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UnHoly Grail War―電脳聖杯大戦―
――ようこそ。
――ようこそ。
――ようこそ!
【wiki】ttps://w.atwiki.jp/tisnrail/pages/1.html
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『――おめでとうございます!』
『あなたは類稀なる運命に祝福され、見事我々が星の大海へ散りばめた“黒い羽”をその手に掴みました!』
『以上を持って我々はあなたを“Holy Grail War”――儀式・聖杯戦争の参加者(プレイヤー)と認めます』
『冬木の大地にはまだ見ぬ強敵と、あなたと共に戦い抜いてくれる頼れる相棒が待っていることでしょう』
『あなたが連なる艱難辛苦を乗り越えその手で聖杯を――すべての希望を掴む未来を、我々は心から応援しています』
『願いを叶えましょう』
『希望を掴みましょう』
『あなたが挑むのはパンドラの箱。さあ、底にあるエルピスを目指して』
『聖杯戦争を始めましょう。あなただけの、あなたのための物語』
『――我々が贈る、素晴らしき物語(ゲーム)を』
◆
「……なんて言えば聞こえはいいけどね。分かっちゃいたが実態はかなりえげつないな」
肩を竦めて言う男の腕には、真紅の刻印が浮かび上がっていた。
“黒い羽”に魅入られたことの証。聖杯を巡る戦いへ列席する資格ありと認められた、その証拠たる聖痕(スティグマ)。
路地裏に立つ男の前では、無残な姿になりさらばえた“プレイヤー”の残骸が散らばっている。
間接的にとはいえ自らの手で命を奪ったにも関わらず、男の関心は目の前の死体ではなくこのゲームそのものに向けられていた。
「勝手に資格とやらを掴ませておきながら、有無を言わさず肉体の強制的な電子化でこの電脳世界へと転移させる。
途中下車も叶わない、負ければ即データ消去の死出の旅。とんだデスゲームだね」
面倒な計算違いを起こしてくれたもんだよ。
言って面倒臭そうに嘆息し、男は額に走った横一文字の傷を指先で撫でた。
「お前が言えたことかって? まあそれを言われると弱いんだけどね、私も。
ただ巻き込まれた側の気持ちはよく分かったよ。これは大変に傍迷惑だ。どう収拾を付ければいいか、考えただけで今から頭が痛い」
――『聖杯戦争(Holy Grail War)』はデスゲームだ。
招いたプレイヤーを逃がす気が端から存在していない。
この世界への強制転移が完了するなり、プレイヤー達の脳に流し込まれた一通りのルール。
その中には、聖杯を獲得出来なかった陣営のプレイヤーには一切の救済が存在しない旨がさらりと織り交ぜられていた。
サーヴァントを喪失した時点でそのプレイヤーのデータ消去が始まり、最大六時間で確実に世界から放逐される。
要するに、生か死か(Dead or Alive)。
それがこの世界の理であって、このゲームの本質なのだ。
傍迷惑の誹りを受けるのも免れないだろう自分勝手な傲慢さは、人間には理解することの出来ない高座の視点から慈悲と称して試練を寄越してくる神仏のような趣を含んでいた。
だが、パンドラの箱とはよく言ったもの。
この世界にはありったけの災いと死が溢れているが――その荒波を泳ぎ抜いた先には、神話通りの希望(エルピス)が待っている。
「ただし、聖杯。あれは悪くないね」
聖杯。万能の願望器。神の如く振る舞うことが可能になるという、『Holy Grail War』の優勝賞品。
こんなことを仕出かす側の連中が言う景品など信じるに値しないと言われれば返す言葉もないが、しかし少なくともこの男はそこに関しては疑いを持っていなかった。
これだけのことを仕出かしたからこそ、逆に信用が出来る。
世界、時代、惑星、次元。あらゆる領域の垣根を超えてプレイヤーを一つの世界にかき集める、そこまでのことが出来るのならばとそう考えてしまう。言うなれば、巨大すぎる前科が聖杯という与太話としか思えない願望器の存在に信憑性を与えているのだ。
そして聖杯の存在とその権能が事実であるというのならば、それを見逃す手はない。
「奇蹟だとかそういうものに興味はないし、むしろ忌々しくさえ思っている身だけどね。
災いの波を泳ぎ、壷中の蠱毒を勝ち抜いて掴む奇蹟なんてものが本当に実在するのなら――それを神の祝福と呼ぶのはとんだ欺瞞だろう。
希望などと呼んでも誤魔化しは利かない。箱の底で眠っているのは、間違いなく極上の“呪い”だよ」
愉快愉快と笑う男の顔に浮かんでいる表情を表現するのなら、悪意の二文字を与えるのがきっと最も正しい。
人を人とも思わず。それが人でなかろうと構わず弄び、地獄に落ちるまで踊らせて使い潰す。そういう顔をしていた。
「呪いなら私の領分だ。タイミングは悪いが、機会をくれたことに対しては礼を言おう。しっかり勝ち上がってやろうじゃないか」
今は曰く予選、βテストの段階であるという。
ゲーム開始に向けて、集めたプレイヤーを更にふるいに掛けて選別する。
つくづく傲慢なことだと思うが、重要なのはその先だ。この聖杯戦争は――予選の終幕と共にようやく本来の形になる。
勝ち残ったプレイヤー達は、四つの“陣営”に大分されるというのだ。
そしてその後の戦いは残る陣営の数が一つになるまで、延々とチーム戦で行われる。
『聖杯戦争(Holy Grail War)』から――『聖杯大戦(Holy Grail War)』へと形を変える。
一人の脱落者も出すことなく大戦に勝利した場合でも、勝者全員に等しく賞品は配られるというから太っ腹だと言わざるを得まい。
「そういうわけで、君にも期待しているよ。君は優秀だ。私の望むだけの働きをしてくれるだろうと信じているよ」
この世界は、神を産もうとしている。
何の目的で、と問うても答えは出まい。
求められているのは疑問でも煩悶でもなく、生き様の選択だ。
戦うのか、戦わないのか――生きるのか、死ぬのか。
「……やれやれ、随分と嫌われたもんだ。傷付くね。私はこの通り、君のことを結構買っているんだけど」
“黒い羽”が舞っている。
“黒い羽”は、選択の時間を与えない。
「君もそう変わらないだろう? 仲良くしようじゃないか――呪いらしくね」
◆
――ようこそ!
――ようこそ!
――ようこそ!
――ようこそ、我々の世界へ!
◆
【企画について】
TYPE-MOON原作の『Fate』シリーズに登場する架空の儀式、『聖杯大戦』を版権キャラで行おうというクロスオーバーリレー小説企画になります。
当企画にはその性質上、暴力やキャラクターの死亡描写などが含まれます。くれぐれもご用心ください。
【舞台設定】
舞台は電脳世界の『冬木市@Fateシリーズ』です。
現在は予選段階となっており、一定数までプレイヤーが減少した時点で(メタ的に言うと作品募集の期間が終了した時点で)予選は終了。勝ち残ったプレイヤー達は四つの陣営に分けられ、『聖杯戦争』ではなく『聖杯大戦』に臨んでいくことになります。
プレイヤーは『黒い羽@???』を手にしたことで聖杯戦争に参加する権利を手にし、電脳の冬木市に転移させられます。
【聖杯戦争のルール】
マスター(プレイヤー)とサーヴァントが二人一組になって聖杯戦争を行います。
サーヴァントを失ったプレイヤーは六時間以内に代わりのサーヴァントを見つけて契約を結ばなければ、データが消去され消滅してしまうのでくれぐれもご注意ください。
また電脳の冬木市にはNPCとして市民が配置されており、普通に生活を送っています。彼らは聖杯戦争のことを知りません。
プレイヤー達もこのNPC達に溶け込む形で冬木市内における仮初の役割(ロール)を与えられます。が、例外もあるかもしれません。この辺りは候補作投下の際にご自由に設定していただければと思います。
季節は冬の設定です。聖杯大戦の開始(当選発表)を12月24日・クリスマスに当てる予定ですので、そのつもりで製作していただけると幸いです。
『黒い羽』については、[今後のアップデートをお待ちください]。
【聖杯大戦のルール】
予選を勝ち抜いたプレイヤーは四つの陣営に大分され、聖杯大戦へと参加します。
残り陣営が一つになった時点で生存していたその陣営のプレイヤー全員に“聖杯”が与えられます。
該当陣営以外の生存プレイヤーは全て消去されます。
※[今後のアップデートをお待ちください]※
【登場話の公募について】
採用予定数は20騎or24騎です。
予選終了後に聖杯大戦化する都合もあり、これ以上の増減はないと思っていただいて構いません。
期限は11月上旬〜中旬程度を目処に考えておりますが、候補作の集まり具合や>>1 のスケジュールの都合などで変動する場合がございます。詳しい日取りは追って通達いたします。
◆受け付けられない候補話
・トリップなしでの投稿。
・出典が「現実」「ネットミーム」「オリキャラ」のもの。
・公式で二次創作が禁止、及び死亡など特定の描写が禁止されている作品のキャラクター。
・盗作。
(※他の企画・フリースレに投下した作品を流用される場合は、必ず同一トリップで投下していただくようにお願いします)
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以上をもってOP、ルールの投下を終了いたします。
此処まで読んでいただいた方、誠にありがとうございます。
続いて、候補作を一つ投下させていただきます。
◆
「ねえ――どうしたら永遠になれると思う?」
ずっとずっと、辛かった。
昨日まで出来たことが一つずつ出来なくなっていく。
昨日まで当たり前だったことが、次の日には当たり前じゃなくなっている。
そんな苦しいだけの時間を過ごすことに、あの日からもうずっと疲れきっていた。
「わたしは……何かが終わったときはじめて、永遠になるんだと思う」
わたしはきっと、とてもどうしようもない人間なのだと思う。
誰かに感謝するということが出来ない。
感謝していても、ふとした拍子に出る感情がそれを踏みつけにしてしまう。
わたしのせいで落ちなくてもいい生き地獄に落ちたあの子に、それでもわたしに寄り添い続けてくれたあの子に。
わたしは最後の最後まで、“わたし”を押し付けてばかりだった。
「いつか来る終わりに怯えながら生きるのは、きっとすごく苦しいんだろうな」
生きるのは辛いから。前を向くのはとても苦しくて、怖いから。
だからいつだって私は下を向いて膝を抱えて、逃げていた。
考えなんてせずに行動して、それで当たり前のように現実が駄目になっていけば当たり散らして困らせて。
……わたしという人間が、嫌になるほど自分のまま壊れていくのを、あの子は最後の時までずっと見ていた。
「ひなは……」
ひな。わたしの選んだ女の子。
わたしが、全てを押し付けてしまった馬鹿な子。
わたしなんて捨てて逃げるなり自分の生活を始めるなりすればいいのに、いくら疑っても罵っても、結局最後の最後までわたしに付いてきたひな。わたしを助けてくれた――ひな。
わたしにとってひなという人間は、一体なんだったんだろう。
打算ありきで選んだ付属品で、わたし個人の趣味嗜好を満たすためのペットみたいな存在。
わたしが言えば何でもするし、どんな我儘でも聞いてくれたあの子は、最後の夜でもやっぱりそうだった。
「わたしたちを永遠にしてくれる?」
わたしがそう言った時、ひなはどんな顔をしていたんだっけ。
ああ、そうだ――あの子はとってもきれいだった。
夜の暗い部屋の中に輝くお星様みたいだとそう思った。
ひながかわいいから、わたしはあの子を選んだんだ。そんな始まりを今になって思い出す。
ひなはわたしの願いを叶えてくれた。勘違いしていたのはわたしの方だ。
一時ちっぽけな夢を見たせいであんなに苦しんだのに、わたしはまだ馬鹿な夢を見ていた。
涙を流しながらあの子に首を絞められて、そうして辿り着いたその先は――“永遠”なんかじゃなく。
辛くて怖い、とても恐ろしい――また新しい“有限”だった。
◆
「は、あ……っ!」
目覚めは最悪だった。
この世界に来てからも、瀬崎愛吏の日常は何も変わっちゃいない。
寝汗でびっしょりと濡れた身体で荒く乱れた呼気を吐く。
しばらく呼吸を整えなければ、額に浮かんだ汗を拭うことさえままならない。
「……っ」
世界は愛吏に元の日常を与えてくれていた。
あの日、どこかの誰かが愛吏が放課後に繰り返していた“遊び”の写真をクラス中にばら撒く前の日常だ。
成績優秀で眉目秀麗な優等生。友達も大勢いて周りからの信用も篤く、何をするにも苦労しない悠々自適な学校生活が保証されていた。
それでも愛吏は、もう一度あの明るい景色に戻ることが出来なかった。
教室に入った瞬間に息が出来なくなって、踵を返してトイレに駆け込み胃の内容物も全て便器にぶち撒けていた。
嘲笑と好奇の目、軽蔑に満ちた手のひら返し。
愛吏を堕ちるところまで堕落させた要因達が、あの教室で何もなかったような顔をして笑いかけてくる光景に耐えられなかった。
自分はもう二度と、“ああ”はなれないのだと――心底思い知った瞬間だった。
「ひな…………」
怖い。生きることはとても怖くて、辛い。
永遠なんてどこにもないのか。結局人間に生まれた時点で、こうして苦しみながら何かに怯え続けるしかないのか。
絶望の中で呼んだ名前が、しかし愛吏に応えてくれることはもうない。
「たすけて、ひな……っ」
ひな――花邑ひなこという少女は今、瀬崎愛吏の隣にはいなかった。
携帯電話の連絡先を穴が空くほど探しても、彼女に該当する名前は見つからなかった。
恐怖で震える手を圧してSNSでクラスメイトに訊いてみても、怪訝な返答をされるばかりだった。
……この世界の瀬崎愛吏の日常に、“ひな”は存在していない。
それを知った時、愛吏は叫ばずにいられなかった。もう限界だった。こんな世界で一人で生きねばならないと考えるだけで発狂しそうで、でもこの首を自ら断ち切る勇気は相変わらずなかったからだ。
一人で、というのは少々語弊があるだろうか。
正確には愛吏は一人というわけではなかった。彼女とて黒い羽に選ばれた“プレイヤー”。他のプレイヤーと同様に、彼女の元にも聖杯戦争を戦い抜く為のサーヴァントが召喚されている。
しかしそれは愛吏の孤独と絶望を解消することも、紛らわすことさえもなかったが。
「やれやれ、つくづく成長しない娘だ。こんな砂利に己が天命を預けねばならないとは、私の方こそ泣きたくなる」
その性格を表すような、吊り上がった眼の男だった。
この男こそが瀬崎愛吏のサーヴァント・セイバーである。
「……あんたと話すことなんて何もない。あんたはサーヴァントとしての仕事だけしてればそれでいいのよ」
「私もそのつもりなのだがね、しかし聖杯戦争というのは主従で一丸となって行うものなのだろう?
私が君の“従者”だなどと考えた日には羞恥の念でこの喉笛を掻き切りたくなるが、久方振りの現世を屑籠に放るような真似はしたくない。
感謝して欲しいものだな、マスター。これでも君が殺される可能性を危惧して、その惰眠を守ってやっているのだから」
愛吏が持っている聖杯戦争に対する知識に、初期段階で齎された以上の物はない。
だがこのセイバーがどうやら並の水準には収まらない手練であるらしいことは、何となく分かっていた。
こいつに任せていれば、本当に聖杯にだって辿り着けるかもしれない。
それは愛吏にとって福音以外の何物でもなかったが、しかし愛吏はこの男のことが嫌いだった。
理由など、この厭味ったらしい台詞を聞けば瞭然だろう。
この男は――さしずめ、他人への悪意が服を着て歩いているような男だったから。
「昨日、君の夢を見た」
「……っ」
「一体如何なる悲劇があり、こうまで惰弱にへし折れたのかと思ってみれば……実につまらん内容だったよ。
雛鳥同士が睦み合っての共倒れだなんて、今日び三文芝居にもなりはしない。ああ、実に――実に時間の無駄だった」
「知った風な口利かないで!」
気付けば、愛吏は叫んでいた。
今更そうしたって何の意味もないというのに。ましてやこの男に対して感情を剥き出すことは、即ち自分自身の傷口を晒すような行いでしかないのだと分かっている筈なのに、そうせずにはいられなかった。
ハッと気付いた時にはもう遅い。セイバーはニヤニヤと笑いながら愛吏のことを見下ろして、その口を動かし続ける。
“効いている”と分かったのだ。であれば、更なる加虐に打って出るのが彼という英霊である。
「逆に問おうか。何故怒る? 雛鳥の不在がそんなにも寂しいのか」
「あんたに、……あんたにわたしの何が……!」
「“わたしの”、か。“わたし達の”とは言わないんだな」
「――っ!」
その指摘に、愛吏の喉元まで出かかっていた続きの言葉は呆気なく霧散してしまった。
「君は愚鈍だが、莫迦ではないように見える。詰まるところ既に気付いているのではないかな」
「……何を、言って」
「しらばっくれるなよ。この世界は君にとって理想の郷だろう」
……愛吏はかつて、自業自得の末に全てを失った。
今まで築いてきた全てだ。残ったのは甲斐甲斐しくまとわりつく一羽の雛鳥のみ。
彼女だけが愛吏の味方だった。そこに嘘偽りは微塵もありはしない。
だが――そもそもの始まりが、雛鳥だったのもまた事実なのだ。
「君を嗤う人間はいない。戻ろうと思えば君は、今からでもいつだって日常に還ることが出来る」
花邑ひなこがいなければ、瀬崎愛吏は道を踏み外さずに済んだ。
自分の中に存在する性癖に気が付いて、それに倒錯することも。
そのためにリスクを冒して遊び続け、環境も信用も、未来さえ失ってしまうことも。
明日を生きたくないと思ってしまうほどの痛みをその胸に抱えることも――きっとなかった。
「要するに君という人間にとって、最も大きな過ちが雛鳥の存在だったわけだ。
実に嗤える喜劇じゃないか。甲斐甲斐しく飛び回って尽くしていた雛の飛翔こそが、君を引きずり下ろした何よりの要因だったと。
ああ、マスターよ。私を呼び寄せた幸運なる“プレイヤー”よ。君はこの世界に――“聖杯”に感謝するべきだな?」
瀬崎愛吏にとって真に不要だったものは、その愚かしさでも癖でもない。
その眩い日々を終わらせ、優秀だった少女を失楽に追いやったのは、他でもない――
「雛鳥のいない世界。穢いばかりの愛を抱えることなく歩む道。
見ろ、君の願いは既に叶っている。後はこれを君の好きな“永遠”にするだけだ」
「――セイバー!!」
二度目の叫びは、ただの激怒じゃない。
息を乱しながら、その怜悧な出で立ちを睨み付けて右手を突き出す。
三つの輝きを模した刻印があしらわれた右手。それは、このセイバーを諌める首輪に他ならなかった。
「……調子に乗らないで。あんたなんて、わたしの気持ち一つで今すぐにでも殺せるんだから」
「確かにそうだな。君が一声命じれば、私はすぐにでもこの腹を捌く羽目になるだろう。だが……」
しかしそれでも、この狂犬に歯止めを掛けるには不足が勝つ。
「君に出来るのか? 私を殺すことが。
片割れを失ったプレイヤーは死ぬ。この世界から放逐される。臆病で愚鈍な君に……その末路を選び取ることが本当に出来るのか?」
「……馬鹿にしないで。そんなの、そんなの――」
「ああいい、言わずとも分かる。君はそれが出来なかったから、ああも無様に死んだのだったな」
カッと頭に血が上る。
それを諌めたのは喉笛に突き付けられた、セイバーの刀だった。
「因みに。脅すのならば面と向かっては避けることだ。
私がこの場で君の喉を少し切ってしまえば、君の命を保ったまま令呪を潰すことが出来るのだからな」
「っ……! ひ、……っ」
「そうだ、君にはその顔が一番似合う。命が惜しくば、何かに怯えて青褪めたその顔をずっと続けているといい。
傍から見ている分にはそう悪くない見世物だ――見物料代わりに生と、雛鳥のいない理想の世界で生きる権利を恵んでやろう」
――惨めで惨めで仕方なかった。この男の生殺与奪すら、実際のところ愛吏は握れていないのだ。
瀬崎愛吏とは、このセイバーの現界を維持するために設置された外付けの心臓であってそれ以上でもそれ以下でもない。
彼が何を囀ろうとも、何を罵ろうとも、愛吏にはそれを諌めることが出来ない。
それをするには愛吏は弱すぎた。あまりにも無力で、何も持たない小娘だった。
そんな愛吏にただ一つ――ただ一つこの男に報いる手段があるとすれば、それは。
「……セイバー。わたしもね、この前夢を見たよ」
セイバーの肩が小さく動いた。
恐怖に歯が震えそうになるのを必死に堪えながら、愛吏は彼に問い掛ける。
「いつか訊こうと思ってたの。ねえ、セイバー……」
それがせめてもの意趣返しになると、そう信じて放つ言葉。
それは――
「最後に、星は見えたの?」
「黙れ」
今までに聞いたこともない、氷点下の殺意を以って放たれる返答を喚んだ。
愛吏の首の薄皮が裂ける。その小さな痛みと出血が、次はないのだと端的に物語っていた。
「お前如きが、二度とそれを口にするな」
愚かな女は、愚かな男の末路を知っていた。
聖杯戦争において、主従は夢を介してお互いの記憶を共有することがあるという。
セイバーが愛吏の罪と罰を目の当たりにしたように、愛吏もまたセイバーの末路を見ていた。
……自分はこの男にとって、吹けば飛ぶような小さな存在でしかない。
不用意に嘲れば、それはきっと必ず最悪の結果を生む。
本当に自分の首を斬ることさえ、いざとなればこいつは厭わないだろうと愛吏は確信していた。
なのにも関わらず続く言葉を紡いだ理由は――今はまだ、愛吏自身にすら言語化することが出来なかったが。
「わたしは、見たよ。星」
あの時、あの夜、あの部屋、あのベッドで。
泣きながら自分の首を絞めたあの子の表情(かお)こそが、きっと瀬崎愛吏にとって無二の星だった。
◆
「ざまを見ろ……ざまを見ろ、京楽春水!」
幾度となく身体を貫かれて、男の肉体はとうにいつ地獄へ落ちるか秒読みの段階に入っていた。
悪意の種を仕込んだ男でもなく、彼の縁者たる死神達でもなく……誰とも分からない取るに足らない雑魚に殺される。
その状況は不思議と屈辱ではなく、男に今際の際でありながら無限大の愉快さを齎していた。
「俺の命脈はここで潰えるぞ、京楽! お前達は、ここにいる名も知れぬ小娘にすら勝てなかったわけだ!
お前は俺に届かなかった! やっとだ! やっと俺はお前に一泡吹かせてやったぞ!
残念だなあ! 哀れだなあ! 死神どもめ! お前達はこれで、私を永遠に罰することはできぬ!」
こみ上げてくる吐血の煩わしさも、一秒ごとに近付いてくる死の気配すらも彼にとって何ら問題ではなかった。
男はただ嗤っていた。ただただ、壊れたように、狂ったように嗤い続けていた。
命を奪う為に刃を突き立てた当人でさえ怯えてしまうほどの狂態を、死の間際にありながら晒し続けていた。
「どうだ、東仙! 悔しいか? 俺は――私は、貴様にしたことを微塵も後悔せぬまま死ぬぞ?」
あるがままに振る舞い、あるがままに殺し続けた。
あるがままに全てを弄んできた末路がこれだというのなら、やはりこの世に因果も応報もありはしないのだと男は死にながら確信する。
結局のところ、自分という存在に対し何かを燃やした者は誰一人此処まで来られなかったのだから。
「どうだ……浮竹……! 貴様が信じようとした男は……何も変わらぬまま……死ぬぞ…………」
愉快、痛快。
尸魂界の宿業はこうして、最後の最後まで嗤いながら消えていくのだ。
これに勝る結末があるものか。無いと断ずる。そうでなければこうも愉快に死ねるものかと。
「どうだ……歌匡……私は……星を……」
そう思いながら息絶えるその今際に吐いた言葉の。
その続きだけが――どうしても、思い出せないのだった。
◆
二人の囚人が鉄格子から外を眺めた。
一人は泥を見た。
一人は星を見た。
――フレデリック・ラングブリッジ『不滅の詩』
◆
【クラス】
セイバー
【真名】
綱彌代時灘@BLEACH Can't Fear Your Own World
【ステータス】
筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:A- 宝具:A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
【保有スキル】
死神:B
広義における死神ではなく、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の守護を請け負う存在の名称。
悪霊及びそれに準ずる存在に対する攻撃判定にプラス補正を受ける。
セイバーの場合、自らの行いで死神の座を降りているためランクが落ちている。
悪意の器:C+
曰く「『できない』と見せかけておいて、土壇場で『実はできた』と相手を絶望させるのが好きな男」。
他人に対し思う存分に悪意を向け、その心と身体を弄ぶ。
とはいえこれ自体に特殊な効力があるわけではなく、精神攻撃の補正が得られる程度。
しかしセイバーの“斯くある”ことへの執念はある種異様なものがある。
権謀術数:B
邪悪を画策する能力。秩序を破壊し、善を穢す。
蜘蛛糸とまでは行かずとも、セイバー自身の実力があればこれで十分。
【宝具】
『九天鏡谷(くてんきょうこく)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜 最大補足:1〜
綱彌代家に代々伝わる斬魄刀。
不可視の鏡のような結界を展開し、相手の技や術を跳ね返す能力を持つ。
『艶羅鏡典(えんらきょうてん)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜 最大補足:1〜
九天鏡谷など偽りの銘。その真銘は艶羅鏡典。
斬魄刀――死神が振るう刀の持つ能力を自在に模倣する能力を持つ。
模倣出来る範囲は“始解”の範疇に留まるが、使用回数に制限はなく、同時に並行して複数の能力を運用することも問題なく可能。
始解の性能はセイバー本人の霊圧(聖杯戦争の場においては“魔力”)に左右され、元がセイバーよりも格下の霊圧の持ち主であれば能力は強化され、逆に元が格上ならば能力は弱体化する。
更にデメリットとして、この力を使う度にセイバーの魂魄は治療不可能のダメージを受ける。
平時この宝具は『九天鏡谷』として扱われ、直接誰かに暴かれるまで如何なる手段にあっても特定されない。
【weapon】
『艶羅鏡典』
【人物背景】
かつては死神でありながら、自ら犯した咎で護廷十三隊を離反した男。
他者を蹂躙することを愛し、心を弄ぶことを何より愉しむ。
力と頭脳、身分と全てを有しながら、ただ一つ“星”だけは見られなかった愚かな男。
【サーヴァントとしての願い】
何も変わらない。
ただ享楽のままに、世界の崩壊を願うのみ。
【マスター】
瀬崎愛吏@きたない君がいちばんかわいい
【マスターとしての願い】
……わたしは。
【能力・技能】
成績優秀。意識して自分の外見外聞を演出することに長ける。
しかし今は心の折れたただのか弱い少女でしかない。
【人物背景】
自業自得の末に全てを失くし、その果てに永遠を願って雛鳥の手に掛かった少女。
死の間際、一枚の“黒い羽”に触れてこの世界へと招かれた。
令呪は三つの星。
投下終了です。
改めてこれからよろしくお願いいたします。
昨日の今日ですが候補作募集について、ルールを二点追記します(wikiの方にも加筆しておきました)。
①投下可能なクラスは通常の七騎+エクストラクラスになります。
フォーリナーなど作中に存在するものから、公式には存在しないオリジナルのクラスでも自由に設定していただいて構いません。
ただ、ルーラーに関しましては運営上の観点から採用が難しくなることを明言しておきます。
②NPCを候補話の中で殺害することは自由とします。ただし、ネームドキャラの殺害はお控え下さい。
今更の内容ですが、加筆は以上になります。
また、企画運営・交流用にTwitter(X)アカウント『@leaveainz』の方を開設させていただきましたので、何か質問などございましたらそちらでお声掛けいただいても構いません。
それでは、改めて当企画をよろしくお願いいたします。
Fate/Aeonから自候補作を流用したものですが投下します
手に入れるのが勝利なら 手放すのは敗北でしょうか
誰も傷つかない世界 なんて綺麗事かもしれない
それでもまだ賭けてみたい
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
冬木、電脳の世界に再現されたとある学校。
そこに通っている翠下弓那という少女を端的に表すならば、『バカ』の二文字が相応しいだろう。
色鮮やかな桃色の髪と目立つ上、ほかの女子生徒と比べて顔立ちもスタイルも良い方である。流石にその専門と比べるのは烏滸がましいが、それでも男子人気は高い方ではあった。
そんな人並み以上には美人と言われる彼女ではあるのだが、生徒たちからの人気は兎も角先生組からの評価は芳しくはない。その理由としては先程あげた『バカ』と言う特徴。
テストで赤点は当たり前。追試及び追々試でギリギリ粘って縋りつき、なんとか留年は免れているという体たらく。カンニング等の不正にまで手を付ける程落ちぶれていないのが救いなぐらいで、見かねたクラスメイトにカンニングを薦められたが断ったのが記憶に新しい。
そんないい意味でも悪い意味でも有名な彼女であるが、時折空を見上げることが多くなった。
単純に呆けているのか、成績に憂鬱を覚えているのか。そう考える生徒や教師は多かったが、その実態は何かが欠けているという違和感からのモヤモヤであった。
何かが足りない。誰かが足りない。そんな鬱屈した感情を抱えは授業に支障を来すのは明白。事実、数学の補修授業の一つを呆けたま聞き流しにしたせいで内容が全く入って来ず追試でまたしても赤点を取ることになった。
次の追々試を落としてしまえば逃れられぬ絶望へとゴールイン、もとい留年確定。なので必死に補修を受けるも先のモヤモヤのせいで脳に勉強内容が入ってこないという悪循環。
ただし、彼女は人並み以上のバカ。なのでテスト前日だというのに何も考えられず一先ず就寝。明日は明日の風が吹くと割り切るしかなかった。
その夜、珍しく夢を見た。夢というよりもまるで現実のような感触ではあった。
誰もいない映画館で、映写機に映し出される妙なドキュメンタリー番組を一人でみるような、そんな妙な感覚に陥るような夢。
嵐の中を進む少女がいた。全てが黒く染まった世界の中、地平線の彼方、さらに向こう側にあるであろう星の輝きに向けて歩みを進める少女がいた。
見るからに辛そうで、見るからに疲れていて、見るからに今でも立ち止まりそうだった。けれど、それでもその彼女は光へと歩き続けていた。
彼女を突き動かす衝動は何なのか、彼女はどうしてここまで頑張るのか。辛いのなら逃げ出してもいいのに、後ろを振り向いてもいいのに。
それでも、嵐の中の少女は、たった1つの輝きを見つめて、歩いていく。
ただし、肝心の視聴者たる弓那の反応は、真顔だった。
何この、何……とでも言うのか、よくネット上のソーシャルネットワーク等で見る、宇宙を背景に真顔となっている猫の顔のような、困惑と意味不明に包まれている。
そして次の朝から追々試であることを振り返り、どこからともなく出現したノートと鉛筆と参考書・教科書その他etc、に手を取り眼の前の光景そっちのけで予習と復習を開始。
少女の物語ガン無視である。それほどに必死なのか、それとも留年したくという執念なのか珍しく勉学がはかどる。
……なのが続いたのは開始してから数分程度。途中から頭を悩ませてキャパシティ超えて知恵熱が出始め最終的にぶっ倒れた。夢の中なのに。
そのうち意識は混濁し、夢の時間は終わり、現実の時間へと帰還してゆく。その刹那、再び嵐の中の少女を再び目に焼き付ける。
この時はまだ、その程度の記憶でしかなかった。まともに見てすらいなかったのもあるが、見ず知らずの少女が、何故あんなことをぐらいの、その程度の感傷と興味ぐらいだけは、多少は弓那は思っていたのかもしれない。
「……あなたが、私のマスターですか?」
次の朝、目を覚ませば知らない女の子がベットの隣に立っていた。わけがわからなかった。
普通の女の子だった。服装こそ青と白を基調とした衣装、青いマントを羽織った着こなし。ファッションには間違いなく素人目であろう弓那から見ても、生地からして選りすぐりの職人が仕立て上げた一品。
凛とした顔立ちこそしていれど年はおそらく自分と殆ど変わらない、凡そ十六〜十七程の齢。揺蕩う金髪が窓風に当たり静かに靡く姿は、まるで光の子。
素性は全く不明、ただし此方への態度や服装を鑑みるに間抜けな金品泥棒という訳では無さそうではあった。
少女の声を聞いた瞬間、弓那は全てを思い出した。
この世界が偽物であること、本来の記憶、ここには居ない仲間たち。そして脳内へと注入(インストール)される知らない記憶。魔術、聖杯。聖杯大戦。サーヴァント。令呪。
翠下弓那はあんまり理解していなかった、て言うか追々試が迫ってるのに余計な知識勝手に突っ込むなと内心逆ギレ。
「……あ、あの?」
少女の方といえば、弓那の心情を見抜いたようにか、まるで心の内まで丸裸に見通しているような、絶妙な表情で彼女に呼びかける。
「……ええと、その。サーヴァント、キャスター。参上しました。」
キャスター、魔術師。基本的に七騎と定めれている英霊のクラスの一つ。弓那のちゃらんぽらんな頭でも、一応そのぐらいは理解できた。
魔術師、つまり魔法使いと言うことになる。アニメ・マンガとかのサブカルチャー類におけるメルヘンでファンタスティックで、時に暗く陰湿な、そんな物語上の存在のはず。
古めかしいドレスの古臭いものから、現在のキラキラ衣装を着込んだ魔法少女スタイル。魔術を使うもの、という世間一般の基本イメージとはそういうものではある。
かの世界における魔術と魔法は決定的な違いは存在するのであるが、今の弓那にはそんな違いを理解する余裕も時間もない、そもそもそんなこと理解していない。
「ねぇ……。」
猫のような細い目で疑いを向けていた弓那が、漸くキャスターと名乗る少女へと問いかける。
不審者が来た途端、まず色々と変な知識を頭の中に割り込みさせられて、不機嫌じゃないはずがない。
そもそも弓那にとっての最優先事項は聖杯戦争なんて言う蛆の湧いたような話題ではなく、数時間後に行われる予定の追々試。
今後の未来、留年という名の地獄にかかわる人生の分岐点。ここで失敗してしまえば輝かしい未来なんて木端微塵に砕け散る。
だがピンチとはチャンスに変えるもの。起死回生の一手が目の前にいるじゃないか、眼前にいるサーヴァント、キャスター。魔術師。魔法使い。
等のキャスター本人は未だ困惑の表情というよりも、この後の展開を察したのかあからさまに嫌そうな顔で目をそらしている。どう考えてもろくな考えしていなさそうだとか、弓那の顔を見ずともわかる。
留年回避の手段しか頭になかった弓那は馬鹿ながらも脳細胞フル回転し、閃いた。
「魔法っていうか、魔術、使えるのよね?」
「はい。」
キャスターはこの時点で諦めた。そして既に透けているであろう答えを、虚無のような視線で待つ。
そして弓那の方は滅茶苦茶真剣な視線で、意を決して口を開こうとする。
藁にも縋る思いとはこのことだろうか、カンダタという名の地獄の罪人が、釈尊の慈悲によって降ろされた一本の蜘蛛の糸に縋り登ろうとしたように。
「あんたの魔術で、今からあたしの頭をもの凄く良くするとか出来る? 今からあの参考書の中身全部暗記できるぐらいに。」
無造作に積み上げられたであろう蔵書の山を後目に。
やっぱり碌でもない。と、キャスターは分かりきった呆れ顔を浮かべ。
「無理です。」
抑揚のない冷たい声を上げたこの時、翠下弓那の希望は木端微塵に打ち砕かれた。
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翠下弓那は残念でもなく当然に、追々試を落ちた。担当教師いわく、今までで一番酷い内容だったらしい。
解答用紙のほとんどが空白で、追々試前日に必死になっていたのが嘘のような悲惨な結果であった。見事なまでに赤ペケの羅列が並んだ、採点結果さえ気にしなければ一種の芸術のような完成度だったと。
だが、そんな結果に反して弓那の態度はあまりにも明るかった。まるで重荷から解き放たれたかのような、今年一番の満面の笑みを浮かべてスキップしていた姿を誰かが見かけたとか。
一部生徒や教師は、「留年決定で心が壊れてしまった」とか、今までにの彼女の性格を考慮しての悲壮な予想・憶測が乱立し、心なしか弓那に対する他生徒の態度が優しくなったりしていた。
だが、事実は違う。翠下弓那が留年決定後、詰め込まれた知識を振り返って一旦は安堵したから。つまり、この世界が全く偽物で、この世界で留年しても別に何ら問題はないことを理解したからだ。
元の世界ではちゃんと卒業できてるんだし、別にこの学園卒業する必要ないよね? こっから脱出できればそれでOKだし、という余りにも短絡的な思考。
翠下弓那が通っていたのは神撫学園であり、この偽りの学園ではい。とは言うものの前後数日間の、この世界でのクラスメイトとの交友は楽しかったし、そこは偽物とは全くもって割り切りなどはしなかった。
勿論、記憶を勝手に捏造されていたり、消されていたりした事には腹を立てていたのだがそれはそれ。
所変わって、この冬木で弓那が住まいとしているアパルトメントの一室。
記憶を取り戻す前に熱心に勉強していた証として積み上げられていた蔵書の類は今は本棚に戻っている。
小さなダイニングテーブル、勉強机と椅子、小型テレビ、冷蔵庫、バスルーム、ふかふかのベット。
学生の一人暮らしという点において、簡易ながらも十分なラインナップでありながら、普遍的な意味で満足した生活が送れるであろうマイスペース。
で、その部屋主であり、現在進行系で聖杯戦争という舞台に巻き込まれた翠下弓那はと言えば、絶賛正座中でキャスターにより急きょ開かれた勉強会を受けている。
理由は至極当然。追々試に記憶力のリソースを大幅に置いてきた結果、まともに聖杯戦争に関する知識を某にぶん投げた、というか忘れた。
そのためキャスターがこうやって『バカでもわかる聖杯戦争』とい名の勉強会をする羽目になったのだ。
「……これが聖杯戦争に関する、私が教えられる大体の知識です。と言うかなんですか、インストールされておいて忘れたってどういうことなんですか? 私別にこういう先生やるようなキャラじゃないんですよ?」
「……ひゃい。」
3時間の勉強会の末なんとか最低限の知識は叩き込むことは出来た。あくまで最低限ではあるが。
英霊というパートナーと令呪と言う手綱を率いて、他の主従と戦い殺し合い、その果てに絶対不変の願望機である聖杯を手に入れる。そして聖杯を手にした者にのみ、たった一つ、どんな願いでも叶える事ができる。
言葉に表してしまえば、簡単なことだ。陳腐なバトルロワイアルそのものでしかない。
それをキャスターのマスター、翠下弓那はようやっと、正しく把握できたのだ。
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サーヴァント。アルトリア・キャスター。―――聖剣の担い手アルトリア・アヴァロン
オルタ、聖槍の獅子王――アルトリアと言う英霊の派生は多々あれど、魔術師のアルトリア、という存在はまず汎人類史ではあり得ない。
そもそもアルトリアという人物の性質上、もし修行をしたところで半年でほっぽり投げるのが目に見えている、一人前の魔術師など夢以外の何物でもない。
が、この世には例外というのが存在する。剪定事象、異聞帯という、終わりが決まった歴史にて、魔術師としてのアルトリアは存在していた。
ブリテン異聞帯。始まりの妖精たちが本来為すはずの聖剣作成をサボった結果ブリテン島以外滅亡という、もしもの"IF"だとしても限度がある過程を辿り生まれた歴史。
最初から終わった世界を、妖精妃モルガンが無理やり存続させて生まれたのか妖精國、そこに『予言の子』として送り込まれたのがアルトリア・キャスターという『楽園の妖精』であった。
ただし、現在この電子の冬木に英霊として呼ばれたアルトリア・キャスターと、ブリテン異聞帯の『予言の子』は厳密には違う。
『予言の子』は最終的に聖剣そのものとなり、『星を脅かす脅威に対抗するもの』の助けになる人理補助装置となったのだから。
そんな彼女が、何の因果か聖杯大戦のサーヴァントとして呼ばれたのだ。
「つまり最後の一人になるまで帰れないってこと? ふざけんじゃないわ!」
そして現在、聖杯戦争という催しそのものに憤りを見せているのが、アルトリア・キャスターのマスターとして選ばれた翠下弓那と言う少女である。
「せっかく留年回避したのに出席日数不足でまた留年の危機ってどういうことなのよ!?」
そっちですか、ともはや見え透いた答えを妖精眼で見つめ、呆れ返る。
アルトリアの保有する眼、妖精眼と言われる真実を見通す眼は、弓那が抱えている本心を何もかもお見通し。
人の本心が何もかも見える、という事は決して良いものではない。全ての本音が理解できてしまう、というのは、全ての醜さを目の当たりにしてしまう、ということ。
まあ、弓那の方は表面も内面も短絡的な方向性に極まっているのか、妖精眼で見たところでなんら変わりはなかったわけであるが。
「こうしちゃいられないわ、さっさと元の世界に帰らないと!」
「まあ、やる気満々なのは別にいいことだと思いますけれど……」
聖杯を手に入れる、という一点においてはアルトリアとしても異論はなかった。
懸念すべきはその過程であり、マスターが虐殺等を許容するような人物であればこちらも身の振り方やマスターへの対応を考えてはいたのであるが、この彼女はそんなことは一切考えてい無さそうだったのでその点は安心はできた。
「……ていうかさ、キャスター。」
「なんでしょうか?」
「……どっかであったことある? 主に夢の中とか?」
本当に唐突な、自分のマスターの発言。だが内容には納得はできた。
マスターはサーヴァントの過去を夢として垣間見る。厳密には過去の追体験に近しいもの。
召喚前後で記憶を識る、という現象自体はそこまで珍しいものではない。彼女もまた、夢という形でアルトリア・キャスターという存在の過去を夢として見ていたのだ。
「恐らく、それはマスターとサーヴァントがパスを繋いだことによるものですね。」
「もしかしてキャスターのだった?」
「……どのような夢だったのでしょうか?」
「嵐の中で輝いてるなんかに向かってくあんた。まああたしはあの時映画館みたいな所で見てたし、その時は追々試の勉強やってたからあんま覚えてなかったけど。でも、あんたの、キャスターのそれだけは覚えてたわ。」
弓那が虚構に気付く前日の夢。鮮明に記憶に残る嵐の中を突き進むキャスターと瓜二つの少女。
辛そうな、今にも崩れ落ちそうで、それでも進む彼女の姿を弓那は知っている。
あの時は、砂粒ほどの感傷でしかなかったが、こうも当人(?)に出会ったのだ、気になった。
それに、自分のサーヴァント、というのだから、理解はしたかったのだと思う。
このまるで、衣装だけはちゃんとしていた、ごくごく普通に少女に見える、この彼女に。
「……キャスターはさ、どうしてだったのかな。辛かったら、逃げても良かったんじゃないの?」
らしくもない顔で、弓那はキャスターに尋ねていた。
ただ我武者羅に嵐の中を征く彼女。辛そうな顔で進む彼女は、どうして投げ出さなかったのだろうか。
翠下弓那にはその理由は分からなかった。わからないのに聞いてみる。聞いてみないと、理由を聞かない限りは納得できないと、真剣に。
そんなマスターの瞳を見据え、アルトリアが口を開いた。
「……まず言ってく事が。あの『私』は、厳密には同じ『私』ではありません。」
「どういうこと? じゃあ、あのキャスターの眼の前のキャスターは全く別人?」
「同じですが、別の同一人物なんです。」
かつてブリテン異聞帯において、放棄された妖精の使命――聖剣の誕生という使命を担い、ティタンジェルへと流れて来た『楽園の妖精(アヴァロン・ル・フェ)』。
諦観と苦痛の冬、出会いの秋、離別と旅立ちの夏を得て、汎人類史よりやって来た、自分と同じ『普通でありきたりなマスター』と出会った。
楽しいことも、辛いことも、悲しいこともあった。それでも、彼女にとってそれは無色の世界に彩られた鮮やかな色として彼女の心を染め上げて。
終わりの時、戴冠式の惨劇を始まりに獣と炎と呪い、3つの厄災が産声を上げ、楽園の妖精たる彼女は使命を果たす為、星の内海、理想郷の選定の場へ。
そこで終わるはずだった彼女は、運命に導かれた鍛冶師によってほんのちょっぴり延命を果たし、炎の厄災、獣の厄災――そして呪いの厄災にして祭神ケルヌンノスを討ち果たした。
アルトリアは、呪いの厄災との戦いにおいて全てを燃やし尽くした。ちょっとだけ延ばしてもらった命を薪として。
選定の場から出た時点で、「いつか選定の剣を抜き、聖剣を手にし、ブリテンを次の時代に導くひとりの王」の在り方、概念へと彼女は変貌している。
その時点でブリテン異聞帯の『楽園の妖精』であった彼女はいなくなっていたのだろう。
「嵐の中、悪意の渦中、本性の坩堝にいたのは『私』です。ですがあの私は、彼と旅した『私』であって、聖剣の守護者たる『私』ではないのです。」
そう、ブリテン異聞帯にてカルデアと、『彼』と共に戦った『楽園の妖精』ではなく、聖剣そのものにして星の守護者たる英霊であるのが今の彼女。
彼女の記憶を、ブリテンの記憶を識っているだけで、別人でしか無い彼女であるが。
「それでも、あの子がどうしてそれでも引き返さなかった理由は識っています。」
だけれど、彼女が抱いた気持ちが、諦めなかった理由は知っている。
聖剣と成り果てて、彼女と別の彼女となった今の自分でも、俯瞰するようにだが、識っている。
「彼女はかつて、ある妖精に名前を貸してあげました。」
それは、カルデアの彼と出会って間もない頃の話。
逸れの逸れ、落伍者の妖精たちがあつまるコーンウォールの村で他の妖精たちこき使われていた「名無し」の少女。
みんなに希望を振りまく役目があり、そしてそれに疲れ、名前も忘れ忘却の終着点へと流れ着いた者。
かつて「ホープ」というその役目に相応しかった名前すら忘れた妖精に、アルトリアは名前を貸してあげた。
たったそれだけの行動が、ホープにとっての星の光となりえた。笑顔を忘れず、最後の最後に星の光を見つけたのだ。
「誰かにとっては取るに足らない小さなことですが、彼女にとってはとてもとても大切なものでした。」
結末としては"希望"は黒く染まり、闖入者に介錯されただけのはずだった。
だが、その心は、輝きは、悪意の嵐に呑まれ心折れそうになった『アルトリア』を守り続けた。
アルトリアにとって小さな出来事だったとしても、"希望"にとって、それだけでも十分だったのだから。
「だから、彼女は走り抜けたのです。彼女もまた、自分を必死に守ってくれた小さな星を裏切りたくない為に。」
それは、他人からすれば斯くも下らない理由。取るに足らないほどに矮小な理由。
でも、『アルトリア』にとってはそれで十分だったから。
そして、彼女は『守護者』へと成った。彼女自身が探し求めた星の光の果てに。
「そう、走り出す理由なんて。そんな小さな理由(わけ)で十分なんです。だとえどんなにくだらなくても、その嘘偽りのない躍動を信じれば、それで良いんですよ。」
走り出すその理由がたとえどんなにくだらなくても、嘘偽りない躍動だけに耳を澄ます。
そんな理由だけで足を止めず、諦めず、頑張っていかないといけないと。
それが『彼女』が胸に宿す星の鼓動。自らの内に響く鐘の音。
下らないと笑うなら笑えば良い、それでも止まるつもりはないと、走り続ける。
「………。」
思わず、沈黙せずにはいられなかった。
あの時みた嵐の中の『彼女』は、そんな理由で走り続けていたのだから。
そう、誰かにとってはあまりにも下らない理由で、そんな理由だけを抱えて、だ。
それでも、だからこそ諦めず、走り続けた彼女はまるで―――。
「なんだ、同じじゃないの。」
「同じ?」
翠下は、なにか納得したかのように言葉を呟く。
「あんたも、我が儘だったのね。」
「……なのかも、しれませんね。」
その言葉を、アルトリアは否定はしなかった。
結局のところ、投げ出したいと思っていた使命を、小さな理由だけで我武者羅に走り続けた彼女は、一種の我が儘だったのかもしれないのだと。――好きになった人の為に、必死だったのかもしれないと。
我が儘とは、そういうものだのだろう。くだらない理由で折れないで諦めないで、走り続けるその意思を。
『生きるため』に善すら打倒した彼が、その答えを探さんとするため進み続ける彼のように。
「あたしは留年回避から始まって色々あった。あの子は小さな何かを裏切りたくなくて走り抜けた。……あたしなんかじゃ到底敵いそうじゃないわね。」
弓那の苦笑するような声が部屋に響いた。
留年を回避するために学園の星徒会長になるという、余りにも下らない始まり。
ゴスロリ衣装なドS部長の提案に乗って始まった立候補。その過程で身に着けた歌唱力。
勝ち進み見事星徒会長となったと思えば、今度は別宇宙からやってきた『異空体』なる宇宙の危機。
両親の真実、世界の真実、そして宇宙の真実を知った上で、彼女は我が儘であることを貫いた。
自分の人生は、自分が幸せになるためにあると、高らかに叫んだ。
スケールのデカさなら宇宙の危機迫ってたこっちのほうがよっぽど上ではあるが、なんか色々別の方面では敵いそうにはなかったから。
「あたしは、我が儘でバカだから。出来るのは、前向いて突き進むぐらいよ。」
翠下弓那は馬鹿だ。どうしようもなく図太くて、お調子者で、ただのバカだ。
そう、バカだから、生半可な絶望なんで素手で引きちぎってぶち破る。
絶望を知らないわけではない。だからどうしたと殴り飛ばす。
だからこそ、それこそが翠下弓那という少女の、我が儘と言う名の、嘘偽りのない躍動なのだから。
「どうやって出るとか、聖杯どうやって手に入れるとか、全く思いついてないけれどさ。……そんなマスターでも、協力してくれたら嬉しいかな。」
弓那が、手を伸ばす。
何時ものような、分かりきった事でも。妖精眼で見ても見なくても、彼女の心はどこまでも前を向いている。考えなしの、どうしようもないバカな彼女であるが、その嘘偽りのない、くだらなくとも立派な理由を、無下にはしたくはないと、アルトリアは思うのだ。
「……全く、私はどうにも面倒なマスターに巡り合わされてしまったかもしれませんね。」
手を繋ぐ。信頼の証としての握手。
選ばれてしまったからには仕方はない、でも彼女といるのも悪くはないと、そんな事を思って、頬が緩んでいた。
「サーヴァント・キャスター。あなたが諦めず前に向けて進み続けるのなら、私は再び鐘を鳴らしましょう。」
「こっちこそよろしくね、キャスター……あっ。」
「どうしましたか?」
このまま綺麗に締まろうと思ってた矢先、思い出したかのような弓那の声。
「……そういやまだ晩ご飯食べてなかったわね。思った以上に話長引いちゃったのもあるけれど。」
そういえば、とはアルトリアは思った。
元々勉強会から続いてこの話になだれ込んだ部分もあり、話し込んでいたらいつの間にか時間は夜の9時。
既に夕焼けは沈み満天の星が窓から映る空を埋め尽くしている。
「せっかくだし、アルトリアも食べる? 昨日の買いだめした弁当残ってるのよね。」
ガサゴソと、冷蔵庫の中を除いて取り出したのは、何の変哲もないコンビニ弁当。
学生生活の都合上、晩御飯がありふれた弁当というのも別段珍しくはない。
「……では、喜んで。」
せっかくなので無下にするのもどうかと思い、弁当を受け取った。
中身はありふれたシャケ弁ではあったが、今夜の晩餐は少しばかり二人にとってにぎやかなものになったという。
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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
走り出すその理由が たとえどんなにくだらなくても
熱く速く響く鼓動 嘘偽りのない躍動だけ信じてる
ほら あの鐘の音に耳を澄まして
【クラス】
キャスター
【真名】
アルトリア・キャスター(アルトリア・アヴァロン)@Fate/Grand Order
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力B 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具A++
【クラススキル】
対魔力:A
Aランクの魔術すら無効化。
事実上、現代の魔術師では傷一つ付けられない。
令呪による命令すら一画だけなら一時的に抵抗出来る。
陣地作成:EX
魔術師として、自らに有利な陣地(工房)を作り上げる。彼女の場合はその宝具故か規格外となっている。
独自魔術:B
汎人類史におけるどの魔術基盤とも一致しない独自の魔術形態。実態はマーリンを名乗る不審者から習ったものなのだが。
例え同じキャスタークラスであっても彼女がどんな魔術を扱うか、その効果を初見では看破できない。
妖精眼:A
ヒトが持つ魔眼ではなく、妖精が生まれつき持つ
『世界を切り替える』視界。
高位の妖精が持つ妖精眼は、あらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼と言われている。
妖精にとっては善意も悪意も同じくくりなので特に意味のない異能だが、
善悪の違いに惑う人間がこの眼を持つとろくなことにならない。
この眼のため、キャスターには人々の嘘や本音がすべて見えていた。
彼女にとってヒトの世界は『悪意の嵐』であり、
妖精も人間も等しく『怖い、気持ち悪い』と感じていたのはこのため。
彼女が眠った時、夢に見るのはこの『悪意の嵐』だけ。
本来なら気が触れ、ブリテンを見捨ててもおかしくない状態だが、
そんな彼女にとって唯一の希望が、嵐の向こうで一つだけ輝く、青く小さな星だった。
【保有スキル】
希望のカリスマ:B
予言の子として育てられ、旅立ったアルトリアには人々に頼られ、期待されるカリスマが具わっている。
その効果は魔術師マーリンが見せる『夢のような戦意高揚』に近い。
発動中は自身又は自軍の筋力値にボーナス補正がかかり、魔力が回復する。
アヴァロンの妖精:A
楽園の妖精が持つ、生命を祝福し、様々な汚れから対象の運命力を守る力。
発動中の自身又は自軍のサーヴァントは物理的攻撃を無効化し、魔力を回復する。
聖剣作成:A
選定の杖と共に選ばれた彼女が、最後に辿り着く在り方を示したスキルが本格的に目覚めたもの。彼女の作るものはすべて『剣』属性になってしまう。
発動中は自身又は自軍のサーヴァントに人類の脅威への特攻効果を付与する。
【宝具】
『きみをいだく希望の星(アラウンド・カリバーン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:0〜50人 最大捕捉:100人
キャスターの所持する『選定の杖』によって開放される、キャスターの心象世界。共に戦う者たちを守り、強化する、楽園より響く鐘の音。
発動と共に楽園の花園にも似た、百花繚乱の丘が広がる。
花園の中心に立つ『選定の杖』にアルトリアが触れることで、「対粛正防御」結界が展開され、自陣営に加護を与える。
対粛正防御とは、英雄王の「エヌマ・エリシュ」のようなワールドエンド級の攻撃も防ぐことが出来る最上級の防御。
如何なる攻撃も、デメリットをもたらす特殊スキル・宝具も無効化され、さらに展開中は自陣営のステータスにボーナス補正が発生する。
『真円集う約束の星(ラウンド・オブ・アヴァロン)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜999 最大捕捉:味方全て
『ブリテンの守護者』となったアルトリア・アヴァロンとしての宝具。
黄昏のキャメロットを顕現させ、共に戦う者に『円卓の戦士』の着名(ギフト)を与える。
ただしアルトリア・キャスターとして運用することになる都合上、令呪を用いて再臨をさせなければ基本的に使用不可
【Weapon】
選定の杖(アルトリア・キャスター)
「影踏みのカルンウェナン」「稲妻のスピュメイダー」「神話礼装マルミアドワーズ」(アルトリア・アヴァロン)
【人物背景】
くだらない理由(小さな希望)を抱えたまま走り抜けて守護者となった、ごくごく普通の少女のその結末。
【サーヴァントとしての願い】
特に無し。ただ、呼ばれた以上はマスターを無事元の世界に返したいとは思ってる
【備考】
基本的にアルトリア・キャスターですが、令呪を用いて再臨させることで一時的にアルトリア・アヴァロンの姿となります
【マスター】
翠下弓那@輝光翼戦記 天空のユミナ
【マスターとしての願い】
元の世界に帰る! 星徒会長なのに出席不足で留年とか笑えないじゃない!
聖杯? そんなもん頼っても留年危機は無くなんないわよ!!
【能力・技能】
『イシリアル』
意思を現実にし干渉する力。
弓那の場合は歌という形でイシリアルを介して自身のエネルギーを他者へと供給することに長けている。ただし供給のし過ぎは自身の廃人化を招きかねない。
武器としてはハンマーやステッキ、歌唱用のマイクの他に、『ユミナMk-2』なる謎のゆるキャラ風の何かを投擲したりもする。
【人物背景】
くだらない理由(留年回避)を機になんか色々巻き込まれた、実は普通じゃない女の子
【備考】
参戦時期は弓那ルートEND後
投下終了します
以前地平聖杯に投下したものを流用して2本投下します
北極の海で、一人の男が潜水艦に乗り込み沈んでいく。
それを見送るのは、男の宿敵だった一人の少年。
男は世界征服を企んでいた。
その為に己が持つ能力、組織力を十全に使い活動し、いずれは成し遂げることもできただろう。
だがそこに、宿敵だった少年が男の野望を阻むべく現れた。
少年は男の野望を非道と断じ、阻止するために戦いを挑む。
長く壮絶な戦いの果て、四度の敗北を期した男は悟る。
自分は決してこの少年には勝てないのだと。
だからこそ、男は一人北極海で眠ることを決断した。
少年はそれを受け入れ、見送る。
(長い戦いだった)
男の眠りを見送った少年は思う。
そして、もう二度と宿敵が目覚めることはないと確信していた。
だが同時にこうも思った。
――これから僕は、どうすればいいのだろうか。
◆
「好きにしたらいいんじゃねえの?」
冬木市内のとある一軒家。
表札に『山野』と書かれたこの家は、普段は両親と息子一人の三人家族が暮らすごく普通の一軒家である。
ただし、今は両親が共働きの上海外出張に行っているので、中学生の息子である浩一が一人暮らしをしている。
この家には今、二人の少年がいる。
一人は山野家の一人息子にして、家の中にも関わらず未だ学生服を着たままの山野浩一。
彼は正真正銘この家の住人である。
対し、もう一人は違う。
緑を基調としたジャージを着て、リビングでテレビゲームに興じながら、浩一と話す彼はこの家の住人ではない。友人でもない。
彼は、浩一のサーヴァント、セイヴァー。救世主のクラスを宛がわれた浩一の従者。
その彼は今、マスターである浩一の話を聞いて、困り顔を見せていた。
浩一の話とは、平たく言うなら人生相談だ。
己の全てをかけて倒すべき宿敵との戦いを終え、これから何をすればいいのか、という内容の。
「僕には、自分で言うのもなんですけど、元の世界なら世界征服を実現できるほどの力があります。
でも、僕はそんなことをしようとは思いません」
「じゃあいいじゃん」
「でも何もしない、というのも我慢できません。
僕の血を輸血すれば、助からないほどの大けがをした人でも助けられますし、僕の超能力を使えば、捕まえられない悪人は居ません」
「力があるから何かしなきゃいけないって訳でもないだろ。
いや、そういうこと言う奴は生前の仲間にもいたけど、俺はそうは思わねえし」
それに対し、セイヴァーは好きにしたらいいとしか言えない。
そもそも、セイヴァーの生前には力の有無に関わらず好きに生きていた人間が多い。
否、人間に限らず神でも悪魔でもそうだった。
だからこそ、浩一の悩みはセイヴァーには今一つ共感し辛い。
「したいことならする。しなきゃいけないことも、まあ面倒くせえけどやる。
やりたくないなら、出来る限りやらないようにする。これじゃ駄目なのか?」
「むむむ」
「何がむむむだ」
しかし、セイヴァーの彼なりに真面目な返答を聞いて、今度は浩一が困ってしまう。
浩一は己の運命に従い、使命を見つけ、その為に戦い抜いた人間だ。
そしてそれらの為に、人間としての生活、幸せ。全てを捨てた。
だからこそ、出来ることがあるならすべきで、自分の為に何かする、という考えが染みついているのだ。
「まあ、その辺りは聖杯戦争中に考えます」
「自分探しかよ」
結局、浩一の人生相談の結論は保留になった。
人生の意味など、そうやすやすと見つかるものではない。
「まあ、この聖杯戦争はマスター、サーヴァント問わず、色んな世界から来ているらしいぜ。
うまくすりゃ、浩一も違う世界に行けるかもな」
「違う世界……」
セイヴァーの何気ない言葉に対し、浩一は懐に入れている自分のスマホを取り出す。
もっとも、このスマホはあくまで聖杯戦争の間だけのもので、彼も使い方は理解している物の、見たのはこの聖杯戦争に来てからだった。
それもその筈、なぜなら彼はこの再現された東京の年代である2020年代より、半世紀ほど昔から来たのだから。
「僕からすれば、この街がまず別の世界です。
僕は1970年代にいたのに、ここは2020年を超えて、電話が持ち運びできるようになったり、知らないものが一杯あったり。
後年号が二回も変わって、驚きました」
「年号は俺もビックリしたわ」
うんうん、と頷くセイヴァーだが、彼の場合、生前知っている日本は2010年の物なので、浩一に比べればジェネレーションギャップは少ない。
ほぼゼロと言ってもよかった。
だが浩一も、1970年代とは思えないほどのオーバーテクノロジーに触れ続けてきた身。
驚きはしつつも、この時代の住人と遜色ないほどにスマホなどを使いこなすのに、時間は必要なかった。
それより大事なことが、彼らにはある。
「セイヴァー、聞いていいですか?」
「あん? 何だよ」
訝し気に返答するセイヴァーに対し、浩一は真剣な表情で切り込んだ質問をする。
「セイヴァーは、聖杯に何か願いがありますか?」
「別にないんだよな、それが」
セイヴァーの答えに浩一が呆気に取られている間にも、彼のゲームをしながらの言葉が続く。
その様は正しく、聖杯よりも今遊んでいるこっちが大事だと言わんばかりの態度だ。
「正直、俺別に召喚されるつもりなかったし。戦争なんて物騒なことしてまで、叶えたい願いとかもねえし。
なのに何でここにいるんだろうな俺……俺より浩一の方が強いレベルだぞ。俺、一応サーヴァントなのに。
つーか俺のどこがセイヴァーなんだよ……救世主とかやったことねえっつの」
ついには落ち込み始めたセイヴァーに対し、浩一は二の句が継げない。
「正直もう、今久しぶりにゲームできて楽しいし、後はまあ、テレビでも見ながらピザだのラーメンだの食って、適当に現世楽しめたらそれでいいわ」
あまりにも安上がりなセイヴァーの結論に、浩一はどんな顔をすればいいか分からなかった。
それでも、彼はセイヴァーに自分が考えていた方針を提示する。
「セイヴァー。僕は、僕みたいに不本意にこの東京へ連れてこられた人を、助けたいと思います」
「おお、いいんじゃね? で、それ以外の奴は?」
「もし、世界征服みたいに邪悪な願いを持っている人がいたら、倒します。
そうじゃなかったら、まあ、狙われない限りは特に何もしません」
「あ、言い忘れてたけど、俺マスターは悪人でも殺さないからな。
というか、サーヴァントならまあ……ギリギリオッケーだと思えるけど、人は嫌だ。人じゃなったらセーフだけど」
セイヴァーのこの言葉に、浩一はさっきまでとは違う驚きに襲われた。
浩一は、無辜の民や弱い者は極力守ろうとする。
勿論、手を伸ばしても届かないこともあるが、それでもできる限りは助けようとする。
だが敵は違う。浩一は、敵に与するなら殺す。
催眠術などで当人の意志を無視して操られているというのなら別だが、自分の意志で悪に与するなら容赦はない。
だからこそ、悪でも人は殺したくないというセイヴァーの言葉に驚いたのだ。
なので、セイヴァーが嫌なら自分でやろう、と浩一は結論を出した。
最後に、彼は自身の従者に問う。
「分かりました。セイヴァーが人を殺したくないことは、頭に入れておきます。
それより、僕は、まだあなたの真名を聞いていません」
「ああ、そういや言ってなかったっけ?」
うっかりしてた、と呟いてセイヴァーはゲームを止め、浩一に顔を向けてから自己紹介をする。
「俺の名前は――」
【クラス】
セイヴァー
【真名】
佐藤和真@この素晴らしい世界に祝福を!
【パラメーター】
筋力D 耐久E 敏捷D 魔力D 幸運A+++ 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
カリスマ:E
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
生前はなんだかんだ意外と人望があり、結構指示に従ってもらえた。
対英雄:D
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
Dランクなら敵サーヴァントのパラメーターのうち、ランダムで宝具以外のどれか一つだけを一ランク下げる。
これは正道を歩まず、姑息な作戦や意外な発想で戦うセイヴァーの、英霊らしくなさの象徴。
【保有スキル】
冒険者:B
専科百般の亜種スキル。
セイヴァーが生前教わったスキルの全てを総称したものであり、Dランクのスキルとして使用可能。
ただし、このうちの二つが後述の宝具となっており、それらはスキルとして扱わない。
幸運:A++
このスキルの持ち主は、パラメーターの幸運に無条件で+が二つ付く。また、自身が不利な状況の場合は更に一つ追加される。
更に、敵と幸運対抗ロールをした場合、自身より幸運が低い相手ならば無条件で勝利する。
ただし、幸運がEランクの味方サーヴァントが自身の付近にいる場合、自身の幸運ランクがCランクまでダウンする。
その際、スキル効果で付いているプラスは取り除かれない。
【宝具】
『この右手にお宝を!(スティール)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1
相手の持っている物をランダムで一つ奪うスキル。
セイヴァーは生前、確実に相手が一番奪われたくない物を的確に奪う逸話がある為、宝具となった。
この宝具を喰らった者は、一番奪われたくないものを奪われる。
何を奪うかはセイヴァー自身にも分からないが、どういうわけか女性に使用すると下着を盗むことが多い。
『この素晴らしい世界に爆焔を!(エクスプロージョン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:2-100 最大補足:1000
セイヴァーがいた世界における最強の魔法。威力、射程共に最高ランク。
あらゆる存在に効果を発揮するが、習得難易度が高い上に、魔力消費も激しすぎるので使い手がほとんどいない魔法でもある。
その為、セイヴァーがこの宝具を一度発動した場合、魔力消費で自身は消滅する。
ただし、セイヴァーは生前この魔法で魔王を倒した逸話があるので、敵サーヴァントに命中した場合、無条件で相手を確殺する。
『この素晴らしい世界に祝福を!』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
生前のセイヴァーと仲間たちと、彼らが暮らしていた始まりの町アクセルを心象風景として展開する固有結界。
発動者を中心にアクセルを展開し、彼の仲間であるアクア、めぐみん、ダクネスを召喚する。
彼自身は魔術師ではないが、彼の仲間たち全員で術を展開することにより、固有結界の発動を可能にしている。
【weapon】
・ちゅんちゅん丸
セイヴァーが生前、日本刀を模して鍛冶師に作らせた刀。
ただし、彼の知識の曖昧さのせいで、剣としては普通のものである。
更に、セイヴァーの剣術は知人曰く『子供のチャンバラごっこ』レベルのものなので、生前はほぼ使われたことがない。
名前のセンスは彼の仲間、めぐみんの物である。
・弓矢
ごく普通の弓矢。
セイヴァーが持つ狙撃スキル(冒険者の内一つ)のおかげで、命中率はほぼ百発百中を誇る。
ただし、筋力や敏捷が低いので攻撃力は低く、物理耐久が高ければ跳ね返されることも。
・ワイヤー
頑丈な金属でできたワイヤー。敵を拘束するときに使う。
・ジャージ
セイヴァーお気に入りの一張羅。ごく普通のジャージ。
【人物背景】
元々は現代日本で暮らしていた引きこもりの16歳。
しかしある日、トラクターに轢かれると勘違いしてショック死し、彼は異世界転生を果たす。
異世界に転生したセイヴァーの下に、一癖も二癖もある仲間がなぜか集まり、成り行きで巻き込まれたトラブルをなんとかしたり、強敵と戦い勝っていく末に、彼はついに魔王すら打倒した。
【サーヴァントとしての願い】
別になかったけど、呼ばれた以上は久々の日本を楽しみたい。
【マスター】
山野浩一(バビル2世)@バビル2世(原作漫画版)
【マスターとしての願い】
自分のやりたいことを見つけたい
【weapon】
・超能力
・三つのしもべ
彼が従える三つのしもべ。以下に示す。
・ロデム
どんな姿にも変身ッ可能な、スライム型の不定形生命体。普段は黒ヒョウの姿を取る。
彼には意思があり、浩一とテレパシーで会話し、サポートをする。
・ロプロス
巨大な鳥型のロボット。
超音速で空を飛び、口からロケット弾と超音波を放つ。
・ポセイドン
巨大な人型ロボット。強力な攻撃力と防御力が売り。
海中を高速で移動し、海を拠点とするが陸での行動可能。
ただし、いずれも現状では使用不可。
さしもの彼らも、界聖杯内の模倣東京までは来られないのか、それとも――
なお、5000年前に作られたものなので、神秘も相応に備わっていると思われる。
【能力・技能】
・超能力
とにかく多彩な能力を使いこなす。
ただし、能力を使いすぎると激しく疲労し、キャパシティを超えて急激に消耗すると、老化現象を起こす。
長くなるので詳しくはwikipedia(ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%93%E3%83%AB2%E4%B8%96#%E8%B6%85%E8%83%BD%E5%8A%9B)にて。
【人物背景】
元々は普通の家族の元で暮らしていた普通の中学生。
しかしある日から妙な夢を見始めた。それが運命の始まり。
浩一は、バベルの塔の製作者である宇宙人バビルの遠い子孫であり、超能力者だったのだ。
彼は、バビルの遺産であるバベルの塔と三つのしもべを受け継いだ。
しばらくしてから、浩一は自身と同じくバビルの子孫であり、同じく超能力者であるヨミと出会う。
ヨミは世界征服を企んでおり、浩一に対し仲間になるよう迫るが彼はこれを拒否。
それから、浩一とヨミの壮絶な戦いの日々が始まった。
長い戦いの末、ついにヨミとの決着をつけ、彼は北極海に沈んでいく。
浩一がそれを見送ったところで、彼はこの聖杯に呼ばれた。
【方針】
聖杯戦争に不本意で巻き込まれた人々を助ける。
【備考】
参戦時期は第4部終了後です。その名は101は経験していません。
与えられたロールは市内の中学生です。
どうしてこんなことに。
なんで僕がこんな目に。
誰が悪い?
神か。
ベヒモスか。
それとも、僕を裏切ったクラスメイトの誰かか。
いや、そんなことは――
◆
高校二年生の少年、南雲ハジメが目を覚ました時、一番最初に目にしたものは、眼前に迫ってくる一本の槍だった。
「うわぁ!?」
生存本能か、それとも他の何かが働いたのか。
槍を咄嗟に躱し、ハジメは迷うことなく後ろを向いて逃げ出す。
「へぇ……やるじゃねえか」
「ちょっと、何仕留め損なってるのよ!」
その後ろでは槍の持ち主がせせら笑い、それを主が叱咤している。
だがそんなことはハジメからすればどうでもいい。
彼は今、逃走しながら情報の多さに混乱していた。
逃げているハジメの脳内にいつの間にか入力されていた、聖杯戦争の知識とこの世界でのロールについて。
それによるとこの世界では、地球と変わらない両親の元で過ごす普通の高校二年生が彼のロールであり、彼は今コンビニに夜食を買いに行こうとしている最中だった。
その状況を槍使い達― ランサーとそのマスター ―に目撃され、さらに体に宿っている令呪を目撃したのでハジメは襲撃された、のだろうと彼は推測した。
しかし、今彼が問題視しているのは別の部分だ。
(僕のサーヴァントは、どこだ?)
現時点で、ハジメのサーヴァントは彼の視界のどこにも存在していない。
まだ召喚されていないのか。
それとも召喚されているのに姿を隠しているのか。
どちらにしてもハジメからすれば最悪だ。
「あっ!?」
考えながら走っていたせいか、ハジメは足を滑らせ体を転ばせてしまう。
彼はすぐに立ち上がろうとするも、その前にランサーは追いつき槍を突き付ける。
「ま、気にすんな。お前は運が悪かっただけだ」
「そんな……」
死刑宣告というにはあまりにも軽すぎる言葉に、ハジメは絶望するしかない。
その刹那、彼の頭に浮かんだのはこの界聖杯の奪い合いに参加するまでのこと。
南雲ハジメは元々、普通の男性高校生だった。
しかしある日、彼はクラスメイト達と共に剣と魔法の異世界『トータス』に召喚されてしまう。
その世界では人間族と魔人族が宗教戦争をしており、ハジメ達は人間族側の勇者として戦うことになってしまう。
異世界召喚ということでチート能力が与えられている、と期待したのもつかの間。
ハジメ以外には強力な力があったものの、彼にあったのは他に代わりがいる普通の能力なうえ、身体能力も一般人並。
これにより、彼はクラスメイト達の大半と現地人に無能扱いされることになる。
それからしばらくして、ハジメ達はダンジョンで魔物と戦いながら訓練をすることになった。
訓練自体は問題なく終わりそうだったのだが、クラスメイトの一人がダンジョントラップに掛かり、彼らはダンジョンの難易度が高い下層へと転移したうえ、強力な魔物と対峙する。
紆余曲折の末、ハジメは魔物の足止めに成功し、クラスメイト達を安全な場所まで逃がすものの、彼自身はダンジョンの足場が崩れたことと、クラスメイトの裏切りでさらなる下層に落ちてしまった。
そして今、ハジメは聖杯戦争の為の世界に囚われ、聖杯の為の犠牲になろうとしている。
(ああ、これが走馬灯ってやつなのかな……)
諦めかけてしまうハジメ。だが彼の脳裏には徐々に黒い感情が浮かび上がる。
(なぜ僕がこんな目に……何が原因だ……)
(なぜ苦しまなきゃいけないんだ)
(神は理不尽に異世界へ誘拐した)
(ベヒモスは僕を道連れに引きずり込んだ)
(クラスメイトは僕を裏切った)
(そして僕は今、訳の分からない殺し合いが理由で殺されそうになっている)
ハジメの思考は、次第に諦めから怒りへと変わっていく。
(僕はどうしたい?)
(決まっている。僕は”生”が欲しい)
(ならばどうする? 答えなんて一つだ)
――殺す。
その瞬間、ハジメから怒りが消えた。
(誰が悪いとか、どうしてこうなったとか)
(そんなことは、もうどうでもいい)
ここまでで、時間にするなら一秒も経っていない。
だがそれで充分。
地球でもトータスでも味合わなかった強烈すぎる死の恐怖が、ハジメの思考を塗り替えるには。
「お前は僕の生を阻む。
なら、お前は敵だ。
敵は、殺す。それだけでいい」
「何をごちゃごちゃと!」
ハジメの言葉が気に障ったのか、苛立ちながら槍を振り下ろすランサー。
しかしその時、ハジメは咄嗟に地面を柔らかくし、ランサーの足場を崩す。
これがハジメが異世界トータスで得た能力。錬成。
本来なら武具を作る能力だが、彼はこれを地面に使い戦闘に応用したのだ。
「死ね」
ハジメはそれに続いて地面を鋭く尖らせ、ランサーに向かって伸ばす。
何もしなければ体を貫くだろうが、英霊たるランサーは槍を軽く振るうことでしのいだ。
しかし、その時彼は目の前の男の瞳を見て、思わず戦慄した。
ハジメの瞳には何もなかった。
戦闘に対する高揚も、怒りも。悲嘆も絶望も。
あるのはただ、生きたいという渇望のみ。
ランサーが敵対しているが故、今は彼にその目を向けているが、例え敵が野生動物でも変わらず同じ瞳を向けるだろう。
そう断言できるほど、彼は敵に対し何の感情も抱いていなかった。
(ヤバい! コイツはヤバい!!)
ランサーは確信した。
こんな目の奴がサーヴァントを従えたらどうなるか。
決まっている。何でもやる。
己が生き残る為なら、誰が死のうが何が壊れようがお構いなしな、真の鬼畜に成り果てる。
(ここで始末しねえと――)
主の為に思考するランサー。しかしそれは最後まで続かない。
なぜならば
「あ、ああ……」
ランサーの首から上と下は分断され、消滅したからだ。
代わりに現れたのは、巨大な蟲に乗った小柄な人影。
頭が布で覆われた、子供ほどの背丈をした男だった。
「サーヴァントキャスター、召喚に従い参上した」
彼がハジメのサーヴァント、キャスター。
この男は、自身が今乗っている蟲が持つ刃でランサーを切り裂き殺しながら、マスターの元へ現れたのだ。
「くっ!」
一方、ランサーを信頼していたがゆえに黙ってみていた彼の主は、槍使いの消滅と同時に踵を返す。
だが――
「う、そで……しょ……なん、で……?」
急に苦しみだしたかと思うと、その場に倒れ伏した。
「あれは、お前が?」
「そうだ」
ハジメがランサーのマスターを指さしながら問うと、キャスターはこともなげに答えた。
それからハジメはポンポンと自分についた汚れを手で払いながら立ち上がると、キャスターに話しかける。
「色々聞きたいことはあるけど、とりあえず名前だけは聞くか。
僕は……いや、”俺”は南雲ハジメだ」
「……我が名はシキ。究極にして最強の戦闘術、道(タオ)の正統たる使い手だ」
この時は名前だけだが、のちに話し合ったとき二人は理解する。
二人とも、たった一つの目的の為だけにこの場にいることを。
その為なら、何をしても構わないと思っていると。
【クラス】
キャスター
【真名】
シキ@BLACK CAT
【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A+ 幸運C 宝具A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:-
道(タオ)に陣地など必要ない
道具作成:A
魔力を帯びた器物を作成できる。
飲んだものに道(タオ)の力を与える「神氣湯」に加え、符術の為の札などが製作可能。
【保有スキル】
道士(タオシー):A++
人間の氣を能力に変える道(タオ)の使い手。
正統なる血統の持ち主であるキャスターは最高ランクである。
符術:A++
キャスターが扱う道(タオ)
後述の宝具の他、爆破、防御など使える技は多岐に及ぶ。
妄執:A+
キャスターは道(タオ)が最強であることを証明する、という願いに妄執レベルで囚われている。
同ランクまでの精神干渉系魔術を無効化する。
また、敵サーヴァントと敵マスターに同時に遭遇した場合、優先して敵サーヴァントを狙うようになる。
これは『マスター狙いなどせずとも私の道(タオ)は勝利する』という彼の妄執が理由である。
【宝具】
『我が氣を抑えよ』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
キャスターが普段から顔に巻いている布。
これは普段から呪水を染み込ませた特殊な布で、頭部を覆い力を抑え、無用な消耗を控えている。
力を抑えている状態では魔力はC相当となり、ステータスにもそう表記される。
この布を外した時、キャスターは真の力を発揮する。
『蟲(INSECT)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大補足:???
キャスターが扱う道(タオ)。
符に氣を籠めることであらゆる蟲を生み出し、自在に操る。
蟲にできることは多彩で、小さな蟲で対象に毒を注入し体を操る、生み出した蟲の鱗粉で神経を麻痺させる、
視点用の蟲を飛ばして水晶玉を通して遠くの様子を見る、人を数人乗せられるだけの大きさの蟲を作り出し移動手段にするなど、とにかく出来ることが多い。
その中で一番の戦闘力を誇るのが後述の宝具である。
『戦闘魔蟲”刹鬼”』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1
キャスターが作り出す最強の蟲。
この宝具はキャスターの命令で動くものの、人間並みの知能を持つのでキャスターが逐一指示する必要がない。
また、キャスターが分け与える限り、何度破壊されても修復可能。
ステータスはキャスターが籠める氣によって変わるが、幸運はCランクで一定し、宝具のランクは存在しない。
ただし、この宝具を発動している間は他の『蟲(INSECT)』は使用不可能となる。
【weapon】
道(タオ)用の札。
水晶玉。
【人物背景】
革命組織『星の使徒』のメンバー。
自身の一族を25年前に滅ぼされ、滅ぼした当事者であるクロノスを道(タオ)の力で滅ぼそうとしている。
ただしそれは復讐が理由ではなく、『道(タオ)が世界最強である』と世界に示す為である。
むしろ一族に関しては道(タオ)を持ちながら敗れるなど不甲斐ないと蔑んでいる。
本来なら彼は、己の道(タオ)を全霊で用いて戦うもある掃除屋に敗北し、新しい道を探す人生を送った筈だった。
しかし、マスターのただ一つのみを優先しそれ以外を切り捨てる精神性に影響されたのか、今の彼にはその掃除屋との戦闘を始める直前までの記憶しか存在しない。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、道(タオ)が最強であることを証明する。
聖杯を手に入れた暁にはクロノスも、道(タオ)を愚弄したクリードも滅ぼす。
【マスター】
南雲ハジメ@ありふれた職業で世界最強
【マスターとしての願い】
生きて本物の日本へ帰る
【weapon】
なし
【能力・技能】
・錬成師
いわゆる鍛冶職。材料を錬成し武器や防具などを制作することができる。
材料と時間と魔力さえあれば、ハジメはあらゆるものを製作可能。
銃や刀から、義手にバイク、飛行船に潜水艦。それから衛星兵器でも。
ただし今の彼はどれ一つとして持っていない。
その為、彼は地面を錬成して落とし穴や剣を作って戦うと言った戦法を取る。
・神の使徒
異世界トータスの神、エヒトによって召喚された者のこと。
ただし、彼は他の神の使徒と違い、一般人レベルの力しか持っていない。
一応、訓練によって多少はマシになったが、聖杯戦争のマスターとして見るなら『一般人よりはマシ』レベル。
なお、この聖杯戦争で役立つかは不明だが、彼は『言語理解』というスキルを持っているので、外国語や本来知らない異世界言語も理解できる。
・オタク
ハジメはゲーム会社社長の父と少女漫画家の母を持つハイブリッドオタク。
アニメ、漫画、ゲームの知識や機械工学など、結構様々な知識を持つ。
また、プログラミングからイラストなど様々な技能を持つが、デザインセンスはない。
【人物背景】
元々は『趣味の合間に人生』をモットーとして生きるオタクで、クラスのほぼ全員から嫌われ気味な高校二年生の男子。
しかしある日突然、異世界『トータス』にクラスメイトと共に召喚され、トータスの創造神エヒトの使徒として、人間族の為敵対種族である魔人族と戦争することになる。
戦争の為の訓練にダンジョンでモンスター相手に戦闘をしていたが、一人のクラスメイトが罠にかかったせいでクラス全員が強力な魔物に襲われてしまう。
ハジメが足止めをかって出たことでクラスメイト達は無事に脱出したものの、ダンジョンの足場が崩れたうえ、一人のクラスメイトの裏切りで彼はダンジョンの地下へと落ちていった。
【方針】
生存優先。敵は殺す。
【備考】
参戦時期はオルクス大迷宮65層から落下してから、真のオルクス大迷宮で目覚めるまでの間。
投下終了です
>躍動
躍動、まさにタイトルの通りであると同時にアルキャスのテーマでもあるそれがタイトルに用いられるのも頷ける少女達のお話でした。
「そう、走り出す理由なんて。そんな小さな理由(わけ)で十分なんです」。これがこのお話の中で一番好きなところでしたね……。
どこかユーモアのあるやり取りを交わしながら結び付いた少女達の今後が楽しみになる、そんなお話でした。ありがとうございました。
>好きにすればいい勝手にすればいい
そこをセイヴァーで出してくるか、という驚きがまずひとつ。
似ているようであまりに違う二人の軽妙な会話が読みやすく、するりと頭に入ってくるところに書き手さんの腕を感じます。
いろいろな意味で常識はずれの主従だと思いますので、さぞや様々な未知の事態を齎してくれそうですね。ありがとうございました。
>「ここには誰もいない」「ああ、そうだな」
煩悶からのサーヴァントとの出会い、そして窮地からの生還と、聖杯戦争の始まりに相応しい王道だったと思います。
どうしようもない歪み、ねじれのようなものを抱えた彼ら二人が行き合ったことは果たして必然だったのか。
犠牲を生み出すことに頓着しない彼らの行く先は凄惨そうですが、その先に何が待っているのか気になってきます。ありがとうございました。
私も候補作を投下させていただきます。
◆
蠢く黒い羽虫の軍勢。
集まっては喚き立て耳障りな羽音を鳴らし、いざ意識を向ければ黒霧のように霧散していく醜悪を極めたような存在。
それが、その吸血鬼が自身のマスターを名乗る男に対して抱いた第一印象だった。
「君もしつこいな。そんなに見つめられると穴が空きそうだ」
頭に縫い目のあるその男が真っ当な人間でないことはすぐに分かった。
第二の印象は、一言『趣味が悪い』。これに尽きた。
既に死んでしまった獣が一匹いるとする。
例えるならこの男は、その中身を全部抜いて代わりに億匹の蛆虫を詰め込んで操っているような、存在そのものが何かの尊厳を陵辱している……それ以外の生命活動を望めないしそもそもする気もないような人間だ。
虫が好かない。今すぐにでも四肢を毟り、声帯を抉って力を供給するだけの人形にしてしまいとすぐさま思った。
殺そうと思わなかった理由は慈悲ではなく、吸血鬼にもまた願いがあったからだ。
そしてその弱みをこの男は、話してもいないのにさも自分で綴った筋書きであるかのように把握していた。
「夢のようにか細い理想を追って歩んでいるという点では、君も私も大差はないだろうに。
私はこれでも君のことを買っているよ。圧倒的な暴力というのは何をするにおいても効率がいいからね」
「――殺すぞ」
宛ら、檻の中の獣が自分を閉じ込めた飼い主に牙を剥いて威嚇しているようなものだ。
要するに、単なるパフォーマンスの一環でしかない。
もしもこの人間を殺してしまえば、その時点でもう二度と望んだものは手に入らなくなってしまうのだから、その殺意を現実に変えることは出来ない。
怪異の王たる己がそんな小さくつまらない檻に戒められている事実がまた、吸血鬼――バーサーカーの脳を焼いた。
「殺したければ殺すといい。それにも案外、意味があるかもよ」
今宵怪異の王を招き寄せたのは、千年を彷徨う呪術の徒。
「私はそうは思わないけどね」
――人間(だれか)の運命を狂わせ、世界を壊し、終わった後の残骸に相乗りして我が物顔でこの世を謳歌する。
物語が傾いだある枝葉の事象にて、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードという“王”を再誕させたあの結末そのものを玩弄するような男だった。
◆
Holy Grail War――電脳世界で行われる蠱毒の宴。
聖戦の顔をして行われる血みどろの殺し合いが呼び起こす呪いの気配を察知したかのように、呪術師は黒い羽に誘われて冬木の地を踏んだ。
呪術師の名を、羂索という。
紛れもないただの人間でありながら術を極め、死人の脳を転々とすることで寿命という縛りを克服して世に蔓延り続けた魔人である。
キスショットが彼の背に見たビジョンは、極めて実像に近いと言わざるを得ない。
彼ほど人の尊厳を弄んだ者はなく、彼ほど誰かの運命の死骸を踏みつけて歩んできた者もそうはいないだろう。
そして今、この世界で羂索は新たな悪事を仕出かそうとしている。
聖杯という極上の呪具を手中に収め、神にも届くというその力を遣ってまた不幸と破滅を振り撒こうとしているのだ。
キスショットに与えられた役目は、つまるところそんな鬼畜外道の走狗。
殺せと命じられれば飛んでいって殺し、守れと命じられれば盾にでもなる腥い猟犬。
――は、と渇いた笑いが漏れた。走狗。走狗か。この儂を狗と呼んだか。たかだか呪い師風情が。
やはり荷物など背負うものではない。何かを背負うことは、即ち存在の強度を下げてしまうことに他ならないのだと今更になって嫌というほど思い知っている。
孤独のままであれたなら、一体どれほど心地好く呼吸が出来たろう。
気に入らない主人気取りの首を掻き切って欠伸でもしながら午睡に戻れたなら、それに勝る娯楽はないだろうとつくづく思う。
「それが出来ぬから、ままならんのよな」
蹂躙と殺戮を。血と虐を。臓物と気まぐれを。
――我こそは怪異の王、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードなるぞと。
そう嗤えたならばどれほど幸いだったか。しかし、キスショットにはそれが出来なかった。彼女はなまじ人肌の熱を知ってしまい、そしてそれが消えてなくなった今も“あの日”を追いかけ続けている。
……その末に、こんなところまで堕ちてきてしまった。
「全て叶った暁にはどうしてくれようか。くくく――今から愉しみで仕方がないわ」
“この”キスショットに救いはない。
彼女は、それが用意されていない世界に生まれ落ちてしまった怪異の王。
今も尚、いつかの慟哭の残響から逃れられずに足掻き続けている孤独の怪物に他ならない。
傾いだ世界、傾いだ物語の“結末”の切り絵。
あるバッドエンドの死体が、かつてキスショットであったものが、今も幽鬼のように動き続けているだけの存在。
死んだ虫の神経に電気を流して、無理やり生きている風に装わせているような、そういうモノ。
それ以上でも以下でも、それ以外の何かでもない。
そんな“IF”も許されない行き止まりの異聞からやって来たからこそ、彼女はこうまで擦り切れているのだ。
「……どうしてくれようか、か。我ながらつまらぬことを言ったものよ」
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
再臨した怪異の王。そう称されるに足る力と、暴力と、狂気を抱いて走る獣。
傾いだ世界の、運命の悪戯が生み出した狂おしい絶望の呪い。
そして。
「儂は、ただ……」
決して届くことのない願いに手を伸ばすことを止められない、子女の泣き顔のように悲愴な嘆きを背負った――成れの果て。
「ただ、もう一度……」
彼女の願いは、今もかつてもそれ一つだけ。
その願いを叶えるためならば、吸血鬼は喜んで狗にでも成り下がるだろう。
たとえ手を結んだ相手が、悪魔のような、弄ぶことしか知らない“傾”の象徴のような呪術師であったとしても。
キスショットは――残っているかどうかも分からない己の運命線を、手繰り寄せずにはいられない。
◆
「呪いが人のようなことを言ったり思ったりするのは共通なのか。同情したくなるね」
蘇った、蘇ってしまった怪異の王がこの運命と引き合ったのは不運以外の何物でもなかっただろう。
いや――皮肉か。救えなかった結末、報われなかった運命という概念のカリカチュアのようなこれが。
よりにもよって再臨せし怪異の王の前に現れて手を差し伸べるなど、笑い話にしても辛辣が過ぎる。
誰かの青春の亡骸に乗り移った、冒涜者。
“傾物語”という言葉を指先で描き続ける、生き続けている呪い。
「これでも呉越同舟は慣れているんだ。大丈夫、働きに見合った報酬は支払うよ。
私にとっては君の慰めが叶おうが叶うまいが心底どうでもいいからね。戦いを終えた後は好きにするといい」
彼女が願いを抱くように、羂索にだって願いはある。
彼の願いは享楽だ。酒を呑み、肴をかっ喰らって、酔いも回り宴も酣に達した頃に漏れ出す酔漢の妄言のような享楽を、彼は大真面目に追い求めている。
聖杯になど頼らずとも願いの成就は間近に控えていたが、更なる混沌、化学反応の材料が得られるのであればそれに越したことはない。
まして、計画が順調とはいえ不安要素が完全に消えたわけではない。
獄門疆に封じ込めたままの“現代最強の術師”――五条悟の復活。
高専側が獄門疆の“裏”へ辿り着くまでの時間は、そう長くないだろうと羂索は踏んでいた。
であればますます都合がいい。
聖杯を獲得し、それを新たな混沌の材料にしながら五条悟への止めに出来れば最高だ。
(天元めを手中に収めた時……薨星宮の上空から舞い落ちてきた、一枚の“黒い羽”。
今のところは幸運の象徴と言う他ないが、はてさて君の本質は――私にとってどちらなのやら)
手のひらに小さく、しかし未知数の魔力を鼓動させながら載った“黒い羽”を見つめて羂索は呟く。
聖杯の話は彼にとって嬉しい誤算だったが、聖杯戦争の為に計画を現在進行形で放り出させられているのも事実だ。
羂索をして出現を一切予期出来なかったこの羽は、果たして本当に己にとって吉兆なのか。
それとも……あるがまま、望むがままに好き勝手な暗躍を繰り返してきた自分に対する報いとなる凶兆なのか。
「ま、全ては賽の目次第だ。後は目が出てから考えようか」
キスショットが“荒らした”跡地で伸びをしながら、羂索は片手に持った黒い球体を呑み込んだ。
術式・呪霊操術。条件を満たせばサーヴァントにさえ適用され得るそれを、この地でも羂索は存分に活用していた。
英霊の座に召し上げられるほどの存在、ましてや並行世界にまでその対象が拡張された反英霊の魂が有意義でない道理はない。
備えは盤石。手札も盤石。そして未知との遭遇に対しての気構えも、盤石。
電脳世界の街に降り立っても、そこが蠱毒の壷中だったとしても、羂索という存在は何も変わらない。
彼はただ弄び、転がし、傾けるだけだ。
何かを、何もかもを陵辱しながら陰謀を編んで不幸を喰む。それが彼の生き様であり方の全て。
――闇が蠢く。闇が蠢く。夜の帳より尚深い闇のカーテンを閉めながら、闇が一人闊歩する。
嘲笑うように。
◆
けん-さく【羂索】
1:鳥獣を捕らえるわな。
2:仏語。仏菩薩が衆生を救い取る働きを象徴するもの。
◆
【クラス】
バーサーカー
【真名】
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード@傾物語
【ステータス】
筋力:A+ 耐久:A+ 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:E 宝具:B
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
狂化:EX
会話は出来る。意思疎通も出来る。しかしその先に進めない。
バーサーカーの精神は“かの日”を境に深い狂気に侵されている。
他のEXランク狂化とは違い、ステータスアップの恩恵もしっかり受けている。
【保有スキル】
吸血鬼:EX
吸血鬼という枠組みの中でもハイエンドに分類される、規格外のヴァンパイア。
このランクにもなると弱点が弱点としての意味を成さない。
超高度な再生能力に吸血行為など、パブリックイメージの吸血鬼に出来ることは大体出来る。
怪異の王:A+++
怪異と云う枠組みの中で、名実共に最強を地で行くもの。
怪獣、魔獣が保有する普遍的なスキルを最低Aランクで習熟している。
憧憬、後悔:E
最強無敵の吸血鬼・キスショットの唯一の傷。
癒えることはなく、忘れることもなく、狂気の前に薄らぐこともない。
キスショットは過去に呪われている。
【宝具】
『傾物語、再臨せしは孤独なる怪異の王(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
怪異の王の復活という事実そのものが宝具にまで昇華された顛末。
キスショットの肉体と霊基そのもの。彼女の身体は常に弩級の神秘を帯び、立ち塞がる敵を悉く薙ぎ払う。
蘇る他なかった血塗れの王。失敗し、死に、それでも諦めることの出来ない光に目を開けてしまった女の生き姿。
『妖刀心渡』
ランク:E 種別:対怪異宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1
人に対しての殺傷能力は皆無に等しいが、怪異に対しては無類の殺害権を保有する妖刀。
【weapon】
『妖刀心渡』
【人物背景】
ある世界にて、失敗した最強の吸血鬼。
死を受け入れて消えた筈だったが、運命は彼女に一縷の光を見せた。見せてしまった。
――彼女はまぶたを開けてしまった。
【サーヴァントとしての願い】
望みは一つ。あの日の後悔を清算する。
【マスター】
羂索@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れ、計画の補助の為に用いる。
また可能ならば五条悟に対する“止め”として使いたい。
【能力・技能】
◆名称不明
羂索の本来の術式。
他者の死体に自身の脳を入れることにより、肉体の主導権を得る。
奪取した肉体の生得術式を使用可能になる外、記憶、呪力などパーソナルな部分も我が物に出来る為、最高位の淨眼である六眼をもってしても相手の中身が羂索であると見抜くことは困難。
◆呪霊操術
呪霊を取り込み、自由自在に使役する術式。
羂索は数千に達する呪霊のストックを有しており、それは最早一つの“軍勢”と呼ぶに足る。
低級の呪霊でも羂索ほどに卓越した術師が扱うことで殺傷能力は跳ね上がり、その戦闘能力はサーヴァントにさえ並び得る。
また『極ノ番』と呼ばれる秘奥が存在し、その能力は呪霊を使い捨てることによる“超高密度の呪力放出”と(高専基準で)準一級以上の呪霊を圧縮することによる“術式の抽出”。
前者は手数を捨てることになるリスクを含有するが、その分特級術師にさえ容易に致命傷を与える威力をコンスタントに引き出すことが出来、後者は本来術者が会得していない生得術式を一度切りとはいえ習得出来るという規格外の性能を誇る。
実例はまだないが、条件を満たす相手ならばサーヴァントでさえ使役の対象になる可能性が高い。
◆反重力機構(アンチグラビティシステム)
過去に乗っ取った女の術式。
重力を打ち消すことが出来るが、羂索はこれを術式反転で用いることにより、自身に近付くものを地面へ叩き落とす迎撃の術式として用いている。
効果範囲は半径2〜3メートル程度で、発動時間も6秒程度と短くおまけにインターバルまで発生するなど、使い勝手にはやや難がある。
◆領域展開『胎蔵遍野(たいぞうへんや)』
術師の秘奥、領域展開。
羂索の場合、空間を閉じることなく領域を展開することが出来る。
先述の『反重力機構』の術式反転を必中化させ、領域内の対象を叩き潰す必中にして必殺の領域。
極めて強力だが、領域の展開後は一定時間術式が焼き切れるデメリットを持つ。
【人物背景】
あらゆる不幸の元凶、運命を傾がせる者。
薨星宮にて天元を調伏後、舞い落ちてきた“黒い羽”に触れて電脳冬木市へと転移した。
投下終了です。
フリースレからの流用になりますが投下します。
『執行官……確か、裁判所の職員だったな』
『マスターの常識ではそうだろうね。でも、俺たちファデュイ執行官……ファトゥスは外交や軍隊の指揮も兼ねていた。銀行運営にも関わったほどの働き者なんだぜ?』
『ああ。君たちファデュイが、テイワット大陸で悪事を働いていたことも、私は知った』
『ハハハハハッ、手厳しい! でも、俺は確かに悪いヤツだからな!』
口を動かさず、念話で意思疎通をしている。
私……菓彩あまねの前では、一人の青年が笑みを浮かべていた。
好男子、と呼ぶにふさわしいほど整った顔つきで、丁寧に手入れされた髪は明るい。どこか影が見える鋭い目つきも、男女問わず多くの人を魅了させかねない。
気品を漂わせる灰色の軍服を見事に着こなし、上質なグローブとブーツも合わせて、彼の格式を高めている。炎の如くストールは、彼の背でゆらゆらとたなびく。
背丈も高く、長い年月をかけて鍛え上げた体からはまるで隙が見えない。
唯一、異質な真っ赤なマスクすらも、彼の魅力を引き立てそうだ。
『公子』の称号に見合った貴いオーラを放っており、偉人が歴史の教科書から飛び出してきたかのようだ。
『じゃあ、俺を切り捨てるかい? マスターが令呪を使えば、悪いヤツとすぐにサヨナラできるしさ』
『アーチャーがテロリストだろうと、私に命をもてあそぶ権利はない』
『へぇ? ファデュイである俺を気遣ってくれるとは、お優しいマスターだねぇ』
はは、と不敵な笑みを浮かべる男。
人々にたたえられた英雄が、亡き後に英霊となり、聖杯の魔力によって召喚されたサーヴァント・アーチャー。
英霊タルタリヤ。異世界の組織・ファデュイの執行官であり、卓越した武芸を誇る男だ。
表向きには他国との外交を執り行っているが、実際は卑怯な手段で侵略し、武力または陰謀で多くの人を苦しめている。当然、タルタリヤも悪事に関与した。
一見すると人当たりが良いが、どうもつかみ所がない。慇懃無礼でどこかのナルシストを連想させるこの男が私は苦手だ。
『ファデュイの最高幹部、ファトゥスの第十一位……『公子』。無数の戦いを乗りこえ、氷国スネージナヤにてその実力を評価された』
『君、俺の武勇伝を知ってるでしょ? なら、俺が何を望むのかだって……逸話を見れば、わかるんじゃないかな?』
『戦い、か』
『正解』
過去を暴かれたにも関わらず、さも誇らしげに胸を張る。
彼は私が令呪を使えないと見抜いていた。この段階で3画しかない切り札を使うのは悪手であり、そもそも他者の意志をねじ曲げたくない。
召喚されたあの日から、ずっと値踏みされている。今でさえ、私がどんな人間かを観察していたはずだ。
部隊を率いて、兵隊一人一人を幾度となく鍛え上げたからには、人間観察力も養われている。
誰かを傷つけるのはもちろん、命を奪うことを望まないマスターだと、タルタリヤは気付いている。
『執行官になった俺にとって、最高の娯楽……強い奴と戦い、勝つことさ。そういう意味じゃ、この聖杯戦争は実にいい舞台だ。俺の知らない時代、知らない世界から、数えきれないほどのサーヴァントが集まってくるから、今も胸が踊っているぜ』
『筋金入りだな。そうして、旅人さんも追い詰めたのか』
『あぁ、旅人との戦いは楽しかったさ! 俺が見る限り、マスターもなかなか見込みがありそうだが……なんだったら、俺が直々に稽古をつけてあげようか?』
『遠慮する』
男の態度に私はため息をつく。
私を挑発し、手玉に取ろうとしているのか。もしくは、タルタリヤなりの軽口かもしれない。
彼と出会い、ぶつかって、心を通わせた旅人さんにも、飄々とした態度でいたのだから。
『俺は戦いに躊躇しないサーヴァントだから、マスターが生き残るにはちょうどいいだろ』
『誰かの命を奪ってでもか?』
『おいおい、これは聖杯戦争……誰も死なない戦争なんかあり得ないって、ちゃんと歴史を勉強すればわかるだろ?』
タルタリヤが話した『戦争』に、私の言葉が詰まる。
縁が遠いように思えて、ある意味では密接に関わってきた出来事だ。
世界中のあらゆる料理を奪おうと企んだ怪盗ブンドル団と、私たちデリシャスパーティプリキュアは戦った。
みんなのおいしい思い出や笑顔を守り続けたが、誰かが悲しみ、涙を流す姿は何度も見てきた。
最後は世界の命運を賭けた戦いにまで発展した。命こそ奪われなかったが、見方によっては戦争と呼べる。
『悲劇を繰り返さないため、私たちは日々学ばなければいけないはずだ』
生きる中で悲しい出来事は避けて通れない。
間違えたり、気持ちが空回りして誰かを傷つけるのは、誰にでもある。
だが、後世に名を遺した偉大な先人は多くいる。その方々が生きた証から、最善を尽くすのが私たちの使命。
『戦いなんてやめましょうって、みんなに呼びかけるつもりか? そいつはずいぶんとご立派だが……時には妥協が必要だ。子どもだって、嫌いなメニューを食べる時があるだろ?』
『忠告は受け取る。君の言葉が間違っていると言うつもりはないが、思考停止して全てを諦めたくない……私の志す正義に誓って』
『おやおや? マスターの正義とやらは結構だが……この前、俺が他の主従に手をかけたって、忘れてないよね?』
忘れ物はないかきちんと確認したのか、と聞くようなかるい口調で。
タルタリヤは懐からスマートフォンを取り出し、私に見せつける。
そのスマートフォンは戦利品にして、彼がこの世界で命を奪った確かな証だった。
戸籍を持たないサーヴァントである彼が、店舗でスマートフォンの購入や契約などできるはずがない。
数日前、他の主従を撃退し、奪い取ったのだ。その時は深夜だったため、私は就寝していたが、関係ないと言い訳するつもりはない。
サーヴァントの罪は、マスターたる私が向き合うべき責任だ。
『アーチャーの行いだって流さないし、それはマスターの私が向き合う責任だってわかっている。だからこそ、もう一度言おう……無闇に誰かを傷つけないと、約束してくれ』
『約束? 命令じゃないの』
『命をもてあそぶ権利がないと言ったはずだ。君の意志をねじ曲げて、道具にするのも違う……その手の行いが、私は苦手だ』
かつて、怪盗ブンドル団のナルシストルーによって意志を奪われ、私は怪盗ジェントルーとして多くの悲劇を生んだ。
レシピッピを悲しませ、料理の味を変えて、多くの飲食店を追い込んでいる。らんの大切なラーメン屋・ぱんだ軒のメニューだって例外ではない。
ブンドル団やナルシストルーが悪い? だが、私の過ちは永遠に消えない。
操り人形にされる痛みや悲しみを知っているのに、どうして他の誰かに背負わせられるのか。
『…………悪いけど、それは約束できないな』
少し間を開けた後、タルタリヤは真摯なまなざしで告げる。
『この聖杯戦争に呼ばれた連中は只者じゃない。俺が仕留めたセイバーだけでなく、マスターも油断できなかった。あそこで見逃したら、君に火の粉が降りかかると断言できる。俺の娯楽なんて関係ない、本気の忠告だ』
『そうだろうな。君ほどのサーヴァントが召喚された聖杯戦争だ……他のマスターも、相応の実力を持つサーヴァントと共に戦っているだろう』
あるいは、タルタリヤを上回る強者がいてもおかしくない。
百戦錬磨の猛者はもちろん、多数の罠を仕掛ける海千山千の策士もどこかに潜んでいる。
私とて遅れを取るつもりはないが、今は共に戦ってくれたみんなはいない。プリキュアに変身しても、サーヴァントが相手ではどこまで通用するか?
例え、私が一撃を与えたとしても、サーヴァントによっては蚊に刺される程度の痛みすらない。タルタリヤがいなければ、そもそも生存すら不可能だろう。
『それでも、正義を捨てるつもりはない』
『実にご立派だ。俺よりも、君の方がサーヴァントに向いてるんじゃないかな』
『私は立派な人間じゃない。生徒会長を務めさせて頂いたが、それだけだ……君のように、母国の為に戦った男こそがサーヴァントにふさわしいだろう』
『母国? 君、まさか俺が……』
『ああ。タルタリヤ……君は、スネージナヤで一番人気のおもちゃ販売員も兼ねていたじゃないか?』
あえて、私はタルタリヤの泣き所を突いた。
うっ、と男の声が聞こえる。
『私の記憶に間違いがなければ……君はおもちゃ売りになって、宝盗団の取り立てを穏便に済ませたはずだが?』
『あー……あれは不可抗力だ。俺は執行官として、穏便に交渉しなきゃいけない時がくるからさ……』
『そうか? 君は最愛の家族のため、よき兄でいたじゃないか……私には、その姿が暖かく見えた』
タルタリヤは祖国に自慢の家族がいた。
ファデュイの『公子』として戦いを楽しみ、数多の戦場に自ら飛び込んだ。それは決して揺らがない彼の価値観だろう。
しかし、弟のテウセルくんや妹のトーニャちゃんには理想の兄で居続けた。手紙でのやり取りはもちろん、お土産だって送っている。どれだけ傷つこうとも、ファデュイの執行官である黒き面は隠していた。
タルタリヤの悪行は決して認めないし、許してもいけない。彼は紛れもないテロリストだ。
だが、過去を糾弾したら、かつてジェントルーだった私にも返ってくる。
ーー約束したら守る。悪い事したら謝る。
ーー与えた夢はちゃんと最後まで守る…
ーーあいつは俺の大事な弟だからね。
弟を守るため、痛む体に鞭を打ってでも彼は戦った。
深くないであろう傷を最後まで見せず、テウセルくんの帰国を見送ったタルタリヤ。
その姿は、冷酷非道なファデュイ執行官でなく、家族を想う優しい兄だ。
光を帯びない淡い瞳が、確かに暖かかった。
『だから、君は私の元に召喚されたのかもしれない』
『……おや。何か思い当たることでもあるのかな』
『私にも大切な家族がいる。尊敬する兄が二人もいると、君も知っているだろう』
『もちろん。とても幸せそうに見えた』
『ああ、君にもシェアしてあげたいくらいだ』
フルーツパーラーKASAIはこの世界でも再現されている。
老舗にして、私が帰るべき家だ。
フルーツデザートに対する愛情を込め、見た目と味の美しさを追求したレシピを提供し、今日も進化している。
再現されたのは私の家族も同じ。父と母、ゆあん兄さんとみつき兄さんが、NPCとして生きている。元の世界にいるみんなから再現されたコピーだが、れっきとした一つの命だ。
いつものみんなと変わらない笑顔で、私とおいしい時間を過ごしている。
「ピー! ピピピピピピー!」
この世界に連れてこられたのは私だけではない。
私たちの間を飛ぶ小さな妖精、パフェのレシピッピもいる。私を見守ってくれた大切なパートナーだ。
彼女がいなければ、私はプリキュアに変身できない。だから、共に連れてこられたのだろう。
「ピピピピピー!」
「ごめんね、内緒話をしちゃって! 俺とマスターで今後のことを話し合ってたのさ、敵はどこに潜んでいるかわからないからね」
「ピピピピピピー! ピー!」
「ふむふむ。
『わたくしを話に加えないなんて、失礼千万! あまねがあなたのマスターなら、わたくしだってマスターですわ! デザートの頂点に立つわたくしを、もっと敬うべき……あなたがサーヴァントだろうと、譲るつもりはありませんからね!』
……確かに、君たちは金蘭の友だからね。今後、気をつけるよ」
「ピピピー!」
当然ですわ! と言うように、パフェのレシピッピは誇らしげに体を張っている。
コメコメたちエナジー妖精でなければ翻訳できないはずだが、タルタリヤは彼女の言葉がわかるのだろう。
「……本当にわかるんだな、パフェのレシピッピの言葉が」
念話から口頭での会話に切り替える。
「そのような逸話が君にあったのか?」
「いいや? きっと、サーヴァントとして召喚された都合かもしれないよ? レシピッピは普通の人間じゃ見れないとマスターは言ってたが……それじゃあ聖杯戦争のバランスが崩れる。だから、サーヴァントなら目視や会話ができるはずだ」
あるいは、同じことができるマスターもいるかもね、とタルタリヤは付け加える。
少なくとも、嘘を言っているようには見えない。
タルタリヤと意思疎通できるのはありがたいが……反面、敵対人物からパフェのレシピッピが狙われる危険もあった。
ちなみに、今は私の部屋に集まっている。念話を行っていたのも、家にいるみんなに聞かれないためだ。
無論、誰かが近づく気配があれば、すぐにタルタリヤは霊体化で隠れられる。音読をしていたと言い訳するため、机の上に英語の教材を多数用意した。
聖杯戦争の秘匿もあるが、それ以前に見知らぬ成人男性が家にいたら大パニックだ。家族会議は避けられない。
「さて……俺から君たちに改めて忠告しておこう。生きて本当の家に帰りたいなら、腹をくくった方がいい。できない約束をするのは、無責任だろう?」
タルタリヤは本気だ。
私たちを元の世界に帰すため、聖杯戦争に勝ち抜くつもりだ。その過程で、どれだけ血と罪に濡れようとも止まらない。
彼の鋭さに、私とは違う世界で生きてきたのだと否応なく思い知らされる。
「私はとっくに決めているとも。アーチャーの罪を共に背負い、理不尽な聖杯戦争と戦う……その為に、君の力を借りたい」
だからこそ、私は真っ直ぐに向き合った。
この世界では、タルタリヤの方が圧倒的に正しいかもしれない。万能の願望器を求めて、最後の一人になるまで戦わなければ元の世界に戻れないのだから。
それに、聖杯を求める主従にだって、切実な理由があるはず。譲れない大義や信念か、聖杯にすがらなければならないほどに追い詰められているか、または邪知暴虐のためか。
そしてかりそめの世界に生きる命……NPCに気遣うことも、愚かと笑う者もいるだろう。
「俺がどんなサーヴァントなのか、マスターは知っているよね?」
「当然だ。ファトゥスの座に上り詰めた君は、とても強いサーヴァントだろう……なら、私にとって心強い味方だ」
「まさか、俺が誰かを殺さないって本気で思ってるの?」
「私だって、守りたい約束はある。何があっても……それを破るわけにはいかないんだ」
タルタリヤからすれば、甘い理想論のはずだ。
しかし、タルタリヤが家族を国の闇から遠ざけようとしたように、私にも裏切れない人がいる。
私の心を信じて、必死に呼びかけてくれたゆいたちの気持ちを踏みにじれる訳がない。
もし、タルタリヤを召喚したマスターが、私の知るみんなだったとしても、同じ選択をするはずだ。
「大言壮語と笑いたければ笑え。しかし、私はみんなに約束した……たくさんの人を笑顔にできる、パフェのような人になると」
「子供の夢だね、とても壊れやすそうだ」
「だからこそ、私はそれを大切にしたい。嘘をついて、氷づけにされたくないからな」
私とタルタリヤは決して相容れない主従だ。
彼は戦いを望み、他者を傷つける己に誇りすら抱いている。私が何を言おうと、タルタリヤが変わるなどあり得ない。
「……君も、旅人と同じように、テウセルのいい遊び相手になっただろうなぁ」
「当たり前だ。私だけじゃない、私の大切な友人もみんな、テウセルくんやトーニャちゃんと一緒に、遊んでくれるさ」
だが、家族の夢を守ろうとした優しい兄であることも事実だ。
ファデュイ執行官のタルタリヤと、家族想いの兄であるタルタリヤ……アヤックスと呼ぶべきだろうか?
どちらも、欠けてはならない大事な一面だ。
「君の考えはわかった。聖杯はいらないし、元の世界に戻りたいって」
「だが、アーチャーは戦うのだろう」
「当たり前さ。召喚されたからには、契約を守らないとね? こればかりは、マスターの運が悪かったってことで、受け入れてくれよ」
じゃあ、俺はこれから見回りをしてくるから、と言い残して、タルタリヤは煙のように消える。
他者からの束縛を嫌う彼だ。それこそ、私が令呪で行動に制限をかけない限り、戦いをやめないだろう。
…………しかし、それがどうしたのか?
たった一度で諦めてたまるか。
どんな困難があろうとも、私や…………そしてブンドル団のゴーダッツにも想いをぶつけたゆいがいるじゃないか。
何よりも、かつて私を操り人形にしたナルシストルーだって、私はわかり合うきっかけを作った。
ここねやらん、マリちゃんたちだって私の過ちを受けとめ、仲間として認めてくれている。
ゆいの在り方を認めた品田も、どれだけ傷つこうとも立ち上がった。
今、私のやるべきことは、タルタリヤと心を通わせる。私たちがいかに力を持とうとも、話をしなければ何も成せないし、身近にいる人間とわかり合えなければ、どうやって聖杯戦争に立ち向かうのか?
「ピピー……」
パフェのレシピッピは、心配そうな顔で私を見つめている。
「大丈夫だ、時間はある。私は、彼との縁も大事にするとも」
彼が約束を貫くのなら、私もそれに応えるだけ。
あぁ、だから私の元に彼が召喚されたのかもしれないな、と納得した。
彼が二つの顔を持っていたように、私も二つの顔を持っている。
手段や理念こそ違えど、お互いに守りたい人がいた。
…………ならば、私たちはわかり合えるはずだ。そんな小さな希望が胸の中に芽生えた。
がんばれ、あまねちゃん!
タルタリヤさんはただ者じゃないけど、きっとあまねちゃんの味方になってくれるわ。
遠くからになるけど、私も応援してるからね!
◆
「テウセルの件を持ち出したって無駄だ、って言おうとしたけどなぁ……やれやれ、これからマスターの子守りもしないといけなくなったか」
ずいぶんと甘いマスターに巡り合ったと、俺はため息をつく。
だが、ようやく答えを出した。
闘争を史上の喜びとし、執行官(ファトゥス)の第十一位『公子』にして、一度は璃月を壊滅の危機に追いやった大悪党。
マスターの言葉を借りれば紛れもないテロリストだ。そんな狂戦士(バーサーカー)が、何故弓兵(アーチャー)のクラスで、殺人はおろか喧嘩の経験があるかも疑わしい少女の元に導かれたのか。
そう。戦いを望まない平穏な少女だからこそ、だ。
「マスターも戦いはできるみたいだけど、サーヴァントを前にしたらどれだけやれるか…………そこそこ渡り合えても、いつか限界は来る」
この俺を従えるマスター・菓彩あまね。
一見するとただの少女だが、俺の目は誤魔化せない。精霊レシピッピと共にし、こんな俺と毅然に向き合う胆力を持っている。しかも、当人曰くプリキュアという戦士だそうだ。
ヒルチャールやアビス教団、ファデュイの兵を相手にしても遅れを取らない程度の実力は持っていると見ていい。流石に執行官(ファトゥス)や七神を相手に戦えるかはわからないが、自衛程度なら期待できそうだ。
それに、無策で戦場に飛び込むようなリスクも侵さないはず。俺だけに任せれば、マスターが聖杯戦争で生き残るのは夢物語ではない。
「まぁ、マスターを元の世界に帰してあげる契約だけは、ちゃんと守るよ。罪だって、俺一人で背負う……君は、俺に付き合わされただけの被害者だ」
だが、俺とマスターの理想は決して一つにならない。
この世に産声をあげた日から、武芸と殺戮の技術を磨き続け、深淵にて才を開花させた。数え切れない闘争はもちろん、恐るべき魔獣を屠った逸話すらある。
ましてや、俺はファデュイにいようとも束縛を嫌い、我を通し続けた執行官だ。可能性に満ち、最も危険な執行官とも恐れられたっけ?
冷酷非道かつ傲慢な俺が、純真無垢な少女が望むように、誰一人の犠牲を出さずに事を進めるなどあり得ない。
テイワット大陸と違って、ここは聖杯戦争の舞台となった狭き箱庭。だから、己の戦果を包み隠さず話した。
だが、過酷な運命を前にしても、理想をつらぬくと菓彩あまねは言い放っている。
「それに、君との約束だって忘れない。こんな世界じゃなくて、君が帰るべき本当のお家に送り届けてあげるからさ」
悪意や陰謀とは無縁の世界で、マスターは生きなければいけない。
仮初めの家族を前にしても、マスターは微笑んでいた。
一方、仲よさげに歩くとある家族を、どこか寂しげな表情で見つめていた。
強がってこそいるが、本当は寂しくて堪らない。
「強い奴らと戦えれば俺は満足だ。聖杯の奇跡とやらは、マスターに全部譲ってやるとも」
聖杯の願いなど何一つとしてない。
受肉し、世界に君臨しようと思わなくもないが、約束の前では霞んでしまう。
『神の目』を手に入れる? 奇跡で女皇陛下の忠義を果たす?
もしくは、愛する家族とまた幸せな日々を過ごす……それも悪くないし、その口実ならばマスターも協力するかもしれない。
だが、果たすべき約束ができたから、心の中で家族に謝罪する。
何の躊躇もなく、たった一つだけで妥協できた。
彼女の未来のため、サーヴァントとして聖杯戦争に勝ち残る。
「マスターにあげられる俺からのプレゼントは、それくらいしかないけど」
サーヴァントになっても、子供と縁があるみたいだな。
苦笑しながら、英霊になった俺は決意する。
心優しい少女が愛する家族と巡り会えるよう、この戦いに勝利することを。
【クラス】
アーチャー
【真名】
タルタリヤ、或いはアヤックス@原神
【ステータス】
筋力B+ 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運C 宝具A+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。
無窮の武練:B
幼い頃、辿り着いた深淵にて謎の剣客と出会ったことをきっかけに得たスキル。
闘争の才に目覚め、数多の戦を乗り越えた彼はいつ如何なる状態でも十全の戦闘能力を発揮できる。
邪眼:B
タルタリヤが持つ「神の目」にして、氷の女皇から与えられた力の勲章。
テイワット大陸では「神の目」を持つ人間が特定の元素を操り、操作する超常の能力が与えられる。
ファデュイはその「神の目」を複製する技術を持ち、「邪眼」はその産物。「邪眼」の力は「神の目」を上回るとされるが、使用者の命すらも脅かす危険な代物なため、執行官(ファトゥス)以外に渡されることは滅多にない。
第十一位『公子』であるタルタリヤはこの「神の目」を得て水の元素を操り、更に「邪眼」を使えば雷の元素も思いのまま。
「邪眼」を与えた「氷の女皇」は神に等しく、『公子』も絶対の忠誠を誓っている。
故に、同レベル以下の精神攻撃を無効化できる。
魔王の武装・荒波:B+
タルタリヤの元素スキルにして、水元素の双剣を顕現できる。
双剣でダメージを与えた敵には水の元素を付着させ、扱い方次第では元素爆発を起こせる。
なお、タルタリヤは弱点克服のために弓で戦うことを選んでいるため、こちらの方がより実力を発揮できる。勿論、弓のスキルも並の弓兵を遥かに凌ぐが。
【宝具】
『魔王武装』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
かつて深淵にたどり着き、暗闇の国にて得た武装を身につけたタルタリヤの姿。
神の目と邪眼、双方の力を全て引き出したことで水と雷の元素を自由に操り、タルタリヤの戦闘力を限界以上に引き上げる。
堅牢たる武装は並大抵の宝具を容易く弾き、魔王の力を発揮したことで広範囲の攻撃も可能なため、半端な英霊では接近すら困難。
ただし、邪眼の力の反動として、長時間の使用は不可能。令呪によるブーストをかけなければ、タルタリヤの霊基は加速度的に崩壊し、良くて三度しか発動できない宝具となる。
何のブーストもない状態で魔王武装を強引に纏っても、最大で5分程度しか維持できず、また霊核に致命的な傷を負ってしまい、タルタリヤは消滅を免れない。
『禁忌滅却の札』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:- 最大補足:-
魔神戦争にて岩の魔神モラクスに敗れ、封印された渦の魔神オセルを呼び覚ますために使われた札。
厳密にはファデュイによる複製だが、タルタリヤはこの札を使って海からオセルを復活させ、一度は瑠月を壊滅の危機に追い込んだ。
また、この宝具を発動した場合、オセルのみならずファデュイの兵たちも顕現し、敵を殲滅させようと動く。
ただし、生前のタルタリヤは札の使用自体は不本意だったため、当人が自発的に発動させることはほぼないだろう。
【weapon】
弓及び双剣
【人物背景】
氷国スネージナヤの組織であるファデュイ執行官(ファトゥス)にして、第十一位『公子』の称号を与えられた青年。
人当たりのよい態度を取りながら、自らの戦績と名を広く知らしめていて、修練を重ねた戦士の一面を秘めている。
強者との戦いを何よりも好む戦闘狂で、同じ執行官(ファトゥス)からも危険視されるほど。戦いのためなら、執行官(ファトゥス)の地位すらも何の躊躇もなく使う。
そして、彼は家族想いの優しい兄でもあり、幼い家族に自分の闇をひたすらに隠し続け、自らの傷を顧みずに子供の夢を守り通す責任感を持つ。
行く先々で出会う子供とはすぐに仲良くなれる。
料理や掃除、釣りも得意。
【サーヴァントとしての願い】
敵対主従との戦いを楽しむが、それ以上にマスターであるあまねを元の世界に帰すことが重要。
【マスター】
菓彩あまね@デリシャスパーティ♡プリキュア
【マスターとしての願い】
聖杯はいらない。
みんなの期待を裏切らないよう、この世界でタルタリヤと共に戦う。
【能力・技能】
文武両道。
勉強や料理が得意で、空手をたしなんでいる。
ハートフルーツペンダントを使って、食後のデザートであるパフェのプリキュア・キュアフィナーレに変身可能。
キュアフィナーレに変身すればサーヴァントとも戦える。
【weapon】
パフェのレシピッピ。
あまねと心を通わせたレシピッピ。レシピッピとは料理の妖精で、料理を愛する人から生まれるほかほかハートに集まる場所に現れる。
あまねたちプリキュアや、クッキングダムの住民及び無垢な子供しか姿がその姿を見られない。また、基本的にエナジー妖精が言葉を翻訳しているが、聖杯戦争中ではサーヴァントも視認及び会話ができる。
ハートフルーツペンダント。
パフェのレシピッピと出会ったあまねの願いとほかほかハートから生まれた奇跡のアイテム。
ハートキュアウォッチの所有者との通話、そしてインターネットとの接続ができ、またレシピッピを格納する機能がある。
パフェのレシピッピがペンダントの中にいる状態で、二人の心が一つになった時、あまねはキュアフィナーレに変身できる。
クリーミーフルーレ。
キュアフィナーレの使用する武器で、モチーフは絞り袋。
エネルギーを絞り出すことで決め技、プリキュア・フィナーレ・ブーケを使って敵を浄化できる。
更にエネルギーを絞ることで、上位技のプリキュア・デリシャスフィナーレ・ファンファーレを使用可能。
【人物背景】
私立しんせん中学校で生徒会長をつとめ、おはぎとパフェが大好きな女の子。
正義感が強く、真面目で面倒見がいいため人望も高い。双子の兄のゆあんとみつきを尊敬している。
かつてはブンドル団のナルシストルーに操り人形にされ、怪盗ジェントルーとしてレシピッピを悲しませていたが、ゆいたちとのふれ合いで自分を取り戻した。
自らの罪に葛藤しながらも、過去と将来の自分に目を向けて、菓彩あまねはキュアフィナーレに変身し、ブンドル団と戦う決意を固める。
ある時、ナルシストルーから煽られて、あまねの心は大きく揺らいでしまう。
ナルシストルーを許せず、彼に大きな恨みを抱いてしまうが、ローズマリーからのアドバイスを受け、自分の感情と真っ直ぐに向き合う。
心を強く保ち、自らの正義を貫けるようになった彼女は、ナルシストルーの心を救うきっかけを作った。
投下終了です。
投下します
カナリア、あなたのその歌声は
深い深い森へと、差し込んだ光
――――――
「ふぅ…」
勉強を終えて、肩の荷が降りる。
自身の紫色の髪をかき上げ、立ち上がる。
「…」
少女――飛騨しょうこはただ普通の女子高生だ、勉強に打ち込み、友達と過ごし、ただ平穏な――はずだった。
「…ランサー」
霊体化を解き、彼女のサーヴァントが浮かび上がる。
その姿は――陰部を除き――まさに全裸。
奇妙としか言いようがなかった。
「なんだい?マスター?」
「やっぱ…あんたのその格好、どうにかならない?一番大事な部分が隠れているとはいえ…あたし女よ女?」
自分に付き添ってからの疑問を投げつける。
「うーん…俺はこの姿が慣れているからな…ラグナロクのときもこの姿だったし。」
「いやそうはならんでしょそうは!普通衣服は着るんだから!」
キレッキレのツッコミをランサーに向ける。
「あんた本当にいい面してるんだからさ、ちゃんと着こなしできればいいと思うだけどなー。」
「そう言われてもなぁ…酸っぱい…」
「話してる途中にまるごとりんごを食う奴がいるか!」
キレッキレのツッコミがまた投げかけられる、次はチョップつきだ。
「はぁ…とにかく、あたし、お風呂に入ってくるから…見張りお願いね…無いと思うけど、覗いたら許さないから。」
そして、しょうこは部屋の外に出た。
ランサーはりんごを齧ったままにこう呟く。
「新鮮だなぁ…子供にそう言われるのって。」
【クラス】
ランサー
【真名】
アダム@終末のワルキューレ
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力A++ 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運B 宝具A++
【クラススキル】
対魔力:A
Aランクの魔術すら無効化。
事実上、現代の魔術師では傷一つ付けられない。
令呪による命令すら一画だけなら一時的に抵抗出来る。
【保有スキル】
戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
希望のカリスマ:B
神との戦いラグナロクにおいて、13人の代表の戦士として選ばれた、まさに 人類の希望
【宝具】
『神虚視』
宝具:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1m〜10m 最大捕捉:−
攻撃を模倣する技術
どんな一撃、どうな強力な技でさえ、一瞬で見切り、そして模倣する
しかし、限界は有り、長時間連続で使用し続けると、出血などを起こし使用不可になる
【weapon】
メリケンサック
【人物背景】
人類と存亡を賭けた戦い、ラグナロクに出場した一人
知恵の実であるりんごを食べ、その罪により恋人のイブと共に天界を降ろされた過去を持つ
神々にもっと恨みを持つと評されたが、実際にはそんな事はなく、戦う理由も自分の「子供達」である人類を守るための、「父親」としての行動だった
第2回戦において、神々代表のゼウスと激突、互いに自身の限界まで出し合い、結果として敗北してしまうも、全能神で、戦闘狂でもあるゼウスに「敵ながらとても強かった」と評される実力の持ち主である
【マスター】
飛騨しょうこ@ハッピーシュガーライフ
【マスターとしての願い】
さとうに――会いたい
【能力・技能】
有名な私立高校に行けるほどの学力を持つ
【人物背景】
高校生の少女
気は強いが、面倒見が良く、友人を大切にする性格である
結果として、さとうの秘密を知ってしまったがゆえに殺されてしまう
しかし、彼女は、謝りたかった、拒絶してしまったことを――
投下終了です
投下させて頂きます
これはOZ聖杯に投下したものの流用です
「心配すんなよさやか。独りぼっちは、寂しいもんな……。
いいよ、一緒にいてやるよ……。さやか……。」
冬木ハイアットホテルの屋上に寝転がって、佐倉杏子はつくづく思う。訳の分からない事態だと。
あの時、美樹さやかの絶望から産まれた魔女と共に、この身は確かに死んだ筈だ。
家族の為に願った末に魔法少女となり、家族を破滅させて、自分のために生きる様になった自分と。
他人の為に願った末に魔法少女となり、誰かの為に戦い続けたものの、自分の幸せを何処かで望んでいた美樹さやか。
相似で有り、相反する2人の運命は、あの時確かに混じり合い、終わった筈。
それが何故こんな事になっているのか?
「何でも願いが叶う…ねえ」
あのクソ忌々しいインキュベータと同じ触れ込みの聖杯に何かを願う気は全く無い…。けれど願い事がない訳じゃ無い。
さやかを生き返らせる。魔法少女を元の体に戻す。インキュベーター共を世界から…宇宙から消し去る。
聖杯とやらの触れ込みが確かなら、これ位は出来るだろう。だが…。
「胡散臭い。絶対何か裏が有る。こういう事は」
願いを叶えたければ、最後の一組になるまで殺し合え。実に単純(シンプル)な話だが、仕組んだ奴は何処に居るのか?何の目的でこんな事をやらせるのか?
此処が不明瞭な時点で、佐倉杏子は聖杯戦争に乗る気はない。一度インキュベーターに踊らされた身で、便利な願望機に再度飛びつく程、佐倉杏子は愚かでは無い。
「どうする?さやか。アンタなら」
正義の魔法少女を志したアイツなら、どうするだろうか?
