・ブランドー。
だが、それは文字通り死地から脱出が叶っただけであり。
依然、彼は絶体絶命な状況下に置かれていた。
「KUAAAAAAAッ!!!!どうするッ!着地ッ!!」
きりもみ回転を行いながら、落下していくが彼にはどうする事も出来ない。
彼はまだ悪の帝王として羽化するよりずっと以前。
石仮面やスタンドの存在すら知らない少年なのだから。
最初から自分にバシルーラの杖を使わず、最後の手段とした理由が此処にあった。
着地の手段を、彼は有していないのだ。
金色の闇とは違い、彼が十メートル以上の高さから落下すれば待つのは死の一文字である。
「ちぐしょう〜〜〜!!!あの太陽が最期に見る物なんて嫌だ〜〜〜ッ!!!」
すっかり昇った太陽の光を浴びながら、大地へと墜ちていく。
建物や樹に引っかかるのが唯一の希望だったが、そう上手くは運ばなかった。
その上、落下の最中ぐるぐると回転したお陰で三半規管に莫大な負荷を受けており。
「く、そ……この、ディオが………!」
落下まで二十秒を切った所で、ディオは意識を失った。
直前に脳裏を過ったのは、彼が幼いころに死んだ母親の死に顔。
その光景を最後に、意識すら手放したディオ・ブランドーの打つ手はたった今尽きた。
それはまるで、永沢を殺した報いであるとでも言うかのような巡り合わせで。
「影分身の術!!」
だがそれでも、彼の悪運はまだ尽きてはいなかった。何故なら。
ディオの落下地点に独り滑り込み。
墜落する彼の身体を、身を挺して受け止める者がいたのだ。
大量の影分身たちが両手を掲げ、落下の衝撃を吸収する。
ぼよんと胴上げの様に一度大きく跳ねた後、外傷なく少年の身体は受け止められた。
「おいっ!おいっ!大丈夫かお前!しっかりするってばよ!どうしたんだ!」
慎重に今しがた空から降って来た落下物を大地へと降ろし。
頬をパンパン叩きながら、うずまきナルトは少年の状態を検める。
外傷はなく、呼吸も正常だ。ただ気絶しているだけだろう。
それを確認してから、素早くナルトは少年を背負いあげた。
「一旦エリスの所に戻らねーと……!」
シュライバー戦の疲労とダメージが色濃く、近辺の民家で休んでいる同行者の下へ。
ナルトは脇目もふらずに駆けだした。
その背に背負っているのが、つい先程同行者を私欲の為に殺した男だとも知らないで。
【D-5/1日目/午前】
【うずまきナルト@NARUTO-少年編-】
[状態]:チャクラ消費(中)、疲労(中)、全身にダメージ(治癒中)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品×3、煙玉×4@NARUTO、ファウードの回復液@金色のガッシュ!!、
鏡花水月@BLEACH、ランダム支給品0〜2(マニッシュ・ボーイ、セリムの支給品)、
エニグマの紙×3@ジョジョの奇妙な冒険、ねむりだま×1@スーパーマリオRPG、
マニッシュ・ボーイの首輪
[思考・状況]
基本方針:乃亜の言う事には従わない。
0:空から落ちてきた奴(ディオ)を介抱する。
1:火影岩でセリムを待つ。
2: 我愛羅を止めに行きたい。
3:殺し合いを止める方法を探す。
4: 逃げて行ったおにぎり頭を探す。
5:ガムテの奴は次あったらボコボコにしてやるってばよ
[備考]
※螺旋丸習得後、サスケ奪還編直前より参戦です。
※セリム・エリスと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました。
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]気絶、精神的疲労(中)、疲労(中)、敏感状態、服は半乾き、怒り、メリュジーヌに恐怖、
強い屈辱(極大)、乃亜やメリュジーヌに対する強い殺意
[装備]バシルーラの杖[残り回数1回]@トルネコの大冒険3(キウルの支給品)
[道具]基本支給品、光の護封剣@遊戯王DM、ランダム支給品0〜1(永沢の支給品)
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:…………
1:キウルを利用し上手く立ち回る。
2:先ほどの金髪の痴女やメリュジーヌに警戒。奴らは絶対に許さない。
3:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
4:海が弱点の参加者でもいるのか?
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
□ □ □
ディオが消えて行った空を眺めながら。
メリュジーヌは、何か耳飾りの様な物に話しかけていた。
三十分ほど待っていてくれと、彼女は耳飾りの先にいる相手にそう告げる。
推察するに、今話しているのが件の沙都子とやらか。
聞き耳を立てつつ考えている内に、通信が終わった。
それを見計らって突撃槍を担ぎ、シャルティアはメリュジーヌに尋ねる。
「………どうするでありんす?今なら追いかけられなくもありんせんが、ムカつくし」
シャルティア達の飛行速度なら、追いかければ追いつかない事は無いだろう。
だが、メリュジーヌは鉄面皮のまま、首を横に振った。
彼一人追いかけた所で、あまり意味はない。
それよりも、彼が言っていた仲間の方が余程襲撃する価値がある。
この勝負は彼の捨て台詞の通り、勝ちを譲ってやろう。
「今のを見て分かっただろうけど、カードを扱う相手は真っ先に潰した方がいい。
今の少年の様な弱者が、私達に一矢報いる可能性が一番高い手段だ」
「ふむ…あの程度なら何とでもなる気もするけど…覚えておくでありんす」
自信家のシャルティアであっても、流石に今しがた出し抜かれたばかりでは否定もできず。
素直にこくりと頷いて、ディオの仲間がまだいるという中央司令部に向き直る。
本番の栄養補給はこれからだ。
戦意を滾らせるシャルティアに対して、メリュジーヌは相変わらず冷淡に声を掛けた。
「───さて、僕を落胆させることが無いよう頼むよ」
氷の様に冷たく美しい美貌に浮かべるのは、変わらぬ能面のような無表情。
だがその瞳には、目的へと一直線に突き進む破滅の焔が燃えていた。
キィンと金属音染みた音と共に、両手と青紫色の手甲から伸びるのは彼女の外皮。
妖精剣アロンダイト。彼女の妖精騎士としての誉れそのものだ。
「そちらこそ、と言っておきんしょう」
自分に向けられた、挑発的ともいえる言葉を。
シャルティアはメリュジーヌの無表情とは対照的な、酷薄な笑みと共に返した。
ナザリックの階層守護者として、挑発は余裕を持って受け止めなければならない。
優雅に、可憐に、そして見る者に畏怖を抱かせる、そんな立ち振る舞いで。
握る槍は神器(ゴッズ)級アイテム、スポイトランス。彼女の忠誠の印。
吸血鬼の戦乙女はその手の突撃槍をぶぅんと振るう。
それによって巻き起こった旋風は、これから起こり得る凶兆を予感させるようだった。
「さぁ……残った鼠の駆除の始まりといくでありんす」
斯くして、吸血姫(ドラキュリーナ)と龍(アルビオン)の呉越同舟は成り。
今はただ、己が栄光の為でなく、二体の槍兵は愚かで弱く醜い人間達へと進軍する。
この殺し合いにおいて、彼女達が真に人と歩むことは無い。
今の彼女達にとって、人とは利用するだけの存在なのだから。
ただ己の愛と忠節を、此処にはいない至高の主へと捧ぐ為に。
ヒトを超えた麗しき二槍の怪物は、再び荒れ狂う。
【F-6/1日目/午前/中央司令部】
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(小)、自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、
デザートイーグル@Dies irae、『治療の神ディアン・ケト』@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:沙都子と合流する前に、シャルティアが利用できるか見極める。
1:中央司令部に集う者達を襲う。
2:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
3:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
4:ルサルカは生きていれば殺す。
5:カオス…すまない。
6:絶望王に対して……。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】
[状態]:怒り(極大)、MP消費(中)(回復中)、
スキル使用不能、プリズマシャルティアに変身中。
[装備]:スポイトランス@オーバーロード、カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:優勝する
0: メリュジーヌに力を示すのと同時に、彼女が同盟を組むに値するかを見定める。
1:真紅の全身鎧を見つけ出し奪還する。
2:黒髪のガキ(悟飯)はブチ殺したい、が…自滅してくれるならそれはそれで愉快。
3:自分以外の100レベルプレイヤーと100レベルNPCの存在を警戒する。
4:武装を取り戻し次第、エルフ、イリヤ、悟飯に借りを返す。
5:メリュジーヌの容姿はかなりタイプ。
6:可能であれば眷属を作りたい。
[備考]
※アインズ戦直後からの参戦です。
※魔法の威力や効果等が制限により弱体化しています。
※その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
※スキルの使用可能回数の上限に達しました、通常時に戻るまで12時間程時間が必要です。
※日番谷と情報交換しましたが、聞かされたのは交戦したシュライバーと美遊のことのみです。
※マジカルルビーと(強制的)に契約を交わしました。
【光の護封剣@遊戯王DM】
三ターンの間、相手の攻撃を封じる魔法カード。
本ロワでも使用すれば三分間ほどの間相手の攻撃から身を守ってくれる。
ただし、このカードの発動中は自身も攻撃を仕掛ける事ができない。
一度使用すれば12時間使用不可能。
投下終了です
投下ありがとうございます!
ディオ君、見ていてとても面白い男
2大マーダーに挟まれて、絶体絶命の危機を勇気で切り抜けたのは間違いなくジョジョキャラの輝きですが。
最後がしまらないの絶妙な情けなさと愛嬌があって好きですね。
危機が迫っても、すぐに仲間に相談に行けず、ドロテアを警戒してるのも仲間内がガタガタしてることが表れてて面白いです。
ナルト、こいついつもステルスマーダー拾ってんな。
中央司令部への包囲網。
これもう、突破無理なんじゃないかな……
>そして何より……君たちは信用に値しない
>確かに、首輪目的で仲間を殺すような相手はねぇ?
メリュ子もシャルティアもロクでもないんですけど、正論ぶっ刺してきてるのは笑う。
しかも、ディオ君もドロテアが居るから仕方なしにやった面もあるんでかなり可哀想。
それとすいません
拙作の>闇の胎動ですが
無惨と藤木君との面識意外に
魔神王の変身能力の設定を誤って覚えていたのと
状態表にあった食べた相手の姿にならないと、その技能を使えないというのを失念していましたので、無惨の姿のままマルフォイの技能を使った描写に矛盾が生じておりました
ですので、話の後半をほぼ書き直し
前半も見返すと描写不足が多く感じられ加筆修正しましたので、また最初から再投下させて頂きます
「早い再会ね、ネモ」
「フラン、それ……」
フランドール・スカーレットが引き摺る赤黒いボロ雑巾のような薄汚い物体。
キャプテン・ネモは一目見て、それが最悪の結果を形にしたものではないかと想像する。
まさか、彼女は一線を超えてしまった。
理由を知りたい。理由があれば許していい物でもないが、再び彼女が殺し合いに乗っていない事を願いたい。
「うん。処刑したの」
返ってきた言葉は無慈悲に。
ただの肉塊となった、無惨な人だった物を指差して。
フランは笑顔で言った。
【勇者ニケ@魔法陣グルグル 死亡】
「……ま、前が見えねえ」
【勇者ニケ@魔法陣グルグル 生存】
ボロ雑巾からまるで漫画の次コマに移ったかのように、一瞬でそこそこ小奇麗に治ったニケは、ひしひしと悲惨な目にあった経緯を話した。
頭をぶつけて、フランに捕まってぶん殴られた。証拠に顔面は真ん中から凹んでいて、視界はとても確保出来ない程、鼻から減り込んでいた。
もう顔の人相が確認できない程で、さながら妖怪のようだった。
「ニケお兄さんはのっぺらぼうなんだね」
「いやいや、もっとイケメンなんだぜ俺」
「顔がないから、いくらでも美形に書けるもんね」
「何なの、この娘」
神戸しおからすると、あまりにも唐突な場面転換と再生能力に驚くが。
ニケがコミカルな性格なのもあって、すぐに話が弾む。
「あの声をジャックが聞いてるかもと思ってこっちまで来たの」
「君が来てくれたのは、ありがたいよ」
運が良かったというべきか。
胸を撫でおろしながら、ネモは少し安堵する。
藤木茂の拡声器によって拡散された叫びは、マーダーを呼ぶ恐れがあるが、先に来てくれたのは友好的なフランだったのは不幸中の幸い。
彼女の強さは身をもって知っている。
それに拡声器の声を聞いて、ジャック・ザ・リッパーが来るかもしれないという理由で、カルデアで共に滞在して貰えるかもしれない。
(な、なんだか……あんまり怖くない女の子だな……)
同じように藤木も安心していた。
飾りのような羽が付いている以外は、全然世間知らずの女の子が居るだけだ。
やろうと思えば、いつでも自分でも殺せる気がする。
「……はぁ、全く酷い目にあった」
ニケの顔が再生し素顔が露わになる。一瞬で場面が切り替わるような再生は、ギャグマンガのように。
彼は再生力持ちなのか? ネモは少し考えてから、多分時々あるカルデアの変なイベントと同じだなと気にしないことにした。
(仮面が外れたのは良かったけど……もう嫌だな)
塩になるのを覚悟していたが、予想以上に使用回数に猶予は設けていてくれたらしい。
一度使った程度で、仮面が外れなくなる程ピーキーでないのは僥倖だ。
次、使うのは二度と御免だが。
「───ニケの言う人形と子供は、こっちでは見ていないね」
(この人、天使さんの仲間なんだ……)
しおはそれが最初に出会った黒翼の天使だとは分かったが、敢えて口にすることもない。
ニケの当面の目的は逸れた水銀燈とおじゃる丸との合流だ。
まだ水銀燈は良いが、不味いのはおじゃる丸だろう。ナカジマに襲われたあの時は選択肢もなく、止む無く二人共逃がしたが、その後水銀燈がどんな扱いをするか分からない。
ニケといた頃は、これでもニケが目を光らせていたのでそう極端な行動には出なかったし、ジョークの範囲で済んだが、本当に二人っきりになれば話は変わる。
一刻も早く見付けてあげないと、おじゃる丸の生存確率は時が経つ度に下がっていくといっても過言ではない。
「雄二と会ったのは本当なのか?」
「コナンって子と一緒にマサオを探してたわ」
「マサオ?」
「ええ。そうだ、一応聞いておかないと。
おにぎり頭の男の子見てない? なんか大変なんだって確か───」
フランが話す内容から、マヤと別れた風見雄二が無事なのは良かった。それはニケにとって朗報で、ある程度居場所が絞れているのも良い。
「……そのマサオって子、探してあげないと駄目だろ」
ただ、フランの友達と言う野原しんのすけの友達である、佐藤マサオを方ってこっちに来たのは大丈夫なのだろうか。
フランも聞いた話をそのまま伝えているだけなので、ニケもちゃんと事態を把握出来ないが、どう考えてもマサオの状態は危険だ。
「コナンが探してるから大丈夫でしょ」
「そう言う話じゃなくて、しんのすけって子の友達なんだし」
「うーん……その前に、ジャックを探さないといけないし」
「友達の友達が気まずいのは分かる。……いやー微妙な距離だけどな? だけど、そこは行かなきゃ駄目だろ」
「自分より弱い子を守るの、もう疲れちゃったし……」
「はあ?」
釈然としないながら、ニケもあまり深くは突っ込めない。
「……俺はもう行くよ。おじゃる丸を探してやらないと」
拡声器での助けを求める声もあったので、ボコられつつ暫くはフランと同行していたが、見たところマーダーは集まっていない。
後から来るにしても、フランとネモが居れば何とかなるだろう。
「ここに居た方が良いわ」
「だから、仲間と逸れたから俺は」
「良いから」
ニケの腕をフランが掴む。
「お、おいちょっと……」
振り解こうとしているのに、全く自分の腕が動かない。
万力のような握力と鉄のようにびくともしない手にニケもぞっとする。
「大丈夫だって言ってるでしょ。そのおじゃる丸って子も死んでも大丈夫よ」
「は?」
「フラン!」
フランはネモがドラゴンボールという、あらゆる願いを叶える最後の切札を握っていることを知っている。
この場の全員が死に絶えようと、意思を継いだ誰かがそれを使い蘇生を願えば全員が生き返る。
故に、対主催のニケがおじゃる丸という何の役にも経たなさそうな人間の為に離脱するより、ネモと共に脱出の為の準備を手伝う方が効率が良いと判断した。
そして、ネモと一緒に居る神戸しおと横の藤木茂という子供は信用できない。迂闊にそういった話をする訳にもいかないし、ドラゴンボール関連の会話は乃亜に禁じられている。
そこまで考えた上で、半ば強引かつニケを引き留めている。しかし、あまりにも会話と説明が足りていない。
「ニケ、君の事情は分かるが、少し僕の話も聞いて欲しい」
「貴方もネモと一緒に居た方が良いわ。おじゃる丸と居ても、何にもならないでしょ」
「フラン!」
フランは高い知能を持つ。理解力も高く、ネモと予め打合せないでも、咄嗟にしおと藤木との複雑な関係も察するなど、洞察力もある。
言っていることは正論だ。ニケがネモと協力し、後で犠牲者はドラゴンボールで何とかするのが、一番効率が良いのだから。
ただ、結論から話してしまう。周りの理解が追い付かず、困惑させ、フランも話せる内容が制限されているのと、元より人に懇切丁寧に説明するタイプでもない。
「あいつ、4歳か5歳位の子供だぞ!!」
当然、伝わる情報が極端な結論だけでは、ニケからも反感を買う。
「殺し合いなんかやらせて、生き残れるわけないだろ!」
ニケも焦っている為に声を荒げる。
魔神王との交戦時、水銀燈と纏めて一緒に逃がしたが、その水銀燈がおじゃる丸を見捨てないと言い切れない。
水銀燈は情も義理もない足手纏いを、長く連れて歩くような人物とは違う。
ほぼ間違いなく、何のしがらみもなくなれば何処かで見捨てる筈だ。
そうなれば、あの変な竹刀があっても絶望的になる。何なら、竹刀まで取り上げて放置もありうる。
確かに、おじゃる丸はろくでもない我儘な子供だった。クソガキなのは否定しないし、殴れるなら数発ぶん殴る位にはイラつきもしていた。
だが、死んで良いような子供ではない。そこまでされるような子供じゃない。
中島の件はどうしようもない程のやらかしで、マヤの件は言うにしても言葉を選ぶべきだし、色々しょうもない子供だった。
だが、アヌビス神や仮面のような呪いのアイテムセットを脅されるまでニケに押し付けない辺り、ケチなのもあるかもしれないが、多少の善性もあったはずだ。説明書を、その時まで読んでないだけかもしれないが。
だからこそ、フランのおじゃる丸を軽視するような言動には反発する。
「そんな大事に思ってる子なら一応謝るけど、そこまでニケが頑張る必要ないんじゃない?」
「……」
ニケは何も言わずに、身支度を整える。
明るくてちゃらんぽらんだが、何だかんだとお人好しのニケにとって。
冷たく命の勘定を行うようなフランは、何処かで気に入らなかった。
そもそも出会った後の境遇からして、ニケから頭をぶつけたとはいえ不可抗力なのにぶん殴られたのだから、あまり印象も良くない。
「ニケ、こっちで話したい。本当に少しだけで良い。フランも」
ネモは穏やかに、だが力強くニケを引き留める。
フランのせいでネモに対しても、不信感がないわけではなかったが。
殆どすべて、フランが先に口を開いてネモとはしっかり話をしていなかった気がする。
「……分かった」
少し迷ってから、ニケはフランと一緒にネモに連れられしおと藤木から離れた───二人をネモ・マリーンに見張らせ───場所で改めて説明を受けた。
ドラゴンボールという願望機があれば、全ての死者を蘇生させることが可能である。
この説明ができるか、ニケに試し。警告が鳴らなかったのを確認してから。
ただニケに話せたとは言え、マーダーと思わしき人物の前では、やはり説明が禁止されている可能性が高い。
あくまで可能性であり、乃亜の判断次第ではある為に、あまり公に話すことが出来ないこと。
ドラゴンボールの会話が可能かどうかで、殺し合いに乗ったかどうかを判断するのは非常に曖昧で危険であり、疑心暗鬼な推理ゲームになりかねない。
スタンスを偽ったマーダーの前で会話が出来、逆に友好な対主催の前で禁止されるといった工作をされるかもしれない。
それらの注意事項もしっかりと伝える。
そして、マーダーであるしおと藤木の前では話すことが出来ず、フランの対応が極端になってしまった事を補足した。
「じゃあ、しおと藤木は」
「藤木は100%黒だ。しおも……」
「そういえば、なんで壊してないの?」
「まだ、誰も殺めてないからだ。二人とも、元の場所に帰してあげればただの子供のままで済む。
だから僕が責任を持って監視している。
それよりもフラン───」
言葉があまりにも足りな過ぎるとネモから説教を受けて。
フランは退屈そうに聞いていた。
そしてその後、首輪にタオルを撒くように指示しランドセルから民家で回収してきたタオルを二つ、二人に投げ渡す。
ニンフという参加者が首輪の解析を行い一定の範囲まで解析し終えたデータを入手し、これからカルデアという施設で首輪を調べると。
出来れば、同じカルデアに滞在して貰えると、マーダーからの妨害も防ぎやすい。
「……首輪のことは何とも言えないし、なんかイマイチそういうの分からないからさ。
だけど、ドラゴンボールってのは……」
「信じられないのも無理はないよ。でも、信憑性は高い。
実際、聖杯という願望機も存在していて───」
「いやそうじゃなくて、乃亜の奴が何の対策も打たないでいるかなって思って」
「それは、どういう意味かな」
「さっきの放送…あれ、乃亜がなんて言ってたか覚えてるか?
友達が居ないか、確認しろ。早とちりした、バカな女の子が居るなんて言ってたんだ。
早とちりは、きっと殺し合いに乗ったとかそう言う意味だと思う。
あいつ、一人の女の子が殺し合いに乗る為だけにわざと名簿の開示を遅らせて、放送で楽しそうに話してたんだぜ。そんな性悪な奴がドラゴンボールなんて切札、本当に許すと思うか?」
「……」
乃亜の悪辣さは度を超えている。
聡明さもありながら、根底は無邪気で幼い子供が罪悪感を何処かに置き去りにして。
玩具を壊すように人の命を弄ぶ輩だ。
もしも、全能の力を手にしているのなら。ドラゴンボールという、救済手段を見過ごすとは考え辛いか。
「お前の言ってる悟空ってのは地球をぶっ壊せるくらい強くて、それでも俺らと殺し合えるように制限されてる。
それなら、ドラゴンボールにも変なちょっかいだして願いを叶えなくさせるとか、出来たりすんじゃないか」
孫悟空という宇宙最強の戦士の一人に枷を付け、殺し合いを強制し、血まで流させている。
これだけの力と技術を手にした乃亜のことだ。ドラゴンボールを制御していないとも限らない。
「あと……やっぱ、そこまで割り切れない。もし本当に生き返れなかったら……」
ニケにはおじゃる丸への思い入れなんて何もない。
ただ、おじゃる丸がずっと言っていたカズマという少年はきっと違う。
───ククリを生き返らせろ!!
ニケもククリが死んだと思った時、怒りに任せて激情し後から涙を流して悲しみに襲われた。
殺した相手に掴みかかって、それで生き返られるのが無理だと分かった時。
全てがやるせなくなり、項垂れた。
もしも、おじゃる丸が死ねばきっと次はカズマがニケに掴みかかって、同じような光景の繰り返しになってしまう。
もうあんなもの見たくないし、思いもしたくない。
「変なの。
生き返るって言ってるのに」
「それじゃあ、なんでお前はしんのすけの敵討ちをしたいんだよ。
生き返るなら、必要ないだろ」
「え……」
そう言われて、フランは何も言えなくなった。
確かにネモからドラゴンボールの事を聞いて、脱出の為に動くネモに協力する方がジャックを殺す事よりもずっと大事な筈なのに。
自分が固執しているのはジャックへの復讐だった。
「フランにとって、きっとしんのすけは大事な奴なんだよ。
生き返れても…やっぱりそう言う奴には、死んで欲しくないもんだろ。
だから、あんまし人にそういうこと、言わない方が良いんじゃない?」
俺もと言いかけて、ニケは口を閉じた。
一瞬ククリの事が浮かんだが、とてもじゃないがこっぱずかしくて話せたものじゃない。
「…………」
ジャックに対する、怒りが収まらない。
それは今までに感じたことのないものだった。だから、自分でも自覚するのが、遅れたのかもしれない。
人が死ぬのは、もしかしてとても重いものだったんだろうか。
今までは、調理済みの血だけしか見て来なかったから、コップ一杯ほどの重みしか感じなかった。
(……あまり、考えない方がいいかもしれないわね)
妖怪は人間を食べるもの。
少し前にネモに語った常識だ。
この概念をここで翻して、深みに嵌ったら二度と這い上がれなくなる。
だから、この話はここでお終いにした。
これ以上嵌ったら、紅魔館(いえ)に帰れない。そんな気がしたから。
「ニケの言う事も一理ある。
一度限りの命を、良く知りもしないものに託したくないという考えは正しい」
ネモはそう言った。
決して感傷的になり過ぎているわけではない。
だが、ニケの乃亜という人間への評価はかなり鋭いと思えた。
ドラゴンボールの処遇に関しても、これ一つに望みを託し不用意に犠牲を容認するやり方は危ういかもしれない。
ネモ自身、大枠で言えば死人であることと悟空も何度も臨死体験を味わった為に、感覚が麻痺していたと言われたら否定は出来ない。
もしも本当に生き返れなかった場合、それは取り返しの付かない事態でもある。
ネモもこれの提唱者が、悟空という裏表のない人物だから信じた。
『今まで散々多くの異聞帯(せかい)を消したカルデアがそれを言うのかい?』
「……」
ここに居ない、乃亜にそう嘲笑われた気がした。
「そしてもう一つ、ニケの話を聞いて改めて、ドラゴンボールについて気になることもできた。
悟空を疑う訳じゃないし、僕自身の方針を変える気はないが」
「気になること?」
「杞憂かもしれない……ただ、悟空から話を聞いた時、ドラゴンボールの使用回数の多さが引っかかってはいたんだ。
悟空は気にしていなかったようだけど───」
一つだけ、ネモが話を聞いて印象に残ったのは、ドラゴンボールの使用頻度だった。
世界中に散りばめられた7つの宝玉を集めて神龍と呼ばれる神格の化身を呼び出し、願いを叶える。
最初聞いた時、ネモはそれがとんでもなく手間な作業だと考えていた。悟空の世界が地球だと仮定して、掌に乗る程度の玉が地球中に飛び散っていれば、例え悟空の強さでも探すのは年単位は掛かる。
一日も経たず地球を一周するのも大概だが、それとは別に各地に降り立って探し物をするのでは話も変わってくる。
いくら強くても、人一人の行動範囲は限られるからだ。
組織の長が人員を動かして探すという手もあるが、それも組織の規模や人材を集め報酬を払うというコスト面を考えれば、決して楽ではない。
だが、それらの問題を一気に解決するドラゴンレーダーという代物が開発され、場所さえわかれば悟空なら1時間もせずに全て集める事が出来るらしい。
レーダーを開発したブルマも気軽に数年の若返りに活用するなど、とても願望機としての扱い方ではない。
本来の仕様想定では短くとも数年に一度、稼働するような代物だった。
ネモにはそう思えた。
だからこそ、本来は伝説や神話として悟空の世界で、まことしやかに語られ続けていたのではないだろうか。
それが年に一度程度の間隔へと短縮されている。
そして、ニケがもしも生き返れなかったらと言ったことで。
このもしもという一言で、懸念が露わになっていく。
果たして短期間での乱用は、ドラゴンボールに何の支障も出ないものなのか。
聖杯も時として、歪な使い方やアクシデントにより、その機能に障害を抱えてしまうこともある。
乃亜とは関係なく、ドラゴンボールもまた想定を超えた乱用による、大きな落とし穴がないとも限らない。
死者すら蘇る奇跡の行使を、こうも気安く多用して平気なのか。
自然の摂理を捻じ曲げる力が、本当に世界に何の影響も及ぼさないなどありえるのか。
一度起きた歪は、何処かにしわ寄せが来る。
それが、負債のように積み重なるものであれば。
いずれその清算を要求された時、大きな邪悪龍(ツケ)を支払うことになる。
「ねえ、しんちゃんを生き返らせることはどうなるの?」
フランから怒気を帯びた声を浴びせられる。
殺気を感じながら、ネモはいつでも腰の銃を抜けるように意識する。
この仮説を考えた時点で、フランがまだ乃亜に従い優勝をする可能性は大きいと思っていた。
「念の為だよ。
それにこのリスクを承知の上でも、乃亜の優勝特典よりは、ずっと信じるに値すると思う。
ドラゴンボールの酷使による何かの反動があったとしても、それが今回の願いで発生するものだと確定した訳でもないし。
本当に、そんなリスクがあるかも分からないし、悟空もそんなリスクがあると分かって隠しているとは思えない。
悟空と乃亜、どちらの人間性を信じるかは君次第だけど。
場合によっては、僕はここで君と決着を着ける覚悟だ」
「意地悪な返しね」
だが、下手に隠し立てするよりはここではっきりさせた方が良い。
それがフランへの義理立てだ。
「そんなの、どう考えても悟空じゃない」
フランは何事もなかったように、声を発して。
暗に誤魔化したり嘘を吐いたらぶち壊すわよと、警告して。
ネモも意識を銃から逸らしていく。
フランもまた信用という点では、悟空の方を重んじてくれた。
「……なあ、この娘本当に大丈夫か?」
「僕が生きてる間はね」
それを、大丈夫と言って良いのかよ。ニケは心の中で、ひっそりと突っ込んだ。
───
「……おじゃるの奴、クロと出くわしてノコノコついてったりしてないよな。洒落になんないぞ」
情報交換を終えてから。
ニケはネモ達から離れて、Dボードを乗りこなしおじゃる丸のことを思い返す。
あの子供、女好きだった。
水銀燈にデレデレしていたし、真紅という水銀燈の妹にもずっと胸を馳せていた。
なんでマヤには塩対応だったのか不思議なくらいに。
あんな子供がクロに出会えば、やはり目をハートにして付いていきそうだ。
殺されかけたが、外見は健康的な褐色の美少女だった。
ニケも初対面の時、こいつ小学生の色気じゃないなと驚嘆した覚えがある。
その後、剣を投擲されて小便を漏らしかけたのは、嫌な思い出だ。
(親父なら、どうとでもなるだろうけど)
キタキタおやじと比較しておじゃる丸は普通の人間?だ。
本人は妖精貴族とか言っていた気がするが、まあとにかく普通の人間としておこう。
(妖精貴族って何だよ……)
キタキタおやじと違い、普通の人間は普通に死ぬ。
だから、本当に大人しくしてろよ。
そんなことを考えながら、ニケは先を急いだ。
「……ま、人が多そうなとこから探すべ」
探し人は無惨な形で命を奪われ、既にこの世に居ないとも知らず。
【C-2/1日目/午前】
【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)、仮面の者(アクルトゥルカ)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's(搭乗中)
[道具]:基本支給品、丸太@彼岸島 48日後…、リコの花飾り×3@魔法陣グルグル、沙耶香のランダム支給品0〜1、シャベル@現地調達、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:おじゃる丸と水銀燈を探す。銀ちゃんは、マジで見捨てそうだから大急ぎで。
1:とりあえず仲間を集める。でもククリとかジュジュとか…いないといいけど。
2:クロエを探して病状を聞き出す。
3:マヤ……
4:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
5:フランはあいつ本当に大丈夫なのか?
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
※仮面(アクルカ)を装着した事で仮面の者となりました。仮面が外れるかは後続の書き手にお任せします。
「ジャックは君が相手をする。
その代わり、暫くは僕達の護衛代わりとして同行して貰える。
そう言う事で良いのかな」
「ええ、構わないわ。
藤木としおはネモが守ってね? 私、もう懲りたから」
ニケが去っていくのを見送った後、ネモとフランは今後について話し合う。
悟空の抜けた穴を埋めたいネモと、ジャックを始末する為にマーダーが集まるであろう、この近辺に留まるつもりのフランの思惑は一致した。
「それで、無惨は自分の身は自分で守れるのよね」
「ええ、戦いに多少の心得はありますよ」
フランはぶっきらぼうに、鬼舞辻無惨と名乗る少年に声を掛けた。
『と、俊國……くん、だったけ』
ニケと入れ替わるように、新しく合流した無惨という少年。
ネモ達にとっては意外であったが、藤木と顔見知りのようだった。
『僕達を守って、逃げる時間を稼いでくれたんだ。本当だよ。
とても強かったんだ』
藤木は無惨とモクバの会話を知らない。
傍から見ていて、モクバに殿を買って出た強い変わった男の子という認識でしかない。
だから、一先ずの同行者となったネモに危険性はないだろうと。
今回は何の打算もなく、そう話した。
ネモは訝しげに聞いていたが、嘘をついてる様子は感じられず、また藤木も嘘は吐いていない。
(鬼舞辻無惨……)
名の異常さもだが、何故名簿に乗らない俊國という名前を名乗っていたのか。
ネモには疑問だった。
名を隠さなければならない理由があったとしたら、それは何故か。
無惨本人は、この名前で名簿に乗っているとは思っておらず、俊國という別名義で名乗ってしまったと語っていたが。
「ネモさん」
「しお?」
「あれ、使った方が良いんじゃないかなって」
あれというのは、かつてしおに対して使用したエーテライトの事だ。
しおも詳細は知らないが、人の記憶や思ったことを覗ける道具なのは察していた。
残り数は3本、首輪の解析に2本は残しておきたいが。
これを使えば、無惨の考えていることが分かる。
(使う、べきなのか……)
やはり、腑に落ちない。
何がとは答えられないが。
だが、シオンやフランのような吸血種に近い感覚を覚える。
無惨の瞳からは、生きた人間のそれとは違う眼光が光っているように思えてならない。
どうしても無惨から漂う、異様な人ならざる違和感を拭えない。
同じように、しおも違和感と危機感を抱いているのだろう。
しおからエーテライトの使用を促すのは、普通じゃない。
「無惨は多分、妖怪よ。
あの子ぼかしてるけど」
フランもまた鋭敏な嗅覚で、無惨が人外であることを嗅ぎ分けていた。
「……」
首輪の解体という重要作業の手前、そしてこの先マーダーとの交戦も予想される中、スタンスが曖昧な人物を受け入れるリスクは高い。
「いや……」
だが、そこまで考えて。
残り3本のエーテライトを切るのは、躊躇われた。
ネモは先程、しおにこれを使用し嘔吐させている。とても、使いこなせたとは言えない。
肝心の首輪解析の際に、拙い使い手のネモが操作する事になれば、1度か2度の失敗もなくはない。やはり残機は多ければ多いほど良い。
「私は些か人とは違いますが、ここで”死にたい”とは断じて思っていません。
脱出を図るというのなら、貴方に是非とも協力しますよ」
「……」
もう一つ、性格を信用できるかは別として。
無惨の言っていることは、決して偽っているものとは思えなかった。
良くも悪くも、己の生存に固執しそして死にたくないと考えている。
善悪もなく、生きる事のみを考えた虫のような男。
腰の低さも生き延びる為に得た擬態だろう。
やはり、信用はしきれないが。
だが、死にたくないという一点だけはネモにとって利用できると思った。
生き延びる可能性が高ければ、乃亜の優勝特典など放り捨てて何時でもネモ達対主催の味方になる筈だ。その逆も然りだが。
過去に何をしたか、むしろ下手に暴き立ててここで諍いになる方が不味い。
無惨の過去は触れず、この殺し合いの脱出の目途が立つまでは仮初の同盟を組み、穏便に済ませたい。
だから、信用は置かないが一旦は保留する。
その正体が魔神の王である事も知らずに。
時は僅かに遡る。
孫悟空がリーゼロッテ・ヴェルクマイスターと交戦していた頃、藤木の声を聞いた者はもう一人いた。
魔神王は映画館に潜伏しながら、考えを張り巡らせる。
ゼオン・ベルがこれを聞きつければ、狩場を求めそこへ赴く事は十分考えられた。
その背後から、奇襲を掛け奴の獲物ごとゼオン達を殺す事も難しくない。
ただ、問題はゼオンにも探知系の能力が備わっているかもしれない。
あの魔神は幼いながら、高い練度を以て技と肉体を極め、頭も切れる。奇抜な戦略は即出し抜かれるだろう。
本来はヴィータを喰らう予定だったが、どこにも死体がない。
元々、ヴィータという少女は魔力で構成されている。死んだ時点で消失してしまったのだが、それを魔神王は知らず。
この場に留まり続ける理由も最早ない。
気配を消しながら、改めて声の元へ近づいた。
そして、その周囲に居た対主催と思わしき者達へ接触を図る。
情報を仕入れるのを優先し、しんのすけの剣を近くの物陰に隠し、接触を試みた。
魂砕きの居所を聞き出したいのと、ヴィータを喰らうことが出来ず戦力の補強も失敗に終わった事もあり、連戦を避けたという事情もあるが。
幸い、あの藤木という少年が居たお陰で、すんなり集団に紛れ込むことは出来た。
警戒はされているが、十分な潤滑油として役立ってくれた。
(強かな子供だ)
ネモは優秀なキャプテンだった。
人を見る目は確かであった。
彼の鬼舞辻無惨という人物評はこれ以上なく的確で、下手にエーテライトを使わなかったのも英断だろう。
痛い腹を探られ、癇癪を起こさせないようにしたのは間違いではなかった。
一つの誤算は、魔神王の属する鏡像魔神(ドッペルゲンガー)は、その当人すら時として変身した人間そのものだと思い込み、時として人に味方してしまう程に高度な擬態をしてしまうことだ。
ネモの見立ては当たっていたが、それは魔神王が変身した無惨のプロファイルであって魔神王本人のものではない。
ネモ、しお、フランが感じた人とは違うような違和感も、それは無惨が人ではないのだから当然のこと。
無惨という人物の危険度は測れても、その下の魔神王の本性を見通す事は困難である。
魔神王も敢えて、無惨の危険性を匂わすように振舞っていた。
ネモとフランからある程度は情報を引き出せた。
ニケがここから立ち去ったのも、魔神王にとっては都合がいい。
奴の光り輝く魔法だけは、魔神王にも脅威になり得たが、それも叶わぬ話。
無惨の容姿を借りた上で、奴の悪評を撒くのにこれ程適した対主催チームもそうはいまい。
詳細は語らないが、首輪の解析にも当てはあると話していた。
場合によってはネモを喰らい、奴の得た情報全てを奪い去るのも面白い。
(フランドール・スカーレット……随分と人と馴れ合う輩が多いのだな)
そして、人との共生に近づく吸血鬼を嘲笑った。
絶望王と同じく理解不能でありながら、奴より更に素っ頓狂な事を言っていると思えてならない。
人に歩み寄れば寄るだけ、血が流れるだけだというのに。
壊す事しかできないというのに、そんな事にも気付けぬ愚者。
(お前のような怪物が、人間に歩み寄ろうとは)
何せ野原しんのすけは他ならぬ、フランドール・スカーレットに殺されたのだから。
(汝がまことに人を理解した頃には、人間は全て滅び去っているだろうよ)
人と魔は寄り添う事などありえない。
魔神王が考えた結論は。
奇遇にも、この島で最も魔族を恨み憎しんでいる魔法使いと同じだった。
【C-2/カルデア近く/午前】
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(小)、疲労(中)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、
オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、神威の車輪Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、
ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、エーテライト×3@Fate/Grand Order、
神戸しおの基本支給品&ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:無惨は一応、死にたくないという点は信用しても良いと思う。
1:カルデアに向かい設備の確認と、得たデータをもとに首輪の信号を解析する。
2:魔術術式を解除できる魔術師か、支給品も必要だな……
3:首輪のサンプルも欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおとは共に歩めなくても、殺しあう結末は避けたい。
6:エーテライトは、今の僕じゃ人には使えないな……
7:リーゼロッテを警戒。
8:カルデアにマーダーが襲ってくる前に何とか事を済ませたいけど……。
9:悟空とも合流したいし、藤木もどう対処するか……。
10:ドラゴンボールのエラーを考慮した方が良いかもしれない。悟空と再会したら確認する。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、
優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※フランとの仮契約は現在解除されています。
※エーテライトによる接続により、神戸しおの記憶を把握しました。
※エーテライトで魔神王の記憶を読み取りましたが、それは改変されています。
無惨(魔神王)は鬼殺隊で、柱という地位に就いていると認識してしまいました。
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:無惨君(魔神王)は何か変な気がする。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
3:マーダーが集まってくるかもしれないので、自分も警戒もする。武器も何もないけど……。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:手の甲からの軽い流血、ゴロゴロの実の能力者、シュライバーに対する恐怖(極大)、自己嫌悪
[装備]:ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
[道具]:基本支給品、拡声器(羽蛾が所持していたマルフォイの支給品)
グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)、賢者の石@ハリーポッターシリーズ
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:第三回放送までに10人殺し、その生首をシュライバーに持って行く。そうすれば僕と永沢君は助かるんだ。
1:次はもっとうまくやる
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う
3:最優先で梨沙ちゃんとその友達を探して殺したいけど、シカマルが怖い。
4:僕は──神・フジキングなんだ。
5:梨沙ちゃんよりも弱そうな女の子にすら勝てないのか……
※ゴロゴロの実を食べました。
※藤木が拡声器を使ったのは、C-3です。
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:精神疲労(小)、たんこぶ
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:一先ずはまぁ…対主催。
0:一旦ネモ達と同行して、ジャックが来るか暫く待つ。
1:ネモを信じてみる。嘘だったらぶっ壊す。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か
5:マサオもついでに探す。
6:乃亜の死者蘇生は割と信憑性あるかも。
7:ニケの言ったことは、あまり深く考えないようにする。
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※ネモ達の行動予定を把握しています。
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:ダメージ(中 回復中)、魔力消費(中)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る! 野原しんのすけ(頭部無し 近くに隠している)
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:ニケと覗き見をしていた者を殺す
1:絶望王は理解不能、次に出会う事があれば必ず殺す。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
6:ネモ達に同行し機を見て殺すか、無惨の悪評を植え付ける。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※右天の脳を食べた事により、右天の記憶を獲得しました。バミューダアスポートは脳が半分しか無かった為に使用できません。
※野原しんのすけの脳を食べた事により、野原しんのすけの記憶と知識と技能を獲得。野原しんのすけの姿になっている時に、野原しんのすけの技能を使用できるようになりました。
※野原しんのすけの記憶により、フランドール・スカーレット及び佐藤マサオの存在を認識しました
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
投下終了します
投下お疲れ様です
冒頭から嘘だろとなったけどギャグパートでよかった。このロワ、気を抜いたらすぐに死ぬから...
おじゃる丸、死ぬ時は凄惨だったがニケはずっと気にかけててくれて良かった。
そしてバトルだけじゃなく策謀もこなしてくる魔神王、手強い。普通に戦っても強いのに知恵もまわるの本当に厄介だ。無惨様との再会も近そうだが果たしてどうなるか
格上の術師には効かないわろくに着地もさせてくれないわでとんだ欠陥品だなバシルーラの杖!
最強クラスマーダータッグから無事に逃走成功したディオくんは確かにあの瞬間は輝いていたがあの台詞がジョナサンも言ってたことだと知ったらめちゃくちゃキレそうだ。残された三人は...頑張れ
イリヤ、悟飯、美柑、のび太で予約します
メリュジーヌ、シャルティア・ブラッドフォールン、キウル、ドロテア、海馬モクバ、北条沙都子、カオス 予約します
あと延長もします
キャプテン・ネモ、フランドール・スカーレット、神戸しお、藤木茂、魔神王、鬼舞辻無惨
予約します。延長もお願いします
投下します
☆
ドアノブに手をかける。
重たい。
ほんのちょっぴり動かす。ただそれだけでドアは開くのに、腕は動いてくれない。
重たい。
普段ならそれを開ければお母さんがいて。お父さんがいて。場所が変わればピッコロさんが、クリリンさんが、ヤムチャさんが、天津飯さんが、亀仙人さんが、ブルマさんが、ベジータさんが、他にも色んな人たちが代わる代わるにいる。ただのいつもの日常の動作だ。ただそれだけのこと。なのに、僕の心臓は気持ち悪いほどに跳ね続けている。
重たい。
怖い。この先にいるみんなが僕をどう見ているかを知るのが。僕はおかしい奴だと叩きつけられるのが。
恨むなら自分の運命を恨めという、かつてピッコロさんに言われた言葉が脳裏を過ぎる。
ーーー思い返せば辛いことはたくさんあった。怖いことも苦しいことも悲しいこともイヤなこともたくさんあった。
でも、運命を恨んだことなんてなかった。お父さんとお母さん、孫悟空とチチの子供に生まれたことも。
ピッコロさんに修行をつけてもらったことも。
これまでの戦いの全てを、恨むどころか誇りに思っている。
僕は戦いが好きじゃない。殺すのなんて尚更だ。でも、戦いを通して僕は強くなった。色んな経験ができた。大好きで大切な人がいっぱいできた。
その代償が今このときだと言うのだろうか。お父さんやみんなみたいな立派な精神を持ってない僕が、身の丈に合わない力を手に入れてしまった結果がこうだというのか。
ーーー違う!そんなことはない!
半ば投げやりに目を瞑り、握る手に力を込める。
「スネ夫と会ってたの!?」
その言葉に、腕は止まってしまった。
☆
悟飯くんを待っている間、私は思わず気にかかっていたことを口にしてしまった。
のび太。最初に遭遇した骨皮スネ夫くんが言っていた友達。ヤミさんの襲撃から逃れて、悟飯くんがシャワーを浴びに行って場が落ち着いたからだろう。今更になって、彼が口にしていた名前を思い出して。ここにいるのび太くんとようやく一致して。
だから、つい聞いてしまった。スネ夫くんって、知ってる?と。
「スネ夫と会ってたの!?」
するとのび太くんは、すぐに食いついてきた。
「教えて!す、スネ夫は!スネ夫は...!」
息を荒げ、私の肩を必死に掴むのび太くん。その形相を見ていると、胸の奥がズシリと重くなる。
スネ夫くんは私の目の前で死んでしまった。ドラマで見るような血を流しながら穏やかな顔でーーーなんてことはなく。
全身を銃弾で撃ち抜かれ、全身をグロテスクな赤で染め上げ、最後は恐怖に怯えながら、頭を吹き飛ばされて。あの光景は、いまも消え去ってくれない。思い返すたびに吐き気を催す。
「のび太くん、落ち着いて」
「せやせや。あんまり詰め寄ると、美柑も怯えてまうて、な?」
イリヤちゃんとケロベロスさんが優しく宥めると、のび太くんは小さく謝りながら手を離す。
「ご、ごめん...その、スネ夫のことを...お、教えて...グスッ、くれるかな」
のび太くんは、頼む前から、顛末を聞かされたように泣いていた。
これが、彼と別れて行動しているというだけならこうはならなかっただろう。
スネ夫くんが死んでしまっているのは最初の放送で既に明かされている。
ただ、彼が知りたいと思う気持ちは当然だと思う。私がのび太くんの立場だったら絶対に同じようにしてしまうから。
「その、スネ夫くんと出会ったのは...」
私は語った。
殺し合いが始まってすぐにスネ夫くん、ユーインくん、悟飯くん、ルサルカさんと出会って。
情報を交換していたら、ルサルカさんの知り合いらしいシュライバーという少年が現れて。彼は殺し合いに乗っていて。
悟飯くんはシュライバーと戦ったけれど、その隙を突かれて最初にスネ夫くんが、次にユーインくんが...
そんな顛末を。
私の告白を聞かされたのび太くんは、青ざめて震えていた。...当然だ。いくら知りたいからと思っていても、友達の死に方なんて聞かされていい気持ちになれるはずもない。
「や、やっぱり...」
でも。彼が漏らしたその言葉にすぐに引っ掛かりを感じた。
「あいつが...あいつがスネ夫をニンフみたいに...!」
恐怖で青ざめた表情から徐々に赤くなっていく彼の顔を見て、違和感が確信に変わった。彼は誤解している。スネ夫くんが死んだのは悟飯くんのせいだと。
「ち、違うの!聞いて!」
私は慌ててそう切り出す。
のび太くんはきっと、悟飯くんが暴れたせいでスネ夫くんが巻き添えを喰らったと思っている。
でもそれは違う。
巻き添えを食らったのはユーインくんの時で、スネ夫くんの時は、むしろ周囲に気を遣って力を抑えながらシュライバーと戦っていた為につけいる隙を与えてしまった。
そうーーーあんなに強いシュライバーの時だって、彼は怒る前は周りが見えていたのだ。
のび太くんが納得するかはわからない。でも、伝えなくちゃと思った。思い出すだけで震え上がる血濡れの記憶を呼び起こしながら。
悟飯くんが怖いと思ってしまう気持ちはまだ消えていない。
でも、彼が頑張っていることも間違いないのだ。だから、私は誤解を解くように改めて顛末を話した。
悟飯くんが私たちを逃すために、力を抑えてシュライバーに立ち向かったこと。
シュライバーはその隙を突いてスネ夫くんを撃ち殺したこと。
スネ夫くんが殺されたことをキッカケに、悟飯くんが怒り出して、恐らくそこから殺し合いに乗った人を許せなくなったこと。
たどたどしかったかもしれないけれど、確かにこれらの点だけはしっかりと伝えた。
のび太くんの顔色を伺う。先ほどまで赤くなりつつあった色は引いていて、考え込むかのように俯いていた。
しん、と沈黙が空気を支配する。
どれくらい経っただろうか。1時間か、あるいは10分か、もっと短いのか。時間経過の感覚がわからなくなるほどに、いまの私の心臓はバクバクと鳴り響いていた。
やがて。のび太くんは顔を上げると、涙を拭いながら、けれど確かな意思を以てハッキリと告げた。
「僕、悟飯くんのところにいってくる」
☆
「僕、悟飯くんのところにいってくる」
僕がそう言った途端、みんなの視線が突き刺さってくるようだった。
当然だ。ついさっき僕と悟飯くんで喧嘩してしまったのに、わざわざ彼のところに行くなんて言い出すんだから。
「...私も行かなくちゃ。そろそろ悟飯くんと見張りの相談もしないと」
「せ、せやなー。そろそろあいつも落ち着いたころやと思うしな」
僕に合わせるようにイリヤさんとケロベロスさんが立ち上がる。
きっと、僕が悟飯くんと揉めそうになったら止めるために。
「ごめん。僕、悟飯くんと二人で話したいんだ」
僕はそれを断った。気を遣ってくれてるのはわかっているし、そんな心遣いを嬉しいと思う。
でも、ここでみんなに頼っちゃいけない。いけないんだ。
「大丈夫。さっきみたいに喧嘩になんてならないよ」
そう。僕は悟飯くんと喧嘩をしたいんじゃない。彼に伝えたいことがあるんだ。
スネ夫の友達として。それこそ、僕が殺されてもいいくらいに。
「お願い。一人で伝えたいんだ」
「...何を伝えたいの?」
「僕はーーー」
☆
結局、ドアは開けれなかった。
きっと開けたら、彼は僕を憎らしい目で睨みつけてくるだろう。
スネ夫が死んだのはお前のせいだって。みんなに護られながら。お前がおかしいやつだからスネ夫は死んだんだって。
僕はイリヤさんに相談することなく、逃げるように見張りに着いた。
怖かったんだ。スネ夫くんを守れなかったことを責められるのが。
僕だって守りたかったのに、力を抑えてたから、隙を突かれてシュライバーにスネ夫くんを殺されてしまった。だからもう繰り返さない為に、あいつみたいな奴を全員殺さなくちゃって。リップみたいな人を傷つける奴を排除しなくちゃって。でも、のび太がおかしいのはお前だって言えば、みんなもそれに続くのだろう。
僕は強いんだから全部殺さずに解決しろって。
弱い奴の気持ちもわかってくれって。
おかしくて悪いのは全部僕だって責め立てるんだろう。
でも、みんながそういうならやはりおかしいのは僕で。僕はみんなよりも強いからそれに合わせて全部完全にこなすのが当たり前で。だから失敗すれば僕はただのおかしい奴で。
そんな当たり前のことが僕には耐えられそうになかった。
「やっぱりここにいた...」
声が聞こえた。
間違えるはずもない。
彼が、野比のび太が、性懲りも無く、のこのこと現れた。
☆
僕が声をかけても、悟飯くんは僕の方を見ようともしなかった。
当然だ。さっき、あんなふうに喧嘩したばかりなんだから。
「ずっと戻って来ないからもしかしたらって思って...」
「それで?」
返ってきた言葉はすごく冷たい。
当たり前だ。
さっき、悟飯くんは僕に何もするなと言った。ジャイアン達がやってくるイジワルなんかじゃなくて、僕がもう何回も失敗してるから。
僕の失敗でみんなが危険に晒されるかもしれないから。
それはみんなも否定しなかったし、僕も理解してる。
だから、言いつけを破ってここに来ているというだけですごく腹を立ててるかもしれない。
「...美柑さんから聞いたよ、スネ夫のこと」
「...っ!」
空気が張り詰めるのを感じた。
もしかしたら、ここから先、なにかをしくじったら悟飯くんは僕を殺すかもしれないと思えるほどに。
それでも僕は伝えなくちゃいけない。
どのような結果になっても受け入れなくちゃいけない。
誰かの側に隠れてじゃなくて、僕の言葉で。
僕は、この会場の中の、あいつのたった1人の友達だから。
「スネ夫のために怒ってくれて、ありがとう」
ーーー僕が美柑さんから改めてスネ夫のことを聞いて思い返したのは、さっき悟飯くんに言った言葉。
『…そうやって、またリップとニンフの時のような事を繰り返すの?』
『ニンフの事だけじゃない。リップだって……きっと生きたいってそう思ってたよ』
あの時はカッとなって、悟飯くんの言うことが正しくても、反論するように言ってしまった。
でも、事情を知ってから振り返ると本当に酷いと思う。
悟飯くんの立場なら、相手を殺してでも止めなくちゃと思うのは当たり前だ。
誰がシュライバーみたいなことをできるかできないかなんてわかるわけないんだから。
なのに、彼のことを何も知らないで。
彼を襲った悲劇を何も知らないで。
何にもしていない僕が、みんなに護られながら、彼の頑張りを否定した。
悟飯くんは怖い。敵対した人を全て憎むような苛烈さがある。
リップを撃とうとした時、笑っているように見えたのもきっと見間違いじゃない。
でも、同じくらい優しいとも思う。
酷いことを言った僕を追い出そうとはしなかった。役立たずの僕を軽蔑していても、それでも護る人の枠組みに入れてくれている。
何より、会ったばかりのスネ夫の為に、心底怒ってくれた。
こんなに傷ついても、未だに護るために頑張ろうとしてくれている。そんな人が優しくないわけないじゃないか。
だから僕はスネ夫の代わりにお礼を伝えなくちゃいけないと思ったんだ。
「それと...さっきはごめん。何も知らない癖に、悟飯くんを責めるようなことを言っちゃった。本当に...ごめんね」
「......」
返事はない。
それも仕方のないことだろう。
僕は、悟飯くんにそれだけのことをしてしまったのだから。
「...僕の用件はこれだけ。イリヤさんを呼んでくるね」
「あ...あの...」
踵を返し、みんなのところへ戻ろうとする僕の足を、悟飯くんの声が止めた。
「き、気をつけてくださいね。その、少しでも1人になると...あ、あぶないから...」
「...うん。ありがとう」
悟飯くんは一度も僕の方を向いていない。でも、その声はさっきよりも少しだけ歩み寄ってくれた気がして。
心に重くのしかかっていたものが、少しだけ軽くなった気がした。
☆
「はぁ...心臓止まりそうやったわ」
ケロベロスが深く息を吐くのに釣られて、美柑さんもサファイアも、そして私もホッと胸を撫で下ろした。
のび太くんは自分1人で伝えたいと引き下がらなかったが、結局、心配になってみんなついてきてしまった。
のび太くんの意思を尊重したいところもあったから、彼らから見えないように姿を潜めながら様子を窺っていたけど、悟飯くんもさっきより落ち着いたのか、のび太くんに突っかかるようなことはせず心配するような声をかけてくれた。
完全な和解はまだ難しいけれど、きっといつか二人も分かり合えるだろうと、そんな一歩を踏み出せたんじゃないかなと思う。
その筈なのに...
『...イリヤ様?』
「う、ううん、なんでもないよ」
ずっと背中を向け続けている悟飯くんが、なんだかとても不安に思えて仕方なかった。
☆
きりきりきりきりきり
頭が痛む。
不快な眩暈が僕を苛む。
きりきりきりきりきり。
視線を感じた。
のび太だけじゃない。
彼の他にも四つ。
イリヤさんと、サファイアさんと、ケロベロスさんと、美柑さん
まるで僕を見張るように。警戒するように。怯えるように。
なら、なんで。
なんで彼を1人で立たせたんだ?
きりきりきりきりきり。頭がいたい。
さっき、みんなはのび太の肩を持った。僕がおかしいから頭を冷やせと言った。
だったら、おかしい僕の前に、言い争った本人を1人で立たせるなんてありえないだろう。
僕と彼の実力差はヒドイものだ。少し力を込めればたちまちに彼は殺せてしまう。それがわからない彼女たちではないはずだ。
またのび太の独断専行か?
だったらなんですぐに顔を出して隣に立たなかった?まるで彼のことなんてどうだっていいみたいじゃないか。
あわよくば、僕に処理をしてもらいたかったとでもいうのだろうか?
これじゃあ、彼女たちが僕をおかしいと言ってるのに、おかしいのはみんなで、僕がおかしくないみたいじゃないか。
ーーー考えすぎだ。のび太さんはお礼を言いにきてくれただけで、他のみんなはきっとお礼を言うのにみんなで行く必要もないと思っただけだ。
じゃあなんで見張ってた?もしも彼をどうでもいいと思ってなかったなら、さっきみたいに彼の肩を持って一緒に立ってればよかったじゃないか。
それができないのは、きっと、僕が怖いから。
僕に傷つけられるのが怖いから。
だから、彼を尖兵みたいに1人で向かわせて。
あわよくば彼を傷つけさせることで追い出す口実を作って、僕を...!
「悟飯くん」
かけられた声にビクリと身体が跳ね上がる。
振り返れば、いつの間に来ていたのか、イリヤさんが僕の背後に立っていた。
イリヤさんが僕を見ている。
自分の心臓がイヤなほど脈打つのがわかる。
いま、彼女が何を考えているかわからない。
僕を仲間だと思っているのか、それともーーー
「見張り、変わろうと思ったんだけど...大丈夫?どこか調子悪い?」
「ぁ...」
思わず気の抜けた声が漏れた。なんてことはない、ただの交代の知らせだ。
「は、はい。大丈夫です。シャワーも浴びたから、少しスッキリできたと思います」
「そっか。ならよかった」
微笑みかけてくれるイリヤさんに、僕は思わず鳥肌が立った。
「すみません、交代をお願いします」
「うん。ゆっくり休んできていいからね」
イリヤさんの視線を背中で受けながら、僕はのび太さんたちの待つ部屋へと戻る。
さっきまで僕は何を考えてた?そうだ、ただ、のび太さんは僕にお礼を言ってくれて。イリヤさんは見張りを代わってくれた。それだけのことだろう。のび太さんにお礼を言われたのは嬉しかったし、なにも疑うことなんかないじゃないか。
誰も疑ってない。
疑ってないんですってば。
それでいいじゃないですか。
だから、そんなに見ないでください。お願いします。
...なんだか、首が痒くなってきたのは、気のせいかな。
【一日目/午前/H-8】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(中)、精神疲労(大)
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、クラスカード『アサシン』&『バーサーカー』&『セイバー』(美柑の支給品)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、雪華綺晶のランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:悟飯くんが心配。まだ体調悪いのかな...?
1:雪華綺晶ちゃん……。
2:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
3:殺し合いを止める。
4:サファイアを守る。
5:みんなと協力する
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、雛見沢症候群L3、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、のび太への嫌悪感(大、若干の緩和)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0〜1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:今は兎に角、体力の回復に努める。
1:野比のび太は………
2:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。
3:お父さんを探したい。出会えたら、美柑さんを任せてそれから……。
4:美柑さんを守る。
5:ユーインの知り合いが居れば探す。ルサルカも探すが、少し警戒。
6:シュライバーは次に会ったら、殺す。
7:雪華綺晶さん……ごめんなさい。
8:...本当にここにいる人たちを信じていいのだろうか?信じたい、けど...
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群を発症しました。現在発症レベルはステージ3です。
※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
※イリヤ、美柑、ケロベロス、サファイアがのび太を1人で立たせたことに不信感を抱いています。
【結城美柑@To LOVEる -とらぶる- ダークネス】
[状態]:疲労(中)、強い恐怖、精神的疲労(極大)、リーゼロッテに対する恐怖と嫌悪感(大)
[装備]:ケルベロス@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
0:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。
1:ヤミさんや知り合いを探す。
2:沙都子さん、大丈夫かな……
3:悟飯さん、一体どうしたの………?
4:リト……。
5:ヤミさんを止めたい。
6:雪華綺晶ちゃん……
[備考]
※本編終了以降から参戦です。
※ケルベロスは「火」「地」のカードがないので真の姿になれません。
【野比のび太@ドラえもん 】
[状態]:強い精神的ショック、疲労(中)
[装備]:ワルサーP38予備弾倉×3、シミ付きブリーフ
[道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス-
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る
0:悟飯くんと仲直り、できるといいな
1:ニンフ達の死について、ちゃんと向き合う。
2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる?
3:みんなには死んでほしくない
4:魔法がちょっとパワーアップした、やった!
[備考]
※いくつかの劇場版を経験しています。
※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。
「やったぜ!!」BYドラえもん
※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています
※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)
※スネ夫の顛末を美柑から聞きました。そのため、悟飯への反感はほぼ消えました。
投下終了です
投下ありがとうございます!
のび太君、ここに来てまた悟飯と揉めてしまうのかと思いましたが
>スネ夫のために怒ってくれて、ありがとう
のび太らしい良い台詞で素晴らしい。
悟飯が怒る時って、本当に冷酷な相手に限りますからね。
舐めプで印象悪いですが、誰かを害する相手に怒れるというのは善良な少年なんですよ。
美柑もしっかり、悟飯のフォローもしつつ事実を伝えてますし、イリヤもこっそりのび太を見守ってたりと、滅茶苦茶良いチームになってきてるんですが。
いやはや、症候群で全部台無しになるのが酷いんだぜ。
滅茶苦茶な推理を始めて、疑心暗鬼になるのが末期感が凄い。迷探偵ゴハン!ってとこかな?
ここで表面上はのび太と少し和解した雰囲気になったので、最悪の場合はチームを分けるという発想にならないのもヤバそう。
あと、のび太はそろそろブリーフを履き替えるんだ。
それから、すいません。
予約を破棄します。長期の拘束、申し訳ありませんでした。
投下します
鬼舞辻無惨と合流してから、同行者達を一旦民家に押し込み。
玄関から数歩出た先で、僕は、キャプテン・ネモは今後の動きに頭を悩ませていた。
何故なら。
「キャプテン。ネモ・シリーズの代表として意見具申しますがー……
今この状況でカルデアに向かう事は、私としては絶対に賛同できませんー」
「……分かってる」
プロフェッサーの淡々とした意見が、耳に痛い。
確かに、今の段階でカルデアに向かう事は危険窮まる。
ただでさえ藤木茂のお陰で、この近辺にはマーダーがうろついていてもおかしくないのだ。
その上悟空と逸れてしまった今、僕の周囲に信頼できる人材が殆どいない。
無惨は会ったばかりで、まだ信頼できるかどうか微妙な段階。
しおと藤木はこのゲームに乗っている上に、藤木は特に能力的に危険な存在だ。
唯一味方と言えるのはフラン位だが、彼女も危うい所が無いと言えばウソになる。
こんな状況下でニンフが遺したデータの解析など、不可能だと判断するしかない。
『やっぱり、どうにもならないか』
『なりませんー…幹部とは言え端末の私と、キャプテンではスペックが違いますからー
私がエーテライトで解析作業を行えば数倍時間が必要になりますしー、
失敗した場合、同期を切っていてもキャプテンに影響が出る可能性が高いですー』
この時だけ肉声による会話ではなく、ネモシリーズとの同期による脳内会話に切り替える。
カルデアの中央制御室に設置されているであろうカルデアのメインシステム。
それをエーテライトで一時的に自分の霊基と接続し、ニンフが遺したデータの解析を行う。
カルデアの最新鋭の電子設備と接続すれば、大幅な処理能力の向上が見込めるためだ。
時間の短縮だけでなく、乃亜の目を誤魔化すための工作も並行して可能だろう。
だが、問題が一つある。神経接続の都合上、解析している間は無防備になる。
分身体であるネモ・シリーズでは解析をこなすには能力が足りない以上。
必然的に僕が行うしかないが、この状況で僕が無防備になるのは不安要素が多すぎる。
フカの群れの中に、甲羅を放棄したウミガメを放り投げるような物だ。
「悟空が此方に来るまでカルデアではなく、温泉まで移動して待つか」
「それがよろしいかとー、藤木氏の能力を鑑みれば……
彼はカルデアに足を踏み入れてほしくありませんからー」
悟空の到着前にマーダーが襲撃して来れば、そのままカルデアで本土決戦が始まる。
更に、藤木が血迷った真似をすれば彼の電撃能力で電子設備が破壊されかねない。
となれば、悟空と合流するまでデータの解析は諦め、近場で彼の到着を待つしかない。
それを行うにも藤木茂と言う少年の存在はどうしようもない重荷となる。
「キャプテン、フラン氏、しお氏の三人で戦車で先行して…
無惨氏に藤木氏を連れてきてもらうのが、まぁ一番ベターですかねー」
しおと藤木の二人だけなら戦車に収容できたし、見張ってもおけたが。
今はフランに無惨もいる。こうなると、幾ら子供だけとは言え御者台も手狭だ。
そして、そんな御者台に体を雷に変化させられる藤木を乗せるのはリスクが高すぎる。
リーゼロッテから逃げるときはやむを得ず乗せた物の。
僕に限らず誰だって、此方の命を狙う者を助手席に乗せたいと思う運転手はいないだろう。
それにもし藤木にそのつもりが無くとも、フランが何かのきっかけで彼を敵と見なせば。
戦車の上で殺し合いが始まりかねない。他のマーダーに襲撃されるとも分からぬ時に、だ。
そんなのは御免被る。となれば、藤木は戦車に乗せる訳にもいかない。
幸い温泉は子供の足でも20分以内に辿り着ける距離だ。歩いて行かせることもできる。
だがそうなると、藤木の護衛兼見張り役が必要だった。
「僕は戦車の運転で最初から除外、フランも藤木を殺しかねないから除外、
しおは論外。となると、後残るのは無惨しかいないけれど………」
先ず彼が、信頼を寄せていい人物なのかどうか。
次に、彼に物理攻撃の効かない藤木を御す手段がある物かどうか。
あったとして、彼が引き受けてくれるかどうか。実に頭の痛い話だった。
頭を悩ませる僕に、プロフェッサーが重苦しい様子で語り掛けてくる。
「キャプテン、また意見具申してもいいですかー?」
「許可できない。君は電算担当だ、参謀にした覚えはないよ。
………藤木をここで放逐しろと言うんだろう?」
「はいー…こう言っては何ですが、現状の我々に彼の面倒を見る余裕はありませんー
悟空氏には悪いですが、何か決定的な事が起きる前に、別れるのが吉かとー」
確かに、藤木はしおとは訳が違う。
彼の得た力は脅威だ。悟空といる時なら問題は無かったかもしれないが。
ハッキリ言って、あの少年を監視し続けられる余裕は今の僕達にはない。
「だけど…今ここで彼を追い出せば、本当に誰かを殺してしまう可能性がある」
「それはそうですがー…我々と行動を共にしていても、それは同じかと。
マーダーの襲撃を受けて状況が混乱すれば、彼がどう出るかわかりません」
藤木がずっと僕やしおの隙を伺っているのには、気づいていた。
ほぼ間違いなく、今も彼はゲームに乗っている。
今の所手を出しては来ないが、それは彼の善良さから来るものではない。断言してもいい。
単に彼が、臆病で手出しするタイミングを計りかねているだけなのだ。
ハッキリ言って、彼と行動を共にしても百害あって一利も無い。
だが、しかし…あの人理保証の旅を踏破した、キャプテン・ネモとして。
ここで殺し合いに巻き込まれた、被害者の子供を追放するのは。
かつて得た二人のマスターとの日々に、背く事にならないだろうか。
「キャプテンの考える事は分かりますー…
ですが、現実的に今の我々は短距離の移動にすら事欠く状態ですー
このまま彼となぁなぁで行動を共にするのは、私は反対と言わざるを得ません」
プロフェッサーの言葉は、今の現状を別の視点から見た僕の言葉でもある。
確かに、艦長としての立場で言えばクルー全員の命を危険に晒しかねない、
藤木茂を成り行きで置いてはおけないのは否定できない事実で。
だから暫しの間をおいて、僕はこの時点における結論を述べた。
「分かった。もし、悟空との合流に彼が何か事を起こせば……
その時はもう、悟空が何と言おうと、僕は彼を保護すべき子供としては扱わない」
そしてそれは裏を返せばこのまま、何も起きなければ。
彼はずっと、保護すべき民間人として扱う。それが今の僕にできる落としどころだった。
プロフェッサーはその僕の宣言を聞いてから黙ってしまったが、やがてコクリと肯く。
それを確認してから、この後の移動をどうするべきか、話を戻そうとした。
その矢先の事だった。
「───ねぇ、それなら、こういうのはどう?」
「フラン……」
待っておくように告げた筈のフランが、パタパタと羽を羽ばたかせて語り掛けてきたのは。
しかも、いつから聞いていたのか。僕達が話していたことを把握している様子だった。
だが彼女は悪びれもせず、ごにょごにょと僕に耳打ちして考えたプランを述べる。
話す内容はこれからの移動のプランで、その内容は実にシンプルだった。
……シンプルに過ぎた。
「フラン、それは………」
「でもこれが一番手っ取り早くて危険が少ないでしょう?
何なら、私があの藤木って子壊してもいいけど」
そう言ってフランはランドセルからいそいそとある物を取り出し、僕に見せる。
彼女の手の中で存在感を示すそれを見つめ、しばし考え。
三十秒程考えを巡らせてから、息を吐いた。
困ったことに、フランの言葉に反論ができない。
僕達が誰からでもなく頷き合い、待たせている藤木達の元に向かったのは、丁度フランが話しかけて来てから一分後の事だった。
「えっ…ちょッ────!!」
そして、それから数十秒後。
有無を言わさず、僕の目の前でフランは藤木の首筋に改造スタンガンを叩き込んでいた。
バチリという短い音と共に、藤木の意識が落ちる。
それを傍らで受け止めて、気絶しているのをすばやく確認した。
問題ない。本当に気絶している。
どうやら、実体を得ている時は物理攻撃の耐性は無いらしい事と。
瞬時に身体を雷に変える事は出来ない様子である事が確認できた。
「…無惨、君に頼みたい事がある」
藤木の身体をフローリングの廊下に放りながら。
僕は穏やかな表情で此方を眺める無惨に向き直った。
そして、ここから温泉まで藤木を護送してほしい、と。
要請に対して、特に無惨は異を唱える事無く首肯した。
「…成程。信用を得るために必要な試金石という訳ですか、分かりました」
「すまない。助かるよ」
どうやら、此方の意図は汲んでもらえたらしい。
藤木の意識が無い今なら戦車で一気に輸送できない事も無いが。
この仕事で、無惨への信頼度も測れるのではないかと言うのがフランの発言だった。
何事も無ければ無惨がある程度信頼のおける仲間として勘定できるし。
最悪の事態になったとしても…心情面を除けば、僕らに不利益は何もない。
むしろ身軽となってプラスな位だ。
だから、僕も暫しの間悩んだが、最終的にはフランの案に賛同した。
「それじゃあ頼む」
「はい、確かに」
藤木の身柄を僕から受け取る無惨の表情は穏やかだ。
害意や悪意は、今のところ見受けられない。
正直な所、断られるのも覚悟していたが。あっさりと彼は僕の出した方針に賛同した。
手間が省けた事を幸運に思いつつ、ランドセルから戦車を取り出す。
隣にフランがぴょんと飛び乗り、もう傍らにマリーン達がしおを乗せる。
「次は、私もそれに乗ってみたいですね」
「……あぁ、覚えておこう」
そのやりとりを最後として。
僕は戦車の手綱を振るった。
藤木を抱える無惨の姿を、もう一度一瞥する。
うん、やはり。今の所、彼に危険な所は見られな────
「ネモさん」
傍らのしおが、僕の服の袖をぎゅっと握って来る。
そして、何処か緊張した面持ちで、僕に感じた様子の事を伝えてきた。
あの人の事を見ていたら、何だか…とっても苦い、と。
しおの様子を見れば、疑心暗鬼になる事を狙った嘘ではない様子だった。
だから一言「分かった」と呟いて、戦車を発進させる。
そして、もう一度無惨の顔を一瞥した。
眼下でにこやかにほほ笑む無惨の笑みが、嫌に頭に残った。
…そして、この直ぐ後に。
プロフェッサーと、しおの言っていたことが正しかったことを。
僕は、思い知らされる事となる。
□ □ □
殺さなきゃ。
殺さなきゃ。
早く、誰でもいいから、殺さないと。
殺して、シン・神・フジキングにならないと。
でないと、僕は────、
───話は簡単だ。3回放送までに、10人殺してその生首を僕の前に揃える事。
───そうすれば、君は生かしておいてあげるよ。
そう、殺さなければ。
僕が、シュライバーに殺される。
未だに、独りも殺せていないのだから。
だから、急がないといけない。
でも───
───何がしたいの。
一人で殺そうとするのは、やっぱり怖かった。
中々勇気が出せなくて、梨沙ちゃんより弱そうなしおちゃんに言われて。
情けなく泣く事しかできなくて。
殺す事も出来ずに、こうして減っていくシュライバーとの約束の時間の中。
何となく、ネモっていう男の子について行っている。
……ネモって子は、一目見た時から気に入らなかった。
落ち着いていて、顔がよくて、牛車を乗りこなしていて、しおちゃんを守ってて。
彼を見ていたら、僕が間違ってるって、そう言われているみたいで。
そんないけすかない相手の事すら、僕は殺せない。
でも、何より情けないのは。
────動くんじゃねぇぞ!
それでいいんじゃないかって、そう思う僕がいること。
孫悟空って男の子は、僕を助けてくれた。まるでヒーローみたいに。
彼に頼って、何とかしてくれって、全部任せればいいんじゃないか。
永沢君の事だって、きっと何とかしてくれるさ。
ネモ達が何と言おうと、彼に庇ってもらえばいい。
謝りさえすれば、人のよさそうな悟空は許してくれるさ。
後は彼の後ろで守って貰っていれば、僕は安心安全だ。
きっと、生きて家に帰れる。
「あ、あれ……?」
いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
霞む視界の中で、目をこすりながら立ち上がる。
ネモ達の姿は無かった。まさか、置いていったのか?
一緒に行動してる、仲間の僕を置きざりにして?
ずるい、そんなの卑怯じゃないか。
悟空にまた会ったら、言いつけてやらないと。
あいつらはろくでもない奴らだって。
そう考えながら、辺りを見やる。
すると、早速会いたいと思ってた人が目の前に立っていた。
「悟空……!」
息せききって、彼の傍へと駆け寄る。
こうなるとネモ達がいないのは都合がいい。
シュライバーの事を話せば、きっと彼は僕の事を優先してくれるはずさ。
だって、僕は弱いんだから。
悟空みたいな仮面ライダーや地球防衛隊みたいに強い人は。
僕みたいに弱い人を優先して守るのは当たり前だ。
「よ、よかった……また会えて………」
目の前まで駆けよって、そして敵意が無いことをアピールする。
こうすればいいんだろう?こうすれば、守ってくれるんだろう?
しおちゃんを見ていて、もう分かってるんだ。
そんな思いと共に、僕は彼に笑いかけた。
「え………?」
だけど、悟空の僕の見る目は予想とは違う物だった。
しおちゃんが僕に向けてきたような冷たい目。
守らないといけない相手に向ける目じゃなかった。
何か不吉な物を感じて、後ずさる。
「な、何で……っ!」
そのすぐ後に、悟空が僕に向かって飛び掛かって来た。
ぶうんッ!と顔に向かって振り下ろされた拳を、間一髪で避ける。
困惑した。僕は彼が守らないといけない筈の子供なのに、何で?
「───オメェ、そんな虫のいい話がまかり通ると思ってんのか?」
地面に這いつくばって、見上げる僕に。
悟空は、淡々とそう言った。
何で。何で。何で。
僕が悟空の狂った言葉を理解できていない間にも、彼は止まらない。
今度は、僕の身体を蹴り上げようとしてくる。
「ゲームに乗ったマーダーが!調子いい事言ってんじゃねぇぞ!!!」
「う、うわあああああああッッッ!!!」
叫んだ。
彼は怒鳴って、僕をサッカーボールみたいに蹴ろうとしてくる。怖い。
彼すら、僕を殺そうとしてるんだ。守らないといけない筈の僕を。
逃げなきゃ、殺される。
そう思って、僕は夢中で逃げ出した。走る、走る、走る。
「くそ…くそ……っ!チクショウ………!」
悟空は、追ってこなかった。
僕なんか、ちょっと本気を出せばすぐに追いつけるだろうに。
悔しかった。腹立たしかった。哀しかった。
追いかける価値もないと言われている様で。
何より期待を裏切られた事に対する怒りで、涙がボロボロと溢れた。
「やっぱり……僕がやらなきゃダメじゃないか」
誰も助けてくれないじゃないか。
僕以外に、誰も僕を守ってくれないじゃないか。
じゃあ殺して何が悪いんだ。生きたい、生き残りたいんだ。当然の事だろう?
悪いのは乃亜と、僕を守ってくれない強い子達の方だ。
それに僕が永沢君を助けないといけないんだ。
だから、これは当然の権利なんだ。
「があああああああ────ッ!!!」
叫びながら、掌に雷を集めて、ぶっ放す。
ゴォオオンと音が響いて、雷が落ちた樹が黒焦げになった。
でも、それを見てもどうして、と言う思いしか湧いてこない。
どうして、僕はこんなにも強いのに。今まで誰も殺せていない?
もうすぐ約束の時間になる。そうなったらシュライバーはきっと僕を殺すだろう。
もう悟空だって、僕を助けてはくれないのに。
「うぇ…っ!えぐっ!ぐ、う゛ヴうううう………」
涙でぼやけた視界のまま、また走り出そうとする。
だが、三歩ほど進んだところで何かにぶつかった。
どんと体を押し返されて、尻もちをつく。
反射的に、ぶつかった物が何なのか見上げる姿勢になる。
「き……君は………」
立っていたのは、無惨君だった。
彼は僕を優し気な笑みで見下ろしていた。
そして膝立ちになり、僕に視線を合わせたうえで、こう言った。
「僕も、殺し合いに乗っていまして。そこで提案なんですが……
────僕と、これから奴らを殺しませんか?」
真っ暗な穴の中を覗き込んだみたいな、吸い込まれそうな笑顔。
僕はその笑みから目を離せなかった。
一人で殺しにかかるのは怖い、不安だ。
でも、無惨君は殺しを手伝ってくれるという。
まるでヒーローみたいだと思った。
だから僕の顔は涙でぐしゃぐしゃで、強張っていたけど。
彼を見つめる表情は、きっと笑い返していた。
唇も、紫ばんではいなかっただろう。
「みんなが…悪いんだ………」
僕を助けてくれなかったから。
そう一言零してから。
僕は、彼の提案にコクリと頷いた。
□ □ □
滑稽な人間だった。
少し幻覚を見せただけで、こうも乗り気になってくれるとは。
ロードス中枢に藤木茂の様な人間があと十人程いれば、地上の占領は確実だっただろう。
氷塊を発生させ、打ちだす様を見せた瞬間の希望に満ちた藤木の顔は傑作の一言。
奴は信じているのだろう。我が真に自分の味方である事を。
そして同時に、夢にも思っていない筈だ。
自身が、争乱の火種とするための道化である事など。
用済みになれば、脳を喰らわれ、雷となる能力を奪われる運命にある事など。
そんなこと想像すらしないで、我の事を友軍だと信じているのだろう。
「クク……ッ」
精々悪の快感と妙味を堪能させてやろう。そして、その後に。
臓腑を抉り出され、自分が裏切られたのだと理解したら。
この道化は一体どんな絶望の彩を浮かべてくれるだろうか。。
さぁ、道化よ。己の滑稽さに気づかぬままに踊るがいい。
あの矮小な航海者が離れた時に我がお前を喰らわなかった事を、後悔させてくれるな。
奴に表情を見せぬまま、もう一度笑みを形作った。
□ □ □
「ふーん、引き金を引いたら、これが飛んでいくの?」
「危ないから、つんつんしないで〜…」
戦車のお陰で、温泉には僅か数十秒で到着できた。
慎重に僕とフランで中に脅威がいないか索敵し、安全である事を確認した後。
これならば十分暫しの拠点とできるだろう、と判断した。
温泉とカルデアの距離は非常に近いし、見張りやすい。悟空が接近すればまず気が付く。
彼も僕の気は覚えたと言っていたし、僕も彼の魔力は把握している。
となれば、後は施設をマリーン達に見張らせ、悟空が現れ次第向かうだけだ。
短い間なら、これで十分保つだろう。
とは言え、警戒は怠れない。
「フラン、それが爆発したら僕達全員海底火山の噴火みたいにぶっ飛ぶよ」
「はーい。分かってる。邪魔しないわ」
外に意識を配りながら、マリーン達に支給品の装備を準備させる。
110㎜個人形態対戦車弾頭弾。直撃すれば700ミリの鉄板でもぶち抜ける対戦車砲だ。
個人で携帯が可能な兵器としては、魔術の絡まない戦場では最高クラスの火力だろう。
「これから暫く厳戒態勢だ。いつでも撃てるようにしておくんだよ」
「アイ・サー」
三人のマリーンたちは発射筒と弾頭、射撃部にグリップを取り付け手早く組み立てていく。
支給された弾頭と発射筒は使い捨ての為、予備が今現在準備している物を除いて五発。
マーダーの強さを考えれば十分とは言えない、それでも今は貴重なカードの一枚だ。
この島ではサーヴァントの霊的防御が取り払われている。
つまり、当たりさえすれば対戦車砲でも十分サーヴァントを殺害しうるのだ。
それは今の僕にとって不安要素でもあり、心強くもあった。
「キャプテーン!二人が来たよ!」
対戦車砲の準備をしている三人のマリーンとは別の、歩哨を任せたマリーンの報告が届く。
藤木が無惨を襲わないか心配だったが、どうやら杞憂だったらしい。
願わくばこのまま何事もなく悟空と合流したいものだ。
そう願いながら、温泉の館内に通じるエントランスホールへと向かう。
すると、フランとしおも先を行く僕に追従してきた。
彼女らに藤木を迎える理由はない為奥で待っていても良かったが、特段咎める理由はない。
そのままマリーンたちも交えて、廊下を進む。
そして、すぐに意識を取り戻した様子の藤木の前へとたどり着いた。
「無惨、ご苦労様。奥でいったん休んで────」
逆光で生まれた陰で、藤木達の表情はよく見えず。
ともあれまず一仕事終えてくれた無惨を労おうと、彼らの前に踏み出す。
背筋に冷たい予感が走ったのは、その直後の事だった。
藤木が、こちらに向かって腕を振り上げた。
「食らえッ!フジキブレイク!!」
放たれた雷には、躊躇というものが存在していなかった。
紛れもなく、僕らを殺すための一撃。
その一撃を持って、僕は藤木茂が裏切ったことを確信する。
そしてその裏切りの号砲は、考え得る限り最悪の物だった。
「────しおッ!!」
何故なら、奴が狙ったのは僕やフランではなく。
最も弱い、しおを狙ったモノだったからだ。
彼女がこの雷を受ければ、まず間違いなく死ぬ。
刹那の思索のあと、僕は雷の進行方向に全速力で立ち塞がる。
しおを死なせないためには、それ以外に方法はなかった。
一秒後、轟音と全身を焼かれる凄絶な痛みが、僕の全身に食らいつく。
「───ぐッ、ぅああああああああああああッッッ!!!!」
電圧にして数千万ボルトはオーバーしているであろう痛烈な一撃。
普通の人間が受ければまず即死だ。
サーヴァントである肉体には致命傷でこそなかったが、それでも苦悶の声を抑えきれない。
自分の肌が焼ける音と、傍らでフランが悲痛に自分の名を呼ぶのを聞きながら。
僕は、地面に倒れ伏した。
電撃で乱れ切った思考の中で、脳裏に浮かぶのは一つの疑問。
何故、あの臆病者が今この瞬間に勝負をかけた?
その疑問は、直ぐに更なる状況の悪化という形で示される事となる。
□ □ □
藤木が腕を振り上げて。
アイツの掌から、弾幕のような光が伸びてきた。
その伸びた光が、しおって子を守ろうとしたネモを飲み込んで。
服や肌を黒く焦がしたネモが、地面に倒れる。
──危険だとしても、君の様な友を想える子が乃亜の手で踊らされるのを見たくなかった。
しおを庇って、崩れ落ちたネモ。
倒れる姿を間近で見て、大きな声で彼の名を呼ぶ。
ネモと、私の初めての友達の最期が、重なる。
────いいんだ、ゾ………フランちゃん。
───許さない。
許さない。許さない。許さない許さない許さない許さない許さないッ!!
胸の奥が爆発した。
ここで死んじゃったとしても、悟空さえ生き残って、ドラゴンボールを使えば。
ネモだって、生き返れるはず。そう信じることに決めたのに。
それでもネモを傷つけられて、お腹の底からドロドロとした熱いものが噴き上がった。
「───壊す」
拳を握りしめて。
きっと殺意というものを寄せ集めて、私は駆け出した。
誰が何と言おうと、こいつはここで壊す。
襲い掛かって返り討ちに合って、それでも許してもらったのに。
悟空がいなくなったとたん裏切って、それも不意打ちなんて方法で。
恩を仇で返すとはこの事だ。絶対に後悔させてやる。
私の胸の中にあるのは、もうその思いだけだった。
一秒で拳の届く距離まで距離を詰めて、そして振りかぶる。
ニヤニヤと勝ったつもりの気持ち悪いにやけ面をぐちゃぐちゃにしてやる。
渾身の力で、私は藤木に向かって拳を振り下ろした。
だけど。
「フ、フフフフ………残念でしたぁッ!」
藤木の顔面を破壊するはずだった私の手に、手ごたえはなかった。
当たったと思った瞬間、藤木の顔の輪郭がブレて。
そして気持ち悪いにやけ面が光った。
それとほとんど同時に、私の全身に鋭い痛みが襲い掛かる。
「きゃああああああああッッッ!!!」
痛い。痛い。痛い───、
この痛みは、夜明け前にネモから受けた電撃の痛みと同じだった。
ネモと違って手加減されていない電撃を受けて、のどが勝手に悲鳴を上げる。
そんな私の様を見て、勝ち誇った様に藤木は笑った。
「そ、そんなパンチ僕に効くわけないじゃないか……!
僕は、シン・神・フジキングなんだよ!しかも───それだけじゃないッ!!」
バカみたいな名乗りをした後、藤木は隣に飛びのく。
藤木の姿が隣に動くと共に、私の目の前に何かが飛んでくるのが見えた。
だけど、藤木が光った事で眩んだ私の眼だと、飛んできたモノの速さに対応できない。
咄嗟に両手を首と顔の前に翳すのが、今の私にできる抵抗の全部だった。
「くそ………」
────ガアアアアンッ!
悔しさを漏らしたコンマ数秒後。
巨大な氷のつぶてが、私の顔面を柘榴のように弾けさせて。
私の意識は闇に塗りつぶされた。
□ □ □
「や…やった、やった。やった────!」
僕の考えた不意打ちは見事成功した。
僕を守った孫悟空から考え付いた作戦だった。
まず弱い相手から狙えば、狙いを付けなくても向こうから跳び込んでくれる。
僕を庇って、肩に大けがをした悟空の様に。
思った通り、ネモは自分から僕の雷を受けて倒れた。
そして、ネモと仲が良かった様子のフランと言う女の子もだ。
心の準備さえしていれば、あんな子敵じゃない。それが無惨君の言葉で。
わざわざ自分から雷に変身した僕に突っ込んできてくれた。
そして、無惨君の頭脳プレーで顔を潰されて倒れている。
「そう、僕は……神。シン・神・フジキングなんだ────」
イェイッ!と飛び上がって喜びたい気分だった。
僕より顔がよくて可愛い男の子や女の子をぶちのめすのがこんなに爽快だなんて。
クセになって、元の世界で大野君や杉山君をぶちのめしてしまわないか心配なほどだ。
だが、まだ終わりじゃない。ここから二人にトドメを刺して、首輪を奪わなければ。
後は何もできないしおちゃんとネモ君の弟だか分身だけ。
対するこっちは無傷の僕と無惨君、楽勝だ。
「ウ、ウフフフフ…き、君たちが悪いんだよ。中途半端に僕を助けたりするから。
ちゃんと守って、僕を家に生きて返してくれるって思わせてくれていれば……
ここで皆死ぬことにはならなかった!」
だから、君たちが悪い。そう言って。
僕は掌に電気を集める。
撃つのは僕の必殺技、フジキブレイクだ。それで二人を黒焦げにして首輪三つゲット。
その未来は、もう目前だった。
「やっと、やっと僕はなれたんだ───フジキングに」
涙が零れそうだった。
もうシカマルに負けた弱い頃の僕じゃないんだ。
ここで三人殺して、その後無惨君と一緒に梨沙ちゃん達を襲おう。二人なら勝てる。
それで首輪は五つ──半分まで来ればきっと間に合う。
そして、シュライバーを味方に付ければ───あの悟空にだって勝てるかもしれない。
いや、必ず勝つ。また弱い人から狙えば、彼は同じように飛び出してくれるだろう。
そこをみんなで襲えば、多分殺せる。いや、殺すんだ。
そして僕は最強の男を倒して、真の神になる。
想像するだけで、笑顔を抑えきれなかった。
────そうか。無惨が君の自信の裏付けか。
聞こえてきた声で、折角の妄想が消えてしまう。
仕方なく声の方を見てみたら、黒焦げのネモが僕を睨みつけていた。
でも、もう怖くはなかった。悟空と違って、彼は雷さえ当てれば殺せるのだから。
僕よりもずっと弱いのだから。
なら、そんな相手が怒った所で怖くはない。
むしろ、まだ僕の力を振るえるのかとデザートのプリンが出てきた気分だ。
「す、凄んだって怖くないよ。君みたいな雑魚。僕一人でもこ、殺せるんだから」
ネモの言葉に笑顔で返しながら、掌に電気を集める。
今度はもっと強く。それこそ一発で殺せるくらいの威力に。
どんなに凄んだって、彼の攻撃は僕には当たらない。例え銃で撃って来たとしてもだ。
なら、全然怖くない。むしろ来るなら来いって僕は考えていた。
生れて初めてなぐらい、僕の胸には自信で満ちていた。
無惨君に視線を送る。こいつは僕に殺させてくれって。
無惨君は無言で微笑みながら首を縦に振ってくれた。
これでもう、何も心配はいらない。
電気は溜まった。さぁ、喰らえ───!
「フジキブレイクッ!!」
手をネモの方に翳して、ため込んだ雷を放つ。
これで終わりだ。今度こそ黒焦げのネモの死体が転がっているだろう。
僕は勝ちを確信して、一瞬の内に飛んでいく雷の光を見つめる。
───もう僕は…君を保護すべき子供として扱わない。
一瞬だった。
ネモの足元から出た水が、僕の撃った雷を飲み込んだ。
戦車を操縦するだけじゃなくて、こんな事も出来たのか!?
僕は激しく動揺した。でも、直ぐに大丈夫だって思いなおす。
こんな水くらい、また雷になればどうってことない。
むしろ周りが水びだしになれば、追い詰められるのは彼奴の方だ。
どうあっても僕の勝ちは揺らがない。
はず、だった。
────この実を食べたものはカナヅチになる。
あ、と思った。
その時には全てが遅かった。
「ぐぇ…ぎゃ……ばッ……むざ……ッ………たず………ッ!!」
一秒で僕の身体はすごい勢いで水に飲まれた。
鉄砲水の様なその勢いに、立っていられない。飲まれた瞬間、押し流される。
水に飲まれる中、ぐんぐん壁が迫っているのが見えた。
だけど、体に力が入らず止まれない。その上、雷に身体を変化させる事もできない。
無惨君に助けを求めたけど、間に合わない。
「───が、ぁ………ッ!?」
がつんと音を立てて、頭の中に火花が散る。
頭から壁に叩き付けられ、僕はあっさりと気を失ったのだった。
□ □ □
裏切者は黙らせた。
だが、状況は何ら好転していない事を、肌で感じる。
プロフェッサーの言う通りだった。
藤木茂を事此処に至る前に放逐しておけば、ここまで状況が悪くなる事も無かっただろう。
断崖絶壁の淵で、僕は藤木を唆した元凶と対峙する。
「藤木を唆したのは…君だな、無惨」
詰問を受けた無惨に悪びれた様子は無く。
友人に向ける様な笑顔で「はい、そうですが」と答えた。
「少し唆して見れば、面白い様に踊ってくれましたよ、彼は」
そう言って無惨が藤木の方に視線を送る。
彼の瞳は、人に向けるそれでは無かった。
子供が玩具に向ける様な、無邪気な残酷さを伴った瞳だった。
カルデアの技術顧問として数多の英霊を見てきた経験から分かる。
この手の瞳をする者に、ロクな者がいた試しがない。
そんな僕の危惧は、直後に現実のものとなる。
「例えば、そう───こんな風にね」
そう言って彼は手を翳す。
だが、標的は僕ではない。彼の翳したその手は。
先ほどの藤木の攻撃をなぞる物だった。
僕ではなく未だエントランスに倒れ伏す、フランドール・スカーレットに向けられていた。
先ほど放った氷塊の攻撃で、とどめを刺そうというのだろう。
或いは、また僕が庇おうと飛び出してくるのを期待しているのか。
「同じ手は食わない!」
彼の次なる一手は読んでいた。
僕は地に伏せ、同期を行っていたマリーンに声も発さず命令を下す。
撃て、と。
「発射ァ───ッ!!」
三人がかりで対戦車砲を担ぎ上げたマリーンが、引き金を絞る。
弾頭とは逆側の発射筒から、カウンターマスと呼ばれる特殊なバックブラストが放出され。
砲火と共に、110mm個人形態対戦車弾頭弾が発射された。
藤木と対峙した時から、慎重に用意していた布石だった。
自分に意識を引きつけながらマリーンを移動させ、射撃準備を取らせておけば。
後は脳内で伝令を下すと声すら発さず、対戦車砲が発射可能となる。
「!?」
狙い通り。
フランを狙った事で、僕から注意が僅かに離れていた事が、無惨に災いした。
慌てて此方に手を翳し治す物の、手遅れでしかない。
音の速度を遥かに超えたスピードで、戦車の正面装甲もぶち抜く弾頭が着弾。
エントランスの外へと繋がる玄関口が紙のように粉砕される。
右大腿部に命中した弾頭は、そのまま無惨の脚部で炸裂し。
すさまじい爆風は彼の首輪から下を木っ端みじんに破壊し、吹き飛ばしたのだ。
乃亜のハンデにより霊的防御が取り払われているのは身をもって体感済み。
如何にサーヴァントといえど、対戦車砲の直撃を受ければ耐えられるのは一握りだ。
そしてそれは無惨も同じだったらしい。
「フラン!」
敵が沈黙したのを確認してから、フランに駆け寄り、呼吸を確認する。
「よし……!」
顔面に氷塊を受けて、気を失っている様子だったが。
腕で庇っていたお陰か見た目ほど損傷は酷くない。呼吸や脈拍も正常だ。これなら……!
僕は指先に切れ込みを入れ、そこから流れる血を彼女の口の中に注ぐ。
「マスターの国では不老不死になれるとも言われてる人魚の血だ………効いてくれ」
祈るような心持でフランを見つめ、彼女の口内に血を垂らす。
すると、数十秒ほどで変化が訪れる。その変化は劇的な物だった。
びくん、と一度フランの身体が揺れ、休息に氷塊を受けた顔面が急速に再生していく。
血まみれではあったが、一分かからず元の愛らしく瑞々しい顔に戻って。
流石吸血種だと、感嘆の息を漏らす。だが、まだだ。まだ安堵できる状況ではない。
今の対戦車砲の爆発音を聞きつけて他のマーダーが寄ってくるかもしれないからだ。
「早く、この海域を離脱しないと……!」
まず魔力の節約のためにランドセルに格納していた戦車を出し。
その後フランとしおを収容して一刻も早くここを発つ。
急がなければ。そう思いながら、戦車を取り出そうとした刹那。
僕のサーヴァントとしての知覚機能が、外から魔力を纏って飛来してくる飛翔物を捕える。
咄嗟に避けようとするが、しかし逃れられない。
僕の足元は、いつの間にか発生した氷によって凍結していたからだ。
更に藤木から受けていた雷撃のダメージが最悪のタイミングで尾を引き、抜け出せない。
───躱せない。
そう悟った時には既に首輪と、霊核のある心臓部の防御態勢を取るのが精いっぱいだった。
「────が、ふッ………ぁっ………!」
────ドスドスドス!
先ほど自分が撃った対戦車砲の様に。
外から飛来した飛翔物は正確に。無慈悲に。
僕の両手と、両足。そして腕で庇いきれなかった肺を穿っていた。
言うまでも無く、致命傷だ。
そのまま後方の壁に体が縫い留められて、血反吐を吐く。
(しくじった………!)
魔力の残量を懸念し、戦車をランドセルに仕舞っていたのが完全に裏目に出た。
最後の手段として忍ばせておいた仮面(アクルカ)を取り出そうとするが、感触が無い。
どうやら、壁に縫い留められた時に飛んで行ってしまったらしい。
最後の最後で、運に見放された。
「安心してください。君の得た首輪の情報は私が有効活用してあげますよ」
掠れた視界が、対戦車砲の直撃を受けて吹き飛んだはずの無惨の姿を映す。
その体には、最早キズ一つ残ってはいなかった。
完全に嵌められた。吹き飛んだ姿は、その実全く堪えていない芝居だったのだ。
類稀な悪辣さと生存力、そして強さを誇るこの男に、首輪の情報が渡ってしまえば。
最早対主催に未来はないだろう。それだけは阻止しなければならない。
何とか足掻くべく突き刺さった飛翔物──氷の槍を引き抜こうとする。
だが、雷撃による痺れと急所の失血で、最早僕の体に魔力は残っていなかった。
(せめて………しおだけでも………)
現実は無慈悲で残酷だ。
伸ばした手は届かない。
ダメージによりマリーンたちも消え、しおを逃がしてやることすらできない。
僕が死ねば、彼女も殺されてしまうというのに。
しかしその未来を変えてやることは、今の僕には不可能で。
それがどうしようもなく、悔しかった。
────この中で、お前だけが近代の戦闘を知っている。
意識を失う前に、浮かんできた言葉。
それは、南米で悪神と畏れられた全能神が、僕ではない僕に送った言葉だった。
最早視界も、音も、闇に塗りつぶされかけているというのに。
その言葉だけは、嫌になるほど鮮明だった。
□ □ □
道化は弱き敗者。
航海者達は強き敗者。
笑うのは我、ただ一人。
敵対者が全て倒れ伏した戦場で一人勝利に酔う。
「人の愚かさは……異なる空においても留まる所を知らぬらしい」
嘲りの言葉を一つ。
壁に縫い付けた航海者に投げかける。当然、返事はない。完全に沈黙している。
死んでいるか、生きていたとしても虫の息だろう。
後は奴の心臓と脳を食し、我が糧とするだけだ。
その後は吸血種(ヴァンパイア)の小娘。
これも未だ目覚める様子は無い。航海者を喰らった後に、奴も食す。
その後、残った首輪を道化にくれてやれば奴は完全に我を信じるだろう。
己が臓腑を我が魔手によって抉り出され、食されるその時まで。
「さて……いただくとするか」
言葉と共に、敗北した航海者の前へと歩みだす。
だがその時、視界の端で何かが動いたことに気づいた。
黒髪の、人間の小娘。
何の力も持っておらず、また乃亜より下賜された道具袋さえない。
正真正銘、蹂躙されるだけの無力で無能の小娘だと、一目で見て取れた。
「……ひっ……ぅ………」
事実、僅かに殺気を孕んだ目で一睨みするだけで凍り付いた。
別段喰らわずとも何の問題も無いが、折角だ。
あの小娘も喰らって、絶望王や勇者との戦いに備える燃料の足しとする。
だが、先ずはやはり航海者達の方からだろう。その考えに従い、歩みを進める。
十秒かからず、愚かで憐れな贄の前へと辿り着いた。
そして、外に吹き飛ばされた時に回収した、その武器を振り上げる。
野原しんのすけの遺骸で作った、その剣で。
今度は、航海者の心の臓と脳を抉り出す。
その後は吸血鬼の小娘だ。手足を刻んでから起こしてやろう。
そして、人と魔が共に歩めるなど思い違いだと、そう知らしめた上で喰らう。
魔族の面汚しから得られる絶望と慙愧の味は、きっと格別なものに違いない。
その美味を想像し笑みを浮かべ、野原しんのすけの脊髄剣を握る手を振り下ろす。
そう、この瞬間まで全てが狙い通り。
そして、この後も想定した通りの未来が訪れる筈だった。
ネモを食らい、首輪の情報を手に入れ、首輪を外した後優勝し、乃亜を殺す。
栄光を得るための未来の足掛かりは、自分の完全勝利と言う形で達成されるハズだった。
「貴様は───」
床をぶち破り、轟音を供として。
突如として、見覚えのある白亜の全身装甲が現れなければ。
この男が。
「誰の許しを得て、私の容姿を騙っている?」
───鬼舞辻無惨さえいなければ。
□ □ □
鬼舞辻無惨が乱入した理由に、論理的な理由はない。
首輪についての情報を知っているらしいネモ達を助けようだとか。
圧倒的優位に酔いしれる怨敵の隙を突けるだとか。
そんな事は乱入時点の彼の脳裏にはなかった。
ただ自分の姿を騙り、舐めた真似をした下郎をブチ殺す。
彼の胸の中に在ったのはただそれだけだった。
何のことは無い。普段の、事あるごとに彼が見せる癇癪であった。
幸運だったのは、魔神王の感知能力がハンデにより引き下げられていたことだ。
孫悟空の気の探知と同じく、他者変身時における彼女の感知能力は下落していた。
猗窩座の羅針や童磨の氷鬼の様な血鬼術を用いていれば察知されていたのは間違いないが。
無惨はそういった血鬼術に覚えがないのが結果的に追い風として機能した。
更に魔神王が逆感知(カウンターセンス)の魔法を使用していても結果は変わっただろう。
だが彼女はそのための時間をしおに意識を割いた事で浪費してしまっていた。
ほんの僅かな、完全勝利によって生まれた一瞬の陥穽。
時間にして数秒に満たない空白に滑り込むように、鬼舞辻無惨の強襲は成った。
そして、今この瞬間。
ネモ達の運命を救うラリア―ト一撃が、魔神王へと突き刺さる────!
□ □ □
ぶちぶちと、肉を引きちぎる感触が腕に伝わる。
私の姿を騙った偽物の上半身と下半身が泣き別れになり、吹き飛んでいく。
偽物の正体は恐らく、二度目の放送前に交戦した下奴だろう。
私の姿を借りて、他の参加者を襲っていたらしい。
となると、このまま奴を放置すれば私の悪評は留まる事を知らなくなる。
それを認識した瞬間、私の頭は怒りで沸騰した。
殺す、ここで低能な贋作者は再生叶わぬ程全身を微塵に砕き地獄に送る。
決意の元に行われた奇襲は、果たして想定通りの成果を上げた。
だがまだだ。この程度では奴は死なない。それは分かっている。
故に私は次なる一手を既に思案していた。
「死ね!」
武装錬金を一時解除。並行して体から生み出した複腕により豆電球を操作する。
一瞬にして周囲数メートルに夜の空間が展開され、闇の帳が降りた。
これで敵の反撃により吹き飛ばされたとしても先の惨事になる恐れはない。
夜ランプを再びランドセルの中に放り込み、しぶとく再生しようとしている下郎を見つめ。
そして、全力の衝撃波を放った。間違いなく、上半身だけの奴を粉々にできる威力だ。
着弾前に人の体で作ったらしい悪趣味な刀が粉砕されるが、それで済ませるつもりはない。
「────!」
下郎は即座に手を地面へと向けて、コンマ数秒で氷柱を掌から伸ばす。
恐らく、接地の衝撃で吹き飛んだ上半身の軌道を変え、私の攻撃から逃れる魂胆か。
無駄な足掻きだ。業腹ではあるが、元より初手で仕留められるとは考えていない。
次だ。次で仕留める。逃げ場のない空中で、細胞一つ残さず消し去ってくれる。
衝撃波が下郎の腕と上半身を粉砕し、残るは首輪の嵌められた首から上だけ。
これで、私の勝利だッ!
「────摩訶鉢特摩」
───直後に、不可解なことが起こった。
全身を粉微塵にしてやるはずだった敵の姿はそこになく。
悪寒が背筋を駆け抜けた。
即座に武装錬金!と叫び、外套を纏う。だがそれがいけなかった。
外套に意識を割いた一瞬の隙を縫い、私の下半身が凍り付いていた。
いったい何が起きたのか。状況を認識する暇もなく、横から衝撃が来る。
其方に視線を向ければ私の姿を騙った賊が、私の頸を掴んでいた。
殆ど生首だけとなっていたはずの奴の体は、既に上半身が再構成さえつつあり。
「感謝するぞ鬼舞辻無惨…………」
──わざわざ我が贄となりに来た事をな。
奴は薄笑いを浮かべ、嘲りの言葉と共に私の体を凍り付かせにかかる。
不味い、直感的にそう理解し衝撃波をとうとするが、それはできないと思いいたる。
今身に纏っている外套は、衝撃波の正常な射出を阻害するのだ。
更に今この状況で冷気を遮断している外套を解除すれば、一瞬で全身が凍り付くだろう。
「────舐めるなァッッッ!!!」
憤怒と咆哮を放って、私は外套に包まれた腕を振り回す。
外套越しに私の身に纏わりつく下賤の徒を粉砕していく。
何よりも今はこの下種な盗人を地獄に送ることが最優先。だが───、
「威力が前に戦った時より、鈍いな」
「………っ!!」
狂犬との戦いで負った、日輪による損傷が尾を引いている事に、その時初めて気づいた。
下半身を包む氷の破壊と敵の粉砕。普段なら一秒と掛からず行える芸当を。
現状の速度では二秒近くかかっていた。結果、凍結速度のほうが僅かに早く。
招くのは破壊した端から再生するといういたちごっこ。これでは脱出ができない…!
賊の体は都度この手で粉砕し、下半身の再生には至っていないが。
それでも時間の問題だった。
「お゛ぉおぉおおおおおッッッ!!!」
その時、狂犬との戦いの直後、戦闘行為は控えようと考えていたことを思い出した。
怒りで我を忘れていたが、今更思い出したところで時すでに遅し。
今はただ声を張り上げ、持てる力を振り絞る。
このまま思い通りにさせてなるものかッ!殺意が身体を突き動かす。
だが、忌々しい日輪の呪いは未だ総身に纏わりつき。
氷のいましめから逃れる方法はなく。
賊との力の押し合いの様な状況の中、徐々に私は追い詰められていた。
□ □ □
はぁ、はぁと息を吐いて。
後ろでは同じ顔をした男の子が二人で殺し合いをしてる時に。
私は、ピクリとも動かないネモさんの前に立つ。
「しんじゃってる……?」
私のその声にも、やっぱりネモさんは答えない。
多分、息もしてない。もう死んじゃってるか、
そうでなくてももう何もできない。
今なら私でも、きっと殺せる。それなのに。
「おかしい、よね…………」
私は私がおかしい事をしてるっていうのには気づいていた。
ぎゅっと、腕に抱えたお面を抱きかかえる。
私の前に偶然転がってきたお面。飛んで行ったネモさんが落としたお面。
それを私はネモさんに持ってきた。
ネモさんは、敵。
さとちゃんとの“お城“。
二人きりの甘い日々に帰るためには、最後には殺さないといけない人。
───君は、僕達が責任を持って“さとちゃん”の元へと帰す。
私のさとちゃんを叩いて、傷つけた、お兄ちゃんに似てる人。
それなのに私は今、ネモさんの前に膝立ちになっていて。
あの同じ顔の人たちが殺しあってる今なら、逃げられるかもしれないのに。
銃とか、必要な物を取り返して、ネモさん達の分も持っていって。
それでまた優勝しようとすることだって、きっとできる筈なのに。
でも、此処でネモさん達を見捨てたとして、私は、さとちゃんの所に帰れる?
「私のこと、さとちゃんのところに帰してくれるって言ってたでしょ」
そっと、両手で持ったお面を、ネモさんの前に翳す。
このお面に不思議な力がある事は知ってる。
フランって子とネモさんが戦ってる時に、見てたから。
今のネモさんの傷を何とかできるかは分からないけど。
「だから」
でも、それでも今、悟空さんのいない時に。
とっても苦い…あの男の子を何とかできるのは。きっとネモさんしかいないから。
だから、私は。
「起きて、ネモさん」
そう言って、静かにネモさんの顔にお面をつけた。
そして、お面をつけた途端ネモさんの身体が光って────
────あぁ、イシダイみたいに自明だ。
□ □ □
少々予定は狂ったが、概ね描いていた通りの絵図に状況は戻りつつあった。
吸血鬼や航海者だけでなく、取り逃がした異空の悪鬼(デーモン)すら。
喰らえるあと一歩の所まで、状況が推移している確信を抱き笑う。
全くのこのこと手負いの状態で、自ら喰らわれに来てくれるとは。
「この……小賢しい氷などで……!私を誰だと思っている………!」
無論、餌だ。憤怒と焦燥に燃える敵手にそう吐き捨てた。
無惨は未だ抵抗を続けているが。
既に下半身だけでなく、胸の辺りまで凍結されかかっていた。
関節部を吐血されれば、鬼神の拳も減退する。
奴が手負いなのも相まって、徐々に拳で凍結した肉体を吹き飛ばす速度よりも。
氷結の浸食度合いの方が、着実に上回りつつあった。
この分で行けばあと60秒ほどで氷結を打破できる程の行動はとれなくなる。
そして、無惨を完全に凍結させた後、航海者や吸血鬼を糧とし。
最後に身動きの取れなくなったこの男を一度砕き、腑分けしたのち喰らってやろう。
その未来は、もう直ぐに訪れる筈だった。
「────!?」
だが、そんな時に。
背後で、大きな魔力の奔流を感じ取った。
振り返ってみれば、一枚の仮面で顔を覆ったあの航海者が。
此方を睨みつけ、ランドセルを開こうとしていた。
先ほど操っていた戦車を出されれば厄介なことになる。
刹那の時間で判断を下し、死にぞこないの航海者へと手を向ける。
航海者が予想通り戦車を出現させ、御者台に人間の娘を放り投げる。だが、問題はない。
狙うは最も騎兵が無防備になる瞬間。騎乗物に騎乗する瞬間だ。
人間の娘にかかずらっていなければ、既に戦車に乗れていたものを。
飛び乗ろうとしている航海者の、相変わらずの愚鈍さに感謝しながら氷槍を撃ち出す。
───グラオホルン。
先ほど航海者の身体を串刺しにした氷槍とは比べ物にならない威力の、絶命の一射。
この技であれば、速度、破壊力共にあの航海者が抗しうる術はない。
敗者は大人しく勝者の糧となるがいい。呟きながら、終末を導く一手を見据える。
見立ては正しかった。放った一撃は、音の速度を超えて。
バツン、と。遅れて何かが千切れる様な音が奏でられる。
視線の先の航海者の左半身が、一撃で以て食いちぎられた事を示す音だった。
言うまでも無く、即死の一撃だ。
ひょっとすれば心臓まで消し飛ばしてしまったかもしれないが、脳さえ無事なら問題ない。
どんな支給品や能力で復活したかは知らないが、今度こそ終わりだ。
───そう、終わりとなる筈だった。
「何───!?」
想定に反し、航海者は墜ちず。
致死どころか即死の損傷を負って尚、敵手の瞳には戦意の焔が燃えていた。
そして、奴の戦意に呼応するかのように。
グラオホルンによって吹き飛んだはずの左半身が、一瞬にして再生した。
そのまま奴は攻撃を受けた反動と華奢な体躯を利用し、空中で体勢を反転させて。
遂に神獣と思わしき猛牛が繋がれた、戦車の御者台に収まった。
不味い。迎え撃たねば。
意識を完全に航海者の方に向け、瞬時に数十の氷塊を生成しようとする。
だが、自身に生まれたその刹那の隙を穿つように───突風が吹く。
「血鬼術……」
傍らで響く声を聴き。
己の失策を悟った時には、全てが遅かった。
────黒血枳棘!!
外套の袖から飛び出した漆黒の鋼線に、全身を刺し貫かれる。
それだけに留まらず、刺突の衝撃で彼我の距離を十メートルほど突き放し。
更に地中深くまで“かえし”の付いた硬質化した血液が突き刺され、肉体が縫い留められた。
「───私を前にして、何処を見ている?」
冷たく鋭利な声で、異空の鬼神(デーモン)が此方の失策を指摘する。
確かに、失策だった。この技は一度見ている。脱出は不可能ではない。
だが、流石に数秒を超える時間が必要だった。
今まさに詰めの一手を放とうとしている敵手たちを思えば、到底間に合わない。
詰みだと、鬼舞辻無惨がそう断定するのも無理からぬ話だろう。
まぁ、だとしても。
「貴様らでは我の首は獲れぬ、その幕引きに変更はない」
聞こえぬであろう小さな声で呟いて。
表情は冷徹なポーカーフェイスのまま、その実人間と魔族の面汚し共の奮戦を愚弄する。
□ □ □
南米異聞帯。
七つ目の、正史とは異なる歴史を綴った、あり得ざる人類史。
僕の所属していた組織、カルデアが訪れた最後のロストベルト。
僕の操る次元境界穿孔艦ストームボーダーは、そこで修復不可能な損傷を負った。
異聞帯を統べる王の攻撃によって、艦ごと真っ二つにされたのだ。
大破だけは免れたが、艦も、艦と一体化している僕も当然ただでは済まなかった。
ストームボーダーの空中分解を防ぐため、霊基の凍結を行い。
身体の形を保っているだけの、その実木っ端微塵に爆死した人間とほぼ同じ状態となった。
だが、それでも僕の航海はそこで終わらなかった。
…僕(キャプテン・ネモ)は、宝具以外は華のない騎兵だ。
征服王イスカンダルの様に、肉体は滅びて尚朋友達が集う鮮烈な生き方をした訳でも。
イーリアスの花形アキレウスの様に、韋駄天のような速さと強さを持っている訳でも。
古代中華の伝説的道士太公望の様に、戦術と魔術に精通している訳でもない。
ないない尽くしの弱卒。実力では一流どころか二流にすら届いているか怪しい英霊。
その僕が宝具とカルデアに協力し、人理保障の旅の過程で得た経験値以外に、
英霊として誇れる物があるとすれば、それは土壇場のしぶとさ位だ。
それも“逸れ“の現状では、見せられる望みは無かった。
今この時。神戸しおに、偽りの仮面を被せられて。仮面の者となるまでは。
────疑似根源接続。
仮面を通して、再び大いなる力への扉を開け放つ。
魔力制限の一時的な完全開放。それによって、
僕という英霊の中核を成すスキルが発動可能となる。
キャプテン・ネモの、船長としての生き様が昇華されたスキル。
名を不撓不屈(ネモ・オリジン)。効果は致死のダメージからの復活。
かつて南米異聞帯で致命傷からの生還、即時戦闘すら可能とした復活劇を此処に。
「そうだ。半身を奪った程度で、この歩みは止められない」
無惨の放った攻撃で吹き飛ばされた左半身が瞬時に再生するのを見て、確信する。
仮面からもたらされる莫大な魔力で、不撓不屈の効果が強化されている事に。
今の僕が、肉体的な損傷で死亡することは無い。
不撓不屈の効果が効いている内は、莫大な魔力が自動的に損傷を瞬時に治癒する。
(もっとも───諸刃の剣である事は自明だけど)
当然、そんな力が何のリスクも無く許されるはずがない。
先ほどの肉体の修復の際も、霊基の奥、霊核には思わず呻きそうになる痛みが走った。
つまり霊核は確実にダメージを受けている。
人間で言えば、内臓機能に莫大な負荷をかけて外傷を治癒しているに過ぎない。
使い過ぎればやがて待っているのは仮面の支給品の説明書に書いてあった、使用者の末路。
塩の塊となる最期は避けられないだろう。でも今はそれでもいい。
元より今の僕の身体は人理の影法師。惜しむ未来など、最初から無いのだから。
この殺し合いを打破するまで保てば、それでいい。
今はただ、目前の卑劣非道の徒を倒す事だけに全てを賭す───!
「吼えろ、飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)!
征服王が駆りし雄々しき神獣よ!──今一度覇を示す刻だ!!」
僕の霊基に満ちる魔力を全て、戦車へと回す。
送り込まれた魔力は、一瞬でニトロの様に神牛達の戦意を爆発させ。
神牛達の咆哮と共に、戦車はゼウスの雷を思わせる蒼雷を纏う。
いける、と思った。
襲ってきた無惨は未だ謎の乱入者の手によって地面に縫い留められたまま。
例え氷塊を放ってきたとしても、この状態であれば──押し勝てる。
(押し勝てる、筈だ)
客観的に言えば、それは間違いないのに。
それでもその瞬間、僕に飛来したのは一つの予感だった。
第六感と言い換えてもいい。そして、その内容は。
この攻撃は失敗する、ということ。
(………それでも、行く────!!)
根拠のある予感じゃない。
どの道、これで勝てなければ後が無い。
だから行く。ここで不確かな未来に臆して、勝機を逃すわけにはいかない。
手綱を奔らせ、戦車の疾走を開始する。
これがきっと、この戦いにおける最初で最後の交錯となる事を予感して。
□ □ □
矮小な航海者が、此方に迫って来る。
だが、表情は必殺を確信した物ではなく、僅かに陰りが見えた。
恐らく、この後に控える凶兆を感じ取ったのだろう。その予感は正しい。
航海者にとって、文字通り死力を尽くした攻撃。
それが実を結ぶことは決してない。何故なら───
「────摩訶鉢特摩」
凍れる時に介入する術を、航海者は持たないのだから。
勇者との戦いで目覚めた時間停止能力。それをこの局面で物にした。
時は凍り付き、あらゆるものが停止する。航海者も、鬼舞辻無惨も。
こうなれば、全身を貫く血の戒めから逃れるのはそう難しい事では無かった。
強引に静止した血の鋼線を引きちぎる。
その過程で全身が引き裂かれるが、問題ない。
事実時間停止が解除されるまでに再生は終わった。
「さて………」
一瞬で目前にまで迫っている航海者の姿を眺めながら。
数メートルほど、横方向へと飛びのく。
本物の無惨の術を破る為に停止時間を浪費したため、そこまでが行える行動の限界だ。
だが、問題はない。突進の直撃さえ躱せれば目的は達成している。
どれほど強力な突進であろうと、所詮は直線の攻撃。
そして、突進は直線の攻撃としては強いが、側面からの攻撃に弱い。
このまま頭部をグラオホルンで撃ち抜き、殺す。
再生能力があると言っても、首輪が嵌められている以上、首を飛ばせば事足りるだろう。
脳は食えなくなるだろうが、心臓だけでも喰らえれば十分。
この攻撃を凌げば我に敗走はありえない。確信があった。
「これで」
航海者に向けて、側面から手を翳す。
気づいた奴が軌道を修正しようとするが、すでに手遅れだ。
放った氷槍が、矮小な頭蓋を粉砕する方がずっと早い。
凍れる時の秘術、間を置かずの連続使用はかなりの消耗だったが。
それでもこの場にいる者達を喰らえれば消耗を補って余りある。
「終わりだ」
あと一歩まで迫った、しかし決して届かぬ勝利の幻想を抱いて逝くがいい。
無駄な奮戦を嘲笑しつつ、グラオホルンの発射体勢に入る。
腕を標的へと指向し、魔力を巡らせ───
「アンタがね」
刹那、腕に衝撃と喪失感が駆け抜けた。
必殺の一撃を放つはずだった腕が、くるくると視界を舞う。
否、それだけではない。腕だけでなく、下半身の感覚すら失っていた。
胴を腕ごと切り落とされたのだと理解した時には、残った上半身も蹴り飛ばされていた。
きりもみ回転で踊る視界の端で、下手人の姿を捕える。
最後の伏兵の、その姿を。
───フランドール・スカーレット。
野原しんのすけと友誼を結んだという、赤と金の吸血鬼。
気を失っていた筈の、魔族の愚者が。
類稀なる魔力を感じる剣を手に、紅い瞳で此方を見据えていた。
奴が、我の胴を斬り伏せ、逃れる筈だった五体を戻したのだ。
我が首を狙う、戦車の軌道上に。
「やっちゃえ、ネモ!!」
人と慣れあう吸血鬼の声を聞きながら、接触までの数コンマの時間で思索を行う。
正攻法からの回避は不可能。時間停止も、残存魔力で瞬時の発動はやはり不可能。
そして、如何に魂砕きではないとはいえ、この戦車の突撃を受けるのは不味い。
残された選択肢は一つだけだった。
「───<ハーゲルシュプルング>」
正面からの迎撃。それこそが現状における最善手に他ならない。
接触までの瞬きよりも短い時間で、最大規模の氷塊を発生させる。
人間など、一瞬で捻りつぶして余りある規模の、絶対零度の砲撃。
しかしそれと相対する敵手の表情に、先ほどまでの陰りはなく。
友軍の支援に呼応するように、航海者は咆哮を轟かせた。
「『偽・遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)───!』」
接触の瞬間。
氷塊が、拮抗することなく真っ向から粉砕される。
直後に、轟音と衝撃。
そして戦車から放たれた蒼き雷霆が、目に映る世界全てを塗り替えた。
□ □ □
身体の至る所を、雷で灼かれた痛みが走る。
無論のこと、直ぐに痛み自体は引くだろうが。
それでもまさかここまでの反撃を受ける事は想定外だった。
二度の間を置かぬ時間停止と、何より最後に受けた戦車の突撃。
滅ぼされるまではいかぬものの、このバトルロワイアルが始まってから。
恐らくは最も損傷を受けた一撃だったと言えるだろう。
肉体の再構成もアーカードと戦った時より数段遅く、魔力の消耗もかなりの物だ。
作った武装も無惨に破壊され、得たものと言えば………
「うう……ん……」
この未だ目を醒まさぬ愚者ぐらいの物か。
たかが頭部を打ったくらいで、未だ目を醒まさぬ軟弱さ。
態々危険を冒し回収してきた判断は誤りだったかと考えざる得ない。
(……いっそ、喰らうか)
この者を喰らえば、消耗した肉体の足しにはなるだろう。
だが、それは同時に手数を失うという事でもある。
実際、この道化のお陰で一時は先ほど戦った一団を全滅寸前まで追い込めたのだ。
このまま消耗を癒す足しにするために喰らうか。
それとも踏みとどまり、これからも傀儡の道化として扱うか。
(この道化が起きてから決めるとするか)
この藤木茂と言う愚者が目覚めてからどんな不様を晒すか。
それを見てから決めても遅くはない。
どうせ、この男は自分に縋って来るだろうし。
滑稽さを嘲笑って貰えない道化ほど、惨めな物は無いのだから。
【D-4/一日目/午前】
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:気絶、ゴロゴロの実の能力者、シュライバーに対する恐怖(極大)、自己嫌悪
[装備]:ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
[道具]:基本支給品、拡声器(羽蛾が所持していたマルフォイの支給品)
グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)、賢者の石@ハリーポッターシリーズ
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:第三回放送までに10人殺し、その生首をシュライバーに持って行く。そうすれば僕と永沢君は助かるんだ。
1:次はもっとうまくやる
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う。
3:無惨(魔神王)君と梨沙ちゃんを殺しに行く。
4:僕は──神・フジキングなんだ。
5:梨沙ちゃんよりも弱そうな女の子にすら勝てないのか……
※ゴロゴロの実を食べました。
※藤木が拡声器を使ったのは、C-3です。
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:ダメージ(大 回復中)、魔力消費(極大)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:藤木は喰らうか、まだ踊らせるか……
1:絶望王は理解不能、次に出会う事があれば必ず殺す。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
6:藤木を利用して人間どもと殺し合わせる。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※右天の脳を食べた事により、右天の記憶を獲得しました。バミューダアスポートは脳が半分しか無かった為に使用できません。
※野原しんのすけの脳を食べた事により、野原しんのすけの記憶と知識と技能を獲得。野原しんのすけの姿になっている時に、野原しんのすけの技能を使用できるようになりました。
※野原しんのすけの記憶により、フランドール・スカーレット及び佐藤マサオの存在を認識しました
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
□ □ □
戦車の進路上から100メートルほど前方までを焦土に変えたあと。
崩壊した浴場施設のエントランスを出た先で、注意深く周囲を睥睨する。
敵の魔力は感じられず、警戒は解かないままに、僕は戦闘の終結を悟った。
「やったの?」
ぱたぱたと、変わった翼をはためかせて。
フランが僕に戦果を尋ねてくる。
即ち、鬼舞辻無惨の撃破が成ったかどうかを。
「手応えはあった。倒せたかどうかは分からない」
「ふーん……じゃ、また会ったらその時は藤木共々ブッ壊してやらないとね」
「…………」
フランの言葉に、周囲を見回す。
藤木の姿は既になかった。
単独で逃げたか、あるいは無惨が回収した後逃げたか……
後者であれば厄介なので、そうでない事を祈るばかりだ。
既に藤木茂は看過できる閾値を超えた。
彼の今回の行動は明らかな裏切りで、その結果もあわや全滅の大惨事。
能力の危険性についても、身を以て思い知らされた。
こうなれば、甘い判断は船長として最早下せない。
もっとも、今はいなくなった藤木のことを考えていられる状況でもないが。
「荷物を纏めて、すぐにここを離れる」
「悟空たちを待たなくてもいいの?」
「本当なら、そうしたかったけど……如何せん派手にやりすぎた。
今ここで他のマーダーと連戦するのは御免だ」
「……そうね、私も、顔を洗いたいし。血が乾いて気持ち悪いわ」
ただでさえ藤木の拡声器によって誰が来るか分からない状況で派手に暴れ過ぎた。
こうなると、ほとぼりが冷めるまでは一旦カルデアから離れる他ない。
その場合の手筈は既に悟空に話してある。
「一旦モチノキデパートに向かおう。
ついでに首輪の解除に必要な物資も探せば、ただ時間の浪費にはならない」
もし、何らかのアクシデントで分断され、カルデアでの合流が困難な場合。
幾つかの合流地点の候補の中でも、まず身を寄せると話したのがモチノキデパートだ。
物資が豊富で、建物自体の背が高く、カルデアの付近を見張りやすい。
悟空が先行しカルデア周辺の安全を確保した場合は、合図を送って欲しいとも伝えている。
そうすればデパートで物資を確保した後、カルデアに直接向かう事も可能だからだ。
理由を述べるとフランも特に反論せず頷いて、戦車の僕の隣の席に収まる。
彼女も顔面が崩壊する程の傷から復帰したばかりだ、それなりに消耗もあるのだろう。
でなければ、残ってジャックと言いだしていたかもしれない。
そう考えながら、今度はしおに語り掛ける。
「しお、これから少し飛ばすけど、我慢できるね」
「うん。行くならまただれかがおそって来るまえにはやく行こう、ネモさん」
フランとは反対側に座っていたしおも、了承の意志を見せた。
仮面からの魔力供給を受け、御者台周辺の魔力力場は先ほどもよりもずっと強い。
恐らくは彼女に負担をかけずに済むだろうが、前の様に速度を落として進めない以上、
万が一負担がかかった場合は、辛抱してもらう以外方法はない。
それでもまた藤木の様な参加者に襲撃をかけられるよりきっとずっとマシな筈だ。
兎に角、今は襲撃を避けてデパートで態勢を整える事を最優先に考える。
「………君も、それでいい?」
そして、そうする上で。
最も細心の注意を払わなければいけない存在に話を振る。
話しかけたのは、しおの隣にいつの間にかちゃっかりと収まった、白い外套の子供。
僕達の窮地を救い、しかし餓えたシャチの様に危険さも備えているであろう少年。
恐らくは、今しがた戦った偽物が擬態していた張本人。
鬼舞辻無惨と言う名の、超が付くほどの危険人物。
現状戦闘が困難なほど彼が手負いであったのは、きっと幸運だったに違いない。
「さっさと愚鈍な手を動して屋内に案内しろ。貴様らを助けた事を後悔させるな」
刺すような殺気が肌を刺す物の、襲ってくる気配は無い。
自分の状況を良く理解している様子だ。
もし偽無惨が生きていれば、これからも無惨の姿を騙って凶行に及ぶだろう。
だから偽無惨の存在を知り、潔白を証明してくれる僕達は彼に必要で。
殺したところで対主催とマーダー双方から狙われ、自分の首が締まるだけだ。
加えて今の戦いで、弾除けくらいにはなると評価してもらえたらしく。
傲岸不遜な態度は、裏切られたばかりの状況だと裏表を探る必要が無くて逆に有難い。
とは言え、一手対応を誤れば彼は即座に僕達の首を撥ねるだろう。
酒呑童子などと同じ、人を殺すことを一顧だにしない鬼種の系譜である事は間違いない。
鬼舞辻無惨という化生は、そう言う存在だ。確信を以て言えた。
「ネモ……いいのそいつ?」
「いいも何も、本人に降りるつもりが無い以上は仕方ない。
そもそも、彼がいなければ僕達はとっくに全滅してるしね」
「………ま、貴方がいいならいいけど。
でも、今さっき裏切られたばっかりっていうのは、忘れないでね」
苦言を呈しながらも無惨を蹴落とそうとしなかった辺り、フランも理解しているのだろう。
今ここで降りろ降りないと言い合っても、押し問答になり。
ひいては殺し合いになるだけだと。このマーダーがいつ襲ってくるか分からない状況下で。
今追撃を受ければ今度こそ全滅してもおかしくない。
ここで争う事はフランにとっても、無惨にとっても不毛なだけだった。
だから、一言耳に痛い言葉を零し、それ以上は何も言わず。
無惨も、外套に身を包んだまま顔を逸らし、会話をするつもりは無い様子だった。
二人が不意に殺しあう事が無いよう座り直し、魔力を戦車に回して手綱を振るう。
二頭のゴッドブルが嘶き、疾走を開始。直ぐに時速数百キロまで加速を行った。
今度は下から狙い撃ちされる恐れが無く、また足跡を残さない低空での疾走だ。
数分足らずでデパートへとたどり着けるだろう。
「……………」
激戦を終えた直後で、全員が消耗していた。
それから暫く僕達は無言で、身じろぎさえあまりしなかった。
そうしている内に、デパートが見えてくる。
幸いにして経由したD-2のエリアにはマーダーがいなかったらしい。
何とか、デパートの前へと五体満足で辿り着く事ができた。
着いた途端、無惨は目にも止まらぬ速さでデパートの中へと転がり込んでいく。
それを眺めながら考える。火急の危機は去ったが、見通しはお世辞にもよくない。
悟空とは分断され、カルデアの周囲は今や危険地帯だ。
何とかカルデアが禁止エリアに名を連ねる前にデータを解析したいところだが…
今は一時間後に自分が生存しているかすら、断言はできなかった。
先行きは、ハッキリ言って暗い。
「ねぇ、ネモ」
昏い考えに思考を浸している中、フランが声を掛けてくる。
じっと此方を見つめる彼女の顔は、どこかバツが悪そうだった。
天敵を前にしたグッピーの様な、そんな表情。
「その……ごめんなさい。私の提案で、あんな事になっちゃって。
戦いでも、私が不意打ちされたせいで、追い詰められて………」
もじもじと、やや俯きがちにフランは謝罪の言葉を述べる。
藤木と偽無惨を一緒に行動させた自分の提案で窮地に陥ったのを気にしているのだろう。
確かに、そういう面が無かったとは言えない。だが、僕も提案に乗ったのは同じだ。
だから、僕の答えは決まっていた。
「……でも、君のお陰でみんな生きてる」
偽無惨を最後に追い詰められたのは、フランのお陰だ。
だから、それでいい。
それが僕の答えだった。そして、その答えを述べるべき人物はもう一人いる。
しお、と。彼女の名を呼んでから、僕は続けた。
「僕達が助かったのは……君がこの仮面を付けてくれたからだ」
敵である筈の彼女が。
一人で逃げられたかもしれない彼女が。
逃げずに僕に仮面を付けてくれたからこそ、この場にいる全員が死なずに済んだ。
きっとこれからも彼女にとって僕は敵にしかなれないかもしれないけれど。
それでも、彼女の選択に感謝と敬意を贈りたかった。
だから、一拍おいて。
「二人とも……ありがとう」
僕は、二人の少女にその言葉を告げた。
告げられた少女たちは、何方からともなく顔を見合わせて。
そして、示し合わせたわけでもないのに、帰って来た返事は同じものだった。
─────どういたしまして。
【E-3 モチノキデパート/一日目/午前】
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(大、回復中)、ダメージ(小)、仮面の者
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、
オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、神威の車輪Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、
ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、エーテライト×3@Fate/Grand Order、
110mm個人形態対戦車(予備弾×5)@現実
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:無惨は一応、死にたくないという点は信用しても良いと思う。
1:カルデアに向かい設備の確認と、得たデータをもとに首輪の信号を解析する。
2:魔術術式を解除できる魔術師か、支給品も必要だな……
3:首輪のサンプルも欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおとは共に歩めなくても、殺しあう結末は避けたい。
6:エーテライトは、今の僕じゃ人には使えないな……
7:藤木は次に会ったら殺す。
8: リーゼロッテを警戒。
9:悟空と一刻も早く合流したい。
10:ドラゴンボールのエラーを考慮した方が良いかもしれない。悟空と再会したら確認する。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、
優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※フランとの仮契約は現在解除されています。
※エーテライトによる接続により、神戸しおの記憶を把握しました。
※エーテライトで魔神王の記憶を読み取りましたが、それは改変されています。
無惨(魔神王)は鬼殺隊で、柱という地位に就いていると認識してしまいました。
※仮面装着時に限り、不撓不屈のスキルが使用可能となります。
※現在装着中の仮面が外れるかどうかは、後続の書き手にお任せします。
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:無惨君(魔神王)は何か変な気がする。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
3:マーダーが集まってくるかもしれないので、自分も警戒もする。武器も何もないけど……。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、顔面血まみれ
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、
改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に業、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:一先ずはまぁ…対主催。
0:一旦ネモ達と同行して、ジャックが来るか暫く待つ。
1:ネモを信じてみる。嘘だったらぶっ壊す。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す。
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か
5:藤木と偽無惨は殺す。
6: マサオもついでに探す
7:ニケの言ったことは、あまり深く考えないようにする。
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※ネモ達の行動予定を把握しています。
【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(大) 、回復中、俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。 魔神王(中島)、シュライバーに対する強烈な殺意(極大)
[装備]:捩花@BLEACH、シルバースキン@武装錬金
[道具]:基本支給品、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り6時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:中島(魔神王)、シュライバーにブチ切れ。次会ったら絶対殺す。今は回復に努める。
1:禰豆子が呼ばれていないのは不幸中の幸い……か?そんな訳無いだろ殺すぞ。
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:ネモ達は出来る限り潔白の証明者として生かしておくつもりだが、キレたらその限りではない。
5:一先ず俊國として振る舞う。
6:モクバと合流は後回し、モクバの方から出向いてこい。
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わらず死ぬと考えています。
また鬼化等に制限があるかどうかも後続にお任せします。
容姿は俊國のまま固定です。
心臓と脳を動かす事は、制限により出来なくなっています、
心臓と脳の再生は、他の部位よりも時間が掛かります。
【110mm個人携帯対戦車弾@現実】
自衛隊にも配備されている対戦車弾。通称LAM。
操作、携行が容易で、無反動の対戦車火器であり、信頼性も高い。
戦車の正面装甲を貫通できる個人携帯火器としては最高クラスの火力を誇る。
【改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に業】
園崎詩音愛用の改造スタンガン。
中学生程の少年少女なら一発で昏倒させられる出力を有している。
投下終了です
投下ありがとうございます!
む…無惨様、かっけぇ……。
未だかつてこれ程頼りになって、カッコいい無惨様がいただろうか。
ちゃっかり、しおちゃんの隣に座るお茶目さもキュート。段々萌えキャラ化してきてますね。
こんなのが隣にいるしおちゃんの心労が凄そうですが。
魔神王、やっぱ強い。ネモが戦闘向きでないとはいえフランも込みなのに、軽く倒してしまうとは。
あと藤木君はともかく、ゴロゴロの実はマジで強い。相手がシュライバーや悟空だから雑魚く見えるだけで、もう普通に能力だけで数人殺してもおかしくないんですよね。
本人は別として、能力は魔神王も使えるからと手元に置いてくれるのは、藤木君にとって幸運なのか不幸なのか。まだ殺してないので、戻れそうな気もしなくはないんですが。うーん……
しおちゃんの声にネモ君が答えるの。敵同士だけど、しおはネモの強さを信頼してる感じで好き。
中々絶妙なコンビで良い描かれ方してるなと思いますね。いずれ、この二人が戦うかもしれないのがお辛い……。
フランちゃん、間違った考えではないんですけど、急にスタンガンビリっとさせられる藤木君はちょっと草で可哀想。
まあ全部藤木君が悪いんですけど。
投下お疲れ様です
ちょろすぎるだろフジキング。それでいてゴロゴロの実は確かに強力な力だから始末におえねえや
ネモくん、頭脳面でもバトル面でも頼れるし有能ではあるものの働きすぎである。それでも助けるために動いちゃうの、可愛くても漢だ
無惨様カッコイイヤッター!!自分の為にとはいえここまで頼れる危険対主催もそうはいまいて。デパートに着くなり転がり込む無惨様カワイイ
魔神王、強すぎる。無惨様とフランとネモの三人がかりでも倒せないとは。しかもフジキングを利用し尽くすなど頭も回るから油断も隙もありゃしねえ。彼を倒せる者は果たしているのだろうか
自己リレー含みますが、メリュジーヌ、シャルティア、キウル、ドロテア、モクバで予約します
感想ありがとうございます
勇者ニケ、エリス・ボレアス・グレイラット、うずまきナルト、ディオ・ブランドー
予約します。延長もしておきます
予約を延長します
投下します
「逃げなかったんだ」
「お主ら相手に逃げても無駄じゃろ」
中央司令部の建物を挟んだ向かい側で、ドロテアとモクバはメリュジーヌとシャルティアを待ち受けていた。
あれだけディオが大声で騒ぎ立てていたし、光の護符剣なんて目立つものが使われたのだから、こちらの襲来には気づかれているとは思っていた。しかしまさか建物内に息を潜めて隠れるどころか出口で堂々と待ち受けているとは思わなかった。さしたる驚きは無かったが。
「ギャオオオオオオ!!」
彼女たちを威圧するように、ドロテア達の背後に立つ青眼の白竜が咆哮をあげる。
「ブルーアイズホワイトドラゴン...俺の兄サマの魂のカードだ」
「ほぉ〜、これはまたご立派なドラゴンでありんすねぇ」
シャルティアはニタニタと笑みを浮かべる。嘲笑。言葉こそ誉めてはいるが、こんな程度の竜で自分に勝てると思っているモクバ達の愚かさを嘲笑っているのだ。
モクバからしてみれば、その煽りは腹に据えかねるものがある。ブルーアイズホワイトドラゴンは海馬瀬人の象徴そのもの。それを愚弄されれば当然怒りが沸いてくる。
今すぐにでも食ってかかりたいところだが、ここでそれをするのは死を意味するのは充分に理解しているため、どうにか堪えていた。
「そっちも準備ができているなら話が早いね」
「待て待て。少し話をさせてくれんか?」
剣を構え、一足飛びにブルーアイズを斬りつけようとしたメリュジーヌにドロテアは呼びかけ止める。
またそれか、とメリュジーヌとシャルティアは共にため息を吐く。
そのやり取りは既にディオで終えている。
戦闘力では自分達より遥かに劣り、首輪目的で仲間を謀殺し、情報もシャルティアの力があれば容易く引き出せるときた。
以上のことを踏まえれば、彼らを見逃す価値は微塵もないのは覆らない。
「君たちと僕らで交渉が成立すると思っているのか?」
「妾達は孫悟飯達のもとへ向かっておる。メリュジーヌ、お前が殺し合いに乗っておることを誤魔化してやってもいいが?」
「彼らが殺し合いに乗った僕らの仲間だとは思わないの?」
「それも考えたわ。が、こうしてお前たちの潔癖を証明しようとしておる妾達を排除するつもりということは、孫悟飯達は打倒主催派なんじゃろ?もしも罠なら放っておけば妾達は勝手に自滅するんじゃし」
「......」
「そして、妾達にあれほどの力を見せつけ、且つ妾達と別れてからは策を弄せず殺し合いに臨んだお前が戦闘を避けたのは、孫悟飯達が相応の力を持っているから...そんな奴らの橋渡しをしてやろうと言っておるんじゃ」
「いい提案だね。ここで君たちを斬ってしまった方が早いのを除けばだけど」
「どうしてもダメか?」
「しつこいでありんすねぇ。もう赤ん坊でもわかることだと思いんす」
「なら仕方ない...気は進まんがやるしかないの」
ドロテアが魂砕きに手を添えた瞬間だった。
ドロテアの視界からメリュジーヌの姿が消えた。ドロテアが大剣を構えたのとほぼ同時。メリュジーヌは既に手を伸ばせば届く距離にまで踏み込んでいた。
「ッ!?」
モクバがポケットに手を入れようとするのが視界に入るが、もう遅い。このままドロテアを突き刺し、そのままモクバも斬り捨てる。あとはどこぞに潜ませているだろう獣耳の少年、キウルを探し出してそれで終わり。なんともまあ呆気ない戦いだ。
否、これは戦いでは無くただの蹂躙だ。信念もなく、力にモノをいわせただけのただの空虚だ。そんながらんどうな心のまま、メリュジーヌはドロテアに背を向け突きは虚しく空を切った。
「...なにをやってるでありんすか、お前」
眼前の光景にパチクリと目を瞬かせるシャルティア。それはメリュジーヌも同じだ。確かに自分はいまドロテアを刺そうとした。しかしそれがどうだ。彼女に無防備な背中を晒し、あまつさえ誰もいない空間に剣を突いているではないか。
予想外の出来事に硬直する両者。その隙をドロテアとモクバは見逃さない。
「隙ありじゃあ!」
「ブルーアイズ、尻尾だ!」
口角を釣り上げ横薙ぎに振るわれた魂砕きとブルーアイズの尻尾が同時にメリュジーヌの身体に当てられ、その身体が遠くへと吹き飛ばされていく。
「飛べ、ブルーアイズ!」
モクバの指示により翼を広げ、ドロテアとモクバを背に乗せた白龍は空を舞う。
「空なら安全とでも思ったでありんすか?」
シャルティアはルビーを手にし、ステッキに光を溜める。本来使えるスキルではなく、こちらを使ったのは、MPの節約だけでなく、試運転を兼ねてのことだった。せっかく新しい力を手にしたのだ。あんな都合よくデカい的があるなら利用しない手はない。使い勝手は美遊やイリヤを見て理解している。
「そぅらおちなんし!」
狙いを定め、ステッキを振るうと、ブルーアイズとは逆の方角へと光弾は放たれた。
「は?」
思わず間の抜けた声が漏れる。いま、確かに自分は龍へと狙いを定めた。なのに、光弾を発射しようとした寸前、急に撃ち出す方向が変わったのだ。
「おやぁ?モクバや、奴らどうあってもこのドラゴンに攻撃したくないらしいの。殊勝な奴らじゃ」
「へっへーん!奴ら、今さらブルーアイズにビビりやがったんだ!悔しかったら俺たちに追いついてみやがれぃ腰抜けども!」
舌を出し、如何にも子供じみた挑発をしながら飛び去ろうとするモクバ達に、シャルティアのこめかみにビキリと青筋が走る。
あの挑発が如何にもな演技であるのは充分にわかっている。
しかし、もともと彼女はプライドが高く気が長い性格ではない。それも、メリュジーヌや悟飯のような自分すら認める強者相手、少なくともイリヤ程度に戦えるならまだしも、あんな触れれば折れるような雑魚共に虚仮にされれば、当然の如くその怒りは沸き立ってしまう。
「いい気になってんなよゴミども」
苛立ち隠さぬ語気のまま、シャルティアは《グレーター・テレポーテーション/上位転移》を行使。
瞬きする間にブルーアイズの前にテレポートする。
「このままそのウスノロトカゲと地面にキスしゃがれぇ!」
シャルティアは純粋に身体能力も高い。その力を持ってすれば、殴るだけでドラゴンごと地面に叩き落とすこともできる。
怒号と共に振り上げた腕は、しかしブルーアイズを掠めることもなく別の方角へと振り下ろされた。
「んなっ...!?」
まただ。また、明確に狙いを外された。驚愕に目を見開いたその隙にドロテアの魂砕きとブルーアイズの頭突きが放たれ、シャルティアを地面へと叩き落とす。
その際に、モクバは中指を立てたファックサインを忘れずに。
「〜〜〜〜ッッッ!!!」
声にならない怒りを胸にシャルティアは立ち上がる。
先の迎撃には大したダメージを受けていない。だからこそか。この程度のことしかできない奴らに攻撃できないという不快感と憤怒が勝った。
この屈辱は悟飯に一方的に殴られた時にも匹敵する。
「ざけんな、ざけんな、ざけんなあああぁぁ!!」
「待ってシャルティア」
激しく形相を歪め、怒りのままに飛び立とうとするシャルティアをメリュジーヌが呼び止める。
「いま追いかけたところでさっきと同じ轍を踏むだけだ。ひとまず落ち着こう」
「あ゛ぁ゛!?」
八つ当たりの如く檄を飛ばしながら振り返るシャルティアだったが、メリュジーヌの顔を見てそれも止まる。
無表情。
今しがた自分も同じ失敗をしたというのに、微塵も感情を揺らがせない彼女を見ていればいやでも思考は冷えていくというものだ。
「情報を整理するよ。僕たちは確かに彼らを攻撃するつもりだった。しかし、いざ攻撃をしようとしたら明後日の方角へと向けさせられていた」
「これもさっきの金髪が使ってたカードでありんすか?」
「もしくは別の支給品か...なんにせよ、僕らが彼らを攻撃できないのは、恐らく彼らの仕業じゃない。あの少年も少女も反応すらできていなかったからね」
「ーーーあぁ、そういやいやんしたねぇ。コソコソコソコソ隠れ回ってるのがもう一匹」
二人は己の攻撃が向けられた方角へとジロリと視線をやる。
ドロテア達と対面した時から、誰かに見られているのは察していた。そしてその『誰か』の正体をメリュジーヌは既に看破している。
その答え合わせをするかのように、中央司令部の屋上から二人めがけて弓矢が飛来する。
メリュジーヌもシャルティアも微動だにせず、己の得物で迫り来るそれを軽々と弾き飛ばし、矢の来た方向に視線をやる。
獣耳の少年・キウル。ただ一人残った彼が、ヒトを超えた麗しき二槍の怪物を見下ろしていた。
☆
「ふーっ」
キウルは嵌めていた指輪を外し、深く深呼吸をしながらメリュジーヌとシャルティアを見据える。今はまだそこそこの距離があるが、それでもなお二人の放つ強者の威圧感は肌に伝わってくる。
彼女たち以上の『神格』と対面したことはあるが、あの時は頼れる仲間たちがおり、なによりハクという漢がいてくれた。今は違う。
正真正銘、単身で、歴戦の仮面の者(アクルトゥルカ)達にも劣らぬ猛者二人を相手取らなければならない。
勝機はゼロ。動けば死。動かずとも死。相手の気まぐれでもなければ、確実に自分は数分以内に死ぬ。
それでも。やらなければならない。成さねばならない。
(私がやらなければ。私がやらなければ、モクバさん達だけじゃない。みんな、みんな...!)
第二射を構えようとする指が震えている。情けない。これがあの戦場を駆けてきた者の姿か。偉大なる義兄達に後を託された者の姿か。
(とまれ、とまれ、とまれ...!!)
ーーーやるだけやって、ダメだったらそんときゃ笑って誤魔化せばいいさ
脳裏に声が過った。かつて、姫殿下・アンジュに投げかけたハクの言葉が。
それは自分に向けられたものではない。けれど、あの時の、オシュトルであろうとする演技さら忘れていたかのような彼の言葉が、なんだか肩の荷を下ろしてくれたような感覚を抱いた。
(本当に緩いんですから、あの方は)
きっとこれは妄想だろう。ここは幼子だけが集められた蠱毒の流壺。罷り間違っても彼が呼ばれているはずもなし。けれど、キウルにはなんだか彼が見守ってくれているかのように思えて仕方がなくて。
眼前に現れた二人の怪物を前にしても、もう震えはしなかった。
だが現実は残酷だ。少年がいくら恐怖を乗り越えようとも、実力差が覆ることはない。
最強の名を欲しいままにする妖精王と始祖に次ぐ最高位たる真祖の吸血姫を前に、少年が一矢報いることなど奇跡が起こってもあり得ない。
いま、こうして向かい合っている時点で、勝敗は既に決していた。
ディオ・キウル・モクバ・ドロテアの四人が別行動を取る、そのほんのわずか前の出来事。
「いやはや、戦力的に微妙だとは思っておったがまさかここまでとは」
情報整理のため机に並べられた支給品を見ながらドロテアはひとりごちる。
光の護符剣。三分間、光の剣の牢に敵を閉じ込め攻撃を防ぐ。
チーターローション1人分。僅かな時間、足を速くする。
磁力の指輪。攻撃と防御を下げる代わりに相手は装備者以外に攻撃できなくなる。この効果は相手が装備者の存在を認識してから発揮される。
防御や時間稼ぎ目的ならそれなりに粒揃いではあるが、問題は迎撃用の手段だ。
キウルとディオ、そして永沢の支給品にはロクな攻撃手段が無かった。
現状、全員含めて攻撃に使えそうなのが魂砕きとブルーアイズホワイトドラゴンのみなのは流石に不安を覚えずにはいられない。
「どのみち魂砕きは妾しか使えんし、このドラゴンのカードはモクバがよく使い道を知っておるからモクバ。となれば、お前たち二人、特にディオ。お前はここで武器の調達をした方が良さそうじゃの」
ドロテアのその進言に反論を挟む者はいなかった。メリュジーヌやブラック、中島の姿を模した怪物達のような猛者相手に銃火器が通用するとは思えなかったが、それでも無いよりはマシだ。
「とりあえずこのチーターローションは妾が貰うぞ。この速さで剣を叩きつけられれば大抵の者は沈められるじゃろ」
「まっ...いや、いい。それは君が使ってくれドロテア」
もう少し話し合ってから、と思ったディオだが、リスクを鑑みて敢えて譲った。
僅かな時間とはいえ、身体能力が上がるのは確かに魅力的だ。使うだけ損のない当たり寄りの支給品だろう。相手がメリュジーヌのような化け物でなければだが。
ハッキリ言って、チータークラスの足の速さを手に入れたところでメリュジーヌから逃げ切れるとは思えない。最初は良くても効果が切れた直後に捕まって終わりだ。ならば、相手の行動を妨害できる光の護符剣とバシルーラの杖を組み合わせた方が効果的だろう。
磁力の指輪は絶対にイヤだ。1番なハズレアイテムだ。ただの路上のケンカならいざ知らず、あの化け物どものような連中相手に使えば即座に殺されるだけだ。
「私がこっちを貰いますね」
キウルを丸め込んで磁力の指輪を渡そうと口を開く前に、彼は率先して指輪を手にする。
「キウル...」
「私だって武士の端くれです。危険を引き受けるのは当然ですよ」
「すまない...僕の無力さのせいできみにまで負担を強いてしまって...」
わざとらしく涙声になってキウルの同情を引くディオとそれを宥めるキウル。
そんな視界の片隅で行われる茶番劇を横目に、ドロテアはさっさと施設内の探索の役割分担を振り分けると、モクバを連れて首輪の解析に使えそうな道具を探しに向かう。
それが、彼ら四人が揃っていた最後の時間だった。
モクバと幾分か話し合った後、ドロテアとモクバもまた別行動に。
首輪の分析に使えそうな道具が無いことにやきもきしていたまさにその時だった。
ーーーWRYYYYYYYYYY!!!!!!
突如、響いた叫び声にドロテアは咄嗟に窓辺に身を寄せ、外を確認する。
そこには、杖の光を己に当てて叫ぶディオと光の剣の障壁に阻まれたメリュジーヌともう1人の姿があった。
ーーーもう来たのか!
ドロテアの背筋からドッと冷や汗が吹き出す。危惧していたことが起きた。こちらの札が揃い切っていない時の強者による襲撃。口のまわるディオがあのザマな以上、交渉が失敗したのは目に見えてわかることだ。
ディオが光の護符剣で残した僅かな時間を、逃げ出した彼への糾弾ではなく己が生き延びる策を練るのに費やす。
チーターローションを使って1人さっさと逃げ出す。これが1番手っ取り早い。ただこの場を生き延びるだけならばだが。問題はその先だ。
マーダー側にとっても、キウルはともかくモクバは有用な人材である。彼だけは知識や技術を提供する代わりに生き残る芽は残っている。ここでモクバを切り捨てて逃亡すれば、敵の手に落ちたモクバにこちらが切り捨てられる可能性がある。そもそも、マーダー側からしても対主催側からしても速攻で使える味方を切り離す者を信頼できるはずもなく。そのまま孤立してしまえばもうどうしようもなくなる。無策の逃亡は、結局、ほんの僅かな時間稼ぎにしかならないだろう。
(奴らをここで仕留められるのが1番じゃが...!)
先も懸念した通り、こちらには攻撃力があまりにも足りない。決定打が無ければ敵を殺すことなどできず、残って戦うなど論外である。
(キウルを囮に妾とモクバで逃げる!これしかあるまい!)
結局、消去法でその手段を選ぶしかなかった。それで何秒稼げるかはわからなかったが、ダメ元でやるしかなかった。
ドロテアはキウルのもとへ向かい、メリュジーヌが現れたことを告げると、キウルは汗を滲ませつつ即座に磁力の指輪を嵌めるとメリュジーヌ達のもとへと向かおうとする。
(曲がりなりにも戦場育ちなだけあって手間が省けるわ)
キウルがこれまで無力感に苛まれていたのは側から見ているだけでもわかった。だから、こういう場面では積極的に前線に出ようとするのも織り込み済みだ。
ドロテアはキウルに上っ面の感謝を述べると、そのまま部屋を出てモクバのもとへーーー向かう前に、その足がピタリと止まる。
(いや、待て...この施設、支給品、条件が揃えば...)
ドロテアの目に留まったソレは、キウルが集めていたこの施設ならではのモノ。
その数を、現状を顧みて、彼女の脳内でパズルのようにピースが重なっていく。光の護符剣の解除時間まで余裕はない。
その最中、ドロテアの悪魔の頭脳が新たな解を導き出す。
「キウルや」
覚悟を決め出て行こうとするキウルを呼び止め、ドロテアは己の虎の子であるチーターローションを手に笑いかける。
「どうせ死ぬつもりならーーーひとつ、賭けてみんか」
☆
空を翔るブルーアイズを追う者はいない。キウルがあの二人を引きつけてくれているお陰だ。
「奴ら釣れんかったか。煽りが足りなかったかの」
「...ほんとにこうするしかないのかよ」
あくまでも冷静に現状を分析するドロテアとは異なり、モクバの面持ちは暗い。これからの己の行動はキウルを見捨てるのと同義であるからだ。
モクバはキウルとここまで長く同行したわけではないが、それでもドロテアやディオのような悪人ではない優しい少年であることだけはよく理解していた。戦場経験者とはいえ、グレーテルのようなイカれてしまった子供でもなく、もう少し関わる機会があれば普通に友達になれるようなそんな少年だった。それを自分はこれから見捨てるのだ。誰のせいでもなく、自分の意思でだ。
「ブルーアイズなら勝てるなどと思い上がるなよ。奴らとまともにやりあえばこんなもの紙切れ同然じゃ。もしもあそこに向かえばそれこそ奴は無駄死に。お前も、そして妾達と同盟を組んだ者たちも皆死ぬことになる」
「わかってる...わかってるんだよ、ちくしょお...!」
モクバはドロテアのことを信頼などしていない。しかし、だからといって彼女の言葉を頭ごなしに否定するほど愚かではない。
モクバ達の現状の最大戦力はこのブルーアイズホワイトドラゴンだ。
攻撃力3000。確かに、パワーだけならデュエルモンスターズ内でも上位のカードである。しかしこの殺し合いにおいてはそうではない。
先のクロエとグレーテルとの戦いにおいて繰り出した翻弄するエルフの剣士から測った数値として、彼女達の攻撃力が、エルフの剣士の効果対象である1900だったとする。どういう基準で実在の人物の数値化をしているかはわからないが、クロエとブルーアイズの攻撃力は1100の差しかない。果たして、この数値の間にメリュジーヌは収まっているのだろうか?希望はかなり薄いと見ていいだろう。
モクバとドロテアは実際にメリュジーヌの戦いを僅かだが見ている。あれほど厄介だった悟空を軽く吹き飛ばしたメリュジーヌと少し工夫を凝らしただけでかなり追い詰めることができたクロエとグレーテル、彼女達の差が1100しかないとは到底思えなかった。
しかもこれはあくまでも最低値。クロエ達の攻撃力がそれより上だとしたら、ますますブルーアイズの攻撃力3000などたいしたアテにならない。
モクバがキウルの覚悟に報いるには、ここで加勢に向かうことは許されないのだ。
「腹を括れモクバ。これは奴も承知の上じゃ。もう二度と同じ間違いを犯してはならん」
ドロテアの言葉で脳裏をよぎるのは、カツオと永沢、二人の少年の顔。
彼らは自分の選択ミスにより命を落としたーーー少なくとも、カツオに関しては間違いなく自分の失態だ。もう間違えてはいけない。感情に流されてはいけない。
「ごめん...キウル。本当に、ごめん...!」
断腸の思いで。涙すら滲ませながら、モクバはブルーアイズに指示を出した。
☆
先手必勝。
屋上にまで降り立ったメリュジーヌは、言葉を交わすまでもなくキウルに突貫。そんな彼女にも、キウルは冷静に矢を射る。高速で迫る相手にも構わず、その狙いは正確無比に眉間へと向かう。メリュジーヌは減速すらせずに、剣の腹で矢を受ける。振りかぶりもせず、ただ傾けただけで矢は彼方へと飛んでいき、瞬く間にキウルへと距離を詰める。
そのまま最小限の動きで横薙ぎにスッと振る。まるでそよ風のように、しかしその殺傷力だけはそのままに。彼女が知るキウルであれば、この時点で弓を斬られ、その奥の胸板も斬られていただろう。しかし、キウルは彼女の想定よりも速かった。メリュジーヌが距離を詰め切るのとほぼ同時、彼が後方に駆け出せば詰めた距離が再び空けられる。
(いまは攻撃が出来た...やはり彼の仕業だったか)
ドロテア達の時とは違い、キウルに攻撃するときはなんら違和感なく剣を触れた。このことから、メリュジーヌはキウルの使っている支給品の正体を大まかに察する。相手の攻撃を一手に引き受けるものだと。
(それに港で会った時よりも速くなっているようだけれど...問題ない)
確かにキウルの速度は想定外だったものの、手に負えない速さではない。1人で戦っても、すぐに捉えられる範疇だ。彼を始末してからモクバ達を追いかければ充分に間に合う。
その傍で、シャルティアはキウルをじっと見つめ魅了の魔眼を行使する。
別に2人がかりでなくても負けはあり得ないし、彼を殺すだけなら容易いのだが、せっかくならあの攻撃を止めさせられる不快な能力の正体を知っておきたいと思ったのだ。
(む...魅了はあいつには効かないでありんすか)
しかし、キウルの動きは全く鈍らず。
シャルティアは知らないことだが、キウルの身には生まれつき「土神」の加護が宿っている。その力により、シャルティアの制限された程度の魔眼には抵抗できる耐性が備わっていた。
(まあいいでありんしょ。まずは血を吸って、眷族にして聞き出せばいい。知りたいのはメリュジーヌも一緒でしょうし)
シャルティアは上位転移の魔法でキウルの背後にまわり、その首筋に噛みつこうとする。牙が触れる刹那、キウルの足が地を蹴り、シャルティアの牙が空を切る。
戦場で培ってきた直感が、シャルティアの悪意を感じ取ったのだ。
シャルティアから離れた直後、キウルは上空へ向かって何度も矢を発射。最高到達点に達した矢は軌道を変え地に向けて降り注ぐ。着地点は、メリュジーヌとシャルティア。
「器用なことをするね」
変則的にも関わらず、正確にこちらへ降り注ぐ矢を見ながらひとりごちる。
2人が上空からの矢を各々の得物で弾いていると、その隙をつきキウルは直線に矢を放つ。常人ならば逃げられない連撃だが、しかしこの二人の前では無力同然。
二人は各々の武器を手に頭上の矢に対処しつつ、迫り来る矢を軽々と弾き落とす。
無論、キウルとてその程度は予測済み。彼の狙いは二人の打倒ではなく時間稼ぎだ。二人が矢に対処している間にチーターローションの脚力を以って階段へと向かい建物内へと高速で駆け込む。
「えっちらおっちら必死になってかわいいでありんすねえ。果てさて何秒待つことやら」
シャルティアとメリュジーヌは共にキウルの後を追って階段を降りていく。
二人が階下へ降りた途端、弓矢が飛来してくる。
「えーっと、確か基本は...このヤロー☆って思って振ればいいんでありんすね」
シャルティアがステッキを軽く一振りすると、光線が発射され矢は軽々と弾き落とされる。
キウルはその結果を見ることもなく奥へと駆けて行く。
「君の狙いはわかっている。彼らが逃げる時間を少しでも稼ぎたいんだろう?悪いが付き合うつもりはない」
メリュジーヌの足が地から離れた瞬間、その身体が高速でキウルへと迫る。なんの仕掛けもない純粋な速さ。ただそれだけで射程距離にまで侵入する。
再び高速で走るキウルだが、しかし距離が開くことはない。どころか、徐々に縮まって行く始末だ。
「そおれもう一丁このヤロー☆」
接近するメリュジーヌの刺突とその背後より迫る光弾に、身を捩り紙一重で掠るだけに留める。だが、体勢が不安定になれば躱せる攻撃も躱せなくなるのは道理で。メリュジーヌの左の拳がキウルの腹を打てば、凄まじい痛みと圧迫感が襲いかかり、その勢いのまま吹き飛ばされる。
「がっ...!」
吹き飛ばされる中でもキウルは歯を食いしばり弓矢を放つ。完全に体勢が崩れた状態から正確に狙いを定められるのはさすがに長年の経験の賜物と言えよう。だが、妖精騎士はそれだけで一矢報いれるほど甘くない。
メリュジーヌは眼前にまで迫る矢を紙一重で掴み放り捨てる。
「くっ」
痛みに耐えつつも起き上がり、再び距離を取ろうとするキウル。
「ッ!」
だがその足はすぐに止まる。その視線の先にはニコリと微笑むシャルティア。彼女は既に上位転移の魔法で逃亡ルートに先回りしていたのだ。
キウルの身体が硬直したその瞬間、シャルティアの蹴りがキウルの腹部に突き刺さる。
メキメキと音を立てて骨が軋み、内臓が悲鳴をあげ、再びキウルの身体が宙を舞う。
壁に激突し、倒れるキウルの顔を踏みつけシャルティアは嗜虐的に笑う。
「ひーふーみーの...かかった時間は二十秒くらいでありんすかねえ」
ゆっくり頭から足を離したかと思えば、すぐさま手の甲を踏みつけ、わざとらしくグリグリと動かす。
「ぐあっ...!」
「ん〜?もっと泣いてくれてもいいんでありんすよ?こんなふう、にっ!」
シャルティアが踵で右小指を強く踏みつけると、ベキリという音と共に小枝のように折れる。
「ッーーーー!!」
声にならない悲鳴がキウルの口から漏れる。
更に加えて、ステッキからの光弾で両脚の腱を焼き切り、身動きすら取れなくする。
「ぐっ、あああああぁぁぁぁぁ!!」
堪らず涙目になり悲鳴を上げるキウル。
そんな彼を、シャルティアは嗤いながら見下ろす。
「あっはぁ!脆い脆い!獣耳が生えてようが所詮は下等種族でありんすねえ」
「...やりすぎだよシャルティア」
あまりにも凄惨な光景にさしものメリュジーヌも苦言を呈さずにはいられない。メリュジーヌは殺し合いに乗っているとはいえ、決して敵を苦しませたい訳ではない。このような拷問に時間を割く趣味はないのだ。
「お〜怖い怖い。よかったでありんすねえ、坊や。あの子のおかげで苦しまなくてすみそうで」
シャルティアとしてもこんなことでメリュジーヌから不況を買いやり合うような真似はしたくない。ドロテア達から受けた屈辱も多少は晴れたのだ。ここはさっさと目的の血を摂取するべきだ。
消沈するキウルの上体を起こし、シャルティアの牙がその首筋へと近づいていく。
ーーーこの瞬間、冷静に場を見ていたメリュジーヌだけが気づいていた。指を折られ、足を動けなくされ、激痛に苛まれいままさに死が迫ろうとしている最中。彼の目には未だに光が宿っていたことに。
(なんだ...何を見ている...?)
メリュジーヌはそんなキウルに違和感を抱く。いま、この状況において彼は自分たちを見ていない。見ているのは、そのもっと奥。
☆
中央司令部から遠く離れた上空で。
モクバが涙と共に叫ぶ。ドロテアが邪悪に口角を釣り上げる。
「やれブルーアイズ!滅びのバーストストリーム!!!」
モクバの号令と共に、青眼の白竜はその口から超高密度の熱線、滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)を中央司令部目掛けて吐き出した。
☆
メリュジーヌが気づいた時には既に遅かった。
光と共に中央司令部に巨大な熱線が着弾し、爆発。
壁が破壊され、全体が揺らぎ、熱風が遅い来る。
直撃を外したか、千載一遇のチャンスを逃す間抜けどもが。そうシャルティアが思った瞬間だった。
キウルは全てを受け入れたかのように穏やかに笑みを浮かべ。
更なる爆発が、司令部全体に襲いかかった。
☆
土壇場で思いついたドロテアの策はこうだ。まずはキウルの磁力の指輪で敵の注目を集める。二人を引きつけられた段階で指輪を外させ、チーターローションで逃げに徹して時間を稼ぐ。
そして三人の視界外からブルーアイズの滅びのバーストストリームで中央司令部を狙い撃つ。無論、それで倒せるとは思っていない。所詮は攻撃力3000のモンスターの技だ。大した戦果は望めないだろう。だからここで第二の矢を使う。
中央司令部に備え付けられていた大量の爆弾や火薬を。
そう、ドロテアは滅びのバーストストリームを着火剤として、爆弾を起爆させたのだ。
爆弾を集めていたのは一階の出口付近。モクバが撃ち込んだのはその位置だ。
施設内を探索されればその不自然さはすぐに割れたはずだ。だからこそ、二人は最初、敢えて姿を晒し自分たちに注目を集めていたのだ。
ちなみに、キウルに指輪を外させたのは、着けたままではドロテア達の攻撃もキウルに集約されてしまうからだ。メリュジーヌ達に攻撃を当てた時は『キウルに攻撃をしている』という程で剣や尻尾を振りまわし当てていたが、今回は正確に当てるために磁力の指輪は邪魔だったのだ。
この作戦の最大の難関は爆発の威力だ。いくら爆薬が纏められているとはいえ、どの程度の爆発が起きるかは実際に試してみないとわからない。そもそも、乃亜が爆薬を武器ではなくただのインテリアとして設置していれば爆発すら起きなくてもおかしくはなかった。
本来なら試す必要があったのだが、生憎とそこまでの時間は到底なく。
なにもかもがぶっつけ本番の賭けだった。
結果、無事に爆発を起こせた彼らはいま。
「あああああ!!あああああああ!!!」
爆風に巻かれて空を横断していた。
爆発は想定外の強さだった。
ブルーアイズが咄嗟に爆風の直撃から庇ったものの、その威力までは殺しきれず。結果、ブルーアイズに包まれる形でモクバとドロテアは彼方へと吹き飛ばされていた。
(こっ、これだからやりたくなかったんじゃあ!!)
もともと、メインプランとしてはキウルに1人、こちらで東側に向かいつつ一人を引き付ける予定だった。そして時間と距離を稼いだ上での爆撃をかますつもりだった。
ところが、敵は最初からキウルを集中的に狙ったため、予定を前倒しせざるを得なかった。結果、自分たちも爆風の煽りを喰らうハメになったのだ。
「ブルーアイズ、体勢を立て直せ!」
モクバの指示に従い必死にバサバサと翼をはためかせ、体勢を立て直そうとするブルーアイズ。しかし、吹き飛ばされた勢いは完全には止まらず。
そして遂に地上への墜落のカウントダウンが始まる。
「ええい、一か八か、錬金術師の力見せてくれるわ!」
ドロテアは己の指を噛み、微かに流れた血でブルーアイズの身体に簡易的な陣を描く。本来の世界線ならば、レオーネ相手に使用した陣だ。
「ブルーアイズの一部と引き換えに、来い!」
ドロテアの錬金術は特定の物質を媒介に異界より異形を召喚できる。本来の世界線では、危険種の一部を媒介に闇の中から怪物を引き出していたが、当然、強大すぎるものを出すのは乃亜による制限を受けているため、この土壇場においても出せるものはたかが知れている。
ブルーアイズホワイトドラゴン。光属性の攻撃力3000のモンスターの一部を媒介に産み出されるものは、ドロテア自身にもわからない光のガチャ。
陣から生み出されたのは、怪物ではなく一枚のカード。それを認めた瞬間、モクバの目が見張られ、咄嗟に手を伸ばし叫ぶ。
「来い!ホーリー・エルフ!!」
召喚されたのは、誰かに祈りを捧げる青色のエルフ。彼女はモクバ達が地面に激突する瞬間、モクバとドロテアの間に挟まり僅かながらのクッションとなる。
ドン、と地響きのような衝撃がモクバとドロテアに走る。全身に広がる激痛。揺れまわる視界と脳髄。
ただの肉一枚ならばそのまま押し潰されて終わりだったろう。だが、ホーリー・エルフの守備力は2000とブルーアイズに次げるほどに高い。
彼女とブルーアイズの守備力も合わさって、即死は免れた。
「う……」
ドロテアは薄れそうになる意識を振り絞り、もぞもぞとブルーアイズとホーリー・エルフの中から這い出る。
左腕が酷く痛むだけでなく動かない。どうやら打ちどころが悪く、いまの衝撃で折れたようだ。
「つぅ...連中に絡まれて生きておるだけ儲けものかの...生きとるか、モクバ」
ドロテアの呼びかけに、モクバもまたモゾモゾと倒れ伏すホーリー・エルフとブルーアイズの中から這い出てくる。
「な、なんとかな...助けてくれてありがとう、ホーリー・エルフ、ブルーアイズ」
流血しながらも、ホーリー・エルフは慈愛の微笑みを浮かべており、程なくしてブルーアイズと共にその姿を消した。
「死んだのか?」
「いや、エルフの剣士みたいに破壊される前にカードに戻した。しばらく使えなくなるけど破壊されるよりは...あっ」
ブルーアイズとホーリーエルフのカードを手に取ったモクバは気がつく。
ブルーアイズホワイトドラゴンの攻撃力3000守備力2500の表記が、攻撃力2200守備力500に変わっていたのが。
(なるほど、錬金術と組み合わせればモンスターカードの攻撃力と守備力と引き換えに新たなカードを生み出せるのか。これならブルーアイズを切り崩していけばどんどん新しいカードが...ッ!)
その考えに至った途端、己の背筋に怖気が走る。いま、自分は平然とブルーアイズを贄とすることを考えつつあった。
カツオ。永沢。そしてキウル。次々と仲間を喪っていくことで、勝つために手段を選ばないのに慣れつつあるのを実感する。
(兄サマ...俺...おれ...)
完璧超人と思える海馬瀬人も、一時期はそう言う時もあったし、今でもその片鱗は残しているように思える。けれど、いまの自分は、兄とも、遊戯達とも違い、保身のために他者の犠牲を良しとするドロテアとさしたる違いはないのではないかと思えて仕方ない。
「...生き残らなくちゃ」
己に言い聞かせるように呟く。
例え、他のみんなならもっと上手くやれたと己の選択肢を嫌悪しようとも。それでもモクバは生きることを選んでしまった。仲間を切り捨て先に進む選択肢を選んでしまった。
傷だらけの心を引きずりながら、ドロテアに連れられるまま、モクバはその足を進める他なかった。
☆
「ぅ...」
瓦礫に囲まれ、炎が揺らめき、むせかえるような灼熱の中、キウルは目を覚ました。
作戦は成功した。キウルの生死に関わらず、三十秒後に滅びのバーストストリームで爆弾を誘爆させ、施設ごと爆発させる。
当然、その爆撃に巻き込まれていれば無事でいられるはずもない。
ならばなぜ、自分はさしたる怪我もなくこうして生きている?
ーーーその答えを示すように、眼前から一陣の風が吹く。
「ぁ...」
突風と共に砂塵と焔を吹き飛ばし、姿を現したのは、穢れ一つなき鎧騎士の背中。
威風堂々としたその背中は、本来の背丈よりもただ大きく見えた。
そんな背中を見て、キウルは敗北の悲観よりも、ただただ『美しい』と思わずにはいられなかった。
「きみはこうなることを知っていたんだね」
振り返り、問いかけられる。
そんな彼女にキウルは嘘偽りなく答えることにした。武士としてその強さに敬意を払いたくなったのだ。
「...ええ。私では貴女たちに敵わないのはわかりきっていました。だから、こんな小賢しい手を使うしかありませんでした」
「小賢しい、か。自らの命を賭けて立ち回った者を指す言葉じゃないね」
「...でも、貴女には何一つ敵わなかった。ここまでくると清々しいくらいですよ」
キウルは瓦礫に背を投げると、そのまま脱力しもたれかかる。もう何の抵抗をする気力もなかった。これほどの戦士と戦えたのだから、悔いは無いと。
「どうして、そんな晴れた顔ができるんだい?」
そんなキウルを見て、メリュジーヌは疑問が口をついた。
「君たちの前にも参加者を殺した。彼らもずっと真っ直ぐだった。理由はわからないけど、彼らからは短い時間ながらも深い信頼が見て取れた。...失礼かもしれないが、君たちはどうにもそう見えなかった」
もしもサトシと梨花がこの状況に陥っていたら、囮に使った者ごと爆殺を狙うような真似はしないだろう。
生き残るためなら相手を切り捨てられる程度の関係だ。
「なのに、どうしてきみは彼女たちの為に命を捨てた?なぜ、僕たちに殺されると判っていても穏やかでいられる?」
だからこそメリュジーヌに取ってキウルの行動には疑問しかない。
彼とて、会ったばかりの人間に死ねと言われて死ぬほど愚かではないはずだ。
それに、サトシも真っ直ぐではあったけれど、自分を救えなかったことに対しては悔いているように見えた。
キウルは違う。
信頼を置けない者の為に命を賭け、これから先も殺戮を繰り返すであろう自分を止めようと訴えかけもしない。
それがメリュジーヌには不思議でならなかった。
「...そうですね。確かに私たちの間に信頼とかは無かったかもしれません。ディオさんは先に離脱してしまいましたし、ドロテアさんとモクバさんとは関わった時間も少ないですから。でも、三人で死ぬよりは一人が犠牲になって済むならそれでいいでしょう?」
「遺した後に不安はないのかい」
「ありますよ。けど、『やるだけやってダメだったら笑って誤魔化せばいい』...私の尊敬する人ならそうすると思ったので」
キウルとでなんでもかんでと信じるほど純粋なだけではない。綺麗なだけの人間なんていないのは、多くのヒトを見てきて学んでいる。
しかし、曲がりなりにも一国を背負う者ならば、それを見捨てて終わらせる訳にはいかない。遺した結果、どうなるかを頭ごなしに決めつけてはいけない。故に、彼は犠牲を最小限に済ませる方法を取っただけだ。
そして、メリュジーヌを言葉で止めようとはそもそも考えつかなかった。
既に一度説得しようとしてダメだったのだ。ならば、今さら心変わりができる類のものではないのだろう。
國への忠義と未来を重んじた結果、生き残る道も汚名を被らずに済んだ道もありながらも、最後まで自分たちと対立し続けたライコウのように。
ただ自分と彼女の道は交わることは無いのだと、キウルは骨の髄まで理解していた。
「...僕はこれから君を殺す」
メリュジーヌは剣の鋒をキウルに向け、ひとりごちる。
「紙一重だった。もしも爆発が時間差の無差別ではなく、一点集中型であれば。魔力で身体を防御するのが遅れていたら、無事では済まなかっただろう」
先の展開の確認をただ口に出しているだけだ。
「この会場でここまで肝を冷やしたのはこれが初めてだ」
だから、これはひとりごと。
サトシ達のように救おうと手を伸ばしてくるのではなく。例え守るモノを間違えていた道化だったとしても、ただ純粋に自分の強さと向き合ってくれた戦士へ。そして、たった一人しか愛せなかった自分とは違い、会って間もない人間にまで命を賭けられた幼き武士への敬意を言葉にしているだけだ。
「強かったよ、きみ」
その言葉に、キウルの頬から温かいものが零れ落ちる。
死への恐怖ではない。
誉高かった。これほどまでの戦士に認められたことが。これほどまでの強者に、対等な戦士として扱ってもらえたことが。
自分は間も無くこの剣に斬られて死ぬ。
「...ありがとうございます」
なのに、その心境はこれ以上なく穏やかなものだった。
「なに勝手に爽やかに終わらせようとしてんだクソ共」
メリュジーヌの剣に割って入るように、槍が投擲されキウルの胸を貫く。
「がっ...!」
苦悶の表情を浮かべるキウルのもとに、これみよがしにカツカツと地を鳴らす靴の音が近づく。
「...生きてたんだ」
「ええまあ。ご覧の有様でありんすがねえ」
シャルティア・ブラッドフォールン。その半身は焼けつき、魔法少女としての衣装もボロボロとなった彼女もまた、健在だった。
大爆発が起きる寸前、彼女は上位転移の魔法で建物の外へと退避。しかし、直撃こそはかわしたものの、その爆風まではかわしきれず。結果、その美しい顔の半分は火傷で爛れ、見る影もないほど醜く焼けていた。
「あぁお許しくださいペペロンチーノ様...あなた様から賜ったこの身体をこのような目に...それもこれもテメェがなぁ!!」
ただでさえ虫の息だったキウルの首元にシャルティアはその鋭利な牙を突き立て凄まじい勢いで吸血する。すると、苦悶に表情を歪めるキウルとは対照的に、シャルティアに刻まれた火傷がみるみるうちに治っていく。
「っ、ああああぁぁぁっ!!」
「...ふん、まあ、怪我もMPも回復したし、血の美味さに免じて、死体を魚の餌にするのだけは勘弁してやらぁ」
「ぁ...ぅ...」
ガクリと首を垂れ、力尽きるキウル。武士として満たされた最期になるはずだった少年の顔は、苦悶の形に歪められたまま、あえなくその生を終えた。
「さて、ついでにこいつも試させてもらいましょう」
シャルティアはランドセルから取り出した数珠をキウルの死体に向ける。すると、その珠の一つがぱかりと開き、キウルの死体を収納した。
「おー、ちゃんと入った」
「なんだい、それは」
「古代遺物、死亡遊戯。所有者が殺した者を珠に封じ込め、キョンシーとして使役することができる...らしいでありんすよ。こんなふうに」
シャルティアが数珠を振ると、再びキウルの身体が現れる。ただし、頭には『死壱』と札の貼られた中華帽が被せられ、その肌は死人同然に青色に変色していたが。
「なるほどこんな感じかーーーうん、悪くないでありんす」
動く屍と化したキウルに対してもシャルティアは物怖じしない。もとより彼女は死体愛好癖(ネクロフィリア)かつ、両刀(バイセクシャル)。メリュジーヌほどではないにせよ、キウルもまた美少年であった為、シャルティアのお眼鏡に叶ったのだった。
(これでゆくゆくはメリュジーヌを殺せば...ふふっ)
MPも必要とせず死体を保管できるこれは自分にとってかなりの優良品だ。乃亜もたまにはいいことをする、とほくそ笑む。
「さてと。とにもかくにも、これでお互いのテストは合格ってこといいでありんすか?」
「...そうだね」
本当のことを言うと、お互いにまだ実力は見せきっていない。しかし、あのテストにおいて重要なのは組むに値する実力を有しているかどうかだ。あの爆発を互いにフォロー無しに乗り切ったーーーそれがお互いに落とし所としてちょうどよかった。
「これからどうするでありんすか?さっきの金髪を追うか、それともガキ二人を追うか」
シャルティアはキウルの死体を再び珠に収納しながら問いかける。
「いつまでも二人で行動する必要もないだろう。好きな方に行くといい」
「そっ。なら私は先に飛んでった金髪の方へ向かわせてもらうでありんす」
「わかった」
背を向け去っていくシャルティアを見つめながら、メリュジーヌが思うは、キウルのこと。
彼は自身の選択を小賢しい真似と忌避していた。
しかし、手段を選ばなかったことで本来は成し得ないはずの成果を残してみせた。
それは沙都子と同じことで。本来ならば開始数分で命を散らしていた彼女は、今もこうして暗躍し続けている。
手段を選ばなければ。非情になってしまえば。力のある者ならば尚更成せることは増えるだろう。
殺し合いに乗ったのだ。既に外道の道に進んでいる身だ。
ーーー本当は、分かってるんじゃないのか?こんな事をしても…誰も救われないって
君の大切な人も、メリュジーヌ、君自身も
ーーー希望や……奇跡って言うのは、意外としぶといものなのですよ。
ーーー『やるだけやってダメだったら笑って誤魔化せばいい』...私の尊敬する人ならそうすると思ったので
なのに、サトシ達やキウル達の言葉がこびりついて離れない。まるで自分にはない輝きに縋るように。彼らのような、後に遺せる者達を羨むように。
「...お笑い種だな。これじゃあどっちが強いかわかったものじゃない」
キウルは自分を強い人だと敬意を評してくれたが、他者に、一つの愛に依存することしかできない自分のどこが強いというのか。
「さて...」
気を取り直し、これからの方針を考える。もしも、ドロテア達が向かった先に本当に孫悟飯がいれば、もはや彼との激突は避けられないだろう。それでも構わないが、口も頭もまわる沙都子も一緒ならうまく対処できるだろうか。
(このまま彼らを追うか、それとも一度沙都子と合流するか...さて、どうしようかな)
【キウル@うたわれるもの 二人の白皇 死亡・キョンシー化】
【F-6/1日目/午前/中央司令部跡】
※中央司令部は爆発で瓦礫の山になりました
※磁力の指輪@遊戯王デュエルモンスターズ、チーターローション@ドラえもんは燃え尽きました
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(小)、自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、
デザートイーグル@Dies irae、『治療の神ディアン・ケト』@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:沙都子と合流するか、このまま追いかけるか
1:孫悟飯と戦わなけばいけないかもね
2:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
3:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
4:ルサルカは生きていれば殺す。
5:カオス…すまない。
6:絶望王に対して……。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】
[状態]:怒り(中、いくらか収まった)、MP消費(吸血によりほぼ回復)、
スキル使用不能、プリズマシャルティアに変身中。
[装備]:スポイトランス@オーバーロード、カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 、古代遺物『死亡遊戯』。
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝する
0: 先に飛んで行った金髪(ディオ)を追いかける。
1:真紅の全身鎧を見つけ出し奪還する。
2:黒髪のガキ(悟飯)はブチ殺したい、が…自滅してくれるならそれはそれで愉快。
3:自分以外の100レベルプレイヤーと100レベルNPCの存在を警戒する。
4:武装を取り戻し次第、エルフ、イリヤ、悟飯に借りを返す。
5:メリュジーヌの容姿はかなりタイプ。
6:可能であれば眷属を作りたい。
[備考]
※アインズ戦直後からの参戦です。
※魔法の威力や効果等が制限により弱体化しています。
※その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
※スキルの使用可能回数の上限に達しました、通常時に戻るまで12時間程時間が必要です。
※日番谷と情報交換しましたが、聞かされたのは交戦したシュライバーと美遊のことのみです。
※マジカルルビーと(強制的)に契約を交わしました。
※死亡遊戯には現在キウルのキョンシーが入っています。
【古代遺物『死亡遊戯』@アンデッドアンラック】
シャルティアの支給品。
所有者が殺した者を珠に封じ込めキョンシーとして使役できる。キョンシーと化した者は
①所有者を守る
②所有者の命令は絶対に従う
の2つのルールを課せられる。
所有者が死亡または変更された場合、封じられていたキョンシーは消滅し、空の状態に戻る
【チーターローション@ドラえもん】
ドロテアの最後の支給品。
ローション型の道具で、これを足に塗ると、第三者からは姿を確認出来ないほど素早く走れるようになる。
持久力は使用者本人に依存する。
【磁力の指輪@遊戯王デュエルモンスターズ】
闇の支給品。
装備者の攻撃力と守備力を500ポイントずつ下げる。相手は装備者以外に攻撃できなくなる。このロワにおいては装備者の存在や場所を大まかにでも意識した瞬間に発動していた。
【H-7/1日目/午前】
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]左腕骨折、全身にダメージ(大)、疲労(中)
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品
セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、城ヶ崎姫子の首輪、永沢君男の首輪
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!
グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、チョッパーの医療セット@ONE PIECE
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:孫悟飯を探し出してメリュジーヌとぶつける
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は凄腕の魔法使いが着いておるのか……うーむ
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
5:キウルの血ウマっ!
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢が死んだという自責の念(大)、キウルを囮に使った罪悪感(絶大)
[装備]:青眼の白龍(午前より24時間使用不可)&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 、ホーリー・エルフ(午後まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:キウル...ごめん...
1:東側に向かい、孫悟飯という参加者と接触する。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか?
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
【ホーリー・エルフ@遊戯王デュエルモンスターズ】
ドロテアがブルーアイズの一部を使い、錬金術で生み出した。
かよわいエルフだが、聖なる力で身を守りとても守備が高い。
【ドロテアの錬金術について】
どうやら、デュエルモンスターズのカードに使用すると、その攻撃力や守備力相応のモンスターカードを錬金できるようだ。
投下終了です
投下します
その時。
少女がまず認識したのは、体に走る岩壁に叩き付けられた痛みだった。
………デウス
そして、次に認識したのは彼女にとって最悪の景色。
少女よりずっとずっと強くて、それでも突然降りかかった災禍にはどうにもならず。
石畳に横たわる、恩人の姿と。
………ルー……デウス。
白髪の男に胸を貫かれた、たいせつな人の姿。
血反吐を吐いて崩れ落ちる少年の名を、ルーデウス・グレイラッドと言った。
彼はどう見ても致命傷だった。
生半可な回復魔法では死亡までに治癒は不可能。治せたならそれは正しく神の御業。
少女の恩人も、少女自身も、そんな回復魔術には縁が無かった。
お前はたった一人残った家族になりたい男すら救えない、無力で無能な女なのだと。
どうしようもない現実の二文字が、それを突き付けてくる。
彼女は泣き叫び、母や父、剣の師や祖父に助けを乞う事しかできなかった。
そして、それは今も───
「ルーデウス!!!」
真紅の鮮やかな髪を振り乱して、エリスは寝かされた寝台から跳ね起きた。
馴染みのない異国の一室と思わしき場所で、全身から嫌な汗を伝わせながら。
まだ覚醒しきっていない頭で、こうなるに至った経緯を記憶から辿る。
(確か……シュライバーから逃げて………)
首周りを包む、冷たい首輪の感触が現実を知らしめてくる。
シュライバーと名乗った白髪の怪物から逃げたのが記憶の結びで、そこからの記憶がない。
という事は、逃げる最中に自分は気絶してしまったのか?
彼女の思考が現実に追いついたちょうどその時、がちゃりと部屋の扉が開く。
「おう、起きたかエリス。体は大丈夫か?」
目に残るオレンジの服を身に纏った、頭の軽そうな少年。
うずまきナルトが、開けた扉の前に立っていた。
湯気を立てる白いカップと、牛の乳と見られる液体の入ったコップを乗せた盆を手にして。
「いや〜シュライバーの奴から逃げた後、急に倒れたから焦ったってばよ」
シュライバーから逃走した後の記憶がないと思ってはいたが。
どうやら、あの後二十分も経っていない時間で、自分は突然倒れたらしい。
恐らくはシュライバーから受けたダメージが原因だろうと、ナルトは語った。
彼の推測の通り、エリスの体は現在進行形で体の節々が痛む。
「そう……アンタがここまで運んでくれたのね」
そう現状を認識しつつ、少し目を伏せがちにエリスはナルトを見た。
ナルトの様子は表情こそ疲れが見えた物の、既に目立った外傷は無くなっていた。
つい二、三時間前には内臓を貫かれた筈なのにも関わらず、だ。
ルーデウスの様に治癒魔法を使った訳でも無いのに異常な治癒能力だと、感嘆せずにはいられない。
「……ありがと」
「良いって事よ。俺ってば火影になる為に毎日鍛えているのだ!
だから、これくらいどうって事ねーよ」
そう言って、ナルトはニシシと得意げに笑い。
支えた盆の上のカップを手に取って、エリスに手渡してきた。
カップの中からは食欲を誘う香りが立ち上り、エリスの鼻孔を擽る。
中に入っていたのは、彼女にとって馴染みのない料理だった。
白く細長い穀物製と見られる生地が、茶色いスープの中を漂い。
卵を炒った物と思わしき黄色い欠片や、四角い四角形の肉片の様な物も混在していた。
それを見つめていると、ナルトは先んじて日本の棒で生地を挟みずるると啜る。
……実に美味そうに咀嚼していた。
「……これは?」
「何って…カップ麺だってばよ。もしかして食った事ねーのか?
喰える時に食っておけよ、でねーと肝心な時に力出ねーぞ」
もしここにルーデウスがいれば懐かしい食事に郷愁の念を抱いたかもしれないが。
当然ながら、エリスはカップ麺など食したことは無い。
だから仏頂面で提示された箸とフォークからフォークを選んで受け取り。
拙い手つきで、容器の中に入った細長い麺をちゅるりと啜った。
「……美味しい!」
魚介系の風味を感じるスープに、柔らかい触感の麺。
体力を消耗した今のエリスにとって必要な食事だった。
そうだろうそうだろうと得意げなナルトを尻目に、夢中で麺を啜る。
今度は先ほどの様にちゅるる、何て可愛い音ではなく、ずぞぞぞぞ、と野太い音が響く。
貴族の令嬢と言うよりは、山賊の様な食べっぷりで。
間近で見つめるナルトは、ちょっと引いていた。
「おはわり!」
「早ぇーってばよ」
あっという間に空になった容器に、苦笑いを隠せない。
だが同時にエリスの状態に安堵したような顔でナルトは部屋を出て。
直ぐに新しいカップを手に部屋に戻って来る。
最初はカップ麺がナルトに支給された食事かと思っていたが、どうやら違う様だ。
尋ねてみると、今いる民家に備蓄されていた物を拝借したとの事だった。
「あー!ダメダメ!カップラーメンは三分待つんだってばよ!」
「えー…面倒ね!」
直ぐに受け取って食そうとするエリスを、ナルトは些か必死な様子で止める。
エリスにとっては早く食べたかったが、どうやら様美式がある料理らしい。
それを認識すると面倒な料理ね、と零す物の、素直に引き下がる。
そして、自分の分をまた食べ始めたナルトを見つめて。
二十秒程の間を置いて、静かにエリスは尋ねた。
「……セリムは?」
エリスの口から出たのは、凶獣との戦いで殿を買って出た少年の事だった。
あの子と火影岩なる場所がある地点で落ち合う手筈だ。
だから、こんな所でのんびりしていていいのかと尋ねるのは必然であった。
「あぁ、そっちの方はもう向かってるから心配ない。
セリムの奴と首尾よく会えたら……俺達が今いる場所も分かるってばよ」
「……そう、便利ね」
向かっている、と言う発言から。
恐らくシュライバーとの戦いで見せた影分身と言う魔法を、既に使っているのが察せられた。
随分便利な魔法を使えて、尚且つ手際もいい物だとエリスは思った。
見た目は余り賢くなさそうだけど、存外頭の回転は悪くない少年なのかもしれない。
とは言えルーデウスには遠く及ばないだろうが。
そんな事を考えながら時間を確認する。まだ一分ほど時間があった。
また、僅かばかりの沈黙の後、再びエリスは口を開く。
セリムの安否については敢えて触れず。
尋ねるのは、二度目の放送前に戦った瓢箪を背負った少年についてだ。
「ねぇ、ナルト。
あの赤い髪の……我愛羅、って言った?あいつ、本気で止めるつもり?」
壁にもたれ掛かり、じっとナルトの蒼い瞳を見つめて。
エリスは真剣な表情で、今一度問いかけた。
我愛羅の事が初めて話の俎上に上がった時は、直後にシュライバーが襲撃してきた。
そのため、強制的に話は打ち切られたが……
シュライバーとの戦いを経た今、エリスは少しだけ思っていた。
あの圧倒的な戦力差のシュライバーを相手でも、ナルトとセリムは渡り合っていた。
自分が成す術なく滅多打ちにされるしか無かったにも関わらずだ。
我愛羅と言う少年を止める。最初に聞いた時は妄言でしかないとか思えなかったが。
今なら、もしかしたら目の前の少年なら我愛羅にも勝てるのかもしれない。
でも、だからこそ。
「あいつは…仲間でも家族でもないんでしょう。
アンタが命懸けで止めなきゃいけない様な奴なの?」
エリスの目には我愛羅と言う少年は強さこそ違えど、シュライバーと同じ殺人狂の様に映った。
あの少年が言葉で止まるとは思えない。
だからもう一度相まみえれば、あの少年がルーデウスに危害を加える前に斬る。
他の選択肢など浮かばなかったし、それ以外の選択肢を用意する程の男にも見えなかった。
でも、目の前の少年はあの破綻者を助ける事を心の底から望んでいる様子で。
エリスにはどうしてもそれが何故だか分からなかったのだ。
「教えなさいよ」
瞳を逸らさずに。
ベッドの上からナルトの瞳をじっと見つめて、エリスは尋ねた。
尋ねられたナルトは、普段の能天気そうな表情は鳴りを潜め。
暫し物憂げな表情をした後、ごくごくと自分が食べていたカップ麺のスープを飲み干す。
そして喉を複数回鳴らして、人心地ついてから静かに語り始めた。
「……エリスもシュライバーの奴から聞いてんだろ?
俺の中には化け物が……九尾の妖狐ってバケ狐がいるんだ」
「……強い魔物ってこと?」
九尾の妖狐。
かつて絶大な力を誇り、彼の生まれ故郷に多大な被害を及ぼしたとされる魔物。
ナルトの中に封印されており、シュライバーはそれを指して怪物と呼んだのだろう。
そして、ナルトが執心する我愛羅にも、そんな怪物が封印されているという。
「俺は体ン中に飼ってる化け物のせいで…ずっと独りだった
ワケ分かんねーまま、家族もいなくて…皆に憎まれて」
「…………」
出会った時からの明るい様相とは一変した、悲しみを湛えたナルトの表情は。
語る言葉が真実である事を訴えかけてくる。
だからエリスも口を挟まず、黙ってナルトの話に耳を傾け続けた。
「あいつはオレと…全部一緒だった。
でも、あいつは…オレよりもずっと一人ぼっちでずっと戦ってたんだ。
だから放っておけねーんだ。例えあいつが、俺の事を敵だと思ってても……」
悲痛さと決意を?き出しにした声だった。
その声を聞き、エリスは彼が我愛羅をどう見ているのか分かった気がした。
うずまきナルトという少年にとって、我愛羅と言う少年は同胞なのだ。
例え敵だとしても、同じ痛みを知る者なのだ。
だから救おうとしているのだと、エリスの胸の内で点と点が繋がる。
「エリス達に迷惑はかけねぇ。我愛羅の奴と会ったら、俺が闘る。
あいつが自分じゃ止まれねーっつーんなら…俺が手足へし折ってでも止めてやるってばよ」
揺るぎのない意志を込めた眼差しで、ナルトは宣言した。
本当に、心の底から我愛羅が止められる、止まると信じている瞳の彩だった。
こうなると、何をどう言った所で無駄だろう。確信できた。
だが、エリスも簡単に己の意志を枉げる様な少女ではない。
「……私は、敵は斬るわ。彼奴がルーデウスを傷つけるならね」
「…………………」
一切の誤魔化しをせず。
眼光を鋭くするナルトに臆することなく、彼女は宣言した。
つかの間、二人の雰囲気が張り詰める。
数秒後に衝突が始まってもおかしくない、緊迫した空気。
そんな空気の中で、しかし間髪入れずにエリスは続く言葉を紡いだ。
だから、と前置きをして。
「そうなる前に、アンタが何とかしなさい!」
斬らねばならない。私がそう判断する前に。
本当に手足をへし折ってでもあの少年を止めて見せろ。
それがエリスの考えた落としどころであり、ナルトへ示すスタンスだった。
「エリス……!すまねぇ」
「別に、謝らなくてもいいわ。斬らないって言ってる訳じゃないんだし」
謝罪するような、感謝する様な、複雑な表情を浮かべるナルトに対し。
エリスは仏頂面の顔を背けて、「それに」とエリスは続ける。
その脳裏を過るのは、あの日の記憶。
自分とルーデウスを襲った、転移と言う未曽有の災害のこと。
「私も、一人ぼっちになったらどうしようって、考えた事が無い訳じゃないし」
父も母も祖父も剣の師もいない、見知らぬ土地で目覚めて。
もし、ルーデウスとルイジェルドが目覚めた時隣にいなければ。
もし、家族が同じ目に遭い、より危険な荒れ狂う海だとか、深い谷底だとか。
そんな場所に転移していたら。
旅の最中、夜眠るときに、不安に駆られた事は一度や二度ではなかった。
何不自由なく、貴族の令嬢。狂犬エリスとして過ごしていた頃なら。
きっと想像すらできなかった喪う事の恐怖。独りになる事の恐怖。
まだ一端だけとは言えそれを知った彼女だからこそ、吐けた言葉だった。
「勝ちなさい。勝って、もう殺し合いなんて乗る気にならないくらいボコボコにするの。
ルーデウスでも、きっとそうするわ!」
力強く張り上げられた声から贈られた檄は、実にエリスらしいものだった。
そして勝ち気で何時でも好きな男(ルーデウス)が基準な彼女の言葉は、
やはり何時でもサスケが一番のあの子に似ているなと感じ、ナルトはふっと笑う。
そうしてサムズアップと共に普段通りの笑顔を浮かべて、彼はエリスに告げた。
「あぁ、我愛羅一人何とかしてやれずに……火影なんてなれる訳ねェからな!」
「……ずっと思ってたけどそのホカゲってのは領主か何か?」
何か地位の高い立場なのは察する事ができるが。
聞き覚えのない単語に、いい加減気になりエリスが尋ねる。
対してナルトの答えは素早く。彼にとっての火影の何たるかを語った。
「火影ってのは誰もが認める里一番の忍者で……
痛てー事や迷う事を我慢して、皆の前を歩いてるやつのことだ」
誇らしげに胸を張って、迷いなど欠片ほども無いように。
うずまきナルトは夢を口にした。
この一時間後の生存すら保証されていない世界で。
ウォルフガング・シュライバーと言う次元の違う相手に出会ったばかりなのに。
それでも彼の語る夢に込められたのは楽観ではなく、きっと。
人が決意や覚悟と呼ぶものなのだろう。それをエリスは直感的に感じ取った。
「……フン!苦労ばっかりしそうな奴ね。そんなの、アンタがなれるの?」
憎まれ口を叩いてから、珍しくエリスはしまったと思った。
でも、何だか今のナルトの話を聞いていたら悔しくなったのだ。
だって、今の自分は表面上、普段通りだけど。
あの白狼の怪物と相まみえてから、夢とか目標だとか。
未来の話をする気にはとてもなれなかったからだ。
───お前もルーデウスもそこそこ強い方だろうけど、ここはもっと強い奴等がうじゃうじゃしてるピョ。
今は亡き羽蛾の言葉が、脳裏に蘇る。
言われた時は深く考えないようにしていた言葉が、今はとても重々しい。
ルーデウスは強い。その事に疑いなんて僅かほども無いけれど。
でも、ルーデウスがシュライバーと出会ったらと思うと背筋が寒くなる。
感情とは別の、生物としての本能的な部分が告げていた。
あの殺人狂はエリスよりも確実にずっと強い。そしてルーデウスよりも。
最低でもギレーヌ程の強さが無ければ勝負するのは無理だ。
そんな相手と殺し合いをさせられている現状を考えれば、明るい展望など抱ける筈もない。
だから、それでも力強く夢を紡ぐナルトの姿が羨ましくて。
つい、自分が言われれば殴って痣だらけにしている様な話を。
他人の夢を腐す様な事を言ってしまった。
後悔してももう吐いた言葉は飲み込めず、バツの悪そうな顔で少年の様子を伺う。
「……ま、険しい道なのは確かだな」
しかしエリスの予想に反して、ナルトが怒りを見せることは無く。
目の前の少女の心境を汲み取った訳では無いだろうが。
それでも彼女が本気で、自身の夢を腐したかった訳では無い事を理解していて。
だから、続く言葉は相変わらず迷いも淀みもないモノだった。
「でも───元から火影に近道なんてぜってーねェんだ」
だから覚悟はしてるってばよ。
不敵に笑いながら、少年忍者はそう言い切る。
どこまでも挑戦者の笑みを浮かべて。
それを見ていると───エリスも少しだけ心を蝕む重圧が軽くなった様な気がした。
「そう……」
同時に、少し…見てみたいとも思った。
この少年が火影になった所を、ルーデウスと共に。
それ故に、彼女もまた笑みを返し。
「そう…ま、精々頑張りなさい!アンタはルーデウスを、ギレーヌと、ルイジェルド……
おじい様とお父様とお母さまの次位にはやる奴だって、評価してるから!」
「結構後ろの方だな、オイ」
ナルトの指摘に噴き出す様に笑みが零れ。
不意に時間を確認してみると、既に三分程時間が過ぎている。
もうとっくに、ラーメンが出来上がった時間だった。
そのためエリスはカップ麺の容器を受け取りつつ、再出発の確認を行う。
「これ食べたら出発するわよ」
「あぁ、さっさとセリムの奴を拾って我愛羅達やお前の言うルーデウスも探さねーとな」
まだ体は痛むが、体力自体は回復できた。
そうなれば、このままじっとしている訳にもいかない。
シュライバーや我愛羅がルーデウスと会うまでに合流しなければならないのだから。
算段を立てつつ、フォークを麺に添えて今度はずるずるずると豪快に啜る。
「おーい、誰かいるかー!?」
玄関口から声が聞こえたのは、その時の事だった。
一瞬で弛緩した空気を張り詰めさせ、二人は警戒しながら廊下の奥の玄関口の様子を伺う。
…突然のタイミングだったので、エリスはカップ麺を持ったままだったけれど。
「怪しい者じゃないし、悪くも怖くもない凄くいい感じの勇者だからさー。
だから、誰かいてくれたら返事をしてくれると俺嬉しいんだけど!」
玄関には背中に刀を背負い、真紅のバンダナを巻いた少年が立っていた。
表情に敵意は感じられない。むしろ何か馬鹿っぽい。
それがナルトとエリスの両名が感じた、目の前の少年に対しての第一印象で。
二人は顔を見合わせると言葉もなく頷きあい、少年を迎えた。
現れた少年の名を、ニケと言った。
◆ ◆ ◆
『行くのかい?ニケ』
『あぁ、おじゃるの奴を探してやらねーといけないからな』
『……そうか、分かった。ただ、その前にフランの事で少しいいかい?』
『ん、何?』
『彼女を許してやって欲しい。彼女も君を怒らせようとしてあぁ言った訳じゃないんだ』
『…別にいいよ。怒ってる訳じゃないし』
『感謝する。……彼女はまだ、人との接し方が分かっていないんだ』
『ま、それは何となくわかるよ。でも、ああいう事を言うのはやめさせといた方がいいぞ』
『彼女が僕らといる事を望む限りは、辛抱強く面倒を見るよ』
『……苦労するかもしれないけど、頼んだ。それじゃな』
『───ニケ、最後にもう一つだけいい?』
『まだ何かあんの?別にいいけど』
『すまない、でも。最後にもう一つだけ────』
◆ ◆ ◆
「マジかよ……中島以外にもそんなやばい奴らがいるの?」
ネモ達と別れて少しあと。
俺が出会ったナルト達は、運のいいことに悪い奴らじゃなくて。
少なくとも中島みたいにこっちに襲い掛かってくる気配はない。
だから、直ぐにお互い知ってる事を話す流れになったのは有難かった。
何しろ、早くおじゃるを見つけてやらないといけない状況だからな。
もっとも、ナルト達が話す内容は、余りいいもんじゃなかったけど。
「こう……うまい事潰しあっててくれないかな………」
この島にはクロや中島の他にもヤバい奴がいるらしい。
特にシュライバーって奴は一段とおっかないそうだ。
逃げることすら難しいとかどんなズルだ?そんなのどうにもならないぞ。
雄二やおじゃる達が、ナルト達の話す怖ぇー奴らと出会っていない様祈るしかない。
「アンタの言う中島ってのも随分厄介そうね。
他人に化ける上に本人も強い魔物なんて。まぁルーデウスなら簡単に見抜いちゃうだろうけど!」
エリスの言うルーデウスはとても頼りになる魔法使いらしい。
ククリみたいに沢山魔法が使えて、エリスみたいな可愛い子と仲いいなんて羨ましいけど。
まぁ俺としては頼れる魔法使いならぜひ力を貸して欲しい。
と言うか、滅茶苦茶頼りたい。中島だけでもまた会ったら殺されそうだし。
そんな事を考えながら、危ない奴の次は信頼できる奴の話に移る。
「沙都子にマサオにセリム……あと一応サトシって奴も信用できそうか」
「言ってた奴が奴だから、どれだけ本当かは分からなないけどね」
エリス達は夜明けまで余り他の参加者と会っていなかったらしい。
だからか、話に出てきた信用できる奴人数は何とも頼りなかった。
俺も人の事は言えないんだけど。
「そっちは水銀燈におじゃる丸…あと雄二にネモって奴で全員か?」
「あぁ、そいつらは取り合えず俺が見た感じじゃ協力できそうだったよ」
雄二たちについては今どこにいるかも良く分からないし、何とも言えない。
でもネモ達の居場所は凡そ見当がつくし、追加で伝えておかないといけない事が一つ…
いや、もう二つあったか。
「ふーん……そのネモって奴は首輪せるのね?」
「あぁ、けっこー自信ありげと言うか、首輪について色々知ってそうなのは確かだと思う。
俺には難しくてよく分かんなかったし、直ぐに別れたから悪いけど本人に聞いてくれ」
余り無秩序に広めて、乃亜に気取られたくない。
話をする前置きで、ネモはそう書いた紙を見せてきた。
…まぁどの道俺には難しくて説明とか無理だし、本人から話を聞いてもらうしかないけど。
それでもエリス達にとって初めてできた首輪を外せるアテだったみたいで。
反応は悪い物じゃなかった。生憎エリス達も人探しの真っ最中みたいだけど…
ネモはカルデアにいるって居場所もハッキリしてるしな。
だからこの話は最後まで良い話で終われる。問題は、もう一つの方だ。
こっちの方は、少なくとも俺には割り切れない話だったから。
「あと……これはあんまり俺自身信じていいか分からねーんだけど………」
自分でも、歯切れが悪くなってるのが良く分かった。
まず、話自体余り良い印象のない話だし。
でも、もう切り出した以上黙ってる訳にはいかない。
エリスはさっさと話せという目で見てるし、超怖ぇーよ。
結局、俺はエリスの視線に耐えきれなくて、溜息を一つ吐いて話を切り出した。
フランとネモが言っていた、ドラゴンボールについての話を。
「…………………………………………………………」
話している間、ナルトの方は如何にもピンと来てないって顔で。
まぁ無理もないよなと思った。
対するエリスはずっと無言だった。
ずっと無言で、俺の方を心なしか睨んでる気がする。可愛いのに超怖い。
俺がネモ達から聞いた話を話し終わっても、エリスは少しの間無言だった。
俺とナルトは、じっとキョーツケの姿勢でエリスの言葉を待つ。
そうしないと絶対ヤバいって確信があった。
めちゃくちゃ長く感じた十秒くらいの間を置いて、エリスが口を開く。
出てきた言葉は、俺の予想とは大きく違っていた。
「───成程ね。そのドラゴンボールっていうの、信じようと思うわ」
「…………へ?」
てっきり、適当な事を抜かすなと怒られると思っていた。
俺の考えていた話の流れに反してエリスはあっさり俺の言葉を信じると答えて。
その意味を直ぐに理解できず、ちょっと固まってしまう。
だけどこんなのは序の口で、エリスが本当に怖くなったのはここからだった。
「………言い出したのは自分のくせに、随分不服そうね」
「い、いや……だって、俺自身あんまり信じられない話なのに、
まさか信じるって言うとは思えなかったからさ」
「それだけじゃないでしょ。ウソついてんじゃないわよ」
腰に手を当てながら、エリスは俺の顔を覗き込んでくる。
と言うかガンを飛ばしてくる。
貴族のお嬢様とは思えない目力だ。もう不良だろこいつ。
可愛い女の子に見つめられてるのに、冷や汗が止まらない。
「話しておいて、乃亜が何か対策してるかもだの、問題が起きるかもしれないだの」
まるで、信じてほしくないみたいな物言いだったわよ、アンタ。
エリスは俺の目をじっと見つめながら、そう言った。
その言葉に何故か、見られたくない部分を暴かれたみたいな、そんな気分になって。
面白い推理だ探偵さん、漫画家にでもなったら?後藤ヒロユキ位は売れるかもよ?と言いかけてやめる。
言ったらマジで殺されそうだもんな。
「……じゃあ逆に、エリスは本当にこの話信じるのかよ?」
「バカね、信じるわけないでしょ!」
えっ、と声を上げる。
ついさっき信じるって言ったのに?
俺がそう考えたのを察したのか、エリスは自分の考えを説明してくれた。
「まるっきり頭から信じる訳じゃない。アテにはしない程度に期待するってだけよ。
第一、そんな大事な話をアンタの又聞きで判断する訳ないじゃない」
「いや、でも……」
エリスの考えに。
俺は咄嗟に「でも」と、そう返した。
そして、口にしてから考える。何が「でも」何だ?と。
エリスの言ってる事は刺々しいけど筋が通ってる。
悟空って奴から直接話を聞いて判断するのは多分間違ってないはずだ。
じゃあ何が引っかかってるのか、分からない。
そんな俺に、エリスは見透かしたような目で言った。
「………もういい加減言っていいかしら。アンタは信じる信じない以前に……
そのドラゴンボールを使う事に納得できてないんじゃないの?」
「………っ!?」
ぐさ、と鋭くて見えない剣が胸に突き刺さったみたいだった。
さっき、エリスが言った言葉が蘇る。
本当は、エリスたちにドラゴンボールの事を信じてほしくなかった。
何だそれ、胡散臭いってそう言って欲しかった。
ドラゴンボールがあるから死んでも大丈夫だって、思って欲しくなかった。
だから、俺は無意識にそういう答えが出てくる様に話をしてたのか?
「じゃあ……エリス達も、他の奴らが死んじまったとしても……
ドラゴンボールで生き返らせればいいって思ってるのか?それに納得しちまうのか?」
俺は気づけば、エリス達にそう聞いていた。
さっきのエリスの問いかけの答えになってない上に。
質問自体、話としてあんまり繋がってないけど。
それでも尋ねないままいるのは無理だった。
そんな俺に対して、エリスは顔を横に向けて。
「ナルト、アンタはどう思うの?」
唐突にナルトに話を振った。
突然話を振られたナルトは「なにっ」と声を上げて。
ちょっと困ったみたいに腕を組んで考え始める。
それから十秒…三十秒……一分ってずうっと考えて。
そして、プスプスと頭から煙が出てきてから、だー!と大きな声で叫んだ。
「しょーじき、鵜呑みにするには話が胡散臭すぎて、俺にはピンと来ないってばよ!」
よく通る声で、ナルトはそう言った。
すぐ後に「でも、ニケの話で気になった事は他にある」そう続けて。
「その…ニケにドラゴンボールの事を教えたネモだっけか。
そいつらも別に後で生き返らせればどんだけ犠牲が出てもいい……
なんて事は思ってないんじゃねーの?」
最初俺は、ナルトの考えがよく分からなかった。
だってネモ達は実際におじゃる丸を探そうとする俺を引き留めた。
特にフラン何かは正に今ナルトが言ったみたいなこと言ってたし。
そう考える俺に、頭の後ろで手を組んだナルトが考えを説明してくれる。
「だって、ネモ達が残ってほしいって言ったのはドラゴンボール云々より……
この首輪を外すために色々やるから、安心してそれができるように残ってほしいって。
ニケの話的には俺ってばそう言いたかったんだって思ったけど、違うのか?」
「…………………」
「首輪嵌めてるうちは、俺たちずっといいなりの奴隷だろ?
でも首輪外せば従う必要ねぇし、マーダーと一々戦う必要もなくなるってばよ。
そうなればシュライバーみたいな奴らから逃げ回りながら他の奴ら助けて、
それから首輪を外すのに取り掛かるより助かる人数は多くなりそうっつーかさ」
ナルトの説明に、俺は何も言い返せなかった。
フランは今振り返っても生き返るから大丈夫だって、そういう物言いだったけど。
その後に話したネモの言っていた事は、そういう話だった様な気もする。
「あと、ドラゴンボールに乃亜が何か余計な事やっててもさ。
それ、今の俺達にあんまし関係ないんじゃねーの?
だって、肝心のドラゴンボールって珠はこの島にないんだろ?」
ナルトの言葉を聞いてから少し考えて、「あ」と声が出る。
よくよく考えてみりゃ、ドラゴンボールが使えたとしても。
実際に使えるようになるのは乃亜を何とかして、この島を出てからになる。
ドラゴンボールはこの島に無いんだから。当たり前と言えば当たり前の話だった。
「い、いや、でもさ。乃亜が予めドラゴンボールを壊しておくとか……」
「それはあり得るかもしれねーけど、それ言い出したら俺達何もできなくなるってばよ。
乃亜が気合入れて予め邪魔するとしたら、まずここから出る事だろうしさ」
「………まぁ、そうだな………」
ここまで言われれば何も言い返せない。
ナルトの言う通り、乃亜の立場で心配するとしたら。
島になきゃ問題ないドラゴンボールより、島から逃げられる事だってのは分かる。
直接この島から出るのには関係ないドラゴンボールが手を加えられてるなら。
脱出なんて更にガチガチに性格の悪い対策がされててもおかしくない。
そこで俺は、ちょっと考えが後ろ向きすぎたかな?と自信が無くなって来た。
「その、じゃあナルトもさ、ネモ達の言う事が正しいって思うのか?」
「いや。俺がそのネモに会ったとしても、我愛羅を探すのを優先したと思うってばよ。
それに……俺もよく分かんねーけどさ」
もし胡散臭いその話をアテにして生き返れなかったらって心配も。
生き返るから大丈夫だって、犠牲が出る事を受け入れるのが嫌なのも。
俺ってばニケが正しいと思う、ナルトは俺にハッキリと言った。
それを聞いて、少しホッとする。
まぁその後直ぐに、「ただ」とナルトは続けたんだけど。
「ニケの言ってる事が全部正しいなら……それはそれで不味い気がすんだよ」
「………?それは、どういう────」
ナルトの答えに一番戸惑ったのは、多分この時だと思う。
ただ、何となくこの話はハッキリさせておかねーと不味い。
そう思って、どういう意味なのか説明してくれと言おうとした時だった。
俺の首筋に、冷たい刃物の感触が伝わってきたのは。
恐る恐る、感触の出所を探る。
すると、エリスが冷たい目で俺に刀を突きつけているのが分かった。
「……こう言う事よ」
どう言う事だよ。
エリスが突然刀を突きつけてきた、その事しか俺には分からない。
ナルトに助けてという目線を送っても、ナルトは何かに気づいた顔をして。
そして、何故か腕を組んで見守りモードに入っていた。助けてくれよ。
そう思っていると、背中でエリスの声が響く。
「私にはルーデウスって幼馴染がいるの」
は?
「ルーデウスは凄いのよ!
今よりずっと小さな時から無詠唱魔術が使えて、私には及ばないけど剣術もできて。
それに何より誰よりも賢いの!それから─────」
待て待て、本気で何の話をしてるか分かんねーぞ。
話を聞いて、そう思った俺はまたナルトの方に顔を向ける。
でもナルトもそれは俺にも分かんねぇって顔で顔を背けるだけだった。
そのままルーデウスへ誉め殺しが始まったけど、首に刀を当てられてる俺は身動きできず。
結局、ルーデウス賛美会終わったのは、五分以上後の事だった。
でも、終わってからルーデウスの話をしてた時とは違う、消え入りそうな声で。
「………でも、ここにはルーデウスより強い奴がいるわ。多分一人や二人じゃない」
心の底から、本当は認めたくない。
そう言ってるような声で、エリスは話し続ける。
聞いてて痛ましくなる声で、口を挟めない。
「だから!絶ッ対!万が一!太陽が逆側から昇る位ありえない事だけど!!」
────ルーデウスに、もしもの事があるかもしれない。
俺が聞いたその言葉は、震えてた。
真剣に、大事な話をしてるんだって事は伝わって来る。
でも、俺にはまだ、エリスが何を言いたいのか見えてこなかった。
「私は乃亜が大ッ嫌い。ルーデウスを…私の家族を、殺し合い何かに巻き込んで許せない」
後に立ってるエリスがどんな顔をしてるかは分からない。
でも、多分出会った時の様な、凶暴な位お転婆な表情はしてないと思う。
声色と話してる内容から、段々エリスが何を言おうとしているのか。
ぼんやり分かって気がしたのはこの時からだった。
「私の剣はルーデウスの為にあるんだから、乃亜に従って人を斬る何て死んでも嫌」
でも、
そう言って、少しの間エリスは押し黙ってしまった。
俺はやっぱり口を挟めない、何を言っていいのか分からなくて、石像になったみたいだ。
そんな俺に、エリスは一度剣の柄を握り締めなおして。
そして言った。
「それでも…願いを叶えられるのが乃亜だけなら……
ルーデウスに万が一の事があった時、私は殺し合いに乗ると思う」
「─────ぁ」
その言葉で、やっと。
俺は、エリスが何を言いたいのか分かった気がした。
話と話が繋がる。
────私、もう永くないの。
頭の中で、クロが俺に言った言葉が響く。
確かに、ドラゴンボールがアテにできないなら。
結局、万が一の事があった子供を生き返らせる事ができるのは。
願いを叶える力を持ってるのは……乃亜だけって事になる。
じゃあ、今切羽詰まってる奴らはやっぱり……乃亜に頼るしかない。
俺が話した内容だと、そう言う話になっちまう。
────ねえ、しんちゃんを生き返らせることはどうなるの?
次に頭の中で響くのは、そう言った時のフランの顔と声。
少し怒った様な顔と声には、今思えば悲しさもあった様な気がする。
やっぱり殺し合いに乗るしかないのかって、彼奴はそう思いかけてた。
勿論、今でもフランの言ってた事は、俺は受け入れられない。
生き返らせる事ができるかどうかも分かんないのに、死んでも大丈夫なんて言えない。
でも……あの時は彼奴自身が大丈夫なのかと思ってたけど。
今にして思えば、もしあの時。
フランが殺し合いに乗ってたらそれは俺が話した事が原因だ。
ネモが一度殺し合いに乗ったあの子を必死に説得したのに。
それを台無しにしちまう所だったのかもしれない。
そこまで考えついた時には、エリスは話の締めに入っていた。
「───でも、そんなのは絶対に嫌。嫌だから…………」
だから、ドラゴンボールなんてモノが本当にあるのなら……
私はそれを信じたい。賭けたいの。
私が私である為に。私が、ルーデウスの知ってるエリスでいるために。
それが、エリスの結論だった。
ドラゴンボールなんて胡散臭い話を、信じたいって思ってる理由だった。
それを聞いて、俺は。
「あー……くそ」
今でも俺の考えが間違ってるとは思わない。
生き返れるか分かんないのに、死んでも後で生き返れるから大丈夫なんて俺は言えない。
その考えを枉げるつもりはないけど。でも。
エリスの話を聞いたら、ドラゴンボールを信じたいって奴の気持ちも分かった。
この島は酷い場所だ。たった六時間で二十人以上死んでる。まともじゃない場所だ。
そんなまともじゃない場所でまともでいるためには、きっと皆………
多分希望って言うか、支えになる物が必要なんだ。
なのにさっきまでの俺の話は、その希望がアテにならないって宣伝してるみたいなもんだった。
───それ、勇者(ニケくん)が言っちゃうの?
ジュジュがさっきまでの俺の姿を見て、話しを聞いたら、こう言うかもな。
全く、勇者が希望に水を差してりゃ世話ないよな。
ククリにだって、きっとがっかりされちまう。それは嫌だ。
だから俺は、がばっとエリスの方に向き直って。
「あのさ。さっきまでの……ドラゴンボールの話…乃亜がどーとか
ふくさよーがどーとか、一旦全部ナシにしてくれ!!ごめーーーん!!!!」
大きな声で謝った。
それから、ドラゴンボールについて今確かに分かってること…
願いを叶えてくれる伝説のアイテムであること。
マーダーに迂闊に伝えようとしたら首輪が鳴ってヤバいこと。
孫悟空って奴がそれについて詳しく知ってること。
この三つ以外は一旦忘れてくれと頼んだ。
信じるかどうかは、悟空に直接会って話を聞いてから判断してくれ、とも言う。
素人の俺やネモの想像よりも…何度も使った事のあるらしい悟空に聞いた方が頼れるかどうか判断しやすいだろうしな。
それ以外の余計な心配は一旦全部ナシ、伝えるのはハッキリしてる情報だけでいい!
話を聞いてドラゴンボールを信じると決めたなら、俺も何も言わない。
取り合えず俺の中でそう言う感じに纏まった。
「よーし!そうと決まればもうこれ以上考えるのはやめだ!やめやめ!
ギャグキャラがウジウジ悩んでたら読み手からキャラ違うだろとか言われちまうしな!!」
「一瞬で何も考えてない気の抜けたアホ面になったわね」
「まぁ話に納得いったならいいんじゃねーの?」
やっぱり男はルーデウスみたいに賢くないとだめね、何て言いながら。
エリスは構えてた剣を降ろした。
顔は呆れてたみたいだけど、心なしか話し始めた時より柔らかくなってた気がする。
多分、エリスも不安に思う事があって。
今の話の中で少しだけその不安に整理がついたのかもしれない。
そんな事を考えていると不意にナルトと目が合った。
へへっと笑い合って、少し前のこと。ネモが別れ際に言った言葉を思い出す。
───ニケ、君の考えはきっと正しい。
───でも、僕達の方も、今の自分の考えが間違ってるとは思ってない。
───多分、何方も正しいんだと思う。
───この殺し合いを止めるには何方かじゃなくて、きっと何方も必要なんだ。
───僕達が首輪を外している間に君が皆を助けてくれれば…犠牲になる数はずっと減る。
───だから、よろしく頼むよ。そして……健闘を祈る、また会おう。
言われた時はフランの態度が引っかかって、ちゃんと返事ができなかったけど。
あの時のネモの言葉の本当の意味を、今分かった気がする。
さっさとおじゃるを見つけて、カルデアまで引っ張って行かないとな。
だからそれまで生きてろよ。おじゃる、ネモ。
◆ ◆ ◆
話が纏まってから数分後。
エリスとナルトとニケは再出発をしようとしていた。
解散し、各々手分けして出発するのも考えたが。
全員に探し人がいる事と、シュライバーの様な参加者に単独で出会えば手に余る。
その判断から、三人で行動する運びとなった。
『ふわあぁ…あのクソどーでもいい話、やっと終わったかァ〜』
「今迄寝てたのかよ、アヌビス」
『あぁ、俺は敵を兎に角斬って斬って斬りまくれれば後はどうでもいいからなァ〜!』
「お前やっぱその辺の便器に突き刺して行こっかな」
『冗談だからやめろマジで』
今迄静かだと思ったら、どうやら居眠りしていたらしい。
ぐっしっしと笑うアヌビス神に、呆れた様子でニケは相槌を返す。
そんな一人と一刀の姿をナルトとエリスはまじまじと見ていた。
「ねぇねぇねぇ!今喋ってたのその剣?ちょっと見せなさいよ!」
「喋る刀か……口寄せした獣が変化で化けてるって訳でもなさそうだな」
『……クソッ弾かれるッ!あの妙な契約書のせいかッ!?』
「はいはい、こいつ呪いのアイテムだから迂闊に触れるなよー」
魔法や忍術がある世界でも珍しい逸品に、二人は興味を引き寄せられる。
刀身をなぞったり、手触りを確かめて初めて見る喋る刀の様子を検めた。
途中どさくさに紛れて乗っ取りを試みるアヌビスだったが、上手く行かない。
それどころか、数秒で柄が滑ってエリスもナルトもちゃんと握れないのだ。
どうやら魔法の契約書が上手く働いているらしかった。
「二人とももういいだろ?時間が惜しいからさっさと行こうぜ」
今はアヌビスと遊んでいる暇はない。
だから、ニケは速やかな出発を促した。
エリスもナルトも最初は喋る刀に興味を惹かれていたが、直ぐにニケに返却する。
喋れても握れないのであれば、武器としては役立たずだからだ。
それに急ぐ必要があるのは二人にとっても同じだった。
そのためニケに促されるまま、一行は出発しようとする。
「────ん?あれ?」
その矢先に。
ナルトが前方からもう一人、走って来ていた。
今迄一緒にいた筈のナルトが二人いる。
その奇妙な現象にニケは咄嗟に今迄一緒にいたナルトの方を見た。
すると傍らにいたナルトは悪戯っぽく笑って、どろんと消える。
今度はエリスに尋ねてみれば、ナルトは分身の術が使えるらしく。
どうやら今迄一緒にいたのは分身の方だったらしいと、その時初めて知った。
エリスの介護を分身に任せ、本体は先行していたのだろう。
説明を受け、もう一度本体と見られるナルトに視線を戻す。
血相を変えて、何やら焦っている様子だ。
その答えは、彼の背中に背負われている存在にあった。
「こいつってば突然空から振って来たんだ。怪我はないけど気は失ってる」
ナルトの背中で呻く金髪の少年。
取り合えず、何かあったのは明白なので放って置く訳にはいかない。
だが、目が覚めるのを待っているほど、この場にいる全員に時間は無かった。
「私、こいつに被せる水持って来るわ。取り合えず部屋に運んでなさい!」
「お、おぉ……起きなくても殴ったりするなよ?」
「殴らないわよ!………多分」
多分なのかよ。
ニケとナルトは心の中で突っ込むが口には出さない。
そのまま慌しく気を失ったままの少年を部屋の中へと運んでいく。
しかし放って置く訳にはいかないが、出発しようとした矢先にこれとは。
出鼻を挫かれるとはこの事だろう。
「どうせ振って来るなら可愛い子がよかったなー…なぁアヌビス」
金髪の少年を背負ったナルトに続きつつ、ニケは背中に背負うアヌビスに軽口を叩く。
だが、アヌビスは応えなかった。
絶句した様子で、わなわなと震えている。
まるで信じられない物を目にしたように。
そんな彼の様子を怪訝に思ったニケは、もう一度名前を呼んで。
「……アヌビス?」
それでもアヌビスは応えない。
ニケの言葉は最早彼の耳に入っていなかった。
それほどまでに、今の出会いは衝撃だったからだ。
名簿に名前が載っていた時はまさか、と思った。
だが、ナルトの背に背負われていた金髪の少年。
アヌビス神はその少年を知っているッ!
高貴さを感じさせる顔立ちと金の髪を知っているッ!
衝撃に誘われる様に、アヌビス神はその者の名前を大声で呼んだ。
『ディ……DIO様ァ〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?』
【D-5/1日目/午前】
【エリス・ボレアス・グレイラット@無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)、少しルーデウスに対して不安、
沙都子とメリュジーヌに対する好感度(高め)、シュライバーに対する恐怖
[装備]:旅の衣装、和道一文字@ONE PIECE、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!(相性高め)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ルーデウスと一緒に生還して、フィットア領に戻るわ!
0:放送までに火影岩に寄ったあと、ルーデウスを探す。
1:首輪と脱出方法はルーデウスが考えてくれるから、私は敵を倒すわ!
2:殺人はルーデウスが悲しむから、半殺しで済ますわ!(相手が強大ならその限りではない)
3:ドラゴンボールの話は頭の中に入れておくわ。悟空って奴から直接話を聞くまではね。
4:早くルーデウスと再開したいわね!
5:私の家周りは、沙都子達に任せておくわ。
6:ガムテの少年(ガムテ)とリボンの少女(エスター)は危険人物ね。斬っておきたいわ
7:ルーデウスが地図を見れなかった可能性も考えて、もう少し散策範囲を広げるわ。
[備考]
※参戦時期は、デッドエンド結成(及び、1年以上経過)〜ミリス神聖国に到着までの間
※ルーデウスが参加していない可能性について、一ミリも考えていないです
※ナルト、セリムと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました
※沙都子から、梨花達と遭遇しそうなエリアは散策済みでルーデウスは居なかったと伝えられています。
例としてはG-2の港やI・R・T周辺など。
【うずまきナルト@NARUTO-少年編-】
[状態]:チャクラ消費(小)、疲労(中)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品×3、煙玉×4@NARUTO、ファウードの回復液@金色のガッシュ!!、
鏡花水月@BLEACH、ランダム支給品0〜2(マニッシュ・ボーイ、セリムの支給品)、
エニグマの紙×3@ジョジョの奇妙な冒険、ねむりだま×1@スーパーマリオRPG、
マニッシュ・ボーイの首輪
[思考・状況]
基本方針:乃亜の言う事には従わない。
1:火影岩でセリムを拾ってから我愛羅を探す。
2: 我愛羅を止めに行きたい。
3:殺し合いを止める方法を探す。
4: 逃げて行ったおにぎり頭を探す。
5:ガムテの奴は次あったらボコボコにしてやるってばよ
6:ドラゴンボールってのは……よくわかんねーってばよ。
[備考]
※螺旋丸習得後、サスケ奪還編直前より参戦です。
※セリム・エリスと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました。
【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)、仮面の者(アクルトゥルカ)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's(搭乗中)
[道具]:基本支給品、丸太@彼岸島 48日後…、リコの花飾り×3@魔法陣グルグル、沙耶香のランダム支給品0〜1、シャベル@現地調達、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:おじゃる丸と水銀燈を探す。銀ちゃんは、マジで見捨てそうだから大急ぎで。
1:とりあえず仲間を集める。ナルトとエリスに同行する。
2:クロエを探して病状を聞き出す。
3:マヤ……
4:DBの事は俺の考えが間違ってるとは思わないけど、あんまり後ろ向きになっても仕方ないか。
5:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
6:フランはあいつ本当に大丈夫なのか?
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
※仮面(アクルカ)を装着した事で仮面の者となりました。仮面が外れるかは後続の書き手にお任せします。
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]気絶、精神的疲労(中)、疲労(中)、敏感状態、服は半乾き、怒り、メリュジーヌに恐怖、
強い屈辱(極大)、乃亜やメリュジーヌに対する強い殺意
[装備]バシルーラの杖[残り回数1回]@トルネコの大冒険3(キウルの支給品)
[道具]基本支給品、光の護封剣@遊戯王DM、ランダム支給品0〜1(永沢の支給品)
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:…………
1:キウルを利用し上手く立ち回る。
2:先ほどの金髪の痴女やメリュジーヌに警戒。奴らは絶対に許さない。
3:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
4:海が弱点の参加者でもいるのか?
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
投下終了です
投下ありがとうございます
感想はまた後ほど投下いたします
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、孫悟飯、結城美柑、野比のび太
乾紗寿叶、日番谷冬獅郎、北条沙都子、カオス
ウォルフガング・シュライバー
予約します
感想投下します>澆季溷濁
シャルティアを煽るモクバ君、ほんと好き。
ここ最近、暗いムードだったので久々にクソガキムーヴしてくれて嬉しいですね。この話のクソガキ要素これくらいなんですが。
しかし、ブルーアイズが通用しないこの環境、乃亜君はマスターデュエルを履修してきている可能性がありますね。
ちくしょう…観賞用のカード扱いが、また言い返せなくなっちまったんだ……。
海馬以外には使いこなせないってことかもしれませんね。
シャルティアもさっきまで散々余裕ぶっこいてたのに、瞬間湯沸かし器過ぎて見てて楽しい。
コメディ要素も序盤だけで、中盤以降キウル君の孤軍奮闘がほんとにお辛い。
>なによりハクという漢がいてくれた
ここ、オシュトル名義ではないのが、なんか本編終了後のキウルなんだなって好きですね。
キウル君、マジでドロテアなんかの為に死ぬ必要はなかったと思いますし、逃げても文句は言われなかったと思うんですが。
それができなかったのが貧乏くじを引いてしまう性分というか、良い所でもあるんでしょうが。
キウル、色々散々だったんですが。
個人的にはもうドロテアの悪辣さも流石に気付いてたでしょうし、ディオもかなり黒だと分かってたのかなと思うんですけど。
それでやけにならずに、あくまで一国の指導者として、合理的に考えて犠牲を抑える為に散ったの好きですね。
メリュ子から最大の賛辞を贈られるのも納得ですわ。
まあ全部、シャルティアが台無しにしたんですけど。これから、気に入ったロリショタをポケモンの如くゲットする気かこいつ?
>もう少し話し合ってから、と思ったディオだが、リスクを鑑みて敢えて譲った。
>磁力の指輪は絶対にイヤだ。
この辺のディオ君の心境、彼は彼なりに思う所があったのだなあ。
ドロテア、何だかんだであの大臣と仲良く飯食えて、客人扱いされるだけ有能。
地味に原作でシコウテイザー、フル強化した戦犯こいつなんですよね。
キウルを犠牲にしたのは胸糞悪いですが、中々侮れないキャラになってきましたね。
モクバ君、ブルーアイズの身を削るのをとても気に病んでますけど、乃亜編の社長がブルーアイズを手に入れようとした経緯を考えると割と本望だった気もしますが。
社長なんかGちゃんのカード破ってるんでね。
本人はどんどん曇っていくんでしょうけど。
>割り切れないのなら、括弧で括って俺を足せ
ナルトとエリス、良いコンビで好き。
我愛羅の処遇もお互いに話し合って理解深めてるし、中々頼もしいコンビかもしれない。
前話であんだけ険悪になったの、羽蛾が余計なこと言ったせいで、揉めたんですかね。
しかしナルト、こう見るとエリスの失言にも怒らないし、年下だと思ってたセリムの面倒見も良いし。
ほんと気の良い、頼りになる兄ちゃんだ。サスケさえ居なければ完璧な男。
>沙都子にマサオにセリム……あと一応サトシって奴も信用できそうか
沙都子以外全員死んでて、一番信用できねえ奴が残ってるの草。
>私は乃亜が大ッ嫌い。ルーデウスを…私の家族を、殺し合い何かに巻き込んで許せない
ここの台詞、一部の狂人マーダー以外の全員に当て嵌まる台詞で良いですね。
それでも切羽詰まって、乃亜に縋らなくちゃいけない人達に対する救済と希望にドラゴンボールがあって。
仮にも勇者のニケがそれ否定しちゃ駄目だろって言うのは、納得しかない。
空から降ってきたディオ君、枠的にはシータとかインデックスなんですよね。
ついでにシャルティアもやってくる。すげえヒロインばっか集まるじゃん。
ニケ、ほぼ毎回出会った女に牙向かれてるんですが……。
投下します
「なるほどな。もう一度確認するが。
イリヤスフィール、俺達にフリーレンと名乗ってた女はシャルティア・ブラッドフォールンと特徴が一致してるんだな?」
海馬コーポレーション、滅茶苦茶になったロビーから奥へ進んだところにある応接間。
日番谷冬獅郎、乾紗寿叶。そしてテーブルを挟んで。
「うん、多分服装からそうだと思う」
「僕達と最初出会った時も、大人しそうにしてたんだ。
確か、自分の武器と鎧を探してるとか……」
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと野比のび太。
「黒いドレスなら、間違いありませんよ。僕もシャルティアとは戦いましたし」
孫悟飯と結城美柑、そして美柑の頭の上にちょこんとケルベロスが鎮座して、その横でサファイアが浮遊しながら話を聞いていた。
金色の闇との交戦後、体力を回復させた悟飯達一行は、首輪解析や海馬乃亜の情報を求め海馬コーポレーションに向かっていた。
元々悟飯と美柑の方針は海馬コーポレーションに寄ってから、ケルベロスの主である木之本桜が行きそうなホグワーツ魔法魔術学園に行く予定だったのだ。
イリヤものび太も特に反対する理由もなく、サファイアもホグワーツに関心があり、計四人と一匹と一本のステッキは先に滞在していた日番谷達と遭遇した。
数時間前に日番谷と接触したシャルティアとはニアミスした形となり、かつ冷静に対話を試みた日番谷との話し合いで、その正体はすぐにマーダーであると判明した。
「さくらは、わいらとは反対の方角に行ってもうたんか…。
冬獅郎の坊主と、一緒に来てくれれば百人力やったんやが」
「俺はてめーより歳上だ」
「すまんすまん、坊主」
「わざとだろ!」
ケルベロスは腕組しながら考える。
さくらの無事が判明したのは良い事だ。星の杖も無事に本来の使い手の元に渡ったようで、自衛手段も得ている。
そして手元にあるさくらカードの種類によっては、最悪のケースも避けられる。
(悟飯の奴、やっぱおかしいで……)
見た目に反して、それなりに長生きしてきた年の功が為せたのだろう。
先ののび太が悟飯と二人っきりで話した場面、一見和解したかの様に見えた光景がずっと引っかかっていた。
ぎこちないのは分かるが、それとは別に疑心に満ちた視線。
『ケルベロスさん、悟飯さんの事なんですが……』
(きらきー……)
雪華綺晶が何かに気付きかけていた事も気になる。
もしもだが、悟飯が何かの拍子に暴れ出したりでもすれば止められる者は居ない。
その時に『眠』(スリープ)のカードで眠らせる事が出来れば、周りの被害もそして悟飯本人を殺さずして制圧できる。
ケルベロスが見た限り、悟飯が扱う気は魔力に近いが魔力とは別種の力だ。
恐らく、スリープへの耐性はない。
(せやけど……効かんかったら、さくらを危険な目に合わせることに違いあらへんし……。
効いてもいつまで続くか分からへん。
ほんま、どうしたらええんや)
月(ユエ)、スッピー、クロウ…ほんまに手が回らんて。マジで手伝ってくれや。
頭を掻きながら、ケルベロスはここにはいない相方達に心の中で語り掛ける。
「ねえ、紗寿叶さん……本当に、それは…美遊だったの?」
『しつこいようですが、もう一度お願いします。紗寿叶様』
イリヤは恐る恐る、別の返事を期待しながら声をあげる。
「ええ…間違いないわ。喋る杖に、イリヤさんのような魔法を使う女の子。
その美遊という子だと思う」
偽フリーレンこと、シャルティアの情報ではイリヤは殺し合いに乗っていた。
だが、それはお互いの対話によって嘘であることは証明されている。のび太も悟飯も美柑ですら、イリヤは殺し合いに乗っていないと擁護してくれたからだ。
日番谷も話を整理しながら、かつシャルティアに染み付いた人殺し特有の血の匂いから判断して、イリヤの方が信頼に値すると判断した。
だが、その友人である美遊・エーデルフェルトだけは別だ。
彼女だけは、明確に日番谷の目で小嶋元太を殺害する場面を目撃したのだから。
(理由はイリヤスフィールを生還させる為に、か……)
その行いを肯定する気はないが、美遊が殺し合いに乗ったのがこのイリヤを死なせたくなかったからなのだろう。
やりきれない気持ちになった。元太を殺した事は許せないが、ここまで美遊という少女を追い込み凶行に走らせたのは間違いなく乃亜だ。
「イリヤさん……」
『イリヤ様』
俯いて、目に涙を滲ませていたイリヤの背を、美柑が優しく撫でた。
友達が殺し合いに乗って、人を殺めてしまった。それを咎める事も、一緒に罪を償うことも出来ずに先立たれる。
イリヤは泣く事すら、許されないと思っているのだろう。必死に顔を見せないようにしていた。
どんな理由があっても、美遊がマーダーであることに変わりなく。日番谷達はその襲われた被害者なのだから。
「我慢…しなくて、良いと思うわ」
「紗寿叶さん……?」
「貴女にとっては、大事な友達なんでしょう?」
少し声を震わせながら、紗寿叶は言った。
本音を言えば、今でも美遊に対する恐怖はあるしイリヤにも怖さがある。
だけどこの瞬間、自分の前で泣くのを我慢しているただの女の子に。
『本当に…申し訳、ありません……姉さんと美遊様が……!』
「ごめん、なさ…い……私が、……美遊の…こと…ちゃんと……」
「……」
泣くなだなんて言えなかった。
「……ヤミとクロは僕が止めますよ」
「ご…悟飯!!?」
ケルベロスは思わず大きな声を張り上げてしまった。
マーダーに対して、殺意を抑えきれなかった男の言動とは思えなかったからだ。
だが先程までとは違って、悟飯の表情は少し穏やかさを取り戻していた。
「大事な人が…死ぬのは、辛いですから……。
ヤミとクロは何とか、殺さないように戦ってみます」
ロボットのおじさんやピッコロが死んだ時の辛さは今でも鮮明に思い出せる。
あの時ほど怒りや悲しみ、そして自分の無力さを呪ったことはない。
そして……
「う…うん……」
「悟飯君…」
「だから…その、日番谷さんとイリヤさん……いや、皆の力を貸してくれませんか?」
『正しいことのために た…戦うことは罪ではない…』
セルとの戦いで、命を賭して戦うことの意味を説いてくれた16号。
殺し合いに巻き込まれてからは、ずっと戦う時頭に血が上り続けていたが。
これからは、16号の言っていたような力の使い方を心がけていかなければいけないのかもしれない。
『スネ夫のために怒ってくれて、ありがとう』
色々と疑り深くなった自覚が悟飯にもあったが、それでものび太のあの一言が何処かで救いになってくれていた。
「沙都子さん達も……お願いします」
何より、北条沙都子が来てくれたのがありがたかった。
「ええ、勿論。当然のことですわ」
日番谷という自分よりも年上で、戦力にもなって頼りになる戦士と。
沙都子という信頼を置ける人物との再合流は、悟飯のこれまでのストレスを比較的最小限に留めるプラスの方向へと働いていたのだった。
───
───計算外でしたわね。
孫悟空と別れて以降、沙都子は悟飯を発症させるという計画を遂行する為に行動を開始していた。
先ずはカオスの変身を解かせる。これは、一度悟飯はメリュジーヌと接触し、その気という概念に触れた可能性が高いからだ。
特別、悟空がそういう気配に敏感なだけかもしれないが、念は入れた方が良い。
カオスは悟空達以外には、素の姿を晒していない。マーダーとバレる可能性は低い。
同じく、姿を知られている絶望王という不確定要素はあったが、どちらにせよ悟飯にばれる要素を潰した方が良い。
今の悟飯は雛見沢症候群に感染し、症状が進んでいれば既に疑心暗鬼に駆られている。
偽の情報や悪評を撒いて、それがまた翻った時に悟飯の矛先がこちらに向けられると、対処法がない。
ここはカオスの容姿を偽らず、自分の仲間だと真実を織り交ぜて接触した方がリスクを避けられる。
問題はメリュジーヌと再合流してから、計画を始動しようとしていたのに、当のメリュジーヌが居ないということだ。
「あはははははははははははははははは!!!」
代わりに暴風雨のように現れたのは、白髪の少年。
高笑いと共に、出会い頭に銃弾を数百発叩き込んできたイカれた男だった。
「ウォルフガング・シュライバー……!!」
忌々しく沙都子は叫ぶ。
悟飯との初接触時に話は聞いていたが、予想以上の狂いっぷりだ。
唐突に現れ、自らを不死の英雄だの黄金の爪牙だのカルトの信者の如く絵空事を一方的に述べて、一方的に襲い掛かってきたのだから。
「いーじす!!」
シールドを展開しながら、シュライバーの撃ち付ける魔弾にカオスは眉を歪ませる。
一発一発は大した武装じゃないが、それらが数百発もラグもなく連続で放たれれば膨大な質量となって強力な威力を齎す。
「ノロマがッ!!」
「ッ、ぅ…!?」
それだけじゃない。あんな銃に頼らずとも、本体が異常なまでに強く、そして速い。
マッハ規模の速さを誇るカオスすら見切れない速度でシュライバーは縦横無尽に駆け巡る。
信じられないが、あのメリュジーヌよりも速いのではないか。
そんな神速を乗せたシュライバーの突貫は、イージスを軋ませていく。
一秒の間に数十回以上の突貫が打ち込まれ、ただでさえ半壊していたイージスはより亀裂を刻み大破へと近づいていく。
「貴方……殺し合いに乗っているんですわよね……。お互い目的は一致してますわ。
ここは……」
「ごちゃごちゃうっさいんだよォ!! 薄汚い劣等がぁ!!」
轟音とシュライバーの罵声に沙都子の声は掻き消される。
「人の話くらい、最後まで聞きなさいよォ!!」
最悪だった。普段の、お嬢様口調すら投げ捨てる程に。
沙都子にとって一番出会いたくない、最悪の敵だ。
純粋に戦力でこちらを上回り、人の話を一切効かない馬鹿。
こうなっては、もう沙都子に手の打ちようはない。
「おねえ…ちゃ、ん……!?」
イージスは最早限界を迎えていた。
カオスの持つ武装も大半は悟空と絶望王に粉砕されており、イージスも失えば沙都子を守る手立てはない。
なんで、わたしばかりこんな化け物連中とばかり戦わせられるの? 幼いカオスの中で理不尽だという抗議が初めて生まれ、乃亜に何か言ってやりたくなった。
「使う…しか……」
悩んでいる暇はなかった。イージスがまだ辛うじて効果を持つ今しかない。
「素粒子ジャミングシステム……Aphrodite展開───」
カオス自前の武装は殆ど残っていないが、一つだけまだ切札は残されていた。
カオスに支給された支給品の一つ。ただ、使い方が分からなかった
だから、使い方を考えてシュライバーを見て気付いた。
聖遺物の本領をはっきする使い方を。
ランドセルから繰り出したその兵器の名は、砲の制御のみで1400人もの人員を必要とするとされた、ドーラ列車砲。黒円卓内でも文字通り、最大の聖遺物。
武器として使うにはあまりも巨大すぎて、とても運用など不可能なサイズ。
「まさか、ザミエルの……?」
今まで、蔑んだ顔で笑みを絶やさなかったシュライバーが驚嘆に染まる。
同時にそれは怒りも伴っていた。
まさか、よりにもよって三隊長の内一人がこんな島へ拉致され、もう一人が己の命にも等しい聖遺物を持ち去られるという大失態を犯すなど……!