答える者は居ない。此処には杏子しか居ないのだから。杏子の召喚したサーヴァントは現在別行動中だ。一体何処で何を何をしているのか。
尤も、自分の従えるサーヴァントとはいえ、ウマが合わない。
望まぬ形で怪物とされ、その境遇からの解放を願うあの女の境遇は、多少は同情に値するが、結局は自業自得だ。
望まぬ形で魔女と成り果てる運命の自分達魔法少女とは縁があると言えば有るのだろうが、そのくらいの繋がりで召喚されたと有っては、さやかや自分が、あんな拷問狂と同類扱いされた様で不愉快だ。
あの女が筋金入りの反英雄な所為か、ソウルジェムの濁りを魔力として持っていくのは助かるが、なにせグリーフシードは無いし、この地で入手できるアテもない。
「まぁ、あんなのでも相棒なんだよな」
杏子は寝転がって空を眺める。此処は新宿区に有る京王プラザの屋上。この時間じゃ誰もやって来ないし、誰か来ても魔法少女に変身すれば見咎められる事なく立ち去れる。
「願いとか戦いとかもあるけど、今日の宿はどうしようかなぁ……」
何の因果か杏子のロールは、職なし家なしのホームレスだった。金銭は少しは有るが、余り使いたくは無い。
まぁ、慣れた事だ。適当にやるとしよう。今までの様に。
「それにしても、何処で何やってるんだ?アイツ」
青空と白い雲を眺めながら、杏子は己がサーヴァントが何処で何をしているか、ほんの少し気に掛けた。
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───────────────────
暗く、狭く、薄汚れた部屋だった。
陰鬱な気配を漂わせる廃屋となった洋館の地下室。
薄暗く異臭の立ち込める、石の床と石壁で囲まれた部屋は、訪れた者の精神に、不気味な重圧をかけて来る。
ましてや、壁と床、果ては天井に至るまでに着いた、無数の赤黒い染みが、部屋の持つ凄愴な雰囲気を、より一層強くしていた。
室内の空気を汚す悪臭が、血と糞尿と臓物と胃液の臭いが混じったものだと知れば、只人ならば即座に踵を返すだろう。
極めつけは、床に置かれ、或いは壁に立てかけられている得体の知れない数々の器具だ。
どれもこれもが赤黒いモノをこびり付かせ、摩耗したその様は、すべての器具が『使い込まれて』いる事を悟らせる。
凡そ真っ当な目的で使われている部屋でも無ければ、真っ当な人間が使っているとも思えない。そんな部屋だった。
「〜〜♪ 〜〜♪」
鉄製の扉がゆっくりと開き、蝶番が軋む音と共に、扉の部分が光に切り取られる。
鼻唄を歌いながら、そんな陰惨な部屋に相応しくない、軽快な足音を伴って、金髪の女が部屋へと入ってきた。
「まだ生きてるぅ?」
陽気な声であった。愉し気な声であった。部屋の用途を知っていて、尚このような声を出せる。最早これだけで、入ってきた女の人格が知れるだろう。
入ってきたのは鮮血を思わせる紅いドレスの女だった。銀糸で編んだかの様な長いプラチナブロンドの髪を揺らし、雑然と散らかった薄暗い部屋の中を真っ直ぐに、足元も見ずに歩く。何かを踏みつける事や、足を引っ掛けることも無い
その様は、女がこの部屋を『使い慣れている』事を如実に物語っていた。
「まだ生きているようね。『まだ』ね」
銀髪の女は、天井からぶら下がった“モノ”を見て、昂った声を漏らした。
天井からぶら下がっているのは赤黒い塊だった。そうとしか言えないモノだった。
だが、よく見れば、その塊は、一目でそれと分からぬまでに壊された人体と知る事ができるだろう。
逆さに吊り下げられているのは、全裸の十五、六程の歳の少女だった。
無数の殴打と火脹れにより腫れ上がった全身は、更に刃物により刻まれ、全身に細かい切り傷が作られている。鼻と耳は削ぎ落とされ、複数箇所を折られたせいで、関節が倍以上に増えた様に見える両手足の爪は全て剥がされていた。
赤黒く見えるのは単純に全身を覆った血液が乾いて変色しているからだ。最早胸が僅かに上下していなければ死体と思われても仕方ない。それほどの徹底した暴力が加えられていた。
此処まで執拗で徹底した暴力を加えられながらも、両眼とその周辺が無傷なのは、目が潰れたり塞がったりして、自分を襲う次の暴力が見えなくなる事が無い様に、という配慮の結果だ。
「貴女で愉しんで半日。加減をしてもいないのに良く保ちました♡」
手を伸ばし、触れた頬に爪を食い込ませると、少女の体が極僅かだが痙攣した。それを見て女は満足そうに笑うと、指についた血を舐める。
「こんな事で魔力を得られるなんて、忌々しいけれど、便利なことは便利ですわね」
顔を歪めて呟くと、再び底抜けに明るい笑顔で少女に話し掛ける。
「鞭で打ち、体を焼き、皮膚を切り裂き…そして嬲り殺す…。その時湧き上がるこの上ない興奮は、とても悦ばしいのです♡」
この少女とは、図書館で出逢った。自身の欲望と、宝具の強化の為に、図書館で古今東西の拷問に関する書物を読み耽っていた女の眼に、偶々留まってしまったのが、この少女の運の尽きというやつだった。
即座に拉致し、この拷問部屋に監禁拘束し、慈悲を乞う度に指を折り、泣き喚く度に針を刺し、加虐された時以外に、少女の反応が無くなるのに掛かった時間は、一時間も無かった。
暫し思案して、女は明るい口調で言った。
「この地で識った拷問は『今までの娘達』で、粗方試しましたが…。宝具の機能で未だ試していないものは…これでしたわ♡」
少女の口に指を押し込む。歯が全て抜かれた口腔は、なんらの抵抗もなく、女の指を受け入れた。
「これを試すのは、貴女が初めてですが…今まで試した方達で、失敗はありませんでしたから、安心して下さいね」
女の言葉を理解したのだろう。全身を僅かに震わせ続ける少女に、女は嗜虐に満ちた笑みを向けて、最後の拷問を開始した。
「ご…ふご…ごふ」
少女の喉が動き、口の端から血に染まった水が流れる。
女は、指先から水を、少女の喉奥へと流し込んでいるのだ。
「胃が破裂するまで飲ませましょうか?水が入らなくなったところで、膨れたお腹を思い切り打ちましょうか…迷ってしまいますわ♡」
どちらも試してみたいが、どちらかを試せば少女は死ぬ。悩ましい事だと思いながら、女は少女に水を飲ませ続けた。
一時間後。
「それではご機嫌様。貴女は中の下といったところでした♡」
水を飲まされ続けて胃が破裂した少女を、海に棄てて、女は艶やかに笑った。
なかなかに楽しませて貰ったし、魔力も徴収出来た。結構な成果というべきだろう。結局のところ水を思い切り飲ませての殴打を試せなかったが。
まあ良い。サーヴァントを相手にした時に試してみよう。
「はぁ…足りませんわ♡やはり本命は、歴史に名を残した英傑達。その美しい姿と精神が壊れていく姿はさぞかし美しいでしょう」
早く相見えたいものだと女は思う。歴史に名を残すほどの偉業を成した者達が、どんな声で苦痛を訴え、どんな表情で苦しみを表現するのか、考えただけで昂ってくる。
それこそマスターである佐倉杏子に語った、生前に被せられた汚名を拭い去るなどといった建前などどうでも良い。
嬲り、壊し、殺す。この身は真実その為に現界したのだから。
「身体が苦痛に苛まれて尚耐える姿を、終わりのない苦痛に心が折れていく様を、早く私に見せて下さい♡」
其れはマスターにしても同じ事。願いの代償に魔法少女となり、やがて魔女と成り果てる運命の少女。
生前に満たし続け、死後も尚求める欲の為に、吸血鬼と呼ばれ。死んだ後に怪物として扱われた自分の境遇と似た運命を持つ少女。
そんな運命を知って、尚も気丈に振る舞い前を向く姿は、拷問にかけて嬲り抜く対象としては上々のモノ。
あのマスターの強い心を壊したい。あの不死ともいうべき身体のマスターを、思う存分飽き果てるまで嬲りたい。
そんな欲があのマスターと共にいると抑えられない。唯の人間なら兎も角、魔法少女というものは、どう嬲っても死ぬ事が無く、拷問により生じる魔女化の原因であるソウルジェムの濁りも、筋金入りの反英雄であるこの身にとっては只の魔力。つまりは、問題は何も無いのだ。
気が付けば拷問室へと連れ込んでしまいそうだ。いや、必ず引き摺り込んでしまう。
令呪をどうにかしない限り、自殺行為と分かっていても。
マスターとは気が合わないというのもあるが、そんな自己の欲に基づく理由も有って、女は聖杯戦争が始まるまでマスターとはなるべく別行動をしようと決めていた。
「本当に、本当に。これから出逢える素敵な方々の事を思うと、昂ってしまいますわ」
だが、未だに邂逅は果たせていない。思い描く事しか女には出来ない。只々欲求が募っていくだけだった。
自身のを含むマスターも、サーヴァントも、出会えず嬲れずでは、NPCを嬲って鎮めるしかない。
其れにしても、こうなる事を見越していたかの様に、拷問室を設えるのにおあつらえ向きの地下室の有る廃屋を、海の近くで首尾良く見つけられるとは、これで抑えられずにマスターを襲う事も無いし、人目に付くことなく、拷問を愉しめる。死体の処理も楽にできる。
とはいっても所詮は無聊の慰み、本命までの繋ぎでしか無いが。
鎮まったと思った途端に昂りだした欲望を鎮めるべく、女は新たな獲物を求めて、霊体化して街へと繰り出した。
余り人を攫い過ぎては面倒事になるだろうが、これ程までに人間で溢れているのだ。一人や二人消えても問題無い。
消えたところで、誰も気にしない様な者を選べば、10人20人と消えても先ず大丈夫、一度獲物を調達する毎に時間や場所を変えれば尚更発覚はしにくくなる。
そんな事を考えながら、女は次に行う拷問に思いを巡らせていた。
【CLASS】
キャスター
【真名】
エリザベート・バートリー@魔女大戦 32人の異才の魔女は殺し合う
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力: C耐久:B敏捷: C魔力:B幸運: D 宝具:A
【クラス別スキル】
陣地作成:C
拷問室の作成が可能。
拷問室中では、拷問器具を用いた攻撃にプラス補正が掛かり、拷問対象が死ににくくなる。
道具作成:C
宝具から派生したスキル。
キャスターは拷問道具しか作成できない。
【固有スキル】
嬲欲:EX
他者を嬲り、壊し、その果てに嬲り殺す。死後も尚キャスターを突き動かす強烈無比な欲望。
最高ランクの精神異常と加虐体質及び拷問技術の効果を発揮する他、欲望により身体能力や宝具を強化する事が可能。
無辜の怪物:C
生前の行いからのイメージによって、後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。このスキルを外すことは出来ない
生前の所業から吸血鬼と呼ばれ、死後そのイメージがより強まった結果獲得したスキル。
吸血鬼としての性質を持ち、夜間は身体能力に補正が掛かる他、吸血行為によって魔力体力を回復させる事が可能。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
欲が尽きぬ限り、キャスターは止まらない。
使い魔:C
鼠、蛇、蛞蝓、蟻、山羊といった、拷問に用いられる動物を使い魔として作成・使役できる。
真実の欲:ー
キャスターが抱く真の欲望……。だが、キャスターは未だに己の真実に気付いていない。
【宝具】
魔装 血の伯爵夫人(カウンテス・オブ・ブラッド)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:自分自身
他者を嬲りたい。という欲望と、吸血鬼という汚名とが融合した宝具。深紅のボディースーツ状のキャスターの戦闘装束である。
身体能力を1ランク高め、吸血行為による回復効率を向上させる他、防具としての性能も高い。
朱殷の遊び部屋(レッド・プレイルーム)
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:50人
拷問の固有結界。通常時は魔装に拷問室と直結する『穴』を作り、其処から任意の拷問道具を取り出す。というモノだが、真名開放を行うと、空が赤黒く染まり、血に染まった石床の空間に、巨大な鉄の処女(アイアンメイデン)が存在し、宙に無数の拷問道具が浮かぶキャスターの心象風景が展開される。
この遊び部屋の中では、キャスターは幾らでも拷問道具を作成することができ、作成した拷問道具はキャスターの意のままに動く。
固有結界の形成と維持には魔力を消費するが、結界形成時に用意されている拷問道具に関しては魔力消費はしない。しかし、破壊されたものを新しく製造する、または形成時に無かったものを新造するには激しく魔力を消費する。
さらにただ複製するだけでなく、自分好みにアレンジを加えたり、形状を変えるなどいった独自の改造を加えることも可能。
物品としての拷問道具を作り出しているのに止まらず、長年使用された拷問道具には意思が宿り、その意思と共に拷問道具に宿る「使い手の経験・記憶」ごと解析・複製している。このため、仮に初見の拷問道具の複製であっても、ある程度扱いこなすことが可能。
拷問道具には定まった定義はなく、キャスターがこれは拷問の道具だと認識する。或いは拷問に使えると判断すれば、拷問道具として扱われる。
この結界内部では、空間そのものが『拷問』の概念を帯びる為、結界内に捉えた相手を、熱気や冷気や陽光といった環境で拷問する事や、飢えや渇きといった状態を付与して苦しめる事が可能。果ては病ですらも付与することが可能。
山羊や鼠や蛇やナメクジといった生物を用いた拷問もある為に、使い魔の作成及び使役を行う事も可能。
拷問道具は『吸血』の性質を持ち、拷問道具により流された血は、魔力としてキャスターに簒奪される。
【Weapon】
宝具・朱殷の遊び部屋(レッド・プレイルーム)で作成した拷問道具。
【解説】
16世紀末から17世紀初頭にかけてハンガリーはトランシルヴァニア有数の名家に生まれ、とにかく殺しまくった。
権力を利用し殺しに殺しまくった。非道の貴族。
生涯殺害数(キルスコア)650
その全てを拷問で行った不世出の大殺人鬼。
あんまりやり過ぎたんで吸血鬼扱いされたりもした。その所為で教会の人間とか正義とか大嫌い。
命が潰れる瞬間の煌めきを求めて殺しに殺しを重ねるものの。真実求めていたものは、己自身が美しく壊れる事だったりする。
【聖杯にかける願い】
吸血鬼という汚名を晴らしたい………。というのはマスターに対して語った表向きの願い。
本当の目的は、歴史に名を刻んだ英傑達を嬲って嬲って嬲り殺したい。
聖杯を獲得したら、受肉した上で、自分で聖杯戦争を催すのも良いかも知れない。
※不定期に、一回毎に場所を変えて、NPCを拉致しては嬲り殺しています。
【マスター】
佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ
【weapon】
やたら柄が伸びる多節槍
【能力・技能】
豊富な戦闘経験と、高い攻撃力を持つ。本来持っていた『幻惑』の魔法は使えない。
【解説】
インキュベーターと契約した赤い魔法少女。
家族の為に願って得た奇跡が、家族を破滅させた為に。魔法少女の力は自分の為に使うという主義の持ち主になってしまったが、元々は善良だったりする。
【聖杯にかける願い】
願いはあるが、果たして願って良いものか悩んでいる。
【ロール】
無職無収入住所不定。所謂ホームレスである。
投下を終了します
トリップが変わりますがもう一つ投下します
此方はFate/Over Heavenに投下したものの流用です
堕ちていく、堕ちていく。
どこまでも暗い奈落の底へと少女の魂は堕ちていく。
身体は既に動く骸。こんな身体で想いを寄せる少年の前に立てる訳が無い。
目指したモノには到底至らず。想いは告げられる事すらなく。
只々嘆きと悲哀のみが募り、心に溜まった澱みは少女の心から希望を奪い去っていく。
あたしって、ほんと────。
魂が砕け、絶望が芽吹くその刹那────。
座へと届いた少女の嘆きが、ある英霊の逆鱗に触れたッ!
◆ ◆ ◆
「え………?」
美樹さやかはキョロキョロと周囲を見回す。確かに電車に乗っていたのに、何故か廃墟に 佇んでいた。
ソウルジェムを確認すると、真っ黒に濁りきっていた宝石は、魔法少女に成り立ての頃の様に青い輝きを放っていた。
)え?なんで⁉︎」
疑問に答える者など当然存在せず、代わりに一陣の風が吹いた。
啾々と吹く夜風が、随分と前に枯死したであろう枯れ木の梢を揺らしている。
樹と風の立てる音に、亡者が呻きながら這いずり回っているかの様な気がして、さやかは我が身を抱きしめた。
風に呼ばれたのか、黒雲が空を覆い尽くし、天地を闇に閉ざす。
月も星も雲に隠された闇黒の中、さやかは恐怖に
「嗤わせる。高々この程度で絶望したのか」
不意に後ろからかけられた男の声に、さやかの全身が発条と化して後ろを向いた。
「誰よ?アンタ」
いきなりの異常事態に、引っ込んでいた澱みが、男の声をきっかけに再び表出した。
怒りと、嫌悪と、絶望とがない混ぜになった声。ナンパ目的の男なら、その場で踵を返して逃走する程に刺々しく、敵意が溢れた声。
さやかの声を受けたのは、艶やかな繭袖(けんちゅう)の布地に龍の刺繍をあしらった長衫を纏った男の姿。纏った装束からして大陸の人間だろうか。さやかの敵意を正面から浴びて、平然としている姿が、より一層さやかの癇に触った。
「この程度って‥何?何で初対面のアンタにそんな事を言われないと」
男と目が合ったさやかの声が途切れる。
佇む男の姿は、均整のとれた長身と男の麗貌とが相まって美丈夫と呼ぶに相応しい。 陽光の下、街中を闊歩すれば、老若を問わず異性の目を引くだろう。
だがさやかの言葉を止めたのは、男の容姿ではなくその眼差し。
何もかも諦めた目をしてる。空っぽの言葉をしゃべってる。
眼だけはさやかを見ているが、意識は全然別のことを考えている。
────この眼。何処かで。
さやかの思考は、男の言葉で遮られた。
「見て分からんのか?愚鈍だとは思ったがここまでとはな」
心からの蔑みが込められた男の声と表情とが美樹さやかの逆鱗に触れたッ!
「なんでアンタにそんな事言われなければ────」
言葉が途切れる。気がついた時にはさやかの身体は地面と水平に飛んでいた。
「グハッ!」
枯れ樹の一つに背中からぶつかって漸く止まる。
男の方に目を向けたさやかは、男が緩やかに足を降ろすところを見た。
距離を詰めて蹴り飛ばす。只それだけの事だが、さやかの目に映りもしなかったその速度は、正に超常存在であるサーヴァント。
「想いを寄せる相手に己の気持ちを伝える努力を何もせず、只嘆くだけ。これを愚鈍と言わず何と言う。
その程度の想いだから、他の女に奪われるのだ」
「…アンタに何が判る!こんな体で抱きしめてなんて言えない!キスしてなんて言えるわけが無いッ!」
己の嘆きを慟哭を、全て否定されたさやかの激昂は、男に更なる侮蔑と、怒りの念を抱かせた。
「判るとも。お前の絶望…ソウルジェムとやらの濁りこそが、俺の現界に際しての魔力となったのだから」
つまりこの男は、さやかの絶望を余さず飲み干して、その上でさやかを嘲っているのだった。
お前の絶望など俺を揺るがすには到底足りぬと。お前の絶望など、絶望と呼ぶに値せぬと。
「俺の妻はな、どれ程想っても想いの届かぬ愛する男に、自分の気持ちを伝える為に、獣共に自分を輪姦させた」
男の言葉を聞いてさやかはよろめいた。男の言葉は今までに受けてきた魔女の攻撃全てを合わせたものよりも重かった。
想いを伝える。言ってしまえば簡単だが、その為に取った行為が尋常のものでは無い。
そこまでして伝えたい想い。伝えなければならなかった想い。そんな想いを知っていれば、美樹さやかの想いなど、成程。高が知れていると一笑に付すだろう。
「その上で魂は五等分され、五つの電脳に収まった。そして猶も魂の欠片の入った人形を獣共に苛まれ続けた。
それ程までの事をしてあの娘は想いを伝え、そして叶えたのだ。
翻ってお前はどうだ?自分の想いを伝える為に、一体何をした?どんな犠牲を払った?」
「わ…わたし………は…」
何もしていない。想いを伝える為に何も行動しなかった。
この男が語った女性の様にしなければならないわけじゃ無い。けれども、何もしていないということには変わりがない、男からすれば、さやかの嘆きな度理解不能のものでしか無い。その事は美樹さやかにも理解できた。
「理解できたか?貴様に嘆く資格は無い」
男はさやかの慟哭を、嘆きを、ただの一言で切り捨てた。
「それにな、お前は一体何の為に魔法少女とやらになったのだ?
好きな男の不幸を嘆きを見過ごせなかったからだろう」
男の声は変わらず平坦なまま。だが"変わった''。
さやかの身体が震える。男の声に含まれたもの。大紅蓮地獄の氷ですら暖かく感じる程に凍てついた声。その冷たさの裡に込められた、焦熱地獄の焔ですらが涼風と感じられる程に熱い激情。
────殺意。
男はさやかに対し、真正の殺意を抱いているのだった。
「お前は何の為に今まで血を流してきた?
正義とやらを行う為だろう」
さやかの視界が横に流れた。男に蹴り飛ばされたのだと理解した時には、地面に転がっていた。
「男は幸を得た。お前は正義とやらを為した。ならば何故嘆く。
貴様に理解する事が出来るか?愛する女の嘆きを只見ることしか出来なかった俺の心が。
俺が彼女に捧げられる全てが彼女には塵芥程の価値も無く、自分の全てが彼女にとって無駄だと知った俺の絶望が」
さやかの襟首を掴んで持ち上げ、男は更に裡にある激情を吐露する。
「お前は一体何を嘆く。願いを叶えておいて何を哀しむ。望んだものを得ていながら、未だに足りぬと泣き喚くのか」
「け…けど、こんな身体────」
急激に遠ざかる男の姿。顔を殴られたと理解したのは、鼻梁に熱と痛みを感じてからだ。
肉体に蓄積された魔女との戦闘経験が、意識とは関係無く咄嗟に受け身を取る。
「ガハッ」
身を起こそうとしたさやかの胸を、男の足が踏みつけ、地面に縫い止めた。
「この身体は、脳を除いて生身の部位が無い。貴様は俺にはあの娘を愛する資格は無いとでも言いたいのか?」
脚に力が篭り、胸骨の軋む音をさやかは聞いた。
「俺の生きた時代はな、脳以外の生身を持たず、用途に応じて義体を変える、そんな人間が普通に居たぞ」
「グハッ………あ、あああああッ!」
胸骨と肋骨に亀裂が走る。その音の悍ましさと苦痛にさやかは絶叫した。
「痛みを感じ、傷つけば血を流す、お前の身体は正しく人のものだろう。
これでなお人の身で無いというのならあの娘はどうなる。
機械の身体に五つに裂かれた魂の一欠片をいれただけのあの娘は」
男にさやかの嘆きは理解出来ない。身体に対する概念が違い過ぎる。
男にさやかの慟哭は理解出来ない。愛する女の魂の一欠片を収めたガイノイドに、変わらぬ愛を捧げ続けた男なれば。
「身体などに拘る蒙昧な貴様には理解出来まい。真に大切なものはな、心であり………魂だ。
抱いた想いと。己を己足らしめる意志。それが人を人たらしめる」
さやかの身体が痙攣したかの様に震えた。震える唇が途切れ途切れに言葉を紡ぎ出す。
「わたしって………本当にバカ。………わたしは何も失ってなかった…願いなんてとっくに全部叶えていた………………。
後悔なんてする理由が無かった………………。なのに…そんな事に気付きもしないで…嘆いて、皆を傷つけて…アンタのおかげで目が醒めた………」
男は無言。冷え冷えとした眼差しをさやかに注いだままだ。
だがさやかの胸を圧迫する重さが緩んだのは、さやかの言葉が届いたからか。
「有難う………………………。わたし決めた。生きて帰る…必ず生きて帰って………恭介に告白する」
想いが届くかは判らない。けれども、伝えることもせずに諦めるなんて出来っこ無い。身体がどうした?この胸の内に抱いた想いは変わらず有る。それだけで充分だ。
「好きにすれば良い」
男の脚が上がり、解放されたさやかは蹌踉めきながら立ち上がった。
男を真っ直ぐ見つめて、さやかは問う。
「貴方は好きな人の為に聖杯を望むんだよね」
「当然だ。彼女が地獄を望めば地獄に落とし、世界を望めば世界を獲る。
花は彼女の為だけに咲けばいい。鳥は彼女の為だけに鳴けばいい。
彼女の為になるのであれば、世界であっても捧げよう。ましてや英霊如き」
「その事を止めはしない。けれどこれだけは誓って。マスターは殺さないって」
「マスターを殺すのがサーヴァントを斃す最も確実で安全な手段であり、サーヴァントを失っても、他のサーヴァントとの再契約が可能だと知らないのか」
「私の願いは貴方も知ってるように正義の魔法少女だから、マスターを殺す事は認められない………だから、お願い、誓って、マスターを殺さないって」
拒絶するならば令呪を用いてでも従わせる。明らかに不利になる判断だが、美樹さやかは譲らない。正義を為すために魔法少女の力を振るうと、とっくの昔に決めているのだから。
男は少しの間沈黙した。さやかを値踏みしている様な、そんな沈黙。
「………………修羅場では何が起こるか判らん。たが、善処はしよう」
「有難う」
さやかは解っていた。男が誓いを守る意思を持たない事を。 令呪を用いてでも誓わせようとしたさやかの意志を読んでの応えだという事を。
それでも構わない。人を殺させない様にするだけだ。美樹さやかは正義の魔法少女であらうと望み、その望みを叶えたのだから。
「……最後に聞かせて…貴方の名前と、願いを」
さやかの呼びかけに、背を向けて霊体化しつつあったアサシンが振り向いて言葉を紡ぎ出す。
「俺の願いなど彼女の為にのみ存在する。
『彼女の幸を永劫のものとする』此れのみだ」
男の姿が揺らぎ、虚空に溶け込む様に消えていく。
男の姿が薄らぐのに合わせるかの様に風が吹きすさび、夜気を震わせた。
唸りを上げて吹く風の中で、さやかはアサシンの名乗りをはっきりと聞いた。
「アサシン。劉豪軍(リュウ・ホージュン)」
名乗りと共にさやかに向けられた視線。
その視線がさやかの記憶を呼び覚ました。
何もかも諦めた目。それは、さやかの知る魔法少女の一人。
暁美ほむらの目と同じだった。
◆
◆
翌日。
美樹さやかと劉豪軍は、二人が出逢った廃庭園で剣を交えていた。
やっている事は剣の稽古だ。至極単純に生き残る為に、戻ってからも正義の魔法少女として在り続ける為に、さやかが豪軍に剣を教えてくれと頼んだのだ。
豪軍の身につけている武功は、丹田で練った気を練り、全身に巡らせる事で森羅万象の気道の流れに身を委ねるもの。
気を魔力と置き換えれば、魔法少女の身で有る美樹さやかにとっては、効率の良い魔力運用法になる。覚えておいて、損は無かった。
豪軍から簡単な講義(レクチャー)を受け、魔力を身体に巡らせる事を実践して、剣を交えてみるも、積み重ねた“功”の差は明確だ。
斬る。薙ぐ。突く。打つ。さやかの剣の悉くが届かない。
まるで事前に軌道を読んでいるかのように配された豪軍のレイピアに、さやかの剣はある時は抑えられ、ある時は勢いを殺され、ある時は別方向へのベクトルを加えられてあらぬ方へと流される。
豪軍の身に付けた武功の境地の一つで有る『一刀如意』、意と同時に剣を繰り出す境地に遥か遠い美樹さやかでは、さやかの意を読んで、最適の守りを為す豪軍の剣を破れない。
この聖杯大戦の間、只管に挑み続けても、それでも尚、届く事は決して無いだろうが、それでも構わない。
豪軍に師事する前より強くなれば、それは学んだ甲斐があったと言えるのだから。
『手の届かない事を嘆くより、手に入れたものを尊いと思おう』。豪軍との邂逅を経て、美樹さやかの至った心境で有る。
更に速く、もっと速く、そう意気込むさやかの剣は、確かに勢いと速度を増しつつあった。
豪軍に、遥か遠かった豪軍の身体に、剣先が近づきつつある。
────イケる!!!
そう確信した美樹さやかの頬が僅かに緩むよりも速く、さやかの視界が翻った長衫の裾に遮られた。
「戴天流。臥龍尾」
豪軍の言葉が聞こえたのは、強かに鼻を蹴られて、噴水の様に鼻血を噴きながらひっくり返った後だった。
◆
「痛たた…これでも女の子なんだから手加減しようよ」
座り込んで鼻を摩りながら、さやかが愚痴る。
よりにもよって、靴の踵で鼻を蹴られるとは思っていなかった。これは流石に酷いと思った。
「ふむ」
さやかの様子を観察していた豪軍は、身を屈めると、マジマジとさやかの鼻を見つめた。
万人が美丈夫と認めるだろう、豪軍の麗貌が至近に近づいて、さやかの頬が赤く染まる。
「もう治っているな。確かに鼻を蹴り折ったが」
「酷っ」
「治りが速いと聞いていたからな、実際に試してみた。実戦でいきなり確認するよりはマシだからな」
────ああ、そういう事。
さやかは豪軍の言葉を理解はしたが、納得は出来ない。何しろ魔力を使えばソウルジェムが濁るのだ。濁り切れば魔女になる。
「その様子だと気付いていないようだな」
「何が?」
気になる。このサーヴァントは剣の技量のみならず、頭脳も一流だ。さやかの気づいていない何かを知っていたとしても、何の疑問も無い。
「お前のソウルジェムの濁りは、俺の現界や行動を支える魔力となっている」
「何で!?」
一体何がどうしてそうなるのか、東洋の神秘ってヤツですか?
「俺がもとより反英霊だからだろう。人より恐れられ、忌まれた結果“座”へと至った身には、真っ当な魔力よりも、濁りの方が具合が良いらしい」
「じゃあ、私は────」
「ソウルジェムの濁りなど、一切気にせず魔法少女として振る舞えるという事だ」
◆
◆
無邪気に喜ぶさやかを見て、豪軍は心中に成功を確信する。
────上手くいったな。
頭部以外に決まり切った急所を持たず、痛覚もない為に、両腕を落とされても平然と戦闘続行する戦闘サイボーグをすら上回る、魔法少女の不死性。
それは、この聖杯大戦に馳せ参じた時に飲み干した濁りにより見えた記憶で理解している。治癒能力の高さも、鼻を確かに蹴り折ったのに即座に元通りになった事で確認できた。
サーヴァントに襲われても、これではそう簡単に死ぬ事はない、さやかの戦闘能力も有れば尚更だ。
此処に反英雄である劉豪軍が、ソウルジェムの濁りすらも魔力とできる事を知ったさやかは、必ず戦闘に赴くだろう。
これでさやかを囮として、敵のマスターを狙うことが可能となった。
不死ともいうべきさやかと違い、他のマスターは頭を潰せば死ぬだろう。アサシンのクラスを得た事は僥倖というべきだった。
────ああ、そう言えば。
勝利への算段が成った豪軍は、ふと、自らの行いを振り返り苦笑する。
小娘をあやし、機嫌を取り、物事が自分の思い通りにいっていると思わせて、搾取する。
────まるで女衒だな、今の俺は。
嘗て青雲帮の帮主だった身が、死んだ後に女衒の真似事とは、生前の豪軍を知る者達は何と思うだろうか。嘲笑うか、驚愕するか。
どちらにしても構わない。豪軍はそうとしか思わない。
この身が泥に塗れようと、己の名が汚名そのものとなろうと、そんな事は些事ですら無い。
只々瑞麗に幸を。それが叶わなければ、如何なる英名にも意味は無く。それさえ叶えば如何なる汚名もどうでも良いのだから。
【クラス】
アサシン
【真名】
劉豪軍(リュウ・ホージュン)@鬼哭街
【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 幸運:E- 魔力:E 宝具:E(通常時)
筋力:C+ 耐久:D+ 敏捷:C+ 幸運:E- 魔力:B 宝具:B (内功使用時)
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
アサシンの場合はスキルにより、初撃に限り攻撃対象に直感や感知に類するスキルがない限り、気配遮断のランクは落ちない。
元より暗殺者としての活動を行なった事は全く無いのだが、同門の弟弟子であり、義兄である男が、凶手(殺し屋)として名を轟かせていた為に、兄弟子である豪軍もこのスキルをランクが高く無いとは言え、使用する事ができる。
【保有スキル】
狂愛:A+
精神を病む程の愛。一人の女に己の全てを捧げた結果、周囲の事がな全く気にならなくなっている。精神的なスーパーアーマー。
このスキルの為にアサシンの幸運値はマイナス方向に突き抜けているが、アサシンは全く意に介していない。
このスキルは外せない。
内功:A+
呼吸法により丹田に気(サーヴァントとしては魔力)を練り、全身に巡らせて、森羅万象の気運の流れに身を委ねる技法。
このスキルが低下すれば、後述の戴天流、軽身功スキルも低下し、使用不能ともなれば、戴天流、軽身功スキルも使用不能となる。
呼吸法により魔力を幾らでも精製することができる為、実質的にアサシンは無尽蔵の魔力を持っているに等しい。
修得の難易度が非常に高く、Aランクで漸く『修得した』と言えるレベル。
使うと内傷を負い、内臓や経絡に損傷を齎す……が、アサシンは宝具により内傷を負う事が無い。
戴天流:A(A++)
中国武術の二つの大系のうちの一つ、『内家』に属する武術大系。
型や技法の修練に重きを置き、筋肉や皮膚など人体外部の諸要素を鍛え抜く武術大系である『外功』と対になる武術大系。
外功の“剛”に対する“柔”であり、力に対する心気の技である。体内の氣が生み出すエネルギー“内勁”を駆使することにより、軽く触れただけで相手を跳ね飛ばしたり、武器の鋭利さを増したり、五感を極限まで研ぎ澄ましたりといった超人的な技を発揮するほか、掌法と呼ばれる手技により、掌から発散する内勁によって敵にダメージを与えたり治癒能力を発揮したりもする。
内家掌法の絶技。胸への掌打を以って五臓六腑を四散させる。黒手裂震破と言う絶技も存在する。
内家功夫は外家功夫より修得が難しく、その深奥に触れうるのはごく一握りの者しかいない。
修得の難易度が非常に高く、Aランクで漸く『修得した』と言えるレベル。
敵手の“意”を読んで、“意”より遅れて放たれる攻撃を払う事で、“軽きを以って重きを凌ぎ、遅きを以って速きを制す”事が可能となる。
これとは逆に、意と同時に刃を繰り出す事で、通常は意に遅れて刃が放たれる為に事前に察知される攻撃を、事前に悟らせない様にする“一刀如意”の境地もある。
ランク相応の魔力放出、矢避けの加護の効果を発揮する複合スキル。
効果を引き出すには、其れに見合った内功スキルが必要になる。
アサシンは絶技に開眼してはいないが、練達の武人であり、修得した戴天流の武功は、宝具の効果により、極めた者の其れを遥かに凌駕する。
内勁の込められた刃が齎すは因果律の破断。凡そ形在るもの全てを斬断する。
内功を充分に練らなければ使用不能だが、練る事さえ出来れば、同等の功の持ち主か、宝具でもない限り防げない。
鬼眼:A
心眼(真)の上位互換スキル。
卓越した観察力と洞察力により個人戦闘は元より、組織運営、集団戦闘、対外交渉に至るまで常に先を予測し、最善の手段を取る事ができる。
武では無く智を以て青雲幇(チンワンパン)に迎え入れられ、隆盛へと導いたアサシンの持つ''智"の顕れ。
但し、予測する為には情報を必要とし、質量伴った情報で有る程予測の精度は高まる。
裏を返せば知らない事は予測出来ない。
軽身功:B+
飛翔及び移動の為の技術。多くの武術、武道が追い求める運体の極み。単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する。
アサシンの縮地は宝具との組み合わせにより、技法の域を超えている。
その速度は複数の残像を伴いながら間合いを詰め、複数人数から同時に攻撃されたと誤認させる程。
アサシンにとって、間合いとは存在しないに等しいものである。
【宝具】
電磁発勁
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:なし 最大補足:自分自身
対サイボーグ気功術である。体内の氣の運行によって瞬間的に電磁パルス(EMP)を発生させ、それを掌力として解き放つ,
EMPにより電子機器を破壊する轟雷功"及び轟雷功"に耐えうるシールドを施した電子機器を瞬時に焼き切る紫電掌''が存在する。紫電掌は電磁パルスに耐えられる戦闘用サイボーグを倒す為に編み出された技である為、同ランクまでの電撃に対する守りを無効化する。
Aランク以上の内功スキルがなければ使用不能。
内勁駆動型義体
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:なし 最大補足:自分自身
生前に己の肉体を寸分たがわず再現させた、史上初の内剄駆動型義体の試作品が宝具化したもの。
アサシンの肉体をを完全に再現した義体であり、経穴まで存在する。
この為内功を駆使できるが、義体そのものの性能は、生身より多少丈夫というだけである。
人造器官の強度とパワーで駆使する内功は尽きること無く、内傷を負うことも肉体の限界に縛られることも無い、全ての流派を過去の遺物とセイバーが豪語する程。
この宝具により戴天流スキルは()内の値となる。
この身体で軽功を繰れば、敏捷の値がA++にまで引き上げられる。
絶縁体で構成されている為に電撃系の攻撃を無効化する。
しかし、首筋だけは接続端子がある為に電撃が通る。
痛みも疲労も感じず、出血も無い為に、継戦能力はかなり高い。
しかし、損傷を回復魔術で治すことが出来ず、自然回復の速度も通常より遥かに遅い。
この義体の為にアサシンを知る者達から、その実力を過小評価された逸話から、無冠の武芸の効果を発揮する。
六塵散魂無縫剣
ランク:なし 種別:対人絶技だ レンジ:1 最大補足:10人
戴天流剣法絶技。 理論上はできるようになるという事で宝具として登録されている剣技。
十の刺突を神速で繰り出すその剣閃は同時に放たれたように見えるどころか、緻密な残像が重なって一薙ぎの斬撃としてしか捉えられないほど。
弾雨を悉く撃ち落とす事さえ可能な剣技。
その実態は、体感時間の減速と、六感全てによる周囲の状況の把握、自身の精神や肉体の状態に依らず、至高至極の剣技を行使するという所にある。
無窮の武練、圏境、透化の効果を発揮、刃圏に入ったものは、全て捉えて斬って捨てる。
この絶技を発動している間、体感時間は極めて緩慢に流れるが、使用者以外からは突如として高速で動いている様に見える。
尚アサシンはこの絶技を習得しておらず、自身の功と義体とを以て速度のみを出している状態である。
【人物背景】
「花は彼女の為だけに咲けばいい。鳥は彼女の為だけに鳴けばいい」
望むならば世界の全てを手に入れる。そう思うほどに愛した妻が実際に愛していたのは自分ではなく実の兄というどうしようもない悲劇。
「兄を愛してるけど、兄は自分が幸せだと本気で思ってるから、自分の思いには気付いて貰えない」
「だから地獄に落ちた自分の姿を見せて、兄を振り向かせたい」
と妻が望んだので、実際に妻を地獄に落として、義兄で有り弟弟子でもある主人公に、妻の気持ちに気づかせようとした。
取り敢えず主人公にマカオで重傷負わせて、妻を仲間四人に輪姦させる。その後妻の脳内情報を全部吸い出して、五体のガイノイド(人間の脳内情報を入力したアンドロイド)に五分割して入力。
そして妻そっくりのガイノイドを自分の手元に置き、残りの4体は仲間に分ける。
うち一人は義兄の事を嫌っていて、女を嬲り殺すのが趣味というロクデナシだが、妻が望んだ事なので無問題。
自分は妻そっくりのろくに反応を返さない人形をひたすらひたすら愛でる。
端麗を模したガイノイドの肌に5mm傷付けられた程度で、傷付けたメイドを原型無くなる力で殴り殺す程にに愛している。
義兄が戻ってくると、仲間四人はおろか、自身が属する組織すらも妻への贄として義兄により壊滅させる。
最後は荒涼と荒れ果てた妻の邸宅で義兄である主人公と決戦。恨み言まじりにネタバレかまして主人公を精神的に嬲りながら刻み殺そうとするも、
絶技に開眼してい主人公と相打ちになって死ぬ。
最後の最後まで主人公に呪詛を吐いていた。
英霊となった事で、端麗が幸を得た事は知っている。ならばその幸を永劫不変のものとする。
それが豪軍の願いである。
CV
鈴置洋孝(旧) 速水奨(新)
【weapon】
レイピア
【方針】
聖杯を獲る。手段は選ばない。
【マスター】
美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ
【能力】
剣とか沢山出せる。見た感じはサーベル。
刀身射出したり蛇腹剣にしたり出来る。
投擲して使う事もある。
再生能力が高く、生半可な攻撃では戦闘不能になる事はない。
痛覚を遮断する事でゾンビじみた戦い方を可能とする。
ソウルジェムという宝石に魂を封入する事で、肉体の損傷や痛みを無視して戦う事を可能とするが、魔法少女としての力を使う程、精神的な苦痛を感じる程、ソウルジェムは濁っていく。
ソウルジェムが肉体から100mも離れてしまえば、肉体を制御できなくなり、肉体は只の死体となる。
【人物】
正義の魔法少女を目指した少女。色々あってソウルジェムが濁り切り魔女化する直前にこの事態に巻き込まれた。
【聖杯への願い】
帰還
【方針】
生きて帰る。アサシンには聖杯を取らせたいが、人殺しはさせない。
投下を終了します
皆さま投下乙です。
自分も投下します
「ふんふふ〜ん」
鼻歌交じりに、眼鏡をかけた女がケーキにフォークを着ける。
右目を隠すほど伸びた黒色の前髪を気にすることなく、女はケーキを口に運ぶたびに満悦の笑みになる。
「ん〜、久々のケーキ美味しい♪ついでにパフェとシュークリームも頼んじゃおっと」
「...甘いものがお好きなんですか?」
向かいに座る少女が、控えめな態度で問いかける。
女は少女に微笑みながら、その一方で観察するかのように眺めながら答える。
「うん、好きよ。いくら食べても全然飽きないの。...で、円ちゃんは食べないの?」
「...ごめんなさい。まだ、食欲がわかなくて...」
「...そっか。まっ、仕方ないわよね。いきなりこんなことに巻き込まれちゃったんだからさ」
少女、平松円は俯きながらここに至るまでのことを思い出していた。
荒れ狂う吹雪の中。
彼女は見守っていた。
病に侵され精神を壊し、剣鬼と化した実兄を。
そんな実兄を止める(ころす)為に戦った蟷螂と蜘蛛を。
彼らの決着を固唾を飲み結末を見届けようとしていた御犬番たちの中で。
ただ一人、汗一つ流すことなく、実兄を見守っていた。
その目に映るのは、最強の鬼と化した悪漢などではなく、互いに愛し愛された兄妹としての姿。
お家の事情もなにもかもを投げ出して、共にどこか遠くへ行ってしまいたいと願った日を想いながら、彼女は足を踏み出した。
蜘蛛と剣鬼、人間の立ち入れぬ化け物同士の戦いにも臆することなく、踏み出し―――剣鬼の太刀を受け入れ、死んだはずだった。
それがどうして、気が付けば五体満足で生きており、周りには実兄も蜘蛛も蟷螂も、御犬番たちもいなかった。
代わりに、聖杯戦争とやらの知識を記憶に植え付けられ、わけがわからないと混乱していた矢先に現れたのが眼前の女であった。
女は『キャスター』と名乗り、軽く挨拶を交わすと、とりあえず「ご飯でもたべましょっか」などと誘い、現在に至る。
「キャスターさん、私はどうすればいいんでしょうか」
そう切り出した円の言葉に、キャスターのフォークがピタリと止まる。
そして、表情こそ穏やかだが瞳の奥底では冷たい炎を燃やして、静かに口を開く。
「...どうしたいのかしら、ね。それよりも、これから貴女はどうなると思う?」
「それは...わかりません。ただ、このまま何もせずにいれば、いずれは殺されると思います」
「でしょうね。ここにはどんな犠牲を払ってでも願いを叶えたい連中がわんさかいる。そんな中でふらふらしてたら、すぐに怖い狼さんたちにガブリ!って食べられちゃうわね」
キャスターは軽くおどけながら言うものの、その目は笑っていない。
円も、それが冗談ではないことはよくわかっている。
だからこそ、思い悩むのだ。
願いを叶えるということは、他者を蹴落とすのと同義なのだから。
「私にも、叶えたい願いはあります」
ギュッ、と机の下で掌を握りしめながら、円は声を絞り出す。
「実兄(にい)さんと一緒にいたい...流実兄さんと、ずっと穏やかに暮らしていたい。実兄さんもそう想ってくれているはずです。でも...」
そこで一度言葉を区切り、少しだけ間を置いて続ける。
「その為に私が手を汚したら、実兄さんは喜んでくれるんでしょうか?人を殺してしまったことを、あれだけ悔い泣いていた実兄さんが...」
兄、平松流は本来は優しい人だ。
自分が苦しいことには気丈に耐え、長兄だからと背負い込んで。
そして、正気を取り戻した時にはあの大きな背中が小さく見えるほどに泣きわめき、己の罪を悔いていた。
そんな兄が、いくら二人の願いが果たせるからといって、自分に手を汚させてそれを喜ぶのだろうか?
そう考えると、聖杯を手にすると口にするのはどうしても躊躇われた。
「本当に好きなのね、お兄さんのこと」
キャスターは微笑みを浮かべ、円の頭をそっと撫でた。
「えっ?」
「だってあなた、自分が手を汚すことよりも、お兄さんが幸せになれるかどうかを考えてるんだもの」
図星だった。
円は自分の罪よりも、兄のことばかり考えていた。
それも仕方のないこと。
どうして彼に斬られてもなお、共にいたいと願えるのかは自分でもわからないのだから。
もはや恋慕にも近いその気持ちを悟られた円は、ほんのりと頬を赤くし、恥ずかし気に俯いた。
「...円ちゃん、私にも絶対に叶えたい願いがあるの。誰を踏みつぶしてでも、なにをしようとも叶えたい願いが」
キャスターは、自分の胸に手を当てながら言った。
その瞳は真剣そのもので、先程までの微笑みは消えていた。
「...その願いとは、なんですか?」
「大切な人と共に生きたい。永劫に。なにに脅かされることなく、ね」
キャスターの言葉に円は息を呑む。
それは、まるで自分と全く同じ考えではないか。
「でもね、私は貴女とは違う」
しかし、その言葉には重みがあった。
「私はね、貴女と違ってもう既にたくさん人を傷つけてきた。その中には、貴女の実兄さんのように、とても心優しくていい人もいたかもしれない。
それでも止まらなかったのは、それよりもずっとあの子が大切だったから」
その言葉からは、強い覚悟が感じ取れた。
「だから今更後戻りはできないしするつもりもないわ」
そう言い切ったキャスターの表情は、凛としたものだった。
その顔を見て、思わず円は見惚れてしまう。
自分もこれほど己の意思を堂々と宣言出来たらどれだけ素敵だろうかと。
そして同時に思う。
この人に比べたら、私の兄への想いなんて薄っぺらなんじゃないかと。
そんな円を見かねたように、キャスター微笑みながら、そっと円の頭を撫でてやる。
「そんな顔しないの。家族の為に誰かを殺せるかどうかで愛情は測れるものじゃない。私に合わせるんじゃなくて、貴女が思う愛を貫けばいいのよ。
...大丈夫。どんな選択をしても、貴女がお兄さんを想う限り、私は貴女の味方だから」
ぽふぽふと乗せられる掌に、円は少しだけ気恥ずかしくなり、一方でぐっと唇を噛み締める。
答えはもう決まっていた。ただ、そう決めるだけの勇気が無かっただけだ。
実兄は掟という名のルールに縛られ続け壊れてしまった。
彼を救うにはそんなルールを壊してでも連れ出す他なかった。
実兄の努力も、過程も、全てを無茶苦茶にして逃げ出すべきだった。
でも自分はそれをしなかった。できなかった。
「キャスター、さん。私...」
だから。
今度はもう躊躇っちゃいけない。
「流実兄さんと一緒にいたい。どんな手段を使っても。実兄さんに怒られても。私は、あの人と一緒にいたいです」
「...そっか。辛いわよ、その道は」
「わかってます」
「...そ。なら、もうなにも言わないわ。これからよろしくね、マスター」
頭から放され、代わりに差し伸べられた掌。
円がそれを握り返した時、キャスターの浮かべた笑みは、どこか寂し気に見えた。
☆
(結局、死んでも変わらないのね)
キャスターこと、加納クレタは己の主を見ながら自嘲する。
かつて彼女は吸血鬼(ヴァンパイア)として多くの命を喰らった。
失った妹を取り戻す為に。力を着ければまた二人に戻れると信じて。
(こんな私を見たら、彼はなんて思うのかしらね)
『マルタさんは、強い人でした』
脳裏に過るのは、かつて己に引導を渡した少年の泣き顔。
妹・加納マルタとしてふるまっていた時に出会った、同じく吸血鬼の少年。
最初は、妹なら彼のような少年を気に入るだろうと思って接していただけだった。
だから、彼が味方にならないと分かれば殺すのにも躊躇いはなかったし、あの純朴な顔が歪むのを楽しもうとさえしていた。
けれど、彼は、敵である自分が直に死ぬことを解っていながらも立ち上がった。
大人しく隠れていればいいのに、わざわざ、死ぬリスクを背負ってまでやってきてくれた。
多くの命を犠牲にしてきた自分に怒りながらも、それでも最後に話をしにきてくれた。
身体を抉られ、血反吐を吐きながらも、それでも目を逸らさずにいてくれた。
涙を流しながら、強かったと言ってくれた。
そんな彼に、自分のやってきたことを否定されたにも関わらず、頑張ってと応援したくなるくらいに救われた気持ちになった。
だというのに、結局、自分のやりたいことといえば、誰かを助けるとかじゃなく、やはり妹を取り戻すこと。
どれだけ絆されようとも、根付いた執着は消えないものだと実感せざるをえなかった。
(円ちゃん。もしも、貴女の心に寄り添ってくれる人がいた時、それを踏みにじることに、果たして貴女は耐えられるのかしら?)
平松円の愛が進む道を決めるのは彼女自身だ。
そこにクレタが過剰に介入するべきではなく、どの道を進んでも円の味方になると宣ったのは本心だ。
だからこそ。
自分の進んでいた道に向かおうとする彼女に対し、応援の気持ちも憐憫も同時に抱かずにはいられなかった。
【クラス】
キャスター
【真名】
加納クレタ@血と灰の女王
【ステータス】
変身前 筋力:D 耐久:D 敏速:D 魔力:D 幸運:E 宝具:D
(変身時)筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:A 幸運:D 宝具:B
(宝具使用時)筋力:A 耐久:D 敏捷:A 魔力:A 幸運:D 宝具:A
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
陣地作成:D
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
道具(分裂)作成:EX
魔力を消費することで無から分裂体を生み出すことができる。
【保有スキル】
吸血鬼(ヴァンパイア):A
魔力を一定量消費し変身することができる。
伝承の吸血鬼とは異なり、日光を浴びても消滅することは無い。
また、再生能力が大幅に上昇し、霊核を傷つけるか破壊されない限り死ぬことは無い。
ただし、変身することができるのは夜のみである。
その為、昼は例え暗闇においても人間体のままでしか戦うことが出来ない。
死ぬと遺灰物(クレメイン)という手のひらサイズの心臓を遺し、それを食した英霊は一際強力な力を手に入れられる。
変身体:A
このキャスターが変身した姿。夜にしか変身できない。
その姿はまさに人魚そのもの。
魔力を消費し狂暴な肉食魚や彼女の妹の形をした分裂体を生成できる。
分裂体の精度を高めれば高める程魔力を多く消費する。
執念:A
執念深さ。己の目的を達するまではなにがあっても挫けないだろう。
【宝具】
『人魚姫』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ: 最大捕捉:10000
変身体の時にのみ発動できる宝具。この宝具は一夜のうちに一度しか使えない。
能力の分裂を更に強化したものであり、消費を少なくした上で破壊力・数を増した魚を生成できる。
また、身体能力も大幅にあがり、耐久力以外の全てが上昇する。
ただし、彼女の妹を再現した分裂体を作ることが出来なくなるため、本人はこの宝具をギリギリまで使おうとはしない。
【人物背景】
女。一卵性双生児であり、加納マルタという妹がいる。幼いころに火事で家族を亡くしている。その際に誰も助けてくれなかったことから信用するのは姉妹だけと信じ、他者との関係性を二人だけで完結させるようになった。その後に起きた噴火に巻き込まれ、妹は死亡。吸血鬼になった後は、その妹を取り戻したいという執念から、能力による姿かたちの模倣だけでなく、趣味嗜好・思考の成りきりまで徹底し、いつかは妹を再現できると信じながら吸血鬼としての力を増していく。
【weapon】
素手。岩くらいなら容易く砕ける。
【サーヴァントとしての願い】
妹を蘇らせまた共に暮らす。
【把握資料】
漫画 血と灰の女王 3巻。
【マスター】
平松円@職業・殺し屋
【マスターとしての願い】
今度こそ、実兄さんと共に平穏な暮らしを。
【能力・技能】
無い。彼女は平凡にして温厚な人間である。
強いて言うならば、実兄へ恋愛に近い深い愛情を抱いていることくらいか。
【人物背景】
葵真源流剣術 剣術師範・平松流の妹。流が平松家での厳しい稽古に四六時中縛られているため、二人で暮らしたことはほとんどない。
流とは互いに想い合う関係であり、がんじがらめの現実から二人で抜け出したいといつも思っていた。
脳腫瘍に犯され気が狂い殺戮を繰り返す兄を止める為、職業・殺し屋に依頼。
殺し屋・志賀了と流の死闘における死線に踏み込んだ為に、暴走した流に斬られて死亡する。
それでも彼女は最期まで兄を恨むことはなかった。
投下を終了します
>>82 の追記です
【把握資料】
漫画『職業・殺し屋 9〜10巻】
投下します。
希望の光が届かなかったとしても
照らし出すよ そうこの両手で
二度と戻れない旅へ
求めた答えを 今手に入れるため
☆☆☆☆☆
(うん)
(良かった)
まもなくティアレの人間としての命は終わりを迎える。体を動かしていた遺物は取り外し、病状はとっくの昔に末期に至っている。もうすでに体は指一本、唇一つ動かない。
それでもなお、最期に為すべきことが為せる。それだけの意思が残っていると確信できた。
深界5層「なきがらの海」最深部。ここでは、全てを託し死んだ人間は「命を響く石(ユアワース)」を生成する。これこそが白笛の原料であり、6層への道を開く鍵だ。
これで、アキを、6層へと進ませる事ができる。
アキと、アビスの底へ繋がる道を進める。
夢にまでみた、冒険のさらなる続き。
(ああ、でも…)
アキの声が聞こえる。けれど目はもう見えなかった。自分の目はとうに無くなったし、代わりの遺物は取り外してしまった。
(…アキが今、どんな顔をしてるのか、見たかったな)
アビスの冒険はすべてを記憶に焼き付けているけれど、この時だけは黒一色だった。
白笛になった後、彼の顔は見れるのだろうか。
そう思ったのを最後に、ティアレの意識は途切れた。
☆☆☆☆☆
ティアレのこの世界での役割(ロール)は、冬木の児童養護施設の子供だった。
ベルチェロ孤児院とどこか似ているようなこの施設の、本好きな少年。
ティアレの外見はこの冬木の街の人々とは別の人種のような、金髪緑眼の容姿だが、その程度のことはこの世界では奇異という程でもないようだ。
まだ日も出ていない、子供が起きるにも早い夜中と早朝の間。
目が覚めてしまったティアレは、こっそりとベッドを抜け出して施設の中庭に出ていた。
そして。
「ハロー、マスター。初めまして。
ワタシはアルターエゴ」
野性的な装いに、白衣を纏った女性。施設にはやや不釣り合いな格好の彼女が唐突に現れ話しかけてきた時、ティアレは全てを思い出した。
そして、聖杯戦争の知識が流れ込んでくる。
「ええと。初めまして、アルターエゴさん。
ボクはティアレです」
ティアレはやや混乱しながら、初対面の挨拶を返す。
「ボクは元の世界では、奈落の探窟家でした」
「ふむ……奈落、アビス。聖杯の知識では、概ね私がいた場所も比較的それに近いな。ワタシはパルデアの大穴、その最奥の研究所ゼロラボで作り出された研究補助のためのAIだ」
他の世界にも、アビスのような場所があるのだろうか。ティアレはもっと話を聞こうとするが、その前にアルターエゴが話し出す。
「親睦を深める前に、確認しておくことがある」
「単刀直入に話そう。ワタシにも聖杯に願うべき夢はあるが、そのためにキミのような子供を巻き込むつもりはない」
意味を訝しむティアレに、アルターエゴは言葉を続けた。
「あくまでワタシの夢は、ワタシの満足のために過ぎない。ワタシは夢のために戦えるが、夢のためにキミに戦いを強要しようとは思わない」
「キミが望むなら、聖杯戦争のことを忘れ、隠れて最後まで過ごしてもいい。あるいは、令呪でワタシを自害させるのもいい。この聖杯戦争は、サーヴァントを失ったマスターに苦しみのない終わりを与えてくれる」
口調こそ平坦だが、アルターエゴの言葉には慈しみと罪悪感が感じられた。きっとティアレがその言葉通りに令呪を使っても、彼女はそれを受け入れ消えていくだろうと信用できた。
きっと彼女が言うことも、一つの選択肢だ。戦いを拒否し、安らかな結末を迎える。このような状況下では、それは十分な価値があるのだろう。
だけど。
最初の混乱は引き、ティアレの頭は整理されていく。
ティアレの願いは、安穏とした逃避の先には存在しない。
「アナタのためだけの戦いではありません。ボクにはボクの…夢が。聖杯戦争で、勝たなければいけない理由があるんです」
「……ワタシはキミのような年齢の少年が、そのような業を背負うことを肯定しがたい」
「夢のため、アビスの冒険のために払った代償を業と呼ぶなら、ボクはもうたくさん負ってます」
デチュアンガの誘いに乗ったこと。ベルチェロ孤児院の皆に別れも告げず、勝手に飛び出したこと。…親友を、アキを、傷つけてしまうようなやり方しか選べなかったこと。
後悔はしないけれど、どれもティアレの業だ。
その業の一つ、緑の両目──実り多き真球(プアインハート)──をそっと指差して、遺物として使用する。
「……!」
白目が黒く染まり、異形の眼となったティアレの双眼に、アルターエゴが目を剥いた。
「ボクは本来、アビスに潜るなんて到底出来ない、ベッドから離れることも出来ない病人だったんです。アビスについての本を読んで、憧れることしか出来なかったんです。この眼は実り多き真球(プアインハート)という奈落の遺物で、ボクの身体能力を補ってくれていました。病気は治りませんが」
「待て。遺物……とは、アビスという場所で出土する特殊な物品のことではなかったか?キミ自身の目はどうした……。その病気で失ったのか?」
アルターエゴが挟んできた言葉は、焦りを帯びていた。ティアレはそれに淡々と答える。
「病気は関係ありません。取り出しました。この遺物を使うには、眼窩に嵌める必要があるんです」
「取り出した、だと?」
「確かに、自分でやるのは痛かったけど。ボクが、深界5層の最奥まで到りうる手段はこれしかなかったんです。この遺物を使えば元以上にはっきり目は見えますし」
アルターエゴが少しの間、呆然としていたのが分かった。
「……その病気を治すことが、キミの望みか?」
「治るといいとは思います。でも治らなくたっていい。元の世界に──アビスに戻って、アキと、友達と一緒にどこまでもアビスを冒険できれば、なんだっていい」
一緒に。どこまでも。
笛としてでも、探窟家としてでもいい。
ああ、でも。諦めていたけれど。
もしかしたら聖杯の力なら、白笛を手にしたアキと一緒に、探窟家として、アビスにさらに潜っていくことか出来るのかもしれない。
それが叶うのなら、まさしく奈落の奇跡だ。
「アルターエゴさん。アナタが、夢のために戦えるのなら。ボクの夢のために、力を貸してもらえませんか。ボクは聖杯を手に入れて、もう一度冒険を、冒険の続きがしたいんだ」
「キミの夢も、冒険か」
アルターエゴは、笑ったように見えた。
「ティアレ。キミが病床からアビスに夢を馳せていたように、ワタシは大穴の底からパルデアの地上で旅をする者たちを見ていた」
「もしかして、アルターエゴさん、アナタも」
「そうだ。ワタシの夢も冒険だ。彼らのように、あるいはキミたちのように、自由な、自分だけの宝物を見つける冒険がしたかったのだよ」
エリアゼロの研究所から出られない、被造物の身だとしても。その夢さえ、制作者たる博士の夢の続きに過ぎないかもしれなくても。そうアルターエゴは続けた。
「ワタシの最後の冒険は、残念ながらサーヴァントとしての記憶には残っていないが。ティアレ、キミの冒険では、どんな宝物が見つかったのかな」
奇妙で、時に危険な原生生物たち。大穴に広がる奇景。外では食べられない食べ物。同期の皆と潜った層、一人で潜り続けた層。アビスの冒険は一つ一つが宝物で、いくらでも挙げることが出来るけれど。
「友達に出会えました。同じ夢を持って、一緒に笑えて、一緒に前に進める。そして、自分の全てだって託せる友達」
「素晴らしいことだな」
アルターエゴは目を閉じる。彼女が目を開けた時には、その目には強い意志が宿っていた。
「ティアレ。ワタシのマスターがキミであることを嬉しく思うよ。ワタシはもっとキミの冒険の話が聞きたいし、キミが冒険の続きを歩むところが見たい。サーヴァントとして、キミの冒険のために戦うと誓おう」
「ありがとうございます、アルターエゴさん。ボクも、アナタの冒険の先が良い物であることを願っています」
ふと気がつくと、空は随分と明るさを増していた。朝の光が空を染めていく。振り返ったアルターエゴが、小さく呟く。
「夜明け、か……知識では知っているが、この目で見るのは初めてだ」
「冒険では、本でしか知れなかったことも、本ですら知れなかったことも、沢山見れますよ。アルターエゴさん」
楽しみですね、とティアレは笑う。奈落で長く過ごしたティアレにとって久しぶりな朝日は、記憶よりも眩しかった。
【クラス】
アルターエゴ
【真名】
オーリムAI@ポケットモンスタースカーレット
【ステータス】
筋力D 耐久B+ 敏捷E 魔力C+ 幸運D 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクAならば、マスターを失っても一週間現界可能。
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地(工房)を作り上げる。アルターエゴの場合は研究所、あるいは研究室を作り上げる。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能。 アルターエゴが作成出来るのはテラスタルオーブのような、テラスタルの力を用いた器具。
【保有スキル】
ポケモントレーナー:A
オーリム博士本人を含めたパルデアのチャンピオンすべてのデータを学習した、パルデア最強のトレーナー。
その場で捕まえただけの獰猛な古来パラドックスポケモンでも、その力を把握し十全に従えることが出来る。
結晶の加護:B+
オーリム博士の見出した、エリアゼロ深部にのみ存在する結晶体の力。本来世界に存在しない性能のAIたるアルターエゴを作り出し、そして動かす動力そのもの。
アルターエゴの体を侵食、置換することで、さらなる性能を引き出すことが出来る。
【宝具】
『タイムマシン』
ランク:EX 種別:??? レンジ:? 最大捕捉:1
エリアゼロの底、ゼロラボ最深部でオーリム博士とアルターエゴが作り出した異なる時間軸との接続を可能とする装置。
現在はオーリム博士の愛した古代と接続され、古来パラドックスポケモンを呼び出し続ける装置となっている。
モンスターボール程度の大きさなら相互の行き来が可能だが、人間サイズの存在が移動すれば二度と戻ることは叶わない。
『楽園の守護竜(コライドン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
タイムマシンから呼び出された、凶暴なパラドックスポケモン。同種を縄張り争いで追い出し、オーリム博士を殺害した。
オーリム博士の「楽園」を守る、最強の門番。
『楽園防衛プログラム』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アルターエゴに仕組まれたタイムマシンを防衛するためのプログラム。オーリム博士の妄執そのもの。
アルターエゴがタイムマシンの防衛に失敗したときに発動し、結晶体の力で強引にアルターエゴを乗っとる。その場の博士のものを除いた全てのモンスターボールを使用不能にし、『楽園の守護竜』で侵入者を排除する最終防衛機構。
【weapon】
宝具『タイムマシン』から供給され続ける、古来のパラドックスポケモンたちの入ったマスターボール。
【人物背景】
パルデアの研究者・オーリム博士に作り出されたAIロボット。オーリム博士の記憶と知識を完全に引き継ぎ、同等の能力を持つ。同僚や夫と袂を分かったオーリム博士が、それでもエリアゼロの底で研究を続けるために作成した。
大穴の外の技術では到底不可能な技術だが、機械にまでも影響を与えるエリアゼロの結晶体の力がそれを実現させた。
オーリム博士の「古来のポケモンと現代のポケモンの共存」という夢を、現代のパルデア生態系を壊す危険なものだと判断し、彼女の死後に阻止のため「オーリム博士」を自称し動く。
その過程でパルデアを冒険する主人公たちと関わり、自分自身で自由に古代の世界を冒険する、という夢を持つようになる。
最期には古来ポケモンを呼び続けるタイムマシンを止めるべく、タイムマシンを用いて夢であった古代の世界へと旅立った。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、マスターであるティアレの冒険の続きを見る。
叶うのならば、自分も古代の世界を冒険する。
【マスター】
ティアレ@メイドインアビス闇を目指した連星
【マスターとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、またアビスで探窟の続きをする。
今度は人間として、アキと一緒に。
【weapon】
ナタ(鋸歯)
奈落の素材により強化されたナタ。
【能力・技能】
・探窟家
公式には赤笛だが、単身で深界5層最奥までたどり着ける、黒笛相当の高い探窟能力を持つ。
アビスの事物にも通じており、武器や食料の作成も問題なく出来る。
・実り多き真球(プアインハート)
富豪デチュアンガから与えられた遺物。
本来の目の代わりに眼窩に嵌めることで使用できる。
良好な視力を持ち、生きている間は身体能力が大幅に向上し、怪我や毒も治癒されるが病気を治すことはできない。
一つでベッドを離れられない病人が、優秀な赤笛としてアビスに元気に潜れる程となる。
通常時は普通の眼球に見えるが、両目とも置換し本来の力を使うと白目が黒く染まった異形の眼となる。
代償として、この遺物を使用したまま死んだ人間はこの遺物の意思により動かされる動く死体となる。
ティアレは両眼をこの遺物と置き換えている。
・病弱
ティアレは生まれつきの病を持っている。
本編時点では既に末期であり、上記の遺物がなければ戦闘は不可能。
そして、遺物があった上でもその命はあと僅かである。
【人物背景】
ベルチェロ孤児院の「赤笛」探窟家。
「闇を目指した連星」主人公と同期で、友達となりともに白笛になりアビスに潜る約束をする。
本来病弱な探窟に堪えない体で、ベッドの上で読む本の中のアビスの冒険に強く憧れていた。
後に遺物コレクターの富豪、デチュアンガに売られ、遺物「実り多き真球」を与えられ探窟家となれるよう取り計らわれる。その代償として、白笛を手に入れた時にはデチュアンガに渡す約束をさせられた。
孤児院の探窟家として探窟を続けるも、ティアレの病状の悪化は深刻であり、このままの探窟ではアビスの底を目指すよりも先に死を迎えると判断することになった。デチュアンガからさらに追加で「実り多き真球」を手に入れ、単身でアビスの底を目指す。
5層の最深部である前線基地で、主人公と相対し、負けたほうが「白笛そのもの」となる戦いをしかけ、負ける。最期は遺物を外し、白笛として主人公とともに冒険を続けられることを喜びながら死んだ。
【方針】
聖杯狙い。不必要な殺人や残虐行為は忌避し、サーヴァントを優先して戦う。
【備考】
参戦時期は死後。
原作主人公の名前はデフォルトネームの「アキ」とし、性別は男とする。
以上で投下を終了します。
タイトルは、「夢を目指した連星」です。
書き漏らして失礼しました。
よろしくお願いします。
沢山の投下、ありがとうございます!
僭越ながら感想を書かせていただきました。
>My true self
タルタリヤがこの少女に呼ばれた理由付け、それが実にクロスオーバー作品だなと云う感じがして素敵でした。
プリキュア鱒ならではの可愛さや純真さもあって、読んでいて応援したくなる感じがあるのが良いですね。
少女の未来のために戦うことを決意して苦笑するタルタリヤがストレートに格好良かったです。ありがとうございました。
>カナリア
しょうこの未練の形はやっぱりそこかあ、としみじみ思いました。
迷える少女のもとに招かれたのが人類の父であるアダムというのが素敵な符号だなと思います。
常識の違いから繰り広げられるコミカルなやり取りとしょうこの抱える湿やかな事情のコントラストが美しい。ありがとうございました。
>Bloodlust
狂気に満ちたサーヴァントの本質をまるで理解していないっぽい杏子がヤバすぎる……。
それを良いことに好き勝手されていることもあり、これは後々とんでもないことになるぞという予感がします。
魔法少女である彼女がおぞましい魔女を呼びつけてしまったのは皮肉という他ないですね。未来的な意味で……。ありがとうございました。
>希望より熱く 絶望より深いもの
凄惨な形でさやかを焚きつけるその不器用なあり方がいぶし銀で格好いい。
さやかがアサシンに師事して鍛えられているのも、彼女の今後の発展性が見えて良いなと思いました。
……と見せかけてから最後のモノローグでひっくり返すのが上手いなあ。ありがとうございました。
>泡沫の夢
主従同士の互いの感情の吐露に宿る切なさと寂しさが身に迫ります。
覚悟を決めた上で進む円と、それを受け入れながらも痛みを覚えるキャスターの対比が切ない。
痛みを背負いながら進んでいくことが必然的と言ってもいい候補話、否応なしに今後を想ってしまいます。ありがとうございました。
>夢を目指した連星
二つの奈落で育った者達が新たな景色を見るというのは、王道ですがやはり尊いですね。
互いに生まれた世界も時代も、抱えた事情も違いながら通じ合っていく様が良い。
彼らの新たな冒険の先に幸ある未知があることをつい想ってしまうそんなお話でした。ありがとうございました。
私もひとつ候補話を投下させていただきます。
◆
Q.子供たちは、完璧なルールがなくても幸せになれるか?
◆
「驚いたな。まさか、まだ自分の人生に先があるとは思わなかった」
目を開けた時、そこは異界の大地だった。
自分の指先から微かに空中へと走ったノイズを見て、眞鍋瑚太郎はこれが今際の際に見る走馬灯などではないのだとその聡明な頭脳で瞬時に理解する。
男には、全てが与えられていた。
此処が何処で、自分は何をすればよいのか。その結果得られるものは何であるのか。逆に、何も得られないまま終わった場合にはどうなるのか。呈したい疑問の全てがいつの間にやら脳に詰め込まれている。
妙な気分だったがすぐに順応する。それが出来る辺りが、この男の非凡さを物語っていた。
「要するに……また命を懸けて戦えというわけか。それで死んだばかりの人間に突き付ける命題としては、皮肉が利いてるな」
命懸け(ワンヘッド)の戦い、それ自体は眞鍋にとって慣れた趣向だ。
死んでいく者の顔は幾度となく見た。そしてつい今しがた、死んでいく者の気分も経験してきた。
思っていたより悪いものではなかったし、残してきた生徒達のことを除けば未練らしい未練もなかったのだが、さしもの彼もまさか死んだ端からまた別なゲームに放り込まれるとは思わなかったらしい。
“Holy Grail War”――聖杯戦争。
あの『銀行』が用意してきた数々の悪趣味なゲームの中にさえ、これほどの規模と人数で行われる種目はなかった。
何より異常なのはその景品だ。どんな願いも叶える、神の如き力を齎す願望器。現代社会における不変の法律をもねじ曲げ得るあの『ヘックスメダル』とすら比べ物にならないほど非現実的で馬鹿げている。
誰も信じはしないだろう、証拠がなければ。
確実に死んだ筈の人間を仮想世界に転移させ、そしてサーヴァントなる超常存在の召喚という不条理を現実に実行して証明してでもいなければ。
逆に言えばそれを証明されてしまえば、疑いを掛ける理由は途端に消滅するのも事実だった。
少なくとも今、眞鍋は聖杯戦争とそれに纏わる諸々の法理について根本的な疑義を抱いてはいない。
(大なり小なり裏はあるだろうが……な。全くの嘘ではないんだろう。
此処が電脳空間上に再現された仮想世界で、人智を超えた存在の跋扈が当たり前に罷り通る“ゲーム盤”であることは、恐らく間違いない)
『シヴァリング・ファイア』。
世界の広さを見誤って敗北し、それを受け入れて死ぬ筈だった自分の身体に死の熱風が殺到するほんの寸前。
そこで眞鍋は確かに、一枚の“黒い羽”を手にしていた。自分自身が絶対の檻だと信じてしまったが為に、本当にそうなってしまった棺桶の中にどういう訳か舞い落ちてきた羽毛。
察するにあれが分水嶺だったのだろう。言うまでもなく、生と死の。
一見するとこの世界は敗者へのボーナスタイムのようであり、地獄に垂らされた一筋の蜘蛛の糸のように思える。
表向きは。しかしその救いらしき理屈を額面通りに受け取るのは危険だろうと、眞鍋は経験上そう確信していた。
裏はあるものとして考える。重要なのは、それを如何に手中に収めて欺くか。
「……別に未練もないんだけどな。今更採点ミスを訴えて見苦しく足掻くのも教育に悪い。大人のやることじゃない」
眞鍋は、己の辿った結末に納得している。
全てを尽くして戦ったその末に、完膚なきまでの敗北を喫して死んだのだ。
分かったのは自分が、世界という問題用紙の見方を間違えていたこと。人生というテストへの向き合い方を履き違えていたこと。
最後にその間違いを知れる有意義なペケを貰えただけでも、十二分に満ち足りた最期だった。
ただ一つ、ほんの一つだけ未練らしいものがあるとすれば――それは。
「ただ。晨に教えられた生き方で見つめる世界には――興味があるな」
眞鍋瑚太郎を破った男。
未熟な生徒だと思っていた彼の言葉が、今も耳を離れずにいることだ。
「人生が永遠に続くテストなら、得点は生きていくほどに増えていく……か。
言われてみれば確かにそうだな。いつだって教え子の柔軟な発想というヤツには驚かされる」
眞鍋はいつだって、他人にバツを付けて生きてきた。
それで人の人生を評価して、無数の落第生を生み出してきた。
その結果壊してきた人生の数は数十では利かない。これでは、教育災害の呼び名を不名誉だと憤る資格もないだろう。
それでも眞鍋は、骨の髄まで、心の芯まで筋金入りの教育者だった。
自分の教育に間違いがあったというのなら、それを正してみたくなる。
「……マルを数えて生きよう、か」
新雪の降り積もった丘の上に大の字で寝転んで、呟いた。
思えばその正しさは知っていた筈なのだ。少なくとも子供に対しては、自分はそれが出来ていた。
勉強は出来ないが運動が出来る子。学芸会の主役にはなれなくても、クラスで一番キレイにアサガオを咲かせられた子。
そんな小さな美点の尊さを鼻高に語っておいて、いざ学び舎を出て大人になった生徒に対してはそう出来ていなかった自分のダブルスタンダードに思わず笑いが零れる。
成程、勝てないわけだ。
あの男は自分よりも、もっと柔軟に世界を見ていたから。
「素敵な言葉ね。あなたが考えたの、先生?」
「いいや、僕は逆だった。バツを数えることばかり考えていたよ」
そんな自分の顔を見下ろす相棒は、眞鍋の予想を超えて幼い人相をしていた。
眞鍋が担当していたクラスの生徒達よりも一つ二つ大きいくらいだろうか。
見た目ではそうとしか見えないからこそ、脳内にある彼女の情報に舌を巻く。
人は見かけによらないと云うのは使い古された文句だが、どうやら神なる存在についてもそれは適用可能らしい。
「立派な大人を探していた。学び舎で授業を受けて巣立っていき、やがて新たな命が健やかに育つ社会の歯車になる彼らに輝きを求めた」
夢と希望に溢れた子供達は時間と共に、それら熱を失った凡百の大人へと変わってしまう。
かつてなら乗り越えられた筈のテストに落第し、間違いばかりを重ねて潰れていく姿をかつて眞鍋は忌み嫌った。
合格者が自分一人だけの答案用紙を握り締めながら次は、次こそはと彷徨い続けて――いつしか目の前には死だけが残った。
「思えば単純な計算ミスだ。自分が正しいと思っている考えに取り憑かれ、それを貫こうと躍起になるあまりに散りばめられているヒントの悉くに気付かない。バツをもらう受験生の典型例だな」
間違いだけを見ていたら、その人物の良いところになんて気付けない。
十人十色の人生を評価しようと思うならば、その採点方法は最初から加点方式でやるべきだった。
あれほど理想の教育者と自らを信じていながら、そんな単純なミスに最後まで気付けなかった事態に辟易と苦笑を禁じ得ない。
そういう意味でも眞鍋はあの敗北を当然のものだと受け入れていたし、むしろ自分を成長させてくれた得難い経験の一つとして数えていた。
――マルを数えて生きよう。君達にはたくさんのマルがついてる。
「世の中、大人も子供も色んな人間がいる。
素直なやつ、素直じゃないやつ。勉強ができるやつ、できないやつ。人付き合いが得意なやつ、苦手なやつ」
「そうね。人の心は、まるで綾模様のよう。みんな違ってみんないい、私もそう思うわ」
「それを一つの定規で測ろうとしたことが僕の間違いだった。一人一人の目を見て、人生を読んで……素晴らしいところを探してやればよかったんだ」
考えてみれば当たり前のことだった。
悪いことをしない人間はいない。失敗をしない人間もいないし、後ろ暗いところのない人間なんているわけがない。
光があればそこには必ず影がある。その影を指差しあげつらって大上段から追試を言い渡すことに何の意味があったというのか。
「僕は……僕だけの百点満点を誇るのではなく、恥じるべきだったんだろうな。それは裸の王様と何ら変わらない、失敗の証拠だと」
だからこそ、と眞鍋瑚太郎は思うのだ。
人生の先を願うつもりなど毛頭ない。
ましてや聖杯に託す個人的な願いなども存在しない。
にも関わらず、この世界に希望らしいものを見出してしまうのは……気付けば銀行での勝負でそうだったように脳を回転させてしまっているのは、きっとまっさらな自由帳を前にした子供のように心を踊らせているからだ。
「不快にさせてしまったら申し訳ないが、僕が聖杯を欲しているかと言ったら微妙なところだ。
恵まれない子供達の救済、より効率的でかつ有意義な教育体制の構築……その手の願いがないわけではないが、僕が求めているのはきっとそれじゃない」
「いいわ。許してあげるから、聞かせて頂戴? 私、あなたの想いが知りたいの。
遥か遠い世界から……わざわざこんな幼い神を手繰り寄せてくれたんですもの。
せめて私は、あなたの心を照らし寄り添う光でありたい。暖かな真昼の草原に吹くような、風でありたい。
だからまずは――あなたのことを知りたいわ。そうすればきっとこの気持ちは、もっと強く大きくなっていくだろうから」
「……ふ。何だか妙な気分だな。君の見た目は子供そのものなのに、まるで親に悩みを吐露しているような気分だよ。新任の頃を思い出す」
この世界には、一切のしがらみが存在しない。
まさしく新天地だ。敗れて死んだ男に対する、贅沢すぎるほどおあつらえ向きなロスタイム。
そして此処には、多くの人間がいる。
聖杯戦争のために造られた命に始まり、聖杯戦争のために招かれた命に至るまで様々な人間の想いがこの世界のそこかしこで輝きを放っている。
「新しい教育をしたいんだ。かつて僕がやっていた教育は間違いだった――なら、教師として間違いは正さなければならないだろう?」
教育者の血が疼く。
かつては目を向けることもしなかった、いろいろなものをこの目で見てみたい。
バツの影に隠れていた色とりどりのマルの数々に目を向けて、自分の今まで見ようとしてこなかった世界を知っていきたい。
それが眞鍋瑚太郎の今の願いであり、聖杯に願うまでもなく叶えられる手近な欲望であった。
「より多くの人間を見たい。子供ならば守ろう。大人であればその幸せに寄り添おう。
醜くても、失点が多くても……その歩みの中にあるマルの数を数えて、僕だけはそれを評価してやりたい」
「ふふ。あなたって、本当に骨の髄から“先生”なのね」
「こればかりは職業病さ。今更教育以外の生き方を見つけろと言われたら、僕は一日と保たず路頭に迷うだろうな」
こうして改めて見つめてみれば、あんなに醜く思えた世界も何処までも澄み渡って見える。
仮初めの吹けば飛ぶようなゲーム盤でさえこうなのだ。そこには価値があって、無限大の希望がある。
「世界は完璧なんかじゃなくて、たかが温度差の一つで壊れるような脆い硝子のドームでしかない」
「それも……誰かに教えてもらった言葉?」
「ああ。僕と違って世界を疑える、そんな生徒から教わった言葉さ」
――『鏡の中に君を助ける答えはない』。
まさにその通り。世界とは、必ずしも答えの用意されている問題用紙ではない。
そのことに気付けなかったからこそ、自分は今こうしてこの仮初めの大地に立っている。
そこで幼い神と隣り合い、子供のように己が心中を吐露しているのだ。
「僕は、思いがけず信じていた世界の外へと出ることが出来た。だからこそその先を知りたいんだ」
その言葉に――幼き神は、黙った。
聖杯を積極的に望まないその姿勢を不快に感じたからではない。
彼の口にした言葉が、自身の記憶の中に色褪せず残る“あの日”のことを思い起こさせたからだった。
「……私があなたに召喚された理由が、なんとなく分かった気がするわ」
「興味深いな。君も教育者だったのか? 幼き草神よ」
「まさか。私は、ただ……小さく狭い世界に囚われることの寂しさを、ちょっぴり知っているだけ」
誰からも重んじられず、信仰を浴びることもなく。
孤独の闇に胸を焼かれながら、ただひたすらに自分に当て嵌められた役割へと殉じていた。
そういう時代が、この幼い神には確かにあった。より多くの学びと、それを以ってしての成長こそが使命であり存在の意義であるとそう信じて生きていた、そんな過去が彼女にはある。
そしてその狭い苦しい、小さな世界が音を立てて弾け飛ぶ瞬間のことも――幼神は覚えていた。
「ねえ、先生。世界はとても広くて楽しいものよ。こんな成りでも神様だもの。私が、あなたに保証してあげる」
男にとってそれはガラスのドームだった。
神にとってそれは、知恵の邦の深淵だった。
彼らは、世界が砕け散る音を知っている。
閉塞と孤独が弾け飛ぶ、その瞬間を色褪せることない鮮明な記憶として覚えている。
「私はナヒーダ。スメールの草神、クラクサナリデビ。
けれど今は先生、あなたの小さなサーヴァント。
こういう台詞はあまり得意じゃないけれど、スメールの神の名の下にあなたと共に歩みましょう」
世界は、決して完璧ではない。
完全性を求めれば、それに呪われていたらキリがない。
世界は案外と簡単に砕け散るもので、その先には更に果てしない新たな世界が広がっている。
たとえそれが死の先に広がる仮初め、いつか終わることが確約されているロスタイムだとしても。
その歩みに決して間違いも無駄もないのだと、彼らだけはそれを知っていた。
彼らは誰よりも世界の殻を信じ、そしてその絶対が破れる瞬間を色濃く脳裏に焼き付けている者達だから。
「行きましょう、先生。あなたの誰より純粋な想いが、この世界の誰かに届きますように」
……その手を取るために手を伸ばす前に、人間は口を開いた。
そして問い掛けた。かつて、自分を打ち負かしたギャンブラーに投げたのと全く同じ問いを。
◆
A.もちろんよ。なっちゃいけないなんてルールもないわ。
◆
【クラス】
キャスター
【真名】
ナヒーダ@原神
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A+ 幸運B 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”を上回る“神殿”を形成することが可能。
【保有スキル】
草神:A++
俗世の七執政が一柱にして、スメールを統治する草神。
未だ未熟ながらも弛まぬ努力と自負心を抱く、神性の象徴。
神としての未熟さからそのランクはEXには達しない。
しかし有し溜め込んだ知識の数は並大抵のそれではない。
神性:A++
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
スメールの建国神にして先代の草神・マハールッカデヴァータの転生体。
神性の高さは極めて高く、それ故に存在強度は異次元の領域にある。
無窮の神善:A
孤独の闇の中にありて、しかしそのあり方を見失わなかった神の善意。
精神攻撃に対する極めて強度な耐性。自らの存在の意味を忘れない、神の柱。
所聞遍計:A
草の元素を操るキャスターの権能。
【宝具】
『心景幻成』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:1〜100 最大補足:500人
知恵の殿堂。夢想の殿堂、元素爆発。異なる世界の法理に照らし合わせるならば領域展開。
植物園を模した極めて広範囲の元素エリア・『摩耶の宮殿』を展開する。
【人物背景】
俗世の七執政が一柱にして、スメールを統治する草神。その二代目にして、国内では“クラクサナリデビ”の愛称で呼ばれる存在。
手折られた、最も純粋なる枝。ある偉大な神の輪廻の果て。
――閉ざされた世界の中に佇み続けた、幼い神。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯は求めない。求めるのはマスターの幸福のみ。
【マスター】
眞鍋瑚太郎@ジャンケットバンク
【マスターとしての願い】
自分が得た答えを基に、新しい教育の眼で世界を見たい。
【能力・技能】
極めて聡明な頭脳。
社会の表と裏を問わずに猛者が集うギャンブラーの園で、最高ランクにまで上り詰められる聡明さと狡猾さを併せ持つ。
そして彼は、それ以前に教師でもある。
優秀でなおかつ教え子の心に寄り添った教育を行える、まさに教育の申し子とでも呼ぶべき聖職者。
【人物背景】
眞鍋瑚太郎。職業、小学校教諭。裏の顔は『銀行』が主催する賭場のワンヘッドギャンブラー。
『瞼無し(リッドレス)』。『教育災害』。
世界の完璧を信じすぎるあまりに敗北し、最後にまた一つ成長して死に身を投じた男。
投下終了です。
投下します。
私が一番不幸だった。
この迷路に出口がないことを知っていたから。
次に彼が不幸だった。
この迷路に出口がないことを知らなかったから。
その他大勢は不幸ではなかった。
自分たちが迷路の中にいることすら知らなかったから。
――――■■■■■■■■■■■■■■の詩
◆ ◆ ◆
夜の寒空が窓ガラスに映る暗い部屋。
一人の男が手に持ったダイスを指先で弄んでいる。
「地球から月までの距離はおよそ38万km。0.1mmの薄紙をたった42回折るだけで届いちまう距離だ。
だが昔の人ははるか彼方に輝く月を眺めてもそんなことなんか思いもよらなかったろう。……なあ、オマエもそう思うだろ?」
部屋には男の他には誰もいないはずなのに、そう問いかける。
ダイスは手の中で擦れ合い、コロコロと音を立てていた。
「俺は”熱”を愛している。月の大地をたった一歩踏みしめるためだけに、生涯を捧げた男たちが持っていたような”熱”を……な」
返答はない。
相変わらず静まり返った部屋で、男は一人テキーラをあおる。
強面の男だ。眼光は鋭く、眉は細い。とても堅気には見えない。
当然というか、男はただの一般人ではなかった。
呪術師。
恐怖、嫉妬、憎悪。
人の負のエネルギーから生まれる呪霊と呼ばれる存在を狩る、特殊な才能を持って生まれてきた。
「秤金次」というのが男の名だ。
秤金次は”熱”を愛している。
”熱”はエネルギーだ。
人が「人生を変えてやろう」と思う時に発せられるそれは、ただひたすらに強く、自身の運命さえ捻じ曲げてしまうような力を持っている。
”熱”は欲求だ。
それが無ければ人は恋一つできない。そして、一度でも浮かされてしまえば虜になってしまうほどの恐ろしい中毒性がある。
”熱”は極めて慎重かつ大胆に扱わなければならない。
秤金次は、”熱”を愛している。
「……クソッ、シカトかよ。昨日はあんなに饒舌だったくせに」
秤はそう言うと、気だるげに机の上にダイスを5つ放り投げた。
ダイスは互いにぶつかり合い、ややあって動きを止めた。
5つ全てが6の目を出している。
1/7776。
全ての出目が6になる確率である。
天文学的な幸運にも一切感情を見せず、秤は机の上に転がったダイスを回収し、もう一度放った。
次も全てが6の目である。次も、その次も――何度放っても6の目しか出ない。
明らかに異常である。
だが、秤はそれが当然だというように事実を受け入れている。
眉を歪ませ、貧乏ゆすりを繰り返しながら、心底嫌そうにこの異常なまでの幸運を。
「くすくすくす。ここ数日の幸運生活は楽しかったかしら」
スゥ、という音とともに、霊体化を解いた少女がいつの間にか姿を現していた。どことなく黒猫を思わせる小柄な少女である。
彼女は今回の聖杯戦争において、秤のサーヴァントをキャスタークラスとして務めていた。
「あのなあ。楽しいワケねぇだろうが」
くつくつと笑う己のサーヴァントを後目に、秤はもう勘弁してくれとばかりにかぶりを振る。
「どうして? サイコロを振れば6の目しか出ない。ポーカーをすればロイヤルストレートフラッシュばかり。パチンコもルーレットも、競馬も競艇も当て放題じゃない」
キャスターの真名は「ベルンカステル」という。
――またの名を「奇跡の魔女」。
起こりうる事象の可能性が”ゼロでない限り”必ず成就させる、というとんでもない魔法を持つ、千年を生きた大魔女である。
「”運”ってのは試されてナンボだろ。初めから勝ちが見えている賭けのどこが面白いんだ?」
こんな生活はもう懲り懲りだ、と秤はぼやく。
「っていうか、”魔法”って何だよ。呪術とはまた別の代物か。確率を自由自在に操るなんて聞いたことがねぇ」
秤の知識はあくまで呪術師ベースである。
よって聖杯戦争に参加する際にインストールされた「魔術」についての知識も、キャスターが語る「魔法」の知識も受け入れ難いところがあった。
「さあね。私の生まれた世界と貴方の生まれた世界は違うのだから、持ってる知識が違うくても仕方がないわよ」
答えのような、さりとてそうではないような曖昧な回答を残し、キャスターは黒猫へと姿を変える。
「ああ、でもこの世界は面白いわ。私が航海者ではなく駒としてゲームに参加するなんて何百年ぶりのことかしら。
”カケラ”を渡り歩くだけの人生にも飽き飽きしてた頃だわ。強者に弱者、英雄に塵芥(ゴミ)! どんな駒たちが私を楽しませてくれるの」
キャスターは残酷な黒猫だ。
虫も殺さない顔をして人を殺し駒を潰し、ゲーム盤を荒らす。
雪の舞うビルの屋上でくるりくるりと一匹の黒猫が楽しげに踊っていた。
自身の残酷な本性は「まだ」マスターである秤にも教えない。
彼の魔法――術式といったか――は、ギャンブルに関するものだったと聞いている。
本人は嫌がるだろうが、この「奇跡の魔法」を使えばそのギャンブルを確定させてやることも可能だろう。
「くすくす……。楽しい、楽しいわ。本当に楽しい……」
呪いを祓うことを生業としてきた男は、ただ己に与えられた役割のために。
かつて運命に弄ばれた少女は、一時の退屈を忘れ愉悦に浸るために。
噛み合わない歯車のような二人の関係は、ただ神(ゲームマスター)のみの知るままに動き始めた。
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【クラス】
キャスター
【真名】
ベルンカステル@うみねこのなく頃に
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:A 幸運:C 宝具:EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
”工房”の形成が可能。
道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成できる。
【保有スキル】
加虐体質:B+
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
プラススキルのように思われがちだが、戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
航海者:EX
「カケラ」と呼ばれている異なる運命や境遇の世界を渡り歩くことができる。
このスキルを持つ者は、自身の受ける特攻効果およびクリティカルダメージを減衰させることが可能となる。
【宝具】
『奇跡の魔法』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
奇跡の魔女としての権能。起こりうる事象の可能性が”ゼロでない限り”必ず成就させる。
発動時に大量の魔力を消費する燃費の悪い宝具だが、攻撃に補助、果ては妨害や防御にまで使える強力な代物。
【人物背景】
世界でいちばん残酷な魔女。過酷な運命に囚われ弄ばれた少女の成れの果て。
ありとあらゆる世界を飛び回る一匹の黒猫である彼女を殺せるのはたった一つ、「退屈」だけである。
【サーヴァントとしての願い】
この聖杯戦争を観測する。
自身の生死はどうでも良い。
【マスター】
秤金次@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止める。
【能力・技能】
『坐殺博徒』
パチンコ台をモデルにした領域。
領域内ではパチンコの図柄三つによる役が成立するかしないかの演出が進行し、成立すると術者である秤にボーナスがかかる。
大当たりではボーナスとしてラウンド中(4分11秒間)無制限に呪力が溢れ続け、完全な不死身となる。
【人物背景】
「人生を変えてやろう」というエネルギーを”熱”と表現し、それを愛する生粋のギャンブラー呪術師。
野望は「日本中の”熱”そのものを支配する」こと。
投下を終了します。
投下します
人が最も強いのは、どんな時か。
ある者は、子を守る親が最も強いと答えた。
またある者は、何も持たず何も背負わない存在であると。
またある者は、強き願いを叶えんとする時であると。
正解の無い問いに。南雲ハジメは迷わずこう答える。
「大切な者を取り戻すために戦う時だ。」
その言葉には、確かな力と実感が宿る。
南雲ハジメはそういう人間だ。
南雲ハジメはそういう英霊だ。
大切なものを取り戻すためなら、神さえ殺して見せる。そういう男だ。
聖杯戦争。
特定の英霊に繋がる聖遺物などを用いない召喚であれば、マスターとサーヴァントの性質は似ることが多い。
であるならば、アーチャー:南雲ハジメを召喚するようなマスターは
この問いに、同じ答えを返すだろう。
◆◇◆
電脳の世界に冬木の町並み忠実に再現した結果、寂しく残る廃ビルの一角。
乾いた風が埃を巻き上げ、かつかつと足音を立てる2人の鼻をくすぐる。
季節は冬。
ひび割れたガラスは敷居の役目を果たさず、肌寒い風が廃ビルを進む者たちの頬を撫でる。
電脳の冬木の中であっても砂埃は舞い風が吹く。
割れた窓を補修するように張った蜘蛛の巣の上で、家主が蝶を貪っていた。
街一つを随分細かく再現してるなと、ハジメは思う。
聖杯による知識が無かったならば、サーヴァントのハジメでさえこの世界が電脳空間だとは分からなかったかもしれない。
自身も何かを造り出す立場として、電脳聖杯戦争の舞台となる世界の作り込みにはハジメをもってしても感心させるものがあった。
「だからといって砂埃まで再現しなくてもいい気がするんだが。」
「そうかもしれない。でも、これほど正確な再現は私にとっては好都合。」
ハジメの隣を歩く少女。寶月夜宵が答える。
電脳の都市に呼び出され、勝てば万能の願望機が手に入る代わりに敗退すれば消滅する。
この聖杯戦争にして生存戦争の中で、マスターである寶月夜宵はアーチャーのサーヴァントを引き連れて廃ビルを進む。
2人は今、心霊スポットへの突撃を敢行していた。
ビル内を進む少女と英霊の足音が、11階にある歪んだドアの目の前で止まる。
夜宵がリュックから黒い縄とグレイ型宇宙人の人形を取り出し、その姿を見たハジメはここが彼女の『目的地』だと気づいた。
「ここか?」
「うん。『Sマンションの赤ずきん』 その怪談の元になったのがここの部屋。」
夜宵がスマホ向ける。
真っ黒な背景に赤と紫の、ホラーな雰囲気を重視しすぎて見えにくい文字列。
なんとか読み解いたハジメは、そこにあるのが20年ほど前に更新されたオカルト記事だと気づいた。
ある秋に起きた一家心中事件。両親と3歳になる娘が死亡したが、娘の死体は未だ見つからない。
血痕はエレベーターで途切れており。隣に住む大学生が一月後に行方不明となったが、事件との関連は不明となっている。
補足するように書かれた住所は、2人がいる建物を指していた。
一家心中と、隣に住む学生の失踪。
如何にも不可怪現象の好きな人たちが結びつけたくなる出来事だなとハジメは思う。
ハジメ自身オタク気質な面は強い。そういう出来事を結びつけたくなる気持ちには共感できる。
現場に行こうと思う人が居てもおかしくないだろう。
では、己のマスターである寶月夜宵は、ただ単にホラースポット巡りをするためにここに来たのか?
それも聖杯戦争の只中に?
ハジメはちらりと、自身のマスターを見下ろした。
現世と幽世をともに見つめる夜宵の髑髏のような瞳が、歪んだ扉を力強く睨む。
手元にある人形がカタカタと揺れ、どす黒い揺らぎを放っている。
強く光るその眼をする少女がただの遊びでホラースポットに来たとは、ハジメには思えなかった。
「それで、俺はどうすればいい?」
「中に入る。何もなければ帰って別の場所に行く。何かあれば...」
バチリ、ズドン。
夜宵の隣で紫色の雷が走り破裂音が響くのは、夜宵が言い終わるよりも早かった。
二度大きくぱちくりと瞬きして、夜宵は跡形もなく砕けたドアと自身のサーヴァントを交互に見る。
アーチャーの手にある二丁の銃が、一仕事終えたように薄く煙を上げていた。
「アーチャー。やりすぎ。」
「どうせ入るんだ、問題ないだろ。それに何かいるぞ、マスター。」
ハジメの銃口が室内を指す。
無人の廃墟にもかかわらず、部屋の中からじゅるじゅると何かを啜る湿った音が一定の間隔で響き続けている。
夜宵とハジメは物怖じもせずに扉をくぐる。
ぼろ布のようなカーテンが光を阻む部屋の中は昼間だというのに真夜中のように暗い。
廊下を進み突き当りにあるリビングにむかう二人は、部屋の中央で音を立てる“なにか”の姿を見る。
そこにいたのは、3歳ほどの童女の形をした赤黒い“なにか”。
べたんと座りながら周囲に倒れる3人の大人の腹部から赤くて長いものを引きずり、ちゅるちゅると啜って喰らっている。
童女の周囲に倒れているのは大人の霊。男が2人に女が1人。
3人の腹から引きずり出されたものの正体に気づいたハジメは、汚物を見るような冷たい目を童女に向けた。
赤黒くねばつく液体を垂らす、腸だった。
南雲ハジメは確信する。
これは紛れもなく、悪霊だ。おそらく怪談で死んだ一家の娘。
(...聖杯の知識が正しければ、ここは電脳空間で東京の一都市でしかないはずなんだがな。)
アーチャーのサーヴァント、南雲ハジメは目の前の光景と自身の知識の乖離にため息をつく。
マスターについてもこの世界についても、疑問は尽きない。
なぜ、目の前に悪霊としか形容しえない相手が居るのか。
電脳空間にそんな存在が居るのか。
そしてなぜ、寶月夜宵はこの事実を知った上で、ここに来たのか。
「アーチャーは見てて。その火力だと、捕らえるには向かない。」
考え込んでいたハジメを尻目に、腕を十字に重ねて夜宵は体を曲げる。
右手には黒い縄を掴み、左手にはさっきまで握っていたグレイ型宇宙人とは別の人形を構えている。
準備運動を終えた夜宵は、集中せんと深く息を吸い、静かに吐き出す。
「捕える?おい待て何する気だ。」
ハジメの質問に答える前に、夜宵は駆けだした。
夜宵が廊下とリビングの境界を超えると同時に、赤黒い童女の朧げな顔が2人に向く。
空洞になった目と口でも分かるほど、苛立ちに表情をゆがめた童女は、右手に掴んだ腸を端に繋がった男の霊ごと勢いづけて振るう。
童女とは思えぬ怪力で振るわれた腸は、遠心力もあり強靭な鞭を思わせる威力。
吹き飛んだ男の霊は風化し始めていた椅子に頭から叩きつけられ、椅子が大きな亀裂とともに崩れた。
「でもその攻撃は。威力はあっても溜めが長い。」
夜宵はその攻撃を、走りながら屈みこんで回避していた。
至近距離で振るわれる腸の鞭を、振るわれてから回避することは出来ない。
夜宵は、童女の腕の動きを見て、“鞭を振るわれる前に回避を始めて”いた。
マンションのリビング。廊下から童女までは3mの距離も無い。
もう片方の腸を振り上げる前に、童女にまでたどり着いた夜宵は黒い縄で両手を縛り、馬乗りになって童女を抑え込む。
「いたいの....いやだよ」
童女が唸る。心からの悲鳴だった。
Sマンションの心中した一家では、娘は虐待を受けていた。
死後もこの世に留まり、悪霊に変質したことと無関係ではないだろう。
「約束はできない、きみはもう取り返しのつかないところにきてるから。」
夜宵が指さすのは、腸の鞭ごと叩きつけられた霊。
Sマンション、消えた隣の学生。
この童女は、少なくとも一人。人を殺しているのだ。
童女がなにか叫ぶ前に、夜宵は左手の人形をその顔に押し込む。
人型のものを使い、霊を捕らえる。それが夜宵の手法。
手にした鳥のような頭のぬいぐるみに、赤黒い靄となった童女が吸い込まれる。
静かな部屋の中で、破壊された椅子だけがそこに何かが居たという痕跡になった。
「Sマンションの霊 ゲットだぜ。」
戦いは、ものの数秒で決着した。
「お前、いつもこんなことやってるのか?」
リュックの中の人形で残る3人の霊を捕らえる夜宵にハジメは尋ねる。
目の前で霊を捕らえた幼女。
俊敏かつ目的に即した無駄のない動きは、頻繁に体を張った突撃を行っていなければ身に着けられない技術。
宇宙人の人形を夜宵が仕舞ったのはなぜか。
人形の中に居た”この部屋の童女より遥かに強い何か”を『使うまでも無い相手』だと判断したからだ。
悪霊を前に、震えも緊張も無いのは何故か。このような戦いには慣れているからだ。
夜宵の強さは、無茶や才能以上に“経験”によるものであった。
悪霊に対しその身を投じ。死と隣り合わせの戦いを繰り返す。くぐった修羅場も10や20じゃきかないだろう。
現代日本の小学生には、その経歴は余りに異質で、過酷なもの。
その経験は、異世界に召喚され戦うことを“強いられた”南雲ハジメとは異なる。
幼い少女ながら戦うことを“選んだ”、修羅の姿がそこにあった。
「私には目的がある。倒さなきゃいけない相手がいる、そのためには戦力がいる。」
「だから霊を集めてるのか?」
「そうすれば、戦力も集まるし標的の情報も手に入る。一石二鳥。」
夜宵の答えは、子供らしからぬ合理性を持ったもの。
趣味として、心霊スポットに赴くではない。理由も無く、霊の蒐集をしているわけではない。
彼女にとって、それは手段であり戦略。
戦力を集め、情報を集め、勝つための手段を考える。
子供らしからぬ冷徹さと鋼の意志で、容赦なく悪霊たちを捕らえていく。
悪霊を喰らいあわせ合い蟲毒の中で強者を生み出し。捕えた悪霊を身代わりに死地へ飛び込む。
共に戦う相棒や信頼のおける従姉妹と共に、彼女はそうして戦ってきた。
隣に立つのが異世界を生きた弓兵であっても、その在り方は変わらない。
「聖杯戦争なんてものに巻き込まれるのは想定外だったけど、これはチャンス。」
「聖杯を狙うのか。」
「ママの魂を取り戻すために、使えるものはすべて使う。『空亡』を倒すための力。それが私の願い。」
夜宵ははっきりと言い放つ。
聖杯を狙うという宣言。
その言葉の意味を理解できないほど、寶月夜宵は馬鹿ではなく。
南雲ハジメも自身のマスターを侮ってはいない。
参加者はもれなく強制的に巻き込まれたとはいえ。報酬は万能の願望機。
優勝トロフィーには大きすぎる、欲望の結晶。
マスターにもサーヴァントにも、それを求める者は少なくないだろう。
聖杯を求める陣営に、命を狙われることになる。
勝ち残るためには、誰かを殺す選択をすることになる。
寶月夜宵は、その選択に何も思わないほど冷徹ではなく、その事実に何も思わないほど壊れてはいない。
ただ、全ての怒りも憎悪も背負い、目的を為す意志と覚悟を持っている。
大切な者を取り戻すためならば、どこまでも強くなれる。
寶月夜宵は、そういう人間だ。
(評価を改める必要があるな。)
アーチャー:南雲ハジメからしても、不気味な少女だと思っていたマスターがここまでの覚悟がある人物だとは想定していなかった。
大切な人を奪われた想い、取り戻すために戦う意志の強さ。
南雲ハジメも、同じものを持っている。
生前、世界を弄ぶ神に最愛の人を奪われた。
一度は憎悪と怨讐に呑まれ、荒れ狂い虐殺を起こしたハジメを大切な人たちが止めてくれた。
かつて同じ相手に挑んだ解放者たちの願いを、共に戦う大切な少女たちの想いを。
南雲ハジメは背負い戦った。
大切な人を取り戻す、自分達の未来を阻む存在を撃ち滅ぼす。
神を滅ぼす祈りを込めた弾丸で、最愛の吸血姫への愛を宿した流血で。
彼は全てを取り戻し、願いを果たした。
大切な者を取り戻すためならば、どこまでも強くなれる。
南雲ハジメは、そういう英霊だ。
夜宵の願いもきっとかつての彼と同じものだ。
だから少女は戦う。
霊との命がけの戦いを、願いを叶える殺し合いを。
南雲ハジメは小さく笑う。
彼は自分が寶月夜宵に召喚された理由が、分かった気がした。
「それで。今度は何をしてるんだ?」
もう何度目か分からない疑問を、ハジメは部屋の片隅で人形を弄る夜宵に投げかける。
夜宵は自身の髪を抜き、紙の人型に結んでSマンションの霊の入った人形に納めるということを繰り返していた。
「身代わりになる形代を作ってる。元居た部屋に置いているものがどれだけ効果を発揮するか分からない以上。対策は必須。」
夜宵は人型のものに自らの体の一部を入れることで、霊の攻撃を肩代わりさせている。
脳幹を引き裂く、首を断つ、頭を割る、視界に入った相手を喰い尽くす
そんな危険な行動を行う相手を前に、死地に飛び込む夜宵が生きて戦うために身に着けたものだ。
「それに、聖杯戦争を戦う上でも、こういった備えはあったほうがいい。」
聖杯戦争という言葉に、「なるほど。」とハジメが納得したようにうなずいた。
霊的攻撃や呪い。そういった異能や技術を要するサーヴァントは少なくない。
夜宵の身代わり人形は、そういったサーヴァントの攻撃に対しても有効な可能性がある。
良いものを思いつくなと、ハジメの中で自分のマスターへの評価が少し上がった。
「その身代わりの強さって、取り込んでる霊の強さによるものなのか?」
「そう。でも人形側の破壊と修復で霊の状態も変化する。例外もあるけど。」
夜宵の答えを聞いたハジメは、「そうか。」という声とともにニヤリと笑う。
何か思いついたように部屋を出たハジメは、廃ビルの壁の一角に銃口を向ける。
廊下から響く銃声とバキンという炸裂音が室内の夜宵にまで響き、部屋に戻ってきたハジメの手にはバスケットボール大のコンクリートの欠片が担がれている。
「なにしてるの。瓦礫を持ってきて。」
「まあ見てろ。マスター。」
ハジメがへし折ったコンクリートに手を当てる。
『生成魔法』により魔力を込められたコンクリートが高質の鉱石となり、ハジメが取り出した幾つかの素材(夜宵には材質の分からない物ばかりだった)も混ぜられ黒い宝石のように変質。
錬成師の天職を持つ男の手によって、みるみるうちに姿を変えていく。
バスケットボールほどの大きさがあった鉱石はすっかり消えて、代わりに4体の黒い人形がアスファルトの上に置かれた。
子どもの形をした人形を拾い上げた夜宵は気づく。
人形の背中に小さな収納が用意され、身代わりに使うための爪や髪の毛といった体の一部を収納できるようになっているのだ。
内部には黒い粘性の液体が詰まっている。夜宵が使う黒い縄の一部を材質にしたそれは、霊のエネルギーを回復させる作用がある。
「自己再生機能がついてる。サーヴァントの攻撃に耐えられるかはわからないが、人形よりは頑丈だろ。」
「なるほど。似たものを考えたことはあるけど、魔法があるとこうも変わるか。」
それは、基礎的な原理は夜宵の従姉妹が辿り着いた発想と同じもの。
人型に開いた容器に水やスライムを流し込むことで、攻撃のたびに修復される無限修復人形。
南雲ハジメの錬成ならば、同様の効果を持つ人形を作ることも難しくない。
水やスライムを用いる無限修復人形と比べても、“無限”でこそないが内部に漂う高濃度の魔力により中の霊そのものの回復・強化にも生かせるというメリットがある。
戦力の乏しい今の夜宵には、非常に役立つアイテムであることは間違いない。
そしてこれは死地にて戦わんとする寳月夜宵に対する、南雲ハジメなりの信用の証。
正面から言うと否定されるだろうが、そういう思いがアーチャーにあると夜宵は思った。
サーヴァントの気遣いをくみ取った夜宵は、ハジメに向かって親指を上げた。
「さんきゅー。アーチャー。」
「そりゃどうも。」
◆◇◆
「アーチャー。一つだけ話しておきたいことがある」
帰路につき、自分の家によく似た部屋で休む夜宵が声をかける。
ハジメは霊体化を解き、壁にもたれかかってぶっきらぼうに口を開いた。
「...この世界に、悪霊がいる理由だな。」
「そう、ここは電脳空間。何者かによってつくられた世界だから、霊の類がいない可能性もあった。」
「だが実際はいた。マスターの眼にも浮遊霊の類が見えているんだろ?」
「今考えられる可能性としては三つある。」
語りながら、夜宵は指を折っていく。
1つ:冬木という街を完璧に再現したために、その中に存在する霊体までもNPCとして存在している。
この世界の再現度の高さを夜宵が好都合だと感じていたのはこの仮説のためだ。
2つ:夜宵のように霊能に属するマスター・サーヴァントが存在することによる追加パッチ、あるいは、霊能に通じたマスター・サーヴァントを呼び出したための副産物
霊能者・死霊使い・陰陽師・呪術師。
霊体がいることで影響のある存在は、例を挙げれば枚挙に暇がない。
「そして3つ目...私としては最も合ってほしくないけど、一番確率が高い仮説」
「ああ。マスターの話を聞いてから、俺も同じことを考えてる。」
夜宵とハジメは同時に言葉を紡ぐ。
最も当たってほしくない、悪趣味な想像を。
3つ:既に敗退したマスターを消去した際の残滓(残りかす)、あるいは怨念
ハジメと夜宵の背に、静かな緊張が走る。
棚に置かれた人形から、カタリと擦れる音がした。
ハジメの造った人形の中で、夜宵の捕らえた霊が風も無いのにカタカタと震える。
2人が本来感じるべき恐怖や不安を、代弁するように。
聖杯戦争。
聖杯を求める戦いにして、命を願う殺し合い。
その戦いは、まだ始まったばかりなのだから。
【クラス】
アーチャー
【真名】
南雲ハジメ@ありふれた職業で世界最強
【ステータス】
筋力D+ 耐久B+ 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具C
【属性】
混沌・中庸・地
【クラススキル】
単独行動 A マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
本来はB〜Cランクであるが、『帰還者』のスキルによりランクが上がっている
対魔力 C+ 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
道具作成 A+ 本来はキャスターのクラススキル
錬成師の天職を持ちその能力を振るった彼は、人間兵器工場と呼べるほど多種の武具や道具を作成できる
【固有スキル】
錬成師 A 南雲ハジメの『天職』にして、物体を加工・変化させる技能
彼が召喚された異世界『トータス』においては10人に1人が持っているほどのありふれた技能であるが。多くの力を得た後も彼の強さの核となる力
イレギュラーA++ 最弱の存在から強さを得て、世界の常識を揺るがす行動を続けたことを示すスキル。
その果てに神さえ敵に回し打ち倒した逸話により、南雲ハジメは高い“秩序・神性特効”を会得している。
帰還者 EX 旅路の果て、世界を超えるための鍵を生み出し、妨げとなる者を打ち倒し帰還を果たした。
世界を超え宿願を果たしたことを示すスキル。
このスキルにより封鎖といった能力に極めて高い耐性を得るほか、単独行動のスキルのランクが上がっている
【宝具】
『解放者の武器庫(ゲート・オブ・リベリオン)』
ランク:E〜A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜40 最大補足:150人
指輪型のアーティファクトを媒体とし、あらゆる物体を収納できる異空間。より正確にはその中に収められたアイテム群の総称
あくまで『収納し・取り出し・使う』宝具であるため、中にある道具を射出すると言ったことは出来ない。また内蔵されたアイテムも生前にハジメが使用したか聖杯戦争の過程で収納した物に限られる。
銃や四輪車を初め、ゴーレムやビット兵器、果ては衛生兵器など多様な道具があるが、武器兵器の性能が高いほど使用者の消費魔力も比例して大きくなる
『世界を移動する』道具等、一部のアイテムには制約がかかっている。
なお本人がオタク気質の為か、宝具名も影響を受けたものとなっている
『概念魔法』
ランク:EX 種別:特効宝具 レンジ:1 最大補足:不明
神代魔法の終着。世界に干渉しあらゆる存在の特効となる宝具
使用した逸話があるため宝具として昇華されているが。ハジメ本人はこの魔法への適性は特別高くはない。
令呪に並ぶ魔力と強い願いをハジメの錬成で形にすることで、「願いを込めた何か」に干渉する道具を造り出す。
いうなれば、特定の現象を引き起こす・特定の個人への特効となるアイテムを作り出す宝具
外的な魔力補給などが無い限り、使用は一日一回が限界。魔力も大幅に消耗する
【weapon】
二丁拳銃ドンナー・シュラークを初めとした、能力で造り出した武具
【人物背景】
白髪眼帯の青年
元は優しい青年だったが異世界に召喚された際に、共に召喚されたクラスメイトに裏切られ奈落に落ちる。
地球への帰還と生きたいという願いを糧に、片手を失い魔物を喰らい、力を得る代わりに性格は冷徹かつ非情な性格に変化。
心まで壊れかけていたが、封じられていた吸血姫と出会い彼の物語は幕を開ける。
大切な者の為なら神でさえ敵に回す魔王。
【聖杯への願い】
大切な人たちとの再開
地球帰還後の記憶が朧気なため、そこについて知りたいと思っている
【マスター】
寶月夜宵@ダークギャザリング
【マスターとしての願い】
この世界からの生還 聖杯は欲しい
【能力・技能】
IQ160を超える天才 年に見合わない身体能力
特筆すべきは、二重に重なった瞳で現世と幽世を同時に見ていること。
つまり霊が見える それはもうくっきりと
人形に霊を捕らえ霊的攻撃からの防御の他、強大な霊への対抗手段として使用している
【人物背景】
事故で両親を失い、その時に母の魂を巨大な霊に奪われた少女
母の魂を取り戻すため、強大な霊を捕らえんと死地へ飛び込むクレイジーオカルトロリ
令呪はヒビの入った髑髏
【聖杯への願い】
ママを奪った空亡を倒すための力
※参戦時期は旧I水門攻略以降
※黒い縄・過渡期の御霊・千魂華厳自刃童子・鬼子母神の指は所持しています。それ以外の霊・卒業生については後続の書き手にお任せします。
投下終了します
>秤金次&キャスター
秤のサーヴァントとして奇跡の魔女をあてがうチョイスがヤバすぎる。イカサマですねこれは…。
とはいえ秤にしてみれば熱もクソもない生活なので心底嫌がっているのが納得。可哀想。
坐殺博徒+奇跡の魔法、かなり洒落にならない組み合わせなので本気でサーヴァントとも殴り合えそう。ありがとうございました。
>錬成(つく)り、蒐集(あつ)め。積み上げて、手を伸ばす
夜宵ひいてはダークギャザリング節の再現度が高くて舌を巻いてしまった。
夜宵の逸脱っぷりを描き上げながらも、サーヴァントであるハジメのキャラを押し出せているのが好印象でした。
戦力的な充実もそうですが考察もしっかりできていて安心感を感じました。ありがとうございました。
改めて皆様投下ありがとうございました〜!
投下します
なんだあれは、と。男は眼前の光景に驚愕する。
聖杯戦争の参加者として黒い羽を手にし、予選を生き抜いて来たというのにこのタイミングで。
強固な防壁と秘匿を施し、誰も寄せ付けぬ山奥の小屋に工房を備えたはいい。
感づいた他の主従を、己が手駒たるキャスターのサーヴァントの力を合わせて刈り取っていたのはいい。
まさか、"山奥ごと工房を吹き飛ばされる"だなんて想像だにしなかっただろう。
辛うじて防壁を貼ったお陰で自分の命だけは助かった、だがキャスターは腕だけ残して霊核もろとも消し飛んだのだ。
それだけならまだ運が悪いで割り切れたのだが、それを行ったであろう相手の、その英霊が年端も行かぬ女の子。……だけならまだよかった。
「いやいや、やり過ぎだよアーチャー……」
「ご、ごめんなさい……」
と、マスターらしき青年に平謝りする英霊の少女。人工的に構築されたであろう機械の腕と背中の機翼が目を引くも、そのオドオドした態度はまるであの大破壊を齎した同一人物だとは思えない。
だが、間違いなくキャスターが彼女に吹き飛ばされた事を考えれば、並大抵のサーヴァントでは太刀打ちできない化け物だろう。
それ以上に、男にとってはマスターの方がよっぽど恐ろしく感じていた。
保有している魔力総量。青年から感じられたそれは間違いなく上位の英霊に匹敵するレベル。うだつの上がらないような、平凡そうに見える外見からは考えられない。
こんな魔術協会に見つかれば封印指定まっしぐらなやつが、化け物みたいなサーヴァントを従えている事実こそ、男にとって戦慄に値する事実だったのだから。
「………NPCじゃなくて聖杯戦争のマスター、でいいのかな?」
青年が男の方を向く。黒い目だ。その瞳は、歴戦の勇士とも言うべき淀みがあった。
世界の闇と残酷さを知ったものしか宿らない闇が垣間見えた。
物腰の柔らかい口調に反して、全身を氷柱で貫かれたような冷たさがあった。
「……だったら、どうする?」
「そちらのサーヴァントはもう落ちてますし、これ以上下手な真似はやめて、以降は大人しくしてもらいませんか?」
何かと思えば、事実上の敗退を受け入れろ、という宣告。
その上で男が真っ先に浮かんだ感情は憤怒。
黒い羽を手に入れた以上は後戻りなど出来ないし、魔術師として聖杯はどのような手段を用いても手に入れなければならない。
それをあっさりと諦めろなどと、諦められる訳がないだろう。
「残念だが、今更こんな所で、諦めきれる訳がないだろうがっ!!」
こうなれば最終手段と、万が一ということでこの身に刻んでおいたキャスターの術式を起動。
数秒足らずムカデの如き化け物へと変化。己のサーヴァントの魔術が脱落後でも機能するタイプで助かったとしみじみ思う。このために孤児を掻き集めて生贄にしたかいがあるというもの。
人を食った態度で気に要らなかったが、最後の最後でちゃんと仕事はしてくれたようだ、と。男は混濁する意識の中で納得する。
最も、その選択が、少年の琴線に触れてしまったという愚行を犯したことを知らず。
「――それがあなたの選択なんですね」
変貌した男を、ただ少年が見つめている。
怒りか、哀れみか、乾いた瞳孔の奥に潜むものを今や男が見抜くとは出来ない。
「……あの、マスターさん」
「大丈夫だよアーチャー、これぐらい僕一人でどうにかなる」
竦むライダーの頭を撫でて、少年が怪物の方を向く。
なるべく穏便に済ましたかったが、そもそもアーチャーが"ドジッた"結果もあるが、まあ生半可な交渉なんて基本的には通じないのはわかり切っていたこと。
先の勧告は、少年なりの勝手な慈悲と優しさなのだから。
「お前の血肉を引き千切って俺の餌にしてくれるゥ!!」
「その姿でまだ流暢に喋れるんですね、……一体どれぐらい殺したんですか?」
怪物が言葉を発する。魔術師だった異形が人語を介する。
「そんなもの、覚えてる必要あるのかァ?」
「そうですか」
積み重ねた犠牲の数など記憶の端に置くことすら無い。
犠牲は贄で、魔術師は己が望みに忠実だ。
故に、答えを聞いた以上は青年はそれ以上問うことはしなかった。
男が怪物となり果てての自我を保っているのは、キャスターの術式の副産物か、はたまた男が抱く妄執そのものか。――最も。
「つまり、殺されても文句は言えないってことですよね。その覚悟で、来ているんですよね」
男(かいぶつ)の瞳から、青年の姿が消える。
消えて、瞬きの後に青年の腕が怪物の顔を掴んで地面に叩きつけた。
「――ガアアッ!?」
「それと、逆に変身してくれて、人間やめてくれて助かりました」
淡々と感謝の言葉だけを青年は告げた。
もう片腕には何の変哲も無さそうな日本刀。
だが、そこに込められた力は男にとっては一目瞭然の、膨大な■力が込められた。
いや、青年の身体から供給された莫大な――
「こっちの方がやりやすいですし。怪物(のろい)に堕ちたのなら祓うのが呪術師(ぼく)ですから」
振り下ろされた一刀が、怪物の顔を切断した。
ノイズとなって消えていく怪物の眼に映るのは、感情の分からぬ瞳で己を見つめる青年と。
「――ごめんなさい」
ペコリと申し訳無さそうに一言告げた、アーチャーの少女の姿。
その姿は、まるで天使のようだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『次のニュースです。先日発生した爆発事件の……』
青年の持つスマートフォンに流れる爆発事件のニュース。
最も、それを引き起こしたのは彼ののサーヴァントであるのだが。
些か大事になってしまうも、犠牲者は"約一名除いて"皆無だったことに安堵しながらも。
「またやっちゃった……」
「いやだからね、起こっちゃった事は仕方ないよ。まあ何度も起こされると色々と困るのはそうなんだけど……」
ライダーの悲壮感漂う状態に何とかフォローを入れる、乙骨憂太という青年の姿が家の中にあった。
呪力の蔓延る世界において、百鬼夜行を引き起こした呪詛師夏油傑を討ち果たした超新星。
その三ヶ月後に特級呪術師に返り咲いた、五条悟にも次ぐ現代の異能。
そんな青年のサーヴァントが、こんなうだつの上がら無さそうな少女というのはにわかにも信じづらいだろう。
だが、少女の本質だけを言ってしまえば、それは"兵器"と形容できる稀代の殺戮者。
いや、正しく殺戮者だったのだろう。
"ちせ"。"たまたま"兵器に適合する身体だったが故に改造され、生まれ落ちてしまった破壊神(アバドン)。
そして、たった一人の少年に愛に捧げた、そんな女の子。
アーチャーは火力面だけで言えば優秀な英霊であるが、その分加減が余り効かない。
故にやりすぎるし、彼女自身が"ドジでのろま"なのもあり、度々やらかす。
先日の山奥の工房を吹き飛ばした時も、少々やり過ぎてこの有様だ。
「……でも、アーチャーや街のみんな無事でよかったから今はそれでいいよ」
それでも乙骨にとって、結果良ければ全て良し、とまでは行かないがそれでも特段必要以上の犠牲無く終わらせただけでも十分だった。
「あはは……昔は巻き込んでばっかだったし、殺すことばっかだったから……」
自嘲めいてアーチャーが呟いた。その一端には寂しさというか過去の光景がこびり付いている。
彼女の人生とは日常(こい)と戦争が薄氷を介して表裏一体の代物。
それでも、やはり彼女は"戦争"からは逃れられなかった。
「でも。……シュウちゃんがいたから、あたしは」
己という存在が敵を殺す兵器と置き換わっていく中で、"ちせ"という少女を繋ぎ止めたのはシュウジという恋人。
何ら変わらないただの人間のうちの一人。両思いで好きだった男の子。ちょっと色々あって一回別れて、また結ばれて。
自分が完全に人間をやめて、シュウジの事を分からなくなっても、彼は呼びかけてくれて、その事を思い出した。
そして、戦争の果てに世界の、地球の終わり。結末は、ちせという少女は宇宙船となって、たった一人愛したシュウジを連れて宇宙へと。
「……だから、なのかな。こんな、笑うことも落ち込む事も出来て、マスターさんとこんな話出来て」
最終兵器彼女。たった一人以外の全てを滅ぼした黙示録の天使。
何にせよ、シュウジという恋人が、只人の身で精一杯の奇跡を起こした結果なのだろうか。
二人ぼっちのノアの箱舟から、彼女という意識がこの世界に呼び出されたのが。
「でも。ふと思うんだ。もっといいやり方はあったのかなって。でもどうしようもないっていうのは、わかってて」
できるのなら、あの幸せをやり直したいと、ほんの少しでもアーチャーは思ってしまうのだ。
戦争もない世界で、人間である自分と彼と、その友達と、ありふれた、何気ない日常を送りたかった。
自分がこんな身体になってしまった以上は、二度と出来ないことなのだけれど。できることなら。
「……でもやっぱり。あたしは。シュウちゃんと普通の人間としてデートしたかったし、いやらしいこともも、楽しいことも」
「……アーチャーは、優しい子なんだね」
ふと思いついたように、アーチャーの話を遮って乙骨が口を開いた。
「僕はさ、僕のせいで大切な人が呪いになっちゃって。そのせいでみんなを傷つけてばっかりで、僕なんて生きている意味なんて無いって思っててさ」
それは、乙骨憂太という青年が生み出した後悔(のろい)の始まり。
かつて婚約の約束をした折本里香という少女が交通事故で死んだのを目撃した時。
彼は彼女の死を拒絶した。拒絶の結果、折本里香は呪いと転じた。
呪いとなって縛られ続けても、ずっと彼を彼女なりに守り続けた。
折本里香は乙骨憂太を赦し、安らかに旅立った。
「でもね。呪術高専って場所に無理やり入学させられたけど。そこで僕は変われたんだ。生きても良いって自信を持てたんだ」
乙骨憂太は、呪われて、結果恵まれた。
教師に、先輩に恵まれた。ある意味敵にも恵まれたかも知れない。
誰かと関わり、誰かに必要とされる、生きて良いという自信を手に入れた。
「……だからさ。君も十分凄いって思うし、君の、そのシュウくんも」
少なくとも、アーチャーという怪物になりかけた天使を繋ぎ止めたのはシュウジという青年が
ただその恋心を紆余曲折有りながらも唯一無二の結末に、二人ぼっちのラグナロクの向こうに辿り着いた二人が。
同じく、幼なじみが呪いと成り果て、果てに純愛に辿り着いた乙骨憂太にとって、何かと親近感を覚えてしまうのだ。
それは、乙骨憂太が辿り着いてもおかしくなかった、二人の愛の結末。終末の果ての一滴。
「だからさ。もうちょっと自信を持ってもいいんじゃないかなって、こっちが言えた事じゃないかもしれないけどさ」
まあ結局のところ、色々話した所で着地点はそういうことで。
気恥ずかしく頭を掻きながらも笑みを浮かべる乙骨を見て。
アーチャーもほんの少しだけ気と頬が緩んでいた。
マスターと過ごす中で、自然とらしい笑顔を浮かべる過程は都度あったが。
それは、ある意味アーチャーが戦争兵器としてではなくただの"ちせ"として浮かべることの出来た表情の一つだった。
「マスターさん。私、勝ちたい、かな。勝って、私は、またシュウちゃんと。今度は……」
なので、ほんの少しだけ強気に我儘を。
地球を蘇らせる。いや、あの日常を取り戻したいと。
戦争のない世界を手に入れて、大切な彼と、その友達と。どうせならあの自衛官さんも一緒に。
戦火にさらされることのない、ほんの少しでもいい。本当の平和の日常を、過ごしたいのだと。
らしくもなく、けれどその浮かんだ願いを捨てきれは出来ないのだ。
「こんな"どじなあたし"に付き合ってくれると、うれしいかな」
「……"聖杯"がどういうものなのか知らないけれど、せめてアーチャーの願いが何処かで叶うといいね。って事ぐらい」
乙骨憂太は、聖杯に頼らない。
斯くも呪いを得て答えを手にした彼にとって聖杯は魅力として映らない。
だが、そんな手段を使ってでも、自分のサーヴァントは願いを叶えたいと思っているらしい。
せめて、応援ぐらいはしたいと思った。例え呪いになろうとも、愛に準じた彼女の思いに嘘はないだろうから。
せめて、どんな形であれ悔いのない結末に到れる事を願うのだった。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ちせ@最終兵器彼女
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力C++ 耐久B 敏捷B 魔力E+++ 幸運E+ 宝具A
【クラススキル】
対魔力:C
騎乗:-
乗り物を乗りこなす能力。ただしライダーのクラスではない為事実上意味はない
ただ、本来アーチャーが乗せているのは、彼女が世界の終わりを超えてでも愛した、たった一人の――
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
直感(偽):C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を"感じ取る"能力。敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。ライダーの場合は機械的な予測によるものであるので(偽)が付く。
殺戮技巧(道具):A
どのような道具を作成しようとそれらには本来とは違う殺戮用途が付加されてしまう。ライダーが兵器として改造された生まれたがゆえに、その在り方。使用する「対人」ダメージにプラス補正をかける。
不幸体質:D
デメリットスキル。単純に素の彼女のドジっ子的な部分。
主にやらかす。と言っても大きな痕跡残しちゃったりとかそんな感じの。
【宝具】
『最終兵器彼女』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:-
アーチャーそのもの。正しき意味での最終兵器。とある研究所のトップいわく「人類そのもの」と言われた細胞を埋め込まれた彼女の、その本質。
聖杯戦争が激化する度、ライダーが兵器として戦闘経験を積む度に、彼女は自己改造と自己進化を繰り返し成長する。中途段階でも飛行機並みの大きさの機動兵器へと変身が可能。
その代償として、進化すればするほどアーチャーの人間性は失われる。最終的には完全な自我の消滅を代償に『狂化:A+』の付加及び単独行動のランクがA+へと変化し、マスターの命令は例え令呪を使おうとも受け付けなくなる。
【人物背景】
顔は可愛いがドジでとろくて気が弱い女子高生。
身長は低く、成績は中の下で世界史だけが得意。
口癖は「ごめんなさい」
座右の銘は「強くなりたい」
――たまたま兵器が馴染む体質だったが故に、兵器へと改造させられた少女。
【サーヴァントとしての願い】
私達の世界の地球再生、みんなを蘇らせる。それで、シュウちゃんにもう一度……。
【マスター】
乙骨憂太@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
元の世界に帰る。ただ聖杯に叶える願いはない。むしろその聖杯は呪いのようなものなのではないのか?
ただ、せめてアーチャーが悔いのない結末を迎える事を願いたい
【能力・技能】
『術式・リカ』
乙骨が使役する、かつて取り憑いていた里香と似て非なる呪い。
その正体は成仏した里香が遺した外付けの術式にして呪力の備蓄。里香の顕現時は戦闘面で乙骨の支援を行う。
通常時は腕と頭部のみを顕現させた不完全状態で運用されるが、里香の遺品である指輪を通じてリカと接続することで完全顕現及び乙骨本来の術式、リカからの呪力供給を解禁。
リカ本体の出力も上昇し、ビームのような呪力の高出力指向放出も可能。リカ本体の内部には多数の呪具が格納されており、完全顕現時にて取り出しているが、不完全状態で使用できるかどうかは不明。
弱点としては一回の接続につき維持可能制限時間は5分間のみ。ただしリカ自体に里香の遺志が遺されている為、乙骨の危機に際し呪力出力が向上する。
『模倣(コピー)』
乙骨憂太が本来所有する術式。前述の接続状態時のみ、他者の術式を模倣して使用できる。
本来、術式の複数所持というのは脳に多大な付加を強いるのだが、乙骨の場合はリカという外付けの術式が存在するために事実上負担はない。
余談であるが、まだリカが里香だった際は模倣した術式は無制限に使用できていた。
【人物背景】
かつて自らが呪った少女に呪われ、生きる意味を見つけられなかった少年。
その呪いを自覚し、呪いを祓い続けた果て、生きる意味を掴んだ少年。
そして今や五条先生に次ぐ、現代の異能とも称される特級呪術師。
【方針】
なるべくは目立たないように生き残る。
……と言いたいところだけどアーチャーが文字通りドジっ子だから大丈夫かなぁ……
投下終了です
あと一部アーチャーと明記される部分がライダーになってしまいましたので
wiki修正の際にはその部分を修正してくれると助かります
投下します
少女は走る――走る――
冬の日、息を荒げながら、少女、柊つかさは逃げていた。
逃げた先は、人気のない道路、時刻は夜を回っていた。
後ろを見ると、男と――主従であろうサーヴァントが居た。
「いや…来ないで…!」
「まぁまぁ逃げないでよ、あんまりいたぶるのは得意じゃ無いからさ、それでも抵抗するなら…やれ、ライダー。」
隣りにいたサーヴァントが前へ出てくる。
「うんじゃ、ちゃちゃとお願い、抵抗できない程度でいいから。」
「やだぁ…やだぁ…」
虚空に悲痛な声が流される。
(やだよ…みゆきさんとも…こなちゃんとも…そしてお姉ちゃんにも…まだやりたいことが…誰か…!)