「ふざけるなよ。三騎士が、二人揃って何て様だ」
この聖遺物という武器はそのままでも使うことは出来るが、でもそれだけじゃとても悟空達には通じない。
そもそも、1400人用意するなんて無理だ。
だからどうすればいいか。ヒントはシュライバーにあった。
カオスに支給されたこの聖遺物とシュライバーの纏う生体反応は僅かだが、似通っていた。
恐らく、何らかの方法でシュライバーは聖遺物を自らの身に取り込んでいる。
どういう方法かまでは分からなかったが、そういう使い方をすることで聖遺物の真価を発揮させるという手段を知れたのは大きい。
聖遺物は乃亜に調整され、単体でも一定の力の行使は可能となっている。
だからこそ、条河麻耶も水銀燈も乃亜が調整した範疇でその力の一端を振るう事は出来ても、その本領を発揮することは叶わなかった。
しかし、例外は何事も存在する。
シナプスの最高科学者の一人、ダイダロスが生み出した電子戦用エンジェロイドタイプβ、ニンフならば。
Pandoraによって自己進化を果たしたニンフならば。
聖遺物へのプロテクトを破り、ハッキングを仕掛ける事も叶うだろう。
そして、そのニンフを模して作られたメランを食べたカオスにも同じことが出来る。
メルクリウスが施した魔人錬成を用いずに、別の術理による聖遺物へのアクセス。
元より手法の違いはあれど、カオスが聖遺物を取り込む条件は満たしている。
魔人となるにはまず超人であらねばならない。
カオスは人ではない。
基準を底辺に合せていない。
少なくとも、元の世界に於いて最強のエンジェロイドは、このカオスを置いて他には居ない。
仮にニンフでは聖遺物にハッキングを仕掛け、だが取り込もうにも耐え切れなかっただろう外殻も。
カオスはニンフとは桁違いの外殻を有し耐えられる。
空の女王(ウラヌスクイーン)にも匹敵、いやそれすら上回ろうという強靭な外殻が。
「極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)!!」
故に、この結果は当然の帰結として発露した。
この島に来る前に捕食した水中戦闘用エンジェロイドタイプη(イータ)セイレーンと戦略エンジェロイドタイプθ(シータ)イカロス=メラン。
そしてニンフとアストレアを模したメラン達の魂を燃料に変えて───。
「ッ、───!!」
周囲一帯を包み込む巨大な火球が顕現する。
一瞬にして大地を蒸発させ、イージスの盾が熱に負け砕け散る。カオスは後ろの沙都子を抱き抱えたまま一気にマッハを超えた速度で飛行する。
シュライバーの力の詳細は知らないが、スピードに長けたのは分かっていた。だから行き場を一気に失くすほどの灼熱を打ち込めば、一気に距離を空けるだろう。
更に炎の閃光によって、視界を一時的にでも阻害すれば逃げる隙にはなる。
灼熱が収まった時には、既にカオスと沙都子の姿は消失していた。
───
「恐ろしい方でしたわ。とても…カオスさんが居なければ、きっと……」
シュライバーの襲撃を受けた事で、メリュジーヌとの合流を後回しにせざるを得なくなってしまった。
メリュジーヌは急に連絡が取れなくなり、居場所も不明。
対して悟飯はカオスのセンサーで発見し、居場所も大体の検討が付く。
ただ、生体反応の検知にも制限がされているようで、カオス曰くあと数分で反応が途絶え、暫く長距離での再使用は出来ないらしい。
悟飯の発症には、メリュジーヌに居合わせて欲しかった。悟飯の狂乱時に、ボディーガードとして頼りになるのはメリュジーヌだ。
だが、シュライバーに襲われ、しかも倒せたわけでもない。
あの速さなら、カオスの一撃を避けて、その気になればすぐに追い付かれる。
二戦目に持ち込んだとして、カオスの先の攻撃が再度通用するかは微妙な所だ。
それならば、止むを得ないが当面の対シュライバーの肉盾として、居場所の分からないメリュジーヌより悟飯の庇護下に入る方が安全だった。
案の定、まだ悟飯は美柑と行動しており、数人見ない顔も居たが沙都子が対主催だと話してくれたようだ。
根っからの善人が揃っているのもあったが、すぐに沙都子とカオスに好意的に接してくれている。
悟飯も疑心暗鬼になってはいるが、L3相当での発症だとすぐに分かった。
雛見沢症候群による暴走はもう少し先の話で、当面はシュライバーの盾に使える。
『メリュジーヌさんは…青いコートを着た男に襲われた時に逸れてしまいまして』
メリュジーヌ不在の理由は絶望王に擦り付けておいた。
本人はマーダーと言っていたし、海馬コーポレーション周辺の参加者とは面識はなさそうだ。
後から露呈する事も早々ないだろう。
「しゅ…シュライバーのやつ……!」
拳をわなわなと震わせながら、悔しそうにする悟飯。
(この沙都子と会ってから、大分落ち着いてるみたいやけど……)
ケルベロスは一瞬、また暴走するのではと思ったが、悟飯はそのままじっとしていた。
やはり訳が分からない。
性格の問題なのか、外的な要因があるのか。まるで判別できないのだ。
(想像以上に私を信じて下さっているようですわね)
沙都子は信頼の比重が、大分こちらに偏っているのを確信する。
余程、このチーム内でぎくしゃくしていたようだ。
これは丁度いい傾向だ。メリュジーヌと再合流出来次第、今度は悟飯をL5まで引き上げて、悟空と潰し合わせるように誘導する。
それまではシュライバー避けとして、存分に利用させて貰う。
(そして、頃合いを見て悟飯さんには……)
いずれ、カルデアに集まるであろう対主催達は全員死んで貰う。
そう沙都子は誰にも悟られぬよう、内心ほくそ笑んだ。
(とはいえ、今は焦る時ではありませんわ。悟飯さんが何を疑っているのか、丁寧に見極め惨劇をカルデアへ拡大させるよう誘導する。
ええ、大丈夫…ツキは私に───)
耳が張り裂けそうな程の轟音がロビーの方から轟く。
「お…お前は……」
そして、真っ先に悟飯が飛び出して行く。何が来たのか誰よりも先に分かったのだろう。
粉塵の中、揺らめく人影を悟飯は注視する。
「おや、誰かと思えば」
悟飯が怒りと闘志を燃やし、睨み付けている少年。
沙都子はあとから部屋を出て、そして絶句した。
(じょ…冗談じゃありませんわ!!)
よりにもよって、一度撒いた筈のシュライバーがそこにいた。
隣のエリアとはいえ、こうもピンポイントで沙都子を追いかけるように現れるとは。
(いえ落ち着きなさい。まだ焦る時ではありませんわ)
嫌な偶然だったが、だが沙都子はすぐに平静さを取り戻す。
シュライバーは脅威だが、現在の沙都子側の戦力は過剰なくらいだ。
「日番谷隊長に、ザミエルの聖遺物を盗んだ天使…あと君は……ゾーネンキントみたいなものか」
シュライバーにとって、全てに事象など等しく劣等にしか写らない。
だが、イリヤに対しては一際興味深く、刺すような視線を送る。
「なに? ぞーねん……」
「ふーん、何かを産み落とす為の人形かな?
ま、その機能も大分劣化してるようだし、ガラクタだね。
劣等以下の人擬きの出来損ないってとこか」
「な、っ……?」
ただその興味は一瞬で、ゴミを見るような侮蔑へと変貌した。
己が託された役目も果たせぬ欠陥品であると。
少女が両親から託された想いなど、想像もしないまま。
「……ここで、みんなの仇を取ってやる!!」
「…………で。君さ、何やってんの」
「何?」
戦意を高ぶらせる悟飯とは対照的に、シュライバーの表情は徐々に冷めていった。
「毒盛られただろ? 君、死相が出てるよ」
「な、何を……」
「毒というか、寄生虫かな? 頭に異常が出てるね。脳みそがおかしくなってる。
完全にビョーキだよ、君。
怒りやすくなったり、疑い深くなっているんじゃない?
あとはリンパだ。君、ずっと首に違和感あるだろ。
その様子だと、日付が変わらない内に、正気失って自分で首掻いて死ぬよ」
一目で、悟飯が陥っている不具合を言い当てた。
(な…何故、この方……見ただけで!?)
動揺する悟飯の背後で沙都子は狼狽える。
表面上に出さないよう、とぼけた演技は欠かさないが。気を抜けば、素の声で何故と零してしまいそうなほどだ。
「沙都子さん?」
のび太が心配そうに声を掛けてくる。
「い…いえ…ごめんなさい。怖くなって……」
内心で舌打ちしながら、適当な言い訳を口にして表情を悟られぬように顔を背ける。
不味い。
シュライバーは一切の交渉が通じず、また無視できる強さではない上に。
狂気と高い洞察力が同居しているのだ。
つまるとこ、沙都子の策謀を簡単に看過し、また何の気兼ねなくあっさりと暴露し全てを無に帰す事が出来てしまう。
こいつは、絶望王と並び沙都子にとって最悪の天敵だ。
「懐かしいなあ、昔は君みたいに脳みそおかしくして、肉体の限界を狂わせたのが何人か居たんだけどさ」
「…で…でたらめを……くっ…」
悟飯は何か言い返そうとして、呻き声しか出なかった。
普段以上に感情的になりやすいというのは自他共に認める異状だ。
さらに、首も先程からずっと痒い気がしていた。
「みんな、死んじゃった」
それを的確にシュライバーは見抜いたのだ。
「あーあ、それにしたって白けさせるなよ。こう見えて、君の事は高く評価していたんだ。
ハイドリヒ卿は別格として、ザミエル、マキナの二人意外に僕がここまで言うなんて君ぐらいなものだよ。
ああ、もうザミエルは駄目だった。彼女には失望したんだったよ。聖遺物を取られるなんて、間抜けにも程がある。
それはそうと、やってくれたね……。君とは全力を引き出して、決着を着けてやりたかったのに」
そう言って、シュライバーは全員を一瞥し、沙都子と視点が交差した。
(まさか……)
シュライバーの口許が釣り上がる。
この落とし前、どうつけてくれるんだ。
目線だけだが、シュライバーの意図は伝わってきた。
恐るべき洞察力で、ほんの一瞬狼狽えただけの沙都子を見て、シュライバーは誰が悟飯に毒を盛ったのか特定したのだ。
「良い事教えてあげるよ」
恐るべき速さで。
悟飯の隣に並び、耳元で小さく囁く。
「悟飯君、毒を盛った奴はこの中に居る」
「な…なん……だと……?」
どうして……? 毒、なんで僕が……。
そんなこと、シュライバーの妄言だ。そう切って捨てられたら、どれだけ楽だったか。
だけど、そう信じられない位には。
『ニンフの事だけじゃない。リップだって……きっと生きたいってそう思ってたよ』
『悟飯君が…………』
『うん、悟飯君も……』
『そう、だね…うん、僕も、悟飯君は…………』
『ひっ、来ないでっ……!』
「あ、ぁ…ぁッ、ぁぁ……」
悟飯は孤立していた。
だから、絶対にありえないとは断言しきれない。
(ぼ…僕が一番、危ない目にあって戦い続けていたんだ……! そりゃ、戦う事は嫌いじゃないけど、あんな殺し合い…い…嫌だよ……)
お互い思いっきり後腐れなく戦うなら、悟飯だって好きな方だ。父親の悟空程じゃないが。
強くなれた事に達成感もあるし、学者という夢がなければ武道家になるのも悪くなかったと思う。
あくまで、スポーツとして試合の範疇であればだ。
『僕は遊佐司狼に敵討ちをしたいんだよ。だから、アンナが生きていたら駄目だろ? いい? か・た・き・う・ちっ!
アンナが生きてたらカタキにならないだろォォォ!!』
『とても強くて、度胸もあって、勇敢な貴方に敬意を表して―――甘美な絶望に沈めて、殺してあげる』
(こ…怖かったんだ……。しゅ…シュライバーはセルよりも話が通じないし、く…黒ドレスの女は、気味悪いし…)
『──そんなに死にたいなら望み通り殺してやるッ!!』
(しゃ…シャルティアはずっと、ずっと…! ぼ…僕に怒り続けていて……!!
あんな、あんな風に睨まれて…い…生きた心地がしなかったし……)
『ぶ、ぐ、ェェああああああ……ッ!』
(そ…それに……い…嫌だったんだ……よ…弱い者虐めしてるみたいで…あの時は怒りで一杯になったけど…あいつは、悪い奴だけど、こ…殺すのは、やっぱり嫌だよ)
『さっきまで命乞いをしていた子の断末魔の響きや、肉を引き裂いた時に浴びる真っ赤で温かいシャワーが大好きよ?』
(ぐ…グレーテルなんか、何考えてるか意味が分からない。な…何なんだよ…あ…あいつ、き…気持ち悪いよ……)
『なんだか、貴方って……とっても弱い』
(や…ヤミなんて……こ…殺されるかと、本気で思ったんだ……!!
それでも、が…我慢して……ぼ…僕は頑張ったんだ。全部上手くいった訳じゃない。ヤミに負けたり、ニンフさんを死なせてしまったり…し…失敗したことはあったけど……だ…だからって……!!
こ…こんなことッ……!!!)
自分は強かったから、だから皆を守らなきゃいけないと思った。
したくもない戦いをずっとここまでしてきたのに。
誰かに裏切られてしまった。
(だ…誰、なんだ……。美柑さんか? あ…ありえるぞ……。僕の事を、こ…怖がっていた……。
い…イリヤさんも、怪しくないか? 変な魔法を使って、僕に毒を……。
そ…それに友達が…こ…殺し合いに乗っていたんだ……。ひ…日番谷さんと紗寿叶さんの仲間を殺したような奴だ……。 し…信じていいのか…。
だ…だって、のび太さんが一人で僕の元に来た時、彼女はずっと見ていた……。
僕に毒を盛って、のび太君を仕掛けて、正気を更に奪う気だったんじゃ。
いや、の…のび太さんも怪しい……。に…ニンフさんの仇を…う…討とうと、してるんじゃ……!!)
まだ普通に毒を盛るならともかく、シュライバーの言っていることが本当なら。
このまま、正気を失い自分で首を引き裂いて死んでしまうんだ。
悟飯にとって、あまりにも重い事実に体はわなわなと震えていた。
(ど…ドラゴンボールで、ぼ…僕は生き返れるのか……?)
ドラゴンボールは、寿命による死までは覆せない。
今、自分が犯されている毒とやらも、これはどういう扱いになるんだ?
悟飯には判別が付かない。殺人扱いになれば、生き返れそうだが、果たしてそう上手くいくのか。
未来のトランクスが言うには、その世界の孫悟空は心臓病で死んだらしい。
一度、ラディッツとの戦闘で死に生き返った為に、ドラゴンボールで蘇れなかったのか。
あるいは、病死が寿命扱いで無理だったのか。
そもそも、神龍は病気を治せるのか? いや、分からない。
治せても、悟空のウィルス性の心臓病は非常に突発的で、急な事にドラゴンボール集めが間に合わなかったのかもしれない。
考えられる要素はいくつもあるが、一つだけ言えるのは、病死した悟空は二度と現世には戻らず、絶望の世界を迎えてしまった。
結論から言えば、少なくとも神龍は病気を治す事は可能だ。
悟空と復活したフリーザと17号が、孤高にして最強の戦士ジレンを撃破し、宇宙を救ったとある世界線では、悟飯の未来の娘であるパンの風邪を、神龍は治していた。
少なくとも病を治す願いは叶えられる。
あるいは、人知を超えた病として神龍の手に負えない場合もあるかもしれないが。
だが、だとしても恐らく、ドラゴンボールによる蘇生の対象にはなる。
あくまで寿命による死、この場合ナメック星の最長老の老衰が当て嵌まる事であり、雛見沢症候群による病死は、寿命の扱いではない可能性が高い。
むしろ結果的に首を掻き毟って死ぬのなら、経緯はともかくそれは自殺であり、ドラゴンボールで復活可能な範疇だ。
つまり、肉体の老化による寿命を迎えた死ではない。
だがそんなこと、今の悟飯に分かる筈がない。何より論理的に物事を考えられる余裕がない。
ドラゴンボールの性能と、雛見沢症候群の正確な病状を知る者がいれば、これらの推察に行き付いた筈なのだが。
別世界の二つの事象を、正確に把握出来る者など海馬乃亜しかこの島には存在しない。
(そ…そんな……こ…ここまで…頑張って来たのに…ぼ…僕は……これから先、く…苦しんで……し…死ぬのか……?
は…発狂して……首を…む…毟って……?)
何もかもが急に嫌になってきてしまった。
同時に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。こいつら全員、殺してしまって良いんじゃないか。
そんな八つ当たりのような、いや正当な怒りが悟飯を支配しかける。
「悟飯!」
「悟飯君!」
日番谷とのび太の叫び声で悟飯は、我に返り───
「ちょっとは、やる気出してくれないかなァ!!」
その瞬間、悟飯の鳩尾にシュライバーの靴底が突き刺さる。
強烈な吐き気と衝撃を覚え、そのまま悟飯は後方へ吹き飛んでいく。
「どうせ死ぬなら、ここで決着着けようよ。
お互い、本気は出せないが仕方ない。君の生首持って…名簿にあった悟空とかいうのは、君の兄弟だろ?
代わりに、その孫悟空と遊ぶことにするからさ」
攻撃を受けたというのに、悟飯にはまるで危機感がなかった。
全て他人事のような気がしてきたのだ。
「どうしても、やる気が出ないなら。その気にさせてあげるよ」
意地悪そうに、シュライバーは満面の笑みのまま急速に翻る。
「ここに居る奴等全員殺せば、少しはその気になるだろ?」
「ふざ……っ」
冷水を頭から掛けられたように頭が真っ青になる。
やはり、こいつは頭がおかしい。
自分がやらなければ、皆殺されてしまう。
「やめ、ぐっ…!」
シュライバーを止めようとして、鳩尾が痛んだ。
痛みに気を取られ一秒ほど、立ち上がるのが遅れる。その遅れは、シュライバーと一度戦った悟飯だからこそ、致命的なラグだと分かっていた。
悟飯の視界から、シュライバーが消える。悟飯ですら目視出来ぬ程の速さで、駆け回っているのだ。
「霜天に坐せ───」
「ッ!」
「氷輪丸!!」
海馬コーポレーションのロビー内の空間が吹雪の舞う雪山のように冷え、シュライバーは停止し姿を見せる。
速い。シュライバーからして、日番谷の凍結能力は目を張るものがある。
縦横無尽に駆け回るシュライバーを包囲するように、四方八方に鋭利な氷山が生成されていた。
「じゃあ先ずは君からだ! 日番谷隊長!!」
借りがあるのは、何も悟飯だけじゃない。
日番谷を殺して、その後天使と出来損ないのガラクタ人形(イリヤ)を壊して。
取るに足らない劣等共を皆殺しにすれば、悟飯もやる気になって多少は歯ごたえのある戦争を楽しめるだろう。
「相変わらず、大した天候操作だけど───」
遅いんだよ。
一秒も経たず、氷の刃がシュライバーを串刺しにするのだろう。
十分すぎる時間だ。
その前に日番谷を轢き殺せば、もうそれで終わりだ。
あの卍解という位階ならば、流石にシュライバーでも速さが足りないが。
それも制限され、現状は使用出来ないらしい。
ならば、活動位階のシュライバーでも余裕で日番谷を殺害する時間がある。
凍り付くような冷気を肌で感じ、日番谷の臓物の温かみを想像するだけで絶頂する程の快楽を予想させた。
フェイントなどなく、一直線に突っ込み衝撃波(ソニックブーム)を発生させながら日番谷へと肉薄する。
何を企てていようと全て轍に変えて、日番谷諸共葬り去ってやる。
「ハッ───」
日番谷の目の前に、突如としてピンクのドアが出現したのだ。そしてそのドアの先、拡がるのは日の光に照らしつけられた大海であった。
空間を歪め、物理的な距離をすっ飛ばし目的地へと繋げる未来技術の結晶。どこでもドア。
減速し止まることも、急旋回することも叶う。だが、周囲には日番谷の氷が放たれシュライバーへと包囲し、迫ってきている。
つまるところ、日番谷は最初から戦闘をしようだなんて考えていない。行き場を塞ぎ、進行方向を誘導し、この場から遠ざかった場所へと追放する。それが目的だったのだ。
だが、それがなんだ。
グランシャリオを引き抜き、氷の中を一点突破し離脱すれば良いだけの話。
自ら、攻撃を当てるのであれば、誰にも触れられたくないという渇望の矛盾にはならない。
「……ッ!!?」
強い殺意を持った疾走は、困惑と驚嘆という不純物を交えて濁る。
迫る氷の中心で。
眼前に炎が迫る。
カオスが取り込んだ、極大火砲・狩猟の魔王の炎だ。
氷か炎、どちらか一つならば、対処出来たが両方では。
どちらか一つを突破しても、もう一つが被弾する。
無論、被弾したところで、何の問題もなく。
18万以上の魂を取り込んだ場合の本来の霊的強度を鑑みれば、さしたダメージにもならないが。
接触を忌み嫌う渇望がそうはさせない。
シュライバーは回避を優先させ、どこでもドアへと突っ込んだ。その瞬間、扉は閉じられてシュライバーの背後にあったドアは消失する。
完全に海馬コーポレーションとの空間の?がりは断ち切られ、シュライバーは大海へと放り出されていった。
「敗北主義者の劣等共が!」
海面に触れた瞬間、沈むより先に蹴り上げる。
そのまま海上をシュライバーは駆けて行く。
水の上を飲まれずに、走ることなど黒円卓の魔人であれば造作もない。
団員の中でも遥かに格下の櫻井螢はおろか、エイヴィヒカイトを会得して日が浅い藤井蓮も誰に教わるでもなくやれたこと。
「どいつもこいつも! 気持ちよく、戦争をさせろよッ!!!」
腹が立つ。大事な時にこんな場所へ拉致られた自分もだが、聖遺物をパクられた三騎士の恥晒しのザミエルも、戦いから逃げる劣等共も。
面倒な制限など施して、殺し合いだのほざく乃亜も。
全て全員皆殺しだ。
これほどの殺意を滾らせて、未だに10人も殺せていない。
「……孫悟空ね」
漠然とだが力が戻りつつあるのを感じていく。
この島の中であれば、自分に匹敵し得ると考えていた孫悟飯。
あの男だけは、この殺し合いで特別視して良いほどの実力者だったが。あれはもう駄目だ。
既にシュライバーの頭の中から、顔すら薄れる程に端に追いやられていく。
「君はもう少し歯応えがあると良いんだが」
代わりに、あの少年の兄弟と思わしき名簿にあった名前。
孫悟空に興味がわく。
壊れた悟飯への、リターンマッチ代わりとしては最適だろう。
悟飯と同程度の実力者であれば、シュライバーとて油断は出来ないが。
シュライバーも形成が戻れば、十分に対抗できる。
元より誰にも後れを取る気はないが、せめて形成ぐらい使える闘争でなければ楽しめない。
「それに…あの娘の敵討ちも楽しみだねぇ……」
人を踊り食いし、シュライバーを楽しませてくれたデカブツの少女。
シャーロット・リンリンもそろそろシュライバーに挑んでくる頃だろう。
玩具はまだ沢山残っていた。
「フフフ…あははははははははははははは!!!」
悪魔のような嘲笑が海上で響き渡る。
狂乱の白騎士が再上陸するまで、残り数分もない。
【A-4 海上/1日目/昼】
【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、
欲求不満(大)、イライラ
[装備]:モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
0:銃を探す。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着けるつもりだったんだけどねぇ。代わりに、兄弟っぽい孫悟空でもいいか。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
4:ガッシュ、一姫、さくら、ガムテ、無惨、沙都子、カオス、日番谷は必ず殺す。
5:ザミエルには失望したよ。
6:他にないとは思うけど、黒円卓の聖遺物を持っている連中は、更に優先して皆殺しにする。
7:孫悟空、でかい女(シャーロット・リンリン)を見つけ出し、喧嘩を売って殺す。
8:ここ何処?
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
シュライバーとの再戦時、卍解が使えない時の事を考えて日番谷が用意していた戦術だった。
紗寿叶を庇いながら、交戦になれば次こそは守り切れない。
故に倒すのではなく、先送りになるが別の場所へと強制的に移動させる。
シュライバーは防御を全て回避に依存している。理由は分からないが、本人が防ぐといった行為をまるでしない。
それならば、元から当てる気のない攻撃を全方位に展開し、シュライバーの行動範囲を狭めて、次の移動先を誘導させるのは難しくない。
後は支給されたどこでもドアで、遠い場所へと送り込めば良い。
人の居なさそうなエリアに送ったつもりだが。出来れば、別の参加者と接触しないでいてくれることを願うばかりだ。
(だが、二度は通じねえな)
どこでもドアは一度の使用で12時間再使用不可で、仮に何回も仕えたとして同じ戦術がシュライバーに通じるとは思えない。
今回もカオスの援護で、辛うじて撃退できたと見ていい。
「悟飯君……」
のび太は、項垂れている悟飯を見つめている。
何か声を掛けてあげたいが、何を言ってあげれば良いのか分からない。
「あ…あんな奴の言う事……」
「く…首が、痒い気がしてたんだ。しゅ…シュライバーの言っていた事と…お…同じだよ……」
本当に悟飯が毒とやらに犯されているのなら、これまでの不自然な行動や激昂も分かる。
「信じられないよ、そんなの…だって……」
「野比」
否定しようとするのび太を、日番谷は肩に手を置いて止める。
殺人に精通するからこそ、人体にも明るい者達は少なからずいる。
ある意味では、最も人間と言う存在と向き合い経験として知識を蓄えて来た者達だ。
シュライバーであれば、その数は平気で万を超えるのは予想がつく。
だから、結論として言葉には出さないが、信憑性は低くない。
それが日番谷の見解だ。
実際に日番谷も恐らく詳細は知らないだろうが、近しい者達は身近に居た。
尸魂界一の戦闘狂、更木剣八は戦いを楽しむため、相手をすぐに殺さないように手加減する癖がある。
それは、人をより多く切り続けていた剣八ならではの、経験から行える技量ともいえる。
何処をどう斬れば死にやすく、また殺し辛いか斬り合いの中で把握していったのだろう。
元十三番隊隊長、卯ノ花烈は医療に長けた死神だが、初代剣八として名を馳せた剣客だ。
やはり、斬った数は現在の剣八に勝るとも劣らない。
そして十三番隊の隊長を務めた程だ。医療の腕も高い。
殺した数だけ、人を救う術にも精通していったのだ。
彼らに共通するのは、方向性は別として殺しに長けている事。
誰よりも気安く人に触れ続け、壊し続けたからこそ、壊した物に詳しくなる。
実際にシュライバーはこの島に来る前、遊佐司狼の身体異常を見抜くといった、医者顔負けの的確な診断を下している。
「……のび太さん」
『のび太様、気持ちは分かりますが』
「せや、のび太…」
イリヤとサファイアもまた、自分達の事情について簡単に見抜かれた。
シュライバーの洞察力と直感は機械のように正確だ。
「ひ…一人に……さ…させてくれませんか……」
「悟飯君…あの……」
美柑はそっと声を掛ける。
「だ…大丈夫、です……」
「……」
少し前なら、怖がって距離を置こうとしたと思うが。あんなことを言われた後じゃ、何か力になってあげないととも思う。
でも、最初のぎくしゃくした関係から、悟飯にどんな言葉を掛けてあげればいいか。既に距離が空き過ぎてしまった。
それが嘘でも、大丈夫と言われたら美柑は何も言ってあげられない。
(どうしたら、いいの…それに毒なら…誰かが悟飯君に盛ったんだよね……)
毒の知識には疎いが、混ぜるタイミングなら誰にでもあった気がする。
あの不死身のゴスロリの女の子も、戦いの中でさり気なく毒を注射するなんてやれるかもしれないし。
シュライバーだって、同じようにやってもおかしくない。それで、さも自分は関係ないと言わんばかりに、悟飯を追い詰めるとか。
少なくとも、美柑からしたらそういうことをしそうな悪辣さだと思った。
それ以外にも、沙都子がレモンティーを淹れたのもだし、悟飯が口にする物にこっそり毒を入れるなんて自分も含めて少しでも同行してたイリヤ、のび太、ケルベロス、誰でも出来る。
ランドセルを置いて、シャワーを浴びた事だってあった。
正直、信じられなかった。
あのシュライバーという人物が、嘘を言ってる方が納得してしまう。
(分からないよ…もし、毒でおかしくなったとして……それはいつからなの?)
美柑はあのスーパーサイヤ人と呼ばれる金髪になる変身が、もしかして悟飯に悪影響があってそれで気性が荒くなるんじゃないか。
そんな風に考えてもいた。
悟飯には申し訳ないが、本当に最初のシュライバーとの戦闘で激昂してからずっと、様子が変だったと言わざるを得ない。
だから、何処からが毒の影響なのか全く区別がつかない。
沙都子との邂逅から、どんどん本来の悟飯とは別の異常さで、情緒不安定になった事に気付けない。
恐らく、一番真実に近いからこそ。
最もこの島で間近に悟飯を見ていたらこそ。
真実から遠のいてしまっていた。
「……ああ、分かった」
仮に悟飯が特殊な毒を盛られたとしても、日番谷には治す当てはある。涅マユリか浦原喜助ならば、何らかの解毒薬を開発できるはずだ。
ただ、それは殺し合いから抜け出せればの話、この島からは二人に連絡も取れない。
シュライバーの言っていることが事実であれば、リミットは残り半日。
とてもじゃないが、悟飯を治してやれる時間はない。
精神的な負荷が症状の起爆剤となるなら、それを和らげれば、ある程度は病状は抑えられる筈だが、殺し合いなんて極限下で何処までそんなことができるか。
だから、それ以上は何も言えない。
希望的観測など、気休めにもならないからだ。
「だが、あんま時間は取れねえ。シュライバーが戻ってくる可能性もある。
準備が整ったら、すぐにここを発つつもりでいてくれ」
「はい……」
一人にすべきではないのだろうが、精神的な負荷が死に直結するのなら。
落ち着ける時間も取らせなくてはならなかった。
少なくとも、悟飯の霊圧の大きさならば、一人になったところを奇襲を受けて殺されることはないはずだ。
「ねえ、日番谷君…あの」
「……かなり不味いな」
紗寿叶の問いに、日番谷は短くこれ以上ない言葉で答えた。
悟飯の精神は限界だ。何をきっかけに、崩壊するか分かったものじゃない。
(残り半日で、ここから脱出して乃亜を倒し、浦原か涅に頼る……無理だ)
やはり時間の問題を解消できない。
(乃亜の奴なら、この毒の解毒方法も分かるか? だが、どうやって……奴に接触し情報を引き出す?
クソッ…駄目だ、何にしたってこのままじゃ無理だ)
やはり悟飯には酷だが、今は希望を信じて行動するしかない。
霊圧を測るだけでも、その強さは分かる。力だけなら、最強という言葉がふさわしい。
護廷十三隊どころか、飛び越えて零番隊にでもスカウトされそうなほどの逸材だが、まだ幼い10歳前後の子供だ。
そんな子供にこれ以上、負担も掛けさせたくなければ、出来れば死なせたくもないが。
(もう一つ厄介なのが、この島に悟飯に毒を盛った奴が確かに何処かに居るんだ。
あいつは何時毒を盛られたんだ?
今この中で考えれば…一番、引っかかるのは北条だが)
霊圧の観点で言えば、沙都子から感知した気配に違和感がある。
虚(ホロウ)と似た性質、リルトット・ランパードが沙都子を見た時と同じ違和感だ。
沙都子に一度聞いてみたが、本人曰く故郷の村が迷信深い地域で、きっとそこの土着神であるオヤシロ様が付いてきたのかもしれない等と冗談ぽく言っていた。
(だが…それと北条が、毒を盛った犯人だという話にはならない。
他の連中もそんなことをやる理由がねえ)
毒殺するにしても、悟飯の庇護下に居た方が安全そうな者達しかいない。
いくら優勝を目指すにしても、早計過ぎるだろう。
(シュライバーも疑心暗鬼になり発狂して死ぬとは言いましたが…雛見沢症候群を完全に知っていた訳ではない様子。
L4からL5の暴走について触れないでいてくれたのは、不幸中の幸いでしたわね。
気紛れか分かりませんが、私が毒を盛ったと話さなかったのも。
そこに関しては警戒はされ辛い。
むしろ、悟飯さんを追い込んでくれたお陰で、L5まで病状を促進させるのはそう難しくはなさそうですわ。ただ……)
沙都子にとって面倒なのは、日番谷の猜疑の目を掻い潜り、どうやって悟飯をL5まで誘発するかだった。
厄介なことに、自分の気配から、妙な物を感知しているような物言い。
エウアの気配を感知しているのだろうか? だとしたら、とんだ迷惑だ。
警戒はされているだろう。当然、引き連れているカオスも。
最悪の場合はカオスをけしかけて、消したい。
見た限り、カオスは炎を扱えるようになり、氷使いの日番谷とは相性で優位に立てる。
だがこれも、あまり戦いの規模が大きくなれば、悟飯と戦う力を持っているというイリヤまで参戦してくれば厄介。
しかも、カオスもつい先ほど手に入れた力で、使いこなせるかという問題もある。
さらに、悟飯が参戦した時点で、こちらの思惑は崩れたも同然なのだ。
完全に悟飯と敵対し、場合によっては殺されてしまうおそれもある。
ならばメリュジーヌと再合流して、カオスと二人掛りで……。
しかし、それも上手い事、日番谷だけ誘き出し、カオスとメリュジーヌの二人掛りでリンチしようにも粘られてしまう可能性があり、やはり悟飯が参戦するだけの時間を与えてしまうだろう
その展開になれば、メリュジーヌも今度ばかりは沙都子を見切って捨てる事もあり得る。
シカマル達の時は、結果として赤き竜のシグナーといったイレギュラーがあったとはいえ、戦力的には決して負ける筈のない戦いだった。だからこそ、沙都子に従ってくれたが。
今回ばかりは、メリュジーヌに負担させるリスクが大きすぎる。
特に悟飯を相手にするのであれば、彼女も沙都子に拘る理由はない。
勝ち目の薄い戦いで、無理をして沙都子を守る必要はないのだから。
むしろ、そんな展開にしか持ち込めなかった沙都子は、今度こそ用済みだ。
(やはり、隠密に事を運ばないと……)
今までと違い、力付くで相手を制圧する手段は選び辛い。
(私が薬を盛ったと気付くとしたら、美柑さんか悟飯さん本人が、あのレモンティーを私が淹れた事を怪しんだ時ですが…今のところはまだあのお二方は私への信頼が勝っている様子。
でも、いつそれが日番谷さんに伝わるか、分かったものではありません。早くに勝負にケリを着けなければ)
日番谷に気付かれぬように、悟飯を最低でもL4にする。
横にいるカオスを見て、いくつかの策を張り巡らせながら。
沙都子は日番谷を見つめていた。
───
「……どうなるのかしら、これから」
私は、日番谷君にお手洗いに行かせて欲しいと嘘を言って。
少しだけ外で空気を吸うことにした。
絶対に遠くに行くなと、彼は念を押してくれた。
私の安全をずっと考えていてくれたんだと思う。
ここまでずっと…とても、気を遣ってくれる人で。
お願いだから、二人で一緒にここから離れましょう。
本当は…そう、日番谷君に話したかった。
だからこんなことを考えていた事も、嘘を吐いた事も申し訳なかった。
(……こんなところ、正直居たくない)
我ながらとても酷い考えだと思う。
薄情なんだなと、自分で自分を軽蔑までしてしまう。
『あ、ぁ…ぁッ、ぁぁ……』
あの悟飯という男の子の怯え方は、とても尋常じゃなかった。
シュライバーという子とああやって、対面できるだけ凄い強い人なのに。
あれだけ怯えるのは、普通じゃない。
近い内に死んでしまうだなんて言われたら、ああなるのは分かるけど。
多分、それだけが原因じゃない気がした。
死んでしまうのも間違いなく、ショックだけれど。
毒を盛られたという事は、あの子を裏切った人がいる。
そういうこと…じゃないの?
毒を盛るなんて、余程距離が近くないと出来ない気がする。
あの子は裏切られたことに、一番絶望しているんじゃないの?
きっと、日番谷君やあのカオスという娘が来るまでは、あの子が殆ど一人で戦ってきた。
それなのに、誰かに裏切られてしまった事に。
あんな、10歳くらいの男の子が味わって耐えられる事じゃない。
(疑ってるの…私? まだそうと決まった訳じゃないでしょう)
駄目だ。
少ししか話してないけど、美柑さんやのび太君、沙都子さんはいい子達だと…思う。
だけど。
「お姉ちゃん」
急に声を掛けられて、私は思わず体をびくりと震わせて振り返った。
後ろにはにっこりと笑った小さな女の子。
カオスという名前のこの子が音もなく立っていた。
「どうして一人で居るの?」
───クスクスクス
「……っ」
顔は笑っていたけど、何処か無機質で。この子には悪いけれど、不気味な気がした。
顔立ちは整っていて、シスターのような格好も神秘的で。とても奇麗な女の子なのに。
その笑顔は、人を拒絶してるような、諦めてるような。誰かの見様見真似でやっていて、本当の意味で、笑えていないような。
私も何だか変だ。この娘を見ていて、なんだか緊張している。
「紗寿叶さん、カオスちゃん」
愛らしい声が増えて、凍り付いたような空気は溶けていった。
カオスちゃんは、無邪気な子供みたいにイリやお姉ちゃんと、とてとてと走っていく。
「外に居たから…危ないよ。あのシュライバーという人、また来るかもしれないし」
「うん。イリヤお姉ちゃん、私もそう思ったの」
「……ごめんなさい」
やっぱり、少し苦手だな。
イリヤさんもカオスちゃんも、悪い人じゃないと思うけれど。
あの美遊という女の子の事が、まだ頭から離れないんだ。
いつまで、引き摺っているのかしら。
元太君を殺したのは、イリヤさんじゃない。
イリヤさんは、のび太君たちを守る為にずっと戦っていた。勇気のある女の子なのに。
「行こ、紗寿叶お姉ちゃん」
カオスちゃんも、何を考えているか分からなくて。あまり良い感情になれない。
そんなに嫌なら、私が自分だけ離れれば良いのに。
勇気もなければ、それだけの強さもなくて。
「ええ…行きましょう」
日番谷君だって、私の事を守る義理なんか何もないのに。善意だけで、あそこまで守ってくれている。
だから、せめて迷惑を掛ける訳にはいかない。
日番谷君は責任感が凄い強い人だもの。
ここの人達を見捨てるなんて出来ないし、それは良くない事だ。
私だけが、我儘をいう訳にはいかないわ。
【一日目/昼/E-7 海馬コーポレーション】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(中)、精神疲労(大)
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、クラスカード『アサシン』&『バーサーカー』&『セイバー』(美柑の支給品)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、雪華綺晶のランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:悟飯くん、どうしてあげたらいいの?
1:雪華綺晶ちゃん……。
2:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
3:殺し合いを止める。
4:サファイアを守る。
5:みんなと協力する
6:美遊、ほんとうに……
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
【結城美柑@To LOVEる -とらぶる- ダークネス】
[状態]:疲労(中)、強い恐怖、精神的疲労(極大)、リーゼロッテに対する恐怖と嫌悪感(大)
[装備]:ケルベロス@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
0:モモさんやララさんなら、何とか出来そうだけど…。
1:ヤミさんや知り合いを探す。
2:沙都子さん、大丈夫かな……
3:悟飯君がおかしかったのって、いつからなの?
4:リト……。
5:ヤミさんを止めたい。
6:雪華綺晶ちゃん……
[備考]
※本編終了以降から参戦です。
※ケルベロスは「火」「地」のカードがないので真の姿になれません。
【野比のび太@ドラえもん 】
[状態]:強い精神的ショック、疲労(中)
[装備]:ワルサーP38予備弾倉×3、新品ブリーフ
[道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス-、シミ付きブリーフ
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る
0:悟飯くんの毒を、何とかしてあげないと。ドラえもんの道具なら……。
1:ニンフ達の死について、ちゃんと向き合う。
2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる?
3:みんなには死んでほしくない
4:魔法がちょっとパワーアップした、やった!
[備考]
※いくつかの劇場版を経験しています。
※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。
「やったぜ!!」BYドラえもん
※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています
※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)
※スネ夫の顛末を美柑から聞きました。そのため、悟飯への反感はほぼ消えました。
【乾紗寿叶@その着せ替え人形は恋をする】
[状態]:健康、殺し合いに対する恐怖(大)、元太を死なせてしまった罪悪感(大)、魔法少女に対する恐怖(大)、イリヤとカオスに対して苦手意識
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2、飛梅@BLEACH
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
0:日番谷君や皆の迷惑にならないようにしたい……。
1:魔法少女はまだ怖いけど、コスはやめない。
2:さくらさんにはちゃんと謝らないと。
3:日番谷君、不安そうだけど大丈夫かしら。
4:イリヤさんとカオスちゃん……悪い子じゃないと思うけど……。
5:妹が居なくて良かったわ。
[備考]
原作4巻終了以降からの参戦です。
【日番谷冬獅郎@BLEACH】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、卍解不可(日中まで)、雛森の安否に対する不安(極大)
[装備]:氷輪丸@BLEACH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、元太の首輪、ソフトクリーム、どこでもドア@ドラえもん(使用不可、真夜中まで)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを潰し乃亜を倒す。
0:とにかく、情報が欲しい。
1:巻き込まれた子供は保護し、殺し合いに乗った奴は倒す。
2:シュライバーを警戒。次は殺す。
3:乾が気掛かりだが……。
4:名簿に雛森の名前はなかったが……。
5:シャルティアを警戒、言ってる事も信用はしない。
6:悟飯を、何とかする方法を見付けてやりたいが…何とか、涅か浦原と連絡は取れないか?
7:沙都子の霊圧は何か引っかかる。
[備考]
ユーハバッハ撃破以降、最終話以前からの参戦です。
人間の参加者相手でも戦闘が成り立つように制限されています。
卍解は一度の使用で12時間使用不可。
シャルティア≠フリーレンとして認識しています。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:予定は狂いましたが、このまま悟飯さんを扇動する。バレないように。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:悟空さんと悟飯さんは、できる事なら二人とも消えてもらいたいですわね。
9:悟空さんの肩に穴を開けた方とも、一度コンタクトを取りたいですわ。
10:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
11:日番谷さんに気付かれないように、悟飯さんの症状を悪化させる。大事になるような、実力行使は避けたい。
12:シュライバーの対処も考えておかないと……。何なんですのアイツ。
13:メリュジーヌさんは、何処で道草を食ってますの……!!
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
変だなあ。あの聖遺物(ぶき)を取り込んでから、ずっと変なの。
紗寿叶お姉ちゃんとイリヤお姉ちゃん。
誰にも気付かれなければ、食べても良いんじゃないかなって。
ずっと…思ってるの。
沙都子お姉ちゃんの邪魔をしちゃいけないけど、バレなければ平気だよねって……。
だめだよ…沙都子お姉ちゃんに怒られちゃうよ。
大丈夫だよ。
大丈夫じゃないよ。
大丈夫だよ。
だめ。
でも……。
頭の中がくすぐったくて。
気持ち悪いけど。
思いっきり、誰か……。
【一日目/昼/E-7 海馬コーポレーション】
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス故障寸前、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、カオスの素の姿、魂の消費(中)、空腹?(小)
[装備]:極大火砲・狩猟の魔王(吸収)@Dies Irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
6:聖遺物を取り込んでから…なんか、ずっと…お腹が減ってる。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
極大火砲・狩猟の魔王を取り込みました。炎を操れるようになっています。
聖遺物を取り込んでから、空腹? がずっと続いています。
中・遠距離の生体反応の感知は、制限により連続使用は出来ません。インターバルが必要です。
エイヴィヒカイト。
この術式の使用には魂が必要となる。すなわち、この理を操るのであれば常時殺人を繰り返し魂を簒奪し続けなければならない。
それゆえ、エイヴィヒカイトを取得した者達は揃って殺人衝動を最初は抑えきれない。
つまり、聖遺物の使い手は基本的には皆が人殺しだ。
だが、カオスは必ずこれに当て嵌まるとは言い難い。
シナプスの最高科学技術という、魔道とは異なるアプローチで聖遺物を取り込んだのだから。
これは水銀の成す法の理外にある。
だから、そんなデメリットは確定されていない。
正確には、カオスはエイヴィヒカイトの使い手ではないから。
───ずっと…お腹減ってる……ごはん…食べたいな。
きっと、ただ空腹で飢えている。それだけなのだろう。
───
(や…やっぱり……イリヤさん、あの人が怪しいぞ……!!)
海馬コーポレーションの一室の中で閉じ籠り、悟飯は自分がおかしくなった時期を振り返る。
そう、おかしくなったのはイリヤを連れて来てからだ。
野比のび太にあれだけ苛立ちを覚えたのも、大体その時期じゃないか。
(み…美柑さんとは、き…気まずかったけど…まだあの頃は、そこまでおかしくは…ならなかった……い…いやでも、分からない…ず…ずっと最初から一緒に居たのは……。
だ…だけど、イリヤさんが来てから……きゅ…急に……)
悟飯にとって不幸だったのはサイヤ人の好戦的な性格が、雛見沢症候群の暴力的な発作と重なってしまった事だ。
つまるとこ、美柑と同じだ。
元の自分の人格の悪癖なのか、シュライバーが言っていた毒による影響なのか、判別が非常に難しく。
───やめろや、悟飯!!
───やめてぇッ!悟飯君、お願いだから!!
───そうや悟飯、ちょっとおかしいでお前!頭冷やしてこい!
また、悟飯の異様さが本格的に浮き出したのが、運の悪い事にイリヤと合流して以降だった。
はっきりと悟飯が、自分でも周りからも異常だと自覚し始めたのはあの辺からなのだ。
その前はまだ違和感程度で済んでいた。
───やめてよ。
(の…のび太さんが僕と揉めて、危険だった時に、あ…あの人だけ……なんであれだけ冷静だったんだ?
や…やっぱり、どうでもよかったんじゃないか? の…のび太さんの事なんて)
イリヤにとって更に最悪だったのが、悟飯は最初はのび太と対立していたが、後にのび太から和解の言葉を告げられた時、何故イリヤ達がのび太を一人で行かせ逆に自分を見張っていたのかと疑念を抱いていた事。
それも裏でイリヤが皆を洗脳して、悟飯を孤立させようと仕組んだことなら全て説明が付いてしまう。
そう、既に錯乱しかけた思考を、自分でもおかしいと思えなくなってきていた。
一度、沙都子や日番谷たちの接触で落ち着いた悟飯の容態が、シュライバーとの接触とそこで告げられた仲間の裏切りという二重のストレスに晒された事で、より病状は悪化していく。
(き…雪華綺晶さんも……イリヤさんに、見捨てられたんじゃないか…あ…あの人は……き…雪華綺晶さんの善意を、利用して……!)
疑い出せばキリがなかった。ケチをつければ無限につけられる。
(そ…そもそも、友達が二人も殺し合いに乗っている時点で…あ…あの娘もおかしいじゃないか……!!
み…美遊という女の子は、す…既に一人殺しているんだ……!)
そういう風に穿った真実を己の中で作り上げてしまう。
(…………だ…だが、ありえないかもしれないけど。も…もしも、い…いや多分大丈夫だ。だけど…もし、あ…あのレモンティーに…ど…毒が入っていたら)
涙が零れてきた。
絶対にありえないが、悟飯が今一番信頼を置いている沙都子も、毒を盛るタイミングはあるのだ。
他の人達だって、いくらでもある。悟飯のランドセルの中の水に、毒を入れるなんて簡単だ。
悟飯がシャワーを浴びている間ならば、それぐらい誰だってできる。だから、沙都子はむしろ容疑者としては、疑いは薄い方だ。
それでもまさかとは思うが、彼女が裏切っていたとしたら。自分が仲間だと思っていた人が、みんな敵だったとしたら。
あの日番谷や紗寿叶という女の子まで、悟飯の事を悪く思っていて。みんなで一致団結して、殺そうとしている。
「ひ…酷い…じゃない、か……ど…どうして、だよ……」
耐え切れなくて、声を殺そうとして自分の腕の中に顔を埋めた。
なんでここまでされなくちゃいけないんだ。
ずっとずっと、それだけ考えて。
きっと、自分が強いからだと思い当たる。
強すぎるから、皆から嫌われてしまうんじゃないか。
なんでだ。
僕だって好きで強くなったわけじゃない。そうしないと、地球が皆が危なかったからだ。
みんな、僕を何だと思ってるんだ。
強さだけしか見てくれない。誰も、人として何か見てくれちゃいない。
僕だって、普通の人間なのに。
「ぅ……ぅ”…いやだ、ァ……」
死後の世界があるのは知っている。だからといって、死にたい訳がない。
しかも、首を掻き毟って発狂して死ぬなんて、絶対に嫌だった。
ドラゴンボールがあったとしても、本当に生き返れるか分からない。そもそも、美柑達が本当に生き返らせてくれるんだろうか。
悟空すらも騙して、ドラゴンボールを使ってくれない。そんなことだってありえなくない。
きりきりきりきりきり。
く…首が…首が……痒い。か…掻いたら駄目だ、か…掻いては駄目なんだ。
なのに、どうしてこんなに痒くて。
死にたく…ない……。
きりきりきりきりきり。
ぼ…僕はいつまで正気で…い…いられるんだ。
…………………………せ…せめて…ま…まともな、…うちに…ま…まもらないと……。
だ…だけど……だ…だれを…? だれを……まもれば……いいんだ……?
カリ…カリ……。
【一日目/昼/E-7 海馬コーポレーション】
【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:自暴自棄(極大)、恐怖(極大)、疑心暗鬼(極大)疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、雛見沢症候群L3+(悪化中 L4なりかけ)、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、のび太への嫌悪感(大、若干の緩和)、イリヤに対する猜疑心(大)、首に痒み(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0〜1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:……。
0:ぼ…僕は死ぬのか……い…いや…だ……。
1:...本当にここにいる人たちを信じていいのだろうか?信じたい、けど...
2:だ…誰が、僕に毒を……。い…イリヤさんが怪しいが、み…みんな怪しい……。
3:…………………………だ…だけど、み…みんなを……ま…まも…らない…と……。
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群を発症しました。現在発症レベルはステージ3です。
※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
※イリヤ、美柑、ケロベロス、サファイアがのび太を1人で立たせたことに不信感を抱いています。
※何もかも疑い出してます。
【どこでもドア@ドラえもん】
日番谷冬獅郎に支給。
一度の使用で12時間使用不可
【極大火砲・狩猟の魔王@Dies Irae】
聖槍十三騎士団黒円卓第九位、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグの操る聖遺物。武装形態は武装具現型。
その素体は第二次世界大戦でマジノ要塞攻略のために建造された80cm列車砲の二号機であり、作中でも呼ばれる『ドーラ』は二号機につけられた愛称である。その運用には砲の制御のみで1400人、砲の護衛や整備などのバックアップを含めると4000人以上もの人員を必要としたとされる文字通り『最大』の聖遺物。
(ここまで正田崇作品wikiより引用)
カオスに支給されたものの1400人の人員など用意できず、これまで使用出来なかった。
現在はカオスが取り込み、エレオノーレには遥かに劣るが火炎を発生させ操れるようになった。
投下終了します
投下お疲れ様です
あわわ悟飯ちゃんのリミットがどんどん削られていく...しかもシュライバーのせい(おかげ?)で仕掛けた本人も崖っぷちに追い込まれてて誰も彼も余裕が無くなってる混沌ぷり
イリヤも疑われているいま、頼りになるのはもう日番谷隊長だけだ、元太の意思を継いで頑張れ隊長!
金色の闇、クロエ、グレーテルで予約します。延長もしておきます
自己リレーになりますが、
勇者ニケ、エリス・ボレアス・グレイラット、うずまきナルト、ディオ・ブランドー
予約します
ゲリラ投下します
「本当にやる気か」
「ああ」
風見雄二と江戸川コナンは、惨劇の起きた病院付近へと引き返していた。
リンリンも外部のダメージには強くても、内部はただの人間と遜色ない筈だ。
あの巨体から相応のスケールの薬量を調整すれば、麻酔や睡眠薬なども通じるだろう。
だから、病院で必要な薬や機材などをありったけ探していた。
「リンリンは必ず止める。あいつも、あいつのせいでこれ以上誰も死なせない」
コナンの確固たる意志は変わっていなかった。
フランドール・スカーレットの協力を得られなくとも、例え自分一人になろうとも。
人が人の命を奪う事態を避けて、必ず法の裁きを受けさせたい。
「シュライバーはどうするんだ」
リンリンはまだ止められるかもしれない。
強いが、中身はただの子供だ。
だが、シュライバーはこちらが付け入る隙が無い。
話し合いの通じる余地もないだろう。
「……それなら、尚のこと。
リンリンを止めて、説得が上手くいけば協力して止められるかもしれねえ」
「そうか」
雄二とて人を殺めたい訳ではない、むしろ人を殺す事への拒否感はコナン以上にある。
だが、現実とて手を汚さねば自分の身すら危うい。
加減して済むような連中だけじゃない。
(最悪の時は、俺が殺すしかないか)
想像をするだけで吐き気が込み上げてくる。
正直、殺すにしてもリンリンやシュライバーを相手にするだけで、恐怖が勝る。
無理な気もするし、家に帰りたい。
何より、雄二だって殺したくはない。殺す事を考えるだけで、今にも発狂しそうだった。
雄二はヒース・オスロの殺人暗示を更に上書きして、日下部麻子の暗示を掛けてようやく通常の精神状態を保っている。
それ故、生き物を殺めようとすると、拒絶反応が起こる。
ある意味では、コナン以上に人死にを忌避しているのは他ならぬ雄二だ。
だが、やはりやるしかない。
無理でも不可能でも。コナンもこの先に会うかもしれない誰かを死なせない為にも。
「行くぞコナン」
二人は準備を整えて、リンリンとマサオの探索に向かう。
あの巨体だ。そう見付けるのに苦労はしないだろう。
───
間に合わなかった。
シャーロット・リンリンとの遭遇後、人を間接的にだが殺めてしまった佐藤マサオも。
誰も死なせない為に。これ以上の罪を重ねない為に。ずっと駆け回っていた。
今、コナンの前に並ぶ三つの土の盛り上がり。
墓石すらない、墓と呼ぶのも烏滸がましい程に簡素な埋葬。
その冷たい土の下に、まだ死ぬには早い三つの命が眠っていた。
そして、祈りを捧げる三人を見て。
コナンは自分が何も出来ず、全てが終わってしまった事を悟った。
「……なんでだ」
ここまでの経緯は全て聞いた。
リンリンを下した、フリーレンと名乗るエルフの魔法使いは全てを包み隠さず話した。
「なんで、殺したんだよ!!」
フリーレンに落ち度はないのは分かっている。
佐藤マサオとハーマイオニー・グレンジャーという少女を手に掛けた。
それどころか、リンリンの強さは人が太刀打ち出来るようなものじゃない。フリーレンの実力は分からないが、殺さずに事を収められるような事態ではなかった。
コナンの聡明な頭脳なら、それくらい聞かずとも分かっている。
「手加減できる相手じゃなかった」
フリーレンの判断は正しい。
彼女が連れていた写影と桃華という二人の少年と少女の安全を確保し、フリーレンも死なずに切り抜けるにはリンリンを殺すしかなかった。
それすら、本当に一つのボタンの掛け違えで、フリーレンが殺される恐れもあったのだから。
加減など、出来る筈もなく。仲間を殺されたフリーレンがする義理もないのだ。
「くっ……、だけど……!!」
認められなかった。
リンリンの言動を考えるに、彼女は育ての親を殺している。
エスター殺害の状況と合わせれば、食欲に関する事で理性のリミッターが外れるのだろう。
マザーを殺めたのも、似たような状況に陥り食べてしまったのだ。
故意ではないから許されるとは言わない。むしろ、許されないからこそ生きて元の世界に返し、その世界の法によって罪を償わせたかった。
「ハンディだって、あいつこそ殺す必要ねえだろ!!」
リンリンはどうしても止められないとしても。
コナンと雄二が簡単に制圧したハンディ・ハンディの殺害だけは見過ごせない。
「フリーレンさん、ハンディさんが悪い方だとは……」
「桃華、人が良すぎるよ。
それはそうと、ハンディは人じゃない。しかも少なくない数を殺してる」
「俺もフリーレンと同じ意見だ。
ハンディは馬鹿そうだが、危険度はこの島でも相当なものだ。
会話が通じるとはいえ、絶対に分かり合える相手じゃない」
コナンの横で雄二もまたフリーレンの主張に賛同していた。
強さこそ脅威ではないが、人間を餌とみなし悪意を容赦なく振り撒く醜悪な怪物に違いはない。
まだ、雄二と手を汲もうと打診してきたゼオン・ベルの方が話も通じる。
もっとも、ハンディの殺処分は別として。そこに踏み切るに至った過程に関しては、些か訝しんでいたが。
「……だが、あいつは」
迷いはある。
コナンも人を襲う害獣であれば、その殺処分に異論はない。ようは、フリーレンと雄二のいうことはそれと同じだ。
だが、ハンディは人語を操り話していた。感情も人並み以上にある。
奴が殺し合いに乗っていた化け物なのは事実だが、本当に害獣のように扱っても良いのか?
それに、フリーレンの言う魔族の断定方法にも疑問がないと言えば嘘になる。
まだ、ハンディがリンリンのように襲ってきて、返り討ちにしたというならともかく。
フリーレンははっきりと、魔族の特性を説明した。そして、その性質に当て嵌まるか確認した上で囮にしたと話したのだ。
いくらなんでも、囮にして追い込んでから奇妙な質問をして、その後に死んでも良いような対応を取るなんて。
とてもじゃないが、ハンディの脅威を裏付ける根拠としては弱すぎる。
(乃亜に後からバラされても面倒だし…正直に話したんだけど)
この殺し合いは乃亜の遊びだ。殆どの参加者の動向は監視されている。
首輪を外し、乃亜を始末しに向かう時にハンディの件で仲違いを誘発されても厄介である。
フリーレンも、手段が些かグレーなのは自覚していた。
もし、相手が人間ならば警戒はしてもこんな手段は取っていない。
魔族を知らない人物からすれば、かなり突飛な対応であろう事も、それまでの経験で予測できる。
だから、早めの内にわだかまりになりそうなこの件を話して、処理したのだ。
「ハンディさん、いくらなんでも……」
予想はしていたが、桃華は終始同情的な態度だった。
魔族の脅威はこの中でフリーレンが一番知っている。逆に言えば、フリーレン以外は正しく魔族の脅威を認識していないとも言える。
特に桃華は、人の命が重い平和な世界の平和な国で育ったのだから、無理はないのだろう。
同じく、あのコナンという少年もだ。
フリーレンも法はそれなりに守るが、コナンほど過信はしていない。特にこんな島では、そんなこと言っている場合ではない。
(全く、悪趣味が過ぎるな。あの子供)
コナンと桃華は間違っていない。だが、フリーレンも判断を誤ってはいない。
この議論は平行線で終わりはないし、納得させることも難しい。
住む世界の価値観がかけ離れすぎている。
世の中にありふれた戦争と同じだ。異なる価値観を擦り合わせる事は、非常に難しい。
乃亜はそれを小規模ながら再現している。別の異世界という、異人達を殺し合いという極限下で巡り合わせる事で。
「フリーレンは正しい」
写影は重々しく、声を絞り出した。
淡々と冷たく、達観したように。
「全員は助けられないんだ」
コナンの言い分は分からない訳じゃない。
きっと、あの白井黒子でも同じことを言うかもしれない。
『あり、がと…………マザー………』
リンリンは、怪物だが人間だった。
コナンが推測を語って、彼女の人間性の背景も多少は見えてきた。
人であるなら、生きて罪を償わせられるのなら、そうしたいのは山々だ。
「一握りしか救えないのなら…せめて、誰を救うか選ばなきゃいけない」
ハーマイオニーが最期に何を言ったのかは分からないけれど。
どうなりたかったは分かる。
彼女は、あんな無理な笑いを作って。
泣き叫んでも、誰も責められはしないのに。
残された写影と桃華の無事を祈り、信じて。
二人の重荷にならないように、最後まで恐怖を噛み殺して。
「ハーマイオニーは…死にたく、なかったんだ……」
コナンはリンリンを殺さない為に、彼女を探し回りながらずっと方法を考え続けていた。
リンリンの言動、行動、手持ちの支給品。ありとあらゆる手段を総動員して、あの怪物を止めて、法の裁きを受けさせる方法を。
「マサオだって…彼は、きっと怖かった筈なんだ。
フリーレンがハンディを捨てなければ、きっと僕達はリンリンに殺されていた。
ギリギリの到着だったんだよ」
「リンリンを止める、方法は……ハンディの奴も…」
コナンは病院に一度引き返し、そこから大量の薬品を調達していた。
何も無策で、リンリンを止めると言った訳ではない。コナンもやれる限りの手段を考案し、対策も考えてはいたのだ。
だが、もし、リンリンを殺す気でいれば。
雄二の持つ、帝具パンプキンは使用者のピンチによって威力を増す。
病院など行かず、すぐにリンリンを探し出し、高まったパンプキンの威力で射殺出来たかもしれない。
コナンの頭脳と雄二の狙撃の腕ならば、決して不可能ではなかった。
彼女を殺さない方法を見付ける為に、コナンが行動し。雄二はコナンを放っておけない為にその場に足止めされ続け。
結果、数時間後には全てが終わった三人の死体と、その死を目の前で刻み込まれた幼い子供だけが残されていた。
ただリンリンを生かす方法を見付ける為だけに、コナンはマサオとハーマイオニーという救えたかもしれない命を、取り零したのだ。
物理的な距離で言えば、決して間に合わない距離じゃなかった。
仮に殺せなくとも、フリーレンの到着までにマサオとハーマイオニーの安全は十分に保証されただろう。
「君は…何も悪くない殺された子達より、殺人者の命を守りたいのか」
「……っ!」
決して。
この島でも、この島に呼ばれる以前でも。
事件を巡って、殺された被害者達を軽んじた事などなかった。
それは、まだ高校生探偵工藤新一として活動し、体が縮んだ初期の頃であっても。
殺人を推理ゲームとして楽しんでいた事はあるが、それでも殺人そのものを肯定した事はない。
だが、誰も死なせないということに、自分が固執し過ぎているとでもいうのだろうか。
「お…れは……」
例え人を殺めた殺人者だろうと、死なせずに罪を償わせるということは。
『オレの手はあの4人といっしょ…もう血みどろなんだよ…』
全ての連続殺人を止めらず、復讐を完遂させてしまい。
そして、コナンが死なせてしまった。
炎の中に消えた浅井成実を。
無意識の内に、あのトラウマを払拭しようとして。
その為に、殺人者の命だけを尊重して。その手に掛かるであろう未来の被害者の事すらも、考えられなくなっていた。
そういうことなのか?
『諦めろ! あれがあいつの運命だ!!』
かつて一戦交え、共闘したルパン三世に言われたことだ。
あの時、上昇した飛行機内でガトリングを乱射され機体に穴を開け、そのまま自爆した犯人に対し。
コナンは救おうと手を差し伸べ、ルパンはそれを止めて諦めろと諭した。
その言い分が正しいとは、コナンは思わない。
だが、ここは法治国家ではなく、完全に独立した無法地帯の島だ。
もっと直接的に言えば戦場だろう。あのルパンも戦いの場が日本であったからこそ、コナンのやり方を揶揄しながらも、特段妨害もせず成り行きに任せていたが。
法の届かぬ戦場では、きっとこうはいかない。
命を無暗に奪うことはしないにしても、必要とあらば躊躇いなく相手を殺める。
それが戦場に於いて、生き残るにはもっとも正しいことくらい分かる。
(ここが戦場だから…人の命を奪うことが……正しいってのかよ)
ここが、何処かの紛争地域ならばあるいは割り切ってしまったかもしれない。
いくらコナンでも、国家間の戦争や内紛を止める方法はない。
ただ、なまじ個人間の命の奪い合いというスケールだからこそ、自分の手が届く範囲に戦火が拡がっているからこそ。
誰も死なせてはならないと、自らを戒める信念を揺るがされてしまう。
「もう…やめてくださいまし」
悲しそうに、写影に向かって桃華は言った。
庇うように、コナンを抱き締めて。
温かく柔らかな腕と胸の中で、甘い香りに包まれる。
「あ…あの、桃華おねえちゃ……」
急な事にコナンも気が動転し、妙な安堵感と気恥ずかしさから、しどろもどろになった。
「コナン君はまだ、子供ですわ……」
桃華は自分が盾になって、他ならぬ写影からコナンを守っているようだった。
「そういう…つもり、じゃ……」
そこで、ようやく写影は気付く。
相手は、自分よりもずっと年下の6歳程度の子供なんだと。
写影の中で、コナンにちゃんと諭すように話していたつもりだった。
落ち着いて、威圧感を与えないように。
だけど、コナンは明かに狼狽していた。
「……………すまない…コナン」
フリーレンを擁護したのは良い。でも、殺人者を守りたいのかだなんて、言うべきじゃないだろ。
それは、言い過ぎだ。穿った物の見方じゃないか。
あのコナンという少年は、そんな風に思っていた訳じゃない。
ただ、皆を死なせないなんて当たり前の事を言っていただけだ。彼の主張そのものは悪意のあるものじゃない。
ただ、あまりにも今の写影にはコナンは眩し過ぎた。
ヒーローになれない、そんな資格もない自分にとって。あまりにも、ヒーロー然とした理想を語るコナンが。
(……こんな娘に庇われて、俺は…なにしてんだ)
いくらコナンの外見が小さいとはいえ、桃華だって十分に子供だ。
それなのに、桃華はコナンを子供だと言った。自分はそうではないと、言い聞かせるように。
彼女も写影も本来は、まだ大人や法の庇護の元で守られなくてはならない存在だというのに。
だが、ここにそんなものはない。
子供であろうと、望まなくとも戦火に投じ死線を潜らなければならない。
(…子供が、命を奪うことを…認めなくちゃならねえのか…そんなことが……)
どうしたらいい。
理想を叶えるには力が足りない。割り切るには、あまりにも間近い。
この先、また殺人者とも対峙した時。
コナンはその殺害を、見過ごさなければならないのか。
そうしなければ、写影や桃華のような子供をまた犠牲にしなければいけないのか。
誰かを捨てなければ、誰かを助けられないのか。
「この話はここで終わりにしよう。
フリーレン、俺達も出来ればあんたと同行したいが」
わざとらしく、雄二はフリーレンに語り掛ける。
(守れなかったのか)
ジョンを死なせた時、麻子から見た雄二の顔はきっとあんな表情をしていたのだろう。
その場にいながら、誰も守れなかった無力感は痛いくらいに分かる。
これ以上は、コナンや写影の為にはならないだろう。
元から、雄二はコナンとの二人きりでは戦力として厳しいとは考えていた。
フリーレンは凄腕だ。
戦場を潜り抜けた経験は1度や2度じゃない。
まだ雄二は兵士としては未熟だが、日下部麻子のような手練れと似た気配を感じていた。
「良いよ。一姫の弟なら、信用できそうだし。
君、対人ならかなり強いよね」
(フリーレンの言う一姫が本物かまだ分からないが、信用を得てくれたのは助かったな)
ここで協力関係を結べるのは、正直ありがたかった。
「買い被りだ……あんたの方がずっと強いだろ」
敢えてフリーレンは対人と称したが。
暗殺の技量に関しては、フリーレンも気を抜けない領域にまで極めている。
フリーレンも本音を言えば、この近距離で暗殺者(アサシン)と向かい合うのは、気が引ける。
(異常だね。ここまで仕込まれた少年兵が、こうして正常にいられるだなんて……)
こういった少年兵も、珍しい話でもない。
フリーレンも伊達に長く生きていない。世界にそういう一面があるのは知っている。
だが、そんな血に塗れた子供がどうやって、ここまで通常の精神を取り戻したのか。
普通なら、壊れている。
(大丈夫だとは思うけど)
万が一があっても対処は出来る自信はあるが、あまり気分は良くない。
雄二の人間性が信用できない訳ではない。だが、何処で何のタガが外れるか分からないからだ。
壊れてはいないが、完全に修復もされていない筈だ。そう簡単に治るものでもないだろう。
だが、現状の戦力ではフリーレン一人だと手が回らない上に。協力者の一姫と、下手に敵対したくもない。
「どうかな」
二人の思惑は一致した。
フリーレンは決して雄二の必殺の間合いには確実に入らぬよう、距離を置きながら。
また雄二も、フリーレンに不用意に近づかぬように。
ガッシュ達との合流を目指し歩み始めた。
「───ユージ、本当にあの頃からこの島に連れて来られたのね」
「姉ちゃん……」
偽物の可能性についても、自分で言及したが。
正直、現物を前にして。
偽物にしては出来過ぎていると雄二は思った。
フリーレンに連れられて、その先に居た少女は。
あの風見一姫その人で。
最後に見たその姿から、何一つ変わっていなかったのだから。
「本物…なのか……」
「魔族や魔物ではないよ」
その意味を理解し、フリーレンが否定する。
容姿を騙る魔物もいる。雄二達も他人の姿を奪うかもしれない、怪物の話をしていた。
それを警戒しているのだろう。
「失礼ね。私は本物よ。専門家のフリーレン先生のお墨付きももらっているし。
一つ違うとしたら、私は未来から来たの。未来の一姫お姉ちゃんよ」
「……歳食っても、小さいままなんだな」
本当に言いたいのは、こんなことじゃなくて。
今まで、何をしてたんだ。どれだけ心配したんだ。そう言いたくて。
どうして連絡の一つも寄越さなかったのか、怒りのままに平手打ちの一つくらいは、お見舞いしてやろうかと思ったが。
「フリーレン、写影と桃華も無事で良かったのだ!」
「……ああ」
自分よりも、心労に苛まれている写影達を見て。
それは控える事にした。
「いくつか合流地点を決めておいて正解だったね」
数十分ほどの移動で、フリーレン達はガッシュ達と再合流出来た。
元々、フリーレンと一姫で合流地点は複数決めており。
先にガッシュ達がグレイラット邸に到着し、そこで結界の破壊と幾つかの破壊痕を見付けトラブルに巻き込まれていることを知覚。
その後、第二の合流地点は禁止エリアになったことから、第三の合流地点へ先回りしていた。
それがF-4にあった地図には載っていない民家だ。
ガッシュと気絶から目覚めた一姫が体を休め。
「私、木之本桜っていいます……」
「……へぇ」
もう一人木之本桜も腰掛けていた椅子から立ち上がり、率先して名乗っていく。
(魔力凄いなこの娘…将来は良い魔法使いになる)
フリーレンはさくらを見ながら、力量を測る。
戦い慣れはしていないが、魔法の素質は恐ろしい程に高い。
(ハーマイオニーも生きてたら、良い魔法使いになれたろうね)
さくらを見ていて、自分が間に合わず死なせてしまった少女の顔が脳裏を過っていた。
見習いの戦場での死亡率は高い。
だから、フェルンと出会うまで。彼女が一人前になるまで。フリーレンは弟子を取る事はしなかった。
改めて、ハーマイオニーの死は自分が思っているより重く圧し掛かっている。そう自覚させられる。
(しかし、後衛ばかりだ)
出来れば、もう一人前衛を頼める戦士が欲しい所だったが。
ガッシュも呪文の性能を考えると、本当は後衛向きだ。
リンリンとの戦いで分かったが、あの戦いは本当に紙一重だった。
相手は元から備わった怪物染みた強さの他は、ただの子供であったというのに。
1000年重ねた研鑽に、技量など殆どない暴力だけで食らい付いてきたのだ。
もしも、再戦(つぎ)があったとして、フリーレンはリンリンに絶対に勝つという自信はない。
やはり前衛は欲しい。それも強靭な戦士の。
「梨花は?」
写影はこの場に一人いない少女の名を呼んだ。
「殺されたわ」
「ピカ」
「……そう、か」
一姫とガッシュのランドセルから飛び出した、黄色い鼠のような生き物ピカチュウが答える。
特別仲が良いわけでも、この島で関わった時間もごく僅かだったが。
写影と桃華の中で、その死は重くのしかかった。
「写影、何かあったのかの?」
目に見えて、写影と桃華の様子はおかしい。
ガッシュからすれば、フリーレン達は全員無事なように見えてしまっていた。
彼はハーマイオニーやマサオの死をまだ知らないのだから、
「色々あったんだよ」
写影に変わって、フリーレンが話す。
人の感情に疎いフリーレンでも、写影の口から全てを話させるのは酷だと分かった。
いずれ必要でも、今は少しでも心情を整理する時間が必要だ。
「一度、話し合う必要があるみたいね」
一姫は写影達を一瞥した。
時刻はもうすぐ、放送を迎える頃合い。
殺し合いも、半日近く経過しようとしている。
ここに居る全員の持ち得た情報を統合し、そして次の指針を決めねばならない。
「そうは言っても、休む時間は必要だし。
30分後に、またここで作戦会議をしましょう」
一姫の提案に反対する者はなく。
それぞれが、束の間の休息の時間を迎えた。
【F-4 民家/一日目/昼】
【美山写影@とある科学の超電磁砲】
[状態]精神疲労(大)、疲労(大)、能力の副作用(小)、あちこちに擦り傷や切り傷(小)
[装備]五視万能『スペクテッド』
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:30分後に話し合う。今はとにかく休む。
1:ドロテアの様な危険人物との対峙は避けつつ、脱出の方法を探す。
2:桃華を守る。…そう言いきれれば良かったんだけどね。
3:……あの赤ちゃん、どうにも怪しいけれど
4:桃華には助けられてばかりだ…。
5:沙都子とメリュジーヌを強く警戒。
[備考]
※参戦時期はペロを救出してから。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
【櫻井桃華@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]疲労(中)、精神疲労(大)
[装備]ウェザー・リポートのスタンドDISC
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:ハーマイオニーさん、マサオさん………
1:写影さんや他の方と協力して、誰も犠牲にならなくていい方法を探しますわ。
2:写影さんを守る。
3:この場所でも、アイドルの桜井桃華として。
[備考]
※参戦時期は少なくとも四話以降。
※失意の庭を通してウェザー・リポートの記憶を追体験しました。それによりスタンドの熟練度が向上しています。
※写影、桃華、フリーレン世界の基本知識と危険人物の情報を交換しています。
【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(中)、疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品×5、モンスター・リプレイス(シフトチェンジ)&墓荒らし&魔法解除&不明カード×6枚(マサオの分も含む)@遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's、
ランダム支給品1〜4(フリーレン、ハンディ、ハーマイオニー、エスターの分)、グルメテーブルかけ@ドラえもん(故障寸前)、戦士の1kgハンバーグ、封魔鉱@葬送のフリーレン、
レナの鉈@ひぐらしのなく頃に業、首輪探知機@オリジナル、スミス&ウェッソン M36@現実、思いきりハサミ@ドラえもん、ハーマイオニー、リンリン、マサオの首輪。
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:30分後に一姫達と作戦会議。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティア、我愛羅は次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
5:リーゼロッテは必ず止める。ヒンメルなら、必ずそうするから。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、精神的なダメージ(極大)、リンリンに対しての共感
[装備]:浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、グロック17@現実
[道具]:基本支給品×2、斬月@BLEACH(破面編以前の始解を常時維持)、マヤのランダム支給品0〜2、マヤの首輪
[思考・状況]基本方針:5人救い、ここを抜け出す
0:30分後に作戦会議
1:コナンに同行しつつ、万が一の場合は自分が引き金を引く。
2:可能であればマーダーも無力化で済ませたいが、リンリンのような強者相手では……。
3:悟空やネモという対主催にも協力を要請したい。
4:一姫と再会できたが……。
[備考]
※参戦時期は迷宮〜楽園の少年時代からです
※割戦隊の五人はマーダー同士の衝突で死亡したと考えてます
※卍解は使えません。虚化を始めとする一護の能力も使用不可です。
※斬月は重すぎて、思うように振うことが出来ません。一応、凄い集中して膨大な体力を消費して、刀を振り下ろす事が出来れば、月牙天衝は撃てます。
【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:疲労(大)、人喰いの少女(魔神王)に恐怖(大)と警戒、迷い(極大)
[装備]:キック力増強シューズ@名探偵コナン、伸縮サスペンダー@名探偵コナン
[道具]:基本支給品、真実の鏡@ロードス島伝説
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止め、乃亜を捕まえる
0:30分後に今後の方針を話し合う。
1:灰原を探す。
2:乃亜や、首輪の情報を集める。(首輪のベースはプラーミャの作成した爆弾だと推測)
3:魔神王について、他参加者に警戒を呼び掛ける。
4:他のマーダー連中を止める方法を探し、誰も死なせない。
5:フランに協力を取りつけたかったが……。
6:元太……。
7:俺は、どうすればいい……。
[備考]
※ハロウィンの花嫁は経験済みです。
※真実の鏡は一時間使用不能です。
※魔神王の能力を、脳を食べてその記憶を読む事であると推測しました。
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]疲労(中)、全身にダメージ(中)、シュライバーへの怒り(大)
[装備]赤の魔本
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、サトシのピカチュウ(休息中、戦闘不可)&サトシの帽子@アニメポケットモンスター、首輪×2(ヘンゼルとルーデウス)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:30分後に作戦会議なのだ。……写影達は大丈夫かの。
1:マサオという者と赤ん坊は気になるが、今はグレイラット邸へ向かう。
2:戦えぬ者達を守る。
3:シャルティアとゼオン、シュライバーは、必ず止める。
4:絶望王(ブラック)とメリュジーヌと沙都子も強く警戒。
5:エリスという者を見付け、必ず守る。
[備考]
※クリア・ノートとの最終決戦直前より参戦です。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【風見一姫@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3、首輪(サトシと梨花)×2
[思考・状況]基本方針:殺し合いから抜け出し、雄二の元へ帰る。
0:30分後にフリーレン達と作戦会議。
1:首輪のサンプルの確保もする。解析に使えそうな物も探す。
2:北条沙都子を強く警戒。殺し合いに乗っている証拠も掴みたい。場合によっては、殺害もやむを得ない。
3:1回放送後、一時間以内にボレアス・グレイラット邸に戻りフリーレン達と再合流する。
4:本当に過去の雄二を連れてきたのね。後で、しっかり話をする。
[備考]
※参戦時期は楽園、終了後です。
※梨花視点でのひぐらし卒までの世界観を把握しました。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
※絶対違うなと思いつつも沙都子が、皆殺し編のカケラから呼ばれている可能性も考慮はしています。
【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(中)、封印されたカードのバトルコスチューム、我愛羅に対する恐怖と困惑(大)、ヘンゼルの血塗れ、ヘンゼルとルーデウスの死へのショック(極大)、シュライバーへの恐怖(極大)
[装備]:星の杖&さくらカード×8枚(「風」「翔」「跳」「剣」「盾」「樹」「闘」は確定)@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品一式、ランダム品1〜3(さくらカードなし)、さくらの私服
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない
1:30分後に話し合いをする。
2:紗寿叶さんにはもう一度、魔法少女を好きになって欲しい。その時にちゃんと仲良しになりたい。
3:ロキシーって人、たしか……。
4:ルーデウスさん……
[備考]
※さくらカード編終了後からの参戦です。
投下終了します
投下お疲れ様です
不殺のコナンにとってはあくまでも人間であるリンリンや曲がりなりにも共闘した形のハンディ様を切り捨てるのは納得できないよなって。
でも、実際にハンディ様は鬼畜外道のクソ野郎だしこの会場でもチンゲを実際殺してるし、リンリンに至ってはもう犠牲者を出したうえでも暴走を止められなかったから、心情的にはフリーレンに寄っちゃう人が多いのも仕方ないのかなって。
むしろハンディ様に至ってはテストしてくれただけかなり温情ある対応にも思えるが、コナン側からしたら知る由もないのが悲しいところ。
ただ、対立というほどでもないので、ガッシュ達も合流してこのロワにおいては珍しくかなり結束しやすい大規模対主催となれたのでここから挽回だ名探偵!
投下します
「───Saying I surrender all my love to you───」
グレーテルは歌を口ずさみながら、ブティックの衣装へと手をかけている。
あれがいいかな、これがいいかな、と見比べるその様子は、年相応の可憐な女の子と遜色ないだろう。
ただ、その血に濡れた黒衣は、文化的なこの店にはあまりにも不釣り合いではあるが。
「その歌はなに?讃美歌かなにか?」
「さあ?ただ、テレビで観ただけだから」
「そう...好きなのね、ソレ」
「ええ。大好きよ。クロは嫌いかしら」
「別に。ただ、綺麗すぎてイヤになるだけ」
クロエは店内に設置された椅子に腰を据えて待っていた。
試着。
どうせ着替えるならイイのを選びたい、というグレーテルの申し出にクロエはしぶしぶ付き合っていた。
「ごめんなさい。クロがいる間は控えるわね」
「いいわよ気を遣わなくて」
「ダメよ。せっかく気持ちよくなるなら、ムードは大切にするべきじゃない」
グレーテルがここまで服の選定に時間をかけているのは理由がある。
水銀燈たちとの戦闘後、クロエがグレーテルに強請ったキス。
それは魔力供給のためだけではない。
クロエはグレーテルを求めている。
殺して生きることを受け入れるために。
真っ当な人間としては壊れても、明日を掴むことを肯定する為に。
グレーテルは、言葉に出されずともそんな彼女を理解っていた。
クロエはリングをまわせた。
でも、まだ最後の勇気が足りていない。
だから、ソレを自分を通して求めているのだと。
グレーテルは決してクロエを道連れにしてやろうだとか、貶めてやろうだとかは一切考えていない。
ヘンゼルにしてもグレーテルにしても、打算抜きに自分たちに優しくしてくれる人は好きだ。
求められることも好きだ。
だからこれは、彼女なりの親切心にすぎない。
勇気が欲しいなら教えてあげる。私を求めてくれるなら応えてあげたい。
そんな、悪意の欠片も無い彼ら【ヘンゼルとグレーテル】なりの善意にすぎない。
「ねえねえ、クロはどっちがいい?」
ようやく選び終えたグレーテルが両手に持っているのは、一つは黒のドレス。今まで着ていたのと同じようなモノだ。
もう一つは純白のシルクで象られた、聖画で見られる天使のような衣装だ。
素材にも拘っているようで、高級そうな羽根まで付属しており、コスプレを通り越して純粋に美しさすら感じられる。
「いやよく置いてあったわねこんなの」
「こっちにたくさんあったわよ。ほら、こっちこっち」
グレーテルに手を引かれ、店の奥の方にまで足を伸ばせば、ズラリと並べられた衣類の数々。
スリットの入ったチャイナ服に軍人が着るような武骨な軍服。
背中に巨大な丸の中に魔の文字が記された胴着や、巨漢用の学ランに民族衣装のような着物...
とにかく種類は様々で、見ているだけでもキリがないほどに衣服が溢れていた。
「まるでコスプレ展覧会じゃない...むしろよくその二つに絞れたもんだわ」
「うふふっ、もっと褒めてくれてもいいのよ?こうみえても身だしなみは気にするタイプなんだから!で、私的にはこのどっちかがいいかと思ったのだけれど...クロはどちらが好み?」
グレーテルの問いかけにクロエは顎に手をやりつつ考える。
黒のドレスは今まで見てきたものと遜色はなく、普通に似合っていると思う。
しかし、白のドレスというのも存外似合っているようにも思う。
グレーテルは内面さえ知らなければまさにお人形のような美少女だ。
そんな彼女がコレを着ればまさに天使そのものに見えるだろう。
「ていうか、私が決めていいの?」
「言ったじゃない。気持ちいいことはムードが大切だって。私の姿を見るのはクロ。クロがイヤなものを着るなんて、そんなの私の自己満足になっちゃうでしょう?」
「...ほんと、あんたってズルイわ」
グレーテルは壊れている。
その認識は変わらないのに、人の心を持っていた時の片鱗は見せつけてくれる。
だから逃れられない。縋ってもいいと思ってしまう。
ただただ綺麗な純白よりも、淀みの中に光る星にこそ目を離せなくなってしまう。
「...じゃあ、こっちで」
結局、クロエが選んだのは黒色のドレス。
別に他意はないが、ただ、グレーテルという少女が映えるのはこちらの方だと思っただけだ。
鼻歌交じりに試着室に入って数分後、着替え終えたグレーテルはクロエに顔を近づけ囁く。
「おまたせ。それじゃあ、さっきの続き...始めましょうか」
今にも触れ合いそうな距離感。甘い声。吐息。仕草。
その全てがクロエの『欲』を誘い、鼓動を波打たせ、頬が熱を帯びていくのを自覚する。
(な、なるほど...伊達に経験豊富を自称してるだけあるわね)
思わずゴクリと喉が鳴る。
自分もそれなりに技術面では優れていると思っていた。
イリヤの同級生たちは骨抜きに出来たし、あの美遊でさえ腰をくだけさせたものだ。
それが子供のママゴトに思えるほどに、グレーテルの醸し出す色気に気圧されている。
これが経験の差というものか。
「―――勘違いしないでよね」
クイ、とクロエはグレーテルの顎を指で持ち上げる。
「私があんたからするの。あんたから貰うのは、私!」
まるで強がるように。
意地を張るようにクロエはグレーテルの唇に近づいていく。
「―――ええ、いいわよ。クロの全てを私にぶつけてみて?」
「〜〜〜〜〜ッ!!」
ちゅっ
勢いのまま、クロエはグレーテルの唇に己のものを重ねる。
―――誘い受け。
煽られているのはわかっていた。ここまでが彼女の術中にあることも。
だが、止められなかった。
一度火が点いた情熱は理性を凌駕する。
ちゅっ ちゅっ ちゅるるる
唇道士が擦れあう度に唾液同士が音楽を奏で、吐息から伝わる淫靡な香りを引き立たせる。
クロエの舌が差し込まれ、グレーテルの舌に触れると、にゅるにゅると絡みつく。
舌。歯。上あご。
必死に自分の口内を蹂躙しようとせわしなく動くクロエの舌に、グレーテルは微笑ましい気持ちになる。
なるほど。
確かに未経験ではなく、才能もあるのかちゃんと気持ちいい。耐性のない乙女相手ならこれだけで骨抜きに出来るだろう。
しかしだ。
それは所詮、綺麗なモノしか味わっていないお上品な環境で培われた経験値に過ぎない。
(そろそろいいころ合いかしら)
グレーテルの舌が蠢き始める。
クロエの技術が天然産ならば、グレーテルの技術は叩き上げの百戦錬磨。
誰がどうすれば気持ちいいかを見抜くのは容易いことだ。
(約束通り教えてあげるわね。キスだけでもすっごく気持ちよくなれる方法)
グレーテルの手が肩に添えられた瞬間、クロエの背筋にぞわぞわと寒気が走った。
ただしそれは恐怖ではなく、むしろ期待していたものの襲来を喜ぶ歓喜の味で。
グレーテルの攻めの気配が濃くなった瞬間、クロエは反射的に目を瞑った。
―――クス クス クス
唐突な笑い声。
クロエでもグレーテルでもない、完全な第三者のものだ。
瞬間、キスを交わしていた二人の唇は即座に離れ、唾液の糸を垂らしながら、お互いに武器を構える。
―――クス クス クス
彼女たちの向かい側のディスプレイハンガーからの笑い声に、ゆらりと影がゆらめき立つ。
現れたのは長い金髪の少女。
何処ぞで戦闘でもしたのか、ボロボロの衣装を身に纏っており、肌にもところどころ傷跡が残っているというのに、外部に曝け出す肌を気にも留めず、クロエ達を見て笑っている。
(痴女だ)
(痴女ね)
現れた変態の金髪少女に、二人の見解は見事に一致する。
しかし、そんな彼女相手にも二人は警戒心を解かない。
むしろ、一層高まっているくらいだ。
(こいつ...いつの間に店の中に?)
キスに夢中で気配に気づかなかった、なんて間抜けな話はない。
いくらグレーテルが魅力的だったからといって、戸を開ける音に気付かないほど没頭していたつもりはない。
それはグレーテルも同じことだ。クロエよりも余裕があった分、彼女以上に周囲を警戒していたつもりだった。
だが、この痴女は店に入るだけでなく、こんな目と鼻の先にまで接近を果たしていた。
見るからにふざけた格好をしているが、この気配の殺し方からして間違いなく、ただの変態ではない。
「生と死、生物の本能が快楽を求めるのは自然の摂理...そう、つまりあなた達のように、命尽きる前にえっちぃのに没頭するのは正しいこと...」
「なにわけわかんないこと言ってんのあんた」
「なのに、彼女たちはなにもわかっていない!快楽に蕩け思考を放棄してしまえば、恐れることなんてなにもないのに!」
(これ話し合いは無理ね)
クロエとグレーテルは、これ以上の会話は無駄だと判断し、弓矢と銃を放ち、一斉に躍りかからせる。
常人ならば容易く粉砕できる殺意の塊。
それを、彼女は、『金色の闇』は髪の毛を刃に変身(トランス)させ、その全てを弾き落とす。
「ウソッ!」
その予想外の防御にクロエは目を見開くのとは対照的に、グレーテルは銃が効かないと見るや、即座に右足を振り上げ、走刃脚(ブレードランナー)で飛ぶ刃を放つ。
銃弾よりよほど威力のある斬撃。しかし、それも闇の変身(トランス)能力には敵わず。
盾に変化させた右手によってあっさりと弾き飛ばされる。
「あらら」
「...抵抗しなければ迅速に済ませてあげますが、そうでなくてもそれはそれで...」
さしものキョトンとした表情を浮かべるグレーテルとは対照的に、闇は頬を染めつつにたにたと笑みを浮かべている。
―――激闘の後、目を覚ました闇が真っ先に考えたのは、美柑との対面時のことだ。
なぜあの時、自分は彼女を殺すどころかえっちぃ目に遭わせられなかったのか。
美柑は望んで身を差し出した。自分も望んで色んな参加者をハレンチな目に遭わせてきた。
なのになぜ、実行できなかったのか。なぜ、躊躇ったのか。なぜ―――
その答えをずっと考えた。
考えに考え抜き、ようやく結論を出せた。
"それは自分に成功体験が無かったからだ"と。
キウルとディオを辱めていた時はお触り程度で。
小恋やのび太、イリヤ達は絶頂にまでは至れたけれど、結局、殺すことはできなかった。
『絶頂の快楽の最中に命果てる』。これは自分の中で素晴らしいものだと信じている。
しかし、まだ実績がない。本当に絶頂の最中に殺した時に幸福を得られるのかが、確定していない。
だから、いざ美柑が身を差し出した時に躊躇ったのだ。
闇はリトのことが大好きだが、同じくらい親友の美柑のことも大好きだ。
だからこそ、死という人生の終着点においては、とりわけ彼女には苦しまずに逝って欲しい。
そう。少なくとも。
このブティックに辿り着くまでに見つけた。
血の臭いを辿り見つけた、苦悶と絶望の表情に彩られた少年の生首のような死に様だけは、大好きな人にあんな目にだけは会ってほしくない。
「抵抗も、拒絶も、全てを呑み尽くすほどの快楽に染め上げて―――至福の刻の中で殺してあげますからぁ!」
己の胸で高鳴る鼓動に従うように、闇の髪の毛が爆発するように踊り狂い、あどけない少女二人へと一斉に襲い掛かった。
【F-7/ブティック/一日目/昼】
【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、興奮、ダークネス状態
[装備]:帝具ブラックマリン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(小恋の分)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから帰還したら結城リトをたっぷり愛して殺す
0:まずは絶頂殺の実績を積む。
1:えっちぃことを愉しむ。脱出の為には殺しも辞さない。もちろん優勝も。
2:えっちぃのをもっと突き詰める。色んな種類があるんだね...素敵?
3:さっきの二人(ディオ、キウル)は見つけたらまた楽しんじゃおうかな♪
4:あの女の子(リル)は許せない。次に会ったら殺す。
5:また美柑と会えたらえっちぃことたくさんしてあげてから殺す。これで良い…はず。
6:イリヤもえっちぃことをたくさんして殺す。
7:のび太は絶対殺す。
[備考]
※参戦時期はTOLOVEるダークネス40話〜45話までの間
※ワームホールは制限で近い場所にしか作れません。
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:魔力消費(中)、自暴自棄(極大)、 グレーテルに対する嫌悪感と共感(大)、罪悪感(極大)、ローザミスティカと同化。
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師、ローザミスティカ×2(水銀燈、雪華綺晶)@ローゼンメイデン。
[道具]:基本支給品、透明マント@ハリーポッターシリーズ、ランダム支給品0〜1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら、グレードアップえき(残り三回)@ドラえもん
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
0:目の前の痴女に対処する。
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君…何やってるんだろ。
6:コイツ(グレーテル)マジで狂ってる。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
※ローザミスティカを体内に取り込んだ事で全ての能力が上昇しました。
※ローザミスティカの力により時間経過で魔力の自己生成が可能になりました。
※ただし、魔力が枯渇すると消滅する体質はそのままです。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!、走刃脚@アンデットアンラック
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品3〜6(リップ、アーカード、魔神王、水銀燈の物も含む)、エボニー&アイボリー@Devil May Cry、アーカードの首輪。
ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵の首輪、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、
戦雷の聖剣@Dies irae、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!、魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、
バスター・ブレイダー@遊戯王デュエルモンスターズ、真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ、ヤクルト@現実、首輪×6(ベッキー、ロキシー、おじゃる、水銀燈、しんのすけ、右天)
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:目の前の痴女と遊ぶ。
1:兄様と合流したい
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。やっと一人だけど、まだまだ遊びたいわ!
7:聖ルチーア学園に、誰かいれば良いけれど。
8:水に弱くなってる……?
[備考]
※海兵、おじゃる丸で遊びまくったので血塗れです。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
投下を終了します
延長しておきます
投下します
ゆうしゃ ニケ は エクスカリバー を つかった!
しかし MP が たりない !
テロテロテロ、とそんなテロップが鳴って。
勇者ニケこと俺は、がっくりと肩を落とした。
「んだよ…ケチケチしやがって、俺勇者だよ?
そりゃ担ぎ上げられただけのダメ勇者だけどさ、それでも勇者なのよ?
それなのにMP不足で折角の伝説アイテムが使えないとか凹むんだけど」
ナルトが空から降って来た金髪を拾ってきてから。
俺達は、金髪の目が覚めるまで支給品の確認をする事になった。
エリスも、ナルトも、俺も、本音を言えば直ぐに出発したかったけど。
見捨てていくわけにもいかないから、こうして金髪の眼が覚めるまで待っている訳だ。
「フン!やっぱりルーデウスくらい魔力が無いとただの剣ってことね」
ナルトが預かった、セリムって奴のランドセルにあったアイテム。
約束された勝利の剣(エクスカリバー)って言うらしい、大層な剣。
残念だけど、俺にとってはめちゃくちゃ切れ味良さそうなただの剣だったみたいだ。
いや、持った時は直感的に何かいける感じがしたけど、扱うための魔力が足りないらしい。
その上剣として扱おうにも俺が振るうには重すぎる、持ち上げるのが精いっぱいだ。
仕方なく、エリスの今の剣が折れたりした時の予備にする。
『そんな見た目だけの剣より俺の方がよっぽど上等ってこった!ギャハハハ!』
背中のアヌビスがかなり腹立つ。でも言い返せない。
俺にとっちゃ、星の聖剣よりこの呪いのアイテム擬きの方が使える事は使えるから。
かーなーり納得いかないけど、それは認めるしかない。
でも、そうなると………。
「あんまり使えそうな武器とかアイテムはないな………」
テーブルの上に並べられた、乃亜が寄越してきた支給品。
その中でも一番頼もしそうなのが、エクスカリバーだったんだけどなぁ。
何とか、魔力さえ工夫したら使えたりしないかな?
こう言うの、地味(トマ)がいたら何か考えそうなもんだけど……
俺にはいい案は浮かびそうになかった。
仕方なく、俺が持ってるリコの花飾りを一つずつナルト達に渡す。
「なぁ、このカードは俺が持っててもいいか?」
渡している途中、横からナルトが声をかけられる。
ナルトはテーブルの上に置いた一枚のカードを見ていた。
時の魔術師って名前のカードだ。
「私達に一々許可を取らなくても、別にいいわよ。
だってそれ、アンタのランドセルに入ってたカードでしょ?」
尋ねてきたナルトに、エリスが相変わらず気の強そうな答えを返す。
それに俺もうんうんと頷いた。
何でも魔法のカードみたいだけど、使うのに失敗する事もあるとか。
成功しても時魔法をかけるとか、何が起きるのかはっきりしない、良く分からんカードだ。
しかも使える回数はたった五回だけだから、迂闊に試すわけにもいかない。
ハッキリ言って、お守り程度のアイテムって所だ。
それに、元々持ってたのがナルトなら何か言う事も無い。
そんな俺達の返事を聞いて、ナルトはもう一回カードに目を向けて。
「…これは、セリムから預かったカードだ」
そう言った。
セリムって奴の話はエリス達からもう聞いてる。
シュライバーってヤバいのを相手に一人殿を買って出たらしいナルト達の仲間。
それを聞いて俺は無事なら良いなと思いつつ、ナルトに言葉を掛ける。
なら、さっさと合流して返さないとなって。
「……おう!」
ナルトは親指を立てて、ニカっと笑った。
何だか、こいつとは不思議と馬が合うなあ。
そう感じながら、俺は最後に残った使えそうな支給品に目を落とす。
スタンドDISCって言うらしいCD。説明書的には役に立ちそうな事が書かれてたけど。
試しに頭の中に入れてみたけど、俺たちの中じゃ全員上手く扱えそうにはなかった。
相性見たいな物はやっぱりあるみたいだ。
「ったく、乃亜のヤロー…せめて普通に使えるアイテム寄越せってんだ」
『んなもん無くても、俺が敵は片っ端から膾斬りにしてやるって言ってんだろーが』
呪いの刀の言葉を無視して、ぼやきながら支給品をランドセルに仕舞っていく。
ナルトもエリスも、同じような不満げな顔で支給品を締まっていき。
俺が最後に残ったスタンドDISCを仕舞おうとした時の事だった。
「う……」
今まで気を失っていた金髪。
ディオ・ブランドーが目を覚ましたのは。
▼▽▼▽
どうしてこうなった。
シャルティア、メリュジーヌのコンビから辛くも生き残った少年。
ディオ・ブランドーが目を覚まして早々考えたのはその一言だった。
「───馬鹿言ってんじゃないわよッ!!」
まず信頼を得るためにメリュジーヌ達の脅威を話そうとした矢先。
狂犬のような女が開口一番にそう叫んで。
そして貧民街の賭けボクシングに慣れたディオですら反応できない速度の拳が、鼻っ柱に突き刺さった。
「うげーッッッ!?」
腰の入った拳が顔面を捉え、ディオの体はもんどりうってぶっ飛んでいく。
どんがらがっしゃんと音を立てて、部屋の壁にぶち当たりようやく止まる。
一発でものの見事にグロッキー状態。鼻からドロリと赤い血が流れ。
じくじくと走る痛みに目じりを潤ませながら、ディオは叫ぶ。
「何をするだァーッ!この汚らわしい阿呆がァーッッッ!!」
「あ゛あ゛ン゛!?」
少年の怒声は、野獣の唸りの様な少女の怒号によってかき消された。
涙目のディオに、エリス・ボレアス・グレイラットは仁王立ちでディオに対峙する。
その立ち振る舞いは、暴力系ヒロインを飛び越えヒロイン系暴力。
貴族の令嬢というより不良漫画の番長だと、かつてルーデウスは彼女をそう評したが。
その時正にその場にいる者たち全員が、かつてルーデウスが抱いた物と同じ感想を抱いた。
「お、落ち着けエリス!怒ってたら可愛い顔が台無しだぞ!?」
「一体どうしたんだよ!説明するってばよ!」
放っておけばずんずんと歩み寄ってマウントポジションで少年をボコボコにしかねない。
荒ぶるエリスを見てそう考えたナルトとニケは、慌てて彼女に縋りついた。
少年二人がかりでなければ止められないのは流石の狂犬エリス。
がるると唸りつつ、自身の怒りの原因を述べる。
「沙都子とメリュジーヌはね!身を挺して私たちを助けてくれたの!
その沙都子たちが殺し合いに乗ってるなんて出鱈目は許さないわ!!」
エリス・ボレアス・グレイラットと言う少女は、狂犬だ。
彼女を一言で形容するならば、それ以上の言葉は存在しないだろう。
だが半面、一度胸襟を開いた相手にはとてもよく懐く。
そして受けた恩情は素直に受け取る少女でもある。
そのエリスが命懸けで助けてもらった相手への悪評を看過できる筈もない。
結果、彼女は烈火のごとくその怒りを噴出させたのだった。
(こ、この話の通じぬビチグソ女がァ〜〜〜!
まんまと北条沙都子に騙されているド低能の分際でこの僕を殴るなど……!)
腹に据えかねているのはディオも同じだ。
この件に関して珍しく彼は殆ど嘘を言っていないのだから。
だからこそ頭に血が上って、自分の主張に意固地になる。
君は北条沙都子に騙されている。
このままでは次会った時には騙されたまま後ろから刺される事になるぞ。
そう訴えるが、実際に助けられたエリスの風評は簡単に覆る物では無かった。
それに何より。
「大体、アンタが最初に襲われたっていう明け方は私と沙都子達は一緒にいたわよ!
沙都子も連れてないって言うし、この時点でアンタが適当言ってるとしか思えないわ!」
北条沙都子の工作が、ここに来て効果を発揮していた。
エリスとて頭から沙都子達を盲信している訳では無い。
だからこそディオがメリュジーヌの危険性を提唱した時も、途中までちゃんと聞いていた。
時系列的に、完全につじつまが合わない破綻した部分が出てくるまでは。
明け方にディオは最初の襲撃を受け、その後追撃を受けたと語ったが。
エリスがボレアス邸でメリュジーヌに助けられたのも丁度それぐらいだ。
時系列が合わず、彼女にはディオが沙都子達を陥れようとしている様にしか見えなかった。
「喧しいッ!何と言われようと僕は主張を変えるつもりは無いッ!
北条沙都子もメリュジーヌも、血に飢えた品性下劣なビチグソマーダーだッ!!」
ディオも引けない。完全に頭に血が上っているのもそうだが、引けない理由があった。
エリス達は完全に沙都子達を信じ切っている。
このままでは、メリュジーヌが本性を現した時に何もできず殺される。
ドロテア達の生存が絶望的な今、折角身を寄せられた対主催の一団を失いたくはなかった。
もし一人だけ生き延びられたとしても結局はジリ貧。死期が伸びるだけでしかない。
業腹ではあるが、プライドの高いディオでももう分かっている。
今の自分では優勝はおろか自衛すら絶望的と言わざるを得ない事位は。
だからこそ強固に主張し、訪れるのは双方意固地になった押し問答。
エリスが飛び掛かりディオの顔をボコボコにするのは時間の問題と言えた。
うずまきナルトが、声を上げなければ。
「なんですってぇ………!」
「ちょ、待てよエリス!まだ嘘を言ってるって決まった訳じゃねーってばよ!」
「何よナルト!アンタこいつの肩を持つわけ!」
さっきまではがるる、とうなり声だったのが、今はきしゃーと怪気炎を上げて。
本当にこいつ大名の娘なのかと訝しむ思いを胸に抱きつつも、ナルトは口火を切る。
別にディオの肩を持つわけじゃない、と大声で前置きした後。
「エリスを助けた沙都子を疑ってる訳じゃねーけど、俺ってば心当たりあるんだよ!!」
「………?どういう意味よ」
ナルトの言葉に訝し気な表情を浮かべて、暴れていたエリスが初めて停止する。
ディオの言葉には全くもって聞く耳を持たなかった彼女だが。
既に胸襟を開いていたナルトの言葉には、耳を傾ける理性があった。
停止したエリスに少しホッとした顔を浮かべた後、ナルトは抑えていた片腕から手を離す。
そして睨む様な鋭い視線でエリスが見つめる中、彼はゆっくりと忍術のための印を組んだ。
「変化の術!」
ボンと煙が発生したあと、ナルトの姿が変貌する。
先ほどまでの少年然とした姿から、豊満な肢体の金髪美女へと。
それを見たおおっ!と、ニケは前のめりに反応を見せ。
エリスとディオも困惑と驚愕がない交ぜになった表情で突如現れた美女をじっと見つめる。
「とまぁ、今のが変化の術って言って、俺でも使える術だってばよ」
「………ナルト。アンタが言いたいのはつまり…………」
変化の術を目の前で実演され、エリスも遅れて辿り着く。
ナルトが立てた仮説。
即ちメリュジーヌの姿を騙った偽物がディオを襲ったのではないかと言う答えに。
「なんて奴……!メリュジーヌの姿で誰かを襲うなんて………!」
わなわなと震え、怒りを滾らせるエリス。
その姿は他の三人にとってとても心臓が悪い物だった。
だが、ナルトの考えを聞いて尚、ディオは納得していない。
ナルトの推測が外れているとは言わないが、あの甲冑騎士の纏っていた威圧感…
他人の姿を借りてマーダー行為を行うチンケな相手が出せるモノだろうか。
否、断じて否である。だがそれを主張しようにも客観的な反論材料がほぼない。
更にこの場にいるもう一人、ニケも思い当たる節があった。
「そう言えば……俺が少し前に襲われた前に襲われた中島も」
「姿を自由に変えられるって言ってたわね!じゃあそいつがメリュジーヌの姿を──」
間の悪いことに、ニケには姿を変えて襲ってくるマーダーに心当たりがあった。
歪な形で辻褄が合ってしまい、こうなると沙都子達は心情的に完全に容疑から外れる。
ディオを襲ったのはメリュジーヌの姿を騙った中島という図式ができあがりつつあり。
不味いと考えたディオは反論しようとする。
だが、それを遮る様に彼の首にオレンジの服で覆われた腕が回された。
「…おいっ!納得できねーかもしれねーけど、今はそう言う事にしとけ。
実際助けられてるらしいエリスに、これ以上何言っても聞く耳持たねーってばよ」
「し……しかし………」
「それとも、何かそのメリュジーヌってのが殺し合いに乗ってる証拠でもあるのか?」
「…………………………」
ひそひそと耳打ちされたナルトの言葉に、ディオは反論ができない。
メリュジーヌのアリバイを崩す確たる証拠でもない限り、水掛け論にしかならないからだ。
どんな推理も、実際にエリスがメリュジーヌに助けられたという事実には敵わず。
これ以上主張した所で時間の無駄である。そう判断する他なかった。
(クソッ!北条沙都子とメリュジーヌめ…これを狙ってエリス達を助けたのなら、
お前たちの策は予想以上の効果を上げたぞ………ッ!!)
北条沙都子の思惑を崩せない歯がゆさと、エリスに殴られた鼻の痛みに苛立つ。
覆しようのない現実に苛まれながら拳をぎゅっと握り締めて。
それでもディオは討論の一端の終結を告げた。
「分かった…今とりあえずそれでいい。だが、本当にメリュジーヌには注意してくれ。
君達の言う……ナカジマが彼女に化けて凶行に及んでいる可能性は高い」
取り合えず、今はメリュジーヌの姿をした参加者への警戒を促す事で良しとするしかない。
だが、本物が殺し合いに乗っていた場合、こんな注意喚起は何の意味もなく。
もし彼女と出会った時は、こいつらが斬られている内にさっさと逃げよう。
そう、ディオは心に決めたのだった。
▼▽▼▽
ディオ・ブランドーとナルト達のファーストコンタクトが終わったからすぐ。
緊張した声色で声を上げる者がいた。
『な…なぁ、ニケ!』
ニケの背に背負われた太刀、アヌビス神だった。
突如として響いたエリス達三人とは違う声。
それが剣から発せられた物だと分かった時、ディオは俄かに驚愕の顔を浮かべる。
そんな彼の驚愕を尻目に、ニケは語り掛けてきたアヌビスに何の用かと尋ねる。
まぁ、アヌビスの続く台詞は凡そ予想できていたけど。
「ダメ」
『まだ何も言ってねーだろがッ!おいッ!』
馴れ馴れしい態度で接してくるアヌビスに何かを感じ取ったのか。
ニケは珍しく塩気の強い態度で対応する。
「ディオと二人で話をさせてくれとか言うんだろ?やだよ。お前ロクな話しそうにないし」
『なッ!テッ、テメー!そんなに俺への信用が無いか!』
にべもないニケの言葉に、焦燥と怒りを露わにするアヌビス。
そんな彼に、ニケはにっこりと笑顔を浮かべ聞き返した。
むしろ、お前が今迄信用できる台詞を吐いた事があったかい?と。
───先ずはお前を乗っ取って!!それから斬って斬って斬りまくってやるッッッ!!
───まぁ精々頑張れや!ギャハハハハハハ!!!!
───んなもん無くても、俺が敵は片っ端から膾斬りにしてやるって言ってんだろーが。
ニケの言葉の通り、ロクな思い出が無かった。
身から出た錆だった。
「お前の言ってたDIOと目の前のディオが一緒の奴なのかは知らないけどさ。
他人の身体を乗っ取ってまで人斬りたくて堪らないって感じのお前の親玉って時点でなー」
『あッ!あがッ!お、お前それはこう、ノリでだなッ』
「なら別に俺達がいる前で話してもいいだろ?聞かれて困る事を話す訳じゃないんならさ」
『うぐぐ…だ、だが………』
ディオは冷淡な態度で、首を横に振った。
それを見た時、アヌビス神が覚えたのは取り巻く空間がガラガラと崩れていく様な錯覚と。
DIOを幼くした容姿のこの少年は、もしかして本当に人違いなのか?という疑念だった。
ショックを隠せないアヌビスの刀身をニケはつんつんと突いて声をかける。
スタンドとは何なのか教えろ、と。俺達も知りたい、と。彼はアヌビスに要求した。
『グ…グムムムム……ス、スタンドっていうのはだな………』
幽波紋(スタンド)とはッ!
生命エネルギーから作り出されッ!
そばに現れ立つパワーある像(ヴィジョン)ッ!
そこの机の上のディスクや俺の様にッ!物に宿る物もあるッ!
『そしてDIO様ッ!俺は貴方様に倉庫の暗闇から救い出されッ!
何より貴方様のその圧倒的なスタンドの力に忠誠を誓った身ッ!
さぁこいつらを即刻ぶち殺し、共に優勝をごごごごごごごごごォッ!?
おぎょぎょぎょぎょぎょ!!やッやめッ!俺が悪かった!!
ぎゃああああああああああッ!?!?!?』
説明に熱が入り、余計なことまで口にし始めたアヌビスに対し。
ニケはどこからともなく取り出したデスソースをぶっかけていた。
この島ではスタンドへの物理干渉が容易になっているため、アヌビスは悶絶。
更に其処に契約違反の兆しを感知したのか、刻まれたギアスまでも彼を苛み、のたうち回る羽目となる。
「……すまないが、アヌビス。君の言っている事に何一つ心当たりがない」
七転八倒するアヌビスを見つめるディオの瞳は、冷ややかな物だった。
取り合えず、こいつの話に乗っかるのは立場を悪くするだけだと判断を下す。
今まで行動を共にしていたドロテア達の生存は絶望的だ。
少なくとも、キウルは確実に囮にされメリュジーヌ達に殺されているだろう。
仮にドロテア達が生き残っていたとしても、頼りになるかといえば疑問である。
最悪の場合、自分たちを見捨てたとして永沢と同じ末路を迎えるかもしれない。
そんな中で、今目の前の対主催とみられる一団に見捨てられてしまえば自分は詰む。
ディオにはその確信があった。
(だが…アヌビスの立場と、目の前の如何にもお人よしそうなこいつらは使えるッ!)
ニケ達には見えないように俯きがちに眼光を煌めかせ。
ディオは最低限の自衛の手段を確保するべく目まぐるしく頭脳を回転させ始める。
まず消沈した様子のアヌビスに向け、「しかし」と前置きをして。
「これは仲間から受け売りだが、我々はバラバラな国や時代から集められているらしい。
だから、未来で僕が君の主となることもあるのかもしれない。となると、だ」
アヌビスを持つ権利は僕にあるのではないかなと、ディオは述べた。
聞いた瞬間、エリスは目を剥いて食って掛かろうとする。
当然だ。ディオもこんな要求が通るとは考えていない。
これはあくまで交渉のきっかけ、跳ねのけられることが前提の話だからだ。
>>264 ですが、抜けがあったため此方に修正します。
狼狽した様子で、アヌビス神のスタンドビジョンがディオの方へと視線を向け。
縋るような視線にようやく、ここまで沈黙を保っていた少年は話へ割って入った。
すまないが、俺は君の様な喋る刀と会った覚えはない、とまず前置きし。
そのあと続いて、そもそも君は何なんだ?という問いを投げる。
『えぇッ!?ディ、DIO様…本当に俺の事を知らないんですかァ?
スッ!スタンドはッ!?世界(ザ・ワールド)21は!?』
ディオは冷淡な態度で、首を横に振った。
それを見た時、アヌビス神が覚えたのは取り巻く空間がガラガラと崩れていく様な錯覚と。
DIOを幼くした容姿のこの少年は、もしかして本当に人違いなのか?という疑念だった。
ショックを隠せないアヌビスの刀身をニケはつんつんと突いて声をかける。
スタンドとは何なのか教えろ、と。俺達も知りたい、と。彼はアヌビスに要求した。
『グ…グムムムム……ス、スタンドっていうのはだな………』
幽波紋(スタンド)とはッ!
生命エネルギーから作り出されッ!
そばに現れ立つパワーある像(ヴィジョン)ッ!
そこの机の上のディスクや俺の様にッ!物に宿る物もあるッ!
『そしてDIO様ッ!俺は貴方様に倉庫の暗闇から救い出されッ!
何より貴方様のその圧倒的なスタンドの力に忠誠を誓った身ッ!
さぁこいつらを即刻ぶち殺し、共に優勝をごごごごごごごごごォッ!?
おぎょぎょぎょぎょぎょ!!やッやめッ!俺が悪かった!!
ぎゃああああああああああッ!?!?!?』
説明に熱が入り、余計なことまで口にし始めたアヌビスに対し。
ニケはどこからともなく取り出したデスソースをぶっかけていた。
この島ではスタンドへの物理干渉が容易になっているため、アヌビスは悶絶。
更に其処に契約違反の兆しを感知したのか、刻まれたギアスまでも彼を苛み、のたうち回る羽目となる。
「……すまないが、アヌビス。君の言っている事に何一つ心当たりがない」
七転八倒するアヌビスを見つめるディオの瞳は、冷ややかな物だった。
取り合えず、こいつの話に乗っかるのは立場を悪くするだけだと判断を下す。
今まで行動を共にしていたドロテア達の生存は絶望的だ。
少なくとも、キウルは確実に囮にされメリュジーヌ達に殺されているだろう。
仮にドロテア達が生き残っていたとしても、頼りになるかといえば疑問である。
最悪の場合、自分たちを見捨てたとして永沢と同じ末路を迎えるかもしれない。
そんな中で、今目の前の対主催とみられる一団に見捨てられてしまえば自分は詰む。
ディオにはその確信があった。
(だが…アヌビスの立場と、目の前の如何にもお人よしそうなこいつらは使えるッ!)
ニケ達には見えないように俯きがちに眼光を煌めかせ。
ディオは最低限の自衛の手段を確保するべく目まぐるしく頭脳を回転させ始める。
まず消沈した様子のアヌビスに向け、「しかし」と前置きをして。
「これは仲間から受け売りだが、我々はバラバラな国や時代から集められているらしい。
だから、未来で僕が君の主となることもあるのかもしれない。となると、だ」
アヌビスを持つ権利は僕にあるのではないかなと、ディオは述べた。
聞いた瞬間、エリスは目を剥いて食って掛かろうとする。
当然だ。ディオもこんな要求が通るとは考えていない。
これはあくまで交渉のきっかけ、跳ねのけられることが前提の話だからだ。
(というより、こんな犬っころを握ったところでメリュジーヌに勝てるかッ!)
下手にアヌビス神を渡されたら、メリュジーヌとチャンバラをする事になるかもしれない。
そうなったら最悪だ。あの少女騎士は、ディオのトラウマとして記憶されていた。
だから、下手に了承されても困る。むしろディオの本命は────
「勿論、僕もニケに与えられた武器を横取りしようとは思っていないさ。
だが…生憎僕は丸腰でね。何か自衛に使える武器があれば都合してもらえるとありがたい」
そう言って、チラリとディオはテーブルの上に置かれたディスクを見る。
アヌビスによれば、テーブルの上のディスクもがスタンドなる力を秘めているらしい。
それ故に、自衛用の力としてアヌビス神をダシに融通させようと思い至ったのだ。
「成程な。つまりこれをくれって話か」
「ちょっとニケ、渡す必要ないわよ!大体、私はこいつをまだ信用してないわ!
さっきメリュジーヌに襲われて一人だけ逃げてきたって言ってたけど、つまりこいつ…
仲間を見捨てて逃げてきたってことじゃない!!」
「緊急避難さ。第一、君だって僕のことを言えないんじゃないか」
ディオの冷淡な言葉に、烈火の様なエリスもぐ、と言葉に詰まる。
彼女の脳裏にはセリムの顔が浮かんでいた。こうなると反論しがたい。
その隙にディオはニケのほうに向きなおり、決断を促す言葉を述べる。
「もし僕が怪しいと思ったなら言ってくれればすぐにディスクは返却する。
僕だって馬鹿じゃあない。一人でこの殺し合いを生き残れるとは考えていないからね。
スタンドに拘って、君たちに放り出されればそれだけで生き残りは絶望的だ」
この時口にした言葉は、珍しくディオの本心からの言葉だった。
プライドの高い彼ですら、単独でこの殺し合いを渡っていくのは現実的ではない。
そう判断を下さざるを得ない環境なのだ、この島は。
そしてそれは、使い慣れていない異能(スタンド)一つあった所で変わらない。
客観的に、ディオはそう見ていた。
だから、最大限譲歩する形で話を着地させる事を決めていた。
本来であれば、一度自分の物になった物を返すのは死ぬほど嫌いなのだが。
とはいえ、背に腹は変えられないだろう。
(もっとも、こいつらがメリュジーヌに出会うまでの付き合いだろうがな……)
ディオはこの集団に危害を加える予定は今の所なかった。
メリュジーヌに会った時の肉の壁だ。簡単に失うわけにはいかない。
出会った時にはどさくさに紛れてスタンドごと持ち逃げする気は満々だったが。
それでも脱出方法を見つけるまでか、メリュジーヌに襲われるまで。
或いは優勝を現実的に目指せる力が手に入るまでは協力してやってもいい。
それまでの時ならばエリスなどと言う狂犬を相手に取り繕う屈辱も耐えられる。
(そう…最後にこのディオが生き残るのであれば…過程や手段はどうでもいいッ!)
精々利用してやるぞッ!このディオが生き残る為にッ!
そう腹の中で決意を固め、交渉相手を見据える。
見つめた先のニケは、流石に考え込んでいる様子だったが。
その表情すら、ディオから見れば単なるバカのようにしか見えなかった。
少し間のあと、ニケはディオの望む答えを口にした。
「………分かった、そんなに言うなら役に立ってもらおっかな」
「ちょっと、ニケ!信用できないって言ってたのはアンタじゃない!」
「分かってるってエリス。確か、丁度約束する時にいい道具があったろ?」
ニケのセリフにエリスはさっき確認した道具の中に誂え向きな物があったのを思い出す。
そして、自分のランドセルの中をごそごそとあさり、目当ての品を引きずり出した。
丸い円の形を描いた、ヘッドセットと、その説明書を。
それを受け取ると、ニケは説明書の裏に何かを記入して。
裏紙に何かが書かれたヘッドセットの説明書を、ディオに投げ渡す。
説明書の表面には、こらしめバンドと書かれていた。
これを着けろということらしい。
「……これは?」
「お前が約束を破ったら、この輪っかが頭を締め付ける。
信用できるって思ったらすぐに外してやるよ」
手渡された説明書の裏には、二つの誓約が記されていた。
ニケ、ナルト、エリスの三人を傷つけないこと。
勝手に頭の輪を破壊したり取り外そうとしないこと。
上記二点を破ったら、頭に嵌められた輪が締め付けてくるらしい。
説明書の説明と合わせ、エビデンスは取る事が出来た。
「……あぁ、構わないさ」
ディオにとっては、左程問題となる条件では無かった。
つまり、ニケ達に何もしなければ特に問題は無いのだから。
直接的に危害を加えなければ、特に行動も制限されない。
仮にメリュジーヌが襲ってきた時に逃げたとしても、誓約違反にはならない筈。
いざとなれば永沢の様に始末できないのは煩わしいが。
このまま信用を勝ち取り、さっさと頭の輪を外させてしまえばいいのだ。
この場にドロテアの様なキレ者はいない。断言できる。
なれば自分の頭脳なら可能であると、ディオは信じて疑わなかった。
(フン、僕にかかれば少なめの脳みそしかないガキ共なんぞ…簡単に手玉に取ってやるッ)
ディオの了承の言葉を耳にすると、ニケは一度頷き、その手の輪っかに声を吹き込む。
どうやら音声で動く仕掛けの様で、そのまま書かれた通りの条件が吹き込まれる。
そして、起動状態に入ったその輪を受け取ると、意を決したように嵌めた。
装着を確認後、ニケは今度こそテーブルの上に置かれたディスクをディオに投げ、
それを無言で、ディオは頭の中に挿入する。
「これは……!」
ディスクを頭に挿入して早々、像を結ぶ黄金のヴィジョン。
それを目にした瞬間、ディオは奇妙な感覚を覚えた。
生涯の宿敵と相まみえた様な敵意。
生涯の親友と出会ったかのような安らぎと親しみ。
それが同時に駆け抜け、僅かな間立ち尽くす。
「無駄ァッ!!」
『おおッ!流石はDIO様!既にスタンドを操る“スゴ味”があるッ!』
一拍の気合と共に、現れた像…ゴールドエクスペリエンスが動く様に念じてみる。
すると黄金のスタンドはブンッ!と空気を切り裂く拳を虚空へと放った。
それを見たアヌビス神が、感嘆の声を放つ。
(パワーは物足りないが……中々のスピードだ。気に入った)
思わず笑みが漏れる。これでこのディオはただ無力な、怯えるだけの弱者ではない。
この島にひしめく異能者たちに対抗しうる“手段“を手にしたのだ。
だが同時に、浮かれる訳にもいかない。
ニケがあっさりと手放した事から伺えていた事ではあるが、たった今ハッキリと分かった。
この力では、やはりメリュジーヌの様な魔人達の相手は無理だろう。単独では、確実に。
そもそもスタンドの間合いが短すぎる。
こんな近距離であの女と白兵戦など御免被ると言う物だ。
力押しで勝てるほどこの殺し合いは甘くないという事を、彼は既に思い知らされていた。
(そう、カードは手に入った。あと大事になるのは戦略だ)
ゴールドエクスペリエンスの能力に対する理解を深めつつ、立ち回らねばならない。
状況は未だ厳しいが、八方塞がりではない。打開は可能だ。
そしてきっと、どんな形であれこの殺し合いを切り抜けて帰還できた場合は。
自分はジョジョなど目では無いほど成長しているに違いない。
未来の自分の姿を想像して、思わずほくそ笑む。ディオは浮かれていた。
だから気づかなかった。
「─────!?」
抜刀の構えを取ったエリスが、彼の傍まで迫っている事に。
ゴールドエクスペリエンスで迎撃しようとするが、既に遅い。
その場にいたニケもナルトも、突然の事に反応ができず。
ただ、目にも止まらぬ速度で鞘奔った一刀が、空気を切り裂くのを見届けるしかできなかった。
「───な……何のつもりだ………!」
「別に。勘違いする前に教えてやろうと思っただけよ」
───私程度でも、これぐらいはできるってね。
語るエリスが抜いた刀の切っ先は、スタンドの首筋へと照準が付けられていた。
ほんの僅かにでもエリスが力を籠めれば、ばっくりと首が切り裂かれるだろう。
だからディオは動けない。微動だに出来ず、冷たい汗を流す事しかできない。
「そして、ここには私以上に強い奴なんてごまんといる。
だから私達を裏切ったとしても…優勝なんて無理よ」
冷淡に告げるエリスの言葉は、何処か自分に言い聞かせている様でもあった。
ともすれば真実ディオへの牽制も兼ねた、己への戒めであったのかもしれない。
だが、そんなことディオには知った事ではなく。
(こッこのアマ〜!女の癖に一度ならず二度までも小癪な真似をッ!)
怒りが腹を衝き、ゴールドエクスペリエンスでの反撃が思考に過る。
しかしその瞬間、異変が彼の頭を襲った。
嵌められていた頭部の輪が、ディオの頭を締め付けたのだ。
「ぐおぉおおおおおッ!?」
万力で締め付けられる様な感覚に、思わず苦悶の声が漏れる。
反射的に両手が頭へと伸びるが、その瞬間痛みは更に激しいものとなる。
ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎり。とてもスタンドを操作するどころでは無い。
ガクリと膝を付いて、口の端から泡を吹く。
(ク…頭が…痛くて、た…立ち上がれないだと、この…ディオがッ!)
こうなると痛みでエリスに対する怒りなどかき消されてしまう。
すると、そんなディオの感情の推移に合わせて痛みは鈍化していった。
人が怒りを抱いた、そのピークが持続するのは数秒と言う説があるが。
その節の通りに、締め付けが収まる頃には、ディオは不思議なほど頭が冷えていた。
というより、先ほどまでの痛みでそれどころでは無かった。
「………ハァハァ…分かって…ハァ……いるさ、そんな事は」
荒く息を漏らしながらも、ディオは素直にエリスの言葉を受け入れた。
スタンドを得た高揚に冷や水をかけられたが…確かに今の自分は“緩み”かけていた。
それに、頭に嵌められた器具の威力も認識した。非常に不本意だったが。
もし嵌める前に威力を知っていたら、まず間違いなく装着しなかっただろう。
ともあれ、こうなった以上もっと自分を冷静にコントロールしなくてはと肝に銘じる。
ディオの言葉を受けてエリスは無言でその手の刀を降ろし、後ろへと下がった。
「どうやら、その輪っかはちゃんと仕事してるみたいね」
「よ、容赦ねぇー……おーい、生きてるか―?」
『テッ、テメー!DIO様に何してくれてるんだァーッ!』
実験しやがったのか、この女。
ニケにつんつんと痙攣する体を突かれ、心中で怒りが湧き上がりそうになるものの。
また頭を締め付けられるのは御免だと、深呼吸をして心を必死に落ち着かせる。
今ここで暴れても頭が締め付けられれば抵抗できないし。
そうなれば折角手に入れたスタンドの力を奪われてしまう。
それだけは、今のディオにとって絶対に許容できない事だった。
(そうだ…折角手に入れた力、簡単に失ってたまるか………!)
何故ならディオには夢があるから。
青ちょびたドブネズミの糞にも劣る劣等共では、決して考えもつかぬであろう夢が。
大望に至るためなら、今は伏して屈辱に耐えられる。
(僕は絶対に……!ジョジョの財産を奪いッ!誰にも負けない男になるッッッ!)
それが彼の黄金の如き夢だった。
▼▽▼▽
ディオがスタンドを得て直ぐ、一行は出発する事とした。
何故なら、偽物のメリュジーヌと彼女と結託していた女が自分を追って来るかもしれない。
そうディオが言ったからだ。そして、両者ともヒトを超えた強さであるという。
話を聞いた瞬間、ニケは急いでこの地点を離れる事を提案し、一同もそれに賛同した。
出発してから20分程あと、ディオが飛んできた方角から凄まじい爆発音が響き。
ニケはとても帰りたそうな顔をしていた。ディオも同じような表情を浮かべていた。
(ルーデウス………)
爆発した司令部の方角を眺めながら、エリスと言う少女が考えるのはたった一人。
ルーデウス・グレイラットの事だけが、エリスには気がかりだった。
彼は無事だろうか。辛い思いをしていないだろうか。
ルーデウスの居場所がわかれば、今すぐ駆け付けられるのに。
目覚めてからずっと肌で感じている、嫌な予感に別れを告げられるのに。
(強く、なりたい)
彼の強さを信じられる程強く。
彼を、家族を、自分の剣で守れる程強く。
何があっても、乃亜の甘言などには屈しない。
望みは己の力で叶えて見せると、宣言できる程強く。
強く、なりたかった。
(これ、使う必要があるのかもね)
エリスには、支給品の開示と分配の際に出していない支給品があった。
使用者に絶大なリスクを科す代物のため、他の者に使わせるつもりは元よりなかったが。
小指程のサイズの小瓶に詰められた、液体金属。
黒い核鉄。柔らかい石。真エーテル。哲学者の石。第五元素。赤きエリクシル。
様々な名を持つ液体金属だが…最も著名な名はやはり、賢者の石だろう。
かつて、フラスコの中の小人(ホムンクルス)から別れ出でた、憤怒の感情を司る石。
体に取り込めば今よりも確実に強くなれる──石に敗れた場合の死のリスクと引き換えに。
(でも、今じゃない)
これを体内に取り込むのは、毒を呷るのと変わらない試みだ。
今はまだ、大博打をするには早すぎる。
だが、もしルーデウスを守る為に必要に迫られた場合。
或いは、致命傷を負って死を待つだけの状態になった時は………
「その時は、迷わない」
ルーデウスを守る為なら。
海馬乃亜を倒すためなら。
それはきっと、命を賭けるに値する理由だ。
だから少女はその時が来たときに迷いはしないと、己の剣に誓いを成す。
今はただ、エリスは静かに牙を研ぐ。
【D-5/1日目/昼】
【エリス・ボレアス・グレイラット@無職転生 ~異世界行ったら本気だす~】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)、少しルーデウスに対して不安、
沙都子とメリュジーヌに対する好感度(高め)、シュライバーに対する恐怖
[装備]:旅の衣装、和道一文字@ONE PIECE、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!(相性高め)
[道具]:基本支給品一式、賢者の石(憤怒)@鋼の錬金術師、リコの花飾り×1@魔法陣グルグル
[思考・状況]
基本方針:ルーデウスと一緒に生還して、フィットア領に戻るわ!
0:放送までに火影岩に寄ったあと、ルーデウスを探す。
1:首輪と脱出方法はルーデウスが考えてくれるから、私は敵を倒すわ!
2:殺人はルーデウスが悲しむから、半殺しで済ますわ!(相手が強大ならその限りではない)
3:ドラゴンボールの話は頭の中に入れておくわ。悟空って奴から直接話を聞くまではね。
4:早くルーデウスと再開したいわね!………本当に。
5:私の家周りは、沙都子達に任せておくわ。あの子達の姿を騙ってる奴は許さない。
6:ガムテの少年(ガムテ)とリボンの少女(エスター)は危険人物ね。斬っておきたいわ
7:ルーデウスが地図を見れなかった可能性も考えて、もう少し散策範囲を広げるわ。
[備考]
※参戦時期は、デッドエンド結成(及び、1年以上経過)〜ミリス神聖国に到着までの間
※ルーデウスが参加していない可能性について、一ミリも考えていないです
※ナルト、セリムと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました
※沙都子から、梨花達と遭遇しそうなエリアは散策済みでルーデウスは居なかったと伝えられています。
例としてはG-2の港やI・R・T周辺など。
【うずまきナルト@NARUTO-少年編-】
[状態]:チャクラ消費(小)、疲労(中)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品×3、煙玉×4@NARUTO、ファウードの回復液@金色のガッシュ!!、
鏡花水月@BLEACH、城之内君の時の魔術師@DM、エニグマの紙×3@ジョジョの奇妙な冒険、リコの花飾り×1@魔法陣グルグル
ねむりだま×1@スーパーマリオRPG、マニッシュ・ボーイの首輪
[思考・状況]
基本方針:乃亜の言う事には従わない。
1:火影岩でセリムを拾ってから我愛羅を探す。
2: 我愛羅を止めに行きたい。
3:殺し合いを止める方法を探す。
4: 逃げて行ったおにぎり頭を探す。
5:ガムテの奴は次あったらボコボコにしてやるってばよ
6:ドラゴンボールってのは……よくわかんねーってばよ。
[備考]
※螺旋丸習得後、サスケ奪還編直前より参戦です。
※セリム・エリスと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました。
【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)、仮面の者(アクルトゥルカ)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's(搭乗中)
[道具]:基本支給品、丸太@彼岸島 48日後…、リコの花飾り×1@魔法陣グルグル、シャベル@現地調達、約束された勝利の剣@Fate/Grand Order、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:おじゃる丸と水銀燈を探す。銀ちゃんは、マジで見捨てそうだから大急ぎで。
1:とりあえず仲間を集める。ナルトとエリスに同行する。
2:クロエを探して病状を聞き出す。
3:マヤ……
4:DBの事は俺の考えが間違ってるとは思わないけど、あんまり後ろ向きになっても仕方ないか。
5:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
6:フランはあいつ本当に大丈夫なのか?
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
※仮面(アクルカ)を装着した事で仮面の者となりました。仮面が外れるかは後続の書き手にお任せします。
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]顔面にダメージ(大)、精神的疲労(中)、疲労(中)、怒り、メリュジーヌに恐怖、強い屈辱(極大)、乃亜やメリュジーヌに対する強い殺意
[装備]『黄金体験』のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、
こらしめバンド@ドラえもん、バシルーラの杖[残り回数1回]@トルネコの大冒険3
[道具]基本支給品、光の護封剣@遊戯王DM
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:馬鹿共を利用し生き残る。さっさと頭の輪は言いくるめて外させたい。
1:メリュジーヌが現れた場合はナルト達を見捨ててさっさと逃げる。
2:先ほどの金髪の痴女やメリュジーヌに警戒。奴らは絶対に許さない。
3:ゴールドエクスペリエンスか…気に入った。
4:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
5:海が弱点の参加者でもいるのか?
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
【こらしめバンド@ドラえもん】
エリス・ボレアス・グレイラットに支給。
『西遊記』の孫悟空が頭にはめている輪「緊箍児」を模したような輪。
これを頭にはめ、禁止されていることをやろうとすると頭が締め付けられる。
音声認証で禁止する事を設定でき、設定した人物なら簡単に取り外せる。
【賢者の石(憤怒)@鋼の錬金術師】
エリス・ボレアス・グレイラットに支給。
かつてキング・ブラッドレイに注入された賢者の石。
傷口などから注入し、石に打ち克つ事ができればその人間はホムンクルスとなり、
憤怒の固有能力である「最強の眼」を得る事ができる。
ただし、殆どの場合石の拒絶反応によって注入された人間は死亡する。
また、石に内包されるホムンクルスの人格に乗っ取られる場合があるが、
今回乃亜の手によって石の人格が表出するのは制限されている。
よって摂取した者の末路は二つに一つ、拒絶反応によって死亡するか。
それとも石に打ち克ち、その力を我が物とするかである。
【城之内君の時の魔術師@遊戯王DM】
セリム・ブラッドレイに支給。
武藤遊戯の手から与えられた、王国編における城之内克也の切り札である魔法カード。
発動した際にその手のタイムルーレットを回し、
失敗した場合は使用者に疲労(大)の効果を及ぼす。
成功した場合、自軍と敵軍に時魔法 (タイム・マジック)を発動する。
時魔法が発動した場合敵の従えるモンスターカードは破壊される。
ただしこの破壊効果が適用されるのはマジック&ウィザーズのモンスターカードのみ、
正規の参加者や意志持ち支給品には破壊効果“は”適用されない。
ごく一部の参加者にはそれ以外にも時魔法の効果が及ぶ場合がある。
一度使用すれば三時間のインターバルが必要。
また、このカードが使えるのは成否を問わず五回まで。
五回しようすれば例え最後が失敗の結果に終わっても、ただのカードとなる。
【スタンドDISC『ゴールド・エクスペリエンス』@ジョジョの奇妙な冒険】
糸見沙耶香に支給。
ジョルノ・ジョバァーナの使用するスタンド『ゴールド・エクスペリエンス』が内包されている。レクイエムに進化する事は乃亜のハンデによりできない。
テントウムシがモチーフの近距離パワー型で、触れた物体に生命力を注ぎ込み、そこから動物や植物といった生物を生み出す能力を持つ。
この能力を応用し、手や舌、内臓など部分的な体組織を他の物体から生み出し、これを移植することで肉体が欠損する程の外傷も治療が可能。
ただし、『ゴールドエクスペリエンスレクイエム』に進化する事は絶対にできない。
【約束された勝利の剣@Fate/Grand Order】
マニッシュ・ボーイに支給。
アーサー王ことアルトリア・ペンドラゴンが振るう聖剣『エクスカリバー』
人々の「こうであって欲しい」という想念が星の内部で結晶・精製された神造兵装であり、最強の幻想(ラスト・ファンタズム)。
真名を解放することで所有者の魔力を光に変換し、集束・加速させることで運動量を増大させ、光の断層による“究極の斬撃”として放つ。
真名解放時に消費する魔力量はかなりの物であり、この事から魔力の乏しい者は真名発動しても不発に終わる。
投下終了です
自己リレーになりますが
金色の闇、クロエ、グレーテルを予約して投下します
ド ン ッ
触手じみた髪の毛の群れが湧き出し、ブティックの壁が吹き飛ばされ崩壊する。
その中からクロエとグレーテルが飛び出し、宙に静止する。
髪の毛を操る闇はにたりと笑みを浮かべると、蠢く髪の毛を手の形に変え二人に踊りかからせる。
さながら鞭の如き速さで向かいくるそれを、クロエは咄嗟に身を捩りながらかわし、グレーテルはその脚に着けたブレードランナーの力で空を飛びそのまま避ける。
襲いくる数多の掌を避け、足を孤月に振るい刃を放つも、闇は鉄に変身させた髪の毛を盾に防ぐ。
返しに放たれる数多の髪の毛にクロエは魔力で矢を投影し発射、迎撃。
その隙にグレーテルは飛行し離脱。クロエとは距離を空けて静止する。
ほっとするのも束の間、横合いから感じた気配に咄嗟に飛び退くと、その僅か後に空間に穴が空き、髪の毛でできた腕が伸びクロエを追いかけ始める。
あわや確保されそうなところでグレーテルの放つ銃弾が妨害し、なんとか難を逃れる。
互いの隙を埋め合う妨害に感謝の言葉を交わす間も無く、新たに支給品を取り出す暇もなく、蠢く髪の毛は絶え間なく襲いくる。
クロエはチラと地上を見下ろせば、闇は相も変わらずヘラヘラと笑みを浮かべて二人を追い立てている。
(ッ...向こうは空は飛べなさそうなのはラッキーかも。このまま逃げ切れれば...!)
そう思うのも束の間、闇は背中から黒い翼を生やし、即座にクロエ達と同じ高さまで飛び上がる。
「反則でしょこんなの!」
あまりの無法ぶりに思わず叫ぶクロエだが、それで闇の猛威が止まるわけではない。
高さという利点を失ったクロエとグレーテルは再び迫る髪の毛の対処に追われることになる。
足を振り抜く暇さえない速度で追ってくる髪の毛に、グレーテルはブレードランナーの刃を使う暇も無く、クロエにしても弓矢を構える間もないため双剣で対処。
徐々に追い詰められていく彼女たちにダメ押しとばかりにランドセルが蠢き海水の鞭が二人に踊りかかる。
「なっ、なによこれぇ!?」
「きゃっ、冷たい」
水の鞭に全身を縛られた二人は身動きが取れなくなり、そのまま地面に落下する。
「クッ、こんなもので...!」
「させませんよ♩」
縛られている箇所を地面に擦り付けて水を消そうとするクロエだったが、しかし、突然走る甘い感触に思わず声を上げてしまう。
「ひぁっ、な、なに!?」
思わず声をあげてしまうクロエ。見れば、纏わりつく水がクロエのボディラインをなぞるように蠢いているではないか。
(なっ、なにこれ!?どうなってんのよ!?)
うにゅうにゅと蠢く水は、クロエの首筋から始まり、鎖骨を、胸を、腋を、腹を、臀部をなぞっていく。まるで愛撫するかのように甘い感触はクロエを翻弄する。
「くぅ、このぉ、ふざけないで!」
なんとか水を振り払おうとするクロエだったが、しかし水はクロエの体にぴったりと張り付くように蠢き、振り払えない。
「やぁっ...」
それどころか水はまるで意思を持っているかのようにその先端を尖らせ、クロエの体をなぞり上げる。
その度走る甘い感触に思わず声が漏れてしまう。
「ふふっ、やっぱり貴女もそこが弱いんだ...さっき会ったそっくりさんと同じ♡」
「そ、そっくりさ...んっ!?」
「ええ。確か、そう...イリヤって名前でしたっけ。あの子もあなたみたいに最高にえっちに喘いでいましたよ?」
闇の髪の毛が蠢き、手の形から少年へと姿を変えていく。
「こんなふうにね♩」
ハレンチの化身、結城リトを擬似再現した変身より繰り出されるはその舌技。数多の少女を快楽に染め上げたその舌が、クロエの幼い身体に襲いかかる。
「や、やめっ...んにゃぁ!」
舌になぞられ、クロエは耐え難い快楽に悶える。
その隙に闇はクロエの服の中に海水を侵入させ、彼女の身体を蹂躙していく。
「やっ、あああああぁぁぁぁ♡」
「あぁ...やはりイイ...あなたたち、さいっっっこうに、えっちぃですよぉ♡」
「くうッ...!」
嗜虐的に嗤う闇を悔しげに睨みつけながらも、クロエは闇の背後に転がるグレーテルに視線を移す。
いま、闇は自分に集中している。背後から攻撃なりなんなりするチャンスだ。
「ふにゃぁ...」
そんな淡い希望も、地面にへたり込む彼女の姿に打ち砕かれた。
「う、そ...」
「ふふっ、残念でしたぁ♡あの子の方の水もちゃんと操作してるんですよぉ」
闇の髪の毛が蠢くと、結城リトの形をしたモノが次々に増えていく。
「安心してください。痛いことも苦しいことも一切ない...ただただ快楽だけに染めあげて、その中で殺してあげる。それが結城リトへ捧げる供物への手向け...ひいては、貴女達のためなんですから。それを証明すれば、美柑だって...」
美柑という名を出したその一瞬だけ、今までヘラヘラとしていた闇の目が伏せられ物憂げな表情になる。
クロエはその瞬間を見ていたが、今はそれどころではない。
クロエは生きたいと願っている。そのために人を傷つけた。殺した。その罪が重くのしかかってきても、それでもなお生を望んでいる。それが。その末路が。こんな痴女に辱められて終わりだなんて認められるものか。
その生を諦めぬ執念宿る瞳に、闇の背筋はゾクゾクと震え上がる。
「ふふっ、いいですよぉその目...イリヤスフィールのようにいつまで折れずにいられるか...試したくなっちゃう」
『結城リト』達の手がわきわきと蠢きクロエに迫る。辿り着くまでにほんの数秒だが、それでもなおクロエは諦めない。微塵も目を逸らさず、生きる道を模索し続ける。
バララララッ
『結城リト』の手がクロエに触れるその寸前、銃弾の雨が闇に襲いかかり、『結城リト』達の頭部を砕いていく。
血飛沫も脳漿も無く四散していく彼らは、所詮はただの紛い物でしかないのをさめざめと見せつけているようでもあった。
「...まだ動けたんだ」
「ふふっ。引き金を引くだけなら大した力は要らないから」
「グ、グレーテル...」
復帰したグレーテルにクロエは安堵の笑みを浮かべる。
戦力的に見れば、この場の3人で1番劣るのはグレーテルだ。だが、不思議と彼女ならなんとかしてくれるのではと期待を寄せずにはいられない。それは、『殺して生きる』道の先ゆく体現者であるからだろうか。
「このえっちぃのを邪魔されるパターンもそろそろ飽きてきたころだし...まずは貴女から溺れさせてあげる」
「んあっ!?」
クロエを水責めで弱らせるのは忘れず、再び作り出す『結城リト』達をグレーテルに襲い掛からせる。
それに対してグレーテルはーーー無抵抗。構えた銃を撃つこともなく、群がる結城リトを受け入れる。
「ちょ、あんた!?」
「あらら呆気ない。それともこの子の痴態を見て羨ましくなっちゃった?」
クスクスと笑みをこぼす闇に、グレーテルもまた笑みを返す。
「正解よ。私、怒られるのやぶたれるのは嫌いだけど気持ちいいことは興味あるの。だから...優しくしてほしいわ、お姉さん」
「そう...そうですか!ようやく解ってくれましたか!ならばお望み通り...至福の刻へ案内してあげますよ!」
満面の笑みと共に、闇の創り出した結城リトがグレーテルを取り囲み、全身を揉みしだき、柔らかい肌に舌を這わせていく。
首筋。頬。脚。胸。臀部。ありとあらゆる箇所をハレンチの化身に弄ばれたグレーテルは
「......」
「え...?」
無反応。闇に向けた笑顔をピクリとも乱さない。
闇は思わず狼狽する。
あり得ない。あってはならない。結城リトにえっちぃことをされて何の反応もないなんて!
「が...我慢強さはなかなかのものですね!でもそんな強がりがいつまで続くか見物ですよ!」
焦燥と共に闇は再びリトにグレーテルを攻めさせる。しかし、変わらず無反応。喘ぎ声一つすら漏らさない。
「なんだ...どんなものかと思えば、つまんないわね。これなら兄様と交わすフレンチキスの方が気持ちいいわ」
「あ...貴女、不感症なんですか!?」
「そんなことないわよ?おもちゃで遊んだ時はよく身体がうずくもの」
グレーテルが微塵も感じずにいられるタネは至って簡単だ。グレーテルの食した『スパスパの身』は身体を刃の如く切れるようにするだけではない。文字通り刃物、つまりは鉄に変えるのだ。
そして、鉄の身体がいかに舐められようが揉まれようが、殴る・蹴る以上の威力でもない限り、鉄をふやかすことすらできない。いとも簡単な理屈だ。先ほどふやけていたのは、快楽に酔っていたのではなく、水に包まれたことで悪魔の実のデメリットが発動していたためだ。
無論、それも闇自身の手や口で触れていればわかったことだろう。しかし、髪の毛を通じての感触ではその解には至れない。
ただ、理由はそれだけではない。
闇はあくまでも結城リトから受けたえっちぃことを再現している『だけ』。結城リトの、物理法則すら凌駕する天然のラッキースケベは、あくまでも偶発的なもの。本人が意識していないが故に対処する側も想定が難しい、如何なる警戒も掻い潜り相手の性感帯を的確に刺激する最強にして天然の暗殺術。
闇が再現しているのは、彼とは根本的に違い、偶発ではなく意識的に行われるもの。ただの擬似再現という付け焼き刃だ。ある程度の人間には通用しても、数多の人間を観察させられ、殺人スキルも高められ、数多のアブノーマルプレイに対応済みのグレーテルにとって、あらかじめくるとわかっている性技など通じるはずもない。
「あら?貴女のいう最高にえっちぃことってこれでおしまい?」
「ッ...えっちぃことが効かないなら、普通に殺します!」
「イヤだわそんなの。せっかく誘ってもらったのに。そうだ、どうせなら私から教えてあげるわお嬢様(フロイライン)」
「ッ...!」
悠然と歩み寄っていくグレーテルと、手を刃に変化させ焦燥しつつ、後ずさっていく闇。
傍目から見るクロエからすれば不思議な光景だった。依然、危機に陥っているのはこちらだというのに、及び腰になっているのは相手なのだから。
「ふふっ...お嬢さん、貴女のいう『えっちぃこと』って言うのは、なにも触れなくちゃできないことではないのよ?」
「え...」
グレーテルは親指と人差し指で輪っかを作り、ぴたりと唇に添える。
くちゅ くちゅ
「!?」
天使の喉から放たれるは、淫らな水音。
「ほら、こうして...」
輪っかから舌を伸ばし、わざと唾液を滴らせる。
その光景に闇の目は思わず惹かれ、輪っかの中を凝視してしまう。
輪の中から覗かせるその光景は、まさに淫靡な香り漂う蟲惑の園。そこに挿れるものなど有していない闇ですら、思わずドキドキと胸が高鳴りごくりと喉を震わせてしまう。
これこそ、かつて仕込まれた『裏の技』の一つ。偶発的に起きるラッキースケベでは培えない、汚泥すら含まねばならぬ世界で己が身で培ってきた紛うことなき経験値。
「別に胸やお尻を触らなくても、キスだけで絶頂させるツボも知ってるのよ?よければ教えてあげてもいいけど...」
「いっ、要らない!私が身を捧げるのは結城リトだけだから!!」
「あらどうして?その結城リトという人は『えっちぃ』ことが好きなんでしょう?」
「そっ、そうです!あの人はハレンチの化身!だから私はあの人の喜ぶ桃源郷を作り、そこで彼と一つに...!」
「じゃあなんで貴女はえっちくならないのかしら」
「えっ」
まるで冷や水をかけられたような、そんな虚を突かれた感覚が闇を襲う。
「こっ...この格好が、えっちくないと...?」
「いいえ。素敵よ。異性を誘惑するには充分」
「なっ、なら!」
「でもキスの一つも上手くできない人のことをえっちぃなんて言えるのかしら。露出するだけなら子供でもできるわよ?」
ピシリ、と闇の中でなにか亀裂のような音が鳴る。
まるで渾身のボディーブローをノーガードで受けたかのように、身体がガクガクと震え始める。
「ゆ...結城リトには、ちゃんと...」
「いきなり本番でうまくいくのは夢の中だけよ?どんなことでも繰り返し繰り返し覚えることで上手になる。それが世界のルールなの。...怯えないで、お嬢さん」
グレーテルの掌が闇へと差し伸べられ、彼女は微笑む。
「貴女はもう世界のルールを識っていて、リングを回せてる人。私達と同じ、赤色のプールで泳がされた子でしょう?だから、きっと、貴女も私たちみたいになれるわ」
ヘンゼルとグレーテルは人の血の臭いに、人をたくさん殺してきた人間の匂いに敏感だ。その逆も然り、さほど殺していない人間の匂いも。
この会場で出会った孫悟飯を、あれだけの化け物じみた力を披露して見せ、サイヤ人の血と雛見左腕症候群の発症が合わさった結果生じた狂気の笑みを浮かべた彼を、本来ならば敵を殺すのを好まない性格だと見抜いたのがいい例だろう。
グレーテルが闇から嗅ぎ取った気配は、概ね自分に近かった。それほどまでに、拭いきれない血と死を重ねた者の臭いを感じ取っていた。
「ッ...!」
グレーテルの、硝子のように透き通った肌が、天使のように慈愛の込められた微笑みが、闇にはドス黒く真っ赤な色に見えた。
けど、きっとそれは、彼女のものではなく。
ーーー君は摘みとるために生まれた兵器なのだ
かつで誰かに言われた言葉と。
ーーー好きに生きろと?戦い以外の生き方なんか、私にはわからないのに?
かつて自分が言った言葉が重なって見えた、自分の影。
「ぁ」
かつての自分が囁いてくる。
殺して生きろと。
お前如きが自惚れるな、もう一度あの血と殺戮の日々に戻れと。
平和も。愛も必要ない。摘み取るだけが、お前の存在意義であると。
汚れた過去のはずだった。
あの街に、彩南町には似つかわしくない色だと思っていた。
自分は幸せになってはいけないとすら思っていた。
なのに。
共に堕落しようと囁く声は存外に心地が良くて。
芽亜のように同じ出生・力を持つが故ではなく、異なる地獄を経た者の手は別種の安心感を与えてくれて。
闇の手は、思わずグレーテルへと伸びかけ、グレーテルの微笑みはさらに深まる。
ーーー"兵器"なんかじゃないよ
脳裏を過る声に、伸びかけた腕がピタリと止まる。
1人佇んでいる自分に鯛焼きを分けてくれた。
命を狙われてるのに、高熱を出した自分をドクター御門の家まで運んでくれた。
汚れた自分は幸せになってはいけないのではと弱音を漏らした自分に、地球に来てからしてきたことは美柑にとってもヤミにとっても良いことだったと言ってくれた。
『組織』の過去を話した時、自分のことのように怒ってくれた。
堕ちようとする自分を引き留めるように、破廉恥でない時の本物の結城リトとの記憶が蘇ってきて。
「ぅ、ぁ」
戸惑いに歪む闇の顔を、グレーテルは首を傾げて覗き込む。
彼女の顔が、かつて孤独の殺し屋だった自分に重なり、動揺は増していく。
「違う...えっちぃことは、素敵なことで...そんな汚れたものじゃなくて...だから美柑にも...」
動揺し狼狽える闇の精神に連動して、クロエを捉えていた水の拘束力も弱まる。
チャンスだと捉えたクロエは疲れた身体の力を振り絞り、水の鞭ごと地面に倒れ込み破壊。
即座に弓矢を投影し放つも、乱雑に振るわれた髪の毛の刃に弾かれる。
(うわっ、あんなに動揺してても防御はしっかりできるんだ)
腕が鈍る前の金色の闇は、睡眠を取っていても反射的に髪の毛を変身させて攻撃することができた。ダークネスと化している今の彼女は、戦闘力だけで見ればその時以上であるため、その癖は遺憾無く発揮された。
(こりゃ殺すのは骨が折れそうね)
メンタル的にはクロエとグレーテルの方が安定しているようだが、闇とはそもそもの地力が違いすぎる。せっかく、放っておけば他の参加者を削ってくれそうな相手なのだ。ここは無理に攻める必要はないだろう。
「引くわよグレーテル!」
「あらもう?このお嬢さんとはもう少しお話してみたかったのだけれど」
「いいから!」
クロエはグレーテルの手を引き、跳躍と共に場を去っていく。
「またお話しましょうね。私たち、きっと仲良くなれると思うわ」
去り際にそう言い残し、グレーテルはクロエに連れられ去っていく。
「......」
闇は遠ざかっていく二人を追わなかった。いや、追えなかった。
「私はえっちぃことが好き...だから結城リトが好き...違う...惹かれたのは彼という人間で...?」
頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。考えれば考えるほど、自分が分からなくなる。
「結城リトをえっちく殺してそれで...でも、えっちじゃない私が殺したところで...でも、彼女みたいにえっちくなるのは出来なくて...?」
結城リトが好きだ。結城美柑が好きだ。だからえっちく殺して一つになりたくて、でもこの身が穢れることはしたくなくて。
「わからない...なにもわからないよ...」
自分は欲望に忠実なダークネスと為った。それは即ち行動理念がシンプルになったということ。なのに。自分のことがわからない。
そもそも。自分は本当に何かを成そうとしているのか?
わからない。わかりたくてもがくほど、暗闇に沈んでいくようだ。
「美柑...貴女なら...」
ーーーいつも色んなことを教えてくれた貴女なら、この答えもわかるのかな
欲望に正直になった筈の彼女が縋るのは、初めて地球で出来た友達の存在だった。
【F-7/ブティック(半壊)/一日目/昼】
【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、興奮、ダークネス状態 、混乱
[装備]:帝具ブラックマリン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(小恋の分)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから帰還したら結城リトをたっぷり愛して殺す...そうするつもりだったのに...
0:私...本当はどうしたいの...?
1:美柑...今はただ、会いたい
2:クロエとグレーテルはどうしよう...?
[備考]
※参戦時期はTOLOVEるダークネス40話〜45話までの間
※ワームホールは制限で近い場所にしか作れません。
☆
追ってこないわね、彼女。
それでどうしたのクロ、そんな顔をして。嫉妬しちゃったかしら?ふふっ、ごめんなさい。お詫びにさっきの続き、教えてあげるわね。お詫びになってない?ふふっ、バレちゃった。それじゃあーーー
......
......
......
...ごめんなさい。クロにはまだ早かったわね。
気を悪くさせるつもりはなかったの。ただ、貴女にもっと『私たち』を知ってもらいたくなっちゃって。
だから謝らないで。涙を拭いて?
...クロって、やっぱり優しいわね。
【F-7/一日目/昼】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:魔力消費(中)、自暴自棄(極大)、 グレーテルに対する共感(大)、罪悪感(極大)、ローザミスティカと同化。
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師、ローザミスティカ×2(水銀燈、雪華綺晶)@ローゼンメイデン。
[道具]:基本支給品、透明マント@ハリーポッターシリーズ、ランダム支給品0〜1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら、グレードアップえき(残り三回)@ドラえもん
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
0:グレーテル...
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君…何やってるんだろ。
6:さっきの金髪(闇)、イリヤと会ったんだ...
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
※ローザミスティカを体内に取り込んだ事で全ての能力が上昇しました。
※ローザミスティカの力により時間経過で魔力の自己生成が可能になりました。
※ただし、魔力が枯渇すると消滅する体質はそのままです。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!、走刃脚@アンデットアンラック
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品3〜6(リップ、アーカード、魔神王、水銀燈の物も含む)、エボニー&アイボリー@Devil May Cry、アーカードの首輪。
ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵の首輪、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、
戦雷の聖剣@Dies irae、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!、魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、 バスター・ブレイダー@遊戯王デュエルモンスターズ、真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ、ヤクルト@現実、首輪×6(ベッキー、ロキシー、おじゃる、水銀燈、しんのすけ、右天)
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:私、貴女が好きよ、クロ。
1:兄様と合流したい
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。やっと一人だけど、まだまだ遊びたいわ!
7:聖ルチーア学園に、誰かいれば良いけれど。
8:水に弱くなってる……?
9:金髪の少女(闇)は私たちと同じ匂いがする
[備考]
※海兵、おじゃる丸で遊びまくったので血まみれでしたが着替えたので血は落ちました。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
投下終了です
投下ありがとうございます!
>贄【わたしのはじめて】
何始めてんだこいつら……。
ロリショタロワだつってんだろ!! 健全なロワなんだよ!!
オス豚にされたのび太といい、乃亜は大画面でこんなん流されて主催本部で何を思うのか。
クロも監視されてる事気付いてそうですけど、まあそんなん言ってられる身分ではないから仕方ないのか。
グレーテル、クロの事を彼女?彼? なりに心配してるというか気に掛けてるんですね。
こんな歪まなければ、ちょっと生意気な優しい子だったのかなと思うと悲しいですよ。こうなる前に原作でも言われてたけど、誰かが少しでも優しければ変われたんでしょうね。
>(痴女だ)
>(痴女ね)
キチってるグレーテルも引くヤミちゃん、やはり只者ではない。
おじゃるの生首見て、美柑のこと心配するまでは良いのに、そっから成功体験がないとかいう頓珍漢な発想。
言動はアホなのに、戦闘描写は強キャラなの質悪すぎる。
やってることは、悪VS悪っていうワクワクする対戦カードなんですが、見てて笑ってしまう。本人たちは真面目なんですが。
>恋に堕ちて謎の中
続く、R18勢のバトル。
グレーテルの持ってるエボアイの持ち主が居れば、ここから先はR指定だと言ってくれたでしょうね。
やはりお色気に定評があるイリヤ姉妹はヤミとは相性が悪く、散々な目に合っていますけど。
そこはグレーテル、ゴロゴロ無効化するルフィの如く。ヤミちゃんの性技を鼻で笑い格の違いを見せつけてくれます。
レスバも完勝、キス音だけで動揺させる女。お前は何なんだよ。
普通に考えたら、ヤミちゃんにグレーテルが勝てる要素ないのに勢いと演出で格上感出してる姉様。
沙都子に次いで、度胸とハッタリで生きている。
>だから謝らないで。涙を拭いて?
銀様にもグレーテルにも泣かないでって心配されてるのに、全く一向に救われる気配もなく。曇ってるだけなの凄いよ。
まるで、カウンセリングが出来てない。
なんか、グレーテルだけ勝手にクロへの好感度上がってて草。
>ADVENT CHILDREN
ディオ君、マジで何も悪い事してないのに殴られてて可哀想。今回は本当に完全な被害者なのに。
エリスも沙都子が外面が良かったとはいえ、ちょっと考えなしに殴りすぎかもしれませんね。やはり、羽蛾さんは必要だったのかもしれない。
この話でディオは何も失態はないのに、沙都子やアヌビス神のせいで容疑者扱いされてこらしめバンド付けられちゃうし。
モクバ一行と一緒にいた時から思いますが、ディオ君自体は比較的穏便というかまだ様子見したいし大人しくしたいのに、ドロテアのせいで永沢を殺したりと
周りのせいで、動かなきゃいけない場面が多い気がしますね。
アヌビス神、学習能力がマジの脅威なので絶対握ってた方が良いんですが、メリュジーヌのトラウマで前線立つの避けて控えてるのは勿体ない。
>僕は絶対に……!ジョジョの財産を奪いッ!誰にも負けない男になるッッッ!
邪悪なのは間違いないんですが、この…なんだろうショボい。
キウル君と出会う前なら、スタンド入手時点で世界征服するぜって決意してそうですけど、メリュジーヌに分からせ喰らって微妙に現実的になってるの、なんか好き。
時の魔術師、一見マジで意☆味☆不☆明のカード。これでどうやって戦えばいいんだってばよ……?
ルサルカ・シュヴェーゲリン、ゼオン・ベル、ジャック・ザ・リッパー
予約します
ゲリラ投下します
バショウカジキ のような素早さだ。
無惨がモチノキデパートに飛び込んでいくスピードを見て、ネモは素直に感心しながらそう思った。
横で、フランは虫のようだ。あの黒い奴みたい。たまに屋内で見掛けるわと毒づく。
あの鎧とその上から合羽を着込んだのを見るに、やはり太陽を苦手とするようだ。
鬼とネモは予測したが、厳密には伝承にある吸血鬼に近いのだろう。
フランにテキオー灯を渡しているとはいえ、ピンピンして日の光を浴びているのに比べれば大分伝承に忠実すぎる気がするが。
何であれ、命に関わるのであればあの俊敏さも納得がいく。
「僕らも行こう。マリーン達にカルデアを見張って貰うよ」
流石に疲れた。
しおもぐっすりと戦車の中で眠っていた。
あの無惨を横にして意識を手放すなんて、戦士でないとしても尋常ではない位に疲れていたのだろう。
ネモも出来れば、甘い物…プリントかパフェを食べたいところだった。
デパートなら、探せばありそうだ。こっそり食べるとしよう。
これくらい食べても罰は当たらない筈だ。
「……ネモ、貴方もうあの仮面使うのやめなさい」
外見は怪我を回復させ、ネモを復活させていたが。
仮面(アクルカ)の力は、その内部から徐々にネモを冒している。
フランもそれに気づかない程、馬鹿じゃない。
自分との戦闘から、相当な無茶をして戦いに臨んでいる。
魔神王相手に使った時点で、ネモの霊核の損傷は取り返しが付かないかもしれない。
この殺し合いを破綻させ、もし生還出来たとしても。
きっともう、永くない。
「僕は……幽霊のようなものだ」
「関係ないわ。貴方が消えたら、……私…分からないの。どうやって、人間と関われば良いの?」
かつて、異変を解決しに来た博麗の巫女達と遊んだようにはもういかない。
そういう遊び方をしたら、野原しんのすけも悲しむから。
じゃあ、今度はどうしたらいい。
何でもかんでも壊してしまうフランにとって、壊しても壊れなかったネモ以外に隣に居てくれる人間はいない。
きっと、蘇らせてもしんのすけの傍にも居ない方が良いくらいだ。
江戸川コナンや風見雄二のように、頭が切れてもフランならすぐに壊してしまう。
しんのすけの友達の佐藤マサオだって、同じように死なせてしまうかもしれない。
だから突き放した。
マサオには、友達のしんのすけを自分が死なせた負い目もあって会いたくなかったのもある。
きっとマサオには恨まれるだろう。恨まれたまま、憎しみが込められた目で背中を預けて、マサオを守る自信なんてなかった。
自分よりは、コナン達の方が適任の筈だ。
友達になれそうだったニケと鬼ごっこもした。
フランはとても楽しかったけど、ニケは死ぬほどビビっていた。
『な…なんか…俺の出会った女、みんな俺の事殺しに来てない?』
顔面をぶん殴って、加減したつもりだったけど、ニケにかなり本気で怖がられて。
少し不味いと気付いたくらいだ。
その後も、ドラゴンボール絡みで結論だけ話してしまって関係を拗らせたのは、自分が悪いと思う。
ちゃんと話していたら、もしかしたら今頃味方になってくれたのかもしれない。
「普通の子じゃ駄目なの。みんな、居なくなってしまうわ。
ネモ……貴方言ったでしょ。いつか、船に乗せてくれるって」
「……僕はね。本当なら、もうこの世界には居ないんだ。
こうして、君と話しているのも。反則をしているからなんだよ」
「じゃあずっと、反則すれば良いじゃない」
少し困ったように、ネモは笑った。
「君とは、同じ時間を歩めない。
でも、君は少しづつでも前に進めているだろ。
最初、ジャックの復讐に拘っていたけど。今はそうじゃない。
僕達と一緒に来てくれている。
そして、僕の安否まで気遣う程だ。君は変わってきているんだ」
失敗を重ねても、フランは変わってきている。それは今を生きる時の流れに沿う者の特権だ。
きっと、495年間時が止まり続けていたフランにとっては激動の半日だったのだろう。
だから彼女自身も戸惑っている。
「安心してくれ。殺し合いを終わらせて、君と悟空と…そうだなニケや、しんのすけ……そして、しお…他にも多くの子達を乗せて、航海に出よう。
少し形は変わるけど、君との約束は守る。それだけの時間は残す。絶対にだ」
だから、お願いがあるんだ。そうネモは続ける。
「どうせ航海をするなら、大勢いた方が楽しいだろう?
だから、フランには友達を多く作って欲しいんだ。僕も賑やかな方が良いからね。
お願いできるかい?
当然、君が話していたコナンという子達や、ニケとも仲直りするんだ。僕は彼らも船に乗せたい」
「………………ズルいわよ。本当に」
そんなの、断れないじゃない。
哀哭の混じった声でフランは呟いた。
───
「ネモって神様なの? すげえ!!
ナンマンダブナンマンダブ……」
「そりゃ、仏様にするやつだろ」
「アンタ、恥ずかしいから止めなさいほんとに」
デパート内に居たのは、対主催側の善良な参加者だった。
ネモに手を合わせて念仏を唱えるのは龍亞といった。
明るくて、少し抜けた普通の子だった。
今まで、悟空やしおのような年齢離れした強さや精神を有している者達ばかりで麻痺していたが。
本当にこんなただの子供達が大勢集められていることに、胸が痛んだ。
「……トリトンの在り方は封じている。そんな拝まれるようなものじゃないよ」
奈良シカマルと的場梨沙、特にシカマルの頭はずば抜けてキレる。
特段隠していないとはいえ、一瞬でネモが普通の子供でない事まで見抜いてきた。
「陸に上がった人魚ってのは口が聞けないって話だったがな」
だが、ネモの中のトリトンに気付いたのはもう一人の男だった。
シカマル達の後ろで、不敵に笑うコートを着た少年。
ブラックと名乗っていたが、名簿にその名はない。
人の身に降りているが、正体は神格に連なる上位存在だろう。
シカマルの話では、マーダーだが一時的な共闘に近い関係であり、首輪を外す算段があれば味方につくという。
(……それまでに何人殺しても、味方に引き入れるのが条件、か)
とても、信頼できるような相手じゃないが。
シカマル達も綱渡りで、ブラックと駆け引きを応じてきたのだろう。
「シカマル…君と……無惨、そしてブラック…君達と話したいことがあるんだ」
『首輪の解析データを入手した』
予め書いてあるメモを見せて、ネモは話す。
本当なら無惨とブラックにも話したくはないが、そこで反発されて争うことになるのは避けたい。
「俺は構わねーが」
『龍亞と梨沙は同席できるか。
こいつらの命にも関わることだ。話を聞く権利がある』
『詳細だけは、シカマルと無惨とブラックだけに伝えたい。
方法は分からないが、人の記憶を奪う奴がいる。そいつはマーダーだ。
下手に情報を共有するのは危険だ』
先ず、首輪の解除というアドバンテージを殺し合い乗る輩に握られること。
そして首輪の情報を握っていることで、戦う術を持たない子供が優先して狙われてしまう。
その二つの危険性を瞬時に理解し、シカマルは二人を一瞥した。
「お…俺、向こう行ってるよ」
「アタシも」
龍亞と梨沙は、この話をあまり聞かれたくない。
そうネモが考えているのを察して、自分達から離れようとした。
『代わりに、これらをデパート内で探して貰えないか』
首輪の火薬液、その解除液作成に必要な材料一式をメモに記し。
マリーンとフランへ目配せする。
材料集めのサポートと、万が一の護衛。
その意図を察して、フランは小さく頷いた。
「早く行きましょ」
つんと言って、すたすたと進む。
「俺に構わず内緒話ぐらい、好きにやってな」
ブラックは興味がないと言いたげに手を振る。
シカマル曰く、マーダーではあるが、首輪を外す事が出来たのなら対主催に味方するという。
それが本当であれば、ネモにとってこれ以上ない話だ。
この男、悟空にも匹敵する実力者。正体までは看過できないが、高位の神格だ。
もし、こんな奴がマーダーになってしまえば、更に対主催に勝ち目がなくなる。
「早くしろ。奴が構わぬと言っている。放っておけ」
無惨は焦っていた。
無惨の姿を模したあの愚物は今も何処かで愚行を犯して、その汚名を全て無惨へと注いでいるのだ。
名簿に竈門炭治郎を始め鬼狩りの名は無かったが、無惨も知らぬ無名の鬼狩りがいるかもしれない。
無惨が知りえない、それは出会った鬼全てを葬り去るが為に語る者のいない、恐るべき強者という事もありうるではないか。
そうでなくとも、ネモの話を聞けば孫悟空なる強者もいるらしい。
そんな者が魔神王のせいで、無惨と敵対行動を取るとなれば考える事すら忌避したい。
「分かった」
ネモはマリーンの内の一人が抱き上げているしおを一瞥して。
彼女はすっかり寝ていた。
先の戦いで、疲労しきって眠りに付いているのだろう。
丁度いい。彼女に悟られず、話をすることができる。
───筆談で、プロフェッサーが悟空に伝えた内容をほぼそのままシカマル達に提示し。
それぞれの質問にも答え、全員首輪に関する解析データを共有した。
(なるほど、こいつの目的はカルデアで首輪の解除を進める事。
それまでの護衛って訳か)
ネモが協力を要請した理由も分かる。
どう見ても人手も戦力も乏しい。無惨という男も信用に値するかと言われれば、怪しいのはその焦りようから明らかだ。
常に殺気と怒気を滲みだし、機会があればこちらを殺しに来ることを、何とも思わない冷徹さと癇癪を持ち合わせている。
こんなのを抱えて、首輪の解除なんてやりたくないだろう。
(悟空ってのがカルデアの安全を確認して、それから乗り込むって話だが)
いつ、その悟空とやらが帰還するのか。
強い事に間違いはないようだが、やり方次第では肩に怪我を負わせるような連中もいる。
乃亜も公平な殺し合いを行うと話し、ハンデを強いると明言した上で。
悟空の帰還を頼りにするのは、不確実性を伴う。
『近くの阿笠博士の研究所や、海馬コーポレーションを第二候補にするのもありじゃないか?』
筆談で意見を記す。
先ずはここに待機し、そして悟空の帰還を待つのには賛成だ。
だが、状況に合わせ悟空との合流も断念すべきだろう。
(……それも検討すべきか)
最も見知った施設であり、ネモの知る限りではカルデアの信頼度が高い。
島の端にあり集まる参加者も多くない。そう考えていたが、藤木の介入や魔神王の存在からそれも怪しくなってくる。
(偽無惨のホンソメワケベラのような聡明さなら、カルデアの重要さに気付き占拠される恐れもある。
悟空でも、落とすには手間だ)
あの強さも悪辣さも。まさしく、邪悪そのものだ。
仮に魔神王を倒し、カルデアを奪取してもカルデア自体が破壊され尽くされれば意味がない。
『カルデアを監視するなら、立地的には温泉まで近づくのもありかもしれないな……同エリアで近すぎるのは否定出来ないが。
平行して行える作業、それからあんたが絶対にやれる工程と誰かに頼る必要のあるもの。
それらをある程度ピックアップしてくれ』
『爆弾の解除液は、すぐでに材料を集めれば作れる。これは僕だけでも問題ない。
方法さえ知れば、他の誰かでもやれるだろう。
電子プログラムは、エーテライトを使う予定だけど、僕はこの扱いに長けていない。
時間が掛かる。
首輪の爆発火力増幅術式について、あるのは分かるが僕だけでは解除は無理だ。必要なアイテムの見当と人材に心当たりはあるが、その内後者は殺し合いに肯定的だ』
ニケの話から、クロエ・フォン・アインツベルンは殺し合いに乗っていると聞かされた。
信じ難い。カルデアの彼女は善良なサーヴァントであった。
やはり、乃亜によってネモの知るサーヴァントでも、その認識と別な人物も多いのだろう。
(一番信じられないのは、メリュジーヌが殺し合いに乗っていることだけど……)
───イエーイ!マスター、見てるー?メリュ子、また可愛くなっちゃいましたー!ブイブイ!
ネモの知る、カルデアのメリュジーヌとは同じ人物とは絶対に思えない。
(同姓同名……じゃないか)
彼女の宝具の発艦シークエンスをし、彼女の依頼でストームボーダーに蒸気式回転カタパルトも設置した。
───見た、マスター!?あの蒸気式カタパルト!電磁式じゃないあたり、わかってるよねー!回転して出てくる所もぶち上がるー!『まあ、戦艦に戦闘機があるのはおかしくないからね』だって。ネモ船長、ああ見えてかなり男の子だよね!
ネモがこの殺し合いで最も驚嘆したといってもいい。シカマルが詳細を語り、その容姿が鮮明になっていなければ、絶対に信じていない。
(……………僕の知人、殺し合いに乗り過ぎだよ)
悟空に次ぐ戦力としてメリュジーヌに期待していた一面もあった。
首輪の術式破壊も乃亜がルールブレイカー等の宝具を支給するのに賭けるより、クロエに投影して貰った方が信用もある。
気付けば、全部が御破算になっていた。流石に眩暈がしてくる。
それでも、こうして方針を話し合える相手が出来た事は少しありがたかった。
───
「なんか科学の実験みたいだわ」
ネモに頼まれた通り、梨沙はメモに書かれた材料を見付けては、買い物かごに放り込む。
独特な、普段の梨沙ならばあまり手を付けないような物品の数々。
学校の自由研究や授業で使うようなものも多くて、男の子はこういうの好きそうだなと何処となく思った。
梨沙も、少しだけワクワクしている。
「…そういえば、別のデュエルアカデミアだと、錬金術の授業もしてたりするって聞いたことあるな。
錬金術って、昔の科学なんでしょ?」
龍亞の通うネオドミノシティは別として。
とある島に立っているデュエルアカデミアには、何故か錬金術の授業も用意されている。
代理とはいえ一時的に教鞭をとった教師ですら、授業内容が分からず適当にやっていたが。
「僕達も錬金術で分割してるんだよー」
「マジで!? 多重人格者じゃん!! いいなあ。俺なら分身に学校行って貰って、ズル休みするのに」
(錬金術……? 錬金術?)
錬金術の授業って何だ?
梨沙も、錬金術というワードは知っている。魔法の親戚位の認識だが。
龍亞の世界だと、カードが野球とかサッカー以上の競技になっているらしいので、それを習う学校があるのは分かる。
錬金術は一体何処から生えてきた?
そんなもの、社会の何で使うのだろう。
梨沙の困惑は深まっていく。
仲間として信頼はしているが。たまに話す龍亞の世界は、精神に異常をきたした、妄想の世界の話を聞いているみたいだった。
マリーンの話もチンプンカンプンだった。
多重人格者って、そもそも病気じゃない。この子平気なの?
梨沙が心配しても何変わらないし大丈夫だろうが。
「……フランは、こういう話は詳しいの?」
恐る恐る、フランにも話を振ってみる。
ネモが言うには吸血鬼らしい。きっと、自分よりはこう言う話は分かるかもしれないと梨沙は思っていた。
「魔理沙のが詳しいかもね」
(魔理沙って誰よ……)
話した事に答えてくれるが、フランにしか分からない内容で会話が続かない。
多分、魔理沙というのは知り合いなのだろうが、それはそうと直接名前で言われても困る。
(……めんどくさ)
フランも何処となく、苦手意識のようなものを感じていた。
ネモ以外とは、口を利くのが難しい。
取り合えずかくれんぼでもしましょうか、そんな提案でもしようと思ったが。
無駄に大人びた、正確には背伸びした梨沙はそういうのに乗らなそうだった。
フランの方が遥かに年齢は大人なのだが。
力のない人間相手だから、力任せに遊ぶのもよくない。
「見てよ、こいつカマキリジョーだって」
「まんまの名前だー」
男子は男子で盛り上がってる。
龍亞が掴んだ、体はカマキリで顔は白人男性のフィギュアを見て、マリーンが引いている。
なんか、入れそうな雰囲気じゃない。
(弾幕ごっこが出来たら楽なのに)
幻想郷の外の人間との触れ合い方は、多岐に渡って難しい。
だから、人はよく喋るのかもしれない。
取り合えず困ったら、弾幕ごっこをすればいい幻想郷とは違うのだろう。
(なんか、なかったけ)
ランドセルをゴソゴソと漁る。確かスタンガン以外にも、何か玩具があったはずだ。
ハーピィ・ガール
通常モンスター
星2/風属性/鳥獣族/攻 500/守 500
美しく華麗に舞い、鋭く攻撃する事ができるようになりたいと願っているハーピィの女の子。
(これ、あの龍亞って子の方が喜びそうじゃない)
手に取ったカード。
不思議な力があって、イラストのモンスターが召喚されて、召喚者の力になると龍亞とシカマルから話は聞いていた。
「何よそれ、へえ…可愛いカードね。こんなのもあるんだ」
梨沙はフランの横からカードを覗き込んでくる。
手足は鳥の様に鋭利で、腕からは翼が生えた亜人だが。
長い金髪にクリっとした愛らしい目は、同性の梨沙から見ても魅力的だった。
「厳ついドラゴンばかりだと思ったけど、色んなのがあるのね」
「……欲しいなら、あげるわ」
「いいの?」
フランには必要がない。
このモンスターが召喚されても、とても強さに期待はできない。
魔力は感じるが、とても微弱だった。
フラン本人が戦った方がずっと強い。
「じゃあ…貰うわね」
「そんなに強くないと思うけど、いいの?」
「アタシよりは、多分…戦えるし……。
この娘、ちょっとだけ他人の気がしないの」
「全然似てないけどねぇ」
「見た目じゃないわよ。
この娘には願ってる夢があるでしょ? 私にも夢があるのよ」
カードのフレーバーテキストから、この少女はハーピィという種族の中でも未熟な子供である事は分かった。
未熟でも、いつかは立派で奇麗なハーピィにななりたいと願っているとでも。
きっと、願っているだけじゃない。その為の努力だってしているはず。そんな風に思えた。
「いつかアタシはきっとトップアイドルになって、総理大臣になるわ!!
この娘も、立派で奇麗なハーピィになりたいみたいだし、同じじゃない」
「変なの」
「何よ! 変って!!」
「総理大臣になりたいなら、政治家にならないと駄目じゃない」
フランでもそれくらいは知っている。
政治家が、そういう役職に就くという知識はあった。
「なるのよ! そして、法律を変えてパパと結婚するわ!」
「近親相姦を堂々と宣言するなんて、大胆ね。血は繋がってるの?」
「愛があれば問題なしよ!」
「大問題だ」
気付けば、普通に話せている。
意識していない内に、会話が続いていた。
そういえば、しんのすけの時も何気なく話しかけてから、かくれんぼをしていた気がする。
「……ねえ、怖くないの?」
「何が? アタシはどんな障害があっても、パパと結ばれることに確信と覚悟を持ってるわ!」
「うーん、やめた方が良いんじゃない? ひどい目に合うわよ。お父さんの方がね。
そうじゃなくて、どうして将来の事を明るく語れるの?」
フランにとって将来とは。
いずれくる。ネモとの永劫の別れのカウントダウンに過ぎなかった。
ドラゴンボールを使っての現界の維持だって、きっと彼は断るだろう。
ネモの意志を無視して、この世に縛り付ける訳にもいかない。
しんのすけの傍にも、ずっと居られない。
自信がない。
復活したしんのすけを、また傷付けてしまうかもしれない。
「…………怖いわよ。
ここで、一人の女の子が目の前で死んだわ」
有馬かなの太陽みたいな輝きは、今も頭に焼き付いて離れない。
そんな太陽を、撃ち落とし嘲笑したあの悪魔みたいな女の姿も。
───アイドルなんて腐る程居るんですもの、売れるのは一握り
「女優として凄い演技をした娘がいたの。天才ってああいうのを言うんだと思う。
そんな娘でも、目の前で殺された……」
まだ、血だまりの中で倒れる有馬かなの事はトラウマのようになっている。
同時にあれだけの天才でも、呆気なく死んでしまう。
それが、いつ自分になるか。
不安がないと言えば嘘になる。
「本当に怖いわよ…でも、あの太陽みたいな演技だけはずっと覚え続けていると思う。
だから…あの娘に、絶対に負けないぐらいに。輝きたいの。
アタシはアイドルであることを、諦めたくない」
速いんだなと、フランは思った。
この子は、進んでいく時間が速いのだ。
フランにとって悠久であっても、梨沙にとっては瞬間である。
時の流れから止まり続けているフランからすると、とても遠い所に居るようだった。
吸血鬼と人が相容れない壁のようで。
でも、その壁を超えて知ってみたいとも思う。フランもいた。
それが好奇心なのか、単なる気紛れなのか分からないけれど。
ネモも、そうして欲しいと望んでいてくれている。
───ぉ……ぐぉ……フ、ランちゃん………
手に残る心臓の感触。
気味が悪い程柔らかくて、それでいて感触が良かった。
あの時、あの一瞬だけフランは勝利の余韻に浸っていた。常に破壊して、何も残さないフランにとっては原形を留めた殺害は珍しかったから。
気付かなかった。ジャックと誤認していたとはいえ。
壁を超えたいけど、自信が持てない。
本気の自分と戦って、壊れなかったネモでないと。
その子を壊さない自信がない。
「梨沙、大体の物は集め終わったし、シカマルのとこ戻ろうよ」
たたたと龍亞が笑顔で駆け寄ってくる。
梨沙とフランが話している間に、探し物を終えてきたようだ。
「アンタ、お菓子とか玩具まで入ってるじゃない!」
「べ、別にいいじゃんか…」
「必要ないものまで持ってきて、本当にガキなんだから!」
カマキリジョーの着ぐるみ、パルコ・フォルゴレなるハリウッドスターが写るジャケットのCDと同じく星野アイというアイドルが写るジャケットのCD。
ジャック・アトラスという男のフィギュアと、その男が従えるドラゴンのフィギュア。
ロキシーという女性のフィギュア、カンタムロボの玩具。
練乳サイダー、ピリ辛レッドデーモンズヌードル、ガラナ青汁、チョコビ。
魔法少女マジカル☆ブシドームサシのフィギュア。くんくん探偵のぬいぐるみ。
Vジャンプ、少年ジャンプ、少年サンデー。
ベイブレード、プリン、ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンパフェ。
「いくら、沢山ランドセルに入るからって、持ってきすぎよ!」
「マリーンが一杯持って行けっていうから……」
「プリンとかパフェなんて、どうすんのよこれ! パフェなんて零れちゃうじゃない。
どんだけガキなのよ! 甘いの食べたいからって、こんな運び辛いの選んで状況分かってんの!!? ちょっとは考えなさいよ」
「それはマリーンが入れ「ここまで入れろとは、言ってないよ」ええ!?」
一緒になって玩具とお菓子を沢山放り込んだくせに。
抗議するが、マリーンは知らぬ存ぜぬを繰り返す。
首輪の解析データと同じくらい、重要なトップシークレットに関わることだ。
この中に最重要である代物があることは。
拷問されたって、口を割る訳にはいかない。
───
船に乗せてくれる。
ネモさんは、私の事もそう言ってくれた。
温かい背中におぶさって、フランさんとの会話も聞こえてきた。
ネモさんは本当に優しい人で、きっと約束も絶対に守ってくれるんだと思う。
『君は、“普通の子供”としてこのバトル・ロワイアルを終えるんだ』
ネモさんならやる。
私を普通の子として、本当に殺し合いから帰してくれるんだ。
だから、ずっとここに居れば。
私は助かるんだと思う。
悟空お爺ちゃんも、ネモさんも強い人達だから。
『君は、僕達が責任を持って“さとちゃん”の元へと帰す』
でも。
私は普通の子供のままじゃ、さとちゃんの元に帰れないんだよ。
帰っても、意味がないの。
さとちゃんは、きっとそこにはいない。さとちゃんと一緒に居る事はできないの。
私は子供だから、法律とか分からないけど。
さとちゃんは許されない事を一杯してる。あの炎に囲まれた中で、もし助かってもさとちゃんは遠くに行ってしまう。
そして、私もお兄ちゃんの元へ行かなきゃいけない。
知ってるよ。
ネモさんが、何か死んだ人もどうにかするような奥の手を隠してる事も。
だって、おかしいもん。
フランさんが急に優勝を目指すのをやめたの。
だから、何かしんのすけという男の子を助ける方法があるんだ。
悟空お爺ちゃんとコソコソ話してるのもそう。
乃亜君をやっつける方法も見付けて来てるんだと思う。
私は、乃亜君が倒されて欲しくない。
ネモさんはこの殺し合いで死んだ人たちを皆を助けるために、きっとその奥の手を使うんだよね。
でも、それはさとちゃんを助ける為には使われない。
皆の内にさとちゃんは含まれていないから。
だから、私はそんな奇跡は要らないの。
皆を助ける奇跡じゃなくて、さとちゃんだけを助けてくれる奇跡が欲しい。
世界が敵になっても、私はさとちゃんだけが居てくれればいい。
皆のハッピーエンドを台無しにしても。
私はさとちゃんとの世界を守る。
あと…ごめんね。ネモさん。
どんな結末になっても。
ネモさんが乗せてくれると言った船に私は絶対に乗れないから。
それだけは本当にごめんなさい。
───
「よし、上手く着けられた……やっぱこれがあると違うよな」
ネモに頼まれた物を調達した後、龍亞は腕にデュエルディスクを装着していた。
シカマルのランドセルの奥底に眠っていたものだ。
カードは単体でも実体化する為、デュエルディスクの有無はあまり関係ないのだが。
それでも、やはり龍亞はデュエリストだ。
これがあるとないとでは、違ってくる。
(あの時、俺はスターダスト・ドラゴンにずっと戦わせていた)
メリュジーヌの死闘で、スターダスト・ドラゴンは間違いなくカードの限界を超えて龍亞に力を貸してくれていた。
(……でも、それだけじゃ駄目なんだ。
俺はデュエリストなんだ。カードだけに戦わせちゃ駄目だ。俺も戦わなきゃいけないんだよ)
今あるカードを手に広げる。
既に使用したパワー・ツールドラゴン、スターダスト・ドラゴンとフォーミュラ・シンクロン。
そして、未使用の数枚のカード。
「絶望的だな。そんな紙切れで何すんだお前?」
不意に肩に肘を乗せて、ブラックが囁いた。
声を掛けられるまで、何の気配も感じない。
「意味があると思うか? お前がどんだけ覚悟決めようが、呆気なく散らされる。
ここは、お前が思ってるよりずっと、ヤバい奴等ばかりだよ。俺も一時間後にはくたばってるかもな。
なあ、考えた事はないか? 今、自分がしていることに意味があるのか、ないのか。
…そもそも、自分の存在は世界にどの程度影響を及ぼしているのか……いないのか」
ラフな声で、一見表面上は友好的だが、灰原の約束がなかったら何時殺されるか分かったものではなかった。
「ま、肩の力抜けよ。ただのゲームなんだ。こんなもんはさ」
いや、灰原の約束だって、何処まで守るか。
「この世に…不要なものなんてない。遊星の…受け売り…だけど……」
声が震えていた。言い返さない方が、良いと心の中でアラートが鳴り響く。
こいつと会話することは、絶対に危険だ。
「そうか? 代わりなんて、ゴロゴロいるだろ。
勝次もアイも、ここでくたばった奴等もな」
「……どんなものにだって、存在してるなら必要とされる力があるんだ」
黙っていた方が良い。
何か間違えれば、きっと即座に殺される。
こんな奴と、シカマルと灰原はずっと交渉を続けてきたのか。
改めて、とんでもない二人だったんだと思う。
そして勝次も、正面から戦ったんだ。
「…意味がないのかって、考えてる癖に……死んだ人の事、…覚えてるんだな。へへんっ……!」
なら、俺だって…ここで俺だけ逃げたらカッコ悪いもんな。
足が震えていた。
小馬鹿にしたような笑い声も、震えて上手く発声できていない。
「本当に意味がないなら、名前なんて覚えないもんね……。
それって、あんたの中で記憶に残る意味があったって事だろ!」
だけど、ブラックの言うように。
死んだ人達に意味がないなんて、認めたくなかった。
死ぬ程怖いけど。
命懸けで、希望を繋ごうとした二人の意志に命を吹き込むのは、生きている人間だ。
「……………お前の受け売り、遊星とかいう奴にも会ってみたいもんだよ」
来ないで。
龍亞は心底そう願う。
地縛神を倒して、イリアステルとの戦いも終わってようやく平和になったんだから。
(ちょ…超怖い……)
カツカツと足音を立てて、また何処かへふら付いていくブラックを見て。
龍亞は腰が抜けて、尻もちを付いた。
【E-3 モチノキデパート/一日目/昼】
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(大、回復中)、ダメージ(小)、仮面の者
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、
オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、神威の車輪Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、
ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、エーテライト×3@Fate/Grand Order、
110mm個人形態対戦車(予備弾×5)@現実
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:シカマル、一応無惨と今後の方針を相談。
1:カルデアに向かい設備の確認と、得たデータをもとに首輪の信号を解析する。
2:魔術術式を解除できる魔術師か、支給品も必要だな……
3:首輪のサンプルも欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおとは共に歩めなくても、殺しあう結末は避けたい。
6:エーテライトは、今の僕じゃ人には使えないな……
7:藤木は次に会ったら殺す。
8: リーゼロッテを警戒。
9:悟空と一刻も早く合流したい。
10:ドラゴンボールのエラーを考慮した方が良いかもしれない。悟空と再会したら確認する。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、
優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※フランとの仮契約は現在解除されています。
※エーテライトによる接続により、神戸しおの記憶を把握しました。
※仮面装着時に限り、不撓不屈のスキルが使用可能となります。
※現在装着中の仮面が外れるかどうかは、後続の書き手にお任せします。
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:ネモさんが乃亜君を倒すのを邪魔する。そうしないと、さとちゃんを助けられない。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
3:マーダーが集まってくるかもしれないので、自分も警戒もする。武器も何もないけど……。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、
改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に業
[思考・状況]基本方針:一先ずはまぁ…対主催。
0:一旦ネモ達と同行して、ジャックが来るか暫く待つ。
1:ネモを信じてみる。嘘だったらぶっ壊す。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す。
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か
5:藤木と偽無惨は殺す。
6: マサオもついでに探す
7:ニケの言ったことは、あまり深く考えないようにする。
8:ネモ、やっぱり消えるのね
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※ネモ達の行動予定を把握しています。
【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(大) 、回復中、俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。 魔神王(中島)、シュライバーに対する強烈な殺意(極大)
[装備]:捩花@BLEACH、シルバースキン@武装錬金
[道具]:基本支給品、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り6時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:中島(魔神王)、シュライバーにブチ切れ。次会ったら絶対殺す。今は回復に努める。
1:禰豆子が呼ばれていないのは不幸中の幸い……か?そんな訳無いだろ殺すぞ。
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:ネモ達は出来る限り潔白の証明者として生かしておくつもりだが、キレたらその限りではない。
5:一先ず俊國として振る舞う。
6:モクバと合流は後回し、モクバの方から出向いてこい。
7:ネモ達の方針を聞く。下らぬ方針なら殺す。
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わらず死ぬと考えています。
また鬼化等に制限があるかどうかも後続にお任せします。
容姿は俊國のまま固定です。
心臓と脳を動かす事は、制限により出来なくなっています、
心臓と脳の再生は、他の部位よりも時間が掛かります。
ネモが入手した首輪の解析データを共有しています
【奈良シカマル@NARUTO-少年編-】
[状態]健康、疲労(大)
[装備]シャベル@現地調達
[道具]基本支給品、アスマの煙草、ランダム支給品1、勝次の基本支給品とランダム支給品1〜3
首輪×6(割戦隊、勝次、かな)
[思考・状況]基本方針:殺し合いから脱出する。
0:ネモと話し合う。
1:殺し合いから脱出するための策を練る。そのために対主催と協力する。
2:梨沙については…面倒臭ぇが、見捨てるわけにもいかねーよな。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒
4:……夢がテキトーに忍者やること。だけど中忍になっちまった…なんて、下らな過ぎて言えねえ。
5:我愛羅は警戒。ナルトは探して合流する。せめて、頼むから影分身は覚えててくれ……。
6:モクバを探し、話を聞き出したい。
7:ブラックは人柱力みてえなもんか? もし別人格があれば、そっちも警戒する。
[備考]
原作26巻、任務失敗報告直後より参戦です。
ネモが入手した首輪の解析データを共有しています
【的場梨沙@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]健康、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)
[装備]シャベル@現地調達、ハーピィ・ガール@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:シカマルについていく
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
4:桃華を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。
【龍亞@遊戯王5D's】
[状態]疲労(大)、右肩に切り傷と銃傷(シカマルの処置済み)、殺人へのショック(極大)
[装備]パワー・ツール・ドラゴン&スターダスト・ドラゴン&フォーミュラ・シンクロン(日中まで使用不可)
シューティング・スター・ドラゴン&シンクロ・ヘイロー(2日目黎明まで使用不可)@遊戯王5D's
龍亞のデュエルディスク@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、DMカード3枚@遊戯王、ランダム支給品0〜1、割戦隊の首輪×2
モチノキデパートで回収した大量のガラクタ(プリンとパフェあり)とネモに指示された物品
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
0:ブラック、こわっ……。
1:首輪を外せる参加者も探す。
2:沙都子とメリュジーヌを警戒
3:モクバを探す。羽蛾は信用できなさそう。
4:龍可がいなくて良かった……。
5:ブラックの事は許せないが、自分の勝手でこれ以上引っ掻き回さない。
[備考]
少なくともアーククレイドルでアポリアを撃破して以降からの参戦です。
彼岸島、当時のかな目線の【推しの子】世界について、大まかに把握しました。
【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、空腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:腹減ったな……。もう昼じゃねえか。
1:気ままに殺す。
2:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
3:シカマル達が、結果を出せば───、
4:江戸川コナンは出会うまで生き伸びてたら、な。
5:暫くはシカマルに付き合ってやるかね。アイの約束もあるしな。
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。
【ハーピィ・ガール@遊戯王5D's】
星2/風属性/鳥獣族/攻 500/守 500
フランドール・スカーレットに支給。
初代のカードで言うと、ランドスターの剣士と相打ちする程度の強さ。
決して強いカードではないが、使用インターバルは2時間と短め。
直接戦闘には向かないが、小回りが効く。
【龍亞のデュエルディスク@遊戯王5D's】
カードを実体化させる事が出来る。
基本はカード単体でも使用出来る為、なくても問題はない。
乗り物があれば、ライディング・デュエルも可能。
投下終了します
予約にガムテを追加し、投下します
二百年は優に超える生涯の中で。
ここまで最悪な巡り合わせの日はそうはなかった。
白昼の中、二人の殺人者(マーダー)に狙われた魔女は心中でそう吐き捨てた。
「それもっ!これもッ!全部乃亜が悪いんだわッ!」
逃げる幼女の姿をした女──ルサルカが憤りながら人喰影を敵に向けて伸ばす。
倒せるとは元より思っていない足止めの為だ。
背後に迫る、雷を放つ白銀の髪の少年から逃れるための迎撃手段だった。
常人を遥かに超えたルサルカの脚力を持ってしても降り切れない速度。
獲物を追い詰める獰猛さがヴィルヘルムを彷彿とさせる子供。
会敵の際名前を尋ねると、彼はゼオンと名乗った。
「フン」
ルサルカの抵抗を鼻で笑い、修羅の雷帝がその手の大刀を振るう。
突風が吹き抜けた様な音が響き、ルサルカの放った食人影が薙ぎ払われる。
否、それだけではない。魂で作った食人影達は、振るわれる刀に“食われて”いた。
恐らく、あの大刀は相手の魂を斬り結ぶだけで吸収できる聖遺物なのだろう。
それの意味する所は即ち、ルサルカは能力を使えば使う程消耗していくが。
逆に敵は、ルサルカから吸収したエネルギーをそのまま継戦に扱えるということだ。
シュライバーやメリュジーヌ程ではないにせよ、難敵と言う他なかった。
「ザケル!!」
(……っ!こんな、時に………ッ!)
反撃として飛んでくる雷を必死に躱して、思考を巡らせる。
状況は頗る付きで悪い。
損傷こそ仙豆で治癒したが、ルサルカの身体には未だ鋭い痛みが走っている。
恐らくメリュジーヌの攻撃が、自身の聖遺物に僅かに被弾していたのだろう。
未だ肉体が崩壊する気配が無い為僅かに掠った程度の損傷だろうが、痛みは一向に引かず。
そんな劣悪なコンディションで、二人の手練れを相手にしなければならない。
運が無さ過ぎて乾いた笑いすら出てくる始末だった。
「このォッ!!」
再び食人影がゼオンに向けて殺到する。
真正面から勝負した所で、一瞬で剣に打ち払われてお終いだ。
変幻自在の食人影の波状攻撃だからこそ、目の前の少年の足止めとして機能している。
とは言え、本当に足を止めるための障害物以上の約張りは果たせていないが。
「下らん」
だがやはり、彼女が操る魔術と鎬を削る大刀鮫肌の相性は芳しくなかった。
食人影を形作る魂が削り取られ、強度を保てないのだ。
加えて、剣の担い手の少年の技量も年齢を考えれば驚異的と言える水準の物。
多大なる才能の持ち主でも、血反吐を吐くほどの修練を積んで至れる領域だ。
ルサルカは少年の技巧を見てある人物を想起する。
聖槍十三騎士団黒円卓第五位、ベアトリス・キルヒアイゼンを。
黒円卓の中でも最高峰の剣技を誇った彼女に比べればまだ技巧的には幼い。
時折放つ雷撃も、存在を雷そのものに変える事ができるベアトリスには劣る。
(でも───今の私が勝てるかって言うと別問題なのよねぇ……!)
そう、彼に目の前の少年がベアトリスには劣っても。
それでルサルカが勝てるかと言えば別の話だ。
彼女の本領はあくまで権謀術数を用い、罠を張り巡らせた状態で行う戦争なのだから。
劣悪なコンディションで行う遭遇戦など、彼女が最も避けたい条件下だった。
(この子だけでも厄介なのに───)
ルサルカの劣勢を加速させている要因は、それだけではない。
放たれる雷を転がる様に躱し、間髪入れずバッと半身になりながら起き上がった瞬間。
雷の合間を縫い、ルサルカの身体を貫かんと殺意が飛来する。
「クソッ!」
超人たる黒円卓の反射神経と身体能力をフルに発揮し。
顔面に突き刺さる筈だった魔力の込められたナイフを躱していくものの。
完璧には避けきれず、避けきれなかった紅い長髪が斬り落とされてしまう。
パラパラと地面に落ちていく女の命を目にして、思わず毒を吐いた。
「毎日トリートメントしてるのよ!?」
子供には分からない苦労でしょうけどね!と、吐き捨てる暇すらない。
兎に角走らなければ、次は本当に命を失うのだから。
人を遥かに超えた身体能力で疾走するが、背後の殺戮者達は平然と追従してくる。
このままではジリ貧だ。
(どうする……!?)
創造さえ決まれば、目の前の少年には勝てるだろう。
しかしそれにあたって問題が二つある。
一つは相手が二人の為、一度の発動で両方を仕留められるか分からないこと。
補足できている状態ならルサルカの創造は二人纏めて術中に嵌める事ができるが。
目の前の少年とは違うもう一人───ナイフ使いの方が問題だった。
此方の方は戦闘を開始してからロクにルサルカの前に姿を現していないのだ。
今も少年の後方、白いマントの影に隠れて常に補足されない様に立ち回っている。
それでいてルサルカの反撃は正確に回避してのけており。
間違いなく素人ではない。こと殺しの腕に関してはプロだ。
創造を使ったとしても補足しきれず、相打ちになる可能性がある。
もう一つは相手が間髪入れずに攻め立ててくるため、創造の詠唱の時間が取れない事だ。
単純な事ではあるが、逃走と応戦をしつつ詠唱を行うのは不可能。
ある程度纏まった隙を作らなければ話にならない。
(と、なると……後残る選択肢は……!)
自身の能力の他に斬れるカードはもう一つある。
ブックオブ・ジ・エンドだ。
空間に罠を仕掛けた過去を挟む戦法は、あまり期待できない。
ゼオンもまた、メリュジーヌの様にマントで飛翔する術を備えているし、
振るわれる大刀の効果で、仕掛けた罠ごとエネルギーにされてしまう。
だが直接斬った効果はメリュジーヌにも通じた。一撃入れればまず間違いなく隙は作れる。
今振り返ればメリュジーヌに効果を発揮した時に創造を使っていれば。
もしかすれば、勝利していたのは自分だったかもしれない。
今更言っても仕方ない事だし、今考えるべきは現在進行形の苦境を切り抜ける方法だけど。
(──形成で攻撃しつつ反転して、距離を詰めてからこの刀を使う。
そして相手が混乱したところを創造で一気にカタを着ける!)
瞬きの間に作戦を組み上げる。
選択肢が少ない為どうしても単純な方法にならざるを得ないが、通す自信はあった。
何しろ、ここまでずっと逃げの一手を撃って来たのだ。
既に相手はルサルカを敵ではなく狩りの獲物として見ている筈。
となれば、敵手は既に此方の戦意を完全に奪った物として展開しているだろう。
その隙を突く。大規模な形成の攻勢で気を引いてから、一気に進行方向を反転。
フェイントで一気に距離を詰めた後、本命であるブック・オブ・ジ・エンドを使用する。
毛先の一本でも触れればいいのだ。条件はそう難しくない。
ブック・オブ・ジ・エンドを何方か一方に発動すれば同士討ちすら狙える。
そうでなくても混乱に乗じて創造を発動するのは十分可能だろう。
(一番いいのは刀を使った後にそのまま逃げられることだけど……!)
依然としてシュライバーやメリュジーヌの脅威は健在だが。
かといって出し惜しんでそのまま抱え死んでは間抜けすぎる。
そんな愚行を真なる魔女たる自分が犯す筈もない。
真の強者は、カードの切り時を見誤らない。
「ザケルガ!!」
槍の様に迫ってくる雷撃を、屈んで躱す。
今迄の雷撃より威力は強力そうだが、軌道が直線的過ぎる。
これならば、先ほどの雷撃の方が余程厄介だった。
だが、チャンスだ。ここで一気に身を翻す!!
「喰らいなさい!」
わざと大仰に叫び、これから行うのは強い攻撃だと印象付ける。
事実逃走にリソースを割いていた先ほどまでより強い攻撃なのは間違いなく。
それ故に、本命を隠す良い目くらましとなる。
向こうは立ち止まった此方に構わず突っ込んでくる、好都合だ。
彼我の距離は二十メートル程、瞬きの間に詰まる距離。勝負をかける。
「形成(Yetzirah───イェツラー)血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)!」
ルサルカにとって唯一幸運と言えたのは、形成が連続使用可能だった事だろう。
もしシュライバーの様に形成すら数時間のインターバルを必要としていれば…
勝敗はとっくに決していたのは間違いなく。
巨大な鉄の乙女と夥しい数の量の鎖が現れ、少年へと殺到する。
常人であれば恐怖を通り越して絶望する血と殺意の波濤も。
修羅の雷帝には歩みを止める理由にはならない。
「レードディラス・ザケルガ!!」
巧みに操られる雷撃のヨーヨーが、拷問器具の群れを迎え撃つ。
爆発音めいた轟音が響き、大気を揺らす。
さしものゼオンの雷でもその全てを相殺する事は出来ず、生き残りの鎖が彼の首を狙う。
だが、これで討ち取れるならとっくにルサルカは勝利を掴んでいる。
その想定の確かさを示すように、迫る攻撃に対しゼオンは即座にヨーヨーを放棄。
大刀を片手で軽々振るい、残存の拷問器具全てを薙ぎ払った。
ここまで先ほどまでの焼き直し。重要なのは、これからだ。
「───ここッ!」
雷撃を掻い潜り、その手の栞を刃に変えて。
ルサルカは刀の間合いに入る事に成功した。
いけると思った。掠るだけでも此方の目的は達成できるのだから。
ここまで懐に入り籠めれば当てるには十分。
躱せるとしたらそれはシュライバーやメリュジーヌくらいだろう。
更にナイフ使いの方も完全に射線が重なっているため手出しできない。
同士討ちになる可能性が非常に高い、射線が重なった状況だからだ。
もしナイフを投げたとしても、ゼオンの背が盾となり自分には当たらない。
(フフ……親友になるか恋人になるかお姉ちゃんになるか……貴方は何がいい?)
栞にしていたブック・オブ・ジ・エンドを戦闘態勢に移行。
ここまで空間に罠も張らず、温存しておいた成果を今こそ見せよう。
過去を挟み同士討ちを誘発すれば、ナイフ使いはどれだけ狼狽するだろうか。
敵手の狼狽えた顔を想像して、思わず笑みが零れる。
その瞬間の事だった。卓抜した技巧とタイミングでまたしてもナイフが飛来したのは。
「……チッ!」
飛んできたナイフを剣で打ち払う。
折角の好機。この程度でおじゃんにするわけにはいかない。
その意志の元遂に刃の切っ先を突き出す。
ナイフに対処した一瞬を突き、ゼオンはルサルカに空いている片方の手を向けるが。
最早手遅れだ、例え雷撃を受けてもこのまま押し切る。
ベアトリス程では無いとは言え、黒円卓の魔人でも受ければダメージは免れない雷だが。
それでもこれが決まれば殆ど勝利のため、一発なら割り切って耐えてやろう。
そんな覚悟を胸に放たれたルサルカの刃が、敵手へと迫る────
「えっ」
ここで計算違いが起きた。
幻影のような霧が、ゼオンの五体を包んだのだ。
距離感が狂い、霧を吸い込んだ途端立ち眩みの様な眩暈を覚える。
間違いなく魔術による攻撃。
それも魔道に精通した自分でも即座に対処するのは難しい水準の物だ。
(───それでも、この距離なら!)
だがそれでも既に自分は刀の間合いに入っている。
ほんの一秒感覚を狂わされたところで誤差の範囲内だ。
軌道を修正するまでもない。何も問題はない。
一秒の誤差に食い込む様に少年がこちらに手を向ける。
また電撃が来る。だが、この距離なら大技を放つには近すぎる。
今までの威力であれば心の準備はすでに済ませた。重ねて問題はなく。
来る痛みに備え、歯を食いしばりながら最後の一歩を踏み込む!
「ジケルド」
ルサルカが踏み込んだのと、少年が言霊を放ったのはほぼ同時だった。
そして、切っ先が触れる前の刹那。コンマ数秒の差で。
少年の掌から発生した球場の力場が、先んじて刃に着弾し。
着弾の瞬間、ゼオンに届くはずだった刃の進行方法がグリンッ!と明後日の方角を向く。
刀が向いた方向は、巨大な鉄製の看板がある方向だ。
メリュジーヌとは違い、ゼオンの髪が短かったことが災いした。
加えて突進という攻撃そのものが、前方からの干渉には強いが、横からの力には弱い。
故に超人の身体能力を有するルサルカでも、軌道を即時修正するのは不可能だった。
結果、無防備な横腹を雷帝ゼオンの前に晒すことになる。
「テオザケル」
雷光が轟き、魔女の思考と肉体を容赦なく灼き。
ブック・オブ・ジ・エンドも付近に取り落としてしまった
この瞬間ルサルカは、己の敗北を認識した。
▽▲▽▲
劣悪な肉体的コンディション。不得手な遭遇戦。
武装特性の相性の悪さに、数の不利。
様々な要因から敗北を喫し、アスファルトの上にへたり込んだ上で。
それでもルサルカは底を感じさせない、不敵な表情を作り。
堂々と、自身を下した少年に話を持ち掛けた。
「───ねぇ、坊や?どう?私と組まない?」
艶めかしく泰然とした態度で、魔女は自信を下した二人組に共闘の打診を行う。
その様は幼児に敗北したとはとても思えない程自信に満ちたもので。
百年を超える生涯の中で培った老獪さが発揮されていた。
「私は皆でお手て繋いで脱出何てキャラじゃないしぃ。自分が助かればそれでいいのよね。
だから私が助かるためなら、君たちと一緒にマーダーをやっても全然オッケーってわけ☆」
語るその言葉には本心と虚偽が織り交ぜられていた。
まず自分さえ助かれば後はどうなっても良い、というのは彼女の偽らざる本心だ。
だが、彼女は現時点でマーダーをやるつもりがなかった。
何故なら、マーダーとして優勝を目指すという事は、つまり。
あの狂人ウォルフガング・シュライバーを下して優勝を目指すという事に他ならないから。
目の前の少年は強い。如何に雷を扱っても、ベアトリスを想起するのは尋常ではない。
だがそれでもシュライバーには敵わない。それがルサルカの見立てだった。
故にこれはこの場を切り抜けるための方便。
少し隙さえ作ってしまえば、簡単に手玉にとれる。彼女はそう確信していた。
「私もこの島に来てからかなり溜まってるしぃ、見逃してくれるなら役に立つわよ?」
色々とね?
そう囁く声は思春期の少年なら思わず胸が高鳴る妖艶さ、艶めかしさを秘めていて。
更に、総身に巡らせた魔力は魔女が実力者である事を如実に示す。
目の前の少年は、此方の力量も測れない愚鈍な凡夫と違う。
少なくとも、組んで損はない。そう思わせる事ができるはずだ。
ルサルカはそう考えていて、事実その予測は正しかった。
醸す色気は幼いゼオンにとってどうでも良かったが、実力については疑っていない。
絶望王などの自分に迫る強者がいる以上、戦力は多いに越したことはなかった。
「フッ、話が早いな。いいだろう」
ニィ…とサメのように並んだ歯を覗かせて。
笑みを浮かべながら、ゼオンはルサルカの申し出を快諾。
了承の言葉を聞いた瞬間、ルサルカは心中でほくそ笑んだ。
これで一瞬でも警戒が緩めば、付け入るスキは十分ある。
一時的に敗北を喫しても、所詮少年とは年季が違う。
そう、立ち回り次第では。
逆にシュライバーやメリュジーヌにぶつける削りとして利用してやることも──
「────丁度、試したい術があったところだ」
は?
そんな惚けた声をルサルカが発するのと同じタイミングで。
ゼオンは現状に最も適した呪文を唱えた。
「バルギルド・ザケルガ」
「───っ!?」
殆ど零距離の間合いで、雷光が煌めく。
咄嗟に躱そうとルサルカは身を翻すものの、距離が近すぎた。
当然の如く、放たれた呪文は直撃する事となる。
「きゃああああああああああぁあああああ゛あ゛あ゛ッ!!!」
直撃した電撃は、容赦なくルサルカの瑞々しい肌を灼いた。
じゅうじゅうと肉が焦げ、喉が張り裂ける勢いで悲鳴が周囲に木霊する。
五秒…十秒…二十秒……雷の勢いは一向に落ちない。
それどころか、時間が経つごとに勢いが増してすらいた。
「この雷はお前の身体がボロボロになるまで電撃の苦痛を与え続ける」
(かっ…解呪!解呪、しなきゃ………!)
百年以上魔道に手を染めてきたルサルカだ。
威力を増していく電撃に苛まれながらも、何とか呪文の解析と解除を試みようとする。
だが、できなかった。雷は、彼女の意識をも灼いていた。
もしこれが、他者にかけられた物であれば彼女は問題なく解除できただろう。
しかし例え遍く問いに、瞬時に解を導く答えを出す者(アンサートーカー)であっても。
ゼオンの雷はその思考力を容赦なく灼き、雷を受けている間は証明不能となった。
ルサルカもまた、未来でゼオンの雷を受けた答えを出す者の少年と同じ状態に陥っており。
思考できれば対抗策も用意できただろう。だが対抗策を用意する為に考える事ができない。
しかもその状態がもう一分以上続いているのだ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
「痛みで気絶する事も許されない。
体が壊れる前に限りなく増していく雷の激痛で心の方がぶっ壊れる」
つまり、この痛みを味わいたくないならお前は俺に従うしかないわけだ。
そう言って、ゼオンは凶悪な笑みでルサルカに告げた。
「が…あ゛……あ………っ゛」
三分経ってようやく、ぐしゃりとルサルカの身体が崩れ落ちた。
評価を訂正。このガキ、ベアトリスよりよっぽどタチが悪い。
そう考えた余裕は、直ぐに再び押し寄せた電撃の痛みの波濤に飲み込まれた。
「この痛みを味わいたくなければ…そうだな、二人殺して首輪を持ってこい。
そうすれば奴隷じゃなく下僕として扱ってやるさ」
前提として、ゼオンは目の前の雌猫の事をまるで信用していない。
それどころか戦闘を開始してから、ルサルカの思考は彼に筒抜けだった。
マーダーとして手伝う、という言葉が方便であることも。
シュライバーやメリュジーヌなる強者と自分をつぶし合わせようとしていることも。
ブック・オブ・ジ・エンドという刀が彼女の切り札ということも、全て把握していた。
頭に被った、さとりヘルメットという支給品で。
短時間の間ではあるが、装着すれば相手の心を読み取れると説明書に書いてあった道具。
ゼオンも記憶の読み取りや消去はできるが、相手が無抵抗でなければできない。
しかしさとりヘルメットは装着するだけで相手の思考を読み取れる。
それは策謀をこそ武器とするルサルカに敵面の効果を発揮していた。
だからこそ、バルギルド・ザケルガの使用に躊躇なく踏み切ったのだ。
「ジャック」
「はーい。なに?」
既に効果の切れたヘルメットをランドセルに戻し、ゼオンはもう一人の下僕に声をかける。
「おー、コゲコゲ」と意識の朦朧としたルサルカを枝で突いていた幼女。
ジャック・ザ・リッパーは呼びかけられてキョトンとした顔で向き直る。
その表情にはルサルカの拷問に加担した後ろめたさは全く宿っていなかった。
そんな彼女に、ゼオンは無言であるものを手渡す。
「俺の雷の力を籠めた結晶だ。念じるだけで雷の激痛を呼び起こすことができる」
「へぇ……ねぇねぇ!使ってみてもいい?」
「あぁ」
「ありがと……えいっ!」
「っ!?が…!があああああああッ!があああああああッ!!」
まるで玩具を妹に買い与える年の離れた兄妹のようなやりとりと共に。
ルサルカの身体を、再び発狂しそうな超激痛が襲う。
雷から解放されたばかりの身体に塩を擦り込む所業に、ルサルカは悲鳴を上げた。
「あはははははっ!面白〜い!!」
(こ、のクソガキども……)
のたうち回るルサルカの様が面白かったのか、ジャックは無邪気に、酷薄に笑う。
対するルサルカはプスプスとモノが焦げる音を響かせ、屈辱の極みにあった。
黒円卓に名を連ねる私が、シュライバーなんて狂人の同僚と殺し合いをさせられ。
メリュジーヌにさんざんボコられた傷を癒して早々に。
こんな精通もしてない様なクソガキ共にいいようにされているなんて!
その事実だけで狂い死にしそうな屈辱だった。
だが、当然彼女をそんな状態に追いやった元凶二人がルサルカの心境を慮るハズもなく。
冷酷に、下僕が置かれた最悪の現状と、そこから解放されるための命令を繰り返す。
「いいか、お前の身体に常に雷の激痛を流し続ける。もし命令に背くことがあれば……
このジャックが、一瞬でお前を廃人にするレベルまで痛みの強さを引き上げる。
そんなことになりたくなければ、お前は俺の言うことを聞くしかない、分かるな?」
ゼオンは読心を行った際にルサルカが魔道に長けている事も把握していた。
故に、呪文を勝手に解呪されるリスクを下げるために痛みは常に行動ができる閾値付近に。
余計なことに思考を割けない状態にまで常に追いやる。
そして、その気になればお前など一瞬で廃人にできると脅しをかけ。
それが嫌ならお前は生存者の首輪を持ってくるしかないと突きつけた。
「く…そ……」
二度目の放送を迎えようとしているこの局面。
既に参加者間の顔も割れつつあるだろう、そんな時勢に。
二人も参加者を殺せば、後戻りできなくなる。
マーダーとして歩むほかなくなり、なし崩し的に少年に協力せざる得なくなる。
別にマーダーに身を落とす事については何とも思っていない。
人を殺す良心の呵責など、魔女は持ち合わせていないのだから。
だが、ゼオンは自分を使い潰すことを躊躇しないだろう。
そして、対主催からも見捨てられてしまえば、自分は完全に孤立し。
シュライバーもいる以上、生き残りの芽は完全になくなる。
(何で……私ばっかり、こんな目に………)
少なくともこの島では悪事は何一つ行っていないというのに。
自分ばかりこんな災難が降りかかるのか、乃亜を呪いたい気持ちで彼女の胸は満ちていた。
誰でもいいから助けて欲しい。あとシュライバーを何とかしてほしい。
助けてくれたら男だろうと女だろうと、この身体を抱かせてやってもいい。
だが、そんな都合のいい奇跡(ヒーロー)に助けを願うには。
彼女の魂は既に汚れ過ぎていたし、彼女自身にもその自覚があった。
だから、彼女はこう言うしかない。
「わか……った………わ………
でも、少し……時間を、ちょうだい」
「あぁ、放送までは傷を癒すがいい。
もう死んでる奴の首輪でやり過ごされてもウザいからな。
お前に働いてもらうのは死者の確認を行ってからだ。まずは偵察からだ。さぁ行け」
当初の予定通りシュライバーやメリュジーヌをけしかける選択肢は棄却する。
考えてみれば、二人はルサルカを殺してからゼオン達を襲うだろう事が予想されるから。
だから、今思いつく選択肢は二つ。
弱そうな対主催に怪我人のフリをして近づき、二人を殺して術を解かせるか。
それとも、強そうな対主催に救助を乞い、ゼオン達を打倒してもらうか。
このどちらかに命運を賭けるしかない。
近くに落ちていた刀を支えに、よろよろと立ち上がり命じられるままに歩き出す。
超人たる黒円卓の肉体だ。放送までの二時間程で戦闘可能なまでには回復するだろう。
だが、体には常に雷の痛みが第二の首輪の様に体を苛んでいる。
自力での呪文の解除はやはり困難と認識せざるを得ない。
だが、それでも。
「諦める……もんですか……この程度で………」
ルサルカの精神は未だ健在だった。絶望すらしていない。
絶対に、切り抜けて見せる。生き残って見せる。
クソガキ共を惨たらしく殺していない。
メリュジーヌを足元に跪かせていない。
ずっと追い求めていた、そしてやっと糸口を掴んだ願望の成就を成し遂げていない。
だから終わる訳にはいかない。それも、この程度の苦境で。
「───■■■■………」
苦痛に苛まれながら、うわ言の様にもう覚えていない誰かの名を呼ぶ。
彼女自身はその名が何なのか、最早認識できてはいないだろうが。それでも呼んだ。
掠れ、消えかけた所にブック・オブ・ジ・エンドの過去で塗りつぶされた愛しい記憶。
それでも、その名を追いかける事だけは諦めない。
だからこそ、かつて黒円卓の双璧たる副首領も彼女を選んだのだろう。
淀み、穢れ、大地に堕ちきってなお、星は星。
きっと命果てる時まで、その瞬きを消す事などできはしない。
▽▲▽▲
生まれたての小鹿の様な足取りで、ルサルカが歩いていく方向を眺めながら。
開口一番、ジャックが気にしたのは彼女の持っていた刀の事だった。
「よかったの?あの刀だけでも取り上げておかなくて」
ジャックから見ても、あの刀には妙な力を感じた。
ほぼ間違いなく、サーヴァントの宝具に匹敵する代物だ。
回収しておけば、きっと戦力となっただろうに。
そんな思いから口に出た問いかけだった。
ゼオンは彼女のそんな問いに対し首肯で応える。
「あぁ、あの刀はこのままこの女に使わせる」
ゼオンも、ルサルカの振るっていた刀がただならぬ一刀である事は承知していた。
彼女のランドセルから奪った説明書と、読心によって得た情報。
その二つと照らし合わせると、この刀は非常に強力な精神操作…
否、過去の改竄の効果がある事は分かっていた。
同時に、ゼオン自身はこの刀を使うつもりは無かった。
右天と言う道化が用いて居た、失意の庭と同じ厄物の気配を感じ取ったからだ。
恐らく、開示されていないリスクが存在する。迂闊に使うわけにはいかない。
何しろ結果的に精神に作用するのだ。精神汚染など受ければ深刻な影響を受けかねない。
女の能力は把握した。刀の間合いに入らず、このまま使わせ続けるのが最も適当な扱いだろう。
「不服そうだな、何か文句があるのか?」
「なんでもなーい……あのビリビリ、私たちに使わないでね」
「それはお前の働き次第だ」
本来であれば折角手に入れた戦利品だし、自分の物にしたくてジャックは不満げだった。
だから気安い態度を取っていたが、口答えはしない。
彼の機嫌を損なえば魔女を灼いた呪文が、自分に向けられることになるかもしれない。
そんなのは御免だ。
あっさりと引き下がり、話題を方向転換する。
「それで、これからどうするの?」
「今はあの雌猫が獲物を見つけるまで待ちだな。それまでは…腹ごしらえでも」
「ごはん!」
主の言葉を食い気味に、ジャックは声を上げた。
食い意地の張った奴だと思いながらも、彼女の前にゼオンは掌を水平に開く。
その手には、ある植物の種があった。
灰原哀から奪い取った支給品にあった、畑のレストランと言う名の種だ。
「何が喰いたい。この種を植えておけば、食いたい物が中に入った大根になるんだそうだ。
今から植えておけば、飯時には実ができると説明書には書いてあった」
「へぇー…!凄いね!じゃあじゃあ、ハンバーグ!ハンバーグ食べたい!」
「いいだろう。じゃあこれを丁度いい場所に撒いてこい」
その命令にはーい!と元気よく返事をして、ジャックはシュタタタと駆けて行く。
王たるもの、飴と鞭だ。いずれ殺しあう事が約束された間柄ではある物の。
最初から指示に従う気のない雌猫と違って、ジャックはある程度重用してもよかった。
バルギルド・ザケルガを見せたのだ。叛意を挫く鞭としては十分だろう。
そしてこれが飴となるなら、安いモノだ。
(比較的従順ではあるが、奴も俺の首を狙っている事に変わりはない)
ルサルカとジャックの相違点は、マーダーのスタンスを取っているかどうかでしかない。
懐いている風に見えても、彼女がついて来ているのは自分に利用価値があるからだ。
もし無くなれば、彼女は一切の呵責なく自分を切り捨てるだろう。
(もっとも、それは俺の方も同じだがな)
ジャックを雷で脅さずそれなりに重用しているのは、彼女が優秀だからだ。
お荷物になったり、マーダー行為に消極的になればルサルカの様に使い潰すつもりでいる。
だから、彼女が此方の寝首を狙っているとしても、それはお互い様。
その時に至るまでは、これまで通り従順であるなら、雷で従わせたりはしない。
恐怖政治は手っ取り早いが、必要以上に反感を買う。
ジャック以上の手駒を見つけたりをしない限りは、今の同盟に近い関係を維持。
それが彼の決定だった。
「さて………」
ルサルカの身体にはゼオンの髪の毛で作った分身を取り付けてある。
これであの女の居場所は把握可能だ。簡単な命令なら下せるようにもプログラムした。
勝手に取り外せば、即座に最大の苦痛を与えられる事になるのはあの雌猫も分かるだろう。
後は、雌猫の斥候の成果を食事でもしながら待てばよい。
だが、その前にもう一つ。
「───お前はどうかな」
ヒュッ、と。風を斬って。
投擲された刀を、鮫肌で事も無げに弾く。
すると弾かれた刀はくるくると宙を舞って。
まるで示し合わせた様に、投擲した少年の手へと舞い戻った。
「真実(マジ)ィ?気づいてるとか思わなかったわ〜!」
きゃっきゃっと道化の様な所作で。
いつの間にか、ゼオンの背後に少年が立っていた。
気づいたのは、ついさっきだ。
まずジャックが気づき、その時の表情の変化からゼオンも遅れて気づいた。
単独であっても気づいていただろうが、タイミングはもっと遅れただろう。
目の前の少年は一見ただの馬鹿のようであるが。
ただの馬鹿にそんな芸当ができる筈がない。
確信と共に、ゼオンは問いかけた。
「……それで、何の用だ?」
「ン〜☆そんなんお前も勿論(モチ)で分かってんだろォ?」
ニっと欠けた歯を覗かせて。
顔中にガムテープを巻き付けた怪人。
殺しの王子様(プリンス・オブ・マーダー)は王として。
次の瞬間には自らを雷で灼きかねない修羅の雷帝に相対し、不敵に微笑んだ。
「ボクチン、オメーと友達(ダチ)になりたくてさァ。会いに来ちった☆
先ずは今のマガジンに載ってる連載で好きなの教えてよ〜ォ」
ぎらぎらと淀んだ輝きを放つその瞳は。
支給品など使うまでも無く、殺す側の存在である事を示していた。
【C-5 /1日目/午前】
【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]失意の庭を見た事に依る苛立ち、ジャックと契約、魔力消費(小)、疲労(小)
[装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!!
[道具]基本支給品×3、ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ、ランダム支給品5〜7(ヴィータ、右天、しんのすけ、絶望王の支給品)
[思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。
0:さて、こいつは使えるか…
1:ジャックを上手く使って殺しまわる。
2:雌猫(ルサルカ)で釣りをする。用済みになれば雷で精神崩壊させる。
3:絶望王や魔神王に対する警戒。更なる力の獲得の意思。
4:ジャックの反逆には注意しておく。
5:ふざけたものを見せやがって……
[備考]
※ファウード編直前より参戦です。
※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。
※ジャックと仮契約を結びました。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、探偵バッジ×5@名探偵コナン、ランダム支給品1〜2、マルフォイの心臓。
[思考・状況]基本方針:優勝して、おかーさんのお腹の中へ還る
1:お兄ちゃんと一緒に殺しまわる。
2:ん〜まだおやつ食べたい……
3:つり、上手く行くかなぁ?
[備考]
現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。カルデア所属ではありません。
ゼオンと仮契約を結び魔力供給を受けています。
※『暗黒霧都(ザ・ミスト)』の効果は認識阻害を除いた副次的ダメージは一般人の子供であっても軽い頭痛、吐き気、眩暈程度に制限されています。
【輝村照(ガムテ)@忍者と極道】
[状態]:全身にダメージ(中、腹部に大きなダメージ再生中)、疲労(中)
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、
破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order、妖刀村正@名探偵コナン、
[道具]:基本支給品、魔力髄液×10@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:さァて、生存(イキ)るか死滅(くたば)るか。
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:シュライバーを殺す隙を見つける。
5:じゃあな、ヘンゼル。
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。
【ルサルカ・シュヴェーゲリン@Dies Irae】
[状態]:全身に鋭い痛み (中)、シュライバーに対する恐怖、キウルの話を聞いた動揺(中)、バルギルド・ザケルガのスリップダメージ(大)、メリュジーヌに対する妄執(大)、ブック・オブ・ジ・エンドによる記憶汚染
[装備]:血の伯爵夫人@Dies Irae、ブック・オブ・ジ・エンド@BLEACH
[道具]:基本支給品、仙豆×1@ドラゴンボールZ
[思考・状況]基本方針:今は様子見。
0:ゼオンの言葉に従い二人の参加者を殺す…又は誰かに助けを乞う。
1:シュライバーから逃げる。可能なら悟飯を利用し潰し合わせる。
2:ドラゴンボールに興味。悟飯の世界に居る、悟空やヤムチャといった強者は生還後も利用できるかも。
3:メリュジーヌは絶対に手に入れて、足元に跪かせる。叶わないなら殺す。
4:ガムテからも逃げる。
5:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
6:俊國(無惨)が海馬コーポレーションを調べて生きて再会できたならラッキーね。
7:どんな方法でもわたしが願いを叶えて───。
[備考]
※少なくともマリィルート以外からの参戦です。
※創造は一度の使用で、12時間使用不可。停止能力も一定以上の力で、ゴリ押されると突破されます。
形成は連発可能ですが物理攻撃でも、拷問器具は破壊可能となっています。
※悟飯からセル編時点でのZ戦士の話を聞いています。
※ルサルカの魔眼も制限されており、かなり曖昧にしか働きません。
※情報交換の中で、シュライバーの事は一切話していません。
※ブック・オブ・オブ・ジ・エンドの記憶干渉とルサルカ自身の自壊衝動の相互作用により、ブック・オブ・ジ・エンドを使った相手に対する記憶汚染と、強い執着が現れます。
※ブック・オブ・ジ・エンドの効果はブック・オブ・ジ・エンドを手放せば、斬られた対象と同じく数分間で解除されます。
【さとりヘルメット@ドラえもん】
絶望王に支給。
頭に被れば三十メートル以内にいる人間の心の声を聞く事ができる。
ただし乃亜の調整を受けており、心を聞く事ができる対象は一人だけ。
また対象が三十メートル以上距離を取るか、使用開始から一定時間経過で使用不能となる。
一度使用すれば六時間は連続不能。
【畑のレストラン@ドラえもん】
右天に支給。
食料品生産系のひみつ道具で、地面に植えると桜島大根のような巨大な大根になり。
大根の中にはそれぞれの食べ物が最適な状態で完成している。
付属の栄養剤を使用すれば、一時間から二時間程で食べられるまで成長する。
また、大根自体も結構美味しい。
投下終了です。
すみません、今回の話の現在位置ですが正しくは
【E-2 /1日目/午前】
でした。収録の際は此方をお願いします
投下ありがとうございます
ルサルカ、開幕酷い目に合ってて草生えますよ。
他の黒円卓ならごり押しで突破しそうなのに、ルサルカだけ真っ当な魔術師だから鮫肌が相性悪すぎる。
負けても堂々と手を組みましょうなんて言えるのは、やっぱ肝が据わってるけど、相手がゼオンなんだよなあ……。
ジャックちゃんが居なければ、ワンチャン参謀位にはなれたかもしれませんけど。一人忠実な暗殺者もいるし、苦痛で支配させる方に傾いちゃいますよね。
支給アイテムも心読まれるなんてもん、そう支給されるとは思わないでしょうし。
もう巡り合わせと運が悪い。でも、別に乃亜のせいじゃなくとも原作から一部除いて、もっと酷い目に合うので実はまだマシなのかもしれない。
しかし、さとりヘルメット着けてるゼオン、正直シュールすぎる。
鬼強いけども。
ガムテはずっとこの人がボコボコにされるとこ観測してたのか。
なんか大体、ルサルカが瀕死になる時に立ち会ってんなこいつ。
まーたやられてるよあいつとか思ってそう。
ゼオンとお友達になりたいなんて可愛らしい事を言うガムテ君、そいつ多分サンデー派やぞ。
他も殆どジャンプ派なんだ。
おふざけパートもこなしつつ、ゼオンが気配の感知に遅れたの。ガムテが実力者として描写されてて好きですね。
孫悟空、リルトット・ランパード、鈴原小恋、ウォルフガング・シュライバー、シャルティア・ブラッドフォールン
予約します
延長もお願いします
執筆データ消失のため予約を破棄します
期間中のキャラの拘束、申し訳ありません
孫悟空、リルトット・ランパード、鈴原小恋、ウォルフガング・シュライバー、シャルティア・ブラッドフォールン
再度予約します
日番谷冬獅郎、北条沙都子、カオス、孫悟飯、メリュジーヌ 予約と延長します
投下します
カルデアに無事辿り着く事はできたものの。
孫悟空が到着した時には仲間(ネモ)の姿はなく。
近辺の温泉施設に在った戦闘痕から、襲撃を受けたのだと伺う事が出来た。
残留する霊子/気/魔力も悟空の認識しているネモの物と一致する為、間違いないだろう。
「……で、どーすんだ猿ヤロー。お仲間はいねーみてーだが。つーか生きてんのか?」
温泉付近の惨状を確認して、リルトット・ランパードが疑念を口にする。
誰の死体こそないモノの、激しい戦闘が起きた事は確かだ。
脱出のアテにしていた張本人の生存を危ぶむのも無理はなく。
それを踏まえて、これからどう動くのかを問いかけた。
このままカルデアで仲間の生存を信じ待つか、それとも捜索に動くか。
悟空は一拍の時を置いて、方針を述べた。
「……もうあと二十分くれぇで放送だ。そうなりゃネモ達が生きてるかどうかも分かる。
それに、もしなんかあった時は近くの建物から合図するって言ってからよ。
探しに行くのはそっからだな。入れ違いになるかもしれねぇし」
悟空が選んだのは、カルデアで待つという選択肢。
こういった状況になった時の打ち合わせで、ネモと取り決めた約定だった。
下手にお互いが捜索に動いて、完全に同行が掴めなくなる事だけは避けねばならない。
そのため、襲撃などで逸れた場合は立ち寄るポイントをあらかじめ定め、
特定のタイミングで合図を送ればお互いの生存を確認できると話していたのだ。
その第一候補として取り決められたのが近隣の一番高い建物…モチノキデパート。
あそこなら、合図を送っても分かりやすく、また此方も向こうから合図を確認しやすい。
迎えに動くかどうかは、放送の内容と合図を確認してからの方が確実である。
「………なぁ猿野郎。待つことに着いちゃ構わねぇが────
もしお前の話した藤木って奴が余計な事したなら、手足の二、三本は弾くぞ」
そんな風に悟空が方針を固めた時の事だった。
リルトットが釘を刺すような言葉を悟空へと向けたのは。
彼女は悟空から仲間と逸れた経緯と、藤木茂という少年の事も聞いていた。
マーダーだが怯えから凶行に及んだのだろうと、悟空は同情的に話していたが。
当然ながらリルにはそんな事心底どうでもいい話だった。
「怯えて居ようといまいと、ンな事は知ったこっちゃねぇ。
重要なのはオレ達にとって脅威になり得るかだ。はき違えるなよ」
「………おう」
件の藤木とやらはキャンディと同じ雷を操る能力者らしい。
素人らしいが、全身を雷に変化させられるという。
であるならば、キャンディに匹敵するか超えかねない能力の高さだ。
余計な仏心を出して脱出の邪魔をされてはたまらない。
「残留した霊子を調べれば、その藤木が何か力を使った事だけは確かだ。
用途が防衛か襲撃かはハッキリしねぇが…お前の仲間と今も行動してるかで凡そ分かる」
残留した霊子はネモの物一つだけではない。
系統の違う、藤木の雷らしき霊子もまた感じ取ることができた。
つまり、藤木は能力を使用したのだ。本人が去った後でも感じ取れる程強く。
他に護廷の隊長格クラスの霊子も感じ取れたため、藤木と衝突したとは断言できないが。
もし自衛のために使ったのならネモ達と共にいる筈だ。もし居なければ……
ほぼ“クロ”であろうと、リルは踏んでいた。そして、その場合容赦する理由は一つも無い。
「単に役に立たねぇだけならまだいいが、積極的に足を引っ張って来る奴はいらねぇ。
そいつのせいでお前が肩をぶち抜かれたって話ならなおさらだ」
不意打ちをしてきたらしい藤木を庇って悟空は肩に大穴を開けたらしいが。
リルからすれば大甘(チョコラテ)もいい所だった。
特記戦力に匹敵する男がそんなガキのせいで重傷を負うのは、ナンセンスの極みだ。
出来る事なら始末しておきたいが、それを直球で伝えれば流石に反感を招くだろう。
彼女なりに譲歩した結果出た、同行するなら最低でも再起不能にするという選択肢だった。
「お前の気分の問題に、オレもあのガキもテメェの身を危うくする義理はねーんだよ」
チラリとカルデアの廊下を物珍しそうに眺め、時折近場の部屋の中を覗く少女。
鈴原小恋の方を一瞥しながら、リルは悟空に己のスタンスを表明する。
冷淡な言葉と態度だったが、小恋を勘定に入れた上で訴えればこの男には反発しにくい。
そう読んで小恋の存在を強調したが、その効果は抜群の物があった。
悟空は暫し難しい顔をしていたが、やがてリルの言葉を受け入れた。
「……分かった。まだ藤木が悪ぃことしたと決まった訳じゃねぇしな。
逆に藤木がネモ達と一緒に居たら、余計なことはしねぇでくれよ」
「さて、な。そりゃ蓋を開けてみりゃハッキリする話だ」
二人とも、声を荒げたりはしない。
この程度で揉めるほどの幼さはリルと悟空には無く。
しかしどこか薄っすらと刺々しい雰囲気が漂っており……
子は鎹と言うが、その言葉の通りこの場における真正の子供は敏感だった。
今の雰囲気を変えるために、小恋は話を切り出す。
「ねぇねぇ、おねえちゃん」
「あん?何だよ、小便なら一人で行け」
「ちがうもん!小恋、ここがなんのたてものかきになって……
がっこう?かいしゃ?びょういん?それともひみつきち?」
「あー……その中なら秘密基地が一番近いかもな」
リルにとっても今いる場所(カルデア)が何なのかは定かではないが。
抱いた印象としては見えざる帝国の研究施設が近いだろうか。
もっとも、それを口にした所で目の前の幼女には通じないので、適当に話を合わせる。
適当な返事だったが、当の小恋は聞いた瞬間ぱあっと花が開いた様な顔になり。
「おねえちゃん!おにいちゃん!小恋、ここたんけんしたいです!」
強請る小恋を見て、リルが真っ先に抱いたのは面倒臭ぇな、という思いだった。
折角世話役を見つけたというのに、これでは半日前から何も状況が変わってない。
適当に悟空に丸投げしよう、そう思いつつ小恋に返事を返そうとした。
その時の事だった。
「─────」
「……………!」
悟空とリル、両者共に何かを感じ取った。
小恋が不思議そうな目で見つめる中、無言のままに彼らは視線で意志を交わす。
そのすぐ後に、リルは短い溜息を一つ吐いて。
「──仕方ねぇ。食堂か食糧庫が無いか探すとするかね」
探検がしたいという小恋の提案を了承したのだった。
そして、ひょいと小恋の小さな体を担ぎ上げて、カルデアの内部に進んでいく。
一緒に探検をしてくれるという事実に、一瞬小恋は喜ぶものの。
直ぐに違和感を抱き、視線の先に立ったままの悟空に問う。
「おにいちゃんは?いっしょにいかないの?」
「…………あぁ、用事ができたからよ。ちょっと行ってくる」
朗らかに笑い、出口へと歩いていく悟空。
彼を見て、何故か小恋は不安を感じ、食い下がろうとするが。
彼女を担ぐリルは反対方向にどんどん進んでいってしまう。
「おねえちゃん……」
「いいんだよ、それよりも彼奴が帰って来た時此処を案内できるようにしてやれ」
「おう!放送までには戻って来るからよ、そん時は頼んだぞ!」
「さっさと帰ってこないと、お前の分の喰いモンは無くなってるかもな」
ひらひらと向き直る事無く手を振って、悟空はカルデアの外へと歩いていく。
何処へ行くのか。何をしに行くのか。小恋はとてもとても気になったが。
教えてくれない二人が意地悪している訳ではない事も何となく分かった。
だから。
「きをつけてね!ごくうおにいちゃん!」
カルデアと外を隔てるゲートの向こうへと進んだ悟空へ、精一杯の声援を送る。
彼女の声に合わせ、リルの足も止まり。
見つめる視線の先で、悟空は小恋たちの方へ向き直り、ニッと親指を立てて笑って。
あっという間に、視界の中から飛び出して行ってしまった。
それを確認してから、ぽつりとリルは一言呟きを漏らす。
「……さて、頼んだぜ。孫悟空」
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
カルデアから二つほど離れた地点。
座標にしてE-1の海岸線で、悟空は静かに降り立った。
既に彼もエリア間の空間に細工がしてあることは気づいている。
二つほどエリアを隔てれば、カルデアに累が及ぶことも無いだろう。
それに舞空術に依る移動は乃亜の制限(ハンデ)の対象だ。
下手に多用すればこれから起きる戦いで不慮の事故につながりかねない。
帰る際に舞空術が使えるとも限らないので、余り離れすぎる訳にもいかない。
「おし、そんじゃあ───いっちょやってみっか」
手首をほぐし、悠然とした態度で背後に控える敵手の方に振り返る。
立っていたのは少女と見紛う容姿の、白銀の髪と眼帯が目に付く少年。
恰好は子供の頃に潰した、レッドリボン軍の来ていた服に近い印象を受けた。
「へぇ!お兄さんもその気何だね。嬉しいなぁ。
ここに来てから会うのは逃げる事しか頭にない敗北主義者ばっかりだったからさ」
両手を広げて、表面上は年相応の快活さと愛らしさを持っているかの様に振舞う少年。
だが、悟空は気づいていた。その所作の裏側に隠されたドス黒い殺意を。
臨戦態勢にはまだ入らず、しかし油断はしない心持で少年との会話に臨む。
「君、孫悟空だろ?兄か弟かは知らないが、孫悟飯と容姿がそっくりだ」
「あぁ、オラ悟空だ………悟飯の奴に会ったのか?悟飯はどこにいる?」
「さぁね。どうでもいいじゃないかあんな劣等のこと。ここで君は僕に殺されるんだから。
どうしても知りたいのなら、力づくで聞き出して見たらどうだい」
片目に取り付けられた眼帯すら絵になる美貌を、獰猛な殺意に歪めて。
ウォルフガング・シュライバーは、ハッキリと殺す側の存在である事を宣言する。
出来る事なら悟飯の話をもっと聞きたい悟空だったが。
目の前のシュライバーの様子を見れば、素直に教えてくれるとも思えなかった。
仕方なく、もう一つ疑問を抱いた事を尋ねてみる。
「ま、相手すること自体は良いんだけどよ。ついでにもう一つ教えてくれよ。
おめぇ強ぇのに、どうして乃亜のいう事なんか聞いてんだ?」
目の前のシュライバーは、藤木の様な死に怯えるだけの子供ではない。
むしろフリーザやセルの様な、己の力量に絶対の自信を持ち悪逆を成すものだ。
他人の命などなんとも思わない人でなしなのは確かだろうが。
それでも乃亜に服従する様な性分では無いだろう。
もしかしたらそこに交渉の余地があるかもしれない。そう思っての問いかけであった。
だが、シュライバーは不愉快そうに顔を顰めて。
「勘違いしている様だが、僕は乃亜に従ってる訳じゃない。
僕が永劫の忠誠を誓ったのは、天上天下で黄金の獣ただ一人だ」
「じゃあ、何で乃亜の言葉に従う」
「命じられたからさ、来る黎明の刻(モルゲンデンメルング)まで魂を蓄えよ、とね
だからここで殺し合いに興じるのは、僕ら黒円卓の使命と矛盾しない」
シュライバーの主(あるじ)は、破壊によってしか遍く事象を愛せない。
そんな彼が己の手足に命じる内容も、また闘争と破壊以外にあり得る筈もなく。
力を蓄えよ。魂を蓄えよ。黄金の獣の帰還。来る怒りの日(ディエス・イレ)に向けて。
無限の既知感。永劫回帰に終止符を討つ、既存の神に弓を引く殺し合い。
獣の配下として、不死なる軍勢として。無間無量の殺し合いに挑む祝福を与える。
それが、ルサルカすら知らない黒円卓の真の悲願。
「だから殺す。君達劣等を、乃亜を。誰も彼もを。僕は殺して殺して殺し尽くす───」
それ以外は、何も不要(いら)ない。
妖精のように麗しく、遍く命への鏖殺を歌う様に奏でる白騎士(アルベド)。
心変わりはありえない。交渉の余地など絶無。何故ならこの身は遍く全ての生命の敵なれば。
そう、シュライバー目の前の敵へ己の存在を定義し、狂った論理を誇示した。
聞く者の心胆を凍らせる語りだったが、悟空は不敵な笑みを浮かべたままで。
一瞬たりとて臆することなく、重ねて問いかける。
「何もいらねぇか……ほんとにそうか?」
「……何それ、どういう意味かな」
「───いや、いいや。ただ、何となく気になっただけだからよ」
含みのある言い方にシュライバーは訝し気な声を上げるが。
悟空にとってもただ何と無しに口から出た問いかけだったらしく、はぐらかされる。
更に問いかけた本人から「やっぱどうでもいいや」と言われてしまえば、追及もできない。
納得のいっていないシュライバーの態度もどこ吹く風で、悟空は構え(スタンス)を取る。
「全然何言ってるか分かんねぇけどよ。おめぇがすげぇ悪い奴だってことは分かった」
半身になって腰を深く落とし、軽く拳を握り、もう片方の手は腰だめに構える。
数十年かけて磨き上げた、孫悟空の戦闘態勢を形作り。
その上で、目前の餓狼に彼は誘いをかける。
「来いよ、おめぇを放って置く訳にはいかねぇ」
夜空に浮かぶ星の様にその瞳は静かな光彩を放っており。
凶獣を前にして敵意も恐怖も宿ってはいなかった。
ただ穏やかな挑戦者の眼差しを、孫悟空と言う男は向けていた。
「…成程確かにどうでもいいね。僕らにとって重要なのは戦争(ここから)だし。
黒円卓第十二位。我が魔名、ウォルフガング・シュライバー。君にとっての“死”だ、
さぁ君も名乗れよ、子を孕ませた年齢(トシ)で戦の作法も知らない道理は無いだろう?」
狂戦士の纏う殺意のボルテージが一段階上がる。
満ちる殺気は、最早物理的な圧力を出していると錯覚を覚えそうな程だ。
この島でシュライバーの殺意を受けた者は大まかに分けて2パターンの反応を示す。
即ち、恐怖か敵意。例外は、あの青いコートの少年くらいのものか。
そして孫悟空もまた、青コートの少年と同じ例外であった。
全身の肌に突き刺さる殺気を、涼し気な顔で真っ向から受け止め。
「孫悟空、それと─────」
泰然とした態度を保ち、どこまでも無邪気な挑戦者(チャレンジャー)の態度で。
彼は武道家として、名乗りを上げる。
己に与えられた、もう一つの名前を。
「───カカロット」
戦意に満ちた名乗りを聞き遂げると同時に、狂的な笑みを裂けそうなほど深め。
シュライバーは既に握っていた白銀の銃を抜き放つ。
同時に、孫悟空もまた脚部に力を込めて地を蹴った。
コンマ数秒足らずで、両者の姿が掻き消える。
それが竜虎相討つ、開戦の合図となった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
開戦から一秒で、海が割れた。
ほぼ無尽蔵の弾数を誇るモーゼルが、あいさつ代わりの砲火を発し。
ドン!ドドドドド────!携行火器から出ているとは思えない銃声が、海岸に響き渡る。
これまでの殺戮の日々の中でも、この島に来てからの殺戮でも。
聞く者の戦意すら砕きそうな衝撃と畏怖を与える、魔弾の舞踏。
多くの人間の血を吸ってきた魔銃は、決して潤う事のない渇きを癒すべく、新たな獲物の血を求め殺到する。
「───フッ」
だが、孫悟空と言う男は。
聖遺物ですらない魔銃にとっての獲物には成りえない。
血肉を引きちぎるべく襲い来る数百発の魔弾の数々を、彼は鼻で笑った。
着弾までの刹那の時間で腕を悠然と広げ、殺意の波濤を迎え撃つ。
「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ────!!」
裂帛の気合と共に、二対の腕(かいな)は躍る様に振るわれ。
一発一発が大砲の如き威力を誇る魔銃の尖兵を叩き落していく。
シュライバーのモーゼルの威力を知っているルサルカが目の辺りにすれば、
否、他の黒円卓に席を持つ団員の大半ですら、俄かに驚愕する不条理だろう。
聖遺物も有していないただの武道家が、素手でシュライバーの攻撃をいなすなど。
だが、当のシュライバーに動揺は無かった。
既に孫悟飯やシャーロット・リンリンの様に、素手で自分と渡り合う存在は確認済み。
元よりこれは小手調べのような物だ。孫悟飯の父を名乗るなら、この程度はできて貰わねば。
そうでなければ、孫悟飯に変わって“戦争”の相手に定めた甲斐がない────!