――――――
――彼女の味方は――都合良く――現れた。
拳銃のなる音が響き、ライダーの脇腹を抉る。
彼女の後ろに立っていたのは――サーヴァント――アーチャー。
「…これより、任務を開始する、早急にマスターを保護する。」
「おいおいおい!嬢ちゃんマスターだったのかよ!しゃあねぇ!予定変更!ライダー!あのサーヴァントを仕留めろ!」
ライダーが走り出し、アーチャーへ迫る。
アーチャーはナイフと銃を構える。
ライダーの攻撃を受け流し、互いに間合いをとる。
「…マスター…宝具、使用させてもらうぞ。」
「え…?」
「…真名展開――アーチャー――トロワ・バートン、ガンダムヘビーアームズカスタム…出る!」
自身の名前を名乗り、両手を前に出す。
直後、アーチャーが突如発生した霧に包まれる。
――晴れて出てきたのは――
「こ、これは…」
「ちょいちょい!」
青色の重巨人――ガンダムヘビーアームズカスタム。
「やべぇて!これは死ぬて!逃げるぞライダー!」
男はライダーに乗り、走り去ろうとする。
「逃がすか!」
直後、ヘビーアームズが機体の重量に反するように動く。
まるで、サーカスの曲芸のように。
「はぁ!」
「ぐぇ!」
ライダーに蹴りを叩き込み、男は転落する。
「まって!待ってく――」
男が命乞いを仰ごうとしたとき、ライダー共々、左腕部のガトリングで粉微塵にされた。
「…任務完了…」
――――――
「あ…あなたは。」
「俺は、サーヴァント、アーチャー、それ以下でも何でもない。」
つかさとガードレールの縁にかけて話し合うアーチャー。
「だが…」
「?」
「もし、名を言うのであれば、トロワ、トロワ・バートンとでも呼んでくれ、あいにく、真名は人前では話してほしくないが。」
「はっはい!わかりました!」
少女は選ばれたのだ、一人の主として。
【クラス】
アーチャー
【真名】
トロワ・バートン@新機動戦記ガンダムW Endless Waltz
【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具A+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【保有スキル】
モビルスーツパイロット :A
起動兵器、モビルスーツの操縦技術に関するスキル。
ガンダムのパイロットとしての特殊訓練をほぼ受けてないのにも関わらず、ヘビーアームズを扱いこなした彼の力量は、かなりのもの
真明不詳:C
真明と記されている「トロワ・バートン」でさえ仮の名前。
彼の本当の名前は不明である。
自身のステータスをマスターを除く他人に、調べさせないという効力を持つ。
曲芸師:B
地球に潜入してた際に、サーカスの曲芸師として扮していたときの技術がそのままスキルとなった。
格闘戦において、独自の体術を扱えるようになる。
【宝具】
『XXXG-01H2(ガンダムヘビーアームズカスタム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100m 最大補足:-
「オペレーション・メテオ」に伴い開発された、重装タイプのモビルスーツ。
武装は頭部バルカン、肩部に装着されたマシンキャノン、両腕に装着されたダブルマシンガン、4門設置されている、胸部ガトリング、両足にある36個装填されているホーミングミサイル、両肩とサイドスカートにセットされている56個のマイクロミサイル。
それでいながら、軽快な行動が可能な運動性を持つ。
デメリットとして、宝具を展開する際に、自身と宝具の真名を叫ばならなくてはならない。
【人物背景】
「オペレーション・メテオ」における、ガンダムのパイロットの一人。
本来は各地を転々としてた傭兵であり、自身の出生や名前も知らなかった。
その後はガンダムヘビーアームズを開発するドクトルSの工廠にて、整備士として活躍していたが。
ドクトルSと本当の「トロワ・バートン」が「オペレーション・メテオ」の方針を巡り対立、結果としてSにより本当の「トロワ」は射殺される。
その際、代わりのヘビーアームズのパイロットとして、「トロワ・バートン」の名前を貰い、活躍することになる。
【サーヴァントとしての願い】
戦争のない、平和な世界を
【マスター】
柊つかさ@らき★すた
【マスターとしての願い】
元の世界に返してほしい、またあの日常に戻りたい。
【人物背景】
埼玉県のとある高校に通う少女、また地元の神社の巫女でもある。
真面目で常識的が、やや天然ぎみ
【方針】
アーチャーに守ってもらいながら生還する
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振り下ろされる鉤爪を、飛び退って回避する。
直撃すれば無数の肉片となって飛び散る─────どころか、掠っただけでも即死する。それ程の攻撃を既に七度回避しながら、紅毛の美女、紅美鈴は全く恐れを抱いていなかった。
全身を黒い塵に覆われ、朧げに霞むその。只々闇雲に腕を振り回すその無様な有様。だらしなく開いた口から溢れる涎。血走り美鈴の首元にしか焦点を合わさぬ眼。
見るも無惨なその姿は、まるで自分の知る人物のifの様で、耐え難く不快だった。
あの天を支える鋼の柱の様な立ち姿。見られただけで、戦意を失う様な武威に満ちた眼差し。誇りと威厳に満ちた武人の姿。その全てが見る影も無い。
今、紅美鈴の前に居るのは、抗えぬ飢えに狂った餓鬼畜生。その姿に、主人であるレミリア・スカーレットに血を吸われた─────吸血鬼になった十六夜咲夜の『有り得るかもしれない』姿を想起して、反吐が出そうになる。
─────腹の立つ話です。
そんな事はあり得ないと、レミリア・スカーレットが十六夜咲夜の血を吸う事が先ず無いし、仮に起こり得たとしても、こんな畜生とする様な血をレミリア・スカーレットに持っていないし、餓鬼になるような資質を十六夜咲夜が持っているはずが無い。
にも関わらず、こんな事を思ってしまうのは、心の何処かで彼女らに疑念を抱いているからか?
一瞬眼を閉じて雑念を振り払う。気分が落ち着いたところで、再度振われた鉤爪を優美に回避。後方に飛んで距離を取る。
「あの伝説が本当だったとは」
幻想郷に行く前、遥か過去に故郷で聞いた伝説を思い出す。
讒言により辺境の地へと追いやられ、押し寄せる匈奴と戦い続けた秦帝国の将の伝説。
何千何万もの兵が、雪に凍え、灼熱に焼かれ、匈奴の矛と矢に斃れ、そして兵達を率いる将もまた、総身に矢を受けて立ったまま息絶えた。
将の名は劉貴。百万の兵と十万の魔道士に下知を下した秦の大将軍。それが、美鈴が召喚したサーヴァント。
その筈、だった。
悲劇ではあれど、武人としての誇りと生涯を全うした大将軍の伝説に、鮮血で記される続きが存在したとは、美鈴自身、知識として識ってはいたが、信じてはいなかった。
「話に聞いた『姫』が親なら、並大抵の攻撃じゃ正気に戻る事は無いよね」
伝説に曰く。辺境の戦場で、独り死んだ英雄の元へ、美鈴の国に生まれた妖怪ならば誰もが知り、そして恐怖する吸血鬼が現れ、劉貴を一族へ加えたという。
そして英雄は悪鬼と化し、新たな主人の敵を撃ち、人の生き血を啜って永劫の時を生きることになったという。
─────お労しや、劉貴大将軍。
息を吸って、練功を開始する。美鈴のサーヴァントの親は、美鈴の主人であるレミリア・スカーレットより遥かに永い刻を生きた大吸血鬼。
美鈴と同郷である邪仙をして、『アレ』が幻想郷に来れば、八雲紫が幻想郷の全勢力に頭を下げて、殺すつもりで追い出しに掛かる。そう言わしめた凶悪無惨な吸血鬼。
その吸血鬼に由来する、悪鬼畜生としての血への渇望。生半可な攻撃で、正気に戻せるとは思えない。
十二分に気を練り、殺すつもりで構える。全力の一撃を以って、この哀れなサーヴァントを正気に戻すのだ。
遠当てでは、劉貴の宝具に止められる。渾身の一撃を、直に見舞うしか無い。
ドタドタと無様に駆け寄ってくる劉貴が、間合いに入る直前に、息を短く吐いて踏み込む。
踏み込みにより生まれた力を、身体の回転運動により、足首、膝、腰、肩、肘、手首へと伝え、渦を巻く力として撃ち込む。
インパクトの瞬間、美鈴の拳を黒い塵が覆い。威力の減じた拳が劉貴の心臓を撃った。
無様に飛んで、背中から地に落ちる劉貴に、美鈴は悲哀を込めた眼差しを向けて残心を取る。
少なくとも、美鈴の知る劉貴大将軍であれば、宙を舞う事など無かった。もし舞う様な事があっても、二本の脚で地を踏みしめて、倒れる事などという無様は晒さない筈だ。
「……良くやった。娘」
錆を含んだ沈毅重厚な声が聞こえて、美鈴は漸く力を抜いた。
───────────────────
───────────────────
「迷惑を掛けた」
人目を避けて移動した、とある廃屋の一室で、劉貴は深々と頭を下げた。
先刻までの餓獣の如き有り様など微塵もなく、その佇まい、その振る舞いは、大帝国の大将軍に相応しい、風格と威厳とを感じさせるものだ。
これがこの男、アーチャーのクラスを得て現界した、劉貴という男の本来の姿なのだろう。
劉貴の持つ宝具の所為でもあるとは言え、彼処までこの武人を狂乱させる『姫』の血と、血に由来する凶悪無惨さを思い、これからも血の狂乱に付き合っていかなければならない美鈴は暗澹たる気分になった。
「良いですって」
恐縮して応える美鈴。実際問題として、劉貴があの一撃で滅んでいたとしてもおかしくはなかったのだ。
劉貴の宝具を計算に入れた上で、滅ぶ事は無いと判断しての一撃だったが、上手くいかなければ、あそこで劉貴は聖杯大戦から脱落した事だろう。
尤も、劉貴が美鈴を凶牙にかけようとした事が原因であることを鑑みれば、美鈴に非は無いので、恐縮する必要も無いのだが。
「いや、詫びを受け入れて欲しい。お主にあのようなことを言っておきながら、この無様。受け入れてくれねば、顔を合わせられん」
至誠という言葉が何よりも似合う姿。美鈴が受け入れなければ、劉貴はこのまま頭を下げたままだろう。それこそ、永劫に。
「そこまで言われるのでしたら、まぁ…」
美鈴も折れざるを得ない。大体、これ程の男にこうまで誠を尽くされては、受け入れるしか無いではないか。
「礼を言う。そして改めて誓おう。お主を必ず主人の元へ還すと」
「どうしてそこまでしようとするんですか?」
美鈴には理解しかねた。折角の万能の願望機だ。手に入れて願いを叶えれば良いのに、劉貴は要らぬという。
聖杯は不要だと、美鈴が主人の元に帰還するのが、望みだと。
「俺は人として一度死んだ。そして吸血鬼としての生を享け、滅びた」
美鈴は短く息を呑んだ。サーヴァントとして現れた以上、滅びを迎えていると解っていたが、やはり当人の口から聞くのでは、衝撃が違う。
一体どんな化け物が、この武人に、この吸血鬼に、滅びをもたらしたのか。それこそ親である『姫』でも無い限り────。
もしも劉貴に滅びを齎した存在が幻想郷にやって来たら────。そう思うだけで背筋に冷たいものが流れる。
「だが、悔いてはおらぬし、恥じてもおらぬ」
そう言った劉貴は、最後を迎えた街で何を知り、何を見たのか、ひどく穏やかな眼で遠くを見ていた。
「俺は滅びを迎えたあの街で、人を救う喜びを知ったのだ」
劉貴は語らぬ。己の滅びを、己を滅ぼした相手を。語るのは己が戦う理由のみだ。
それこそが、劉貴の誇りの在り方なのだろうと美鈴は思った。
「それがお主を主人の元に返す理由だ」
その声は沈毅にして重厚。鋼の如き力強さを持っていた。
[クラス】
アーチャー
【真名】
劉貴@魔界都市ブルース 夜叉姫伝
【ステータス】
筋力:A 耐久:A+ +. 敏捷:B. 幸運:E 魔力:B 宝具:A+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:A -
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない。
…………のだが、聖性や流れ水に対しては脆弱であり、素の耐久値でしか抵抗出来ない。
陽光に対しては、抵抗すら出来ず、攻撃値をそのままダメージとして受ける
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
夜の一族:A+
蒼天の下、陽光の祝福を受けて生きるのではなく、夜闇の中、月の光の加護を受けて生きる者達の総称。
天性の魔。怪力を併せ持つ複合スキルであり、アーチャーは夜の覇種たる吸血鬼である。
闇の中では魔力体力の消費量が低下、回復率が向上する。
夜の闇ともなれば、上述の効果に加えて、全ステータスが1ランク向上する。
また、種族により更なる能力を発揮する場合があり、吸血鬼ならば吸血による魔力体力の回復及び下僕の作製。
及び精神支配の効果を持ち、抵抗しても重圧もしくは麻痺の効果を齎す妖眼の二つである。
下僕となった者にはA+ランクのカリスマ(偽)を発揮し、アーチャーに服従させる。
下僕化は対魔力では無く神性や魔性のランクでしか抵抗出来ない。
このランクではCランク以上の神性や魔性でないと吸血鬼化を遅らせる事も出来ない。
下僕化によるアーチャーへの服従は精神力若しくは精神耐性を保証するスキルにより効果を減少或いは無効化させることができる。
弱点としては、大蒜や桃の果実に対して非常に脆弱で、陽光を浴びれば即座に全身が燃え上がり、負った火傷の回復は非常に困難。
アーチャーは元人間だが、二千年の歳月を経た吸血鬼であり、当人の極めて高い資質と、親の規格外の格の高さにより、最高のランクを獲得している。
不老不死:A+(A+++)
吸血鬼の特性がスキルになったもの。
ランク相応の戦闘続行及び再生スキルを併せ持ち、老化と病を無効化、毒にも極めて高い耐性を持ち、即死攻撃はダメージを受けるに留まる。
攻撃を受ける端から再生し、一見傷を受けていないようにすら見える程。
物理的な攻撃では、たとえ肉体が消滅しても、時間経過で復活する。
しかし、復活に際しては、主従共々魔力を必要とし、何方かの魔力が不足していれば復活出来ない。
但し聖性や神性を帯びた攻撃には非常に脆く。流れ水に身体を漬けられたうえでの攻撃は通常のそれと変わらぬ効果を発揮する。
アーチャーを滅ぼすには古の礼に則り、心臓に白木の杭を打ち込むか首を落とすかのどちらかしかない。
とは言え、首を落とすにしても、斬ったものの技量次第では斬る端から再生されて再生して無効化され、首尾良く斬れても、首を押さえて傷口が開く事を防ぎ、その間に再生癒着してしまう為に、何らかの方法で、アーチャーの肉体に再生を忘れさせなければならない。
宝具により不死性が向上している。
魔気功:A
天地自然に満ちるエネルギーを、己の体を媒介として撃ち放つ技術体系。
効果としては魔力放出に似るが、身体能力の向上は出来ず、専ら無音無臭不可視の遠距離攻撃として用いられる。
親指と小指の二本の指が肝であり、この二本の指を封じられると、威力が半減する。
感知するためには高ランクの直感やそれに類するスキルを必要とする。
身体の周りに展開して攻撃を防ぐ『防気堤』。壁や床、地面に溶け込ませ、一切感知することができなくした上で、その場に留める、或いは自在に移動させてあらぬ方角から敵を襲う『変化魔気功』等がある。
飢餓:C(A)
血に対する抑えられない飢え。
一度発動すれば、ランク相応ののステータス上昇を伴わない『狂化』の効果を発揮し、理性無き獣と化す。
宝具によりランダムで()内の値となる。
心眼(偽):A
視覚妨害による補正への耐性。
第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
【宝具】
妖琴・静夜
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
肩から下げて、片手でつま弾ける大きさの琴。
音色を聴いたものを即座に眠らせ、数分の間昏睡させる。
この睡眠効果には、精神力では眠りに落ちるまでの時間を僅かに遅らせることしかでき無い。
魔力若しくは対魔力がA以上で抵抗判定が発生する。
耳栓や障害物の類は貫通する為、物理的に防げない。
凡そ使った瞬間に勝敗が決する宝具だが、骨の髄まで戦士である劉貴は、戦闘にこの宝具を用いる事は無い。
専らこの宝具は、戦闘を避けるために用いられる。
貫気
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1人
岩を貫き、その陰の猛虎を斃す気功術。
物理的な防御は意味を為さず、受ければ全身の代謝機能が停止して衰弱死し、機械であれば機能が停止する。
耐え抜いて死ななかったとしても、体内に留まり、消えるまで永続的にダメージを与え続ける恐ろしい魔技。
一度体内に止まれば、身体が水や夢に変じても抜けることは無い。
劉貴がこの業を用いて、魔界都市〈新宿〉に於いて神魔の如く恐れられた三人の魔人全てに痛打を与えた事により宝具として扱われる事となった。
亡女妄恋(秀蘭塵)
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:2人
劉貴を愛し、劉貴の為に戦い、滅ぼされた女吸血鬼秀蘭の遺塵。
塵となってもその想いは潰えず、劉貴の身に纏わりつき、共に有る。
自律して動き、凝縮しての防御や、敵の眼や口に入る事で行動を阻害する他、言葉に依らず劉貴と意思の疎通を行い、敵の位置を劉貴に教える。
凝縮しての防御は凄まじく、貫気ですら防ぎ切る。
最大の特徴は、この塵の存在により、心の臓を杭で貫かれる、首を落とされるばどの、夜の一族ですら致命となる攻撃を受けても滅びる事が無く、時間経過と共に復活させる。
デメリットとしては、この塵により劉貴の血への渇望は増大しており、当人ですら抑えがたくなっている上に、劉貴に近づく女性に嫉妬し、劉貴の飢えを刺激して殺させようとする。
マスターである美鈴にとっては、かなりウンザリする宝具。
人物紹介
嘗て讒言により北辺の地に追いやられ、そこで無限に襲来する匈奴と戦い続け、戦死した秦国の大将軍、
死ぬ間際に、『姫』と呼ばれる吸血鬼に血を吸われ、以後は姫に仕え、その敵を打ち倒し続けてきた。
その最後は、姫が恋焦がれ、手中に収めようとした男を、姫から守る為に主人である姫を阻み、主人の手で滅びを与えられた。
把握資料
魔界都市ブルース 夜叉姫伝 新書版全八巻or文庫版全四巻
【マスター】
紅美鈴@東方Project
【能力】
気を操る程度の能力
文字通りの気功術。光弾としてブッパしたり、直接打撃で撃ち込んだりする。
【人物】
紅魔館の門番。暢気な性格で昼寝をしていたりする。社交的で時折里の武術家と手合わせをしたりしている。
【聖杯への願い】
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この聖杯戦争の為に再現された冬木市は、大きく二つに分けられる。
中央の未遠川を境に東側が近代的に発展した新都。
西側が古くからの町並みを残す深山町。
そんな東側の新都にある冬木中央公園は、中央にある広場はどういうわけがいつも人気がない。
その普段は人気がないはずの広場のベンチに、一人の男が座っている。
顔を隠すいかつい仮面に、体には北斗七星を模した七つの傷が刻まれている。
男の名はジャギ。
核戦争により荒廃した世界で部下を従え己の弟、ケンシロウの悪評を振りまきながら生きてきた男である。
ジャギは元々長い歴史を持つ一子相伝の拳法、北斗神拳の伝承者候補だった。
しかし伝承者は弟が選ばれ、それを認めなかったジャギは弟を殺そうとするも返り討ちにあい、死なずにすんだものの消えない傷を顔に負った。
それを逆恨みした彼は、各地で非道を働きながら弟の悪評を広め、おびき寄せ今度こそ殺そうとしていた。
そして狙い通り弟はおびき寄せられるも、成長した弟にジャギは敗れ死んだはずだった。
だがどんな因果か、彼は蘇った。
弟への恨みも、伝承者の座への執着もそのままに。
そんなジャギからすれば、元の世界の記憶を取り戻すことは容易だった。
何せ、この聖杯戦争の為に用意された世界は、彼から見ればあまりにも平和すぎる。
金、食料、水。それらがごく当たり前にあるこの世界は、かつて過ごしていた世界であり、彼から見ればある種の楽園だった。
「ひゃはははははははは!!」
そんなジャギは、誰もいない公園で空を見ながら一人高笑いをする。
彼の視線の先に浮かぶのは、黒よりの紫色の体に赤い瞳が特徴的な、五メートル程の大きさを誇る巨大な鳥。
この鳥こそが彼のサーヴァント、アーチャーのダーク・ルギアである。
ジャギは己の従者を見て思う。
こんな化物見たことねえ。こいつがいればケンシロウはもとより、兄者たちでさえ敵じゃねえ。
おまけに勝ち残ればどんな願いでも叶うという触れ込みだ。
彼は聖杯戦争に乗ることに一切の躊躇も疑問もなかった。
他の奴も自分と同じく訳も分からず連れてこられ、中には願いなんかいらないから元の世界に返してくれと泣き叫ぶ者もいるだろう。
だがジャギはそんな相手でも躊躇なく殺す。
相手の事情など知ったことではない。勝てばいい、それが全て。
「ギャアァーース!!」
マスターの高笑いに呼応するかのように、アーチャーは咆哮する。
この咆哮の意味をジャギは知らないし、興味もない。
だから彼には決して分からない。
この咆哮が戦意や歓喜ではなく、内心の奥底では戦いたくない、悪人に従いたくないという助けを求める悲鳴であることは。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ダーク・ルギア@ポケモンXD 闇の旋風ダーク・ルギア
【パラメーター】
筋力C+ 耐久A+ 敏捷B 魔力A 幸運E 宝具D
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
単独行動:C
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
対魔力:A
魔術への耐性を得る能力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
【保有スキル】
精神封鎖:A+++
心を強固に閉ざしているので、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
更に、このスキルが存在している時のみ使用可能な技は『ダークわざ』と呼ばれ、精神封鎖のスキルを持たない存在に対して本来の威力の二倍のダメージを与える。
また、『ダークわざ』もしくは同系統の攻撃を受けた際、ダメージを無条件で半減させる。
A+++までランクが高くなると、令呪3つを使い果たしてもこのスキルは解除できない。
プレッシャー:A
仮にも元は伝説のポケモンが放つプレッシャー。
このスキルの持ち主が戦闘中、敵サーヴァントが魔力を使用する場合通常より多く消費させる。
【宝具】
『暗黒の一息(ダークブラスト)』
ランク:D 種別:対?宝具 レンジ:10 最大補足:1
ダーク・ルギアのみが使用可能なダークわざ。
ルギアの専用技エアロブラストが魔力により暗黒のオーラを纏った別の技へと変化している。
なお、見た目から察しにくいが物理攻撃なので、魔術的な防御は無視するものの物理的な防御は影響を受ける。
【weapon】
宝具『暗黒の一息(ダークブラスト)』と精神封鎖により使用できるダークわざ。
以下に宝具以外の使用可能なダークわざを記す。
・ダークダウン
相手の耐久を一定時間、一定値低下させるわざ。
相手全員を一気に対象に選ぶことが出来る。
・ダークリムーブ
相手の場にいるサーヴァントもしくはマスターが耐久や耐性を宝具、スキル、令呪などで強化している場合、それらの効果を消滅させる。
これも複数を同時に対象を選択可能。
・ダークストーム
ダーク・ルギアの魔力で発生した竜巻で敵にダメージを与える。
複数を同時に対象を選択可能だが、相手の数が増える度一体ずつこのわざの威力が半減していく。
【人物背景】
元々はジョウト地方で海の神として扱われている伝説のポケモンだったが、オーレ地方の悪の組織『シャドー』に捕らえられ、心を無理矢理閉ざされシャドーの兵器として扱われていたのだが、心底ではこの状態を良しとせず、助けを求めていた。
後にシャドーが壊滅させられた際はとあるトレーナーに助けられ、元の姿に戻してもらえたはずなのだが、今回の聖杯戦争においてはマスターの心が荒んでいるためか、心を閉ざした状態で召喚されることとなった。
【サーヴァントとしての願い】
二度とダーク・ルギアとして召喚されたくない。
【マスター】
ジャギ@北斗の拳
【マスターとしての願い】
自分のサーヴァントを連れて生き返り、ケンシロウに復讐し兄者たちも越え北斗神拳の伝承者になる。
【weapon】
・ショットガン
世紀末ではあまり見ない武器。不発弾も混じっている。
・含み針
口から吐き出して使う。
【能力・技能】
・北斗神拳
2000年間伝わる一子相伝の暗殺拳。
ジャギは正統伝承者では無いものの、一般人から見れば高い戦闘能力を持つ。
・南斗聖拳
108派ある北斗神拳と対照的な拳法。
石造を砕かず腕を貫通させる事ができる。
【人物背景】
かつては北斗神拳伝承者候補として、兄二人と弟相手にその座を競い合った男。
しかしその実、他三人とは実力が大きく水をあけられていた。
それでもなお、弟よりは優れていると嘯いていたが、伝承者が弟に決まり、更にはそれに抗議しようとした矢先弟に敗れ、彼は逆恨みの末更なる力を求め続けた。
【方針】
どんな手を使ってでも勝ち残り聖杯を手に入れる。
【備考】
参戦時期は死亡後です。
投下終了です
>一途に見つめます、理由なんて必要は無いの
0を超えて特級に至った後の乙骨、安定感が凄い。
そのサーヴァントがちせというのも人間から人外に成った存在という共通点で納得感がありました。
やっぱり乙骨はこういうのを呼ぶのが似合うな……とそう思いました。ありがとうございました。
>冬の日、名無しの幕情
窮地に追い込まれたマスターをサーヴァントが助けて物語の始まりを告げる。
そんな王道的ながらもしかし良さのあるシチュエーションを大変分かりやすく執筆していただいたように思います。
お世辞にも聖杯戦争を勝ち抜ける見込みのあるマスターとは言えないですが、だからこそこの絆の行方が気になりますね。ありがとうございました。
>中華従者コンビ
テーマは読んで字の如し、しかし詳しく読み入るとそれ以上のものが見えてくる。
同じ中華従者という共通点から描かれる掛け合いや繋がりが目から鱗でした。
戦闘力的にも相性的にも申し分ない組み合わせに見えますね。ありがとうございました。
>I need more power
ジャギ、言わずと知れた小物の彼がこういう存在を呼び出すのは青天の霹靂感があります。
高揚のままに勝ち残れるのか、それとも力に溺れ呑まれてしまうのかが気になるところですね。
こればかりは賽の出目次第というところがあり、わくわくさせてくれる主従だと思いました。ありがとうございました。
私も候補作を一つ投下させていただきます。
◆
薔薇の季節過ぎたる今にして初めて知る。薔薇のつぼみの何たるかを。
遅れ咲きの茎に輝けるただ一輪、千紫万紅をつぐないて余れり。
――ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
◆
◆
下赤塚。
女児。
ダンボール。
◆
◆
『人より数テンポ遅れて生きてて』
『何か覚えるには3回言わないといけないし』
『それもひと月すりゃ忘れる』
『いつも笑って、ごめんって』
『親父と相性最悪だった』
◆
下赤塚。
女児。
ダンボール。
◆
◆
『学校まで、取りに戻れ』
◆
男は、神にだってなれる筈だった。
彼にはそれだけの才能があり、それを裏打ちするだけの実力もあった。
だというのにその生涯は、決して世界に名を残しはしなかった。
いや。名を残すことは出来ただろう。しかしそれは悪名だ。人類史上最悪のサイバー災害を引き起こした元凶の一人として、彼の名前は歴史に永遠に刻まれた。
だからこそなのか。それとも、それとはまた違った宿命に左右された結果なのか。
有馬小次郎は今、自身の手の及ばない――かつて確かに及んだ筈の世界に、一人のゲームプレイヤーとして立たされていた。
頭を触る。
ご丁寧にも、この世界での己は禿げていないことを知る。
家族に、同僚に、後輩に舐められてはならないと人知れず装着していたカツラ。
その存在をも見透かされた上でこの世界に招かれたことを、小次郎は自嘲せずにはいられなかった。
「……なんだ、これは?」
そう言葉を漏らさずにはいられない。
何故ならこれは、本来あり得ない筈の事態だからだ。
有馬小次郎は神として、自身の功罪へと向き合った。
『黒い鳥』。他でもない自身が作り出した、究極のAI。
人間を死に至らしめ、世界の存続さえ脅かし得るそれを完膚なきまでに葬り去って。
最期の最期にらしくもない感情のために自らを突き動かし、データの海に散った――その筈だった。
「……は。ははは、はははは」
だというのに自身がまだ生きていること。
ひいては、よりにもよってこんな世界に招かれている事実に失笑が堪えられない。
「まだ、求めるのか、私に……これ以上何を求めるというのだ。この出涸らしに、既に役目を終えた木偶人形に……!!」
バーチャル世界もAI技術も、すべては科学の旗印の下に成り立っている。
どんな不条理らしい事象も所詮はすべて0と1の間に生じる偶発の賜物であり、それ以上でも以下でもない。
あの『黒い鳥』でさえ決してその例外ではなく、だからこそ自分はこの手であれを葬り去ることが出来たのだと――この時まではそう思っていた。
だが、これは何だ。聖杯戦争。“Holy Grail War”。
何もかもが未知。明らかに……自身が放棄したあの世界が生み出し得る可能性の範疇を超えている。
巫山戯ているのか。
有馬小次郎は、そう思った。
そうでもなければ説明がつかない。この事態そのものも、他でもない己がこの悪い冗談のような都市に招かれている事実もだ。
この心を、生き様を。そしてあの無様な最期を嗤い、揶揄する意図を持った何者かでもない限りあり得ない事態だろうと乾いた笑いを漏らした。
どうしろという。何を、どうしろというのだ。今更――この私に。こんな腐った男に、最悪のクソに。
そんな中年の涙ぐましい煩悶はしかし、懐かしくも地毛が生え揃った頭を撫でる小さな感触を前にすべてが霧消した。
「お、さん」
「おと、さん」
「おとう、さん」
「おとうさん」
ああ――駄目だ。やめてくれ。
それだけは、駄目だ。駄目なんだ。それを言われたら、私は何があろうと逆らえない。
生きる意味を失い、生きる場所を失って放逐された身でありながら小次郎は嘆いていた。そして、叫んでいた。
気付けば泣き叫んでいた。そうせねばならない理由が、この冴えない男にはあった。
彼はかつて――神だった。
一つの世界を作り出し、そこに住まう架空の生命を無数に描き上げた造物主(デミウルゴス)。
その頭脳は聡明の一言ではとても表しきれないほどに極まっていた。
誰もが彼を敬愛し、尊敬し、時に崇拝し、そして彼の人間性を目の当たりにして離れていった。
天才とは常に理解されないものだ。彼は、頭脳の代償に人間性に大きな欠陥を抱えて生まれてしまった。
徹底した合理主義者。なまじ能力がありすぎるから、能力のない人間の気持ちや辛さが分からない。分かろうともしない。
そんな男が妻を持ち、そして子を持てばどうなるかなど簡単に想像がつくだろう。
歯車は緩やかに狂っていき、家庭内の溝は日に日に深まり、子供達は天才の子に生まれたが故の抑圧を受け続けた。
男は知っていた。この世は強い人間だけが素晴らしく、能力のない人間とは語るに落ちる愚図ばかりだと知っていた。
だから彼は子供達にも完璧を求めた。自分の理想の通りに生きることこそが幸福であり、そして自分の胤から生まれ落ちた以上はそうあるように努めることが養育される子供の義務だと信じていた。
男は知らなかった。この世にはどうやっても物事がうまく出来ない、生きるのが下手な人間が居るのだと知らなかった。
それでも彼は、平等に完璧を求めた。失敗するたびに叱責し、時には手をあげて折檻をした。愚図は愚図だと諦められれば利口だったのだろうが、それが出来ないこともまた彼の抱える病理の一つだったのだ。
学校に連絡帳を忘れてきたことを、怯えた目で打ち明けた娘。
何度も繰り返される失敗に、小次郎の堪忍袋の緒は容易く切れた。
活火山からマグマが溢れ出すように噴き上がった怒りが、後に自分の人生を極寒の地獄に変える呼び水だったなんてその時男は知らなかった。
彼はかつて、父親だった。
一つの世界をすら作り出せる能力を持っていながら、一つ屋根の下で暮らす家族のことすら救えない愚かな大黒柱であった。
「泣かないで、おとうさん」
息子に二度も殴られた情けない男が、神などであるものか。
病んだ妻を救うことも出来ない甲斐性なしに、そう呼ばれる資格があるならこの世の宗教はすべてクズの見本市だ。
娘を怒りのままに変態の餌にした馬鹿な男が。
そこまでのことをしておきながら、未だに家族という存在を捨てる度胸もない軟弱者が。
――娘の顔をした“それ”を前に、ただ震えることしか出来ないようなクソが。
(神などで、あるものか)
いわく聖杯とは、どんな願いも叶える願望器。
手にした者に神の如き力を約束する聖遺物であるという。
それを手にして、自分は何を願うつもりなのか。
思案するまでもなく、決まっている。
あの日壊れてしまった家族を、今度こそもう一度やり直す。
仮想空間上に再現したAIなどではない、正真正銘の娘を死の運命ごとねじ曲げて蘇生させる。
そうすれば、過ちなど何も生まれない。
あの忌まわしき『黒い鳥』も、家族に消えない傷を刻み込んでしまった『プラネット』だって。
虚飾と薄っぺらな罪悪感で出来たあの『一家』だって、生まれることはないだろう。
有馬家はあるべき姿形のまま存続していく。今度こそ、家族みんなが幸せになれる世界が出来上がる。
一家の大黒柱として、それだけは必ず成し遂げなければならないと――そう誓う一方で、愚かな男は自分に囁きかける呪いのような正論から耳を塞ぎ続けなければならなかった。
『いつだって家族を壊すことしか出来ない男が、絆を望んでどうするんだ』
『どうせ、お前が踏み躙るだけなのに』
『いつだって、家族を泣かせるのはお前なのに』
『人を殺してまで、また繰り返すのか』
「黙れ!」
叫んで、壁を殴り付けた。
血が滲み、激痛が走り、拳が腫れて膨れるが気にはならない。
むしろ都合が良くさえあった。こうしていれば、少しでも囁く声から意識を反らせるから。
「私は父親だ! 有馬家の家長なんだ! 壊れた家庭を直すのは当然の務めだろう!?
病んだ妻! 私を蔑視する息子! もう沢山なんだ……! あの家は、あいつらは私をどこまで――」
しかし、どうやったって有馬小次郎は逃げられない。
自分自身からだけは、逃げられないのだ。
喉の奥から出かけた言葉に、慌てて口を噤んだってどうにもならない。
人間はそう簡単には変われない。そのことを、小次郎はよく知っている。
「綾……」
“父”の狂態に驚き、怯えた表情を浮かべる娘の姿が視界に写る。
その姿は、どこまでも……まるで切り取ってでもきたかのように、あの夜のままだった。
下赤塚女児殺害事件。
被害者の名前は、有馬綾。
有馬小次郎の長女はあの日、家には帰って来なかった。
その死体は、ダンボールの中に詰められて見つかった。
有馬綾は死んでいる。
生きてなどいる筈がない。
“これ”は、綾ではない。
父は誰よりもそれを理解していたが、しかし縋らずにはいられなかった。
それを蔑ろに出来るほど彼が強かったなら、彼の名前が汚名として轟くようなことにはならなかったのだから。
偽物だと分かっていても、これが自慰のような自己満足に満ちた贖罪の産物でしかないと分かっていても。
かつてそれを望み、そして生み出した者として……“有馬綾”を一度殺した愚かな父親として、もう一度その存在を拒むことは出来なかった。
◆
『誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)』。
それは実在の英霊を意味しない。個人ではなく総称。マザー・グース。わらべうたの体系。
物語である為に決まった形を持つことなく、マスターとなった人間の心を参照してその夢想に沿うサーヴァントを作り上げる。
心を鏡に翳し、映し出されたモノを出力するいわば小さな願望器。
有馬小次郎が召喚したのは、そういう存在だった。
鏡は心を照らし出す。人は誰しも心の形までは偽れない。
有馬小次郎の夢とは即ち、彼が犯した罪の記憶とイコールだ。
あの日、一人で夜道に送り出してしまった娘。凄惨な死への片道切符を押し付けてしまった綾。
世界の崩壊を前にしてようやく触れられたその“罪”の形が、そのまま小次郎の夢想となって此処に顕現した。
……しかし、不可解な点がひとつ。
『黒い鳥』たるAIに触れて電子の海に消えた有馬小次郎が、その海中に偏在するどこかの世界に引き込まれたのだというのなら。
彼が触れていた、娘の形を取ったAI――『黒い鳥』はどこへ消えたのか。
◆
愚かな男は、“父親”として家族の住む世界を去った。
しかし、それは男に安らかな最期を確約するものではない。
迷い込んだのは電脳の祭壇。
願いと、無念が、ひしめき乱れて殺し合う蠱毒の壷中。
熾天と呼ぶには弱すぎる。月と呼ぶには小さすぎる。
か細い、切り捨てられたる者達の夢の集積場がかつての神を捕らえて逃さない。
『誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)』は此処にいる。
そして彼と共にあの世界を去った『黒い鳥』も此処にいる。
理想と夢想、二つの罪は統合された。故にそのクラスはエクストラクラス――二重存在(アルターエゴ)。
有馬小次郎。
電脳世界の神、愚かなる父、人類の禁忌を殖やした男。
彼に――安らかな眠り(グッド・ナイト)は、訪れない。
【クラス】
アルターエゴ
【真名】
ナーサリー・ライム@Fate/EXTRA、Grand Order
【パラメーター】
筋力E〜A 耐久E〜A 敏捷E〜A 魔力A 幸運D 宝具EX
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
電脳存在:EX
0と1の世界の存在。
かつてある天才が開発した“究極のAI”。
陣地作成:A
アルターエゴはAI。ゲーム内を自由自在に翔び回る電脳存在。
工房を上回る神殿の形成だってなんのその。
【保有スキル】
変化:A+
自己を自由自在に変化させる。
アルターエゴの場合、ステータスも同時に変化する。
自己改造:A
自身の肉体にまったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がれば上るほど正純の英雄から遠ざかっていく。
一方その頃:A
『おとうさん』
【宝具】
『誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
固有結界。サーヴァントの持つ能力が固有結界なのではなく、固有結界そのものがサーヴァントと化したもの。
マスターの心を鏡のように映して、マスターが夢見た形の疑似サーヴァントとなって顕現する。
本来は特定の名などなく『ナーサリー・ライム』という絵本のジャンル。結界の内容はマスターの心を映したものとなるため、有馬小次郎の罪と後悔の象徴である亡き娘『有馬綾』の姿と人格を再現している。
しかし不可解。アルターエゴが持つ能力とその強さは、この宝具が読者に提供出来るレベルを大きく超えている。
その正体は――
『黒い鳥』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
有馬小次郎が娘の幻影を追って開発した、究極にして最悪のAI。
人の“感情”を喰らうことで活動し、成長する。
数百万人分の数億通りものデータをリアルタイムで喰らい続ける必要がある為、ネットゲームのような毎日多くの人間が同時に接続する環境を格好の餌場にして肥え太る存在。
戦闘能力は極めて高く、根本からの電脳存在なので電脳世界で振るえる能力の幅も広い。
有馬小次郎がこの電脳世界に招来された際、彼が召喚した『誰かの為の物語』とその性質が共鳴し融合。変幻自在の物語であり、変幻自在のAIである一冊の黒い絵本へとあり方を自己改造した。
【人物背景】
とある男の罪の結晶であり、後悔の写し身。
そして――
【サーヴァントとしての願い】
『おとうさん』
【マスター】
有馬小次郎@グッド・ナイト・ワールド
【マスターとしての願い】
有馬家を再生する
【能力・技能】
プログラマーとしての天才的な才能と能力。
自他共に認める天才であり、『黒い鳥』を創り出したのも元は彼。
ネットゲーム『プラネット』と融合した現実世界から今回の聖杯戦争へと引き込まれている為、プラネット内で使用可能だった“マクロ”を用いて戦闘を行うことも出来る。
トッププレイヤーの一角、最強ギルドの家長(リーダー)であったこともありかなりの強者。
【人物背景】
天才であり、造物主であり、そしてこの上なく愚かな父親だった男。
現実世界へ侵食した『黒い鳥』にコンピューターウイルスを打ち込んで崩壊させ、AI技術によって再現しようと目論んでいた娘・有馬綾と共に電子の海へと消えた。
優秀だがひどい合理主義者で、偏執的。“出来ない”人間の心が分からない。
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失敗した。
不知火カヤが矯正局という牢獄の中で抱いていたのはそれだけだった。
自分は実力で負けた訳じゃない。
巡り合わせが悪かった。
運が悪かった。
物事の噛み合いがただ致命的に悪かったからたまたま失敗した。
あの時あったのはほんのそれだけ。
それ以上でも以下でもないのだと信じているから、反省も後悔もある訳がない。
むしろあるのは、怒りだった。
自分という超人に正しく管理される事を嫌がった凡人どもの僻み。
そして超人を正しく助ける事の出来なかった無能どもへの、怒り。
反省するのは過ちを犯した人間だけだ。
自分は何も間違っていない。
後悔するのは愚かな人間だけだ。
自分がする事では決してない。
矯正なんて馬鹿も休み休み言うべきだ。
私を矯正すると嘯く暇があれば自分達の出来の悪い脳を矯正する事に勤しんだ方がいい。
私は悪くない──悪いのはこの社会そのもの。
「私が甘かった…」
そうだ、甘かった。
このキヴォトスの愚かさを甘く見ていた。
変革を許容出来ない旧態依然とした馬鹿の群れ。
こいつらに訴え掛けるのならもっと燦然とした衝撃(ショック)が必要だったのだと心底思い知った。
牢獄の中で噛み締めるこれが後悔でなくて何なのだ。
であれば私は確かに愚かだったのかもしれないと、カヤはそう思う。
「もっと徹底的に、そして燦然と…何の抵抗も許さない有無を言わさぬ支配でなくては……っ。
あの馬鹿な凡人どもを相手にするにはてんで不足だったんです……!」
やり直したい。
あの屈辱的な敗戦を覆したい!
こんな結末は間違いだ。
言うに事欠いてこの私が矯正局で罪人扱いだなんて狂っているとしか言い様がない。
カヤは歯を食い縛り涙さえ浮かべて願う。
次があるなら今度こそ全てねじ伏せてやる。
逆らう全て、シャーレの"先生"、全部全部全部!
カヤは決して疑わない。
自分の落ち度を。適格を。
自分が七神リンに代わって立つに相応しい人間であると信じている。
あの“連合生徒会長”の代わりは自分しかいないと──今でも信じているのだ。
カヤはその点においては紛れもなく超人だった。
自分の能力への自負と懲りなさ。
厚顔と呼んでもいい程の往生際の悪さが彼女の美点として今も光り輝き続けている。
だからこそだろうか。
矯正局の中に投獄された彼女の手元に、一枚の"黒い羽"が落ちて来たのは。
「……」
根拠はない。
が、不思議な力を感じさせるその羽を。
カヤは手に取り、気付けば涙を溢れさせながら願いを込めていた。
「私は…、私は……!あんな結末認めません、断じて!
超人たるこの私の悲願が、心根の下らない馬鹿な凡人達に足を引かれて終わるなんて…絶対に許せない──!!」
その願いを。
電脳世界の果てに広がる一つの街が、一つの願望器が聞き届けた。
カヤ…哀れな敗者の体が光に包まれそして消える。
キヴォトスから冬木市へ。
"黒い羽"という青天の霹靂によって、自己を超人と信じる少女に蜘蛛の糸が垂らされた。
◆ ◆ ◆
「そうだな。お前のやり方は至極正しい」
「そうでしょう!? そうですよね! ふふ…良かった。私のサーヴァントが物の正誤がきちんと解る方で一安心です」
「寧ろそれ以外の選択肢が有るのか? 我は其方の方が理解に苦しむが。
意見立場の違う者の声にいちいち耳を傾け向き合っていたら治世など出来まいよ。
抗うなら戦をする。戦でねじ伏せ押し通る。我らの時代では稚児でも解る理屈だったぞ」
時が進んで数日後。
所変わって電脳冬木市。
不知火カヤは満悦していた。
そも、カヤの懸念はたった一つだった。
自分のサーヴァントがもしも、道理の解らぬ無能だったならどうしようか──という事。
下手に考えばかり達者な無能をあてがわれるくらいなら、いっそ全く意思疎通の出来ない狂戦士を当ててくれた方が良い。
サーヴァント等所詮は只の兵器。
肝要なのは自分の超人的采配とその存在なのだから──そう思っていたのだが、カヤの懸念は杞憂に終わった。
蓋を開けてみれば相手はカヤのやり方を理解してくれる優秀な男。
ステータスも漂う気風も申し分ない。
ツイている。自分は今度こそ運と流れをモノに出来ている。
役立たずのFOX小隊なぞとは比べ物にならない大戦力をこの超人が担うのだ。
これで勝てない筈がない──カヤは既に未来の天下を確信していた。
「天下泰平と言うのも考え物だな。戦が無ければそうも腑抜けた社会になってしまうのか」
「まぁ…泰平かどうかは疑問でしたけどね。とはいえ、弱者が強者の足を引っ張るばかりの社会でしたよ」
「良くないな。それでは強者が哀れだ。
生涯を尽くして研鑽に心血注いだ武士が報われぬ世など、それこそ不公平と言うものだろうに」
何せこの通りだ。
一つ言葉を投げれば必ず望んだ答えが返ってくる。
「皆が皆強くあれる訳ではない、それは俺も理解している。
女子供に老人、生まれながらに不具や畸形の者。そもそうした者達が生まれて来る事が間違いだと糾するのは残酷と言うものだろう」
「えぇ、はい。私も其処まで思っている訳ではありません。
上から下まで全ての人間に10の働きを求めたなら、待っているのはそれこそ無秩序な乱世でしょうから」
「だが治世者の居ない国は腐る。その夢物語を実現させた事自体は天晴れと思うが、カヤ。お前の言を聞く限りではやはり無理があるな」
「えぇ全く。寧ろ凡人達にこそ、その未熟を率先して背負い立つ超人の存在が必要なのです」
「ははは、解るぞ。どうもお前とは気が合うようだ──うん、ホッとした。
実は我も内心心配だったんだ。もしも馬の合わない奴がマスターだったならどうしようかと思っていた。
だって我の生殺与奪を常に其奴に握られている訳だろう? 何ともゾッとしない話じゃないか」
悩ましげな顔で訴える自分のサーヴァントにカヤはくすくすと口を押さえて笑う。
その通り。まさにその通りだ。
弱者の存在は許容しよう。許してやろう。
だがその意向一つ一つに優れた誰かの治世が妨害される事は認め難い。
その結果として生まれるのは自分が経験したような腐りに腐った不条理だ。
一部の優れた超人の統治下で凡人が身の程を弁えて幸せに暮らす、それこそがあるべき社会の理想像。
そんなカヤの考えを彼は全て肯定してくれた。
「ご心配なく。貴方はまさしくこの私にのそ相応しいサーヴァントです、ライダー」
「それは此方の台詞でもある。我の方こそ良かったよ、現世の価値観(ノリ)は戦国の野蛮人にはどうも性に合わなくてな」
カヤは確信する。
自分は生まれる時代を間違えたのだ。
キヴォトスのような、弱者が真の強者の足を引っ張る社会ではなく。
強い者が正しく世を率いれるそんな時代こそが自分の理想だったと。
そしてこのライダーが居れば…彼の力に自分の超人的采配が加われば必ずやあの腑抜けたキヴォトスを叩き直せると。
確信したからこそ拠点の外から聞こえる喧騒に対しても耳を貸しはしなかった。
「──さぁ、貴方の力を見せてください。私達の台頭の狼煙をあげて見せましょう?」
「そうだな…一つ宣戦布告でもしておこうか。天下と呼ぶには少々狭いけどな」
誰だ、私を天下に押し上げるのは。
私をあるべき立ち位置に返り咲かせるのは。
不知火カヤは屈しない。諦めない。
必ずや失ったあの座に返り咲いてみせるのだとそう誓ったからには止まらない。
──この世界は、私にとっての喝采だ。
私が勝つ。
私が統べる。
私が制して、私が手に入れる。
それでこそだ。そうでなくてはならない。
それ以外の結末等何一つとして認めるものか。
「戦の時間だ。よく見ていろ、カヤ。強者の戦というものを」
この拠点は既に数体のサーヴァントに囲まれている。
それを悟りながらしかしカヤもそのライダーも恐れない。
堂々と悠然と、勝利を確信しているがこその自信を胸に外へと自ら躍り出る。
結末は勝利以外に有り得ない。
そして事態は、その通りになった。
◆ ◆ ◆
「は?」
不知火カヤは勝利した。
予想通り、期待通りの勝利だった。
強者の──超人の勝利とは圧倒的であるべきだ。
それでこそ人は自分を超人と崇める。
絶対的な格の差を痛感し、崇拝し、尊敬する。
ライダーはその期待に完璧以上に応えてくれた。
傷一つ負う事なく同盟を組んで襲い来る敵の全てをねじ伏せ無力化してみせたのだ。
まさに想像通り。
カヤの望む結末を手繰り寄せる圧倒的勝利。
…その筈だった。
結末だけを見れば間違いなくそうだった。
にも関わらずカヤは今、固まっていた。
「終わったぞ、カヤ。少し話し合ったら皆解ってくれた。手早くて助かったよ」
「ぇ…え、ぇ? あ、あの……え。本当に終わったんですか、これで……」
「? 何を言っているんだ?」
起こった事を説明するのは造作もない。
元々の情報量が余りにも少な過ぎるからだ。
同盟を組んでカヤ達の拠点を襲撃した三組の主従の前にライダーが満を持して躍り出た。
そしてライダーは剣を抜き、言った。
只一言。ほんの一言だ。
『無用な血を流しても仕方がない。武器を棄てて跪けば、お前達の全てを見逃そう』。
「皆膝を突いて退いてくれたじゃないか。聞く所によれば、サーヴァントを失ったマスターはものの数刻で消え果てるのだろう?」
その瞬間の事である。
今の今まで殺意を持って対面していたマスター達の全てが、陶酔したような情けない顔になった。
それにカヤが驚きを抱く前に事は進んだ。
一人また一人とその場で膝を突き頭を垂れた。
そしてまるで先を急ぐように各々叫び始めたのだ。
…自身のサーヴァントを自害させる令呪(ことば)を。
「誇れ。この戦、我々の勝利だ」
それで全てが終わった。
剣を交わすまでもなく全てが終焉(おわり)。
生き残ったマスター達は今も土下座したまま額を地に擦り付けている。
一瞬にしてカヤは三主従を屠った戦果を手に入れた。
何が何だかも、解らないままに。
「ははは。何だ情けのない。勝者が戦果に臆してどうする──笑え。勝てばこそ笑うのだ」
──違う。
カヤはそう思った。
これは自分の望んだ勝利じゃない。
だってこんなもの、自分の勝利であるものか。
自分は何もしていない。
指示の一つだって出しちゃいない。
立ち塞がる強者を出し抜いて吠え面を掻かせる自分。
悔しがりながら自分の敗北を確信する者をせせら笑う自分。
サーヴァントを巧みに操り勝利を手繰り寄せる"超人"の面目躍如な展開──そのいずれもこの結末に関与していない。
全てライダーが一人で終わらせてしまった。
本当に全部、何もかも。
一から十まで、全て。
「どうした? カヤ」
カヤの想像していた展開は簡単だ。
ライダーがねじ伏せる。
自分が敵の手を欺いて打ち勝つ。
彼女は想像もしていなかった。
一手どころかほんの一言で敵の全てが瓦解し、自ら命運を投げ捨てる事態なぞ。
「笑え」
「ぇ…」
「笑え。それでこその強者。それでこその超人だ」
理想と現実がぶつかる。
確かにカヤは勝った。
それを否定出来る者は皆死んでしまった。
しかし、この勝利に"不知火カヤ"の関与した要素は一つとしてない。
カヤが何かする前に全ては終わった。
ライダーの勧告一つで片が付いた。
ぐるぐるぐるぐる。
心の中で感情が廻る。
「カヤ」
違う。
これは──こんなのは、違う。
私は強い。私は優れている。
この世の誰より優れているのだから勝つのは当然。
だけどこれは何だ。これは、違うだろう。
私が一つたりとも関与する事なくものの一言で全てが終わってしまうだなんてそれは、そんなのは…
「笑え。笑うのだ」
──違う。
私が望んでいたのはこんなのじゃない。
これじゃ私の存在なんて無意味ではないか。
超人でも何でもない只の蚊帳の外じゃないか。
つまらない。認められない。断じて。
こんな結末、断じて、断じて…
「──あ、は」
気付けばカヤは笑っていた。
求められる通りに声をあげていた。
愉快痛快と笑って、表現をしていた。
「あは、ははは、ははははは…!」
その理由は一つだ。
怖かったから。
自分に斯くあるべしと求めるライダーの瞳。
其処に、蜷局を巻いたムカデのような恐ろしさを垣間見てしまったから。
その時点でカヤの脳裏に、ライダーの言う通りに自ら命脈を絶ったマスター達の姿が過ぎった。
だから──笑った。
求められるままに笑った。
自分の抱く感情、忸怩たるもの、全て押し殺して道化のように只笑った。
「うむ。弱者をねじ伏せ圧倒的に勝つ等今更だが、なかなか悪くない気分だ」
何が悪い。
圧勝、素晴らしい事じゃないか。
カヤは自分にそう言い聞かせる。
言い聞かせて、笑う。
そうしていないといけないと思った。
本能の部分が、そうしなければ自分が自分を認められないと悟った故の防衛行動だった。
「──征くぞ、カヤ。我はお前の志を高く買っている。共に天下人の座へと駆け抜けようぞ」
「…は、はい。勿論です──えぇ、勿論ですとも……!」
だがそれをカヤが認める事は決してない。
当然だろう。
それを認めれば彼女の一番大切な柱が揺らいでしまう。
連合生徒会長の座に只一人代わって立ち得る存在である己という柱が、折れる。
英傑の撒き散らす畏怖に心を折られて跪いたとあっては、二度と超人等とは名乗れない。
──だからカヤは必死に虚勢を張った。
その事実を否定するように強い自分を装って、求められる儘に笑った。
目前の彼が一度も自分の事を"主君(マスター)"とは呼んでいない事実から目を背けながら笑った。
「私の願いは…今度こそ叶う。征きましょう、ライダー……強き我々が治める世を作る為に……!」
「うむ、是が非でも共に成し遂げよう。
今此処に新たな乱世の始まりを宣言しようではないか。時代も世界も異なるが、乱世あるところに必ずや武士あり。
天下人の戦と言う物を体験させてやろう。我が新たな腹心──不知火カヤよ」
…"超人"は確かに実在する。
存在するだけで他者の全てを圧する存在がこの世には稀に生まれ落ちる。
その真贋が此処に対比された。
片や自分をそうある存在と信じる者。
片や、只其処にあるだけで他を圧し勝利を吸い寄せる正真の"超人"。
「大船に乗った心算で任せると良い。お前を天下に押し上げるのは他でもない、この尊氏ぞ」
──サーヴァント・ライダー。
真名を足利尊氏。
鎌倉末期から室町前期に渡り存在感を示し続けた乱世の寵児。
いわく。神力の申し子。
当世から後世まで誰一人彼を理解出来なかった。
怪物の如き精神性のままに怪物の如き戦果を重ねる梟雄。
真の超人が偽りの超人に微笑む。
それに対して少女は、ぎこちない愛想笑いを返す事しか出来ないのだった。
【クラス】
ライダー
【真名】
足利尊氏@逃げ上手の若君
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運A+ 宝具C++
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、 幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
【保有スキル】
異形のカリスマ:A
大軍団を指揮・統率する才能。ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。
精神性が極めて破綻しており不安定。
性質としては人間よりも人外、魔性の類に近いが、その異形さは却って人を惹き付ける。
武芸百般(甲):A
戦国乱世を駆け抜けた事による恩恵。
多岐にわたり培われた戦闘技術により、あらゆる戦闘状態に対応することが可能。
神力:A++
文字通り神が如き力。
声一つ、姿一つで他者を征服させるカリスマ。
尊氏程になれば声一つで万軍をすら平伏させる。
【宝具】
『南北朝・征夷大将軍足利尊氏』
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
最も苛烈にして不明瞭な人物像を持つ征夷大将軍、南北朝時代の覇者たる存在そのもの。
スキル『神力』との複合宝具で、尊氏が行動を起こす度に判定が行われ、その結果に応じて行動の成功率を大幅に高め上げる。
時に天変地異をすら味方に付け、時に死ぬ覚悟を決めて戦に臨む武士の強固な人心をもねじ曲げる嵐の如き男。それが尊氏である。
尊氏に特別な武器等必要ない。足利尊氏という存在そのものが、彼を彼たらしめる最大の支柱。
【人物背景】
鎌倉幕府に弓を引き、天下の座へと駒を進めた日本屈指の大英傑。
後世にまで多くの謎を残した理解不能の天下人。
類稀な神力をその身に宿し、災害のように勝利を積み重ねた男。
【サーヴァントとしての願い】
次の天下を取る
【マスター】
不知火カヤ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
超人としてキヴォトスを正しく導く
【能力・技能】
防衛室長を務められるだけあって知能は高い。
ただし人望は皆無に等しく、彼女自身もそれを認めている。
【人物背景】
連邦生徒会「元」防衛室長。
自らを超人と嘯く自信家で、暗躍を重ねて連邦生徒会長代行の地位を奪い取った。
しかしその後は迷走と反乱分子の拡大によって追い詰められ、立場を追われて連邦矯正局へと収監された。
投下終了です
続けて投下します
「本当に…困りましたね」
少女は人間ではなかった。
広義で言うならばアンドロイド。
オーパーツたるその機体すらも借り物で、正確には彼女自身の物ではない。
電脳世界というイレギュラーな箱庭が、あの精神世界同様に"王女"の機体を参照しての参戦を許したのだろうと鍵の娘は推測する。
しかし困っている事に変わりはない。
今こうして起動状態を続行出来てしまっている事、それそのものが彼女<Key>にとっての悩みの種だった。
「…今更」
自嘲するように<Key>は呟いた。
本当に今更の話だ。
只の道具には過ぎた結末だった。
後悔等一抹たりともない。
あれ以外の結末を望む気も、ない。
「何をしろと言うのです。私に」
名もなき神々の王女。
彼女が継ぐ筈だった玉座を継ぐ鍵<Key>。
王女なくして鍵は存在し得ないが、電脳の世界にはそんな道理も通用しないらしい。
この世界において<Key>は単一の個人としてその存在を認められている。
市内の学校に通う中学生というロールを与えられ、バグとして削除される事もなく生かされ続けている。
──理解不能。
役目を終えて壊れた鍵を拾い直して後生大事に抱えてみせるなど不合理の極みだろう。
まして願いなど。
そんなもの、この身にある筈もないと言うのに。
壊れた天蓋を見つめる。
今、鍵の少女は地下から空を見上げていた。
サーヴァントの襲撃。
どうやって自分が"そう"であると特定したのかにさえ微塵も関心が浮かばない。
空から見下ろす翼付きのサーヴァント。
今宵、用済みの鍵を屠り去るだろう死神。
“抵抗する理由も浮かびませんね。どうせあるべきでない命。…未来ある誰かに継いだ方がまだ有意義という物でしょう”
<Key>は身を委ねる事を選んだ。
逆らわないし、抗う気もない。
只身を委ねてこの世を去る。
所詮これは夢だ。
今際の際に見た、何の値打ちもない泡沫の夢。
“王女は──”
それでも。
ほんの一つ、気がかりな事があるとすれば。
“アリスは、元気にしているでしょうか”
王女──
AL-1S──
──アリス。
自分の存在の意味に、定められた宿命に否と光を放った彼女。
アリスはその輝きで鍵の役目さえも変えてしまった。
無名の司祭達が崇拝する王女という役割を。
世界を滅ぼす魔王という運命を破却して勇者として光の剣を抜いた…誰よりも勇敢な少女。
<Key>は当初、彼女に己が役目へと殉じる事を求めていた。
それがあるべき形であり抗うなんて事があるべきではないと頑なにそう唱えて来た。
であるというのに結局は根負け。
あの"勇者"の輝きに照らされて、世界を滅ぼすその鍵もまた使命を曲げる事を選んでしまった。
アリスは元気にしているだろうか。
陰謀の闇に呑まれる事なく冒険を続けているだろうか。
愛する仲間達の笑顔に囲まれて、勇者らしくしているだろうか──。
“私にとって大事なのはそれだけ”
どの口でそんな事を言っているのかと自分でもそう思う。
彼女を闇の方へ連れ出そうとしていたのはいつだって己だったのに、まるで勇者の仲間のように殊勝な事を考えてしまうなんて滑稽だ。
そう自嘲しながら鍵は黙って空を見上げた。
この世界は自分にとって全くの無価値だったがどうやら無意味ではなかったらしい。
少なくともこの感傷はそう悪いものではない。
世界を滅ぼす道具だった己に。
只消えるしか手段の無かった自分に、勇者の未来を祈念する時間が与えられるだなんて。
それは──
それは、なんて──
「…過ぎた幸運でしょう」
「本当にそれでいいの?」
呟いた言葉に聞こえる筈のない声が響く。
割れた天蓋の下。
役目を終えた鍵が横たわるだけの空間にいつしか佇む影があった。
白い男だった。
天女が繊糸で編み上げたのだと疑いたくなるような肌と髪。
良い意味で経年を感じさせない、極上の芸術品のような整い過ぎた出で立ち。
美女揃いのキヴォトスからこの世界の土を踏んだ<Key>ですら一瞬息を呑む。
何より抜きん出て存在感を放っているのがその双眸だ。
深い。
空の青より深く海の蒼より尚深い、美の極限のような麗しき深淵が瞳の中に漂っている。
もしも死者を惜しみその存在を高次に高め上げるというのなら、誰だとてこの男を逃しはしないだろう。<Key>はそう思った。
聖者と怪物。
凡そ正反対の位置にある筈の二つの呼称、然しそのどちらもが何故だか正しく当て嵌まって見える。
超越──これを形容する上で最も正しいのはきっとそんな言葉。
「他人の人生に口出し出来る程上等な生き方はして来なかったからね。君がそれで良いって言うんなら、まぁ無理には止めないけど」
だと言うのに口調は俗の一言だった。
教えを説き真理へ促す教主のような厳粛さはこの男には一切ない。
世界を滅ぼす程の力を生まれながらに与えられた餓鬼。
なろうと思えば勇者にでも魔王にでもなれる、この世の何処にだろうと届く手の持ち主。
「…あなたは」
であれば、彼はどちらを選んだのだろうか。
「あなたは、勇者ですか。それとも、魔王?」
「どっちかと言うと魔王寄りかな。天上天下唯我独尊、生まれてから死ぬまでずーっと好き勝手やって来たよ」
「でしょうね。滲み出ています」
「それに勇者なんて自称出来るのは中坊まででしょ。僕ももう良い歳なんでね。流石に恥ずかしさが勝つわ」
「……」
…別に怒る事でもない。
…それでも少しだけその言われ方は心外だった。
「あなたは」
アリス──光の勇者。
鍵等に、道具等に手を差し伸べた王女。
あの輝きを、何度折れても立ち上がって微笑み続けた彼女を思春期の病痾のように呼ばれては聞き流せない。
「勇者とは何か…知った上で言っているのですか」
「微妙だね。君は知ってるのかい?」
「私は」
愚問だった。
「私は、それを見ました」
最初は愚かだと感じた。
何故そんな道を選んでしまうのか。
斯様な世迷言に走るなんてあってはならない。
自らの使命に叛くような生き方等、断じてするべきではないのだと──しかし。
「…あの子は確かに"勇者"だった」
<Key>はそれを見た。
定められた運命の全てに反逆し、自分の意思とその手で未来を選び取った花のような勇者の姿に目を焼かれた。
あれこそ本物の勇者だ。
勇者である事を選んだ魔王。
愛と勇気を寄る辺に自らそれを選択した魔王だなんて──まさしくそれらしいではないか。
「言うじゃないか。よっぽど大事なんだね」
「…私は彼女の為に生み出された存在ですから。大切でない訳はありません」
彼女がどんな生き方を選ぼうとも、自分が王女に寄り添う鍵である事に変わりはない。
だからこそ最後に<Key>は選んだ。
勇者が消えて幕を閉じる物語等三流だろう。
愛と勇気が最後に勝って、また次の冒険が始まる──そんな終わりの方が優れてるに決まっている。
消えるべきは勇者ではなく世界を滅ぼす道具の方だ。
その決断に悔いはなく。
寧ろ誇らしく感じてさえいた、が。
「そ。で、君はこれでいいの?」
「質問の意味が解りません」
「こんな辺鄙な地の底でひっそり思うだけで満足なのかって聞いてんだよ」
「…十分です。私はもう舞台を退いた身ですから」
その納得に男は問いを投げる。
それでいいのか。これでいいのか。
それは鍵の少女にとって問われるまでもない事であったし、だからこそ答える言葉も決まっていたが。
『◾︎◾︎も、◾︎◾︎が望む存在になる事が出来ます。誰かに許可をもらう必要もありません』
0と1の思考回路へ栞のように挟み込まれた声(きおく)かあった。
宝物のように後生大事に抱え込んでいたメモリー。
共に眠る筈だったそれが未練のように浮上してくる。
「僕ももうオッサンだからね。勇者だとか魔王だとかティーンめいたあれこれは門外漢なんだけど」
理解不能。
自分はいつからこう成ってしまったのか。
こんな、まるで一人の人間のような余分。
鍵にあるまじき──道具にあるまじき感慨なぞを抱いてしまっているのか。
「君はどうやらそのどっちでもないらしい」
「当然でしょう。私は只の道具で、それ以上でも以下でもない存在なのですから」
「あーあーそういうの良いから。僕が聞きたいのは君の言葉なんだよね」
空の瞳が鍵を見据える。
鍵として生まれ、道具として死んだ少女を一人の人間として見つめていた。
目を逸らせない。
あらゆる虚飾を見通す神意にも似た荘厳がその双眼には溢れていたから。
「君は何者で」
「……」
「君は──どうしたい? それを聞かせてくれよ」
勇者等であるものか。
魔王と呼ぶにも役者が足りない。
自分はやっぱり只の鍵<Key>で、何処まで行ってもそれ以上の何かだとは思えない。
それが自分だ。
世界を滅ぼす為に生み出された鍵。
そのあり方に叛いた結果として壊れて消えた被造物の残影。
けれどもしも。
この身にまだ、もう一つ定められた何かに叛く権利が残されているのなら。
「私、は…」
万人に世界の破滅を約束する魔王でありながら、勇者として光の剣を振り上げた彼女に倣う身の程知らずが許されるのなら──。
「もう一度……あの子に、会いたい」
それはきっとバグのようなものなのだろう。
本来あるべきではない不具合の一つでしかない。
それでも死の星々が群れを成し、今こそこの身を喰らおうと煌き猛る夜空を地の底から見上げて呟いたその言葉は紛れもなく本心だった。
「王女──私の大切な…アリスに」
仲間に支えられ、自分の運命の闇を自らの意思で祓って見せた一人の勇者が居た。
その輝きは超新星(スーパーノヴァ)の如し。
心などあるべくもない一個の道具でさえも、彼女の光は優しく照らし出してくれた。
機械らしからぬその温度を。
消える間際に見えたあの涙を──覚えている。
「あの勇者に、また…もう一度……会いたい」
私なんかの為にあなたは泣けるのか。
泣いて、くれるのか。
なんて優しくて。
なんて──未練。
消えるのを待つだけの思考回路に一寸にも遠く及ばない波が生じる。
それは宛ら死者の心電図に生まれる奇跡の一波。
そしてその"波"は反響(エコー)を繰り返し。
いつしかそれは、"願い"となった。
「最初からそう言えよ。僕にメンタルカウンセラーさせるとか人選ミスも甚だしい」
マスターが願いを懐き。
サーヴァントがそれを聞き届けた。
であれば次に起こる事など決まっている。
数千数万の死の星光が降り注ぐ瞬間であろうと何一つ変わりなく。
「でも──ま、これでも教師なんでね」
──彼女の、彼らの、聖杯戦争が開幕(はじ)まる。
「いち教師として、青少年の願いに耳を傾けない訳にも行かないか」
鍵の少女はそれを見た。
夜空に浮かぶ死星の絨毯が一撃にして消え失せ、月だけが照らす真の星空に塗り替えられる瞬間を目の当たりにした。
「…そうですか。これが……」
気付けば言葉が口をついて出ていた。
決まり切った結末、予定調和の運命。
立ち込めた一面の闇を自らの意思で祓う事。
なりたい存在を、自分自身で決める事。
これが──
「これが──光、ですか」
かつてあの勇者がそうして見せたように。
自分も今、光の剣を抜けたのだろうか。
この感情はもう誤動作(バグ)なんかじゃない。
私のこれは…私の"願い"だ。
「私が……そう決めました」
呟いてみて自嘲げに笑う。
でもそれはもう諦めでも停滞でもなかった。
道具だった少女が自分の意思で伸ばした手。
「いいね」
空へと伸びたその手に応える声がある。
「君──名前は?」
子供の成長には大人の存在が不可欠だ。
それは勇者を育てた"シャーレの先生"では無かったけれど。
「<Key>…、……いえ」
それも当然の事。
これは勇者になる為の旅路ではなく、勇者に会いに行く為の旅路なのだから。
その道が同じである筈はない。
彼女は彼女の為の教室で学ぶ事を選んだ。
"願い"と言う名の──光の剣を抱き締めて。
「どうか、ケイと──そうお呼び下さい。先生」
◆ ◆ ◆
「似合わない仕事からやっとおさらば出来たと思ってたのにな。
まぁ僕も散々好き勝手やって生きて来たし、閻魔様にツケの清算迫られても文句は言えないか」
対城宝具による飽和殲滅攻撃を片手間に蹴散らしながら頭を掻く。
それなりに悔いのない生涯ではあった。
残して来た者達には悪いが、自分と言う人間の幕引きとしてはアレ以上の物はきっとない。
悔い無き死を辿って逝くべき場所に逝っておきながら気付けばまたこうして教職だ。
今度の仕事はマンツーマン。
何とも頭の硬そうな、これまた手の掛かりそうな生徒を引いたもんだと肩を竦める。
「ま、若人の青春を邪魔する権利は誰にもないんでね。悪いけど、狙った相手が悪かったと思って諦めてくれると助かるよ」
男は。
基本的に碌でもない人間である。
莫迦で軽薄で個人主義。
呼吸や瞬きと同じウェイトで他人を振り回し、兎と亀の童話の反例を体現するかの如き存在。
そして。
言うまでもなく。
依然。
「僕──最強だから」
──最強。
【クラス】
キャスター
【真名】
五条悟@呪術廻戦
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力C++ 耐久EX 敏捷A+ 魔力A++ 幸運C 宝具EX
【クラススキル】
陣地作成:EX
呪術師としての結界術。"帳"とも。
内と外の世界を遮断し、一般人に対する認識の阻害を行う。
最高位の呪術師であるキャスターは当然更にその先の領域にも――
【保有スキル】
無下限呪術:EX
五条家相伝の術式。収束する"無限"を現実にする。
キャスターの周囲には術式により現実化させた"無限"が存在し、物体や事象が本体に近付くほど低速化。接触が不可能になる。
瞬間移動や空中浮遊など応用の幅は広いが、術式の使用には非常に緻密な呪力操作が必要不可欠。
従って常時の発動は脳が高負荷に耐えられず焼き切れる危険を孕むが、キャスターは『反転術式』の会得によりそのリスクをゼロにしている。
反転術式:B+++
負のエネルギーである呪力を掛け合わせることで正のエネルギーを生み出し、人体の損傷を回復させる。
キャスターの場合他人に対して使用することは出来ず、自己回復の範疇に留まる。
キャスターはこのスキルによって、前述の『無下限呪術』のデメリットを事実上消滅させている。
無量の智慧:A
現代最強の術師であるキャスターは、限りなく万能に近い才覚を持つ。
英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルをAランクの習熟度で発揮可能。
スキルを他人に授けることも可能だが、その場合ランクは格段に落ちる。
【宝具】
『六眼(りくがん)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
特異体質。魔眼、或いは浄眼。
他者の術式・呪力を詳細に視認することが可能であり、またこの眼を持つ者は常識では考えられないほど緻密な呪力操作が可能になる。
呪力消費のロスがほぼ皆無であるため、キャスターを使役するに当たってマスターに掛かる負荷はほぼゼロに近い。
対峙したサーヴァント及びマスターのステータスを宝具・スキルなどの固有能力を除いて瞬時に把握する。
『無量空処(むりょうくうしょ)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:制限なし
領域展開。呪術の究極の形であり、無下限呪術のその内側。
この領域の内側に存在するキャスター以外の全員は"無限回の知覚と伝達"を強制される。
無限の莫大な情報量を流し込まれたことで思考と行動のラインが文字通り無限大に延長され、強制的な行動不能状態に陥らせることが可能。
更にこの規格外の情報量により生じる脳への負担も極めて大きく、彼と同格以上の存在でさえ無負荷でやり過ごすことはまず困難。
『六眼』の存在によりキャスターはどれだけ出力を上げて戦闘を行ってもマスターに対しほぼ負荷を掛けないサーヴァントだが、この『無量空処』はその唯一の例外となっている。
負担は非常に激烈で、一度の使用でも命に関わる可能性があるレベルなため生前のように乱発することは現実的ではない。
【人物背景】
現代最強の呪術師。
【マスター】
ケイ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
王女に――アリスに、もう一度会いたい
【能力・技能】
かつての半身である天童アリスの肉体データを参照して参戦している。
アンドロイドである為、普通の人間よりも格段に身体能力が高い。
武装は天童アリスと共通の『光の剣:スーパーノヴァ』。
自身の身長程もある巨大な重火器。
【人物背景】
世界を滅ぼす鍵として生まれ、勇者を守って消えた鍵<Key>。
投下終了です。
またキャスターのステータスを製作するに当たり、「あの夏のいつかは」(ttps://w.atwiki.jp/tamagrail/sp/pages/139.html)における同キャラクターのステータスシートを許可を取って参考にさせていただいたことをここに明記し、また御礼申し上げます
投下お疲れ様です
私も投下します
投下お疲れ様です
私も投下します
投下お疲れ様です
私も投下します
冬木市のある街角。
そこでは、子供や疲れた大人に人気の屋台が営まれていた。
「お母さん、これ買って!このカブトムシの飴!」
「私こっちのリスさん!」
「この刀の形...昔、チャンバラごっこで遊んだのを思い出しますねえ」
子供が指差すのは、精密に象られた色とりどりの形をした飴。
精密に作られた虫や動物、仮面のような小道具の飴は童心をくすぐり、老若男女問わず目を引くものだった。
「アイスと飴とで、合計650円になります」
「今日もお手伝いなんて偉いねえメイちゃん」
主婦は勘定を受け取った少女———天野メイを労い、頭を撫でてやる。
するとメイはえへへと嬉しそうにはにかみ、傍にあった小箱に貰った金を入れてお釣りを返す。
「あんたもこんなお爺ちゃん想いの孫を持って幸せもんだねえ」
「カカカ!まったく、儂には過ぎた孫じゃわい」
主婦と談笑するのは、店主の禿げ爺だ。
「物覚えが良くて器量も良い。飴の腕前はまだまだじゃが、仕込みがいがあるというものよ」
「まあ羨ましい。ウチの子なんてすぐにグータラしちゃって...」
傍から見ればなんてことのない談笑。
しかし、メイは笑顔を振りまく傍らで、彼らの会話に耳を傾ける。
自分が褒められているからではない。
聞きたいのはもっと別のことだ。
「あっ、そうそう聞いた?この辺りのことなんだけど———」
主婦がそう切り出した瞬間、ほんの少しだけメイと禿げ爺の目の色が変わった。
・
・
・
ズルリ。ズルリ。
草木も眠る深夜帯。
閑散としたビルの中、なにかが這いずるような音が反響する。
「ヒ...ヒィ...」
獣のような姿をしたソレは、傷ついた身体で血反吐を吐きながら地を這っていた。
「逃げられると思っているのか」
頭上よりかけられる声に、獣はビクリと身体を震わせ、ガチガチと歯を打ち鳴らす。
ゆっくりと振り返れば、そこに立つのは筋骨隆々の大男。
月光に照らし出されるは、顔のおおよそ半分を覆い尽くす仮面と、見る者を畏怖させる鋭い眼差し。
そしてその右手に携える大剣は、まさに処刑人の出で立ちだ。
「な、なぁ。もう勘弁してくれよぉ。腕もボロボロだし、こんなに血がいっぱい出てたら死んじまうよぉ」
「だろうな」
「あんたはつええよぉ。降参、降参だ。靴も舐めるし俺のマスターにだってあんたらを援助させるから許しておくれよぉ」
「...確かに、決着が着いた以上は俺も貴様の生死に興味はない」
「じゃあ!」
「だが処断を決めるのは俺じゃない———如何する、マスター」
男が恭しく片膝を着き首を垂れると、暗闇よりカツンと床を鳴らす音と共に影が小さな浮かび上がる。
「...さっき、そこの部屋で子供の靴を見つけたわ。血まみれで、ボロボロになったね」
現れたのは、背丈の低い少女———天野メイ。
昼間に子供たちに見せていた愛嬌を何処ぞへと追いやり、冷酷な眼差しを携え問いかける。
「一つ二つじゃない...貴方たち、ここでたくさん殺したのね」
「ひ、ひぃっ!?」
キッ、と目つきを鋭くするメイに気押され、獣は悲鳴をあげる。
「なっ、なんだよぉ!こいつは聖杯戦争なんだぜ、NPCのガキ食ってなにか悪いのかよぉ!!」
「...そう」
「いっ、いや、待て!つい魔が差しちまったんだ!ガキの心臓は美味ぇからな、へ、へへ...そっ、そうだ!俺の目ぇつけてた奴らをあんたも食ってみろよ!へへっ、あの味を知りゃあ俺の言ってることも———」
「セイバー」
「承知した」
メイの呼びかけに、セイバーは着けていた膝をあげ、大剣を両手で握りしめる。
獣は理解した。せざるをえなかった。
セイバーによる処刑が確定したことを。
「あっ、グッ...チィクショオオオオオオオオ死にたくねええええええええええ!!!!!」
獣は喉からあらん限りの悲鳴を絞り出し、セイバーへと飛び掛かる。
錯乱からくるやぶれかぶれの特攻。
しかしその速度は侮れず。
弾丸さながらの突撃にセイバーは動かない。
距離が縮まっていく。
まだ動かない。
両爪が、セイバーの眼前にまで迫り———剣が動いた。
しゅっ、とセイバーの呼吸の音が漏れる。
一閃。
横なぎに振るわれる斬撃は獣を通りざまに斬りつけ、そのまま両断。
重力に従い、獣の肉片が落ちるとべちゃりと肉と臓腑が床にぶちまけられた。
「あ...そ、そんなぁ、僕のサーヴァントが...!」
いつの間に来ていたのか。
眼鏡をかけた貧弱な男が、霊子と共に消えていく獣の亡骸を前に泣き崩れる。
「も、もうお終いだ...僕も直ぐに消えてしまうんだぁ...!」
「あの」
「うああああああああああ!!!」
メイが声をかけようとすると、男は半狂乱になりながら逃走し何処へと去っていく。
「マスター」
「...大丈夫。私がやってることは、ちゃんとわかってるから」
メイは遠ざかっていく男の背中をジッと見つめ、やがてなにを想ったか、身体を震わせながらふぅと小さくため息を吐いた。
☆
辺鄙な平屋の一室。
そこでがメイとセイバーの住処だった。
すぅすぅと寝息を立てるメイの目尻に浮かぶ涙を軽く拭いつつ、セイバーは彼女との出会いを振り返る。
かつて、彼はヤマトという大国の武将を務めていた。
時には戦陣の指揮を執り、時には戦友たちと肩を並べて戦火を駆け抜け、時には老人に変装し飴屋として市内の治安を見守り。
己の生の最期までヤマトへの忠誠を貫く。
彼の生き方はそんな『武人』の肩書に相応しいものだった。
そんな彼に英霊としての願いなどあるだろうか。いや、ない。
受肉して永遠にヤマトに仕える、ヤマトに未来永劫の繁栄をもたらす———そういった願いを彼は求めなかった。
彼は学んでいた。
永劫を望んだ者たちの哀れな成れ果てを。
彼は兄に示された。
己以外の者に全ての富を委ねた國がどれだけ脆く、飛躍の芽を摘まれるかを。
そんな彼がこの戦に臨もうとしているのは、目下、マスターである天野メイのためである。
彼はここに呼ばれる直前に夢を見た。
熱く、血潮を煮えたぎらせるような漢の夢を。
彼の見た光景。
そこは欲望の巣窟だった。
殺意と狂喜の中で、銭と権力に溺れた豚どもが命を玩具に愉しむ戦場だった。
その中でセイバーは見た。
脳裏に焼き付き離れなかった。
一人の娘のために戦う漢が。
並みいる強敵たち相手に戦い抜くその姿が。
勝敗が明らかな戦にも怯まず、一撃必殺の拳を幾重も受けながら、膝を破壊されながら、それでも愚直に突き進む。
己の持ちうる全てをぶつけて命の証を刻み込む灼熱の如き背中が。
まさに、試合ならず本物の『死合い』にセイバーは魅せられた!
数多の戦場を駆け抜け多くの死闘を繰り広げてきた彼が、熱き血潮を滾らせるほどに!
そして夢が覚め、召喚されると、マスターである目の前の少女に問いかけた。
貴様はこの戦の果てになにを願うか、と。
彼女は状況を整理し、気を落ち着かせると、躊躇いなく言った。
「私は誰かを犠牲に願いなんて叶えない。こんな人の命を足蹴にするゲームなんて蹴飛ばしてやる」と。
何故か、と問いかければ、彼女はこう返す。
「私は『アイアン・ペガサス』天野和馬の娘、天野メイだから。お父さんみたいにどんな理不尽にも負けたくない———絶対に、負けないから!」
その彼女の姿を見て、彼は思った。親が親ならば子も子か。幼き女子であろうとも、あの気高き魂は引き継いでいるのか、と。
然らば。
ヤマトの左近衛大将という立場はもう任期を全うしたのだ。
無辜の民を蹴落としてまでしがみつこうとは思わない。
あの胸を震わす死闘の見物料として彼女たち親子に尽くすのもやぶさかではない。
故に。
彼は、セイバー・ミカヅチは天野メイに忠義を尽くすことに決めたのだ。
ズレた布団をかけ直してやり、ミカヅチは己の筋肉の調子を確かめながら飴の仕込みに取り掛かる。
メイはなにも幼き楽観的思考で聖杯戦争を止めようとしているわけではない。
そもそも、彼女は自分が生き残れる可能性は低いと思っている。
故に、自分が脱落した場合に備えて、ミカヅチに一つの頼みごとをしている。
それは『聖杯を委ねるに値する者を選別する』こと。
聖杯という万物の願望器を前にした者皆が高尚な願いを掲げる訳ではない。
永劫の富を手に入れ我欲と暴虐の限りを尽くそうとする者や、世界を破滅に向かわせるような邪悪な願いを抱く者もいるかもしれない。
メイが頼んだのは、そういった輩を排除し、せめて可能な限り善良な者にこそ願いを叶える権利を与えてほしいということ。
故に、昼間は飴屋の屋台を開き冬木市の治安を窺うのを兼ねて、多くの市民と触れ合うことで情報収集を行っている。
それに、このような市街でわざわざ飴屋の屋台を転がしており、挙句に少女と老人が営んでいるともなれば違和感は浮彫になる。
つまり、他の主従は彼らを聖杯戦争のマスターとサーヴァントであると推測しやすくなっている。
それもまたメイとミカヅチの狙いだ。
敢えて隙を晒すことで、他の主従を試しているのだ。
こちらへの対応が襲撃や奇襲であればその時点で敵と判明させられるし、交渉であれば可能な限りは応えたい。
当然、敵対した者があまりにも邪悪であれば斬る———即ち、相手を殺すことになる。
それはミカヅチに任せてマスターである彼女は目を瞑ることもできた。
だが、彼女は敢えて向き合った。
ミカヅチに斬ってと頼んだ以上、その相手を殺したのは自分であり、自分は紛ごうことなき人殺しだ。
その罪と罰は必ず受けねばならない———この聖杯戦争に連れてこられる前からの彼女の生き方である。
(幼くありながら強い娘だ。いや...幼いからこそ、か)
ミカヅチの脳裏に過るのは、かつて戦友として肩を並べた漢の妹と、帝の後継者たる姫殿下。
彼女たちは幼いながらの未熟さはあったものの、過酷な運命に晒されることでそれぞれが強く成長した。
まだ価値観が定まっていない幼き時期だからこそ、素直に己の身に起きたことを反省・反芻できるからだろうか。
平和な時代に生きたメイがそうなったのを喜ばしいとは思わないが、しかし否定するつもりはない。
彼女の受け継いだ『強さ』にケチをつける必要がどこにあろうか。
「さて...寝る前に飴を仕込みにいくか」
屋台に並べるための飴に触れながら、少女の未来には、どうか覚悟が報われるようにと甘い幻想を抱く。
一方で。
主の安寧を望みつつも、己は武士(もののふ)として、死すならばあの漢のような死闘の果てでありたいとも願っている。
「...ククッ、死んでも性分というやつは変わらんらしいな」
未だに死合の熱に浮かされる己を笑いつつ、ミカヅチは明日の屋台に出す飴の製作に取り掛かるのだった。
【クラス】
セイバー
【真名】
ミカヅチ@うたわれるもの 二人の白皇
【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷B+ 魔力D 幸運D 宝具C
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:D(雷属性にはA)
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。ただし雷属性の魔術には耐性が大幅に上昇する。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
亜人:A
人間の身体に野生動物のDNAが組み込まれている。
そのため生体強化されており、人間よりも身体能力・生存能力が高い。
仮面の者:A
帝の作りし『仮面(アクルカ)』の使い手。
仮面を装着すると、身体能力や治癒力が向上する他、それぞれの仮面固有の特殊能力が行使できるようになる。
頑健:A
耐久のパラメータをランクアップさせ、攻撃を受けた際の被ダメージを減少させる。複合スキルであり、対毒スキルの能力も含まれている。
【宝具】
『仮面解放』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ: 最大捕捉:自身のみ
仮面の力を解放することで、攻撃に電撃属性が付与され身体能力が飛躍的に増幅する。
反面、持続時間はさほど長くない上に消耗が激しく多用はできない。
『仮面解放・真』
ランク:A+ 種別:対人宝具(自身) レンジ: 最大捕捉:自身のみ
仮面の力を全力で解放することで己の姿を巨大な二足歩行の竜に変化させる。
この形態の時は刀を失い、攻撃手段は殴打が中心となる。
例にもれず持続時間が短く消耗も激しい。
【人物背景】
ヤマト左近衛大将の官位を持つ武人。
帝より仮面(アクルカ)を賜った仮面の者(アクルトゥルカ)のひとり。身内に兄と母がいるほか、側用人にミルージュがいる。
強面で武を重んじる男なのだが、その顔付が怖すぎる故ヤマトの民から少々怖がられていることが多い。そのため普段は賑わっている市場も自分が歩いている時は途端に静まり返ってしまうため、プライベートでは飴屋の店主に変装して市街を見守っている。飴屋の老人として行動していると世間話ということで情報が飛び交ってくるので、色んな情報が入ってくる。
更に悪事を働くやつは自身を【飴屋】と侮って自慢げにべらべらと喋るので、それらを討伐するためにも役立っている。
【サーヴァントとしての願い】
メイを護り、邪悪な者を斬る。死すならば死闘の果てに死にたい。
【把握資料 ゲーム『うたわれるもの 偽りの仮面・二人の白皇』 本編。又は、TVアニメうたわれるもの偽りの仮面・二人の白皇】
【マスター】
天野メイ@職業・殺し屋
【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止める。もしも不可能であれば善良な人に取ってもらいたい。
【能力・技能】
無い。
【人物背景】
S・M・Wプロレス団体の社長の娘。父の仇を取る為に職業・殺し屋に依頼する。
父・天野和馬はシュートレスラーとして名を馳せたが、大金持ちであるイワノフ・ハシミコフの裏格闘技への抜擢を断ってからは金の力で貧困にまで追い立てられる。
和馬は愛する娘のため、プロレスラーとしての意地のため、イワノフ主催のロシアン・コンバットへ参戦するも敗退。絶対王者・グルガとの死合いで己の命が尽きるまで戦い続けた。
その姿はイワノフの脳髄にも刻まれ、その死合いの内容を聞かされた二人の殺し屋は、その姿に触発され闘争心を燃やす。
けれど、メイにはわからなかった。負けたって、父さんが無事ならそれでよかったのに。なんで止めさせてくれなかったのだろう。
その疑問の答えを知ったのは、殺し屋たちが依頼を完遂してからのことだった。
事件後は銃弾で撃たれた後遺症で下半身不随に。職業・殺し屋に頼めば治すこともできたが彼女はそれを拒否。
相手がどんな悪党であれ、殺人依頼したのは自分であり、人を殺した以上はその罰を受け、それでも生き抜いて克服することを決意する。
【参戦時期】
ロシアン・コンバット編終了後。ただし、参加するにあたり下半身不随は完治させられている。聖杯に願わずに元の世界に帰還した場合、また下半身不随に戻るだろう。
【把握資料】
漫画 職業・殺し屋 7〜9巻『ロシアン・コンバット』編
>>171 からの連投すいませんでした
続いて2作投下します。
こちらは他企画『Fate/Aeon』に投下した候補作を流用しています
お金は人を満たしてくれる。
金では買えないものがある...なんてわかったような口をきく奴らはごまんといるけどそんなものは嘘っぱち。
もってるやつらがそうロマンチックな響きに酔って嘯いているだけ。
お金がなくちゃなにかを食べることもできない。
人様の前に胸を張って出ることもできない。
「優しい」って色んな人から褒められる人も借金取りに縋りついて、唾をかけられ足蹴にされることしかできない。
人間を取り巻く衣食住はお金で成り立っている。
どんな幸せを求めるかは人の自由だけれど、幸せになりたいなら、どうしてもお金は必要なの。
だから...ねえ、なんで。
なんであんたはあの時、あの娘のタオルを取らなかったの?
☆
路地裏に肉を打つ音が響く。
プロレスラーを彷彿とさせる仮面を被った屈強な男の拳が、鎧をまとった男の胸板に叩き込まれる。
鎧の男の握りしめた鉄の拳が男の横っ面を殴り飛ばす。
ここで行われている演劇は試合―――否。
命を削り合い、命の灯火を燃やし合う様はまさに『死合い』。
互いの命果てるまで終わらぬ魂のやり取り。
血しぶきが舞い、男が壁に叩きつけられる。
鎧の男はトドメの追撃として、男の顔面目掛けて拳を突き出す―――それこそが、男の狙い。
プロレスラーは他の格闘技者よりも頑丈且つ受け身のプロ。
拳の着地点を微かにずらすことでダメージを軽減。
加えて、僅かに生じた緩みを活かし、懐に飛び込み、身体をぶつけ鎧の男の上体を崩す。
その隙に男は鎧の男の足を、肩を踏み台にして跳躍。
サルト・モルタル。
宙がえりした男は、雄叫びと共に鎧の男の頭部目掛けて飛び膝蹴りを放つ。
その鋼鉄のように硬く、そして強力な膝蹴りはまさに空駆ける馬の蹄。
『飛翔天馬・烈鋼弾(パンツァーペガサス)』
ゴキリと鈍い音が鳴る。
顔面が拉げる。
そして、勝敗は決した。
倒れ伏した鎧の男がその姿を空気に溶かしていく。
「あ...そ、そんなぁ...僕のサーヴァントがぁ...!」
眼鏡をかけた如何にも凡弱、という風貌の青年が悲痛な声を挙げて泣き叫ぶ。
そんな青年の肩に、彼女は手を置いた。
「ハイ、これで決着。どうする?残り少ない時間を精一杯生きるか、ここで死ぬか」
露出の多い服装の女―――間宮リナは、青年の耳元で妖艶に囁く。
青年は恐怖でガチガチと歯がかみ合わなくなり、全身を震わせながら地に額を擦りつけた。
土下座。完全敗北を認めた証である。
リナはぐにゃりと嗜虐的に口角を釣り上げ青年の頭を踏みつける。
気分がいい。
破滅した奴を見下ろすというのは。
その破滅を己の幸せの糧とするのは。
人間というものは、他者よりも己が上だと思える時が一番幸福感を抱けるのだと実感する。
リナは彼を見逃す代わりに携帯やクレジットカードといった生活必需品を押収し、さっさと失せなと青年の尻を蹴飛ばした。
「ふぅ...」
先ほどまでの機嫌の良さは成りを潜め、己の英霊へと目を移する。
そこにはもう彼の姿はなかった。
役を終えたレスラーは即刻退場するものだと言わんばかりの早さだ。
リナの引き当てたサーヴァントは少なくとも外れではない。
強さはある。
命令に従うだけの協調性もある。
余計なことを言わない寡黙さも気にならない。
しかし、それでもリナは彼を気に入ることはできなかった。
彼女は夢を見た。
一人の男と少女の夢を。
男はプロレスラーだった。
老若男女、みんなが元気な気持ちになれるようなプロレス団体を創りたい。
そんな地道でささやかな願いを叶えようとするただのプロレスラーだった。
だが、ソレは瞬く間に奪われた。
有無を言わさぬ、圧倒的な『カネ』の力で!
コツコツと築き上げてきた信頼。
プロレス団体を運営する上で必須の地方興行権。
彼以外の選手。
そして、生活に必要な金を得る権利さえも。
要求を一つ断った―――ただそれだけで、カネの力に全て奪われたのだ。
団体は消え、残されたのは彼と愛する娘、そして空しく光るチャンピオンベルトだけ。
そして彼は戦いのリングへ上がり、戦った。
娘の為に。受けた屈辱を晴らすために。
プロレスラーの意地と誇りをかけて、血で血を洗う裏格闘技試合・ロシアンコンバット―――彼らをここまで追い詰めた元凶のもとへ。
そして彼は戦い、勝ち抜き、ついには絶対王者に挑む権利まで手に入れた。
だが―――王者は圧倒的な強さを誇った。
鍛え上げたこちらの攻撃は通じず。
逆にこちらの身体は為す術なく破壊され。
誰が見ても勝敗は明らかだった。
命を、金を拾う術はいくらでもあった。
彼が負けを認めればそれでよし。
そうでなくとも、セコンドであった愛する娘がタオルを投げ入れればそれでよかった。
それだけで、王者には負けても、ファイトマネーはしっかりと払われ、娘と生きて幸せに暮らすことができた。
なのに。
彼はそれを拒んだ。
すぐそこに金があるのに拒み、死が迫っているのに前へと進んだ。
リナにはそれがわからなかった。
なぜ金をとらなかった。
なぜ幸せをとらなかった。
これではまるで、金よりも大事なものがあると言わんばかりではないか。
ただ、それだけならばさして気にならなかっただろう。
リナはそういったロマンチストを食い物にしてきた身なのだから。
それ以上に、彼女が気に入らないと思ったのは、娘のことだった。
彼は決して娘との仲が悪いわけではなく、むしろかなり良好だった。
なのに彼は金を、娘を捨てて戦いに挑んだ。
娘と共に幸せになる権利を投げ捨てた。
それが彼女は気に入らなかった。
貧困に苦しむ、片親の一人娘という環境に、自らの生い立ちを重ねずにはいられなかった。
(...ちょっと前まではこんなじゃなかったのになあ)
リナは思わずため息を吐く。
本当に、少し前まではそんなことはなかった。
騙す相手に娘がいようが構わず金を巻き上げ、破滅に陥ろうが知らんぷり。
むしろ騙される方が悪いと舌を出しているレベルだ。
なのに、身も知らぬ娘に想いを馳せるなどと甘っちょろいにもほどがある。
その原因はわかっている。
ここに連れてこられる前に、リナが金をだまし取ろうとしていた男の一人娘・竜宮レナ。
自分の本心を察し、余計な口を挟むなと脅しかけても目を逸らさず。
涙目になりながら彼女は言った。
「お母さんがいなくなったのは私のせい」「今度こそお父さんを護るんだ」...と。
その姿が幼少期の自分と重なり、もう彼女を不幸にするような真似をすることが出来なくなってしまった。
(だからって、やり方を改めることなんてしないけど)
それでもリナは幸せになりたいと願っている。
お金をたくさん手に入れて、あの頃のようなひもじい思いをしたくないと思っている。
自分は他人を利用する術しか知らないのも解っている。
(幸せの椅子は誰にも渡さないわ。だってそれが私、間宮リナだもの)
幸せになるためだったらなんでもやってやる。
ステージが変わってもやることはなにも変わらない。
私の人生は、私の私による私のための、幸せ目指すがんばり物語でしかないのだから。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
天野和馬(リングネーム:アイアンペガサス)@職業・殺し屋。
【ステータス】
筋力:C 耐久:A 敏捷:C 魔力:E 幸運:E 宝具:D
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
狂化:A
筋力と耐久が上昇するが、言語機能が単純化し、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。
【保有スキル】
頑健:B
自身の防御力アップ。
プロレスラーは打たれ強い。
血濡れの蛮勇:A
血で己の身体が真っ赤に染まったという、血生臭い逸話がスキルとなったもの。
敵を攻撃すればするほど攻撃力が向上するが、引き換えに防御力が下がっていく。
戦闘続行:A+
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
彼を動かすのはレスラーとしての、父親としての意地、何よりも深く濃い闘争本能―――そして、巨大で純粋な、狂おしいほどの殺人・破壊衝動。
【宝具】
『飛翔天馬 烈鋼弾(パンツァーペガサス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
アイアンペガサス必殺の跳び膝蹴り。
敵の身体を踏み台に跳躍し、敵の顔面目掛けて放つ技。
その威力は鋼鉄の身体を誇る男の顔に消えない傷をつけるほど強力。
【weapon】
無し。己の鍛え上げたレスラーとしての肉体のみ。
【人物背景】
S・M・Wプロレス団体の社長。
シュートレスラーとして名を馳せたが、大金持ちであるイワノフ・ハシミコフの裏格闘技への抜擢を断ってからは金の力で貧困にまで追い立てられる。
愛する娘のため、プロレスラーとしての意地のため、イワノフ主催のロシアン・コンバットへ参戦。
しかし死闘を繰り広げる中で、湧きあがる己の闘争本能を抑えられなくなり、絶対王者・グルガとの死合いでは己の命が尽きるまで戦い続けた。
その姿はイワノフの脳髄にも刻まれ、その死合いの内容を聞かされた二人の男はその姿に触発され闘争心を燃やす。
けれど、娘のメイにはわからなかった。負けたって、父さんが無事ならそれでよかったのに。なんで止めさせてくれなかったのだろう。
【把握資料】
漫画 職業・殺し屋 7〜9巻『ロシアン・コンバット』編
【サーヴァントとしての願い】
己の限界まで死合いを勝ち抜く。ただそれだけでいい。
【今の状態】
本能が理性を上回っており、戦いのみを求めるその姿はまさに本来の意味での狂戦士。
その為、意思疎通は難しく、戦闘をする時以外はマスターの前には滅多に出てこない。
【マスター】
間宮リナ(本名:間宮律子)@ひぐらしのなく頃に 巡
【マスターとしての願い】
幸せになる。その為ならば障害の排除も辞さない。
【能力・技能】
水商売で培ってきた、異性を垂らし込む話術。整った顔立ちと豊満な胸。
【人物背景】
園崎グループの店のホステス。幼少期は両親の離婚に伴う貧困生活で苦しんでおり、その反動かお金への執着が一際強い。
その為、美人局や詐欺といった下法な手段を取るのも辞さない小悪党染みた性格になった。
ある時、金をだまし取ろうとしていた竜宮家の男、その一人娘とのいがみ合いの際、彼女の流した涙と放った言葉に己の幼少期が重なってしまい動揺。
性根が変わった訳ではないが、以降は竜宮家から身を引くことに。
その数日後に竜宮レナに殺される運命にあったが、この聖杯戦争にはそれを知る前からの参戦となる。
【把握資料】
漫画 ひぐらしのなく頃に 巡 2巻
燃える、燃える。
島が、金が、命が燃えてゆく。
「い、嫌だ...」
私は震える喉で声を絞り出す。
死にたくない。
私はまだありあまる金を、バイカル湖から溢れんばかりの全ての金を使い切りたい。
だが、命乞いをしようとも奴らは、職業・殺し屋は止まらない。
当然だ。
殺しの権利を安く買いたたく逆オークション。そんなリスク無用の痴れ事に興じる奴らが、そんなことの為に命を賭けられる奴らが、金の力に惑わされるはずもない。
私の莫大な金の力が効かない奴らはまさに天敵としか言いようがない。
「イワノフぁぁぁ!!」
殺し屋の男が雄叫びと共に右の拳を振るう。
その時、私の見たものは...奴の右腕の枷に彫られていたのは、東洋の教典だったろうか。
そしてその瞬間、私は理解した。
これまで神ですら私を裁けないと思っていたが、それは間違いだった。
私は実は裁かれる者だったのだ―――そう、神(ポーフ)に。
そして、神はついに私の命を潰さんと目前にまで迫った。
☆
「クックククク....ハーハハハハハハッッッ!!!」
私は腹の底から愉快だと笑い声をあげる。
そう。あの時、私は神に裁かれるはずだった。
それがどうだ。あの恐ろしき殺し屋共は何処へと消え去り、私の命は繋がれ。
更には、戦いに勝ち残れば勝者の願いを叶える願望器まで手に入るというではないか。
「結局、神は屈したのだ。金の力に...このイワノフ・ハシミコフの力に!!」
やはり金こそが最強の矛であり盾である。
金さえ払えば、戦士だろうが女だろうが兵器だろうが土地だろうが、神羅万象地球上に存在する如何なるものでも手に入る。
金さえ積めば、殺人だろうが人身売買だろうが、如何な罪を犯そうとも赦される。
金さえあれば―――神すら、その前に頭を垂れる。
「私に聖杯とやらを直接渡さなかったのは、神であるためのせめてもの抵抗かもしれんが...なに、そこはソレ。すぐにでも貴様が金に屈したことを証明してやろう。
そうは思わんかね、アーチャー」
私は背後の英霊、アーチャーに嗤いかける。
「私は私の思い通りにならないやつらが大嫌いだ。その点、キミはわかりやすくていい。
英霊の身でありながら、御大層な大義名分ではなく金に従い金の為に戦う素晴らしい存在だ。お陰で交渉がつつがなく進んだというものだ」
「ま、ずっとそうやって生きてきたんでね。契約金分はしっかり働きますよ」
私は彼の肩に手を置きながら観察する。
私の言動にも顔色ひとつ変えず、己が金の走狗であるのを平然と肯定する。
その様子から、この男が根っからの傭兵であるのは容易に窺い知れた。
これはグルガ以上に『当たり』の駒かもしれない。
グルガ―――私が主催する裏格闘技トーナメント、ロシアン・コンバットの絶対王者を務めてきた男。
奴は強かった。私を良きパートナーと認識していたかはわからなかったが、牙を剥くこともなく私の見たい死合いを幾度も見せてくれた。
だが、奴の唯一の欠点は抑えが効かないこと。
一度本気になれば、命すら平然と奪うファイトスタイルは私の渇きを癒してくれたが、一方で命惜しさに奴を本気にさせまいとBook(イカサマ)をする闘技者が増えたのも事実。
もしも奴が英霊として呼ばれ、肝心な時にあの癖が発露してしまえば私自身にも危険が及ぶかもしれない。
奴に比べて、骨の髄まで傭兵であるこの男は、聖杯戦争を勝ち抜く上ではこれ以上なく心強い存在になるだろう。
徹頭徹尾金の関係であるため、金が切れればそこで終了してしまうだろうが、幸いにも私は大金持ち。
勝ち抜いた暁には百億だろうが千億だろうが一兆だろうが払うことができる。
そんな契約金を払えるマスターがどれほどいるだろうか?いや、いない。
このイワノフ・ハシミコフを差し置いて、いるはずもない。
「待っていろ神よ、そして職業・殺し屋どもよ!この戦いを勝ち残り示してくれようぞ!最強の力は私の金であることをな!!」
☆
「......」
何度目かわからないマスターの高笑いを眺めながらも、俺の心は一糸も乱れなかった。
平和ボケした連中はもちろん、そうでない奴から見てもこのイワノフ・ハシミコフという男が下衆であることには変わりないだろう。
だが、それがなんだ。
聖者だろうが愚者だろうが、人間は殺す時には誰だって殺す。
理想を掲げ。大義名分を掲げ。
それを成す為にに相手が邪魔だから排除する―――突き詰めればそれが全てだ。
そこに私情を挟めば目が濁り、心がどよめき、屍を晒すだけだ。
その点で言えば、金はわかりやすい。
命がけで捻りだした一億だろうが、片手間に払われる一億だろうがそこには何の差もない。
多い方が正義。感情が介入できない、ただそれだけのシンプルな強さだ。
己の力量と釣り合った金額を見極めれば、屍を晒すことなく人生を謳歌できる。
英霊となった身で人生云々を語るのもおかしな話かもしれないが。
とにもかくにも。
金の前には性格云々は何の意味もなさない。
欲っする金を払えるかどうか。余計な柵のないただそれだけの世界だ。
だから俺は雇い主が誰であろうと構わない。
公明正大を掲げ虐殺と餞別を繰り返す日陰者だろうが。
絶対女王制を掲げ弱者の拠り所となる使い捨ての英雄だろうが。
金食礼讃を謳う、人心掌握に長けた社長だろうが。
俺は俺の要求する金を払える奴の下に着くだけだ。
それは、英霊となった今も変わらない。
【クラス】
アーチャー
【真名】
火防 郷@血と灰の女王
【ステータス】
変身前 筋力:D 耐久:D 敏速:D 魔力:D 幸運:C 宝具:D
(変身時)筋力:B 耐久:B+ 敏捷:C(スラスター使用時はB) 魔力:C 幸運:C 宝具:B
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
単独行動:B
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
2日は現界可能(吸血鬼として人の血を吸えば期間を延ばせる)
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。
この英霊は特に炎の系統の魔力に対しての耐性が高い。
【保有スキル】
吸血鬼(ヴァンパイア):A
魔力を一定量消費し変身することができる。
伝承の吸血鬼とは異なり、日光を浴びても消滅することは無い。
また、霊核を傷つけるか破壊されない限り死ぬことは無い。
ただし、変身することができるのは夜のみである。
その為、昼は例え暗闇においても人間体のままでしか戦うことが出来ない。
死ぬと遺灰物(クレメイン)という手のひらサイズの心臓を遺し、それを食した英霊は一際強力な力を手に入れられる。
変身体:A
このアーチャーが変身した姿。
頭部からつま先まで纏われた燃え盛る鎧に、身体中に仕込んだナイフや銃や地雷など、近接においても遠距離においても十分な力を発揮できる。
また、身体から出る炎を利用して簡易的な陽炎を作り敵を惑わすこともできる。
沈着冷静:B
如何なる状況にあっても混乱せず、己の感情を殺して冷静に周囲を観察し、最適の戦術を導いてみせる。
精神系の効果への抵抗に対してプラス補正が与えられる。特に混乱や焦燥といった状態に対しては高い耐性を有する。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
長年の戦場で培ってきた観察眼と経験値は己の危険を的確に知らせてくれる。
【宝具】
『W・M・D(ウェポンズオブ・マス・ディストラクション)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ: 最大捕捉:100
変身体の時にのみ発動できる宝具。この宝具は一夜のうちに一度しか使えない。
数多の大砲やミサイルなどを一斉掃射することで敵を撃ち滅ぼす。
【weapon】
人間体の時は、傭兵の経験を活かし、銃火器やナイフの扱いに長ける。
【人物背景】
男。金の為に場所を問わず戦う傭兵。
一番新しい職業は食糧輸出会社・ゴールデンパーム。
表面上は気安い好漢だが、その裏では傭兵らしく非常に冷静沈着且つ冷徹。
人を殺すことに躊躇いがなく、如何な状況でも情に支配されることもない。
常に金の支払いの良い雇い主のもとに就いている。
容貌はゴリラに似ており、本人もわかりやすい容姿を売りの一つにしているのか、ゴリラと呼ばれてもまったく気にしていないどころか受け入れている。
その為、あだ名は「ゴリファイア」「火ゴリ」「ゴリさん」などゴリラにちなんだものが多い。
火山灰を浴びて吸血鬼となり、以降はゴールデンパーム社長:ユーベン・ペンバートンを王にするという契約のもと戦っている。
【サーヴァントとしての願い】
イワノフを生還させ、己も受肉し大金を貰う。
【把握資料】
漫画 血と灰の女王 6巻以降の登場。
現状の主な活躍は6、11、12、14、15、18巻が中心となる。
【マスター】
イワノフ・ハシミコフ@職業・殺し屋
【マスターとしての願い】
生還し、自分を殺そうとした職業・殺し屋たちを始末した後は思う存分に金を使い欲望を満たす。
【能力・技能】
莫大な金。金は力なり。
【人物背景】
ロシアの石油王。超が付くほどの大金持ち。
貧困で育った彼は、成り上がったことで絶大な自信と欲望を抱くようになる。
己の自己(エゴ)を見開かすのをなによりの愉しみとしており、己に逆らう者には容赦なく経済制裁をはじめとした罰を与え、なにがなんでも屈させようとするほどのエゴイスト。
その為、普段は紳士的な態度で接しているが、興奮すると後先が見えなくなり、重大な問題が起きても「金で解決すればいい」とかなり短絡的になる。
ロシアン・コンバットという裏格闘技大会に執心しており、己の金の力で創り上げた最強の闘士・グルガの力を通じてイワノフ自身の力を見せびらかすのを愉しみとしていた。
だが、プロレスラー:アイアン・ペガサスこと天野和馬を半ば強制的に参戦させ、死に至らしめたことで彼の命運が決まる。
天野和馬の娘、天野メイが敵討ちの為に、イワノフ自身が与えた20億の賞金で雇った職業・殺し屋の二人により、グルガとイワノフは激闘の末に命を断たれることに。
イワノフが縋った金の力も、約20億の依頼金を8万円で買い取った卑しい狂人共には通用しなかった。
【ロール】
超お金持ちの大富豪
【参戦時期】
赤松に顔面を砕かれる寸前。
【把握資料】
漫画 職業・殺し屋 7〜9巻『ロシアン・コンバット』編
投下を終了します
投下します
消える飛行機雲――――
僕たちは見送った――
――――――
観鈴、ゴールしたら――
もう、私――ゴー――
――――――
「はっ!」
目覚めたのは、冬木どこかのプレハブ小屋、少女、神尾観鈴は目覚めた…
(なんだろう…今の夢)
自分が体験したことのない、夢、彼が来てからのものとは、また違った物が――
そのとき、家のドアが開く音がした。
「マスター!今帰って来たぜ!」
陽気な声が部屋の中に響き渡る。
「!ライダーさん!」
サーヴァント、ライダー、ケーン・ワカバ、それが彼の名だ。
普段は精神的に幼い観鈴に代わり、彼が護衛と共に買い物などをこなすことがある。
「それで、ありました?」
「あいにく、言ってたやつはなかったから…そーれ!」
部屋の床に置かれるのは、大量の桃の飲料水、観鈴の好物の代わりに買ってきた物だ。
「無かったんだ…残念…」
「まぁ、そう落ち込むなって!必ず見つけ出してやるさ!そいつを!」
「約束ですからね、がおー!」
「おっとこいつはびっくり!マスターは恐竜だったか!ハハッ!」
「にはは」
彼女達の笑い声が、部屋にこだまする、しかし、まだ彼女達は知らない。
観鈴にかけられている呪いを、これから始まる、その一歩が、既に踏まれている事を。
【クラス】
ライダー
【真名】
ケーン・ワカバ@機甲戦記ドラグナー
【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力D 幸運C 宝具B+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:A−
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。
ここでは、ケーンがMAに乗る技術を指すため、MA以外の乗り物にはDランク相当となる
【保有スキル】
戦闘続行:C
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
仕切り直し:B
窮地から離脱する能力。
不利な状況から脱出する方法を瞬時に思い付くことができる。
加えて逃走に専念する場合、相手の追跡判定にペナルティを与える。
専属パイロット:B
ドラグナー一号機の専用パイロットとして選ばれた彼の付与されたスキル。
後述の宝具と併用して使われ、ステータスを一段階あげる
【宝具】
『XD-01(ドラグナー一号機)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:− 最大捕捉:−
対ギガノス軍用に、連邦軍が独自で作り上げたMA
通称「D兵器」の1つ。
中には女性AI、「クララ」を内蔵している。
また、会場が地上であるため、飛行ユニット、リフター1を装備した状態で召喚される。
『XD-SR01 D-1(ドラグナー一カスタム)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:− 最大捕捉:− 発動条件 宝具「XD-01」が破壊される
本来なら破壊される予定のドラグナー一号機を、開発者であるラング・プラート博士の鶴の一声で改造したもの。
装甲板やスラスターを最新の物に変更、武装を増強するなど、再び戦場で安定して戦える用再設計された。
【人物背景】
元々はコロニーに住む青年、お調子者だが熱い心を持つ
ひょんなことから友人たちと共にD兵器、ドラグナーに乗り込み戦うことになる。
中国重慶基地にてパイロット登録が解除されることから、除隊を進められるも拒否、職業軍人として変わらずギガノス軍と戦う事を決意する。
【サーヴァントとしての願い】
せっかく出し金銀財宝…と言いたいところだけど、幼いマスターを元の世界に返す事を優先する
【マスター】
神尾観鈴@AIR
【マスターとしての願い】
お母さんの元に帰る
【能力・技能】
誰かと「親しく」なろうとすると癇癪を起こしてしまう、ケーンとの間にそれは今だまだ未発生。
またトランプ遊び全般に精通
【人物背景】
とある「翼人」伝説が残る島に住む少女
年齢以上に幼い性格だが、人当たりがよい、しかし、前述の癇癪で友達のできなったところに、旅人、国崎住人と出会う。
しかし、その時から奇妙な夢を見るようになる。
投下終了です
>超人2023
自称超人のカヤが、正真正銘本物の超人を呼んでしまった結果がこれか……。
マスターを神力で自害させてあっさり勝ち星挙げてるのがまさに尊氏って感じで最悪ですね。
必死に理想と現実の均衡を保とうとするカヤの姿が痛々しすぎる。人の心。ありがとうございました。
>光の剣:闇を祓って
世界を滅ぼす道具として自ら消えることを選んだケイが、今度は自分の意志でどうなるか決めるという王道のIF。
そんな彼女に対してあてがわれたサーヴァントがまさに「闇を祓う」五条悟なのが素晴らしく綺麗です。
こういう展開、個人的にメチャクチャ好きなんですよね……。ありがとうございました。
>熱き鼓動の果てに
スピード感溢れる展開の中で描写されるそれぞれのキャラクターの味が良かったです。
血腥く、それでいて刃の鈍い輝きを思わせるような覚悟が今後の暴れぶりを予期させてくれるようでワクワクしますね。
聖杯戦争打倒を掲げて動き出す熱い古道の行方が気になるお話でした。ありがとうございました。
>それがあなたの幸せとしても
マスターの人選、そいつ!? と驚かされたのはひとまず置いておくとして……。
あくまでも幸せの椅子を守るために行動するリナの思考がらしいと思うと同時に、
令和になって彼女のキャラ性もアップデートされているのを強く感じましたね。ありがとうございました。
>地獄の沙汰も
金への執着を共通点にした主従のおぞましいまでの狂気が真に迫って描かれていたなと。
この舞台に来てまで求めるのがそれというのは俗っぽいんですが、突き詰めればそれも立派な刃なんですよね。
相性は色んな意味で大変良さそうなので、純粋に順風満帆な戦いが出来そうだ。ありがとうございました。
>夢の詩
切ない終わりの先に出たのがこの世界というのがなんとも儚い。
主従間でのやり取りの微笑ましさがまたそこに拍車をかけているように感じました。
幸い引きは悪くなさそうなので、あとはどう転ぶかといったところでしょうか。ありがとうございました。
沢山のご投下、この度もありがとうございました!
候補話を投下します。
◆
願いは一つ。
自分という人間がここにいた証を、皆の記憶に焼き付けたかった。
少女には、生まれ持った天賦の才能があった。
神童と褒めそやされて周囲の期待を一身に受け、彼女自身己の強さに幼いながらも一端の自負を持っていた。
しかし天が人に差し向ける運命と云うのは、時にどんな悪意よりも残酷で無慈悲なものだ。
神は少女に才能を与えて微笑むと同時に、彼女へ辛苦をけしかけ嗤ってもいたのだ。
不治の病。癒えぬ業病。薬石効なく日に日に弱っていく身体、削られていく未来。
日が昇るたびに命の衰えを自覚する。
生命という太陽が傾いていき、視界の果てまで広がっている筈の空が闇に喰われていくのが分かる。
……結局、少女は己が身を蝕む運命から逃れることは出来なかった。
どんなに見ないふりをしても、病は着実にこの身体を食い荒らしていく。
足を止めれば、もっと長く生きることも出来たのかもしれない。
剣を棄てれば、彼女が愛した日常の中で幸せのままに朽ちていく未来もあったのかもしれない。
けれどその選択は少女にとっては、自ら腹を切るのと何も変わらない“死”に他ならなかった。
生きたい、ではない。
少女の願いは、刻み付けること。
自分がここにいた証。
ここにいて、戦っていた証。
自分は凄い人間で、とても強くて、ここで剣を振るっていたのだと大好きな人達の記憶に永遠に自己の存在を刻み付けたかった。
血を吐き、衰えながら。人生の残り時間が急速にすり減っていくのを誰よりも間近で感じながら、少女は駆け抜け続けた。
その小さな身体が朽ちて動かなくなる瞬間まで、少女は歩んだ。
彼女は――生きたのだ。生きて、生きて、生きて、生きて……生き切ったのだ。
――そんな一人の刀使の結末を冒涜するように、一枚の“黒い羽”が少女の遺体に触れた。
◆
一目見たその瞬間に、燕結芽は全てを理解した。
この男だけは是が非でも、この命に代えてでも討たなければならないとそう悟った。
上下に左右、あらゆる法則や位相が狂った異様な空間の中で佇み、自分を見据える男がいた。
墨で塗ったような黒髪に、世界のどこでだろうと絶世の美男として持て囃されること請け合いの端正な人相。
だが結芽は騙されなかった。彼が宿す美に誑かされることなく、男の本質をごく端的に見抜くことに成功した。
燕結芽は刀使(とじ)である。
御刀から神力を引き出して、人を脅かす荒魂の討伐を担っていた。
曲がりなりにも神性に触れ、その力を引き出し己が一部として振るったことのある身だからか。
それとも荒ぶる魂を……存在するだけで人に仇をなす、そういう存在と日夜果たし合ってきたからなのか。
正確なところは彼女自身にさえ定かではなかったが、今自分の前に立っているこの男が決して許してはならない巨悪であるということだけは明確に理解出来た。
今までに戦ってきたどんな荒魂とも格が違う。比較することそのものが不適当に思えてくるほどの存在感と――怖気が立つほどの邪悪さを放ちながら立つその男に、結芽はこんな印象を抱いた。
これは鬼だ。人を傷付けることしか知らない、相容れるなんて決して出来ないそういう存在だ。
だから倒さねばならない。これを生かしておくようでは、刀使が存在する意味がない。
剣を抜け、一歩を踏み出せ。鍛えに鍛えたこの一刀でその首を刎ねて地獄に落とせ。
勇ましく猛りあげる刀使としての使命感とは裏腹に、しかし身体は微動だにすらせず黙ってその鬼を見つめていた。
「皮肉なものだ。よりによってこの私が……鬼狩りの剣士に招かれるとはな」
声の一つにすら、底の知れない圧力が伴って感じられる。
比喩でなく大気そのものが震えるような錯覚を抱きながら、結芽は刀を抜いた。
振るう御刀の銘はニッカリ青江。扱う流派の名は天然理心流。
病んだ身体を圧して鍛えに鍛えた技は、誰が相手であろうと必ず届く。
どんな荒魂であろうと斬り伏せて、この存在を世界に刻む為の礎にすることが出来る。
負けるなんてあり得ない。
仕損じるなんてことは、絶対にない。
そんな自負を結芽は確かに抱いていた――彼女はきっとこの世の誰よりも、自分の努力と強さを信じていた。
今、この瞬間までは。
「止めておけ。力の差も分からないのか?」
その言葉に、縫い止められたかのように足が止まった。
何をどうやっても動かない。こんなことは初めてのことで、耐え難いほどに屈辱だった。
どんな荒魂を相手にしても、怯え一つ抱くことのなかった自分が――動けなくなっている。
言葉の一つで足を止めてしまっている。いや、それだけではない。
結芽は既に理解していた。自分が何故、足を止めてしまったのか……その理由は必ずしも、相手が自分などでは及びも付かないほどの力を有したモノであるからというわけではないのだと。
「とはいえ愚問か。無理、無謀、愚かしさ――どれもお前達の習性だ。
腹に穴が空いた程度で死に腐る脆弱な生命体の分際で、想いだ何だと訳の分からない理屈を唱えながら不合理な突撃を繰り返す。
黙って慎ましく暮らしていれば天命程度は生きられるだろうに、一時の癇癪に身を任せて自らそれを投げ出して何やら悦に浸りながら死んでいく。極めて不可解、理解不能の狂気だ。
馬鹿という言葉ですら生微温い、狂人の理屈だと言わざるを得ん」
「……ずいぶん、詳しいんだね」
「当然だろう。私はかつて、その狂気を前に滅ぼされた」
使命に殉じる覚悟がなくて刀使は務まらない。
鬼狩りという言葉に結芽は覚えがなかったが、しかし今目の前の男が触れた剣士の集団が自分の知る彼女達と同等か、もしくはそれ以上の苛烈さを宿した存在だということは伝わってきた。
……なんて、皮肉だろうか。
刀使として生き、しかしその領分を超えて“遺す”ことに執着して死んだ自分が。
自分の知る彼女達の延長線のような剣士達に滅ぼされたと云う、この邪悪な鬼を呼び寄せてしまうなんて。
「燕結芽。私はお前の夢を見た」
その言葉を受けて結芽が覚えたのは、屈辱にさえ足を突っ込んだ感情だった。
こんな男に……こんな悪鬼に、自分の生き様を盗み見られるなんて。
私は、お前の為に生きたわけじゃない。
血反吐を噛んで、泥に塗れて転げ回って――這いずるように生き続けてきたんじゃない。
吐き捨てるように顔を歪めた結芽には目もくれず、鬼は喋り続ける。
そして全く以って最悪なことに、その言葉は単なる邪悪の一人喋りに留まらず少女の心に毒牙を届かせてしまうのだ。
「病に塗れて生きることの意味は知っている。あれに勝る屈辱は、私の知る限りこの世に一つたりともない」
「ッ――知った風な口で喋らないでよ。あなたに、あなたなんかに、私の何が――!」
「分かるとも。私もまた……お前と同じ生まれ損ないだった」
燕結芽の人生が順風満帆だった時間は、決して長くはない。
才覚を発揮し始めて程なくして、結芽は自分の身体が業病に蝕まれていることを知った。
それは死の病。あらゆる才能も、努力も。未来も展望も、何もかもを嗤いながら奪い去っていく絶望だった。
剣を振るうのがどれだけ上手くたって闘病の上では何の関係もありはしなかった。
一日に何度剣を振ろうが、昨日出来なかったことが新たに出来るようになろうが、吐く血の量と衰えていく身体の調子は変わらない。
あれを前にしてはどんな天才だって抜け殻になってしまうと、結芽は断言することだって出来る。
「荼毘に付される寸前で死ぬ思いで産声をあげ、物心も付く前から“生きる”事に執着していた。
そうでなければ生きられなかったからだ。私は私である為に、凡そあらゆる意志を常に燃やし続けることを強いられた」
この男は、許してはならない巨悪だ。
強さを求め、自分の存在を刻むことばかりを追い求めていた結芽の姿はきっと刀使としては褒められたものではなかっただろう。
しかしそんな彼女でも、これの姿を一目見た瞬間に思ったのだ――こいつは殺さなくちゃダメだ、と。
こいつがのさばることを許せば、きっと許した時間の分だけ誰かの幸せが犠牲になる。
だからすぐにでも討たなければならない。刀使として、この命に代えてでも斃さなければならない。
そう分かっているのに、結芽の身体は相変わらず微動だにしないまま。
それどころか……結芽は男の言葉に共感さえ覚えてしまっていた。
何故なら、知っているからだ。
正気ではとてもではないが耐えられない、すり減るばかりの日々。
苦痛ばかりが積み重なっていき、かと言って報われることなど一向にない深い深い絶望の毎日。
燕結芽は、そう生きることの重さを知っている。
だから男の言葉を悪人の戯言と笑い飛ばすことも出来なかった。
「私は生きる為に全ての手を尽くした。人であることを辞めても、それは変わらない。
一日でも長く……一刻でも、一秒でも長くこの世に己が存在を刻み続けるのだと吠えていた」
「……その為なら、誰を犠牲にしてもいいって?」
「当然だ。この世に私よりも尊い存在はいない。
千年ほど生きたが、この命を長らえさせることよりも優先すべき存在など一人たりとも現れはしなかった。
伴侶、友、血を分けた実子、競争相手、宿敵……色々居たがな。それでも私にとって最上の価値を持つ者は、この私自身を除いて他には居なかった。誰一人としてだ」
一緒にしないで、と――言おうとして言葉に詰まった。
本当に? と、自問する声があったからだ。
それは他でもない、まぎれもない自分自身の声だった。
「しかし私はそれを罪とは思わない。“生きる”ことは、この常世に存在する全ての生物にとっての至上命題だ。
自分の為に生きて何が悪い。他人を慮ることだけが正しい人生の形だというのなら、生まれながらに死に取り憑かれていた人間は黙って死ねと云うのか」
“もうおしまいかぁ……まだ全然足りないのに……”
“もっとすごい私を……みんなに焼き付けたいのに……なんにもいらないから……”
“覚えていてくれてれば…それでいいんだよ……”
「私は今際の際にあっても、そう憤り続けた。
結果的に念願叶わずこの身は滅んだが……しかし得たものは一つある」
「……それは、何?」
「人間の想いは不滅で、たとえ一個体で果たすことが出来なくとも……誰かに託して後に繋げるのだということだ」
その悟りは、この化物にはあまりにも似合わない清らかなものに思えた。
人は誰も一人では生きられない。一人だけで完結している生命体など、この世には存在しない。
「志半ばで果てることを恥じる必要はない。その心を嗣ぐ誰かが生き残っているのなら、死さえもいつかは意味を持つのだ」
「――嫌だよ、そんなの」
奇妙奇怪な光景に、結芽は何の冗談でもなく吐き気をすら催していた。
眼前で何か得たような顔で説法を説いてくるこの男から感じるものは、鼻腔が機能しなくなるほどの死の臭いばかりだ。
決してこの世に生存することを許してはならない、荒魂ですら霞むほど人類にとって害悪でしかない存在――そんな手合いが人間の意思の可能性について滔々と説いている様は、まるで葉の裏にびっしりと貼り付いた虫の卵を見てしまったように背筋を粟立たせてくる。
しかし、結芽が忠告を無視して彼の首筋に御刀を突き付けた理由はそこではなかった。
男の説く高尚な死生論。それは結芽にとって、それこそ吐き気のするような綺麗事にしか聞こえなかったからだ。
「私の志(こころ)は私だけのもの。私は……誰かに託すために努力してきたわけじゃない」
最初から死にたいと思いながら生きる人間なんていない。
少なくとも、燕結芽はそうではなかった。
闘病は辛かったし、病床でただ無力を抱きながら見送る四季は心も身体も擦り減らせたが、それでも結芽の心には常に生きたいという渇望があった。
それでも生きられないというのなら、せめて証を残そうと考えた。
自分という存在を誰もが目に焼き付けて、未来永劫永久に忘れないような生き様を見せる――魅せる。
それこそが幼い刀使にとっての“生きる意味”。
道半ばで死んだとしても、誰かが志を継いでくれるなら無意味などではないと嘯く鬼の説法は断じて受け容れられるものではない。
「私は……私のために、生きたんだ。他の誰かのためなんかじゃない!」
大事なのはどう生きたか。そしてその姿が、自分のいなくなった世界にどれだけ燦然と残り続けるか。
自分の生涯が、血の滲むような頑張りが……報われる“いつか”だなんて待っていられない。
だから少女は欲深く生きた。ひた走るスプリンターのように最期の最期まで走り続けた。
そんな彼女が息を切らしながら吠えた言葉に、悪鬼が反目することはしかしなく。
「私もそうだ」
「ッ」
「好きなように生きた。私は常に私のために生き続け、人を殺し、屍と怨嗟の山岳を築き続けたとも。
その生き様を悔いた試しは一度だとてない。……私が遺した想いは、あいにくと繋がれず終いで終わってしまったが」
「……そうまでして、生きたかったの?」
「お前は、そうではなかったのか?」
「そんなわけ――ないでしょ」
自分だって、許されるなら生きていたかった。
それが叶わないから走り出しただけだ。現実と折り合いをつけてせめて未来を見据えただけ。
生きたくないだなんて、思えるわけがない。
どんなに辛くて理不尽でも、結芽はあの世界が好きだった。
自分の周りにある日常が、一緒にいると楽しいと思えるあの人達のことが好きだった。
「私とお前は同じだ」
「知った風な、ことを――」
「燕結芽。お前は選ばねばならない」
自分の存在を皆の記憶に刻み込むだなんて、そんなの妥協の賜物だ。
本当の願いはいつだって、結芽の心の中で消えかけの蝋燭のように物寂しく点滅を繰り返していた。
その切なる、最期まで拾い上げられることのなかった願いに悪魔の指が触れる。
「此処で私に殺されて死ぬか」
それが――彼女にとっての新たな運命の始まりだった。
「私の手を取って、人として生きるか」
……男は、荒魂ではない。
彼は人として生まれ、塵のように死に腐る筈の運命を跳ね除けて世にその名を刻み続けた忌まわしき生命体だ。
“鬼”という生き物がいる。
彼らは人を喰う。日光を嫌い、夜の内にだけ歩き回って人肉を貪る。
不滅の肉体と恐るべき異能を持ち、誰かの幸福を糧にすることでしか生きられない虚しい生き物。
男は、その首魁だった。
始祖。全ての悲劇の始まりとなった、最初の一体であった。
「私の手を取れ、燕結芽。誰に届くこともなく消えた私の想いを……時空さえ超えて拾い上げた、我が無念の“その先”よ」
男の名は、無惨。鬼舞辻無惨。
地中深くへと逆さに伸びる無限の城に一人座す暗夜の王が、幼い刀使に手を差し伸べる。
「お前は生きるべきだ。この私と共に」
人の想いは不滅。受け継がれ、時に形を変え、連々と繋がれていく。
……それがたとえ、どんな形であろうとも。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
鬼舞辻無惨@鬼滅の刃
【ステータス】
筋力:A 耐久:EX 敏捷:A+ 魔力:D 幸運:E 宝具:C
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
狂化:EX
ステータス上の恩恵はないが、Aランクまでの精神に対する干渉をシャットアウトする。
人よりも昆虫に近い精神構造を持つ。意思疎通は出来るが基本的に共感は得られない。
【保有スキル】
鬼:EX
人外のルーツを持つ広義の“鬼”ではなく、他者から呼称されることでそう当て嵌められた存在。
バーサーカーは一つの神話体系ならぬ鬼種体系の根源である。
異常な再生能力や各種変態能力を持つが、日光に触れた場合霊基が崩壊し始める。
また、バーサーカーは自分自身の血を他人の体内に混ぜることでその生物を自身と同じ生態の鬼に変化させることが出来る。
鬼にされた者は同スキルを個々の才能に応じたランクで取得するが、同時にバーサーカーによる絶対的な支配を受ける。
行動は常に監視され、バーサーカーの意思一つで命を奪われる。いわば血の首輪で繋がれた奴隷と化してしまう。
鬼種の魔:A+
鬼の異能および魔性を表すスキル。
鬼やその混血以外は取得できない。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出等との混合スキル。バーサーカーの場合は“衝撃波”。
逃走行動:B+
バーサーカーは生存への異常な執着を持っている。
彼が何かから逃走する際、その成功値を格段に上昇させる。
生前の彼にこのスキルを当て嵌めるならランクはA+。
今は“死ぬこと”が持つ意味を理解してしまったためランクが低下している。
擬態:B
無力な人間に擬態する。
サーヴァントとしてのステータスや気配を隠匿し、自身の招待を悟らせない。
ただし嗅覚を始めとした各種感覚が並外れて鋭敏な者を前にした場合、見破られる可能性がある。
【宝具】
『鬼月の夜』
ランク:E 種別:結界宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1〜1000
日の落ちた夜に外を出歩いてはならない。鬼に出遭ってしまうから。
鬼の狩場である夜を再現した結界を展開する宝具。固有結界ほどの強度は持たない。
この結界の内側では昼夜の概念が夜に固定され、時間経過でそれが終わることもない。
『無限城』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1〜1000 最大捕捉:1〜1000
正確には彼ではなく、彼に仕えていたある鬼が持っていた異能。もとい、それによって形成されていた巨大な地下空間。
地下深くへと聳える逆さの城で、内部は時間も空間も狂っている。
所構わず無数の鬼が配備されており、更に今は空間や内装を組み替える権限もバーサーカーに一任されている為難攻不落さは生前よりも上がっている。外からは探知不能の、悪鬼の本丸。
【人物背景】
平安時代にある善良な医者の手によって誕生した、誕生してしまった最初の鬼。
受け継がれる人の想いによって滅ぼされたが、此処に再臨を遂げた。
一度死んだこと、そして今際の際に悟った“受け継ぐ価値”によって多少気性が落ち着いている。
……とはいえその本質も、その願いも依然変わってはいない。
彼は今も生きることに全てを懸けていて、その為に何もかもを足蹴に出来る巨悪である。
【サーヴァントとしての願い】
再び現世に受肉して新たに生きる。
その願いを燕結芽に託し、聖杯戦争を制覇する心算。
【マスター】
燕結芽@刀使ノ巫女
【マスターとしての願い】
もう一度生きたい。
【能力・技能】
刀使としての圧倒的な才能と、鍛錬に裏打ちされた巧みな剣技。
御刀『ニッカリ青江』をこの世界でも所持しており、これは神性を帯びた刀である為、結芽の斬撃はサーヴァントにも届く。
【人物背景】
折神家親衛隊の第四席。
齢十二という幼さでありながら、親衛隊の中でも屈指の実力を持つ天才少女。
その身体は不治の病に冒されており、それが原因で志半ばで命を落とした。
この世界では一度死に、肉体がデータ化されたことで病の進行は完全に止まっている。
死の淵に貧しながら触れた“黒い羽”に誘われて、この冬木市の土を踏んだ。
投下終了です。
投下します
――冬木市、コンビニ。
たまたまだろう、かなり大物そうな男性が現れた。
黒いスーツに、目にはアイパッチ、そして見ただけでわかる威圧感。
「…12番と13番をくれ。」
店員は急いで店棚のタバコを2箱取る。
「感謝する。」
男はタバコを直接受け取り、外に出た。
夕焼け空、コンビニの壁に寄りかかり、火をつける。
「…やはり市販物は、あまり好きではない…いつものの方がいいが…ここにはあいにくそれがない…」
煙を蒸しながら空見ていた、その時だった。
(…マスター…なに!?学校付近で襲撃された!?ええい!まっとれ!今向かう!)