「はっはァ───!」
尚も爆轟に等しい音量の銃声は続く。
ガトリングガンに等しい物量の銃弾が、獲物の肌を、臓腑を食いちぎらんと飛翔する。
だが、そのどれもが届かない。一発たりとて、命を狙う男に掠りもしない。
海岸線に聳える崖を砕き、砂浜を穿ち、海を割る事はできても。
たった一人の少年の掌には、蠅のように撃ち落とされていく。
もうもうと砂煙と水しぶきが戦場に咲き乱れ、標的の姿が見えなくなって漸く制圧射撃は終わりを告げた。
「………………」
先ほどまで狂笑はなく。
ウォルフガング・シュライバーは無表情且つ無言で砂煙の先を見つめた。
やがて銃撃を開始された時の位置から、微動だにせず立つ影が一つ見え。
巻きあがった砂煙が吹き抜けた潮風によって散る頃には、傷一つない孫悟空の姿がそこにあった。
「どうした?この程度じゃオラは殺せねぇぞ」
挑発のような言葉と共に。
悟空は握っていた拳を開き、眼前の白狼に見せつける。
すると、彼の傷一つない掌からモーゼルの銃弾が零れ落ち。
既に役目を果たせぬまま叩き落されていた、足元の先陣と合流。
ちゃりん、ちゃりんと、金属の旋律が銃声の止んだ戦場に響いた。
「まさか、こんなものは前奏だ。君の息子だってできた事さ。
この程度で得意になって貰っちゃ、底が知れるって物だよ」
無傷の標的を前にして、シュライバーには怒りも動揺も無かった。
他の参加者が知れば驚愕と憤慨の感情を同時に覚える事実だろうが。
シュライバーの振るう二丁拳銃の威力と連射性は乃亜の調整により大幅に下落している。加えて片翼のルガーを喪っている以上、この程度は出来て当然。
何より彼の言葉の通り銃撃は、白騎士という黄金の獣の楽器が奏でる前奏にすぎない。
「次は僕自身の速さを見せる。だから、ちゃんとついて来なよ」
でないと、死んだ事すら気づかないだろうからね。
挑発と共に、己の内のエイヴィヒカイトの駆動率を上昇。
同時に最速たる脚部に力を籠め、姿勢を低くとる──獲物の喉笛を狙う狼の様に。
「あぁ、オラももうちっと本気で行く」
対する悟空は不動のまま、最初の構えを取る。
逃げも隠れもしない。真っ向から勝負に挑むと彼の瞳が雄弁に語っており。
狂乱の白騎士はそれを目にして面白いと思った。
この悪名高き白狼。フローズ・ヴィトニルを相手に。
己の身一つで挑む蛮勇に未だ陰りを見せないとは。
これを打ち砕けずして何が黄金の近衛か!
「そうかい───なら思い知りなよ、君の思い上がりと計算違いをさァッ!!!」
轟音、轟く。
それが人の踏み込みによって響いた音だと、只人は信じる事ができないだろう。
獲物の喉笛を食い破るべく、餓えた白狼は砂浜と言う条件を物ともせず駆ける。
狙いは一直線である事を隠しもしない。ただ、圧倒的な速度差で全てを捻じ伏せる。
同時に悟空もまた、己の肉体のギアを一段引き上げた。
台風の目のような一騎打ち。引力に導かれるかの如く。
百万倍に加速した時間の中、【最速】と【最強】は初となる衝突を経験した。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
蹴られた胸が、中々に痛い。
初の交錯は、自分が完全に置いていかれた。
蹴りの衝撃で叩き込まれた民家の天井を眺めながら、悟空はその事を認識した。
「……ったく、ネモ達がいなくて良かったぞ……」
蹴り飛ばされた胸を撫でながら、独り言ちる。
あぁ、全く守らなければならない者がいなくてよかった。
もしいたらあの速さのシュライバーを相手に守るのはかなり骨が折れただろう。
「あんな早ぇ奴がいる何てなぁ」
こと速さに限って言えば。
宇宙の帝王フリーザや、最強の人造人間セルをも超えるかもしれない。
そんな凄い相手も、乃亜はこの殺し合いに呼び寄せたのだ。
「へへ…殺し合いしろって言うだけあって、凄ぇ奴を連れて来てやがる」
既にあの狂人の毒牙に敗れた参加者が、まず間違いなくいる事を考えれば不謹慎だ。
それでも、どうしても抑えきれない感情は存在する。
だから、此処にネモ達がいなくて良かったと、改めて悟空は考えた。
そんな感情を抱いている場合ではないのは分かっている。分かっているが、しかし。
「あぁ、ほんと───」
これはもう、性分のような物なのだ。心中でそう結論付けて。
普段彼が浮かべている心優しき地球人としての笑顔ではなく。
宇宙にその名を馳せた戦闘民族としての表情で、彼は微笑んだのだった。
「ワクワクしてきやがった」
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
それを蹴った時、感じたのは人肉を潰す感触では無かった。
人体ではありえぬ感触。形容するなら、それは城壁だった。
例え自身と同格の大隊長───マキナですらあそこまで堅牢さを感じさせるものか。
獲物を蹴り込んだ民家を眺めながら、シュライバーはそんな事を考えた。
「おーい。まさか今ので終わりじゃないよね。待ちくたびれそうなんだけど」
声を掛けた数秒後に、民家から標的が飛び出してくる。
たった今惨敗を喫した所だというのに、纏う覇気は衰えを知らず。
それを裏打ちする様に、表情は今なお微笑を湛えて。
こきこきと、首を鳴らす余裕すらあった。
「いやー…参った参った。とんでもねぇ速さだ。オラ驚れぇたぞ」
敗北を感じさせない、明るい言動で悟空はシュライバーを賞賛する。
己の謙遜や挑発の意図は感じられない、純粋なシュライバーの速度を讃える声色だった。
だが当然、シュライバーの反応は凍てつく様に冷たい。
「媚びを売っても、君を殺す決定が覆ったりはしないよ」
「そんなんじゃねぇさ。ただおめぇが誰も彼も殺す様な奴じゃなけりゃ……
乃亜を何とかしてから、何も気にせずその速さと勝負できただろうなって、勿体なくてさ」
ハ、と。悟空のその言葉を、シュライバーは嘲笑った。
どうやら孫悟飯の下らない醜態は、この父親譲りの甘さから来たらしい。
自分の息子がどうなっているかも知らないで、したり顔で話された所で、滑稽なだけだ。
「僕に言わせれば、君や君の息子の方が無駄が多すぎる。
何も気にせず殺し合いたいなら、余計な劣等共なんて気にせず今そうすればいい。
大方、その方の傷も下らない劣等のために負った傷だろう?」
血が滲んだ肩口を指さして、一片の手心なくシュライバーは愚弄を行う。
一応は自分が目をかけてやるだけの強さを持っておいて、親子ともども下らない。
上等な料理にハチミツをブチ撒けるが如き甘さで、折角の闘争の純度を下げる愚行。
万全の身の程知らず二人を、超越者たる自分の速度で捻じ伏せてこそ。
黄金の主君に捧ぐ、最高の戦争、最高の供物となりえるのに。何故それが分からない?
突き付けた愚弄には、そんな苛立ちと侮蔑も籠められていた。
「……生憎、そういう訳にもいかねぇな。
まぁ、確かに。他の奴と関わるのはおめぇの言う様に窮屈な事もあっけど───」
気に入らない。
気に入らない。
気に入らない。
自分の主張を、恐らく目の前の男はまるで理解していない。
尻から生える尾だけでなく、脳まで猿だというのだろうか。
シュライバーは、いつの間にか犬歯を噛み締めていた。
そうしている間にも、悟空の愚弄に対する返答は続く。
「ネモがいなけりゃ首輪は外せねぇし、小恋と会わなけりゃ肩の傷はもっと酷かった」
何時だって、彼一人で解決できた戦いなんて無かった。
師や、仲間や、息子や、宿敵。そしてドラゴンボールの力を借りてここまで来たのだ。
それを孫悟空と言う男は知っていた。だから。
「そりゃいい事ばっかりじゃねぇけど、おめぇがバカにする程悪ぃことばっかりじゃねぇ」
彼は笑って構えを取るのだ。
この場でできた協力者たちにはできない事をするために。
どこまでも悠然と、狂乱の白騎士と向き合い告げる。
「ネモ達が働いてくれる分、オラもオラにできる事をしてやるだけだ」
そんな悟空を眺めるシュライバーの表情は、既に嘲りの彩は無く。
一切の感情を欠落させた能面のような無表情で、静かに尋ねる。
ならば、君にできる事とはなんだ?と。
そんなもんは決まってる。問いに対し、悟空の返答は簡潔だった。
「おめぇに勝つ」
悟空がその宣言を口にするとともに。
十秒程の間、二人の間に沈黙の帳が降りる。
悟空は相変わらず微笑を浮かべたまま。シュライバーは暫し吐かれた言葉を咀嚼して。
そして───嗤う。
「くく、あははははははは――――!」
眼帯に覆われた目に手を添えて。狂った様に笑う。笑い続ける。
一目見た時から、孫悟飯とも、青コートの少年とも、他の劣等共とも。
それらの面々に向けた物とは別種の感情を、抱いていた自覚があった。
当初は孫悟飯の様に、単純に自分と戦争を行えるだけの強者だからと思っていたからだが。
だが、今は確信を以て言える。それだけではない。それ以外の感情が存在する。
この瞬間までその感情を何と形容するべきか思い浮かばなかったが──今、腑に落ちた。
「ほざくじゃないか、未だ僕の影すら踏めない体たらくで!
だがその意気やよし!君の力で僕に追いすがれるかやってみるといい」
君の心が、折れるまで。
ウォルフガング・シュライバーは。悪名高きフローズヴィトニルは。
目の前の男を。孫悟空の、聖遺物を持たぬ身で大隊長に挑むことのできる肉体を。
彼がこれまで積んできた研鑽を。紡いできたであろう繋がりを。彼の遍く人生全てを。
「君がその下らない甘さを抱えて溺死するまでッ!!!!」
────否定したいのだ!
「───っ!?」
魔獣が吼えると共に、その姿を消す。
それに伴い戦闘開始から初めて、悟空の表情から笑みが消え、言葉を失う。
その瞬間に限ったシュライバーの速さは、彼ですら追えぬ者だったからだ。
────ゴオオォオオォオオオオッ!!!!
駆けるシュライバーの疾走が生んだ猛烈な衝撃波が空間に渦を巻き、轟音を生じさせる。
だが、悟空にとって音など気にかけている余裕はなかった。
音よりも早く、襲い来る衝撃。衝撃衝撃衝撃衝撃衝撃衝撃衝撃衝撃────!
───ちぃっ!!言うだけあって、どんどん早くなりやがるっ!!
反撃を行う余地など存在しない。
防御すら間に合わない。
大時化の荒波に翻弄される小舟の様に。大嵐の風雨に晒される枯れ木の様に。
悟空の肉体に、数えるのも馬鹿らしい程の“殺意”が襲い掛かる。
「どうした劣等ォッ!!減らず口だけの凡俗で終わるつもりかい!
これなら未だ息子の方が歯ごたえがあった!父親ならもう少し足掻いて見せろォッ!!」
小宇宙が如き、全力の突きと蹴りのラッシュが標的の全身を打ち据える。
一発一発が出鱈目な威力を込めた攻撃だ。
もし一対一なら魔界の王子ガッシュ・ベルですらとうに死んでいるだろう。
安らかに、速やかに死に絶えろ、思いあがったイエローモンキーがッッ!!
咆哮と共に。トドメを刺す事を目的とした蹴撃を正面から贄の首筋に突き刺さした。
爆音が、戦場に木霊する。
「うわあああぁあぁあああッ!!!!!」
上がる苦悶の声。
だがその苦悶の声に対するシュライバーの表情に歓喜の彩は無い。
何故なら、渾身の力を籠めた脚部に伝わった感触は肉を潰し、骨を砕いた感触ではなく。
先ほど感じた、城塞を蹴った様な手ごたえだったからだ。
感触を裏付けるように、巻きあがった戦塵の先の影は地に伏さない。
それどころか、あれだけ攻撃を加えたというのに、三十センチも移動をしていなかった。
殆ど微動だにせず、命を刈り取ろうと襲い来る猛攻をしのぎ切ったのだ。
「────い、いちちちちっ!……ふぅ、どうした?まだオラは死んでねぇぞ」
巻きあがった土煙の先に立つ戦士は、未だ死んでいない。
狂乱の白騎士の猛攻を受けてなお、孫悟空は健在だった。
全くの無傷という訳では無い。体の至る所に腫れや痣を作っている物の、しかし。
あれだけ殴られたというのに、重症と呼べる傷は全く負っていなかった。
彼が嵐のような暴威に対して取った行動は単純だ。
手足を使い防御を行いつつ、全身から気を放出し、それを鎧とした。
鍛え上げた鋼の肉体と、同じく練り上げた気の防御により。
常人が受ければ余波で死亡するシュライバーの攻撃も、痛打には至らなかったのだ。
「何もできず嬲られて得意気になれるなら、木偶の才能だけは大したものだね。
それとも、もう何をした所で無駄って言うのが分かった後の虚勢だったりする?」
「そんなんじゃねぇのは、おめぇが一番分かってるんじゃねぇのか」
孫悟空の指摘の通り。
このままいけば、追い込まれるのはシュライバーである事は彼自身理解していた。
平時であれば、このまま数十年でも獲物を倒れるまで嬲り続けただろう。
どんな屈強なボクサーでも殴られ続ければ内臓にダメージは蓄積する。倒れない筈はない。
だが、首輪の戒めと乃亜が設定したハンデの存在が、時間制限として重くのしかかる。
活動位階で出せるトップギアで移動と攻撃を行い、攻め続けるシュライバーと、
気を放出しながらも最小限の動きで攻撃を捌く悟空では、消耗度合いに差が出る。
そしてどのタイミングで乃亜のハンデが行使されるか読めないのが最も曲者だった。
条件は双方同じでも、このまま消耗戦に持ち込まれれば最後に立つのは悟空の可能性が高い。
「まぁ、けどよ────」
半ばカマかけに近いやりとりではあったものの。
敵手が自分と同じ『窮屈』な状況に置かれている事実を確信し、仄かに安堵する。
だが、同時に彼の中の戦闘民族サイヤ人として側面が訴えていた。
このまま粘って判定勝ちは、性に合わない。
故に彼は構えを取り直し言う。
「勝つ方法は思いついた。これ以上時間を掛けるつもりはねぇ」
虚勢や過信ではない。そう思わせるだけの風格を纏い。
悟空は誘うような笑みを再び浮かべて、敵を見据える。
本気で死を運ぶ白き星を。狂乱する白狼を打ち砕けると思っている瞳だった。
「────グランシャリオ」
不遜に過ぎる言葉。万死どころか兆死に値する思い上がり。
しかし、それを聞いたシュライバーの態度に怒りはなかった。
淡々と、乃亜より下賜された漆黒の全身鎧を身に纏う。
無論、憤っていない訳では無い。胸の内ではマグマ染みた粘性の憎悪が滾っている。
だが、屍の山で積み重ねてきたマンハントの経験値。
何より凍土の様に冷えた思考は激情から全く切り離されており、統一化されていた。
計算違いを思い知らせる、と。
「奇遇だね、僕もそろそろ君には轍になって貰おうと思っていた所だ」
銃撃と先ほどの交錯を凌いだ事から自分の速度は通じないとタカを括っているのだろうが。
生憎、先ほどの速度ですら、活動位階における真の最高速度ではない。
孫悟空という男を前にして、生身を晒した状態で出すことのできるトップスピードだ。
グランシャリオで総身を覆い、帝具のブーストを加算するのが、現状の真の最高速度。
そして。その最高速度であれば、活動位階であっても孫悟空の肉体を貫く事ができる。
彼の肉体の唯一の弱所と言える、治りかけの左肩の傷から、心臓をぶち抜く。
決行は可能。元より奴は、先ほどの速度ですら対応できてはいなかったのだから。
(どんな小賢しい策で挑もうと───全て速さで捻じ伏せる)
抱いた感情はやはり慢心でも過信でもなく。
あえて名前をつけるのなら、それは矜持と呼ばれる物だった。
いかなる策も、己の速さには追いつく事は出来ない。それが絶対の理だ。
理を否定してしまえば、彼は己の渇望すら否定することになりかねない。
何が来ようと、あくまで自分の土俵で叩き潰す。
無い知恵を振り絞って考えた涙ぐましい策を、轢殺し轍へと変える。
姿勢を低く落とし、今まさに獲物の喉笛を引きちぎろうとする白狼の構えを形作り。
身体の内では汲んでも汲みつくせぬ殺意を、五体と言う弓につがえて引き絞る。
「泣き叫べ、劣等。不可能を知り、今ここに神はいないと知る時だ!!」
「不可能かどうかは───やってみなけりゃ、分かんねぇ」
減らず口は途絶えない。シュライバーの暴威を以てしても、孫悟空の意志は砕けない。
元々孫悟飯と同じ実力を有するなら、活動位階で仕留めるのは困難な事は予想が付いた。
だが、あの孫悟飯ですらこのフローズヴィトニルを相手取るには変貌を遂げていた。
恐らくは形成や創造に比肩しうる手札を切っていた。
翻って目の前の男は、そういった変身を行わないままに。
素の状態で、活動位階とは言え自分を討ち取る算段を立てている。
改めてその事を認識して、先ほどよりも更に強く思うのだ。
あぁ、自分はどうしようもなく─────
「あぁ、僕は君の全てを───否定してやりたいんだッッッ!!」
瞬間、シュライバーの立っていた大地が爆ぜる。
魔獣の如く猛り狂った漆黒の影が、世界を蹂躙する。
移動の余波で生まれた衝撃波が大地を砕き。轟く轟音が空を砕く。
常人ならただ存在するだけで全身が挽肉と化す絶対死の空間が生み出される。
だがしかしその只中においても。未だ存在し続ける影が一つ。
「僕の勝利(わだち)となって、砕け散れ、死に絶えろ、劣等─────!!」
その瞬間に限り。
ウォルフガング・シュライバーの速度は完全にタガが外れていた。
乃亜が化したハンデがほぼ機能していないに等しい性能が引き出され。
文字通り、桁外れの凶星となりて、矮小な体躯は敵対者に災いを運ばんとする。
狙うは先ほどと同じ、子供が喧嘩で用いる様な飛び蹴りの姿勢だ。
だが最速の殺人者、ウォルフガング・シュライバーが最高速度で敢行すれば。
それは防御不能。回避不可の破壊槌へと意味を変え。
百万倍に希釈された時間の中で、爆縮された魔力嵐と共に標的へと殺到する───!
「界」
周囲が常人では存在すら叶わぬ死の領域と化しても。
絶死の破壊槌に狙いを定められても。
しかしそれでも孫悟空は歯を食いしばり、大地を踏み砕く勢いで襲い来る圧力を堪え待ち受けていた。
「王」
当然、無傷では済まない。
重症こそ負っていない物の、小さな傷は数え切れないほど刻まれている。
だが、それを受け入れ、一瞬の勝機を。
ただ一度のチャンスをモノにするために、伏して待った。
あれだけの速度で動き回っている敵だ。ハンデの存在を考慮に入れるのなら。
シュライバーも残された時間は少ない。必ずあと数秒の内に、勝負を決めに来るはずだ。
口ずさむ様に、授けられた技の名を呼び、迎撃の準備を整える。
そして。
────来る!
激突の瞬間が、遂に訪れる。
超速の速度で悟空の背後200mに回り込んだシュライバーが、彼の後頭部に狙いを定める。
殺気は隠さない。察知された所で狂乱の白騎士の速さは常に相対者の先を行く。
直径50メートル規模のクレーターが生まれる踏み込みの後、突撃へと移行。
あらゆる抵抗を撃滅する、必滅の最速が遂に20メートルの位置まで迫る。
後一足で孫悟空の脳漿を炸裂させられる、その距離までシュライバーは至り────
「拳ッッッ!!!!」
直前で、灼熱にして鉄壁の壁へと衝突した。
シュライバーが背後に回り込むのと同時に、孫悟空が短い詠唱を終え。
そして吶喊へと至った時、タッチの差で界王拳の発動が間に合ったのだ。
悟空が取った対応策は実に単純。
シュライバーの突撃タイミングを読み切り、それに合わせて全身から気を放出したのだ。
高密度の気は、全身から展開する事によって全方位を保護する防御壁となる。
かつて完全体となったセルや吸収を試みてきた魔人ブウに対してベジットが行った手段。
どれだけ追いかけても捉えられぬならば、敵から罠へと突っ込んで来てもらえばよい。
界王拳の発動を起点として展開された気の防御壁は果たして覿面の効果を発揮した。
何しろ、シュライバーが悟空へ昂り切った殺意をぶつけようとすれば気の防御壁に競り勝たなければならない。
「───甘いんだよ!劣等ォオオオオオオオオッ!!!」
怒涛の如き絶叫が、華奢な少年の声帯から炸裂する。
シュライバーにとっても、孫悟空がカウンターで挑んでくる事は予想がついていた。
孫悟飯もまた、形成を繰り出した自分に対抗する為にカウンターを狙っていたのだから。
孫悟空の取った手段は孫悟飯のそれよりもより洗練されていたが──問題はない。
この程度の障害、貫き粉砕できずして何が大隊長か、何が白騎士か。
激突の瞬間、自身の中に内包された魂を動員し、白狼の化身を招聘。
現れた白狼をも赤熱の力場にぶつけ、多段ロケットの原理で更なる推進力を得る。
黄金の近衛の矜持を賭け、白狼の化身が一瞬で自壊していくのも気にせず突き進む。
すると一千万分の一秒の時間で、ぴしぴしと。
激突した赤熱の力場に罅が入り始め、シュライバーから与えられる圧力に根を上げ始める。
このまま望みを託したであろう小賢しい防御壁ごと、蹴り砕く!
目前まで迫った勝利に笑みを深めた。その瞬間の事だった。
「────な」
その未来が訪れる、コンマ数秒前。
孫悟空が拳を岩の様に握り締め、シュライバーに向けて振り被っていた。
その速度は、先ほどまでとは比べ物にならない。
どんなに少なく見積もっても、倍以上の拳速。
それでもシュライバーの速度なら致命にならない速さではあった。
しかしフェイントの様な速度差に一瞬、思考に空白が生まれる。
その隙すら、ガッシュや日番谷などの相手であればまだ致命とするには不足だっただろう。
相手が孫悟空でさえなければ。
ぜってぇおめぇは破って来ると思ってた。
交差した視線の中で、孫悟空の瞳はそう語っていた。
そう、全身から放出した赤熱の衝撃波は彼の操る界王拳の副次的作用。
言うなれば、膨れ上がった気を応用した一の矢に過ぎない。
本命はその後に来る爆発的な身体能力の向上。界王拳の本領で仕留める。
高密度の気の障壁との激突による突撃速度の低下。フェイントで生まれた一瞬の隙。
そして、悟空自身の最高峰の格闘能力(グラップル)。
それら全てが、悪名高き白狼の心臓を撃ち抜く銀の弾丸と化す────!
「でりゃああああああああああああ───ッ!!!」
「お───おぉおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
両者、裂帛の気合を込め、最後の交錯に臨む。
だが、ウォルフガング・シュライバーには一つの予感があった。
自分は、競り負ける。孫悟空の拳は、グランシャリオを粉砕し自分を打ち砕く。
類稀なる、天才と言ってもいい殺しへの才が。皮肉にも彼自身の敗北を知らしめる。
(負ける……?僕が……?)
嫌だ。そんなのありえない。あり得る筈がない。あり得てはいけない。
僕は男でも女でもない、完全な存在なんだ。
子を成せず、種を植える事も無い、一代限りの無欠の存在。
その僕が、死ぬはずのない僕が。死のうとしている?
違う違う違う違う違う違う違う。消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ──!
「僕に触れるなァアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
叫ばれたそれは殺意でも狂気でもなく、今度こそ悲鳴の絶叫だった。
だが、当然ながら悟空がそれを受け入れることは無い。
目の前の少年は破壊衝動だけになったブウと同じ。これからも人を殺し続けるだろう。
故にここで自分が倒す。揺らがない不動の意志を胸に、握り締めた拳を発射する。
突き出された拳はシュライバーの纏う装甲ごと魂すら貫かんと突き進み───!
───《ヴァーミリオンノヴァ/朱の新星》
世界は紅蓮の業火に包まれた。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
焦土と化したエリアの只中で。
魔法少女カレイドシャルティアは周囲を睥睨した。
「……仕留めたでありんすか?」
神経質なほど注意深く、今しがた横合いから殴りつけた二人組の姿を探す。
取り逃がした金髪のガキを追おうとした最中の事だった。
彼女が、巨大な魔力の奔流を感じ取ったのは。
それも、一つではない。二つの大きな魔力が激突しているのを感じ取った。
迷った末に殺したところで溜飲が下がるだけの金髪の子供…ディオを追うよりも。
此方の詳細を探った方が、実益を得られると判断。
《サイレンス/静寂》や《インヴィジビリティ/透明化》の魔法を用い、戦場に訪れた。
(凄まじい戦いでありんした)
シャルティアが目にしたのは、正しく神話の如き戦いだった。
速度であれば間違いなく自分を遥かに上回っている眼帯の少年、シュライバー。
それと相対するのは、孫悟飯を思わせる外見の少年、孫悟空。
双方間違いなくレベル100の水準に達したプレイヤーである事は疑いようがない。
(特に…孫悟空は………)
孫悟空の戦闘を見た瞬間、シャルティアの脳裏に浮かんだ者がいた。
外見も、戦闘スタイルも、全く違うにも拘らず、ただその強さだけで。
シャルティアは悟空の背中に至高の41人の姿を見てしまった。
それも《アインズ・ウール・ゴウン》の中でも最強と称されるワールドチャンピオン。
純銀の聖騎士、在りし日のたっちみーの姿を。
────何たる不敬。何たる背信か。
それを認識した瞬間、シャルティアの胸の奥にとめどなく慙愧の念が溢れた。
至高の主であるアインズ様の朋友に、あんな男を重ねるとは。
アルベドなどが知れば紛れもなく背信だと謗るだろう。
普段から犬猿の仲のシャルティアだが、もし今詰められれば否定できる自信は無かった。
ガリガリと美しい銀髪と、その下の頭皮に血が滲むほど爪を立て?きむしって。
もう一度、白騎士と戦闘民族が鎬を削る殺し合いを見つめる。
お互いの事だけで手一杯なのだろう。二人が自分に気づいている様子は無く。
────今なら、上手く行けば………
漁夫の利を得られるかもしれない。
その思考に、シャルティアは行きついた。
孫悟空は元より、眼帯の少年もどう見ても話が通じない。
同じマーダーではあるが、メリュジーヌと違い障害にしかなりえないだろう。
故に屠る事に何の躊躇は無い。些か早まった思考である事の自覚はあった。
それでも、今しがた自分が行ってしまった失態を帳消しにするには。
失態の原因を抹殺する事でしか達成できない。確信めいた思いがあった。
息を潜め、強襲を行うタイミングをじっと見計らう。
時折戦闘の余波が飛来してきたが、その程度では階層守護者はビクともしない。
躱し、或いはスポイトランスで受け流し、潜伏場所を守り通した。
その甲斐もあり、好機は間を殆ど置かずにやって来た。
二人の正面衝突の瞬間。激突で完全に目の前の相手以外に無防備になった瞬間。
横合いから殴りつけるには、これ以上ないタイミングだった。
シャルティアは総取りを狙う覚悟を決め、実行し、今に至る。
───《マナ・エッセンス/魔力の精髄》
スキルを使用し、念入りに怪物二人の生存確認を行う。
だが、やはり周辺に反応は無かった。
取り逃がしていたとしても今しがたの強襲の下手人が自分であるとは分からないだろう。
因みに、今のシャルティアは《サイレンス/静寂》や《インヴィジビリティ/透明化》の効果は解けている。
(魔法強化を行った時から既に解除されていた…また乃亜のハンデでありんすか。
戦闘態勢に入った瞬間潜伏系魔法の効果は切れる、と。全く、面倒でありんすね)
己の状況を確認しながら、溜息を一つ。
やはり窮屈で不快な物だ。自分のコンディションが他者に委ねられているというのは。
とは言え、こうやって自分の状態を確認できたという点で強襲はやはり有意義だった。
潜伏系魔法は既に解けてしまったし、後は万が一に備えこの場を離脱するだけ。
ミイラ取りがミイラになるになっては笑い話にもならないのだから。
「待ちなよ。このまま何の落とし前も無しに逃げられる筈ないだろう?」
────は?
背後からかけられたその言葉に、思考が凍り付く。
馬鹿な、自分の魔力感知では確かに誰も探知する事ができなかった筈だ。
潜伏系のスキルを使ったにしては背後の敵手の存在感は圧倒的に過ぎた。
魔力を抑える気配すら感じない。
こんな大きさの魔力、一定の範囲内であれば魔法など使わずとも気づかない筈が───
そこまで考えて、一つの推論が浮上する。
そもそも範囲内にいなかったのだとしたら?
攻撃を避けるのも兼ねて、あの理外の速度で現在居るエリアの外まで一旦離脱し。
此方の魔法をやり過ごしてから、Uターンして来たのではないか?
(いや、しかし。あの一瞬で私の感知範囲外まで逃れて、その上一瞬で表れるなんて──)
「間抜けなベイから聖遺物を盗み出しただけじゃなくて…よりによって盗人の女如きが!
英雄(エインフェリア)の戦争に水を差すとはどういう了見なんだい?答えろよ、なぁ」
周囲に迸るような殺意をばら撒いて。
ウォルフガング・シュライバーが、シャルティアを睨んでいた。
だが、それだけならばまだシャルティアにとっては最悪では無かった。
本当に最悪なのは、この後。
「悪そうな気だけどよ、遠くから見てる分には放っておくつもりだったけど……
やっぱりおめぇも殺し合いに乗ってるみてぇだな」
漁夫の利を狙ったもう片割れ、孫悟空すら。
殆ど無傷のままにその姿を現したのだった。
姿を現して数秒後に巨大な魔力を感知。
この男の場合は殆ど0の付近まで魔力を抑える事で感知の目を欺いたのだろう。
ある意味定石ともいえる手段だが、魔力制御の質が頭抜けている。
相当に魔力のコントロールに成熟した相手なのは間違いない。
(いや、今はそんな事よりも───!)
横合いから殴りつけた二人の生存を何故感知できなかったのか。
その真相を考えている暇は、この時のシャルティアにある筈もない。
何故なら、この時シュライバーと悟空は同じ考えを抱いていたからだ。
「まぁいいや。取り合えず僕が君に言いたいことは一つだ」
「おめぇらを……野放しにする訳にゃいかねぇ」
漁夫の利とは、無事得られれば大きな戦果ではあるが。
逆に失敗すれば、双方から報復を受ける事となる。
それを、シャルティアは身を以て知る事となった。
「ちょ、待っ────!!!」
「邪魔するなよ劣等ォオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「でりゃああああああああああああああああああッ!!!!」
前門の龍、後門の白狼。
刹那に等しい時間。上位転移を発動するだけの時間すらない。
シャルティアができた事は支給品の死亡遊戯から下僕を出して盾にする事だけだった。
「がああああああああ!!!がああああああああああ!!!!!」
キウルの遺体がシュライバーに木っ端微塵に砕かれるのを目にし。
そのコンマ一秒後に、べきごきと鳴ってはいけない音が響き、凄まじい衝撃が襲ってくる。
ぎゅおおおお──!と回転音が聞こえるほど体をきりもみ回転させて、派手に吹っ飛ぶ。
ステッキで空を飛んでいた時とは違う、不快な浮遊感に包まれて。
獣のような叫びを上げながら、シャルティアの身体は彼方の空へと飛んでいった。
………………………………………………。
……………………………。
…………。
「あ……あの、クソ、共………こ、殺してやるでありんす……」
禍福は糾える縄の如しと言うが。
それにしては福に対して禍の部分が大きすぎる。全く釣り合っていない。
落下先で彼女がその言葉を知っていたら、きっとそう吐き捨てただろう。
もっとも、彼女の実力を考慮に入れても。
悟空とシュライバーという巨星を同時に敵に回して五体満足で生き残っている事こそ。
彼女が紛れもない実力者の証であるのだが、本人には何の慰めにもならない。
───<<大致死(グレーターリーサル)>>
キウルの遺骸を肉の盾としたのは実に的確な判断だった。
あの決断がなければ、自分はあそこで終わっていたかもしれない。そんな事を考えて。
何とか手放さなかったステッキの治癒と、アンデッドにとっての回復魔法を組み合わせ。
自分の落下が原因でできたクレーターの中央で、傷を治す以外事は彼女にはできなかった。
【E-5/1日目/昼】
【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】
[状態]:怒り(大)、ダメージ(大)(回復中)、MP消費(中)(回復中)
スキル使用不能、プリズマシャルティアに変身中。
[装備]:スポイトランス@オーバーロード、カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 、古代遺物『死亡遊戯』。
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝する
0:酷い目に遭いんした……
1:真紅の全身鎧を見つけ出し奪還する。
2:黒髪のガキ(悟飯)はブチ殺したい、が…自滅してくれるならそれはそれで愉快。
3:自分以外の100レベルプレイヤーと100レベルNPCの存在を警戒する。
4:武装を取り戻し次第、エルフ、イリヤ、悟飯、悟空、シュライバーに借りを返す。
5:メリュジーヌの容姿はかなりタイプ。
6:可能であれば眷属を作りたい。
[備考]
※アインズ戦直後からの参戦です。
※魔法の威力や効果等が制限により弱体化しています。
※その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
※スキルの使用可能回数の上限に達しました、通常時に戻るまで12時間程時間が必要です。
※日番谷と情報交換しましたが、聞かされたのは交戦したシュライバーと美遊のことのみです。
※マジカルルビーと(強制的)に契約を交わしました。
※キウルのキョンシーが爆発四散したため、死亡遊戯は現在空です。
つまらない横槍のせいで興が削がれた、ここまでだね。
白銀のモーゼルを懐に仕舞いながら、シュライバーは開口一番にそう口にした。
肌を突き刺す様な殺意はそのままだが、表情は如何にも萎えたと言いたげな物で。
油断なく意識を尖らせながらも悟空は戦闘の終結を悟り、界王拳を解除する。
「まぁまぁだったよ。創造まで見せる価値があると思ったのは君の息子と、君くらいの物さ」
先ほどの激突でシュライバーは一つの確信を得た。
活動位階は愚か形成位階ですら、目の前の男を確実に抹殺するには不足だということ。
解放すれば一分以内にこの島全土を焦土とする形成ですら、この男は退けて見せるだろう。
孫悟飯と引き比べても、強い。肉体や経験は元より、魂が強靭なのだ。
この男を下せるとするなら、創造の無限加速。
ウォルフガング・シュライバーが出せる正真正銘の最高速度。それを置いて他にない。
本来であれば今すぐにでも殺し合いたい相手ではあるが、乃亜のハンデがそれを阻む。
恐らくこれ以上の戦闘続行を選べば、疲労が襲ってくる頃合いだろう。
故に業腹ではあるが、余計な介入を理由として戦闘の中断を彼は選んだ。
「断っておくけど、僕の本来の速さはこんな物じゃない。
乃亜の鬱陶しいハンデが明け次第…君を今度こそハイドリヒ卿に捧ぐ轍に変えに来る」
ツァラトゥストラは別格としても、六十年を超える殺戮の日々の中で───
君を超える贄は、きっと怒りの日(ディエス・イレ)まで現れないだろう。
絶対に、逃がさない。誰にも渡さない。必ず君の魂は獣の軍勢に捧げる。
歓喜と、陶酔と、狂気と、殺意が入り混じった声で、凶獣は告げた。
その宣告は、この島の意志の強い少年少女…ガッシュやナルト、イリヤですら。
耳にすれば怖気を感じるであろう、根源的な恐怖を呼び覚ます物だった。
しかし、孫悟空の反応は違った。この期に及んでも彼の表情は。
どこか期待を孕んだ、不撓の風格を保っていた。
「あぁ、まだ手があるのはオラも同じだ。次はとことんやろうぜ」
悟空もまた、超サイヤ人の変身という切り札を残している。
乃亜のハンデにより未だ使用不能ではあるが、使用可能となれば今度こそ。
狂える白騎士を、この手で討ち取る。その意志を臆することなく表明して見せた。
「そうかい。それじゃあ精々、その時まで後ろには気を付ける事だね」
捨て言葉染みた台詞を一言吐き、シュライバーは悟空に背を向ける。
どこか含みを感じさせるその言葉に悟空は疑問を抱き、どういう意味だと問いかける。
だが、狂える白騎士が素直に答える筈もなく、隠された真意は伝えられない。
他の事なんて考えている暇があったら、僕との戦争に集中しろ。それが彼の答えだった。
「……ま、確かにな。でも、これだけは教えろよ」
────悟飯の奴は、強かっただろ。
問いかけた孫悟空の表情は、子供の顔では断じてない。息子を誇る父の顔をしていた。
それを見ていると、眼帯に包まれた眼窩から何かがドロリと溢れそうな感覚を覚え。
白狼は問われてから一拍の間を置いて、吼えるように問いに答える。
「……あぁ、君の息子も、この島の劣等共に比べれば大分“マシ”ではあったね」
もっとも、それだけに失望させられたけど。
続いたその言葉は凶獣の胸の内に留まり、伝えられることは無い。
結局、息子が今どんな状況に置かれているのか父は知る事無く、突風が吹いて。
焔を伴い吹き抜けた風が止まった時には、ウォルフガング・シュライバーは姿を消していた。
【A-4/1日目/昼】
【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、
欲求不満(大)、イライラ
[装備]:モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
0:銃を探す。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:創造が使用可能になり次第孫悟空を殺す。孫悟飯?誰だっけ。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
4:ガッシュ、一姫、さくら、ガムテ、無惨、沙都子、カオス、日番谷は必ず殺す。
5:ザミエルには失望したよ。
6:黒円卓の聖遺物を持っている連中は、更に優先して皆殺しにする。
7:でかい女(シャーロット・リンリン)を見つけ出し、喧嘩を売って殺す。
8:どいつもこいつも雁首揃えて聖遺物を盗まれやがって、まともなのは僕だけか?
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
もぐもぐもぐ、ごくん。
むぐむぐむぐ、ごくん。
「それで、仕留められたのか?」
「いんや、でもこれで彼奴はオラに狙いを絞るだろうな」
無事カルデアに戻り、案内された食堂にて。
食糧庫から見つかった、何の肉からできているか分からない巨大ハムを貪りながら。
孫悟空は待っていたリルトットと先ほどの戦闘の顛末を伝えていた。
「いたいのいたいの、とんでけー」
悟空の背後では小恋が悟空の負った傷や痣に手を添えて、おまじないをかけている。
傷の回復効果は痛みが退くくらいで、痣や傷跡はそのままだったけれど。
疲労については大分マシになり、小恋の治療のお陰で幾ばくかの余裕もできた。
更に界王拳の倍率で三倍までなら、疲弊も抑えられることが分かったのは収穫だったといえるだろう。
「ふふー、みのりちゃんやヒメみたいにチューはしてあげられないけど……
おまじないでごくうおにいちゃんがげんきになるなら、小恋がんばる!」
「おう、サンキュー小恋。おめぇのお陰で助かってる」
褒められてえっへんと得意げに手を腰に添えて、平たい胸を張る小恋。
猿野郎が正面を向いてるからいいが、お前色々見えそうになってるぞ。
リルはそんな思いを抱くが、口に出すことはせずに。それよりももっと重要な事を尋ねた。
「テメェが狙われるのはどーでもいいが、ちゃんと勝てんのか?」
「んー……もっと早くなるって言ってたからなぁ……」
自分も超サイヤ人と言う奥の手がある物の。
超サイヤ人になった所で、シュライバーもまた速さが更に上がるというのなら。
結局の所、速度差は如何ともしがたいのではないか。
それに加えて、今回使った手段はもう通用しないだろう。
そして今の所、圧倒的な速度差を埋める手段は思いついていない。
「ど……どうすっかな………」
「おいおい、泥船に乗るつもりはねーぞ」
歯に衣着せぬ物言いをしながらも、リルも追及はしない。
あれだけの霊圧量と、そして孫悟空の話通りの速度の持ち主ならば。
ユーハバッハの聖別により,、滅却師完聖体になれない現在の自分では手に負えない相手だ。
加えて友好的かつ孫悟空並みの戦力が早々見つかるとも思えない。
その為、今ここで見切りをつけるという選択肢は彼女にはなかった。
無論このまま対抗手段が無いようなら、再びシュライバーとやらが襲ってきた時は、
悟空を前に蹴り出してさっさと逃げる腹積もりではあるが。
(んなことになる前に、さっさと首輪の外し方とやらを教えて貰いたいもんだな)
悟空を切って逃げるという選択肢は、リルにとっても余り望ましくない。
特記戦力並みのこの男が勝てない相手にリルは勝てないだろうし、逃げるにも限界がある。
三日以内には禁止エリアに追い立てられ、接敵は避けられなくなるだろうから。
願わくば、そうなる前に首輪を外してこんな島から早急におさらばしたい。
そのために、もう一度悟空の意志を確認する。
「……浮かねぇ顔をしてるが、このままここで待つって事でいいんだな?」
リルの目には、悟空の瞳の奥には何か気がかりな事がある様に映った。
それ故に出た方針の確認。
尋ねられた悟空はブチリとかみ千切ったハムを嚥下し、短く「あぁ」と答えた。
──悟飯の事は気になるけど、ネモ達が無事なら下手にここを動く訳にゃいかねぇ。
シュライバーの含みを感じさせる物言いは気になった。
彼や黒衣の女(リーゼロッテ)の様に油断ならない相手はこの島に確かにいる。
だが、それでも……戦闘で悟飯が遅れを取るとは悟空には思えなかった。
何しろこの島にいる悟飯は、セルを倒した時の全盛期の悟飯である可能性が高いのだから。
悟飯の戦闘時の慢心する性質で何かシュライバーの不興を買ったのか。
それとも、他に何か予期せぬアクシデントが起きたのか。
起きたとして、その深刻さはどの程度の物なのか。情報が殆ど無かった。
情報が殆どない以上、これまで出会った参加者の実力から悟飯の安否を推測する他ないが、
そうなるとやはり悟飯を本気で追い詰められる参加者がいるとは考えづらかった。
懸念すべきは、黒衣の女のような狡猾な者からの不意打ち位のものだ。
…もしこの時、悟飯を襲った災厄を正しく認知していれば。
彼はもしかすれば息子を探すことに全力を挙げていたかもしれない。
(……放送を聞けば、悟飯が生きてるかどうかも分かる、か)
まぁ万が一。無いとは思うが。
念のため、最悪の想定をしておくべきかもしれない。
だが、その場合であってもここから脱出すればドラゴンボールで巻き返せる。
故に優先順位は脱出。そのために必要な人材であるネモの優先度は下げられない。
───大丈夫だ。その間に死んじまった奴は、ドラゴンボールで必ず生き返らせる。
そう。そう言ったからには、脱出を何より最優先すると言ったからには。
例え実の息子であったとしても、特別扱いはできない。
自分の息子だけ依怙贔屓をする様な真似をすれば、信用を失う事になるだろうし。
悟飯の捜索を優先した結果、ネモ達を死なせるような事になれば目も当てられない。
情報の発信源が狂人シュライバーである以上、杞憂である可能性も大いにあるのだから。
だから彼は澱のように胸の奥に沈殿する感情を、理性で蓋をした。
(悟飯……でぇじょうぶだとは思うけどよ。オラと会うまで、無事でいろよ)
……全てを放り投げて息子の元へと駆けつけるには。
孫悟飯と言う少年は余りにも強く。
そして孫悟空という男には、守らなければならない者が余りにも多かった。
【C-2 人理継続保証機関フィニス・カルデア/1日目/昼】
【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:右肩に損傷(中)、ダメージ(小)、界王拳の反動(小)、悟飯に対する絶大な信頼と期待とワクワク
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済み)、首輪の解析データが記されたメモ
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:首輪の解析を優先。悟飯ならこの殺し合いを止めに動いてくれてるだろ。
2:悟飯を探す。も、もしセルゲームの頃の悟飯なら……へへっ。
3:ネモに協力する。カルデアに向かいネモと合流する。
4:カオスの奴は止める。
5:しおも見張らなきゃいけねえけど、あんま余裕ねえし、色々考えとかねえと。
6:リルと小恋もカルデアに連れていく。脱出計画の全容を伝えるのはネモと合流後。
7:シュライバーを警戒する。リーゼロッテを警戒する。
8:悟飯……?
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※界王拳使用時のハンデの影響を大まかに把握しました。三倍までなら軽めの反動で使用できます。
【リルトット・ランパード@BLEACH】
[状態]:健康、銀髪(グレーテル)に対する嫌悪感(中)
[装備]:可楽の団扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、トーナツの詰め合わせ@ONE PIECE、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:脱出優先。殺し合いに乗るかは一旦保留。
0:悟空と共にカルデアに向かう。
1:チビ(小恋)と行動。機を見て悟空達に押し付ける。
2:首輪を外せる奴を探す。ネモって奴が有力か?
3:十番隊の隊長(日番谷)となら、まぁ手を組めるだろうな。
4:あの痴女(ヤミ)には二度と会いたくない、どっかで勝手にくたばっとけ。
5:銀髪にはイカレた奴しかいねぇのか?
[備考]
※参戦時期はノベライズ版『Can't Fear Your Own World』終了後。
※静血装で首輪周辺の皮膚の防御力強化は不可能なようです。
【鈴原小恋@お姉さんは女子小学生に興味があります。】
[状態]:精神的疲労(中)、チユチユの実の能力者。
[装備]ブラック・マジシャン・ガールのコスプレ@現地調達
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:みのりちゃんたちのところにかえる。
1:おねえちゃん(リル)といっしょにいる。
2:おにいちゃん(悟空)とおねえちゃんとカルデアをたんけんする。
[備考]
※参戦時期は原作6巻以降。
※チユチユの実の能力者になりました。
※カナヅチになった事を知りません、また、能力についても殆ど把握していません。
※能力も発現仕立てなので、かなり未発達でムラがあります。
投下終了です
投下ありがとうございます
悟空、強い!
流石はブウ編を超えて、弱体化と制限はあるとはいえベテラン戦士として成熟した悟空さ。
シュライバーですら退け、実質勝利を収めたのはまさしく最強。
この島随一のド迫力バトルしてて、これでもまだ悟空もシュライバーも制限状態なのが恐ろしい話ですよ。
今回のお話の中で一番好きなの、悟空が対主催やりつつ、バトル楽しいモード入ってるところですね。
善良ではあるけど、純粋な力比べは楽しいという、達観もするんですけど何処か危なっかしい所があるのも魅力のキャラだと思うので。
途中で顔出してボコられるシャルティアさん、前話からの落差が凄い。
まあ、この二人相手にボコされても生きてる時点で、滅茶苦茶強いんだと思います。普通は死ぬ。
ベイ中尉の聖遺物盗んだ扱いされてるんですけど、中尉はシュライバーが殺しちゃったんで、これはシュライバーも大分悪い気がしますね。
カルデア探検したい小恋ちゃん、微笑ましくて好き。
愛に囲まれてすくすく育った小恋ちゃんと、憎悪に塗れて育って歪んだシュライバーとの対比と思うと中々来るものがある。
悟空も悟飯ちゃんに愛情持ってるんですけど、なまじ全盛期の時期から来てしまったから後回しにしても大丈夫と、信頼が勝ってしまってるのが皮肉ですね。
投下します
技術の進歩というのは目まぐるしいものだ。
北条沙都子は、実に百年ぶりに心の底から感心していた。
人が利便性や快適性を突き詰める生き物なのは、漠然と分かってはいたがまさかトイレもより発展性を遂げるとは。
昭和という時代もあれど雛見沢のような田舎では、まだ汲み取り式も珍しくない。
古手梨花が死んで、汚物塗れの便槽に遺棄されたのは記憶に新しい。エウアから聞かされた時は、流石に引いたものだ。
「気持ちは分かりますが、こんなものまで付いてるなんて」
女子トイレの個室に入る。
清掃も行き届いていて、不気味な薄暗さはなく明るすぎない。丁度良く、人が落ち着けるよう照明が調整されていた。
悪臭もなければ、便器の汚れもない。水洗トイレでウォシュレットまで備わっている。
雛見沢分校の厠とは比べるまでもなかった。
特に目を引いたのが一つのボタン、これはいずれ使えると目を付けたものだ。
音と書かれたボタンを押す。
すると、川の流れと鳥の鳴き声がわざとらしく、トイレに響き渡る。
令和の世であれば、珍しくもない音姫と呼ばれる機能である。
排泄音を聞こえなくなるように、別の音を流して掻き消そうという魂胆だろう。
沙都子も、これでもまだ年頃の少女のメンタルだ。そういうのを、気にする気持ちは分かるが、酔狂な物を取り付けたものだとも思った。
「聞こえますか?」
イヤリングに小さく声を掛ける。
『ああ、聞こえるけど…なんだこの変な音、雑音が凄いんだけど』
イヤリングからメリュジーヌの声が届いてくる。沙都子もやたらトイレ内に響く大自然の効果音で聞き取り辛いが、止むを得なかった。
「貴女、ドラゴンなんでしょう? これくらい聞き分けは簡単だと思いますが」
『君、竜を何だと思っているんだ』
文句を言いながら、返事はしっかり返すあたりは聴力も優れているのだろう。
「手短に済ませましょう。あまり時間はないものでして」
先ず口にするのは、悟飯達と合流しそこでシュライバーの襲撃を受けて、毒を盛られたという事実が暴露されたこと。
とんだ流れ弾だった。しかも、沙都子では暗殺するのが難しい、日番谷冬獅郎という対主催に目を付けられている。
音姫を流しているのも、この通話を聞かれる可能性を極力排除する為である。
(芳しくありませんわね)
メリュジーヌもサトシと梨花を殺害して以降、沙都子にとっても厄介な展開になっていた。
海馬モクバとドロテアを襲撃したのは良いが、取り逃がしたと聞いた時は唖然としたものだ。
「四人の内、一人しか仕留められないだなんて、もう最強の看板を下ろした方がよろしいのでは?」
『…………彼が、強かったんだよ』
「? 言い訳は聞きたくありませんが」
更に厄介なのはもう一人ディオという少年まで、しかも別の方角へ逃がした事だ。
同行していれば纏めて始末できたが、別々に逃がしたのが面倒だった。
(モクバさん達を追撃して殺しても、ディオという少年まで手が回らない……)
モクバ達の目的地は恐らく海馬コーポレーション。
彼らだけなら、メリュジーヌに付近で待ち伏せさせ、もしやってきたのなら殺させるのもアリだったが、ディオの存在がイレギュラー過ぎて動向が予想できない。
モクバ達の殲滅にメリュジーヌを投入した間に、ディオが強力な対主催でも引き連れて海馬コーポレーションに来られるのが一番困る。
メリュジーヌに襲われたと吹聴されれば、その同行者であった沙都子まで疑われるだろう。
(悟飯さんに疑われるのだけは、避けなければならないというのに)
不味いのは、モクバやディオの証言が悟飯の耳に入ること。
忘れてはならないのは、悟飯は既に雛見沢症候群を発症している点だ。
一度でも沙都子達に疑心を向けば、いずれ破裂する暴は沙都子にも平等に例外なく降りかかる。
当初の予定では、カオスとメリュジーヌを入れ替えて、カオスを邪魔な参加者に変身させてから本物のメリュジーヌと茶番の一騎打ちをさせて信頼を得る算段だった。
だが、気や霊圧という感知能力を持つ者達を欺くのは難しい。
しかも今、沙都子が利用しようと考える悟飯もその能力を有している。
そればかりか、首輪の解析について手掛かりを掴んでいる悟空も同じだ。
最悪なのが悟空とその相方のネモだけで、殺し合いを破綻させる算段がついてしまうこと。
いくら沙都子が不和を煽ろうが、彼らが頑なにそれらを無視して、内々に処理して事を運ぶだけで殺し合いは終結する。
いくら別の対主催や参加者を屠ろうが、悟空一味を止めなければ殺し合いの続行はあり得ない。
この計画は、軌道修正せざるを得なかった。
孫悟飯をL5へと進行させカルデアの悟空達を滅ぼす必要がある。
それも悟飯から沙都子が狂気の標的にならぬよう慎重に。
『そこから離れて、別の対主催に潜り込めば良いんじゃないか?
君なら、いくらでもそこから離れる屁理屈は浮かぶだろ。日番谷冬獅郎も君が消えるなら、喜んで送り出してくれると思うよ。警戒対象が守るべき対象から、勝手に離れてくれるんだし』
悟飯はいずれ発狂して死ぬ。雛見沢症候群の発症も確認したのなら、それはほぼ確定事項だ。
毒を盛って、症状まで出始めたのならそこから離れて、死ぬのを待てば良い。
無駄なリスクを負って、海馬コーポレーションに滞在する理由はない。
メリュジーヌはそう考えていた。
「いえ、悟飯さんは必要です。そうでなければ、この殺し合いは破綻し貴女の願いは決して叶いませんわ」
カルデアの対主催達について、沙都子は懇切丁寧に説明した。
孫悟空という鉄壁の守りを崩すには、同格の実力者である孫悟飯を使うしかない。
『……なるほどね』
今までと違い、反応に違和感があった。
(僅かでも、悟空さんを倒せる算段がある?)
悟飯を初めて見た時、メリュジーヌは全力を出して勝てるか分からないと評していた。
小学生のように最強と自称していたメリュジーヌがだ。
しかし、今は悟空に対してそこまでのリアクションがない。彼女が勝てないかもしれないと言った、悟飯の親族であるにも関わらず。
制限以外は万全のカオスですら返り討ちにした男で、その実力は直接関わらずとも十分推察できるはずだ。
(……別の協力者? まさか、私に隠して)
もうじきに第二回放送を迎え、殺し合いも中盤戦に差し掛かる。
現在の死亡数は不明だが、0回と1回の放送のペースで考えるのなら、参加者も半数を切る。
元々、メリュジーヌは味方ではなく手を組んでいるだけの相手だ。
カオスと違って、メリュジーヌは明確に沙都子を嫌っている。悟飯に毒を盛った時やカオスを勧誘した時の反応から、それは明らかだった。
いずれ裏切る相手なら、別行動をしている最中に沙都子以外の手札を揃えるのは自然な話。
「妬けますわね。私以外に誰か新しくお友達が出来まして?」
『君、僕と友達のつもりだったのかい?』
「つれないですわね」
誤魔化しているのか、素なのか判別に困る。
とはいえ、無理に聞き出そうとして、協力関係が決裂するのも避けたい。
メリュジーヌからすれば、シャルティアは絶対に沙都子には靡かない、そして不和の種になるであろうことを見越して伏せていた。
なおかつ、現在も同盟相手の為、不用意に情報を流さないように義理を通している。
問い詰められれば話はしただろうが。
(予定を少し早めた方が良いかもしれませんわね)
本当なら第二回放送後に、もう少し様子を見てから行動に移る予定だった。
だが、メリュジーヌの動向も気になる。
まだ沙都子の指示に従っている内に、やれるだけの布石を打つ方がいいのかもしれない。
モクバとディオ以外にも、西側の参加者には殆ど、沙都子の悪評が触れ回っていると考えて間違いない。
シカマルと一姫もまだ死んではいないと想定する。特に、一姫はメリュジーヌにも対抗しうるガッシュを保持しているのが厄介だった。
カルデアも同じく西側にあり、そしてカオスの変身を見破れるであろう孫悟空が居る。
時間の経過と状況次第では包囲網が形成されて、動き辛くなる可能性もある。
そうなれば、メリュジーヌもいずれ見切りを付けるだろう。
時間は沙都子に味方をしない。
(まあ、口喧嘩では負けませんわ……でも)
それでも対主催達に疑われる時が来れば、沙都子も頭脳を持ちうる全てを総動員で回転させ、自分達の擁護を行う事は出来る。
ただ、その場で表向きは全員を納得させたとしても、問題は悟飯が内心でどう考えているかだ。
理屈で納得するようであれば、雛見沢で惨劇など起きない。
どれだけ沙都子が取り繕った嘘(シナリオ)を思い付いても、狂気に染まった妄想が全てを書き換えてしまう。
しかも、どんな脚本改変を行うか、沙都子にも想像が付かない。
絶対に沙都子だけは無事でいられる保証はない。
梨花の心を折るべく、百年間惨劇を引き起こしながら沙都子自身正体を隠し続けていられたのは、彼女が盤上にある駒の特性を知り尽くしていた事も大きな要素だ。
最も身近な部活のメンバーは当然として、大石、鷹野、富竹、その他大勢の雛見沢に関係する人物の思考や行動パターンを予め殆ど知っていたのは大きい。
悟飯の性格もある程度把握出来たが、まだ想定しきれない不確定要素がないとは言い難いのだ。
必要のない刺激は避けたかった。
(……嫌ですわね。悟飯(じらい)を前にして、シカマルさんといけ好かないあのにくったらしい銀髪と言い合うのは、ちょっと。
やはり、そうなる前に悟飯さんには、私を仲間だと強く植え込まないと)
ただ沙都子を味方だと強く認識させ、沙都子を守らねばならないと強く意識の底に植えこむことが出来れば。
対主催達に何を吹き込まれようと、逆に沙都子を守ろうとしてその相手を殺害してくれる見込みはある。
雛見沢の星の数だけある惨劇の中には、発症者が奉仕対象を守る為に発狂し、それ以外を皆殺しにするカケラも存在した。
沙都子が目指す惨劇としては、それが一番望ましい。
当然、奉仕されるのは沙都子だ。
(先ずは探りを入れないと、悟飯さんがどんな精神状態か知らなければいけない)
短い時間で簡単に済ませるのであれば、沙都子を襲う敵が居て悟飯がそれを守ろうとする。
そんなシンプルな構図が望ましい。
狂気の中にあっても、本当に大事な信念は揺るがない。
雛見沢で大石藏石が敬愛するおやっさんの無念を晴らす為に、黒幕と思い込んだ梨花から自白を引き出そうと、多くの人死にを出しながら躍起になったように。
悟飯をそう誘導させることも不可能ではない筈。
ここから、沙都子に依存するように仕向ける事も、沙都子にはやれるという自信があった。
沙都子以外の対主催もマーダーも全て敵に見えてくれれば、これほど扱いやすい殺戮兵器もない。
邪魔さえなければ。
(日番谷さんが、本当に計画の邪魔なんですのよね)
面倒なのが、日番谷の存在だ。
やはり疑いの目を掻い潜って動くのはやり辛い。雛見沢では、基本ノーマークだったからこそ自由に動けて、かつ危ない橋を渡ろうとも疑いの眼すら向けられなかった。
沙都子は梨花が繰り返した百年のループ、その記憶を垣間見てそれぞれの惨劇の攻略方法とその対策(メタ)を知り、その上で誰からも容疑者として疑われる事にもなり辛い立場という、強力なアドバンテージの上で暗躍していた。
現在の殺し合いに於ける、同等の立場と目線で疑われるという状況には慣れていない。
それは沙都子も自覚しており、だからこそ時間を置いて様子を見ながら事を運びたかった。
(しかし、ダラダラしているわけにも……)
しかし、メリュジーヌが襲って取り逃がした三人が、やはり不確定要素過ぎる。
三人纏めていればまだしも、二手に別れた形で分散して逃げたのが最悪だ。
逃がし方からして、ディオとモクバ達が合流を目指す事は殆どないだろう。
暫くすれば海馬コーポレーションを発つと日番谷は話していた。
運が良ければ、モクバ達とはニアミスで済むかもしれないが。
ただ、出会えば最悪のケースにも繋がりかねない。
口封じをするにしても、メリュジーヌをモクバ達殲滅かディオ殲滅のどちらか片方にしか投入できず、万全な後処理を命じられない。
もっと言えば、沙都子がここで道草を食っている間に悟空とネモが首輪を外しかねない。
そう簡単に外れる代物ではないと思いたいが、進捗の詳細を知らない以上は一時間後に外れたと言われても、有り得ない事ではない。
「海馬コーポレーションに来られますか? お願いしたいことがありますの」
『構わないけど』
時間がなかった。
メリュジーヌの不穏な動き、二手に別れてしまったモクバ達、悟空達カルデアの対主催の存在、疑いの目を向ける日番谷。
そこに加えて、西側で今も敵が増え続ける現状を鑑みれば、余計な事が悟飯の耳に届く前に、早急に沙都子の信頼を確固たるものにしたい。
些か急ぎ足になろうとも。
「これから先の指示を聞いたら、カオスさんにも通信してもらえますわね?」
その為には、今最も近くに居て強さもあり沙都子を疑う日番谷は邪魔だった。
ここで何か事を成そうにも、日番谷の目を欺かなければならないのが最大の時間ロスなのだ。
時間が惜しい沙都子には、それが一番の障害だ。
「物音さえしなければ、多少暴れても誰も気付きはしないでしょう」
そういえば、失念していましたが…カオスさんに使える能力がありましたわねと、楽し気に沙都子は話す。
海馬コーポレーションは広い、異変が起ころうともイリヤ達ですら早々気付きはしないだろう。
逆に、下手に狭い民家に拠点を移動されれば、イリヤ達も勘付きやすくなる。その前に、日番谷には御退場願う。
日番谷さえ消しておけば、後はどうにでもなる。
そうなれば、多少無理で乱暴な方法であろうとも、カオスを連れている沙都子に戦力で適う者はない。
そしてこの場にいるなかで、知略を以てして沙都子を上回る者も誰一人として居ない。
「メリュジーヌさん、貴方には日番谷さんを処刑(け)して貰います」
今こそ、その最強の名に恥じぬ働きをして下さいね。
そう皮肉を飛ばして、沙都子の口許は釣り上がった。
───
ベッドの上で、呆然と天井を眺める。
無機質な白い壁紙が広がって、時間の流れがゆっくりと進んでいくようだ。
普段なら、退屈で窮屈な光景。
それでも今は遅く進む体感時間が救いに思える。
嘆息をついて、孫悟飯は目を閉じる。
どうしたらいいんだ。ずっと、そればかりを考え続けていた。
最初にシュライバーと戦った時に、スネ夫とユーインを守れなかった。
シュライバーは強敵だった、不甲斐ないがどう上手く立ち回ってもあの時の悟飯の目線では、犠牲を失くすことは無理だと思う。
それでも、全員は救えなくても悟飯が冷静にスーパーサイヤ人2を御しきれていれば、ユーインは死なずに済んだかもしれない。
その後、美柑が怯えてしまったのも無理もない事だ。
セルとの戦いで、豹変した悟飯を見た悟空も動揺していた。
あの頃の悪癖をずっと、改善していない。きっと修行をサボって勉強に専念しだしてしまったからだ。
もっと、感情をコントロールする術を身に付ければ、スーパーサイヤ人の凶暴性に支配される事はなかった。
(だけど、その後は…どうしたら良かったんだ……)
ずっとずっと、化け物を見るような目で美柑は悟飯を見続けていた。
こっちは死ぬほど怖い目に合って戦い続けていたのに。
どれだけ守っても、美柑は悟飯を人として扱ってくれなかった。触れたら破裂する腫物のように、距離を空けていた。
イリヤものび太も悟飯が居なければ死んでいたのに、のび太に言い過ぎたのは悟飯の落ち度だが言い分は正しいのに。ケルべロスも美柑ものび太に味方して。
挙句の果てに、誰かに毒まで盛られた。
最初にスネ夫とユーインを死なせたから、だからその報いだというのか。
「ぼ…僕の頭がおかしくなる、前に……」
もし報いだとするなら。
悟空もスネ夫もユーインも、そしてニンフという少女も。
彼らの死を咎められる事は受け入れよう。
だが、その前にやらねばならない使命が残されている。そのように感じ始めていた。
悟飯に毒を盛ったイリヤの抹殺。
そこまで考えかけて、背筋が凍った。
まだイリヤが犯人と決まった訳じゃない。自他ともに悟飯に異常があるのは間違いないが、だからといってイリヤが元凶と何故結びつく?
悟飯から見て、身内が二人もマーダーになり、不審に見えた点もなくはないが。
決定的な証拠は何処にもない。
不審な点も悟飯の心証でしかない。
「悟飯さん」
ドアの戸を叩いて、沙都子の声が扉越しに響く。
悟飯がベッドを借りているこの部屋は医務室だ。流石は大企業の施設だけあり、具合の優れない社員が簡易的な処置を受けられるよう設けられたのだろう。
イリヤ達がいる応接間からは少し離れた場所にあり、仕事の喧噪から遠ざけられるように配慮されている。
手間を掛けてわざわざ沙都子がやってきたのはどうして?
そんな風に穿った見方をしていた。
「はい…どうぞ」
「失礼しますわ」
がちゃりと高い音を鳴らし、ドアを開けて沙都子が入ってくる。
古びた木の音が全然しないのは、やはり最先端の企業だけあり常に施設も最新のものを更新し続けているのかもしれない。
「……なんだか、慣れませんわね」
「そう…ですか?」
「ええ、誰もいないとはいえ。こんな立派な会社、やはり畏まってしまいますもの」
微笑みながら沙都子は話す。
悟飯も山で育っている。
時々街に出て買い物に出掛けたり、運転免許を取りに行った悟空とピッコロを見に行く事などもあったが、やはりこういう大きな建物に色んな機械が置かれた施設は落ち着かない。
「私、田舎育ちですから」
どちらかといえば、木々や川などの自然や鳥や猪などの動物のが馴染み深い。
沙都子も同じようで、舗装されてない砂利道や道を挟んで縦横無尽に広がる田んぼ。
排気ガスの混じらない澄んだ空気。
民家以外の建物など殆どない、そんな田舎の方が落ち着く。
「僕も山に住んでたので、気持ちは分かるかもしれません」
「あら、私と悟飯さんはお仲間でしたのね?
イリヤさんも美柑さんも、とても良い人達でしたけど都会っ子でしたから、実は少し肩身が狭かったんですのよ」
あの二人から、沙都子さんは疎外感を覚えているのか。
一瞬、イリヤと美柑が秘密裏に結託して沙都子を害そうとしている。そんな邪推が生まれた。
「大丈夫でしょうか……」
「……大丈夫、ちょっとは落ち着きました。すぐに皆さんのところへ行きますよ」
行きたくなかった。
肉体的な疲労はかなり軽減されたのに、億劫で鉛のように手足が重い。
また、美柑に会って怖がられると思うと嫌気がする。
もういい加減にして欲しい。
いつまで、あんな態度を取られなきゃいけないんだ。
最初の時はともかく、こっちも余裕がなく精一杯善意で守っているのに。
イリヤは信用できるか分からない。
どう考えても、親友と妹が殺し合いに乗るなんて異常だ。
のび太とも、和解したがそれでも顔を合わせたくない。
今だって、悟飯はのび太に言ったことは間違ってないと思う。彼が居なければ、雪華綺晶は死なずに済んだのだ。
ニンフも上手くやって、リップだけに狙いを定めて殺せたのに。
のび太が余計な横槍を入れて、挙句にリップだって死にたくないだのと非難を重ねてきた。
悟飯の心配をしてくれているようだが、正直、もう放っておいて欲しい。
鬱陶しかった。
ああ、もう疲れた。
「もう少し、ここで休んで行きましょうか?」
「いえ…僕は……」
沙都子に気を遣わせてしまった。
それに気づいて、慌てて、取り繕うように声に覇気を込めた。
「私が休みたいんですの。
悟飯さんには、その間ここの護衛をお任せしたいですわ」
にっこりと笑って、沙都子は悟飯のベッドに腰を掛けた。
「すみません」
「いえいえ、悟飯さんは頑張ってますもの。いい子いい子ですわ」
そっと手が悟飯の頭に置かれて、さわさわと撫でられる。
「え、ちょっと…」
同年代の女の子に急に甘やかされてるようで、気恥ずかしさと慣れない異性との距離感に戸惑う。
悟飯は頬を赤らめて、視線が泳いだ。
だけど、こんなことを人前でされたら溜まったものじゃないが。
気分は悪くなかった。
「……悟飯さん、一人で抱え込まないで下さいまし」
「いえ、僕は……」
「悟飯さんが強いのは知っていますわ。
だから、心配なんですの」
髪を撫でて、そのまま手は流れていくように頬を撫ぜる。
幼気でいて繊細な手遣いはこそばゆく、くすぐったくて、柔い指先は温かな熱を帯びていた。
人肌が触れた頬から温もりを感じる。
「もし、どんなに考えても解決できない事があるのなら……」
指先から手が動き、掌がぴったりと頬に張り付く。
「誰か信頼できる方にご相談して下さい。
誰でも良いですわ。イリヤさんでも美柑さんでも、日番谷さんだって頼りになる方ですもの。
どんなに強くても、悟飯さん…貴方は誰かに頼ったって良いんですのよ」
私の唯一無二の親友が、言っていた事ですわ。そう付け加えて。
沙都子は悟飯を導くように、微笑んだ。
気付けば、悟飯の瞳から涙が伝って沙都子の手へと流れ落ちる。
「す…すみません……あの、僕……」
急に人前で泣いてしまって、他人の涙が触れるなんて気持ち悪いだろう。
悟飯は我に返って、沙都子から離れようとした。
「悟飯さんは、一人ではありません。忘れないでくださいね?」
もう片方出の手で悟飯の顔を固定して、離れていくのを止めるように自分の顔の前へ視線を向けさせて。
沙都子は真摯な瞳で悟飯を見つめていた。
───
(シュライバーが来る様子はなさそうだが)
海馬コーポレーションの外、青眼の白龍の銅像が立ち並ぶ中で、日番谷は腕を組んで周囲を警戒していた。
シュライバーの再襲撃と別マーダーを警戒し、見張りを買って出たのだ。
この場での最高戦力は、悟飯が実質リタイアと考えれば、後は日番谷しかない。
カオスも見張りという大役を任せるほどまだ信頼できない。
沙都子の同行者であり、彼女が黒だった場合はカオスも同じく協力者である可能性は高い。
イリヤに見張りを任せるのも考えたが、シュライバーの相手をあんな子供にさせたくなかった。
クラスカードとやらを使えば、相応に渡り合えそうではあったが。
世界の負を詰め込んだ厄災のようなあんな男と、戦えるとはいえ子供のイリヤには触れさせたくない、そんな思いもあったのだろう。
本音を言えば、カオスや沙都子から目を離すのは避けたかったが、外部からの脅威への警戒を怠る訳にもいかない。
少なくとも、現状では日番谷達と同行することでメリットがあるのなら、この場で襲う事は先ずない。
あとは、もう一人の戦力であるイリヤを信じるしかない。カオスへの抑止力にはなるだろう。
それにいくら悟飯が限界でも、カオスが凶行に及べばイリヤ、日番谷、悟飯の三人を纏めて相手をする羽目になる。
現状、直接牙を向く可能性は低いと判断していた。
(……クソッ、藍染の奴がちらつきやがる)
日番谷の脳裏を過ぎる一人の男。
かつての護廷十三隊五番隊隊長、藍染惣右介。
霊王の殺害を目論み、世界とそれを維持する零番隊もとい護廷十三隊へと弓を引いた大逆者ではあったが、計画を実行に移すその寸前まで誰もがその素性にも目論見にも気付けなかった。
それどころか、温厚で温和な実力者として誰からも信頼を置かれていた。
日番谷とてその一人。大事な家族であった雛森桃を任せても大丈夫な、そんな信頼に足る男だった。
それが北条沙都子と被って見える。
沙都子の挙動は善人のそれだが、あまりにも完璧過ぎて、その藍染を見ているかのようだ。
(考えすぎなら、良いんだが。
だが分からねえな。一体だれが……)
毒盛をった犯人探しについても、結論を急くのは早計。
現世にある警察のような捜査力はなく、個人の主観と推理だけで犯人を見付けるのは困難を極める。
仮に犯人を炙りだしても、それが冤罪でないとは言い切れない。
だからといって、この中に犯人が居ないと決めつけ油断もできない。
常に日番谷が警戒をし続けるにも限界があった。
(何か手を打たねえと)
内部に裏切者が居る。
例え信頼し合っていても、僅かな疑念が崩壊の片道切符になるのは珍しくない。
日番谷も間近で、藍染の暗躍を巡り、同じ護廷十三隊の雛森桃と吉良イヅルが斬り合いに発展しかけたのを、寸前で食い止めた経験がある。
仮にも訓練を詰んだ死神の戦士ですら、激情に飲まれる事もあるのだ。
こんな、感情を制する術も身に着けていない子供達では猶更だ。
いつ、仲間割れが始まってもおかしくない。
早くに事態を打開すべきなのだが、早期に犯人を探し出す事も難しい。
下手な刺激を与えるより、現状を維持しながら様子を伺うほかない。
「ッ!!」
実体を持った殺意が明確に襲い掛かる。
轟音を鳴り響かせ、小さき紫の甲冑を着た少女騎士が突貫する。
「てめえは───!?」
突如として現れた襲撃者。
トンファーのように左右の腕に装着された鞘を鈍器のように振り回し、日番谷の知識に照らし合わせるのなら、霊圧を噴射し推進力を持たせ莫大な膂力へと変換させ叩き付ける。
「ぐ、ッ……!」
背の太刀を抜刀し受け止める。
鞘と太刀が十振り以上交錯し、日番谷の横腹へ衝撃が走った。
騎士のミドルキックが炸裂し、その細い足が減り込む。
自分の全身が軋む音を耳にして、ボールのように日番谷は蹴り飛ばされていく。
甲冑を除けば、可憐な矮躯の少女とは思えない剛力。
(どういう…ことだ……?)
蹴り飛ばされ、受け身を取った後、日番谷は腹部を抑えて膝を折り眉を顰める。
「おい! 乾! イリヤスフィール!!」
数回の攻防から伝う襲撃者の高い実力もさることながら、何故これだけの騒ぎを起こして誰も異変に気付かない。
まるで世界から、日番谷とあの騎士だけが隔離されているかのようだ。
「中々やる」
騎士、メリュジーヌは日番谷を蹴り上げた左足を一瞥する。
触れただけで表面だけだが凍らされていた。
幸いにして足の周りを氷が囲うだけで、内面まで凍結されてはいない。
だが、恐るべき凍結速度だ。
蹴りを入れた時も、感触は硬かった。
触れる寸前に氷を鎧のように展開し防御しいたと推測する。
衝撃までは、殺し切れなかったようだが。
「……随分ときな臭くなってきやがったな」
作為的。
蹴り飛ばされた先は海馬コーポレーションの反対側。
日番谷を、海馬コーポレーションから遠ざける為に遣わされた刺客のようだ。
誰も何の反応もなく、二人の交戦以外は静寂しかないのも違和感がある。
呼び声すら届かない。
二人だけの戦場を創り上げ、そこに隔離されたと言われれば信じてしまいそうだ。
「難しい事を考える必要はないよ。これから、君は僕が切開して殺す」
物騒な物言いを残して、メリュジーヌが消えた。
日番谷の視線が動く。
その右側の死角から、鞘の先に形成された剣が刺突する。
水平に太刀が薙ぎ払われた。
火花が散り、太刀の刀身が刺突を止める。
切開するという宣言の通り、ただの一度の剣戟だけでは終わらない。
メリュジーヌは鞘に魔力をより滾らせる。音を置き去りに、優に二桁を超える斬撃。
風のように繊細で、嵐のように雄渾に切り刻む。
「氷竜旋尾!!」
振り払った氷輪丸の太刀筋をなぞるように、大気中の水分を凍結させる。
数メートル規模の氷の斬撃が具現化した。
その様、まさに竜の尾のように。
「上手く出来た造形品だ」
子供の工作を見て、出来の良さに驚く大人のような物言いだった。
両腕を胸前で交差させ、振り開く。
魔力を伴った風圧は作り物の竜を粉々に粉砕する。
「本物には遠く及ばないけど」
仮面の下、眉一つ動かさず悠々とメリュジーヌは立つ。
粉々に砕かれ、破片が飛び散る氷の雨の中、白い髪を靡かせて魔力の紫電を纏う。
傷一つなく、細かな氷が日光を反射しメリュジーヌの美しさをより彩る。
「……まるで、本物を…知ってるような言いぶりだな」
肩で息をして、息を荒げながら全身に掠り傷を幾つも作り、羽織を点々と赤く染める。
優雅さとは程遠い。
だが、最強の妖精騎士を相手にして、白兵戦で命を繋いでいる。それだけで、既に偉業の域にある。
尸魂界全土を見ても、あの剣戟を剣技のみでいなし無傷で生還を成し遂げる剣士はそうはない。
日番谷が致命となる一撃を全て避けれたのは、剣を振るい続けた賜物だった。
(黒崎の天鎖斬月に近い)
剣技だけでも、日番谷が剣を交えた者達の中での最上位だ。
それだけに留まらず、霊圧の量すら桁違い。
本体の敏捷と筋力だけならば、恐らく日番谷のが勝る。だが莫大な霊圧を上乗せし、全ての肉体性能を飛躍させ、上振れた破壊力と速度を両立させている。
始解状態とはいえ、互いに斬り合えるだけの至近距離で放った氷竜旋尾、それに俊敏に反応し容易く切断せしめたのがその証。
つまるとこ、天鎖斬月のように純粋に速く強い。剣技の研鑽も疎かにせず、長きに渡りその腕に沁み込ませ、練り上げた極上の技。
複雑怪奇なルールを強いる鬼道系の能力と違い、攻略法は単純そのもの。
相手より上回る力量で斬り伏せる。
単純だが、何よりも困難な方法しか残されていない。
(卍解抜きの白兵戦じゃこちらが不利か)
卍解と始解では、霊圧に最低でも5倍以上の差がある。
始解での正面からの斬り合いでは、一方的に消耗し削られていくだけだった。
距離を空けて奴を上回る最大の一撃にて葬り去る。
構えた剣をメリュジーヌへと向け、その背に広がる海馬コーポレーションから日番谷は一歩後ずさる。
(早いとこ、戻らなきゃならねえってのに)
それが、あの騎士の目論見通りであると理解しながら。
───
「沙都子さん、実は……」
悟飯さんは、重々しくも意を決して私に全てを打ち明けてくれた。
ええ、当然…来たと思った。
何処かのお嬢様学校で、お姫様のように祀り上げられ調子に乗った、誰かさんの名言を引用した甲斐があるというもの。
上手く、悟飯さんの心を開く事に成功した。
全くもって、とても素敵な台詞でしたわ。ありがとう梨花。
のび太さんを納得させるのに、大分苦労した甲斐がありましたわ。
『悟飯さんの様子を見てきますわ。イリヤさんはお疲れのようですし、もう少し休んだ方が良いでしょう。
カオスさん、皆さんの事をお願いします。
もし何かあれば、すぐに助けを呼びますし、日番谷さんがその前に悪者をやっつけてくれますもの』
『なら、僕も行くよ沙都子さん! 絶対に行くからね!!』
『いえ、のび太さん───』
『でも!』
『ですから』
『だけど!!』
『いいですか』
美柑さんは、何処か安心した顔をしていたのに、それに比べてのび太さんと来たら。
あんなに強情なのは、何処か梨花を彷彿とさせて。
……いえ、感傷に浸る場合ではない。
今頃は見張りの日番谷さんを、メリュジーヌさんが襲撃している頃合いでしょう。
カオスさんに、ジャミングという便利な能力があって良かったですわ。
メリュジーヌさんが、悟飯さんの乱入を恐れて、日番谷さん襲撃を断る事も考えましたが……。
音を遮断して、後は私がここで悟飯さんを足止めすれば、外の異変には殆ど気付けない。
気の感知も、制限で壁を挟めば上手く働かないようですし。戦闘に気付く事は早々ない筈。
こう、予め話しておいたお陰か、快諾してくれました。
さて、メリュジーヌさんには、殺せなくとも絶対に遠ざけろと強く念を押しましたし。
それくらいはしてくれないと、最強の名が廃りますわよ。
モクバさん達を取り逃がした汚名は、ここで挽回なさってくださいね?
まあ仮に日番谷さんがメリュジーヌさんを返り討ちにするかして、生きて早急に戻ってきても、私は悟飯さんと一緒に居たという確固たる事実がある。
メリュジーヌさんと結びつける証拠は、彼女がヘマをしなければありませんし、悟飯さんも目の前で真摯に接し続けていた私を疑うことは、そうはないでしょう。
もし日番谷さんが死んだ場合なんて更に好都合、彼は2回放送で名を連ねる事になる。
その時、日番谷さんの死亡時刻は12時以前の数十分の何処かになる。
そして私は、その時には、やはり悟飯さんと居たという、悟飯さんにとってはこれ以上ないアリバイを有する。まあ、どのみち私では彼を殺すのは実力的に無理なのですが。
まずここから、私のアリバイと信頼を重ねていく。
「───そう…ですか……」
悟飯さんが話してくれたのは、殺し合いが始まって、ユーインとスネ夫という同行者を早速死なせて、そこから美柑さんとぎこちなくなったこと。
ここはその後、途方に暮れた二人に私も多少なりとも立ち合い、彼らの仲が決して友好的でないのは知っていましたが。
深堀すれば、なるほど…これは美柑さんが、あれだけ怯えているのは無理からぬ事ですわね。
私から見ても、あんなに怖がっていた美柑さんに違和感があったが、蓋を開ければ簡単な事。
悟飯さんは頭に血が上ると、我を忘れてしまう。
私が惨劇を始める前、まだ梨花が一人でループしていた頃の圭一さんにも見られた、正義を成そうとして視野が狭くなる、そんな欠点とでも言いましょうか。
サイヤ人という宇宙人の血筋も悪さをしているのかもしれませんが、私の見立てでは元の性格も影響しているでしょうね。
恐らく、悟飯さんにはヒーロー願望が根底にあって、自分が正しいと思う場面で怒りが頂点に達した時、歯止めが効かなくなる。
私と別れた後、黒いドレスの女…特徴から聞くに悟空さんと戦ったリーゼロッテという方。
彼女とも戦った時、悟飯さんはとてもその行いを許す事が出来ず、頭が怒りで一杯になったと話してくれた。
その後、シャルティアと名乗るマーダーに感情を爆発させ、後先考えず戦闘を強行したのも同じような理由らしい。
ヤミという変態と戦った時には、その性質を逆利用されて返り討ちにされたとも。
悟飯さんが連戦後だったとはいえ、かなりの要注意人物だ。
イリヤさんはともかく、のび太さんまで犯し始めるのは頭が狂ってる。ちょっと話が通じそうもない。
死ぬのに慣れてはいますが、凌辱されるのは御免被りますわ。
ともあれ、悟飯さんの性格は、かなり使えるでしょう。
私も直に見た訳じゃありませんが、リップというマーダーを人質を無視し、殺害しようとしたのはほぼ素でしょうし。
リーゼロッテとシャルティアに怒って我を忘れたのもそう。
きっと、私が薬を盛らなくても、特にリップの時の流れは殆ど変わらなかったのではないでしょうか。
……正直、私からしても薬の影響か悟飯さんの素なのか、判別が難しいんですもの。
悟飯さん達では尚更ですわ。
まあただ…恐らく、致命的だったのはその後。
のび太さんとの口論。
彼に対し正論を述べて、それを実質否定された形でイリヤさん達がのび太さんを庇ってしまったこと。
ここが、完全に止めを刺したのでしょうね。
どちらかといえば、戦いは悟飯さんにとってストレス解消に繋がっていたのではないでしょうか。
日番谷さんは戦わせる事で負荷を掛けてはいけないと、悟飯さんを一人にする時間を与え、この先も戦いから遠ざけようと考えているようでしたが。
むしろ、戦うことで自己を保っている。戦闘民族だなんて言っていましたけど、しっかりその血を引いているようですわ。
その結果で後悔はしても、雛見沢症候群の緩和にかなり役立っていた。だって、発症してもまだかなり思考はクリアなんですもの。
本人は全く無自覚ですけれど。
だから、本当の意味で症状を進行させたのは。
閉鎖空間における人間関係の拗れ。
美柑さんから、ずっと腫物を見るような視線に晒され続けた事と。
それが伝染しケルベロスさんも、果てはイリヤさんまで悟飯さんに対して、色眼鏡で見てしまった事でしょう。
そも、例の口論でのび太さんに見張りを任せられないと憤ったのは。
美柑さん達を死なせない。皆を守らないといけないという、使命感から出た発言だと気付いていない。
皆を思っての言動が、その守るべき人達から否定されれば、阻害されていると感じるのは当たり前だ。
「……僕は、イリヤさんと美柑さんが…信用できなくて」
面白い流れですわね。
のび太さんが一人で悟飯さんに謝りに来たことが、むしろ彼女達が捨て駒を使い捨てるような素振りに見えたよう。
悟飯さんを追放する口実を作る為に、のび太さんを仕向けた。そんな風に思ったらしい。
二人が口論になり悟飯さんが、のび太さんを傷付ければ追い出す理由になる。
そんな悪女たちが、今度は悟飯さんに薬を盛ったのではないかと考えている。
悟飯さんは、自分がおかしくなったタイミングもばっちり合っていると話していた。
イリヤさんがチームに加わってから、のび太さんに対して攻撃的になったと明確に自覚したと。
もしかしたら、あの時から薬を既に盛られていて、口論が仕組まれたものかもしれない。
そんなことを本気で考え、信じだしていた。
「すみません。こんな、きっと僕の気のせいなのに…変な事を……」
笑ってしまいそうな被害妄想ですけど、症状の進行を裏付ける決定的な証拠になる。
狙うならイリヤさんと美柑さんでしょうかね。
のび太さんへ悟飯さん個人としては、嫌っている素振りも見えるけど。
むしろ捨て駒扱いされた事で、容疑者からは外れている。
そうなると、イリヤさんと美柑さんのどちらかか、または両方に悪者になって貰えると悟飯さんへのヘイトを向けた上で、雛見沢症候群の症状を進行させやすい。
丁度、イリヤさんのご友人にはお友達を守ろうとなさった美遊さんがいらっしゃいますし。
お仲間を美遊さんに殺された、紗寿叶さんも利用できそう。
日番谷さんが消えれば、霊圧とやらを感知できる者はいない。悟飯さんはここで私が釘付けにすればいい。
カオスさんの変身能力で掻き回しても、誰も真相に気付けない。
そして、明確な悪者が居れば私の信頼もうなぎ上り。
モクバさん達や別の対主催に何を言われようが、揺るがないよう悟飯さんの味方は私しかいないと刷り込める。
「大丈夫、悟飯さん…」
そっと、刺激しないように。
腕を広げて、優しく強く力を込めないように。
「安心なさって下さい。何があっても…私が悟飯さんを助けます」
温かみを込めるようにして、悟飯さんを抱き締める。
「沙都子、さ……」
私だけは貴方の味方であると、大丈夫私を信じてと訴えかける。
大事なのは、悟飯さんの言うことを否定しない事。肯定もしない事。
甘い甘い蜜のように、彼が求めていることを囁いてあげる。
どうしようもなく辛くて。
戦いは好きだけど、傷付けるのも傷付くのも嫌いで怖い、何てことないただの男の子に。
「さ、もう少し休んで…きっとまだ疲れが残っているでしょうから」
この子は疲れ果てている。
聞いてもないのに、殺し合いに呼ばれる以前、元の世界で行われたセルという方との戦いまで教えてくれた。
地球を壊せるような怪物を、悪戯に刺激して大勢の人を傷付けた報いを与える為に、制裁を加え。
いつでも倒せたにも関わらず、苦しめる為に生かし続けた。
苦痛と屈辱を晴らす為に、セルは地球諸共滅びる自爆を敢行し、それを悟空さんが自分の命と引き換えに防いだ。
見方によってはお母さんからお父さんを取り上げたのは、その息子の悟飯さん。
大変でしたでしょう?
父親の死の原因となり、母親を今度は自分一人で支えなくちゃいけない。
見た目はきっと普段通り振舞っていようと、心の中では自分を恨んでいるかもしれませんものね。
悟天という弟も生まれて、お兄さんにならなくちゃいけない。
ええ、分かりますわ。強くないといけないんですのよね?
戦いの強さではなく、在り方として。
この島でも、家に帰っても。
美柑さん達はおろか、家族にだって負担を掛けたくありませんのよね? もう二度と失いたくないから。
大切で掛け替えのないお父さんを亡くしてしまったことを、ずっと悔やみ続けてなさるから。
お母さんから、お父さんを奪い去ってしまったのは貴方だから。
「耐える事は、強さではありませんわ」
「……」
悟飯さんは強くあろうと決めているんでしょう?
そんな貴方が望む私を演じてあげますわ。
ねえ、だから悟飯さん?
今度こそ、ヒーローになって下さる? 私の為の、私だけのヒーローに。
私が貴方に都合の良い惨劇(シナリオ)を描いてあげますから。
「泣いて、るんですか……?」
…………少し、役に入れ込み過ぎましたわね。
───
(じゃみんぐ、どれくらい続ければ良いかな)
沙都子がカオスに出した指示は海馬コーポレーションにジャミングを仕掛け、メリュジーヌの奇襲とそれに応戦するであろう日番谷の戦闘音及び、その痕跡を一切消去する事。
カオスが辿る筈だった正史に於いて、風音日和を殺害する時、彼女を孤立させる為に桜井智樹宅にジャミングを掛けて、一切の声と物音を遮断する芸当を披露したことがある。
当然、沙都子がそんな便利な暗殺ギミックを活用しない筈がない。
日番谷とメリュジーヌが間近で戦闘を開始しているにも関わらず、カオスの近くに居るイリヤ達は誰も気付く様子がない。
後は、メリュジーヌの仕事だ。
目障りな日番谷を抹殺する。最低でも遠ざけろと、それが沙都子の指示だったらしい。
『カオスは、ここに残るんだ』
カオスも加勢したかったが、それはメリュジーヌに先んじて止められた。
『沙都子が孫悟飯に探りを入れる。
その時、もし、僕と日番谷冬獅郎の交戦に孫悟飯が気付いたとしても、沙都子が注意を逸らすつもりらしいけど…万が一の時に備えて、近くに居て欲しいんだ。
周りに他の参加者が居るんだろう? 返事はしなくていい。
君はそこに居て、もう一度僕からの通信を受け取ったらジャミングとやらをして、そのまま待機していてくれ。…沙都子をいま…守れるのは君だけだ……』
(大丈夫だよね。強いもん…私もお腹が減ったから戦いたかったけど……)
傍に居て欲しいと言われればカオスも逆らう理由がない。
むしろ、頼られることに嬉しさを覚えていた。
沙都子はカオスを必要としてくれている。だから、そこに居場所がある。
(……気を付けてね、メリュ子お姉ちゃん)
カオスは誰にも聞こえないエールを送る。
きっと、メリュ子お姉ちゃんは強いから、絶対にあんな人なんかに負けないと信じて。
(……………なに、これ…首輪? うそ、ニンフお姉様が遺した)
それは本当に偶然だった。
ジャミングを仕掛けろと命じた沙都子にすら知りようがない。
ニンフが遺した首輪の解析データが、海馬コーポレーションに転送されていた事など。
(中身が見れない……)
アクセスしようにも、カオスだけが弾かれるようにプロテクトが張られていた。
ニンフの時間軸ではカオスは成長して、肉体(きたい)は成人女性のそれに変わっていた。
だから、名簿が判明する以前は、参加者として巻き込まれた可能性を排除してイリヤやのび太にも知らせていなかったが。
乃亜からデータをハッキングした際、参加者の名簿情報まで読み取り、カオスの名前を確認。
急遽、カオスにはデータを渡さないよう特別なプロテクトも用意していた。
電子的なプロセスはおろか、物理的にディスプレイに表示した内容すら見ることは出来ない。
(……どうしよう)
沙都子に伝えようか?
首輪を外してしまえば、こんな殺し合いをする必要なんてない。
カオスには見れなくても沙都子や、ここに居る人達なら見れるだろう。
それに時間さえかければ、カオスがプロテクトを破るのも無理ではない。
もしかしたら、誰も痛い事をせずに、悪い事をしなくても、皆がお家に帰れるのかもしれない。
沙都子はカオスの願いを間違っていないと認めてくれたけど、悪い子にならずに済むなら、やっぱりそれに越した事はないと思う。
(だめ、メリュ子お姉ちゃんは、願いを叶えないと……)
そこまで考えて、メリュジーヌの事を思い出した。
どんな願いかは分からないけれど、彼女はどうしても願いを叶えたいと話していたじゃないか。
殺し合いを続けないと、きっと乃亜は願いを叶えてくれない。
でも、と思う。
乃亜をやっつけて、願いを叶える方法と人を生き返らせる方法を奪い去ってしまえば?
(ううん、このままの方が良いよね)
カオスは手にしたデータを放棄した。
(あの乃亜(ひと)、シナプスのますたーみたいなんだもん)
歯向かったら、殺されてしまうかもしれない。
少なくとも、シナプスのマスターを名乗るあの男なら、きっとそうする。
それにもしも、殺し合いを邪魔するなんて事をしたら。
自分が倒されても、願いが叶う方法まで一緒に破壊する。そんな横暴な真似をするような気がした。
逆らう者は、全て捨て去る。自分が不利益を被って、それ以外が得するなんて事は許さない。
まさしく独裁者な有様が易々と想像できてしまう。
それでも、カオスと沙都子はまだ良い。生きて帰れれば、願いが叶えられなくてもそれでもマシだ。
生還さえ叶えば、それでも良いと沙都子も言っていた。
でも、メリュジーヌはきっとそうはいかないから。
(私ね…メリュ子お姉ちゃんが笑っているところ、見た事ないよ。だからね……)
どうしてか分からないけど、メリュジーヌはずっと、悲痛な顔をしていた。
乃亜でしかメリュジーヌを救ってあげることが出来ないのなら。やっぱり、殺し合いは続けるべきだ。
沙都子(あい)と巡り合わせてくれたメリュジーヌにも、救われて欲しいから。
(一度くらいは、思いっきり笑って欲しいの)
───
額を狙った刺突を後方へ躰を傾け、刀を眼前に構えて魔力を纏った鞘を逸らす。
そのまま日番谷はメリュジーヌへと肉薄し水平に斬りかかる。
頬に二つ赤く血の線が刻まれ、全身の切創は以前よりも増して、浅いとはいえ痛々しい。
数十秒の斬り合いの末、紙一重で致命傷を避け続け、だが十斬を捌く内に一斬は掠る。
着実に日番谷はメリュジーヌに刻まれ続けていた。
魔力の莫大な放流が、咆哮のように轟く。
日番谷の振るう刃の先に既にメリュジーヌの姿はない。防御から一転、攻撃に移ったのを悟り俊敏に飛び退いたのだ。
だが、ただ飛び退くと言えど、今は妖精の姿をしたとはいえ、最強の竜種の規模で行われた回避行動はそれだけで規格外の破壊を齎す。
魔力の余波だけで暴風を巻き起こし、コンクリートを砂塵のように巻き上げ、破片がコツコツと道路に当たり無機質な演奏を奏でる。
「ハァ───!!」
刹那、日番谷の正面から爆破音と聞き違える程の轟音を響かせ、メリュジーヌが吶喊した。
ただ接近し、離れ、再度接近する。ヒットアンドウェイのシンプルな戦術も竜の魔力放出によって、それそのものが破壊を誘発していく。
日番谷の太刀筋に導かれるように、氷の東洋龍が奔る。
二対の竜が激突した。
万物を凍らす冷気が、大気の水分を常に凍結させ続け、魔力による氷の破壊に拮抗し再生を繰り返す。
されど、破壊が再生を上回る。
「チッ───」
己が使役する氷の竜の敗北を悟り、日番谷は瞬歩で後退した。
メリュジーヌの鎧の表面が凍り付くが、全身の凍結には及ばない。
だが、僅かな拮抗時間は、そのまま日番谷とメリュジーヌの間合いを稼ぐ。
「逃がさない」
決して、その剣の届かぬ先へ行かせる事をメリュジーヌは良しとしない。
最強種の驕りとも取れる我儘を、力で示し押し通す。
瞬歩に追随し二刀の魔力の刃を振るう。
氷山を生成し、日番谷は即席の盾とする。
紙細工のように一瞬でメリュジーヌは氷を切り刻む。
幾度となく繰り返した攻防だ。
この繰り返しで、日番谷は徐々に海馬コーポレーションから遠ざかり、メリュジーヌは着実に日番谷の命を削り取り、己が勝利への盤面を整えていく。
「千年氷牢!!」
メリュジーヌの周囲に無数の氷塊が広がり、引き寄せられるかのようにその全てが吸い寄せ合う。
中央のメリュジーヌ目掛け、囲った氷塊が押し潰した。
卍解状態でシュライバーに使用したそれとは、破壊力も効果適用範囲も比較にすらならない劣化した代物だが。
倒しきるには至らなくとも直撃させれば、相応の消耗は望める。
メリュジーヌの速さはシュライバーを想起させたが、同時にシュライバー程ではない。
特に回避に関して、あれほどの攻撃感知をメリュジーヌは持ち合わせていない。
「カットライン───」
光が煮え滾り、沸騰するかのような光景だった。
鞘の基点が回転し、納める剣の存在しない鯉口が両手の甲に合わさる。
そのまま、拳を振るうかのように打撃が連打した。
「ランスロット!!」
確かに、メリュジーヌはシュライバー程の回避力はない。
必要がないからだ。力で全ての障壁を取り除けばいい。
凝縮された光が反発し弾け、球光が爆散するかのように。
鯉口から魔力の光が破壊力へと変換され、数十の打撃が氷に亀裂を刻み、強靭な氷の牢獄を粉微塵へと粉砕する。
「六衣氷結陣」
メリュジーヌの足元が六ケ所、妖しく光る。
地面に仕込まれた氷の結晶がセンサーのように呼応し、氷柱を呼び起こす。
派手な氷の技は罠を張り本命を隠す為、意識を逸らすブラフ。
(あの一瞬で、こんなものまで仕掛けたか)
技の豊富さは、数時間前に交戦したルサルカにも引けを取らない。
氷を操る能力。
ただそれだけだが、それ故に応用も効き、担い手の実力が諸に現れる。
未熟さはあるが、剣技も含め能力を理解し、巧みに戦う術を身に着けている。
なるほど、最強の竜の敵として不足はないと認めよう。
しかし、ルサルカに対しての評価と同じように、それでも竜を堕とすには力が足りない。
「ハイアングルトランスファー!」
右の鞘を高速で回転させながら、魔力を噴射し跳び上がる。
メリュジーヌを捕えんとする氷はその余波に触れ砕け散る。そのままメリュジーヌは頭上から、螺旋を描く鞘を振るい上げ、地面へ叩き付けた。
「ッ!!」
霊力で足場を硬め、数度虚空に作り上げた足場を蹴り上げて、日番谷は上空へと跳躍する。
ミサイルでも撃ち込まれたように、日番谷が先程まで居た場所は巨大な破壊痕が刻まれていた。
「それは愚行だよ」
冷たい鉄のような騎士が初めて微笑んだ。
そして、日番谷も遅れて己の失策を理解する。
「空は竜の支配下だ」
弾ける爆音。訪れる破壊。蝕む衝撃。
日番谷の左方から砲弾が撃ち込まれた。
否、それはメリュジーヌの打撃の一つに過ぎない。
「はああああああ!!!」
撃ち込まれた打撃を刀で受け、前面に氷の盾を展開し───無数の打撃が打ち砕く。
盾が壊される寸前、後方へ飛び退きダメージを回避する。
だが、その背後には既にメリュジーヌが居た。
恐るべき光景だ。日番谷の死神として磨き上げた動体視力も霊圧の感知も、全てを速さですり抜け、死角たる背を取られたのだから。
そう、空に於いてこの島で彼女に適う者はない。
シュライバーですら、空中戦ではメリュジーヌを相手に分は悪い。
両者との交戦経験から、日番谷はそう分析する。
日番谷は自ら、蜘蛛の巣に囚われに来た哀れな蝶のようなもの。
ハイアングルトランスファーの破壊規模を見切り、地上に留まるのではなく空中へ退避したのは、その場面に限れば優れた判断であったが。
例えダメージを受けようと、日番谷は地上での戦闘を継続し続けるべきだったのだ。
「ぐ、ッ」
伊達に護廷十三隊の隊長を務めていた訳ではない。
直撃の寸前、瞬時に振り向き刀を薙ぎ払う。
しかし、その行動の二手先でメリュジーヌの方が速かった。
斬撃を前屈みで避け、鞘から伸びた魔力の剣が袈裟懸けに日番谷を斬り裂いた。
同時に日番谷は虚空を蹴り、間合いを稼ぐ。
結果として、メリュジーヌの剣は皮一枚斬り裂くに留まり、未だその命を断てずにいた。
「上か!?」
速すぎる。
地上の白兵戦でも凄まじい神速だが、空中でのメリュジーヌは目で追うことも叶わない。
「若いね。呑み込みが早い」
速さ、破壊力において日番谷よりメリュジーヌが遥かに上回るが、瞬時の判断と技巧は拙さも目立つものの渡り合っている。
相当な修羅場を前線を張り続け、戦い続けたのだろう。
この島にくる以前からの戦闘の経験値を取り込み、強さへと昇華させている。
体を斬られながらも、判断力を保ち続け思考と肉体の稼働を停止させない、戦場を生き抜く泥臭さを備えている。
「ッッ!! が、ッ……!」
日番谷の頭上へと飛び上がり、両手を紡いで金槌のように振り下ろす。
空の世界に浮かぶ、目障りな蠅を叩き落とすように。
氷で受け、直撃は避けながら氷を伝う衝撃までは殺し切れない。
日番谷は撃墜された。
「君をここで倒せたのは、幸運だったかもしれない」
目でも霊圧でも察知不能の動きに辛うじて食らい付けたのは、これまでの歴戦の経験値から養われた勘に依るもの。
黒崎一護が尸魂界に乗り込んで来てからの2年間、護廷十三隊の隊長格の中で、更木剣八等を除けば前線に立ち続けた数は上位になる。
勝利も惨敗も等しく味わい実戦を潜った経験は、糧となって日番谷の強さとして積み上げられた。
メリュジーヌの言うように、長命種としては若く向上心が強い。
力も未だ未熟だが、それでも並みのサーヴァントに匹敵し得る程に研ぎ澄ませてある。
有り得ないが、もしも日番谷が成長し、より力を磨き上げたのなら───。
一人の騎士としては手合わせ願いたいものだが、オーロラの騎士としては胸を撫で下ろしたい気分だ。
惜しさを覚えつつも、巡り合わせの僥倖にも感謝をし、空から哀れにも撃ち落とされた小さな死神を見下ろした。
「距離を空けたがっていたようだけど、生憎こっちにも飛び道具はあってね」
黒い筒、邪気と見紛う漆黒の魔力を帯びた現代兵器を見て、日番谷は血の気が引いた。
ルサルカの交戦時にも使われた、汎人類史(あちら)のランスロットがある世界線の聖杯戦争(たたかい)で用いた宝具化されたマシンガンM61。
火薬が点火され、その稼働が始まったと同時に数十発の弾丸が落下する日番谷へと降り注ぐ。
その弾丸一発一発に魔力が伴い、メリュジーヌの無尽蔵に魔力を消化して射出するその段数は無限。
「ぐああああああああああああ!!!」
遮る氷の障壁を無限の質量で打ち砕き、魔弾は日番谷を逃がさない。
背中から落下し受け身すら取れない日番谷は地面に打ち付けられ、それと挟み合うように弾丸が迫る。
「君には一切の反撃も許さない。ここで、一方的に射殺する」
一秒後には血肉を弾けさせ、原形を留めない程のミンチが大地に広がり赤く染め上げるだろう。
「───な、に……?」
妖精騎士の手にある、M61の稼働が続いていたのなら。
「悪いな」
雪が降っていた。
この島の季節は、恐らく春の温暖な時期だ。
花が咲き、木々は緑葉で彩り、冬の眠りから生き物は目覚め新たな命を芽吹かせるであろう。
そんな気候の中で、雪なんてものがどうして降る?
先程まで、あれだけ我が物顔で天上に鎮座していた太陽が姿を隠し、日光を遮断するかのように雲が覆うことなどありえるのか。
「天(そら)は俺の支配下だ」
その中央から、大穴が拡がって雪が降り落ちる。
「馬鹿なッ!?」
雪は一片、花弁のように舞い落ちてM61に触れて、その機能を全凍結させた。
表面を氷が覆い、内部のあらゆる構造をその中の僅かな水分が凍結し氷へと変貌。
奇抜な氷のオブジェへと姿を変える。
「ありがとよ。お前が海馬コーポレーションから俺を離してくれたお陰で、巻き添えを考えずに済む」
天相従臨。
空を従え、天候すら意のままに操る。
氷輪丸が備える基本能力にして、最も強力な能力の一つ。
卍解を封じられ、始解状態であったことと乃亜から科せられたハンデにより、発動までに時間を費やすが、これが必殺の一撃への布石となる。
「氷天百華葬」
己の支配下に置いた天より、降り落ちる雪。
それは一度触れれば、あらゆるものを凍り付かせ氷結の華を咲かせる。
既にメリュジーヌの頭上には雪が舞い、その周囲を囲っていた。
最上位の虚、その中での藍染が殺傷力の高い者達を10名選りすぐった、序列第3十刃(トレス)ティア・ハリベルとの戦闘時にて、卍解状態では御しきれる自信がなく使用を躊躇う程に、広大な効果範囲と強制凍結力を持つ。
「今は知らず(イノセンス)───、」
短時間の連発が不可となっていた為、温存していた切札をここで躊躇いなく切る。
今までの技とは別格だ。
ここで使わなければ、待ち受けるのは何の宿願も果たせぬまま訪れる無様な死。
「それは愚行だぜ」
生成したアロンダイトの剣が、外気に触れ離散するより前に凍っていく。
氷はそのままメリュジーヌの腕を伝い、全身を覆う。
「ッッ……!!?」
首から下が凍り付き、メリュジーヌの顔面すら冷気の魔の手が忍び寄る。
「───、っ…」
メリュジーヌの身動きが取れぬまま、氷の華が天空に咲き誇り、最も強く美しい妖精騎士はその中心へと凍結された。
「舐めるな」
超新星爆発のような苛烈な光の放出が、氷の華から溢れ出す。
息も吸えず酸素もないであろう冷気の世界で、メリュジーヌは意識を保ち続けていた。
妖精(ひとがた)を模しているものの、元の竜種たるアルビオンは46億年以上の生命情報を持つ。
本来、通常の生物が生存しえない凍結された氷の中であろうと、メリュジーヌはその生命活動を維持し続ける。
最初に全身から魔力を放出し、氷に亀裂を入れた。
氷の華が罅割れ、徐々に外気とメリュジーヌを遮る氷壁が薄くなる。
メリュジーヌの持つ魔力回路、竜の炉心は核融合相当のエネルギーだ。
その出力自体は乃亜に制限されているが、絶えず魔力を放出し続け生成することは可能。
こうして魔力を放ち続け、氷を砕くのに1秒も必要としない。
核爆発のような魔力の光が氷を爆散させた。
「くそっ……」
予測はできたことだ。
始解状態ではやはり、化け物のような霊圧を持つメリュジーヌの完全凍結には至らない。
勝ち切るには、この手の刀で氷ごと穿ち、絶命させなければならないことは。
だが、こんな短時間で氷を打ち破るのは完全な計算外だった。
「誇るといい。ここで、私が血を流すとは思わなかった」
ピキリとメリュジーヌの目を覆うバイザーが罅割れた。
額からは赤い血が滴る。
その目は流血で赤く染まり、燃える炎のような形相で日番谷を睨み付けた。
口ぶりは高圧的で、だが賞賛を含んだ物言い。
「……ふざけやがって」
皮肉染みた賞賛に苛立つ。
日番谷は、制限下の中で繰り出した大技に消耗している。
メリュジーヌのアロンダイトが連発出来ないように、日番谷も時間を置かなければこれだけの技は放てない。
対して、期せずしてメリュジーヌはアロンダイトの発動を実質キャンセルされた。
日番谷は切札をなくし、メリュジーヌは残している。勝敗は既に決していた。
「もう、勝った気でいやがるのか」
それでも震える手で氷輪丸を握り締め、日番谷はその切っ先を天空のメリュジーヌへと向ける。
「まだ剣を握るんだね」
メリュジーヌは衰えぬ戦意に敬意は表すが、まだ手が残っているとは思えない。
何よりあったとしても、そんな時間すら与えない。
恐れからやけになっているのでもなければ、力量差が分からない弱者でもない。
正しく絶望的な状況を飲み込みながら、あの少年はそれを良しとはしない。
守る為だ。
立ち振る舞いだけならば、バーゲストのように思えた。
強き力を持つ者だからこそ、弱き者を率先して守る。強き者はその力に責任を持たねばならないとする在り方は。
きっと、仕える主への忠義を除けば。
メリュジーヌは自分よりもよっぽど、彼の方が騎士らしいとすら思う。
「───その意気やよし」
けれど、騎士としてオーロラへと忠義を尽くすというのであれば、メリュジーヌとて引けを取る気はない。
それがどれほど邪悪であろうとも、どれだけ悍ましい毒婦であったとしても。
最も美しく、自分すら含めた世界全てを蔑ろにしようとも、彼女の為ならば。
「今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)」
粛々と呪詛のように、聖剣のレプリカの名を紡ぐ。
そこに何ら無駄な動作は、一つとしてない。結果に至るべく全てを機械のように精密で、迅速に行われた。
二対の聖剣を携え、音速を突き破る。
日番谷が次の一手を出すよりも早く、何もさせずに殺す為に。
「……信じるぞ」
死神、皆すべからく。
友と人間とを守り死すべし。
ここまで、とんだ失態を続けてきた。
守るべき者達を何一つ守れてはいない。
乃亜の暴虐を止められず、二人の子供と、食い物が好きなただの子供をみすみす目の前で死なせた。
一人の少女の夢すら穢してしまった。
あの妖精騎士が、何を抱き何を守ろうとして戦うのかは知らない。
だが、誇りなき者の剣では決してなかった。
背負う重さを乗せた強き剣だった。
ならば、責任だけを乗せた己の刃が負ける事はあってはならない。
最も恐れなければならないのは、例え如何な事情を持とうとも、悪となったあの騎士に敗れ去り無辜の子供達を殺し尽くされる事だ。
望まぬ死地といえど、死ぬ覚悟は護廷十三隊に就いてから決めている。
仮に共倒れとなろうが、あの凶刃は今ここで討ち取る。
「頼む、氷輪丸」
氷輪丸がその刀身から冷気を発し、氷の東洋龍が顕現した。
一点、メリュジーヌが違和感を覚えたのは、その背に翼を生やしていた事だ。
メリュジーヌが造形品と評した最初の氷龍には存在していない部位。
それだけならば、所詮はただ姿を模しただけの作り物だ。
日番谷が手にしたビン、その中に納められた力の結晶が光り輝く。
天空からマッハを超えた速度で吶喊するメリュジーヌへ、日番谷は刀を横薙ぎへと薙ぎ払い。
「シン・フェイウルク」
轟音と爆風が轟いた。
「ッ、───なん…だって……!!?」
魔界の竜族、その神童たるアシュロンが取得した最上級の魔法。
シン級とも呼ばれる魔界に住まう魔物達の最上級呪文の一つ。
乃亜はその力をビンに込め、数回のみ使用者に力を齎すアイテムとして支給していた。
効果は身体強化、速さを強化するものであり。マッハを遥かに凌駕する超スピード、少なくとも”妖精騎士”では追い付けない、驚異的な速さを使用者に齎す。
通常の使用方法であれば、自身の肉体に術を掛け自分自身が体当たりを行う。
故に、それだけの速さと威力に耐えうる肉体がなければ使用出来ず、いかに隊長格の死神といえど日番谷本人に竜のような屈強な肉体は備わっていない。
それこそ、死した境界竜アルビオンが遺した左手。
音速に耐えうる強靭な、竜の肉体を保持するメリュジーヌぐらいのもの。
「そうか、こいつ……!」
日番谷はその術を、自身の霊圧から創り出した氷竜に適用し刀を振るった。
竜でなければ使えないのなら、それを扱える竜を創り、委ねれば良い。至極簡単な話だ。
訂正しなければならない。ああ、ヤキが回ったなとメリュジーヌは思う。
あれは、上手く出来た造形品なんて代物ではなかった。
「───ッッッ!!!」
氷竜の突貫により砕け散るアロンダイトと、攻撃ではなく防御へと転向し鞘から生じる膨大な破壊力を全身で受け止める。
滞空し続ける事すら困難を極め、血を吐きながらメリュジーヌは衝撃に煽られていく。
「ッ…なん、だ…この技…制御が……ッ、嘘…だろ……!!」
メリュジーヌが空より堕ちたのとほぼ同時、氷輪丸の刀身が圧し折れ日番谷も反動の余波を抑えきれず吹き飛ばされた。
本来の術の使い手であるアシュロンですら、実戦で御しきれる程には達していない。
付け焼刃の日番谷では尚更、その反動に耐えきる事すらできない。
威力の大きさに氷竜は自壊し砕け始め、日番谷の衝撃に煽られる。
コンマ一秒もない衝突の末。
核弾頭で投下されたような爆音と豪風を巻き起こし、二者はそれぞれ互いに弾かれるように後方へ飛ばされていった。
───
「…ッ、がはっ……」
短く唸り声が上がった。
「不味…い、な……」
メリュジーヌの甲冑が罅割れ、鞘も亀裂が刻み込まれている。
それだけならば、魔力を充填させ修復を見込めるが、メリュジーヌの肉体からも損傷が見られた。
ここが妖精國であれば、全土を揺るがす大ニュースにもなり得ただろう痛ましい姿だった。
血を流し、腕を抑え足を引き摺り、歩く様は。
最も強く美しい妖精騎士らしからぬ姿だった。
この島に来てから、サトシとピカチュウを除けば最も大きなダメージを受けた。
あちらは電撃の性質から、外傷はさほどでもなかったが。今回は極め抜いた物理による体当たり、無傷ではいられない。
近くの岩に寄りかかり、腰を下ろす。
(流石に…沙都子の元へは、すぐにはいけないか)
傷が思いの外深い。
戦闘への支障も皆無ではないが、それでもやろうと思えば戦えるし、早々後れは取らない自負もある。
だが悟飯が相手となれば話はまるで違う。
こんな手負い状態で、暴走の恐れがある悟飯に不用意に接触したくない。
それにメリュジーヌもシン・フェイウルクを受けた影響で、かなり遠くへ飛ばされてしまった。
辺りは岩山だらけだ。
(しばらく飛べそうにもない)
竜種としての飛行能力もダメージの大きさと、制限もあり現状では行使出来そうになかった。
やはり、今は休息を取るしかなかった。
(とんだ無様を晒したけど、やることはやったんだ)
結果は痛み分けだが、日番谷は遠ざけた。
空を舞う竜(メリュジーヌ)を正面から撃ち落とすほどの威力の技だったが、あれは付け焼刃で制御しきれるものではない。
反動を受けて、日番谷もまた海馬コーポレーションから大きく遠ざかっただろう。
死んでいてくれれば、メリュジーヌからしても有難いが。
(後は君のお手並み拝見だ)
この後、悟飯をどう利用し殺し合いを有利に進めてくれるのかは、沙都子の仕事だ。
もし失敗してもそれは所詮、その程度の駒でしかなかったというだけの話。
無理をして彼女の元へ駆け付ける理由もない。
(僕も、この妖精(すがた)を捨てる時が来るのかもね)
孫親子を除いても、メリュジーヌを打ち倒せる強者はまだいる。
制限こそされているが、いずれ妖精國を焼き尽くした災厄(りゅう)の姿になる覚悟も、必要なのかもしれない。
(カードは…もうじきに使えるな……あまり、使いたくないんだけど)
鎧と同様に傷も一定の回復は行えるだろう、使用可能になればディアンケトでより回復できる。
毎回、あのイラストの壮年の熟女が出てきて、心配そうに顔を覗き込んでくるのはやめて欲しかった。
まるで母親じゃないか。何なんだあれは。
妖精國に家族の概念はないが、汎人類史にはそういった概念が存在しているのは知っていた。
「……カオス」
ぽつりと、呟く。
自分がどうあっても救われない薄暗い沼に引き摺り込んだ少女のことを。
母親というワードが、否応にも母竜を連想してカオスへと行き付いてしまった。
沙都子は雛見沢症候群について、何か隠して事を進めようとしている。それは承知しているし、メリュジーヌも沙都子と対峙する事に何ら躊躇いもない。
あくまでお互い利用し合って、邪魔な対主催を消すのが目的だ。
けれど、カオスは多分そうはいかない。
あの娘の在り方は妖精に近い、仕えるべき主がいなければ右も左も分からない位に。
天使(エンジェロイド)がそういう思想の元、設計されている事にメリュジーヌは気付いていた。
優勝を目指す為、最後の三人になるまで力を合わせるという建前で、カオスを自分達の一派に引き入れたが。
きっと、彼女はその時になれば苦悩する。
己の在り方に逆らって生きる事がどれほど辛いか、メリュジーヌにはよく分かっていた。
だからこそ、オーロラを殺したのだから。
毎日死に続ける、地獄の未来に彼女を連れてはいけない。
沙都子はカオスに見せかけの愛を与え続けている。ともすれば、いずれカオスが彼女を主として定めたいと思うのは当然の摂理。
今はまだ自分が優勝しなくてはならないと自制しても、きっと耐えられず主として主従の契約を結ぶかもしれない。
そうなった時、地獄が始まる。
カオスが人を殺せるのは、彼女が残酷だからじゃない。知らないからだ。
まだ幼いから、何も知らないだけだ。
人を殺す痛みも、本当の意味ではまだ知らない。命の重さも、その身で背負うにはあまりに矮小過ぎる。
もしも、それに気付いた時、仕える主が沙都子であったのなら。
彼女は己の在り方と世界の差異に苦悩する。
だってあの子は必死にいい子になろうとする、ひたむきで一生懸命な優しい子だったから。
愛を理解はせずとも良いものとして捉え、それを与えようとする善良さがあった。
それに相反する沙都子という主は、いずれカオスを殺し続ける地獄を齎すだろう。
甘い言葉で胸の空白を一時埋めては、都合よく使う。そして使い潰す。
重要な部分はその時だけの本音で、必要とあらばきっと平気で使い捨てて。
捨てられない為にカオスは自分を殺し続けて、沙都子へと尽くすだろう。
従う主がなければ、天使は生きてはいけない。
分かっている。そんなことを続けたら、あの子の心はきっと壊れる。
メリュジーヌが一度、味わってきたことだから。
「今更、姉面か……」
姉として、母竜のように育てた『彼』の事を思い出して、勝手に重ねて。
ただ重ねるだけで、何もしてあげない。あげられないのではなく、敢えてしない。
そんな自分に、彼女の心配をする資格なんかない。
それだけの情を持ちながら、オーロラ以外の全てを愛さないと差別したメリュジーヌには。
主なんてなくても、自分で決められる。
在り方なんて自分で変えられる。
妹が間違ったのなら、それを叱って正す。
カオスに愛を教えられる。本当の姉はここにはいない。
───
「なんて、技だ……」
砕け散った斬魄刀の柄を見て、日番谷は驚嘆していた。
シン・フェイウルク。
莫大な破壊力を持つ技でありながら、直線的なその速さだけならばシュライバーすらも追い越す。
同時に反動の大きさと、速すぎるあまり制御が効かない。
日番谷は霊圧から創り出した氷竜に技をかけたが、それでも一瞬で氷竜は耐え切れず自壊しだした。
反動を受けた氷輪丸も刀身を砕き、今は霊圧をその修復に回しているほど。
「なに…が、起きてやがる…」
あの甲冑の少女は一体、何処から現れた?
的確に日番谷だけを狙い、そして海馬コーポレーション内には一切の感心を向けていない。
あの中に誰か、共犯者がいたのか?
分からない事ばかりだが、一つだけ断言できることがある。
「乾……!!」
あの場に戦う力を持たない少女を一人残す、それが如何に危険かは最早考えるまでもない。
霊圧の消耗具合と疲労度合いから見て、イリヤはシャルティアからのび太を守る為に死力を尽くし体を張り続けていたのは明白だ。
だから日番谷からすれば、沙寿叶を除けばあの中でのイリヤは信用が高いと考えていた。
しかし、沙寿叶はそうじゃない。
あれ以上、精神に負担を掛けるのは不味い。
悟飯に気を取られていたが、彼女とてイリヤとずっと同じ空間に居るのは限界だろう。
理屈では分かっていても、美遊の友達であるイリヤに抵抗があるのは当然だ。
精神的に摩耗した状態で、更にあの中に別のマーダーが居て、事を起こそうとしているとなれば、より沙寿叶への危険度は増す。
「ぐ……! …こんな、時に!」
逸る心とは別に、肉体は限界を訴え膝を折る。
シン・フェイウルクにより、海馬コーポレーションからも大きく遠ざかってしまった。
その距離を一気に縮めるには、日番谷も消耗し過ぎたのだ。
今はただ、守るべき少女の無事を祈るしかなかった。
【一日目/昼/E-7 海馬コーポレーション】
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス故障寸前、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、カオスの素の姿、魂の消費(中)、空腹?(小)
[装備]:極大火砲・狩猟の魔王(吸収)@Dies Irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
6:聖遺物を取り込んでから…なんか、ずっと…お腹が減ってる。
7:首輪の事は、沙都子お姉ちゃんにも皆にも黙っておく、メリュ子お姉ちゃんの為に。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
極大火砲・狩猟の魔王を取り込みました。炎を操れるようになっています。
聖遺物を取り込んでから、空腹? がずっと続いています。
中・遠距離の生体反応の感知は、制限により連続使用は出来ません。インターバルが必要です。
ニンフの遺した首輪の解析データは、カオスが見る事の出来ないようにプロテクトが張ってあります。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:日番谷さんが遠ざかっている内に、悟飯さんを発症させる。可能なら私を奉仕(まも)る方向性へと狂わせたい。イリヤさんと美柑さんに悪者になって貰いましょうか。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:悟空さんと悟飯さんは、できる事なら二人とも消えてもらいたいですわね。
9:悟空さんの肩に穴を開けた方とも、一度コンタクトを取りたいですわ。
10:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
11:シュライバーの対処も考えておかないと……。何なんですのアイツ。
12:メリュジーヌさん、別にお友達が出来たんでしょうか?
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:自暴自棄(極大)、恐怖(極大)、疑心暗鬼(極大)疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、雛見沢症候群L3+(悪化中 L4なりかけ)、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、のび太への嫌悪感(大、若干の緩和)、イリヤに対する猜疑心(大)、首に痒み(小)、沙都子への信頼(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0〜1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:……。
0:沙都子さんには…お世話になってばかりだな……。
1:沙都子さんは、信じていいのかな……。
2:だ…誰が、僕に毒を……。い…イリヤさんが怪しいが、み…みんな怪しい……。
3:…………………………だ…だけど、み…みんなを……ま…まも…らない…と……。
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群を発症しました。現在発症レベルはステージ3です。
※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
※イリヤ、美柑、ケロベロス、サファイアがのび太を1人で立たせたことに不信感を抱いています。
※何もかも疑い出してます。微妙に沙都子には心は開いているかも。
【一日目/昼/D-6】
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪、鞘と甲冑に罅(修復中)、数時間飛行不可(体力の回復で可能)
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order(凍結、時間経過や魔力を流せば使えるかも)
[道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、
デザートイーグル@Dies irae、『治療の神ディアン・ケト』@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:海馬コーポレーションへは向かわずに、しばらく休む。この状態で、悟飯と接触するのは避けたい。
1:孫悟飯と戦わなけばいけないかもね
2:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
3:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
4:ルサルカは生きていれば殺す。
5:カオス…すまない。
6:絶望王に対して……。
7:竜に戻る必要があるかもしれない。方法を探す。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
【一日目/昼/I-7】
【日番谷冬獅郎@BLEACH】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に切創、卍解不可(日中まで)、雛森の安否に対する不安(極大)、心の力消費(大)
[装備]:氷輪丸(破損、修復中)@BLEACH
[道具]:基本支給品、シン・フェイウルクの瓶(使用回数残り三回)@金色のガッシュ!!、元太の首輪、ソフトクリーム、どこでもドア@ドラえもん(使用不可、真夜中まで)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを潰し乃亜を倒す。
0:海馬コーポレーションへ戻り、乾達と再合流したいが……。
1:巻き込まれた子供は保護し、殺し合いに乗った奴は倒す。
2:シュライバーと甲冑の女を警戒。次は殺す。
3:乾が気掛かりだが……。
4:名簿に雛森の名前はなかったが……。
5:シャルティアを警戒、言ってる事も信用はしない。
6:悟飯を、何とかする方法を見付けてやりたいが…何とか、涅か浦原と連絡は取れないか?
7:沙都子の霊圧は何か引っかかる。
[備考]
ユーハバッハ撃破以降、最終話以前からの参戦です。
人間の参加者相手でも戦闘が成り立つように制限されています。
卍解は一度の使用で12時間使用不可。
シャルティア≠フリーレンとして認識しています。
シン・フェイウルクを全く制御できていません、人を乗せて移動手段にするのも不可。
【シン・フェイウルクの瓶@金色のガッシュ!!】
日番谷冬獅郎に支給。
使用者の肉体を強化し、マッハを超える速度で体当たりをするシンプルな呪文。
原作の使用者であるアシュロンはガッシュ達を乗せて、日本から外国へ数十分程で移動していた事もあり、搭乗者を特殊な力で保護できるのかも?
使いこなせれば、移動手段にもなり非常に利便性もある強力な術である。
ただし、アシュロンですら制御しきれておらず、急な方向転換で自傷するなど非常に扱いが難しい。
使用回数は4回。
【瓶@金色のガッシュ!!】
魔物が操る術が込められた特殊な瓶。
中から術を取り出し、呪文を唱える事で使用出来る。
それぞれに使用回数が定められている。
ガッシュ2に出てくる瓶とほぼ同等の物であるが、このロワではあくまで乃亜が用意した別のアイテムとして扱う。
ディオガ・ゴルゴジオ等の強力過ぎる術(出すとしても要制限)は基本禁止と、ガッシュとゼオンの術とシン・ベルワン・バオウ・ザケルガは支給禁止とする。
投下終了します
神戸しお、フランドール・スカーレット、的場理沙
予約します
延長お願いします
投下します
バキッ。
何かが折れる音が響いて。
私、フランドール・スカーレットは、あちゃー、と思う。またやっちゃった。
目の前の画面と手の中のハンドルというらしい輪っかを交互に見つめて言う。
「梨沙、マリーン、しお。ゲームが壊れたわ」
「最下位になりそうだったからアンタ壊したんでしょうが!」
隣に座る梨沙が叫んだ。意外と鋭い。
いや違う。わざとじゃなかった。ただちょっとゲームに熱が入っただけだもん。
最下位になりそうだったからじゃない。熱い勝負だったからついつい肩に力が入って。
それでちょっと加減ができなくて、吸血鬼の腕力が出ちゃったの。
むしろ私をこんなに熱くしたマリーンと、梨沙と、しおにも責任はあると思う。
「フランさん、ズルはだめだと思うな」
しおの言葉から全力でそっぽを向いて、手の中のハンドルを放り投げる。
仕方ないじゃない。こんな遊び、今迄した事無かったんだもの。
そんな相槌を打ちながら、改めて辺りを見回す。
梨沙と、しおと、ネモの分身のマリーン。
そして私は、デパートにあったゲームセンターにいた。
襲撃を受けない限り、この場を動くのは放送を聞いてからだ。
悟空との合流を目指しているネモは、おつかいの終わった私達にそう言った。
シカマルや龍亞、ブラックって青いのや、無惨って奴とこれからの事をすり合わせたり、
他に作業もあったり、悟空と合図を送り合うのは放送の30分後らしいから……
それが終わるまでは、このデパートから動くつもりは無いという話だった。
まぁ私はジャックを壊すという事以外何かしたい事も、会いたい知り合いもない。
シカマル達も、折角掴んだ脱出の手がかりと早々に別れるつもりは無いみたいだった。
無惨やブラックも残るつもりみたいで、結局8人のまま、デパートに留まっている。
集めた物品の確認や諸々の作業はシカマル達がやる事になったから、私達は手持無沙汰で。
そんな時に見つけたのがこのゲームセンターだった。
『息抜きも必要だと思うんだよね!ボク!!』
『アンタ、本当にあの白いのの分身なの』
遊ぶことが決まった時、マリーンと梨沙はそんなやりとりをしていた。
こんな事してていいのかしらという思いは、梨沙はおろか私にもあったけど。
マリーンが言うには、本体のネモは私達がここでこうして遊ぶのは賛成らしい。
あまり気を張ってばかりだと、逆にいざと言う時に保たない。
身体だけじゃなくて、気持ちも休ませておく事は意外に重要なんだそう。
そんな訳で、私は495年の吸血鬼生の中で初めて“ゲーセン“で遊ぶことにした。
「梨沙、ゲームが壊れてるわ」
「どんな力でやったらそうなるのよ……」
まず選んだのは格闘ゲーム…格ゲーだった。
私に似た吸血鬼のキャラを選んで梨沙に相手をしてもらった。
梨沙も普段格ゲーはやらないらしく、同じ初心者でそれなりに勝負は盛り上がったと思う。
でも、なんか気が付いたら私の操作してた筐体から生えたスティックが飛んで、
隣でニコニコしながら眺めてたマリーンの顔に突き刺さってた。
マリーンは泣いた。
「梨沙、ゲームが壊れてるわ」
「アンタわざとやってない?」
次に選んだのはエアホッケー。
手に持ったスマッシャーという円盤型の板を使って、同じく丸いプレートを撃ち合う。
相手のゴールに丸いプレートを打ち出して入れたら勝ちという訳だ。簡単だった。
また梨沙が相手をしてくれたけど、このゲームは割とやったことがあるのか、強かった。でも私も弾幕ごっこで鍛えた腕がある。そう簡単に負けはしない。
で、気が付いたら本気で梨沙のエリアにプレートを撃ち込んで。
レッスンで鍛えた(と梨沙は言ってた)反射神経で梨沙は台の下に危うく躱したけど。
台の縁をジャンプ台みたいに飛び出して、半ば割れながら自由になったプレートはしおを庇ったマリーンの鳩尾に突き刺さった。
マリーンは泣いた。
「梨沙、ゲームが壊れ…ブフッ…てるわ」
「絶対わざとよね?今ちょっと笑ったわよね?」
その次に選んだのはモグラ叩き。
台に開けられた穴からぴょこぴょこ顔を出すモグラを叩いていくゲームだ。
最初の内は良かった。でもどんどん出てくるスピードが上がって……
ふんっ、力んだ一発をモグラに叩き込んでから、モグラはもう出てこなかった。
ついでにすっぽ抜けたピコピコ音が鳴るハンマーが驚いて開いていたマリーンの口の中に華麗なストライクを決めていた。
マリーンは泣いた。
「すご……アンタ見た目によらず力持ちなのね………」
「ふふーん!こーみえて僕達魚雷運び毎日してる海の男だもんね!
サーヴァントのレベルじゃないけど…それでも意外と力持ちなのサ!」
その次に選んだのは、パンチングマシーン。
まずマリーンがやってみて、最高記録を出していた。
「確かな賞賛の視線を感じるよ…!」と鼻が伸びて、とっても楽しそう。
なので次は、私がやる事にした。
梨沙は何かを感じ取ったのか、しおを抱えて退避してた。
詳細は省くけど、この後マリーンは泣いた。
そして、次に選んだのが、幻想郷ではまずお目にかかれない車で競争をするゲームだった。
これは今迄のゲームと違って、私達4人でできるみたいだった。
だから4人でやって、意外と楽しかった。そう……うん、楽しかった。
弾幕ごっこや、普段やってる私の“遊び”以外にも楽しいことがあるんだって、そう思えた。
結果はマリーンが一位で私が最下位だったけど、不思議と心は弾んでいた。
「もーいいわ!何度目よこの流れ!!」
でも流石に梨沙に怒られたから、お開きにして一旦解散。
またマリーンが呼びかけるまで各々別れて、好きにゲーセンの中を回る。
幻想郷でも、こういうの作れないかしら。お姉様におねだりしてみようかな。
ひょっとしたら、一大ブームを起こせるかも。
そんな事を考えつつ、何故か名残惜しさを感じて、備え付けの椅子に腰かける。
人気が無くて、薄暗くて、でも煌びやかな空間は、私が今迄いた事のない空間だった。
それを独り眺めているとしみじみ思う。楽しかったなって。
多分、皆で遊んだから楽しかったんだ。
「………随分ご機嫌じゃない、フラン」
余韻に浸ってたところに話しかけてきたのは、梨沙だった。
このゲーセン、リズムゲームないとかありえないわ。なんてぼやきながら私の隣に座る。
そんな彼女に、私は何となく呼びかけた。
何?という顔で梨沙は私を見てきて、私は少し焦った。
何を話すか決めていない状態で、何となく梨沙の名前が口に出てしまったからだ。
やば、何かしゃべらないと。そんな焦りから、梨沙にとっては唐突な質問をしちゃった。
「梨沙はさ………怖い?」
「それ、少し前にもう答えたでしょ」
「いや……今の状況の話じゃなくて………」
怪訝そうな顔で、梨沙が私の顔を見てくる。
何が言いたいの、そう言いたげな顔だった。
そんな彼女に、私は私がどんな存在であるのかを伝える。
私は吸血鬼で、人を食べる妖怪なんだって事を。
どうして、そんな事を伝えようと思ったのかは分からない。
何となく一緒にいて、これからも一緒に居そうだったから。
後で知って怖がられても面倒だと無意識に思ったのかもしれない。
「………少なくとも、アンタに関して言えば、まぁ、そんなに。
舐めてるとかじゃないけど、何ていうか、色々麻痺しちゃったのよね」
「私から逃げたいとか、遠ざけたいとか思わないの?
普通の人間は、そう言うモノだって本に書いてあったけど」
「逃げて、この島から出られるならそうするけどね……
そう言う話に当てはまるのは、ブラックの方かしら
少なくともアンタは、一緒にゲームできるくらい話通じるし」
前かがみになって、膝に肘を立て、顔を手で支えて。
梨沙は前を向いたまま、答えを返してくる。
「乃亜のせいでどんどん世界は狭まっていくのに、逃げても仕方ないじゃない。
怯えて、震えて、泣き叫んで……それで結局殺される。そんなのは嫌。サイテーだわ」
そう言う梨沙の声は。
淡々としていたけど、力の籠った声だった。
彼女の弱くて脆い人としてのほんのーは多分、ずうっと怖いって訴えてるのに。
それを、自分の気持ちで捻じ伏せてるんだ、この子。
「弱くて、実際私が決められる事なんて殆ど無いとしても。
せめて自分が一緒にいる相手とか、これからどうするかとかはさ。
怖い事に流されるんじゃなくて…考えた上で、私の意志で決めたいじゃない」
だから、さ。
梨沙はそこで言葉を区切って、透明な水筒?に口をつけて。
ごくごくごくと喉を鳴らしてから、ハッキリと私に告げた。
「生き残れる確率が少しでも上がる相手とは一緒に居たいし、
一緒にいる必要がある相手とは、仲良くしたい。勿論アンタともね」
「………っ!」
返答を聞いて、此方に向けて笑いかける梨沙の顔を見て息が詰まった。
そんな私に、梨沙は持っていた透明な水筒を私のほっぺにそっと当てて。
「飲む?」と持ち掛けてきた。
返事の代わりにそっと私は彼女が手渡してきた水筒を受け取って、中身を見つめる。
中の液体は、血のように赤かった。
「驚いた、人間も血を飲むのね」
「血じゃないわよ。飲んでみなさい」
促された通り、私は透明な水筒(ペットボトルというらしい)の中の液体を呷る。
すると、飲んだことのない味が口の中に広がった。
悪くない味だった。
「…美味しい」
「アセロラジュース、疲れた時に飲むと美味しいの。口に合ったみたいで良かったわ」
炭酸系はアイドルには御法度だからねーとか何とか言いつつ、はにかんでくる梨沙。
その笑顔を見て思う。きっと今の梨沙の言葉は本心からの言葉なんだろうなってこと。
打算もあるだろうけど、それでも仲良くしたいと、この子は言ったんだ。
───ぉ……ぐぉ……フ、ランちゃん………
あぁ、でも。それはダメ。
ダメだよ、梨沙。
「…………ダメじゃない、梨沙」
胸の奥から色んなものがこみあげてきて、止められない。
私は貰ったジュースを脇に置いて、梨沙にそっと抱き着く。
梨沙は困惑したような声を上げるけど、逃がしはしない。
この時、ある考えが浮かんだ。
しんちゃんみたいに傷つけてしまうのが怖いなら。
しんちゃんみたいに、壊れてしまうのを厭うなら。
それなら、壊れにくくすればいい。
少なくとも、私と同じくらいには。
そのための手段が、私にはあるのだから。
「吸血鬼(ヴァンパイア)に、そんなこと簡単に言ったら」
でないと、こうなっちゃうんだから。
囁いてから、梨沙の首筋にそっと口を添える。
後数ミリ牙を、柔らかな梨沙の肌に沈み込ませて血を啜れば、梨沙も私と同じ。
不死の血族に。吸血鬼にすることができる。
鳥が教えられなくても飛べるように、魚が泳げるように。
その方法を、私の身体は既に知っていた。
多分、ほんのーって奴で。
「っ……ひ………っ」
今の自分の状況に頭が追い付いたのか、梨沙が怯えた様な声を上げる。
でも、逃げられない。私がしっかり彼女の背中に手を回して、捕まえているから。
人間の梨沙の力じゃ、吸血鬼の私から逃げられない。
「……………」
そのまま、凍り付いた彼女の反応を待つ。
どうするかは余り決めていなかった。
だって、半分くらい反射的に、その場の気分でやった事だから。
だから梨沙の反応で決めよう、という事にした。
この怯えようだと怖がられるか、怒って拒絶されてしまうかもしれないけど。
そうなったらショックで、本当に血を吸って、吸い過ぎてゾンビにしちゃうかも。
あぁでも、そうなったらネモは怒るだろうか。
それは嫌だなとも思いつつ、でも、先に言ってきたのは梨沙の方でもある。
だから、仕方ないよね?
ぐるぐるぐるぐる考えが巡って。そうしている内に、梨沙は絞り出すような声を上げる。
「……そうね、いよいよヤバい事になったら、アンタと同じになるのもアリかもね」
目を見開いた。
口を彼女の肩から外し、思わず梨沙の顔を見る。
酷い顔だった。真っ青だし、引き攣ってるし、目尻には涙が浮かんでいて。
今吐き出した言葉も、震えた声だった。
でも、それでも、的場梨沙は笑っていた。
笑って、私の瞳から目を逸らさないで、じっと私を見ていた。
「……流石に驚いたわ。どうして?」
「いや。流石にアタシだって今すぐ吸血鬼にしてやるーって言われたら困るけど……
でも大けがしたりしていよいよピンチになったら、そうして貰う方がいいかなって」
それに。
「仲良くしたいって言ったばかりなのに、すぐ掌返してたら示しがつかないじゃない。
どう取り繕おうと力のない私が、守ってくれるアンタ達に差し出せるお返しは誠意(これ)くらいだもの」
だから、できれば、なるのはのっぴきならない事になってからがいいけど。
でも実際にそんな事になった時に、そう都合よく上手く行くかは分からないし。
それなら、今やってもらうのがある意味確実なのかもね。
それに、吸血鬼になるとかちょっとかっこいいし。
辿々しく、多分必死に怖いのに耐えながら、梨沙はきっちり最後まで私に伝えきり。
体は小刻みに震えたままで。それでも彼女は身じろぎをして、私に首筋を差し出した。
ぎゅっと瞼と唇を結んで、これから起こるあらゆることに耐えて見せると言う様に。
その様を見ていると、とてもいじましくて、健気で………
「──そう、貴方が乗り気なら焦る必要も無いか。ネモに怒られたくないし」
気づけば私は彼女の身体を離していた。
自由になった梨沙はまだぷるぷると震えが止まっていなくて。冷や汗も凄くて。
表情も、酷い顔だった。今までのはやせ我慢だって、言われなくても分かる位。
でも。私が梨沙と同じ立場になったら、私はこの子くらいやせ我慢ができただろうか。
そんな事を、考えた。
「ごめんね、梨沙。怖い思いをしたかしら」
「……グスッ、全くよ、血の気が引いたし、チビったらどーしてくれんの」
「チビっても今の梨沙は素敵だと思うな」
「そう言う問題じゃない。あぁ言うの、二度となしだから。次はネモ達に言いつけるから」
「うん、ごめんごめん。本当に悪かったわ」
鼻をすすって、べそをかいてる梨沙を慰めるように撫でる。
この子は、結局私から逃げようとはしなかった。
怖がっていても、最後まで自分の言葉を曲げようとしなかった。
弱くて儚い人間のくせに……たぶんこの子を一言で表現するなら、そう。
「梨沙、貴方って図太いのね」
「それ褒め言葉になってないわよ」
ほら、そういう打てば響く所が。
くすりと笑って、立ち上がり。
後ろ手で手を結びながら、数歩前へと歩いて私は梨沙に伝えないといけない事を伝える。
「この後もしもの事があって、吸血鬼になっても………
ドラゴンボールっていう願いを叶える手段があるから、それで元の人に戻りなさい」
「アンタ、それって………」
梨沙が恐怖を堪えて見せてくれた誠意に対する、私なりの誠意。
幻想郷に来るよう誘っても、梨沙は頷かないだろうし。
逆に梨沙が幻想郷の外に誘っても、私も困る。
引きこもりの私には殺し合いが終わってからも梨沙の面倒は見れない。
ついでに言えば、総理大臣になって父親と結婚したい梨沙の目指す将来は意味不明だ。
元々この殺し合いが無ければ、しんちゃんも含めて一生会わなかった相手だもの。
これがきっとあるべき形で。人と妖怪のあるべき関係。
「でもありがと。梨沙の仲良くしたいって言葉───」
だから。うん、きっと。これでいいんだと思う。
「嬉しかったわ、とっても」
そろそろ、マリーン達を探しましょ。
言いたい事は終わったし、話を切り替えて、歩いて行こうとする。
そんな私の背中に「ねぇ」と声がかけられた。
振り返って、声を掛けた張本人の方へと向き直る。
私の方はもうよかったけど、彼女は未だ話したいことがあったらしい。
「何て言うか、ただ慈悲を願うなんて嫌だから言うんだけど……
これ、シカマルにも言ったんだけどさ……もし、生きて帰れたら───
その時は私の出るライブは顔パスで入れる様にするから、アンタも見に来なさいよ」
その言葉に、私は少し首を傾げた。
「ライブって何?」
「そこから!?」
成程、説明によると、梨沙が歌や踊りを披露してくれるらしい。
余り興味は無いけど、でもこれが梨沙の用意できる、生きて帰れた時のお礼なんだろうな。
「でもいいの?私、あんまりそう言うのに興味ないし…
ひょっとしたら寝ちゃったり、他の子のファンになるかも」
少し意地の悪い言葉だったかもしれないと、言ってから思った。
だけど、梨沙は気にする様子は無く。むしろ「上等じゃない」と言ってのけて。
「興味が無くても、他の子が気になっても、すぐ私の色のサイリウムに染めてあげる。
例え有馬かなが相手でも負けないくらい───アンタの推しの子になってやるんだから」
だから、アンタもシカマルと一緒にしっかり私を守んなさい。
梨沙は私の前で腕を組み、仁王立ちになって。堂々と宣言したのだった。
───何て言うか、まったく。
貴方やっぱり図太いわ、梨沙。
▼△▼△▼△▼△
いやほんと、ヤバかった。
私は、アイドル的場梨沙は───緊張でかいた冷や汗をごしごしと拭いながらそう思った。
まさか仲良くしたいって言っただけで、危うく人間辞めさせられそうになるなんてね。
まぁ最終的に、上手く着地できた気はするけど。
しかし、吸血鬼、か。
───ええ…輝かしいのは―――今だけ
………ッ!
ダメダメ。あのバカ沙都子の言ってたことともまた違うでしょ。
夜しか仕事できないのはアイドルとして致命的だし。
ずっと若いままだとそれはそれでテレビとか気味悪がられそうだし……。
何よりパパと結ばれるのを考えたら、やっぱり今なるのはパス。
もっとオトナの女性になってからの方が、パパもきっと喜ぶもの。
「……ま、なると決まった訳じゃないしね」
そう口に出して、一旦この考えはお終い。
それよりも、私が人としてピンチだった時に他所に言ってたお目付け役を締め上げないと。
「で、アンタ達は今迄一体何をやってたのかしら」
「ク、クレーンゲーム………」
バツが悪そうに答えるマリーンを睨みつける。
護衛役として私達の傍にいたのに、緩み過ぎでしょ。
そう言いたくて仕方なかったけど、フランが隣にいる手前余り責められない。
フランはネモに懐いてるみたいだし、ここで怒れば信用してないんだって思われそうだし。
実際ちょっと漏れそうになったくらいで、特に何かケガをした訳でも無い。
だから此処は飲み込むことにする。
「うぅ〜どうしてか景品が一個だけ残っててさ〜
しおとボク、何が入ってるのか気になっちゃって、ついつい夢中に………」
「最後は、私が取ったんだよ」
べそをかいて弁明するマリーンと、ちょっと得意げな様子のしお。
何て言うか二人ともそれぞれ別の方向で怒りにくくてずるいわね。
下手に怒ったらこっちが悪者になりそうな二人を見て、思わずため息が漏れる。
「ごめ〜ん…!獲った景品は二人にあげるから許して〜……」
そう言ってマリーンは手に入れた景品らしき袋にごそごそと手を入れて。
出てきたのは、見覚えのある腕章と、高そうな懐中時計だった。
その他にも何か船の模型だとか、岩塩のチョコだとか、眼鏡だとか、色々出てくる。
「ってこの腕章、アンタが付けてる奴と同じのじゃない」
「えへへ、そうなんだよね〜、だからボクには必要なくてさ〜
良かったら梨沙やフランも欲しいのがあったら貰って〜」
「いや、貰ってもって言われてもねぇ………」
「いいからいいから!お詫びのしるしに……ね?」
突然あげるって言われても困るし、誤魔化されてる様に感じなくもない。
でもまぁ……いいか、別に怒ってる訳じゃないし。
くれるって言うなら、埋め合わせとして貰っておくことにする。
「じゃ、このチョコレート貰っとくわ」
「お、いいね〜岩塩チョコ!疲れてる時に食べると美味しいよ〜」
何かスーパーの実演販売染みてるわね。
そんな事を考えながら受け取ったチョコは中々形が可愛いし、しかも手作りみたいだった。
何で食べ物がクレーンゲームの景品だったのかは良く分からないけど。
折角だし、今も必死に頭を働かせていそうなシカマルに差し入れしてみようかしら。
頭脳労働には糖分が必要って言うしね。
マリーンにそう提案しようとした時、隣でフランも声を上げる。
どうやら、この子も欲しいものが決まったらしい。
「………何それ、何でマリーンと同じ腕章?」
「だって、お揃いじゃない」
「ウソ!ペアルック希望なのフラン!?嬉し〜い!
えへへ、それじゃあボクの直筆サインもつけちゃう!」
フランが腕章を選ぶと、マリーンは嬉しそうな声を上げて。
何処からともなく取り出したペンで、腕章に四号と文字を入れる。
だ、ダサい………
「ふふっ」
でも、当のフランはまんざらでもなさそうな表情で。
アタシならダサくて御免だけど、フランがいいならいいか。そう思えた。
しかし、本当に懐いてるのね……何だか微笑ましい。
と、そこで気になってもう一人…しおって子の方に顔を向ける。
彼女は何を貰ったのかと思って、確かめようと手を見てみた。
すると、しおの手にもチョコが入ったバスケットが握られていた。
パンの形をしたチョコレートを口に入れて、美味しそうに頬を抑えてる。
それを見ていると、くぅと私のお腹もお腹が空いたって訴えてきた。
「梨沙、お腹空いた?」
私のお腹の音に、即座にマリーンが気づく。
泣き虫のくせに、こいつこういう所は嫌に敏感なのね。
お腹が鳴った恥ずかしさから違うって否定しようとしたけど、マリーンは先に。
「僕もお腹空いたんだよね〜…
さっきベーカリーがご飯用意してくれた連絡が入って、味見して〜ってさ。
だから遊ぶのはここまでにして、一緒に食べに行こう!」
こう先に言われたら、違うともいかないとも言いにくい。
実際ここまで余りちゃんとしたご飯は食べれてないから、お腹は空いてる。
食べれるときに食べておかないといけないって学校の災害訓練でも習った。
フランとしおは基本的にネモの言う事に従うし、変に意地を張る場面でもない、か。
「…そうね、お腹空いたわ。そのベーカリーって子の所に案内してちょうだい」
「うん、行こ行こ〜!!しゅっぱーつ!!」
テンションの無駄な高さを発揮しながら、マリーンはしおをおんぶして。
元気よくゲーセンを先に出て、手招きをする。
姿だけ見れば、龍亞や桃華以外の第三芸能課の子達の様に子供っぽい。
あの子を見ていると、自分が殺し合いなんて血生臭い催しに巻き込まれたのが嘘みたいだ。
────桃華は無事かしら……。
第三芸能課の事を思い浮かべて、連想する様に桃華の顔が浮かんでくる。
この島にいるらしいたった一人の知り合い。あの生粋のお嬢様は無事なのかしら。
私みたいに、協力し合える人と会えたのかしら。
次の放送であの子の名前が呼ばれる未来を想像して、ぞくっと寒気が走る。
あの子だってここでは私と変わらない、ただの女の子だ。
絶対生きているとは言い切れない。でも、無事でいて欲しいと思う。
「生きてなさいよ。アタシ……アンタの事は、仲間ってだけじゃなくて」
いつか勝ちたい好敵手(ライバル)だとも思ってるんだから。私は呟く。
ええそうだ。第三芸能課で活動し始めてから、多分私はずっと彼女の背中を追いかけてた。
あの子がテレビでバズれば焦ったし、追いつくために映画の役を取ろうと躍起になった。
今でもあの子の事は仲間として大切に思うのと同じくらい。
私は櫻井桃華に勝ちたいという思いは今でも思ってる。
そして、まだ勝負は始まったばかりだ。
だから。
───絶対に二人で生きて帰って、また二人で。
───いいえ。第三芸能課の皆も一緒に、駆けあがりましょう。
また乃亜の性格の悪い放送が鳴り響く、その少し前。
私はひょっとしたら受け入れにくいくらい残酷なその内容に備えて覚悟を固めながら。
たった独り、同じ場所に帰る事ができる女の子の、無事を祈った。
▼△▼△▼△▼△
拝啓、お姉様。
いかがお過ごしですか?私が──フランドール・スカーレットがいなくなったことに気づいていますか?
「ブイヨンスープとバター、ローリエを加えたご飯を炊いてから、
玉ねぎ、しいたけ、パプリカ、ズッキーニをオリーブオイルで炒めてー」
貴方の事だから、実の妹の事も忘れているかもしれませんね。
咲夜や美鈴やパチュリーの方が、ひょっとしたら早く気づくかも。
もしかしたら心配しているかもしれないので言っておくと、取り合えず私は生きています。
元気です。今のところは。
「岩塩プレートで焼いた鶏肉を加えて、白ワインとブイヨンとバターで煮てー
仕上げに煮えた野菜と鶏肉を、溶き卵に生クリームを加えたものでとじたら……」
こう言ったら驚くでしょうけど、私は今朝ご飯を作って貰っています。
人間でいう夜食になるのかしら。勿論血だけじゃない。
ちゃんとした料理で、とっても美味しそうだから楽しみです。
レシピを聞いておくから、もし生きて帰れたら咲夜に作ってもらえるようにするね。
それでは。
「炊きあがったバターライスに乗せてできあがり!
ふわふわ親子丼風オムライスでーす!熱いうちに食べてね〜」
目の前に出された料理の匂いを嗅いで、ごくっと喉を鳴らす。
吸血鬼の私にとって人間の食べる料理は必要ない。血と違って栄養にはならないから。
でも、食べられない訳じゃないし、美味しそうなものは美味しそうなのだ。
ネモ・ベーカリーの出したオムライスを見て、私はそう思った。
「こ…これお金取れるんじゃないかしら…あぁでも、カロリーが………」
隣に座る梨沙も、目の前のオムライスに釘付けになっていた。
けれど暫くカロリーがとか何とかブツブツいってスプーンを着けようとしない。
梨沙に合わせて待っているのも何なので、私は先に食べる事にする。
スプーンで黄色いお月様の様な卵とライスを掬って、一口。
「ゥンまああ〜いっ!!」
口の中が蕩けるみたい。
咲夜がパチュリーや美鈴に作る料理をつまみ食いした時の味とも違っていた。
鶏肉は香ばしい上にしょっぱ過ぎず、卵の甘さとよく合う。
卵自体もフワフワのトロトロで、優しい舌ざわりだ。
更に卵と具が、またバターライスとよく合って……っ!
ベーカリーは咲夜に負けず劣らずのシェフだった。
思わず梨沙に食べないなら貰っていい?と尋ねてしまう。
「た、食べるに決まってるでしょ!!」
私から庇う様に皿を隠す梨沙。その勢いのまま一口パクリと口にする。
するとあっという間に止まらなくなって、強奪する機会は来そうにない。ちっ。
さっきまでカロリーがどうとか言ってた子とはとても思えないわね。
じゃあしおはどうだろうと思って目を向けてみれば、此方は素直に食べていて。
美味しいかと聞かれて「さとちゃんの作るオムライスの次位に美味しい」と答えていた。
そのさとちゃんはプロのシェフか何かなのかしら。羨ましいわ。
さとちゃんとやらに思いを馳せながら、それから私達はしばらく食事に夢中になった。
味見の筈だったけど、仕方ないよね。だって美味しいんだもん。
ムシャムシャガツガツグビグビゴクン
……………………。
……………。
………。
ぷはー。
ご馳走様。
「ね、マリーン」
一皿をあっさりに空にしてから。
梨沙はシカマル達にも食べさせてくると、お盆に料理を乗せて、今いるレストランを出た。
ついて行こうかとも思ったけど、店を出て直ぐシカマルって子と出くわしたみたいで。
なら私も行く必要はないかと思い留まった。元々梨沙がずっと一緒に居たのは向こうだし。
丁度、マリーンに話したい事も会ったしね。
「何?フラン」
お腹一杯食べて眠くなったのか、うとうとするしおに肩を貸しながら。
向かいに座ったマリーンはくりくりした瞳を私に向けて、どうしたのか尋ねてくる。
そんな彼に何となく切り出しにくくて、上手く言葉が出てこない。
長年引きこもりをやってたせいか、こういう時とても困る。
どうでもいい相手なら、こんなに困らなくても済むのに………
「……いや〜しかし。いい曲だよね〜」
「え?」
「今この店に流れてる曲だよ。イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン。聞いた事無い?」
ふるふると首を横に振るう。
今いるお店に小さく流れてる音楽の事を言っているのだろうけど。
でも、私は食事と会話に気を取られてて、聞くほど意識を向けられてなかった。
そんな私にマリーンはしおを撫でながら「焦らなくていいよ」とだけ伝えてくる。
その目は本体のネモと同じ、静かな慈しさと思いやりがあった。
あぁ、この子もやっぱりネモなんだ。その事が、今ハッキリと分かって。
それが分かってからはすんなりと、今話したい事を口にすることができた。
「梨沙のね、血を吸おうとしたの。私」
「……えぇ!?そりゃ大変だ。どうして?お腹が空いたから?
それとも、梨沙が何か君の気に障る事を言ったの?」
血を吸おうとした、そう聞いてもネモは怒らなかった。
ただ、どうして?とだけ尋ねて、じっと私を見てくる。
本当にただ、知りたいって思いだけを感じる眼差しだった。
だから私も、今度は口ごもらずに話をすることができた。
「ううん、違うわ。むしろ逆。梨沙は私と仲良くしたいって言ってくれたの。
勿論あの子にとっては生き残るために言った事だと思うけど、でも……」
「でも、嬉しかったんだ」
「えぇ、でも前に同じことを言ってくれたしんちゃんは私の目の前で…私が壊しちゃった」
だから、今度は壊れにくくしようって思ったの。今度は、今度こそ守れるように。
俯きながら静かに、私は目の前のマリーンにそう告げたのだった。
顔は上げられなかった、今、マリーンがどんな顔をしているか目にするのが怖かったから。
独りなのを苦に思ったことは無い。495年間そうだったから。
もし苦しかったのなら、とっくに紅魔館を吹き飛ばして外に出ていたと思う。
その私が、目の前の男の子の信用を喪う事を怖がって、緊張している。
お姉様が見たら、お腹を抱えて笑うかもね。そんなとりとめもない事が頭に浮かんだ。
「……フラン、一つ教えて。
────じゃあ君は、何で梨沙の血を吸わなかったの?」
聞こえてきた彼の声は、やっぱり怒っている物では無かった。
ただ、私に何らかの返事を返す前に、この事はハッキリさせておきたい。
ネモの想いが伝わって来る、そんな声だった。
何故か、と尋ねられて、私も何故だろうと振り返ってみる。
梨沙には慌てる必要がない、ネモに怒られたくないと答えた。
そう答えたけれど、多分それだけじゃなくて……
「梨沙は…私と仲良くしたいって言ってくれたから…
だから、無理やり血を吸うのは、何か嫌だなって思ったの」
それが、私が用意できた答えだった。
マリーンはその答えに対して「そっか」とだけ答えて。
暫く、何かを考えてるみたいな素振りを見せた。
「…………………」
「…………………」
そのまま、私達はお互い何も言わず。
店の中は、しおの寝息と、相変わらず静かになり続ける音楽だけが響いていた。
十秒…三十秒…一分…二分。
それだけの時間が経って、やっぱり痺れを切らしたのは私の方だった。
「マリーン!」と声を張り上げて、マリーンが驚いた様に「ひゃいっ!?」と返事をする。
あ、と思う。突き動かされる様に名前を呼んだけど、どう話すかまだ決めていなかった。
梨沙の時と同じだ。またやっちゃった。
(ええい…ここまで来たらもう勢いで!)
もう後戻りはできないし、放送までの時間ももうほとんどない。
だから多分これがちゃんと聞ける最後の時間。
それを、これ以上無駄遣いするのは御免だった。
だから私は心を決めて、一度大きく息を吸ってからハッキリと聞こえる声で尋ねる。
今、一番彼に聞きたいことを。
「マリーン……貴方はさ。吸血鬼(わたし)が人と一緒に歩めると思う?」
「え?う〜ん……うん、思うかな〜」
ほぇ?
びっくりするほど即答だった。
さっき何か考え込んでいたのとは真逆の素早い答えに惚けた声が思わず口から出ちゃう。
「テッ!テキトーに答えないで!私マジで聞いてるんだから!」
「ボクもテキトーじゃなくてマジで応えてる。むしろどうして適当だって思うの?」
「だ、だって……」
私はお姉様みたいに人間と上手く接する事が出来ない。
独りでいるのは苦じゃないし。何かを壊すことは愉しい。友達以外の人間はどうでもいい。
今でもそう思ってるし、そう思う事を変えるのも難しい。
そしてそれは人間が恐れる在り方だって言う事は、私だって分かってる。
だから、そんな私が人と一緒に居る事は………
そう言いかけた時、マリーンは私の言葉を遮った。
「そうだね。確かにフランの側からも努力は必要だと思う」
彼は、私が挙げた私の問題を否定しなかった。
そんなことは無いと否定したりせず、課題は課題だって受け止めた上で。
それでも、ボクは君が人と歩めると思う。そう言った。
「フランはさ、梨沙の血を吸わなかったのは無理やりは嫌だったからって言ったけど……
それってつまり、梨沙の事を大切にしたいって気持ちがあったからだと思うんだ〜」
だったら大丈夫。大丈夫だよ、フラン。
君が望んで、そのための努力をする限り、僕達は君の事を信じるから。
せめてこの殺し合いが終わって、君達を無事に家に帰すまではね。
そう私に告げるマリーンの表情を、その時初めて顔を上げて見られたかもしれない。
彼は、本当に嬉しそうに笑っていた。
「……できるかしら。何せ私、これまで失敗ばかりだったから」
ニケも、コナンも、雄二も、マサオも、梨沙も。
誰も彼も失敗ばかりで、上手く行った試しが無かった。
多分、これからも失敗ばかりだとも思う。
「ま、大変だろうね〜………………でもさ」
ほんの少しだけ、そんなことは無いって、君ならできるって言って欲しかったけど。
ネモ本体よりは根が軽そうなマリーンも、そうはいってくれなかった。
苦笑いしながら、多分これからも大変だっていうのを誤魔化しはしなかった。
「───誰だって、簡単に手に入ったものは、簡単に手放せちゃうものだから」
「そうかな?……………そうかもね」
多分ここまで誰かを大切にしようと思うようなったのは、しんちゃんの死が原因で。
もし今しんちゃんが生きてたら、今ぐらい大事にしようとは思えなかったと思う。
友達が壊れちゃったら悲しいって事さえ、私は知らなかったから。
誰でも守ろうとは今でも思えない、やっぱり私は、守ることは苦手。
でもせめて、そんな私でも仲良くしたいと言ってくれる子は、何とかしてあげたい。
その為の努力を、私を信じると言ったネモのためにしたい。それが今の私の偽らざる本心。
それを今、ハッキリと自分で確かめられた。
「ふふ〜本当に今流れてる曲みたいなこと、話してるわね〜」
弾んだ声で、ネモ・ベーカリーがお盆に紅茶を乗せてやって来たのは、その時のこと。
どういう意味?と尋ねてみると、彼女は私に流れているジャズの曲の意味を教えてくれた。
曰く、例え紙の月でも、作り物でも。
君が信じてくれるのなら、それはきっと本物になる……
今流れてるのは、そんな想いの力を綴った歌らしい。
「フランちゃんはどう思う?信じてあげたら、紙の月も本物に見えるかしら!」
ニコニコと笑顔で食後の紅茶を置いて、私に尋ねてくる。
もう動かないといけない時間が近づいているため、紅茶は直ぐ飲み切れる量だった。
本当、気が利いているわね。そう考えながら私は返事を返そうとして、ある事に気が付く。
マリーンやベーカリーの背後の壁や、腰かけている椅子の表面上に。
この島に来てから極端に見えにくくなっている破壊の点が、くっきりと見えていた。
相変わらず人の物は見えないし、この調子だと支給品の点も見えないままだろうけど。
それでも、能力を取り戻しつつあることを、私は確認する。
「……分かんない、でも」
何故、能力が復調しつつあるかは分からない。
ネモの血を吸ってから、体に力が満ちている影響かもしれないし。
それとも、ネモや梨沙からの言葉を聞いたからかもしれない。
でも、そんな事は、今はどうでも良かった。
だからまず、ベーカリーに分からないと答え、紅茶に口をつけて。
丁度いい感じに唇と喉を湿らせてから、問いかけに対する思いの丈を口にする。
「しんちゃんや、ネモや、梨沙がくれた想いと言葉があれば────」
私は、お姉様の様に運命を見通す力はない。
ただ、私の両眼はあらゆるものを壊す為だけにあるから。
あぁ、でも。それでも─────
───見える気がしたの。
───例え偽物の月でも、本物みたいに。
ねぇ、お姉様。
貴方はどう思う?
▼△▼△▼△▼△
「紙の月は、紙の月だよ」
微睡むフリをしながら、ネモさんと、フランさんの話を聞く。
フランさんは、紙の月でも本物みたいに思えるかもしれないって言ってたけど。
私は、紙の月は紙の月だと思うな。
どこまで行ってもさとちゃんみたいな本当のお月さまじゃないし。
これからも、本当のお月さまみたいに思えることは無いんだと思う。
私が最後に行きたい場所にはならない。私の欲しい奇跡(つき)は本物だけ。
どれだけ瓶に詰めて眺めても、やっぱり本物とは違うんだって見る度に思う。
それは多分変わることは無いし、さとちゃんの為に変えるつもりは無い。
「でも」
あぁ、だけど。でも。
ネモさんが作ってくれたごはん。美味しかったな。
外でするゲームも、面白かった。さとちゃんも、いて欲しかったな。
今度はさとちゃんと一緒に来れたらいいな。
乃亜君に叶えてもらう願いの先にある、明日(みらい)を思い浮かべながら。
もう一つだけ確かだって思えたことを、私はネモさん達に言う。
「───綺麗だよね」
ネモさん達は目を丸くして、横になる私のことを見てくる。
だから私はまた眠るフリをした。
…欠けて行くことも、まん丸になっていく事も無い。
ライトに照らされて光る、借り物の月でも。
手を伸ばしたら簡単に届いてしまう、追いかける必要のない月でも。
私の欲しい、ほんとうの月だと思う事ができなくても。
それでも、月は月なだけで……きっと綺麗なのは変わらないんだ。
───きっと、夜明けが来れば消えてしまうのは本物の月と変わらないけど。
───その時が来るのは遠ければいいな、そう思える位に。
【E-3 モチノキデパート/一日目/放送前】
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:ネモさんが乃亜君を倒すのを邪魔する。そうしないと、さとちゃんを助けられない。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
3:マーダーが集まってくるかもしれないので、自分も警戒もする。武器も何もないけど……。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、
改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に業、マリーンの腕章@Fate/Grand Order
[思考・状況]基本方針:対主催。
0:一旦ネモ達と同行して、ジャックが来るか暫く待つ。
1:ネモを信じる。私を信じてくれる彼を守りたい。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す。
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か。梨沙、怒ってないかしら。
5:藤木と偽無惨は殺す。
6: マサオもついでに探す
7:ニケの言ったことは、あまり深く考えないようにする。
8:ネモ、やっぱり消えるのね
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」の効果が強化されました。
参加者や支給品を除いた物の破壊の点が見えるようになっています。
【的場梨沙@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]健康、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)
[装備]シャベル@現地調達、ハーピィ・ガール@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:シカマルについていく
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
4:桃華を探す。
5:フランはちょっと怖い。でも…悪い子ではないと思う。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。
投下終了です
ゼオン・ベル、ジャック・ザ・リッパー、ガムテ予約します。
此方が放送前の最後の予約を予定しております
投下ありがとうございます
梨沙ちゃん、ここまでの成長を感じますね。
最初の頃、シカマルに忍法でどうにかしろとか無茶ぶりするわ、乃亜の放送にパニックになって、シカマルに宥められてたこともあったの懐かしい。
怖がりはしてもフランの吸血鬼化プランも上手く流して、良い感じに着地させるのは流石ですね。
仲良くしましょうから、吸血鬼になろうは中々のぶっ飛びなんだよなあ。
動揺を悟られつつもフランと敵対しないように振舞う、俳優業が活きている……。
重曹ちゃんの台詞引用してるのも嬉しいとこですね。重曹ちゃんが死んで、それでも呪いとして残るのではなく、尊い太陽として輝いていて自分もそれに負けないくらい輝こうとするのは梨沙らしい。
北条のダラズがトラウマですけども。
フラン、正直人との距離感バグってて倫理観も大分飛んだ、東方のやべーやつではあって。
ネモが大分良くして、ようやく手遅れになってない一面もあると思うんですけど。
それでも諦めず信じ続ければ、偽物でも本物に近づいてそれになれるかもしれないってのは型月というかFate的な考えで感慨深い。
マリーンが大人のようにフランを見守って導いているのが印象的。本編だと、大分子供っぽいけどやはりネモと同一人物なんだなあ。
その後で、ばっさり切るしおちゃんが浮き立つ。
さとちゃんが本当で、それ以外は捨ててもいい本当ではないのが悲しいですね。
奇麗だし消えるのが遠ざかれば良いけど、決して消えて欲しくない訳ではない。
ネモも悟空も好きだけど、彼らでないと駄目って訳ではない
ネモというかこの島の全ての参加者とは決して相いれない致命的な溝ですよね。
ただ、しおちゃんも世間としては拉致監禁された被害者であって、その犯人であるさとちゃんとの関係が、全て偽りのない本当の愛だったのかと問われれば難しい所なので。
この発言は皮肉になっているのかも。
あと予約に関して、現在の予約を持って一時受付を休止とさせていただきます
現在の予約投下後に二回放送を投下し予約を再開といたします
宜しくお願いします
投下します
目を醒まして早々、藤木茂と言う少年を襲ったのは絶望だった。
「ど…どうしよう、どうしよう……まだ一人も殺せてないよ………」
唇をこれでもかと青くして、震えながらうわ言をぶつぶつと呟く。
不味い。もう少しでシュライバーとの約束の時間が来てしまう。
それなのに自分はまだ一人も殺せていない。
シュライバーとの約束を違えれば、永沢君は助けてもらえない。
それどころか、自分まで殺されてしまう。
嫌だ。殺されたくない。死にたくない。何で僕がこんな目に。
ネモが悪いんだ。あいつが邪魔をするから…!殺してやりたい。
あぁでも今は僕の命が危ないんだ。どうすればどうすればどうすれば────
ぐるぐると思考の堂々巡りに陥る藤木に、たった一人声を掛ける者がいた。
彼の隣に佇む少年──鬼舞辻無惨。正体を魔神王と言う怪物は、諭すように藤木に告げる。
まだ諦めるには早い。放送を過ぎても、約束した人物と出会う前に首輪を集めればよい。
そう言い聞かせるように魔神王は語ったが、藤木にとってそれは安全圏からの無責任な物言いに思えてならなかった。
(そうだ…もとはと言えば無惨君が僕を口車に乗せたからじゃないか……)
あの時無惨の言葉に乗らなければ、きっと上手く行った。
もっとネモ達を信用させた上で不意打ちし、首輪は集まっていただろう。
なのに、それなのに。藤木の中で八つ当たりめいた黒い炎が灯る。
(無惨君を殺して首輪を奪えば………)
それで一つ、まだまだ厳しいモノの、足しにはなるだろう。
無惨の言葉の通り、放送後でもシュライバーに見つかりさえしなければ何とかなる。
今の流れが変わる可能性は、十分あるように藤木には思えた。
バチリと、彼の掌で雷の火花が散り。行くぞ、と心の中で言い聞かせる。
それを皮切りに────恐怖が、訪れた。
「私を殺しますか?」
実ににこやかに、無惨は藤木にそう尋ねた。
図星だったために一瞬言葉に詰まる物の、そうだと返事を返そうとする。
そして───体中が寒く、震えている事に気が付いた。
「う、うわあああぁああああぁああッ!!」
絶叫。
ちらりと視線を下に向けてみれば、感じた寒気は精神的な物だけではなかった。
一瞬にして、瞬きの間に、彼の下半身は凍結していたからだ。
何か閉じ込められているように、体を雷に変えて脱出する事も出来ない。
「どうしたんですか。死にたくないのでしょう?」
だったら、頑張らないと。
引き絞られた無惨の口の端は、耳元まで届きそうな程裂けていて。
彼が一歩踏み出すごとに、ぱきぱきと世界が凍り付いていく。
化け物。目の前の少年に対して、藤木が思うのはその一言だった。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い───
誰か助けて。ウルトラマン、仮面ライダー、神様仏様お釈迦様、悟空……
あらゆるヒーローや神仏に祈りをささげたが、誰一人として来る気配は無かった。
勝てる相手ではなかった。なのに自分はどうして殺そうなんて考えたのだろう。
シュライバーや無惨の様な絶対的な強者を前にして、やるべき事なんて決まっているのに。
「お、お願い……何でも言う事聞くから…もう逆らわないから……許して……殺さないで」
命乞い。
絶対的な捕食者を前に、藤木ができる事などそれくらいの物だった。
そして、結果的に命乞いは功を奏した。
無惨は先ほどまでの笑みから子供らしい微笑に表情を変え、藤木の耳元で優しく囁く。
落ち着いて、氷の内部に展開して貴方を閉じ込めていた魔力はもう解きましたから。
後は、雷に変わるだけで大丈夫、と
指示の通り雷に身体を変化させると、電熱であっさり氷の戒めは溶け墜ちた。
だが藤木の心は晴れない。ただ無力感だけが彼の胸中に渦巻き、項垂れる。
そんな彼の心の闇に付け込む様に、悪魔は誑かす。
「許せませんか?」
「……許せ、ない?」
「えぇ、折角上手く行きそうだった襲撃を邪魔した。あの船乗りが」
「船乗り……ネモ………」
いけすかない少年の顔を思い出し、藤木の心に黒い焔が燃え盛った。
そうだ。あいつさえ邪魔しなければ全部上手く行っていた。
自分はシュライバーに脅されている被害者なのに。優しくしなければならないのに。
それなのにネモは対峙した時、此方を見下げ果てた目で見つめていた。
自分は友の為に……永沢の為に戦っているのに。
綺麗ごとを抜かすなら、友達の為に必死で戦っている自分に命を差し出すのが筋だろう。
なのに邪魔をして、彼奴さえ、余計な事をしなければ。
「あいつさえ……いなかったら………!」
ドス黒い逆恨みの炎は一瞬で燃え広がり、藤木少年の心を黒く染め上げた。
ネモの顔を何度も引き裂いて、踏み躙る昏い妄想に頭の中を浸す。
そんな彼の様子を見て、ほくそ笑みながら魔神王は告げた。
ならば復讐を果たしに行きましょう、と。
「うん、も…勿論さ、ふふふ………」
圧倒的な恐怖。それから来る攻撃性。そしてネモへの復讐心。
これだけ揃えば、藤木の良心など紙細工も同然だった。
黒い炎にあっという間に焼き尽くされ、灰となって何処かに散っていく。
後に残るのは、臆病で子供らしい身勝手さの道化が一人。
創り上げた作品を前にして、魔神王は幾度目かの愉悦の笑みを零した。
そして、周囲に微かに霧の魔力の残滓が漂う方向へ視線を向け、愚者の扇動を行う。
「では、参りましょう」
何処に行けばいいかは、霧が案内してくれるでしょうから。
鬼舞辻無惨が決して浮かべぬであろう、爽やかな微笑と共に。
次なる凶事を予感させる言葉を、魔神王は口にした。
言っている事の意味は分からないが、藤木も心の底から信頼した様子で笑い返し。
そして、先を歩く魔神王についていく。親を追いかけるひな鳥のように。
絶死の海岸線に向かうレミングのように。
その行いが今度こそ引き返せぬ泥沼に沈むやもとは、考えもしないで。
……結局の所、藤木茂は奴隷だった。
常に誰かの思惑に影響を受け、動かされる奴隷だった。
それも自分が奴隷である自覚さえ殆どない、生粋の奴隷だった。
だが例え彼は自分が奴隷であることに気づいても、何もしないし、できないだろう。
自分の意志で歩く自由は、誰も自身の行動が正しいと保証してくれない恐怖と表裏一体。
翻って奴隷でいることは楽だ。深く自分の行動について考えなくてよい。
自分の行動が正しくないのではないのかと言う疑念とは無縁でいられるし。
何か不都合が起きれば他人のせいにすることが出来る。被害者でいる事は楽なのだ。
だから藤木茂はこれからも、誰かの被害者であり、自身を持たぬ奴隷であり続ける。
【D-4/一日目/昼】
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:気絶、ゴロゴロの実の能力者、シュライバーに対する恐怖(極大)、自己嫌悪、ネモに対する憎悪
[装備]:ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
[道具]:基本支給品、拡声器(羽蛾が所持していたマルフォイの支給品)
グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)、賢者の石@ハリーポッターシリーズ
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:何とかシュライバーとまた会うまでに10人殺し、その生首をシュライバーに持って行く。そうすれば僕と永沢君は助かるんだ。
1:次はもっとうまくやる。無惨君(魔神王)についていく。
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う。
3:無惨(魔神王)君と梨沙ちゃんを殺しに行く。
4:僕は──神・フジキングなんだ。
5:梨沙ちゃんよりも弱そうな女の子にすら勝てないのか……
※ゴロゴロの実を食べました。
※藤木が拡声器を使ったのは、C-3です。
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(極大)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:いいだろう。誘いに乗ってやろう。
1:絶望王は理解不能、次に出会う事があれば必ず殺す。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
6:藤木を利用して人間どもと殺し合わせる。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※右天の脳を食べた事により、右天の記憶を獲得しました。バミューダアスポートは脳が半分しか無かった為に使用できません。
※野原しんのすけの脳を食べた事により、野原しんのすけの記憶と知識と技能を獲得。野原しんのすけの姿になっている時に、野原しんのすけの技能を使用できるようになりました。
※野原しんのすけの記憶により、フランドール・スカーレット及び佐藤マサオの存在を認識しました
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
畑のレストランの栽培は、一言で言って上手く行った。
鰹節の一番だし。カツオブシチップス。おかかおにぎり。
ゼオンの望むオーダーを、22世紀の未来科学の産物は見事に答えてみせたのだ。
おかかおにぎりを一つ取り、あんぐりと口を開いて豪快に齧り付く。
「うん、美味い。美味いな………」
「おいしーね!」
ゼオンの傍らでハンバーグを手づかみで食べるジャックの顔も、笑顔そのものだった。
どうやら、魚介系だけでなく肉も完璧に再現しているらしい。
どういう原理で調理済みの状態で出されているのかは皆目見当もつかないが。
「いいなァ〜……それ、俺も欲ち〜ぃ」
舌鼓を打つ二人を、物欲しげに見つめる三人目。
ガムテは涎を垂らしながら、人差し指を口の端に当てて強請る。
だが、ゼオンは肩を竦めて、嘲笑うように言った。
「あぁ、俺の手足として働くなら下賜してやらんでもない。
………尤も、それはお前が使えるかどうか次第でもあるがな」
両者の利害は一致している。
同じく優勝を目指し、殺し合いに勝ち残る為に殺戮に興じるスタンスだ。
狡猾に、冷徹に、消耗を避けるために手を組むことも厭わない。
シュライバーの様な誰でも構わず噛みつく狂犬とは決定的に違う。
そう言う視点から言えば、お互い拒む理由は無いと言えた。
だがそれはあくまで組むに値する旨味を感じる事ができる相手に限る。
お互いに、足手纏いは必要ないのだ。
だから、ゼオンは欲していた。目の前の相手が組む値する実力を備える証明を。
「ん〜〜〜使えるか、ねェ………」
ぽりぽりと、頭を掻いて。
ガムテは今しがた自分が言われたことを咀嚼する様に反芻する。
そのすぐ後、彼は「よしッ」と一言気合を入れて。
「ほんじゃあ……こういう余興(ボケ)はどーお?」
言葉を言い終わると同時に、ガムテの姿が掻き消えた。
目にも止まらぬ速度の更に先、目にも映らぬ速度で以てして。
ゼオンが座るカフェテリアのテーブルの周辺を、駆けまわっているのだ。
それに伴い、周囲にラップ音とよく似た、空気の爆ぜる音が絶え間なく奏でられる。
ゼオンの背筋に飛来する殺気。思わずその手の刀を握る力が強まり。
一際近い位置でラップ音が鳴り響くのに合わせ、彼は握り締めた鮫肌を振るった。
刀と言うよりも、生きた巨大な鮫を刀にして振るっている様な大刀。
ゼオンの背丈の優に3倍はある鉄塊染みた忍刀が、空間を疾る。
大気が震えた様に、周囲に突風が吹き抜け。
同時に不可解な現象が起きた。
一向に破壊音が訪れない。無音なのだ。
見る者がいれば確実に何かが起きた事は確信できる状況であるのに。
その異変を示す、音の一切が存在しなかったのだ。
「………成程な」
ゼオンからすれば、これで壊してしまっても構わなかった。
大刀がガムテの五体を粉砕しても、ただ期待外れの烙印を押してそれで終わっただろう。
だが、現実は彼の想像を超える光景を創り上げた。
躱された訳ではない。であれば地面やテーブルを抉った破壊音が響いていた事だろう。
受け止められていたのだ。刀剣と言うより戦槌と呼ぶ方が相応しいその大刀が。
ぴたりと、一本の刀の前に静止していた。
戦闘用の本意気で振るった刃ではない。だが音すら奏でる事無く受け止められるとは。
そう、正しく攻撃が断末魔の叫びすら上げる事無く“殺された”様な────
「俺が接近に気づかなかったのは……」
「あぁ、偶然(マグレ)じゃないよん☆」
戦えば勝利を収めるのは自分である。その認識は全く揺らがないが。
それでも恐るべき技巧だと、ゼオンは無表情の裏で驚嘆せざるを得なかった。
紛れもなく、身に着ける事に生涯を捧げやっと至れる領域の技巧(スキル)の持ち主。
評価を下す。目の前の道化は味方に加えるに相応しい実力者だと。
同時に、決して隙も見せられない、油断ならぬ相手でもある事も確信した。
「いいだろう。野放しでは単なる気狂いでも、王が飼えば歴とした賊だ。使ってやる」
「承諾(おけまる)。んじゃあ今後ともよろぴくゥ〜!」
「うん、よろしくねー」
ゼオンは、ガムテとの結託を受け入れた。
ジャックも特に憚る事無く、あっさりと了承の意志を示し。
傍らのジャックの手を取って、ぶんぶん振りながらお道化るガムテ。
その様を見て、ゼオンはやはりこいつただの馬鹿なんじゃないかと言う思いに駆られた。
その二秒後に、彼がどっかとカフェのテーブルに腰掛けて。
そしていつの間にか手にしていた“おかかおにぎり”を口にするのを見るまでは。
反応できぬ速さに依る物ではない。手品のミスディレクションの様な手法を用いたのだ。
ゼオンのパートナーがいたらそう看破していたに違いない。
やはりただ見下せる相手ではない。ゼオンは改めて思い知らされる。
そんな彼に、おにぎりを半分ほど一口で口に入れ咀嚼しつつ、ガムテは尋ねる。
「で?折角友達(ダチ)になったちィ〜?死亡遊戯(ゲーム)の相談ちたいなァ〜、俺」
ごくりと咀嚼していたお握りを嚥下して、ニカッと不気味な笑みを浮かべるガムテ。
彼の視線はゼオンの紫電の瞳に向けられ、次いでデパートの方へと移動した。
目は口程に物を言うというがその言葉の通り、殺しの王子様の視線は雄弁だった。
当然、お前もデパートに複数の人の参加者(カモ)が集っているのは把握しているだろ?
そう彼の狂気を宿した瞳は語り、ゼオンに発言を促してくる。
標的(タゲ)が雁首を揃えている中、どうするね?と。
「ジャック」
ガムテが見据える中、ゼオンはもう一人の己の手足の名を呼んだ。
呼称にぴくりと反応したジャックはずぞぞぞと一緒に収穫したジュースを飲み干して。
そして、己の成果を報告する。
「うん、えっとー……あの大っきいたてものには多分、全部で八人くらいいたよ
つよそーなのはその中で四人くらい。一番こわいのは前にも見た青いふくの人かな。
ほら、少し前にゼオンがしょうぶした………」
「あいつか………他の参加者はどうなってる?」
「他の三人もサーヴァントくらい強いけど、一人一人ならゼオンが勝つよ」
「後は雑魚か?」
「うん。わたしたちのおやつ」
畑のレストランの実が収穫可能になるまでの時間で、ジャックは近辺に斥候に出ており。
デパートに他の参加者が集まっているのに気づいたのは、その成果だ。
こっそり潜入を行い、集まった者を一人一人観察。
全員の人数と戦力だけ確かめて、見事気取られる事無く帰還を果たした。
本当なら一人か二人殺しても良かったが、流石に単騎では一団と戦力差がありすぎる。
万が一のリスクを考え、手を出す事無く素早い撤収を彼女は選んだ。
「……気取られてはいないだろうな」
「うん、青いふくの人以外はだいじょうぶだと思う」
彼女の暗殺者としての能力を示す気配遮断のランクは最高位であるA+。
暗黒霧都の宝具を開帳せずとも、戦闘に入らなければまず気取られる恐れはない。
唯一、青いコートを纏った金髪の少年だけは迂闊に近づく事はできなかったが…
仲間に自分の存在を伝えている様子も無かったため、問題は無いだろう。
その旨をデパート内の人員、戦力を含めて彼女は余す所なく仮初の主に報告した。
「へぇ〜一人で潜入(ソリッド)とかスゲ〜じゃぁ〜ン☆」
「えへへへ……そう、わたしたちすごい?」
「おぉ〜よ!偉大(パネ)ェぜ、ジャックゥ〜〜〜!!!」
隣で話を聞いていたガムテはジャックの手を取り、タンゴの如く軽やかにステップを踏み。
割れた子供達(グラス・チルドレン)に勧誘(ドラフト)したい位だと彼女を褒めた。
対するジャックも、目の前の相手が友好的である事を認識し、きゃっきゃと喜ぶ。
生まれそこなった幾万の水子であるジャックと。
ガムテが王として冠を被る殺し屋集団、割れた子供達は非常に近しい存在だ。
時代が違えば何方かが何方かの一員になっていたかもしれない位には。
彼等は子供としては共通して最底辺の、卑賤の徒であった。
だからこそ、短時間で打ち解けるのは必然だったのかもしれない。
「………………」
二人のやり取りを冷めた視線で見つめつつ、ゼオンは無言で考えを巡らせる。
考える事は即ち襲撃を行うかどうか。
現時点では、流石に三人だけで挑むにはリスクが高いと言わざるを得ない相手だ。
特に、極まった領域の念動力を扱う青コートの少年が目の上の瘤だった。
つい先程は漁夫の利を得る形でゼオンは勝利を収めたと言えるが。
相手の手勢が豊富な状況で、真っ向から挑むのは非常に危険を伴う。
欲をかいて、手痛い反撃を受けるのは望むところではなかった。
出来る事なら、青コートは此方に有利な状況に誘い込んだ上で挑みたい。
それ故に今回は敬遠する他は無いか……そう決断しようとした時だった。
もう一つ、ジャックからの報告が入ったのは。
「あぁ、あとねー……さっきゼオンがしょうぶした氷を使う子も、近くにいたよ」
その言葉は、ゼオンが下し駆けていた方針の風向きを大きく変えるモノだった。
「なにっ」と声を上げて、すぐさま詳細を話すように促す。
こくりと頷いてから、ジャックはデパートの屋上に上がった際に確認した氷使いの敵。
魔神王が近辺にうろついている事を語った。
姿形こそゼオンが交戦した時とは性別からして変わっていたが。
気取られない程度の距離まで接近し確認した所、魔力が既知の物である事に気づいたのだ。
冷気を纏った強大な龍種の魔力が、ごぼうの様な少年の傍らに佇む者から漏れ出ていた。
言うまでも無く、魔神王が取り込んでいたデモンズエキスが放つ魔力である。
それが無ければ恐らくジャックは氷使いの少女と、その少年が同一人物である事に気が付かなかっただろう。
「ぜったいその氷の子かは分かんないけど…たぶん、そうだと思う」
偶然にも助けられ、ゼオン達は魔神王が近くにいる事を知った。
あの青いコートの少年とも真っ向から渡り合うマーダーが近くにいる。
これは使えるな。ゼオンは鮫のような歯を剥き出しにして笑いジャックに尋ねる。
「ジャック、お前の霧を使えば、奴らをデパートの方へ誘導できるか?」
「さぁ?でも……うーん……たぶんできると思うよ。
その子があの大っきいたてものの所まで行ってくれるかはわかんないけど」
「十分だ、行かなかったその時は勝負を降りればいい。火中の栗は奴に拾わせる
あの青コートさえいなければ、朝方手に入れた支給品で分断できるだろう」
この瞬間、ゼオンの方針は確定した。
当初は捨て駒(ルサルカ)を使い、一人か二人でも削れれば儲けものと思っていたが……
青コートと潰し合わせる手駒がいるのなら、話は変わって来る。
三つ巴の混戦に持ち込めば、自由自在に霧を操れるジャックがいる此方が有利だ。
分断も撤退も、視界の効く自分達の思うがままなのだから。
分断方法についても、既に青コートの少年から手に入れた支給品で当てがある。
「ブラックホール」及び「ホワイトホール」と銘打たれた二枚のカード。
これ等とジャックの霧をうまく使えば、相手が一大集団でもさして怖くはない。
強者を各個撃破するか、或いはジャックの言う弱者を一網打尽にするか……
計算を巡らせるゼオンだったが、蚊帳の外のガムテは当然意図が分からず憤る。
「ちょっと男子ィ〜俺だけ仲間外れで話進めてんじゃねーよ。殺っちゃうゾオラッ!」
ぷんぷんと腹を立てた様子のガムテに、平坦な声でゼオンは説明を行った。
放送後にジャックの能力の霧を出し、それで近場にいる腕利きのマーダーを誘導する、と。
件のマーダーとデパートの集団を潰し合わせ、頃合いを見て自分達が横合いからブン殴る。
意図的に乱戦の状況を作り出し、生まれる利益は此方で総浚い。
ファウード強奪を目論んだ時と同じ、慎重かつ狡猾な策だった。
「ふーん…了解(りょ)。けどよォ〜、誘導するまでに察知(バレ)ねぇといいけどなァ」
話は大方飲み込めたが、問題も見受けられた。
突然霧何て出てきたら、デパートにいる連中も勘づくだろう。
その時点でデパートを引き払われたり、自分達の存在を看破し向かってくる恐れもある。
そうなれば面倒だが、その対策はあるかとガムテは躊躇なく尋ねた。
現時点では、とても命を預けるに足る作戦ではないと見受けられたからだ。
彼の懸念に、当然考えているとゼオンは即座に言葉を返す。
「ルサルカと言う雌猫を傀儡にしてある。
そいつをけしかけて、氷使いの女の誘導が成功するまで目くらましとして働いてもらう」
放送後、タイミングを見計らって傀儡にしてあるルサルカをデパートの連中に特攻させる。
この襲撃は成功しようとしまいと何方でもいい。元より期待はしていない。
引き付けている間にジャックの霧を展開し、氷使いのマーダーをおびき寄せるのが本命だ。
襲撃に成功し後戻りでき無くなれば、そのまま飼い続けてやってもいい。
逆に制圧されるか、氷使いのマーダーの誘導に失敗した時は容赦なく斬り捨てる。
バルギルドザケルガの出力を最大まで引き上げ、敵の廃人(おもに)に変えてくれよう。
「嘲笑(くさ)、また負けてたのかあの雑魚年増(かませババア)」
ゼオンの話から傀儡にされたルサルカと言う女は、自分が刺した女だという事に気づき。
ガムテはどんだけ負け続けるんだあの女と思わずにはいられなかった。同情はしないが。
ともあれ、話は理解した。理解した上で、それなら乗ってもいいとも思えた。
要するにこれは釣りだ。ジャックの異能(チート)を餌に、敵を釣り上げる試みだ。
となれば、後残る問題は───
「話は分かったけどさァ、ちゃんと釣れっかなァ?」
「奴が直接釣れなくても、青コートが動けばそれで問題はない。逆も然りだ」
一度交戦したから分かる。あの氷使いと青コートは顔を合わせれば戦わずにはいられない。
近しいが、決して相いれない存在だ。それが直ぐ傍に現れれば無視できるとは思えない。
加えてジャックの報告では、デパートにいる者でゼオンに迫る強者は青コートの少年のみ。
他にもライダーのサーヴァントや吸血種が二体いるものの。
ルサルカや非戦闘員も多くいる為、霧を出して分断すればさして脅威ではない。
氷使いの少女と青コートの少年がぶつかる様に誘導できれば、事は成ったも同然。
何故なら、青コートの戦法は影響範囲が大きすぎる。
乱戦になれば流れ弾で徒党を組んでいる相手が死にかねない。
それ故に、ひとたび戦闘が始めれば羊たちは自分から羊飼いから離れなければならなくなるのだ。
「後は横合いから殴りつけ総浚いする…可能ならあの青コートの首もいただく」
「キャホッ☆そう来なくっちゃなァ〜!
放送(ホイッスル)が鳴ったら死亡遊戯(カチコミ)の時間だァ〜www!!」
猿の様に手を叩き、ぴょんぴょん跳ね回るガムテ。
本来彼は殺し屋として殺しを行う舞台には拘る性質(タイプ)だ。
狡猾に、入念に、殺し屋として相手の事を探り上げた上で勝負に臨む。
だが忍者すら超える異能力(チート)跋扈するこの戦場では。
彼もまた、積極的な攻勢に出ざるを得ない。
彼は薬(ヤク)と天才的な殺しのセンスだけで、この殺し合いを渡っていける実力はある。
だがしかし、そこ止まりだ。優勝には決して届かない高い壁が彼の前に横たわる。
そう、あのウォルフガング・シュライバーの様な。
(けどよォ〜それもこの世界を支配してる悪魔(ノア)次第だよなァ……)
どれだけシュライバーが強かろうと、首輪を嵌められている以上乃亜には勝てない。
この殺し合いを制するのは強者ではない。最も悪魔(ノア)を味方につけた者だ。
乃亜は何よりも血を、死亡遊戯(ゲーム)の完遂を望んでいる。
それ故に、あの子供の望み通りに踊れば、それだけ恩恵を受けられる可能性は上がる。
本来なら決して勝ちえぬ相手を下す魔法(チート)をも授けられるかもしれない。
この催しがシュライバーが主賓の虐殺でない限りは。
では、それを目指すにあたって乃亜が望む踊り方とは何か。
「勿☆論☆
殺す択一(タクイチ)よなァ〜…」
殺す。優勝への道を阻む相手を悉く殺し尽くす。
ガムテが今まで歩んできた人生と何も変わらない。
だから彼は今後も殺す。例え金色の王と一時の共闘に興じようとも。
その共闘が彼の生きてきた手段を変える事は決して無い。
だから殺しの王子さまは何時もの通り、道化の振る舞いで凶行に及ぶ。
……それ以外の生き方を選ぶには、金色の出会いは余りにも遅かった。
「何人解体できるかな〜」
「あぁ、ジャック。キックオフと同時に殺(ヤ)り放題(ホ)だぜ。競争するゥ?」
「うん!!」
ジャック、ガムテ共に士気は高い。
殺戮のプロである彼らは両者共に、分かっているからだ。
氷使いのマーダーの誘導さえ成功すれば、勝てる殺しだと。
そうでなければ、幾ら必要があると言っても安易に勝負の卓に着いたりしない。
彼らは戦闘を望む戦士ではなく、殺戮をこそ望む殺し屋(アサシン)なのだから。
「………フン」
ゼオンは殺す者同士馬が合うのか盛り上がる二人を、ゼオンは蔑みの視線で見つめた。
それも当然である、彼は王子であり、目指すのは次なる王の椅子だ。
古来より暗殺者とは王の障害を秘密裏に始末する低俗の存在。対等には成りえない。
「放送後に氷使いの魔物の誘導に成功次第襲撃に移るぞ、準備をしておけ」
「あの影を使う魔術師の子はどうする?」
「あの女は捨て駒だ。最初から当てにしていない。
目くらましの役目が終わり次第、術の効果を最大まで引き上げて精神を破壊する」
襲撃を成功させればまた扱いも考えるが、十中八九そうはならないだろう。
その判断から、既にゼオンはルサルカを切り捨てる決定を半ば下していた。
非情を超えて外道の領域に踏み込む判断だったが、異を唱える者はこの場に誰もいない。
ただどうせ使い捨ての道具なら役に立ってくれればいいな、と思う程度だ。
だがガムテは敢えてこの時、道化として王子に意見を行った。
ちっちっち、と人差し指を左右に振って、欠けた歯を覗かせながら彼はニカっと笑い、
「襲撃(カチコミ)についてはいいけどさァ、一個悪童(ワルガキ)として意見しちゃう」
「………何だ」
「言い方が赤点(ダメダメェ)。気合入れたきゃ言うもんだ。王子(プリンス)」
耳打ちを行い、ごにょごにょと意見を吹き込むガムテ。
それを聞いて、ゼオンは「貴様ら等と一緒にするな」そう反応したモノの、しかし。
少し考えた後、その手の大刀をびゅうと振るい。
ギザギザと鮫のような歯を獰猛に覗かせた笑みを形作り、宣言を発する。
王を目指す王子ではなく、一人の悪童(ワルガキ)として。
血と死を呼ぶ前触れとして。
────備えろ。時が満ちると共に、悪事(ワル)さをかますぞ。
何方が生存(いき)るか死滅(くたば)るか。
そんな時間が、再びやって来襲(く)る。
【E-2 /1日目/昼】
【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]失意の庭を見た事に依る苛立ち、ジャックと契約、魔力消費(小)、疲労(小)
[装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!!
[道具]基本支給品×3、ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ、
「ブラックホール」&「ホワイトホール」のカード@遊戯王DM
ランダム支給品4〜6(ヴィータ、右天、しんのすけ、絶望王の支給品)
[思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。
0:放送後に氷使いのマーダー(魔神王)を釣り、デパートの連中と潰し合わせる。
1:ジャックを上手く使って殺しまわる。
2:放送後、雌猫(ルサルカ)を餌に釣りをする。用済みになれば雷で精神崩壊させる。
3:絶望王や魔神王に対する警戒。更なる力の獲得の意思。
4:ガムテは使い道がありそうなので使ってやる。ただ油断はしない。
5:ジャックの反逆には注意しておく。
6:ふざけたものを見せやがって……
[備考]
※ファウード編直前より参戦です。
※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。
※ジャックと仮契約を結びました。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Grand Order】
[状態]健康、満腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、探偵バッジ×5@名探偵コナン、ランダム支給品1〜2、マルフォイの心臓。
[思考・状況]基本方針:優勝して、おかーさんのお腹の中へ還る
1:お兄ちゃんと一緒に殺しまわる。
2:ん〜まだおやつ食べたい……
3:つり、上手く行くかなぁ?
4:何人解体できるかな〜♪
[備考]
現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。カルデア所属ではありません。
ゼオンと仮契約を結び魔力供給を受けています。
※『暗黒霧都(ザ・ミスト)』の効果は認識阻害を除いた副次的ダメージは一般人の子供であっても軽い頭痛、吐き気、眩暈程度に制限されています。
※デパートにいる人員を確認しました。
【輝村照(ガムテ)@忍者と極道】
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(小)
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、
破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order、妖刀村正@名探偵コナン、
[道具]:基本支給品、魔力髄液×9@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:ゼオンと組んでデパートの連中をブッ殺す。ゼオンもそのうち殺す。
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:シュライバーを殺す隙を見つける。
5:じゃあな、ヘンゼル。
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。
『ブラックホール&ホワイトホール@遊戯王デュエルモンスターズ』
絶望王にセットで支給。
『ブラックホール』
発動時にフィールドのモンスターを全て破壊する魔法カード。
効果はモンスターカードのみに適用され、参加者や意志持ち支給品には適用されない。
ただ乃亜の調整により本ロワでは参加者に適用される効果も存在し、このカードの発動時、
その場の参加者全員はブラックホールに飲み込まれ、会場のランダムの場所に転送される。
一度使用すれば12時間は使用不能となる。
『ホワイトホール』
相手が「ブラック・ホール」を発動した時に発動する事ができる。
自分フィールド上のモンスターは、その「ブラック・ホール」の効果では破壊されない。
ブラックホールと同じく、本ロワでは参加者に適用される効果も存在する。
このカードを発動すると、ブラックホールの効果を受けた参加者一人一人の転送先を、
任意の場所に変更する事ができる。
一人を遠くに飛ばし、それ以外を纏めて同じ場所に転送するなどの応用も可能である。
投下終了です。
また事後になりますが藤木茂と魔神王をゲリラ投下させて頂きました
投下ありがとうございます
藤木君、きみは本当に卑怯だな。人を殺す理由に僕を使うなよ。
永沢君ならば、きっとこう言うじゃないでしょうかね。魔神王に半ば脅されちゃったら、言う事聞くしかないのもあるんですけどもね。
もう開幕藤木君がいるせいで、笑っちゃいましたけど。弱さが人として生々しくて、笑わないと見ていられないですね。
ガムテ、ジャックの優秀さをちゃんと褒めるし、ゼオンから状況把握もしっかり忘れずに聞いてるので有能度が高い。
強さも認めさせつつ、ゼオンを立ててるのもクレバーですね。
実際、この中じゃ一番大人なんですよね。年齢もですけど精神的にも、割れた子供達の味方でいなければならないので馬鹿のフリしつつしっかりしてる。
シュライバーも脅威だけど、一番力持ってるのが乃亜なのを理解した上で掌で踊ってやるってスタンスもカッコいい。
噛ませの年増扱いされるルサルカ、とても可哀想。
まだこのロワじゃ何も悪いことしてないのに。
ガムテから意見聞いて、宣言するゼオン。滅茶苦茶悪い顔してそう。
乃亜君、絶望王にブラックホールととホワイトホール渡したのは、そういうことですね。
長きに渡り、存在価値がないとされたホワイトホールが活躍できそうなのは、コンペLSロワだけ。
二回放送ですが、まだ投下日は未定ですが少々お待ちください。近日中には投下出来ると思います。
予約とSSの投下解禁も、二回放送話投下後にお知らせします。
<削除>
<削除>
投下します
『やあ、諸君。バトルロワイアルの開始から12時間が経過した。
これから第二回放送を行う』
雲一つない晴天、日の恵みが島を照り付け森林が緑を彩り、青海は煌びやかに日光を反射し、温暖で穏やかな様相を呈していた。
それは、一目見ただけであるのなら、美しい光景であっただろう。
だが、草木には虫の一匹もおらず、海には不自然な程に生物の気配もない。
かわりに、幼い少年少女達の遺体が無残に晒され、血生臭い戦場の残り香を漂わせていた。
ただならぬ命の奪い合いを予感させる異常な光景の中、無邪気な子供の弾んだ笑顔と声色で、海馬乃亜は自らの姿を写したソリッドビジョンを島の上空に投射する。
『先ずは死亡者の名前から読み上げていこう。
インセクター羽蛾
セリム・ブラッドレイ
磯野カツオ
雪華綺晶
サトシ
古手梨花
ドラコ・マルフォイ
灰原哀
ハンディ・ハンディ
ヘンゼル
佐藤マサオ
ハーマイオニー・グレンジャー
シャーロット・リンリン
ルーデウス・グレイラット
永沢君男
坂ノ上おじゃる丸
水銀燈
キウル
以上だ。
おやおや、随分と死んだね。
フフ…君達、やればできるじゃないか。僕としてもまさか、ここまで死亡者が増加したことに驚いている。
ようやく、理解できたということかもしれないね。この島では、殺し合いという法こそ全てだと。
未だに、世迷言をほざいている対主催諸君、そろそろ現実を見た方が良いんじゃないかな?
なに、迷う必要なんかない。君達の中で一人…代表者が優勝し、殺し合いで死んだ者達を全て蘇生したいと願うのなら、僕はその願いを叶えよう。
信頼と絆、仲間なら当然持ち合わせているものだろう? そう難しい話じゃないのさ、君達の望むハッピーエンドはすぐに手に入る、それも簡単な方法でね?
僕に無謀な戦いを挑むより、ずっと現実味があるとは思わないかい?
……ああ、そうそう禁止エリアを教えておこうか。
そうだね……
E-3
F-4
F-7
以上の三つが、二時間後に禁止エリアとなる。覚えておきたまえ。
さてと、この辺で放送を終了しようと思っていたんだが、予想より血を見たいマーダーも多いようなのでね。
よって、実験的にではあるが…”報酬システム”というものを導入しようと思う。
名前の通り、殺し合いに励んでくれている君達への、ささやかな報酬でもある。
ルールは簡単だ。
これから先、君達が”一人殺す度”、”ドミノ”というこのゲーム内のポイントを、”100ドミノ”付与しよう。
そして、ドミノ保有数”上位3名”には君達の望む報酬を与える。
武器でも良いし、肉体の回復でも、バトルロワイアル内の情報の提供でも構わない。
君達に科せられたハンデを軽減すると言ったことも、検討しようか。
ようするに、次の放送までに殺せば殺すだけアドバンテージを得られるんだ。
上位3名に見事なれたのなら、タブレットに追加されたアプリで報酬を申請できる。
その間なら、僕にコンタクトも取れるから報酬に関して要望があれば、ある程度は応相談に乗ろう。
まあ、あくまでこれは公平なゲームだ。報酬に限度があることは、心得ておくと良い。 あまりに、ふざけた要求は却下する。無駄な時間は、取らせないでくれ。
そして、ドミノの有効期限だが、放送を迎え終了する度、全て0ドミノへとリセットされるものとする。
つまり、これから君達がこの2回放送後、3回放送までの間に3人殺害したとしよう。
だが、保有された300ドミノを4回放送まで持ち越す事は不可能ということだ。
多くのドミノを保有してるからって、働かなくなるのもつまらないからね。
それから、君達の中には直接的な殺戮だけではなく、地道に対主催に紛れながら扇動を行う者達も居る。
そんな彼らの為に救済処置も用意した。
それは、死亡者から回収した首輪を、”最低数5個”からの換金で”100ドミノ”を入手できるというものだ。
君達全ての参加者の中から、手持ちの首輪を換金した時、確実にドミノ保有数上位3名に入れる参加者は、自動で”定時放送15分前”にタブレットに通知が送られる、そして首輪を換金するか選べる仕組みになっている。
物忘れがひどくても、これで忘れる事はないだろう。
ドミノ保有数上位3名を決定するのは”定時放送の1分前”だ。
これも、決定された上位3名のタブレットに通知がいく。
その前に首輪をドミノに換金し、報酬を得るかどうか決める事だね。
現状、君達の個別の殺害数を見ていると、大体2人から3人の殺害…200から300ドミノあれば、上位3名に入れる確率は高い。
首輪が5個で殺害数1人分(100)ドミノが入手出来ると考えれば、もう一人確実に殺せる更なる弱者を殺める事で、200ドミノ確保できる。
正体を隠しながら、対主催に紛れ込む者達にとっては、少ないリスクで戦力を補充できるまたとないチャンスだろう?、
対主催諸君にとっても、これは朗報だ。
戦力に乏しくとも、足手纏いを殺害しドミノを入手すればいいのさ。
首輪に関しては、徒党を組んだ君達の方が数も勝りやすいだろうしね。首輪の数で補えば、上位層のマーダーにも負けない数のドミノを手に出来る筈だ。
君らには報酬を手にし、是非とも屈強なマーダー諸君に対抗して貰いたい。
何度も言うが、ドミノを手にする為に死んだ犠牲者達も、君達の内誰か一人が生き残り、全ての蘇生を願うだけで良いんだ。そう難しい事じゃない。
これって、マーダーよりも有利な条件なんじゃないかな?
信頼できる強者に弱者は身をゆだねるだけで良い。
君達の築く信頼なら簡単だろう? さあ、見せておくれよ。仲間を信じる絆の力とやらを。
どうするかは君達次第だがね。
報酬システムのルール説明は以上。
難しい事を考えたくないのなら、直接殺した人数が多かった上位3名が報酬を手に出来るとだけ覚えておけば良い。
首輪も、集めれば5個につき、1人殺した扱いになるかもしれない。
この程度の認識で十分だ。
タブレットにもルールを送信してある。それで、詳細をしっかりと覚えておいてくれ。
そうそう、ドミノの保有状況はタブレットに一切表示されないようにしてある。
だから、しっかりと自分のドミノ数は頭の中で計算し、記憶しておくことをお勧めする。
この先さらに面白いゲームを見られる事を期待している。
報酬システムを最大限活かして貰えると、僕も嬉しい。
では諸君、健闘を祈る。次の放送にまた会おう』
放送を打ち切り、乃亜は腰掛けていたチェアにより深く腰を沈める。
無数の画面には参加者達の動向を写す映像と、更に首輪の解析データを表示していたものがある。
ニンフが流出させた解析データだった。
「データ消去にはあと2、3時間は掛るか……それに今更消しても、誰かがデータを握っているな」
痕跡から既に、誰かがデータを取得したのは明らかだ。
ただし、ニンフのプロテクトにより誰が、データを手にしたのが不明だ。
「あの時点で図書館に近い現在位置だと、データを見た可能性が高いのはネモか灰原だが…」
高い確率でネモか、あるいは灰原哀が死亡前にデータを見たもののそのまま死んだとも考えられなくはない。
「カルデアを追加すれば、そちらに飛びつくと思ったけど…そうは上手くいかないね」
デコイとして追加したカルデアも機能しているとは言い難い。
もし、ネモがデータを入手しカルデア利用してで解析を行うのであれば、首輪の解除も時間の問題だろう。
見た目だけのハリボテならば良かったのだが、生憎と設備と備わった機能まで完全再現されている。
神として乃亜が振るう力も”融通”が効かないのは欠点だなと、乃亜自身苦笑してしまった。
首輪を外されるその前に、ネモを首輪の爆破で殺害するのも一つの手だった。
「首輪を外し、この僕に逆らう。そのスタンスそのものは認めるよ」
しかし、それでは殺し合いの完遂にはならない。
「ゲームの攻略法は自由だ。だが、僕もゲームマスターとして黙って見ている気はない」
だから。
ゲームという盤上はまだそのままに。
サンプルに必要な首輪を奪い合うようシステムを考えた。
それ以外にも、報酬を目当てによりマーダーが殺戮を過熱するように仕向ける狙いもある。
あとは、ネモとその周り次第といったところか。
「それに…手を出すのなら、カオスの方だ」
ネモよりも遥かに警戒すべきは、海馬コーポレーションに居るカオスだ。
あそこに転送されたデータを彼女が利用すれば、即座に殺し合いは終了するだろう。
そうなるのであれば、乃亜も直接動かざるを得ない。
「フフ…でも、僕が出張るにはまだ早いかな」
なにせ、ここからが面白くなってくるところなのだから。
ニタニタと、心の底から楽しそうな笑みで乃亜はまた画面を見始めた。
※ニンフが転送した首輪の解析データは残り3時間ほどで消去されます。
※ニンフの解析データは、誰がそれを見たか乃亜側からは探知できないようになっています。
乃亜は高い確率で、位置的にネモがデータを握ってるなと怪しんでるくらいです。
あと、カオスを警戒してます。
※二時間後にE-3、F-4、F-7が禁止エリアとなります。タブレットの地図アプリに、表示は反映されません。
※参加者のタブレットに報酬システムのアプリとルール説明が追加されました。
【報酬システムについて】
1.第2回放送後より、バトルロワイアル内のポイントとして『ドミノ』が発行される。ドミノ保有数上位3名は主催から『報酬』を受け取ることが出来る。
2.ドミノ保有数上位3名は、次の放送約1分前に決定する。
3.ドミノは参加者一人の殺害につき、その殺害者に100ドミノ付与される。
4.死亡者から回収した首輪を、最低数5個からの換金で100ドミノ入手できる。
例:首輪5個の交換で100ドミノ入手、首輪10個の交換で200ドミノ入手等。
手持ちの首輪を、必要個数ドミノへ換金すれば確実にドミノ保有数上位3名に入れる参加者は、放送15分前にタブレットに通知が来るので、首輪を換金出来るか選べる。
5.放送前に決定したドミノ保有数上位3名は放送後、次の放送開始までの6時間以内に、タブレットから報酬を申請できる。
6.ドミノの有効期限は次の放送終了後まで。
例えば、2回放送から3回放送の間に3人殺害し300ドミノ貯めても、3回放送後を過ぎれば0ドミノにリセットされる。
つまり、放送を過ぎた持ち越しは出来ない。
7.報酬は武器やアイテム、ダメージの回復、情報の提供等、その時の要望によって変わる。
場合によっては、主催と交渉も可能。
8.ドミノの保有状況はタブレットに一切表示されない。
9.ドミノ保有数が同率の場合、それまでのその参加者の累計殺害数が多かった者を上位として、判断する。
それも同率だった場合、両者に報酬が渡される。
投下終了します。
予約と投下の解禁ですが5月21日の0時からとします。
宜しくお願いします。
質問なんですが、一回放送後から今回の二回放送までにキルスコアを挙げた参加者は報酬は貰えないんですか?
>>424
今回の放送からスタートした制度なので、3回放送までにドミノを貯めて保有数上位3人にならないと貰えないですね
ただ同率の参加者が居た場合、ロワ開始から多く殺した参加者が優先されます
例えばこれから3回放送までの間に1位シュライバー(4人殺して400ドミノ)、2位メリュジーヌ(3人殺して300ドミノ)
3位がジャックとグレーテル(両者共2人殺して200ドミノ)になったとします
シュライバーとメリュジーヌは報酬確定です
じゃあ、ジャックとグレーテルですが、ここでそれまでに殺した合計数でどちらが報酬を貰えるか決めます
これまでグレーテルは海兵とおじゃる丸の2人を合わせて合計4人ですが、ジャックは麻耶とマルフォイと灰原の3人を合わせて合計5人です。
ですので、ジャックが報酬を貰うことが出来ます
北条沙都子、メリュジーヌ、カオス、孫悟飯、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、野比のび太
結城美柑、乾紗寿叶、海馬モクバ、ドロテア、予約と延長します。
投下お疲れ様です。
海馬モクバ、ドロテア、グレーテル、クロエ・フォン・アインツベルン、北条沙都子、孫悟飯、結城美柑、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、乾紗寿叶、野比のび太で予約します
延長もしておきます
被ったので取り下げます
前後編で投下する予定でしたが、想定よりも前編の分量が膨れ上がったため単話として投下します
──────紛れ込んだ、魔女は誰?
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
縋るような視線で見つめてくる悟飯さんを宥めすかして。
再びトイレに籠ってようやく聞けたメリュジーヌさんの報告は。
私──北条沙都子にとって芳しいとは言えないモノだった。
「……そうですか。引き離すことはできたんですのね?それならまぁ、良しとしましょう」
メリュジーヌさんの話が確かならば、日番谷さんを殺す事はできなかったものの。
それでも少なくないダメージを与え、引き離すことに成功したらしい。
またしても殺しそびれた事は遺憾ではあるが、今更言っても仕方がない。
大事なのは、何時だって“これから”ですもの。
『もっと絡まれると思ってたよ』
「私はそんなに暇ではありませんわよ。もしご希望であれば吝かではありませんが。
それで?今メリュジーヌさんは何方に?怪我などはしていますの?」
『あぁ、それなりに反撃を受けた。奪った支給品である程度回復したけど…
それでもハッキリ言って、今すぐ其方に駆けつけられる状態じゃない』
強いだろうとは思っていましたが、まさか日番谷さんがここまでやるとは。
次に彼を襲う時は、カオスさんも加えて確実に殺さなければいけませんわね。
とは言え、彼の殺害に失敗して更に苦しくなった現状。
日番谷さんと再合流され彼に諸々を暴露されれば、いよいよ私の立場も危うくなる。
何せ悟飯さんは、私がメリュジーヌさんと一緒に居た事を知っていますもの。
現状は、不味い。非常にまずい。でも、此処が底ではなかった。
それを、続くメリュジーヌさんの報告で、私は思い知らされる事になる。
『………実はもう一つ、悪い知らせがある。今空から確認したんだけど──』
「今度は何ですの。と言うより今、飛べるなら此方に来れませんか?」
『飛び上がって滞空するくらいなら問題ないからね。
それで確認したら、僕が取り逃がした二人組が沙都子達のいる場所に向かってる』
「………っ」
『怪我をしている様子だから、まだ猶予はありそうだけど……』
報告は、頗る付きの最悪の物でした。
日番谷さんがいつ戻って来るか分からず、一刻も早く悟飯さんを懐柔する必要がある時に。
よりにもよって、メリュジーヌさんが襲った二人組が此方に向かってきているという。
咄嗟に移動するか考えて見ましたが、今この状況で大きくこの場を離れるのは無理。
いつ爆発するか分からない悟飯さんがいる上、日番谷さんが不在の現状では。
仲間がいなくなって直ぐに移動するなんて、彼らが受け入れる筈がない。
下手をすれば、移動するかしないかで揉めている間に二人組が来てしまう。
『確か……モクバとドロテアと言ったかな。特にドロテアは狡猾な相手だ。
仲間を殺して首輪を奪い、もう一人の仲間も平気で見捨てる様な女だよ。
君でも手を焼く相手かもしれないね』
───不味い。
不味い不味い不味い不味いまずいまずい……っ!
よりによってそんな厄介な相手を取り逃がすだなんて。
流石にメリュジーヌさんに激昂したくなる。だけど、今はそんな暇はない。
『今すぐ孫悟飯の近くから離れるのなら何とか迎えに行くけど。
その二人を取り逃がしたのは、僕の不手際だからね』
良く言いますわ。
これで私が素直に頼れば、見限る算段を立て始めるでしょうに。
とは言え、背に腹は変えられません。
悟飯さんがいつ末期症状を起こすか分からない現状、
メリュジーヌさんがわざわざ頭が回ると評価する相手とぶつかるのは避けたい。
リスクを避けるなら、今のうちにカオスさんと離脱するのが最善手。
全く、せめてやって来たのが日番谷さんの様な甘い相手なら────、
(──待って、仲間を殺して首輪を奪い……もう一人を囮にした……
それにドロテアという名前……どこかで聞いた事があるような……)
その時。
感じたのは微妙な、虫の知らせにも似た第六感。
この勘を見逃すべきではない。私の直感はそう言っていました。
必死に記憶を辿って、ドロテアと言う名前に聞き覚えがある事を思い出します。
そうだ、確かあれは逃げてきた写影さん達と出会った時……
───うん、それでまた隈取の砂を使う能力者に襲われて……
───黒いドレスのリーゼロッテや、金髪で童話のアリスみたいな恰好をしたドロテアって子にも襲われた。
そうだ、彼は私を疑っていたし、時間的余裕もほぼ無くロクに情報交換できませんでしたが。
危険人物に対する情報はちゃんと私に伝えていました。
恐らく“乗っている”可能性の高い私と潰しあって欲しいという打算があったのでしょう。
或いは、本当に彼なりの善意から来る注意喚起だったのかもしれませんが。
何にせよ彼から聞いたドロテアの話のお陰で、私の中で一つのひらめきが生まれました。
───彼女の方にも、後ろ暗い背景があるのなら……
ぼそりと、脳裏に浮かんだ考えに導かれる様に言葉を漏らす。
これは危うい賭けだ。ほんの一手誤れば、私のバトル・ロワイアルは此処で終わる。
でも少し考えてみれば、それはメリュジーヌさんと出会った時からそうだったかと思う。
負ければ命はない賭けでも、元より勝負から逃げるのは性に合わない。
梨花も、部活メンバーの皆さんも、私と立場が同じなら、間違いなく誰もが挑む事を選ぶ。
だから私も。きっとそれだけの話。
短く息を一つ吐いて、私は覚悟を決めた。
『…また、何か思いついたのかい?』
「えぇ、勝負を前にして尻尾を撒くような性格ではありませんもの、私。
大丈夫、貴方の手は煩わせません。私とカオスさんだけで何とかして見せましょう」
堂々と、苦境の中に在っても余裕を示す様に。
決して揺らがない姿勢を。私の中の絶対の意志を誇示する様に。
自信たっぷりに、メリュジーヌさんに私はそう告げた。
すると彼女は少しの間押し黙って。
『……正直、もっと血迷っているかと思ったよ。放送は君も聞いただろう?』
「えぇ、ではやはり梨花は………」
『あぁ、これが最後になるかもしれないから伝えておくけど、僕が殺した』
予期していた事ではあるけれど。でも、それでも。
メリュジーヌさんのその言葉を聞いて、こめかみの辺りに疼きの様な物を感じて。
でもそれは一瞬のことで。直ぐにそんな感傷めいた疼きは無視できるようになりました。
梨花の死自体は飽きるほど経験してきているのだから。
「───そうですか。他の有象無象に殺されるよりは、貴方で良かったのでしょう」
『────』
何というべきか迷った物の、選んだのはその一言。
今言うべきはきっと、これだけでいい。今は自分が生き残る事に集中しないといけない。
大勝負を控えたこの時に、恨み節なんて吐きたくは無かったから。
だから私は、きっぱりと突き付けるようにメリュジーヌさんへそう伝えた。
私の返答を聞くと再び彼女は押し黙り、呆れた様な、感心した様な声を上げる。
『…僕は、君の事は嫌いだけど、その何があってもブレない姿勢は評価してる』
「当たり前ですわ。言ったでしょう?
何があろうと揺るぎのない、絶対の意志こそ望む未来を引き寄せると」
むしろ私に言わせれば、メリュジーヌさんの方が感傷的に過ぎる。
そう指摘すると、再び通信機から帰って来るのは沈黙。
でも、その沈黙はさっきまでとは微妙に違ったモノのように感じられて。
少し考えてから、私は何か思う所がある様子の彼女に口火を切った。
一つ、真面目な話をします、と。
つい先程は、最強の看板を降ろしたらなどと言ったけれど───
「何を感傷的になっているのかは知りませんが、貴女の愛に間違いなどありません」
どういう経緯で彼女が事を仕損じたのかは知る由もありませんが。
今彼女が何を想い、何を考えているのかは声で予想が付きました。
自分は最強種だ、人間とは違うなどと言っていたけど。
その実彼女は情が深くて、とても人間臭い。
だから自分が踏み躙った者に対して感傷的になっているのでしょう。
ひょっとすれば、迷いが生じているのかも。
だけど、梨花を殺した以上それだけは許さない。それだけは認めない。
あの梨花を、奇跡を起こして百年の惨劇を終わらせた梨花の運命を?み込んだのだから。
「梨花も含めて、貴方の愛に勝る者などいなかった。
“そんな者いなかった”んですのよ、メリュジーヌさん」
彼女が誰にどんな思いを馳せて感傷に耽っているか知らない。けれど。
殺した参加者の最期に影響を受けて、自分を、自分の願いを卑下している様な事があれば。
更に、まさか梨花以外の有象無象にそんな思いを抱いたのだとしたら。
梨花がどこぞの馬の骨より下と言っている様な物ではありませんか。
それだけは、我慢ならない……!
「梨花を殺しておいて、自分が弱いかもなんて思うのは許しません。
貴方の愛が最も強かった。貴女の願いに比べれば殺した子供の悉くが取るに足りなかった。
自分の願いこそ最も尊(たっと)い物で、最も強い愛、貴方はそう断言する義務がある」
私の親友を、殺したのだから。
反感を買うかもしれないと考えながらも溢れた思いは、止める事はできませんでした。
「貴方は口癖の通り自分の愛こそ最強、そう言っていて下さい
それでこそ、私が最後に乗り越える障害足りえるのですから」
『…………………全く、その自信がどこから沸いてくるのか知りたくなってきたよ』
反感を買うかとも考えましたが、そこまで気分を害した様子はなく。
暫く黙ってから、一言憎まれ口のように毒づいて。
直後に冷厳とした声で彼女は続けました。
───あぁ、だけど。君の言う通りだ沙都子、と。
『僕の願いは…僕にとって何よりも優先されて何よりも尊ぶべきものだ。
君の親友も、サトシやキウルも強かった。それでも僕の願いには遠く及ばなかった。
──────僕の愛が、最も強い。今までも、そしてこれからも』
それでいい。変に卑下して惑われるよりは、不遜でいてくれた方がいい。
梨花が有象無象と一緒くたにされているのは気に食わないですが。
それは最後に私が勝てば、梨花の株も保たれる話。
そう考えていると、彼女は「これが最後になるかもしれないから、もう一つ」と言って。
『僕は君の事は嫌いだけど、人の身で僕を御せるのは君ぐらいだったと思ってる。
これから君の小賢しい企みが実を結ぶことを精々期待してる。僕の為にね』
「最後にするつもりは毛頭ありませんわね。合流したら言いたい事が山ほどありますもの。
さしあたって今は、今後は不甲斐ない戦いは控えて下さいましと言っておきましょう。
最強の看板をこれから掲げ続けるおつもりですものね?」
『本当に君は口が減らないな』
窮地の中で、私達は憎まれ口をたたき合う。
状況は、非常に苦しい。これから行う事は紛れもなく運否天賦。
だが、勝負から逃げる事は許されない。
焦燥と不安に身を焦がされながら、それでも私は笑みを形作って。
不敵な態度を保ち、最後に今後の目標と彼女に頼みたい仕事を伝える為、言葉を交わす。
「乃亜さんの通達、聞いていたでしょう。
次の放送のドミノ上位とやらは、私たちが獲ります」
『……あぁ、もっともその時には、君は生きているか分からないけどね』
「そのための努力を、これからするんですのよ。
メリュジーヌさんは其方にて待機で構いませんが、やってもらう事が───」
全く。
口が減らないのは、お互い様ではありませんか。
苦笑しながら私はメリュジーヌさんに指示を飛ばし終え、一旦通信を切った。
そのまますたすたと悟飯さんが待つ部屋へと歩きながら、もう一度通信機に語り掛ける。
「聞こえていましたか、カオスさん?」
『うん、しっかり聞いてたよ、沙都子おねぇちゃん』
「よろしい。ではカオスさんにも、これから行って欲しい事を────」
【一日目/日中/D-6】
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪、鞘と甲冑に罅(修復中)、1~2時間飛行不可(カードの回復により滞空は可能)
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order(凍結、時間経過や魔力を流せば使えるかも)
[道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、
デザートイーグル@Dies irae、『治療の神ディアン・ケト』(三時間使用不可)@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:精々頑張るといい、沙都子。
1:孫悟飯と戦わなけばいけないかもね
2:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
3:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
4:ルサルカは生きていれば殺す。
5:カオス…すまない。
6:絶望王に対して……。
7:竜に戻る必要があるかもしれない。方法を探す。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
首輪を、集めましょう。
のび太達に様子を報告すると言って出て行った沙都子は、すぐに戻ってきてそう言った。
その言葉の真意を測りかねて、悟飯は困惑した声をあげる。
だって、沙都子の言葉を鵜呑みにするなら。
それは殺し合いを強いている乃亜に従うという事で。
「大丈夫、確かに乃亜の言葉に踊らされてはいけません。
得点稼ぎに誰かを犠牲にするなど、絶対にあってはならない事です。
貴方のお父様も…孫悟空さんも、きっとそう言う筈ですわ」
沙都子のその発言に対する、悟飯の反応は想定通りの物だった。
孫悟空の名前を出した瞬間、彼はぶるぶると震えて。
「そうだ。それだけはいけない」だとか「自分の為に誰かを犠牲にするなんて」だとか。
「もし、お父さんが知ったらなんて思うか…」だとか、うわ言の様に呟いて。
そして、青褪めた顔でぶるぶると怯えるばかり。
正直な所、肝が冷える。いつこの青褪めた顔が激昂して襲ってくるか読めないのだから。
沙都子は心中で巨大な爆弾を前にしている様なプレッシャーを感じていた。
しかし、それでも彼女は臆さない。
「だから、首輪を集めるんです。他の方の首輪も融通してもらって、上位三人になる」
そうすれば、悟飯さんは助かるんです。
優しき天使の様な、あるいは聖女の如き笑顔で、沙都子は悟飯に断言した。
効果は覿面だった。
悟飯の縋るような視線が、沙都子へと向けられる。
その言葉は、焦燥と孤独感と絶望の淵に居た悟飯にとっての一縷の希望だった。
自信と冷静さに満ちた沙都子の立ち振る舞いは、今の彼には輝いて見えたのだ。
「………沙都子さんは、恐ろしくないんですか?
その、僕は、何時おかしくなってしまうか分からないのに…」
それだけに、不思議だった。
沙都子は、何故何時狂って襲い掛かるか分からない自分にここまで優しくするのか。
もしや、何か大丈夫と言う根拠があるのか?
それを知っているから、自分の近くにいる事ができるのか?
もしそうなら、何故それを知っている?まさか────、
疑心暗鬼は最早今の悟飯に止める事は出来ない。加速していく。
だが、彼が結論に至る前に、悟飯の頬が撫でられる。
柔らかくて、温かい。でもその手は小さく震えていた。
「最初に会った時言ったでしょう?私だって怖いと。
確かに悟飯さんの言う通り、怖くないと言えば嘘になりますわ」
でも。
穏やかな微笑と共に、沙都子は悟飯に囁く。
「それでも今の悟飯さんを見ていると、どうしても放って置けないんですわよねぇ………」
呆然とする悟飯に、沙都子は語った。
自分も、そういう時期がかつてあったと。
家の事情で住んでいた村で爪はじきされ、両親は死んでしまい。
唯一残った兄は自分のせいで病床に伏せ、引き取られた叔父からは虐待を受けた。
笑えて来る位の不幸をただじっと耐えていた過去の自分。
それと、今の悟飯がどうしても重なってしまうのだと彼女は言う。
「安心してください悟飯さん。そんな私でもずっと隣にいてくれた人の……
たった一人の親友のお陰で、今は住んでいる村が大好きになれたんです。だから」
その時親友が私にしてくれたことを、今度は貴方にもしてあげたいんです。
皆さんが悟飯さんを信じられないなら、私一人くらいは貴方の味方でありたい。
頬に手を添えたまま、真っすぐに悟飯を見つめて。
蕩ける様な声で、オヤシロ様は、目の前の儚く小さき人の子に言葉を届ける。
「だから────悟飯さんも、私を信じてくれますか?」
尋ねる声は、そう大きくはなく。
けれど圧倒的な質量を以て、聴覚から悟飯の脳を灼いたのだった。
沙都子さんの語ったことは、きっと嘘ではない。
悲惨すぎる幼少期も含めて全て本当だと思えるくらい、生々しく、真に迫る物だった。
味方でいてくれる、と言う言葉も本当の筈だ。
そう思ったからこそ、彼は反射的に尋ね返す。
「……僕の味方をしてくれても、何かの拍子に僕は貴女を殺してしまうかもしれない」
それだけは避けたいから、僕のことは放って置いてください。
本当に沙都子の身を案じるなら、そう言うべきなのに。
だが悟飯は言えなかった。極限状況の中で、孤独でいる事を彼は畏れたのだ。
故にこそ、尋ねてしまう。
僕は貴女を殺してしまうかもしれないけど、それでも貴方は味方でいてくれますか?と。
問いかけに対して、沙都子の返答は簡潔だった。
「えぇ、覚悟の上ですわ。でも、その代わり───悟飯さんも私を信じて下さい」
「……っ」
瞳を見れば分かる。沙都子の言葉はやはり、嘘や韜晦に依るものではない。
彼女は本当に覚悟をして今、悟飯の前に立っている。
それを理解してしまえば、もう駄目だった。疑う余地は無かった。
いや、嘘だったとしても騙されていたい、とすら今の疲弊しきった悟飯は考えており。
それ度程までに沙都子の言葉は、今の彼にとって救いとなっていたのだ。
返答は、揺らぐ余地なく決まっていた。
─────わ、わかり、ました。ぼ…僕も、沙都子さんを信じます……!
声は震えていたが、それでも確かな意志を感じさせる声色で、悟飯は宣言を発し。
それを聞き届けると沙都子は安心した顔で、一つ私と約束をしましょうと悟飯に迫った。
そして、え?と声をあげる少年に構わず、内容を語る。
「これから首輪を集める過程で、私たちは別行動を取る事もあるでしょう」
「………はい」
相槌を打つ悟飯の顔色に、陰りが差す。
出来る事なら、沙都子にはずっとそばにいて欲しい。そう思ったからだ。
だが、シュライバーの様なマーダーに襲われて、彼女と離れ離れになる可能性はある。
余り考えたくはないが自分が我を忘れて暴走した結果、落ち着くまで距離を置く可能性も。
その可能性を考えるだけの思考力は、まだ悟飯の中に残っていた。
雛見沢症候群の発症者は、精神状態によって大きく思考力に振れ幅がある。
沙都子の言葉の影響により、今の彼は平時に比較的近い思考力を取り戻していたのだ。
そのため、沙都子が約束を語る最中彼は口を挟むことなく耳を傾けていた。
「もし逸れた時は悟飯さんも首輪を集めて、放送前に教会の前で落ち合いましょう
その間に、私もカオスさんやメリュジーヌさんと首輪を集めておきますわ。
手分けした方が首輪もきっと多く集まって…悟飯さんが助かる可能性も高くなります」
「は、はい……で、でも…………」
悟飯は話自体には納得する姿勢を見せていたが。
だが、やはり表情は暗く、口ごもってしまう。
そんな彼の様子を見れば何を言いたいかは、沙都子には直ぐに予想が付く。
カオスと言うエンジェロイドを懐柔した時と同じだ。
悟飯が今最も望んでいるであろう答えを、彼女は述べた。
「怖がらなくても大丈夫です、悟飯さん。言ったでしょう?
例え貴方が自分を抑えきれず、離れている時誰かを手にかけてしまったとしても……
私は貴方の側に立ちます。誰が何と言おうと、決して貴方を独りに何かさせません」
「さ、沙都子さん………」
力強く述べられる言葉に、悟飯の涙腺が緩む。
沙都子さんはこの手で守りたいけれど、これまでのように失敗してしまうかもしれない。
内側から湧き上がる衝動に従って、誰かを殺めてしまうかもしれない。
それでも沙都子は、自分の側に立ってくれると言った。
こうして、何時おかしくなって襲い掛かって来るかもわからぬ自分の傍で。
恐怖を感じながらも、自分から目を逸らさずに。
ならば此方も応えなければ。己の中の凶暴な衝動と戦わなければ。
六時間耐えれば、きっと沙都子は自分を助けてくれるから。
それなら、耐えられる。耐えて見せる。
彼がそう考えたのも、無理からぬ話だっただろう。
「暫く待たせてしまうかもしれませんが、約束してくださいますか?」
「はい…はい…!ぼ、僕…が、頑張ります。首の痒さにだって、耐えて見せますから…!」
「その意気ですわ」
目尻に浮かんだ雫をごしごしと手の甲で拭いつつ、悟飯は目の前の少女と約束を交わす。
首の痒さにだって耐えて見せる──悟飯の決意を聞いて、沙都子は柔らかに微笑み。
そして、悟飯に身を寄せるとそっと軽い力で彼を抱き寄せた。
「さ、沙都子さん!?」と照れが混じった声を悟飯が挙げるのも気にせずに。
────まず、ここまでは計画通り。
そして、真横に顔の位置する悟飯から見えないのを良いことに、瞳を紅く煌めかせた。
沙都子にとっても、正念場だった。何しろ、今しがたの放送で通達された追加ルール。
ドミノとかいう名前の特典。その上位者三人に報酬を得られるという追加ルールは。
沙都子の様なマーダーにとって福音であり、同時に絶体絶命の窮地に追い込まれる可能性のある爆弾だったからだ。
(乃亜さんにとっても悟飯さんが正気に返られたら不味いはず。
上位三人に入ったとしても、何だかんだ理由をつけて拒否するとは思いますが……)
そう、追加ルールの報酬は、微笑む相手を選ばない。
それだけに悟飯がもし報酬の権限を得てしまったなら。
折角ここまでお膳立てした、雛見沢症候群を治療されかねない。
開幕初期であれば悟飯が正気に戻っても次の機会を伺う余地もあったかもしれないが。
沙都子達の敵が増えた今は不味い。最悪の場合、四面楚歌の憂き目になる可能性がある。
絶対にその展開だけは回避するべく手を打たなければならなかった。
即ち、当初の予定よりも早く、自分に心酔させたうえで雛見沢症候群の進行を進めるのだ。
(最悪、次の放送を待たずに悟空さんとぶつけてしまうのも手ですわね)
非情に綱渡りの、危うい賭けである事は間違いない。
このまま行動しなければ、日番谷やドロテア等から自分が黒幕であったことが露見する。
悟飯すら敵に回る事があれば、正しく八方塞がりだ。
最悪の展開を避けるために、悟飯の症候群を最低でもL4へと移行させる必要がある。
だが、症状を進行させる事にもリスクが伴う。
悟飯が症候群の影響で殺しまわり、ドミノ保有数上位になれば症候群の治療を願うだろう。
流石に素直に治療に応じる程乃亜が愚鈍な糞馬鹿ではないと信じたいが、信用は置けない。
更に悟飯が末期症状になれば、悟空との対決前に喉を掻きむしり死んでしまう恐れもある。
死んでしまわずとも、悟空の対抗馬にならない程消耗させては意味が無い。
だからこそ、こうして心酔させる過程で人を殺さない様に刷り込んでいるのだが。
症候群の発症者にそれはどれほど意味がある物か。
(つくづくあの青コートや、シュライバーとか言う気狂いが余計な事をしなければ……!)
憤怒の形相で、爪を噛みたくなるのを我慢する。
シカマルや青コートやシュライバーさえいなければ、もう少し余裕を以て暗躍できた。
梨花から情報を聞いた銀髪はまだいい。いけ好かないが、疑心を抱くのには納得できる。
シカマルも切欠は勘に近いが、あそこは惚けるべきだった自分の判断ミスだ。
だがこいつら、根拠の全くない勘で自分の立ち回りをぶち壊しにしている。
此方が仕込みと言葉を尽くし地道に立ち回っているのに、勘で台無しにされては堪らない。
一言で言って椅子でぶん殴ってボコボコにしてやりたかった。
(……愚痴を吐いても仕方ありませんわね)
そう、今は愚痴を吐いている場合ではない。
ドロテアらが来るまでに、悟飯の心証を最大限高めておく必要があるためだ。
美柑達は悟飯に怯えており、イリヤはそんな美柑達を守らなければならない。
邪魔だった日番谷も消えたお陰で、こうして悟飯を言いくるめる時間ができたが。
それでもそろそろ────、
「ぼっ!僕も!僕も悟飯君のこと、信じるよ!」
入り口で聞き耳を立てていた、お邪魔虫の我慢が効かなくなる頃合いだろうから。
そう思いながら、転がる様に部屋の中に入って来る野比のび太を沙都子は見下ろした。
視線の先ののび太は、困惑した様子の悟飯に這いずる様に近寄って、強い語気で言う。
「僕も、悟飯君を絶対独りにしない!
君が暴れても、何とかなる様に沙都子さんと考えるから!」
「の、のび太、さん……………」
面白くない展開ですわね。
のび太に言われる悟飯の表情を読み取り、沙都子はその感想を抱いた。
悟飯の表情にある感情は未だ困惑、疑心、嫌悪、などが占めていたが。
その奥で、俄かに喜びや信頼の感情が芽吹きつつある。
「その、ドラえもんの道具に何でも病気を治せる薬とか…
そういう道具を見つければ、悟飯の君の頭の病気だって、きっと治せると思う!」
「あ……は、はい……………」
(二人の世界作ってるんじゃありません、殺しますわよ)
沙都子は、迅速に二人の関係に芽吹きつつある信頼の種を摘み取りにかかった。
腕を組み、冷めた表情でのび太に声を掛ける。
まぁ、のび太が何を話すかなど、大方予想がついていたが。
「……それで?のび太さん。此処に来たのは単に悟飯さんを励ましにきたんですか?」
「えっ、あっ!そ、そうだ。大変なんだよ二人とも、日番谷さんが………」
堰を切った様に、見張りに立っていた筈の日番谷がいない事を話すのび太。
それは沙都子にとって予想通りの内容だったが。
報告を受けて、驚いたふりをするのは忘れない。
その後少し考えた素振りを見せてから、沙都子は悟飯の手を取る。
「……悟飯さん、のび太さん、行きましょう。全員でこれからの事を話します」
芝居はまだ、幕が上がったばかり。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
見張りに立ったはずの日番谷冬獅郎がいなくなった。
海馬コーポレーションの前に新しい戦闘痕はなく、怪しい音もしなかったにも拘らず、だ。
各々が、困惑した表情でどうするべきか顔を見合わせる。
戦闘痕が残っていないのは理解できる。
何故なら現状のkcビルのエントランス付近はクロエ達の手で吹き飛ばされたからだ。
カオスがデータを破棄した端末を除き、電子設備もクロエ達の手によって破壊されている。
それ故に、戦闘痕が増えていても判別がつかないだろう。
だが、襲撃を受けたのなら、物音ひとつしなかったのは明らかに異常だ。
日番谷ほどの実力者が音もなく殺されるとは思えない。
では、彼は何処に行ったのか?襲撃を受けたのか、それとも黙って立ち去ったのか?
立ち去ったのなら、何の為に?考えた所で、誰も答えは出なかった。
答えは出ないままに────北条沙都子は、これからの行動の指針について口火を切る。
「何処へ行ったのかも分からないのに、ここでじっとしていても仕方ありません。
これから病院に向かって何か薬が無いか探し、その後首輪を集めに行きましょう」
は?と二つの声が上がる。
沙都子が其方に視線を向けてみると声をあげたのはやはり想定通りの二人だった。
ケロベロスと紗寿叶が、沙都子の立てた方針に対して異議を唱えた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。日番谷君がいなくなったのに、何で!」
「せや!冬獅郎の坊主が帰って来るのを待つべきやろ!」
憔悴した様子で、紗寿叶が食って掛かる。
当然だ、彼女はこの場で最も長く日番谷と行動を共にした少女なのだから。
この場において最も信頼できる人間がいなくなったのに。
それなのに今すぐ行動しようと言われても納得できる筈が無かった。
それも、年下の少女に。
「いつ帰って来るかも分からない日番谷さんを待っていたら、
悟飯さんの病気が手遅れになるかもしれません。今行動するべきです」
「「………っ!」」
紗寿叶にとって年下である筈の当の少女は、年上に詰められても涼しい顔で反論を行った。
悟飯の為だと言われれば、紗寿叶達も反論しにくい。
自体が逼迫しているのは、悟飯もまた同じなのだから。
年上の少女にもクロウカードの守護獣にも一歩も引かない態度。
それを見て、悟飯は感じ入った様に小さく沙都子の名前を呼ぶ。
生憎、小さすぎて目の前の沙都子にすら耳に入らぬ呟きだったが。
「勿論、私だって日番谷さんを心配していない訳ではありません。
だから、このエントランスに書置きでも残していきましょう」
「書置き、って。そんな………」
「そんなもん、アテにならんやろ」
反応は、当然ながら渋い。
書置きなど残しても首輪を集める場所にアテがあり、そこに向かう旨が無いと意味が無い。
そう反論しても、やはり沙都子の反応は冷ややかだった。
「ではこうしましょう。
私とカオスさんと悟飯さんが出ますから。紗寿叶さん達は此処で待っていてください」
「ぼ、僕も」
「あぁ、のび太さんもここで日番谷さんを待っていてくださいまし」
「何で!」
「だってのび太さん、私より歩くの遅いんですもの。体力も無さそうですし。
いざと言う時にカオスさんに運んでいただくことを考えれば、私だけの方がいいでしょう」
「そ、そんな………」
「悟飯さんの為です」
にべもなく提案を拒まれ、のび太はがっくりと項垂れる。
しかし反論できる程彼は体力に自信が無く。
だから彼に代わり、ケロベロスが待ったをかけた。
「ちょっと待てや沙都子、それやとイリヤが一人でのび太達守らなあかんくなるやろ!」
日番谷がいなくなった今、この場における戦力は乏しい。
カオスと、悟飯と、イリヤの三人だけだ。
それなのにカオスと悟飯が抜ければ、イリヤ独りでのび太ら三人を守らなければならない。
流石にそれはイリヤにかかる負担が大きすぎる。
シュライバーの様な参加者が襲来した場合、きっと対応しきれない。
だから皆で一緒に此処で待とう。それがケロベロスの主張だった。
対する沙都子は視線だけイリヤに向け、貴方はどう考えているんですの?と発言を促す。
「私は…悟飯君も心配だし、ここで紗寿叶さん達と残っても………」
不味い流れだ。ケロベロスは敏感に嫌な予感を感じ取った。
イリヤが同調の意志を示してしまっては、沙都子の意見を覆せない。
悟飯の為に首輪を集めるのはいいとケロベロスも思っている。
乃亜に従うのも、それしか手が無い以上飲み込もう。
だが行動するならやはり、日番谷冬獅郎が帰ってくるまでは動くべきではないのだ。
何故なら。
「悟飯に毒を盛ったっちゅー奴も近くにおるかもしれへんのやろ?
そんな時にイリヤだけで何かあったらどうするねん!」
この時ケロベロスは、露骨に言葉を濁した。
彼もこの場に悟飯に毒を盛った獅子身中の虫がいるとは考えたくなかったから。
だからまるで外部犯の犯行であるように表現したのだ。
そんな守護獣の反論を聞いて、沙都子はこれ見よがしに嘆息し、尋ねる。
「ケロベロスさん。貴方は私たちよりあの気狂いの言葉を信じるおつもりですか?」
「えっ」
「悟飯さんの病気についてはまぁ、ある程度信憑性はあるのかもしれません。
けど、毒を盛った云々はあの気狂いが我々の不和を煽ろうとした嘘とは考えないんです?」
「そ、それは……」
沙都子の指摘に、ケロベロスははっと呆気にとられる。
ケロベロスだけではない、その場にいる一同全員がその可能性に思い至り、息を飲んだ。
寄生虫云々は悟飯本人が思い至る点がいくつかあり、少しは信憑性があるかもしれないが。
だが、その後のこの場にいる人間が毒を盛ったなど、何の根拠もない。
此方の不和を煽る愉快犯的な発言でない保証は何処にもないのだ。
何しろこの場にいる全員が、今のところ怪しい素振りを見せていないのだから。
シュライバーの此方の混乱と疑心暗鬼を狙った狂言と考える方が自然ですらある。
「け、けどそんなん、あのイカれが狙うとは思えんで!」
「逆に聞きますが、私達に懇切丁寧に教授して他にあの狂人の利益になる事がありますか。
まさかあの方が本気の親切心で教えてくれたとでも?
目的を抜きにしても、狂人の妄言を真に受けて疑心暗鬼になんて本末転倒。
そんな事をすれば、悟飯さんの精神に負担をかける事にしかならないと分かるでしょう!」
うぐぐ、とケロベロスは舌戦において年端もいかぬ筈の少女に明らかに押されていた。
守護獣として悠久を生きる彼から見たシュライバーは、そんな虚言を吐くとは思えない。
不和を煽って殺し合わせる位なら、自分が殺すと息巻く手合いだ。
だが…それを主張したとしても、ケロベロスの偏見で、論理的な物ではない。
それを見越した沙都子は、予めケロベロスが勘を根拠にすることを潰しにかかった。
そう何度も何度も根拠のない勘で地道な根回しを台無しにされるのは御免だった。
「貴方が不安に感じるのは分かります。けれど危機的な状況だからこそ……
私たちは今、悟飯さんを助けるために信じあわなければならないのではありませんか?」
「いや、分かっとる、それは分かっとる、けどな………」
こめかみの辺りを抑えながらケロベロスも一理あると考えてしまった。
だけどそれは、完全にシュライバーの発言を嘘とし、毒を盛った犯人がいない前提の話だ。
もしこの中に混じっている可能性を考えれば、とても同調できない。
だがそれを言ってしまえば、その瞬間この集団は終わる。
後に待ち受けるのは終わりのない疑心暗鬼と、悟飯の暴走だ。だから声高に主張できない。
反論しなければならないが、内部犯の事に触れず論理的な反論を行うのは不可能。
だからケロベロスは周囲を見渡した。
情けないが、何か、この中の誰かが助け船となってくれないかと考えたからだ。
そんな彼の期待は、残酷な形で裏切られる事となる。
「僕も……沙都子さんの言う通り、皆を信じたい、かな………」
「うん、私も………」
「此処にいるみんなの事は……疑いたくない」
(ア……アカン!イリヤ達が沙都子に賛同してしまっとるで!)
ケロベロスと瞳があった瞬間、各々は示し合わせた様にさっと目を逸らして。
そして、沙都子に同調する旨の発言を返してきた。
頭を抱えたくなるケロベロスだが、無理はないという思いも同時に抱く。
のび太やイリヤは、桜と同じ。人を信じる事によって困難を超えてきた子供達だ。
それも、他人(悟飯)を助けるためという大義名分があってなお、
シュライバーの言葉を鵜呑みにして犯人捜しに興じるのは難しい。
(桜がおっても、きっと沙都子側に立つんやろな………)
ダメだ。桜の事を想像すると、自分も反論しづらくなってきた。
これはいけない、状況は苦しいが、流されてはいけない予感があった。
今この状況は何か……胸の奥からこみ上げる様な気持ちの悪さがあった。
誰かの筋書きに沿って動かされている様な、黒い予感。
自分が沙都子の主張に流されたら、きっと取り返しのつかない事となる。
その危機感が、ケロベロスを突き動かしていた。
「…沙都子の言う事は一理ある、けど…悟飯の事だけ考えるのもちゃうやろ!?
冬獅郎の坊主や坊主を心配しとる紗寿叶の事も心配して、考えてやるべきやで……」
「私から言わせれば、ケロベロスさん達が悟飯さんを蔑ろにしすぎなんですのよ」
形勢の不利を悟って論点をずらした反論も、沙都子には一言で切って捨てられた。
「別に私だって日番谷さんが心配でない訳はありません。
ですから、首輪を集めるついでに日番谷さんの足取りを探るつもりです」
紗寿叶さん達が此処で日番谷さんを待って、私たちが日番谷さんを足で探す。
もしここから離れた場所で日番谷さんが負傷をして動けなくても、これなら助けられます。
これが現状できる最も賢明な選択ではないのですか、と沙都子は尋ねた。
だがその論理には穴がある。紗寿叶達が負うには大きすぎるリスクが横たわっている。
「そうかもしれんけど、それでも…イリヤの負担が大きすぎると、わいはおも」
「でしたら!!ケロベロスさんも残って皆さんを守ればいいでは御座いませんか。
何でしたっけ、確か何とかカードを守る力があるんでしたわよね?」
うぐぐ、とまたしてもケロベロスは痛い所を沙都子に突かれる。
ケロちゃんことケロベロスは、クロウカードの「地」と「火」を司る守護獣である。
人智を超えた力を有するクロウカードの守護獣は、戦闘能力なくして務まらない。
だがそれはケロベロスが魔力を潤沢に確保した、真の姿である時の話で。
現状は真の姿に戻るための魔力の源、地のカードも火のカードもこの場にはない。
故に今の彼は単なる戦力外の可愛いマスコット、ケロちゃんでしかない。
とてもではないが、シュライバーの様な参加者から美柑や紗寿叶は守れない。
「情けない話やけど…今のわいはゲロ弱や。クソザコや。
とてもやないけど………イリヤ達を守れるだけの力はない」
だから頼む沙都子、カオスと一緒に此処に残ってくれ!
前足をすり合わせ、非常に愛らしい所作でケロベロスは懇願を行う。
しかし、それを目にした沙都子の視線はやはり冷徹とさえ思えるほど冷ややかな物で。
守護獣の仕事は後ろからヤジを飛ばすの事なんですの?と言うのが彼女の感想だった。
流石にそれは口にしなかったが、その代わりとして彼女は無言で首を横に振る。
表情も立ち振る舞いも、決して覆らぬ明確な拒絶の意志を示していた。
だが、それを目にしてなおケロベロスは食い下がろうとする。
その時の事だった。
「ケロベロスさん、もういいわ。沙都子さんの言う通りよ」
彼よりも先に、最も日番谷の身を案じているであろう紗寿叶が先に音を上げた。
彼女はもう見たくなかった。ケロベロスが誰かと言い争う姿を。
魔法少女の相棒が、魔法のマスコットが、相棒でもない少女と言い争う姿を見ていたら。
紗寿叶が大事に今日まで抱いていた魔法少女への憧れが、深い虚に落ちていく様だった。
美遊によって既にガラガラと崩れているのに、これ以上の追い打ちはもう沢山。
これ以上、私の夢を、憧れを傷つけないで。その一心で。
ぎゅっと瞼を閉じ、両耳を両手で塞ぐ様に、紗寿叶は現状の維持を諦めた。
「何処に向かうかの書置きを残して、沙都子さん達と出発しましょう。
それなら、イリヤさんに負担をかけなくて済むもの……」
その発言は、嘘ではない。紛れもなく本心からイリヤを気遣った物だ。
だが全てでは無く、イリヤに自分の命運を託すことへの不安もあった。
僅かな時間接した所感では、少なくともイリヤに自分を害する意思はないと思う。
けれど彼女の親友であった美遊も、彼女の妹であるという話のクロも。
両者共に、この殺し合いに乗っているという。明らかに異常だ。
それを考えれば万に一つ、彼女が毒を盛った犯人かもしれない…そんな不安は消せず。
日番谷がいない時に、イリヤと残るのは可能な限り避けたい。
それ故に、沙都子の提案を了承する意思を示したのだった。
「ジュ、ジュジュ…………」
俯く紗寿叶を見て、ケロベロスもがっくりと肩を落とす。
もう駄目だ。理屈としては沙都子の方が正論だし、紗寿叶の方が折れてしまった。
紗寿叶がいいと言っている以上、これ以上自分が粘っても徒労でしか無いだろう。
(けど……何なんや?この変な胸騒ぎは)
嫌な予感を、ずっと感じている。
誰かが舗装したレールを、ずっと走らされている様な。
そのレールを敷いたのが誰かを考えると、真っ先に浮かぶのは沙都子だが。
だが彼女は今の所誰よりも冷静に、献身的に方針を用意しているようにも思える。
(特に悟飯に対しては……一番沙都子が真摯に気遣ってるやろな………)
ケロベロスも悟飯に対する対応は後ろめたい部分があった、美柑やのび太もそうだろう。
そのため、沙都子に対して方針は勇み足というか強引だと思うものの。
疑いを抱く事は心情的に憚られ、自分の直感を信じる事はできなかった。
結局、そのまま何かを言いかけるが、声をあげる事はできず。
一同を暫しの間、重苦しい沈黙の空気が包む。
「……決まりですわね。では私が書置きを用意しますから、皆さんは荷物を───」
(…………あれ?)
ケロベロスと紗寿叶が項垂れ、のび太が同行できる事実に仄かに安堵する中。
微妙な違和感に気が付いたのは美柑だった。
彼女の脳裏に、先ほどの沙都子とのび太のやり取りが蘇る。
確か沙都子はあの時………
───あぁ、のび太さんもここで日番谷さんを待っていてくださいまし。
こう言っていた。理由は美柑にとっても何となくわかる。
あまり連れ立って歩いても、進むスピードが遅くなるのは。
だから沙都子はのび太の動向を断ったのだと思ったが……今はあっさりと認めた。
(……何で?人数が増えたら、それだけ首輪を探すのは遅くなりそうだけど……)
イリヤと言う戦力が増えるから?でも、イリヤ一人増えても釣り合っていない気がする。
沙都子は頭がいいのは見て取れるが、意図がよく分からない。
どうしようか、何か考えあっての事だろうから、直接尋ねるべきか迷う。
だって、今声をあげたらまるで沙都子の決定に不服かのようだ。
下手をすれば、毒を盛った犯人と疑っていると取られるかもしれない。
沙都子はこの島で怯えていた自分に優しくしてくれた恩人。
疑いたくはないし、自分が疑っていると沙都子に思われるのも嫌だった。
だから迷う。迷ってしまう。声をあげられない。
(タイミングを見計らって、沙都子さんにこっそり聞いてみよう……)
後で聞く時間はあるだろうし。今は沙都子さん日番谷さんへの書置きで忙しそうだ。
邪魔しては悪い。美柑は、そう結論付けた。
時を同じくして、一同が集ったエントランスホールにノイズのような音が響く。
────沙都子、聞こえるかい?やっと通信が繋がったんだ。
未だ静まり返った空間、沙都子の立つ場所から、一つの通信が入る。
そして、その内容は。
美柑が抱いた疑問を、脳裏の彼方に追いやるのに十分な内容だった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
折れた骨がじくじくと熱を持ち、痛む。
幾度とない錬金術を用いた改造手術のお陰で、妾の身体は非常に頑丈じゃ。
しかし、吸血を行わずに骨折が瞬時に治るほど、人外染みた再生力もまたなかった。
今も少しずつ修復してはいるが、アブソディックで吸血を行わぬ限り向こう二時間はかかるじゃろう。
「ドロテア……大丈夫か?」
「あぁ、上手く褐色たちはやり過ごしたし、モクバの会社で少し休みたいのう」
「お前年確か随分年誤魔化してたもんな。老体には堪えるのか?」
「抜かせガキが。骨が折れてもこたえない者なぞ……この島には一杯いそうじゃな」
ほんの軽口のつもりじゃったが、この島では軽口ですまぬ事に気が付き気分が重くなる。
何しろこの島ではエスデスですら命を落としかねん強者がひしめいている。
ブドーなどでは問題にもならず瞬殺じゃろう。そんな中で生き延びねばならん。
優勝は先ず望み薄、かといって脱出も現状では難しい。
今の妾たちはマーダーに襲われる度逃げ惑うばかりで、首輪を外す糸口すらつかめておらんのじゃから。
(じゃが、そんな中で乃亜が持ち掛けてきた報酬システム………)
殺害数と首輪を献上した数に応じてドミノを配り、上位者を優遇するシステム。
目的はマーダーへの優遇と、解除に使われてしまいそうな首輪の回収じゃろうな。
首輪がこの会場から物理的になくなってしまえば、最早解除は不可能。
案外其方の方が本命で、マーダーへの優遇の方がついでなのかもしれん。
此処からマーダー達はこぞって首輪を捧げ、対主催は更に苦境に立たされるじゃろう。
もっとも、妾の様な手段を択ばぬ者からすれば一概に悪い追加ルールとも言えんかった。
上位に入れば、優勝。ないし首輪解除まで自衛できる戦力が手に入るやもしれぬ。
それは妾の様な参加者にとって、乃亜からもたらされた一縷の希望。
何としても上位に入り、生き残るための糸口を掴みたい。
(可能であれば永沢の様な役立たずや黒服の様な弱いマーダーを三人程殺して……
そして首輪を5から10捧げれば、少なくとも同率三位には入れるじゃろうな)
しかしそれには問題がある。妾が現在連れているモクバじゃ。
マーダーを返り討ちにするならばこ奴も強くは否定できぬじゃろうが。
永沢の様な風見鶏や役に立たぬ対主催への間引きは、絶対に認めないじゃろう。
何しろ、純然たるマーダーの褐色すらギリギリまで説得しようとしていたのじゃから。
(優勝より脱出の方が現実的じゃから科学に強いモクバを切る訳にもいかん。
しかし……正直こ奴と組むメリットより行動の制約の方が多い気がしてきたのう)
とは言え、切る訳にはいかん以上は仕方ない。
写影と桃華がしぶとく生き残っている以上、妾の弁護人は必要ではあるしな。
もしこやつより科学に強く妾の性格に同調できる参加者と会えば切ってもいいんじゃが。
そこまで考えてはた、と気づく。それは他の参加者から見た妾も同じ事かもしれぬと。
(……迂闊に今、俊國の奴をアテにするのも危ないやもしれんのう)
ホテルで待ち合わせの約束をしている俊國も、こうなればアテにできるか怪しい。
ほんの僅かモクバと条件を交わしているのを目にしただけじゃが。
奴も妾やディオと同じ自分さえよければそれでよいと言う手合いじゃ。
首輪解除に何の進展も無い今、迂闊に再会すれば役立たずの烙印を押され。
妾の方が“切られる”側になるやもしれぬ。そんなのは御免じゃ。
ディオの奴も妾とは会いたがらんじゃろうな。妾が永沢を切ったのを見た訳じゃし。
実際妾も次奴に会えばキルスコアの肥やしと首輪を頂きたいと思っておるし。
(全く面倒じゃのう。殺しても丁度良い参加者と状況がやって来ない物か……)
今後の展望に頭を悩ませていると、傍らでモクバが「お」と声をあげる。
何を見つけたのかと意識を戻して見れば、城のように高く細長い建物が見えた。
その前にはモクバが従えるブルーアイズと同じ姿の銅像が立っている。
こ奴の会社に辿り着いたのだと、気づいたのはその時のことじゃった。
(何とか辿り着けたか)
後方を振り返り、褐色たちが追ってきていない事を確認する。
此処に至る途中で、妾たちは暫し前に戦った褐色と黒服を目撃していた。
だが、奴らは何処か消耗している様子で、此方には気づく様子は無く。
更にその近くでは、ディオが言っていた金髪の痴女らしき者も確認できた。
尤も心ここにあらずと言った様相で、妾が万全であれば奇襲を仕掛けていたじゃろう。
まだ報酬ルールの発表前で、妾も消耗していたのとモクバがいたから断念したが。
(報酬システムが発表された時は褐色や痴女を襲わなかった事を後悔したものじゃが…)
こうして無事に辿り着けたことを考えると、あながち悪い選択ではなかったかもしれん。
喜色を浮かべて海馬コーポレーションを指さすモクバを見ながら、そう思った。
「見ろよドロテア、人がいるぜ!」
指さす先には、まだあった事のない参加者が建物の前に居るのが見えた。
それも一人や二人ではない。まとまった人数がいる。
奴らは全員対主催じゃろう。マーダーで此処まで徒党を組んでおるのは考えにくい。
立ち振る舞いも殆どのガキ共が素人臭い。永沢の様に間引く対象じゃろうな。
それでも一人掘り出し物でありそうな参加者はいた。鍛え上げた肉体の、黒髪の子供が。
直感的に理解する。あれが北条沙都子の言っていた孫悟飯とやらか。
「おーい!」
周囲を確認してから、片手を振ってモクバが子供の集団に声を掛ける。
対主催と見られる、纏まった数の参加者に会えたからか嬉し気じゃった。
こ奴も普通の小僧らしい所もあるんじゃなと考えつつ、妾も少し安堵していた。
メリュジーヌ達に襲われてから暫く余裕が無かったが、漸く体勢を立て直せるやもしれん。
孫悟飯が推測の通りまともな戦力であれば、大いに利用させてもらいたいのう。
あと可能なら役に立ちそうにないガキは上手く間引いて得点を上げたい。
そんな皮算用をしながら、一同が待つ建物に近づいていく。
違和感に気づいたのは、お互いの距離が30を切ってからじゃった。
「俺達は殺し合いに乗ってない。お前らもそうなら────」
ちゃんと声が届く距離へと入り、両手が空なのをアピールしつつモクバは近づいていく。
そこで妾は気づいた。奴らがどんな表情をしているかに。
近づくまで建物の影が差し良く見えなかったが、奴らの表情は友好的な物ではなく。
何故か怯えや警戒が混じった表情で此方を眺めておった。
その事に気づいた時、妾の背中を悪寒が走る。
「───下がれモクバッ!!!」
「え?ドロテア、何言って───うわあああああああッ!」
───バシュウッ!
妾は咄嗟にモクバの首根っこを掴んで、後方へ引き戻す。
直後に眼前で異音と閃光が弾け、数秒前まで妾たちが立って居た場所が焼け焦げる。
何かエネルギーを伴った光弾が、此方に向かって飛んできた。
もし妾が間に合わなかったら、モクバは酷い事になったじゃろうな。
確信しながら、モクバの足元から光弾が飛んできた方へと視線を巡らせる。
すると目に入ったのは五指を広げ、敵意に満ちた表情で此方を見つめる───
「それ以上近づくな。人殺しめ」
頼りにしていた筈の、孫悟飯の姿じゃった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
緊迫した雰囲気が、周囲を包む。
「……何じゃそれは、一体全体何の話をしているか、妾たちには────」
「惚けたって無駄だッ!!!」
有無を言わせず。
びりびりと大気を震わせながら、悟飯は怒号を眼前の人殺し二人に浴びせた。
モクバは勿論、ドロテアですらその迫力に気圧されて、言葉を紡げなくなる。
その僅かな間に、悟飯は目の前の二人が人殺しであると断じた根拠を述べた。
「僕らは皆知ってるんだ。お前達が写影と桃華という人たちを襲い、
永沢と言う人を首輪目的で殺して、キウルと言う人を見殺しにしたのはッッ!!!」
─────は?
悟飯の怒りの追及を聞いた瞬間、ドロテアとモクバの思考が一瞬白く染まる。
それは、それぞれ違った理由で生まれた思考の空白だった。
ドロテアは今初めてあった筈の悟飯が、自分の犯した悪事を何故知っている?という困惑。
モクバの方はドロテアから聞かされた物とは違う、永沢殺害の真相を明かされた困惑。
その二種の困惑が、ほんの僅かな時間、彼らの表情に狼狽と言う反応で表れてしまう。
─────やっぱり………
小さな筈の、しかし嫌に周囲に響く声で。悟飯の後ろに立つ誰かが、その呟きを漏らした。
ドロテア達が狼狽したのはほんの一瞬で在るモノの。
何故か予め二人の一挙手一投足を窺っていた悟飯らに、その姿は確かに焼き付いた。
それを見て、ドロテアとモクバの二人は同時に直感する。不味い、と。
「お、落ち着いてくれ!誰に聞いたのか知らないけど、それは何かの間違───っ!?」
追及に対して、先に声をあげたのはモクバだった。
瞬時の判断、兎に角何か反論しなければと「それは何かの間違いだ」と言いかける。
だが、言い切る事は出来なかった。彼の良心が、それを阻んだ。
だって桃華と写影を襲ったのは予めドロテアから聞いていた。本当の事だ。
それに本意ではなかったとは言え、キウルを見捨てた事も…否定できなかった。
理性では否定しなければ不味い事になると分かっていたが。
実際に否定してしまうとキウルへの裏切りになるような、そんな負い目があったからだ。
そして、永沢殺害の真相。元々彼は永沢死亡を知った時、ドロテアを疑っていた。
結局ドロテアに言いくるめられ、その時は有耶無耶になってしまったが。
それ故に、今悟飯に突き付けられた事実は望まぬ答え合わせとなり。
都合の悪い事実を立て続けに突きつけられた動揺が、彼の舌の動きを極端に悪くした。
(馬鹿………!)
ドロテアはこの時初めて心の底からモクバを叱責したくなった。
今の取り繕い方では暗に認めた様な物だ。ここからシラを切るのは難しい。
そんなこと知らないし覚えがないと言っても、下手な言い逃れにしかならない。
とは言え同時に、やむを得ないかとも彼女は考える。
写影と桃華の襲撃やキウルを見捨てた事はまだいい。此方はモクバも認知している。
知っている分指摘された動揺も小さく、その後の自己弁護も上手く行えたはずだ。
だが、永沢殺害の真相を別のカバーストーリーに差し替えたのはドロテアの判断だ。
想定外の指摘を受ければモクバが動揺するのも必然で、身から出た錆でしかない。
とは言っても、このまま素直に認めるつもりもない。
警戒されてはいるが、見た所この場に居るのは全員尻の青い小僧共。
それならまだこの局面でも十分やり込められる自負がドロテアにはあった。
「……取り合えず落ち着いて、名前だけでも聞かせてくれんか?
あぁ、妾はドロテア。隣の小僧はモクバという」
「……孫悟飯」
敵意がない事をアピールしつつ、ドロテアはまず自分から名乗った。
すると未だ敵意を顔に張り付けているものの、少年は素直に名乗り返す。
その様子を見てドロテアは思った。やはりこいつ、力以外はただのガキじゃな、と。
であれば、そう怖くはない。五分と掛からず言いくるめてくれよう。
心中でほくそ笑み、老獪な錬金術師は囀り出す。
「確かに、永沢を殺めたのは事実、じゃがそれには訳があってのう───」
モクバに動くなと一言制してから、自分は心理的な距離すら縮めようとする様に。
即興でやむを得ぬ事情を頭の中で組み立てつつ、ドロテアは悟飯へと近づいていく。
当然、両手を広げ、武器など何も持っていない事を示すのも忘れない。
こうすれば、素直で甘ちゃんと見える小僧共は何もできないじゃろう。
勿論油断はせず、何時でも後方に飛びのける準備はしておくがな。
そんな考えの元、彼女は更に距離を詰めにかかる。
兎に角、懐にさえ入ってしまえば此方の物だ。物理的にも、精神的にも。
できればそうしたくはないが、話が決裂した場合、後ろの子供達は人質に使える。
(今の距離では、最悪いきなり吹き飛ばされかねんからな────)
懐に一度入れば手玉に取れるという自負。距離を取ったままでは危険だと言う危機感。
何方も、この状況において正しい見立て、正しい判断であった。
一度至近距離での会話にさえ持ち込めれば、彼女は早々に会話のペースを握れただろう。
その見立ては決して間違ってはいなかった───尤も、近づけたらの話だが。
「───ッ!?随分、警戒されておる様子じゃな……」
───バシュウッ!
何時でも飛びのけるように準備しておいた警戒が活きた。
脚部に力を籠め飛びのいた直後、再び放たれた光弾がドロテアの立っていた場所を灼いた。
「それ以上近づくな、次は外さない」
絶対に間合いには入れないと言う強い意志が見て取れる表情で。
尚も五指を広げ、悟飯は光弾を放つ姿勢を見せた。
その様子を見て、ドロテアはどうにも解せない感情を抱く。
「……妾たちと悟飯、お前があったのは今が初めてじゃろう。
良く事情も知らぬはずなのにどうしてそこまで警戒する?誰から話を聞いた」
「そうだ!ドロテアはロクでも無い奴だけど、殺し合いに乗ってないのは本当だぜぃ!」
余計な台詞は付いているが、この時のモクバの援護はドロテアはありがたいと感じた。
どうやら、永沢の事で揺さぶられても一応は自分の側に着く事にしたらしい。
であればモクバの存在は目の前の甘ちゃんたちを説得するには役に立つ。
事実、モクバの言葉を聞いて、悟飯の背後に立つ子供達は露骨に動揺していた。
疑っていい物か、迷っているのは一目で見て取れた。いいカモだ。
悟飯の背後を指さしながら、ドロテアはここぞとばかりに指摘を行う。
「どうやら、お主の後ろの者達は妾たちを疑いたくない様じゃが、どうする?」
「………ッ!?」
その指摘で、悟飯の瞳にも迷い、狼狽、不安、疑心の色が宿る。
掌をドロテアに向けながら何度も背後の仲間と、ドロテアへ視線を彷徨わせて。
とうとう彼の背後で白髪の少女が「悟飯君…」と明らかに止めたそうに名前を呼んだ。
その覚束ない様は、想像していたより手玉に取るのは楽そうだと、ドロテアの脳裏に楽観が過るほどの物だった。
「────メリュジーヌさんを襲った時もそうやって近づいたんですの?」
しかし、その瞬間。空気が、変わる。
抱いていた楽観が、悟飯の背後から新たに響いた新たな少女の声によって崩される。
そう大きくはないのに、不思議なほど良く通る声だった。
耳にした瞬間、意識は一気にそちらの方へと引き寄せられる。
ドロテアだけでなく、モクバも、悟飯も、他の者達も。
全員の視線が、その少女の元へと集う。
(そうか、“何方”がチクったのかと思っておったが、やはりか)
候補としては、最初からごく限られていた。
写影達の襲撃は兎も角、永沢殺害とキウルの顛末を知っているとすれば。
それは下手人であるメリュジーヌか、彼女と連なる────
「貴様以外におらんじゃろうな、北条沙都子」
現れた、雛見沢の新たなる百年の魔女を前にして。
同じく齢百年に届こうかと言う悪辣なる錬金術師は対峙する。
相対した瞬間、理解する。目の前の女は邪魔だ。
自分が生き残るためには消さねばならない、と。
確信と氷点下の殺意が渦を巻き、衝突は最早避けられず。
斯くして、惨劇(グランギニョル)は幕を開く。
演目は異端審問、裁判官は罪なき子供達。
何方かが魔女の烙印を下されるまで、閉廷の時は決して来ない。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
ドロテアは馬鹿ではない。
錬金術師としての聡明さと老獪さを兼ね備えた狡猾な女生だ。
現在自分が劣勢に立たされているのは把握している。
察するに、北条沙都子は既に目前の集団を掌握していたのだ。
メリュジーヌが向こうについている分、移動速度はドロテアと比較にはならない。
先回りして予め悟飯を含めた味方を増やし、自身を弁護させる肚だったのだろう。
「先回りして妾たちのネガティブキャンペーンとは、精の出る事じゃな」
「事実を並べて心証が下がるなら、それは貴方方の自業自得では御座いませんか」
「ほう、襲ってきたのはそちらじゃと言うのに、悪いのは妾たちと来たか!」
カカ、とこれ見よがしに笑い、劣勢を物ともしていないかのように振舞う。
そして、真実を以てして論点をずらしにかかった。
最早協力体制を築く為に知られては不味かった事をなかった事にすることはできない。
モクバもであるが、返す返す自分も先ほどの反応は痛恨だった。
誰しも初対面の相手に殺人未遂と殺人を行った事実を即、指摘されれば狼狽するだろうが。
それでも情報源がメリュジーヌである事を後一手早く導き出せていれば。
完璧にシラを切る事ができずとも、もっと有利に誤魔化せていた筈なのだ。
(メリュジーヌが、モクバの言うような通信手段を使ったのは誤算じゃった)
見た所、目の前の沙都子は何か異能力の類を持っている様には見えない。
力も弱そうで、取っ組み合いならモクバだって勝てるだろう。
そんな彼女が、この場にはいない様子のメリュジーヌと連絡を取り合った方法。
それは即ち、ドロテアの世界にはない通信技術を用いたのだろうと推察できる。
ドロテアの世界においては、連発式の銃火器などは既に量産化されているが。
通信テクノロジーにおいては未だ文書や人づてを頼っているような世界だ。
モクバが扱う様な隔絶した軍を連携たらしめる電子通信についてはまだまだ理解が浅い。
勿論優れた錬金術師である彼女は既に仕組みを理解はしていたが。
それでも咄嗟に思い浮かぶほど“慣れた“技術とは言い難く。
自身と同じ魔術(オカルト)サイドの存在だと思っていたメリュジーヌ。
彼女がそれを用いたのは、完全に想定の範囲外から刺された形となった。
その動揺が、此方が墓穴を掘るのを待ち構えていた相手に捉えられてしまったのだ。
(兎に角、此方に都合の悪い事からはのらりくらりと話を逸らす。
凌ぎきれば、後ろの者共を言いくるめてなし崩し的に同行を了承させられる。
一旦硬直状態を作れば、後はじっくり北条沙都子のバケの皮を剥がせる筈じゃ)
兎に角、今は北条沙都子以外の者に「今はまだ結論を出すには早い」と思わせる。
孫悟飯の手前、一度少数派になれば沙都子も強硬な手段を取りにくいだろう。
そしてなし崩し的に同行する事を取り付けられれば、反撃までの時間を稼げる。
逆に言えば、悟飯を味方に付けられなければ絶体絶命だ。何故なら。
(メリュジーヌがこの場にいないとなると、沙都子は奴を自由に影で動かせる私兵。
そう扱っているのが見て取れる。それだけに今ここで悟飯たちを説得できなければ……)
沙都子はメリュジーヌに追放した自分達が向かった方角を伝え、きっと追撃を促す。
キウルを殺され、もう役に立つ支給品も持ち合わせていない。
そんなドロテア達が再び近辺に潜んでいるメリュジーヌに追撃を受ければ、次は無い。
二人纏めて殺される以外の未来は皆無だ。そのため動向を拒否されるだけで致命的。
メリュジーヌが日番谷との戦いで負傷した事を知らないドロテアは、そう考えてしまった。
それだけに信用はされずとも、せめて同行の許可を取り付けられる様立ち回ろうとする。
「メ、メリュジーヌさんが、ドロテア達を襲っただって………?」
「どういう事や、沙都子!?」
そして、ここまでで抱いた所感で言えば、勝ち目は十分ある様に思えた。
沙都子と悟飯以外のこの集団は、一枚岩ではない。
ドロテアを排除しようという意志すら弱い、言わば烏合の衆である。
沙都子さえやり込められれば、ディオやモクバ、キウルの様に掌握するのは容易い。
事実、ちょっと揺さぶりを掛けただけで二つの声が沙都子に強い語気で問いかける。
声の方に意識を向ければ、眼鏡の少年とぬいぐるみの様な獣が沙都子を見つめていた。
その瞳には困惑と疑心の色が宿っている。否、そんな瞳をしているのは彼らだけではない。
この場にいる殆どの者が、大なり小なり困惑と疑心の情を瞳に孕ませていた。
(いずれ殺し合いを煽る為に疑心暗鬼を促していたのじゃろうが……裏目に出たな)
自分の弁護をさせるためにこの集団に潜り込み懐柔していたのだろうが。
“切り時”が来れば殺し合いへと誘導できるよう、疑心暗鬼の空気を作っていたのだろう
だがそれは沙都子自身にすら疑いの視線を向ける、諸刃の剣となってしまった。
ほくそ笑みながら想像を巡らせ、冷や汗を掻いているであろう敵の顔を拝もうとする。
だが、ドロテアの想像に反し、当の沙都子は。
「───メリュジーヌさんが言った通りでしたわね」
全く動揺した様子を見せず、腕を組んだ冷ややかな態度を保って。
淀みなく反論の言葉を紡いでいた。実に、堂々とした様だった。
敵であるドロテアすら思わず大した役者だと、感心してしまいそうになるほどに。
「忘れましたか、皆さん。メリュジーヌさんが言っていたでしょう?
この方々は悪事を暴かれれば、きっと此方に罪を擦り付けにかかる、と」
「…………そ、そうだ……そうですよ、騙されちゃいけないッ!!」
創り上げられた真実に、悟飯が同調する声が響く。
沙都子は、予め襲ってきたのはメリュジーヌであるという反論を読んでいた。
そのためワザと通信手段のイヤリングの音量を最大にし、スピーカーとした上で。
ドロテア達が来るタイミングを計って、メリュジーヌに通信する様に促したのだ。
さっき自分を襲った、危険な相手が此方に向かっている、と。
────マーダーではないと言うから油断していた所を襲われて……
────相手の片腕を折って何とか逃げ出したけど、其方とまだ合流は出来そうにない。
────あと、沙都子の事も話してしまったから、気を付けてくれ。
────もし向こうが疑いの目を向けられれば、恨みを抱いた僕か君に……
────多分、非を擦り付けようとして来るはずだ。
それが、ドロテア達が海馬コーポレーションの付近に現れる五分前に入った報告。
淡々とした報告は、事務的であるがゆえにリアリティを伴って一同に届いた。
美柑や紗寿叶などはそれを聞いて早々、今すぐ逃げる事を提案したが。
此方は人数が多く目立つ上、足の遅いのび太を連れているから今から出ても間に合わない。
カオスがその目算を口にした事で、こうして対峙する羽目になったのだ。
その事を思い出し、一同の警戒は再びドロテア達に向かう。
「違う!!そいつの言ってる事はデタラメだ!ドロテアの言う通り────!」
「モクバの言う通りじゃ。そやつらは予め話を示し合わせて妾達を陥れようとしている」
「その言葉、そっくりそのまま其方に返しますわ」
二人の反論にも冷淡な態度を揺らがせる事無く、沙都子の視線はモクバに向けられ。
それを見た瞬間不味い、とドロテアは思った。
だが彼女が動くよりも早く、沙都子の追及がモクバへと向けて放たれる。
「本当に私たちの言葉がでたらめだと言えますか?本当に?」
「あ、当たり前────」
「貴方方が盾にして見捨てた、キウルさんにも誓えますか?」
「………っ!それ、は………」
───クソ、この女最悪じゃ。此方が突いて欲しくない所を容赦なく突いてくる。
思わず心中でドロテアは吐き捨てた。
ついさっき、指摘を受けた時のモクバの反応を、沙都子は見逃していなかったのだ。
だから彼の理屈ではなく、感情的に否定しがたい部分を狙い撃ちしてきたのだろう。
結果は見事功を奏した。放送で聞かされたキウルの名前を想起したのだろう。
モクバは再び言葉に詰まり、馬脚を現した様な状況になってしまう。
初手の失敗が、何処までも尾を引いていた。
「………決まりですわね。私たちは、貴方を信用できません」
「さ、沙都子ちゃん…でも、どうするの?」
「どうもしませんわ。二人に危害を加えるつもりは最初からありません。
────ただ此方も色々大変な以上、同行はできません。お引き取り願うだけですわ」
同行者の子供達を安心させるように優しく、けれど有無を言わせない力強さと共に。
一同には見えない様に微笑を浮かべ、瞳を煌めかせながら。
敵対者たちに北条沙都子は告げる。お前何て仲間に入れてやらない、と。
排除しにかからないだけ、一見穏当な選択肢に思える言葉だった。
強硬な手段を懸念し、声をかけたのび太も複雑ながら僅かに安堵する様な表情を見せる。
だが、ドロテア達にとってそれは執行人メリュジーヌに依る死刑宣告。
ドロテアだけでなく、モクバもそれを理解していたからこそ………
「─────ふざけんな」
少年は、魔女に憤りを現し。
崩壊に向けて、魔女裁判は加速する。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
沙都子の言葉を聞いて、キウルの事を思い出しちまった。
確かに俺達は彼奴を見捨てた。だから、否定できなかった。
俺達を生かすために命を賭けてくれた彼奴を直ぐに裏切れる程、屑になれなかった。
でも、だからってお前だけには言われたくないんだよ、北条沙都子………!
キウルが死ぬことになった原因の、張本人のお前だけには………!
『どうもしませんわ。二人に危害を加えるつもりは最初からありません。
────ただ此方も色々大変な以上、同行はできません。お引き取り願うだけですわ』
許せなかった。キウルの奴を殺しておいて。皆を騙しておいて。
それでいて自分がさも人格者みたいに振舞うこの女が。
確かに俺はキウルを見捨てたのかもしれないけど。
そもそもこの女とメリュジーヌがいなければ、キウルは死ななかったんじゃないか。
それを抜きにしてもこいつは有馬かなって子も殺してるらしい。
全部お前が悪いんじゃないか。それなのに、どの面下げて偉そうに俺達を詰ってるんだ。
「────ふざけんな」
ぎゅっと握りこぶしを作って、腹の底から声を絞り出す。
怒りに突き動かされて、ほとんど無意識だった。
ほとんど無意識のままに、ふざけるなって俺は口にしていた。
あぁだけど、構うもんか。ドロテア以下のこんな女。
カツオには悪いけど、この女だけは許しちゃいけないんだ。
それに言われっぱなしは性に合わない。兄サマだってそうだ。
お前はキウルの事を引き合いに出してやりこめたつもりかもしれないけど。
こっちだって、お前が他の奴に知られたら困る事を知ってるんだからな。
反撃、してやる……ッ!!
「皆、聞いてくれ!」
お前の親友だって言う古手梨花に教えて貰ったことだぜ。
北条沙都子、お前が雛見沢症候群何てロクでもない病気をバラ撒いた事があるって。
あの時は皆急いでたから、疑心暗鬼を起こす寄生虫って事くらいしか聞けなかったけど。
それでもお前がその病気を利用したって事は聞いた。
俺達はこれから追い出されるのかもしれないけど、沙都子の周りにいる奴の為に。
こいつは危ない奴だって、信じちゃいけない奴だって事は暴露してやる。
「この女の親友──古手梨花から聞いた事だ」
話ながら、俺は沙都子を指さす。
釣られる様に、周りの連中も沙都子を見た。
不安そうに、信じていいのかって目で沙都子を見てる。
沙都子のやった事と関係ない、そいつらの信頼をぶち壊すのは後ろめたかった。
けど、それでも、この女を信じたら危ないんだ。
それだけは、伝えておかないといけない………!
「この女は雛見沢症候群って、寄生虫でかかった奴を疑心暗鬼にする病気を……
故郷でばら撒いた危険な奴なんだよ!俺達が信用できないならそれでいい、
でも…この女を信じてたら危ないんだ。それだけは覚えていてくれ!!」
怒りのままに、俺は北条沙都子の一番明かされたくないと思う事を暴露した。
元々疑われてるし、今信じて貰えるとは思っていない。
でも、きっといつか沙都子も何かをしくじって、尻尾を見せる時が来る。
その時に俺の告発は意味を持つはずだ。
キウルを殺し、キウルの死を、俺とドロテアを追い詰めるために利用したこの女を。
沙都子に疑いを持った奴が結束するための一助になってくれれば、それでよかった。
その一心で皆に伝えた。でも………
(────あ、あれ?)
伝える前の想像では、きっと信じて貰えないと思っていた。
馬鹿な事を言うなって言われるだろうと予想していた。
だって、古手梨花から話を聞いた俺でさえ信じていいのか迷う話だったから。
でも、実際に伝えた時の反応はそんな俺の予想とは違っていて。
───皆動揺していた。けど、それは信じられない話を聞かされた時の動揺じゃない。
「き、寄生虫、って……」
「それって、シュライバーって人が言ってた………」
まるで皆、心当たりがあるような反応をしている。
話自体は半信半疑みたいだけど、でもそもそもが信じられないような話だ。
それを半分信じているだけで、俺達に出会うまでに沙都子に何かあったのは明白。
沙都子の態度は暴露されても変わっていなかったけど。周りの目は違う。
今周りの奴らの沙都子を見る目はさっきまでとハッキリ違っていた。
(これなら、もしかして…………)
この女に、勝てるかもしれない。
今、この場にメリュジーヌはいないんだ。
この場にいる全員を味方につけて、沙都子を拘束する事ができるかも…
その事に気づいた時、ごくりと喉が鳴った。
実際いけるかどうかは分からない。でも、いけるとしたら今だ。
有馬かなやキウルの無念を晴らせるとしたら、今しかない。
真実を明らかにして、圧倒的に不利な状況から皆の結束の力で乗り越える。
あぁ、それはまるで─────
(遊戯や、城之内みたいじゃないか)
ドクンと胸が高鳴った。俺は決闘者(デュエリスト)じゃないから。
多分兄サマや遊戯、城之内がデュエルで勝利を予感した時、こんな感覚になるんだろうか。
ぎゅっとポケットの中のブルーアイズを握り締める。
静かに、だけど確かに高揚していた、勝ちへの光明が見えて。
けど、だからこそ俺はその時、気づけなかった、耳に入らなかった。
「─────────────────────────────────、あ?」
微かに漏れていた、最初で最後の、その結末へ進む兆しを。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「────ふざけんな」
モクバが憤った事を察した時、妾は焦った。
甘いこ奴がキウルの死を利用されれば無理もない。
じゃが、怒りを露わに糾弾した所で、追い詰める事は出来ん。
最悪の場合、孫悟飯がいよいよ激昂して妾達を排除しにかかってくるやもしれぬ。
(じゃが……このままでは現状妾達の打つ手が無いのも事実)
止めた所で、このままでは旗色が悪いのは確か。
妾達は最早簡単には覆せぬ程疑われている。ここから無罪を勝ち取ることは難しい。
話を逸らす事も詭弁を弄する事も、沙都子は許さんじゃろう。
ここまで敵意と不信を煽られた以上、有耶無耶にする位では待っている判決は同行拒否。
それはつまり、まず間違いなくメリュジーヌに追撃される未来、死を意味する。
「皆、聞いてくれ!」
(この状況をひっくり返せるかもしれん情報は古手梨花から聞いてはいる。しかし……)
上手く行けば奴の信頼の根幹を揺るがせる情報であるのは間違いない。
じゃが、馬鹿正直に伝えた所で信じて貰えるとは思えん。
荒唐無稽に過ぎるし、目に見えない病気である以上証明するのは難しい。
果たしてここで切ってよい情報(カード)な物か……
「この女の親友──古手梨花から聞いた事だ」
(しかし…今まさに沙都子は結論を出そうとしていた。今しかない、か)
本来ならばもっと信じさせるための論理(ロジック)を組み立ててから暴露したかったが。
こうなれば仕方がない。モクバの弁論に賭ける他は無い。
それに、今更口をふさいだところで手遅れじゃ。
暴露した後、乏しい情報で何とかフォローできるように準備をするしかあるまい。
「この女は雛見沢症候群って、寄生虫でかかった奴を疑心暗鬼にする病気を……
故郷でばら撒いた危険な奴なんだよ!俺達が信用できないならそれでいい、
でも…この女を信じてたら危ないんだ。それだけは覚えていてくれ!!」
そして、モクバは北条沙都子の危険性を暴露した。
奇をてらわぬ直球の告発。
選択肢が無いとはいえ、他にもっと説得力のある言い方は無かったのかと考えてしまう。
じゃが、今更詮無い話。今はこの暴露からどうやって揺さぶりを掛けるか───
「き、寄生虫、って……」
「それって、シュライバーって人が言ってた………」
そう考えていた折のこと。
妾にとって嬉しい誤算が発生した。
想定よりも遥かに、モクバが暴露した情報は沙都子達に混乱を与えた様子じゃった。
証明できぬ病気の話であるのにも関わらず、何か強烈な心当たりがあるような。
特に悟飯の動揺は一際激しく。
どうやら、ラッキーパンチがクリーンヒットしたようじゃな。
(───どうやら、運に見放された様じゃのう。北条沙都子)
思わぬ形勢の好転に、内心で嘲笑が漏れた。
もう一度沙都子の背後を確認してみる。
するとどいつもこいつも、動揺から今まさに不信へと変わりそうな顔をしておった。
ここまで簡単に沙都子への信頼が揺らぐなら、同行するよう丸め込めるのはほぼ確定。
いや、それに止まらず、奴らを味方につける事も不可能ではない。
モクバや他の連中の手前殺すのは許されんじゃろうが、拘束は可能になるかもしれん。
そうなれば後々逃げられる前に、永沢と同じくどさくさに紛れて始末してしまえばよい。
妾のドミノ獲得の礎になって貰うとしよう。
(先回りしてここまで根回しをした手腕は中々の兵(ツワモノ)じゃったが…)
肝心な所でモクバの怒りを買い、奴の青臭い正義感に負ける事になるとは。
策士策に溺れるとはこの事。とは言え古手梨花から情報で敗れるなら本望じゃろう。
どれ、奴の焦燥に満ちた顔を拝んでやるとするか。
その考えの元、妾は沙都子の顔へ嬲るような視線を向ける。
───────なに?
少なくとも妾達と同じ地平、同程度の窮地に墜ちたにも関わらず。
沙都子の表情は、貼り付けた様な無表情じゃった。
全く感情を伺わせぬ瞳で、此方を見つめ返してくる。
様子を伺っているのは妾の筈なのに、まるで沙都子が此方を観察している様じゃった。
思わず、沙都子の方に意識を集中させてしまう。
その瞬間、背後の者からは見えぬ様に、沙都子の表情が変わった。
瞳を紅く煌めかせ、ニィ……と。微かに、だが確かに笑みを浮かべた。
今この状況は奴も追い詰められている。それは間違いない。
笑みの中に焦燥と緊張があるのもまた、確信できる事実。
では───何故奴は今笑みを浮かべた?単なる強がりか?
妾の目から見ても、沙都子の態度は不気味その物、だからこそ。
錬金術師のサガで笑みの正体が何なのか、暴こうとしてしまう。
沙都子に意識が吸い寄せられてしまう。だから気づかなかった。見逃し、聞き逃した。
「─────────────────────────────────、あ?」
勝利の二文字の前に仕掛けられた、仕掛けられた罠を。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
魔女裁判は加速する。
疑心暗鬼を引き起こす寄生虫を媒介とした病。
それは、北条沙都子を取り巻く全員が聞き及んでいる災いだった。
マーダーである筈のウォルフガング・シュライバーが、懇切丁寧に教えてくれたことだ。
一目で分かる狂人だが、吐く言葉には不思議な説得力のある殺人者であり。
素直なイリヤら参加者たちは彼の言葉を鵜呑みにしていたばかりだ。
当然、沙都子がその病気を利用したなど聞いて黙っていられる筈も無い。
最初に食って掛かったのはクロウカードの守護獣、ケロベロスだった。
「沙都子!どういう事なんや!あいつらの言ってる事はホンマなんか!?」
「そ、そうよ……何とか言いなさい!」
ケロベロスの詰問に、紗寿叶が続く。
先ほどしぶしぶ沙都子の下した決定に同調した者達が、疑念の言葉を吐き出す。
彼等の沙都子を見る目は、既に仲間ではなく、容疑者を見る瞳だった。
真っすぐに前を向いている沙都子の表情は伺えない。だが、焦っている様子は無く。
一同が固唾を飲んで反応窺うなか、静かな怒りを滲ませた少女の声が響く。
「全く、流石に許せませんわね────」
沙都子は腕を組み、ケロベロスたちの方へと振り返る。
さっきまで笑っていたとはとても思えない。迫力を醸す表情をしていた。
ビクッと紗寿叶が怯み、追及の言葉に詰まったタイミングで彼女は語り出す。
「亡くなったのを良いことに、私の親友を利用しようだなんて」
その言葉を聞いたモクバとケロベロスが「なにっ」と声をあげるのも気にせず。
沙都子はハッキリと「梨花からそのような話は聞いた事が無い」と述べた。
死人に口なし。自分と親友の梨花の存在を利用し、彼等は罪を擦りつけようとしている。
それが沙都子の主張だった。それを聞いて、勿論ドロテアが黙っている筈も無い。
「ほう、では何故悟飯たちは動揺しておる。
何か心当たりがある証拠ではないか。例えば…お主が毒を盛った心当たりとかなぁ?」
その通りだ。
シュライバーが雛見沢症候群の事を悟飯たちに暴露したからこそ。
怪しいドロテア達の言う事を、彼らは嘘だと切って捨てる事ができない。
彼女達が述べた病気の概要が、シュライバーの言っていた毒の症状と合致していたから。
だからこそ、ついさっきまで仲間であったはずの沙都子の事を疑いの目で見てしまう。
「……そうや、沙都子。あいつらが言ってるヒナミサワ症候群ってのと……
シュライバーが言ってた悟飯に盛られた毒の症状は同じや。これはどういう事なんや」
「何じゃと?」
ケロベロスのその言葉に、ドロテアに俄かに衝撃が走る。
孫悟飯が、雛見沢症候群になっているかもしれない?それは、不味いのではないか?
そう懸念する物の、先ずはこの場を制する事が最優先。
彼が疑心暗鬼になっているのなら、上手く事を運べばそのまま沙都子を制圧できる。
錬金術師の思惑など知る由もなく、沙都子に厳しい追及を行うケロベロス。
だが、沙都子は僅かに煩わしそうにするだけだった。
「私には雛見沢症候群なんて病気には覚えが一切ありません。
実際シュライバーに話を聞かされた時、驚いていたでしょう?」
沙都子に尋ねられて、一同は朧げな記憶を辿る。
あの時の沙都子はよく覚えていないが、確かにシュライバーの言葉に驚いていた様な…
各々の思考がそこへ行きついたのと殆ど同時に、ドロテアが反論を行う。
「白々しい。大方、雛見沢症候群という病気の存在に驚いたのではなく、
それを利用……毒か何か盛ったことを看破された事に驚いていたんじゃろう」
ドロテアのその指摘は、まさに真実を見抜いていた。
だが、その反論を受けた上で沙都子は肩を竦めて、ドロテアに問いかける。
「ではドロテアさん。何か私がその雛見沢症候群とやらを利用した証拠でもありますの?」
「…証拠はない、じゃが妾達と一緒に梨花から話を聞いていた一姫とガッシュの奴がいる
それに沙都子、貴様の組んでいるメリュジーヌに襲われたというディオもじゃのう」
「たった三人だけ?それなら私もエリスさん…それに貴方が襲った写影さんと桃華さん。
それにここにいる皆さんが証人になってくれますわ。そんな事はやっていないと。
貴方の言う三人だけでは、口裏を合わせていないと証明できますの?」
痛い所を突かれた。
ギリ、と沙都子の言葉にドロテアは歯ぎしりを禁じ得ない。
そう、沙都子がそんな病気を利用したという物的証拠は何もないのだ。
となるとドロテア達と同じく梨花から話を聞いた中で今も生きている一姫とガッシュ、
そしてメリュジーヌに襲われたディオを証人として話をさせる他ない。
しかしその三人の内誰もが此処にはいないし、現在位置も良く分かっていない。
つまり早急な合流は困難であり、今この場で沙都子の凶行の証人とするのは不可能だ。
だが、ドロテアは諦めず指摘を続ける。
「そいつらはむしろ、お主の事を疑っておる様子じゃがのう」
「では、聞いてみましょう───美柑さん!ケロベロスさん!
貴方が今迄私と一緒に居た中で怪しい事はしていましたか?」
指摘を待っていたかの様に沙都子は背後に向き直り、声を張り上げながら問う。
最も自分を疑っていた守護獣と、一番古い付き合いの少女に。
これまで一緒に居た中で、自分は怪しい動きをしていたかと。
その言葉にびくっとケロベロスと美柑は身構え、そして再び記憶を辿る。
「………いや。わいの見た範囲では何も」
ケロベロスの知っている範囲では、沙都子はむしろ最も悟飯に献身的だった。
悟飯の事を考え、助けようとしていた。シュライバーとだって一緒に戦った。
魔術的な視点で言っても、怪しい事をしていたかと問われれば覚えがない。
ついでに言えば、悟飯がいつからおかしくなったのかすら、彼には良く分からない。
だから、そう答える他なかった。
そして、彼がそう答えた事で必然的に美柑に視線が集まる。
(………え、これもしかして。私の返事次第で沙都子さんがどうなるか決まるの?)
集まった視線によって、美柑の脳裏に予感が走る。
もしかして自分の返答次第で、沙都子の処遇が決まるのか?と。
ここで沙都子が怪しい事をしていたと言えば、彼女はどうなるのだろうか。
彼女が毒を盛ったと思ったら、悟飯君はどう動くのだろうか。
もしかしたら、自分の証言のせいで沙都子が死ぬことになるかもしれないのか?
(────そんなの、直視できない)
急に背筋に冷たい氷水を流し込まれたようだった。
集まる視線に、バクバクと鼓動が高鳴る。
思わず兄であるリトと親友のヤミに助けを求めたくなる。
でも、彼らがやって来る様子は無い。逃げる事もできない。
だから美柑は視線をせわしなくさ迷わせ、必死に半日前の記憶を掘り起こす。
(もし、毒を盛ったとしたら、初めて出会った時のレモンティーに………)
彼女が毒を盛ったとしたら、あのタイミングしかない。
けど、悟飯が周りを見ずに暴走したのはシュライバーと会った時からだ。
加えて自分も沙都子自身も紅茶に手を付けていたが、何ともなっていない。
それに何より─────
────怖かったですわね。大丈夫、大丈夫ですわ。美柑さん。
────こんな状況ですもの、助けあわないと。
結城美柑にとって、北条沙都子は恩人だった。
恐慌の只中に合った自分を落ち着かせてくれた、優しい人だった。
そんな人を、確たる証拠も無いのに犯人と疑えるはずも無かった。
宇宙にその名を馳せる殺し屋とも仲良くなれる、心優しい美柑だからこそ。
「────ううん、私から見ても…沙都子さんに変な所は無かったと思う」
そう答えてしまうのは、必然だったのかもしれない。
そして彼女のこの返答を以て、大勢はほぼ決した。
後のメンバーは沙都子とあまり深く絡んでいない。
イリヤも紗寿叶ものび太も、放送前に顔を合わせたばかりで説得力のある証言は望めない。
「────いかがですかドロテアさん。貴方達のかき回す様な発言が無ければ…
私とこれまで一緒にいた方達は、怪しい所なんて無かったと証言してくれましたが」
「ふん、どうだか。結局お主が尋ねたのは二人だけで、妾と変わらんではないか」
忌々し気に反論するドロテアだったが、語気は先ほどに比べれば精彩を欠いており。
睨むように美柑以外の者達に視線を向けていくが、反応は悪い。
それは全員が、出会った時から沙都子に怪しい場面はなかったと言っている様なもので。
このままでは不味い。雛見沢症候群というドロテア達の切り札が殺されようとしている。
今ここで有耶無耶にされれば、まず間違いなくこの論戦は敗れるだろう。
そうなる前に、別アプローチでの追及を試みる。
ふぅと息を一つ吐いてから大仰に手を広げて、ドロテアは周囲に訴えた。
「───さっきからお主ら、おかしいと思わんか?」
全員に届く様に力強く、演説の様に。
ドロテアは沙都子を指さし、年頃の少女としては明らかに不自然な点の指摘を行う。
証拠がない以上、ここから論理的に沙都子を追い詰めるのは難しい。
ならば、感覚的におかしい点をあげつらい疑いの目を向けさせる。
「こ奴は雛見沢症候群の事は全く知らないと言った。それなら明らかにおかしいじゃろう。
もしお主らが知らぬ病気で殺人者の容疑を掛けられれば、こんな平然としていられるか?」
理屈の伴わない、感覚的な違和感に対する指摘。
それ故に聞く者に理屈から目を逸らさせ、全員が大なり小なり考えた、確かにと。
ドロテア達と出会い、魔女裁判が始まってからと言うもの。
沙都子の態度は冷静に過ぎるように思える。
身に覚えのない病気で殺人者の容疑を掛けられたのなら、もっと動揺していいはずだ。
ここまで落ち着き払っていると、その態度を裏付ける何かがあるのでは。
そんな疑心が、脳裏を過ってしまう。
「け、けど……いくらなんでもそれは言いがかりじゃ………」
ここでイリヤが初めて口を挟んだ。
自分は沙都子の事は良く知らない。だから彼女が本当に対主催なのかは自信が無い。
けど、もし対主催であるなら──落ち着いて話しているだけで疑われるなんて。
それは幾ら何でもあんまりじゃないかという考えが、思わず口から出たのだ。
「確かにそうじゃな。妾もこれでお主らを説得できるとは考えておらん。
じゃが、さっきのモクバが話した事と合わせて、引っかかる物があるのも確かじゃろう?
当然、妾達にも信じられない部分があるのは分かっておる、だから────」
一旦暫しの間同行し、妾達と北条沙都子を見張ると言うのはどうじゃ?
そうドロテアは告げようとしていた。
最早気を急いた所で、今ここで沙都子がクロであると信じさせるのは困難。
であれば当初の予定通り、此方にも怪しいと感じる所がある事を認めた上で。
お互いを監視するという名目で、なし崩し的に同行と言う流れに誘導を行う。
暫くすればディオや一姫、それに彼らが危険性を説いた参加者と出会えるはずだ。
それらの参加者で勢力を拡大し、北条沙都子の化けの皮を剥がし叩き潰す。
この提案さえ通れば、計画通り事を進める事ができる─────ハズ、だった。
「沙都子おねぇちゃんは、そんなことしないもん!!!!!!」
天使の少女の叫びが、響き渡らなければ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
沙都子の腰にしがみつき、あどけない顔立ちにありったけの怒りを込めて。
この場で最も幼く見える天使の少女は、嘆きと共に周囲に訴えた。
「なんでみんな、沙都子おねぇちゃんをそんな目で見るの?
沙都子おねぇちゃん、皆のためにがんばってるだけなのに!」
「カ、カオスちゃん……」
眼鏡の少年にカオスと呼ばれたその少女の大声を聞いた瞬間。
ドロテアの脳裏に不味い、という言葉が駆け巡る。
今すぐ何か言葉を述べなければ、この少女を黙らせなければ。
この後来る話を、此処にいる者達に聞かせてはいけないと。
しかし彼女が何か言葉を発するよりも、カオスが“真実”を口にする方が早かった。
「おねぇちゃんたち、ほんとに分からないの?
沙都子おねぇちゃんがみんなにうたがわれてもてもずっと優しいのは………
悟飯おにいちゃんのために決まってるのに!!!」
その言葉に、ドロテアとモクバを除く全員に衝撃が走る。
そうだ、沙都子はいつも病魔に侵された悟飯の事を気にかけていた。
もし感情を露わにして、彼女がドロテアと言い争っていれば。
ただでさえ不安定な悟飯の病状に、どんな影響を及ぼすだろうか。
もし、沙都子が悟飯を気遣って冷静であるように努めていたのだとしたら…
その可能性に思い至り、子供たちは言葉を失うが、その十秒ほど後。
「カ…カオスちゃんの言う通りだよ。
ぼ……僕も!!僕もそう思う!!沙都子ちゃんを僕は信じるよ!!」
「のび太さん……」
カオスの訴えを聞いて、最初に同調の姿勢を見せたのはのび太だった。
彼らはこれまでの冒険を、疑う事ではなく、信じる事で乗り越えてきた強者だから。
のび太の宣言を聞いた者達も、言葉にしないまでもその表情は彼と同じ。
このままでは全員がそう時間を掛けず、彼と同じ結論に至るだろう。
(やられた……ッ!!)
ドロテアは周囲の反応を目にして、己の策が裏目に出たことを理解した。
根拠や理論のない感情的な視点から、半ば揚げ足を取るペテンで打開しようとした所に。
よりによって理論だった反証を、最も幼く見える少女に成されてしまった。
ドロテアとモクバは今、悟飯がどのような状態であるのかほとんど知らない。
だが、周囲の反応を見るに今に至るまでに色々トラブルがあったことは明らかだ。
そんな折に、「仲間への気遣い」というもっともらしく健気に見える理由を提示されれば。
たとえ北条沙都子の内心がどんな物であっても────
「いいんですのよ、カオスさん。イリヤさん達が私を疑うのも無理はありません
ここはドロテアさん達の言う通り────」
「いや!!あのドロテアっておねぇちゃんとモクバっておにいちゃん嫌い!!
皆にウソついて、沙都子おねぇちゃんを悪い子にしようとしてるもん!!」
────こ、のクソガキがァ………ッ!!!
ドロテアはカオスを今すぐ引き倒し、此方を睨みつけてくる目玉を抉ってやりたくなった。
衝動的にそう思うほど、カオスが声をあげてから状況は悪化の一途を見せている。
周囲の様子をうかがってみれば、一旦は沙都子に向けられていた疑心の目が。
今は、再び自分たちに向けられつつあった。最悪だ。
最低の空気の中で動向を申し出たところで、了承されることはないだろう。
今すぐこのクソガキを黙らせたい。だが、そんな事をすれば此方の敗北が確定する。
モクバの告発により途中まで有利に進んでいた状況が、完全にひっくり返されてしまった。
(落ち着け、妾は所詮ガキの北条沙都子とは年季が違う…ッ!
ここからでも挽回は可能ッ!まだ何とかなる筈じゃッ!!)
カオスへの殺意を必死に堪え、考えを巡らせる。
沙都子に対する証拠がない以上、論理的な説得は不可能。
此方も過去の悪事で疑惑を抱かれているし、やったやっていないの水掛け論になるだけだ。
感情に訴える説得もカオスのせいで最早ご破算。
ここから無理やり論破した所で、此方が悪者にされるだけだ。
(クソッ!こうなると沙都子の態度で疑うよう誘導したのが裏目に出た)
だが、まだだ。まだ何とかなる筈。
錬金術師として名を馳せた自分が、多少悪知恵の働くクソガキに負けてたまるか。
その一心で策を組み立てようとするが、しかし。
彼女よりも早く隣に立つ少年、モクバが声をあげた。
彼の横顔から今の言葉の応酬から、強引に話を切り替えようとしているのを察する。
モクバも形勢の不利を悟り、この場での沙都子の排除から長期戦に切り替えたのだろう。
しかし、既に一手遅かった。
「……俺達は脱出プランを考えてる。
今は信用してくれなくてもいいから、少しの間だけでも────」
「や!!信じられない」
どうやら自分たち二人は完全に嫌われたらしい。
カオスの態度は頑なだったが、ドロテアは同時にチャンスだと思う。
クソガキが感情的になってくれれば、相手にするに値しないガキの癇癪という事にできる。
早速そう言った話の流れに誘導しようとするが、当然沙都子も黙ってはいない。
「……では、今までの成果をお話しくださいますか?」
「それは、今はまだ話せない」
「つまり今の時点で目に見えた成果は全くない訳ですのね?」
「…違う!今話すと盗聴や盗撮の危険性がある。こいつは交渉だ、北条沙都子。
信頼で成り立ってる。そこで嘘を吐くなんて資郎とじみた真似は───」
「今の貴女達に、信頼なんてものが本当にあるとお思いですか?
単に話の流れが不味くなってきたから、誤魔化そうとしている様にしか見えませんわよ」
モクバが言葉に詰まる。
クロエの時と同じ説得を試みたが、沙都子には取りつく島も無かった。
だが彼女の言葉の通り、出会った当初に口にしたのならともかく。
今この局面で切り出した所で、話を逸らし誤魔化そうとしているとしか受け取られない。
沙都子以外の者達を見ても、反応は同じだった。
ならば、計画している脱出プランを打ち明けて信用を得るべきか。
いや、ダメだ。このタイミングで打ち明ければ当然沙都子も聞かせろと要求するだろう。
マーダーであり狡猾な彼女に聞かせれば、乃亜に密告されかねない。
その想像から、モクバは打ち明ける事を躊躇してしまった。
そして決断できなかった躊躇は、決定的な決裂を呼び込む。
「嘘つき!!さっきからこの人たちの言ってることウソばっかり!!
いっしょに行ったら、沙都子おねぇちゃんたちが死んじゃう!!!」
「違う!嘘じゃない!!お前も沙都子に騙されてるんだ。
こいつを信じても、後で裏切られて殺されるぞ!!」
「沙都子おねぇちゃんは一人ぼっちだった私に、ずっと優しくしてくれたもん!!
沙都子おねぇちゃんを悪く言うおにぃちゃんとは一緒にいたくないッ!!!」
カオスがもしもう少し意固地になっていないか、年かさの少女であれば。
モクバはもっと損得利益の視点からクロエに行ったように交渉に臨んだだろう。
だが、カオスの外見はどう見てもモクバの半分ほど。
理屈を説いた所で納得してくれるとは思えなかった。
それに何より。
(こんな小さな子を利用しやがって…………!!)
モクバの胸の中には、沙都子に対する更なる怒 りの炎が燃え盛っていた。
恵まれない子供達の為に海馬ランドの建設が兄共々目標であるモクバにとって。
自分達よりさらに幼いカオスを洗脳し、利用しようと言う沙都子の策は。
正しく、外道以外の何物でも無かった。だからそれ故に冷静ではいられない。
この女だけは、野放しにしておけばこれからも死を振りまき続けるだろう。
カオスだけでなく、この集団に待っているのは絶望の二文字だ。
絶対に、それだけは阻止しなければならない。
その使命感が、本人も気づかぬうちにモクバから冷静さを奪っていた。
(────無駄じゃモクバ。お前が何を言おうとその娘を説得する事は出来ん)
同盟相手であるモクバが必死にカオスに弁論を振るい、沙都子の脅威を説く姿を。
ドロテアは、限りなく冷めた視線で見つめていた。
また、モクバの悪癖である甘さと青臭さが出たのだ。
カオスは完全に沙都子のシンパだ。何を言った所で目を醒まさせる事などできはしない。
説得など時間の無駄。それよりも周囲を説得しなければならないと言うのに。
全員の前で幼いカオスと衝突する事で、それすら困難になってしまっている。
最早、ここまで不和を煽られては集団に潜り込むことは不可能。
そう判断せざるを得ないが、それを受け入れる訳にはいかない。
受け入れれば、待っているのはメリュジーヌと言う死神の襲撃なのだから。
だから、ドロテアは喉が痛くなりそうな大声で───最後の賭けに出る。
「孫悟飯、お前はどうする!!どうしたい!?
妾達はお前さえ力を貸してくれればそれでいいんじゃ!」
今更勝負を降りる事はできない。
メリュジーヌに関しては最悪金髪の痴女やクロエ達をぶつけられるかもしれないが。
この人数の集団に奴らは殺人者だと広められれば、沙都子より苦しい立場に追いやられる。
もう単に勝負を降りて逃げれば済む段階はとっくに過ぎているのだ。
かといって、既に全員を説得する事は難しい。
だが悟飯さえ押さえれば、首の皮一枚は繋がる。
雛見沢症候群に罹患しているという話だから、沙都子に彼も疑心を抱いているだろう。
彼さえ此方に引き込めたのなら、後はメリュジーヌに殺されても構わない。
沙都子に手玉に取られる様な愚鈍な者達だ、未練はない。
だから、悟飯だ。悟飯さえ懐柔する事が出来たなら───逆転は可能。
その考えの元に、ドロテアは悟飯へ交渉の対象を絞る事を試みた。
「───────ッ」
生き残りがかかった、全霊の呼びかけにびくりと体を震わせて。
ドロテアの方を見た少年は、深い深い底の見えない虚の様な──漆黒の瞳をしていた。
その柄も言われぬ不吉な雰囲気から、ドロテアは気圧されそうになるが、すでに遅い。
賽は振られたのだ。もうこの選択に、全てを賭ける他ない。止まる訳にはいかない。
己の才覚をただ信じ────錬金術師は突き進んだ。
斯くして、判決の時は来る。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
───この女は雛見沢症候群って、寄生虫でかかった奴を疑心暗鬼にする病気を……
───故郷でばら撒いた危険な奴なんだよ!
その言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中は真っ白になった。
ぐにゃりと視界が歪む。他の人が言っている事が耳に入らなくなる。
僕が僕である事すら、僕が孫悟飯である事すら分からなくなって。
気持ち悪い、吐き気もする。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる考えが巡って、何も考えられない。
………え?何で?何で、沙都子さんが僕に毒を盛るの?
あり得ない、そんなの、あ…あり得る筈ないじゃないか。あっちゃいけないんだ。
そ…そうだ、あのドロテアとモクバとかいう二人組は嘘をついているんだ。
メリュジーヌさんだってそう言っていた。あいつらは人殺しだって。
…………ッ!?ダ、ダメだ。やめろ。そ、それは考えちゃいけない。
それを思い出したら────もう戻れない。それなのに。
────心配しなくても、毒なんて入っていませんわよ。
────毒というか、寄生虫かな? 頭に異常が出てるね。脳みそがおかしくなってる。
────悟飯君、毒を盛った奴はこの中に居る。
あ……あぁあぁ………。
シュ、シュライバーと言っていた事と、ドロテア達の話はお、同じだ………
じゃ、じゃあ本当に沙都子さんが……?あのレモンティーに……?
信じられない。し……信じたくない………ッ!!
だって、あの人が僕に一番優しくしてくれた。
皆が僕をおかしいと言う中で、さ、沙都子さんだけは……僕の側に立ってくれたんだ。
も、もし……あの人まで、僕を騙していたなら。
も……もう誰も信じられなくなる。そ、そうだ、イリヤさんだって………!
あの人だって……沙都子さんとグルじゃないってい、言えるのか………?
沙都子さんですら僕を騙したのなら……信用できる人なんて、誰もいない。
日番谷さんも怪しいぞ……こ、このタイミングでいなくなったのはなんでだ?
そう……僕に毒を盛って、逃げたからだ。許せない。あいつも■してやらないと。
いや……そもそも僕とお父さん以外に。この島に善い人なんて、本当にいるのか?
わ、分からない。考えたくない────、
「沙都子おねぇちゃんは、そんなことしないもん!!!!!!」
……うるさいなぁ。
何を話しているのか、聞き流していたから良く分からない。
でもきっと、僕にとっていい話じゃないのは予想がついた。
もう嫌だ。僕のいない場所で勝手にやってくれ。そう言いたかった。
「嘘つき!!さっきからこの人たちの言ってることウソばっかり!!
いっしょに行ったら、沙都子おねぇちゃんたちが死んじゃう!!!」
「違う!嘘じゃない!!お前も沙都子に騙されてるんだ。
こいつを信じても、後で裏切られて殺されるぞ!!」
───うるさい。
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……ッッ!!
もう僕には周りの声が、醜い言い争いのようにしか聞こえなかった。
ドロテア達は特にそうだ。こいつらさえいなければ、僕は疑わずに済んだ。
知りたくなかった事を、知らずに済んだのに。
そうだ、考えて見ればこいつらのせいじゃないか。
こいつらさえ……いなければ………ッ!!!
「孫悟飯、お前はどうする!!どうしたい!?
妾達はお前さえ力を貸してくれればそれでいいんじゃ!」
黙れ。人殺しのお前らに、力なんか貸してやるもんか。
守ってなんかやるもんか。ドロテアなんか特にそうだ。
僕の力をアテにしてて、僕自身の事はどうでもいいんだ。
応える気力もわかなくて、ただ無言でじっとドロテアを見る。
するとドロテアは乗る気があると判断したのか、べらべらと何か言いだした。
「お主も心当たりがあるんじゃろう?
北条沙都子に、信用できない所があると。その勘は間違っておらん」
あぁ、本当にうるさいなぁ。何を言ってるか分からない。
沙都子さんが信用できないとしても、お前らが信用できるという話にはならないのに。
もう黙って欲しい。僕の前で口を開かないで欲しい。
そう考えているのに、ドロテアは話し続ける。
「お主の病気も妾なら治療できる!こう見えて錬金術師じゃからな。
だから妾達と一緒に来い!損はさせんと約束しよう!!」
あぁ……本当に。この人は口先だけだ。
空っぽで、何も心に響かない。目を見れば分かる。
嘘ばっかりで、本当にイライラしてくる……ッ!!
そもそも、僕を治してくると約束したのは沙都子さん────
そこまで、考えて。あっ、と声が出る。
(あっ……そうだ、沙都子さんが僕に毒を盛ったんじゃないか)
あれ?じゃあ。
ぼ、僕は、どうなるんだ?
僕はやっぱり───首を掻きむしって死ぬのか?
もし病気で死んだら、ドラゴンボールで生き返る事ができるのか?
…嫌だ。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだやだやだいやいや───
気持ち悪い。首がかゆい。目の奥が、真っ暗になっていく。
「……!!───。────!!!」
ドロテアがまた何かを言っていたけど、内容までは分からなかった。
聞く気も無かった。聞きたくも無かったし。
何か必死に訴えていたけど、僕にはただ五月蠅いだけだった。
「───悟飯!」
「悟飯さん!!」
「──悟飯君!」
気づけばドロテアと沙都子さん、他の皆が僕の名前を呼んでいた。
耳障りで、聞いていると首がどうしようもなく痒くなって。
───頼む……静かに……でないと……も、もう…………
そう願っても、声は止まなかった。ずっとずっと、僕の耳に響いて───
そして決定的な一言を、ドロテアとモクバは言った。
───えぇい!!聞く気が無いなら仕方ない!!死んでしまえ、孫悟飯ッッ!!!
───沙都子とグルのマーダーだったんだな、親父の孫悟空みたいにッ!!
その言葉を聞いて。
僕は何故か、ははっと笑ってしまった。嬉しくも無いのに。
でも、本当は嬉しかったのかもしれない。
決まりだ。信用できないのはドロテア達の方だ。こいつらの言った事は全部嘘だ
こいつらこそ、マーダーだったんだ。だって今、僕に向けてそう言った。
だからもう、我慢しない。
────カチリ、と。爆弾のスイッチを押す様な音が、僕の頭に響いた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
種を明かしてしまえば、ごく単純。
ドロテアが追い詰められれば悟飯に説得を絞るのは、予想できたことだ。
だから沙都子は、そこに罠を張った。
悟飯とドロテアに注目を引き付けさせ、さりげなくカオスを後方に移動させる。
その後全員の視線を確認してから、P=ステルスシステムを起動。
乃亜のハンデによりほんの数十秒程に制限されてはいるが。
これを使用する事によってカオスは僅かな間不可視の幽霊となる。
そして、カオスに感じとられる「気」がない事は孫悟空とのやりとりで確認済み。
そのまま浮遊し、足跡を残す事無くドロテア達の背後に回り。
変身能力の応用で声帯模写を行い、二人のフリをして悟飯に言葉を投げかけた。
───えぇい!!聞く気が無いなら仕方ない!!死んでしまえ、孫悟飯ッッ!!!
───沙都子とグルのマーダーだったんだな、親父の孫悟空みたいにッ!!
恐怖心からの防衛であれば、ドロテアとしての台詞で。
そして孫悟飯の最大の地雷───モクバの声で発する、悟飯が敬愛する父への悪罵。
これこそ、孫悟飯という爆弾のスイッチである。
沙都子は彼を慰める過程のプロファイリングでその事を確信しており、だからこそ使った。
───負けて死ね、と。ドロテア達に一言吐き捨てて。
「ちッ!違う今のは妾達が言った事ではない!!」
「誰かが後ろで俺達のフリをして─────!!!」
視線が集まる中、ドロテア達は慌てて背後を振り返るが。
当然、誰もいない。既にカオスは透明化が解ける前に元の位置取りに戻っている。
だから、傍から見れば二人の言葉は見苦しい誤魔化しの様にしか感じられず。
半ば何が起きたのかすら分からぬ怪現象を前に、取り繕う事などできるはずもなかった。
ただ自分達は、嵌められたのだと言うことを彼らは悟る。
そして、その直後。全員がカチリという音を聞いた。
実際に音が鳴った訳では無いだろう。だがそれでも確かに、その音は鳴り響き。
聞いた事も無いのに爆弾のスイッチの様な音だと、全員が同じ思いを抱く。
そしてその印象の通りに────起爆した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
孫悟飯の漆黒の双眸が、ドロテアとモクバを睨みつけ。
狂気を伴った叫びが、ビリビリと大気を呑み込む。
轟く咆哮は、魔女へと判決を示すガベルの音となり。
絞首台へと上がる魔女は、此処に決定した。
────魔女裁判、これにて閉廷。
【一日目/日中/E-7 海馬コーポレーション】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(中)、精神疲労(大)
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、クラスカード『アサシン』&『バーサーカー』&『セイバー』(美柑の支給品)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、雪華綺晶のランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:─────!
1:雪華綺晶ちゃん……。
2:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
3:殺し合いを止める。
4:サファイアを守る。
5:みんなと協力する
6:美遊、ほんとうに……
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
【結城美柑@To LOVEる -とらぶる- ダークネス】
[状態]:疲労(中)、強い恐怖、精神的疲労(極大)、リーゼロッテに対する恐怖と嫌悪感(大)
[装備]:ケルベロス@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
0:─────!
1:ヤミさんや知り合いを探す。
2:沙都子さん、大丈夫かな……
3:悟飯君がおかしかったのって、いつからなの?
4:リト……。
5:ヤミさんを止めたい。
6:雪華綺晶ちゃん……
[備考]
※本編終了以降から参戦です。
※ケルベロスは「火」「地」のカードがないので真の姿になれません。
【野比のび太@ドラえもん 】
[状態]:強い精神的ショック、疲労(中)
[装備]:ワルサーP38予備弾倉×3、新品ブリーフ
[道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス-、シミ付きブリーフ
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る
0:─────!
1:ニンフ達の死について、ちゃんと向き合う。
2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる?
3:みんなには死んでほしくない
4:魔法がちょっとパワーアップした、やった!
[備考]
※いくつかの劇場版を経験しています。
※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。
「やったぜ!!」BYドラえもん
※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています
※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)
※スネ夫の顛末を美柑から聞きました。そのため、悟飯への反感はほぼ消えました。
【乾紗寿叶@その着せ替え人形は恋をする】
[状態]:健康、殺し合いに対する恐怖(大)、元太を死なせてしまった罪悪感(大)、魔法少女に対する恐怖(大)、イリヤとカオスに対して苦手意識
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2、飛梅@BLEACH
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
0:─────!
1:魔法少女はまだ怖いけど、コスはやめない。
2:さくらさんにはちゃんと謝らないと。
3:日番谷君、不安そうだけど大丈夫かしら。
4:イリヤさんとカオスちゃん……悪い子じゃないと思うけど……。
5:妹が居なくて良かったわ。
[備考]
原作4巻終了以降からの参戦です。
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス故障寸前、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、カオスの素の姿、魂の消費(中)、空腹?(小)
[装備]:極大火砲・狩猟の魔王(吸収)@Dies Irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
6:聖遺物を取り込んでから…なんか、ずっと…お腹が減ってる。
7:首輪の事は、沙都子お姉ちゃんにも皆にも黙っておく、メリュ子お姉ちゃんの為に。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
極大火砲・狩猟の魔王を取り込みました。炎を操れるようになっています。
聖遺物を取り込んでから、空腹? がずっと続いています。
中・遠距離の生体反応の感知は、制限により連続使用は出来ません。インターバルが必要です。
ニンフの遺した首輪の解析データは、カオスが見る事の出来ないようにプロテクトが張ってあります。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:さて、ここからが勝負ですわね。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:悟空さんと悟飯さんは、できる事なら二人とも消えてもらいたいですわね。
9:悟空さんの肩に穴を開けた方とも、一度コンタクトを取りたいですわ。
10:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
11:シュライバーの対処も考えておかないと……。何なんですのアイツ。
12:メリュジーヌさん、別にお友達が出来たんでしょうか?
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:自暴自棄(極大)、恐怖(極大)、疑心暗鬼(極大)疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、
雛見沢症候群L4(L5に移行する可能性あり)、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、のび太への嫌悪感(大、若干の緩和)、
イリヤに対する猜疑心(大)、首に痒み(中)、絶望
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0〜1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:ドロテアとモクバを殺す。邪魔する奴も皆殺す。
0:沙都子さんが僕に毒を盛ったなんて……嘘、だよね………
1:沙都子さんは、信じたい……だって、そうじゃないと、僕は……
2:沙都子さんでなければ……だ…誰が、僕に毒を……み…みんな怪しい……。
3:………………………このしまに……いいひとなんてお父さん以外いるのか……?
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群を発症しました。現在発症レベルはステージ3です。
※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
※イリヤ、美柑、ケロベロス、サファイアがのび太を1人で立たせたことに不信感を抱いています。
※何もかも疑い出してます。微妙に沙都子には心は開いているかも。
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]左腕骨折、全身にダメージ(大)、疲労(中)
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品
セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、城ヶ崎姫子の首輪、永沢君男の首輪
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!
グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、チョッパーの医療セット@ONE PIECE
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:この、クソガキ共がァアアアアアッッッ!!!
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は凄腕の魔法使いが着いておるのか……うーむ
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
5:キウルの血ウマっ!
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢が死んだという自責の念(大)、キウルを囮に使った罪悪感(絶大)
沙都子に対する怒り(大)
[装備]:青眼の白龍(午前より24時間使用不可)&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 、ホーリー・エルフ(午後まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:北条沙都子………ッ!!!
1:東側に向かい、孫悟飯という参加者と接触する。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか?
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
投下終了です
投下お疲れ様です
まずは今までの感想から
>つかの間の休息
のっけからバショウカジキだの黒い蟲だの散々な言われような無惨様で笑う。
言葉に出していないとはいえ対主催面子からこうも緊張感のない評価を下される無惨様はなかなか見られないから新鮮。
ここまで結構大変な目に遭ってきたし無惨様とブラックという目に見えた爆弾を抱えつつもなんかほのぼのとした空気を醸し出せるのは龍亜くんの力が強いかもしれない。
シメの龍亜くんとブラックのやり取りがとても好き
>ルサルカ・シュヴェリーゲンの受難
ここまで絶好調なシュライバーとは対照的に出会う相手に須くトコトンボコられまくってるルサルカさんかわいそう。
序盤で出会ったガムテくらいしか地力でなんとかできそうな相手がいない運の無さよ。ただでさえ強くないマーダーがいないから仕方ないのかもしれんが。
ズタボロでも這いつくばっても生きた者が勝ちなので頑張れルサルカさん
>竜虎相討つ!
もはや頂上決戦と言っても過言ではないタイマンバトル。
シュライバーもさることながら、悟空もGTまで積み上げた経験値を活かしての熟練さが伝わってくる。
どことなく楽しそうに戦う二人は派手さも相まってどこか爽やかで見てるこっちもワクワクすっぞ!
そんな全開バトルに水を差す奴には死あるのみ、と言わんばかりの鉄拳制裁。前回まで割と呑気してたのが嘘のような有様のシャルティア、そして爆散したキウルくん南無。
悟空さの判断が悟飯への深い信頼からくるが故なのが辛いなあ。
>狂気と惨劇の舞台へ
本当にこのメスガキは勉強以外のことはめちゃくちゃ優秀なんだから...
非力なステルスマーダーながらも培ってきたクソ度胸で盤面を進んでいく彼女の姿はどこか勇猛ささえ感じられますね。
悟空とシュライバーに次ぐ日番谷隊長とメリュジーヌの屈指の強者同士のタイマンバトル。
迫力もさることながら駆け引きも達人同士の読み合いが映えること映えること。
厄介な障害を取り除いた沙都子が果たしてどう場を掻きまわしていくのか...
>It's Only a Paper Moon
龍亜くんたちやネモ達が考察やらなんやらを進めてる裏でもう一つの小休憩回。
面子的には対主催・危険対主催・ステルスマーダーのはずなのに、みんな純粋にゲーセン楽しんでるのは微笑ましいですね
梨沙ちゃん、戦力的にはともかくメンタル的には随分タフになってきてるので安心感ある。
その裏で「終わりが来るのはわかってるけどできれば遅い方が良いな」と思ってるしおちゃんが切ない
>死嵐注意報
藤木、きみってやつはほんとにブレないね。
悟空が分析した通り怯えてるだけの一般人なんだけど、自己保身欲が強すぎてもう普通にマーダーになっちゃってますね。
神を誑かす魔神に泳がされる彼の未来や如何に。
そして一方でゼオンジャックガムテのマーダートリオ。
ガムテ、めちゃくちゃうまく懐に入り込んで馴染んでて微笑ましい。
次はデパートが戦争になりそうだ
>第二回放送
第二回放送到達おめでとうございます!
首輪やキルスコアで優遇措置をとる新制度が生まれましたが果たしてこれがどう響いていくか楽しみです!
しかし18人って一気に落ちたんだなあ...
>ANOTHER ONE BITES THE DUST
ノッケからとんでもない大作が投下された!
沙都子、一歩間違えば自分も危険な選択もガンガン回していく胆力がすさまじいから不利になりそうな局面でも覆せるチップをいち早く手に入れられるのが強い。ほぼ会話しかないのにこの緊迫感の凄まじさよ。
ドロテアとモクバも頑張ったが、さすがに条件が悪すぎた。
しかも痛み分けとかならまだしも完全に嵌められたせいで死刑確定になるだなんて。
悟飯ちゃん、ついにレベル4になってしまった...しかしこれ沙都子も疑惑対象になってるから、ほんと生死ギリギリの綱渡りをしてるな沙都子。
海馬モクバ、ドロテア、グレーテル、クロエ・フォン・アインツベルン、北条沙都子、カオス、孫悟飯、結城美柑、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、乾紗寿叶、野比のび太、金色の闇、日番谷冬獅郎で予約します
延長もします
投下ありがとうございます
いやあ…なんだか凄いことになっちゃったぞ。
ドロテア、どう考えても初手で写影達狙ったのが失敗すぎますね。やるならやるで、しっかり口封じしないと。
ちゃんと脅したし首輪も外すよって話したのに、ガン無視で悪評を撒かれるの可哀想な気もする。全部ドロテアが悪いんですが。
モクバ君肝心な場面で遊戯や城之内を思い出してるのが切ないですね。そりゃ、遊戯は何度も海場兄弟助けてるし、海馬とは別にベクトルで羨望もあったのかもしれない。
グレーテルと遭遇してから、感情的になりすぎちゃって冷静さを失ってるんですよね。キウル死亡に触れられて言い淀むのもアウト。
ドロテアも永沢殺害をすっとぼけたまま話進めちゃったしで、今回モクバもアドリブ利かせられず、あー、もうダメダメです、そんなの。
カオスはウザガキモードに突入して、沙都子フォローしてるし結束力に差が出ましたね。
沙都子、ほんと弁が立つんだから。ケロちゃん、モクバ、ドロテア、ジュジュ様。1話でレスバ4タテする女。
ワイはゲロ弱、クソ雑魚やするケロちゃん、哀愁を覚えるしめっちゃ必死なんだけど正直面白過ぎる。
ゲリラ投下します
乃亜による2回放送10分前。
「ヌゥ…全然食べられそうな物がないのぅ」
羽織ったマントが腰の辺りで螺旋状に回転する。理屈としては、ヘリコプターが飛ぶのにプロペラが必要なのと同じだろうか。
ガッシュから響く風を切る音が、さくらにそう連想させた。
木の幹を飛び越えて、葉が生い茂る枝木の前で滞空しながら、ガッシュはスーパーで商品を漁る客のように木の実の一つでもないか、物色していた。
「写影にも桃華にも、あのコナンという者にも元気になってほしいのに…美味しい果物でもと思ったのだが……全く見つからないのだ」
一番はやっぱりブリ良いのだがの! そう忘れずに付け加えながら、ガッシュはぼやく。
人が開拓した市街地もあるが、樹木も多く自然豊かな島だ。
ガッシュはそう見て、何か食べられる甘い果実位はあるだろうと、民家の裏にあったすぐ近くの樹林地帯の前で果実を探し回っていた。
しかし、もうすぐ十数分経ち、2回放送目前だというのに、収穫は未だゼロだ。
がくりと肩を落としながら、ガッシュは滑空して地面に降りる。
この島には生き物や、自生した食べ物になりそうな木の実の類がない。
これだけ自然が豊かなのに、不思議なものだとガッシュは感じた。
「ガッシュ君は、木の実に詳しいんだね」
「ウヌ! 私は人間の世界に来た時、最初は森で暮らしたからの!!」
「凄いね…サバイバル?…してたの? まだ小さいのに……」
ガッシュの素性は軽く聞いていた。人ではない魔物の男の子で、一人で人間界にやってきたという。
人と魔物の年齢の観念が同じかは分からないが、外見だけなら5歳か6歳くらいの幼い子だ。
そんな小さな子が森で生きてきたというのだから、喫驚ものだ。
人間界に来てから、魔物の力を引き出す魔本を読める人間と出会えるまで、探し続けなければならないとも言っていた。
きっと、大人の同伴者もおらず、一人で生きてきたのだろう。
「夜は怖かったが、昼は動物たちと遊んでたから寂しくなかったのだ。あっ……後、その時の話ではないが…その森で、ダルタニアンという妖精にも会ったことがあるのだ」
「妖精さん? ケロちゃんとか、スピネルさんみたいな」
イメージとしては、童話の中に出てくる可憐で、でも掌に乗ってしまうくらい小っちゃな羽を生やした女の子。
ピーターパンに出てくるティンカーベルなんかは、その最たる例だろう。
他にも、さくらの知る中だと、ケルベロスやスピネルが妖精のイメージに近い。
あまり飛行に役立つとは思えない小さな翼で、ふわふわと宙を浮く、ライオンとクロヒョウを小さくして愛々しくしたような形貌。
本人は封印の獣だと言っていたが、妖精と言われても、きっとさくらは信じる。
「さくらの身近にも、女の子が付けるブラジャーとやらを身に着けたおじさんがおるのか?」
「ほえええええええ!?」
無垢な少女の夢幻が、汚穢にまみれた現実に打ち砕かれた瞬間である。
胸が肥大化し、お腹もふっくらと肉付きが良い、とても引き締まったとは言えない肉体の、頭頂部の毛髪が薄れた中年の男性が。
脂ぎった頬を火照らせ、羽をぶおおおんと羽ばたかせながら、優雅に空を舞う。
そんな光景が、妖精というワードとリンクされてしまった。
「それ妖精さんじゃないよ! 変態さんだよぉ!!」
「し…しかしだの…は、羽が……付いて…おった……」
強く厭うさくらを見て、ガッシュもプルプルと顫動していく。
悪い者ではなかった。蛇に怯えたガッシュを、スタイリッシュに救ってくれたのだ。
しかしだ。思い出せば、やはり異様な壮年の男性だった。
ブリの着ぐるみを着たり、森の妖精と行って羽と尻尾を生やした服装をしていたり。
共通するのは、裸体の上半身をブラジャーで隠していた事。
毛深く、分厚い胸板の先のみをブラジャーが秘所のように覆い隠す。
世の全てがそうではないが、大半の男性にとって秘所にはならない部位をあえて隠しながら、肌の露出は増やすという蛮行。
この人…何か変?
「き…清麿の…父上殿の…知り合いで、大学の偉い先生みたいなのだ……ウヌ」
言い聞かせるようにガッシュは思い起こす。
あのナリだが、高い権威を持つ教授のようだった。高い頭脳を持つ清麿の父親の同僚であるようだし、社会的に立派な人物? 妖精? だろう。きっと。
「そっかぁ……大学の先生なら…お父さんも…知ってる人なのかな……」
大学の先生と言えば、さくらの父親も大学に務める講師だ。
そう言われれば、変態ではなく自分のお父さんのようにしっかりした大人のように見える。
さくらもそういった職場を見学したことがあるが、大学の職員の人達は皆普通の人だった。
本当に変態だったら、そんな場所で働く前に通報されていることだろう。
「ウヌぅ……」
「ほえぇ……」
何か解せないまま、言葉を失い二人の口から困惑だけが吐露された。
(この子達、見てて飽きないわね)
頬付きをして一姫は眠そうな目で、ぼーと二人を眺める。
こうして眺めているだけでも、中々退屈しなかった。
「一姫、お主は…よいのか?」
「何が?」
「雄二は一姫の弟なのだろう? もっと、話す事とか」
ガッシュが不思議そうに一姫の顔を覗き込む。
眺めている側から一転して、眺められる側へと変わっていた。
「…あれ以上の会話は必要ないわ。言ったでしょう? 可能な限り、歴史を変えたくないの」
最低限の会話から、雄二が殺し合いに招かれたのは、ヒース・オスロの手から解放され、まだ日下部麻子が存命でその下で指南を受けていた頃。
まだ安定している時期だったのは幸いだ。
麻子の暗示も効果があり殺人への忌避は強かった。オスロの愛玩奴隷扱いの頃よりはずっとマシである。
「雄二がいつの時系列から呼ばれたか把握したし、その上で私からの不要な干渉はいらないと判断したの。
貴方のお兄さんのゼオンとは違うわ」
ガッシュの兄のゼオンと違い、雄二は殺し合いに否定的であり暴走の恐れもない。
だから、一姫が進んで彼女から見て過去の雄二に干渉し、タイムパラドックスを引き起こし、一姫にとって現在であり雄二にとって未来の時代を不用意に変える事は避けたい。
これはフリーレンにも確認を取り、少なくともフリーレンの世界ではタイムパラドックスはあり得ることだと賛同を受けてもいる。
「しかしだの…」
「私も……もう少し話す位…」
「あの子の未来は良い物になるの。だから……余計な事はしたくない」
理屈は分かるが、一姫と雄二の会話があまりにも二人からは端的に見えたのだろう。
納得いかない様子だった。
(天音の事だってあるし)
歴史の改変は風見姉弟だけでなく、雄二が救った少女達の歴史にも影響を及ぼす。
特に周防天音。他の少女達も雄二達でなければ救えず死活問題だが、一姫が特に肩入れしているのは彼女だ。
やはり、叶うことなら一姫の知る通り、雄二と出会って欲しい。
雄二に相応しい女、一番はどう考えても一姫自身だと自負している。
だが、その次には彼女の事も認めていた。
そして、雄二が天音と出会わないということは、高確率で美浜学園に転入しないということだ。
厄介なのが、一姫と同じバス事故に巻き込まれ死亡した坂下千秋の父…坂下啓二の急襲だ。
バス事故で生き残った天音への執着、千秋の死に対する悲しみと怒りと逆恨みは尋常じゃない。
遠からず美浜学園を見つけ出し、天音へ身勝手な報復を行いに向かうのは明白。
雄二抜きではJBを動かせず、初動は警察が出動しかねない。
後に、雄二を伴ったCIRS(サーズ)が到着しても、雄二が鍛えなかった入巣蒔菜では啓二を狙撃可能ポイントまで誘導するのは無理だ。
正史と違い、状況は悪化して手をこまねいている間に天音が傷物にされかねない。
(天音だけじゃなく、あの娘達もかなり危ないのよね)
他にも天音の因縁だけでなく、榊由美子、松嶋みちる、入巣蒔菜、小嶺幸。
彼女らの大半は、雄二が居ないと、かなり、非常に、不味い。
何人か死ぬ。場合によっては全員死ぬ。
(いっそ、未来を全部話して…美浜学園に行かせるようにする事も考えたけど…)
それでもまだ、これらは想像しうる範囲であり対応策も考えられなくもない。
厄介なのはその後だ。
ヒース・オスロ絡みまで変わった歴史を考え出すと、これらとは規模が段違いで変わる。
もう一姫でも想定しきれない混沌とした状況。
例えば、正史では雄二はヒース・オスロと決着を着けて生還した。
だが、未来の一姫が干渉した雄二は本当に同じように生還できるのか?
その時の雄二の精神状態や、モチベーションに一切の悪影響がないと断じて言えるか?
ネタ明かしされた人生を、初見時の雄二と同じように過去の雄二は必死に生き抜いていけるのか?
それによって行動を変えた雄二に影響され、ヒース・オスロやその他大勢の行動も大幅に変わり、やはり歴史が予想もつかない方向へと変わってしまうのではないか。
(やはり、迂闊には干渉出来ないわね)
天才の一姫であっても想像が付かない、結論が出せない。
そうならない、そうさせないのが、一番の最善。
『やあ、諸君。バトルロワイアルの開始から12時間が経過した』
「二人とも」
空に照射されたされた乃亜のソリッドビジョンと共に、尊大な言い回しで癪に障る口調が島中に響き渡る。嘆息を漏らし、一姫は空を仰ぎ見た。
放送を聞き終えれば、そろそろフリーレン達とも話し合う時間だ。
また、この先暫くは忙しくなるのだろう。
ガッシュとさくらは、放送を聞くのを邪魔するわけにもいかず黙り込んだ。
───
放送が終わり、ガッシュ達は再び民家の中でフリーレン達と顔を合わせる。
各々放送に思うところはあれど、ここから何をすべきか話し合わねばならない。
誰が言いだす訳でなく、予め一姫が発見したホワイトボードを大きな間取りの部屋に置いて、そこに全員があつまった。
キュッキュッとホワイトボードにマジックペンで文字が綴られる音が響く。
一姫の指示通りに、桃華が丁寧な字で、かつ迅速に情報を纏めていた。
それを、ガッシュ達とフリーレン達は黙って見つめ続けている。
(灰原…)
そのなかで、コナンは放送を聞き終え、そして哀傷に満ちた表情で悲嘆にくれる。
数々の難事件を解決に導いた天才的頭脳が、この瞬間だけは完全に停止していた。
「……」
灰原哀の名が呼ばれた。
1回放送の小嶋元太に続き、コナンの仲間が二人も死んだのだ。
(どうすれば……)
2回放送で灰原が呼ばれた順番は8番目、確証はないが死者の名が死んだ順に呼ばれるのなら、灰原は1回放送後、3時間前後は生存していた確立が高い。
1回放送で真っ先に呼ばれた元太とは違い、灰原はコナンの助けが間に合ったかもしれない。
それなのに、当のコナンがやっていたことはなんだ?
シュライバーとリンリンとの遭遇以降、それでもリンリンを死なせず罪を償わせようと決意を固めたのは良い。
だが、その後数時間、コナンは何をしていた? 何を成し遂げた?
何もだ。何も結果を出すどころか、行動に移す事すら出来てはいない。
理想だけを語り、悲劇の場面に遅れてやってきて、ケチをつけただけだ。
(リンリンやマサオどころか、俺は灰原まで……!!)
理想を悪戯に振り撒く時間があるのなら、灰原だけでも救えたのではないか。
頭を回らしながら、意味のない後悔だけが無尽蔵に湧いてくる。
(フリーレンの判断は、間違っていない)
己の不殺という心情を鑑みなければ、フリーレンの行動は凡そ正しい。
リンリンを止める術を持たず殺めたのも、写影達の陥った窮地を思えば止むを得ない。
コナンは戦いの素人だ。殺しに長けた黒の組織の構成員を、何故か圧倒できる毛利蘭の一撃を避ける程度なら可能だが、フリーレンに比べれば素人に毛が生えた程度だろう。
その素人のコナンでも、シュライバーは飛び抜けて強い怪物だと分かった。そしてそんな怪物を前にして、傷一つ付かないリンリンもまた怪物だ。
そんな怪物を前にして、退ける事すら困難だというのに殺さずに捕えろなど無理もいいとこだ。
フリーレンは何てことないように、淡々と事実だけを述べたが、恐らくはギリギリの攻防に違いない。
また、ハンディ・ハンディを見捨て、実質死なせたのも同様だろう。
雄二はハンディの殺害に同意しつつも、それに踏み切った過程までは訝しんでいたが。
フリーレンの語る魔族の脅威に対し、実感は伴わないが情報としてコナンは飲み込めていた。
会話という意思疎通は測れても、相容れる事がない別の生物。
彼女の言う事を要約すればそういうことだ。
会話が通じ意思疎通は可能な、だが人類以上の上位種が現れたとして、彼らが人を食糧と認識したのなら例え命乞いをされようと、そんなものに耳を傾けるだろうか。
恐らくはしないのだろう。
人が牛や豚や鳥を常日頃、食事として口にするのと同様に。
人命を優先するのであれば、ハンディは真っ先に消すべき存在だ。
あれは、人の天敵である。
頭脳に長けるコナンと日下部麻子の下で軍事訓練を積んだ雄二だからこそ、軽々突破したが、ハンディが仕掛けた罠は凶悪の一言だった。
明かに、人を狩ることに手慣れた狩人のそれだ。
服についた血も返り血で浴びたようなものじゃない。
襟元にこびり付く夥しい血痕は、あれはまるで食べこぼしがひっついたような形状だった。
あの巨大な頭部と横に伸びた面長の鰐口であれば、子供一人くらいならば軽々口に放り込んで咀嚼することは可能だ。
つまるところ、そういう生態の生物なのだろう。
リンリンが力を御しきれず、触れるもの近づくもの全てを破壊する災害だとすれば。
ハンディは人を食して命を繋ぐ、人の上位種であり捕食者だ。
例え非力であろうと、人とは完全に異なる異形なのだ。
世界は違えど、鋭敏にフリーレンはそれを感知し、最低限ではあるが必要な確認を取った上で写影達の命と天秤に乗せ、誰を優先するか瞬時に判断し実行した。
命の価値を測るやり方はコナンにとっては快諾しかねないが、それでも彼女は二人の少年と少女を助け出す事には成功したのだ。
誰も救えずに死なせ続けたコナンと、全員ではなくとも命を守り結果を出しているフリーレン。
正しいと言えるのは、きっとフリーレンだ。
(どうすりゃいい…)
フリーレンどころか、殆どコナンと同一の世界から来ているであろう写影ですら、必要な場面では他人を殺めるべきと認識している。
初めから、そうした悟りを抱いているわけではないのだろう。ここまで生き延びた中で、見つめてきた地獄から、そう諦観している。
コナンに諭しながらも、写影はそんな自分自身に嫌忌の念すら抱いていた様子だった。
(警察が機能しない世界で、探偵はここまで無力なのかよ)
難事件を解決に導く頭脳と、いかな凶悪犯罪であっても被害者以外の死者はほぼ出さなかったのは、コナンの功績であり実力だ。
しかし、そこまでだ。捕らえた罪人を留置する枷と檻、そして裁きという名の断罪を執行するのは社会によって構築された法というシステムによるもの。
コナンが人を殺めずに済んでいたのも、その世界にあった個人では抗えぬ法が力を保持し、取り締まっているからこそ。
「一姫さんに言われた通りに、纏めましたわ」
桃華がホワイトボードに一通りの情報を書き終える。
「……!」
コナンが省察に没頭している間、桃華が何人もの人名を書き連ねていた。
慌てて、コナンはホワイトボードに目をやり、数分の後れを取り戻さんとその才知を発揮し脳にインプットしていく。
「信用できそうなお方は、モクバさん、ニケさんで…水銀燈さんとおじゃる丸君は…放送で呼ばれていますわ」
桃華は二人の名前に横線を引く。
(ニケは大丈夫なのか)
雄二は数時間前に出会ったニケだけが呼ばれず、水銀燈達二人の名前が呼ばれていることが引っかかる。
やむなく、分断されたか別行動したのなら良いが。
ニケだけ生きながらに捕らえられ、拷問でもされているのではないか。
疑惧は止まないが、今はその無事を信じて祈るしかない。
「対主催らしいのがフランさん、ネモさん、悟空さん…」
コナンが出会ったフランからの情報だが、当のフランを信じられるか微妙だった。
だから、モクバのように対主催と断言しきれない。
「危険人物の方はリンリン、ハンディは死亡…これは乃亜の放送でも確認出来たわね。
あとは、シュライバー、ガムテープの男の子、リーゼロッテ、沙都子、メリュジーヌ、砂を操る男、シャルティア、マジシャン風の男、ゼオン、ジャック、遺体を食べる女、ドロテア…そして孫悟空」
危険人物の一覧へ一姫は指を差す。
一目見て分かるのは、対主催の悟空とマーダーの悟空が二人いることだ。
両方本人なのか、さもなくばどちらかが偽物か。
「リーゼロッテには気を付けた方が良い。
幻覚魔法が厄介だ。本調子じゃなさそうだし、連発は出来そうになかったけど」
「キャンチョメのシンポルクみたいだの…」
人の五感を操作する能力は非常に凶悪だ。
フリーレンの話を聞いて、ガッシュは仲間のキャンチョメを思い出していた。
模擬戦とはいえ一度ガッシュはキャンチョメに敗れている。
リーゼロッテと相まみえるかはは分からないが。何か、対策を講じなければならないだろう。
「悟空という男は、ネモという対主催と同行しているらしい。
フランの言うことが、何処まで信じられるかだが…。
そのネモも首輪の解析を進めているようだが」
まず先に雄二は悟空がマーダーであるという情報に待ったを掛ける。
直接の面識はないが、彼が対主催であるという話を聞いていたからだ。
「私とガッシュが遭遇した孫悟空と、ネモと同行している孫悟空、どちらかが偽物なのか、それとも同一人物なのか…。
桃華、これも書いておいて」
「ええ」
言われるがまま桃華は悟空の欄の横に、偽物が居るかもと補足を付け足す。
「サトシと梨花を殺害したのはメリュジーヌ…らしいのだけれど」
「ピカピッカピカチュウ ピカピッカピカぴかピッカ ピカピッカピカ!!ピー ピカピッカピカ!!ちゅ ピカピッカピカ!!チユ ピカピッカピカう? ピカピッカピカカァッ! ピカピッカピカッ!ッ! ピカピッカピカウピカ ピカピッカピカ」
顔をぐにゃぐにゃと前足でこねくり回し、ピカチュウはメリュジーヌの顔へと限りなく近づけた。
「この者は恐らく、メリュジーヌだと言っておると思うぞ!」
「ピカピッカピカチユっ! ピカピッカピカチュウ ピカピッカピカウピカ ピカピッカピカ」
ほぼ間違いなく、メリュジーヌが襲ったと伝えたいのは分かるのだが。
「……すまない。正直、彼?の言っていることだけでメリュジーヌがサトシという人と梨花を殺したとは」
写影と桃華から見て、どうしても動物の鳴き声にしか聞こえないピカチュウのそれは証言としては弱い。
ガッシュもピカチュウの言っていることを何となく察して信憑性を伝えようとするが。
元々、ウマゴンのような言葉を話せないが高度な知能を持つ魔物と接して慣れていたガッシュと違って、写影達はどうしてもただの動物という偏見がある。
そもそもガッシュもウマゴンの本名がシュナイダーという訴えをまるで理解していない。
「まあ、こうなるとは思っていたわ」
一姫もピカチュウの伝えたいことは分かる。ガッシュ越しだが、一姫個人としては信じても良いだろうとも感じている。
ただ、それを鵜呑みにして話を進めるには、やはり種族と言語の壁がある。
「ピカチュカァ!!ピー ピカピッカピカチユ? ピカピッカピカウウ ピカウゥカーッ! ピカチユカァチユピッカ ピカピッカピカウちゅ ピカピッカピカぴかピッカ ピカピッカピカウピカ」
ピカチュウもこんな時にニャースさえ居ればと思う。
サトシにだって、たまに伝えたいことが通じず困る事があったのだから。
普段は見掛けたら、即10万ボルトだがこの時だけはニャースが居てくれればと心底思う。
誰かに支給されていないか。
ああ、いやでも…流石にニャースでも殺し合いに放り込まれるのは可哀想か。
水葬する寸前で蘇生して、惜しいと感じる事もあったが。流石に殺し合いをやらせるのは気が引ける。
とにかく、思考がぐちゃぐちゃになりながら、ピカチュウは必死に訴えかける。
「沙都子の話は梨花から聞いていたけど、あの時…僕達を助けてくれたんだ」
「ええ…リンリンさんに襲われた私達を守る為に」
写影達もピカチュウの言いたいことを信じていない訳ではないが、一度助けてもらった恩を無下にもできない。
「ヌぅ…しかしのう……」
「……大丈夫だよ、ガッシュ。
僕らもメリュジーヌと沙都子を信じてる訳じゃない。ただ…」
助けて貰ったが、その前の沙都子の殺意は気のせいではなかった。
リンリンがあの後に介入しなければ、あの時殺されていたのは写影達だったと確信めいた予感がある。
「他の人達に話すとしたら、ピカチュウの言っていることは説得力に欠けちまう、ってことだろ?」
コナンがそう続けた。
普段なら、コナンも動物の言うことなど絶対にあてにしないが、ピカチュウのそれは普通の動物の知能じゃない。
明かに感情を持っているし、今も必死に晒しているメリュジーヌに似せた顔芸も故意的だ。
信じ難いが、本当に人の言っていることも理解している。
だが、それは明確な証拠にはならない。
コナンもほぼ信じられる証言だとは思うが、論戦においてはやはり人の言語を操れない動物は弱い。
話を聞く限り、沙都子という女は狡猾だ。その一点突破で全て言い包めてくる。
「ピカ……」
ピカチュウはがくりと肩を落とした。
サトシに頼まれた、皆を助けるという願いを叶える為に何とかメリュジーヌがマーダーだと伝えたかったのに。
「落ち込むことはないのだ。
ここに居る者達の中で、お主を疑う者は居らぬ。私はお主を信じるぞ」
ピカチュウの頭を撫でてガッシュは励ますように言う。
「…話を戻すけど、マジシャンも、あれでは多分…生きていないと思う」
ガッシュを横目に写影は修正を促す。
夥しい数の棘を生やした鈍器のような大剣で幾度となく殴られようと、再生を繰り返していたあのマジシャンも、ゼオンの電撃で焼かれ続けていては助からない。
桃華はそれを聞いて、同時にあの時の映画館での光景を思い起こし、その字面に重ねて線を二つ横に引く。
「…ゼオン」
ガッシュは複雑そうな面持ちで俯いていた。
既に一度グレイラット邸で聞かされたことだが、後から来たコナン達やさくらと情報を擦り合わせるには必要な行程だった。
「砂の人は私も会いました。なんか、鳥みたいな生き物がいて…」
「ピカピッカピカウちゅ ピカピッカピカぴかピッカ ピカピッカピカウピカ ピカピッカピカウピッカ ピカピッカピカウウ!!?」
「え、えっとね…うん、そう…そんな感じの顔で」
さくらにピカチュウが食いつき、顔を前足で変形させてピジョットのものへと近づける。
やはり、間違いない。
同個体かは分からないが、ここにはピジョットも居る。
そして、ピカチュウがここに居るのなら、それは同じくサトシのピジョットのはずだ。
「ピカピッカピカウぴか ピカピッカピカチュウ ピカピッカピカチユゥ ピカピッカピカウウ……ピカァ!!」
───どうしてだ。
どうして、サトシが絶体絶命のピンチの時に来てくれなかったんだ。
トキワの森で、僕がロケット団に捕まった時。
サトシがピンチの時に、君は来てくれた。
今回だって、この島に居るのなら。君さえ来てくれれば、結末は絶対に変わっていたんだ。
サトシはここに居て、生きて話をまだしていたかもしれないのに!
「ピ、カァ…!!!」
───もしも、もしもあの僕が知るピジョットなら、一体何をしているんだ……。
「落ち着くのだ、ピカチュウ…!」
「ピカピカピカ……」
申し訳ないと、ピカチュウは頭を下げた後、ずっと打ちひしがれていた。
サトシを守れなかった不甲斐ないのは自分なのに。
ピジョットに八つ当たりのような憤怒を抱いてしまっていた。
まだ、それがサトシの手持ちの個体かも分からないのに。仮にそうでも事情があるかもしれないのに。
「ドロテアも、モクバという子と手を組んで対主催側に居るわ。
こちらから何かしない限り、向こうから手を出す事はないと思いたいけど」
「……乃亜の、追加した新ルールがなければ、だろ?」
一姫に続けて、コナンが言う。
先の放送で提示された報酬システムは、参加者を殺す事でその殺害者が有利になるように考案されたルールだ。
「そういうことね。
殺し合いで優勝する気はなくても、それしか方法がなくて私達対主催に価値を見いだせなくなった時、裏切られる可能性は上がってしまったわ」
ドロテアは写影達を狙って、解析のサンプルとして首輪を入手しようとする冷酷な人格だ。
もし、優勝以外に生還の目途が立たないのであれば、状況が許せば即刻対主催側を裏切るだろう。
この島で長く共にいたモクバだろうと、それは例外ではない。
「これに関しては、あまり考えても仕方がないわ。追加されてしまったものは、参加者側からは消せないもの。
警戒をしろ、としか言えないわね」
ドロテアの危険度は上がったが、今すぐに何か対処出来ることも一姫達にはない。
またドロテア視点からも、すぐに行動に移す程のメリットもない。
純粋なキルスコアでは、シュライバーやメリュジーヌ等の参加者と競っても旨味はないからだ。
とてもじゃないが、上位3名に数えられるマーダー達とキルスコアを競い、ドミノを貯めるのは現実的ではない。
裏切るとすれば、参加者の減少からキルスコアが上がり辛くなった終盤、僅かな殺害数でもトップマーダーに連ねる事が現実味を浴びてくる頃合いだろう。
まだ、ドロテアが優勝に向けて本格的に始動することは、恐らくはない。優先してドロテアを処理する必要性も下がる。
「これからの方針として私から提案したいのが、ネモと合流するか、モクバと合流するかね。
ネモとモクバ、私達の知る中で首輪の解析に近いのはこの二人よ」
一姫の目配せを見て、桃華が青のペンでネモとモクバの名前を丸で囲う。
「ただし、ネモについては名前だけ、顔も知らないわ。首輪の解析をしているというのも、何処まで信じていいのか見当も付かない」
ネモはフランの証言を信じればだが。
だが、一姫はおろかフランと直接会話をしたコナン達ですら、ネモの顔すら知らない。
信じるには、あまりにも情報がない。
もう一人の悟空と共に行動しているというのも、かなり妖しい。
一姫とガッシュが交戦した悟空との?がりがあって、ネモが騙されている可能性もあり、またネモが共犯の可能性もある。
「モクバは信用に値するけれど…もっとも、彼も何処まで解析を進めているのやら」
モクバは一姫が直接会話をして、短い時間だがそれなりの人間性も伺い知れた。
信用は出来る。
海馬という姓から海馬乃亜に近い人物で、スキルもある。
首輪の解析を急いで、海馬コーポレーションへ向かっていったが。その内の同行者である、磯野カツオの死亡が先の放送で確定した。
ドロテアが逸らなければ、マーダーに襲撃を受けたと考えるのが妥当だ。
まだモクバの名前が呼ばれていないのは幸いだが、東のエリア帯に頼れる対主催が居らず、モクバが孤立していれば脱落は時間の問題になる。
モクバも馬鹿ではない。むしろ、頭は相当にキレるがマーダーとの戦闘に巻き込まれているのなら、とても首輪の解析が順調だとは思えない。
ドロテアの手綱も何処まで握れているか。また握って乗りこなせた所で、それがメリュジーヌやシュライバーのようなマーダーに何処まで通用するか。
「だがネモはフランを信じれば、だが…爆弾や機械の扱いにも明るい」
その胸の内にある所懐を抑えながら、コナンが続けた。
「ネモは北に向かっている。島の端で、参加者もそう集まる場所じゃない。
マーダーとの接触を避け、何処かで隠れながら首輪の解析を優先していることも考えられる。
強力なボディーガードが付いてるなら、襲われ辛いし返り討ちにもしやすいだろ。
マーダーに邪魔されずに、モクバよりは解析が進んでるかもしれねえ」
理屈としては、分かる。
この殺し合いの参加者の大半は子供だ。子供に首輪の解析を行えると考えるのは、通常ならば無理だ。
ネモが自分以外に首輪は外せない、他の参加者と接触したところでただの子供では、とてもじゃないが殺し合いを脱する力にはならない。
そう判断しても無理はない。
だから、ネモが首輪を外すのを優先して、また本物の悟空が善良であったとして、そのみなを話してから、自分の護衛として説得し島の端で今も解析を続けている。
結局、どれだけの子供達を守り保護しようと首輪を外さなければ、根本の解決にならない。
少なくない犠牲を強いたとしても、首輪をなくし乃亜を打倒すればその時に残った子供達は無事に済む。
もし、悟空が対主催で本当にフランの言うように、この島で最強であるのなら。
どれだけの命が救えたのだと。
そう怒りをぶつけたくなる気持ちもあったが、やはりその判断にもフリーレンと同じく間違いはない。
間違ってはいないが、やはり正しいとも言いたくない。
「気持ち悪いくらい、貴方と考えが合うわね。ええ、そうよ」
モクバは非情な判断を下し辛い。
カツオが沙都子の無罪を証明する為に悟飯と接触すると話した時、モクバが付き合う必要などなかった。
根が常識人で相応に真っ当であるがゆえに、首輪の解析だけを優先するという事はない。
目の前に救える命、助けを求める者がいれば手を差し伸べてしまう。
だが、ネモであればそういった非情な判断も可能やもしれない。
ネモの人となりすら知らず、状況証拠からの不確かな憶測でしかないが。
「この後、ネモとの接触班とモクバへの合流班に別れる。それがあんたの考えだな?」
「私達が掴んだ手掛かりはこの二つしかないもの。
藁にも縋る思いだわ」
明確な手段が必要だ。
どうこの殺し合いを破綻させるか。
「これから、私達で首輪解析を1からするよりは現実的だね」
淡々とフリーレンが頷く。
マサオの件で一姫達がその探索に時間を浪費した事と、また待機していたフリーレン達がそこで足止めをされ続けた事がまずい。
一姫もフリーレンも暗黙の了解では1回放送後に合流し、その時のマサオの安否がどうであれ、次の行動に移る予定であった。
しかし一姫とガッシュはシュライバーと遭遇し、フリーレンはマーダーの襲撃を立て続けに受け合流どころの話ではなくなり。
6時間遅れでようやく、顔を合わせられた始末だ。
この半日間、一姫もフリーレンも何の進捗もないのだ。
殺し合いの進行ペースも異常だ。
既に、半数近くが脱落している。このペースなら1日で殺し合いも終わりかねない。
もしそうれば、残り半日で首輪解除の手掛かりを見付け、その解除を決行するというのは実現性に乏しい。
「ここからが難しい話なのだけれど、ネモとモクバ…どちらに誰が向かうか…それを決めないと」
剣呑な言い方で、一姫は重々しく口を開く。
「……ガッシュとフリーレンは別れること。
これは、異論はないわね?」
「ウヌ」
「うん、何もないよ」
人数を分散する以上、ガッシュとフリーレンという2大戦力もまた公平に別れる必要がある。
フリーレンとガッシュは共に居過ぎない方が良い。そんな配慮もあるが、それぞれの班にマーダーに対抗し得る強さを持つ参加者を同行させなければ、生存率は著しく下がる。
「そして、雄二と私も別行動。
だから…私はガッシュについていくから、貴方はフリーレンと行きなさい」
感情を読ませない平坦な声色で一姫はその決定を口にする。
「フリーレン、お願いできるわね?」
「…良いけど」
事情はある程度、一姫から聞いている。過去の時代から来た雄二との接触で引き起こされるタイムパラドックスについての所感と意見も述べているし、一姫の時代への影響を及ぼす恐れがあるのなら、二人は別れた方が良い。
それに、魔法使い見習いよりは、麻子の下で修練を積んだ雄二を連れて歩く方が気も楽だ。
最初は暗殺者としての技量を見抜き、あまり近寄りたくはなかったが暗示の影響でそれを抑えている事も確認できている。
頼もしいとまでは言えないが、戦闘面では少し楽も出来そうだ。
やはり、望むべきは前衛を張れる戦士が欲しいが。
フリーレンとしても、一姫のその決定に異論はない。
「悪いけど、安全は保証しないよ」
それでも念を押してフリーレンは確認を取る。
これに限っては、ガッシュと行こうがフリーレンと行こうが、安全性は変わらない。
「良いわ。仮に雄二が死んでも貴女に非はない」
一姫はまるで動じず、意見を揺らげない。
ここまで徹底して感情を排して怜悧でいられるのは、フリーレンから見ても人間味を感じさせない。
普通は身内は身内の手元に置いて、自分の手で守りたくなるものだろう。
「……なら、雄二を預かる代わりに私から一つ条件がある」
「なに?」
「雄二と少しで良い。二人だけで、話をすること」
理屈に沿わぬ言動をしたと、フリーレンは思っていた。
「…?」
一姫も同じようで眠たげで気だるそうな表情に僅かに驚嘆の色が伺えた。
「君は私みたいに不器用じゃない筈だ」
それでも、にっこりとフリーレンは確信染みた笑みを浮かべる。
感情という物に支配され、一姫の合理的な行動に支障を来すものであるとも考えた。
でも、不思議とフリーレンは自分の行いが間違っているとは思えなかった。
───
粗方のことはもう話し終えた。
だから、あとは雄二と一姫を待って、それで各々のすべきことを行うだけだ。
民家の玄関ドアの前で、フリーレン達は二人を待って、暫しの暇な時間を過ごしていることだろう。
この部屋の中にいるのは雄二と一姫だけだった。
「……」
多くは話せない。
雄二に話したいことは多々あるが、それが過去に影響を与えてしまう事を考慮すると不用意に話せない。
「分かってるよ。…姉ちゃんにも事情があるってことは」
昔読んだSF本か何かで、雄二もタイムパラドックスの概念は知っている。
過去を改変し、現代が変わってしまうというのは定番ネタだ。
それが本当に起き得ることか怪訝でもあるが。
天才の一姫であろうと、自分達の世界にタイムマシンが開発されていない以上、立証は不可能で。
想定の及ばぬ未知の領域であれば、触れないのが最良の選択なのは理解している。
「姉ちゃんに会った時さ…顔を叩いてやろうと思ってたんだ」
「……良いわよ」
「やめとくよ。それは、こっちの一姫に取っておく」
どれだけ心配したか、言いたいことは沢山あったが。
それら嬉しさも、ずっと黙っていた憎らしさも、ずっと積み重ねていた悲しみも。
全てを集約したそれは、ここにいる一姫にぶつけることではない。
いずれ出会うだろう、雄二の時代の一姫に思い切りぶつけてやるとする。
「雄二、貴方は…」
「俺は乃亜を倒して、麻子の元へ帰る」
どうしたいと口にする前に雄二はその決意を言い放つ。
「そう…予想出来ていたけれど」
考えてはいた。
雄二だけを生還させる方法も、その手段も。
もしも、雄二がそれを望むのなら。
一姫は沙都子やシュライバーなど比にならない程に冷酷になる覚悟もあった。
仲間と言える人物達に裏切り者と揶揄されようとも。
憎しみの籠った目で、呪われようとも。
例え、最終的にフリーレンを…そして共に戦ったガッシュすらも、この島の全てを敵に回しても。
一生、雄二だけは守り抜く覚悟をしていた。
雄二の呼ばれた時系列から、決してそんな答えを雄二は出さないと分かっていたが。
仮に、そんな答えを出そうものなら、きっとあらゆる手段を講じて聞かないようにしようとしていただろうが。
「俺から、一つ姉ちゃんにお願いしても良いか」
「何?」
「もし、俺が死んでも…コナンや皆の力になってやってくれ」
これも予測していた。
「……仕方、ないわね」
他ならぬ雄二本人の頼みとあらば、それは一姫が聞かない理由にならないからだ。
もう、僅かな希望に縋り乃亜の奇跡を目当てに、優勝するという選択肢は完全に消え失せた。
ここで、約束してしまったから。
皆の力になると。
それが、弟の望む願いなら。姉の風見一姫が叶えないわけにはいかない。
雄二が死んだとしても、一姫は雄二を蘇生させる為には動けない。
ああ、本当に思い通りにならない。
背丈は自分の知る頃のままだが、もう雄二は自分を追い越していた。
子供の成長は早いものだ。
こうなると、分かっていた事だが。
「雄二」
両腕を広げて、雄二を迎え入れるように構える。
やはり、多くは語れないが。
それならば話さなければよい。
抱き締めて抱擁するだけであれば、過去に及ぼす影響など微小だろう。
フリーレンの言う通りだ。器用にやればいいいのだ。
「……、っ…」
膝を折って、一姫の胸元で雄二は声を押し殺しながら泣いていた。
いい歳をして姉に甘えるだなんて、そんなことを考える余裕もなかった。
ここまで、ずっと一杯一杯だった。
最初に出会ったマヤを守れずに死なせてしまった。
死んでいたと思っていた姉が生きていて、何が何だか訳が分からなくて、考えることがぐちゃぐちゃだ。
「安心しなさい、貴方には良い未来が待っているわ」
一姫はその頭を優しく撫でる。
その手付きは、風見雄二の姉である風見一姫の優しい温もりに溢れている。
時間にして一分も満たぬ間に、注げられるだけの愛情を一姫は雄二に与えていた。
色んな感情が溢れ出すなかで、この愛情だけは雄二は確かに一姫のものだと確信できていた。
『未来で、天音をよろしくね』
口を動かすだけで、声として発しないが。
いずれ出会うだろう、親友の名を紡ぐ。
それは、雄二がいずれ救うであろう5人の内の一人だ。
この殺し合いというイレギュラーの影響が微小であり、もしあるのならそれが良い方向へ傾いて欲しい。
仮に天音が雄二と出会わなくなったとしても、別の方法であの娘にも救いがあらんことを。
願わくば、過去の時代とはいえ。
最も愛する弟と、そして唯一の親友の安否と救いを祈った。
【F-4 民家/一日目/日中】
【美山写影@とある科学の超電磁砲】
[状態]精神疲労(大)、疲労(大)、能力の副作用(小)、あちこちに擦り傷や切り傷(小)
[装備]五視万能『スペクテッド』
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:ドロテアの様な危険人物との対峙は避けつつ、脱出の方法を探す。
2:桃華を守る。…そう言いきれれば良かったんだけどね。
3:……あの赤ちゃん、どうにも怪しいけれど…死んでしまったのか。
4:桃華には助けられてばかりだ…。
5:沙都子とメリュジーヌを強く警戒。
[備考]
※参戦時期はペロを救出してから。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
【櫻井桃華@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]疲労(中)、精神疲労(大)
[装備]ウェザー・リポートのスタンドDISC
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:写影さんや他の方と協力して、誰も犠牲にならなくていい方法を探しますわ。
2:写影さんを守る。
3:この場所でも、アイドルの桜井桃華として。
[備考]
※参戦時期は少なくとも四話以降。
※失意の庭を通してウェザー・リポートの記憶を追体験しました。それによりスタンドの熟練度が向上しています。
※写影、桃華、フリーレン世界の基本知識と危険人物の情報を交換しています。
【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(中)、疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品×5、モンスター・リプレイス(シフトチェンジ)&墓荒らし&魔法解除&不明カード×6枚(マサオの分も含む)@遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's、
ランダム支給品1〜4(フリーレン、ハンディ、ハーマイオニー、エスターの分)、グルメテーブルかけ@ドラえもん(故障寸前)、戦士の1kgハンバーグ、封魔鉱@葬送のフリーレン、
レナの鉈@ひぐらしのなく頃に業、首輪探知機@オリジナル、スミス&ウェッソン M36@現実、思いきりハサミ@ドラえもん、ハーマイオニー、リンリン、マサオの首輪。
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティア、我愛羅は次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
5:リーゼロッテは必ず止める。ヒンメルなら、必ずそうするから。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、精神的なダメージ(極大)、リンリンに対しての共感
[装備]:浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、グロック17@現実
[道具]:基本支給品×2、斬月@BLEACH(破面編以前の始解を常時維持)、マヤのランダム支給品0〜2、マヤの首輪
[思考・状況]基本方針:5人救い、ここを抜け出す
1:可能であればマーダーも無力化で済ませたいが、リンリンのような強者相手では……。
2:悟空やネモという対主催にも協力を要請したい。
[備考]
※参戦時期は迷宮〜楽園の少年時代からです
※割戦隊の五人はマーダー同士の衝突で死亡したと考えてます
※卍解は使えません。虚化を始めとする一護の能力も使用不可です。
※斬月は重すぎて、思うように振うことが出来ません。一応、凄い集中して膨大な体力を消費して、刀を振り下ろす事が出来れば、月牙天衝は撃てます。
【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:疲労(大)、人喰いの少女(魔神王)に恐怖(大)と警戒、迷い(極大)
[装備]:キック力増強シューズ@名探偵コナン、伸縮サスペンダー@名探偵コナン
[道具]:基本支給品、真実の鏡@ロードス島伝説
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止め、乃亜を捕まえる
1:灰原を探す。
2:乃亜や、首輪の情報を集める。(首輪のベースはプラーミャの作成した爆弾だと推測)
3:魔神王について、他参加者に警戒を呼び掛ける。
4:他のマーダー連中を止める方法を探し、誰も死なせない。
5:フランに協力を取りつけたかったが……。
6:元太……。
7:俺は、どうすればいい……。
[備考]
※ハロウィンの花嫁は経験済みです。
※真実の鏡は一時間使用不能です。
※魔神王の能力を、脳を食べてその記憶を読む事であると推測しました。
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]疲労(中)、全身にダメージ(中)、シュライバーへの怒り(大)
[装備]赤の魔本
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、サトシのピカチュウ&サトシの帽子@アニメポケットモンスター、首輪×2(ヘンゼルとルーデウス)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:戦えぬ者達を守る。
2:シャルティアとゼオン、シュライバーは、必ず止める。
3:絶望王(ブラック)とメリュジーヌと沙都子も強く警戒。
4:エリスという者を見付け、必ず守る。
[備考]
※クリア・ノートとの最終決戦直前より参戦です。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【風見一姫@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3、首輪(サトシと梨花)×2
[思考・状況]基本方針:殺し合いから抜け出し、一姫の時代の雄二の元へ帰る。
1:首輪のサンプルの確保もする。解析に使えそうな物も探す。
2:北条沙都子を強く警戒。殺し合いに乗っている証拠も掴みたい。場合によっては、殺害もやむを得ない。
3:過去の雄二と天音の事が気掛かりだけど……。
[備考]
※参戦時期は楽園、終了後です。
※梨花視点でのひぐらし卒までの世界観を把握しました。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
※絶対違うなと思いつつも沙都子が、皆殺し編のカケラから呼ばれている可能性も考慮はしています。
【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(中)、封印されたカードのバトルコスチューム、我愛羅に対する恐怖と困惑(大)、ヘンゼルの血塗れ、ヘンゼルとルーデウスの死へのショック(極大)、シュライバーへの恐怖(極大)
[装備]:星の杖&さくらカード×8枚(「風」「翔」「跳」「剣」「盾」「樹」「闘」は確定)@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品一式、ランダム品1〜3(さくらカードなし)、さくらの私服
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない
1:紗寿叶さんにはもう一度、魔法少女を好きになって欲しい。その時にちゃんと仲良しになりたい。
2:ロキシーって人、たしか……。
3:ルーデウスさん……
[備考]
※さくらカード編終了後からの参戦です。
【全員の共通補足】
※危険人物、友好的な人物の情報共有を済ませてあります。
※今後の方針として、二手に分かれ首輪解析に明るそうなネモとモクバと合流するのを目的としています。
ガッシュと一姫、フリーレンと雄二がそれぞれ別れるのだけは確定です。
それ以外がどんなチーム分けになるかは、後続の方にお任せします。
※また、他のことも色々話し合っているかもしれません。
投下終了します
投下します
―――彼女は、大切なことを見落としていた。
☆
「ッ!!」
殺意が膨れ上がり、モクバの背筋を尋常でない量の寒気が襲う。
咄嗟だった。反射的だった。
「翻弄するエルフの剣士ッ!!」
モクバがカードを構え、エルフの剣士を呼び出すのとほぼ同時に。
急接近した悟飯がモクバめがけて拳を振り上げる。
エルフの剣士は悟飯の拳に剣を滑り込ませモクバへの攻撃を防ぐ。
本来ならば容易く剣諸共モクバが破壊されていたであろう圧力も、翻弄するエルフの剣士の効果でノーダメージに変換できる。
が、しかし、止まったのは一瞬。
即座に悟飯の拳の重さに耐えきれず、諸共押し出されていく。
エルフの剣士の効果では己の身を破壊するほどのダメージは防げても、その威力と勢いを殺すことはできなかった。
拳が剣を滑り、モクバの顔面を捉えんとしたまさにその瞬間。
ドロテアの魂砕きが間に割って入り防ぐ。
「――――ッ!!」
その拳の重さにドロテアは歯を食いしばり形相を歪める。
ドロテアの怪力は無双を誇る。単純な腕力だけを見ればこの会場の中でも上位に食い込めるだろう。
しかし、その腕力ですらまともに防げない。
片手であるのを考慮してもなお、その力の差はイヤという程に理解させられる。
ドロテアでは、どう足掻いても悟飯の拳を殺しきることはできない。
(マズイマズイマズイマズイッ!!!)
ドロテアの額から冷や汗が吹き出る。
彼女は決して己の生を諦めない。
どれだけ意地汚くとも最後まで己の生を求め続ける。
しかし、そんな彼女だからこそわかる。
己とモクバを足しても到底かなわない猛獣、それを操る北条沙都子に取り巻き共。
どうにか逃げ出したところで執行人・メリュジーヌが控えているのは容易に窺い知れる。
現状は詰みだ。
どう足掻いても。奇跡や魔法が起ころうとも。
数分後には自分とモクバは大地に肉片を撒き散らして生を終えている。
説得不可能。
交渉不可能。
打倒、当然不可能。
翻弄するエルフの剣士頼みの立ち回りではたちまちに限界が訪れるのは目に見えている。
モクバを囮に逃げたところで、果たしてモクバがどれだけ抵抗できるかもわかったもんじゃない。
現状は二人だからターゲットが分散しているだけで、どちらか1人になればたちまちにその首は落とされるだろう。
(イヤじゃ!妾はこんなところで終わりとうない!!)
最初のメリュジーヌたちからの襲撃の時はイヤに頭が冴えたというのに、いまは現実逃避染みた泣き言しか思い浮かばない。
焦燥と恐怖に支配され、ロクに思考が纏まらないのはモクバも一緒だ。
翻弄するエルフの剣士を出せたのも運が良かっただけであり、ここからこの圧倒的殺意に歯向かうだけの策を用意している訳でもない。
いまできるのが、このカード頼りの時間稼ぎしかなかっただけだ。
(こんな時、兄サマなら―――!!)
兄ならば、青眼の白竜を信じ続けただろうが、生憎と頼みの綱のカードもいまは使えない。
情報戦が無意味になった以上、こちらの手持ちはエルフの剣士と片手落ちのドロテア、不完全なアドラメレクのみ。
どうにもできない。サレンダーすら許されない最低最悪の展開だ。
だが。
この僅かに稼げた時間が彼らに希望をもたらす。
「やめて、悟飯くん!!」
悟飯の背後から飛びつき、羽交い絞めにする影が一つ。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
荒ぶる悟飯を止めるべく、変身した彼女だ。
メリュジーヌから齎された情報は、恐らく正しい。
目の前の二人、特にドロテアは計算高く冷酷な手段も問わない性質の人間であるのは窺い知れる。
だが。だからといって。
目の前で起こされようとしている殺人を看過することはできない。
これまでに相手にしてきたシャルティアやシュライバーのように問答無用の残虐超人相手でないのならなおさらだ。
イリヤは知っている。
悟飯が決して無差別に暴れたい少年などではないことを。
この暴走も、彼の身体を蝕む病気のせいであり、決して本意ではないことを。
(な...なにかわからんがチャンスじゃ!)
「貴方たちも攻撃しないでッ!!」
突然の乱入に呆気に取られていたドロテアが反撃に出ようとするも、それを察したイリヤは制する。
いまの悟飯は触れれば起爆する爆弾そのもの。
ただでさえ敵視している者から反撃を受ければますますその火勢は加速していくのは目に見えてわかる。
「悟飯くん、落ち着いて!確かにこの人たちは怪しいかもしれない。私も疑ってるし、メリュジーヌさんが教えてくれたことも本当だと思う。けど、少なくとも、悟飯くんの病気を仕込んだ人たちじゃないことはわかるでしょ!?この人たちを殺したところで悟飯くんが治るわけじゃない!」
イリヤの言葉は正しい。
客観的に見れば、ドロテアとモクバはメリュジーヌの証言通りのことをしてきたのだと察することができる。
だが、だからといって悟飯を苦しめる雛見沢症候群(仮)の元凶となるわけでもない。
いや、そもそも悟飯とドロテア達はここで初めて出会ったのだからなるはずがない。
だから正しい。
だが正しさだけで全てがまかり通るわけではない。
時に感情というものは正しさという垣根を容易く踏み越えてしまう。
「ひとまずもう一度話を聞いて」
「うるさい!!!」
悟飯の怒号と共に気が発され、飛びついていたイリヤが小さな悲鳴と共に吹き飛ばされる。
「お、お前の言うことなんて聞いてやるもんか!お前だってこいつらの同類のくせに!!」
「え...?」
怒りの形相と共に向けられる罵倒にイリヤは困惑の色を浮かべる。
自分はここまで一度だって殺し合いに乗るような行動をしていない。
確かに成果を残したとは言い難いが、それでも仲間を見捨てるような真似はしていない。
なのに、悟飯は自分をドロテア達と同類だと吐き捨てた。
意味が解らない。イリヤの胸中はそんな想いに占められる。
「僕が気づかないとでも思っていたのか...!マンションで僕をおかしいとのけ者にしておいて、のび太さんを一人で向かわせて見張っていたじゃないか!!どうせ彼を傷つけたらそれを口実に僕を追い出すつもりだったんだろ!!」
「え...ちが、あれはのび太さんが...」
「じゃあなんで止めなかった!!僕をおかしいって言ったのはお前たちのくせに!!ほんとは、彼の事なんてどうでもいいからそうしたんだろ!!お前たちもこいつらと同じだ!!」
反論を許さないといわんばかりにすさまじい剣幕で捲し立てる悟飯に、イリヤは気押されなにも言い返せなくなる。
あの時はイリヤたちも悟飯がのび太に危害を加える可能性が無いかを心配していた。
のび太が意地でも一人で話すと譲らなかったからこそ、悟飯をいつでも抑え込めるように見張っていたのだ。
悟飯の言とはまるで違う。しかし、その真意を話すことすら阻まれてしまう。
「これ以上邪魔されるのもうんざりだ...!!」
悟飯の殺意が掌と共にイリヤに向けられる。
ぞわり、と粟立つ肌の感覚に従い、サファイアステッキを横に構えいつでも攻撃を防げるように備える。
そして、今まさに光線が放たれるその瞬間。
(いまじゃっ!!)
動いたのはドロテア。
イリヤに気が向いた隙を突き、一足飛びで一気に距離を詰める。
イリヤに集中していた悟飯は反応が遅れ、背後を許してしまう。
ドロテアは動く片腕で背中を掴み、首筋に牙を突き立てる。
帝具・血液徴収アブソデック。
吸血により、相手の生気を吸い取り己の糧とする吸血道具。
「うぐっ!?」
アブゾデックの吸血が始まり、悟飯の身体から血と共に力が抜け始める。
(もはやこやつは用済みじゃ!このまま吸い殺して北条沙都子とガキを殺す!その後妾に従わない連中も皆殺す!)
アブゾデックの吸血はまさに一発逆転の最終手段。
如何な生物といえど血と生気を抜かれて生きていられる者はいない。
格下のドロテアが唯一使える有効打―――当然、リスクは高い。
孫悟飯に接近するという難所は越えたものの、悟飯の血はいままさに雛見沢症候群に犯されている真っ只中。
その血を身に取り込もうというのだから、当然、感染のリスクはかなり高い。
感染すれば、悟飯の立場がドロテアに変わるだけで、発症のカウントダウンを待つほかはない。
そんなリスクよりも、いまの生を取る。
ドロテアの頭の中はそのことでいっぱいだ。
そもそも、疑心暗鬼に陥ろうとも、最初から誰にも信頼を寄せていない自分ならばさしたる問題でもないとの打算も込めているが。
(むうっ!?)
ドロテアの目が見開かれる。
己の喉元に流れてくる悟飯の血は濃厚且つ美味なるモノであった。
サイヤ人という異星人の血であるが故か、ドロテアの好みにかなり寄っていた。
僅かな量で力が漲り、折れていたはずの腕に活力が戻っていく。かつてない高揚感に溢れる。
これならば勝てる!
ドロテアはカラカラになった悟飯と全快どころかより肌艶を保てるようになった己の姿を脳裏に浮かべる。数十秒後にはその像も実現するだろう。
相手が、その数十秒を許してくれるなら、だが。
「―――あああああああああああッッ!!」
雄叫びと共に悟飯は飛び上がり、20mほどの高さまで上昇する。
(なあっ!?)
ドロテアが驚愕に目を見開くのも束の間、悟飯は一気に降下し、高速で地面へと向かう。
このまま叩きつけられればひとたまりもない。
ドロテアは咄嗟に牙を離し、宙に身を投げ出され、受け身を取ることで己にかかる衝撃を減らす。
対する悟飯はそのまま地面に激突し、砂塵を巻きあがらせる。
馬鹿め、自爆しおった―――そんな余韻に浸る間もなく、己を射抜く殺気にドロテアの背筋は凍り付いた。
悟飯は砂塵を突っ切り、ドロテアへと高速で距離を詰め、その顔を目掛けて右足を振り抜く。
ドロテアはその蹴りに対して両腕で防御をするも、その威力にたちまち弾かれ、無防備な身体を晒す。
孫悟飯の前ではその隙は致命的に他ならない。
ドロテアが体勢を立て直す間もなく、左拳がドロテアの胸部を打ち抜く。
激痛と共にこみあげる空気と血塊が喉から溢れ、唾と共に撒き散らされながら後方の大木へと衝突し、その身体が地に落ちると共に木がへし折れ倒れていく。
ズン、と鈍く大きな音を立てる大木と地面に痙攣して倒れ伏すドロテアの姿に、イリヤとモクバは言外に理解させられていた。
次にこうなるのは、自分だと。
「クソッ、ドロテアのやつ逸りやがって...!」
「も...もうやめて悟飯くん!こんなの絶対おかしいよ!!」
悲痛な声をあげるイリヤに応えることもなく、悟飯は倒れ伏すドロテアを見下ろし、その頭蓋を踏みつぶさんと足をあげる。
「くっ...ごめん悟飯くん!砲射(フォイア)!!」
言葉では止められないと諦めたイリヤは、サファイアを振り悟飯へと光弾を斉射するが、悟飯はそれを片手で弾き飛ばす。
イリヤもそんなことではイチイチ驚かない。そうされるのは承知の上で放っただけの光弾なのだから。
青筋を立てて睨みつけてくる悟飯に慄きつつも、イリヤは負けじとカードを掲げる。
(これで注目はこっちに移った...!)
「夢幻召喚(インストール)!」
セイバーのカードを掲げ、イリヤは己の姿を魔法少女衣装からセイバーのものへと変化させる。
だが、これは悟飯を倒すためのものではない。
あくまでも彼を抑えるための力である。
「邪魔、ばかりしてぇッ...!」
「モクバくん、悟飯くんを抑えるための力を貸して!」
「助けられたんだから当然だぜぃ!それに、これ以上沙都子の奴に良いようにされてたまるかってんだ!!」
イリヤの要請にモクバは二つ返事で返す。
もとより、あの魔女に惑わされた少年を殺すつもりはない。悪いのは沙都子であって、悟飯ではないからだ。
加えて、イリヤは自分たちの疑いを晴らせていないにも関わらず、無償でリスクを冒してまで助けてくれたのだ。
協力しない選択肢などあるはずもない。そもそも協力しないと悟飯に勝てるはずもないのだから。
「や...やっぱりお前は....う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
絶叫を上げ、さらに身体から放出される気を高めていく悟飯。
「だ...駄目だ...!」
そんな彼の姿にのび太の動悸が警鐘のように打ち鳴らされていく。
のび太は、この混沌極まる戦場でなにが正しいのか、なにもわかっていない。
それでもただ一つだけ確かなことはある。
このままじゃ、絶対にダメだ。
「駄目だ、悟飯くん!!!!」
手を伸ばし、喉がはち切れんほどに叫びながら駆けだす。
背後から沙都子や美柑たちが止める声が聞こえるが、しかし止まらない。
止めなくちゃ。止めなくちゃ。
このままじゃ、悟飯くんが―――
そんな少年の想いを嘲笑うかのように、処刑執行人と成った彼は、新たに加わった罪人へと鎌を振り下ろした。
☆
(首尾はまずまず、といったところですわね)
イリヤとモクバへと猛攻をしかける悟飯を見ながら、沙都子は内心で成果を噛み締める。
魔女裁判の判決は下りた。
見たところ、いまの悟飯は症候群のレベル4あたりだろう。
このままいけば、少なくともイリヤとモクバ、ドロテアは確実に始末してくれるはずだ。
戦闘力のあるイリヤとドロテアさえ消えれば、あとに残るは一般人三人と何の役にも立たぬ小動物のみ。
暴走状態と化している悟飯にも、雛見沢症候群を発症した大石蔵人を唆したように耳障りのいいことを嘯きコントロールすればこちらへの被害は避けられる。
展開上は、沙都子にとって好ましいことこの上ない。
だが、避けられぬ懸念点もある。
(乃亜...まったく、いい加減なルールを追加してくれましたわね)
乃亜の追加した、殺人者へのドミノルール。
一見、マーダー側に有利に思えるこの条件も、悟飯が関わってくると途端に悪手となってくる。
このまま悟飯がイリヤとモクバとドロテア、ついでに先ほどから、なんど突き飛ばされようとも悟飯に縋りつこうとするのび太を殺せば彼の得点は400。間違いなく、次の放送までの上位ランカーに食い込むだろう。
そうなれば、確実に雛見沢症候群を治せという流れになるし、達成してしまえばたちまちに己の犯した罪に気づき、下手を打てば矛先はこちらにまで向かってくる。
それを避けるためにキルスコアを横取りしようものなら、どう取り繕おうとも、悟飯は自分を排除しにかかるだろう。
それまでに悟飯を悟空やシュライバーのような強者にぶつけて共倒れさせなければならない。
だが、ここでスコアを400も稼いでしまえば、なるべく身体に負担をかけないよう、動かずに籠城するだろう。
タイムリミットは刻一刻と近づいている。
圧倒的な暴を振るいながらもなかなかモクバ達を仕留め切れない悟飯にもどかしさを感じつつも、沙都子は次なる策を仕込む。
「美柑さん、乾さん、ケルベロスさん。このままではのび太さんたちが危ないですわ。私は少なくとものび太さんだけでも説得してみせますから、皆さまはメリュジーヌさんのもとへ」
「え、で、でも」
「いいから早く!時は一刻を争いますわ!このままではイリヤさんまでも死んでしまうかもしれませんわ!」
切羽詰まったように声を荒げ、美柑と紗寿叶の思考力を奪い急かす。
「い、いくわよ美柑ちゃん!ケルベロス!このままここにいても私たちにはなにもできないわ!だ...だったら、その、メリュジーヌさんに助けを求めた方がいいわ!」
紗寿叶は沙都子に釣られるように声をあげ、ケルベロスを掴み上げ、美柑の腕を引いていく。
後ろ髪を引かれるように戦場を振り返る美柑だが、唇を噛み締めるだけで、結局、流されるように紗寿叶に連れられて行く。
二人と一匹が遠ざかり、メリュジーヌの待つD-6エリアまで向かうために海馬コーポレーションの角を曲がったところで、沙都子は傍らに佇むカオスにそっと耳打ちをする。
「カオスさん。彼女たちが海馬コーポレーションから離れて少ししたら、彼女たちを始末してきてくれますか。メリュジーヌさんのもとへ辿り着くその前に」
「それがおねぇちゃんのためになるの?」
「ええ。メリュジーヌさんの為にも、私の為にも」
「うん、わかった。わたし頑張るね!」
沙都子の頼みを快諾すると、カオスはとてとてと戦場を去っていく。
沙都子の計画はこうだ。
悟飯がああなった以上、もう大勢での行動はできない。ならば、ここで一掃してしまう。
まず、悟飯がイリヤとモクバのドミノを手に入れるのを妨害するのは諦める。
代わりに自分はあそこで虫の息のドロテアとのび太、そしてカオスは美柑と紗寿叶のドミノを手に入れる。
これで三人は同率200点。ここから更に首輪を手に入れられればカオスか自分は300点になれる。
あとは他の参加者が200点以上を稼いでくれるのを期待するしかないが、少なくとも、これで悟飯がトップランカーになり雛見沢症候群を治せる確率は低くなる。
悟飯を強者にぶつけられなかった時の保険だ。
もちろん、悟飯に自分たちが殺したことは悟らせない。
その為に一旦、二人をここから引き離したのだ。
カオスの殺害現場はここからはどう見ても見れないし、のび太も自分が宥めて会社の中で殺せば現場を見られない。
ドロテアに関しては、生死を確認するふりをして、ナイフを一突きしてやればキルスコアは自分のものにできる。
100%の成功率ではないが、悟飯の症状の治療を防げると思えば安いリスクだ。
いま、イリヤもモクバも悟飯ものび太も、目の前の戦いに必死だ。
カオスがいなくなったことなど気にかける暇もないだろう。
好機はいま。
沙都子が早速のび太の下へと歩み寄ろうとしたまさにその時だった。
「おねぇちゃん」
沙都子の背後に、いつの間にかカオスが立っていた。
もう済んだのか、そう思い振り返った沙都子だが、カオスの戸惑いの表情に沙都子は眉をひそめる。
「どーしよう....あのひとたち、メリュ子おねえちゃんのとこじゃなくて、おうちの方に入っちゃった」
「...なんですって?」
☆
なにかがおかしい。
暴威と殺意が奔流し衝突する中、彼女―――乾紗寿叶は漠然と思う。
それはこの騒動の中でも、初対面のモクバ達はもちろん、沙都子・カオス・メリュジーヌの組と悟飯・イリヤ・のび太・美柑の組、そのどれにも深く関わっていなかった、比較的に第三者に近い立ち位置だからこそ抱けた疑問だ。
この戦いはドロテアとモクバ、北条沙都子とメリュジーヌ。どちらがシロでどちらがクロかで始まったはずだ。
それがどうして、シロであるはずのイリヤが断罪される咎人を庇い、シロ同士で戦う羽目になっているのか。
彼女個人としては、イリヤに対してさほど好印象は抱いていない。だが自らリスクを引き受け、無意味な殺戮を止めようとする者をどうして疑えようか。
それに、先んじて吹き飛ばされ、沈黙したドロテアはともかく、そのイリヤにすぐに同意し協力しているモクバも同様だ。
思い返せば、モクバはキウルを見殺しにしたという糾弾については否定しなかった。
沙都子に『見捨てたキウルの名に誓って私たちが悪いと言えるか』という詰めに対しては、ひたすら苦しそうな表情を浮かべていた。
隠していた悪事を明かされたなら、下手でも誤魔化そうとするのが心情というやつではないだろうか。
あるいは、ドロテアのように肯定したうえで堂々と理由を話そうとするか。
なんにせよ、その行為について後悔が無ければあんな反応は見せないだろう。
つまり本意ではなかった。なにかやむにやまれぬ事情があったはずだ。
それに、さっき悟飯に暴言を吐いた時。
ドロテアは明らかな自分本位であったのに対して、モクバは悟飯をマーダーだったんだなと非難した。
すぐに取り繕ったことから、おそらく焦りから咄嗟に出た言葉だったのだろうが、だとすればマーダーがマーダーに憤るのもおかしな話だ。
ドロテアはともかく、モクバは本当は対主催側の人間ではないのか。
もう一度話を聞いて、それで改めて事情を聞いて話を整理するべきではないのか。
そんな漠然とした疑念が紗寿叶の胸中に浮かんでくる。
少なくとも。
こんな、対主催同士で潰し合っていいことなんて何一つない。
それこそ、シュライバーや、盾にされてしまったキウルという子を殺したという張本人に対抗するべきだ。
(あれ...)
浮かぶ新たな疑問。
モクバとドロテアがキウルという子を見殺しにしたのは事実だろう。
(じゃあ、キウルって子を殺したのは、だれなの?)
疑問。疑問。
一つの疑問が浮かぶと同時に連鎖的に新たな疑問が生じ始める。
メリュジーヌは、あの二人が首輪欲しさに永沢を殺し、キウルを見殺しにしたと言った。
じゃあ、なんでキウルを殺したという人物には触れなかった?
近づいてきているとはいえ、腕を折られた暗躍者と、直接害してくる人間、どちらが脅威かといえば後者だ。
いくら時間が少なく、名前がわからなくても、特徴を教えることくらいはできたはずだ。
そもそも、キウルをあの二人が見殺しにしたのなら、それは同行していたメリュジーヌも同罪になるのではないか?
そもそも。
なんでメリュジーヌは永沢が首輪欲しさに殺されたことを知っていたのか。
直接見ていなければわかるはずもない。
二人が隠れて永沢を殺していたところをメリュジーヌが偶然見つけたというなら、既にその時点で二人はマーダー側。
対主催側であるメリュジーヌが彼らに同行する理由が無い。
キウルを見殺しにした事実。
永沢を殺した事実。
どちらも、片方だけでも知っていればメリュジーヌが彼らについてまわることは決してないはずだ。
噛み合わない。
二人の罪状が確かだからこそ、証言が噛み合わない。
(キウルくんが見殺しにされている最中に永沢くんを首輪欲しさに殺したってこと?)
ありえなくはない。ありえなくはないが―――そんなことをするのはハッキリ言って現実的ではない。
メリュジーヌという存在が見ている限り、よほど錯乱でもしていなければそんな行動は起こさないだろう。
そもそも、メリュジーヌもまた彼らに襲われたと言っているのだ。
となると、キウルを見捨てなければいけないような状況で、永沢とメリュジーヌという戦力を自ら切り捨てたことになるが、ますます現実性を失っていく。
どう足掻いても、メリュジーヌがこの二つの罪を知っているという事実がノイズとなる。
(ねえ、これってもしかして...)
紗寿叶の鼓動がドクドクと脈打ちだす。
抱いていた感情が疑念から困惑へ。そして恐怖へと変貌していく。
だって。メリュジーヌがこれら二つを知れた理由として。
(メリュジーヌさんが、キウルくんを殺したんじゃないの?)
メリュジーヌが何も知らずにドロテア達に同行していたのではなく。
最初から敵対していたからこそ、全てを知ることができたと考えるのが一番現実的であったからだ。
そして。
対主催側であるメリュジーヌがなぜ『マーダーではないと言うから油断していたところを襲われた』と誤魔化していたのかは。
彼らがマーダー側であったのを知りつつ接触したのと、自分がキウルを殺したことを知られたくなかったから。
ではなぜ知られたくなかったか。
単純な話、メリュジーヌもまた、マーダー側の人間だったからではないのか?
だからこそ、後ろ暗い背景を持つドロテアとモクバにその罪を被ってもらおうと画策し、虚構を織り交ぜた。
だとすれば。
(沙都子ちゃんも、メリュジーヌと組んでるんじゃないの?)
浮かんだ疑念は、自然ともう一人の魔女へと集約していく。
そしてそれとほぼ同じタイミングで沙都子は声をあげた。
ここは任せてメリュジーヌと合流しろと。
悪寒が、心臓まで突き抜ける。
たぶん、自分の憶測は間違いじゃない。
きっと、この指示に従えば、自分たちはメリュジーヌに殺される。
だが、証拠がない。自分一人が声を荒げれば、すぐに口を塞がれて終わりだ。
それにこの考えが正しいと共有できる相手も欲しい。
だから、紗寿叶は美柑たちを連れてメリュジーヌのもとへ向かうふりをして、沙都子たちから見られないよう別口から海馬コーポレーションの中に入った。
「ちょ、ちょっと、紗寿叶さん!?」
「なにしとんのや、早くメリュジーヌとかいうののところにいかんと」
「聞いて二人とも!」
見当違いの方向に手を引かれ困惑する二人に紗寿叶は語気を荒らげ、近くの部屋に入るなり、抱いた疑念を語り出す。
「これから私が言うことにおかしな点があったらすぐに言って!私一人が納得してるだけだと、たぶんみんな殺される!!」
「え...え...!?」
「急に言われてもなんのことやら」
「モクバくんたちがキウルや永沢って子を死なせたのは事実だと思う。でも、一番信用できないのはメリュジーヌさんよ!」
紗寿叶は先の疑念について語る。
彼女の証言したモクバ達の罪は真実であるが、彼女が対主催として接触したという点については嘘であり、彼女はマーダー側としてモクバ達を襲った。そして、そのメリュジーヌと組んでいる沙都子とカオスもまた怪しいと。
「たぶん、私一人が言ってもさっきみたいに沙都子ちゃんに言いくるめられて終わりだと思う。だから、教えて!私の考えにどこかおかしいところがあるかどうか!!」
事態は一刻を争う。
こうしている間にも、イリヤたちは悟飯と無意味な争いを繰り広げている。
マーダーは北条沙都子とメリュジーヌである―――この説に説得力を持たせることができれば、沙都子に対して詰め寄ってもはぐらかされずに済むはずだ。
「お、おかしいところって言われても...」
美柑とケルベロスは互いに顔を見合わせる。
確かに、紗寿叶の疑念にはなにも不自然な点は無いと思う。
だが、それは彼女たちには知りようがないことだからであって、それを確たる証拠にはできない。
理論上はおかしな点であっても、時に事実は思いもよらぬ出来事で進んでいることもあるのだから。
だが、紗寿叶の焦りがわからないわけではないし、なによりも彼女の言うことは筋が通っている。
信じたい。信じたいのだが、それは同時に沙都子への裏切りにもなる。
美柑としては、自分に優しくしてくれた沙都子を疑いたくないし、ケルベロスとしてもこれ以上仲間を疑うような真似はしたくなかった。
(ああもう、なんで早く答えないのよ!)
紗寿叶は、自分の考えが間違っていないという確信がある。
だが、それをどう証明したらいいのかわからない。
その苛立ちが、美柑とケルベロスに向けられる。
「あなたたち、ここまであなたたちを護ってきたのは誰!?沙都子ちゃん?違うでしょ!悟飯くんやイリヤちゃんじゃないの!?」
紗寿叶はいまにも胸倉に掴みかかりそうな勢いで詰め寄る。
「ぁ...わたし、は」
「私が違うっていうなら違うって言えばいいじゃない!なにをそんなに怯えてるのよ!?」
「紗寿叶!!」
ケルベロスがその小さな身体で二人の間に割って入り、紗寿叶を制する。
「お前は自分の正しさを押し付けたいのか真実を確かめたいのかどっちなんや!?ウチらでモめてどうすんねん!?」
ケルベロスの言葉に紗寿叶はハッと我に返り、改めて美柑の顔を見る。
彼女は今にも泣き出しそうなほどに震え、怯えていた。
(いけない。完全に頭に血が上ってた)
己の言動を振り返る。
突然、年上の女の子に根拠のない持論を持ち掛けられ、自分が正しいかどうかを求められて。
そのうえ、まるで非があるように詰められれば小学生が萎縮しなにも言えなくなるのも当然だ。
それに、こんな高圧的に詰めよる者を信じて今後の命運をわけるような選択肢を託すなど、自分がその立場であればできるはずもない。
(ダメだ、私じゃ説得なんてできるはずもない。こんな時日番谷くんがいてくれたら...!)
日番谷は死神というだけあって、死線を潜り抜けてきたお陰かいつだって冷静でいてくれる。
きっと、彼がここにいてくれれば、この話ももっとスムーズに進められただろう。
(日番谷くん、あなたはいまどこに―――)
「乾!どこだ乾!?」
声が響く。
美柑でもケルベロスでもない、凛とした少年の声が。
その声が耳に届いた瞬間、紗寿叶の心が陽を浴びた向日葵のように踊り出す。
「日番谷くん!?」
待ち望んでいた声を聞くなり、紗寿叶は部屋から出てその姿を確かめる。
廊下に出れば、そこにいたのは白い髪と小柄な体躯に白の羽織と黒の装束を身に纏った少年。
間違いない。間違えるはずもない。
日番谷冬獅郎本人だ。
「乾!無事だったか」
開口一番、こちらを気遣ってくれる日番谷に紗寿叶は安堵の息を漏らす。
どこに行っていたのだとか、そういった疑念よりも先に、彼がここにいてくれるという安心感に包まれる。
「聞いて日番谷くん!その、メリュジーヌさんと沙都子ちゃんのことなんだけど」
そう切り出して、違和感を覚える。
(あれ、日番谷くん。なんでこっちに来てるの?)
紗寿叶の知る範囲ではあるが、日番谷は冷静に物事を見られる人間だ。
何処に行っていたかは知らないが、正面玄関で戦闘が行われているのは見ての通りだ。
日番谷の性格なら、姿の見えない自分たちを探すよりも、まずは悟飯とイリヤたちの戦いの仲裁に入ろうとするのではないか?
そんな微かに抱いた違和感。
だがその答えを知る間もなく。
ドスリ。
日番谷冬獅郎の腕は、紗寿叶の腹部を呆気なく貫いた。
☆
最悪の展開だ。
日番谷の脳裏を占めるのはその言葉だった。
メリュジーヌ(日番谷は本名を知らない)との戦いの後、日番谷は疲弊しきったその身体に鞭を打ち海馬コーポレーションへと向かっていた。
氷輪丸が使えないいま、戦いでどれだけ貢献できるかはわからない。
しかしそれでも、確かに襲撃者の共犯者がいることを伝えねば、海馬コーポレーションに残された面々の運命がどうなるかは火を見るよりも明らか。
せめて自分が辿り着くまでは何事も起きないでくれ。
そんな彼の想いをせせら笑うかのように鳴り響く乃亜の放送。
その内容に、日番谷は更に焦燥を増す。
新たに付け加えられた殺人者のキルスコアと首輪によるドミノポイント。
この報酬に一番利益を受けられるのは、孫悟飯だ。
彼の性格を考慮するだけなら、きっと甘言に乗ることはないと信じられるかもしれない。
短い付き合いながらも、彼が善良な人間であるのは窺い知れた。
だが、今の彼の事情となっては別だ。
彼は詳細不明の病に侵されている。
しかも、シュライバーの話が真実であれば、進行に伴い疑心暗鬼を誘発させる類のものらしい。
もしも、孫悟飯の病が進行し疑心暗鬼にかられれば、海馬コーポレーションに残る六人を殺し己の身体の回復に当てる可能性は非常に高くなる。
なおのこと、惨劇が起きる前に一刻も早く辿り着かなければならない。
その一心で足を進め、遠巻きに海馬コーポレーションが見えてきた辺りまで辿り着いた日番谷の前に現れたのは、金髪の少女。
露出の多い服にも構わずその肌を曝け出すその姿はまさに痴女。
間違いない。美柑たちから教えられた情報と一致する。
彼女は金色の闇。それも、この殺し合いの中でも確かな実力者だ。
(こっちは先を急いでるってのに...!)
本当に最悪だ。
こっちは僅かでも疲労を許されない現状だというのに、遭遇したのが実力者のマーダー。
戦いは避けられないのに、今使えるのはシン・フェイウルクの瓶という使いどころが限られる道具だけ。
本来のコンディションならば瞬歩で撒くこともできるが、いまはそれも敵わない。
選択肢は最初から一つしかない。
制御不能ではあるが、シン・フェイウルクの瓶を使っての無軌道な高速移動で逃げ切る。
氷輪丸ですらあのザマだったのだ。身体が壊れるかもしれないが、それでも辿り着くことすらできず此処で散るよりはマシだ。
闇が此方に向けて攻撃を仕掛けるその前に、日番谷はシン・フェイウルクを発動しようとする。
「結城美柑を知りませんか」
だが、向けられたのは敵意や殺意ではなく。探し人を求める幼気な声色で。
その覇気の無さに、日番谷は発動しようとしたシン・フィエウルクを止める。
「なに...?」
「彼女は私の友達...いえ、彼女からしたら、もうそんな風には思ってくれないかもしれませんね。ただ、許されるなら、とにかくもう一度彼女に会いたい...もし知っていたら、お願いします」
しおらしく頭を下げる彼女に日番谷はますます混乱する。
(どういうことだ...?こいつは殺し合いに乗ったんじゃねえのか?)
美柑たちからは、殺し合いに乗ってしまったが、説得したい相手だと聞いていた。
無論、日番谷はその方針に賛同していたが、それができるのは美柑たちがいなければ不可能だと思っていた。
だから、出会うなり戦闘も説得もせずに撒くことを選んだのだが...
(いや、迂闊には信用できねえ)
そもそも、闇と戦闘に至って経緯としては、のび太が彼女に騙されて美柑たちのもとへと連れてきたことから始まったという。
ならば、今回も形を変えて日番谷を経由して美柑たちを一網打尽にしようとしているのかもしれない。
「お前はそいつに会ってどうするつもりだ。ほんの数時間前に襲われたって聞いたが」
「...知ってるんですね。ええ。私は彼女たちと戦いました。こんな殺し合いではどう死ぬかなんてわからない。だったら、せめてえっちぃ気分で気持ちよく死なせてあげたいと思い...」
「正気か?」
「でも、わからなくなったんです。彼女にえっちぃことを求められても、全然嬉しくなくて。じゃあなんでって考えても、なにもわからなくて。えっちぃことが本当に素敵なことなのか。私が本当に求めていたものは。私が彼女にしてあげたかったことは。なにもかも...見失ってしまったんです」
(...わけがわからねえ)
闇の語る『えっちぃ』ことへの知識や経験が不足している日番谷にとって、闇の言っていることは意味不明のひとことであった。
だが、少なくとも今は殺し合いに乗っていないようには思える。
もし美柑の居場所を知りたいなら、疲弊しきっている自分など捕まえて拷問なりなんなりして聞き出そうとするはずなのだから。
どうやら、美柑たちの手を借りることもなく闇を味方に引き入れることができそうだ―――なんて、楽観的な思考にはならない。
闇が殺し合いに乗るのを止めたのが本当だとしても、既に闇との戦いで犠牲者が出ている以上、このまま引き入れれば間違いなく不和不満が生まれる。
被害を受けた張本人たちがあずかり知らぬところで心変わりしました、なんて展開はそう易々と受け入れられるはずもない。
特に悟飯はそうだ。
ただでさえ精神不安定になる病に侵されていることで精神的にも追い詰められている彼の前に闇を置けば、たちまちに爆発してしまうだろう。
(だが、こいつを味方に引き入れられれば現状はかなりマシになる)
現状、あのチームの中でまともに戦えるのは日番谷とイリヤ、カオスと悟飯の四人のみ。
その中でも病気の悟飯と子供のカオス、刀の壊れた自分はハッキリいって安定した戦力とは言えず、実質的にはイリヤが一人で全てをカバーする羽目になる。
だがここに悟飯ともまともにやり合える闇が加われば守りは盤石。他の対主催達との合流や首輪の解析など手をまわせる範囲が広がるのは非常に有難いものだ。
(なにか決定的な証拠が欲しい。こいつを味方に入れても構わないというなにかが)
険しい顔をして己を見定める日番谷の視線に闇は、その意味を察し、己の指から指輪を取ると、それを日番谷に差し出す。
「...帝具ブラックマリン。これを差し上げます」
「なに?」
「これを使うと触れたことのある水を自由に操れます。こんなふうに」
再び指輪をはめ直すと、闇のデイバックから水の塊が浮き出し、日番谷の周囲にふよふよと漂い始める。
「使い方次第では武器にもなります。...お詫びとして受け取っていただきたいです」
「...!!」
思いもよらない拾い物に、日番谷は目を見開く。
水を操作する武器は水分を凍てつかせる氷輪丸との相性が良い。
それになにより、氷輪丸が使えない現状ではかなり有難い。
だが、これを手に取るということは、闇を彼らの前へと連れていくということ。
そのリスクを犯してもなおこの申し出を受けるべきか否か。
思考を逡巡させる日番谷。
だが、彼の返答を待つこともなく。
海馬コーポレーションの方角から、轟音が響くのだった。
☆
「な、なんで...日番谷くん?」
紗寿叶は腹部から感じる痛みよりも、日番谷の行動への疑問で頭の中を埋め尽くされていた。
どうして彼が自分を刺したのか。
いや、そもそもこれは本当に自分の知る彼なのか?
なんで刀じゃなくて素手?
「恨みはねえが、悪く思うなよ」
浮かんだ疑問も、すぐに塗りつぶされる。
腕が抜かれると共に、視線が交わる。
今まで見たことのない冷めた目だった。
その目を見た時、ああ、そういうことかと彼女は思う。
―――日番谷くんは疲れてしまったんだ。
もう諦めちゃったんだ。
だから、抱えきれなくなって私を切り捨てた。
...でも、どこかで仕方ないと思う私もいた。
日番谷くんは私の為にずっと気を張ってきた。
なのに私はなにも返してあげられなくて。
そんな中で私たちの中で悟飯くんに毒を盛るような裏切り者が紛れていて。
そして少し離れている間に悟飯くんも暴走してしまって。
もう全て投げ出したくなってしまうのもわかる気がする。
だってみんなを助けることを諦めてしまえば、強い日番谷くんならどうとでも出来るだろうから。
だから...彼を責めることなんてできない。
「な...なんで...日番谷さん?」
「と、冬獅郎、おまえぇ!」
美柑とケルベロスの悲痛な声が漏れると、日番谷はそちらに視線を向ける。
きっと、数秒後には二人も殺される。
わかっていても、非力な紗寿叶にはどうすることもできない。
(仕方ない、んだよね)
諦めと共に全身から力が抜けていく。
これが日番谷くんの為になるのなら仕方ない...
―――脳裏を過るのは、同じように目の前で腹を抉られたずっと歳下の男の子。
(―――違うッ!!)
走る激痛に堪えて、抜けていく力に逆らって歯を食いしばる。
離れようとする日番谷の腕を掴む。
「だめ、だよ。ひつ、がやくん」
『人、ごろ、しなんて、やめろよ...』
「『ひと、ごろし、なんて、やめろよ』」
繰り返す。
彼の遺したあの言葉を。
『そんな、こと...しても、よ...』
「『そんな、こと...しても...よ...』」
紗寿叶は見ている。
元太を看取っていた時の日番谷の顔を。
紗寿叶は忘れない。
元太に救われた恩を。彼が決して恨みを残さなかったことを。
紗寿叶は知っている。
元太が、なんのために自分を殺した少女に言葉をかけたのかを。
『は、ら...減って...悲しい、だけだ、ぜ』
「『は、ら...減って...悲しい、だけだ、ぜ』...あの子の、ことば、わすれちゃったの?」
だから、彼女は着飾り、完全に再現した。
あの時の後悔を無かったことにしないために。
小嶋元太の意思を無駄にしないために。
最後は、彼の願った、みんなでおなかいっぱいに笑える未来を掴むために。
そんな、この世に再び再現させた少年の言葉は
「―――えっ」
日番谷冬獅郎―――否、エンジェロイド・カオスの心を微かに揺らす。
『...どうやら、紗寿叶さんはなにかを企んでいるようですわね。それも私たちに都合の悪いことを。構いませんわ。予定とは少しズレましたが、ここを彼女たちのお墓にしてしまいましょう』
『ただ、もしも私たちの予期せぬことが起きてこのことが露見されれば少し面倒ですわ。念のため、日番谷さんに姿を変えてから殺してくださいまし。向こうも警戒せずに来てくれそうですし。そうそう、それと死体も見つかりにくいところに隠すのも忘れずに』
沙都子の判断は早かった。
紗寿叶が自分たちに嘘を吐いてまで身を隠した、という時点で、既に彼女たちをこれ以上野放しにするのは危険が伴うと判断し、カオスに改めて始末を依頼した。
カオスは沙都子の指示に従い、日番谷に姿を変えた上で殺しにきたのだが―――
(どうしてわかったの?)
紗寿叶の言葉にカオスは思わず目を丸くした。
別に、今更人を殺すことに躊躇いがあるわけじゃない。
けど、確かに彼女は言った。
『お腹が空いて悲しくなる』
カオスが、シュライバーとの戦いの後からずっと苛まれていた空腹感を見破った。
カオスは誰にもこのことを打ち明けていない。
空腹感なんかで沙都子やメリュジーヌの邪魔をしちゃいけない、嫌われたくないと考えていたから。
だからこの空腹感は誰にも知られていない。そのはずだった。
だというのに。
有象無象だと思っていた目の前の少女は見破った。言い当ててみせた。
それが、ほんの少しだけカオスの興味を惹いた。
「ねえ、どうしてわかったの?」
「え?」
振り返り、問いかけてくる少年に紗寿叶は目を丸くする。
「私、お腹が空いてるの。ずっと。ずっと。ぐうぐうって」
「ひ、日番谷、くん?」
身体を苛む激痛すら頭から消える程に、紗寿叶は困惑する。
たしかに自分は彼を止めようとした。けど、こんな反応をされるなんて予想外にもほどがある。
「ねえ、教えてよ。ねえ、なんでわかったの?お姉ちゃんならどうにかできるの?ねえ、ねえ、ねえねえねえ」
詰めより、覗き込んでくる少年の瞳に紗寿叶は息を呑む。
冷めた目だと思っていた。
全てを諦めてしまったんだと思っていた。
だが、それは間違いだと思い知らされる。
そもそもの認識が違ったのだ。
この子は、日番谷くんじゃない!
そう気づいた時にはもう遅い。
「...教えてくれないなら、いいや」
ふっ、と声のトーンが落ちるなり、その顔に陰が差す。
同時に。
「おねぇちゃんを食べちゃえば、わかるかなぁ」
ちょうどお腹が空いている上に、死体の隠蔽もできるのなら好都合だ、とカオスは口を開いていく。
メキメキと音を立て、口端が裂けていき、徐々に上下に開いていき、日番谷の端整な顔立ちは見る影もなくなっていく。
頭を丸かじりにできるほど開ききった口に、立ち並ぶ牙に。
今まさに己を喰らおうとする捕食者を前に、少年からわけてもらった勇気も吹き飛び、紗寿叶は頭の中が真っ白になる。
いままさに目の前で行われようとする捕食現場に、美柑とケルベロスも身体が凍り付き悲鳴すらあげられない。
人は、突如突きつけられる圧倒的な恐怖を前にした時、全てを放棄してしまう。
抗うこともなく。
思考することもなく。
ありのままを受け入れることで己を慰める。
ゾ わ り
だが、その恐怖もまやかしにすぎなかったと思えるほどの悪寒に、美柑の、ケルベロスの、紗寿叶の―――カオスすらも背筋が凍てつく。
それは、突然だった。
大気が震え、大地は軋み、硝子が割れる。
不可思議で不気味な感覚に皆が戸惑う中、一人だけ既視感を覚える者がいた。
「悟飯くん...?」
その呟きに、カオスの胸中に不安が募る。
孫悟飯が雛見沢症候群にかかっているのはカオスも知っているし、沙都子も雛見沢症候群について熟知しているため、さほど心配はいらない。そのはずだ。
なのに、やけに嫌な予感がする。このままではなにか取り返しのつかないことになるんじゃないかと。
「沙都子おねぇちゃん!」
カオスは、直感に従い、その場を放棄した。
ここにいるのはその気になれば容易く殺せる塵芥だけ。
いまは一秒でも早く沙都子の無事を確認するべきだ。
カオスが玄関の方角へ高速で駆けていくと、残されたのは、深手を負った乾紗寿叶と、怯え戸惑う結城美柑とケルベロスだけだった。
☆
はあ、はあ、と荒い呼吸が折り重なる。
「チクショウ...全然歯が立たねえ...!」
(やっぱり強い...動きは直線的なのに、それが防ぎきれない...!)
モクバとイリヤは疲労と重なる負傷で重たくなった身体を引きずりながら前を見据える。
戦局は防戦一方だった。
二人に悟飯を傷つけるつもりが無いとはいえ、それを差し引いてもまるで相手になっていない。
モクバはエルフの剣士の効果でなんとか致命的なダメージは負っていないものの、エルフの剣士が蹴り飛ばされた際の衝撃などは殺しきることはできず、ただの一般人には重たい負荷を何度も受けることで確かに体力を削られていっていた。
イリヤもまた、セイバーの力を身に宿している影響もあり、悟飯の殴打のダメージこそ和らげられているものの、それをほぼ一方的に幾度も受けていれば自然とダメージや疲労は溜まっていく。
対して、悟飯はこの戦いにおいてさしたるダメージや疲労も感じていない。
イリヤたちがロクな反撃に出れないのも相まり、雛見沢症候群により視野が狭まり、疑心暗鬼により引き起こされる憎悪と憤怒が彼から疲労を忘れさせていた。
だが、この戦場で誰よりも傷つき疲弊しきっていたのはこの三名ではなく。
「ご...悟飯くん...」
野比のび太。
この場の誰よりも貧弱で非力な彼であった。
彼は何度も悟飯に呼びかけ続けた。
何度も悟飯に止めるよう縋りついた。
その度に、彼は悟飯に振り払われては地に投げ出され。
立ち上がってはまた縋りつき、振り払われ地を擦り。
何度も何度もその繰り返し。
モクバやイリヤのように多少なりとも負担を軽減する術も持たない彼にとって、度重なる負担は確実にその貧弱な身体を蝕んでいた。
無論、イリヤたちもそんなのび太を無視していたわけではない。
しかし、悟飯から直接殺意を向けられ攻めたてられている彼らに、のび太のカバーをする暇などありはしなかった。
(無駄ですわ、のび太さん)
そんな彼を沙都子は冷ややかな目で見下していた。
いくら情に訴えようとしても無駄だ。
数多のカケラを見てきた彼女だからわかる。
悟飯は既に雛見沢症候群のレベル4を発症している。時間が経過すればレベル5になり、首を掻きむしり死に至る。
過去、ここまで症状が進行して、適切な治療も施さずに無事に済んだ例などたった一つしかない。
『仲間を信じろ!仲間を頼れ!』
竜宮レナと彼女を救った前原圭一。
彼ら自身の自覚が無くとも、悠久の時を経て、一筋の奇跡を掴み取った確かな絆。
きっとあの罪滅ぼしのカケラでの輝きは、自分と梨花が幾千もループを重ねてもそうそう見れるものではない。
(貴方では無理ですのよ)
沙都子は思う。
自分たちの絆は教科書で声たかだかに掲げられる上辺だけの薄っぺらいものなどではないと。
(わたくし達は互いに『罪』を抱えるからこそ仲間の『罪』に寄り添うことができた)
仲間想いの圭一も。
思いやり溢れるレナも。
献身的な魅音も。
愛情深い詩音も。
梨花も。
そして自分も。
みんながみんな、一人じゃ抱えきれないほどの罪がある。けれど互いに罪を受け入れ合ったからこそ、運命をも打ち破れる強く輝かしい絆を育めた。
(ソレを持たない貴方如きが、わたくしたちの領域に踏み込めるなどと思いあがらないでくださります?)
たかだが会って数時間程度の人間が、ぬるま湯に浸かってきた何の罪も重ねていないお上りさんがなぜあの奇跡を起こせると勘違いしているのか。
みんなおてて繋いで仲良くやりましょう。それだけで世界はへいわです。
そんな、クソの役にも立たない道徳の教科書しか読んでないお子様が、自分にもできると思い込んで挑むその姿は、自分たちの絆を虚仮にされているようで、見ていて腹立たしくなってくる。
今すぐにでもその脳天を撃ち抜いて思い上がりを正したい。
その衝動を腹に沈め、沙都子は悟飯へと視線を移す。
(御覧なさい、のび太さん。アレはオヤシロ様の祟りですわ。貴方如きが解り合えるなどと思いあがっていけない、私が作り上げた―――)
「い...いい加減にしてくれ...死にたいのか...!」
「ぇっ?」
沙都子は思わず声を漏らし、信じられないものを見たかのように目を見開く。
悟飯は、いま、確かにのび太を気遣うような言葉を発した。
なぜ?疑心暗鬼に陥ったいま、彼にとって邪魔をするのび太は敵のはずだ。
そんな疑問に答える間もなく、事態は進んでいく。
「さっきから邪魔なんだ!どうしてきみがこんな奴らの為に死のうとするんだ!こいつらは仲間を捨てゴマ扱いするような奴らなんだぞ!」
「悟飯くん...僕は...」
「いまだってそうだ!モクバなんか剣士に戦わせてばかりで自分から前に出てこようともしない卑怯者だし、ドロテアはあのままなら絶対に僕を殺してた!!イリヤはきみを利用しようして僕を追い出そうとするズルイ奴だ!なのになんで...!」
「きみを一人にしたくないんだよ!!」
苛烈さを増していた悟飯の言葉を遮るようにのび太の叫びが木霊する。
最初の同行者のロキシーが死んで直ぐの放送で告げられたスネ夫の名前。
そんな彼の死に対して悲しむよりも怒ってくれたというのを聞いて、のび太は嬉しかった。
自分は悲しみ絶望するだけだった。そんな自分にできなかったことを、悟飯はしてくれた。
会って少しの人に、そこまでしてくれた。
のび太にとって、それは悟飯を信じる理由として充分だった。
だがこのまま悟飯が激情のままにイリヤたちを殺してしまえば、彼の優しさが嘘になってしまうようでイヤだった。
わけのわからない病気なんかのせいで、彼を悪者なんかにしたくなかった。
「このままじゃ...なにも信じられなくて、きみが独りになっちゃう...そんなの、ダメだよ」
みんなにも言った、目の前でもう誰も死んでほしくないというのも。
ここまで皆を護ってくれたイリヤに傷ついてほしくないのも。
悟飯の優しさを嘘にしたくないというのも。
全部一緒だ。
非力な彼には過ぎた願いだ。
それを叶えたいと、のび太は本気で願っている。
「悟飯くんがみんなを信じられないなら、僕が信じられるようにする」
だから、例え弱くても立ち向かう。
どれだけ地に這いつくばっても立ち上がる。
拒絶されようとも放っておけないと何度でも手を伸ばす。
「みんなが、悟飯くんを信じないっていうなら、僕が信じさせてみせる」
ふらふら、ふらふら、と覚束ない足取りで、それでも確かに悟飯のもとへと歩いていく。
その一歩一歩に、悟飯の顔が歪み、悲痛の色に染まる。
それを見つめるモクバとイリヤは、ただその結末を固唾を呑み込み見守っていた。
のび太を心配する気持ちは多いにある。
けれど、既に悟飯に敵視されてしまった以上、自分たちの声はもう届かない。火に油を注ぐだけだ。
のび太は違う。彼の言葉は確かに届いている。
悟飯は、のび太だけは敵とみなしていない。
だから、もうのび太に賭けるしかなかった。
ざっ さっ
近づく。
近づく。
ザッ ザッ ザッ
のび太が二歩近づく度に、悟飯が怯えたような表情で一歩下がる。
だが、その距離は徐々に、確かに近づいている。
(なんですの、これ)
その光景を見ていた沙都子は、額に青筋を浮かべたい気分になった。
先述した通り、レベル4まで進行した雛見沢症候群は適切な治療方法を施すしか安全なレベルまで引き下げる術はない。
故に、悟飯を説得することなど不可能なはずなのに。
これではまるであの奇跡を起こせるようではないか。
(ふざけないでくださいまし。こんな茶番劇、絶対に成功するはずがありませんわ)
のび太は確実に失敗する。
このあと、悟飯に振り払われて、それでおしまい。
そのはず。そのはずだ。
だが。もしも。万が一にも成功するとしたら。
(そんなの―――認める訳にはいきませんわ)
たかだが一つの命を賭けただけであの奇跡を起こせると思うな。
沙都子の中では、既に、悟飯がのび太の手を取った場合の策が出来ている。
それの準備はできている。
そして、のび太と悟飯の距離が、腕一つ分まで迫る。
「悟飯くん。僕は...絶対にきみの味方だよ」
のび太の手が伸ばされ。
沙都子が動き。
「うるさい!!!」
悟飯は、叫びと共に、のび太を突き飛ばした。
吹き飛ばされた先で、のび太が壁に激突し、ずるりと地に落ちる。
それを見た少女は、薄く微笑んだ。
☆
のび太さんが怖かった。
「きみを一人にしたくないんだよ!!」
どうしてあんなに弱いくせにこんなに頑張れるのか。
「このままじゃ...なにも信じられなくて、きみが独りになっちゃう...そんなの、ダメだよ」
どうして強い僕を放っておかないのか。
「悟飯くんがみんなを信じられないなら、僕が信じられるようにする」
わけがわからない。僕だって、もしもお父さんが似たようなことになってたら、絶対に護りたいと思う。
でも僕らは会ったばかりじゃないか。
「みんなが、悟飯くんを信じないっていうなら、僕が信じさせてみせる」
だから怖い。目が開けれなくなるほどに。
「悟飯くん。僕は...なにがあっても、絶対にきみの味方だよ」
その言葉が信じられない。
だから僕は目を瞑ったまま、彼を突き飛ばした。さっきよりも、うんと強く遠ざけた。
「さっきから邪魔だって言ってるだろ!なんでわからないんだ!!」
そして栓を開けたボトルみたいに、お腹の中から漏らしちゃいけないものまで込みあがってくる。
ずっと隠してた。ずっと隠さなきゃいけないと思ってた、心の底に隠していたドス黒いモノ。
「どうして僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!!」
向けられる視線が銛のように突き刺さる。よほど僕のことが怖いんだろう。
でも、もうまわってしまったものは止められない。
「僕はただ、みんなのために頑張ってきただけなのに、ずっと僕の事をおかしいやつだって決めつけて!!成果を出せないからって、腫物を扱うようなことをしてきて!変な毒で殺されることになって!!なのにみんなを信じろだなんてふざけるのもいい加減にしろ!!」
ああ、そうだ。僕が最初から言いたかったことはこれなんだと思うとなんだかかえってスッキリしてくる。
シュライバーたちマーダーだけじゃない。
僕の事をずっと怖がってる美柑さんも、ケルベロスも。
行動全部が疑わしいイリヤさんも。
仲間を見捨てた癖に口だけはペラペラとまわるドロテアやモクバも。
いつの間にか僕を置いて逃げた日番谷さんも。
うるさいだけで僕にはなにもしてくれないカオスも。
裏切らないと言ったのに、ここまでなにもしてくれないし毒を盛ったかもしれない沙都子さんも。
最初に僕と喧嘩したのに、今更頼りになるような言葉を吐くのび太さんも。
「みんな、みんな―――大嫌いだ!!!!!!」
叫びが木霊し、はあはあと僕の荒い息だけが耳を支配する。
言った。言ってしまった。
でも、これでもういいだろう。
どうせ僕はこのままだと死ぬんだ。先の事なんて、考えるだけ馬鹿らしくなる。
そうだ。もうどうでもいい。
どうして嫌いな奴らまで。
友達の為だろうが殺し合いに乗った連中まで。
僕を護ってくれない奴らまで僕が護らなくちゃいけないんだ。
さっさと悪い奴だけ殺して終わらせよう。
そうすれば少しでもお父さんの力になれる。それでおしまい。
誰に嫌われようが知ったことじゃない。
だからもう邪魔をしないでくれ。どうせ死ぬんだから、最後くらい、好きにやらせてくれ。
僕は目を開けて、さきほど突き飛ばしてしまったのび太さんの方を見る。
ここまで言えば、鈍感な彼も諦めてくれるだろう。
そんなある種の期待を込めて顔を上げた先で彼は。
真赤な水を流して動かなかった。
☆
私たちは永遠に死なない〈ネバー・ダイ〉。
円環をまわし続けている限り、永遠に離れない。
殺し続ける限り、生き続けられる。
それが世界の仕組みだから。
☆
「さて。私の置いたプレゼントは気に入ってもらえたかしら?」
放送が終わった後、グレーテルとクロエは海馬コーポレーションへと向かっていた。
面持ちを暗くするクロエとは対照的に、グレーテルは鼻歌交じりに、いまにもスキップでもしそうな軽やかな足取りで。
「...ねえ」
クロエは気まずそうに顔を上げ、問いかける。
「その、あんたのお兄ちゃん呼ばれちゃったけど...」
「それが?」
「いや、その...死んじゃったのよ?会いたかったんじゃないの、お兄ちゃんと」
クロエはイリヤの片割れだけあり、彼女と同じくらい兄の士郎が好きだ。
もしも彼が死んだと聞かされれば、いくら強がってもこうも平静を保てないだろう。
「心配してくれるのね。でも大丈夫」
グレーテルは己の髪に触れると、ソレを取り外しながらクロエに微笑む。
「『僕』はここにいる。いつだって『姉さま』と一緒にいるんだ僕たちは永遠に死なない≪ネバーダイ≫。ずっと続く円環にいるんだから」
短髪になった目の前の同盟者を見て、やはり壊れているとクロエは思う。
けれど、それは最初に抱いていた嫌悪ではなく、ただの事実でしかないとして見做せる程度には、クロエは『彼ら』に感情を移していた。
イリヤに認められなければ存在すら許されない自分と、世界がまともでいることを許されなかった彼ら。
そんな親近感から、クロエは『彼』を背後から抱きしめ頭を撫でる。
「あれ?僕ともシたいの?クロは欲張りさんだなあ」
「そういうのじゃないわよ。ただ、なんとなくあんたにも触れておきたいかなって」
最終的には生き残るために殺し合う間柄だ。きっと、その時が来たら、迷いなく弓を射ることができる。
だというのに、クロエは彼らを疎めない。嫌えない。
どう足掻いても生きるという選択肢をくれたのは、間違いなく『彼ら』なのだから。
しばしの触れ合いを終えると、クロエは髪を手渡し『ヘンゼル』から『グレーテル』へと戻させ、再び進路に戻る。
彼女たちが海馬コーポレーションを目指すのは、深い意味はない。
ただ、もともと彼女たちがどこを目指すかは決めておらず、どうせなら自分がニンフの頭を使って破壊した場所がどうなっているかを見たいという、野生動物のマーキングにも似た経緯で目的地を決めていた。
やがて、彼女たちは海馬コーポレーションに辿り着いたが―――
「嘘つき!!さっきからこの人たちの言ってることウソばっかり!!一緒に行ったら沙都子おねぇちゃんたちが死んじゃう!!!」
「違う!嘘じゃない!!お前も沙都子に騙されてるんだ。こいつを信じても後で裏切られて殺されるぞ!!」
遠巻きに見ても響いてくる声に、二人はそっと木陰に身を隠す。
「あらあら。お取込み中のようね」
「参加者がいたのはいいけど、あれって...」
もう一度身を乗り出し、確認してみる。
その中にいる面々は金髪の少女と修道女服の少女以外は見たことのある面子ばかりで。
しかもその中の一人はなるべく会いたくなかったイリヤだ。
「...これはハズレみたいね。あのめちゃくちゃ強い男の子もいるし。どうする?気づかれる前に出直した方がいいと思うけど」
乃亜の語った報酬システムは二人にとっても魅力的なものだった。
現状、装備は充実しているものの、シャルティアや悟飯のような強すぎる参加者相手にはまだ心もとないというもの。
その孫悟飯がここにいるのなら、いくらスコア目当てでも襲撃は割に合わない。
殺し合いに乗っていないフリをして入り込もうにも、自分たちの事を知っている面子が多すぎてどうにもならない。
ならば撤退するのがベストだとクロエは判断するが、グレーテルはそれは反対だと人差し指を立てる。
「待って。もう少し様子をみましょう。私の考えが正しければ、きっとこの後...」
グレーテルがそういうや否や。
悟飯の絶叫が叫び渡り、言い争っていたドロテアとモクバ目掛けて飛び掛かった。
「ね?」
「あんたよく読めたわね」
「ああいうのはいつものことだったから」
ロアナプラで飼われた時も、それより前も。
ああやって口論が激しくなった時は絶対に血が流れていた。
だから今回も同じ。
特にこういう命を平等にチップにしているフィールドではそうだ。
「見たところ、面倒そうなのはあのお兄さんとクロの妹さんとシスターさんくらいね」
「ええ。あの子―――遠目に見てもヤバイ臭いするわね」
一見、無害そうなカオスも、数多の血と死を浴びてきたグレーテルと小聖杯の化身たるクロエにはその擬態は通じない。
彼女もまた、悟飯とは異なるベクトルで相手をしたくない存在だ。
「とはいえ他の子たちは簡単に仕留められそうなのは間違いないし、やっぱりこれはチャンスね」
「って言っても、絶賛活躍中のあの子に近づく勇気はないけど...」
クロエが視線を遣る先には、ドロテアを瞬殺した悟飯。
グレーテルがまだブレードランナーを多用していなかったとはいえ、仕留め切れなかった彼女を即座にKOしてしまった上に、今度はモクバとイリヤまで相手取っているのだ。ここは一時共闘して悟飯を倒す、なんて考えも、あの一方的な戦局を見れば成功するとは思えない。
「けど、このままお兄さんにスコアを全部持っていかれるのも勿体ないでしょう?」
参加者は既に半数に達している。
ここで悟飯にイリヤ・ドロテア・モクバの300ポイントを稼がれれば、上位に割り込むのは難しくなるだろう。
「ただ、欲張るのもあまり良くないし...少し、水でもかけてみましょうか。クロ、透明マントを貸してちょうだい」
「...行くの?」
「ええ。場が乱れてるいまがチャンスだし。暗殺ならクロよりも私の方が上手でしょう?」
「...わかったわ」
クロエから透明マントを受け取ると、グレーテルはそれを被り、傍目からはその姿を消し去る。
「私が乱してくるから、逃げた子をよろしくねクロ」
「あ...待って」
いってきまーす、と軽い調子で向かおうとするグレーテルに、クロエは思わず呼び止める。
マントから顔を出し、小首を傾げるグレーテルに、クロエはええと、と考える。
別に、何か大事なことを言おうとしたわけではない。
ただ、本当になんとなく呼び止めてしまっただけで、そこから先はなにも考えつかない。
「変なクロ」
クスリ、と笑みを零し踵を返そうとするグレーテルに、クロエは慌てて言葉を投げかける。
「えと、その、無茶しないでね」
その言葉にグレーテルは思わず目を丸くし、改めて微笑みかける。
「ありがとう。愛してるわ、クロ」
その言葉にクロエの頬がほんのりと赤みを増し、グレーテルは振り返り戦場へと向かう。
クロエは、そんな彼女に、「ほんと、ずるいわよね」とひとりごちた。
―――そんな顔されたら、ほんとに嫌いになれないじゃない。
ゆっくりと、しかし自然体なほど軽やかにグレーテルは歩いていく。
グレーテルは、ロアナプラでも有名なフダ付きのガンマンの背後を容易く取れるほどに気配の殺し方に長けている。
そんな彼女に、透明マントが加われば、誰もが孫悟飯に意識を集中せざるを得ないこの戦場は絶好の隠れ蓑だった。
もしも悟飯の気の探知に制限がかけられていなければ、気づかれていただろうが、彼女はそんなことを知る由もない。
(いま残っているのは五人)
クロエと話している間に何人かが離脱しており、残るのは
孫悟飯、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、海馬モクバ、野比のび太、北条沙都子。
グレーテルの狙いは、この中から殺しやすい者を見繕い、悟飯に気づかれる前に仕留め、時間差で気づかせ混乱を巻き起こすこと。
悟飯には不意打ちで攻撃しても通じず、イリヤとモクバは絶賛バトル中なので手出しはできない。
のび太はすぐに立ち上がっては悟飯に縋りつくので、悟飯に気づかれやすいため除外。
となれば。
(あの子ね)
北条沙都子。
ただ一人、悟飯との戦いに気づかず戦況を見守っている者。
グレーテルは彼女に狙いを定めた。
この距離であればブレードランナーも届くだろうが、アレは目立ちやすい。
もしも悟飯の目に留まればそこでお終いだ。
狙うは接近しての暗殺。
おじゃる丸でも練習したことだし、スパスパの実の力があれば音もなく殺すことが出来る。
急くことなく、足音を戦場で殺しながら距離を詰めていく。
沙都子は気づいていない。これならば楽に殺せそうだ。
彼女のもとまで10メートルを切ったところだった。
「うるさい!!!」
叫びと共に、グレーテルの眼前を高速でなにか吹き飛び、鈍い音を立てて、飛来したソレがどさりと落ちた。
そちらを見れば、打ち所が悪かったのか、おそらく悟飯に吹き飛ばされたであろうのび太が白目を剥いて倒れていた。
「さっきから邪魔だって言ってるだろ!なんでわからないんだ!!」
悟飯が目を瞑りながら騒ぎ立てれば、皆がその一挙手一投足を見逃さぬように意識を向ける。
彼の動作一つで命運が変わってしまうのだから当然だ。存在に気づかれていないグレーテルを除いて。
「どうして僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!!」
悟飯の叫びが支配する中、グレーテルは改めて現状を整理する。
いま、皆が注目しているのは悟飯。
彼の一挙手一投足が全員の運命を決める為、吹き飛ばされたのび太に気をまわす余裕も無いのだろう。
(―――なら、こうしましょう)
予定変更。
沙都子から狙いを変更し、気絶するのび太のもとまで向かう。
辿り着くなり、チラ、と悟飯の様子を確認する。
「僕はただ、みんなのために頑張ってきただけなのに、ずっと僕の事をおかしいやつだって決めつけて!!」
彼はまだ、こちらを見ていない。ならば問題ない。
「成果を出せないからって、腫物を扱うようなことをしてきて!変な毒で殺されることになって!!なのにみんなを信じろだなんてふざけるのもいい加減にしろ!!」
悟飯が何を言おうとグレーテルには関係が無い。
指を刃物に変化させ、のび太の後頭部に添えて。
トスリ。
あっけなく刺さった鋼鉄の指は、のび太の頭蓋を貫通し、脳幹にまで届き破壊する。
即死だ。
誰にも気づかれることなく、野比のび太は命を散らした。
「みんな、みんな―――大嫌いだ!!!!!!」
悟飯の叫びが木霊する。
その時には既にグレーテルは移動を始めており。
みんなが血だまりに沈むのび太に気づいた時には、『孫悟飯が野比のび太を殺した』現場が既に完成していた。
グレーテルが標的をのび太に変更したのは、それが一番都合がよくなったからだ。
このまま悟飯が彼を殺したと誤認されれば、自分は安全にドミノを貰えるし、孤立した彼が追い立てられるのも期待できる。
もしも下手人が違うとバレても、容疑者は渦中から外れていた沙都子になるだろう。
自分にとってはリスクが殆どない最善策だ。
この時までは、彼女はそう思っていた。
☆
「え...なん、で...」
思わず声が漏れる。
僕は確かに彼を強めに突き飛ばした。
でも、だからってそんなことはありえない。
だって僕は彼を殺すつもりなんてなかったんだから。
のび太さんに気が付いたイリヤさんが駆け出し、慌てて容態を看る。
あの人が地に濡れるのも構わず抱き上げるけれど、のび太さんはピクリともしない。
「う...うそ、だ」
嘘だ。き、きっと当たり所が悪くて気絶してるだけだ。
そうだ。僕が確かめればいいんだ。あんなひと【イリヤ】なんかに任せられない。
僕は遅れてのび太さんのもとへ行き、イリヤを放り捨てて、のび太さんを抱き上げる。
「のび太さん!のび、たさ...」
目が遭った。ついさっきまではあれだけ輝いていたのに、いまは何も感じられない空虚な目。
命を失った証拠である、空虚な目。
「う、ぁ」
違う。僕じゃない。
僕が彼を―――■したなんて。
でも。じゃあなんでのび太さんは死んでいる。
なんで血を流した。
僕だ。
僕が付き飛ばしたからだ。
違う。
殺すつもりなんてなかったって言ってるじゃないか。
(そ...そういえば...)
トランクスさんから未来を告げられてから家に帰った時の事。
人造人間との戦いに備えて僕と修行したいとお父さんがお母さんに言った時、お母さんは反対した。
その時、お父さんは軽くお母さんの背中を叩いたら、お母さんはロケットみたいに遠くに吹き飛んでしまった。
お母さんは強かったから冗談で済んだけど、でも、弱い彼に僕がそれをしてしまったなら...
「ぼ...ぼく、が...」
そうだ。
僕が、彼を。
殺してしまったんだ。
彼のことは苦手だったけれど。
『スネ夫のために怒ってくれて、ありがとう』
ただ一人、成果じゃなくて『僕』を見てお礼を言ってくれた。
『さっきはごめん。何も知らない癖に、悟飯くんを責めるようなことを言っちゃった。本当に...ごめんね』
ただ一人、自分が悪かったと謝ってくれた。
『あ…あんな奴の言う事...』
『僕も、悟飯君を絶対独りにしない!君が暴れても、何とかなる様に沙都子さんと考えるから!』
『その、ドラえもんの道具に何でも病気を治せる薬とか...そういう道具を見つければ、悟飯君の頭の病気だって、きっと治せると思う!』
沙都子さん以外で、誰よりも率先して僕を気にかけてくれた。
苦手でも、死んでほしくなんてなかったんだ。
そんな彼を。
ただ一人、味方だと断言できたはずの彼を。
僕は、殺した。
殺した。
殺した。
僕が殺した殺した殺した殺したそうだ僕が彼を殺したんだ違う僕のせいじゃない僕はそんなつもりじゃなかったじゃあだれのせいだイリヤか違うその前に血を流していたずっとなにもしなかった沙都子さんか違う彼女は近づいてすらいなかったモクバやドロテアがあやしいぞちがうモクバはずっとここにいてドロテアはむこうでたおれているじゃあだれだだれのせいなんだやっぱりぼくじゃないかぼくがころしたくなかったけどころしてしまったんだどうすればいいどうすればのびたさんをたすけられるシュライバーやシャルティアをぜんいんころせばいいのかむだだあいつらはのびたさんにはなんのかんけいもないじゃあどうするここにいるやつらをずっとまもりつづけるのかだめだぼくにどくをのませたやつがいるいじょうどうしようもないはんにんをみつけなければでもしょうこなんてないぼくはすでにどくをのまされてしまったんだからこのままだとぼくはしんでしまうじゃあどうするどうすればいいどうやってのびたさんにつぐなえばいいちがうつぐないなんてあまえたことをいうなのびたさんはぼくをゆるさないみんなもぼくをわるものあつかいするおまえのせいでしんだってずっとずっといってくるにきまってるそのあいだにぼくはしんじゃうのにいやあまえるなのびたさんだってもっといきたかったんだだからいきからせるしか
あっ、そうか
そうすればよかったんだ。
誰が悪者かなんてどうやったってわからないなら、そうするしかないんだ。
ぷつん、とぼくのなかでなにかがきれたおとがした
☆
(...なにが起きたんじゃ)
最初の一撃を受けてからここまで、気を失い難を逃れてきたドロテアが、チラリと瞼をあげ、場を窺う。
サイヤ人という強力な種族の血を吸ったお陰で一時的にだがこれまでとは比べ物にならない力を手に入れていた彼女は、無防備で悟飯の拳を受けたにも関わらず、気絶で済んでいたのだ。
先ほどまで轟音が常に鳴り響いていた戦場が静けさを取り戻していた。
(今なら逃げられるか?)
遠目から見る限り、悟飯はのび太を抱え消沈している。
それでなんとなく事情は察する。のび太を悟飯が殺してしまったのだろうと。
だが、ここで動き再び敵だと認識されれば今度は確実に殺されるし、なにより未だに姿を見せないメリュジーヌが怖い。
もしもこのまま戦いが終結したら、恐らくドロテアが提案しかけた妥協案―――沙都子と自分たちを同行させることで互いに見張りをし合う、という展開になる。
一番望ましい展開はこれだ。
頼むからこれ以上の災難は勘弁しておくれ、とドロテアは未だに気絶したふりを止められなかった。
「悟飯さん」
のび太の亡骸を抱きかかえ消沈する悟飯に、沙都子が歩み寄る。
(予定から少々ズレましたが...まあいいでしょう)
紆余曲折はあれど、結果的には悟飯を制御しやすそうな条件は整った。
「のび太さんのことは残念でしたが...先ほど私が言ったことを覚えていますか?」
涙すら滲ませ悲し気な顔を浮かべつつ、優しい声音で、惑わすように囁く。
「例え貴方が自分を抑えきれず、誰かを手にかけてしまったとしても...私は貴方の側に立ちます。誰が何と言おうと、決して貴方を独りに何かさせません。わたくしは貴方の味方ですわ」
まるで聖女仏のように、悟飯へと手を差し伸べる。
「あいつ...この期に及んで...!」
そんな沙都子を見ていたモクバは更に怒りを募らせる。
あの悪党は。あの腐れ外道は。
人の死さえ利用しようというのか!
そんな彼らのやり取りを背中で感じつつ、グレーテルは離れていく。
(クロが変に気遣うからなにかあるかもと思ったけど...杞憂だったわね)
想定よりも楽な勝負だった。
あとはこのままクロのもとへと帰るだけ―――そう、思っていた時だった。
「...!?」
大気が震え、大地は軋み、天が嘶く。
その中心にいるのは―――孫悟飯。
「ご、悟飯くん...?」
身を震わすほどの気の圧力に、イリヤとモクバは固唾を呑み、グレーテルも振り返り彼を見つめる。
(...大丈夫ですわ。むしろここからが勝負ですのよ)
対する沙都子は臆することなく、手を引かない。
(彼が限界に陥っているいまこそ、最大の好機...)
ドミノの配分が狂ったのは計算外だが、ここで彼の信頼を勝ち取ってしまえば、勝利はほぼ確定的となる。
「沙都子おねぇちゃんだめえ!!」
突如、海馬コーポレーションから響き渡るカオスの叫び。
何事かと思いつつも、悟飯が立ち上がる気配を察し、改めて彼を見る。
「悟飯さん。貴方は悪くありませんわ。悪いのは―――」
彼らですのよ。
そう言いながら、モクバたちを指差し、勝利を確信する。
(これで彼らを始末してしまえば、ひとまずは)
刹那。激しい衝撃と共に彼女の世界が逆転する。
「...???」
なにが起こったのかわからない。
ただ、気が付けばカオスに抱かれ羽に包まれた自分と、いつの間にか遠ざかっていた悟飯が視界に映っていただけだ。
「だいじょうぶ沙都子おねぇちゃん!?」
破損した羽を背に、今にも泣きそうな顔で覗き込んでくるカオスの様子からみて、自分はなにかから庇われたようだ。
「ひとまず助かりましたわ、カオスさ...」
目についた埃を取ろうと目を擦ろうとし―――気が付く。己の左腕が、あらぬ方向へと曲がっているのに。
「ぁ、ぇ?」
混乱する思考に遅れて、ジクジクと痛みが広がっていく。
「ぅ、あ、あ、あ、あ、あ」
喉元から悲鳴がこみ上げ、痛みに両の眼から涙が溢れ出す。
なぜ、どうして。
困惑と恐怖が沙都子に襲い掛かる。
「...邪魔された」
ポツリと呟かれたその言葉に、沙都子だけでなく、カオスとイリヤ、モクバも悟飯を凝視する。
「最初からこうすればよかったんだ」
がり、ガリ、と首を掻きながら、悟飯はぼそぼそと呟く。
「誰も信用できない。誰も信じられないなら。悪い奴なんてわからないなら。強い僕がやらなくちゃ」
小さな声だ。今までの絶叫がウソのような、蚊トンボのような儚ささえあるぼやきだ。
なのに。
「僕が、ドラゴンボールでみんなを生き返らせるんだ」
その言葉は、誰もが聞き漏らすことはできなかった。
そんな彼を見て、グレーテルは直感する。
(...訂正ね。私は、果たしてここからクロのところに帰れるのかしら)
今こそが、かつての悪夢に劣らぬ地獄であると。
☆
震える大気に唇を噛む。
日番谷は、結局、ブラックマリンを受け取った。
もう少し考える時間があれば結果は変わったのだろうが、既に海馬コーポレーションで何かが起きている以上、これしか方法は無かった。
「おい。もう一度言うが、絶対に奴らに手を出すなよ」
「...わかりました」
戦力の確保は急務だ。氷輪丸が使えない以上、いまは荒事は彼女に頼るしかない。
移動速度も、彼女に背負われてからは段違いに速くなっている。
(頼む、無事でいてくれ)
海馬コーポレーションはもう視界に捉えている。
日番谷が、彼の願いが既に潰えていたことを知るのに、さほど時間はかからないだろう。
【一日目/日中/F-7】
【日番谷冬獅郎@BLEACH】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に切創、卍解不可(日中まで)、雛森の安否に対する不安(極大)、心の力消費(大)
[装備]:氷輪丸(破損、修復中)@BLEACH、帝具ブラックマリン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、シン・フェイウルクの瓶(使用回数残り三回)@金色のガッシュ!!、元太の首輪、ソフトクリーム、どこでもドア@ドラえもん(使用不可、真夜中まで)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを潰し乃亜を倒す。
0:海馬コーポレーションへ戻り、乾達と再合流する。闇については、悟飯が拒絶した場合は同行させない。
1:巻き込まれた子供は保護し、殺し合いに乗った奴は倒す。
2:シュライバーと甲冑の女を警戒。次は殺す。
3:乾が気掛かりだが……。
4:名簿に雛森の名前はなかったが……。
5:シャルティアを警戒、言ってる事も信用はしない。
6:悟飯を、何とかする方法を見付けてやりたいが…何とか、涅か浦原と連絡は取れないか?
7:沙都子の霊圧は何か引っかかる。
[備考]
ユーハバッハ撃破以降、最終話以前からの参戦です。
人間の参加者相手でも戦闘が成り立つように制限されています。
卍解は一度の使用で12時間使用不可。
シャルティア≠フリーレンとして認識しています。
シン・フェイウルクを全く制御できていません、人を乗せて移動手段にするのも不可。
【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、ダークネス状態 、混乱
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(小恋の分)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから帰還したら結城リトをたっぷり愛して殺す...そうするつもりだったのに...
0:日番谷と共に海馬コーポレーションへと向かう。
1:美柑...今はただ、会いたい
2:クロエとグレーテルはどうしよう...?
[備考]
※参戦時期はTOLOVEるダークネス40話〜45話までの間
※ワームホールは制限で近い場所にしか作れません。
☆
「ぅ...」
「だめ...しっかりして紗寿叶さん!」
腹部を貫かれ、多量出血により意識を朦朧とさせる紗寿叶。
美柑とケルベロスは、慣れない手つきながらも紗寿叶の応急手当に必死に努めていた。
(信じられない...沙都子ちゃんが、みんなを殺そうとしているなんて)
沙都子は今まで自分を助けてくれた。
悟飯のこともずっと励ましてくれた。
こんな異様な状況でも、自分なんかよりもずっと立派にふるまってきた。
そんな彼女が本当は自分たちを殺そうとしていたなど、認めたくない。
けれど、目の前で紗寿叶が刺されてはそうも言ってられない。
(すぐに伝えなくちゃ...でも、そうしたら紗寿叶さんが...)
「美柑、ここはウチが引き受ける。あんたは連中に真実を伝えてくるんや!」
「で、でも」
「ええから!ここまでウチらを護ってきたのが誰かはわかっとるんやろ!?」
―――ここまであなたたちを護ってきたのは誰!?沙都子ちゃん?違うでしょ!悟飯くんやイリヤちゃんじゃないの!?
先ほど紗寿叶に言われたことがリフレインする。
そうだ。自分はここまでなにもできなかった。
怯えてばかりで。護られてばかりで。
だから。イリヤさんと悟飯さんが無用な戦いをしてるなら―――絶対に止めなくちゃ。
ケルベロスに背中を押され、美柑は玄関へと駆け出した。
「...すまん、紗寿叶。勝手に命賭けてまった」
一匹、残されたケルベロスは紗寿叶に謝罪する。
彼に外科医染みた治療の腕前はない。彼一匹では満足な治療もできないだろう。
即死するような致命傷ではなかったようだが、それでも多量出血と激痛で死に至る可能性は高い。
それでも、ケルベロスは選んでしまった。
紗寿叶一人よりも、より多くの命が助かるかもしれない方をとってしまった。
「いい、のよ。それで」
そんな彼に対し、紗寿叶は激痛に苛まれながらも薄く微笑んで見せる。
「それが、正解。私でも、そう、するから」
むしろ、ケルベロスが行かせなかったら自分が発破をかけていただろう。
だが、それは自分の命を諦めているわけではない。
「わたし、だって、絶対に、死ぬわけ、じゃない。ううん、死んで、たまる、もんです、か」
止血が成功すれば、傷を塞げればまだ生きれる道はある。
死にたくない。絶対に生きてみせる。
「やりたいコスは、まだたくさん、あるんだから」
【一日目/日中/E-7 海馬コーポレーション内】
【結城美柑@To LOVEる -とらぶる- ダークネス】
[状態]:疲労(中)、強い恐怖、精神的疲労(極大)、リーゼロッテに対する恐怖と嫌悪感(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
0:皆に真実を伝える。いったいなにが起きてるの?
1:ヤミさんや知り合いを探す。
2:沙都子さん、大丈夫かな……
3:悟飯君がおかしかったのって、いつからなの?
4:リト……。
5:ヤミさんを止めたい。
6:雪華綺晶ちゃん……
[備考]
※本編終了以降から参戦です。
※ケルベロスは「火」「地」のカードがないので真の姿になれません。
【乾紗寿叶@その着せ替え人形は恋をする】
[状態]:出血(絶大)、殺し合いに対する恐怖(大)、元太を死なせてしまった罪悪感(大)、魔法少女に対する恐怖(大)、イリヤとカオスに対して苦手意識、疲労(絶大)、意識朦朧、腹部貫通
[装備]:ケルベロス@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2、飛梅@BLEACH
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
0:みんなに伝えないと...メリュジーヌさん達がマーダーだって...その前に死んじゃうかも...ううん、諦めてたまるか...!
1:魔法少女はまだ怖いけど、コスはやめない。
2:さくらさんにはちゃんと謝らないと。
3:日番谷君、無事なのかな。
4:イリヤさん……悪い子じゃないと思うけど……。
5:妹が居なくて良かったわ。
[備考]
原作4巻終了以降からの参戦です。
彼女は、北条沙都子は一つの失態を犯した。
孫悟飯の力の原点が怒りであるのは間違いない。
だが、しかし、その怒りとは自らではなく、他者を思うが故の怒り。
父を瀕死にされた時。
敬愛する師を傷つけられ、殺された時。
自分の気持ちに理解を示してくれた者が無残に殺された時。
その時に発揮された力は、生粋のエリート戦士にすら戦慄を走らせるほどのものだ。
逆に、自分が痛めつけられるだけの時にはさしたる力を発揮できない。
それこそ死に瀕してもだ。
悟飯は怒りの沸点が低いのではなく、どうしても自分の為に怒りきれない。
それが彼という少年の性根なのだ。
沙都子は、その点を見誤ってしまった、
故に気づけなかった。
ドロテアの吸血により、頭に上った血を強制的に下げられたことで、一時的ではあるが疑似的なレベル3程度に収まっていたことも。
そのレベルであれば、敵と味方を区分けできることを。
なにより。メリュジーヌが下した自身に迫ると言った評価を信じるならば、モクバとイリヤ相手にああも手間取ることが無く、のび太もとうに死んでいたことを。
そう。
孫悟飯はここに至るまで、本気を出せていない。
彼は怒りだけでは実力を引き出せない。
己よりも他者の為に戦う―――それが、怒りと共に彼の本気を出せる条件なのだから。
ならば。
その他者のためというのが、皆を殺すことに繋がる時。
蓄積された自他への怒りと交じり合った時。
その時こそ―――彼は、真にオヤシロ様の祟りと化すだろう。
【野比のび太@ドラえもん 死亡 グレーテル100ドミノ獲得】
【一日目/日中/E-7 海馬コーポレーション外】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:魔力消費(中)、自暴自棄(極大)、 グレーテルに対する共感(大)、罪悪感(極大)、ローザミスティカと同化。
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師、ローザミスティカ×2(水銀燈、雪華綺晶)@ローゼンメイデン。
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら、グレードアップえき(残り三回)@ドラえもん
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
0:な、なにかマズイ...!?グレーテルのやつ大丈夫なの...!?
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君…何やってるんだろ。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
※ローザミスティカを体内に取り込んだ事で全ての能力が上昇しました。
※ローザミスティカの力により時間経過で魔力の自己生成が可能になりました。
※ただし、魔力が枯渇すると消滅する体質はそのままです。
※悟飯たちからは距離を置いて身を隠しています。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!、走刃脚@アンデットアンラック、透明マント@ハリーポッターシリーズ
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品3〜6(リップ、アーカード、魔神王、水銀燈の物も含む)、エボニー&アイボリー@Devil May Cry、アーカードの首輪。
ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵の首輪、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、
戦雷の聖剣@Dies irae、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!、魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、 バスター・ブレイダー@遊戯王デュエルモンスターズ、真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ、ヤクルト@現実、首輪×6(ベッキー、ロキシー、おじゃる、水銀燈、しんのすけ、右天)
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:さて。私はクロのもとへと帰れるのかしら。
1:私たちは永遠に死なない、そうよね兄さま
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。やっと一人だけど、まだまだ遊びたいわ!
7:聖ルチーア学園に、誰かいれば良いけれど。
8:水に弱くなってる……?
9:金髪の少女(闇)は私たちと同じ匂いがする
[備考]
※海兵、おじゃる丸で遊びまくったので血まみれでしたが着替えたので血は落ちました。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
※現状は透明マントで身を隠しているため、クロエ以外は存在を認識していません
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(大)、精神疲労(絶大)
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、クラスカード『アサシン』&『バーサーカー』&『セイバー』(美柑の支給品)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、雪華綺晶のランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:うそ...のび太くん...悟飯くん...なんで...
1:雪華綺晶ちゃん……。
2:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
3:殺し合いを止める。
4:サファイアを守る。
5:みんなと協力する
6:美遊、ほんとうに……
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス故障寸前、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、カオスの素の姿、魂の消費(中)、空腹?(小)
[装備]:極大火砲・狩猟の魔王(吸収)@Dies Irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
6:聖遺物を取り込んでから…なんか、ずっと…お腹が減ってる。
7:首輪の事は、沙都子お姉ちゃんにも皆にも黙っておく、メリュ子お姉ちゃんの為に。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
極大火砲・狩猟の魔王を取り込みました。炎を操れるようになっています。
聖遺物を取り込んでから、空腹? がずっと続いています。
中・遠距離の生体反応の感知は、制限により連続使用は出来ません。インターバルが必要です。
ニンフの遺した首輪の解析データは、カオスが見る事の出来ないようにプロテクトが張ってあります。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(大)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟、左腕骨折
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:よ、予想外の流れになりましたわ...
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:悟空さんと悟飯さんは、できる事なら二人とも消えてもらいたいですわね。
9:悟空さんの肩に穴を開けた方とも、一度コンタクトを取りたいですわ。
10:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
11:シュライバーの対処も考えておかないと……。何なんですのアイツ。
12:メリュジーヌさん、別にお友達が出来たんでしょうか?
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]全身にダメージ(大)、疲労(中)、悟飯への恐怖(大)、雛見沢症候群感染(レベル1〜3の何れか)
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品
セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、城ヶ崎姫子の首輪、永沢君男の首輪
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!
グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、チョッパーの医療セット@ONE PIECE
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:逃げるんじゃあ....勝てるわけがない
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は絶対に殺す。奴らのせいでこうなったんじゃ!!
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
5:悟飯の血...美味いが、もう吸血なんて考えられんわ
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢が死んだという自責の念(大)、キウルを囮に使った罪悪感(絶大)
沙都子に対する怒り(大)
[装備]:青眼の白龍(午前より24時間使用不可)&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 、ホーリー・エルフ(午後まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:チクショウ、どうしてこうなっちまうんだよ...!
1:東側に向かい、孫悟飯という参加者と接触する。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか?
8:沙都子は絶対に許さない
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:自暴自棄(極大)、恐怖(極大)、疑心暗鬼(極大)疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、
雛見沢症候群L4(限界ギリギリ)、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、全員への嫌悪感と猜疑心(絶大)、首に痒み(中)、絶望
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0〜1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:全員殺して、その後ドラゴンボールで蘇らせる。
0:全員殺す。敵も味方も善も悪もない。
1:お父さんには...会いたくないな
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群を発症しました。現在発症レベルはステージ3です。
※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
※イリヤ、美柑、ケロベロス、サファイアがのび太を1人で立たせたことに不信感を抱いています。
※何もかも疑い出してます。
投下を終了します
投下ありがとうございます!
の…のび太、おめえはすげよ、よく頑張った。
最初は一番悟飯からヘイトを溜めてたのび太ですけど、気付けば悟飯の怒りの最大のトリガーになったのは感慨深い。
確かに悟飯側からするとヘイト買う発言は多かったけど、善性に限っては疑いようがなかったからですからね。
錯綜する戦場の中で悟飯を止めようとするのび太は、彼の優しさという強さが垣間見えましたね。
本当に奇跡を起こしかねなくて、多分沙都子にとって一番のノーマークにして誤算だったんでしょうけど、まあ姉様がね…。
そしてドロテアがベジータ化してるこの状況で余裕綽々な姉様、心が強え奴なのか?
ジュジュ様、ここにきて名探偵として活躍しましたね。
沙都子は一人だけ悟飯に優しくしてあげたという事実だけで、美柑達にも優位に立って自分を良く見せていた側面もあったので、第三者のジュジュ様がレスバでは負けつつも違和感には気付けるというのは面白い。
日番谷隊長に化けたカオスも元太の台詞を引用して、正体を見抜くきっかけになったのも熱いですね。
元太…お前の意思はしっかりと引き継がれているぞ。
鰻の蒲焼から滴り、白米へと沁みるタレのように。
ヤミちゃんと話して訳が分からないよしてる隊長、常識人感が半端なくて好きなシーン。
仕方ないとはいえ、ヤミちゃんに背負われる隊長、絵面が可愛いですね。
果たして惨劇が完遂される前に間に合うのか。
ヤミちゃんは美柑との友情を取り戻せるのか、気になるところです。
クロ、大分姉様たちとのボディタッチも増えて、もうずいぶんあちら側に引き込まれた感ありますね……。
底なし沼を泳いでるようだ。
メインが悟飯達なんで忘れがちになるけど、これ大分手遅れですねもう。
予約に関して、ルールの追加をご報告します。
8人以上の大人数キャラの予約かつ直近で投下のある書き手さん、私(◆lvwRe7eMQE)と◆/9rcEdB1QU氏と◆ZbV3TMNKJw氏は延長申請の際、2週間まで延長可能とします。
今後、また状況に応じて改定すると思いますが、一旦はこのルールで企画を進めさせていただきます。
海馬モクバ、ドロテア、グレーテル、クロエ・フォン・アインツベルン、北条沙都子、カオス、孫悟飯
結城美柑、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、乾紗寿叶、金色の闇、日番谷冬獅郎、メリュジーヌ
予約します
延長もお願いします
前編を投下します。
魂を焦がし、臓腑を凍らせる濃密な死の気配に、全ての命が震撼を成す。
分かっていた。
勝負である以上、どれだけ推論を重ねて根回しをした所で。
一手の判断ミスで、最悪の目を引き当てる可能性がある事位は。
しくじった。北条沙都子の現状を説明するのなら、その一言で事足りる。
折れた左腕に痛みを噛み殺し、目尻に涙を浮かべて、嗚咽を必死に抑え込む。
そうしなければ、次の瞬間には死体に変わっている恐れがあるためだ。
「おねぇちゃん……」
傍らで修道服の少女───カオスが憔悴した様子で沙都子に声を掛けた。
傍にいる沙都子ですら聞き取りにくく、消え入りそうな声量で。
それはシナプスが作り上げた、最新鋭にして最高傑作と呼べるエンジェロイドすら。
今の状況は死の一文字を間近に感じる状況なのだと、沙都子に知らしめる。
じっとりと手汗を流した掌でカオスを撫でながら、沙都子は乾いた声で返した。
「だ、大丈夫ですわ……」
悟飯の症状の進行が確認できた時点で、沙都子の最低目標は達成されていたのだ。
症状が進行した時点で、彼の前から姿を消す事になる可能性は高いと彼女は考えていた。
竜宮レナが実父に行った様に、園崎魅音が前原圭一に行った様に。
奉仕対象の位置に収まれれば勿論それが最善だったが、彼とは会ったばかり。
限られた時間でそんな関係を築くのは、余り現実的ではないとも考えていた。
前もって悟飯に離れる事があるかもしれないと伝えていたのも、それに起因する。
(悟飯さんの症状の進行を確認した時点で逃げていれば………!)
悟飯が雛見沢症候群である以上、思考の飛躍で沙都子を憎む可能性は存在したが。
他ならぬ孫悟空から沙都子自身とカオスの気がほぼ感じられないのは聞いている。
対するカオスは初邂逅の前から悟飯を探し当てられるレーダーを有していた。
万が一、悟飯に探知系の道具が支給されていた場合が懸念材料だったが。
彼の話を聞く時に彼女は確認していた、そう言った道具が無いかを。
病気を治す道具が無いか確認すると言えば、調べる事はそう難しくは無かった。
結果、そう言った道具は確認できず。もし悟飯が沙都子を敵とみなしたとしても。
一度離れてしまえば彼は沙都子達を探し当てる事は出来ない、その筈だった。
それなのに。
(欲をかきすぎましたわね………)
雛見沢症候群の感染者は、コントロールが非常に難しい。
大石蔵人の扇動に成功した時も、彼の行動パターンや背景を調べ上げたが故の結果だ。
それなのに、欲張って悟飯をコントロールしようなどと何故自分は考えたのか。
最後の最後で杜撰極まる判断をしたと沙都子は大いに後悔を覚えた。しかし……、
「カオスさん、あの大砲を使う準備をしておいてください
悟飯さんが此方を狙った瞬間、撃てるように」
「で、でも………」
「大丈夫、勝とうと思わなくて結構です。目くらましになればそれでいいですわ」
幾ら悔やんだ所で時は巻き戻らない。失敗したのなら、ここから挽回する他ない。
でなければ、代償は左腕一本ではなく、命へと変わる。
逆にここで逃げ切る事さえできれば。当初の最低目標はクリアーだ。
悟飯は今後全ての参加者にとっての敵。パブリックエネミーに他ならないのだから。
後は、彼の“気”や評判を聞きつけた孫悟空を引っ張り出し、潰し合わせるだけ。
孫親子さえ消えれば、純粋な対主催で目の上の瘤は消えてくれるのだ。
だからここで自分達が消える様な事は、絶対にあってはならない………!
額に冷や汗と、左手に走る痛みからくる脂汗を止めどなく流しながら。
それでも沙都子は目前の凶兆を見つめた。
「僕が……僕がやらなきゃ……やるんだ………」
俯き、虚ろな瞳でブツブツの独り言を吐く、変貌を遂げた悟飯。
激昂して襲ってくる様子は無いが……このままで済むとは思えない。
臨界を遂げる前の原子炉を前にしている様な戦慄。言葉で説得するのは不可能。
むしろ沙都子はモクバ辺りが説得にかからないか期待していた。
この期に及んで彼に声を掛けるという事は、自分から殺してくれという表明に他ならないのだから。
そして、そういったアクションを成すものがいない限り────
「うん……うん……分かっているよ、父さん、のび太さん」
ぎょろり、と。一切光を宿さない、深い深い虚(うろ)の様な瞳が、沙都子達を捕える。
この時に至る直前、最後に悟飯の意識が向いていたのは沙都子だ。
そのため真っ先に狙われる事になるのも、彼女になる事は自明の理と言えるだろう。
「────ちゃんと僕が、全員殺して。ドラゴンボールで生き返らせますから」
そして、その時は来る。
悟飯が虚ろな視線を向け、それに次いで両腕をゆっくりと上げたのが合図だった。
それを目にした沙都子の本能は、最上級の警鐘(アラート)を響き渡らせ。
悲鳴にとてもよく似た指示を、カオスへと発させた。
「───極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)!!」
沙都子が名を呼ぶと共にカオスは、ハッキングによって取り込んだ極大砲を現出させた。
安定運用に1400人もの人員を必要とするとされた、超巨大な大砲。
ドーラ列車砲が再び姿を現し、その長大な砲門を悟飯へと向ける。
それに伴いカオスは沙都子を抱えると、砲を盾にする様に身を隠して。
「魔閃光ッ!!」
少年がその言葉を口にし、掌を光らせたのと。
ドーラ列車砲が砲火を以て彼を出迎えたのは殆ど同時だった。
爆炎と爆轟が、音の速さを遥かに超えた速度で、互いを滅ぼさんと突き進む。
「………く、ゥ。ぁッ────!?」
世界を焦土へと変える爆炎を一点に集中。
レーザーの様に業火はその姿を変えた上で、悟飯の放った光線と激突する。
放たれた気と焔は数秒間喰らい合い、鎬を削る。
しかし、優劣は直ぐに示された。瞬間的な威力自体は極大砲が上であるものの。
カオスにはそれを維持するための魂が足りないためだ。
それ故に、十秒程の拮抗を経て悟飯へと戦況は傾く。
「うう、ぁ───いーじすッ!!!!!」
悲鳴を上げて、ドーラ砲ごとカオス達が吹き飛ばされる。
爆風の中沙都子を抱き、故障しかけのイージスを展開して護るが、それが限界だった。
まるで砲弾になったかのように一度爆風で撃ちあがった身体は地面へと叩き付けられ。
その程度の衝撃ではエンジェロイドはビクともしない。それでも、この後に来る追撃は防げない。
それに何より。
「大丈夫、おねぇちゃん────!」
「…………ぅ゛」
沙都子の状態を確認すると、彼女は気を失っていた。
元々左腕を骨折した所に、凄まじい衝撃と熱のせいで到底動けそうにない。
しかし当然、背後の殺戮者は彼女の意識の回復を待ってはくれない。
それを突き付けるように、背後から殺気を感じ振り返ったカオスは見る。
直立不動のまま此方に手を向けて、掌に光を集め。
今まさに沙都子と自分を破壊しようとする、孫悟飯の姿を。
「うあ、ぁあ………」
万事休す。今まさに放たれようとしている絶死の光弾を前にして。
シナプスの最高峰の電算能力はその事実をカオスに冷淡に伝える。
どうすればいい?どうすれば沙都子を守ることができる?
どれだけ演算を重ねても、答えを導く事ができない。
だから彼女は最後の抵抗として、沙都子を抱き寄せ悟飯に背を向け。
殆ど壊れているイージスを展開し、防御態勢で裁きの光を待つ。
分かっている。これが意味のない行いなのは分かっている。
それでも────と、カオスが覚悟を決めた、その時。
「───はあああああッ!!!」
裁きの光が、天使と魔女を灼くことは無かった。
沙都子達に掌を向ける悟飯に向けて、打ちかかる物が現れたからだ。
聖杯の寵児。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
クラスカードによってセイバーの力を得た少女は、聖剣の切っ先を、悟飯へと向けた。
少年の、これ以上の凶行を止めるために。怖気を振り払って。
「悟飯君……お願い、やめて」
刀身を片腕で跳ねのけられ、砂煙を上げて後退しながら。
それでもイリヤは目の前の悟飯を、力強い眼差しで見つめた。
そして訴える。少年のこれ以上の蛮行を止めるために。
震えそうになる掌を、聖剣を握り締める事で押さえつけて。
「さっきから、邪魔ばかり………!」
だが、返って来るのは憎悪の眼差しだけだった。
もう止められないし、止まる気も無い。
言葉よりも余程雄弁に、少年の眼差しは刺すような殺意を。
裏切られた絶望を。行き場のない悲しみと怒りを、遍く全てに叩き付ける。
そのためだけに、今の孫悟飯は駆動していた。
そんな彼を前にして、イリヤは。
「うん、何度だって邪魔する」
冷や汗が止まらない。恐怖で涙が出そうになる。
けれど、言葉を紡ぐ声だけは震えさせない。それだけは己に許さない。
全てを呑み込む様な殺意を向けられて尚、目を見開いて対峙する。
「例え皆を殺せたとしても、悟飯君は助からない。一人ぼっちになっちゃうだけ、
だから私は───貴女と戦う。止めて見せる。私ものび太さんと同じで──────」
────悟飯君に独りになって欲しくないから。
全ては遅いのかもしれないけれど。
それでもこの時、イリヤは一文字も言い淀むことなく。
この場にいる全ての命を救うために、何より悟飯を救うために、その言葉を口にした。
だが、しかし。
「黙れぇええぇええええぇええええええええええええッ!!!!!」
祈りを込めた言葉は、やはり少年には届かない。
双眸を見開き、血走った眼をぎらぎらと光らせ。
全身から気を放出し、咆哮と共に悟飯はイリヤの元へと突撃する。
ハンデを負ってなお、瞬きの時間で一気に距離を詰め、拳を振り上げる。
「悟飯、くん────ッ!!」
振り下ろされる処刑鎌の様な拳に対し、イリヤも聖剣を振り上げる。
モクバと一緒に悟飯を食い止めていた時に、何度も成し遂げた迎撃だ。
勝てはしないにしても、今回も達成できる。無意識のうちにイリヤはそう考えていた。
だが、直後に計算違いを思い知らされる事となる。
(─────ッ!?さっきよりも、強────ッ!?!?)
拳の重さが、先ほどまでとは明らかに違う。
モクバと共に戦った時から、夢幻召喚により騎士王の力を得た自分よりも強い。
その確信があったが、その時はまだ戦闘が形になるレベルの実力差だった。
だが、今の悟飯の凶暴性と速度、そしてパワーは最早数分前の比ではない。
ガァン!と彼の拳によって聖剣がカチ上げられ、イリヤは体勢を崩す。
不味い。刹那の時間で悪寒が彼女の肌を駆け巡る。しかし、何もできない。
「のび太さんを利用しようとしたお前が───知った風な口を利くなァッ!!!!」
轟音と、全ての景色を塗りつぶす衝撃が少女へと襲い掛かる。
それに伴いバキバキと何かが砕ける音を、イリヤは聞いた。
音の正体は何かとぼんやり考えて、そして彼女は一つの答に至った。
騎士王の象徴たる甲冑と、その下にある左鎖骨を砕かれたのだ。
「う゛あ゛ああああああああああああああああッ!!!!」
果たしてその叫びは少女を蹴り飛ばした悟飯の物か。
それとも蹴り飛ばされたイリヤの物だったかは定かではないが。
純然たる事実として、イリヤは周囲で一番近かったビルディングの外壁に叩き付けられた。
外壁に発生したクレータの中心に叩き込まれた少女は、ただその一撃で沈黙。
ずるりと、力なく崩れ落ちた。僅か一発蹴りを貰っただけで。
頑丈そうな甲冑は砕け散り、致命傷に近い傷を負って建物の壁に磔にされた。
(つ、強すぎる……強さの次元が違う………まるでバケモノだ)
余りにも異様な光景に、モクバは動く事ができないでいた。
イリヤの援護をする前に、数秒かからず悟飯は彼女を制圧してしまったのだ。
カタカタ、と怖気が止まらなかった。正しく蛇に睨まれたカエルの様だった。
(───俺が、何とかしないと!!)
ガチガチと歯の根を噛み合わせて音を立てながら。
モクバは翻弄するエルフの剣士に指示を出そうとする。
大丈夫だ、このカードは決して戦闘で破壊される事はないと信じて。
だが、翻弄するエルフの剣士が悟飯へと向かってくれることは無かった。
「───え?」
ゴォオオオオンッ!という雷が駆け巡る音と共に。
これまで戦闘で無敵であった筈の翻弄するエルフの剣士が、あっけなく破壊された。
真っ黒な炭と化した身体を塵に変えて、霧散する。
絶望的な光景だったが、モクバがまず考えたのはどうして?何故?と言う疑問だった。
だって、まだ悟飯が攻撃した様子はない。
目下最大の敵だった北条沙都子も未だぐったりとした様子で、攻撃したとは思えない。
では、誰が───そう考えるモノの、答えが出るまで状況は待ってはくれない。
「あ、ぁああぁああああああ────!!!」
もうモクバを守ってくれる盾はいない。今の彼はただの無力な少年だ。
しかも先ほどの落雷音で悟飯の意識がモクバへと向いた。
当然、彼はその手に気を収縮させ───悟飯へと向ける。
その時の彼は、虫に殺虫剤を向ける眼差しをしていた。
(兄サマ、ごめん。俺、帰れそうにない────)
自分は此処で死ぬ。
モクバ自身すら、その瞬間迫りくる最悪の未来を疑ってはいなかった。
しかし、彼が見た未来は変わる。
「────氷輪丸!!」
何かの名を呼ぶ声と共に、空中を氷の龍が疾走し。
悟飯に食らいつき、凍結する事で動きを止めた。
現実離れした光景に目を奪われ、意識が龍の現れた方向へと引き寄せられる。
長髪を翼のように変形させた、金髪の痴女と。
その背に背負われた、白と黒の袴の様な装束を纏った銀髪の少年だった。
「どうやら、シュライバーの言う通りだったらしいな………」
周囲を睥睨し、倒れ伏す沙都子やイリヤの姿を目にして。
苦虫を?みつぶしたような表情で、銀髪の少年──日番谷は感情を零す。
自分があの甲冑の少女に襲撃を受けた後、事態は最悪の推移を見せたらしい。
その上周囲を見渡しても、誰が敵で誰が味方かすら分からない程混沌とした状況だ。
その中で、ただ一つはっきりしている事は。
「………最初で最後の警告だ、悟飯。落ち着いて、自分の敵が誰かを考えろ」
今この場において最も脅威であり、全員の安全を考え排除すべき者は。
病に蝕まれ、怯えていた、かつての仲間であった孫悟飯であるということ。
日番谷冬獅郎は嫌でもその事実を認識せざるを得ない。
「また一匹、虫ケラが死にに来たか」という視線で日番谷を見る悟飯の姿を認めてしまえば。
どれだけ少年に同情を覚えても、そう判断を下す以外の道はない。
彼もまた、護挺の二文字を背負う物なのだから。しかし、同時に脳裏に蘇る記憶。
日番谷の死神としての生の中でも最も動揺を覚えた一日、あの男の記憶が浮かぶ。
───ただ、君たちが誰一人理解していなかっただけだ。
───彼の、本当の姿をね。
あの男が今の自分達の姿を見れば、こんなセリフを吐くだろうか。
今この状況にあの男を思い出すなんて縁起でもないという事は理解していた。
それでも、脳裏に浮かんだ幻影は消えてくれなかった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
凍り付いた、自身の半身をまず眺めて。
その後、それを成した“抹殺対象”を悟飯は眺めた。
そして、今しがた自分に向けられた警告を舌の上で転がす。
「自分の敵が誰かを考えろ、だって………?」
悟飯がその言葉を口にした瞬間、日番谷とヤミの背筋に戦慄が走った。
猛スピードで迫りくる土石流を前にした様な。
爆破時刻まで十秒を切った爆弾を前にした様な。
少し前に悟飯に勝利したヤミですら、凍り付くような悪寒を覚えた。
この少年は、危険だ。それも、前に合った時よりも遥かに。
宇宙に名を馳せた殺し屋としての経験値でそれを察し──同時に、一つの疑問を覚える。
「美柑は!?美柑はどこにいるんですか!!」
目の前の少年は自分がこてんぱんにした少年──確か孫悟飯と言ったか、で相違ない。
だが、あの時悟飯は自分が探し求めている美柑と一緒にいた。彼女は一体どこに行った?
それに、何故彼の背後でイリヤが倒れている?だって彼は彼女達を守ろうとしていた筈だ。
これではまるで悟飯がイリヤを叩きのめした様だ。何故、マーダーだったのか?
いや、確か背中の日番谷の話では彼は何か病気を患っていて、不安定になっているらしい。
それなら仲間割れも不自然ではない……待て、そんな事は自分にとってどうでもいい。
重要なのは、美柑の安否だ。彼女は今、どこにいる?まさか。
───駆け巡る思考。機械の様な冷徹さは今の金色の闇には存在しなかった。
ただ、自分の事を友と呼んだ少女の事だけを求めて、目前の少年に尋ねる。
それが、正しく業火にガソリンを浴びせる所業だとは思いもしないで。
「はあああああああああ…………!!!」
悟飯が、ヤミの問いかけに応える事は無かった。
だが、彼の沈黙に対してヤミたちが抗議を唱える事はできない。
何故なら、悟飯が力を溜める様な挙動を見せ始めた途端、
大気が、大地が震えるように鳴動し始めたからだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!とそんな幻聴すら耳に響くほど。
(こ、こいつ……霊圧だけなら愛染と………!)
しゅうしゅうと熱を放つ音が、不気味なほど鮮明に耳に響く。
少年の威容と大気の異変に、日番谷は息を呑んだ。
さっきまで悟飯を覆い、凍結させていた筈の氷が既に溶けている。
今まで響いていた音の正体を、この時悟った。
同時に日番谷はその事実を受けて、一つの結論へと至る。
───この少年は殺すつもりで戦わなければ止められない、と。
「がああああああああッ!!!!」
「……そうか、孫悟飯。なら俺は────」
バチバチと空気が爆ぜ、彼に纏わりついていた水分が、周辺の雲が吹き飛ぶ。
その後、孫悟飯はゆっくりと、目の前の新たな標的二人を見据えた。
殺意に満ちた視線を向けられて、嫌でも思い知らされる。
彼がどんな決断を下し、これから何を行おうとしているのかを。
自分達が目にしていない時に、この少年に何が起きたのかは知らない。
だがきっと、何を言おうと。目の前の少年には届かない。言葉ではこの少年は止まらない。
力でねじ伏せる以外に、生き残る道はない。厳然たる事実として、日番谷はその事を認めた。
だから。
「お前を───殺してでも止めるぞ」
僅かに憂いを帯びた表情で、日番谷がその宣言を述べると共に。
目の前の少年の姿が、変貌を遂げる。
漆黒の髪は黄金の輝きを放ちながら荒々しく逆立ち。
双眸もまた、エメラルドグリーンの彩へ塗り替わる。
「があああああああああああああああああっ!!!!!」
戦端は開かれた。
咆哮(ウォークライ)をあげ、全身に気を巡らせて。
孫悟飯は、目前のマーダー二人へと襲い掛かった。
ごう、と。暴風が吹き荒れる。
「────さっき敗けた人の分際でッ!!!」
凄まじい速度で迫って来る悟飯を前に、ヤミは変身で硬質化させた髪を迎撃の為に伸ばす。
以前の戦いであの少年の手札は割れている、幾ら威圧感を出そうが臆することは無い。
あの少年が得意とするのは接近戦、ならばこうして中距離で手玉に取ってやればいい。
例えエネルギー弾を放ってきたとしても、自分のダークネスの力を使えば何するものぞ。
今はブラックマリンと凍結攻撃を操る日番谷もいる以上、前回よりも有利に戦える。
さっさと叩きのめして、美柑の居場所を聞き出さないと。
焦燥に突き動かされる様に、ヤミは拳の形を作った髪で悟飯を打ち据えようとする。
狙うは顎、先ほどの戦いで主導権を握るきっかけになった部分だ。
「貴方がどんなに鍛えていようと────」
人の形をしている限り、鍛えられない部分はある。
懲りもせずに真正面から突っ込んでくるお馬鹿さんに、それを教授してやろう。
最強の、対惑星兵器の性能を今一度知るがいい。
吐き捨てられた言葉と共に放たれた拳は───ガァン!!と彼女の狙い通りに。
金髪で作った拳は、見事悟飯の顎を捕えていた。
「─────なッ!?」
だが、導かれる結果は先ほどとは明らかに違っていた。
殴られたまま、悟飯は微動だにしない。先ほどの様に吹き飛ばない。
彼がした事は実に単純。
遮二無二突っ込むフリをして、その実体内の気を顎に集めていたのだ。
その結果、ヤミの拳は以前の戦いで優勢を引き込んだ時の二割を割る威力となっていた。
分かっていれば耐えられる。憤怒に燃える彼の瞳は────真っすぐヤミを睨んでいた。
不味い、彼女がそう考えた時には既に悟飯は彼女の髪を掴み。
力任せに───綱引きの縄の様に、思いきり引っ張る。
その膂力は、以前戦った時から明らかに増していた。
「きゃ────っ!!」
金色の闇はその日、初めて力負けするという経験をした。
ひもを引っ張られた凧のように宙を舞い、悟飯の元へと引き寄せられ。
拳を固く握りしめ、振りかぶった悟飯の姿に、視界が覆い尽くされる。
変身した髪の大量自切や、回避のためのワームホールを展開する時間すら与えられない。
戦闘開始から数秒、ヤミが引き寄せられてからコンマ一秒に満たない刹那の時間で。
ミサイルの如き鉄拳が襲い掛かり、ヤミは反射的に、咄嗟に左腕を掲げて防御を行う。
瞬きに満たない時間で防御の姿勢を取れたのは彼女が高い格闘能力を有している証明だ。
金色の闇は銀河にその名を轟かせる優秀な暗殺者であり、兵器だった。
しかし彼女は“戦士”ではなかった。
「受けるなッ!!避けろッ!!!」
ヤミがショートレンジにまで引き寄せられた事で、背後に捨て置かれた日番谷が叫ぶ。
氷輪丸が柄だけの状態でブラックマリンと併用し、精密操作をするのは不可能だ。
大雑把に水流をブチ撒け、凍結させる事くらいしかできない。
白兵戦の距離の戦闘では、味方を巻き込んでしまう。
だが、彼は今、味方を巻き込んでも攻撃するべきだった。それを思い知らされる事となる。
目視可能なまでに圧縮された、黄金色の霊子を纏った拳は、防御するべく掲げられていたヤミの左腕へと吸い込まれ。
──────ゴキンッ!!
彼女の左腕の上腕を中途から、直角に見えるほどまでにへし折った。
「──────っ!?」
痛烈な痛みが駆け巡る中、しかしヤミは悲鳴を上げなかった。
この程度ならトランスの応用で誤魔化せると判断。戦闘行為に支障はない。
だが、それでも現在の悟飯のパワーは彼女に衝撃を与えた。
ありえない。前に戦った時と比べても明らかに異常だ。
銀河最強と言われる一族、デビルークのプリンセスですら。
自分の腕を一撃でへし折るなど至難の業だろう。
(落ち着いて、先ずは、距離をとらないと───)
一度距離を取ってしまえば、後は前回のように転がせるはずだ。
背後に距離を取るためのワームホールを形成しつつ、ヤミは髪を操作する。
おそらく躱されるだろうが、ワームホール完成までの目くらましになればそれでいい。
とにかく、今は態勢を立て直す。それこそが最優先。
だが、孫悟飯はそれを許さない。
「────気円斬」
髪によっての迎撃を見越していた、そう言わんばかりに。
悟飯の掌から高速回転し、圧縮された円盤状の気の刃が放たれた。
円盤によってぶちぶちとミサイルでも傷つかないはずのヤミの髪が切り裂かれ。
それでも止まらず、チェーンソーかギロチンの様にヤミへと向かう。
このままでは首を落とされる。
刹那の判断で大きく首を傾ぎ、ワームホールの作成より回避を優先した。
刃はヤミの視界の端を駆け抜け、ピッとヤミの頬に一文字の傷が走った。
ワームホールの作成を優先していれば、間違いなく首を落とされていただろう。
だが、危機は去ってなどいない。
「………クリリンさんは、凄いなぁ」
躱された見様見真似の気円斬を眺めて、悟飯は独り言を零す。
クリリンが放った気円斬なら、敵手に回避する事など許さなかっただろう。
そのまま、首か胴体を両断できたはずだ。あのヤミとかいう女を、殺せたはずだ。
力ばかり強くなって、まだまだ未熟な自分を思い知らされる。
でも、それでもやらなければならない。
そうしなければ野比のび太を殺した過ちを取り戻せない。
だから────彼は自分ができる方法で事をなす。
「 捕 ま え た 」
ヤミが気円斬に気を取られた一瞬の隙を縫うように。
がしり、と。ワームホールの彼方へと消えようとしていたヤミの折れた左腕を掴む。
そして、そのまま万力の様な力で締め上げた。
「ぐッ───は、離せ。離しなさい────っ!」
捕えられたヤミは残った右腕で拳を握り、渾身の力で悟飯を殴りつける。
彼女も必死だった。だが、左腕を抑えられている状態では上手く力が伝わらない。
ガン、ガンと頭や胸、脇腹を殴りつけても、敵は冷たい薄笑いを浮かべるだけだった。
ならばと切られた髪の再生を行い、再び髪を硬質化させ刃を形作り。
ならば首を飛ばしてやると、振りかぶった時の事だった。
ひた、と。悟飯の片腕の掌がヤミの脇腹の辺りに添えられたのは。
殺し屋としての本能が、最大規模の警鐘を鳴らす。
「まっ!待っ─────」
静止の言葉など、当然悟飯が聞く義理は無く。
───ゴウッ!!
一瞬の間を置いて、何かが焼き斬れる音が大気を震わせる。
音の正体。それはダークネス・ヤミの脇腹がごっそりと削られ、消滅した音だった。
レーザーで穿った様な破壊の爪痕を刻まれたヤミの身体が、崩れ落ちる。
「なんで……前に、戦った時は……こんな………」
「……考えたんだ。お前に負けた後、どうしたら勝てるか。
それで……ピッコロさんやクリリンさん、お父さんならきっとこうするだろうって」
血反吐を吐きながら倒れるヤミに、悟飯は静かに彼女の最大のミスを述べた。
それは即ち、悟飯を圧倒しながらトドメを刺せなかったこと。
手負いの獣程恐ろしい物はないという言葉があるが、彼女は正にその言葉の通り。
孫悟飯と言う特級の獣を、手負いの獣へと変えてしまったのだ。
敗北後に獣は考えた。どうすれば次、あの女に勝てるかを。
彼にとってヤミはシュライバーと違い、超サイヤ人2となっても不安を感じる相手だ。
パワーで上回れば勝てるのなら、初戦から勝利できていただろう。
だが、単純な力押しが通用しなかった以上、工夫して挑まなければならない。
どうするべきか考え、思い至ったのは師や仲間ならどう戦うかと言う思考だった。
───おぼえておけ、俺達は闘いで一気にお前達の言うエネルギーを増幅して爆発させるんだ。
結果、ドクターゲロを追い詰めた時に見せた、ピッコロの策を悟飯は再現した。
我武者羅に突っ込むフリをして張った罠で、初手の主導権を握り。
その後ヤミが不得手と推測できた斬撃を、クリリンの技で行う。
成功して相手のペースを崩しても、シャルティアの様に連打で打ち据える事はしない。
そのままショートレンジから圧縮した気功波で一息に貫き、一撃で以て勝負を決める。
確実性に欠け消耗も結局大きくなる連打より、此方の方が勝算は高いという読みは的中。
雛見沢症候群の罹患者は、思考が例外なく支離滅裂になるが。
半面、こと外敵の排除に関しては恐ろしく鋭い読みを見せる事がある。
竜宮レナや、園崎詩音に見られた症状を、孫悟飯もまた見せていた。
「だぁあああああああッッッ!!!」
裂帛の叫びと共に、悟飯は崩れ落ちたヤミを蹴り飛ばした。
腕を折られてもなお悲鳴一つ上げなかった彼女も、流石に耐えられず。
ぐげぁと少女が上げてはいけない類の嗚咽を零し、吹き飛ばされていく。
凄まじい衝撃にランドセルも明後日の方角に飛んでいくが、気に掛ける余裕すらない。
そのまま彼女は受け身すら取れずにコンクリに叩き付けられ、沈黙する。
戦闘開始から僅か10秒に満たない時間で、金色の闇は敗北を喫した。
「トドメだ……ッ!!」
憎悪の炎を漆黒の瞳の中に燃やして。
トドメを刺すべく、悟飯は掌を沈黙する少女へと向けた。
侮りはしない。あの変態女に侮りは禁物だ。このまま跡形もなく吹き飛ばす。
それでようやく息の根を止めたと安心できるのだ。
全員殺すと決めてから、初めて殺す相手としてヤミは悟飯にとってうってつけだった。
何しろ、消し飛ばしても何の良心も痛まない。己の衝動に忠実になる事ができる。
その事を強く思いながら、怨敵を消し飛ばしにかかる。
いざ、消し飛ばさんとする。しかし。
「─────天相従臨!!」
瞬間、悟飯の身体を大量の水が包み込んだ。
ヤミが使っていた水の能力である事は察しがついたが、今あの女は目の前に転がっている。
では誰がと言う疑問は、再び下手人の声が響いた事で解消される。
「───六衣氷結陣!!!」
足元に広がった水たまりを起点として、悟飯の足元に六角形の氷結晶が形を成す。
そこからの凍結速度は、一瞬だった。瞬きの間に氷柱が立ち昇り。
水のかかっていなかった首から上を除き、悟飯の身体を凍り付かせた。
そんな事が可能な参加者は、一人しかこの島に存在しない。
氷雪系最強の斬魄刀を有する、日番谷冬獅郎以外は。
恐るべき才覚だった。帝具ブラックマリンとの併用とは言え。
ヤミが倒されようとしている時にせっせと仕込みをしていたとは言え。
斬魄刀の刀身の殆どを欠いた状態で、それでも悟飯を一瞬で凍結させる芸当を成すのは。
正しく、最年少で隊長に就任した麒麟児。天才の技と言う他なかった。
「……悪いな」
果たしてその言葉は悟飯に向けた物だったか、ヤミに向けた物だったか。
下手人である日番谷自身も、ハッキリと断言することはできなかったが。
斬魄刀の刀身の殆どを喪失した今、彼が悟飯を止めるにはこの方法しかない。
ヤミが最初に腕を折られるのを見た瞬間、即座に彼はヤミとの共闘を切り捨て。
この攻撃を行う方針に切り替えたのだ。
元より共闘の姿勢を見せ、ブラックマリンを自身に譲ったとはいえヤミはマーダー。
合理性を重視した視点で言えば、危険人物同士の潰しあいだ。日番谷に不利益はない。
そして、悟飯の異常な状態と強さを鑑みれば、当初の予定通り共闘していたとしても。
まず間違いなく氷輪丸の力の殆どを欠いた自分とヤミでは、返り討ちにされていた。
十二番隊隊長、涅マユリならきっとそう評するだろう。
それでも後味の悪さは感じながら───日番谷は悟飯を見る。
────無駄だ、日番谷隊長。死神の戦いとは霊圧の戦い。
────始解にすら届かないみすぼらしく折れた斬魄刀で、その少年を抑え込めるなら。
────君は私に、二度も敗れてはいなかっただろう。
ぞ、と。脳裏に悪寒が走った。
なぜこんな時に、あの男のことばかり思い出すのか。
まさか、未だにあの男の能力の影響を受けているとでもいうのか?