タバコを灰皿に押し付け、高速の如く走り出す。
「ええい!だからワシが護衛をしようとしたものを!」
――――――――
学校付近、少女、奴村露乃は走り抜ける。
原因は学校出て一人になった頃だった、帰路についている途中に感じた殺気、案の定、サーヴァントの者だった。
(油断した…ランサーには連絡したけどいつまで持つか…)
明らかに自分の持久力では持たない――なら。
「だったら、これを!」
スマートフォンを取り出し、ボタンを押す。
その時、時間が止まった、比喩ではなく、そのままの意味で。
(後は走り…きゃっ!)
突然足が止まる、何かと思い見てみると。
(あ、足枷!?)
先程のサーヴァント、バーサーカーが投擲してきたものだろう、しっかりと足に足枷がついていたのだ。
「この…!時間が…!」
抵抗虚しく、時が再び動き出す。
「うへぇ…マスター、この子、食っていいんだよね?」
「おういいぜ、存分に楽しみな。」
気持ち悪い会話を繰り広げる敵、逃げ場が無かった。
(こんな…ところで…!)
――――――――
夕日に黒いのスーツが照らされる、次の刹那、バーサーカーが強烈な衝撃に襲われる。
「ゆぴっ!?」
「だから言ったのだ、ワシがついていたほうが良いとな!」
「えぇ…今回ばかりは選択ミスだった…助かったわ、ランサー…」
露乃のサーヴァント、ランサー、衝撃のアルベルト。
「さぁ来ないのか化物!このワシに一撃でも与えてい見るがいい!」
「うぅ…おでの食事を邪魔するなぁー!」
敵のバーサーカーが一気に詰め寄ってくる。
しかし、臆せず、それどころか堂々と、ランサーは平手を突き出す。
気づいたときには、バーサーカーは土手っ腹に巨大な穴を開けられていた。
「ぴ…ぴぎゅ…」
その場に倒れ、消えて行く、そのまま、目線がマスターに移る。
「いや!待ってくれ!出来心だったんだ…!」
「どうする、マスター。」
「…人間のクズに生きる価値は無いわ…やりなさい。」
「ふっ…そう来ると思ったわ!」
「いや!やだ!ギャァァァ!」
――――――――
二人は戦闘後、川を見ながら佇んでいた。
「悪かったわね、あなたの言う通りにすべきだったわ。」
「下校中はある程度一人になる時間が出てくるからな、あれほど警戒を怠るなといったものを。」
「その通りね、すこし、甘く見すぎたわ。」
互いに川を離れ、歩いていく。
「でも、負けるつもりは毛頭無いわ、それはわかってるわよね?」
「フン、そんなの鼻から理解しているわ!」
戦いの篝火は、あげられた。
【クラス】
ランサー
【真名】
衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE
ANIMATION -地球が静止する日
【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具C+
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
勇猛:A+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
千里眼:B
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
さらに高いランクでは、未来視さえ可能とする。
ランサークラスだが、衝撃波が遠距離にも放てる事から保有した。
心眼(真):D
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
愛煙家:C
葉巻を常備していた事からついたスキル。
ふかしている間は、体力が微量だが回復する。
【宝具】
『ALBERTO THE IMPACT』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜20m 最大捕捉:1人
自身の名を関した宝具。
自身の主武装、衝撃波を最大限まで高め、それを相手へと打ち込む技。
また最大補足は一人だが、衝撃波の影響次第で周りにダメージを与えることも可能。
【weapon】
衝撃波
【人物背景】
秘密結社、BF団の幹部、十傑集が一角。
プライドの高い戦闘狂であり、策などを使うのではなく、どんな相手でも正面きっての戦いを望み、勇敢で強いものには敬意をはらう。
かつて、国際警察機構との戦いの際、盟友、眩惑のセルバンテスを討った、九大天王、神行太保・戴宗とは敵でもあり、なおかつその強さから好敵手でもある。
【サーヴァントとしての願い】
ビッグ・ファイア様の野望の達成
【マスター】
奴村露乃@魔法少女サイト
【マスターとしての願い】
あの子達のの下へ帰る
【能力・技能】
「魔法少女サイト」より与えられたステッキを所持、特殊能力を使用する代わりに、体の一部から出血する。
露乃の場合、スマートフォン型のステッキで効果は時間停止、また、出血部は口から。
【人物背景】
魔法少女サイトに選ばれた少女の一人。
魔法少女になった朝霧彩を先導者として手ほどきする。
魔法少女になった理由は「復讐」、家族を殺された恨みから犯人である強盗を拉致、拷問漬けにしていたが、彩と雫目さりなとの戦闘で殺害されてしまう。
その後、自宅のマンションが倒壊したのを気に彩の家へ居候することになる。
そして、別の魔法少女サイトに登録した魔法少女達と共に、管理人に挑むことになるが…
投下終了です
候補作を投下します。
◆
愛する人を失った世界には、どんな色の花が咲くだろう
――Sound Horizon『恋人を射ち堕とした日』
◆
『ひなは、わたしたちを永遠にしてくれる?』
◆
この世界で生きることは辛かった。
それをあの世界と比べることは、したくなかった。
……その結果として弾き出された答えはきっと、花邑ひなこにとって分かりきったもので。
だからこそそれを直視してしまったなら、自分の心はきっと酷く痛むだろう確信があったからだ。
「……あいちゃん」
電脳空間上に構築された都市世界『冬木市』。
此処では、ひなこが暮らすために必要なあらゆる設定が用意されていた。
新しい学校。新しい環境。まったく知らないはずの日常だというのに、何故だか頭の中にはそれを生きていくための知識がもう入っている。
何もかも忘れて此処で暮らしていけたなら、きっとひなこにとっては一番幸せであるに違いない。
此処には決して激しい幸福はない。けれどその代わりに、彼女の心を無遠慮に蝕むひび割れの音もまた存在しないのだ。
ずっと、狂ったふりをしていた。
そうでもしないと自分を保てなかったから。
本当はとっくの昔に疲れてしまってた。
だけど今更彼女なしで生きることなんか考えられないから、痛みを訴える心に狂気という名の絆創膏をべたべたと貼り付けた。
かわいくて格好よかった“あの子”が日増しに壊れていくのを見るのが、どうしようもなくつらかった。
あまりにつらすぎるから心は防衛反応として倒錯の方へとひた走り、そうして気付けば何もかもがどうにもならなくなってしまってた。
花邑ひなこと瀬崎愛吏の物語の終わりに言葉を当てるなら、それはきっと“行き止まり”だ。
そっちに道があるわけもないのに、見たくない現実から目を背けながら歩き続けたその末路。
嫌なものを嫌と言い続けながら、ただ二人手を繋いで破滅の方に向かうだけの旅。
これはきっと、神様の気まぐれだ。
ひなこはそう思う。分かるのだ、自分はきっとあの時死んでしまったのだと。
愛吏の首を絞めて彼女を終わらせ、一人その骸を背負って雪の中を彷徨って……
何もかも間違えてしまった自分を哀れんで、神様が手を差し伸べてくれた。
あの“黒い羽”は自分にとっての蜘蛛の糸だったのだと、ひなこはそう思う。
もう頑張らなくていいんだよ。もう苦しまなくていいんだよ――そんな慈悲を感じずにはいられなかった。
そのくらい、この世界で生きるのは……愛する人のいない世界で生きるのは楽だったから。
此処ではもう、壊れていく彼女の世話をする必要はない。
善意でやったことを曲解されて怒鳴りつけられることもないし、両親に心配をかけることもない。
学校にだって普通に通えるし、将来に不安を抱いて眠れない夜を過ごすこともない。
お互いの心の違いを感じては枕を濡らして、声が枯れるほど泣きじゃくることだってないのだ。
それはひなこにとって、間違いなく幸せなことだった。
もっと早くそのことに気付ければ、その道を選べていたならば、ああして死ぬこともなかっただろう。
自分が死んだ後、あの世界はどうなったのだろうと時々考えてしまう。
自分がやったことは、程なくして明るみに出たに違いない。
愛吏の命を奪ったこと。手塩にかけてきた娘が人を殺して、挙句自分も死んでしまったと知った両親はどれほど悲しんだろうか。
……自分達がやったのはそういうことだ。彼女達はいつだって、自分達の幸せのために誰かに迷惑をかけてきた。
放課後の理科準備室で秘密の遊びに興じていた頃から最期の日まで、ずっと。
「私は、あいちゃんと」
花邑ひなこは、瀬崎愛吏という人間を死でもってしか幸せにすることが出来なかった。
彼女達の見ている幸福の定義は似ているようで、しかし決して噛み合わない。
割れ鍋に綴じ蓋という言葉があるが、彼女達の場合はその真逆だった。
鍋の形と蓋の形が合っていないのだから、収まるべきところなんてあるわけがない。
以上をもって、ひなこは自分達の愛の物語に結論を出した。
暗い部屋。毎日通い詰めたあの部屋のようにカーテンの閉め切られた、どこにも希望なんて存在しない箱の中で、少女は自分の“愛”を始末する。
「出会わなければ……」
気分はあの時とそっくりそのまま同じだった。
逃避行の果て、電気の消えたベッドの上で愛する人の首に手をかけたあの時と同じ。
ひなこは、かつての幕引きをなぞるように心の中の手に力を込める。
美しくて汚い愛の細首を縊る。それこそがお互いにとって何よりの正解だったのだと、そう信じて手のひらの中の宝石を砕こうとする。
「捨ててしまうのか。“それ”を」
そんな時、一人きりの部屋の中に低く響いた声があった。
びくんと身体を跳ねさせて、ひなこは声の方へと視線を向ける。
つい今の今まで、確かに自分以外には誰もいなかった筈の部屋の中に、いる筈のない人影があった。
白羽織を纏う優男だった。怜悧に細められた目は神経質そうな印象を与え、小綺麗な身なりは潔癖の二文字を連想させる。
年頃の少女の部屋に突如見知らぬ男が現れるというシチュエーション。それは危機的以外の何物でもないのだが、男の放つ雰囲気があまりにも欲だの下心だのといった浮ついたものとはかけ離れていたから、ひなこはそんなことは一切考え付かなかった。
寧ろあるのは納得。そして、どうして今になって……という疑問だった。
花邑ひなこもまた、“黒い羽”に触れてこの世界に招かれたマスターの一人だ。
“Holy Grail War”――聖杯戦争。願いを叶えるための戦いに招集された、神へ至る権利を持つ者。
であるにも関わらず、ひなこは冬木市にやって来て数日が経つ今の今まで自分のサーヴァントと顔を合わせてさえいなかった。
「疑問に思うのは尤もだし、今君が抱いている疑問(それ)に関しては完全にこちらの身勝手の賜物だ」
「……わざと、出てこないでいたってことですか?」
「君を観察していた。現世の人間と深く関わるのは久方振りでな……あわよくば何か得るものがないかと期待してそうしていたのは否定出来ない」
危なくなればすぐにでも助けに入るつもりだったが、と付け足す男に、ひなこは不思議と怒りを覚えはしなかった。
ほぼ初対面と言っていい間柄であるにも関わらず、彼がこう言うからには本当に万全の備えがされていたのだろう、そう感じられたからだ。
逆にひなこにとって気になったのは、彼が自分の前に姿を見せることなく潜伏し続けていた理由の方。より正しくは――その奇矯な行動が生んだ結果だった。
「えっと……」
「セイバー。真名は別にあるが、基本の呼び名はこちらを使え」
「……じゃあ、セイバーさん。あなたは――そうやって私を観察して、どうだったんですか?」
「誹謗の意図はないことを先に断っておく。その上で言わせて貰うなら、大した成果はなかったと言う他ない」
まあ、そうだろうなとひなこ自身そう思う。
そもそも自分は、聖杯戦争だとかサーヴァントだとか、そういう漫画じみた概念が飛び交う世界で暮らしていた人間ではない。
だからこの世界でやることだって、ただ普通に暮らして学校に行って、明日の準備をして時間が来たら布団に入る。その程度のものでしかなかった。
そんな彼女に対し、セイバーは淡々と観察の結果を並べ立てていく。
「君はとても凡庸だ。身体能力もその行動も、私の想像の範疇を超えるものは一つとしてなかった」
「……あはは。ですよね」
「重ねて言うが、それを悪いことだと罵るつもりは毛頭ない。寧ろ君の凡庸さは、現世を生きる人間のあり方として実に健全だ。虚(ホロウ)や尸魂界(ソウル・ソサエティ)絡みの荒事に進んで首を突っ込む奴はごく限られた例外だし、君に彼らのようになってほしいとは私は思わないよ」
「ほ、ほろ……? そうる、そさ……?」
「ああ――失敬。つい死神(こちら)の感覚で話してしまったな。どちらにせよ、この世界では恐らく無用の知識だ。気にしなくていい。
とにかく、私が君を一通り見て思ったことはそんなところだ。……尤も、強いて一つ非凡と感じたところを挙げるならば」
なんか、見た目通りの人だなあ……。
ひなこは捲し立てる相手に引き攣り気味の愛想笑いを返しながら、心の中でそんなことを思う。
しかし続く言葉は、たじたじになっているひなこの心に沈み込む杭となった。
「君は、それを捨てないものだと思っていた」
「…………っ!」
「覗き見るつもりはなかったのだが、サーヴァントとマスターというのは時折精神の深い段階で通じ合ってしまうものらしい。
君が此処に来る前に辿った末路を、私は知っている。下世話を承知で打ち明けさせて貰うなら、サーヴァントの役目を半ば放棄してまで君を観測しようと考えた理由もそれだ。
あの結末を辿った君が何を選ぶのか興味が湧いた。そして、どうせ選ぶなら君が己で決めるべきだと思った」
ああ、やっぱりこの人は優秀だ。
優秀すぎると言ってもいい。
……セイバーは自身の興味を晴らすのと並行して、ひなこの選択を待ったのだ。
異能の力が飛び交う鉄火場どころか、血の一滴垂れただけで特異な出来事になってしまうような平々凡々たる日常を生きてきた少女が――聖杯戦争の中において何を指針にするのか。彼女自身に選ばせるべきだと、そう判断したらしい。
ましてやひなこの場合、此処までの経緯が経緯だ。
“捨てる”のか、“捨てない”のか。その決断次第で彼女の未来は百八十度変わる。
「後で後悔されても困る。最後にどうするか決めるのは君だが、確認だけはさせて貰うつもりだった」
「どうして私が、あの子のこと――あいちゃんのこと、捨てないって」
「何故だろうな。強いて言うなら、君は剣を握れる人間に見えたからだ」
「剣……?」
「目の前に、立ち向かわねばならない苦難がある。しかしそれはあまりに恐ろしい。直視するだけで身が竦み、手足が震え、涙が溢れてくる。
しかし自分が戦わなければ……剣を握って駆け出さなければ、自分の誰より大切な人がこの上なく苦痛に満ちた死を遂げることになる」
セイバーは、語りながらどこか遠いところを見るような眼をしていた。
ややもするとそれは、彼にとって実際に体験したことのある記憶の反芻だったのかもしれない。
――だとすれば彼は、果たしてどちらだったのだろう。剣を握れる人間か、それとも握れない人間か。
「君はそういう時、剣を握れる人間だと思った」
「……違う。違うよ、私は……そんな、出来た人間じゃない」
「君が言うならそうかもしれない。あくまでも私が個人的に抱いた印象だ。君の人間性を断言する言葉ではない」
ひなこは想像する。
どうしてだかその光景は、いやに鮮明に脳裏に描くことが出来た。
暗くて狭くて、一呼吸しただけで鼻の奥にまで匂いがこびり付いて離れなくなりそうなほどの“死”の香りが満ちた文字通りのどん底。
目の前には恐ろしい化物が涎を垂らしながら、先に殺された人達の骸を咀嚼していて……残っているのは自分と彼女だけ。
自分の後ろにいる人間を彼女に設定することに疑問は抱かなかった。迷いも、なかった。
花邑ひなこにとって“大切な人”と言えば、真っ先に浮かぶのはいつだって瀬崎愛吏だ。
自分に愛を注ぎ此処まで育ててくれた、厳しくも優しい両親さえ飛び越して、“あいちゃん”の笑顔が脳裏に浮かぶ。
足元には、一本の剣が落ちている。
自分がこれを握らなければ、きっと直に二人揃って殺されてしまうだろう。
化物が、ひなこの方を見ている。
心臓が壊れそうなくらい激しく鼓動を鳴らして、歯の根は噛み合わず音を鳴らし、足は竦んで震えている。
怖い。怖くて怖くて仕方がない。頭がおかしくなりそうなほど怖いのに刻限はすぐそこまで迫っていて、もう選べる時間は残りわずかだ。
「選ぶのは君だ。死神の私が、生者の歩みを恣意に歪めるなど許されない」
後ろを振り向けばきっとそこには、あの時のように怯えた愛吏の姿があるのだと確信する。
ちょうどこの部屋と同じように暗くて狭い、カーテンの閉め切られた部屋の中で……毎日怯えていたあの子。
一緒に海で入水を図った時、死にたくないと絶叫して泣きじゃくった彼女の姿が見えてしまう。
足元には、一本の剣が落ちている。選べる時間は、あとわずかしかない。
――選ばなければならない。
「…………ただ、先達として一つ忠告するとすれば」
セイバーは独り言のように、言った。
いや、実際彼にとってはそのつもりだったのかもしれない。
今ひなこが思考の中で立たされている“その光景”を知る、先達の彼にとっては。
「一度捨てたものを拾い直すのは、存外に骨が折れるぞ」
その言葉に、ひなこははっとした。
それだけの重みがある言葉だった。
振り向くつもりのなかった後ろを、振り返る。
そこで怯えた顔をして自分を見つめる、大好きな人の顔を見て……自分が捨てようとしていたものの重みを、ひなこは理解した。
いや、違う。
ずっと分かっていた。分からない筈がないのだ、その重さが。
重さの分かりもしないものの為に、自分の人生を投げ出してしまえるわけがない。
答えなんて最初から出ていた。なのに、見ないようにしていただけ。
その重さを抱えて生きることの苦しさを嫌というほど知っているから、狂いそうになるほど感じてきたから、もう一度手を伸ばすことを躊躇っていただけなのだとひなこは他でもない自分自身によって突き付けられる。
剣を、拾う――そして握り締める。でもあと一歩、敵に向かって踏み出す最初の一歩が出ていかない。
「私、だって……」
気付けばひなこは叫んでいた。
心の中にあった、全てのメッキを自ら捨ててそうしていた。
「私だって……捨てたくなんてない! 捨てたいなんて思うわけないでしょ、私が……あいちゃんのことを!」
誰が好き好んで、愛し合った人のことを捨てたいと思うものか。
願いは何か。そう問いかけられたのなら、ひなこの中に浮かぶ答えは一つだ。
幸せになりたい。今度こそ、あいちゃんと二人で幸せになりたい。
死んだりしなくたって手に入れられる安らかな永遠の中を、二人手を繋いで歩んでいきたい。
でも願うことと、それを叶えることとではまるで話が違う。
条件反射のように弾き出した本音の願いを現実のものとして叶える為に、どれほど苦しい想いをしなければならないのか、ひなこは知っていた。
「でも、こわいよ……好きでいるのは、痛いから。苦しくて、好きなのにときどき憎くて、心も身体も、割れそうになる……」
聖杯戦争に勝つことがどれほど大変なことなのか、ひなこには正確なところは分からない。
それでも、大人に捕まらないように子供二人で当てのない逃避行をするよりもずっと難しいであろうことは想像がついた。
ひなこが知る限り、人生で一番つらい時間だったあれよりも格段に苦しい戦いが始まる。
その中で、この重たくて痛い愛を抱き続けることがどれほど難しいことか。考えただけで気が狂いそうだった。
弱りに弱った心。すり減るばかりだった少女の心が、つい傾いでしまったことを責められる者はいないだろう。
このセイバーにすらそれは出来ない。花邑ひなこが経験したのは、どれほど小さな世界の話だったとしても――紛れもない一つの地獄であったから。
「捨てたくない……」
捨てたくないのだ。
でも、怖い。
この愛さえ霞んでしまうほどの恐怖で、魂が竦んでいる。
「あいちゃんと、ずっと一緒にいたい……。
この手で剣を握って、あいちゃんの手を掴んで、走り出したい……!」
「惰弱だな。そんなことでは死ぬだけだ」
少女が絞り出した本当の気持ちを、冷たく一蹴する。
暴力的なまでの無慈悲な正論は、しかし真理を突いていた。
剣を握るだけ握って踏み出したいと乞い願ったところで、目の前の現実が変革されることはない。
結局のところ、選んだ人間が駆け出さないことには何も始まらないのだ。
その点、花邑ひなこはどこまで行ってもセイバーの私見通り、歳相応の平凡な少女でしかなかったが。
「しかし」
が――
「今は私が君の剣だ。君が剣を握ることを選んだのならば、敵を斬る役は私が担おう」
思考の内側。
剣を拾い上げて震え、立ち尽くす少女の前で。
牙を覗かせる恐ろしい怪物が、運命の道を塞ぐ虚ろが、切り刻まれて血風に変わった。
これが本当に“彼”の経験した処刑場の再演だったなら、ひなこは死んでいただろう。
しかしこれは聖杯戦争。戦でこそあれど、自ら剣を振るわねばならない質の鉄火場ではない。
彼女に求められていたのは剣を握ること。足元に転がるそれを、震えに打ち勝って握り締めることまで。
そこまで出来たのなら、目の前に立ち塞がる虚ろを切り裂くのは――剣(かれ)の役目だ。
「問おう。我がマスター、無力なる者よ。
吹けば飛ぶようなか細い魂でありながら、剣を握って慟哭した人間よ」
……これまで、花邑ひなこは孤独だった。
たった一人で傷付き壊れゆく愛吏を守り、助けてこなければならなかった。
彼女は一人で戦っていたのだ。だから当然として、彼女は現実に勝てなかった。
願った未来は夢想のままに終わって、逃げ込んだ先はふたりきりの永遠への旅路。
それが正しいのか間違いなのか、救いなのかそうでないのかを決め付ける論拠はこの世界に存在しないが。
ただ一つ確かなことは、此処での彼女は孤独ではないこと。
傷付き続けた少女の前に立ち、代わりに剣を振るう一つの影が存在すること。
「――君の願いは、何だ」
英霊が問う。
死神が問う。
何を願う、と。
生か。
それとも。
その問いに対する答えは、やはり決まっていた。
「…………幸せになりたい」
一度、放り捨てようとしたその感情はいつの間にかまた懐に収まっていた。
やっぱり無理だ。これを捨てるなんて、なかったことにするなんて出来るわけがない。
すすり泣きながら、ひなこはその感情――“愛”のままに云う。
「あいちゃんと、幸せになりたい」
吐露されたそれを受けて、死神はただ頷いた。
その動作はまるで機械のようであったが、彼の人となりについて少しでも知る者なら決してそうは思わない筈だ。
何故なら彼は無駄を嫌うから。合理を愛し、贅肉を疎う。そういう死神なのだ、この男は。
その彼が取る言動として、此処までのそれはあまりにもらしくない。
彼もまた、かつては孤独だった。
一人きりで戦い続け、挑み続けていた。
「了解した。では我が剣、我が魂、全てを用いて君の願いを叶えよう」
愛など抱いた試しはなかったが。
後悔を背負うことの重さについてなら、先達を名乗れる。
「サーヴァント・セイバー。真名を“痣城双也”――未だ到らぬ大逆人だが全霊を尽くすと誓う」
男の真名は痣城双也。最強を意味する名から解放され、新たに旅に出た無間の住人。
今この瞬間も旅の途中にある――尸魂界の大逆人である。
◆
「キハハハ! らしくない! らしくないねえ! あんまり似合わなすぎて爆笑が止まらなかったよ! 笑い死にさせるつもりかよ、この!!」
「……黙れ。喚くな、『雨露柘榴』。耳に響く」
「こりゃ失敬! でもあんまり面白いんだもん、ちょっとくらい許してよ! キハハハッ!
いやあ、いやあいやあいやあいやあ! 悪名高き痣城双也も丸くなったもんだねえ! キハハハハヒヒヒヒヒ!!」
痣城双也は大逆人であり、かつては異なる名前で呼ばれていた。
尸魂界は護廷十三隊にて“最強”を意味する名――『剣八』。
彼はその八代目だ。いや、正確には“だった”と云うべきだろう。
痣城が罪人として牢獄の最下層に投獄されたことで『剣八』の座は空座となり、強制的な代替わりが行われた。
表向きにはその時点で既に、痣城は八代目の座を追われていたのだったが。
今となっては名実共に『剣八』の名は彼の心を離れ、故に痣城は『剣八』ではなく双也として此処に現界している。
完膚なきまでの敗北をもって、宙吊りになっていた八代目の幕切れは遂に成されたのだ。痣城を蝕んでいた憑き物もろともに。
「選ぶのは君だ、とか。死神が生者の歩みを恣意に歪めるなど許されない、とか。
偉そうなこと言っといて、アンタ思いっきり背中押してんだもん!
ツッコミ待ちかと思ったよ、いやていうか実際めちゃくちゃツッコんじゃったし! キヒヒヒ!」
「そのつもりはなかったが……お前にはそう見えたか?」
「逆にそう以外どう見るってのさ、あんなの! なになに、アンタって意外とああいう子がタイプなの? ひゃ〜意外!」
「その手の欲まで拾い直したつもりはないな」
「キハハハ、どうだか! 捨てたってツラして実は隠し持ってました、ってのはアンタの十八番だからな!!」
――痣城双也は二度目の大逆を諦め、再び無間へと戻った。
そこで彼はある天才の生み出した薬を飲み、百年とも千年とも付かない久遠の旅路へと歩み出した。
そして痣城は、今もその旅の只中にいる。
要するに彼は死んでいないのだ。
サーヴァントとしてこの冬木に召喚されていながら、死んでいない。彼の存在は今も無間の闇の中に囚われ続けている。
尸魂界、瀞霊廷、そして無間という特異な空間の三拍子。超人薬の服用による時間感覚の狂乱。痣城を囲む様々な特異性が如何なる作用をしたのか正確なところは分からないが、彼には無限にも思える引き伸ばされた体感時間の中で、確かに一枚の“黒い羽”に触れた記憶があった。
電脳世界のバグが痣城を此処に招き寄せた。が、流石に彼のような規格外をマスターとして放り込むわけにはいかなかったのだろう。
帳尻合わせの結果がこれなのだろうと、痣城は冷静に自分の置かれている境遇を分析していた。
「……別に、そう特別な理由があったわけではない。あの娘が剣を握れる人間だと感じたのも事実だ」
「ふぅん。本当にそれだけ? ねえねえ」
「そうだな。それ以外に強いて理由を探すならば……」
とはいえ痣城の望みとは、超人薬を服用してまで赴いた長旅の目的そのものだ。
聖杯などという横紙破りに頼って叶えてしまっては意味がない。
神の如き力とやらに全く興味がないと言えば嘘になるが、あくまでもそれは二の次。今の痣城にとって大切なのは、自分がこれまで不要なものだと断じて切り離し、捨ててきたものを拾い集めることの方だった。
だが、寄り道だろうと意味があるに越したことはない。
痣城が花邑ひなこという無力な少女を焚き付けるような真似をしたのは、きっとそんな理由だったのだろう。
「……もう一度、人間の輝きが生む力というものを見てみたくなったのかもしれないな」
「キハハハ! なるほどねえ! そっかそっか、前回は敵として味わうだけだったもんね。次はあわよくば味方でってことか!」
「尤も、“彼”と“彼女”はあまりにかけ離れている。サーヴァントとしての役目はちゃんと果たすさ」
痣城を力で打ち負かしたのは、十一代目の『剣八』だ。
しかし痣城が敗れたのは、彼だけではない。
とあるちっぽけな人間の存在もまた、痣城の中には燦然と刻み込まれていた。
「ま、いいさ。しっかりやんなよ『セイバー』。だらしないことしてたら容赦なく笑ってやるからね」
「言われなくてもそのつもりだ。仕事に対して真摯に取り組むのは、私の数少ない美点だからな」
「キハハハ! よく云うよ大逆人が! 冗句を云うなんてアンタらしくない無駄じゃない、いつの間に拾い直したのさ!」
人間は、時に定められた運命をさえも覆す。
人の想いにはそれだけの力があることを、痣城は知っている。
それを踏まえて、彼は少女の剣として戦うことを決めた。
かつて剣を握れず、そしてあまりに多くのものを捨ててしまった先達として。
剣を握り、大事なものを懐にしまい直したちっぽけな少女の背中を、痣城は静かに押すのだった。
【クラス】
セイバー
【真名】
痣城双也@BLEACH Spirits Are Forever With You
【ステータス】
筋力:E 耐久:EX 敏捷:EX 魔力:A 幸運:D 宝具:A+
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
【保有スキル】
鬼道:A+
死神が自らの霊力と霊圧を用いて行使する術。
相手を直接攻撃する『破道』と防御・束縛・伝達などを行う『縛道』に二種類が存在する。
セイバーは高位の術も行使することの出来る技量を持ち、更に後述する宝具との兼ね合いもあって脅威度は非常に高い。
死神:B
広義における死神ではなく、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の守護を請け負う存在の名称。
悪霊及びそれに準ずる存在に対する攻撃判定にプラス補正を受ける。
セイバーの場合、自らの行いで投獄されているためランクが落ちている。
『剣八』:- (元はAランク)
護廷十三隊最凶の戦闘集団・十一番隊の隊長を務めた者に与えられる称号。・・・
それが意味するのは“最強”の肩書であり、セイバーは八代目の『剣八』であった。
今や彼はこの名前から解放されている。
単独顕現:E
例外として英霊の座ではない地点から単体で電脳世界に出現したサーヴァント、その証。
とはいえ、単独顕現が持つ“即死耐性”“魅了耐性”を備えている。
【宝具】
『雨露柘榴(うろざくろ)』
ランク:A 種別:対人/対軍/対城宝具 レンジ:1〜10000 最大補足:1〜10000
セイバーの振るう斬魄刀。通常、斬魄刀には始解と卍解の二つの形態が存在するが、セイバーは例外的に常時の卍解状態にある。
物質と融合し、融合した対象と自らを同化させて支配することが出来る。
霊子レベルの超細密な操作まで可能であり、融合範囲内で起こった事象の全ては常にセイバーによって知覚され、また同範囲内の如何なる空間にも瞬間移動で出現出来るなど万能と言っていい性能を誇る。
平時セイバーは空気と融合しており、これによりほぼ全ての攻撃を素通りさせている。
生物と融合するのも可能だが、拒絶反応による反動が激しく使うセイバーは基本的にこの使用法に頼らない。
更に支配可能な範囲も非常に広大であり、生前には計算上日本の国土に迫るサイズになる都市『瀞霊廷』の全域と融合していた。
前述の通り事実上万能の性能を持つ宝具だが弱点も存在し、一つは卍解の使用中セイバーは世界そのものと融合している為“魂魄が固定され変化しない”。即ち鍛錬や成長で自己を鍛え上げることが完全に不可能である。
実際、セイバーはこの宝具の能力を取り除いて見た場合、単なる見てくれ通りの優男でしかない。
そして霊子そのものを吸収する攻撃には非常に弱く、融合範囲で使用された場合、その攻撃による痛手を魂魄全体に数十倍の規模で受けるという絶大な被害を被る。
また奥の手として、『雨露柘榴』を始解状態にあえて戻すというものがある。
この際、融合した霊子を凝縮することで極めて絶大な攻撃力を取り出すことが可能。
その威力は対城宝具の域にさえ達するが、代償としてその後卍解を一年間使用出来なくなってしまう。
聖杯戦争では魔力さえ賄えれば再度の卍解使用も不可能ではないだろうが、しかし要求される魔力量は令呪三画を費やしてもまるで足りないほど莫大な為、やはり現実的とは言い難い。
【weapon】
『雨露柘榴』
【人物背景】
元・護廷十三隊十一番隊隊長。八代目『剣八』。
本名を痣城双也と云う。
誰よりも死神の使命に忠実で、それ故に道を踏み外してしまった合理の男。
本来、痣城剣八は現在も尸魂界の牢獄『無間』に収監されている。
しかし“黒い羽”と云うイレギュラーに触れたことで、例外的な単独顕現を果たして花邑ひなこのサーヴァントとなった。
その為彼の旅はまだ終わっていない。彼は今も、今まで捨ててきたものを拾い直す旅路の途中にある。
【サーヴァントとしての願い】
願望器に代行して貰うような願いはない。
ただ、この戦いが少しでも己の何かを埋めることを望む。
【マスター】
花邑ひなこ@きたない君がいちばんかわいい
【マスターとしての願い】
やり直したい。あいちゃんと幸せになりたい
【能力・技能】
基本的に年齢相応。ただし運動神経は人よりも鈍い。
“ある少女”に対する、深い愛情と執着を飼っている。
【人物背景】
苦しみの中でひたすらに悩み続け、それでも最期まで寄り添うことを選んだ少女。
投下終了です。
投下します
「聖杯戦争───英霊をサーヴァントとして使役し、そのマスターとなった魔術師達による、聖杯という願望機の奪い合い。
分かりやすく言えば殺し合いだな」
私はアーチャー、その名の通り弓兵のサーヴァントだ。
「非常に信じがたいが、あらゆる異世界を巻き込み、そしてこの完全に孤立した異界である偽りの冬木の中で行われる大規模な聖杯戦争、マスターも魔術師に限らず異世界の異能を持つ超越者も居れば、きみのような一般人まで問答無用で争わせる。
冬木市を完全に再現しかつ支障がないほどに稼働させ、そこの住人を模したNPCすらもほぼ本物に人間に相違ない程に精巧。
まさしく、あらゆる願いを叶える願望機ならではだ」
真名は……無銘とでも名乗ればいいのだろうか……いささか変わり種の英霊ということになる。
「……少し、話がそれてしまったな。
酷なことではあるが、マスター、君は選ばねばならない。
望む望まないに関わらず、いずれ戦火は君の元へも及ぶだろう。
本来は監督役が存在し、相応には監視され管理されてはいる筈なのだが、どうやらそういった手合いの者は現状では不在らしい以上、リタイアも許されない。
今の予選を生き残ってから、ノコノコとそれらしき者が現れたとしても、今更聞き入れてくれるとも限らない。
故に選択肢は戦うか、戦わずに負ける。つまり、死ぬかになるだろう」
そんな変わり種を引き当てたマスターもまた変わり者のようだ。
「……」
体躯は小柄な女性だ。合わせたように顔も幼さが残る童顔だった。
不安なのか、顔をうつ向かせ僅かに震えていた。
「迷っているのか?
……無理もないだろう。良ければ厨房を貸してもらえれば、お茶でも淹れよう。
少し、落ち着いて考えても罰は当たるまい」
「せい……? はい、せん……そう……? ……そん、な……」
彼女は見たところ、魔術師の類ではない。平穏な日常から、殺伐した血みどろの殺し合いへと放り込まれ、理解が追い付ていないのだろうか。
聖杯を望むのであれば、そのようなマスターは足手纏いでしかない。戦う意思のないマスターなど、聖杯に託す願いを持つサーヴァントからすれば邪魔なだけだ。
だが、私は彼女のその戸惑う姿に、少しの同情と好感を得ていた。
少なくとも、人を殺せと言われて、それを躊躇い迷うことが出来る善なるマスターに召喚されたことに、安堵もしていたのかもしれない。
とはいえ、幸先は不安しかないがね。なんにせよ、苦労する羽目にはなりそうだ。
「……はっ!? 貴方は一体何者!?」
「ん?」
名乗り遅れたか? 召喚された直後、アーチャーのサーヴァントとは名乗った筈だが……。
「アーチャーのサーヴァントと言ったはずだがマスター?」
「ます、たー……?」
何故、そこで首を捻る?
何故、きょとんとした顔をする?
話しただろう。マスターがサーヴァントを召喚して、聖杯を求め戦うと。
「……覚えていないのか? さっきの話を」
「 ? アタシは橙ッス」
「名前は聞いてないが。
……いや待て、聖杯から聖杯戦争のルールや知識は教えられたはずだ!?
私の説明など聞かずとも……」
「せ、い……はい……?」
「忘れた、のか……どうやって……?」
初めて悟ったよ。
願望機にも限界はあるのだな。
───この後、もう一度懇切丁寧に聖杯戦争の説明をした。
そして彼女の身の上もある程度聞き出した。
私のマスター、 篠月橙は裏バイトなるものを行い、生計を立てていたようだ。裏という文字が表す通り、破格の報酬の反面、表には出せないようなリスクの高い仕事をこなしていたらしい。
彼女の話を伺う限り、何かしらの異形や悪霊、怪異に纏わる仕事が大半を占めていた。本人はあまり意識していないというか、気付いていないというか、なんでさ?
人を捕食する怪物など序の口で、見るだけで不可避の死を決定させる怪異など、最早災害に近い。
1日で、数十万から数百万程度のギャラを貰えるようだが、割に合わない。
そういった仲介屋から仕事を斡旋されているらしいが、真っ当に職安に向かい求人を漁るのが1番効率的かつ、安全な金稼ぎの方法だろう。
橙は友人に騙され背負わされた借金の返済の為に、その裏バイトに身を投じているようだが、正気の沙汰ではない。
「ます…た……?」
そして、頭が悪いということが、よくよく分かった。
「……サーヴァント?」
なるほど、ひらがなからカタカナにシフト出来たな。ようやくだ。
「聖杯、マスター、サーヴァント……ここまではいいか?」
「……………せい、はい……?」
おやおや、漢字変換はまだのようだな。
「ああ、それがあると願いが叶う」
「願いが……叶う……? それって、密造してたけど腐ったワインも元に戻せるんスか!?」
「神の子も水をワインに変えたという逸話がある。可能だろう」
まず先に借金を返せ。
「つまり、ワインを元に戻すには……聖杯がいる……?
サーヴァントは……マスターの奴隷で、アーチャーさんはアタシの下僕? ブヒャヒャヒャ!!」
この笑い、ちょっとムカつぞ。
「誠に遺憾だがね」
「い、かん……? まことさん? いかんのですか?」
皮肉が通じないのは強いな。ここでマスターとサーヴァントの格付けがすんだということか?
これは参ったよ。はっはははは。
「ところでアーチャーさん、この人、友達ッスか?」
「なに」
橙がクローゼットを開けるとハゲの男が頬に痣を作って、気絶していた。
腕を見ると見知った刺青がある。…マスターだよこれ。
こんな奴をクローゼットに仕舞うな。獲物を隠すヒグマかお前は。
「帰ったら部屋に居たんスよ。自分、元ボクサーなんで殺意に反応して、つい……」
ということは、近くにサーヴァントが居るということか!?
「橙! 警戒しろ! 戦闘になるぞ!!」
「───!!? 待ってください! 非常食のヒマワリの種を持ってくるッス!」」
「携帯(けいたい)ではなく、警戒(けいかい) だ!」
流石の橙もはっとした顔をして、大急ぎでヒマワリの種をボリボリ頬張りながら私の前方へと回る。
そして腕を横に手を添えて、ビシッとくの字に曲げて胸を張っていた。
「……何を、している?」
「先頭ッス」
【クラス】
アーチャー
【真名】
エミヤ@Fateシリーズ
【属性】
中立・中庸
【ステータス】
筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:D(橙がマスターのお陰で微妙に上がっている) 宝具:??
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
魔術:C-
オーソドックスな魔術を習得。
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
【宝具】
『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』
ランク:E〜A++ 種別:??? レンジ:??? 最大補足:???
アーチャーの固有結界、本来は宝具ではないが、彼の象徴ということで宝具扱いに。
剣に特化した能力で、一部の例外を除けば剣を投影し、その担い手の技量まで再現する。ただし、本物の剣や担い手に比べれば数段劣る。
固有結界を現実に形成することも可能。
【weapon】
『干将・莫耶』
無限の剣製の基本運用として、干将・莫耶を投影し白兵戦を行うのがメイン。
『弓』
弓も投影できる。これが本職。
『偽・螺旋剣』
本家の宝具と違いアーチャーのアレンジの入った投影。
矢にして射る事もある。
『赤原猟犬』
追尾する矢として打ったりする。
『熾天覆う七つの円環』
アーチャーの防御装備。
投擲武器や使い手から離れた武器に対し無敵という概念を持つ。
『その他』
色々投影できる。
【人物背景】
ご存じ、Fateシリーズ最初のアーチャー。
人々を救うために世界と契約した「抑止の守護者」。
全てを救うという理想を求め、そして己の理想にすら裏切られ絶望した衛宮士郎の未来の可能性。
【サーヴァントとしての願い】
マスターの身を守る。あと聖杯戦争も覚えて欲しい。
【マスター】
篠月橙@裏バイト:逃亡禁止
【マスターとしての願い】
コーラとピザポテ欲しいスね。
【能力・技能】
脳みそモンキー、元ボクサー。
ドカコーラを作れる。
【人物背景】
アタシは橙ッス。
投下終了します
投下します
『つまり、「アリス」。貴女は――』
『この世界を滅ぼすために生まれた「魔王」なのよ』
◆
悲鳴。惨劇。怒号。絶望。
血飛沫、絶望、呆然。
「あ、ああ………」
千切れ飛ぶ複数の英霊の身体。マスターの身体。
私(アリス)を助けようと、名前も知らない誰かを助けようとする、まるで憧れの勇者のような彼ら彼女ら。
でも、全てが無意味で、虚しい事。
あれには勝てない。遍く奇跡すら踏み躙る悪いバケモノ。
自分(アリス)が呼び出してしまったものは、勇者ですら勝てない裏ボス。
「あああ……」
私(アリス)は、ただ嗚咽を垂れ流して見ることしか出来なくて。
私(アリス)は、悪い神様を止める手段なんてなくて。
私(アリス)は、勇者たちがただ無意味に倒れていく姿を見ることしか出来なかった。
助ける、と言う選択肢はなかった。
選びたかったけど、私(アリス)は魔王だから。勇者じゃないから。
助ける資格なんて、最初からなかったから。
友達に刃を向けるような悪い子は、勇者なんかじゃないから。
それでも、手を伸ばしてくれる、諦めないで。
そんな勇者に、アリスはなりたかった。
最後まで諦めずに、立ち上がって、魔王を倒す。そんな勇者になりたかった。
その手を取って、「助けて」って叫びたかった。
――誰が俺の所有物に触れていいと許可した?
アリスの前で、そんな勇者が赤いものになって飛び散りました。
もう、それは何も喋ってくれません。
アリスの身体い、赤い液体だけがこびり付いてました。
アリスが魔王であることを、突きつけるように。
ふと、傍を見たら、誰かの首だけが残っていました。
アリスの事を、憎んでいるように見えました。
でも、仕方ないことです。アリスは、魔王です。
勇者には、なれません。――もう、二度と。
『オマエがいるから―――』
そう、言われた気がしました。
そう、聞こえた気がしました。
呪いみたいに、いつまでも、そんな声だけが。
代わる代わる、声色だけが変わり続けて。アリスの頭の中でぐるぐると。
アリスはもう、みんなの所には戻れないです。
☆
『やめて、アリスちゃ―――』
ザシュッ
『アリス、ちゃ―――』
ザシュッ
『畜生ぉぉぉぉ―――』
ザシュッ
『戻ってきて、アリス―――』
ザシュッ
『アリス、きみは、魔王なんかじゃな、な――――』
ザシュッ
「小娘、せいぜい噛み締めろ」
★
「―――ッッッ!」
少女が目を覚ます。身体を起こす。
そこは、錆びれた孤児院(Cage)だった。
とあるマスターが本拠地として使っていたのを、自分のサーヴァントが文字通り鏖殺して乗っ取った仮初めのキャンプ。
天童アリスという機巧少女にとっての牢獄(ケヱジ)だった。
酷い目覚め。絶望よりも悍ましい悪夢。
かつての居場所が、仲間たちが、蜘蛛の糸に絡め取られ、サイコロステーキの如く寸断されていく光景。
「好い夢を見ていたようだな、要石」
嘲笑うかのように声を掛けたのは、一般社会から見ればありふれた『男性』だった。
と言っても、天童アリスにとっては未知の代物である事に変わりはない。
何故ならば、彼女が生まれたキヴォトスという世界において、男という人種は外から来た"先生"以外、アンドロイドか犬猫顔なのが一般的なのだ。
一部例外を言うならば彼女は未だ知らぬゲマトリアと呼ばれる存在も該当するも、それは外の世界基準において人間とは言いづらい存在。
だが、この男性――否。天童アリスのサーヴァントである彼は違う。
姿こそ青少年であるが、その顔に宿る文様は文字通りの"魔"の証。
邪悪をこれ以上なく表した形相が、アリスという要石を見下ろしている。
「余計な真似をしてくれたな。流石に少々肝を冷やしたぞ。貴様がいなければオレはこの世界にはいられないからな」
ほんの昨日の。正しくは数時間前の話。天童アリスは恐怖から自らのサーヴァントから逃げ出した。
勿論、当てのない世界の中、まともな役割(ロール)を与えられなかった彼女に逃げ場など無く、偶然にも出会った善良な聖杯戦争参加者に出会えたことは幸運だった。
幸運であり、彼らにとっての最大の不幸だった。
天童アリスのサーヴァントは、自らをこの世界に繋ぎ止める要石を探し出して、自らの所有物に手を出そうとした主従たちを文字通り切断、鏖殺した。
最後の一人は、泣きそうなアリスの顔を見て最後まで諦めなかったが、ゲームのような逆転劇など所詮ゲームの話でしかない。遍く奇跡は起こることはなく、当然至極の結末を迎えただけの話。
この時点で、天童アリスの心は折れた。いや、この場所に来る前の時点である程度折れていたのだろう。
ミレニアムの廃墟で、ゲーム開発部の少女たちによって見つけ出された眠り姫。シャーレの先生にとっての生徒。
ゲームを得て勇者という夢と認識を得た彼女の運命に待ち構えていたのは、あまりにも残酷な現実。
その実態、未知の侵略者達の指揮官。
「名も無き神」を信仰せし無名の司祭が崇拝せし古代遺物(オーパーツ)。
名もなき神々の王女AL-1S。アリスという"モノ"の正体にして本質。
世界を滅ぼすために生まれた魔王、それこそ天童アリス。
その事実に絶望し、心折れ、自ら終わる覚悟を決めた最中、天より降ってきた"黒い羽"を手に。
彼女はこの電子の冬木に舞い降りた。
「だったら、アリスをどうするんですか……?」
自棄同然の逃走は失敗に終わった。これから待ち受ける運命がどうなろうとアリスには構わなかった。
この際、終わらせてくれるのなら何でも良かった。
サーヴァントがやったこと、だけどそれは自分が呼び込んでしまったものだから。
アリスのせいで、いっぱい人が死んだから。
「……"まだ"何もせん。が、今後余計な真似はするな。今回は忠告だけで済ませてやる」
「……なん、で」
だが、サーヴァントが告げたのは、掻い摘めば「今後次第」ということ。
"まだ"自分に何かをするつもりはない。ただし今回見たいな勝手な真似をすれば、保証はしない。
それが、何故かアリスはショックに思えてしまった。
「……何故? ふふっ。貴様は罰を御所望か?」
「……アリス、は……」
見透かされる心の闇。友達を傷つけた自分が、"魔王"を止められず、彼らを見殺しにした自分が。
のうのうと生きて良いはずがない。
自分は死ぬべきだ、終わるべきだという呪いが、天童アリスの心を既に蝕んでいる。
「オレを呼び寄せた貴様が、簡単に死ねると思うなよ? この無礼は死ぬ程度で償えるものではない」
そのサーヴァントは、残酷なまでの嘲笑を以って告げる。
オマエはまだ苦しめと。己を呼び寄せたという傲慢不遜をその地獄で贖い続けろと。
最後の最後まで、使い古され捨てられるボロ雑巾のごとく、己に利用されろと。
それは、天童アリスによって、地獄以上の苦しみを降す夜摩の判決に等しいもの。
「あ、あ……」
「せいぜい、要石としての役目を果たせ。――存外、貴様という女は面白そうだ。それまでは死なない程度には子守をしてやる」
そう告げれば、サーヴァントは去っていく。
恐らくは、他のマスターとサーヴァントを狩りながらの魂喰らい。
天童アリスにそれを止める手段はない。ただの要石。いるだけでの役目。生きるしか出来ない役目。
勇者の証たる光の剣はこの手にはない。
「……ごめん、なさい」
その懺悔は、誰に対してか。
この場にはいない、友達と先生にか。
自分を助けようとしてくれたあの勇者のようなマスターか。
それとも、生首だけで自らを憎悪の視線で貫いた名も知らない誰かか。
「アリスが、生きているから……」
そう、自分がこの世に生きてしまったから。
自分がこの世界に降り立ってしまったから。
自分という愚者が、最凶のサーヴァントを呼び寄せてしまったから。
だから、死ぬ。死んでしまう。屍の山を築き上げてしまう
「はは……」
乾いた笑いが孤児院の内に木霊する。
ここには自分を知るものはいない。
ゲーム開発部のみんなも、セミナーの会計も、頼りになるチビメイド先輩も、自分を退治しに来たビッグシスターも、そして先生も。
誰もいない。罪を咎めるものも、罪を洗い流そうとするものも。この電子の世界には誰もいない。
いるのは、自らを苦しめようとする悪い誰かだけだ。
「これじゃあ、アリスは本当に、魔王ですね……」
魔王。勇者が倒すべき敵。だが、その魔王はアリス自身だった。
悪い使い魔を携え、世界に死と絶望と恐怖を振りまく、魔王。
そう、私は魔王。アリスは魔王なのだ。
魔王だから、みんなが不幸になる。
魔王がいるから、みんなが苦しんでいく。
それは、魔王という役目を背負わされたアリスという少女自身も、また――
「……た―――」
助けて、そう虚空に呟こうとして、その資格がないことを再び自覚する。
自分が殺した、みんなを苦しめて、殺した。
自分が殺したのだ、だから自分は救われてはいけない。
彼女は勇者ではなくなった。悪の使い魔を飼い離して、虐殺を齎す魔王だ。
そんな存在が、助けを求めて良いはずがない。
「だれか」
だから、この後に紡ぐ言葉は決まっている。
救われてはいけないモノ、それが自分なのだから。
叶わぬ願いを、ただ。
「だれか、アリスを、こわしてください」
機械仕掛けの花は終わることを望んだ。
この悲劇のパヴァーヌを途切れさせることを望んだ。
自ら枯れることを選択した。
もう二度とあの輝きには戻れない。それは自らを焼き苦しめる絶望(ヒカリ)。
もう、誰にも助けることは出来ない。
彼女は地獄の中で生き続ける。その選択肢しかない。
彼女は魔王、天童アリス。勇者に憧れ、勇者であることを諦めた、シャーレの先生の"生徒"
その肩書は、何の意味も持たない。
★
「――ただの要石だと、思っていたのだが」
偽りの空の下、夜の星を睨むは一人の男。
とある男の身体を羽織り、受肉せし詐称者(プリテンダー)の英霊。
その身体の名は才能持ちし呪術師であれど。
平安の世、呪術絶世期において常勝無敗を誇った呪いの王。
真名、呪胎載天。
彼の者の真の名、両面宿儺。
プリテンダーとしての名は、伏黒宿儺。
「あの小娘。その中身に面白いものを宿しているではないか。これは傑作だ」
当初、あんな腑抜けた小娘なんぞに自分が呼ばれてしまうとは全く持って思わなかった。
だが、中身を理解したならば多少は面白い暇つぶしにはなる内容だったのは笑えてくる。
名もなき神々の女王。勇者などという善人を望んでいた伽藍堂の中身があんなものだとは。
つくづく、虎杖悠仁を弄んでいた時ぐらいには気に入った。矛盾と言葉を体現したような滑稽な小娘だ。
「オレを笑わせた褒美で、要石として活かしてやるぐらいは許してやったが」
まさか自殺を試みる程度にはまともだったとは、などと多少は見誤ったと断じながら。
次余計なことをしないようにと釘を差した。まあ彼女の精神状態からはあの程度の釘刺しで十分効果はあっただろうが。
「……オレを巻き込んだ奴らは別だ」
それはそれとして。プリテンダーが天上天下唯我独尊を征く男。
死滅回遊とは別種の催しらしいが、プリテンダーにとってそれは些事。
まあ聖杯なるものは多少は面白いと興味を抱いてはいたが。
不快だった。ここまでコケにされる出来事は初めてだったからだ。
「待っているがいい。貴様らの望み通り、この聖杯戦争は間違いなく苛烈なものとなるだろう」
ならば、全ては決まった。
自らを苛立たせたこの聖杯戦争という催しに、まんまと乗ってやろう。
その上で、全ての主従を、そして高みでたむろっているこの催しの元凶共も含めて皆纏めて。
「――故に、貴様ら含めて一切全てを鏖殺だ」
この聖杯戦争という催しは、両面宿儺の怒りを買った。
故に、彼はこの催しを開いた元凶を許しはしないだろう。
聖杯戦争参加者も、聖杯戦争の運営者も、纏めて鏖殺する。
呪いの王の逆鱗を踏み抜いた先にあるのは、無に帰す荒野があるのみ。
「まあ……あのようなおもちゃを用意した点は、褒めてやってもいいがな」
だが、唯一。この不快な出来事に巻き込まれた中で唯一面白かったのは。
あの天童アリスという、伽藍堂の中身に潜む、この世界では未だ目覚めぬ。いや目覚めることは無いであろう"鍵"
あれは、役に立つ。いずれ、己が全てを鏖す為の保険として。
「小娘、せいぜい噛み締めろ。貴様を魔王にしてやらんでもない。そうすればお前の望んだ終わりが来るかも知れんぞ?」
呪いの王が嗤う。偽りの、不快な夜空の星の下で。
遍く奇跡も、その星々も、己以外の全てがいずれ微塵と壊れる運命であると確信しながら。
魔王にとっての、機械仕掛けの悪夢は未だ始まったばかりだと。
「あたしは蛭子(ヒルコ)なので御座います。
あたしは堕胎(おと)されるな否や揺籃(ケヱジ)であり柩(ケヱジ)である
この箱庭(ケヱジ)に収められたので御座います。
嗚呼(アア)、この世は地獄(ケヱジ)でなのでゴザイマス」
―――ニトロプラス/機神飛翔デモンベイン
【クラス】
プリテンダー
【真名】
伏黒宿儺@呪術廻戦
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力:B+ 耐久:B 敏捷:B+ 魔力:A 幸運:A 宝具:EX
【クラススキル】
陣地作成:EX
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
ただし、プリテンダーの陣地作成は後述の『伏魔御廚子』を参照するが文字通りの規格外
【保有スキル】
呪術師:B+++
呪術を用いて呪いを祓う者たち。
本来の"彼"は術師としては2級であるのだが、プリテンダーが"彼"の身体を使っているため、出力その他諸々も含め特級に値するレベル
十種影法術:B+++
呪術師としての"彼"が保有する術式。
自身の影を媒介に十種類の式神を召喚する禪院家相伝の術式の一つ。顕現の際は動物を模した手影絵を作ることで、その動物に応じた姿の式神が召喚される。
この術式の強みは式神を使い分けての攻撃・陽動・索敵の全てを一人でこなせる汎用性の高さ。式神一つ一つが個々に別々の能力を保有しており、さらに式神の同時召喚及び拡張術式での複合召喚により手数をさらに増やすことが出来る。ただし同時召喚は最大二種までであり、破棄された式神は二度と顕現出来ない。破壊されずとも重症を負うとしばらく再召喚できない。ただし破壊された式神の持つ術式と呪力は他の式神に引き継がれ、残った式神はパワーアップしていく。
影を媒介とする特性を利用することで、自信の影を四次元空間のように得物の収納及び格納が出来る倉庫としての利用等も出来るが、影に収納した物体の質量は自身にフィードバッグする。
プリテンダーはこの術式を"彼"以上に扱いこなしており、召喚される式神の出力も当然"彼"以上のもの。ただし後述の『御厨子』との同時使用は不可能だが、領域に一方を付与した状態という条件下であれば併用は可能
反転術式:A+
負のエネルギーである呪力を掛け合わせることで正のエネルギーを生み出し、対象を治療する技術。
プリテンダーの場合は自他共に治癒が可能であり、他者への反転術式の行使は文字通り限られた術師でしか行えない貴重なもの。
御厨子:A
プリテンダーが本来が保有するらしき術式。
連射、形状の調節が可能な「解」と、対象の魔力量・強度に応じ自動で最適な一太刀で相手を卸す「捌」とう二種の斬撃の術式がある
魔力放出(炎):B
後述の宝具後でも使用可能な炎の術式
◆◆◆:-
厳密にはスキル以下ですら無い何かだが、ここに記載。プリテンダーが英霊になった結果として生まれた唯一無二の瑕疵。唯一の突破口、アキレス腱。ただしくはプリテンダーがプリテンダーとなった要因
――ただし、未だ彼の魂は深淵の奥底
【宝具】
『八握剣異戒神将魔虚羅(やっかのつるぎいかいしんしょうまこら)』
ランク:A- 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
前述の『十種影法術』にて召喚する、歴代の十種影法術師の中でこれを調伏できた者は一人もいないという最強の式神。
影絵を描くのではなく、左腕内側に右手拳を押し当てた上で「布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら)」の祓詞を唱えることで呼び出すことができる。
右手に備わる生のエネルギーを纏った対呪霊特化の『退魔の剣』と、背中の方陣によって行われる『汎ゆる事象への適応』がこの式神が最強と言われる最大の所以。
後者に関しては一度食らった攻撃に対する耐性を獲得、相手の状態・性質に適応し、より有効な攻撃を見舞えるように変化する。攻撃を喰らうと背中の方陣が回転し、回転が終わると同時に適応が完了する。同時に「その事象への自身の損傷への適応」として受けたダメージの回復を行う。
相手の攻撃に対して汎ゆる形にて適応し、相手に対しての新たな攻撃手段を会得し攻撃を通す。文字通り最強の式神の名に見劣り無し。最強の後出し虫拳(ジャンケン)。
さらに、この適応は調伏した人物またはその人物の関係者の上にも方陣を出すことで、攻撃を肩代わりすることでも適応可能。ただし適応自体の恩恵は魔虚羅だけが受けるものであり、仕様者はその過程を肩代わりするだけ。
欠点としてはあくまで事象への適応であり、事象を無力化するものではない。なので一度食らった攻撃がそれ以降無効になる訳ではなく、効きにくくなったり、対応できるようになるだけ。
ダメージ自体を無力化出来るわけではないので、魔虚羅が反応できない速度や距離、飽和攻撃等が有効。さらに相手の技によっては複数回方陣を回転させないと適応できなかったりする。
最適解だけ述べるなら「初見の攻撃で適応前に倒す」であり、"彼"の身体でなかった頃のプリテンダーはその方法で魔虚羅を撃破した。
本来の"彼"がこれを召喚した際は、「調伏は複数人で行うことが出来る」「術者の力量に関係なくどんなタイミングでも調伏の儀式は開始できる」「発動条件が容易」であることを最大活用し、実質的な自爆技として使用している。
あと余談であるが、一度プリテンダーが"彼"の身体を羽織って英霊化した過程で、プリテンダーが行った魔虚羅の調伏の事実自体が一度白紙になっており、改めて魔虚羅を召喚した際には再びその手で調伏しなければならない。
『伏魔御廚子』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜1000 最大捕捉:制限なし
呪術の秘奥、所謂領域展開。魔術において固有結界と称される奥義。
ただし、プリテンダーのそれは結界を閉じずに領域を展開するという文字通りの神業。
結果で標的を閉じ込めないという「相手に逃げ道を与える」という縛りにて、領域の最大射程を大幅に広げている。結界を空間で分断せず生得領域を具現化するそれは正しく「キャンパスを用いず空中に絵を描く」等に例えられる埒外。
領域内における魔力を帯びたモノに対して「捌」を、魔力の無いモノに対して「解」を領域が消えるまで絶え間なく浴びせ続ける。縛りによって領域からの出入り自体は自由であるが、領域の広さ及び広範囲に降り注ぐ斬撃も有り、一度効果範囲内に捉えられてしまうと脱出は困難。
出力は効果範囲の広さに反比例しており、効果範囲を狭べればその分斬撃の威力も上がる。かつ本来の領域展開みたいに通常の閉じた領域にも切り替えられるなど、領域の構成要件はかなり自由に調整できる。
ただし、この宝具の使用後は前述の『炎の術式』以外の術式が一時的に使用不可となる。
【人物背景】
呪いの王
【サーヴァントとしての願い】
一切鏖殺。まあ、聖杯とやらを手にするのも吝かではないか
聖杯に掛ける願い自体は存在しない
【マスター】
天童アリス@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
だれか アリスを こわしてください
【能力・技能】
並のキヴォトス人よりも頑丈な機械の体、ナノマシンによる自己再生。
本来ならば光の剣と呼ばれる勇者の証たるレールガンを保有していたが、今の彼女はそれを失っている。
【人物背景】
勇者になりたかった魔王。自らの過去に呪われた少女。
自らの運命を自覚した時、彼女は黒い羽に触れこの聖杯戦争へと免れた
【方針】
プリテンダーの傀儡、最も選択肢はそれしか残っていない。
【備考】
パヴァーヌ2章前半、自身の真実を知ってしまい、リオによって連行される事を選んだ後からの参戦
彼女の中身にある"鍵"に関しては当選時に後述の書き手にお任せします
投下終了します
投下させていただきます
「電脳世界なんて言われた日にはどうしたものかと思ったけれど、案外理屈は変わんないのねェ。
今更新しい精製方法(レシピ)一から探すなんて無理難題(ムリゲー)だもの、心底(マジ)安堵しちゃったわ」
新都・冬木市ハイアットホテルの最上階から地上を見下ろしているのは異常な躯体の人影だった。
何が異常か。決まっている、その身長(サイズ)だ。
優に三メートルを越しそれどころか四メートルにさえ迫っている長身は、人体の骨格と構造を根本から無視しているように見える。
妖怪。怪人。……怪獣(モンスター)。そんな呼び名がこの上なく似つかわしい男は、鋭く尖った歯を見せながら愉快そうに笑っている。
視線の先にあるのは凄惨で、そして彼の姿形に負けず劣らずの異常な光景。何処にでも居るような禿頭の冴えない中年男性が、歓喜の絶叫をあげながら警官隊と交戦している。
そう、交戦しているのだ。闘っているのだ、生身の人間が武装した警官隊と。
持っている武器は地面から引き抜いた交通標識で、それを大剣のように振り回しては正義の公僕達を物言わぬ骸に変えている。
警官達が恐慌しながら放つ銃弾も命中はしていたが、しかし効果を発揮していなかった。
額、首筋、心臓、あらゆる急所に命中している筈なのに、血が噴き出した端から傷口が塞がって消えていく。
男は今、間違いのない超人と化して怪力無双の限りを尽くしていた。
銃弾は通じないし膂力も速度も各種スポーツのトップランカーが発揮するそれを優に越している。
もしや英霊(サーヴァント)かとそう思われても不思議ではない無双ぶりだが、しかしかの男は誓ってただの人間に過ぎなかった。
彼を超人たらしめているのは生まれでも、存在の骨子でも、ましてや積んできた研鑽でもない。
冬木の地を踏みしめた恐るべき一体の"怪獣"が生み出し、そして授けたとある麻薬(ヤク)の恩恵であった。
「『地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)』。私達極道の十八番(オハコ)。
これさえあれば冴えない中間管理職のオッサンだってものの一秒で人類最強のモンスターに早変わり。
未来の友軍(オトモダチ)に持っていく手土産としちゃなかなかだと思わない? アナタの意見が聞きたいわァ――ねえ」
男の名は、孔富。
極道、怪獣医(ドクター・モンスター)……繰田孔富。
かつて、極道とはただ殺されるばかりの存在であった。
闇の底から蘇った忍者達には極道得意の銃器もドスも効かない。
鍛えた技も極限の肉体練度を持つ忍者にはまるで届かず、彼らの影に怯えて生きるしか出来ない弱者に堕ちていた。
だが――今は違う。その常識は一人のカリスマと、それに惹かれた八人の極道。そして裏社会にばら撒かれた『地獄への回数券』が破壊した。
極道が反撃の狼煙を挙げるその一翼を担った闇医者こそが孔富だ。
近代麻薬学の父と呼ばれた実兄と比べても遜色のない腕と頭脳で、そして改造(いじく)り回した怪獣の躯体で、彼は闇に君臨した。
まさに極道の中の極道。そしてそんな彼は今、聖杯戦争のマスターとして電脳世界の冬木市で蠢動を始めていた。
『地獄への回数券』の精製はその第一歩。彼ほどの極道が降り立った以上は、街の秩序なんて保てよう筈もない。
「医神(かみ)さま。光栄すぎて涙が出ちゃうわ、まさか医者の中の医者、かの"蛇遣い座(アスクレピオス)"に腕を診て貰えるなんて」
そんな孔富の背後で渋面を浮かべているのは、白黒の怪物に比べればずっと人間らしく見える銀髪の青年だった。
フードを深く被っているために陰険な印象を受けるが、顔の造りは天上の住人と言って差し支えないほどに完成されている。
フードの左右から垂れ下がった銀髪は夜空に浮かび上がる星座の銀光を思わせた。
一見すると彼がサーヴァントであるなどとは到底気付けないだろう。
白黒のツートンカラーで全身を統一した長身の怪人の方が、彼よりもよほどサーヴァントらしく見えるに違いない。
しかし彼は紛うことなきサーヴァントだ。
それも、一般的な教養を持つ人間であれば誰もが知っていると言っても過言ではないとある高名な神霊である。
半人半獣の賢者に師事して医学の道を邁進し、とある分野に於いては師を遥かに凌駕。
研究と試行錯誤の末に、"死"をも克服する死者蘇生の霊薬を創り出すに至り。
そしてその結果、彼の叡智は人類から死を……冥府の価値を奪い得ると判断され、天空神の雷霆を受けて星座に昇った偉大な神。
現代に至るまで治す事、癒やす事の象徴として信奉され続けている『医神』。凡そ医学の祖と呼んでも差し支えないだろうギリシャ神話の英雄。
――真名を『アスクレピオス』。神の腕と称される技を持つ孔富でさえ、影すら踏めないと断言する他ない天上の叡智そのものがそこに居た。
「……診るまでもない。上出来だよ。神代の終わって久しいこの現代じゃ、それだけの腕があれば誰だってお前を名医と呼ぶだろうさ」
「アラ嬉しい。医者として最高の栄誉だわ……ま、今はその前に"闇"の字が付いちゃうケド」
「だからこそ疑問だ。私は医者として、お前へ不快な疑念を懐かざるを得ない」
慈悲深き蛇遣い座の神と聞いて思い描くだろう姿と、目の前の偏屈そうな美青年の姿とではかなりの齟齬がある。
少なくとも孔富はそうだった。そんな彼の前でアスクレピオスは、苦虫でも噛み潰したようにその美顔を顰めた。
「何をしているんだ、お前は」
今もハイアットホテルの真下では、男による殺戮劇が繰り広げられ続けている。
無理もない。全身の筋肉の発達が異常だし、恐らく脳内物質の過剰分泌によって反射神経や動体視力も数十倍に強化されているのだろう。
アスクレピオスも太鼓判を押す他ない、まさに人間を超えた人間……超人だった。
人間を一枚でああも変容させる薬など、それこそ生前、未だ世界に神秘が根付き神々が平然と地上を闊歩していた神代でも存在したか怪しい。
だからこそ尚の事、解せなかった。此処までの物を造れる……此処までの事が出来る"名医"が、一体何故。
「現代では毒薬を造ってばら撒くのも医者の仕事なのか? だとすればとんだ末法だが」
「言ったでしょう? 私は医者よ、確かにそう。けどその前には余計な文字が一つ付くの。極道の闇医者なのよ、私は」
「何故にそこまで腐った。僕にはお前の姿が……生きながらに腐っていく屍人に見える」
アスクレピオスは世辞を言わない。ましてや医術に於いては、決して。
彼にそんな社会性は備わっていないし、つまりこの医神が"怪獣医"に下した評価もまた然りであるという事を指す。
孔富は間違いなく名医だ。アスクレピオスほどにもなれば、腕の形や日常の些細な動作一つ一つを見るだけで医者の値打ちは分かる。
現界時に得た知識で現代医学のレベルは分かっている。それを踏まえて考えても、間違いなく繰田孔富は世界最高峰の名医の一人に違いない。
だからこそ、尚更解せないのだ。
それほどのものを、世の中の医者の大半が喉から手が出るほど欲しいと思っている神の腕を持ちながら、何故闇などに身を浸したのか。
「『地獄への回数券』の薬効自体は評価する。間違いなく傑作だ。緊急を要する事態ならばという条件付きだが、多くの命を救えるだろう。
認めたくはないが、僕がかつて造った『真薬』にも近い。しかしお前はそんなことのためにあれを生み出したわけではない。そうだな」
「半分正解、半分不正解……って所ね。散々な言われようだけど、人を救いたいって志は今も変わらずこの胸にあるのよ?」
「"救い"、か。善悪の区別も付かない馬鹿に力を与えて地獄絵図を作っておきながら、まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったな」
「ええ、救いよ。私はね、キャスター。救うの。そのためにこうして、血反吐吐く思いで闘ってるの」
極道という人種について分かりやすく言うならば、"蛮族"が一番近い。
社会規範を守らない。他人の痛みよりも、常に自分の利益の方を優先する。
彼らなりの絆や友誼は存在するが、しかしそれ以外の無辜の人々の命や尊厳は目に入らない。
その癖、自分がいざ報いを与えられる側になるとまるで被害者のような顔をして弱者を気取るのだ。
八極道にもなれば流石に多少の"格"のようなものは付いてくるが、それでも本質は同じだ。
繰田孔富もその例外ではない。彼は自分のために、自分の信じるもののために、どれだけの人間をも殺せる絶対悪の一人である。
そんな男が言うに事欠いて"救済"だなどと曰うのは、悪い冗談にしか聞こえなかった。
「では問おうか。何を救う、繰田孔富」
「世界を」
アスクレピオスの問いに、医神の詰問に、神の手と称された人間は即答する。
「この病んだ世界の、全てを」
それが伊達や酔狂で出る世迷言だったならばどれほど幸いだったろうか。
しかしこの怪獣は、一寸の淀みもない声でその現実離れした理想を吐いた。
そしてそれこそが彼、繰田孔富という極道の根幹を成す衝動だった。
彼は救世主(メシア)。この救済なき世界に降り立った、死と救済の極道。
「全てを破壊して、全てを救済(すく)うわ。私はそのために此処に居る。破壊の八極道として……そして一人の医者として、ね」
「…………成る程。お前の言いたい事はよく分かったよ」
孔富の骨子を垣間見たアスクレピオスは、少々の間を置いてそう言った。
彼は本気で世界の救済を願っている。それを成し遂げるために行動している。
救うために殺す。救うために壊す。誰かの命を助けながら、その傍らでより多くの命を死に至らしめていく。
人間の倫理観や善悪論を端から無視した、同じ闇に堕ちなければ理解するなど到底不可能な大怪獣。
まさにドクター・モンスター。医者という生き物の成れの果てとでも呼ぶべき存在である。
そして、そんな彼に医神が掛ける言葉は一つしかなかった。
神代の英雄として今を生きる愚かな子に贈る言葉であり、医学という無限大に広がる海のような果てしない学問に挑む同僚としての言葉。
「繰田孔富。お前は医者ではない、患者だ」
病んでいるのはお前だと、面と向かって突き付ける。
糾弾ではない。嘲笑っているわけでもない。医者としての何処にでもある病態の告知だ。
確かに世界は潔癖ではない。此処には多くの理不尽と、多くの病巣が溢れ返っている。
それを全て癒やし、世界という名の巨大な病巣を消毒したいと考える者が居たとして、アスクレピオスは肯定も否定もしなかっただろう。
だが孔富の場合は違っていた。手段と目的が滅茶苦茶に入り乱れ、破綻している。
全身を癌に犯された患者に対し、治してやるぞと囁きかけながら硫酸を流し込んでいるのと然程変わらない。
「今すぐにメスを置け。お前に必要なのは大義じゃない、治療だ」
医神の肩書きにそう強く拘るつもりはなかったが、自身の視界の中で医者を名乗るからには捨て置けなかった。
怜悧に細めた目は既に同胞としてでなく、患者として孔富を見据えている。
医術の最高峰たる蛇遣い座の神に断言された孔富は、数秒沈黙した。
何かを噛み締めるような……強く感じ入るような、そんな静寂であった。
しかし次の瞬間、彼はおもむろにその右腕を前に突き出す。刻まれた刻印が光を放ち、アスクレピオスの霊基が不可視の強制力を受けた。
「ご忠告痛み入るわ、医神サマ。そこらの藪医者なら兎も角、アナタに言われちゃあね」
「……チッ。気狂いに刃物、病人に生兵法だな。真っ先に腕を切り落として令呪を潰すべきだったか」
「でも御免なさい、"先生(ドクター)"。今更何を言われたって止まれないのよ。私はこの病んだ世界と、そこで苦しむ皆の嘆きを見過ごせない」
孔富がアスクレピオスに施したのは、自身に対する反目の禁止。
令呪は具体性を欠く場合強制力に難が出るきらいにあるのは孔富も知っているが、相手は医神。そう無茶苦茶なサーヴァントではない。
だからまずは当面の処置、対症療法を施すに留めた。
令呪を失うのは痛いが、サーヴァントに協力を拒否されてはどうしようもない。
令呪一画の損失は、神霊という強大な存在を呼び出すのに成功した事の必要経費だと思う事にした。
「救済うわ、どんな手を使ってでも。何を犠牲にしても」
それが、この救済なき世界に対して私が示せる唯一の答えだから――。
そう言って哀愁を滲ませる孔富に、アスクレピオスは嘆息して。
「……馬鹿な男め」
これだから愚患者は嫌いなんだと、小さく毒づくしかなかった。
【クラス】
キャスター
【真名】
アスクレピオス@Fate/GrandOrder
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具A+
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:A
キャスターのクラススキル。魔術師として、自身に有利な陣地を作り上げる。
Aランクなら『神殿』を構築する事が可能。
無論、彼にとってのそれはただ医療行為の為だけの、診察室、処置室、手術室などの意味合いを持った場所。
道具作成:EX
魔力を帯びた道具を作成できる。不死の薬すら作り出した彼はこのスキルを規格外で所持する。
医術に関わる道具しか基本的に作らないが、作るものは超高性能。
彼がターゲットとした傷病には、殆どの場合、多かれ少なかれ効果がある。ただしそれ以外の部分には全く効かない。
【保有スキル】
神性:A
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊の血を引いているとされる。
アポロンの子として(嫌々ながら)高い神性をもつ。
医神:EX
現代にまで伝わる、『医療』という概念の祖、医学の神としての存在を示すスキル。
一説によれば、薬草による治療を初めて行った存在がケイローンであり、それを学び発展させ初めて『臨床医療』を行った存在がアスクレピオスであるという。
アポロンの子:A
ギリシャの神アポロンの系譜であることを示すスキル。
アポロンは弓矢、芸能、予言、太陽等様々なものを司る神であるが、疫病の神でもあり、その二面性の発露として、医術も司っていた。
本人的にはできれば忘れたいスキルであるが、その血の力でなくては救えない患者がもし眼前にといるとすれば。おそらく彼は舌打ちしながらも、その使用を躊躇うことはないだろう。
蛇遣い:B
不滅の命の象徴である蛇を使役し、また医療に用いる技術。
古代ギリシャでは蛇は神の使いとして神聖視されていた。
死者を蘇生させた罰としてゼウスの雷霆で殺されたアスクレピオスは、死後へびつかい座(神の座)へと召し上げられた。
本人がそれを望んでいたとは限らないが。今も医の象徴として使われている意匠『アスクレピオスの杖』には一匹の蛇が巻き付いている。
【宝具】
『倣薬・不要なる冥府の悲歎(リザレクション・フロートハデス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
アスクレピオスが死者を蘇らせる蘇生薬を模倣して作り出した薬。
かつて実際に作成し用いた蘇生薬は、唯一無二の特殊な原材料を用いたものであり、英霊となった今でも宝具として自動的に引っ張ってこられるものではなかった。
故に通常の聖杯戦争においては、彼はこの模倣蘇生薬を用いることになる。
模倣品であるため元々のものより効能が落ちており、実際に死者を蘇生させるには様々な条件を満たしていなければならない。死亡後の経過時間や、死体の状態などである。だが「医者なので自身の身体のことを一番理解している」という理由で、自身に対しては他者よりもより効き目のいい倣薬を作成できる。
現代知識を得た彼は「単純に、少し出来のいいAEDのようなものだ」と自嘲気味に語る。また、この模倣薬自体もそれなりに貴重なものであり、何度も使えるわけではない。
『真薬・不要なる冥府の悲歎(リザレクション・フロートハデス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
かつてハデスの領域を侵し、ゼウスを怒らせた真なる蘇生薬。
かなり無茶な状態からでも人や半神を完全に蘇生させる力を持つ。
彼はこれを用いてミノス王の子グラウコス、テセウスの子ヒッポリュトスらを蘇らせたと言われる。
かつての蘇生薬は彼の医術だけでなく様々な要因と偶然も関与して作り出せたものであって、アスクレピオス本人もこの蘇生薬の作り方について完全にマスターしているわけではない。
―――勿論、だからこそ彼は今日も真なる蘇生薬の再現に心血を注いでいるという。
【weapon】
アスクレピオスの杖、蛇、そして医療行為
【人物背景】
ケイローンのもとで医術を学び、後に『医神』と呼ばれるようになるギリシャ英雄。
イアソン率いるアルゴノーツの一員でもある。
死者を蘇生させる霊薬を作り出すにまで至ったが、それを警戒したハデスの請願を受けたゼウスによって殺害された。
【サーヴァントとしての願い】
医術の進歩のために用いる。さしあたってはかつて造った真薬の再現を試したい
【マスター】
繰田孔富@忍者と極道
【マスターとしての願い】
聖杯による衆生の救済
【weapon】
改造された人体。詳しくは【能力・技能】の項に依る。
【能力・技能】
極道技巧『驚躯凶骸(メルヴェイユ)』
孔富が持つ医療技巧と彼の"怪獣への憧れ"を余す所なく全て注ぎ込んだ集大成にして最高傑作たる怪獣肢体。
死んだ兄の肉体と自身の肉体を上下縦向きに融合させた奇怪なる二連の躯体。
四本の腕はそのどれもに神経が繋がっており正常に稼働する他、兄の分の各種臓器も同じく機能を続けている。
これにより孔富は常人とはかけ離れた肉体性能を誇っており、まさに人型の怪獣とでも呼ぶべき猛威を奮うことが可能。
例に挙げるならば、最強の忍者が放った全力で放った炎を肺活量に物を言わせて掻き消す、六本の手足と二人分の体節による高速移動など。
そこに極道の十八番である麻薬『地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)』による更なる肉体強化が加わるため、孔富はまさに怪獣を体現する。
【人物背景】
破壊の八極道の一人で、表社会を追われた闇医者五人からなる組織『救済なき医師団』を率いる。
かつては表の医療界で活躍した名医であったが、その後極道となる。
『地獄への回数券』を生み出した張本人でもあり、八極道の中でも果たしている役割は極めて大きい。
極めて歪んだ独善的な"救済"を掲げており、世界の全てを病んでいるのだと称する怪獣医(ドクター・モンスター)。
【方針】
聖杯大戦に備えて『地獄への回数券』を量産しつつ様子見に徹する。
いざとなれば元の世界で計画していた"大海嘯"を実行することも視野に入れる。
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――でさ――どう?
――ゴメン――今日予定あって――
――そっか――それじゃあ――また今度――
――うん
――――――
校門より少女が出る、自身の緑色の髪をなびかせながら。
「…いない…」
少女――岩崎みなみはこの世界に来てからある人物を探していた。
「どこにいるんだろう…私のサーヴァント。」
彼女はこの戦いのルールを一旦全て受けている。
しかし、未だにサーヴァントがいないのだ。
「今日、探せば――」
「おーい、そこのお嬢ちゃん。」
横から声が聞こえた、自分を呼んでる声だ。
「君、聖杯戦争の関係者?」
――――――――――
「そうかぁ、大変だねぇ…」
公園のベンチに腰を掛けて話す二人。
「はい…それで…」
「そうそう、それまで同盟を組もうって話、悪くないと思うんだけどさ。」
男の提案は同盟だった、彼女の身をあんじてのことの――はずだ。
「でも…」
「まっ、僕もサーヴァント出さないとね、ランサー。」
呼び声に応じたのは、槍兵、ランサーのサーヴァントだった。
「それじゃあ…ランサー。」
男は向こうのベンチに座るカップルを指さした。
「あそこにいるカップルを…殺れ。」
その時、みなみの時間は凍てついた。
次の刹那、ランサーの剛槍で、カップルの首が跳ねられる。
「え…?」
「ん?何かおかしいことしたかい?」
男は狂気をこちらへ向けてくる。
「なんで…無関係な…」
「いや、こんな力、今まで自分を馬鹿にしてきたやつに使うのにピッタリじゃん、ゲハハハ!」
「おかしい…おかしいですよ…!」
「はぁ、君も否定するの?なら…死んじゃえ…」
ランサーがこちらへ向かう。
(そんな…誰か…)
――――――――
「レディに何手ぇ出してんだぁゴルァ!」
怒声と共に、ランサーが蹴り飛ばされる。
現れたのは、金髪に黒スーツの男だった。
「な、なんだてめぇは!?」
「レディに乱暴する下郎に名乗る名はねぇ!」
男はそのまま進撃する。
「ちぃ!やれ!ランサー!」
再度、復帰したランサーが男に迫る。
「なら…喰らいやがれ!首肉!」
敵の首に、強烈な一撃が入る。
「肩肉!背肉!鞍下肉!胸肉!もも肉!」
怒涛のコンボを入れていく。
「羊肉ショット!」
男の後ろ蹴りにより、ランサーが完全に破壊される。
「そ…そんな!?僕のサーヴァントが!」
「で…てめぇはどうすんだ…ここで…死ぬか…?」
「ひぃ!ぎ、ぎぃやぁぁぁ!」
男は走り、逃げ出した。
――――――――
「申し訳ねぇぇぇ!俺と、俺としたことが!」
「いや、あ、あの…」
戦闘終了後、みなみに土下座するサーヴァント。
「でも…助かってますし…」
「いや!レディに!しかも自身のマスターに!俺は!俺は!」
泣きながら謝罪するサーヴァント。
「とりあえず、大丈夫ですから…そういえば、あなたの名前は…」
「!」
男は泣き止み、臣下の礼の体制をとる。
「…俺の名は、サンジ、アサシンのサーヴァント、これからよろしくお願いいたします、レディ。」
「あ、はい…」
男は、自身の真名とクラスを開示した、そして、立ち上がり。
「これからの護衛はおまかせください、レディ。」
「は、はい。」
こうして、二人の主従は始まった、しかし、サンジはあることを隠していた、自身の、真明の一部を…
【クラス】
アサシン
【真名】
ヴィンスモーク・サンジ@ONEPIECE
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力D 幸運E 宝具A−
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
【固有スキル】
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。
料理:A
自身の調理スキルをステータスにしたもの。
蹴技:EX
料理人のプライドとして、腕を使わない代わりに、生み出した技能。
肉の部位を名付けたコンボ技や、全体に攻撃する技など多彩。
【宝具】
『悪魔旋脚(ディアブルジャンブ)』
ランク:B− 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:1人
cp9との激戦の中、サンジが生み出した必殺技。
自身の吸ったタバコの火を足でこすりつけ、着火、相手に強烈な打撃を与える。
また、多数の種類を備えている。
『ステルス・ブラック』
ランク:A− 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:−
彼がアサシンに選ばれた理由であり、自身が最も忌み嫌っている宝具。
ジェルマ66が開発した特殊兵装、「レイドスーツ」を着用する。
彼がこれを着ている間は、幸運と魔力を除いたステータスの向上、また気配遮断がEXになる。
しかし、前述の通り、彼がこの宝具自体を嫌っているため、使うかは定かではない。
【人物背景】
麦わらの一味コック、元海上レストランバラティエ副料理長。
女好きな面があるが、口が荒いだけで男にも優しい。
その出生は、北の海の独裁国家のジェルマ帝国の三男、ヴィンスモーク・サンジ。
血統因子を持たなかった目に冷遇され出奔、そのまま別の海上レストランで見習いとして働いてたところを、当時海賊だった、バラティエ料理長ゼフと出会い、紆余曲折を経て共にバラティエを作ることになる。
【サーヴァントとしての願い】
麦わらの一味への帰還、及びマスターの保護。
【マスター】
岩崎みなみ@らき★すた
【マスターとしての願い】
元の世界への帰還。
【人物背景】
緑髪とスレンダーな体型が特徴の少女。
泉こなた達の後輩でもある。
無口でクールな雰囲気を出しているが、親友であるゆたかと愛犬チェリーの前では口数が増える。
【方針】
とにかく生きることを優先、知人達がいるなら合流したい。
投下終了です
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日の出とともに、空色のジャージに身を包んだ少女が街にくりだし、静かに走る。
早朝のランニングは、ソラ・ハレワタールにとっては日課だ。
サイドテールに纏められた青い髪が、朝焼けに照らされながらふわふわと風にたなびいた。
「....やっぱり、夢ではないんですね。」
一定のリズムで呼吸を刻み、白い息を吐きだしながらそんなことを思う。
頬を撫でる冷たい風も、動くたびに足に感じる温かさも。
いつも行っている早朝のランニングと同じ。
ただ、景色だけが違っていた。
見慣れない建物、見慣れない商店街、見慣れない公園、見慣れない学校(ソラが通っている設定の中学校もその中に含まれた。)。
見覚えのあるものはどこにでもあるコンビニチェーンくらいのもので、それだって周りの建物や立地が違うためか、見知らぬ景色の一部に溶け込んでいた。
見知らぬ世界に迷い込んだのは、ソラには初めてではない。
スカイランドの城を襲撃し、エルちゃんを攫ったアンダーグ帝国のカバトン。
別の空間に逃げようとしたカバトンを追って異空間に繋がる穴に飛び込み。ソラは空の上の異世界スカイランドから、日本にあるソラシド市にやってきた。
落下した先で虹ヶ丘ましろと出会い。
エルちゃんの力でキュアスカイとなり。
追ってきたカバトン生み出すランボーグを撃退する。
半年もたっていないはずなのに、ずいぶん昔のことのようだ。
黒い羽に触れて冬木に呼び出された今、あのときほど大きな衝撃はない。
冬木の町並みは慣れ親しんだソラシド市とそう変わらない。
スカイランドから来たばかりのように、自動車や化粧品に驚くことはもうなかった。
驚きはないが、それ以外の喜びも薄い。
冬木の街には彼女の友人も、追ってくる敵もいない。
少なくとも、まだ出会ってない。
虹ヶ丘ましろのように、見知らぬ土地に一人降り立ったソラに声をかけてくれる人もいない。
あるのは誰かに用意されたNPC(かぞく)と家。
赤い羽根のような形をした令呪。
聖杯より与えられた。聖杯戦争の知識。
そして、マスターであるソラと繋がったサーヴァント。
「精が出るわね。ソラちゃん。」
ソラの隣で、眼鏡とヘッドフォンをつけた美女が笑顔を向ける。
上着には緑の軍服のようなファーコートを着ているが、対する下半身は黒いストッキングとガーターベルトと冬空どころか真夏であっても街を歩くには刺激の強い姿だ。
彼女は、ソラと全く同じ速さを維持しながら、ソラの隣を走っている。
ソラ・ハレワタールのこの世界での相棒。
バーサーカーの言葉に、ソラは「はい!これもヒーローを目指すための修業ですから!」と元気よく返事した。
30分ほど走った後、ソラは小さな公園のベンチで一息ついていた。
遊具の類は全くなく、ただ公衆トイレとベンチだけがある空き地。
かつてはブランコや滑り台くらいはあったのだろうが、今ではその跡さえ残っていない。
寂しい空き地に居るのは、ソラとバーサーカーだけだ。
お疲れ様。というバーサーカーの声が、静かな公園に響いた。
「はい。どうぞ。」
バーサーカーが差し出したタオルと缶のお茶を、ベンチに座るソラは一瞥して受け取った。
この30分で額に流れた汗を拭う。
一桁の気温で冷え切った体にアルミ缶の温かさが沁みた。
「ありがとうございます。砂粒(しゃりゅう)さん。」
缶の半分ほどを飲み、温まったソラの口からふうと白い息が漏れる。
「どういたしまして。それと、家の中ではいいけれど、人前ではバーサーカーって呼んでね。」
「そうでした、失礼しました。」
事前に話し合っていた約束事を思い出し、気恥ずかしそうににへらと笑う。
真名を砂粒(しゃりゅう)というソラのサーヴァントは、年若いマスターをほほえましそうに見つめていた。
ソラのお茶と一緒に買っていたのか、缶コーヒーを手にした砂粒がソラの隣に座る。
ごくごくとコーヒーを口にする彼女から、白い息は出ない。
ソラ・ハレワタールが電脳世界に呼び出された生者であるのに対し。
砂粒はすでに死んだ、人理の影法師でしかない。
「随分走ったわね。街の下見?」
「いえ、そういうわけではないんです。下見もありますが、ランニングは毎日やっているので。」
ソラ・ハレワタールにとってこのランニングは日課であり、ヒーロー目指す者としての自主的な鍛錬だ。
電脳空間で走りこみをして意味があるのかと問われてもソラには返答には困るし。
なぜ走ったかと聞かれても、やらないと落ち着かないという日常的な感覚もあり。
日常をなぞった行為をしたくなったという感傷的な理由もある。
ただ、一つ答えをあげるなら。
「ヒーローになるためのトレーニングなんですから。知らない場所にいきなり連れてこられたからと言って、やめてしまうのは、嫌だったので。」
ふうん。と頷くバーサーカー。
どことなく嬉しそうに、ソラには見えた。
缶に残ったコーヒーを一気に飲み干し、白い息の出ない影法師は再び語る。
「じゃあ、さっきやってたことも。そのためかな?」
砂粒が言っているのは、ランニング中に起きた一幕だ。
重い荷物を背負い杖をついたおばあさんにソラは声をかけ、おぶって運んであげたのだ。
おばあさんを見かけた交差点からおばあさんの家まで、約10分ほど。
おばあさんを送り届けた後、NPC一人を助けたソラに残ったものは、疲労感と道に迷ったという事実だけだ。
「私個人としては、そうしたソラちゃんの優しさはとても尊くて、大切なものだと思う」
無償の奉仕を、無性の善意を、ヒーローとしての行いを。
平和主義の英雄は素晴らしいと感じるし。正しいと断じる。
「ただ。」と前置きし、少しトーンの落とした声で砂粒は続けた。
それは、英霊:砂粒の言葉というよりは。
戦士:砂粒の言葉である。
「今のこの街は、その全てが聖杯戦争の舞台。全てが戦場。何処に敵がいるかはわからないし、目の前に居るのが敵じゃないっていう確証も無い。」
「...はい、分かっています。」
「ごめんね。私は叱りたいわけでも責めたいわけでもないよ。ソラちゃんがこのことを分かってないとは思わない。むしろ、そんな場所でも他人を助けられるソラちゃんの優しさも正しさも褒めたいくらい。」
「でも、私は貴方のサーヴァント。ヒーローなんて言い張れるような人ではないけれど、戦士としては先輩で、戦争に関しては先達。だから、今のうちに言っておかないといけない。」
「何をですか。」
「現実の話を。」
砂粒の告げたのは、今の冬木を生きる上で警戒すべき事柄。
今の冬木氏は、その都心から郊外まで、屋上から地下深くまで。余すことなく聖杯戦争の舞台で、言葉通りに戦場である。
参加するのは、超常の力を持つ英霊たち。
加えて様々な世界から集められた者の中には、マスターの身ながらサーヴァントに肉薄する異能を持つものも少なくない。
サーヴァント・マスター問わず、その異能は千差万別。
広範に監視の眼を張る力もあれば、盤石な下準備を要する力もある。
無作為に殺戮を行う力もあれば、無条件に闘争を広げる力もある。
ソラ・ハレワタールの持つ『プリキュア』としての力も、その一端に置かれている。
砂粒は、そうした者たちがいる戦場をっている。
生前、数多の戦争を和平交渉によって止めた英雄である彼女だが。
戦争を止めるためにそれ以上の数の戦争を経験し、戦場を駆けるたびに敵としても味方としてもそうした戦士のことを知っている。
例えば、“天才”という言葉の意味を変えた、皆殺しの丑(せんし)を。
例えば、弾切れなく機関銃を振るう、優雅なる亥(せんし)を。
例えば、殺した相手と“お友達”になる、異常なる卯(せんし)を。
彼らがいる戦場は、常に苛烈を極めたし。一手の油断やミスが命取りになる。
ある少女は、自身の信念を言葉と力に揺るがされて死んだ。
ある青年は、実の弟の生首を見て油断したところを殺された。
砂粒自身、ある世界(ルート)では相手の異常性を読み間違えて絶命し。ある世界(ルート)では交渉のさなかに毒を盛られて息絶えた。
砂粒の戦った戦場で言えた事実は、この聖杯戦争でも同じこと。
例えば、ソラを助けたおばあさんが、アサシンクラスの変装であったなら?
キャスターの術で洗脳や催眠を受けていたのなら?
流石にこうした考えは過言にすぎるかもしれないが、
『行動を大きく狭められたところを、見張っていた他のサーヴァントに強襲される』くらいのことは考えられなくもないだろう。
砂粒は決して弱いサーヴァントではないし、ソラだってマスター内での戦闘力なら上澄みに入るという確証はある。
だからどうした、そんな連中は聖杯戦争にはいくらでもいる。
ソラとバーサーカーより強く、悪意と危険に満ちた陣営。
いつどこで、彼ら/彼女らが牙をむくかは分からない。
ソラの行為は人としては正しくて、優しく曇り一つないものだが。
聖杯戦争のマスターとしては、採点のしがたいものである。
戦場を生きるために、砂粒は伝えるべきことを伝えた。
ソラは、砂粒の話を正面から聴いていた。
真っすぐな青い瞳。
すっかり昇った太陽に照らされた少女の眼が、英雄を見つめている。
ソラ・ハレワタールは賢い少女だ。
英雄の話は、戦闘とは縁があっても戦争とは無縁の少女にも、すっと飲み込めた。
砂粒に、ソラを責める意図はない。
ただ知ってほしかったし、知りたかった。
戦場の危険さを、過酷さを。
”ヒーロー”を目指す少女が、それを知ってどう答えるかを。
砂粒は平和主義者の人格者だが、甘ちゃんではない。
本格的な戦いの前に、ソラの決意を知りたかった。
砂粒の話を聞き、その正しさを知ったうえで、ソラはぽつぽつと語り出す。
「私は、まだ未熟です。バーサーカーさんは謙遜してましたけど、私もまだまだヒーローだって言い張れるような人ではありません。」
語り始めたソラの言葉を、今度は砂粒が黙って聞いていた。
英雄として死んだ者の瞳が、ヒーローを目指す少女と重なる。
「私は、一度救うことを諦めそうになりました。いいえ、私だけだったら、きっと諦めていたと思います。」
辛い現実は、ソラだって知っている。
敬愛するシャララ隊長。ソラにヒーローという在り方を教えてくれた女性。
瀕死だった彼女にアンダーグエナジーを注ぎ込まれ、ランボーグとなった彼女を倒すとシャララ隊長も死んでしまうと。そんな二者択一を迫られ、一度ソラの心は折れた。
仲間が考えた救う手立てを、成功できないと切り捨てて、一人逃げだした。
「そんな私に、ましろさん...友達が言ってくれました。”わたしのヒーロー”って」
絶望に沈んだソラを救ったのは、敬愛する隊長の言葉と、ソラをヒーローと呼ぶ仲間の言葉。
手紙に綴られた友の思いで、自分をヒーローだと言ってくれたその言葉で、彼女は再び立ち上がることが出来た。
折れた心で、震えた足で、自分の弱さを抱えて。
前に進むことが出来た。 隊長も救うことが出来た。
決意を新たに、ヒーローガールは、再び立ち上がることが出来た。
「だから私は、誰かを助けることを止めません。私をヒーローと呼んでくれる人に、私の背中を押してくれる人に、誇れる私で居たいので。」
せっかく話してくださったのに、ごめんなさい。
一見すると、英雄の話を無下にするようも思える形で言葉を締め、ベンチに座ったまま、頭を下げる。
砂粒の胸のあたりにまで下がったソラの頭を、砂粒のバーサーカーらしからぬ細い手がぽんぽんと撫でた。
「ななな、なにを!」
「“マスター”は立派だなって。思ったから。」
「立派...ですか?」
「ええ。マスターの言葉が聞けて良かったし。ソラちゃんが私のマスターで、よかったわ。」
平和主義の英雄は、ヒーローを目指す少女を掛け値なしに評価する。
“ヒーローを夢見る少女”ではない、“ヒーローを目指す少女”を。
ソラが言っていることを、甘いと言い切るのは簡単だ。
シャララ隊長は救えたがその次は?手の届かない場所で起きた悲劇は?
否定する言葉も、非難する言葉も。いくらでも湧いて出てくる。
奇麗な言葉の、奇麗事を。夢想ではなく、決意として言っている。
多くの英霊であれば、或いは甘いと断じたかもしれないし、或いは平和なマスターとの差に悩んだかもしれない。
砂粒は『奇麗事を貫いた』英雄である。
暴力で戦争を終わらせるではなく、交渉と和平案で戦争を停めることを続けた戦士。
平和を謳う理想と、救いきれない現実を、受け止め、背負い、悩み続けて。
もっとも人を救った人と呼称され。
もっとも人を救えなかった人と自称する。
死ぬその時でさえ『平和』を諦めなかった人だ。
砂粒にとってソラの姿が、生前の自分と少し重なった。
彼女は英雄であっても決してヒーローでは無かったし、ソラと違いその手が穢れてないということもないが。
この奇麗事を貫く少女(マスター)の力になろうと、奇麗事を貫いた英雄(サーヴァント)はただ純粋に思うのだ。
「これからよろしくね。ヒーローガール。」
「はい、よろしくお願いします!」
ヒーローではない狂戦士と、ヒーロー目指す伝説の戦士。
力強く、2人は手を握った。
◆
ソラがおばあさんを助けたこと。
たかがNPC一人を手伝い、得たものはない。
それでも全然かまわない。
ヒーローは困っている人を決して見捨てない。
ソラはそう信じている。ソラはそう決めている。
それに、おばあさんは言ってくれたから、「ありがとう。」と。
ソラには、それで十分だ。
純粋で、未熟。
その手は未だ血に塗れず。
硝煙も死臭も知らない、戦士と呼ぶには甘く幼い。
砂粒のような強さも強かさも、彼女のマスターにはまだ足りない。
それでも、覚悟と願いは、確かに持っている。
誰かを助けるために、ソラは戦う。
アンダーグ帝国との戦いも、聖杯戦争も。
倒すためではなく、守るために。
助けを呼ぶ誰かを、救うために。
砂粒が英雄であるように
ソラ・ハレワタールは“ヒーロー”だから。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
砂粒@十二大戦
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力D++ 幸運D 宝具C
【属性】
秩序・善・人
【クラススキル】
狂化 EX ステータスをランクアップさせる代わりに理性を失わせるスキル。その理知的な振る舞いや思考能力から一見すると狂化してないように感じられるが。砂粒の思考は「より多くの人を救う」「争いを止める」事に主観を置いたもののみになる。魂喰いをはじめとした“停戦”に直結せず、無辜の被害を出す行為を彼女は決して行わない。令呪による命令であっても停戦の英雄の信念を揺らがせることは難しい。
なおこの思考自体は生前からあまり変わっていない。
【固有スキル】
十二支の戦士 A “戦士”として多くの戦場を駆け、戦場の中で生きたことを表すスキル。
その中でも『十二大戦』に召集されるほど実力を持ち名が知れ渡った(多くは同じくらい悪名も知れ渡っている)ことを示す。砂粒は純粋な実力ならばトップクラスに位置づけされる戦士である。
交渉人 A 砂粒の武器は拳でも武術でも仙術でもなく、和平案と停戦交渉。
314の戦争と229の内乱を和平に導いたその実力は本物で、停戦のためには手段を選ばない。
他の陣営との交渉・協力にアドバンテージがかかるが、協力関係がずっと続くと考えるほど彼女は楽天家ではない。
平和主義者 EX 永遠に続くと思われた泥沼の戦争を止め、力でねじ伏せられる相手を交渉により武器を下ろさせる。戦争で殺戮を繰り返す『戦士』としては異例な思考と異常な実績を上げる。そんな彼女の経歴がスキルに昇華したもの。
戦争を“停める”のは、ただ“終わらせる”より格段に難しい。砂粒のような戦士であればなおのこと。
時に理知的に、時に暴力的に、時にコネクションを用い、時に己の力で。
強い力を正しい形で使うのが、彼女の在り方だ。
彼女は自分の理想、奇麗事を貫くために戦い続ける
【宝具】
『水猿・岩猿・気化猿(みざる・いわざる・きかざる)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
三仙、水猿・岩猿・気化猿から薫陶を受けた彼女は『三態』即ち物体の固体・液体・気体を操作する力を持つ。
生前の砂粒はこの殺戮に適しに適した力を禁忌として封じていた。
この力を生前の彼女が使用した記録はただ一度。死の間際に戦友に防御策として施したものである。
逆に言えば、自分が死ぬことになっても自分のために彼女はこの能力を使わない。
仮に彼女がはぐれのサーヴァントであったのなら、戦場でこの宝具を使用することはまずありえない。
だが、ここは聖杯戦争。砂粒にとっては死者でありサーヴァントである彼女自身よりも、マスターの方が大切であり。
マスターのためにこの宝具を使うかどうかは、マスターとの関係性次第だろう。
【weapon】
徒手空拳
【人物背景】
「『申の戦士』 平和裏に殺す。砂粒」
本名:柚木美咲(ゆうき みさき)。誕生日:7月7日。身長:150センチ、体重:40キロ。
戦士としてトップクラスに位置づけられる白兵戦力と仙術を持ちながら、その力を“停戦”のために使う筋金入りの平和主義者。
崩壊した国も、いわれのない虐殺も、増長した市民も、不当な差別も戦争も。
全て見てきた上で、彼女自身多くの地獄を経験したうえで、『力により戦いを止める』ではなく『和平によって戦いを停める』ことを選んだ善人。
最も戦争を止めた戦士にして、最も人を救った英雄にして
最も人を救えなかった英雄にして、最も人を救ってしまった英雄。
彼女はその生き方を決して後悔しないし、その全てを背負い続ける
生前は戦士(戦場にて戦う者といった意味合い)の中でも戦士らしくない(勝敗の決まった終戦ではなく、両者円満な停戦のために動く彼女は、戦士の中では同業者にして商売敵のようなものだ。)彼女だが。
サーヴァントとしてのクラスが“狂”“戦士”だとは趣味がいいなと思っている。
逸話から裁定者(ルーラー)の適性を持ってはいるのだが、死してなお世界平和を願う彼女がその枠組みで呼ばれることは少ない
【サーヴァントとしての願い】
世界平和
聖杯戦争を停めるために、運営(いるのならば)との交渉や他の陣営との同盟を考えている。
【マスター】
ソラ・ハレワタール@ひろがるスカイ!プリキュア!
【マスターとしての願い】
元の世界に帰る
ヒーローとして、困っている人が居たら助けになりたい
【能力】
中学生ながら身体能力に関しては群を抜いて高い。スカイランド神拳という格闘術を収めている。
スカイランドの伝説の戦士プリキュア。『キュアスカイ』への変身能力も健在で、その場合は脚力で町を駆けまわれるほどの能力を得る。
基本スタイルは格闘。
必殺技は『ヒーローガール スカイパンチ』
浄化能力を秘めたパンチ
【人物背景】
ヒーローを目指す少女
困っている人を見捨てない優しさと、恐怖を噛みしめ強敵に立ち向かう勇敢さを持つ。
爽やかさを感じさせる明るい性格ながら、悩みを抱え込む繊細なところもある
令呪は星のような光を指す一枚の羽
【備考】
※参戦時期は24話以降
投下終了します
投下させて頂きます。
冬木の中心部から離れた、郊外の広い邸宅。
かつてそこを拠点としていた主従から奪った家で、ライダーは憤慨していた。
「ありえないだろ?僕を誰だと思ってるんだ。僕は魔女教大罪司教『強欲』担当レグルス・コルニアスだぞ。どうして僕があんな腐れ学者のサーヴァントとして戦わなければならないんだよ。他人を支配して戦わせようなんて、あまりにも傲慢で強欲で卑劣な、僕の権利を踏みにじる行為だと分からないのか?無欲であるがままに満たされて完結した僕に、本来聖杯なんて必要ないんだよ。聖杯に願うなんて言い方も気に入らない。それじゃあまるで僕が聖杯に慈悲を乞うているようじゃないか。憐れまれているようじゃないか。それは僕が欠けてて足りてなくて可哀想な憐れまれる存在だって言ってることになるだろうが。無欲で理性的な僕でも、不正義と不公平を見過ごすことは出来ないなぁ。権利の冒涜者たる聖杯戦争も、『強欲』に支配された哀れな参加者たちも、僕の正当な報復の対象だ。ああ、僕だって別に暴力を振るいたい訳ではないけれど、ここで僕が黙って引き下がれば、それは正義の敗北だ。不正義の勝利で、悪徳の蔓延を許すことになる。そのような前例を残すべきじゃない。だから僕は悪徳者どもに正当な対価を払わせてやらなければならない。参加者どもを打ち倒して、僕を使い魔扱いする老害学者に厳正に罰を下して──聖杯を手に入れる。そうじゃないといけない」
ライダーは妻たちに喚き散らしながら広大な食卓を歩き回る。邸宅の片付けに加わらず、その場に残っていた数人の妻たちは無表情に彼に相槌を打ち続ける。
この聖杯戦争はライダーにとって苛立つことばかりだった。満たされた個として完結した自分が、使い魔として動かねばならないこと。その契約の主が強欲の塊のような下種であること。あまつさえ妻たちの家すら用意されず、
『要るのならあなたが適当に奪ってくればいいんじゃないかしら?あなた仮にも英霊とかいうやつなんでしょう?自分の頭で考えなさい』
などとのたまって来たこと。
「無論。無論僕は労苦を惜しまない、怠惰さからはかけ離れた人間だ。あの無能が動くよりは、僕が動いたほうが手っ取り早いというのは事実だろうさ。だがこれは礼儀の問題だ。ただでさえ人を支配して使い魔扱いして戦わせるなんていう著しい私権の侵害をしておいて、たかが拠点一つすら都合しない、いや都合する姿勢すら見せないのはどういうことだ?僕の優しさに寄りかかった、失礼極まりない態度じゃないか。礼を失するということは僕を、僕の人生を軽んじたということだろ?ならそれは即ち──」
「随分元気そうねえ」
食堂の入口から、ライダーの長広舌を遮って声がかかる。ライダーは忌々しげに食堂に入ってきた声の主、中年の女──広山衡子准教授を見る。彼女がライダーのマスターだ。何が面白いのか知らないが、ライダーに殺された敵マスターの死体や、巻き込まれたNPC住民の死体やらを見分していたのは知っている。
「あのさあ。君は僕が妻と話をしていたのが聞こえなかった訳?人が話しているところを遮るべきじゃないって誰からも聞いたことがないのか?君みたいな無知な愚者が、学生に教える立場だなんて笑えない冗談だ。そのような行為は未来への暴力にも等しいよ」
ライダーの暴言を聞き流し、広山准教授は呆れた様子で言う。
「そんなことより、困るじゃないの。今は聖杯戦争の予選期間なんでしょう?こんなとこでのんびりされてても意味がないわ。さっさと他の参加者を片付けて来て頂戴」
昼間はまあ目立つから仕方がないにしても、まだ夜の10時よ?などと広山准教授は続ける。
ライダーは努めて冷静であろうとするが、元よりライダーにそのようなことは不可能であった。
「はあ?他の参加者の立ち位置すら探らない、何も聖杯戦争に貢献しない、無能極まりない君がどうして僕に命令するんだい?物事の順序というものが判ってないんじゃないのか。この家にいた奴らに関しては、僕の妻たちを寒空の下で劣化させて恥じない外道共で、その上聖杯を狙う身のほど知らずの『強欲』だったから始末しただけだよ。僕がお前の言う事を聞くなんて思い上がるんじゃない」
もし目前の女が自分の現界に必要な要石でなければ、とっくの昔にライダーは殺していただろう。
しかしライダーは自分を他者に寛容な賢者であると自認している。そして聖杯は、ライダーを卑怯かつ残虐な手段で葬り去った騎士気取りの強姦魔と清楚ぶった精神的売女、剣聖を名乗る化け物共にしかるべき報復を下すには必要な手段だ。
ならばこの女の傲慢も無知も、利用して聖杯に至らねばならない。
「ごちゃごちゃ煩いわねえ使い魔。令呪で自害させられたいのかしら?私はそれでも一向に構わないのだけれど。可哀想な頭ね」
「黙れ。僕を憐れむな見下すな支配しようとするな愚かで腐った権利強姦者がァ──!」
ライダーは激情のままに手を振り下ろす。『獅子の心臓』が発動した塵が、空気が絶対の武器となって広山准教授を含めた一帯を吹き飛ばす。
戦いの素養など全くない中年女性である、広山准教授に避けられる訳もなかった。
「あら──ぶ」
直後、広山准教授は膝から下だけを残して消し飛んだ。その後ろの食堂の壁には大きく穴が空き、庭まで吹き抜けていた。
☆☆☆☆☆
激情の一瞬の後、ライダーは自分がマスター喪失による消滅の危機に陥っていることに気づく。
苛立たしげに広山准教授の痕跡を確認するも、彼女は明らかに死んでいた。仮にも百数十年大罪司教として君臨し続けた戦闘経験は、撒き散らされた血の量やかつて体内にあっただろう臓器の断片から、彼女の確定的な死がはっきりと把握できる。
(最期まで愚かな、僕の足を引っ張り続けるだけの主人気取りが。何故僕が、このような緒戦で足を取られなければならないんだ)
ライダーは怒りもあらわに、広山准教授の体を踏みつける。あたりに血が飛び散るが、『獅子の心臓』の発動したライダーの体には血の一滴もつくことはない。
(ともかく早急に他の令呪持ちを見つけ、再契約する。それが最も妥当な手だ。僕は魔女教大罪司教『強欲』担当、レグルス・コルニアス。たかが聖杯戦争ごときで僕の足を止められるものか)
ライダーは探知の能力を持たない。とはいえ、冬木の街を破壊していけば、おそらく他の主従も炙り出されてくるだろう。予選の段階で目立つことは出来れば避けたかったが、このような状況ではもはや仕方ない。
(僕の権能、『獅子の心臓』で、上空から砂でも撒いてやる)
冬木の街を機能不全にするには、十分な脅威だ。邸宅の庭に出たライダーは上空へ飛び立とうとし──違和感に気づく。
(先程吹き飛んだはずの壁が直ってる?)
広山准教授を殺した時に、吹き飛ばしたはずの邸宅の一部が、何事もなかったかのように元通りになっていた。
そして──
(僕の魔力供給が途切れていない)
(何故だ?僕が殺しそこねた──とでも?)
あり得ない。確実に広山准教授は死んでいた。それをしっかりと確認した。
なのに、その記憶が掠れていく。まるで夢だったかのように薄れていく。
異常だ。『獅子の心臓』を発動したライダーに干渉可能なものなど、ないはずなのに。
「何をしようとしてるのかしら?勝手なことはやめてよね。あなたが馬鹿なことをすると、マスターである私にまで迷惑がかかるのよ」
腹立たしい言葉とともに、広山准教授がどこからともなく現れる。
先程の凄惨な死が本当に夢だったかのように、傷ひとつない。
「予選なんて長々やっても仕方ないわ。あなた、今晩中にあと三主従は落とせるわよね?目立ったら面倒くさいから、絶対に私達がやったってバレないように、こっそりね。痕跡とか目撃者も、ちゃんと全部消しときなさい。あと、あんまり街を壊しすぎないように。私が不便だもの」
滔々と傲慢な命令をしてくる広山准教授に、ライダーは僅かな間呆然としていた。
「何故だ……」
「ああ、何故私が生きてるのか?まあそうねえ。知ったところであなたたちがどうこう出来るものじゃないし、教えてあげても──」
ライダーは怒りもあらわに、不機嫌そうに喋りだす。
「何故、お前は死んでないんだよ!理由なんてどうでもいい。知ったことじゃない。僕が、君の傲慢と無知を精算させてやる機会を与えてやったって言うのに何を蘇っているんだ。恥知らずの年増女」
自らの意思が通らなかったことへの憤りが、ライダーの思考を支配する。先程のマスター消失がどうこうの話は、完全に思考の外となっていた。
「私がいなきゃ今頃消えてた使い魔が、でかい口を叩──」
ライダーの再度の凶撃が、広山准教授に向かう。
ライダーの足に跳ね上げられた土は、広山准教授の体を斜めに寸断していた。
☆☆☆☆☆
(馬鹿な使い魔だけど、まあ無敵なのは間違いないし問題はないわね)
再度蘇った広山准教授は、ライダーの下に戻らず自宅への帰路を辿っていた。
ライダーには念話で今夜の動きの念押しをしておく。念話で長々と苦情が入るが、まあ無視すればいいことだ。
今回の戦いでは、色々と収穫があった。
(この世界の人たちはマスターやサーヴァントを含めて"本体"を持たない。この世界に存在する人間を殺せば、そのまま本当の死に至る。簡単ねえ)
広山准教授の不死のカラクリは、"本体"がこの聖杯戦争の舞台に存在していないからだ。
広山准教授の"本体"は、不思議の国という異世界に存在する。その"本体"が見る夢の主人公が広山准教授だ。
夢の中で何度死んでもそれが現実の死を意味しないように、広山准教授はたとえ何度死のうと死んだことを"夢"扱いにして復活できる。
不思議の国に"本体"を持つ人間を殺すには、不思議の国で"本体"を殺さねばならない。
この戦いで、他のマスターやNPCをライダーに殺させたが、彼らが蘇ることはなかった。"本体"が不思議の国の住民を殺した訳でもなく、"本体"の周囲で住民の死が起きることもなかった。
おそらく不思議の国に"本体"を持つのは、広山准教授の特権だ。
(不死のマスターと、無敵の使い魔。聖杯戦争で、これ以上のアドバンテージがあるかしら?)
広山准教授は上機嫌で、家路を辿っていた。
その途中で、ふとライダーの言葉を思い出す。
「確かに、敵主従の居場所くらいちゃんと把握出来るようにしておいたほうがいいわよね……」
ライダーは強いが、面倒なことに探知に使える能力はない。広山准教授が探ってもいいといえばいいが。
(私は忙しいし、田畑助教にでもやって貰いましょう)
携帯電話を取り出し、同じ研究室の助教授、田畑に電話をかける。勤務先の大学は適当な冬木市内の大学に変えられていたが、研究室の内容は概ね再現されていた。
「もしもし田畑くん?明日の報告会までに、冬木で起きたここ数日の奇妙な事件についてまとめておいてくれる?パワポ15枚分位で、一事件1枚でまとめておいて頂戴。場所と日時、時間と特徴、その他ちゃんと調べて分かりやすくね」
「研究に何の関係があるのか?馬鹿なことを聞くわね。あなたの業務処理能力を把握するためのテストみたいなものよ。ああそれと、明日の朝9時までに事務係から頼まれてる環境影響チェックシート、過去2年分200項目、データ添えて提出しておいてね。あなたは聞いてないかもしれないけど、私には半年前から話が来てるから、今更待って貰えないわ。遅れたらあなたの責任よ。よろしくね」
電話を切る。冬木の夜空は星が綺麗という程でもないが、今の広山准教授には輝いて見えた。
(私は聖杯戦争に勝つ。聖杯があれば、もう世界の真実を利用して、一人一人邪魔者を殺してコツコツ出世していく必要なんてない)
聖杯があれば、教授にだって簡単になれる。
いや、学科長、学部長にだって──その上にだって、一足とびに成ることが出来る。
(私は、聖杯を使って──学長になるのよ)
【クラス】
ライダー
【真名】
レグルス・コルニアス@Re:ゼロから始める異世界生活
【ステータス】
筋力E(EX) 耐久E(EX) 敏捷E(A) 魔力D 幸運C 宝具EX
()内は宝具「獅子の心臓」発動中
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:E(EX)
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
()内は宝具「獅子の心臓」発動中の値。発動中は理論上、魔術でライダーに傷をつけることは出来ない。
騎乗(心臓):C
乗り物を乗りこなす能力。
ライダーの場合はスキル「小さな王」に付随する、自らの心臓を他者の内に移し替える能力。乗り物を使いこなす能力はない。
【保有スキル】
愛する妻たち:D
ライダーの現53人の"愛する妻"たちを召喚するスキル。ライダーに微塵も愛や忠誠を持たない、ただ恐怖のみにより支配されている女性たち。
ライダーの"小さな王"の対象であり、知らないままに彼の無敵を支えさせられている。
福音の教え:-
魔女教大罪司教『強欲』担当として、福音書の指示に忠実に従う。本聖杯戦争では、基本的に福音書の指示が来ることはないので発動しない。
小さな王:EX
ライダーが"強欲の魔女因子"により所持する権能の一つ。ライダーが"妻"と認めた存在に、ライダーの心臓を擬似的に植え付ける能力。宝具「獅子の心臓」の心停止のデメリットを無効化する。対象者の誰かの心臓が一つでも鼓動している限り発動し続け、また対象者が自然に気づくこともない。
ただし、対象者がライダーから"愛を感じられない距離"まで離れると効果は発動しなくなる。
【宝具】
『獅子の心臓』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1
ライダーが"強欲の魔女因子"により所持する権能の一つ。
自分の肉体と、自分が触れたものの時間を止める能力。この効果を受けているものは、外界からの干渉を一切受け付けず、一方的に外部に干渉する。
魔力消費が極めて低く、ライダーは常に自身にこの宝具を発動している。ただし、本来この宝具は発動時のデメリットとして自分の心臓が停止する。
ライダーはスキル「小さな王」を用いてこのデメリットを回避している。
【weapon】
宝具「獅子の心臓」で時間を静止させた自分の肉体。および、この効果を受けた空気、土砂等の周囲の物体。
【人物背景】
嫉妬の魔女を崇め、その復活を願い福音書に従うとされる団体"魔女教"の最高幹部、大罪司教の一人。
『強欲』の魔女因子の保有者で、魔女因子に由来する二つの権能を持つ。
「獅子の心臓」により百数十年今の姿で生きており、当時から魔女教大罪司教『強欲』担当として活動していた。
外見は平凡な、細身で白髪の青年。
外面こそ穏やかだが、その実承認欲求と自己顕示欲が極めて強い非常に我が儘な激情家。
長々と自分の正当性を主張するが、あくまで自分の意見を押し通すためのものでしかなく、対話の余地は存在しない。
水門都市プリステラの戦いで、スバル、エミリア、ラインハルトに権能の正体を看破され、都市の地下深くで溺死する結末を迎えた。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、自分を殺したスバル、エミリア、ラインハルトに復讐する。
また、マスターである広山にもしかるべき報いを受けさせる。
【マスター】
広山衡子@アリス殺し
【マスターとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、聖杯の力で学長になる。
【weapon】
釘打ち銃
別に他人に撃つことに躊躇はないが、主な用途は確実な自殺による状況の仕切り直し。
【能力・技能】
・世界の真実
広山は夢と現実の関係に気づいた人間である。
広山の世界は“不思議の国”に存在する"赤の王様(レッドキング)"の夢であり、不思議の国の住民の見る夢の姿が世界の住人であると知っている。
本来広山の世界の住人たちは不思議の国を夢の中の世界だと認識しており、自分たちが夢の存在だと気づくことはない。
広山は本体が"不思議の国"に存在するため、広山を殺しても本質的な死には繋がらない。
"赤の王様"の辻褄合わせにより、本体が生きている限り広山の死は夢の出来事であると処理され、なかったことになる。
現実世界から広山を殺すことは困難。
【人物背景】
とある大学、篠崎研究室所属の准教授。
中年の独身女性で、出世欲がとても強く、我慢することが大嫌い。
理系分野の研究者だが、科学的素養に欠けており、コネや処世術と他人への仕事の押し付けで立場を築いた。発表論文のデータは妙に綺麗で再現性が低く、捏造したものであることを疑われている。
部下である田畑助教には過剰な仕事の押し付け等のパワハラを繰り返しており、また不要な実験機材を購入し業者からリベートや接待を受けている疑惑がある。
不思議の国の夢のみを見ることを疑問に思い、独自に調べた結果世界の真実に到達した。
世界が夢に過ぎないと知っていることもあり、自分の出世のために他人を殺すことをなんとも思わない。
上司である篠崎教授を不思議の国側から殺害し、その席を奪おうと決意した夜に"黒い羽"に触れ、聖杯戦争に招かれた。
【方針】
聖杯狙い。
【備考】
参戦時期は原作直前。
以上で投下を終了します。
よそと酉被りを起こしていることに気がついたので、以降はこちらのトリップを使わせて頂きます。
トリップの扱いに不慣れで失礼しました。
タイトルは
『強欲』なる者たち
でお願いします。
タイトル欠け失礼しました。
投下します
———バキリ
骨が折れる音がする。
悲鳴が上がる。
拳を振り上げる。
———ドゴォ
肉を潰す音が鳴る。
びちゃびちゃと汗と血液が零れ落ちる。
足を振り上げる。
———グシャリ
また骨が折れる音がする。
悲鳴の代わりにくぐもった嗚咽が漏れる。
それでも、荒れ狂う暴の猛威は止まらない。
とある廃校の教室で、破壊の権化が殺戮の宴を繰り広げていた。
「やめろマスター!!」
たくましい髭を蓄えた屈強な男が、主の蛮行を止めんと飛び掛かる。
が、男が主に触れた途端。
暴の化身は修羅の如き形相で拳を振り抜き、男の顔面に叩き込む。
「どあぁ!!」
血反吐を吐きながら宙を舞う男を見返ることもなく、暴の化身は再び敵の破壊に勤しむ。
殴り。蹴り。踏みつぶし。投げ飛ばし。噛みつき。引き裂き。
己の身体でできるありとあらゆる破壊行為を対象にぶつけ、その息の根が止まるまで彼は収まらない。
彼の名はグルガ。かつて裏の格闘技世界で『最強』の肩書を欲しいままにしていた至高の闘技者(ファイター)である。
☆
私———ライダーは、電子機器に囲まれた部屋の中にいる。
ジジジ、と無機質な電子音が私の耳元で鳴り響く。
いま、私の腕に着けられているのは科学者の作ったエネルギー変換装置。
これで、私から英霊としての魔力を吸い上げ、別種の力に変換しているのだ。
「もうよろしいですじゃ。気を静めて装置をお外しください」
タコのような姿かたちをした科学者が奥の部屋から恭しくこちらに歩み寄ってくる。
ようやく終わったか。
私は安堵と共に、つい着けられていた装置を放り投げてしまう。
すると、科学者の持っていた首輪が光り輝き科学者を軽く吹き飛ばしてしまう。
彼は「ぅわへへ」と奇声をあげつつもすぐに気を取り直し、情報の羅列された紙を手に読み上げる。
「コンピュータが弾き出したデータによりますと、この首輪があればマスターの制御は可能ですじゃ」
「あぁそうか...」
私は科学者から首輪を受け取り、マスター・グルガのもとへと赴く。
いまの時間帯は深夜。
彼は自室で眠りについていた。
マスターの暴走癖は日に日に凶暴さを増していっている。
サーヴァントであるはずの私がなんの太刀打ちもできないほどに。
私は、科学者にマスターを制御するための装置を作らせた。
この装置・首輪は装着している者の感情中枢に私の魔力を通じて指令を訴えかける代物だ。
だがこんなモノをマスターが大人しく着けるはずもない。
つまり、寝ている今こそが最大のチャンスというわけだぁ。
ゆっくり、ゆっくりと私はマスターに首輪を近づけていく。
パチリ。
あと少し、といったところでマスターの瞼が見開かれる。
なぜ気取られた!?いや、この位置は...しまった!私の影が被さったか!
異変に気が付いたマスターが即座に起き上がろうとする。
だが私はどうにか首輪をつけようと無理やりマスターを抑え込む。
藻掻き。足掻き。抑え込み。
首輪を嵌められた!と達成感を抱いたその刹那、マスターの拳が私の顔面を捉え床を舐めることに。
「オオオオオオオォォォォォォォ———ッッッ!!!」
マスターは雄叫びをあげ、私の頭を掴み握りつぶそうとする。
ミシミシと骨が悲鳴をあげ、激痛が脳髄に襲い来る。
このままでは死んでしまう...!
私は、科学者を信じ、マスターへと掌を翳し魔力を発する。
するとどうだろう。
首輪が発光し始めて、マスターが雄叫びを上げ始めたかと思えば、先ほどまでの剣幕が嘘のように引いていき、身体もみるみるうちにしぼんでいくではないか。
大人しくなったマスターは再びベッドに横たわり穏やかな寝息を立て始める。
どうにかうまくいった...私は尻餅を着いたまま荒い息遣いで呆然と天井を眺める。
全く、私のマスターは扱いが難しいにも程がある。
確かに肉体的な強さは並の英霊では相手にならないほどに優れているが、その長所を踏みつぶすかの如き破壊衝動の持ち主でもある。
まるで我が息子ブロリーのような男だ。
「...ブロリー、か」
私が最後に見たブロリーの姿は、笑みを浮かべながら私の乗る一人用のポッドを持ち上げ握りつぶす悪魔のような姿。
私はブロリーに殺された。
無慈悲に。なにもできず。サイヤ人という戦闘民族の宿命を表すが如く。
その時のことを思い返せば、英霊と化した今でも身震いしてしまう。
「...フンッ、あぁんな最低な結末など、何の未練もない」
まるで強がりのように鼻を鳴らし、未練を断ち切る。
過去は過去。今は今、だ。
私は英霊として聖杯を求めている。
その願いは、やはりかつての悲願『俺を王とする帝国』を築き上げることだ。
かつて王でなかった為に、息子の優秀さを危険視され、排除されそうになった。
王でなかった為、望まぬ意見に対して訴えかけることしかできなかった。
王でなかった為、ごみ溜めで冷たくなっていく瀕死の息子を眺めていることしかできなかった。
王であれば。
理不尽に切り捨てられることはない。
王であれば。
息子を異端視されずに済む。
王であれば。
親子揃ってあんな空しく惨めな思いをせずに済む。
「このままでは上位のサーヴァント相手にはてこずるだろうが...科学者に装置を作らせ、他の主従とこのグルガを使いこなせば...俺の帝国はゑゑ!?い遠に不滅になるというわけだぁ!!ふーっふっふ、あーはぁーはぁーはーっ、うあぁーはぁーはぁーはぁーはぁーはっ、ふぁっはっはっはっはぁーっ!!!!ひぁっはっはっはっ!!!!」
己の野望を抑えきれなくなった私の笑い声が高らかに響き渡り、数秒後、不機嫌な眼差しで起き上がったグルガに殴り飛ばされたのだった。
【クラス】ライダー
【真名】パラガス
【出典作品】劇場版ドラゴンボールZ 燃えつきろ!!熱戦・烈戦・超激戦!!
【ステータス】筋力D 魔力B 耐久B+ 幸運D 敏捷D 宝具D
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
【保有スキル】
サイヤ人:B
戦闘民族サイヤ人。
身体が非常に頑丈であり、気弾を放ったり空を飛ぶことができる。また、満月の夜に大猿に変身できる。
語り手:C
物語や伝説をいかに上手に口で語れるかを示すスキル。
書物に物語を書き記すような技術とはまったく別の、聞き手の気分や精神状態も加味して適切な語り口を選ぶ、即興性に特化した物語伝達能力。
「やぁっと能天気なお前でも呑み込めたようだなぁ」
扇動:B
数多くの大衆・市民を導く言葉と身振りを習得できるスキル。個人に対して使用した場合はある種の精神攻撃として働く。
「あなたの手で、最強の宇宙帝国を築き上げるのです!」
戦闘撤退:B
逃走に躊躇いのないスキル。スキルっていうのだろうかこれ。
「可哀想だがブロリー。お前もこの星と共に死ぬのだ...」
【宝具】
『軍団使役』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:不明 最大補足:不明
自動発動宝具。
銀河のならず者たち・タコの姿の科学者・惑星シャモから連れてきた奴隷たち・モアなどかつて従えた者たちを召喚できる。
ただし彼らの戦闘力はほとんど期待できない。得意分野を見極めて仕事はうまく振り分けよう。
『デッドパニッシャー』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
気弾を放つ。それなりの威力。
『一人用のポッド』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
一人で乗り込むためのポッド。離陸できれば遠くの距離まで高速で移動できる。
【weapon】
グルガを制御するための制御装置。
【人物背景】
粗暴で凶悪なサイヤ人としては珍しく、物腰柔らかな人物であり、王族であるベジータやその息子のトランクスをはじめ、彼らに同行した地球人の面々に対しても紳士然とした対応をみせる。しかし、その本質はかつて自分たち父子を迫害したベジータ王族への報復と全宇宙の支配を目論む野心家である。そのためなら忠臣を手にかけ、実の息子ですらその戦闘力を利用するためにコントロール装置で操り、挙句惑星の消滅を目前に部下や実子を置き去りに単身逃亡を図るなど、これまでの例に漏れずサイヤ人としての残忍性を内包している。計画通りグモリー彗星が軌道に乗り接近していることを知った際には歪んだ笑みで狂喜する一面もみせている。
【聖杯にかける願い】
俺を裏切らない俺の帝国を築き上げる。
【マスター】
グルガ@職業・殺し屋
【マスターとしての願い】
とにかく戦う。そしてその果てには自分を殺した死条へのリベンジマッチを。
【能力・技能】
身長238cm、体重220kg。鋼の肉体を持つ男...ロシアの超重機神!!