その理由を考え、答えが出るのにそう時間はかからなかった。
何故なら、答えが直ぐ傍まで迫っていたから。
(そう、か………あの日と、同じ………)
あの日、あの男の裏切りが発覚し、倒れ伏した雛森を見て。
誰が敵で誰が味方かも分からない混乱の最中。
激昂した自分は即座に卍解を解放し、下手人を斬り捨てにかかった。
その結果どうなった?自分の刃はその切っ先だけでも届いたか?
現在の状況は、あの日をまるでなぞる様な様相を呈しているのだと。
目前まで迫った悟飯の姿を目に焼き付け、日番谷は理解した。
「僕の敵が誰か考えろって、言っていたな」
凍結した己の肉体に対し、悟飯の取った対応策は実に単純。
皮膚の下、体の奥から気を放出しただけだ。
それだけで、高密度の気のエネルギーは二秒と掛からず小癪な凍結の一切を無効化した。
元より悟飯を行動不能にできる規模の凍結を成そうと思えば、卍解の出力が要求される。
始解でもまず不可能。氷の戒めから脱出するまでの時間が数秒増える程度だろう。
まして始解にすら満たない、刀身の殆どを欠いた斬魄刀では土台無理な話だった。
三輪車とスポーツカーで速さを競う様な物だ。勝負の土台にすら立てていない。
それを示す様に、本来ならそれなりのエネルギーを消費する全身からの気の放出も。
余りにも早く解凍に至ったために悟飯に殆ど消耗は無かった。
「そんなの」
互いの吐息を感じる距離まで一瞬で肉薄し、悟飯は目の前の日番谷に静かに告げる。
この状況で誰が最も信用できない?誰が敵だと問われれば、そんな者は決まっている。
態々問いかけてきた白々しさに怒りを燃やしながら、少年は吼えた。
「お前らに決まってるだろうがああああああああ─────っ!!!」
金色の闇などと言う“マーダー”を連れてきた日番谷に決まっている。
結局こいつもグルだったのだ。闇と結託し、自分を殺そうとしているのだ。
なら、やられる前に殺ってやる……ッ!!
殺意と共に放たれた右ストレートは、見事に日番谷の腹のど真ん中を捉えた。
「ぐ、がぁ………っ!!!」
インパクトの瞬間、日番谷の喉の奥からドロリとした血が噴き出した。
赤い血ではない。内臓が損傷したことを示す、濁った黒色の血だった。
そして、攻撃はそれで止まらない。悟飯はそのまま敵の腹に触れた拳にぐっと力を籠め。
そのまま───殴りぬいた。
「がぁああああああああああっ!!!」
地面と殆ど並行に、日番谷の身体が猛スピードで宙を舞う。
成すすべなく吹き飛ばされながら、それでもやはり彼は一流の戦士だった。
意識を落としてもおかしくないダメージを受けながらも、悟飯から視線を切らず。
その努力のお陰で、自身にトドメを刺すべく迫る悟飯を視界に収めることができた。
とめどない殺意で目をギラギラと光らせて向かってくる悟飯を見て、確信を抱く。
次追撃を受ければ殺される。間違いなく殺される。
ブラックマリンで防御を行うか。いや、付け焼刃の力で止められる相手ではない。
先ほどの様に高密度の霊圧で防御されるのがオチだろう。
となれば、残された札は、一枚しかなかった。
危うい賭けである事は理解していたが、それでも賭けざるを得なかった。
────シン・フェイウルク………ッ!!!
体中の霊子と力を振り絞り、空中で身体を反転。
受け身を取り着地を行うと共に、懐に忍ばせていた瓶でシン・フェイウルクの術を使用した。
シン・クラスの莫大なエネルギーが、日番谷の身体に装填される。
そのことを確認後、不意を突かれた表情を浮かべる悟飯を尻目に。
脚部に力を籠め、瞬歩と併用した疾走を開始した。
「ぐぅ────お───っ!?」
日番谷の判断は的確だった。
もうコンマ数秒判断が遅れていれば、彼は悟飯の追撃によって死亡していたのだから。
一瞬で戦場を駆け抜け、悟飯の射程圏内という死地から脱出を成す。
だが、シンの術は強力に過ぎた。如何な天才、日番谷冬獅郎と言えど。
一度行使しただけで制御下に置くのは、不可能な話であった。
猛スピードを出した車が急ブレーキを踏んでも直ぐには停止できない様に。
もう止まろうと思っても、術に引きずられる様に───日番谷の身体は止まらない。
「嘘、だろ………ッ!?」
眼前に木造建てと見られる民家が見えたが、やはり停止は出来ず。
腕を交差し気休めの防御姿勢を取った数秒後に、日番谷は民家に突っ込んだ。
悟飯の一撃で負った腹への損傷と、今しがたの激突のダメージ。
ハッキリ言って戦えるコンディションではなかったが、即座に彼は立ち上がろうとする。
あのままでは悟飯が本当に全員皆殺しにしてしまいかねないためだ。寝ている暇はない。
今すぐ戦場に戻り阻止できなければ、自分はただ戦場から逃げた臆病者となるだろう。
それだけは護挺の隊長を背負った身として、看過する事は出来ず。
血反吐を吐きながらも、日番谷は再び戦場に赴くことを試みる。しかし。
無理をしたツケの返済から、逃れる事は許されない。
「────ぐ、ぁ……ぐぎぃいいあああああああああああああああッ!!!!!!!」
身体がバラバラになったのではないかと錯覚するほど衝撃が、全身を襲い。
痛みに操られる様に不格好なダンスを踊ると、日番谷は再び血反吐を吐いて地に伏せた。
もう立ち上がる事はできない。それほどまでにシンの術の反動は強大だったのだ。
メリュジーヌとの戦いで使用した際は氷輪丸がシンの反動の殆どを引き受けてくれていた。
そのためその際はまだ行動可能なフィードッバックで済んだが、今回はそうもいかない。
直接己の肉体にシン・フェイウルクを使った反動は、死神に対し一切の容赦をせず。
彼の意識を否応なく、闇へと引きずり込んでいく。
────だから言っただろう、日番谷隊長。
────あまり強い言葉を使う物ではないと。
弱く見えるからね。
脳裏にリフレインした言葉に、己の弱さを今一度直視させられる。
反論する言葉を持たない自分が、どうしようもなく恨めしく悔しい。
霞んでいく視界の中、最後に一言ちくしょうと毒を吐いて、日番谷は完全に意識を手放した。
【日番谷冬獅郎@BLEACH】
[状態]:疲労(特大)、ダメージ(特大)、腹部にダメージ(大)、全身に切創、気絶
雛森の安否に対する不安(極大)、心の力消費(特大、夕方まで術の使用不可)
[装備]:氷輪丸(破損、修復中)@BLEACH、帝具ブラックマリン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、シン・フェイウルクの瓶(使用回数残り二回)@金色のガッシュ!!、元太の首輪、ソフトクリーム、どこでもドア@ドラえもん(使用不可、真夜中まで)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを潰し乃亜を倒す。
0:……………。
1:巻き込まれた子供は保護し、殺し合いに乗った奴は倒す。
2:シュライバーと甲冑の女を警戒。次は殺す。
3:乾が気掛かりだが……。
4:名簿に雛森の名前はなかったが……。
5:シャルティアを警戒、言ってる事も信用はしない。
6:悟飯は…ああなっちまったらもう………
7:沙都子の霊圧は何か引っかかる。
[備考]
ユーハバッハ撃破以降、最終話以前からの参戦です。
人間の参加者相手でも戦闘が成り立つように制限されています。
卍解は一度の使用で12時間使用不可。
シャルティア≠フリーレンとして認識しています。
シン・フェイウルクを全く制御できていません、人を乗せて移動手段にするのも不可。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
逃げ去っていく日番谷の背中を見て、悟飯は「弱虫が」と毒を吐いた。
だが、まぁいい。あいつもその内殺すが、まだ先に殺さないといけない相手がいる。
取り逃がしたのは悔しかったけれど、そういう風に心持を切り替えて周囲を見渡す。
イリヤも、ヤミも、ドロテアも、沙都子も、殺したい相手は全員倒れ伏している。
カオスは沙都子の隣で竦んでおり、モクバは鬱陶しい剣士がいなくなって立ち尽くすだけ。
より取り見取り、誰からでも殺せるし、誰を殺してもいい。さて、誰にするか……
「決めた」
先ず殺さないといけないのは、やっぱりヤミだろう。
訳の分からない理由で雪華綺晶さんを殺した相手、シュライバーと変わらない異常者。
それでいて一度僕に勝った、危険な相手。こいつだけは此処で僕が殺す。
美柑さんやイリヤとの約束なんか今となっては知った事じゃない。
その次はのび太さんを生贄にしたイリヤ。次にマーダーのドロテア。
最後に一番弱い沙都子さんを殺す。まぁ、あの様子だと放って置いても死ぬかもしれないが。
その後はモクバやカオスを殺して、美柑さんや紗寿叶さん、ケロベロスさんも殺す。
仲間外れは寂しいだろうから、全員送ってあげないと。
………そんな破綻した思考を巡らせながら、少年は一歩を踏み出した。
最初にとどめを刺すと決めた、ヤミの元へ。
「待って!!」
死刑執行人と化した悟飯を呼び止める声。
それは彼がこの島に来てからずっと行動を共にしていた少女の声だった。
呼びかけに導かれる様に、ゆっくりと向き直って。
そして、声をあげた少女にぼんやりと視線を送る。
──そこには結城美柑が、怯えも滲ませつつも確かな意志を感じさせる瞳で立っていた。
「悟飯君に……本当の事を教えてあげに来たの
だから、ヤミさん達を殺さないで………お願い」
何をしに来たのかと尋ねてみると、ハッキリとした声で少女はそう告げた。
それなりに覚悟はしてきたのか、声は震えていなかった。
視線もこれまで怯えていただけの少女とは思えない程、悟飯の事をハッキリと見ていた。
だから悟飯も、直ぐには手を出さなかった。
口には出さず、視線だけで囀る様に促す。
「紗寿叶さんが言うには………」
そうして、結城美柑にとって一世一代の謎解きの解決編が始まる。
推理ドラマの探偵役になったかのように、この状況の真犯人の推理を述べていく。
メリュジーヌの発言の齟齬を。彼女こそ真のマーダーではないかという事実を。
そして彼女と結託している沙都子こそ、真の魔女である───
それはほぼ全て紗寿叶の受け売りだったけれど。
だからこそ自信を以て、言い淀むことなく全てを伝える事ができた。
(ヤミさん……ヤミさんは、絶対私が………助けるんだ)
極限の緊張下で話が飛ぶことも、声が震える事も無かったのは。
悟飯が途中口を挟むことなく黙って聞いてくれたからもあるだろうが、しかし。
最も大きな要因は、悟飯の足元に崩れ落ちた親友の存在が大きいに違いない。
金色の闇。体を入れ替えた事さえある、大切な親友。
彼女のためなら、どんな危険な説得でも臨むことができた。
絶対に助ける。その一心で、彼女は紗寿叶から伝えられた全てを語り。
最後に倒れ伏す沙都子に指をさし、告げた。
「キウルさんが殺されたのも、悟飯くんに毒を盛ったのも
──全部、沙都子さんの仕業かもしれないの!」
空間に、美柑の声が響き渡る。
カオスはビクリと怯えた表情で美柑を見て。
モクバは戸惑いながらも逆転勝訴した被告人の気分になり。
ドロテアなどそうじゃその通りじゃーっ!と便乗しそうになる口を抑えるのが大変だった。
ヤミとイリヤは相変わらず気を失っており、ピクリとも動かない。
そして、最後に悟飯は。
(……………え?)
美柑を困惑が襲う。悟飯は無言で、無表情だった。
別れた時の調子なら、激昂して沙都子達を排除しにかかると思っていたのに。
予想していた反応と違う。困惑する美柑の表情を眺めながら。
悟飯は小さな声で「僕は……そんな話が聞きたかったんじゃない」と。
誰もにも聞こえない声量で独り言ちてから、思った事を告げた。
「はぁ、そうですか─────それで?」
「え?そ、それでって………」
「美柑さんにとっても恩人の沙都子さんを疑うんです。何か裏付けがあるんですよね?」
その言葉に、美柑はぐにゃりと視界が歪んだ気がした。
だって、そんな事を言われても、困る。
これは紗寿叶の受け売りでしかないのだから。
返答に窮する。言い淀みそうになる。けれど、何か言わなければ。
その一心で、必死に美柑は舌を動かし、喉を震わせる。
「で、でも────メリュジーヌさんの話におかしい部分があるのは事実で」
「一度一方的に向こうが話すのを聞いただけですよね?言葉の綾かもしれない。
何かこっちが聞き間違えたのかもしれない。それでマーダーだと決めつけたんですか?」
「………っ!」
視界だけでなく脚の間隔まで、歪む。まるで底なし沼に踏み込んだ錯覚を、美柑は覚えた。
言葉は通じているハズなのに、話が通じない。どんどんと空回りしている。
焦燥が、不安が、容赦なく少女の心を苛み、遂に言葉に詰まってしまう。
それでも彼女は複の裾をぎゅっと掴んで、俯きがちになりながら。
絞り出すように尋ねた。
「じゃあ……悟飯君は、沙都子さん達を信じるの?」
尋ねた声は、少し掠れていた。
問いかけに対し、問われた少年は相変わらず感情が抜け落ちた様な無表情で。
けれど静かに首を横に振った。それを見て美柑は僅かに安堵を覚える。
何だ、彼も沙都子を疑っているのか。なら、まだ芽は─────、
「沙都子さんが信用できないと言っても、貴方が信用できるかは別の話何ですよ。美柑さん」
悟飯のその言葉を聞いて。
一拍の間を置き「……は?」と、美柑の口から声が漏れた。
意味が分からない。何故。どうして。
困惑する美柑を見る悟飯の眼差しは、凍えそうになる程冷たかった。
「貴方も沙都子さんにはお世話になっていましたよね。
それなのに、何の証拠もなく随分あっさり掌を返すじゃないですか」
「……それはっ!……っ!………でもっ!!」
「曲がりなりにも恩人を、直ぐに売るような人は信用できないと言ってるんですよ」
「売るなんて…そんな!」
悟飯が、怖かった。
羽蟲を見下ろす様な視線。底の見えない孔のような眼が。
まるで此方が必死に隠そうとしている部分を覗き込まれるみたいで、怖い。
隠そうとしている部分なんてないはずなのに。
でも、今は怖がっている場合じゃない。怖がっていたら、ヤミさんが死んでしまう。
だから、何か言わないと。悟飯さんに、思い留まって貰わないと。
でも、何ていう?全部紗寿叶さんが考えたって白状する?
いやだめだ。それだと責任を押し付けた事にしかならないし、説得できない。
どうすればいい?どうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば────
思考の深海に沈む美柑。沈黙する彼女を眺めて、悟飯はずっと思っていた事を切り出す。
「………美柑さんは最初からそうでしたね」
「……え?な、なに?」
「自分では何もやらない癖に。僕を汚いものを見る目で見てくる。
そんなに僕が怖いなら、こっそり離れてしまえばいいのに、それもしない。
自分では何も負おうとせず、僕を非難して、そんな自分に全然気づいてない」
「わ、わたしはそんな事してないッ!してないよ!」
「だったら、何で今も僕をそんな目で見るッ!!!言ってみろッ!!!!!!」
獣を見る目で僕を見るな。
少年の怒りの叫びに、少女が築き上げた勇気の砦は粉砕された。
突如ガソリンを撒いた後に灯された火の様に、悟飯は豹変し。
血走った瞳で睨みつけられ、美柑の全身が凍り付いた。
頭のてっぺんからつま先まで、氷水につけられた様に冷たいのに。
心臓だけはバクバクとうるさい程高鳴って、冷や汗が止まらない。
水分はちゃんと摂っていたはずなのに喉はカラカラで、呼吸すらままならない。
はっ、はっ、はっ、と短く息を吐いて、過呼吸の症状が出始めていた。
「────なーんて、冗談ですよ」
最早返事すら上げられず。悟飯の言葉にただただ困惑した表情を浮かべる美柑。
そんな彼女に、悟飯は笑いかけた。どこまでも、空虚な笑みを。
そうして、一言囁くように己の決定を口にする。
「僕だって今はもう沙都子さんをそこまで信じてる訳じゃありません。安心してください」
「そう、なんだ。それじゃ」
「はい!安心してください。美柑さんが望む通り、沙都子さんもちゃんと殺しますから!!」
「……っ!?え、は、なに、言ってるの?」
「あれー?沙都子さんを殺してほしいんじゃないなら。今の僕になんで教えたんですか?」
もう一度、は?と乾いた声が漏れる。
美柑は駄々を捏ねる幼児の様にいやいやと首を横にふるった。
違う、そうじゃない。私はそんなつもりなかった。
ただ私は、無益な戦いを悟飯君やイリヤさんがしているなら止めないとと思って。
沙都子さんが死ねばいいと思ってた訳じゃない。そんな事、考えてない!
悟飯君は変だ。突然怒ったかと思えば、変に冷静な所もあって。
何を考えているのかわからない。怖い。助けて、リト。
───混乱の極致。目じりに涙を浮かべて、少女は恐慌寸前の状態だった。
それでもギリギリの淵で踏みとどまれているのは、倒れ伏す親友の存在故だろう。
だが、そんな彼女に追い打ちをかけるように、少年は微笑みながら教えてあげた。
今のはまだ、底ではないぞ、と。
「まっ!待っててくださいよ。取り合えずヤミを殺して、イリヤを殺して、
ドロテア達を殺したら……その後は沙都子さんと────貴方たちだ」
「………っ、ぁ…………」
その言葉を聞いた瞬間、美柑の目の前が、真っ暗になった。
もう耐えられない。今まで美柑を必死に支えていた両足も、職務を放棄して。
がくりと膝をつき悟る。悟飯は沙都子を信じて反論していた訳では無い。
疑わしきは罰せよ。どうせ全員殺すと決めていたから。
だからもう誰がマーダーで、誰が対主催かなんて、どうでも良かったのだ。
そして、そんな状態の彼が。既に襲撃されマーダーと確定しているヤミを見逃す道理はなく。
信頼を勝ち取れなかった自分達のどんな説得も懇願も、病魔に侵された彼には届かない。
美柑の年齢を考えれば聡明な思考は、その事を理解してしまった。
そうなってしまえば、もう後は、その場で打ちひしがれる事しかできない。
最後に俯き、膝をついたままぼそりと呟く。
その言葉が聞き入れられるなんて、美柑自身信じていなかったけれど。
「約束……約束、したよね。ヤミさんと、クロエさん、殺さないって……」
「なんで、僕がマーダーかもしれない人達との約束を守り続けないといけないんです?」
「………っ!」
あわよくば。一縷の望みを賭けた言葉は、バッサリと切って捨てられた。
その言葉を最後に美柑は沈黙し、悟飯はそれを見て鼻を鳴らして。
足元の自分を嬲った女へと視線を移した。
美柑の話では生体兵器とか何とか言われていたが、本当らしい。
空いたはずの風穴が、塞がりかけていた。このままだと、恐らく復活する。
恐ろしいと思った。リベンジは果たせたが、もしこの女が復活したら。
次は勝てるかどうか分からない。それに逃げて父に危害を及ぼすかもしれない。
だから、見逃すつもりは毛頭ない。この女は、此処で殺す。
熱病に浮かされた様に、ゆっくり右手を振り上げ、気を纏わせる。
外す事が無い様に慎重に狙いを定める。狙うのは首だ。
首輪と言う戒めがある以上、首を千切れば殺しきれるだろう。
脳内で導き出した結論に誘われ、彼は断頭の手刀を振り下ろさんとする。
「待って、悟飯君!!」
死刑執行を果たそうとした矢先に、また呼び止められ。
溜息を吐きながら、悟飯はうんざりしたと言った表情で「何ですか」と尋ねた。
彼の前方15メートル程前方に、さっきまで消沈していたはずの結城美柑が立っている。
彼女は滂沱の涙を流し、ガタガタと身体を振るわせて。言葉も途切れ途切れになり。
心底恐怖した様相で、それでもその懇願を言い切った。
「お願い…悟飯君が、ヤミさんを許せないのなら………
私を、こ、殺して良いから……だから、ヤミさんは、こ、殺さないで………お願い…………」
ヤミさんを許せないと言うなら、私を代わりに罰してほしい。
私も、悟飯君を支えられなかった同罪の様な物だから。
だからどうか、大切な友達の命だけは許して欲しい。
私が、ヤミさんの犯してしまった罪を引き受ける。
それが、破れかぶれになった美柑ができる、最後の懇願だった。
「……何故ですか。なんで、こんな女の為に。
訳の分からない理由で雪華綺晶さんを殺した、こいつの為に………!!」
「わかって、る……ヤミさんがした事は、許されることじゃない。けど、でも…
それでも、今のヤミさんは普段のヤミさんじゃないの。だから、お願い……」
ヤミは今、ダークネスという暴走状態だ。
だから、えっちぃ事をした末に相手を殺そうとするのは、普段の彼女の意志ではない。
今の悟飯と同じ、ダークネスと言う病気に侵されている様なもの。
だから、彼女に責任能力は無い。上手く言葉にはできないけれど。
それでも視線で、態度で、祈る様に美柑はもう一度助命を訴えた。
「………………………………………ふざけるな」
話が通じなかった訳では無い。“不幸にも”悟飯は美柑の訴えの内容をちゃんと理解していた。
だからこそ、彼の感情をより逆なでする結果を導く。
自分は一度も顧みられなかったのに。ずっと獣を見る目で見られてきたというのに。
それなのに、身勝手極まりない理由で雪華綺晶を殺したこの女ばかり庇われるのか。
八つ当たりに近い妬みだったが、最早悟飯はその激情を抑えられる精神状態ではなかった。
「分かったよ…そんなに死にたいなら先に殺してやる」
すっと美柑の方に掌を向けて。
そして、気を集める。少女の胸を一撃で撃ち抜けるように。
悟飯が攻撃態勢に入った事で、美柑は胸の奥から乾いた笑いが漏れた。
こういう時自分を何時も助けてくれた兄(リト)が現れる気配は無く。
誰か、都合のいいヒーローが通りすがる事も無い。
イリヤやヤミは未だ目覚めず。彼女達の助けも望めない。
「やめろっ!お前その子と仲間だったんだろ!?殺すなら北条沙都子だけでいいんだ!」
少し離れた所でモクバが声を張り上げるが、全く取り合われない。無視されていた。
人の声とすら認識されていない、悟飯にとってその声は単なる雑音で。
飛び掛かって止めることすらできない。今のモクバと悟飯の距離は30メートル程だが。
それでもモクバの足では飛び掛かってもその頃には美柑は撃ち抜かれているだろう。
更に悟飯の至近距離に近づくと今はモクバもミイラ取りがミイラになりかねない。
もう彼を守ってくれるエルフの剣士はいないのだから、今は声での制止しか叶わない。
何とか意志を翻してくれることを期待しつつ、それが無為だと悟りながらも言葉を重ねる。
「────あぁ、本当に、うんざりだ」
どうして、自分だけ誰も省みてはくれないんだ。
他人の献身や自己犠牲を目にするたびに、その想いが浮き彫りになって。
ずぅっと自分一人が悪者にされている気分になる。こんなの不公平だ。
ここにいるのは皆後ろめたいことがある筈なのに。何故自分だけ獣の様に扱われるのか。
もう沢山だ。さっさと全員殺そう。殺して殺して殺して……父の役に立つ。
首の痒みは収まらない。きっと残された時間は半日も無い。
だから早く目の前の女の子を殺して、この場にいる他の者を皆殺しにしないといけない。
────そう、しなければならなのに。
「………なのに、なんで、だ………なんで…………っ!!」
頭が痛い。首がかゆい。
どうして、全てを受け入れて。
涙を流し泣き笑いの表情で自分の裁きを待つ少女に、野比のび太の姿が重なるのか。
自分に独りになってほしくないとそういったあの少年の姿が浮かぶのか。
全て手遅れであるのに、今でも結城美柑という少女の事は信用できないのに、何故…!
孫悟飯という少年の憤りに、叫びに、嘆きに応える者は誰もいない。
ただ彼の前に立つ少女は、殉教者の表情で、裁きの時を待ち。
泣き笑いの表情で、もう一度哀願の言葉を述べた。
「ヤミさんのこと……お願いね」
「……………………」
美柑の哀願に、悟飯が答えることは無い。
致死の一撃を放とうとするその手が下がる事も無い。
ただ彼の瞳と指先が……僅かにブレた事に美柑は気づいた。
無論の事、今更彼が思い留まることは無いだろう。
数秒後か、それとも数分後かは定かではない。しかしいずれ確実に死刑は執行される。
でも、それでもよかった。自分がこうして時間を稼げば。
日番谷が助けに来てくれるかもしれない。悟飯の父が彼を止めに来てくれるかもしれない。
それが極小の可能性である事は理解していたけれど、それでもそんな奇跡を願う。
死が間近に迫っているからこそ、美柑は奇跡を夢見る事だけは辞めなかった。
────タァンタァンタァンタァンタァンッ!!
唐突に、何の前触れもなく。
五発の銃声が響き、体を蜂の巣にされる、その時まで。
え、と、美柑の口から声が漏れて。
呆けた様な顔をして、大地に倒れ伏す。今度は膝を付く程度では済まなかった。
どくどくと流れていく熱い液体の感覚が、自分はもう助からない事を教えていた。
(……でも、なん、で)
痛みに立ち上がれず、横たわったまま。
残った力で顔をあげて、悟飯が立っていた方向を見る。
すると、彼が此方に駆け寄って来るのが見えた。
彼の表情には、想定外の事態が起こったという驚愕の感情を滲ませていた。
という事は、やはり自分に攻撃したのは悟飯ではない。
では沙都子かと思って其方を見れば、彼女もまだ気絶していた。
一体誰が、そう考えるものの彼女には一向に心当たりが無く。
結局何も分からぬままに、美柑は自らの血の海へと沈んだ。
「────ふざけるなッ!誰だ!コソコソ隠れてないで出てこい!!!」
しかし、悟飯は違う。
彼は驚愕と憤怒がない交ぜになった表情で美柑が倒れた方へと走る。
もっとも、目的は彼女を助ける為ではない。敵を殺す為だった。
見間違いではない。微かにだが、確かに見えた。結城美柑が倒れ伏す瞬間。
一瞬だけ奇妙に宙に浮かび、そして消えた銃の姿を。美柑は、狙撃されたのだ。
そして、それが意味する所は、つまり。今も狙撃手が狙っているかもしれないと言う事実。
進行した症候群の罹患者が、そんな脅威を見逃せる筈も無かった。
「出てこないなら…ッ!出てこさせてやる!!」
症候群の影響で、数十秒と掛からず痺れを切らし。
悟飯は、下手人を炙り出す方向へ舵を切る。
両手にエネルギー弾を作成し、銃が見えた方角へと連射を行う。
「だああぁあああぁあああああぁああッ!!!!」
悟飯は普段あまり行わない、ベジータが行うような連射。
発射された十発を超えるエネルギー弾は、コンクリートを割り、アスファルトを粉砕し。
民家の壁や屋根を吹き飛ばし、周囲に破壊の爪痕を刻んでいく。
そんな最中───エネルギー弾の一発が、奇妙な軌道を辿った。
ビルの外壁に着弾しようとしたそのエネルギー弾は直前で軌道を直角に変えたのだ。
明らかに不自然な軌道に、悟飯はその周囲に意識を集中させる。
すると、沙都子や美柑ほどの大きさの気を感じ取ることができた。
姿が見えない以上断言はできないが、この気が恐らくは………!
「吹き飛べ…!」
掌に先ほどよりも出力を大きく、気功波を放つ態勢に入る。
気弾が軌道を変えた周辺を気で薙ぎ払ってやるためだ。これなら、鼠を炙り出せるだろう。
その見立てを基に標的への殺意と憎悪を集め、悟飯が気を発射しようとした、その時。
「…………っ!?」
彼の気の感知能力と反射神経が、凄まじい速度で飛来してくる投擲物の存在を感知した。
それなりに大きな気だ。少なくとも、不可視の狙撃手など問題ならない。
姿の見えない暗殺者の殺害を優先し、攻撃に対し無防備であれば万が一もあり得る。
やむを得ず、彼は追撃よりも防御行動を優先せざる得なかった。
「はあッ!!!」
全身から気を放出し、飛んできた飛来物を跳ね返す。
奇妙な形の投擲物だった。一見矢の様であるのに、ねじ曲がって工事現場のドリルのよう。
迎撃した攻撃を眺めて、悟飯がそんな印象を抱くと。
同時にこれが終わりではないと直感的に察し、全身から気を放出する。
「うわあ゛ぁああぁあああああぁあああああッ!!!」
悲鳴にも似た叫び声と共に高密度の気を放出し、防御壁とする。
気のバリアーが完成して数秒後、打ち払った螺旋の弓矢が爆発した。
凄まじい爆風が、悟飯の周囲十メートルを突き抜け、クレーターを形作る。
「───っ!そこ、かぁっ!!」
破壊の渦を自身の気で相殺し、新しいエネルギー弾を生み出す。
歯を食いしばり、風圧に耐えながら体を半回転させて。
攻撃が飛んできた方角、数百メートルの先の雑居ビルへと向けて発射した。
ズゥン、という腹に響く旋律が響き、爆撃を受けた様な煙と火の手が上がるが、しかし。
悟飯の表情は晴れなかった。狙撃手が撃った螺旋の弓矢と、その反撃に意識を割いた隙に。
美柑を撃ったと思わしき下手人の気が消えていたからだ。
元々小さかった気の持ち主に離れられてしまえば、追跡はできない。
更に、反撃を放ったビルにいた狙撃手も、ちゃんと仕留められたかどうか分からない。
「…………くそ!」
歯ぎしりをして、握った拳で自らの太ももを叩く。
気を普段の様に感じ取れないだけで、こんなにも上手く行かないものか。
苛立ちと焦りが募る。首に救う痒みは、彼に刻一刻と迫る制限時間を伝えていた。
切り替えろ。言葉にせず心中で呟く。殺さなければならない者はまだまだまだいる。
さっきの不意打ちだって対応できた。油断せず周囲に意識の何割かを割いていれば。
また奇襲を受けてもきっと対処できるだろう。それにもう戦える様な敵はいない。
片手間でも殺せるような相手ばかりだ。だから、今は切り替える事を優先しろ。
そう、自分に言い聞かせて、再び殺戮を再会しようとした時だった。
足元で、ごほりと咳をする様な音が響く。
「ご、はん、くん……私……どう、なった、の……?」
息も絶え絶えで、瞳の焦点もあっていない美柑が、仰向けで見上げて来ていた。
彼女流した血はどう見ても致命傷だ、もう放って置いても死ぬのは間違いない。
だから彼は見た印象のまま伝えた「貴方は撃たれて、もうすぐ死ぬ」と。
「そっ……か」
その言葉を聞いて、美柑は何かを諦めた様にふっと笑った。
同時に思う。目の前の少年とは、最後まで分かり合う事ができなかったなと。
彼はこれからどうするのだろうか。やはりヤミを殺すのだろうか。
思い留まって欲しかった。大切な友人に生き残って貰いたかった。
でももう悟飯を止めるために立ち上がる事も、説得の為に言葉を尽くす事もできない。
後者の方は何とか試みてみたが、ごほごほと血の奔流で溺れかけるだけに終わった。
だからもう、どうする事も出来ないのだと、彼女は悟り。
「ねぇ……ごはん、くん……げほっ……あの、さ………」
せめて、自分はどうするべきだったのか考える事にした。
悟飯を怖がらず、最初から受け入れるべきだったのか。
出会って早々、意図せずユーリンを挽肉に変えた悟飯を?
美柑の眼からは露骨に避けられ、早い段階から様子のおかしかった悟飯を?
ヤミを殺すつもりだったであろう悟飯を?
────そんなの、無理だ。そう結論付けて。
では、彼の認識を改める切欠を作る為に交流するべきだったのかと視点を変えてみる。
彼といた時間は所詮半日で、その半日もずっと一緒にいたわけではない。
事あるごとにリーゼロッテやヤミに襲われて、自分も消耗していた。
悟飯の様子がいよいよおかしくなってきてからは、沙都子が自分達を遠ざけていた。
そもそも彼女が黒幕であったなら、自分にはどうしようもない。
あぁ、じゃあ何だ───これじゃあ仕方ないじゃないか、と。
行き止まりに行きついて、少女は縋る様に尋ねる。
「わたし、たち………どうすればよかったのかな………?」
悟飯は応えない。無言のままに、美柑を見下ろしていた。
だから、美柑も最後の力を振り絞って顔を少し上げて彼を見る。
視界の先の悟飯の表情と、瞳は。
その時だけは、今迄の怒りに彩られた物ではなく。
ただ、美柑を憐れむ様な視線を彼は向けており。
憐憫の表情と瞳を保ったまま、餞別のように彼は最後の言葉を交わす。
───分かりませんよ、そんなの。僕にも分かりません。
───僕は最初から、貴方の事がさっぱり分からなかったから。
───貴方が、僕の事を分かってくれなかったように。
悟飯の返答を聞いて。もう一度、ふっと自嘲するように笑い。
僅かに起こしていた顔を横たえた。これでもう起き上がる事は無いと理解しながら。
それでももう、酷く疲れていた。疲れ切り、押し寄せる眠気に抗う事はできそうにない。
仕方ないという思いはあれど、結局どうすれば良かったのか、終ぞ分かぬままだった。
それがどうしても悔しくて、哀しくて。美柑は内側から湧き上がる感情を抑えきれず。
誰にも届かぬと理解しながら、それでも彼女は訴えた。
自分が死のうとしているのに、兄が姿を現さない無情な現実に。
(なんで……来てくれないの………私も、きっとヤミさんも…待ってたのに……
私は………どうすれば良かったの?ねぇ、教えてよ………………………)
リト、と最後に最愛の兄の名を呼んで。
最期に一筋の涙を幼く美しいかんばせに伝わせて。
少女の意識は、闇に溶けて消えた。
結局、最後のその時まで。
結城リトが現れることは、無かった。
前編の投下を終了します。
次が中編になるか後編になるかは分かりませんが、期限内には投下します。
中編を投下します
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
結城美柑が死に行く中。
戦略用エンジェロイド・カオスは必死に沙都子の意識が戻る様、呼びかけていた。
こと戦闘能力ではエンジェロイドの中でも最強を誇る彼女だが。
医療用エンジェロイドではないため、沙都子の状態を回復する事は出来ない。
「おねぇちゃん、起きて。早く…一緒に逃げよう……!」
そう言って、未だ目覚めぬ沙都子にカオスはランドセル掲げた。
それはヤミが有していた物であり、悟飯との戦闘で吹き飛ばされたのを回収した物だ。
悟飯を誘導する事は出来なかったけれど、ちゃんと収穫はあった。
だから、後は沙都子が目覚めるだけで逃げられる。
そう訴えるが、沙都子は一向に目覚めない。
「沙都子おねぇちゃん、ごめん……!」
悟飯の動きが読めなかったのと、意識のない沙都子の負担。
そして自身の両翼の損傷により今迄実行に踏み切れなかったが。
自体は逼迫している。こうなればもう、沙都子の意識の回復を待たずに離脱する他ない。
カオスは覚悟を決め、応急的な自己修復が終わったばかりの羽を広げる。
悟飯は未だ結城美柑という少女に視線を落としたままだ。行くならば今しかない。
沙都子を優しく慎重に抱きかかえると、カオスは機械的な己の両翼を展開し。
エンジェロイドの領域である、空へと羽ばたこうとした。
「───あっ、待て!!」
だが、それよりも一瞬早く。
カオス達の行動を目にしており、声をあげる者がいた。
海馬モクバが、カオス達二人の逃亡を阻む様に呼び止めたのだ。
彼にどんな真意があって呼び止めたのかは分からない。
沙都子の逃亡を阻むためだったからかもしれないし。
或いは悟飯の状態から危険だと警告のつもりで言葉を放ったのかもしれない。
殆ど反射的な制止のため、何方の感情で言ったのかは彼自身定かでは無いだろう。
ただ、確かな事が一つだけ。
「────っ!!逃げるなぁッ!!!」
彼の呼びかけによって浪費した一瞬は、カオスにとって致命の物だったということ。
弾かれたように悟飯はカオス達の方へと向き直り、気弾を発射する。
槍のように一直線に迫って来るエネルギーを前に、カオスは瞬時に演算を行う。
迎撃及び武装の展開、不可。回避、損傷した翼(ウイング)の条件下において、不可。
耐久、可能。しかし北条沙都子の生存は不可。更に追撃時の生存確率───、
「………っ!」
優秀な演算能力を有しているカオスだからこそ、言葉を失う。
導かれた演算結果は、彼女にとって絶望的なものだったから。
このままでは悟飯の放った光弾に貫かれ、沙都子は死ぬ。
それだけではない、自分もここで損傷を受ければ飛行機能の維持は困難。
悟飯が即座に追撃を放ってくれば、まず破壊されるだろう。
となれば、今自分に残されたカードは、一枚しか残ってはいない。
「極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)!」
エイヴィヒカイトを駆動させ、再びドーラ砲を出現させる。
狙いをつけている時間は既にない。その巨大に過ぎる威容を盾にする事のみ注力する。
元よりこの兵装は消耗が大きい、現状で孫悟飯の攻撃に勝利するのは難しいだろう。
加えて今以上に飢餓状態に陥れば行動不能になる恐れすらある。
よって、この場面ではこの使い方をするしかない。
「いーじすっ!!」
前のイージスを展開し防御態勢に入るが、着弾までの時間ではそれが限界だった。
────ゴォオオオオオオッ!!交差の瞬間、落雷めいた音が響いて。
次瞬、轟音と衝撃、そして凄まじい熱がカオスに襲い掛かる。
圧倒的な質量を誇るドーラ砲だが、魂の保有量は僅か且つ元の担い手程渇望のない使用者。
その上孫悟飯という指折りの強者の一撃を殆ど無防備な状態で受ければ。
如何な赤騎士の聖遺物とは言え、耐えきるのは至難の業だった。
みしみしと身体の奥が軋む音が響き、数秒後に砕ける音へと変わった。
それは、エイヴィヒカイトたるドーラ砲の砲身の一部が破損し、破壊された音だった。
それに伴い、一瞬飢餓感が大幅に改善される物の───直ぐにツケの取り立てが訪れる。
「ぎぃぁ…っ!あぁあぁああああああああああああああああ!!!!」
身体を引き裂かれる様な痛みが、動力部も含めて全身に襲い掛かる。
発狂しそうなほど痛烈なダメージ。しかしカオスはある意味では幸運であった。
彼女が取り込んだエイヴィヒカイトの位階は未だ活動位階。
活動位階としては破格の威力であったが、それはあくまで聖遺物の地力の高さに起因する。
取り込んでからの時間が浅かったのも幸いした。
もし、形成位階に至るまでに聖遺物と合一化を果たしていれば。
彼女はドーラ砲が破壊された現時点を以て、機能停止していただろう。
───かへんウィング73%そんしょう、核(コア)にも36%のダメージ……
───じこしゅうふくプログラムのそくじしよう、ふか………
もっとも、それは即死しなかったというだけで、この後の生存を担保するものではない。
それを示す様に、ダメージチェックで算出した結果はカオスにとって絶望的な数値だった。
音速を遥かに超えた飛行能力も維持できず、墜落する。
今はまだ爆炎の煙のお陰で、追撃は飛んでこないが、時間の問題だろう。
もし追撃が来れば演算など不要。断言できる、次に悟飯に追撃されれば、詰みだと。
それどころか、今のカオスには墜落の落下ダメージから沙都子を守れるかすら怪しい。
だから、彼女は。落下までの十秒に満たない時間で、地蟲の少女に希った。
「おねがい……沙都子おねぇちゃん………」
パキパキと、自分で途絶えさせたはずの鎖を、沙都子の手首に接続。
僅か一秒半で、刷り込み(インプリンティング)を行う。
そして、己の新しい鳥籠(マスター)となった少女に、ただ縋り。
エンジェロイドとしての本懐と、存在意義を求めた。
「どうか………どうか、ご命令を─────」
分かっている。落下までの後五秒程の時間で。
沙都子が目を醒ます事など無い事位、分かっている。
でも、それでも。やっと得た”あい”を喪わないためには。
こうする事しかカオスには思い浮かばない。
もし、どれだけ可能性が低くとも、彼女が命じてくれれば。
どんな命令でも遂行できる。そんな気がしていたから。
エンジェロイドは夢を見ないと言うのに、そんな夢想に思いを馳せて。
天使の少女は瞼を閉じ、冷たい地平へと失墜する────
「………………………たすけて」
───地面まで、あと二秒。
カオスが“マスター“の発したその声を聴いたのは。
地面が間近に迫った、その時の事だった。
“命令”が思考回路と動力炉に届いた瞬間。
先ほどまで感じていた飢餓感が消え失せ、爆発的な力が満ちる。
────自己進化プログラムPandora起動。
────タイプε・Chaos
────バージョンⅣ起動。
自己進化プログラムPandora。
エンジェロイドに搭載された戦闘能力、電算能力、感情制御の三つの基本機能のうち。
感情制御が一定の閾値を大幅に超えた時のみ発動する、四つ目の“進化機能”。
無論の事、それは乃亜のハンデによって今迄制限されていた。
更に、元々エンジェロイドが単体でPandoraを起動する事は困難を極める。
何故なら、彼女達の存在意義とは主人(マスター)なのだから。
例え自己の生存の為であっても、Pandoraを起動できることはまずない。
しかし、何事にも例外は存在する。この地に招かれていたエンジェロイドのもう一体。
自身の機能停止と引き換えにPandoraを起動するに至ったニンフがその証明だ。
本来制限下における電算能力では、主催にハッキングを仕掛けるのは不可能だったが。
Pandoraを起動する事によって、素粒子ジャミングシステムを展開。
ニンフは難行を見事成し遂げて見せた。これが意味する所はつまり、
海馬乃亜の制限能力も絶対のルールではないということ。
それを裏付けるように、カオスもまたPanndoraの一時的な起動へと至る─────、
「いーじす……える………!」
カオスの姿が変貌を遂げ。
破損していた筈の漆黒の翼が、一瞬の内に修復され再び羽ばたく。
墜落していた体を持ち直し、瞬きより遥かに短い時間で30メートル近い上空へと飛翔。
同時に完全にされた絶対防御兵装イージスを再展開することによって。
今だ周囲を包む爆風や粉塵、G(重力負荷)から沙都子の身体を保護する。
「───な…何なんだお前はァッ!!!」
爆風を切り裂いて撃ち落とした筈のカオスが現れると、困惑が悟飯を襲った。
気は未だに感じないが、しかし。姿の変わったカオスは先程までとは何かが違う。
此処で殺しておかなければならない。そうでなければ、父にも累が及ぶかもしれない。
そう感じさせるだけの“何か“を、今の天使の少女は宿していた。
迅速に両手を突き出し、狙いを定める。咄嗟に飛行を妨害するために放った一撃とは違う。
今度は脅威を消し去るための一撃だ。一切の仮借なく敵を沈黙させるための一撃だ。
「消えろ……ッ!!」
「アンチ知覚システム───」
悟飯が発射体勢に入ると同時に、カオスも動く。
レーダーによって感知した少年が放とうとしている熱量は、異常を極めていた。
Pandoraを起動した現時点の自分すら及ばず、本当に生物かどうかすら疑わしい。
ともすれば星一つ、本当に砕ける可能性すらあるエネルギー量だ。
この地においてはPandoraを起動させたエンジェロイドすら、絶対者には成りえない。
それを認めた上で、カオスは主を守る為に死力を尽くす。
「魔閃光────ッ!!
「────Medusa………!!」
悟飯が放った光線は、寸分の狂いなくカオスの元へと向かう。
その正確な起動を目にして。すごい、とカオスはそう思った。
疑心暗鬼になり、幻覚や幻聴が見える病気になっていると、沙都子は言っていたのに。
それでも高速で飛行している自分に正確に狙いをつけて。
悟空も、悟飯も。このお兄ちゃん達は、本当にすごいのだと強く実感した。
しかし、例えそうだとしても。自分だって、譲れない物がある。
もう冷たいのも暗いのも嫌だから……自分は、マスターを守ってみせるのだ。
「………なにっ!?」
悟飯が、たった今目の前で起きた不条理に驚天の声をあげる。
彼の放った魔閃光は、確かに天使の少女を貫いていた。にも拘らず。
ぶぅんという電子音と共に、北条沙都子と天使の少女の姿が掻き消える。
慌てて周囲を見渡すと、全くの逆方向にカオス達の姿はあった。
既にその姿は彼方の空へと消えかかっており、幻覚の二文字が彼の脳裏を過る。
またしても仕留め損ねた口惜しさで胸を一杯にして、悟飯は吼える。
「クソッ!くそっ!待て、逃げるなぁあああああああああっ!!!」
飛び去る最中、カオスの優秀な知覚機能は地上で猛る少年の叫びを正確に聞き届けていた。
当然、従う理由はない。イージスを展開し沙都子を護ったまま空を駆ける。
初めて自分の意志で得た主(マスター)を抱えて。死地よりもう一人の姉の元を目指す。
飛ぶ最中セルフチェックを行うと、Pandoraは後数分で再停止状態へ移行するらしい。
空のマスターが元々仕込んでいた機能か、乃亜の制限に依る物かは分からなかったが。
そうなると、カオス達がこの戦いで失った物は多かった。
悟飯の制御は失敗、武装の殆どを喪い、沙都子達がマーダーである事もバレてしまった。
これから先、より苦しい戦いになるのは、幼いカオスにも薄々理解できていた。
「でも………わたしたち、まだ翔べるよね………おねぇちゃん」
それでも、カオスは沙都子のことを疑わない。
彼女は幼さからではなく己の主への信頼から、その言葉を口にした。
まだ飛べる。飛び続ける事ができる。だって、私達は。
────まだ、太陽に届いてすらいない。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
狂想は過ぎ。
どうして、上手く行かないのかな。
飛び去って行ったカオス達を見て、悟飯はぽつりと呟いた。
日番谷に、姿の見えない卑怯者たち、そして沙都子とカオス。
これで都合四人に逃げられてしまった。
父なら、師なら、きっとこんな不様は晒さなかっただろう。
もう今頃には、全員殺して次の参加者を探していてもおかしくない。
「お父さんよりも、ピッコロさんよりも、強くなった筈なのにな………」
自嘲する様に呟いて、ぶんぶんと考えを切り替えるために被りを振るう。
まだこの場にはイリヤ、モクバ、ドロテア、ヤミと殺さなければならない人間が残っている。
感傷に浸るのは後だ。全ては、殺してから考える。
全員殺してドラゴンボールでチャラにするまで、自身の不甲斐なさを嘆く時間なんて無い。
その事を強く再認識した、その時の事だった。
小さく鋭い風切り音を悟飯の聴覚は捉え、無言で気を張り巡らせた左腕を掲げる。
すると、金属音めいた音を立てて、何か硬い物がぶつかり、悟飯の腕に打ち払われる。
「なんで……貴方は…………」
触手のように伸ばした髪を一蹴されながら。変身の応用によって再起した金色の闇が悟飯を睨みつけていた。
美しい美貌を、悲嘆と絶望と憎悪、そして理解できないといった感情に歪ませて。
少し前に出会った時、この少年は美柑を守ろうとしていた筈だ。
それなのに、何故。何故美柑は少年の足元で横たわっている?
それもあんなに血を流して。だってあれでは。もう致命傷────
「なんで……なん、でっ…!どうして、美柑をッッッ!!!!!」
きっと息がある筈だ。美柑が命を落とす事など、ある筈がない。
今迄他の宇宙人に襲われたり、操られたことだってあったけれど。
それでも結城リトや、プリンセスたちが彼女を助けてきた。
だから今回もきっと大丈夫。彼女は助かる。助かるに決まっている。
そのためには、まずあの少年を追い払わなければ。彼は自分を敵として見ていた。
きっとそれで美柑は巻き添えを受けたのだ。ならば自分が助けないと。
早く彼女を助けて、病院──ドクター御門かプリンセス達の所連れて行かないと。
「邪魔するなァッ!!」
焦燥によって余裕は完全になくなり、変身で変化させた刃を閃かせる。
邪魔をするなら、容赦はしない。もう今の時点で殺してしまっても構わなかった。
だが、予想に反し孫悟飯はひょいと私の攻撃を避けて後退する。
そして、沈黙したまま、距離を詰めてこようとはしなかった。
敵意を込めた目で睨んでくるが、攻撃してくる様子は無い。
不気味な物を感じたが、今は美柑の確保と保護が最優先だ。
私は屈み、地面に横たわる彼女の身体を抱きあげようとした。
その瞬間、気づく。
「──────み、かん?」
手から伝わって来る感触は、いのちを感じさせなかった。
まだ温かい。けれどこれはもう、ただの肉だ。
殺し屋、生体兵器としての金色の闇は、そう告げていた。
息をしていない、脈も止まっている。瞳孔が開き胸に耳を当てれば、鼓動も止まっていた。
認められなかった。認めたく、無かった。
だって、だってこれじゃあ────
「死んでますよ、もう」
うるさい。うるさいうるさいうるさいッ!
これは…そう、確かに息は止まっているけど。仮死状態なだけだ。
プリンセスの作った道具や異星人の能力で、そうなっているだけだ。
例え本当に息が止まっているとしても、まだだ。まだ助かる。
息が止まってから脳死するまで数分は猶予があると言うから、それまでに。
それまでにドクター御門やティアーユのいる所に連れて行けば、きっと。
そうだ、支給品!奪ったランドセルには役に立ちそうな支給品があった。
あれを使えば、美柑を助けられるかもしれない。救えるかもしれない。
説明書にはリスクは書いてあったが、今気にしている暇はない。
「………!?ラ、ランドセルはっ!?私のランドセルは何処ッ!!」
彼女のランドセルは無い。既にカオスが回収して持って行ってしまったからだ。
だが、気絶していた彼女は知らず狼狽の極みといった様相で探し回るが。
直後に、腹部への猛烈な衝撃と吐き気が襲い掛かって来る。
自分が蹴られたと認識したのは、数秒かかってからだった。
「どうして………」
ふー、ふー、と荒い息を吐いて、痛みに必死に耐えながら立ち上がる。
目の前で冷たい眼差しで此方を見てくる孫悟飯を睨み。
ヤミは絞り出すように尋ね、その手を刃に変身させ、駆け出す。
「どう…して……ッ!!」
刃と化した拳に尽きる事のない怒りと悲しみの奔流を乗せて、振り下ろす。
どうしても分からなかった。何故、美柑が殺されなければならなかったのか。
悟飯は病気だと日番谷が言っていたが、それを差し引いたとしても。
彼女は殺されなければならない様なことは、何もしていない筈だ……!
それなのに、どうして結城美柑が殺されなければならないのか。
疑念は殺意とない交ぜになり、凶刃へと変わる。が、振り下ろされた凶刃は届かない。
二度三度、五度六度と振り回しても、孫悟飯は回避する。回避し続ける。
「どうして……何故……何故美柑を殺したんですか─────ッ!!!」
咆哮と共に、最高硬度へ硬質化しながら伸ばした髪を悟飯の後方へと配置。
同時に自分は前方から刃の形へと変質させた両手を構えて突っ込む。
両手の斬撃を回避し体勢を崩した瞬間、同じく刃に変質させた頭髪で首を切断するためだ。
個人でありながら挟撃の態勢を作り、目の前の標的の命を終わりに導く。
もう殺し屋としての能力を、性質を抑えるつもりなど毛頭ない。
そんな矜持は、美柑を助けるためなら犬にでも食わせてしまえとすら彼女は考えていた。
混じり気のない純粋な殺意を籠めて、刃を放つ。
振るわれた桃色の刃は、果たして狙い通りの結果を齎した。
ざくり、と肉を裂く感触と音が、ヤミへと伝わる。
「な………ッ!」
だが、表情に浮かべたのは獲物を仕留めた安堵や優越ではなく。
今の彼女にあったのは、驚愕と怯みだけだった。何故なら。
振り下ろした刃は確かに孫悟飯の両掌に突き刺さっていたが。
そこから、動かすことができない。凄まじい圧力だった。
これでは捕まえられているのと変わらない。このままではさっきの二の舞だ。
それを防ぐために、硬質化した頭髪を操作し、悟飯の後頭部を狙うが───
「何故殺しただって………?」
裂帛の想いで振り下ろした髪は、少年の黄金色の気による圧力に弾き飛ばされた。
ゴォオオオオッ!と黄金のオーラは少年の周囲で渦を巻き、変身した髪を寄せ付けない。
ならばと両腕を変化させた刃を更に巨大化させ、孫悟飯を貫こうとする。
惑星すら輪切りにする刃だ、不意をうたれれば、この怪物でも生きてはいられまい。
そう考えて、エネルギーを集中させようとした所で。
ごりごり、グチャリ、と。何かの音が響いた。
「偉そうなことを言いやがって………!」
「あっ!?あぁああぁあああぁ……ッ!!」
悟飯の言葉も耳に入らず、視線を落とすと。
刃に変えた筈のヤミの両手が無理やり掌を閉じた悟飯の手に握りつぶされていた。
皮が裂けて骨が見えるほどに両手がグチャグチャになったのを見て、ヤミに衝撃が走る。
この両手じゃあダメだ。この両手じゃ、美柑を助けられない。
あの人(リト)に手を握って貰えない。だから、早く直さないと。
ほんの僅か、数秒に満たない時間冷静さを欠いたヤミの思考を引き戻す様に。
悟飯が、糾弾の声をあげる。
「じゃあお前は───何の罪も無い誰かを、殺さなかったとでもいうのか?」
「─────ぇっ」
その言葉に、ヤミの意識が無理やり思考の海より現実世界へと帰還させられる。
脳裏に蘇るのは、つい数時間前の記憶。
ダークネスとして、欲望の赴くままに行動していた時のこと。
────あーもう、さっさと死んでよね!
────貴方達、全員消し飛ばしてあげる
────じゃあ、死んじゃってよ! お邪魔虫共!!!
再興にハレンチでえっちぃ、絶頂を超える快楽の中での殺戮を求め行った蛮行。
その中で、美柑をも消し飛ばそうとした。
「ち、違う……私は、結城リトのために……ただえっちぃ殺しを練習したかっただけで……」
「今更、美柑さんが死んで悲しむのなら…怒るなら…どうして……何で!!」
身勝手な、シュライバーと変わらない意味不明な目的の為に。
その時その場にいた全員を。
もしかしたら余波でもっと多くの参加者を、殺そうとしていた癖に。
そして何より────
「何でお前は!雪華綺晶さんを殺したんだぁ─────ッ!!!」
何の罪も無い、全員の命を守ろうとした雪華綺晶の命を奪ったのか。
咆哮と共に少年は膝を振り上げ、ヤミへと突き刺した。
骨が砕ける鈍い音が鳴り、衝撃で悟飯の掌に刺さった刃が抜け、ヤミが吹き飛ばされる。
(雪華綺晶……あ、の………白い人形のこと………?)
……彼女と、悟飯には知る由もなく、それ故にこの戦いには全く関係のない事ではあるが。
もし、彼女が雪華綺晶を殺害していなければ。
雪華綺晶が健在であれば、悟飯は雛見沢症候群の進行を食い止められていた。
精神干渉の経験においては実在しない人間を作り出し、現実世界を侵食する。
理外の能力と経験値を誇った彼女であれば、悟飯に差し迫った危機を早期に察知し。
その後一時的にイリヤから契約を移し、悟飯を雪華綺晶の媒介とすれば。
狂戦士の狂化すら完全に抑え込む薔薇乙女としての能力を、彼女は遺憾なく発揮して。
少年が病魔に侵されるまでの時間に猶予を持たせることができた。
そうなれば、今この局面で悟飯は雛見沢症候群を急激に悪化させず。
結城美柑が死ぬことは無かったかもしれない。
雛見沢症候群は元々感染したとしても、重症化まで至るケースは稀なのだ。
つまり、野比のび太が金色の闇を連れてきたから雪華綺晶は死亡し。
雪華綺晶が死んだから、悟飯の雛見沢症候群の進行を食い止められる者がいなくなった。
その結果、悟飯の症候群の重度化によって引き起こされた混乱で、結城美柑は死んだ。
消し飛ばす事は出来ずとも。金色の闇は、ちゃんと結城美柑の殺害に貢献していたのだ。
───アンタと関わる奴は皆不幸になるんだ!
吹き飛ばされながら、以前美柑が操られ、自分の刺客にされた時に。
その黒幕であった異星人の殺し屋、アゼンダにかけられた言葉が蘇った。
私が雪華綺晶と言う人形を壊したから、孫悟飯はこんなに怒っているのか?
私が雪華綺晶を殺したから、病気を患っているという悟飯が不安定になったのか?
そして、不安定になった悟飯が、美柑を殺したというのなら。
それじゃあ、つまり、私が美柑を─────
「違うッ!!!」
変身した髪の毛を支えとしてヤミは体勢を立て直し、叫んだ。
そんなことは無い。そんな事はあってはいけないんだと。
えっちぃことは素晴らしいこと。快楽の中で死ぬのが知的生命体にとって一番の幸福。
ハレンチな事が間違っている筈がない。ハレンチを彼に捧げる事が、間違っている筈がない。
えっちぃ死を、えっちぃ殺しを求めていた自分が間違っていた訳はない……!
だって、間違っていたら。間違っていたことを認めてしまったら。
殺し屋の、アゼンダの言葉が正しかったと証明されてしまうから。
その後直ぐにアゼンダの言葉を否定してくれた彼(リト)を。
自ら裏切った自分を、直視してしまう事になるから。
「貴方だって……ハレンチの素晴らしさに気づけば怒りも収まる筈です!!」
少し前に迷いはしたが、その是非を教えてくれるはずだった親友は、死んでしまった。
だから彼女が選んだのは、ダークネスとしての自分への逃避。
もうそれ以外に、千々に千切れそうな心を護る術を、彼女は持ち合わせていない。
何故なら、この島に結城リトはいないし、これからも現れる事はないのだから。
恐らく彼女は認めないだろうがしかし。結城美柑の死で、それを察してしまった。
だから自分が殺し合いに乗った原点へと、立ち返る事を選んだ。
悟飯へ向け、敢えて髪を硬質化させず触手のように殺到させた。
払いのけようとする悟飯だが、分散した髪の束はしゅるしゅると彼の四肢に巻き付く。
「うふふ……触手プレイなんて、えっちぃですよね」
不敵に、以前の戦いで悟飯を翻弄した時のようにヤミは微笑むが。
その笑みは、前回の戦いで見せた真実淫蕩な物とは違っていた。
引き攣り、ぎこちなく精彩を欠いて。彼女の動揺が感じ取れた。
とは言え、そんなことは。
「はああああああああああ………ッ!!」
悟飯にとっては、何処までもどうでもいい事だった。
全身の気を高め、四肢に力を籠める。今度は髪を圧力で跳ねのけるのではなく。
一瞬、爆発的に気を高める事で────
「えっ」
ヤミの浮かべていた笑みが消える。触手プレイなど、楽しむ暇はない。
せめて首に巻き付け、瞬時に首の骨を折る事を試みていれば。
この後襲い来る痛みは回避できていたかもしれないが、意味のない話だ。
既に、彼女の耳朶には、ぶちぶちと何かを引きちぎる音が響いているのだから。
そして、左の頭皮に灼ける様な痛みが、駆け巡る。
「う゛ああぁああああッ!!!」
髪を強引に、頭皮ごと引きちぎられたのだ。
悲鳴をあげながら、ヤミは引きちぎられた左側頭部を抑え後退を行う。
訳が分からなかった。こんな、こんなデタラメな出力。
もし前回の戦いで引き出せていたなら、自分にあそこまで無様な敗北など………。
そう考えつつ必死に後方へ下がるが、前回と今回の戦いで決定的に違う点はいくつもある。
まず前回の戦いでは悟飯は強敵との連戦で消耗しきった状態であり。
対するヤミは小競り合いこそすれ殆ど万全に近い状態だった。
だが、今のヤミは雪華綺晶の反撃で少なくないダメージを負い、それが抜けきっていない。
更にあの時の悟飯は自身の黒い衝動に怯え、そんな状態の中で守る為に戦っていたのだ。
再び周囲を巻き添えにしない事に気を取られて集中は乱れ、動きに無駄が多かった。
精神から来る疲労も、今とは比較にならなかった。だが今の彼は違う。
今の彼は、もう。誰も守ろうとはしていない。
ヤミ自ら行った指摘によりペース配分をし、全ての力を、相手を殺す為だけに振るっている。
────致命的だったな、超サイヤ人を知らなかったのは……
そして、何より。
彼女は、超サイヤ人を知らなかった。
宇宙の帝王すら絶望させた、伝説の存在を。
「が……ッ!」
髪を引きちぎられた痛苦か回復する暇もなく。
後退した所を骨まで響く衝撃と共に顔面を打ち据えられる。
彼にとっては軽いジャブだったろうが、ただの一発で、意識が飛びそうになった。
反撃は愚か、防御の姿勢を取る事すらできない。
たたらを踏むヤミに、更なる追撃が襲い掛かる。
それはさながら破壊の嵐とも呼ぶべき拳打の爆撃だった。
もうヤミは先ほどからワームホールを形成していない事に悟飯は気づいていた。
距離を取る選択肢が抜け落ち、反撃の時も闇雲に刃に変えた腕を振り回すだけだ。
エネルギーが無くなったか、それとも一種のパニック状態なのか。
きっと両方だろうと判断し、それなら好きに嬲れると思い至る。
「ガッ!グッ!げぇ、あ…ッ!ぶっ!ぎぃいい、がああああああッ!!!」
悟飯は殴った。殴った。殴って殴って殴って殴り続けた。
消耗を抑える為に無駄な動きは最小限に、けれど相手を確実に粉砕できるように。
刀を握るための肩を、顔を、腹を、脚を、胸を。無防備な部分は全て打ち据えた。
ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!!ゴッ!!!……ぐちゃあっ。
一撃の度に殴り飛ばした部分から、真っ赤な液体とカスの様な肉片が飛び散る。
骨に当たっても、気で掌を覆っているから傷つく心配はない。
「ふふ……あはははは………」
パンチ。パンチ。パンチ。パンチ。パンチパンチパンチパンチパンチパンチ。
ジャブの連打。それだけでヤミの美しい美貌は砕かれ、丹念に丹念にすり潰される。
顔は痣だらけで、瞼は腫れて殆ど開かず、鼻も頬の骨も折れて。
前歯の殆どはへし折れており、彼女の知り合いがみたら思わず顔を背ける損傷だった。
結城美柑が今の彼女の顔を見る事無く旅立ったのが、幸せと思えるほどに。
そして、それを成し遂げた悟飯の精神は奇妙な高揚を覚えていた。
楽しい。勝てなかった相手をぶちのめすのは愉しい。
守られている癖に、自分を省みてくれない足手纏いの視線に怯えなくていい。
お父さんが言っていた、戦うのは愉しいと言うのこういう事か。
確かにワクワクする。初めて闘いが好きになれるかもしれないと思った。
あぁ───今の自分は、自由だ。
「ふふっ…あ は は は は は は は は は は は は は は ! ! !」
ヤミに反撃する力はもうないと判断し、ジャブからストレートへと切り替えぶん殴る。
は、という笑い声が響くごとに三度ヤミの全身に拳が突き刺さり。
敵を呑み込み粉砕する拳の津波、突きのラッシュ。
宇宙を流離い、命じられるままに惑星を蹂躙し、美味な食事と美酒に酔う。
それこそがサイヤ人であり、サイヤ人の本能がヤミを蹂躙する。
「─────ッッッ!!!!」
最早悲鳴すら上げらず、壊れた人形のように吹き飛ばされていくヤミ。
当然、悟飯は追いかける。人間を超えた頑丈さを誇るあの女の息の根を止めるために。
満足に反撃すら行えなくなった死に体の敵に、トドメを刺すべく。
だが、この時。彼は明確に見誤った。最強の対惑星兵器の、性能を。
「死ね……………!!!」
腫れあがった瞼を見開き。
憎悪と殺意が熟成された瞳で、眼前の抹殺対象を射殺さんと見つめる。
同時に、ゼロカンマ数秒の時間で、右手を変身(トランス)させ、ブレードを作る。
桃色の大剣(ブレード)は、先の戦いで全員を吹き飛ばそうとした時と同じ。
星一つを切り裂ける。そう言われても何ら不信を抱かない規模のエネルギーを秘めていた。
散々殴られながらも、彼女はじっと待っていたのだ。
乾坤一擲の、文字通りの切り札を叩き込める、その一瞬を。
───君は摘みとるために生まれた兵器なのだ。
振り下ろす瞬間、かつて最愛の人が否定してくれた言葉が浮かぶが。
今は、兵器でもいい。ヤミはそう考えていた。
美柑を殺したこいつを殺せるのなら、今だけ兵器に戻っても構わない。
その想いと共に、孫悟飯の殺害をただひたすらに願って、桃色の殺意を振り下ろした。
「────そん、な」
「星は壊せても……たった一人の人間は壊せないみたいだな」
直後、金色の闇に去来したのは、かつて宇宙の帝王が感じた絶望。
死力を尽くした斬撃は、受け止められていた。
両掌をぴったり合わせ、その隙間で刃を受け止める。真剣白刃取りの態勢で。
初撃に失敗すれば、もうその攻撃を維持できるリソースは今の彼女にない。
ぽんっ、とファンシーな音と共に、刃は消え失せ、悟飯が駆けてくる。
エネルギーが今の攻撃で底をついた彼女ができるのは、もう助けを乞う事だけだった。
「助け……たすけて、結城リ────」
────ゴッ!!!!!という、何かをぶちのめす音が空間を震わせる。
助けを乞うセリフは、最後まで紡がれることは無く。
当然ながら、結城リトが現れる事も無い。
空中でくるくると独楽のように舞ってから、100メートルは後方へ殴り飛ばされて行く。
そして、ぐしゃりと地面に落下するとピクピク痙攣し、今度こそ完全に沈黙した。
もう変身を応用して、復活する事も出来そうにない。
蟲の息の彼女に、吐き捨てるように悟飯は告げる。
「今更……被害者ぶるなよ」
それが、遺恨試合の幕引きだった。
「ちっ………」
トドメを刺そうと、殴り飛ばしたヤミの元へ赴く最中。
小さな気と少し大きな気が離れようとしているのを感じ取った。
この気は覚えている。何しろ、崩壊の原因となった二人組の気であるのだから。
イリヤやヤミよりは遥かに弱いので後回しにしていたが、逃すつもりは無い。
むしろこいつらだけは絶対に逃がさず殺すと決めていた。
悟飯はヤミと二つの気が遠ざかる方向に何度も視線を彷徨わせて。
ヤミが動く気配がない事を確認すると、無言で駆けだす
狂気は、まだ終わらない。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
この殺し合いから脱出したら、二度と子供の姿などするものか。
ドロテアはそう決意しながら、一刻も早く死地より抜け出そうとしていた。
だが、それには問題があった。
「えぇいモクバ!イリヤとやらは諦めろ!連れていく事は出来ん!!
意識のない足手纏いのせいであのバケモノに追いつかれたらどうする!!」
「イリヤは助けてくれたんぞ!?それに俺達だけで逃げても仕方ないだろ!!
断固として、助けるっ!いやならお前ひとりだけでも先に逃げろ!!」
モクバが逃げようとした時に、イリヤも連れて行くと言い出したからだ。
ドロテアも翻弄するエルフの剣士が健在であればその選択肢もあっただろう。
戦力が欲しいのは事実。だが、イリヤなる小娘は、現状戦力として見なせない。
彼女の状態は悟飯に瞬殺され、未だ気絶。重傷も負っている可能性が高いただの怪我人だ。
そんな足手纏いに構っていられる状況ではないのだ。現状は……!
何時、孫悟飯が此方に気づき襲ってくるか分からない瀬戸際も瀬戸際なのだから。
そして、今襲い掛かられれば間違いなくデッドエンド。二人とも死ぬ。
「ぐぅう〜〜〜……!!」
だが、時間の浪費と言う視点で言えば今こうして言い合っている時間が一番無駄だ。
この有様ではモクバは例え死ぬことになっても自分の意志を曲げないだろう。
独りだけで逃げる事も考えたが、モクバを今喪えば対主催の微かな望みも潰える。
ここは自分が折れるしかない、そう判断した。
「えぇい分かった!ではさっさと連れて行くぞ!!急ぐんじゃ────!」
「何処へ行くんだ?」
背後からかけられた声に、一瞬で凍り付く。
だから追いつかれると言ったじゃろ…そう心中で零しながらドロテアは振り返る。
すぐ背後には、想定した通り。肉食獣の様な笑みを浮かべて、孫悟飯が立っていた。
どうやら、腹を括るしかないらしい。ドロテアは泣きそうになりながら覚悟を決めた。
そして、背後のモクバの襟を掴み、彼を投げ飛ばしながら叫ぶ。
「モクバッ!離れろっ!!このガキは妾が何とかする!!」
「ド、ドロテア───」
投げ飛ばされ、全身を強かに打ちつけて呻くモクバだったが、生憎気にしている暇はない。
今は自分が活きるか死ぬかの淵に居るのだから。
魂砕きを構えながら、ドロテアは最後の賭けに出る。
「何とかする、か───やれるものならやってみろ!!」
気を放ちながら、悟飯が迫って来る。
殺意一色に染まった威容を目にして、ドロテアは何故妾がと脳内で何度も叫んだ。
こんな化け物と戦わせるなら、ブドーやエスデスを連れてこい、と乃亜に訴えたかった。
だが、今は己の不幸を嘆いている時ではない。賭けに出るべき時だ。
出なければ待っているのは死だけ。彼女の優秀な頭脳はそう決断を下し。
迫りくる死を前にして、最後の隠し札を切らせた。
「────セト神ッ!!」
藤木との戦いで手に入れていたスタンド。セト神。若返りの能力。
この能力で悟飯を若返らせ、力を奪った後アブソディックで吸い殺す。
それが、ドロテアの考えた最終防衛ラインであった。
半ば祈るような心持で展開したセト神は一直線に突き進み、悟飯の影を捉える。
「あうっ!?」
左フックを放つ悟飯の姿が一瞬で幼い物となり、彼の顔に驚愕の彩が現れる。
金髪の変身も解除され、明らかに弱っているのが見て取れた。
いける、ドロテアはほくそ笑んだ。このまま幼児にまで戻してくれよう。
この拳さえ魂砕きで防御できれば、セト神の最大出力を悟飯へと叩き込むことができる。
そうして子供に戻した後、生き血を存分に啜って、パワーアップを果たすのだ。
どうにもならないと思っていた相手に対する勝機、光明がドロテアへと差し込む。
(やはり最後に笑うのは妾!このガキを殺し、妾を疑った他のガキの口も封じ──は?)
ドロテアは知らなかった。
孫悟飯がまだ五つにもならぬ時に、既に成人を迎えたサイヤ人に痛打を与えていた過去を。
十にも満たない年齢で、宇宙の帝王も瞠目させる一撃を放った過去を。
知らなかったが故に、ハンデによって通常よりも遥かに能力の効き目が遅いセト神を切り札に選んでしまったのだ。
「うげぇあぁあッ!!!」
それでもまだ拳が発射態勢に入っていなければ勝機もあったかもしれないが。
セト神が効力を発揮したのは、既に悟飯が拳を発射した後だった。
よって、多少リーチが変動したとしても既に発生した運動エネルギーは消失しない。
この殺し合いに参加させられている邪悪の帝王が能力を発動をさせた瞬間に。
ジョースターの血統によって頭蓋に拳を叩き込まれ、痛烈なダメージを負ったのと同じく。
多少若返ったとはいえ孫悟飯の本気の拳が相手では、ドロテアの防御など紙同然だった。
魂砕きの防御も、想定以上のパワーとスピードで殴られれば、防御の意味をなさない。
鉄の棒で頭部を強打されたのと変わらない被害を彼女にもたらす。
殴り飛ばされる瞬間、ドロテアは何かが砕ける音を聞いた。
それはまさしく、彼女の頭蓋骨が衝撃により破壊された音だった。
「あ…頭が痛い…立ちあがれんッ!き、気分が悪いじゃと……
な、なんて、事じゃ……こ、この妾が……!」
殴り飛ばされた先で立ち上がろうと藻掻くが、側頭部の痛みでうまくいかない。
そして、背後を見てみれば元通りの姿の孫悟飯が歩み寄ってきていた。
気を失っていないはずなのに、何故セト神の能力が解除されている?
困惑とともに周囲を見渡すと、彼女の近くにセト神のものと思わしきDISCが落ちていた。
側頭部に頭蓋骨が割れるほどの衝撃を受けたことで、強制的に排出されたのだ。
そして、スタンドDISCが使用者から排出された事により、効果も解除された。
何とかもう一度手に入れようと手を伸ばすが、届く前にDISCが爆散する。
孫悟飯が、気弾を飛ばし破壊したのだということは、彼を見ずともわかった。
そしてそうなればもう、ドロテアに打つ手はなく。
「やっ、やめろ………っ、ぁ………っ」
ドロテアを殺すために進む悟飯に対し。
モクバが静止の声を上げるが、それが聞き入れられることはなく。
ジロリと一瞥されるだけで、悟飯から凄まじい威圧感と殺気を受けて、竦んでしまう。
だって、悟飯のモクバを見る瞳は、人が人に向けるものではなく。
敵とすら見なさない、けれど絶対に殺すという駆除すべき害虫に向ける視線だったから。
それを目にした瞬間、どんな言葉を尽くしても説得は不可能だと悟る。
自分とドロテアは、ここで殺される。確信めいた絶望が、モクバの全身を凍り付かせた。
「死ね………!」
これ以上、ドロテアにエネルギーを裂くのは無意味だと思ったのだろう。
悟飯は処刑方法を、撲殺に定めたらしい。
次に殺されるのはまず間違いなく自分だが、モクバの脳裏に他人事の様な考えが過った。
彼は、動けなかった。海馬コーポーレーションの副社長を務めるほどに。
年齢不相応に聡明で、優秀な頭脳だったから理解してしまったのだ。
殴ろうと声を上げようと、自分では孫悟飯を止めることはできない、と。
モクバらにとって孫悟飯は、荒ぶる神そのものだった。
人間が、太刀打ちできる相手ではない。
「兄サマ……兄サマ……俺………!」
モクバは生まれて初めて心の底から震え上がった…真の恐怖と、決定的な挫折に。
彼は、彼らは間違いなく絶望の畔に立たされていた。
だが、どうすることもできない。恐怖は容赦なく彼らの手足を雁字搦めにして。
後は冷たい死という水面に放り込まれるのを待つだけ─────、
「待って、悟飯君」
そんな時だった。彼女の声が、その場にいる全ての者へと届いたのは。
愛らしく、しかし凛とした清廉さと、揺らめく焔の様な力強さを伴った声で。現れた少女は。
先ほどまで、気を失っていた筈の少女は。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、悟飯へ確かな意思を籠めた声で告げる。
「まだ、私は負けてないよ」
いつの間にか目を覚ましていた彼女は、揺るぎないたった一つを抱きしめて。
決して勝ち得ぬ相手へと対峙する。
彼女の姿は、月の光すら刺さない無明の夜において。
冷たい漆黒の水面に煌めく、星のようだった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
『いけません、イリヤ様。撤退すべきです』
「それじゃあ、皆と…何より悟飯君を救えない」
『それでも…っ!例え夢幻召喚であっても…悟飯様には太刀打ちできません。
私の立場では無謀な特攻を許すわけにはいきません。美遊様や姉さんに顔向けが───』
「ありがとう、ルビー。でも一応、考えがあるの……本当にか細くて拙いけど……
これなら…悟飯君に勝てるかもしれない。止められるかもしれない方法を思いついたの」
『………念のため、お聞かせ願います』
「───────、──────。─────────」
『……っ!駄目です、イリヤ様。幾ら何でも勝算の低すぎる賭けです。
それに、正規のツヴァイフォームでは無いとは言え、貴方への負担が────』
「負けちゃったら同じことだよ、サファイア。
それに何より─────ここで逃げる子が、美遊と世界を救えると思う?」
『それは…ですが…………!』
『───────っ』
『────』
『───、』
『………分かり、ました』
「サファイア…」
『美遊様がイリヤ様を信じた様に、私もイリヤ様に賭けましょう。姉さんに代わり、最後まで御供致します!』
「………っ!ありがとう……サファイア」
『いいえ、それよりも計画達成の可能性を上げられそうな手段を一つ、思い至りました』
『───────、──────。─────────』
「………!うん、分かった。その方法で行こう」
『えぇ、では、まずは……』
「うん…お願い、これ以上犠牲になる人が出ない様に力を貸して」
───────バーサーカー!!!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
悟飯には意味が分からなかった。
さっき、叩きのめしてやったばかりなのに。力の差は嫌と言う程分かっただろうに。
それでも野比のび太を利用した卑怯者の死にぞこないは、自分に挑む気でいるらしい。
「……あのまま寝ていれば、楽に死ねたのに」
「死なないし、死ぬつもりもないよ。
ここでも、元の場所でも……私にはやらなきゃいけない事があるから」
毅然とした態度でそう言って、少女はその手の聖剣を構える。
彼女のいで立ちは、先ほどまでとは少し違っていた。
下半身を包むのは先ほどまでと同じ西洋甲冑だが、悟飯が砕いた上半身の部分が違う。
獣の皮で作った胸当てだけの野趣溢れる格好に、姿を変えていた。
だが、彼女の姿の変化より注意を引かれたのは、今しがた吐いた言葉の方。
のび太を利用した卑怯者が、一体何を成すつもりなのか?
悟飯の抱いた疑問は、イリヤの続く言葉で解消される。
「私は………モクバさん、沙都子さん、紗寿叶さん達、そして……悟飯君。
貴女を助けるって、そう決めたの。だからそれまでは………絶対負けない」
彼女が述べた決意を耳にして。
悟飯が抱いたのはまず、侮蔑の感情だった。
彼にはもう既に、モクバ達を護る価値があるとは思えなかった。
それに何より大言壮語。ビックマウスもいい所だと、そう思った。
「じゃあ───守ってみたらどうですか」
だって悟飯が“こうする”だけでその後立派な誓いは果たせなくなるのだから。
イリヤに冷ややかな視線を送りながら、悟飯はモクバへと指を向ける。
これで気を放てば先ず一人脱落。例えイリヤがモクバを守ろうと動いたとしても。
放たれた気功波は先にモクバを撃ち抜き、彼女は叶わぬ理想に対する現実を思い知る。
そうなると彼は信じて疑わなかった。しかし、イリヤは悟飯の想像を裏切り。
「はぁあああああああああッ!!!」
裂帛の気合と共に、モクバには目もくれずに。
眼前の悟飯へと、吶喊を敢行したのだった。
これには悟飯も僅かに瞠目するが、同時に馬鹿めと吐き捨てる。
確かに意表は付かれたが、それだけだ。先ほど秒殺されたのをもう忘れたらしい。
彼の眼から見たイリヤは、自殺志願者としか思えなかった。
「はぁっ!」
イリヤの剣の一撃を躱し、カウンターで拳を叩き込む。
がはっと唾と嗚咽を漏らし、体をくの字に折り曲げるイリヤ、ここまでは先ほどまでと同じ。
だが、ここから先は、先ほどまでとは違っていた。
がしりと、腹に突き刺さった悟飯の腕を、イリヤは掴み。
「ぐ───、や、ぁあぁああああっ!!」
自らの頭をハンマーの様に振り上げた。
鈍い音が響き、悟飯がたたらを踏む。
完全に油断していた所を、イリヤの頭突きが悟飯の顎を捉えていたのだ。
子供の喧嘩そのものの光景だったが、この瞬間では最も効果的な一撃だった。
そのまま一度取りこぼした聖剣を持ち直し、悟飯へと打ちかかる。
当然、悟飯もただ立ったままのカカシになる訳もなく、反撃の拳が飛ぶ。
「かっ……!」
またも競り負けたのはイリヤの方だ。しかし……彼女は倒れない。
疾風の如き速さで甲冑に包まれた足を振り回し、悟飯の足を払う。
そして、そのまま平衡感覚が狂った悟飯に突進し、聖剣の腹を叩きつけた。
「この…っ!調子に乗るな!!」
激昂した悟飯が右足を振り上げ、イリヤの腹を撃ち抜こうとする。
だが、その蹴りが彼女の腹を捉えることは無かった。
凄まじい衝撃に手に痺れを覚えながらも、彼女は聖剣で受け止めたのだ。
ここで流石に悟飯もおかしいと気づく。
さっき秒殺した時のイリヤに、ここまでのしぶとさと執拗さは無かった。
無論、押しているのは悟飯の方だ。イリヤの攻撃は、悟飯に殆ど痛痒を与えられていない。
しかしそれでも、一撃でぶちのめせていた先ほどと今では、明らかに何かが違う。
それが何に依る物か考えた一瞬の隙を縫って──再びイリヤが仕掛ける。
「こ、この……!」
「やああああああっ!!」
悟飯の蹴りをすり抜け、頭を掴む。
そしてもう一度───イリヤは自分の頭をハンマーの様に振るった。
ゴッ!という音が、悟飯の鼻っ柱の上で炸裂し、彼を後退させる。
そんな、僅かに彼の攻勢が鈍ったのを見逃さず、イリヤはモクバ達に叫んだ。
逃げろ、と。自分に構わず早く行け、と。
「で、でも……」
「いいからッ!守りながらじゃ戦えない!!」
「………ッ!分かった!!」
翻弄するエルフの剣士のいなくなったモクバでは足手纏いにしかならない。
いた所で邪魔になるだけだ。彼にはもはやこの場でできる事は何もないのだから。
そんな彼がこの場で最も貢献できることを考えれば、それはドロテアを連れ離脱すること。
それが最も孤軍で奮戦するイリヤの助力へと繋がる。
口惜しい思いはあったが、ここで異議を唱える程彼は愚鈍ではなかった。
「行くぜぃドロテア!ここから離れるぞ!」
「わ…妾は最初からそうしようとしとったじゃろ……!」
側頭部から血を流し、青息吐息のドロテアに肩を貸して。
そそくさとモクバ達は離脱を始めた。
その足取りに迷いはなく、ともすれば先ほどよりも迅速な避難だったかもしれない。
「こ、の……!!逃がすか……っ!」
逃げていく二人を見て悟飯は掌を掲げ、気功波で二人を消し飛ばそうとする。
だが、それを見逃すイリヤではない。即座に悟飯に組み付き、噛みついて妨害する。
振り払おうと残った手で殴りつける悟飯だったが、イリヤは中々離れない。
さっきまでの彼女なら、確実に一発で振りほどける勢いで殴りつけても、だ。
まるでガキ大将がいじめられっ子の決死の反撃を受けている様な、そんな奇妙な景色が広がっていた。
「しつこいぞッ!!!」
苛立ちと辟易の感情を込めた膝蹴りが、イリヤの鳩尾に叩き込まれる。
たまらず口から鮮血を漏らすイリヤだったが、何故か戦意は全く衰えない。
打ちのめされても、打ちのめされても、まるでゾンビの様に立ち上がり向かってくる。
これではキリがない。体力を浪費するだけだ。
何より、しつこく食い下がって来る今のイリヤを見ていると。
どうしようもなく精神が泡立ち、首元に痒みが走る。
脳裏に、ボロボロになりながら自分を止めようとしていた少年の姿が浮かぶ。
故に彼は決断した。片手間ではなく、先に本腰を入れてこの女を殺す。
最低でも、ヤミと同じ状態にしてから、モクバ達を殺しに赴く事に決定した。
「いいさ……じゃあお前から死んでしまえっ!!」
食いついた。
愉快型魔術礼装マジカルサファイアは悟飯が標的を変える旨の発言をした時、そう思った。
そして自身が提案した策は効果を発揮しているらしいという事を確信する。
孫悟飯の力は強大だ、セイバー、アーチャー、ランサーの三騎士ですら。
彼との白兵戦は勝機はゼロに近い。宝具を真名解放する暇すら与えられないだろう。
だが、イリヤが現在所有するクラスカードの英霊の中で、たった一人。
たった一人、孫悟飯にもある程度食らいつける英霊がいた。
その英霊とはギリシャ神話最強の英霊と名高い戦士───ヘラクレス。
劣化してなおCランク相当の神秘を有していない攻撃を無効化する宝具。
十二の試練(ゴッド・ハンド)の宝具を有する彼だからこそ。
孫悟飯の攻撃を軽減し、イリヤに白兵戦を成立させているのだ。
更に、悟飯と戦うために彼女が切った札はそれ一枚ではない。
「ぐぅうう───はぁッ!!」
上書き夢幻召喚(オーバーライト・インストール)。
クラスカードの中で、バーサーカーのカードだけが持つ特性。
夢幻召喚中に別の英霊のカードを夢幻召喚する事により。
バーサーカーのクラスを継承したまま別の英霊の力を引き出す能力。
その能力を用い、イリヤはバーサーカーのクラスにセイバーを上書きしたのだ。
つまり、今のイリヤはバーサーカーを素体としながら、セイバーの剣技を扱い戦っている。
圧倒的に格上である筈の今の孫悟飯に食い下がれている戦況の裏付けは、ここにあった。
「だああああああああああッ!!!」
「はぁああああああああああッ!!!」
気を纏った拳と聖剣が相打つ。
金属音めいた衝突音の旋律が奏でられ、振るった聖剣が跳ねのけられる。
大英雄と騎士王の力上乗せしてなお、超えるべき壁は余りにも高い。
聖剣が押しのけられた一瞬の隙を突いて、マシンガンの掃射の如き拳打が少女を襲う。
「がはっ!がッ!ぶふッ!!う゛あ゛ああああああッ!!!」
金色の闇と全く同じ、ただ早く硬く、強靭な暴力が、イリヤの全身を蹂躙する。
神の護りによってダメージを大幅に軽減してなお一発一発が骨に響く威力だ。
もし、十二の試練がなければ、とっくに挽肉に変えられていたと確信できる攻撃。
全身に走る鈍痛に呻き、その事実を痛感しながら──再びイリヤは立ち上がる。
「何でだ………」
立ち上がるイリヤを見て、憤怒の中に困惑と怖気を覗かせ、悟飯が尋ねる。
彼には分からなかったからだ。イリヤの度を超えたタフネスもそうだが。
何より、のび太を利用し捨て駒にしたはずの狡猾な女が。
何故、勝てないともう分かっているハズなのに、何故ここまで自分に歯向かうのか。
道理に合わない。理解不能だ。
「さっさと……死ねぇえええええええッ!!!」
今度こそ、今度こそ冷たい大地へ沈めてやる。
困惑を振り払うように、少年は眼前の少女の息の根を止めるべく駆動を行う。
突き、手刀、蹴り、正拳、掌底、連打、連打、連打連打連打連打。
トドメにに両掌を組み合わせて作った拳をイリヤの頭頂部に振り下ろして。
間違いなく死んだはずだと、いい加減死ねと、倒れたイリヤを何度も何度も踏みつけて。
ペース配分を考え戦っていた筈が荒い息を吐いている自分に気づき、漸く攻撃を止める。
しかし、しかしそれでも。
「何で、だ………!なんで!もう全部……遅いのに、“貴方”は……!」
───それでも、星は沈まない。
はぁはぁと肩で息を吐き、愛らしく美しかった顔の至る所を腫らして。
満身創痍になりながらも、瞳の奥で鈍く輝く光は消えていなかった。
勝ち目など無いのに。悟飯が今更思い留まる事などありはしないのに。
それでも立ち上がって来るイリヤの姿は、悟飯にとっては不気味な怪物として映った。
「のび太君がやろうとしたことは、想いを……死なせたくない、から」
野比のび太は孫悟飯を救う事は出来なかった。
それは彼がひとえに弱すぎたせいだ。どんなに崇高な思いを抱いていたとしても。
意志を押し通す力が無ければ紙細工同然。だから彼は何も成し遂げる事無く死んだ。
でも、それでも思いは残った。イリヤは彼の戦いを目にして。
野比のび太が抱いていた、孫悟飯を救いたいという思いを死なせたくない。そう思ったのだ。
そして、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンには野比のび太には無かった力がある。
「何故とかどうしてだとか…理由を聞かれてもちゃんと言葉にはできない。
だけど……目の前に苦しんでいる人がいるなら、私は…私達は手を伸ばすよ。
のび太さんも、美柑さんも、きっとそうだった」
イリヤと悟飯が接した時間は短かった、更に踏み込む切欠ものび太と違い無く。
だから、彼が病魔に苦しんでいた事実を見逃してしまったのだ。
その結果、悟飯は狂い。のび太は死に、視線を傾ければ美柑までもが犠牲となった。
悟飯の言う通り、全ては遅いのかもしれないけれど。手遅れなのかもしれないけれど。
それでも、まだ自分が此処にいる。そして、悟飯も生きている。
ならば手遅れの四文字は、まだ彼女が彼女の理想(ワガママ)を諦める理由足りえない。
故に彼女は、月の光すら届かぬ無明の戦場で、星の光として剣を握るのだ。
「私は諦めない。のび太さんが、最後まで悟飯君を助ける事を諦めなかったように」
それに、と少女は続ける。
脳裏に浮かぶのは自分の為に罪を犯し、そして永遠に別れる事となった少女。
目の前で逝ってしまった今は亡き親友との悲痛な別離も、イリヤを支えていた。
例え客観的に見ればどれだけ仕方ない言える悲劇であっても。
どうする事も出来ない別れだったとしても。
彼女だけは訴え続ける。抗い続ける。
「例えどんな理由があっても、美遊みたいなお別れを。私は仕方ないって言いたくない…!」
満身創痍でありながら、背筋を伸ばして。
紡ぐ言葉の力強さは、やはり揺るぎのない物だった。
そうしてイリヤはただ真っすぐに悟飯を見つめ、彼の反応を待つ。
そんな少女に、少年が返事を返したのは、たっぷり一分は経過してからだった。
「……貴方の言っている事は僕にはさっぱり分からない。だから、これで楽にしてあげます」
イリヤ達と想い言葉は、どうあっても届かない。雛見沢症候群とはそういう病だ。
重度化すれば肉親すら手にかける事を厭わなくなる、惨劇と不幸の配達人。
殺し合いと言う状況下において、自然治癒はまさに奇跡に等しく。
雛見沢の部活メンバーが辿りついた賽子の6の目は、一朝一夕で辿り着ける境地ではない。
狂気は去らず、尚も悟飯は眼前の魔女を排除するべく動く。
素早く後方へ30メートル程の間合いを取ると、彼の姿が再び金色の戦士へと変身を遂げた。
ドロテアの能力に依る一時解除だったためか、乃亜が敢えてハンデを行使しなかったのか。
定かではないが、イリヤもステッキの強制排出機能でセイバーのカードを再展開している。
ならば悟飯もまた同等の芸当が許されても不思議ではなかった。
でも、そんなことは当人たちにとってはどうでもいい話。
今はただ、全てを終わらせる事に全力を賭す。ゆっくりと、落ち着いて構えを取る。
今のやたらとしぶとくなったイリヤでも、確実に消し飛ばすことのできる技の態勢に。
気を集中させ、かめはめ波の発射体勢に入る。
「逃げてもいいですよ。必ず当てて殺しますから」
「逃げないよ、私は。絶対に逃げない」
イリヤに動揺はない。
元より勝機があるとすれば。この後しかないと彼女は考えていたからだ。
彼女にとっては、むしろここからが本当の勝負。
悟飯が大技の発射体勢に入ると共に、イリヤもまた魔力をその手の聖剣に集中させる。
「か……」
狙うのは神造兵装、星の聖剣であるエクスカリバーの発射…ではない。
何しろ相手は文字通り本当に星一つ消し飛ばす火力の相手。
例えカードの英霊ではなく、正規の騎士王の聖剣であっても勝機は薄いだろう。
まして正規の英霊よりも劣化しているクラスカードの英霊であればなおさらだ。
だからこれはフェイクに近い。イリヤの本命は別の宝具だ。
「め……」
純粋な個の威力では必敗は定められている。
ならば狙うは圧倒的な威力を誇る相手の一撃を分散させ、逸らせる連撃を置いて他にない。
そしてイリヤが現在その身に宿している英霊は、正にその条件に沿った宝具を有している。
もっとも、それが放てるかどうかは別の話だが。
何故なら肝心の当該宝具は狂化スキルによって失われており、通常放つのは不可能。
如何に上書きの夢幻召喚でセイバーの剣技を得ていると言っても。
如何に今のイリヤの夢幻召喚の素体となっていると言っても。
そもそもクラスカードの原理である魔術は“置換”であり“加算”ではないのだから。
今セイバーの剣技を行使できているだけでも、理から外れた使用なのは間違いなく。
「は…」
『筋系、血管系、リンパ系、神経系…疑似魔術回路展開!』
チャンスは一度。発動可能性は極小。しかし零にあらず。ならば今はイリヤに賭ける他ない。
サファイアは可能性を僅かでも向上させるために、イリヤの肉体の全てを魔術回路とする。
彼女のスペックを瞬間的にでも引き上げ、本来なら不可能な出力行使を可能とするのだ。
本来はツヴァイフォーム展開のための諸刃の刃の機能だったが、今はサファイア単独。
その分イリヤへの負担は抑えられる──と言ってもそんな生易しい話ではなく。
少女の幼い肢体の、至る所が悲鳴を上げる。
文字通り体内の血管と神経全てに棘が生え、暴走している様な責め苦が苛む。
音と匂いが消えた。聴覚と嗅覚が潰れたのだ。
視界も闇に閉ざされつつある、後十秒も保たないだろう。
11歳の少女が味わえば悲鳴はおろか、発狂に至ってもおかしくない苦しみの中で。
それでも、イリヤスフィール・フォン・アインルベルンは微笑んだ。
「め……!」
「私、皆を守りたいの……バーサーカー」
己の中の願望器の機能、その僅かな残滓が告げていた。
その身に宿した英霊の力を信じろと。前へと進めと。
それを感じ取れば、もう不安も迷いも無かった。
ただ胸に渦巻くのは「良かった」という感情だけだ。
限界まで力を貸してくれる、頑丈で、強くて。
自分の願い(ワガママ)に応えてくれる、優しい英霊(バーサーカー)で良かった。
もう視界も真っ暗で、殆ど何も見えないけれど───
それでも、ゴールは今もはっきりと見える。だから。
────並列限定展開(パラレル・インクルード)
────並列接路、装填(パラレルコネクション・オフ)
「何だ………!?」
今まさに、かめはめ波を放とうとしていた悟飯が眉をひそめ、それを中断する。
消し飛ばそうとしている標的が、一瞬別のものに見えたからだ。
自分よりも小さかった少女が二メートルを超える、巌の巨人に。
だが、すぐにどうでもいいと躊躇を打ち消す。例え少女であろうと巨人であろうと。
自分のかめはめ波で消し飛ばすだけなのだから。
魔女よ、消えて失せろ……っ!
風は途絶えた。
両者が、「来る」と確信を抱く。
彼我の距離は30メートル。致死の光が放たれ到達するまでに三秒かからない。
故に───この三秒で勝敗が決する。
「波ァ────ッ!!!!」
少年の絶望と怒りが籠められた、光の波濤が迫る。
彼我の戦力差は歴然。
───相手にとって不足なし。
武装の差異。
───仔細問題なし。
───元よりこの宝具はあらゆる武具に対応する“流派”なれば。
少女の肉体への負荷。
───心配は無用。事を成せばあらゆる痛苦は己が引き受けよう。
───今はただ、彼女の願いを信じるのみ。
目前に迫る、死へと向けて踏み出す。
激流と逆巻く気勢。
見切った力の奔流を構成する、九つの循環点へと狙いを定め───
────全工程“置換”完了(セット)。
────是、射殺す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)
瞬間、
絶死の光帯(ロストベルト)を、神速によって凌駕する─────!
約束された勝利の剣(エクスカリバー)から放たれる九つの黄金の輝き。
それは瞬時に九頭の龍に姿を変えて、孫悟飯の放ったかめはめ波の光と激突した。
これこそイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが見出した起死回生の一手。
射殺す百頭(ナインライブズ)。ギリシャ神話最強の大英雄ヘラクレスが誇る戦技。
対幻想種用の竜を形どった追尾する斬撃を、最強の聖剣の輝きに乗せ発射したのだ。
戦闘の激化を狙い乃亜が狂化機能だけでなく、クラス継承の機能にも手を加えた為か。
担い手がかつての願望器としての機能を有していた少女(イリヤ)だからか。
それとも───彼女がその身に宿した英霊が彼の狂戦士(ヘラクレス)だったからか。
ハッキリした事はどれも推測の域を出ない。しかし結果だけを述べるならば。
通常の上書き夢幻召喚では不可能な芸当を見事彼女は成し遂げて見せたのだ。
「終わりだぁッ!!」
だが、発射の成功がイコール勝利には成りえない。
孫悟飯の放ったかめはめ波は、最強の幻想と神域の絶技を合わせてもまだ届かない。
最強の人造人間との最後の対決では、更に強大なエネルギーすら打ち破ったのだから。
数秒と掛からず、イリヤの放った光は悟飯の放った光へ飲み込まれる。
この瞬間、悟飯は勝利を確信した。しかし次瞬、状況は彼にとっての不条理を起こす。
「な……なにっ!?」
圧倒的に気の総量で勝っている筈の悟飯のかめはめ波が、分裂した。
別れた光の束はそのまま逸らし弾かれ、目標とは大幅にズレた方向へと飛んでいく。
刹那の思索の後、悟飯はイリヤが撃った攻撃の真意を看破した。
気の大きさではまず競り負ける、故に彼女は最初から正面対決で勝とうとしたのではなく。
連撃によって自分のかめはめ波を散らし、弾いたのだ。生存領域をこじ開けるために。
そう、イリヤにとって、勝機は初めからこの瞬間しかなかった。
だからどれだけ打ちのめされても接近戦を選び、悟飯にこのままでは消耗戦になると思わせたのだ。
「────いや、まだだッ!」
小賢しい策によって散らされたと言っても、まだ三割を超える威力は保っている。
そしてそれは、如何にしぶといといっても今のイリヤを消し飛ばすのに十分な威力。
そう悟飯は見ていたし、事実その見立ては正しかった。
彼の放ったかめはめ波は、十二の試練を突破し彼女の肉体を消し飛ばす威力を保っていた。
(これ……避けきれな………っ!)
イリヤもまた、同じ結論に至り。
それ故に最後の力を振り絞って回避しようとするが。
全ての魔力を振り絞った直後の為、がくりと膝が墜ちる。
肉体に蓄積した無茶の代償は、彼女を見逃したりはしなかった。
死が、目前へと至り────少女を呑み込む、その刹那。
イリヤの後方から何かが飛来し、かめはめ波の光の中へと飛び込み。
飛び込んだ魔力を帯びたイリヤにとって見覚えのあるその矢が、炸裂した。
(あぁ……)
だが、現実は無情だ。未だ悟飯のかめはめ波は死んではいない。
矢が更にかめはめ波の威力を削いでなお、回避する事は叶わず。
光の波が、遂に到達を果たす。それでもイリヤはフッと笑みを零した。
結果は敗北。必死で立てた策も、悟飯の才能の前に捻じ伏せられた。
悔しいし、届かなかったのは口惜しい。それでも嬉しかった事がたった一つ。
先ほど飛んできた矢。見紛う筈も無い、あれを放ったのは────、
(ありがとね、クロ────)
魂を別ち、この島においては袂を別ったはずの己の半身。
彼女が自分を救うために放った贈り物を想い、微睡むように微笑んで。
そして、少女の肉体と意識は光の中に?み込まれた。
「終わった………っ!」
イリヤがかめはめ波に飲み込まれるのと同時に。
悟飯の超サイヤ人の変身も解除される。だが、問題ない。
結局消耗の大きい戦いになってしまったが、ヤミもドロテア達も最早死に体。
奴らを殺してから暫し休息を取ろう。そして、その後父以外の参加者を殺す。
彼が狂気に囚われた算段に意識を切り替えようとした、丁度その時。
「な────!」
打ち破った筈の、イリヤの放った二本の光線が迫る。
担い手が敗れてなお、他の七本の同胞が滅びてなお。
生き残った二対の光の竜は、そのまま朽ち果てていなかった。
ただ、使命を果たすために。大技を放ったばかりで、殆ど無防備になった標的に。
追尾(ホーミング)を行い、その牙を、突き立てるために!
「う、わあ゛あああああああっ!!!」
気を放ち防御しようとするが、時すでに遅い。
刹那の勝機に食い込むように。孫悟飯に、一切の抵抗を許さず。
少女が全てを賭して放った光の竜は、少年を飲み込み、全身を衝撃が襲う。
轟音に全てがかき消された世界の中で。孫悟飯は考える。
何故、圧倒的に少女よりも強かった筈の自分がこうなっているのか。
何故、野比のび太を利用していた筈の彼女がここまで自分と戦ったのか。
何故、のび太を利用した筈の彼女の放った光が───こんなにも、星の光の様に眩いのか。
どんなに思考を巡らせても、答えは出ず。やがて彼の意識も光へと溶けて。
────そして、世界を救う筈だった少女と世界を救った少年は、光の中へ消えた。
投下終了です
後編も期限内には投下させて頂きます
投下ありがとうございます!
しかし、ほんとド偉い事になったなあ……。
隊長、ヤミちゃん、イリヤ、1ターンスリーキルゥ……。
特に隊長はこの中では、割と善戦したほうなんですけど、イマジナリー藍染の助言ともいつもの嫌がらせとも取れる嫌味のせいもあってか、まるで振るわず。
説得も全然届かないばかりか、状態表出て生存確定したのは良いんですけど、逆に言うとこれ以上隊長は出てこないのヤバいですね。
ワンチャン卍解すれば、まだ何とか出来る可能性があるだけに絶望感が増していく。
紙一重だったんですよね。シュライバーとの戦闘があともう少し早ければ、卍解が間に合った可能性が高い。
美柑もようやく勇気を出して、悟飯と向き合う覚悟は出来たんですけど…もう遅いというか、関係性の積み重ねがなさ過ぎて辛いですね。
お互いに心の底から恨んでる訳でもなくて、好きではないけど嫌いじゃない、でももう無理だって関係性が生々しい。
止め刺さない悟飯からそれは滲んできてるし、マジで出会いから始まって何処かでボタンが違えばこうはならんかったんでしょうね。
序盤からこのロワの不穏要素を背負いを引っ張ってきた二人組だったので、いざ脱落すると感慨深い。
ヤミちゃんもここに来て、全部の因果が回ってしっぺ返しされてるのとても悲惨です。
ロワ開始当時はかなり強マーダー枠だったんですけどね。
今までの仕返しと言わんばかりに、ボコボコにされちゃって……グロ描写が丁寧できついっすね。
頭皮千切れるのは痛いよマジで。
エロキャラだった頃のお前はもっと輝いていたぞ!!
でも、もうきっとその頃には戻れないんですよね。正気に戻ってもほぼ弱体化だし、マジで可哀想。
もうこれ、仮に生還しても日常には戻れそうにないですよ。
セト神で挑むドロテア、お前すげえよ。
SS一時解除は割と大健闘では?
皆、倒れる中最後に立ち上がるイリヤ。マジで曇りのない光ですよ。
肉弾戦で勢いで悟飯を圧すの好きですね。精神性だけならイリヤは決して負けてない。
自分が強い筈なのに、絶対に食らい付いてくるイリヤは本当にヒーローをしている。
世界も美遊も救うと言った幼女だ、顔つきが違う。
ヘイトを自分に向けてから、必殺技と必殺技の打ち合い。ここでイリヤがバーサーカーを呼ぶのが熱い!!
そうなんですよ、世界や次元が違ってもイリヤにとっての最強はこの英霊を置いて他にはいない。
悟飯ちゃんがバサクレス幻視するのも、何というか切ないですよね。元は悟飯ちゃんが悟空を幻視される側だったのに。
最後、クロが助太刀? したのかまだよくはっきりと分かりませんけど。
いやー、ほんと誰が死ぬか分かんないですね。完結編が楽しみです。
>………………………たすけて
お前が始めた物語だろ。
藤木茂、魔神王
ゼオン・ベル、ジャック・ザ・リッパー、輝村照(ガムテ)
キャプテン・ネモ、フランドール・スカーレット、神戸しお
鬼舞辻無惨、奈良シカマル、的場梨沙、龍亞、絶望王
ルサルカ・シュヴェーゲリン、ウォルフガング・シュライバー
予約と延長します
後編を投下します
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンによって、吹き飛ばされた先。
I-5の海岸線にて、冷たい海水に身を浸しながら、漂う。
仰向けの体勢で嫌になるほど青い空を仰ぎ、孫悟飯は小さく息を吐いた。
最後の、相打ち気味に受けた攻撃のせいで、致命傷では無いだろうが、体中が痛む。
疲れてもいるし、休まなければヤミとの初戦の二の舞になるだろう。
「どうして……僕は………」
分からなかった。
どうしてイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよりもずっと強かった自分が。
彼女よりずっと大きな気を放っていた筈の自分がこうして吹き飛ばされ、漂っているのか。
そして、それ以上に。何故自分は……あの少女を。
卑怯者で狡猾なマーダーである筈の少女が放った光を、眩く思ったのか。
「……でも、もう終わった話か」
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは死んだ。
自分のかめはめ波で消し飛んだ。それは間違いない。
だからもう、もう一度彼女に会って確かめる事は出来ない。
ざぁん、と言う音を耳が捉える。体ももう、波間に揺れてはいなかった。
どうやら潮の動きで自動的に浜辺へと打ち上げられたらしい。
孫悟飯は寝そべったまま、これからどうしようかと考えた。
がり、と首に指を添え、一掻きしながら独り言ちる。
「少し休んで…取り逃がした奴らを殺さないと………!」
方針に変更はない。
最後にドラゴンボールで全てを救うために、全員を殺す。
今回取り逃がした奴らはもう逃げてしまっただろうから、優先的に殺す。
絶対に逃がさないし、他の参加者も父以外の者は全員殺す。
父になら、全てを託せられる。病気で自分が斃れても、後を託すことができる。
自分がやるべきことは、父が通る道の大掃除だ。彼は既にそう決めていた。
でも、それには辛い選択をしなければならなかった。
「お父さん、すみません……今は、お父さんに会えません」
父は、自分の選択を許さないだろう。止めようとするだろう。
本当は、ずっと会いたかったけれど。全てをかなぐり捨てて会いに行きたかったけれど。
それでも、今は会う事が出来ない。これだけは、自分がやらなければならない仕事だから。
のび太を殺してしまった自分が為さなければならない使命だから。
この島に未だいる屑共を根絶やしにするまでは、会うことはできない。
でなければ、自分は自分の犯した失敗をどう取り返せばいいのか分からない。
だけれど、今父に会って自分がやろうとしている事を否定されてしまったら。
もう何もかも分からなくなって、自分が父を───殺してしまうかもしれない。
そうだ、お父さんにだって、僕のやろうとしている事は止めさせない。
でもできる事ならお父さんは殺したくはない。だから会えない。
がり、がり。また指を首に添えて。矛盾し、破綻した結論を、孫悟飯は導いた。
───私は諦めない。のび太さんが、最後まで悟飯君を助ける事を諦めなかったように。
もう一度、自分を救おうとしていた少女の事を想起する。
押しただけであっさり死んだのび太と違い、最後まで自分に食らいついてきた少女。
自分を助けるのを諦めないと宣言した少女。彼女も……もういない。
美柑も、のび太も、イリヤもいない。
自分を救おうと言う者も。自分が守らなければいけなかった者ももういない。
今の孫悟飯は自由だ。どこまでも自由に、自分の為に力を振るう事ができる。
けれど、今の彼は動かなかった。動けなかった。疲れたからだ。
肉体のダメージもある。次の殺戮に向かうまで、眠りはせず。しかし瞼を閉じて呟く。
「僕…頑張りますから…ちゃんと全員殺しますから…………」
だから、今だけこうして瞼を閉じる事を許して欲しい。
そう願いながら閉じた瞼の裏に映るのは、どこまでも空虚な闇だけだった。
陽の光も月の光も届かない。
───真っ暗な闇の中で。残響の様にカナカナと、ひぐらしが鳴く声が聞こえた気がした。
【一日目/日中/G-8 海岸線】
【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:ダメージ(中)、自暴自棄(極大)、恐怖(極大)、疑心暗鬼(極大)疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、
雛見沢症候群L4(限界ギリギリ)、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、全員への嫌悪感と猜疑心(絶大)、首に痒み(中)、絶望
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0〜1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:全員殺して、その後ドラゴンボールで蘇らせる。
0:全員殺す。敵も味方も善も悪もない。
1:お父さんには...会いたくないな。
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群の影響により、明確に好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
※イリヤ、美柑、ケロベロス、サファイアがのび太を1人で立たせたことに不信感を抱いています。
※何もかも疑っています。
────12時間使用。
北条沙都子がぱちり、とスイッチを入れられた家電の様に目覚める。
体を起こすと、そこは先ほどまでいた死地ではなく。
どこか、知らない民家の一室にいつの間にかいたらしい。
折れた左腕に痛みもなかった。
目をぐしぐしと擦って、本格的に意識を覚醒させようとした所で、声を掛けられる。
「起きたかい」
声を掛けられた方を見てみれば、朝に別れた同盟相手──メリュジーヌが佇んでいた。
沙都子は最初、メリュジーヌが自分を此処に避難させたのかと思ったが。
尋ねてみると彼女は首を横に振るい、無言で沙都子の傍らを指さした。
促されるまま視線を動かすと、カオスが沙都子の傍らで瞼を閉じていた。
「相当無理をしたみたいだからね。一時的に機能停止して自己修復をするらしい
再会した時は大変だった、沙都子お姉ちゃんを助けてって、彼女はしきりに言ってたよ」
「そう…ですか」
メリュジーヌに返事を返しながらも、沙都子は驚きを隠せなかった。
この天使の少女が、自分を発狂した孫悟飯から逃がすことに成功したのか。
この地で出会った、いずれ殺しあうであろう自分の為に。
沙都子は仄かに複雑な感情を抱きながら、隣で修復を行うカオスを撫でる。
「それで?まだ生かしているという事は、
私はまだメリュジーヌさんにとって利用価値があるという事でよろしいんですの?」
カオスを撫でたまま、メリュジーヌの方を見る事無く問いかける。
その内容は彼女が今の自分をどう捉えているかの確認だ。
何故なら、沙都子は現状メリュジーヌに切られても何ら不思議ではないと考えている。
それほどまでの失態。それほどまでの失敗を彼女は犯したのだから。
「全く、あの中で一番有利だったはずなのに、
蓋を開けてみれば一番の貧乏くじだなんて。欲をかくものでは御座いませんわね」
肩を竦めて、自嘲する様に沙都子は自らの失敗をそう評した。
悟飯の症候群進行には何とか成功したが。成果はそれだけ。
ドロテア達の排除と悟飯への扇動は殆ど失敗したと見て良いだろう。
イリヤ達がどうなったかは分からないが、美柑の暴露もある。
彼女等が生き残っていたとしても、再び潜り込み隠れ蓑にできるかは望み薄か。
シカマル達が逆側のエリアで自分の悪評を広めているのを考慮すれば。
ほぼエリアの全域で北条沙都子は警戒すべきという悪評が広まり切るのは時間の問題。
ならばメリュジーヌが沙都子に対し、利用価値はないと判断してもおかしくはなかった。
「そうだね…カオスがこれを回収して無ければ切っていたかも」
そう言って、メリュジーヌは目覚まし時計のような代物を取り出して見せる。
カオスがあの場にいた参加者の一人から回収した物らしい。
メリュジーヌの話によると、重傷を負っていた自分の治療を行ったのもこの道具だそうだ。
策は劣悪な結果に終わったが、まだ悪運は尽きてはない。
沙都子がそう思ったのと、道具をくるくると手の中で弄びながらメリュジーヌが沙都子に尋ねたのはほぼ同時だった。
「で?沙都子、そろそろ君の小賢しい動きも厳しくなってきた様だけど……
ここからはどう動くつもりか、聞かせてもらおうかな」
明確に、場の雰囲気が変わった。
沙都子はメリュジーヌの方へ視線を動かし、彼女の眼差しを検める。
彼女の瞳は、冷たく、昏く……そして此方を探る様な感情が見て取れた。
この問いかけの返答が、彼女の意向に叶う物でなければ。
自分の首は、一分後には泣き別れになっているであろうという確信を抱く。
そう、メリュジーヌは測っているのだ、未だ自分に利用価値があるか。
沙都子は少し考えを纏めるから一分ほど時間が欲しいと返事をした後。
60秒に渡り目まぐるしく頭脳を回転させ、返答を返した。
「そうですわね。これからの行動方針としては二つ。
まず一つ目は悟空さん、悟飯さんと戦ったリーゼロッテという女との接触。
もう一つは、カルデア側のエリア少し離れた場所で罠を張り、他の参加者を狩りましょう」
「そのリーゼロッテと言う女と会うのは孫悟空との戦いに向けて、と言うのは分かる。
だが、ここで無差別に参加者を襲えばこれまでの君の小賢しい策が無駄にならない?」
「もう固執していてもどの道無駄になっている頃合いですわよ。
それなら、他の参加者を狩ってドミノの殺害数上位を目指した方が有意義ですわ」
確かに、沙都子の言う通りもう参加者の中に潜んで水面下で事を行うのは難しいだろう。
それはメリュジーヌもまた理解していたが、彼女の案には無視できない懸念点が一つある。
孫悟空の存在だ。あまり派手に動けば、彼が自分達を排除しに動くかもしれない。
指摘を行うと、沙都子はカルデアそのものに手を出さなければそれはまずないと答えた。
「悟空さんは暫くカルデアの守りで動けません。
彼が動くとしても……それは悟飯さんを止めに行く時でしょう」
孫悟空は基本的にカルデアの守りから動かないだろう。
それが最も乃亜の打倒につながる可能性が高いと、彼はそう考えている。
直接言葉を交わした沙都子だからこそ、確信を以てそう言えた。
自分達の話を聞きつけ、排除に動いている間にカルデアが襲撃を受け。
首輪を外せる算段を立てた仲間が死亡すれば、全てが水泡になってしまうからだ。
だから、他の場所でマーダーが猛威を振るっていても彼は動かないし、動けない。
どれだけ強いと言っても、身体は一つなのだから。
そして、更に自分達に構っている暇はないと思わせる撒餌は用意した。それこそが悟飯だ。
親子の情からも、物理的な実力から言っても。発狂した悟飯を完全に止められるのは彼だけ。
彼自身そう考えるだろうから、他のマーダーに構っている暇はますます無くなる。
彼との直接対決さえ回避出来れば、今迄出会った対主催はメリュジーヌにとってさして脅威ではない。
「ここからはメリュジーヌさんも私達と一緒に動いてもらいます。否とはいいませんわね」
「……分かってるさ、君が何をいいたいかは。構わないよ」
少し唇の先を尖らせながら、メリュジーヌは了承の意志を示す。
沙都子の言葉を否定できるほどの戦果を、メリュジーヌはあげられていない。
それにシュライバーや絶望王など危険人物にも油断ならない相手はいる。
それ故に、万全を期し此処から暫くカオスと連携して参加者を狩る。そう言う話で纏まった。
「余りカルデアに人材が集まっても面倒です。我々はその芽を摘み、機を伺います。
悟空さんが悟飯さんを止めに行った時も、近場にいれば動きやすいですから。
悟空さんを尾行して漁夫の利を得るも良し、カルデアを襲撃するも良しですわ」
「孫悟飯の方からカルデアに向かってくる可能性は?僕やカオスはともかく、
君が孫悟空と孫悟飯の戦いの巻き添えを食えば、間違いなく生きてはいられないだろう」
「勿論その可能性も無いとは言えませんが……そう高くはないと思います」
その言葉を聞いて、メリュジーヌは訝し気に眉を顰めた。
沙都子の話だと悟飯は悟空に会いたがっていたハズ。
もし他の参加者からカルデアに悟空がいる事を耳にすれば、向かうのではないか?
彼女の当然の思考を読んだかのように、沙都子は迅速に答え合わせを行う。
「悟飯さんが雛見沢症候群でトチ狂った時に、こういっていましたわ。
自分が全員を殺す、と。きっと、のび太さんの事に責任を感じたのでしょうね」
そして、悟飯の口から孫悟空の印象。
ドラゴンボールがどうとかは症候群の影響で出た妄言である事は想像に難くないが。
悟空への印象は、きっと信用に値するだろう。何しろ沙都子は本人に会ったのだから。
悟飯の話と、実際に会った悟空に対する印象に殆どずれはなかった。
即ち、孫悟空は弱者への虐殺を良しとする様な人格ではない。
勿論、カルデアで待ちの態勢を取ろうとしていた事から、ただ優しいだけの人物ではない。
しかし同時に、出会う参加者全員を殺そうと言う意見には到底賛同しないと沙都子は見た。
「私がいなくなった以上、悟飯さんにとって悟空さんは最後の心の支え。
だけれど自分は孤立し、悟空さんが決して肯定しないであろう行いに手を染めている。
最後の心の支えに否定されるのが分かり切っている時に、会いたいと思うでしょうか?」
「………成程ね」
確かに、説得力の感じる話であった。
それならば孫悟空の居場所が分かったとしても、悟飯が寄り付こうとしない可能性は高い。
結果、悟空は悟飯を止めるために、カルデアを離れざるを得ない。
自分達はそれまでカルデアを目指そうとする参加者を狩り、追い散らし。
新たな戦力をカルデアに寄せ付けず、悟飯へ生贄を提供するのが仕事という訳か。
納得のいく行動方針を提示され、合点がいったとメリュジーヌは鼻を鳴らした。
「問題は、悟飯さんが参加者を殺し過ぎてドミノ保有者上位に入ってしまう事ですが……」
「それについては問題ないよ、保険は手に入れた」
「……例の時計ですか、再使用可能になるまでのインターバルは?」
「六時間。ただしあと二回しか使えない。だからもう君に使うつもりは無いよ
さっき君に使ったのも使えるかの実験と、カオスが君を助けろと泣いてせがんだからだし」
沙都子は自分の怪我を治した事と目覚まし時計の形状から、時間を巻き戻す道具と見たが。
どうやら、その見立ては正しかったらしい。あと二回しか使えないのは痛いとはいえ。
悟飯が万が一殺害数トップになり、雛見沢症候群を治療されてしまった時の保険はできた。
そう考えつつ、沙都子は孫悟空以外の抹殺対象の名前をあげる。
「取り合えず、貴方の傷を癒すカードも御座いますし、カオスさんの回復を終えれば……
孫悟空さんの他に貴方が不覚を取った日番谷さんは消したい所ですわね」
「それについては同意見だね、彼は孫悟飯との戦いの傷が癒えるまでに墜としておきたい」
「今回はさぼっていたんですから、今度こそ貴方の強さを証明していただきたい物ですわ」
「無論だよ、君とカオスのお陰で大分休めたし、後三時間も休めば問題ない。
例の回復できるカードは再使用できる様になったらカオスに使うと良い」
凡そ方針が固まったので、軽く嫌味を言って話を纏める。
此方は死にかけたばかりだから、多少機嫌を損ねても言う権利はあるだろう。
そう思って口にしたやっかみは、予想通り悪びれもしないふてぶてしさに流されて。
釈然としない思いを感じつつ、眠る様に回復を行っているカオスを優しく撫でるのを再開。
メリュジーヌの視線を感じたが特に気にせず、沙都子は己の左腕の天使への労いを続ける。
すると、暫し時を置いてから思い出したようにメリュジーヌがもう一つ尋ねてきた。
「……ねぇ沙都子。君、孫悟飯の病気が悪化してから何故あんな行動を取った?
孫悟飯が狂った時点で、君の目的は達成されていた筈だ」
「それは、其方の方が悟飯さんの思考を誘導しやすいから………」
「本当にそれだけ?カオスから聞いた話だと、君の対応は途中から杜撰に過ぎる
孫悟飯の状態が誘導するには危険すぎる状態だったことは君も分かっていた筈だ
なのに何故危険を犯した?本当は……別の目的があったんじゃないか?」
詰問する様に問い詰められ、沙都子は眉を顰める。
剣呑な態度だが、単に此方の失態を責めている雰囲気ではない。
だが本当に戦略上必要だったから行っただけで。他意はない。
ではメリュジーヌが予想した自分の目的とは何か。何が言いたい?
そう尋ねると、一拍の間を置いてメリュジーヌはその問いを口にした。
「それじゃあ聞こう。君は、本当は……証明したかったんじゃないのか、何かを」
聞いてから十秒程は意味が分からなかった。
またメリュジーヌの感傷的な部分が変な推測を導いたのか。
失笑と共に、そんなことある訳はないと否定しようとして。
何か…引っかかるような感覚を覚えた。言語化しにくいが、ある種の心当たりを抱いた様な。
そんな態度を見せた沙都子を見て、メリュジーヌはやはりと言う顔で重ねて問いかける。
「沙都子、君は…………誰もが心の奥底は醜いと、確かめたかったんじゃないのか?」
勿論、戦略的な意味もあるだろう。しかしそれだけではなく。
圧倒的な立場から周囲を操り、扇動し、不和を煽って。
遊びの様に無邪気に眺めて楽しもうとしたのではないか。
やはりこいつ等は自分の仲間と違い取るに足りない、下らぬ相手だと蔑みたかったのでは。
その為に態々危険を犯して、悟飯の扇動に固執したのではないか。
メリュジーヌはそう見ていた。そして、本当にそうだった場合。
先ほどの場において最も醜い者、それは沙都子だと考え、口にしたかもしれない。
「何を言っているのですかメリュジーヌさん」
だが、沙都子の返答は図星を突かれた様子を一切見せず。
下らない冗談を聞かされた様な態度で、フッと笑みを零した。
その後、ハッキリした声色で自身の所感を述べた。
「誰もが心の奥底では醜いだなんて、確かめるまでもなく当然では御座いませんか」
沙都子の仲間、部活メンバー全員、元より大きな欠落を抱えている。
過去に、言動に、家庭環境に、人格に。
掛け替えのない仲間たちの中に、潔白な者は誰一人としていない。
誰もが醜い部分を持っていた。誰もが小さなきっかけで惨劇を起こし得た。
誰もがサイコロの1の目を出し得た。だからこそ、今更確かめる必要などない。
どんな賽子であっても賽子である以上、1の目は存在するのだから。
それを蔑んだところで滑稽なだけ、沙都子にとって人が醜いなど当たり前の話だった。
しかし、だからこそ。
「だからこそ。それを認めて美しくあろうとする事に人の価値がある」
誰もが醜いからこそ、それを認め、仲間と分かち合い、正しくあろうとする。
その果てに古手梨花と部活メンバーは奇跡を起こした。
自分が確かめたかったのだとしたら、きっと其方の方だと沙都子は述べた。
「実際の成果はさておき。その事においてはちゃんと確かめる事が出来ました。
やはりあの日の私達と梨花が成し遂げた事は、何事にも代えがたい奇跡だったと」
野比のび太が兆しを見せども、結局拒絶され死んだ所を見て。
やはりあの時の運命を打ち破った梨花の選択は奇跡だったのだと確信を得た。
何よりも眩くて、何よりも尊い、得難きモノ。
それを、あの日の梨花と自分は確かに築いていた。それなのに。
僅かな沈黙を経て。沙都子は今回の証明を経ても未だ理解できぬ不条理を、どこか寂し気に口ずさんだ。
「───でも…確かめられたからこそ、やっぱり分からない。何故、梨花は。
あの奇跡を起こした雛見沢を捨てて…外の世界など求めたのでしょう……?」
雛見沢の外の人間であっても。奇跡を起こすのは何大抵の事ではないと証明された。
だからこそ、ますます解せない。何故古手梨花は。雛見沢を捨てようとしたのか。
あれほど価値のある奇跡をみんなで作り上げたのに、何が不満なのか。
自分はもう何もいらないのに。あの楽しくて美しい記憶だけで十分なのに。
何故、外の世界など求めたのか、本気で沙都子には分からなかった。
カオスの方に俯き、言葉を紡ぐ彼女の背中は、今迄と違いとても小さく見えた。
まるで、年相応の少女の様だった。
「価値のある、美しい物だからだと思うよ」
返答を受けた最後の竜は静かに少女が身を預ける寝台へ腰をかけ。
無言で少女の背中にもたれ掛かり、お互いの背中を預ける体勢となった。
そして、沙都子が何のつもりか尋ねるよりも早く、己が思った言葉を口にした。
メリュジーヌは北条沙都子の事が嫌いだったけれど。
彼女の胸に抱く願いには、複雑な思慮を抱いていたから。
「美しい物、価値ある物って言うのは、生まれた場所から羽ばたかずにはいられない。
必ずいつか、もっと多くの者を魅せるために、外の世界へ飛び立とうとするモノだから…」
想起するのは46億年のどんな記憶より眩しかった、気まぐれな奇跡。
メリュジーヌが見た、地上で最も美しい者。輝ける星のかんばせ。
そう、尊きもの、美しきものとは、狭い世界では我慢ならないのだ。
最も近くにいる者が、どんなに一緒にいられる地で全てを終えようと願ったとしても。
それが、メリュジーヌが出した一つの答だった。
「───そう、ですか。そうかもしれませんわね」
メリュジーヌの方へは、振り返らず。カオスを慈しむようにただ撫で続けて。
否定はせず、しかし全てを肯定しない返答を、沙都子は返した。
実際の所、メリュジーヌの言葉が的を射ているのかは沙都子も断言はできない。
けれど、そう大きく的を外した言葉ではない事は沙都子も確信していた。
そして同時に、海馬乃亜が自分とメリュジーヌの初期位置を直ぐ傍に配置したその意図も。
何となくわかった気がしたけれど、やはり口には出さず、暫く背中合わせのまま。
出会う筈のなかった二人の種の違う少女は、同じ時を過ごす。
…その一刻はきっと。未来ではなく過去を求め続ける少女たちが。
一つの死線を超え、また新たな死線に身を投じるまでの、続く物語の始点。
【一日目/日中/C-7】
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(大)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス大破、沙都子と刷り込み完了、カオスの素の姿、魂の消費(大)、空腹(緩和)
[装備]:極大火砲・狩猟の魔王(使用不能)@Dies Irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
6:聖遺物を取り込んでから…なんか、ずっと…お腹が減ってる。
7:首輪の事は、沙都子お姉ちゃんにも皆にも黙っておく、メリュ子お姉ちゃんの為に。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
極大火砲・狩猟の魔王を取り込みました。炎を操れるようになっています。
聖遺物を取り込んでからの空腹は、聖遺物損傷によりストップしています。
中・遠距離の生体反応の感知は、制限により連続使用は出来ません。インターバルが必要です。
ニンフの遺した首輪の解析データは、カオスが見る事の出来ないようにプロテクトが張ってあります。
沙都子と刷り込み(インプリンティング)を行いました。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(大)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:一先ず、休養を取り、体勢を立て直す。悟飯さんとはもう会いたくない。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:悟空さんと悟飯さんは、できる事なら二人とも消えてもらいたいですわね。
9:悟空さんの肩に穴を開けた方とも、一度コンタクトを取りたいですわ。
10:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
11:シュライバーの対処も考えておかないと……。何なんですのアイツ。
12:メリュジーヌさん、別にお友達が出来たんでしょうか?
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order(凍結、時間経過や魔力を流せば使えるかも)
[道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、デザートイーグル@Dies irae、
『治療の神ディアン・ケト』(三時間使用不可)@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)、逆時計(残り二回)@ドラえもん
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:精々頑張るといい、沙都子。
1:孫悟飯と戦わなけばいけないかもね
2:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
3:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
4:ルサルカは生きていれば殺す。
5:カオス…すまない。
6:絶望王に対して……。
7:竜に戻る必要があるかもしれない。方法を探す。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
「上手くいったわね!」
激戦地から一足先に抜け出すことに成功し。
ニコニコと天使の様な笑顔を浮かべながら、厄種の少女グレーテルは快哉を上げた。
その手には回収した美柑の首輪がくるくると回されている。
上機嫌の彼女とは対照的に、隣で見つめるクロエの視線は実に冷ややかなもので。
グレーテルが不思議そうに理由を尋ねると、クロエは青筋を立てながら叫んだ。
「アンタがめちゃくちゃやるから!私も死にかけたでしょうがっ!!」
「……?あぁ、お兄さんに狙われた時のこと?」
クロエの激昂を受けて、グレーテルは少し以前の記憶を手繰り寄せる。
即ち、“結城美柑を射殺した”時のことを。
そう、美柑を殺めた張本人は孫悟飯ではなく。北条沙都子でもなく。
透明マントを用い忍び寄ったグレーテルだった。彼女こそ、美柑殺害の下手人だったのだ。
「…でもあの時はクロがちゃんと助けてくれたじゃない。流石クロね!」
「流石クロね、じゃないっ!
アンタにひらりマントとシャンバラ渡してたお陰で、こっちまで吹き飛ぶ所だったわ!」
────さようなら、お姉さん。
そう嘯き、笑みと共に放たれた凶弾は、見事に一人の少女の命を奪った。
その代償として、彼女は孫悟飯に危機一髪の所まで追い詰められたわけだが。
数撃ちゃ当たるの思考と共に、孫悟飯が無差別にエネルギー弾を撃って来たからだ。
被弾コースだった初撃のエネルギー弾は一発ならひらりマントでいなせたものの。
あれでグレーテルの居場所が看破されたため、完全にジリ貧であった。
シャンバラをすぐさま起動状態にしたが、あのままでは間に合わなかっただろう。
─────投影・重装(トレース・フラクタル)……!
即座にクロが投影を行い。
彼女の弓兵としての能力、そして過程を無視し結果を導く願望器の機能の残滓を用いて。
弾いたエネルギー弾の軌道からグレーテルの居場所を割り出し、援護を行っていなければ。
彼女もまた、孫悟飯に間違いなく殺されていただろう。
…その結果、クロエも悟飯に標的として補足され、吹き飛ばされそうになり。
消費魔力が大きく、虎の子である転移魔術を使って回避するハメになったのだ。
それ故に、彼女はこうして怒りを表明しているという訳である。
「まぁまぁ。色々実験もできたしいいじゃない。
特にこのサンダーボルトってカードは便利だったわ。クロにあげる」
「あげるって……今使えないでしょこれ………」
海馬モクバの翻弄するエルフの剣士を破壊したのもまた、グレーテルだった。
水銀燈たちから奪った支給品の魔法カードによって、エルフの剣士を破壊したのだ。
面倒な特殊効果を持つモンスターも、このカードがある今脅威にはなりえないらしい。
だが、クロは釈然としなかった。
だって、グレーテルのやっている事は無駄にリスクを背負い込み過ぎる所業だ。
エルフの剣士を破壊したのも、結城美柑を射殺したのも。
孫悟飯という核弾頭の存在を考慮すれば、自殺願望でもあるのかと思う程だった。
……実際、あっても何も不思議ではない身の上ではあるが。
「……アンタ、本当にあんな危ない橋を渡る必要あったの?」
確認の為に尋ねると、グレーテルはうーん…と、人差し指を顎に添えて。
暫し考えた後、クロが望んでいるであろう答えをまず述べ始めた。
悪徳の街ロアナプラでも屈指の武闘派ホテル・モスクワに挑んだ悪童としての視点を。
「そうね……まず悟飯お兄さんに得点を独占されるのは面白くないし…
あのモクバってお兄さんの使うモンスターも倒せるかどうか試しておいた方がいいでしょ。
それに、多少失敗してもクロが助けてくれると思ってたのと………」
指折り数えて列挙するグレーテルを見て、調子いいわねこいつ。
そうクロは思わずにはいられなかった。確かに、一応結果は出したし。
利益が全くなかったかと言われれば、殆ど無傷でドミノも稼げた以上悪くはない。
だが、やはりあそこまで危険を犯した理由としては弱い気もする。
何となく釈然としない物を感じるクロだったが。直後にグレーテルは笑みを浮かべた。
無邪気な子供としての笑みではなく。ロアナプラを震撼させた殺人鬼の笑みで。
「でも、一番はそうしたかったからかしらね。本当は、他に理由はなぁんにもいらないの」
「………っ!」
そう言って白い歯を覗かせてにっこりと笑う灰色の少女を見て。
大分慣れてきたと思っていたクロに、ぞくりと怖気が走る。
この少女は本当に、美柑と呼ばれていた少女を殺した事に深い理由はないのだろう。
ただ何となくそうしたかったから、殺した。ただそれだけなのだろう。
グレーテルと言う少女は壊れているし、狂っている。
答えを聞いて確信を得ると共に、同時にこれ以上掘り下げても不毛だと判断する。
結果的に上手く行ったのだ、今回の狂騒についてはそれでいい。
何しろ今後に関わる彼女の奇行は、もう一つ存在している。
クロエは複雑な感情を抱きながら、ベッドに視線をやり尋ねた。
「……で、あのボロ雑巾を拾ってきたのも、やりたかったからってワケ?」
「そう!あの子とは仲良くなれそうだと思ってたけど…
そのままだとまた暴れられちゃうかもしれないじゃない?だから丁度良かったわ」
今クロエ達が拠点としている民家のベッドに眠る、金髪の少女。
放送前にクロエ達を襲った痴女──金色の闇が、二人を前に眠り姫と化していた。
孫悟飯に敗れた彼女を、こっそりシャンバラの単距離転移の連続使用で拉致してきたのだ。
彼女は現在、クロエが投影した聖骸布によって拘束されており、目を醒ます気配は無い。
元々蟲の息で、シャンバラを使わなければ移送している間に死んでいたであろう少女だ。
グレーテルは半死半生の彼女を連れてきて早々、貴重な回復アイテムの殆どを使い。
特に損傷の酷かった顔や左腕を治療し、ベッドに寝かせていた。
「……ま、傷を治したのはどうせ気まぐれなんでしょうけど…
あの子が目を醒ましたらどうするの?あの子をこっちに引き込むつもり?それとも殺す?」
「うーん、それはこの子次第かしら。仲良くなれたらそれでよし。
もしなれなかったら……クロももう分かるでしょ?リングを回すだけよ」
「……多分、この子が言っていた美柑って、アンタが殺した子のことよ」
「そうね。でもこの子がそれに気づいているとは限らない」
捕えた痴女が乗るか反るかは分からないが、何方にとってもグレーテルに不利益はない。
勝てばお友達がもう一人増え、負ければリングを回して命を増やすだけなのだから。
だからこれは彼女にとって突き詰めればどちらに転んでもいい話。
グレーテルにとって最も肝要なのはむしろそれより前。今は、その下準備に勤しむ。
「さっ、お姉さんが起きる前に下ごしらえを済ませてしまいましょう!クロも手伝って」
「下ごしらえって…何をするつもり?聖骸布で捕まえる以上の事は……」
「いいから、剣を出して構えて」
「………?」
よく分からないグレーテルの指示に、訝し気な顔を浮かべつつ、干将莫邪を投影する。
その間にグレーテルはランドセルからまた新しい支給品を取り出していた。
楕円形の持ち手部分から伸びる、尖った先端。丸い注射器の様に見受けられる何某かの器具。
グレーテルはそれを容赦なく───小康状態となっていた眠る少女に突き刺した。
「えいっ」
「………ぐ、ぅ……ぁっ………!」
脇腹を突きさされ、ヤミは苦し気な声をあげる。
彼女の痛苦に反応して、防衛機能の様に休眠状態だった彼女の金髪が蠢きだす。
どうやら、傷の治療で回復した際に彼女の髪を操る能力も回復していたらしい。
それ故に、主人に仇成す不心得者を排除せんと再起動しようとしていた。
「ちょ、ちょっと!」
グレーテルに殺到しようとする髪を、慌てて切り落とす。
髪の動きは依然戦った時よりもエネルギーが足りないのか、かなり鈍く。
更に本体が拘束され、意識が無い為今のクロエの敵ではなかった。
ひたすら伸びる髪を切り落としていると、直ぐに髪の動きは緩慢となり。
やがて停止して、ただの髪に戻ってしまった様だった。
それを確認してからグレーテルは突き刺していた注射器の様なものを引き抜き。
最後に傷口に残っていた最後の回復アイテムである粉を振りかけ、事を終えた。
「これでよし。それでこの子も私達と変わらないわ」
「……一応聞くけど、何をしたの?」
「このエネルギー吸収装置?でエネルギーを吸ったの。
怪我は治して、でも戦うための力は空っぽになって貰うために」
確かに、懐柔を試みるにあたってあの髪は邪魔だろうが。
それなら貴重な回復アイテムを全て使ってまで治す必要はあったのか。
途中で死なれては困るから、少しだけ治すと言うなら分からないでもないが…
そんな考えを浮かべながらグレーテルを見つめると、彼女はふるふると首を横に振って。
「ダメよ、折角これから彼女がしたがってたえっちぃ事を教えてあげるのに。
あの顔じゃ可哀そうで私が萎えちゃうし、痛みで集中できないかもしれないじゃない」
グレーテルのその言葉に、クロエも合点が行く。
薄々彼女の目的は予想がついていたけれど、やっぱりか。
下手をすれば此方の方が本命で、懐柔できるかどうかはどうでもいいのかもしれない。
クロエが考えているのを尻目に、グレーテルはまたランドセルから支給品を取り出して。
「何、その薬品?」
「んふふー……び・や・く?」
グレーテルが取り出したソレは、ルーデウスの不能すら治療した媚薬であった。
バディルスの花で作られたその価格は、転移事件後アスラ金貨100枚に昇ったという。
その媚薬を一口こくりと飲み……グレーテルは眠るヤミの口に情け容赦なく唇を合わせた。
思い人へのささやかな義理立てなのか、眠りつつ口を閉じて抵抗しようとするものの。
文字通り命懸けで技巧を磨いてきたグレーテルにとってそんな防御は紙同然。
3秒で口をこじ開け、舌をねじ込み、口に含んだ媚薬を口移しで飲み込ませた。
ちゅっ。ちゅぷっ。ちゅぽっ、と。淫靡な水音が部屋の中に木霊する。
グレーテルはそのまま10秒はヤミの口内を蹂躙し、やがて唾液の橋を作りながら口を離す。
「さっ!これで準備は終わり。後はこのお姉さんの目が覚めるのを待つだけね!」
「アンタ、前にムードが大事とか言ってなかった?」
「うーん…確かにそうだけど、先にえっちぃ事してきたのはこのお姉さんだし。
なら、多少嫌がられてもお互い様よね。無理矢理スるのも慣れたものよ?」
「そんな嫌よ嫌よも好きのうちみたいな………」
「くすくす……クロ、顔が赤いわよ?もしかして妬いてる?混ざりたい?」
「……っ!はぁっ……!?い、いや……そ、そんなわけ…………」
じぃっと熱っぽく覗き込んでくるグレーテルの眼差し。
艶めかしく瞼を細めた彼女に見られると、これは、ダメだ、と即座に思う。
彼女の存在は、奈落へと続く穴だ。一度落ちれば、もう這い上がる事は出来ない。
あぁけれど───彼女に見つめられると堕落すら甘美なものに思えて。
拒絶できない、逡巡する。そんなクロエの腰をグレーテルは優しく抱き寄せ。
「ねぇクロ───本当に?」
「………っ……ぁ………」
天使の姿を借りた悪魔が、少女の耳元で囁く。
囀りを聞いた瞬間、クロエは己の理性が蕩けていくのを感じていた。
きっとここで身を任せれば。
彼女はその天使の様な美貌と、歴戦の娼婦にも勝る技巧で自分を慰撫してくれるだろう。
何しろ、命懸けで勝ち取った技能だ。毎日毎日暴力と死が蔓延する世界の中で。
幼いグレーテルが、死なないために身に着けた能力だ。その能力の高さに疑いはない。
クロエも普段は小悪魔的に振舞っているが、本物の悪魔を前にしては生娘に等しかった。
「ねぇ、クロ………天国、行きたくないかしら…?」
「ぁ……………………は、ぃ……………」
ダメ押しの様に、尋ねられれば。
顔を真っ赤にして俯き、ぎゅっと胸の前で握りこぶしを作って、弱弱しく頷いてしまう。
そうだ。兄に再会するどころか、数時間後も生きて居られるか分からぬ身だ。
それなら、いっそ。思い出作りにいいのかもしれない。
無理やり自分を納得させて、流されようとしたその時。
───クロには、私達のこともっと知ってもらいたくなって。
グレーテルの瞳の奥に隠された虚無。連想する下卑た大人たちの嗤い顔。
少し前に見せつけられた悪夢の風景が、フラッシュバックを起こす。
かつて、一人の“ふつうのこども”を壊したであろう、人の悪性と獣性。
人間が醜いことなど、これを見せるだけで簡単に証明できる。
グレーテルの下半身に広がっていたモノは、そういう地獄だった。
人は人にこんなことができるのだと思い知らされた──普段、気づいていないだけで!
甘美だったはずの美酒が、一瞬にして硫酸へと変わったかのように。
クロエの喉元に、強烈な嘔吐感がせりあがる。
「────ぅ゛ぉ゛、ぇ゛ッ………!」
吐くな。私は…魔術師の家系に、聖杯戦争為に。殺し合いに勝つために生まれた存在だ。
それが、こんな、こんな程度で這いつくばってどうする。
グレーテルをドンッ!と押しのけ、口の前に手を当てて膝を付く。
酩酊にも似た、何処か浮ついた感覚は、とうにどこかに霧散してしまった。
何とか嘔吐する事だけは避けて、はぁはぁと荒い息を吐いて蹲る。
「ごめ………グレー、テ………」
必死で呼吸を整え、グレーテルに向き直る。
すると、彼女の表情は先ほどまでの狂った笑みではなく。
痛ましい程に寂しそうに笑う、少女の姿があった。
それを見て、途切れ途切れになりつつ謝罪するクロエに、彼女は優しく寄り添い。
「いいのよ、クロ。ついさっきの事なのに、私も色々上手く行って浮かれてたわ。ごめんね」
そう言いながら、クロエの桃色めいた白髪を、グレーテルは落ち着くまで撫で続けた。
そして、浅く荒かった彼女の吐息が正常に戻ってから、自分の身体を見下ろして。
ドレスに包まれた自分の身体につつ…と手を這わせ、独り言ちる。
「あの子にハレンチを教えてあげるのも、私は服を着たままの方がいいでしょうね。
それとも、“後ろから”シてあげるのがいいかしら。キスしながらできないのが残念だけど」
悲しい事、泣きたくなる事は快楽(えっちぃ)ことで忘れさせてあげるのが一番だから。
きっと地獄いたころの経験則から得た知識で彼女はそう言って。
クロエにベランダに出て、外の空気を吸ってくる様に促した。
こくこくと頷き、言われるままにクロエはふらふらと外へと向かう。
「クロも混ざりたくなったら途中参加してくれていいわ。ただ、無理はしないでね」
その言葉を聞いて、やはりこの少女は壊れているのだとクロエは思った。
人として大切なものを失ってしまっている。壊れてしまっている。
ヤミへの気遣いの言葉だって、そもそも彼女が結城美柑を奪った張本人だ。
それに思い至ったからこそ、ふらふらと頼りない足取りで。
グレーテルの言葉に一切答える事無く、ベランダへと向かった。
▼ ▼ ▼
取り合えず、周囲に脅威の気配は無い。
やさぐれきった目で警戒を行いながら、民家に置いてあったカートンの蓋を開けて。
細長い白の紙巻きたばこを取り出し、これまた民家にあったライターで火をつける。
ぼうっとその炎を見つめながら煙草に火をつけ、口に含んだ。
「げほっ!ごほっ!げぇっ!パ、パパったらよくこんなの吸えるわね………!」
イリヤの父である衛宮切嗣が、喫煙者である事はクロエも知っていた。
彼女の精神の深部でクロエもまた、父の事を見ていたから。
もっとも、イリヤが生まれてからは基本的に禁煙しているのか。
殆ど自宅で彼が煙草を吸っているのを、イリヤも自分も見た事が無いけれど。
それも納得だ。こんなまずい代物、何故大人は好き好んで吸おうとするのか分からない。
けれど折角火をつけたので、この一本を吸いきるまでは吸ってみる事にする。
もしかしたら、吸いきってみれば理由も分かるかもしれないし。
そう思いながら、少女は紫煙を燻らせた。
「……どうなるのかしら、あの子」
考えるのは、捕まえた金髪の痴女のこと。
懐柔されるか、それともそのまま殺されるか。
何となく、後者になりそうな予感を、クロエは感じていた。
と言うより、何が切欠で露見するか分からないのだから殺した方が後腐れ無い。
いや、懐柔を試みる前にグレーテルは調教を行う予定みたいだから、それ次第か。
「………ま、自業自得よね。精々グレーテルに気持ちよくしてもらいなさい」
強姦紛いの凶行とはいえ、先に襲ってきたのは向こうの方だ。
しかもそれだけでなく、命まで狙ってきたのだから。
何か思い人がいそうな事を言って、そう言う雰囲気を出してもいたけど。
いざ自分が弄ばれる側に回ったからと言って、自分には思い人がいるんですやめて下さい。
…なんて、虫のいい話だ、それ故にクロエに彼女を助けるつもりなど毛ほども湧かなかった。
肉体的な物に限ればグレーテルが、彼女が、彼が与える快楽は最上級の物なのは確かだし。
せめてグレーテルの地獄を、彼女が目にすることが無いよう祈るくらいはしてやってもいいが。
「あの子…無駄にえっちぃ事を神聖視してたみたいだしね」
多分本質としてはキャベツ畑やコウノトリを信じている生娘と変わらない。
そんな彼女に、あの地獄を見せつけるのは無修正のポルノを突き付けるのと同義だ。
あれを見たら、えっちぃ事が素晴らしい事なんて、きっともう言えなくなる。
自分でも、ずっと見ていたら性嫌悪症になりそうだと思ったのだから。
強姦魔紛いの痴女とは言え、流石に性交への憧れまで奪われるのは無慈悲だと思えた。
…余り考えて楽しい事ではないので、かぶりを振って思考を切り替える。
「…………イリヤは」
不意に、グレーテルを。彼女が越えてきた地獄を。
自分が魂を分けた片割れが見たら、どんな思いを抱くだろうと、その時ふと考えた。
考えて一瞬で、無理だ。あの逃げ腰の弱虫が対峙できる筈はないとふっと笑う。
考えるまでも無い事を考えたと自嘲気味に笑みを漏らして。
その直後に、絶対に勝てないであろう敵と対峙するイリヤの背中が浮かんだ。
「……馬鹿じゃないの。何で逃げないのよ。勝てる相手じゃないって分かるでしょ」
孫悟飯の瞳は、どこか共感(シンパシー)を抱く者だった。
現実に絶望して、けれど全てを投げ出す事も出来ず、殺すしかないという答えに至った瞳は。
きっと仲良くはできないけれど、それでもある種の同情を抱いてしまう少年だった。
そんな彼を救うためにイリヤは闘い、そして二人して光の中へと消えて行った。
「本当………馬鹿イリヤ」
分からない。
何故イリヤは、間違いなく自分よりずっと強い敵に立ち向かえたのか。
戦ったら殺される、それは分かっていただろうに、何故あの弱虫が。
案の定吹き飛ばされて、今は生死すら分からない。
そして、それ以上に自分は何故。何故あの時───イリヤを助けたのだろう。
自分は殺し合いに乗っていたのに。イリヤも殺すつもりだったのに、あの背中を見たら。
煙草の煙を眺めながら考えても、一向に答えは出なかった。
「……なんで、なんで私は────」
「いいんじゃないかしら、特に理由が無くたって」
呟きを聞いていたのか、それとも表情から思考を読んだのか。
ベランダに続く部屋の窓の前から、グレーテルが声を掛けてきた。
そして、ちょいちょいと煙草を指さす。一本欲しいらしい。
「……いいの?生きるためにはリングを回さないといけないんでしょ?」
「確かにそうね。でも…その次位に兄様や姉様を大事に思うのは必要だわ」
乞われるままに煙草を一本渡して、ライターも手渡そうとする。
するとグレーテルはふるふると首を横に振った、必要ないと言わんばかりに。
火もなしにどうするのか、そう思っていると彼女はおもむろに顔を近づけて。
クロエが咥えていた煙草の火に、自分が咥えた煙草の先端を押し付けた。
その退廃的な景色を眺めて、小さく溜息を吐きながら。
「………そうね、例え生きてたら殺しあうとしても、今回だけは───」
同意の言葉を零すのと、ほぼ同時に。
ジジジ、と音を立てて重ね合わされた煙草の火が燃え移る。
───その煙はまるで寄り添うように罪を重ねる、二人の少女の姿の様だった。
【結城美柑@TOLOVEる ダークネス 死亡 グレーテル100ドミノ獲得】
【一日目/日中/F-5】
【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、ダークネス状態 、気絶、エネルギー枯渇
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから帰還したら結城リトをたっぷり愛して殺す...そうするつもりだったのに...
0:私の、せいで……?
1:美柑………
2:クロエとグレーテルはどうしよう...?
3:孫悟飯は許さない。
[備考]
※参戦時期はTOLOVEるダークネス40話〜45話までの間
※ワームホールは制限で近い場所にしか作れません。
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:魔力消費(中)、自暴自棄(極大)、 グレーテルに対する共感(大)、罪悪感(極大)、ローザミスティカと同化。
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師、ローザミスティカ×2(水銀燈、雪華綺晶)@ローゼンメイデン。
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら、
グレードアップえき(残り三回)@ドラえもん、サンダーボルト@遊戯王デュエルモンスターズ、
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
0:私は…なんでイリヤを………
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君…何やってるんだろ。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
※ローザミスティカを体内に取り込んだ事で全ての能力が上昇しました。
※ローザミスティカの力により時間経過で魔力の自己生成が可能になりました。
※ただし、魔力が枯渇すると消滅する体質はそのままです。
※悟飯たちからは距離を置いて身を隠しています。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!、走刃脚@アンデットアンラック、透明マント@ハリーポッターシリーズ
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品0~2(リップ、アーカード、魔神王、水銀燈の物も含む)、
エボニー&アイボリー@Devil May Cry、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、
戦雷の聖剣@Dies irae、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!、魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、 バスター・ブレイダー@遊戯王デュエルモンスターズ、
真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ、エネルギー吸引器@ドラゴンボールZ、媚薬@無職転生~異世界行ったら本気出す~、ヤクルト@現実、
首輪×9(海兵、アーカード、ベッキー、ロキシー、おじゃる、水銀燈、しんのすけ、右天、美柑)
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:金髪のお嬢さんを調教してあげる。クロともできれば愉しみたいけど…
1:私たちは永遠に死なない、そうよね兄さま
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。三人殺せたけど、まだまだ遊びたいわ!
7:聖ルチーア学園に、誰かいれば良いけれど。
8:水に弱くなってる……?
9:金髪の少女(闇)は私たちと同じ匂いがする
[備考]
※海兵、おじゃる丸で遊びまくったので血まみれでしたが着替えたので血は落ちました。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
※現状は透明マントで身を隠しているため、クロエ以外は存在を認識していません
頭が痛い。死んでしまいそうな程痛い。
きっと頭の骨がグズグズ。雨が降った次の日の土の様になっている。
このままでは、戦うどころか移動すらままならない。
朦朧とした意識の中、ドロテアはモクバと共に何とか落ち延びようとしていた。
このままでは不味い。そう考えつつも、打開案は浮かんでこない。
考えるための脳がグチャグチャなのだから、無理も無いが。
そんな時だった、真新しい血の匂いを感じ取ったのは。
視界を傾けてみれば少し脇の道に、海馬コーポレーションへと続く血痕が見て取れた。
「ドロテア……大丈夫か……?」
無垢な瞳で、純粋に此方を案じている様子のモクバに対し。
僅かな逡巡のあと、ドロテアは一つの指示を飛ばした。
と言っても、近場にある、当初の目的地を指定しただけだが。
この血の匂いと血痕が自分の求めている通りの者かは分からない。
行先にマーダーがいたら、今度こそ自分の悪運は尽きるだろう。
だが、ここで勝負をしなければ遅かれ早かれ待っているのは確実な死だ。
だから彼女は、賭けに出た。
「わ、分かった。あそこなら手当もできるぜぃ!それまで頑張れよドロテア!」
快活に、励ます様に声をあげるモクバだったが。
どれだけ息巻いた所で彼の肉体は小柄な少年。しかも重傷者を連れている。
その歩みはドロテアが苛立ちを覚える程遅々としたもので。
思っていたより使えん。彼女の中でモクバに対する不満が募っていく。
瀬戸際でなければ、そんな狭量な感想は抱かなかったのだろうが。
現状は極限状況であり、余裕は今の彼女に皆無だった。
ただ早く、迅速に目的の場所へ連れていけ……!
その苛立ちだけが、今の彼女の意識を繋ぎ止める細い糸だった。
…………………
………
……
「ドロテア!着いたぞ!」
モクバの叫びに、ハッと意識を覚醒させる。
どうやら、気を失っていたらしい。
頭から巡る痛烈な痛みに耐え、周囲を見渡す。
すると、モクバの言葉通り目的地に到達していた。
変な竜のオブジェが堂々と鎮座した、海馬コーポレーションのビルに。
逸る気持ちを抑え、モクバに急いで中に踏み入るよう指示を下す。
「戻ったか美柑……お、お前らは!?」
中に入って早々、見覚えのある獣に出迎えられる。
確か、子供たちからはケロべロスと呼ばれていたか。
モクバの扱うカードに描かれているモンスターとは違う、緩い姿。
ふよふよと浮遊する獣の傍らに、ドロテアのお目当ては横たわっていた。
「落ち着いてくれ!信用できないかもしれないけど俺たちに争うつもりはない!」
モクバが叫び、その声を耳にして獣の警戒が僅かに緩んだのが見て取れた。
いいぞモクバ、その調子じゃと、ドロテアは心の中でエールを送った。
やはりここぞというところでこの少年は肝が据わっている。役に立つ子供だ。
心中で掌を返しながら、モクバが更に敵意がないことを訴えるのを聞いてほくそ笑む。
「本当だ!こっちもけが人を抱えてるから、お前らに危害なんて加える余裕はない!
お前らもけが人がいるんだろ!?だったらこっちもそっちに協力したいだけなんだ!」
「う……わ、分かった!お前らのこと、信じるで!!」
交渉は成功した。
モクバの真摯かつ必死の訴えに、逡巡の意思を見せながらも。
ケロべロスは、疑惑を抱いていた二人組を受け入れる決断を下す。
モクバたちから横たわる少女へと視線を移し、此方に近づくことを許可する。
同行者が成した成果を受け、ドロテアは密かにモクバへの惜しみない感謝を送った。
自分だけなら、ケロべロスに信用されたか怪しい。モクバがいたから信用されたのだ。
甘く、青臭く、子供らしい夢想家の彼だったからこそ、信用を勝ち取れた。
あとは自分の仕事だ。モクバがやってくれたことは、決して無駄にはしない。
その思いとともに、ドロテアは頭痛を必死に耐えながら、ランドセルに手を忍ばせる。
「とにかく、ジュジュの奴を運ぶの手伝ってくれ!わい一人ではパワーが足りんのや!」
目の前の獣は少なくとも現状では、少女を運ぶことさえできない。
彼が不用意に口にしたその言葉を、ドロテアはそう解釈した。
であれば、心中にあったほんの僅かな懸念と躊躇は消え失せ、恐れるものは何もない。
ドロテアは決行を決め、手始めに残った力の半分を使って、モクバの動脈を締め上げた。
きゅっと声を上げて、モクバの意識がわずかな間落ちる。これで邪魔される心配は皆無だ。
「そ、それとな!美柑の奴は、悟飯は、イリヤ達はどうなったん────!」
横たわる少女から視線をモクバたちに移そうとするケロべロス。
そんな彼に対し、ドロテアは手を滑り込ませていたランドセルから魂砕きを引き抜き。
「え!?」と声を上げる障害になりうる獣へと───振り下ろした。
直後、何かが途切れる音が、静謐さが漂うエントランスに響いて。
ぼとっ、と。両断された獣の御首が、無味乾燥な音と共に転がった。
「ド、ドロテアッ!?」
放り出され、同じくエントランスの地面に叩きつけられた少年、モクバが声を上げる。
満身創痍の中のチョークだったため、完全にモクバの意識は落ちていなかったのだ。
だが、それだけ。まだ現実で起きようとしている事態に少年の思考が追い付いていない。
それ故に彼は魔女を止められない。ただ、その背中を見送ることしかできず。
その結果、一秒後────ドロテアは、横たわる少女に己の牙を突き立てた。
▼ ▼ ▼
死ねない。死にたくない。
ずっとずっと魔法少女になりたかった。
強くて、格好良くて、キラキラして。
フリフリの可愛いコスチュームを着て、どんな困難にも負けない魔法少女に。
でも、どれだけ憧れて夢中になっても、現実に気づくのに時間はかからなかった。
魔法少女はアニメの中だけの存在。それだけ願って、努力したところで。
私は魔法少女のいない、つまらない現実を生きていくしかないんだと、そう思った。
そう思ったからこそ、私はコスの世界で夢を叶えようと思った。
初めて魔法少女のコスをして、鏡の前に立ったあの日。
あの日の嬉しさは、私の人生が最も色付いた瞬間だったから。
無理をしてでも、全部作り物でも、私は私の夢を叶えたかったから。
そして、私はこの島に連れてこられて、本物の魔法少女に殺されかけた。
初めて目にした本物は、私に優しくはなかった。
憧れは恐怖へと変わって、その後に会った本物の魔法少女たちとも上手く話せなかった。
桜さんも、イリヤさんも。両方とも痛ましい顔をしながら、私に優しくしてくれたのに。
私は私の弱さから彼女たちを怯えて、疑って、遠ざけようとした。
乃亜にはどれだけ恨み言を言っても言い足りない。
私の夢を穢すために、最初の配置をああしたんだろう。
何もかも本当に最低最悪だ。きっと碌な死に方をしない。地獄に落ちるだろう。
どれだけかわいそうな事情があったとしても、私だけは乃亜を許さない。
私の夢を、私の憧れを、本物の魔法少女たちの運命を弄び嘲笑った少年を許すことはない。
…と言っても、もう私は助かりそうにないけれど。
お腹に穴が開いて、ケロべロスさんが必死にぎこちない手当をしてくれたけど。
もう多分致命傷って奴だと思う。私はきっと、この島で死ぬ。
もっと見たい作品や、したいコスはあったけど、この島で死ぬんだ。
それがどうしようもなく悔しくて、どうせ死ぬならせめてと思った。
せめて、桜さんに、イリヤさんに謝りたかった。疑ってごめんなさいって。
きっとあの子たちも怖くて、特にイリヤさんは私よりずっと耐えてたと思うのに。
私は、そんなイリヤさんに酷いことをしてしまったと思う。
だから償いをするだけの時間が欲しかった。私に何ができるかはわからないけれど。
それでも贖罪を行う為の奇跡をただ願い、意識を繋ぎ留めていた。
もう、目の前はだいぶん暗くなって、限界が近いけど。
そんな時だった。
霞掛かった視界に、魔法少女が現れたのは。
フリフリの服を着て、大人の人よりもずっと俊敏に私の方へかけてくる女の子。
あぁ、助けに来てくれたんだと思った。これで助かると、そう思った。
何せ本物の魔法少女が助けに来てくれたんだ。死んでいる場合じゃない。
そう思えた────顔のよく見えない彼女が、私の喉に食らいつくまで。
ばたばたばたばたッ!とまだこんなに力が残っていたんだと思う力で。
私の下半身が暴れる。ひょっとしたら脊髄の反射という奴なのかもしれない。
残っていた最後の命を振り絞って行った抵抗は、まるで無意味だった。
男の人を遥かに超える力で抑え込まれて、私の命が啜られていく。
視界の端に魔法少女だと思っていた女の子の顔が映る。
若く幼い女の子に見せているだけで、老婆のような肌をしているのが見えた。
あぁ、なんだ───魔法少女じゃなくて、魔女だったんだ。私は、魔女に騙されたんだ。
直後、ごきり、と何かが折れる音を聞く。ただでさえ失血で血を喪っていた私の首。
更に血を吸われた事で首に歯を立てる力に耐えきれなくて、首が折れた音だった。
そんな状態なのに視界はまだ見えて、カサカサのミイラのようになった私の肌が見える。
もうこんな身体じゃコスどころか鏡さえ見れないわね。他人事の様な考えが浮かんで。
夢と一緒に朽ち果てていく視界の先に、一人の男の子が映った。
その子には見覚えがあった。確か、モクバと言っていたか。
彼と目が合う。彼が、私が最後に見る最後の景色になるんだって、直感的に分かった。
だから、私は最後に彼にこう言った。
「け、っきょ……く、あ、んた……たち、も………おなじ、じゃない………っ!」
あぁ、でも。
私を殺すのが、魔法少女じゃなくてよかった。
▼ ▼ ▼
「かぁ〜〜〜〜〜っ!生き返ったのじゃ!!」
首輪を回収し、カラカラのミイラになった死体の首を投げ捨ててドロテアは伸びをした。
キウルや悟飯程ではないが、処女の血だったらしい。滋養は高かった。
失血で大半の血を喪っていた事が悔やまれるが兎にも角にも助かった。
この少女が死に損なっていなければ、本当に危ない所だったのだ。
だが、孫悟飯や北条沙都子達がいつ襲ってくるか未だ予断を許さぬ状況だ。
本当なら海馬コーポ―レーションを調査したかったが、命あっての物種。
紗寿叶のランドセルを剥ぎ取りさっさと離れる様、モクバに促そうと振り返った。
しかしその瞬間、モクバは突進する様にドロテアの襟首を掴んで問い詰めた。
「お前……お前……何やってんだよッ!ドロテアッ!!!」
「何って…決まっとるじゃろ。もう助からぬ小娘を有効活用してやったまでよ。
お前にも分かるじゃろ、この小娘が致命傷を負っていた事ぐらい」
「でも……ッ!だからって、こんな、犠牲にする様なやり方……っ!!」
モクバでも見た瞬間分かっていた。紗寿叶と呼ばれたこの少女は、もう助からないと。
何しろ胴体に風穴が空いているのだ。小学生だって助からないと分かる話。
でも、だからってこんな食い物にする様なやり方はないだろうと彼は訴えるが。
彼の激情に対し、ドロテアの返答は冷淡極まる物だった。
「ではモクバ。お主は妾が死んでも良かったというか?」
「えっ……」
「妾もお主の不興を買うのが分かり切っているのに、こんな事はしたくなかった。
しかし……やらなければ妾が死んでいた。何しろ頭を割られていたんじゃぞ?」
ここまでドロテアの言う事は、ほぼすべてが真実。
唯一断言できないのは死んでいたかもしれないという話だが。
頭を割られている以上、失血や脳障害で死亡していた可能性も無いとは言えない。
そのため、嘘は言っていない。ドロテアは胸を張ってそう言える。
「失血で朦朧としていたし、ともすればお主に襲い掛かっていたかもしれぬ。
そんな状態でここまで耐えた妾は、褒められこそすれ責めるのはお門違いじゃ」
「でも……っ!じゃあなんであのモンスターと、女の子をっ!」
「あぁ言う可愛らしい見た目で襲ってくる帝具を知っておるのでな。念のためじゃよ。
もし妾が殆ど何も出来ぬ時に襲われれば、お主だって生きてはおれんじゃろうしな」
だから、半分はお主のためなんじゃよ、モクバ。
神妙な顔でドロテアがそう告げると、モクバも言い返せない。
そんな彼を納得させるべく、ドロテアは更に言葉を続ける。
「小娘を襲ったのも、さっき言った通りそのままでは助からんと思ったからじゃ。
どうせ助からんなら妾を助けた方が、この娘も満足のいく最期になったじゃろう」
モクバはドロテアの語る詭弁に対し、反論ができない。
ドロテアの言っている事は詭弁だが、一定の理を唱えている。
モクバが聡明だったからこそ、その事に気づいてしまった。
そんな彼に、ドロテアはよりもっともらしい理由を用意していく。
だから、仕方ないのだと思う様に誘導を行う。
「状態を見ればマーダーに襲われた様じゃ。このまま小娘を楽にしてやらねば…
ドミノは殺人者達に渡り、よりマーダーが有利となる。それは避けねばならんじゃろ?」
「………………」
「もし他の者の目があるなら妾もやめたかもしれんが、此処にいたのは小娘と獣だけ。
元より妾達の事を疑っていた連中じゃ。それが減って不都合はあるまい?」
モクバはやはり反論ができない。
感情的には幾らでも反論が可能だが。
合理性の側面で言えば、ドロテアの言葉の方が利にかなっている。
彼の経営に携わる物としての側面は、そう告げていたから。
押し黙る彼に対し、魔女はふっと顔をほころばせて。
敢えて、後々三下り半を突き付けられる前に勝負に出た。
「じゃが……もしお主が妾の事をどうしても許せんとなれば仕方あるまい。
ここで別れて、各々自由にやるのもやぶさかではない。勿論、お主次第じゃがな」
「……………っちょ、ま、待って……っ」
「悪いが、1分以内に決めてもらう。
いつメリュジーヌや孫悟飯が襲ってくるか分からんからな」
ペテン師の手口だった。
短い時間制限を付けた上で、相手に選ばせる。
すると誘導された答えでも、相手は自分で選んだ答えだと錯覚してしまうのだ。
だが、制限をかける理由がまだ付近にマーダー達がいるからと言われれば否とは言えない。
1分間、考えを重ねたうえで───モクバは合理的な判断を下した。
「……お前を切ったりはしない。ただ、今回の事を許すわけじゃないからな!
これからもお前のやる事には俺が目を光らせてる!永沢の事も後でちゃんと説明しろ!」
「分かった。ではもうここを発つぞ。さっさと孫悟飯やメリュジーヌ達から離れるんじゃ」
釘を刺すようなモクバの言葉も、全く気にする様子は無く。
ドロテアは一刻も早くこの地を後にするためそそくさと歩き始めていた。
何しろ、未だ状況は劣悪だ。戦力になりそうな者は軒並み孫悟飯に潰されたのだから。
結局、戦力は集まらず、海馬コーポーレーションも調べられない。
できることなら孫悟飯が相手でも負けぬ対主催を集めて再び訪れたいが……
果たしてあの怪物に対抗できる参加者が何人いる事やら。
戦力に対するアテもなく。首輪を外すための目途も立たない。
徐々に生存圏が狭まっていく様な、そんな閉塞感を魔女は感じていた。
「………………………………。」
慌てて彼女に追いつき、後ろに続きながら。振り払うように歩く。
沈黙するモクバが脳裏に思い浮かべるのは、目だった。視線だった。
今しがた、ドロテアに殺されたジュジュと呼ばれていた少女。
その最期が、目に焼き付いて離れない。彼女の言葉が耳に焼き付いて離れない。
ミイラとなりて死に行く少女の、ありったけの怨念と呪詛が、瞬きの毎に瞼に浮かぶ。
違う。俺のせいじゃない。俺はちゃんとドロテアを止めようとした。
それに、ドロテアの力は俺じゃ止められない。組み付いたってきっと無駄だった。
止められなかった代わりに、こうして償いとして……ドロテアを見張る事を選んだ。
だから、やめてくれ、そんな目で見ないでくれ。
兄サマが羨ましかった。
兄サマなら、こんな時でも普段通り毅然としているだろうから。
でも、俺は………、
どうして、俺なんだ……
俺は、偶々最後に目が合っただけ………
───けっきょく、あんたたちもおなじじゃない。
めきり、と。
こころがきしむおと。
ゆめはのろいだと、だれかがいった。
ゆめといのちをふみにじられたしょうじょは、ふたりをのろった。
ひびがはしる。
【ケロベロス@カードキャプターさくら 死亡】
【乾紗寿叶@その着せ替え人形は恋をする 死亡 ドロテア100ドミノ獲得】
【一日目/日中/E-7 海馬コーポレーション内】
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]悟飯への恐怖(大)、雛見沢症候群感染(レベル1〜3の何れか)
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品×2、城ヶ崎姫子の首輪、永沢君男の首輪、紗寿叶の首輪。
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、
チョッパーの医療セット@ONE PIECE、飛梅@BLEACH、ランダム支給品×0~2(紗寿叶の物)
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:さっさと逃げて、他の対主催の戦力を集める。
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は絶対に殺す。奴らのせいでこうなったんじゃ!!
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
5:悟飯の血...美味いが、もう吸血なんて考えられんわ
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:精神疲労(大)、疲労(絶大)、ダメージ(大)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢と紗寿叶が死んだという自責の念(大)、キウルを囮に使った罪悪感(絶大)、沙都子に対する怒り(大)
[装備]:青眼の白龍(午前より24時間使用不可)&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 、ホーリー・エルフ(午後まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:俺のせいじゃない……
1:悟飯から逃げる。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションは態勢を立て直してからまた訪れる。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか?
8:沙都子は絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
……そして最後に残った“星”が、目覚める。
「………っ!こ、こは………?」
『お目覚めになりましたかイリヤ様……よかった………!』
身体に走る痛みが、ここがあの世ではないと少女に伝える。
終末の光に包まれた筈の自分が、何故生きているのか。
それは生還した本人であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンですら。
俄かには信じがたい“奇跡”だった。
呆然と横たわったまま、眼前で浮遊するサファイアに尋ねた。
『恐らくは、ヘラクレスの宝具である十二の試練(ゴッド・ハンド)の効果でしょう』
十二の試練。Cランク以下(本来はBランク)の神秘の攻撃を無効化、軽減する神の加護。
これだけでもかなり強力な護りではあるが、真価はそれを超える攻撃を受けた時にある。
護りを突破される規模の攻撃を受け、死亡した際に担い手を蘇生する。
その効果によって、イリヤは蘇生され、致死の光線から生還を果たしたのだ。
本来なら生きていたとしても動けない程の重傷を負っていた体も、攻撃の規模を考えれば破格と言えるほどダメージが少なかった。
『ですが…分散させてなお、あのエネルギー量を受けて生還できたのは………』
「うん……最後に、光線を逸らしてくれたのは………」
如何な十二の試練とは言え、受けられるダメージの許容量と言う物は存在し。
それを超えるダメージを受ければ、蘇生効果のストックを使い切り死亡してしまう。
射殺す百頭で大半の威力を削いだ後ですら、耐えきれたかは非常に怪しかった。
もし最後に、光線の威力をさらに削ぐ一射が飛来しなければ。
即ち、クロエ・フォン・アインツベルンの助力が無ければ。
イリヤは本当に、光の中に消えていた可能性が非常に高かったのだ。
「バーサーカーと、クロが守ってくれたんだね………」
排出されたクラスカードに視線を落として、ぽつりと呟く。
だが、まだ何も終わった訳では無い。イリヤはただ生き残っただけなのだから。
まだ助けないといけない人は残っている。直ぐにでも行動しなければ。
そう思って立ち上がろうとした少女の身体を、抗いがたい痛みが襲った。
「うっ……あああああああああ!!!!!」
『無茶はいけませんイリヤ様。ダメージは一度死亡した時に償却されていますが。
それでも疑似魔術回路を使用した反動は抜けてはいません。今は身を潜めて下さい』
「で…でも……悟飯君や…クロを止めないと……」
『バーサーカーとセイバーのカードが使用不可になった今では勝ち目はありません。
今は耐えて下さい。他の皆さまを信じ、耐えるべき時です、イリヤ様』
治癒速度を全力で上げており、二時間もあれば戦闘可能な状態まで引き戻して見せる。
そう強くサファイアに訴えられれば、イリヤも無下には出来ない。
此処で無茶をしてマーダーと遭遇すれば、バーサーカーが守ってくれた意味もなくなる。
苦渋の表情で、イリヤは決断を下した。
「分かった……急いで、サファイア…………!」
『勿論です。大丈夫です、イリヤ様。貴女さえ生きていれば、希望は繋がります』
そう答えつつも、ハッキリ言って見通しは真っ暗だと、サファイアは考えていた。
悟飯の発狂により、一時は十人近かった集団は崩壊。のび太と美柑は死んだ。
日番谷や紗寿叶との再会の目途も立たず、悟飯やクロエは未だマーダーだ。
今の状況は月の光さえ刺さない新月の夜、無明の荒野を進んでいるに等しい。
だが、それでも……それでもサファイアは信じていた。夜は夜明け前が最も暗い。
自分のマスターである美遊が、信じたこの少女さえ生きていれば、希望は消えていない。
───月の光すら届かない暗夜だとしても。それでも、星はまだ輝いている。
【一日目/日中/D-5】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(大)、決意と覚悟
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、クラスカード『アサシン』、『バーサーカー』(二時間使用不能)、『セイバー』(二時間使用不能)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、
雪華綺晶のランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:悟飯君と、みんなを助ける。
1:雪華綺晶ちゃん……。
2:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
3:殺し合いを止める。
4:サファイアを守る。
5:みんなと協力する
6:美遊、ほんとうに……
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
※バーサーカー夢幻召喚時の十二の試練のストックは残り2つです。これは回復しません。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました。
【逆時計@ドラえもん】
逆にしか針が回らない時計。戻したい時間に回せば、何もかも前と同じ状態に戻る。
正し、戻し過ぎると生まれたばかりの生物は消えてしまう事態も発生する。
致命傷を負った参加者、死者に使用しても効果を発揮しない。
一回の使用で六時間の制限。また、三回使うとただの時計に戻る。
【エネルギー吸収装置@ドラゴンボールZ】
アーカードに支給。
魔人ブウ復活のための汚れていないエネルギーを吸引するための道具。形状はポットに似ており、先端を相手に突き刺すことにより、エネルギーが吸引・注入できる。
その容量は超サイヤ人2の悟飯のエネルギーを吸い取り切ってもまだ余裕があるほど
ちゃんと刺さっていないと吸引できないため、対象の身動きを完全に封じた上で数分は吸い取らなければならない。
【祝福の粉@ドラえもん】
ロキシーに支給。
使えば体力を回復できる粉。10個セットで支給された。
グレーテルは闇を治療するために全て使い切ってしまった。
【媚薬@無職転生 - 異世界行ったら本気だす -】
水銀燈に支給。
バティルスという花が原材料の、不能だったルディをも蘇らせた媚薬。
フィットア領転移事件以降は金貨百枚を超えて取引されるほど高騰している。
【サンダーボルト@遊戯王デュエルモンスターズ】
リップ=トリスタンに支給。
発動すると相手フィールドのモンスターを全て破壊する。
ただし効果を発揮するのはマジック&ウィザーズのモンスターカードのみ。
参加者や意志持ち支給品は対象にならない。
一度使うと六時間使用不能。
投下終了です
失礼しました日番谷隊長の現在位置が抜けておりました
日番谷隊長の現在位置は
【一日目/日中/F-6】
でお願いいたします
エリス・ボレアス・グレイラット、うずまきナルト、勇者ニケ、ディオ・ブランドー
予約します
予約にイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを追加して延長します
投下します。
─────────ルーデウス・グレイラット。
「……………………………………………………………………………………え、」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
火影岩を目指し歩いていた時に鳴り響いた凶兆。
二度目の放送は、少年たちに大きな動揺を及ぼした。
おじゃる丸、水銀燈、セリム・ブラッドレイ。
この三名の名前が出た時、うずまきナルトとニケの心中に驚愕と慙愧と悔恨が渦巻き。
キウルの名前が呼ばれた時には、ディオ・ブランドーは納得と舌打ちで受け入れた。
だが、彼等は未だ幸運だった。何故なら元の世界の仲間は誰一人として呼ばれていない。
ここでミグミグ族の末裔の少女や、うちは一族の末裔の少年が呼ばれていれば。
最早事態は収集がつかないほど混迷を極める事となっただろう。
最悪の展開は回避できた。だがしかし、それで大団円という訳には当然ならない。
彼らの隣には今まさに、元の世界からの知己が呼ばれた少女がいるのだから。
「エ、エリス…………」
ニケが声を掛けようとして、言い淀む。
彼女がルーデウス・グレイラットに思いを寄せている、なんてことは。
この場にいる者全員にとって周知の事実だったのだ。
一番付き合いが浅く、エリスを良く思っていないディオですら知っている。
そして、その想いの丈がどれほど大きいのかも。
だからこそ、何と声を掛けていいのか分からない。
恐れていた事態が、現実のものとなってしまった。
「…………………………………………」
放送までは荒々しく騒がしかった少女が一言も発しない。
猛犬の様な気性は完全に沈黙して。
長い真紅の長髪で隣からは表情が窺えないまま、無言で俯いている。
それを眺める少年たちも眺める事しかできない。
今のエリスの姿は爆発寸前の爆弾のように危うく。
同時に、突けば塵になって風に運ばれて行きそうなほど、儚い物だったから。
「……………ナルト」
五分程経ってから漸く。
エリスは、この場で最も付き合いの長い少年の名前を呼ぶ。
その声は、痛ましい程に乾いたものだった。
表情も、魂が抜け落ちてしまったかのように平坦で、能面の面持ちをしていた。
少年たちが言葉を失う中、エリスはナルトに告げる。
「ごめん。私、やっぱり無理」
もしかしたら、とエリスも最悪の未来を想定してはいた。
でも、決して信じたくはなかった。どんなに強い者が相手だとしても。
ルーデウス・グレイラットが死ぬなんて。
誰かに、殺されてしまうなんて。あの強くて、賢くて、頼りになったルーデウスが。
名前を聞いた瞬間から、頭の中で得体のしれない気持ち悪さが脳内をぐるぐると巡る。
頭の中で蠢く昏いナニカ。それに名前を付けるなら、それはきっと。
────絶望と言うのだろう。
一度気づいてしまえば、抑える事は無理だった。体は絶望の奴隷になった様に剣を抜いて。
止めなければと思うけれど、同時に今堪えた所で意味は無いだろう。
今堪えた所で、絶対に後々抑えきれなくなる時が訪れるだろうから。
なら、今で良い。そう結論付けて、エリスは目の前の少年に切っ先を向けた。
そして一言、彼に要求を行う。
「私と、戦いなさい」
エリス・ボレアス・グレイラットの懇願にも似た言葉を、うずまきナルトは受け入れた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「おいッ!いいのかニケ!あの二人、本気で戦うつもりだぞ!」
「ん〜?意外だな。お前が二人の心配するなんて」
「当たり前だッ!メリュジーヌや槍使いの女や金髪の痴女の様なマーダーはまだまだいる。
そんな時にあの女の決闘じみた真似に付き合ってどうする!?僕達三人で────」
「僕たち三人でどーすんだよ。エリスを殺すとかいうんじゃねーだろうな」
「………やむを得ない場合は、そうなる事も覚悟すべきだろう」
「却下」
折角の戦力を目減りさせたくないという提案は、一言で切って捨てられる。
だが、当然それで引き下がるディオではない。
脳みそが少なめのスカタンには話が難しすぎたかと考えつつ、考えを巡らせて。
知能が猿に等しいと見られる、眼前の少年を説得しようとした。
「……では、ニケ。君はエリスが此方の説得に応じると思うのか?
それとも、例え殺し合いに乗った相手でも話し合えば考えを翻すとでも?」
ディオは問いかけて直ぐに、そんな事は不可能だと吐き捨てた。
このバカは低能だからそれを理解していないのかもしれないが。
ドロテアがいい例だ。あの女ならニケなどナルト共々利用しつくし最後には捨てるだろう。
メリュジーヌだって、話して分かる女にはとても見えなかった。
煮ても焼いても食えない奴は必ずいる。というかディオ自身がまさにそう言った人間だ。
もしニケが軽々しく「そうだ」と言えばディオは彼を本気で蔑如するつもりだった。
だが、ニケは難しい顔で、ディオの指摘に対する自分の考えを述べた。
「………俺だって、そりゃ誰でも言って聞く奴だと思ってないさ。
中島みたいに乗ってないフリをしてて、気を付けないといけない奴がいるのも分かってる」
でも、とニケはそこで言葉を区切って。
「エリスはそう言う奴らとは違うだろ、どう考えても乗ってないフリとかできないじゃん」
ニケの返答に、ディオは言葉に詰まる。
彼自身、直情的なエリスにそう言った腹芸を行うのは不可能だろうと思ったからだ。
とは言え、だからと言って。エリスが説得に応じると思うのか。
今度はより強く両手を広げ大仰に、訴える様に、ニケへと言葉を投げかけた。
「わからん。けどナルトも俺達に言ってたろ?手ぇ出すなって。
そう言うからには何か考えがあると思うし、俺はそいつに期待したいね」
話を要約すると、あるかも分からないナルトの考えに期待と言うスタンスらしい。
ディオはそれを聞いて、勇者だ何だと宣っていたが、やはりこのガキはド低能だと苛立った。
ニケに負けず劣らず低能そうなナルトに、何が期待できるというのか。話にならない。
低能なら低能らしく、自分の指示に服従していればいい物を。
喉元からせり上がりつつあった罵倒の数々を、意識して抑え込む。
こんなのでも一応は自分が持つカード。メリュジーヌと会うまで浪費はしたくない。
なので苛立ちを押し殺し、三人で一気にエリスを制圧する正当性を教授してやろう。
そう思い話を切り出そうとした彼の言葉を遮る様に、ニケが問いかける。
「危ない奴、役に立たねー奴は例えついさっきまで仲間でも切り捨てる。
それが一番安全で、お前が考える通り賢いやり方なのかもしれないけどさ、でも……」
お前が怪我か何かで切り捨てられる側になっても、同じ事言えるか?
ニケはディオを真っすぐに見つめ、そう尋ねた。
普段ふざけてばかりの彼にしては、真剣な眼差しと声色だったが。
だからといってディオが納得できるかと言えば別の話だ。
「……論点をすり替えるな。僕はそんな仮定の話はしてない。
今、ここにある脅威の話をしているんだ。お前が何と言おうと……
エリスは、今の僕達にとって紛れも無い脅威で、今のうちに制圧するべきだ」
ニケの言葉を聞いた時、ディオが真っ先に思い浮かべたのはドロテアの顔だった。
放送で名前を呼ばれなかった、恐らくはキウルを生贄にして生き残ったであろう魔女。
彼女とは馬が合ったし、協力体制を築いてはいたが。
今はできれば会いたくない、それがディオの正直な心境だった。何故なら。
乃亜の手によって、ドミノという殺し合いを加速させるルールが追加されたからだ。
そうでなくとも、永沢を首輪目当てで自分に殺害させる事に躊躇のなかったあの女が。
ドミノなどと言う、弱者を切り捨てに更なるメリットが付与されてしまえば。
(恐らく、あの時ヤツの試験に合格した僕ですら………)
マーダーに奪われる前に殺されて、ドミノの引換券にされていた公算が高いだろう。
永沢は何の能力も持っていない上に、愚鈍だったから最初の生贄に選ばれたが。
モクバは首輪を外すために欠せない技術者である以上、次に生贄にされていたのは…
先ず間違いなく自分が切り捨てられていただろう。ディオはそう見ていた。
今はスタンドと言う力を得たものの、ドロテアは恐らくスタンドの事を知っている。
情報交換の折に、帝具というアイテムの他にスタンドの事を彼女は口にしていた。
頭に差し込めばスタンドという異能力を得られる、円盤に心当たりは無いかと。
であれば、ディスクを奪えばスタンドも奪えるという情報も彼女は知っているだろう。
異能力を得て安心するのは、あの魔女に対してはむしろ危険だ。
切羽詰まればどう動くか分かったモノではなく。とてもではないが、信用できない。
恐らくニケが言いたいのも、悪しきを切っても団結はなく、疑心を生むだけだとか。
そう言った類の主張なのだろう。それは広い視点で言えばディオも一理あったが……
とは言えそれはそれ、これはこれ。今のエリスへの対応を如何とするかはまた別の話。
エリスを三人で制圧すべきと言うディオの主張は、やはり強硬なもので。
訴えを翻すつもりなど毛頭なさそうな彼に対し、ニケは面倒くさそうに溜息を吐き。
じゃあこうしようと、一つの提案を持ち掛けた。
「先に一発当てた奴が当てられた方のいうことを聞く。これで行こうぜ」
「なんだと?」
「勝負でもしないと、お前どうせ納得しないだろ?
さっ!さっさとやろう。ナルト達の方が先に終わっちまう」
準備体操で身体を伸ばしながら、ニケはディオに勝負を持ち掛けてくる。
アヌビス神を抜く様子もなく、無手のまま。いつもの通りのアホ面で。
だが、ディオはその手に乗るかと吐き捨てた。
何故なら、彼の頭部には未だ戒めたるこらしめバンドが嵌められたままなのだから。
これを嵌めている限り、そもそも勝負など成立しない。それが彼の認識だった。
「よし、なら今は外してやるよ」
「……ッ!?き、貴様、そんな軽はずみに外して……ッ!」
「何だよ、お前にとっては願ったりの事だろうが。いいから、伸るか反るか早く決めてくれ」
ひょいっと事も無げにこらしめバンドを取ってみせるニケに呆気に取られるが。
すぐにディオは、これはチャンスだと思いなおした。
ここでニケに身の程を思い知らせれば、自分が今後のイニシアティブを握れはずだ。
自分が上で馬鹿(ニケ、ナルト)が下、それをハッキリ分からせ、この集団を牛耳る。
そうなれば、再びこらしめバンド等というものを嵌められる心配もない。
いや、今度はエリスに嵌めさせてやるのも意趣返しできっと面白いだろう。
その光景を想像して、ディオの口角が僅かに吊り上がった。
「いいだろう……僕はスタンドを使うが、ニケ、君はアヌビスを使わないのか?」
「いいよ、お前が相手だとこいつ手を抜きそうだし」
『テッ!テメー!何故わかった!?』
「………お前のそういう分かりやすくゲスい所、嫌いじゃないよ俺」
ニケは己の言葉の通り、背中のアヌビス神を抜く様子はなく。
ちょいちょいと右手の人差し指を動かしてディオを誘う。
どうやら、本気で無手のままゴールドエクスペリエンスに勝つつもりらしい。
その事実を受けてバカが、とディオは心中で何度目になるか分からぬ嘲りを発した。
自称勇者は、本気で頭脳がヌケ作な様だ。幾ら何でもこのディオを舐めすぎている。
どてっ腹か顔面にスタンドの拳を叩き込み、それを分からせてやろう。
獰猛な自己顕示欲求を滲ませつつ、ディオはニケと対峙した。
「では、行くぞッ」
対峙した瞬間、ディオは一方的に言葉を放ち、返事を待つことなくスタンドを現す。
彼は更に先手必勝と言わんばかりに地面を蹴り、ニケへと砂を巻き上げた。
貧民街の賭けボクシングによって鍛えた目潰しは、狙い通りニケの顔面へと向かう。
ニケはやはりアヌビスを抜く様子はない。勝った。ディオは勝利を確信する。
今から刀を抜いてもニケは間に合わないし、刀を使わないとリーチの差で勝てないためだ。
後悔するがいい、簡単作画のマヌケ面がァッ!と、興奮と共に、拳を振り下ろす。
「無駄ァッ!!!」
生意気な馬鹿餓鬼を分からせるべく、未来の邪悪の化身は高らかに叫び。
背中に立つ者の拳を、自称勇者へと叩き込む。
着弾まで計算外な事は何もなく、寸分の狂いなく。
黄金の拳は、ニケの頬へと突き刺さった。
「僕の、勝ちd───────ごぉッ!?」
勝鬨は、最後まで紡がれることはなかった。
ゴスッ!チーン、と。そんな間の抜けた音が聞こえてくるほど。
ニケの腹の辺りから伸びた丸太が、見事なまでにディオの股間を捉えていた。
脂汗が噴き出し、ぐりんッと少年の視界が白眼になるほど上へと動く。
その過程の一瞬で垣間見た。スタンドの拳を受けたはずのニケの顔が。
いつの間にか、上半身丸ごと人形(ハリボテ)に変わっていることに。
そこで漸くディオは悟る。スタンドが殴ったのは人形。
ニケ本体は一瞬で姿勢を低くして、攻撃をやり過ごしたのだ。
顔面を狙った目つぶしも、射線が高すぎた為当然効果は無い。
「ひきょー剣。お前の次の台詞はキサマそんな人形どこから出した……だ」
直後、支給品である丸太によって行われたニケのカウンターは見事決まった。
ガラ空きとなっていた、ディオの股間に。
股座を抑え崩れ落ちるディオを眺めるニケの表情は、どこか満足げだった。
「キ………キサマそんな人形どこから出した………!」
「それは企業秘密、そこもまた卑怯剣の卑怯な所なのだ」
なっはっはと軽い態度で笑うニケを見あげて、ディオの額に青筋が浮かんだ。
このままで済ませてなるものか、後悔させてやる。
勝負はニケの勝利だが、こんなカスに舐められたままで良い訳がない。
怒りのまま、ゴールド・エクスペリエンスの能力で、殴った人形に命を吹き込む事を試みる。
人形を蛇や蝙蝠など適当な動物へと変えて、帰巣本能によりニケに突撃させてやろう。
当初の目的も忘れて、プライドを護るべく復讐に勤しもうとしたディオだったが。
仕返しを阻む様に、彼の頭を締め付ける様な痛みが襲った。
「ぐぉおおおおお!?き、キサマ何時の間に………」
「さっき倒れた時。もう勝負はついたしな。
何も無しだとお前約束破ってエリスに攻撃仕掛けかねないだろ?」
ディオの頭には、先ほどまでと同じくこらしめバンドが嵌められていた。
股間の痛みで前かがみになり、警戒が疎かになった所を装着されたのだろう。
痛みに比例する様にバンドの締め付けは強くなり、ディオはのたうち回る。
締め付けが緩んだのは、締め付けに依る痛みがニケへの怒りを上回ってからだった。
満身創痍で横たわるディオを尻目に、軽い調子でさぁ見物しようぜとニケは宣う。
それを見て仕方なくここはニケの言う通りにするしかない、そう判断したディオは、憎まれ口の様に問いかけた。
「貴様……本当に言った通り上手く行くんだろうな…………!?」
「あぁ、勿論。そりゃお前の言う通り、上手くいく奴いかない奴はいるだろうけどさ
それでも俺は信じるぞ。ナルトとエリスはまぁ何とかいい感じに────」
勇者が、仲間への信頼の言葉を口にしようとしたその時。
何かを蹴り飛ばす様な、鈍い音が響く。
音の出所。それはエリスが、ナルトを蹴り飛ばした音だった。
相当な勢いで蹴られたのだろう、砂煙を巻き上げながら、ナルトは蹴り飛ばされていく。
それを眺めて、しばらく沈黙してから。
「……よし、ディオくん。ナルトがミスったら二人でエリスをとっちめよう」
「殺すぞ……キサマ………!!」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
大好きで尊敬している剣王ギレーヌに教えて貰った剣は、空を切るばかり。
当たるのは、胸の奥からこみ上げるモノに従って打った拳や蹴りだけ。
馬鹿みたいだと思った。こんな暴力(ちから)あったって、意味はないのに。
怪物(シュライバー)には敵わない。守ってあげたかった人はもういない。
ルーデウスは、与り知らぬ場所で死んでしまった。それなのに、自分はまだ生きている。
何のために?賢いルーデウスじゃなくて自分がおめおめと生き残っているのか。
どう考えても、回復魔法が使えるルーデウスが生き残っていた方が皆の役に立つのに。
分からない。何も。今、エリス・ボレアス・グレイラットは何のために戦っているんだっけ?
色んな分からないが渦を巻いて、でも、一番分からないのは─────
「何でよ……」
少女の目の前で蹲る、少年の事だった。
腹部に叩き込まれた回し蹴りの痛みに耐え、うずまきナルトは再び立ち上がる。
彼はニケとディオが小競り合いをしている時からずっと。
幽鬼の様に襲い掛かって来るエリスと戦い続けていたのだ。
振るわれる凶刃を躱し、しかしその後に続くエリスの拳や蹴りまでは躱せずに。
身体の至る所に痛々しい傷と痣を作りながら、今なお彼はエリスと対峙していた。
だが、この戦いにおいて、エリスにはどうしても分からない。不可解な点が一つ。
理解できないと言った顔と声で、彼女はナルトに尋ねた。
「なんで……なんで……っ!反撃してこないのよ!!」
エリスの言葉通り。
ここまでナルトはエリスの攻撃を躱すばかりで、一切反撃をしてこなかった。
攻撃も刀剣による致命になるものだけ躱し、それ以外は殴られても、蹴られても。
彼はエリスに攻撃しようとする素振りすら見せなかったのだ。
それが、どうしても分からない。何故、ナルトは無抵抗なのか。
「ホカゲになるんでしょ!こんな所で殺される訳にはいかないんでしょ!」
それなのに、どうして。どうして自分に付き合って殴られているのか。
どれだけ考えても道理に合わない。意味不明だ。
そんな悲鳴にも似た叫びをあげるエリスを前に、ナルトは口元を伝った血を拭い。
目の前の少女を静かに見据えながら、口を開いた。
「前に言っただろ、エリス。仲間を見殺しにして…火影なんかなれるかって」
語るナルトの眼差しは、とてもとても強い物だった。
絶対に揺らがない、強靭な意志を秘めた瞳。
その眼差しを前に目にした時は頼もしく思ったけれど、今の彼女にとってそれは毒で。
見つめられるほどに、心が軋んだ。
そんなエリスに、ナルトは有無を言わせない語気を伴いながら尋ねる。
「エリス、お前が優勝する為に殺し合いに乗るなら、俺も本気で止める。
でも、お前…本当に勝つ気でいんのか?本気で、優勝するつもりなのか?」
「………っ!?」
ナルトのその言葉は。
今のエリスの本質を捉えていた。
「俺はお前と戦わない。お前を…本当に独りぼっちにさせるわけにゃいかねぇってばよ」
──エリス・ボレアス・グレイラットは、既に現実を知ってしまっている。
もし、返り討ちにしたオールバックの少年や、インセクター羽蛾の様な参加者だけなら。
彼女も、迷うことなくルーデウスの蘇生を目指し殺し合いに乗っていたかもしれない。
だが、この島にはシュライバーや我愛羅、メリュジーヌなど……
彼女の力量を遥かに超える参加者が跋扈している事を知ってしまっていた。
その現実を前に、無邪気に優勝を目指せるほどエリスは愚かでは無かったのだ。
「黙りな、さいよ………」
震える声で、エリスは呟く。
自分すら半ば直視する事を避けていた脆い部分を突き付けられている様で。
これを否定されてしまったら、本当にどうしたらいいか分からないのに。
「俺は!お前の自殺に付き合うつもりはねぇッ!」
「黙れぇええええぇええええぇええええッ!!!」
弾ける様に駆け出し、抑えきれない衝動を叩き付ける様に刃を振るう。また躱された。
構わない。刃を放り投げ、ナルトが躱したタイミングに合わせて殴り掛かる。
腰の入った左フックが、ナルトの顔面に直撃。大きく彼の身体が傾ぐ。
だが、一発程度で今のエリスの激情が収まる筈も無い。
「アンタにッ!何がッ!分かるのよ!!
最初からッ!独りだったって言ってたアンタに!亡くす事がどんなに苦しいか……!」
殺し合いに優勝して、ルーデウスを生き返らせる。
遮二無二に戦って返り討ちに遭い、ルーデウスのいる場所に逝く。
何方を目的としていたのかは分からないけれど、ナルトの言う通り。
ああそうだ、きっと私は、死に場所を、死んでいい理由を求めていた。
ナルトはそんな私のことを見抜いていたけど、見抜かれたくはなかった。
この島で出会ったばかりの、数時間しか一緒にいなかったこいつに───!
行き場のない悲しみと、汲みつくせぬ絶望がナルトを打ち据える。
「あぁあぁあああああああああッ!!!!」
目にも止まらぬ右ストレートが、ナルトの顔面に再び着弾。
みしりという骨に罅を生じさせる感触が、拳へと伝わって。
そのまま歯を食いしばり、全力のインパクトを籠めて殴りぬいた。
ナルトの首から上は大きくのけ反り、後方へと吹き飛ばされていく。
────しかし。
「…シュライバーの奴と戦った時」
ナルトは、倒れなかった。
顔に痣を作り、先程より多く口の端から血を垂らしながらも、膝を折る事も、蹲る事も無い。
不動の大樹であるかのように泰然と、エリスへ向かう姿勢を保ったまま。
静かに、彼は告げるべき言葉を紡いでいく。
「セリムとお前が戦ってくれてなければ、俺は死んでた」
あの時、セリムと共にエリスが孤軍で奮闘してくれていたからこそ。
絶望的な戦況の中、彼女が膝を折らなかったからこそ。
後のナルトの復活と、鏡花水月の発動に繋がったのだ。
彼女がいなければ、ナルトは復活する間もなくとどめを刺されていただろう。
つまり、エリスはナルトにとって命の恩人であったのだ。だから。
「お前にとって俺は仲間なんかじゃねぇのかもしれねぇし…
実際、オレはお前の知ってるって言えることは殆どねーけどさ」
でも、自信もって言える事が二つある。
告げるナルトの表情は、やはり己に負い目を感じさせない揺らがぬ物で。
追い打ちを掛けようとしていたエリスの足と手が止まり、少年へと視線が惹きつけられる。
世界から、ナルトの吐く言葉以外の音が消失を成す。
「でも…エリスは悪い奴じゃねぇし。
俺はお前と仲間になりたいと思ってる。それだけは確かだ」
紡がれた言葉を聞いた瞬間。
色々な彩が混ざり合った感情がただ、こみ上げて。
わなわなと、震えた。言葉が上手く出てこない。
「本当に、何でよ……なんで………」
耐えられなかった。
自分は、そんな言葉を掛けられていい存在じゃない。
最後に残ってくれた、たった一人護りたかった人さえ守れなかった役立たずなのに。
今だって、自暴自棄になって暴れている自分のような子供が。
そんな言葉を掛けて貰っていいはずがない────、
しかしエリスの悲嘆と慟哭を、ナルトは一言で切って捨てた。
この考えを枉げるつもりは無いと。自分の信念を掲げる。
そう、例えエリス自身が否定したとしても。
「真っすぐ自分の言葉は曲げねぇ……それが俺の忍道だ」
────あぁ、
────こいつは本当にいい奴なんだな。
その言葉を耳にした瞬間、頭の中に自然に浮かんだのはそれだけだった。
彼の言葉を聞いていると、大切な人一人守れなかった、役立たずの狂犬でも。
まだ、生きていてもいいのかもしれない。そう思えた。だから。
「───ありがと、ナルト」
エリスはふっと笑って。
ナルトに対して、感謝の言葉を述べた。
彼女の感謝に対して、ナルトは無言のまま、しかし力強く頷く。
だが、まだ構えは解かない。むしろ逆。
ここで初めて、彼は術を発動するための印を汲む態勢に入った。
本番は此処からだと、彼も分かっていたからだ。
「うん……もう少しだけ、私に我儘に付き合ってもらうわ」
───やっぱり、アンタはいい奴ね。
心中でそう呟いて、エリスは羽蛾から譲渡された武装を掲げた。
インクルシオ。その名を呼ぶと共に、白亜の全身装甲が彼女の身体を包み込む。
自暴自棄の果てに命を捨てるのではなく、もう少しルーデウスに誇れる死に方をしよう。
ナルトの言葉のお陰で、そう思えた。
だが、まだだ。まだ彼らと一緒に行くにはまだ足りない。
今殺しておかなくてはいけない病巣が残っている。
乃亜の走狗となり、殺し合いに乗る──そんな選択肢は、此処で完全に殺しておくのだ。
だからエリスはインクルシオを起動し、刀を構えた。
自分自身反吐が出そうになる悪魔の囁きに、とどめを刺すために。
「行くわよ、ナルト───死ぬんじゃないわよ」
「あぁ───来い、エリス」
ぼん、と煙を上げて、ナルトの隣にもう一人のナルトが現れる。
分身の術。けど、その数はシュライバーと戦っていた時と違い一人だけ。
しかしエリスは舐められているとは思わなかった。
ナルトなりの勝算があって対峙している事に、もう疑いは無かったから。
恐らく素の彼の攻撃であれば、自分の纏っている装甲は全て弾いてしまうだろう。
そんな相手に、どうやって挑むつもりなのか。
エリスの心中の大半を占めていたのは、最早それだけだった。
────応え合わせをするべく、大地を駆ける。
「はぁああああああああああッ!」
「らぁああぁあああぁあああッ!」
エリスが駆け出すのに合わせて、ナルトも全力で地を蹴る。
仲間を止めるために、己の言葉を曲げぬために突き進んだ。
疾風となった二人は二秒と掛からず、その距離をお互いの手の届く距離まで縮め。
その瞬間に、エリスは手に握り締めた大業物を、ナルトへと向けて突き出した。
選んだのは突き。だが、剣王ギレーヌとスペルド族のルイジェルドの薫陶を受けた突きだ。
例え躱したとしても即座に彼女は剣先を滑らせ、刃はナルトを切り裂いただろう。
ナルトが、回避を選んだとしたならば。
「ぉおおおぉおおおおおああああああああッ!!!」
だが、ナルトの身体が僅かでも逸れることは無かった。
ずぶりと、エリスが握る和道一文字に肉を裂く感触が伝う。
ナルトが左手を突き出し、自分から刀に手の甲を貫かせたのだ。
そして、手を貫かれた痛みなど気にせず、咆哮と共に一気に距離を詰める。
不味い。直感が脳裏を駆けると、エリスはナルトの掌を切り裂こうと刀を振るう。
だが、なるべく切り裂く範囲を小さくするべく動かそうとした刀が停止した。
まるで何かに引っかかった様な感触だったが、事実彼女が感じた感触の通り。
和道一文字の刃は、ナルトが掌に集め圧縮したチャクラによって固定されていた。
チャクラを掌に集める作業は、彼にとっての十八番。
勿論数秒も保たない固定であるが、今は数秒もあれば十分すぎる!
それを裏付ける様に肉を貫かれながら突き進んだナルトの掌が、刀を握るエリスの手を捉えた。
「行くぜ、エリス」
握り締めた拳はエリスを離さず、決して逃がさない。
そして、照準を着けた標的に向けて、残った方の腕で作った超高等忍術を。
影分身が掌に集めたチャクラを圧縮した、うずまきナルトの切り札を。
決着の一撃を、躊躇することなく眼前の竜の残滓へと放つ───!
「螺旋丸────ッ!!」
突き出された、忍びの掌で高速回転するエネルギーは寸分の狂いなく命中。
着弾の瞬間、対するインクルシオの装甲は使用者を守ろうと堅牢な装甲の維持を行う。
だがしかし、貫通力に重きを置いた雷切、又は千鳥ならば兎も角。
敵の体内を突き抜ける“衝撃”こそ本領の螺旋丸に、インクルシオの防御力は意味を成さず。
「───強いわね、ナルト」
鎧に包まれた中で、何処か晴れやかにそう呟き。
エリスの意識が、鎧越しに突き抜ける衝撃によって刈り取られる。
決着は、一度の交錯で訪れた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
インクルシオの窮屈な視界から解放され、大の字で寝転がって。
嫌になるくらい青い空ね。ぼやけた視界で天を仰ぎながら、エリスは小さく呟いた。
そんな彼女の隣に、寄り添うように座り込む影が二つ。
「エリス、お前が無理だって思うならそれでもいい。
俺達が戦って、乃亜ボコって、ルーデウスってのを取り戻す方法、見つけてやっからさ」
「そーそー…心配すんなって。乃亜何かに頭下げなくてもさ。
俺達でめでたしめでたしで終われる方法探して総取り。そっちの方がいいだろ?」
だから泣くなよ。
ナルトに加えてニケも、笑ってエリスに声を掛ける。
その言葉はとても暖かくて、眩くて。
信じたいと、そう思った。
だから、今迄涙から溢れていた塩水をごしごしと拭う。
涙を流すのはこれでお終いだ。
むくりと起き上がって、二人に返事を返す。
「……私の我儘に付き合わせて、悪かったわ」
───ねぇ、ルーデウス。
私と違って頭のいい貴方はどう思う?
こいつらなら、乃亜を、貴方を奪ったあの外道に勝ってくれるかな。
こいつらに、賭けてもいいかな。
「でも、お陰で吹っ切れたわ────もう大丈夫よ」
分かってる。
もう貴方はいない。私の無知と無力のせいで、貴方は死んでしまったから。
だからこの選択だけは、私は私の意志で決めないといけない。
そして、選ぶ道はもう決まっている。
どうせ自棄になって、適当に捨てようとしていた命だ。
なら、私は私を仲間と呼んでくれる人たちの為に使おうと思う。
こいつらなら、きっと貴方の仇を取ってくれるって、そう思ったから。
こいつらが作る結末なら、どんな結末でも笑って許せそうな、そんな気がしたから。
例えその結末を迎える時には、私はいないとしても。
「いやーお礼なんて良いさエリス。お前の笑顔と、
そして何よりパンツの一枚でも見られたら、それが何よりの報しゅおごおおおッ!?」
調子に乗ったニケを蹴り飛ばす。うん、これでもういつも通り。
もう涙は流さない。流すのは、この戦いが私達の勝利に終わって。
貴方ともう一度会えた時まで、とっておく事にする。
だから、もしもう一度出会えた時は。
ううん、出会ってから、私が貴方を今度こそ守れるくらい強くなったら。
貴方と釣り合う女になる事が出来たら。
その時は、私と家族になって下さい。ルーデウス。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
な?上手く行ったろ?
蹴り飛ばされてごろごろと転がった先で。
勇者ニケは、傍らに佇む金髪の少年に得意げに笑いかけた。
「……調子に乗るな。行き当たりばったりで、偶々上手く転んだだけだろう」
紳士的な振る舞いで猫を被る事もせず。
どこか苦々し気に、ディオ・ブランドーはニケに毒を吐く。
だが、当然そんな毒一つ気にする勇者ではない。
「おうよ。勇者ってのはいつだってしょぼい武器とはした金で旅に出るんだ。
自慢じゃないけど、行き当たりばったりさでは誰にも負けない自信がある!」
「本当に自慢にならんぞこのスカタン。第一、お前の何処が勇気ある者だ」
ディオの認識では、ニケは勇者と呼ばれる者のイメージからは程遠い。
勇者と言うのはもっと勇気があり、なおかつ爆発力を有した───
と、そこまで考えて不愉快な顔が浮かび、露骨に不機嫌な表情となる。
そんなディオの様子を見て、ニケは肩を竦めて減らず口を返した。
「よく言うぜ、お前の言葉の通りの勇者、お前ぜってー嫌いだろ」
「………余計なお世話だ」
ニケの言葉の通りだった。
勇気だとか友情だとか、そう言った物にディオ・ブランドーは価値を見いだせない。
それが生来の物か、それとも環境に依る物かは定かではないけれど。
それでもそういう人間なのだから仕方ない。
だから彼は情ではなく、実利を伴った事実だけを汲み取ろうとするが。
その視点から言っても上手く収まる所に収まった、そう評する他なかった。
エリスが下らない情にほだされてくれたお陰で、半ば失うと見ていた戦力が。
一先ずは今後も使えるだろうという所に着地したのだから。
(このお人好しどもをコントロールするのと、
ドロテアと裏切りを懸念しながら付き合っていくのと、何方が僕にとって得なのか……)
そんな考えが脳裏を過るが、しかし即座に首を振って棄却する。
どうせメリュジーヌと会った時が縁の切れ目になる連中だ。考えても仕方ない。
それにドロテアと行動を共にしても、お互い竜騎士を押し付け合う事になるだけだろう。
だから考えても仕方ない。何方になっても余り結果は変わらないのだから。
「まー、裏切るとか、裏切られるとか気にしてやってくよりさ。こっちの方が楽じゃん?」
能天気なニケの言葉を否定する語彙が咄嗟に出てこないのが、癪だった。
「つーわけでディオ。お前のスタンドでエリス達治してやって来いよ」
「結局それが目的か、この阿呆が」
「いいじゃん、お前もお前の力がどんなもんかは気になるだろうしさ。
頭の輪っか外してほしかったらきりきり働き給え、僧侶ディオよ」
誰が僧侶だ。
そう悪態を吐くが、確かにニケの言葉の通り。
この忌々しい頭の輪を外させるのを考えれば、エリス達に恩を売っておく必要がある。
ちっと舌打ちを一つ響かせてから、ゴールドエクスペリエンスを顕現させ。
支給品に書いてあった、生命エネルギーの活性化の実験を行おうとした時だった。
「あの………」
エリスの物ではない少女の声が響き。
声が聞こえた方へと一同は身構える。
そこに立っていたのは、傷だらけで、しかし強い意志を感じさせる真紅の瞳の少女だった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
止めないと。
赤い髪の女の子と、額当てをした金髪の男の子が戦っていたのを見つけた時。
私はそう思って、止めに入ろうとした。
サファイアは無茶だと止めていたけど、でも、それでも止めたかった。
赤い髪の女の子は、泣きそうな顔で戦っていたから。
もう美遊みたいに、悟飯君みたいに。
戦いたくない人たちが、泣きながら戦うのを見たくは無かったから。
───俺はお前と戦わない。お前を…本当に独りぼっちにさせるわけにゃいかねぇってばよ。
でも、割って入ろうとした体は直ぐに動きを止めて。
そこから先は、二人の戦いに見入っていた。
今、割って入ってはいけないって、強くそう感じたから。
───でも…エリスは悪い奴じゃねぇし、俺はお前と仲間になりたいと思ってる。
男の子の、その言葉を聞いた時。
きっと私は、のび太君は。
美遊や悟飯君にもっと早く、手遅れになる前に。
そう言ってあげるべきだったんだ。
二人のやりとりを聞いて、胸が締め付けられる切なさと共に漸く気づく事ができたから。
そして私は、二人が和解するのを見届けた後、その場の人たちに話しかけた。
躊躇は無かった。時は私に寄り添って、一緒に蹲って悲しんではくれないから。
何より、私達ができなかった事をやり遂げたこの人たちなら。
この人たちとなら、今度こそできるかもしれないって、そう思えたから。
「私……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言います」
だから、立ち上がろう。
もう一度、歩みだすために。
【一日目/日中/D-6 火影岩がそろそろ見えてくる地点】
【エリス・ボレアス・グレイラット@無職転生 ~異世界行ったら本気だす~】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、精神疲労(大)、決意
沙都子とメリュジーヌに対する好感度(高め)、シュライバーに対する恐怖
[装備]:旅の衣装、和道一文字@ONE PIECE、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!(相性高め)
[道具]:基本支給品一式、賢者の石(憤怒)@鋼の錬金術師、リコの花飾り×1@魔法陣グルグル
[思考・状況]
基本方針:ナルト達を守って、乃亜に勝って、ルーデウスにもう一度会いに行く。
0:もう殺し合いには絶対に乗らない。ナルト達を守る。命に代えても。
1:首輪と脱出方法を探す。もう、ルーデウスには頼れないから。
2:殺人はルーデウスが悲しむから、半殺しで済ますわ!(相手が強大ならその限りではない)
3:ドラゴンボールの話は頭の中に入れておくわ。悟空って奴から直接話を聞くまではね。
4:私の家周りは、沙都子達に任せておくわ。あの子達の姿を騙ってる奴は許さない。
5:ガムテの少年(ガムテ)とリボンの少女(エスター)は危険人物ね。斬っておきたいわ
[備考]
※参戦時期は、デッドエンド結成(及び、1年以上経過)〜ミリス神聖国に到着までの間
※ルーデウスが参加していない可能性について、一ミリも考えていないです
※ナルト、セリムと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました
※沙都子から、梨花達と遭遇しそうなエリアは散策済みでルーデウスは居なかったと伝えられています。
例としてはG-2の港やI・R・T周辺など。
【うずまきナルト@NARUTO-少年編-】
[状態]:掌に切り傷(治癒中)、チャクラ消費(小)、疲労(中)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品×3、煙玉×4@NARUTO、ファウードの回復液@金色のガッシュ!!、
鏡花水月@BLEACH、城之内君の時の魔術師@DM、エニグマの紙×3@ジョジョの奇妙な冒険、リコの花飾り×1@魔法陣グルグル
ねむりだま×1@スーパーマリオRPG、マニッシュ・ボーイの首輪
[思考・状況]
基本方針:乃亜の言う事には従わない。
1:一休みしてから、我愛羅を探す。
2: 我愛羅を止めに行きたい。
3:殺し合いを止める方法を探す。
4: 逃げて行ったおにぎり頭を探す。
5:ガムテの奴は次あったらボコボコにしてやるってばよ
6:ドラゴンボールってのは……よくわかんねーってばよ。
7:セリム…すまねぇ
[備考]
※螺旋丸習得後、サスケ奪還編直前より参戦です。
※セリム・エリスと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました。
【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(小)、仮面の者(アクルトゥルカ)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's(搭乗中)
[道具]:基本支給品、丸太@彼岸島 48日後…、リコの花飾り×1@魔法陣グルグル、シャベル@現地調達、約束された勝利の剣@Fate/Grand Order、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:……で、どーすっかな、これから。
1:とりあえず仲間を集める。ナルトとエリスに同行する。
2:クロエを探して病状を聞き出す。
3:マヤ、おじゃる、銀ちゃん………
4:DBの事は俺の考えが間違ってるとは思わないけど、あんまり後ろ向きになっても仕方ないか。
5:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
6:フランはあいつ本当に大丈夫なのか?
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
※仮面(アクルカ)を装着した事で仮面の者となりました。仮面が外れるかは後続の書き手にお任せします。
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]顔面にダメージ(中)、精神的疲労(中)、疲労(中)、怒り、メリュジーヌに恐怖、強い屈辱(極大)、乃亜やメリュジーヌに対する強い殺意
[装備]『黄金体験』のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、
こらしめバンド@ドラえもん、バシルーラの杖[残り回数1回]@トルネコの大冒険3
[道具]基本支給品、光の護封剣@遊戯王DM
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:馬鹿共を利用し生き残る。さっさと頭の輪は言いくるめて外させたい。
1:メリュジーヌが現れた場合はナルト達を見捨ててさっさと逃げる。
2:先ほどの金髪の痴女やメリュジーヌに警戒。奴らは絶対に許さない。
3:ゴールドエクスペリエンスか…気に入った。
4:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
5:海が弱点の参加者でもいるのか?
6:ドロテアとは今はもうあまり会いたくない。
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(大)、決意と覚悟
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、クラスカード『アサシン』、『バーサーカー』(二時間使用不能)、『セイバー』(二時間使用不能)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、
雪華綺晶のランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:皆を助けるために、目の前の人たちと協力したい。
1:雪華綺晶ちゃん……。
2:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
3:殺し合いを止める。まず紗寿叶さん達を助けに行きたい。
4:サファイアを守る。
5:美遊、ほんとうに……
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
※バーサーカー夢幻召喚時の十二の試練のストックは残り2つです。これは回復しません。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました。
そして、少年たちが目指そうとしていた火影岩のその前で
うずまきナルトと同じもう一人の人柱力が、標的の存在に気づく。
索敵に出していたピジョットより、程近い地点で他の参加者の接近報告が入ったのだ。
フリーレンと呼ばれていた強者との戦いで負った傷も、チャクラも回復に至った。
戦闘に、何の支障も無い。
歓喜と戦意と殺意が、滾る。
「ク、ククククク………」
ほくそ笑む。
今の彼には、一つの予感があったから。
この先に居るのはきっと、自分が求めている相手だと。
自分が殺したい相手が、この先にいる。その確信があった。
だから彼は、歓喜と共にピジョットが旋回した場所へと、ゆっくり歩を進める。
己の存在を証明する為に。敵を殺す為に。ただ、我を愛する修羅であるために。
「待っていろ……」
人語を介せないピジョットの報告だ。
参加者がいた事は分かっても、それが誰かまでかは分からない。
だけれど、瞬間的に我愛羅が思い描いたのは一人の忍。
うずまきナルトがいると言う予感が外れるとは、微塵も彼は疑っていなかった。
それが何故かは、彼にも分からなかったが。
───1人ぼっちのあの苦しみは…ハンパじゃねーよなぁ…
「………ッ!?」
ザザッ、と。脳裏に知らない記憶が過った気がした。
既視感。白昼夢。予知。
そんな言葉の数々で表現される事象を、我愛羅は置き去りにしてただ進む。
どうでもいい。知らない記憶など、至極どうでもいい。
今の自分にとって重要なのは、この先に殺すべき男がいる。それだけなのだから。
予選で聞いたという、今はその程度の繋がりである筈の名を、笑みと共に少年は口ずさんだ。
「────うずまきナルト…………!!」
正史とは遠く外れた世界で。
二人の人柱力の道が、再び交わる。
【一日目/日中/D-6 火影岩前】
【我愛羅@NARUTO-少年編-】
[状態]チャクラ消費(小)、疲労(小)、殺意
[装備]砂の瓢箪(中の2/3が砂で満たされている) ザ・フールのスタンドDISC
[道具]基本支給品×2、タブレット×2@コンペLSロワ、サトシのピジョットが入っていたボール@アニメ ポケットモンスター めざせポケモンマスター
かみなりのいし@アニメポケットモンスター、血まみれだったナイフ@【推しの子】、スナスナの実@ONEPIECE
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:ピジョットが発見した参加者を殺しに行く。
1:出会った敵と闘い、殺す。フリーレンは特に殺したい。
2:火影岩の付近で身を潜め、うずまきナルト、奈良シカマルを待つ。来なければフリーレンを追撃する。
3: ピジョットを利用し、敵を、特に強い敵を殺す、それの結果によって行動を決める
4: スタンドを理解する為に時間を使ってしまったが、その分殺せば問題はない。
5:あのスナスナの実の使用は保留だ。
6:かみなりのいしは使えたらでいい、特に当てにしていない
7:メリュジーヌに対する興味(カオス)、いずれまた戦いたい
[備考]
原作13巻、中忍試験のサスケ戦直前での参戦です
守鶴の完全顕現は制限されています。
投下終了です。
事後になりますが、我愛羅を予約に追加させて頂きました。
投下ありがとうございます!
感想投下します
>我らは、姿なき故にそれを畏れ
そんな…ジュジュ様が、そんな……。
死に方がとてもお辛い。すぐ近くでイリヤが真っ当に魔法少女をやっていただけに、なんてことだ……。
事情を知らないとはいえ、モクバに呪いを残すのもね。モクバもどうやっても止められなかったとはいえ、責任を感じてしまいますね。
巻き込まれて殺されるケロちゃんも悲しい。
悟飯ちゃんチーム、もうみんな死んでてぺんぺん草も生えないじゃないですか。
無駄に歴戦のパートナー感出てるグレ黒コンビ。
なんで掛け合いがやたらテンポが良いんだこいつら。
ヤミちゃん、これから分からせプレイが始まるんですね……。
主催に校長でもいるんすかね。協力者として女生徒のデータ提供位は平気でしそう。
ただこれで快楽堕ちされると、もう手に終えないトリオになるのでかなり大変だ。
イリヤ! 生きとったんかワレ!!
頑張れ、お前が最後の希望だ。
正直、マジで死んだと思ったので普通にびっくりしましたね。
>メチャメチャ哀しい時だって、ふいに何故か
エリス、羽蛾なら速攻でぶった切ってましたね。
闇落ち寸前だけど、真っ直ぐにナルトとぶつかってもやもやと迷いを晴らすシーン。少年漫画してますね。
ディオを機転を利かせてあしらって、様子見ながらチームの摩擦を避けるニケ君もようやっとる。
伊達におじゃる丸と付き合ってなかったんだなと。
ナルトのエリスへの諭し方、やっぱ好きですね。
自分一人じゃ、シュライバーには適いっこなくて。エリスやセリムが居たから生き残れたって言うの。
こんな真っ当に仲の良い対主催、あんまり居なかったんで。
ディオ君、なんかこいつらとダラダラすんのも良いかなって気もしてそうなんですけど。地味に永沢君殺しが響きそう。
まあドロテアの機嫌取るよりは、絶対こっちのが良いからね。
あと地味にジョジョの事は後に認めるから、勇気ある勇者が本当に嫌いではないと思うんですよね。
投下します
俺、シカマルはこのモチノキデパート内にある休憩スペースでネモ、無惨、龍亞…さっき飯を運んできてくれた梨沙とテーブルを囲んで話していた。
休憩スペースといっても中々のもので、セルフだがコーヒーサーバーもあるし自販機もある。
ちょっとした小銭を支払えば、好きな飲み物を買えてゆっくり過ごせる。まあ、殆どカフェみたいなもんだ。
俺も定年退職したら、こういうところでのんびり店内を眺めながら過ごしたいもんだ。
ブラックの奴は、何処かへ消えちまった。ちょっと前に龍亞にちょっかいを出したばかりで、そう遠くには行ってないだろう。
止めても勝手に動くだろうから、放っておくしかないが。
話し合いの途中で放送も流れた。
やはり、死者の数が多すぎる。臨時放送に比べればマシだが6時間の間にここまで死ぬもんか?
灰原は想像できていたが、ネモの知り合いのニケが探していた水銀燈やおじゃる丸とかいう奴等の名前も流れていた。
こりゃ、いつナルトの名前が流れてもおかしくねえぞ…。
それに報酬システムについても厄介だ。
殺した人数が多ければ、有利なアドバンテージを受けられる。
あと殺人数だけじゃなく、首輪もカウントすると話していたな。
首輪が減れば、その分サンプルも消えて解析の邪魔になる。
マーダーもこの先、首輪は確保し出すだろう。ある意味ここから先、首輪は貴重品になるのかも。
ネモの話す首輪解析のプランは、カルデアという施設に向かい、そこの施設に接続して処理能力を高めて首輪を外すプログラムを制作するとの話だった。
別の施設では無理かと聞いたが、やはりカルデアが最も望みがあるらしい。
乃亜の野郎がそんな馬鹿正直に施設内設備を再現するか、また首輪を外せるようなもの支給するもんか甚だ疑問ではあるが。
それにケチを付けるだけじゃ始まらねえ、とにかく何でも試すのには俺も賛成だった。
だが、あの藤木の奴が拡声器でマーダーを周辺に集めちまったらしい。
周辺に居そうなマーダーは氷を操る無惨の容姿をした奴とリーゼロッテとかいう女。
とくに後者は、世界を滅ぼすだとか何とか言ってるようだが…女版ブラックじゃねえか。
どちらもネモの手には余る相手だ。それなら、とても俺じゃ太刀打ちできねえ。
「戦車でカルデアまで一気に駆け抜けられれば問題はないと思う」
問題は人数ってとこか。
ネモの操る牛とその後ろの戦車。
スピードは出せるが、搭乗人数が限られちまう。
このデパートには大人数が集まっちまってるし、確かに全員を乗せるのは厳しそうだ。
「乗せられて四人だ。それ以上はリスクが高い」
運転手のネモと……。
「これ以上、何を決める必要がある?」
無惨は乗る気満々らしい。
こいつは既に、残り二人をさっさと決めろ、自分が乗らないなど有り得ないという前提で話している。
言いたいことは色々あるが、まあそこで逆らうわけにゃいかねえな。
こいつは強い、悪いが上忍が10人居ても勝てそうにねえ。こいつが強過ぎるんだ。
一目でそこいらの賞金首なんざより、沢山血を浴びてるのがはっきりと分かった。
ここで癇癪を起こされても面倒だ。前向きに考えれば、ネモにこいつの世話係をやってもらうと思えば悪くねえ。ネモには悪いが。
無惨も仮にも首輪の情報を掴んだネモを殺す真似はしねえだろ。
ネモも上手くあしらって、対応してくれると思いたい。
「私とネモの二人で十分だ。お前達は残れ。
ここで十分な療養を取るがいい」
意訳すれば足手纏いは消えろってか。
こりゃ、残り二人を乗せるのも嫌がるな。その分、速度が落ちてマーダーと接触する確立が上がっちまうって言いたいんだろ。
気に入らないが、強さで言えば無惨は役立つし移動速度を損なうリスクを負ってまで俺らを連れる理由はねえ。
ネモを確実にカルデアに送るのを優先した方が良い。
「せめて、梨沙とあのしおって娘は乗せてあげてよ」
龍亞の言い分は、戦えない女子供の安全を考慮しろって事だった。
俺らといるより、悟空とかいう馬鹿強い奴と居た方が安全だろうしな。
「これ以上無用な負担を強いらせるな。二人に酷だ。
あの戦車の揺れにも最早耐えられまい。それに、またあの氷のマーダーが現れた時、私とネモでは守り切れぬ。お前が守れ」
ネモの能力は海水に由来する。凍結能力を持つその氷使いとの相性は悪いようだ。
無惨もまた日光の下では本領を発揮できず、不利な状況で戦わないといけない。
守れないというのも、分からなくはないが。
「いつまで時間を無駄にする気だ? 貴様らが駄々をこねる間に、何人の罪のない子供が死んでいると思っている?
多くの命を救いたいのなら、ネモと私をカルデアに送り届けろ。
言わなくては分からないのか?」
「そう…だけどさ…でも、無惨は強いんでしょ? ちょっとくらいさ」
「くどいぞ、貴様。私がネモを守ってやると言っている。
私とネモさえカルデアに行けば、後はどうとでもなる。何故、そんな簡単な事が分からぬ?
あの娘どもと、私の命が等価値だと本気で考えているのか?」
「…ぅ、っ」
「言え、言ってみろ。力も技もない下賤な娘共が、何の役に立つ?」
そこまで言うか?
こいつは良心も罪悪感も何もない。
共感性がまるでない。
表向き色々語るが、とにかく自分の安全が最優先だ。いっそ清々しい。
何が何でも首輪を外せるネモを手放したくないんだろう。
それでいて、リスクを欠片も背負いたくない。
……まあ、梨沙はともかく…しおって娘はな。
些か危険思考で、見張りも兼ねて保護してるって話だ。
無惨が乗せたくないって話は分からなくはねえよ。
そんなのを、カルデアに近づけて首輪の解除を邪魔されるようなことだってなくはねえ。
「…私は平気よ。もういいわ」
ずっと黙っていた梨沙だったが…呆れて物も言えない様子だった。
ようやく絞り出したのがこの一言みたいだ。
元から梨沙も自分は良いから、しおだけ乗せてやれとずっと言ってたぐらいだしな。
「やめるんだ…龍亞……」
ネモも軽蔑を通り越して唖然としていた。
口を小さく開けて、静かに息を吐き出しながら目を細めている。
ここでの会議を始めてから、4人までなら2人でも速度は変わらないと再三説明していたが、無惨は一向に聞き入れなかった。
これ以上はどうやっても、話は進みそうにない。
「おい」
ここに居る5人の中の誰でもない声が響く。
だが、その声は聞き慣れていた。この中じゃ一番縁があって付き合いが長い俺だから、一番先に気付いて振り返った。
音もなく気配も悟られずに、飄々とした態度を崩さないままブラックがそこに立ってやがる。
「退いてろ」
そういうことか。
察した俺は、横の龍亞と梨沙の襟を掴んで全速力で飛び退いた。ネモと無惨も遅れて、とはいっても途轍もない速さですぐに俺を追い抜いていく。
次の瞬間、俺らが居た休憩スペースはでかい氷山に押し潰された。
自然に生まれたもんじゃない。誰かが意図的に投擲したものだ。
考えたくもねえ。直径10数メートルはありそうな、氷の塊をぶん投げるような生き物なんざ。
「相も変わらず、人間との馴れ合いに執心しているようだな。絶望王」
(絶望王?)
氷山が砕け散って、コンクリートやガラスの破片を踏み潰しながら、黒髪の女が不遜にも歩んできた。
手には氷で作られたサーベルを握り、その目は絶望王と呼ばれたブラックへと注視されている。
やはり、ブラックは偽名か。
「首輪付けられて飼われたのが、そんなに不満か?
なってねえよ、まるで全然な。契約に五月蠅いのは悪魔の本分だろうが、口下手な営業トークで言い負かされてちゃ世話なくねえか?」
「良く吠える。
どちらが犬とその主か、今から分からせてやろう」
「ああ…そういう約束だったけな」
こいつ、人の知らねえ間に妙な因縁を作ってたみたいだ。
これ以上、面倒ごとを増やさねえでくれよ……。
「そういうわけだ。お前ら、邪魔だから消えてくれ」
ブラックと女は飛び立ち、瞬きの内に数メートル先へと飛んで行っちまう。
言われるまでもなく、化け物共の喧嘩に首を突っ込む気なんか更々なかった。
あんな連中のバトルに付いてけるのなんざ、それこそ影レベルの忍か、カカシ先生…あと、噂じゃ滅法強いとかいうガイ先生でないと無理だ。
ガキの殺し合いにあんなの混ぜるのは、どういった神経してんだ乃亜は。
蟻の戦争にゾウを放り込んで面白いのか?
「シカマル、藤木が居ない」
ネモの言うように、あの女の近くには誰一人いなかった。
「姿形は違うが、あれは偽無惨だ。それなら藤木が傍に居なきゃおかしい」
俺らを襲った藤木は偽無惨が連れ去ったのではと、ネモは推測していた。
もっとも、単に殺されたか特に連れ去りもしなかった可能性も高いが。
だが名前が呼ばれていない以上は、まだ藤木は生きてるってことだ。
そして1時間程前に、ネモ達は偽無惨と藤木に襲われている。二人は手を組んでいた。
「ふっふふふ…」
背筋が凍るような気がした。
あの陰鬱とした声色と、震える覚束ない笑い。
最初に俺達を襲ったあの、藤木茂その人の声だ。
紫電が弾ける音と共に、雷が人の形になって俺らの死角から現れる。
俺は瞬時に印を結び、ケリを着けようとして…。
「梨沙!!」
あの野郎! 真っ先に梨沙に狙いを着けて、電撃を撃ってきやがった!!
影真似で捕まえても、電撃は止まらねえ。
「くず鉄のかかし!!」
「!?」
龍亞が腕の機械のボタンを押す。その次の瞬間、ゴーグルを着けたボロい鉄のかかしが出現した。
藤木の電撃はそこへ吸い寄せられ、触れた途端に消失していく。
話は聞いてたが、ヒヤッとしたぜ。
デュエルモンスターズのルールは大体把握したが、相手ターンにチェーン処理を行うのはかなりの反応速度が要る。
あいつも本職だけあって、カード使用の素早さだけは中々のもんだ。正直助かったぜ。
あんな電撃…梨沙に当たれば、ありゃ一溜りもねえ。
だが、くず鉄のかかしは使用後にインターバルが挟まる。次はあれじゃかわせない。
「!!」
ネモが海水を巻き上げ、鞭のように打ち付ける。
だが水に飲まれる前に既に、藤木は全身を雷に変化させ消失した。
直後、ネモの頭上に浮遊して現れ、雷を近距離で振り落とす。
後ろに飛び退いてネモは避けるが、雷の余波は床を砕きネモを煽って吹き飛ばしていく。
不味い。
あの無惨の着てた白服の時より厄介になっていやがる。
しかも、雷の力を使いこなしてねえか?
ネモから聞いてた限りじゃ、電撃を連打するくらいしか能力を使えてなかったはずだ。
まさか…あの氷の女と同行してたってことは、あれに何か入れ知恵されたのか。
畜生、やべえぞ。
龍亞のドラゴンのカードはまだ後10分近く、使用制限が残っている。
ネモもあまり負担を掛けられねえし…俺も戦闘じゃ碌に役に立たねえ。
残るのは無惨だが……。
「あ…あいつ……」
既に目の前では無惨が疾風のように駆けていて、ブラック達がこじ開けた風穴。
そこから差し込む日光から必死に身を遮ろうと走っていた。
******
「「「どうしよう〜どうしよう〜!! 敵襲だよ!!!」」」
3人のマリーンが大慌てであたふたして、騒ぎ立てる。
本体のキャプテンが魔神王との遭遇した情報を別のネモシリーズと共有していたのだ。
別の幹部格ならばともかく、マリーン達は事の急展開に動揺を隠せない。
「落ち着いて、偽無惨をブラックが相手してるんでしょ」
先程のペーパームーンの会話とは逆にフランが宥める。
やはり、荒事に限ってはフランの方が慣れているし、ずっと冷静に物事を見ることが出来ていた。
(マサオの名前…いや、感傷に浸る場合じゃないか)
当のフランも心中穏やかではなかったが、こうも慌ただしく目の前でパニくられるとこちらが落ち着かざるを得ない。
「うん、そうなんだけど…あの藤木って子にみんな襲われちゃって」
「…………なん、ですって」
藤木本人の実力ならともかく、あの雷の力は驚異的だ。
魔神王との戦闘後で消耗したネモでは手を焼きかねない。
「ネモの雑兵共と吸血鬼の娘か」
カツカツと足音を立てて、白服に身を包んだ無惨が歩んでくる。
焦るフランと慌てるマリーンとは対照的に優雅ささえあった。
だからこそ、そのゆっくりとした歩調にフランは溜まらず苛立つ。
「貴方、ネモといたわね。梨沙は?」
怒声を交えつつ、声のトーンを抑えて無惨へと問いかける。
無惨も同じくネモと同じ空間に居たからだ。
では、何故それが一人こんな所に居るのか。
一人だけ逃げたからに他ならない。
「私の知る所ではない。あの小娘など知るか」
「……臆病風に吹かれて、ここまで一直線に逃げてきたってことなの?」
決して口が裂けても口外することはないが。
藤木の食したゴロゴロの実の能力、その雷となり流動する身体に無惨は無力なのだ。
なにせ、血鬼術の類も含めて無惨は純粋な腕力に物を言わせた物理攻撃しか備わっていない。
覇気はおろか、チャクラも魔力も気も神秘も霊圧も、ロギアの肉体に攻撃を当てる術を無惨は何一つ持ち合わせていない。
一目で能力の不利を悟った無惨の行動は素早かった。
逃亡である。
「貴様の人間の真似事に私を巻き込むな」
「ッ……!」
そんな事も知らないフランからすれば。会話が成り立たない。臆病者の卑怯者だ。
即座に見切りをつけて、フランは横の壁に拳を打ち付けた。
轟音が響いて、コンクリートの壁にクレータが刻まれる。
「私、貴方と遊んでもいいかなと思ってたの」
明かな威嚇と牽制、そして脅しだった。
別に無惨が梨沙をご丁寧に守るとは思っていない。
だが、話すら取り合わないのは頭に来た。
それに真似事というのも、否定はしないが腹正しく聞こえる。
「フラン、駄目だよ、落ち着こうよ…!」
マリーンも無惨の態度に思うところはあれど、今の時点では味方側の男だ。
それにフランもあくまで脅しに止めているとはいえ、もしも無惨が売られた喧嘩を買うような真似をすれば、被害はより甚大だ。
フランも高位の吸血鬼だが、無惨もまた吸血鬼で言えば真祖に匹敵する。
戦えばどちらかが確実に死ぬ上に、ここにはマリーン以外にもしおも居る。
「……っ」
しおもただならぬ雰囲気の中、剣呑さを増す無惨とフランから数歩離れてじっとしていた。
こんな程度の距離を稼いだところで、どうこうなるものではないが、無意識の内に危険から遠ざかろうとしたのだろう。
マリーンもこの二人の交戦からしおを守れる自信はないし、フランも気に掛けるような器用な真似は難しい。無惨に至ってはそんな必要すらない。
「ねえ、無惨さんはここに居て。
代わりにフランちゃんが、梨沙ちゃんを探しに行けばいいんじゃないかしら」
静観していたベーカリーが口を開く。
「こいつを?」
フランの苛立ちは無惨の態度と、自分が離れればマリーンとベーカリー、あとは一応しおが無防備になる為に身動きが取れないと自覚していたからだ。
梨沙とネモを助けに行きたくとも、助けに行けないもどかしさ。
だが、ベーカリーの案ならば、確かにフランが居なくとも急な襲撃にも対応は可能だ。
「そんな協力的なタマには見えないけれど」
無惨が素直に快諾するかは別として。
「でも無惨さん、一人遠くに行くのも嫌でしょう?」
無惨とて首輪解除の鍵を握るネモに死なれるのは困る。
日光の降り注ぐ青空の下で派手に抗戦するのは当然拒否しながら、ネモに死なれてその手掛かりを喪うのも本末転倒。
最優先は己の命だが、その次にネモの安否も必須だ。
故に絶望王と魔神王の戦闘と藤木から離れつつ、ネモから離れ過ぎない位置で日光を凌ぎながら様子を伺う。そのような消極的つつも、完全に戦場から離脱しきれない半端な状態にある。
「キャプテンに何かあれば、私が伝えられるから。
無惨さんはここで隠れて、キャプテンが本当に危ない時だけ動けばいいと思うわ」
きっと、敵さんも無惨さんがいれば私達を簡単には襲わないものと、ベーカリーは付け加えて。
敵避けとしてはそれなりに使えるとは、フランも思う。
フランとて、無惨は下手にちょっかいを出したい相手じゃない。
強さだけならば、上位の妖怪に匹敵する。賢しい者なら交戦は避けようとするだろう。
無惨も格下相手なら、襲われようとも返り討ちは容易い。もし無惨が即逃げ出すような相手ならば、フランも戦ったとして勝ち目は薄い。
結果だけなら、リスクはあまり変わらないようにも思えた。
無惨にとっても、日光から逃れる為有無を言わさずネモから離れたが。
もしもあの身に危機が迫るのなら、無惨への危険度が一定の範疇を越えぬのであれば救出に行くのもやぶさかではない。
もっとも、だからといってネモにくっついてあんな人間の小娘などを日光を浴びるリスクを背負ってまで、守るのは御免被る。
だからベーカリーをネモの救難信号代わりとして、状況を随時把握しながら日光を凌げるこの場で待機を続けるのは悪くない案だ。
「たかが、料理人風情が策略家の真似事か? その浅はかな脳で私を操れるとでも?
思い上がりも甚だしい」
「ごめんなさい。でもね、きっと悟空さんはしおちゃんを守ってあげると喜んでくれると思うの。
あの人は優しい人だから、これは無惨さんと悟空さんが仲良くなれるきっかけになれると思うわ」
無惨は大きく舌打ちをした。
この女、どうにも本体のキャプテン以上にやり辛い。
無惨の最も望む答えと行動を、事前に先読みするかのようだ。
ベーカリーは安寧を司る個体だ。
食事という人を楽しませることをやりがいとして、更に苦に対して否定的でリスクを嫌う。
後者について、ある意味では無惨という男の思想に最も近くあり、理解者とも言える。
この場のみを単独で切り抜けるのは簡単だ。無惨には、それだけの力と強さが備わっている。
だがその後は別だ。シュライバーを始め、氷のマーダーがうろつきそれは無惨の姿で悪評をばら撒き、鬼狩りのような異常者共が標的を無惨へと定める事になりかねない。
そんな連中の他にも、まだ見ぬ強者が数多くいる。あのブラックという男も、最早金輪際関わりたくない程に無惨の中で警鐘を鳴らした強者だ。
(何故、子供の殺し合いにあんな連中を何人も放り込んだのだ、あの乃亜(ばか)は!!?)
腹正しい。
考えるだけ、こめかみに血管が浮き上がる。
とにかく無惨とて、油断のならぬ魔境。
その中で最強と謳われる孫悟空と友好関係を結び、その庇護下に収まるのは無惨にとっての最大の安寧である。
それをベーカリーは先んじて提示してきた。
リスクを伴う事柄には保守的だが、この場でリスクを完全排除することが不可能である以上は、よりリスクを抑えた上で最も見返りがあるであろう選択を重視する。
無惨にとってもベーカリーにとってもだ。
「……よかろう。だが、もし孫悟空が取るに足らぬ雑輩であれば、その命ないと思え」
「なら安心ね。悟空さんはとても頼りになる人よ〜」
実に実に腹正しかったが。無惨一人では現状の打破は不可能なのは認めざるを得ない。
それ故に、業複だがこの料理人如きの口車に乗るしかない。
今までのように癇癪に任せて、激情的な行いに出ても解決する状況ではないのだ。
「……ごめんなさい、ベーカリー…行ってくるわ」
「ええ…行ってらっしゃい」
フランは少しだけ歩を進めて、振り返る。
やはり、無惨を代わりに置くとはいえ躊躇いもあったが。
この場で一番危ないのは梨沙達だった。
だから、躊躇いながらもフランは駆けだした。
二人目に出来た友達を、今度こそは喪わない為に。
「下らぬ」
腕を組んで、入れ替わるように無惨が椅子に腰掛ける。
とんだ茶番をしている。それが、ここまでの一連の光景を見た無惨の率直な想いだった。
「己の劣化にも気付けぬとはな」
無惨は変化を嫌う。
変化とは、衰えであり老いであり劣化が主であることを無惨は知っている。
フランが亀裂を入れた壁を一瞥する。
あんな人外が、人間の小娘一人に入れ込んで何が面白いのか。
あれが死んでも、その次を探せば良いではないか。
どうせ吸血鬼(やつ)にとって、儚い時間しか生きられない。
子供が夏に捕まえた蝉のようなものだ。
死ねば次を捕えればいいだけのことだろうに。
蝉が死ぬたびに、一々泣く子供など何処にいる? 奴は阿呆なのか?
人の真似事など長くは続かない。
飽きるのは時間の問題だろうなと、無惨は決めつけた。
新しい玩具に入れ込んでから、散々遊んで捨てるのは子供の十八番だ。
やはり、下らないと嘲笑して無惨は考えるのを辞めた。
「た…助け…、て、ェ……」
瞑想にふけようとしたその瞬間、赤い髪の少女が髪を取り乱してふらついた足取りで歩いてくる。
歩くというより、足を引き摺り辛うじて徐々に前に進んでいるという有様だ。
軍服だろうか? 少女らしいデザインに改造されてはいるが、ベーカリーやマリーンにはナチスの服にも見える。
無惨もナチスは別として、あれが軍服の類には見えた。
アドルフ・ヒトラーが首相となるのは、無惨の居た時代から約15年以上先の話だった。
「凄い怪我だよ!」
顔は思いの外、泥や埃で汚れているものの奇麗だったが。
服は焼き焦げて、所々黒く炭化している。さらに服の端々にある隙間から見える素肌は焼き爛れ、痛ましい火傷を晒していた。
酷い拷問にあったのだろうことは明白だった。
「これは酷いや…ナースを呼ばないと」
「待て、この女……」
確かそうだ。
ディオとキウル…そういえば片方は放送で名が呼ばれていたかと、それはどうでもいいことだなと思い出して。
あの二人の少年と共にいた、確かルサルカという女だったはずだ。
「この服…」
改めて眺めて見れば、この女の服も見覚えがある。
そう、唐突に現れ無惨を襲ってきた気狂いの白き狂狼のものと同じだ。
特に腕にある赤い腕章、シュライバーも同じものを身に着けていなかったか?
冗談じゃない。
無惨は心中穏やかではなかった。
まるで不吉の前触れ、凶兆のようにルサルカが現れたのは気のせいか?
******
私、ルサルカはマリーンとかいう、褐色の船乗りの男の子に介抱されていた。
参加者じゃないわね。分身みたいなものか。
それにしても、とても高度な分身だわ。向こうのコックさんもそうだけど、それぞれがしっかりと自立し自我を持っている。
首輪さえなければ、参加者との見分けも殆どつかない位に。
感心しつつ、胸を撫で下ろす。上手く対主催に潜り込めた。
誰が、あんなゼオンなんかの言う通りなんかになるもんですか…!
私の体の何処かに声を届ける何かを仕込んだみたいで、急にゼオンはデパートに居る参加者への襲撃を私に命じてきた。でも、そんなの御免だ。
だから、わざと歩くスピードを遅めた。
ゼオンの口ぶりは、表向きは平坦だったけど少しだけ焦り苛立ちがあった。
多分、この襲撃作戦は急遽計画したもの。
そこで丁度、私を使い捨ての駒にしようと思ってるんでしょう?
言ってやったわ、デパートに着くには時間が掛かると。
ゼオンは苛立って、電撃を飛ばしてきたけど、私も黒円卓の端くれよ。廃人にするのなら2桁以降の回数は必要。
何度撃たれたってそう簡単に壊れてやらない。
それに本当に身体は限界で、これ以上速く動くのは無理だもの。
死ぬほどの無理をすれば別だけど、死ぬくらいならゼオンとの根競べを選ぶ。
そしたらあの坊や、痺れを切らしたわ。
きっと、時間がなかったのね。私が駄々をこねて電撃を浴びせても全然主張を曲げないのを見て、時間の無駄だと一方的に通話を切ったわ。
時間が有限であるなら、私を廃人にする時間も惜しいってこと。
読み通り、数発電撃を浴びせてそれっきり。
ゼオンは恐らくはあの変な帽子、間抜けな格好だったけどあれが恐らく何かの能力を与えていたに違いない。
あの子自身、黒円卓に差し迫る強さだったけど、それ以外にも私の行動を随時先読みするような手際の良さに違和感があった。
特定距離内の未来予知か、または読心能力のどちらかってところかしらね。
だから、距離さえ空けばこちらの考えを見透かされることはなさそうだ。
それならこちらのものよ。声色だけでも、あの坊やの状況を察して読み取るなんて簡単なんだから。
いくら、雷で脅そうとフェアなフィールドでの読み合いと駆け引きなら、私があんなクソガキに劣る道理なんかない。
歳の功を舐めんじゃないわよ!!
……言ってて悲しくなるわ。
とにかく、ゼオンからもぎ取った妥協は遅くて良いから対主催に紛れながら、奇襲しろというもの。
既にジャックとかいう継ぎ接ぎ小娘が何処かに潜んでるでしょうね。
それに、大規模な戦闘が近くで始まっている。多分、こいつらをぶつけ合わせるのに、時間を気にしていたのかしら。
まあ、何だっていいわ。
拷問用の雷の解呪は妨害されるし、裏切り行為は継ぎ接ぎ娘に暗殺される恐れもある。
でも、対主催に紛れるのであれば命令に背くわけじゃない。
だから表向き命令を遂行するように見せかけて、あいつらの裏を掻いてやる。
デパートに着いてから、食人影(ナハツェーラー)に辺りを軽く捜索させて、上階に人がいるのが確認できた。
もう歩くのも辛くて、エレベーターに乗って少し休む。
着いたフードコートのエリア、その中にあるレストランの一つにマリーン達はいた。
「えーと、えーと、ナースは……」
マリーンの別個体には医者も居るみたいだ。
治療を受けながら本体のネモに会ってそのまま上手く、解呪に繋げられると良いんだけど。
もう一人、俊國君…いえここだと無惨と呼ばれていたわ。名簿にもある名前だし、それが本名ね。
ディオ君とキウル君と居た時にも会ったわね、彼……なんだか、最初と全然雰囲気違うんだけど…。
そういえばキウル君、放送で呼ばれてたわね。
……ま、長生き出来そうなタイプじゃないでしょ彼。
私は絶対に、貴方みたいにはならないわ。ええ、最後に生き残って笑うのは私よ。
どうせ、誰かに利用されて捨てられたんでしょう? ディオ君なんか、モロにそういうことしそうじゃない。
貴方、どんな死に方したのかしら? やっぱりそういう時に限って、不死身になりたいとか思うのかしらね。
まあ、死んだ子の事なんてどうでもいいわ。そんなことより今は体力を温存して、デパート内の戦闘に巻き込まれないように立ち回りながら、術の解呪を目指さないと。
この好機を絶対に逃しはしない。絶対に───
「はははははははははは!!!」
目の前に広がるフードコート、まあレストランが幾つも並んでて休日の昼間なんかは家族連れ何かが賑わうのかしら。
きっと、子供の声なんかも良く響くんでしょうね。あんな風に。
「ふざ、ふざけるな…ふざけるなあああああああああああ!!!」
無惨の雄叫びが木霊して、デパート内を響かせる。
ああ、お願い…あの笑い声の主がシュライバーじゃありませんように。
******
「ふふふ…ああ、良いねぇ。お祭りに乗り遅れずに済んだみたいだ」
くつくつと笑って、シュライバーは自分に注がれる視線を意識する。
ボロボロだが先ずは一人、探し人の赤い殺戮対象(いとしいひと)を見付ける。
あとは、何かの分身らしき雑兵が数人と料理人。塵芥に等しい幼児。
そして、つい数時間前に取り逃がしたあの怪物が居るではないか。
ここにいるのはこの数人だが、他にもまだ歯ごたえのある沢山獲物も居る。
なるほど、ここは絶好の狩場なのだとシュライバーは歓喜した。
孫悟空との交戦後、次なる戦場を求め走っていたシュライバーは氷と蒼炎が空中で打ち合う光景を目撃する。
氷はともかく、蒼炎はあの青コートの男のものだ。
───そうか、僕を誘っているんだね。よし、乗ってあげるよ。
勝手に納得したシュライバーは、餌を前にした飢えた犬のように走り出す。
到着したデパートには複数人の気配があった。
かなりの、大人数が密集しているらしい。
見れば以前に出くわした絶望王ともう一人、誰か知らないが英雄が狩るに相応しい怪物が交戦していた。
早速、仲間に加わろうかという時。
視界の隅で、ルサルカを見付けてしまった。引き摺った足でヨタヨタとデパート内へと侵入していく。
───アンナも居るのか、悩むねえ。
シュライバーとしては珍しく迷い、だがすぐに結論を出す。
絶望王達の決着は当分先だろう。その前にルサルカを殺しておく。
また逃げられても、面倒だ。
遊佐司狼に敵討ちをするには、ここで死んで貰わないと困るのに、当のルサルカはそれを拒否する。それに逃げ足が早い。逃がして探すのも手間だった。
ルサルカを殺してから、改めて絶望王に挨拶に行っても十分間に合うだろう。
───上かな?
デパート内で、ルサルカの跡を辿り、行先に検討を着けて。
エレベータを使ったのか、階数がご丁寧に表示されていた。
───もう、アンナは本当に可愛いなぁ。
シュライバーは溜まらず嬉しそうに笑う。
恋人に会うのだから、嬉しくない筈がないと。過剰な演技をするかのように。
「さあ、怪物退治の再開だァ!!!」
まず目についたのは無惨だった。
一度取り逃がした手前、ここで見逃す手はない。無惨を轍に変えてから、残る全員皆殺しに向かってやろう。
丁度、ルサルカ(アンナ)もいる。
怪物に囚われた姫君を救出する愛人(えいゆう)だなんて、洒落が効いている。
「馬鹿が!! 馬鹿がァァァ!!!」
密室内で音速を越えた速度で駆け回るシュライバーへ無惨は怨念を込めた怒声を飛ばす。
ソニックブームがテーブルを椅子を、内装を巻き上げ、砕いて、屋内で反響した衝撃波が無差別に破壊を誘発する。
いつ、このコンクリートの壁が粉砕し、日光が差し込むか。
だが、日光を遮れるシルバースキンでは無惨の本来のポテンシャルを発揮しきれない。
故に脱ぐしかなく、またそうしなければシュライバーの戦闘に食いつけない。
「おおおおおおおおおおォォォォォォ!!!」
刃を無数に生やした両腕と、背中から生やした無数の鉄線のような触手を悪戯に振るう。振るい続ける。
ここが屋内である以上、シュライバーの動きは限定されている。
それならば、あの速さに付いて行けずとも出鱈目に腕と触手を振り回せば、いずれは当たるだろうという判断だった。
「何処狙ってるんだよォ! 下手糞がァ!」
針の穴を縫うように斬撃の合間をすり抜け、シュライバーは射撃を開始する。
ソニックブームと無惨の斬撃、そしてモーゼルから発せられる銃声がデパート内の一室に木霊する。
家族連れ、カップル、子供達が歓声をあげて賑わう憩いの場が一瞬にして血に塗れた戦場へと変貌した。
「───ッッ!!?」
鼓膜が張り裂けかねないほどの騒音のなか、全身を撃ち抜く魔弾の五月雨。
数百発の弾丸が無惨の肉体に減り込み血を流させるが、そんなもの構う暇もない。
確かに、一つ一つが砲弾のように重い。以前の交戦から思っていた事だが、並みの鬼狩り程度なら容易く蹴散らせる。
下弦の鬼でも、これを捌ける者はそうはいない。
だが、無惨にしてみれば、いざ生身で喰らってみればさほど大した威力ではない。
前回は日光の真下、屋外の戦闘であった為にシルバースキンの破損に気を取られ冷静でいられず、その素早さにも翻弄されたが。
元より無惨の肉体は本人も称するように完璧に限りなく近い生物、疑似的な不死に近い。
例えシュライバーの銃撃であろうとも、それらは神秘の限りなく低い量産品。
無惨が化け物と知るあの男の刃には遠く及ばず、また制限されたとはいえ無惨の再生を上回るだけの連射ではない。
(残り、10秒といったところか)
フードコート内の破損、ダメージ状況を瞬時に見渡し具体的な限界時間を計算する。
ここは最上階、一度崩壊すれば確実に屋根になっている天井も崩れ、崩落に巻き込まれる。
それだけならばいいが、必然的に今なお忌々しく空で我が物顔で輝く太陽の光も差し込むことだろう。
(当たらぬ!)
決着は10秒以内、それが理想だ。
1秒という極僅かな時間の間に既に100以上の攻防が成立している。
シュライバーが縦横無尽に駆け巡り、無惨が悪戯に刃を振り回す。これらの行いが常に繰り返され続けていた。
単調だが単調すぎる故に、想定外の事も起こらずに崩落のリミットも無惨の予想通りに進んでいく。
4秒経過時点で二者の攻防の戦闘音とは別に、みしりと建物内から響く鈍い音を無惨は鋭敏に聞き分ける。
「アッ、ハァ───」
シュライバーの奇声染みた猛り声が耳につく。
無惨の斬撃の合間の隙に向かって吶喊していた。
白き暴風雨の疾走により、大気が割けて膨大な衝撃波が発生する。
動きは見えないが、無惨の優れた感覚器官は衝撃波の発生地点を弾き出し、シュライバーの進行先を予測した。
「ッッ!!?」
斬撃を放つ手と鉄線の触手の動きは緩めないまま、無惨は細胞を操作し自身の体内に埋め込まれた弾丸を肉で捉える。
そして、走り狂う白狼が喉元に食らい付く寸前、肉体の表面に小さな風穴を1000近く形作る。
次の瞬間、無惨の服下から魔弾が吹き出す。予測したシュライバーの進行先へと狙い撃つ。
丁度資源はシュライバーより、無限に提供されていた。それを使わぬ手はない。
肉体に貯蔵し続けた弾丸を、今解放しあの白狼へと返却する時だ。
「……!!」
避けられない訳ではない。
前方向へ駆けた足を止め、床を踏み抜き後方へ飛び退く。
無惨の繰り出す斬撃と射撃、軽く4桁を越えた攻撃の手をシュライバーは避けていった。
だが、僅かに余裕が消失する。
「どうした、お得意の射撃は辞めたのか?」
分かりやすい露骨な挑発を受けながら、シュライバーは攻め手を緩めざるを得ない。
射撃を中断し斬撃の回避に専念。
こちらの弾薬を再利用される以上、わざわざくれてやるのも癪だ。
また無惨もそれを見て魔弾の放出を停止する。
「銃が駄目なら、近づけば良かろう」
この挑発も無視する。
無惨はシュライバーの接近に合わせ、体内に留めた魔弾を発射する気だ。
屋内という空間はシュライバーに立体的な動きを可能とさせ、ピンボールのように縦横無尽に飛び跳ね、より相対者に速さを痛感させるが。
逆に返せば、シュライバーの行動範囲を壁という障壁が狭める事にも繋がる。
さらにこの密室内、斬撃を避けて接近したとして、全身の何処からか魔弾を撃ちだされるのは厄介極まりない。
シルバースキンを脱ぎ捨てた事で、無惨の攻撃はその全身から変幻自在に繰り出せる。
面の攻撃ならば、ヒットアンドウェイの要領で回避は容易だが、無数の点となると撃ち方次第では進路方向を限定される。
シュライバーは、如何なる局面においても必ず回避を優先する。であれば、手数さえ揃えば実のところ動きを誘導するのは然程難しくない。
回避先を誘導されれば、そこへ予め先手を打つことでシュライバーに攻撃を当てることも可能。
「ま、結構頑張って考えたと思うよ」
先の戦闘は日光という天敵の下、あの白服の制約もあったハンデ戦だったとは認めよう。
以前よりは手強い。この島での強者との交戦経験から、恐らく成長も果たしている。
頭のキレも増しているようだ。
だが、だからなんだ?
所詮、太陽の光如きにも耐えられない不完全で無様な劣等。
わざわざ晒し切った弱点を狙わない良心など、シュライバーにない。
「でも…ようは、君を守るこの城を壊してしまえばいいだけだろォ!!!」
密室…壁といえど、シュライバーからすれば所詮は紙細工にも等しい
強い悪意と殺意と共に、シュライバーは足を振り上げ踵を打ち付けて上昇した。
天井をぶち抜き、屋上を飛び越えて。
グランシャリオを纏い、遥か上空から降り落ちてこの建物ごと全て粉微塵に破壊し尽くす。
破壊に巻き込まれ死ぬか、太陽に晒され焼け死ぬか。どちらが死因になるか見物だ。
あわれな害獣の巣を、まるごと壊して外に曝け出して劣等を嬲り殺しにしてやる。
「っ、───?」
大気の流れが変貌する。
風の絶妙な変化を肌で感じ取り、シュライバーは上昇中の身体を前方の虚空を蹴り飛ばす事で進路を後方へと変更。
次の瞬間、無惨からこの屋内全域を包み覆う程の衝撃波が発せられた。
それは、自ら自身の弱点たる太陽へと近づく愚かな行いに他ならない筈だ。
シュライバーの想像通り、衝撃波は触れるもの全てを粉砕して、太陽を遮る壁すら粉々に打ち砕く。
(一生、一人で戯れていろ。狂犬が)
無惨は足の底から、小さな触手を一つ生やし自らの足場を着実にそして丁寧に崩していた。
大袈裟な攻撃でシュライバーの意識を分散させ、己の離脱方法を悟らせぬように。
そして、足場を壊し下階へと降りられると判断した時、大技でシュライバーを遠ざけ崩落する天井で視界を遮り、無惨はそのまま音も立てずに日光に触れる前に消えた。
(ふむ、すぐ上階の崩落に巻き込まれるな。チッ、早く離れるか)
下の階に降りてすぐ、胸を撫で下ろしたいところだったが、無惨は弾けるように疾走する。
さっさとネモを拾い、このままカルデアへと直行し孫悟空と合流する。
シカマルもフランも残りの子供達もどうでもよい。
(手土産は手にした。孫悟空め、これで使えぬ凡夫であるのなら殺してやるぞ)
意識を失ったしおを脇に抱える。
シカマル達が死のうが、この少女一人死なせたかった事で文句は言わせない。
悟空とネモに嫌と言うほどの恩を売ってやると無惨は考えた。
(こんな、何の価値も取柄もない子供の生死に一々五月蠅い連中だ)
煩わしさを覚えながら、無惨は次の行動を急いだ。
******
ふざけんじゃないわよォ!!
あいつら、何してくれてんのよ! 馬鹿しかいないのここはァ!!
シュライバーは勢いの死なない跳弾みたいに飛び跳ねて、余波が四方八方消し飛ばす。
「う、ゴッ…ごほっ……!!?」
ソニックブームが私に直撃した。この時、髪の数本が引き千切れて…多分、ゼオンの分身も引き離されて死んだと思う。
自分に纏わりついた魔力の消失を確かに感じた。でも、そんなことを喜んでいる場合じゃない。
シュライバーは私なんて視界にも入ってない。
内臓が破裂して、口から血が逆流してきた。喉元を通って何か吐き出す。
肉片だ。内臓の肉片を吐き出したんだ。
「お、ェ、ァ…が…っ…」
咳き込みながら、息を吸えない苦しさに悶えながら。
私は這ったままぜいぜいと息を荒げながら身体を引き摺って───無惨の馬鹿は斬撃を辺り構わず、振り回す。
「ァ、ギャァァアアアアアア!!!?」
うつ伏せに這っていた私の背中を40か所以上乱雑に切り刻んだ。
皮を割いて、肉を抉って骨までズタズタに穿っていく。
ああ、もう意識でも失えれば楽だったかもしれないのに、地獄の責め苦のような激痛が続く、
聖遺物の使徒、魔人となった私はこれ位なら死なないし意識も飛ばない。
「が、があ…ァ…ァ、あ……」
きっと私からは見えないけど、背中はぐちゃぐちゃになった血と肉と骨が丸見えなんだと思う。
空気に触れるだけで、焼けるように痛い。
どうして、こんな目に合わなきゃ行けないのよ。
私、別に何も悪い事してないわよ。
少なくともこの島じゃ誰も殺してないし、シュライバーに一方的に付き纏われる被害者じゃない。
なんで、こんな目に…私が…。
「や、め…ァ」
這っていた私をシュライバーが蹴り上げて、斬撃が私を切り刻んで。
五体満足なのがラッキーなくらい全身に切創を作って、赤くない場所がない所の方が少ないくらいに。
どうにもならない地獄の数秒間、蹴られ続け斬られ続けて空中で滞空して、最後は目に大きな衝撃波に巻き込まれて、崩落する瓦礫の雨に巻き込まれた。
「は、ァ…はァ…ふ、ぅ……ぐ、ァ……」
でも、だけど。耐えた。耐えきったわ。
地獄みたいな数秒間を。
瓦礫と一緒に下の階に落ちて、そのまま埋もれたけど。
こんな程度なら、私は死なない。今はこの瓦礫も掛布団みたいに心地いいくらいだわ。
この中に紛れてそして体力を回復させましょう。
幸い、ゼオンの監視からは逃れられたから、休んでても文句言われないしゼオンも私をこの中から探そうなんてしないでしょう?
禁止エリアになるのが怖いけど、残り1時間半以上ある。十分よ、休んで脱出するには…。
「愛しいアンナ…こんな所に居たんだね」
瓦礫が持ち上げられる。
心から安堵した瓦礫の闇に光が差す、その先にはあのイカれた殺人狂がいる。
シュライバーは私を見下ろしていた。
ヤバい、ヤバい、ヤバい。
アンタ、もっと殺せる対象の多いとこ行きなさいよ。もっと一杯いるでしょ!!
「ああ、アンナ! アンナァァァ!! しっかりしてよ!! お願いだから!!」
抱き上げられたかと思えば、急に抱擁される。
こいつ、頭悪すぎるの? 認知症なの?
こんなボロボロにしたのは、半分はアンタのせいよ!!
「ご、が、───ッ…」
メキメキと背骨が軋む。肋骨が歪んで胸が圧迫されて、息が出来ない。
シュライバーの馬鹿力が、背中をズタズタに引き裂かれて全身を数えきれないくらい殴打され続けたこんな私の身体を絞めつけてくる。
切創から血が吹き出てブシュブシュと音を立てる様なんて、人体から聞こえていい物音じゃない。
シュライバーの腕の中の力が強まって、肉から骨が突き破ってきた。
止めを刺す気? 言っていることとやっていることが無茶苦茶よ!
残る力を振り絞って、魔術で治癒を掛けるけど長く持たない。
待て、落ち着け。私は天才だ。だから大丈夫、落ち着け。
そうだ。シュライバーは私を愛しいと言っていた。
私に愛情を向けているのは、前々から気付いていた。
確かにシュライバーは化け物染みて強い。だけど、心を読む力は流石にない。と思う。
ゼオンみたいにこちらの考えを読まれて、先手を打たれることはない。
「しゅ、らいばー…わ、た…し……」
やれると私は思った。
自己暗示に自分を掛けて、目の前のこの子を全力で愛そう。
愛して、そして言葉巧みに私を救うように───。
───僕は遊佐司狼に敵討ちをしたいんだよ。だから、アンナが生きていたら駄目だろ?
───アンナが生きてたらカタキにならないだろォォォ!!
待て、待て待て…待って……あの言葉、どういう意味?
この際、どうして遊佐司狼なんて名前が出てくるのかは置いておく。
明るみにすべき問題はシュライバーの言う敵討ちだ。
これも意味が分からないが、言葉通りなら私が遊佐司狼に殺されて、シュライバーは敵討ちをしようと目論んでいる。
いくらなんでも、私が早々殺されるなんて…いえ、駄目よ、そんな慢心は犬にでも食わせろ。大事なのはシュライバーはそう考えているって事なんだから。
そして、さっきシュライバーは私を愛していると言った。
ええ、聞き間違いじゃない。
馬鹿力で私に抱き着いて大泣きしているし、一応愛しているって言葉は本当?
愛していて、その人が殺されて敵討ちをして……。
分かる筈よ。考えなさい、ヒントは散りばめられてた。
シュライバーとの付き合いは長いわ。この子は戦争屋でも、根っこはシリアルキラー。
同じ戦争屋でもザミエルやマキナのような軍人とも少し違う。
そう、薄々私も気付いてたでしょう? この子のどんな行動も最後は殺人へと行き付く事なんて。
もしかして…恋人を殺された敵討ちという動機で、遊佐司狼を殺したいってこと?
それで恋人になった私は生きてると邪魔だってこと?
生きてたら、仇討ちにならないから。
意味が、分からない…いえ、言いたい事は分かるけど。
───へえ、未来から来た猫型ロボットなんて……トランクスさんみたいだなあ。
……そういえば、悟飯君はトランクスなんて、下着の名前の男の話をしていたわ。
タイムマシンに乗って、未来の世界から来た人とか。
まさか、だけど…このシュライバーはタイムマシンで未来から来てる…とか?
そして私は未来で…遊佐司狼に殺されかけて、今みたいにシュライバーが近くに居て、助けて貰おうとした?
分かるわ。だって、他の誰でもない私自身の思考パターンだもの。
きっと、今みたいにシュライバーを誑かして、自己暗示をかけてより強力に愛させようとして……。
「が、っ、ぐふ、ぅ、っ……!」
こうやって殺人へと直結する愛情を抱かれて、敵討ちの為に殺されたってこと?
なら、愛を語るのは駄目だ。その選択肢は間違ってる。
どうする? どうする? どうする?
何を言えばいい。何を選択したらいい?
愛を語っても殺される。他の言動も、結局シュライバーに殺される。
何を言ってもシュライバーに……。
「ぜ…お、ん…あい、して……る…わ」
「は?」
殺されるのは不可避でも。
殺されるのは確定でも。
殺されるまでの時間を引き延ばす手段なら、一つだけ思い浮かんだ。
「ぜおん? ……ゼオン? 誰だい、それ」
「わたしの…あいした…愛しい、ひと……」
呂律は回らないけど、頭は回転させ続ける。
乗った、シュライバーは乗ってきた。
あくまで敵討ちに拘るシュライバーは、私に死んでいて欲しい。
でも、だけど…それは私とシュライバーが恋人であるという前提の話。
未来の私はそこでしくじった。恋仲になれば、普通は恋人を死なせず助けるだろうと、この狂人を常人の尺度で考えてしまったに違いない。
「ぜ、お…ん…ど、こ…ゼオン……」
それならば、シュライバーとの恋愛関係を解消してしまえ。
「君、もしかしてさ」
私の頭髪を掴んで顔を持ち上げて、シュライバーは笑みと怒りを交えた大声を張り上げる。
「浮気してるわけ!!? ねえ!!」
鼓膜が張り裂けそうな声で怒鳴られて、全身が恐怖で竦んでしまう。
でも、大丈夫。だって私にはゼオンが居るわ。とても強くて、優しくて、厳しいけれど思いやりと深い愛情を持つあの子が。
ああ…だって感じるんだもの。近くにあの子を。
「ゼオン、居る…のね、ちかくに…あなたを、かんじる……」
何も嘘は他人にだけ吐くものじゃない。私は自分だって騙してみせる。
声を吐く度、言葉を連想する度、白銀の髪、鋭い視線、銀のマントを思い浮かべて。
愛しくて愛しくて溜まらない、大好きなあの子を、もっと大好きになる。
好きよ、ゼオン。
「わたし、貴方が…好き、好きなの…大好きよ…ゼオン……」
より、強力に自己暗示を掛ける。
「なに、やってんだよもおおおおおおお!!!
マジで脳みそ腐ってんの!!? こんな場所で、下半身でもの考えてるのかァ!!」
掴んだ頭髪を思い切り振るい落とされて、私の顔面は鼻から打ち付けられて床とキスをする羽目になる。
鼻が曲がった…口の中が血で充満して、鉄臭い。痛い。
もう、どうしてこんな…ねえ、お願い…助けてゼオン。
「君と僕が恋人じゃないと、遊佐司狼を殺して愛を証明できないだろォ!!
全部台無しじゃないか! この馬鹿女ァ!!」
私を掴むシュライバーの腕が上下に振るわれて、何度も何度も私は床とキスする。
血の匂いと味にも慣れて何も感じなくなった。
大丈夫、頑張れ私…もうすぐよ。多分、もうすぐ……。
「全く、もう手間かけさせるなァ! アッハハハハハハハハハハハ!!!」
怒りの籠った声から唐突に歓喜に満ちた笑い声が木霊していく。
「ゼオン…ゼオンねぇ……」
私の頭髪を掴む手が強まる。来た、そうよ……これが狙いよ。
殺す動機に拘るのなら、それには私が貴方と両思いでないと敵討ちも成立しないでしょう?
だから、先ず私を寝取ったゼオンを殺そうと矛先を向けるのは、シュライバーとしても自然な発想よね? お願い、そうであって!!
「僕の恋人に手を出したんだ、ただじゃあおかない。フフッ、ウフフフ…」
あとは…賭けだ。
本当は悟飯君かメリュジーヌの名前を出したかったけど、きっとそうなればシュライバーは島中を走り回る。私を引き摺って。
それは無理だ。耐えられない、死んでしまう。
だから、ゼオンの名前を出した。ゼオンならそう遠くには居ないから。
後は私が持つか、シュライバーがその前にゼオンを見付けて戦うか。
「アハハハ…アッハハハハハハハハハハ!!!」
シュライバーは私を持ったまま走り出す。
よし、行ける! まだ運に見放されてない。
別の男に靡いた裏切者(わたし)を先に制裁するパターンも十分有り得たけど、シュライバーは先に間男を殺すのを選んだみたい。
音速を越えた世界は、空気すら刃のように私の全身を切り刻む。
地面に触れたままの肉は水の籠った生々しい音を立てて、削れていく。
もう、悲鳴を上げる気力もない。ただ激痛に耐えながら、一言呟く為だけの体力だけは温存する。
この周囲一帯を走り回り、そしてシュライバーから愛を奪い去った間男を見付けるまでは止まらないだろう。
その制裁すべき男の名を呟くまでは、意識を手放すな。
皮と肉と骨が粉々になって、地面に置き去りにされて、ミリ単位で全身を削られる嫌悪感。
大丈夫、ここさえ切り抜ければ何とかなる。もう痛みにも慣れた。大丈夫。
持ちなさい、私の身体……!!
───居た…居た! 居た!!
もう、指一本動かせないくらい重くなった身体だけど、視線だけは鋭敏に動かし続けていた。
そして見付けた、シュライバーの彼だけの音速の世界に無理矢理付き合わせられながら、摩耗して損傷を重ね続ける生き地獄の中で、白銀の希望を。
だから、ありったけの愛情を込めて、貴方の名を叫ぶ。
傷んだ身体では貴方には届かないだろうけれど、シュライバーにはきっと伝うような小さい声量で。
「ゼオン……」
ゼオン、私の愛しい子…好きよ、大好き。
それを聞いて、シュライバーは犬歯を剥き出しにして、大きく口許を釣りあげた。
「やあ、君がゼオン君かな?」
シュライバーはそう言って、ゴミみたいに私を放り捨てた。
ほんと、扱いは最悪だけど…やった、やったわと私は心の中でガッツポーズを組んだ。
******
「雌猫のクソみてェなトラブルもあったが、策は進んでいるようだな」
デパートの数10メートル先で、この俺ゼオンは策が進んでいることを確信した
青コートと氷の女の戦闘は既に開幕している。
女を霧でデパートへと誘導し、青コートとかち合わせる。
これは成功した。
同時にデパートの連中に気取られる前に、ジャックには一度霧を消去させる。
これも上手く行ったようだ
当初は霧に気付かれぬよう、ルサルカに特攻させて気を引かせる予定だった。
離れているが、俺の分身を通せば命令もできる。
だがあの女、予想以上に移動速度が遅くそれもままならない。
あの時点で俺らから1キロも離れていないような場所で、グズグズしていやがったんだからな。
脅しを兼ねて数発、バルギルド・ザケルガを打ち込んでやったが、痛めれば痛めるだけ到着が遅れる等と抜かしやがる。
身体はもう限界で、これ以上の速さで移動は出来ねえだと? 思い出すだけでイラつくぜ。
休息はしっかり取らせただろうが!!
氷の女を誘導する都合、何時までも待つ訳にもいかず、仕方ないので氷の女の魔力の移動を追いながらタイミングを見計らって、ジャックに霧を消させた。
あれを誘導しつつ、デパートの連中に知覚させないような霧の顕現は、ジャックも大分くたびれたようだ。
俺も氷の女の魔力を随時確認して、霧を消す適切なタイミングを伝えるのに余計な労力を支払わせられたもんだ。
心底、使い物にならねえ愚図猫だな奴は。
あのまま廃人にしてやっても良かったところだぜ。
元より、何の期待もしていなかったがな。だが…廃人にする時間も今は惜しい。
それにあの様子じゃ、どのみちデパート連中の気を逸らさせる事も難しかったかもしれねえな。
フン、やはり使えねえ。
ここの連中を片づけたら、あいつは完全に用済みだ。後で念入りに痛め付けて殺してやる。
(連中は別れたか)
霧を消した上でジャックとガムテにはデパート内へと潜入させた。
気配を断つという点で、あれは俺の遥か上を行く。
王には王の役割があるのなら、奴等には奴等の適職がある。
奴等には、より細かな事態の動向を俺に知らせる偵察を命じた。
(嬉しい誤算だな。奴等が別れてくれたのは)
カードを使い奴等を分散させることも考えていたが、どうやら女の連れていた背の高いガキ…まあ俺は直接見てはいないが、ジャックが言うには美味しそうな男。
そいつが連中を掻き回して行動を別々にさせてくれたようだ。
感謝しなきゃな、その馬鹿には。
白のコートのような鎧を着た奴が一人自己保身に走り孤立し。
フランとかいうジャックが映画で戦った女が、今は一人。
残る雑魚とジャックのいうライダーのサーヴァントが固まっている
それなりに、理想的な別れ方をしたといえる。
さて、先ずは何処から潰すべきかな。
白服の男は…ほう、ルサルカの雌猫が接触したか。こいつはいい。
当初の予定を初っ端から狂わせてから、ようやく遅れてデパートに到着とはな。
まだ利用価値はあるか。
フランも…こいつもそうだな……ジャックの獲物か。
「ライダーからだな」
標的は決まった。
ライダーのサーヴァントと雑魚共からだ。
乃亜の話じゃ、実質殺した人数に比例してドミノというポイントを渡し、報酬を渡すか否か決めると話していやがった。
ジャックとガムテに余分なドミノを渡す筋合いもねえ。
奴らから、先に捻り潰してやる。
その後に白服だ。雌猫には精々奴の足を引っ張るよう、命じておくとするか。
仕込むネタは浮かんだ。あのボロボロの雌猫でやれそうな簡単なものだが、効果抜群のものをな。
下準備をさせている間に、俺はライダーを始末しておく。
もしも、ジャックがフラン達を早く始末しライダーの周りの雑魚が少しは残っているのなら、褒美としてくれてやっても構わねえがな。
そこは奴等次第だ。
「なに───?」
鮫肌を担ぎ上げ、ライダーを始末しようと出向こうとしたその矢先。
雌猫に括り付けた俺の使い魔の視界が真っ暗になった。
奴が取り外した? ……だとしても、外したのは百歩譲り納得するが、俺に一切の前触れも感知させずに?
なんだ? 何が起きた?
使い魔が最期に見た、あの風はなんだ?
屋内で唐突に巻き起こった突風が雌猫共を煽った途端に、全ての視界が消し飛んだ。
「……一体何が」
予期せぬトラブルが発生した。
俺はそう確信する。
ジャックとガムテを引き上げさせ、ここで離脱するのが安全策だ。
念話を通じて命じれば奴等は従うだろう。最悪、捨て置いたって構わない。
だが、同時に青コートと氷の女を両方始末する好機にも違いない。
デパートにいるのが雑魚共だけならば、放っておいても良かったが。奴ら二人が共に潰し合う好機を逃がすのも惜しいか?
上手く機を狙えば両方潰せる。
この奇襲、成功すれば見返りはでかい。
デパート連中の雑魚ですら殺し尽くせば、ドミノも高得点で取得できる。
目障りな目の上のたん瘤も消せて、乃亜からの報酬も受け取れる。
「やはり、様子を見るか」
幸い、こちらの存在はデパート連中にはバレていない。
それならば、今は見に回って状況把握に務めるのが───。
「やあ、君がゼオン君かな?」
なん、だと……?
この俺が声を掛けられるまで、何の気配も感知できなかった?
何の前兆も補足できず、為すがままに背後を取られたのか。
無意識に鮫肌を握る手が強まった。
振り返り、何者が俺の背後を取ったか見定めねばならない。
「これ、君がやったんだよね?」
居たのは二人だ。
長い髪を紐のように持ち上げられて上体を引っ張られ、これ見よがしに顔を上げさせられている女。
俺が散々嬲った無能でカスみてえな雌猫、ルサルカだ。だがそんなもんはどうでもいい。
そのルサルカを縫いぐるみのような気安さで、持ち歩く白髪の男。
同じ軍服を纏い、眼帯を右に付け青い隻眼が俺に視線を刺してくる。
左腕の赤い腕章がルサルカと同部隊に所属しているのだと、俺に訴えかけてきた。
「僕からアンナを奪ったのは君だな?」
何を…言っていやがる……?
そんな駄猫、欲しけりゃいくらでもくれてやる。
「テオザケル」
当たりさえすれば、雌猫ごとで構わなかった。
有無を言わさず会話も取り合わずに、電撃を放つ。
男は俺の眼前から、消えた。消えたと思わせる程の尋常ではない絶速で避けたのだ。
「なるほどなるほど…うん、見た目そっくりだからもしかしたらと思ったんだが……君───」
奴はピンピンした様子で、俺の視界の端、テオザケルの範囲外で戯言を続ける。
俺の背後を取る力量から推察してはいたが、この男の速さは異常だ。
青コートも氷の女すらも、この速さには追い付けまい。
この電撃も当たるとは、俺も到底考えていなかった。
ただの、牽制及び意識を逸らす為のフェイントに過ぎない。
俺は懐のカードに手を伸ばしかけている。
どうやら招かれざる客を呼んでしまったようだ。
得体が知れねえ。この作戦を続行することは危険すぎる。
リターンをリスクが完全に上回った瞬間だった。
「ガッシュ君の弟かい?」
カードに触れ、そして……俺の思考は完全に停止した。
奴は今、なんとほざきやがった……?
「道理で弱っちい電撃な訳だ。彼の方が、ずっと迫力があった」
あんなカスの落ちこぼれと血が繋がってるだけでも、腸が煮えくり返そうだってのに。
よりにもよって、俺が弟だと…? 俺が奴より弱い?
「てめえ…良い度胸だ」
ニタニタと薄ら笑いを浮かべる、あのクソ野郎を目にして。
カードから俺の手は遠ざかっていた。
「あのカスと俺の雷、どちらが上かはっきりさせてやる」
俺の手からは雷が瞬き、修羅の怒りを雷が顕わしているようだった。
訳の分からない狂人の馬鹿だが、実力は間違いなく高い。高すぎる。
いずれ殺すにしても、この段階でぶつかるべき相手じゃない。
周到な用意と準備を重ねてから、討伐に向かわなくては。
だが…。
だがッッ!!!
奴の口ぶりから、あのガッシュがこいつと戦った。そして忌々しいが今は放送直後。
名が呼ばれていないということは、あいつはこの男と戦い生き延びやがった!!
俺が一目で撤退を選ぼうとした、そんな奴を相手に?
ならば、俺がここで退いて、無様な逃走を選ぶわけにはいかねえ。
俺が奴より弱いなど、俺がガッシュに劣るなど断じてありえん!
こいつの屍で、それを証明してやる。
「さあ、奪い合おうか。僕と君で恋人(アンナ)を!!!」
「一人で勝手に盛り上がるんじゃねえぞ!!!」
俺は…いらない子なんかじゃない。
******
(ランドセルが…!)
藤木の雷を後方へ飛び退き避けたネモだが、破壊の余波に煽られて華奢な身体は呆気なく吹き飛ばされる。
すぐに受け身を取りながら、続く二撃目を身を逸らして避け、水流を藤木へと飛ばす。
『どんな能力も使い様ですよ』
魔神王の声が鮮明に藤木の脳裏に反響する。
「せいっ!」
藤木は雷となり消失する。雷速で動いた藤木をネモの水流は捉えきれず、背後の壁を濡らしたに留まった。
以前の時とは違う。前情報もあり水に触れてはいけないことも藤木は理解していた。
飲まれる前に消えてしまえば、こんな水は怖くない。
「ッ! くっ…なんだ、以前の藤木じゃない」
ネモは驚嘆する。一度ならず、二度までもネモの攻撃を避けた。
まぐれじゃない。
ネモの攻撃に対策を練っている。
『私の氷から脱出した、あの感覚を忘れない事です』
ネモの海水であれば、悪魔の実の能力者を完全に完封する。
能力者は等しく海水に触れる事で力を失い衰弱するからだ。
『あれを使いこなせるだけでも、かなり違う』
だが、それは当たればだ。
砂や煙であれば、藤木の力量では修練不足で即座にネモが捉えた事だろう。
しかし藤木が操るのは雷、自然が齎すエネルギーの中でも最上位の力。
常に雷であり続けられるのであれば、その速度で動けばネモの海水には当たらない。
(フフフ…こ、これなら……あのネモが手も足も出てないじゃないか)
ネモは横方向に駆け出して手を伸ばす。
先程の風圧に奪われ手放した、自身のランドセルを回収しようとしていた。
「させるもんか!」
ばちりと乾いた音を立てたかと思うと、ネモの前で紫電が散る。白く発光した雷が人型になり、両手を突き出す。
ネモの胸に触れた瞬間、高圧電流が全身を駆け巡った。
「ぐあああああああああああああああ!!」
外気に触れる表皮から内部を焼き尽くされる感触は、サーヴァントの霊基にすら損傷を与えかねない。
『大事なのはネモから、ランドセルを遠ざけること』
『あれは騎兵、騎馬さえなければ恐れる事はない』
ネモは特段強力なサーヴァントではない。
英霊に数えられるに相応しい偉業を制した一角といえど、神霊をその身に交えていようと。
三騎士程の恵まれたステータスもない。
『神牛と戦車の維持に必要な魔力は少なくないでしょう』
『普段はランドセルに封じ、魔力の消費を抑えている筈』
『貴方の理解に合わせれば、ネモに一切武器を抜かせなければ良いのですよ』
「武器に頼った愚かな戦いが、如何に脆いか君に教えてやるんだ!!」
藤木は高笑いと共に電流をより引き上げてネモに流し込む。
───影真似の術!!
印を組み、シカマルの足元から影が伸び藤木から生えた影に触れた。全身の身動きが、張り付けにされたように動けなくなる。
藤木も覚えがある。シカマルの使う影の技だ。
だが、こんなもの雷になって実体を消せば無力化できる。
「「「せーの!!」」」
更に同時に3人のマリーンが110mm個人携帯対戦車弾頭弾を担ぎ上げていた。
シカマルが龍亞と梨沙の名を叫び、龍亞は梨沙の腕を引いて後方へ駆けてから、二人は頭を庇い床へと伏せる。
デパート内の壁面、地面が振動で揺れる。
ミサイルが藤木へと着弾し爆破したのだ。
爆音が耳を鳴らし、近くの窓が破裂してガラス片を撒き散らし、丁寧に並べてあった商品棚も軽々吹っ飛んでいく。
「こ…ここまでする必要…」
「ない…わよね?」
龍亞も梨沙も事態の変化に付いて行けず、ここまで何も考える余裕はなかったが。
爆発の後いくらなんでも、たかだか小学生の男児にあんなもの打ち込むのは、やり過ぎではと唖然としていた。
「効くもんか! そんなもの!!」
だが、それは間違っていたとすぐに理解した。
藤木の身体はノイズのように紫電が走る以外は、全くの無傷だったのだ。
瓦礫やコンクリート片が散らばる破壊の中心地にありながら、柔い人体が一切の傷を負っていない異常性。
自然系(ロギア)の悪魔の実が有する、物理的な干渉を実質全て遮断する流動する体。
一部の相性を除けば、自然のエネルギーそのものへと変身できる能力者は無敵。
(ランドセルを…!)
だが、例外はある。
物理干渉不可能の肉体も、覇気という異能を纏うことで実体を捉えダメージを通せるように。
別の世界に於ける異能であっても、覇気ほどの倍率ではないが自然の力にも干渉し得る。
そう、例えば英霊の持つ宝具という名の偉業の集大成にして、極上の神秘ならば。
仮の担い手であろうとも、十分すぎるダメージを与えられるだろう。
故にネモはランドセルへと手を伸ばす。
(ミサイルの爆破はフェイクだ、本命はネモ)
シカマルの持つ手札で、今の藤木に通用するのは影真似の術からの影首縛りの術になるが。
仕留めるには確実性が乏しい。
例えば完全に雷に変わった場合、果たして術の効力はどうなるのか。
雷という人間では到底御しきれぬエネルギーを、果たして首を絞め殺すまでの間留めておけるのか?
シカマル目線からの疑問は尽きない。だから、決め手はネモに譲る。
(藤木……)
ネモとて思うところがないわけではないが、到底藤木を見過ごす訳にはいかない。
子供が持つには不釣り合いすぎる異能は、この先大勢の犠牲者を出し、ネモと悟空が立てた脱出計画すら白紙にしかねない。
それだけは阻止しなければ。
藤木に対し同情はある。乃亜から強制された殺し合いに怯え、人を殺めようとした事は褒められる事ではないが。
恐らく現代の法であれば、情状酌量の余地もあるのだろう。
けれども、その為にネモ一人ならまだしも無辜の子供達を意図的に死なせ、殺し合いを支配する乃亜を打倒する唯一の希望を破棄させるような行いは許せない。
「ッ、がッァァァァ、…な………ッ…!!?」
だが、ランドセルに触れようとした瞬間に横合いから雷の槍がネモを貫く。
全身を電撃が焼き、身動きが取れないまま倒れた。
「グ、が…ァ……」
ネモは短く呻き声を上げて、顔だけは藤木を睨み付ける。
手を床に付いて上体を上げようとして間接に力が入らず、顔を床に打ち付ける。
ネモは立とうとして、体に力が入らず痺れた全身の感覚が麻痺していることに気付いた。
(ま…ずい……!)
(そうか…コンセントの差し込み口から……!!)
事の一部始終を見たシカマルは一連の真相を即座に推測する。
電に変化させた体の一部を壁際のデパート内のコンセントから通電させ、そしてネモの近くの差し込み口から射出したのだ。
『その力、貴方の世界ではかなりの脅威になりますね』
『電気が社会のライフラインの一部になっているとは』
『この島でも、それは同じようだ』
そのアイディアも能力の使い方も工夫も全部魔神王が藤木へと指示したもの。
(す…凄いぞ…と…俊國君? なのか? もう何か見た目変わってよく分かんないけど、あの人のいう通りにやったら、ネモだってやっつけちゃった)
確かに、本当にこんな強い能力とは夢にも思わなかった。
本来なら逆立ちしても勝てない筈のネモですら、赤子を手を捻るよう。
「フン!!」
藤木の手から電撃が放たれ、ランドセルに直撃。ネモやシカマル達の手の届かない、更に遠方へ吹き飛んでいく。
もう、かつての戦いのように、小さな堕天使が勝利を運ぶことは永劫ありえない。
(フフフ…次はシカマルだァ……!!)
シカマルの能力の種は割れている。
影を伸ばして相手を動けなくする能力、はっきりって雑魚だった。
ネモに比べればどうってことない。
もう既に勝った気で、藤木はシカマルへと振り返る。
「ぐ、っ…」
雷速の移動についてこれず、シカマルは藤木の不格好なミドルキックを避けられず受けてしまう。
「か…雷の速さで…蹴られた事はあるかい?」
藤木は、ニタニタと吹き飛んでいったシカマルを眺めていた。
ぜいぜいと息を荒げているのが遠目からでも分かる。もう虫の息みたいだ。
心地が良い。
かつて自分に恥をかかせた奴等にやり返すのは。
「ネモッ!!」
その時、藤木の耳へと飛び込んだのは少女の叫びだった。
この少女も藤木には忘れように忘れられない。
フランドール・スカーレット。
装飾品のような翼をはためかせ、般若のような形相で藤木へと吶喊する。
(壊す!)
1度ならず2度までもあのクソガキッ!!
余裕のある時のレミリアが居れば、落ち着きなさいと宥めるであろう憤怒を抱いて。
死に掛けたネモと無惨に横たわる牛と戦車を見て、より怒りを強めた。
───禁忌「レーヴァテイン」───
手に高濃度のエネルギーが凝縮され、それは一振りの剣のような形状へと変化した。
フランの数倍以上はある、長尺の紅の太刀は藤木では避けようも見切りようもない速度で横薙ぎに振るわれる。
藤木の能力には辛酸を舐めさせられたが、一部の攻撃は身体をすり抜けずダメージを受けていたのをフランは忘れていない。
フランの憶測だが、物理攻撃には滅法強い一方で魔法などの特殊な攻撃なら通用すると判断。
仮に駄目でもレーヴァテインならば、身体をすり抜けるだけでこちらへの感電ダメージもない。
実際にその憶測は正しく、藤木の余命は残り幾ばくも無い。そこまでフランは追い詰めていた。
「げ、っ…」
先程までの激情が嘘のように消失し、振るった腕と共にフランが止まる。
『そうだ。もう一つ』
藤木は掌を、天井へと翳していた。
『貴方の世界には、火災対策としてスプリンクラーというものが存在しているのでしょう?』
完全に壊れないよう加減された電撃にスプリンクラーが反応し、人口の雨を降りしきらせる。
それは丁度、フランの真上に降り注いでいた。
『フランが伝承通りの吸血鬼ならば、恐らくは役に立ちます』
吸血鬼は流水を渡れない。
(人間の世界には、こんな悍ましい機械があるなんて、最悪だわ!)
フランは水の牢獄に囚われたも同然だった。
スペルカードで水を吹き飛ばすか? 恐らく可能だ。
問題は───。
(流石にねぇ……)
もう藤木が目の前に居て、電撃が放たれていることだ。
流石のフランも雷速を後出しで追い抜くのは難しい。
(おいおいおいおいおいおいおいおいおい…)
ここから、一体どうやって負けるんだ?
慢心を飛び越えて藤木は困惑していた。
フランにとびっきりの電撃を打ち込めば、絶対に殺せる。当然水から出ないように勢いは抑える。
ネモはリタイア、シカマルではどうやっても藤木に勝てっこない。
あの影の術で雷速で動ける藤木をどうやって捕まえられる?
(え、うそ……これじゃ…僕の勝ちじゃないか!)
全部、魔神王の言う通りになっていた。
シュライバーの言った10人殺しも現実味を帯びてくる、それどころか本当に優勝しそうだ。
あの子の言う通りにさえすれば、藤木はわなわなと震えながら確信を強めていく。
「え…と……」
フランを殺そうとして、ほんの一瞬迷う。
本当に殺しても良いんだろうか?
ドラマじゃ殺人犯は良く警察に逮捕されている。
古畑任三郎も良く殺人犯を捕まえている、あのイチローやSMAPですら逮捕していた。
長期休みの昼間によく見る相棒の再放送でも、右京さんは殺人を決して許さない。
ウルトラマンだって、良い怪獣は倒さない。
仮面ライダーも人の心を持つ怪人を見逃している。
プリキュアだって、敵の幹部が改心して和解したり友達になることがある。
(い…いや……そんな……)
ヒーロー達はみんな、毎週悪い奴等を殺すだけじゃない。
フジキングはヒーローの筈?
それにこいつらは悪い奴等なのか?
『そういえば…放送で流れた永沢君は貴方のお友達の名前でしたね?』
「な…永沢君……」
目を瞑って、藤木は両手に電撃を溜めて、雷光がフランを照らした。
こうしないと、親友はもう生き返らない。
城ヶ崎さんも死んだままだ。
だから、ごめんなさいと小さく呟いて。
───影縫い!!
だが、藤木の肩に鋭い痛みが走った。
見れば黒い影が鋭利な槍のように先端を尖らせ、藤木の肩を貫通していたのだ
「ぐがっ…ぎゃ、があああああああああああ!?」
遅れて悲鳴を上げて、これは一体なんだ? なんで自分の体が傷付けられているのか。
激痛への苦悶と恐怖、そして疑問を交えた叫びは木々に木霊していく。
「な…なん、ご…れ……ッ!?」
「修行中の新術だよ」
ほんの一瞬、悲鳴と共に身動きが止まった藤木の隙は英霊の視点からすれば大きい。
ネモから巻き上がった海水は蛇のように床を伝って、藤木を包み込んだ。
(か…体が…う、うごか……)
悪魔の実の能力者に共通する弱点。
それはかなづちであることと、もう一つ海水に触れればその力の一切を失うこと。
海水に首から上以外包まれた藤木は、最早身動きが取れない。
(い…いや…だ……)
藤木は己の敗北を悟った。
(ぶっつけ本番だが…なんとか、上手くやれたな)
シカマルは額の汗を拭い溜息をついた。
乃亜による殺し合いに呼ばれることがなければ、数年後に不死身の肉体を持つ暁の忍、飛段を相手に使用した忍術だ。
藤木は物理攻撃を受けないが、特殊な力を込めた物であれば通用する。
チャクラを込め影を具現化し鋭利な槍のように敵を穿つこの忍術であれば、藤木の流動する肉体も貫くやもしれない。
藤木への対抗策としてシカマルが想定した術だが、欠点としてまだシカマルが鍛錬の途中であったこと。
術の原理と印は頭に叩き込んでいたが、不確かな術に命運を託すのは冷や汗ものだった。
(肝を冷やしたぜ…)
正直に言えばシカマルもこの術が出せるか、ほぼ賭けだった。
(実体化出来た影は一つだけ…親父なら、六つは出せたな)
自分の未熟さに不甲斐なさを覚える。この先、数時間の間にせめて三つは出せるようにしたいものだ。
だが、今ので術のコツは掴んだ手応えがあった。自分の数少ない手札に加えても良いのかもしない。
「ネモ…」
息を切らしながらシカマルはネモに声を掛ける。
「分かっているよ」
龍亞と梨沙の前で、酷な為に口には出さないが。
既に、シカマルとネモの中で藤木の処遇は決定していた。
生かしておくわけにはいかない。
魔神王の入れ知恵もあったとはいえ、仮にもサーヴァントと中忍、そして吸血鬼を相手取り全滅させかけたのだ。
海水が弱点とはいえ、ネモも常にそれを出し続けていれば魔力切れで消失する。
とても、ネモとシカマルではもう抑え込めない。
シカマルと目配せし、ネモは藤木へと近づいていく。
「くそ、ちくじょう…、なんで…!!」
ジタバタ藻掻きながら藤木は叫ぶが、声の圧に反して全身の力は海水に奪われていた。
ぴちゃぴちゃと水を叩く音は、陸に上げられ食されるのを待つ魚のようだった。
「梨沙、龍亞…」
シカマルが二人の肩に手を置いて振り向かせる。
この先の光景を見せる必要はない。
不安そうに見つめる二人を見て、シカマルは目を細める。
「先に行こう…フラン、お前も来てくれ」
「ええ…」
フランも知識としては、人間の子供は殺しに忌避感を持っているのは知っている。
自分よりも人の扱いに慣れているシカマルとネモに間違いはないだろう。
そう考えて、特に何も反論もしない。
「お前、ばかり…悟空を独り占め、しやがって!! お前が、居なければ……悟空が来てくれて、永沢君は死ななかったかもしれないんだッ!!」
藤木の内心は、憎悪と嫉妬と悲しみが入り交じり思考が混雑としていた。
目の前のネモは当然腹正しい。
それでも、放送前は自分が悪いという自覚も少しはあったが。
永沢の名前が流れて、それからどうして彼が死んだのか考え出した。
あんな島の隅っこで、悟空に守られ続けていたネモ。
こいつがズルい事をして悟空を騙して、ずっと自分の事を守らせているから、悟空が誰も助けられず永沢も他の子達も死んだんじゃないか。
藤木の中で、ネモの人物像は大きく捻じれていた。
『ネモはズルいですよね? だって、あのフランという子…しんのすけという男の子を殺しているんですよ?
それなのに、まるで食客扱いだ。まだ誰も殺してもいない貴方ときたら…』
「フランなんて人殺しなのにッ!! 僕は誰も殺してなんかないのに!!
なんで、こんな目に合わなきゃ…僕はァッ!! 一度君を襲っただけなのに」
「二回だよ」
悟空達と一緒に居た時と、偽無惨の時で計二回だ。今回も入れれば三回になるか。
ネモは心底呆れ果てて誤りを指摘する。
「ふーん」
退屈そうにフランも喉を鳴らす。
別にネモに隠していた訳じゃない。しんのすけに手を掛けたのは、ジャックに嵌められた自分だと。
なんでそれを知っているのか疑問に思ったが、きっとあの偽無惨に全部吹き込まれたのだろうと想像する。
(あーあ、そっか……)
あの場面を知っているのはジャックとフランを除けばしんのすけ本人しかいない。
だから、ジャックに聞いたのでもなければ、しんのすけから情報を引き出したとか考えられない。
そして既に死んだしんのすけから、そんなモノを引き出す方法は……。
(やっちゃったなぁ…)
『……映画館か。何ならオラたち、今から向かっても───』
『無駄よ。もう…あそこに助けを求めてる子なんて一人もいないもん』
生者はいなくとも、遺体位は埋葬できたのに。
死んでからも、きっと怖い目に合ってしまったしんのすけを思うと。
己の短絡的な考えに、眩暈すら覚える。
******
嫌だ、死にたくない! 死にたくないッ!!!
「が…ぐ、ぞ……」
どうして、こんなことになるんだ。
「い、や………だ……ぁ」
クソックソックソッ!!
全部あいつらのせいだ。ネモが悪いんだ!
悟空に守って貰えたはずなのに、あの後何にもしなかったのに! 俊國君と二人っきりなんかにしやがって!
あんな脅され方したら、誰だって従うしかないじゃないか! 裏切り者とか言ってもそんなの仕方ないだろ!
どうしたら良いんだよ! あいつがあんなことしなければ、僕は悟空に助けて貰えたかもしれないのに!!
ズルいだろあいつだけ! 自分の好きな奴だけ助けやがって!! しおちゃんやフランちゃんが可愛いから、あいつは依怙贔屓してるんだ! そうだ、そうに違いない!!
しおちゃんだって、あんなヤバい目をしてる娘が普通な訳ないんだ。それなのに、僕との扱いの差は何なんだよ!
僕の立場にしおちゃんがいたら、同じこと絶対にしてないだろ!?
フランだって頭おかしいだろあいつ! 俊國が言ってたんだ。しんのすけとかいう2時間で友たちになった奴の為に優勝狙うとかサイコパスだって!
2時間で友達になんて、なれっこないだろ!
クソックソッ! 僕や永沢君みたいなブサメンは生きる価値がないっていうのか!!?
ふざけんなァ!
「きみ……」
龍亞とかいう奴が、僕を見下ろしてくる。
なんだ…なんだよ、その目は?
僕が卑怯者だって言いたいんだろ? フン、そうさ僕はどうせ卑怯者だよ。
そうだ、でもネモだって卑怯者じゃないか。
なんであいつばかり、悟空を独り占めするんだよ! 悟空もヒーローの癖に一人だけ贔屓するなよ!!
「なんで、あんなに強かったのに…こんなこと、するんだよ…」
え……?
「さっき言ってた永沢って、きみの友達だよね。なら、どうして皆に言ってくれなかったんだ。
シカマルもネモも…きっと、助けてくれたよ」
なんだよ…急に、やめろよ……。
僕を見下せよ、蔑めよ、どうせ僕なんて卑怯者だって言えよ。
そうだよ、ああそうだよ! 乃亜が怖くて殺し合いに乗ったんだ、だからこれは仕方なかったことで……。
「友達の為に戦える…勇気があったのに、なんであんなことに使うんだ…君が仲間になってくれたら、あの時、かなだって死ななかったかもしれないのに」
そんな、悔やんだ目で見ないでくれ。
だって、そんなこと言われたら…もしかしたらって思うじゃないか。
『奈良シカマルだ、お互いめんどくせー事に巻き込まれちまったな』
『私は的場梨沙よ。アンタ唇の色青いけど、大丈夫?』
殺し合いが始まって、一番最初にあの二人に出会った時に。
あの時にほんの少し勇気を出して、もしかしたら永沢君も居るかもしれないから…一緒に探して欲しいって、言えばよかったのか?
死にたくないけど、殺し合いもしたくないから力を合わせようって?
……そんなこと…分かってる。分かってるんだよ。
だけど、だけど…乃亜に逆らうのが怖くて。
始めの一歩が怖くて踏み出せなくて。
後から、変なタイミングで変な勇気を振り絞って、頑張って乃亜をやっつけようとしてる皆の邪魔をしてるだけだなんて、そんなの僕が一番分かってるさ。
あんな場面で勇気を出すぐらいなら、最初からシカマル達の仲間になった方がマシだったなんて、何度も後悔したさ!!
分かってる、分かってるけど…死ぬ前に、そんなこと、思い知らさないでくれよ!
全部ネモのせいにしたいんだ! 僕は…僕が……ッ!!
「ァ…ァあ、っァ……」
クソックソックソッ、止まれ、止まれよ涙…泣くなよ!
認めることになるだろ!! 全部自分が悪いってこと、全部受け入れることになるじゃないか!!
もう死ぬまで、後数秒なんだ。それまで自分を誤魔化せればいいんだ。
だから、泣くな…泣くなよ、泣くんじゃない僕ッ!!!
「……ね…も…あ、い…つ……ッ」
なんだよ…なんで、最期に…そんな、こと…言うんだよ……。
******
「ッ───おい!?」
シカマルの叫び声が響く。
紫の炎のような光の輝きが、窓から飛び込んでくる。
同時に龍亞の腕の痣が赤く光った。
「うそ…だろ……あの時、遊星達が倒したのに」
龍亞は信じられないものを見たように瞠目する。
「地縛神まで…乃亜は誰かに配ったのかよ……」
その驚嘆と恐れを秘めた声は震えていた。
霧が止んだか。
絶望王と対面しながら、魔神王は自身が誘導されたのを改めて再認識した。
敢えて誘いに乗ったとはいえ、あの雷帝の少年の気配は感知できない。
距離を置いて、様子を図っているのだろう。同時にこの霧は雷帝の力でもないと予想する。
野原しんのすけの脳を食らい、その記憶の中に霧を操る暗殺者の姿もあった。
ほんの僅かの邂逅だったが、強く脳裏に刻まれていた。
そして雷帝が手駒として使うだけあり、良い腕をしている。雷帝と違い近くには潜んでいるのだろうが、一切の気配を感知できない。
「何、余所見してんだ?」
青く輝く業火が花弁のように舞う。
魔神王を包むように、閉じた花のように炎のつぼみは収縮される。
人体など軽々消し炭にする超高温、熱された空気は息を吸うだけで食道を燃やし、体内を焼きかねない。そんな生存を許さぬ地獄の中で魔神王はすうと呼吸を行う。
そして、口から息を一吹きした。まるで、ろうそくの火を吹き消す快活であどけない少女のように。
吐息に乗せた冷気が炎が凍てつかせ、業火のつぼみから世にも珍しい炎の氷像が完成する。
「汝のつまらぬ手品も見飽きた所だった」
氷の中に囚われた炎という矛盾した芸術品が、この世に留まったのはほんの数秒。
氷像の中央が罅割れ、魔神王が黒髪をはためかせ、悠然と佇んでいた。
口から吐かれた息は瘴気となり、人を蝕むには十分な猛毒を孕んでいる。
魔神王、その依り代となった姫を誘うレッドカーペットのように瘴気は拡がり、絶望王へと迫る。
「お前、口内ケアしてるか?」
人の肉体に降りた以上、絶望王とて毒の瘴気を吸い上げればその身を蝕む。
だが、念動力の行使により絶望王の眼前に不可視の壁が出来たように、瘴気の流れが二つに別れていった。
「ッ、と」
瘴気で遮られた視界の隅、僅かな風の動きの変化を感じ取り絶望王は後方へ身を逸らす。
死角から回り込んだ、魔神王の氷のサーベルが虚空を突いていた。そのまま、横薙ぎへ振り払い。
目と鼻の先へ刃が触れる寸前、念動力の見えざる手が魔神王を掴み取る。
魔神王の全身を浮かせ、遥か後方の民家へと野球ボールを放るように投擲されていく。
人間大の物質が時速100数キロの速さで投げ出され、そこから齎される破壊力は到底人間が生身で受け切れるものではない。
直撃した民家も木材を弾け飛ばし、瓦礫を四方に飛ばしながら半壊していく。
通常であれば、肉体を爆散させ生きてはいないだろう。だが、そうはならないだろうことは絶望王自身が一番よく分かっていた。
「───!」
絶望王、その入れ物たるブラックの前髪が数本本体から切り離される。
目の前に前触れもなく生えた鋭利な氷柱、その先端の刃を避けて。
僅かに後退した絶望王を追尾するように氷柱はコンマの遅れもなく、次々と生成されては天上へと矛先を向け、絶望王を穿たんとする。
絶望王は両手をコートのポケットに突っ込んだまま、5ステップ程退いて迫る氷の刃に蒼炎を打ち付ける。
氷は蒸発、湯気を上げて消失し、また炎は瓦礫の中に沈んだ魔神王へと向かう。
爆音と共に木造の民家は瞬時に燃え広がり、青々と魔の炎を展開し燃え盛る。
「我より汝の方が要るだろう? よく喋る舌だ」
炎の中から、まるで感情など悟らせない端的な声が響く。
絶望王は楽し気に口許を釣りあげて、親しい友達を見つめるように瞼に皺を作る。
青く燃え盛る業火の中で人影が一つ、苦しみ悶えるでもなく揺らめいた。
数十メートル以上離れた間合いなど関係なく、絶望王の頭上に隕石のような氷山が生成されていく。
絶望王は笑みを絶やさず、踵を持ち上げ地面を蹴り上げ、頭上から降り落ちる氷山の砲弾を正面から突っ切る。
顔面から氷山に吸い込まれ、その肌に氷が触れる数ミリ先の段階で念動力が行使される。
メキメキと氷山は下から縦に一直線に罅割れ、下向から真っ二つに切断された。
そのまま地上から浮かび上がり、雲を超えたあたりで絶望王は空中で停止した。
「ハハッ───」
雲を引き裂き、また火達磨のまま魔神王も上昇していた。
噴火で飛び出したマグマの岩石弾のように。
間合いを0へと詰めて、上昇する勢いのまま繰り出された手刀を鼻先で制止させる。
ぎちぎちと軋んだ音が魔神王の右腕から鳴り、ぼんっと破裂した音が響き、その腕が血肉と骨を弾けさせた。
消えた腕などまるで意に返さず、魔神王は絶望王から視線を逸らさない。
他人事のように、一切の怯みも恐怖も苦痛もなく。詠唱を唱え光の放流が絶望王を飲み込んだ。
数百の光の矢がただ一人の少年の身へと導かれ、その全てが空中で制止する。
瞬間、矢の向きは全てが強引に変えられその先端が魔神王を捉えた。
「黒ひげ危機一髪って知ってるか? 樽の中で動けないおっさんを甚振るゲームなんだけどさ、こんな感じだよ」
からかうように軽口を叩いて、その矢が数十先ずは射出される。
魔神王の両肩を貫く、血飛沫が舞いより瘴気が濃くなる。
二度、矢が射出。
腹を穿ち、胸を撃ち抜く。人間なら致命傷だが魔神王はやはり素知らぬ顔を崩さない。
三度、今度は太腿を貫く。
両足を流れる血管が破れ、割れた風船の中に溜まった水のように血が吹き出した。
四度、次は四肢の接合部を矢が切り裂く。
破裂した右腕を除く手足は空中へ放り出され、生きた肉体の一部から腐敗を待つばかりの生肉へと変貌した。
「大層つらまぬ児戯なのだろうな」
手足を?がれ、達磨になった魔神王はやはり無表情。
子供の戯れに付き合い飽き飽きしたといった声色だった。
「ああ、やっぱ駄目だ。退屈だな」
制限を鑑みても人が生きては行けぬ瘴気の中心地にありながら、絶望王は鼻先で手を振る素振り以外は苦悶の表情すらあげない。
「珍しいことだ。汝と同じ結論とはな」
「どうかな? 乃亜のクソガキにやれば、大分楽しいと思うよ」
「では、いずれ試すとしよう」
手足のないまま、魔神王は加速する。
出来の悪いホラー映画のような、悪夢染みた光景だった。
血を撒き散らしながら、胴体に首が残されただけの黒髪の女が宙を浮いて突っ込んでくるのだから。
「迫力あるな。映画俳優に転職しろよ、引く手数多だ」
念動力の行使、掴まれた全身が皮を剥ぎながら進行を止まない。
ぺりぺりと皮が剥け、下の筋肉の繊維が露わになっていく光景は痛ましく凄惨。
不死身と言えど、痛みはあるだろうに。
そんな風に感心しながら、絶望王は面白そうに眺め続ける。
皮と肉が完全に剥がれた。
念動力で掴んでいた皮膚を脱ぎ捨てるように、肉が皮を滑り魔神王は離脱。
皮のない、四肢も喪い髪を振り乱した血だらけの裸体の女が飛び込んでくる。
グロテスクさという点では完璧にして壮絶だ。今時、スプラッタ映画でもそうそうお目に掛からない。
絶望王も口笛を吹いて、冷やかしながら笑みを消す。
虚空を蹴って、音速を越えた素早さで後退する。
「たくっ」
その進行先、絶望王の背には待ち構えていたように氷山が伸びる。
表面から茨の棘のように刃が生い茂り、絶望王が止まらなければ全身を貫き、血の噴水を全身から晒していた事だろう。
だが、止まった事で前方から飛んでくる飛来物が胸元へと飛び込む。
怨霊のような達磨女の手足が生えだし、その四肢で絶望王の矮躯を包み込む。
両手を首に、両足を腰に。
抱擁され、万力のように抱き締められた絶望王へ、魔神王は冷たい美声で囁く。
「凍てつくがいい」
その全身を冷気が伝う。
乾いた音が迸り、魔神王と絶望王に触れる大気の水分が凍結される。
それは絶望王の体内の水分すら例外ではなく、外からも内からも同時に凍り付く。
念動力による抵抗もむなしく、愛人を抱き締めるかのような苛烈な抱擁は緩むことはない。
貴方は私の物だと、強くその所有権を主張する。まさに激しい愛情表現のように。
「上手く行かねえよ、俺達」
氷の中で抱き着く美女と、抱き着かれる美男子。
ある種の芸術とも背徳的とも劣情にも駆られかねない、神秘的な光景は即座に消し飛ぶ。
「何たって趣味が合わない、そうだろ兄弟?」
氷が破裂し、透明の破片が弾き飛ぶ。
魔神王は引き離され、またもや四肢が吹き飛び血を吹き出す。
ふうと溜息を吐いてからコートの裾を持ち上げて、絶望王は汚れやシミがないか確認する。
「結構気に入ってんだ。汚さないでもらえるか」
埃を叩く素振りをして、絶望王は笑いかけた。
フランクな態度で、未だ馴れ馴れしい飄々とした言動は魔神王の神経を逆撫でさせる。
長く生きた中でこのような激情は抱いたことは、恐らくそうはないのだろう。
機械のように端的な表情を変えないまま、魔神王は軽口を無視する。
「やはり、な」
上空から降り落ち、コンクリートへ叩きつけられる。
目玉は飛び出し、口は衝撃で大きく裂けて歯茎まで露出し、全身はひしゃげて、髪は血で濡れより乱れ痛々しさに拍車をかけた惨死体が一つ完成した。
しかし、全身の部位が唸りだし再び人の形を取り戻していく。
そして、再生した右腕を伸ばし掌を空の絶望王へと翳す。ぐっと五指を握り締め、忌々しくも拳を震わせた。
「火力が足りぬ」
思えば、この島へと連れ去られてからもそうだ。
真祖の吸血鬼アーカードとの交戦に始まり、奴を終ぞ魔神王は殺し尽くす事が叶わなかった。
何処の英雄に討たれたか、知りようも知る必要もないが。
だが、魔神王ですら成しえぬ偉業を制した猛者が居たのは確かだろう。
次に出会った無惨も手玉にこそ取りはすれど、やはり滅ぼすには至らない。利用価値を見出したのもあるが、奴ですら殺すには一手仕損じた。
ニケなど、何故殺せなかったか甚だ疑問だ。魔神王が戦った中で最も弱き者であった。
機転の良さは認めよう。勇者に相応しき勇気を持つ者でもあるのだろう。
だが、強さでは魔神王には決して及ばない。勇者だからといえば、それが理由かもしれないが。
航海者ことネモすら殺せなかった。
あれのしぶとさは筋金入だが、やはりそれでも殺害には及ばなかったのだ。
力で言えばニケの次程度にはマシ程度の存在がだ。
「デモンズエキス、貴様も我を主とは認めぬか」
一つの理由として、魔神王はデモンズエキスを完全に制御下に置いていない。
そう、もしもこれがエスデスが操るデモンズエキスであれば、既にこれまでの交戦相手を一人は殺害していたのだ。
デモンズエキスにおける精神支配など、魔神王には通じないが、あくまで通じないだけに過ぎず。
強制的に使用しているだけに留まっている。
人ではない魔神の視点から、即座に時間の凍結という観点に着目し時間停止の世界に入門したのはエスデス以上の才覚ではあるが。
攻撃力という点では、デモンズエキスを摂取した量及び制限を差し引いても、エスデスにはまるで並びすらしていない。
元の魔法の行使も人間を駆除するだけならばまだしも、同格以上の魔神に匹敵する超人、超越者共を滅ぼすにはやはり火力が足りない。
それが、あの不死王との千日手の殺し合いへと発展し、決着の着かぬ闘争を引き起こしたのだ。
「ふむ…汝は必要だな、絶望王」
やはり、アーカードをも屠り去るだけの火力はこの先必要不可欠であろう。
その点では絶望王の念動力、日光すら支配しうる強大な超能力。
魔神王の魂すら燃焼させる蒼炎。
今の絶望王が喉から手が出る程に欲しい能力だった。
「必ずや、我が手中へと納める」
全身の再生を終え、その決定を告げる。
左手に真紅の宝玉を握り、右手に呪われし神格の魔札を手に。
一つは藤木茂が価値も分からず所持していた命の宝石。その名を賢者の石と呼ぶ。
命を生み出し、不老不死すら齎す極上の神秘。
対するは、死の権化、破壊の化身、冥界の王に従えし邪なる神格の一柱。
大地に刻まれし、封印された邪神達を統べる最強の一体。
「見せてやろう。汝の好きな余興をな」
大気が凍える。雲の流れすら速くなり、時間の先送りのように動く。
気付けば太陽の光すら遮る程に雲は密集する。
そして、雪が降り落ちた。
温厚な季節の島の中で、半径数メートルの範囲に限ってのみ氷河期が到来したのだ。
緩やかに落ちる粉雪が吹雪へと変わった時、魔神王はゆらりと立ち上がり手を空へと伸ばす。
その背後には、先程までは存在しなかった氷の城が聳え立っていた。
天候すら局所的に変える冷気を駆使して、大気中の水分をこれほどの造形物へと変貌させたのだ。
「大したオブジェだが、どうすん───」
普段の調子で言い放った軽口を途中で中断し、絶望王から笑みが消えた。
何時以来だ? 否、存在し始めてから初めての経験かもしれない。
危険という警鐘が全身を伝うのは、死という概念を間近に覚えたのは。
「究極の破壊を齎せ」
勇者ニケとの戦闘により、水銀燈に奪われたランドセル。
だが、その内の一つの支給品だけは魔神王自身が隠し持ち所持していた。
あの時点では使えなかった。使い道が存在しなかった。
だが、永劫使えずとも使われるよりはマシであると魔神王にすら言わしめる一枚のカード。
この魔札に秘められし邪悪なる神秘。
「最強の地縛神」
大地の刻印に封じられた神々。それはとある世界に於いて、紅蓮の邪神を除いてナスカの地上絵とも称され、地縛神とも呼ばれる神格。
一度召喚に成功すれば、あらゆる戦況を一転させる災厄のような強大な力を誇る。
「出でよ。Wiraqocha Rasca(ウィラコチャラスカ)」
名の通り、依り代となる領域を必要とする。地に縛られし神。
錨となる領域は用意した。この氷河期の世界と、その中央に位置する氷の城だ。
地縛神が必要とする魂という名の生贄(エネルギー)、だがこれも用意した。
賢者の石という名の無限に等しい生命の源。
そして使い手。
冥界の王により選ばれし、死人刺客でなければ担い手としては認められず。
だが魔神の頂。冥界の王にも並び立つ超越者、ならばその格は十分。
かくして邪神降臨の儀は、今ここに成る。
絶望王と魔神王を基点に赤紫の線が引かれ怪しく光を帯びて輝いていく。
それは上空から見下ろした時、一つの絵がE-3全域にコンドルの地上絵が刻まれていた。
「……ッ」
闇の中から放たれる邪悪なる黄金の輝きから閉ざされた翼が現出する。
それは巨大な怪鳥のものであることは容易に想像できた。
全長凡そ数十メートルは存在する圧倒的な巨体、全身を走る血管のような紫の光。
空を更に暗雲が覆い隠し、地縛神に呼応するかのようだった。
生贄たる者達を逃がさぬ牢獄のように、コンドルの地上絵はより輝きを強め炎のように蠢く。
「こいつは」
そうお目に掛かれるものじゃない。心底珍しいものを見たと、絶望王の表情は驚嘆に染まる。
「ポーラスター・オベイ」
絶望王の浮かぶ上空、更にその上の遥かなる天空に座した神は翼を広げ咆哮と共に息吹を放つ。
死と滅び、究極の破壊が絶望の王へと降り注ぐ。
より上の空を見上げ、絶望王は念動力を発動させる。対象はデカブツ、外す事は先ずない。
あの程度の巨体、持ち上げて軽々投げる等造作もない。
「なに?」
だが、絶望王にしか見えぬ魔手は邪神の実体を捉える事はない。
驚嘆がより深く刻まれ、舌打ちと共に蒼炎を打ち上げる。
掴めぬのなら燃やし尽くす。
この島で初めて加減というものを捨てた全力の一撃だった。
ありとあらゆる存在を燃焼しかねない王の炎は、あまりにもあっさりと無情に貫通した。
天空に佇む邪神がまるで幻影のように、そこには実在しないかのように。
蒼炎はただ虚空を舞う。
「乃亜、あのガキ……」
───子供の玩具にしちゃ度が過ぎんだろ。
邪神の息吹は紫の光を伴い、そして実体を持つエネルギーとして具現化した。
何が起こった?
絶望王はつい数秒前の記憶を辿る。
コンドルの怪物を前に、奇妙なブレスを吐かれた。
そこまでは覚えている。絶望王からの攻撃が一切透過し、あれは幻影のようにあらゆる攻撃を受け付けない。
それもまだ良い。
だが、あのブレスは避けた。避けた筈だ。
なのに、何故どうして仰向けてコンクリートの上で空を見上げる羽目になっている?
「チッ…」
全身を襲う尋常ではない疲労感、鉛のように手足が重く仰向けから起き上がろうとするだけで息が上がる。
「面倒な…もん、使い…やがって……」
氷の刃が投擲される。
速度は今までの比ではない。あまりにも、遅い。
絶望王にとって、目を瞑っても避けられる程度のもの。明かにこちらを舐め腐った一撃だった。
「ッ…グ、っ!」
横へ身を逸らし、そのままバランスを崩し転倒した。
全身から、全ての力を根こそぎ吸い上げられたようだ。
かつての尊大さもまた底知れない深淵さも、絶望王という器を満たしていた何かが残り一滴のみを残して全て消失したような。
「…クソッタレが」
震える膝を抑え立ち上がる。
コートに着いた砂埃を払う余裕すらない。
「随分な……ペット、だな…教えてくれよ、何処の…ショップで、買えるんだ…?」
胸の動悸は未だ激しく、上下に伸縮を繰り返し酸素を求めている。
外見からは損傷はないが、だが肉体を目に見えぬ呪いが蝕んている。
乃亜のハンデもあり好調とは言えない戦闘のキレではあったが、今のこれはそれとは全く別だ。
自身のあらゆる生気が消え去り、今にも膝を折りそうな程の強烈な疲労感と倦怠感、そして激痛が全身を襲っている。
念動力も絶望王の炎も、三日三晩常に全開で能力を行使したかのように負担が重い。
「その軽口も最後かと思えば名残惜しいよ」
魔神王は冷ややかに嘲る。
地縛神Wiraqocha Rascaの力は単純にして凶悪極まりない。
その発動の瞬間のみ、使用者のありとあらゆる攻撃手段を破棄した代わりに、相手の全ての力、生命、魂を摩耗させ、僅かばかりの灯を残す。
物理的な回避では、決して避ける事の叶わない絶対強制効果。
「我の勝ちだ」
邪神を従え、またその使い手も絶望王に匹敵する神格。
その二柱を相手取りながら、最悪の絶不調のコンディションでただの一撃も食らわず戦闘を終える等、不可能だ。
生殺与奪の権利は完全に魔神王に握られていた。
「軍門へ下れ」
魔神王は宣言する。
絶対の勝利は今ここに己に齎されたのだと。
破壊の権化は翼を拡げ、天高く咆哮を轟かせた。
「…そうか? まだ……チップは、残ってる。
賭け(ベッド)は…出来るだろ」
初めて、絶望王に対し魔神王は憐れみを抱き、鼻で笑う。
「そうか……」
くつくつと得心がいったと言わんばかりに、魔神王は笑みを見せた。
「汝に似た者がいたよ。ああ、何処ぞの雑魚に後れを取り、散ったがな」
この島がまだ夜と月に支配された深夜、矛を交えた不死王の姿を思い起こす。
「奇妙な女だった。吸血鬼の身でありながら、我らを忌避する倒錯した愚者だ。
似ているよ。汝は」
数言、交わした程度。それ以外に何ら記憶にも残らぬ敗者だった。
だが、あれは上位の吸血鬼であることに変わりはない。
ならばこそ何故、あれほどに魔神王へと憎悪とも嫌悪とも取れる感情を抱いていたのか。
あれだけの力量を持ち得ていながら、闘争を愉しむ戦闘狂でありながら。
何故、殺し合いに不満を持ち得ていた?
奴が望む闘争とやらを、不本意ながら交わしたが。
勝手に愉しむだけ愉しみながら、あれは心の奥底で渇きを抱いていた。それを隠しもしない。
「汝は何に羨望している?」
それが何か、魔神王に些かの興味もなかったが為に忘れていたが。ようやく、ここに来て何か理解した。
羨望だ。人の中に解け込みながら、不和を招く為に学んだ感情の一つ。
人はどうしようもなく、例え手が届かぬと分かっていながらも、近づけば焼かれると知りながらも。
空を目指し、欲するのだ。
「…………要らぬ」
冷たい笑みすら消え失せ。機械のような能面の表情で、魔神王は絶望王を見つめる。
あの何処ぞの雑兵に落とされた不甲斐ない不死王ならばまだしも。
この絶望の名を冠した王すらも、人間の持つ愚かな感情に支配されているのか。
最早、あれほど手にしたかった絶望王にも興味は失せた。
野原しんのすけを殺め、人間のフリをしながら無様な姿を晒し続けるフランドールなる恥晒しと同じだ。
魔神王と並び立つ価値すら、今は微塵も感じない。
元より、理解不能、殺す事も考えていたが。
改めて対面した時、やはり、その力を惜しいと思ってしまっていた。
だが、これがあの不死王の同類であれば、やはりどうあっても相容れない。
会話すら、時間の無駄な浪費にしかならない。
「消えろ、敗者」
指を鳴らし、絶望王を取り囲むように氷の刃が無数に生成された。
弱り切った絶望王では回避不可、対処不能。
過剰にも過ぎる攻撃の手は一切緩むことはなく、断頭台のギロチンのように放たれた。
何の未練もない。その力だけ、喰らいこの身に取り入れてくれよう。
******
「ザケルガ!!」
呪文を叫びながら、これも意味のない無駄撃ちだろうとゼオンは内心で毒づく。
眼前へと迫る白の狂狼、ウォルフガング・シュライバー 。
地を蹴り上げて、一息でゼオンの反応すら追い付かぬ素早さで肉薄する。
対抗して放つは速射性に優れたザケルガ。
一直線にゼオンへと飛び込むシュライバーの顔面目掛け、ゼオンの掌から白雷の光線が迸る。
「気絶しないだけ、あの劣等よりはマシか」
感心するように、余裕を持ってシュライバーは評価を口にする。
ザケルガが触れる数㎝先で、ゼオンの視界からシュライバーは消えた。
それからノータイムで銃声が轟き、鉛玉が数百発ゼオンへと叩き込まれる。
縦横無尽に吹き荒れる魔弾の嵐は射手が何処から撃ち放っているのか観測させない。
まさに、目にも見えぬ速度で駆け回り、常に高速移動を続けながらその全てをゼオンへと精密に狙いを着けて連射を続けているのだから、驚嘆ものだ。
「一々癇に障る野郎だ…」
ゼオンのマントが意志を持つ手足のように撓る。
降り注ぐ弾丸を遮る盾となり、ゼオンを覆い隠す。
魔弾とマントが鉄を打ち付け合うような甲高い音を奏で続け、それを至近距離で聞かせ続けられたゼオンは眉を顰める。
「ラージア・ザケル」
延々と鼓膜を鳴らす不快音に痺れを切らし、ゼオンは新たな呪文を口にした。
ゼオンを基点として、その全方位に向かって電撃が拡がり放出されていく。
魔弾は電撃に触れた途端、莫大な電圧の前に蒸発し消失した。
「フン」
目線を数度動かし、ゼオンは口許を吊り上げる。
シュライバーの笑みに劣らぬ凶悪な悪辣さを表へ出していた。
「ザケル」
ラージア・ザケルの放出の停止と共にゼオンもその場から動く。
そして何もない空間へと瞬時に駆け、掌を翳し呪文を放つ。
掌から放出され、そして拡散し露散していく電撃の端で人影が飛び出す。
電撃の消失を待たずして、ゼオンは片手に担いだ鮫肌を振るう。
「───!!」
ザケルを避けた瞬間、ゼオンはシュライバーの前方へ回り込み、脳天をかち割る勢いで大剣を振り落とす。
上体を後方へ傾け、目と鼻の数ミリ先を鮫肌が迸る。
触れてこそいないが、接近しただけで異様な疲労感…魔力の類を食われていた。
ただの武器とは思っていなかったが、中々面白い性質の剣らしい。
シュライバーは感心したように口笛を吹く。それがまた、ゼオンには癪に触った。
「ガンレイズ・ザケル」
ゼオンの背から、八つの太鼓が円状に出現。
掌から無数の電撃の光弾が広範囲に渡り、シュライバーを覆うように射出されていく。
シュライバーは飛び退き、そして左方へと加速。合わせてゼオンの腕もシュライバーを追う。
「なるほどねえ…」
見覚えのある技だが、使い手が違うだけでも随分印象が変わった。
特にガンレイズ・ザケルはガッシュも同じ術を使用したものの、ほぼ牽制に留まっていたが、ゼオンはシュライバーの動きを見切り常に軌道を変更させている。
術の発動を意識を保つか失うかで、その性能に大きく差をつけていた。
技の精度、反応速度、身体能力。
全てがガッシュの上位互換。
唯一劣っているのは電撃の威力のみだが、これもパートナー不在が理由だ。
ゼオンは心の力ではなく、己の魔力のみで術を放ち、乃亜の制限により魔力での術の発動は弱体化を余儀なくされている。
クリアとの決戦に向け修行を重ねたガッシュの電撃は心の力を借りた威力であれば、魔力のみのゼオンの電撃を上回っていたのだ。
故にシュライバーも最初はその力量を図り損ね、酷似した二人の容姿を重ねゼオンを弟かと誤認した。
「そこだァ!!」
そして、頭のキレも悪くない。
ガンレイズ・ザケルを撃ち止め、ゼオンは疾走。
鞭のようにマントが無数に枝別れ、シュライバーの四方を行く手を阻むように撓る。
残された退路は後方のみ。
触れることを忌避する渇望は迷わず、回避を優先させそれが敢えて用意された退路であろうとも突き進む。
「逃がさん」
頭上左右をマントが遮り、シュライバーの眼前にはゼオンが迫った。
担いだ左手の鮫肌の柄を鈍い音が鳴るまで強く握り締め、翳した右手から紫電が散って乾いた音を猛らせる。
鮫肌を避ければ後方へ下がらざるを得ないが、後方以外の全方向をマントで封じた今、直線上であればゼオンの電撃が外れる道理はない。
叩き斬られるか、焼き殺されるか。
さあ、選ばせてやる。そう残酷に瞳を輝かせ、ゼオンは口許を釣りあげた。
「やるなァ、君」
雷の弾丸で回避先を限定し誘導、予め決めた地点へと先んじて動き、シュライバーの絶速に迫る。
まんまとシュライバーはゼオンに操られるようにして、罠に嵌められた。
ガッシュ単体では考えつきもしなければ、実行に移す事も出来ない芸当。
シュライバーが賞賛を送る程度には、ゼオンの技量は高められている。
わざとらしくシュライバーは手を叩く。子供の演劇にしてはそれなりの物を見せられて、少しばかり感心した保護者のように。
「丸焼きが好みか」
ゼオンの鮫肌が地面を砕いた。
シュライバーは拍手を崩さず、後方へバックステップを決める。
鮫肌の先へ飛び退くシュライバーを睨み、ゼオンは歯軋りした。
この状況を分かっているのか、あの馬鹿は。憤怒が渦巻く中で、疑問も生じる。
例え鮫肌を避けようと、この限られた直線の領域で逃げ場などない。数秒後にはゼオンの手で葬られる運命だ。
それを理解しないような、あっけからんとした態度でゼオンへの挑発も崩さない。
ただの馬鹿なのか、まさか別の奥の手を残しているのか。
しかし、それも次手の出方次第で全てが解消される。ゼオンは余計な思考を捨てて、呪文を詠唱した。
「ジャウロ・ザケルガ」
右手が白銀に煌めいた。
それらがゼオンの前方に放たれ、巨大な数メートルの円形を顕現させる。
その円周から発生した11の光線は射線を描きシュライバーへと収束していく。
速度火力共にシン級に次ぐ、ディオガ級の呪文を真っ向から捻じ伏せる高レベルの呪文。
憎しみに駆られながら、ゼオンの理性は冷静に戦況を捉えていた。
シュライバーに隠された切札があろうと、並大抵の物であればこの呪文で打ち砕ける。
仮に、それを粉砕するような技があろうと、それだけの大技を使わせ消耗させたことに変わりはない。
徐々にスタミナを削り、逃げ回るだけの余力をなくしバテた所を狩り取る。
「ハッ」
ゼオンの予想に反し、シュライバーはただ後方へと駆ける。視線はゼオンへ注がれたまま、背を先頭に後方へと飛び退く。
何も仕掛ける素振りは見られない。まさか、本当に状況を理解しえない馬鹿だったのか?
「何ッ?」
だが違う。
ジャウロ・ザケルガの電撃は、シュライバーを捉えきれない。後ろ向きに走り続けるシュライバーの髪先にすら触れられない。
人体の構造上、本来であれば脚力を完全に発揮できない体制であるにも関わらず、雷をも上回る驚異的なスピードを発揮している。
その事実はゼオンすら瞠目せざるを得ない。
直線状に一気に駆け抜け、シュライバーはマントと電撃のリーチから完全に離脱する。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
降り注ぐ魔弾の嵐をマントで弾き、忌々しくゼオンは眉を顰める。
こんな光景は既に何度も見飽きた。つまらない豆鉄砲如きでは、ゼオンを撃ち果たす事など叶わない。
しかし、今度はシュライバーの姿がゼオンを以てしても、全く視界に収められない。
「舐めたマネをォ……!」
先程までは、本気を出さず速度を抑えていたという事実。
今、まるでゼオンすら目で追うことも叶わぬ神速こそが、シュライバーの本領であり真の実力。
加減していた。遊ばれていた。
その事実は、ゼオンの高いプライドを酷く刺激した。
「ラウザルク」
天から降り落ちる雷を受け、虹色の輝きを纏う。
マントを四囲へ一巡させ目障りな弾丸を薙ぎ払い、ゼオンもまた絶速の領域へ加速。
強化された身体は、先程までは影すら踏めなかったシュライバーへの肉薄を可能とした。
疾駆したシュライバーの眼前へゼオンが並走する。
「避けられる物なら避けて見ろ!」
手が流れるように動き、無数の残像が顕現する。
観音が持つ千手のような張り手の連鎖は、次撃が何処から放たれるものか感知させない。
シュライバーは足を止め、隻眼の視界の中から張り手の合間へ銃口を向けた。
「ジャウロ・ザケルガッ!」
「ッッ───!!」
シュライバーの銃口の先、ゼオンの姿はなく残されていたのは実体のない残像。
紡がれた詠唱は後方から響く。
張り手の残像はフェイント、シュライバーの矛先が向いたのと同時に残像を残しながら、高速でシュライバーの背後へ。
ラウザルクを解き、ほぼノータイムで次撃への詠唱を済ませる。
「ッ、グっ…!?」
シュライバーは振り向きざまに全身を旋回。僅かばかり半身になり、覆うように放たれた無数の光線を抜き去る。
次の瞬間、ゼオンの鳩尾へシュライバーの膝が突き刺さった。
肉体の内部を走る衝撃と鈍い激痛、喉元へと込み上げた吐き気。
「が…はッ…て、めぇ…」
何よりも、完璧なタイミングで仕掛けたジャウロ・ザケルガが呆気なく回避された光景にゼオンは、より憎悪を滾らせる。
左手の鮫肌を薙ぎ払った時にはシュライバーは離脱し、ゼオンの視界から消え去る。
腹を抑えながら、膝を着いて痛みを堪える等いつ以来だ?
王の息子として受けた拷問紛いの地獄の訓練の日々を除けば、こんな屈辱的な無様な姿を晒した事などなかった。
「ウフフ、アハハハハハハハハハハハハハ!!!」
けたたましい笑い声でゼオンを嘲笑い、不可視の神速を以てしてシュライバーが吶喊する。
ゼオンはマントで全身を包み、その下でラウザルクを詠唱。
全身が砕け散りそうな爆音と衝撃がマントを伝いゼオンを震わす。
数十近くの衝撃の後、防御に回したマントを解放し縦横無尽に撓らす。
マントを掻い潜り、肉薄したシュライバーへ鮫肌を突き立てる。
鮫肌の太刀筋からシュライバーが逸れ、ゼオンへと数百発の魔弾が撃ち込まれた。
額を肩を胸を腹を腿を。人体を穿つには過剰すぎるまでの弾丸に晒され、ゼオンは遥か後方へと吹き飛ばされていく。
「チッ、ゴミがァ!!」
数メートル後方、ゼオンは表皮から血を滲ませながら、肉体に稼働に一切の支障を来さず耐え来った。
「チャチな銃なんぞ使いやがって!」
か弱い人間を殺すだけならばともかく、魔物を殺すには明らかに火力不足。
自分自身で殴るなり蹴るなりした方がより効率よく殺傷力を得られるだろう。
そして、マントの攻撃もシュライバーは全て丁寧に避け続けた。
あの程度受けようが、ダメージなどほぼ無いに等しいというのに。
「敵の攻撃を恐れる臆病者がッ!!」
「僕に触れもしないノロマが吠えるなァ!!」
ゼオンの糾弾など何処吹く風、横合いから踵をゼオンの肩に突き刺し轢き飛ばす。
更にボールのように飛んだゼオンの進行先へ先回りし、その頬へ拳を打ち込む。
「グァッ!?」
跳弾するかのように再度飛ばされていくゼオンへ追い付き、その頭髪を鷲掴みにして顔面を地面に叩き付ける。
頬が減り込み、ゼオンの上でシュライバーが馬乗りになり抑え付けられる屈辱的な光景が広がった。
「ま、実験もこんなとこでいいか」
プレス機のように力を圧し込み、ゼオンの頭が潰れるまでの模様を想像しながらシュライバーは呟く。
シュライバーの目下の課題は制限により付与された疲労という概念の解消だ。
忌々しい制限が生きている内は避けられない障害だが、それらを和らげる方法ならば思い付く。
本来ならば絶対にありえないが、速度を落とし加減するという戦闘方法だ。
常に全速で戦闘を行うが故に、疲労という上限に達するのなら、そこに至る前での消耗を極力抑えてしまえばよい。
丁度都合よく、ルサルカを奪ったゼオンというそれなりの獲物も見付けた所だ。
仮にも一度、シュライバーを退けたガッシュの上位互換ならば実験相手としては上々。
「こんな回りくどい戦い、英雄のそれとは程遠いんだが…ま、君は中々の実験鼠だったよ。
手応えはそこそこってとこかな。取るに足らない劣等を処するなら、このやり方でも十分らしい」
こんな下劣な犬如きが、雷帝と恐れられた俺が実験鼠だと?
憎悪がゼオンの中の血液を沸騰させそうなまでに募っていく。
「ラージア・ザケル!」
ゼオンの四囲へ拡散された電撃が放出。
シュライバーが手を離し、ゼオンから距離を空ける。
そのままゼオンも飛び退き、一気に体制を立て直した。
「ザケル!」
最も消耗を抑え、範囲及び威力も伴った初級呪文を選び詠唱。
掌から放たれた電撃はシュライバーに当たる素振りもない。
だがゼオンはザケル、ザケルガを基点に初級呪文の連打を続ける。
(ムカつくが……今は、コストの低い術で様子を見る。あの速さと真っ向勝負は分が悪い)
ガンレイズ・ザケルで行先を誘導する事は可能だった。
速度だけが膨れ上がっただけであろうとも、その動きの癖を見切ることでゼオンが攻撃を当てる好機は掴める。
だから、体力を温存しながらシュライバーを観察し勝機を見出す。それがゼオンの戦術。
例え不可視の超速度であろうと、視界に収める事すら困難であったとしても。
その破壊痕に始まり、醸し出される音などから移動先は割り出せる。
シュライバーとて生きた意志を持ち思考する生物であれば、必ず動きに一定の統一性であるパターンが存在しなければおかしい。
それを見つけ出す事こそが勝利への必須条件。
「雑魚技で様子見?…それガッシュ君もやってたんだけど、君はとことん弟の後追いが好きなんだねぇ?」
だがその戦術はガッシュとの戦闘で、既に披露された目新しさもないもの。
心底退屈そうにシュライバーは吐き捨てる。
「なんッ……」
屈辱に肩を震わせるゼオンを見て、シュライバーは溜まらずに笑う。
この少年は明らかにガッシュ以上の強者だが、ガッシュを絡めておちょくれば面白く反応してくれる。
敗北主義者共と違い、意固地になり決して逃げを打たぬのも扱いやすい。
「それやられると結構面倒だからさ…」
だがこの島でのガッシュの頭脳たる一姫が導き出した戦術は、間違いなくシュライバーにとって有効であった。
現にシュライバーは、ゼオンへと近づけない。回避を優先する渇望の強制は、電撃の着弾を良しとしない。
なおかつ、射撃による攻撃もゼオンには大してダメージを通せない。
一姫のように目にした光景全てを精密にデータとして蓄積する極稀な頭脳を有しているかは別にしても、ゼオンの力量ならばいずれシュライバーの動きにも適応しだすのも明白。
一々わざわざ、それを待ってやる義理もない。
「僕、もうあっちに行きたいんだよね」
何より、既にシュライバーの興味はゼオンから移ろいでいる。
春先の温厚な季節には似合わない粉雪、急激な天候変化と共に吹雪が舞う異常気象。
それに合わせて現出された氷の魔城と上空に座する怪鳥
シュライバーが付け狙う青コートと女が交戦している方角だ。
自身の斜め先に拡がる、それらの景色を一瞥する。
(連中め…何をしてやがる)
ゼオンもまた目の前の気狂いを相手にさえしていなければ、好奇心と興味に惹かれあの戦場へと誘われていたに違いない。
「良い舞台だろ? なのに、僕だけ仲間外れだなんて寂しいじゃないか」
あれはこの世界とは別の存在、顕現された神格。どちらが使役しているのか、あるいは両者共通の敵かもしれないが。いずれにせよ、盛り上がってきているようだ。
このエリア一体に突如として広がる紫の光の線も、あれが何か絡んでいるに違いない。
実に面白く、狩り甲斐のある獲物たちが自分をのけ者にして争っている。
そんなこと、シュライバーが認められる筈がない。主役たる英雄の参上があってこそ、舞台はより盛り上がるというもの。
「そういうわけなんでね、君もう邪魔で用済みだから消えちゃってよ」
とにかく、シュライバーの関心はゼオンからほぼ失せた。
青コート達の祭り騒ぎに、シュライバーも急いで参加せねばならない。
舐め腐った態度に、ゼオンのこめかみに青筋が浮かぶ。
邪魔なのはどちらか、思い上がった煩累な愚者はどちらか知らしめてやる。
「アンナ、力を貸して」
「ま、しゅら……」
ゼオンの怒りなどまるで意に返さず、シュライバーは明後日の方向へ顔を向けた。
二人の交戦から、身体を這わせて離れようとしたルサルカ。
気付かれぬように慎重に時間を掛けて、だが迅速に。
必死に努力を重ねて、二人から離れていた途中だった。
そこへ冷水を被せるようにシュライバーは声を掛けた。そんなのは全部お見通しなんだよと、嘲笑うように。
どうして、急に私に声を掛けるのよ!
戦闘開始以降、完全に自分の事など忘れて目の前の戦争に没頭していた戦争馬鹿の癖にッ!
苛立ちから内心毒づく。それに、えも知れぬ恐怖がルサルカを襲う。
不味い、とにかく危険だ。
這いつくばったままの姿勢で、最早立ち上がることすら困難だったが。
ルサルカは意識と、ダメージ回復に充てた魔力を一時的に己と同化した聖遺物に回す。
「ハハ」
だが遅い。シュライバーにとっては、永久に等しい程に鈍い。
シュライバーは一息に駆けてルサルカの傍らに佇む。
「やめ…おね……」
そのまま頭を掴んで持ち上げた。
異様な光景である。小柄な少女とはいえ、人間一人を片手で持ち上げるなど。
その気安さは最早人を人として扱っておらず、魔性の怪力と共に人の道理からも完全に逸れた行いだ。
最早、ルサルカを物としか見ていなかった。
「アッハハハハハハハハハハ!! アンナの愛が僕の武器だァ!!」
人ではなく物として扱うのなら。
それは道具としての活用法があるということに他ならず。
シュライバーは野球の投手のように、ルサルカを投擲した。
素人染みた投球フォームだが速度は異次元、剛速球の如く流星染みた速さでゼオンへと吸い込まれる。
迎え撃とうと放出したザケルは、流星となったルサルカに触れるも勢いを殺し切れない。
「ぎゃ、ガッああああああああああ!!」
「邪魔だァ、雌猫ォ!!!」
「ごっ、ッ!?」
ザケルを突っ切り、全身を黒焦げになるまで焼け爛れたルサルカをゼオンは殴り飛ばす。
歯が数本口から飛び出し、血飛沫を上げながらルサルカは地べたを転がって苦悶の声を漏らした。
「グランシャリオォ!!」
頭上から咆哮が轟き、ゼオンが見上げたのとシュライバーが漆黒の竜を纏い急加速して落下してきたのはほぼ同時。
「ザケ───」
「遅いんだよォ!!」
電撃が放出する寸前、シュライバーの踵がゼオンの眼前へと迫る。
ゼオンの手首を越えて、上腕と交差するまでにシュライバーの蹴りが伸びていた。
間に合わない。ルサルカを武器にした投擲に気を取られ、隙を生んでしまった。
コンマ数秒の後、ゼオンの頭を粉砕し脳みそをミンチにされる。
その後、勝者となったシュライバーが降り立つ。勝敗は決した。
「発動しろ!」
そう、ゼオンの持つ切札さえなければ。
シュライバーの勝利は決して揺るがなかった。
「なッ……?」
シュライバーが最後に見たのは、既に鮫肌を手放し二枚のカードを握ったゼオンの姿。
突如として前触れもなく発生した漆黒の渦と、それに反発するように生成された白い光の渦巻き。
その二つが触れ合い衝突した時、シュライバーは全身から全ての感覚が消失した。
「お前ッ!?」
逃れようとしても逃れられない。恐らく、創造まで使わねば脱出不可の引力が渦の中心に蠢いている。
為す術なく、光速すら引き込むブラックホールにシュライバーは飲み込まれ。
そして、飲まれた物を吐き出すホワイトホールへと転送されていった。
******
い…し───し
お……ろ……
おい! しっかりしろ!!
身体を揺さぶられて数度声を掛けられる。最初は要領を得ず、言葉として認識出来なかったそれを、ようやく意味のある言語として捉えた時、龍亞の意識は完全に覚醒した。
傍らにはシカマルが居て、龍亞を揺すっていたのは彼のようだった。
それからまだぼやけた視界を目で擦り辺りを見渡してみる。
屋内に居た筈が、何故か周りの景色は建物に囲まれた市街だった。
「シカマル? ……なんで、俺、あれ…」
「分からねえ」
意識が飛ぶ前の記憶を龍亞は思い起こす。
そう、藤木という少年を何とか無力化した後に、地縛神の気配を察知しシグナ―の痣が光った。
地縛神は召喚時に、使用者と対戦相手以外の一定範囲にある魂を取り込むという恐るべき性質がある。
シグナ―の自分の近くに居れば全員、それらの影響を受けることはないと説明し。
だが、召喚された地縛神の力はきっと途轍もなく強い、今はここから全員で逃げた方が良いと龍亞は力説した。
それに反対する者は居らず、満場一致でモチノキデパートからの撤退が決定されたのだったが。
「黒い渦巻きだ。あれに俺達は吸い込まれたんだ」
「…もしかして」
意識を失う寸前、参加者を吸い込む黒い渦巻きを見た、これらの材料から一枚のカードの効果が龍亞の頭に浮かぶ。
「ブラックホール? だけど、俺の知るカードならプレイヤーへの効果はなかったんだけど…」
デュエルモンスターズでも、メジャーな全体除去カードの一枚だ。
サンダーボルトが禁止されていた時代では、代用の汎用除去として幅広いデッキに投入されていた事もある。
だが、プレイヤーそのものへ直接干渉する類の効果は持ち合わせていなかった。
「乃亜が何か効果を改変したんだろ」
参加者の戦闘能力にハンデと称して、様々な制約を捻じ込める。
カードの効果にも改変を行ったとしても不思議はない。
「…そうだ。早く、戻らないと地縛神が!」
龍亞は逡巡してから、焦ったように身体全体をモチノキデパートへと向ける。
「待て」
「待てないよ!」
地縛神を倒せるとは考えていないが、シグナーが傍に居る事で魂を奪われる人を多くでも減らす事ができる。
犠牲者を抑える為にも龍亞はあの場所に戻らねばならない。
ネモや梨沙達も、あのままでは魂を奪われてしまう。
「先ずネモ達は恐らく大丈夫だ、俺らみたいに飛ばされてる。
あと、地縛神の魂を奪うって話だが…確証はねえが、多分乃亜のハンデの対象だ。
お前が居なくても、参加者の魂を奪うことはないと思う」
シカマル達がこうして飛ばされた以上、ネモ達がそうでない理由はない。
モチノキ・デパートに滞在する者達全てが、同じようにブラックホールに飲まれたと考えていい筈。
そして地縛神の魂を奪うという性質、深く掘り下げて聞けば街一つ分の人間の魂すら食らいつくす埒外の力だ。
だが、それは殺し合いに大してあまりにもバランスを崩壊させる力に他ならない。
元からバランスなど考慮していない参加者の選抜だが、これはそもそもそれ以前の問題。
島の真ん中で召喚でもされれば、半数以上の参加者が地縛神の毒牙に掛かる。
乃亜もそれは望むところではない。
ならば、制限を施され支給品として配ったと考えるのが妥当だ。
「それでも梨沙やしおって子が誰か一人になったら」
「……これから、探す。ネモやフランもきっとそうしてくれる」
せめて、どちらかと一緒に飛ばされてくれれば安心できるが。
梨沙一人が孤立したとなれば、この殺し合いで生き残れる可能性は皆無に等しい。
しかし肝心の居所が分からない以上、闇雲に動き回る訳にもいかない。
(梨沙の居所、やはりモチノキ・デパートか…?)
強いて言えば、やはりモチノキ・デパートがお互いに見知った施設であるが。
梨沙が飛ばされたエリアも不明かつ、近々禁止エリアにもなる。
近辺で藤木が拡声器を使用した事といい、地縛神の召喚は多くの参加者が目撃している可能性が高い。
マーダーがあの辺一体に集まったとしたら、それらがブラックが魔神王と同等の実力者であれば近づくリスクは高い。
しかも、すぐに禁止エリアとなってしまうのなら、梨沙の居場所によってはそう寄り付かないだろう。
リスクを犯して戻っても、徒労に終わりかねない。
(あとはライブ会場か、第三芸能課事務所のどっちかってとこだが)
元の世界でなじみ深い施設になるが、果たして寄ってくれるかどうか。
桃華という知人との合流を考えるのなら、あり得そうだが。
ネモとの合流、梨沙の探索、ブラックの行方。
その他、自衛手段の新たな確保。
シカマルはこの先やらなくてはいけないことを思い浮かべ、頭痛がしてきた。
【一日目/日中/D-5】
【奈良シカマル@NARUTO-少年編-】
[状態]疲労(大)
[装備]シャベル@現地調達
[道具]基本支給品、アスマの煙草、ランダム支給品1、勝次の基本支給品とランダム支給品1〜3
首輪×3
[思考・状況]基本方針:殺し合いから脱出する。
0:梨沙を探す。
1:殺し合いから脱出するための策を練る。そのために対主催と協力する。
2:梨沙と再合流してーが…ブラックは早々死なねえだろ。
3:沙都子とメリュジーヌ、魔神王を警戒
4:……夢がテキトーに忍者やること。だけど中忍になっちまった…なんて、下らな過ぎて言えねえ。
5:我愛羅は警戒。ナルトは探して合流する。せめて、頼むから影分身は覚えててくれ……。
6:モクバを探し、話を聞き出したい。
7:ブラックは人柱力みてえなもんか? もし別人格があれば、そっちも警戒する。
[備考]
原作26巻、任務失敗報告直後より参戦です。
ネモが入手した首輪の解析データを共有しています
ネモと契約しました。令呪二画でマリーンズを5人口寄せできるようになりました。
影縫いのコツを掴みました。今後、安定して使用出来るかもしれません。
【龍亞@遊戯王5D's】
[状態]疲労(大)、右肩に切り傷と銃傷(シカマルの処置済み)、殺人へのショック(極大)
[装備]パワー・ツール・ドラゴン&スターダスト・ドラゴン&フォーミュラ・シンクロン(日中まで使用不可)
シューティング・スター・ドラゴン&シンクロ・ヘイロー(2日目黎明まで使用不可)
龍亞のデュエルディスク(くず鉄のかかしセット中)@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、DMカード2枚@遊戯王、ランダム支給品0〜1、
モチノキデパートで回収した大量のガラクタ[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
0:梨沙を探す。
1:首輪を外せる参加者も探す。
2:沙都子とメリュジーヌを警戒
3:モクバを探す。羽蛾は信用できなさそう。
4:龍可がいなくて良かった……。
5:ブラックの事は許せないが、自分の勝手でこれ以上引っ掻き回さない。
6:誰が地縛神を召喚したんだ?
[備考]
少なくともアーククレイドルでアポリアを撃破して以降からの参戦です。
彼岸島、当時のかな目線の【推しの子】世界について、大まかに把握しました。
【くず鉄のかかし@遊戯王5D's】
龍亞の不明カードの内の1枚。
デュエルディスクにセットすることで効果を発動できる。
相手一人の攻撃を一度だけ無効化する。
その後、デュエルディスクに再セットされ1時間後に発動可能。
何かの効果で破壊され再使用不可状態となった場合、6時間のインターバルが必要。
>>691
すいません間違えました
【一日目/日中/D-5】→【一日目/日中/F-6】
こちらでお願いします
やった…やったぞ。僕は助かったんだ!!
何が何だが分からないけど、急に何かに吸い込まれて僕は意識を失った。
気付いた時には、デパートから遠く離れた場所に居たんだ。
そ…そうか、僕は間違ってないんだ。
だって僕は生き残りたいだけなんだ。本当に悪い奴なら、僕はもう天罰が下っているはずだろう?
ふ…フフフ、僕は死なないぞ。生き残ってやるんだ。
だ、だけど…ちょっと頭を使う必要があるかもしれないかな?
う…うん……。
『デパートで言ってた永沢って人、きみの友達だよね。なら、どうして皆に言ってくれなかったんだ。
シカマルもネモも…きっと、助けてくれたよ』
う…うるさい! うるさいんだよォ!!
しょうがないだろ! シカマルの見た目、結構怖いし…そんな殺し合いを邪魔するようなこと言ったら、乃亜に僕が殺されるかもしれないじゃないかァ!!
なんだよあいつ!!
知った風な口聞くなよ!! 畜生!!!
お…落ち着くんだ。
これから、僕はいい子のフリをして誰かの仲間になるんだ。
そして油断した隙をついて、電撃で殺す。
完璧だ。
この先、僕は暗殺者になる。
だから…待ってておくれよ。永沢君…。
き…君をちゃんと、生き返らせるから……。
【E-7/一日目/日中】
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:ゴロゴロの実の能力者、シュライバーに対する恐怖(極大)、自己嫌悪、ネモに対する憎悪、左肩に刺し傷、永沢君が死んだ悲しみ
[装備]:ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
[道具]:基本支給品、拡声器(羽蛾が所持していたマルフォイの支給品)
グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:何とかシュライバーとまた会うまでに10人殺し、その生首をシュライバーに持って行く。そうすれば僕と永沢君は助かるんだ。
1:次はもっとうまくやる。
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う。
3:無惨(魔神王)君と梨沙ちゃんを殺しに行く。
4:僕は──。
5:梨沙ちゃんよりも弱そうな女の子にすら勝てないのか……
6:暗殺者として参加者を殺害していく。
7:永沢君……。
※ゴロゴロの実を食べました。
※藤木が拡声器を使ったのは、C-3です。
『ジャック、ガムテ。てめえらの元に、金髪と黒髪の女を送る!
そいつらは好きにしろ!!』
『ゼオンは?』
『どうしても消さなきゃならないゴミがいる。他の連中は適当に飛ばす。
こっちが終わり次第、俺から合流しに行く。ガキ二人を殺したら待ってろ!』
カードの発動前、ゼオンはジャックに念話を送り指示を出す。
宝具の性質上、有利に立てるフランはジャック達が殺す。
他の連中に関してだが、ゼオンも構っている暇はない。
ここまで従順だった褒美にフランと梨沙はジャックにくれてやるが、残りの連中分のドミノは看過できない。
ゼオンを上回る武装でも得られれば厄介だ。
その為に地点を特に定めず適当に飛ばした。
───ジガディラス・ウル・ザケルガ!!!
己の最大呪文を撃ち放つのに迷いは微塵もなかった。
残された魔力全てを注ぎ込み、ゼオンはその呪文を口にする。
ゼオンが修練の末、手にした力の結晶。
巨大な両翼を携え、二角を頭部に冠した破壊の雷神。
首から下、腹部に空いた奈落の風穴はゼオンの憎しみの深さを発露するように底が見えない。
白銀の雷が風穴に結集する。
『ZIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
雷神の雄叫びは、天穹を背に思い上がった地を這う羽虫を赫怒するかのように。
モチノキ・デパートを揺るがし、エリア全域にけたたましく轟く。
「……お前、ェ───」
次の瞬間、憤怒の雷が地上全域を覆う。
雷神が見下ろし、破壊を齎そうとするのはただ一個の人。ウォルフガング・シュライバー。
「もう逃げ場はねえぞ!!」
ゼオンはブラックホール発動後、巻き込まれたシュライバーをホワイトホールでジガディラス・ウル・ザケルガの真下へと転移させた。
当然転移先を知っているのは、カードを使用したゼオン自身。
必ず現れるであろう地点に狙いを定め、電撃の力をより溜めて放電。
シュライバーの転移後に、既に放たれた咆哮と電撃はシュライバーに回避の隙すら与えない。
雷の鋩はグランシャリオに触れていた。
生きとし生ける、全てを葬り去る破壊の閃電は全てを飲み込んだ。
どんなに速かろうと、動かしさえしなければその神速も発揮しない。
ゼオンの怒りを破壊に変え、雷神は雷鼓をより強く木霊させてシュライバーの周囲数百メートル。
モチノキ・デパートの前方に広がる市街すら飲み込み、灰燼と化す。
あらゆる建造物が雷の槌により粉々に砕かれ、木っ端微塵に粉砕された。
ゼオンの想像した以上の破壊だった。
目前に広がる景色は何もない焼け野原、粉塵のように極微に砕かれたコンクリートが砂煙と共に、舞い上がって風に吹かれていく。
「ハァ…ハァ……はは……」
あの軟弱者がこれだけの雷を受ければ、原形もとどめず生きてはいまい。
一瞬にして平野に変えてみせた電撃の威力は、そう断定するに足る破壊痕であった。
「ハハハハハハハハハハハ!! 生意気な口を聞きやがったゴミが!」
量眉を上げてから、その後すぐに口許を釣りあげて。
怒声のような高笑いを上げ、ゼオンは自分自身に言い聞かせるように叫んだ。
手こずりはしたがこの手でシュライバーは葬り去った。
バオウを受け継いだガッシュですら、殺せなかった男をこの手で倒したのだ。
苦しい修行の末手に入れた自分自身の力で!!
「首を洗って待ってろ、ガッシュ。次はてめえだ」
その顔を浮かべる事すら憚られる。反吐が出そうな苛立ちを覚えながら。
ガッシュとその身に宿した雷竜を消し去る様はさぞ絶景だろう。
怒り心頭に発しながら、口許は避けたように笑みをより深く刻み肩を震わせた。
(……しかし、あれは何だ?)
砂煙が止む素振りを未だ見せない中、氷の魔城に縛られるように天空に佇む邪神。ブラックホールにすら全く干渉されていない。
モチノキデパートすらジガディラス・ウル・ザケルガの余波を受け半壊しているというのに。
全くの無傷のまま、無機質に空を漂っていた。威力が足りなかった訳ではない。
電撃そのものが、あれには届いていなかったのだ。姿は目に写るが、あれは幻影のようなもの。
(あの氷の城は…あっちの女が創り出したもの。奴が召喚したのか)
主なき邪神はいずれ姿を消すだろう。
支給品の力だろうが、あんなものが存在するとはゼオンとて驚きだ。
いずれ、この手中に納めることが叶うのなら。絶望王と魔神王にも届き得る剣になる。
「形成───Yetzirah(イェツラー)」
流麗な声だった。
ゼオンにとって、既知感あふれる一声。先に狩った、ルサルカが操る影の力と同質だ。
「暴嵐纏う破壊獣───Lyngvi Vanargand (リングヴィ・ヴァナルガンド)」
だが、同質ではあっても品質は全く違う。
蓄えられた怨念と憎悪、浴びせられた血の量も桁違い。
ゼオンですら眉を顰め、あまりの血の臭気に顔を歪ませた。
少なくとも万単位で、あれは人を殺し続けている。
砂煙が割れるように風圧で二つに別れ、そのシルエットがはっきりと視認できる。
単眼のヘッドライトが、ゼオンを照らす。
ZundappKS750。
ドイツの軍用バイク。戦争の為、大勢を殺し血肉を貪り尽くした、それだけが存在証明の恐ろしくも冷たい血の通わぬ獣。
シュライバーの愛機であり、共に戦場を走破した魔性の機獣にして聖遺物の正体。
「……やってくれたね」
機獣の咆哮はゼオンの魂すら震撼させる。
たかだか機械のエンジン音が、これだけの魔性を帯びる。その異常性と共に、そこに至るまでに繰り広げられた殺戮劇を予想せずにはいられない。
乗り手たるシュライバーは声を震わせて、怒りとも悲しみとも嘆きとも区別のつかない弱弱しい声だった。
「どうしてくれるんだよ。銃がなくなったら…君に触らなくちゃいけないじゃないか」
シュライバーは無傷、ジガディラス・ウル・ザケルガが通じなかったのではない。
避けたのだ。バイクに跨り、そして雷の到来…既に竜の鎧の表面に触れるだけの至近距離をバックで後方へ飛び退き、そして市街をも巻き込む大規模な電流の放流すらからも逃げ延びた。
最早、慣性や物理法則を完全に無視し超越している。本来前進することを前提として開発されているであろうバイクを後進で初速からトップスピードの速度を発揮させるなど。
臆病者、ここに極まりか。ゼオンは業腹なのを隠しもせず吐き捨てる。
何処までも何処までも逃げ続け、口だけは大層な似非英雄め。
もっとも、そんな下等な小物に一撃も見舞うことの出来ない力量差にも腹が立つ。
どれだけの苦しい修練と、研鑽を積んだと思っている? バオウすら、この手で打ち倒せると強く確信を持って言えるだけの力は手にした筈なのだ。
だが、現実として目の前に拡がる光景は、ガッシュが退けた敵ですら倒しきれず手を焼いている大醜態。
まるで、ガッシュが自分よりも優れバオウを受け継ぐに相応しいと、そう認めたくない事実を突き付けられているようだ。
「ふざ…けるな……」
もっともガッシュとの交戦時、シュライバーは形成を封じられており。更にとガッシュはパートナーを含めて実質5対1。
ゼオン以上に恵まれた戦況での交戦だったのだが、そんなことをゼオンは知る由もない。
あるのは憎しみだけだ。
己の脆弱さにも、目の前のゴミにも、そして…そして、バオウを奪い父からの寵愛を一心に注ぎ込まれ、民間の学校で遊び呆けて暮らしながら、何の犠牲もなく強大な力まで手に入れた、全てを手にした恵まれた弟。
消してやる。
青筋を立て、ゼオンは憤怒を込めて拳を震わせた。
横に下ろしていた鮫肌を手に取り、怒りのままに地面へと叩き付ける。
機獣の咆哮に勝るとも劣らぬ、悲痛と憤激の轟音が轟いた。
「黙れよ」
無傷ではあったものの、シュライバーの手には銃は存在しなかった。
本体のシュライバー自身の回避には成功したが、銃だけは電撃に触れ完全に消し飛ばされた。
だから、もう触れるしかない。
散々ゼオンに触れてきておきながら、矛盾した倒錯した思考回路。
完全に切り替わった思考は、渇望(ほんしつ)へとより近づいた証である。
「Siィィィィィeg Heァァァァァァァァァァilッッ───!!」
音を置き去りにして、狂獣が猛り狂う。獲物に牙を打ち立てんと疾駆した。
ゼオンは微動だにせず、鮫肌を構えて待ち受ける。
「ぐ、グオオオオオオ!!」
馬鹿正直に鮫肌へと吶喊を噛まし、ZundappKS750が剣に触れた。
異能を喰らう妖刀の性質はこの瞬間発揮される。
ルサルカの影すら刈り取り無力化したこの大食らいの剣は、目の前に齎された絶好の御馳走を前に舌なめずりしたことだろう。
だが、全身を木っ端みじんに破裂させそうな衝撃だけを残して、鮫肌は何の魔力も食らう事は叶わなかった。
遥か後方へ弾き飛ばされ、横合いからの衝撃を受けて更に吹き飛ばされる。
背後からの気配を鋭敏に感知し、剣を振るい二度目の邂逅。
棘の生い茂った刀身と無骨な軍用バイクの車輪が触れ、やはり鮫肌はその飢餓を満たすことなくゼオンごと飛ばされる。
「忌々しいゴミがァッ!!」
鮫肌が魔力を食らうより先に、バイクが離れている。
二度の接触でゼオンが出した結論だ。
あまりの速度に鮫肌の処理能力が完全に追い付いていない。ヒットアンドウェイの要領で触れてインパクトを与えたのと同時に、鮫肌から後方へ退いて捕食を免れている。
ふざけた光景だった。
バイクという前進することを前提とした機械、しかも加速しきった状態で瞬時に速度を緩めず、後進へと移行する。物理法則を完全に舐め腐った不条理だった。
「があああああああああ!!!」
4度5度6度、前進を車輪で轢かれゼオンは空中に打ち上げられる。その滞空時間の間に更に数度機獣を駆り、シュライバーゼオンへと吶喊する。
残された僅かな魔力を流しマントに編み込み全身に貼り付かせ、そしてラウザルクを重ね掛けし肉体の補強を図る。
それらは功を為し、体に打撲痕を作り血を滲ませながらもゼオンは四肢の一つも欠損せず、五体満足で存在し続けていた。
「ハハハハハハハハハハハハハ!!!」
白の狂獣の狂笑が木霊する。
それは、己の絶対勝利を決定付けた者の笑いだ。
形成を繰り出したシュライバーの神速をその身に受けて、生存し続けているゼオンの実力は間違いなく高い。
この島でそれを成し遂げられる者が他に何人いるか。ゼオンの行ったそれは偉業の域にある。
だが、戦況は完全な防戦一方であることに変わりはない。
徐々にマントを削られていき、全身をすり減らされいずれは白騎士の轍となるのは確定事項だ。
残された魔力もほぼ全てを、最大呪文に注ぎ込んでしまった。
魔力の回復に専念し続けているが、今の防御が破られるのも時間の問題。
戦術眼に長けるゼオン故に、それが間に合うことはないと悟ってもいる。
「……くっ、こんな…ところで、ェ…!!」
無駄な足掻きだ。辛うじて死なぬよう自分の命を守り続けているのは。
この先、どうあろうと勝機を見出し逆境を打破する一手が浮かばない。
残り1分と経たぬ間に、魔力も尽き、マントを操る燃料を失いラウザルクも解除され、狂獣に血肉を喰い千切られる。
───おやおや?
ゼオンはランドセルに手を入れて、一つの黄金を掴んでいた。
───良いのかい? 素人の癖に呪物に手を出すマヌケって言葉、全部君に返ってくるよ。
脳裏に響く、半日前に惨殺した奇術師の嘲るような声。
無論、あの右天本人のものではない。右天の姿を模したゼオン自身の思考の表れだ。
確かに、このまま防戦を続ければゼオンは殺される。だが、一つだけ手がないわけではない。
右天から回収した支給品の一つ。
円形の装飾がありその中央にウジャトの眼を模した三角形、円周には五つの鋭利な棘が携えられた奇抜なアクセサリー。
首からぶら下げるのを目的とした物なのか、丁寧に首に引っ掛けられる程度の長さのある紐まで結んであった。
───道化の僕ですら、手を出さなかった曰く付きだよ。
黙れ。
───そんなものに手を出すなんて、君は道化以下の能無しかい。
黙っていろ、三流マジシャンがッ!
───身の丈を超えた力は身を滅ぼす……誰かのご高s…。
ごちゃごちゃうるせえ、すっこんでいろ!!
確かに、これは特級の呪物だ。ゼオンも一目で理解しまた右天も使用方法が分からず、嫌な予感を覚えてランドセルの底に眠らせたままにしていた。
「俺とてめえじゃ、格が違うんだよ!」
その呪物の名は千年リング。
古代エジプトにて、99の命を生贄に錬成された呪われし秘宝。
大邪神の邪念を秘めた、最悪の宝具。
「さあ、千年リングよ! 俺に力を寄越せ!!」
ゼオンの首から下がる千年リングが金色に輝き。額にウジャトの眼が投影される。
「ラージア・ザケル!!」
ラウザルクを解除し、迸る力のままに呪文を詠唱する。
枯渇した魔力に代わり心の力が充填され雷へと変換。
電撃の結界がシュライバーを遠ざけ、吶喊の連撃がこの瞬間打ち止められた。
「…ほう」
電撃の火力不足はゼオン自身の課題だった。
パートナーが居ない以上、心の力を借りれず本来のゼオンの力を出せない。
だが、ゼオンにとってパートナー足るのはあの青年を置いて他にはいない。ジャックなど以ての外だ。
「千年リングから迸る憎しみ…こいつが、心の力の代わりとなるわけか」
生贄に捧げられたクル・エルナ村の住民達。
その怨念は3000年を過ぎた今も絶える事無く、千年リングの中に渦巻いている。
ゼオンの持つガッシュとそして父親への憎しみに同調するように、雷には心の力が乗せられていた。
単独で魔力を消費し放った電撃の数倍も威力はある。
「付け焼き刃で図に乗るなァ!」
車輪とマントの摩擦によって、引き立つ鈍い音は鳴り止まる事を知らない。
電撃の結界が撃ち止んだ途端に目ざとくさらなる吶喊を仕掛ける。
千年リングから齎されるのは憎しみの心の力だけに留まらず、魔力もまた流出しマントの燃料として浪費されていく。
俊敏さを取り戻したマントは突きのラッシュを繰り出し、バイクを駆るシュライバーは全てを掻い潜る。
ゼオンへと肉薄しギロチンのように振りかぶった車輪をムチのように変形したマントが受ける。
バイクは生物のように飛び抜き、後方でアクセルターン。
円を描くように激走しゼオンの背後へ回り、背中に車体を打ち付ける。
「ッ───」
使い切ったスタミナを回復させたものの、現状のパワーバランスを完全に引っくり返せた訳では無い。
神域の速度は、邪神の邪念を足してもまだ埋め尽せぬ絶対の差がある。
直撃を受けた鮫肌から伝う破壊の圧力はそれを雄弁に訴える。
ゼオンの怪力を以てしても、腕に痺れを感じさせた。
「まだだ」
しかしゼオンの瞳に諦観はない。
「Labe Leb und laB mich sterben───!」
お国言葉を紡ぎ、完全な会話を放棄したキレた独り言。
「頭に来てんのは、俺もだ。ゴミが」
幾度かの吶喊の後、再びシュライバーは飛び退いて距離を空けた。
撤退のそれではない。助走を付けるのが目的だ。
流星となり、隕石の如く全てを悉く粉微塵の轍に変えてやる。
そのような、意志と殺意を籠った一時的な溜めだった。
魔性の域で行われるヒットアンドウェイは、全てコンマ1秒以内に行われる。
ゼオンが呼吸を一つ終えるのを待たずして、新たな破壊を世界に刻み込むのだろう。
だが、ゼオンは眉を上げて、挑発するような視線をシュライバーの青い隻眼にぶつけた。
「いい加減、僕の轍になれェッ!!」
ゼオンの視線に誘われるように、機獣の冷たい鉄皮の下、冷血の燃料を燃焼させる。
狂獣の叫びを轟かせ、機獣の咆哮を伴わせてシュライバーは魔性の高速世界へと一人突入する。
音速の数百倍、何者をも振り切り、誰にも触れさせはしない。シュライバーしかいない、シュライバーだけの世界。
触れようものならば、その悉く有象無象どもを轍へと変えてやろう。
触れた事すら、認識出来ぬ程に高めた絶速の世界で。
シュライバーに届く者だと、誰一人として居ようはずがない。
居るとすれば、シュライバーの空いた穴をただ一人埋める。あの黄金の獣に他ならない。
それにも劣る比べる事すら烏滸がましい、褪せた白銀の劣等如き。決してこの身に届く筈がない。
「邪神よ! この俺に従え!!」
千年リングを掴み、ゼオンは凍てつく空に座する地縛神へと号令を発す。
冥界の王の力の一端たる地縛神は、冥界からの刺客(ダークシグナー)かあるいはそれに比類する異界の神格でなければ忠誠を誓わない。
だがこの瞬間、ゼオンの首には冥界を統べる邪神の思念と怨霊達の憎しみが込められた呪物が存在していた。
そして仮初の主である魔神王は黒渦の中に消え不在。
顕現時間を超えるまで沈黙を続けていた地縛神は、新たなる主の邪念と憎悪を合図に再び咆哮を轟かせる。
「磨り潰してやるよォ! 劣等ォ!!」
遅い、遅い、遅い。
怪鳥が空を舞い、破滅の息吹を吹こうとも。
そんなのろまで愚鈍な吐息で、自分に触れられると思うな。穢れた害獣が身の程を知れ。
アクセルを吹かせ、機体の燃料をより燃やし、シュライバーはより上の速度を発揮。
ゼオンのつまらぬ最後の足掻きすら許さず、轢き殺す。
「……そいつは、どうかな?」
盾になるマントを圧倒し、極致まで高めた魔性的速度で押し潰し轢殺する。
シュライバーの想定は前半までは叶えられた。車輪がマントを轢き、速度から齎された膨大な破壊がゼオンを粉砕する。その寸前にバイクが消失したのだ。
「───……!!?」
真っ先に想像したのが、乃亜によるハンデ。以前の孫悟飯との戦闘でも同じことがあった。
だが、消失した時の感触が違っていた。
乃亜のハンデは封じられた触感だ。そこにあるのに、鎖で縛られ引き摺りだす事が叶わくなったような。もどかしさもあった。
今回のそれはまるで、剥奪されたような。喪失感、何より封じられたのではなく維持が出来なくなった。
それだけの力が完全に根こそぎ奪い去られたような。
何より、何故自分は今土煙の中に居る? 何故粉塵の中で佇んでいる?
あのブレスが直撃したようではないか?
Wiraqocha Rascaはあらゆる生気を吸い上げ、僅かな食余だけを残す。
それはエイヴィヒカイトの担い手にはより直接的で暴食的な効果として現れた。
そう、シュライバーの簒奪した18万を越える魂が残り1つだけ残して全て消失したのだ。
そしてその力は物理的な回避を無力化する。
「ぐ、ごっォ……!?」
シュライバーの腹部に衝撃が走った。グランシャリオを纏った事で、直接触られたとは認識されない。
ダメージも最小限に留まっている。
たが、グランシャリオがなければ致命傷へと至っていた。
それはシュライバーが膝を折るには十分すぎる痛打。
形成から活動に戻った事で、渇望のランクも下がったことも影響しシュライバーは未だ混濁した狂気の中で、まだ意思疎通も可能なまでの冷静さを保っていた事で、狂乱の真の力の顕現も遠のいていく。
故に膝を汚す醜態を晒す羽目になる。
崩れ落ちるシュライバーを見下ろして、白銀の眼光が蔑みの色彩を放っていた。
「おま───ッ」
脳天を上部から揺らされシュライバーが鎧越しに顔面を地中に埋める。
その上から、ゼオンの足が置かれ踏み潰すように力が込められていた。
「どうした? 加減してやってるんだぜ。起きろよ、待っててやる」
金縛りに掛けられたように、頭部に込められた膂力はシュライバーから自由を奪っている。
全く力が出せない。絶対回避の渇望から、このような無様を晒す事が先ずありえないが。
こんな人外とはいえ子供如きに、シュライバーが力負けしているという事実に。
グランシャリオの防御力がなければ、完全にシュライバーは死んでいた。
「……もう良い、てめえは死ね」
ザケル。
冷淡に紡がれた詠唱から電撃が放たれる。
突如として白骨の巨狼が現出する。
ゼオンを体当たりで突き飛ばし、シュライバーを口で咥えそのまま前方へ疾走。
「逃がすか」
やれ。
一言、下知を下す。
地縛神Wiraqocha Rascaは下降し、その巨体を以てしてシュライバーを押し潰そうとする。
大翼をはためかし地上より数十メートル浮かび、狂風を吹き荒らし上空からシュライバーとその式である巨狼へ狙いを付ける。
空を背に急下降し漆黒の飛鳥が神の鉄槌の如く下る。
巨狼はシュライバーを口から離し、身を翻してWiraqocha Rascaと激突した。
「そ…うか……!」
肉と皮のない骨だけの体をWiraqocha Rascaがすり抜けていく。
地縛神はあらゆる攻撃を受けず、また如何な防御も使役する魔物すらも無視して後衛の命を奪い去る。
故に防御は意味を為さず、全てを回避するしかない。
辛うじて残った微小な力を足に込め、シュライバーは再び神速の世界へと舞い戻る。
背で轟く振動音、大気を揺らし地面すら揺り動かすが。破壊そのものは矮小そのもの。
クレーターどころか、亀裂すら起こさない。
そうか、そういうことか。
ゼオンもシュライバーも一瞬にして全てを理解する。
相手の生気を奪い去る特殊効果を前提として、この神自身に攻撃性能はほぼ皆無。
強制衰弱の能力に攻撃力などいらない。
成功さえすれば、ただの一撫でで相手を絶命させかねないのだから。
生気を奪う力は強力無比だが、逆に言えばそこまでの力。
それ以上もそれ以下の結果も齎す事はない。
「どんな攻撃も受け付けないのなら───!!」
巨狼が吠え狂い疾走、ゼオンの横合いへとターンを決める。
「どんな攻撃も防げないって事だろォ!!」
ゼオンと巨狼の間に割り込むWiraqocha Rascaを透過して、巨狼は莫大な衝突音を醸し出す。
マントを翻し即席の盾とし鮫肌を振るうがその前に跳躍。
頭上からその巨体さから想像も付かぬ身軽さを発揮して、前足をゼオンへ叩き付ける。
「銃、が……!」
回避したゼオンへ銃撃を叩き込もうとして、既に頼みの武装は完全に消失している事を思い知らされる。
現状のシュライバーは渇望を抜きにしても、ゼオンへ近づくのは危険だ。
衰弱した体調では速くは走れるが、肉薄後確実な回避へと移行出来る保証がない。
業を煮やす事だが、この瞬間のみシュライバーは己の出しきれる全速に疑いを挟んでいた。
起こり得てはいけない屈辱にして、大醜態だ。
黄金の近衛、最も早く忠誠を誓った獣の牙、不死の英雄の行いでは到底ない。
まるで、まるで忌み嫌う敗北主義者のようじゃないか!
「ウオオオオオオオオオオォォォォ!!!」
踵を振り上げ、コンクリートを打ち砕く。
衝撃で上方に舞い上がったコンクリート片を拳で殴りつけ、その全てをゼオンへと叩き込む。
1つ1つはただのコンクリートでも、シュライバーが残った魔力を圧し込めることで簡易な魔弾石としての体を成していた。
「ぐおッ…!!?」
全身を受ち付ける魔弾。
明かに連射性、速射性、込められた魔力も、全てが銃撃と比較して劣悪そのものの劣化だが、勢いに煽られたままゼオンの矮躯が僅かに宙へと浮かんでいく。
千年リングの力を借りたとて、ゼオンもここまでの戦闘で体力を消耗し続けていた。
そして、銃を失った事で遠距離からの銃撃は完全にシュライバーの攻撃手段から取り除かれたと判断し、僅かな油断もあり対処が遅れた。
二つの要因が絡み合い、コンクリート片を全身に打つけ付けられ。
ほんの刹那、一瞬の身動きの取れぬ滞空時間の間に巨狼の薙ぎ払いが直撃する。
「ゼオン・ベル…弟諸共、必ず僕が殺してやる……!」
怒り心頭のまま言葉を発する。
「てめえ……」
だが、怒り心頭なのはゼオンとて同じこと。
「俺とガッシュを同列に語るんじゃねえ!!!」
テオザケル!!
吹き飛ばされる中、ゼオンが放った雷光が世界を照らし。
それが終焉の合図だった。
シュライバーは己が味合わされた屈辱に耐えながら、全速力で逃亡を開始。
ゼオンも最早それまで。
追いかけるだけの気力も残らず、膝を折る。そのまま肩で息をした。
「ジャック…奴はもう、終わったか……」
足を引き摺りながらゼオンはこのエリアから離れようとする。
派手に暴れ過ぎた。
今、あの青コートか氷の女とかち合えば、ゼオンの敗北は必須。
もうじきに禁止エリアにもなる。長居は無用だ。
ジャックとガムテとの合流を考え、ゼオンはゆっくりと歩き出した。
「…憎悪の力、悪くねえ。それに邪神か…全てを俺が従えて、バオウを超えた力を手にするってのも面白い」
その小さな背には、未だ鳴りを潜めぬ強い憎しみを背負ったまま。
呼応するように、胸の秘宝は金色に光る。
地縛神もまた顕現時間を超えて、消失していった。
【モーゼルC96@Dies irae 破壊】
【E-3 /1日目/日中】
【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]失意の庭を見た事に依る苛立ち、魔力消費(極大)、疲労(極大)、憎悪(極大)
[装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!!、千年リング@遊戯王DM
[道具]基本支給品×3、ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ、
「ブラックホール」&「ホワイトホール」のカード(2日目深夜まで使用不可)@遊戯王DM
ランダム支給品3〜5(ヴィータ、右天、しんのすけ、絶望王の支給品)
[思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。
0:別のエリアでジャック、ガムテと合流。
1:ジャックを上手く使って殺しまわる。
2:絶望王や魔神王に対する警戒。更なる力の獲得の意思。
3:ガムテは使い道がありそうなので使ってやる。ただ油断はしない。
4:ジャックの反逆には注意しておく。
5:ふざけたものを見せやがって……
6:千年リングの邪念を利用して、術の力を向上させる。地縛神も手に入れたい。
[備考]
※ファウード編直前より参戦です。
※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。
※ジャックと仮契約を結びました。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※千年リングの邪念を心の力に変えて、呪文を唱えられるようになりました。パートナーが唱えた場合の呪文とほぼ同等、憎しみを乗せれば更に威力は向上します。
千年リングから魔力もある程度補填して貰えます。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(超々極大 時間経過で回復)、ダメージ(超々極大 時間経過で回復)、形成使用不可(2日目深夜まで)、創造使用不可(真夜中まで)、ゼオンに対する憎悪(極大)、欲求不満(大)、イライラ
[装備]:修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、沢山のコンクリート弾。
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
0:最優先で銃を探す。しばらくは物を投げるしかない。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:創造が使用可能になり次第孫悟空を殺す。孫悟飯?誰だっけ。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
4:ゼオン、ガッシュ、一姫、さくら、ガムテ、無惨、沙都子、カオス、日番谷は必ず殺す。特にゼオン。
5:ザミエルには失望したよ。
6:黒円卓の聖遺物を持っている連中は、更に優先して皆殺しにする。
7:でかい女(シャーロット・リンリン)を見つけ出し、喧嘩を売って殺す。
8:どいつもこいつも雁首揃えて聖遺物を盗まれやがって、まともなのは僕だけか?
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
【千年リング@遊戯王デュエルモンスターズ】
右天に支給。
古代エジプトで錬成された七つの千年アイテムの一つ。
人を生贄に捧げ作られた事から、呪われた秘宝ではあるが特に千年リングは大邪神ゾーク・ネクロファデスの邪念が込められていると思われる。
原作でもマハードが特別に魔力を割く事で、千年リングの邪念を封じ続けていた。
今ロワでは、闇バクラ等の闇人格は決して表に出る事はない。所有者及び身に着けた参加者の人格を乗っ取ることも不可能。ゾークの復活も禁止。
ただし、邪念が人格に徐々に影響を与える可能性は残されている。
更に人格に影響を及ぼす事柄に関して、説明書には一切書かれていない。
魂を別の物に封印する能力も、所有者自身の魂のみ。
封印できる対象は同時に一つ。
封印していた魂も、本体が死ねば消失する。
参加者に魂を封じるのも禁止。
獲物は大将(ボス)の総取りってトコだな。
大体予想は出来た事だ。ゼオンの野郎は、俺とジャックを潜入(スネーク)させてからずっと待機させた。
放送前なら、さっさと連中相手に悪事(わるさ)噛ますとこだが。
通貨(ドミノ)稼いで、報酬(ごほうび)を譲渡(わた)すなんて言われた時には、王子(プリンス)は既決した宣言を翻した。
俺らは気配消して、二人揃って戦況を逐一報告(チク)れ。
表向きは糞婆(ルサルカ)の奇襲が全く役に立たない所か、仮病(バック)れたせいで俺らの気配に気付かれたかもしれない。
状況次第で襲撃(カチコミ)か撤退(しっぽまく)か決めるって話だが、それは違う。
戦利品(キル)を俺らに稼がしたくないってのが本音だ。
俺もジャックも今すぐにじゃないが、ゼオンの寝首を掻く気満々だからな。
あっちからしたら、有利な武器取らせて自分から首差し出すような真似したくねえだろうしな。
迷惑(じゃま)なルール、後付けしてきたもんだな乃亜君はよ〜。
マーダー同士でもお友達(マブ)になるのは嫌ってる感じかァ?
これじゃ、誰が誰を殺すかで揉めちまうだろうがよ。クッソ面倒臭ェ。
MP(マサクゥルポイント)発行してたから、経験(わか)んだよな。この手のポイント先取ゲームで、獲物巡って潰し合いになんの。
割れた子供達(みうち)同士なら、まだ早いもの勝ちで済んだけどよォ。
絶対ェ、ドミノを欲張って誰が止め刺すかで揉める奴等が出てくる。
それでマーダー同士で殺し合ってもおかしくねえだろうが。仲良しこよししたい訳じゃないが、潰し合うのはまだ先で良いんだよォ。
あーあ…折角、友達増やしてもすぐに牽制が始まってんじゃねえかァ〜。
どんだけ友達嫌いなんだよあいつゥ〜。
孤独(ぼっち)が逆恨みで始めた死亡遊戯(ゲーム)じゃねェだろうなオイ。
「……んで、取り分は一人一殺害(キル)でいいか?」
「いいよ〜」
文句を女々(ダラダラ)言ってても仕方ねえ。
横に居るジャックに、お互いの取り分をもう一度確かめるように言った。
ゼオンはライダーとかいうガキとルサルカのババアが見付けた別の奴。
強いのはこの二人だから、ゼオンが相手するんだと。
残った雑魚は早い者勝ちって言ってたが、あいつが全員取る気満々だろな。
強いの相手にすんのも嘘じゃねえし、そんだけリスクを負う訳だからリターンも一番多く貰うのは理に適ってるが、俺らは余り物のメスガキ二匹だけ。
全然、物足んねえ〜。
「ゼオン、いそがしそう…」
「あん?」
ジャックから話を聞けば。
向こうは向こうで、乱入者(おきゃく)と揉めてるみてえだ…。
…さっさと終わらせて、急げば他に1人か2人殺せるかもなァ。
殺人(おしごと)をぱっぱと終わらせるとするか。
******
ネモとシカマル達が消えた。
急な事だった。龍亞が地縛霊だか地縛神だか、何だかそんな事を話していて。
ネモが皆でここを離れよう、そう決めた後に意識が暗転した。
「でっか」
私はデパートから離れた場所に居た。
同じエリアではあるけど、数百メートル離れた位の場所かな?
ギラギラと鬱陶しい日光は、地縛神が出て曇り空になったおかげで大分和らいだ。
これだけ快適になるのなら、一家に一匹飼ってやってもいいわ。お姉様にお願いしようかしら。
ちょっと他のエリアの方を見れば晴天だったから、このエリア限定なんでしょうね。
とても大きな黒色の鳥が空を飛んでいた。幻想郷なら異変として、霊夢が殴り込み掛けてそうなとこね。
やっぱり飼うのは無理か。
少し空を飛んで、地縛神と一緒に現れた光の線を真上から見てみる。
龍亞の言うみたいに、ナスカの地上絵の形を描いてる。とことん面白い世界から来たみたいね。
デパートの辺り、遠目からだけどかなり面倒そうなのを二人見付けた…。
正確には、その二人がデパートの近く屋外で戦ってる。
銀髪の雷使いと、黒い鎧を着てる奴…私でも手こずるわね、あれ。
特に銀髪は私をデカい剣で打ち飛ばした奴じゃない。
他のみんなはどうなのかしら? 藤木はもうどうでもいいけど、ネモは…大丈夫…?
シカマルと龍亞…あとしおも…一応探してあげないといけないか。
梨沙も……そうね、あの娘も見付けないと危ないわね。
一度、デパートに行くか。
あの戦ってる二人に見つからないように、私はそっと地上まで降りる。
徒歩でこっそり、気配を消しながら歩いてデパート内を探そう。
「ひさしぶり、フラン!」
耳にプチンって音が鳴ったの。
こめかみの辺りね。
一瞬眩暈がしたから、イライラし過ぎて頭の血管ぶちギレたんだと思うわ。
全く、キンキン耳障りで甘ったるい。この世で最も悍ましく、穢れきった殺人鬼。
あのアバズレ、ジャック・ザ・リッパーのものだ。
ご丁寧に敷かれた霧のカーテン、容姿の特徴、全部ネモから聞いたものと同じだわ。
交戦の記憶はなくても知識として、あれは間違いなくしんちゃんを殺したジャックだと確信する。
それに銀髪もいるのなら、きっとジャックも居ると思ったもの。
「あ、動かないでね」
すぐにバラバラに…いえ肉片一つ残さずぶっ壊してやる。
私は眦を決して、アロンダイトを引き抜く。
ジャックは強いけれど、力比べは私の方が上、真っ向勝負なら私は早々負けない。
ジャックは小細工で私を翻弄したけど、今の私にはしんちゃんみたいに守らなきゃいけない人はいない。
もう、こいつの好き勝手にはされない。そう一秒前までは思ってたの。
「この子、殺しちゃうから」
ジャックは左腕でその娘の首を抑えて、右手のナイフを首に当て何時でも刺せると脅しを掛けていた。
「…ごめん、フラン」
ジャックはナイフの先に少し力を込めて、その娘の首筋から赤く血が垂れた。
美味しそうな血。普段なら舌なめずりしたくなる所だけれど、今の私は怖気のが勝った。
だってあそこにいるのは、私に良くしてくれた梨沙。
最悪だ。
血が垂れたのはきっと頸動脈の辺り、手が滑りでもしてナイフが後数ミリ進めばあっさり血管を裂いて、大量出血で死ぬ。
支給品か誰かの能力か知らないけれど、私達を分担した後、その位置を一方的に好き勝手に配置する事が出来るみたい。
そして…きっとジャックは私と梨沙の関係を何処かで潜んで見ていた。
しんちゃんの時のように、私を相手に優位に立つ為に。
「離して」
振りかぶったアロンダイトを腰まで下ろす。
私は漠然と立ち尽くして、無駄と分かっていてもそう言うしかない。
「うん、フランが言う事聞いてくれるなら良いよ」
嘘だ。嘘に決まってる。
この後、何があっても私もそして梨沙も…生かして逃がす気なんかない癖に。
はっきりと分かってるじゃない。もう梨沙は手遅れだ。
私がジャックに従っても助からないのなら、ジャックを殺してしまえば良い。
人質を取るなんて、普通に戦ったら私に勝てないなんて言っているようなものじゃない。
それにいざとなれば、ドラゴンボールで生き返る。そうでしょ?
「剣とランドセルも全部捨てて」
私は言う通りに、剣を手放してランドセルも捨てる。
足元のそれらを蹴ってジャックの方へ渡した。
あの娘は満足そうに嗤笑を浮かべる。それを見て、私はより憤怒したけれど…ただそれだけだった。
「変な動きをしたら駄目だよ?」
……武器がないのを油断してるなら。
レーヴァテインを出して、投げればいけるかしら?
私はジャックと戦った時にスペルカードを出してない。気付かれずに、梨沙を傷付けずにやれるか───
「キャハ☆!」
脱兎の勢いで私でもジャックでも、当然梨沙でもない別の人影が飛び込んでくる。
私が手に意識を集中して、レーヴァテインを出そうかというときだった。
そいつは顔をテープでグルグル巻きにして、髪もミディアムぐらいの長さ。
一見すると女の子っぽくも見えたけど、テープの合間から見える瞳孔の開いた眼光と下種な笑い声が性別を男だって主張してくる。
そいつはナイフを私のお腹に突き刺して、そのまま奇抜な捻り方をした。
生きたまま内臓が無理矢理ねじ動かされる嫌悪感、勝手に内臓の配置を変えられた拒絶感。
痛みはそこまでじゃなかった。
それよりも、全身の力が抜けていく倦怠感が不味い。
腕に変な斑点が現れる。肉体が異常を告げて警鐘を鳴らしている。
「げっ、あんま効いてねーじゃん…ヤマイダレで不死身(しなねえ)のばっかで激萎(ショック)ゥ〜。」
「ガムテの技、あんまり役に立たないね」
「うっせ〜。ジャックを殺(さ)しちゃうぞ!」
「え〜? やだぁ〜」
ジャックとこのテープの子の閑談が無性に忌々しい。
テープの子は私がこのまま死ぬのを期待してるみたいだけど、生憎そこまで吸血鬼は軟じゃない。
吸血鬼は人間より体力もあり、体も頑丈だからどうにかなってる。痩せ我慢もしてるんだけど。
私の体に出てる症状は、多分末期の重病患者と同じ。本で読んだ病状にそっくりだし。
どういう理屈でそうなったか分からないけど、肝臓を切られて体をおかしくされたのは分かる。
(だめだ…スペルカードを出すどころか、動くのも……)
死ぬほど痛くて苦しい…厄介な技、使ってくるわねこいつ。
言い方から効き目が悪く感じてるみたいだけど、こんなの十分すぎる位効いてるわ。
「ぐふっ…!」
喉から吐き気が込み上げて、口も抑えずに吐き出した。
「きったなーい、フランたら汚いんだ」
「きったね☆きったね☆」
唾液と胃液と血を口から吹いて、服も汚してしまった。お姉様が居れば、はしたないとか言うかも。
ジャックの手中にある梨沙の事だけが気掛かりで、私はもう自分の事なんか二の次になっていた。
だから…きっともう、戦う前から私は負けていたんだ。
ジャックはこうなると分かって、あの黒い渦を使って私と梨沙を纏めて隔離して。
後はこうやって人質にすれば、私を簡単に殺せるって分かってた。
無理だ、私……どうしても、動けない。
ガムテに刺された傷もあるけど、動いたら梨沙が死んじゃう。
このままじゃ梨沙もどうせ死ぬって分かってるのに。
ああ、そっか…しんちゃんの時から、薄々思っていたけど。
私…弱くなったんだ。
「ジャック…時間かけねえ方が良い。もう殺るぞ」
ナイフを仕舞って、日本刀を手にしたテープの子。
きっとこれが私が見る、最期の光景なのね。
私はいいから…せめて、梨沙だけはこの後…悟空でもネモでも、誰でも良いから助けてあげて。
それだけが、私の最期の……。
******
私の前でフランが、お腹を刺された。ただ刺されただけじゃなくて体に斑点が浮かんで苦しそうにしてる。
きっと、あのナイフに毒が仕込まれてるんだ。
「もういいわ、フラ───ッ!?」
大きく叫びかけて、ジャックって子の腕が強く締まった。
窒息しそうになって、私の言葉はくぐもった呻き声で上書きされていく。
見た目は私とそこまで変わらない小さな女の子なのに、大の大人に捕まって首を絞められているみたい。
とても細い女の子の腕が、丸太のように見えて…巨漢の大男に捕まってると錯覚してしまう。
息が吸えなくて苦しいけれど、酸欠にはならない程度に腕の締め付けは緩む。
「お…ぇ…ぐは、っ……」
フランは立ったまま苦しんでいた。ずっと、苦しみながら私の様子だけを見てる。
もういいわよ、フラン。貴女私と出会って、数時間もしないだけの関係でしょ。
私の事見捨てて良いから、お願いだからこいつらのことやっつけなさいよ。
視界が涙で歪んで、私はもうやめて欲しいと声に出したかった。でもその度にジャックは喉を締め付ける。
唇が震えて、何もしてあげられない自分が恨めしい。
あの時と一緒じゃない…藤木に襲われて、シカマルが頭を使って追い払ってくれた時と。
私は藤木に悪口を言っただけで、あいつを逆上させただけだった。
もっと、今思うと藤木に考え直すように説得するとか、シカマルを連れて逃げる為に隙を見つけるまで時間を稼ぐとか、何かやれたのに。
荒くなりそうな呼吸を私は必死で抑える。
ガムテの男の子はナイフを仕舞って、日本刀を取り出した。
きっと首を落としてフランを殺す気なんだ。
時間はもうあまりない。
この先の事を考えて、震えそうな体を私は理性で抑え込む。
そう、演技だ。演技と同じ、何もやれない無力な女の子を演じきれ。
誰にも気づかれるな、こっちを見てるフランにも悟られるな。
有馬かななら、きっとやれる。それなら私にやれない筈はない。
相変わらず、細いのに鉄みたいに硬い腕だけど。少しだけ私が息を吸って吐くのに支障がない位には緩んでくれた。
それもそうよね。この子達はまだ私に死なれたら困るんだわ。
人質さえいなければ、フランはこんな奴等の言うこと聞く必要ないんだし。
私は何も抵抗してこないと、油断してくれている。
「た……」
声は出る。大丈夫…。
後は幻視しろ、そこにあると思い込め。
「助けて! シカマル!!」
虚構を現実にしろ。なかったものをあると思い込ませろ。
その手本を私は見た。その仕事を私はやってきた!!
「!!?」
私からこの子の顔は見えなかったけど、その視線は私の叫んだ方角へと注がれたのは分かった。
誰もいない。何もない、ただの空気しかない場所に。
******
「………………は?」
一番、肝を消したのは殺人鬼ジャック・ザ・リッパーだった。
ゼオンははっきりとフランと梨沙を自分達の元へ送ったと念話を通じて指示していた。
ジャックもまた凶行に及ぶ前に、周辺に参加者がいないか念入りに確認している。
だから、居る筈がない。この二人を助けに来る参加者なんて。
居ないと分かっていたのに、ジャックは一瞬注意があらぬ方向へと逸れた。
「どう、して……ッ!?」
嘘ならば、絶対に気付いていた筈だ。喧しいガムテとのやり取りの間もずっと、梨沙への警戒は緩めていなかった。
相手はただの子供、数多の人を解体し人間を知り得た殺人鬼を出し抜いて、でっち上げた嘘を信じさせるなんて。
如何にして辺幅を飾り、ジャックはおろか対面していたフランにすら、心の内を読まれずに済ませたのか。
「ジャック!!」
ガムテが叫ぶ。
やられた。完全に騙された。
まさか、伝説の殺人鬼と殺しの王子が二人揃ってまんまと嘘に踊らされたのだ。
ジャックとガムテの視線がフランから外れた途端、ガムテが真向斬りで振り下ろした刀の先から消えた。
「梨沙」
全ての事態を把握して、怒髪天を突くが如くフランの憤怒は限界を越えた。
怪物としての破壊性を一切抑える事無く、豪風となる。
「───ッ」
ジャックから見た、フランの拳を形作って大振りに腕を回す姿は滑稽そのものだった。
癇癪を起こした赤ん坊が手足をバタつかせ、親に要求を訴えているのと変わらない。
動きも雑、無駄も多く、研鑽された技とは程遠い。
だが、耳を劈く風切り音だけは殴打が音速を超えていることを報らさせる。
腕の中の梨沙を盾にする間もない。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!!?」
梨沙に向けていたナイフ。それを握っていた右腕は螺子折られる
皮が皺を作り、折れ曲がり砕けた骨は肉を押し退け、皮の下から盛り上がって存在を主張する。
ジャックの顔面にはフランの拳が突き刺さり、梨沙をその場に残して後方へと殴り飛ばされていった。
空中で5回転ほど頭部と足先の位置が入れ替わり、頭から地面に叩きつけられる。
ぴくぴくと痙攣し、ジャックはそのまま動かなくなった。
「動かないでね」
(な……殴ってから、言っても…お、遅いわよ…)
全く動けないまま、吸血鬼の理不尽にして嵐のような暴力を目にして。
目に涙を溜めて、梨沙は腰を抜かして尻餅をついた。
これが人ならざる怪異にして妖怪、その中でも上位に位置する吸血鬼の力だ。
ただ殴るだけで、人外魔境の地獄の片鱗を世界に顕現させる。馬鹿げた怪力。
「オイオイオイ」
口調はおどけたまま、ガムテは自身の第六感が警鐘を鳴らし、全身から冷や汗が止まらないのを感じていた。
「危険(やばたにえん)?」
フランと目線がかち合う。
後ろに飛び退いたのは、本能的な無意識下の行動。
ガムテの歩幅で一歩先にはフランの拳が地面に減り込んでいた。
「キャハッヒフ!」
良く響く奇声を発して、ガムテは嘲りを絶やさない。
ふざけた威力の拳(パンチ)。人体を簡単に撃砕するに相応しい剛拳だが、当てる為の工夫が皆無だと読んだ。
揺らぐように体を逸らし最低限の身のこなしで回避、頭をかち割ろうとしたフランの拳は槌のようにまた地面を打ち付けた。
(ジャックも不注意(よそみ)がなきゃ、避けれたな)
つまるとこ、先の一撃は梨沙の嘘八百(でたらめ)さえなければ、見切れなくない。
威力だけならばガムテの見てきた忍者極道ひっくるめて、最上位に位置する。シュライバーの吶喊にも近い。
だが、備わった身体能力(フィジカル)に頼った弊害で鍛えてはいない。技量として昇華させていない。
虎や熊が技を磨かないように、この女も同じ理由で体術を身に着けていない。
勝つ為の工夫がなく、動きは直線的で予想し見切りやすい。
「きゃっきゃ!」
狙うは首元。
ガムテの持つ名刀は銀色の刀身を怪しく煌めかせる。
おどけてふざけて、狂騒的な笑い声を喉から発して。何も考えない、馬鹿で阿呆な道化を演じて。
狂人の下の奥底の狩人の本性は冷たく、戯れを排した一太刀だった。
「うげっ?」
刀身がブレる。
足元から膨大な振動が伝い、ガムテは危うく転びかけた。
その正体はすぐそばのフランだ。
足を振り上げ地面に打ち付ける。地震と見紛う程に大地を震撼させ小規模な地割れを引き起こした。
ここは市街地の外で、足元はコンクリートではない土だが。
殴って地割れを起こすのは、相当な膂力に違いない。顔には出さず、だがガムテは身震いする思いだった。
揺れる体幹に逆らわぬまま、ガムテは転倒後すぐに受け身を取って飛び退く。
蹴り上げたフランの爪先は虚空を過ぎっていった。
「ちょこまか……ッ!!」
唇を噛み血走った目でフランは腕を薙ぎ払う。
ガムテは跳び上がり、稚いフランの短い腕を飛び越えるように避ける。
前転の要領で飛んだガムテの顔面目掛け、フランはアッパーを振り上げる。
空中でガムテはぐるんっとコマみたく回旋、打撃をいなしてフランの背後へと着地。
「チッ」
フランの右肩からは血が噴き出した。
僅かな交差の瞬間、首を狙われたのを傾けて回避し、代わりに肩を斬られたのだ。
後ろのガムテを見てフランは不満そうに唇を結ぶ。
(動き辛い…ああもう、これ…邪魔ッ!!)
コンマ1秒以下の刹那の片時の中で、ガムテはそれをじっと見つめる。
自分目掛け、投擲されたそれを。
赤黒い、生々しい数十センチの肉塊。
「肝臓(モツ)ゥ!?」
肝臓を切り捨てた途端、ガムテの頭上にフランが踵を振り上げて墜落していく。
フランの右手は赤く染まっていた。
肝臓の異変で体に病状が出るのなら、邪魔なそれを摘出して捨てれば良い。
お陰で先とは比較にならない軽やかな動きを取り戻した。
「キャハハハハハ☆! 人外(びっくり)!!」
後方へ飛び退いて、ガムテは張り合うように狂笑した。
化け物揃いなのは知っていたが、この女も劣らずの怪物だ。
怯みもせず腹の中に手を突っ込んで、笑みすら浮かべて内臓を投げてくる女が狂っていない訳がない。
脇腹から血を吹き出しながら、ガムテに吶喊を仕掛ける光景は悪い冗談のようだ。
細い刀の刀身で受け止め衝撃を殺す。
ダメージはほぼ殺しきったが、とても体内の臓器を一つ消失し、破れた腹から血を失い続けている重症者の動きじゃない。
「へえー面白い技を使うのね」
「でしょでしょ! 僕チンの得意技なの☆」
「じゃあ、私もお返しに楽しい物見せてあげる」
拳を引き、その直後手に光が収束し西洋剣を象った光の剣が現れる。
腰を横薙ぎに狙った一文字斬りを、ガムテは後ろに避けた。
刀で力を殺して受け止めるのも視野に入れたが、光の剣を物質の刀で防げるか懐疑的であった為だ。
間合いも余分に大きく空けた。光であるならば、物質の制約に囚われずリーチを伸ばす可能性もありえる。
「意外にクレバーじゃない」
にいとフランは笑う。
「でも、慎重(こわがり)過ぎたね」
ガムテは頭上からの殺意を鋭敏に察知する。
フランの分身がアロンダイトを拾い上げ突っ込んできた。
「ほんとは自爆も覚悟してたんだけど、ありがと離れてくれて」
ガムテはこの瞬間、狂人の仮面すら取り繕えず目を丸くした。
分身の持つアロンダイトが光り輝き、目を奪われるような神秘的な光景とは裏腹に第六感が不吉を告げる。
勝つ為の工夫がないのがガムテの下した評価だが、それは正確には大いなる誤り。
工夫を知らなかっただけで、この数秒の攻防の中で学習し思い付くだけの頭(オツム)の良さを兼ね備えている。知恵を持つ猛獣だったのだ。
「絶望(ウッソ)ォ……?」
こわばった筋肉を奮い立たせ、ガムテは全速で回避行動へ移った。
壊れた幻想。
分身が持つアロンダイトは剣としての原形を留めきれず、破裂した。
宝具を自ら破棄し膨大な爆破物として使い捨てる一度限りの大技だ。
英霊にとって半身そのもの、共に偉業を打ち立て逸話を残し続けた象徴とも言える片割れ。
精神的苦痛、そして切札たる宝具を半永久的に喪う戦力低下は深刻だ。
だが、フランにとってはこんなものあったから使っているに過ぎず。別に剣などなくても自分で創り出せる。
「バイバイ」
爆破が分身ごとガムテを飲み込んだ。後には何も残らず、左手だけが爆風で巻き上げられてフランの足元へと転がっていった。
「次は貴女ね。遊びましょ、ジャック」
粉々に吹き飛んだガムテが居た場所を一瞥してフランは疾走する。
先にあるのは殴り飛ばしたジャック。
目的のジャックを刈り取るまで、時間はそうは掛からない。
「わたしたちじゃ、勝てない」
ジャックは折れた鼻を手で戻し、鈍い音を耳にしてから目を涙で潤わせる。
とても、とても痛かった。右腕は激痛を越えた激痛で末端の部位は感覚すら消えた。
こうして対面し、吸血鬼に純粋な殺意を向けられた時点で、人殺しの達人である殺人鬼では対処のしようはない。
しんのすけや梨沙を利用したのは、それはジャックがフランには勝てないと知っていたからだ。
「霧の夜、以外はね?」
二人を遮る壁はもう何もない。
ジャックはフランを拒むかのように、白い霧をより濃く顕現させていく。
霧に乗じて逃げる気か? フランは逡巡しその考えを却下する。
二人の間合いは最早10メートルもない。この距離でいくら霧が濃かろうと、吸血鬼の視力を欺くのは不可能。
「それ…!?」
仕込みは終えた。
ガムテがフランと交戦した数秒の間に。
「行くよ、フラン」
ジャックの周りには白いチョークで描かれた円状の線が引かれていた、
その手に握られた装置、ラジコンのリモコンのような青い機械のダイヤルを回す。
日中という太陽に支配された昼間の世界の中に夜という暗黒の世界が顕現する。
ジャックが使用したのは、時空間取り替え機。
指定した箇所の空間を過去の空間と入れ替える。
線を引いた円の中を半日前、深夜の空間を入れ替えたのだ。
「此よりは地獄」
フランは凍えるような怖気を肌で感じた。本能が引き返せ撤退しろと、アラームを鳴り響かせる。
霧深い夜の世界、暗黒の中で佇む殺人鬼。
吸血鬼の目はその中でもはっきりと、ジャックの目が真紅に光るのを目の当たりにした。
「わたしたちは炎、雨、力───殺戮を此処に!」
時空間取り替え機によりその領域は夜として扱われる。
未来の叡智は時間すらも黒く塗りつぶし、霧はありとあらゆる真実と殺意を覆い隠す。
女は本来生れ落ちる筈だった、無垢な死者に引きずり込まれる。
それは一つの殺人現場の再現。
今、世界は名実ともに殺人鬼の地獄(もの)となった。
「ふっ…」
この感覚、似ていた。
ネモがフランを止める為、決死の覚悟で放ったあの極上の神秘と。
つまり、ジャックは勝負を仕掛けている。一世一代の大勝負。
「良いわ。乗ってあげる」
フランも口を三日月のように歪めて、昂る殺意を殺意で返答した。
「解体聖母(マリア・ザ・リッパー)」
ジャックもまた、ナイフを逆手に構え推進した。
自身を狩りとらんとする紅い吸血鬼に喰い殺されかねないとしても。
怯みも恐れもなく、ただ突き進む。
無垢で幼い少女達の喊声が、獣のように咆哮した。
何処へ行こうと逃さない。
両者の思考は、この瞬間のみ一致する。
絶対にして必殺の一撃を駆使して刹那の交差の中で、その命を断たんとしていた。
「…………」
先に勝利を確信したのは、フランドール・スカーレット。
(カウンターでレーヴァテインを使って斬り込む)
乃亜のハンデにより弾幕を消失した今、フランの主な戦闘手段はやはり近接戦。
ジャックも高度な剣技を有しているが、所詮は人間を相手に殺す事に長けた技量。
吸血鬼を殺すには今一つ足りない。力比べでもサーヴァントのジャックに引けを取らない所か低く見積もっても5、6周りはフランが上回る自信がある。
何を繰り出すか分からないが、ナイフよりもレーヴァテインのがリーチは長い。
レーヴァテインで斬り込み、あの胴体を上半身と下半身の真っ二つに別れさせてやろう。
その後で散々切り刻んで、粉々のミンチへと変えてやる。
殺意と暴力的な快楽に酔った笑みは、しかし即座に曇らされた。
「ッ、が…ァ、ッ!?」
血を吐いたのはフランだった。腹を切り裂かれ破かれた肉皮から腸が滑り落ちて離散していく。
まさしく、それは解体されているというより他ならない。
「、ォッ…」
臓物を腹から零し、それを抑える間もなく、漠然と自身の肉体が切り離されていく光景を眺めていく事しかできなかった。
「どう、し……」
まだ、互いに間合いは十分存在していた。
目測だが5メートル近くは空いていた筈。
ジャックの俊敏さやナイフの長さを考えても、フランを切り裂くのはまだ数秒先でなければ物理的にありえない。
解体聖母は因果を覆す。
夜であり、霧があり、殺害相手が女で合った場合。
絶命を押し付け、回避すら許さず、防御を認めない、対処すらジャックのスキルにより前情報を与えさせない。
文字通りの必殺技として、敵を蹂躙し圧勝する。
ジャックの到来より先に解体された死体という殺人がフランの身に起きて。
次にフランが死に、最後に全ての結果に至る理屈(ジャック)がやってくる。
(リーチはわたしたちのが、長い)
フランは距離があり、ジャックとの交差にラグがあると判断。
ナイフより長いリーチのレヴァンティンならば、先にジャックを斬れると判断していた。
だが、解体聖母のレンジは10、多少距離が離れていようとレーヴァテインをも上回る射程距離。
”近接戦闘が主体のフランを相手に”。
更に条件を三つ揃えた以上、ジャックが出遅れることは決してない。
「掌中の破壊者」
ジャックの半身を赤いオーラが覆う。途端にオーラから無数の弾幕が分離し離散する。
密着した超至近距離で放たれた無数の弾丸。それらは、手榴弾のピンを抜き手に持ったまま起爆を待ったのにも等しい。
全身を紅の弾(キバ)が食らい付き、喰い破る。肉体の中に異物が侵入し灼熱のような痛みが拡がっていく。
「え……っ、?」
何が起こったか分からず一瞬きょとんとして、吹き出る自分の血を見て遅れて悪寒を覚えてからジャックは飛び退く。
だが最早遅い。ジャックと共に身に着けていたランドセルと、その中に収納された時空間取り替え機を貫通し破損させていた。
ここに齎された夜は、過去から現在へと部分的に入れ替えた特殊な空間。
フランも解体聖母の能力を完全には知らないが、発動に必要なものが夜であることは推測可能だった。
そして、あの特殊な機械が夜を呼び寄せた事も。
切り刻まれ死体になりながら、その途中でスペルカードを発動する。
ジャックとジャックの握っている空間取り替え機ごと破壊する為に。
「うっ…ぅ……」
よって、過去と現在を繋ぐ鎖が破壊されれば、?がりの消えた二つの時空は元ある姿へと変える。
日中に現れた夜という摂理を越えた現象は消え、解体聖母の満たされた条件は2つのみ。
絶対確殺の宝具はその必殺性を殺され、零落の姿を晒す。
「さあジャック、もうワンコンティニューよ?」
バラバラに解体した筈のフランドール・スカーレットが立っていた。
赤いドレスは血に汚れていて暗赤色に染まっていた。
血を流していたということは、間違いなく切り裂かれたのだ。
だが、吸血鬼(アンデッド)に”ただ”の殺人を行ったところで、それは致命にはならない。
いくら死体になろうと、死が確定されないのであれば。吸血鬼の不死性で再生できる。
臓器を体外に摘出され、腹から腸が紐のようにぶら下がって垂れているのにフランはくつくつと笑ってみせた。
「アハッ、何泣いてるの? これからぶち壊すのに」
とても心底楽しそうで嬉しそうに、血だらけに染まり赤い水たまりに倒れたジャックを見下ろす。
嫌味を被せながら、全く反省の色もない。むしろざまあみろと鼻息を荒くしていた。
「いた…い……」
泣き言を放ちながらジャックは瞳を潤わせる。
「な…んで……」
分からない。分からなかった。
フランの攻撃のリーチは完全に見切った筈だった。
野原しんのすけを殺害した時、フランは映画館でしんのすけを置いて単身ジャックへと飛び込んだ。
あの場面、こんな遠距離からの包囲技を使えるのなら使ってしまえば、しんのすけの元から離れずに済んだ筈だ。
藤木茂とのモチノキデパートの交戦も潜入しながら、一部始終を見ていた。
スプリンクラーに阻まれた時も、この技なら藤木を殺せた筈。
「一度目は使えなかったの」
頭を横に傾げて、呆れるようにつまらなさそうにフランは口を開く。
そう当初、フランは弾幕を制限されていた。それはあらゆる遠距離攻撃をほぼ禁じられたと言っても過言ではない。
弾幕ごっこに慣れたフランとしても中々に鬱陶しい制限であった。
「途中で使えるようになったわ」
殺し合いが始まってから、2戦目。
キャプテン・ネモとの戦闘で、フランは己の制限を”破壊”した。
それは、スペルカードの威力向上だけではない。禁止された弾幕の生成を可能とさせる直感を彷彿とさせた。
「ジャックは頭も良くて、卑怯だから。私とちゃんと遊んでくれない。
弾幕は使えないと思わせた方が良いと思った」
フランの戦いは、常にジャックに見られているという前提で戦略を練るようにしていた。
常にレーヴァテインを中心に近接戦を行い、さぞ遠距離の攻撃手段を持ち得ていないと思わせる為に。
もしまた、あの霧夜の暗殺者と相まみえる事があるのなら。
必ず、絶対の勝算を手札に抱え挑んでくる。
ネモのようにフランに想いを伝えるべく、正面からぶつかるような海原を踏破した船乗りでもなく。
あの紅白の巫女のように、全てを破壊する殲滅者でもなく。
ジャックは卑劣で非道な暗殺者。
戦い方は考えないといけない。
それを巻き返せるだけの切札を、迂闊に晒す訳にはいかない。
「ッ…グ……!」
痛みに歪んだ顔で無理矢理笑みを作って、ジャックは諦観したように微笑む。
「………かえり…っ……たか…………」
それは唯一にして彼女達の最大の願い。けれども、高い知能はそれが叶わない事を知る。
「良かったじゃない。土に還れるわよ」
少女達の願いを額面上だけで解釈し、皮肉を浴びせる。
その真意も、少女達の悲痛な境遇も、救われぬ弱者であったことも。
フランには死ぬほど、どうでもよかった。
ここにいるのは。
厳粛だが慈悲深い聖女でもなければ、子供に絆される夢想家の弓兵でも。
ましてや、共に楽しい夢を見て、最期まで娘を想ってくれた母親でもない。
悪魔の妹なのだから
ぐしゃり。
頭を踏み付けて、ジャックの脳髄が散らばったのを確認して。
フランは退屈そうに、欠伸をした。
「復讐って成功しても、思ったよりつまらないのね」
何の同情もなく、一切の興味も消え失せ。
ジャックの顔すら思い出せないまでにフランから彼女への関心は死んでいた。
【時空間取り替え機@ドラえもん 破壊】
【無毀なる湖光@Fate/Grand Order 破壊】
【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Grand Order 死亡 フラン100ドミノ取得】
「一乙(ドミノ)、取得(ゲット)ちたぞ〜!」
「ッ……ぇ、な…ん……」
梨沙は動けなかった。
首を走る熱を帯びた痛み。そして、一瞬冷たい異物が血管を切り裂く嫌悪感。
呆気に取られていると、血が見た事ない程に吹き出した。
(う…そ……?)
梨沙の首の左側から、水平に血が飛び散る。飛散した血飛沫が肩と頬を赤く染めた。
もう視界が虚ろで、声も発せようにも上手く喉が回らない。
体の力も抜けて、倦怠感が酷かった。
(し…)
けたたましく騒ぐ、ガムテの声だけが響いて。
頭も朦朧として、梨沙はその光景を漠然と眺めていた。
「やった〜やったァ〜!」
梨沙の斜め前で、ガムテは飛び跳ねて両足をパンパン叩く。
嬉しさを表現したふざけた舞いは、梨沙をより困惑に落としこんでいた。
「梨沙ッ!!」
どうして! なんで!!?
あいつ、消し飛んで!!
殺した筈のガムテの生存への疑問と梨沙に手を出された怒りで、フランは頭が真っ白になった。
何も考えず、猪突猛進でガムテへと突撃する。
「梨沙(マセガキ)のとこまで穴掘って、進んだんだよ〜ン」
振り被った拳をいなし、半身になって避けたガムテは空中に漂った紙切れのようだった。
全くといって良いほど手応えがなく、力を流された感触はフランをより苛立たせる。
「あの爆破の中、左手を爆風に乗せてあんたは消し飛んだように見せたのね」
よくよく見れば、爆破の後に少しだけ凹んだ箇所がある。穴を掘ったというのも嘘じゃない。
わざと自分の手を切ったのもフランを騙す為の演出だ。
あの爆発の後に左手だけ転がっていれば、誰でもそれ以外は消し飛んだと誤認する。
その後で地面を掘って、穴は爆破の勢いで吹き飛べば平地の出来上がり。
ネモの時もやられた思い込みを逆手に利用するテクニックだ。
「おかげで、左手喪失(なく)しちゃったァ〜。 え〜ん! え〜ん!! 俺の左手くぅ〜〜〜ん!!!」
ぶっしゅ〜
間抜けな音で切断面から血を拭き出し、ガムテは喚きながらわなわな震える。
「やってくれたわね」
ガムテの左手を拾い上げ、フランは握力を込める。
「ね…ねぇ〜ん、止めてェ、今ならその手まだくっつくかも……」
ミシミシ
「あ、ちょっとォ〜? もしも〜〜〜」
メキメキ
「ちょっ、ちょっ待てよォ!? やめてえええええええええええええっ!!!」
グチャッ
水気の混じった音でガムテの左手は、筋肉モリモリマッチョマンが握ったリンゴのように爆ぜて消えた。
ちーん
「あ…ああああ〜〜〜 なんて日だァ……手を、手を…切るなんて」
斬ったの自分でしょ。
鬱陶しく道化(ふざけ)るが、それは仮の姿だと箱入りのフランでも理解した。
あのジャックに勝るとも劣らぬ卑劣さと外道さを備えた、現役(プロフェッショナル)の暗殺者。
涙を流し肩をわなわなと震わせて、泣いている姿も演技だ。
フランはまるで意に介さずレーヴァテインを生成し、斬り掛かる。
「ま、でもいっか!」
レーヴァテインを屈んで避けて、ガムテは後方へ一歩引く。
フランは横合いに薙ぎ払った後、脳天目掛け袈裟懸けに振るい落とす。
跳び上がり、ガムテは更に後方へ飛んでいく。
更に3振り目、4振り目、5振り目。
ガムテは攻撃を避けるが、その後一切の攻撃に転じない。
「てめーは死(ち)ぬから」
「ッ?」
6振り目を終えた時、フランは足から力が抜けていた。
「血ィ、流し過ぎ〜。忍者でも、その量は即死だってのによォ。
とことん、バケモンだな〜」
極道技巧”ヤマイダレ”、解体聖母。
共に確殺必須の暗殺(ころし)の奥義。
二つまともに食らって、まだ戦闘を継続するフランの肉体(スペック)は無敵(チート)のそれだ。
だが、限界はある。乃亜のハンデ下に於いては尚更。
吸血鬼(フラン)であっても、その損傷と血の消失量は最早無視できない領域にまで達していた。
(…そっか、こんなに切られた事、なかったから……)
指摘されて気付いた。体の動きが鈍い。気分も非情に悪く、気持ち悪かった。
これは、多分…本当に不味(ヤバ)い。
ネモや藤木の電撃で焼かれた時の比ではない。安静にし快復に務めなければ、完全に死ぬ。
なまじ頑丈な肉体の為、損傷の度合いを正確に把握出来ていなかった。
(…駄目。逃がさない……こいつは)
それでもフランは立ち上がる。
足に力を込め体幹を崩さない。それだけの普段なら何てことない動作だけで、残り僅かな血液が消化され外に吹き出していく。
いわば、パンクしたタイヤと同じだ。損傷個所を塞がなければ、どんどん空気(ち)が抜け、萎れていく。
(スペルカードで一気に……!)
ガムテを生かしておけば、ネモや悟空達の障害になる。
それに、死んだ梨沙の仇を討たないと!
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
何度も何度も謝って、涙は頬を伝って顎下へ流れる。
いつもそうだ。自分に良くしてくれた人を死なせて、足を引っ張って、また死なせて。
だから、せめてこいつだけは殺す。
何の贖罪にもならないけれど、せめてそれぐらいはしてあげないと梨沙が…!
きっと、私なんかと関わったから───。
「あ、そいつ。まだ生存(いき)てるよ」
「えっ……」
呆気に取られたのと、胸にガムテが投擲したジャックのナイフが突き刺さったのはほぼ同時だった。
それはフランがジャックの右手を圧し折った時に取りこぼしたナイフだ。
器用にもガムテは隻腕で刀を持ったまま、それを回収し懐に忍ばせていた。
「がァ…!」
やられた。
胸に生えたナイフはフランの失態の証。
心臓を穿たれ、決して無視できない鋭い痛みを覚えながらフランは足を止めた。
また、一本取られたのだ。
胸を貫く激痛に藻掻き、困惑に飲み込まれフランはスペルカードの発動を流してしまった。
ガムテはそのまま走って、逃げ去っていく。
既にフランの射程外、弾を放っても届かない。
何より、もうそんなことは大事ではなくなっていた。
「梨沙ッ!? 梨沙!!」
頸動脈を切られても即死はしない。死にはするが、すぐには死なない。
いずれ死ぬとしても今をまだ生きていれば、駆け寄らずにはいられない。
「じゃーね! 永眠(バイバイ)〜。
カップラーメン・シーフードヌードル!!」
ガムテのおどけた嘲笑など最早、耳にも入らず。
首から血を流した少女を抱え上げて、フランは叫ぶ。
ただ一寸の望み薄の希望を込めて。
───ジャックのランドセル、取りに行く暇なかったな。
舌打ちしながら、ガムテは自身の手際の悪さに苛立っていた。
壊れた幻想から離脱する時、フランにガムテの死を偽装する為、左手を犠牲にしたせいだ。
慣れない片腕の動作に、フランを相手に攻撃を避け続けるのに手一杯で肝心の武器の補充が疎かになってしまった。
辛うじて、フランへの止めになればと、ジャックの落としたナイフだけ拾い胸に刺したが。
「とりま、王子(プリンス)と再合流だなァ」
地獄への回数券のお陰で左手の出血は大量だが、すぐに死ぬようなものでもない。
服の端を千切って強く止血用に縛り付けてから。
ガムテはゼオンとの合流地点へと急いだ。
【E-3 /1日目/日中】
【輝村照(ガムテ)@忍者と極道】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、左手欠損
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、
破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order、妖刀村正@名探偵コナン、
[道具]:基本支給品、魔力髄液×9@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:ゼオンと別エリアで合流。ゼオンもそのうち殺す。
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:シュライバーを殺す隙を見つける。
5:じゃあな、ヘンゼル。
6:ジャックに思うとこはなくもないが……。
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。
面白い所だったのにな。
興覚めと言わんばかりに、しかめ面でブラックは口笛を吹く。
二人の王の戦いに突如として現れた黒穴。あれにはブラックには覚えがあった。
自身に支給された二枚の支給品、皮肉で宛がったのかブラックとホワイトの名前を冠した二枚のカード。
大方、白雷の少年が介入し使用したのだろう。
とことん、余計な真似をして白けさせてくれたものだ。右手はコートのポケットに差し込んだまま、左手で気だるげに後頭部の髪に触れる。
まあ良い。いずれ、またあの異界の王とは相まみえるだろう。
生きていれば、何処かで殺し合う定めだ。
「ああまで、趣味が合わねえとな」
魔神王が語る不死王の方が話だけでも面白く興味を抱いたくらいだ。
死ぬ前に見ておきたかったなと、勿体なくも思う。
「よう、ご機嫌どうだ? お嬢さん(フロイライン)」
雑多な取るに足らない想念を惟みるのを止めて、ブラックは血だらけで倒れている少女を見下ろして言った。
「……寝ようと思ってたのに」
物憂いな表情で、フランドール・スカーレットは口を開く。
酷い有様だった。
全身が血で真っ赤に染まり、腸や胃などの内臓が飛び出し露出している。
五臓六腑の内、心臓を除いた全ての臓腑が収まる所に収まっていない。
肝心の心臓も胸に突き立てられたナイフが、致命傷を与えていると物語っていた。
永くない。
ブラックから見ても、ここまで息があったのが不思議なくらいだ。
「こう見えて、大急ぎで戻ってきてやったんだぜ?」
「ふーん、負けたんだ」
人類は愚か、魑魅魍魎が跋扈するHLにて恐れ慄かれる13王に対し、礼を失する態度だった
だが、事実としてフランは忖度なく場景から感じ取った所感を口にする。
会話すらこの時が初めてで互いに瞥見しただけだったが、ブラックの豪気な有様はそれに釣り合った金甌無欠の超越体であったからこそだという事は理解している。
「良い目ん玉持ってるな。…だが、負けちゃいねえよ」
「負けた奴は皆そう言うわ」
外見に負傷は見られず、飄々とした態度も変わらないが。
かつて、あった力強さは鳴りを潜めている。
内面に確かにあった力が絞りカスだけ残して、食い散らかされたかのような。
さぞ衰弱し弱っているのだろうと、フランは一目で見抜く。
ありとあらゆる物質を壊す程度の能力により、平素から多くの物を破壊してきた影響だろうか。
物を壊すという、事の本質に触れ握り潰す行為を重ねたからか、フランは目に映る景色以上の情報を読み取った。
ブラックもそれ以上の否定はせず、薄く笑みを浮かべ、それが肯定だとフランは認識する。
「で、あのメスガキ…ありゃなんだ?」
ブラックが視線を向けた先、的場梨沙が日陰の下で建物の外壁に背中を預けて腰掛けていた。
目は閉じられ意識はあるように思えない。変わっているのが、雨も降っていないのに梨沙の左の腕から肩に掛けて、傘が開かれ立てられていた事だ。
「雨が降るって天気でもないしな」
この島の気候は晴天そのもので雨雲など意図的に誰かが操らない限り、流れてきそうにない。
しかも物陰に下にいるのだから、雨くらいは凌げるだろうに傘が開かれていた点だ。
どちらかと言えば、これはそう。
雨ではなく、この島を照らしつけている日光から梨沙を守るように傘を持たせているような。
「吸血鬼の有名な伝承知ってる? 噛んじゃったの」
「…………ハハッ。お前マジか?」
薄ら笑いが一瞬消えて、面を食らったようにブラックから表情が死んだ。
間を置いてから、呆れ果てるような面白がるような、判別の付かない笑い顔で口許を吊り上げる。
「棺桶に籠ってて、余程人恋しかったのかよ」
「好きに言えばいいわ」
馬鹿にしたような口調は、フランの勘に触る。だが強く言い返す気もそんな体力もない。
ネモから落胆され、軽蔑されても文句は言えないと思う。
もしも、ここでネモが現れて、彼に人間を脅かす怪物として討たれようものならフランは甘んじて受け入れるだろう。
それだけの行い、ここまでに積み重ねた全ての出会いと触れ合った人達の想いを無駄にして、無価値な塵芥に変えた自覚はある。
「ほんとは嫌なんだけど、貴方しか居ないから言うだけ言うわ。
梨沙の事、お願いして良い?」
期待はしていない。
敵か味方かも分からない、意志も思考も思想も計り知れない超越者。
こんなのに懇願することが、如何に馬鹿な行いか。
「あの子はきっと…これから、苦しい思いをするから」
人はたかだか100年生きれば、寿命を終えて死ぬ。儚くあまりにも短い命だ。
この先数年は良いだろう。けれど梨沙は成長の止まった体と、不気味にまで年老いない病的な若々しさに、いずれ人の営みから弾き出される。
アイドルという人の目に付く仕事だって続けることは出来ない。
フランは梨沙から人としての人生と、あるべき輝かしい夢と未来を無情にも奪い去ったのだ。
数十年経てば両親にも友人にも皆先立たれ、梨沙にはレミリアや咲夜のような家族や理解者も残されず、幻想郷でもない人間界で孤独に死なないだけの地獄を味わい続ける。
同じ時間を生きていける存在が居ない世界なんて、きっと死んだ方がマシなのだろう。
「私が死なせたくなかったの」
悟空を信じていない訳じゃない。ネモの想いは伝わってきていた。
死んだ者達はドラゴンボールで生き返れる。理屈では分かっていた。
でも、止まらない血と冷たくなっていく梨沙を見て。
どうしても、自分の腕の中で冷たくなっていくしんのすけと重なって。
梨沙の首筋を噛んでしまった。
「……戻れる、方法は…あると思うけど」
頼みのドラゴンボールも、絶対にその願いを叶えてくれるか懐疑性がないわけではない。
結局フランはネモと悟空の人間性を信じたのであって、ドラゴンボールの性能を殆ど知らない。
もしも、戻れなかったら……。
「ガキの子守り、ねえ?」
はっきりしない有耶無耶な態度で、嘲るようにブラックは言う。
予想できたことだ。ネモや悟空ならともかく、この男が自分の言う事を聞く道理なんかない。
「貴方が元気になるまで、その子を扱き使えばいい」
悪魔が求むのは、厳正なる契約である。
「日光にさえ注意すれば、色々使い道はあるわよ。だって吸血鬼だし」
メリットさえあれば契約に応じる。古今東西、悪魔は契約には誠実だった。
ある意味、神の忠実な戦士である天使なんかより、余程人間に寄り添った人外達だ。
「……良かったな」
フランには一瞥もくれず、ブラックはジャックの遺体に視線を向ける。
その横に転がったランドセルを念動力で浮かせる。宙を漂ってそれはブラックの手に掴まれた。
「荷物持ちのバイトをこれから募集するとこだ。
ま、あとはあのメスガキの面接次第かな。採用するかどうかは」
「落ちたら、どうなるの?」
「縁がないってだけの話さ」
「あっそ…」
呆れるように、フランは溜息を吐く。
最期までどっちつかずで、明言せずに気の利いた事も聞かせてくれない。
ここまで譲歩させただけマシだろうかと、フランは自分を得心させるように務めた。
「結局、偽物は偽物…紙は紙か」
紙の月も信じれば本物になれるかもと、ベーカリーは言ってくれたけど。
結局、何を信じようと紙が月になることはない。
しんのけやもネモも梨沙も、どんな言葉を掛けて貰って思いやられようとも。
物事はそう簡単には変わらない。見える気がしただけだ、偽物が本物に。
死ぬ間際だというのに、途端に馬鹿らしくなってきた。
命を懸けて、下手糞なりに色々足掻いた結末が。無駄な努力を重ねただけというのは。
「月なんてもん、近くで見ればでかいだけのデコボコな石ころだよ。
見せようとしてるだけ、紙のが上等なもんさ」
何処か弾んだ声だった。
「楽しめたよ、お前。
この島で一番楽しかった」
空を見上げて、フランを横目で見ながらブラックは物を言う。
「ご堪能いただけて光栄だわ」
ふっと、糸が切れたようにフランの肩が脱力して下がった。
「……見れると良いわね。見たいものが」
瞼を閉じて、眠るように項垂れる。
もう限界だった。最後のガムテの心臓への一刺しが、想像よりも重傷だった。
これでフランの体内にある生命維持に必要な臓器の全てが破損した事になる。
流石の吸血鬼といえども、ここまでされれば死なない訳にはいかない。
「言ってろ」
最早、目を開けることもせず。フランは目を瞑ったまま口許を釣りあげた。
最期に見る光景を考えた時、ブラックよりも真っ暗な瞼の下の方が良いと思ったのだ。
───ごめんなさい。ネモ…梨沙……船にもコンサートにも私行けそうにないわ。
それは正解だったと、フランは思う。
脳裏に浮かんだのは、悟空やネモや梨沙達の顔だ。
死ぬ前に脳が見せるただの記憶の映像だとしても、ブラックの顔を見るよりはずっと良い。
───ありがと、しんちゃん。
レミリアと咲夜、そして霊夢と魔理沙。
最後に初めて友達になってくれた少年に、届かない独りよがりな自己満足だとしても。
改めて、お礼を言った。
【フランドール・スカーレット@東方project 死亡 ガムテ100ドミノ取得】
フランが息を引き取り、そこが日光の下だからだろう。
灰になって消えていく様を眺めながら。絶望王は目を細めて、ほくそ笑んでいた。
「じゃあな───フランドール・スカーレット」
特に何の感傷もなく、掌で二つの玩具を弄びながら離別を告げる。
「こいつは貰ってくよ」
それは他ならぬ、フランドール・スカーレットの真紅の眼球だった。
二つの眼球を灰になる前に摘出し掌の上で転がしていた。
「俺の前のプランじゃ、別の目ん玉使う予定だったんだけどさ。
プランBがあっても面白いだろ。まあ、プランAは始める前から邪魔が入ったんだけどな」
あっけからんに、明るい口調でブラックは愚痴を独りごちる。
「帰ってあっちの目ん玉使うか、ここでこっちの目ん玉使うのか…」
破壊の目という物事の綻びを捉える目、使い方次第では楽しくなる。
”ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”はかの13王の御眼鏡に適ったのだった。
「そいつはシカマル達次第だな」
目玉を二つポケットに仕舞う。
受け取ったレシートを見もしないで、気安くポケットに突っ込むかのように。
参加者の遺体はランドセルには入らなかったので、止む無くだ。
吸血鬼の目玉だ。一日程度なら、腐ることもないだろうと高を括る。
しかし、必要に迫られてとはいえ、あまりにも乱雑な扱いだった。
そもそも、この眼球に力が宿っていたのか。またはフランに備わった力が、眼球を通して発揮されたのか。
それすらもはっきりとしていない。
だからか。
別に落とそうが壊れようが使えなかろうが、なんでも良いと言わんばかりだった。
口笛を吹きながら、手ごろな石に腰を下ろして。
膝に吠え杖を付きながら、ブラックは薄ら笑いを崩さない。
眠れる吸血姫が目覚めるのは、その後数分後のことだった。
【E-3 /1日目/日中】
【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(超々極大 時間経過で中まで回復)、ダメージ(超々極大 時間経過で小まで回復)、空腹
[装備]:フランの眼球×2@東方project(ポケットの中)
[道具]:フランとジャックの基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、
改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に業、マリーンの腕章@Fate/Grand Order
探偵バッジ×5@名探偵コナン、ジャックのランダム支給品1
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:梨沙が起きるのを待つ。その後は…こいつ次第だろ。
1:気ままに殺す。
2:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
3:シカマル達が、結果を出せば───、
4:江戸川コナンは出会うまで生き伸びてたら、な。
5:シカマルと逸れたが…さて、どうしたもんかね。
6:魔神王にはリベンジしときたい。
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。
【的場梨沙@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]ダメージ(大)、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)、吸血鬼化、気絶
[装備]しんちゃんがフランに渡した傘、シャベル@現地調達、ハーピィ・ガール@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:私、死んだわ……。
1:シカマルについていく
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
4:桃華を探す。
5:フランはちょっと怖い。でも…悪い子ではないと思う。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。
※吸血鬼化しました。今後梨沙が吸血鬼を増やす事は不可能です。
※あまり強くないです。
「下らぬ横槍が入ったか」
魔神王はモチノキデパートから遠く離れた土地で淡々と呟く。
絶望王を氷の断頭台に上げ、その処刑執行を下そうとしたその瞬間だった。
別に強力な力に介入され、別々の場所へ強制的に移転させられた。
何者かは知らないが、余計な真似をされたものだ。
邪神の力まで持ち出し絶望王をようやく仕留めきるその寸前だったものを。
「だが、奴に地縛神の力が通じたのを知れたのは僥倖」
この島で強大な力を持つ、13王が一人絶望王に対して。
地縛神の力は有効に働いていた。
莫大な召喚コストに見合った力であることに疑いようはない。
絶望王の欠点である火力不足を補うには、十分すぎる性能ではあるだろう。
「必要なのは地縛神の贄の確保…そして、再召喚までの短縮か」
強大な力故にそれを補う贄の確保。
ただ一度の召喚で賢者の石が半分も消化された。
不死の命すら得られる宝石が、この有様だ。多用するのであれば、これに匹敵する膨大なエネルギーが要る。
そしてもう一つ、地縛神は再召喚までに24時間ものインターバルを必要とする。
だが、これは乃亜の報酬システムとやらを活用しても良いだろう。
ハンデの軽減を考慮するという発言を真に受けるのなら、支給品の制約も和らげることも不可能ではないはず。
「だが、まだ足りぬ。もっとだ。より強大で強固な力が要る」
絶望王等、目先の障害でしかない。
乃亜すらも下し、そして乃亜をも超える力が必要だ。
魔神王にとって、この殺し合いは始まりの一端でしかない。
乃亜を殺した所で二度目の殺し合いが勃発しないとは限らないのだ。
このような力を持ち、殺し合いの開幕を画策する輩が一人ではないと断言しきれない。
乃亜以外にも同じような輩が現れ、また魔神王を連れ去りふざけた余興へと巻き込みかねない。
「二度と、我を縛る愚行すら考え付かぬよう。
ここで完膚なきまでの恐怖と破壊を植え付けねばならぬ」
魔神王の願いは一つだ。
己を縛ろうとする者達の根絶、そしてこのような殺し合いへ金輪際招こうとすら思わぬほどの恐怖を受け付ける事。
だからこそ、もっと強き力を。上るべき高みへと駆け上がる必要がある。
「藤木を喰らう。奴の役割は終わった」
まず手始めに、藤木の持つ雷の力を手に入れるとする。
絶望王との交戦の際、邪魔になりかねないネモ達を散らす為に利用したが。
もうその必要性もない。
次、見掛けた時は即座に食らいその力をこの身に取り込んでくれよう。
魔神王はまた歩み出す。
その身に、切実な願望と果てなき力への欲求を滾らせながら。
この魔神にとって、絶望王すら通過点でしかなかった。
【D-8/一日目/日中】
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(極大)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る!
[道具]:賢者の石@ハリーポッターシリーズ(半分消費)、地縛神 Wiraqocha Rasca @遊戯王5D's(2日目日中まで使用不可)
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
1:絶望王は理解不能、次に出会う事があれば必ず殺す。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
6:藤木は見付け次第食らう。
7:地縛神の贄と再使用可能時間の短縮を優先する
8:より強い力を手にする。これではまだ足りぬ。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※右天の脳を食べた事により、右天の記憶を獲得しました。バミューダアスポートは脳が半分しか無かった為に使用できません。
※野原しんのすけの脳を食べた事により、野原しんのすけの記憶と知識と技能を獲得。野原しんのすけの姿になっている時に、野原しんのすけの技能を使用できるようになりました。
※野原しんのすけの記憶により、フランドール・スカーレット及び佐藤マサオの存在を認識しました
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
【地縛神 Wiraqocha Rasca(ウィラコチャラスカ) @遊戯王5D's】
効果モンスター
星10/闇属性/鳥獣族/攻 1/守 1
一度の使用で24時間再使用不可。
魔神王に支給。水銀燈にランドセルを奪われる前に懐に隠し持っていた。
冥界の王に選ばれし、ダークシグナーが操ることが許される邪神の一柱。
今ロワでは地縛神が認める邪な者であれば使用可能。
召喚には多量の魂、それに連なる膨大なエネルギーを必要とする。
魔神王は賢者の石を半分消費して召喚した。
制限により参加者と意思持ち支給品の魂は吸収できない。
地縛神と名の付いたカードは一人の使用者に付き、同時に一体までしか操れない。
あらゆる攻撃を透過し受け付けない。
ただし全ての攻撃がすり抜ける為、これは相手からの攻撃に対し使用者を守ることを一切しない事を意味する。
相手が発動したモンスター以外の魔法罠カードの効果を受け付けない。
依り代となる大地が召喚に必須であり。その依り代が破壊または消失した場合自壊する。
魔神王はデモンズエキスの能力を最大限発揮し、氷の魔城を創り出し依り代とした。
またあらゆるを防御を通り抜けた防御無視の攻撃を加える事が出来る。
ただし、Wiraqocha Rascaの攻撃力は1である為、後述の効果が適用されなければ一般人すら殺せない。
対象にした参加者及に疲労(超々極大)、ダメージ(超々極大)を強制付与する。
ウィラコチャラスカ消失後、これらの疲労とダメージは時間の経過と共に回復する。
この効果は一度に一人にのみを対象に発動できる。
以下、原作アニメ版の効果テキスト。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
「地縛神」と名のつくカードを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。
フィールド上にフィールド魔法が表側表示で存在しない場合、
このカードの以下の効果は無効となり、このカードはエンドフェイズ時に破壊される。
●このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。
●このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。
●1ターンに1度、自分のターンのバトルフェイズをスキップする事で、
相手ライフを1にする事ができる。
※遊戯王Wikiより引用。
───しおちゃん!!
私は何が起こったのか分からなかった。
急に、眼帯をした奇麗な軍人さん…声から男の子みたいだったけど。
見た目の奇麗さから考えられない凶悪な笑い声を聞いて。
無惨さんが、大声で叫んだ後…二人の姿が消えた。
凄い物音がして、きっと戦っているのは分かったけど、本当にそれしか分からなくて。
もう、死んじゃったかもしれない。諦める気はないけど、どうしようもないと絶望しかけた時に。
ネモさんの分身みたいな人、コックさんのネモさん、ベーカリーさんが私に覆いかぶさってくれた。
マリーンさん達は凄い悲鳴を上げて、八つ裂きにされて。
ベーカリーさんも痛そうな叫びを上げて、それでもずっと私を庇ってくれた。
顔に脂汗が浮かんでて、とても痛くて苦しそうだったのに。
背中を何度も抉られて、絶対に辛いのに。
私は息を飲んだ。
いずれ、ネモさんを殺す決意はしてたけど。
マリーンさん達を、バラバラにしてそれでもずっと楽しそうに笑ってた軍人さんみたいな事なんかしたくなかった。
何が何だが、訳が分からなくて。吐きそうになって。
でも、ずっとベーカリーさんが抱き締めて守ってくれた。
最後には超えなきゃいけない人で、殺さなくちゃ駄目な人なのに。
私は怖くて悲しくて、ベーカリーさんの胸の中でずっと泣いていた。
急に壁と天井が崩れた時、私は首根っこを掴まれて。
ベーカリーさんから引っぺがされるみたいに、無惨君に引き寄せられた。
血だらけになったベーカリーさんは、最後に安心したみたいに微笑んで。
───よかった。
私は…その顔がずっと忘れられなかった。
「───起きろ、貴様」
背中を襲う衝撃、打ち付けられた鈍い痛み。
私は物みたいに地面に投げ付けられたんだと、理解して目を覚ました。
瞼を開いた時には、とても不機嫌そうな無惨君が居た。
(…ネモさんは優しかったんだな……)
******
何故、私がこんな場所に飛ばされねばならぬ。
業腹な事だ。この場所はネモと孫悟空とやらが合流するカルデアから、正反対の場所。
何者かが、何らかの血鬼術の類で私とこの小娘の場所を転移させたのは想像に難くない。
しかし、何故こんな場所なのだ? こんな島の東の最果てに何故よりにもよって私を送り込んだ?
何故だ? シカマルや龍亞のような無価値な者共等いくらでもいただろう?
しおや梨沙のような足手纏い、フランのような戯けを送れば良かろう。
どうして私なのだ? ネモを守り、首輪の解析を助ける事の出来るのはこの私しか居ないのだぞ。
シカマル如きにそれがやれるか? 一人でこの島を渡り歩く事も叶わぬ脆弱さだ。
この私こそが、ネモの傍に居て然るべきだ。
ネモが居なければ、首輪を外す事は叶わぬ。ネモと孫悟空と私以外の全ては、無意義だという事が何故分からぬ?
正気なのか?
はっきり言おう。奴等は狂っている。
実に愚かしい。
「立て、貴様」
「ぅっ…ま…」
「私は待たぬ。お前のつまらぬ行いで私の貴重な時間を割く事、万死に値すると思え」
神戸しおという狂人の腹を蹴り上げる。
奴は甘えている。驕っている。
ネモという、生温く手緩い環境に身を置いたせいか奴は殺し合いという過酷な戦場を理解していない。
だが、私は違う。奴のように甘やかすつもりはない。
この女は殺し合いに乗っている。ネモが言っていた事だ。
何を考え、こんな愚物を匿うのか。これを抱えたが故に奴は首輪の解析が遅れたのではないか?
だが、ネモと悟空への手土産に使えるのは確かだ。
腹正しく、気は進まぬがこいつを連れるのは私の利になる。
止むを得ぬ。
しおを連れ、カルデアを目指すしかあるまい。
精々、この私の足を引っ張るな。
(近くには海馬コーポレーションか)
タブレットを確認し、近くの目ぼしい施設を調べる。
不幸中の幸いだが、近くには海馬コーポレーションがあった。
モクバが居るやもしれぬ。見付ければ、奴の成果を聞き出すとしよう。
何の成果もなかった時は……。
あとは、ルサルカの持っていた支給品の力を何処かで試したいところだ。
栞が剣に変わり、斬り付けた対象の過去を改変する力か。
改変した記憶と改変前の記憶を、しっかり覚え認識していれば然程の悪影響はなさそうだ。
場合によっては、必要となる武具かもしれぬ。死神の刀よりは有用といえるだろう。
扱いに慣れておくのも悪くない。
休息を取る暇はない。
一刻も早く、カルデアに向かい孫悟空とネモと合流しなくては。
【ネモ・ベーカリー@Fate/Grand Order 消失】
【ネモ・マリーン×3@Fate/Grand Order 消失】
【一日目/日中/G-8】
【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(中) 、回復中、俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。 魔神王(中島)、シュライバーに対する強烈な殺意(極大)
[装備]:捩花@BLEACH、シルバースキン@武装錬金、ブック・オブ・ジ・エンド@BLEACH
[道具]:基本支給品×2(ルサルカの分)、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り6時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:しおを連れてカルデアへ。近くのKCへ寄りモクバも探してやるか。
1:禰豆子が呼ばれていないのは不幸中の幸い……か?そんな訳無いだろ殺すぞ。
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:ネモ達は出来る限り潔白の証明者として生かしておくつもりだが、キレたらその限りではない。
5:一先ず俊國として振る舞う。
6:中島(魔神王)、シュライバーにブチ切れ。次会ったら絶対殺す。
7:しおは悟空への手土産に使えない事もないか? 何としても悟空と同盟を結ぶ。
8:ネモ、早く首輪を外せッ!!
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わらず死ぬと考えています。
また鬼化等に制限があるかどうかも後続にお任せします。
容姿は俊國のまま固定です。
心臓と脳を動かす事は、制限により出来なくなっています、
心臓と脳の再生は、他の部位よりも時間が掛かります。
ネモが入手した首輪の解析データを共有しています
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(大)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:ネモさんが乃亜君を倒すのを邪魔する。そうしないと、さとちゃんを助けられない。
1:ネモさん達と合流するまで、無惨君に付いていくしかない。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
3:ネモさん、優しかったんだな…。
4:マリーンさん、ベーカリーさん……。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
やったわ。上手く行ったのよ。
辛うじて残り一つの仙豆を口にして、よやく安堵の息を吐いた。
死に掛ける思いをしたけど、何とかなったんだわ。
ゼオンもまだシュライバーと戦ってるのか、雷の解呪を行っても全く妨害してこない。
やった…やったわ。やったのよ…わた、し……。
「ランドセル、が……」
ダメージと疲労の蓄積で意識を手放しかけた時、ようやくランドセルをなくした事に気付く。
いつだ? 分からない。無惨とシュライバーが暴れた時か、ゼオンとシュライバーが戦った時か。
ああ…駄目だ、仙豆でも回復しきれなかった肉体の負担が……。
私の武器…だったのに……メリュジーヌ…を……。
いえ…その前に、ゼオンの電撃の解呪を終わらせて…よ、し…だいじょ…うぶ……。
これで、なんとか……。
******
ベーカリーが死んで、マリーンが3人死亡した。
フランの行方は分からず、シカマル達としお達とも完全に逸れた。
誰かが使った異能力によって、僕らは完全に分断されてしまった。
特にしおは、何の武器も持たない無力な少女だ。
それに彼女と約束もした。
ただの子供として、この殺し合いを終えて家に返すと。
僕の居ない間に、しおが手を汚す事があるとしたら。その時は僕も彼女に対して非情にならないといけない。
その前に彼女を見つけ出せれば……。
「……駄目だ」
僕個人の私情を挟めば、今すぐにでもしおを探し迎えに行くべきだ。
でも、そういう訳にはいかない。僕はニンフから命を懸けたリレーを受け取ってしまった。
もう僕の命も行動も、僕だけの為に使う訳にはいかないんだ。
だから……しおを、僕は探さない。
一度、首輪を外す為に他の参加者を見捨てる選択をした僕に。
しおだけを例外扱いする訳には…いかない。
それはフランやシカマル達も同様だ。
どうやら、ここはカルデアの近くだと判明した。もう肉眼でも、はっきりと視認できる。
このままカルデアへ先行してもいいかもしれない。もう、目と鼻の先だし。
「クソ……」
問題はランドセルから取り出したエーテライトだ。
残った三つの内、二つが完全に破壊されていた。
藤木の雷の力のせいだ。
ランドセルを遠ざける時に、電撃を飛ばしたから……。
タブレットも完全に故障して、イカれていた。
やはり、藤木を放逐しろというプロフェッサーの懸念は間違ってはいなかった。
『……キャプテン、リスクは高いですが。彼女を連れてカルデアに向かう他ないと思いますー』
脳内でその当のプロフェッサーの意見が響き渡る。
今、僕の腕の中には赤髪の少女が居る。同じように彼女も、デパートの周辺にいて飛ばされてきたのだろう。
この黒い軍服…マリーンやベーカリーが消える寸前、同期した記憶の中にあった白髪の少年の物と同じだ。
当然、ただの人間じゃない。警戒はすべきだ。
僕の所感としても、あのリーゼロッテと似ている気がする。弱い者苛めが大好きそうな顔だ。
彼女を助けて、ましてやカルデアに連れていくなんて危険にも程がある。
それでもプロフェッサーが、敢えてリスクを取って彼女を連れていけと進言するには理由がある。
『少なくとも魔術師としては、凄腕かとー』
「……」
『エーテライトも残り一つ。失敗は許されませんしー。
殺し合いのペースを考えれば、残り半日でゲームは決着するでしょう。
私達だけで首輪を解析し、外すには些か時間も厳しく。技術的にも問題があるかとー』
誰かに掛けられた呪いに対し、この少女は解呪に成功していた。
僕だって分かる。彼女の魔術師としての力量は途轍もない。
僕だけがエーテライトで解析作業をするより、彼女の力を借りた方が精密性も上がり、時間の短縮も図れる。
時刻は既に昼の12時を過ぎ。半日も経過している。
時間もなければ、残り一つのエーテライトで失敗も許されない。
藤木を放逐することを提案していたプロフェッサーも、こればかりは完全な苦渋の決断だ。
その表情は晴れない。
「行こう」
僕は少女を背負った。他に選択肢はない。
仮に彼女を排して、事を進めても…やはり、首輪の解析は厳しい。
しおにエーテライトを使用した時、当のしおは容態を崩してしまっている。目に余る拙い使い方だ。
ぶっつけ本番、残り一本で僕が事を進められるとは思わない。
リスクは高いが、魔術師の協力者が得られるのなら僕も望むところだ。
首輪もシカマルと龍亞から譲って貰った。
もう、これ以上解析を遅らせる訳にもいかない。
鬼が出るか蛇が出るか。
不幸中の幸いは、恐らくリーゼロッテよりは戦闘に長けてはいない…ということだろう。
それでも、リーゼロッテよりマシというだけで、僕が彼女を抑えられる保障にはならないけど。
フランとしお、シカマル達の無事と…この先の事を祈りながら。
僕はプロフェッサーと一緒に歩き出した。
【エーテライト×2@Fate/Grand Order 破壊】
【B-3/一日目/日中】
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、仮面の者、しおに対する不安(極大)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、
、神威の車輪Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、
ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、エーテライト@Fate/Grand Order、
110mm個人形態対戦車(予備弾×4)@現実、オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、ネモに指示され龍亞が集めた火薬液解除液に必要な物品、首輪×5(割戦隊、勝次、かな)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:赤髪の女(ルサルカ)を連れてカルデアへ。
1:カルデアに向かい設備の確認と、得たデータをもとに首輪の信号を解析する。
2:魔術術式を解除できる魔術師か、支給品も必要だな……
3:首輪のサンプルも欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおとは共に歩めなくても、殺しあう結末は避けたい。
6:エーテライトは、今の僕じゃ人には使えないな……
7:藤木は次に会ったら殺す。
8: リーゼロッテを警戒。
9:悟空と一刻も早く合流したい。
10:ドラゴンボールのエラーを考慮した方が良いかもしれない。悟空と再会したら確認する。
11:魔術師の協力者は望むところだけど……。
12:皆無事でいて欲しい。しおも…。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、
優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※フランとの仮契約は現在解除されています。
※エーテライトによる接続により、神戸しおの記憶を把握しました。
※仮面装着時に限り、不撓不屈のスキルが使用可能となります。
※現在装着中の仮面が外れるかどうかは、後続の書き手にお任せします。
【ルサルカ・シュヴェーゲリン@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)全身に鋭い痛み (大)、シュライバーに対する恐怖、キウルの話を聞いた動揺(中)、メリュジーヌに対する妄執(大)、ブック・オブ・ジ・エンドによる記憶汚染、気絶
[装備]:血の伯爵夫人@Dies Irae
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:今は様子見。
0:……
1:シュライバーから逃げる。可能なら悟飯を利用し潰し合わせる。
2:ドラゴンボールに興味。悟飯の世界に居る、悟空やヤムチャといった強者は生還後も利用できるかも。
3:メリュジーヌは絶対に手に入れて、足元に跪かせる。叶わないなら殺す。
4:ガムテからも逃げる。
5:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
6:俊國(無惨)が海馬コーポレーションを調べて生きて再会できたならラッキーね。
7:どんな方法でもわたしが願いを叶えて───。
[備考]
※少なくともマリィルート以外からの参戦です。
※創造は一度の使用で、12時間使用不可。停止能力も一定以上の力で、ゴリ押されると突破されます。
形成は連発可能ですが物理攻撃でも、拷問器具は破壊可能となっています。
※悟飯からセル編時点でのZ戦士の話を聞いています。
※ルサルカの魔眼も制限されており、かなり曖昧にしか働きません。
※情報交換の中で、シュライバーの事は一切話していません。
※ブック・オブ・オブ・ジ・エンドの記憶干渉とルサルカ自身の自壊衝動の相互作用により、ブック・オブ・ジ・エンドを使った相手に対する記憶汚染と、強い執着が現れます。
※ブック・オブ・ジ・エンドの効果はブック・オブ・ジ・エンドを手放せば、斬られた対象と同じく数分間で解除されます。
※ブック・オブ・ジ・エンドを手放した事で、多分これ以上記憶障害と執着は悪化せず、徐々に元に戻ると思われます。
でも自壊衝動のせいで、やっぱり悪化するかもしれません。
※バルギルド・ザケルガの解呪に成功しました。それをネモに目撃されています。
投下終了します
すいません
地縛神 Wiraqocha Rascaを本物ではなく、コピーカードという扱いに変更いたします。
関係する魔神王の一部の描写も修正致しましたので、そこだけ再投下させていただきます。
「下らぬ横槍が入ったか」
魔神王はモチノキデパートから遠く離れた土地で淡々と呟く。
絶望王を氷の断頭台に上げ、その処刑執行を下そうとしたその瞬間だった。
別に強力な力に介入され、別々の場所へ強制的に移転させられた。
何者かは知らないが、余計な真似をされたものだ。
邪神の力まで持ち出し絶望王をようやく仕留めきるその寸前だったものを。
「だが、奴に地縛神の力が通じたのを知れたのは僥倖」
この島で強大な力を持つ、13王が一人絶望王に対して。
地縛神の力は有効に働いていた。
莫大な召喚コストに見合った力であることに疑いようはない。
絶望王の欠点である火力不足を補うには、十分すぎる性能ではあるだろう。
「しかし…偽りの神では足りぬな」
魔神王の掌からカードが紫炎を上げ、瞬く間に消失する。
厳密にはこれは地縛神の精巧なレプリカだ。乃亜がグールズの複製技術を流用し作り上げたコピーカード。
一度の使用で神格の力に耐え切れず、消失する使い捨ての紛い物。
「必要なのは、真なる地縛神の力とその贄だ」
一つ、本物の地縛神を手中に収める事。
これは乃亜の報酬システムとやらを活用する機会があるのなら、打診してみる価値はある
そして強大な力故に、それを補う贄の確保。
ただ一度の召喚で賢者の石が半分も消化された。
不死の命すら得られる宝石が、この有様だ。多用するのであれば、これに匹敵する膨大なエネルギーが要る。
「だが、それでもまだ足りぬ。もっとだ。より強大で強固な力が要る」
絶望王等、目先の障害でしかない。
乃亜すらも下し、そして乃亜をも超える力が必要だ。
魔神王にとって、この殺し合いは始まりの一端でしかない。
乃亜を殺した所で二度目の殺し合いが勃発しないとは限らないのだ。
このような力を持ち、殺し合いの開幕を画策する輩が一人ではないと断言しきれない。
乃亜以外にも同じような輩が現れ、また魔神王を連れ去りふざけた余興へと巻き込みかねない。
「二度と、我を縛る愚行すら考え付かぬよう。
ここで完膚なきまでの恐怖と破壊を植え付けねばならぬ」
魔神王の願いは一つだ。
己を縛ろうとする者達の根絶、そしてこのような殺し合いへ金輪際招こうとすら思わぬほどの恐怖を受け付ける事。
だからこそ、もっと強き力を。上るべき高みへと駆け上がる必要がある。
「藤木を喰らう。奴の役割は終わった」
まず手始めに、藤木の持つ雷の力を手に入れるとする。
絶望王との交戦の際、邪魔になりかねないネモ達を散らす為に利用したが。
もうその必要性もない。
次、見掛けた時は即座に食らいその力をこの身に取り込んでくれよう。
魔神王はまた歩み出す。
その身に、切実な願望と果てなき力への欲求を滾らせながら。
この魔神にとって、絶望王すら通過点でしかなかった。
【地縛神 Wiraqocha Rasca(コピーカード)@遊戯王5D's 消失】
【D-8/一日目/日中】
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(極大)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る!
[道具]:賢者の石@ハリーポッターシリーズ(半分消費)
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
1:絶望王は理解不能、次に出会う事があれば必ず殺す。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
6:藤木は見付け次第食らう。
7:真なる地縛神を手にする。報酬システムを使い乃亜に打診する価値はある。
8:より強い力を手にする。これではまだ足りぬ。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※右天の脳を食べた事により、右天の記憶を獲得しました。バミューダアスポートは脳が半分しか無かった為に使用できません。
※野原しんのすけの脳を食べた事により、野原しんのすけの記憶と知識と技能を獲得。野原しんのすけの姿になっている時に、野原しんのすけの技能を使用できるようになりました。
※野原しんのすけの記憶により、フランドール・スカーレット及び佐藤マサオの存在を認識しました
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
【地縛神 Wiraqocha Rasca(ウィラコチャラスカ)のコピーカード @遊戯王5D's】
効果モンスター
星10/闇属性/鳥獣族/攻 1/守 1
乃亜がグールズの技術を流用して複製したコピーカード。
一度の使用で消失する使い捨て。参加者の能力や別の支給品、カードによる再生や復活は不可能。
魔神王に支給。水銀燈にランドセルを奪われる前に懐に隠し持っていた。
冥界の王に選ばれし、ダークシグナーが操ることが許される邪神の一柱。
今ロワでは地縛神が認める邪な者であれば使用可能。
召喚には多量の魂、それに連なる膨大なエネルギーを必要とする。
魔神王は賢者の石を半分消費して召喚した。
制限により参加者と意思持ち支給品の魂は吸収できない。
地縛神と名の付いたカードは一人の使用者に付き、同時に一体までしか操れない。
あらゆる攻撃を透過し受け付けない。
ただし全ての攻撃がすり抜ける為、これは相手からの攻撃に対し使用者を守ることを一切しない事を意味する。
相手が発動したモンスター以外の魔法罠カードの効果を受け付けない。
依り代となる大地が召喚に必須であり。その依り代が破壊または消失した場合自壊する。
魔神王はデモンズエキスの能力を最大限発揮し、氷の魔城を創り出し依り代とした。
またあらゆるを防御を通り抜けた防御無視の攻撃を加える事が出来る。
ただし、Wiraqocha Rascaの攻撃力は1である為、後述の効果が適用されなければ一般人すら殺せない。
対象にした参加者及に疲労(超々極大)、ダメージ(超々極大)を強制付与する。
ウィラコチャラスカ消失後、これらの疲労とダメージは時間の経過と共に回復する。
この効果は一度に一人にのみを対象に発動できる。
以下、原作アニメ版の効果テキスト。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
「地縛神」と名のつくカードを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。
フィールド上にフィールド魔法が表側表示で存在しない場合、
このカードの以下の効果は無効となり、このカードはエンドフェイズ時に破壊される。
●このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。
●このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。
●1ターンに1度、自分のターンのバトルフェイズをスキップする事で、
相手ライフを1にする事ができる。
※遊戯王Wikiより引用。
再投下終了します
投下お疲れさまでした
キャプテン・ネモ、ルサルカ・シュヴェーゲリン、孫悟空、絶望王、的場梨沙
予約と延長します
投下します
────私が目を醒ました時には、全ては終わってしまっていた。
フランドール・スカーレットが死んだ。
目を醒ました的場梨沙に開口一番、ブラックが伝えたのはその一言だった。
その時は、まだ耐えられた。
「………アンタ、どうしたのその恰好」
ブラックの顔は、大分やつれたような顔つきをしていて。だから尋ねた。
フランの事については特に触れずにブラックの事を気に欠けたのが予想外だったのか。
ブラックは少し目を丸くして、皮肉っぽく笑って口にした。
見事にしてやられたよ、と。出会った時からずっと変わらない。
芝居がかって、ヘラヘラとした態度で。
それを目にした瞬間、もう駄目だった。
「………何よそれ」
分かってる。
これが八つ当たり何だって事くらい。
こんな事言えば、シカマル達やフランが私の頑張りが無駄になるかもしれない事くらい。
でも、目の前のこいつのニヤケ面を見ていたら、どうしても無理だった。
「ふざけてんじゃないわよ。何で、負けてるのよ………!」
アンタ、強いんでしょ。
強いのだけが取り柄でしょ。
強いから、勝次を殺したんでしょ。
なのに、何で肝心な時に負けてるのよ。
敗けて手遅れになった後にようやく来て、なんで笑えるのよ。
何でもないですよって顔して、僕は未だ本気出してないですよって態度で。
「シカマル達も守れないで、敵に勝つこともできないで、何でヘラヘラ笑ってんのよッ!」
何で、会ったばかりの私の為に命懸けで戦ってくれたフランが死んで。
こいつが薄ら笑いを浮かべながら生き残ってるのか。
理不尽だ。こんなのって、ない。
私は、目の前のこいつが嫌い。大嫌いだ。
強いからってこっちが必死な時も涼しい顔で、敗けたって何でもない様に笑うこいつが。
力は無駄に強いくせに、それを皆の為に役立てようとしない、役立てられないこいつが。
出会った時は、怖かった。でも今は違う。今はただ、許せないと思う。
もう一度言おう、私はこいつが大嫌いだ。
でも、それ以上に許せないのは。
「なんで……アンタ以上に私は…何もできないのよ………」
変な超能力で受け止められて、こいつを一発もぶん殴る事も出来ない、私自身。
フランが一人で戦っているのに、何もできなかった私自身。
私自身の力のなさが、今の私にとって一番許せなかった。
本当は、分かってる。ブラックも戦ってた事くらい。
私や龍亞はおろかシカマルやネモでも相手にならない相手を、独りで押さえてた。
敗けたのかもしれないけど、でも役に立ってたのは間違いない。
それくらいは、私だって分かってるけど。でも、叫ぶのを抑えきれない。
ブラックが腹を立てて、一秒後に私は死んでるのかもしれないけど。
今ここで黙ってこの理不尽を受け入れるくらいなら、死んだ方がマシだ。
「な゛ ん゛ て゛ ッ゛ ! !
なんで…アンタにはそんなに力があるのに…」
結局の所、私は。
今自分がやっているのが八つ当たりだって分かる程度には子供じゃなかったけれど。
でも、それを抑えきれるほど大人でも無かった。
体の奥から、熱くてドロドロした物が溢れてきて、抑えきれない。
アイドルが流す涙はうれし涙じゃないといけないのに。嗚咽が止まらない。
ブラックが見ても、きっと面白い見世物だって思うだけなのに。
鼻で笑われてそれで終わり。私の嫌悪と怒りさえ、こいつには届かない。
それがどうしようもないほど悔しくて、自分が情けなくて。
私は私が可愛いって信じてるけど、でも今日だけは、自分が嫌いになりそうで。
そう思ったらまた涙が溢れてくる。負の連鎖だった。
「どうしてよ………」
殴るのを止めて、ブラックの青いコートを掴む。
ここまで殴るのは止めていたブラックだけど、この時は成すがままだった。
だから私は、その時漸く一番訴えたかった事を、叫びたかった事を口にした。
普段の私が聞いたらアイドル失格だと言いそうな、消え入りそうな声で。
「なん、で…そんなに、強いのに…フランを助けてくれなかったのよぉ………!!」
何かの器に籠める様に、俯きながらそれだけ吐き捨てて。
私は、バッとブラックの掴んでいたコートを離した。
そして、唇の下を血が出そうになる程?みこんで、ブラックの顔を見上げる。
どうせ、ヘラヘラと笑っているんだろう。
人の不幸は蜜の味、こいつはそう言う奴だ。
大物ぶって、相も変わらず格好をつけた回りくどい言い方をして。
そして、私や、フランを面白い見世物として“消費“するんだろう。
アイドルとして、ファンに消費される事に抵抗は無いけど。
でも、今はどうしても悔しかった。悔しくて、涙を拭って。
せめてガンを飛ばしてやると、ブラックを睨んだ。
その時のことだった、ブラックが口を開いたのは。
────そうだな、お前の言う通りだ。
その声は、今迄の皮肉っぽいブラックの声とは違っていた。
素朴で、気弱そうな男の子の声だった。
顔つきも良く見てみれば、何時も浮かべていたニヤケ面じゃなくて。
笑っているのに泣いているようにも見える、そんな表情をしていた。
突然目の前のブラックが別人に変わった様で、私は困惑する。
そんな私に、彼奴はそのまま言葉を続けた。
「君の言う通り……“僕”は何時もこうなんだ」
ずうっと前から、力だけは無駄にあったけれど。
何も守れず、大切なものは全部亡くして、大きすぎる力だけが残った。
力だけあっても、何の意味もないのに。
「あの日も……奪われるのは僕のはずだったのに………」
あの日、
本当は奪われる筈だったのは、妹ではなく、僕だった。
相手が大崩落という未曽有の災害であったとしても。
自分には、家族を守るだけの力はあったはずなのに。
結局の所、僕はどこまでも観測者(ウォッチャー)でしかなかった。
だから僕は、絶望王(ブラック)を選んだ。
絶望王が僕(ブラック)を選んだんじゃない、僕が絶望王を選んだんだ。
そう、ブラックは微笑みながら私に語った。
何を言ってるかは、全然わからなかったけど。
その顔は、やることなすことうまくいかない日の子供みたいで。
同時に、ひどくくたびれたお爺ちゃんのようにも、私には見えた。
「どう言う────」
出会ってからずうっと皮肉な表情と言葉しか吐かなかったブラックの“ほんとう”の部分。
それが見えた気がして、私はブラックに今話したことをもっと詳しく聞こうとする。
だけどそれよりも早く、ブラックは私の顔の前に右手を突き出して。
正確には私の両目の前に細い指を差し、そして言った。
「────誕生日プレゼントだ。お前に預けといてやる」
ぶちぶち、と。
何かが引きちぎられる音。
目の前が突然真っ暗になる。
同時に、目がある場所から燃えるような熱が走って。
二秒後に、人間だったらショック死しそうな位の痛みが襲ってきた。
「がっ!あぁっ、あっ!あぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!?!?」
痛い。いたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ何も見えない─────!
目を、千切られた。
今までの人生で経験したことのない痛みの中でも、何故か分かった。
それがいいことだとは、これっぽちも思えなかったけど。
バタリと倒れて、気が狂いそうな痛みに私は悶え苦しむ。
元々目覚めた時から体が変な感覚だった所に、この痛みだ。耐えきれない。
地面に這いつくばってのたうち回る動きが鈍っていく。力が入らない。
しかも目の前は何も見えなくて、死ぬか、死ななければ気が狂う。本気でそう思った。
折角、フランに助けてもらったのに。私はまだ何も、何もできていないのに。
暗闇と、苦しさと、悔しさと、痛みだけになった世界。
そんな世界の中で、でもまだ生きている物があった。
それは、音だ。何も見えず、鼻も自分自身の血の鉄臭さで効かなくなっても。
音だけは、今でも鮮明だった。それを私に伝える様に。
耳元で、今まで通りのブラックの声が響く。
────後で返してもらいに来るから、それまでは精々上手く使えよ。
言葉と共に、今はぽっかりと穴が開くだけになった私の瞼の中に。
ブラックの手で、何かがねじ込まれる。
ねじ込まれて早々、痛みと目を亡くした喪失感が薄れていく。
それは私の物ではなかったけど、酷く馴染んだ。
元々そこにあった様に、瞼の中にすっぽりと納まる感覚を感じながら。
それでもまだ瞼の奥で感じる猛烈な痛みで、私は気を失った。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
────起きなさい、梨沙。
暗闇の中で、私を呼ぶ声が響く。
その声で微睡みの中から、意識が揺り起こされて。
ぼんやりと瞼を開くと、私は仕事場にいた。
346プロの中にある第三芸能課のオフィス、そのソファの上に。
きょろきょろと周囲を見渡すと、窓の外に映る空はもう黒一色だった。
どうやら寝過ごして夜になってしまったらしい。全く、プロデューサーは何をしてるのか。
最近少しはマシになってきたかと思ったら、まだまだね。
夢見も最悪だったし、さっさと帰ろう。
時間によっては、プロデューサーかパパに迎えに来てもらう必要があるかもしれない。
できればパパに余計な手間は取らせたくないなぁと考えながら、帰り支度をしようとして。
ある事に、気づく。
(………なんで、こんなに暗いのに。凄くハッキリものが見えるの?)
夜空には星があるが月は見えない。月明かりは、差し込んでいないのに。
勿論今目が覚めたばかりだから、目が慣れたって訳でも無いと思う。
じゃあ何で、こんなに夜目が効く様になったの?いつから?
それに、こんなに真っ暗なのに、今私は不安も心細さも感じてない。
むしろ落ち着く気さえする。こんなの、明らかに変だ。
首を捻っていると「ねぇ」と、声を掛けられた。
びくっと肩を跳ね上げて、ゆっくり其方の方を見てみると。
そこには、見知った顔がいた。…もう会えないと思っていた子が、そこにいた。
フランドール・スカーレットが静かに、私の隣に腰掛けていた。
────ふーん…………そっか、そうなんだ……………
フランの姿を見て、私は分かった。
こっちが“夢”で、向こうの最悪なのが現実なんだって。
誰に教えられた訳でも無いけど、それは認める以外にない。
まぁもっとも、認めた所でって話ではあるけど。
だって、彼女と一緒にいるという事は、私もつまり────、
「死んでないわよ、梨沙」
えっ、と声をあげる。
だって、私は私の癇癪で腹を立てたブラックの奴に。
そう考えた私に、フランは何処か面白くなさそうに言った。
「それは違うわ。むしろ逆。彼奴(ブラック)に関しては貴方の方が詳しいでしょう。
何でそうしたのかは私も知ったこっちゃないけどね……多分気まぐれじゃないかしら」
それに人間と違って、目玉を抜き取られたくらいで今の貴女は死なないわ。
だって、今の貴女は人間じゃないもの。
私の隣に腰掛けて、俯きながらフランは私にそう告げた。
それを聞いて少しの間を置いてから、どういう意味かって尋ねた。
アイドルとして恥ずかしいけれど、その時の私の声は少し震えていたと思う。
そんな私に、フランは一言で告げる──────私が貴方を吸血鬼にした、って。
「だからいきなりで悪いけど、選んで欲しいの。梨沙」
俯いていたフランの顔が、私の方へ向く。
どこか負い目を感じさせる目で、でも視線は決して逸らさず私を見て。
私の胸にそっと手を添えて、躊躇うことなく尋ねてきた。
「私の全部を受け取るか、どうか」
私は最初、フランの言葉の意味が分からず、詳しく教えて欲しいと頼む。
するとフランはこくりと頷いて、私を吸血鬼にする時どんな方法を取ったか。
そして、今私の身体がどんな状態なのかを教えてくれた。
「梨沙を吸血鬼にする時にね、私は、ただ梨沙をかんだんじゃなくて…
私の能力(たましい)を全部残ってた血に籠めて……梨沙に注ぎ込んだんだ
だから、梨沙の身体には今、私の力が眠ってる。
弾幕を放つ力、スペルカード、そして───ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。
本当なら、ただ血を注いだだけじゃ力を移すことはできないんだけど……
ブラックの気まぐれのお陰で、今の貴女は、私の力を受け取れる」
「どうして分かるの?」
「今、私が此処にいるからよ」
フランも、フランの姉から聞かされた話らしいけど。
吸血鬼は、よりつよい眷属を作る際に血を吸うんじゃなくて、血を与える事があるらしい。
そうすれば、普通に血を吸って作った吸血鬼よりずっと強い吸血鬼が作れるんだとか。
お姉様から聞かされた時はまぁ引きこもりには関係のない話ね、と言われたし。
実際関係のない話だと思ってたけど、まさか本当に実行するときが来るなんてね。
そんなぼやきも交えながらフランは私に経緯を語って、その上でもう一度尋ねてくる。
フランの遺した力を、私が受け取るかどうか。
「受け取ってしまえばもう後戻りはできないわ。私の力は全部壊すための物だから。
あの藤木や偽無惨みたいな奴を……誰かを壊さないといけない時が来る。きっと、必ず
……それは、梨沙が好きだって言ってたアイドルとは真逆の在り方でしょう?」
今は力が眠っているからちょっと力が強くなって、死ににくくなっただけ。
吸血鬼としてはクソザコで、偽無惨みたいな相手には太刀打ちできないけど。
でも、力を受け取っても勝てるかは別の話だし、少なくとも人を殺さずに済む。
何方にしても死ぬことはあるし、だからこそ何方を選んでも私の自由。
ただし、受け取れるかどうか選べるのはもうこれが最初で最後。
予め警告する様にフランは一通りの話をして、そしてそれからはもう何も言わなかった。
ただじっと紅い瞳で私を見て、私の返事を待つつもりらしい。
でも、その時にはもう私の返事は決まっていた。
一度深呼吸をして、私もフランの事をじっと見つめながら、彼女の手を取る。
指を絡め、感触を確かめる様に少しずつ指を絡めて……そして、頼む。
「分かったわ、私にフランの全部“貸して“ちょうだい」
迷いと不安を振り切って。
フランに本気なんだって伝わる様にはっきりとした声で、私は選んだ。
私の返事を聞いて、フランは複雑な表情を浮かべていた。
敵を壊す事を梨沙は怖いし、嫌だと思っていたんじゃないのって。
少し俯いて、上目遣いでフランは本当にいいのか確認をしてくる。
確かに、フランの言う事は正しい。本当は、誰かを傷つけたくなんて無い。
例えそれが、あの藤木であってもだ。でも、それ以上に。
「目の前の理不尽に何もできないのは────もう嫌なの」
私に力が無いせいで、誰かが死ぬ方が……今は、ずっと怖い。
それに、理由はもう一つある。
「アンタが遺してくれた物が無駄になるのも……イヤなの」
内心怖がってた私に、フランは命を賭けてくれた。
そんな彼女に私は何もしてあげられなかったから。
せめて、フランが私の為に遺してくれたものを無駄にするようなことはしたくない。
だから、だから私は────
「もう一度言うわ。フラン、貴方の全部……私に頂戴」
「………っ」
そう伝えると、フランは紅い瞳を揺らして。
彼女が言い表しにくい後ろめたさを抱いているのを、私は確信する。
言葉にはしない。ただ視線だけで、フランが今抱いている気持ちを話してと伝えた。
言葉は必要ない。目の力だけで思いを伝えるには十分だ。私はアイドルなんだから。
……十秒ほどかかった後、フランに私の想いは伝わった。
まだまだね、私も。
「……梨沙、私のこと恨んでると思ってた」
どれだけ力を注ぎ込んでも、梨沙はお姉様や私みたいな生まれついての吸血鬼じゃない。
身体を霧に変える事も、蝙蝠を従える事も。何より血を吸っても同族は増やせない。
せいぜいがグールやゾンビになるだけ。
家族や知り合いとも死に別れて、たった一人の新種として孤独に生きていくことになる。
アイドルの活動も、直ぐに続けられなくなる。陽の下に出られないから。
私は…梨沙から人生も、夢も…大切なものを全部奪っちゃった。
────私が梨沙の立場なら、きっと怒って…恨むと思うわ。
それでも、止められなかった。
梨沙に、生きていて欲しいと思ったから。
だから後々梨沙がきっと辛い目に遭う事を分かった上でやってしまった。
それこそが───フランが私、的場梨沙に対して最期に抱いていた負い目。
その時ようやく、私は彼女が何を抱えて、何を気に病んでいたのか全部分かった。
なら、私が今伝えるべきことは一つだ。
「バカね」
絡めていた指をそっと離して。
フランの頭に腕を添えて、抱きしめる。
抱きしめた頭をそのまま撫でて、フランの不安に対しての答えを返す。
「そりゃ、戸惑いはしたけど……怒っても恨んでもいないわよ。嫌うつもりもないわ」
「……どうして?前はドラゴンボールの事話したけど、それだって絶対使えるかは───」
「だとしても、乃亜の奴言ってたじゃない。願いは叶えるって。
なら、何処かにあるのよ、願いを叶える手段って奴が。勿論あんな奴を頼らなくてもね」
なら、こんな殺し合いさっさとぶっ壊して、皆で願いを叶える手段を探す。
それで死んじゃった子も生き返らせて、全員そろってハッピーエンド。
それ以外のエンディングは願い下げよ。笑いながら私はそう言った。
シカマルやアイの話じゃ色んな世界が集まってるんでしょう?
ドラゴンボールって、実際にそういう願いを叶えてくれる望みがあるんでしょう?
だったら、皆が幸せに終われるハッピーエンドくらい叶えてみせなさいよ。
これはフランへの慰めじゃない。私は本気でそう思ってる。
こっちも伊達に偶像(アイドル)やってんじゃないもの。
「だからこれで終わりじゃないわよ、フラン。まだ何もかも途中だもの。
これで終わりになんかならない。かなだって…貴女だって、生き返らせてあげるわ」
生き返ったら這ってでもフランには私のライブに来てもらう。
喉が裂けるくらい私の名前を呼ばせて。
腕が千切れるくらい私の色のサイリウムを振らせて見せる。
そのめでたしめでたしで、ようやく私にとっての“お終い”になるんだから。
胸を張って、私はそう言って。
それを聞いたフランは、呆れたように笑った。
「…………全部を手に入れたい、か。梨沙って、図太いだけじゃなくて欲張りなのね」
「そうよ、私は欲張りなアイドルなの。
ハッピーエンドも、シンデレラも、総理大臣も、パパとの結婚も、全部手に入れてみせる」
「最後は物議をかもしそうね」
何でよ。
私がそう言うよりも早く、フランは「でも、分かった」と返事を返して。
納得がいった様に何度か頷く。どうやら、フランの中でもどうするか決まったらしい。
でも、まだだ。まだ足りない。まだ、伝えないといけない事がある。
私はまだ微かに残っていたフランの瞳の陰と、続く言葉を聞いてそう思った。
「……悪霊に憑りつかれたとでも考えればいいわ。
例え私の力で誰かを壊しても、それは私のやった事で、梨沙が責任を感じる事じゃ───」
「嫌よ」
「えっ」
フランが、私の為に言ってくれてるのは分かってる。
でも、それでも私は嫌だった。
どんな言葉で誤魔化しても、やるのは私である事に変わりはないんだし。
何より私はアイドルで、フランの【推しの子】でいたい。
彼女が加害者で、私は被害者。そんな関係は御免だ。
「そんな、自分だけが責任を持つ…みたいな言い方する位なら。
一緒にやろうって、一緒に私達をこんな目に遭わせた全部、壊そうって…そう言ってよ」
どうせなるなら、共犯者がいい。
それが今の私の抱く、フランへの願い。
フランの全部を受け取る前に、どうしても言わないといけなかったこと。
最後にフランにしっかりと伝えて、私は彼女の反応を待つ。
視線を交わしあって、十秒。
フランはやっぱり呆れたように笑い、脚をパタパタ振りながら伝え返してくる。
「はー……あわよくば梨沙を乗っ取って、奇跡の復活するつもりだったんだけどなー」
「は?」
「冗談よ。恨んでないなら…私の全部、梨沙にあげるってもう決めたから」
だから最後に二つだけお願い。こてんと私の身体に寄りかかり。
うとうとと眠そうにしながらフランは私に何かを頼もうとしていた。
別れが近い事をそれで察しながら、なぁにと問いかける。
言っておくけど身体は渡さないわよと、付け加えるのも忘れずに。
彼女はくすりと笑うと、違う違うと首を小さく横に振って、私に頼んできた。
「一つは、ネモ達の……助けになって……ちょうだい。ネモはいい奴……よ。
ひょっとしたら……貴方の………パパより………でも…私、彼との約束を破って………」
「パパよりってのは聞き捨てならないけど……分かってるわよ。
ちゃんとアンタの分まで、ネモやシカマル達の助けになってあげる」
私の返事に、安心したような表情をフランは浮かべて。
そして、そっと自分の手を私の手に添えてきた。
その上で、彼女は私に頼んでくる。最後の、もう一つの願いを。
「力と………そ、の使い方……吸血鬼と、して……強くなる方法……
今から………全部、貴方に渡すから……その間、傍に……いて………」
耳に届く言葉は途切れ途切れで。
もういよいよ時間が無いんだって、分かってしまった。
だから私も迷わない。返事を返すよりも先に、フランの手を握り締めて。
その後はもう殆ど言葉は要らず、私達はただ寄り添う
きっと会えるのはフランの言う通りこれが最初で最後。
次に会うのはこの殺し合いを壊してからになるだろう。
だから最後に、もう少しだけ。後一言だけ、言葉を交わした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
───ねぇ、梨沙。
なに?
───ありがとう。
うん……こっちもね。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
人は大抵、何かの途中で終わってしまうものだ。
しかし、それでも。
───────夢は夢で終われない。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
フランドール・スカーレットの死。
青いコートを纏った少年の口から聞かされた話と。
彼が抱えた少女の背から生える、特徴的な翼を目にして。
キャプテン・ネモと、彼を迎えに来た孫悟空はその事実を認識した。
「梨沙の……この姿は………」
「あの吸血鬼のメスガキの忘れ形見だよ。お前ならそれで分かるだろ?」
高位の吸血鬼は、己の血を分け与える事で高位の眷属を生み出す。
例えば、この島に今も蠢く鬼たちの始祖が生み出す上弦の様に。
例えば、彼岸花が咲き乱れる孤島の首魁が生み出すアマルガムの様に。
例えば、死徒としての適性が低い者ですら原理を獲得するまで位階を強制的に引き上げる疑似原理(イデアモザイク)の様に。
天狗、鬼、蓬莱人、超常が跋扈する幻想郷の住人達の中でも。
血の契約による、魂の譲渡と継承を存在の旨とする吸血鬼だからこそ可能な芸当だった。
「もっとも、テメェの命全部注ぎ込んだヴァンパイアなんぞ、
俺の故郷(ヘルサレムズ・ロット)でも早々お目にかかれるもんじゃないけどな」
そう言って、珍しい物を見たという満足げな表情で、王は航海者に少女の身を預ける。
魔女を隣の仲間に預けて確認してみれば、穏やかな状態であった。
特徴的な翼も定着しており、ともすれば目覚めた時には使えるかもしれない。
そんな予感を感じさせるほど、吸血種として的場梨沙は新生を果たしていた。
同時に肌を見てみれば、吸血種への日光の洗礼を既に彼女は受けており。
テキオー灯の存在を考慮しても、長時間連れ歩くのは梨沙にとって死と隣り合わせ。
だからこそ、デパートに集っていた者達の目的地であった此処をブラックは目指したのだろう。
「お前らに預ける。吸血鬼のメスガキの能力も多分使えるだろうから上手く使え。
何しろ、そのガキは俺に相当おかんむりでな。寝言で荷物持ちは辞退されたよ。
まぁこっちとしても陽の下も歩けない夜魔(ナイトウォーカー)は面倒で願い下げだ」
言葉と共に、絶望王は念動力で梨沙の上にネモがフランに渡したライトとその他の荷物。
マイクの様なものをそっと降ろす。フランが得た殺人鬼(ジャック)からの戦利品らしい。
ランドセルと水と食料だけは貰っていくから、残りは合わせてくれてやるとの事だった。
「ブラック……君はこれからどうするつもりだ?」
「シカマルとアイが言ってたコナンってガキを探すさ。何しろまだゲームは動いてる。
卓から降りて自由になるには早い。それが終わったら預けたモンを受け取りに来るかもな」
相変わらず、飄々とした底を感じさせない態度でブラックが身を翻す。
ネモとしては戦力的に一緒に残って貰いたい所であったが。
本人が行くと言っている以上、引き留めようがない。
それに、シカマル達の身も心配だ。となれば是非も無し。
「……分かった、梨沙の事は心配しなくていい。僕らが責任を持って保護する。
その代わり、シカマル達の事は頼んだ。僕らはどの道カルデアから暫く動けないからね」
「オーキードーキー。精々上手くやれよ。シカマル達もお前に賭けてたからな」
青い外套をはためかせ、ブラックは身を翻し歩いていく。
そして、その姿が掻き消える直前、笑みを浮かべたまま振り返って。
彼の視線はネモではなくネモの隣で湖の魔女を背負う悟空へと向けられていた。
彼の真紅の瞳には、明確な期待の彩が籠められており。
それを裏付ける様な言葉を、絶望の王は眼前の最強へと放った。
「……よぉ。機会があればお前の力も見て見たいモンだ。正義の味方(ヒーロー)」
声を掛けられた当の本人は、最初自分へ向けられた言葉だと分からず。
きょとんとした表情でブラックの顔を見ていたが。
やがて自分に向けられた言葉だと合点が行き、呼び名に対しての返答を返す。
「オラ、正義の味方(そんなん)じゃねぇぞ。オラ悟空だ」
孫悟空は、少なくとも正義を胸に戦った事など一度もない。
身近な人たちを守りたいからだとか、強い相手と戦いたいからだとか。
或いは、界王など世話になった人物に頼まれたからだとか。
須らく自分の為だ。少なくとも彼はそう思っている。
悟飯の奴なら、ヒーローって呼ばれたら喜ぶんだろうけどなぁ。
そんな事を考えつつ、ブラックの呼びかけを訂正した。
「………くく、くっ、あははははッ!あぁ……そうだろうな」
少年は、最強の返答を聞いて愉快そうに笑う。
威圧感や含みなど無い、本当に楽しそうな無邪気な笑い声だった。
ひとしきり笑った後、目前の二つの希望に対して絶望は告げる。
「────俺もお前等二人に全賭け(オールイン)だ。期待してるぜ」
この二人ならば、もしかしたら……
絶望(オレ)から僕(オレ)を救えるかもしれない。
未来を夢想しながら、その前にやらなければならない事があると思い至る。
ゲームの相手と見定めた影使いの少年を探すのもそうだが、それ以上に。
想起するのは、この島で二度戦ったご立派で退屈な魔の王のこと。
一度は殴り飛ばし、二度目は辛酸を舐めされられてなお決着が着いていない相手。
梨沙の言う通り、してやられたままでは無様に過ぎる。
三度目の対峙が叶えば、ゲームの決着は何方かが破産するまでの青天井(アオテン)。
“四度目”の機会を作るつもりは、ない。
冷厳足る決定を胸に、絶望王は揺らめく陽炎の如く姿を消した。
【B-3/一日目/日中】
【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(大 時間経過で中まで回復)、ダメージ(大 時間経過で小まで回復)、空腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(フラン、ジャック)
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:シカマル達を探しに行く。
1:気ままに殺す。
2:魔神王とは“四度目”はない。
3:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
4:シカマル達が、結果を出せば───、
5:江戸川コナンは出会うまで生き伸びてたら、な。
6:シカマルと逸れたが…さて、どうしたもんかね。
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。
二人の少女を背負って、カルデアに歩を進めながら。
ネモは、傍らの同盟者に言っておかなければならない事を告げる。
それは即ち、藤木茂の事だ。
悟空と別れてから二度も自分達を襲い、全滅の危機をもたらした少年。
絶望王の話では直接彼が殺したのではなく、下手人はガムテープの少年らしいが。
それでも彼が暴れなければ、ネモ達は早々にあの場を離脱できた可能性が無い訳ではない。
そうなれば、フランドール・スカーレットはまだ生きていたかもしれない。
その事実が、孫悟空に重くのしかかる。
「……すまねぇ、オラがオメェに押し付ける様なことしちまったから」
藤木茂を助けたのは、間違いだった。
結果だけ伝えられれば、そう結論付けるしかない。
彼を助けたせいで、首輪の解析は丸々放送一度分遅れ。
そしてフランの死の遠因となった。
リーゼロッテから藤木茂を助けなければ、今頃は首輪の解析も滞りなく進み。
もしかしたら、より大勢の子供達を助けられる未来に繋がったかもしれない。
その事に考えが及ばない程、孫悟空は愚鈍では無かった。
「……いや、僕も彼に対して対応を誤った。君の事は言えないよ。
でも、もう……彼はもう保護すべき弱者でも、責任のない被害者でもない」
「あぁ、分かってる」
悟空は既に、ネモが藤木に対して何を言いたいか察しがついていた。
本音を言えば、できればそんな方法は取りたくはない。しかし。
ネモの今の視線には、例え自分と決裂しても決して己の決定を枉げぬという覚悟を感じる。
現状の彼を相手に恩情を乞えるだけの弁舌を、悟空は持ち合わせておらず。
また藤木を助けた事で生み出された犠牲から目を背けられる程、彼は偽善者でもなかった。
どうやら、リルとの取り決めは自分の負けらしい。そう考えながら彼は言葉を紡ぐ。
「次に藤木と会ったらオラが始末をつける。もうアイツには何もさせねぇ。
それでも不安だって言うなら……その時はネモ、おめぇの好きにしろ」
この瞬間、悟空は藤木茂の再起不能を遂行することを決定した。
次に会えば、抵抗する余地を与えず四肢を破壊する。
結果的に、それが藤木の命を守る事に繋がると判断したからだ。
此処で下手に手心を見せれば、ネモやリルトットは黙ってはいないだろう。
藤木茂が乃亜の被害者であることに間違いはないけれど。
それで彼の加害者としての責任が帳消しになることもまたないのだから。
同情はしよう、だがそれ以上はしない。悟空はそう決めた。
「………すまないな。君に後味の悪い仕事をさせる事になって」
「いいさ、元はと言えばオラが蒔いた種だ。オラが何とかする」
藤木茂と言う少年が見出した孫悟空の英雄性は決して間違いではない。
目の前で危機に瀕している者がいれば頭より先に身体が動いてしまう。
彼はそう言う心優しい男だ。だが、それが全てではない。
それが最善だと判断したなら、息子が敵に嬲られても、地球人が鏖殺されたとしても。
予め決めていれば、幾らでも冷徹に徹する事ができるサイヤ人。それもまた孫悟空である。
それ故に、最早悟空は藤木茂にとってのヒーローには成りえない。
既に絶望王に告げた様に、再び藤木茂と相対すれば彼は迷うことなく断言するだろう。
自分は正義の味方(ヒーロー)などではないと。
「────藤木に言われたんだ。僕も彼と同じ卑怯者じゃないかって」
梨沙を背負い、悟空の前を行くネモが零す様にネモが呟く。
彼がどんな表情でそう漏らしたのか、後ろを守る悟空には伺えなかった。
「酷い話だよ、全く……誰よりも弱いから、此方の弱い部分も核心を突いてくる。
あぁその通りだ。君を縛り付けて、フランを死なせて、しおとの約束も守れそうにない」
キャプテン・ネモと言う船乗りはそもそも人間が余り好きではないが。
己の弱さを攻撃に変える者は一番嫌いだ。
その点で言えば、藤木茂はネモが最も嫌いな人種だった。
彼の弱さは生前、彼が憎んだ人の醜悪さ、愚かしさと同種の物だったから。
だが同時に、藤木茂と言う少年は此方の“陰”を移す鏡だと感じていた。
彼が指摘した自分が悟空を独り占めしなければ、友が助かったかもしれないという言葉は。
どれだけ胸を抉ろうと決して否定できない、否定してはいけない、純然たる事実で。
だから今零した言葉はきっと、懺悔だ。
「……悪ぃけど。オラ、そう言う話あんま考えた事無くてよ。
藤木の言ってる事が正しいかどうかは分からねぇし、あんまり興味もねぇ」
悟空にとって、ネモが卑怯者かどうかなんてハッキリした事は分からない。
例えそうじゃないと言っても、多分ネモは納得できないだろう。
それにネモが卑怯者かどうかなんて、悟空にとっては余り興味のない話だった。
だから彼は、今確信を以て言える事だけを口にする。
「でも、オメェがずるい奴っちゅーんならオラも同じことだ。オメェだけじゃねぇ」
自分もまた、この島にいる子供達よりネモ一人を選んだ。
そして、これからもそうするつもりだ。
ネモがずるい奴なのかは判断がつかないけれど。
彼一人がずるい奴かと問われれば、それは違うと断言できる。それだけは確かだ。
彼はそう言ってから、今一番伝えるべき事を、同盟を結んだ航海者へ続けた。
「そんでさ、オラ達がただのずるい奴で終わっちまうかどうか決めるのは…これからだろ」
「───────────────」
多くの子供達を見捨てた卑怯者で終わるか。
全てをひっくり返すために必要な判断だったと言えるようになるかは、これから次第だ。
結果で全てを覆してやればいい。その為に、俯いている時間はない。
それが、ネモの懺悔に対する悟空の結論だった。
彼の言葉を聞いて、かつかつと前を歩いていたネモの足が止まる。
それに合わせて悟空も足を止め、ネモの反応を待った。
「そう、だね。あぁ、それは…ベタの色の様に確かな事だ」
例え藤木の言う通り自分はずるい奴で、これからもそうにしかなれないとしても。
それでも───そんな、ずるい者でしか成せない事はある筈だ。
それを成し遂げる時まで、立ち止まることは許されない。
犠牲を悔やむなら、成すべきは俯いて懺悔する事ではない。
ブレるな。本当に一人でも多くの子供を救いたいのなら。
自分に言い聞かせて、再び歩き出す。
「…悟空、すまない。心配をかけたね」
「おう!別に構わねぇさ」
短いやり取りに、確かな信頼の感情を秘めて。
数時間ぶりに再会を果たした少年たちは、最後に全てを救うために前へと進む。
救えない犠牲にどれだけ心を痛めても。
どれだけ冷血の誹りを受けたとしても。
それでも、と。キャプテン・ネモは呟きを漏らす。
「それでも────やると決めたことはやる。それだけだ」
【C-2 人理継続保証機関フィニス・カルデア/1日目/日中】
【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:右肩に損傷(小)、悟飯に対する絶大な信頼と期待とワクワク
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2(確認済み)、首輪の解析データが記されたメモ
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:首輪の解析を優先。悟飯ならこの殺し合いを止めに動いてくれてるだろ。
2:悟飯を探す。も、もしセルゲームの頃の悟飯なら……へへっ。
3:ネモに協力する。カルデアに向かいネモと合流する。
4:藤木はオラが始末をつける。容赦は出来ない。
5:カオスの奴は止める。
6:しおも見張らなきゃいけねえけど、あんま余裕ねえし、色々考えとかねえと。
7:リルと小恋もカルデアに連れていく。脱出計画の全容を伝えるのはネモと合流後。
8:シュライバー、リーゼロッテを警戒する。
9:悟飯……?