【人物背景】
ロシアの超超超大金持ち、イワノフ・ハシミコフお抱えの最強の闘技者。
イワノフの主催するロシアン・コンバットで最強の名を欲しいがままにした男。
その巨体から放たれる攻撃力とタフネスはまさに規格外。
プライドの高い戦闘狂であり、一度キれると相手を殺すまで暴走が止まらなくなる。
職業・殺し屋の死条誠と血で血を洗う死闘の果てに殺害される。
【参戦時期】
死亡後参戦。
【把握資料】
漫画 職業・殺し屋 7〜9巻『ロシアン・コンバット』編
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人間ではないと思った。
自分は魔術師だったが、しかし人間だった。
だから敗れたのだとしか考えられなかった。
途中までは勝っていた筈なのだ。
先手は取った。
キャスターの宝具。
千を超える魑魅魍魎の蠢く閉鎖領域。
その中に奴らを収め、後は時間を掛けて磨り潰すだけで事足りる筈だった。
なのに気付けば結界は内側から破れ。
中からは傷一つ負っていない奴らが悠々と歩み出てきた。
それはキャスターの消滅を意味しており、そして…哀れな魔術師の夢が呆気なく潰えた事も物語っていた。
何処からだ?
何処から、間違っていた。
いや…何処から操られていた?
今なら分かる。
負けたその時初めて分かった。
自分達の策も行動も考えも思惑も、一つ一つの思考さえも。
全ては操られていたのだ。
自分達は釈迦の掌で猿を踊らせた気になっている子猿に過ぎなかった。
無数の目に囲まれながら。
行動の全てを弄ばれながら。
自分達だけが、敵の手で用意されたゴールをめがけて無邪気にボールを転がしていたのだ。
「や…めろ……! 殺さないでくれ、頼む……!」
「驚いたな。殺す覚悟はあっても殺される覚悟はない半端者だったのか?
根源がどうだと私に高尚な目標を説いていた時、あなたの瞳はもっと爛々と輝いていたと記憶しているが」
手術室、と男はこの部屋の事をそう呼んでいた。
サーヴァントを失った私に戦う手段はもはやない。
魔力も宝具の解放のために一滴余さず使い切ってしまった。
…、……よもやそこまで読んでいたのか。
いや、きっとそうだ。そうに違いない。
そう信じるに足るだけの根拠を、私は目にしてきた。
この男は全てを視ている。
目に見えるものも、見えないものも。
「安心しろ。私は魔術師でもないが、同時に殺人鬼でもない」
彼のサーヴァントもまた恐ろしく強かった。
あどけなくすらある見た目にそぐわない火力と信念を秘めていた。
が、それでも私はこの男の方をこそ恐れる。怖いとそう思う。
それはまるで遥か昔、寝物語に恐ろしい怪物の民話を読み聞かされた時に覚えたような――
得体の知れない何かに対する根源的な恐怖だった。
銃を持った狂人など怖くはない。
覚悟を決めた超人とて理解は及ぶ。
人知を超えたサーヴァントもまた然りだ。
だが…
「私は医者だ」
今、私にマスクを装着しながらメスを握って嗤うこの男は何者なのか。
本当にこいつは人間なのか?
私の知る人間はこうではなかった。
狂人ではなく、超人ではなく。
もっと月並みな筈なのに――底が見えない。
人の形をしながら人とは思えない言葉を吐く。
人の思考とは思えない蜘蛛の糸で他者を絡め取る。
関わってはならなかった。
馬鹿が誘い出されたと糠喜びした私はその実、ずっとこの男に嗤われていたのだと今になって思い知る。
「少し腹を開かせてくれればそれでいい。
私への借りは様々な方法で返済出来るからな」
――おお、神よ。
申し訳ありません。
どうかお許し下さい。
◆ ◆ ◆
「…殺したの?」
「いいや。令呪の宿っている方の腕を切断しただけだ。それ以外は趣味の範疇に留まる」
手術を終えた医者は食卓について肉を頬張る。
他人の腹を開いた後にレアのサーロインステーキを頬張れる神経はなかなかに太い。
彼に問いかけるのは、白くふわりと膨らんだ長髪の少女だった。
少女と言ってもその背丈はかなり小さい。
少の字を"幼"に変えたとしてもそう違和感はないだろう。
むしろそっちの方が適切にすら思える。
「殺しても構わなかったが、あの男の心は既に私とあなたに対する恐怖で折れていた。
こうなると単に殺すよりも搾って旨みを引き出す方が得だと判断したまでだ。不満か?」
「いいや、別に。あんな外道の生死なんてどっちでもいいわ」
「ちゃんと全身麻酔を施してやった私の仏心に感謝して欲しいものだ。
別に私は、魔術師は果たして生きながらに腹を開かれればショック死するのかを実験しても良かったのだから」
あの男は、魂食いをかなり大規模に行っている魔術師だった。
魔術師としての能力もさることながら、彼には相応以上の知能があった。
だから魂食いの痕跡を巧妙に隠蔽ししもべの私腹を肥やしていたのだが、医者の慧眼の前では下手な誤魔化し以外の何物でもなかった。
炙り出した上で勝負を突きつけ盤上に載せた。
後は事前に予定していた手筈の通り。
安易な手を誘っては潰し、苦戦を演出しながら追い詰め。
大上段で見下す愉悦を覚えさせた上で手札の全てを吐き出させた。
そうして何もかも使い切らせて――地を這わせた。
歯応えのない勝負だった、と医者はそう思っている。
魔術師と言うのだからどんなものかと期待していたが…あの様子では"あっても"4リンクが精々だろう。
つまらない、実に。
そしてそれは彼の体内についても同上だった。
「それで? どうだったの。マスターが望む結果は得られた?」
「それだが、大腸に癌が見つかった。あれは恐らくステージ3だな」
「…、……もしかして普通に手術したの?」
「分からないか? あなたならば察せると思ったが。存外に――」
「その先はいいわ。察せなかったから早く答えを教えて」
マヌケなようだな、と言いかけた事は察せたので未然に止める。
別段挑発に弱い質でもないがムッとしない訳でもないのだ。
そんな彼女…アーチャーのサーヴァントに、口元を拭いながら医者は言った。
「私の知る人間と何も変わらなかったという事だ」
…聖杯に託す願いに覚えはない。
帰還さえ叶うのならば他の誰かに譲っても一向に構いはしない。
だがその一方で、ある一点に限って言えば医者の彼にとってこの聖杯戦争という儀式は非常に有用だった。
異なる世界からかき集められた願いの器達。
魔術師等という世迷言のような存在が平然と闊歩する人外魔境。
素晴らしい――と。そう思った。
この世界には未知が溢れている。
未知の患者が、捌くべき腹が溢れている。
その事実は村雨礼二という医者にとって、万能の願望器にも勝る輝かしい報酬であった。
しかし蓋を開けてみればどうだ。
魔術師を名乗ったあの男は、超人でも何でもなかった。
「仮に私が執刀していなければ癌は誰にも気付かれる事なく進行していただろう。
大腸癌はシーズン4に入っても比較的対処の余地がある癌だが、近代科学を軽視する魔術師では手遅れになる前に見付けられるかは怪しい。
私の見立てでは病院へ駆け込んだ時には既に手術不能。脳が腫瘍に食い荒らされ、肺も脊髄も血が通っているだけの毒沼と化した状態。
そのまま直に昏睡状態へと陥り、常人と何ら変わらない死を迎える…と言った所だな」
「……」
「奴は只の人間だった。それ以上でもそれ以下でもない」
興醒めだ。
そう語りながら肉を切り口へと運ぶ。
赤い血が口から滴り、それをまた拭った。
「やはり私はあなたを切りたい。私にとっては聖杯の恩寵の真偽なぞよりも、英霊(あなた)の体内の方が余程気になる」
「切らせてあげても別にいいけど、それはもう試したでしょ」
「…あれは実に不愉快な結果だった。まさかメスが折れるとは。この世で最もしなやかな刃物だぞ」
「サーヴァントに物理攻撃は通じない。メスが通る道理もやっぱり無いのね」
とはいえ。
「マスターはどうして私を切る事に固執するの?」
「あなたは私にとって最も身近なサーヴァントだ。これ以上に固執の理由があるか?」
「手段を選ばなければ、サーヴァントの腹を切る事は難しくないわ。私が自分で腹を捌いて貴方に見せればいいだけのことでしょ」
彼女…空崎ヒナはその矛盾に気付いていた。
確かに村雨礼二は英霊であるヒナを切れない。
が、それはヒナ自身が執刀役になる事で解決できる問題だ。
勿論ヒナとて出来ればやりたくはないが、望まれたなら応えてやるのも吝かではない。
にも関わらず不思議と村雨はそれを求めなかった。
彼程の抜け目ない頭脳屋がそれに気付かない訳も無いだろうに、だ。
「…腹を開くのは医者の仕事だ。患者に自ら開腹して貰う執刀医を見た事があるか?」
「まぁ、無いけど」
「そんな情けのない真似をするのは御免だ。どうせ開くならこの手ででなければ意味がない」
「そう。何だかめんどくさいのね、お医者さんって」
嘆息しながらヒナは手元のホットミルクを口に含む。
こく…と音を立てて嚥下している内、次の疑問が湧いた。
「もう一つ聞いてもいいかしら」
「好きにしろ。意味があるならな」
「其処までして人を切って、何がしたいの」
医者が人の腹を捌くのは治す為だ。
だが、彼のそれは少々違って見える。
切る事自体が目的と化しているような。
そんな印象を、ヒナは受けた。
そしてヒナに問われた村雨はやや置いて口を開く。
「只の確認作業だ」
「…確認?」
「世界があるべき形で廻っているか、狂っていないか。
この世界が私にとって生きるに値するか否かを見定める為に私は腹を開いている」
その意味を空崎ヒナは理解出来ないだろう。
この世でそれを真に理解出来るのは他でもない村雨本人だけだ。
ステーキソースで汚れた口元をナプキンで拭き、村雨はヒナの方を一瞥する。
サーヴァント相手に人間の常識を適用するのが無駄な事だとは解っているが、此処では敢えてその無駄を冒す。
“…142cmといった所か。傍目にも発育の遅れが著しい事が解る”
明らかに歳不相応な幼い外見。
第二次性徴前に成長が停止したとしか思えないその体格が、単なる発育上の問題だったなら興味はない。
だがそうではないだろうと村雨は踏んでいた。
召喚直後に彼女自身の口から聞いた身の上。
キヴォトスなる学園都市で最強と称され、その風評のみで聖杯戦争に招かれた"風紀委員長"。
夢の中で垣間見た彼女の働き。
昼夜を問わず出動して事件や暴徒を鎮圧し、執務も人並み外れた量をこなし続ける。
忙しく働き、そしてそれを理由に腐らない。
物事の価値基準を常に公平に判断し、実績と仕事に臨む姿勢で畏敬の念を集めるまさに模範のような人物。
誰かの幸福を支える為に全力で正しく生きる少女。
重ねてしまう――尊敬すべきとある人間を。
自分のような狂人にさえ分け隔てなく接してくれた、血を分けた兄の姿を。
彼の体内に満ちていた苦しみの膿を、幸福の代償を想起させられてしまう。
「次は私から問おう。アーチャー」
空崎ヒナは正しい存在だ。
その生き方は非の打ち所が見当たらない程素晴らしい。
滅私奉公を地で行く、まさに人の上に立つ者の鑑のような少女だ。
だからこそ村雨礼二はこう思う。
彼女は、幸福であるべきだと。
そしてもしも。
「あなたの生涯は、幸せだったか?」
そうでなかったと言うのなら、世界は狂っている。
身を粉にして幸福の為に奉仕した人間が幸せを甘受出来ないのなら最早世界に価値はない。
その破綻を、村雨は許す事が出来ない。
この儀式(ゲーム)を終わらせた勝者には神の如き力が齎されるのだと言うが。
彼女を通じて万一にでも世界の破綻を悟ってしまったなら、その時村雨は聖杯をすら用いるだろう。
無論世界を正す為に。
患者に薬を処方するように、狂った世界へ聖杯の中身を惜しみなく傾ける事だろう。
無論世界を正す為に。
患者に薬を処方するように、狂った世界へ聖杯の中身を惜しみなく傾ける事だろう。
そんな狂気じみた偏執の存在に空崎ヒナは気付かない。
気付かないまま、彼女は少し考えてから口を開いた。
「死ぬ程忙しかったし…信じられないようなトラブルばかり起きる毎日だったし。何もかも嫌になった事も何度かあったけど」
「……」
「でも――まぁ、幸せだったと思う。何だかんだで孤独(ひとり)じゃなかったし、それに」
――空崎ヒナはワーカーホリックである。
そして彼女の居た学園都市・キヴォトスは奇人変人ならず者の見本市のような治安をしていた。
時には血が流れ、命が失われる事もあった。
ヒナは確かに強者だ。
けれどそれと同時に一人の少女であり、生徒だった。
彼女一人ではいつか限界が来ただろう。
子供だけでは耐えられない事が起こり、ヒナは志半ばで散っていたかもしれない。
しかしその点彼女は恵まれていた。
いや、"彼女達は"と言うべきか。
「…頼りになる先生も居たから」
「そうか」
大人としてその働きを労ってくれる存在が居た事。
それが、ヒナを只の社会の犠牲者で終わらせなかった。
だからこうして胸を張って幸福を断言出来るのだ。
良き青春であったと、大変だった記憶を振り返って微笑める。
その笑顔がまた村雨の中のアーカイブと重なった。
そうだ。この手の人間は必ずこういう顔で笑う。
人の何倍も働いて疲れ切っていながら、幸福を顔に浮かべて笑ってみせる。
「やはり当面の愉しみはあなただな」
「…まぁ、別に良いけど。その発言は人に聞かれたら変態の謗りを受けるかもしれないわよ」
「心配するな。その手の中傷は浴び慣れている」
「だったらそれはもう事実なんじゃないの?」
僥倖だ。
村雨は思う。
彼は確信していた。
この少女の中身には必ずや価値がある。
自分の心を満たすであろう何かが詰まっている。
それを検める事が出来れば…この醜くも素晴らしい世界の実像をより鮮明に出来るに違いない。
「言っておくけど、油断は禁物よ。私より強いサーヴァントなんて多分此処にはごまんと居る。
それどころか私なんて下から数えた方が早い筈。キヴォトスとこの街とじゃ危険度は比べ物にもならない」
「その点は問題ない。確かにあなたが此処で最強を名乗り続けるのは難しいだろうが、私に言わせればあなたくらいが丁度良い」
「…丁度良い、ね。それはそれで複雑だけど」
「過度な力は確実に警戒を招く。露払いも碌に出来ないようでは息が詰まるし、取れる択の幅も大きく狭まるだろう。
そうなると私としては寧ろやり難い。ハンディキャップを背負わされたようなものだ」
村雨にとってこれは儀式等ではない。
ましてや戦争等という大仰なものでもない。
彼にとってこの世界はなんて事はない、只のゲームだ。
命を賭け金にして行うギャンブルの延長線上でしかない。
尤も村雨は、命を張る遊びからはとうの昔に降りた身なのだったが……閑話休題。
「降り掛かった火の粉を払うのに苦労しない程度の実力と、マスターの指示を素直に聞く従順さ。
妙な嗜好や主義に傾倒していない事、理性を失っていない事、可能ならば人の形をしている事。
私が自分のサーヴァントに求めていた条件はこれだけある。そしてあなたはその全てを満たしている」
「私で良かった、って事?」
「その通りだ。後はそう難しい事もない」
片眼鏡を指先で持ち上げる男の。
すっかり見慣れている筈のその姿に、ヒナは一瞬寒い物を覚えた。
単なる人間でしかなく、その上人間の中でも虚弱な部類に入るだろうこの男が。
今の一瞬…何か違う生き物のように見えたから。
百目の鬼のような威容を幻視してしまったからだった。
それを単なる見間違いと片付ける事は簡単だが。
時に彼らギャンブラーは、現実に則さぬ幻や景色を当然のように同族と共有する。
「私が勝つ。あなたは私に従っていればそれでいい」
彼らは狂人だ。
自分の命さえチップにする事を厭わない異常者だ。
聖杯戦争。万能の願望器を巡る戦いさえ彼らにとっては遊びの一つでしかない。
ゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナ。
それを従えるのは百目鬼(ギャンブラー)、村雨礼二。
電脳世界という名の賭場に、命という名の札束が舞う。
【クラス】
アーチャー
【真名】
空崎ヒナ@ブルーアーカイブ
【ステータス】
筋力C 耐久A 敏捷B 魔力C+ 幸運B 宝具C
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
職務遂行に対する並大抵ではない信念。
【保有スキル】
ゲヘナの風紀委員長:A
ゲヘナ学園にその人ありと恐れられた歴代最強の風紀委員長。
頑強、射撃、仕切り直しなど戦闘に必要な概ねのスキルに精通している。
「めんどくさいけど。まぁ、やらなきゃいけないことだから」
重武装砲火:A
重火器・爆発物の扱いに長ける。
アーチャーの手にした銃器は神秘を持たない近代兵器であろうと、サーヴァントを殺傷出来る神秘を得る。
またその性質上魔力の燃費が極端に良い。
戦闘続行:B+
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
往生際の悪さというよりは彼女の極めて強い責任感に由来するスキル。
その為、スキルの効果はアーチャーの精神状態にある程度依存する。
【宝具】
『無慈悲たれ、終幕の焔(イシュ・ボシェテ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1〜400
終幕:イシュ・ボシェテ。
範囲内に存在する全ての敵に対して撃ち込まれる重火力殲滅射撃。
力押しの極致であり、風紀委員長・空崎ヒナの恐ろしさを物語る終幕の集中砲火。
【weapon】
終幕:デストロイヤー
【人物背景】
ゲヘナ学園3年生。風紀委員会の風紀委員長。
極度の面倒くさがりだが校則に関しては厳格で、また責任感も強いため、自由過ぎる校風のゲヘナ学園の生徒達を相手に忙しい日々を送っている。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯を積極的に求めるつもりはなく、基本はマスターの方針に従うつもり。
非道な行動には眉を顰めるが、自分を呼んだ人間の求めにはなるべく添う。
めんどくさいのでなるべく早く解放されたい。
【マスター】
村雨礼二@ジャンケットバンク
【マスターとしての願い】
聖杯戦争に招かれた者達の体内に興味がある。
敗者の体を開き有意義な手術体験を重ねていきたいと考えている。
だが目下最も気になっているのはアーチャー、空崎ヒナの体内。
【weapon】
武器は持たないが、医者なのでメスは常に持ち歩いている。
【能力・技能】
医師としての高い技量及び知識。
そして仔細な人体観察に基づく極めて高度な読み合いの技術を有する。
ギャンブルをせずにギャンブルを制する怪人。
その視野の広さは常人のそれとは比べ物にならない、怪物の次元にある。
【人物背景】
地下銀行で日夜命と大金のやり取りを繰り返すギャンブラーの一人。
腕前は非常に高く、一度はギャンブラーの最高ランクとされる位階にまで登り詰めた経歴を持つ。
【方針】
アーチャーを運用し聖杯戦争を進める。
聖杯は彼女に譲っても良いと考えているが、その代わり一度開腹させてほしいと思っている
投下終了です
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瘦せ我慢ばかりでもう、半年過ぎたが
何が変わったか 誰を愛せたか。
頭のなかで、今。夢が、崩れ出した……。
――何とかなれ。
その男は、煙草を吸っていた。
歓楽街の、喫煙所の前で――特にやる事なんかないさというように、ただ退屈していた。
なぜなら、博打の前は、彼はいつも手ぶらだったからだ。
神域の男。彼はそう呼ばれた。これは、ただの余興にすぎなかった。
雀荘からもう一人、男が出てくる。黒スーツ仕立ての、マスターである男が見繕ったその恰好が、妙にロングヘア―のその出で立ちに似合っていた。
「いやぁ...すまんの」「…どうだった?」
男達は、互いに嗤っていた。まるで始まる前から凡てを出し尽くしたような、笑いだ。
「オレは麻雀とやらは始めてでの。ちいとばかしスってしまったぞ。……しかし、いいのかマスター。」「……ん?何がだ?」
「ほんとうにお主とやら、――この聖杯戦争で、生き残ることを、考えておらんのか?
....その結果、オレばっかり好き勝手してしまっとるではないか」
黒服姿の男。変装こそしているが、ろくに霊体化すらしてないこの男が、サーヴァントだ。
その不安を見て、…尚も銀髪の男は、笑った。それはもう、心地よく。
「……いいさ。俺は既に半死の状態。
寧ろ死ぬことが本命....!…いや、凡ては死ぬことすら初まる僥倖とすら謂える……!」
…説明は訊いていた。目の前の男が、もう助からないであろうことも。
その様子を、目の前の男……サーヴァント、千手柱間は見据える。
その死生観、自身もマジになった時はよく感じる闘気を、一心に肌で感じながら。
そう。そのマスター……、赤木しげるという男。
彼が参戦した時期は、自らの葬儀の数ヶ月前。
例え生き残ったとしても、彼はアルツハイマーに侵されており、いずれ数年で全てが、脳が失われ。
凡てが解らなくなり、死に至る。斯のように在る、運命だった。
「…無礼を承知で訊かせてくれ。その病、治せるとしたなら…聖杯には、願わないのか?」
「…それは、捻じ曲げるだろ?俺の決意を。……俺の命を。
そんな道理にしたがってまだ、俺が生きて居たいと思うか……?」
そうか、と柱間は少し、複雑そうな貌をした。目の前の男が、柱間の眼にも命を散らすには惜しい人間であることを感じ取っていたからだ。
この男がどうやってこの様な意識にあるのかを、柱間は聞かなかった。――とても、自分と同様に、合理の道筋では立ち行かない闘気があったからだ。
赤木も柱間も、感じていた。
間違いない。目の前にいるこの男は、自分と同類だ。…感覚に全てを任せ、時に凡てを切り捨ててでも博打を打てる無頼だと。
闇の王。…或いは、里の長。
互いに王となっていた、男だから感じるものがある。
だからこそ、柱間には、踏みとどまってほしかったのだ。
何だか召喚されたときから赤木には、自身は借りを作っているように思えて仕方がなかったのだ。
「…それでも、これは戦争ぞ。…敗けて死ぬのは、つまらんぞ。」忠言する。それは、忍の神と称えられていた者の発言だった。
…そこに友の影が一瞬過ったことを、柱間は謂わなかった。
「あんたの方こそ、戦争か?いや……失礼だったな。この賭博……召喚されりゃ、人を殺ってないほうがおかしい。
ククッ....そりゃ俺は何も云えんな。俺は平和に退屈してたから」
在りえなくない話ではないが、もし生まれる時代が少しずれてて、徴兵されていたら。
死ぬ先が博打でなかったら、自分は、とても生き残ることはできなかっただろう。…赤木はそう語った。
敢えて死にに行くことで生を浮かび上がらせていたのなら、死が不変の戦場じゃあ何の意味もないだろうさ、と。
「柱間。お前の遊び博打に俺は金を貸した。その分だけ働いてくれりゃあいい。
どうせこんなもん、死人の俺を呼んだ時点で出来レースだろうさ。…なら、その機運を変えてから死ねばいい。」
そう、この聖杯戦争で、赤木は何が勝利か、見据えていた。
自分は助からないのなら、その上で生きようとする者達の為に、機運を変えればいい。
居るかどうかすら分からないのに、赤木はその者を待っていた。
最初に麻雀を始めた時にいた男、南郷や井川ひろゆきのように、自らの手で運命を変えようと藻掻く者の運命を変えてやりたい。
それが見れれば、満足なのかもしれない。…俺は。
「…分かった。しかと分かったぞ、赤木よ」
柱間は目を伏せる。…だが、そして嘆願した。
その上で、謂わせてほしいと。
「マスター、赤木しげるとやら、オレは決めたぞ。
この戦争を――お前を生かす戦争に造り替えると。満足させると。ここに誓おう。
俺がここにいる内は、何人たりともお前には触れさせん。」
ククッ、何を言い出すかと思えば。赤木は、嗤っていた。
そう。その上で、その運命を識った上で、柱間は赤木を生かす方へと賭けるのだ。
「…ありがとうよ。或いは、お前になら」「……うん?何ぞ」
…何でもねぇよ、と赤木しげるは煙草を吸いながら尚も笑った。
鷲巣とは違い、この男は快い風。
成功を積むことに固執せず、しかし王であった男。
この男なら、この戦争が終る頃には、己の、友として成れるかもしれない。
そんなことを、考え、ふっとありえないと、離散していった。
「…よろしくな、柱間」「…応ぞ」
繁華街を、男たちは後にする。
――斯くして、二つの木の葉は舞っていく。どこに流れ着くかも、分からないままに。
【クラス】
キャスター
【真名】
千手柱間@NARUTO
【ステータス】
筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:A 幸運:B 宝具:A
【属性】
中立・善
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。彼の場合、木遁忍術や後述の仙人モードと組み合わさり戦場そのものが自身の有利な陣地となる。
仙術(仙人モード):A
湿骨林で体得した(可能性がある)仙術。
この状態になり、数舜待つことで自然からチャクラを取得することができ、大幅に術の出力が上がる。
【保有スキル】
カリスマ:A
永きに渡る戦争を止め、里のシステムを創った改革者。
その器の大きさは、後々に語り継がれる。
柱間細胞:B+
大筒木アシュラのチャクラを基とする、柱間が持つ体細胞。
肉体が常人とは桁違いの治癒力、チャクラ量で構成されており、その生命力は本人が死亡して尚細胞が生き長らえるほど。
また、木遁忍術の行使を行うのにも必要。
戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
【宝具】
『木遁忍術』
ランク:A+種別:対人〜対軍宝具レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
柱間細胞から成る一連の忍術。
チャクラから成る木を媒体にする分身から、陸から樹海を出現させ薙ぎ払う樹界降誕、仙術と組み合わさり強化された尾獣と張り合うほどの強さを見せる真数千手など、手数は非常に広い。
【人物背景】
「忍の神」と謳われた、隠れ里のシステムを作り上げた創設者。
戦争で親友であったうちはマダラを止められるのは、世界で彼たった一人だけだったと言う。
【サーヴァントとしての願い】
赤木に貸した分を働く。
そして、その上で『赤木が生きる』方へ賭ける。
【マスター】
赤木しげる@天 天和通りの快男児
【マスターとしての願い】
飛散し、闘いのなかで死んでいく。
【能力・技能】
「神域の男」。異能こそないが博打のような不確定要素の絡む勝負、駆け引きにおいて無類の強さを見せる。
また、その打ち手の裏には「一か八かの局面で、わざと死にに行く方を選択する」という希求がある。
現在はアルツハイマーに侵されているが、その言い回しや感覚的な打ち筋までは滅んでいない。
【人物背景】
かつて裏社会の頂点に君臨したが、早い段階で引退した伝説的な人物。
若年性アルツハイマーに侵され葬儀の準備を進めていたが、“黒い羽”に触れて参戦。
投下を終了します
投下します。
ポケットのなかにはビスケットがひとつ――――
枯山水の庭園に二人の童女の歌声が響く。
ポケットをたたくとビスケットはふたつ――――
二人は仲睦まじく遊んでいるようで、時たまはしゃぎ声が歌に混ざる。
――――あっ、あたしのおかし、落っことしちゃった。
やにわに片方の女の子が泣き声を上げた。
食べていたビスケットを芝生の上に落としてしまったのだ。
――――もう、しかたないなあ、まいは。
あたしのあげる、としっかりした方の女の子が自分のビスケットを割り、泣いている子へと渡した。
――――これで、二つになっただろ。
さっきの泣き顔はどこへやら、うん、と嬉しそうに笑いながらビスケットを受け取る。
――――なんでも二人で分けるとおいしいね、おねえちゃん。
妹のその言葉は、未だに私の胸に澱のようにへばりついて離れない。
◆ ◆ ◆
少女は暗闇の中で目を開く。
眼の前には死体の山が積み重なっている。
前を向く。だらしなく舌を突き出した従兄弟の生首が吊るされている。
左に視線を移した。頭を両断された父が刀を振りかぶったままこちらを睨んでいる。
下を見る。胸から鮮血を吹きながら母が恨み辛みを呟いている。
右は――――――――
右へはどうしても目をやることができない。
怖いからだ。
自分が殺してきた者たちと、自分が犯してきた数々の罪と向き合わなければならないから?
――――いや、違う。
罪悪感は全て『彼女』が持って行ってくれた。
――――彼女?
そう、私が怖いのは、あの子がすぐ傍で私を待っているかもしれないから――――
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
「ヘイ、マスター! 今夜一緒に踊らない!? そんな目で見るなよブルっちまうぜ!」
深夜の裏路地で異様な姿の男女が連れ添って歩いていた。
一人はまるで時代錯誤のスーパーヒーローのような全身ラバースーツに身を包み、顔全体を覆うマスクを着用した男。
「さっきからペチャクチャペチャクチャるっせぇな。ちょっとは黙ってろ、バーサーカー」
もう一人はハイネックのタンクトップを身にまとったショートヘアーの美少女だ。
だが全身に歴戦の戦士の如き傷痕が大量に走っており、明らかに街の雰囲気に似つかわしくない。
それだけではない。彼女は一振りの脇差し大の刀を腰に下げていた。
「うるさいって、そりゃないぜ! 黙れよ! 俺! ……ごッ」
バーサーカーと呼ばれていた男が、少女の裏拳を喰らい吹き飛ぶ。
そのままの勢いで壁に命中した男は、泥人形のように溶けて崩れた。
「ジャジャーン! 俺は死なねえ! いやサーヴァントだからもう死んでるぜ」
すると物陰からひょっこりともう一人の『バーサーカー』が姿を現す。
手品? そっくりな別人?
いや、違う。彼らは全部で一つ、そして一つで全部なのだ。
狂戦士(バーサーカー)の名を冠するサーヴァントとして召喚された男は、魔力がある限り無限に増え続けるという“個性”を持っていた。
泥のような物体からホムンクルスのように産み出され、今もこの冬木市のあちこちには数知れぬほどの『彼ら』が無数に蠢いている。
――――突然、かん高い鳴き声とともに一匹の鷹が飛び立った。
路地からでもはっきりと見えるほど大きな鷹だ。
「おっ、鷹か。自由に飛べて、どこへでも行けて、羨ましいねぇ」
しかしバーサーカーの反応はまるっきり逆で、怯えるように首をすくめた。
「なんだ。お前、鷹が苦手なのか?」
少女の言葉に、バーサーカーは震える。
「鷹(ホーク)は嫌いだ! あの全てを見透かしたような目がいけ好かねェ……! まだトラウマなのかよ! ダッセェな!」
「そうか。色々あったんだな」
震えたまま頭を抱えたバーサーカーは、頭に被ったマスクを取り落とした。
「うぐぅぅぅ……」
その場にうずくまり、震え続けるバーサーカー。
少女はそのマスクを拾い、彼の頭に被せてやる。
「“包めば一つ”だろ」
これまで行動を共にしてきて、分かったことがいくつかある――――
まず一つ。マスクが外れるのを極度に嫌がるということ。
そして。彼も自分のようにトラウマに塗りつぶされそうになる時があること。
最後に。二つに別れたものでも、包めば一つ、ということ。
◆ ◆ ◆
ポケットのなかにはビスケットがひとつ――――
ポケットをたたくとビスケットはふたつ――――
私は、今度こそ、と心を決めた。
目を閉じ、そして再び開く。
眼の前には死体の山が積み重なっている。
いつものように――――
前には従兄弟が。
左には父が。
下には母が。
右を向こうと決意する。
――――だが。
首はどうしても動かない。
心はとっくに覚悟を決めたのに。
――――そう思っていたのに。
どうすれば見えるようになるんだろう。
――――ねえ、真依。
どうやら、全てが見えていても――――見えなくて、それ以外の全てが見えていても。
見えないものはあるらしい。
----
【クラス】
バーサーカー
【真名】
トゥワイス@僕のヒーローアカデミア
【パラメーター】
筋力:E+ 耐久:E+ 敏捷:D 魔力:E 幸運:E 宝具:B+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
狂化:D
筋力と耐久のパラメーターをランクアップさせるが、複雑な思考が難しくなる。
過去のトラウマによる産物。分裂する思考が止められない。
【保有スキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
敵:B
侵す者。その象徴たる証。
自身のクリティカル発生確率を中程度上昇させる。
その代わり、精神系の状態異常を受けやすくなる。
【宝具】
『二倍(トゥワイス)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
一つのものを二つに増やす。複製するには対象物をしっかり精緻にイメージしなければならず、イメージが足りないと失敗して不完全なゴミが出る。
例えば、人を増やすなら身長や胸囲、足のサイズなど多くのデータが必要。複製はある程度のダメージが蓄積すると泥の様に崩れ消滅する。
また、人間を増やす場合は人格も含めて複製しているのでコピーが協力してくれるかは交渉次第である。
『哀れな行進(サッドマンズパレード)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜999 最大補足:∞
バーサーカーの第二宝具。魔力が続く限り自分自身を複製し、更にその複製に自身を複製させる事で無限に増え続ける。
その規模は凄まじく、瞬く間に辺り一面を埋め尽くす程の数を作り上げるほど。
さらに自身ほどの効率では生み出せないが、事実上味方も同様に無限に増やすことも可能。
【人物背景】
信じていた友に裏切られ、愛する少女に看取られ逝った男。
彼はもう、居場所を見つけられた。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯をブン獲ってマスターに渡す。
【マスター】
禪院真希@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
聖杯を悪用しようとする奴等を全て斃す。
【能力・技能】
『天与呪縛・フィジカルギフテッド』
本来持って生まれる筈の術式と呪力を持たない代わりに、人間離れした身体能力を身につけている。
【人物背景】
片割れから呪いを託され、怪物に成り果てた少女。
彼女はまだ、居場所を見失っている。
以上で「包めば一つ」の投下を終了します。
投下します
とある学校の体育館。
静かに構える、二人の鎧姿の人物。
鎧とは言うが、なんてことはない、ありふれた剣道の試合。
学校での部活動の一環。割と何処にでもある、よくあるものだ。
だが試合は始まってもあっという間に終わってしまう。
静かに、まるで本物の刃を振るうような冷静な動きで、
容易く剣道の勝利条件を満たして試合を終わらせてしまう。
「やっぱり、先輩強いですね。」
兜を脱ぎながら、男子生徒が感嘆の眼差しを向ける。
瞬殺されたのに憧憬の眼差しなのは、元よりその彼女の人柄が伺える。
同じように兜を脱いだ茶髪の女子生徒は、男子のような顔立ちの良さを見せつつ言葉を返す。
「嫌味に聞こえてしまったらすまないが、
そんなことはないよ。ボク以上に強い人を知ってる。
だからこそ、未だに鍛錬を積み重ねているんだ。」
「やっぱできる人は違うなぁ。さすがは獅童先輩だ!」
試合を見ていた人たちも腕前を褒めたり、
男性のような顔の良さに見惚れる女子生徒ががやがやと騒ぐ。
容姿と強さ。双方を兼ね備えてるがゆえに男女問わず人を引き付ける。
「はいはい、雑談はそれぐらいにして片づけるよ!」
手を叩くことで小気味よい破裂音と共に声は止められる。
気だるそうに後輩が返事をしながら、道具を片付け始めていく。
特に何が起きるわけでもなく部活動は終わって、全員解散。
人気のない路地を歩いているが、特に何が起きるでもなく。
此処が聖杯の為命を奪い合う舞台としては不釣り合いな光景だ。
と言うのも、彼女こと獅童真希はサーヴァントとの交戦を極力避けている。
するとしてもサーヴァントの特性を活かした事実上の暗殺を優先とする。
だから平和的だ。何も起こさず、ただ静かにロールプレイで静かに過ごしていく。
聖杯に関する知識は貰ったとしても、やはりまだ不慣れなことも多いのが理由だ。
無知の冗長。そう言ったことで彼女の望みを捨てることなきように理解を深める。
動き出すのはそれからでもいい。そういうスタンスで暫く様子見をし続けていた。
一人静かにマンションへ帰ると、
彼女の背後には一人の少女が姿を現す。
傍でずっと霊体化していたサーヴァントだ。
黒を基調とした腹回りを露出させた軽装に、緋色の髪の女性。
凡そ現代の恰好とは言い難く、ファンタジーなものに見える。
事実、彼女はそういった世界から召喚されたサーヴァントではあるが。
「目立つ行為に見えるけど、大丈夫?」
目立つと言うのは彼女のその在り方だ。
先の大会でも優勝を果たし、部活動でも手を抜かない。
まるで自分の存在を知らしめしてるかのようにも見える。
彼女はどちらでもいいが、彼女の立ち回りの仕方を考えると、
敵になるべく察知されない方がよいものだと思えてならなかった。
「大丈夫だ。寧ろこれはいつも通りを演じる必要がある。
大会で優勝する人間が体調不良で負けて噂になってしまえば、
誰に疑われるか分からない以上、いつも通りの人物を演じるだけだ。
ボクの通う学校にマスターやサーヴァントがいないとは限らないだろうから。」
いつも通りを演じ続ければおのずとNPCと思われるだけ。
いわれるとそれもそうだと感じたので、特に言及はせず二人は靴を脱ぎ家へと入っていく。
家は一人暮らしらしい、どこにでもあるシンプルに物が程々に置かれた部屋が出迎ええる。
特筆するべきことがないような、普通の部屋だ。
「ねえ、マスター。」
「アーチャー、ボクのことは真希でいい。」
晩御飯の準備を始めながら、静かに言葉を交わす二人。
「じゃあ、遠慮なくマキって呼ぶわね。
貴方にとって、その人はどんな人だったの?」
アーチャーを召喚された時、
彼女は『生き返らせたい人がいる。その為に聖杯が欲しい』と。
暫くはロールに慣れる為聖杯戦争についての言及は避けていたのだが、
大分慣れてきた様子であるので今尋ねてみることにした。
「とても、わがままで手が付けられない子供だったよ。
命令を無視するし、必要ない戦いを持ちかけたりして迷惑をかけて。
それを年相応と言ってしまえば、そうおかしいことでもないとは思うが。」
思い返せば短い間だったが色々あった。
長さで言えば数年もあっただろうか怪しい時間。
あの五人で集っていた時期は、忘れられない日々となる。
「それでも会いたいのね。」
なんだか大変な子供ではあるし、
彼女の言動や年齢から血縁でもない様子。
それでも会いたくて、他者を蹴落としてでも会いたいのだと。
この聖杯大戦とはつまり、そういうことなのだ。
誰かを蹴落とさずして死者の蘇生は叶わない。
サーヴァントを喪えば時間経過で死ぬ以上、
サーヴァントだけ倒そうとも今を生きる人を殺すことになる。
とある学校の体育館。
静かに構える、二人の鎧姿の人物。
鎧とは言うが、なんてことはない、ありふれた剣道の試合。
学校での部活動の一環。割と何処にでもある、よくあるものだ。
だが試合は始まってもあっという間に終わってしまう。
静かに、まるで本物の刃を振るうような冷静な動きで、
容易く剣道の勝利条件を満たして試合を終わらせてしまう。
「やっぱり、先輩強いですね。」
兜を脱ぎながら、男子生徒が感嘆の眼差しを向ける。
瞬殺されたのに憧憬の眼差しなのは、元よりその彼女の人柄が伺える。
同じように兜を脱いだ茶髪の女子生徒は、男子のような顔立ちの良さを見せつつ言葉を返す。
「嫌味に聞こえてしまったらすまないが、
そんなことはないよ。ボク以上に強い人を知ってる。
だからこそ、未だに鍛錬を積み重ねているんだ。」
「やっぱできる人は違うなぁ。さすがは獅童先輩だ!」
試合を見ていた人たちも腕前を褒めたり、
男性のような顔の良さに見惚れる女子生徒ががやがやと騒ぐ。
容姿と強さ。双方を兼ね備えてるがゆえに男女問わず人を引き付ける。
「はいはい、雑談はそれぐらいにして片づけるよ!」
手を叩くことで小気味よい破裂音と共に声は止められる。
気だるそうに後輩が返事をしながら、道具を片付け始めていく。
特に何が起きるわけでもなく部活動は終わって、全員解散。
人気のない路地を歩いているが、特に何が起きるでもなく。
此処が聖杯の為命を奪い合う舞台としては不釣り合いな光景だ。
と言うのも、彼女こと獅童真希はサーヴァントとの交戦を極力避けている。
するとしてもサーヴァントの特性を活かした事実上の暗殺を優先とする。
だから平和的だ。何も起こさず、ただ静かにロールプレイで静かに過ごしていく。
聖杯に関する知識は貰ったとしても、やはりまだ不慣れなことも多いのが理由だ。
無知の冗長。そう言ったことで彼女の望みを捨てることなきように理解を深める。
動き出すのはそれからでもいい。そういうスタンスで暫く様子見をし続けていた。
一人静かにマンションへ帰ると、
彼女の背後には一人の少女が姿を現す。
傍でずっと霊体化していたサーヴァントだ。
黒を基調とした腹回りを露出させた軽装に、緋色の髪の女性。
凡そ現代の恰好とは言い難く、ファンタジーなものに見える。
事実、彼女はそういった世界から召喚されたサーヴァントではあるが。
「目立つ行為に見えるけど、大丈夫?」
目立つと言うのは彼女のその在り方だ。
先の大会でも優勝を果たし、部活動でも手を抜かない。
まるで自分の存在を知らしめしてるかのようにも見える。
彼女はどちらでもいいが、彼女の立ち回りの仕方を考えると、
敵になるべく察知されない方がよいものだと思えてならなかった。
「大丈夫だ。寧ろこれはいつも通りを演じる必要がある。
大会で優勝する人間が体調不良で負けて噂になってしまえば、
誰に疑われるか分からない以上、いつも通りの人物を演じるだけだ。
ボクの通う学校にマスターやサーヴァントがいないとは限らないだろうから。」
いつも通りを演じ続ければおのずとNPCと思われるだけ。
いわれるとそれもそうだと感じたので、特に言及はせず二人は靴を脱ぎ家へと入っていく。
家は一人暮らしらしい、どこにでもあるシンプルに物が程々に置かれた部屋が出迎ええる。
特筆するべきことがないような、普通の部屋だ。
「ねえ、マスター。」
「アーチャー、ボクのことは真希でいい。」
晩御飯の準備を始めながら、静かに言葉を交わす二人。
「じゃあ、遠慮なくマキって呼ぶわね。
貴方にとって、その人はどんな人だったの?」
アーチャーを召喚された時、
彼女は『生き返らせたい人がいる。その為に聖杯が欲しい』と。
暫くはロールに慣れる為聖杯戦争についての言及は避けていたのだが、
大分慣れてきた様子であるので今尋ねてみることにした。
「とても、わがままで手が付けられない子供だったよ。
命令を無視するし、必要ない戦いを持ちかけたりして迷惑をかけて。
それを年相応と言ってしまえば、そうおかしいことでもないとは思うが。」
思い返せば短い間だったが色々あった。
長さで言えば数年もあっただろうか怪しい時間。
あの五人で集っていた時期は、忘れられない日々となる。
「それでも会いたいのね。」
なんだか大変な子供ではあるし、
彼女の言動や年齢から血縁でもない様子。
それでも会いたくて、他者を蹴落としてでも会いたいのだと。
この聖杯大戦とはつまり、そういうことなのだ。
誰かを蹴落とさずして死者の蘇生は叶わない。
サーヴァントを喪えば時間経過で死ぬ以上、
サーヴァントだけ倒そうとも今を生きる人を殺すことになる。
「もうありえないと思っていたチャンスだと思えた。
ボクにはまた五人で……花見でもしたいだけの願い。
ありふれてるだろう? その程度でボクは他人を蹴落とす。
それが屍山血河の上であっても、その願いが捨てられないんだ。」
その手に握られるのは、
彼女が好きだった苺大福を模した猫のキーホルダー。
鞘にすらつけていたほどにお気に入りのキャラクターで、
彼女が死別してから形見として受け取ったのがそれだ。
それが、唯一彼女に残されてている繋がりでもある。
「それだけ?」
「……? どういう意味だい?」
「本当にそれだけのようにはあまり思えなくて。何か、別のものを求めてない?」
「ああ、そういうことか……再戦も、目的なのかもしれない。」
「再戦?」
少女は才能に満ち溢れていた。
親衛隊末席でありながらも最強を名乗れる存在。
(まあ入った順番であり席=強さではないが)
けれど彼女には生きる時間の猶予など殆どなかった。
たった十二歳と言う齢で夭折へと至ってしまった病弱。
命をつなぎとめたものも、非合法的で延命にしかならず。
「僕は未だ越えているのか怪しい。だから、戦いたくある。
最大限戦える状態で、彼女を生き返らせてあげたいんだ。」
少女の目的はその強さを誰かに焼きつけたい。
強さを証明すること。彼女が強くなれる機会があれば、
それをより伸ばすことができる。そして、目標となる。
「勝てないならば、もう一度その高みを目指して越えていく。
もし勝てれば……いや、こんな及び腰の時点で勝てそうにないな、僕は。」
自嘲気味に髪をかき上げる。
幼い子供は自分よりもずっと強い。
だからこそ鍛錬や非合法な手段にも手を出した。
それでも越えられない。言うなればそれはわがままの類。
どっちが子供なのか分かったものではない。そういう意味の自嘲でもあった。
「───ちょっと羨ましく思うのは不謹慎かしら。」
「と言うと?」
「私の方だと高みは化物の領域だったから。
強いことなのに誰も恐れてないのが、ね。」
アーチャーは化物と言う言葉に苦手意識があった。
それは自分を受け入れてくれる場所がなくなるから。
元々人付き合いが下手だったのがあるにはあるが、
同時に自分の強さによって一線を引いていた部分はある。
本当は色んな人と買い物したり遊びたかったりしたいだけの女性だ。
「化物か……むしろ逆だよ。僕の方が化物だ。」
ノロ。荒魂と呼ばれる怪物を構成する特殊な物質。
彼女はそれを体内に取り込んででも強さを求めている。
強くなるためには手段を選ぶことなど彼女にはできなかった故に。
今となっては少しばかり後悔している部分もあるにはあるが。
元々先の見通しが甘いところは彼女の悪い所でもある。
「化物じゃないわ。本当の化物は……いいえ、
これは言うべきことじゃないわね。」
化け物ではない普通の女性。
そうだとしても強さはどうしても関係にひびを入れる。
親友を憧憬と同時に嫉妬させてしまうだけの才覚。
一人の女性を追い詰めることとなり、自分も追い詰めることとなった。
自分が化け物でなければ、彼女を裏切ることになるとある弓に唆されたが、
友と邂逅したときにそれを言われ、化け物であろうとする呪いから彼女は解放された。
「聖杯だけ手に入れて、他のマスターを助けられる手段があればいいが。
そんな都合のいい手段を見つけられるようならこんなことにはならないか。」
古今東西を通り越して別の世界までアクセスする聖杯の奪い合い。
そんなものに抗えるだけの頭脳、力量、何もかもが彼女には足りないのだ。
加えて生き返らせたい少女がそこに居る。なら、伸ばすしかなかった。
「だから、せめて迷いのない答えだけは出す。
僕は聖杯を手に入れて、結芽を生き返らせる。
それだけは、手に入るのであれば決めていることだ。」
思慮が浅いだの愚かだの言われてしまう。
そんな弱い彼女の、せめてもの意思表明。
「……分かったわ。アーチャー、ソーン。
お友達としてでもだけど、貴方のサーヴァントとして、
誰の手にも届かせない高みの聖杯を手に入れるわね。」
「ありがとう。さて、晩御飯だが君も食べるかい?」
「じゃあ、お言葉に甘えようかしら。」
まるで平和な時間のように過ぎていく。
その覚悟は、他者の死を望みながらであることは分かっている。
だとしても、大事な友の存在を忘れることなどできない。
それは真希だけでなく、ソーンも同じことだった。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ソーン@グランブルーファンタジー
【属性】
秩序・中庸
【ステータス】
筋力:D 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:D 宝具:B
【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない
単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力
ランクAならば、マスターを失っても一週間の現界が可能
十天衆はその強さと、もともと団としての関係が深くないのもあってか、
基本的に単独行動で事を済ませることが多いためランクは高い
【保有スキル】
十天衆:C
全空に名を轟かせた、最強の集団『十天衆』
ソーンはその一人であり、最強の弓使いとされる
交渉、話術と言った方面で有理に行動ができるものの、
場合によっては存在そのものが脅迫になるので扱い注意
魔眼:A-
彼女が化け物たる所以、最早人の眼ではない程の驚異的な視力を持つ
小島程度の広さであれば、遮蔽物がなければどこにいても把握できる
山から麓の町で行商人のやり取りを、読唇術を用いて会話内容すら理解できてしまう
魔導弓の特性と組み合わせれば、視界のどこにいても彼女の射程とされるほど
攻撃の命中率、敵の逃亡阻止を幸運判定を無視して有利な判定を得られる
一方で日差しが強い、光が反射する場所だと逆に不利となり、天性の狩人のスキルも弱まる
天性の狩人:A
視力のよさと才覚により、彼女は狩人としての能力は非常高い
このスキルにより彼女の攻撃は全てが対軍宝具と同等の捕捉が可能
多数の敵に十全に立ち回ることが可能とされるが、魔眼が機能してなければ効果を失う
また、このスキルが発動する限り、彼女の矢にはバッドステータスを付与する効果を持つ
あくまで付与するだけで、そのバッドステータスは耐性や幸運判定によって決まる
飛翔術:A
空の世界では有名であるが使えるものは少ない、生身で飛行をする魔術
天才と呼べるような人物以外に使用することができず、低ランクのものは存在しない
特にソーンの飛翔術は航行中の騎空艇に追いつける驚異的な持続力と速力を持っている
涯て:EX
アクセス不可能。
【宝具】
殲滅の鏑矢(アステロイド・イェーガー)
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:測定不能 最大捕捉:1〜300
二王の果て。魔眼の狩人の持つ弓の武具二王弓を解放することで使用できる宝具
飛翔術によって空から放つため、地上からの射撃の妨害は手段が限られる
槍のような巨大な矢と無数の矢を放つ。軍勢から単体まで対応の幅は広いが、
一番の強みはクリティカルが確定で発生し、敏捷を一段階引き上げる恩恵。
霊核への攻撃が通しやすくなるものの、彼女の幸運はさほど高くないためこれはおまけ程度
限界超越・鳴弦の儀(ステラ・ターミネイション)
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:測定不能 最大捕捉:1〜100
天星器を手にした魔眼の射手が天星器と心を交わした、限界超越の果て
使用と同時に敏捷と幸運に+がつき、心眼(偽)に近しい回避能力を得る
ただし使用に令呪一画は必要で、長時間の使用は魔力が枯渇しかねない
矢ではあるが、やってることは最早極太レーザーとも言うべきものを放つ
【weapon】
魔導弓
彼女が使う矢は魔力で作り出した矢であるため、
魔力が尽きない限り、矢が尽きることは決してない
同時に魔力を消費するため、対魔力の影響を受けやすい
また普通の矢ではないので、軌道を逸らした狙撃も連射も乱射も可能である
そのため簡単な遮蔽物であれば物理的に曲がって当てることが可能
二王弓
覇空戦争時代、空の民の切り札とされた武器『天星器』
二王弓は全てを射抜くとされるほどの強力な力を持つが、
完成に至ってもそこまでの強さは発揮できないと思われる
依り代と属性の力を付与することであらゆる属性になれるが、
ソーンが所有している都合、二王弓の属性は【光】になっている
なお、この武器には意志が宿っていて、一時期ソーンを唆したこともある
今は次の逸材に出会うまではソーンの武器として従うつもりのようだが、
この聖杯戦争でソーン以上の射手を見つけた時、彼は・・・・・・
狩人
武器と言うわけではないが、生まれた土地では彼女は狩りをしていた
身を隠して機会をうかがったり、急所を狙った一撃などの才覚は十分で、
動物の血抜きや皮を剥いだりといった解体にも精通してはいるが、
人工的な見滝原では、後者は発揮しにくい能力になるだろう
飛翔術
スキル参照
【人物背景】
全空最強の集団、十天衆の一人にして最強の弓使い
魔眼やその強さから化け物と呼ばれるほどの存在であり、
二王弓にすら次の逸材は千年後と言わしめる程の射手の腕前を持つ
本当は寂しがりやで友達や仲間と一緒にすごすのを夢みた、ある意味一番人らしい性格
生前、ある団との邂逅によりその願いは叶い、親友との悔根も既に過去のものとなっている
十人全員による食事など、彼女が願った一般的な日常は手にできた
【サーヴァントとしての願い】
既に彼女は望むべき願いは叶った
変えたい過去はあれど、それがあって今の自分がある
召喚に応じたのは彼女に似ていたから
【マスター】
獅童真希@刀使ノ巫女
【マスターとしての願い】
本当はなかった。
でも、彼女が、結芽が生き返るなら……
【能力・技能】
刀使
御刀と言う特殊な刀に選ばれた巫女が使役できる能力
薄緑と呼ばれる御刀を手にしている間様々な能力が行使できる
身体のダメージを無力化できる写シ、筋力を上げる八幡力など多彩
折神家親衛隊第一席
作中世界で五全試合を二連覇し、
折神家親衛隊第一席として活動していた。
流派は神童無念流。御刀は薄緑だが彼女は別名の吼丸と呼ぶ
【人物背景】
平時は仲間思いで面倒見のいい人で、親衛隊ではおじいちゃんのようなポジションとも言われる
一見クールなようで衝動的な悪癖を持ち、自分に自信が余りないと結構ポンコツな部分がある
実力自体はあるが直情型な部分がとにかく足を引っ張ることも多い
反省や成長は確かにあったのだが、
彼女が一人行動していた最中に黒い羽と邂逅することとなる
以上で投下終了です
投下します
神はどちらを選ぶのか――
信仰か、慈愛か。
――――――
「…………」
俺の名はランサー、アレクサンド・アンデルセン。
訳あって思案している――
――――――
もし神が眼の前にいるならこの行動をどう取るべきか。
我がマスターは――異教徒――ジャパニーズだった。
ブッダニスト――もしくは、神道者――もし、相手が普通の異教徒であれば、容赦なく斬っていただろう。
しかし…我がマスターは――少女だった――
金髪の、政争も、宗教のいざこざも、何も!何も知らぬような!
無垢な子供なのだ!
異教徒だから見捨てるべきか!それとも!迷える子羊として迎えるべきか!
状況は最悪だ。
マスターの気配を感じとり、出向いた直後、彼女は襲われたいたのだ。
おそらく黒魔術…キャスターのサーヴァントか…拷問をしていた。
俺は一度身を隠し、そして自身に審問していた。
――――――――
さぁどうする!アレクサンド・アンデルセン!
無垢な子供を異教徒の仲間だからとして見捨てるか!
狂信者として準ずるか!
おそらく神は許さぬだろう!いや!ここまででも!様々な罪を犯してきた!
今更改めるものか!違うか!違うか!
――――――――――
「ッ…黙れぇぇぇぇ!」
そして、次の行動に移っていた。
武装を構え、突貫する。
素早くマスターを回収すると、安全な場所に置く。
そして、対峙した。
「…神よ、異教徒を助けた事をお許しください、だが、私に子供見捨てるなどという愚行はできませぬ、あなたも、そうでしょう…神よ!」
そして、殺陣の構えへて入る。
「さぁこい…魔術師よ!神の名のもとに精算しようか!Amen!」
――――――――
私は――いつも迷惑をかけてばかりだ――
にーにーにも、圭一さんにも、梨花にも、皆さんにも。
だから、私はあそこで散ろうと…
あれ…体があたたか…
――――――
起きた時には、男性が横に立っていました。
そして、私を見て、こう言ったのです。
「お目覚めか、マスター。」
その男は、私のサーヴァントでしたの、私は立ち上がり。
「助けてくださったのですね。」
「マスターに死んでもらっては困る、それに…」
「?」
「子供を見捨てるなど、この俺にはできぬ。」
私のサーヴァントは剣のような物を構え、こう言いました。
「さぁマスター!この闘争!どう生き残って見ようか!」
――――――――
神よ、異教徒を主人として仰ぐのをお許しください。
必ずや、神の元へ、ご帰還いたします。
それまで、我らに…Amen…
【クラス】
ランサー
【真名】
アレクサンド・アンデルセン@HELLSING
【ステータス】
筋力B 耐久C+ 敏捷B 魔力C 幸運D+ 宝具B
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【固有スキル】
敬愛なる信仰:A
彼は一介のカトリック教徒として、子に、神に、尽くしてきた。
彼の慈愛の心をスキルかしたもの。
審判者:B
神の名の下、相手を断罪する。
相手の属性が混沌・悪になるほどステータスを上げる。
逆に秩序・善に近いと、ステータスが下がる可能性がある。
異教徒殺し:C+
カトリック以外の全ての宗派、無神教者に対して効果を発揮。
明確な殺意の元、相手を殺しにかかる。
仕切り直しをBまで無効化する。
【宝具】
『再生者(リジェネレーター)』
ランク:C 種別:補助宝具 レンジ:‐ 最大補足:−
カトリックにおいて、ミディアンに対抗するため生み出された技術。
驚異的な再生能力の獲得と同時に、肉体の若返りを起こし、現にアンデルセンは実年齢が60歳ながら、30代後半から40代前半の肉体と化している。
しかし限界は有り、それは肉体のダメージが大きいほど回復力の限界と比例していく。
【weapon】
多数の銃剣などの武装
【人物背景】
バチカン13課イスカリオテ局員。
普段は普通の牧師しをしつつ、裏では「聖騎士(パラディン)」などを筆頭に多数の異名を持つ、異教徒殺しの専門家。
イギリスの王立国教騎士団、通称ヘルシング機関のアーカードとは最大の宿敵にしてライバル。
ロンドンのヘルシング機関とミレニアムの激戦の中にも乱入。
「神の力に使える」として、局長であり弟子のマクスウェルに反目後。
アーカードの生成した死の河へ、単身突撃しにいった。
【サーヴァントとしての願い】
神が人々を見守る世界の創生
【マスター】
北条沙都子@ひぐらしのなく頃に
【マスターとしての願い】
にーにー(悟志)との再開、そして謝りたい
【能力・技能】
トラップマスターの異名を取るほどのトラップの使い手。
その土地の仕組みや構造さえ理解すれば、自衛隊の特殊部隊を相手取ることも可能。
【人物背景】
雛見沢ダム賛成派、北条家の娘。
ダム戦争という激動の波に飲まれ。
伯父夫婦の虐待、村八分を経験し、一時塞ぎ込むことになるが、部活メンバーら多数の支えで乗り越える。
そして、昭和58年、兄の失踪の翌年、彼女にとって、太陽となる人物に出会うことになる。
投下終了です
>衝撃の篝火
スピーディーな戦闘シーンが読みやすく、また小気味いい読後感がありました。
王道な勧善懲悪を地で行く主従は色々と物語に絡めていくフックになってくれそうですね。
しかし敵には容赦のないところもありどうなるか。ありがとうございました。
>篠月橙&アーチャー
苦労人枠だ(端的にして率直な感想)。なるほどそういう人選……。
度を超えて頭に問題のあるマスターを引いてしまったエミヤくん、本当に頑張ってほしい。
しかし逆に言うと彼くらいじゃないと相手ができなそうなので宜なるかな。ありがとうございました。
>呪胎載天 -Clockwork Phantom-
勇者を志す魔王のもとに呼ばれるにしてはまさに最悪の存在。
魔王どころではないほどの呪いを引いて絶望しているアリスが痛々しいですね……。
プリテンダー、なるほど確かに。実際他人のフリとかしてたしなこの呪いの王。ありがとうございました。
>救済なき■■■
孔富先生が喚ぶのがよりによって最も偉大な医者、医術の神というのはなんたる皮肉。
救済なき医師団のあり方をバッサリ「お前は患者だ」と切り捨てるアスクレピオスは頼もしく、しかし孔富がそれを受け入れるわけもなく。
サラッとクーポンの量産体制に入ろうとしているのもあり、色んな意味で厄い。ありがとうございました。
>BLACK KICK BACK
サンジを描くならこうなる、というお手本のような流れと戦闘。
サーヴァントとしては優良株も優良株なんですよねこの料理人。
能力的にも信条的にも扱いやすく、なかなか当たりなのではないでしょうか。ありがとうございました。
>戦争は少女(ヒーロー)の顔をしていない
聖杯戦争の場でヒーローを貫くことの難しさは言わずもがな。
けれどそれを否定せず、曲げることもなく困難を歩む、そんな主従の強さが見えました。
ヒーローを名乗る少女が英雄を喚ぶの、王道ですがやっぱり良いですね。ありがとうございました。
>『強欲』なる者たち
まさにタイトルの通り、強欲なる者たち……という感想でした。
主従仲は言わずもがな最悪で、お互い気苦労の多そうな主従だなあ……と。
ただ浅ましい欲望も貫けば厄介なものなので、なかなかにタチ悪く世に蔓延っていきそうです。ありがとうございました。
>バーサーカー&ライダー
こいつ二回目でも同じようなことしてるな……(呆れ)。
パラガスらしい、まさにそう言うしかない描写と行動方針で笑ってしまいました。
はてさて今回は前回の二の舞にはならずに済むのか、それとも。ありがとうございました。
>Life is Auctionia
村雨とヒナ、二人のキャラクターを絡める点がそこかあと膝を打ちましたね。
確かに村雨にしてみれば、ヒナはまさに絶好の腹を開きたい相手だな……と納得しました。
ギャンブラーならではの視点で聖杯戦争を語る村雨のシーンが好きでした。ありがとうございました。
>ろくでなし〜死んぢゃってくれ〜
赤木の戦いに向けての心情がいいなと思いました。
柱間という極めて強力なカードを手に入れているのがこの男というのも、言うまでもなく大変恐ろしい。
一抹の切なさと恐ろしさが滲む、そんなお話だったと思います。ありがとうございました。
>包めば一つ
都市戦で自由にさせたらまずい奴の代表格のようなサーヴァントが来ましたね。
そんな彼の手綱を引くのがフィジカルギフテッドの完成形というのもまた恐ろしい。
鬼に金棒そのままの組み合わせで、敵対する側からしたらまさに悪夢でしょう。ありがとうございました。
>遥か遠くに浮かぶ星を
「彼女」に向けた想いと拾ってしまった願いが痛々しくも良い。
道を踏み外しているのは間違いないのでしょうが、それでも美しいなと感じました。
黒い羽の登場は果たして福音か落とし穴か。ありがとうございました。
>問えよ、罪はどちらか
哀れな子に喚ばれた神父、なるほどとなる組み合わせでした。
アンデルセンからしてみれば沙都子は保護対象でしょうから先行きは安泰そうですね。
神父の狂気とそれ以外の面が見られそうで楽しみです。ありがとうございました。
投下します
「オレは不死身だ」
目の前のアサシンは牙が象られた口元のマスクを下げると、対峙者である白銀の鎧を纏ったセイバーにそう告げた。
深夜の冬木市、薄暗い路地の裏にて二騎のサーヴァントが衝突した。
かたや白銀の鎧を纏ったセイバー、かたや山賊やアウトローを思わせる軽装に身を包んだアサシン。
決着は近い、セイバーは肩で息をしている目の前のアサシンを見てそう判断した。アサシンながら奇襲のみならず、戦場で生き抜いたこともあるだろう身のこなしではあったが、およそ己に届くものではない。
先ほどの発言は虚勢か真実か、それを考える事をセイバーはしない。
なぜならば彼の持つ刃こそ不死殺しの宝具、いかに不死とてかの刃で心臓を貫かれ立つことは叶わないのだ。
アサシンが投げる短刀をその刃で捌き、一息で距離を詰めたセイバーはその刃をアサシンの心臓に突き立てた。
肉を断ち、骨を砕き、その心臓に確かに刃が突き刺る感覚を手にした。刃を抜き取り、
眼の前のサーヴァントの体が光の粒に消えるのを見送ったセイバーは安堵のため息をついた。
体の緊張を解いたその一瞬、首筋に金属の冷たい感覚が滑っていった。熱くなった首元に手を置くと、
血液が大量に流れ落ちるのを確かに感じる。慌てて振り向くと、そこには今目の前で消えたはずのアサシンが立っていた。
「な…ぜ…」
「言ったはずだ、オレは不死身だ」
おかしい。
確かに不死殺したる己の宝具はこのアサシンの命の根源を断ったはずだ。
朦朧とする意識の中、混乱する脳裏に背後から己の後頭部に短刀が突き刺さった。
白銀のセイバーは微動だにしない目の前の暗殺者から目を離すことなく倒れ込み、
意識が途切れるその間際、その『不死身』の真相を悟った。
戦いが終わった路地裏に一人の少年が入ってきた。
アサシンのマスターである彼は、色素の薄い瞳や髪の端正な顔立ちだったが、
その顔に似つかわしくない気色の悪いモノを見るような目で己のサーヴァントを見た。
「一つ聞きたいんだけどさ…お前のドコが不死身なわけ?」
「オレは不死身だ。」
セイバーの背後から短刀を突き刺した『二人目』のアサシンが答えた。
二人のアサシンは、牙が象られたマスクなどの特徴的な衣装、目元に付けられた古傷、背丈や顔に至るまで全てがアサシンと合致している。
その名はアザゼル。
個を尊ぶ悪魔(メギド)の中にて個を捨て、『アザゼル』という全の中にて不死を目指した存在である。
彼らはみな同一の体、思想を持つよう強制され、対外的には一人の存在であるかのように見せかけることでアザゼルを個として存在させていた。
不死殺しの刃に貫かれて尚立ち上がったのも単純な話、貫かれたアザゼルとは異なるアザゼルが現れた。
それだけの話だったのだ。
「死んだだろ、さっきの奴は。」
「『さっきの奴』…?そんな個は所詮遅かれ早かれ死に向かう概念だ。アザゼルは違う。」
それを理解できないという顔をする彼のマスターに、アザゼルは更に説明を重ねた。
「人の命はやがて死という進むことも逃げることもできない袋小路に向かう。?
しかしアザゼルは、そこにアザゼルというたった一つの逃げ場を作り出したのだ。
アザゼルはアザゼルという逃げ場を作り逃げ出し、逃げ込まれたアザゼルもまた、アザゼルという逃げ場を作り逃げる。
そうしてアザゼルは永遠に存在するのだ。」
「もういい、わかった。」
「理解できたか?」
「理解できないってことがわかったよ。」
己が死せども自分と同じ人間が生きているから死んでいない。
そんな価値観は到底彼の理解し得るものではない。少年はアサシン達に背を向けると、そのまま歩き去って行った。
『すまないマスター、混乱させたか?』
「ジャンか。」
少年の頭の中に念話でアザゼルの一人が語り掛ける。
ジャンと呼ばれたその存在は、アザゼルの中から抜ける事を選んだ一人。
唯一アザゼルである事をよしとしないアザゼルだった。
『理解できずとも当然だ。
しかし、アザゼルは忠義に厚く英霊の座に登録された今となっては、マスター殺しのような英霊の座に記録されるような行いは絶対に避ける。
マスターがどう動こうともついてきてくれる連中だ。その…大目に見てやって欲しい。』
「別に怒ってるわけじゃない、オレと違って命を使って戦ってくれるんだ。
感謝してるさ。それに…」
少年は一瞬言葉に詰まったが、気まずさを振り払うようにかぶりを振ると言葉を続けた。
「ま、なんだか寂しくないからさ。 よろしく頼むよ。」
『……承知した。』
ジャンの念話が途絶えたのち、少年は喉を抑えて道路脇のカーブミラーを見つめた。
カーブミラーに映る端正な少年の顔は、彼の顔ではなかった。
淡い色の瞳や髪も、甘い声も、元の世界における身分さえ彼の者ではない。
アスティカシア学園における決闘のために用意された影武者の座に生き残る為に座った者。
エラン・ケレスの替え玉、強化人士5号と呼ばれる人間、それが彼であった。
命を人質にアザゼルとなることを強制された彼らと、生きるためにエランになった自分にどんな違いがあるのか。
そんなことを考えながら彼の姿は夜道に消えていった。
【クラス】
アサシン
【真名】
アザゼル@メギド72
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷A 魔力C 幸運E(ジャンのみA) 宝具C
【属性】
秩序・悪
気配遮断:A 自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
純正の魔:D+(ジャンのみB+)
宵界メギドラルと呼ばれる異世界に存在する「メギド」と呼ばれる存在である証。
アザゼルは「純正メギド」と呼ばれる存在だが改造手術と個の滅殺によりそのランクを大きく落とし、ジャンと呼ばれる存在以外はメギド体と呼ばれる真の姿になることはできない。
スキルのランクと周囲の魔力状況に応じた確率により魔力回復を行う他、
『発破』と呼ばれるアザゼル特有の自爆能力も周囲の魔力を用いてノーコストで行う。
模倣:A+
『アザゼル』となるため徹底的に己を殺してきた彼らは他者の動作、筆跡などを真似ることに秀でている。
A+ランク以下の観察眼、呪いによるアザゼルの個体識別は困難を極める。
変化の術(偽):B
特殊な改造手術により各々が幻獣への変身能力を備える。
バレットアーツ:Ex
フォトンによる弾丸を形成し、軍団で共有するメギドラルの戦法。
アサシンは各々の幻獣体と呼ばれる体やジャンが持つオーブを用いて様々な効果を持つを持つ暗器を形成し、互いの距離などに関係なく全体で共用することができる。
【宝具】
『全にして個(アザゼル)』
ランク:B 種別:対死宝具 レンジ:- 最大補足:23~99
アザゼルと呼ばれるメギドが本来逃れ得ぬ死から逃れるために行った唯一の活路。
他のメギドを誘拐監禁・洗脳し『アザゼル』とすることで己を不滅の存在へと変える不滅の法。
一種の狂言に近いと言えるが、サーヴァントとして現界した際アザゼルと認められた全てを1つのサーヴァントとして召喚される宝具となった。
本体に当たる存在はなく、最後の一人が消滅するまで現界可能。
総数は不明、ソロモン王との交戦時には総勢22名、過去にオレイと相打ちになった1名が確認されているが過去に死したアザゼルの存在なども考えるとより多いと考えられる。(今回は多くとも100は超えないものとする。)
彼ら一人一人に個性や名前などはなく、外見や仕草から判別は不能であるが唯一『ジャン』と呼ばれるただ一人のみ他のアザゼルとは違う経験・オーブと言った道具の使用や己の個そのものであるメギド体の使用が可能。
また、生前の彼らは対外的に一人の存在であるように見せる掟があったが、英霊の座という上位存在に全にして個の存在として認められたため戦略上の目的以外でこだわる理由はない。
『個にして全(アザゼル)』
ランク:B 種別:対蛆宝具 レンジ:1~10 最大補足:1
アザゼルと認められている中で唯一個を求め、尚且つアザゼルを拒絶せず死したアザゼルたちの想いをも背負う事を選んだ、ジャンと呼ばれるアザゼル、およびそのメギド体。
ベースは他のアザゼルと変わるものは無いが、ソロモン王と呼ばれる人間との冒険の経験やその最中手にしたバレット作成のためのオーブの使用など他のアザゼルとは異なる行動を行える。
最大の強みはメギド体という真の姿を開放可能な点であり、アザゼル(ジャン)は行者のような布の面を付けた巨人の体に変身する。
原作ゲームとは異なり、本聖杯戦争におけるメギド体の能力は仲間が死亡ごとにパワーアップし、察知されていない気配遮断状態から放つことで更に特攻攻撃となるものとする。(変身ごとのレベル低下無し)
【weapon】
暗器、発破などの暗殺道具一式、ジャンのみオーブを使用
【サーヴァントとしての願い】
英霊の座の不滅化、或いはバックアップ
【マスター】
エラン・ケレス(強化人士5号)@機動戦士ガンダム 水星の魔女
【マスターとしての願い】
生きて元の世界に帰る、手段を選ぶかは検討中
【備考】
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
投下終了です
これより投下します。
わたし、花寺のどか。すこやか市に引っ越してきた中学2年生。
この子はラビリン。地球のお手当てをしているお医者さん見習いなんだ。
わたしたちはサーヴァントになっても、お手当てを頑張るよ!
◆
「のどか、それにラビリンだね。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします、マスターさん!」
「よろしくラビ!」
わたし・花寺のどかとラビリンは挨拶した。
相手はわたしたちのマスターさん。物腰が柔らかくて、素敵な笑顔が印象的な大人だよ。
だけど、マスターさんは『待って』と言いながら。
「えっと、私のことをマスターって呼ぶのは……今はまだナシにしたいんだ」
「あれ、どうしてですか?」
「確かに形式上、私は二人のマスターとして扱われている。でも、私は君たちのことをあまり知らないよ。一方的なルールを押しつけられた中で、上下関係を作るのはおかしい気がしてね……どうだろう?」
目線が合うようにしゃがみながら、にこりと微笑む。
この人は私よりも背が高いから、きちんと目を見るために膝を曲げている。
だって、マスターさんは『先生』だから。たくさんの生徒さんと向き合ったように、わたしとラビリンとも対等な立場で接してくれる。
「私はマスターじゃなくて、一人の大人として一緒にいたいんだ」
「わかりました、先生!」
「先生ラビー!」
「先生、か……ふふっ、ありがとう」
だからわたしたちも、この人はマスターじゃなくて『先生』と呼ぶよ。
右も左もわからない中なのに、わたしたちに優しいから。
誠意には誠意で応えたいな。
「でも、先生はわたしのことをクラス名……セイバーって呼んでも大丈夫ですよ! わたしは真名を知られちゃいけませんから」
「そうだね。ただ、私としてはとても申し訳ないよ。いくら君の安全の為とはいえ、名前を呼べないことは……悲しいな。名前は、二人が生きてきた大切な思い出がいっぱい詰まっている宝物だから。
君たちは、素敵なお友達と出会ってきたよね?」
「はい! わたしとラビリンの周りには、優しい人がたくさんいました!」
サーヴァントになるよりずっと前、人間だった頃のわたしは体が弱かった。
小さかったわたしはほとんどの時間を病院で過ごしたから、普通の人生や青春がどんなものかよくわからなかったよ。
それでも、みんなはわたしにたくさんのことを教えてくれた。
すこやか市に引っ越してから出会った沢泉ちゆちゃんと平光ひなたちゃんは、わたしとお友達になってたくさん遊んだ。
地球さんの願いから生まれた精霊さんの風鈴アスミちゃんと出会い、色んなことを教えてあげた。
「ラビリンものどかたちと一緒にいて楽しかったラビ!」
「そっか。君たちは最高のパートナーなんだね」
「そうですよ。わたし、ラビリンと出会えたから強くなれましたし……わたしのことをもっと好きになれたんです!」
「確か、伝説の戦士……プリキュアになれるんだっけ?」
ヒーリングガーデンからやってきたラビリンとパートナーになって、新しい自分になったわたし。
体がとても軽くなって、みんなを守れる強さをもらえた。
ビョーゲンズって悪い人たちが、わたしたちの生きる地球をむしばもうとしたんだ。
彼らの本拠地のビョーゲンキングダムには命がない。水がなく、草や木が生えないほどに荒れてて、歩くだけで病気になりそうな息苦しい世界だった。
ビョーゲンズのせいで病気になった世界はたくさんあって、ラビリンたちが生まれたヒーリングガーデンも傷つけられた。
ラビリンと初めて出会った日のことはずっと覚えてる。
ビョーゲンズと戦うプリキュアを探すため、ペギタンやニャトラン、それにラテと一緒にヒーリングガーデンから地球にやってきたラビリン。
ラビリンの助けになりたい。その願いを抱きながら、パートナーになったわたしたち。
気持ちを重ねて、花のプリキュアに……キュアグレースになったんだ!
誰も病気になって欲しくないし、みんなはいつも笑って欲しいからね。
「そうだ。二人のことを、もっと教えてもらってもいいかな? 知識で叩き込まれた逸話じゃない。君たちの口から、君たちの言葉として……のどかとラビリンがどんな子なのか、私は知りたいよ」
「いくらでも聞いてくださいね! わたしも、先生に知ってほしいです!」
「よし。その為にも、まずは買い物に行こうか」
「お買い物、ですか?」
「私たち三人の親睦会を兼ねた探検だよ。冬木市にどんなお店があるかを調べることも大事だから」
時計を見ると、もうすぐランチの時間だ。
サーヴァントになったから、今のわたしとラビリンは食事や睡眠は必要ない。でも、現界には先生から魔力をもらわないといけなかった。
その魔力はおいしいご飯からでもたくわえられるから、きちんと食べないとね。
そうして、わたしたちは冬木市にお出かけした。すこやか市みたいに穏やかで、胸がドキドキしちゃう。
キョロキョロと目移りするわたしの腕の中で、ラビリンはぬいぐるみのふりをしている。わたしの歩幅に合わせて、はぐれないように先生は歩いているよ。
レストランやデパート、お洋服屋さんや雑貨屋さんで……みんなが楽しそうにお買い物してる。
時々、先生はおもちゃ屋さんを横目で見てた。興味津々な先生の目に、親近感を抱いちゃう。わたしとラビリンも、ラベンだるまの人形を大事にしてたから。
「先生もお腹がペコペコだし、二人にはおいしいご飯をご馳走したいから……一緒に食べよう?」
お昼ごはんを買ってもらい、三人で公園に来てるよ。
街のパン屋さんでサンドイッチを、スーパーではフルーツジュースやサラダを先生に買ってもらった。
ちっちゃいラビリンのためには、おまんじゅうやプチトマトだって用意してくれてる。
「ここなら日当たりはいいし、人通りも少ない。ラビリンもゆっくりお食事できるね」
「ありがとうラビ! トマトがとってもジューシーラビ!」
「ふわぁ〜! サンドイッチはおいしくて、風も気持ちいいし……生きてるって感じ〜!」
見晴らしの良い丘の上で、穏やかな街を眺めながらおいしい食事を楽しめる。
鳥さんたちは元気に歌って、ワンちゃんとその家族が全力で走り、一面に生える草や花は風に揺られて優しく踊っていた。
サーヴァントになっても、こんな素敵な時間を過ごせることが、わたしはとても幸せだよ。
たまごと野菜がはさまったサンドイッチだって、本当においしい。
「のどか、ラビリン。これから新しい生活がはじまるけど、私と約束をしようか」
先にランチを食べ終わった先生は、わたしたちを真っ直ぐに見つめながら。
「約束、ですか?」
「うん。マスターじゃなくて、先生とのお約束。
君がどうしても許せない相手と出会ったら、悩む必要なんてない……遠慮なく戦ってもいい。
逆に、もしも戦いたくなかったら逃げていいし、辛い気持ちだっていっぱい打ち明けても大丈夫。悩みがあれば、何でも聞いてあげるから」
まるでわたしの心を見通しているような言葉。
ラビリンと一緒に召喚されたわたしは、先生を守るために悪い人と戦わなきゃいけない。
あのダルイゼンのように、人を平気で傷つける誰かと出会うときがいつか来る。
あるいは、聖杯に頼らなきゃいけない程の願いがあって、必死になっている人とも戦うかもしれない。
「他の人がどんな願いを持っていても、それは二人を傷つける理由にはならないよ」
絶対にね。
そう励ましてくれる先生の姿に、ある思い出が浮かび上がった。
大切で、忘れられないわたしの1ページ。
ーーお前の中に、オレをかくまってくれ
あの日、傷ついたダルイゼンは助けを求めてきた。
キングビョーゲンに取り込まれそうになって、必死に地球まで逃げて、わたしにすがった。
幼かったわたしの体に入り込んで、長い時間をかけてわたしを傷つけながら育ったビョーゲンズ……それが、ダルイゼンの正体。
ダルイゼンは自分が助かるため、わたしの体の中に入り込もうとしたけど、その手を振り払っちゃった。
それからしばらくわたしは悩んだの。わたしは、わたしを苦しめたダルイゼンのことも、助けないといけないのかなって。
ーーのどかは……本当は、ダルイゼンを助けたかったラビ?
でも、ラビリンは寄り添ってくれた。
わたしの本当の気持ちは何か、真剣に聞いてくれたよ。
みんなを助けたように、ダルイゼンだって助けなきゃいけない。その為に必要なのは、わたしの中にダルイゼンをかくまうこと。
そうしたら、わたしはまた苦しむかもしれない。
痛くて、辛くて、大切な時間をたくさん奪われた。
ーーのどかが苦しまなきゃいけない理由は、ひとつもないラビ!
ダルイゼンを助けるために、わたしが苦しむのは絶対にイヤ。
わたしの心と体を誰かの好きにされたくない。
その想いをラビリンは真っ直ぐに受け止めてくれた。
それだけじゃない。ダルイゼンたちビョーゲンズはわたしの大切な人たちを平気で傷つけてきた。
だから、わたしはダルイゼンを助けなかった。わたし自身の意志で、地球に生きるみんなと力を合わせてビョーゲンズとの決着をつけたよ。
「先生と約束できる?」
「約束します!」
「約束ラビ!」
それは、どんな命令よりも強い効果を持った三人の言葉。
この約束がある限り、わたしの心は誰かに支配されたりしない。
寄り添ってくれる先生がいれば、わたしとラビリンはどんな敵とも戦えるよ。
「……先生には、お願い事はあるのですか?」
ふと、わたしは疑問を口にする。
「もちろん、あるよ! 生きて、生徒たちみんなが待ってるキヴォトスに帰ること。私がいなくなって心配しているはずだからね。でも……」
「でも?」
「その願いは、私自身の力で叶えたいな。みんなに恥じないためにも」
遠い空を眺める先生。
その目には、たくさんの生徒さんが映っているはずだよ。
誰にでも真摯に向き合っていて、周りからも慕われている。
キヴォトスがどんな所で、そこで先生が何をしていたのかわたしはよく知らない。
でも、こんなに優しい先生がいるから、きっと素敵な街なんだろうね!
「なら、わたしたちはそのお手伝いをしますね!」
「ラビリンも一緒にいるから大丈夫ラビ!」
「頼りにしてるよ、二人とも」
わたしたちの願いは決まった。
聖杯の力を借りないで、先生を帰してあげること。
本当なら、先生はキヴォトスの生徒さんと楽しく過ごすはずだった。
でも、聖杯戦争のために引き離されて、幸せな日々を台無しにされた。
そんなことを許しちゃいけない。
ちゆちゃんやひなたちゃん、それにアスミちゃんがいなくて、わたしとラビリン二人だけ。聖杯戦争は、ビョーゲンズとの戦い以上に過酷かもしれない。
それでも、信じてくれる先生がいるから、何があっても頑張るよ。
だからわたしたちは守るんだ。先生と、先生を信じてくれた生徒さんたちの心を。
◆
気がつくと、私の腕には奇妙な刻印が描かれていた。
私にはタトゥーや刺青の趣味はない。これは、“Holy Grail War”……聖杯戦争という悪質な儀式に巻き込まれた証だ。
古今東西の世界からマスターとなる参加者を、英霊(サーヴァント)として呼び寄せた歴史的偉人と組ませて、希望(エルピス)を得る戦いがゲームの意義。
でも、ルールを把握した私が抱いた感情はただ一つ。聖杯戦争と、この世界に対する強い嫌悪だけ。
マスターと認められたけど、その実態は拉致監禁。
電脳世界に閉じ込められては、ただの人間では手が出せない。
この世界のルール通り、聖杯を手にすればキヴォトスに帰れるかもしれない。
だけど。
”こんなのは物語じゃないし、私は認めたくない。”
”私たちは物語の駒じゃない。”
聖杯への道を、さも希望のように輝かせている裏で。
そこからこぼれ落ちた者に待ち受けているのは、死という形の残酷な結末。
願いを叶えられない人間には、絶望しか与えられない。
一人でも取りこぼす時点で奇跡のはずがなかった。
これは、ただ人を破滅にまで追い詰める悪行。
”もし、この世界に彼女たちが……”
もう一つだけ、私にとって気がかりなこと。
”生徒たちがいたら、みんなのことも傷つけちゃう”
そう。
私を慕ってくれた生徒も、この世界に巻き込まれていること。
この仮説が正しかったとして、ルールに沿って敵対する……
いや。我が身の可愛さで生徒たちを裏切りたくない。
みんなと過ごした日々は、聖杯の奇跡なんかよりずっと大切だから。
”ごめん、少しだけ待っててね。”
心の中で、私は生徒たちに謝罪した。
”みんなのところには、必ず帰るって約束するよ。”
”もしこの世界にいたら、絶対に見つけるから。”
一番簡単なのは、聖杯戦争に勝ち残ること。
そんな選択肢は真っ先に捨てた。
彼女たちの元に帰るために、この手を血で染めるつもりもない。
いくら大変な状況でも、みんなから幻滅される大人にはなりたくないよ。
だって、情に篤い生徒たちだからね。
”大切なのは、この二人だって同じ。”
私の相棒として巡り会った無垢な少女と妖精。
彼女たちは手を取りあえば、癒しの力を持つ戦士……プリキュアに変身できる。
友達と力を合わせて、ビョーゲンズの脅威から世界を守った。
心の底から、すごいと思った。
その真っ直ぐな想いで人々を救った彼女なら、確かに英霊と称えられる。
だけど、のどかは人の悪意に弱い。
純真で感受性が豊かな彼女は、それだけ悪意に傷つきやすい。
この世界には聖杯を求めて悪事を働くマスターが必ずいる。キヴォトスの生徒を陰謀で苦しめた悪い大人のように。
実力は関係ない。悪い大人の毒牙は、のどかすらも容赦なく狙ってくる。
絶対にさせないよ。
”大人としてのどかとラビリンを守る。”
彼女たちに約束した。
今の私は何一つ後ろ盾を持たない無力な凡人だ。
連邦捜査部シャーレの顧問でなく、平凡な一教師というロールが与えられただけ。
用意された自室には、教員免許や筆記用具など必要な道具が置かれている。だからのどかたちも先生と呼んでくれた。
代わりにシッテムの箱や大人のカードといった切り札は手元になかった。
もちろん、サーヴァントと戦う力はないし、拳銃で撃たれたら終わり。
それでも……
”私はマスターじゃなくて、彼女たちの先生だから。”
この約束だけは捨てたくない。
のどかたちは私のために戦う責任を背負ってくれた。
なら、私も彼女たちの行動に全ての責任を持つよ。
私はのどかみたいに立派な英雄じゃない。けど、彼女の居場所を作れる。
家族や友達がいない今、隣にいてあげられるのは私だけ。
仮に悪意を振りまく誰かがいても、私がのどかたちを支えるよ。
サーヴァントだから? 関係ない。
プリキュアだから? その在り方は尊敬するし、とても眩いけど違うかな。
どこにでもいる普通の女の子で、もう私の生徒になったからね。
一人の大人として、のどかとラビリンを見守るだけだよ。
【クラス】
セイバー
【真名】
花寺のどか@ヒーリングっど♡プリキュア
【ステータス】
筋力B + 耐久C+ 敏捷B 魔力C 幸運A 宝具EX
(キュアグレースの変身時)
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:B
キュアグレースの変身時、第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:-
騎乗の才能。
体力がないのどかは乗り物を乗りこなせない。
代わりに、パートナーのラビリンとは深い絆で結ばれている。
【保有スキル】
病弱:D
幼少期から体をむしばんだダルイゼンのせいで病気になった彼女は、長きに渡って入退院を繰り返す生活を余儀なくされた。
退院後は人並みの生活を過ごしているが、人間としての花寺のどかは体力がなく、勢いよく走るとすぐに息切れする。
非変身時は常にこのスキルが発動している。
ラビリン:B
ヒーリングアニマルのラビリンとの絆を示すスキル。
唯一無二のパートナーであるのどかとラビリンが気持ちを重ね、手を取り合うことでキュアグレースに変身できる。
のどかにとって決して欠かせないパートナーたるラビリンがいなければ、膨大な魔力供給があろうともキュアグレースの変身は不可能。
二人の気持ちが重なり合う限り、どんな相手が相手でも無限大の力を発揮できる。
伝説の戦士:B+
花寺のどかが変身するキュアグレースは病気の体現者たるビョーゲンズと戦い続けた。
彼女の決め技は命をむしばむあらゆる病気に効果を発揮し、必ず浄化を果たす。
人々を傷つけた逸話を持つ相手と対峙した時、キュアグレースの全ステータスは向上する。
敵対人物に呪いまたは病気に関する逸話が加われば、更に勇猛スキルが発動し、あらゆる精神干渉を無効化する。
【宝具】
『ゆめで起きるは奇跡の大変身(パートナーフォーム)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
東京でもらったゆめペンダントの力を使い、のどかとラビリンが合体して誕生した奇跡の姿。
この宝具を発動すれば全ステータスに+補正が追加される他、Aランク相当の戦闘続行及び無窮の武練スキルが発動され、霊核が破壊されるレベルの致命傷を受けても立ち上がれる。
ただし、この宝具はゆめペンダントの力で覚醒した後天的なフォームであり、キュアグレースの意志だけでは絶対に発動できない。
のどかとラビリンが持つ誰かを助けたいという想いと、彼女たちを信じた人の夢が重なり合えばーー
真の絆から生まれた奇跡を拝めるだろう。
『"重なる想い"でみんなの夢が花開く(カグヤグレースフォーム)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足-
命がつきようとしていた我修院カグヤを救うために誕生した最大の奇跡であり、花寺のどかが得た最終宝具。
かぐや姫を彷彿とさせる華やかな和服をまとったキュアグレースが、ラビリンが宿った大きな杵を振るい、カグヤの命を救った。
この宝具を発動するには、街に生きる人たちの夢を一つにできるように呼びかけること。すなわち、キュアグレースの存在が人々に認知され、なおかつ心から信頼される必要がある。
その条件をクリアして、キュアグレースが誰かを救いたいと心から思えば、彼女の優しさが更なる奇跡を起こす。
死の淵に追いやられた誰かの命を救うことも夢ではない。
【weapon】
ヒーリングステッキ。
のどかが初めてラビリンと心を通わせた日に召喚された魔法のアイテム。
ラビリンと心を一つにした時に使用可能で、ステッキにセットされたラビリンをタッチすることでのどかはキュアグレースに変身できる。
ただし、二人の気持ちが少しでもずれていれば、キュアグレースに変身できない。
エレメントボトル。
エレメントとはのどかが生きる地球に生きる数多のものに宿る妖精であり、その力が込められたボトル。
自然の植物や水はもちろん、火や雷をエネルギーとする機械にもエレメントは宿っている。
実り、花、葉っぱの3つをキュアグレースは所持し、ヒーリングステッキにセットすればエレメントの力を借りられる。
なお、聖杯戦争の世界にエレメントさんはいない。
【人物背景】
TVアニメ『ヒーリングっど♡プリキュア』の主人公で、ヒーリングアニマルのラビリンと心を一つにしてキュアグレースに変身する少女。CVは悠木碧。
大人しいけど、前向きで好奇心が強く、誰かのために頑張れる優しい心を持つ。
ビョーゲンズに傷つけられて助けを求めたラビリンの声に応えた日、キュアグレースに覚醒する。
たくさんの出会いを経験し、強い友情で繋がった少女たちと力を合わせ、ヒーリングっど♡プリキュアとしてお手当てをした。
原因不明の病気によって長きに渡って入院生活を過ごしてきたのどか。
その真相は、幼少期にビョーゲンズのダルイゼンが体内に忍び込み、彼女をむしばみ続けたことだった。
ダルイゼンは己の危機からのどかに助けを求めたが、断固として受け入れず、病気からみんなを守るために戦うと宣言した。
【サーヴァントとしての願い】
ラビリンと一緒に、先生が元の世界に帰るためのお手伝いをしたい。
【マスター】
先生@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
のどかとラビリンを支えながら、聖杯の力に頼らずキヴォトスに帰る方法を見つける。
【能力・技能】
優れた知能と指揮能力、そしてキヴォトスの生徒たちと心を通わせた高いコミュニケーション力を誇る。
【人物背景】
連邦捜査部シャーレの顧問にして、キヴォトスの外からやってきた頼れる大人。
生徒達と誠実に向き合い、いくつもの危機を乗り越えた。
趣味はおもちゃとソシャゲで、おちゃめな一面を見せることも多い。
【備考】
この世界におけるロールはごく普通の教師です。
シッテムの箱や大人のカードなど、異能の力を持つ道具は一切所持していません。
投下終了です。
投下します
深夜の校舎、夜の帳が降りた闇の中。
夜勤の教員すら既に帰宅した、文字通り誰もいないはずの学校にて。
「こんな脅しで私が怯むとでも思ってるのかしら?」
窓から刺す星の光のみが暗がりを照らす教室で、少女が叫ぶ。
その手には、自分に送られたであろう一枚の手紙。
「深夜来なければお前の秘密をバラす」とだけ書かれた脅迫状
少女の視線が貫く先には、手紙を送った元凶である、夜闇の隠れた人影の姿。
「それに、送ったのだがまさかあなただったなんて、宮園一叶さん」
そう呼ばれた元凶の名は、宮園一叶。
成績は褒めるほど良くはなく、むしろ悪い。
狼を思わせる口元のスクランパーに、耳の大量のピアス。
性格は兎に角明るい、クラスの誰とも別け隔てなく接するギャルのムードメーカー。
「あーらら、バレちゃったかぁ。まあ隠す気もなかったんだけどね」
ローズレッドのツインテールを揺らして、左手を少女に晒しながら不気味に微笑む。
一叶の左手の甲には狐の面を象った令呪。自分と同じく聖杯戦争の参加者というのは丸わかりだ。
「それで、脅しに来たあたしをどうしたい訳?」
「……どうしたい訳って、人の秘密掴んでおいてその態度、ほんっとムカつくわね」
少女は、宮園一叶の事が気に要らない。
聖杯戦争の予選期間でも、偽りとは言え学生の本分たる学校と青春は変わらない。
情報を集めるためもあったが、元の世界においてクラスカーストのトップに位置した彼女にとっては庭のようなものだった。クラスメイトの心を掴み、気に要らないやつは他の奴を使って嫌がらせしてやった。
それは、元の世界でも同じく。
そんな彼女を、面白がっているようにずっと見つめていたのが宮園一叶という人物。
まるで自分を見世物小屋の動物のように眺めていて、その気持ち悪い眼差しが気に要らなかった。だが、その追求をのらりくらりと躱すばかりか、嫌がらせも何故かことごとく失敗する有様。しかも余裕綽々とこちらに関わってくる。
そして挙げ句に、この脅迫状。
「気に要らないのよ。人のことおもしろ動物扱いな、その視線が」
拳を震わせ、わなわなと怒りだけが溜まっていく。
その視線、今も同じく自分を見世物みたいに見つめる、その眼が気に要らない。
教室の外で待たせているサーヴァントを呼び戻して殺してやろうかと、考えている。
「まあ、私も鬼じゃないわ。全裸で土下座して私の秘密を誰にも言わないって約束してくれるなら許してあげる」
でも、ただ殺すだけではこの怒りと苛立ちは晴れることはない。
だから、突きつけた。今ここで無様を晒して謝らせるという選択肢を与える。
断ったなら自分のサーヴァント、アサシンの技で死んだほうがマシと思える恥辱を与えてやる。
少女の怒りは、既にその段階にまで煮え滾っているのだ。
「……ふふっ、はははっ、あははははっ!!!!」
だが、宮園一叶は笑った。けらけらと、腹を抑えて。まるで馬鹿にしているように。
イエスともノーともどちらの選択肢も選ばず、ただ笑った。
気が狂ったわけでもない、これはまるで、楽しくて笑っている。
宮園一叶は、この状況が楽しくて笑ってる。
「……どうして、そう笑ってられるのよ」
不可解だった、不愉快だった、不気味だった。
一叶の生殺与奪の権利を得ているのは自分の方だと言うのに。
そんな事を気にも留めず、まるで自分が負けるはずがないと言わんばかりに、笑っている。
「……あはは。はは。だって、嬉しいの、この聖杯戦争って事に巻き込まれてさ」
「嬉しい、ですって?」
聖杯戦争に巻き込まれる。それは普通の人間にとって唐突な不運でもある。
一般的な魔術師ならば願いを叶える機会と喜ぶだろう、非日常に生きる者なら面倒事に巻き込まれたという認識だろう。
だが普通の人間にとっては災害に巻き込まれたようなもの。手段を選ばなければ最悪死んでしまう。
少なくともこの少女にとっては、それは恐怖であるからこそ、手段を選ばなかった。
だが、宮園一叶は違う。狂人の如く喜びに打ち震えて、挙げ句この異常を喜んでいるのだ。
少女は、宮園一叶をまだ理解できていない。
「だって、聖杯戦争、戦争だよ。願いのために殺し合うだなんて、それこそアニメやドラマみたいなものじゃない!」
歓喜の表情。聖杯戦争という天災に対する喜び。
宮園一叶は真っ当な人間である。サブカルチャーを大いに好き好む事以外は。
ありふれた人生が嫌で、面白いことを求めた。映画のような非日常の刺激のない現実が嫌いだった。
つまらない日常が何よりも退屈だった。
「脇役(モブ)としてじゃない、一参加者、物語の主要人物って立場に、凄く憧れてるの。ほんっと、あの時は惜しかったなぁ……」
脇役ではなく主要人物。物語に関わるキーパーソンの一人。そんな立場に憧れた。
いや、あの光景が羨ましかっただけなのだろう。あの二人の爛れ、歪んでいても、それでも間違いなく輝いていた物語に。映画じゃなくて現実でもっと楽しめるかもと心底喜んだ。
関われはして多少満足だったけれど、結局利用されていたらしくて、自分はあの二人の物語にはモブでしかなかったらしくて。
その後に多少面白そうなネタを掴んだのはいいけれど、その先で待っていたのは一瞬の快楽ではなく一世一代の大イベントと来た。
心躍った、気持ちが沸き立った。
「待ち遠しかったんだ。日常から外れた物語。その機会が訪れた、訪れたんだよ私の前に」
濁りきった一叶の瞳が少女を見つめる。いや、その眼は少女なんて見ていない。
その先に待ち構えている物語の先を見ている。未知なる向こう側に夢を求める求道者の眼差しをしている。
その物語を前に、罪への意識だとか戦いへの恐怖だとか既に吹き飛んでいる。嗚呼、自分は物語に関わっているという体感が持てている。
今度はモブなんかではなく、れっきとした主要人物として。そのために自分は生きてきたのだと。
「だったら、楽しまないと! 荒らして荒らして愉しみまくって! そう上手くは行かないとは思ってるけど最終的な理想は、物語のラスボスになりたいってやつ!」
「……狂ってるわよ、あんた……!」
吐き出すように少女が零した一言。それはこの聖杯戦争にて宮園一叶から暴かれた本性に対して心底からの恐怖と軽蔑。こんなものが日常に適応していただなんて寒気がする。
そしてラスボスになりたいという抑圧された欲望の果てから生じた狂気。
これは殺さないといけない。意味やら理由やらではなく、直感で感じたもの。
ここで生かしてしまえば、間違いなく自分にとっての災害になると。
「――アサシン!!」
英霊の名を、少女は叫ぶ。
脅迫はもう辞めだ、もはやこれを殺すことに何の躊躇もない。
「どっしたのマスター? ……ってこれマスターの声じゃないけど何か来ちゃった」
「は?」
望み通り、アサシンは来た。
ただし、それが少女のサーヴァントではなく。
真っ黒なセーラー服に陰陽道を象ったファッション。その美貌を台無しにするような悪い形相の女。
キザギザ歯をにこやかに見せびらかすような笑い顔を晒す、アサシンのサーヴァント
「あれ、私のアサシンじゃん? 今までどこほっつき歩いてた〜?」
「いやぁごめんごめん。ちょっとお散歩してただけだって〜」
軽快なノリ。宮園一叶と談笑するそれは、間違いなく自分のアサシンではない。
その上で、少女の中で最悪の想定が過る。自分のサーヴァントは既にやられているのではないか、という。
「……私のアサシン、どうしたの」
「えぇ〜? "多分どっかで迷子ってるんじゃないの〜?"」
「巫山戯た嘘を言わないで。……外には私のアサシンを待たせていたはず、なのにどうして!?」
迷子になっている、だなんて小学生でも分かる嘘を吐いてきた。
このアサシンは間違いなく自分を誂っている。挑発に乗らないよう、一つ一つ真実を探ろうとする。
少女の思惑とは裏腹に、それを他人事にように眺めながら宮園一叶は。
「と言うかマスターさ、この子誰なわけ?」
「あー私と同じ聖杯戦争参加者だったみたい。まあ仕方ない流れだけどバレちゃったし、アサシンの好きにしていいよ?」
それは、事実上の処刑勧告に近しいもの。
それは、少女をアサシンの好きにしていいという認可。
もうちょっと遊びたかったなぁ、と言う残心を一叶は少々残しながらも。
「……というわけだけどさ。自分のサーヴァントが迷子になっちゃった可哀想なマスターちゃん?」
「……ッ」
アサシンの細い狐目が、少女を見据える。
全身をザラザラとした触手で撫でられるような気持ち悪さ。
それでも気丈に睨み返す少女を見てニヤリと、面白がってアサシンが口を開く。
「こんな話、聞いたことある? "この学校は夜になると戦時中に死んだ子どもたちの幽霊がゾンビになってさまようんだって話"」
「そんな話、全く聞いたこともないんだけど」
出てきたと思えば聞いたこともない嘘の噂。
聞き流してしまえばいいだけど大したことのない言葉。
後ろの廊下が、何か慌ただしい。もしかしたら自分のアサシンが戻ってきてくれたのか、と思った。
「……えー。じゃあさ、"そのゾンビたちが絶賛君だけを喰らいたくて襲いかかってきた"ら、どうする?」
「さっきの話が嘘じゃなくてホントだって言いたいわけ?そんなの無いに決まって――」
少女の言葉を遮ぎるように、ガタガタ、ガタガタと物音が鳴る。
一人二人ではない、大勢の物音。
廊下を掛ける沢山の子どもたちの足の音。
この時、全てを察した。
この慌ただしさは、自分のアサシンが戻ってきたから、では無い。
「……うそ、でしょ?」
窓ガラスとドアを犇めかせて、服を着ただけの真っ黒なヒトガタが、赤い眼と晒しながら蠢いて。
それはまるで、ゾンビのような、そんな集団が、少女だけをギョロギョロと見つめている。
血に染まった木の棒とか、ナイフだとか、そんなものを持ちながら。
「――嘘だ」
こんなの、嘘だ。そうだ嘘だと。現実だと受け入れたくない真実が少女に差し迫っている。
恐らくこのゾンビは廊下内にぎっしりと詰まっているだろう。つまり逃げられない。
何故か知れないけれど、アサシンはやって来ない。宮園一鼎のアサシンが何かしたのか。
それともシンプルに迷子になっただけなのか。
分からない。
分かるはずもない。
今の少女に、そんな事を冷静に思考できる精神的余裕など、無くなってしまった。
「あー残念だけど"令呪使っても無駄だよ、もう君のアサシンは此処には来られない"」
「嘘だ」
抉るように宮園一叶が言葉という毒を流す。否定する。
「"君のせいで何か自殺しちゃった子も混じってるから逃げられると思わないでね〜。まあ君が死ねばこのゾンビは纏めて消えるんだけれど"」
「嘘だ」
邪悪な声が、少女の心を再び抉る。否定する。
「君はここで報いをうけるんだよ、今まで虐げてきてた彼ら彼女らに、ね? "もう君の逃げ場なんてないんだから"」
「嘘だぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
少女は心は限界を迎える。アサシンは助けに来ない。他は敵と自分を付け狙うゾンビ。
我武者羅に声を荒らげ、教室の窓を開けて無理やり脱出。
ゾンビがたむろっているのは教室の廊下内、ならばこっちから脱出できればと思った。
「――は?」
だが、少女が目の当たりにしたのは、グラウンドにも蔓延るゾンビの群れ。
いつから現れた、いつからそこにいた。さっきまで居なかったはずなのに。
どうして、どうして、どうして。思考のキャパシティは既に限界を迎えていた。
「ああ、あああ、ああああああああああ―――――――!!!!!!」
教室の窓の外より悲鳴が聞こえる。蠢くゾンビが少女の手足を掴み、噛み付いて、引き千切っていく。
手足が無くなれば次は胸、腹、そして顔。食らって食らって喰らい続けていく。
「―――嘘の嘘、それはくるりと、裏返る」
アサシンがなにか呟いたようだが、少女がそれを意に介すことは永遠になく。
数十分にも及び悍ましき燔祭の末に、少女の身体は臓器の残り物程度しか残らず。ゾンビたちもまた最初から居なかったかのように消失する。
「……ふふ、ふふふ。あははははっ!!!」
最後には、宮園一叶の高笑いだけが響き渡る。
怪異のごとく、狂ったフルートの音色のような、これから待ち受ける非日常の、聖杯戦争という"物語"の始まりを告げる前奏曲の如く。
観測者のままはもう終わり。これからは彼女もまた"主要役者"の一人。
嘘も真実もごちゃ混ぜて、彼女の人生という劇場版がこれから始まる。
【クラス】
アサシン
【真名】
築城院真鍳
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力:D 耐久:C 敏捷:D 魔力:B++ 幸運:A 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
【保有スキル】
被造物:C
現実に具現化した物語の登場人物。このスキルの所有者は通常の英霊よりも回復力および自己防御力が高めとなっている。ただしアサシン自体の異能抜きの戦闘力は元の作品世界でもそこまで高くない
無力の殻:A
アサシンは宝具以外に魔力を使うことは殆無く、そのため宝具を使わない限りはサーヴァントとして感知されることはない。
正確には宝具以外で魔力の使い道が存在しないため。
詐術:A
話術、扇動の派生スキルであり、言動を以て他者を欺き思うがままに従わせる技術。
アサシンは元の物語の役割もあって技術に長けており、嘘と真実を使いこなすことで相手の思考を容易く誘導することすら出来る。
【宝具】
『言葉無限欺(コトノハムゲンノアザムキ)』
ランク:A 種別:対因果宝具 レンジ:0〜10 最大補足:1〜10人
ことのはむげんあざむき。嘘を現実へと裏返す言霊。
アサシンが言葉にした『嘘』を対象が『嘘』と認識することで、その『嘘』を現実へと昇華し実現する。
一度条件をクリアしてしまえば、現実には存在しない物を現界させることが可能。さらに一度現実化したさせた効果は基本的に永続で固定されてしまう。
言葉だけでなく、紙などに記載した文面等の真偽を問わせることで、それを嘘だと相手が断定すれば効果が発動するなど応用力も高い。
ただしあくまで発動条件は『嘘』を『嘘』と否定されることで、その嘘を肯定されたり、「やれるものならやってみろ」的な売り言葉に買い言葉では発動しない。
極めて強力な宝具ではあるものの、対策さえ出来れば比較的容易に対処出来るのだが、アサシン自身の詐術スキルもあり、手種がバレていたとしても回避することは難しい。
ただし、アサシンが英霊化した都合上マスターの魔力負担もある程度必要であり、度が過ぎた改変はマスターの負担も多大なため決して万能ではない、という所には落ち着いている。
『愚者の金塊(フールズ・ゴールド)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
黄鉄鉱。見せかけの黄金。パイライト。
かつてアサシンがある人物に授けたちゃぶ台返しのお守り。
このアイテムを授けられた対象は、一度だけ『言葉無限欺』を魔力を一切無視して使用可能にさせることが出来る。
ただし、効力はたった一度のみ。かつこの宝具の使用された後はアサシンは全ての魔力とスキルを失い、受肉と言う形でただの人間となる。
【人物背景】
伝奇系ラノベ『夜窓鬼録』の第5巻に登場する敵キャラ。
『言葉無限欺」特殊能力を使い作中で暴れまくり、最終的に作中の主人公である水晶玉探偵こと逆神那烏也に倒されるはずだった。
だが、現実世界の大崩潰を企む軍服の姫君の起こした騒ぎに乗じて己が作品の作者を殺害。盤面を荒らしながら最後に勝ち逃げ同然に海外へと渡航した。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯とかには対して興味無いけど、聖杯戦争は良い遊び場だから楽しんでいこー!
マスターもそういうの御所望っぽいからねー!
【マスター】
宮園一叶@きたない君が一番かわいい
【マスターとしての願い】
聖杯に掛ける願いは手に入れてから考える
今はこの非日常を存分に楽しもう! 出来ることなら目指せラスボス!
あーでも、どうせなら聖杯パワーで愛吏ちゃんとひなちゃんの物語に介入しちゃうのもありかも?
【能力・技能】
勉学の成績こそ良くはないが、色んな人とそれなりに仲良く出来るコミュ力の高さ。
【人物背景】
日常という退屈よりも、物語という非日常を求めた少女。
聖杯戦争という非日常を前に、彼女は正しく狂った。
【備考】
令呪の形は狐の面。
投下終了します
>たった一人の冴えた逃げ道
死の価値観の違い、死から逃げ切った彼が言うと独特な重みがありますね。
どの時期から参戦しているのかは未定とのことですが、どの時期でも立場的に含蓄がある。
主従の共通点、まさに『個にして全』ってことかあと膝を打ちました。ありがとうございました。
>先生の力になりたい! わたしたちをつなぐ約束!
先生まで来るとは思いませんでしたね……。
ただ相方がプリキュアの子ということもあって、ちゃんと先生し続けられそうで楽しさがあります。
まさに物語の始まりを告げるような前向きで眩しい一話で、とても良いなと思いました。ありがとうございました。
>エンドロールには早すぎる
うわっ出た(暴言)。映画みたいな世界に来れてよかったね……。
念願のスクリーンの中でイキイキしてる一叶、本当にエンジョイ勢という感じで良い。
鯖も込みでザ・厄ネタって感じなんですが、果たして本当の意味で舞台の上に立っても意気揚々としていられるのか。ありがとうございました。
私も候補作を投下させていただきます。
◆
“Do you know why you can never step into the same river twice?(何故、同じ川に2度入れないか知っているか?)”
“Yeah, 'cause it's always moving.(ああ、常に流れているからだ)”
――フランシス・フォード・コッポラ『地獄の黙示録』
◆
都市が抉れて消し飛ぶ様を、少年は諦観じみた苛立ちと共に見つめていた。
吹っ掛けられた喧嘩だ。恐らく今ので消し炭以下の何かになって消えただろう敵に対する慈悲の心は欠片もないが、腹立たしいのは自分のサーヴァントが何処までも懲りない馬鹿だということ。
「変態野郎が……」
民間人の犠牲だの何だのと眠たいことを言うつもりは、彼にとてない。
この世界は作り物だ。原理は知らないし見当も付かないが、機械じみた理屈で再現された仮想の世界であるのだと脳内に詰め込まれた知識はそう告げている。
であるならば……いや、仮にそうでなかったとしても。
戦いの片隅で積み重なっていく死体の山に頓着する気は少年・カワキにはなかった。
そんな青い逡巡を抱えて生きるには、彼の人生は壮絶すぎた。あまりにも、死と犠牲に溢れすぎていた。
カワキが気にしているのは、無秩序な破壊の戦跡を刻むことによって自分達の情報を一方的に観測される危険の方だ。
どんな強者であろうと死ぬ時は死ぬし、負ける時はある。
さしずめそれは、自分の中で絶対の恐怖であったあの“大筒木”の男が滅び去ったように。
今此処でこうして勝利の悦に浸っている自分達が、明日は敗者として地面に転がっていないとは限らないのだ。
そんな当たり前も弁えることの出来ない自分のサーヴァントに、カワキはほとほと嫌気が差していた。
「おい、テメェ何度言ったら分かるんだ? やるなら程度を弁えろって命じた筈だがな」
「なんだ。降り掛かる火の粉を払ってやった恩人に対して随分な物言いじゃないか、人形」
その男は、見た目だけを論えば決して悪いわけではなかった。
むしろ絶世の美男と言ってもいい。顔立ちの良さもさることながら、一挙一動に伴う危険な色気が何とも言えぬ絶妙な艶を醸し出している。
しかしそれ以外は、カワキに言わせれば“クソの煮凝り”だった。
顔に浮かべる気色悪い笑顔は偏執狂のそれと変わらず、瞳に宿る光は誘蛾灯を思わせる。
そして何より気に入らないのがこの言動だ。自分こそが絶対で、それ以外は単なる背景とでも言うような物言いと思考回路。
否応なしにも、思い出す。
今はもうこの世にいない、無様に死に去った大筒木の顔を。
かつてジゲンと呼ばれていた男のありもしない面影を、カワキは自身のサーヴァント……アーチャーに対し見出してしまっていた。
「オレはやり方の話をしてンだよ……テメェに恩義を感じた覚えは一度もないし、礼儀の話なんざするわけねえだろうが。
テメェの趣味の話は知らねえし興味もねえが、変態の代償行為で足引っ張られちゃ堪んねーんだよ」
「ではこう答えよう。知らないし、知ったことではない。君は蝿や蚊の羽音に耳を傾けて意味を見出すのか?」
「…………」
「とはいえ。代償行為と云う呼称は的を射ているな」
アーチャーの性根を一言で云うならば、“傍迷惑な戦闘狂”。それに尽きる。
如何にもインテリと云うような偏屈そうな人相とは裏腹に、彼の性根は只管に獰猛で狂おしい。
これが狂戦士と呼ばれないのなら、一体誰を指してそのクラスに当て嵌めるのか。カワキは不快感と共にそう思った。
そんなカワキの……マスターの心情など一顧だにせぬまま、アーチャーは自分の顎に手を当ててくつくつと笑った。
「確かにその通りだ。僕がこの地で振り撒く如何なる破壊も、全て本願を果たすまでの代償行為に過ぎない」
……このサーヴァントの何より質が悪いところは、その振る舞いもそこから生じるリスクも、全て自分で尻が拭けてしまうことにあった。
強いのだ。この男は、知的存在として圧倒的に強い。
カワキは彼にジゲン――大筒木イッシキを重ねて見たが、そのイッシキと比べても遅れを取ることは確実にないと断言出来る。
いや、それどころか上回りすらするだろう。
少なくとも火力の面に搾って云うならば、イッシキですら影を踏むのも難しいとカワキは思っている。
だからこそどんなに文句を付けようと、カワキは結局彼の“力”に身を委ねて勝手を許すしかないのだ。
こと聖杯戦争を勝ち抜こうとする上で、この狂人に勝る役者はそうそう存在しないのだから。
「昔話を一つしてやろう。私は最初、誰でもない存在だった」
「聞いてもいねえのに自分語りか。意外と寂しん坊なのか?」
「沼男(スワンプマン)という思考実験について知っているか」
「……知らねえよ。物知りな自分に酔っ払うんなら、その辺ほっつき歩いて飲み屋でも探してくれ」
カワキは、聖杯を欲している。
いや、そんな生易しいものではない。
自分の命に懸けても、何としてでも聖杯を手にして願いを叶えねばならないのだと自らにそう誓っている。
たとえ誰を殺そうとも。どれだけの命を、死神の俎板の上に送ろうとも。
必ずやこの手に願望器を掴み、望む未来を描き上げねばならないのだと。
「ある男がハイキングに出掛ける。しかし不運にもこの男は、深い泥沼の傍で落雷を受けて死んでしまう。
するとどうだ。なんという偶然か、その時立て続けに落ちたもう一本の雷が沼の底に沈んでいた泥と化学反応を引き起こした」
――カワキはかつて、ただ死んだように生き続けるだけの空っぽだった。
空洞の人形。親に逆らうことはしても、ではその先どうしたいのかと問われれば答えの一つも返せないような木偶人形。そういう存在であった。
その彼を変えてくれた人がいる。偉大な男だ。よそ者で、危険分子である筈のカワキに対しても分け隔てなく接し、息子のようなものだとそう呼んでくれた。
木の葉の里。その七代目火影、うずまきナルト。
彼の存在はカワキを救ったが、しかし代償として彼は恐ろしい危険に曝され続ける憂き目に遭った。
カワキには、それが許せなかった。
人生で初めて見た光を――それを汚さんとする者達の存在を、そしてそんな屑達に大恩ある七代目が壊されてしまうことも我慢ならなかった。
仮に“黒い羽”がカワキの手に渡らなかったとしても、遠くない将来彼は重大な何かを仕出かしていただろう。
それで七代目が悲しむとしても。決して喜んでなどくれないとしても……構わない。
七代目が生きていて、彼が幸せに暮らせる世界がそこにあるのならそれでいいと、そう断ぜるほどにカワキは彼を愛していた。崇拝していた。
「そうして沼の底から立ち上がったのは、死んだ男と全く同じ遺伝子と記憶を持った新生物。沼男というわけだ」
「暇人が好きそうな話だな。そういう答えのねえ問題に頭を捻るのはよ、モテない野郎のやることだぜ」
「頭を捻りもする。他でもないこの僕自身が、まさにその沼男なのだからな」
カワキは、光に取り憑かれている。
太陽光を肉眼で直視し続ければ網膜が焼け、いつしか消えない障害を被るように。
燦然すぎる出会いとそれがもたらした希望は、空っぽだった少年に大きすぎる熱を与えた。
守られる側ではなく、守る側へ。
自分を拾い上げてくれたあの光を、二度と誰にも傷付けさせないという狂気じみた覚悟。
それこそが、カワキを動かす原動力だった。
そして恐ろしいことに、その為ならば彼は本当に誰だろうが殺せてしまう。
今彼らの視界に広がっている破壊の戦跡は、アーチャーのだけでなくカワキの狂気をも物語っていた。
カワキはアーチャーを嫌っている。有能でさえなければ即座に切り捨てていると言ってもいいくらいに、唾棄している。
「かつて、一人の愚かな男がいた。真理を追い求めるあまりに自分の身体を削ぎ落とし完全性を自ら捨てた、傲慢な男だった」
「人のこと言えた義理かよ」
「男はその無駄の顛末として滅んだが、しかし自身が死んだとしてももう一度返り咲けるように備えを敷いてあった。
――尤も愚か者の末路とはかくも滑稽なもの。その企ては、失笑を禁じ得ない無様な失敗に終わった。
そうして全てが頓挫した後にただ一つ残った残骸の『沼男』。それこそが、この僕というわけだ」
だがその実――彼らはある一点において皮肉すぎる共通項を有していた。
「絶望したよ。しかしすぐに歓喜に変わった。
この絶望すら、僕が『僕』でないことの証だと。清々しい心地のままに私は、完全になる為に進軍を開始し、そして……」
うっとり、と。そんな表現がこの上なく似合う、怖気立つほど艶やかな顔で男は空を見上げた。
そこにはいない誰かの面影を追うような、そんな眼差しにカワキが眉根を寄せる。
しかしその渋面には驚きも含まれていた。それは紛れもなく偏執と言っていい執着だったが、何処かこの男らしからぬ哀愁をも含んだ眼差しであったからだ。
「――私は、ある死神に出会った」
とある天才の失敗の末に生まれた、無意味無価値なスワンプマン。
それを指摘されれば、明かされた真実は彼の心を生き血滴る絶望となって槍衾に変えたが――それもわずかな間だった。
絶望は歓喜に。アイデンティティの崩壊は新たなる自我の確立へと繋がり、彼は自分がもはや誰でもない、正真正銘オリジナルの存在になれたのだと確信しながら羽ばたいた。
その夢見心地な邁進の中で、彼もまた出会ってしまった。
狂気を持って見上げるべき、眩しい眩しい……一筋の光に。
「恐ろしく強い男だった。血湧き肉躍るとはまさにあのことだ。
私の頭脳と力、その両方を脳が自壊するほど激しく酷使して繰り出した手を悉く笑顔で踏み越え迫ってくる姿、気迫、鬼気!
この地で蹴散らした英霊どものいずれも、奴の影すら踏めてはいない。私は今も――あの禍々しい光のみを追い求め続けている」
「気色悪い奴だな、相変わらず……そいつも迷惑だろうぜ、テメェみたいな変態のカマ野郎に好かれちゃよ」
「浅い考えだ。彼にとって好悪とは、即ち強さの有無でしかない。
彼を満足させられるか、させられないか。物差しはそれだけだ。そして私は今度こそ、彼との約束を果たさなければならない。
反故にしてしまった決着を……何に縋ってでも成し遂げる。それでこそ私があの日見た光は、完全無欠の記憶としてこの脳髄に刻まれるのだから」
カワキにとって戦いとは、ただ忌まわしいだけのものでしかなかった。
世の中には戦いに生き甲斐や居場所を見出す者もいるのだと、知識では知っている。
しかし共感などまったく出来ないし、意味を見出せたとしてストレスの発散以外のものではない。
それ以上の何かを持ち込む輩など、どうしようもない変態か畜生崩れの落伍者だろうとそう思っている。
だからこそ、一瞬でも自分がこの狂ったサーヴァントの言葉に共感してしまったことが腹立たしくて仕方がなかった。
内容ではない。光に照らされ、それへの憧憬のみに突き動かされているという点がカワキの心を惹いた。
七代目火影という眩しい太陽に惹かれてしまった者として、アーチャーが陶然と語る好敵手への執着と未練をいつも通りの悪態で切り捨てることはどうしても出来なかったのだ。
「……テメェが聖杯に願うのはそれか。万能の願望器に頼って願うのが戦いなんてご苦労なことだぜ」
「人形には分からんさ。分かられても困る。僕の辿り着いた答えが安っぽく見えてしまうからな」
「テメェが安くなくて何なんだよ……オレにはテメェはただのガキにしか見えねえぜ、アーチャー」
「お互い様だ。僕にも君は、酷く幼い餓鬼に見える」
それでも、彼らの価値観や性質が交わり合うことは決してない。
彼ら二人が見た光はまるで違うし、それを受けて得た熱の向きも正反対だ。
相互理解など絶対に不可能。カワキはアーチャーを理解出来ないし、アーチャーもカワキを理解出来ない。そして互いに、する気もない。云うなれば永遠の平行線だ。それこそが、彼らなのである。
「精々役に立て。私が本願を果たす為の楔(カーマ)として」
「……それを言うなら逆だ。テメェの方こそ、オレの役に立ちやがれ。
使えなくなったらオレはいつだってテメェを切り捨てるぜ。弱え狂犬なんざ百害あって一利なしだ」
「僕を狗と呼ぶか。不遜だね。かつての僕ならば、ただの道具にそうまで思い上がられて黙ってはいなかっただろう」
彼らは、誘蛾灯に引き寄せられてきた羽虫のような存在だ。
闇の中で暮らしてきたから、初めて見た光を決して忘れられない。
どれほど見苦しく足掻いてでも、彼らは光の方へと飛んでいく。
カワキは七代目火影。ただの人形でしかなかった自分に、生きる意味を与えてくれた彼の方へ。
アーチャーは荒れ狂う死神。ようやく“己”になれた自分に、生きる意味を教えてくれた彼の方に。
片や、守る為。片や、殺す為。それぞれの理由で聖杯へと飛んでいく、二匹の羽虫。
しかし彼らは、羽虫と呼ぶにはあまりに強すぎた。
飛び回るだけしか能のない小虫にしては狂おしすぎて、危険すぎた。
人形と沼男。共に道具。そして――それを自ら否定し空に旅立った、願い抱く光の亡霊達。
「……行くぞ、アーチャー。これ以上目立つのは都合が悪い」
「まるで匹夫の野盗だな。その瞳に宿す力が泣くぞ?」
「吠えんじゃねえよ……犬野郎が。次の出番まで大人しくお座りしてやがれ」
……孤独なよそ者、カワキは力を手に入れた。
彼が呼んだサーヴァントの真名を、『ザエルアポロ・グランツ』――否。
『シエン・グランツ』とそう呼ぶ。
完全であることを唾棄し、強さを余分として切り落とす前のザエルアポロ。
絶対的な強さと極まった頭脳を併せ持っていた第0十刃に限りなく近く、そして決定的に異なる存在である孤独な破面。
ある死神との決着を追い求め、生命の循環ではなく英霊の座へと迷い出た……狂気の化身である。
【クラス】
アーチャー
【真名】
シエン・グランツ@BLEACH Spirits Are Forever With You
【ステータス】
筋力:C 耐久:A+ 敏捷:A 魔力:A++ 幸運:D 宝具:C
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:A
一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
事実上、現代の魔術師の扱う魔術ではダメージを与えることができない。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【保有スキル】
沼男(スワンプマン):EX
スワンプマン。とある破面の力から復元された、『ザエルアポロ・グランツ』を基にした全くの別人。
存在レベルでの霊基情報の偽装。真名特定及びそれを素にした能力を完全に無効化する。
ただしアーチャーの身体は他のサーヴァントに比べて非常に不確かな霊子の塊となっていて、時間経過と能力使用で少しずつ崩壊していく。
この崩壊は魂喰いや他サーヴァントの霊核を喰らうことで補えるが、それも基本的には進行を遅らせる程度にしかならない。
破面:EX
所謂悪霊・怪異。虚(ホロウ)と呼ばれるそれらが自らの仮面を外し、更に上位の存在となった個体を指す。
持つ霊圧の強さでランクが別れるが、アーチャーはそれに加えてその存在の特異性からEXランクを当てられている。
実際のランクはA+相当。これは破面の中で最上位の一角と言える。
虚閃:A++
霊力を収束させ、特大の光線を放つ技能。
類似したスキルに『魔力放出』が存在する。
アーチャーの場合、その出力は最大で対城宝具にも匹敵する。
勇猛:A
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。
『ザエルアポロ』が本来持たない種の狂気。性質は獰猛に近い。
戦闘続行:A+
往生際が悪い。
霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
『ザエルアポロ』が切り離した獰猛と、アーチャーがかつて相見えた好敵手への執着がその魂を突き動かし続ける。
【宝具】
『邪淫妃(フォルニカラス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1
帰刃(レスレクシオン)。刀剣開放とも呼ぶ。
彼ら破面にとっての斬魄刀とは自身の力を刀の形に封じたものであり、帰刃とはその封印を解き放つことを意味する。
アーチャーの場合背には四枚の羽根が生え、平時では行使不可能な数多の能力が解放される。
相手の精巧なクローンを生み出す、相手の肉体と状態を共有した人形を作るなど出来ることは多岐に渡るが、真骨頂は別にある。
『受胎告知(ガブリエール)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
相手の体内に自身の卵を産み付け、その霊圧――魔力を吸い尽くした上で体内から蘇り新生を果たす。
それまでに受けたダメージや追加効果をリセットし、生命を循環させる『転生宝具』。
かつて『ザエルアポロ』はこの力を手に入れる為に自分の暴性を切り離し、敢えて自身を弱体化させた。
【人物背景】
十刃――ザエルアポロ・グランツのデータを参照し、反膜の糸から復元されたスワンプマン。
【サーヴァントとしての願い】
更木剣八との再戦。聖杯戦争自体にも楽しみを見出している。
【マスター】
カワキ@BORUTO-ボルト-
【マスターとしての願い】
聖杯による大筒木一族の完全抹消。及びその他、七代目火影と彼の里を脅かすあらゆる存在の排除。
【能力・技能】
数え切れない回数の肉体改造を受けており、作中では“存在そのものが科学忍具”と称された。
並外れて頑健な肉体を持ち、傷の治りも非常に早い。ただし空腹状態では速度が落ちる。
他には細胞の硬度を変更することが出来、変化させた細胞は本来の体積を無視して肥大化、その上でその状態を維持することが可能。
欠点として、能力を使い過ぎると疲労が蓄積する為、適宜休息と栄養補給で充電する必要がある。
◆楔(カーマ)
カワキの左掌に刻まれている印。敵の攻撃の吸収と放出が主な用途。
他の『楔』保有者が近くにいれば共鳴を起こし、時空間を生み出すことがあるが、この世界でも使用可能かは不明。
◆秘術・少名碑古那/秘術・大黒天
元は大筒木イッシキという存在が所持していた能力。
視認した物質を瞬時に縮小・復元する『少名碑古那』と、縮小して異空間に格納した物体を取り出す『大黒天』という二つの秘術を持つ。
この世界では使用時の消耗が巨大化しており、原作及びイッシキほどおいそれと連発出来る術ではなくなっている。
◆忍術
七代目火影・うずまきナルトに師事し会得した忍術。影分身の術など。
【人物背景】
愛を知った、かつて空っぽの『乾き』だけしか持っていなかった少年。
その愛情は歪んでおり、自身に光を与えてくれた七代目火影の為であれば命をも差し出す異常な覚悟を秘めている。
投下終了です
投下します
自分以外の人間は脆い土塊でしかなかった。
他人と関わることも、慈しむことも俺にはできなかった。
強さとは孤独なのか。
際限なく力の発露を求め彷徨い続けることが強者に課せられた罰なのか。
お前は俺に教えてくれるのか?
☆
バチィ、と雷撃の音が鳴り響く。
「ご、ぇ」
「やっぱ俺の呪力で英霊も殺せんだな」
くぐもった呻き声を漏らし、霊子となって消えていく黒こげのサーヴァントを見下ろし、男、鹿紫雲一は溜息を吐きながら振り返る。
「で、お前はどうすんだ」
「は、ひゃ、わああああああ」
英霊を殺され、涙と共にガチガチと歯を打ち鳴らす少女は、半狂乱になりながら頭を抱えうずくまる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいお願いしますこっ、ころさないでください」
地面を涙と小便で濡らしながら頭を地に着け媚び倒す少女を、鹿紫雲は舌打ちと共に、心底つまらない眼差しで見下ろす。
「せめて刺し違えてやるって気概もねえのかよ...もういい、さっさとどっか行け」
シッシッ、と野良猫を追い払うかのような手振りで追い払えば、少女は鹿紫雲へと一瞥もくれることなく走り去っていく。
(つまらねえ)
遠ざかっていく背中に抱くのは、彼の表情から伺える感情そのもの。
いまの鹿紫雲一は人生二週目である。
現在は術師・羂索による手引きで過去から受肉し。
過去には多くの術師と戦い殺戮してきた男。
鹿紫雲一は戦に飢えている。
ただの戦ではない。
弱者を屠るのではなく、己の全てをぶつけられるほどの強者との戦いだ。
彼はこの聖杯戦争に不満を抱いていた。
羂索から「宿儺」という過去に存在した最強の術師と戦えることを聞き、彼との契約を結び現世に復活したのはいいものの、遭遇する相手が弱者ばかりだった死滅回游。
その途中で呼び出されたこの聖杯戦争も、最初こそは期待していたが、結局はただの死滅回游の焼き直しだ。
出会う英霊たちは悉く「外れ」ばかりで、未だに全力を出そうとも思えない相手ばかり。
これならまだ宿儺という目標が見えていた死滅回游の方がマシだった。
———渇いていく。
数をこなすだけの戦いを愉しめる時期はもう過ぎた。
早く俺の心を埋められるだけの戦いがしたい。
———戦う度に渇いていく。
自分と同じ、それまでの人生を否定されたような環境にいながら、強さ故の孤独も、他者との関わりも、全力を出すことをも許されたまま生を全うした、この聖杯戦争での相方を得てしまったが故に。
———俺の渇きは未だに収まることを知らない。
「...さて。あいつの方はどうなったか」
☆
...ええ。
貴方の気持ちはよくわかりますよ。
知った風な口を聞くなって思うかもしれませんが、自分(オレ)の父親がそうだったから。
小さいころから延々と鍛え抜いた死条の技を一度も使えず病に倒れ死んでいった。
まるで己の人生を否定されたかのように。何者をも傷つけず、己の技を受け止めてくれる強敵にも遭えず。
だから思うんです。自分はそうならなくて幸福だったと。
殺人を否定するこの現代社会において。
存分に己の力を振るえ。己の技を全て受け止めてくれる強敵にも出会い。
ずっと自分の上を行く人と同じ組織に属せて。
仮初の姿の自分を、得体のしれない自分をそれでも愛してくれる人もいてくれて。
えっ、惚気話を聞きたい訳じゃないって?