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※界王拳使用時のハンデの影響を大まかに把握しました。三倍までなら軽めの反動で使用できます。
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、仮面の者、しおに対する不安(極大)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、
、神威の車輪Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、
ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、エーテライト@Fate/Grand Order、
110mm個人形態対戦車(予備弾×4)@現実、オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、ネモに指示され龍亞が集めた火薬液解除液に必要な物品、首輪×5(割戦隊、勝次、かな)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:これから必要な確認と準備をした後、 解析に入る。
1:カルデアに向かい設備の確認と、得たデータをもとに首輪の信号を解析する。
2:魔術術式を解除できる魔術師か、支給品も必要だな……
3:首輪のサンプルも欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおとは共に歩めなくても、殺しあう結末は避けたい。
6:エーテライトは、今の僕じゃ人には使えないな……
7:藤木は次に会ったら殺す。
8: リーゼロッテを警戒。
9:悟空と一刻も早く合流したい。
10:ドラゴンボールのエラーを考慮した方が良いかもしれない。悟空と再会したら確認する。
11:魔術師の協力者は望むところだけど……。
12:皆無事でいて欲しい。しおも…。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、
優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※エーテライトによる接続により、神戸しおの記憶を把握しました。
※仮面装着時に限り、不撓不屈のスキルが使用可能となります。
※現在装着中の仮面が外れるかどうかは、後続の書き手にお任せします。
【的場梨沙@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]継承、ダメージ(大)、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)、吸血鬼化、気絶
[装備]フランの眼球×2@東方project、しんちゃんがフランに渡した傘、シャベル@現地調達、ハーピィ・ガール@遊戯王5D's、
[道具]基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に業、マリーンの腕章@Fate/Grand Order、
探偵バッジ×5@名探偵コナン、大地鳴動ヘヴィプレッシャー@アカメが斬る!、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:ネモやシカマル達を守る。
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
4:桃華を探す。
5:戦うわ、私に命をくれたファンの分まで。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。
※吸血鬼化しました。今後梨沙が吸血鬼を増やす事は不可能です。
※あまり強くないです。
※フランから能力を継承しました。
※弾幕の生成、一部スペルカード、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力が使用可能となっています。
【ルサルカ・シュヴェーゲリン@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)全身に鋭い痛み (大)、シュライバーに対する恐怖、キウルの話を聞いた動揺(中)、メリュジーヌに対する妄執(大)、ブック・オブ・ジ・エンドによる記憶汚染、気絶
[装備]:血の伯爵夫人@Dies Irae
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:今は様子見。
0:……
1:シュライバーから逃げる。可能なら悟飯を利用し潰し合わせる。
2:ドラゴンボールに興味。悟飯の世界に居る、悟空やヤムチャといった強者は生還後も利用できるかも。
3:メリュジーヌは絶対に手に入れて、足元に跪かせる。叶わないなら殺す。
4:ガムテからも逃げる。
5:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
6:俊國(無惨)が海馬コーポレーションを調べて生きて再会できたならラッキーね。
7:どんな方法でもわたしが願いを叶えて───。
[備考]
※少なくともマリィルート以外からの参戦です。
※創造は一度の使用で、12時間使用不可。停止能力も一定以上の力で、ゴリ押されると突破されます。
形成は連発可能ですが物理攻撃でも、拷問器具は破壊可能となっています。
※悟飯からセル編時点でのZ戦士の話を聞いています。
※ルサルカの魔眼も制限されており、かなり曖昧にしか働きません。
※情報交換の中で、シュライバーの事は一切話していません。
※ブック・オブ・オブ・ジ・エンドの記憶干渉とルサルカ自身の自壊衝動の相互作用により、ブック・オブ・ジ・エンドを使った相手に対する記憶汚染と、強い執着が現れます。
※ブック・オブ・ジ・エンドの効果はブック・オブ・ジ・エンドを手放せば、斬られた対象と同じく数分間で解除されます。
※ブック・オブ・ジ・エンドを手放した事で、多分これ以上記憶障害と執着は悪化せず、徐々に元に戻ると思われます。
でも自壊衝動のせいで、やっぱり悪化するかもしれません。
※バルギルド・ザケルガの解呪に成功しました。それをネモに目撃されています。
【大地鳴動ヘヴィプレッシャー@アカメが斬る!】
マイク型の帝具。これを介して発された声は超音波となり敵を粉砕する。
奥の手は全周囲に特殊音波飛ばし生物を苦しませ、少しの間行動不能にする、
「ナスティボイス」。ただし、範囲内に仲間がいると巻き込んでしまう。
投下終了です。
今回のタイトルですがwiki収録時には「人は大抵、何かの途中で終わってしまうものだけど/夢は夢で終われない」
で収録していただけると幸いです。
すみません>>742 の内容を此方に修正させて頂きます。
「死んでないわよ、梨沙」
えっ、と声をあげる。
だって、私は私の癇癪で腹を立てたブラックの奴に。
そう考えた私に、フランは何処か面白くなさそうに言った。
「それは違うわ。むしろ逆。彼奴(ブラック)に関しては貴方の方が詳しいでしょう。
何でそうしたのかは私も知ったこっちゃないけどね……多分気まぐれじゃないかしら」
それに人間と違って、目玉を抜き取られたくらいで今の貴女は死なないわ。
だって、今の貴女は人間じゃないもの。
私の隣に腰掛けて、俯きながらフランは私にそう告げた。
それを聞いて少しの間を置いてから、どういう意味かって尋ねた。
アイドルとして恥ずかしいけれど、その時の私の声は少し震えていたと思う。
そんな私に、フランは一言で告げる──────私が貴方を吸血鬼にした、って。
「だからいきなりで悪いけど、選んで欲しいの。梨沙」
俯いていたフランの顔が、私の方へ向く。
どこか負い目を感じさせる目で、でも視線は決して逸らさず私を見て。
私の胸にそっと手を添えて、躊躇うことなく尋ねてきた。
「私の全部を受け取るか、どうか」
私は最初、フランの言葉の意味が分からず、詳しく教えて欲しいと頼む。
するとフランはこくりと頷いて、私を吸血鬼にする時どんな方法を取ったか。
そして、今私の身体がどんな状態なのかを教えてくれた。
「梨沙を吸血鬼にする時にね、私は、ただ梨沙をかんだんじゃなくて…
私の能力(たましい)を全部残ってた血に籠めて……梨沙に注ぎ込んだんだ。
だから梨沙の身体には今、私の力が眠ってる。ありとあらゆるものを破壊する程度の力が。
上手く行けば弾幕やスペルカードも使えるかもしれないけど、それは期待しないで。
本来なら、ただ血を注いだだけじゃ力を移すことはできないんだし。
今回はブラックの気まぐれのお陰で、私の眼を移した貴女は力を受け取れる訳だけど」
「どうして分かるの?」
「今、私が此処にいるからよ」
フランも、フランの姉から聞かされた話らしいけど。
吸血鬼は、よりつよい眷属を作る際に血を吸うんじゃなくて、血を与える事があるらしい。
そうすれば、普通に血を吸って作った吸血鬼よりずっと強い吸血鬼が作れるんだとか。
お姉様から聞かされた時はまぁ引きこもりには関係のない話ね、と言われたし。
実際関係のない話だと思ってたけど、まさか本当に実行するときが来るなんてね。
そんなぼやきも交えながらフランは私に経緯を語って、その上でもう一度尋ねてくる。
フランの遺した力を、私が受け取るかどうか。
「受け取ってしまえばもう後戻りはできないわ。私の力は、壊すための物だから。
あの藤木や偽無惨みたいな奴を……誰かを壊さないといけない時が来る。きっと、必ず
……それは、梨沙が好きだって言ってたアイドルとは真逆の在り方でしょう?」
また、梨沙の状態表も此方に修正させて頂きます。
【的場梨沙@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]継承、ダメージ(大)、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)、吸血鬼化、気絶
[装備]フランの眼球×2@東方project、しんちゃんがフランに渡した傘、シャベル@現地調達、ハーピィ・ガール@遊戯王5D's、
[道具]基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に業、マリーンの腕章@Fate/Grand Order、
探偵バッジ×5@名探偵コナン、大地鳴動ヘヴィプレッシャー@アカメが斬る!、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:ネモやシカマル達を守る。
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
4:桃華を探す。
5:戦うわ、私に命をくれたファンの分まで。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。
※吸血鬼化しました。今後梨沙が吸血鬼を増やす事は不可能です。
※あまり強くないです。
※フランから能力を継承しました。
※ありとあらゆるものを破壊する程度の能力が使用可能となっています。
※弾幕、スペルカードに関しては現時点では使用不能です
投下ありがとうございます
歌って踊れて空飛ぶアイドル、的場梨沙爆誕。
桃華もスタンドで飛べるから、二人で浮遊ライブ出来ますね
初っ端からブラックに目玉穿られるのハード過ぎて酷すぎる。
少なくとも痛みに関しては、ここ数話で、桃華以上の修羅場を潜ったのではないか?
精神世界に来てくれたフランを恨むことなく、吸血鬼化を受け入れて、貸してくれと話す梨沙は強い女だ。
藤木君ならネチネチ嫌味言ってますからね。
ブラックVS悟空、実現するなら何処かで見たいですね。
過去最高に楽しくなってるのは間違いない。
大崩落程でないにしても、ブラックの退屈を紛らわすだけの演劇がそこかしこにあって、希望の頂点みたいな男に会ってる訳ですからね。
ネモ、別に藤木君の事なんて気にしなくていいと思うんですけど(名推理)
結局の所は、最初にシカマルと梨沙に仲間に入れて欲しいと言えなかったのが悪い。
悟空の非情さが、周り回って藤木の安全を保証する為なの、悟空なりの優しさがあって好きですね。
少なくとも殺すって選択肢だけは、絶妙に避けてる感じ。
クロエ・フォン・アインツベルン、グレーテル、金色の闇、海馬モクバ、ドロテア
予約します
投下します
「さて…気が付いたかしら」
まるで、アダルトコンテンツの一シーンのようにいかがわしい場面だった。
金髪の美女が赤い布に全裸で拘束され、ソファーの上に投げ出されている。
その少女の色気のある成熟した美女であれば、まだそういった映像作品に同意した仕事であると言い訳も叶う。
だが目を閉じ、物言わぬ人形のように眠りにつくのは、まだあどけない子供に数えられる少女だ。
実った胸元の膨らみも控えめで、くびれから分かる臀部も抑えめ、まだ未成熟な子供の肉体だった。
であれば話は変わってくる。本来、法に順守され本人の意志に関係なく、体を犯すという行為は禁じられた禁忌だ。
それを破ろうとしている者が居るのだから。最早それは娯楽の域を超え、コンテンツの制作ではなく、許されざる重罪である。
「クロ、始めましょう」
質悪いのは、それが異性の歪んだ小児愛でなく、同性かつ歳の変わらない二人の少女達が事を起こそうとしていたことだった。
金色の闇は肩を揺らされ、そして艶めかしい幼い声に耳を吹きかけられ目を覚ました。
「これ……私、要る?」
「恥ずかしがることはないでしょう? クロはとても魅力的よ」
クロと呼ばれた少女、クロエ・フォン・アインツベルンは全裸だった。
一糸纏わぬ褐色の肌を曝け出し、彼女自身も頬を紅潮させ恥じらいを見せる。
「ねえ、クロを見て……とってもえっちぃわよね。あの娘」
目が覚めたヤミの頬から顎をなぞって、グレーテルはくいと顔をクロの方へ向けさせる。
非情に奇麗で見た者に劣情を抱かせる姿だった。
ヤミよりも幼い肉付で、辛うじてくびれが存在する。そんな未発達で熟しきっていない身体だが、僅かに膨らんだ乳房は、子供から大人へと変わる神秘的な変態を表面に発現する。
無駄な贅肉のない腰から下、鼠径部には余計な汚物などない艶やかな股座が重圧な肉の扉に閉じられている。
熟れ始めたが故の未完成さと発達箇所と未発達箇所のアンバランスさが、芸術的とも背徳的も取れる。危うくも魅惑的な性的魅力を醸し出す。
柑子色に輝く眼光は淫靡な魔眼のようだ。
精を貪るサキュバスの幼体と言われれば、なるほど、認めざるを得ないだろう。
蟲惑な魔性さで多くの人々を誑かし、破滅させてきた悪魔と聞かされても疑う者はいない。
現に、この瞬間、金色の闇という一人の少女を破滅させようと。
悪魔のように残酷で冷酷で、悪魔以上に正気を失くした狂った天使と手を取り合おうとしているのだから。
「クロったら、あの肌がとてもいやらしいのよ」
グレーテルが目で合図をして、クロはマンション内にあった練乳のチューブを自分の胸に掛け始めた。
(………………………何やってんの、私)
クロの肌には白の練乳が映えるわとはグレーテルの言である。
我ながら馬鹿馬鹿しいと思いながらも、それに従う自分も自分かとクロは呆れ果てる。
「……ん、っ」
冷たい練乳が体を伝う触感がこそばゆく、溜まらず変な声を出してしまった。
グレーテルは目で、今の良かったからもっと喘ぎなさいと圧を掛けてくる。
「とっても甘そう、お姉さん…舐めてみたくない?」
クロの体を汚していく白い液体は、グレーテルの言うように官能的な光景だった。
恥ずかしさから、少し顔を斜め下に傾けるクロの仕草も。
胸から腹を謎って、鼠径部に太腿に、垂れて伝う練乳が淫らな欲望の象徴のようにも見える。
ヤミは呆然とそれを眺めて、顔を赤らめていた。
『ねえ、やっぱりクロも参加してくれない?』
『なんで?』
『だって、こんなもの見付けたんだもの』
『練乳……? いちご狩りなんて、する訳じゃないわよね?』
『クロのおっぱいに掛けるの』
『はあ!? 嫌よ!』
『マヨネーズのがいい?』
『……練乳で』
『良かった、参加はしてくれるのね!』
『なっ、ちょ、ちが…今のは……』
『じゃあ服脱いで、あそこに立っててね』
リスクは低くないが、ヤミを調教して自分達の手駒に入れる事自体は望むところだった。
だが、グレーテルはやるなら楽しんでやりたいと、鼻歌交じりに支度をして。
せっかくなら、クロのえっちぃとこも沢山見せてあげましょうと。自分の友達を自慢したくて仕方ない、そんな悪戯好きな笑みだった。
それに「私は服を脱がない方がきっと良い。だから、代わりに視覚的な刺激はクロに任せたい」と言われてしまえば。
グレーテルの体に刻み込まれた地獄を直視したクロにとっても断りづらい。
(何やってんだか……)
結局、クロも断り切れずに、アホな事に付き合ってる自覚はある。
拘束もして、体力も根こそぎ奪った。
万全を期しているとはいえだ。クロが手を出すより、グレーテルが一人で調教した方が話は早いだろうに。
「えっちぃ事がしたかったのよね?」
グレーテルの鉄の五指が、今はしなやかで柔らかい。
その手で既に三人以上を殺めて、そして解体したとは思えないほどに細く、そしてなだらかな指先だった。
ヤミの顔を撫でて、首筋を爪を軽く立てて、すうと引き、胸の盛り上がりの始まるその箇所で止まる。
まだ大切な場所には触れず、お預けと指の動きはヤミをじらすようだった。
「…………っ………」
飲ませた媚薬は全身を巡り、性感帯でもないただの表皮をなぞるだけでも、悶える程の快感だろう。
いずれ願って、祈って、媚びて、快楽の続きとその先の絶頂を懇願するに違いない。
けれど、まだだ。まだそこでご褒美は上げない。
快感を嫌というくらい味合わせて、そして悪夢のような出来事も忘れさせてあげて。
自分達と一緒に、殺し回ってくれるように仕立て上げるまでは。
「えっちぃのは嫌いです」
響く拒絶の意と。
「───ッ!!?」
そして、轟く甲高い金切り音。
飛び散る火花と共に、グレーテルの右肩がヤミの金髪によって貫かれていた。
「───グレ、ッ…こ、の……!」
双剣、干将莫邪を投影し、傷を抑えながら飛び退くグレーテルと入れ替わるように、ソファーのヤミにクロは斬りかかる。
「ッ……?」
布が引き裂かれる乾いた音と、あっさりと切断される全く抵抗のない手の感触。
クロの視界にはヤミは居ない。バラバラの布切れになった聖骸布の残骸だけが残され、干将莫邪は背後のソファーだけを斬った。
左側から直感した悪寒と共に、振り向きざまに双剣を左右に重ね、巨大な拳へと変化したヤミの金髪を受け止める。
「グレーテル!」
「大丈夫よ……」
二丁拳銃の内、白塗りのアイボリーを構え連射する。
片手のみとはいえ、グレーテルの元から備わった銃の技量と、獄への回数券による身体強化の恩恵、悪魔を滅ぼす為にカスタムされた改造魔銃の並外れた性能。
それらを重ね合わせた結果は、2秒と経たず狭いマンションの一室内を蜂の巣へと変えてしまった。
「ッッ!」
弾丸の五月雨の中をヤミは華麗に舞い、半身になりながら自らの髪を操る。
撓った髪はドリルのような形状へと変形し、螺旋を帯びてグレーテルへと振るわれた。
鋼鉄の体を斬り付けたとて、ダメージは与えられない。ならば切るのではなく掘り穿つという手段をヤミは選んだ。
工事現場にあるようなドリルをそのままイメージし、自身の体内を構成するナノマシン、変身能力を用いて、自らの髪を媒介に再現し体現した。
先程の一撃で、鉄の性質を持つものの、体内は通常の血を流す地球人だったのは確認済みだ。
鉄さえ切れるのであれば、あの少女の能力は恐れるに足らない。
「……くっ」
グレーテルに触れる寸前、螺旋する先端より下部、しなやかな稼働を優先させ通常の髪の性質を色濃く残していた部分をクロは切り裂く。
ヤミから完全に離れたドリルは回転を止め、ただの髪の毛に戻って床に落ちた。
「はっ──!」
喊声と共に振るわれた二対の剣捌きとヤミの数本に枝別れた髪の刃が交錯する。
十を超えた斬り合いの中、クロは一つの違和感に気付く。
クロとて英霊の力を借りた超人の域にある戦士だ。相手が宇宙を股に掛ける殺し屋であろうと、一方的に後れを取る事はないが。
だが、以前の交戦に比べ、こうも容易く切り結べたかと。
孫悟飯との戦闘、先のグレーテルからのエネルギー吸収もあり、動けること自体が奇跡にも等しい。それ故の弱体化か?
いや、そうではない。姿形、扱う能力も同質であっても。担う使い手が入れ替わったような違和感。
(角が消えてる……)
クロと同じく一糸纏わぬ全裸のヤミではあったが、彼女の頭部にあった二本の角が消失していた。
さっきの、少なくともクロが自分に練乳をぶっかけていた時は間違いなく、あったはずだ。
(……待て、私の賢者の石、何処に?)
そして、投影による魔力消費に伴い。その燃料源の内の一つが消失した事にようやく気付いた。
クロが携帯していた賢者の石がなくなっていた。
確かに、魔力の消費に合わせて石が擦り減っていくのは見ていたが、たかだか一回の投影で全て消し飛ぶような代物ではなかった。
「あい…つ…ッ……!」
『えいっ』
『………ぐ、ぅ……ぁっ………!』
あの時だ。
エネルギー吸収装置で根こそぎ体力を奪い去り、抵抗してきた時、剣と髪を交えたどさくさにクロのランドセルから賢者の石を抜き取り髪の中に隠していた。
意識があったのか無意識なのかは定かではないが。
あとは、期を見計らい賢者の石で奪われた体力を最低限動かせるだけ補充して、グレーテルの不意を突いた。
クロもあの後、完全に意識は休息に割かれ、賢者の石の不所持に気付けなかった。
そして、エネルギーを吸われた事で以前の変態色情魔ではなく、備わった強さは格段に下がったが、抜け目ない冷徹な殺人者へと変貌している。
あの変態性はヤミの持つ強化形態のようなものだと、クロは推測し、その推測は正しかった。
バビディが魔人ブウ復活の為に利用したこの機器は、当てさえすればあの孫悟飯ですら全盛期から遥かに劣化したとはいえ、憤怒し変身したスーパーサイヤ人2をも強制解除する代物だ。
目の前で結城美柑が死んだショックは、かつての正史に於いて、ヤミを元に戻す為に結城リトが意図的にセクハラをしたそれ以上の脳内バグを誘発し。
止めに、全エネルギーを一時的に干からびさせられた事が、ダークネスの解除へと至った。
(あの角も消えて、シラフに戻ったって事か)
頭の角も変化を悟らせない為、見た目だけ再現し続けていたのだろう。
あとは戦闘を行えるだけの回復を待って、行動に移したのだ。
グレーテルもあれで遊びを含みながらも万全の注意は払っていたが、ヤミを起こした後の寝起きの微睡とシラフに戻った後の冷徹さの区別が、曖昧になりがちになっていたのも最悪だった。
ともすれば、ダークネス形態より今のが厄介かもしれない。強さは別にしても、以前であればこちらを犯すつもりで殺さずに加減していたが、今はそのような躊躇は一切ない。
「……ッ」
先に後方へヤミが退く。
賢者の石を手にしたと言えど、連戦後かつ、エネルギーを奪われた直後。
著しい弱体化まで強いられたヤミにスタミナは殆ど残されていない。
「な、翼……?」
ヤミの背から純白の大翼が拡がった。
ただのマンションの一室には窮屈なそれは、拡がると共に疾風と羽吹雪を巻き起こす。
巻き上がり風に揺られ舞う羽は一つ一つが弾薬のように推進した。
クロは双剣を縦横無尽に振り回し、その全てを片っ端から叩き切り落とす。
グレーテルの鋼鉄の体ならば、防御など考えもせず前進できた。だが、肩に空けられた風穴へ侵入しようとする羽を庇うのに、その足を止めてしまう。
流石のグレーテルとて、敵の放つ得体の知らない肉体の一部らしい物を体内に入れるのは憚られ、拒絶する。
「あぁっ! もう、待ちなさい!!」
クロの叫びなど意に返さず、翼を羽ばたかさせ後方へと大きく自らを飛ばす。
後方の壁をぶち破り、屋外へ脱出、手すりすら振り返りもせず飛び越え、数階建てのマンションから飛び降りた。
後を追い、滑空するヤミに狙いを付けてクロは弓矢を投影、鏃を向けて弦を引き、射る。
全てを秒以下の驚異的な速度で終え、瞬きすら間に合わぬ時間差でクロの前方は爆破に包まれた。
「どう、クロ? やったの?」
「分かんないわ」
砂塵が空けて、目の前に拡がる景色は局所的に焼け野原になり平地になった市街地だった。
ヤミの死体は確認できない。
指一本残さず爆破で消し飛んでくれたか、回避して逃げたか。
「グレーテルの足のあれであいつ斬れば良かったじゃない」
「むぅ、だってしょうがないでしょう。あの娘、クロと私の位置取り、ずっと意識してんだもの。
使ったら、クロごと斬れちゃうじゃない」
ずっと前線にクロを留めながら、後衛のグレーテルの射線上に置くようにヤミは斬り合っていた。
もっともグレーテルの走刃脚を知っていたのではなく、スタミナ不足から2対1ではなく、クロとの1対1を成り立たせる為のものだったが、結果としてグレーテルの切札の一つを完封した結果となった。
「……ねえ、クロ」
「なに? 元はと言えばあんたが、調教するのに変な事を始めたから」
「貴女、凄い格好で戦ってるわね」
口を手で抑えて、グレーテルは目を細めていた。
風が吹いて、クロは溜まらず一度くしゃみをする。そう寒さから素肌を守る衣類が一切ないのだ。
そして、胸元を白く汚す練乳を見つめた。
全裸で戦うどころか、練乳を体に擦り付けたあまりにも変態的な格好で屋外に飛び出て、叫んでまでいたのだ。
これが変態でなくて、なんというのか。
「うふふ…クロったら、もう……!」
「ちがっ…これは、あんたがこういう事させたからっ!」
誰かが来たらどうするのよと叫んで、クロは急いでマンションの中に入る。
とんでもない格好で、日本の街中なら警察一直線だ。
グレーテルは腹を抱えて笑いながら、その後を追っていく。
「あーあ、失敗しちゃったわね」
「ほんとよ、とんだ目にあったわ! これ誰かに見られたらどうすんのよ!」
「あら? 良いじゃない。クロの体、奇麗で恥ずかしい所なんかないわ」
「恥ずかしいわよ!!」
プンプン怒りながら、クロは怒鳴るが。
その声色と内心は一致していなかった。
今回はとんだ失態で、下手すれば死に掛けたかもしれないのに。
目の前で笑う少女を見てて、自分の頬も徐々に緩んでいくのを自覚していた。
それはきっと、クロエ・フォン・アインツベルンという少女がイリヤから分離し生を受けてからそう多くはなかった。
イリヤにとっては当たり前で当然の日常でも。
クロにとっては掛け替えのない、味わう事すら許されないかもしれなかった光景。
友達と馬鹿でアホな事をして、痛い目に合って、怒って。
でも、最後に笑えてしまうような楽しいという感情。
「そろそろここを移動しましょうか、ちょっと騒音が響いたと思うし」
グレーテルももしかしたら、同じように思っているんだろうかと、クロは考えていた。
「魔力というのは大丈夫なの?」
「……まあ、グレーテルから貰えるのと。一応、この殺し合いが続く間は自生する手段もあるし」
同化したローザミスティカから、魔力が生成されているのを感じている。
元からローゼンメイデンを動かす為の燃料であり、この殺し合いを終えて以降、消失する予感もあるが。
少なくとも、過度の魔力消費でなければ早々枯渇する物でもなさそうだ。
「ならよかった。
じゃ、チューとシャワーは後にしてね? 服はなくとも良いでしょう」
「ふざけんじゃないわよ。服は着るわ」
「えー? 練乳付けたまま着るなんて、絶対気持ち悪いじゃない」
「うっさいわね。あんたのせいでしょーが!
……そっちの傷は?」
「平気よ。治って来てるの、便利な麻薬だわ」
あの妙な薬の影響だろう。グレーテルの肩の傷が再生し始めていて、クロは惜しむどころか何処かで安堵していた。
この少女は狂って壊れているというのに、いずれ自分が殺さなくてはいけない相手の筈なのに。
絆されていっている自分に。
もう、本当に引き返せないのだと、改めて自覚していた。
【一日目/日中/F-5】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:魔力消費(中)、自暴自棄(極大)、 グレーテルに対する共感(大)、罪悪感(極大)、ローザミスティカと同化。
[装備]:ローザミスティカ×2(水銀燈、雪華綺晶)@ローゼンメイデン。
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら、
グレードアップえき(残り三回)@ドラえもん、サンダーボルト@遊戯王デュエルモンスターズ、
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
0:友達……か。
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君…会ったら殺すわ。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
※ローザミスティカを体内に取り込んだ事で全ての能力が上昇しました。
※ローザミスティカの力により時間経過で魔力の自己生成が可能になりました。
※ただし、魔力が枯渇すると消滅する体質はそのままです。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、肩にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!、走刃脚@アンデットアンラック、透明マント@ハリーポッターシリーズ
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品0~2(リップ、アーカード、魔神王、水銀燈の物も含む)、
エボニー&アイボリー@Devil May Cry、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、
戦雷の聖剣@Dies irae、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!、魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、 バスター・ブレイダー@遊戯王デュエルモンスターズ、
真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ、エネルギー吸引器@ドラゴンボールZ、媚薬@無職転生~異世界行ったら本気出す~、ヤクルト@現実、
首輪×9(海兵、アーカード、ベッキー、ロキシー、おじゃる、水銀燈、しんのすけ、右天、美柑)
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:金髪の娘逃がしちゃった
1:私たちは永遠に死なない、そうよね兄さま
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。三人殺せたけど、まだまだ遊びたいわ!
7:聖ルチーア学園に、誰かいれば良いけれど。
8:水に弱くなってる……?
9:金髪の少女(闇)は、私たちと同じ匂いがしたのに残念だわ。
[備考]
※海兵、おじゃる丸で遊びまくったので血まみれでしたが着替えたので血は落ちました。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
結城美柑の元へ行きたい。
金色の闇が目を覚まし、真っ先に抱いた願望はそれだった。
手にした賢者の石で力を一時間借りし、元より等価交換の法則を無視した無限の錬成を可能とする宝玉。
自身の肉体を変形させるトランス能力との相性も噛み合った。
二人の少女を撒いて、飛んできた爆破の矢をも盾を形成し受け止めながら、爆炎に乗じて姿を晦ました。
「はぁ…はぁ……く、ぅ…あっ、あぁぁ……!!」
走りながらヤミの口から嬌声があがる。
彼女の体は媚薬が周り、感度は既に数倍以上に引き上げられていた。
激しい交戦の最中は耐えていたが、体を動かせば動かすだけ敏感になった感度は甘い快楽を齎していく。
荒げた息は疲労によるものか、感じてるが故の嗚咽なのか。
傍からは判断が付かず、当のヤミ本人ですら、そんなことは考えたくもなかった。
「み…かん……!!」
最悪だ。助けられる筈だった、あの場で死なせる事なんてなかった筈だった。
一度目の邂逅で、あの孫悟飯と友好関係を結べてさえいれば。
美柑だけでも保護して、あそこから離れる事だって出来た。
今のダークネスを解除されたヤミであれば、強さは幾段か下がるものの、美柑を救う方法なんていくらでも思い付く。
難しい事じゃなかった。自分が再会するまで、紛れもなくヤミの出会った中で最強の少年の庇護下に美柑はいたのだから。
むしろ、死なせることが難しいくらいに。彼女はこの島で安全な場所にいた。
悟飯のあの豹変ぶりが想定外であったとしても、ヤミがもっと近くにて前兆を察知して美柑を回避させる程度は可能だった。
なのに、なのに、なのに。
いくらでも手を伸ばせて、いくらでもやりようはあったのに。
最も愚かな選択をして、誰よりも守りたかった友達を、あんな痛くて怖い目に合わせて。
「……み…かん…………」
もう死んでいるのは分かっている。
今更出向いても、何の意味もない事だ。
でも、せめて、埋葬くらいは。
「みか…………」
かつての戦場へ再び戻った時、ヤミを迎えたのは体と首で二つに別けられた死体だった。
焦点が合わない虚ろな眼光、薄っすら口を半開きにして血と唾液が唇を汚し、血に通わない頬は二度と笑うことも怒ることもない。
それが道端の石ころのように、転がっていた。
首のない体は全身を赤黒い穴で無数に空けられていて、血色の良かった瑞々しい肌は土気色に、そして真紅の血で惨く染め上げられる。
「ぁ………あぁぁ……」
ヤミはその場で崩れ落ちた。
同時に、頭に電流が走るかのように鋭い信号が発せられる。
「く、ぅ……ぁああああ!!?」
戦闘中であれば、耐えられた。万全を期すのが最も大事ではあるが、実戦でコンディション最悪である事など茶飯事だ。
それが苦痛であろうと快楽であろうと、命を奪い奪われる極限下の駆け引き下で耐えないという選択肢はない。
また、地球でのハレンチトラブルのような、何処か緊張感のない戦闘ではなく、先の相手の内1人は幼いが手練れの殺し屋、もう1人の方は人物背景は見えてこないが、技量だけならば優れた戦争屋だった。
昂った神経と脳内麻薬が快感をも打ち消す程に、あの二人はヤミすら緊迫させていた。
だが。
「あぁぁ……、…ぅ…あっ…ぁぁ!!」
戦闘を終え逃げ延びたという安堵と脱力が、ヤミからそれらの緊張感を奪い去り。
後に残るは、グレーテルに飲まされた媚薬の効能。
よりにもよって、それはこの瞬間、今一番訪れて欲しくない時にやってくる。
「う…そ……っ……あ、あぁぁぁッ!!」
美柑の死はショックではあるが、それは数時間前に既に確認した事。
痛ましい遺体の惨状も、予測はできた。
全身を弾丸で穿たれたのも、ルール更新で首輪の回収が重大になっている為に、首が落とされているだろうことも。
だから、全身を愛撫する快楽を上書きするだけの大きな衝動が、今のヤミにはなかった。
「ッッ───ぁ、イ……………ッ……」
ガクンと肩を震わせ、せめて顔だけは隠そうと俯いて。
地面が湿っていた。
股座から、液体が流れ落ち、ヤミの目から涙が潤み頬を伝う。
「………………ァ、あ…ァ………ッ、ぅ………」
最低で最悪の絶頂を迎え、初めての最高の友に、ありったけの不浄な行為を意図せずとはいえ身体は行ってしまったのだ。
「………………ご…め…ん、なさい……」
ヤミが居なければ。きっと、こうはならなかったのだろう。
悟飯の怒りがあれだけの爆破を引き起こす事もなく。
『???ふざけるなッ、誰がこんなもの!この貞操観念の欠片もないクソ売女(ビッチ)がぁ!!』
『や...やめて...』
『小恋が…いっぱいスキスキするのは…みのりちゃんと、いっしょのときだけなの…!ちゅーも、デートも、ぜんぶみのりちゃんとだけなの…!えっちなことだって、みのりちゃんとしかしたくないもん…!』
『んなガキ犯すとかマジで終わってんな、クソッタレのアバズレが』
『ひゃっ、だ、だめっ』
『ぜ、ぜ……っらい……? わ、ら……ひ、ぃ…? は、ぁ……ッ!』
ダークネスで暴走状態であった。自分の意志でなかった。そんな言い訳なんて出来ようもない。
自分が襲った子供達だって、あんなことをしなければ。
それが理由で、きっと誰か死んでいるのかもしれない。
『私、良いよ』
『ハレンチなこと、えっちぃこと、一杯してくれていいよ』
『またヤミさんが独りぼっちになって、寂しくなるのなんて嫌なんだ』
命と引き換えにしようとも、自分を想ってくれた友達に報いることも出来ずに。
あんな痛ましい死に方をさせて。
決して、あんな死に方をして良いような少女ではなかった。
彼女は美柑は温かくて優しい世界にいて、兄や友人と共にあの平和な世界の中で歳を重ねて。
最期があるのだとしても、穏やかに亡くなるべきだった。
こんな血生臭い、戦場で一人で孤独で死んで良い筈がない。
「一人には……させませんから」
ダークネスの頃にあった悟飯への憎悪より、己自身の怒りと落胆と失望、そして絶望が勝る。
こんな悲劇を創り出し、友の遺体の前で絶頂を決める愚劣極まる行いに、おめおめと一人生き残った己への自己嫌悪。
宇宙一の殺し屋と謳われたヤミの精神であろうとも、最早耐えきる事は叶わなかった。
元より、美柑やリト、ララ・サタリン・デビルークに出会う前まで生きる価値すら見出していなかった。
「美柑……私も…………」
だからこれは、きっと全てが元に戻っただけなのだろう。
首輪に手を掛けて、ヤミはゆっくりと力を加えた。
無理に外そうとすれば、首輪が起爆するのを見越して。
確実に死ぬのなら、これが一番の近道だ。
「いえ…貴女と同じ場所には、行けませんか……」
都合の良い願望に自嘲して、それでも最後に縋りながら。
もうこの世界に在り続けるのに、ヤミは耐え切れなかった。
「勿体ないの。どうせ死ぬなら、その力妾達に貸してみる気はないか?」
自害しようとするヤミの手を、小さくだが恐ろしいまでの怪力の秘められた別の手が掴んだ。
ヤミが目線を上げた先には、幼い少女が老練された狡猾な笑みを浮かべていた。
◇◇◇◇
この女の子の埋葬をする。あの黄色の生き物と、眼鏡を掛けた男の子と、銃撃された女の子もだ。
正気か!? いつ悟飯かメリュジーヌが来るかも分からんというのに!!
モクバの主張は固かった。
詐欺のような手口で、乾紗寿叶の殺害を煙に巻いて、モクバの同行の継続と追及の矛を逸らしたまでは良かったが。
その後、ここを離れる前に遺体を埋葬するとモクバは息巻いた。
それは彼なりの細やかな抵抗でもあり、僅かばかりの罪悪感を消せればとの逃避行為でもあるのだろう。
やるならば、お前が一人で勝手にやれと言いたかったが。
ドロテアにしても、モクバをまだ手放すのは惜しい。また先のように時間制限を設ける手法も、二度目は通じ難い。
今度こそモクバが断固として残ると言い張られれば、それはそれでドロテアも面倒だ。
それに遺体の埋葬程度、ドロテアの怪力ならば造作もない。遺体の位置もはっきりしている。
三人と一匹分の穴を掘って埋めるだけならば、まあそう時間も掛からず終えられる自信もある。
それでも憚られるが、だがモクバを切り捨てるのを考えれば、負えないリスクという訳でもない。
絶妙なバランスでの主張に、ドロテアも渋々従った。
───けっきょく、あんたたちもおなじじゃない。
「……ッ」
ドロテアの手によって、土を被せられていくミイラのようになった少女の遺体。
モクバは、それを終ぞ最後まで見届けることは出来なかった。
埋葬を扇動したのはモクバだが、実際にそれを行わせるのはドロテアだ。
卑怯だと、自分でも思っていた。
「フン、いい気なものじゃな。偽善者め」
呆れかえったと言った声色でドロテアも皮肉を飛ばしてくる。
モクバは何も言い返せない。
1人と1匹を埋めて。モクバはドロテアに礼を言うことも、冷たい地中に埋められた少女と不思議な生き物に謝罪も弁明も言えずに、黙って海馬コーポレーションを後にする。
それから、近くで亡くなっていたのび太を発見し、埋葬した。
その時はモクバも、のび太の遺体を引き摺るように運ぶことができた。
全く、なんて分かりやすい精神なんだろうと、モクバは自嘲する。
自分に全く非がないと思い込んでるのび太相手には罪悪感など全くなく、哀れみだけで接することができたのだ。
「……あれ」
「なんじゃ?」
「こいつ、頭に変な傷がある」
首輪を回収し、のび太の遺体を埋めようと、ドロテアが掘っておいた穴に安置しようとして、奇妙な傷を発見した。
後頭部に刺し傷があり、それは明かな致命傷であった。
事の一部始終を知らない者が見れば、哀れな殺し合いの犠牲者なのだと特に気にも止めなかった。
だがモクバは悟飯とのび太が言い合い、悟飯がのび太を吹き飛ばしたのを目撃している。
あれで死ぬとしても、こんな鋭利な傷跡は付かないだろう。
美柑を殺害したと思わしき射撃主の事もある。この頃から、既に潜伏してのび太も悟飯が殺めたかのように、偽装して殺害したのではないか。
のび太を殺害したのは、悟飯じゃない?
「チッ、面倒じゃな」
ドロテアは舌打ちする。
今更、悟飯にのび太の事を話してもそれでどうこうなる話ではないが。
あの場でドロテアやイリヤ達はおろか、悟飯にすら感知されずに凶行に及んだ手練れがいるのは厄介だ。
少なくとも視界から完全に写らないだけの、透明になれるような特殊な力を持ち得ていると考えられる。
この瞬間も、既に近くに息を潜めて機を伺っている可能性もある。
さっさとのび太ともう一人、美柑を埋めて早く立ち去りたいものだ。
ガッシュや最悪の場合、フリーレンという凄腕の魔法使いに土下座でも靴舐めでもなんでもして、取り入りたい。
写影と桃華だって腹正しいが、今すぐ殺さなくても良いだろう。
こっちが死ぬか生きるかの辛い目にあっているというのに、何処ぞで甘酸っぱいボーイ・ミーツ・ガールをしていると思うと腸が煮えくり返りそうだ。
「ヤバい!! 髪の毛の女だ!!」
腰を抜かして素っ頓狂な声で叫ぶモクバを尻目に、ドロテアはその声が指す方向へ振り返る。
そこにいたのは、見るも無残な美柑の死体の前で崩れ落ちるヤミだった。
『何でお前は!雪華綺晶さんを殺したんだぁ─────ッ!!!』
服を着ていないあどけない少女の姿に、まるで幽霊を見たような叫びをモクバが上げたのは、悟飯の叫びが理由だった。
あの口ぶりから、金髪の少女が殺し合いに乗っていたようなのは伺えた。
圧倒されていたとはいえ、悟飯相手にそれなりに粘れる強さは、相手が悪すぎただけで、モクバ達にとっては驚異的な実力の持ち主だ。
それだけの力と危ない思想も備えた相手を警戒しない理由がない。
いくら全裸だろうと、そんなものに反応する余裕すらなかった。
「いや…そう恐れることはないかもしれんぞ」
しかし、対照的にドロテアは口許を釣りあげた。
それは容姿通りの子供のような無垢な笑みではなく、狡猾な老齢の魔女の冷笑であった。
モクバを置き去りに駆け出し、自害しようとするヤミの腕を掴んでは離さない。
(ほう……あの時より、弱まっておる)
悟飯との戦闘後のダメージや精神的な負担も理由かもしれないが、もっとも大きな理由として、恐らくは戦闘向けの形態だったのを解除したのが原因だろうとドロテアは当たりを付ける。
角や爪の消失など外見の変化もあり、また先程の悟飯戦よりも好戦的な様子が鳴りを潜めている。
これは、ひょっとすればとドロテアは思う。
(使えるやもしれぬぞ)
弱体化したとはいえ、力量は油断ならない。
ナイトレイドかイェーガーズに所属しても、見劣りしない実力は兼ね備えているだろう。
ドロテアへ視線を向けた反応からしても、荒事にはこちら以上に手慣れている。
今は自暴自棄になっているが、ドロテアが心の隙に付け入り、思うように誘導できるのであれば。
今頃、何処かで乳繰り合って盛っているだろう写影と桃華に、何かある事ない事吹き込まれているかもしれないガッシュやフリーレンよりも。
これ以上ない手駒が完成する。
「妾達は殺し合いに乗っておらぬ。丁度、その少女を供養してやろうと思っていたところでの。
どうじゃ? どうせ一度捨てようとした命、妾達に預けてくれぬか」
(あいつ抜け抜けと……)
美柑達の埋葬はモクバの発案で、ドロテアはまるで乗り気でなかったのに。
ヤミを見付けて利用価値を見出した途端に、発言を百八十度反転させ、あたかも善良な心優しい少女を演じ始めた。
「モクバよ。こやつを見捨てる訳にはいかぬ。
連れていくが、構わぬな?」
そして、ドロテアの目論みに気付きながら、モクバはそれに異を唱えることは出来ない。
目を赤くして泣いて自害しようとした少女を、放っておく真似は気が引ける。それにドロテアの企みは、モクバにとっても益になる。
この金髪の少女がこちらの味方になってくれるのなら、それはとても助かることだ。
「……あぁ」
ほんの数時間前ならば、ドロテアの手際の良さと人の心の弱さを見抜く手腕に感心し、頼もしさすら覚えたかもしれないが。
カツオを死なせ、永沢を知らぬ間に殺され、沙都子にまんまと乗せられ悟飯の暴走を担がされ、名も知らない少女をドロテアに殺され止めることも出来ずに。
何もやれなかった今のモクバには、それが恐ろしく不安で溜まらなかった。
また、次にドロテアが凶行に及んだ時に、今度こそ本当に自分は止められるのか。
「分かってる……」
項垂れたまま、ドロテアに余計な詮索をされないよう、感情を読まれない為の小さな防御として顔を見合わせぬまま。
モクバは消えそうな声で肯定した。
【一日目/日中/E-7】
【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、エネルギー残り(小 賢者の石から補填可)、美柑の前で絶頂したショック(超々極大)、敏感、全裸、自暴自棄
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:……
0:私の、せいです。
※ダークネスが解除されました。戦闘力も下がっています。
※ダークネスには戻れません。
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]悟飯への恐怖(大)、雛見沢症候群感染(レベル1〜3の何れか)
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品×2、の首輪×4(城ヶ崎姫子、永沢君男、紗寿叶、のび太)
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、
チョッパーの医療セット@ONE PIECE、飛梅@BLEACH、ランダム支給品×0~2(紗寿叶の物)
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:この金髪女を手駒にするのじゃ!! KCからもさっさと逃げるのじゃ!!
1:とりあえず適当な人間を殺しつつドミノと首輪も欲しいが、モクバは…理屈を捏ねれば言い包められるじゃろ。
2:写影と桃華は絶対に殺す。奴らのせいでこうなったんじゃ!! だが、ガッシュとフリーレンが守ってくれるのなら、許さんでもない。
3:モクバ、使い道あるか? 別の奴が解析を進めてなかろうか。乗り換えたいのじゃが。
4:悟飯の血...美味いが、もう吸血なんて考えられんわ。
5:透明になれる暗殺者を警戒じゃ。
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:精神疲労(大)、疲労(絶大)、ダメージ(大)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢と紗寿叶が死んだという自責の念(大)、キウルを囮に使った罪悪感(絶大)、沙都子に対する怒り(大)
[装備]:青眼の白龍(午前より24時間使用不可)&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 、ホーリー・エルフ(午後まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:……金髪の娘が仲間になってくれれば、助かるけど。
1:悟飯から逃げる。
2:ドロテアと組んで、もう…どうにかなる話じゃないだろ……。
3:ドロテアと協力…出来るのか? 俺、抑えられるのか?
4:海馬コーポレーションは態勢を立て直してからまた訪れる。……行けるのかな…。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか?
8:沙都子は絶対に許さない。
9:俺は……あの娘の埋葬をドロテアにやらせて、卑怯だ……。
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
投下終了します
藤木茂、奈良シカマル、龍亞、ガッシュ・ベル、風見一姫、木之元桜、江戸川コナン、日番谷冬獅郎
予約と延長します
投下します
藤木茂は今もずっと、怖くて怖くて仕方がなかった。
デパートでの戦いで、ネモ達は自分を完全に殺すつもりだった。
一度は圧倒する事ができたけど、結局は逆転されてしまったし。
次はもう、向こうも本気で殺しに来るはずだ。
卑怯者の癖に、自分達が正しい側だと思い込んで、悟空を唆して。
もしネモに悟空と合流されれば、さも自分が悪者であるかのように吹き込むのだろう。
殺そうとしていたのは、ネモだって同じなのに。
それに、俊國の事も怖い。
デパートの戦いでは彼からの教えに助けられたけれど。
それでも先ほど突き付けられた話が、何度も脳裏を過る。
曰く、俊國は自分を利用しているだけだと。
頃合いを見て自分を食い殺し、折角手に入れた雷の力を奪うつもりだと。
そんなことは無い、彼は自分の味方だ。そう言いたかった、否定したかった。
でも、最後に言われた問いかけのせいで否定できない。
乃亜は、願いを叶えて生きて返すのは一人だけだと言っていた。
そして、俊國も明らかにこのゲームに乗っていた。
それが意味する所は、つまり。
彼もいずれ自分を殺すつもりだということ。
誰も、信用できない。
彼にはお世話になったけど、食い殺されるなんて御免だ。
殺される位なら殺してやる。自分一人の力では無理かもしれないけど。
ネモ達の様な奴らと俊國を潰し合わせた後なら、きっと勝てる。
なんせ、今の自分はもう──────“殺せる”側の人間なのだから。
「お兄さん、眼の傷は大丈夫?」
「ピィカ?」
「藤木君、大変だったんだね……怖い人たち相手に………」
「ふ…ふふ、大丈夫。ま、まぁ運が良かったのもあるけどね………」
小学校を後にしてから、十五分ほど後に出会った一団。
今の同行者達…眼鏡の年下の子と、変な黄色の動物から心配されて、少し嬉しい。
更に城ケ崎さんより可愛い子に褒められ、ネモの悪口もブチ撒けられて気分がよかった。
今しがた出会った四人はここまで生き残って来ただけあって、それなりに強そうだ。
これなら、俊國と潰し合わせる“生贄”として丁度いいだろう。
「───ウム!これからは私が藤木を守るから安心するのだぞ!」
金髪の子供が無駄に暑苦しく、息巻いて言葉を掛けてくる。
自分を全く疑っていないその瞳を見て、心中で藤木はほくそ笑む。
あぁ、言う通り役に立っておくれよガッシュ君。僕が勝ち残る為に。
できれば、君が俊國君に勝ってくれた方が嬉しいんだから。
俊國君より、俊國君との戦いで傷ついた君を殺す方がずっと楽そうだしね。
その時は容赦はしないよ。どうせ君だって、僕がやった事を知ったら───
ネモみたいに怒って僕を殺そうとするんだから。だから、僕は悪くない。
───デパートで言ってた永沢って人、きみの友達だよね。
───なら、どうして皆に言ってくれなかったんだ。
───シカマルもネモも…きっと、助けてくれたよ。
これ以上、僕を否定するな。
そう心の中で呟き、頭の中にまた浮かび上がった言葉を、嘲笑って切り捨てる。
そんな事言われた所で、もうすべて遅いのだから。
今更自分が悪いって現実に向き合えるほど、自分は強くない。
欲しいのは、そんな言葉じゃない。
だから、これから俊國と出会ったガッシュたちを潰し合わせる。
俊國が勝てば、弱った俊國に真意を確かめ、もし本当に自分を殺すつもりなら逃げる。
逃げて、また別の参加者をけしかけて、弱り切った所を殺す。
もしガッシュたちが勝っても消耗しているだろうから、纏めて殺せるかもしれない。
実に暗殺者らしくて格好いいし、今の自分にはそれができる自信がある。
何しろ今の自分はもう“殺せる”神───シン・神・フジキングなのだから。
そう考えながら、藤木はガッシュたちに出会う少し前の事を想起し、再びほくそ笑んだ。
彼の背後で眼鏡の少年と、銀髪の少女が訝し気な視線を向けているのにも気づかずに。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
将棋で言えば、飛車角どころか六枚落ちの状況だな。
そんな弱音めいた考えが、シカマルの脳裏を過った。
タブレットのディスプレイに表示される地図を検め、何処へ向かうか思い悩む。
まず、思い当たるのはモチノキデパートだが。
ネモ達も含めバラバラに会場の各地に飛ばされたのなら、既にデパートはもぬけの殻。
それどころか、迂闊に近づけば襲撃してきたマーダーと鉢合わせる恐れすら存在する。
「シカマル……」
傍らでは龍亞が小さく声を掛けてくる。彼も不安なのだろう。
赤き竜のシグナーとして、命を賭けた決闘は何度か経験していると言っていたし、
実際メリュジーヌとの戦いで最も奮戦してくれたのは龍亞だが、それでも。
それでも彼はこんな血なまぐさい命のやり取りを経験したことは無いはずだ。
使用するカードの時間制限も考えれば、安定した戦力とは見込めない。
だから中忍として小隊を率いる訓練を受けた自分が何とかせばならないが……
現在シカマル達が置かれている状況は、ブラックと出会う前の状況に等しい。
ネモも、フランも、ブラックも、無惨も。
およそ戦力として見込める協力者とは全員引き離されてしまったからだ。
状況は一言で言って最悪。そんな中で、シカマルは掌を軽く開いた状態で指を重ねる。
思考を整えるルーティーンを行い、現状の最善手を導く。
(落ち着け…少なくともネモの奴が向かう場所は共有されてんだ。
だったら、梨沙も生きてたらそっちへ向かう可能性が高いはず………)
各々が今現在どこにいるのかは分からない。
だが、デパートの中に集った脱出派達が目指す場所にはおおよその見当がつく。
それは即ち、人理継続保証機関フィニス・カルデアだ。
脱出のキーパーソンであるネモは、そこで何を行うのかは伏せていたが。
だが少なくとも放送後にそこへ向かうと言う情報はあの場にいた参加者に共有されていた。
「…龍亞、これから俺達は梨沙が行きそうな場所
ライブ会場やデパートに寄りながらカルデアを目指す」
「そっか!梨沙もカルデアに行くって事は知ってたもんね!」
シカマルが冷静に方針を提示した事でいくらか緊張が紛れたのか。
納得の感情が籠った声をあげる龍亞だったが、その直後に懸念も口にする。
もし、梨沙が第三芸能課とかを目指していたら、と。
カルデアと言う目的地は共有している以上、それは無いと信じたかったが。
でも、それでももし一人で飛ばされたのなら、心細さで正しい判断ができるかどうか。
そんな彼の懸念に、シカマルは沈痛な面持ちで首を横に振った。
「悪いが、これから俺達が寄る場所に梨沙がいなければ…
とてもじゃねぇが、梨沙の奴を探す余裕はねぇ。ネモ達との合流を優先する」
「……そんな、それじゃ、梨沙は………」
「頼む、分かってくれ龍亞。今の俺達は、テメェの身を護る事さえ危ういんだ」
青褪めた表情でシカマルの言葉に反論しようとする龍亞の言葉を遮り。
シカマルは、眉根に皺を作りながら頭を下げ頼んだ。
納得できないのは分かっている。それでも、今は飲み込んでもらわなければいけない。
そうでなければ、梨沙も自分達も共倒れになる可能性が高いのだから。
ナルトならば小隊長として、上司として命令する事もできたが。
龍亞はこの場で出会ったばかりの忍でもない一般人だ。
シカマルの言う事を聞く義理はない以上、ただ頭を下げる事しかできない。
「……分かった。頭何て下げなくても大丈夫、俺はシカマルの言う通りにするから。
シカマルは頭が良いし、これまでずっと俺達のために色々考えてくれたじゃないか」
思いは、伝わった。
顔を上げた先の龍亞は、複雑な感情を抱いた顔をしていたが。
それでもシカマルに対する疑心や他責の感情は一切向けていないのが見て取れた。
そう言った類の感情があるとすれば、ただ己への無力感だけで。
だから龍亞は、迷うことなくシカマルに信頼の言葉を口にすることができた。
「………悪いな」
木の葉の忍でないにも関わらず、信頼の言葉と感情を向けてくれる龍亞に対して。
シカマルもただそれに応えねばと言う強い思いを抱く。
龍亞や梨沙の“これまで”について知っている事は殆どないし。
深い間柄かと問われれば否定するだろう。
当然、里が受理した正式な依頼という訳でもないけれど。
でも、それでも二人は仲間だった。
シカマルの言葉を信じ、シカマルについて来てくれた。
ならば生かして家に帰してやるのが、“火の意志“で、この葉隠れの里の忍者だ。
「……よし、まずはライブ会場に寄って、それからデパートに向かうぞ。
交戦は可能な限り避ける。マーダーと会っても基本は逃げの一手だ。いいな」
「うん!」
力強く頷く龍亞を見て、己の中の使命感を必死に鼓舞する。
面倒くさいとは口にしなかった。面倒だと感じる余裕すら今はないからだ。
ともかく一刻も早く、ブラック達と合流しなければならない。
生き残るべくその一心で、二人の少年は駆けだした。
─────その、矢先の事だった。
二人の後方で何かが光り。
ズバチイ!という、火花が散るような音がシカマルの耳に届いたのは。
それを皮切りに、二人にとって状況は最悪の推移を見せる。
「う、ぁあああッ!!」
肉の焦げるジュッという音と匂いが、シカマルの鼻孔を擽る。
まさか、と言う思いと共に傍らを見れば、悲鳴を上げて龍亞が崩れ落ちていた。
龍亞の名を叫びながら、シカマルは地に伏した彼の身体を担ぎあげる。
アカデミーの時に教わった生死の確認方法が活きた。
致命傷ではない、意識もかろうじてだが保っている。これもシグナーとやらの恩恵か。
だが、危機はまだ始まったばかり。というよりむしろこれからだ。
雷光が瞬き、シカマル達へ死線の到来が知らしめられたのは直後の事だった。
「ち、くしょうがァあああああああああッ!!!」
咆哮を上げ、眼を血走らせて決死の疾走を開始する。
だが、龍亞という足かせがいる以上、大したスピードは出せない。
そんなシカマルの背後で、バリバリィッという大気を引き裂く雷音が響き。
情け容赦なく、彼の視界を光が塗りつぶした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
考えておくべきだった。
あの黒い渦で飲み込んできた敵とグルだったのかは定かではないが。
それでも自分達が飛ばされた近辺に、奴もまた飛ばされている可能性を危惧すべきだった。
奴に偽無惨という協力者がいたのはネモに聞いている。
黒い渦の効果であの小心者もまた飛ばされたのなら。
当然、頼りにしている偽無惨との合流を目指すだろう。
例え自分達の方が目的地に近い配置で飛ばされていたとしても。
雷に姿を変えて移動できる相手なら僅かな距離の優位など何の意味もない。
むしろ、自分達が遠かった方が、やり過ごせた可能性が高く。
くそったれと、シカマルは逃げ込んだ小学校の校舎の玄関口で毒を吐いた。
「シカマル……大丈夫だよ、オレ………」
隣には電撃を受けてぐったりとした龍亞がへたり込んでいる。
ここまで何とか連れてこられたが、限界なのは一目で分かる状態だった。
これ以上は動かせない。恐らく、痺れのせいで立ち上がる事すら厳しいだろう。
それはつまり、自力での逃走が不可能になったことを意味する。
恐怖で恐慌に陥ってもおかしくない状況。
しかし、それでも龍亞は懐からカードを取り出し、シカマルへと笑いかけた。
「へへ…ラッキ。スターダスト…ちょっと焦げたけど、ちゃんと無事だ。
大丈夫だよ、シカマル……スターダストさえ呼び出せば。あんな奴………」
「……………………」
得意げに、シカマルを気遣う様に。
龍亞はスターダストを呼び出し、襲撃者を追い払う意志を見せる。
だが、対するシカマルの返答は沈黙だった。
無言でIQ200超えの頭脳をフル回転させ、客観的な事実を精査する。
確かに、メリュジーヌとすら渡り合ったあのドラゴンであれば。
あの小心者は追い払える可能性は、高い。しかし、絶対ではない。
龍亞が動けない事を考えれば、相打ちや此方が敗れる可能性も十分にある。
そして、もし首尾よく追い払えたとして、その後は?
もし敵手がスターダストの消えた後に引き返して来たら?
もし現状の危機を脱した後に、直ぐに別のマーダーに襲われたら?
「…………………………………………………………………いや」
長い沈黙の後に、シカマルは無言で首を横に振った。
カードを介してのモンスターの口寄せは融通が利かない。
一度呼び出せばまた半日は使えなくなってしまう。
そうなれば、“独り”の龍亞が身を護る術はなくなり、無防備になってしまう。
それに、メリュジーヌすら追い返せる戦力を奴に割くのは収支が合わない。
龍亞が信頼し、切り札と見ている流星の龍を切るべき時は、今ではない。
その方が、きっと多くの人を守れるはずだから……
シカマルはカードゲーム何てロクにやったことは無かったけど。
将棋は父親とこの年までずっとやってきた為、駒の動かし方は分かっているつもりだ。
だから、彼は厳然と決断を下す。
「お前はここまでだ、龍亞。後は俺に任せろ」
「…………え?」
予想していなかった答えに、龍亞が呆けた声を漏らす。
表情も何を言っているのかわからない、そんな顔で。
だが、残念ながら彼の理解を待っている時間は、シカマルにない。
必要な物を自分のランドセルから取り出し、残りを龍亞へと押し付ける。
そして、龍亞のランドセルに入っていた一枚のカードを掲げた。
それを阻む手段は痺れで満足に動けない龍亞にはなかった。
「………ッ!?そんな…ダメだ。ダメだよシカマル。待って………っ!」
シカマルがカードを掲げて数秒後、龍亞のカードが光に包まれ浮かび上がる。
その時に、彼は見た。シカマルの背中と、彼の浮かべた表情を。
彼の背中は龍亞を庇ったのか、焼け焦げており。
皮膚が引き裂け、緑のベストが赤黒く染まるほど血に染まっていた。
それに気づき、視線を自分の胸や腹部の辺りに向けてみる。
すると今迄は自身も受けた電撃のダメージと、肉の焦げる匂いで気づかなかったが。
背負われ運ばれる際についたと思わしきシカマルの血が、べったりとこびり付いていた。
致命傷という三文字が、龍亞の脳裏に浮かび上がる。
そして、その頭に浮かんだ文字を裏付ける様に、垣間見たシカマルの表情は。
同じものだった。割戦隊と戦った時に浮かべていた、勝次の表情と。
「嫌だ!待って!何で……何でなんだよ、シカマル!!!」
「俺はもう助かねぇ…ここで全滅するわけにはいかねーんだ。
それに、そのカードの効果は、一人分らしいからよ」
敵一人飛ばせればそれが一番だったんだがな、乃亜の野郎…余計な真似しやがる。
毒づきながらごふり、と。内臓も損傷したのか、口の端から血を垂らして。
何処か皮肉気に、シカマルは龍亞に対して笑いかけた。
そんなシカマルに向かって、右手を伸ばそうとするが、届かない。
今の彼にできる事は、叫ぶことだけだった。
「くそ!待ってくれ!待ってくれよシカマル!!シカマル──────ッ!!!!」
龍亞の身体は何かの機械に包まれて…そしてシカマルの姿が、彼の前から消え失せる。
その刹那、龍亞は確かに聞いた。自分に向けられた、シカマルの最後の言葉を。
彼は煙草を咥えくたびれた顔を浮かべながら、それでも最後まで笑い。
生き残れよ。
それが、最後だった。
海岸線が見える場所、恐らくはエリアの端の辺りへと転送されて。
痺れという戒めに苛まれながら、龍亞は大地に両拳を叩き付け打ちひしがれる。
「なんで…何で何だよ…勝次も、シカマルも……何で俺一人、生き残らせようと……」
泣くなと自分に言い聞かせる。
泣いていられる時間はない、自分はシカマル達に託されたのだから。
一刻も早く、あの雷の脅威を他の対主催に伝えないといけない。
梨沙も探して見つけてやらないといけない。体の痺れも抜けてきている。
動けるようになり次第行動開始しなければならない。
理解していても涙は一向に止まらず。立ち上がる事はまだ叶いそうにない。
───たった独り生き残ってしまう絶望は、幼きシグナーにとって余りにも重かった。
【一日目/日中/G-8】
【龍亞@遊戯王5D's】
[状態]ダメージ(小)、体に痺れ(中)、疲労(大)、悲しみ(大)、右肩に切り傷と銃傷(シカマルの処置済み)、
全身に軽度の火傷、殺人へのショック(極大)
[装備]パワー・ツール・ドラゴン&スターダスト・ドラゴン&フォーミュラ・シンクロン(日中まで使用不可)
シューティング・スター・ドラゴン&シンクロ・ヘイロー(2日目黎明まで使用不可)
龍亞のデュエルディスク(くず鉄のかかしセット中)@遊戯王5D's、亜空間物質転送装置(夕方まで使用不可)@遊戯王DM
[道具]基本支給品×3(龍亞、シカマル、勝次)、DMカード1枚@遊戯王、
フラッシュバン×5@現実、気化爆弾イグニス×3@とある科学の超電磁砲、首輪×3
シカマルの不明支給品×1、モチノキデパートで回収した大量のガラクタ
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
0:なんでだよ…勝次も、シカマルも……
1:梨沙と首輪を外せる参加者を探す。
2:沙都子とメリュジーヌを警戒
3:モクバを探す。羽蛾は信用できなさそう。
4:龍可がいなくて良かった……。
5:ブラックの事は許せないが、自分の勝手でこれ以上引っ掻き回さない。
6:藤木は許せない……
7:誰が地縛神を召喚したんだ?
[備考]
少なくともアーククレイドルでアポリアを撃破して以降からの参戦です。
彼岸島、当時のかな目線の【推しの子】世界について、大まかに把握しました。
締め切った教室の一室で。
煙草に火をつけて、煙を吸い込み吐き出す。
多分これが、人生最後の一服になるだろう。
もしかすれば、もう一度くらいは可能性はあるかもしれないがな。
そう独り言ちながら、並列的に思考を巡らせる。
龍亞は、ちゃんと安全な場所に辿り着けただろうか。
彼には、酷い事をしたと思っている。
直前に参加者にも適用される効果を持つカードがある事を知らなければ。
もしかしたら龍亞とは今も一緒にいたかもしれないが、詮無い話だ。
今のシカマルが龍亞にしてやれることはもう、彼の幸運を祈ることだけなのだから。
何しろ他人より多少頭が回ったとしても、運に見放されればこの通り。
結局の所、このバトルロワイアルで一番必要とされるものは。
武勇でも智謀でもなく、運なのかもしれない。
自嘲しながらも、“失敗した場合”の仕込みに勤しむ。
支給された救命装置、AEDと言う名のそれを起動状態にして。
電撃を放たれた時に累が及ばぬ様に、自分の立つ場所とは反対の地点にそっと滑らせた。
これでよし。これで、“証拠”と、上手く行けば敵の能力すら暴露が可能となる。
「こればっかりは、面倒くせーとか言ってられねぇよな……」
視界が霞む。手足の先から冷たくなっていくのが分かる。
だが、まだ倒れる訳にはいかない。まだ、やるべき仕事が残っているのだから。
それを終えるまでは斃れる事は許されないと、全身に残った身体エネルギーを振り絞り。
先に死んでいった勝次と言う戦友の顔を思い浮かべながら、煙草の火を消す。
そして、そのタイミングを計った様に、バチバチと雷に変えた身体で扉を透過し。
彼の前に、ニタニタと笑みを浮かべた下劣な死神が姿を現す。
「フフフフ……やっとみつけたぁ…!」
ボロボロの姿で立つシカマルの姿を認めて、藤木茂が快哉を上げる。
見つけたのは、偶然だった。
俊國と合流しなければとデパートに戻ろうと、雷に姿を変えて移動していた矢先。
同じくデパートに向かおうとしていた二人の背中を発見する事が出来たのだ。
襲おうかどうしようか迷ったが、自分は今暗殺者になろうとしているという時に。
あの二人に悪口を言いふらされたら、台無しになってしまう。
そうなる事を想像したら、酷く怖くなって。どきんどきんと鼓動が五月蠅くなり。
気が付いたら電撃を撃っていた。
自分に偉そうに物を言ってきた緑の髪の男の子も、シカマルも。
電撃が当たったら、拍子抜けするほどあっけなく追い詰める事ができた。
今近くにネモもフランも存在せず、好きに嬲れると気づいたのは直後のこと。
龍亞と呼ばれていた子もシカマルも、今の藤木にとっては獲物にしかならない。
さっきまで感じていた良心の呵責何て、圧倒的優位の優越感の前に吹き飛んだ。
電撃を放ちながら追い立てると、ちょこまかと必死に逃げていたが遂に追い詰めた。
どうやら連れていたもう一人は逃がした様だが、元々狙いはシカマルだ。
この島に連れてこられた自分に初めて屈辱を味合わせた相手。
漸く仕返しができる。シカマルをやっつけてこそ、自分は真のヒーローになれるのだ。
「も、もう一人は逃げちゃったのかい?見捨てられちゃったんだろ?」
手の届く範囲まで迫った勝利の二文字に、高揚感を抑えきれない。
もう少しだ。もう少しで敗北の雪辱を晴らし、この劣等感を拭う事ができる。
それを考えれば、獲物を一人逃がしてしまった事さえ些事でしかない。
むしろ、反撃される恐れが減って有難い位だ。
ほくそ笑みながら、藤木はシカマルに対し龍亞への愚弄を口にする。
しかし、シカマルの返答は藤木の期待とは大きくかけ離れた物で。
同行者に対する嘲りの言葉に対し、シカマルが返した返答は、嘲笑。
藤木は自身への侮蔑に対して人一倍敏感だった。
何が可笑しい!と怒りを露わにした態度でシカマルに喋る事を促す。
何時でも獲物へと向かって雷を発射できる態勢で。命乞いを始める事を期待して。
だが、やはりシカマルが藤木の期待通りに動くことは無く。
「………お前、ちょっとホッとしただろ」
「……な、何だって?」
「龍亞が此処にいなくて、ほっとしただろって言ってんだよ。
お前、俺はともかく龍亞を殺すのは怖気づいてただろうが」
───デパートで言ってた永沢って人、きみの友達だよね。
───なら、どうして皆に言ってくれなかったんだ。
───シカマルもネモも…きっと、助けてくれたよ。
シカマルの言葉によって残響の様に脳裏に響く、龍亞からかけられた言葉。
自分が最初から間違っていたことを突き付けてくる言葉。
条件づけられた犬の様に、龍亞の名前が出ると同時に、彼の言葉が思い起こされて。
自分が、怖気づいている?あの、シカマルよりも自分に対し何もできなかった男の子に?
違うと否定しようとしたが、言葉は直ぐに出てこず。
シカマルが藤木の心境を読んだかのように「違わないね」と先んじて言葉を突き付けた。
「お前は龍亞に一番後ろめたい部分を言い当てられて、怖気づいたのさ。
でなけりゃ、龍亞が受けた電撃の損傷があんなに軽いはずはねぇ」
シカマルが外傷を確認した所、龍亞のダメージは目に見えて軽かった。
藤木が龍亞を気遣って…と言う可能性はない。断じてない。
すぐ後に自分が遥かに強力な電撃を浴びせられたからこそ断言できる。
では、何故龍亞のダメージだけが軽かったのか。簡単な話だ。
「龍亞に言われた事が後ろめたかったんだろ?」
「そ、それは………」
図星だった。
最初に奇襲をかけた時にも、龍亞に言われたことが蘇って。
だから殺すよりも足手纏いを作った方が逃げられないと、無理やり言い訳して。
本当は、龍亞にまた「何でこんなことするんだ」と哀しい目で見られるのが嫌だったから。
自分が全部悪いって、何度も突き付けられるのが怖かったから。
だからシカマルを倒す前に、龍亞の意識を奪おうとした。
それを見抜かれて、呆然と立ち尽くす。続くシカマルの話に耳を傾けてしまう。
「考えて見りゃ、お前は最初に梨沙と俺を襲った時からそうだった。
臆病なくせに、手に入れた借り物の力に酔いしれずにゃいられねぇ…一貫してるよ」
奈良シカマルから見た藤木茂は、悪人では無かった。
ただひたすらに、愚かで弱いのだ。
想像力も思考力も無いから、悪人でもやらないような合理性を欠いた真似に手を染め。
自分の弱さを認める事ができず、常に他人に責任を擦り付ける。
そして、自分の劣等感から目を逸らすために手に入れた力で人を傷つけずにはいられない。
あぁ、殺し合いの促進のためにはこれ以上ない人材と言えるだろう。
だからこそ乃亜は彼を招き、彼に身の丈に合わない力を与えたのだ。
「安心しろよ、龍亞はああ言ったが……
お前があの時仲間にしてくれって頼んだ所で、結局こうなってたさ、何でか分かるか?」
嫌だ、と思った。
見下されるのも、蔑まれるのも。失望したような顔を向けられるよりはマシだ。
龍亞にデパートで自分が悪いと突き付けられた時は心の底からそう思っていた。
でもこれはダメだ。だってきっとシカマルがこれから言おうとしている事は。
藤木茂が、それ以外のif何て最初からなかったと突き付けるモノだから。
もしかしたら、これ以外の道もあったかもしれないという夢想すら奪うものだから。
口をふさがなければ、そう思うモノの、身体は鉛になったかのように動いてくれない。
それを猛禽の様に鋭い視線で睨みながら、シカマルは容赦なく言葉を放つ。
「ネモがお前の事を信用しなかったのはお前がイケてねー奴だからじゃねぇ……
テメーの薄汚い性根のせいだよ。恩を仇で返して、弱い奴を真っ先に狙う。
そんなクズ野郎をどうやって信用しろってんだ。よく被害者面できたもんだな、あぁ?」
その言葉に、藤木は目を見開いて、違うと叫んだ。
ネモがフランやしおを贔屓してたのは事実だ、そうでなくてはいけない。
全部彼奴が悪いんだ。そもそも彼奴が悟空を独り占めして無ければ永沢君も───
そう吼えた。だが、そんな詭弁はシカマルには全く効果が無かった。
「仮にそうだとしても、ここまで一貫してマーダーやってるテメーが言えた義理かよ。
第一、テメーが永沢って奴を生き返らせようとしてるとは俺には思えないね」
ぎくり、と。
そんなことは無いと否定できるはずの台詞を、否定できなかった。
図星を突かれた様に押し黙ってしまう。違うの三文字が喉から出てこない。
さっきは、あんなに簡単に口にすることができたのに。
代わりに出てきたのは、何でそう思うんだと言う暗に認める様な台詞だった。
「取り合えず真っ先に言える一番大きな理由は……お前、偽俊國の事信じ切ってるだろ?」
「え………?」
予想外の名前が出てきたことに困惑し、やはり反論の言葉は紡げない。
いやむしろ、今のシカマルの話は聞き逃すべきではないと第六感が告げていた。
耳を傾ける体勢となった藤木を見て、シカマルは更に弁舌を振るう。
何故なら、彼にとってもこれは後々の為に行っておかなければならない仕事だから。
「本物の俊國が言ってたよ、お前と一緒にいた方の俊國は食った相手の能力を奪える。
つまり、奴がお前といるのはお前と友達になりたいからじゃない、お前を利用して……
用済みになった頃合いでお前を殺して、その雷の力を奪うためだよ、賭けてもいい」
「で、デタラメ────」
「デタラメだって言うなら、何で偽俊國はお前を一人で特攻させた?
案の定お前は返り討ちに遭って、あの妙な黒い渦に呑まれなきゃそのまま死んでた。
あの黒い渦が偽俊國の狙ってやったことなら、お前まで飛ばす理由がねぇ」
「……………!!」
藤木の顔が驚愕に染まる。
それを見て、狙い通りだとシカマルは心中で笑みを浮かべた。
彼に残された最も大きな仕事、それは偽俊國に藤木の能力が渡らない様楔を打ち込む事だ。
何しろ、藤木程度の三下が振るっても強力に過ぎる能力。
それが素でブラックと渡り合える偽俊國に渡ってしまえば……
対主催に未来はない。故に、それだけは絶対に阻止しなければならない。
だから彼は藤木茂の臆病さ、屑さを利用する。疑心暗鬼を引き起こす。
その為に決定的な、決め手となる一言を、躊躇することなく口にする。
「何より───乃亜の奴も言ってただろ?生き残れるのは一人だって。
立場が逆なら、態々乃亜に逆らってまでお前は偽俊國の奴を生かそうと思うか?」
「ぁ………ッ!!」
その言葉が決め手となった。
自分ならどうするかと言う話になった事で、藤木も想像せざるを得ない。
自分が最後の二人になったら、どうする?
乃亜に逆らってまで、俊國を生かそうとするだろうか?
提案するくらいなら、してみるかもしれない。だが、できてそこまでだろう。
もし乃亜が生き残れるのはあくまで一人と言えば……その後の事は考えるまでも無い。
余り考えたくない事だが、俊國もきっと最後に一人になる事を目指すだろう。
だって彼は、シュライバーの様に何も約束はしてくれていないのだから。
そして、もしそうなった時に…自分は俊國に勝って優勝する事ができるのか?
あの怖い怖い俊國を相手に?
「ようやく気付いたみたいだな。そうだよ、能天気に偽俊國をアテにしてるお前は…
本気で優勝しようなんて思っちゃいない。成り行き任せで考えなしに流されてるだけ。
自分はダチの為に何かやってる…そう誤魔化すために、ダチの名前を利用してるのさ」
本当に永沢の事を生き返らせようなんて、思っちゃいない。
藤木茂が力を振るうのはただ単に、他人を攻撃せずにはいられない臆病さと。
手に入れた力を振るいたいという幼稚な自己顕示欲を満たすための建前。
そうシカマルは断じ、追い打ちをかけるように更に畳みかける。
「あと、お前はフランや龍亞に電撃を撃つのを躊躇ってたが……
それはお前が良い奴だからなんかじゃねぇ、単に手を汚す覚悟も無い臆病者だからだ」
否定、できなかった。反論は不可能だった。
古畑任三郎で、古畑に犯行を暴かれた犯人の様に。
人は、後ろめたい部分を全て暴かれると固まってしまうのだ。
そんな藤木に、シカマルはトドメとなる一言を用意し。
完全に、現状の藤木茂を否定する言葉を言い放つ。
「ネモ達はお前に同情的だったが、俺から言わせりゃテメーはタダのクズ野郎だよ。
ヒーローでも神でもない、ただの短絡的で他責思考でビビリのクソガキだ」
「……………ッ!!!!!」
結局、藤木が最後までシカマルの言葉できることは無かった。
ただのクズ野郎、そう言われるまでその場に立ち尽くして。
暫しの間、二人の間に緊迫感を伴った沈黙が漂う。
「フ、フフフフフ………君の言う通り、俊國君も信用できない。参考にさせてもらうよ」
やがて藤木は、嗤った。
俊國の事については一理ある。
生き残る為に精々参考にさせてもらおうと思える意見だ。
だがもう一つの罵倒については、藤木自身当に自覚していた事だった。
自分が卑怯者のクズだなんてことは、この島に来る前から知っていた。
今更突き付けられた所で、大した痛痒はない。それに何より。
「い、言いたい事はそれだけかい…?そういうの、負け犬の遠吠えって言うんだよ?
ぼ、僕がクズだとしても……その僕に殺される君はそれ以下のゴミって事だね!!」
何を言われようと、自分には響かない。
だって、自分は既にシカマルよりも遥かに強いのだから。
これからシカマルは、自分にやっつけられるのだから。
本当にシカマルが正しいのなら、シカマルが勝つはずなのだから。
だが、今のボロボロのシカマルを見ればそんな大逆転は夢物語だ。
だから、正しいのは自分で、出鱈目をほざいているのはシカマルの方。
そう藤木茂は結論付けて、嘲笑を浮かべながら嘲りの言葉を口にする。
「────ククッ」
しかし、シカマルはそんな藤木の開き直りにも動じない。
ただ、余裕を示す様な、不敵な笑みを浮かべて。
それがどうしようもなく、藤木には不気味に映った。
上ずった声で、もう一度何が可笑しいと尋ねる藤木。
そんな彼に対し、シカマルは不敵な笑みを保ったまま藤木の認識の間違いを指摘する。
「てめぇが、俺より強いって思ってる所さ」
は?と呆けた声が出る。
藤木にはシカマルの言っている事の意味が理解できなかった。
あんなにボロボロで何もしなくても死んじゃいそうに見える身体で。
それが、僕より強い?
電撃で、ご自慢の頭までイカれたのか?
まず、そう考えて───直ぐに、嫌らしい笑みを形作る。
「ウ、ウフフフフフ……そ、それじゃあ、証明して貰おうじゃないか」
脅かす様に、嬲る様にシカマルの目前に手を翳す。
今の消耗しきったシカマルでは、自分の電撃を躱すのは不可能だろう。
直ぐには殺さない。散々偉そうに言った事を「ごめんなさい」と土下座して謝るまで
電撃を浴びせ続け、嬲ってやる。
そう決意して、電撃を放とうとした時───シカマルに「周りを見て見ろ」と促される。
誘導されるままに周囲を見渡してみると、締め切った教室内に異変が現れていた。
いつの間にか、二人の足元に煙が満ちていたのだ。
出所を探ると、シカマルの足元に隠れる様に細長い缶ジュースの様な筒が転がっており。
筒からは何かの煙が溢れ、それを起点として教室内に広がっている様子だった
まさか、毒?藤木は戦慄を禁じ得ない。
「な、何だよこれ!」
「気化爆弾イグニスっつってな───1度周囲に満ちれば、火種と反応してドカンだぜ」
告げられた言葉を聞いた瞬間、藤木が俄かに覚えたのは安堵。
なんだ、その程度の秘策なら問題ない、と。
だって、一度雷になってしまえば物理攻撃は自分には通用しないのだから。
バズーカ砲を浴びた時だって無傷だったのだから。
だが、当然彼程度の脳みそで思いつくことをシカマルが考えていない筈もなく。
「どうかな?この爆弾は俺達忍者の使う術みたいな特殊能力にも通じるらしいぜ。
それに火花が散った瞬間爆発すんだから──果たして全身雷になるまでに間に合うかな」
「………っ!?う、嘘だ!嘘に決まってる!!」
「だったら、試して見ればいい。負けた時はお前も吹き飛んでるだろうけどな」
藤木の表情から、余裕と嘲りの色が消えた。
シカマルの顔を見れば、覚悟を決めた表情を浮かべていて。
まさか、自分ごと吹き飛ぶつもりなのか?そう思ってしまう。
爆死。その未来を想像すると、電撃を放てない。火花すら上げられない。
でも、爆死しなくても、今影を出されて、デパートの時みたいに刺されたら。
どうする?どうすればいい?
人生最大級の緊張の中で、藤木は必死に低能な頭脳を総動員し知恵を絞る。
そして、一つの単純な解に辿り着いた。
「フフフフッ!な、なら……こうだ!!」
脱兎のごとく駆けだし、目指す先は、締め切った教室の外。
ガスは部屋の外までは広がっていないだろう。
つまり、部屋の外にさえ逃げれば爆死の心配はない。
いや、部屋の外に出たら電撃を放り込んでやるのもいいかもしれない。
そうすれば自分より絶対に後に部屋を出る事になるシカマルは自爆。自業自得だ。
勝てる。勝てるぞ。思わず笑みを零しながら、教室の扉に手をかける。
だがシカマルの事だ。何か罠を仕掛けているかもしれない。
念のため、部屋の外に出たらすぐさま体を雷に変えて身を守らなければ。
保身の2文字を常に最優先で思考しながら、横開きの扉を勢いよくスライドさせた。
扉はあっけなく開き、身体を雷化させながら安全地帯である教室の外へと乗り出す。
直後の事だった。何かピンが抜ける様な音が響いて、其方に顔を向ける。
轟音と閃光が、藤木の耳と目を灼いた。
──────うああああああッッッ!?!?!?!?
どうッと地面に倒れ伏す。
視界が真っ白になって、何も見えない、聞こえない。
何が起こったのか分からない。何故、部屋の外に出た瞬間体を雷に変えた筈なのに。
どんな物理攻撃も、自分には通じない筈なのに。
廊下の床に突っ伏しながら、うねうねと芋虫の様にはい回る。
「な、何だよ何だよ何だよこれぇええええぇえええええええッ!!!!」
「聞こえねーだろうし、教えてもやらねぇが、お前の能力は無敵でも何でもねぇ
防御面じゃただ単に物理攻撃を無効化するだけだ。なら、いくらでもやり様はあるのさ」
まずしっかりと藤木の状態を確認してから、敵手の直線上にシカマルは位置取り。
藤木の耳が潰れたのをいい事に、自分が何をやったのかを述べ始める。
今のシカマルにとって、舌を動かすことが意識を保つための最後のよすがだった。
「見えない、聞こえないよぉおおおおお!!!何でだよクソッ!!クソオオオッ!!」
「まず弱点その1、テメーの頭が悪すぎる。簡単に誘導に引っかかる。
一度守りに入るとネモやフランがいい様にやられたのが不思議な位だぜ」
少なくとも、藤木茂は命のやり取りをするにあたって駆け引きなどやった事が無い。
デパートを襲撃した時は優位に立ったが、あれは偽俊國の入れ知恵あってこそだ。
もう一度戦えば、ネモもフランも対応するのはそう難しくは無いだろう。
「肝心な所で命を張れねぇ臆病者な所も弱点その2だな。
気化爆弾イグニスなんてもんはハッタリで、正体は窒素ガスさ。爆発なんかしねーよ」
「あああああああああああああああああ!!!!!!」
そう、かつて藤木と同じ電撃能力者である学園都市の第3位の能力者。
彼女がとある暗部の少女から受けたのとまったく同じブラフだった。
もし藤木にもう少し度胸があって、イグニスなどハッタリだと攻撃を仕掛けられれば。
シカマルに打つ手はなく、そのまま勝者は藤木となっていただろう。
だが、それを考慮してなおシカマルは藤木が勝負から背を向けると睨み。
果たして、戦闘の推移は彼の想定通りの結果となった。
「そして、テメェの弱点その3─────」
印を組み、身体に残った最後の身体エネルギーを振り絞ってチャクラを練る。
藤木は今、何も視界に映せていないだろうが。
シカマルもまた、視界が霞んで、既に藤木の姿は殆どシルエットと化していた。
しかしまだ倒れる訳にはいかない。未だ生き残っている龍亞や、ナルト達のためにも。
「てめぇが雷化の術でも絶対無効化できねぇもんがある。それは…音と光だ。
この2つだけは、遮断しちまったら何も聞こえねぇし、何も見えなくなるからな」
「や、やめろ……やめて………殺さないで」
シカマルは早々にその事実に当たりをつけた。
締め切った部屋に立てこもれば、藤木は体を雷に変えて壁抜けを行ってくるだろうし。
ハッタリで揺さぶりを掛ければまず間違いなく保身を選ぶ。
であれば、保身を選んだ際に逃走に使うと見られるルートに罠を張ればいい。
例えば、扉を勢いよく開いた時にフラッシュバンのピンが抜ける仕掛けだとか。
メリュジーヌや偽俊國の様な相手には使うだけ無駄な、龍亞の支給品だったが。
閃光と轟音で軍人をも無力化する閃光手榴弾は、藤木に対して覿面の効果を発揮した。
「そして、これが最後の弱点────!!」
ごふりと血を吐きながら、生涯最後の術を行使する。
選ぶのはデパートで効果を発揮していた、影縫いの術。
今の藤木なら一撃で脳天か首をぶち抜く事ができる筈だ。
何故なら今の藤木に周囲の情報を知る術はないし、それに何より。
「雷化の術はオートで発動せず、脆くてお粗末なお前の手動でしか発動しねぇって事だ」
そう、藤木自身の耐久力が脆過ぎるのだ。
無効化できない攻撃に耐える肉体も忍耐も精神力も彼は持ち合わせていない。
だから今のパニックに陥っている、彼では雷に姿を変えて逃げる事は出来ない。
だからこそシカマルも冷徹に、最後の勝負をかける。
卑劣の徒へと、漆黒の槍を突き出す─────!!!
「ヴあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
「────これで、詰み……だ」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
何だよなんだよ何なんだよォ!!
死にぞこないの癖に!もう僕の方が強いのに!フジキングはヒーローなのに!
何で頑張るんだよ!お前にはいないだろ!?僕にとっての永沢君みたいな友達が!
なら、僕に勝ちを譲ったっていいじゃないか!勝たせてくれたっていいじゃないか!
僕は強くなった筈なのに!ネモだってフランちゃんだって今の僕には勝てないのに!
なのに何でこうなってる?何で普段と同じ様に地べたを這いつくばってるんだ!
ずるい、卑怯だ!僕から永沢君の為に殺そうとしてるって言い訳さえ奪っておいて!
それなのに勝ちまで奪おうって言うのか!?シカマルも!ネモも!!
大体、シカマルが、お前さえいなければデパートでは僕が勝ってたんだ!
ネモを殺して!フランちゃんも殺して!全員殺せてたんだ!
お前が邪魔さえしなければ!戦い慣れてるみたいだからって!僕を見下して!
何でこんな事ができるんだ!?昨日まで普通に学校に行ってて。
そんな僕がいきなり殺し合いに放り込まれて!ネモやシカマル達と戦わされて!
可哀そうだと思わないのか!勝たせてあげようとは思わないのか!?
あぁそうだよ!僕は目の前の事から逃げてるだけさ!死にたくないだけさ!!
でも、それの何がいけないって言うんだ!当然だろ!死にたくないんだよ僕は!!
そのために殺して何が悪いんだッ!!悪いのは僕を連れてきた乃亜じゃないか!!!
僕が悪いのかもしれないけどッ!僕は爆弾付きの首輪を嵌められた被害者でッ!!!
それなのに、何で僕が悪いって事に向き合わなきゃいけないんだ────!!!!
「ヴあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
叫びながらデタラメに雷を撃ちまくる。完全にパニックだった。
でも当たってる手ごたえみたいなものは感じられない。
当たり前だ。耳栓をして目隠しをされながら撃っている様な物なんだから。
涙が溢れて、ぐしょぐしょになった目で手当たり次第に雷を放つ。
その時だった。ぼんやりと黒い何かが凄い速さで迫って来るのが見えた気がしたのは。
白く染まった景色の中で、黒一色のそれは朧気にだけど、確かに見えた。
これを喰らったら死ぬ。間違いなく死ぬ。訳が分からなくなっても、それだけは分かった。
だから僕は無我夢中で、身体を雷に変えて逃げようとする。
火事場の馬鹿力で上手くいった。でも、無傷で逃げ延びるにはほんの少し遅かった。
「─────ぎィ゛…ッ!!あ゛あ゛ああぁあああッ!!!!」
ぞ、ぶり。
黒い何か…多分、シカマルが出してきた影に、右目を貫かれた。
影はカップに入ったプリンにスプーンを入れる様に、僕の目をくり抜いていった。
見えないし、聞こえないけれど、何故かその事は分かってしまう。
そして、それだけじゃ終わらない。
僕の目を奪った影は、まだ止まらなくて。
まるで最後の力を振り絞る生き物みたいに、一度僕の前で止まって。
そして───また僕を串刺しにしようと迫って来た。
「う゛う゛ッ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」
嫌だ!死にたくない!!死にたくない!!!
その一心で、雷の速さで影から逃げようとする。でも、無理だった。目も耳も聞こえない。
その上死にそうなくらい右目が痛い。そんな状態でまともに走れるわけない。
直ぐに足を滑らせ僕の身体が1回転する勢いで宙を舞う、丁度同じタイミングに。
ずぶ、と左ひざに鈍い感触を感じた。すぐに燃える様に熱くなって。
その後はまた叫びだしたくなる痛みが襲ってきた。でもそれでもまだそれが最後じゃない。
トドメに転んだ勢いそのままに顔から廊下に叩き付けられて、地面にキスをする。
ガツン!と頭の中に火花が散って────全部の痛みが、一気に襲ってきた。
「うぅ、あ、ぎゃああぁあああぁあああああぁ──────ッ!?!?
痛い痛いいたいよお゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛お゛お゛ぉ゛────ッ!!!!!」
そして、絶叫。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
ちっ……
運の……いい奴だぜ。
転びさえしなかったら、心臓串刺しにしてやってたんだが……
でも、ここまでだ。残ってたチャクラも…俺の命も……これで看板だ。
物理攻撃の無効化さえなければ、影真似の術で確実に相打ちに持ち込めたけどよ。
彼奴の雷化の術は印を組んでる様子が一度も無かった。
つまり予備動作なしで使える可能性が高い。
となると、影真似で差し違えようとしても…雷化ですり抜けられちゃ意味がねぇ。
だから、チャクラの消耗が大きくて慣れてねぇ影縫いしかなかった。
「ちくしょうが……」
結果は御覧の通り。仕留めるまでは無理だった。
右目と左足は潰した。これで精密な雷撃も、ご自慢の高速移動もできねーはずだ。
ヒトって奴は両目揃って距離感を把握してる。
まず間違いなく何の訓練も積んでない彼奴が、片目で狙いをつけるのはまず無理だろう。
膝と違って目は抉った後潰してやったから、治すのもまず望めねぇだろうしな。
後は折角亡くしてやった目を生やす様な支給品がないのを祈るばかりだぜ。
そうすりゃ……もう彼奴が暴れてもそうそう殺される奴は出ないだろうし。
殺される奴が出なけりゃ乃亜の報酬で傷を治される心配もねぇ。
欲を言えば、痛みのショックで死んでくれれればそれが一番だけどよ。
まぁ………これで、俺にできる事は全部終わった。
だから……最後に、一服…………
「5代目……すんません」
今度は完璧にこなしてみせるっつったのにな。
結局、俺は最後までイケてねー奴だったみたいだ。
5代目も、アスマも、チョウジも、いのも…俺の事、最近買ってくれてたのによ。
あぁ、クソ……彼奴ら、俺がいなくなって今頃探し回ったりしてねーだろうな。
せめてナルトが生き残ってくれれば俺が死んだ事も、伝えてくれるんだろうが……
「フフ……ッ」
彼奴の、ナルトの顔を思い出すと、何故か笑っちまった。
上忍でも生き残るには厳しい環境だ、この島は。
言いたくねぇが、ナルトが生き残れる可能性はほぼねぇと思う。
でも……何でかな。今俺は、俺と違って今は結構イケてるアイツならって思ってる。
人一倍落ちこぼれの癖に、諦めるって事を知らねぇアイツなら、もしかしたら。
もしかしたら、木の葉の里に生きて帰って、俺の事も伝えてくれるかもしれねぇなぁ。
そんで何時か馬鹿な夢を叶えて、本当に火影になったりしてな……
────ナルトの相談役に、俺以上の奴はいねーからよ。
あぁ、クソ。変な走馬灯まで見えてきちまった。
彼奴の事を思い出してたら、未練ばっかり湧いてきやがる。
でも……そうだな。彼奴が本当に火影になったら………
あのバカヤローがバカやらない様に、隣で見とく奴が必要だわな。
フツーに忍者やって、フツーに生きてくつもりだったけど。
あぁ…それはそれで、悪くねぇのかもしれねぇな。
だから……こんなとこで寝てる場合じゃねぇ。それなのに………
クソ、身体動かねぇ。俺と違っていい能力貰ったもんだぜ、あの糞ヤローは。
でも、ブラックとの契約も……龍亞の奴も………だから、まだ………
「くそ……やっぱ…死にたくねぇな……………」
そして、煙草はぽとりと少年口から落ち、教室の床に広がった血で火が消える。
その後はもう戻らない。なにもかも。
もう、取り返しはつかない。
【奈良シカマル@NARUTO-少年編- 死亡】
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
奈良シカマルが、死んでいた。
フラッシュバンの影響から何とか脱して。
ようやく見える様になった藤木茂の左目と、聞こえる様になった聴覚。
舞い戻った彼の知覚機能を真っ先に出迎えたのは、静寂と勝利の証となる物体。
即ち、シカマルの死体だった。
それを目にしたその瞬間だけは、右瞼と左ひざに走る痛烈な痛みも気にならなかった。
気にする余裕が、藤木茂にはなかった。
「ぼ………僕が…………」
僕が、殺した?
疑問符の付いたその言葉が、思わず口から零れる。
でも、何故だ?藤木には本気でシカマルが死んでいる理由が分からなかった。
だって、シカマルは最初に当てた雷撃以外の電撃は受けていない筈だ。
パニックになってやたらめったら撃っていた時も、多分一発も浴びていないと思う。
それなのに、なぜ死んでいる?まさか、たった一発の電撃が切欠で死んだのか?
────“英霊”(ネモ)や“吸血鬼”(フラン)達は喰らっても普通に動けていた電撃で?
……藤木茂は思い違いをしていた。
これまで彼は、純粋な人間に向けて電撃を命中させたことが無かったから。
彼がそうしようとするたびに、ネモが身体を張ってそれを阻止していたから。
だから彼は勘違いしていたのだ。自分の電撃は、敵を“やっつける“位の威力だと。
まさか本当に人を殺傷できる威力だとは、思っていなかった。
精々髪がアフロになったりだとか、骨が透けて見えるだとか。
その程度の“結果”しか想像できていなかった。深く考えていなかった。
自分の電撃を普通の人間に撃ったらどうなるのか、目を逸らし続けて。
その果てに彼はやはり根拠もなく、多分大丈夫だろうとシカマルに放った。
処刑方法として使われる電気椅子の、優に数倍の電圧の雷撃を。
それはチャクラを用いる事で常人を超えた身体能力を発揮できる忍のシカマルですら。
“即死“を”多少猶予のある致命傷“に抑える事しか叶わない、決定打だった。
彼がデパートで翻弄したネモは確かに自己評価の通り三騎士に比べれば劣る能力値だ。
だがそもそも、サーヴァントとは人を遥かに超越した最高位の使い魔。
そしてネモの英霊としてのステータスは決して低くない。
筋力、敏捷、耐久…どれも平均に届いている数値である。
こと耐久値に限って言えば、彼は大破したストームボーダーのダメージの直撃を受け。
ほぼ肉体的には死亡した状態でも、乗組員の安全確保を完了させるだけの生存力を誇る。
少なくとも頑丈さに限って言えば、三騎士クラスにすら勝る能力を有していた。
そんな彼が藤木如きに遅れを取ったのは、マスター不在の“逸れ“だった事が最も大きい。
フランドール・スカーレットもまた、数百年の齢を重ねた高位の吸血鬼。
内臓をさらけ出す様な損傷でも死亡せず、そのまま戦闘すら可能な超常の存在だ。
人間であれば即死であるダメージも、吸血鬼には致命傷にすらなりえない。
だから彼女もまた、藤木の雷撃を受けても直ぐに動く事ができたのだ。
藤木茂はこれまである意味では幸運だった。
彼の雷撃を受けてきた者達は、肉体的に人を超えた頑健さを備えた存在だったから。
それ故に、幸運にも誰も殺さずに済んできた。
龍亞に放った時も、後ろめたさから電撃を弱め、殺すまでには至らなかった。
だが、彼はその幸運を幸運と認識できていなかった。
恐らく、幸運はその内尽きる物だと想像すらしていなかっただろう。
その時点でこうなる事は必然であり、彼のささやかな幸運はたった今終わりを迎えたのだ。
「………う゛、う゛わ゛ぁ゛あああああ゛あああああ゛あああッ!!」
自分が殺した。
その事実を認識すると共に目を見開いて、喉が張り裂けんばかりに叫び。
芋虫の様に壁際まで這いよると、壁を支えに立ち上がる。
目から走り、膝から昇る痛みすら今は気にしている余裕はない。
ただ、彼の胸中にあるのはこの場を離れなければ。逃げなければという思いだけだ。
そうすればこの過ちもなかった事にできるのではないかと、本気で思っていた。
壁にもたれ掛かったまま、獣のような吐息で必死に“殺害現場“から遠ざかる。
よたよたと頼りない足取りで、下駄箱が並んだ後者の出入り口へと向かう。
胸からこみ上げてくる吐き気に必死に耐え、左目に涙を溢れんばかりに溜め。
よたよたと教室を出て、偶然にも今しがた彼が殺した少年が仲間を逃がした地点へと進む。
シカマルの死体と、起動したままのAEDを残して。
「違う……こんなの……僕は……僕がァ…あ……ッ!」
足がもつれて、どてっと如何にもトロ臭い所作で地べたを舐める。
幸運にも、シカマルが与えたのは自力で歩く事は出来る損傷だったが。
走る事は不可能で、慌てれば転んでしまう。そんな傷の深さだった。
ロギア系の悪魔の実の能力者は物理攻撃を無効化できるという特大の優位があるが。
ゾオン系の悪魔の実の能力者の様に身体能力や治癒能力そのものが向上するわけではない。
また、一部の超人系の実の能力者と違い、能力を応用し傷を塞ぐこともできない。
だから、負った損傷に対して現状の藤木茂は打つ手を擁してはいなかった。
殺される。こんな誰が見ても足手まといの有様を俊國に見られたら。
間違いなく斬り捨てられる。シカマルが言っていたように、食い殺される。
その悍ましい最期を想像して震えが止まらず、ガチガチと歯の音がかみ合わない。
嫌だ。死にたくない。誰か助けて、誰か………
「じょ、城ケ崎さん………」
目の痛みと殺人を犯したという精神的ショックで、藤木茂はとっくに限界だった。
ずるずると起き上がる事も出来ず、嗚咽を漏らしながら大地に這いつくばる。
誰か、誰でもいいから手を差し伸べて欲しかった。
「永沢君………」
自分が取り返しのつかない過ちをしたことは分かっているけど。
でも、それでもやりたくてやった訳ではない。
自分は被害者なんだ。そしてこの島には今の自分より強い人がたくさんいる。
だったら、自分に手を差し伸べてしかるべきだ。それがヒーローと言う物の筈だ。
「悟空………ッ!!」
今、手を差し伸べてくれたらもう誰かを襲ったりしない。
涙と共に謝って、今度こそ仲間にしてもらう。
ネモや悟空は腹が立つけど許してやって、その後は一緒に対主催として頑張るんだ。
マーダーの偽俊國を皆でやっつけて、対主催に貢献する。
そうなればシカマルを殺したことだって無駄にならない、そうだろう?
「なんで……誰も助けてくれないんだよぉ……!」
藤木の問いかけに応える者など誰もいない。
当然、手を差し伸べる者もいなかった。
目の痛みもシカマルを殺した事実もそのまま消えたりしない。
特に目から走る痛みは、藤木の命を容赦なく削って衰弱させていた。
ショック死は免れたが、このままでは精神衰弱で保たないだろう。
紛れもなく死の淵に立たされたその時、藤木の半分になった視界に光るものが映る。
「あ……あれ、は………」
それは、勝次に支給された支給品だった。
恐らくは、亜空間転送装置のカードを使用され、シカマルを助けようと暴れた際に。
ちゃんとランドセルが閉まっておらず、零れ落ちたのだろう。
シカマルもそれを気にしている余裕はその時点での彼にはなく。
仕方なく放置されたままとなった代物だった。
それが、勝利で得た戦利品の様に、彼の目の前で転がっている。
「はぁ……はぁ………」
身体に今残っている力を振り絞り、その支給品が転がる地点へと這いずる。
藤木はそれが何なのか、皆目見当もつかなかった。
使い方も当然分からなかった。しかし、そのアイテムが放った妖しい輝きを見れば。
きっと自分を救ってくれると言う願望だけはあった。
20メートルほどの距離を5分以上かけて進み、打ち捨てられたアイテムを手に取る。
怪しい輝きを放つ、黄金色のその杖(ロッド)を。
かつてグールズの首魁であった墓守の一族の青年が振るった、千年ロッドをその手に抱き。
「────お……お願い……助けて…………」
物言わぬ杖に、まるで神に縋るかのように祈りを捧げた。
生贄によって鋳造されたその忌み物に、己の身を預け、必死に願う。
この目と心を苛む痛みから、どうか解放してください、救ってください、と。
それがどんな結果を生むか何て想像もせず、今そこにある苦しみから逃れたい一心で。
この苦しみから逃れられるなら、何でもすると心の中で口にする。
突然訪れた腹痛に苦しんでいる時に、入れるトイレを探す程度の反射的な懇願。
だが、それでも彼は言った。深く考えず、その言葉を口にしてしまった。
故に、その発言を以て契約は結ばれ、運命は彼の要求に応じる。
千年ロッドは願われると共に鋭い輝きを放ち、藤木を彼自身が望む通りに洗脳した。
彼は正当な所有者ではないから、他人を洗脳する事はこれから先もできそうにないが。
それでも邪な彼の心が呼応し、自己暗示をかける程度には杖の力を引き出せたのだ。
「─────フフッ」
瞬間。
さっきまで、藤木を苦しめていた物がいっぺんに消えた。
目の痛みも。心を軋ませ砕こうとしていた良心も消え失せた。
走る事は変わらず難しそうだとはいえ、膝の痛みももうあまり感じない。
痛みの消えた世界。それは臆病な藤木にとって心地よかった。
だって、痛みさえ消えてしまえば、後に残るのは────
───殺した!殺せた!ぼ、ぼぼぼぼ僕が…あのシカマルに勝ったんだァ!!!!
勝利の美酒だけなのだから。
誰かに聞かれない様に心の中で、しかし天まで届けと勝鬨を上げる。
やれる。やっぱり自分が得た力は強いのだ。暗殺に徹すればだれにも負けない。
「も、もう……僕は誰だって殺せる。殺せるんだ……1人殺すのも、全員殺すのも一緒さ」
呟いた言葉は、これまで通りどもったものだったけれど。
でも、もう迷いも躊躇も存在していなかった。唇も青くなかった。
今の彼なら、先ほど殺すのを躊躇った龍亞ですら、即座に致死量の電撃を放てるだろう。
心の底で勝てないと思っていたシカマルに勝った事で、圧倒的な自信を手に入れていた。
「ウフフフ……殺してやる。ネモも、フランちゃんも、梨沙ちゃんも、龍亞って奴も……」
僕を否定した奴ら全員、みんなみんな殺してやる。墓の下に埋めてやる。
今の僕は強いんだ。シン・神・フジキングなんだ。逆らう奴らの方が間違ってる。
僕が本当に間違っていたなら───なんでシカマルは死んでるんだ?
僕が間違ってるなら、何で未だに天罰は下らないんだ。答えは簡単、僕が正しいから。
たとえ僕が間違ってるって言う奴がいても、シカマルみたいに殺してやればいい。
そうすれば僕の方が正しかった事の証明になるんだから。歯向かう奴は力で黙らせる。
それが一番スカっとできるし、十人殺せばシュライバーに頼んで永沢君も帰って来る!
俊國君と違って、シュライバーは僕に約束をしてくれたんだから!
「そうだ、俊國君も殺さないと」
僕は強くなった。でも、僕より強い奴に勝てるほど強くなったわけじゃない。
悟空や俊國君みたいに、今の僕より強い奴は悔しいけどいる。
それに、今の僕は怪我もしてる。まともに戦ったらもっと酷い怪我をするだろう。
痛みは手に入れた杖のお陰でもう感じないけど、怪我で殺せなくなったら困る。
なら、どうするか?そんなのは決まってる。
シカマル達を襲うより前、デパートから生き延びた時に決めた動きに戻ればいい。
暗殺者になって、いい子のフリをして他の子達の所に潜り込む。
そして、チャンスが来たら皆殺して、乃亜君に負った傷を治してもらうんだ。
嘘を吹き込んで俊國君やネモ達を他の子達に襲わせるのもいいかもしれない。
そうすれば、簡単に弱って殺す数も楽に稼げるだろう。完璧だ。
杖を使ってから、頭の中で考えてた不安や余計な考えが無くなって頗る頭が回る。
「それだけじゃない。ドロテアも…モクバも…
特に永沢君を殺した奴も……一人残らず……!」
特に永沢君を殺した奴だけは、絶対に殺す。
他の事は別にいい、でも。永沢君の為にやってるって事だけは否定させない。
誰が何と言おうと僕は友達を救うために戦うヒーロー、シン・神・フジキングなんだから。
それを否定する奴は、誰であろうと生かしてはおかないし。
僕がフジキングであるためには永沢君を殺した奴は絶対に殺す。殺さないといけないんだ。
だから……こんな所で寝てるわけにはいかない。
─────ぼ、僕は……僕は神なり………!
そして、全ての痛みを手放した少年は、再び歩みを再会する。
片目を抑え、ずる、ずる…と片足を引きずりながら。
それでも表情には不気味な笑みを浮かばせて、自身が寄生できる集団を求め。
彼は進む、進み続ける。殺す為に、逃げ続けるために、その先に優勝があると信じ。
己の良心を、躊躇(よわさ)を、血塗られたロッドに封じ込め。
もう、戻れない道へ、閉ざされた道へ。己以外の全ての者の道を閉ざす道へと突き進む。
少年は、どうしようもなく孤独だった。
親も教師も警察もいないこの島で、友も死に絶えた。
だから、誰も教えてはくれない。
その道の先には何もないぞ、などという事は。
だから、彼は憐れなる被害者を自覚がないままに辞め、刃を握る。
正真正銘、本物の殺人鬼(ひとごろし)が産声をあげた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
プレゼントされた眼帯は、変なデザインだったが着ける事に不都合はなく。
その上可愛い女の子に手当てしてもらって、気分がよかった。
シカマルの影に抉られた目まではどうにもならなかったが。
脚の方は杖で痛覚を誤魔化した今、包帯を巻いてもらえば歩くのに支障はなかった。
「藤木君、大丈夫……?」
「あ、あぁ………大丈夫だよ、木之本さん。包帯、ありがとう」
「…………?」
その時、木之本桜が感じたのは微妙な違和感。
藤木の状態は、大けがと言って差支えのない状態だった。
何せ足の怪我は走る事はできそうにないと言う程度だったけれど。
右目の方は抉り取られて、痛ましい惨状を晒していたのだから。
けれど、それにしては……藤木の態度が釣り合っていない。
自分なら泣き叫んでいてもおかしくないのに、藤木にはそんな素振りが全くないのだ。
それどころか、彼は笑みすら浮かべており。
ニタニタと粘着質な彼の笑みを見ると、どうしても薄気味が悪い。
もしかして。
彼の残った左目が映している感情。
それに名前を付けるなら、もしかしてそれは“悪意“と。
(………ううん、何考えてるの、私)
藤木君は友達が殺されて、自分も酷い目に遭った気の毒な人なのに。
私達に心配をかけない様に無理に明るく振舞っているかもしれないのに。
現に彼は今も、ちゃんとお礼を言ってくれたし、暴れる様子もないじゃないか。
うん、きっとそう。だから……藤木君を疑うなんていけない。藤木君を、信じよう。
それがこれまでの試練を、身近な人達を信じる事で越えてきた少女の結論だった。
だが、少女と行動を共にしている二人の同行者は彼女とは違った。
────藤木茂は99.99%嘘をついている。
それが二人の天才、江戸川コナンと風見一姫の見立てだった。
藤木茂は、自分の負った傷をネモとフランに付けられた物だと語った。
そのすぐ後に彼はネモがいかに凶悪で冷酷な少年かを熱弁し。
悟空は頼りになるが、ネモに騙されていると自分達に訴えてきた。
彼の話ではフランもまた、ネモと同じずる賢く残酷な吸血鬼だと言う。
他のマーダーの襲撃を受け、悟空と離れ離れになった途端、
二人して自分を殺そうとしてきたというのが、藤木の語った話の概要だ。
それそのものに、大きな齟齬はないとコナンも思う。
実際にフランに出会ったコナンも、語られた風評に違和感を感じなかった。
確かに彼女は、友でない人間が死ぬことを何とも思っていないだろう。
必要に迫られれば眉一つ動かさず殺害を遂行する危険人物なのは間違いない。
しかしネモと結託して藤木を殺そうとするほど積極的な参加者であるならば。
彼女と会った際、雄二と自分は殺されていた筈だ。
それが可能とするだけの力を、彼女は備えていたと雄二も断言していたのだから。。
では何故彼女はそうしなかった?ネモ共々信用できる相手だと信じ込ませるためか?
であれば、もう少し殺人行為に対して否定的な姿勢を見せる筈だ。
ネモが善良な参加者であると主張しても、自分が危険人物だと判断されれば説得力を失う。
何故自分達は見逃され、藤木茂は襲われた?
コナンは敢えて藤木に指摘を行わなかったが、気になる点は他にもある。
人間を遥かに超えた力の持ち主であるフランとネモから、どうやって藤木は逃げのびた?
それも、目玉を抉られ、足に怪我をした状態で。
最初は支給品を用い、眼や足に怪我を負いながら辛くも命を拾ったと思ったが。
藤木の話では彼は悟空と離れた途端襲われ、目玉と足を抉られたと彼は語っていた。
という事は、人を遥かに超えた力を持つ彼らに奇襲を許しながら、彼は生き延びたのだ。襲撃者の立場に立つと、藤木を襲おうとしたと仮定して逃走防止に足を狙うのは分かる。
だが自分が“犯人“であれば、まずランドセルかそのまま急所を狙うだろう。
支給品を奪わず、速やかな殺害を行わず、眼を狙うのは相当な加虐趣味の持ち主なのか?
また、悟空が危険人物である話は一切出なかったのも気になる話であった。
コナンは一瞬ネモとフランと悟空の三人がグルのマーダーである可能性を考慮したが。
悟空だけは騙されてはいるがヒーローの様に強く、また自分の味方の善良な人物である。
それが藤木の語った悟空評だったが、コナンにはどうにもちぐはぐな印象を受けた。
藤木は悟空だけは信頼ができると言う判断を、何を以て下したのか。
別れた後に襲われたからと言って、悟空もグルでない保証はどこにもないのに。
さりげなくカマを掛けてみたが、返答は要領を得ない物だった。
黒服の女に襲われた時に助けられたと言っていたが、それ以外の悟空の情報が出てこない。
と言うより、話の節々から彼は悟空と殆ど交流していないのではないかとすら思えた。
それなのに、何故彼が騙されていると判断できた?
(………とは言え、この話に限って言えばあながち嘘だとも言えないか)
フランが自分達を見逃したのは、獲物が二人で片方逃がす事を懸念したのかもしれない。
或いは、乃亜の追加ルール目当てだったのかもしれない。
フランとネモが藤木を逃がしたのは、嗜虐趣味の持ち主で嬲ろうとした結果かもしれない。
悟空だけは信じられるというのも、助けられた事に大きな恩義を感じているか。
又はネモ達への敵意から過剰に二人を悪しざまに語っているだけかもしれない。
気になる点はあれど、藤木がでたらめを言っていると決めつけて判断するのは早計。
もしかしたらネモ達が本当に危険人物である可能性も無い訳ではないのだから。
だから、コナンはこう言った。
「そっか!じゃあ早く悟空ってお兄ちゃんを見つけて二人が危ないって知らせないとね!」
そう口にした瞬間、藤木の目の色が明らかに変わる。
それに加えて悟空との再会を目指す旨の話をすると、露骨に歯切れが悪くなった。
まるで会うと都合が悪いような、コナンたちに悟空と会ってほしくないような。
桜やガッシュの様な純粋な者でない限り見てわかる狼狽えようを彼は見せ。
藤木茂は嘘をついている。コナンと一姫は両者同時に確信に至った。
ネモやフランが信用できる人物かについてはまだ判断を下すべきではない。
だが、しかし藤木茂がネモ達に襲撃されたと言うのは真っ赤な嘘。
あるいは本当だとしても藤木の方に非があると、コナンは見抜いていた。
そして、彼が吐いている嘘は恐らくネモ達に関するものだけではない。
藤木と三十分ほど前に出会ってからずっと、彼は明らかに挙動不審だった。
本人の話では今迄隠れていたから悟空以外の人間には会っていないとの事だったが。
その割には一姫が口にしたモクバやドロテア等の他の参加者の名前に対し反応を示し。
特にドロテアの名前が出た時の彼の瞳は、昏い焔を宿していた。
彼が瞳に宿した炎はコナンが数々の事件を解決する中で飽きる程見てきたもの。
それに名前を付けるなら、それはきっと───殺意と名付けられるだろう。
恐らくだが、藤木茂は殺し合いに乗っている。
(多分精神の均衡を欠いてる。が、マーダーって証拠はない上に相手は怪我人の子供だ。
それをどうこうするのは俺もやりたくねぇし、ガッシュや桜も…納得しないだろうな)
マーダーである可能性が高く、今もさりげなく間合いを測りつつ接してしるけれど。
コナンから見た藤木茂は重傷を負い、殺し合いに怯えるただの少年に見えた。
脳を食う少女やシュライバーなど、人外染みた力を持っている様にはとても見えない。
大それたことはできない、本当に年相応の、凡俗の二文字を体現したかのような少年だ。
立ち振る舞いやポケットの膨らみなどから、凶器を隠し持っている様子もない。
ならば性急にお前は殺し合いに乗っているな?などと指摘するのは藪蛇になる恐れがある。
それに仮に藤木が本当に危険人物であったとしても、彼は重傷を負っているのだ。
単独での生き残りは絶望的な状況であり、普通に考えれば自分達を襲う事などできない筈。
ならば同行しつつ見張っておくことで、彼が道を踏み外す可能性は幾段か下がる筈だ。
ガッシュや桜など純粋な者との交流させるのも、彼の精神の安定に繋がるだろう。
それがコナンの選んだ、藤木茂に対する対応だった。
そんな彼の眼前で、藤木は桜に対して一つの要求を口にしていた。
「あ……あのさ、木之本さん……よ、よかったらでいいんだけど……
何か、包帯以外にも、傷を治せる支給品とか、持ってないかな………
ほ、ほら、眼は無理としても…足の傷を治しておけば、足手纏いにはならずに済むし……」
「ほぇ?え、えっと……それなら、確かルーデウスさんの支給品に………」
────やっぱり、頼るなら悟空や、この子だな。
要求に素直な反応を見せる桜に対して、藤木は心の中で笑みを零す。
この子なら、きっと情に訴えかければマーダーである事が発覚しても庇ってくれる。
襲ったのに助けてくれた悟空と同じだ。多分、クラスの女子よりずっと優しいだろう。
もしネモや龍亞とまた会ったとしても、この子やガッシュを頼ればいい。
そうすればきっと助けてくれる、何かの間違いだと言ってくれる。食い物にできる。
現に今だって、自分の為に貴重な治療用の支給品を用意してくれているのだから───
「……これ、このカード、ドレインシールドって言うんだけど…
でも、普通には使えないみたいで、だからルーデウス君は……」
「そ、それでも構わないから……できることなら、僕に……」
多少躊躇を見せていた物の、藤木の要求に対して桜は了承しようとする。
本人は自分が治した方が早く、またリスクも低いと言って死蔵していたけど。
でも、それでもこれはルーデウスに与えられたものだ。
だから、自分が勝手に与える事を拒む権利は……無いと思う。
彼だって、きっと他人の為に役立ててもらった方が喜ぶ筈だ。
何故か言い訳の様に心中で零しながら、その手のカードを藤木に手渡そうとする。
「残念だけど、待って頂戴」
だが、桜の手の中のカードが手渡されるよりも早く、制止の声が上がった。
声に誘われ其方を見てみれば、斥候のため先行していたガッシュと一姫が立っており。
ガッシュの背には、重傷を負っている様子の白銀の髪の少年が背負われていた。
桜が背中の少年を見て声をあげる、日番谷君!と。
その声を受け、白銀の髪の少年と藤木に交互に冷たい眼差しを送りながら一姫は告げる。
「悪いけれどさっき拾ってきた…多分桜さんの言っていた日番谷君の方が重症なの。
そのカードはこっちの男の子に使わせてもらうから、貴方はもう少し我慢して」
「ウヌ!?一姫、し、しかし───」
「カードは一枚、怪我人は二人。なら怪我が重い方を優先しないと。分かってガッシュ」
「ウ……ウヌウ………」
冷厳にトリアージの概念を突き付けられ、ガッシュも否とは言えず。
そんな彼を尻目に一姫はつかつかと桜に歩み寄り、無言のままに手を差し出す。
有無は言わせない。彼女は無言のままに、視線だけでそう桜に告げていた。
無言の圧力に桜は了承せざるを得ず、藤木に渡る筈だったカードを差し出してしまう。
その様を見て、藤木は考える。この女の子も殺さなければならないと。
だって、カードの受け渡しをする一瞬。その一瞬に藤木が垣間見た一姫の表情は。
紛れもなく、神となった藤木を見下し蔑むものだったからだ。
一姫もまた、コナンと同じく藤木がマーダーである事を鋭く読み取っていた。
だからみすみす貴重な回復アイテムを彼に使う事を阻止したのだ。
「申し訳ないけど、貴方はもう少し我慢して頂戴。日番谷君は今まさに命が危ないの」
ガッシュが背負う日番谷は血まみれで、呼吸も浅いのが見て取れた。
藤木の様に欠損はしていない様子だったが、命が危ないという言葉に嘘は無いだろう。
本当なら先に頼んでいたのは僕だろうと非難したかったが。
ガッシュや桜を信用させなければならない手前押し留まり、無言で頷く。
(フ、フフフフ……まぁいいさ、どうせ俊國君とまた会う時までの付き合いだ……)
今の藤木にとって、桜たちは何処までも利用する対象でしかなかった。
彼の良心は呪われしアイテムによって彼自身が捨て去ったからだ。
己の中の大きすぎる怯えを攻撃性に変えて、少年は、悪意を胸に微笑む。
この時はまだ、コナンも一姫も藤木の脅威を見誤っていた。
彼等は紛れもなく天才であったけれど、凡そ異能にはこの島に来て始めて触れたのだ。
もし元の世界でこの犯行は異能力に依る物だ、なんて推理を披露すれば。
間違いなく名探偵の看板を下ろさなければならなかっただろうから。
だから藤木が人を殺傷しうる能力を有しているなど。
千年アイテムで自己暗示をかけているなど、この時点で見抜くのは難しかった。
だが、それはあくまで“現時点で”の話であり、今後も見抜けない事を意味しない。
コナンは一姫と密かにアイコンタクトを取り、お互いの認識を確認し合う。
藤木茂は殺し合いに乗っている。
もしかすれば、危険な異能力を保有している可能性も考慮すべきだ。
視線だけで確信する。二人の認識は、一致していた。
だが、迂闊にそれを切り出すわけにはいかない。
もし万が一、藤木が現時点までマーダーとして生き残っているのなら。
その能力は危険なものである可能性が高い。
普段の様に推理ショーを披露し、安易に追い込むのは危険が伴う。
出来得る限り藤木に看破されぬよう、能力を持っているか。
また、保有しているならどんな能力かを把握した上で説得しなければならない。
万が一に備えて荒事担当のガッシュや桜、ピカチュウに情報を周知しておく必要もある。
藤木に察知されず、というのは難しい試みだったが、やるしかないだろう。
だって、殺し合いに興じた所で今の状態の藤木が優勝するのは不可能だ。
例えマーダーだとしても、みすみす子供を死なせる真似はしたくなかった。
そう彼が心中で決意を固める中、一姫は寄り道をしていく決断を切り出す。
「これから日番谷君の治療の為に、この近くの学校に寄ってから行くわ」
は?と声を上げたのは藤木だった。
瞬時に考えるのは、小学校にそのままにしてあるシカマルのこと。
不味い、と思った。今、小学校に向かわれたら。
自分の犯した犯行が、バレてしまうかもしれない。
そう考えると、全身から汗が噴き出した。
「ダッ!ダメだよ!!言ったじゃないか!ネモ達にそこで襲われたって!!」
「勿論よ、でもまだいるとは限らないでしょう?
私達は他の参加者の居場所が分かるの、さっき日番谷くんを見つけられたのが証拠。
もしまだ近くにいる様子だったら貴方の言う通り諦めるわ。これならいいでしょう?
日番谷君の手当てをするなら、保健室レベルの設備でも普通の民家よりはいいもの」
フリーレンは自前の魔力探知と、写影の危険予知によって索敵能力が高いため。
パーティを分けた際に一姫達にはフリーレンから首輪探知機を預けられていた。
日番谷の存在をいち早く察知出来たのも、首輪探知機のお陰だ。
藤木の言葉の通り危険人物がまだ近くにいるかどうかで、彼の信頼度を測る事ができる。
まぁ尤も、藤木のことを一姫は既にこれっぽっちも信じてはいなかったけれど。
だから、もし彼の言う通りネモとフランが小学校にいるなら。
上手く行けば協力を仰げる可能性も存在している。どうせ悪いのは藤木側だろうし。
「ネモとフランがいなければ、それ以外に何も不都合はないはずよね?」
「……う…!…あ、当たり前だろ……っ」
「決まりね」
一姫が怖かった。
何もかも見透かされている様な。
話していると、その内シカマルを殺したことを自白させられそうな。
どんな錯覚を覚えて小学校に向かうという声を否定できず、了承してしまった。
(だ……大丈夫だ……電撃で殺した以上、証拠なんて無い
い、いや……ネモやフランが殺したって事にすることだって……!)
古畑任三郎だって杉下右京だって、本物の超能力でやった殺人は暴けないだろう。
だから、シカマルの死体は見つかってもネモ達に擦り付けてしまおう。
そうだ、それがいい。きっと上手く行く。だって今の自分には神がついているのだから。
いや、自分こそが神なのだから。上手く行かない筈がない。
それにもし万が一が、あったとしても─────
(さ…桜ちゃんやガッシュを頼ればいい、よね……
二人とも、力があって、いい人だから……僕を見捨てたり、できないよね?)
ヒーローの良心に付け込むことに、最早躊躇いはない。
だって、もう後戻りはできないのだから。
どんな手を使ってでも、優勝すると決めたのだから。
そうしなければ、永沢を助ける事ができないのだから。
だから、仕方ない。友達を助けるのに何が間違っているというのか。
これは神の決定だ。間違いだと指摘する方が間違いなのだ。
だから自分は、間違ってはいない。藤木は密かに凄絶な笑みを浮かべる。
力を与え、本来なら勝てぬ相手に勝つ幸運を与えた神はいたとしても。
きっと、彼に正しい答えをくれる都合のいい神様なんて、いなかった。
【一日目/日中/F-6とG-5の境界付近】
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:ゴロゴロの実の能力者、シュライバーに対する恐怖(極大)、ネモに対する憎悪、左肩に刺し傷、右眼喪失、精神汚染(大)、左膝損傷(中)、痛覚の鈍化、殺人の躊躇喪失
[装備]:皐月駆の眼帯@11eyes、千年ロッド@遊戯王DM(勝次の支給品)
[道具]:基本支給品、ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。特に永沢君を殺した奴は絶対に殺す。
0:何とかシュライバーとまた会うまでに10人殺し
その生首をシュライバーに持って行く。そうすれば僕と永沢君は助かるんだ。
1:暗殺者として皆殺す 。もう僕はシン・神・フジキングなんだ。
2:乃亜にご褒美をもらって 傷を治す。
3:もしシカマル殺害がバレたらガッシュと桜ちゃんの情に訴える。
4:俊國君とガッシュたちに潰しあって消えて貰う。
※ゴロゴロの実を食べました。
※千年ロッドにより自己暗示をかけました。良心と痛覚を大幅に鈍化させています。
※足の傷により一度に数秒程しか走れません。
【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:疲労(大)、人喰いの少女(魔神王)に恐怖(大)と警戒、迷い(極大)
[装備]:キック力増強シューズ@名探偵コナン、伸縮サスペンダー@名探偵コナン
[道具]:基本支給品、真実の鏡@ロードス島伝説
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止め、乃亜を捕まえる
1:藤木を見張り、可能であれば説得を行う。死なせたくはない。
2:乃亜や、首輪の情報を集める。(首輪のベースはプラーミャの作成した爆弾だと推測)
3:魔神王について、他参加者に警戒を呼び掛ける。
4:他のマーダー連中を止める方法を探し、誰も死なせない。
5:フランに協力を取りつけたかったが……。
6:元太……。
7:俺は、どうすればいい……。
[備考]
※ハロウィンの花嫁は経験済みです。
※真実の鏡は一時間使用不能です。
※魔神王の能力を、脳を食べてその記憶を読む事であると推測しました。
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]疲労(中)、全身にダメージ(中)、シュライバーへの怒り(大)
[装備]赤の魔本
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、サトシのピカチュウ&サトシの帽子@アニメポケットモンスター、首輪×2(ヘンゼルとルーデウス)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:戦えぬ者達を守る。
2:シャルティアとゼオン、シュライバーは、必ず止める。
3:絶望王(ブラック)とメリュジーヌと沙都子も強く警戒。
4:エリスという者を見付け、必ず守る。
[備考]
※クリア・ノートとの最終決戦直前より参戦です。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【風見一姫@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、藤木に対する警戒。
[装備]:首輪探知機@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3、首輪(サトシと梨花)×2、
ドレインシールド@遊戯王DM
[思考・状況]基本方針:殺し合いから抜け出し、一姫の時代の雄二の元へ帰る。
0:近くの小学校に寄り、日番谷君の手当てとカードの効果を試す。
1:首輪のサンプルの確保もする。解析に使えそうな物も探す。
2:北条沙都子を強く警戒。殺し合いに乗っている証拠も掴みたい。場合によっては、殺害もやむを得ない。
3:過去の雄二と天音の事が気掛かりだけど……。
4:藤木を警戒する。
[備考]
※参戦時期は楽園、終了後です。
※梨花視点でのひぐらし卒までの世界観を把握しました。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
※絶対違うなと思いつつも沙都子が、皆殺し編のカケラから呼ばれている可能性も考慮はしています。
【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(中)、封印されたカードのバトルコスチューム、我愛羅に対する恐怖と困惑(大)、ヘンゼルの血塗れ、ヘンゼルとルーデウスの死へのショック(極大)、シュライバーへの恐怖(極大)
[装備]:星の杖&さくらカード×8枚(「風」「翔」「跳」「剣」「盾」「樹」「闘」は確定)@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品一式、ランダム品1〜3(さくらカードなし)、さくらの私服
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない
1:紗寿叶さんにはもう一度、魔法少女を好きになって欲しい。その時にちゃんと仲良しになりたい。
2:ロキシーって人、たしか……。
3:ルーデウスさん……
4:藤木さんの、さっきの目………
[備考]
※さくらカード編終了後からの参戦です。
【日番谷冬獅郎@BLEACH】
[状態]:疲労(特大)、ダメージ(特大)、腹部にダメージ(大)、全身に切創、気絶
雛森の安否に対する不安(極大)、心の力消費(特大、夕方まで術の使用不可)
[装備]:氷輪丸(破損、修復中)@BLEACH、帝具ブラックマリン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、シン・フェイウルクの瓶(使用回数残り二回)@金色のガッシュ!!、元太の首輪、ソフトクリーム、どこでもドア@ドラえもん(使用不可、真夜中まで)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを潰し乃亜を倒す。
0:……………。
1:巻き込まれた子供は保護し、殺し合いに乗った奴は倒す。
2:シュライバーと甲冑の女を警戒。次は殺す。
3:乾が気掛かりだが……。
4:名簿に雛森の名前はなかったが……。
5:シャルティアを警戒、言ってる事も信用はしない。
6:悟飯は…ああなっちまったらもう………
7:沙都子の霊圧は何か引っかかる。
[備考]
ユーハバッハ撃破以降、最終話以前からの参戦です。
人間の参加者相手でも戦闘が成り立つように制限されています。
卍解は一度の使用で12時間使用不可。
シャルティア≠フリーレンとして認識しています。
シン・フェイウルクを全く制御できていません、人を乗せて移動手段にするのも不可。
【亜空間物質転送装置@遊戯王DM】
龍亞に支給。
発動と共に場のモンスター1体を別の場所に転送する。
参加者にも効果を発揮するが、この文は説明書には記載されていない。
また、基本的に効果の対象となるのは使用者が自軍と認識している存在のみ。
襲撃してきた単独の敵を転移させる事は乃亜の調整により不可となっている。
一度使用すれば六時間使用不可となる。
【フラッシュバン@現実】
龍亞に支給。
大音量や閃光を発する非致死性兵器。閃光手榴弾。
使用すれば閃光と180デシベル以上の大音量によって、
効果範囲内の人物に対して眩暈やショック状態を引き起こす。
ただし、一定以上の強者には効果は余り期待できないだろう。
【気化爆弾イグニス@とある科学の超電磁砲】
山本勝次に支給。
学園都市で開発された気体爆薬。
絶対能力進化施設の防衛戦で、フレンダが使用。
爆発性の気体を室内に充満させ一触即発の状態を作り出すことで、美琴の能力を封じた。
…が、実際に撒かれたのは窒素ガスであり、気化爆薬云々は美琴の能力を封じるためのハッタリ。
【千年ロッド@遊戯王DM】
山本勝次に支給。
古代エジプトで人を生贄に捧げ作られた七つの千年アイテムの一つ。
触れることで他人を洗脳し、思うがままに操ることができる、また、他人に自分の意思を植え付けることもできる。
更に、他の千年アイテムにはない特徴として、柄の部分に仕込み刃がついている。
本ロワでは乃亜の調整により、常人でも抵抗すれば精神操作を跳ねのけられる。
主に自分から干渉を受け入れるか、抵抗もできないほど精神的に疲弊している参加者にしか効果を発揮しない。
ただし、一度精神操作を受け入れた者への強制力は原作とほぼそん色ない威力をみせる。
【AED@現実】
山本勝次に支給。
別名自動体外式除細動器。
心停止の際に除細動を行う医療機器。
起動時に録音機能がある物も存在し、本ロワに登場するAEDも”録音機能”を搭載している。
一度起動すれば三十分ほど録音する事が可能。
【ドレインシールド@遊戯王DM】
ルーデウス・グレイラッドに支給。
相手の攻撃時、攻撃を行ってきた1体を対象として発動できる。
相手の攻撃を無効にし、対象の攻撃の威力分だけLPを回復する。
攻撃を受けた後に発動しても不発となるため、相手の攻撃に合わせ発動する必要がある。
また即座に追撃を受ければ、追撃分のダメージに対しては効果の対象外となる。
一度使用すれば9時間使用不可となる。
【皐月駆の眼帯@11eyes】
木之本桜に支給。
皐月駆愛用の眼帯。右眼をすっぽりと覆える大きさの眼帯である。
投下終了です
投下お疲れさまです。
シカマル、君は良き少年でできる忍者でナルトや龍亜のいい友達だったよ。
そう思わせる藤木との心理戦でした。
彼の判断が正しかったかどうか、その解に期待です。
正解してほしいな。
そして藤木、なかなか見ないすぐ死なない攻撃的な臆病者として稀有な個性を発揮して見ていて胸が高まってきます。
良心捨てて、心理描写ちょっと格好良くなってない?
潜伏先のパーティーメンバーの反応が楽しくちょっと眩しい点もプラスポイントでした。
感想ありがとうございます。とても励みになります
我愛羅、うずまきナルト、エリス・ボレアス・グレイラット、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
ディオ・ブランドー、勇者ニケ、ゼオン・ベル、輝村照(ガムテ)、予約します
延長王行っておきます
投下ありがとうございます!
フジキング、とうとうラインを超えてしまいましたね。
ここまで何やかんやと、誰も死なせずに済みましたが、本当に運が良かっただけだったんですよね。
ゴロゴロの殺傷力が低く見えたのは悟空達が強かったのと、原作麦わらの一味が頑丈過ぎただけで、比較的、常人寄りのシカマルじゃこうなるよなと。
思えばロワ開幕から、梨沙ちゃんには強い口調で食って掛かられ、あっさりシカマルに出し抜かれ、その後も連敗を喫した事が認知を歪ませてしまったのかもしれない。
シルバースキン、セト神、ゴロゴロ、これで半日間誰も死なせなかったのが奇跡。
シカマルも力及ばず、脱落しましたが魔神王にゴロゴロが渡る可能性を極力下げて、また藤木君の機動力も削いで犠牲者の増加を抑えられるよう最大限善処したのが流石ですね。
やはり、天才だったか……。アスマが知ったら、褒めつつ、タバコ吸いながらボロ泣きしますよ、こんなん。
龍亞、図らずも同行者が皆死んで、一人残されて可哀想。
転移先も最悪を超えた最悪で、どうなるんですかねこれ。
さくらちゃんの手当てを受けて、クラスの女子より優しいと評するフジキング、正直面白い。
まあ、同じCCさくら世界とまる子世界を比較しちゃうとね……。
藤木君の悪意に気付きながら、見て見ぬふりをするさくらちゃんの善性が痛ましい。
ブラクラ、Dies、まる子……さくらちゃんの優しい世界を否定する作品キャラとの遭遇が続いていく。
さくらちゃんにとっての苦難は、まだまだ終わりそうにないですね。
リーゼロッテ・ヴェルクマイスター、絶望王 予約します
一応延長もします
すいません
書き上がりそうにないので破棄します
投下します
どうやら、ドロテアとモクバはメリュジーヌ達を切り抜けた後も散々な目に遭った様だ。
それがスタンドを使った治療のさながら、イリヤの話を聞いたディオの感想だった。
今も生きている可能性が高いが、同時に重傷を負っている可能性も高いと言う。
「あの、ディオくん……」
情報を共有する最中、イリヤがディオに向ける瞳の彩は、猜疑だった。
正確には、彼が放送前まで行動を共にしていたというモクバとドロテアに対してだが。
メリュジーヌから伝えられた、ドロテアとモクバの悪評は果たして真実なのか。
白黒ハッキリさせるべく、イリヤはドロテア達の事をディオに尋ねた。
(チッ、面倒だな……)
話の雲行きが怪しくなり始めてから、ディオは既にこの場の最適解を思案していた。
まず、最も安直な選択としてはメリュジーヌがマーダーだと主張した上で否定する事だが。
永沢を襲い首輪を奪ったと言うのは事実の為、完全否定は不味い。
何しろ、メリュジーヌの話から出たのはドロテアとモクバの名前だけだったが。
永沢殺害の下手人は他ならぬ自分なのだ。それ故に、もしここで完全否定した後。
メリュジーヌ達が永沢殺害の証拠を提示してきた場合、一気に窮地に立たされる事となる。
隠した所でスタンドなど、ディオにとっての未知で暴かれれば太刀打ちできない。
それ故に、根も葉もない話だと断ずることは正解ではないだろう。
かといって、そのまま肯定するのは論外だ。ディオは決断した。
「………ドロテアに限って言えば、それは恐らく事実だろう。
だが、モクバについては違う。少なくとも奴は、積極的に人を害せる奴じゃない。
ドロテアにしても、殺し合い自体には乗っていない筈だ」
ドロテアに限って、認めてしまう。それがディオの選んだ解答であった。
だが完全な形で肯定もしない。ドロテアと再会した場合の事も考える必要がある。
独りだけ悪者にされる憂き目に遭えば、あの女狐は自分を道連れにしようとしてくる筈だ。
ただでさえニケやエリスには懐疑的な目で見られている以上、それは避けたい。
「ドロテアは危険な女だ。事実僕も脅されて…殺人の片棒を担がされかけた。
だが、同時に奴は意味のない事はしない。奴に殺された永沢は度々あの女と衝突していた。
それだけに、少なくとも君達に手荒な真似をするのは考えにくい…というのが僕の見解だ」
「ちょっと、そんな話聞いてないわよ!」
「僕も殺されるかどうかの瀬戸際だった!!
それにこんな話出会って直ぐに言ったら僕は信用されなかっただろう!?
大体、ついさっき殺し合いに乗りかけていた君が言えた立場か!!」
ドロテアに罪を擦り着けつつ、同時にフォローも行う。
当然の如くエリスが食って掛かって来るが、それは想定済み。
だからエリスにではなく、ナルトやニケ、イリヤに向かってディオは訴える。
仕方のない事だったと、むしろ今こうして正直に喋った事こそ。
自分が見せられる君達への誠意だと声高に主張を行う。
「………うん、取り合えず分かった。
ディオ君の言う通り、モクバ君は一応私に協力しようとしてくれてたし…」
「ちょっとアンタ、イリヤって言ったわね!こいつの言う事を……」
「大丈夫だよエリスさん。心配してくれてありがとう」
「……………」
一先ずディオの話を聞き入れる姿勢を見せたイリヤに、エリスが食って掛かろうとする。
だが、それを遮って感謝の言葉を述べるイリヤの眼差しに迷いはなく。
梯子を外された形となったエリスはニケ達の方に顔を向けた。何か言えと。
目が合ったニケは頭の後ろで手を組み、軽い調子でエリスへと自分の見解を告げる。
「まぁ落ち着けよエリス。俺も嘘は言ってねーと思うよ?」
「なんでよ」
「だって、見栄っ張りのこいつが自分から不利になるような事簡単に言うハズないじゃん」
「貴様ッ!それはどういう意味だ!」
「事実だろ」
肩を怒らすディオを気に留めず、間の抜けた顔で指摘を行うニケ。
本人のマヌケ面とは裏腹に、エリスにとっても一理あると思わされる言葉だった。
前提として、未だにエリスはディオを信用していないけれど。
だからこそ、保身最優先のこの男が軽率に疑われる様な事は言わないだろう。
一応の通った推測であったが、納得できるかは別の話だ。
疑わしいディオに新たなきな臭い部分が出てきたのだから、お咎めなしとはいかない。
矛を収める代わりに、一つの要求をエリスはディオに突き付ける。
「……ふん!ニケ達が言うなら今回はそう言う事にしておくわ!
でも、その代わり、アンタが頭の輪っかの約束に、この子を傷つけないも追加させなさい」
ディオの頭に装着されたこらしめバンドにはエリスら三人を害さないという制約がある。
その対象にイリヤも追加する事、それがエリスにとってのディオへの落としどころだった。
ディオが素直に受け入れればそれでよし。もし受け入れなかった場合でも……
それを口実に、スタンドの没収などに動けばいい。
元々、ディオにスタンドを渡すことは反対だったのだから。
そう考えて告げた言葉だったが…エリスにとって意外にもディオはすんなり要求を飲んだ。
腕を組み、不遜な態度でディオ側からも要求を突き付けてきたが。
「いいだろう、エリス。君の要求を承諾しよう。だが、此方からも条件がある。
もしドロテアと同行する事になった場合は、この輪をドロテアの方に移して欲しい。
僕よりも奴の方が余程危険な女だ。僕の事を信用しろとは言わないが……………
君達と、君達にドロテアの事を話した僕の安全の確保の為にこれだけは譲れない」
ディオの要求は、受け入れられた。あくまでドロテアと同行する事になったら、という前提だが。
モクバやドロテアにはこの場にいる者が持っていない工学の知識がある。
例え危険人物と言えど、首輪を外そうとするならその事実は決して無視できない。
そこにディオは目を付け、交渉に利用したのだ。
結果、不服そうだったエリスも最後には折れざるを得なかった。
(これでよし、これでドロテアと合流した場合でも俺が主導権を握る事ができる)
こんな甘ちゃん共、ドロテアの様な女狐にかかればあっという間に手駒にされかねない。
こいつらを利用するのはこのディオなのだから、それは望むところではなかった。
だから、敢えてドロテアの陰の部分を暴露し、彼女に対する不信を一同に周知した。
ドロテアからすれば裏切りといえるかもしれない行動ではあったが、文句は言わせない。
此方が便宜を図らなければ、ドロテアは首輪目当てに永沢を殺した殺人者として扱われる。
イリヤの口を塞ぐでもしないと、対主催としてまず間違いなく彼女は孤立するだろう。
幾ら技術があると言っても、何時切り捨てられるか分からない相手など危険すぎるからだ。
殺したのはディオだと暴露しても、ドロテアが信用される結果にもつながらない。
ディオとドロテア、両名が信用できないというレッテルを貼られるだけでメリットがない。
得られるリターンは精々ディオへの意趣返しくらいだ。
それなら彼女は、信用を回復させるためにこらしめバンドを被るだろう。
危険はないとアピールする為に、他の対主催の元に身を寄せるために。
彼女がこの一団と行動を共にすることを選ぶかは定かではないが。
もし選んだ場合ディオは忌々しい頭の輪を外せて、ドロテアへ精神的優位に立てる。
こらしめバンドという抑止力を用いれば彼女も同行できる程度に危険性は下がる筈だと。
そう口利きしたのは、紛れもなくディオなのだから。
如何な魔女とて、ある意味庇ってくれた相手は無下には出来まい。
そして、こらしめバンドによってドロテアからの万が一の報復も防止する事を見込める。
正に一石二鳥の妙手。さっさとこの窮屈な輪っかを女狐に押し付けたいものだ。
それまでなら、頭にまで犬の様に首輪を嵌められる屈辱も耐える事ができる。
そう胸の奥底で零しながら、新たに命令が加えられたこらしめバンドをディオは被った。
そうして、新たに明らかになったディオの疑惑が一旦纏まりを見せ。
必然的に各々今後どうするかという話に空気が移行する事となる。
そんな中で真っ先に頭を下げ、頼み込んだのはイリヤだった。
「お願い……紗寿叶さん達を助けに行かないと……!」
イリヤが逸れた仲間のうちのび太と美柑は死んでしまい、悟飯は狂気に憑りつかれた。
だが、まだ紗寿叶達はKC(海馬コーポーレーション)に置き去りにしたままだ。
戦う力のない彼女らの安否を確認し、守ってあげなければ。
きっとまだ生きているなら身を潜めて自分が来るのを待っているはずだから。
それに、悟飯が新たな凶行に及ぶ前に止めなければ。
声を張り上げ、新たな同行者たちにイリヤは必死に訴えた。
「……イリヤ、さっき僕の話を信じてもらっておいてなんだが、それは無理だ」
流石に危険すぎる、とディオが冷淡な声を上げた。
即座にエリスが何であんたが仕切るのよと食ってかかるが、ディオの態度に変化はなく。
淡々と、悟飯が戻ってくる可能性のある場所に近づくのは危険すぎると主張を行う。
「孫悟飯はイリヤやドロテアや…僕を襲った金髪の女でも歯が立たなかったんだろう?
そんな相手を現状の僕達が止めるのは不可能だ。止められたとしても犠牲者が出るだろう。
それに、余りこういう事は言いたくないが、イリヤの仲間が今も生きているかは……」
「…………っ!」
青ざめるイリヤの顔と、剣呑な表情で刀に手をかけるエリスを前に、言葉を濁すディオ。
けれど、最低でも次の放送で紗寿叶やモクバの生存を確認してから動くべき。
勿論悟飯の説得など論外、自殺する様なものだと言う彼の主張は頑ななモノだった。
更に、予想外の人物がディオに同調の意思を見せる。
「うーん、悟飯ってやつに関しては俺もディオに一票、かな」
「ニケ!?ちゃんと理由はあるんでしょうね。まさか危ない所に近づきたくないとかじゃ」
「まぁそれもあるよ、でも実際問題俺たちが暴れる悟飯を説得するのは無理だと思う。
これまでずっと一緒にいた美柑って子の話も聞かなかったんだろ、そいつ」
ニケとしてはイリヤの同行者を助けに行くのは、やぶさかではない。
いや、正直めちゃくちゃおっかないし、悟飯を説得しろと言われたら逃げるのだけれど。
でも憔悴したイリヤの様子を見ていると、放って置けるものでもなかった。
だから彼は、紗寿叶達の救助に限り了承のスタンスを示す。
「俺達でイリヤの知り合い回収して、悟飯が来る前にさっさとずらかろう」
安全策を提案するニケに対し、イリヤの反応は悪い。
俯きがちに顔を伏せ、やりきれない風に唇の端を結んでしまっている。
病魔に侵される悟飯に対する負い目からだろう。
だが、悟飯の対応についても一応ニケには考えがあった。
「まぁまぁ。悟飯についても一応考えがあるから、そんな暗い顔しなさんなって。
俺達が言っても話が通じないなら、話が通じる相手に止めて貰えばいいんだよ」
「………?」
怪訝そうな顔を浮かべる一堂に、ニケは人差し指を立てて一人の参加者の名前を挙げる。
孫悟飯の父であると言う、孫悟空の名前を。
赤の他人より、父親が止めれば今の悟飯の耳にも届く可能性はあるだろう。
それが、ニケの考えだった。
その言葉に、俯いていたイリヤの顔が上がり、消沈していた瞳に光が再び灯った。
「そう言えば悟飯君…お父さんの事は本当に尊敬してるって美柑さんが……」
悟飯が爆発する少し前、イリヤは美柑から彼が本当に父親を尊敬している話を聞いていた。
同時に自分のせいで父を探しに行けず、それも悟飯に負担をかけていたのやもと言う話も。
もし美柑の言葉が確かならば、悟飯が敬愛する悟空の言葉なら、もしかして。
微かな希望を抱くイリヤだったが、そんな彼女を尻目にすかさずディオが待ったをかける。
孫悟空の居場所にちゃんと心当たりはあるのか?と。
「あぁ、一応のアテはあるよ」
逸れてしまったらしいが、ネモから悟空もカルデアを目指す筈という事は聞いている。
ならばカルデアに行けば、悟空に悟飯の窮状を伝える事ができるかもしれない。
それが、ニケの考えたプランであった。
「今いるかは分かんねーから、先にイリヤの知り合いを助けてからの方が良いだろうな。
ただし悟飯がいたら俺達の命優先で基本は逃げる。いのちだいじに、それでいいか?」
「うん……!わかった。ありがとうニケくん!」
先ほどとは比べ物にならない程明るい声で、イリヤはニケの提案を飲んだ。
本当は一刻も早く悟飯の事も何とかしてやりたかったけれど。
それだけを気にしてニケ達の命を危険に晒すわけにはいかない。
独りでは至れなかったであろう希望を示し、関係ないのに協力してくれるニケ達もまた。
既にイリヤの心の内では仲間だと思いつつあったから。
「ちょっと待て!何故行く流れになっている!僕は反対だぞ!!」
「行きたくないなら仕方ないな。んじゃやっぱりお前だけ残るか?」
異議を唱える事を読まれていたのか、塩気の強いニケの言葉にディオはんぐぐ、と呻く。
態々危険な場所に行きたくはない、だが、ここで別れては元の木阿弥だ。
苛立ちを抑えて関係を構築してきた意味が殆ど無くなる。
何とか話の潮流を変えようとディオは他の顔ぶれを見渡すが、無意味だった。
「私はナルトとニケが付き合うなら反対はしないわ。一緒に行ってあげる」
「俺は我愛羅やシカマルの奴を探さねーといけないけど…どうせアテはねーしなぁ。
お前だって怪我した仲間が待ってるかもしれないんだろ?ディオ」
(くっ……面倒くさい、このお人好しどもが………!)
不味い、お人好しどもが甘いせいで完全に赴く流れになっている。
だが、ディオとしては絶対に行きたくない。ドロテア達の安否など知った事か。
自分の安全を天秤にかけてまで救助に行こうとは思わない。
兎に角、この不吉な流れを変えなければ。
「僕は反対だッ!危険すぎるッ!
僕達はイリヤの事を何も知らないんだぞ!休日は何をして過ごすだとか、
どんな音楽を聴くのかだとか、そんな事すら知らないんだッ!!
なのに、何故─────」
「あーちょっといいか、ディオ」
「何だッ!?」
「危険って話なら、俺が影分身を先に行かせるから多分大丈夫だってばよ。
もしその悟飯って奴がいたら影分身で引き付けてる間に逃げればいいと思うぜ?」
(余計な事を…………!)
斥候として影分身を先行させて、もし悟飯が陣取っている様子なら即座に引き返す。
そうでなければ、影分身にイリヤの仲間を回収させて手早く撤収する。
もしその途中で悟飯の襲撃を受ければ、影分身を囮にして撤退。
均等にチャクラを分配する影分身が本体かどうかは白眼を以てしても看破できない。
本体のナルト達は身を潜めていればいいし、即座にバレる恐れも少ない。
イリヤの仲間の状態が分からぬ以上、一刻も早く救助に赴くのであれば。
きっとこれがベターな一手だ。尤も、ディオを納得させるには至らなかったが。
「しかしだな───ッ!」
「そんじゃあお前はここで暫く待ってろよ。それでいいだろ?」
冗談ではない。
金髪の痴女やメリュジーヌ、シャルティアと呼ばれていた突撃槍の女。
危険人物はこの島にまだまだいるのだ。そんな中で肉の盾をすべて手放すなど。
ディオからすれば、それは自殺行為に等しい。
等しいが、態々危険を犯して怪我人足手纏いを抱え込むのも御免被る選択肢だ。
だが、状況はどこまでも彼にアウェーだった。
「どうせこの島に安全な場所なんてねーよ。
それなら協力できそうな奴を増やす方向で動いた方がいいだろ」
「………ッ!」
ニケの言葉にうんうんと頷くエリスやナルトを見て、最早この流れを崩せない事を悟る。
本当に嫌だが、腹を括るほか無いだろう。これ以上粘っても置いて行かれるだけ。
それくらいなら自分も同行して、このお人好しどもを操ってやった方がまだマシだ。
無論の事、悟飯や他の強大なマーダーに襲われた場合は自分だけさっさと逃げる。
それを心に固く誓い、大きな大きな溜息を吐いてからディオは「分かった」と口にした。
「………!ありがとう……!本当にありがとう!みんな!!」
『私からも御礼申し上げます、皆様』
全員の方針がイリヤの願いに応えるという方向で纏まったのを目にして。
感極まったと言う声色と態度で、ぺこりとイリヤと彼女の傍らに浮く杖が頭部を下げる。
全く余計な事をしてくれたものだ、ディオは心中で毒づき。
せめてイリヤにたっぷり恩を売ってやらなければ割に合わないと口を開く。
────流砂瀑流!!
その場にいる者達を圧倒的な砂の奔流が飲み込んだのは、その直後の事だった。
■ ■ ■
息苦しく、闇の中にいる様な砂の中を、必死にもがく。
窒息する前に上へ、上へと。ひたすら砂の中から這い上がろうとする。
モグラの様に砂を掻き分け、ぶはぁと這い上がったのは窒息寸前になってからだった。
全身にチャクラを籠めて、創り上げられた砂山から脱出。
そして大地を踏みしめると、その先に待っていたのは予想通りの顔だった。
緊張と決意が込められた顔で、うずまきナルトはその名を呼ぶ。
「我愛羅………」
「うずまき、ナルト………!!」
名を呼ばれると共に、ナルトの目の前に立つ赤毛の少年、我愛羅の顔が歪む。
殺意と、憎悪と、歓喜の表情に。
それは木の葉崩しの時に戦った彼の様相と、完全に一致していた。
聞いていた話の通り、我愛羅はこの殺し合いに乗っている事を悟る。
「……俺と一緒にいた奴らはどうした」
「さぁな……生きてはいるだろうが………
お前が戦う意志を見せなければ俺の砂は飲み込んだ者を締め付けいずれ殺す。仲間を諦め逃げると言うのならそうするがいい」
逃しはしないがな。
獰猛な笑みを浮かべて、我愛羅はナルトに宣言した。
見る者の心胆を凍り付かせる、怪物の如き笑み。
「さぁオレと戦え!!
日向を倒した時の様に俺にも力を見せて見ろ!!俺は……その力を捻じ伏せてやる!!」
初めて拝んだときは身を竦ませた殺意と笑顔だった。
だが今は違う。もうその殺意は、その笑みはナルトにとって通過した物だ。
だから相対する彼の思考は冷静なもので。
我愛羅の様子をここまで眺めて、一つの結論に至る。
────間違いねぇ。やりとりまで、あん時の我愛羅だってばよ。
いかなる術に依る物かは計り知れないが。
この我愛羅は、自分と戦った事のない“過去”の我愛羅だ。間違いない。
その事を確信して、ナルトは薄く笑みを浮かべた。
良かったと。また彼が憎しみに囚われたのではないのだと、仄かに安堵を覚える。
であるならば、これから自分が行うべきことはたった一つ。
「……何が可笑しい」
「いや、別に……何でもないってばよ
ただ、お前は知らないだろうけどな、俺は前に約束したんだよ、我愛羅────」
怖れや怒りや憎しみは胸の内にはなく、ただ火の意志だけを胸に抱き。
堂々たる様で握りこぶしを形作ると、笑みと共に救うべき者の前へと突き出す。
そして告げる、己が成すべきことを唄うように。
「お前がまた誰かを憎しみで殺そうとしたら、俺は……お前を止めるってな」
それを目にして、我愛羅は奇妙な感覚を覚えた。
知らない筈なのに、まるでその言葉を知っているかのようで。
憎しみしか知らない筈の自分の胸の内に、安らぎが芽生える。
うずまきナルトの背後で幻術の様に、知らない景色を垣間見る。
────みな、チヨバア様に祈りを……
────母は強いな、死んでなおお前を信じ切り守り抜いた……
知らない。
こんな景色は、知らないのだ。
だから関係がない。父は死んだのだから。
死者と言葉を交わす未来など、あり得る筈もない。
だから、どうでもいい。知った事ではない。
知らぬ景色が見えた程度で霞むほど、己の憎しみは弱くはない。
「さぁ………始めるぞ、うずまきナルト!」
「あぁ、またお前に見せてやるってばよ───うずまくナルト忍法帖をな!!」
今はただ。目の前の男と雌雄を決するのみ。
その為に、殺す事無く邪魔者を排除したのだから。
台風の目の様な一騎打ち。二人の人柱力の死闘が再び始まる。
■ ■ ■
ジャック・ザ・リッパーは、死んだらしい。
合流したガムテからの報告で、ゼオンはその事実を受け入れた。
元より、デパートを離れた時から契約で繋がっていた感覚がなくなっており。
それ故に、そこまでの衝撃は無かった。
「しかし一度勝った相手に負けるとはな。所詮卑しい生まれ軟弱な殺人鬼だったか」
ジャックに対する個人的な感慨はないため、容赦なく敗北者となった彼女を蔑む。
とは言え、あの利便性の高い霧が失われたのはそれなりの痛手と言えるだろう。
残ったガムテも腕利きの暗殺者とは言え、ジャックの様に霧が出せる訳ではない。
幾ばくかの戦力の低下と、それによる戦略の見直しは避けられない。
そう考えるゼオンに、ガムテは俄かに醒めた視線で尋ねた。
「んで、ど〜するよ王子(プリンス)。
大分お疲(ちか)れっぽいし、暫く穴熊(キューケー)するかァ?」
ぶぅん。殺しの王子が放ったその問いは、鮫肌が首筋に添えられるという返答で返された。
俺を舐めているのか?とゼオンは憎悪で濁った眼で、ガムテを睨みながら問いかけ。
対するガムテは次の瞬間に首が飛んでもおかしくない状況下で、無言で首を横に振った。
その表情に動揺はなく、ごめんちゃァ〜いと変わらぬお道化た態度で謝罪を口にする。
それを見据えてから、次は無いと冷酷に告げ、大刀を降ろす。
「まだまだ俺は邪神の力を引き出し強くならねばならん、その為にもっと殺す必要がある。
魔力も俺の憎しみが尽きぬ限り幾らでも引き出せる。貴様程度に心配される筋合いはない」
「真実(マジ)ィ?異常(チート)じゃあん!」
死相が見える位な。
ガムテは心中で悪態を吐露するが、それをゼオンに伝える事は決してしない。
ドミノの獲得のためにできれば自分が殺したいが、この王子は遠からず自滅するだろう。
いっそ今仕掛けるか。その考えが過る物の、即座にその選択肢を棄却する。
ゼオンの様相は確かに疲労の色が濃く見えるが、目立った外傷はない。
そして魔力とやらに関しても、本当に憎しみによって即座に補填しかねない。
そんな異様さをガムテの第六感は嗅ぎ付けていた。それ故に早計は憚られる。
今仕掛けた所で相打ちになる可能性が極めて高い。まだ、機を待たねばならない。
時が満ちるまで利用する為に、ガムテはゼオンの言葉に異を唱える事はなく。
彼もまた片腕を失いつつも余力はあるため、次なる殺戮を目指す決定を下す。
「よ〜し、二次会(オカワリ)決まりっ☆そんじゃあ次のブッ殺す奴探そう────」
刃を振り上げ、殺る気充分。
さぁ殺そう。もっと殺そう、殺せば僕らは幸せに。
グラス・チルドレンのテーマソングを口ずさみ、壊れた笑みを浮かべて。
次なる獲物を探しに赴こうとした、その時の事だった。
「─────は?」
ガムテらの目の前を、猛スピードで迫る砂の波濤が埋め尽くした。
■ ■ ■
マジ死ぬかと思った。てか俺ちゃんと生きてるよな?
足は二本揃ってるけど、異世界転生とかしてないよね?
津波の様な砂の怒涛に呑まれた先で、勇者ニケはそう独り言ちた。
風圧を利用し砂からの脱出に使った風の剣をスカーフへと戻し、砂丘の上へと降り立つ。
降り立つと同時に脇に抱えていた金髪の少年を、べしゃりと放り捨てて。
「おーい、お前の方は生きてるか〜?」
「勝手に殺すな……殺すぞ………!」
「うむ、キレるくらい元気があるなら当分は死なないな、よしよし。
っと、それよりもイリヤとエリスの二人は…大分流されたし無事だろうな、二人とも。
もし生き埋めになってたら直ぐに見つけて、人工呼吸の一つでもしてやらねーと!!」
至極雑な扱いでディオが屈辱を覚えるのも、華麗なスルーを見せて。
不純な動機でディオよりも余程重要な華二つの姿を探そうとするニケ。
だが探すまでも無く、イリヤとエリスの二人はニケの前に姿を現す。
「ご生憎様。イリヤが引き上げてくれたから、アンタの助けは必要ないわ、ニケ」
「二人は大丈夫?」
「おっ、無事でよかった二人とも。怪我は無いか?」
ニケが風の剣で脱出に成功したように。
イリヤもまた、砂にもまれながらもサファイアは手放さず転身に成功し。
そのまますぐ傍にいたエリスの手を掴み、一緒に脱出に成功したのだ。
目立った怪我も負っておらず、これで全員が突然の奇襲から無傷で生還を果たした事になる。
後、この場にいないのはナルトだけだ。
『砂に呑まれるまでの魔力反応では、ナルト様だけ動いてはいないご様子でした』
「ってことはつまり、今の砂はナルトを狙った物って事ね」
ナルトに狙いを定めた砂使い。
この二つの要素が組み合わされば、奇襲をかけてきた容疑者は一人しかいない。
エリスも一度戦ったマーダー、砂瀑の我愛羅の襲撃を受けたのだ。
現況を認識しつつ、今度は周囲を見渡す。今いる場所には、見覚えがあった。
ここは一時間ほど前に通過した地点だ。どうやら、そこまで砂に押し流されたらしい。
「フン、それじゃあさっさとナルトの助太刀に行くぞ。
本当かどうか疑わしいが、その我愛羅というのはナルトが一度勝った相手なんだろう?
ならば僕達で一斉にかかれば、より楽に確実に勝つことができる筈だ」
本当はこれほどまでの規模の砂を操るマーダーなどからは逃げたい。
しかし、もうディオも理解している。言っても無駄だと。
このお人好し共は決してナルトを置いて逃げたりしないだろう。
それならば我愛羅をこの場にいる全員でリンチする様に誘導した方が現実的だ。
どさくさに紛れ我愛羅を始末し、ドミノを獲得するのも悪い話ではない。
そんな皮算用を行いながら放たれた提案は、やはりエリスには必要ないと断じられた。
「私達が加勢しなくても、ナルトは勝つわ」
「だから、勝つのは分かっているが、僕達が加勢した方がより消耗も抑えられてだな…」
「必要ないわ。ナルトの戦いに水を差すならタダじゃおかないわよ」
あ゛?お゛?と、最早何度目になるか分からぬ睨み合いを始めるディオとエリス。
お前ら仲悪すぎだろ、ニケは突っ込みながら二人の間に割って入った。
イリヤもどうどうと宥める様にエリスの前に仲裁に入る。
「まーまー、落ち着け、喧嘩するでない者ども。
どうせナルトとは合流しなきゃいけないんだ。なら直ぐ近くに行っておこうぜ。
助太刀するかどうかは……まぁナルトがヤバくなったらってことで。うん。
ちゃんと分かってるからそんなに睨むなよエリス。ちょー怖いから」
「………分かったわ」
どの道合流はしなければならない。その言葉に納得の姿勢を見せ。
ディオもいざとなればナルトが危険だと思ったとか何とか、理由をつけて手を出せばいい。
そんな姑息なプランを考えつつ、舌打ちと共にニケの言葉に同意の意志を示した。
何とか水と油の二人の方針が一致した事に胸を撫で下ろし、イリヤは出発を促そうとする。
「じゃあ皆で、早くナルト君の所に───」
「いや、それは無理だな」
「───────っ!?」
イリヤの言葉を否定する声が上がる。
それはニケの物でも、ディオの物でも、エリスの物でもない。
聞いた事のない、少年の声だった。
その声に不吉なものを感じ、一斉にイリヤ達四人は声の出所へと視線を向ける。
立っていたのは、白いマントを纏い、その手に刺々しい太刀を有した白髪の少年だった。
獰猛な戦意と殺意を声に乗せて、修羅の雷帝ゼオン・ベルは新たな獲物に言い放つ。
「テメェらの首はここでこの俺が貰う」
■ ■ ■
ガムテは砂に呑み込まれたらしい。
とは言え、助ける必要は無いだろう。奴はジャックが死んだ戦場でも生き残った暗殺者だ。
この程度で死ぬとは思えないし、死ぬようならどの道駒としても必要ない。
何よりドミノというルールが追加された以上、獲物は出来る限り自分が総取りしたい。
あのデパートでは眼帯の気狂いのせいでキルスコアを上げられなかったのだから。
ドミノの獲得と言う点で言えば、目の前のガキ共は実に手ごろな羊と言えた。
疲労を感じさせない肉食獣の笑みを浮かべて、ゼオンは獲物達に相対する。
「インクルシオッ!」
そんなゼオンを前にして、真っ先に動いたのはエリスだった。
鍵剣を構え咆哮を上げると共に、白亜の全身鎧が彼女を包み。
それに次いでイリヤも臨戦態勢に入る。
「夢幻召喚(インストール)!」
カードを掲げ言霊を紡ぐとともに、イリヤもまた清廉なる西洋甲冑を身に纏う。
そして、ステッキを媒介に現れた黄金の聖剣を握り締め、油断なく構えを取る。
目の前の少年の魔力量から、セイバーのクラスカードでなければ対抗できない。
サファイアはそうイリヤに告げ、それ故に迷いなくイリヤもセイバーのカードを選択した。
(よし、本当に使えた……!タイム風呂敷があってよかった…!)
本来は未だインターバル中のセイバーのクラスカードが使用できた理由。
それはイリヤに支給されたタイム風呂敷にあった。
クラスカードに被せる事で使用可能時間まで時間を経過させ、再使用可能としたのだ。
タイム風呂敷は、見事仕事を果たした。その成果が、今のイリヤの身体を包んでいる。
エリス、イリヤの二名の戦乙女の戦闘準備が整い、一触即発の空気が漂う。
そんな中で、真っ先に踏み出したのは二人でも、ゼオンでもなかった。
「ニケ君……?」
「ニケ……?」
ニケの意図が分からず、イリヤとエリスの二人は困惑した表情を浮かべる。
二人の少女を尻目に、ニケは胸を張ってずんずんとゼオンの前に進む。
ゼオンは、動かなかった。目の前のマヌケ面が脅威になるとは思えなかったからだ。
だから、無言で自分の前に進み出るニケの動向を見届けた。
そして、数秒の間を置き、ニケはゼオンの二メートルほど前までやってきた。
明らかなマーダーと対峙する勇者の背中を目にして、少女二人に緊張が走る。
一体何をするつもりなのか。エリスとイリヤが息を呑む中、答えは直ぐに明らかとなる。
「────不肖ニケ、ただいまより貴方様の忠実なる下僕で御座います」
本当に何をやっているんだろう、こいつは。
イリヤとエリス、そしてついでにゼオンがその時考えた事は全く同じだった。
暫く時が止まり、凍り付いた時が再始動したのはディオが罵倒の言葉を吐いてからだった。
「このクソバカが……!」
心底身下げ果てたという声で吐き捨てるディオに、跪いたままのニケが異議を唱える。
「何だよ!いーだろ別に戦わなくてもそれで丸く収まるなら!!
こっちはもうシリアスの供給過多でお腹いっぱいなんだよ!
此奴(ゼオン)もフラついてて疲れてそうだし、戦うにしても茶でもしばいてからぁあああああああっ!?」
どかッ。
無言のままのゼオンに蹴り飛ばされ、ニケの身体がサッカーボールの様に吹き飛んだ。
ごろごろごろごろごろごろと転がって、近場の植え込みに突っ込みようやく止まる。
ピクピクと震えるニケの尻を見て、まぁ…いいかと、イリヤとエリスは同じ結論に至った。
気を取り直し、武器も構え治す。ゼオンもまた、同じだった。
「アンタがこいつらに手を出すって言うなら、容赦はしないわ」
既に思いきり手を出されているけれど、それは完全に無かった事になったらしい。
ディオはニケの尻を眺めながらそう考えたが、直ぐにどうでもいいなと忘れ去る。
敵も味方も、その場にいる全員の思考が一つに統一された瞬間であった。
そして、状況は勇者を置いてけぼりにして進行していく。
「ククッ、そこに転がってるゴミよりはマシな言葉を吐くじゃねぇか」
空気が、切り替わる。
バチバチとゼオンの掌で雷光が瞬き、威圧感が溶岩の如く噴出して。
イリヤ、エリス、ディオの三人に、戦慄が走った。
この少年もまた、これまで出会ってきたマーダー達と同じ怪物だと。
その印象を裏付ける様に、疲労を感じさせぬ邪なる笑みで、雷帝は進撃の幕を開く。
「だが───大きな口を叩く前に、まずはこの雷を受けてみるがいい!!」
開戦の声が各々の耳朶を打つと共に。
白銀の少年の姿がシュッという衣擦れの音と共に消失を成す。
ディオの動体視力ではどう見ても掻き消えた様にしか見えなかった。
強化されたイリヤやエリスの反応すら、一手遅れた。
シュライバーとすら渡り合った、殆ど瞬間移動に近い速度。
血の滲む様な修練の果てに得たその速さを以て、ゼオンはイリヤとエリスの側面に現れる。
そして五指を広げ────一片の躊躇も容赦もなく、呪文を紡いだ。
「テオザケル!!」
多少弱められているとは言え、常人が受ければまず間違いなく即死の雷光。
言霊が吐き出されると共に、二人の獲物目掛け閃光が迸る。
イリヤとエリスは躱そうと動くが、すでに遅い。
側面に現れられた時に僅かに反応が遅れたのが、回避が叶うかの分かれ目だったのだ。
「く────」
「─────っ!」
迫りくる雷光に、白と緋の二人の少女は成す術がなく。
そのまま予定調和の様に、白光に二人の肉体は飲み込まれて。
そして、全ての色彩が白一色に塗りつぶされた。
■ ■ ■
雑魚だと思っていたが、存外にできるらしい。
ゼオンは半ば勝負を決めるつもりだった雷撃が導いた結果を目にして苛立つ。
疲労や魔力の消耗で威力が落ちていた影響は間違いなくあるだろう。
しかし、それを差し引いたとしても────、
「…ッ!エリスさん!大丈夫!!」
「エリスでいいわよ、イリヤッ!!」
二人の戦乙女は健在であった。
雷撃のダメージを受けながら、しかし応戦に支障は無し。
気合の声を叫びつつ、敵手へと突き進み打ちかかる。
それを見ていると、更にゼオンの苛立ちは募っていく。
今、生意気にも自分に歯向かおうとしてる雌猫2匹。
片方は実力が不足しており、片方は殺意が不足している。
そんな半端物に、自分の雷が突破されたのは実に不快な事実だった。
(いや……奴らの実力ではない)
血みどろの修練で得た洞察眼を発揮し。
それにより目の前の小娘二人が自分の雷を耐えたのは、本人の力ではない事を看破する。
実力でベルの雷に耐えたわけではない。小賢しく身に纏っている装備の力だ。
そう断じたゼオンの推察は正しい物だった。
「はぁあああああッ!」
「シッ!!」
イリヤはクラスカードの力で肉体を英霊の領域まで置換している。
それに加えて彼女が現在使用しているカードは近接戦闘に秀でた三騎士のカード。
最優のクラスと名高いセイバー、誉れ高き騎士王の力をその身に宿しているのだ。
そして、彼女に与えられたのは騎士王としての能力だけではない。
三騎士のクラスの象徴とも呼べる対魔力のスキルが、彼女を雷撃から守ったのだ。
オリジナルの対魔力に比べれば劣る物の、それでもその効果は十分。
修羅の雷帝と渡り合うだけのアドバンテージを、イリヤに与えていた。
また、イリヤと並び立つエリスも電撃に対する耐性を有していた。
もっとも、有しているのは彼女ではなく、彼女が身に纏っている帝具インクルシオだが。
それは帝都の大将軍ブドー、彼の操る帝具アドラメレクとの交戦により手に入れた耐性だ。
奥の手を使えば天候を変える強力な帝具の雷撃をも耐える性能を、インクルシオは誇る。
そして、生ける帝具と呼ばれるインクルシオの得た耐性はこの殺し合いでも健在であった。
シュライバーの銃撃にも耐える堅牢さと、ゼオンの雷にも耐える電撃耐性。
それはエリスにとって幸運な事に、遺憾なく発揮されていた。
2対1という数の有利、二人が備える電撃耐性、そして敵手のコンディションの悪さ。
三つの要因が重なった事で、この時のイリヤとエリスは修羅の雷帝に確かに肉薄していた。
手にした鮫肌とマントで二者の攻撃を捌きながら、ゼオンはその事実に苛立ちを募らせる。
「ザケル!!」
五指を広げ、至近距離からの雷撃を見舞う。
足を止め、鮫肌による痛打に繋げるためだ。
だが───初級呪文ですらギガノ級に届く威力を誇る、彼の雷撃であっても。
「ぐ────これ、くらいッ!!!」
イリヤの足は止まらない。エリスも止まる事無くイリヤへと続く。
まず対魔力を有するイリヤが切り込み、イリヤの身体を盾にエリスが突撃する。
示し合わせた訳ではない咄嗟の連携だったが、現状における最適解を叩きだしていた。
勢いのままイリヤが聖剣を正眼に構え、突きを放つ。
ゼオンはそれに合わせて鮫肌で防御姿勢を取るが、呪文を放った直後だ。
死角であるイリヤの背後から現れ、追撃を行うエリスの対処までは手が回らない。
「しゃあっ!」
一拍の気合と共に放たれた右フックが、ゼオンの顔面を襲う。
インクルシオで強化されたエリスの喧嘩殺法は、ゼオンをして脅威となる一撃だった。
何故ならインパクトの瞬間親指が瞼にねじ込まれ、このままでは眼窩を抉られる。
刹那の時間でそう直感したゼオンは、耐えられる拳であっても吹き飛ばされるしかない。
ここだ。イリヤとエリスの両名が好機と判断し、獲物を手に攻勢を挑んだ。
聖剣と和道一文字を握り締め、今こそ勝負の流れを引き寄せようと────
「舐めるな雌猫共ッ!ラウザルク!!」
大きく態勢を崩した態勢でありながら、見る者に畏怖を抱かせる怒号を響かせ。
憎しみのままに紡がれた呪文は、ゼオンの全身に更なる力を与える。
声のみならず表情も憎悪と憤怒に染め、修羅の王子は反逆者への反転攻勢に移行。
コンマ数秒で純白のマントを操作し、和道一文字を振りかぶっていたエリスの腕を捕える。
そして、マントによって突撃の勢いが鈍った彼女の肉体を、傍らのイリヤへと叩き付けた。
「きゃあッ!」
「くぅッ!!」
ぶつかってしまい、たたらを踏む少女達。
だが当然、彼女達が体勢を立て直す時間などゼオンは与えない。
即座に肉薄し、ある程度の間合いがなければ取り回しが悪い鮫肌ではなく、拳を振るう。
弾丸のように放たれた拳は、甲冑を凹ませ、骨にまで響く衝撃をイリヤに与えた。
ゼオンの蹴りや拳は、生半可な鎧を一撃で砕く威力を有している。
それが肉体強化呪文(ラウザルク)で更に強化されているのだからたまらない。
ボディーブローの直撃によって唾が噴き出し、イリヤががくりと膝を付く。
「イリヤ!!」
「仲間の心配をしてる暇があるのか?」
「────っ!?」
エリスがイリヤと言う三文字を口にした時には。
既に、ゼオンは拳を握り締め、エリスの眼前へと迫っていた。
不味い、エリスの背筋を悪寒が駆け抜けるモノの、すでに遅く。
嘲りと侮蔑を含んだ言葉を、ゼオンは眼前の劣等へと叩き付ける。
「教えてやる、紛い物ども───力を“身につける”ってのはこういうことだ!!!」
マシンガンの様に連続して、大砲の様に重く響く旋律が、大気を震わせる。
その音を響かせているのは拳だ。二対の拳による、息もつかせぬ連打。
地面を砕き掘削するが如き音色が絶え間なく響き、猛攻がエリスを飲み込んだ。
「───ぐ、う゛あ゛あぁあああぁあああああああああッ!!!」
ラウザルクの効果時間一杯打ち据えられ。
最後に一際重い一撃をゴッ!と叩き込まれたエリスの身体が、空中を踊る。
瞬く間に二人の反逆者を肉体だけで圧倒した雷帝は、簡単な事だと呟きを漏らす。
電撃に耐性があるのなら、剣術で、己の五体でぶちのめす。それだけだ。
そう結論付けて、勝負を決めるべく追撃を行おうとしたその時。
視界がグラリと揺れ、両ひざが震える。体に蓄積した疲労の影響だろう。
これを無視するわけにはいかない。でなければ態々リスキーな選択を選んだ意味がない。
此処は落ち着いて当初の計画通り事を進める。その考えの元、鮫肌を握りなおす。
「させない………ッ!!」
その直後の事だった。彼の追撃を阻むように、白髪の方の雌猫が飛び込んできたのは。
それを鮫肌で受け止めながら、ゼオンは聞こえない程小さな声で呟く。
「そうだ、間抜けに焦る必要はねぇ。何故なら………」
奴らは、こうなった時点で自分の掌の上なのだから。
その事実に気づいていない獲物達を睥睨し、ゼオンは心中で嘲笑を浮かべた。
■ ■ ■
おかしい。サファイアとイリヤの両者が違和感を抱いていた。
先ほどから敵手の少年の行動が嫌に消極的なのだ。
戦意を挫いたわけではない。まず間違いなく今も彼は自分を殺すつもりだろう。
にも拘らず、今のゼオンは不気味な程に防戦一方。カウンターを狙っている様子もない。
大刀を振るう間合いの確保に専念しているのではないかと考える程だ。
しかし、それでもイリヤは攻めきれない。痛打となる剣閃は全ていなされている。
劣化しているとは言え騎士王の力を備えたイリヤを相手に、少年の技量は異常と言わざるを得なかった。
(強い………!)
イリヤとサファイア。一人と一本の思考が重なる。
そんな彼女達の焦燥と危惧を嗅ぎ付けたのか、ゼオンは吼えた。
少女達が何を思ったかなどお見通し。自身が強いなど当然だと吐き捨てる。
自分は目の前の雌猫に使われている様な、惰弱な王などとは違うのだから。
「てめぇらみたいな借り物の力に頼る紛い物とは違う…これが王の、このゼオンの力だ!」
イリヤの真紅の瞳が見開かれる。
さっきまで疲労で傍から見ても満身創痍だったゼオンの剣速が、上がり始めたのだ。
先ほどまでは、ゼオンが防戦一方となるほどイリヤが押していたというのに。
不気味だった。まるで戦いの最中復調してきたかのよう。
怒りや憎悪による一時的な脳内麻薬の分泌では断じてない。では何が原因か?
それを考える理由を、ゼオンは与えてくれない。
徐々に激突する剣圧が、拮抗し始める。
「があああああああッ!!」
当然、イリヤ達も状況を甘んじて受け入れはしない。
痛む身体に鞭を打ち、獣の咆哮を上げてエリスが戦線に舞い戻る。
再びの二対一の状況が作られ、ゼオンはマントと鮫肌で二人の猛攻を捌く。
先ほどのリプレイの様な戦況。しかし二人の少女が抱く焦燥は増していた。何故なら。
───やっぱりこいつ、ドンドン強くなってる……!
最早此処まで来れば気のせいでは片付けられない。
さっきまではイリヤ達が明確に攻めていた戦況が、現在では完全に拮抗している。
それも、エリスがイリヤの加勢に加わったにも関わらずだ。
恐らく、現状で一騎打ちに持ち込まれれば戦況はゼオンに傾くだろう。
しかし何故。力を隠していたのか?戦闘開始時に不調に見えたのはブラフだったのか?
そんな疑問符がイリヤ達の脳裏を駆け巡る中、真相に辿りついたのはサファイアだった。
『承知しましたイリヤ様!刀です!
この方が振るう刀が──イリヤ様達から少しづつ魔力を吸い取っています!』
異常なゼオンの復調のからくり。それはサファイアの言葉の通りだった
霧の忍刀七忍衆が一人であり、暁構成員である干柿鬼鮫。
彼の武装である大刀・鮫肌がここまでの交戦でイリヤ達からエネルギーを吸収し、
そのまま削り喰らった魔力をゼオンの体力の回復に転用していたのだ。
「フン、ようやく気づいたか」
看破されてなお、ゼオンの表情に焦りはない。
むしろ気づくのが遅いと嘲笑の笑みすら浮かべていた。
事実ルーデウスやロキシー、或いは遠坂凛やルヴィア等の生粋の魔術師であれば。
戦闘に直接自前の魔力を使用する都合上、もっと早く気づいたに違いない。
翻ってイリヤはクロエと別れてから魔力運用をカレイドステッキに依存しており。
二本のステッキは第二魔法によって無限の魔力供給を可能とする魔術礼装だ。
そのため鮫肌の効果を夢幻召喚の消耗に依る物だと誤認し、気づくのが遅れたのだ。
エリスもまたルーデウスから多少の魔術の教えは受けているが、戦闘では殆ど使わない。
ギレーヌやルイジェルドから薫陶を受けた剣こそ、彼女の戦闘スタイルだ。
それ故に彼女もまた、ゼオンに少しずつ魔力が奪われている事に気づけなかった。
『申し訳ありません…もっと早く私が気づいていれば……!』
表情なき杖でありながら焦燥を感じさせる声色で、サファイアが謝罪の言葉を述べる。
もっと早く気づけたはずだった。相手が消極的だったのは防戦一方だったからではない。
ただ、自身の体力が戻るほどの魔力を削り取るまで、待っていただけだったのだ。
サファイアは当初、ゼオンの回復を彼が身に着けている装飾品によるものだと考えていた。
事実彼が身に着ける純金のアクセサリーは、英霊の宝具に匹敵する魔力が内包されており。
その禍々しい魔力が更に、サファイアの読みを鈍らせたのである。
「ククッ、貴様らは気づかずせっせと俺に魔力を運んでたって訳だ」
最早、ブラフを貼る為に大人しくする必要はない。
ここから先は真っ向勝負、最早バレた所で問題はない所まで回復したのだから。
唇の端を釣り上げ、鮫のような歯を覗かせながらゼオンは鮫肌を振るう。
その剣速と剣圧は先ほどよりも更に早く、鋭く───!
「くぅう、あぁ────!」
嵌められた。イリヤは悔しさと焦燥に歯を食いしばりながら、必死に剣を振るう。
そう、必死にだ。最早全力に近い力と速さでなければ、危険だと警鐘が鳴り響いている。
恐るべきはゼオンの実力。二対一で、当初は劣勢だったにもかかわらず。
単独で形勢を逆転させる狡猾さと実力は、年齢を考えれば天賦の才と評する他ない。
血反吐を吐いて得た力、魔界の王の嫡子としての才能、そして本人の暴力性が。
二人の少女を破壊しようと追い詰め────その瞬間はやってきた。
「ラージア・ザケル!!」
「ッ!?眩し……っ!」
呪文が紡がれると共に、ゼオンを中心に波の様に拡散した電撃が発射される。
ゼオンにとっては業腹だが、雷の大きさそのものは今のイリヤ達なら充分耐えられる威力。
しかし、この電撃は彼にとってあくまで目くらまし。攻撃の起点に過ぎない。
直後にイリヤ達はその事を思い知らされる、更に攻勢へ踏み込んだゼオンの一撃によって。
「借り物の力に頼る脆弱さを知るがいい!!」
「──がっ……!」
ドス黒い私怨が籠められた断絶の言葉が放たれ、まずエリスが薙ぎ払われた。
ほんの10秒に満たない短い時間ではあるが、そこからゼオンとイリヤの一騎打ちとなり。
瞬きの間に両手両足の数では足りない激突音が大気を揺らし、空間に火花を散らす。
その火花が視界の端に消えたタイミングで、ブゥンッ!とゼオンが鮫肌を振りかぶる。
大振りになったゼオンを眼にしてイリヤは考えた。好機だと。
この攻撃をいなし、強烈なカウンターをゼオンに見舞う。
そうなれば流れを再び此方に引き込むのも不可能ではない。
だが、彼女のそんな希望的観測を裏切り訪れたのは、絶望的な光景だった。
意識の端でサファイアが『いけませんイリヤ様』を悲痛な声を上げるが、既に手遅れで。
─────ガァアアアンッ!!
激突の瞬間。
不吉な旋律と共に、イリヤがその手に握っていたエクスカリバーが“折れた“。
半分ほどでぽっきりと折れた刀身の像が霧散し、サファイアが現れてしまう。
決して砕ける事などないはずの星の聖剣が、敗北を喫したのだ。
「そん、な────」
イリヤのその手に握るエクスカリバーが敗れた理由は至極単純。
ルサルカが食人影を形作る魔力を鮫肌に削り取られ、強度を保てなかったのと同じ。
英霊の力を維持するための、ステッキから供給される魔力を削り取られてしまった。
その結果如何な星の聖剣と言っても、所詮はカードの力で再現された劣化した複製品。
刀身を構成する魔力を一時的にとは言え鮫肌に奪われ、強度を保てなかったのだ。
「これで、終わりだ」
そして、武装を喪い無防備となった憐れな獲物に対し。
残像すら見える様な速度でゼオンは上半身を半回転させ、捻りを作る。
死に物狂いでイリヤは後退を行おうとするが、既に無意味。
一切の抵抗は叶わず、イリヤは聞いた。
ゼオンの振るった金棒の様な刀が、ボグ、ンッ!!!という、己の肉を叩き潰す音を。
「─────ッ!!!」
悲鳴すら叩き潰され。
イリヤの身体が宙に舞い、どしゃりと地面へと崩れ落ちた。
そんな彼女に、ゼオンは勝利を確信した上で再び彼女を電撃で灼く事を試みる。
だがそれが果たされる前に、タッチの差で割り込む影が一つ。
「させる───かッ!!!」
イリヤを救おうと、先ほど薙ぎ払われたエリスが渾身の力でゼオンにタックルを敢行する。
インクルシオで強化された決死の突撃に、流石のゼオンも無防備でいる訳にもいかない。
ひらりと身を軽やかに翻し、攻撃の中断と引き換えに突撃をあしらう。
その最中、エリスに対し彼が浮かべる表情は嘲笑と侮蔑、それだけだった。
「来い、遊んでやる」
「舐めるなァッ!!」
見下しきった言葉に対してエリスは激高し、和道一文字で斬りかかる。
だが、やはり当たらない。掠りもしない。いくらエリスが吠えようとも。
それほどまでに二人の実力差は開いていたし、エリス自身もその事には気づいていた。
それ故に訪れるのは、エリス自身も結果が分かり切った────絶望の戦いだと。
■ ■ ■
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが敗北した瞬間。
ディオ・ブランドーは現在所属している集団に見切りをつけた。
今まではビルの陰に身を隠し、戦況を伺っていたが、ここらが潮時だろう。
エリスもイリヤも、のびている阿呆(ニケ)も、これから揃って銀髪の小僧に殺される。
そして、このまま此処に留まっていたら自分をも殺されることになるだろう。
それだけは御免で、だからスタンドを持ち逃げすることに決めた。
「それじゃあな…このディオが逃げ延びるまでの囮になれ、マヌケ共」
キウルたちを見捨てた時と同じだ。
どうせメリュジーヌと会敵した際には囮にするはずだった連中、未練はない。
アヌビスもできれば持ち逃げしたかったが、あの犬コロは無駄に騒がしい。
それに何か面倒な契約も結んでいる様子だったので、無理に連れて行くのはリスクを伴う。
こっそり逃げ出そうというときに叫ばれて逃亡劇が台無しになったら困るのだ。
だから暫し迷った末に、ディオはアヌビス神を置き去りにすることを決めた。
その決定に突き動かされるように、できる限り音を立てず疾走を開始する。
「フハッ!ラグビー部志望のこの健脚!数分も走れば安全な場所まで到達可能よッ!」
走る際、こらしめバンドが嵌められた頭部に締め付ける感触はなかった。
やはりにらんだ通り、逃亡行為はニケ達を害した判定にはならないのだろう。
馬鹿な奴らだ、甘い措置を取るから結局は裏切られるのだとディオは嘲笑った。
まぁ連中の甘さのお陰で、こうして自分は逃げ延びられるのだからそこは感謝してもいい。
そう考えながら、ディオは二百メートル近くを数十秒で駆け抜け、曲がり角を曲がった。
後はこのまま距離を離せば撒けるだろう、そう考えて。
「どこへ行くつもりだ?」
今しがた地面に打ち捨てたと思わしき、インクルシオに包まれたエリスを踏みつけ。
片手に大刀を携えたゼオンが、曲がり角の先でディオを出迎えた。
その五体に、嗜虐心に満ちた禍々しい害意を漲らせて。
ディオの思考が、空白に染まる。
「な……あ………」
スタンドを出現させ臨戦態勢を取ることもできない。
目論見が崩れ去ったショックと、ゼオンが与える威圧感。
それはメリュジーヌの物ほどではなかったが、ディオの戦意を奪うに充分な物だった。
乾いたうめき声をあげ、ディオは二歩、三歩と後ずさる。
彼の後退に合わせてゼオンもエリスを踏みつけながら、一歩前進を行う。
思考を最高速度で回し、ディオが口を開いたのはゼオンの前身から三秒後の事だった。
ここで舌を動かさねば死ぬ、反射的に駆け巡った思考が彼を突き動かす。
生存本能に従って両手を前にやり、待て、と大声で叫んだ。
そして訴える、手を組もうと。
「僕も優勝を狙っているッ!君と目的は一致している筈だッ!」
声を張り上げ、両手を広げて必死に自分を売り込む。
もう自分は一時間ほど前までの無力な自分とは違う。
G・Eというスタンドを有しているのだ、奴とて組んだ方が得なはず。
その自負を胸に、ディオはゼオンを口説き落とす事を試みた。
そんな彼に対し、ゼオンの返答は簡潔だった。必要ない、と。
「───は?」
「確かに戦力は必要としているが、敵前逃亡するような腰抜けはいらねぇ。
それも与えられた力を恥ずかし気も無く誇って媚びる、卑しい下種なら猶更だ」
ディオが訴えた通り、戦力はいくらあっても困ることは無い。
だが、同時に足を引っ張りかねない雑魚は必要ないのだ。
戦場で最も怖いのは有能な敵ではなく、無能な味方なのだから。
その視点で言えば、ゼオンから見たディオの評価は著しく低かった。
罠を貼り自分を撃ち抜いて見せた黒髪のガキや、ジャックやガムテとは違う。
ゼオンの神経を逆なでする、与えられた力を自分の力と勘違いし売り込む恥知らず。
それに加えて保身しか頭にない口ぶりや態度は信用が置けない。
少し此方の形勢が不利と見れば、この子供はあっさりと此方を裏切るだろう。
ゼオンも優勝を目指す都合上、いずれ裏切って来るのは許容しているが。
それでも凄腕の殺し屋であるゼオンやジャックと違い浅はかな判断力で裏切られるのも不快だ。
「まぁ、とは言えジャックの抜けた穴を補填したいのも事実────」
ゼオンの中で既に“否”の決定を動かすつもりは毛頭なかったが。
しかし、万が一使える可能性も無いことは無い。ならばそれをどう測るか、決まっている。
ジャックや風見雄二、ガムテに行った様に試験(テスト)をするのだ。
ディオの心胆を凍り付かせる残虐な笑みと共に、ゼオンは蕾が花開く様に五指を広げて。
そして、仲間になりたければこれを生き残って見せろと一方的に告げ、呪文を紡いだ。
「ジャウロ・ザケルガ!!!」
呪文が唱えられると共に、ゼオンの掌の前に雷のリングが出現し。
リングより放たれた矢の様に、8本の雷撃がディオへと向かって殺到した。
それを見た瞬間、ディオは無理だと悟った。この攻撃をやり過ごすのはまず不可能だ。
媚びを売るのではなく、戦う事を選んでいれば阻止できていたかもしれないがすでに遅い。
ゴールド・エクスペリエンスの能力では、守り切れない。絶対にディオ本体にも被弾する。
そして一発でも受ければ戦闘不能。自分はそのまま殺されるだろう。
彼の年の割には賢しい頭脳は、現状をそう結論付けた。
(こ…このディオが……死ぬのか?こんな所で、何も成さず………)
絶望が、視界を埋め尽くす。
だが、ディオ・ブランドーには何もできない。
スタンドを持っていようと、それを超える相手とぶつかればなすすべがない。
そんな当然且つ残酷な事実ごと、雷は全てを塗りつぶして────
「ディオッ!!!」
『DIO様ァアアアアアアッ!!!』
電撃がディオを飲み込むまでの、その刹那。
少年の襟首が掴まれ、後方へと放り投げられる。
身体を浮遊感が包む中、呆然とディオは目にする。
ディオが先ほどまでいた場所に立ち、光に飲まれるニケの背中を。
────バリバリバリイッ!!遠雷にも似た音が轟き。眩しさで視界が僅かな間眩む。
「………ニ、ケ?」
ホワイトアウトした視界が、徐々に戻るのと同時に。
恐る恐るといった様相で、ディオは自分を後ろへ放り投げた少年の名前を口にした。
まさか、庇われたのか?このディオが?あの少なめの脳みその阿呆に?
今だ生死の淵にいる事も忘れ、当惑した思考のまま立ち上がろうとする。
────げしっ、そんな彼の鼻っ柱に、靴の裏側が突き刺さった。
「お前ざっけんなよ!!お前の手下の呪いのアイテムのせいで見ろこれ!
2度と着けねーって決めてた呪いのアイテムmk-2着けちまったじゃねーか!
どうしてくれるんだ!?全ッ然取れないんだけど、どーしてくれるんだよこれェ!!」
『DIO様を助けるためだ。変な花飾りのお陰で無傷だしいいじゃねぇか』
「よくねーっ!!!」
顔の半分を趣味の悪い仮面で覆って、ディオの顔面に蹴りを入れて騒ぎ立てるニケ。
どうやら、支給品か何かで電撃をやりすごしたらしい。
状況を把握したディオは、即座にそんな事を言っている場合かと吐き捨てる。
余りにも助けられた恩を無視した台詞だったが、この時においてそれは正しい。
何故なら、死神は未だディオ達を見逃してはいないのだから。
その事を突き付ける様に、ニケの眼前からゼオンが敵手の息の根を止めようと迫る。
「アヌビス!」
『おおよ、任せろッ!!俺は絶ェ〜〜対、に………?』
ゼオンが振り下ろした大振りの一撃を何とか躱し、ニケも返す刀でアヌビスを振るう。
最強のスタンドと名高いスタープラチナすら圧倒した能力を誇るアヌビス神だ。
もし相手が鮫肌でなければ、ゼオンですら純粋な剣の技量では圧倒できただろう。
だが、交錯の瞬間、アヌビス神はブレーカーを落とされた家電の様に、力を発揮できない。
鮫肌は魔力だけなく、スタンドパワーをも削り喰らっていたのだ。
アヌビス神と鮫肌の相性は、最悪。それ故に、ニケがゼオンの斬撃を防ぐ術はなく。
「や、べ────っ!?」
距離を取ろうとした時には、全てが遅かった。
────ぼぐンッ!!そんな、肉を潰す音が響いて。
後で見ているしかできなかったディオの身体を、衝撃が襲う。
ゼオンの刀に殴り飛ばされたニケが、ボーリングのピンの様に飛んできたのだ。
咄嗟にスタンドを出して受け止めて居なければ、ディオも重傷を負っていたかもしれない。
火事場の馬鹿力で切り抜けたものの、状況は悪化の一途を辿っている。
受け止めたニケの身体の状態を確かめて、ディオは絶句した。
ニケの左腕が、千切れ飛んでいたからだ。
ホースの様に千切れた腕の断面から血がどろどろと流れ出ている。
このままでは助からない事は、一目で分かった。
「あ゛、ああああああああああ─────ッ!!!」
惨事から一手遅れて。
これ以上は許さないと言わんばかりに、少女が乱入してくる。
純白の美しい髪を振りかざしながら、紅い瞳を燃やして。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが戦場へと舞い戻った。
更に、それに呼応するように。
「がああああああああああッ!!!」
激情を放ちながら、地に伏していた筈のエリスも再始動する。
そして、イリヤの突撃に合わせてゼオンを強襲、図らずも挟撃の態勢を作り出す。
ニケの負った損傷を目にした事で、感情の閾値が降りきれたのだろう。
叫びながら突っ込んでくる二人の少女を、冷めた視線でゼオンはそう評した。
「キレて吠えた所で────」
振り下ろされる黄金の剣を躱し。
飛んでくる正拳を、マントでいなす。
まるきり先ほどまでと同じ、焼き直しの光景だった。
「強くなる訳じゃねぇだろうがゴミ共ッ!!!」
怒号と共に鮫肌の一閃が、再び二人の少女と相打つ。
■ ■ ■
このディオが勝利し支配するためだ。
はぁ、はぁと不快な動悸に苛まれながら、ニケの前に立つ。
そして、ゴールド・エクスペリエンスのスタンドを出現させた。
ニケを助けるためじゃあない。むしろその逆、殺すためだ。
そうすれば乃亜からドミノが支給され、より強力な力が手に入るかもしれない。
ニケ一人殺したところで上位に入れるのか?だとか。
殺して逃げたところでこの後はどうするのだとか?はすべて後回しだ。
兎に角今はこの阿呆を殺してドミノを獲得し、後のことはその時考えればいい。
「ゴールド・エクスペリエンス…………ぐっ!?」
瞬間、頭に走る痛みに呻く。過去最高の痛みだ。
ニケたちに取り付けられた目障りな頭の輪が害意に反応するというのなら。
殺そうとすれば最も強い締め付けになるというのはすぐに分かる話だ。
だが、これは………想定以上だ。立っていることすら……クソッ!!
『がッ!頑張ってくだせェDIO様ッ!もう少しでこのガキをぶち殺せるッ!!
そうすれば俺も晴れて自由の身!あなた様と一緒に優勝を────』
「少し黙っていろアヌビス………!ぐっ…ぐぅううううううう………!」
無神経なアヌビスの声が兎に角耳障りだ。
忠誠を誓っているという割には何もしない無能の分際で……!
クソ、苛立つと余計に頭の痛みが………あ、脚にも力が………!
きゅ、急激に頭への血流が滞って…ず…頭痛がする……吐き気もだ……
くっ……ぐう……な、なんて事だ…このディオが…気分が悪いだと!?
………あ、頭が痛くて立ち上がれない、だと……何て、事だ。このディオが……
な、何故だ……お前だってあの銀髪のクソガキの得点になるよりは………
このディオの未来の礎になった方が光栄だろう?それなのに、クソ………!
「………俺を殺して、得点稼いで、その後はどうーすんだ?ディオ」
!?
痛みの中で、驚きに目を見開く。
ニケが、失った腕を抑えながらニッと腹の立つ笑みを浮かべて此方を見ていた。
アヌビスもまた、クソガキ、まだ意識があったのか!?と驚いている。
「あたりめーだろ、俺は2がアニメ化されるまで死ねないんだよね。
2が!アニメ化されるまでは!!………ッ!!さ、流石にかなりキツい、けど。
ていうかマジでヤバイ。お、俺が死んだら墓前には2のブルーレイを供えてくれるか…?」
失血と痛みで錯乱しているのか、相変わらず訳のわからない事をニケは宣う。
どうやら、今わの際でもこいつはふざけなければ気が済まないらしい。
付き合っていられるか。さっさと殺して、早くここから逃げなければ………ッ!
「まぁ、待てよ……もし、お前がここで俺を殺して、得点稼いでもさ。
その後、どーすんだよ……お前ひとりで、何とかなるのか?」
黙れッ!そんなものはこれまでと同じだ……!
また新たな寄生先を探すだけよッ!貴様らよりもより強くて利用価値がある者をなッ!
今はこれが一番賢い選択だ。そうでなくてはならないッ!
「それ、もう一回やって今こんなことになってん、だろ……?
お、お前の言う次何て………本当にあるのかよ?」
………っ!?
黙れ……ッ!!お前ごときが何をほざくッ!
ならばお前はこの状況をどうにかできるのか?できるはずがないッ!!
だからとっととこのディオの養分に………!ぐ、ぐぉお゛ぉ゛…!また、頭が…!!
「苦しそーじゃないか、ディオ」
ハハハ、と腹の立つ笑顔で阿呆が笑う。
そしてそのすぐ後、血まみれの格好のまま笑って告げてきた。
どうにかする方法はある、と。
「あの怖ぇー銀髪チビッ子のド肝を抜ける、とっときがな……!」
だから、と、ニケは言う。腕をつなげてくれよと。
お前なら、できるはずだからと。それでダメならその時は殺されるのも考えるから、と。
どこまで行っても軽い調子で命乞いを行う。
『の、乗せられちゃァいけませんぜDIO様ッ!こいつまたテキトーこいてるだけで…』
「黙っていろと言ったはずだアヌビス!!僕がそんな事も分からないと思ったか!!」
『………ッ!!』
そう、当然だ。
ニケにあの銀髪のクソガキをどうにかできる方法があるとは思えない。
敗ければ命がない賭けなのに、どうしてこのマヌケ面に賭ける事ができる。
だからこれは当然、当然の判断だ。もう一度、強く自分に言い聞かせて。
荒い息を吐き出し、頭を包む痛烈な痛みに耐えながら、スタンドを操ろうとする。
その時だった。
───確かに戦力は必要としているが、敵前逃亡するような腰抜けはいらねぇ。
───それも与えられた力を恥ずかし気も無く誇って媚びる、卑しい下種なら猶更だ。
………ッ!!ダメだッ!思い出すなッ!
なぜよりによってこんな時に思い出す……!
青ちょびたクソガキの罵倒と侮蔑の視線など鼻で笑ってやればいいッ!
今、思い出してしまったら……あの男の顔も………浮かんで……ッ!
───ディオッ!俺が死んだらジョースター家に行けッ!
───お前は頭がいいッ!誰にも負けない一番の金持ちになれよッ!
ダメだ。ダメだぞ、ディオ・ブランドー。やめろ、やめるんだッ!
馬鹿な真似はよせッ!アホ犬を殺し屈辱を晴らした時にお前は思ったはずだ…!
自分の欠点は怒りっぽい所だと!自分の心を冷静に操れる様に成長しなくてはと!
「だが……しかし………ッ!!」
『ディ、DIO様?』
奴はこのディオ・ブランドーの逆鱗に触れたッ!!
メリュジーヌの様にただ見下すのではなく蔑み、あの屑を思い出させたッ!!
奴に報復しなくては…!誇りが失われる!一生拭えぬ汚点となるッ!
ここで尻尾を巻いてただ逃げれば…!
例え生きて帰っても一生殺し合いの陰にオドオドして暮らさなければならなくなるッ!!
だから、だから僕は………ッ!!
「もし……嘘をついていたら………!」
スタンドの握りこぶしを解き、ニケを睨む。
相変わらずのマヌケ面で、実に腹が立ったが。
それでも、既に頭部を締め付ける痛みは生じていなかった。
「僕がお前を殺してやる………!!!」
アヌビスが隣でごちゃごちゃと抜かしているが、全て雑音だ。聞こえない。
今はただ、ニケの顔だけを見て奴の返答を待つ。
すると、やはり奴は何も考えていないような簡単作画のマヌケ面を浮かべて。
「任せとけ、人に出来ないことをやるのが勇者だからな。ツボとかタンス漁りとか」
やはり貴様、そのまま失血で死ねと言いたくなった。
■ ■ ■
幾度目になるか分からぬ舌打ちが漏れる。
既に疲労を完全に回復するだけの魔力を奪い取り。
それのみならず、魔力に関しても9割に届くまでに回復するに至った。
敵の装備が無制限に魔力を生み出す、ゼオンをして目を見張る代物だった事が大きい。
それによって、想定以上の回復を行う事が出来たのだ。
だから、後は消耗した雑魚共を蹴散らし、ドミノを獲得するだけ。それだけだと言うのに。
「チィ……ッ!」
二人の雌猫は、未だしぶとく食らいついてくる。
圧倒しているのは当然ゼオンだ、ほぼ全快したゼオンと満身創痍の少女二人。
戦力差で言えばとっくに勝負がついていてもおかしくないと言うのに。
あと一歩の所で決着はつかず、今度はゼオンが勝負を決めきれない事態に陥っていた。
「はぁああああああああッ!!!」
その最も大きな要員と言えるのが、イリヤの武装の換装だろう。
先ほどまで握っていた黄金の聖剣と見た目は同じだが、その強度は桁違いだ。
鮫肌と何度となく打ち合っても、折れるどころか刀身が歪む気配すらない。
それもその筈、何故なら今イリヤが握っている約束された勝利の剣は、
ステッキの魔力とクラスカードの力に依って置換された再現品ではない。
乃亜から支給された、正真正銘の星の聖剣。最強の幻想(ノウブル・ファンタズム)。
如何な大刀・鮫肌と言えど、先ほどの様に魔力を削り取りへし折るのは不可能だ。
そして武装の問題さえ解決すれば、セイバーの実力を出し切ればゼオンとも渡り合うのは不可能にあらず。
「おぉおおおおおおおッ!!!」
更に、イリヤだけでなくエリスもまた、先ほどまでとは明らかに違う。
獣の様に荒らしい戦闘スタイルはこれまでと同じ、だが、今の彼女は“進化”していた。
つい先程、崩れ落ちるニケの姿を見た瞬間に、彼女は訴えたのだ。
己が纏っている鎧に、今なお生きている帝具であるインクルシオに。
どれだけ痛くても、苦しくても構わない。限界まで力を引き上げろと。
ルーデウスの様に己の無力で失われる命の存在を、今の彼女は許せない。だから。
(私に敵を斬れる力を、理不尽に負けないだけの力を──寄越しなさい!)
そんな彼女の叫びに、インクルシオは応えた。
全身を喰らわれている様な苦しみと引き換えにエリスは得た、更なる力を。
彼女の尽きる事のない闘志は、インクルシオと最高クラスの相性の良さを発揮し。
その帰結と言えるのが、現在の急激ともいえるパワーアップである。
無論、それを考慮してもゼオンと対等に渡り合う事は不可能だが。
それでも備えた雷撃耐性とイリヤと2対1という条件であれば───食らいつける!
「いい加減鬱陶しいぞ!雑魚共がァッ!!!」
怒声と共に、ゼオンがまたイリヤとエリスを二人纏めて薙ぎ払う。
王なる為に積み重ねた研鑽の日々は決して彼を裏切らない。
借り物の力に頼る愚弟の様な連中とは違うのだと言う自負が、彼を支えていた。
しかし裏を返せば、それだけに屈辱はより深い物となる。
研鑽を積み重ねてきた筈の自分が、何故装備頼りの無能を未だ撃破できていない?
道理が合わない。不条理にもほどがある。消し去ってやらねば気が済まない。
「借り物の力頼みの愚物共が…王となる俺の道を阻ぶなッ!!!」
活火山の様に憤怒が噴出し、ドス黒い衝動がゼオンを凶事に及ばせる。
鮫のような鋭い歯がハッキリと確認できるぐらい口を開き、怒りを叫ぶと。
現状のイリヤ達をも反応できない速度で鮫肌をぶつけ、反逆者の鎮圧にかかった。
ドン!という凡そ人体が発したとは思えない轟音を立て、少女達があっけなく吹き飛ぶ。
だが、崩れ落ちない。一人は剣を支えに、もう一人は膝を地に付けながらも決して諦めず。
ゼオンの怒号に引けを取らない程力強く、一歩も引かず言葉を返す。
「借り物の力で……何が悪いって言うのよ………!!!」
叶うならばエリスも自分の力で今はもういない、大切な人を守りたかった。
自分の力で守れたのなら、確かにそれが一番だろう。だけど。
借り物の力を使う身でも、譲れない一線と言う物はある。
「重要なのは、その力で何をするかでしょ………!!」
例え全て自分で積み上げた力だとしても。
餓鬼そのもの癇癪でその力を振るう乱暴者に、否定される謂れは無いはずだ。
自分や目の前の糞餓鬼よりも、ニケやナルトの方が余程マシな人間だと断言できるから。
だから、例えどれだけ力があろうと、自分の“仲間“達を否定させはしない。
「自分がムカついてるからって、目についた奴にそれをぶつけるアンタが王?笑わせないでよ」
装甲に覆われ、表情は伺えないまま。
それでも雰囲気で嘲笑を浮かべているのだろうと見る者に思わせる態度で。
臆することなくエリスは修羅の雷帝に言葉を紡いだ。
───脳裏に人の上に立つべき少年の背中を思い浮かべながら。
「人の上に立つ奴って言うのは───痛い事も我慢して、皆の前に立つ奴の事を言うの」
だから苛立ちを周囲にまき散らして暴れるだけのアンタは、と言葉を区切り。
決定的なその言葉を放つ。
器じゃないのよ、というその一言を。
「──────!」
告げられた瞬間、ゼオンの表情から感情と言う物が消える。
エリスの言葉が届かなかった訳では無い。むしろその逆だ。
振り切った怒りが、彼に冷徹さを与えていた。
そのまま彼は無言かつ鉄面皮のまま、大きく後退する。
否、後退したのではなく、距離を取ったのだ。
目の前の少女二人を確実に消し飛ばせる呪文が、最大の威力を発揮できる場所まで。
そして、一棟の建物の屋根に位置取りを行いながら、掌の照準を合わせる。
少女たちがどの方角に逃げようと、確実に二人を消し飛ばせるように。
「もうお前らに付き合ってやる時間はねぇ」
屠殺場の家畜に向ける瞳をしながら、己の内から魔力を集める。
折角九割方回復した魔力が無駄になってしまうが、元々体力を回復するのが最低目標。
それは達成したため、ここで魔力を半分ほど消費しても収支で言えばお釣りが来る。
ウォルフガング・シュライバーに放った時とは違い、敵は遥か格下。
敵の雷撃耐性を考慮しても、半分ほどの威力で充分消し去ってやれるのだから。
『イリヤ様………!』
「───大丈夫、サファイア」
緊迫した状況ではあったが、イリヤの表情に絶望の彩は無かった。
むしろ、この状況はイリヤ達にとって勝機が生まれたと言える。
あのまま持久戦に持ち込まれれば、刀で回復できるゼオンに勝ち目はまず無かっただろう。
その選択肢を捨てて、敵は大技で勝負を決める事を選んできた。
であれば、その大技にさえ競り勝てば勝利を収める事は不可能ではない。
か細くも、道は拓かれたのだ。
「宝具を使うから魔力を回して、サファイア……!」
甲冑の中に収められたサファイアに、勝利のための魔力を回す様命じる。
如何な無限の魔力供給を得られる立場といっても、イリヤの魔術回路には限界がある。
次で勝負を決められなければ、夢幻召喚は解除されてしまうはずだ。
そうなれば、今度こそ本当に勝機はない。故に、賭けに出る他ないのだ。
全快に近いゼオンと、消耗しきったイリヤで競り合う事がどれだけ僅かな勝機だとしても。
サファイアもそれを痛い程理解していたからこそ、何も言わなかった。
ただ担い手の勝利を信じ、己の役目を果たす。
「───ぁ」
そもそもがここまで戦えたのが奇跡のような体だ。
魔力が供給され、それを聖剣に籠めようとした瞬間、膝から力が抜ける。
不味い、今膝を付けば間に合わない。イリヤの背筋が凍り付く。
だが彼女が膝を付くのに先んじて、がしりと力強く彼女を支える者がいた。
「しゃんとしなさい!私の魔力も使っていいわ!!」
最早インクルシオに包まれ、表情は伺えないが。
きっと凛々しい表情をしているのだろう、そう思わせる声で。
エリスがイリヤの身体を支え、共に聖剣の柄を握った。
巨木の幹に身を預けている様な安心感を、イリヤは覚える。
もう怖れも不安も無かった。今はただ、彼女を守らなければと心を燃やす。
二人分のリコの花飾りは攻防の中でとっくに消費されてしまった。
故に、生存を望むのなら打ち克つ以外に道はなく。
痛む身体を鼓舞し、魔術回路を全力駆動、宝具の発射体勢に入る────!
「消し飛ばせ……ジガディラス────」
ゼオンもまた、魔力の装填が終わった。
小賢しい抵抗ごと、確実に反逆者をこの世から消し去れるだけの呪文。
それを発射できるだけの準備がたったいま整ったのだ。
悪魔の形相を浮かべ、今少年は全てを打ち砕く雷を呼び出す────!
「約束された(エクス)────」
来る。その確信を得て、イリヤ達も真名を解放しながら、聖剣を振り上げる。
イリヤのみならず、エリスの魔力をも籠めた、今のイリヤ達が賭けられる全て。
それを、全霊を以て解き放つ────!
「───ウル・ザケルガッ!!!!!」
「───勝利の剣(カリバー)ァアアアアアアッ!!!!!」
全てを破壊する紫電の雷と、黄金の極光が激突する。
呪文が紡がれると共に現れた天使と大砲が融合した雷の化身が猛り狂う。
全てを光の向こうへと飲み込み、無に返そうと咆哮を上げる。
『ZIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「くッ……!?ぐう゛う゛ぅう゛う゛…………………ッ!!」
優劣は、そう時間を掛けずに現れた。優勢なのは、ゼオンの方だ。
彼の憎しみの化身は、対城宝具に位置する星の聖剣すら打ち砕こうとしていた。
エクスカリバーの威力はゼオンの最大呪文と比例しても何ら劣る事は無い威力であったが。
絶大な威力に比例する魔力を必要とするため、発射のタイミングが僅かに早かった。
クラスカードによって再現された聖剣ならばともかく、真作の聖剣には不足だったのだ。
だから、完全に聖剣の性能を引き出すには至らず、それ故にすぐさま優劣が現れるのは必定。
もし完全に聖剣の力を引き出せていれば、勝負は分からなかったかもしれない。
「さぁ、終わりだ────ッ!」
あと一息、あと一息で、ムカつく顔ぶれからおさらばできる。
雌猫二人を始末すれば、後残っているのは雑魚二人だけ。
そいつらも手早く始末すればキルスコアは四人。
乃亜の言葉を信じるならかなりの確率でドミノ保有数上位に食い込めるだろう。
そうすれば、あのデパートを襲った破壊神の様な、強大な力が手に入るかもしれない。
バオウをも超えるかもしれない力を手にする未来を夢想し、ゼオンは凶悪な笑みを浮かべ。
そして己の首に下げたリングに憎しみを送り込み、ダメ押しとなる力を求める。
しかし、それがいけなかった。
「──────ッッッ!?」
「困るんだよなぁ、言ったろ?シリアスの供給過多だって」
突如としてゼオンの身体が動かなくなったのは、その直後のことだった。
本当に、指一本すら動かせない。頭の頂点から指先に至るまで全てが石像と化した様だ。
一体、何が。困惑のままに唯一辛うじて動かせる眼球を巡らせる。
すると、一目見ただけで嫌悪感が湧き上がる光が目に飛び込んできた。
光の中心にいるのは、先ほど自分が片腕を奪ってやった少年。
死に体だった筈の少年が、奇妙なポーズを取りながら空中で静止していた。
「ニケ……!」
「ニケくん……!」
「よっ!お待たせ、二人とも」
勇者ニケの代名詞、光魔法かっこいいポーズ。
邪なる威力を退け、その動きを封じ込める。魔神王にも通じた勇者の秘奥の一つ。
その輝きを以て、魔物の子であるゼオンの行動を完全に封じたのだった。
ニケが飛び上がった後方には、ディオも腕組をして佇んでいる。
「よーチビ助、何でって顔してるな。お前の聞きたい事は分かるよ。
なんで輝いてるかって?偉大な相手ってのはいつも輝いて見えるもんなんだよ」
「……………!!」
誰もそんな事は聞いていない。
そう心中で叫ぶ物の、声を上げる事すらできず。
この俺が、こんなふざけた魔法で。屈辱で気が狂いそうになる。
何とか戒めを破ろうと千年リングに力を寄越せと念じるが、それは逆効果でしかない。
相手は邪なる力を封じる光魔法。それを打ち破ろうと更に邪なる力に傾倒すれば。
戒めは更に強制力を増す、僅か数秒程度では抜け出せぬほどに。
「ぎ………………ッ!!!」
主が行動不能となった事でジガディラスの維持も叶わず、聖剣の輝きが遂に逆転した。
精彩を欠いた破壊の雷が黄金の輝きに飲み込まれ、怒涛の光条がゼオンへと殺到する。
光に飲み込まれる時、ゼオンに沸いていたのは怒りと憎悪、そして何故という疑問だけだ。
何故、こいつらは自分と違って借り物の力に頼る軟弱者だった筈だ。
その軟弱者共に、何故自分は敗れている?苦しい地獄のような研鑽の日々を乗り越え。
次世代の魔界の王となる筈の自分が?一体なぜだ?分からない、分かりたくない。
自分のこれまでの人生が否定されている様で、ただただ憎かった。
「──────ッ!!!!」
結局敗因は彼自身が蔑んだ、己の物ではない力を頼りにしたこと。
その事に気づかぬまま、ゼオンの肉体は黄金の輝きに飲み込まれる。
声にならぬ悲鳴とも咆哮ともとれる絶叫を奏でながら。
光と叫びが収まった時には、彼はその場から姿を消していた。
■ ■ ■
ディオ・ブランドーは考える。
概ね上手くいった。スタンドによる腕の癒着のコツは掴んだ。
できると思う事が大切なのだ。ぶっつけ本番ではあったが、息を吸うようにできると信じ。
結果GEは見事ディオの想いに応えた。できると信じる事、これを実感したのは収穫だ。
今後もっと経験値を積めば、自分が得たスタンドは更にできる事が増すかもしれない。
それに何より、光に飲み込まれる直前の、銀髪のクソガキの顔は実に痛快だった。
そう言う意味では、ニケのとっておきという言葉に偽りはなかったと言っていい。
イリヤ達がそのまま敗れていたらどうするつもりだったのかと言う部分に目を瞑ればだが
「え?勿論その時はディオに頑張ってもらぼォッ!!!」
貧民街のブースボクシングで鍛えた左フックでニケをどついた。
働きに免じて、流石に瞼に指を入れて殴りぬけるのは勘弁してやったものの。
頭のこらしめバンドを忘れていて、結局二人でごろごろと転がるハメになる。
「遊んでんじゃないわよ、アンタ達」
両手を腰に当て、呆れた様子で地面に倒れ伏す阿呆二人を軽く蹴飛ばしてエリスが止める。
余りにも雑な扱いにイリヤも苦笑を抑えきれなかったが。
眺めていると自分は傍にいる人たちを守れたのだという実感が少しだけ胸を温めた。
だが、まだエリスの言う通り安穏としてはいられない。
今なお助けなければならない仲間は、まだ一人残っているのだから。
その想いを強める様に、ずしんと大きな地響きが響く。
ナルト達がいる方角だ。向こうも激しい戦いになっているらしい。
「早く……ナルト君の所へ行こう!」
もう、悟飯たちの様な事は嫌だ。
その一心で全員が胸騒ぎを感じている中、イリヤが声を上げる。
エリスとニケはその言葉に即座に頷き、ディオは不承不承と言う顔で頷いた。
そして、子供達は誰からともなく残った一人の仲間の元へと駆け出し。
ディオも消極的ながらそれに続く。
(まだ……こいつらには利用価値がある)
打算百パーセントの考えではあったけれど。
ゼオンを打倒した事で、ディオの中でニケ達の評価はグンと上がっていた。
少なくともドロテアでは、ゼオンに勝つことは不可能だっただろう。
そう結論付け、彼は苛立ちを覚えながらもお人好したちと行動を共にする事にした。
前提として、仲間意識が芽生えた訳では無い。
ディオ・ブランドーは愛や友情に価値など見出さない人間だ。
ニケを助けたのも、仲間を助けようと言う思いからではなく。
ゼオンをぶちのめしたいと言う怒りに出力された狂奔に過ぎない。
……結局の所、怒りっぽいと言う欠点がそのまま出ただけだけれど。
それでも彼はこの日、きっと初めて。本当に意味で誰かの為に己の力を使った。
【一日目/日中/C-5】
【エリス・ボレアス・グレイラット@無職転生 ~異世界行ったら本気だす~】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)、精神疲労(大)、インクルシオと同化(小)、決意
沙都子とメリュジーヌに対する好感度(高め)、シュライバーに対する恐怖
[装備]:旅の衣装、和道一文字@ONE PIECE、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!(相性高め)
[道具]:基本支給品一式、賢者の石(憤怒)@鋼の錬金術師
[思考・状況]
基本方針:ナルト達を守って、乃亜に勝って、ルーデウスにもう一度会いに行く。
0:ナルトのいる場所に向かう。
1:もう殺し合いには絶対に乗らない。ナルト達を守る。命に代えても。
2:首輪と脱出方法を探す。もう、ルーデウスには頼れないから。
3:殺人はルーデウスが悲しむから、半殺しで済ますわ!(相手が強大ならその限りではない)
4:ドラゴンボールの話は頭の中に入れておくわ。悟空って奴から直接話を聞くまではね。
5:私の家周りは、沙都子達に任せておくわ。あの子達の姿を騙ってる奴は許さない。
6:ガムテの少年(ガムテ)とリボンの少女(エスター)は危険人物ね。斬っておきたいわ
[備考]
※参戦時期は、デッドエンド結成(及び、1年以上経過)〜ミリス神聖国に到着までの間
※ルーデウスが参加していない可能性について、一ミリも考えていないです
※ナルト、セリムと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました
※沙都子から、梨花達と遭遇しそうなエリアは散策済みでルーデウスは居なかったと伝えられています。
例としてはG-2の港やI・R・T周辺など。
※インクルシオとの適合率が向上しました。エリスの精神に合わせて進化を行います。
【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(小)、仮面の者(アクルトゥルカ)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇
[道具]:基本支給品、丸太@彼岸島 48日後…、シャベル@現地調達、約束された勝利の剣@Fate/Grand Order、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:ナルトの奴大丈夫かな……
1:とりあえず仲間を集める。ナルトとエリスに同行する。
2:クロエを探して病状を聞き出す。
3:マヤ、おじゃる、銀ちゃん………
4:DBの事は俺の考えが間違ってるとは思わないけど、あんまり後ろ向きになっても仕方ないか。
5:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
6:フランはあいつ本当に大丈夫なのか?
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
※仮面(アクルカ)を装着した事で仮面の者となりました。仮面はもう外れません。
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]顔面にダメージ(中)、精神的疲労(中)、疲労(中)、怒り、メリュジーヌに恐怖、強い屈辱(極大)、乃亜やメリュジーヌに対する強い殺意
[装備]『黄金体験』のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、
こらしめバンド@ドラえもん、バシルーラの杖[残り回数1回]@トルネコの大冒険3
[道具]基本支給品、光の護封剣@遊戯王DM
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:馬鹿共を利用し生き残る。さっさと頭の輪は言いくるめて外させたい。
1:メリュジーヌが現れた場合はナルト達を見捨ててさっさと逃げる。
2:先ほどの金髪の痴女やメリュジーヌに警戒。奴らは絶対に許さない。
3:ゴールドエクスペリエンスか…気に入った。
4:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
5:海が弱点の参加者でもいるのか?
6:ドロテアとは今はもうあまり会いたくない。
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(大)、決意と覚悟
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1、雪華綺晶の支給品×1、クラスカード『アサシン』、『バーサーカー』、『セイバー』(二時間使用不能)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、
タイム風呂敷(残り四回、夕方まで使用不能)@ドラえもん
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:皆を助けるために、目の前の人たちと協力したい。
1:雪華綺晶ちゃん……。
2:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
3:殺し合いを止める。まず紗寿叶さん達を助けに行きたい。
4:サファイアを守る。
5:美遊、ほんとうに……
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
※バーサーカー夢幻召喚時の十二の試練のストックは残り2つです。これは回復しません。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました。
怒りのままに、鮫肌を振るう。
同盟者であるガムテの安否すら頭の中からは抜け落ちて。
ただただ、憎悪をまき散らすだけの行為に没頭する。
自分が許せなかった。あの程度のカス共に不覚を取ったのが。
ジガディラスの雷で敵の攻撃の大半を相殺していなければ、死んでいたかもしれない。
それがどうしようもなく屈辱的だった。
「くそったれが……!どいつもこいつも消してやる……!」
ガッシュも、シュライバーも、さっき戦ったカス共も。
この島で今なお生存している遍く生命全てが許せない。
自分の覇道の前に横たわる障害物は全て消し去ってやる。
そう考えながら、ゼオンは再び行動を開始する。
また、適当な相手を見つけて鮫肌の餌にしてやりたい所だが。
果たして手ごろな獲物は見つかる物か。考えていると更に怒りと憎悪が噴き出してくる。
彼は気づかない。憎悪が真実を見るための眼を覆い隠し、気づけない。
最早己の力では引き返せない程、深みへと嵌まりつつある事に。
彼の首元で、黄金のリングが妖しく煌めいている事に………
【一日目/日中/E-5】
【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]失意の庭を見た事に依る苛立ち、魔力消費(中)、疲労(小)、ダメージ(中)、憎悪(極大)
[装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!!、千年リング@遊戯王DM
[道具]基本支給品×3、ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ、
「ブラックホール」&「ホワイトホール」のカード(2日目深夜まで使用不可)@遊戯王DM
ランダム支給品1〜3(ヴィータ、右天、しんのすけ、絶望王の支給品)
[思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。
0:殺してやる……どいつもこいつも……!
1: いったん休息を取り、その後ガムテと合流する。
2:絶望王や魔神王に対する警戒。更なる力の獲得の意思。
3:ガムテは使い道がありそうなので使ってやる。ただ油断はしない。
4: さっきの連中には必ず復讐する。そのために更なる力を手に入れる。
5:ふざけたものを見せやがって……
6:千年リングの邪念を利用して、術の力を向上させる。地縛神も手に入れたい。
[備考]
※ファウード編直前より参戦です。
※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。
※ジャックと仮契約を結びました。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※千年リングの邪念を心の力に変えて、呪文を唱えられるようになりました。パートナーが唱えた場合の呪文とほぼ同等、憎しみを乗せれば更に威力は向上します。
千年リングから魔力もある程度補填して貰えます。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
時は少し遡り、イリヤ達一向がゼオン・ベルと激突している最中。
うずまきナルトもまた、砂瀑の我愛羅と熾烈な戦闘を繰り広げていた。
ナルトは我愛羅から距離を取りつつ、両手で印を組んで最も慣れた術を行使する。
「影分身の術!!」
ボン、と音を立てて現れるナルトの分身たち、その数は十を超える。
目的は攻撃や攪乱の為ではない、回避する際の足場とするためだ。
ナルト本体が組体操の様に積み重なった分身たちの身体を蹴って空中へと駆け上がる。
その二秒後、大地は分身達ごと砂の濁流に飲み込まれた。
「無駄だ……!」
だが、空中に昇った程度で逃れられる程我愛羅の砂は甘くはない。
即座に砂を操作し、空中にいるナルトへと襲い掛からせる。
掴まれば当然命はない魔手。しかし対するナルトは笑みすら浮かべており。
慌てる事無くもう一度印を組み、そして叫ぶ。
「影分身の術!!」
空中に現れる二体の影分身。
物理的に無理のない体勢ならば、空中でも影分身たちの向く方向や体勢は調整が効く。
その特性を活かしてナルトは分身たちに己の身体を抱えさせ、そして命じた。
「行くってばよ!!!」
砂が到達する数瞬前。
本体のナルトが命じるのと同時に、分身たちは抱えていたナルトを投擲した。
人間砲弾もかくやの勢い。タッチの差で砂はナルトを取り逃がす。
更に、ナルトが狙ったのは単なる我愛羅の攻撃の回避ではない。
矢のように空中を突き進み、勢いそのままに本丸である我愛羅を狙う。
……否、狙おうとした。
「いっ!?ちょちょっ、ズレてるってばよォッ!?」
だが、不安定な空中で投擲したためか、座標は大幅にズレが生じており。
我愛羅の脇をナルトはすり抜け突き進む、地面へと向かって。
このままでは自爆だと考えたナルトは、慌てて印を組んだ。
「影分身の術!」
新たな分身が現れ、ナルトを受け止める。
それと並行して我愛羅の方に何かを投げつけた。
それを目にした我愛羅だったが、構わないと考えた。
どうせ自分の絶対防御を敗れはしないのだから。
砂を操作し、投擲物ごとナルトを撃ち抜ける態勢を作る。
「砂手裏剣!!」
砂の散弾が、投擲物を撃ち抜く。
その瞬間、濛々と煙が立ち込め、我愛羅の視界を塞いだ。
煙玉か。視界は塞がれたが単なる目くらましだ。問題はない。
砂から伝う振動で敵が此方に向かってきている事は把握している。
どうやら砂時雨はやり過ごしたらしいが、何をしようと無駄でしかない。
ナルトは体術使いの下忍の様に、砂の盾を上回るスピードを奴は出せないのだから。
そう思いながら、振動を感知した方向に砂を槍の様に放つ。
此方の位置を把握できていないとタカを括っているのであろう相手を、一息に貫く。
どしゅッという音が響いた後、手ごたえを感じ取ってほくそ笑んだ。
これで奴は重傷を負ったはず、後は嬲り殺しの時間だ。
そう考えるが、直後に背後から振動を感知し笑みが消え失せる。
「フン────」
どうやら、また分身の術でやりすごしたらしいと我愛羅は悟る。
涙ぐましい小細工で凌いだとしても、全ては無駄でしかないと言うのに。
影分身しか能のないナルトに自分の砂の盾を突破する術はない。
砂の盾を突破されぬ限り、我愛羅の勝ちは揺らがない。
恐らく支給されなかったのだろう、“前回”の様に、起爆札を使ってくる様子もない。
ますます自分の勝ちは揺らがぬ物に────
(………待て、“前回”とは何だ?)
記憶の混濁。不自然な既視感。
うずまきナルトと戦うのは今回が初めての筈なのに、奇妙な感覚に襲われる。
まるで、以前に戦った事があるような。本気でぶつかり合った事があるような。
考えて見れば、何故自分はナルトの同行者を殺さなかった?
脱出された様だが、僅かな時間とは言え自分の砂は連中を飲み込んだ。
その時に即座に砂瀑大葬を放っていれば、一気に五人殺害できたかもしれない。
それなのに自分は何故、取り巻きを押し流すにとどまったのか。
(うずまきナルトとの戦いに拘ったとでも言うのか?俺が……?)
そんな筈はない。我を愛する修羅にとって、この世の全ては敵の筈。
そこに優劣をつけるとするなら、それは敵の強さだけである筈だ。
あのうちはの末裔の様な真の孤独を知り、それ故に強い者ならばともかく
それ以外の要因によって、殺すべき敵に優先順位を設けるなど……
我愛羅の脳裏が、思考と動揺に埋め尽くされる。
この程度の相手ならば戦闘中に考え事に耽っても問題ないと言う自負故の行動だった。
だが結果だけ述べるならば、彼はこの瞬間誤った選択肢を選んだ。
「─────がッ!!!……ッ!?な、なにが………ッ!!!」
風が、吹き抜けた。
その感覚と共に凄まじい衝撃が我愛羅を襲い、砂の盾を突き破って吹き飛ばされる。
何が起きたのか分からなかった。砂の盾での防御は十全だったはず。
それなのに、何故自分は大地に伏せ、転がっている?
まさかうずまきナルトに、自分の砂の盾を突破できるほどの術があったとでも言うのか?
────ボカン!
また知らない記憶が脳裏を駆け巡り。
そうか、と我愛羅の口から呟きが漏れる。
起爆札だ。奴は隠し持っていた起爆札を使ったのだろう。
背後は守鶴が普段尾で隠している最も脆い部分。
それが無意識のうちに砂の盾にも反映されてしまっていたのだろう。
同じ手に引っかかってしまったのは不覚と言わざるを得ない。
「く……っ!」
砂の盾によりダメージ自体は殆ど無い。
だが、身体を襲った動揺と衝撃による平衡感覚への影響は大きく。
しかも肉体への影響はそれだけではない。強い眠気をも我愛羅を苛んでいた。
恐らく、煙玉と合わせて眠り玉でも投げていたのだろう。意外に頭の回る男だ。
はぁはぁと荒い息を吐き、生まれたての野生動物の様な状態で立ち上がる。
一言で言って舐め過ぎた。己のマヌケさに苛立ちながら、眼前に立つ敵を睨む。
「お前は一体……何なんだ………!」
見ていると知らない光景が過り、光景が過るたびに憎しみが揺らぐ。
化け物の自分と相対しているのに、その瞳に恐怖や憎しみは存在せず。
殺意を感じないのに、不条理ともいえる強さを発揮する。
理解不能だった。我愛羅の目には、ナルトこそ正体不明の怪物の様に映った。
だから、側頭部が痛むように片手で押さえながら、ナルトへと言葉を投げつける。
「俺を止めると言うなら、俺を殺しに来い!
化け物である俺を殺して、英雄にでもなって見せろ!そうでなければ、俺は止まらん!
その気が無いのなら、さっさと俺に殺されて、負け犬として骸を晒せ……!」
終わらない苦しみの中で絞り出すように、我愛羅は叫んだ。
生れてこの方、戦う相手から憎しみ以外の感情を向けられた事がない。
だから目の前の敵を知っている相手へ変えようとする、殺意を向けてくる相手へと。
そうしなければ“恐ろしい”と、恐怖を感じそうだったから。
だが、うずまきナルトがそんな我愛羅の願いに応えることは無く。
苦笑と共に、言葉を返した。どっちにしてもそりゃ無理だと。
「あん時は殺してでもお前を止めるって言ったけどさ。
今の俺はお前を殺して英雄に何かなるつもりも、敗けて負け犬になるつもりもねーよ」
「何故だ……!お前は何故……俺を……!」
「一人ぼっちの苦しみがハンパーじゃねーのは、俺も知ってんだってばよ。
だから、みすみすお前を一人ぼっちの暗闇に行かせる訳にはいかねぇ。ただそんだけだ」
揺るがぬ気勢を露わにして、ナルトは真っすぐ我愛羅に立つ。
その瞳を見ていると、我愛羅は頭を強く殴られた様な衝撃を覚えた。
ナルトの瞳の奥には、我愛羅が味わってきた物ときっと同じ痛みがあったのだ。
それに気づいて、どうしようもなく胸が痛む。
彼をこれまで支えていた憎しみが霞の様に薄れ、頼りのない物となっていく。
揺れる我愛羅に、ナルトは微笑みながら言葉をかけた。
「………何回でも言ってやるから。心配すんなよ、我愛羅。
お前が自力で止まれないならそれでいい。俺が…お前の憎しみごと止めてやる!」
語るナルトの態度には、殺意は愚か敵意すら宿ってはいない。
友に語り掛ける様に朗らかで穏やかで、けれど決して変わる事のない不変の力強さが感じられた。
じっと見つめていると自分がこの世に存在してもいいのだと、そう言われている様で。
あの日自分が殺した夜叉丸の顔が、ナルトの顔と重なる。
「そうか…ならば……止めて見せるがいい………!」
初めて敵から殺意や敵意、害意以外の物を受け取り。
動揺を見せながらも、我愛羅は臨戦態勢を解かなかった。
夜叉丸を殺したあの夜から、常に憎しみが己を支え、憎しみに従い生きてきたのだ。
簡単にこれまでの生き方を棄てることなど出来はしない。
だから我愛羅もまた、真っすぐにナルトの瞳を見つめながら訴えた。
語る言葉が真実だと証明して見せろと、この砂瀑の我愛羅の憎しみを超えて見せろと。
俺に勝って見せろと───止めたいのならば殺せ、とはもう彼も言わない。
今ならば何となく、目の前のこの男と雌雄を決する事に拘った理由がわかる気がする、と。
思いを馳せながら印を組んだ。その際一瞥した相手の表情は、変わらず穏やかで。
けれど決して尽きず揺るぎのない物を抱いた、そんな表情を浮かべていた。
────流砂瀑流!!
だから、我愛羅もまた本気でナルトへとぶつかる。
今胸の内に残った憎しみと殺意、そしてチャクラを結集させ、最大規模の術を放つ。
流砂は影分身の応用で逃げられる公算が高い。それ故に範囲の広いこの術だ。
砂塵の波濤を作り出すこの術であれば、幾ら影分身を生み出そうと無意味。
うずまきナルトの抵抗ごと飲み込んだ後、砂漠大葬でカタをつける。
傍から見れば分身しか能のないナルトには、これが最も確実な方法と言えるだろう。
「うわああああああっ!!」
成す術がない、と言った様相で、ナルトが砂へと飲み込まれていく。
我愛羅はその様を、一瞬たりとも見逃さずに凝視していた。
傍から見れば大口を叩いておいてあっけなく、情けない様相ではあったけれど。
この程度でうずまきナルトがどうにかなる訳はない。
我愛羅は既にその確信を抱いていたから、彼は決して手を緩めない。
受ければナルトであっても間違いなく即死となる術、砂漠大葬の発射準備に入る。
これで勝負を決めると言う決意を胸に、チャクラを砂へと送り込む──!
────亥 戌 酉 申 未 !
────口 寄 せ の 術 ! ! !
ド ロ ン ッ !!!
────ズゥゥゥゥンッッッ!!!
腹の底まで響く地響きが、大地を鳴動させる。
瀑砂がナルトを殺すよりも早く、彼は口寄せの術により我愛羅の砂を打ち破ったのだ。
二人の立つ大地がせりあがり、空が一気に近くなった。
砂の津波をも物ともしない強大な蝦蟇親分の頭部を踏みしめ、二人の少年は向かい合う。
その時我愛羅は無意識のうちにほんの僅かにだが、微笑んでいた。
敵ながら見事だと、目の前の少年を見ていると何故だかそう思ったのだ。
しかしだからこそ敗けられぬと印を組む。相対する少年もまた、呼応する様に印を組んだ。
それを切欠として、二人の人柱力の戦いは最終局面へと至る────、
■ ■ ■
賭けに勝った。
ナルトは口寄せの術が成功した瞬間、そう考えた。
我愛羅に勝てるか否かは、この術が成功するか否かにかかっていたのだ。
ナルトは印を組ながら、呼び出したガマ親分───ガマブン太に向けて叫ぶ。
『なんじゃあナルト〜!性懲りもなく呼び出して、お前ワシに何の用……』
「ガマオヤビン!跳んでくれ!今はそれだけで良いってばよ!」
『いきなり呼び出しておいて何を言っとるんじゃ小僧ォ!
……っちゅうかこのチャクラ、あの守鶴のガキもまさかおるんか!?』
「そうだ!急がねーとまたあの化け狸が出てきちまう!だから飛んでくれ!頼む!!」
『ちぃっ!相変わらずめんどくさい事に巻き込まれちょるのぉっ!!!』
第二の関門もこれで突破した、とナルトは印を組ながら力強く微笑む。
ガマ親分も、また守鶴を相手にするのは御免なのだろう。
訳の分からない状況に困惑しつつも、何時もよりはすんなりと要請を聞き入れてくれた。
やりとりをしている間にも我愛羅が作り出した砂が襲ってくるのを影分身の肉壁で耐える。
数秒しか保たない防御だが、今はそれだけの時間が稼げれば充分!
『そぉらあッ!!』
────現在居る場所は禁止エリアに指定されています。
数十メートルの巨躯を誇るガマブン太の跳躍。
それによって、ナルトと我愛羅の二人は遥かな上空へと運ばれる。
禁止エリアに設定されているほどの上空だ。下を見れば島が一望できたかもしれない。
だが、そんな事は我愛羅にとってどうでもよかった。
跳躍である以上数秒で大地へと舞い戻るのだ、首輪の爆死を心配する必要はない。
だが、跳躍の衝撃と空気抵抗によって砂が散ってしまった。これは明確に不味い。
数秒間の間、大地の砂を使った物量攻撃が展開できない事を意味するからだ。
今我愛羅が即座に扱えるのは、背中に背負った瓢箪に内包された砂のみ。
────問題はない。この数秒をやり過ごすには充分だ。
乃亜のハンデについて考えれば、巨大な蝦蟇を長時間口寄せするのは不可能なはず。
着地して大地に着けば、砂分身などで口寄せの時間が切れるまでやり過ごせばいい。
ガマが消えれば、ナルトに勝ち目は無くなるのだから。
だから、この数秒。着地までの十秒足らずを守りきれば、自分の勝ちだ。
刹那に満たぬ短い時間で、我愛羅はその結論に辿り着き、即席の砂の盾を作り出す。
────やっぱり、我愛羅の奴は凄ぇな。
冷静で的確な判断力に、ナルトは心中で賞賛の声を上げざるを得なかった。
直感的に分かる。恐らくガマ親分を呼び出せるのはあと十秒程。
それを過ぎれば、最早自分に我愛羅に対抗する術はない。
一瞬でその事を見抜いた我愛羅は、きっとこれから凄い忍になるだろう。
しかし、だからこそ負ける訳にはいかない。この島にはもっと凄い魔人が跋扈している。
そんな島で憎しみを頼りに戦っても、優勝する事はきっとできない。
だから、うずまきナルトはここで我愛羅に勝たなければいけないのだ。
我愛羅に襲われて命を落とすかもしれない他の参加者を守る為に。
未来に、誰からも認められる忍になるであろう我愛羅自身を守る為に。
────ナルト君。人は大切な何かを守りたいと思った時に…
────本当に…強くなれるものなんです。
印を組ながら、ナルトは己の内に宿した獣へ、強く強く願う。
今はただ、自分に勝つための……皆を守れるだけのチャクラを!
そう心中で叫ぶと共に、莫大なチャクラがナルトの内から溢れ出す───!
─────多重影分身の術!!
な、と。
我愛羅の鉄面皮が歪み、驚愕へと染まる。
二人の現在の大地である蝦蟇の背中を埋め尽くすナルトの大軍勢。
明らかに通常の影分身ではない。通常の影分身でこんな規模はありえない。
(くっ───防御を!!)
現在の砂の盾では不足。一瞬で判断を下し。
己のチャクラと瓢箪に詰めた砂を総動員し、砂の盾を更に強固な物にしようとする。
だがその時には既に足裏にチャクラを籠め、蝦蟇の頭を走り抜けたナルト達が迫っていた。
凄まじい物量。それも一体一体が尾獣のチャクラを宿した影分身達の一斉攻撃。
「う!」
「ず!」
「ま!」
「きィ!!」
「「「「「ナルト四千連弾─────ッ!!!」」」」」
怒涛の猛攻が、砂の盾と我愛羅を襲う。
盾を隔てているのに、袋に詰められ袋越しに殴打されている様な衝撃に翻弄される。
盾が盾の役割を果たせていない事実に、我愛羅の全身が総毛だった。
単なる体術ではない。敵の拳や蹴りは防げても、纏うチャクラに砂の盾が削られていく。
それに何より、攻撃の物量が桁違いだ。とてもではないが、砂の再生が追い付かない。
それもその筈、ナルトのこの攻撃は前回の反省を活かした、両手両足を用いた連打。
如何な絶対防御とて、瓢箪の中に詰められる量の砂で守り切れるものでは断じてない。
ぴしぴしと砂の盾に亀裂が入り、ずぅんという衝撃が走ると共に砕け散った。
(凌ぎ切った………!)
だが、我愛羅の表情に絶望はない。
瓢箪の砂を全て使い切って作った砂の盾が無くなったが、視界は開けた。
そのお陰で、先ほどの衝撃が砂の盾が破られた事だけを示す物ではないと気づいたからだ。
先ほどの衝撃は、着地の衝撃。であれば、今は既に大地の砂を利用できる状況という事だ。
ならば砂を操作し、蝦蟇の身体を昇らせるまでの攻防を凌げば逆転も可能となる。
後一手、後一手凌げば、勝利は目前だと我愛羅は最終防衛ラインを生み出す。
可能なら使える術の中でも最硬絶対防御を誇る守鶴の盾を作りたかったが、生憎の砂不足。
それ故に彼はもう一つの防御術、砂の鎧を選択した。
オートで防御ができる砂の盾と違い、防御力が低いわりに消耗が大きい術ではある。
だが、影分身を用いた体術くらいしか攻撃能力のないナルトならば十分凌ぎきれる。
“前の戦い”でも、砂の鎧を一撃で破壊できる術をナルトは見せなかったから間違いない。
───風遁無限砂塵大突破!!
「うわあああああああああッ!!!」
チャクラをかき集め、砂の消耗を抑えた高威力の風遁を用い、近場の分身達を吹き飛ばす。
これでチェックだ。再び周囲の分身達が集う頃には大量の砂が自分を守っている。
更にタイミングよく、ドロンと音を立てて蝦蟇も消え失せた。
落下しながらほくそ笑む。これで本当に、自分の勝利は確定的だ。
無理に守勢に入る必要も無かったかと、周囲の砂を操作する事に意識を割り振ろうとする。
その時だった、数メートルの距離を隔てた位置で同じく落下するナルトと目が合ったのは。
(な、に………!)
勝機が無くなった瞬間だと言うのに、ナルトの瞳に絶望はなく。
彼の周囲には三体の影分身が集い、内の一体が本体と見て取れるナルトに手を添えており。
影分身の補助を受けた右の掌に、圧縮されたチャクラが高速回転しているのが見て取れた。
何だそれは、何だその術は。そんなものは知らない。
まさか、最初に自分を吹き飛ばしたのは起爆札ではなく───
我愛羅の思考が一瞬硬直し、完全に無防備となる。その隙をナルトは見逃さなかった。
影分身達に投げ飛ばされ、生まれた一瞬の勝機に切り込む様に。
うずまきナルトは決着の一撃を放つ────!
「行くぜ、我愛羅────!!!」
四代目火影が考案し生み出され。
木の葉崩しの一件後、伝説の三忍自来也より伝授された正真正銘の切り札。
会得難易度Aランクの超高等忍術にして、うずまきナルトの代名詞───!
─────螺 旋 丸 ッ ! ! !
砂の鎧をビスケットのように砕き。
着弾した螺旋丸は、一撃で我愛羅の意識を刈り取る。
ナルトが口寄せを行ってから僅か二十秒足らず、勝敗はこれ以上なく圧倒的に決した。
■ ■ ■
胸に走る痛みに呻きながら、瞼を開く。
横たわった身体が、目に飛び込んでくる青い空が。
自分は敗れたのだと言う事実を我愛羅に教えていた。
そして、敗れたというのに、自分はまだ生きているのだという事も。
「よう、目、覚めたか我愛羅?」
傍らから声を掛けられ、其方に首だけ動かすと。
目の覚めるオレンジ色が視界に飛び込んでくる。
更にもう少し視線を上にあげると、そこにはうずまきナルトの穏やかな微笑があった。
自分を倒した相手だと言うのに、殺意も憎しみも何処かに霧散しており。
それでも胸の中に今なお渦巻くのは、何故と言う疑問の声だった。
仰向けに倒れたまま、静かに我愛羅はナルトへと問う。
何故、自分を殺さなかったのかと。そう問いかけると少しナルトは考えて。
それに答える前に此方も一つ聞きたい事があると返してきた。
「……まだ、殺し合いをやる気か?お前の中の憎しみは、今も続いてんのか?」
その問いかけを聞いて。
我愛羅が想起したのは、かつての夜叉丸から与えられた言葉。
心の傷は、他者から与えられる愛情に依って癒す事ができると言う言葉だ。
その瞬間全ての点と点が線で繋がり、合点がいった気がした。
自分はきっと戦いの中で、ナルトから愛を受けていた。そして、それに気づいたから……
もうこの身は、何も憎んではいない。
「いや………」
かつてない程穏やかな気分で。
その言葉を躊躇することなく、我愛羅は口にした。
「もういい…やめだ」
何もかも投げ出して、身一つで大地に横たわる。
けれど、そこに劣等感や屈辱や負い目などは存在せず。
ずっと背負っていた重たい荷物を降ろしたような、奇妙な解放感だけがそこにあった。
それを聞いて「そっか」と、少し安堵したようにナルトは呟き。
それじゃあ今度はこっちが答える番だなと口を開く。
「お前には話してなかったけど、実は俺ってば夢があるのだ!