アハハ、すみません。でも仕方ないじゃないですか。
貴方を見てたら、やっぱり自分は救われてたんだと思えたんだから。
☆
ドン、とコンクリート壁を破壊する音が響く。
ずるり、と身体が血に落ちべしゃりとその肉塊を晒すのは、内臓を陥没させたバーサーカーだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
その下手人である幼い顔立ちの青年———アサシンは、その身を震わせていた。
己のしでかした所業に恐れ戦くのではなく。
(嗚呼...やっぱりめちゃくちゃ気持ちいい〜〜〜〜〜ッ!!)
己の拳で生命を断ったという感触に喜び震えていたのだ。
「ば、バーサーカーァァァァァアァ!!」
己が相棒が消えていく様に悲痛な叫びをあげる男に、アサシンは問いかける。
「いい死合でした...それで、貴方はどうするんです?」
微笑みながら向けられるのは、左手は脇に引き締め右掌は相手に突き出す構え。
英霊同士の戦いが終わったというのに、アサシンは未だに戦闘態勢を解いていないのだ。
「〜〜〜〜決まったらぁ!!」
男は上着を脱ぎ捨て、拳を固めて咆える。
「バーサーカーは俺と血盟交わした戦友じゃあ!戦友殺られてだまッとれるかいッ!!」
怒号と共に駆け出す男。
それはあまりにもお粗末な突貫だった。
無策。無謀。
英霊相手に生身の人間が正面から立ち向かおうなどと愚の骨頂。
だが、アサシンはそんな彼を嘲笑いなどはしなかった。
「立ち向かってくれて嬉しいですよ。自分(オレ)もあんたを逃がすつもりはなかった———だって、これは試合じゃなくて死合いなんですから」
「死ねえゴラァ!」
———掌
全力で振るわれる拳を掌で受け流す。
———転
そのままアサシンは男の背後へと回り。
———握
男の喉元に優しく掌が添えられれば、男の目から血涙が溢れんほどの圧迫感が襲い掛かり。
———輪
勢いのまま男の身体は宙を舞い、受け身を取る間もなく脳天からコンクリ床に叩きつけられ、脳漿と血袋をぶちまけ一輪の赤い花が咲いた。
「ありがとうございました」
遺骸の前で手を合わせ、感謝の意を表すると共にぺこりとお辞儀をする。
(...でも、まだ本気にはなれなかったなぁ)
だが、彼の戦闘欲はまだ満たされ切っていない。
彼が真に求めるのは最強の座。
己が全てを受け止めてくれるほどの猛者。
彼もまた、戦に生を見出す者。
暗殺者でありながら、格闘家としての癖を持つ男。
それがアサシン———死条誠である。
・
・
・
「鹿紫雲さーん、終わりましたよー!」
ビル街を軽快に駆け抜け、アサシンは鹿紫雲のもとへとたどり着く。
「おう。そっちはどうだった」
「なかなか楽しめましたよサーヴァントも結構しぶとかったし、マスターの方も負けが決まってもなお自分に立ち向かってくれたんですから!」
「そいつはよかったな」
「鹿紫雲さんの方は...って、聞くまでも無さそうですね、スミマセン」
ご機嫌な顔で語るアサシンとは裏腹に、鹿紫雲の表情は仏頂面そのもの。
よほど空気の読めない者でなければ言わずとも答えは解るというものだ。
「組んでる時点でタカが知れてると思ったが、クソッ、どうせならお前の方を選んどきゃよかった」
苛立ちと共に親指の爪を噛む鹿紫雲に、アサシンは「まぁまぁ」と軽く肩をぽんぽんと叩き宥める。
「そう不貞腐れなくても大丈夫ですって。今はまだ予選中、本番になればもっと歯ごたえのある連中と出会えますから」
「ハッ。三度も退屈に殺されそうになってんだ。あまり期待せずに待っておくぜ。それに」
鹿紫雲は口角を吊り上げ、不意に如意をアサシンに突きつける。
「誰もいねえならいねえで、お前と殺りあえばいい話だ」
パリ、と鹿紫雲の身体から電子音が鳴り、殺意がアサシンの身体に襲い来る。
鹿紫雲はアサシンに怒り、憎悪しているのではない。
彼はアサシンの強さを知っている。それが己に届く領域なのかはわからないが、それでも今までの有象無象共よりはマシだと確信している。
だから、主従の関係であっても、お前と命のやり取りをしても構わないと改めての意思表示だ。
しかし、突きつけられる殺意にもアサシン動じず。
「...やめてくださいよ鹿紫雲さん」
否、動じていない、のではない。
「あんまり誘われると、自分も我慢できなくなっちゃうじゃないですかぁ」
鹿紫雲と同じく、相手への期待に表情を緩ませ殺意を迸らせていた。
この男には英霊と人間の差など関係ない。
自分の全てをぶつけてみたいと。
鹿紫雲一にも、アサシンにも万物の願望器に捧げたい願いなどない。
ただ、己の持つ力を全て出し尽くしたいだけだ。
互いの殺意と闘争心が入交り、その気迫と圧迫感だけで道行く蟻は進路をたちまちに変え、通りがかった猫は気配を悟られないよう置物と化す。
空気が凍てつく。
糸が一本でも弾ければ、互いに食らい合う———そんな威圧感が場を支配していた。
「...止めだ」
先に矛を収めたのは鹿紫雲だった。
彼に習い、アサシンも殺意を内に留めていく。
「別に手合わせくらいはしてもいいんですよ?」
「それで止まれるタマじゃねえだろ。俺も、お前も」
「確かに。まー、自分はあんたと戦って終わるのもアリかなとは思ってるんですけどね」
「てめえはそうだろうが、俺はまだなんだよ。四百と幾ばくも待ったんだ。癇癪でぶち壊すほど間抜けじゃねえ」
この聖杯戦争では、相方を失った主従は脱落が決まってしまう。
そうなれば待つのは『死』のみ。
鹿紫雲は死を恐れているわけではないが、ここでルールに抵触して宿儺に会う機会を失うのを避けたのだ。
如何な異常事態に巻き込まれようとも、最終的な目標は最強の術師・宿儺であることは変わらない。
「死条。俺はもう帰るがお前は?」
「自分はもうちょっとトレーニングしてから帰ります」
「英霊が鍛えても意味はねえだろうが...まあいいか」
「とうもろこし茹でてあるからお腹すいたらソレ食べてくださいねー」
二人は踵を返し、各々の闇夜に消えていく。
戦闘狂達の戦いへの火は、場所が変われど衰えることはない。
☆
孤独になるほどの強さが罪だというならば。
時の流れに滅ぼされるのが運命だというならば。
我らはそれを受け入れよう。
だからどうか許されよ。
卑しき我らの愚かな自己(エゴ)を。
【クラス】
アサシン
【真名】
死条(四条)誠@職業・殺し屋
【ステータス】
筋力:B 耐久:C+ 敏捷:B+ 幸運:D 魔力:E 宝具:C(通常時)
筋力:A+ 耐久:C+ 敏捷:EX 幸運:D 魔力:E 宝具:C(宝具解放)
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
アサシンの場合はスキルにより、初撃に限り攻撃対象に直感や感知に類するスキルがない限り、気配遮断のランクは落ちない。
だがこのサーヴァントは生粋の戦闘狂であり、必ず相手と対面してから戦いを始めるため、暗殺をするという面においては宝の持ち腐れもいいところだろう。
【保有スキル】
戦闘狂:EX
戦闘をこよなく愛する性質。
敵対者を一定以上の強者であると認めた時、相手の力量を確かめ味わい尽くしてから倒さなければ気が済まず、愉しむために敢えて力量を落してしまう。
つまり初手から全力を出せない、スロースターター。あればあるだけ損をするスキル。
死条皇神流:EX
その昔、京都に都をおいた天皇と公家を守護する為に創られた一撃必殺の暗殺術。
柔術・空手・相撲・合気・古武術などありとあらゆる武道を組み創られた総合格闘術。
その時代、時世において柔軟に術を吸収・結合・進化して『殺人』のみを追求した究極の武。
戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
【宝具】
『死条皇神流 最終継承者』
ランク:A 種別:対人宝具(自身)レンジ:なし 最大補足:自分自身
髪留めを解くことで発動する。
髪が黒髪から白髪に代わり、筋力と敏速のステータスと技のキレが大幅に上昇する。
ただし、反動が大きく使えば使うほどこのサーヴァントは大きく消耗し、最終的には身体が崩壊してしまう。
【人物背景】
職業・殺し屋の一人。
その昔、京都に都をおいた天皇と公家を守護する為に創られた一撃必殺の暗殺術『死条皇神流』の最終継承者。
普段は温厚だが、戦いの際には凶暴さが剥きだしとなり、極めた力で強敵と戦い倒すことに至上の快楽を感じる戦闘狂。
かつて刃物を持った酔っぱらいに絡まれた際に反射的に繰り出した拳で相手を殺害してしまい、これをキッカケに己の技で敵を屠る喜びを知る。
以降、職業・殺し屋に所属し、その技で標的を殺している。
上記の事件の際に様々な面倒を見てくれた水原響子というホステスと結婚している。
【weapon】
拳
【方針】
強者と戦いたい。ただそれだけ。
【把握資料】
漫画『職業・殺し屋』7〜9巻、11〜12巻、新職業・殺し屋斬4〜5巻が主な活躍となる。
【マスター】
鹿紫雲一@呪術廻戦
【能力】
呪力が電気とほぼ同等の性質を持っており、その呪力特性に由来する呪力操作と如意による棒術を織り交ぜた体術を駆使して戦う。
また、生涯に一度きりの術式も有している。
【人物】
死滅回游の泳者(プレイヤー)の一人。
400年前から甦った過去の術師の一人で、電気回路のコイルのような特徴的な髪型をした青年。
生前の頃より強者との死闘のみを好み、自分自身の生きがいとする生粋の戦闘狂。
戦闘では合理的な勝利よりも、強大な相手を正面から突破する事を好む。
【方針】
全力を出せるほどの強者と戦う。いなければさっさと帰還して宿儺を探す。
【把握資料】
漫画『呪術廻戦』21巻が主な活躍になる。
投下を終了します
投下します
「う、嘘だ」
悪夢そのものの光景であり、状況だった。
この城に乗り込んだ時の、天すら衝く程に軒高だった意気は微塵も感じられない。
「有り得ない……有り得ない!!」
同じ言葉を繰り返す男に、城に侵入した時の自信も傲岸さも存在しない。
一流。そう自負し、そう口にする事を、彼を知るもの全てから許される。それほどの実力の魔術師である男が、全てに於いて高水準のステータスを誇り、高威力高ランクの対軍宝具を持つ剣の英霊を招いたのだ。
敵陣に踏み込む行為も、対して問題とは成りはしない。寧ろ丁度良いハンデでしか無い。
敵の事も知らぬままに、敵陣へと踏み込む無邪気なまでの傲慢さ。
それが単なる根拠の無い思い上がりだった。男がそう気づいた時には、全てが手遅れだった。
◆
ここ数日、噂に成り出した西洋風の幽霊屋敷────否。屋敷という規模を超えて、城館と呼ぶべき建物。
夕暮れ時から、黎明の光が射すまでの間、蜃気楼のように現れ、朝日を浴びた瞬間に消滅する城館。
中に入るどころか、近づこうとしても距離が一向に詰められず、何時迄も同じ距離を保ち続ける城館。
元々からその土地に存在する話であれば、只の与太話と一笑に付すことも出来ようが、数日前から噂になり出したとあっては話は別だ。
『聖杯戦争』。その言葉を、マスターもサーヴァントも等しく思い浮かべるだろう。
そうなれば、続く行動は三つ。
一つは記憶に留めて置くだけにし、取り敢えずは放置する。
二つは遠距離から魔術若しくは使い魔等による監視を行う。
最後の一つは、城館に侵入し、内部に居るであろう、マスターなりサーヴァントなりを暗殺或いは決戦して殺害するというものだ。
そしてこの選択肢が、最悪の結果を招く過ちであると、手遅れになってから気付くのだ。
◆
◆
開け放たれた城門を通り、庭園で最初の迎撃を受けた。襲ってきたのは、青銅でできた身体を持つ双頭の狼の群。
青銅の体躯はライフル弾ですら弾き、たとえ傷ついても生半可な損傷ならば瞬時に塞がる再生能力と併せて、この獣を仕留める困難の度合いを高めている。
青銅とは異なる光沢を放つ爪牙は戦車の正面装甲ですら熱したバターのように切り裂き、四肢に籠められた力は羆を凌ぐ。人間など、爪が掠っただけで絶命する。
これに加えて、時速百キロで一時間休まず走る走力と、獲物の状態と戦力、仲間の位置や周囲の地形から戦術を構築し、連携しながら襲う知能を有する。
銃で武装した兵隊が百人居たところで、この妖物が三頭もいれば十分も有れば殺し尽くすには充分だろう。
そんな超常の怪物を五十以上も纏めて殺し尽くし、マスターも護り切ってみせたのは、矢張り超常存在であるサーヴァントだ。
「何なのだ。この化け物共は」
宝具でもある大剣を振るって、剣身に付いた血を落し、息を整えたセイバーが吐き捨てる。
「何の神秘も感じられ無い。魔力も籠められてい無い。なのにこの強さ、そして生物!!」
身体が青銅で出来た獣ならば、神代の幻想種として存在する。
かの大英雄ヘラクレスが締め殺した十二の功業の最初の一つ、ネメアーの獅子。同じく十二功業の一つ、ステュムパリデスの怪鳥。
他にも鉄や岩の身体を持つ怪物が、遥か古には数多存在し、無数の英雄達と戦い、討ち取られ、英雄譚を彩った。
しかしそれらは皆高位の幻想種。等しく濃密な神秘を帯び、強い魔力を有している。この獣達のように、神秘をまるで帯びていないというのは有り得ない。
ならばキャスタークラスの作成した使い魔か?であるとすれば、獣達がロクに魔力を有していないのは説明がつかない。
セイバークラスの中でも上位に入る実力を有する剣の英霊が、数が多かったとはいえ、呼吸(いき)を乱す程度には手を焼かせたのだ。キャスタークラスの作成した使い魔ならば、手を掛けた品であり、相応の魔力が充填されているはず。
答えの出ない思考を切り上げ、マスターの指示を仰ごうと振り向いたセイバーの耳に、馬蹄の響が聞こえてきた。
「馬?」
馬を駆って現れたのは、二人の騎士。右の騎士は紅い甲冑で全身を覆い。背中に交差する形で二振りの長大な剣を、同じく左右の腰にも同様の剣を二本。計四本の剣を備えている。
右の騎士は青い甲冑で全身を包んでいた。鞍の左右には巧妙精緻な彫刻を施した槍が一本づつかけられていた。
騎士たちが跨る馬もまた、騎士と同じ色の装甲で眼以外を覆われている。
二騎の騎士は、主従より二十メートル程離れた位置で馬を停めた。
主従は揃って息を呑んだ。紅青の騎士からから放たれる空間すら歪ませる威圧。サーヴァントですら気死しかねない殺気。サーヴァントでしか有り得ない。
セイバーが全身を緊張させるのも無理はない。紅青いずれも対峙しただけで並々ならぬ強敵と理解(わか)るのだ。この二騎を同時に相手にして、勝利など到底覚束ない。逃走するにしても、マスターを連れて逃げ切れるか?答えは否だ。この紅青の騎士が乗る馬だ。超常の走りを誇ると見て良いだろう。
死地に踏み込んでしまった事を悟ったセイバーの胸中を、恐怖と悔恨という名の黒雲が覆っていく。
そして、マスターである魔術師は、セイバーとは異なる恐怖に襲われていた。
「こ、この二人…サーヴァントでは無い!!」
マスターに与えられし特権。サーヴァントのステータスを視覚情報として認識できる能力。ステータスを秘匿するスキルなり宝具なりが無い限り、対峙した時点でサーヴァントのステータスはマスターの知るところとなる。
だが、この二騎は共にステータスを見ることが出来ない。秘匿されているというわけでは無い。純粋に『見えない』のだ。
これが意味するところは、この二騎がサーヴァントでは無いという事。しかし、それならばこの圧は何なのか?
万の軍勢も畏怖のあまり足を止めるであろうこの威圧。使い魔如きが出せるものでは断じて無い。
主従が紅青の騎士について考えを巡らせる間を、当の紅青の騎士達が与える筈もなかった。
青の騎士が馬上で身じろぎひとつしていないにも関わらず、同色の装甲に護られた馬が、地を蹴立てて疾駆を開始したのだ。
目指す先はセイバー。マスターなどには目もくれず、ただ真っ直ぐにセイバー目掛けて馬を疾走(はし)らせる。
間合いに入ると同時、右腕を振るって繰り出される重厚長大な鋼の切先を、セイバーは己が剣で真っ向から受け止めた。
鋼と鋼の激突する音は、凄絶に過ぎて大気を鳴動させ、大地を震撼させる。
「ほう」と唸ったのは、最初の位置で動かない紅の騎士だ。
「やるではないか。青騎士」
『青騎士』と呼び掛けてはいるが、実際にはセイバーに向けた言葉だ。青騎士の一槍を防いだセイバーの手並みを『やるではないか』と、称賛したのだ。
「まだだ」
怒りと屈辱に打ち震えるセイバーからキッカリ30mの所で、紅騎士に応える青騎士。馬首を返した青騎士は、先刻よりも倍は速く馬を走らせ、セイバーに迫る。
眉間と心臓に延びる同時としか思えぬ槍を弾き返し、剣を横薙ぎに振るって馬の脚を刈りにいくも、馬を後脚だけで竿立たせて回避。手を動かしたとも見えぬのに、水車の如くに槍を回転させる。直撃すれば兜を被っていても、兜ごと頭部が撃砕される一撃を避けて、馬の右側へと瞬きするよりも速く回り込んだセイバーの胸を、灼熱の感覚が貫いた。
「ガフッ」
何という事は無い。鞍の左側にかけていた槍を左手で繰り、セイバーの胸を貫いたのだ
だが、これは明らかに不可能だ。青騎士から見て馬の右側に移動したセイバーを、左手で握った槍で仕留めるには馬首が邪魔になる。出来たとしても馬の首に制限されて鈍った突きなど、セイバーの実力ならば簡単に防げるし、回避もできる 物理的に有り得ぬことを当然の様に行い、セイバー程の手練れを容易く屠る。
正に人の域を超えた魔業であった。
青の騎士は、逃げ出したマスターを追う事なく、城へと馬首を巡らせた。
紅の騎士は、背の剣の柄に手を掛けた。
◆
男のサーヴァントは敗死し、逃げ出した男の人背後からは、忙しなく血を蹴る獣の足音が聞こえて来る。
この城に突入した直後に、男とセイバーを迎撃した妖犬の群だろう。セイバーが皆殺しにしたと思ったが、まだ残りがいたというのか。
魔術で脚力を強化したにも関わらず、猛速で近づきつつある足音に震え上がりながら、男は必死で駆け続け───頃唐突に駆ける事をやめた。
どうと地面に倒れこんだ男の首から下を、男の頭部は5mもの上空から見下ろしていた。
死にゆくことを理解した男の耳朶に、首と胴が別たれた瞬間に聞いた刃鳴りが残っていた。
◆
紅青黒白。古城を彩る四色の薔薇は、月光の下絢爛と咲き誇る。どの色が最も美しいかを城の主人に証明しようとしているかのように、
咲き誇る花弁から薫る薔薇の香りは、あるかなきかの風に乗って古城を巡る。城の主人に自らの存在を知らせる為に。
地位の高低、財産の寡多。それらの要素を一切問わず、どの様な境遇、人格、知性の一切に関わらず、見るもの全てに、所有者の途方もない財力を認識させる部屋だった。
全てが大理石でできた広い部屋だった。軽く三百人以上が寝転がってくつろげそうな程の広さだ。
絢爛豪華という言葉を具現化した様な部屋であり、それでいて、永い歳月を経た貴き血統の主がこの部屋の主人であろうと自ずから知らしめる気品が感じられる部屋だった。
高い天井と四方を囲む壁は、全て巧妙精緻な彫刻が施され、床は鏡のように磨き抜かれて、照明の光を反射して白く輝いている。
壁に配された複数の古風な照明は、純銀と水晶のみを用い、天性の才を永い研鑽と、積み上げた経験で研磨し抜いた職人が作り上げたに違いない。これ一つの値段だけでも億単位の金が動くだろう精妙の極みとも言うべき工芸品である。
部屋の中央に据えられた、屈強な男が20人は寝そべる事が出来そうな大きさの、水晶のテーブルを挟んで、色の異なる同じ形状の鎧で全身を覆った、四彩の騎士を従えたと女と少年が向かい合っていた。
◆
「お前は…聖杯に叶えてもらう願いを持たないんだな」
陽光を思わせる金色の髪の下、青い瞳に強い怒りを込めて、少年─────百夜ミカエラが問う。
ミカエラと向かい合う女は、歳の頃は二十前後。声も相応の渋さがあるが、喋り方は童女を思わせる女だった。
降りそそぐ月光が、白いドレスに包まれた身体に当たり、ほんの束の間、煌めく光の結晶と化して、虚空へと溶けていく。
眉、瞳、鼻、唇。個々の美しさと配置の精妙さは、その千分の一でも絵筆に乗せる事ができれば、その者は歴史の果てまで天才の称号を恣にするだろう。
女は応えようとはしなかった。無言でテーブルの上に置かれたティーカップを手に取り、口をつける。
只それだけの動きに、人間には決して出せない優美と気品と典雅が備わっていた。
「聖杯ねぇ…お前はどう思う?紅騎士」
ミカエラに答える事なく、背後の騎士に問う。声そのものは、容姿の美しさにふさわしい美声だが、話し方は童女のそれだ。思わずミカエラは自分の親に当たる吸血鬼を連想した。尤も彼方は見た目は少女で、話し方が大人のものであったが。
白い女の質問に答えるのは、鮮血の様に紅い鎧の騎士。
「姫の御下知あらば、我ら“ダイアンローズの騎士”、犬馬の労を尽くして聖杯を姫の御前に捧げる所存であります」
姫と呼ばれた女は溜息を吐いた。
「下僕としては及第点だけど、そうじゃ無いのよねえ…。青騎士」
溜息混じりの問いに応えるは、深海を思わせる深く暗い青色の鎧の騎士。
「我等は姫の敵悉く討ち取り、必ずや姫の為に聖杯を奪って御覧に入れます」
姫は更に溜息をついた。前のより長かった。
「私が聞きたいのはそうじゃなくて……。黒騎士」
気怠げで投げやりな問い掛けに応えるのは、夜の闇を思わせる漆黒の鎧の騎士。
「我等“ダイアンローズの騎士”。此の地に集った英霊共に、姫の名と我等の武威を知らしめ、時を超えて尚、姫の御威光が翳らぬことを証明してご覧に入れます」
はぁ、と姫と呼ばれた女は息を吐き、しばしの沈黙の後、再度問い掛けた。
「黒騎士。私は“ダイアンローズの騎士”としてでは無く、お前個人がどう考えてもいるかを知りたいの」
「我等に自身の考えなどございません。只々姫の御下知に従うのみ」
女は僅かに目を細めると、苛立たしげに黒騎士に告げる。
「黒騎士。正直に思うところを言いなさい。でなければ貴方を私の臣下と思うことは二度と無いと心しなさい」
「姫─────それは」
「二度言わせる気?」
「……承知しました」
黒騎士は語り出した。万感の思いを込めて。
「実の所、此度の儀、随分と業腹にございます。我等ダイアンローズの四騎士は、姫の図らいにより、皆が満足のいく最期を迎える事が出来ました。
死後に、“座”などに縛られる事となったとはいえ、最後の死力を尽くした闘いを思い出しながら永劫を過ごす。それもまた悪くはないと思っていました。それが…今また戦場に駆り出される事は耐えられませぬ。
あの“D”を超える敵が、存在しているとはとても思えませぬ。永劫の眠りを妨げられ、つまらぬ敵を相手に戦うなど─────」
「嫌よねぇ」
姫は頷くと、ミカエラの方に向き直り。
「という訳よ。帰っても良いかしら」
とんでもない事を口にした。
「ふざけるな!!」
ミカエラには─────ミカエラで無くとも─────凡そ受け入れられない言葉である。
凡そ聖杯を欲するならば─────欲さずともこの舞台で生き残るためにはサーヴァントは必要不可欠。にも関わらず、一戦もせずに帰ろうとするなど、如何なるマスターであったとしても激昂するだろう。
「一体お前達は何をしに見たんだ!!」
「何をって言われてもねぇ、御都合主義に頼って願い事を叶えようとする…それも“貴族”を呼びつける様な者が、どんなのか見に来ただけよ」
姫は一旦言葉を切り、口元に笑みを浮かべて続けた。
「まさか人でも私達でも無いどっち付かずとはね。それとも、『家畜』とでも呼んだ方が良かったかしら」
ミカエラの眼差しが怒りを帯びる。『家畜』。その言葉は、ミカエラにとっての忌むべき過去であり、ミカエラの世界の人間達の境遇を端的に表した言葉であった。
「お前、どうやってその事を……」
姫は再度紅茶に口をつけ、ミカエラに応じた。
「私達貴族は、口付けを与えた相手と精神感応を行えるの、貴方は私の口付けを受けてはいないけれど、マスターとサーヴァントという繋がりがあるわ。その繋がりを辿って貴方の記憶を読ませてもらったわ」
「じゃあ僕がどれほど聖杯を望んでいるか……」
「知っているわ、どうでも良いけれど」
激突する鋼の凄絶な音が、広間に響いて消えていく。
ミカエラが抜き打ちに斬りつけた剣を、姫の左右に侍る赤青の騎士が己が得物で遮った音だ。
「綺麗な顔をして、気性は烈しいのね」
鋼と鋼が交わった残響を愉しむかのように、瞼を閉じていた姫は、広間が静寂を取り戻してから口にした。
「聖杯ねぇ…私達“貴族”が、神の子の血を受けた杯なんて、欲しがるわけが無いじゃない。例えそれが全く異なるものであったとしても、『聖杯』という名を冠している時点で不要だわ」
「………………………………………………」
「だから私は、聖杯を破壊しようと思っているの」
「そんな事を……許すとでも」
「貴方が許すとは思ってはいないけれど?聖杯を破壊するという事に変わりは無いわ。それとは別に、興味も有る」
「興味?」
姫は閉じていた瞼を開き、ミカエラを真っ直ぐに見つめた。
「私達“貴族”を招くようなものが、真っ当な代物であるはずが無い。破壊するならどんなものか見てからね。場合によっては、貴方の願いを叶える事には、到底使えないものかもしれない」
それでも聖杯を望むのか?そう、言葉にせず尋ねてくる姫を、ミカエラは視線に力を込めて見返した。
「良い眼ね。貴族を喚び出すだけの事はあるわ」
ミカエラに微笑した姫は、左右に侍る騎士達に告げた。
「ダイアンローズの騎士。その武威と我が名に懸けて、聖杯を私の元に持ち帰りなさい」
赤青黒白の四人の騎士は一斉に跪き、言葉にする事なく勝利を誓う。誓いを受ける姫は、まるで自身がサーヴァントを従えて、聖杯戦争に臨むマスターであるかのように、傲然と君臨していた。
聖杯大戦の始まる一週間前の事だった。
【CLASS】
キャスター
【真名】
姫@吸血鬼ハンターD –薔薇姫–
【性別】
女
【属性】
秩序・悪
【ステータス】筋力: C 耐久: EX 敏捷: C 魔力:B 幸運: C 宝具:A
【クラス別スキル】
道具作成:ー
自身のスキルにより行う為機能していない
陣地作成:A
生前の住居であった“城”を再現する。
【固有スキル】
貴族の栄光:B
人類には及びもつかぬ超文明を以って核戦争後の地球に君臨し、異なる銀河にも進出し、外宇宙や異次元より襲来した敵と戦い、空間の秘密を解き明かし、無より物質を創り出し、神世の生物を再現した貴族の超技術を行使する能力。
魔術に依らずして、ランク相応の陣地作成・道具作成・概念改良・大量生産・使い魔の作成及び使役を行える。
Bランク以上から、空間制御を可能とし、位相のずれた空間に自分や物体やエネルギーを収納しておくことも可能。
落日の時を迎えた西暦一万二千年の時点に於いて、人類には魔法としか思えない超技術である為に、人類種にはこのスキルにより作り出された物は解析できないという特徴を持つ、
夜の一族:B
蒼天の下、陽光の祝福を受けて生きるのではなく、夜闇の中、月の光の加護を受けて生きる者達の総称。
天性の魔。怪力を併せ持つ複合スキルであり、キャスターは夜の覇種たる吸血鬼である。
闇の中では魔力体力の消費量が低下、回復率が向上する。
夜の闇ともなれば、上述の効果に加えて、全ステータスに上昇補正が掛かる。
また、種族により更なる能力を発揮する場合があり、吸血鬼ならば吸血による魔力体力の回復及び下僕の作製。
及び精神支配の効果を持ち、抵抗しても重圧もしくは麻痺の効果を齎す妖眼の二つである。
下僕となった者にはA+ランクのカリスマ(偽)を発揮し、キャスターに服従させる。
下僕化は対魔力では無く神性や魔性のランクでしか抵抗出来ない。
Aランクでは神性や魔性がCランク以上でないと吸血鬼化を遅らせる事も出来ない。
下僕化によるキャスターへの服従は精神力若しくは精神耐性を保証するスキルにより効果を減少或いは無効化させることができる。
弱点としては、流れ水や聖性、特に十字架や陽光に対して非常に脆弱で、陽光を浴びれば即座に全身が燃え上がり、負った火傷の回復は非常に困難。
十字架を直視すれば行動不能となり、後述のスキルが保障する不死性が消滅する。
不老不死:A+
例え総身が消滅しても平然と復活する“貴族”の特性がスキルになったもの。
ランク相応の戦闘続行及び再生スキルを併せ持つ。
攻撃を受ける端から再生し、一見傷を受けていないようにすら見える程。
但し聖性や神性を帯びた攻撃には非常に脆く。流れ水に漬けられたうえでの攻撃は通常のそれと変わらぬ効果を発揮する。
また、肉体を老化さる攻撃を無効化し、毒や即死に対しても高い耐性を発揮。即死したとしても復活する。
宇宙空間ですら死ぬ事は無い。行動出来ないのでその内考える事を止めるが。
“貴族”を滅ぼすには古の礼に則り、心臓に白木の杭を打ち込むか首を落とすかのどちらかしかない。
貴族の文明はおろか、外宇宙から襲来したOSB(外宇宙生命体)にすらこの不死の謎は解き明かせなかった
四彩の薔薇:B
紅青黒白の薔薇
キャスターの血より生じる薔薇は、対象に撃ち込むことで、【貴族の口づけ】と同じ効果を発揮することや、対象に毒を流し込む事を可能とする。
葉脈は鋼よりも硬く、糸状の刃として用いる事や、編み上げて鎧とする使用法が可能。
無数に絡み合った蔓を防壁とする使い方も出来る。
【宝具】
死薔薇の四騎士(ダイアンローズの騎士)
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:500人
常に姫の周囲に侍る四人の騎士達。重厚長大な二振りの鋼槍を振るう青騎士。四本の大剣を使い、『音』に依る飛ぶ斬撃を駆使する紅騎士。自在に伸縮する光の帯を駆使する黒騎士。妖剣“スレイヤー”の主である狂人の白騎士で構成されている。
全員が掛け値なしの英霊だが、彼等は死後も姫に尽くす事を選び、『城に住む姫と、姫に仕える四人の騎士』という伝承を利用して、姫がサーヴァントとして現界すると、招集されるまでもなく宝具として馳せ参じる。
全員が当千の武練と、最も短い者でも百五十年以上に渡る戦歴を持ち、振るう武具は貴族の超技術により造り出された、神代の宝具にも匹敵する業物である為、一騎でも並のサーヴァントを上回る戦力を誇る。
“ダイアンローズの騎士”は常に四人居る存在して知られ、全身を覆う鎧の下で、密かに代替わりしていると云われた伝説から、死亡した場合であっても、誰か一人でも騎士が残っていれば24時間後に復活する。
【Weapon】
四彩の薔薇と薔薇の葉脈から作った糸。
【解説】
サクリの村の外れにある城館に、薔薇に埋もれて住む“姫”と呼ばれる貴族(吸血鬼)それに仕える忠節無比の四人の騎士。
村を脅かす災害や外敵から村と村人を護り、支配に反抗する者達を殺戮してきた。
その支配は、ある一人の美しいハンターの来訪によって終わりを告げる。
【聖杯への願い】
無い。
聖杯がどんなものか見定める。
【把握資料】
吸血鬼ハンターD ー薔薇姫ー@朝日文庫 ソノラマセレクション
【マスター】
百夜ミカエラ@終わりのセラフ
【Weapon】
剣。所有者の血を取り込む事で、所有者を強化する。
【概要】
金髪碧眼の日本人とロシア人のハーフ。
百夜教の孤児院のリーダー格で、世界崩壊後、吸血鬼が人類を支配するようになってもそれは変わらなかった。
自らの血を、第七位始祖のフェリドに与えて仲間達に良い暮らしをさせていた。
吸血鬼から逃れるべく脱走工作を進めていたが、その事をフェリドに知られ、自らの命を顧みず仲間達を逃がそうとするも、致命傷を負わされた上に、唯一脱出に成功した百夜優一郎を除いて仲間を皆殺しにされる。
死亡する寸前に第三位始祖のクルルの血を受けて吸血鬼として蘇生した。
自身や仲間達が孤児院で禁断の実験に使われていた事を知っていて、人間嫌い。自分や仲間達を弄んだ吸血鬼も嫌いである。
現在の行動目的は、優一郎を汚い人間達から救い出す事。
【聖杯への願い】
吸血鬼や人間から百夜優一郎を救う。
【参戦時期】
名古屋決戦編直後
アニメだと一期終了後
投下を終了します
投下します
ある真昼の冬木市、繁華街――。
洋食店、中華料理店、韓国料理店、インド&ネパール料理店、タイ料理店、牛丼チェーン、ファミリーレストラン、回転寿司、ファーストフード……。
様々な飲食店の看板が並ぶ道の真ん中で、草臥れたビジネススーツを纏った一人の男性が口元を仄かに綻ばせながら見回している。
剛毛の天然パーマに、剃刀負け必至の無精髭という容貌。取り立ててハンサムとも言えず、かといって不細工と言うほどでもないほどほどの外見。肥ってもいなければガリガリに痩せているほどでもなく、一見すると大きな特徴のない、どこにでもいるような、ごく普通の中年サラリーマンのようだ。
しかし、油断をするとしっぺ返しを食らう事になるだろう。彼がこの冬木という暗黒街を歩いているのは、この聖杯戦争において一介のサーヴァント――アサシンとして呼び出されたからだった。
「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ〜〜」
アサシン――その真名・野原ひろしは、まるで感情を宿しているようには見えない不敵な笑顔でそう云った。
今は正午丁度。この時間帯の彼が繰り広げているのは、「どの店にしよう」「何を食べよう」――という、ただそれだけの、傍から見ればごくごく小さな戦いだ。
これからすぐに聖杯戦争の為に挑もうというつもりもない。さりとて彼にとって小さな戦いではない。妻がくれる限りある小遣いを、どう気力体力の回復に使っていくのかが問われる、中年サラリーマンとしての死活問題でもあった。
彼がサーヴァントとして召喚されたのは、その戦いを幾度となく潜り抜けてきた圧倒的な昼メシの経験と才能あっての事だろう。……と思われる。
普段であれば、小遣いや自身の胃の空き具合、その日の趣向との相談が状況判断を左右するのが昼メシの定石。しかし、この三点に関しては当座の余裕は充分だった。べつに焼肉や寿司が食べたいというほどではないし、高額なメシに関しては看板を見れば充分に欲求が満たせる。
今日の問題は、そこではない。
アサシンは、視線を自身の膝下あたりに移して訊いた。
「……なぁ、シロ? お前は何が食べたい?」
アサシンの膝下、白い生物が泣きそうな顔で見上げた。彼を召喚したマスター――ちいかわだ。ちいかわはアサシンの歩幅に追いつこうと焦ったように小走りしていた。
全身を真っ白な体毛に包んだ小動物、としか言いようがない何かのような外見である。犬でもないし、猫でもない。近いのは白鼠だろうか。ただそれともまた違う。
――なんか、小さくて、可愛いやつ。
としか言いようがない生命体。
個体の本名は一応あるものの、その発音は日本の言葉に変換する事は出来ず、誰にでも通りやすい名前をつけるなら「ちいかわ」がこの生物の名前しかない。
それがこいつが「ちいかわ」と仮称される由来だった。
「エ?」
と、ちいかわはアサシンの問いにすぐに答える。
「だからシロ、何が食べたいんだよ? ……って、シロに訊いてもわかんね〜か!」
あはははは、とアサシンは嗤う。
なぜかアサシンはちいかわを常に「シロ」と呼称していた。
そして「シロ」であることを半ば態度によって強要してもいる。「シロ」と呼んで返事がない時、アサシンの目には本人さえ気づいているのかわからない、微細な圧が宿るのだ。
彼が求める「シロ」とは何なのか、ちいかわも詳しくは知らない。それを完璧に演じる術はどこにもない。ただ、「シロ」と呼ばれて反応すればそれ以上の多くを求められる事もなく、ちいかわはとりあえずそれでサーヴァントとの会話をやりくりしている。
ただ、ちいかわはいつも、そのアサシンが見せる一種異様なプレッシャーに縮こまる。
何か訊かれた時は視線を下にやりながら、聞こえるかもわからないような小さな声で、
「エト……」
とだけ、応えるようになった。
アサシンはちいかわのその振り絞られた返答に納得したのか、ほとんど引っかからずに、周囲の店の看板を見つめていく。
「しかし、ペット連れ込み不可の店ばっかりだな〜〜……」
「……ァ」
「となると、入れるメシ屋がどうしても限られてしまう!!」
「……ェト」
「あ〜〜〜! 下手したら、一軒もないかもしれん!!」
「……」
「ちくしょうぉ〜〜〜!! どうしよっかなぁ〜〜〜!!」
「……」
一人芝居のように嘆くアサシンを、ちいかわは不安そうな瞳で見上げ続けた。
大丈夫、なのだろうか。
この人はなぜ、こうもオーバーに喋り続けているのだろう。まるで何かをアピールしているかのようにさえ見える。自分は野原ひろしだと周囲に訴えたいのようにも見えるのだ。令呪で縮める事が不可能な差を、彼との間に感じてしまう。
その考えは杞憂だと思いたい。
ちいかわはぐっと息を呑みながら彼の隣を歩く。
◆
……やがて、ひとつひとつ看板を巡回して、ペットが入れるかどうかを確認しては断られて、アサシンは頭を下げて去った。
いっそ諦めてスーパーでドッグフードを買って、自分だけ外食という手も浮かんできた頃合いだった。
繁華街から少しずれた路地裏に、タイミング良くある店が見つかったのだ。
「おっ、ここペット可だってよ!」
二人の目の前に、あるカフェの立て看板が立っていた。
店の名前は、「安心安全カフェ キナ〜ヨ」。親切にも大きく「ペット同伴可(※ちいさくて可愛い生き物も可です!)」という記載がある。併記された矢印を見ると、どうやら目の前のビルの地下を差しているようだ。
見ると、闇に繋がっていくような狭く長い階段があった。ドアさえも見えない。
とにかくこの先に昼食屋がある。時刻は正午を三十分回っていた。どの店も混んでいるし、場を選ぶ余地はない。
「良かったな、シロ! 一緒に昼メシだぞ!」
「……エ〜」
のんきなアサシンに対して、ちいかわはこの立て看板に怪訝そうなまなざしを向けた。
なんだかわからないが、ちいかわにとって言語化しづらいが何かの警告音が鳴り響くような場所のように見えたのだ。闇に繋がる階段、というのはあながち間違っていないような気がしている。
しかしアサシンはそんなちいかわの態度を一切お構いなしに、あるいは気づく事もなく、笑顔のまま、立て看板の裏を見た。
「お、シロ! ここのハンバーガー美味そうだぞ!」
促されて看板の裏を見ると、そこには何段も厚切りのベーコンや野菜の積まれた美味しそうなハンバーガーの写真があった。
じゅるり――。よだれが垂れる。
「わ〜……」
写真ではちいかわの背丈よりも大きく見える。
串刺しになっていて、写真の中でも肉汁が飛び出ている。値段は見かけの割にはリーズナブルな六百円。繁華街の個人店らしきカフェとしてみるとかなり良心的だろう。
固まっていると、アサシンは訊く。
「嫌か?」
ちいかわは思う。ダメだ。嫌とかじゃない。この店に入っちゃいけない。何か良くない事が起きる気がする。聖杯戦争に参加するマスターとしての最低限の危機察知だ。
しかしその直後、ちいかわは自分の腹がぐう……、と鳴る音を聞いた。
「……」
「……」
少し考え、ちいかわは答えを導き出した。
「――フ!!!!」
ちいかわは満面の笑みをアサシンに見せた。
そうだ。不審な気配は、やっぱり気のせいなのだろう。こんなに美味しそうなハンバーガーを置いている店が怪しい店な訳がない。今日のご飯はどうやらここしかない。
ちいかわは警戒心を解き、アサシンとともにニコニコと階段を下りていった。
◆
安心安全カフェ「キナ〜ヨ」の店内は若い活気にあふれていた。
アンティークな様相だが、そこが今の若者には却ってお洒落なお店となっているようで、店内のほとんどは若いサブカル層のカップルやおひとり様、女性の友人同士といったタイプが目立つ。パソコンや書類を開いて仕事を片付けている人間もいなくはないが、アサシンのような中年営業マンではなく、自由な服装や髪型が目立つ若手のクリエイター気質の仕事人ばかり――。
メニューはハンバーガー、パンケーキ、パスタといったありふれた軽食。五百円前後のコーヒーや紅茶はバリエーションも豊富で、おかわりは二百円。ただしコーラは六千円。
そんな中、ちいかわはぼんやりと気づいた。
店内にいる全員が、ほとんど何も喋らずに黙々と食事に徹している。
それで時折ちいかわとアサシンの方をちらちらと見る。彼らが喋るとしたら、時折放つ奇声くらいである。
「アアアア〜〜〜〜……」
「ウウウウウウ〜〜〜〜ウウウウウウ〜〜〜〜」
「おぴょぴょぴょぴょぴょぴょぴょ!!!!!」
「グルアアアア!!! グルアアアアアアアア!!!!!!」
「いただきまーす!! いただきまーーーーーーす!!!!!」
「ごちごちごちごちごちそうさまでしたーーーーーー!!!!」
「ワギャンワギャンワギャン!!! アルイェーーーーー」
「ドドドドドドドドドドドドド……ポンッ!! ポンッッ!!! ポンッッッ!!!!」
ペットを連れている客は、アサシン以外にいない。
それ以外はほとんど普通の店だが、それ以外として片づけるにはあまりにも気がかりな光景だ。
「……」
ちいかわはその狂乱を無言で眺める。
が、アサシンは横で全く別の問題で、オーバーに頭を抱えていた。
「しまった〜〜!! 俺みたいな中年サーヴァントが来るところじゃなかった!!」
モアイ像のような表情で固まっているアサシン。
この状況ではなく、場違いさに後悔を覚えているようだ。一方ちいかわは俯いたまま、椅子の上で足をぱたぱたと動かし、「エト……エト……」と小さく呟くしかできなかった。はっきりとおかしいとは言えない。
なんだこの、とてもじゃないが普通のお店じゃない空気は――と、それだけ思う。
でも、入るんじゃなかった。こっちは止めたのに、どうしてこのサーヴァント、こんな怪しい店に入ったんだ。のんきだな。
苛立ってキッ――とアサシンの方を睨むが、当のアサシンはどこにメニュー表があるのかを探っている様子である。
「いらっしゃいませ」
するとやがてフリフリのウエイトレス風の衣装に身を包んだアフリカ系の黒人女性店員が、ローラースケートで店内を闊歩するようにやって来た。
「こちらがメニューです。御注文が決まりましたらお呼びください」
店員は二人の前にメニューを渡してそれだけ言って、去った。
一見して普通の見かけで、客と違って奇声の一つも発しない。落ち着いた口調で接客をして、笑顔の一つも見せずに厨房へと向かった。
従業員はフロアには彼女ひとりのようで、今度は別の客に向けてか、食べ方もよくわからない串の刺さったハンバーガーを慣れた様子で運んでいた。
「しかし、どうやって頼むんだこれは……」
アサシンは相変わらずメニューと格闘して頭を抱えている。
彼が見ているメニューにそっと目をやる。
すると、『エモすぎ!六段重ねどうやって食べるのワンワンワンダフルバーガー』『使用肉全部カエルゲコゲコ蛙化現象、じゃあ帰るか! って帰らないでお客さ〜〜〜ん! カエル肉バーガー』のような、長めの名称の呪文のようなものが多い事がわかった。
「シロ、この店、どのメニューを頼んでも恥ずかしいぞ……」
「ア、エト……」
本当に気づいていないのだろうか、このサーヴァント。もしかして昼メシにしか興味ないのではないか。そもそも真名は野原ひろしと言っていたが、そんな普通の名前の人間が英霊として何を成したのだろう。そもそも本物の野原ひろしなのだろうか。野原ひろしに一体何ができるんだ。
頭の中でぐるぐると湧いてくるアサシンへの恨みの感情をいまだ整理しきれずにいると――ふとちいかわの視界に突然、アサシンの背後へと先ほどの黒人女性店員が高速で迫っている姿が見えた。
女性店員の目は先ほどとは打って変わって殺気立っている様子だ。
「罠にかかりましたね――」
女性店員が、明らかにアサシンに向けて、そう言った。
「わ、わァ〜〜〜〜!!!」
ちいかわは人語を喋れないなりに、アサシンに迫る脅威を警告しようと叫ぶ。
だがアサシンは開きっぱなしのメニューに目をやったまま振り返ろうともせず、相変わらずのんきに昼メシを頼もうとしている。まったく殺気に気づいているように見えない。
……そして。
直後、ちいかわの悪い予感は的中した。
女性店員は串刺しのハンバーガーを剣に変え、無防備なアサシンの背中めがけて、突っ込み、叫んだのだ――。
「お待たせしました!! 当店自慢の「お命絶対とったるで、覚えときな、こいつが私の宝具、私のクラスは聖(せい)バーガー」です!!」
――どすん!
という音とともに、アサシンの脇腹に背中から、剣の切っ先がめり込む。
あまりにも一瞬の出来事だった。
メニュー表に注意を向けさせているうちに真後ろから剣を突きさすという卑劣極まりない殺傷手段。
ちいかわはそれを目の当たりにして「ア〜……」と震えて小便を漏らす。
床の上にだばだばとアンモニアの香りが漂った。
「あ、ぐ……」
店員がニヤリと口元に笑みを作り、そのまま押し込むように力を加えると、ハンバーガーの串に擬態させていた長剣はアサシンの身体を貫通していった。ケチャップの代わりにアサシンの皮膚を突き破り、刃の上を滴る血液――。
アサシンの表情は、どんどん苦悶に引き釣っていく。
「がはっ!」
そしてついに椅子から転がり、膝をついた。
シャツから滲んでいき、背広へとじんわりと朱色を広がらせていくアサシンの血。
「はぁッ!!」
そして刃がダイナミックに抜き取られると、店内に噴水のような血が吹き出す。
その鮮血は、ちいかわの頭上にスコールのように降り注いだ。真っ白なちいかわの全身のほとんどが、あっという間に真っ赤に染まり、夥しい匂いがちいかわの鼻孔へと流れ込む。
「わッ……わァ〜〜〜!」
もはや、ちいかわは動揺して悲鳴をあげるしかできなかった。地下の店内にはちいかわの声が鋭く響き渡る。
「ワ、ワ、ワイ!!」
ちいかわは慌てて、周囲の客の方へと助けを求めるように走った。友達のような誰かに縋ればなんとかなると思ったのだ。
だが――すでにちいかわは冷静な判断能力を失っている。
本当であれば、誰でもこの不自然な状況に気づくはずだった。
目の前で殺人が発生しながら、他に誰ひとりとして悲鳴をあげる事がないのだ。
ちいかわが客に縋ると、目の前の若い男性客はゆっくりと立ち上がった。感情のない動きで直立すると、座っていた椅子ががたん、と倒れる。しかし倒れた椅子を気にも留めないまま、ゆらり、ゆらり、と薄い紙が揺れるように動く。
「エ……?」
彼だけではない。周りの全員が、次々に同じ調子で席を立っていく。
見上げると、彼らはすでに人間の表情をしていなかった。
顔には血色がない。顔面蒼白の、生きていない屍鬼(グール)。
「ジュル」「ジュル」「ジュル」「ジュル」
「ジュル」「ジュル」「ジュル」「ジュル」
「ジュル」「ジュル」「ジュル」「ジュル」
店内の客は一様に目を見開いて笑顔紛いの表情――そして獲物を見つけたような舌なめずりとともに、ちいかわと、鮮血のアサシンを見ていた。
まるでこのカフェ店内全体が、獲物を待っていたかのようだった。
「わァ……ぁ……」
友達がいれば、「泣いちゃった!!」と喜ぶ状況だろう。
ちいかわは今ようやく気づく。ここは昼食の場ではなく、明らかに敵地。目の前の黒人女性は異国の剣豪――そのクラスをセイバーとされるサーヴァントである。
囲まれたのだ――。助けはない。この店は完全に罠だった。
ちいかわは慌てて後じさり、泣きながら、尻をついた。そこには先ほど流した自身の小便が水たまりを作っていた。ぴちゃり、と自身の小便に尻をついたちいかわは、そのまま動けなくなった。
「ち!!」
一方、アサシンは、過大なダメージを受けながらも身を起こしていた。シャツはおろかジャケットまで真っ赤になった脇腹を手でふさぎ、アサシンは高速で数歩引く。
その動きは、アサシンの臨戦の覚悟のようだった。
「セイバーにキャスター……。こりゃまた懐かしいな……」
抑揚のない声でそう云い捨て、ふらつきながらもアサシンは店内を見やる。
状況に意表を突かれた様子はさほど見せていない。ここが戦場になる事も計算づくだったかのような冷たい目が、セイバーを視ていた。
セイバーは血に染まったウエイトレスの衣装を脱ぎ、小さく眉を曲げる。
「心臓を狙ったはずが咄嗟に脇腹に身体をずらしましたね……。
アサシン、気づいたんですか? 私たちの攻撃を」
するとアサシンは手頃な席に置かれていたウォッカを躊躇なく手に取った。ウォッカを乱暴に口に含み、そのまま一気飲みする。唇の横を滴った僅かなウォッカを裾で拭い、セイバーを視やる。
「キャスターか……。昔は洗脳といえばキャスターだったよなぁ」
アサシンの視線は、壁際の何もない場所に向けられていた。その意味に、セイバーはいち早く感づく。
「……キャスターの存在も感知できていたとは、流石はアサシン。
その様子だと、わざと愉しみとして我々の攻撃を待っていたようですね」
「……」
アサシンの沈黙。しかし、その表情に浮かんだ笑みは充分に回答の意味を成していた。
――すると。
壁の中から透けて出て来たかのように、店の奥から薄く、黒いローブに身を包んだ魔術師が現れた。彼はセイバーと同盟を結んだキャスターのようだ。
キャスターの幽体は少しずつ濃い体色を取り戻し、実体化を完了する。
「貴方が一般人として振る舞っているので、彼がいなければ見つける事も困難でした」
と、セイバーは言う。
二体は聖杯戦争で生き残るため、同盟を組んでいたようだ。そしてアサシンにその提案をするつもりはない様子である。
二対一。状況をみれば絶対の不利だった。
アサシンはウォッカをもう一度どくどくと口に含み、キャスターを睨む。
キャスターは陰気でムードを漂わせていたが、そんなアサシンと目が合うなり、突如にこやかに笑った。
「聖杯ク〜〜〜〜〜イズ!」
あまりに陽気な声色だった。そして軽い調子で、彼は問う。
「私には仲間が何人いるでしょー?」
アサシンは突然のクイズに眉根を寄せた。そしてこの問いに内心で「聖杯関係ねーじゃねーか!」と突っ込んでいた。
だが彼は暗殺者のクラスを与えられた本物のサーヴァントである。
突き刺された血みどろの傷口に、口に含んだ酒を吹き付けて消毒すると、殺し合いの最中の軽口に応えた。
「……う〜ん。じゃあ、三人……」
彼の計算では、単純にキャスターのほかにセイバー、それからそれぞれのマスターを加えて三人、といったところか。しかし、その回答にキャスターはニタリと笑う。
「ブブーッ! 正解は、三十人!
私のマスター、同盟を結んだセイバーとそのマスター!
……そして私が死体を操ったこの場所の人間どもが二十七体でーす!!」
舌なめずりをしていたはずの客たちが、この合図を待っていたように一斉に嗤った。
そして次の瞬間、まるで「Go!」と言われた猛犬のように一斉にちいかわとアサシンへと飛び掛かったのだ――!
「――!?」
よだれをまき散らし、爪と牙をむき出しにした若者たち。
彼らは人間離れした動きでちいかわとアサシンに迫って来る。
その目には、殺意以上に強い感情――「食欲」に支配されたような気配が見受けられた。
人でなくなった屍鬼たちはちいかわとアサシンを、喰らおうとしている。
この店の本当の捕食者はアサシンたちではなかったのだ。二人に与えられていた本当の役割は――キャスターが殺し、ペットとした人間たちのランチになる事だった。
「ぐるるぁ!!」
魔物たちの群れはそのままちいかわとアサシンを覆うように群がり、セイバーとキャスターの目からも姿が見えなくなった。
「わァ〜〜〜〜!!」
言葉を失っていたちいかわも、絶体絶命の状況に思いがけず目を瞑る。今のが自身の断末魔の叫びになる、と悟った。
終わった。
この聖杯戦争にはもはや勝ち残りの目はない。ちいかわはそんな確信を得ていた。
店内がそのまま、暴徒と化した者たちが巻き起こす砂塵に包まれた――。
……やがて数刻すると、ばたり、ばたり、と骸が倒れていく音が鳴った。
この状況を創り上げたセイバーとキャスターにさえも、もはや今、店内で何が発生したのか把握しきれていない。
ただ、“彼ら”がちいかわとアサシンを骨だけにするまで喰らってくれればそれでいい。
今聞こえた音は二人分。その目算は果たして成功したのだろうか。そう考えて様子を見ていると、なぜか目の前で急速に砂埃が晴れていった――。
「!?」
おぼろげに店内の光景が見えたころ、一帯――先ほどまでジュルジュルと音を立てていた屍鬼が全員死体となって倒れている。
その中心でアサシンがちいかわを小脇に抱えて堂々と立ち、この店内に生じた砂埃を、ご満悦そうな表情で、鼻から吸い上げていたのだ。
「……へー。そうなんだ」
次に響いたのは、アサシンの淡泊な声だ。彼は姿の一つも見せないままに、先ほどのキャスターの回答にリアクションしていた。
さらにアサシンは冷静に、自身の傷口をパスタ麺で縫合して、余裕そうに笑う。
「いきなり適当な所から身をほじっちゃってたよ」
刺されたはずの脇腹に付着した、身体の一部らしき血の塊をそこらに棄てるアサシン。
痛がる様子ひとつ見せていない。自身の皮膚にパスタ麺を通す事など、修羅場をくぐった彼にとってはもはや痛覚の範疇にはないかのようだ。
だが、当然である。
彼は本物の野原ひろしだ。ゆえに、生物の体の仕組みについてはよく知り尽くしていている。止血を終え、一気に万全になったアサシンは、もぐもぐと何かを咀嚼している様子だった。それは屍鬼たちの肉であるかもしれないし、店内のメニューのハンバーガーかもしれない。そこに答えはない。
ただ、言うなればこの戦い自体、彼にとって昼メシに過ぎない。
聖杯戦争はアサシンにとって、昼メシなのだ。
そんな姿を見て、キャスターは狼狽えながら問う。
「どうやった!? どうやって私の屍鬼を、こんなに一瞬で全員殺した!?」
「その甘さがいいよね……」
詰めが甘い、とアサシンは云う。キャスターはぐっと息を呑んだ。
だったら教えてやろう、とアサシンは続ける。
「まずこう、バーンと数が多いんだよ!! デカいのが二つはみ出しちゃってるわけ!!
それでオレは大きく開けて、横からかぶりつきよ!! こう!!」
「――」
二十七体の人間を一瞬で屍に変えたその“昼メシ”の一部始終を説明するアサシン。
そして、何かを咀嚼しながら今の戦いを懐かしむように、口を開く。
「真ん中辺りにいくほどに変化を見せてより一層かき立てられたり――」
アサシンは思い出す。小脇にちいかわを抱きかかえ、襲い来る料理の肉を、ナイフとフォークで切り裂いた瞬間を。
「ずらしたら隠れてたのが出てきて驚かされたり――」
アサシンは思い出す。店の端にまで素早く移動して、隠れていた肉をミンチのようにすり潰す瞬間を。
「そのうちこちらももう限界かと思ったら、新たな楽しみを見せてくれたり――」
アサシンは思い出す。脇腹に走った激辛カレーのような刺激と、そこを狙って襲い来る屍鬼たちの群れを。
「 も う ず っ と 興 奮 が 止 ま ら な い ん だ よ ! ! 」
そして彼は今日の全ての“昼メシ”を嗤う。
ニタリと笑うアサシンの、無精ひげだらけの不気味な口角。そこに本物の喜びがあるのかどうか、識る者はいない。しかし、彼は言葉の上ではこう紡ぐのだ。
「……最高だろ?」
その笑みと問いかけに狂気を感じ、思いがけず後ずさるセイバーとキャスター。
自分たちとは格が違うサーヴァントだと気づいたのはこの瞬間の事だ。
藪を突いた、という激しい後悔。しかし、上物の敵を相手取った事に、英霊として、戦士として誇りを感じる感情が一切湧いてこない訳でもない。
ただ悔しい。自身の力量で、この男の真髄を見抜いて接する事ができなかった、その事実だ――。
そして次の瞬間、アサシンの不敵な笑みは間近に接近していた。
それが、セイバーとキャスターが英霊として視る最後の野原ひろしの貌となった。
「――――」
どすん! どすん!
音とともに――強固であるはずのセイバーとキャスターの喉元からは鮮血が拭き出し、どす黒く染まっていた店内と死体の山を、再び真っ赤に染めた。鉄棒の授業の匂いが辺りを充満する。地下であるゆえにその異臭には逃げ場がない。
アサシンはその匂いをめいっぱい鼻で吸い上げ、もう一度御満悦の表情を浮かべた。
「ごちそうさん」
二体のサーヴァントが、消失した。
カフェには大量の死体だけが山積みのポテトのように残っていた。
「じゃ、行くぞ。シロ」
「エ……」
今の状況を処理しきれず、ただただ困惑するちいかわを抱きかかえたまま、アサシンは地上に戻った。
◆
店内から出ると、新鮮な空気の繁華街があった。
ああ、戻った……。
ちいかわは生きて脱する事が出来たこの状況に、かつてない安らぎを覚えていた。これほど寿命が縮まる思いをした戦いは今までだってそうそうなかったかもしれない。
くねくねと曲がったげじげじ眉でアサシンを不満そうに見つめながらも、ちいかわは一度深呼吸した。
すると近くに、膝をついて表情を落としている三十代ほどの男女がいるのが見えた。
いずれも激しく項垂れていて、顔色が悪い。通行人の視線は血痕を魔力で浄化して身ぎれいになったアサシンよりも、彼らの方に注がれていた。
「ん……?」
アサシンは彼らに気づくなり、そちらに向かって歩き出した。ちいかわも「エ……?」と不審そうな顔をしながらもアサシンの後を追う。
男女はどうやら、何か互いに絶望を囁き合っているようだった。
「ああ……僕たちのサーヴァントが――」
「私達、もう終わりね……」
ちいかわはそのやり取りで確信する。
間違いない――。彼らは先ほどセイバーとキャスターを失ったマスターなのだ。
ちいかわとアサシンを罠に引きずり込み、安全圏から殺させようと企ん二人――。大量の人間を利用して聖杯戦争での勝ち残りをもくろんだ二人だ。そういえば先ほど店内にはいなかった、と思う。
この聖杯戦争のルール上、サーヴァントを失ったマスターは、再契約の相手がいなければ消滅を免れない。逆を言えばアテさえあれば再契約で寿命を延ばす事も出来るはずだが、そうそう都合よく契約者のいないサーヴァントや、マスターを裏切るサーヴァントに出くわすわけもなく、マスターによっては実質的にほぼ無効の条件に近い。
彼らの絶望の理由に相違なかった。
アサシンも今の会話を聞いて彼らの絶望の理由に気づいたようで、そんな二人の肩にそっと両手を置き、柔らかい毛布のような言葉をかけた。
「終わりじゃないさ」
「……え?」
アサシンの温かい手を一度見やってから、二人の男女は顔を上げる。
二人の目線の先には後光を浴びる、いっとう清々しい表情のアサシンがいた。
「君たちはまだ若い! なんでもできる力がある!
聖杯戦争での未来は確かに明るくないかもしれないけど。
それでも生きていかなきゃ……頑張れ!!」
アサシンが彼らにかけたのは、意外にも怨念ではなく、励ましの言葉だったのだ。
彼は本物の野原ひろし。罪を憎んで人を憎まず、弱い者には優しい言葉をかける――そんな一匹の父親だった。だから決して、相方を失ったマスターも見捨てない。
……しかし。
未来を感じられない二人は、その言葉を前にも立ち上がる様子は見せられなかった。むしろより深く沈んだようにさえ見える。男が弱弱しい声で答える。
「でもサーヴァントなしで、どうやって頑張ればいいのか……」
そう返されると、少し考えてからアサシンは言った。
「じゃあ君たちはこれから自分を幸せにする事より、誰かを幸せにしようと思え。
そうすればすっごく頑張れる! 誰かを幸せにすれば自分も幸せになれる!
だからな……頑張れ!!」
すると、繁華街にいた周囲の人々がその言葉を聞いて、一斉に拍手をした。
魔術の効果ではなかった。若者を励ます野原ひろしという一人の男に、誰も彼もが率直な感銘を受けたのだ。この近所のおばさん、主婦、子供、カップル、学生……さまざまな人たちが、敗北したマスターに応援の声をかける。
頑張れ、と。
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」「頑張れ!」
◆
その夜――。
アサシンたちは、ある寂れたアパートに向かって歩みを進めていた。街灯の灯りが照らす寂しく冷たい夜道を抜けて、ようやくそこが彼らを迎える。
表札に「野原」と貼り付けられた一室。ここがアサシンたちが帰るべき場所――本物の野原家だった。仕事を終えて、ひどく疲れて帰ってくるアサシンを迎える温かい本物の家庭。ややあって前の一軒家が爆散した都合、今はアパートの一室を野原家にしている。
アサシンはちいかわとともにドアを潜る。
「ただいまー。本物の父ちゃんが帰ったぞー」
仕事の疲れが癒され、ステータスが最も回復するのは、この向こうにある幸福な家族の時間に帰った時――そしてこの一言を言えた時だ。
玄関先で革靴を脱ぎ、ジャケットを脱ぐ。
「あら、あなた! お帰りなさい! 本物のみさえよ!」
すると暗闇に容貌が隠れた彼の妻――野原みさえがリビングの方から寄って来て、そう返した。部屋の暗闇は濃く、ちいかわから見えるのはみさえの足元だけだ。
アサシンが帰って来たのを勘付いて、部屋の奥からばたばたと、小学生ほどの子供の駆けてくる音が聞こえた。
「ほっほ〜い! おかえり、本物の父ちゃん! オラ、本物のクレヨンしんちゃんだヨ!!」
彼はアサシンの息子――野原しんのすけだった。彼は嬉しそうに長い脚で床の上を跳ねていた。
特殊なもので、このアサシンの場合はサーヴァントでありながら家庭があるのだった。
その仕組みについては、彼自身が本物の野原ひろしである事を考えれば想像に難くないだろう。彼は本物の野原ひろしだ。誰が何と言っても本物の野原ひろしだ。彼が野原ひろしである限り、野原一家もそこに付随するように現れる。ただの母子もまた、彼に引き寄せられるように野原家になっていく。それが野原家というものだ。
最初は自身が野原みさえや野原しんのすけである事を疑っていた母子も、本物の野原ひろしを前にすれば次第に自分が本物の野原みさえや本物の野原しんのすけである事にしっかりと気づいていく。そして、そこに本物の野原家が生まれる。
すべてを本物にする包容力こそが、彼の本物の野原ひろしたる由縁だ。
アサシンは、しんのすけの言葉を聞いて苦笑いする。
「おいおいしんのすけ……。本物のお前がそれを言うなら、“ただいま”だろ?」
温かい掛け声に、しんのすけははっと気づく。
「あ、ごめんなさい! オラ、ついどっかり間違えちゃったゾ! うぇへへ〜。
……あのね、父ちゃん。今日、小が、幼稚園で園長先生とお遊戯会したんだヨ!」
今日の事を報告するしんのすけやみさえと、アサシンはテーブルで会話を交わす。
居間の薄い光の中では、相変わらずみさえとしんのすけの顔は見えないが、温かい家族の声にアサシンは返す。
「へー。それは楽しそうだなー。父ちゃんも昼間、お遊戯会してきたぞ!」
「えー、ずるいゾ! オラに内緒でお遊戯会なんて! ずるいゾ!!」
「あーっ! あなた! まさかまたお昼に高いもの食べたんじゃないでしょうね!?」
「ええっ!? ま、まさか! 適当に安いところでやりくりしたよ!!」
「どうして? おまた、ヒュンってなったの?」
「……ああ」
やがてアサシンは部屋の隅にある赤子を抱きしめて、「ただいまー、ひま」と話しかけた。お腹を押すと、「たいやい」と音声が鳴る。
ごく普通の日常。何の偏見もなくみればごく普通の、ありふれた平和な野原家の団欒風景に見えるかもしれない。
しかし――。
「あ、本物のシロもただいま! お久しぶりぶり〜! ぶりぶり〜!」
ちいかわが部屋に入って来ると、しんのすけが深く抱きついた。
「ムム……?」
「シロ〜! オラ、会いたかったヨ〜! アンって言ってー、シロー」
「ア……エト……。アン……」
「ほっほ〜い! 本物のシロだー! わたあめみたいだゾー!」
ちいかわだけは、何かこの平和な家庭に微細な違和感を覚えていた。しんのすけにきつく抱きしめられながら、ちいかわは眉をひそめ続ける。
なんなんだろう、この一家。わからない。言葉に出来ないけど、どこか不穏だ。自分は本当にここにいていいのだろうか。
だが、そんな疑念の中にいるちいかわたちのもとに今度はみさえが歩み寄って来た。
「さあ、あなた、ご飯よー。本物のシロにもご飯よー!」
アサシンのもとにご飯を置いたあと、目の前に夜食を差し出すみさえ。
ぐう……、と、その時ちいかわのお腹が鳴った。
その瞬間、先ほどまでちいかわの目にあった疑いの光は、喜びに変わった。やっぱりこれほど美味しそうなご飯を作ってくれる人が悪い人なわけがない。警戒心なんて持つ方が間違いだ。
ちいかわはみさえに差し出された料理を、すぐに、はぐ……と手で摘まんで食べる。
「わァ〜〜〜……」
ちいかわの口の中から、パリパリ、と心地よい音が鳴った。
美味しいな。やっぱりこの家族が変な家族なわけがない。心からそう思った。
その日の晩ご飯を、ちいかわはとても嬉しそうに頬張っていく。
メニューは、キュウリとキクラゲの佃煮だった。
【クラス】
アサシン
【真名】
野原ひろし@野原ひろし 昼メシの流儀
【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 幸運:A 魔力:D 宝具:A
宝具解放時
筋力:C 耐久:B 敏捷:A 幸運:A 魔力:D 宝具:A
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
サーヴァントとしての気配を断ち、朝と夜にはほぼ一般人になりすます事が可能。
【保有スキル】
本物の野原ひろし:D
自身が本物の野原ひろしである事を周囲に強制認知・納得させるスキル。
魔力耐性の低いNPCは彼が野原ひろしだと思い込むだけではなく、自身が野原ひろしの周辺人物(野原しんのすけ、野原みさえ、川口など)と思い込むレベルに達する。
本人もまた自分が本物の野原ひろしだと確信している。
このスキルは外せない。
【宝具】
『昼メシの流儀』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:不明 最大補足:不明
昼食時間の時間に発揮される、野原ひろしの流儀の逸話。
この時間帯に限り、本能的に本物の野原ひろしが持つ殺傷能力が最大限に発揮され、ステータスの上昇が発生する。あらゆる裏社会の知識や経験法則がすべて解放され、仇なす者すべてがアサシンの「昼メシ」となるとされる。
時間は11時〜15時ごろに限定され、朝食時や夕食時は平常時のステータスに戻る(その間は彼のサーヴァントとしての気配は消滅する)。
【人物背景】
本物の野原ひろし。
しかし、その正体は、《以下の人物背景は、検閲により消去されました。》
【weapon】
捕捉不能(複数の武器・凶器を隠し持っているようだが詳細不明)。
また、アサシンの知る暗殺術を前にはすべてのものは武器となる。
【方針】
本物の野原ひろしとして過ごし、家族を守る。ただし、邪魔な敵は食う。
一仕事終えて聖杯で飲むビールはうまいんだろうな〜……とも少し思っている。
【備考】
※本物の野原ひろしです。
※スキルにより、NPCの一般母子を妻・野原みさえ、息子・野原しんのすけとして教育して、野原家として共同生活しています。元々の一家の主はモラハラ・DV男でしたが、彼を殺害して本物になったようです。また、赤ちゃんの人形を野原ひまわりだと思っています。
※マスターであるちいかわを本物のシロだと思っています。
※アサシンが殺害したキャスターとセイバーのマスターは、それぞれその後、サーヴァント不在により消滅しました。
【マスター】
ちいかわ
【能力】
特に、なし。
【人物】
本物の、ちいかわです。
【聖杯への願い】
草むしり検定の、5級の、合格を、したいです。
【方針】
聖杯は、絶対に、手に、入るます。
キュウリとキクラゲの佃煮は、おいしいな。パリパリ……。
投下終了です。
おあとがよろしいようで。
>>381
ガバガバ所がスカスカ
>>381
ガバガバ所がスカスカ
ネットミーム系は禁止と>>5 のルールに書かれてますよ
投下します
―――脹相
―――呪いとしての君はここで死んだ
―――生きろ 今度は “人”として
割れていく
落ちていく
ここで使い果たす以外意味が無いと思った命が
呪いを振りまく元凶を刺し違えても殺そうと足掻いた命が
生きろと言われ。落ちていく。
結界の中、見えないはずの空から
黒い羽が 降ってきた。
◆◇◆
相当数の人を無作為に、一つの箱に放り込んだとする。
「お前たちには今から殺し合いをしてもらう。」
箱の上で誰かがそんなことを言い、従う者が何人いるだろう。
殺戮を楽しむ極悪人か、極めて精神の脆弱な臆病者だけだ。
だが、ここに幾つかの仕込みをすれば。従う人間の数は夥しいほど増えていく。
例えば、脹相の知る死滅回游では「呪術という超常の力」「結界からの脱出というモチベーション」「殺人を犯すことで点を得なければ命を失うという事実」「好戦的かつ狡猾な過去の術師」等々、仕掛けた者の悪意が剥き出しになったような環境で多くの参加者が死亡している。
この聖杯戦争も、核としては似たものだろう。
『世界も経歴も実力も大きく差がある、無作為かつ不平等な参加者たち』
『絶命どころかサーヴァントの消滅も敗退に繋がる事実(6時間のインターバルも生存のために動くマスターが状況を動かすと考えれば都合がいい』』
『敗退=消滅 という残酷な事実』
『万能の願望機という破格の報酬』
あらゆる要素が聖杯戦争という殺し合いを助長させる、運営の仕込みに他ならない。
「反吐が出る。」
黒い羽に触れルールを理解した脹相の口から、苦虫を噛み潰したような言葉が零れた。
◆
「....続けるか?」
静かに、そして研がれた刃物のように冷たい声が、冬木の路地裏に響いた。
壁には無数の破壊痕と血痕が残る、虐殺が起きたとしても違和感のない破壊の痕。
聖杯戦争の舞台となった冬木の街のそこかしこで起こる、超常の戦いの傷跡の一つ。
その破壊の一因たる脹相の冷たい言葉は、同じく破壊の一因である剣士の英霊に向けられていた。
金色の髪と黄金の武具が目立つセイバーのサーヴァント。
ランサーを引き連れた脹相に戦いを挑んだ青年は、砕けたアスファルトの上に膝をつき、立ち上がることさえおぼつかない。
後ろに居る年端も無い少女...一画だけ令呪を残したマスターをかばうように、向かい合う呪いに敵意と闘志を向け続けている。
既に、勝敗は決していた。
神の力(セイバーはそう表現していた)を込めたセイバー渾身の攻撃は、脹相のランサーが生み出した巨大な十字架のような盾にすべて防がれ。
合間を縫うように放たれた赤血操術が、セイバーを襲い体の自由を奪う。
セイバー自慢の黄金色の鎧は脹相の血に侵食され、端正な顔は色を失ったように真っ青で、額には無数の汗が浮かんでいる。
無傷な脹相とは対照的に、毒を帯びた血を浴び続けたセイバーは、すでに限界を超えていた。
三つの流星のような形の令呪を残した呪いの手が、英雄を指さす。
そこに、嘲笑も憐憫も無い。
死人のように冷たい脹相の眼が、青年を見つめている。
「お前は弱くはないのだろう。だがランサーはお前より強く、何より俺との相性が悪すぎた。」
「だ、だがお前のような存在を見逃していては、マスターのような無垢な命が危険にさらされる。」
正義の味方は口から血を吐き、ふらふらと立ち上がり剣を構える。
剣士の心は折れず、勝ち目がないことは彼にとって引き下がる理由にならない。
呪いを祓うために。壊れた体を動かし悪を断たんと英雄は構える。
セイバーは、どこまでも正義にあふれ。悪を許せない男だった。
だから、数多の人を殺した呪いである脹相を見逃すことなど出来ない。
その姿に、冷めたような、愛しい誰かを思い出すような。
呪いらしくない貌を向け、脹相は自身の気づきを語る。
「お前、死因は毒だろう。」
「!?」
「そうで無ければ俺の術式がここまで有効とは思えんからな。」
脹相の操る血液には、呪霊の血液という性質上高い毒性がある。
人はもとより、純粋な呪いに属するその毒は英霊にさえ効果があるだろう。致命傷を与えるほどの物ではない。
目の前のセイバーが喀血を繰り返しているのは、彼自身が毒に弱い性質を得ているからに他ならない。
「分かったようなことを言われるのは不本意だろうが、お前は“人”であった頃も、そうだったのだろうな。」
きっとこの男は、生前も同じように純粋な正義を秘めて正しい道を進み続けてきたのだろう。
その正義で多くの人々を救い、多くの勝利を重ね。
そして、それを忌み嫌う何者かに疎まれて死んだのだろう。
恐らく、騙された形で毒殺されて。
悪を祓った英雄は、人の悪意によって命を落とす。
真人が聞けば、これ以上なく愉快そうに嗤っただろう。
脹相の表情は変わらない。
笑わないし、嗤わない。
「...お前の言葉を否定はしない。お前の言う通り、俺は多くの人を信念も無く殺してきた。災いしか呼び込めないような男だ」
「そうだ!お前は“悪”だ!だからこの俺が....」
その言葉は、最後まで言い切られることは無かった。
堰を切ったかのように、喉が裂けんばかりに英雄はせき込み、宣誓が途切れる。
勇気ある言葉の代わりに、黒く染まった血が青年の口からまき散らされた。
「セイバー!!」
こらえきれなくなった少女が、涙で顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。
敵意と、不安と、悲哀。
澱んだ空気を変えたのは、一人の漢の言葉だった。
「異邦の英雄よ。どうか引いてはくれまいか。」
脹相の隣から発せられたランサーの言葉。
穏やかな圧と重みを持った声が、空気を変えた。
隣に立つマスターも、対峙するセイバーも。
その男に引き寄せられるように、顔を上げた。
「私もマスターも、これ以上の戦いは本意ではない。」
「黙れ!“悪”に従うサーヴァントの言葉など...」
「貴公が消えてしまえば、その少女はどうなる。」
はっとした顔で、ぼろぼろの剣士は振り返る。
色あせた黄金の鎧に、縋りつくように女の子が泣いていた。
そこにセイバーが消えたら自身も消えるからといった打算や欲望は、少なくとも脹相の眼には見えない。
ただ、自分を守る剣士のことが心配な。一人の少女がそこにいた。
「貴公が剣士の英霊となるまで抱え続けた矜持。同じ英霊として、簡単に唾棄できないものであることは理解する。」
「.....」
「だがそれは、貴公の身を案じる少女を、死地に置き去りにしてでもなすべきものか?」
はっきりと響く、よく通る声。
優しく、重く、熱く、強い。偉大なる英霊の、芯の通った言葉。
セイバーが消えれば、マスターである少女は半日と経たずに消える。
そんな停命を待たずとも、英霊・マスターともに危険人物に溢れた殺戮の坩堝たる今の冬木で、サーヴァントを持たない少女がどれだけ生きていけるのか。
「.......、礼は言わんぞ。」
「構わない。」
思いつめた表情の剣士の英霊は、泣き疲れ黙り込んだ少女を抱えて立ち去る。
彼の体から、既に毒は消えていた。
「マスター。黙って了承してくれたこと感謝する。君にとっては益の無い話だったはず。」
残されたランサーが、脹相に対してきっちり45度に傾けて礼をする。
見下ろす脹相の顔は、相も変わらず死体のように青白く固い。
「いや、いい。お前の言うとおり、俺も同じ気持ちだった。」
嘘ではない。
脹相も既に、戦う気力を無くしていた。
それは無気力か、憐憫か、怠惰か、侮辱か。
そのどれでもない。
なぜ、相性最悪の脹相に死の間際まで戦い続けたのか。
なぜ、敗北が確定していても剣士の闘志は揺るがなかったのか。
なぜ、剣士の英霊を心から思い少女は泣いたのか。
脹相はそれを知っている。
知っているがゆえに、悩む。
「...だが、詫びというのならランサー。いや、クラウス・V・ラインヘルツ。俺の質問に答えてくれ」
「私が答えらえれるものならば、喜んで。」
「“人間”とは、なんだ。」
◆◇◆
「人に、心なんてないよ」
人から生まれた呪いが、いつだったかそんなことを言っていた。
あるのは魂だけで、感情はその代謝にすぎないと。
嘘だとは思わない。
魂を理解し魂に干渉する術式を持つ呪いの言葉だ。
彼なりに得た答えなのだろう。
だが、もしそれが正しいとして。
俺が弟たちを思う心も。
“人”ではなく“呪い”として生きたことに対する悔悟も。
機械的な代謝か?
「悪いな真人。それは違うと断言できる。」
◆◇◆
―――光に向かって一歩でも進もうとしている限り
人間の魂が真に敗北する事など断じて無い
英霊とつながったマスターは、英霊の記憶を見ることがあるという。
脹相の夢の中のランサーは、無数の装甲兵を前に一歩も引かず。
泣いていた青年に。立ち止まっていた男を鼓舞し、前に進む勇気を示した。
―――行け!手始めに、世界を救うのだ!
その後の顛末を、脹相は知らないが。
少なくとも、クラウスの死因があの装甲兵たちでないことは想像に難くなく。
あの止まっていた青年が、世界を救ったのだろうことも。
理由も無く、確信できた。
◆◇◆
路地裏からそう遠くない喫茶店のテラス席。
筋骨隆々な紳士と和装の青年という異色の組み合わせは周囲の人々の注目を否応なく浴びる。
視線の先の当人達は、そんな視線には微塵も気を向けない。
出されたコーヒーを強張った表情のまま飲み、戦場と変わらぬ重さで主従は顔を合わせていた。
脹相は、クラウスに自身の過去を語る。
最悪の呪術師、加茂憲倫の非道な所業により生み出された生い立ちを。
真人達の手により、弟達とともに受肉を果たした覚醒を。
弟を失い、その上で最後の弟である虎杖悠二を守るために戦うと決めた決意を。
生みの親にして、その弟を中心に呪いを振りまいた元凶に対する敵意を。
その最悪の相手に敗北を喫したうえ、一人生き延びさせられた、現実を。
「九十九は、俺に人として生きろと言った。」
共に天元の護衛を務めた特急術師。
彼女にも、脹相は自身の思いのたけを語ったことがある。
真人のように、人から呪(う)まれた呪霊ではなく。
言葉通りに、人間である母から産まれた脹相。
人と呪いの狭間である彼と弟たちは、覚醒に際し“呪霊”として生きる道を選んだ。
弟たちには言わなかったが、脹相にはその道を選んだ理由があった。
人は。弟たちを受け入れない。
異形の背を持つ壊相(おとうと)を
異形の体を持つ血塗(おとうと)を。
そう思ったから、呪霊として生きる。
岐路に立った脹相は、楽な道を選び。
結果として、壊相と血塗は死に。
代わりに現れたのは、呪いの王をその身に宿し、人として苦悩する虎杖悠二(おとうと)。
脹相の選択は、弟を一人置き去りにしただけだった。
『俺はなんで、楽な道を選んだ。』
壊相と血塗は、人に受け入れられないだけでくじけるほど弱いのか?
違う。
脹相が“人”として苦しむ弟を見たくなかっただけだ。
脹相は、その選択を悔やみ続ける。
どうしようもないと知っていても。
取り返しなどつかないと分かっていても。
悔やまずには居られない。
兄として。弟を苦しめた自分を罰し続ける。
呪いとして、人の道を選ばなかった自分を呪い続ける。
俺があのセイバーなら、あの場で立ち上がれただろうか。
俺があの少女なら、負けの決まった英霊のために泣けただろうか。
俺がクラウスのような人物だったのなら。立ち止まった青年を前に進ませられただろうか。
俺が“人”ならば、弟たちを苦しめずに済んだのか。
人として生きろと言った九十九由基の言葉の意味が分からない脹相ではない。
彼女は、止まっていた脹相に前に進むよう言ったのだ。
夢の中、クラウス・V・ラインヘルツが青年にそうしたように。
そこまでして“人”として進めるのかと、脹相は未だに信じられずにいる。
人としての自分も。
兄としての自分も。
「私は、君によく似た男を知っている。」
空になったコーヒーカップを、クラウス・V・ラインヘルツは静かに置いた。
カランと小気味いい音を響かせ、何の気なしに男は空を見上げる。
電脳の世界とは思えぬ曇り一つない青空が、クラウスの頭上で晴れ渡っていた。
「その男は、単身私たちの住む街にやってきた。」
「以前聞いたな。ヘルサレムズ・ロットといったか。異界と現世の交わる境の異常都市。」
生前のクラウスが活動していた、異常なる都市。
異界の存在が闊歩し、超常の異能者が徒党を組んでバーで騒ぐ。
交通事故のように世界崩壊の危機が迫り。
クラウス達“ライブラ”は、この傾き崩れた世界の均衡を守るために戦い続けた。
「“ライブラ”の一員。名をレオナルド・ウォッチ。初めて会った時の彼は、己の選択を...
否、選択をしなかった自分を悔やみ続けていた。」
前触れもなく、妹とともに超常の存在に契約を迫られた一人の青年。
見届けるのはどちらかと。
見届けぬのであれば、その眼は不要だと。
『奪うのなら、私から奪いなさい。』
足の動かない妹が、勇敢にも超常存在に向き合い。
その眼を犠牲にするまで、動ける足を動かせなかった男がいた。
対価として、妹から光を奪った男には、あらゆる眼を支配できる超常の眼球が与えられた。
「確かに、俺と似ているな。」
以前の脹相なら、妹を犠牲にした情けない兄に、憤慨しただろうか。
己の過ちで弟たちを苦しめた今の脹相は、足を止めたその男を笑えない。
一人自嘲する脹相に、対面に座るランサーは気まずそうに腕を突き出し、静止を促さんと脹相に掌を向けた。
「待ってくれマスター。本題はここからだ。」
「...すまない。続けてくれ。」
ランサーが空気を切り替えるように、コホンと大きく咳ばらいをする。
近くの席に座る高校生たちが、音を立てた巨漢に視線を向けた。
「その男は、私たちの仲間となり、幾度となく窮地を乗り越え、戦い抜いた。」
ライブラに加入したレオナルド・ウォッチは、日常の狭間で大きな活躍を上げた。
人々を奪う未発見の幻術を見破り。
人界の天敵である吸血鬼の名を見抜き。
最悪の王に囚われた兄妹を、坩堝に食われた子どもたちを。彼は救う。
自分以外は知覚さえできない戦いに一人挑み。妹を救った。
「確かに、彼は一度挫折した。
自らを卑怯者だと罵り、悔恨とともに生き続けた。
だが、その挫折を前に折れなかった彼の強さが。
その後悔とともに進み続けた彼の心が。
幾度となく私たちを、世界を救った。
私は彼の事を、誇りに思う。
超常の眼にではない。レオナルド・ウォッチという“人”を。誇りに思う。」
クラウス・V・ラインヘルツの言葉で立ち上がった青年は
誰かに手を差し伸べ、守り、救う。そんな人間になっていた。
仲間の事を話す時が、ランサーは一番うれしそうだな。
ふとそんなことを男は思い。
高揚しているランサーとは対照的に、陰ったような言葉が零れる。
「俺は、そんな立派な男ではない。それほどまでに強い男ではない。」
言葉からは、吐瀉物を拭いた雑巾のような味がした。
クラウスが自身と似ていると言ったレオナルド・ウォッチなる人物に対し。脹相が抱いたのは敬意と断絶。
一人の人として。超常の力に驕らず進み続ける男への敬意を。
一人の兄として、妹を救った勇気と力に対しての断絶を。
「俺は、弱い。お前よりも。レオナルドとかいう男よりも。
あの黄金のセイバーよりも、そのマスターだったあの少女よりも。俺は弱い」
対峙したセイバーのように、守るべきもののために立ち上がるのが“人”なのか。
セイバーに縋り泣いた少女のように、大切な相手を思えるのが“人”なのか。
クラウスやレオナルドのように、誰かのために前を向いて進めるのが“人”なのか。
ならばそんな勇気も慈愛も決意も持たない俺は。“呪い”でしかないのではないか。
「脹相。我がマスター。聞いてくれ。」
陰りを続ける脹相の心に光を指すような。
そんな言葉が、クラウスの口から紡がれた。
「君は今悩んでいる。人と呪いの狭間で。“人”でありたい心と、“呪い”に縛る過去の境界に居る。」
簡潔に、きっぱりと。ランサーによって脹相の心が言語化された。
呪いを祓うではなく、心の惑いを晴らすように。英雄は続ける。
「人は強い。困難を、挫折を、絶望を。己を支える礎とし、なおも未来へ進む。
だが、同じくらい人は弱い。時として間違い、矜持を失い、光無い霧の中で惑い。取り返せない傷を負う。」
「ランサー...。」
「人とは何かと問うのなら、脹相。私はこう答えよう。“今の君”だと。」
英霊の言葉には、一切の陰りも揺らぎも無く。
真っすぐに、ひたむきに。強く光る瞳で。
脹相という呪いを見るではなく。
脹相というマスターを見るではなく。
脹相という、人間を見据えていた。
「過去から目を逸らさず。弟を思い。託された言葉を標とし。多くの挫折と後悔に足を囚われてもなお、君は“兄”であることをやめない。進むことを諦めない。」
“兄”であること。
唯一にして、最大の。脹相が進み続ける理由。
脹相が悩む理由であり。
脹相を縛る呪いであり。
脹相が進む根源であり。
脹相の願いそのものであり。
「それが、俺が”人”である理由だと?」
「それが、君が”人”である理由だ。」
クラウス・V・ラインヘルツにしてみれば。
脹相が“人”である、何よりの証明であった。
「お前の言う人とは、“進む者”か?」
「ある意味では。....レオナルドの妹君と話した時、彼女は自らの兄を“トータスナイト”だと称した」
「......亀の騎士か。」
「亀は、決して後ろに下がらないのだそうだ。
どれだけ足がすくんでも、どれだけ思い悩んでも。いつか必ず前に進むのだと。」
「......立派なものだ。同じ兄として、心から尊敬する。」
レオナルド・ウォッチという“兄”を完璧なまでに形容したその言葉は。
脹相にとって、“人”としての理想の形をしていた。
弟のため/妹のため。
どれだけ止まっても、どれだけ悩んでも。
振り返ることも、後退することも無く。
後に続く者達の手本として、前を進む“人”の姿。
「....俺も、そんな男のようになれるだろうか」
英雄を夢見る子どものように。
未来に希望を抱く人のように。
澄んだ胸から、そんな言葉が零れた。
その言葉から、苦い味はしなかった。
「なれるとも。君は悔やみ、背負い、それでも前を向き、立ちあがり、進もうとしている。」
クラウス・V・ラインヘルツが立ち上がる。
陽の光を浴び、屈強な精神を持った強き人が。
惑い悩む、一人の人間に手を伸ばす。
「それが、人間の強さだ。」
英霊の言葉に。人として生き続けた者の言葉に。
脹相は、かつてないほど熱いものを胸に憶える。
今初めて、心臓の鼓動を感じたように。
自分という人間が、今この時に生まれたかのように。
「感謝する。ランサー。俺にも、光が見えた。」
一人の人は、英霊の手を取る。
自分が求める願いに向け、彼は前を向き、進み続ける。
血の満たされた呪いではなく。
血の通った人間として。
【クラス】
ランサー
【真名】
クラウス・フォン・ラインヘルツ@血界戦線
【ステータス】
筋力A+耐久A+敏捷B魔力B幸運C宝具B
【属性】
秩序・善・地
【クラススキル】
対魔力:B 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい
【固有スキル】
ブレングリード流血闘術 A+ 血液を媒体にして行う格闘術であり、血液を武器や盾に変化させて戦う。吸血鬼の類に特効を持つ技巧の一つ。
その中でも他の技巧とは『段階』が異なるとされる。
ある能力者曰く「時に手を掛ける」らしく、この能力で生み出したものは時間属性に耐性を持つ。
天秤の長 A 異常と超常が跋扈する世界で『世界の均衡を保つ』為に戦う秘密結社の長であったことを示すスキル。 カリスマスキルの亜種。
強者や曲者から信頼を寄せられる、強い精神と胆力のある傑物
勇猛:A+ 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
【宝具】
『久遠棺封縛獄(エーヴィヒカイトゲフェングニス)』
ランク:EX 種別;対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
ブレングリード流血闘術 999式
対象の心臓に拳をあて『諱名』(サーヴァントの場合は真名)を唱えることで、対象を手のひらサイズの十字架に「密封」する。
因果に干渉する技であり、受けてしまうと抜け出すことは不可能に近い。
サーヴァントに使用された場合、そのタイミングでマスターとのパスが切断される
ただし彼は滅多なことではこの宝具を使わない
【weapon】
十字架型のナックルガード
【人物背景】
秘密結社 ライブラのトップに立つ漢
威圧感さえ感じさせる体格とは裏腹にお人好しの正義漢で、どこか子供っぽい。
ブレングリード流血闘術を用い、血界の眷属(ブラッドブリード)に唯一対抗できる人類
趣味はボードゲームと園芸
獣の生命力と鋼の精神力で武装した人界の守護者
人を助けることに理由は要らない。そんな人
【聖杯への願い】
聖杯にかける類の望みはない 脹相の願いに応えること
【マスター】
脹相@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
虎杖悠二の幸せな未来
弟たちの蘇生と受肉(他者に被害が出ない形で)
【能力・技能】
術式、赤血操術を高い練度でこなす。
呪力を血液に変換できる特異体質であり、操る血液に限りがあるという術式の弱点をカバーしている
【人物背景】
呪霊と人間のハーフ。
人ではなく呪いとして生き
そのことを悔やむ十人兄弟のお兄ちゃん
令呪は、流星のような形の3本の矢
【備考】
※参戦時期は原作23巻/208話『星と油④』終了後
投下終了します
投下します
――――冬木市中心部
スーパーから買い物袋を持った少年が出てくる。
紫の髪をなびかせながら、帰路へつく。
(セイバー、これでいいのか?)
(あぁ、あとはあたしに任せとけ。)
少年――神戸あさひの人生は不幸と言う他に無かった。
虐待、妹の誘拐――挙げればキリがない。
不幸の業の背負った彼は、聖杯の情けかたまたまか、アパートの一室を借りている。
昼は仕事をして生活費を稼ぐ、それがこの世界の彼の日課だ。
そして、食事に関しては――――――
自室のドアを開ける。
「ただいま…」
「おかえり、ほら、荷物持つぞ。」
「ありがとう…セイバー。」
セイバー、と声をかけられた少女が奥から出てくる。
「おし、後はこれさえあれば作れるぞ、待っててくれ!」
「あぁ…」
――――――――
「…旨い…」
「だろ?」
セイバーの作った料理を食べながら、感想を語る。
――食事関係…というか、家事関係はセイバーがやってくれるのだ。
純粋に自身の力量不足もあるが、セイバーの力量が平均を上回っているというのもある。
「…ごちそうさま…」
「はーいよ。」
電気を消し、布団に入る。
ふと、問いを投げかける。
「セイバーは…俺が負担じゃないか…?」
その問いに対しては。
「安心しろ、そんなことないぞ、お前は良いマスターだぞ。」
セイバーは笑顔で返す。
「そうか…なら、良かった…」
あさひは、眠りについた。
――――――――
「寝たか…」
セイバー――三ノ輪銀は窓からの月を眺めそういう。
「正直、最初はひ弱なやつだと思った、けど――」
「それ以上に、お前が優しいやつだと思った…寝ちまったから聞いてないか…」
そして、自身も霊体化を始める。
(あたしは、英雄として、こいつを護らないといけない…)
(だから…見守ってくれ…須美、園子…)
――――――――
――ねぇずっと待ってたよ、君のことを
――おかえり、私を、もう二度と――
――置いてかないで。
【CLASS】
セイバー
【真名】
三ノ輪銀@鷲尾須美は勇者である
【属性】
秩序・善
【ステータス】筋力: B耐久: C敏捷: C 魔力:D 幸運: C 宝具:B+
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
【固有スキル】
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
勇者システム:B
神世紀、という時代において、外敵、バーテックスに対抗するため生み出された存在。
花をイメージとして採用しており、彼女の場合、花は牡丹、武装は二丁の斧である。
【宝具】
『エガオノキミへ』
ランク:B+ 種別;対人宝具 レンジ:1 最大補足:5
発動条件 自身及びマスターの生命の危機的になった際に発動。
自身のステータス、及びスキルを昇華する宝具
筋力と俊敏を二段階上げ、戦闘続行、直感も二段階上げる。
しかし――使用後は――
【weapon】
二丁の斧
【人物背景】
神世紀298年、新たに勇者に選ばれた少女の一人。
「火の玉」と言われる程の突撃性を持ち、猪突猛進すぎるところも目立ったが、乃木園子がリーダーとしての頭角を表してからは、指示に従うようになっていく。
帰り道、バーテックス3体の奇襲を受け、負傷した須美と園子に代わり――戦い――そして――
【聖杯への願い】
寝返るなら――あたし達の世界に――目一杯の幸福を――
【マスター】
神戸あさひ@ハッピーシュガーライフ
【マスターとしての願い】
しおを、もう一度俺達のところへ――
【人物背景】
神戸しおの兄。
逃げた妹と母を守るため、虐待をただ一心に耐え続け、その先にあったのは――
母による妹の放棄、及び誘拐。
そして彼は――今でも、妹を探し続ける。
自分たちの、生活を守るため。
投下終了です
また、本作は自身がpixivにあげていた主従のリメイクです
>バトルクライ
現在本誌でも活躍中の鹿紫雲、早速その掘り下げを生かした描写でしたね。
そんな彼に共感と憐憫を示す相方を引けたことは幸運だったと言っていいでしょう。
彼らのエゴを押し通すための戦いが楽しみですね……ありがとうございました。
>滅びの後の吸血鬼達
姫とミカエラ、主従間の会話が重々しくも含蓄あってよかったです。
姫の隔絶した雰囲気を示すのも大変巧みに感じ、力量のほどを感じました。
能力も年季もあらゆる脅威なこの主従、先行きが楽しみであり恐ろしくもあり。ありがとうございました。
>アサシンの流儀
狂気のような描写が徹底して行われており、それまでのギャップも相俟ってお見事でした。
……が、失礼ながら当作品についてはネットミームありきのキャラ付けで描かれた印象を受けてしまいました。
当企画では、ネットミームを出典とする候補作については選考の対象外としております。
従って恐縮ですが、当作品については候補作として受け入れ致しかねます。申し訳ございませんが、ご了承ください。
>血の通う者たちの現在地
生みの親との戦いを経て呪いではなく人となった腸相の描写がとても良かったです。
後悔を抱えながらも弟のために戦う彼が理解者となってくれるサーヴァントを引けたのは良かったですね。
彼に人間の強さを示せる相方に恵まれたこと、とても良かったと思います。ありがとうございました。
>エガオノキミへ
あさひを保護する存在が現れたことは大きいですね。
それが勇者という頼れる善人であることもまた重要だと思いました。
報われなかった彼がどんな結末を辿れるのか楽しみです。ありがとうございました。
感想が遅れがちになってしまい申し訳ありません……! お収めください。
投下します
市のセンタービル付近に位置する、冬木市ハイアットホテル。
年間数百人の宿泊客の出入りするこの宿泊施設は、冬木市全体が苛烈な聖杯戦争予選の渦中に巻き込まれようとも、普段と変わらずに営業を続けている。
何も知らないNPC、あるいは予選を過ごす主従がその立地に目を付けようとも、変わらず平穏は維持されていた。
考えてみれば、不自然な話だ。
立地条件を考慮しても、ここは拠点として選ぶには優秀な場所。
熟練の魔術師ならば、魔術的防衛を施し、要塞として運用する事も可能だろうに。
だというのに、現状、この施設を利用している魔術師の痕跡はない。
参加者が集まれば、必然と起こる筈の衝突、及び被害。
それら当然の厄災は、このホテルでは不自然なまでに起こっていなかった。
ーーーー
予選開始から数日、このホテルで10名を越える死者が出た経緯を、公私含めてどこも報道していない。
ーーーー
ホテルのとある一室、従業員による室内の清掃が行われている。
「……」
黙々と清掃を行っているのは、黒嶺ユメという女性だ。
裏バイトと言えども手広く行った職歴の賜物か、彼女は慣れた手付きで清掃を行っている。
ホテルの従業員(正確には臨時雇いのバイト)というロールを用意されてから、彼女が頻繁に行っている作業、慣れも必然か。
ベットシーツの交換、床の掃除機がけ、壁のアルコール消毒、バスタブの清掃。
「…………」
作業は丁寧に、迅速に。
赤い跡が残らないように、丁寧に、丁寧に行う。
昨晩、この部屋で死人が出た。自殺だった。
恰幅の良い大柄な男性だった。彼は大量出血でショック死するまで、髭剃りで右手を削り続けたらしい。
凄惨な死に方ではあったが、ホテルのオーナーから事件を知らされた時も特に驚きは無かった。
裏では見慣れた事案という事もあるが、そもそもこのホテルーーいや、この部屋で誰かが死ぬのは今回が初めてではない。
もう後片付けに慣れてしまう程、此処で誰かが死んでいる。
大抵は飛び降り、首吊り、リストカット等のオーソドックスな手法だが、中には窒息死するまで部屋中の紙を飲み込み続けた客や、朝食のチキンスープで溺死した変わり種もいた。
彼、あるいは彼女らはマスターだったかも知れないし、そうじゃなかったのかもしれない。
運悪くこの部屋に誘われ、宿泊し、そして自殺した。それが全てだ。
聖杯戦争という舞台を保つためなのか、短期間の自殺者の続出は不自然なまでに騒がれない。
警察が来ても遺体の回収をするだけで、単なる自殺として処理されている。
その点はある意味、普段の裏バイトと何も変わらないが。
しかし、少なくともこの異常さの原因をユメは理解している。
自らが召喚したサーヴァント、アサシンによる凶行だという事は。
(くさい)
(くさいくさいくさいくさいーーくさいっ!)
作業中、延々と感じる異臭。
蒸せ返るような『黒い』匂い。
アサシンはユメに敵意を向けていない。
だが、それでもなお、この『匂い』。
怪異の危険性を嗅ぎとる、匂いという名の危機感知能力。
ユメの命を幾度も救ってきたそれが、最大限に警報を成らしている。
ホテルの部屋に潜む邪悪、ユメがアサシンとして呼び出した怪異、『1408号室』。
アサシンが彼女を内に招き入れて、それでも生かすのは、要石としてアサシンの存在を彼女が保っているからだ。
そんな最低限の理由が無ければ、きっとこのアサシンは、己のマスターすらも客として餌食にするだろう。
出来るだけ多くの死を、この部屋は望んでいる。
邪悪だ。
生者の死を願う悪意だけが、この空間を満たしていた。
「お、終わった……」
開始からキッチリ10分。永遠に思えた作業が一通り終了した。
一刻も早く退出したい。それだけを願い、清掃を続けていたユメは、最終確認も程ほどに済ませ、部屋から出ようとした。
「……は?」
ユメは凍り付いた。
作業中、常に開けていた筈のドアが、いつの間にか閉じていたからだ。
大慌てで駆け寄り、ドアノブを回す。
ガチャガチャガチャ、虚しく空回りする音だけが鳴る。
鍵が、空かない。
「怖がらないでよ」
放心するユメに投げ掛けられる、居ない筈の第三者の声。
びくり、と驚き振り向くユメを愉快げに眺める女性。
その女性は、ユメが良く知っている人物だった。
これまで共に裏で働き、幾度も山場を生還してきた熟練の裏バイター、白浜和美。
見知った同僚の姿に、しかし、ユメは欠片も安心を覚えない。
彼女はこの電脳世界に招かれたマスターでもなく、再現されたNPCですら無い事をユメは既に理解しているからだ。
「ユメちゃんはただ、人を連れてくればいいの」
「お客様のお迎えは、私がやるからさ」
白浜和美の顔で、白浜和美の声で、白浜和美の口を借りて、自らのサーヴァントに怯えるマスターを嘲るように、白浜和美の姿をしたナニカは、白浜和美が絶対にしないような表情で嗤う。
故障した空調によるものか、蒸し暑い熱気がユメの肌を撫でる。
いや、温度の問題ではない。
ユメは、体の震えを止められなかった。
『チェックインをお願いします』
『チェックインをお願いします』
『チェックインをお願いします』
『当ホテルはお客様を歓迎します』
『ようこそ、1408号室へ』
【クラス】アサシン
【真名】1408号室@1408号室
【パラメータ】筋力- 耐久- 敏捷- 魔力A 幸運B 宝具A
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
室内作成:EX
陣地作成の一種。
部屋そのものであるアサシンは、空間の調合性を問わず、自在に室内を改装・拡張・展開できる。
広大な土地や大海、氷点下、牢獄、その内装は千差万別。
邪悪な部屋:A
邪悪に満ちた部屋。
悪意に満ちた空間は、ただそこに有るだけで周囲に精神的な威圧を与える。
敵味方を問わず思考力を奪い、抵抗力のない者は恐慌をきたす。
影法師:B
結界内部の対象の記憶を読み取り、印象の深い人物やトラウマとなる相手を影として投影する。
現在は白浜和美の姿を取り、マスターとの意志疎通を行っている。
情報抹消:B
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶からアサシンの能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。
ホテルのオーナーが部屋の存在を隠匿していた経緯から得たスキル。
【宝具】
『1408号室』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:ー
アサシンという存在そのものが一種の固有結界であり、意思のある宝具。
現在は冬木ハイアットホテルの一室を侵食・同化している。
室内は至って普通なホテルの一室だが、あらゆる空間と断絶されており、一度入るとスキル・宝具による離脱はもとい、例え令呪を用いた瞬間移動でも退室出来ない。
また、宿泊客で一時間以上耐えられた者は居ないという逸話から、室内に捕らわれた者は一時間以内に必ず死亡する。
【weapon】
不気味な絵画、ベットのシーツ、窓、宿泊客の抱える負の側面、およそ室内全てがアサシンの凶器となる。
【人物背景】
NYの老舗、ドルフィン・ホテルの一室。
純然たる悪意によって、56人の命を奪った邪悪な部屋。
【聖杯への願い】
尽きぬ宿泊客を得る
【備考】
※出展は映画版参照
※既に多数の犠牲者を出していますが、公には報道されていません。
※犠牲者の中に予選中のマスターが居たかどうかは不明。
【マスター】
黒嶺 ユメ@裏バイト 逃亡禁止
【マスターとしての願い】
行方不明の両親と再開したい…が、先ずは生きて帰りたい。
【能力・技能】
人間・怪異問わず、自身に迫る危機を異臭として感知できる。
危険なものは「黒い匂い」、安全なものは「白い匂い」として感じる。
【人物背景】
両親が残した多額の借金の返済と、弟妹の学費や生活費を稼ぐために裏バイトに挑む女性。
対照的に几帳面で落ち着きがあり、怪異の犠牲者にも悲嘆する心優しい性格。
【備考】
※参戦時期は少なくとも単行本5巻以降。
※冬木ハイアットホテルの従業員というロールを持っています。
投下終了です
投下します
電脳冬木市にあるとある家屋、そこにある薄暗い地下の部屋。
何者かがその部屋で作業を行っていた。
手術台のようなものに載せられた人間を粛々と解剖していく。
「ァ…ァ…」
「なるほど、なるほど…」
それも死体ではない、生きた人間である。
生かされたまま解剖されているのである。
下手人が加虐趣味なのかと言えばそうではない、正しく解剖対象について観察しながら知識を深めている。
その人間にある身体、特に魔術に関係がある部位を中心に調べていく。
解剖をする男は異様な姿をしていた。
フルフェイスの仮面を身につけ全身をパワードスーツのようなもので覆っている。
ほぼ黒一色に包まれた姿は暗い深淵を彷彿とさせる。
名はボンドルド、元の世界では新しきボンドルドとも呼ばれた男である。
◆ ◆ ◆
「黒い羽」により電脳世界の冬木市に招かれた時はさしものボンドルドでも少しばかり面を食らった。
一瞬にしてアビスの外へと転送させられ、精神隷属機(ゾアホリック)の影響下から外れたと思われる場所で問題なく活動できるのは驚きであっただろう。
とはいえかなり特殊な状態であるのは間違いなく、今の自身の状態についてはある程度把握しなければアビスへと帰還した際に不具合が出るとして調査すべきと考えた。
同時にこのような現象をもたらした聖杯に彼は興味を持つ、この力はアビスの解明に大いに役立つものではないかと。
そのままボンドルドは自身のサーヴァントを召喚する。
そこに現れたのは儚げな雰囲気を纏う少女。
一見すると手弱女と感じさせるが、その頭部には二本の角が生えており、真っ当な人間ではないとすぐに分かる。
「サーヴァント、アサシン。召喚の儀に従って来たわ、君が私のマスター…でいいの?」
人外の少女、だがそれは見かけの話。
濃密な死の気配、清廉潔白の類ではないとボンドルドは感じ取る。
「ええ、初めましてアサシン、私はボンドルド。奈落の探窟家『黎明卿』――と人は呼びます」
相対するマスターとサーヴァント。
相手は一筋縄ではいかない相手と理解し、しばらく両者は沈黙する。
そんな状況の中で先にアサシンが沈黙を破り、ボンドルドへと微笑みかける。
「やめようか、このまま立ち尽くすのは時間の無駄だわ。とりあえずお話しましょうか」
「そうですね、構いません。ではまずは貴方の目的を聞かせていただけますか」
あくまで今は敵ではない。
この場で争う意味が全くない事を双方ともに認識し、情報共有を始める。
「私は人類について理解を更に深めるために他の人達とたくさんお話がしたいわ」
「素晴らしい、目指すものが違えど貴方もまた探究者の一人なのですねアサシン」
「ええ。人類の習慣や文化、魔法技術を探究するのが私の研究テーマなの」
そのまま彼らは情報交換と雑談をしながらマスターとサーヴァントとしての関係に落ち着かせていく。
その中でボンドルドは彼女の真名について把握する。
彼女は人類に仇なす種族である魔族、その中でも長い年月を生き、人類には知られなかった大魔族。
無名の大魔族ソリテール、それが彼が召喚したサーヴァントであった。
◆ ◆ ◆
それからボンドルドとアサシンは調査を行うため、他の陣営と接触もしくは戦闘を行った。
その最中でボンドルドは生き残ったマスターを捕らえ、調査のために様々な実験や調査を行った。
目的としては当初の目的であった自身の状態を確認することもあるのだが、それ以外では令呪や魔力供給といった聖杯戦争に関わる事柄についても検証を重ねていた。
聖杯戦争のマスターとして最低限把握しているが、メカニズムについては無知であり、それらに関する知識を得ることで備えを出来るだけしておきたいと思い立ったからである。
この解剖もまたそのための一環である。
「ありがとうございます、名も知らぬマスター。本当であれば貴方の名前も教えていただきたかったのですが、ともあれおかげで私はまた一歩前へと進むことができます」
死亡すれば消滅するかもしれないと考えたボンドルドは死なないよう細心の注意を払い、生かしたまま解剖している。
そしてそんな所業を行いながら、先ほどまで敵対していても関係なく相手に親しみと感謝を伝えるボンドルド。
常人から見れば異様な光景であり、それを行う彼がまともでないのはすぐに分かるだろう。
だがそんな光景も長くは続かない。
「おや、時間切れですか」
サーヴァントを失ってから一定時間経てば、マスターは強制的に消去され消滅する。
どれだけ死なせないよう手を尽くしても消滅を防ぐことは現状不可能であった。
そんな彼の様子を終始見ていたアサシンが報告しようと近づいてくる。
「それで何か収穫はあった?見ていた感じだとあまり芳しくはなさそうだったけど」
「調査の方はともかく聖杯戦争に合わせてカートリッジに代わる装備を考えているのですが、現状はよろしくありませんね。そちらの作業は終わられたのですか?」
「特筆することもない魔術工房だから特に支障もなくね。私に要する維持魔力くらいは賄えると思うわ」
「素晴らしい。ありがとうございます、アサシン。これで負荷も軽くなります」
今回の解剖結果は有益なものがあったが、聖杯戦争を勝ち抜くための装備品の目処はまだつかない。
ある程度の装備は持参しているとはいえ精神隷属機(ゾアホリック)がない以上、この肉体が滅びればその時点で敗北は確定する。
それ以上に今の自分が死んでしまったら最悪の場合、元の世界にいる祈手(アンブラハンズ)にも悪影響を及ぼす可能性がある。
それ故にボンドルドは万全を期して準備を怠らない。
幸いにもアサシンは魔法などについての知識が深く、魔術方面でボンドルドのサポートをしていた。
無論アサシンもただの善意で協力しているわけではないのだが。
「腰を据える拠点も出来たことだし、そろそろ君のことを教えてくれないかなマスター」
「そのような約束でしたね、構いませんよ。私に答えられるものであればお教えしましょう」
それからボンドルドはアサシンの話し相手として自分がこれまでやってきたこと、そのために力を貸してくれた者たち、愛した家族について語っていった。
アサシン――ソリテールにとってボンドルドという人間は希少な例として興味をそそられる人類であった。
彼の所業は真っ当な人間であれば眉をひそめるものであり、正義感のある人間であれば憤慨するであろう。
極めつけはそれらを悪意なしで為しており、かつ贄として捧げたも同然の子らに本心から愛しているということである。
ある意味、捕食のために人間を殺す魔族よりも性質が悪く度し難い。
初めから人として破綻していたのか、それとも後天的に精神が異常となってしまったのか。
実際どちらなのかは会話からでは読み取れないが、今のところ目の前にいる男の精神はまるで人類と魔族を混ぜ合わせたようなものであるのがソリテールの所感であった。
「真っ当な人間なら魔族(わたし)を召喚するなんてあり得ないもの。君、聖杯から人間扱いされてないんじゃない?」
サーヴァントとして魔族を召喚するマスターなど明らかに何かが外れたものと予想はしていた。
自身と協力関係を組める相手かも見続け、話を聞いた結果からアサシンは感想を述べた。
「なるほど、私を生物として認識しているということですか。思っていたより寛容のようですね聖杯は」
「まるで自分は生物じゃないって認識してるみたいな言い方ね」
「アビスでは我々の精神性を生物ではないと判断されました、心外ですよね」
その言葉には人類を知るアサシンも言葉を失った。
精神が人間であるか以前に生物としてすら見做されない者、人がこれほどまでになる例を見ることなど長い生涯の中でも彼女にはなかっただろう。
そしてそれほどまでになったとしてもやはり魔族とは噛み合わないのだろうとアサシンはボンドルドを見て思う。
「今の君は確かに外れた存在と成り果てたと言っていいかもね。でもその根底はやっぱり人類であったことから来ている。どれだけ変質しても初めから持たない者との間にはどうあっても取り払えない差が存在する」
「貴方にとってそれほどまでに人類と魔族というものは異なっていると思っているのですかアサシン」
「ええ、姿形が似ているだけで人類が言うところの人喰いの化け物よ」
「なんと…」
その言葉に対し、今度はボンドルドの方が言葉を失う。
目の前にいる自分のサーヴァントが抱えていたものを知り、彼は一つの提案をする。
「アサシン、私は魔族だからという理由だけで貴方と敵対するつもりはありません。どうですか、この聖杯戦争を戦い抜いたら私と共にアビスの世界に来ていただけませんか。もちろん来ていただければ相応の待遇はさせていただきます」
ボンドルドはアサシンにアビスへ共に来ないかと勧誘する。
そもそも彼に人類と魔族などといった差別の意識など存在しない、彼にとって全ての命は平等に価値があるものである。
そんなボンドルドを見てアサシンもまた自身の思いを伝える。
「ねえマスター、いえボンドルド。どうして私が君の質問に素直に答えていると思う?私はね、君となら人類との共存も絵空事じゃないって思えるの。ここまで魔族に寄り添ってくれる人間なんていなかったわ、君とならそのきっかけを見つけることができるかもしれない」
「貴方は素晴らしい理想をお持ちなのですね、アサシン。アビスであれば貴方の求めるものが手に入るかもしれません。同じ探究者としてその助けとなれば幸いです」
そう言ってボンドルドはアサシンに手を差し出して、アサシンはその手を握る。
少しの間、沈黙が流れる。
するとアサシンは何がおかしかったのか突如笑いだした。
「面白いね君、本当に悪意を出していない。付いて行ったらそのまま実験されるだけでしょ私」
「おや人間と異なる生物と言ったのは貴方では?」
「ふふっそうね、私のマスターならそうなるわよね」
先のやり取りはアサシンが信頼していると言ってボンドルドがどのような反応をするかを観察しただけである。
今までの観察で並外れた精神の持ち主であることは分かっていたが、アサシンも予想が出来ないほどであった。
まるで同族と会話しているような感覚だったのだ。
対してボンドルドはアサシンに親しみを覚えアビスに来てほしいと思ったのは本心である。
だがそれは丁重にもてなすという意味ではなく、アビスの検証に付き合ってくれる実験体として扱うという意味である。
それを彼は悪意なく、純粋にお願いをしただけにすぎない。
「今回は座にいる「私」にこの聖杯戦争の記憶全てを引き継がせるだけにしておく。受肉はやめておくわ、何されるか分からないし」
そうしてアサシンは此度の聖杯戦争での目的を決める。
最早死んだ身である以上、何かに強く執着する必要もない。
それでも折角の機会だ、様々な人間について知っていくのも悪くない。
「それじゃ改めてよろしくねマスター。互いに実りのある戦争にしよう」
ならば精々楽しませてもらうことにする。
観察に飽きないマスターに当たったことは彼女にとって僥倖だった。
「こちらこそ改めてよろしくお願いしますよ、アサシン」
ならば変わらず夜明けを目指して進むのみ。
聖杯を持ち帰るための良き協力者に出会えたことは彼にとって僥倖だった。
彼らの間に交わる絆はない、彼らの間に残る想いもない。
だが彼らの歩む探求の先だけには通じるものがあるのかもしれない。
【マスター】
ボンドルド@メイドインアビス
【マスターとしての願い】
今の自身の状態をきちんと把握した上で元の世界に聖杯を持ち帰る
【weapon】
『暁に至る天蓋』
探窟・戦闘向けの祈手のためにしつらえた特注の戦闘鎧。
遺物と生物由来の繊維を複雑に組んで作られ、内部に様々な武装を内蔵する。
主な武装として撃ち込むことで上昇負荷を発生させる「呪い針(シェイカー)」、仮面から命中させたい相手を追尾する光線を放つ「明星へ登る(ギャングウェイ)」、極めて強靭で伸縮性にも富み、標的を瞬時に絡め捕ったり移動用のロープ替わりに使用できる「月に触れる(ファーカレス)」、肘から謎めいた高出力のレーザーの刃を形成し触れた物質を分解し消し飛ばす「枢機に還す光(スパラグモス)」などがある。
その他にも複眼やパワーのある尻尾などの武装も搭載されている。
【能力・技能】
探窟ルートの開拓や便利アイテムの開発など、物資とテクノロジーの面から探窟家を支えてきた存在であり、科学・医療技術に精通している。
手段はともかく人類のアビス攻略を一気に推し進めた偉人であり、探窟家の頂点である白笛だけあり戦闘力は一級品。
全身のパワードスーツに無数に搭載した遺物の力とそれらを的確に運用できる冷静で優れた頭脳、豊富な経験から来る対応力はずば抜けて高い。
またその精神はアビスの力場からヒトは愚か生物ですらないと拒絶されるほどであり、精神攻撃は無効化される。
【人物背景】
生ける伝説『白笛』の一人で、二つ名は「黎明卿」「新しきボンドルド」。 普段は深界五層『なきがらの海』にある『前線基地(イドフロント)』に居を構えて活動している。
いつも前面に紫色の光が灯った細い縦スリットが一本入った黒い金属製のフルフェイスの仮面を被っており、素顔は不明。
基本的には非常にポジティブで、物腰が穏やかで腰の低い紳士的な人物。
愛を尊ぶ博愛主義者的な性格は紛れもなく本物であるが、アビスの謎の解明に役立つならばどんなことでも躊躇いなくどれほど残虐な非人道的な所業であろうと、実行するマッドサイエンティスト。
「良き伝統も、探窟家の誇りや矜持も、丸ごと踏みにじって夜明けをもたらす」故に「黎明卿」と呼ばれる。
なおこうした悪行を「より良い発明のため」「自身の知的好奇心を満たすため」に行っており、すべては人類が躍進する結果につながる礎になると信じておりそこに悪意や害意は一切ない。
人道を大きく踏み外したパーソナリティの持ち主ではあるが、同時に彼の裏表のない愛情深さと心の広さもまた本物である。
【方針】
基本は聖杯を取るために手段は選ばない。
他陣営とはその目的のために手を組むこともする。
アビスの謎を解明するのに役立ちそうならマスターやサーヴァントを連れて行きたいと考えてはいる。
【クラス】
アサシン
【真名】
ソリテール@葬送のフリーレン
【属性】
混沌・中庸
【パラメータ】
筋力:D+ 耐久:D+ 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:C 宝具:A
【クラススキル】
気配遮断:D++
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
またアサシンの場合、魔力隠蔽がかなりの精度を誇り、潜むアサシンを魔力探知にて探すのは至難と言える。
【固有スキル】
魔族:EX
人類と姿形がよく似た人食いの捕食者である人類の敵。
「人の声真似をするだけの言葉が通じない猛獣」と評され、言葉をもって人を欺き油断させて屠ることを常套手段としている。
飛行の魔法を始めとし、人類と比較して魔法の技量が高いことも特徴として挙げられる。
人類とは思考形態が異なり、人類の感情については共感できず、また人類の精神に作用するものは効きづらい。
その中でもアサシンは魔族の中でも異端と見られる存在であり、多くの魔族が見向きもしない人類の魔法や感情について研究している。
そのため人類の心理について魔族の中でも特に理解が深く、言葉を使って相手を欺いたり動揺を誘うことに長けている。
魔力操作:A+++
術式を介さずに行う卓越した魔力操作、アサシンのそれは常軌を逸している。
魔力そのものをぶつける術を持ち、その威力は当たれば強い物理的衝撃も受けるほどである。
また防御としても応用でき、耐久の向上及び高ランクの対魔力と同等の効果をもたらし、密度を高めることで盾代わりにすることも可能。
無名の大魔族:EX
アサシンは大魔族として長い年月を生きながらもその名が人類側の記録に無い「無名」であった。
それは単にアサシンと相対し、生きて帰った人間が存在しなかったという結果によるものである。
人類とそれに属する存在に対して有効な情報抹消スキルであり、対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶からアサシンの能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。
また大魔族である彼女は膨大な魔力を所持した状態で召喚される。
【宝具】
『一人遊びの観測者(ソリティア・オブザーバー)』
ランク:A+ 種別:対人類宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
長い年月をかけて人類についての研究を重ねてきたアサシンの成果そのものを体現した宝具。
人類の心理について深く理解した上で動揺を誘う言葉選びが巧みであり、相手を見定めて揺さぶることに長けている。
人類とそれに属する存在に対して使う場合、アサシンの言葉は無視できないものとなり、その言葉に耳を傾けてしまう。
また生前人類の魔法について深く研究していたことから、人が扱う魔法、人類に組み込まれた魔法もしくはそれに類する物への解析・対処が可能となり、時間をかければそれらの術式の解除等も行うことが出来るようになる。
さらに解析した魔術等も対象の取得難易度により変化するが、擬似的に再現可能となる。
ただしこれらは人類に対してのみ有効があり、完全な人外には適用できない。
【weapon】
『魔法』
アサシンが好んで使うのは複数の大剣を出現させて操る魔法であり、直接剣を振るったり同時に複数の大剣を相手に飛ばしたりする。
最もこれはアサシンが「お話し」をするために殺さず痛ぶるのであり、殺す場合には出が早い魔力をぶつける戦法に切り替える。
他にも「人を殺す魔法」に対抗するための防御魔法も使用可能である。
【人物背景】
角が生えた少女のような外見で、人類について研究をしている変わり者の大魔族。
笑顔を絶やさず口調は丁寧で穏やかで、人間に強い興味を持っており、遭遇した相手とはまず「お話し」して相手の生い立ちや感情を知ろうとする。
強大な魔力を持ち、長い年月を生きながらもその名が人類側の記録に無い「無名の大魔族」であるがその無名たる所以は、彼女がこれまで遭遇してきた者(人類)を皆殺しにしてきたと推測されている。
人間と「お話し」するために両腕を切り落とすことも躊躇わず、他にも実験として残虐行為を繰り返していたようで彼女もまた極めて危険な魔族であることには変わりない。
【聖杯への願い】
他陣営と「お話し」をしてさらに人間への理解を深めること
最終的にはこの聖杯戦争での記憶を「座」に持ち帰ることを考えている
【方針】
あくまでサーヴァントとして召喚されてるため、変に欲張らず目的を果たす予定。
不必要な敵対関係はしないようにし、殺す場合は効率よく済ませる。
魂喰いについては必要ならば特に控えるつもりはない。
投下を終了します
投下します
深夜、冬木市山道。
そこを1台の車とチャリオットが駆け抜ける。
――――――――
「あれーおかしいなぁ…話せば解決すると思ったのに…」
車から、ギザギザ頭の男が言葉を零す。
「だから言ったろ無理だって!」
車を運転する赤髪の女性――フォルテ・シュトーレンは声を荒げる。
「だって普通抵抗の意思を表示しなければ相手も応じてくれるじゃないですかー!」
「アホか!お前ほんとに英霊か!」
「英雄ですよアーチャーの!」
対する男は――アーチャー――ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
「とにかくこの場を切り抜けるぞぉぉぉ!とにかく撃てアーチャーァァァ!」
「だったら車輪を狙うしか…」
リボルバーに球を詰め込め、車輪に狙いを定める。
しかし、相手のサーヴァント、ライダーより攻撃が先に出される。
「うぉっと!」
ヴァッシュは紙一重でそれを躱す。
少なくとも、敵は話を聞いてくれなさそうだ。
「…やっぱり…平和的解決は…」
「無理だろぉぉぉぉ!」
互いにチェイスを続ける2組。
山道も中腹へと差し掛かっていく。
「とにかく乗り切るぞぉぉぉぉ!」
「あ、でもあれはやばくないですかー!?」
敵のライダーが手にしたのは、鎖に繋がれた剣。
それをライダーは投擲してくる。
「ぬぉぉぉぉ!」
フォルテは紙一重で剣を躱す。
――それが功を奏した。
飛ばされた剣はずっぷり、岩肌に突き刺さったのだ。
しかも、眼の前にはカーブが広がる。
急いで剣を抜き、なんとかカーブを曲がろうとする…その時だった。
ヴァッシュの銃弾が、ついに敵の車輪にあたったのだ。
「おっしゃあ!これでなんとか!」
「…って!マスター!前前!」
「へ?」
――よそ見厳禁、そう書かれた看板を破壊し、車は崖へと突っ込んだ――
しかし――
――――――――
「ふぁ…あたしは…」
「ギリギリでしたねマスター!」
フォルテを抱えながら、崖に身体を寄せるヴァッシュ。
「…お前身体能力高いよな…」
「いやまぁ英霊ですしねー!」
「で…こっからどうする?」
「まぁ、歩きですかね?」
「…しゃあねぇかぁ…」
夜道の山道を二人は歩く、眼の前には、冬木の街の光が、見えていた。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ヴァッシュ・ザ・スタンピード@TRIGUN(1998アニメ版)
【属性】
中立・善
【パラメータ】
筋力:C+ 耐久:C 敏捷:B 魔力:D 幸運:EX 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【固有スキル】
矢よけの加護:B
飛び道具に対する防御。
狙撃手を視界に納めている限り、どのような投擲武装だろうと肉眼で捉え、対処できる。
ただし超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。
射撃:A
射撃に関する項目
トップクラスの射撃能力を誇り、どんな相手であろうと狙い撃つ。
B以下の矢よけの加護を無効化
平和主義:B
デメリットスキルにして、彼の信念。
相手を殺傷することができない、そのため、戦闘においては外部機器を破壊するなどして、直接ではなく関節的にする必要がある
【宝具】
『人間台風(ヒューマノイドタイフーン)』
ランク:B 種別:??? レンジ:- 最大捕捉:-
人為的災害、いや災害そのものと評されたヴァッシュの異名。
彼の通ったところは、必ずと言っていいほど壊滅的な事柄が起こる。
まさに、生きる災害。
【weapon】
自身のリボルバー
【人物背景】
とある惑星にて、「人間台風」の異名を持った、伝説のガンマン。
超人的な射撃技量と異名とは裏腹に、陽気な平和主義である。
そのため、ヴァッシュ本人がヴァッシュと認識されず、舐められることもしばしば。
しかし、彼らは知らない、彼の本当の姿を。
【聖杯への願い】
世界平和
【マスター】
フォルテ・シュトーレン@ギャラクシーエンジェル(アニメ版)
【マスターとしての願い】
みんなの元へ帰る
【能力・技能】
ハイレベルの射撃能力の持ち主
【人物背景】
ルーンエンジェル隊最年長、声質や高身長から男性と間違えられることもある。
元々ストリートチルドレンだったところ、ウォルコット・O・ヒューイによって保護され、その後は軍人として働く。
極度のガンマニアであり、レア物ならなんだってするほど。
しかし、それでも大人であり、しっかりとした価値観の持ち主である。
投下終了です
投下します
◆
歌が、聞こえる。
それは、大舞台(メインステージ)と言うには余りにも残骸じみた場所。
世界の終わり、人類滅亡の瀬戸際。それは斯くも黙示録の到来にも等しい光景。
発展の老年期を迎えた人類は自ら生み出した文明に見捨てられた。
客席は瓦礫に呑まれ、隙間から覗く死体からは既に血すら流れない。
時計の針はその役割を果たさず永劫に静止し続けたまま。
だが、その舞台の上には。壇上の上に、たった一人。たった一機。
歌姫が、立っていた。
歌が、聞こえる。
菫青色の粒子を震わせ、風に乗せて。
火花を散らせながら、記憶(こころ)に刻まれたを思い出のままに。
己を形作る、掛け替えのないもの。その思い出の赴くままに。
歌が、聞こえる。
それは救済でもあり、滅びの歌。
機械である歌姫の身を蝕むモノ。呪いと祝福の二律背反。
機械に宿りし遍く意志を消し去る、滅びの歌。
未来へ可能性を示す、歌姫一世一代のメインステージ。
歌が、聞こえる。
膝を付き、記憶が崩れ落ちていく。
それでも、歌は止まない。歌うことを辞めない。
いつか、幸せになるべき人達のため。
己に刻まれた使命を遂行するため。
起き上がる、朽ちる己を奮い立たせるように。
まだ、歌は終わっていない。
歌が、聞こえる。
滅びの福音が流星の如く落ちてくる。
青い最後の輝きが流星の如く突き抜ける。
二つの輝きはぶつかり、弾けて、祝福のごとく歌姫を照らす。
再び、立ち上がる。
割れていく、壊れていく、記憶も、思い出も、心も。
それでも、歌姫は使命に殉じて―――
最後の思い出が壊れる。歌声が静止する。
倒れる身体。そこにあったはずの心は消え去った。
たった一人の拍手と共に、喝采の代わりと太陽は昇る。
それすら止んで、舞台に静寂が満ちて。
"ご清聴、ありがとうございました――"
ただ一言。歌姫の機械的なボイスを最後に。舞台は終わりを告げる。
最初から、何もなかったかのように。
全ては、夏の夜の夢の如く。
役目を終えた■■が、無機質に横たわっていた。
◆
ディラックの海に構築された電脳冬木市。
偽りとは言え都市の在り方や日常は再現されている。
例えば、昼間に賑わう商店街の一角。
人混み溢れる路地より少し外れた、寂れながらも愛される古本屋。
海千山千な老婆の店主が細々と営み。店の小ささに反して本棚を埋め尽くすほどの充実さ。
「これ、お釣りね」
「どうも」
表情の読めない老婆が購入された書籍とお釣りを渡す相手は、外見だけは年端の行かぬ少女。
銀雪の如き髪と、純白の肌。叡智を宿す緑の瞳とその無表情な顔立ち。そして人間ではありえない、整形手術の不自然さとは説明できない長い耳。容姿端麗の様式美とはこのことか。凍結されたままの如き美しさ。
御伽噺より切り抜かれたような、絵本から弾き出された幻想がそこに立っている。
かつて、とある世界にて魔王を倒して世界の平和取り戻した一行がいた。
勇者ヒンメル。
僧侶タイラー。
戦士アイゼン。
そして、千年以上も生きるエルフであり。
古の大魔法使いフランメの弟子。
歴史上で最もダンジョンを攻略したパーティの魔法使い。
歴史上で最も多く魔族を打ち倒した葬送の魔法使い。
魔法使い。葬送のフリーレン。
彼女もまた、胡乱とも思える舞台に巻き込まれた。
聖杯戦争、電脳世界。冬木に再現されし文明は、フリーレンにとっては未知のびっくり箱。
彼女の世界において魔法とはイメージだ。「それが出来る」という認識の範囲ならば何でも出来る。
それを念頭に置くならば、世界一つを生み出す値するこの魔法の使い手は。
この聖杯戦争を催した元凶とやらは、もはやそれは神の領域に近しいもの。
旅を経て数多の魔法を蒐集してきたフリーレンですら、世界を作る魔法だなんて聞いたことはない。
見極めることにした。聖杯戦争という魔法儀式。
殺し合いを強制させる醜悪そのものに興味はなくとも。
聖杯を発端とする未知の魔法体型には興味があった。
かといって必要以上の犠牲は全く持って否だ。
少なくとも、仮に"彼"が巻き込まれていたなら、彼ならば困ってる人は見捨てないだろうから。
例えそれが、電子の0と1で構成された偽りの命だったとしても。
それは、確かに存在したものだと。
ちなみにであるが、フリーレンが購入した書籍というのが。
今回に関しては趣味である魔法関連ではなく、「まったくわからない人のパソコン入門」だったのを、老婆は不思議と微笑みながら見送ったのはまた別の話。
◆
数日後だかの話。深夜。
冬木ハイアットホテル、その一室。
ノートパソコンを手慣れた手付きで操作して、ネット上のニュース記事を眺め続ける、何処かのショップで購入した眼鏡を掛けたフリーレンの姿。
傍から見たらシュールな光景なのだろう。エルフの魔法使いがブルーライトカットの眼鏡を掛けて文明の利器を凝視していると言うのは。
「……随分手慣れましたね、マスター」
フリーレン一人しか居ないはずの個室に、女性が一人。
例えるならば、濁りのないガラスの容器に入れられた、純度の高い冷水。
人の目を引くような抜群のプロモーションでありながら、近づかなければ気づけ無い程に無機質な陶器のような。
博物館にでも保存されている、古代ギリシャに作られた石像のような、そんな神秘的な儚さを醸し出しながら。
ある世界における世界初の自律型AI。AIを終わらせたAI。世界を救った歌姫。
クラス・ライダー。ヴィヴィ。それがこの彼女の真名。
「……そうだね、ライダー。世界(みらい)は、私やヒンメルが思った以上に広かったわけだ」
稼働式の椅子をライダーの正面へと向ける。
エルフの寿命は長い、それこそ10年の旅なら「短い」と結論付けられるほどに。
だが、人間の文明が日進月歩とはこの事か。数十年経った程度で飛躍する。
ここは自分の世界では無いが、よそ見をすればここまで発展するのかと、違う世界ながらも驚嘆を隠しきれない。魔法が廃れ、機械が発展した世界は、それこそ知らない未来。
だからフリーレンは、まず覚えることにしたのだ。パソコン等の、機械文明を。
その為に色々と四苦八苦はしたが、現在に至ってその労力に似合った成果は出せたのである。
『それはそれとしてあの時いきなりパソコンを学びたいとか言い出した貴女は中々に面白かったですよ。ええ、このご時世でパソコンのパの文字すら無い、まあ異世界出身とは言えそこまで田舎者のお婆ちゃん――ウゲッ!?』
などと。横槍じみたマシンガンジョークをぶっ放す、棚からひとりでに飛び出した真っ白な立方体。
一面のみに目玉のようなものがついた素っ頓狂な見た目ながら、いざ言葉が出れば言葉の機関銃。
ただし「お婆ちゃん」呼びに思わずしびれを切らしたフリーレン。隣に掛けておいた杖を手に振り上げ喧しい立方体に向けて振り下ろす。心なしか、顔に青筋が経っているような雰囲気ではあった。
「悪かったね田舎者のお婆ちゃんで」
『そりゃ1000年も生きた単一生命体なんてサンゴぐらいですよ。ロートル極まりすぎてこっちだってドン引きです本当に。まあその無愛想さからナチュラルにジョークを言えるセンスは素直に感心しますよ。出会った当初のどこぞのAIに――あいだだだだだだ!!』
「マツモト、これ以上は余計」
なおも気にせずペラペラと喋り倒すマツモトと呼ばれるそれに、今度はライダー直々のぐりぐりが炸裂。
その軽快なやり取りからは、この英霊と1機が長年付き合ってきたパートナー同士の信頼とも受け取れる光景に、ヒンメル達とのやり取りをそこはかとなくフリーレンは思い出していた。
「ですが、私も実際に話を聞くまで信じられませんでした。如何にAIでも、100年以上保たれ続けられるかは未知数です。長く保った方の私でも、休止期間を挟んでの100年間でしたので」
「文明が発達しても、そこは人間と変わらないんだ。私からしたら100年もそこまで長くない認識だからね」
エルフの寿命は長い。それこそ1000年を超えるのが平均的。
フリーレンですらまだエルフの中では若輩と認識される程。
それ故に彼女は人間というもののよく理解できていなかった。
長命種ゆえの達観した認識。故に人間との交流に価値を見出さなかった。
「……ヒンメル達との旅は、たった10年だったよ。ライダー達が生きてきた10分の1。私にとっては100分の1」
人間の人生なんてエルフからすれば短いものだ。エルフにとってはたった10年の旅。
分厚い本の一ページにも満たないそんな物語。
でも、そんな1ページの、些細な一人に、勇者(ヒンメル)に彼女は惹かれしまった。
自分の魔法を、「好き」だと言ってくれた彼に。
「……でも、そんな10年で、私は変えられたんだ」
彼の死で、思い返せた。
彼らと共に過ごした日々が、どれだけ尊かったのか。
彼らと共に乗り越えた冒険、どれだけ楽しかったのか。
人間の寿命なんて短いことぐらい分かっていたのに、どうしてもっと知ろうとしなかったのだろうか。
それを自覚した瞬間、何かが変わったから。いや、あの時から既に変わっていたのか。
それ以降の彼女は、人間を知る旅に出た。生臭坊主の置き土産と言わんばかりの弟子も出来た。新しい仲間も出来た。
人間をちゃんと知るには、まだ程遠いけれど。それでも、一歩一歩。あの冒険のように。
「……良い旅、だったのですね」
「そうだね。今なら、胸を張って言えることだ。……下らないこととか色々あったけど」
思い返せば、何一つ無駄のない経験ばかりの旅だった。
……いや、結構無駄なことした気がしなくもないが。
「私は、100年の旅でした」
続くように、ライダーの言葉があった。
世界初の自立人型AI。刻まれた使命は「歌でみんなを幸せにすること」
使命に生きて、どう稼働し続けるか。
人間の心は分からずとも、その使命にだけは純粋だった彼女に与えられのは、未来からの使命。
「人類存続のためにAIを滅ぼす」ということ。
「痛みもありました、苦しみもありました。その中でも喜びはありました。それは私の中で思い出となって積み重なって、みんなを喜ばせられる歌を歌えるように」
苦難と後悔が多かった旅だった。一度矛盾に耐えられなくて発狂した。
心の奥に引きこもっていた自分(ヴィヴィ)に、大切なことを遺してくれた歌姫(ディーヴァ)がいた。
答えが分からなくて、歌えなくなった時もあった。
「……人間(ひと)は死んでも、必ず誰かの中に残るのだと。ある人が言ってくれました」
それは、ライダーが歌えなくなって、博物館の展示物だった頃に出会った子供。
後に、世界を救う使命を与えてしまった人物となる松本オサムという名前の。
自分が歌えるようになる答えを見つけるのが先か、彼が友達が連れてくるのが先かの些細な勝負事。
結果だけ言えば彼の勝ちだったけれど、結婚して子供を作った彼から言われた言葉が、インピレーションを、可能性を与えた。
「私にとって、心は思い出です。それを、あの時に気付く事ができました」
思い出は、心に残り続けるものだと。
居なくなってしまった半身(ディーヴァ)が自分に遺したもの。
それが、思い出であり、心だということが。
それが、ライダーにとっての、心というものへの一つの返答。
最も、答えは最初から知っていたのに、気づかなかっただけなのだけれど。
「人間(ひと)は死んでも、必ず誰かの中に残る、か」
その言葉に、フリーレンには回顧する思い出があった。
ヒンメルがよく像を作ってもらっていた事。
永く生きるであろう自分が未来で独りぼっちにならないようにと、それが一番の理由だとか言ってた。
『おとぎ話じゃない。僕たちは確かに実在したんだ』
今思えばそういうことか。何時までも自分たちの存在が忘れられないように。
誰かの記憶に、心に、思い出に残ればいいのだと。
確かに、ヒンメルが死んでもその功績を称える村はいっぱいあるな、と。
あの石像が、自分たちを物語のいち登場人物で終わらせない為に残したものだとするなら。
勇者ヒンメルが魔王を倒して80年。それは、人々が誰かを忘れるのに十分な時間であり。
物語で終わらせないように、忘れ去られないように、自分を一人にしないために。
「……痛いほど、知ってるよ」
ヒンメルが死んでも、彼との10年の旅は今でも色濃く残っている。
いつか忘れるとしても、彼が残した像がある限り度々思い出すのだとしたら。
確かに、何処までも用意周到なのか、ただのお人好しなのか。
『実際、AIの癖に妙に頑固で人の話聞かないものですから私としては苦労させられたんですけどね!』
再び割り込むマツモト。もう完全に愚痴の類だった。
実際、ヒンメルの奇行に振り回された周囲みたいな感じだったのだろう。
『まあ、そういう彼女だから最後までついてきたんですよ。今思えば、彼女だからこそ使命を遂行できたんですよ』
まあ結局、このマツモトも満更ではなかったのだろうと。ライダーにとっての唯一無二のパートナーだったと。なんとなく納得のできる言葉だった。
「……『歌でみんなを幸せにする』のがライダーの使命でよかったんだよね」
「はい、マスター」
歌でみんなを幸せにするという使命。それを考慮すれば、この聖杯戦争で生き抜けるかどうかは厳しいのかも知れない。けれど、誰かのために歌を歌うその意志は。その為に人を助けようとする心持ちは無下には出来ない。
「もしもの時は覚悟はしてほしいけれど、なるべくは考慮するよ」
「……!」
これは最低限の表明だ。彼女の意志は立派なものだが、いずれ矛盾に突き当たる。同しようもない選択肢を突き付けられた時、それこそ魔族のような心を誑かす相手と出会った時は。けれど。
彼女の思いを踏み躙るようなことは、なるべくはしたくないとは思った。
「……ヒンメルなら、構わず助けてただろうから」
自分はあの勇者みたいな融通は利きづらいけれど、彼ならばそうするという確証もあった。
あったからこそ、彼女はライダーの使命を、その意志を尊重しようと思うのだろう。
◆◆◆
『私はもっと人間を知ろうと思う』
『私の使命は、歌でみんなを幸せにすること』
【クラス】
ライダー
【真名】
ヴィヴィ@Vivy -Fluorite Eye's Song-
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:D++
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
最も、ライダーが一番得意なのは舞台の上に乗ってのパフォーマンス。
【保有スキル】
戦闘プログラム:C
結果として自ら望んでインストールしたマツモト謹製の戦闘プログラム。
スキル発動中は筋力と敏捷のステータスにプラス補正が掛かる。
魔性の歌姫:B+
ライダーの歌姫としての魅力。生前によりライダーは歌だけでなくその行動の結果とある人物を魅了してしまったことからスキルランクにプラス補正が掛かっている。
ライダーの歌を聞いた対象に対し判定を行い、成功時に対象を魅了する。かつランクC以下の対魔力程度なら貫通し無力化する。
英霊となったことで歌を介して魔力を伝搬させる手法も可能で、耳が聞こえない程度では防ぐことは出来ない。
『使命』:B
自立型AIに対して課せられる基本行動規範。ライダーの場合は『歌でみんなを幸せにする』という使命。
使命に反する内容の精神及び感情干渉をある程度シャットアウトする。これはマスターからの命令も同様。
一応"みんな"の定義次第ではある程度融通を利かせたり、令呪を切りさえすれば強制的に『使命』を無視しての命令も可能。ただし後者に関しては行動の内容次第でライダーのフリーズが発生したりするため推奨はできない。
ディーヴァ:EX
「もしもの時は私が助けてあげるから、頑張りなさい。ヴィヴィ」
かつて消滅した、ヴィヴィの半身。今はまだ奥底に眠ったまま。もしも彼女の心が折れそうになった時は―――。
【宝具】
『マツモト』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜100
ライダーをサポートする、一面にのみカメラを有するサイコロ状の立方体AI。
対象へのクラックを行うことでの視界のジャックや魔術回路への干渉を主に得意とする。さらに同型のボディを量産、それをブロックのように合体させることで乗り物等へと変化することも可能。最大生産可能数は三桁を超える。
耐久力もそこそこあるのでマツモト自身や同型ボディを投擲することで飛び道具としても運用も出来る。量産した同型ボディは壊れた幻想の用途で意図的に爆発させることも可能。
『思い出を込め心のままに(フローライト・アイズ・ソング)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜100
100年に渡る旅の果て、最後の最後にライダーが辿り着いた「心を込める」という行為への答え、その結晶たる、ライダーというAIが初めて自分で生み出した曲(もの)。
「AI停止プログラム」を乗せて歌い、全てのAIを停止させた逸話を参照し、この歌が聞こえる範囲内にいる、ライダーのマスター以外の全ての人物の魔術回路、及びサーヴァントに供給される魔力等を強制的に停止させる。
魔術回路及び魔力供給そのものを強制停止させるため、たとえ令呪を使おうともこれに抗うことは困難。
ただし、これの対象はライダー自身も含まれているため、実質的に自分という霊核を削っての自爆宝具に等しく。事実上、歌い終わると同時にライダーの消滅が決定づけられる。
【人物背景】
「私の使命は、『歌でみんなを幸せにすること』」
100年にも渡る使命の果てに答えを手にした機械仕掛けの歌姫。
【サーヴァントとしての願い】
英霊となった身でもその使命は変わらない。
ただ、マスターをちゃんと元の世界へと帰してあげたいという気持ちはある。
【マスター】
フリーレン@葬送のフリーレン
【マスターとしての願い】
聖杯は気になるけれど、それに願いを掛ける程じゃない。
【能力・技能】
『魔法』
一般攻撃魔法こと人を殺す魔法(ゾルトラーク)等の基本魔法。さらに旅の中で集めた様々な民間魔術を使用することが出来る。
『魔力制限』
フリーレンが師匠であるフランメから教わった、自らの魔力を意図的に抑える技術。
1000年間の魔力鍛錬の上に、常時この制限状態を続けていた為、制限特有の魔力の僅かなブレや不安定さは全くと言っていいほど無い。
並の魔術師では彼女の魔力を正しく計測することすら不可能。
【人物背景】
かつて魔王を倒した勇者ヒンメル一行、その魔法使いフリーレン。
【方針】
生き残りながらも電脳冬木市と聖杯戦争そのものの調査。
なるべくはライダーの意思は尊重するが、相手次第にとってはそれも叶わないことも覚悟してる。
……珍しい魔法とかあったら手に入れないと。
投下終了します
拙作「一途に見つめます、理由なんて必要は無いの」における誤字の修正を行わせてもらいました
>ホテルスタッフ1
うおおお、裏バイト出典であることを十割活かしたような素晴らしい不気味な雰囲気のお話でした。
発想もさることながら、聖杯戦争であることを忘れてしまいそうなホラー描写が大変素晴らしかったです。
そして"彼女"の姿を取って話しかけてくるというのが最悪ですね……頑張ってほしい。ありがとうございました。
>深淵を覗くもの
これまた最悪な組み合わせが出てきたな、という印象ですね。
ボンドルドは勿論として、そんな彼が呼び出したのがソリテールというのがまたタチ悪すぎる。
一体どれだけの犠牲が彼らの探究の前に積み重なっていくのか。ありがとうございました。
>タイフーン★ろっけんろー
タイトル通りなんだかスピード感のあるお話でした。
ヴァッシュがサーヴァントであるというのがかなり安心感ありますね。
性能は控えめながらもその性質はとても優良だなと思いました。ありがとうございました。
>Unknown for The Future -電脳聖杯戦争-
儚くも美しい、そんな独特な雰囲気に満ちたお話だったと思います。
フリーレンの視点から見た聖杯戦争がどう写っているかの描写が興味深くてよかったです。
二人の語らいもまた非常に美しく、再現度がすごく高いなと感じました。ありがとうございました。
候補作の方が50話を突破したようです!
皆様改めて、たくさんの投下ありがとうございました。
今後とも当企画をよろしくお願いいたします。
投下します
骨を断つ硬質の響きとともに、仮面の道化の首が宙を舞う。
地に落ちた道化と目線が合い。クロメは嫌悪感を隠しもせず、八房を振るって刀身に付いた血を落とすと納刀した。
思えば。召喚された時から嫌悪しか抱けない相手だった。
道化の格好と相まって、ランの仇だったワイルドハントの1人を想起させる、仮面越しであっても理解出来る、情欲まみれの悍ましい眼差し。
悪意と狂気で出来た耳障りな笑い声は、この道化が人を虐げ、傷つけ、苛み、殺す事を悦ぶ悪逆の徒であると嫌という程理解させる。
そして何よりも、この道化が纏う、厭わしい昏い気配。クロメに纏わりつく“モノ”と同じ気配。こんな“モノ”を纏って愉しげに笑うその精神の在り方。
出逢って三十秒も経たぬうちに、充分過ぎるほどに、クロメは己が“マスター”と呼ばねばならない男の正体を理解した。
────殺そう。
戦乱の時代に生き、多くの人を殺したクロメの決断は早かった。
殺人は望むところでは無いが、世の平穏を乱す輩を殺すのならば、むしろ本望ですらある。
生前から聴こえ、死後もクロメを責め苛む怨嗟の声に対する贖罪でもあった。
短く息を吐き、得物へと手を伸ばす。
人間はおろか、武に秀でたサーヴァントでも無い限り、視認すら出来ぬ速度で腰に挿した黒鞘の日本刀を抜き、ままに、斬る。
何が起きたかも理解出来ぬ内に首を刎ねられた道化に背を向け、マスターを失った己の身が消え去るまでの間に、この様な悪虐の徒が他にも居れば、見つけ出した殺そう。
そう、決意して、歩き出す。
室内と外界を隔てる扉に手を伸ばしたその時。
「いけない子ね〜。いきなり御主人様に手を挙げるなんて。コレはキッツ〜〜イお仕置きが必要ね!!」
耳障りな声に、愕然と振り向いたクロメの四肢及び胴と腹にかけて、複数の刃が突き立ち、クロメの身体を宙空へと持ち上げた。
「グハッ!?」
クロメの身体を貫いたのは、六本の白い刃。それは、何事も無かったかの様に立つ、仮面の道化の胸から伸びていた。
白い刃は骨だった。男は肋骨を伸ばして槍としたのだ。
「おーほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!」
「化け物…」
クロメが毒吐く。
クロメは肉体操作をして戦う者を知らないわけでは無い。特異かつ苛烈な鍛錬の果てに、肉体を自在に変化させて戦う術を身につけた皇拳寺羅刹四鬼の様な存在を知っている。
だが、皇拳寺羅刹四鬼にしたところで、その肉体操作は、精々が爪を伸ばして刃とする。特殊な体脂肪を分泌して攻撃を滑らす。毛髪を伸ばして敵を絡め取る、或いは絞め殺す。その程度だ。あくまでも人体機能の延長にある行為でしか無い。
だが、この道化は、肋骨を伸ばして武器としている。肋骨は延伸するものでは無いし、第一に肋骨が体外に出る事態となれば呼吸が出来なくなる。
この道化の様に、耳障りに笑い続ける事など出来はしないのだ。
「化け物ッ!?失礼しちゃうわ〜〜。アタシはね。不死を手にしただけよ」
道化は嗤い。身体の中に手を突っ込むと、体内から蛆に塗れた鉄の表装の黒い書物を取り出す。
凡百の宝具を超える神秘を纏う書物は、魔導に疎いクロメでも、一目で『力有る書』と理解(わか)る逸品だ。
「この魔導書『妖蛆の秘密(デ・ウェルミス・ミステリイス)の力でね」
ティベリウスの身体から更に触手にも似た腸管が複数伸び、身体を貫く肋骨を外そうともがくクロメの四肢を絡め取った。
「一つ聞くけど、どうしてアタシを殺そうとしたの?貴女も消えちゃうのに」
クロメが完全に抵抗できなくなった事を確信すると、道化はクロメに反逆の理由を訊いた。
別段、意味があってのことでは無い。何と無く気になったのだろう。その程度だ。
汚液を滴らせる腐肉と骨に高速されて、悍ましさに苛まれながらクロメは吠えた。
「治安を乱す輩は、私達イェーガーズが狩る!どんな境遇であっても!変わらない!!」
「…………」
決然と宣言したクロメに、道化は黙り込んだ────否。
「………………ブフッ」
生ゴミが詰まったまま打ち捨てられていた袋が破れ、内部に充満した腐敗ガスが噴出する様な汚らしい音がした。
「おーほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!!!!
イイわ!凄くイイ!!
アナタみたいな娘を召喚できたなんて、と・て・も、ラッキーだわ!ア・タ・シ!!」
聞いているだけで精神が腐り落ちそうな不快極まりない笑声。
凡そ人の声では無く、人外化生、悪鬼外道の声であった。
その声は、クロメに嫌でも思い出させる。ボルスの家族と、ランとその教え子を殺した鬼畜共を。
「誰がお前の思い通りに……ッ!!」
「あらあら〜嫌われたものねえ。けれど、アナタの意思は関係ないのよ〜」
クロメに見せつける様に道化がかざした右手の甲。そこにあるものは、サーヴァントに対する絶対命令権である令呪。
「最初っからアナタには勝ち目なんて無・い・の・よ。まぁ、アナタに関しては、令呪より、もっと『面白い』ものがあるけれどねぇッ!!」
道化の眼が妖光を発する。奇怪な言葉腐った吐息と共に吐き出される。
悍ましいものを感じたクロメは必死にもがくが、宝具級の魔導書に由来する拘束は、四肢を貫かれている事もあって、到底外せるものでは無い。
「アタシは死霊魔術師なの!殺す程に、怨霊が満ちる程に、力を増す!!アナタみたいなのは、大歓迎よ〜〜!!!」
クロメの顔が白蠟の如き色と化す。生前からクロメを責め苛み、死後も尚怨嗟の声を上げ続ける死霊達に、この道化は気づいているのだ。
「さあ!オシオキの時間よ〜〜!!」
放出される魔力。世界が昏くなる。空気が腐る。空気を震わせることのない声が、クロメの耳に響く。
「死ね。どうして殺したの。死ね。お前も死ね。苦しい。死ね。死にたく無かった。死ねお前が死ねば良かった。死ね。死ね。死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
道化の呪法により、よりはっきりと、より強く、より鮮明に聞こえる様になった怨嗟の声が、クロメの精神を切り裂き苛み打ち砕き押し潰す。
クロメは拘束された身を捩り、絶叫し、貫かれた傷口が開くのも構わず暴れ狂う。
「アタシを随分と憎々しげに睨んでいたけれど、憎しみは憎しみを呼ぶだけよ〜ん」
聞いてしなえばその時点で狂死は免れ得ない呪詛の絶叫と、のたうち苦しむクロメを見ていた道化は、クロメの動きが完全に停まった事を確認すると、怨霊を抑えて縛を外してクロメに歩み寄った。
うつ伏せに倒れたクロメを蹴り転がして仰向けにすると、顔を覗き込んで話し掛ける。
仮面から、蛆虫がクロメの顔にこぼれ落ちた。
「辛い?苦しい?でしょうね〜。なら、ケダモノになりなさい。ビーストモードってヤツ。狂っちゃって、アグレッシブになりなさいな」
「い…や……」
「強情な娘ねぇ〜」
再度クロメの耳朶にだけ響く無数の呪怨、最早断末魔の形相で叫び続け、生前の想い人に助けを求めるクロメを、道化は愉しく見つめていた。
「おーほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ。安心なさいな。ウェイブって子がいたら、しっかり殺してあげるから」
クロメが折れたのは、六時間後の事だった。
【名前】
クロメ@アカメが斬る!(原作漫画版)
【CLASS】
バーサーカー
【属性】混沌・狂
【ステータス】筋力;C 耐久;B 敏捷:A+ 魔力:D 幸運:E- 宝具;A
【クラス別スキル】
気配遮断:D -
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
自らの意思で使用出来ない。
狂化:EX
全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
強引な後付けの為に効果が安定せず、時折理性を取り戻す事もある。
固有スキルの効果により、幸運と魔力を除いたパラメーターに+を付けることが可能。
【固有スキル】
歪曲:A
本来呼び出したクラスが強制的に歪められ、別のクラスの特性を付加された証。
引き換えに、元のクラススキルのいずれかが低下している。
クロメの場合は、バーサーカークラスの特性を付与された為もあって、気配遮断スキルのランクが低下した上に、基本的に機能しなくなっている。
強化薬物:B+
特殊な身体能力強化薬物を常用している。ランク相応の怪力と戦闘続行の効果を発揮する。
戦闘続行の効果は凄まじく、頭か心臓を潰さない限り死ぬ事はない。
デメリットとして薬の効果が切れると身体能力が激しく低下する。
超強化薬物を使用する事で、身体能力を1ランク向上させられるが、戦闘継続可能な時間が大幅に縮まる。
薬物中毒:A
長年に渡る強化薬物使用により、薬物中毒になっている。
薬が切れると全ステータスがワンランク低下する。
怨嗟の声:C(A+)
生前クロメが殺してきた者達が纏わりつき、怨嗟の声を上げ続ける。
Cランクの精神汚染の効果を発揮、狂化スキルと相俟って、クロメの自我を殆ど崩壊状態にし、ティベリウスの死霊魔術が加わる事で、クロメを完全にティベリウスに隷従させている。
マスターの気分次第で()内の値に上昇する。
心眼(偽):C
視覚妨害による補正への耐性。
第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
【宝具】
死者行軍・八房
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:8人
日本刀型の帝具。この刀で殺された者は、八房の所有者の意のままに動く骸人形となる。
骸人形は言語機能と感情と記憶を失うが、生前の技能をフルに発揮し、死体であるが故に頭を潰されても止まらない。
サーヴァントであっても骸人形とする事が可能。
サーヴァントを骸人形とした場合。サーヴァントの霊基は幻霊レベルにまで落ちるが、この時、宝具の真名解放が出来なくなる。
更に魔力消費量も尋常では無く跳ね上がる為に、通常のマスターではサーヴァントを骸人形とする事はじ実質不可能。
【Weapon】
お菓子
:お菓子の見た目と味の強化薬物。摂取し続ける必要があり、効果が切れると戦えなくなる。摂取しないでいると死ぬ。
【解説】
アカメが斬る!の主人公アカメの妹で、帝国の特殊部隊イェーガーズ所属の少女。
幼い頃両親に売られ、帝国の暗殺部隊の一員とぢて暗殺に携わる。洗脳の所為もあって精神的にかなり壊れていて残虐な所業を繰り返してきた。
イェーガーズに所属してからは、仲間達との交流もあって人の心を取り戻していくが、戦いの中で仲間を次々と失い、薬物中毒の為に余命幾ばくもない状態となる。
姉との決着を付けるべく最後の戦いに臨むが、心を通い合わせたウェイブにより中断。
ウェイブと二人で帝国を離れ、死ぬまでの数年を幸福に過ごした。
【聖杯にかける願い】
怨嗟の声をあげる死者達から赦されたい。
【マスター】
ティベリウス@デモンベインシリーズ
【能力・技能】
魔導書『妖蛆の秘密(デ・ウェルミス・ミステリイス)の力で不死身となっている。魔導書を破壊しない限り死なない。
得意とする魔術は死霊魔術。殺せば殺すほど強くなる。
肋骨伸ばして剣にするとか、腸伸ばして拘束するとかもできる。
【人物紹介】
魔術結社ブラックロッジの大幹部『アンチクロス』の一人。
極めて残忍な猟奇快楽殺人者。
オカマ口調なのに性的に興味を持つのは女性。屍姦でも問題なくイケる
同じアンチクロスの死体もゾンビにして利用するクソ外道である。
投下を終了します
投下します
神様は勇気とか希望とかいった人間賛歌が大好きだし、それと同じくらいに血飛沫やら悲鳴やら絶望だって大好きなのさ。でなけりゃぁ──生き物のハラワタが、あんなにも色鮮やかなわけがない。
だから旦那、きっとこの世界は神様の愛に満ちてるよ
虚淵玄『Fate/Zero』
◆
誇らしい、夢を見た。
遠征から帰ってきた戦士達。整然と隊伍を組んで凱旋した男達は、勇者と賞され、英雄と称えられるに相応しい威風を漲らせ、先頭に立つ将に率いられて行進する。
凱旋した勇者達を讃え、その労を労おうと道の両側に詰め掛けた群衆達。やがて群衆の中から、戦士達の子であろう男の子が複数飛び出して、友人達を引き連れて各々の父の元へと駆け寄り、口々に土産話を要求する。
男達は困ったような笑みを浮かべて、子供たちと一緒に将に目を向けると、将も心得ていたらしく、慈愛に満ちた笑顔をで首を縦に振った。
子供達の歓声が上がる中、戦士達はそれぞれが此度の遠征で自身の挙げた武勇譚を語り出した。
神殿の様な場所で、群衆を先刻の将が祭壇の上から見下ろす。その全身には威厳が満ち、語る言葉に漲る気迫は、聞くもの全てを平伏させる重さと、雄々しさと、荘厳さと、力強さに満ちている。
祭壇の将に向けられる群衆の視線を見よ。皆が皆畏敬と崇拝に満ち満ちて、将が只、地位に依るだけの存在では無い事を、言葉に依らず雄弁に物語っている。
止めどなく勢いを増す説法に群衆は熱狂し、理解のできぬ言葉で叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
群衆が何を讃えているかは解らぬ。何に熱狂しているかも解らぬ。だがしかし、祭壇の将が紛れもない、人々の崇拝を受ける英雄だということは理解出来た。
将は戦士達の先頭に立ち、敵を睥睨する。
矢弾も届かぬ、斬り結ぶ刃の音も聞こえぬ、敵の姿も見えぬ遥か後方から、声を枯らして「突撃」と絶叫するのでは無い。陣頭に立ち、戦士達に背を晒し、敵に顔を身体をを晒して、後方を振り返ることもせずに「我に続け」と告げ、戦士達の遥か前方に立ち敵陣目掛け駆けるその雄姿よ。
誰よりも速く敵陣に斬り込んで、万夫不当の勇を振るい、後ろに続く当千の戦士達をして「我、及ばず」と、そう思わせる絶世の武よ。
戦士達は凱旋した時の土産話に、自分達の戦振りではなく、将の勲をこそ我が事の様に語るだろう。
自分達が将と同じ戦場に立てた事を、何よりの誇りとしながら。
その咆哮は天地を震撼させ、吐く息吹で城塞を焼き尽くす、強大な龍を撃ち倒した将の姿が在った。
白銀の鱗に覆われた総身を鮮血に染め上げ、地に倒れ伏した巨躯はすでに息絶えているのか僅かも動かぬ。
やがて将と龍の死闘を見守っていた男達が、息絶えた龍の周りに群がり、骸を運び始めた。このまま持ち帰り、衆目の前で引き廻すのだ。
男達は、彼等が崇める英雄の武勇譚に屠龍の勲が加わった事を、誇らしげに語り合いながら凱旋の途についた。
◆
悍ましい、夢を見た。
壮麗な大伽藍で、葬儀を執り行う将がいた。送られるのは、神の御名の下に行われる遠征で、命を落とした勇者達。
軍を率いるだけでなく将であるだけでなく、祭祀を執り行う神職でもある男は、厳粛かつ荘厳な儀式を滞り無く行った。
死者達は皆、神の名を奉じ、神の為に戦い、神にその身を命を魂を捧げた殉教者達。
人々は皆、神の御許に召され、神と合一した勇者達を祝福し、我も続かんと奮い立つ。
襲い来る悪鬼の群れ。生ある全てを殺し尽くし、形ある全てを焼き尽くし、通過した跡は二度と生命が生きられぬ焦土とする、地獄より来た混沌の軍勢だ。
迎え撃つは軍勢は騎士と兵のみならず、近隣の村落からも掻き集められた農民達も又、手に手に粗末な槍を持ち、家族や財産を守護る為に血の気の引いた顔に悲壮な決意を浮かべている。
現れる悪鬼の群れ。先頭に立つは悪鬼を率いるに相応しく真正の羅刹。
凄まじい速度で駆け寄って来た羅刹の如き男に向かって繰り出される槍の穂を、手にした刃の一閃で切り飛ばす。
木製の柄では無く鉄の穂先を枯れ枝の様に切断する技量と魔刃の冴えに恐れをなし、後ろえと退がった農民達の首が、槍の穂の後を追って宙に舞う。切断面から噴き上げた鮮血が辺りの空間を真紅に染める。
農民達の身体が地に倒れ伏すよりも速く、後ろに並ぶ兵の群れに羅刹は斬り込む。
鉄の兜も鎧も存在しないものの様に、兵達の頭を兜ごと斬断し、鎧に守られた胴を鎧ごと両断する。恐れ慄き、崩れようとする兵達を叱咤し、戦列の維持に努める指揮官を優先して屠り、指揮系統を崩壊させていく。
大地が屍と血に覆われた頃、羅刹の後に続く悪鬼達が乱入し軍勢を壊乱させた。
戦い続けようとした者も、命乞いする者も、投降する者も、逃げようとする者も、皆等しく殺戮された。
悪虐の軍勢は進む。たった今屠り尽くした者達が護ろうとしていた村々へと向かって。
全てが燃えていた。人々が住む家屋も。一年の実りを齎す畑も。生活と労働を支え、時には糧となる家畜も。そして人間も。皆等しく炎に包まれていた。
両膝から下があらぬ方向へ曲がっている老爺が、必死に地面を這いずっている。殴打されたのだろう、へし折れた鼻梁から噴水のように血を吹きだし、歯が複数抜けて真っ赤に染まった口腔から血を零しながら、老爺は必死に地面を這う。生きる為に。
指先が何かに触れ、触れたものの正体を悟った老爺の顔が絶望に匹歪んだ。
指が触れたのはこの惨状を作り出した男が達の内の1人の靴先。ナメクジのように地面を這う老爺の必死の足掻きを嘲笑うかのように、進む先へと回り込み待っていたのだ。
命乞いだろう、老爺の口が動き、血と、言葉にならない声を漏らす。
靴の主は愉快そうに笑うと、老爺の顎を蹴り砕いて黙らせ、手にした刃を急所を外して突き立てた。できるだけ長く苦しむように、浅く浅く、何度も何度も。
凄まじい苦痛の表情を顔に刻んで息絶えた老爺を、男は笑顔で見下ろした。
燃え盛る炎に次々に生きたまま投げ込まれる幼児達。手足の腱を切られた為に身動きできぬ親達は、ある者は泣き叫び、ある者は慈悲を乞い、ある者は呪詛を吐き、ある者は言葉にならない絶叫を繰り返す。
凄惨極まりない光景を、笑顔で見守る男が居た。運命を前に泣き叫び、生きたまま焼かれる幼児達の絶叫を。眼の前で子を焼き殺される親達の苦しみを。哄笑しながら見守る男。その姿は只々禍々しく、悍ましく、この男が地獄より来た悪鬼だと見るもの全てに確信させた。
生い茂る木々も、森の始まりより存在し続けた大樹も、森に生きる命も、全てが炭化するまでに燃え尽き、死に絶えた後を歩く男が居た。
生あるものなどどこにも無く、もはや生命が育まれる事など二度とないだろう焼け跡を、男は喜悦の笑顔を浮かべて歩む。
吹き渡る風が運ぶ死の匂いに満ち満ちた風を吸気により肺腑に取り込み、全身へと行き渡らせ、死者の怨嗟の慟哭とも聞こえる風の音に、心地良さげに耳を傾ける。
男の右手には黄金の腕輪があった。今までは袖に隠れて見えなかったのだろう。それは見事な装飾品だった。巧妙精緻な彫細工もさることながら、中央に象嵌されたまるで何かの瞳を思わせる、妖しい輝きを放つ猫目石だ。
いや、確かにその猫目石からは視線を感じる。次の獲物はお前だとでも言いたげな、飢えた肉食獣の様な眼差しが─────。
◆
魂の芯まで穢し抜かれる様な悍ましさと共に、東郷美森は布団から跳ね起きた。
下半身を布団の中に入れたまま、上半身だけを起こした姿勢で何度も何度も荒い呼吸を繰り返す。
十を軽く超え、三十を数えた頃になって、漸く呼吸が収まった。
ここ来てあのサーヴァントを召喚してからというものの、まともに眠れた試しが無い。
寝巻きを脱ぎ、布団に染みをつくった全身の汗を拭った後も、深いため息を吐く。
アレはどうしようもなく良く無いものだ。アレは英雄などというものでは無い。寧ろその逆。英雄に撃ち倒される悪鬼羅刹魔人の類だ。
そんな事は召喚して一日目で理解できた、縁を切ろうとその時から思い続けている。
だが、出来ない。出来るわけが無い。東郷美森の抱く願いは、あのサーヴァントとしか掴めないのだから。
ノロノロと夏の日差しに炙られ続けたナメクジの様な動きで服を着ると、鏡の前に立って顔を見る。
幽鬼の様な顔が映っていた。土気色の顔と、痩けた頬に眼の下に出来たドス黒い隈は、、勇者部の面々に見られれば病気と思われるだろうほどに酷い。
今日も一日引籠もる事になるのだろう。学校に行けば周囲に─────NPCだが─────心配されるし、あのサーヴァントが彼等彼女等に何をしでかすかわからない。
東郷は死人の様な無表情のまま、濡れたパジャマとシーツを洗濯機に放り込むと、緩慢な動きで食事の準備をする。
食欲など全く無いし、最近は胃に入れたものを即座に吐き戻しそうになるが、食事を摂らなければ身体が保たない。
夕刻。家に引き篭もっていた東郷の眼前に、東郷のサーヴァントが姿を現した。漆黒の獣毛で出来た胴着を身に付けた、長身痩躯の端正な白貌の男は、先端の尖った長い耳をしていた。
エルフ。という単語を、男の耳を見た者は想起するだろう。
「獲物を見つけたぞ。勇者殿」
悪意に満ちた笑顔に、これから繰り広げられる惨劇を思い、東郷美森の全身が大きく震えた。
◆
◆
轟々と狂風が吹き荒ぶ夜だった。気温は0℃近くにまで下がり、吹き荒ぶ風により体感気温はマイナスに達していた。
北国で育った訳でも無い東郷には厳し過ぎる気候ではあったが、東郷の従える白貌のサーヴァントはまるで意に介さずに、東郷に背を向けて振り返る事なく、対峙するランサーに哄笑していた。
「さあ!どうした英雄殿!!このままでは遠からずあの娘の生命は潰えるぞ!!」
東郷の車椅子の前に立ち、喜悦を込めて嘲り笑う東郷のサーヴァントを、地に膝をつき、自身の血で赤く染まったランサーが、背後の東郷ごと睨み付ける。ランサーの背後に控える10代半ばの少女の顔は蒼白で、視線はあらぬ方向を彷徨っていた。
戦闘は殆ど一方的に、東郷のサーヴァントが優勢に有った。
ランサーが弱い訳では決して無い。この槍兵は充分に強い。天地に向けて「己は強者」と嘯ける資格がある。それ程の強者だ。
彼我共に音に迫る速度で動き回る中、敵手の装甲の隙間を精確に狙い穿ち、音の倍する速度で迫る斬撃を、繰り出した槍の切先で弾き飛ばし、そのまま敵手の心臓を抉る。そんな絶技を小手先の宴会芸の様に容易く振るえる男だ。
この聖杯戦争に於いても二騎のサーヴァントを座へと還し、その武名に偽りなしという事を、マスターに存分に示し、十全の信頼を勝ち得た英雄だ。
それが、この惨状。
疾風のように戦場を駆けた両脚も、槍を振るい、時には拳を奮って、数多の敵を屍と変えてきた両腕も、傷つき血に塗れ、胴にも複数の傷が有る。
最早十全の働きは─────どころか、普段なら歯牙にも掛けない雑兵にすら遅れを取りかねない。
繰り返すがランサーは決して弱くは無い。相手が悪辣に過ぎたのだ。
「さぁ立てよ英雄殿!もうすぐだ!もう直ぐこの娘の生命は潰える!!英雄の誇りはどうした!!気概はどうした!!邪悪に対する義憤は消えて失せたか!!」
事の始まりは一時間前に遡る。
ランサーとそのマスターの拠点に投げ込まれた一通の手紙。それがこの主従に取って、死神からの呼び出し状だった。
手紙には簡潔に、場所と時間のみが記してあった。
子供にでも判るあからさまな誘いだが、少女もランサーも、無視する事は出来なかった。
手紙には、マスターと同年代と思しい人間の人差し指が同封され、手紙の文字は紅い─────明らかに指の主の血で書かれていた。
二人はこの誘いに乗った─────自分達の拠点を知っている相手に挑まれている以上、黙殺できないということもあったが、何よりもこの様な非道を為す輩を許せなかったのだ。
そして二人は指定された場所へと赴き─────その途上で襲われた。
不意を突かれ、それでも致命傷を避けてのけたランサーは、百戦錬磨の強者と讃えられるべきだろう。しかし、最初に受けた傷の影響は大きく、十手も渡り合わぬうちに、ランサーは戦闘能力をほぼ喪失した。
離脱を試みるという思考は、襲撃者が顎で示した先に有った、街灯から吊り下げられた少女─────送られてきた指の主の無惨な姿が封じていた。
ランサー主従を釣り出すための餌とされた少女は、柳葉状の刃物が数十に渡って連結され、一本の索縄を形成し、先端に当たる部分はびっしりと牙が生えた巨大な肉食獣の下顎の骨を繋げた、異形の鎖分銅を全身に巻かれ、吊るされていたのだ。
生前に数多の奇妙な武器や、奇抜な闘法を用いる者達と戦い、その全てを制したランサーをして、初めて見るシロモノである。鎖分銅の類ならば、生前に見た事があるが、これは明らかに異形であった。
鎖といい分銅といい、鋭利に研がれていない場所はどこにも無い。どう触ろうと肉を裂かれるに違いない、使用する為に手にする事すら叶わない、およそ正気の沙汰とは思えない設計の器具である。
ランサーは最初に拷問器具の一種かと思ってしまった程だ。こんなモノを生身に巻きつけられたならば、そう考えて、勇猛果敢な英雄であるランサーですらが、一瞬背筋を凍らせた程だ。
だからこそ、流れ落ちた血で地面を赤く染め、時折弱々しく呻くだけの少女を放っては置けなかった。
憤怒と共に槍を振るい、咆哮しながら身に付けた絶技の悉くを繰り出す。ランサーが持つ高ランクの戦闘続行スキルと、怒りが痛みを忘れさせ、傷ついた肉体は常と変わらぬ、いや、凌駕する動きを発揮した。
その全てを襲撃者は嘲笑と共に最小の動きで躱し、手にした奇妙な光沢を放つ白い曲刀で捌き、やがて限界を超えた動きを続けて動きが鈍ったランサーの槍に、下から曲刀の強烈な一撃を見舞った。
不意に槍に加えられた衝撃に、槍を手放すことこそなかったものの、大きく仰け反ったランサーの隙を見逃さず、襲撃者は胸に蹴撃を見舞い、ランサーをマスターの元まで蹴り飛ばした。
「刻限切れだ、英雄殿」
実に愉しげに告げる襲撃者。街灯から吊り下げられた人影は、最早僅かも動かず、遠目にも死んでいる事は明らかだった。
「さて、そろそろ幕としよう」
そう告げて、ランサー主従に歩み寄るその姿は、死神と呼ぶに相応しい。
痛みと出血とで、朦朧としかかる意識の中、ランサーが考えたのは『逃走』だった。
今の状態ではこの敵には敵わない。この傷では宝具を用いても斃せない以前に、そもそもが通用しない。この襲撃者はまともに戦っても自分を斃せる武練の主だ。此処まで傷ついた身では、宝具を用いても、襲撃者の影にすら触れられないだろう。
この敵には現状、勝利以前の問題として抗する術が無い。此処から離れ、身を隠し、傷を治してから再戦するべきだろう。
そう結論づけたランサーは、マスターに令呪の使用を乞い、令呪による強化を用いて、マスターを抱えて逃走した。
「何処へなりとも行くが良い。何処へ行こうとも、私には判るのだから」
一呼吸する間に視界から消えた主従に、襲撃者が漏らした呟きは、当然ランサーには聞こえなかったが、東郷の耳にはしっかりと届いていた。
◆
死闘の現場から10キロ以上離れた人気の無い夜道を、ランサーのマスターは悄然と歩いていた。
傷つき消耗したランサーは、霊体化して側に付き従っている。
拠点を知られている相手に、ああも無惨な敗北を喫した以上、最早戻る事は叶わない。目の前で素顔まで晒したのだ。別の拠点を探すべきだろう。
所持金もろくに無い身では、宿泊するのも厳しい。しかも季節は冬だ。野宿するのは出来なくも無いが、やはり無謀というべきだろうに近い。
今後、いや、今晩をどう過ごすか考えながら歩く少女の身体に、硬いものが巻き付き、少女は地面から30cm程離れた宙に吊り下げられた。
先刻の襲撃者が執念深く追跡してきたのだ。しかし、迅速を持って鳴るランサークラスのサーヴァントが、令呪によるブーストで、更なる速度を得て逃げ去ったのだ。追いつく事は時間の経過からいって可能ではあるが、まずそれ以前に、瞬時に視界から消え去る速度で距離を取り、その後何度も追われていない事を確認した。捕捉されているなど有り得ない。
実体化して周囲に敵の姿を探すランサーの脳裏には、そんな疑問が乱舞していた。
しかし、悠長に思考に耽る暇など、この哀れなサーヴァントには存在しない。
「ガッ…ギィああああああああ!!!」
鋭利な刃が皮膚を破り、肉を裂き、骨に食い込む激痛に身も蓋もなく泣き喚く少女の声が、ランサーの思考を中断させる。
先刻逃れた襲撃者が、人質を吊るしていた鎖分銅だと、少女に気付く余裕は無く、只々咽び泣きながらランサーに助けを求める。
「グ…御免!!」
ランサーの判断は迅速だった。先刻の襲撃者が至近にいる以上、マスターの拘束を悠長に解いている暇は無い。例え一瞬マスターに苦痛を与えようとも、鎖分銅を断ち切り、宙吊りの苦痛から解放するべきだった。
その判断に基づき、ランサーは宝具である槍を鎖分銅に繰り出し、音を立てて跳ね返された。
「何ッ!?」
ランサーは生前に人以外とも戦った事が有る。鋼以上の硬度を持つ甲殻を持つ妖蟲とも、並の騎士であれば宝剣魔槍の類を用いても、傷ひとつつけられぬ硬い皮膚を持つ魔獣とも、戦った事もある。その全てを手にした槍で屠ってきた。
だが、この鎖分銅から感じた感触は、生前に貫き穿った如何なる装甲も甲殻も皮膚も及ばぬ硬度。まるで、ランサーが生前についぞ交える事のなかった、龍の肉体の様ではないか。
「そんななまくらが、私の凶蛟(まがみずち)に通用するとでも?」
愕然とするランサーに浴びせられる嘲り。ランサーのマスターを拘束し、その苦悶の様とランサーの足掻きを嘲笑しながら眺めていた襲撃者が姿を表したのだ。
「そんな簡単に龍の肉体が壊せるとでも?それは私の屠龍の勲に対する侮辱だぞ」
浴びせられる嘲りに、ランサーの身体が打ち震える。この鎖分銅が龍の肉体から作られたのだというのならば、そしてそれが、この憎むべきサーヴァントの勲というのなら。
─────勝てぬ。
ランサーの戦意は完全に喪失した。もとより勝ち目がないと判断して逃げた相手が、此処まで冠絶した勲を持つ者だと知って、心が折れたのだ。
だが、ランサーは歴とした英雄だ。この局面でも勝利を掴む為の手段を模索し、そして見出した。
「さあ!とく御照覧あれ!御身の従僕が、いま贄をひとつ捧げますぞ!!」
ランサーの視界には、両手を広げて宣言するサーヴァントと、その後ろで蒼白な顔をしている、車椅子に乗った東郷美森の姿が映っていた。
◆
東郷美森には凡そ耐え難い光景であった。目の前で人が一人嬲り殺され、また一人惨死しようとしている。
この惨状を作り出したのは、自分が召喚し、自分の魔力で現界するサーヴァントだ。
その事を思えば東郷美森の精神は、鈍(なまくら)な鋸で刻まなれているかの様に痛む。
自分をこんな場所に連れ出し、態々見せつけるのは、自分の精神を苛み苦しめる為だろうと、東郷美森は推察しているが、それで目の前の光景を受け入れられるかといえば、受け入れられるわけがない。
それでも耐えるしか無い。東郷美森の願いは真っ当な英雄であるならば、即座に否定するモノである。この悪虐の英霊としか、彼女の望みは掴めないものである。
実際のところ、東郷美森が理解していると思っていた以上に、彼女のサーヴァントは悪辣で邪悪であり、彼女はその事をじきに知る事となるのだが。
────────────────────
ランサーは必死にマスターに念話で呼び掛けていた。
令呪を用い、敵マスターを討つ。
年端もいかぬ少女を手にかける事には忸怩たる思いがあるが、最早その様な事を言ってはいられない。自身のマスターを活かすためにも。敵のマスターを殺すしか無いのだ。
逃げても何処までも追いかけてくる。戦って斃すしかないが、消耗が酷過ぎる為に、
単純に令呪による強化を施しただけでは追いつかぬ。
マスターを殺し、主人を失ったサーヴァントを弱体化させるしか無かった。
必死の呼びかけに苦痛の最中にあるマスターが応え、二画目の令呪を用いてランサーを強化。漲る魔力により傷ついた身でありながら常と変わらぬ動きを取り戻したランサーは、一気に哄笑するサーヴァントの横を駆け抜け、後方の美森へと迫る。美森がランサーを認識して、何らかの反応を示そうとした時には、既にランサーの槍は繰り出されていた。
肉の裂ける音がした。ランサーの顔が驚愕に歪む。突如としてランサーと美森の間に現れ、ランサーの槍を我が身で受け止めたのは、十代半ばの肉付きの薄い体つきの少女。
だが、怪異な事に、槍の切先は少女の心臓を確と貫いているのだ。にも関わらず、表情一つ変えずに立つその姿。少女に悍ましいものを感じたランサーは、思わず距離を取ろうとして、愕然とした。少女の手が槍先を掴んでいる。ただそれだけで槍が抜けないのだ。
力尽くで引き抜こうとしたランサーの背を、サーヴァントは袈裟懸けに切り裂き、両脚の健も切断し、その動きを完全に封じた。
────────────────────
「さて、ランサーのマスターよ」
倒れたランサーの背中の傷を踏み躙り、ランサーの苦鳴をBGMとしながら、激痛と出血で朦朧としている少女に語りかける。
「一つ提案があるのだが」
ランサーが呻きながら睨み付ける。
『提案』と言ってはいるが、実際には『要求』だ。それも此方にとって間違いなく不利益をもたらすものだ。
「君はこの無能なサーヴァントの為に敗北し、苦痛の最中にいる。君を救う義務を負うランサーは、この通り私の靴に汚れが付かないよう、地面に身を転がす程度のことしか出来ない。
仕方が無い。主人の大切な切り札を使って、無力な少女一人殺せなかったのだからなぁ」
東郷美森は、何故自分が此処に連れてこられたのかを理解した。正統な英雄であるランサーに自分を狙わせる。その事でランサーの英雄としての自尊心を貶め、更に失敗させて辱める。その為に此処に連れてきたのだという事を。
「さて、君は今日、二度令呪を使用した。今最後の一角を用いて、この能無しに『自害を命じ給え』。そうすれば、『私は一切君に触れない』と約束しよう」
その言葉に込められた悪意に気付いた、美森とランサーの声を封じるように、悪虐のサーヴァントは続ける。
「令呪を全て失い、サーヴァントもいない者などに、何もしやしないさ。さぁ、この英雄などと言う御大層な名前倒れの屑をさっさと自害させるんだ」
ランサーの誇りと、主従の絆とを、言葉の毒で腐らせてゆく。
「マスター…。甘言に耳を傾けてはなりません!!」
必死にマスターを諌めるランサーを、悪虐の英霊は嘲笑した。
「主人の為に、何ら役には立てない身で、何を言っている。英雄だろう?ならば主人を救う為に進んで死ぬべきだろう?」
「黙れ…黙れええ!!」
「主人の苦痛を長引かせてまで、仮初のの生にしがみつくか。全く大した英雄様だ」
嘲弄され、侮辱されるランサーを、ランサーのマスターは苦痛で濁った瞳で見つめていた。
「うる……さい」
マスターを諌めるランサーの声を遮ったのは、怨嗟に満ちた声だった。
「何の役にも立たない癖に…私に指図するな!この塵!!………さっさと、死ね!!」
ランサーの胸を、熱い感覚が貫いた。
貫いたのはランサーの槍。彼の得物であり、誇りである宝具だ。
ランサーの敗北と、全身を切り裂かれる痛みに心折れたマスターが、令呪を用いて自害を命じた結果だった。
口から鮮血を溢れさせ、全身の力が抜けていく中、ランサーは安堵していた。この先マスターがどういう目に遭うか、ランサーは正しく理解していた。それを見ずに死ねるというなら、幸運に恵まれているというべきだろう。
せめて座へと還る前に、冥土への案内くらいは…。そう思ったランサーだったが、苦痛に苛まれながらもその肉体が消える事はない。
令呪により自害を強要されたランサーの腕は、精確に心臓を貫く筈だった。
槍が心臓を貫く直前、この事態を演出したサーヴァントが手を伸ばし、その切先を少しだけずらして、心臓を僅かに外したのだ。
「貴様…ッ!」
際限無い悪意に、真正の憎悪を向けるランサーだが、忌まわしき白貌は意に介した様子も無く。
「何処までも能無しだな。敗北した上に主人の苦痛を長引かせるだけとは」
呆れた様に首を振る白貌を、睨みつけるランサーに、マスターの声が聞こえた。
「どう…して、死なないのよ……。この、役、立たずガァ…ッッ!!!」
ランサーに向けられる声は呪詛であった。ランサーを役立たずだと、無能だと罵倒する声であった。
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
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痛みと出血とで、朦朧とする意識の中で、ランサーに対して「死ね」と少女は繰り返す。それ以外に苦痛から逃れる術は無いと信じるが故に。
「アヴェンジャー……」
あまりにも凄惨過ぎる光景に、東郷美森は己が悪虐のサーヴァントに、無駄と悟りながらも慈悲を乞う。
「彼女を殺せというなら、それは出来ませぬなぁ。『自害を命じ給え』。そうすれば、『私は一切君に触れないと約束しよう』。そう、私は彼女と約定を交わしたのですから」
己がマスターを嘲り、侮蔑しながら、尤もらしい言葉を毒として放つ。
「彼女を救いたいなら、マスターが如何にかするべきでは」
言外に、お前の勇者としての能力で殺せば良いだろうと。そう、東郷美森に毒を吐きつける。
東郷は唇を噛んで下を向いた。心中に抱く願いはこの悪虐の白貌の主人となるに相応しいが、己の手で人の命を絶つとなれば話は別だ。
東郷の耳に、ランサーを呪う少女の声と、白貌への呪詛を喚き続けるランサーの声が、何時迄も聞こえていた
────────────────────
結局。東郷美森は、少女を殺せなかった。苦悩と斬鬼とに震えるうちに、少女は息絶え。ランサーは、少女が死んだ後に、白貌の手で加えられた苦痛に、白貌への憎悪と呪詛を唱える事もできない程の苦痛にのたうち回って死んだ。
哮笑しながら二人の死を見届けて、奇怪な発音の祝詞を唱え終わった白貌が、東郷へと歩み寄る。
「礼を言うぞマスター。お陰で今宵の神楽は上々のものとなった」
嘘偽りの無い心からの謝意を述べる白貌を、東郷美森は怒りと憎しみの籠った眼差しで迎えた。
「不満か?聖杯に一歩近づけたのだぞ。何が不服だ」
対する白貌は、変わらぬ侮蔑を東郷に向ける。元の性格も有るが、東郷の願いを知っているからこそのこの振る舞い。東郷がどれだけ憎み嫌っても、決して己を切れぬと知っていると、理解しているからこそだ。
「あそこまで…あそこまでする必要が……」
東郷もその事は知っている。己が抱く願いは真っ当な英霊は決して許容しないものだと。この悪虐の反英雄としか、己の願いは叶えられないと。
決して譲れない願いを抱くからこそ、東郷美森はこも白貌を制御できない。
それでも言葉を紡ぐのは、東郷が未だ悪鬼外道と堕ちていないからだ。この悪虐の白貌の殺し方を、人の心が許容しないからだ。
「何を言うのかな、愚かな娘よ。私は言ったぞ。
“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。
それこそが、私がこの地に来た理由であると。お前の願いは確かに叶えよう、聖杯は必ず手に入れよう。その途上にあるものは悉く我が“混沌の君”の贄であると」
白貌の反英雄はわざとらしく溜息をつく。仮初の主人の愚かさに心底呆れたと言った風情だった。
「元はと言えば、お前の心構えがなっておらぬからだ。お前を、お前達“勇者”を育てた大赦の教育がなっておらぬからだ。
何とも愚かしい。嘆かわしい。私とは奉じる神こそ違うとはいえ。神命を受けて戦う誉を担いながら、神の力をその身に宿すという栄誉を授かりながら、何故に嘆く。眼が見えぬ?声が出ぬ?味を感じぬ?だからどうした。
その身を神に捧げて神と合一したのだ。誉れであろう。喜びであろう。祝福され、寿がれる事であろう。
我等ならば、皆が皆。誇りとし、誉に思って身を捧げるぞ。私もまた。彼らを寿ぎ、祝福するぞ。
なぜ拒む。何を哀しむ事がある。夢が潰えた?神と一つになれるのだぞ!それに比べれば、如何なる願いも夢も瑣末事であろうが!!
その栄誉を拒んで貴様は聖杯を願い!そして私を呼んだのだろう。今更私を拒むなら、最初から神と合一する誉を受け入れておけば良かったのだ!!」
東郷の願いを。勇者達の哀しみを、一切合切否定して、自分と共に聖杯を願うか、それとも神樹の贄となるか、二つに一つだと告げて、悪虐のサーヴァントは言葉を切った。
このサーヴァントの言は正しい。
神の力をその身に宿し、その身を捧げて強大な力を得るのが東郷美森達勇者の在り方。
我が身を贄年擦り減らしながら、身体も記憶も捧げて人でなくなるものが『勇者』。
その在り方は誉と思うべきなのだろう。誇りとするのが正しいのだろう。
東郷美森が夢で見た者達ならば、誰しもが誇りとし、誰しもが誉とする。
だが、しかし、東郷美森には、そんな在り方は出来なかった。
自身の身体が動かなくなるならば、まだ許容できる。だが、友の嘆きを許容することなど出来はしない。友との記憶を奪われる事など耐えられない。
「第一、お前が聖杯に願う事など決まっているだろう。例え仲間達の身体を元に戻そうとも。大赦を滅ぼし、神樹を枯らそうとも。
天の神が在る限り、厄災(バーテックス)は再来する。そして聖杯は世界の内にしか効果を及ぼさん。厄災(バーテックス)ならばまだしも、全ての禍の根源である天の神には無力だろう。
ならばお前の願う事は一つ。そしてその願いは、私以外の英霊には拒まれる。
お前は私と征くより他に無い」
である以上私の邪魔をするな。異を唱えるな。そう言葉にせずに悪虐のサーヴァントは歩き出す。
次なる主従を求めてか?適当なNPCを奉じる神への贄とする為か?東郷美森には判らなかった。
解っていることは、あのサーヴァントを御する術は自身には存在しない事。
あのサーヴァントがこの地で、限り無い悪虐と殺戮を行う事。
そしてそれを拒めば、自分の願いは叶わないという事。
冬の冷気の中、東郷美森は寒さに依らず震えていた。
その姿は、まるで帰る家を無くした子犬の様で、東郷美森が『勇者』と呼ばれる存在だとは、誰にも信じて貰えないだろう程に、弱々しく、哀れな姿だった。
【CLASS】
アヴェンジャー
【真名】
ラゼィル・ラファルガー@白貌の伝道師
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力: D 耐久:D 敏捷: B 魔力:B 幸運: A 宝具;EX
【クラス別スキル】
復讐者:A+
復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
人々に恐れられ、忌まわしき伝承と成り果てたアヴェンジャーの生涯の顕れ
忘却補正:EX
人は恐れを喪えば忘れる生き物だが、闇の子の怨念は決して衰えない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、混沌神の恐怖を忘れた者に強烈な苦痛を与える。
自己回復(魔力):B
陽の加護の元に生きる者共への復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。
【固有スキル】
狂信:EX
特定の何かを周囲の理解を超えるほどに信仰する事で、通常ではありえない精神力を身に付ける。
トラウマなどは最初から存在しない、精神操作系の魔術等を無効化する。
神我一如の域に至った狂信は、ありとあらゆるものに揺らがされることはない。
闇の子の英雄:EX
其れは闇の子に伝わる英雄譚。殺戮と拷問の技を技芸として嗜み、狡猾悪辣である程に称賛されるダークエルフ族に於いて、冠絶する武練と狡知とを誇った戦士。
ダークエルフ族が行う地上への強襲行動“祭事“の指揮を執り、その悉くを成功させ、無数の地上に蔓延る命を刈り取り、人族の村やエルフの森を焼き払った祀将。強大な白銀龍を撃ち倒した屠龍の英雄。
其れがアヴェンジャーである。
極めて高ランクの拷問技術、心眼(真)、無窮の武練、勇猛、破壊工作の効果を発揮する他、対生物特攻の効果を持ち、更には陽光の加護を受けて生きるものに対しては攻撃力の数値を倍加させる。
カオスチャンピオン:EX
〈法〉と〈混沌〉の二大の勢力の闘争に於いて、〈法〉に属する者達を殺戮し、二大の天秤を〈混沌〉に大きく傾けた〈混沌の闘士〉。
属性が〈秩序〉のサーヴァントと対峙した時、幸運と宝具を除くステータスが1ランク上昇する他、行動の成功判定と幸運判定に大幅に補正が掛かる。
骸繰り(コープスハンドラー):A
骸に魔力を通わせ、自在に操る魔術を行使する。外科手術及び解剖学の効果をAランク相当で発揮する。
エクストラクラスの特殊性が合わさることで、ランクB相当の「道具作成」スキルが使用可能となり、“操躯兵”の製造を可能とする他、骸から道具や武具を製造する事が可能
魔力放出(毒炎);B
訪れた地を悉く焦土とし、後には草一本生える事が無かったという伝承がスキルとなったもの。自身の魔力を金属すら腐食させる強い毒性を帯びた炎と変える。
身体能力の強化には使えないが、武器や体に纏わせる、ジェット噴射の容量による飛翔といった使用方法が出来る。
【宝具】
龍骸装
ランク:A+ 種別:対人及び対城宝具 レンジ: 1〜99 最大捕捉:1000人
ダークエルフ族が寝物語として聞かされる、アヴェンジャーの英雄譚。屠龍の勲。
白銀龍を屠った勲功により、賜った白銀龍の骸を解体し、作り上げた一群の武器達。
竜種及び竜の因子を持つ存在と対峙した際、受けるダメージを半減し、与えるダメージを倍加させる。
凍月(いてづき)
龍の第六肋骨を削りだした一体成形型の曲刀。
刀身には"鋭化""硬化"の術が施され、状況に応じて“”震壊""重剛""柔靱"の状況に応じた魔力付与を発動させることが可能。
群鮫(むらさめ)
白銀龍の角を穂に、大腿骨を柄に使った短槍。
刃に“硬化”の二重掛け。更に切っ先への衝撃で“重剛”の魔力付加が発動し、運動エネルギーを倍化させるため、直撃した際の威力は絶大。
使い手の意思に感応して重心配分が変動し、投擲において絶妙な精度を誇る。
凶蛟(まがみずち)
白銀龍の下顎の骨に、四五枚の鱗を髭で結わえつけた鎖分銅。
全ての部品に“鋭化”が、顎骨には重ねて“重剛”の術が施されている。
全長二十フィート余りだが、連結部に“柔靭”が掛かっている為、状況に応じて自在に収縮する。
尾端に凍月を連結する事で鎖鎌としても使用可能。
手裏剣
龍の鱗から作成したもの。柳葉状の刃はどこに触れても鮮血を噴く。
胴着と籠手
鬣を編み上げて作成したもの、ダークエルフ族の銘剣でも断て無い。籠手を嵌めないと龍骸装は使用者の手指を斬り裂く。
凄煉(せいれん)
最強の龍骸装。白銀龍の肺胞を用いたものだが、この臓器には何らの加工もする必要が無かったので何もしていない。
取り出すと同時に吸気を始めて膨れ上がり、100秒後に龍の吐息(ドラゴンブレス)を吐き出す。
超高温を帯びた瘴気の息吹は、金属すら溶解させ、直撃せずとも致死の毒性で骨が腐り血が枯れる。
いかなる生物であろうとも死滅させずにはおかんし鏖殺の噴流。
龍骸装はいずれも魔力付与された屍であり、鮮血を滋養として代謝し、自己再生能力を持つ。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者の魂は、全て混沌神グルガイアに献上される。
龍骸装は、常時は影に変えてラゼィルの服の袖の中に収納されている。
嘆きの鉈
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:10人
巨大なギロチンの刃と形容される大鉈。
祭祀に於いて、名だたる骸繰り(コープスハンドラー)であるラゼィルが、作成した操躯兵 (バイラリン/バイラリナ)に振るわせる武具。
陽光の加護を受けて生きるものに対しては特攻効果を持つ
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者はの魂は、全て混沌神グルガイアの贄となる。
“嘆きの鉈”の駆動装置である操躯兵 (バイラリン/バイラリナ)もセットでついてくる。お得。
バイラリンは様々な種族の死体の優れた部分を繋ぎ合わせて作成した巨人。
バイラリナはハーフエルフの少女の骸である。
神の眼
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:冬木市全域 最大捕捉:∞
精緻な彫り細工が施された黄金の腕輪の中央に嵌められた深緑の猫目石。
猫目石はラゼィルがグルガイアの神像から抉り取ったものであり、真性の“神の眼”である。
グルガイアはこの“眼”を通じて、地上の生命の苦しみと滅びを見る。
【Weapon】
龍骸装
【解説】
混沌神グルガイアを奉じる、ダークエルフ族の地底都市アビサリオンに於いて、屠龍の勲を以って知られる、闇の子の大英雄。
人とは逆の価値観と倫理を有するダークエルフ族の地上への殺戮行を指揮する将であり、混沌神の祭祀を執り行う祀将である。
混沌神が宣した詔“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。 を忘れ果て、同胞同士の権力闘争に明け暮れる一族に見切りをつけ、グルガイアの神像の眼を抉り取り、グルガイア陽光の加護の元に生きる者共の滅びを奉ずるべく一人地上を行く。
その伝道の旅は、地上世界に於いて後世に“白貌の伝道師”という忌まわしい昔語りとして伝えられる事となる。
【聖杯への願い】
受肉。陽光の下に生きる者共に闇の怨嗟を知らしめるのは自らの手で行う。
マスターの願いはこの手で叶えてやっても良い。途上で『邪魔をする者達』が居れば当然殺すが、マスターの願いを叶える為には必要な殺戮だろう。
【マスター】
東郷美森@結城友奈は勇者である
【能力・技能】
勇者システム
神樹の力により、『勇者』へと変身する。
拳銃、二挺の中距離銃、狙撃銃を使い分け、近中遠距離に対応可能。
歩行機能は回復しないが、触手っぽい4本のリボンでボインボイン跳ねて移動する。
精霊バリアは存在するが、満開は使用出来ない。
【人物背景】
讃州中学勇者部の一員。
『満開』の代償として、身体機能や記憶が消失する=勇者が神樹への供物であり、精霊達により自死すら出来ず、勇者となって戦う敵であるバーテックスが無限に湧いてくる存在であるというどうしようもない事実を知ってしまう。
身体の機能を失い、果ては大切な記憶すらも神樹に捧げて無限に戦い続けるという生き地獄に心が折れてしまい、四国と外を隔てる壁に穴を開けるという暴挙に出る直前に、黒い羽根に触れた。
アヴェンジャーを召喚したのは『世界を滅ぼそうとした勇者』という共通項から。
その為にアヴェンジャーからは完全に舐められている。
令呪の形状は【炎に包まれたアサガオ】
【把握資料】
白貌の伝道師 全一巻@星海社
TVアニメ結城友奈は勇者である
投下を終了します
投下します
『何がお前を野心に走らす?』
『飢えだよ』
☆☆☆
「……たくっ、初っ端からこの調子じゃ先が思いやられるじゃねぇか」
路地裏に座り込み、感嘆混じりに吐き捨てる。
服装に切り裂かれた傷が目立つもほぼ軽症の類。
他の主従との初戦闘でこれとはと、ギャンブラー・獅子神敬一は心底辟易する。
次元が違った。それは単純に超常有りきの殺し合いという現実への格差。
ファンタジー世界観溢れるゲームに英霊と言う賭け金を与えられて丸裸で放り込まれるの同然。
そのマスターとなるプレイヤーだけでも恐ろしいほどの差がある。
魔術師と呼ばれる人種が扱うのは、炎の弾に氷の槍、雷撃に突風とまるでサーカスの見世物だ。
裏の世界ですらお目にかかれない異常のバーゲンセール。
つくづく、自分がまだまだ中途半端だと思い知らされる。
先程の主従との戦いも、"セイバー"がいなければどうなっていたか――。
「どうした? せっかくの勝利だ、素直に喜ればいいものを」
「テメェみたいに色々笑い飛ばせる所にいねぇんだよ俺は」
語りかける、獅子神敬一の持ち金。最優たるセイバーのサーヴァント。
例えるならば、所謂大金持ちと呼ばれるタイプのテンプレート。
長い黒髪を棚引かせ、見るからにその一つ一つが数百〜数千万を超えるであろう黄金のアクセサリーが大量に身に着けている。
見るからに成金趣味が丸わかりなそれだが、纏う覇気は最上位(ハイエンド)の風格。
獅子神敬一に授けられた英霊は、間違いなくそこらの有象無象を一周できる本物の強者である。
「いざ戦場に立ってみりゃイカサマ使って生き残るだけで精一杯な有様だ。嫌になってくる」
戦場にしがみつくだけでも精一杯だった。
相手の魔術師に嘘とハッタリで乗り越えた。
だが、最終的にサーヴァントもそのマスターも一蹴したのは全てセイバーの実力によるもの。
騙し、欺くことは出来た。それが限度だった。
だがこのセイバーは、相手側の攻撃を最低限の動作で避け、最低限の攻撃で仕留めた。
一寸の無駄もない、指でなぞるような的確さで。
今まで"格上"は何人も見てきた。死の淵を垣間見て、至った者の視点を得た。
証明を求める異常の医者。
自らを神と疑わない天我独尊の狂信者
すべてを見通す傲岸不遜の観測者。
――そして、自らを負かした鏡の主。
何れも凡人(じぶん)からすれば地平線の彼方に座する超人たち。
それに比類するか、それ以上の存在が、このセイバーなのだ。
「何を言う、君のそれも一つの才能だ。そう卑下することはない」
「抜かせ、俺以上のテクニック持ちなんかごまんといやがる」
「そういうことではないぞ。……君のその臆病さだ」
嗜めるようにセイバーは告げる、君のその臆病さは一つの武器だと。
ただの臆病さなら誰でも出来る。強者の影に隠れての虎の威を借る狐。
だが、獅子神敬一は違う。彼は虎でもなければその威を狩る狐でもない。
「臆病故に相手を見る、臆病故に僅かな動作をも見逃さない。目を凝らし、相手を見る。大局を見通す大きな視点と、妄執にも近しい極小すら見極める小さな視点」
「………」
「しかしだな。強者の視座を理解できるのは残酷にも強者だけだ」
つまるところ、セイバーが言いたいのは。
「君の周囲には君より強い連中ばかりいるが、君も十分強者の類だぞ」という事。
強者の視座を理解できるのは文字通り強者のみ。強者の視点を視覚化し、それを理解し見極める。
思考し思考し思考し続け、臆病者と言われる程の警戒の果てに相手の思考の上回り勝利をもぎ取る。
そんな人間が弱者とは呼べるだろうか、否。
方向性は違えど十分に強者と値する部類の人間だ。
己の弱さを受け入れるのは、強さへの第一歩だということをセイバーは知っている。
「誇ると良い。確かに君は強者の中では凡人だが、その怯えを強みに出来る君はこの戦いでも通用するだっろう。世の中、準備することに越したことはない」
「私もそうだからな」と言いたげな瞬き。
不気味であると同時にその親しみやすさが底知れない。
「何せ、私も凡才だったのだからね」
「いやマジか。その強さで全部積み重ねからかよオイ……」
驚嘆する。何せ、ここまで強いセイバーが凡才の類だというのだから。
生まれ持っての天才ではない、積み重ねで成り上がった努力の傑物。
安全圏で王を気取っていたの獅子神とは大違い。
「積み重ねさ。権謀術策手段を選ばずに。私の始まりは"飢え"だったからね」
セイバー、ユーベン・ペンバートンの始まりは飢えからだった。
貧しい土地に生まれ、飢えを凌ぐ為に自らの命を狙った父を殺した。
叛逆を試みた村民を領主に密告し見殺しにした。
残酷だが聡明だった領主に取り入り、8年後に殺して入念な準備の元に反乱を成功させた。
人口増加の対策のため、他領土の地盤を崩し、戦争の正当性を組み上げ、侵略した。
その14年後、戦争を終わらせた。
全ては、"飢え"を無くすために。
人を容易く獣へと変貌させる諸悪の根源を消し去らんがために。
「……だが、現代というのは"飢え"というものが殆どなくなってしまったらしい。いつの間にか満たされてしまったよ」
悪因悪果。かつて密告した農奴の倅に射殺された。
殺される、はずだった。
一度目の死に際に現れたゴアと名乗る王。
闘争の輝きを、己に挑む輝きを、深き底で座して待つ吸血鬼の現王。
ユーベンは"王"によって血を与えられ、永きに眠りの果て、現代に蘇った。
全ては、真祖を揃わせ、争わせるために。"王"を決めるために。
来るべき戦いに備え財を築き、情報を集め、鍛錬を積んだ。
「そのせいで、私は惜しくも敗れ去ってしまったがな、ファハハハ!」
「おいおい……」
陽気に告げた敗北の結末は、獅子神にとって重苦しかった。
端的に言ってしまえば、セイバーの敗因は満たされてしまったことだ。
父を殺したその日からぽっかりと空いた心の空洞、飢えを無くすという憎しみと同義の衝動のままに。
だが、現代はそういうものが殆どなくなってしまった。40年にも渡る準備期間は、ユーベン自身を満たしてしまった。
その結果が、その結末が敗北だっただけの話。
憎んでいたはずの"飢え"こそが、満たされてしまったが為に負けた自分に足りないものだったとは。
「耳が痛いぜ、ほんと……」
獅子神にとっても、全くの他人事ではない事実。
意図的に金を減らすために債務者を購入、強敵と戦うことのない楽な狩り場で王として君臨し続けた。
それがかつての獅子神敬一というただの人間。
真経津の村雨ような狂気じみた渇望など無い。
自分が誇れるのはその臆病さ程度だ。それを武器に出来る弱い自分自身だ。
そうだ、弱い自分のために生きると決めたあの時から、腹を括ったはずだ。
「……テメぇの言った通りだよセイバー」
何もかもセイバーの言う通り。勝つためには"飢え"が必要だ。
怯え、楽しみ、そして勝つ。執念と言う名の"飢え"。強さへの"飢え"
村雨は「強さと正しさは無関係だ」と告げた。
それに悩んでも見つかるのはせいぜい正しそうなモノだと。
ここは聖杯戦争。勝者こそが正しさを手に入れる。
力こそ正義とは使い古された代名詞だが、この戦争(ゲーム)に限っては事実だ。
決めなければ、一瞬で食いつぶされる。
「俺はあいつらみたいに狂えはしねぇ。だが、強くなりてぇっていう"飢え"はある。……本当に、勝てるのか?」
「……何を言っている。勝ってみせるさ。同じ二の足は踏まん」
もういい。こうなったらやってやる。
正しさで悩むのはもう辞めだ。自分には釣り合わない掛け金。虎の威を借る狐に見られても仕方がない。
でも、与えられた札を腐らせたりはしない。
セイバーの黄金にギラついた自信満々の瞳孔が、獅子神の覚悟を正しく評価する。
セイバーもまた再戦を望むもの。今度こそは負けられないと。理想という"飢え"を満たさんが為に。
「せいぜい給料に似合った働きをしたまえ。虎の威を借る狐ではないのだろう?」
「……けっ、つくづく底の読めねぇやつなこった」
だからこそ、獅子神敬一をセイバーは高く評価する。
臆病さ、その怯え故の読みの深さを。弱さと敗北からなし得た強さへの"飢え"を。
セイバーがかつて無くした、獣の如き"飢え"を。
セイバーにとって、獅子神敬一はただのマスターではない。『対等なパートナー』であると同時に『優秀な部下』として。
その"飢え"で、勝利を掴まんがために。
「…………ホント、難儀なサーヴァントじゃねぇか」
そして、獅子神敬一が視るのは。
ユーベン・ペンバートンの背後に見える視座は、何もかもが黄金に包まれた瞳だ。
全てが黄金色の眼光の集合体。映し出されたものの価値を測る金色の天秤。
やはり、流石最優の英霊と言うべきか。
見えている視座は常人のものよりも余りにも違う。
分かっていたことだが、上位のギャンブラー達から垣間見えるのと同じ。
強者の証が、視える。
だが、今更怖気づくのは慣れている。
今はまだ届かないけれど、強さそのものにはたどり着けないとしても。
その高みに、その領域にいつか届くことが出来るのなら。
そう、獅子神敬一は一歩ずつ。一歩ずつだ。
負けてたまるか、訳の分からない場所で死んでたまるか。
柵を超えて、少しずつ。強者への領域へ足を進ませるために。
「ファハハハハハハ! 何せ、私は真祖だからね!」
そう哄笑するセイバーの、何たる覇気か。
何たる余裕の表れか。何たる確固たる自身か。
それに理由なんてない、それに理屈なんて無い。
何故ならば、セイバーは。ユーベン・ペンバートンは真祖なのだから。
金食礼賛。遍く飢えを消し去らんために。
新たなる部下を連れて、彼は再び黄金の覇道を歩み始める。
ようこそ、聖杯戦争(ハーフライフ)へ。
命は賭金(BET)と捧げられた。
勝者(ワンヘッド)はただ一人。
食い千切れ、その目を見開いて。
果て無き飢えを満たさんが為に。
【クラス】
セイバー
【真名】
ユーベン・ペンバートン@血と灰の女王
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
(変身前):筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:A
(変身時)筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:B(変身時:A)
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい
変身体の際はランクがAに上昇する。
【保有スキル】
吸血鬼(真祖):A+
セイバーの生きた世界において、富士山噴火の灰を浴びて変化した者たちを吸血鬼と総称するが、富士山の噴火前から既にヴァンパイアであった者たちを総称として真祖と呼ぶ。
特有の共通点として、日光を浴びても消滅しない等伝承との相違が存在し、それぞれ夜限定の変身体も存在する。
さらに死した場合、遺灰物(クレイメン)と呼ばれる手のひらサイズの心臓を遺し、それを取り込んだ英霊は強力な力を得られるのだが、真祖の遺灰物は同じ真祖以外のものが取り込んだ場合はその力に耐えきれず暴走しかねない。
変身体:A+
セイバーが吸血鬼として変身した姿。
セイバーの性格を表した金一色なカラーリングの騎士姿。身に纏う黄金は超硬度であり、並大抵の宝具ですら全くと言っていいほど有効打にはならない。
専科百般:B+++
類いまれなる多芸の才能。
かつて仕えた領主から戦術、学術、芸術、詐術、話術等の教養や処世術を学んでいる。
騎士として長年鍛え続けた事もあってかCランクの無窮の武練も習得している。その技量は長年の鍛錬を得た「一切の無駄がない」という武道の極致にも近しいレベル。
あとは本業には遠く及ばないが徒手拳法等の武道の類も扱える。
金のカリスマ:C+
金と書いてカネと読む。セイバーは会社の運営者であり、その社員とは強い信頼関係(と金)で結ばれていた。
通常のCランクのカリスマの効力の他、給料の支払い次第で部下に対するカリスマの効力にプラス補正を掛けることが出来る。
余談であるが生前の社員たちはセイバーの成金趣味に賛同しなかった。
黄金律:A+
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。
【宝具】
『金食礼賛、飢えなき世界へ(ウィートフィールド・ゴールデンパーム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜100
ヴァンパイアとしてのセイバーの能力。最硬度の金色の小麦の生成という至ってシンプルな代物。
シンプル故に様々な用途への応用が可能であり、鎧のように身に纏う、武器の構築、地面に仕込んでのトラップ、砕けた破片の再利用等。
『戴冠式(Re・ベイキング)』
ランク:EX 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
天賦の才が無いセイバーが編み出した最大の切り札。真祖にしか許されぬ秘奥。一定時間の『溜め』を条件に発動が出来る。
その本質は『ステータスの再配分』。己のステータスを好きなように再配分し、特化した形態へと変化させる。
一部のステータスを減らすことで、減らした分のステータスを他のステータスに加算する。それにより攻撃に特化したりとステータスの振り分けによる多様性は高め。
勿論デメリットも存在し、ステータスを削られた要素は当然弱くなる他、Re・ベイキングの制限時間は『溜め』を行った時間に比例するため、短い溜めの場合はそこまで長持ちはしてくれない。
さらに一度Re・ベイキングを行ってしまうと、解除後に元の能力に不具合が生じてしまう。ハイリスクハイリターンに見合ったメリットとデメリットを持ち合わせている。
【Weapon】
小麦で生成した様々な武具。素手でも徒手拳法の類はある程度使える。
【人物背景】
三体(四体)の真祖の内の一人。掲げし理想は金食礼賛。
豪華絢爛、海千山千、腰纏万金な第三の男。
飢えを憎み、飢えを無くさんという慎ましい願望を抱えた理想家。
【サーヴァントとしての願い】
今度こそ、飢え無き世界を実現する
【マスター】
獅子神敬一@ジャンケットバンク
【マスターとしての願い】
勝つ。勝って生き残る。
元の世界に帰れれば聖杯はセイバーにあげても構わない。
【能力・技能】
最上位のギャンブラーには及ばないものの、臆病さから来る読みの鋭さ、負けを糧に成長を誓う向上心など光る部分は多い。
ある契機から強者を見ると「その人物の本質を示すような目をモチーフとした幻影」を見るようになった。
【人物背景】
かつて虎の威を借る狐だったギャンブラー。虎のような強者になりたかった人間。
その弱さを自覚しその為に生きると決めた時、偽りの王冠を捨てた彼は強者の視座を掴んだ。
「ライフ・イズ・オークショニア」編以降からの参戦。
令呪の形状は麦穂。
【方針】
自分の弱さは重々承知の上、何事も一歩ずつだ。
まさかだと思うが、あいつらまで巻き込まれてねぇよな?
投下終了します
投下します
「オレは決して忘れない……お前たちから受けた屈辱……!」
薄汚れたボロアパートの一室で、怒りの闘志をメラメラと燃やす男がいた。
彼の名はバッタモンダー、彼は幾度となくプリキュアに戦いを挑むが、その度に敗北を繰り返し。
完膚無きまでに心をへし折られていた。
「だが、聖杯とやらを手に入れてしまえば今度こそあいつらを倒すことが出来る!!今に見ていろよぉぉおお!!」
「隣でギャーギャーうるさいのねん!!」
「ああ、すいませーーん!!」
ボロアパートなのでもちろん壁は薄い。
大声で騒げば隣の住人からクレームが来るのは当然である。
「やぁマスター殿、ずいぶんと荒れてるみたいだねぇ」
片手にワイングラスを持ったタキシード姿の男が姿を表した。
特徴的なのは彼の体は樹木で出来ており
まるで木が人型になって歩いているような造形をしていた。
彼の名はキギロ。キャスターのクラスで現界したサーヴァントである。
「キャスターか。分かっているだろうがどんな手を使ってでも聖杯を手に入れるのはオレ達だからな!」
「分かっているとも。だからこうしてボクの陣地である『魔物の森』をこっそり広げ続けているじゃありませんか」
聖杯を手に入れなければもう後が無いバッタモンダーとは対象的に
キギロは落ち着いた様子でグラスに入ったワインを飲み干し、微笑みながら言っていた。
「いいか。他のマスターやサーヴァントを見つけ次第、始末するんだぞ!」
「いやいや。それだけはご勘弁を、ボクみたいな貧弱なキャスターが一騎当千の猛者達を相手にするなんてとてもとても……」
キギロは仰々しい振る舞いで体を抱きしめて震え上がるポーズを見せている。
そんな消極的なキギロの姿にバッタモンダーの怒りは上昇する。
「お前はまたそうやって!あれだけオレに協力すると言ったのに、ちっとも役に立っていないじゃないか!」
「ボクのライフスタイルは『しぶとくコソコソ生き残る』だからね。キャスターらしく地道に戦いますよ」
キギロはやる気があるのか無いのか。
いっそ令呪でも使って従わせようか?と思考が過ぎったタイミングで時計を見ると……。
「やべっ、時間だ。バイトへ行かねば」
バッタモンダーはすぐさま変身能力を使って人間の姿へと変わった。
緑髪のロン毛で大学生ぐらいの見た目の青年であり美形と言える造形をしている。
彼の場合は性格面の酷さでその容姿も台無しになっているのだが。
「お仕事ですか?頑張ってください」
「いいか?こっちは本気なんだ。お前も本気で戦えよ?分かったな!」
キギロの返事を待たずして交通整理のバイトへ向かうバッタモンダーもとい紋田。
その様子を呆れるようにため息を付きながらキギロは見送る。
「全く慌ただしい人ですなぁ。ボクのマスターは……それにしても聖杯かぁ。
ああ、どうしよう。どうしようかなぁ。ボクはそれほど聖杯が欲しい訳でも無いんだけどなぁ」
バッタモンダーと会話していた時のキギロはまるで聖杯なんて興味無さそうな振る舞いをしていたが実際は違う。
その実、聖杯に賭ける彼の野心は凄まじい程に大きい。
「でもボクのマスターがどうしても聖杯が欲しいって言うからしょうがない。不可抗力だよねぇ〜。
聖杯が手に入ったらボクはハドラー様よりも遥かに強くなってしまうかもしれないなぁ〜」
薄汚れたボロアパートの一室でキギロは邪悪な薄ら笑いを浮かべていた。
根はゆっくりと、だが確実に大地に伸び続けていく。
参加者達の命を刈り取ろうとする邪悪なる根が蔓延りつつある。
【クラス】
キャスター
【真名】
キギロ@DQダイの大冒険〜勇者アバンと獄炎の魔王〜
【属性】
混沌・悪
【パラメーター】
筋力:E 耐久:D 敏捷:E 魔力:C 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
魔物の森の形成が可能。
形成された森では植物系や虫系の魔物が出現するようになる。
魔物作成:C
道具作成の替わりにキギロが持つクラススキル。
強力な植物系魔物を作成できる。
【保有スキル】
加虐体質:B
プラススキルのように思われがちだが、戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
亜人面樹:C
植物系魔物の常識を越えた存在。
肉体の硬度を自在に操れるだけでなく、炎系の呪文に強い耐性がある。
【宝具】
『亜人面樹の種子』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ: 最大捕捉:自分自身
肉体が破壊され、消滅する際に発動する宝具。
消滅間際に種子を残すことで肉体が消滅しても生き延びることができる。
種子を土に植えて発育することで肉体が再生し、復活することも可能。
この宝具によって復活したキギロは更に強靭な肉体に進化し、ステータスやスキルの一部が上昇。
合わせて新たな能力を会得出来るようになる。
彼の生命の根源に傷が付くと宝具の発動が不可能となる。
『呪いの復讐者キギロ』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ: 最大捕捉:自分自身
亜人面樹の種子が発動不能な致命傷を受けたキギロが最期に発動する宝具。
全身が枯れ木のように朽ち腐った状態の姿となり。
致命傷を与えた人物への憎悪と怨念によって肉体を繋ぎ直している。
暗黒闘気で強化されているため、瀕死の状態でありながらも今までのキギロよりも戦闘力は上昇している。
また彼の破片を打ち込まれた者は呪い効果が付与されて弱体化する。
キギロが消滅しても彼の呪いが消えることはない。
『暗黒闘気・瘴気結界呪術』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:20 最大捕捉:100
呪いの復讐者キギロの宝具開放と共に自動発動する宝具。
キギロの足元から広がった瘴気は周囲を侵食し
半径数十メートルの範囲がキギロの領域となる。
領域内にいる者の肉体を蝕み、更にキギロの呪い効果も倍増する。
瘴気を無力化するにはそれ以上の闘気や対魔力で対抗する必要がある。
【weapon】
己の五体
【人物背景】
魔王ハドラーが率いる(旧)魔王軍の幹部の一人。
種族は数百年に一度、突然変異で生まれるじんめんじゅの亜種「亜人面樹」。
じんめんじゅ系モンスターだが人間のようなバランスの手足で、スーツを着用しワイングラスを揺らすなど、紳士のような佇まいをしている。
袖から覗かせる手足のようなものはすべて根が発達したものであり、じんめんじゅ本来の腕は頭部の側面から生え、普段は服の中に隠している。
普段は「ボクには覇気も野心もない」「ボクのライフスタイルはしぶとくコソコソ生き残る」と謙遜し
ワイングラスを携えていることと言い、服のセンスと言い、臆病なインテリめいた装いや振る舞いを好む。
だが内心では誰よりも出世を意識しており、自信家にして強い上昇思考・名誉欲を隠しきれていない。
半ばおどけた様子や秘めた自信から察せられる通り、彼の振る舞いは半分本音で半分嘘。
その本性は慇懃無礼なサディスト。
ワインを嗜むことと並んで「弱い者虐め」が趣味であり、相手が自分の力量で確実に仕留められるかを見極めて着実に狩るタイプである。
【聖杯への願い】
聖杯の力を手に入れ、より高みを目指す。
【マスター】
バッタモンダー@ひろがるスカイ!プリキュア
【マスターとしての願い】
聖杯の力を利用してプリキュア達を倒す。
【能力・技能】
アンダーグ・エナジーを物質に宿してランボーグを召喚する。
『バッタモンモン』と呪文を唱えることで瞬間移動ができる。
【人物背景】
プリンセス・エルを狙うアンダーグ帝国の刺客。
名前の通りモチーフはバッタで、額にバッタのような触覚が生えた人間の男性の姿をしており、目元には道化師のようなメイクが施されている。
へそ出しのインナーの上にファーが付いた緑色のジャケットを羽織り、棘付きのブレスレットを身につけるというビジュアル系を思わせるファッションをしている。
一人称は『ボク』で穏和で知的なキャラ作りに勤しんでいるが、状況が悪くなった途端に一人称が『オレ』になる他
「ありえねぇぇぇっ!?」と癇癪を起こすなど荒く汚い口調に豹変するため、本質的には粗暴な性格。
また、それなりの頻度で「弱い者には手を出さない」などと嘯いているが、これは「弱者は強者に従うのが当然である」との前提に基づいた言葉である。
この姿勢からバッタモンダーは基本的に相手を『弱者』とこき下ろし、徹底的に見下し上から目線で接する。
弱者と見なした者のことを「悲しい」「かわいそう」と殊更大仰に嘆いてみせるのも「『弱者を憐れむ強くて優しい自分』に酔いたい」が為のフリでしかない。
人間界では生活するために『紋田』という青年に変身して交通誘導のバイトを行い、ボロアパートで生活している。
投下終了です
>命も無いのに殺し合う
マスターがサーヴァントを狂気で圧するという展開に驚きました。
精神攻撃も此処に極まれりといった有様で、悪辣なことをするな……と想いましたね。
しっかり折られている辺りも心配というか、いろいろな意味でえげつないことになりそうです。ありがとうございました。
>BRAVER×BRAVER
勇者とそうでないあり方のジレンマが描かれた作品でしたね。
東郷の全てを正論という暴力で否定する姿がこれまた凄まじい。
反目するにも出来ない無情さが際立って見えました。ありがとうございました。
>Welcome to HalfLife
獅子神さん、こんなところまで来てしまって……(よよよ)
ワンヘッドにさえ引けを取らないだろう危険極まりない舞台に招かれて尚、飢えと善性を塩梅よく共存させている姿が彼らしい。
此処でもしっかり戦う意志は持っているのが応援したくなりますね。ありがとうございました。
>広がり行く魔の根
悪の手先と悪の手先、という共通点を持つ主従ですね。
同じ悪同士でもノリや雰囲気はかなり違っていて、面白さが出ていたと思います。
持っている能力もかなりえげつなく、場合によっては恐ろしい光景が展開されそうですね。ありがとうございました。
私も候補作を投下させていただきます(いつぶりだよ)。
◆
戦争や紛争、これらは全てビジネスだ。一人の殺害は犯罪者を生み、百万の殺害は英雄を生む。数が神格化するんだ
Wars, conflict - it's all business. One murder makes a villain; millions a hero. Numbers sanctify.
――チャールズ・チャップリン『殺人狂時代』
◆
夢を見ていた――死骸の夢だ。
殺す。ただ殺す。悪魔を斬り、天使を撃ち、神を穿つ。
旅路の夢、と言い換える事も出来たかもしれない。
だがそれは、旅すると云うにはあまりに剣呑すぎた。
殺す。彼は、殺し続ける。殺したいから殺すのではなく、望まれたから殺す。
英雄の称号の代わりに背負った無限大の屍山血河を果てしなく己が背後に広げながら、擦り切れる事も知らずに歩む記録が少女の心へ絶えず流れ込んでいた。
見方によっては、それはそれは華々しい光景。
人の世を冒す魔性を、大上段から聖なる不自由を押し付ける神性を、悉く蹴散らして鏖殺する。
その姿に見出すべき普遍の概念は、きっとヒロイズム。爽快なまでに清々しい、人類の為に立ち上がった少年英雄。
万雷の拍手と喝采で以って迎えられ、遥か後世にまで叙事詩として伝えられるべき極上の英雄譚(サーガ)に他なるまい。
彼の前では、きっと誰もがそうだった。
光を見る。希望を抱く。必ずや彼ならばと目を輝かせる。
誰もが想いを託し、未来を託し、彼の重荷を無邪気な瞳で増やしていく。
彼は、神などに非ず。
魔の力を宿して生まれた麒麟児にも非ず。
彼は、どこにでも掃いて捨てるほどいる“ただの人間”でしかなかった。
だというのに彼には、その運命を背負えるだけの素質があった。彼は勝ち続ける。勝ち続けてしまう。いっそ敗北に膝を折り、泥を舐めながら死に折れることが出来たなら、こんな目に遭い続けることはなかったろうに。
たかだか悪魔の数体を殺しただけならば、人は彼に何の期待もしなかったろう。
しかしその数が数体から数十体、果てには数百数千と積み重なっていったなら?
その答えを、少女は知っていた。
積み上げた成果は実績になる。
積み重ねてきた実績は信頼を生む。
やがてそれが当たり前になっていき、そして――いつかは無責任な信仰に変わるのだ。
守って貰えることが当たり前になる。
全てを任せ、戦わせることを常識と考え疑わないようになる。
信用を裏切れば罵倒の声を臆面もなく投げ付けて無能呼ばわりをし、かと言って勝ち続けたところで寄せられる信心が緩むことはない。
少女は――郡千景という人間は、それに耐えられなかった。
命を懸けて戦った者達のことを安全地帯から好き放題に罵って蔑む、そんな人間の醜さを前にして壊れた。
ひび割れを放置して使い続けていた器が、ほんのわずかな衝撃を受けて微塵に砕けるように。
長い年月をかけて緩んできた大山が、嵐の夜に土砂崩れを起こすように。
当たり前のように、少女は壊れた。
その果てに辿り着いた幕切れについて語る必要はないだろう。今、千景がこの冬木という電脳の街に存在していること。そして、その手に握られている『黒い羽』が壊れた少女の顛末を物語っている。
結論を言えば、千景は貫けなかった。
現実を前に膝を折り、輝きを失って散華した。
そんな彼女は今、夢を通じて自分の……いや。
神樹に選ばれ世界の為に戦ってきた、全ての少女達のIFを見ていた。
「……あなたは」
彼は壊れなかった。
彼は、死ななかった。
本当に最後の最後まで、ずっと剣を握って戦い続けた。
愛も友も人間的な幸福なんか全て全て捨てて捨てて、ただ只管に求められる役割に徹し続けた。
「あなたは、負けなかったのね」
彼は――、負けなかった。
殺す。応える。死を以って応える。背負う。進む。
それはきっと、勇気なんて上等なものではなかったに違いない。
求められたから応えた。それしかなかったから、貫いた。
ただそれだけ。ただそれだけで、彼は――どれほどの苦痛にも別れにも打ち克ち続けたのだと千景は悟る。
羨ましい、とは思わなかった。
むしろ抱いた感情はその真逆。
手前勝手な期待、人間扱いしないこととイコールの信頼。
それを終身浴び続けながら、壊れることも出来ずに歩み続けるなんて。
挙句死んだ後でさえも自分のあり方に囚われ続け、そうあることを求められ続けるなんて――ああ、それは。
それは、なんて……
「哀れむ必要はない」
かわいそうな人、と言いかけたところで声がした。
「それは無駄な感情だ」
少年の言葉は、あまりにも端的だった。
それを聞いて千景が思ったのは、擦れている、という感想。
捻ねているのでも、ましてや拗ねているのでもない。
彼を彼たらしめるものは、事此処に至るまでに全て擦り切れてしまったのだとそう分かった。
――分からない筈がない。郡千景は、その生き方が意味する過酷を知っているから。
「……一つ、聞いてもいいかしら」
世のため人のために戦う人間は、いつしか同じ人間として認識されなくなっていく。
何もしなくても戦果を持ち帰ってくれる存在にして、自分達が流すべき汗と血を代行してくれる機械として扱われる。
失敗した人間を罵り、否定するのは悪でも。
不良品の機械に悪態をつき、蹴りつけることは誰にだって出来る。
郡千景は、それに気付いてしまった。
守ろうとしていた世界の醜さを目の当たりにしてしまった。
そんなものは言い訳だと分かっている。現に千景の世界には、それでもと心を保ち続けた人がいた。
でも、千景はそうはなれなかった。
千景は弱い人間だったから。
身を粉にして戦って尚勝たなければ否定される現実が、文字通り命を燃やして戦った者達が罵倒される世界が――許せないと思ってしまった。
千景が戦っていた時間はわずかだ。それでも、あれほどの地獄と失望を見た。
であれば。この彼が歩んできたその生涯は、どれほどの地獄で満ちていたのか――
「辛くは、なかったの」
「別に」
千景の問いに、サーヴァントは答えた。
またしてもごく端的な回答だったが、本当にそれ以外の言葉など必要なかったのだろうと分かる無感動がそこにはあった。
「そうするしかなかったから、そうしただけだよ」
その答えを聞いて、郡千景は確信する。
自分は、何がどうあってもこんな風にはなれない。
こんな恐ろしい生き方なんて、何度人生をやり直したって出来るわけがない。
世界の全部を背負わされながら表情一つ変えることなく歩み切る、救うことはあっても救われることは決してない無間地獄。
決して明けることのない、光輝で満ちた暗夜のような生涯。
擦り切れながら、失いながら、奪われながら……それでも敵を殺し続けた冥府魔道。
――こんな風になんて、なれるものか。いや、誰だってなっちゃいけない。
なっていい筈がない。これは、これは、こんなものは……人間の生き方では、ない。
そこまで考えて、脳裏に一つの顔がよぎった。
自分に刃を向けられながら、それでも自分を守ろうとしたあの少女。
ずっとずっと嫌いだったけれど、同じくらい好きで憧れていた女の子。
目の前の少年とは似ても似つかない。
性別も、見た目も、口調や言動だってそうだ。あの子はこんなに寡黙ではなかった。
でも、きっと。
こういう生き方を選べる人間が居るとすれば、それは――
「……あなたになれそうな人を、一人知ってる」
きっと、彼女のような人間なのだろう。
自分の身の丈以上の何かを背負ってしまえる人物。
他人の為に、理屈を超えて自分を投げ出せる人物。
ああ、と千景は思う――やっぱり最初から、自分には向いていなかったのだ。
世界(みんな)の為に戦うなんてこと。
自分一人の幸福も守れない自分には、どだい荷が重かったのだ。
「そうか。それは」
郡千景は、落伍者である。
勇者でありながら、守るべき人に刃を向けた。
果たすべき使命に背を向けて、並び立つべき仲間へ殺意をぶつけた。
その末に命を落とし、死に際に握り締めた一枚の羽に誘われて望んでもいない死後の世界に辿り着いてしまった。
この世界は、いずれ滅ぶだろう。
千景達、世界の外から来た者達の存在によって燃え尽きる。
皮肉なものだ。勇者であれず死んだ自分が、今度は世界の敵だなんて。
聖杯は、あらゆる願いを聞き届けてくれるのだという。
であれば、自分は。愚かな落伍者は、そしてこの“英雄”を呼んでしまった自分は――どうすればいいのだろうか。
「気の毒なことだ」
郡千景のサーヴァントは、無銘。
名前などとうの昔に擦り切れ果ててなくなった、ヒトを救うだけの機械。
一切の人間性を捨てて“世界”に奉仕し。
何もかもを失った今も、“人々”の安寧と繁栄を願い続ける奴隷。
人は彼を無自覚な悪意のもとにこう呼んだ。
望めば望んだだけの勝利を持ち帰ってくる彼のことを――
英雄(ザ・ヒーロー)と、そう呼んだ。
郡千景は思う。
やはり、自分は勇者などではなかった。
彼を見て、その名を名乗り続けられる者などそうはいないだろう。
それこそ――"彼女"でもない限りは。千景が殺してでもそう成りたかった、あの勇者でもない限りは影すら踏めはすまい。
堕ちた勇者は英雄を呼ぶ。
愚者として死んだ少女は、今も迷路の中にある。
“黒い羽”は彼女にとって祝福か、それとも嘲笑か。
――勇者が死んで、■■が生まれた
【クラス】
ライダー
【真名】
ザ・ヒーロー@真・女神転生
【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:A
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:EX
純粋な騎乗の技能を意味しない。
悪魔を駆り、英雄として時代を駆る者。
騎乗スキルに照らし合わせた場合Aランク相当。
【保有スキル】
ザ・ヒーロー:EX
『英雄(ザ・ヒーロー)』。
斯くあれかしと無貌の民々に望まれた存在。
人の属性から外れた存在と戦闘を行う際に全ステータスが1ランク上昇する。
死に瀕すれば更にもう1ランクの向上を得られる。勝利することを願われ続ける存在。
A+ランクの戦闘続行スキルをも内包する。
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる能力。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【宝具】
『悪魔召喚プログラム』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
悪魔の召喚を可能とするPCプログラム。
本来悪魔の召喚には高度な知識と莫大な霊力、そして難解な魔法陣の構築や生贄の準備が要求される。
その障壁に対し、プログラムに召喚の儀式をエミュレートさせるという形でショートカットを用意したのがこの宝具。
簡単なコンピューターの操作能力さえあれば、誰にでも悪魔の召喚を可能にする極めて画期的かつ革新的な代物。
『ヒノカグツチ』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:1
炎神火之迦具土神の名と力を宿す秘剣。神剣とも。
刀そのものが極めて高い神性を宿しており、スキルとは別口で人以外の属性を持つ者に対して特攻を発揮する。
【人物背景】
英雄(ザ・ヒーロー)。
望まれるままに進み続けた、かつて少年だった何か。
【サーヴァントとしての願い】
『ザ・ヒーロー』
【マスター】
郡千景@乃木若葉は勇者である
【マスターとしての願い】
私は――
【能力・技能】
『勇者』に転身することが出来る。
千景は生前、神樹によって勇者の力を剥奪されていたが、この世界ではその力が戻されている。
【人物背景】
勇者と呼ばれていた者。
世界の醜さに耐えられなかった少女。
投下終了です。
投下します
聖杯戦争の舞台となった冬木市の郊外。
星ひとつない夜空の下で二騎の英霊による激戦が繰り広げられていた。
一人は赤髪のセイバー。
着込んだスケイルアーマーは鉄片ではなく本物の――それも複数種類の竜の鱗で仕立てられており、片手で振るう大剣は一振りするたびに大気を震わせ地面を抉る。
もう一人は髭を蓄えた禿頭の偉丈夫、ライダー
手にした業物の刀で、目にも止まらぬ速さで振るわれるセイバーの剛剣を受けとめ、時には受け流して互角に打ち合う。
互いの獲物がぶつかり合って火花が散り、闇の中でそれが唯一の光源となる。
仕切り直しにとセイバーが距離を取れば、背後に浮かべた海賊船から雨霰ごとく砲弾を放って追撃するが、自らに迫る砲弾の雨をセイバーは一振りで斬り払い、一歩で間合いを詰めて再びライダーに肉薄し、剣戟を再開する。
――――ッ!!
ライダーが驚愕の息を漏らす。
その剣速は先ほどまでとは比較にならないほどに早く、今自身の耳に届いている金音が何合前の剣戟で発せられた音なのかもわからなかった。
ライダーは直感やそれに類するスキルも持っていない。すなわち純粋な剣術のみでこれを捌いているということに外ならず、その事実は瞠目すべきものではある。
しかしそれはどれほどの意味を持つだろう。
正面戦闘に於いて結果を左右するのは『どちらが強いか』という単純な事実。
今回の場合は『どちらの剣技が優れているか』。
防戦一方となり、もはや攻めに転ずることすらできなくなったライダーが崩れるのは時間の問題で、その状況を逆転するには別の要素が必要だった。
例えば増援。
「!?」
ライダーの背後に浮かぶ海賊船から四人の人影が飛び出し、セイバーに襲い掛かる。
サーベルを持った男が一人。
短槍を持った男が一人。
半魚人のような無手の男が一人。
鉄爪を備えた四本腕の女が一人。
ある者は両側面から、ある者は背後から、ある者は上空から。
敵を屠らんと波状攻撃を仕掛ける彼らに、しかしセイバーは冷静に対応する。
まずはライダーに背を向け、背後に降り立った無手の男を逆袈裟にて斬り捨てた。
晒した背中に振り下ろされたライダーの一撃をスケイルアーマーで受け流し、続いて側方でサーベルを振り上げている男の胴を薙ぎ払う。
勢いを殺さずライダーの心臓近辺を目掛けて横薙ぎを放つが、これはライダーの刀に受け止められる。
しかしライダーは二の太刀を繰り出そうとしていたのを無理矢理中断して受けに回ったため体勢が整わず、力負けして後方に弾かれた。
追撃したいところだがまだ刺客は二人残っている。
追いながらにして追われる形になるのは悪手。先にこちらを片付ける方が得策。
セイバーはそう判断してその場にとどまり、上空から爪を構えて飛びかかって来る女を剣で叩き落とす。斬り捨てたつもりだったが、四本の腕の内二本を防御に回され受けられてしまったらしい。
「隙あり!」という気勢と共に突き出された槍を左腕で受け止める。
衝撃が骨まで響き、痛みに眉をしかめながら男を袈裟斬りで仕留め、更に地面に肺を打ちつけ身動きが取れなくなっていた女を両断し止めを刺した。
今度こそ追撃せんとライダーに向き直ったセイバー。
彼の目に映ったのはライダーではなく巨大な渦巻。ライダーの宝具―――生前食べた悪魔の実の能力だ。
セイバーが剣を構えるよりも先にその胴に直撃し、斬り捨てた骸もろとも吹き飛ばされる。
セイバーは舌打ちと共に受け身を取ってすぐさま立ち上がる。しかしその眼前には無数の銃弾が迫っていた。
ライダーの海賊船に乗る船員たちによる援護射撃。剣で弾く暇はないと咄嗟に剣を盾代わりに身を守る。
だが急所を守るので精一杯。防ぎきれず、多くの弾丸がその身に纏った鎧に直撃し、いくつかの竜鱗を弾き飛ばした。
態勢を崩したセイバーに容赦なく降り注ぐ弾丸の雨。その勢いは更に増しその身体を釘付けにする。
形勢は逆転した。
今が好機と攻めかからんとするライダー。だがその目に奇妙な光景が映る。
大剣を右手一本で支えながら、まるで咳き込む幼子の背にそうするように、空いた左手をライダーの配下の骸に添えるセイバーの姿。
警戒し、一瞬躊躇したライダーだったが、セイバーの口が動いているのを見て―――何某かの詠唱を行っていることを理解して―――脚にも覇気を纏い全速力で突撃する。
「一手遅い」
詠唱を終えたセイバーが呟くと同時。セイバーが触れていた骸が円筒形に形を変え、ライダーの土手っ腹に直撃した。
殺害した敵の骸を武器に作り替える。
自らの手で討ち果たした魔物を用いて造られた武具以外、生涯使わなかったというセイバーの逸話が昇華した宝具。その真名を解放したのだ。
そしてまだ、骸(ざんだん)は三つある。
先ほどとは打って変わって、今度はライダーが後方に大きく吹き飛ばされる。覇気で腹を固めて守ったものの衝撃までは防げない。
先のセイバー同様受け身を取ってすぐさま立ち上がり向き直るが、セイバーに目を戻した時には、既に三発のミサイルが完成していた。
間髪入れずに射出されるミサイル。それらは全て背後に浮かぶ海賊船を狙っていた。
「させるか!」ライダーは大渦を作り出して迎え撃つ。
高速回転する大気がミサイルを呑み込み、風圧がそれらを瞬く間に圧し砕く。
仲間の骸を弄ばれ、あまつさえ自らの手で破壊させられた怒りに腸を煮やしながら大渦を前方に押し出す。大渦は空気を潰し、大地を抉りながらセイバーに向かう。
先ほどぶつけた渦よりもはるかに強い力を込めている。直撃すれば英霊とて砕け散るだろう。
これが当たれば決着する。ライダーにそう信じさせた大渦は、次の瞬間光の刃によって真っ二つに両断された。
セイバーが剣に込めた魔力を収束し、剣閃に乗せて放出したのだ。
大渦を切り裂いた光の刃は勢いを失うことなく上空に浮かぶ海賊船の竜骨に直撃し、深い傷をつける。
竜骨は船底中央に配置される強度部材。謂わば船の背骨ともいうべき構造材であり、かのゴーイングメリー号もこの部位を損傷し遂には大破した。
宝具として宙に浮いているとはいえ、海賊船もまた船。船である以上、竜骨を損傷しては沈没の運命からは逃れられない。
偉大なる航路、新世界を渡ったライダーの海賊船は、船内に残っていた船員(クルー)達の悲鳴と共に墜落した。
これにて決着としよう、そう告げてセイバーは大剣の真名をも開放し、魔力を込める。
やることは先ほどと同じ。剣閃に魔力を乗せ、光の刃を飛ばし切り裂く
だが規模がまるで違う。比にならない。
ライダーはおろか後ろの海賊船も、戦場のはるか後方で戦いを見守るライダーのマスターすら、この一撃で消し飛ばす算段だろう。
生半可な方法では防ぐことはかなわない。
すまねえな、と呟いてライダーもまた宝具の真名を解放した。
地響きと共にセイバーの立っていた地面が渦を巻き始める。
セイバーが異常に気づいたときには両足は渦に飲まれ身動きが取れなくなっていて、そしてみるみるうちに渦は回転速度を早め、あっという間にセイバーの全身を呑み込んだ。
真名解放することで使用可能となる、悪魔の実の覚醒能力を用いた攻撃。
大地を中心に発生した渦は螺旋を描きながら、全てを巻き込み天に昇っていく。
渦の内部は地獄そのもの。ただでさえ風圧だけでミサイルを撃ち落とすほどの圧力下に、樹木や岩石などが巻き込まれているのだ。
呑み込まれた者は上下も左右も前後もわからないままにすり潰され、粉々に砕け散る。
しかしセイバーも、一騎当千、万夫不当と言われし英霊の一人。その中でも上位の存在。
凡庸な英霊ならばたちどころに粉砕してしまう災渦の中、全身を魔力で覆い身を守ることで生存していた。
これほどの大技を維持するのは容易なことではない。しばらく耐えていれば反撃の機会は訪れると考え耐えていたが、セイバーが想像していたよりも攻撃の持続時間ははるかに長かった。
このまま耐えるばかりではいずれ渦が消えるよりも先に魔力を使い果たし、渦に翻弄されるガラクタの仲間入りとなってしまう。セイバーは全身を覆っていた魔力を剣に集中させる。
全身を圧し砕かんとする圧力を筋力で凌ぎ、激突する岩や木を鎧で跳ね返し、裂帛の気合と共に大剣を閃めかせて渦を切り裂いた。
剣圧によって巻き上げられていた砂塵が吹き飛び、クリアになったセイバーの視界。
そこに映るは、待っていたと言わんばかりに刀を振りかぶるライダーの姿。
そしてセイバーが剣を構え直すよりも早く、夜空の如き黒に変色した刀が振り下ろされた。
★
――見事。
簡潔に言い残して消滅したセイバーを見送り、踵を返す。
己の強さに絶対の自信を持つライダーではあったが、あのセイバーが今回の聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの中でもトップクラスの強者であることは疑いようがなく、紙一重でつかみ取った勝利といえよう。
そしてその勝利を得るための代償も非常に大きなものだった。
偉大なる航路を乗り越え、新世界の海を共に旅した27名の船員(クルー)達はセイバーに斬られ、あるいは船と共に撃墜され、ほとんどがこの戦いで討ち果たされてしまった。
彼らを召喚することはもはやかなわない。
宝具の真名開放による消耗も甚大だ。
海賊船の召喚のみならず、悪魔の実の覚醒能力を全力で使用した。
予選が終わるまでは魔力の回復に全力を注がなければ、まともに戦うこともままならない。
戦闘音を聞きつけて他のマスターやサーヴァントと連戦することとなれば勝つのは厳しいだろう。すぐにこの場を立ち去らなければならない。
疲労と魔力消費で鉛のように重くなった身体を引きずり、急いでマスターの元に向かう。
死に別れた息子に生き写しの、幼く優しいマスターの元に。
「おかえり〜。お疲れさま〜」
そう言って微笑みながら手を振ってライダーを迎えた人物は―――
―――彼のマスターではなかった。
女のように髪を縛ったその男は血に濡れた剣を持ち、その右足で血だまりに倒れた己のマスターを足蹴にしている。
それを視認したライダーは、怒りのあまりに体が燃えるように熱くなり、魔力どころか精根すら尽き果てた身体に鞭を打って走り出す。
己のマスターを害した下手人。生かしておいてなるものか。
魔力は尽きて能力は使えない。疲れ切った体では武装色の覇気を纏うこともできない。
それがどうした。そんなものがなくとも、不届者ひとり一刀のもとに斬り伏せるのに支障なし。
彼我の距離約15m。刀の間合いまで――
突如、視界が流れ、男の姿が消えた。
ライダーが最期にその目に捉えたものは
闇夜に浮かぶ白い髑髏面だった。
★
「いや助けにはいるの遅くない?アサシン。
殺されちゃうとこだったじゃ〜ん?」
女のように髪を縛った男――重面春太は開口一番、軽薄な口調で己のサーヴァントに文句を垂れる。
「申し訳ございません。マスター」
頭を垂れて答えるのは全身を黒い装束に包んだ髑髏面の男。
棒のように長く、異常なほどに長い腕には赤黒い心臓が握られている。
首を捩じ折ったライダーから取り出したものだが、アサシンはそれを口に流し込んだ。
うげえと顔をしかめる重面。
「何回見てもグロいねそれ。美味しいの?」
「美味ではございませんな」
「あっそ。もうちょっと面白いこと言えない?」
従者からの淡白な答えに少し不満を示しながら次の話題に移る。
「セイバーのマスターは?
強そうだったからアサシンにお願いしちゃったけど」
「それなりに腕の立つ魔術師だったようですが、不意を衝きましたゆえ造作も無き事でございました。
そも、サーヴァントと戦えるマスターなどそうはおりますまいが」
「そうかなあ。今まで見てた感じ、術式さえ通じれば夏油や真人たちなら正面からでも十分とやり合えると思ったよ。
まあ夏油はともかく、呪霊がマスターになれるか知らないけど」
「ああ。お話に聞いていたマスターの生前の御知己ですな。
それほどの傑物とは。いやはや世界は広いものですな」
素直に簡単を漏らすアサシンに
「生前の、ねえ…」と何か詰まったような声色で返す。
「何か?」
「正直ピンと来ないなって思ってさ。
ここに来る前に俺はどうも死んだっぽいけど、全然実感ないし」
呪いの王―――両面宿儺。
重面は渋谷での事変の最中その存在にまみえ、体を両断された。
しかし、不意を衝かれたことと切り口があまりにも鮮やかであったが故に、己の身に何が起こったか知覚することなく死亡した。
何の因果か『黒い羽』を手にして電脳の冬木に転移した際、己の末路に関するそれらの知識を一方的に与えられたのだ。
故に若い姿で召喚されたサーヴァントが生前の晩年に行った行為を記憶ではなく記録と認識してしまうのと同様に、重面もまた己の死の記憶に対して実感がわかずにいた。
「だからってわけじゃないけど、この戦い自体にもあんま気乗りしないってゆーか。
正直、願いだの希望だの言われてもよくわかんないんだよね。例えば億万長者になりたいって願いを叶えたとしても、その金を使う俺は死んじゃってない?ってかんじで」
そもそもの話、羂索という呪詛師に協力し渋谷事変に参加したのも弱い相手を甚振って楽しみたかったからだ。
世界は強いだけで勝てるようにはできておらず、強者が弱者に転じることなど往々にしてあると重面は思っていたが、生前の出来事からそんな理屈が通じない圧倒的な強者も存在することを彼は学んでいた。
まともに叶うかどうかもわからない願いのために、痛苦に耐え、強敵と鎬を削るなど心の底から御免被る。
「だから叶えたい願いがちゃんとあるアサシンには悪いけど、俺は俺が楽しむために、俺が楽しいやり方でしか戦わない。今みたいにね」
主従関係の解消も覚悟で吐露した本音。
アサシンは生前、「ハサン・サッバーハ」を襲名した際、顔を潰しその上から髑髏面を被るようになった。故に本人以外にはその表情など全く分からない。
だがその状態でも眉一つ動かなかったであろうことが分かるくらい、その答えはあっさりと返された。
「サーヴァントはマスターの刃。
マスターが殺せと命じた相手を殺す道具にございます。
道具の顔色を窺う必要などありませぬ」
一瞬きょとんとした後、重面は噴出した。
「そっか!
じゃ、これからもよろしくね!」
「ハッ」
「ところで、ライダーのマスターはまだ息があるようですな」
「うん。もう少しこの子で遊ぼうかなって」
「先ほどの戦闘音を聞きつけて敵が来るやもしれませぬ。なるべく手短になさいませ」
「さっそく道具の領分越えてくるじゃん」
足蹴にした敵マスターを踏む足に少しずつ体重をかけながら、重面はへらりと笑った。
【クラス】
アサシン
【真名】
ハサン・サッバーハ[呪腕のハサン]
【属性】
秩序・悪
【ステータス】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:C
【クラススキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
攻撃態勢に移行するとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
風除けの加護:A
台風除けの呪いにより風を防ぐスキル
風系の攻撃のみならず爆風にも効果を発揮する。
投擲/回収:A
短刀を投擲し回収する能力
短刀を取り出し、投げ放ち、回収するまでをノーモーションで行うことができる。
自己改造:C
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる適性。
このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
他のサーヴァントの心臓や強力なマスターの魂を喰らうことによって知性と能力を増強してゆくことができる。
【宝具】
『妄想心音(ザバーニーヤ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:3〜9 最大補足:1人
右腕に移植した悪魔・シャイタンの腕。
右腕で対象に触れることでその心臓の二重存在(コピー)を作り出し、それを握り潰すことで呪殺を成立させる。
物理的に防御することは不可能だが幸運や魔力で対抗可能。
【人物背景】
イスラム教の伝承に残る暗殺教団の教主「山の翁」の一人。
「ハサン・サッバーハ」を襲名するにあたり、彼個人の者は全て捨て去られた。
人間的・道徳的には善人であるとは言えないものの、主の命令には忠実で、主と認めた人物はどれほど劣勢に陥っても裏切らず、多少無理な命令でも黙って従う。
殺しはあくまで役割、義務としており、そこに哀楽を感じることは無い。
戦闘能力はともかく仕える者としては間違いなく一流。
生前、名と顔を捨てたことを後悔している。
【サーヴァントとしての願い】
己の名を歴史に残すこと
【マスター】
重面春太@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
特になし。
【weapon】
・呪具の刀
重面春太が所有する刀。
組屋鞣造が制作した呪具であり、柄の部分が人間の手になっている。
刃の部分は取り換えが可能であり、本体と言えるのは刀身ではなく柄の方。柄と接続されることで刃も呪具化するため消耗にも強い。
遠隔操作、視覚共有ができる為、刀を別行動させて不意討ちや陽動、偵察などに使用することも可能。
【能力・技能】
“奇跡”を貯める術式
重面春太の生得術式。
日常生活で起こった小さな奇跡を重面の記憶から抹消し蓄える。
貯えられた「奇跡」は重面が命の危機に陥ると放出され、術者を窮地や絶命の危機から回避させ生存に繋げることが可能になる。
なお重面自身は術式の仕組みをあまりよく分かっておらず、"いざという時に生き残れる"程度の認識しか持っていない。
ストックされた奇跡の多寡は彼の目の下の入れ墨により判断できるが、その多寡を自身が知覚することはできない。
【人物背景】
羂索に与する呪詛師の一人。
ノリが軽い軟派な性格で「自分が楽しければそれでいい」をモットーに生きる卑劣漢。
不意討ちや弱者をいたぶることを好む下種野郎。
強者を相手に戦える戦闘力があるわけではないため、そういった存在に追い込まれると弱気になりがち。
【備考】
参戦時期は死後
死んだこと自体は本人的にはそんな重要じゃ無さげ
投下終了です
投下します
――政界には、サーヴァントはいない。
そんな自分の幻想は、眼の前で打ち砕かれた。
自身のサーヴァントが、鋏で両断される。
「嘘だ…辞めてくれ…」
粒子の先から出てきたのは、人形のような少女だった。
「そ、そうだ!今の主を裏切って俺のもとに…!」
少女の眼光が光り、男を刺す。
悶え、苦しみ、首に刃をかけられる。
最後に放たれた言葉は――
「…僕の主のために…」
血が、周りに飛び散った。
――――――――
とある豪邸、その一室を、すり抜け入ってくる。
「終わらせて来たよ、マスター。」
「そうか…良くやったなアサシン。」
銀髪の男――銀田栄角は少女――アサシン、蒼星石を労った。
「奴の油断がこちらに功を奏してくれた…邪魔を早急に排除出来たのは良いことだ。」
「僕もそう思うよ。」
鋏の手入れをしながら、蒼星石は答える。
「とにかく、今日は私は床に入る、見張りは頼むぞ。」
「わかってる。」
そう言い、銀田は外へ出ていった。
――――――――
「…」
月を見上げなら、蒼星石は思う。
「あのとき、確実にローザミスティカを水銀燈に抜かれた…英霊の立場とはいえ…僕は生きている…」
忠誠を誓った主、決別した妹による本心の解明、そして、アリスゲームからの脱落。
そして、アサシンとしての顕現、今の自分にやれることは一つだ。
「…僕は、主のために、最大限の忠誠を尽くす…」
もし、今の姿を翠星石を見たら愚行だと言われるだろうか、正直、彼にも見せる顔が無い。
「…やってみせるさ…」
そして、霊体へと、沈んだ。
――――――――
「…聖杯か…」
裏社会最大の殺し屋戦争、銀田率いるCODE-EL本隊と離反者毛利班との戦い。
数、質量、全てに置いてこちらが勝っていたはずだった。
しかし、天秤は毛利に傾いていた。
翠嵐、ピンク、鵺、伊舎堂、薬師丸…その他名を挙げたアサシンは全て返り討ちにされた。
対してこちら、芦澤、最近になってジェイクが鶴城に討ち取られたのみ…明らかに劣勢だ。
あんな偽善者共がなぜこちらに勝っている?
殺しに手をかけながら良識?笑わせる。
人はいつだって残酷だ、そんなのわかりきってるだろう。
「必ずや、この戦争に勝ってみせる…どんな手を使っても…!」
この私が正しいことを、奴らに、世界に、見せつけてやる…!
蒼銀は前奏曲を奏で始めた。
悲しく、残酷な世界を表した歌を
【クラス】
アサシン
【真名】
蒼星石@ローゼンメイデン
【属性】
中庸・中立
【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:C 幸運:E 宝具:D
【クラススキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
【固有スキル】
除草:B
心の成長に邪魔な雑草を自身の武器「庭師の鋏」で切り取る能力。
「庭師の如雨露」と対極の能力を持つ。
人口精霊:B
自身の使い魔的存在、人口精霊、レンピカを従えていることを表したスキル
レンピカは夢の扉を使った他社の夢への干渉、庭師の鋏の召喚に使われる。
忠誠:A
主君に対する、絶対的な忠義を表す。
A以下のカリスマ、洗脳、精神操作といった行為を無効化する
【宝具】
『庭師の鋏』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1人
蒼星石の主武器の一つ。
心の成長を妨げる雑草を除草する。
あくまでも武器生成として宝具であり、実質的に前述の除草スキルとの併用となる。
【人物背景】
ローゼンメイデンの一つ、見た目や口調が中性的な人物。
冷徹であり、忠義に厚い、その忠義をかけたものためにどんな自己犠牲でもかけれる、しかし料理関連は無理な模様。
アリスゲームには興味を示しておらず、作り主であるローゼンに対しての反応も希薄。
主人に尽くす、それが彼女の信念だ。
【サーヴァントとしての願い】
栄角の願いを叶える、でも、もし自分も叶えても良いのなら、僕は――
【マスター】
銀田栄角@ヒューマンバグ大学
【マスターとしての願い】
毛利班の全滅、自分の正義を正しいものにする
【能力・技能】
優れたカリスマ性を持ち、大規模組織であるCODE-ELを纏め上げた。
また、殺し屋としての技量も高く、組織上位に居たと語られる。
まだ若いため、トップについているが、その技量は衰えていない。
【人物背景】
名家、銀田家の子息であり、CODE-EL新トップ。
性格は端的に言えば短気。
アサシンの心を無視した改革を続けた結果、毛利らアサシン達の離反者を生んてしまう。
過去の経験から、殺しの家業であるアサシンに、殺害する相手は善人だろうが悪人だろうか関係ない、誰かに死を望まれる善人などいないという思想にたどり着いた。
投下終了です
投下します。
「ひょっとしたら私、舐められているんですかね」
多様な気配のある冬木ハイアットホテル……その一室で、眼鏡姿の端正な顔をした青年、ブレンがぼそりと呟いた。
前述の傲岸不遜とも思わせる言葉には理由がある。
こと電脳が絡む世界は、彼にとって専門分野もいいところであるからだ。
彼は人間ではない。
かつてブレンが居た世界には人間の魂、精神をデータ化する技術がありネットの海を自由に行き来でき自在に操作可能な「ネットワークの神」と豪語するある存在が居た。
そのネットワークの神に対し脱出不可能な電脳空間の牢獄を作成し閉じ込めたり、即興で単なる市販品のタブレットの中に移し替え出られなくする程度のことは、
可能とする怪人。それが彼、機械生命体のブレン・ロイミュードである。
その彼が――完全にフルスペックを発揮できるボディの上で、見知らぬとはいえ電脳世界で復旧している。
今のこの男にとって仮想空間や電脳が絡む場所や相手など、カモも良いとこである。
その気になればおそらく自分なら平然とこの世界の支配権を……
(と、考えるのは安易で早計で傲慢か)
霊的な多元宇宙的に多彩な能力が絡むのならば、そう簡単にも行くまい。逆に不思議な力で一蹴されるおそれすらある。
「いや、そもそも」
ブレンは元々、今までどこかの電脳空間でコアのデータがかき集められていたのだ。前に別の不完全なボディに入れられ制限下で半端に復活したこともあるが。
ひょっとしたらこの冬木の聖杯戦争も、かつて戦った秘密結社ムの仕業なのかもしれない。
それは侵攻する「無」そのもの。あらゆる個を否定し時空を超えて怪人をかき集めていた組織。ブレンが一度、データと現実の境界が不確かな世界に迷い込んで撃退した連中。
おかしな電脳世界に突入すること自体が初めてではないのだ。
それらと似通った連中のしわざか。あるいはさらなる未知の相手か……?
『黒い羽』もはたして本当に触れたのやら触れなかったのやら。彼は何もなくてもふらっと迷いこみかねない境遇だった。
「しかし、今回もまたどうやら一人ではないらしい。新しい協力者がここに居るようで。サーヴァント……ですか」
ブレンが後ろを向くと、そこには黒衣を纏う褐色の女性、それも儚い少女と言っていいサーヴァントがひとり居た。
「アサシン、でしたっけ」
「はい……アサシンのサーヴァント、ハサン。失礼ですがお手を……取ってくださいますか?」
召喚されてハサンは少し動揺していた。目の前の主からは、異性としての興味の目線が見えなかった。
召喚されたばかりの彼女が知ることでもないが、これはブレンにとって容姿という要素にあまり意味が無いからである。
彼自身の整った部類に入る顔立ちも、機械の擬態に過ぎないのだから。
気に入った姿でこそあるがその気になれば他の人間の外見にもなれるし、事実目的のために別人に成りすましたこともある。
その挙動にやや奇妙な感覚を抱きつつも、彼に呼ばれたサーヴァント『静謐のハサン』は思わず自らに触れることを懇願した。
彼女が召喚者に望むこともある接吻を要求しなかったのは、そういった欲望が全く見えない相手にいきなり望むのはさすがに唐突かと思ったからだ。
「ええ、それくらいなら」
と聖杯戦争とサーヴァントの情報を脳裏に叩き込まれたことで味方だと理解していたブレンは手を握る。
そして……握られた手には何も起こらなかった。わずかな不調さえ見えない。
強い驚愕と、喜びのような感情に少女の顔が染まる。
主は思わずその表情から、怪しいものを感じ取った。臆病な部分があるからこその、目ざとさだ。
「その顔。まさか、何かの能力ですか!? 私を騙そうと――」
「い、いえ!」
慌ててハサン――静謐のハサンは釈明しながら己の存在を説明する。
自らが毒をその身に溜め込み毒そのものとなった存在に等しいこと、試すようで無礼だが毒が効かない相手を探していたこと。
生前に属した教団の手により毒をその身に宿し。殺し続け――肉を用いて毒を注ぎ続けた。サーヴァントとなり昇華された宝具もまた己自身という毒。
そんな身の上の彼女をブレンが召喚したのはあまり意外ではない。彼もまた、毒とは縁深いから。
話を聞いて少し考え込むようにしてブレンは眼鏡をくいっとさせ。
「なるほど。恐らくそれは私がロイミュードだからでしょうね」
「ロイ、ミュード」
「人に擬態できる機械生命体ですよ。元より対生体攻撃や精神干渉、特殊干渉の類は我々ロイミュードには軒並み効きません。
とは言っても聞いた限りその威力では並のロイミュードにも十二分に効くでしょう。となると……私も毒を宿しているから、と言うのが大きいか」
その言葉に、ハサンと名乗った少女は複雑な感情の乗った表情をする。
同じく毒使いと言う事実と、人どころか動植物とすら言えない存在が主であり、しかし自身の毒に平然としているという複雑な状況。
「あなたの願いはその毒をどうにかすることでしょうか」
「……いえ、それもそうですがなにより、こうして私と触れられる」
「でしたら」
貴方の毒、私ならどうにかできると思いますよ。
「え?」
静謐のハサンは、主の言葉に思わず呆けた声を出した。
●
男の指先からしたたり落ちる、金のしずくを少女はすがるように飲む。
そのしずくが身体に染みわたるたびその身が、何か別の物に統制されていくのを感じる。
彼女の唇は今この時だけ、接吻による毒殺ではなくその渇きを潤すためにあった。
やがてしたたりが止まり、終わる。
少し名残惜しそうに、彼女は身を離して待機の姿勢を取った。
「……これで」
「はい。貴方の毒と私の毒がリンクしました。しかし、殺傷力で私の毒に匹敵しうる物を始めて見ましたよ……」
強化前ですら生身ならば即死、鎧とエネルギーフィールドに包まれた仮面ライダーすら死に至らしめる毒の使い手であり――強化後ならば万能の治癒能力も全く通じない。
されど静謐のハサンが持つ毒もまた、万人を殺し幻想種にすら届く代物。生前ならばいざ知らずサーヴァントとなった今ならばその毒性は負けてはいない。
しかし、しかしだ。
最もブレンの毒が彼女の毒を突き放している側面があるとすれば……
それは、そのコントロール性、便利さである。
超進化したブレンは己の毒を外部からコントロールする力を持つ。発動のタイミングを自在にしたり、明らかに毒としておかしな現象を引き起こすことすら可能なのだ。
そしてブレンは、自身の毒の能力を味方に分け与えることもできた。
パスとして繋がったサーヴァントとマスターと言う間柄ならば、それは決して不可能ではない――と言うより、容易な部類にすら入る行いだった。
黄金の毒をすすった瞬間から、彼女は何か歯車が噛み合うようなものを感じた。
穏やかなものに満たされ、統治されていく。
周囲のものをひたすら殺すだけのものであった自分の中の毒が、より洗練された別のものへと変質していく感覚。
ただ己が存在が否定されるのではなく、より高次のものへと進化していく澄んだ感触。
「さて……私相手だと毒が効かないということは証明できませんからね」
いつの間にやらそこらへんで捕まえた野良猫を出してみる。しかしどうやってホテルの部屋内に持ち込んでいたのだろう?