火影になって、里の奴らみーんなに俺を認めさせてやるって野望がな!」
「………?」
微妙に自分が問いかけた事と話が繋がっていない。
ナルトの言葉からそんな印象を受けつつも、続く彼の言葉を黙って傾聴する。
朗らかで、しかし強い意志を感じさせる声色でナルトは続けた。
「そんでさ!そんでさ!我愛羅もきっとスゲー忍者になるだろうから……
俺がサスケの馬鹿をブッ倒して火影になった時には、お前もいて欲しいって思ったんだ」
砂の国の、風影として。
人柱力の怪物である自分が成れると、本気で信じているかのように。
ナルトは真っすぐに我愛羅の瞳を見つめ、そう告げた。
「───フッ」
自然と、笑みが零れた。
人柱力で、化け物である自分が、里の長?風影?
認められる筈がない。荒唐無稽な話と言わざるを得なかった。
あぁ、しかしやはり不思議な男だとナルトに対し、我愛羅は思うのだ。
この男が言うなら、自分は本当に風影になれるのかもしれない、と。
そして木の葉と砂、二つの国の長として並び立つ。
限りなく現実味の薄い話である筈なのに、不思議な説得力を感じさせる。
────ナルト、お前が火影になったら一緒に杯を交わそう。
そして、夢物語であると感じる感情以上に、我愛羅はナルトの語る未来を信じたくなった。
そんな未来があればいいと、生れて初めて未来に希望を抱く事ができた。
あぁ、であるならば………
「……俺の、負けだ」
自分が敗れたのは、必然だったのだろう。
うずまきナルトは、今の自分にはない…夜叉丸の言っていた強さを持っていた。
そして、自分も何時かナルトの様に強くなりたいと、そう思ったのだ。
自分だけを…我を愛する修羅は、もういない。
「……世話かけさせやがって!」
憑き物が落ちた顔の我愛羅を見て、ナルトも破顔する。
きっともう大丈夫だと、そう思えた。乃亜によって狂わされた道は、今戻ったのだ。
その事を確信すると、彼は支給された刀…鏡花水月を支えに立ち上がった。
今しがたの戦闘は、勝利したナルトにとっても消耗は激しく。
そんな状態でも、これはやっておかなければならない、そう考えて我愛羅に手を差し出す。
差し出した手の中指と人差し指を、奇妙に折り曲げて。
我愛羅が意図が分からないと言う顔でそれを見つめると、ナルトは静かに語った。
木の葉のアカデミーで教わった、和解の印だと。
「組み手とかやった後にはこうするってイルカ先生から教わったんだ!
これが終わったらその後は……俺と一緒に、また全部新しく一から始めようぜ、我愛羅」
そう言って「さあ、我愛羅も」と、ナルトは和解の印を促してくる。
我愛羅にとって戦いとは相手を殺す事だったから、少しの戸惑いを覚えた。
戦った相手とこんな事をする日が来るとは、と言い知れぬ感慨を抱きながら。
しかし拒絶することなくゆっくりと立ち上がって、その手を伸ばした。
この印を結べば、きっと新しい“何か”が始まると、無邪気に少年たちは信じていた。
────オレの第六感(カン)が告げていた………
────ここに来れば、オレが今一番殺(ヤ)りたい男がいるってな。
────何をしてでも必ず刺して、最悪の病気にしてブッ殺すって言ったよなァ?
凶刃が、全てを貫くまでは。
■ ■ ■
ガムテープを顔中に巻き付けた闖入者は、ナルトの背後より現れた。
必然的に先に気が付いたのは我愛羅の方だ。
気づいた瞬間、彼は残ったチャクラを総動員してナルトを守るべく動く。
その速さは間違いなくこれまでの人生の中で最高と呼べる速度のもの。
コンマ数秒の内にチャクラを練り上げ、印を組み、彼が持つ最硬の防御術が始動する。
────最硬絶対防御、守鶴の盾。
ナルトが驚きの声を上げるのも気にせず、砂で作られた狸の化身が我愛羅達を守る。
一目見て刺客は相当な手練れだと確信した。それ故の絶対防御。
ナルトと戦った時とは違い周囲に豊富に砂があるからこそできる、防御における奥の手だ。
敵の獲物は刃渡りのそう大きくないナイフ。
如何に切れ味が優れて居ようと、この守鶴の盾ならば十分に防御できる。
できる、はずだった。
「───ナルトッ!!」
今まさに己の殺意を突き立てようと笑う相手と目が合い、ゾクリと悪寒が走る。
この盾では駄目だ。この盾では、守れない。直感的に理解。
その悪寒に突き動かされる様に、砂に包まれ守られたナルトの身体を引き寄せ庇う。
殺人者の握るナイフが守鶴の盾に触れたのは、我愛羅がナルトを庇ったのと殆ど同時。
その瞬間、絶対防御だった筈の守鶴の盾が崩れ落ちる。
正しく砂の城であるかのように崩壊し、殺意の白刃を素通りさせてしまう。
その時ようやく認識が状況に追いついたナルトが杖にしていた剣を構えようとするが。
振りかざされた鏡花水月は、ナイフに触れた瞬間砕け散った。
剣の素人が咄嗟に振るった剣で、達人が扱う異能殺しの短刀を受け止められるはずもない。
小癪な抵抗を砕いたナイフは悠々と砂の中を突き進み───貫く。
ナルトを庇った我愛羅の首を、一息に。
「がは……っ!」
貫かれると共に我愛羅は認識した、この刃は危険だということ。
刃渡り20センチほどの刀身に籠められた力は、あらゆる忍術を否定する。
自分の守鶴の盾すら破ったのだ、性能の高さに関しては疑う余地はない。
そしてその刃が自分を貫いたその後に、向かう先は決まっている。
霞む視界の中で、目を見開いて自分の名を絶叫するナルトを見る。
自分は良い。此処で殺されるとしても、それは当然の報いなのだろう。
だが、ナルトは違う。この男は、自分を最後に闇の中から救ってくれたこの“友”だけは…
我愛羅は、吼えた。吼えながら、己を貫いた下手人に思いを馳せる。
一目見ただけで分かった、このガムテープの怪人は、自分と同じだと。
憎しみによって駆動し、他者を殺さずには存在できない。
けれど同時に、瞳の奥にはナルトと同じものがある事も感じ取れた。
きっとこの少年にも夢があるのだろう。その為に、殺し合いに乗っているのだろう。
目指す夢の先には、他者の幸福…つまりは少し前までの我愛羅と違って、
この怪人然とした少年もまた、うずまきナルトの様に他者へ愛情を与えようとしている。
だがその愛情は、うずまきナルトの歩む道とはどうしようもなく交わらない。
だからこそ、我愛羅はナルトに救われた身として、ナルトの夢に魅せられた身として。
彼の夢をこそ守る事を決めた。それ故に、ガムテの夢を阻むべく動く。
お前がでしゃばるべき夢ではないと、最後の力を振り絞って。
「────驚愕(なに)っ!?」
敵の異能(チート)を殺し、そのままブッ殺した。
そう確信していたガムテープの少年、ガムテの顔が驚愕に染まる。
ルールブレイカーを突き刺し、異能を使えぬ筈の少年が。
首を掻き斬り、即死でもおかしくないはずの少年から砂塵の狗が飛び出し、ガムテを襲う。
不味い、このままでは残った腕が断たれる。ガムテの第六感が告げていた。
その為、一旦死にぞこないからルールブレイカーを引き抜き、攻撃に対処しようとした。
だが、それは叶わなかった。ガムテにとって更なる不条理が起きたからだ。
異能を解除し今は既に制御を喪ったはずの砂たちが、何故か再び流動し始めるではないか。
化け狸の砂の塊は崩れ落ちた筈なのに、考えている間にも砂が固まり始め。
このままでは本当に残った腕も持っていかれる、ガムテは決断を迫られた。
刹那の内に決定を下し、ルールブレイカーを一旦放棄して腕を砂の塊より引き抜く。
「キャハッ☆退場(おちま)〜いッ!」
そして自由になった手をランドセルに突き入れ、目にも映らぬ速さで取り出した刀で一閃。
一秒足らずで愚者(フール)の悪足掻きを粉砕し、ルールブレイカーを回収しようとする。
ガムテも気づいていたからだ。目の前の隈取が狙ったのは自分への迎撃ではなく。
異能(チート)殺しのナイフを、その手から奪うことが目的だったのだと。
そうはいかない、面食らっているのりまきアナゴが体勢を立て直す前に回収させてもらう。
そうすれば、後は今しがたブッ殺した隈取に気を取られている間に刺して終わりだ。
冷徹に、冷酷に、ガムテは我愛羅の最後の抵抗を踏み躙る事を試みる。しかし───、
「ママ……?」
“母“が、割れた子供達の王の覇道を阻む。
確かにチート殺しのナイフでブッ殺したはずなのに。
自分の第六感もこれはただの砂に戻ったと、そう告げていたのに。
それなのに砂は狸の化身から、妙齢の女性へと形を変えて。
ガムテはその姿に、在りし日の己の“母”の姿を幻視する。
綺麗だったママ。とても怖くなったママ。自分の性器を切り取ったママ。
そして、いつも自分に痛みと言う名の愛情を与え続けたママ。
その記憶がガムテの脳裏を駆け巡り───ほんの僅かな間隙を作った。
「………ッ!?チィッ!!」
そしてそれは、ガムテにとって最大級のミスだった。
砂の女性に導かれる様に、大量の砂の濁流がガムテ目掛けて突っ込んできたからだ。
如何なあらゆる魔術契約を解除する裏切りの魔女の宝具と言っても。
流れ込んできた砂の制御を解除する事は出来ても、砂その物を消すことはできない。
例え神域の魔術師であろうと、母の愛情は断てない。
結果、ガムテの肉体は土砂に押し流され、ルールブレイカーも砂の奥深くへ埋まる。
更に丁度埋まった地点に流砂が発生し、その中に沈み込んだ事で速やかなる回収は事実上不可能となった。
───母様……………
崩れ落ち横たわったまま、砂の母を我愛羅は仰ぎ見る。
これは自分のチャクラで作られたものではない。
そして、守鶴が作り出した物でもないだろう。
根拠は無いが、何故だかそう確信する事が出来た。
そして、それの意味する所は、つまり。
母は、ずっと自分の傍らで守り続けてくれたのだ。
ずっと……我愛羅が気づかなかっただけで、そこにいてくれたのだ。
我愛羅が、生れて初めて我ではなく誰かを守ろうと思った時に、手を貸してくれたのだ。
────お前は母から愛されていた。
闇に落ちていく視界の中、死んだはずの父の声が耳朶を打つ。
夜叉丸があの夜突き付けてきた話とは明確に矛盾するけれど。
それでも、その言葉きっと真実なのだろうと、そう思えた。
同時に、母様は凄いと我愛羅は言葉にはできないまま感嘆の言葉を呟く。
だって友を守るだけではなく、父からの薬をも、自分に届けてくれたのだから。
今わの際に、夜叉丸が死んだ夜から終ぞ得られなかった愛情を受け取って、我愛羅は幸福だった。
「我愛羅………ッ!!」
しかし、それでも心残りが無い訳ではない。明確に二つあった。
一つは、自分と運命を共にすることになった守鶴のこと。
何時自分を乗っ取るか分からない恐ろしい怪物だった。
だが実際に自分の巻き添えで死なせてしまう事になると、どうにも憐れだった。
もしかしたら、ナルトの語った夢の未来の先では。
守鶴と共に夜更かしをする未来もあったかもしれないのに。
そして、残ったもう一つ。
もう殆ど見えなくなって闇に落ちていく視界の中で、微かに見えた友の姿。
共に火影と風影となり並び立つと言う願いは、もう果たされることは無い。
それがどうしよもなく悔しく、口惜しかった。
だから、だからせめて、と。彼は貫かれたはずの声帯を必死に震わせて。
最期に、友へと言葉を遺す。
「ナルト……お前は、火影になる男だ…………」
それだけを伝えて、安堵したように瞼を閉じる。
眠る少年の顔は、憎しみや体を奪われる恐怖に歪んだものではなく。
年相応の少年の寝顔の様な、安らかな物だった。
【我愛羅@NARUTO-少年編- 死亡 ガムテ100ドミノ取得】
事切れた我愛羅の身体を抱きかかえて、必死に名前を呼ぶ。
そうすれば、我愛羅が帰って来ると自分に言い聞かせている様だった。
瞼の端に涙を溜めて、必死に必死に呼びかける。
ナルトにはどうしても納得ができない。何故、我愛羅が此処で死ななければならないのか。
今、殺し合いに乗るのをやめると言ってくれたばかりなのに。
憎しみから、自由になってくれたと思ったのに。
その我愛羅が、なぜ死ななければならないのか。
「ハァイ☆隙アリ〜〜〜!!」
そんな行き場のない悲しみの奔流を遮る様に。
嘲りの感情を含んだ声色が、周囲に響き渡り。
そして、ナルトの肝臓のある位置に───凶刃が突き刺さった。
極道技巧”ヤマイダレ”。
隙だらけのナルトの背中を輝村照(ガムテ)が見逃すはずがない。
凡夫は見逃しても殺しの王子様(プリンス・オブ・マーダー)は見逃さない。
砂に飲まれた後、冷静に第六感に従い、窒息する前に砂を掻き分け脱出したのだ。
視界や気道を塞がれても問題なく行動できるガムテにとっては朝飯前の芸当。
そしてたった今ヤマイダレを怨敵である忍者に食らわせ、それだけでは終わらない。
ダメ押しにドスドスドス!!と急所を全てめった刺しにした。
異能殺し(ルールブレイカー)でない以上、念には念を入れる必要があるからだ。
「先生ェから教(おち)えても貰わなかったか?
戦場で死人に気を取られてちゃいけまちぇ〜ん!ってなァ〜
楽勝(ヌルゲー)すぎて心底(マジ)嘲笑(ウケ)たわぁ〜!!!」
ゲラゲラゲラと下卑た笑い声を上げながら、薬で強化された肉体でナルトを蹴り飛ばす。
瀕死のナルトに抵抗できる余地はなく、面白い様に転がった。
第六感が告げていた。此奴はもう死ぬ、ここから“うずまきナルトに”逆転する術はないと。
異世界の忍者であってもパパの才能を受け継いだ自分にかかればこの通り。
後は殺し屋の流儀に従い、全力で悪罵(アオ)りながらトドメを刺すだけだ。
ナルトの首を切り離すべく、ガムテは最高速度で刃を振り上げる。
最後まで手を抜くことは無い。油断する事もない。それでこその“プロ”だ。
その矜持のもと、情け容赦のない終末へと至る刃を無慈悲に振り下ろす───、
「……………アリ?」
────ゴッ!!!と頬に衝撃と熱が奔る。
己が殴り飛ばされたのだとガムテが認識したのは、地面に着地してからだった。
素早く受け身を取り、体勢を立て直して殴り飛ばした張本人へと視線を向ける。
立っていたのは、間違いなく致命傷を負っていた筈のうずまきナルト。
彼が、怒りと殺意に染まった表情で、ガムテを睨んでいた。
「非実在(アリエネ)ェ………」
呆然と呟く。
最初に戦った時は、自分の知る忍者と違い異能(チート)を使うだけのバカに思えた。
未知のエネルギーを扱う事を除けば、自分の知る忍者の方が余程強いと考えていた。
その見立て通り、うずまきナルトの仲間と見られた忍者はあっさり殺せた。
だが、今目の前にいるうずまきナルトは、巨大な獣と相対している様な威圧感を感じる。
ともすれば、少し前にブッ殺した吸血鬼より強大な怪物(モンスター)だ。
方針を変更する、此処は逃げの一手。最低でもこいつとはゼオンと二人で当たらねば。
第六感が鳴らす警鐘に従い、ガムテは逃走しようとする。
だが、当然それをうずまきナルトが許す筈がない。
「 カ ッ ! ! ! 」
ナルトが咆哮を上げると共に、凄まじい圧力がガムテを襲った。
見えない空気の大砲を叩きつけられたように、後方へ吹き飛ばされる。
不味いと思った。こんな芸当ができる相手が、大人しく此方が吹き飛ぶのを待つ訳はない。
その危惧は、直後に現実のものとなる。
「ブッ殺す………!!」
怒りに燃えるナルトの顔が視界の端に映ると。
コンマ数秒後、一発で内臓が破裂しそうな蹴りがガムテに着弾した。
薬(ヤク)を決めた状態でも血反吐を漏らし、今度は空中へと打ち上げられる。
敵の落下を待たず、すぐさまナルトは追撃の体勢に移行。握りこぶしを作る。
地面に落ちてきた所を、顔面がグチャグチャになるまで叩きのめすためだ。
ガムテに付けられた致命傷は、既に九尾の人柱力としての生命力で完全に治癒している。
ヤマイダレを受けズラされた肝臓も、九尾のチャクラが自動で元の位置に戻してしまった。
それ故に、眼前の敵に殺意を叩き付ける事に何の支障もない。
だから目論見通り落下してきたガムテ目掛けて、ナルトは容赦なく拳を振るう。
「な〜〜〜んつってェ☆」
しかし、殺意を向けたとて、それが相手に届くかどうかは別の話。
振るわれた拳を、あろうことか空中でガムテは受け止めていた。
殺し屋は何でも殺す。ナルトの拳の威力をも、殺したのだ。
そのまま掴んだナルトの腕に蛇の様に絡みつき、身体を半回転。
勢いを乗せた両足の蹴りで、ナルトの顔面を蹴り飛ばす。
ぶちゅり、何かを潰す感触と音が伝わり、今度はナルトが吹き飛んでいく。
それを眺めながら、ガムテは華麗な着地を決めた。
ガムテもまた選ばれし怪物。このぐらいの芸当は出来て当然なのだ。
でなければ、破壊の八極道を名乗れはしない。
「そんじゃあ、まったねェ〜〜〜ン☆」
一貫してお道化た調子で、今度こそ逃走しようとするガムテ。
プロは退き際を弁える者だ。でなければどんな強者もあっけなく失敗(ミス)って死ぬ。
その鉄則に従い、ガムテはその場を後にしようとした。
もう先程の様に衝撃波を受けても対処できる。あれ以外に遠距離攻撃がなければ問題ない。
逃走成功は確実だと、彼の第六感も告げていた──実体のない橙色の手に身体が掴まれるまでは。
「……ッ!?!?絶体絶命(ヤッベ)ェ……ッ!!!」
ガムテの表情が、焦燥を感じさせるものへと変わる。
濃いオレンジ色の腕は、がっしりとガムテの両腕ごと体を捉えて離さない。
何某かの異能のエネルギーによって作られたのだろう。それ故に対処が一瞬遅れた。
こんな事もできるとは、驚愕が脳裏を過る中で、掴まれた腕に身体が引き寄せられる。
地獄の回数券(ヘルズ・クーポン)をキメた自分の膂力でも、数秒での脱出は不可能。
殺しの天才ガムテをしてそう言う他ない、人を遥かに超えた力だった。
そして、ガムテが引き寄せられる先に待つのは、勿論たった一人しかいない。
「───螺旋丸………!!」
ガムテの反撃から一瞬で回復し、彼を捕え引き寄せたナルトの姿は先ほどの物ではなく。
狐の形をしたオレンジ色のエネルギーを、彼は纏っていた。
変貌を遂げた姿を見て、ガムテは敵が先程までとは別次元の怪物になった事を見抜く。
それを裏付ける様に、ナルトが添えた右手にオレンジ色のエネルギーが集まり始めた。
螺旋丸と呼んでいた、忍術(チート)を放とうとしているのだ。
不味い。今のナルトが放つあの一撃は、薬(ヤク)をキメた自分を殺しうる威力だ。
そう考えて何とか脱出しようとするが、余りにも時間が足りず。
あの異能(チート)殺しのナイフさえあれば、そう思っても全てが遅い。
成すすべのないネバーランドの王の前に、情け容赦なく絶死の光球が突き付けられ───
衝撃と閃光が、空間を染め上げた。
■ ■ ■
死だけは何とか回避した。
だがその代償は、右足首から先の喪失。
短距離の移動ならば兎も角、怪物と化したナルトを相手に逃げ切るのは難しいだろう。
下手に逃げれば、今度こそ何もできずに殺される可能性が高い。
ゼオンが援軍に来てくれれば一番だが、今の自分の状態を見れば助けてくれるものか。
最悪、足手纏いと判断され始末される恐れがある。
であれば、選択肢は一つしかなかった。
「ま、試合終了(ブザービート)ってワケじゃないよなァ?」
限りなく差し迫った死を前に、ガムテはそれでも不敵な笑みを崩さない。
そう、この程度、ママや極道(キワミ)から貰い続けた痛みに比べれば何でもないのだ。
だから歯を食いしばり、喪った足先をランドセルから取り出した支給品に添える。
それはゼオンから貸し出された、二振りの刀の内の一本。
人間国宝(ニンコク)関が鍛えた短刀(ドス)。それを素早く足首に埋め、隻脚となる。
ぶちぶちと神経が切れる音が響き、発狂しそうな痛みに襲われる中で、ガムテは狂い笑む。
この短刀は乃亜に奪われていた、父(パパ)である極道から受け取った物なのだ。
それが己の元へ戻り、身体を支えると言う高揚感に比べれば、痛みなど愛撫に等しかった。
ドスを支えに立ち上がると、ゼオンから借りたもう一振りの刀も静かに抜き放つ。
“閻魔“の銘を持つ、四皇の最強生物にすら消えない傷を刻み付けた大業物だ。
抜いた瞬間力を吸われる様な感覚に襲われるが、無視する。
妖刀村正程度ではダメなのだ。あの程度の刀では怪物(ナルト)は殺せない。
故に、この一刀でなければ。ガムテが何よりも信頼を置く第六感が、そう告げていた。
「さ〜て、待望(おま)た。こっちの準備はオッケーよん」
変わらぬ道化の所作で隻腕隻脚となった殺しの王子様は、妖狐と対峙する。
今迄はただガムテが戦う準備を整えるのを待っていた獣であったが。
仮に尚も逃げようとしていれば、間違いなく自分を殺しにかかっていただろう。
その上、足の刀が“馴染む”までは、長距離移動は不可能。
それの意味する所はつまり、ガムテが生き残る事を望むのであれば。
逃げるのではなく相手を殺し、勝利するしかないという事だった。
だが、ガムテはその事実に絶望を覚えない。物心ついた時から、ずっとやって来た事だ。
「さぁ……愉しい死亡遊戯(ゲーム)の時間だ」
誰かを殺さなければ生きられない。
殺られたままでは生きられない。
それが、割れた子供達(グラス・チルドレン)
そんな生き物になってしまった以上、それ以外の生き方は選べない。
ましてガムテは割れた子供達の王だ。王として、王冠を被った責務を果たさねばならない。
今しがた殺した忍者も、瞳を見れば割れた子供であったのは見て取れたが。
それでも忍者への憎悪だけでなく、乃亜に乞う大望の為に容赦なく殺した。
ガムテの同胞を想う気持ちは本物ではあるけれど。
目的を果たすためなら、当て馬として扱える王としての冷酷さも彼は持っていたから。
すべては、割れた子供達の全員を救うという大義の為に。彼は戦う。彼は殺す。
停止不能の怪物として────忍者を殺す。
「ブッ殺してやる…………ッ!!!」
対するナルトも、もう止まることはできない。
汲み尽くせない悲しみと怒りと憎悪に染まった瞳は相手の理解の全てを拒絶している。
真正面から全てを捻じ伏せ、叩き潰す。我愛羅を殺したことの重みを、分からせてやる。
彼の脳裏を占めるのはもうその感情だけで。それ故に殺しあう以外の道は両者にない。
どうしようもなく、二人の少年は分かり合えない。
「いいぜ、そろそろ決めようか。忍者と極道─────」
しかし、分かり合えぬからこそ。
殺しあうしかないからこそ。
「何方が活きるか、死滅(くたば)るか………!!」
それでこそ、忍者と極道だ。
【一日目/日中/D-6】
【うずまきナルト@NARUTO-少年編-】
[状態]:チャクラ消費(大、九尾チャクラにより回復中)、尾獣化(一尾)、怒り(極大)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品×3、煙玉×2@NARUTO、ファウードの回復液@金色のガッシュ!!、
城之内君の時の魔術師@DM、エニグマの紙×3@ジョジョの奇妙な冒険、
マニッシュ・ボーイの首輪
[思考・状況]
基本方針:乃亜の言う事には従わない。
0:───ブッ殺してやる……!!
1: シカマルを探す。
2: 仲間を守る。
3:殺し合いを止める方法を探す。
4: 逃げて行ったおにぎり頭を探す。
5:ドラゴンボールってのは……よくわかんねーってばよ。
6:セリム…すまねぇ
[備考]
※螺旋丸習得後、サスケ奪還編直前より参戦です。
※セリム・エリスと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました。
【輝村照(ガムテ)@忍者と極道】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、左手欠損、隻脚
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、関の短刀@忍者と極道、閻魔@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、魔力髄液×9@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2、
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:ブッ殺すか───やってみな!
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:シュライバーを殺す隙を見つける。
5:じゃあな、ヘンゼル。
6:ジャックに思うとこはなくもないが……。
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。
※破戒すべき全ての符@Fate/Grand Orderは砂山の下の何処かに埋まりました。直ぐに取り出すのは不可能です
※会場に張り巡らされた認識阻害の結界により、ガマ親分の姿を周囲の参加者は基本的に視認できていないでしょう
【タイム風呂敷@ドラえもん】
時計のトレードマークのふろしきで、赤色を表に被せると古い人・物の時間を巻き戻すことができるが、青色を表に被せると新しい物の時間を進行することができる。
本ロワでは制限により、使用回数は5回までとする。
一度使用すれば3時間使用不能となる。
【閻魔@ONE PIECE】
大業物21工の内の一振り。ワノ国に伝わる伝説的名刀。
四皇百獣のカイドウにも傷をつけたその斬撃の威力は「地獄の底まで切り伏せる」とまで謳われるほどである。
正し、その攻撃力は閻魔自体の『持ち主の覇気を強制的且つ過剰に引き出して斬撃に乗せる』という妖刀とほぼ同じ理屈を持つ特性に由来するもので、
極めて制御が難しい。乃亜の調整により平時よりその特性は抑えられている物の、それでも長時間振るえば命の保証はない。
【関の短刀@忍者と極道】
人間国宝(ニンコク)刀匠が鍛えた短刀(ドス)。
人体を軽く焼き殺す忍者の炎と熱を受けても全く影響を受けない強靭さ。
音速を超えた忍者の貫手暗刃を切り裂く鋭利さを誇る。
輝村極道がガムテに与えた一本。
投下終了です
シャルティア・ブラッドフォールン、金色の闇、海馬モクバ、ドロテア
予約します
予約に北条沙都子、カオス、メリュジーヌを追加して延長します
トリップが正しく出ず申し訳ありません
予約に北条沙都子、カオス、メリュジーヌを追加して延長します
投下ありがとうございます。
ゼオン、唐突に生えてきたかのようにエンカウントしていい敵じゃないんだよなあ。
イリヤ、エリスを纏めて圧倒出来るのは流石雷帝といったところですが、ゼオンの内面が余裕無さ過ぎて、ガムテの言う通り死相が見えるというのもその通りですね。
キレまくってるとはいえ電撃効かないなら打撃でぶちのめすと、頭も回ればゴリ押せるフィジカルも両立してるのが酷い。周りからすれば傍迷惑すぎる男。
試すとか言って、ディオにディオガ級超えの呪文ぶっ放すのおかしいよ。
借り物に拘るゼオンに、自力由来の物でなくとも守れるなら何が悪いと言えるエリスはカラっとしている。まあ、コンプレックス拗らせたゼオンは彼女からすれば女々しいんでしょうね。
しかも、借り物の多いニケに拘束されるのも屈辱的過ぎる。精霊王の加護とか、魔王ギリ関係ないロワなら没収されてもおかしくはなさそう。
ディオ君カッコいいポーズの下でカッコつけてますけど、内心滅茶苦茶邪悪な心に刺さって気分悪くなってそう。
成長したナルトが原作の頃より、余裕を以て勝利してるのが成長を表していている。サスケが見たら、焦って即里抜けですね。
光のように眩しく、そして折れないナルトに感化されるのは良いものなんですが、我愛羅君、対主催に転向するにはやはり遅かったかもしれないですね。ボーちゃんが逝っちゃってますからね。
ガムテに奇襲を受けて、それでも我愛羅が最初で最後の友達を守る為にお母さんが力を貸してくれるのは、当のガムテにも刺さってしまうんだ。
そしてやはりというか、ナルトVSガムテ。
忍者と極道が邂逅(であえば)、やることは一つですね。
投下します
地球を訪れる前。まだ殺し屋だった頃。
幾度となく依頼人達から向けられてきた、下卑た視線だった。
自分を兵器としてしか見ていない、他人を利用する事しか頭にない者の目。
友を得て、妹を得て、愛しい人を得てからは久しく向けられる事のなかった視線。
それは金色の闇と言う少女にとって嫌悪の対象だったが、今はどうでも良かった。
「よいな?ヤミとやら。お前の役目は一つじゃ。この妾とモクバを護衛すること。
そうすれば、お前がマーダーをやっていた頃の悪行から庇ってやろう。妾に任せるがいい」
「………はい」
光を失った瞳で、ヤミはドロテアの言葉に応じる。
凶行のツケは完膚なきまでの敗北と言う形で支払わされた。
更に親友の死、想い人の言葉を自分で裏切った事の自覚、親友の亡骸の愚弄。
立て続けに起こった惨事に、金色の闇と言う少女の精神は最早限界を迎えていた。
それ故に彼女が選んだ選択肢は、
「はい……私は貴方の、兵器です」
自死を止めた相手への服従と言う、思考の放棄だった。
もう、何も考えない。ただ言われた事だけをこなす兵器となろう。
そうすれば、美柑が死に、あの人が決して来てくれないと言う現実を直視せずにすむから。
自分は悪人に利用されただけの、被害者でいられるから。
もう、辛い事は何も考えずにすむのだから。
疲弊しきり、己の生すら投げ出そうとした彼女は、そう言う結論をしてしまった。
(あぁ…でもそれは)
あのグレーテルと言う少女と共に行くのと、何が違うのだろうか。
いや、自分を利用する駒や兵器としてしか自分を見ていない目の前のドロテアよりも。
彼女に身を委ねていれば、きっと備えた技巧の全てを駆使し自分を慰撫してくれただろう。
来てはくれないだろう結城リトのために貞操を守り、友になれると言った彼女を拒絶して。
その結果自分に殺しをさせる事を躊躇わぬドロテアに従うというのだから笑えない。
未だ我が身が可愛いのかと、自分に対する自己嫌悪は募っていくばかりだった。
今の自分が、汚らわしいものに思えて仕方がない。吐き気すら覚える。
いっそ今度グレーテルに会った時、彼女が自分を制圧する事に成功したなら。
その時はこんな身体くれてやり、存分にえっちぃ事をさせてやるのもいいかもしれない。
そんな、自暴自棄の極みと言える考えが脳裏を過るほどに。金色の闇は、末期だった。
「じゃが一つ言っておくことがある。モクバの奴の身柄は出来る限り守って欲しいが…
いう事は聞く必要はない。いざと言う時指揮系統が二つあるのは致命傷になりかねん。
これまで犯してきた自分の過ちを拭いたいのなら─────妾に従え、よいな?」
自分の精神状態を、目ざとく嗅ぎ付けたのだろう。
出会った当初の呼びかけと違い、ドロテアから向けられる言葉は既に命令形で。
経験からヤミにはこの後に続く言葉は凡その察しがついた。
そして、その予想通りの“アメ”を、ドロテアは差し出す。
「無論、妾もタダで護衛させるなど考えてはおらん。働きに見合った報酬が必要じゃ。
もし、妾とヤミ、お前が生きてここを脱出できたなら──ミカンを、生き返らせてやる。
これでも妾は凄腕の錬金術師でな、それにここには妾にも未知の技術が溢れておる。
それを駆使すれば、死者の蘇生をもきっと叶う。叶えて見せようではないか!!」
力強くヤミに訴えるドロテアに対し。
それを聞いたヤミの心中は、僅かほども揺れていなかった。
無論、内容だけなら瞳に光を取り戻してもおかしくない言葉ではあったが。
ヤミはずっと、語るドロテアの眼差しを目にしており、それで分かってしまったのだ。
ドロテアの二人で生きてここを脱出できれば美柑を生き返らせるという言葉に偽りはない。
けれど同時に、その未来が来るとは、彼女はこれっぽっちも信じてはいない。
何故なら彼女はヤミを、孫悟飯の様な相手に使い潰すつもりだから。
どうせ履行されることは無い空手形故に、彼女は大風呂敷を広げているのだ。
無邪気にドロテアの言葉を信じられれば良かったと、ヤミは心中で呟く。
「………分かりました。感謝します」
あぁ、どうせ美柑を助けるために戦うのなら。
いっそ殺し合いに乗ってしまおうか。
グレーテルの元へと戻り友として蕩ける様な快楽を与えられながら、一緒に優勝を目指す。
堕落は、知恵の実の様にヤミにとって甘美なものに思えた。
もう一度友になろうと誘惑を受ければ、今度は拒めないだろう。そう考える程に。
「───うむ!お前と会えて、危険を押して美柑の亡骸を弔った甲斐があったわい。
では、モクバの元へと戻るぞ、余り話し込んでいると疑われるし、悟飯やメリュジーヌがいつ来るかも分からぬからの」
「……はい」
それでも一応、美柑の遺体を弔ってもらった義理がある。
それを果たすまでは、ドロテアの護衛を勤めてもいいだろう。
どうせ、もう。どうでもいいのだから、全部。
その考えだけを胸に、ヤミはドロテアの話を受け入れた。
■
腕が立つだけでなく、移動でも使える手駒が手に入ったモノじゃ。
ヤミにモクバと共に抱えられ、遠ざかっていくKCを見ながらドロテアはほくそ笑む。
だが気は抜けない。取り合えず海馬コーポレーションから離れる事には成功したが。
悟飯や、メリュジーヌに狙われている状況は依然変わっていない。
圧倒的な力を誇るマーダー達に対抗するには、やはり他の対主催に寄生する他ないだろう。
相当に腕の立つヤミの助力を得たと言っても、彼女は以前より相当に劣化している。
彼女とドロテア自身の力だけを頼りに、殺し合いを渡っていけるとはとても思えなかった。
だから、一先ず敵がいないと思われる場所に降りて協議しなければならないだろう。
抱えられながら、ドロテアはその旨をモクバへと伝えた。
「………あ、あぁ」
モクバの返答に、出会った頃の覇気はなく。
ダメじゃなコイツ、もう使えんわ。
言葉にしないまでもそう考えながら、ドロテアは鼻を鳴らす。
出会った頃のモクバであれば、自分とヤミが席を外した際に、何を話していたのか、と。
意気軒高とそう尋ねただろうに、今のモクバは辛気臭く表情を曇らせるだけだ。
いくら首輪に対する知識があったとて、これでは最早用をなさないだろう。
KCでメスガキを一人縊り殺した事を負い目に感じているのだろうが、実に馬鹿馬鹿しい。
いつまでも引きずっていて、女々しい限りである。
コイツの変わりに首輪を解析している者がいないか、ドロテアは願わずにはいられない。
そうすれば、ドミノに引き換えられると言うのに。
「よし、ヤミ!適当に安全そうな場所で降ろすんじゃ!
一旦これからの事を協議せねばならんからのう────!」
とは言え今はまだモクバの代わりのアテも無い以上、簡単に切り捨てるわけにもいかない。
それにこの小僧の青臭さは一応、他の甘い対主催集団に取り入るのに役に立ちそうだ。
彼が敵意のない事をアピールしつつすり寄れば、お人好し共は無下にはできない筈だから。
尤も自身の能力の高さだけで、自分はフリーレンにだって取り入る自信があるが。
そんな純度100%の自己保身を胸に、ドロテアは地上に降りたとうとして────
「────その前に、私とお話ちまちょぉおおおおねぇええええええええ!!!!」
そこを狙われた。
ミサイルもかくやの速度で飛来してきたのは、ドロテアの見知った顔。
そして、今最も会いたくなかった顔の一人だった。
狂笑を浮かべたシャルティア・ブラッドフォールンが、勢いのままに突撃槍を振るう。
金色の闇は咄嗟に変身させた髪を伸ばすが、その量が余りにも不足だった。
飛行中、更にドロテア達を抱えた状況で、シャルティアを止めるに足る迎撃を放つ。
それは賢者の石で何とかエネルギーを補填している今のヤミにとって、不可能に等しく。
それ故に、髪の防御壁は紙の盾の様にあっけなく破られて。
衝撃を三人が襲い、成すすべなく墜落した。
■
何とか、ドロテアとモクバと言う少年を逃がすのには成功したらしい。
奇襲からの墜落を無傷で凌ぎながら、金色の闇はその事を認識した。
髪の一部を硬質化・自切させながらドロテア達を包んで野球ボールを作り。
墜落の最中に髪の大部分で掌を作って投げたのだ。恐らくは無事だろう。
とは言え最早……自分は彼らの面倒は見れそうにないが。
相対する煽情的な黒を基調としたコスチュームを纏う少女を見て、ヤミは諦観と共にそう考えた。
「中々やるでありすんねぇ、落下の最中私を妨害しつつ、仲間を逃がすとは……」
粘ついた視線。粘ついた声。
此方を品定めする様に、黒衣の少女はニヤニヤと笑みを浮かべてヤミを見る。
自分は目の前の絶対に負けないと言う確信と、嗜虐心を隠しもしない笑み。
凍てついた心でも、不快感は感じるのだなと言う知りたくなかった事実を。
ヤミはこの日初めて思い知らされる事となった。
「うんうん!顔も頗る良いでありんすし……決めんした!
ぬしはこのシャルティア・ブラッドフォールンが血を吸い、下僕にしてやりんしょう」
輝くような笑顔と共に、シャルティアは悍ましい話を口にする。
まるで地球の伝承に伝わる吸血鬼な印象をヤミは覚えたが、抱いたイメージは正しい。
彼女はナザリックの階層守護者である真祖(オリジン)の吸血鬼なのだから。
そして、その怪物が今、見目麗しいヤミの姿を見て狙いを定めた。
自分が血を吸い、眷属にして夜伽の相手を勤めさせるに相応しい雌だと。
「私は……貴方が嫌いです」
息巻くシャルティアに対しヤミの返答は、拒絶。
ただ殺されるなら兎も角、血を吸われて奴隷にされるなど御免だ。
その意志をはっきりと告げ、髪を変化させて臨戦態勢に移るが。
シャルティアはヤミの返答と身構える姿を前に、鼻で笑った。
「今は嫌でも──眷属になれば妾の事大好きになるから問題ないわよねぇ?」
ヤミの意志など関係ない。
血を吸って眷属にしてしまえば、彼女の意志など紙同然。
拒絶の意志など幾らでも捻じ曲げる事ができるのだから。
だから、拒む方法は一つ。シャルティアの撃破以外に選択肢は存在しない。
絶望すら伴う事実を突きつけつつ、シャルティアはランドセルよりスポイトランスを取り出した。
「ぬしの意志など、我が忠誠に比べれば藁の様に軽く脆いと教えてやりんしょう」
言葉と共に、シャルティアはその手の獲物を構える。
片手は無限の魔力供給を約束するカレイドステッキ。
もう片方の手には自身の忠誠の証であるスポイトランス。
それらは歴戦の殺し屋であるヤミにすら、“死”を想起させるに充分な脅威だった。
「さぁ、蹂躙の時間でありんす────ッ!」
捕食者の笑みを浮かべて、シャルティアが突撃槍を振り上げ跳躍する。
迫りくる脅威に対し、ヤミは髪の中に隠し持っていた賢者の石を駆動させる。
元々ガス欠を迎えていた所を賢者の石で何とか補填していた最悪の状況。
そんな矢先に目の前の突撃槍の女の様な怪物を相手取るなら、短期決戦しかない。
無論それがどれほど望みのない戦いなのかは理解していたけれど。
それでも、今の自分は兵器だ。兵器は勝ち目が無くとも戦場から逃げられはしない。
だから彼女は迫りくる破滅に身を委ね、戦う事を選ぶ。
「───自己評価よりは、無駄が見受けられますね」
目の前のシャルティアは強い。間違いなく強い。
宇宙にその名を馳せたヤミをして、太鼓判を押せるほどの強者なのは間違いなく。
だが、同時に彼女は感じ取った。シャルティアの戦いから微妙な違和感を。
繰り出される槍の威力は捉えられればまずヤミを一撃で殺しうる威力だ。
乃亜のハンデを受けてこの鋭さ、この迅速さは紛れもなく驚嘆に値する。
だが…反面、対人戦の経験に乏しいのではないかという雰囲気が、何故か感じ取れた。
通常此処までの強者からまず感じ取れる感覚ではない、それ故の違和感。
戦い慣れている、自分の戦法を確立しているのに、どこかその立ち回りは素人臭い。
───大方、強すぎたが故に相手を一撃で倒す戦いしかしてこなかった、という所ですか。
生まれながらの強者であったなら、駆け引きや立ち回りが素人臭くとも頷ける。
事実彼女は無造作に槍を振るうだけで大抵の相手を撃滅できる実力を有しているのだから。
ヤミはシャルティアに対し、そう言った評価を下した。
組み立てた仮説が正しいかどうかは分からないし、その是非はさして重要ではない。
今重要なのは、目の前の難敵には付け入るスキがあるという事、ただそれだけだ。
その結論を下しながら、ヤミは右手を桃色の刃にトランスさせ、突撃槍と打ち合う。
「くっ………!」
空間に火花が散り、ヤミの表情が歪む。
惑星兵器の出力を誇ったダークネスであった頃とは違う、完全に競り負けていた。
相手の動きに無駄はあるが、それが戦力差を覆せる程の物ではない事を一度の交錯で悟る。
やはり勝機は乏しい、どこまでも。
もし媚薬の効果が今だ身を苛んで居れば、戦いにすらならなかっただろう。
「無駄が何だって!?」
口の端を裂けそうになるほど釣り上げながら、シャルティアが追撃に迫る。
大口を叩いて早々口ほどにもない。それが彼女の抱くヤミに対する評価だ。
醜く損壊した死体は、シャルティアの趣味から微妙に外れてしまう。
だから、先ほどの一撃はなるべく麗しい容姿を保つために手を抜いていた。
それなのにヤミは一合受けただけでふらついている。何か偉そうなことを言っておいて。
シャルティアは不遜にヤミに対し嘲りの表情を浮かべた。腹の底から敵を見下した顔。
だが、それを許されるだけの実力を、殺意を、吸血姫は備えている。
その事実に従い、彼女は断頭の刃を残像すら残る速度で振り下ろした。
己の勝利を、確信して。
「────そのままの意味ですよ」
「なにっ!?」
突っ込んできたシャルティアの鳩尾に、カウンターを叩き込む様に。
アスファルトで構成された握りこぶしが大地より伸び、彼女に突き刺さっていた。
予期していなかった衝撃に痛痒はないものの驚き、数歩たたらを踏んで後退する。
アスファルトから生えた拳は、言うまでも無くヤミの仕業だ。
行ったのは、ダークネスの頃に行っていた無機物への変身の応用。
それを賢者の石の力に依ってノーモーションで疑似的に再現したのだ。
上手く行くかは分からなかったが、彼女は賭けに勝った。
これは賢者の石が錬金術と併用される本来の用途と近かった事に起因する。
当然、ヤミに知る由もない事であるが。
僅かに訪れた幸運を噛み締め、ヤミは決断を下す。勝負を決めに行く、と。
「くっ…!?この─────!」
シャルティアの四肢、関節部にヤミの毛髪が巻き付き固定(ロック)する。
どれほど筋力差があろうとも、関節部だけは脆く抑えられれば力を発揮できない。
ハナハナの実という悪魔の実を食べた女性が、屈強な数多の海賊や海兵を倒してきた様に。
ハンデの影響を受けた条件下、数秒ほどの猶予でこの拘束からの脱出は難しいだろう。
プライドの高いシャルティアの気性をして、そう判断をせざるえない見事な一手だった。
そして当然、ヤミがシャルティアの脱出を待つ義理はない。
「死んでください」
これで殺(と)る。零下の殺意を瞳に宿し、右手を変身によって変貌させる。
狙うは首の両断。一撃で勝負を決めるならそれを狙うのが最も確実だろう。
でなければ、乃亜は首輪を抑止として選んでいない。
その推察の元、全身のナノマシンと賢者の石の駆動率を引き上げ、桃色の太刀が像を結ぶ。
結城美柑はもういない。殺し屋に戻ったとしても、咎める者はもうこの島にいないのだ。
当然、プリンセス達も結城リトも来てはくれない。
だから、躊躇する理由はどこにもなく。金色の闇は標的の首筋を狙い────
────兵器なんかじゃないよ。
揺れる。
そして、その揺れは彼女にとって致命だった。
────《力場爆裂(フォース・エクスプロージョン)》
不可視の爆裂が、ヤミとヤミが伸ばした毛髪を襲った。
シャルティアにとって、四肢を拘束された程度では些事でしかないのだ。
何故なら彼女は戦闘力を追求したナザリック屈指のガチビルド。
魔法戦にも長けている彼女を本気で行動不能にすることを試みるのなら。
口腔に硬質化した大量の毛髪を窒息させる勢いで流し込み、魔法詠唱も封ずるべきだった。
しかし今となっては後の祭りだ。シャルティアは大部分が吹き飛んだ毛髪を引きちぎり。
そして嗜虐心を剥き出しにした酷薄な笑みを露わにしながら、ヤミへ突撃槍を振りかぶる。
(だが────遅い!!)
不可視の衝撃波に襲われながらも、ヤミは体勢を保っていた。
右手を変身させた桃色の太刀もそのまま、反撃の余地はいまだ健在。
そしてシャルティアは今ミスを犯した。今、二人の距離はお互いの鼻筋が分かる近距離。
そんなショートレンジで、振りかぶった大振りの一撃は先手を譲るようなもの。
ヤミは腰と脚部に力を籠め、身体の捻りを加えて桃色の殺意を振り上げる。
振りかぶった体勢から振り下ろす体勢に移行する、その一瞬に食い込む。
殺(と)った。
横薙ぎに刃と化した腕を振るったその瞬間、切っ先の速度は音の速度を超え。
殺し屋としての天賦の才か、軌道も非の打ちどころはなく。
確実に、シャルティアの首を泣き別れにできる一撃だ。
その後のヤミの生存を度外視すれば、の話ではあるが。
恐らくこのままいけばヤミがシャルティアの首を飛ばした一秒後には。
既に振り下ろされた突撃槍の一撃に、金色の闇の肉体は砕かれる結末に終わるだろう。
だが、ヤミはそれでも構わないと思った。
(今更、ですね)
元々自死を選ぼうとしていた身。
自分が目の前のマーダーを非難できる立場にない事は理解しているが。
それでも対主催と見られる二人を助け、マーダー一人を道連れに死ぬと言うのは。
穢れた自分には過ぎた最期なのかもしれない。
彼女はふっと自嘲する様に笑いながら、そのまま切っ先を奔らせ。
────《石壁(ウォール・オブ・ストーン)》
そして、彼女の甘やかな幻想は打ち砕かれる。
シャルティアとヤミの間に割り込む様に石壁が現れ。
それをヤミの振るった刃は打ち砕く事に成功したが、その影響で切っ先の速度が落ち。
彼女の乾坤一擲の一刀は、シャルティアの片手の指で受け止められた。
「脆弱(よわ)いでありんすねぇ」
そのまま摘まんだ一刀を、自分の掌が切れる事も気にせずシャルティアは握り締め。
残ったスポイトランスを握っている手を振りかぶった。
実質腕を取られているヤミに、その一撃を躱す術はない。
腕を切り離そうと、すぐさま追撃を受け結果は同じだ。
金色の闇はこの瞬間、自らの生存と勝利を諦めた。
「ぬし、もう目が死んでいるでありんすよ。そんな有様で────」
シャルティアは既にヤミが抜け殻に等しい事を見抜いていた。
障害であっても、脅威ではない。この女は既に、脅威にはなりえないと。
そう下していた評価の通り、あっけなく、ごちゅりという肉を潰す音が響く。
ヤミの華奢な肉体が、横薙ぎに振るわれた突撃槍で薙ぎ払われた音だった。
「至高の御方への忠道を阻もうとは片腹痛い。身の程を知りなんし」
一撃で勝負は決まり、金色の闇は道路の片隅に横たわり沈黙する。
今の彼女にとって、シャルティア・ブラッドフォールンは難敵に過ぎた。
だからこれは当然の帰結。闇の敗北と言う当たり前の結末が紡がれただけだ。
完全に意識を喪失しており、しばらく目を醒ますことは無いだろう。
否、醒ましたとしても、きっともう彼女に立ち上がる気力はない。
「さっ、さっさとこの娘の血で栄養補給をして、次はあのクソ共の蹂躙としゃれこみんす」
とは言え、態々起きるまでシャルティアが放置しておく理由はない。
まして今の彼女はすぐさまモクバ達に追撃を行おうとしている時である。
モクバ達を襲っている間に逃げられるリスクを考慮すれば、どうするべきかは明らかだ。
合理的な思考の元、シャルティアはヤミの命を摘み取りにかかる。
「ふふっ!ぬしの血は美味しいでしょうし、楽しみねぇ?」
これで、先ず一人。シャルティアはほくそ笑んだ。
乃亜の新ルールもある以上、今はキルスコアを上げてドミノを稼がねばならない。
シュライバーや悟空の様なこの島きっての強者に勝利するには、それしかない。
逆に言えば乃亜の優遇さえ受ければ、あの二人さえ消せば。
優勝はかなり現実味を帯びてくると、シャルティアは推察していた。
(………そのためにはあのデパートに現れた支給品の力が必要でありんす)
ヤミ達と会敵する暫し前。二回目の放送が響いた直後に。
シャルティアは目撃していた、デパートの立つ方角に現れた巨神の姿を。
見つけられたのは本当に偶然だった。
シュライバーらに吹き飛ばされた先で、傷を癒す傍ら警戒の為索敵スキルを用いた結果。
たまたまデパートの方角を向いており、補足する事が出来たのだ。
奇妙な感覚だった、一度気づけばなぜ今まで気づかなかったのかと考える存在感だったが。
もし索敵スキルを使用していなければ、まず間違いなく気づいていなかっただろう。
とは言え、それ事態は不気味ではあるが今は放置しても問題ない。重要なのはその先だ。
巨神が現れた瞬間威容に目を奪われ、即座に看破・鑑定スキルを用い正体を探ったのだが。
その際鑑定スキルが反応を示し、巨神が支給品で呼び出された物だと知る事ができた。
それはつまり、乃亜からあの強大な力を与えられる可能性があるという事だ。
ゲームの貢献者への還元、そのために乃亜はドミノポイントを導入したのだろう。
その考えに思考が行きついた時、まず考えたのはあの強大な力が必要だという事であり。
それ故に参加者を沢山殺しドミノを稼ぐ、と言う結論だった。
「ここで三人纏めて殺せれば…トップ争いも見えてくるわよねぇ?」
あの二人組もまだそう遠くへは逃げていないだろう。
逃げられる前にヤミにトドメを刺し、すぐさま逃がされた二人を追撃する。
そうすれば、乃亜の言葉が確かならドミノの上位争いに食い込める可能性が高い。
ドミノ上位になれば、きっとあの巨神の力も手に入る。
巨神の力さえ手に入れば、孫悟空もシュライバーも臆する相手ではない。
心中で高らかに叫びながらシャルティアはスポイトランスを構え、とどめを刺そうとする。
だが、突撃槍がヤミの命を貫くよりも早く、その切っ先は止められてしまった。
シャルティアとヤミの間に目にも映らぬ速度で飛来した、一振りの剣によって。
「…どういうつもりでありんす、メリュジーヌ。まさか獲物を横取りにしに来たと?」
眼差しの先に立つ騎士の姿は、やはり麗しい。
だが後から駆けつけてきて、獲物と自分の間に割り込むのはいただけない。
これでは獲物を横取りしに生きたと受け取られても文句は言えないはずだ。
冷たく鋭い視線を向けたままシャルティアは自分の槍を受け止めた闖入者に尋ねる。
シャルティアの問いかけに対して、彼女の、メリュジーヌの応答は簡潔だった。
「違う。だが…その子は見逃して欲しくてね。シャルティア」
「あ゛?」
見逃せと言われた瞬間、シャルティアの額にビキリと青筋が浮かぶ。
だが、その直後に必死に彼女は己を律した。落ち着け、と。
メリュジーヌは、感情に任せて戦っていい領域の相手では断じてないのだから。
アインズ様が今ここにいれば、きっとそうおっしゃる筈だと重ねて諫め、何とか落ち着く。
もっとも、続くメリュジーヌの言葉がなければ辛抱強い方ではない彼女は直ぐに爆発していたやもしれないが。
「勿論タダでとは言わない。要求を飲むなら、此方も君の望む物を渡す」
「……………」
メリュジーヌの言葉に対し、シャルティアの返答は沈黙だった。
如何にも機嫌の悪そうな態度でメリュジーヌをじっと見て、そのまま十秒。
一触即発の睨み合いの後、彼女は不服そうに溜息を吐いて。
「……いいでしょう、話を聞きんしょう」
がつん、と地を舐めるヤミの身体を足蹴にして、くぐもった呻きを上げさせながら。
シャルティアは、メリュジーヌの要求を受け入れた。
■
結論だけを先に述べてしまうならば。
モクバの死者の埋葬は、失策だった。
近辺には悟飯の暴走の煽りを受けず、回復に専念していたメリュジーヌが潜伏しており。
そしてそのメリュジーヌは、戦闘時以外悟飯が飛行できなくなっている事を聞いていた。
情報源は勿論、悟飯とつい二時間前まで仲良くしていた沙都子からである。
それ故に彼女は、日番谷から受けたダメージの回復の確認も兼ねKCに赴いたのだ。
周囲に弱った負け犬がいれば、ドミノ獲得のために狩る事を目的として。
(飛行機能は既に取り戻しているが……巡行速度は半分ほどかな)
日番谷から与えられたダメージにより、普段なら苛立ちを覚える程飛行速度は落ちている。
その状態でも満足に飛べない悟飯であれば撒ける自負はあるが、念には念を。
禁止エリアスレスレの高度を取りながら、メリュジーヌは周辺の哨戒を行い。
成果として見覚えのある人影二つ、発見するに至った。
既に事切れた遺体を埋葬しようとする、ドロテアとモクバの姿を。
やる必要も無い埋葬の為に、戦場跡に留まってくれていたお陰で見つける事ができたが。
その時点ではメリュジーヌは追撃を仕掛ける判断を見送った。
理由は直後に手練れと見られる金髪が現れた事が一つ。
何より、戦闘終了までにKC周辺に悟飯が戻ってくるリスクを懸念したからだ。
乱入を避けるために、メリュジーヌは暫し手を出さず、そのまま追跡する事を選んだ。
どうせ向こうからしてもKC周辺は死地。放って置けば勝手に離れてくれるのだから。
『──メリュジーヌさん?聞こえますか。今、カオスさんの自己修復が終わりました』
丁度その判断を下した時、沙都子からの通信を聞いた。
カオスの自己修復が終わったという一報を。
元々損傷はパンドラの起動により全快していた身。
消耗はしていたが、損傷がなければ自己修復機能を全て其方に向けられる分、回復は早い。
更に今の彼女は消耗など吹き飛ばす“存在理由”を得ている。
『メリュ子おねぇちゃん!今どこにいる?すぐ“マスター”とそっちに行くね!!』
輝くような笑顔が容易に想像できる弾んだ声で、カオスも通信に加わる。
それを聞いて、メリュジーヌはこの通信で伝わるのが声だけで良かったと、そう思った。
でなければ、沙都子の事をマスターと呼んだ彼女の顔を、直視できなかったかもしれない。
これでもう、自分が巻き込んだ天使は後戻りできない。カオスは沙都子を裏切れない。
エンジェロイドは、鳥籠(マスター)を愛する様に設計されて生まれた存在であるが故に。
────今更、惑うな。
カオスの事を沙都子に話した時点で、自分も立派に共犯者だ。
地獄へ向かうレールを舗装したのが沙都子なら、敷いたのは自分だ。
カオスが地獄へ向かう事を厭うなら、最初から見て見ぬふりをすればよかったのだ。
それを今更惑って、心ある竜のフリをするな。姉であろうとするな。
今のお前はオーロラの騎士であり、それ以外にとっての厄災なのだから。
その役目を果たせ。全てを利用しろ。役目以外の全ては、斬り捨てるべき余分でしかない。
彼女は己にそう言い聞かせ、冷徹に、非情に心を凍てつかせて。
優しく頼りになる姉を完璧に演じて、カオスの呼びかけに応答した。
元気になってよかった。標的を見つけたから、これから沙都子と一緒に来て欲しい、と。
無邪気にはしゃぎながら了承するカオスの返事は、とてもよくメリュジーヌの心を灼いた。
■
全身を鈍い痛みに苛まれながら、ドロテアが短いうめき声上げつつ意識を取り戻す。
墜落の衝撃から意識が覚醒すると共にがばりと起き上がり、周囲を見渡す。
すると傍らにまだ意識がはっきりしていない様子のモクバが横たわっていた。
手早く状態を確認するが、怪我をしている様子は見られない。
きっと辺りに散らばっているヤミの物と思わしき毛髪が守ってくれたお陰だろう。
「起きろ!起きるんじゃモクバッ!!呆けとる場合か!逃げるぞ!!」
「う、う〜ん……?ド、ドロテア……?一体俺達、どうなって……」
「飛んでおった所を襲撃されたんじゃ!早くここから逃げんとヤミも逃げられんじゃろ!」
「………ッ!?……っ!わ、分かった………!」
まだ意識が僅かに混濁しているモクバの頬を強かに張って、状況を知らしめる。
既にドロテアはこの時ヤミの生存を諦めていたが、その事を決して口にはしない。
モクバがヤミを助けると言い出さない様、もっともらしい理由を述べて逃げる事を促す。
本当を言えば、ドロテアも拾って早々ヤミを手放したくはなかった。助けたかった。
だが、満身創痍の自分達がヤミを助けようと挑みかかっても死体が増えるだけ。
それ故に、ヤミもまた逃げ延びる事を期待して逃走を選ぶしか、選択肢はなく。
(何でこの島ではこうなるんじゃあ!毎度戦闘では役に立たんモクバのフォローをして…
強大な権力に寄生しぬくぬくと私欲を満たすのが妾の基本スタンスだというのにっ!)
ヤミを手放したくはなかった。
フリーレンなど強力な対主催の元へ身を寄せたかった。
その為なら、写影達を許すどころか媚びても良かった。
まだ精通も迎えているか怪しい小僧に媚びるのは屈辱だが、今の自分に比べればマシだ。
マーダー達に翻弄され、怯え、逃げ惑うなど惨め過ぎる。
それなのに、めぐり合わせは何処までも自分に優しくない。こんなの理不尽だ。
(……待て。あの槍を持った女はメリュジーヌと一緒にいた。
この襲撃は、本当にただのめぐり合わせ、か?)
ぞくり、と悪寒が走った。
ドロテアの脳裏に過った懸念は、半ば外れている。
少なくとも彼女等を最初に襲ったシャルティアの奇襲は、ほぼ偶然だ。
シャルティアが放送前に負った傷を癒し、ディオを探すべく飛び立った時間と。
ドロテア達がヤミを懐柔し、悟飯から逃げるべく飛んだ時間が不運にも重なった。
それだけの話なのだが、同時に全くの的外れという訳でも無かった。何故なら。
メリュジーヌ達に今も補足されているのではないかという一点においては。
ドロテア達にとって最悪な事に、正しかったのだから。
「─────やぁ、また会ったね」
「………………っ!?」
声が響くと同時に、息を呑む。
悟飯に次ぐ、今出会いたくない顔の第二位。
メリュジーヌが、ドロテア達の前に姿を現していた。
出会った時と全く変わらない、冷たい殺意を眼差しに籠めて。
「あ……ぁ……!」
モクバも既に意識をはっきりと覚醒させていたのか、恐怖を露わにした声を上げる。
完全に、メリュジーヌの放つ殺意に飲まれていた。
今の彼を頼ることはできない。瞬時に判断を下し、ドロテアは大声を張り上げ指示を出す。
メリュジーヌは優勝する事しか頭にない最悪の手合いだ。交渉の余地はない。
最早悟飯の存在は抑止として機能せず、手を組もうと提案しても跳ねのけられるのがオチ。
となれば、逃げる以外の選択肢はなかった。
「モクバ!死にたくなければ青眼のカードを渡せ!」
「……っ!くそっ…!あぁ、分かった────!」
ドロテアの大声に反射的に従い、モクバは青眼のカードをあっさりと手渡した。
どの道青眼自体は現状インターバルが明けていないためただのカードだ。
それならば、ドロテアの錬金術で別のカードを生んでもらった方が良いだろう。
その考えの元、ゆっくりと歩み寄って来るメリュジーヌを尻目にカードの譲渡が成され。
受け取った瞬間、迷うことなくドロテアは青眼のカードへ錬成陣を刻んだ。
素材となった青眼の攻撃力は0に、守備力も400まで低下してしまうが。
しかしそれを気にしている余裕はない、カードよりも人命こそ優先だ。
必死の表情で、ドロテアは最善のカードを現出させる。
「いけっ!ゴブリン突撃部隊!!」
武装したゴブリンの群れが現れ、ドロテア達を守る盾となる。
数では圧倒的に勝ったドロテア達だったが、安心はまるでできない。
数が頼みの雑兵達で、メリュジーヌを討ち取れるはずもないのだから。
ゴブリンたちが姿を現した時には、ドロテアは次なる行動に移っていた。
モクバの手を取り、前掛けにしたランドセルを残った手で漁りつつ、疾走を開始する。
ゴブリンたちが囮になっている間に、逃げ延びるのだ。
「カオス、丁度君たちのいる方角へ行った」
逃げ去っていくドロテア達の背中を見ても、メリュジーヌの表情に焦燥はない。
これはカオスに対する試練なのだから。
ただ通信機を通してドロテア達が逃げた方角を伝え、ゴブリンたちの殲滅に移る。
竜の炉心から生み出された魔力を放出し、躍りかかって来るゴブリンたちを撃ち抜く。
瞬く間に数を減らし、臆した表情を浮かべるゴブリンたちを前にメリュジーヌは呟いた。
「……さて、頼んだよカオス」
■
攻撃力0となった青眼のカードを見て、これでいいのかという思いが募る。
あのヤミという少女も後で合流すると言う様な口ぶりだったけれど。
考えて見れば落ち合う場所だとかをドロテアが口にした記憶がない。
本当に合流する気があるのか。このままドロテアの指示に従っていていいのか。
ぬかるみに沈み込んでいくが如く、疑念はモクバの思考と身体に纏わりついていく。
そんなモクバの様子を、余裕のなさから一切気に掛ける様子は無く。
ドロテアは紗寿叶から奪った支給品であるフラフープの様な輪を一つ取り出す。
「このいないいないフープ君は…自動的に人のいない場所を探し移動できるらしい。
一度使えば数分のインターバルが必要じゃが、重ねて使えば逃げ切れるはずじゃ」
ワープできる道具とはオーバーテクノロジーにも程があるがこの島には未知が溢れている。
今更驚きはしないし、圧倒的に機動力で勝る相手に対し腑に落ちる計画ではあった。
ただ一点、どうしても納得できないのは。
「ヤミって子はどうするんだ。合流するんだろ?
ワープで痕跡が残らないんじゃ追ってこれないし、落ち合う場所は決めてあるのか?」
「……無論じゃ。妾を疑っておるのか?」
「じゃあ何で自動で人がいない場所に行くなんて適当な道具を直ぐに使おうとするんだ。
もしそれで島の反対とか、合流ポイントとは真逆の場所に出たら────」
「心配するな、ちゃんと考えてある」
「じゃあその考えをちゃんと説明しろよ!」
不満が、噴きあがる。
モクバは察したのだ。また言いくるめられて、また煙に巻かれようとしていると。
だから食い下がる、ドロテアの言葉に反発し噛みつく。
このまま流されれば、また他人を見捨てる事になると、そう思ったから。
だからドロテアの腕を掴み、真実を話す様に訴える。
だが、その訴えはドロテアを苛立たせるだけだった。
一刻も早く逃げなければならないと言うのに。
既にキウルを見捨てて生き残った分際で、今更何を厭うのか。
ドロテア側からしても、モクバに対する不満は募っていた。
「今そんな事を言っとる場合か!いいからっさっさと────」
「お前がちゃんと話せば!話そうとすればいいだけだろ!信用できないんだよ!!」
モクバにとっても、ドロテアがヤミを見捨てるなら納得する努力をするつもりだった。
だが、永沢を殺した時の様に、死にかけていた少女にトドメを刺した時の様に。
ペテンを使って、嘘をついて、モクバを丸め込もうとしている。
今のままでは、またあの少女のようにこの女の犠牲になる者が出てくる。
消えてくれない彼女の最後の視線と声に突き動かされる様に、モクバは糾弾を行う。
俺は違うんだと、あの犠牲をまた生まない様に努力してるんだと、そう言いたかったから。
だが、彼の言葉がドロテアに届く事は、無かった。
いい加減我慢の限界だという様相のドロテアは、モクバの襟首を掴み上げて。
「───死にたくないなら、妾に口答えするでないわ」
「悪いのは……!お前だろうが……!ドロテア………!」
「やかましい、いい加減うんざりじゃ。とっとと行くぞ」
「お前……!やっぱりヤミを捨て石に───!」
話を途中で打ち切られて、首根っこを掴まれ、輪の中に諸共に引きずり込まれる。
この時モクバは確信した、やはりこいつ、ヤミという子を捨て石に使ったのだ。
カツオやキウル達の時からこれで都合三度目だ。黙っておくわけにはいかない。
断絶と決裂に対し、声を上げようとした時、違和感に気づく。
さっきまで背負っていたランドセルが無いのだ。そして、全身がスースーする。
視線を首から下に向けてみれば、あるべきものが無かった。
ドロテアも、自分も、輪をくぐった瞬間、全裸になっていた。
「な、何だこれ……ッ!?」
「どういう事じゃ乃亜ァ…ッ!?衣服はともかく、何故ランドセルまで持ち込めない!」
裸になった事に気づくと、モクバは股間を隠そうと両手で覆い。
対照的にドロテアは裸体を曝け出したままいないいないワープ君を手に恨み言を零す。
飛んだ欠陥品だ。服のみならずランドセルすら置き去りとは。
これでは本当に緊急時の時に命を拾う目的でしか使えないだろう。
「チッ!仕方ない、一旦ここで潜伏した後、機を伺って回収に行くしか───」
空間転移したのだ、これなら尾行されていたとしても追撃を受ける恐れは低い。
向こうの視点で言えば、突然自分達が消えた様にしか思えない筈。
今自分が立っている場所を見渡すと、狭苦しい民家の一室のようだ。
なるほどここなら、そうそう他の参加者は訪れないだろう。
その点については、説明書に偽りなしの評価を下しても良かった。
「ともあれほとぼりが冷めるまでは迂闊には動けんか。モクバ、この家においてある服を」
取ってこい、と言いかけた時だった。
モクバが言葉を返すよりも早く、ドロテアの本能が警鐘を鳴らす。
まさか、と考え民家の窓から周辺を睥睨し、現在地の確認を行った。
見える景色から、ワープした地点とそう離れてはいない場所に出たらしい。
だが、そう離れてはいなくとも不可能な筈だ。ワープした相手を即座に補足するなど。
現状の自分達は全裸、何かマーキングをされて居場所を割り出される恐れも無いはず。
それになのに、何故。
(いや…違う。もし、妾達そのものが目印になっているのだとしたら?)
数時間前にモクバの口から電子機器の説明は受けている。
その際に彼が語っていた、レーダーの話をドロテアは想起していた。
物体の放つ電波や体温などをキャッチし、位置を割り出す装置。
それによって探されていたのなら、短距離のワープでは逃げ切る事は難しいだろう。
索敵範囲から遠く逃れられていなければ、結局転移した先で補足されるのだから。
そして、自分達の体温は恐らく既に記録されている。
何故ならすでに、自分達は北条沙都子に出会っているのだから────!
「……不味いッ!モクバ……ッ!!」
どうすればいいのかは直ぐに浮かんでこない。
だが、電子技術に精通しているモクバであるなら、対抗手段も分かるかもしれない。
そう考えて、知識を仰ぐべくモクバの名を呼んだ、丁度同じタイミングで。
「みーつけた」
クスクスと、無邪気で、残酷な笑い声が響き。
それと共に、ドロテア達が潜伏していた一室の壁が吹き飛んだ。
ぽっかりと空いた風穴の中に立つ、修道服を纏った天使の少女。
北条沙都子がカオスと呼び侍らせていた少女の姿を、ドロテア達は認めた。
「お、お前等───北条沙都子っ!」
モクバがその名を呼んだことを皮切りに、状況は動き出す。
カオスは沙都子を大地に降ろし、翼を広げて急発進。
その速度は彼女を知るエンジェロイド達からすれば考えられぬ程低下した速度であったが。
ドロテア達にとっては到底逃げ切れぬ速度を記録していた。
「────か…………っ!?」
先ず狙われたのは最もこの場で弱いモクバだった。
いないいないフープ君のせいで無手の上に服すら着ていない完全な無防備。
そんな状態で、第二世代エンジェロイドの強襲をただの少年がどうにかできる筈もなく。
ドロテアが妨害しようとするが、それよりもなお速く。
カオスの掌底は、モクバの顎を撃ち抜いた。
「……………ッ!!!」
ぐりんッ!と白目を?き、どしゃりとフローリングの地面に崩れ落ちる。
抵抗の余地など一切なく、殺さぬ様に見事に手加減が加えられた一撃。
沙都子から与えられた、殺すなという命令をカオスは遂行した。
そして、次なる標的へと矛先が切り替わろうとした所で────気づく。
「北条、沙都子ォオオオオオオオッ!!!」
残っていた標的が、自分の鳥籠(マスター)を狙おうとしている事に。
恐ろしく判断力に長けた敵だ。この場で唯一勝機がある選択肢を一瞬で見出したのだから。
ブレインと見られる沙都子を抑えれば、少なくとも膠着状態を発生させられる。
沙都子を人質にすることが、生き残るための唯一の道。
ドロテアのその判断は、成功すれば最も生き残れる可能性が高い一手だっただろう。
「────カオスさん」
もっとも、成功したらの話であるが。
迫って来るドロテアを前にしても、沙都子に焦りはなかった。
ただ、微笑を浮かべたまま己が使いの名前を呼んで。
ドロテアの手が、沙都子の服の袖を掴む。怪力で以て押し倒そうとする。
単純に二人の力比べならば比べるべくもない、瞬時に沙都子は虜囚にされていただろう。
それよりも早く、ドロテアの横腹に拳が突き刺さり、彼女が吹き飛ばされていなければ。
「ぶっ────げあああああああっ!!!」
唾を噴き出して吹き飛ばされ、設置されていた食器棚の方へと倒れ込んでいくドロテア。
がしゃんがしゃんとガラスや皿が割れて砕ける音が響く中、カオスは止まらない。
その表情は先ほどまで浮かべていた酷薄な笑みではなく、怒りの籠った無表情。
そう、ドロテアは成功すれば唯一勝機のある選択肢を選んだけれど。
失敗した場合、尤も相手を苛烈にする選択肢を彼女は選択してしまっていたのだ。
「私の……私の鳥籠(マスター)を………傷つけようとした………!!」
吹き飛ばした事で、ドロテアの距離を主から離れさせることができた。
今なら、手に入れたばかりの力を容赦なく放つことができる。
そう悟ったカオスは迷いのない所作で、右手をドロテアの方へと向ける。
彼女の腕に現れた武装を目にして、ドロテアは目を見開いた。
「貴様…それはアドラメレク………ッ!!!」
雷神憤怒アドラメレク。
モクバが使っていた支給品だ。
いないいないフープ君を使った反動でおいて来てしまった物をカオスが鹵獲したのだ。
説明書もセットでランドセルにあったため、彼女は新たな兵装として迷いなく取り込んだ。
カオスの翼で粉微塵に砕かれ、取り込まれ、アポロンの残骸と合体させられ……
アドラメレクは新たな兵装として新生を果たしたのだ。その名は。
「とーる………!!」
「ま、待て、やめるんじゃ────!」
仲間になってやると提案する暇もなく。
カオスの右手から放たれた黒い稲妻は、容赦なくドロテアを貫いた。
かはっと黒い煙を吐いて、雷に打たれた錬金術師の身体が崩れ落ちる。
電圧を調整したのか致命傷ではない様子だったが、今なら沙都子でも勝てるであろう有様を晒していた。
「……殺してはいませんわね?」
「うんっ!大丈夫!マスターの…沙都子おねぇちゃんの命令はちゃんと守ったから!」
だってあの時と違って、天使の少女は一人ではない。
守るべき主が、大好きなおねぇちゃんがいるのだから。
迷いを抱き一人ぼっちだった数時間前の天使とは、既に別次元の存在と化して。
カオスは、己を敗走させた錬金術師を一蹴し、無邪気で朗らかな笑みを浮かべた。
そんな彼女の頭を沙都子は労うように撫で、次なる指示を告げる。
「さて、メリュジーヌさん達が来る前にモクバさん達に適当な服を着せましょうか。
これから色々お話を聞くにしても、粗末な物を見せられながらと言うのもなんですし」
「…………?うん!!」
そんな見た目だけなら微笑ましいやりとりを揺れる視界の中目にして。
くそ…と小さく吐き捨てながらモクバはどうしてこうなったと考える。
何処で間違えた?何がいけなかった?
ドロテアの指示に愚直に従ったことか?それとも、ヤミを見捨てた事か。
あるいは、あのドロテアに殺された女の子の支給品を使ったこと────
────けっきょく、あんたたちもおなじじゃない。
脳裏に彼女の遺した最後の言葉が蘇る。
それを思い出した瞬間、ははっと乾いた笑いが漏れた。
あぁそうか……それなら仕方ないな、と。自嘲する様に笑って。
彼女の呪いが自分に返ってきたことを肌で感じながら、モクバは成すすべなく意識を堕とした。
■
ほう…と感極まった吐息が漏れる。
視線の先にあるのは、深紅の鎧。探し求めていたもの。
至高の主から賜った、スポイトランスに並ぶ忠誠の証。
伝説級アイテム・真紅の全身鎧が、シャルティアの眼前に鎮座していた。
「遂にこの手に戻った…!ペペロンチーノ様より頂いた私の装備………!!」
ペペロンチーノから下賜され、乃亜に奪われた双翼たる装備と、再会を果たした。
万巻の思いを込めて頬をすり合わせ、再会の喜びを露にする。
自分の戦果であったヤミを手放したのも、この鎧の存在をメリュジーヌから聞いたが故だ。
なんでも、カオスという仲間の少女の支給品で存在を確認していたらしい。
この事を聞かされていなければ、今頃シャルティアはとっくにヤミを殺していただろう。
「後はこいつらを殺してドミノを稼げれば、私にとって最高のアガリになりんすが……」
ニヤニヤと上機嫌な様子で視線を下げ、今自分が腰かけている椅子を見る。
シャルティアの臀部の下には、二人の少女が折り重ねるように倒れていた。
ドロテアとヤミ、ぶちのめされたばかりの彼女らが未だに目を覚ます気配はない。
「それは約束を反故にするということ?シャルティア」
「そうは言っておりんせん、ただ納得のいく説明を求めたいというだけでありんす」
「それは、沙都子が戻ったら────」
沙都子の名前に、シャルティアは肩を竦める。
下等生物たる人間に、何故メリュジーヌは従っているのかさっぱり分からない。
あのにっくき孫悟飯を暴走させた手腕こそ評価の余地はあるが。
その途中で無様を晒し危うく死ぬところだったというではないか。
やはり下等生物は下等生物。利用するなら兎も角、協力などできようはずもない。
それなのに当のメリュジーヌは「だが、沙都子は君にできない事をした」の一点張り。
今敢えてメリュジーヌと対立する気はないのでそれ以上食い下がりはしないが。
頃合いを見て自分の方と組む様に勧誘するのを考えておく必要があるかもしれない。
シャルティアがそう考えたとき、二人が今いる部屋のドアがノックされる。
「支給品、回収してきましたわー」
がちゃりとドアが開かれ、金髪の子供が二人、部屋へと入ってくる。
こいつが北条沙都子かと、シャルティアは瞼を細め、品定めするようにじろじろと見る。
シャルティアとメリュジーヌがこの部屋を訪れた時には、彼女の姿は既になかった。
今しがた倒した獲物どもが置いてきたというランドセルの回収に行っていたからだ。
そのため、顔を合わせるのは今回がお互い初めてとなる。
「……ふん、頭の悪そうなガキでありんすねぇ」
「えぇ、実際学び舎では檻の中に入れられて勉強させられる程でしたわ」
ファースト・コンタクトから感じの悪いシャルティアの愚弄もどこ吹く風。
おほほほと上品に笑いながら、メリュジーヌの隣にランドセルを降ろす。
するとすぐに、沙都子やメリュジーヌより幼い修道服の少女が二人へ椅子を持ってきた。
「マスター!メリュ子おねぇちゃん!椅子!!」
「ありがとうございます。カオスさん。さ、私の膝に」
「…あぁ、ありがとう、カオス」
沙都子はカオスと呼ばれた少女に膝の上に来るよう促しながら用意された椅子に腰かけ。
メリュジーヌは無表情のまま、しかし優しくカオスの頭を撫でて彼女もまた椅子に座る。
最後にカオスは撫でられた後嬉しそうに笑ってから、ぴょんと沙都子の膝の上に収まった。
三人がこちらに向かい合うように座ったことで、どうやら話をする準備は整ったらしい。
そう判断して、シャルティアは口火を切る。
「……それで?私の邪魔をしてまでこの三人を生かす理由を教えてもらいんしょうか」
「三人と決まったわけではありませんわね、少なくとも二人ですわ」
言葉尻をとる沙都子の言葉に、シャルティアは俄かに苛立ちを覚えるが指摘はしない。
ただ下等生物と対等かのように会話を交わさなければならないというのはやはり不快だ。
自分の自制心が保っているうちに納得できる話をして貰いたいものだ。
心中でぼやきつつ、生き残らせる二人とはモクバというオスガキと後は誰だ?と尋ねる。
まず一人目にモクバを選んだ理由は明白だ。海馬乃亜に連なる少年だから。
情報や首輪を外すための心当たりもあるようだし、生き残らせるとしたらこいつだろう。
その推測の元放たれた問いかけだったが、沙都子は無言で首を横に振った。
「いいえ、生き残らせるのはこのドロテアという方と…この金髪の方ですわ」
シャルティアの予想に反し、沙都子に指名されたのはドロテアと金色の闇。
それを聞いた瞬間、シャルティアの眉間が訝し気に谷間を作った。
何故、モクバではなくこっちの二人の方なのか?すぐさま重ねて問いかける。
筋の通らぬ話であれば存分に詰めてやろうと、重圧を放ちながら。
「───当然、この方々は生かしておいた方が、我々にとって有益だからです」
常人であれば心胆を凍らせるであろうシャルティアの重圧を前に。
沙都子は尚も底を見せぬ涼しい顔を浮かべ、泰然とした態度で応じる。
そして、にっこりと穏やかな微笑を保ちながら彼女はシャルティアに向け口を開いた。
その瞳を紅く煌めかせた、魔女の眼光で見つめながら。
■
戦場で最も恐ろしいのは、有能な敵ではなく、無能な味方である。
沙都子がドロテア達の助命を試みた理由を述べるなら、その一言だった。
味方には必要ない。敵であってくれた方が、彼女は対主催に火種をもたらしてくる。
KCで初めて出会った時から、彼女はドロテアにそう言った評価を下していた。
「…このババアにそんな能力があると?私にはとても思えないでありんすねぇ」
「それでも、一度はメリュジーヌさんと貴方からこの二人は逃げ切ったのでしょう?」
沙都子の指摘に鼻を鳴らす。それについては言い返す余地が無かった。事実なのだから。
シャルティアが反論に窮したタイミングを見計らい、沙都子は話を続ける。
圧倒的に不利な状況下で、彼女は自分と舌戦を繰り広げたこと。
彼女等もまた、殺意に満ちた孫悟飯から生き残るだけの実力を有した物であること。
そして何より、この強者がひしめく島で今なお生きていること。
まるで商品を売り込むセールスマンの様に、沙都子はドロテア達を飾り立てた。
だが、多少の事実はあるとはいえ、そのどれもが事実ともなれば。
サイヤ人の親子に二度も煮え湯を飲まされたシャルティアは無視できない。
「仮にクソ共の能力がある程度高いとして……
だからこそ、他の対主催に結託されれば面倒ではありんせんか?」
そう、能力が高いと言っても、味方に引き込むのならば兎も角。
このまま黙って見逃すと言うのはいただけない。
それこそこの小賢しい頭脳が孫悟空などと結託されてしまえば面倒な事になる。
そう考えての指摘だったが、沙都子は首を横に振るって断言した。
少なくとも、彼女が他の対主催の方と本当の意味で信頼を築けることは無い、と。
当然すぐさまシャルティアは何故言い切れると問いを投げる。
「これでも私、百年ほどバリエーション豊かな惨劇を見てきまして。
それだけに自信があるんですわよ…人を見る目に関しては。
そして私が見るにこの方の性根は、ハッキリ言ってクズの部類に入りますわ」
ドロテアと言う女はまず間違いなく自分の保身しか頭にない手合いだ。
一般人では太刀打ちできない強さがあるが、強者を相手に戦況を覆せる実力はなく。
一時的に協調路線を歩んでも、追い詰められれば保身を優先し簡単に裏切る。
彼女に、対主催の善良な者達と真に信頼関係を構築する力はない。
だからこそ、対主催にヒビを入れ引っ?き回す役目として沙都子が目を付けたのだ。
「三四さんの様に誰かと真に心を通わせた事も無く、
カオスさんの生体検査の結果ではかなり若作りしているご様子でした。
つまり、今更染みついた生き方を変えられる程幼くもない………」
きっとこの方は、他の対主催の方が吐くような言葉は綺麗事だというでしょう。
現実を知らぬ子供の戯言だと。だから本質的に水と油、決して交わらない。
富竹さんと出会わなければ、三四さんもこうなっていたかもしれませんわね。
謡うように沙都子はドロテアへの人物評を語った。そして、話を結論へと進める。
「更にこの方は悟飯さんの血液を摂取している。つまり─────」
「雛見沢症候群とやらを患っている可能性があると?」
「然り、ですわ。メリュジーヌさんから話を聞いていましたか?
まぁそんな訳で、対主催の方の無能な味方…足並みを崩す役目として適任という訳です」
一通りの話を聞き、ふむ、とシャルティアは暫し沙都子の話を咀嚼する。
下等生物の浅知恵とは言え、一考の余地はある印象を抱いたからだ。
無論の事、沙都子が言う様な能力がドロテアにある事が前提にはなるが。
無能な味方のせいで瓦解する対主催の小僧共というのは、悪くない。
カルマ値堂々の-500を誇るシャルティアはそう思った。
だが、もう一人の取り巻きと見られる女まで生かす必要があるのかと新たな疑問が浮かぶ。
「いくら火つけ役と言っても、彼女一人では直ぐに鎮火されてしまうでしょう。
だから支給品は頂きますが、彼女に服従する“武器”は残してあげようと思いまして」
此方は実際に戦った貴方の方が良く分かるのでは?と尋ねられ事実その通りだった。
この髪を変化させる娘は、既に生ける死人だ。屍人(グール)と変わらない。
ならば使役している相手に付き従うだろう。それが例え、間違った相手でも。
例え使役者の未来を明るくする行いではないと分かっていたとしても、遂行するだろう。
それに自分と戦闘が成立する程度には実力も確かな物だ。
ドロテアが火つけ役だとするなら、ヤミはそれを燃え広げるガソリン役と言った所か。
概ね、話に納得は言った。しかしその上で。
「───気に入らないでありんすねぇ」
話に一理はあったが、それだけだ。快諾するには弱い。
ドスの聞いた声で、シャルティアは不服の感情を露わにする。
スポイトランスにはまだ手をかけないが、何時手をかけてもおかしくない。
そう思わせる威圧感を、彼女は放っていた。
「いいですわ、カオスさん。大丈夫。
………失礼ですが、何が不服なのかお伺いしても?」
剣呑な雰囲気を感じ取り、沙都子の膝の上のカオスが臨戦態勢に移ろうとするのを制止し。
傍らで腕を組み瞼を閉じて動かないメリュジーヌを一瞥した後、沙都子は問いかける。
不服の所在はどこにあるのかを。単に見逃すメリットが弱いというだけでは恐らくない。
そう見た彼女の推測は、正しい物だった。
「そうでありんすねぇ……一番気に入らないのはやはり、
低能そうな人間のガキが、フィクサーを気取っていると言う所でありんしょうか」
シャルティアの二人の主が所属していたギルド、アインズ・ウール・ゴウン。
このギルドは異形種である事が加入のための絶対条件だ。
それ故に悪属性が多く、人間種への蔑視感情も強い傾向にあり。
シャルティアも例に漏れず、人間への蔑視感情が非常に強いNPCとなっていた。
そう設計されて生まれたが故に、この島でもその生き方を簡単に変える事はできない。
───アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説とせよ。
少し前に与えられた至高の主からの命が、シャルティアの脳裏に残響の様に響く。
そうだ、ナザリックの者は、常に人間種に畏怖と服従の感情を与えなければならない。
協調などもっての外、下手をすれば、ナザリックの名を地に落とす事になるのだから。
敬愛するアインズ・ウール・ゴウンの名に泥を塗る事になるのだから。
彼女の人間への差別感情は最早矜持に等しい。それ故に、沙都子に反発の姿勢を見せた。
一触即発の雰囲気が、場を支配する。
「………では、この話は受けられないと?」
沙都子にとっても、シャルティアは目障りな存在だった。
シュライバーよりは話が通じるが、根本的に人間と言う種を見下している。
対等なギブアンドテイクな関係など、彼女には望めないだろう。
そして、そんなシャルティアとメリュジーヌが通じている可能性が高い。
沙都子にとって実に頭の痛い事実であり、正直な所、シャルティアには消えて貰いたい。
だが、メリュジーヌが組むに値すると判断した実力の持ち主だ。
戦うならカオスだけでは不安を感じるし、この局面で彼女を消耗させたくはない。
それ故に辛抱強く、下手に出て彼女は交渉に臨むつもりだった。
そのため、先ずはどの程度拒絶感情を抱かれているか確認しようとする。
だが、返って来たシャルティアの言葉は沙都子の予想とは違うものだった。
「早とちりするんじゃありんせん。まだ断るとは言っていないでありんす。
オスガキの方は好きにしていいんでありんしょう?先ずはオスガキから話を聞き出して…
それから話を飲むかどうか決めるでありんす」
「………えぇ、モクバさんは三人の中で唯一危険ですから。
分かりましたわ。彼から話を聞きだしたら、後はどうするかは貴方にお任せします
彼等の支給品についても、欲しいものがあれば貴方にお譲り致しましょう」
モクバの事を、沙都子は一切侮っていない。
むしろ三人の中で、一番他の対主催と連携されれば危険だと見ている。
悟飯が暴走した際、即座にイリヤと同調したのが良い証拠だ。
ドロテアとヤミはともかく、彼だけは情報を聞き出した後消しておきたかった。
欲を言えば自分達がモクバを殺し、ドミノを獲得したかったが。
流石にそこまで欲張れば、シャルティアも黙ってはいないだろう。
「寝言をほざくな。此方が譲歩する以上、糞共の支給品は全て頂くのが筋でありんしょう」
「………分かりました、構いませんわ」
シャルティア側からしても、メリュジーヌの手前余り強硬な真似は出来ない。
もし味方になるとタカを括って敵に回られれば厄介どころの話ではないからだ。
それ故に不遜な態度、あくまで命令している姿勢で沙都子の話に応じた。
その事を汲み取ったのか、沙都子は無表情のままシャルティアの無茶な要求を承諾する。
支給品を手放すデメリットより、シャルティアに即敵対されるデメリットの方が数倍大きいためだ。
「だからその態度が………まぁいいでありんす。
今はオスガキから話を聞き出すことに集中するとしんしょう」
「感謝しますわ……カオスさん、その間索敵はしっかり行ってください。
特にシュライバーや悟飯さんが来ないかだけは気をつけておいてください」
その決定を聞いていたのは、沙都子だけではなかった。
シャルティアの尻の下に敷かれた錬金術師ドロテアもまた、意識を取り戻していた。
取り戻したタイミングはシャルティアが沙都子に気に入らないと告げた直後。
話の流れや漂う雰囲気から、自分とヤミは助かる可能性が高いのは見て取れたが。
それでもその話が本当になるかは怪しいと言わざるを得ない。
沙都子達がほんの少しの気まぐれを起こしただけで、命運は尽きるのだから。
だからこそ必死で考える。どうすればこの状況を切り抜けられるか、と。
(どうする…どうするんじゃ、妾……っ!!できればヤミと共に脱出して……!)
こんな所で終わる訳にはいかない。
こんな所で終わってたまるか。
最悪、モクバ達を犠牲にしたとしても。
────自分だけは、生き残って見せる。
ドロテアの眼差しは、尽きる事のない保身の炎に燃えていた。
【一日目/日中/G-5】
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(大)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス大破、
沙都子と刷り込み完了、カオスの素の姿、魂の消費(大)、空腹(緩和)
[装備]:極大火砲・狩猟の魔王(使用不能)@Dies Irae、雷神憤怒アドラメレク@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
6:聖遺物を取り込んでから…なんか、ずっと…お腹が減ってる。
7:首輪の事は、沙都子お姉ちゃんにも皆にも黙っておく、メリュ子お姉ちゃんの為に。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
※アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
※ヘパイトス、クリュサオルは制限により一度の使用で12時間使用不可能です。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
※極大火砲・狩猟の魔王を取り込みました。炎を操れるようになっています。
※聖遺物を取り込んでからの空腹は、聖遺物損傷によりストップしています。
※中・遠距離の生体反応の感知は、制限により連続使用は出来ません。インターバルが必要です。
※ニンフの遺した首輪の解析データは、カオスが見る事の出来ないようにプロテクトが張ってあります。
※沙都子と刷り込み(インプリンティング)を行いました。
※雷神憤怒アドラメレクを取り込みました、黒い稲妻を放つことができます。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(大)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:モクバさんから情報を聞き出す。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。使えなくなればボロ雑巾の様に捨てる。
2:シャルティアさんにはさっさと消えて貰いたい
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:悟空さんと悟飯さんは、できる事なら二人とも消えてもらいたいですわね。
9:悟空さんの肩に穴を開けた方とも、一度コンタクトを取りたいですわ。
10:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
11:シュライバーの対処も考えておかないと……。何なんですのアイツ。
12:メリュジーヌさん、別にお友達が出来たんでしょうか?
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order(凍結、時間経過や魔力を流せば使えるかも)
[道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、デザートイーグル@Dies irae、
『治療の神ディアン・ケト』(三時間使用不可)@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)、逆時計(残り二回)@ドラえもん
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:モクバから情報を聞き出す。
1:孫悟飯と戦わなけばいけないかもね
2:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
3:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
4:ルサルカは生きていれば殺す。
5:沙都子はともかくその時までカオスは裏切りたくはない。
6:絶望王に対して……。
7:竜に戻る必要があるかもしれない。方法を探す。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】
[状態]:怒り(大)、ダメージ(大)(回復中)、MP消費(中)(回復中)
スキル使用不能、プリズマシャルティアに変身中。
[装備]:スポイトランス@オーバーロード、真紅の全身鎧@オーバーロード、カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 、古代遺物『死亡遊戯』。
[道具]:基本支給品、青眼の白龍(午前より24時間使用不可)&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 、
ホーリー・エルフ(午後まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ゴブリン突撃部隊@@遊戯王デュエルモンスターズ、
小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10、
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、
チョッパーの医療セット@ONE PIECE、飛梅@BLEACH、いないいないフープくん@ToLOVEるダークネス、ランダム支給品0〜2(シャルティア、紗寿叶)、首輪×4(城ヶ崎姫子、永沢君男、紗寿叶、のび太)
[思考・状況]基本方針:優勝する
0:モクバから情報を聞き出す。ドロテア達を生かすかはその後。
1: ドミノを獲得し、悟空やシュライバーを殺せる力を獲得する。
2:黒髪のガキ(悟飯)はブチ殺したい、が…自滅してくれるならそれはそれで愉快。
3:自分以外の100レベルプレイヤーと100レベルNPCの存在を警戒する。
4:武装を取り戻したので、エルフ、イリヤ、悟飯、悟空、シュライバーに借りを返す。
5:メリュジーヌの容姿はかなりタイプ。沙都子はいけ好かないので正直殺したいが。
6:可能であれば眷属を作りたい。
[備考]
※アインズ戦直後からの参戦です。
※魔法の威力や効果等が制限により弱体化しています。
※その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
※スキルの使用可能回数の上限に達しました、通常時に戻るまで12時間程時間が必要です。
※日番谷と情報交換しましたが、聞かされたのは交戦したシュライバーと美遊のことのみです。
※マジカルルビーと(強制的)に契約を交わしました。
※キウルのキョンシーが爆発四散したため、死亡遊戯は現在空です。
【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、エネルギー残り(小 賢者の石から補填可)、美柑の前で絶頂したショック(超々極大)、
敏感、全裸、自暴自棄(極大)、自己嫌悪(極大)、グレーテルに惹かれる想い、気絶
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師(髪の毛に隠し持っている)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:もう全部、どうでもいい。
0:ドロテアに服従する兵器として動く。そうすれば、余計な事を考えなくて済むから。
1:グレーテルともう一度会えば…拒み切れる自信はない。
2:やっぱり、来てはくれないんですね、結城リト。
※ダークネスが解除されました。戦闘力も下がっています。
※ダークネスには戻れません。
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]悟飯への恐怖(大)、雛見沢症候群感染(レベル3)ダメージ(大)、掌に裂傷(大)
[装備]血液徴収アブゾディック
[道具]基本支給品×2
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:シャルティア達から生き残る。できればヤミと共に。
1:とりあえず適当な人間を殺しつつドミノと首輪も欲しいが、モクバは…理屈を捏ねれば言い包められるじゃろ。
2:写影と桃華は絶対に殺す。奴らのせいでこうなったんじゃ!! だが、ガッシュとフリーレンが守ってくれるのなら、許さんでもない。
3:モクバ、使い道あるか? 別の奴が解析を進めてなかろうか。乗り換えたいのじゃが。
4:悟飯の血...美味いが、もう吸血なんて考えられんわ。
5:透明になれる暗殺者を警戒じゃ。
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:精神疲労(極大)、疲労(絶大)、ダメージ(大)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢と紗寿叶が死んだという自責の念(大)、
キウルを囮に使った罪悪感(絶大)、沙都子に対する怒り(大)、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:どうすりゃ……いいんだよ………
1:助けてくれよ、兄サマ……
2:ドロテアと組んで、もう…どうにかなる話じゃないだろ……。
3:ドロテアと協力…出来るのか? 俺、抑えられるのか?
4:海馬コーポレーションは態勢を立て直してからまた訪れる。……行けるのかな…。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか?
8:沙都子は絶対に許さない。
9:俺は……あの娘の埋葬をドロテアにやらせて、卑怯だ……。
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
投下終了です
投下ありがとうございます。
ドロテア、クソほど胡散臭いのに、まともな判断力がある人が少なすぎてツッコミ不在なのが怖いですね。
こんな奴に美柑生き返らせますと言われても、全然信じられないでしょ。
モクバ君、はよ問題点を指摘しろやと思ったら、シャルティアが物理的に突っ込んでくるんですからアカンですわ。
ドロテアがしぶとく逃げ延びるのに、先回りする沙都子達がホラーですねマジで。
ドロテアを対主催に送り込めば、壊滅的なダメージ与えられるのではと考えるのは分かるんですけど、うーん結局沙都子含めた全勢力に大迷惑掛けて爆死するんじゃ……。
シャルティアとも険悪なムードですし、中々デンジャラスですね。
メリュジーヌももうちょい、沙都子の有用性を売り込んであげれば良いのに、コミュ力強者が沙都子しかいない……。
感想ありがとうございます。
輝村照(ガムテ)、うずまきナルト、エリス・ボレアス・グレイラッド、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、ディオ・ブランドー、勇者ニケ、魔神王
予約します
延長も行っておきます
予約に絶望王を追加します
期日内に書きあがりそうにないので一旦予約を破棄します
申し訳ありません
インターバル期間が明けたので
輝村照(ガムテ)、うずまきナルト、エリス・ボレアス・グレイラッド、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、ディオ・ブランドー、勇者ニケ、リーゼロッテ・ヴェルクマイスター、絶望王で予約します
延長します
投下します
手を喪った、足を喪った。
その文句だけならば、最早優勝は絶望的と凡人は考えるだろう。
否、優勝どころか生存すら絶望的だとそう評するかもしれない。
だが、その時輝村照が、ガムテが。
殺しの王子様(プリンス・オブ・マーダー)が考えていたことは一つ。
あぁ、と。息を吐いて。心中で彼は口ずさむ。
(────安泰(なじ)む)
ガムテの隻脚に収まった、人間国宝(ニンコク)が鍛えし関の短刀(ドス)。
誰よりも殺したいと願い、誰よりも認めさせると誓った父親(パパ)。
彼より与えられた、聖夜の贈り物(クリスマスプレゼント)。
その刃と分ち難く一つとなって、ガムテは殺意の地平を疾走する。
生身の足よりも余程軽やかで、心底(マジ)でムカつくほどに頼もしい。
実際、駆ける速度は明確に向上しているはずだ。
怪物と化した忍者の猛攻に晒されても、未だ被弾していない現状がそれを証明している。
迫りくる激情を、振り下ろされる死神の鎌を刹那で見切り、目にも映らぬ速度で躱す。
「キャホッ☆キャホッ☆キャホホ〜イッ☆」
猿の鳴き声に似たはしゃぎ声を喚き散らし、ガムテは華麗に致死の一撃をすり抜けた。
闘牛士の様な立ち回り、しかし相手取ったのは猛獣なれど猛牛にあらず。
友を殺され猛り狂うはガムテ達極道の怨敵である忍者、うずまきナルト。
バケ狐の化生と化した彼の殺意は、現時点で一発としてガムテを捕えられていない。
「ん〜遅漏(トロ)臭ぇ〜、その変身(コスプレ)意味あったん?」
「ガアアアアアアアアアッ!!!!」
口撃(アオリ)を入れながら、向かってくる拳を半身になって躱し。
更に間髪入れず掴みかかろうと伸びる赤い気(チャクラ)の腕へその手の刀を振るった。
斬りこまれた刃は標的に実体がない事実など物ともしない。
まるで豆腐を斬るかのようにチャクラの腕を切り落とし、大気へと霧散させる。
そして、大振りで隙を晒したナルトの脇腹へ────
「児童内臓(ガキモツ)粉砕(トバ)しなッ!!!」
地面に突き刺した短刀(ドス)を軸に、自由(フリー)の足を敵へと叩き込む。
大砲が命中したような衝撃がナルトを襲い、ごきりと脇腹の骨が砕ける音が紡がれて。
血反吐を吐くナルトの肉体が、十メートル以上吹き飛ばされる。
だが、ナルトもタダで吹き飛ばされはしない。吹き飛ばされる最中首だけを動かし。
憎悪で染まった瞳と、獣の様に尖った歯が並ぶ口を開きながらガムテへと向けて。
「 カ ア ッ ! ! ! 」
触れれば身を裂く妖狐の咆哮を放つ。
ただ叫ぶだけで、今の彼は破壊を導く衝撃波を生み出すことが可能なのだ。
不可視にして高速、常人であれば回避不能の一撃に他ならない。
ましてその標的は隻脚。常識で考えれば過多とすら言える攻撃であったが、しかし。
「雑魚(コモン)すぎィ!」
刀で一体どのように走り、その速さを出しているのか。
疑問を通り越し不条理とすら言える速度で、ガムテは不可視の衝撃波をやり過ごす。
彼にとって、ただ見えないだけの攻撃など普通の攻撃とさして変わらない。
破壊の極道の首領、輝村極道をして天才と言わしめたその殺しのセンス。
母の苛烈な虐待の日々によって得た、予知能力めいた第六感。
関の短刀を脚に埋め込んでから、ガムテの中のそれらは更なる領域に至りつつあった。
高いレベルのスポーツ選手が稀に入る、ゾーンと呼ばれる状態のように。
「姿は変わっても実力(ランク)は弱(ショボ)いねェ───死ねよ」
大地を、周辺の建物を、攻撃の余波で吹き飛んだ瓦礫を伝って。
殺しの王子は標的へと迫る。片足がないとは思えない程縦横無尽に。
一撃でも受ければ後は一方的に引き潰される数多の激情を欺き、煽り、すり抜け。
第六感がこれなら標的の心臓に届くと訴えている、隻腕に握った日本刀を閃かせた。
「ほォら、コンコン鳴いてみたらどぉだ?お稲荷様ぁッ!!」
風斬り音とほとんど同時に、肉の斬れる音が周囲へと木霊する。
本体と一体化している最も濃い、九尾のチャクラによる装甲すら一合で切り裂かれ。
鮮血が舞った。ずるり、と切られた肉の断面から、ナルトの内臓が零れ出る。
それを目にしてやはり自分の勘は正しかったと、ガムテは冷徹に結果を見定めた。
幾ら怪物染みて居ようと、斬られれば血を流す人だ。
ならば殺しの王子たる自分が勝てない道理はない。生きているのなら神すら殺して見せる。
それを成すために、目下最大の問題は────
「俺のHPが保つかって所だなぁ」
その手に握る大業物、閻魔。
ひとつなぎの大秘宝を巡る世界において、四皇と恐れられた最強生物。
百獣のカイドウに消えない傷跡を刻んだ、伝説的名刀。
その刃は世界を隔ててなお、強力無比。
例え相手が一国を墜とすと謳われる九尾の妖狐であっても、相手にとって不足はない。
充分に、うずまきナルトを殺しうる武装だ───その特性を考慮に入れないのであれば。
「ちぇ〜っ!厄介(メンヘラ)にも程があるぜ、このポン刀」
ナルトとの戦闘開始から、ガムテはまだ閻魔を片手の指を超える数しか振るっていない。
その理由は、閻魔の異常な燃費の悪さにあった。
一振りするだけで、薬(ヤク)の影響で疲れを知らぬ身体に小さくない疲労が伸し掛かる。
閻魔の特性、それは担い手の覇気を強制的に吸い出し鋭さに比例させること。
生半可な剣士ではあっという間に衰弱する、妖刀ともいえる一刀。
闇雲に振り回せば一分と掛からず駆動限界を迎え死に至る、とんでもないじゃじゃ馬だ。
それ故に、振るえるタイミングは緊急回避や相手に重傷ないし決定打に繋がる好機のみ。
(ったく……状況はキツツキになりそうなくらい死線(キチィ)な)
狂気と嘲弄に満ちた態度と所作の裏で、ガムテは彼我の戦力差を見極める。
そして、その結果、破壊の八極道である自分をしてうずまきナルトは、難敵。
そう言わざるを得ない程、閻魔を届かせる条件は渋かった。
まず、タフさは向こうの方が圧倒的に上だ。捌いた腹が既に傷跡すらないのだから。
破壊力もガムテの知る忍者を上回るソレである、一撃でも致命傷を負いかねない。
速度と立ち回りでは薬(ヤク)をキメたガムテの方が上だが、圧倒できる速度差ではなく。
更に敵が纏い装甲の役目を果たしている橙色のエネルギーが曲者だった。
これのせいで消耗が激しい閻魔の一撃以外にロクに攻撃を通せないのだ。
「ほんと、違う空の下でも、最悪(クソゲー)だよなァ、忍者って奴は」
「ぐがああああああッ!!」
ははっ、と笑いながら口ずさむ。
怒り狂う獣の一撃を躱す度に思い知らされる。戦力差は、歴然だと。
使える手札の量と強さが違い過ぎる。不公平過ぎて思わず笑ってしまう程だ。
だが、ガムテの表情に絶望は無かった。
彼我の力の差は歴然なれど、それは勝機が存在しない事を意味しない。
ガムテの第六感が、その事を強く訴えていた。
だから、その勘に従いただ目指す場所へ突き進むと、強い使命感だけが眼差し中で燃える。
────とは言え、そろそろ好機(ワンチャン)が何なのか分かんねーと……
────窮地(ぴえん)超えて絶望(ぱおん)だなァ。
もうすぐその好機が来るのは直感的に感じる。
だが、この人の形をした怪物を仕留めるに足る好機が一体如何様にして訪れるのか。
ガムテ自身にも見当がつかず、ジリジリと追い詰められるジリ貧の状況でガムテは舞う。
勝利の二文字の為に勝機の見えぬ戦いをじっと伏して耐え、ひたすらに舞い続ける。
そして、転機はガムテがナルトの37度目の拳を凌いだ時にやって来た。
───んだよ王子(プリンス)の奴、敗けたのか。
殺し屋として研鑽を積み、それから更に薬(ヤク)で研ぎ澄ませた知覚機能。
聴覚、嗅覚、そして第六感が、此方へと向かってくる足音を捕えた。
その数は単独にあらず、恐らくだが四人の参加者が此方に向かってきているのだ。
恐らく足運びからして、同盟者であるゼオンが目を付けた連中だろう。
ガムテはゼオンとの競合を避け、怨敵を最悪の病気にしてブッ殺すことを優先した。
その為どんな戦闘が繰り広げられたのかは、彼は知らない。
だがそれでも、ナルトの元へ赴くまでに一瞥した連中がゼオンを退けたのは。
ガムテにとって、俄かに衝撃を覚える事態だった。これでもう、彼の支援は期待できない。
それはつまり、ガムテは更に窮地に立たされた事を意味する。
────が。来たぜ、僥倖(ビッグ・サクセス)………!
だが、やはりガムテの表情に絶望はない。そんな物を感じている暇はなかった。
たった今繋がったのだ。どのように目の前のバケ狐を刺して、殺せばいいのかを。
ガムテは笑っていた。窮地を転じて、これはむしろキルスコアを一気に稼ぐ千載一遇だ。
ゼオンに邪魔される事無く怨敵を消し、此方に来ている連中の何人かも始末できる。
だが、それには事前の仕込みが必要だ。ただ安穏と末だけでは達成できない。
そう考えてからのガムテの行動は迅速で、迷いのないモノだった。
「こっちま〜でお〜いでェ☆あっかんべぇ〜!!!」
「っ!?」
ここで、ガムテがこれまでの攻防で決して行わなかった行動に出た。
あっかんべぇと舌を出して、そのままナルトに背を向けたのだ。
気合だけで子供の身体など容易に吹き飛ばす今のナルトを相手に、それは自殺行為。
ただ逃走に専念した所で逃げられる相手であれば、彼はとっくに逃げ延びていただろう。
殺意と憎悪に支配されたナルトをして、疑念の方が先に来る一手だった。
だがすぐに、どうでも良いとナルトはガムテの選択を断じる。
例え、何か小賢しい策を考えて居ようと、今の自分を相手に本気で逃げられると思っていようと。
「くたばりやがれ…………!!!」
四つん這いとなり、姿勢を低く構え、獲物を仕留めようとするの肉食獣の構えを取る。
脚部の筋肉にチャクラを集中し、溜める。稼がれた距離をコンマ数秒で詰められるまで。
衝撃波では確実性に欠けるし、何より奴はこの手で殺さなければ気が済まない。
背を向けている以上反撃される恐れは少ない、此方も折角殺す事に専念できるのだ。
殴り殺してやる。統一された思考の元、面していた大地を爆ぜさせ、彼は砲弾と化す。
一直線に、一直線に、何処へ逃げようとこの拳を叩き込む。
狂った殺人鬼が何をしようと、決して止まりはしない。
一秒後までナルトは、その事を疑っていなかった。ガムテが、その場所に辿り着くまでは。
「─────ッ!?」
その場所に辿り着いて、ガムテが行ったことは実に単純。
その手の刀を背中に刺した柄に戻し、代わりに地面に横たわる別の物を掴んだ。
───今しがた自分が刺して、殺した、まだ温かい砂瀑の我愛羅の遺体の脚部を。
「甘(チョロ)すぎだぜ、忍者」
此方を殺さんと迫っていた猛獣の疾走が止まる。
彼我の距離が一メートルを切った所で急停止を行い、無防備な身体を晒す。
もしここで吸血鬼に奪われたもう片方の手があれば、勝負は決まっていたかもしれない。
閻魔を残った手で握れていれば、今のうずまきナルトの首を間違いなく撥ねられただろう。
だがガムテは、それではこの後に来る連中をブッ殺せないかと直ぐに思いなおし。
一秒後、嘲笑を浮かべて───手に持っていた物をフルスイングした。その手の武器を。
衝撃でひしゃげてグチャグチャになるのも構わず、ボールにバットを当てるが如く。
渾身の力を籠めて、我愛羅の遺体でうずまきナルトの身体をブッ飛ばした。
───ゴッ!!!と凄まじい音を立ててナルトの身体が吹き飛んでくが、しかし。
「ま、そーだろうなぁ………」
ガムテは、吹き飛ばされた先で立ち上がるナルトを見て、予想通りだと声を上げた。
ナルトの腕は、在らぬ方向へとひしゃげていた。
恐らく、インパクトの瞬間彼は自身を覆っていた異能(チート)の鎧を解いたのだろう。
武器にされた友の遺体を、傷つけぬために。
だからこそ、鎧を纏ってればまず受けないほどのダメージをナルトは負ったのだ。
まぁ、もっとも、負った所でと言う話ではあるが。
「 ブ ッ 殺 す … ! 」
再び妖狐の形をとったエネルギーが、ナルトの折れた腕を包み。
ぼこぼこと音を立てて、一瞬の内に折れた腕は元通りなってしまった。
マジで怪物(バケモン)だな。ガムテは心中でそう評しながら、ナルトの様子を確かめる。
いい具合だと思った。完全に理性は吹き飛び支配されている。仇への殺意に。
肉体のみならず精神まで暴走しつつあると、ナルトの臀部で増える尾から推察を行う。
今の尾の数は2。あともう一本か二本尾が増えれば、敵も味方も見境が無くなるはずだ。
ガムテはナルトの内に眠る九尾を知らないが、第六感がその事を教えていた。
あともう一押しだと、ガムテは最後の詰めにかかる。
うずまきナルトが、自分を殺す事を全てにおいて優先する様に。
それ以外の全てが、路傍の石くれと同じと見える様に。
「この屑(ゴミ)ど〜〜〜しよっかにゃ〜〜〜〜☆」
第六感と研ぎ澄まされた知覚能力がここだ、と彼に告げる。
勝利の為には、このタイミングが最適だと彼は決断を下し。
ひしゃげた我愛羅の遺体を持ったまま、背中に背負った刀を揺らして再び回れ右。
ずるずるとわざと見せつける様にして、ナルトの前から走り去ろうと───
「───────」
その瞬間、轟!と周辺数十メートルに暴風が吹き荒れた。
それを発端として、黒く変色した橙色のエネルギーが、ナルトを中心に渦を巻く。
そのままナルトへ纏わりつくと、鈍い速度で三本目の尾として輪郭を描いた
凄まじい威容。さしもの破壊の八極道、殺しの王子様でも緊張を覚えるが、しかし。
それでも尚、目の前の人智を超えた力に対してガムテは微笑んだ。
刹那の間を置いて、彼は直感に命じられるままに大地を蹴り、迫りくる死と踊る。
「───────ッ!!!」
声にならぬ絶叫と共に、最早獣そのものの様相でナルトは追跡を開始する。
凄まじい威圧感。他の破壊の八極道でも相対すれば戦慄を禁じ得ない怪物。
それに追跡され、薬をキメてなお速度差から距離は縮まっていくが、恐れるには足らず。
何故なら死体を盾にしている限り、敵は死体を巻き込む様な攻撃はできないのだから。
狂戦士と化してなお、仲間の遺体を気にするだけ理性の残りカスの様なモノはあるらしい。
好都合だとガムテはほくそ笑む。後は自分を狙ったピンポイント攻撃を封じるだけ。
そしてその為の盾は、今向こうからやって来てくれている。
「キャホッ☆キャホッ☆キャホホ〜〜〜イ!!!」
残った足に力を籠めて、相も変わらず猿のようなはしゃぎ声と共に跳躍を行う。
勿論その手に握った我愛羅の遺体と一緒に。
これがあるだけで、どれだけ隙があったとしてもナルトは下手な行動は撃てない。
その一手の遅れに、存分にガムテは付け込む。
丁度タイミングよく、勝つための踏み台たちもノコノコやってきれくれた。
「ナルト!!ぶ、じ─────!?」
ガムテが目指していた進路方向。
その先から、現れる四人の少年少女たち。
ナルトの名前を呼んだことから、忍者の仲間であると見て間違いないだろう。
その渦中に、我愛羅の死体ごと分け入って降り立つ。
「オッス!オラガムテ!夜露死苦ゥ!」
「何だこいつ」
ハイテンションなガムテの登場に一瞬虚を突かれる四人。
ニケが思わずツッコむが、弛緩した空気は一瞬にして破られる。
ガムテが引きずる、我愛羅だったものを目にして。
真っ先に気が付いたのは、直接あったことのあるエリスだった。
無惨にひしゃげた、ナルトが救おうとしていた少年の遺体。
それを壊れた人形の様に引きずる少年を見て、血液が沸騰する。
「アンタ───そいつに、ナルト達に一体何をしたッ!!!」
「ン、ブッ殺しちった☆」
自分が殺したと宣言し、悪びれもしないガムテの態度。
ナルトから聞いていた顔中に変な物を張り付けた危険人物の話がエリスの脳裏に蘇る。
話に聞いていたガムテというマーダーに間違いは無いだろう、そして。
こいつだ。こいつがナルトの救おうとしていた少年を殺したのだ。
彼の想いを、台無しにしたのだ。その事を認識した瞬間、弾ける様にエリスは刀を抜く。
ディオが反応すらできなかった速度での居合抜きで、ガムテの首を狙った。
「ん〜〜〜虚無(シャバ)〜〜〜い!」
「……………くっ!?」
だが、ガムテはエリスの怒りを意に介することなく。
ただ我愛羅だったモノを目の前に掲げ、盾にして見せる。
反射的に、エリスの手が止まる。もしこれが、知らない人間ならばそのまま切り裂けたが。
たった今盾にされた少年を救おうとしていたナルトの顔が浮かび、止まってしまった。
その制止の隙を縫って、ガムテは不敵に笑いながら距離を取る。
「この……っ!クズ………ッ!」
「待てエリスッ!!」
こめかみに青筋を立てながら、和道一文字を握り締め追撃に移ろうとするエリスだったが。
それを彼女の傍らに控えていたニケが体当たりの勢いで突き飛ばす。
何をするのか、とエリスが問う事は出来なかった。
ニケの体の向こうに、輪郭が辛うじて見える速度で駆けぬけていく影を見たからだ。
そして、絶句する。
「ナルトくん……なの………?」
視界に飛び込んできたナルトの様相は、獣そのものだった。
言葉を失うエリスの傍らで、ディオと共に退避していたイリヤが呆然と呟く。
莫大な獣の如き魔力に包まれ、憎悪と殺気を体中から放出した威容。
一目見ただけで濃密な“死”の戦慄が、エリス達を包み、身体が強張る。
だが、彼女達が感じたショックなど置き去りにして、状況は進む。
「───この猿の脳みそにも劣るマヌケ共がッ!さっさと僕を奴から逃がせッ!!!」
「………っ!イリヤ!!」
「うん……っ!エリス!」
声を張り上げて真っ先に叫んだのはディオだった。
幾度目になるか分からぬ鉄火場に、猫を被る余裕もなく。
常軌を逸した化け物になったナルトから自分を逃がせと罵倒と共に要求する。
忌憚のない直球の悪罵。しかしこの時においてそれは最も効果的に作用した。
ディオの保身第一の叫びを聞いて、イリヤとエリスの思考が戦慄より帰還したのだから。
しかし、それはあくまで死線の開幕に過ぎない。
「きゃあああああああああっ!?」
「ぐぅああぁああああああっ!?」
凄まじい圧力が二人の少女を襲い、枯葉の様に吹き飛ばされる。
吹き飛ばされる最中、マーダーらしきガムテから攻撃を受けたのだと錯覚するが。
実際の所は違っていた、ガムテは何もしていない。
ただ彼は踊る様にエリス達の周りを跳ね回り、攻撃を回避しているだけだ。
───正気を失っている様子の、ナルトを相手に。
「ぐ、ぉ……ッ!!」
被害を受けたのはイリヤとエリスだけではない。
この場において肉体的には最も常人に近いディオもまた、吹き飛ばされようとしていた。
イリヤが咄嗟にディオを庇っていたにも関わらず、風圧で身体が浮き上がる。
不味い、また落下死の恐怖を味わうなど御免だ。
そう考えるが踏みとどまる事は出来ず、二人の少女の目の前で彼は宙を舞おうとする。
「オレの剣!!」
だが、それを勇者は許さない。
離れていくディオの足へと片手を伸ばし、光魔法キラキラの行使を行う。
言葉と共にニケの掌に光は収束し、ニケそっくりの刀身を持つ光の剣が現れ。
オレの剣と名付けられたその剣はびゅーんと刀身を伸ばし、巻き付いてみせる。
「フィィイイイイイッシュッ!!!」
「何ィイイイイイイイッ!?」
釣り上げた。ニケは表情に笑みを湛えてその手の剣を振り回す。
当然それに合わせて手の中の剣も弧を描き、釣り上げられた魚の様にディオの身体は踊り。
そして、イリヤ達の方へと落下してきたので慌てて二人はディオの身体を受け止めた。
「GUAAAAAAAAAッ!!」
「ディオさんっ!」
「ディオッ!」
「二人とも、ディオを頼むっ!!空に逃げろっ!」
ディオの身体をしっかりと捕え受け止める二人を尻目に、ニケはアヌビスを抜いた。
偶然今しがたの衝撃の影響が少なかった彼には分かっていたからだ。
今、三人が吹き飛ばされた衝撃の元凶が何なのかを。
だからこそ、イリヤらと比べて迅速に動く事ができた。本人的には動きたくはなかったが。
普段と違う真剣な態度で行ったニケの要請は、イリヤに異論を挟む余地を封殺した。
ニケの指示に従い、ディオとエリスの手を取って一旦空へと避難を行う。
飛び上がる三人を一瞥し俄かに安堵するニケだったが、安堵は一瞬でかき消される。
状況は逼迫していた。
「キャフフフフフフフフフハハハハハハハハッ☆!!!」
「ブッ殺すッ………!」
ニケの目の前を猛スピードで駆ける、二つの人影。
ガムテとナルトが、すぐ目の前で戦端を開いている。
それだけでも最低なのに、ガムテの立ち回りはニケにとって最低を超える最悪なものだった。
何故ならガムテはまず間違いなく意図的に、ニケ達を巻き込む形で戦っていたからだ。
自分は我愛羅という盾を振りかざし、ニケらを盾にする様にさっきから跳ね回っている。
今の、殆どガムテしか見ていないのではないかと思えるナルトを前にして。
「こっちまァでおいでェ〜〜〜!!」
「いっ!?お、お前───ざけんなぁあああああっ!!」
ぴょんと兎の様に軽快な跳躍で、ガムテはニケの背後へと降り立つ。
手は我愛羅の遺体で塞がっており、攻撃はできない。
だが、どちらにせよニケにとってはたまった物では無かった。
ガムテが後ろに来ることは、憎悪に染まったナルトが突撃してくる事を意味するのだから。
その危惧の通り、ナルトが気絶しそうな程の迫力で迫ってきたのは直後の事だった。
「うおおおおおおッ!?どうしちまったんだよナルトッ!しっかりしろっ!!」
猛スピードで真後ろのガムテ目掛けて迫って来るナルトを、アヌビスの峰で受け止める。
ドン!と大砲が命中したような轟音と衝撃だった。
仮面を付けて居なければ、そのままボーリングのピンの様に跳ね飛ばされていただろう。
しかし、ともすれば鎧袖一触で蹴散らされた方がよかったかもしれない。
間近で現在のナルトの顔を見て、ニケは強く強くそう感じた。ちょっと泣きそうだった。
「邪魔だ………!」
「……っ、うあああああああああっ!」
仮面の力を持ってしても、拮抗は一瞬。
横合いから無造作にナルトが腕を振るうだけで、ニケの五体は跳ね飛ばされた。
不快な浮遊感を数秒感じた後、強かに全身を打って痛烈な痛みにのたうち回る。
「ニケくん……っ!」
「ニケ……ッ!」
「……ッ!バカ、来るなイリヤ!エリス達と一緒に巻き込まれるぞッ!!」
地面に叩き付けられるニケの姿を見て、イリヤが思わず下降しようとする。
それを感じ取ったディオがぎょっとした表情で叱責しようとするが。
彼が憤りを口にするより早く、ニケが静止の声を上げた。
今ここで自分を助けさせれば、敵(ガムテ)の思うつぼでしかない。
奴の狙いはここまでくれば明白。自分達をナルトとぶつけて消耗させたいのだろう。
ゼオンと名乗ったちびっ子との戦いで見せた夢幻召喚とやらは既に切れてしまっている。
そんなイリヤが、肉体は人間のエリスやディオを今のナルトやガムテから守るのは無理だ。
だから、迂闊に近づけさせるわけにはいかなかった。
しかし、それの意味する所はつまり。
「うおおおおおおおおお!!!!死ぬぅううううううううううっ!!!!」
ニケ自身が、ガムテとナルトの攻防に“単独で“巻き込まれる事を意味している。
アヌビス神の力でガムテを狙った攻撃の余波を何とかいなすが、ジリ貧でしかない。
今のナルトは同士討ちを避けるべく戦えるような精神状態ではとてもないからだ。
今はアヌビス神と仮面の力と、ナルトがニケを敵と見なしていない為何とか凌げているが。
それでも彼が復讐心に憑りつかれ、ガムテへの攻撃を辞めない限り。
勇者が仲間に殺される最悪の未来の到来までもはや時間の問題だった。
「さぁさぁ死力(ガンバ)れ?死力(ガンバ)れ?頑張らねェとおっ死(ち)ぬぞォ〜☆」
「お前後でその顔中に張ったガムテ、勢いよく剥がしてやっからな!」
煽りながらも、ガムテがニケに手を出す様子は無い。
我愛羅と並ぶ肉の盾兼、イリヤ達に対する人質だからだ。
ナルト、ニケ、そしてイリヤ達全ての一挙手一投足を把握しながら立ち回る。
正しく天才の御業と言う他なく、その立ち回りを突き崩すのは限りなく困難で。
「おいっアヌビス、ビームはいいからエネルギー吸収アリーナとか使えたりしないの?
使えるんなら何とかしてくれ、このままじゃよりによって仲間(ナルト)殺されちまう」
『知らんな、今こうして攻撃を逸らせてるだけでもありがたく思え』
「おめー鼻くそほじりながらいってんじゃねーっ!どああああああああっ!?」
ナルトが伸ばしてきた尾の一撃をガムテ共々紙一重で躱し。
しかし衝撃は殺しきれず、泥まみれになりながらボールの様にニケは大地に転がる。
ニケやジュジュはおろか、トマやキタキタ親父の存在すら今は恋しかった。
■ ■ ■
一体どうなっているのか。
焦燥と絶望が喉元までもたげ、青褪めた表情で。
眼下で必死の奮戦を繰り広げるニケを見つめながら、誰と言う訳でもなく呟きが漏れた。
『…今はまだ悟飯様程ではないにせよ、並みの英霊を凌ぐ密度の魔力を纏っています。
反面、漏れ出し続ける魔力に反比例して、ナルト様の意識は………」
「ナルトくん、どうして………」
憎悪に支配されたナルトの様相を目にして。
イリヤが想起するのは同じく狂気に囚われ、殺し合いに乗った仲間達の顔だった。
どうして、こうなってしまうのか。何故皆、殺し合いに興じてしまうのか。
美遊も、クロも、悟飯も、みんなみんな、悪い人物でないのに。
ナルトもまた、接した時間は短いけれど、信頼できる人だと思えたのに。
「私のせい……?私と関わったから……みんなおかしくなっちゃうの………?」
思考は悪い方向へと加速していく。
自分がいるから、皆狂気に陥ってしまうのだろうか。
自分のせいで、美遊やクロが殺し合いに乗って。
自分のせいで、悟飯は皆を信じられなくなってしまったのだろうか。そして今、ナルトも。
その考えに根拠はなく、被害妄想といってしまえばそれまでだが。
だけど同時に、単なる被害妄想だと否定できるだけの精神の余力は、今の彼女になかった。
だから動かなければと分かっているのに、身体が固く硬直してしまう。
動けない。視界が狭まり、昏くなっていく。絶望と言う毒が、少女を容赦なく蝕む。
けれど、そんな最低の状況下においても、仲間の言葉は鮮明だった。
「───九尾っていうバケ狐が彼奴の中にいるって、ナルトは言ってたわ
確か……人柱力?っていうのがどーとか、あいつもあいつの師匠から聞いたらしいけど」
変わり果てたナルトの姿を目にしても、もう全く取り乱している様子はないままに。
エリスは、毅然とした態度でナルトから聞いていた情報を仲間へ周知した。
そして、この場で最も魔道に精通していそうなサファイアへと問いかける。
説得でも力づくで止めるのでも、漏れ出した九尾を再封印するのでも、何でもいい。
今のナルトを何とかできそうな策はないかと。
そう尋ねたエリスの言葉にサファイアが答えるより早く、ディオは怒声を発した。
「バカを言うな!ドブ鼠のクソ並みの考えしかないのかお前達はッ!
今のナルトを見ろ!どこに対話の余地がある!血に飢えたケダモノそのものだッ!
一旦大人しくできたとしても、いつまた暴れ出すか分からぬ化物など助けてどうするッ!
ニケが相手をしている内に、僕達だけでも脱出すべきだ!」
「アンタには聞いてないわ。サファイアが答えるまでにもう一回口を開いたら…
イリヤ、ナルト達の方にこいつ放り投げなさい。私が許してあげる」
ディオの怒声はエリスによって一蹴され。
イリヤもまた、ディオに向かって首を横に振り、固辞の意志を示す。
それを受け更に怒声を重ねようとするディオだが、続くエリスの言葉で固まってしまう。
今ナルト達の攻防に巻き込まれれば、間違いなく屍を晒すことになるからだ。
だから黙らざるを得ず、彼が黙った事により全員の意識は再びサファイアに戻る。
『申し訳ありませんが、私にも今のナルト様を狂気から救う方法は思いつきません。
クラスカードも大部分が使ったばかりな以上、実力で止める事も難しいでしょう』
このステッキに顔がついていれば、きっと実に苦々しい顔をしているのだろう。
そう考えてしまう程、慙愧に耐えないといった様子でサファイアは否定の言葉を述べた。
このままでは、仮にナルトが仇を討つことに成功したとしても。
きっと、憑りついた魔力の塊は、ナルトから離れる事を良しとしない。
破壊の化身として、悟飯などの更なる強者にぶつかるまで暴れまわる筈だ。
……そうイリヤ達に告げる事は、サファイアにはできなかった。
彼女は既にある意味ではディオと同じく、如何にナルトを救うのではなく。
イリヤらを死なせないためにはどうしたものか、既にその方向に思考を巡らせていた。
それ故に、風向きを変えたのは彼女では無かった。
「待って……じんちゅうりき………?────あっ!」
イリヤが、何かに引っかかった様にエリスの口にしたその単語を呟く。
初めて聞いたはずのそのワードに、覚えがある事に気づいたからだ。
この気付きを無視してはいけない。直感的にそう思考し、自身の記憶を辿る。
そう、あれは確か……初めてリップに襲われた後だと。
僅かな間を置いて、人柱力という言葉をどこで耳にしたか…否、目にしたかを思い出す。
それに気づいた瞬間、イリヤは即座にサファイアに指示を飛ばした。
自分に支給されたランドセルから、一枚の紙を取り出して欲しい、と。
『……此方でしょうか、イリヤ様』
「そう、それ!!雪華綺晶ちゃんに支給されてた紙!」
サファイアがごそごそと漁り、取り出した一枚の紙。
それは同封されていた説明書には『自来也謹製の封印札』と銘打たれていた。
人柱力の額に張れば、漏れ出したチャクラなるエネルギーを抑え込めると言う。
「これを使えば、もしかしたら……!」
「ナルトを正気に戻せるかもしれないって事ね!!」
『確かに、見た事のない形ですがこれは封印式です、可能性はあるでしょう』
風は吹いた。
二人の少女と、一本のステッキの間の空気が湧く。
だが当然、ディオにとってはそんな危険な賭けはしたくない。
薄っぺらい紙一枚で、今のナルトをどうにかできるとは思えなかったからだ。
「待て!仮にその紙にそんな力が本当にあるとしても……
今の怪物の様なナルトにどうやって貼り付ける!僕は反対だッ」
「だから、最初からアンタはアテにしてないわ」
保身が最優先のディオの存在は、最初から勘定に入れていない。
元よりエリス単独でも、命を賭けナルトを正気に戻すと決めていたのだから。
単独で可能なのか、だとか。他に協力してくれる者がいるかだとかはどうでも良かった。
道は定めた、後は走るだけだと、エリスの瞳の奥で焔が燃える。
「サファイア、あのカードなら………」
『はい、札を彼に貼るだけでいいのなら可能でしょう』
そして、イリヤ達もまた、この大勝負を降りるつもりは無かった。
亡き友に、雪華綺晶に、今度こそ救えと言われている気がしたからだ。
即座にサファイアと共に浮かんだナルトを救う策を全体に周知し、エリスの同意を得る。
立ちはだかる壁は大きく険しい、だが、孫悟飯の時と違い手がない訳では無い。
ならば挑もう。今度こそ、取りこぼし続けた仲間を救うために。
これまでは対峙する事しかできなかった。けれど、今回は───更に、先へ!
「………っ!!こ、の、阿呆共がァ……ッ!」
「心配しないでディオくん、ディオ君はちゃんと安全な場所に下ろすから……」
この場で唯一撤退を提言していたディオが、二人を見て吐き捨てる。
最早猫を被っているのも馬鹿らしい。
どうしてこいつらは、こんなにも人の言う事を聞かないのか。
異常者だ。どうかしている。そんなにもこの島で会ったばかりの他人が大事か?
理解できない。俺にとって大事なのは俺だけだ。
この俺が栄光を手にし、生きながらえる……ッ!それだけが満足感だ………ッ!!
それなのに……!
「ここでディオ君は隠れてて、大丈夫、後は私達が何とかするから」
「生き残りたいならここで大人しくしてる事ね」
ディオ・ブランドーは一番が好きだ。
反面ナメられる事が、反吐が出る程嫌いだった。
その彼にとって、現在の状況は屈辱と言う他なかった。
自分がもっとも賢明な判断をしているハズなのに、びっくりするほど誰も乗ってこない。
それどころかまるで臆病者のように扱われ、情勢の中心から追いやられようとしている。
集団のリーダーになるどころか、路傍の石ころの様に扱われようとしている。
あのジョジョと懇意だったエリナとかいう愚民と同じ───生意気な女如きに!
そう思ってしまった時点で、プライドの高い彼が黙っていられる筈もなかった。
「────待て!」
ナルト達が戦う場所から300メートル程離れた東京タワーの陰にディオを降ろし。
再び戦場に赴こうとする二人を、ディオは呼び止めた。
これまでの様に止めようとしていると思われれば、放置されて行ってしまう。
だから矢継ぎ早にディオは「勘違いするな、止めようとしている訳じゃない」と続ける。
その言葉を聞いてもエリスは止まらず出発してしまったが、イリヤの方が反応を示した。
振り返った彼女の目の前で、ディオはスタンドを出現させる。
「ゴールド・エクスペリエンス………!」
女如きに舐められてたまるものか。
誰にも自分の存在を無視などさせるものか。
このディオ・ブランドーが端役の様に扱われてたまる物かッ!
彼の胸にあるのはプライドだけだ。そこに黄金の精神などありはしない。
けれど、それでも。
「生まれろ……生命よ………ッ!」
黄金体験の能力を発動し、確固たる意志に従い手の中に命を生み出すその様には。
凡俗や石ころ等では断じてない、見る者に畏敬の念を抱かせる“スゴ味”が備わっていた。
■ ■ ■
俺の出てる漫画のジャンル知ってる?ファンタジーギャグ漫画だよ?
なのに何でここまで必死こいて戦わないといけないんだ。ジャンルが違うだろがっ!
そう言いたい気持ちを必死に堪えて、アヌビス神を支えにしながら必死に立ち上がる。
「もう限界(ギブ)ゥ?仲間(ダチ)が大変な事になってんのにそんなんアリィ?」
誰のせいでこんな事になってんだよ。
憎たらしいガムテ野郎にそう言ってやりたかったけど、そんな暇はない。
あちこちぶつけて血が滲む身体に喝を入れて、飛びのきながらアヌビスを構える。
「くっ………!」
「死にやがれェエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」
俺に言ってるんじゃないのは分かってる。
でも、それでも俺の立ってる方向目掛けて突っ込んでくるナルトの姿は。
泣きそうになるくらい、おっかねーもんだった。
ナルトの身体に巻き付いてる魔力…?みたいなもんとぶつかったら死ぬ。
ダメ勇者の俺だってそれくらいわかる。だから着けてる仮面の力を全力で引き出した。
例え頼ってたら塩の塊になっちまう仮面でも一秒後に死ぬよりはましだ。
「お前もいー加減正気に戻れよナルトーっ!」
ガツン!と。
実体は無いはずなのにとても硬い物とぶつかった様な感触が手に響いてきて。
俺の全力で振った刀は、あっけなくぶっ飛ばされた。
あちこち擦りむいて打ち付けて、地面にごろごろと転がる。
さっきからこれの繰り返しだ。
「ハ〜〜〜イ!またまた大爆死(スカ)〜〜〜☆」
俺がぶっ飛ばされるのに合わせて、ガムテも手に持った死体をナルトの前に突き付けて。
ナルトの勢いが一瞬止まったのを見計らって死体を叩きつけたり、蹴り飛ばしたりしてる。
そして、ナルトから少し離れた瞬間、また俺のいる方へ走って来る。
もう五分くらい、これの繰り返しだった。
(クソ……こいつ、俺が死んだらどうするつもりだ?)
ナルトの友達の死体を利用して、俺も利用して。
今んとこ、ガムテはずっと強いナルトを相手に有利に立ち回ってる。
きっと俺なんか直ぐに殺せる位には強いんだと思う。
そのガムテ野郎が未だに俺を殺さないのは、まだ俺に死なれたら困るからだ。
ガムテの奴は俺よりずっと強いけど、今のナルト程じゃない。
今は余裕そうに振舞っているけど、実際は大分綱渡りの筈だ。
でなきゃ、何時でも後ろから刺せる俺を生かしておく理由なんかないもんな。
乃亜の追加ルールのせいでナルトに殺させるより自分が殺したいと思ってるだろうし。
そのあいつが、何なら俺が何とかナルトの攻撃を躱せる様立ち回っている節さえあるのは。
俺を殺して、盾がナルトの友達の死体だけになったら負けるって分かってるからだ。
(……けど、俺だってもうあと何分も保たねーぞ!)
体中痛いし、そろそろナルト達の速さについていけなくなってきてる。
もう少しで、死にはしないかもしれないけど、きっと動けなくなる。
そうなったら、俺っていう盾が彼奴だって困る筈だ。一体どうするつもりなのか。
いくら考えても、全然分からなかった。
そして、考え事をしていたせいでヘマをかましたのは、そのすぐ後のこと。
「ぁ……っ!?しま………っ!」
カツン、と戦いのせいで荒れた道に足を取られて、つんのめる。
目の前にはまた俺の後ろのガムテ目掛けて迫って来るナルト。
このままじゃ正面衝突だ。あ、終わった。
今のナルトにぶつかられたら、俺は二秒後にはミンチに変わってると思う。
その時俺が考えたのは────
「───本当、かっこよくてファンになっちまいそうだエリ、ぶべぉっ!?」
「生憎!ルーデウス以外は御断りよッ!!」
横合いからエリスが現れ。
ナルトにドロップキックをかまして怯ませた後、俺も蹴り飛ばして射線から逃がす。
げしっと蹴り飛ばされた時、正気に戻った。
うん、エリスは可愛いけど、付き合ったら身が保たないわ。
白い鎧に包まれたエリスの姿を見て、頼もしく感じながらもそう思った。
ルーデウス、もう少し仲間は大切に扱えとお前の彼女に言ってやれ。
「今、イリヤ達がナルトを元に戻そうとしてるわ。だから私達でナルトを一旦止めるわよ」
「お、俺、今迄戦ってたんだけど」
「アンタまでディオみたいな事言ってんじゃないわよ」
「……そういやディオは?」
「あいつは赤い塔みたいな場所に置いてきたわ」
成程東京タワーか。ディオの奴、楽しやがって羨ましい。
と言っても、ナルトを元に戻す方法は見つけたみたいだから良しとするか。
そう考えながらエリスに背中を預けて、周りを見渡す。
そしたら、既に此方に向かって位置取りを行っている最中のガムテと目が合った。
(………………?)
その時のガムテの顔は、気味が悪かった。
表情その物はさっきまでと同じ、どうかしてるって感じの顔だったけど。
でも、何か…何となく、全部計算通りってそんな顔をしてる気がした。
エリスやイリヤ達が来たら、あいつだって困る筈なのに一体どうするつもりなのか。
考えて見ても、当然表情だけじゃ彼奴の考えは分からない。
そして、エリスが来たと言っても、ぼうっと突っ立って推理してる暇もない。
「来るわよ、ニケッ!」
エリスの言葉を聞いて、俺は応えるよりも先に飛び上がった。
1人の時じゃミスったら死ぬからできなかったけど、やっと試せる。
あれだけ禍々しい魔力(モン)着こんでるんだ、今ならイケるだろッ!
「どっせい!光魔法!かっこいいポーズ!!」
飛び上がって、かっこいいポーズの体勢を取る。
今迄のナルトは人間だったから、多分使っても止められなかっただろうけど。
でも、何かヤベー物が身体から噴き出してる今なら通じるかもしれない。
そんな俺の見立ては、見事にハマった。
かっこいいポーズで出した光がナルトに届いた瞬間、ぴたりと動きが止まったからだ。
「シッ!!」
動きが止まったナルトの顔に、容赦ないエリスの右ストレートが突き刺さる。
いや、マジで容赦ない。だってミシミシ言わせたあと、そのまま殴りぬいたもん。
流石のナルトも完全にストップした所を殴られて、ぶっ飛んでいく。
いける。さっきまでは何とか躱して逃げる事しかできなかったけど。
エリスが来てくれたから、今は攻める事もできる。
勿論ナルトは半端な攻撃程度じゃビクともしないから、俺達だけで止めるのは無理だけど。
それでも、何か準備してるっぽいイリヤが動くまで、持ち堪えられそうな気はした。
そして、ガムテもまだ俺達を盾にしようとしてるせいか、手を出してくる様子は無い。
────このまま、押し切る!
ガムテが大人しくて、ナルトを何とかする目途はたった。
けどそのお陰で気が緩んで、この時の俺は見逃してたんだ。
───俺がさっき考えた通り、此処まで全部、ガムテの筋書き通りで。
アイツがさっきまでのふざけた笑い方じゃなくて、冷たい笑いを浮かべてた事に。
■ ■ ■
そろそろだなァ。
視線を向けるのは激しい戦闘の最中、抉れた大地に生み出された窪み。
ナルトの動きをコントロールし、ニケが殺されない様に立ち回った。
その裏でガムテがナルトの攻撃を利用して作り上げた、天然の塹壕。
周囲を縦横無尽に駆けながら、それが概ね完成した事を確認しながら。
ガムテは、今一度戦況を検める。
「かっこいいポーズ!mk-4!」
「らああああああッ!!」
さっきまで満身創痍だった筈の勇者(ボケ)の全身が光り輝き。
その光を浴びて、忍者(ナルト)の動きが止まる。
そして動きが止まった所を、白い鎧を纏った狂犬(バカ)がナルトを殴りつける。
勇者単独でジリ貧だった時とは違い、戦いの形にはなっている。
無論何千発殴ろうと、今の忍者(ナルト)が倒れる事はないだろうけど。
連中も恐らくは倒そうとして動いている訳では無い。攻撃に殺意がない。
だが同時に、その所作や眼差しは確固たる希望を抱いた者の目だ。
恐らくは、今のナルトを何とかする何らかの算段を立てたのだろう。
「────さて」
だが、ガムテの表情から余裕は消えない。
今なお全く追い詰められたとガムテは考えていなかった。
確かに、このままいけばガムテに勝機はない。
まだナルトが激情に駆られている為、周りの子供(ジャリ)共を戦闘に巻き込めているが。
もう少しクールダウンされれば、状況はあっと言う間にガムテを孤立させる。
そうなれば待っているのは消耗した自分に対するリンチだ。
だから、そうなる前にガムテは少なくともナルトにだけはチェックを掛けねばならない。
(手ぶらで逃げても、王子(プリンス)の奴に消されるだろうしなァ)
プライドの高いゼオンの事だ、元々獲苛立っている所に獲物を逃がし油を注がれただろう。
そんな時に、ボロボロの自分の姿を晒せばドミノ目当てに切り捨てられる恐れがある。
ここで少なくとももう一人、可能なら二人は殺して、ドミノを獲得しておく必要がある。
ドミノさえ獲得していれば、放送まで身を隠して体を治す事ができるのだから。
その頃にはゼオンも頭が冷えているだろうし、合流するならその時だ。
ここまで稼いだキルスコアは2つ。今更に稼げれば後は隠れていても上位に入れるだろう。
だから、ガムテにとってもこの局面は正念場だった。
この戦いに勝つか死滅(くたば)るかで、今後の趨勢が決まる。
「そんじゃあ、始めるか」
短く呟いて、残った片足に力を籠めて跳躍。
盾である筈のエリス達から、少し距離を取る。
今迄の立ち回りを考えれば、愚行でしかない一手であるが。
余りにエリス達と入り混じりすぎてしまうと、これから行う事をナルトへ見せられない。
だからガムテは、危険を承知でわざと少し離れ、首根っこを掴んだ我愛羅の死体を掲げた。
そして、輝くような笑顔で、ナルトに呼びかける。
「おお〜い☆ノリマキアナゴッ!!これ、そんなに欲ちい〜〜〜?」
ガムテに今にも飛び掛かろうとしていた、ナルトの身体が硬直する。
やめろ。何をしようとしている、と。悪寒が前進を駆け巡り、四肢が強張りを見せ。
動かなければ、そう思う。それなのに、動けない。
今ここで動けば、駆け巡った悪寒が、現実の物となってしまう気がしたから。
「やめろッ!」
「…………っ!!」
硬直したナルトとは対照的に。
勇者(ボケ)と狂犬(バカ)が、ガムテを止めようと突撃してくる。
ガムテが何をしようとしているか、薄々察して。
未だ荒れ狂うナルトに無防備な背中を晒してまで、止めようとしているのだ。
美しい仲間意識。実に感動的だろう。
まぁ無意味なのだが。
「────やるよ、欲ちいならな」
ニィィィィィィイ……と狂った笑みをこれ見よがしに披露した後。
ぼそりと、或いは同胞と成れたかもしれない死体に何かを呟いてから。
その死体を振りかぶり───ガムテ目掛けて迫ってきている二人目掛けて投げつけた。
「────ッ!?」
「くそ、この───バカ────!」
投げるまでのモーションが大きかったため、二人は飛びのく事ができた。
しかし結果として、投擲された我愛羅の肉体は標的を失い。
更に振り下ろす形で投擲されていたため、そのまま隕石の如く突き進んだ。
硬い硬い、コンクリートの地面へと。
ぐちゃっ。
そんな、何かが潰れる音が響いて。
丁度、ナルトの立つ場所から1メートル先の地面に。
我愛羅の遺体が、朽ち果てていた。
グチャグチャに潰れた頭部と眼窩から零れた、光を喪った瞳が、ナルトを見る。
──── ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ! ! !
直後、びりびりと肌を裂くような絶叫を轟かせて。
ナルトの姿が、更なる変貌を遂げる。
尾の数は更にもう一本増え、四本となり。
全身を包んでいた茜色のチャクラが、黒っぽく変色してしまい。
その後ナルトの総身を飲みこんで、頭部からチャクラでできた狐耳が生える。
最早完全にチャクラの衣に覆われて、表情を伺うことはできない。
輪郭も人から妖狐へ。憎しみに、ナルトそのものが塗りつぶされようとしていた。
────■■■■■■■■■……!!
変貌を遂げたのとほとんど同時に、ナルトの顔の前で何かが収束する。
黒一色の、莫大なエネルギー。
それを見た瞬間、エリス達の血液が凍り付いた。
同時に、察する。何故ガムテが、敵の増援を目にしても余裕を保っていたのかを。
ナルトが“こう”なれば、最早敵の数など問題ではない。
だって、もう既に敵味方を区別するナルトの理性は失われているのだから。
さっきまでは辛うじてニケやエリスを殺さない様にナルトも戦っていたけれど。
今となっては完全にタガが外れている。“あんなもの”を撃とうとしているのが良い証拠だ。
「ちっきしょぉおおおおおおッ!」
半ばヤケと言った様相で、ニケが飛び上がる。
あれを撃たせてはいけない。撃たせれば、ガムテは愚か自分達も吹き飛ぶだろう。
そして、撃たせないための一手を撃てるのは、この場でニケだけだった。
空中に浮かび上がってポーズを取り、かつてないほど全身全霊で勇者の力を発動する。
─────光魔法キラキラ!かっこいいポーズ!
果たして、それはニケの狙い通りの効果を発揮した。
光魔法キラキラは、憎悪に支配されたナルトだからこそ覿面の効果を発揮した。
小さな九尾の妖狐と化したナルトの動きが、一瞬止まる。だけれど。
勇者の行った一手は、今この時に関して言えば、間違いではないが正解でもなかった。
─────抑え、きれねっ………!?
余りにも相手が膨大なエネルギーの持ち主だったが故か。
それとも、九尾の妖狐の出自と存在が、真に邪な物だと言い難かったためか。
完全にナルトを止めるには至らなかった。“中途半端に”止めてしまったのだ。
そして、今のナルトは手榴弾のピンを抜いて投げつけようとしていた状態に等しい。
そんな相手の動きを突然止めて、手の中から手榴弾を取りこぼさせてしまえばどうなるか。
答えは、ナルトの顔面の前で収縮していたエネルギーの塊。
発生源が硬直した影響で予期せぬ臨界を遂げようとする“尾獣玉”が、解答を導く。
凡そニケ達にとって、最悪の形で。
「────ニケッ!!!」
かっこいいポーズで作られた五秒程の猶予に食い込む様に、ニケをエリスが回収。
ナルトの顔から回り込む様に弧を描く軌道で全力疾走。少しでも距離を稼ぐ。
ニケもエリスの疾走に報いようと、抱きかかえられながら何とかかっこいいポーズを保つ。
その最中、これまでの戦いの余波で作られた塹壕。
そこへ飛び込むガムテの姿を視界の端に捉えるが、それを気にしている余裕はとてもない。
何故なら、この時遂にナルトが尾獣玉の制御を完全に失い、臨界を迎えた為だ。
世界が光ったのは、その一秒後の事だった。
■ ■ ■
手負いの獣の、唸り声が響く。
うずまきナルトは、今しがたの自爆によって負ったダメージに呻いていた。
至近距離での、予期せぬ尾獣玉の暴発。
それはあろうことか、尾獣玉を作り出したナルト本人に一番の被害をもたらした。
放たれた尾獣玉は、ナルトの半身を消し飛ばしていた。
「■■■■■■■■■……」
しかし、九尾のチャクラに包まれたナルトにはそれすら致命傷にはならない。
ボコボコと音を立てて己の寿命を犠牲にした超再生によって修復していく。
それでも、乃亜のハンデに依る物か、再生速度はかなり鈍く。
身動きも覚束ない、と言った状態に陥っていた。
──── ■ ■ ■ … ! ! !
再生の中途で、妖狐が啼く。
汲み尽くせぬ怒りと悲しみを籠めた咆哮が、大気に木霊する。
そして、忍者が再起動に至るまでの僅かな間隙。それを縫う様に。
極道は、その一瞬を狙った。
─────よう、待望(おまた)だぜ、忍者。
五月雨の様に異能(チート)の尾がガムテを貫き、蹂躙しようと降り注ぐ。
だが、その全てをガムテは天才的なセンスで掻い潜った。
恐らく次の成功はない難行を成し遂げ、ここまで温存していた切り札。
この刻に至るまで迎撃では決して抜かなかった大業物・閻魔を振りかざし、振り下ろす。
殺しの王子様(プリンス・オブ・マーダー)の正真正銘の全霊。
その速度は、最早乃亜のハンデが科された状況下でなお。
常人の目には残像すら映らぬ速度で、ナルトの頸へと迅った。
ざくり。
無音になった世界の中で、音が響く。
肉を裂き、骨を発つ音だ。
ブッ殺した。片手に伝わる感触から、ガムテは確信する。
纏っていた衣の防御も、地獄の沙汰を退けられる程ではなく。
刃はそのまま突き進み、ずるり、とナルトの頸が落ちる──────、
「……真実(マジ)、か………!」
輝村照(ガムテ)は天才だ。
圧倒的戦力差、隻腕隻脚という劣悪なコンディションでありながら。
うずまきナルトの首から上を見事に切り裂いた。
疑いようもなく致命傷。首を九割落とされた所から生存できる人類など存在しない。
例え彼が未来で殺しあう多仲忍者であっても、それは例外では無いだろう。
だがしかし────その不条理は、今この時形を成す。
「 死 ね 」
首が落ちようとする瞬間うずまきナルトの肩から胸部分にかけて。
うずまきナルトの上半身が現れたのだ。まるで、生えてきたかのように。
本当に生えたのか、或いは元々チャクラの衣を二人羽織の様に纏ったハリボテだったのか。
それは定かではないが、確かに言える事は。
ガムテは人を殺す事にかけては天才であったが、怪物を殺した経験は未だかつてなかった。
それ故に、選択を迫られる。彼にとって、どうしようもない程に絶望の選択を………
(薬(ヤク)、を、二枚服用(ギメ)、なら………)
第六感に従い、閻魔の柄と掌に挟む形で備えていた地獄の回数券(ヘルズ・クーポン)。
悪魔に選ばれし“身体(カラダ)”と“精神(ココロ)“の持ち主にのみ許される。
禁断の二枚服用(ギメ)であれば、まだ可能性はあるのかもしれない。
ともすれば輝村極道に迫る怪物殺しを、成し遂げられるのかもしれない。
だが、それは、ガムテに約束された破滅をもたらす選択だ。
────俺は、
明日なき暴走に、身を任せられたなら。
ガムテは地獄の回数券(ヘルズ・クーポン)二枚服用(ギメ)を成し遂げていただろう。
例え死んでも忍者を殺す。ただ、この戦いの勝利だけを求めて片道切符を握った筈だ。
だが、ガムテはこの時、今迄の生の中でおよそ初めて。
初めて、ただ殺す為ではなく。救うために、生み出すために戦っていた。
全ての参加者を殺しきった先に与えられる覇者の王冠。願いを叶える力。
その力で以て、救われぬ子供達に。自分が地獄へ導いてしまった、割れた子供達に。
破滅以外の結末を与える為に、今の彼は刃を振るっていた。
そして、だからこそ。
────割れた子供達(アイツラ)の、
ほんの一瞬、迷いが生じてしまった。
だってここで二枚服用(ギメ)という選択肢を取ってしまえば。
どう転んでも、ガムテの戦いは此処で終わってしまう。
例え勝ったとしても、優勝という玉座へ至る道程は完全に閉ざされてしまうのだ。
割れた子供達(グラス・チルドレン)の王としての責務を果たす事も。
ガムテが認めた最強の父親(パパ)、輝村極道に最高の笑顔で自分を認めさせる夢も。
責務も、夢も、両者ともここで完全に断たれてしまう。
それ故に、未来無き捨て身の凶行をこそ力とする割れた子供達(グラス・チルドレン)が。
未来を望んでしまった。生きようとしてしまった。
────ヒーローにならなきゃ、
だからこそ、ここで輝村照(ガムテ)は敗北する。
憎悪に染まった本能か、或いは冷徹な殺意から来る策か。
反撃の尾の一撃が鞭の様にしなり。
薬をキメる選択が一手遅れたガムテの左半身を粉砕し、かちあげた。
血しぶきを上げて吹き飛んでいくガムテの姿は、大輪の花火の様だった。
■ ■ ■
くすんで霞んだ視界の中で、考える。
これは致命傷だ。沢山沢山殺してきたから分かる。
流石に薬の効果がまだ残っていたとしても。
肩から腹にかけて、左半身がほぼ千切られたら、もう立てない。
失血で目の前ももう良く見えない。感覚も、何も感じない。
「やっぱりな……」
哀しくはなかった。
これが俺の、俺達(グラス・チルドレン)のいつも通り。
肝心な所で、運命に嫌われる。
若くして心を殺された。
何も分からぬ子供のまま、何の救済(すくい)もなく。
ただただ、心を殺された。
他人(ひと)に殺された心は、他人(ひと)を殺さなきゃ、正気ではいられない。
何も殺さずには、生きられない。
オレ達はそんな生き物になっちまった。なっちまったのに。
――――地獄行きの誘導(てつだい)をしてる自覚、ある?
なのに、何で今更、救えるかもなんて思っちまったんだろうな?
生れて初めて、救うために殺すんだと息巻いて。
その結果がこれだ。嘲笑(くさ)だぜ、全く。
パパを認めさせることもできねェで。割れた子供達(アイツラ)残して逝っちまう。
ヘンゼルの時と同じだ。
英雄(ヒーロー)は、割れた子供達(オレタチ)を救わない。
正義の味方は真っ当に生きられた幸運者(シアワセモノ)の味方にしかならない。
だから俺は泥の棺桶(ここ)で冷たく死滅(くたば)っていくしかない。
「……………?」
そう、疑いようもなく。
そのはず、だった。
もう目も見えない。感触も死んで、自分が立ってるのか、寝てるのかさえ分からない。
それでも冷たくはなかった。俺は温もりを感じていた。
それに気づいた時、まだ生存(いき)てた第六感が伝えてくる。
俺は今誰かに、おぶわれているんだって事に。
その誰かはそっとバラバラになりそうな俺の身体を横たえて。
一緒にいるらしい誰かに向けて言った。
─────こいつさ、治してやってくれよ。
もう、全部遅いのに。
もう何も見えないのに、感じないのに。
声だけは、不思議な程鮮明に聞こえた。
都合のいい幻聴かとも思ったけれど。
───何より信用する第六感が、現実だと俺に告げていた。
■ ■ ■
突然の轟音を聞いて隠れながら慎重に近づいてみれば。
いよいよ以て、僕には目の前の阿呆が何を言っているのか理解できなかった。
このディオを探して来たというニケが抱える、死体。
顔中に何か布の様な物を張り付けた不気味な糞餓鬼。
イリヤはいい。エリスであっても、渋々ながら治療しただろう。
度し難いとは言えナルトも治療を乞われれば、それが下らぬ情から来ていると理解できた。
だが、目の前の確か…ガムテと名乗っていた餓鬼は何だ?
状況から察するに、ナルトを怪物に変えた元凶だろう。つまり、徹頭徹尾敵だ。
思わず聞き間違いかと、ニケに確認を試みる。
「あぁ、こいつさ、助けてやってくれって、そう言ったんだ」
単なるバカかと思っていたが、それを飛び越えて気狂いの類だったか。
誰も彼も助けようとか、鼠の糞の大きさの脳みそには蛆が沸いているらしい。
そう考えながら、ディオはニケの真意を問いかけた。
無論のこと、ニケの真意がどうあれNOと言う答えは決まっている。
これは選択の為の問答ではなく、こてんぱんにニケを言い負かすための問いだった。
「だってさ。俺達が苦労して、元凶のこいつがこのまま死ぬなんてムカつくじゃん?
ナルトを元に戻すために囮でも何でもやってもらってからじゃないと割に合わないんだよ」
むっ……
正直、一理あると思ったが騙されはしない。
この馬鹿がそんな役に立つだとか立たないだとかを考えて物を言う筈がない。
僕を丸め込もうとする方便でしかない筈だッ!
「ちっ、バレたか」
僕の鋭い指摘に対し、ニケはバツが悪そうにそっぽを向いた。
当然だ、いつまでもふざけた調子に乗せられてたまるものか。
貴様は下で僕が上ッ!この馬鹿との関係性にそれ以上の物は不要だ。
大体、このマーダーのガキに肩入れする理由が重ね重ね分からない。
協力体制を築いていたエリスやナルトを下らぬ情で助けようとするのはかろうじて分かる。
僕が利用していたキウルとて、同じ選択をするだろう。
だが、このガムテと言うガキを何故助ける?
会話の余地もなく化け物になったナルトに対し、僕らを当て馬にしようとした奴を。
極めつけはガムテの状態だ。半身が吹き飛び、息は止まっている。
誰がどう見ても死んでいる。手の施しようがない事等、一瞥だけで分かる筈だ。
「ま、一番の理由はさ。恨みを晴らしても今ン所、ナルトが元に戻る気配ないし。
このままこいつが死んだら、それこそナルトは戻れなくなっちまいそうだって思うんだ」
それに、とニケは続けた。
「此奴(ガムテ)もこいつなりに何か、色々あって殺し合いに乗ったみたいだしさ。
ナルトはこいつを許せないかもしれないけど、せめて事情だけは知ってて欲しいって、
あいつがこのままこいつの事を何も知らずに死ねってやるのは……何か、嫌だったんだよ」
俄かには信じがたい話だった。
この異常者めいた格好のガキに事情だと?
そんな事、あり得る筈がない。どう考えてもシリアルキラーと言う奴だろう。
見込み違いもいい所だと考えて、僕はニケを強く睨む。
そして、否定と追及の言葉を吐こうとした時、それに先んじて奴は続けた。
「まぁ言いたい事は分かるよ……でもこいつ、ナルトに負ける前にさ。
俺があいつ等の味方(ヒーロー)にならなきゃって………そう言った気がしたんだ」
悪い奴だし、許されない事をしたのは確かだけど。それでも悪いだけの奴じゃないなら、
このまま見捨てるのも乃亜の言いなりみたいで気に入らなかった。それがニケの言い分で。
実に下らない。「後味の良くない物を残す」だとか「人生に悔いを残さない」だとか。
便所の鼠のクソにも匹敵する下らない考えだと断じ、気づけばニケを詰っていた。
「もし、お前の言う通り治したとして…だ。こいつがマーダーを辞めるとでも?
このディオに心の底から感謝し、悔い改めて対主催に転向する……いや、そもそも。
この死体がもう一度、瞼を開くとでも、お前は本気で思っているのか?」
馬鹿の馬鹿な考えをあげつらって論破するのは実に楽しかった。
ニケも言い返せず、俯いて沈黙するばかりだ。
叶うならば趣味の悪い仮面を剥ぎ取って、消沈した顔を拝んでやりたかった。
もっとも、そんな事をすれば頭に嵌められた輪が締め付けてくるのでやらないが。
とにかく、今の僕は、ニケが何を言って来ようと言い負かせる自信に満ちていた。
そんな僕に対して、ニケは。
「………確かに、お前の言う通りなのかもしれないけど」
意外にも、僕の言い分が正しいと食い下がる事無く認め。
ぽりぽりと頭を掻き、短く息を吐いて。
一呼吸おいてから僕の追及に対して、ニケは絞り出すように反論を述べた。
「でも……お前は少なくとも、ヤな奴のまま、俺達に協力してくれてるじゃん?」
……は?と声が漏れる。
意味が分からなかった。
すぐさまどういう意味だと問いかけるが、ニケがその問いに答えることは無かった。
ただ、悪い、と。それだけを告げ。
「エリスとイリヤが待ってるからさ、もう行くわ」
待て、と引き留める。
今しがた言い放った言葉の真意を吐かせるまでは、行かせる訳にはいかない。
即座にスタンドを呼び出し掴みかかろうとするが、ニケは羽毛の様にひらりと躱して。
そして、ゴールド・エクスペリエンスの射程外にかけて行く。
「………ッ!!」
待て、質問に答えてから行けと言う物の、ニケがそれを聞き入れることは無く。
それを見て咄嗟に僕は治さないぞ、と。改めて走り去ろうとする背中に叫んだ。
こう言えば、止まる筈だと思ったからだ。しかし、あいつは止まらなかった。
駆けながら、一度くるりと振り返って、そいつの事は任せたと宣った。
俺は助けて欲しいけれど。どの道俺じゃそいつを治せない。
だから、実際にそいつを助けてやれるお前が決めてくれ。
「……できる事なら、助けてやって欲しいけどな。
ただでさえシリアスの供給過多とユーモア欠乏症で、息が詰まって死にそうだし俺」
じゃ、と最後に敬礼の様に平手を顔の隣に添えてそう言い残すと。
ニケは今度こそ、振り返らなかった。
僕からは目もくれず、ナルトの元へと走り去っていく。
それを見て、言い知れぬ激情が腹の底から湧き上がって来る。
───お前は少なくとも、ヤな奴のまま、俺達に協力してくれてるじゃん?
何度もニケからかけられた言葉が、頭の奥で木霊する。
「ふざけ……やがって………!!」
僕が奴らと一緒にいるのは、奴らを利用するためだ。
このディオが、生き残るためにな。
それを、何を勘違いしている。実に不愉快だ。
分かっている、信用を勝ち取るのはむしろ都合がいい。
遠くない内に、自分の頭は忌々しい戒めから解放されるだろう。
だが…それでもどうしようもなく肌は泡立ち、苛立ちは腹の底から湧き上がってくる。
「僕が立ちたいのは…集団という輪の中心だ。一緒に間抜けな輪を作りたいわけじゃない」
殆ど無意識のうちに口から出たその言葉が、苛立ちの正体だろう。
だが、それが分かった所で苛立ちが消える筈もない。
否定したかった、どうしようもなく、ニケの言葉を否定してやりたかった。
その苛立ちに突き動かされて、きっと横たえられた死体を睨みつける。
「………貴様のせいだ」
万が一に備え、油断なく。
残った左拳を即座に獲物に叩き込んで沈黙させられるように構えながら。
右の拳にスタンドパワーを籠める。
ニケの言葉に従う訳じゃない。
ただ、奴の言葉がやはり戯言だと、確かめるための試みだ。
「貴様がいなければ……このディオがこんなゲロの様な怒りを感じる事も無かった」
死体が生き返ったりはしない。
茶化す事もふざける事もできぬ現実を、奴に突き付けてやる。
救いたいと願った所で、お前では誰も救えないのだと、否定してやる。
お前の言う事は、綺麗事で戯言(たわいごと)で戯言(ざれごと)だと教えてやるのだ。
「────責任を取れッ!!」
湧き上がった怒りに忠実に、スタンドの拳を振るう。
着弾した右拳から、スタンドパワー…即ち生命のエネルギーが流し込まれる。
流し込むのは最小限。立てるほどのエネルギーは与えない。
そこまでする義理はないし、万が一復活されて、僕に襲い掛かられれば困るからだ。
だから、精々息を吹き返すか否かのエネルギーを与え、僕はその様を見つめた。
「───フッ」
そして、導かれた答えを見て、満足げに嗤った。
結果は当然、死体は死体のままだ。生き返ったりはしない。
それを見て、腹の底からスッキリした。
やはりニケの言う救いだとか絆だとかは存在しない幻だと、証明された気がしたからだ。
どんなスタンドでも、命が終わったモノは戻らない。当たり前だ。
「フフッ!フフフハハハハハハ!!ハーハッハッハ!!!」
一しきり、腹を抱えて笑った後。
僕は再びニケ達の状態が確認できて、身を隠せる場所を求めて走り出した。
死体は死体のままだったと、そう伝えて落胆した時の奴の顔が実に楽しみだった。
あのお気楽馬鹿に、残酷な現実を一刻も早く突き付けてやりたかった。
気分の高揚により、腕を振り上げて叫ぶ。
「───ニケ、貴様がナルトの奴をどうにかした後…
これを聞いたらどんな顔をするか、愉しみにしておいてやるぞッ!」
■ ■ ■
───借り物の力に頼る脆弱さを知るがいい!!
全身を疲労と痛みに包まれ、ゴロゴロと地面を転がる最中。
エリスの脳裏に浮かんだのは、つい先程戦った修羅の雷からの侮蔑だった。
借り物の力頼みの雑魚、全くもってその通りだと思う。
悔しいが、反論できる余地がない。
「だから……何だってのよ……」
ぜぇぜぇと肩で息をして。
それでも強く強く思う。身の程なんて知ってやるものか。弁えてなどやる物か、と。
自分はもう、決めたのだから。自分とルーデウスの命運を、ナルト達に賭けると。
決めたからには、突き進む。例えどれほど戦力差が歴然でも、知った事か。
「何が化け狐よ…私程度も、殺せてないじゃない………!!」
握りこぶしを地面に叩き付け。
その反動で立ち上がり、目を見開いて、眼前を見据える。
そこにはガムテを殺害してなお、妖狐の姿に囚われたナルトがいた。
動き自体は、先ほどに比べればかなり鈍い。
乃亜のハンデと、ガムテの戦いで負った自爆のダメージが戒めとなっているのだ。
だからこそ、こうして相対するエリスは命を繋いでいられる。
「笑わせんじゃないわよ……ッ!」
白亜の装甲の下で少女は叫び、憎しみに囚われたナルトへと突撃する。
ともすれば自殺と取られてもおかしくない、捨て身の突撃だ。
憎悪に塗りつぶされ、人間性と言うものを完全に失った瞳でナルトはそれを見つめ。
蟲を払うように、四本ある尾でエリスを叩き潰そうとする。
明かな片手間の対応。しかし片手間であっても、その程度で妖狐には十分すぎる。
たかが頑丈な殻を纏った程度の、人間の小娘一人を殺す事など。
「はぁッ!!」
悪鬼纏身インクルシオ。
その素体となった龍と混ざった影響か、エリスの反応速度と体捌きは明確に向上していた。
蟲を潰す程度の殺意とは言え、妖狐の尾を二本躱すなど以前の彼女では不可能。
迫りくる死を立て続けに二度躱して、尚も迫る死を更に越えようとする。
「………か、ぁ゛ッ!?」
ずぶりと、エリスの胸にナルトの貫手が突き刺さった。
現実は甘くはない。例え少し危険種の力を宿したとしても、簡単に戦力差は埋まらない。
妖狐がその気になれば、苦も無く抹殺する事ができる。
それが、エリスにとっての現実だった。
「───ふふっ」
だが、その時。
貫かれた筈のエリスは、陰りを見せない闘志を伺わせる表情で微笑んだ。
そして、ナルトに貫かれた肢体の輪郭が、ぐにゃりと歪む。
それが合図だった。
「────はああああああああッ!!」
────ドッ!という轟音と共に、ナルトの身体が傾いだ。
想定外の方向からの衝撃。それを起点に、豪雨の如き絶え間ない衝撃がナルトを襲う。
反撃の暇は与えない、そう言わんばかりの連打がナルトの全身を打ち据える。
ダメージは、さしてない。半身の喪失すら直ぐに修復してしまえるナルトにとって。
今受け続けている攻撃も、衝撃が響くばかりで大した痛痒には成りえない。
それでも先ほど自爆によって多大な損傷を負った体に断続的な衝撃は不味い。
本能で連打を黙らせるべく反撃を行おうとした妖狐の瞳に、不可解な光景が映った。
標的が、いないのだ。
「まだ……まだァ!!」
生れた一瞬の思考の空白をすり抜けて。
先ほどまでとは逆サイドの方向から再び連打を浴びる。
一体なぜ、そう考える暇もない。
ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!とプロボクサーの拳を受け止めるサンドバッグの様に。
ナルトの身体を、衝撃が蹂躙する。
「───■■■■■■■■■!!!」
どんな小細工を弄したのかは知らないが、いい加減不愉快だ。
そう考えたナルトは、背後に控える尾に力を籠める。
例え姿が見えなくとも、近場で何かやっているのは間違いないはず。
であれば、自分の尾の一撃で一帯を消し飛ばしてやればいい。
数時間前に、自分達に向けてシュライバーが行おうとしたのと同じ対処法だ。
だが、それを成すよりも早く、飛び込んでくる影が一つ。
「はぁあああッ!!!」
飛び込んできたのは、確かに貫いたはずのエリスだった。
幻覚ではない、獣の本能でナルトは判断を下し、迎撃を行おうとする。
だが、それを阻止する様に再び連続した衝撃がナルトを打ち据えていく。
そして衝撃の妨害によって生まれた陥穽に、エリスの握る魔剣が閃く。
ヒュッという風切り音と共に、ナルトの背中から生えた尾が両断された。
「大事な人が殺されて!腹が立つまんま暴れるならッ!私と一緒じゃない!!」
尾が再生する暇を、与える訳にはいかない。
打ち据えられる衝撃は先ほどまでよりもなお速く、そして強く。
切断された尾も、本来なら数秒かからず再生する筈なのに、再生速度が明らかに鈍い。
そうだ。これは先ほどガムテが振るっていた刃に斬られた時の感触と同じ───
その事実に気づいても、妖狐は目の前のエリスに翻弄されていた。
エリスに攻撃を仕掛ければ、正体の見えない攻撃に打ち据えられ。
不可視の攻撃の正体を探ろうとすれば、エリスが癒えない傷を付ける刀で斬り込んでくる。
ダメージは少ないが…尾が切り裂かれた影響もあり、抜け出すことができない。
「アンタは!私と違って!みんなの前に立つんでしょ!火影になるんでしょッ!!」
エリスは溢れる情動を叩き付ける。
ダメージを与えられずとも構わない、行動を阻害できればそれでいい。
鬱陶しいと感じさせる程度に反撃を邪魔できれば、それで役目は果たせる。
本命は自分ではない。自分の役目は陽動だ。
だから少女は叫ぶ。憎悪の壁の向こうに立つ少年に届くように。
「だったら、早く目を────ッ!?」
少女の痛切な叫びが、最後まで紡がれることは無かった。
ど、という津波が岩壁を削るような音と共に、衝撃が空間に伝播し。
それに次いでごしゃり、という衝突音が周囲に響き渡った。
衝撃の発生源は無論の事、ナルトだ。
尾を欠いて尚圧倒的なチャクラを、圧力に変換し周辺に向けて放ったのだった。
そして、衝撃音の発生源は今しがたナルトと交戦していたエリスの物ではない。
衝撃を受けた瞬間、閻魔を振るっていたエリスの姿は霞の様に消え失せている。
その代わりとでも言うかのように、三十メートルほど離れた地点に。
インクルシオに包まれた、本物のエリスの姿が現れていた。
「がっ……!」
白い装甲の下で、びちゃびちゃと鮮血を吐く。
尾の直撃を受けるよりはマシだが、衝撃波だけでこの威力。
ただの人間が尾獣と戦う事の厳然たる現実が、露わになっていた。
今迄エリスが用いていたインクルシオの奥の手───透明化がダメージにより解除され。
その姿を晒したのと同じく。
「────ふふっ……やっぱり………」
だが、その現実を前にしても、エリスは装甲の下で確信を得て笑った。
やっぱり、どれだけ姿を変えようと、自分を未だ下せていない。
どれだけ妖狐と私の実力が離れていようと。
憎悪と怒りに任せて暴れるだけの今のナルトでは。
私の心は、折れない。
「今の暴れるだけのアンタより」
「私を止めたアンタの方がよっぽど強かったわ………!」
■ ■ ■
ナルトを助けようとしているのはエリスだけではない。
彼のもう一人の仲間───イリヤもまた、ナルトを救う機会を伺っていた。
だがナルトから数十メートル先で戦況を見つめるその表情は焦燥に彩られ、芳しくない。
「サファイア、まだなの……!?」
『もう少しです、もう少しで封印式の解析を………』
その原因は、封印札の解析だ。
手に入れた時点で使えなくも無かったが、今のナルトは既に尾獣化が進行している。
このままでは、封印札を使って尚抑え込めないリスクが存在するのだ。
それを阻止するには封印式を解析し、サファイアがバックアップを行うしかない。
しかし未だその作業が完了していないため、撃って出る事ができないでいた。
「お願いサファイア、早く………!」
縋るような声を出しつつも、イリヤもまた、座して待つばかりではない。
魔力回路を起動しつつ、その手に握った折れた刀の一部を握り締めて。
幼き肢体に宿した暗殺者の英霊の能力を行使する。
「妄想幻像(ザバーニーヤ)……!」
宝具の名を紡ぐと共に、イリヤの眼前に現れるイリヤと全く同じ大きさの影。
これこそイリヤが現在肉体に宿したアサシン、百貌のハサンの宝具である分身能力だ。
数体の分身を生成し、更に己の聖杯としての機能に無意識のうちに従って。
イリヤは、そっと握る折れた刀の刀身───鏡花水月の残滓に魔力を込めた。
これこそ、先ほど小さな妖狐と化したナルトが体験した現象の正体。
ナルトに挑んだ“増えたエリス”の正体であった。
百貌のアサシンの能力を応用し、エリスが拾った鏡花水月の能力の残滓を引き出す。
それによって、イリヤは己の分身をエリスに見せかけたのだ。
「行って!」
生み出した分身達を、インクルシオを纏うエリス本体の援護に回らせる。
今の鏡花水月の能力はあくまで残滓、完全催眠には程遠い。
もしシュライバーの様な狡猾で勘働きも頗るいい相手なら、騙すのは不可能だろう。
だが、今のナルトは憎悪に支配され駆動する暴走状態。
正気を失い、本能で暴れる今なら疑似的に再現した鏡花水月も通用する。
『───解析完了まで、残りおよそ一分!』
サファイアが叫ぶ一分と言う時間が、イリヤにはとてつもなく長く感じられた。
先ほどまではエリス本体がインクルシオの奥の手である透明化で隠れられていたが。
今は先ほど受けた攻撃の衝撃で、それが解除されてしまっている。
イリヤが差し向けた数体の分身の援護だけで、果たして保つ物か……
かなり厳しい勝負である事は、イリヤにも明らかだった。
「あっ………!?」
そして、15秒を過ぎた時に、危惧は現実のものとなる。
小さく燻っていた火種が再び激しく燃え盛る様に。
ず、と凄まじい圧力を放って、先ほどイリヤが出した分身が切り裂いた魔力の塊。
尾獣の証であるチャクラの尾が再生し形を得たのだ。
そして再び現れた尾は、暴威を以てイリヤが生んだ分身と、エリスの本体に襲い掛かる。
まず、三本の尾で一瞬の内に分身達が打ち払われた。
ナルトの視界では、複数人のエリスを殲滅した景色となっているだろう。
「ダメッ!待って!やめて!ナルトく────ッ!!」
そして、当然それだけでナルトは止まらない。
残った最後の一本の尾が、鞭の様にエリスへと伸びた。
それを見て、悲鳴の様な制止の声をイリヤは叫ぶが、それが聞き入れられることは無く。
先ほどよりも芯を捕えた軌道で、先ほどよりもなお強く。
振るわれた尾は、インクルシオに包まれたエリスを襲った。
───ゴォォォォォンッ!!!という何かが砕ける音が響き、そして。
エリスの身体が宙を舞い、あっけなく落下して沈黙する。
残り、三十秒。
■ ■ ■
道具は、限界を超えない。
壊れて失うだけだ。
だからこそ、ゼオンと言う少年は自分達を蔑んだのだろう。
ぼんやりと、掠れた意識の中でエリスはそんな事を考えた。
だが、しかし。
────もっとよ。私の身体が欲しいなら幾らでもくれてやるから……
だが───何事にも例外と言う物は存在する。
エリスの纏う帝具悪鬼纏身インクルシオは超級危険種タイラントを素体とした帝具だ。
それ故に、タイラント自体は滅びつつも素材となった細胞は今も生きている。
生きているが故に、進化する事すら可能であるのがインクルシオだ。
ただし、使用者の肉体を代償として。
────意地を見せなさい!!
もっと先へ。更に向こうへ。
エリスは魂で己が纏う装甲に訴える。
負けるな、と。戦え、と。ボロボロの崩壊しかかった装甲に喝を入れる。
闘争心こそインクルシオにとって、最高の供物。
であるが故に、純白の戦闘衣装はエリスの叫びに呼応する。
「オオオォオオオオォオオオォォオオオオオオオッ!!!!」
全身は血まみれ、精神・肉体共に満身創痍。
だが、それでも決意と覚悟の焔は消えていない。
それを闘志へと変換して、咆哮を響かせながら奮い立つ。
肉体が食いちぎられる様な痛みに苛まれるが、関係はない。
その痛みのお陰で装甲は再生に至った。これならばまだ、戦える。
気つけの為に唇を血が出る程噛み締めながら、眼前の妖狐を視線で射貫く。
「ヴヴヴ……」
何処か面倒くさそうに、妖狐はエリスと視線を交わらせた。
どんな表情を浮かべているのかは分からなかったが、纏う雰囲気や態度は伝わる。
無駄な事を。今のナルトの様子から伺える感情はそれだけだった。
確かに力量の差は歴然。エリスの体力も最早風前の灯。
後一撃でも受ければその瞬間にエリスの命は終わるだろう。
「今度は───私が勝つ」
しかし、だからこそ前へ。
ルーデウスを喪った時から、生に未練はない。
だからこそ、今この時に全てを賭けて走る事ができる。
きっと、ルーデウスも同じはずだ。
彼も大切なものの為に命を賭けられるはずだ。
だから私も、ここで臆するわけにはいかない。
未来はいつだって先にしかない。だから今はただ前へ。
更に先へと、己の内側で誰かが唄う。
「───ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ゛!」
標的の接近により妖狐もまた、迎撃態勢を取る。
とは言え万に一つの敗北もあり得ない死にぞこない相手だ。
尾を振るい、腕を振るう。雑に戦い、雑に殺す。
それだけで十分殺しきれる相手。小細工など必要ない。
例え殺す気であろうと、インクルシオを進化させようと。
エリス・ボレアス・グレイラッドの剣は九尾の妖狐に届かない。
「───あ゛ぁぁぁあ゛ああああぁぁぁあああああ゛ッ!!!」
その現実はエリスも理解している筈であるのに。
彼女の気勢は猛り狂い、鬼神の如き様相だった。
闘志に導かれ、最後の交錯が始まる。
殺到する尾を、強引にその手に握った和道一文字で逸らしいなす。
ここまでは先ほどまでと同じ。エリスにとっての詰みへと向かう流れだ。
たかだか人間の小娘が数秒と打ち合えるほど、人柱力の力は甘くはない。
三手で完全にエリスの剣閃は弾かれ、がら空きになった胴に尾を叩き込む。
それでエリスの身体は真っ二つになって終いだ。
「────ヴ」
だが、ここで僅かに不可解な事態が発生する。
三手を過ぎてなお、エリスは未だ生存している。
重いハンデを科されているとは言え人智を超えた九尾のパワーを以てしてなお。
十秒を数えて人間の小娘如きの生存を許している。
無論のこと、最後に勝利するのが何方かは揺るがないにせよ。
エリスの奮戦は、九尾の本能を俄かに驚嘆させる物だった。
────残り、十五秒。
「…………………っ!!!」
だが、ここで限界がやって来た。
如何に帝具の力で限界を超えたとしても。
エリスと九尾の間には、決して覆らない力の差が存在する。
決して埋まらない、絶望的な戦力差だ。
薙ぎ払った尾の一撃をいなしきれず、エリスの防御が吹き飛ばされる。
後は無防備になった胴か、あるいは首に尾や貫手を叩き込めば決着。
先ほどの様に分身ではない事を確信しているため、これで本当に全てが終わる。
妖狐はそう信じて疑わなかった。一秒後までは。
「ヴ……ッ!?」
がくり、と。
九尾の身体から力が抜ける。
また目の前の小娘が小細工を弄したのか。
そう考えて注視するものの、エリスはただ己の刀を腰だめに構えるのみ。
では、誰が。そう考えた九尾の問いに答えを提示したのは、エリスの背後に浮かぶ影。
空中で制止する────勇者ニケのマヌケ面だった。
「っぶねー…ギリッギリになってすまんかったっ」
何も考えていない簡単作画の顔で、素朴に笑って。
空中に静止したニケは、眩い光でナルト達を照らしていた。
舞い戻った仲間の言葉に対して、エリスは腰に構えた剣を握り。
「いや────いい仕事よ。ニケ!」
はっと笑って抜刀術の構えを取った。
静かに瞼を閉じ、身体に残った闘気を全てつぎ込む。
黒の帳が降りた瞳で想起するのは己の剣の師、剣王ギレーヌ。
彼女ならばどうするか、どう“斬る”かを想像(イメージ)し、己の身体に落とし込む。
剣神流の奥義「光の太刀」には彼女は未だ遠い。
例え龍の細胞と混ざった所で、今この瞬間に辿り着ける領域ではない。
しかし、遠くない未来にて光の太刀すら我が物とする彼女の剣才は、紛れもなく本物だった。
「いくわよ、ナルト。死ぬんじゃないわよ」
「ヴ…………!」
放送直後に起きた決闘の再演であるかのように。
あの時と同じセリフをエリスは綴り─────世界から音が消えた。
その剣閃は光の速度に達しない。精々が音速止まり。
しかし、それでも剣神流の上位技である「無音の太刀」をエリスは再現して見せた。
音を置き去りにした乾坤一擲の斬撃が、無防備な妖狐の身体を袈裟に裂く。
「ヴヴ……オ゛………ッ!!」
だが、妖狐は。
うずまきナルトは斃れない。
人柱力である彼にとって、この程度のダメージは致命傷には程遠い。
五秒足らずで叩き込まれた斬撃で生まれた傷は完治するだろう。
だから成果としては闘気でほんの僅かな、十秒に満たない時間止まるだけだ。
通常なら何の意味もない、ただ絶望的な戦力差を提示するだけの戦果。
しかし、今この瞬間においてそのちっぽけな戦果こそエリスは求めていた。
自分にできるのは此処までだ。だから後は────
「頼んだわよ───イリヤッ!」
祈る様に、信じる様に。
微笑を浮かべながら、エリスは本命である仲間の名を口にする。
残り二秒。バトンは繋がれた。
「──────うんっ!」
気配遮断の能力を解除して。
ニケが現れた瞬間から既に駆け出していたイリヤが、その姿を現す。
片手には、たった今解析の終わった自来也の封印札。
もう片方の手に、何かキラキラと光るブローチを握って。
子供の喧嘩で掴みかかる様に手を突き出し、ナルトの額目掛けて吶喊を行う。
「ヴ、オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛─────ッ!」
その瞬間、イリヤが正面から突撃するのを空中で眺めていたニケは“ヤバい”と思った。
かっこいいポーズの効果が、今この時をもって解けてしまったのだ。
それはつまり、ナルトの反撃を許すと言う事を意味する。
よりによって後ちょっとの所で!毒づくものの、状況はニケを置き去りにして進行する。
まだ復帰直後の為尾の動きは鈍い。エリスの斬撃のダメージもあるのだろう。
だがらナルトは、反撃として貫手を選んだ。
尾獣の膂力を持ってすれば、目の前の小娘の身体など紙切れ同然だ。
その考えの元、自身の憎悪を否定する小娘を否定するべく一撃を見舞う。
「──────ヴ、オ゛……ッ!?」
だが、殺戮が成されることは無かった。
妖狐の一撃が、イリヤを貫くことは無かった。
何故なら、交錯の瞬間彼女はその手に握っていた物を突き出していたから。
封印札ではない。仲間の一人であるディオ・ブランドーから与えられたものだ。
それをアサシンクラスの動体視力でタイミングを合わせ、突き出した。
────精々、上手く使え。
実に忌々し気な態度と共に渡されたブローチ。
彼のゴールド・エクスペリエンスの力で作ったテントウムシのブローチだった。
それだけ述べれば、チャクラの衣を纏った人柱力の一撃を防げるはずもない。
ゴールド・エクスペリエンス発現直後の、ある能力特性が無ければ。
「オ゛オオオオオオオオッ!?」
貫手の一撃が押し戻される。
盾になどなる筈もない小さなブローチの威力に、抗しきれない。
いや違う。この衝撃は。この圧力は。これは、自らの力だ。
本能から行きついた、ナルトのその推論は正しかった。
そう、ゴールド・エクスペリエンスの能力で生み出された生命は。
受けた衝撃を、衝撃を加えた元凶へと反射する─────!!
「はああああああああっ!!!」
そして。
遂にその時はやって来た。
衝撃の反射により、無防備になった妖狐へ。
ばしぃん、と平手が叩き付けられる音が大気に響き渡る。
イリヤの掌から、エリスやニケから受け取ったバトンが。
自来也の封印札がナルトの額へと収まり、がくりと彼は膝を付く。
「ヴ、ヴ……オ゛………ッ!」
だが、ここでイリヤやエリス達の計算が狂う。
膝を付いて尚、ナルトは憎悪を手放そうとしなかった。
尾獣のチャクラが既に溢れすぎていたため、妖狐を抑え込むのが難航しているのだ。
このままでは。
イリヤ達に戦慄が走る。ここで失敗すれば最早後はないからだ。
仲間達を血の海に沈め、ナルトは暴走マーダーとして殺し合いに君臨するだろう。
「いい加減ッ!」
しかしその未来に至るよりも早く。
憎しみという衣に囚われた少年の背後を簒奪する者がいた。
純白の装甲は解除され、真紅の長髪を露わにして。
エリス・ボレアス・グレイラッドはうずまきナルトの腰に腕を巻き付ける。
そして、しっかりとホールドした身体を勢いよくのけ反り後方へ。
「目を────!!」
少年と少女の身体は見事なまでに弧を描き、美しい虹が描かれて。
全ては流れゆく。ナルトの身体は地を離れ、天へと流れ、再び大地へと戻る。
封印札を貼られ、それに抗する事で手いっぱいだった妖狐にそれを阻む術はなく。
「────醒ませッ!!」
────ゴォォォォンッ!!!
アスファルトに残響する轟音。
ナルトの脳天が、地面に叩き付けられた音だった。
それを皮切りに、ぴしりと彼を覆っていたチャクラの衣に罅が入る。
狂想が、終わりを迎えた合図だった。
チャクラの衣はどんどん剥がれてゆき、額に封印札を貼られたナルトの表情が露わになる。
その表情に、憎しみの色は見えなかった。
朧げな意識の中、ナルトは自分を止めた少女を見上げて呟く。
「ほんと…よーしゃ、ねーってばよ……エリス」
少年の、そんな声かけに対して少女は。
「当然よ、言ったでしょ。今度は私が勝つって」
豊かな赤い髪をかき上げ、エリスは得意げに笑う。
血まみれで、それでも胸を張って佇む少女は戦乙女の様に荘厳だった。
それを眺めてから、ナルトは薄い微笑と共に再び意識を喪失した。
「「ジャ………」」
そして、エリスの最後の一撃から、決着に至るまで。
傍らで見届けた勇者と魔法少女は顔を見合わせて。
何方からともなく、笑ってしまいそうなほど豪快な幕引きの名を呼んだ。
「「ジャーマン・スープレックス………」」
■ ■ ■
目を醒まして、まず考えたのは。
自分がまだ、生きているのかという事だった。
そして、認識する。どうやら、自分はあの自称勇者に本当に助けられたらしい、と。
いや、助けられたと言うには余りにも半端か。
一割命が戻って来ただけで、九割は彼岸へと渡ったままだ。
このまま横たわっていれば、そのまままた死になおせるだろう。
そう考えた時だった。
掠れた視界の中で。
不可解な物が目に入ったのは。
それは、ガムテが見失った筈の一本の短刀だった。
柄の部分を小さな砂の塊が支え、ふよふよと浮かんでいる。
まるで、横たわる少年に使えと言っているかのように。
それを見て、想像したのは自分がついさっき殺した赤髪の少年の顔。
本来なら自分が救わなければならない対象でだけど大義の為に殺した。割れた子供。
それが殺した張本人に武器を渡しているというのか?何のために?
───いや、オレに期待する事なんて決まってるよな。
あぁ、ならば行こう。
それならば少年は、割れた子供達の王は行かなければならない。
例え死んでいたとしても、殺すべき相手を殺しに行かなければ。
何故なら、殺しの王子さまは、全ての割れた子供の味方だから。
だから、だから彼は。
残った力を総動員し、懐に忍ばせてあった薬(ヤク)へと手を伸ばした。
震える手の中で二枚の薬を僅かな間逡巡する様に眺め…舌へと運ぶ。
巡る覚醒作用。直後に、頭上に浮かぶ短刀に手を伸ばす所作は淀みのない物だった。
短刀を受け取りながら立ち上がり────割れた子供は、最後の暴走を開始する。
■ ■ ■
ゼオン、ガムテープの少年、そして暴走したナルト。
厳しい連戦となったが、何とかなったらしい。
戦闘の終結を確信しながら、エリスはニケとイリヤに声を掛けた。
「はっ!はい何でしょうかエリスの姐御!」
「姐御!!」
声を掛けた二人の様子は、何かおかしかった。
何それと尋ねると、いや、何となく…と二人そろって返って来る。
兄妹のように息の合った返答であった。
「それ、鬱陶しいからやめて」
「「はい………」」
生と死の最前線だった状況は一先ずの終息を見たと言えるけれど。
それでもふざけている場合ではない。
大分派手にやり合ったし、溺れる犬を叩こうとする不心得者が近くにいるかもしれない。
そうなれば最悪だ。何しろここに居るのは全員満身創痍なのだから。
だから、一刻も早くここを離れる必要がある。
そう告げて、エリスはゆっくりと。
「ちょ、おいっ!?エリス!?」
「どうしたの、エリスッ!!」
静かに崩れ落ちた。
慌ててニケとイリヤが駆け寄り、呼吸を確かめる。
呼吸は行っているが浅く身体が冷たい。血を流し過ぎたのだ。
それも当然だろう。ここまでで最も無理な戦闘を行っていたのが、エリスだったのだから。
「このままじゃヤバい、兎に角ディオの奴を探して───」
「探さずとも僕ならここにいる!」
背後からディオの声が響き、すかさず振り返る。
すると、50メートル程先のコンビニの影から、ディオが駆け寄ってきていた。
いや遠いな。心中でツッコみながらも、ニケは近づいてきたディオに語り掛ける。
エリスを治してやってくれ、と。
それに対するディオの態度は冷淡だった。
「フン、これを外すなら考えてやる」
「お前な、このジョーキョーで………」
「嫌なら別にいいんだ。だが…エリスを治せるのはこのディオだけだ。
それに、労働に対する正当な対価を用意するのは当然だろう」
今更取り繕う意味も無いと言わんばかりの不遜な態度で。
腕を組みふんぞり返りながら、ディオはニケに頭のこらしめバンドを外す様要求を行う。
その要求に暫しの逡巡を見せるが、結局イリヤの後押しもありニケは折れた。
一応はディオの言う事も筋の通ったモノでもあったからだ。
「治療の前にここを離れるぞ、ハイエナ共が寄ってくるかもしれん」
「……だな、今来られたら間違いなく一網打尽だ。さっさとずらかろう」
「あ、じゃあエリスさんは私が………」
少なくとも逃げるという点においてはニケとディオは意気投合していた。
なのでナルトとエリス、何方を背負うかを決めてさっさと出発しようとする。
その最中、ニケは一つディオに頼んだことを思い出す。
治療を頼んだガムテのことだ。今ここにいないという事は逃げたりしたのだろうか?
そんな能天気な考えを浮かべているのだろうなというニケの表情を敏感に読み取り。
ディオは心中で邪悪に笑った。馬鹿めが、生きている筈は無いだろう。
何しろ黄金体験がスタンドパワーを流した時、既に息が止まっていた。
死んでいる方が自然と言う状態だった。
「………力及ばず済まない。しかし────」
申し訳なさそうな顔を浮かべるが、心中では嬉しさを抑えるのがとても大変だった。
一体此奴は、現実を知らされれば、突き付けられればどんな顔をするだろうか?
楽しみで楽しみで仕方なかった。
一応本性を出さず、悦んでいる事を隠しながら一つの事実をディオは伝えようとする。
しかし、その報告がなされることはなかった。
ぞく、と。
言い知れぬ悪寒を、全員がその瞬間に感じ取ったためだ。
「────サファイアッ!!」
『物理保護全開!!』
イリヤがエリスの身体を咄嗟にニケの方へと突きだし、前方に駆けステッキを向ける。
よい反応だった。もしかすれば彼女の機能が作用したのではないかと思う程。
もし、彼女の反応が間に合っていなければディオ達一行は此処で死んでいただろう。
視界が赤黒く染まるほどの爆炎を見れば、疑いようはない。
「───っ゛!ぅ、あああああああああッ!!!!」
だが、その爆炎を止めるには咄嗟の物理保護では余りに荷が勝ち過ぎていた。
僅か数秒の拮抗の後、粉々に障壁が砕け散り、イリヤが吹き飛ばされる。
その瞬間を目にした直後、弾かれたようにニケはエリスの身を地に降ろし、
イリヤが吹き飛ばされようとする軌道に割り込み、死に物狂いで受け止めた。
びりびりと腕に痺れが走る。仮面を付けて居なければ一緒に吹き飛んでいたかもしれない。
お次は何だよ。吐き捨てる様にそう呟いて、炎が飛んできた方向へ視線を送る。
「ふふっ、よく防いだわね。言い杖を使っているじゃない」
そこに立っていたのは、黒衣の女。
黒のゴシックロリータに、艶やかな銀髪を伸ばした少女。
こんな出会いでなければ、お近づきになりたいと思う程の美少女だった。
だが、残念ながらそれは叶わないだろう。
能天気なニケをして、けたたましい程本能が警鐘を鳴らしているのだから。
出会った瞬間に確信できた。目の前の少女は、危険だと。
「ただ…宝の持ち腐れね。使い手がだらしないわ」
頬に手を添えて。
くすくすと、鼠を嬲る猫のような表情を浮かべ、少女はニケ達の現状を指摘する。
少女の言葉が何を差しているかは、腕の中のイリヤを見れば直ぐに分かった。
ニケの腕の中でイリヤは気を失っており、苦し気に呻くのみ。
これでは先ほどの爆炎が再び飛んで来れば、もう凌ぐことはできない。
ただでさえ、ナルトもエリスも気を失っている以上、イリヤの気絶は致命的に過ぎた。
「まずはブラヴォーと言っておきましょうか。弱い子供が集まって…
よくその子の内にいる獣を抑え込んだものだわ。中々頑張るじゃない」
「ははっ、お褒めに預かりマジ感謝。ついでに名前の一つも教えてくんない?」
ぱちぱちぱちと白々しい拍手を送る少女はちょっとムカついたけど。
ここで相手を怒らせるわけにはいかない。ニケは少女のノリに合わせる事にした。
その上で、何とか戦闘の回避ないし戦闘になるまでの時間を引き延ばせないかと試みる。
今の状況で目の前の少女の様な相手とぶつかれば、まず間違いなく全滅だ。
だから、先ずは名前を尋ねる事を求め、尋ねられるままに少女も応える。
彼女はニケの誰何に対し、己をリーゼロッテ・ヴェルクマイスターと名乗った。
「えっと…じゃあリーゼロッテ?何かもー、見てわかる位殺る気マンマンっぽいけどさ。
此処は見逃してくんない?だってほら、因縁フラグは多い程良いって言うぜ?
ここまで影薄そうな顔にも見えるし、因縁作りパートも大事だと思う訳よ俺」
「お前は何を言っているの?」
「うん、俺もちょっと何言ってるかよく分かんないわ。ごめん」
気の抜けたやりとりを行うモノの、ニケの頬に冷たい汗が伝う。
リーゼロッテの表情は口元こそ微笑みを浮かべているが、目元は全く笑っていない。
次の瞬間には「しゃあっ!」と気合を入れて襲い掛かって来そうな雰囲気を放っている。
どうやら、交渉やボケやツッコミで見逃してくれる相手ではないようだ。
一触即発の雰囲気の中、ニケはこそこそと傍らのディオに語り掛ける。
「……おいディオ。俺がかっこいいポーズでリーゼロッテの奴止めるから。
お前はその間にナルト達担いで逃げてくれ。スタンドいれば三人行けるだろ」
「あの女を相手に足手纏いを連れて…か?馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが…
ここまでバカだったとは、怒りを通り越して呆れすら湧いてくるというものだぞ」
「いいだろ。連れてかないとうっかり途中でかっこいいポーズ解いちゃうかもだ」
「………………」
ディオの憎まれ口がそこで止まる。
足手纏いを連れて居ようと連れて居まいと。
ディオがこの場を生きて離脱できるかどうかは、ニケが相手を止められるか次第だ。
もし止められなければ、瞬く間に二人とも殺されるだろう。
途中でわざとかっこいいポーズを解除された場合でも、やはりディオの命運は尽きる。
だからこそ、ニケには協力せざるを得ない。
そして協力しなければならないからこそ、この後暫し彼はニケの案に口を挟むのを辞める。
無言で状況が動くまで待つと言う選択に、彼は行きついた。
だが、状況を動かすのはニケではなく。
「あら、もう逃げる算段?それじゃあつまらないじゃない────」
獣が牙を剥く様のように、リーゼロッテは不吉な笑みを見せ。
そして、片腕を上げながら空中へと浮かび上がる。
不味い。本能的に直感し、ニケもまたポーズを取りながら空中へと跳び上がる。
そして、魔神王や九尾などの強敵たちにも通用した光魔法を躊躇なく行使した。
「光魔法キラキラ!かっこいいポーズ!!」
「…………、へぇ、成程ね?」
拘束は、機能した。
光魔法キラキラ。勇者にのみ許された世界を救う出鱈目な力。
その光の力を持ってして、黒魔術の傾倒者であるリーゼロッテを抑え込んだのだ。
しかしその時勇者は戦慄する、かっこいいポーズ事態は確かに通用した。
だが、リーゼロッテの表情からはまるで凶兆が消えていない。
第六感から来る悪寒は、今や頭のてっぺんからつま先に至るまで全身を包み。
それを裏付ける様に、リーゼロッテが天井へ掲げた手に莫大な魔力が集積していく。
「………っ!」
その絶望的な光景に、ニケが言葉を失う。
止められていない訳では無い。止めた上で、何もできないのだ。
リーゼロッテ・ヴェルクマイスターの魔力制御は完璧だった。
尾獣玉を暴発させ自滅したナルトとは違う。
身体の自由が効かなくなってなお、完璧に魔力の塊を制御している。
否。それどころかリーゼロッテの掌でその規模を拡大させていた。
「大したものよその魔法。酷く適当なのに、根本的に私とは相性が悪そう。
誇っていいわ。ハンデを加味しても、私の動きを少しの間とはいえ止めるなんて」
まぁ────それが、意味がある事かは別問題だけれど。
小さいの嫌に耳に響く声で囁き、リーゼロッテは酷薄に笑う。
その笑みだけで、ニケも、ディオも悟ってしまった。
逃げた所で、意味は無いと。
あと数秒、子供の足で逃げられる距離を稼いでも、生み出された業火に焼き尽くされる。
かりに奇跡的に初撃の爆炎を生き残ったとしても、追撃が飛んでこない道理はない。
イリヤ達を連れて逃げても、一人で逃げても結果は変わらないだろう。
1から10を引いても100を引いても、マイナスへと至るのが変わらない様に。
ディオすらそう考える程、状況は詰んでいた。
「フフ…ほら、あと五秒くらいで解けるわよ?逃げなくていいの?」
嘲笑を隠しもせず、嬲る様にリーゼロッテは問いかける。
残り数秒。それは処刑のギロチンが振り下ろされるまでの猶予時間だ。
生存できる可能性を生むために用意された時間では、ない。
ディオは舌打ちを一つして、その時ようやく走り出そうとした。
スタンドでナルトとイリヤを担ぎ上げ、ニケの事は一瞥もしない。
勿論彼が二人を拾ったのは善意からではない。盾とするためだ。
紙の盾に等しい事は分かっていたが、それでも何かせずにはいられなかった。
そもそも意味を問いだせば、逃げること自体が無意味に等しいのだから。
そして、後二秒。ニケ達に打つ手は何もなく。無慈悲に最後の時間が消失していく───
「……さようなら。五人纏めて、仲良く逝きなさい」
遂にかっこいいポーズの効果時間が切れ、ニケが地面へと落下する。
それに合わせてリーゼロッテは腕を振りかぶり、振り下ろさんとする。
その刹那、リーゼロッテが殲滅の為に意識の八割を裂いたその刹那に。
妖刀が、空を裂いた。
な、とリーゼロッテが声を上げる間もなく。
ザンッ!!と音を立てて、彼女の磁の肌に刃が食い込む。
「ちっ……!」
不死身に等しい再生能力を誇るリーゼロッテだったが、この時は反射的に防御を優先した。
もし防御を選択していなければ、彼女はここで討ち取られていたかもしれない。
そう思わせる程、リーゼロッテの首を狙った刃は彼女の腕に軌道を逸らされても突き進み。
コンマ数秒で、リーゼロッテの胸から上を両断した。
(再生が────ッ!)
先ほどまでの余裕ぶった態度とは違う。
リーゼロッテの瞼が見開かれる。
たった今斬られた刀には再生を阻害する作用でもあったのか。
胸から下の再生が中々始まらないのだ。
舌打ちを零して方針を変更。闖入者の排除に意識を切り替える。
何、問題はない。胴を飛ばされた程度では滅びはしないのだから。
小癪な賊を討滅してからでもこの場にいる者の殲滅は十分可能。
一人残らず逃がさない。笑みを作り直し、裂かれた下半身を巨大な蟲へと変える。
逃げ場のない空中だ。自らを切り裂いた少年と見られる闖入者では対処できない。
油断も慢心も無く、厳然たる事実として、リーゼロッテはそう判断した。
だが。
「意外と」
自身を食いちぎらんと迫る蟲が迫る中で、少年は穏やかな笑みを浮かべていた。
死の恐怖を超越した表情で刀を振るった反動を用い、身を半回転。
そして、残った方の足でリーゼロッテを蹴り上げた。そして、それで終わらない。
蹴りつけた反動で更にバレエのプリマが如く身を躍らせ。
吹き飛んだ足先の代わりに埋め込んだ関の短刀(ドス)を閃かせる。
すると、大口を開け少年を食いちぎろうとしていた巨大蟲の頭部があっさりと両断された。
「矮小(かわい)いよなァ」
リーゼロッテの攻勢を切り抜け、大地へと落下していく闖入者の少年。
それを見てリーゼロッテは身体を再生させつつ更なる追撃に出ようとする。
まだ生み出した火球は死んではいない。このまま振り下ろす。
そうすれば全ては終わり。勝利するのはこの自分以外にあり得ない。
五秒後には骨まで炭化した焼殺死体が六つ転がっているだろう。
本当に振り下ろすことが来たなら。
「ぐ────っ!」
リーゼロッテの残った身体が、爆炎の中に呑み込まれる。
なぜそうなったかは単純だ。少年がリーゼロッテの作った焔の中へ彼女を蹴り込んだのだ。
下半身を切り裂かれ、更に少年の迎撃に意識を割かれていたリーゼロッテは反応が遅れた。
その為、魔女は自らが作り出した業火に灼かれる事となる。
魔女狩りで火刑に処された、オルレアンの魔女のように。
「────ッ!!!」
大地に降り立ち、少年は魔女が焼かれる様を見届ける。
それを背後で見つめるニケ達だったが、その後ろ姿には見覚えがあった。
汗で剥がれたのだろうか。今や顔を覆っていたガムテープは存在せず。
半身も傷自体は塞がっている様だが抉り取られ、痛ましい様を晒している。
何故生きているのが理解に苦しむ程の重症なのは間違いなく。
姿を認めて思わず、ニケは息を呑む。
明かな致命傷を負いながらも、魔女を切り裂いた少年の背中は。
哀しいほど、“王”としての背中そのものだった。
■ ■ ■
返す返す、生きているのが不思議な程の損傷だった。
左腕は元々喪失していたが、それも肩からごっそりと削り取られ。
それだけでなく、脇腹の辺りも喪失している。
明らかに、人間が生存していられる状態ではない。
それでも先ほどニケらを襲ったガムテープの少年は、現実としてそこにいた。
夢幻や幽霊の類ではない。そうであれば、ニケ達はとっくに死んでいる。
「……お前、さっきの…ガムテープの奴、だよな………?」
「………ガムテ、だ」
ニケが声を掛けると、ガムテは冷たい声色で名乗る。
先ほどまでのお道化た様子は、今の彼からは見られなかった。
鋭利な視線で一瞥し、短くガムテはニケへと続けた。
失せろ、と。
「テメ〜らは後回しだ。今は……あの黒年増(ババア)をブッ殺す」
だから、お前らにうろちょろされたら鬱陶(ウザ)い。
ガムテが述べたのは、それだけだった。
それだけ口にして、もうニケ達の方へは振り返らない。
敵意も感じなかった。後ろから刺すつもりではないのだろう。
彼の身体の先では、リーゼロッテが炭化させた身体を再構成しようとしているのが見える。
もう後一分もかからず、元の瑞々しい肢体を取り戻すだろう。
そうなれば手遅れだ。今度こそ本当に終わる。
「あの子供大人(ババア)、始末(シ)めたら、次はテメ〜らだ。
皆纏めて全殺しキメてやっから期待してろって、忍者(ナルト)にも言っとけ」
「………………………………………………………………………………」
ガムテは振り返らない。
ただ、その手に握っていた日本刀を放り捨てる様に地面へ落とし。
代わりに彼が纏う黒いパーカーの袖から、一本の短刀が現れた。
それを握って、後はもう話すことは無いと言わんばかりに無言で佇む。
そんなガムテに対し、ニケは。
「やだね」
少しの黙考の後。
いつかの頃、どこぞのやった様に王様にあっかんべぇと舌を出す。
勇者ニケには、ガムテの言う事を聞くつもりがまるでなかった。
「なんで俺がここまで好き放題やった奴の言う事聞かなきゃいけないんだよ」
「おい、ニケ!!」
「ディオ。お前はさっさとナルト達連れて逃げとけ。俺もう少し後から行く
後でこのガムテープ野郎みんなでボコろう。なんせ戦いは数だからな」
ニケの選択に、思わずディオが食って掛かるが。
ニケの態度は取り付く島もないと言わんばかりに塩気の強い物だった。
ひらひらと掌を振るって、さっさといけとディオに促す。
彼はいい加減ムカついていたのだ。シリアスの供給過多な現状に。
乃亜の奴は何を考えて俺を呼んだんだ。せめてチート能力の一つも寄越して見せろ。
いい加減乃亜の耳元でデカい声で言ってやりたい気持ちだった。
その矢先に散々好き放題暴れた相手からの偉そうな言葉だ。ツッコまずにはいられない。
おかしい事におかしいとツッコめる。それこそ彼の世界における勇者の資質なのだから。
「おっ死(ち)ぬぞ」
「生憎俺は魔王ギリを倒して一生左団扇な人生を送るんだ。
銅像とか作られて千年先まで讃えられる予定なのに、こんな変な島で死ぬなんて御免被る。
心配するな、俺の相棒アヌビスが一分後位に覚醒して何とかする」
『ラリってんのか?』
「んだよ、お前だってリーゼロッテ何とかしないと一緒にぶっ飛ぶだろーが!」
ぎゃあぎゃあと言い争うニケと喋る刀。
その光景は逼迫しているのに、何か力が抜ける緩い雰囲気だった。
それを冷めた目で視界の端に捉えながら、ディオは無言でナルトを背負う。
さっきまでは肉の盾にするつもりだったが、今ならば恩を売れる。
ともすれば、気絶している内に始末してドミノを稼ぐのもいいかもしれない。
そう考えているのだろうなと、ガムテは表情から読み取り内心で笑う。
彼の第六感が告げていたからだ。その思惑が果たされることは無いと。
「……何でだ?」
「ん?」
「さっき、俺を何で助けた。俺に怒(キレ)てたんじゃないのか?」
そして、ニケの想いもまた果たされることは無い。
それが分かっていたからガムテは特段何もせず、折角なので気になっていた事を尋ねた。
尋ねられたニケは今そんな事聞いてる場合かよ…と零すが、あっけらかんとした態度で。
「────それは………俺が勇者だから、かな」
親指と人差し指を顎に添えて。
決まった…!と言わんばかりの顔でニケは応えは述べた。
隣のディオは殴りたそうな顔をしていたが、ガムテは腹を立てなかった。
何故なら、彼の第六感が告げていたからだ。これが最後のやり取りとなると。
その答え合わせと言わんばかりに直後、ニケの身体が浮かび上がる。
「何……!?」
「え…?ちょちょ、何だよこれ、おいっ」
ニケとディオ。そしてイリヤ達の身体をも宙に浮かぶ。
浮かんでいないのはガムテだけだ。
この事からニケはガムテが何かやったのか尋ねるが、返事が返って来る事はなかった。
リーゼロッテの仕業ではない。彼女の攻撃なら、ガムテだけを省く理由がないからだ。
じゃあ、一体だれが。浮かんだ疑問の答えを求め、ニケはじたばたと藻掻くが。
それを横目で眺めるガムテは沈黙を保ち、残った方の肩を竦めるのみだった。
「くそ、待てよガムテ───おいっ!お前も────うおおおおおおおお!?」
「何だこれは……っ!く、くそっ!待て、このディオがまたしても───おおおおっ!?」
勇者は手を伸ばすが、当然その手が殺し屋の手を取る事はなく。
成すすべなく、幸せな子供達は空へと打ち上げられていった。
それを最後まで見届けて、最後まで騒がしい奴らだったと思う。
特にニケとかいう馬鹿は、本当にガムテの知る道理の外から来たような馬鹿だった。
自分の様にイカレてお道化ているのではない。素でああいう奴がいるのだな。
そう考えて、ガムテはフッと笑った。心の底からの、笑みだった。
そして、道理から外れた奇縁は、あのニケだけではない。
ガムテが握った短刀も、それを知らしめる。
「本当……全部遅いんだよ」
その短刀は、深い砂の下に埋まった筈だった。
ガムテが、その凶刃を振るい他者を殺める事が無い様に一度は封じられた刃。
だがガムテが目を醒ました時。小さな砂の塊が、彼の前にその短刀を運んできたのだ。
無言で受け取ると、短刀の柄の部分に纏わりついて浮かんでいた砂は崩れた。
まるで、役目を終えたと言わんばかりに。
戦えと言われた気がした。自分が殺した少年の顔が、脳裏に浮かんだ。
そうして気づいたら、ガムテはここへ来ていた。
「さ…最後の祭りだ。派手に特攻(ブッコ)むか」
視界の先では、炭化していた肌がぺりぺりと再生し。
瑞々しく艶めかしい肌を取り戻した魔女がはっきりと像を結ぶ。
忍者を超える異能(チート)の持ち主。だが、ガムテに恐怖は無かった。
破壊の八極道に、敵を前に臆する者は一人として存在しないのだから。
だから────さぁ、征こう。
「見せてやるよ───極道流、超越者退治(チートスレイヤー)」
■ ■ ■
柔らかい砂浜とは言え、地面に思いきり叩き付けられて。
んがっと声を上げてから、ニケは身体を起こす。
傍らでは、ディオもまた側頭部を抑えて身体を起こしていた。
きょろきょろと辺りを見回す。周囲にいたのはナルトと、エリスと、イリヤの三人。
やはり、ガムテの姿はなかった。
「くそ………」
その事を確かめてから、やっぱりニケはこの世界が嫌いだと思う。
簡単に人が死んでいくこの世界は狂っている。
はかネタをやっても不謹慎だと怒られないのはトマくらい影薄じゃないといけないのに。
本当、乃亜の奴にはいい加減にしろと言ってやりたかった。
「………辛気臭い顔を晒すより先に、やるべきことがあるだろう」
心底鬱陶しいといった表情で、ディオが指摘を飛ばしてくる。
彼の言う通りだった。危ないのは、ガムテだけではないのだ。
エリスもまた、早く治療してやらなければ命が危ない。
だから、項垂れている暇はないのだ。
ディオの言葉を予想して、とりあえず今差し当たってするべきことは───
「お前が今やるべきは、地に頭をこすりつけて、このディオの慈悲を乞うこと───」
「エリス達を治してやってくだせぇディオ様」
「早いなお前」
【一日目/日中/B-8 海岸線】
【うずまきナルト@NARUTO-少年編-】
[状態]:チャクラ消費(大)、気絶
[装備]:自来也の封印札。
[道具]:基本支給品×3、煙玉×2@NARUTO、ファウードの回復液@金色のガッシュ!!、
城之内君の時の魔術師@DM、エニグマの紙×3@ジョジョの奇妙な冒険、
マニッシュ・ボーイの首輪
[思考・状況]
基本方針:乃亜の言う事には従わない。
0:──────
1: シカマルを探す。
2: 仲間を守る。
3:殺し合いを止める方法を探す。
4: 逃げて行ったおにぎり頭を探す。
5:ドラゴンボールってのは……よくわかんねーってばよ。
6:セリム、我愛羅…すまねぇ
[備考]
※螺旋丸習得後、サスケ奪還編直前より参戦です。
※セリム・エリスと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました。
【エリス・ボレアス・グレイラット@無職転生 ~異世界行ったら本気だす~】
[状態]:疲労(絶大)、全身にダメージ(絶大)、精神疲労(大)、気絶、インクルシオと同化(大)、決意
沙都子とメリュジーヌに対する好感度(高め)、シュライバーに対する恐怖
[装備]:旅の衣装、和道一文字@ONE PIECE、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!(相性高め)
[道具]:基本支給品一式、賢者の石(憤怒)@鋼の錬金術師
[思考・状況]
基本方針:ナルト達を守って、乃亜に勝って、ルーデウスにもう一度会いに行く。
0:────
1:もう殺し合いには絶対に乗らない。ナルト達を守る。命に代えても。
2:首輪と脱出方法を探す。もう、ルーデウスには頼れないから。
3:殺人はルーデウスが悲しむから、半殺しで済ますわ!(相手が強大ならその限りではない)
4:ドラゴンボールの話は頭の中に入れておくわ。悟空って奴から直接話を聞くまではね。
5:私の家周りは、沙都子達に任せておくわ。あの子達の姿を騙ってる奴は許さない。
6:ガムテの少年(ガムテ)とリボンの少女(エスター)は危険人物ね。斬っておきたいわ
[備考]
※参戦時期は、デッドエンド結成(及び、1年以上経過)〜ミリス神聖国に到着までの間
※ルーデウスが参加していない可能性について、一ミリも考えていないです
※ナルト、セリムと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました
※沙都子から、梨花達と遭遇しそうなエリアは散策済みでルーデウスは居なかったと伝えられています。
例としてはG-2の港やI・R・T周辺など。
※インクルシオとの適合率が向上しました。エリスの精神に合わせて進化を行います。
【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(大)、仮面の者(アクルトゥルカ)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇
[道具]:基本支給品、丸太@彼岸島 48日後…、シャベル@現地調達、約束された勝利の剣@Fate/Grand Order、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:やっぱ、この島最悪だわ。取り合えずイリヤ達の目が覚めるまで隠れるか…
1:とりあえず仲間を集める。ナルトとエリスに同行する。
2:クロエを探して病状を聞き出す。
3:マヤ、おじゃる、銀ちゃん………
4:DBの事は俺の考えが間違ってるとは思わないけど、あんまり後ろ向きになっても仕方ないか。
5:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
6:フランはあいつ本当に大丈夫なのか?
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
※仮面(アクルカ)を装着した事で仮面の者となりました。仮面はもう外れません。
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]顔面にダメージ(中)、精神的疲労(中)、疲労(中)、怒り、メリュジーヌに恐怖、強い屈辱(極大)、乃亜やメリュジーヌに対する強い殺意
[装備]『黄金体験』のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、
こらしめバンド@ドラえもん、バシルーラの杖[残り回数1回]@トルネコの大冒険3
[道具]基本支給品、光の護封剣@遊戯王DM
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:馬鹿共を利用し生き残る。さっさと頭の輪は言いくるめて外させたい。
1:メリュジーヌが現れた場合はナルト達を見捨ててさっさと逃げる。
2:先ほどの金髪の痴女やメリュジーヌに警戒。奴らは絶対に許さない。
3:ゴールドエクスペリエンスか…気に入った。
4:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
5:海が弱点の参加者でもいるのか?
6:ドロテアとは今はもうあまり会いたくない。
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(大)、決意と覚悟、気絶
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1、雪華綺晶の支給品×1、クラスカード『バーサーカー』(午後まで使用不能、『アサシン』、『セイバー』(夕方まで使用不能)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、
タイム風呂敷(残り四回、夕方まで使用不能)@ドラえもん
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:皆を助けるために、目の前の人たちと協力したい。
1:雪華綺晶ちゃん……。
2:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
3:殺し合いを止める。まず紗寿叶さん達を助けに行きたい。
4:サファイアを守る。
5:美遊、ほんとうに……
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
※バーサーカー夢幻召喚時の十二の試練のストックは残り2つです。これは回復しません。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました。
■ ■ ■
かつて、始めて忍者をブッ殺すべく相対した自分の父(パパ)も。
こんな気分だったのだろうか。ふと、ガムテはらしくなくそんな事を考えた。
恐怖は一欠けらほどもなかった。見切れれば殺れる、見切れねば死ぬ。ただそれだけ。
ならば怯える要素など欠片ほどもない。
物理的な圧力すら感じる威圧感を放つ魔女を前に、ガムテの心はどこかでも穏やかに。
何時でも疾走(はし)れる態勢で、魔女の前に立つ。
「………そう、貴方だけ逃げなかったの。まぁ…逃げた所で結果は同じか」
肉体は元より黒のゴシックドレスすら元通りの姿で、リーゼロッテが言う。
何方も常人なら死んでいる損傷を負った二人だが、現在の姿は哀しい程対照的だった。
破けほつれた人形の様な有様のガムテ。傷一つないリーゼロッテ。
勝敗など最初から論ずるまでも無い。結果は同じという言葉は、そういう意味だ。
勝とうと敗けようと、ガムテの命はここで潰える。もう絶対に助からない。
それでも刃を握って歯向かおうとするガムテの姿は、愚かを通り越し哀れですらあった。
「言ってろ年増(ババア)二号。ゲロ吐いてのたうち回らせてやっから」
そう言ってガムテは上体を沈み込ませ、構えを取る。
安全装置を外した拳銃の様な、引き絞られた弓矢の様な、鋭利な殺意がそこにはあった。
対するリーゼロッテは構えない。虫が何をしようと自分には痛痒にならぬと確信している。
だから構える代わりに、彼女は問いを投げた。「どうして、そこまでするの?」と。
「聞かなくても分かるわ。貴方、マーダーだったんでしょう?
それなのに何であの子達を助けようとするの?最後に善い子ぶりたくなったのかしら?」
そんな事しても、貴方は地獄へ行くわ。
嘲笑と、侮蔑が入り混じった声と表情で、リーゼロッテはそう告げた。
何をやった所でお前の罪が消えることは無い。
否、人類全てが、自分の人類鏖殺という大望以外でその罪を雪ぐ事はできない。
それこそ、今のリーゼロッテが掲げる信仰だった。
「───はっ!超嘲笑(ウケ)るゥ〜w!
的外れな上に主語がでけェよこの年増(ババア)二号!」
ゲラゲラゲラ。ゲラゲラゲラ。
残った方の腕で、腹を抱えてガムテは即、爆笑した。
どこにそんな力を残しているのか、どうやって笑っているか。
怒りよりも先にそんな疑問が沸くほど重症の身体で少年は笑い続ける。
そして、丁度三十秒がたった頃にぴたりと笑うのをやめて、そしてリーゼロッテに告げた。
「年増(ババア)の次にあいつらもブッ殺す。単なる順番だ。
あと…一号といいテメェら加齢臭(クセ)ェんだよ、子供大人(フリークス)がァ!」
今のガムテは王の責務から解き放たれている。
これは最早、ガムテによるガムテの為の殺しだ。
だから、殺す相手は選ぶ。ガムテは大義の為ならば割れた子供でも殺せるけれど。
普通の幸せに生きられた子供も勿論抹殺対象ではあるけれど。
それでも目の前の年増(ババア)の様な主語のデカい子供大人(フリークス)こそ。
ガムテが最も嫌いで、殺したい相手だった。だから殺す。ただ、それだけの話だった。
「……そう、存外つまらない理由だったわね」
嘲笑を嘲笑で返されて、リーゼロッテの顔に既に愉悦は無かった。
かといって怒りもまた、ない。こいつはここで自分が殺すと言う。
今すぐ死ぬ虫けらに腹を立てる事はないという、冷徹な態度だけがそこにあった。
腕を左右に少しだけ広げ構えを取る事もなく、リーゼロッテは囁く様に開戦の号砲を綴る。
「来なさい。人類よりも先に貴方の罪を雪いであげるわ───死を以てね」
その言葉が言い終わるよりも早く、ガムテは地を蹴った。
最早言葉は要らない。最後の時を迎えるまで踊るのみ。
最も憎み最も尊敬した父親(パパ)のように。
いざ、とだけ口に出して、明日なき暴走へ身を委ねる。
ここからが、殺し屋ガムテの全てを賭けた、本気(マジ)の本気(マジ)だ。
■ ■ ■
敵からはみずぼらしい程の魔力しか感じない。
人間を超えた身体能力を見れば何某かの外法に手を染めているのは明らかだが。
魔道を極めたリーゼロッテからすれば鼻で笑える程度の代物でしかない。
そう敵を評価すると、リーゼロッテはつまらなそうに指を弾いた。
嫋やかな指がすり合わされると共に、火花が生まれる。
そしてその火花は形を変え、数十の食人蟲へと存在すら変貌させる。
「醜悪(キッショ)!」
ガムテの肉を食いちぎろうと迫る蟲たちのレギオンを見て、思わず悪罵を吐く。
しかし、藤木茂が竦んだその光景は、ガムテにとってただ不快感を与えるだけに留まり。
虫たちが到達するよりも早く、ガムテは道に沿って設置されていたポストの前へ駆ける。
同時に強化された肉体と感覚で、射抜くべき敵手の位置を割り出し。
────極道技巧(スキル)
ポストと虫たちの正面に位置取り、短刀を袖に引っ込めて握りこぶしを作る。
薬によって超人にまで上り詰めた膂力を残った腕に籠め、歯を食いしばり。
そして、生まれたエネルギーの全てを、ポストへと解き放つ。
────箱庭覗聴(ブラックボックス・プロビデンス)!
────剛拳巨砲主義(ごうけんきょほうしゅぎ)!
正しく巨砲が唸りを上げた様に轟音が響き渡り。
凄まじい運動エネルギーを叩きつけられたポストが一瞬で支柱ごと空へと打ちあがる。
その軌道の先に居るのは、リーゼロッテの生み出した蟲達だ。
突如として発生した砲弾の前に成すすべなく、発生した蟲の何割かが殲滅される。
そして、ガムテの攻勢はそれだけに留まらない。
ポストの次は看板、その次はナルトとの戦闘で発生した瓦礫。
次々と巨砲の砲弾として打ち出し、虫たちを撃墜していく。
────極道技巧(スキル)
ガムテの第六感が早期警戒を呼び掛ける。
今直ぐに攻勢を止めなければ、死滅(くたば)ると。
その指令が下った瞬間攻勢を中断し、ガムテは身を翻す。
───妖精通信(ムシノシラセ)
0.1秒で加速を行い離脱すると、その一秒後に背後で爆炎が上がった。
先ほどまでガムテが立っていた場所だ。あと一秒留まっていたら炭になっていただろう。
めまぐるしく状況を認識し、思考しながら駆けるガムテを、尚も蟲達が追う。
物量も破壊力も、残酷に過ぎる戦力差がそこにあった。
ガムテはリーゼロッテに近づく事すらできない。
ガムテはリーゼロッテの攻撃を受ければ、それで終わる。
だがリーゼロッテはガムテの攻撃を受けても何も問題なく復活する。
勝ち目など皆無。結末の決まりきったカードだ。
しかし、それでもガムテはどこまでも大地を駆ける。
────極道技巧(スキル)
駆けた先にあるのは、先ほど地面に落とした日本(ポン)刀。
それが位置する一歩手前の距離で、足から生えた関の短刀を地面へ突き刺し軸足とする。
再びを歯を食いしばり、残った片足で僅かに横たわる日本刀を浮かせて。
そして───日本刀の柄を目掛けて、引き金を引いた。
───蹴球地獄変(ビバ・ラ・ファンタジスタ)!
「な………!?」
リーゼロッテの表情が、ここで初めて倦怠以外の物へと変わる。
ガムテが起こしたのは、それに足る不条理だった。
蹴り上げられた大業物───閻魔はその瞬間サッカーボールへと姿を変えたのだ。
彗星の如き速度。右回りに弧を描く軌道で突き進み、放たれる覇気は蟲達を殲滅する。
否、被害はそれだけに止まらない。蟲の群れに閻魔は裁きを下し、さらに突き進む。
決裁の対象は、蟲共を生み出した元凶。穢れた姦淫の魔女をおいて他にない。
「ちっ……」
不快そうに舌打ちをして、リーゼロッテはその手の爪を伸ばして刃を払う。
打ち払われた刃は運動エネルギーの八割を保ったまま、後方へと飛んでいってしまう。
あれだけは受ければほんのちょっぴり煩わしい。
自身の再生能力でも、あの刀からうけた傷だけは再生に時間がかかった。
まぁ再生に少し時間を掛けた所で、だから何だと言う話ではあるが。
雑魚に煩わしい思いをさせられるのも不愉快だ。
そう考え、彼女にしては珍しく防御の姿勢を取った。だが。
「───っ!?」
リーゼロッテの片腕が切り落とされる。
切り落とされた腕に目をやると、視界の端で何かが高速で宙を突き進んでいるのが見えた。
先ほどいなしたはずの日本刀がリーゼロッテの元へ舞い戻り切り裂いたのだ。
馬鹿な。リーゼロッテは驚愕する。
魔力は感じない。つまり、魔術によって引き起こされた現象ではないと断言できる。
では、あの少年は自分がどう初撃の刃を弾くか計算した上で蹴ったとでも言うのか?
弾かれた上でなお、この身を切り裂けるように刀を飛ばしたのか?魔術も用いず?
「認識を改めましょうか」
目の前の少年は、強い。
フリーレンや孫悟空の様な、自身の敵として対処するに値する相手だ。
魔術に精通している訳でもないのにここまでの芸当を可能とする技巧。
人間としては、正しく天才と評する他ない。
そう。あくまで、人間としては。
「───幻燈結界(ファンタズマゴリア)」
そして、人間だからこそ、勝てない。
愛を説く様に唇の花弁を滑らせ、呪いの言葉を綴る。
敵として認めたからこそ、容赦なく、遊びも無く詰めにかかる。
幻燈結界(ファンタズマゴリア)の疑似展開。
リーゼロッテが築き上げた、魔道の最奥。
乃亜のハンデにより完全開放したそれには遠く及ばない物の、ただの人間を殺すには充分。
フリーレンの様に同じく魔道の研鑽を数百年積み重ねた魔術師でもない。
孫悟空の様に桁外れのパワーと才覚で強引に突破できるだけの超人でもない。
達人なれど人間であるガムテは、此処で終わる。
「はい、お終い」
からん、と。
眼前のガムテが、握っていた日本刀を取り落とす。
リーゼロッテまで十メートル程の位置で、完全に歩みが止まる。
終わったと、リーゼロッテは油断も慢心も無く、純然たる事実として。
戦闘の終結を確信した。後はもう、手を下すまでも無い。
もう二度と醒めぬ眠りについた少年に、労うように声を掛けた。
どうか死ぬまで悪(よ)い夢を─────と。
■ ■ ■
今日も俺は、殺され続ける。
パパがいなくなって怖くなったママに、心を殺され続ける。
殴られ、蹴られ、焼かれ、チンチンも切り落とされて。ごみの様に扱われる。
それはとても辛くて、苦しくて、何も分からなくて。
そして、何の救済(すくい)もなかった。
俺に、俺達に手を差し伸べてくれる正義のヒーローなんていなかった。
いや、正義のヒーローもママと同じ側だ。あいつらだって、俺達を殺す。
これまでも忍者に大勢の仲間が殺された。
オレ達は人を殺しただけなのに。殺さずには生きられないだけなのに。
他人に殺された心は、他人を殺さなきゃ正気じゃいられないだけなのに。
オレ達は、そんな生き物になっちまっただけなのに。
今日もオレ達は殺され続ける。ヒーローに、忍者に、ママに。
でも、それはいう程怖くはない。だってそれはオレにとっての当たり前だから。
オレ達はいつだって運命に嫌われてきたから。慣れてる。
そうだ、そんな事よりもっと怖いのは。
「───舞踏鳥(プリマ)、黄金球(バロンドール)……」
今、俺の目の前には仲間達がいた。
一番前に三狂(トップスリー)の舞踏鳥(プリマ)と黄金球(バロンドール)。
その後ろに司令(オーダー)、攻手(アタッカー)、毒(ブス)、天使(アンジュ)。
美容師(ビュティシャン)、偶像崇拝(アイドル)、偉大(グレート)、色男(カサノバ)。
拳闘大帝(バウンフォーバウンド)、ユリリリ、勇者、姫………
オレをリーダーって崇めてくれてる、仲間達がじっと俺を見ていた。
その視線が、今のオレにとって一番怖い悪夢だった。
だって、だってオレは────、
「服薬(キメ)てしまったんだね…ガムテ」
後ろを振り返る。
そこには大臣と、死んでいった仲間達がいた。
自転車王(アルカンシェル)、大名優(アカデミー)。
菓子姫様(パティシエール)喰帝(フードファイター)
他にも忍者に殺されたり、オレが殺してきた仲間達もまた、じっとオレを見ていた。
みんなの前で、大臣が言う。俺が何をやったかを。
「地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)二枚服用(ギメ)」
そうだ。大臣の言う通り。
今、オレの目の前は真っ赤に染まっている。
怪獣医(ドクター・モンスター)に教えられた悪魔強化(オーバードーズ)。
死んでも殺したいと思った相手が現れたらヤれと言われてた最後の手段(ジョーカー)。
忍者に死にかけていたオレは、それを使って復活した。
「二枚服薬(ギメ)は肉体に偉大(パ)ない強化を与える…でも、その反動は──」
「うん大臣………俺はもう、あと一分もしない内に死ぬ」
使わなければ、間違いなくあのまま死んでいた。
でも、それは言い訳にはならない。
皆、俺に託してくれたのに。オレの為に生きて、死んで行ってくれたのに。
オレはこの島で、何も成せずに死ぬんだ。
そして舞踏鳥(プリマ)達を置いて行っちまう。
「ごめんな…大臣、ごめんな舞踏鳥(プリマ)、ごめん…ごめんよ、皆……」
悔しかった。
哀しかった。
怖かった。
でも、もうオレにはどうにもならない。
俯いて、仲間達に詫びる事しかできない。
詫びて、詫びて、詫びて───詫び続けて、やがて大臣がオレの顔のガムテに触れた。
そして、優しく言ってくる。
オレはいつだって、仲間の為に生きてくれたって。だから、もういいんだって。
そう言って、オレの顔のガムテープを外して───
「あとは、君だけの為に戦え───僕らの殺人(コロシ)の王子様!!」
そう、大臣が言うのと同時に。
オレが返事を返すよりも早く、誰かに抱きしめられる。
肩に巨大(デカ)い手が添えられる。
それが誰かは、振り返らなくても分かった。
「安心しろってガムテェ〜!俺達ずっとお前の事は親友(マブ)だと思ってっから!
ここにゃお前を責める奴なんざ皆無(イネ)ェ!水臭い事言わねぇで偶には脳筋で行け!」
「そうよガムテ。私達貴方の分まで精一杯殺すから……だから何も心配しないで。
貴方は今迄私達の為に頑張っててくれた…!だから、これまでの分少し早く待っていて」
私達、貴方の分まで精一杯殺して、精一杯生きるから。
後悔なんて、しないから。
だから、だから貴方も──────
「後悔のしない、最後で最期の“悪足掻き”を───見せて頂戴」
それを聞いて。
意識が、急に冴えていく。
身体の奥から、何かが噴きあがっていく。
……そうだな。このまま終わる何て虚無(シャバ)いよな。
どうせなら屑で終わるなら、星屑みたいに殺ってやろう。
あぁ、始めてだ。こんなにも…こんなにも病って殺りたい気分になったのは!
勢いのまま、舞踏鳥(プリマ)と唇を合わせる。
そしたら、舞踏鳥(プリマ)は俺の舌に歯を立てて、“何時もの“をやってくれた。
がりっ、口の中が音を立てる。
「あぁ───殺ってくるぜ」
舌から走る痛みに心底(マジ)で感謝しながら。
オレは夢から醒めて、最後の殺人(コロシ)へ向かう。
■ ■ ■
その瞬間、悪夢に囚われたはずのガムテが目を開いた瞬間。
リーゼロッテ・ヴェルクマイスターはニケ達との邂逅から一番の驚愕を覚えた。
目を見開き、瞠目するのを隠せない。
まさか、不完全とは言えただの人間が幻燈結界を打ち破ったのか?
「────不愉快ね、貴方」
あり得ない。フリーレンの様な同じく魔道の高みにいる相手ならば兎も角。
自分の幻燈結界がただの人間に破られるなど、あってはならないのだ。
いささかプライドを侵害され、リーゼロッテの顔が怒りに歪む。
いい。この際どうやって退けたのかは問わない。
ただ殺す。人の身で偉業を成した誇りを抱いて死ぬがいい。
冷たい殺意に突き動かされるままに、リーゼロッテはガムテへと掌を指向。
そして、ガムテの肉を削り飛ばせるだけの魔力を集める。
この子供はすばしっこい。単発の炎では躱され可能性が高い。それ故の連射。
無粋な物量で嬲り殺し、足が止まった所を消し飛ばす。単純故に対処しにくい一手だ。
だが……リーゼロッテは、極道を知らなかった。
────視えるぞ魔女ッ!!!
ガムテにとっては、リーゼロッテの幻覚を敗れた理由などどうでもよかった。
乃亜のハンデに依るものかもしれない。
薬の覚醒作用に依るものかもしれない。
それとも彼が隠し持っていた短刀の影響かもしれない。
どちらにせよガムテがそれを理解する術はないのだ。
今の彼にあるのはただ刺す。刺して殺す、それだけだ。
だから、彼は駆け出す。
その疾走に先ほどまでの迷いは存在しない。
それ故に、隻脚ながらさっきまでとは比べ物にならない速さだった。
リーゼロッテをして、早いと感じる程の速度。
一発の砲弾となったガムテが、瞬きの間に距離を詰める。
「死になさい」
だから、どうした。
単に早いゴキブリ程度に討ち取られるほどリーゼロッテ・ヴェルクマイスターは甘くない。
早い程度の相手に討ち取られるならば。
禁書目録聖省の討伐舞台は当の昔に彼女を討滅できていただろう。
ガムテの刃が届くまで数メートル。しかしその数メートルは永遠が如き距離だ。
決して届かない断絶。ガムテを蜂の巣へと変える殺戮距離(キル・ゾーン)。
それを前にして、ガムテは。
────極道技巧(スキル)
迷いなく踏み込んだ。
玉砕がお望みか。そう吐き捨てながらリーゼロッテはガムテに照準を付けた。
これで発射すれば終わりだ。一秒かからずガムテの五体は跡形もなく吹き飛ぶ。
しかし───
────夢幻燦顕視(むげんさんけんし)
その瞬間、リーゼロッテの眼前からガムテの姿が掻き消えた。
代わりに現れるのは美しい湖岸と白鳥の群れ。
純白の翼が、漆黒の女たるリーゼロッテの視界を埋め尽くす。
突如として発生した怪現象に、炎の魔女を困惑が襲う。
一体何だこれは?幻覚?魔術に依る物か?いや違う。
この現象から魔力は感じ取れない。では一体、何が起きている?これは何だ?
魔道に傾倒し、魔術をこそ常識だと捉えている彼女だからこそ、正当に辿り着けない。
まさかこの現象が極限域まで高められた技術に依る物だとは思えない。
────極道技巧(スキル)
そして、リーゼロッテが思考に囚われた一瞬、その一瞬を駆け抜け。
遂に、ガムテがリーゼロッテの懐へとたどり着く。
永遠にも思えた距離を、踏破して。リーゼロッテの首筋に刃を奔らせる。
「残念賞ね」
しかし、届かない。
リーゼロッテの指と伸ばした爪に絡め取られ、受け止められる。
如何な二枚服薬(ギメ)と言えど、純粋な膂力ではリーゼロッテには敵わない。
そのままリーゼロッテがぶぅんと手を振うと、ガムテの手から刀は飛んでいってしまう。
背後で落ちた刀が音を立てるのを聞きながら、魔女は殺し屋にトドメを刺さんと───
「信じてたぜ」
「強靭(つえ)ぇ年増(ババア)なら見逃さねぇってな」
ガムテの袖から、短刀が現れる。
リーゼロッテはこの瞬間、次の一撃は躱せないと直感した。
だが、問題はない。どうせ、目の前の小僧では自分を殺す事は出来ない。
一太刀入れた所で、内包する虚無の石が瞬きの間に治してしまうのだから。
数百年間積み重ねてきた、強者の傲慢。
それが脳裏を過ったが故に、彼女は一手遅れた。
それを愚かとは断じない。愚弄(ナメ)たりもしない。ただガムテは突き進む。
夢幻燦顕視を発動した時にアンプルはブッ刺した。遂行に対する障害は絶無。
全ての条件はクリアーされた。この一刀に、己の生涯全てを賭す────!!
────極道技巧(スキル)
バビロンの大淫婦よ、知るがいい。
これが────人を殺すと言うことだ。
────極道技巧・"?(ヤマイダレ)
ずぶり、と肉を裂く音を立てて。
寸分の狂いなく、短刀(ドス)は。
破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)は。
リーゼロッテ・ヴェルクマイスターの臓腑に突き立てられた。
それに伴い、休息にガムテの意識が白く染まっていく。
薬の効果が切れ、約束された破滅がやって来たのだ。
だけれど、その時のガムテの心は穏やかだった。
「ア、ハ……」
僅かばかりの達成感から軽く笑って。
最後に想起するのは自分が助けた子供達の事だった。
ガムテの敵たる、幸せに生きられた子供達。
狂っちまった仲間に必死に手を差し伸べて、救い出した子供達。
自分にすら手を差し伸べようとした子供達。
もしかしたら自分が狂いきる前に出会っていたら何かが変わったかもしれない、子供達。
そして、ガムテと同じ割れた子供としての素質を持ちながら、そうはならなかった。
割れた子供にはならなかった忍者に、思いを馳せて。
最期の言葉を遺す。
「よかったな………」
そうして、最後に輝村照としての心を零して。
割れた子供達の王は、冠を降ろし。
眠りについたその顔は、無念と安堵が入り混じった年相応の少年の寝顔の様だった。
【輝村照(ガムテ)@忍者と極道 死亡】
【リーゼロッテ ドミノ100ポイント獲得】
■ ■ ■
刃を突き立てられた瞬間から、異変は訪れた。
通常リーゼロッテ・ヴェルクマイスターに刀傷など何の痛痒にもならない。
彼女が体内に内包する虚無の石が、たちどころに治してしまうためだ。
だが、この時は違った。
その一刀を差し込まれた瞬間、ぶつり、と。
己の身体の内側で、重要な何かが断ち切られた感覚に襲われたのだ。
「あ…ぅ゛…………?」
呻き声が漏れる。
例え顔の半分を消し飛ばされようが、全身を焼かれようが。
全く動じなかった筈の、炎の魔女の表情が歪む。
久しく忘れていた苦悶という概念を、肉体が思い出したのだ。
「ああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!」
リーゼロッテの身体に起きた異変は、実に単純。
彼女の肉体と、虚無の石のリンクが強制的に初期化されたのだ。
ガムテが彼女の身体に突き立てた、破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)によって。
三千年の神秘を内包した虚無の石は、地球上の力では決して破壊し得ないと謳われている。
それ故に、神域の魔女メディアが誇る宝具でも破壊する事は叶わなかった。
だが虚無の石の破壊は叶わずとも、リーゼロッテ・ヴェルクマイスターは別だ。
虚無の石と、リーゼロッテの接続を切り離す。
リーゼロッテ・ヴェルクマイスターを、リゼット・ヴェルトールの肉体へと戻す。
事情を理解して立てた策ではない。直感的な物だったがしかし。
ガムテが選んだ選択は、リーゼロッテにとってこれ以上ないほど効果的な一手だった。
「う、ぐぅ……あああッ!!」
憤怒の表情で、腹に突き立てられた短剣をへし折る。
中途でへし折られた短剣が霧散するが、再生はこれまでに比べ牛歩の速さだ。
最早同化したと言ってもいい虚無の石との接続が、完全に初期化されていた。
もし虚無の石を体内に取り込んでから百年程度しか経っていなければ。
そのまま殺しの王子は、姦淫の魔女を討ち取る事に成功していたかもしれない。
「厄介な…ことを………ッ!」
怒りのままに、ガムテの亡骸に向けて業火を放つ。
焔に包まれたガムテの遺体はごうごうを音を立てて焼けていくが、気分は晴れない。
むしろ、勝ち逃げをされた気分で実に不快だった。
リゼットだった頃とは違い、今のリーゼロッテは熟達した魔術師である事が唯一の救いか。
まず間違いなく途切れた接続を完全に修復するのは、丸一日はかかる。
その間は無尽蔵の魔力は期待できず、肉体の治癒速度もかなり落ちるだろうが。
それでも今のリーゼロッテの魔術の腕ならば、数時間とかからず虚無の石との応急処置的な接続回復は叶うだろう。
「まったく…油断、したわね」
最低の気分で毒づいて、身体を起こす。
さっきの一団への追撃は難しいだろう。
今は、まず虚無の石との接続の回復を優先しなくてはならない。
優先しなくてはならない…のだが。
そんな彼女の前に、静かに佇む影が一つあった。
「………何のつもり?お前のせいでこうなっている様なものなのだけれど」
「おいおい、お前が言えた義理じゃねーだろ」
存在自体を感じ取ったのは、一度ガムテに炎の中に叩き込まれてからだった。
自分が襲おうとした子供達を逃がしたのも、この男の仕業で相違ないだろう。
この男がいなければ、自分はあの子供達を皆殺しにできたかもしれない。
自分の背後で高みの見物を決め、背中を狙っていたであろうこの男がいなければ。
そうすれば、こんな不様は晒していなかったかもしれないのに。
「それで、どうするの?強姦魔みたいにこそこそ狙っていたみたいだけど、私を殺す?」
「人聞きが悪いな。むしろ殺すつもりだったのはお前の方だろ?」
現れたのは青いコートと紅い瞳が特徴的な、ブロンドの少年。
気配だけで分かった。彼は人ではない。
虚無の石に近い力の強大さと、禍々しさをリーゼロッテは看破していた。
少年はコートのポケットに手を突っ込み、にこやかな表情で語り掛けてくる。
「やり合う気ならそれでもいいが……今そうなったら困るのはお前の方じゃねーのか」
実際の所、お前に興味は余りないんだ。
そう言う点で言えば、さっき飛ばしたコメディアンのガキの方が面白そうだ。
あいつらのお陰で、お前がさっき殺したガキの曲芸も見られたしな。
ブロンドの髪をかき上げながら少年は芝居がかった所作でそう言葉を並べ。
最後にリーゼロッテにこう告げた。
「なに、少し無駄話でもしていこうと思ってさ。
折角お前も今は大人しくせざるえないみたいだし」
先約があるから、手短にな。
勿論、やり合うならそれでも構わない。
そう言って、少年は人を食った笑みを浮かべて、リーゼロッテの返事を待つ。
そのまま暫し時は流れ、やがてリーゼロッテは脱力したように溜息を漏らし、問う。
「……お前は一体“何”だ?」
人間ではない。確信を以て言える。
だが、邪精霊の様にも思えない。
では目の前の少年は一体なんであるのか?
話をするにしても、戦うにしても、それを明らかにさせておきたかった。
そんな考えからの問いかけに、くっくっと問われた少年は含み笑いを漏らし。
その後に返答を返した。“彼”の存在を示す答えを。
「さぁな?当ててみな」
「聞かなくても───お前はもう、俺の名前を知ってる」
それが、二人の“世界の敵”が邂逅を成した瞬間となった。
【一日目/日中/C-5 東京タワー前】
【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中 時間経過で小まで回復)、空腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(フラン、ジャック)
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:シカマル達を探しに行く。
1:気ままに殺す。
2:魔神王とは“四度目”はない。
3:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
4:シカマル達が、結果を出せば───、
5:江戸川コナンは出会うまで生き伸びてたら、な。
6:シカマルと逸れたが…さて、どうしたもんかね。
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。
【リーゼロッテ・ヴェルクマイスター@11eyes -罪と罰と贖いの少女-】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(小)、虚無の石との接続不良(大 時間経過で回復)、再生能力低下、魔力出力減少
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×2、羽蛾のランドセルと基本支給品、寄生虫パラサイド@遊戯王デュエルモンスターズ(使用不可)
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:虚無の石との接続を 回復させる。
1:野比のび太、フリーレンは必ず苦しめて殺す。
2:ヴェラード、私は……。
3:目の前の少年に対処する。
[備考]
※参戦時期は皐月駆との交戦直前です。
※不死性及び、能力に制限が掛かっています。
※幻燈結界の制限について。
発動までに多量の魔力消費と長時間の溜めが必要、更に効果範囲も縮小されています(本人確認済み)。実質、連発不可。
具体的には一度発動すると、12時間使用不可(フリーレン戦から数えて、夕方まで使用不可)
発動後、一定時間の経過で強制解除されます(本人確認済)。
※虚無の石との接続が初期化されました。時間経過や支給品によって回復しますが無尽蔵の魔力の制限と、再生能力が下落しています。
【自来也の封印札@-NARUTO-】
自来也がカカシに渡した九尾の力が漏れだした時の為の封印札。
額に張り付ければ即座に九尾のチャクラを抑え込むことができる。
劇中では二尾になったナルトを数秒で鎮静化させた。
投下終了です
投下ありがとうございます。
ガムテ、最期まで割れた子供達の味方として我愛羅の想いに応えて戦うのは熱い。
相手は邪悪な大人なので、初めてガムテが割れた子供達にならないよう大人の魔の手から守り抜けた形にもなるんですねぇ。
ナルト利用してエリス達殺そうとしたり、死体でクソガキムーヴかまし続けたのに最後は奇麗に逝くんだから、贅沢な奴だ。
イリヤも初めてこのロワで仲間を救えて、ようやく報われたなと。
散々冤罪吹っかけられて、シャルティアや悟飯ちゃんにボコられながら、やっと頼もしい仲間を手に入れたんやなと。
エリスも一度自分の目を覚まさせてくれたナルトに、今度は自分の番だと気合を入れに行くの完全なナルトの相棒ですよ。
ディオ君もニケへの嫌がらせでやってみた蘇生行為が、自分の延命に繋がったり。
ニケの良心がガムテに通じて、最期にガムテが初めて誰かを救えたロジックに繋がるのが丁寧で見事ですね。
リーゼロッテ、ステルスしながらふとした拍子に火力で焼きにくるのが厄介過ぎる。
なんやかんやで、光魔法軽く突破してるので強い。
ガムテにファンタズマゴリア打って、破られるのは正直予想できたんですが、そこから大臣達との会話に繋がるのがね……良いですね。
ヴィランVSヴィラン、一番見ててワクワクするやつでした。
そこから、急にログインしてきた絶望王君との対談タイム、ここだけ厨二病の濃度が上がり過ぎですね。
新スレ立てたので、投下や予約はそちらでお願いします。
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