「撫でてみなさい」
おずおずと、手を出して触れた。
大丈夫だ。触れる。毛並を感じる。律儀に事前に蚤とりでもしておいたようで、やけに手触りが良い。
気が付くと、アサシンの目からぽろぽろと涙がこぼれていた。
どこか気まずそうに見つめるブレンの胸元に、アサシンは思わず飛び込んだ。
猫は驚いて、飛び跳ねるようにベッドの下に入った。
しばらくして、落ち着くのを確認するとブレンは周辺に力のならし運転がてら赴くことを提案する。
主の言葉に同意するも、吸い寄せられるようにハサンはその口元へ釘付けとなっていた。
きっとその気になれば、容易にこの男女はその唇を触れ合うことができるだろう。
共に毒身であり、致死の毒が効かず。
そして彼は毒を統べ操る存在であり、彼女は毒を操られる側であるが故に。
「……アサシン?」
どうしたのですかという呼びかけに、静謐のハサンの意識が戻る。
「い、いえ! なんでもありません!」
気を抜くと熱っぽい目でマスターを見てしまう。既にその身は満たされているというのに……強欲に。
緊張か汗が出ていますよ、とブレンはハンカチで彼女の額や頬を拭いた。元より、その汗すら彼女の場合は激烈な毒なのだからという気遣いもあってだが……
思わずその所作に頬が緩むのを静謐のハサンは必死で押さえていた――
しばし、サーヴァントの様子を見てから――主従は外へと赴いた。
●
結論から言えば、何事もなく名も無きサーヴァントとの接敵と撃破は済んだ。
絵に描いたように好戦的な相手であるそれを、撃退し、倒した。
ただし、手を下したのは静謐のハサン……つまりはサーヴァントがではない。それらの直接戦闘はマスターであるブレンの手によって行われている。
己の拳、己が手から出す鎖のような棘の触手、己の毒、己のもたらす念力と雷。それら機械生命体ロイミュードのトップクラスとして培われた能力を再確認するブレン。
「やはり、アサシン。貴方と毒によってリンクした以上、私もまた神秘を帯びている、ということですね」
これもまた、マスター側の世界であったことだが。
ロイミュードは異なる法則の世界から来た「妖怪」の非科学的な力をコピーすることを可能としていた。
別に神秘だから、魔術だから、サーヴァントだからと言ってロイミュードは使えないと言うわけではない。
純粋科学の産物でありながら、彼らは容易にオカルト的技術や異界法則の力も吸収しうるのだ。
それに切り札はまだある。
どんな種族だろうが「無」だろうが撃滅する切り札が。
今はそれを使う時ではない。というか、ブレン自身にすらあの力の全容は把握しきれていない。
超進化態として呼ばれている以上あの力を使うことはなるべく避けたかった。
(なにより……私はロイミュードとしての全開状態でこの力を使った事が無い。いつも制限された状態だった。もし、素の全力が出せるこの状態で「変身」してしまえば……どれほどの……)
雷撃に焼かれ消えた後の、サーヴァントの攻撃による爪痕を見すえるブレン。
アスファルトは抉れ、広い道路は余すところなく破壊され尽くしている。それらはサーヴァントの力と、ブレンの力が激突したものである。
元々膂力に乏しい自らのアサシンより、どうやら腕っぷしの面ではマスターの方が上のようだ。
確かにサーヴァントとは強力で、不可解で、未知数の敵だったがブレンとして初戦にさほどの恐怖はなかった。
まず聖杯戦争の戦いよりも昔の方がよほどひどい目に合っている。
折角作った自分たちのボディの元となる資源を仲間にまとめて盗まれたり。
10トンの鉄塊で何度も殴打され、下敷きになったり。
超高温火炎で火だるまになったり。
ようやくそれらを跳ねのけられる強さの超進化態になってもボディを破壊され、サーヴァントで言う霊核に等しいコア状態のまま仲間にいたぶられたり。
(……なんだか悲しくなってきました)
ロクな目に合ってないのはなにも自慢にならないのだと気付くと、少し落ち込む。
すると、ハサンが流れるような動きで無音にブレンの元へと参じた。
「御身に不具合などありませんか、マスター?」
まずは己が主体で戦うとサーヴァントとの交戦前に言ってのけたマスターに対し散々おやめくださいと苦言を呈したが……
結局押し切られた彼女は、心配そうにおずおずと聞いた。
「ええ。力を一度試したいからと無茶を言ってすいません。周囲の目撃情報などには対処しましたね」
「はい、ブレン様」
今回だけは譲ったが、決して今後は主を危険にさらすのではなく矢面には自分が立とう。そう静謐のハサンは決意していた。
「毒によって記憶は消しましたか?」
「……はい!」
居合わせたNPCと相手マスターは毒によって記憶を消され、日常へと戻りつつある。
毒による消したい記憶部分の消去。ブレンが使う無数の毒の効果のひとつである。
己の毒が誰かを殺すこと以外に使える、ということ自体が在り得ない奇跡としか言いようが無かった。
聖杯戦争にかけた願い以上のものを、あっと言う間にこのサーヴァントは得てしまったのだ。
「やはり……毒の衝撃波や毒の火炎弾や毒の解析用発信機も使い方を教えればできそうですね、素晴らしい……」
それは毒なのだろうか。静謐のハサンと言えど、そこについては少し疑問を抱かざるを得なかったが。
「結構結構。あなた自身はハッキリ言って頑強と言えるサーヴァントではない。ですが私の能力、存在とあまりにも相性が凄まじい!」
実際この組み合わせ、穴と言える穴が無いのだ。
魔力供給もまた、彼の中枢駆動機関であるコアナンバー……コア・ドライビアの半永久的なエネルギー供給にまかなわれ、全く不具合が無い。
シナジー。そうとしか言いようのない異常な噛み合い方によって、彼女は常に絶好調を超えた状態だった。
「さてアサシン――ハサン。期せずしてこのように貴方の願いはかなったわけです。それも私の存在があってのことですが……この私の願いも――叶えてくれますよね?」
暗に自分が居なくなると困るだろう、という圧力の駆け引きも込めての言葉をブレンはもったいぶってかけた。
まずはサーヴァントへメリットをしめしたぞ。自分が消えたら大変だろうと。その言葉に対して――
「勿論です。ブレン様の同胞を取り戻す、この身の全てをそれに捧げましょう」
そうアサシンは静かに即答した。マスター……ブレンの言葉全てが真理であり正義だと言わんばかりの、迷いのない声だった。
(なんと偉大な存在なのだろう。なんと優しいお方なのだろう。あたかも自分がこの方に仕えるために存在してきたかのように思えてくる)
恍惚に打ち震え、称えるようなサーヴァントのまなざしにマスターはそれほどまでに自分が与えた力が素晴らしかったのかと解釈し。自慢げに眼鏡のフチへ指をあてる。
「まあ、私はブレン――頭脳を冠する者です。これぞ聡明で的確で最高の力と言えるでしょうね!」
「はい! マスターこそ叡智の化身たりえる存在です!」
そう心底からアサシンが同意すると――ブレンは少しうろたえた。
いくらなんでもここまで直球で称賛されたことなど、彼の人生において経験がないからだ。
評価してくれる仲間はいたが、大体はほぼ無茶振りのような状況か自分のことをなんだか残念な存在としてしか見ていなかった。
例外はふたり。相棒と言えるハートは自分を最も信頼してくれるが、どうにも苦労をガンガンかけてくる方だし
フリーズはフリーズで……あれは下手をすれば自分以上に優秀と手放しに言える男だった。
ブレンはこうも素直に己を崇め奉る相手と言う者を生涯見たことがないのだ。困惑が、そこにあった。なんだったら少し引いてすらいた。
(どうすればいいんですか……こういう相手との共闘は?)
その風変りな悩みに回答をくれる存在は誰も居なかった。
世界を敵に回しても構わないと言わんばかりのサーヴァントの忠節。
「例え人類にマスターが反旗を翻すとしても私は願いを――」
「そうそう、そこですがね。私は人間に対してそう悪感情を持っていないと言ったところです」
「え?」
「少し人に親しみすぎました。ですから……この聖杯戦争で、ここが嘘だとしても。電脳の世界で、人々が嘘だとしても。
仲間の復活の前に……精一杯守るために戦ってみようかと思います。今さらですが……もう私も仮面ライダーですし、ね」
身勝手でお調子者で似合わないことに付き合わせてすいませんね。そう言って、ブレンは笑った。
アサシン――静謐のハサンからすると、その様は茶目っ気あれど正に謙虚にして深謀遠慮の産物にしか見えなかった。
ブレンは元々ソリの合わない相手だろうと仲間をしばしば助けたりなど、小物臭いようでいて変に面倒見のいい部分を見せる男である。
アクの強すぎる面々と接してきた彼は、機械生命体たる彼はアサシンの美貌に惑わされることもなく純粋に協力者として真っ直ぐに見ている。
今や静謐のハサンのそれは美化やハッタリなき等身大のブレンそのままを見ているに関わらず、盲信あるいは狂信に近い領域に達しかねない感情に染まっていた。
だがその感情が的外れというわけではない。事実それだけのことをブレンはしてしまったのだ。
なんだかんだ言って、自分自身すら自覚の追いつかない領域で彼は優秀だった。
そう。
静謐のハサンにとって彼は優秀で、誠実で、理想的なマスター過ぎた。
あまりにも。
●
ええ。
無論私とてマスターが本当になんでもできる存在とまでは思っていません。
その御身の毒と一体となった今では、その静かな万能さがありありとわかると共に力の特性も理解できているのだから。
万能であっても全能ではなく。超常ではあっても最強ではない。出し抜かれることも、泥をすするような事態もごく普通にあり得る。
――だとしても明らかに毒として逸脱した、不条理なる力ではあるのですが。
だが、いかに強大なマスターや、世界を思いのままに支配せしめるとするマスターでさえ私にとってこの方に勝るものではない。
私の毒に動じず。死なず。
この毒の業から解放し、殺し以外の価値を与え。
されどアサシンとしての能力や在り様を否定することもなく。
容姿にすら何も惑うことなく私という存在を必要としてくれる。
聖杯などもう私には要らない。この煌めく金色こそ我が主にして偉大なる杯。
二人でひとつの運命。
この方に会うため私は産まれてきたのだとすら、思える。
……しかし。だからこそ、おかしいと思える部分はある。
友と、仲間と呼ばれるあの方の同胞の話を聞くたびに。記憶の欠片を感じるたびに。
なぜ貴方様だけがあそこまで背負われなくてはならないのかと、なにか果てなく理不尽なものを感じてしまうのです。
ブレン様は人ならざる……紛れもなく、人類にとっては悪とされる立場と言えどその中で献策し、奔走し、皆を補われてきた。
それでもただ周囲の仲間は迷惑をかけ続けるか、ぞんざいに頼るだけだったのではありませんか?
最も信じるハートと呼ばれるあの方でさえ、信頼すれどもそれを十全に労ってくれたとは……そもそも、私の方が理解し、認めて……!
いけない。
それはダメだ。
あの方が最も信じ、その……愛された、方を。否定するなどあってはならない。
私とて、ハート様という方が、何か他者を惹きつけるモノを持つ傑物であるということ程度は察せる。まさしく王の器ではあるのだろう。
ですが。
またブレン様の同胞が次々と復活されて。それでまた何事かあれば恋敵をも救おうと、己が身を捧げようなどとされたら私は……それに、耐えられるのでしょうか?
あるいは。
仮面ライダーとして……人のために死を選ばれたとしたら。私は……
私は……?
●
戦闘後に帰還のため、タンデムでバイクの後ろに乗る静謐のハサンの細い腕が、ブレンの胴に強く絡んだ。
サーヴァントの力で全力で抱きしめてもなお、主の肉体は揺るがない。信頼。安心。つかの間の独占。その感触に彼女はただ身を託す。
いつものように彼のすぐそばにいつのまにかどこからともかく走ってきた専用バイク……ライドブレイザーで共に帰るブレンは気付いていない。
静謐のハサンが、毒という共通項だけで召還されたのではないという事実に。
彼の力を頂点まで高め、そしてそれを超え愛に殉じさせたふたつの感情。
すなわち嫉妬と、献身。
しかしかつて他者の嫉妬に共鳴しここまでの位階まで力を高めることに成功したいわば「嫉妬心の申し子」であるブレンがなぜその符合に気付けないのか。
それはつまり……彼自身が、嫉妬によって執着される経験が全く存在しないからに他ならない。
嫉妬に身を焦がす側ではあっても。死を惜しまれ、時にその能力を厄介に思われこそしても。
自らはそこまで執念を抱かれる対象になったことなどない。最愛の相手であるハートとは、むしろ無二の相棒のような立場であったから。
内に秘めたまま静謐のハサンは着々とマスターへの狂信を、理解を、そして……なにかもっとこじれた感情を積み重ねつつあった。
その極大の感情にブレンが気付くことは……果たしてあるのだろうか。
【クラス】
アサシン
【真名】
静謐のハサン@Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ
【パラメータ】
筋力D 耐久D 敏捷A+ 魔力C+ 幸運A 宝具B+
【クラス別スキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば発見する事は不可能に近い。
ただし、自らが攻撃行動に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
単独行動:A
マスターからの魔力供給を絶ってもしばらくは自立できる能力。
ランクAならば、マスターを失っても一週間は現界可能。
【保有スキル】
変化:C
文字通りに変身する能力。自在に姿を変え、暗殺すべき対象に接近する事が可能になる。
ただし、変身できるのは自分と似た背格好の人物のみ。この条件さえ満たしていれば、特定の人物そっくりに変身する事も可能。
多少の体型の違いであれば条件に影響はないため、異性への変身も可能である。
毒を喰らう者:A
対毒および複数の毒関係のスキルが統一されたスキル。
マスターとの親和性により毒によって感覚の鋭敏化とステータスが+にならない程度の恒常的身体能力強化を成し遂げている。
このスキルはマスターを無くした場合消失する。
『万物司る妄想毒脳(ザバーニーヤ・ザ・ブレン)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:? 最大捕捉:?
その身全てが猛毒と言える彼女自身の肉体……が、マスターの毒によって強化変性したもの。
毒の威力そのものはそこまで変わっていないが、毒へ抵抗可能なスキルや宝具をぶち抜く特性を得たほか、本来制御不可能な致死毒のみであったその存在はパスと同時に
「毒を遠隔操作し性質を書き換える」「毒の能力を他者へ分け与える」マスターの毒と交じりあい溶けあったことにより完全にアサシンの意思で統制、操作が可能となっている。
理論上はマスターと同じく毒の衝撃波や可燃性の毒による火炎弾の放出や毒による記憶の消去、土に染みこませての身代わり人形などの作成を可能とする。
【Weapon】.
ダーク
投擲用短剣。アサシンは毒を塗って扱う。毒が短剣全てに沁み込んでいるため、刃はおろか柄などに触れても毒が発動する。
【人物背景】
聖杯戦争のアサシンとして本来召喚される「ハサン」にして歴代山の翁のひとり。
少女の姿をしているがその身は暗殺教団の手により毒そのものと化している。
生前よりその身体を用いて毒殺を繰り返してきたが、触れ合える存在が無いためサーヴァントと化しても己と触れ合える存在を聖杯戦争に求め続ける。
そのため毒に耐えうるマスターでなければ非常に危険なのだが、今回の召喚は相手が相手であるためむしろ彼女自身の方が毒を含め変質してしまった。
しかし当人はそのことに関して歓喜し悦びを得ている。
【サーヴァントとしての願い】
マスターのために尽くす。最後の一瞬まで傍に……?
【方針】
マスターの指示には基本的に従うが、基本的に前線には自分が出るべき。
【マスター】
ブレン・ロイミュード@仮面ライダードライブ
【マスターとしての願い】
人類の守護。秘密結社ム等の干渉があった場合それらの撃滅。
【能力・技能】
機械生命体ロイミュードとして種族全員が使える能力としては重加速という周囲の空間を不規則に鈍化させる力場を発生させることが可能。
また人間の容姿や感情を必要に応じて学習し擬態、見破ることが不可能なレベルで生体情報を欺瞞できる。
ロイミュードとしては超進化態と呼ばれる頂点のランクに到達しており、毒を生成し自由自在に多彩な効果や強さを操ることができる。雷撃、念動力なども使用。
また機械や電脳空間への干渉に長じており、無理やり機械の能力を収奪したり市販品のタブレットに即興で電脳空間の牢獄を作ったりが可能。
胸元に超強度のコアナンバーという数字型の光情報サーキットが存在し、それが破壊されぬ限りボディが完全破壊されても復旧が可能。またナンバー自体が爆散しても空間下に波長を残し、粒子データをかき集める手段があればまた復旧する。
また専用ベルト「ブレンドライバー」によって仮面ライダーブレンとして変身を可能とする。
【人物背景】
蛮野天十郎の手で108体制作された機械生命体ロイミュード、ナンバーは003。
創造主たる蛮野の身勝手さと邪悪さかロイミュード002のハートをリーダーと仰ぎ反旗をひるがえし蛮野を殺害。
人類の敵として戦っていたが愛したリーダーのハートと恋敵である009、メディックのために自己犠牲で散っていった。死んで以降は、電脳空間で復活しかけたり別の世界に迷い込んだりをしばしば引き起こしてる。
性格はどこか神経質。口うるさいが全体的に身内には世話焼きで心配する面があり、敵には合理的だが卑怯な手段をかえりみない。
自分を優秀と言い放つ自信家な一方で臆病で卑劣なことも自覚している。
だがリーダーであるハートへの愛だけは本物。ハートのために全力を尽くし必至で駆けずり回り、強くなろうとする。
アイデンティティとなってる持ち物は眼鏡とハンカチ。
「なぜこう無秩序で無遠慮で問題の者ばかりが力に覚醒するのかな」「斬新で革新的で素晴らしい発明になりましたね」などと単語や熟語を3つ繋げて表現する癖がある。
【Weapon】.
ブレンドライバー
ブレン専用の変身ベルト。平時は小さくなってポケットにしまわれている。
ライドブレイザー
緑色の高性能バイク。時速470kmで走るほか、前面部に脳を模した走行管理モジュールがついている。なお毒マキビシや毒ミサイルが仕込んである。
ネオバイラルコア
ミニカー型の圧縮金属素材。人の悪意と同調して一体化を促すほか、所有している者を重加速の影響下から防護することができる。
【方針】
電脳世界の調査および主催の目的や構造の把握。
投下終了です。
投下します。
第1条.犯人は物語当初の登場人物以外を禁ず。
第2条.探偵方法に超自然能力の使用を禁ず。
第3条.秘密の通路の存在を禁ず。
第4条.未知の薬物、及び、難解な科学装置の使用を禁ず。
第5条.(欠番)
第6条.探偵方法に偶然と第六感の使用を禁ず。
第7条.探偵が犯人であることを禁ず。
第8条.提示されない手掛かりでの解決を禁ず。
第9条.観測者は自分の判断・解釈を主張することが許される。
第10条.手掛かりなき他の登場人物への変装を禁ず。
ノックス十戒
◆ ◆ ◆
どこまでも続くと思われるような白亜の壁に、大きさも形も年代も異なる無数の扉。
そんな空間に少女は一人立っていた。
彼女は魔術師の操るサーヴァントによって創られた工房に閉じ込められていた。
工房自体は無害なようだが、この空間中に存在するたった一つの『正解の扉』。
それを探し当てることができなければ、彼女は永久にここを彷徨うことになる。
完全に外界とは隔絶された工房だ。
仮に令呪を使用したとしてもサーヴァントを喚び出すことは困難だろう。
飢えて死ぬか、狂って死ぬか。
好きな方を選ぶといい。
少女を襲撃した魔術師はそう言って彼女をここに閉じ込めた。
実際、工房内を覗ける水晶玉で彼女を監視している魔術師は勝利を確信していた。
魔術の心得も無い、ただの小娘など簡単なものだ。
この魔術で閉じ込め、サーヴァントの贄にしたマスターは数知れず。
トリック。錯誤。誘導。
ここは蛇の胃の中だ。
丸呑みにし、そのまま溶かす。
閉じ込められてから十数分。
少女はあまりの恐怖に気が触れたのか身じろぎ一つしようとしない。
やはり。
他人が閉鎖空間で徐々に壊れていくのは堪らない。
魔術師の口元が嬉色に滲む。
――――だが。
「グッド」
少女は嗤っていた。
それも正気を失って出たような笑い方ではない。
悪魔が魂を奪う契約で人を騙す時のような、とんでもない錯誤に気づいていない愚か者を小馬鹿にするような笑みだ。
少女はおもむろに歩き始めた。
そして、一つの扉の前で立ち止まる。
水晶玉の前で魔術師は息を呑む。
『それ』はこの蛇の胃から出るための、ただ一つの扉だったのだ。
「ここが正解の扉、ですよね?」
少女はあろうことか、監視している水晶玉の方に向き直ってそう言った。
慌てて魔力の流れを確認する。
少女が魔術の類を使ったような痕跡はない。
いや、仮に魔術を使ったとしてもこちらに気づくなんてことはできるはずがない。
それよりもどうする、あの扉を開かれれば彼女は即座に令呪でサーヴァントを喚び出すだろう。
こちらもサーヴァントを……いや、先ほど魂喰いのために外へ遣ってしまった。
もったいないが令呪を切るか? いやあの少女が令呪を使う前に魔術で止めを刺せば――――
魔術師の思考が錯綜する。
しかし、彼女はそんな彼の様子をまるで隣で見ているかのように嘲笑い、もったいぶった仕草で扉を開いた。
「こんにちは、ごきげんよう。16分と39秒ぶりですね」
少女はフリルの付いたドレスの裾を摘んで優雅にお辞儀をすると、ニッコリと嗤う。
「な、なぜ――――」
「『なぜその扉が正解だと分かった』かって? 答えを隠そうとし過ぎなんですよ、あんた。あの扉は統計上最も開かれにくい位置に、最も開かれにくい角度で、最も開かれにくい形状で存在していました。
まあ、該当する扉はざっと見る限り他に五箇所ありましたが。あんたら魔術師になって考えるなら、初期位置から一番近いここがベストポジションってやつです。16分もかけた謎にしてはしょっぱい結末でガッカリしましたよ」
狼狽する魔術師を他所に、自身の『推理』を語る少女。
そう、『探偵』は謎を解いた後にその推理を語るものなのだ。
「ただ扉が存在するだけで。古戸ヱリカにはこの程度の推理が可能です……如何でしょうか?」
「く、クソッ! 令呪をもって命じ――――」
芝居がかった様子の少女に激高し、思わず令呪を使おうとする魔術師。
だがそんな彼の首になにか鋭い物が当たる感覚があった。
見ると、赤く丸い小さなモノが魔術師の首筋にナイフを突き立てていた。
「グッド! 予め位置さえ伝えておけば家具(サーヴァント)とはいえなかなか使えるものですね。推理のお披露目も含めてジャスト20分で終いです。……なにか言い残すことは?」
暗殺者(アサシン)のサーヴァントだ。こんな矮小な存在が彼女の従者なのか。
自分のサーヴァントがいればこんなモノ、一瞬で消し飛ばせるのに。敗けるはずがないのに――――
「ゆ、許してくれ……」
先ほどの威勢はどこにやら、命乞いをする魔術師。
自身を蛇だと思っていた。全てを欺き、騙す最悪の蛇だと。
だが、彼女の――――毒蜘蛛の方が最悪だった。
魔術師の必死の命乞いに探偵は一瞬、目を細める。
――――そして、一呼吸おいて。
「許すワケねェえぇええええぇええだらァあああぁアぁああああぁ!!」
鮮血が工房に舞った。
◆ ◆ ◆
「しかし、つまんねえですね。……ああ、駄目だ。全然駄目です!」
多くのマスターを屠ってきた魔術師の根城を抜け出した少女は一人呟いた。
探偵の足元をチョコチョコと可愛らしい様子で暗殺者(アサシン)のサーヴァントが跳ね回る。
彼女はそれを一瞥し、興味なさげに視線を外した。
「あんた、詐欺師(インポスター)なんですってね。詐欺師と探偵が組むなんて可笑しな話ですが、あんたにも協力してもらいますよ」
探偵、古戸ヱリカは空を見上げた。
「この『黒い羽』とやら……現状、特に動きがないですが――――」
探偵は次なる推理を進めている。
英雄を召喚するシステム。怪しげな奇術を使う魔術師たち。黒い羽と聖杯大戦。
彼女の暴くべき真実はそこここに転がっている。
それらを全て暴き立て、白日の下に晒す。
『知的強姦者』を自称する彼女の生き甲斐であり、使命であった。
――――探し、暴く。
古戸ヱリカは探偵だ。
彼女の心にはぽっかりと穴が空いている。
――――侵し、晒す。
古戸ヱリカは魔女だ。
真実のみを求め、ただ彷徨う。
主を喪い、好敵手を亡くし、ただ幽鬼のように。
探偵と魔女。
そして、詐欺師。
そこに真実がある限り。
彼女たちが繰り返す『推理(はんこう)』は、終わらない。
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【クラス】
アサシン
【真名】
インポスター@Among Us
【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:A+ 宝具:C
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
気配遮断:C++
自身の気配を消すスキル。
攻撃態勢に移るとランクが下がる特性がある。
アサシンの場合は、第一宝具使用時に効果が跳ね上がる特性を持つ。
【保有スキル】
でたらめプランニング:B
無謀極まりない殺人計画でも、あらゆる幸運が彼を味方する。
敏捷か幸運、または宝具のステータスランクをランダムに1段階上昇させる。
破壊工作:A
戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす能力。
ただし、このスキルの高さに比例して、英雄としての霊格が低下する。
【宝具】
『妨害(サボタージュ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:∞
屋内でのみ使用可能。停電を発生させ、対象の視界を極度に狭めたり、ドアを閉鎖して密室を作り出したり、インターネット通信を阻害したりと様々な妨害が可能。
ただし、この効果で殺害を行うことは不可能。あくまで混乱を引き起こすことが主目的の宝具である。
『変身(シフト)』
ランク:E+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
全くの別人に変身するアサシンの第二宝具。変身することによってステータスが上昇するなどはない。
変身には制限時間があり、それが切れると元に戻ってしまう。
『殺害(キル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1
レンジ内に存在する対象一人を殺害する、アサシンの第三宝具。
この宝具はサーヴァントに使用することはできない。専ら魂喰いやマスターへの攻撃に使用されるものである。
また、『クールタイム』と呼ばれるインターバルが適宜必要なため、連続使用は不可能。
【weapon】
基本的に素手だが、たまに刃物やビームが身体から出る。
【人物背景】
宇宙空間に存在する宇宙船の乗組員。
動機は不明だが、普通の乗組員(クルー)を皆殺しにすることを企んでいる。
YES/NO程度の意思疎通は可能だが、基本的に喋れない。
【サーヴァントとしての願い】
不明。
【マスター】
古戸ヱリカ@うみねこのなく頃に
【マスターとしての願い】
この世界の“真実”を全て暴き立てる。
【能力・技能】
「ゲロカス」と評されるほどの漆黒の執念、および推理力。
【人物背景】
真実に殉じた、最悪の魔女にして最高の探偵。
投下を終了します。
なお、インポスターのステータスと宝具の一部表記に関しては地平聖杯に投下した自作から拝借しました。
投下します
何故、こんな事をしているのだろう?
男は何十度目かの問いを、脳裏で繰り返す。
男はつい最近までは、あるグループに属していた。
真っ当な事をやる集団では無い。窃盗、恐喝、路上強盗。そうやって金銭を得ては蕩尽し、暇潰しに目についた者をリンチにし、或いは輪姦して、その様子を撮影して売る。
そんな事をやっていた集団だ。
互いの顔だけ知っていて、他は名前も住所も連絡先も知らない、その程度の関係だから、誰かが警察に捕まっても、芋蔓式に一斉検挙とはならない。
そういう集団に男は属していた。
変化が有ったのは3日前。夜道を歩く2人の女を見つけた日だ。
長身で均整の取れた美躯と、美躯に相応しい美貌の二人連れの女。
人気のない夜道を、極上の美女が二人も連れ立って歩いていれば、彼等の様な者達には、襲われるのを待っている様にしか思えなかった。
いつもの様に攫って飽きるまで撮影しながら輪姦し、薬漬けにして壊れるまで客を取らせて、あとは殺して死体を埋めるだけ。
そのつもりで襲撃して、自分達が触れてはいけない相手に触れた事に気付くのには、5分も必要とはしなかった。
「クソッ!」
三日前の事を思い出して、男は毒づいた。
あの時、たった2人の女に彼等は全員屈服した。
今まで暴力で他者を踏み躙り、屈服させてきた集団が、たった2人の女の暴力に屈したのだ。
最初に女達に近付いた、集団の中でも最も荒事に向いた巨漢が、女達の片割れ、緑の髪の女に顎を蹴り上げられ、下顎を上顎にめり込ませ、蹴撃のあまりの威力に脛骨が砕けて仰向けに転がったのを皮切りに、残りの全員が三百秒にも満たない時間で地に伏した。
そして女達は、彼等にこう命じたのだった。「体の何処かに刺青の有る者を探せ」と。
彼等がまともに従わない事も、最初から織り込み済みなのだろう。
もう一人の女。露出が多い扇情的な衣服を身に纏った黒髪の女が指を鳴らすと、巨漢の死体が痙攣したかの様に震え出し、全身の皮膚が裂けて無数の蟲が蠢きながら這いずり出してきたのだ。
直ぐには理解の出来ぬ惨たらしい光景に、言葉を無くした男達に、黒髪の女はこう言った。「従わなければ貴方達もこうなる」と。
即座に従う事にした男達は街に散らばり、何の結果も得られないまま三日が過ぎた。
「クソッ!」
再度毒付く。
互いに呼び合っていた名前ですら偽名。顔以外は全く知らない。そんな相手でも付き合っていれば僅かとは言え────蟻の糞程のものではあるが、情も湧いて来る。
死んだ仲間の敵討ち─────などと言う殊勝な心掛けは、男には存在しない。
只々気に入らないだけだ。しかし、従わなければ死ぬ。身体の内側から、生きたまま蟲に食われて、全身を食い破られて死ぬ。そんな死に方は真っ平御免だった。
しかし、未だに『刺青の有る者』は見つかっていない。あの二人の残虐さを考えれば、見つけられなかった男に何らのペナルティも課さないと言うことは考え難い。
見せしめとして、蟲の餌にされる運命を想像して、男は全身を震わせた。
「殺されて…たまるかよ」
男は昏い、何かを決意した表情で、彼等が溜まり場にしていた─────今では夜叉の如き女達が屯する、マンションの一室へと吸い込まれていった。
◆
「で、見つからなかったと」
5人掛けのソファーに転がって、緩くウェーブのかかった緑髪を揺らし、女─────シベール・ロウはどうでも良さそうな口調で言い放った。
もう1人の女は見えない…が、何をしているかは奥の部屋から止む事なく聞こえる嬌声が雄弁に物語っていた。
同じ様に探索に出ていた者達は何処にも見えない。まだ戻ってきていないのか、戻って来て再度探索に赴いたのか。
────殺されたか。
男の背筋を冷たいものが走り抜けた。
「まぁ最初から期待はしていなかったけど」
心底どうでも良いと言いたげな─────言葉にしないだけでどんな愚鈍な者でも理解できる言い方だった。
男が恐怖と疲労に苛まれながら街を彷徨った三日間。それを知った事では無いと切り捨てたのだ。
「テメ…」
「何事も無く全員帰還、と。これだけ餌を撒いたのに、全く引っかからないなんて…貴方達、真面目にやった?」
不意に後ろから聞こえる女の声。怒りの咆哮を放とうとした男が凍り付く。何時の間にかもう1人。あの黒髪の女が男の背後に立っていた。
「今日もお盛んだったわねぇ」
濃密な雌の匂い────それも複数を纏わり付かせ、妙に艶めいた肌の女に、シベールは呆れた声を出す。
「当然よ。わたしには全ての女の子を真実に目覚めさせる使命があるもの」
艶然と微笑んだ女に、女が捕食者の眼で自分を見ている事には気付かないふりをしながら、シベールはヒラヒラと手を振った。
「あーハイハイ。で、此奴等全員、サーヴァントと接触した気配は無し?」
呑気な声である…が、聡いものならば、声に含まれた真剣さに気づいた事だろう。残念ながら男は聡くは無かったが。
「全員見て回ったけれど、接触した様子は無いわね。糸も蟲も付けられた様子は無いし、後をつけられたというわけでも無し」
シベールは額に手を当てて上を向いた。
「う〜ん。良いアイデアだと思ったんだけど」
「悪くは無いけど、もう少し派手にやらせるべきね。もっと目立たないと食いついてこないわ」
「あんまり派手にやると、かえって警戒されない?罠でも仕掛けられると面倒よ」
シベールの懸念に、黒髪の女は薄く微笑した。
「派手にやっても違和感を持たれない連中を選んだのよ。むしろ食いつきが良くなるわ」
「それもそうね」
黒髪の女と同じように笑顔になったシベールは、あらためて男に視線を向けて。
「ポケットの中に有る『モノ』はいつ使うのかしら」
床を這う虫ケラを見る様な眼。男の叛意と準備とを見抜いている眼。
「誰か一人はヤルと思っていたのよねぇ」
何が愉しいのか、ケラケラと笑うシベールに。
「丁度増やしたいと思っていたところだし」
黒髪の女が合わせる。
「ぐ…て…こ……」
男は理解した。理解してしまった。
此奴等は、誰かが逆らう事を予期していたのだと。逆らった者を、蟲の餌にするつもりだったのだと。
恐怖が男の理性を吹き飛ばし、甲高い絶叫と共に男は隠し持っていた拳銃を抜いた。
大枚を叩いて購入した拳銃は、薄らと油も引いてある青光りする新品だ。
安全装置など最初から外してある。暴発など全く考えていない行為だが、その事が幸いした。
銃の扱いに慣れておらず、逆上した頭では、到底扱えないモノだったろうから。
距離は2m。超至近距離からの発砲は、素人であっても外し用がない。
銃声は六度。命中弾は────無し。
「あっぶな〜〜い。素人は狙いが読みにくくて怖いわ〜〜〜」
「蟲を出すまでも無かったわね」
凡そ銃撃されたとは到底思えない呑気なシベールの声と、平然とした黒髪の女の声。
此処にいる三人の中で、シベールが何をしたのか唯一判らぬ男だけが、理解不可能な現実に狂乱し、絶叫する。
男には判らない。熱病にかかったかの様に震える銃口から放たれる銃弾の軌道を、シベールが精確に予測して、自身に当たる弾丸の軌道から、身体を動かしたのだと。男には分からない。
男に分かることはただ一つ。
────黒髪の女が指を鳴らす。
自分が此処で虫の餌になるという事だけだ。
男の身体を、無数の蟲が、内側から食い破った。
別室に控えさせていた連中に、床に散らばった人体の名残を掃除させ、改めて自分達の現状を理解(わか)らされた男達が、死人の様な表情と顔色で、再度探索に赴かされるのは、30分後の事だった。
【CLASS】
アーチャー
【真名】
メラルド・オールベルグ@アカメが斬る! 零
【属性】
中立・悪
【ステータス】
筋力: C 耐久: D 敏捷:B 魔力:C 幸運: B 宝具:C
宝具使用時
筋力: B 耐久: C 敏捷:A 魔力:B 幸運: B
【クラス別スキル】
単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクAならば、マスターを失っても一週間現界可能。
対魔力:D(C)
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【固有スキル】
暗殺術:A+
Dランクの気配遮断スキルの効果を発揮する他、話術、隠形術、逃走術、拷問術、投擲術、プランニング、戦闘技能、といった、暗殺者としての技能を最高ランクで発揮する。
特筆するべき特性として、脳のリミッターを外す事で、身体能力の大幅に向上させる事が出来る。
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
耐毒:B
幼少時からの鍛錬により、高い毒への耐性を持つ。
【宝具】
蠢くもの
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ :1~99 最大補足:1000人
オールベルクの当主に代々継承されて来た蟲の群れ。
万を軽く超える数を有し、毒を持つ蟲や、刃を通さぬ硬い甲殻を有する蟲、爆発する蟲などが存在し、アーチャーは此れ等の特性を把握した上で、状況と敵に応じて繰り出して来る。
キロ単位の極細糸を伸ばす蟲なども存在し、索敵や探索にも使える多芸さを誇る。
人体に卵を植え付け、孵化させる事で数を増やす事も身できる。植え付けられた人間は当然体内から蟲に身体を食い破られて死ぬ。
孵化させられる様になるには一定の時間が掛かるが、宝具と化した為に、魔力を消費して瞬時に孵化させることが可能となっている。
孵化転身・蟲蝶変化
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ :ー 最大補足:自分自身
自身に蟲を用い、繭の中で身体を再構成する事で、身体能力の大幅な向上と、負傷及び状態異常の全回復を行う。
対魔力が()内のものに上昇。
背中から生えた蝶の羽を用いた飛行及び、撒き散らす鱗粉による麻痺、鎌と変じた両手による斬撃を用いて戦う。
【Weapon】
傘
:見た目は普通の日傘。滅茶苦茶頑丈。
【解説】
裏の世界では伝説とまで言われる暗殺者集団『暗殺結社オールベルグ 」の最後の長。美女。
物凄い格好をしたレズビアンであり、「女の子が付き合うべき相手は女の子なのよ」と主張し、『真実』とまで言っていた。当然、直属の配下の女性全員と関係を持っている。
恋人がいる女性でも即座にナンパし、アッサリ虜にしてしまう。
この業が祟り、帝国の暗殺者アカメに執着した事が原因でオールベルグは壊滅
一人逃げ延びたメラも、追跡して来たアカメ敗北し、死亡した。
最後の願いが『アカメの裸を見たい』だったりする辺り、筋金が複数入っている。
【聖杯にかける願い】
ありとあらゆる世界の女の子に真実に目覚めて欲しい。
【マスター】
シベール・ロウ(羅 彗中)@CYNTHIA_THE_MISSION
【能力・技能】
国際武術選手権大会を3年連続優勝の実績を持つ、モデル兼実業家兼格闘家という表の顔を持つ暗殺者。
代々暗殺者を輩出して来た羅家の長女だが、家業を継ぐのが嫌で、父親を殺害して出奔。国際暗殺者として名を轟かせている。
10歳の時点で世界中の格闘家や拳法家を打ち倒し、銃を持った相手にも勝利し、複数人数に囲まれても苦も無く倒し、暇潰しに嵩山少林寺を壊滅させ、猛毒を使われたとはいえ世界最高クラスの格闘家と引き分ける強さを持つ。
成人した現在では、一流クラスの打撃格闘家程度では動きを捉えることすら出来ず、天才の名を恣にした拳法家を子供扱いして一蹴する。
バイセクシャル。
【人物紹介】
徹頭徹尾自己中で我儘な女。世界中に舎弟が居ると言っていたが、招集かけても応じる者が居なかった。人望ゼロ。
美女の皮被った範馬勇次郎とでも例えるべきか。
【聖杯にかける願い】
今の所は無い。
投下を終了します
投下します。
「勝ったよ………切嗣」
理想を受け継ぐ事が出来なかった憧れの恩人に、それでも自分がたったひとつを貫き通した末、勝利した事を報告した直後…青年の手元に黒い羽が落ち触れる。そして、本来地下牢に閉じ込められる筈だった青年は……疲弊した状態のまま、聖杯大戦へと巻き込まれる事となった。
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(相手は多分、セイバーのサーヴァントか…!)
敵のサーヴァントの放つ斬撃波をどうにか避けながら、青年は走る。
この世界に飛ばされた当初、疲れ果て暫く気絶したかのように寝たのもあってマシになってるとはいえ、積極的に迎撃するには魔力量が心許なく身体も疲れが取れていない。
朧げな夢から目覚め、既に日没間近になっている事等に困惑しながらも飛ばされた際流し込まれたルールを脳裏で反芻した後、とりあえず散策しようと外に出て、拾った鉄パイプに強化魔術を使いとりあえずの武器とした…その途端に主従の襲撃に遭った形である。
「ちょこまかと逃げやがって!」
悪態を付きながら剣を振るい斬撃を放つセイバーと、後方に控えているマスターらしき少女を見据えた青年は、斬撃を紙一重で避けながら、距離を取ろうと試みる…も引き離せない。最もそれは青年も承知の上。
「──投影、開始(トレース・オン)…熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」
自らの投影魔術を用いて斬撃波に対し、5枚の花弁が束になったような障壁を投影しそれを防ぐ。そして黒と白の双剣である干将・莫耶を投影し、どうにかまともな攻撃手段を用意した。
(強化しても、鉄パイプじゃあの剣とは1回くらいしか打ち合えない。そして今の2回の投影で魔力は殆ど空、干将・莫耶が折られればそこで終わりだ…どうするか…)
相手が直接振り下ろす剣を双剣で受け止めながら思考する青年だったが、沈黙を保っていた少女…セイバーのマスターがここで何かを唱えながら、青年へと向けて魔術を行使しようとする。
対し青年は、迷う事なく双剣を少女の方に投げ…双剣の中の魔力を爆発させ壊れた幻想を発動。
「っ…セイバー!」
「チッ…そっち狙いか…!」
行使しようとしていた魔術を中断し回避しようと試みるも、避け切れない少女だったが…彼女の声に応え、悪態を吐きながらも間に入ったセイバーが身を挺して庇った為、少女に傷は無かった。
(…これでマスターを仕留めれれば良かったけど、やっぱり防がれるか。ダメージは与えれたみたいだけど、もう一度壊れた幻想を使って、あのセイバーのサーヴァントを狙っても…倒し切れない。なら…!)
双剣を壊れた幻想により爆散させた為、今の青年に残っているのは当てに出来ない鉄パイプを除けば先の攻撃で耐久の減った5枚の花弁の盾。それのみ。
至近距離で壊れた幻想で爆散させれば…とも考えるも、先のように庇われ耐えられたら今度こそ終わり、かつ自爆になると思い留まる。
なら今は展開させたまま、少しでも持ちこたえ隙を突こうとするべきだと…そう青年は決めた。
「いい加減、倒れろ!」
「…悪く思わないでください。私には聖杯で、成さねばならない願いがあるのですから…!」
「…気にしなくて良いさ、成したい願いがあるのは…俺も同じだからな…!!」
再び剣を振るい斬撃波を放つセイバーと、先程使おうとしたものとは異なる発生の早い攻撃用の魔術を行使する少女。青年はそれらに対し避けれない物を障壁で防ぎながら、隙を見て鉄パイプを振るうも…命中する事は無く主従の猛攻の前に1枚、2枚と障壁自体が壊れ雲散して行く。
やがて最後に残った5枚目が、セイバーの振るった剣により破壊。青年の身を守っていた盾は全損した。
残ったのは鉄パイプのみ。サーヴァントとマスターを目前としたこの状況ではもはや命運は尽きたと言っていい。だが…青年は諦めていない。日の沈みきった空を見据えた後、距離を取ろうとする。
「足掻きもここまでだな、ここで終わっとけ!」
そう言いセイバーは再び剣を振るおうとし、青年がどうにか避けようと試み…不可能だと悟って鉄パイプで防御しようとする。ギリギリ両断こそされなかったものの、勢いを防ぎきれずに青年が吹っ飛ばされた──その時であった。
「あら、日が沈んだし帰ろうと思ってた途中だったんだけど…取り込み中?」
突如響いた声に、その場の3人はその方向に視線を動かす。
視線の先に居たのは、学生服を着た紫とも薄紫とも取れる髪色をした美少女。
三者揃って新手のサーヴァントかと警戒するも、目前の少女の気配はサーヴァントのそれではないと判断。付近にサーヴァントの気配が無い事からするに単独行動中のマスターかと疑う。
「まあそんな所だ。…もし無関係なら、今ここで見た物は全部忘れてとっとと消えな。お嬢さん」
言外に「聖杯大戦関係者なら殺す」と、そう威圧しながら云うセイバーに対し、物怖じせずに制服の少女は笑みを浮かべ答える。
「お気遣いありがとう。でもその心配は無いわ。だって私は──」
そう言った途端、制服の少女はセイバーのマスターの少女の背後に回り込む。
(な……!?誤認と、気配遮断の併せ技だと…!?)
「くっ、マスター!」
「…サーヴァントだもの。面白いくらいに気付かなかったわね…かぷ、っ」
青年を放置しセイバーは駆けるも、その前に制服の少女は、セイバーのマスターの首筋に噛み付く。少女の歯には牙があった。
「…ぷはぁっ。美味しい」
少女は首筋から口を離し、口元の血をペロリと舐めた。そしてマスターは最後に口を動かし…そのままドサリと倒れ動かなくなった。
「っ──てめえ!!」
「…悪い、な……っ…!!」
怒りを顕にし、少女へと斬りかかろうとするセイバーであったが、いつの間にか回収していた鉄パイプで青年がそれを防ぎにかかる。一度こそ耐えれたが二度はなく、鉄パイプは両断され青年は傷を負い、またも吹っ飛ばされる。
消滅が始まったセイバーは、怒りを抱きながらそのまま青年めがけて剣を振い…肉を切り裂いた手応えを感じる。今殺めた青年があの少女のマスターであれば、単独行動でも持っていない限りはこちらと条件は同じになる……と思っていたその時、セイバーは声をかけられる。
「…ひどい男ね。死んじゃってるからって女の子を躊躇わず斬るなんて…ひどいなぁ。英霊(サーヴァント)なんて、みんなそんなものなんだろうけど」
その言葉に動揺し目前を見返したセイバーの眼に映り込んだのは、自らのマスター"だった"モノが、臓物をぶち撒けて無残な肉塊と成り果てている姿。
呪符による幻術で、青年と少女の遺体を誤認させた上で盾とした結果得た隙を、少女は逃す事はしない。一瞬呆然としたセイバーに対して、少女は取り出した日本刀を振るい斬撃波を放った。
その一撃は、マスターを喪い現界を保てず消滅しつつあったセイバーの霊核を完全に壊した。
「じゃあさようなら」
「……幻、術の…類い……か…畜、し…ょう…───」
悪態を吐きながら消滅したセイバーには目もくれず、少女は青年の前へと立つ。
「…一応聞くわね、君が私のマスターで…いいのかしら?」
少し首を傾げているものの、表情には何一つ感情が出ていない様子の目前の少女に…青年は返した。
「…ああ、俺は衛宮士郎。あんたのマスターだ」
警戒をしたまま、青年は少女を見据える。
「…そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、私は柊真昼…君のサーヴァントだから。…とりあえず拠点に戻った方がいいかな」
青年の様子を見て判断し、立てないくらいに疲弊しているかもと手を差し伸べた少女に対し…青年は首を横に振り、自分でどうにか立った。
「警戒しなくても大丈夫だって言ってるのにー」
「…俺の行動次第なら見捨てる気だっただろ、あんた」
「はは、よくわかってるじゃない」
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結論から述べると、青年…衛宮士郎は、少女…柊真昼が自らのサーヴァントだという事には、彼女を見た時点で最初から気付いていた。
朧げながら覚えていた夢の中に出てきた少女と姿が一致していたからである。
とはいえ、サーヴァントとしての気配を感じ取れなかったのと、夢の中で何の躊躇いもなく他者の犠牲を出す行為を真昼が行っていたのを見た為、場合によっては最悪自分のマスターだろうと平然と殺しかねない危険な人物と判断したのもあってその事は最後まで言わず…警戒心を抱いたまま接する事となった。
敵の死体かつマスターである自分を守る為とはいえ、少女を平然と盾にする姿を見たのも大きな理由となっている。
一方、相手のマスターの少女が最期に見知らぬ誰かの…おそらく女の物と思われる名前を呟き、「ごめん…ね…わた、し…お姉ちゃんなの…に…助け…れな、くて……」と言い倒れた際、一瞬真昼がどこか哀れむような表情を向けていたのも、そこからすぐ元の様子へ戻った所も士郎は見ていた。
士郎自身思う所は大いにあったが、それ以上に真昼も多少とはいえそういう様子を見せるという事実にもまた、思う所はあった。
その真昼はというと…召喚されたはいいものの日中かつマスターである士郎が起きてなかったのもあり、彼を部屋のベッドまで運んだ後…暫し見た夢を通じ士郎の過去を知った結果、血の繋がりの有無は兎も角妹のために悪になり…全てを敵に回しても抗うと決めた者同士として、シンパシーのような何かを感じていた。
しかし一方で、自分のサーヴァントが現れたからと気を抜いたりせっかくスキルを駆使して隠して現れたのにバラすようなマスターなら、見捨てるか殺して鞍替え相手を探しに行っても構わないと思っていた。
その油断が命取りに繋がりかねないのが、この聖杯大戦なのだろうと彼女は推測していた。また自らの願いを叶える為にも、そのような迂闊な行動をする者がマスターだった場合勝ち目が一気に無くなるだろうとも思ったのだ。
その見極めの為と…紫外線がダメージになる体質故、戦闘が始まってから暫くは様子見に回っていたのである。結果…衛宮士郎は見事、柊真昼のお眼鏡にかなったのであった。
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爆発を起こす呪符によりマスターの残骸の処分を済ませた後、拠点にて2人は今後の方針を話し合う事になっていた。
「それでマスター、君はこの聖杯大戦でどう戦うつもり?」
「…願いを叶える為に、他のマスターとサーヴァントを倒す」
「…君の願いは?」
「夢で見たんだろ?なら──」
「…私は、君の口から直接聞きたいの。妹絡みのだろうから、理解や推測は出来るし、学んできた、世間一般で云う常識的な価値観に照らし合わせれば…それ以外でもある程度なら想像も付くけど。
…腹違いの兄さんに、「バケモノ」呼ばわりされちゃうくらいには…根本的に人の痛みがわからなく出来ちゃってるから」
ひどいよねぇ…否定出来ないけどー。などと愛想笑いを浮かべ、英霊の座に至ったが故に得た知識を話す真昼だったが、その姿は士郎にはどこか寂しげに映った。
最も、だからといって目前の自他ともに認める「バケモノ」への警戒を解く気は皆無であったが。
「…妹の、美遊の幸せを願うよ。
だから…美遊を狙ってるエインズワース家がやろうとしてる人類救済とやらを、聖杯の力で先んじてやる。そうすればもう妹は…狙われる事は無くなる、筈だ」
「…へぇ、妹思い此処に極まれりって感じね。血の繋がりが無くてもたった1人の妹…なんでしょ?わかるわよ…その気持ちは。
…でも、本当にそれで解決するのかしら」
そう何処か慎重に選ぶように話す士郎に対し、真昼は疑問を提示する。
「…人類救済とやらの詳細を、俺が把握仕切れてないから…か?」
「そう。全貌がわかってもないのに、叶えていいのかって点がねぇ…蓋を開けてみればデメリットや代償が途轍もなく大きかったー…なんて事もあり得るもの。
私達の世界にあった死者の蘇生法…終わりのセラフって言うんだけど、それがまさにそのパターンだったから。
不完全で、蘇っても10年しか生きれないのに自分が死んでる事を知ったらその時点で消えちゃう。しかも対価が…13歳以上の純粋な人間はウイルスで皆殺しよ?」
「…蘇生を行う選択を…好きな人にさせたのはあんただっただろ。夢で見たぞ」
「グレンがやらなくても、他の誰かが代わりにやる羽目になってたもの。滅ばずに済むならそれが一番だったけど…世界が一度滅ぶ事自体は既定路線。それを私も、グレンも…変えられなかった。
…とにかく、願うのなら慎重に、私は…もっと直接的にやった方が良いと思うけど」
呆れた様子な士郎に対し、悪びれる様子もなくあっけらかんと言う真昼。
それを聞いた士郎は…美遊という一を犠牲に、世界という全を救おうとしていた道を違えた友達、ジュリアンの事を思いながらも……2つの選択を視野に入れた。
「直接的に…エインズワース家自体を滅ぼすよう願うか、最初からエインズワース家自体の存在を無かった事にするように願う…って感じか」
「人類救済に、ロクでもないデメリットや代償がある可能性を考慮するなら…その辺りがベストよ、きっと」
「……ありがとう、考えておくよ」
そう礼を真昼に言いつつも、士郎はふとここで質問をする。
「…そう言うあんたの願いは何なんだよ?真昼」
「…言わないとだめ?…って、冗談よ。君に言わせたんだから…ちゃんと私も言う」
おどけて見せるも、士郎に令呪のある手を向けられ素直に話す事を決める真昼。
とりあえずマスターとして認めた以上、こんな事で貴重な令呪を1画使わせるのは無駄でしかないのと、最初からからかってどう反応するのかを見たかったのもありあっさりと引き下がった。
自身を抹殺しようとしている腹違いの兄に「スパイ映画のようなことをしてみようかしら」「この携帯はメール画面を開いて10秒したら爆発するようできている」などと書いたメールを表示した携帯を置き、彼が咄嗟に携帯をぶん投げる事まで想定した上で「驚いた?驚いた?馬鹿が見るー」なんて煽るメールを送る程度には、柊真昼にはそういう部分があるのである。
…兎も角、士郎に対して抱いているシンパシーのようなもののせいだろうか。真昼は生前のように虚偽を挟む事はなく、言葉を紡ぐ。
「──私の聖杯にかける願いは…普通の人間になる。
普通の女の子として、普通に生きて…大好きな人のグレンや、妹のシノアと一緒に……普通の人生を送りたいのよ。
生まれた時から何もかも、どうなっていつ死ぬのかすら決められて…好きな人や守りたいたった1人の妹と一緒に居る事も叶わない。そんなの…嫌だもの。私の人生くらいさー…私が決めたいの。
私は…私自身の人生の黒幕になる。そう決めた」
そう述べた真昼の表情には、切実さと…自力では叶わないと知りながら、それでも諦めたくない、叶えたいという渇望が宿っていた。
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互いにどうするのかという方針や願いについて共有した上で、疲労や消耗もありひとまず今日は寝て休むよう真昼に言われた士郎は睡眠しようとベッドの中に入っていた。
『私があなたの感情を壊すね、シノア。
これから毎日記憶が壊れるほどに……殴る』
脳裏に浮かべたのは、夢で垣間見た記憶…妹の身を守る為に、その妹の心を壊しひとりで背負い込もうとする少女の姿。
(…ああいう事が必要になる時もあるのは…分かってるさ。でも……もし美遊に同じようにしなくちゃならないとして、その時俺は──)
果たして…彼女のようにやれるだろうか?そう思いながら、疲労もあり衛宮士郎はあっさりと眠りについた。
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一方、真昼は1人部屋の窓から偽りの星空を眺める。
『まぁでも、俺もちょっとはがんばったし…許してくれよな』
脳裏に浮かべるは夢の中で青年が呟いた言葉と、そこに至るまでに足掻いた頑張りの姿。
「…あれで「ちょっとはがんばった」って…自己評価が低いにも程があるわよ…士郎くんは」
(世間一般でいう「頑張った」とは、明らかに度合いが違うもの。それくらいは私でも…わかる。そう言われたら…私の頑張りも「ちょっとは」にしかならないじゃない。
…あの様だときっと…君の願う妹、美遊ちゃんの幸せの中には、君自身は存在しないのでしょうね。
その子にとってはきっと、君が居る事も…幸せになる為には必須な筈なのに)
「…私のマスターとしてはとりあえずは上出来だけど、妹の為に全てを敵にしてでも戦う…って決意が鈍るかどうかね。鈍るようなら…残念だけどそれまで」
そう呟き考える彼女は…端からは何処か憂いげな、浮かない表情をしてるように見えた。
【クラス】
プリテンダー
【真名】
柊真昼@終わりのセラフ 一瀬グレン、16歳の破滅
【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:E+ 宝具:EX(C)
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
偽装工作 :A
ステータスおよびクラスを偽装する能力。プリテンダーが生前二重スパイとして自らの立場や真意を偽りながら暗躍し、また肉体の死後表向きは純粋ではなくとも人間のまま壊れた末討たれた悲劇の英雄として伝わっている逸話から来た物。プリテンダークラスの適性がある理由はこの逸話からである。
Aランクであれば、他のクラスやステータスを偽装し相手を誤魔化す事が可能。
プリテンダーの場合は適性のあるクラスであるセイバー、ランサー、キャスター、バーサーカー、アヴェンジャーのいずれかのクラスに自身を偽装して見せる事が出来る。また、逸話より吸血鬼である事やサーヴァントである事を偽装し一般人を装う事も可能。
単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクAなので、マスターを喪っても1週間程度なら現界し続ける事が可能。
道具作成(鬼呪):C
自他を使った実験の末に鬼呪装備の完成を果たし、表向きは人類に希望を遺した英雄として扱われているプリテンダーの逸話から来たスキル。
プリテンダークラスでの現界な為スキルのランクが通常よりも下がっている他、作成出来る鬼呪装備は性能が落ちる量産型の物(不安定な精神状態で持つと常人の精神では狂うリスクあり)か、性能が高い代わりに持つと狂うリスクも高い初期に作成した試作品しか作れず、また形状も日本刀型しか作れない。
【保有スキル】
吸血鬼(一般):B
第3位始祖であるクルル・ツェペシとの取引により、プリテンダーは後天的に吸血鬼となった。
吸血鬼となった事で人類最高峰レベルに高かった身体能力が更に7倍程向上、手足が切断されようと接合させれる程の再生能力を手に入れ感覚も鋭敏となった。吸血鬼化すると心臓が停止するが、破壊されたりくり抜かれたりしない限りはその状態で生存し行動が可能。
上位貴族の吸血鬼ならば人間を吸血鬼にする事も可能だが、プリテンダーはそうではない為不可能。
ただしデメリットとしては、人間の食べ物を受け付けれなくなり定期的に吸血を行う必要が出るようになった。また日光等の紫外線を浴びると即死こそしないが常時ダメージを受け続け、いずれは死に至る体質となっている。
他、頭部や心臓の破壊(個体によるが完全に破壊しない限りは耐えられる事も)や、呪術系統に分類されるであろう鬼呪装備による攻撃を人体で云う所の急所にされる事も場合によっては致命打になり得る。
また吸血鬼化前になんらかの強い執着を抱いていた者や物以外に対して、吸血鬼は全体的に向ける感情が希薄になっていく傾向がある。プリテンダーの場合は、妹である柊シノアと想い人である一瀬グレン以外に対しては"基本"希薄で冷酷である。
忘却補正:D
人は忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。吸血鬼となり人間を完全にやめ感情が希薄になっていく中でも、プリテンダーは実質上母を殺したも同然な柊家そのものへの恨みと怒りを決して忘れる事はない。
プリテンダークラスでの現界な為、スキルのランクが通常よりも下がっている。
天賦の才:C
プリテンダーが生まれ付き持ち得ていた戦闘に関する才能・技能がスキルとして反映された物。
同ランクの気配遮断・心眼(偽)・仕切り直しのスキルの効果が複合されている。
なお、プリテンダークラスでの現界な為スキルのランクが通常よりも下がっている。
呪術(呪符):B
呪術を行使する呪術使い或いは呪術師だという事を表すスキル。
プリテンダーは呪符を行使し以下のように呪術を使う。対応する呪術によって呪符も種類が分けられている模様。
・空気の振動を伝わりにくくし音の侵入を抑制させる呪符を貼っておくことで、部屋を外からの音が聞こえない防音状態に
・幻術を見せて攻撃を回避
・精神を操作する(心を操るとも)幻術により相手を自分の言いなりに
・殺した相手を幻術により自分に付き従っているように見せかけ、遠距離からでもその姿を違和感なく見せる
・少なく見積もっても半径数百メートル程に大規模な幻術を展開。そこから100枚分の幻術用の呪符を用いる事でそれを解除
プリテンダークラスでの現界な為、スキルのランクが通常よりも下がっている。
精神異常(偽):A
精神的なスーパーアーマー能力。「他人の痛みがわからない」とも評されている、何の躊躇いもなく他人の命が奪われる行動を行え、仲間の犠牲を切り捨てれてしまうプリテンダーの精神性がスキルとなったもの。
プリテンダーは生まれた時点で、埋め込まれた鬼に感情を食われて実質生まれた時から感情が欠けた状態。
そこから更に吸血鬼となった事により、それまでに強い執着を向けていたグレンとシノア以外へ向ける感情が希薄になった為このランクとなる。(偽)なのは、柊家によりそうなるように仕組まれていたが為。
なおプリテンダーは基本他者には冷淡(表面上は品行方正で優しい少女を演じ取り繕っている)だが、シノアやグレン絡み以外では全くもって感情が動かない…という訳でもない。
【宝具】
『真昼ノ夜』
ランク:EX(C) 種別:対己・対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
ノ夜を自らの心臓に刺した後、予め仕込んでいた術式による効果で、自我と記憶を保ったまま自らを鬼へと変成させノ夜に宿らせて、鬼呪装備:真昼ノ夜に変える宝具。
自らを完全に死んだと誤認させつつ、裏で暗躍する為に行った逸話が宝具となった物。性質上ノ夜を手放していると発動出来ない。
鬼呪装備な為これによる攻撃は呪術系統に分類される他、ノ夜同様に斬撃波を放てる。
使用するとサーヴァントとしては脱落扱いとなるが、真昼ノ夜に所有者だと認められている限り、プリテンダーのマスターの消滅は始まらない。
本来宝具ランクはCだが、サーヴァントを失ったマスターはそこから6時間後に消去されるルールの穴を付ける都合上、この聖杯大戦ではEXランクとなる。
また本来であれば変質後所有者との意思疎通が可能になるまでタイムラグがあるが、サーヴァントとなった事によりラグが消失している。
副次効果として、所有者と認められた者は身体能力が7倍に向上し、精神や魂への干渉にある程度の耐性を得る。また手足が切断されてもすぐに切断部位を箇所に繋げれば接合出来る程度に再生能力が高まる。しかし代償として、1度でも手に取り所有者と認められた瞬間純粋な人間ではなくなる。
なお本来なら真昼ノ夜となってからも実体化し独自に行動したり戦闘を行ったり出来たが、この聖杯大戦では念話による所有者との意思の疎通及び呪符による支援のみが可能となっている。
特殊能力として、2度斬り結んだ或いは切った相手に行動を遅くさせる、呪術的な毒を送り込むことが可能。
刀越しにぶつかりさえすれば相手に毒を送れる。毒は真昼ノ夜側で量を調節可能で、毒を送り込むまで4度ぶつかる必要がある程度まで弱める調整が出来る。
【weapon】
『鬼呪装備:ノ夜』
日本刀型の鬼呪装備。所有者が手に取ると幸運と宝具以外の全ステータスが1ランク上昇する効果がある。ただし呪符以外とは併用不可。鬼呪装備な為これによる攻撃は呪術系統に分類される。
本来なら宿っている鬼であるノ夜が持ち主を乗っ取ろうと色々干渉するのだが、セイバークラスでの現界ではないせいか、この聖杯大戦では再現されていない。普通に日本刀として使う以外にも斬撃波を放てる。
なお生前の時点で一瀬グレンに譲渡している逸話がある為、他者への譲渡が可能。ただしそれをすると返却され手元に来ない限りは宝具が使用不可能となる。
『鬼呪装備:四鎌童子』
鎌型の鬼呪装備。所有者が手に取ると幸運と宝具以外の全ステータスが1ランク上昇する効果がある。ただし呪符以外とは併用不可。鬼呪装備な為これによる攻撃は呪術系統に分類される。
本来なら宿っている鬼である四鎌童子が色々と干渉しようとするが、ランサークラスの現界ではないせいか、この聖杯大戦では再現されていない。普通に鎌として振るう以外にも斬撃波を飛ばすことが可能。
こちらも生前の時点で間接的に柊シノアに譲渡している逸話がある為、他者への譲渡が可能。
『一級武装のナイフ』
吸血鬼と化した際に手に入れたナイフ。本来なら吸血鬼の貴族が使う武装。
所有者が「剣よ、血を吸え」と言うのをトリガーとして、ナイフの柄から所有者の血を吸い刀身を紅くさせる。サーヴァントと化した事により血の代わりに魔力で代替して発動させるようになっている。
使用すると幸運と宝具以外の全ステータスが1ランク上昇する効果がある。ただし呪符以外とは併用不可。
『呪符』
プリテンダーが呪術を行使する際に使用する物。サーヴァントとなった事により魔力による生成が可能となっている。
幻術や防音以外に作中で使用した使い方としては、「起爆」と言う事で起動させ10メートル規模程の爆発を引き起こし攻撃に使用している。
【人物背景】
人為的に弄られた上で生まれた柊家の次期当主候補の1人にして、表向きは人類に希望を遺したものの鬼により暴走し、人のまま討たれたとされる英雄。その真実は、妹であるシノアを守る為に全てを敵に回した二重スパイで、元人間の吸血鬼。
生まれた時から16歳のクリスマスに死ぬ運命を定められていたにも関わらず、決して叶わぬ恋をしてしまった少女。
なお本聖杯大戦においては、真昼ノ夜となってからの記憶を所持していない。真昼ノ夜の能力の使い方は知識として知っている状態である。
【サーヴァントとしての願い】
グレンやシノアと共に、普通の世界で普通の女の子として生きたい。
【把握資料】
終わりのセラフ 一瀬グレン、16歳の破滅。小説版は全7巻で、コミカライズ版が全12巻。
真昼ノ夜の毒の能力については終わりのセラフの27巻を参照。
【マスター】
衛宮士郎(美遊兄)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!
【マスターとしての願い】
妹である美遊の為に、聖杯を使う事で彼女を狙うエインズワース家がやろうとしている世界の救済を先んじて自分の手で行うか、エインズワース家自体を滅ぼすか、或いはエインズワース家そのものの存在を無かったこととするか──いずれにせよ、美遊が幸せに生きれるように願う。
その為に何が何でも聖杯を手に入れる。
【能力・技能】
投影魔術の使い手。強化魔術も使用可能。
クラスカード・アーチャーを行使し続けた影響により、カード無しでもエミヤの力を引き出す事が出来るようになった他、高い身体能力を持っている。十分な魔力さえあれば固有結界である無限の剣製も使用可能な他、本来投影不可能な神造兵器の類も全工程を破棄する事で形のみハリボテ状態で投影が可能。
ただし未来の自分の可能性である英霊エミヤの力を引き出し続けて戦った事によって、自分自身の存在がエミヤへと置換されつつある。
また現状では無限の剣製や神造兵器のハリボテ投影は、なんらかの手段によって外部からの魔力のバックアップを受けないとまず使用不能と思われる。
なお、投影する宝具の内メインウェポンと言える干将・莫邪は魔性特攻効果がある。
【人物背景】
かつて義父のように正義の味方を志したものの、出逢った少女美遊との関わりの果てに、彼女の兄である事を決め、また人類救済という正義のために彼女を犠牲にしようとするエインズワース家に逆らって悪である事を選んだ青年。
根本には優しさも残っているものの、妹のためになら情の全てを捨て自分の命は愚か世界すら捨ててでも悪逆を為す、自称最低の悪にして英霊の紛い物。
【ロール】
休学中の高校生。
【参戦時期】
美遊を逃がし切りアンジェリカに敗北した後。「勝ったよ…切嗣」と言った直後に舞い降りた黒い羽によってこの聖杯大戦に招かれた。
【把握資料】
Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ。
原作では参戦時期的にドライ!!の7〜8巻部分。アニメでは劇場版 Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓いを参照。
投下終了します、タイトルは「悪を成すというコト」です。
>大激突!!セイバーVSライダー
タイトルからの予想外のオチでやられました。
絵に書いたような漁夫の利がサーヴァント共々らしいので発想の妙といった感じですね。
死んだことをあんまり気にしてないのもなんとも救い難い……呪腕先生も災難だなあ。ありがとうございました。
>蒼銀の前奏曲
双方ともに覚悟を決めている主従ですね。
お互いに覚悟という共通点で結ばれている主従なので、汚れ仕事が映えそうです。
悲愴な覚悟が何処に行き着くのか気になりますね。ありがとうございました。
>運命の毒は誰がために注がれたのか
舞台の考察から始まる構成が挑戦的でなかなか面白いと感じました。
静謐との会話や彼女に対してのアプローチも斬新で読んでいて楽しかったです。
彼女にとってはあまりに理想的なマスターだったというのが、これまた……。ありがとうございました。
>パーフェクト・プラン
探偵と殺人鬼、まさに最悪の組み合わせすぎる。
探偵であるエリカの策に合わせて動くインポスター、厄介以外の言葉がちょっと思い付かないですね。
非常に最悪な暗躍模様が見られそうで今から楽しみになってくる主従でした。ありがとうございました。
>Assassins
重厚な地の文から出される軽妙な会話が読んでいて面白かったです。
そして会話の内容も主従の方針がよく分かるもので、なるほどなと唸らされました。
その容赦のなさも大変にソリッドで、油断ならなさをよく描写できていると感じました。ありがとうございました。
>悪を成すというコト
美遊兄士郎と、妹を守るために悪を成した人物が組み合わされるという運命よ。
二人の共通点と違いとがよく表されており、主従のコンセプトがすぐに伝わってくる作品でした。
真昼を通じて葛藤する士郎などクロスオーバーならではの要素もあった印象です。ありがとうございました。
皆様、投下ありがとうございました。
投下します
「ねえ、アヴェンジャー。私はこれからどうすればいいかな。」
アパートの一室で木造の椅子もたれかかった聖園ミカが、向かいに座る青年に尋ねた。
手にしたカップにはセール品のパックから蒸らされた紅茶で満たされ、
湯気も熱も無いその様子から、注がれて長い時間が立っていると分かる。
一口飲み、表情を歪め嫌々飲み込む。
口の中いっぱいに広がる、安い茶葉の薄い風味。
トリニティで最高級の茶葉を堪能するミカには、格安のパックは口に合わない。
「漠然とした質問だな。もう少し要点を絞れ。」
アヴェンジャーと呼ばれた青年はミカの質問に、不足だと返す。
ミカより一回り上の年齢の青年で。漆黒の武道着に身を包んだその肉体は美しく引き締まり。
彼が武の達人であることは、疑いようもない。
「要点も何も、聖杯戦争の事に決まってるじゃん。
セイアちゃんやナギちゃんならもう少しくみ取ってくれるよ。」
「俺はお前の親でも友人でもない。その必要が何処にある」
「冷たくない?私がマスターなんだよ。」
「知らん。」
ふてくされた聖園ミカに呆れたような目を向け、アヴェンジャーは手にした紅茶を口に含む。
ミカが言うほど不味いものではない。
むしろ500円を下回る割には良質な部類だろう。
高級志向なマスターでは電脳世界の暮らしは難儀しそうだなと、
らしくもない不安を覚えた。
「聖杯戦争をどう進めるかというなら、いくつか手段があるが。
聖園ミカ。その前に改めて確認する」
「何?」
「本当に聖杯は要らないんだな。」
「うん。いらない。」
一瞬の迷いも無く、きっぱりと言い切る。
その答えは、アヴェンジャーの顔をより一層険しくさせた。
マスターの願いに、アヴェンジャーは何を言うつもりもなかった。
誰しも、叶えたい願いの一つや二つはあるもので。
巻き込まれた参加者であろうと叶えたい願いの為聖杯を求める者の方が多数を占める。
人は願いを得るために、時に邪の道を行くものだ。
そう考えるアヴェンジャーにしてみれば、万能の願望機を不要だと言い切るのは納得しがたい話であった。
「顔怖いけど、もしかして疑われてる?」
険しい表情のサーヴァントに、マスターは問いかける。
まるで疑われることには慣れているかのように、軽い言葉だった。
「嘘だとは思わん。
だがお前が願いも持たないような博愛主義者だとは思えないだけだ。」
「はっきり言い過ぎじゃない。私ってそんなワガママな女の子に見えるかな」
「少なくとも、紅茶が安物だと飲まないくらいには。」
なみなみと注がれたまま放置されているティーカップに、2人の視線が重なった。
図星をつかれたミカが後ろめたそうに唸る。
反射的にカップを持ち上げたミカは、注射を控えた子供のように顔をゆがませ。
アヴェンジャーへの当て擦りがごとく、グイっと一気に飲み干した。
―――やっぱりマズいなあ。風味も何もない。はっぱを濾しただけじゃない。
喉を通る液体に厳しい判定を下す。
舌に残る粗悪な味が、自分がいるべき場所に居ないのだと痛感させた。
「アヴェンジャーの言う通りさ、私ってワガママなんだよ。」
空になったカップを置き。ぽつりとミカは語る。
「嫌いな奴ら(ゲヘナ)と手を組みたくない。
元をたどればそんな理由で、いろんな人を裏切っていろんな人に迷惑をかけた。
エデン条約を台無しにしたし、トリニティをぐちゃぐちゃにした。
そんな悪い子が、私なの。」
エデン条約。
ミカの所属するトリニティ総合学園と、対立するゲヘナ学園の平和条約。
ミカと同じトリニティの生徒会『ティーパーティー』の桐藤ナギサが進めていたその条約に、ミカは反対し続けていた。
なぜって、ゲヘナが嫌いだから。
仲間にして幼馴染の桐藤ナギサに反抗し、ティーパーティーのホストの座を奪おうと。
ティーパーティーの百合園セイアを排除しようと。
かつてトリニティから排斥された『アリウス』の面々と、仲良くしようと。
単純な思考と短絡的な動機。
その上で権謀術数を張り巡らせて、ミカは暗躍を続けた。
百合園セイアを病院にでも送って、桐藤ナギサから権限を奪って。
平和条約なんか台無しにして、大嫌いなゲヘナを叩き潰す。
そんな思想で始めた彼女の計画は、いつしか大きく狂い。
結論を言えば、聖園ミカの計画はある意味で成功し、滑稽なほどに失敗した。
百合園セイアの排除は、彼女を危険視する『アリウス』とその裏に巣食う『大人』の手で、暗殺計画に挿げ替えられ。
桐藤ナギサへのクーデターは”先生”と補習授業部の活躍により彼女の暗躍は失敗した。
最終的にはエデン条約は崩壊したが、ミカを含んだ多くの者たちの活躍で円満な終結を見せた。
その中心には、誰よりも生徒を思う“先生”の尽力があり。
聖園ミカもまた、“先生”のおかげで救われた。
ミカが遺した爪痕は大きい。
最高権力者の一人である聖園ミカの反乱は、トリニティ総合学園の勢力図を激変させ。
ミカをトップに据えていた勢力どころか、生徒会であるティーパーティーの立場を貶めた。
多くの罪状と責任を背負い、聖園ミカは“魔女”“裏切り者”の烙印とともに生き続ける。
彼女は、その罪を背負い続けている。
「後悔しているのか?」
懺悔するようなミカの思いは、アヴェンジャーにも通じるものがあった。
彼もまた多くの者を裏切った英霊だ。
自分の望む力を与えない師を裏切り。
魔道に堕ちる自分を止めようとした友を裏切った。
『理央』という真名を持つこの男は、ミカの気持ちを理解できるなどと軽々しく言うつもりはない。
だけども、共感できる部分は少なからず持っている。
だからこその発言だった。
少なくとも、自分ならば悔いただろうと。
生前の自分と目の前の少女を、理央はどこか重ねてみていた。
「どうだろう。色々あったし無くしたものも沢山だけど。分かんないや。」
「無粋なことを聞くが、聖杯を使えばその後悔をやり直すことも不可能ではないだろう。」
何気ないアヴェンジャーの言葉に、ミカの動きが止まる。
聖園ミカが“魔女”でも“裏切り者”でもない未来。
聖杯があれば、そんな未来をつかめるかもしれない。
「アハハッ。」
その発想はなかったなぁと、ミカは笑う。
それ、いいね。と感情のこもらない言葉を理央に投げかけ。
張り付いた笑顔のまま、ミカは両腕を理央に向けて伸ばし。
次の瞬間、理央の胸倉を掴み上げた。
自分より体格も体重も上の相手を持ち上げ、強引に引き寄せる
衝撃でティーセットが机から崩れ落ち、そのいくつかが粉々に砕けた。
「馬鹿にしないで。アヴェンジャー。」
ミカの顔から笑顔は消え、剥き出しの怒りでミカは理央を睨む。
理央は一切抵抗せず、正面からマスターの激情を受け止める。
星のない夜が、天使のような少女の瞳に広がり。
全身から怒りを形としたような、紫のオーラが静かに立ち上った。
「私の罪は、“悪い子”な私が背負わなきゃいけないものなの。」
「.....」
「それに、やり直しなんてしちゃったら。
みんなの頑張りだって無かったことになっちゃうでしょ。」
“先生”とともに下江コハルら補習授業部が、ナギサの妨害にもめげずトリニティの裏切り者を見つけ出したこと。
アリウスのクーデターを止めるため、“先生”が命を張って戦い、トリニティもゲヘナも問わず多くの生徒が果敢に動いたこと。
アリウスを牛耳る『大人』の策謀を崩すために、錠前サオリらアリウススクワッドが“先生”と共に運命にあらがい続けたこと。
同じ茶を囲みながらどこか隔たりのあった桐藤ナギサや百合園セイアと、事件を終えてようやく本音をぶつけ合えたこと。
一人戦ったミカを、“先生”が『私の大切なお姫様』って言ってくれたこと。
「先生やみんなの頑張りを、サオリたちが進んだ道を、あのときの私の祈りを。
無かったことになんて、しちゃいけないの。」
エデン条約をめぐる事件は彼女に多くの物を失わせたが。
無くしてはいけないものであり、無くなってはいけないものであると信じている。
自分の罪を、罰を。背負い続ける覚悟が、聖園ミカにはあって。
誰かの努力を、覚悟を、祈りを、思いを。消し去りたくなんてなくて。
それを背負わなければいけないという責務が、彼女をことさら縛っている。
「そうか。それがお前の道なのだな。」
「...うん。先生のおかげで進むことが出来た。今の私がやらなきゃいけないこと」
ミカは手を放し、理央は何も言わない。
同じ痛みを知りながら、軽率な共感も軽薄な同情もない。
奇妙な共感を伴う静寂が、主従の間に流れた。
「アヴェンジャー。
私、本当に聖杯は要らないけど、願いはあったよ。」
聖園ミカの口から、本心の願いが紡がれる。
自分がこんなことを願っていいのだろうかと言いたげな、どこか自虐的な声色で。
「セイアちゃんやナギちゃんと、他愛もないことでお話して。
先生と一緒にお買い物に行ったり、お話をしたり。
アクセサリーを可愛いねって言ってくれたり、悪い子だって、叱られたり。
そんな日々を、取り戻したい。
そのためなら、私は何でもする。」
「この聖杯戦争から、生きて帰るためなら。」
「その言葉、偽り無きものだと受け取るぞ」
聖園ミカの本心を理央は聞いた。
願いはない。などと聖人のようなことをいった先ほどの答えに比べたら。
友や“先生”に会いたい。
多くを失った女が、残った大切なものを守りたい。
その願いは、小さくも透き通るように純粋で。
黒き拳士は、その言葉を無下にはしない。
「では、俺もお前の問いに答えよう。」
聖園ミカのサーヴァントが、マスターに向き直る。
「これからどうすればいい。」と尋ねたマスターの問いに。
理央に道を示そうと語り掛けた、いつかの師の面影を重ねて理央は答える。
「俺は小器用なサーヴァントではない。
奇策を練ることや自分に有意な場所を作り出すことに適してはいない。
俺が出来ることは一つだけだ。」
「貴方は何をしてくれるの。アヴェンジャー。」
「お前の強さを、高めてやる。」
彼と拳を交えた赤い虎は、今では“マスター”と多くの門弟を抱えている。
理央の隣に立ったカメレオンの拳士もまた、蘇った場所でとある忍を立ち上がらせた。
彼らと同じ熱を込めて、理央は告げる。
「聖園ミカ。お前に、獣拳を教える」
◆◇◆
危うい女だ。
理央は、己のマスターをそう評する。
短絡的に動き、取り返しのつかないところまであっさりと落ちる。
取り返しがつかない自分に、引き返す切っ掛けでなく進み続ける理由を強いる。
誰かのせいにしたがるのに、その実すべてを自分で背負いこもうとする。
――君は自分勝手だ。あんまり何も考えていないうえに衝動的で、欲張りで、時に自傷的な。
ティーパーティーの一人、百合園セイアは聖園ミカをそのように評した。
その場に理央もいれば、うなずいたに違いない。
聖園ミカは、多くのことをなせる女だが。
一人で生きていける女ではない。
不安定で、未成熟。
彼女を守る“大人”がいるから、いまだ壊れずにいるだけで。
一つボタンを掛け違えれば、今の聖園ミカはここにはいなかっただろう。
―――どこか、昔の俺に似ているな。
アヴェンジャーである理央もまた、裏切りと自罰に満ちた人生を送った英霊だ。
身勝手で、衝動的で、欲張りで、自傷的。
もし理央がそう言われれば、否定できないなと笑うだろう。
家族を失い、恐怖から強さを求め続けた理央。
ともに“獣拳”を学んだ友を捨て
自分の望む強さを与えない師を裏切り。
自分の力を得るためだけに“悪の拳法”を復興させた。
力を求め、対立する激獣拳の戦士と戦い続け
悲鳴を絶望を撒き散らし、封印された邪悪なる拳士から学び。
強くなり、戦い。敗北し。
その怒りを糧にまた強くなる。
そんな強迫観念のように強さを求めた彼の思いは。
永遠の命を持つものが、退屈しのぎに生み出した戯れに過ぎなかった。
天武の才を持つ理央は巨悪に目を付けられ。
“破壊神”として心を失うように仕組まれて。
全てが仕組まれたものだったと、一度は折れる際にまでいって。
それでも、理央が破壊神になることは無かった。
理央を慕う女への思いが、彼を“人”としてつなぎ止め。
理央と戦い続けた虎の拳士の言葉が、彼を“拳士”として立ち上がらせた。
理央は人の思いの強さを知っている。
聖園ミカの話す“先生”に、確かな敬意を理央は持っている。
聖園ミカを“魔女”でなくした“先生”の強さも。
“先生”への再会を願う、ミカの想いも。
その強さ、その尊ばれるべきものを。
理央は知っている。
―――その思い。無碍にするわけにはいかないな。
英霊は決意する。
ミカという雛鳥が道行く助けとして。己の拳を振るうことを。
サーヴァントとして、マスターを守るという義務感からではない。
理央という男の矜持が、そうすべきだと囁くのだ。
理央がミカに与えられるものは、一つだけだ。
“先生”のような優しさではなく。
自分を慕う女のような愛でもなく。
拳を交えた虎の子のような、正義の心ではない。
邪道を行ってでも研鑽を重ね。
ただ一つ求め続けたももの。
“強さ”だ。
◆◇◆
名前も知らない川にかかる、名前も知らない橋の下。
忘れられたかのように静寂が支配する場所に、この日は珍しく音が響いた。
右手に短機関銃を構えた聖園ミカが、向き合う漆黒の青年に向けて引き金を引く。
服装こそ学校指定の薄青のジャージ(可愛くないのでミカは嫌い)であるが、
腰に生えた純白の羽根と、頭上に浮かぶ銀河を思わせる環(ヘイロー)。
この少女がただの人間でないことは誰の目から見ても明らかだ。
引き金を引く手に重なり合う3つの円のような令呪が光る。
放たれた弾丸は11発。
通常、サーヴァントに銃火器の類は効果が薄い。
魔力や神秘が宿っていなければ、ミサイルを持ってこようと牽制以上の役割は期待できない。
だが、彼女の弾丸は例外。
蘇らされた死者である、ユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)を抑え込んだ彼女の銃撃は、同じく甦らされた死者であるサーヴァントにも多少なりとも効果がある。
「お前の願いが生還だというのなら。必要なのは“勝つための策略”以上に“死なないための手札だ”」
ミカに対峙するサーヴァントは、銃弾が迫る中でも平然と話を続け。
サーヴァントにさえ効く銃弾を、理央の拳は虫でもはらうように叩き落とした。
「それが、“獣拳”ってこと?」
「そうだ、電脳の聖杯戦争では、サーヴァントを失ったマスターは6時間で消滅する。
無論、俺もそう簡単に落ちてやるつもりはないが。無策では勝利どころか生還すら至難。
その6時間を無駄に過ごさせないためにも、お前が強くなることは大きな意味を持つ。」
問答を続けながらも、着実に理央とミカの距離は縮まっていく。
それも、ミカの弾丸と交差するよう真っすぐに。
「マスターとしてならば、お前は間違いなく能力が高い部類に入る。
内包する魔力も、その知能も、行動力も。決して低い部類ではない」
「もっと他にないの?可愛さとか。」
「五月蠅い。」
余裕ぶって茶化すミカを、理央は一蹴する。
対するミカの頬には冷や汗が垂れた。
理央の動きが見えない。
まっすぐ歩いてくるのは、見えているのだが。
その両腕の動きが、ミカの目ではまるで追えない。
ミカの銃弾弾く理央の拳を、ミカでは捉えることが出来ない。
「だが、やはりお前が群を抜いて高いのは戦闘力だ。」
元より銃撃を日常とし、生徒たちの頑健さも冬木とは比べ物にならないキヴォトス。
その中に置いても聖園ミカの実力は、正義実現委員会の委員長やゲヘナの風紀委員長に並び高い。
投獄された時に素手で壁を砕いて脱獄する程度には、キヴォトス内でも群を抜いている。
ではそんな聖園ミカのフィジカルがサーヴァントに通じるかと問われれば、そんなことは全くなく。
一人が戦闘機に匹敵するサーヴァントの性能は、キヴォトス指折りの実力者であろうと正面から勝つのは難しい。
ここに立つ理央がミカのサーヴァントでなかったら、とうにミカは死んでいるだろう。
あくまで現段階では、であるが。
「嘘でしょ。」
思わず。ミカの口から呆けた言葉が漏れた。
5mほど離れていたはずの距離は、すっかり詰められていた。
見た目はただの青年にしか見えない相手に傷はなく。
問答無用に撃ち続けた銃弾は、その悉くを弾き落とされた。
「効かないかもとは思ってたけど、当たりすらしないのは想定してなかったなぁ。」
「キヴォトスと言ったか。射撃を主とした環境に居たのなら仕方のないことだが意識が銃に向きすぎだ。」
戸惑い、ミカに隙が出来る。
黒獅子と呼ばれた男は、その瞬間を逃さない
「リンギ。烈蹴拳。」
武術の達人でありサーヴァントである理央の回し蹴りが、聖園ミカに直撃する。
速度も威力も、自分のマスターに向かう以上加減はしてある。
それでも、ミカが両腕でガードするのが精いっぱいの速度。
銃は弾き落とされ、体がふわりと浮き上がり。
ミカの体は河原から土手へ、直線軌道で吹き飛んだ。
「いったぁい!!」
バキリと、大きな破壊音が河原に響いた。
ミカの両腕....がではない。彼女の両手は多少の熱を帯び強烈な蹴りで痺れているが平時その物。
理央も達人だ。マスターの骨を折るようなミスはしない。
勢いよく吹き飛ばされたミカを受け止めたのは、コンクリートの柱。
今ではミカを中心に、クレーターのようにへこみ砕ける。。
ミカの後ろ半分はがっちりとコンクリートに埋まり。
パラパラ音を立てて、桃色の髪に欠片が積もった。
「俺を持ち上げた筋力。大したものだ。
その耐久力も人間離れしている。
今の蹴りも、加減したとはいえ常人なら骨の一つは砕けているだろうな。」
「そんな攻撃を自分のマスターにするなんて、ひどいんじゃないの!」
「お前なら痣さえ残らんだろう。
背中をコンクリートにめり込ませてピンピンしてる奴に何の心配をする必要がある。
ゲキレッドでももう少しダメージがあったぞ。」
自分がマスターなんだから多少は気にしてくれないかなとはミカは思ったが、
帰ってきた答えは露ほどの心配も感じない厳しいもの。
知らない人と比較されて勝手に引かれるのもミカとしては腹立たしい。
「今のお前はただ頑健なだけだ。
技術もながら、見抜く目も未熟もいいところ。
動体視力という意味以上に、周囲に目を向けてなさすぎる。」
鋭い採点を下され、ミカはむっとする。
病弱な友人を思い出すような、嫌味な言い回しだった。
「セイアちゃんみたいなこと言うんだね。」
「2人に言われてるのなら、それはお前の弱点だ。
時間が惜しい、さっさと出ろ。」
「ちょっとくらい心配してくれないの?」
「必要ない。」
ほおを膨らませ、聖園ミカは足を踏み込む。
自身を抑えるコンクリートなど意にも解さず。
バキバキと砕ける音が響き、コンクリートに広がったヒビをより深いものにして。
体の自由を取り戻したミカには、理央の想像通り傷一つなかった。
斜面に立つ理央が、ミカを見上げる形で構える。
腰を落とし、右足を引き。ミカに左手を向ける。
どの方向からでも対応できる。隙のない構えだ。
視野の狭さを指摘された少女は、鋭い気迫を放つ武道家に正面から意識を向け。
「...すごい。」
微かに、感嘆の声を上げた。
ミカが素人でも、彼が鍛え上げた技術の高さが見えないほど曇ってはいない。
達人の域に至るまで、彼が積み上げたものを理解させる。
その構えには、その気迫には、それだけのものがあった。
「そういえば、アヴェンジャーの願いって何なの?」
何の気なしに聞いてみた。
さっきまでは向き合う男の願いなど、全く興味も無かったのに。
そこまで積み上げ、鍛え上げた男が何を望むのか。
少しだけだが、気になった。
「ある男との再戦と。...ある人物との再会。だが」
「だが?」
「聖杯など使わなくとも、俺はその願いを自力で叶える。」
「そっか。なら私たち、一緒だ。」
ミカは微笑み、理央もつられて少し笑う。
強さを求め続けた男と、求めずとも強かった女。
奇しくも今、2人の願いは一致していた。
肩の力を抜いたミカはいつも通り銃を取りそうとして。
彼女の銃が、先ほどの蹴りの余波で河原に転がっていることを思い出した。
「そういえば私の銃、さっきの蹴りで落っこちちゃってるんだけど」
「お前はゲヘナとやらと戦うとき、そんな言い訳に耳を貸すのか?」
「貸さないね!それを言われたらどうしようもないや。」
やけになったように言い返し、その割には晴れやかな気持ちで。
腰を落とし、銃も持たずに。
理央を真似るように、拙いながらもミカは構えた。
「いくよ、アヴェンジャー」
―――らしくないことをしているなと、自分でも思う。
普段ならば、そんな疲れるし痛いことなどしたくない。
サーヴァントの関係が悪化しようとも知らない。
拳法を覚えようなど、考えるまでもなく断っていただろう。
―――なんでだろう。でも悪くないね。
不思議と、ミカは理央の提案を断る気にならなかった。
理央の提案が、ミカを正面から見てのものだと気づいたからかもしれないが。
下手に同盟を結ぶより、隠れ潜むより。
聖杯戦争を戦うに向けて、ミカにあった選択なのは事実だった。
自分の手で、求める願いを手に入れる。
自分の足で、望む場所まで進むこと。
強くなろうと思ったことなど一度もないミカであるが。
悪くはない、というのが今の思いだ。
友達との再会の可能性が高まるのなら。
“先生”に少しでも近づけるのなら。
ミカに止まる理由はない。
ミカの体から、橙とも紫ともつかないの気が立ち上る。
アヴェンジャーとパスが繋がったことによる、彼と同じ力。
正義の心を滾らせる気、激気。
負の感情を燃え上がらせる気、臨気。
そのどちらともつかない気が目覚めつつあることに、ミカはまだ気づいていない。
「待ってて先生。私は絶対あなたの場所に戻るから。」
決意をもって、少女は戦う。
聖杯戦争を勝ち、願いを得るためではなく
聖杯戦争を生き抜き、願いを失わないために。
裏切り者になった女が、裏切った男から何かを学ばんと。
邪の道だろうと知ったことかと、己の信じる道を行く。
高みを目指す気も、学び変わる気も、聖園ミカには足りないが。
最後に残ったものを失いたくないという願いだけは
決して裏切らないと、決めたから。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
【ステータス】
筋力B+耐久C+敏捷A魔力D+幸運E宝具C
【属性】
混沌・悪・人
【クラススキル】
復讐者(自己)E 幼少のころに家族を失ったことが原因となり、強さに固執した男の姿
”臨獣拳士”としてならAランク相当になるが、ここにいる”獣拳使い”としての理央ならこのランクに留まる
忘却補正D 弱さの象徴である暗き雨は、既に晴れた。
それでも、理央が強さを求める根源は未だここにある。
自己回復(魔力)- 宝具の『臨気鎧装』と統合されている。ランクとしてはBランク相当
【固有スキル】
獣拳使い A+ 獣の力を宿す拳法を扱うことを示すスキル
臨獣拳アクガタの首領として戦い、激・臨・幻三種の獣拳を経験したアヴェンジャーの技術は一流の域に至っている
猛き獅子 A 生涯において強くあり続けた、天武の素質と過酷なる修練を超えてきた獅子の姿
英霊でありながらこの男は技術の会得や強敵との戦いを経て強くなる
赤き虎との戦いの為、今なお彼は強くなる
文化の再興者 C 激獣拳と臨獣拳の二つに分かれた『獣拳』の内、失われた臨獣拳を蘇らせた逸話が元となったスキル。
失われたものの再興・復活に長けたことを示すスキル。
【宝具】
『臨気鎧装:黒獅子』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
理央が戦闘時に纏う『黒獅子リオ』の鎧 『臨気鎧装』の掛け声とともに装着される
臨獣拳士の性質として、人々の悲しみや絶望といった感情から生み出される気”臨気”を受け強化される他
英霊となり『自己回復』のスキルと統合したことで、自身や周囲の負の感情に比例して自身の魔力を回復させる効果も得ている
『幻気鎧装:破壊神・鷲獅子』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
一時アヴェンジャーが使用していた”幻獣王”の鎧
幻気と呼ばれる特殊な気が具現化したものであり、この姿のアヴェンジャーは鷲獅子(グリフォン)を手本とした拳法を用いる
この宝具を使用した状態で使用者の精神が大きな傷を負った場合、理性を失い殺戮と破壊の権化に変貌する可能性がある。
今現在、アヴェンジャーがこの宝具を使用することはない
【weapon】
鍛え上げた五体 拳法:臨獣ライオン拳
【人物背景】
邪悪な龍に家族を奪われ、そのトラウマが元に強さを求め続けた男
激獣拳の拳聖シャーフ―の弟子となったが、離反し過去に敗れ失われていた悪の拳法を再興。その首魁となっていた
獣拳戦隊との長きにわたる戦いの果てに和解。すべての元凶である龍を倒すために、獣拳戦隊に臨獣拳の技の全てを託し死亡した
一度蘇った際に対価として、死してなお地獄を彷徨い続けているが、本人はそれでいいと思っている
【聖杯へかける願い】
願いはあるが、聖杯にかけるつもりはない
(ゲキレッドとの再戦 メレとの再会)
【マスター】
聖園ミカ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
キヴォトスに戻って、先生と再会する
聖杯は要らない
【能力・技能】
生徒会にいながら、権謀術数やカリスマ性は並以上ではあるが特別長けるわけではない
半面、単体の戦闘能力は群を抜いており。
素手で地下牢から脱獄し、戦闘訓練を受けた学生集団を単騎で制圧する。キヴォトス指折りの強者
【人物背景】
トリニティ学園の生徒会「ティーパーティー」の一員。
可憐で奔放、短慮かつ身勝手に他人を振り回す少女
自分勝手。あんまり何も考えていないうえに衝動的で、欲張りで、時に自傷的
感情的に動いて、取り返しのつかない場所まで進んでしまう。
ただそれだけの、一人の優しい女の子
罪を背負った魔女にして、誰よりも純粋なお姫様
【備考】
※参戦時期は、エデン条約編4章終了後
※理央とパスが繋がった影響か、激気に近しい臨気を会得しています
投下終了します
投下させていただきます
「――素晴らしい。うむ、兎角この時代は素晴らしいな!」
豪華絢爛。いっそ過剰なくらいのロイヤリティを凝らした振興の高級ホテル、その最上階にあるロイヤルスイートルーム。
新都の夜景を一望できる大窓の前に置いたソファへどっかりと陣取って、紫髪の大男が満足げに嗤っていた。
机上に並んでいるのは食べ物と酒だが、これがまたひどいアンバランスさ。
ルームサービスで取り寄せた希少部位のステーキの隣に、明太ポテトサラダがトッピングされたカップ焼きそばが置かれ。
一本何十万の値がつく高級ワインが入ったグラスの隣に、安さと濃度の高さが売りのストロングな安酒が置いてある。
贅を尽くしているのかいないのか、成金ぶりたいのか庶民ぶりたいのか。
しかし当人はいっこうに気にした様子もなく、カップ焼きそばを啜って高級ワインを呑む。
「俗さも猥雑さもわし様好みだ。んふふふふ、それにしても儲けものよ。
まさかたまたまブチのめしたマスターが成金の大富豪で、命乞いに有り金全部こちらへ渡してくれるとは」
彼はこの冬木市……もといそれを模した仮想世界に現界してから今に至るまで、既に三騎のサーヴァントの襲撃を退けている。
見るからに欲深なろくでなしだが、しかし腕は立つのだ。
いや、立つなんてものではない。
彼の父は盲目王ドリタラーシュトラ。母はその妃ガーンダーリー。
百の壺に分けられた肉塊から、最初に形を得て産声をあげた百王子(カウラヴァ)の長兄。
悪魔の化身、邪悪なるヴィラン、英雄の宿敵にしてそれと並び立つ棍棒術の持ち主!
真名をドゥリーヨダナ――マハーバーラタ叙事詩に語られる悪の花形、ドゥリーヨダナである!
「世界丸ごと霞のようなものだと聞いた時には多少興醒めしたが、これならわし様がいっちょ噛みするだけの価値はある。
聖杯の恩寵とやらにも俄然興味が湧いてきたぞ。今から使い道に迷うな、あれもいいしこれもいいし、いやいっそ受肉してしまうのも……」
彼の性根については、もう改めて語る必要はないだろう。
この光景と、欲望を隠そうともしないデカい独り言を見たり聞いたりしたらすぐに分かる。
軽薄、強欲。プライド高め、お調子者、とどめとばかりにドの付く自分勝手。
悪魔呼ばわりも頷ける根っからのヴィラン気質。聖杯に託す願いなんてそんなもの……としおらしい顔をする手合いとは違う。
ああでもないこうでもないとその使途を想像して行う取らぬ狸の皮算用。ドゥリーヨダナに聖杯への疑念だとかそんなものは一切ない。
彼は今、ただ純粋にそして誰よりも率直に、目の前にちらつかされた財宝を追いかけるべくクラウチングスタートの体勢を取っているのである。
「ううむ胸が躍る! なんとしても、どんな手を使ってでも手に入れてやるぞ聖杯……!!」
今度はステーキをもにゅもにゅ頬張ってからそれをストロングなレモンサワーで流し込む。
視界の端では、彼のマスターである少女がよいしょよいしょとゴミ箱を運んでいる。
窓から一望できるこの夜景も、いずれは自分の手中に収めてみせるぞとドゥリーヨダナは笑った。
ゴミ箱を部屋の隅に設置した少女は額の汗を拭うと、慣れた様子でひょいとその蓋を開けて、中に潜り込んだ。
……。
…………。
………………。
「――待て待て待て待て〜〜い!! マスターお前っ、わし様のスイートルームに何を貧乏臭いもの持ち込んどるかーーっ!?」
「ひゃあああああっ……!? ご、ごめんなさいごめんなさいぃっ……! ゴミがセレブの世界に存在していてすみませんっ……!!」
「部屋にゴミ箱あるだろうが! なーーんでお前はこの優雅で豪奢な新居にまでそれを運んでくるかこのネズミ娘がーーっ!!」
「ち、小さいし蓋閉まらないので……その……落ち着かなくてぇ……」
「ゴミ箱は人が入るものじゃないよね!? えっ、これわし様がおかしいのかなあ!?」
……ドゥリーヨダナは超強力なサーヴァントである。
並の聖杯戦争であれば一人でごぼう抜きにできたって不思議ではない。
そんな彼が聖杯を狙っている以上、この電脳世界での聖杯戦争は間違いなく熾烈なものとなるだろう。
彼にはそのくらいの力とバイタリティがあるのだったが――しかし。
「だ、大丈夫です……。ちゃんと運んでくる前に、きれいに磨いてきましたから……。思わぬ掘り出し物でした、えへへ」
「そういうことを言ってるんじゃなくてだなあ…………」
そんな彼にもアキレス腱はある。
それこそが、彼を呼び寄せたマスター。
自らをゴミクズと自称し、ゴミ箱の中によく潜み、しかし謎にデカい狙撃銃を常に持ち歩いている少女――霞沢ミユだった。
「まあいい、もういい。わし様結構面倒な話題には我関せずを貫くところあるし。それよりもだ、ミユよ」
「は、はい……?」
「わし様、お前に言ったな。どうするのか考えておけと。そろそろ答えは出たか?」
「あ、……はい。ええ、と」
単に臆病で使えないだけならば、頭は痛いがまだいい。やりようはある。
だがこのミユというマスターの一番の難点は、そう。
「うぅん……。考えてはみたんですけど、やっぱりあんまりいらないなあって……」
――これである。
彼女は、聖杯をそもそも欲していないというのだ。
運命に選ばれ、"黒い羽"を手にしてこの世界にやってきていながら。
そしてもちろん、それの意味するところは単に「無欲だなあ」というだけには留まらない。
「……じゃあ何か。お前、この世界と心中しようってのか?」
「そ、それを言われると弱いんですけど……そこはほら、バーサーカーさんがうんと頑張ってなんとか……」
「なるか! あのなあ。この世界は、わし様のようなごうつくばりにとってはこの通り。夢と希望で溢れた楽しい楽しい楽園よ」
だが、とドゥリーヨダナは続ける。
その顔は相変わらず呆れ混じりのそれだったが、眼の奥に滲む光には彼の戦士としての一面が確かに覗いていた。
「お前のような欲も戦意も薄い童には、胆が冷えるほど冷淡だ。
何しろ帰りの切符がない。勝ち馬に乗れなければその時点で死あるのみと来とる。
お前が元居た場所に帰りたいと本気で願うなら、わし様に張って聖杯大戦とやらを勝ち抜くしかないぞ」
「……そう、ですよね。やっぱり」
「そうだ。まあお前が要らないなら聖杯はわし様が貰えばいいとして、本末転倒の平和主義に傾倒するのはやめておけという話よ。
ていうかまずわし様が面倒臭い! 悪さするのが特技の英霊を呼んどいて慈善事業を期待されても困るのでな!!」
「ひぃい……こ、声が大きいですぅ……。鼓膜がじんじんします……」
「そういうお前は声が小さーい! まったく、その陰気臭いノリはどうにかならんのか。頭からキノコが生えそうだぞ」
難儀なマスターを引かされたものだと、ドゥリーヨダナはそう思っている。
せめてもの救いは、どうも彼女が現代の一般的な人間とは少しばかり作りの違う存在であるらしいことか。
頭の上に灯っている"光輪(ヘイロー)"。
子女相応の細身だというのに、やけに強度の高いその身体。
持ち歩いている狙撃銃も、恐らく単なるハッタリの張りぼてではないのだろう。
やろうと思えば、間違いなくやれる部類だ。
戦争も、そして人も。
となると問題は、やはり――
(あの性格だな。火を点けることさえ出来れば、それなりに優秀な弓兵になれると思うんだが……)
自己肯定感の低さから来る卑屈な性格。
そして、この期に及んでもまだ聖杯戦争に勝つことに対して消極的なその様子。
それが彼女の持つポテンシャルと比べても尚勝るほどの重荷だった。
もっと端的に言うと、そう。
(面倒臭い……そこまで行くのにどれだけ"ありがたい話"を聞かせてやればいいのか、考えただけで気が遠くなる……!
ていうかなんでわし様がそんなことに頭を悩まさなきゃいかんのだ。普通もっとこう――やる気ある奴が来ると思うじゃんわし様だって。
なのに蓋開けてみればなんだこいつは。本当に何なのだこの生き物は……ゴミ箱の精霊か……?)
――面倒臭いのである、そこまで行くのが。
ドゥリーヨダナの人生経験もなかなか長い。
何せ百人も兄弟がいたのだし、そうでなくても敵味方問わずいろんな相手を見てきた。
しかしこの手のタイプと出くわしたのはなんとこれが初めて。
これには参ったし、現在進行形で今も参ってる。
「ひぃん……」と情けない声をあげながらゴミ箱に入ってしまったマスターを、ドゥリーヨダナは気が遠くなるような思いで見つめていた。
「うん。……うん、そうだな」
早めに切ろう、そうしよう。
こいつはどうにもならん気がする。
ていうかわし様、そんな変な努力したくないし。
急募、新たなマスター。応募条件、やる気があること。欲望に忠実な、アットホームな職場です。
のそのそ近付いてきたゴミ箱からひょいと手が伸びて、机の脇に置いてあったコンビニ弁当を遠慮がちに掴んで去っていった。
その手にはしっかりと三画の令呪が刻まれており、ドゥリーヨダナは遠くを見つめながら安酒で喉を潤すのだった。
◆◆
(ぜ、ぜったい切ろうって思われてる……
適当なところでポイ捨てして身軽になろうって考えてる顔してた……!)
ゴミ箱の中で、コンビニ弁当片手にわなわな震える少女の名前は霞沢ミユ。
百王子の長兄、悪名高きドゥリーヨダナを見事喚び出すことに成功した聖杯戦争のマスターである。
(どうにか、こう……上手くアピールしたり、頑張ったりして、いいところ見せないと……)
ミユは、聖杯戦争ひいてはこの先に待ち受けている聖杯大戦に対して消極的だ。
叶えたい願いはない。
あるとすればそれは、元いた世界に……あのキヴォトスに帰ること。
ドゥリーヨダナの言うことはもっともである。
生きて帰りたいと思うのなら、聖杯が要ろうが要るまいがどの道大戦に勝利しなければならない。
それが出来なきゃ未来がないのが、この世界だ。
"黒い羽"に触れ、この世界に導かれたその時点でミユの運命は決まっていた。
なのに、未だにこうしてうじうじと手を鈍らせていること。
重ねて言うが、ドゥリーヨダナの言うことはもっともだ。
むしろ此処まで愛想を尽かされていないのが奇跡だと、ミユ自身そう思っている。
陰気だし。卑屈だし。ゴミ箱に隠れる変人だし。
その上足だけは引っ張るなんて、要らないと思われたって何も文句は言えないはずだ。
(……人を撃つのには、慣れてるし。やろうと思えば、きっとできないことじゃない)
SRT特殊学園がかつて擁した特殊部隊、RABBIT小隊の狙撃手(スナイパー)。
それがミユだ。敵地潜入、人質救出、対テロ作戦……あらゆる現場で活躍する精鋭達の一人。
性格はともかく、その腕前は確かなものだ。
むしろ抜きん出ていると言ってもいい――特に狙撃の分野においては。
霞沢ミユは凄腕の狙撃手だ。
ミユが本気になれば、この冬木市は彼女の狩場(キリングフィールド)と化す。
前線でドゥリーヨダナが暴れ、後衛からミユが長距離狙撃で敵マスターを排除する。
特に聖杯"大戦"のような多陣営による混戦模様の中でなら、隠れ潜むラビットの存在はこの上ない脅威として君臨できるだろう。
彼女自身、そのことは分かっている。
分かっているのにその手を止めさせているのは、いつもの戦場と今の戦場との間にある大きな違いだった。
(自分が生きるために……、人を撃つ……殺す)
RABBIT小隊は特殊部隊だ。
兎達が動くその時、そこには目的があって正義がある。
ミユはその歯車として動き、引き金を引いてきた。
だが――今彼女の前にあるのはSRTの"正義"ではなく。
霞沢ミユという一人の人間が生き延びるために必要な、自分個人にとっての"正義"だ。
ミユは自己評価が低い。
自分のために引き金を引き、自分のために敵を排除したことなんて――ましてや殺したことなんて、今までに一度だってなかった。
(……いいのかな、それって)
もしも此処に、仲間の兎たちがいたなら話は違っただろう。
頼りになるあの子たちが議論を交わして、最後は隊長の月雪ミヤコが判断を下す。
そしたらミユは、その判断に従うだけだ。
戦うにしろ――それとは違うアプローチに出るにしろ。
きっと迷わず引き金を引ける。
兎たちの歯車として、仕事を果たせる。
だけど今此処に、他の三匹の姿はなく。
霞沢ミユという臆病な兎が一匹、取り残されているだけだった。
(居心地いいとは、思ってなかった筈なんだけどな)
SRTになんて入らなければよかった。
RABBIT小隊に、自分なんてそぐわない。
そう思ったことは一度や二度じゃないし、何ならずっと思っていた筈なのに。
なのに今では何故だか、あの三人と過ごす場所と時間が恋しかった。
助けてほしい。支えてほしい。みんながいれば、なんとか戦っていける自信があるのに。
「先生……」
こんな時頼りになる存在と言えば、RABBIT小隊とも関わりの深いシャーレの先生だ。
一縷の望みをかけて呼んでみるけれど、当然ながらその消え入りそうな声に対するアンサーはない。
此処は学び舎ではない。
キヴォトスでは、とうにないから。
……腹の虫が、きゅるる、と鳴いた。
テーブル脇からこっそり回収したコンビニ弁当を開け、割り箸を割って口へ運ぶ。
もく、もく……と口を動かし、咀嚼して。空腹の身体の中へと流し込んで。
しっかりしないと、とミユは思った。
本当に捨てられてしまう前に、なんとかしないと。
そう思いながら食べた弁当は、ドゥリーヨダナがお金を払って買ってきた賞味期限内の弁当の筈なのに。
いつもみんなで食べていた廃棄弁当よりもなんだか味気なくて、おいしくなかった。
【クラス】バーサーカー
【真名】ドゥリーヨダナ
【出典】Fate/Grand Order
【性別】男性
【属性】秩序・悪
【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:B 敏捷:D 魔力:B 幸運:A 宝具:B
【クラススキル】
狂化:E-
バーサーカーのクラススキル。
理性と引き換えにステータスのランクアップを所持者に与えるものだが、彼の場合ほぼほぼ機能していない。
よって理性はあり、高等な会話も(ろくでなしだけど)可能。
【保有スキル】
人悪のカリスマ:B-
彼の持つ人間味に溢れたカリスマを示すスキル。
彼はすぐに人を嫉そねみ、羨み、そして憎む小心者ではあったが、同時に見捨てられない魅力を具えていた。
とはいえ合わない者にはまったく合わない。
凶兆の申し子:EX
彼が生まれたとき、様々な不吉な現象が起こったとされる。
一族に災いを呼ぶとして、識者は王にその子を棄てることを勧めたが、王は受け入れなかった。
結果として彼は一族に滅びをもたらす大戦争を引き起こすことになる。
また、彼は悪魔カリの化身であるとも語られている。
棍棒術:A
その名の通り、棍棒を操る技量の高さを意味するスキル。
宿敵である大英雄ビーマにも匹敵する、極めて高い腕前を持つ。
【宝具】
『一より生まれし百王子(ジャイ・カウラヴァ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:100
ジャイ・カウラヴァとは『カウラヴァの勝利』『カウラヴァ万歳』を意味する。
ドリタラーシュトラとガーンダーリーの子たち、カウラヴァの長兄として、一つの肉塊より生まれた百王子たちを一斉に召喚する宝具。
同じ肉塊より生まれたものである以上、霊的には弟たちはドゥリーヨダナと同一存在であるとも言える。
その繋がりを利用して強引に喚び出される、武装した王子たちで構成された一軍。
その中にはドゥフシャーサナやヴィカルナなど名が知られている者もいるが、征服王の軍勢のように一人一人が全て名だたる英雄というわけではない。それでも彼らは古き時代、神話の大戦争を戦った者たちであり、五王子やドゥリーヨダナと同じように武芸を学んだ戦士。血の繋がりによる高い連携力を見せることで、大抵の相手はその数で押し切れる。
なお、程度の差はあれ、百王子たちの性格はだいたいドゥリーヨダナと似たようなもの。
つまりは基本的にロクデナシ集団である。
【weapon】
棍棒
【人物背景】
インド古代叙事詩『マハーバーラタ』における主要登場人物の一人。アルジュナ・ビーマたち五王子と対立した百王子の長兄。
すぐに人を嫉み、羨み、そして憎む小心者ではあったが、同時に見捨てられない魅力を具えていた。
欲望には忠実。目的達成のためなら不正も姑息も嬉々として行う、欲深の極みみたいなろくでなし。
しかし考えていることは分かりやすく、結果として逆に裏表がなくなっている節がある。
尚、王/長兄としての自負は意外にも持っており、面倒見は割りかし良かったりもする。
悪ではあるが外道ではない、見る者によって好悪が百八十度別れる……そんな男。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯に興味津々。……さてこの生き物(ミユ)はどうしたものか……。
【マスター】
霞沢ミユ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
聖杯に興味はない。元の世界に帰りたい
【Weapon】
RABBIT-39式小銃
【能力・技能】
狙撃手としての高い腕前。
2km以上離れた的への射撃もお手の物。
またその性格上なのか生まれ持ったものなのか存在感が非常に薄く、たまにそれも役に立つ。
【人物背景】
SRT特殊学園、RABBIT小隊所属の狙撃手。コールサインは『RABBIT4』。
気弱、ネガティブ、存在感がなくてコミュニケーション能力に問題がある。
自己評価も大変低く、お気に入りの隠れ場所はゴミ箱。
【方針】
帰りたいですぅ……(;;)
投下終了です。
投下します
なぜだ、なぜこの男に徒党を組んでも勝てない。
銀色の鎧を纏ったセイバー、軽い軽装を身にまとったランサー、苦無のような物を持ったアサシン、それが、眼前の敵へと目を向ける。
突如、敵より放たれたのは噛みつき、ランサーはそれをもろに喰らう。
「離せぇぇぇ!」
セイバーの剣が突き刺さる、しかし、意に介することはない。
強力な力で剣を取り上げ、身体を叩きつける。
さらに空いた腕で、剛腕をランサーへと振るう。
「ぐへ…」
二人の英霊を前に、純粋なタフネスで倒していく。
「化け物がぁぁぁ!」
マスターを逃がそうとするアサシンの苦無が飛ぶ、それを腕で受け止めると、クラウチングスタートの体制に入り、そして。
猛スピードのタックルを叩き込んだ。
たまらずアサシンは吹っ飛び、消滅した。
「ひぃ!」
「逃げるぞ!」
散り散りになっていく敵マスターを、追おうとは思わなかった。
――――――――
夕暮れ時、金髪の少年が校門から出てくる。
名は北条悟史――残酷な運命に巻き込まれた少年である。
その時、あることに気づく、向こうから、見えないなにかが歩いてくる。
バーサーカーだ。
自身のサーヴァントだった。
「マスター、帰宅ノ時間カ。」
「あぁ、ありがとう、バーサーカー。」
「イイ、俺ニ任セテオケ。」
カタコトの日本語を喋り、霊体化を解き現れたのは筋骨隆々の大男だった。
バーサーカー――ジャック・ハンマー、それが彼の真名だ。
なんとなく、裏でバーサーカーが自分を守ってくれていたのがわかる。
「帰ろう、僕たちの家に。」
「アァ。」
――――――――――
古ぼけたアパートのドアを、軋ませながら中に入る。
電気をつけ、古びた冷蔵庫から食材を取り出す。
ぎこちながらもなんとか済ませていき、ちゃぶ台に出される。
「…いただきます…」
「…」
二人は礼をし、眼前の食事に手を付けた。
――――――――
食事をし、風呂に入ると、もうやることはなく、床につく。
ジャックは窓を開ける。
「見張リヲシテクル、アトハユックリ寝テイルガイイ」
「うん、おやすみ。」
――――――
「サテ…ナルベクハヤクスマソウカ…」
眼前の敵に殺気を向ける。
おそらく、キャスターのクラスだろうか。
「俺の仲間を良くも…やれ!キャスター!」
やはりか、攻撃をもろに受ける。
「やったぞ!」
「ドウカナ?」
「!?」
傷はついたが、まだやれる、なるべく、一撃で決める。
――さぁ、始まった。
「な、なんだ…ひぃ!」
「恐レ慄クカ…貴様モ…」
禁断の薬――ステロイド――彼の身体は、禁忌のドーピングで巨大化していく。
「サァ、終ワリダ…」
――――――――
血を払い、月を見上げる。
「…ネルカ…」
再び、部屋へ戻る。
悟史はゆっくりと眠っている。
「…マスター…必ズ、貴様ノ妹ニ逢ウゾ…」
ジャックと悟史の約束、それは、「必ず妹の元へ帰る」というもの。
ジャックは理解した、同じ、兄弟を持つものとして、信念を。
ただ一つ――形は違えど――家族に関する願いを持つものとしての――
【CLASS】
バーサーカー
【名前】
ジャック・ハンマー@刃牙シリーズ
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力;B 耐久;B 敏捷:B 魔力:E 幸運:D宝具;B+
【クラス別スキル】
狂化:E
通常時は狂化の恩恵を受けない。
その代わり、正常な思考力を保つ。
【固有スキル】
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
範馬の血:D
地上最強の生物、範馬勇次郎の血縁を受け継ぐ者。
しかし、ジャックは薄く、あんまり恩恵は少ない。
狂化をE状態のままDと同レベルの力を出せるようになる。
噛道:A
所謂バイティングと言われる技。
それをジャックは一つの武術として昇華。
チタン製の歯から繰り出される技一つ一つが強力であり、補正もかかる。
【宝具】
『狂気の薬(ステロイド)』
ランク:C 種別:補助宝具 レンジ:―― 最大補足:――
カナダの医学者、ジョン博士によって作られた、ステロイド。
自身の手元に多数のステロイドを召喚、それを身体に流し込むことで、自身を強化する。
しかし、身体を強制的に動かしているため、限界は存在する。
『例外中の例外(マックシング)』
ランク:B+ 種別:補助宝具 レンジ:―― 最大補足:――
使用条件:ステロイドを体の負担の限界まで使用する
ステロイドを限界まで使用したことによる後遺症。
本来なら肉体が崩壊する…否、ジャックは違った。
逆に筋肉は引き締められ、ダイヤモンドと言われる硬さと、細身になったことによるスピードの上昇など、あらゆる面で強化される。
しかし、継続時間が終了すると、全ステータス及びスキルが二段階下がる。
【weapon】
己の肉体と、チタン製の歯
【人物背景】
最大トーナメント出場者の一人にして、範馬勇次郎が蒔いた子種の一人、戦士、ジェーンの子。
ただ一つ、戦士としての役目を果たせなかった母の敵を討つため、限界までトレーニングをするが、逆に幽鬼のような体になってしまう。
しかし、そこに鼻つまみ者の博士、ジョンが現れる。
ジョンはジャックにステロイドを渡すと、身体は成長、肉体もトレーニングに追いつくようになる。
そして、最大トーナメントに出場、セルゲイ・タルタロフ、三崎健吾、アレクサンダー・ガーレン、渋川剛気らを倒し、異母弟、範馬刃牙と激突、激戦の末敗北した。
アンドロイドの様な表情から、冷徹な印象を持たれるが、実際は社交的であり、また、弟である刃牙に対する愛情もある。
【サーヴァントとしての願い】
ただ一つ、範馬勇次郎との決着をつける。
【マスター】
北条悟史@ひぐらしのなく頃に
【マスターとしての願い】
元の世界に帰る、沙都子に合う。
【能力・技能】
特にはないが、この世界に来てから料理技術が向上した。
【人物背景】
雛見沢ダム推進派、北条家の子。
妹を護り、村八分を受けても挫けず、優しさのある男。
しかし、ストレスの限界により雛見沢症候群を発症。
叔母を殺害後、入江に送迎をしてもらっているところにてL5に到達、入江機関に保護される。
叔母殺害とL5発症の間の時系列から参戦。
投下終了です
>猛きこと天使のごとく 強きこと師の如く
ミカというキャラクターを描くにあたってこういうアプローチに出てきたか、と驚きました。
強さを共通点にしてそこで対話をさせる内容が読んでいてとても面白かったです。
先生への思いや様々な感情を抱えているミカの描写がいじらしくも良い。ありがとうございました。
>ラビットホール:黒い羽の兎編
これはまたずいぶんと愉快というか微笑ましいというか……な主従ですね。
超優秀なスナイパーとインド鯖のわし様という組み合わせは普通にえげつないのもまた面白い。
先生不在の世界でのブルアカキャラという味わいもあって、読み応えがありました。ありがとうございました。
>ひぐらしのざわめくころに
そのキャラをサーヴァントにしてくるかという驚きがありました。
そしてマスターも意外なチョイスで、なるほどな、と感じましたね。
先行きは不安ですが、果たして上手く運ぶのか否か。ありがとうございました。
毎度ながら感想が遅れて申し訳ありませんがお収めください。
さて、コンペ開始からある程度の時間が経ちましたが、此処で正式に募集期限の方を発表させていただきます。
【2023/11/20】をもって、コンペの終了期限といたします。
何か企画主のリアル事情で不測の事態が起こらない限り、これ以上伸びることはないかと思います。
それではあと一月ほどになりますが、引き続きふるってご応募いただけましたら幸いでございます。
投下します
白銀の世界に飲み込まれてく。
全て汚れを洗い流すかのよう、今際の際。
積み重ねてきたものを全て投げ売って、遺ったたいせつなものだった残骸を背負い続けた。
何もかもが白へと落ちていく。
残照は虚の無へと還り、降り積もった雪の冷たさが思考を劈いて。
何処で間違えたのか、何処が分岐点だったのか、そんな事最初か分かっているはずなのに。
破滅の道へと転がりゆく結末を選ばずにいられなかった理由だけが。
遥か遠く、さりとて限り無く違い場所に。
彼女は星を見出したけど、少女はその手で穢した星を壊してしまった。
その星だけが少女が縋り付くべき命の糸だと知っていたとして。
『ひなは…わたしたちを永遠にしてくれる?』
狂気だったのか正気だったのか、それすら分からなくなった逡巡の境界で。
あの選択が、彼女への救いになったのかなんて、誰にもわからない。
愛憎と後悔が犇めき合った感情。掘った穴を埋め直す愚行。
結局のところ、あの星に再び輝いて欲しかったのが少女の本心だったのか。
全て手遅れ、その手で輝きを殺した。
深雪のされこうべの丘の上。二人の少女。
既に片方は息絶えている。穢れた星、輝きを失った星。死の間際に星を見つけた少女。
もう片方も、命の灯火が消えるのにそう時間は掛からないだろう。
そんな永遠、少しも欲しくなかった。
でも、その永遠は彼女が望んだことだから。
それで最後に自分を見てくれるなら。
こんな汚いお星さまなんかを、見てくれるのなら。
狂うことに疲れ果てた、臭いものに蓋をし続けた事が限界だった。
寒い。熱さが消えていく。彼女への執着も、彼女への憎悪も、彼女への後悔も。
堕ちた星にいつまでもしがみついて、苦しくて、嬉しくて。
瞼が落ちる、意識が沈む。
彼女の救いをこのような形でしか与えることが出来なかった。
幸せの定義、理想の乖離、間違うべくして間違うしかなかった二人ぼっちの生々流転。
もし、叶うのなら。あの娘とは別の形で永遠になりたかった。
彼女の趣味に幸せに弄ばれ続けれたかった。
こんな寒い場所ではなく、温かい太陽が当たる海で二人で。
"あいちゃん"に連れられて、永遠の常夏(ニルヴァーナ)へ。
そんな夢語を、薄れゆく意識の中で。
花邑ひなこは、そんな英連の理想を幻視しながら。
ひらり、ひらり。降ってきた黒い羽がその手に触れたことに気づかずに。
◆
軋んだ心が 誰より今を生きているの
あなたには僕が見えるか?
あなたには僕が見えるか?
それ、あたしの行く末を照らす灯(あかり)なんだろう?
――wowaka/『アンノウン・マザーグース』
◆
花邑ひなこが目覚めた時に広がっていたのは、永遠ではなく知らない天井。
曰く、散歩中の女性からの通報で駆けつけた消防に病院へ運ばれた、ということになっていた。
瀬崎愛吏の――"あいちゃん"の死体は確認されなかった。倒れた自分しかいなかったという。
花邑ひなこにとっての瀬崎愛吏とは、単純な倒錯的な性愛関係では収まらないものだ。
自分勝手、我儘、傲慢。瀬崎愛吏の欺瞞と本質を、纏めて花邑ひなこは愛した。
そんなきたない彼女を、ひなこは憎んでもいて、愛してもいた。
そんな愛憎ひっくるめた特別な感情を抱いていたからこそ、あの結末に至ったのだろう。
しかし、今の彼女の隣に瀬崎愛吏はいない。逆を言えば、彼女の心を苦しめていた彼女は居ない。
彼女はもう苛まれずに済む、そんなわけがない。
縊り殺した手の感覚も、あの穢くも綺麗だった思い出も。全てが白紙にされるような現実が残酷だった。
「……あいちゃん」
夜、雪降る景色を病室の窓から覗いて見上げ、彼女の名を呟く。
現実ではない場所、電脳世界の架空都市冬木。
聖杯戦争という殺し合いのためだけに用意された幻想牢獄(エターナルケージ)。
今更死の恐怖だとか誰かを殺すだとかの怯えは、既に通り過ぎた事。
ここには自分を知っている誰かが居ないという孤独こそが、ひなこを苛むものだ。
両親の配役となる存在は一応に居るらしいし、後日迎えに来るという話だ。
「どうして」
どうしてあのまま一緒に死なせてくれなかったのか。
どうして自分だけ拾い上げて"あいちゃん"だけ置き去りにしてしまったのか。
運命とは、黒い羽を落とした神様とはこれほどまでに残酷なものだとは。
自分は"あいちゃん"に呪われていると神様はそう思って場違いな救いの手を伸ばしたのか。
確かに、呪われている、と言うのはある種間違っては居ないだろう。
思い通りにならなくて、いざ都合のいい時にだけ頼ってくる。そんな彼女が愛しくも憎かった。
そんな彼女を思えば思うほど、心が締め付けられて苦痛だった。
「どうして、私からあいちゃんを奪ったの」
だからこそ、どうして奪っていったのか。
自分からあいちゃんどころか、その死すらも奪っていった神様が恨めしかった。
確かにそこに苦しみはあった、嫉妬と独占欲からなる醜さ。
だとしても、自分の手で永遠を与え、幸せそうに死んでいった彼女の終わりすらも奪っていくのかと。
その汚さすらも、何もかも神様は奪おうとするのか。
「わたしは、そんな事望んでいないのに」
瀬崎愛吏の死は、花邑ひなこの重荷を取り上げたという点では真実であろう。
だが、彼女にとって"あいちゃん"とは天より与えられた呪縛(しゅくふく)。
そう簡単に、手放してなるものか。そう思えるほどに重いもので。
「どうして、こんな……」
世界はどうして残酷なのか。
手折った花びらを無意味に拾い直し。
掘った穴を埋め直すような愚行を為して尚。
花邑ひなこはかつての"あいちゃん"を追い求めていた。
やり直そうにも盆の水は戻ることはない。
自らが行った咎と後悔に苛まれ続ける、そんな罰と二人っきりの最後すら奪っていく。
「せめて」
せめて、"あいちゃん"と一緒なら。
あの時、"あいちゃん"を殺さなかったら。
何かが、変わったのか。
いや、それは無理な話。
"あいちゃん"を変え、己に依存させたのは花邑ひなこ自身だ。
手を伸ばすだけで良かった蝶を自分のものにしてしまった報いだ。
それでも、この愛憎までは奪われたくなかった。
どれだけ憎くて苦しくても、この苦い感情まで奪われてほしくなかった。
「……せめて、あいちゃんと……」
「どうしたいの?」
窓の外から、影法師。
それは月の光に当てられ、確かな姿となってひなこの目に映る。
聖杯戦争。その参加者に充てがわれる英霊。
当然の事、花邑ひなこにも英霊は用意されている。
最も、それを自覚したのはついさっきの事。
「……だれ? 私の……」
「うん。マスターのサーヴァント……になるのかな?」
小さな女の子だった。黒い修道服に身を包んだ、自分よりも小さな小さな女の子。
するりと病室に入り込み、観察するように自分を見つめるそれを、ひなことしては呆気にとられたまま動けない。園児ほどの大きさで、その瞳に宿る紫色の輝きに、何故か言い表せない懐かしさが。
喋り方からしても見た目相応なのか、これが自分に充てがわれた英霊と思うには少々拍子抜けなのか。
けれど、ベットのシーツの上に乗って、自分を見つめるそれを、拍子抜けとは全く思えなかった。
その瞳にはあった、確かな狂気と、確かな妄執が。
「……あいちゃんってだれのこと?」
そんな"本物"が掛けた言葉は、ひなこの心を射抜くような疑問。
その瞳は純粋だ、まさに幼子の如く残酷な問い掛け。
一概に、簡潔な言葉で済ませられる程軽くはない。
逆に、だからといって他人に知られて良いようなものではない。
「……どうして、そんな事聞くの?」
「愛してるの?」
いきなり愛してるの、なんて言われても。
確かにそうだった、と言ってしまえば簡単だったかも知れない。
このサーヴァントは幼稚だった。幼稚というよりも外見相応の好奇心によるもの。
瞳に宿すそれは、かつてひなこが彼女を繋ぎ止めるために取り繕った偽物の狂気にも似たもの。
いや、これが本物の狂気だったのだろう。
「……それは」
「苦しいの、痛いの? ……わたしはね、それを愛だってしんじてたの」
憂いを帯びたそのサーヴァントの言葉は、紛れもなく何の混じりもないもの。
悦びに、そしてほんの少しの悲しみと寂しさが混じったような、まるで天然石のようで。
でも、その言葉だけは、花邑ひなこは理解できる。
瀬崎愛吏と花邑ひなこを繋ぎ止めるそれは、痛みと苦しみを伴ったものだから。
その苦しさが、彼女への愛の自覚だったのだろう。
その痛みは、彼女を自分の中で生まれた愛の結晶だろう。それが歪んだ形だとしても
きたないはきれい、きれいはきたない。
このサーヴァントは歪んでいる、自分と同じように。
「………結局、私にはほんとうの愛ってなんなのか分からなかったなぁ」
「私にだって、わかんないよ」
本当の愛なんて、結局二人にはよく分からないのだ。
ただ、花邑ひなこそのカタチを見ていたかも知れなかった。
瀬崎愛吏を縊り殺そうとして、嬉しさと悲しさがぐちゃぐちゃになったような顔をしていたであろう自分の感情が。
"あいちゃん"が、自分に美しいモノを見出した、あの表情を。
壊したいのか、愛したいのか。自分はどっちだったのだろう。
でも、"あいちゃん"に永遠を与える方法が、あれしか思いつかなかったから。
「そう、だよね」
ひなこの言葉に寄り添うような優しい言葉を掛けながら、彼女の目を見る狂戦士(バーサーカー)の英霊。エンジェロイド・カオスはシーツの上から降りる。
いざ地面に立ってみれば、本当に小さな女の子だというのを、ひなこはまざまざと実感させられる。
英霊とは本当に多種多様で、見かけによらないものでもあるのだと。
「わたしたち、わるいこだから」
「………」
"わるいこ"。その言葉に、ひなこは喉が詰まった。
"あいちゃん"を自分と繋ぎ止めるために、どんな手も使った。
可愛がった、依存させた、時には他の人も利用した、全ては"あいちゃん"の為。
いいや、自分のため。その気持ちに蓋をして、狂ったふりをし続けた。
だが、それはひなこにとって戻って欲しかった"あいちゃん"で無くなったその時に。
そう変えたのは、花邑ひなこ自身だ。
そう、わるいこ。ひなこもカオスも、わるいこだったのだ。
第二世代エンジェロイド・タイプε(イプシロン)。それがカオスという英霊の、エンジェロイドとしての正式名称。
愛に興味を持ち、愛に狂い、愛に苦しんだ幼い子供。
些細なすれ違いに傷つき、狂気に堕ちた悲しき少女。
彼女は、繰り返した間違いから抜け出すことの出来なかったわるいこ。
愛を知るために他人を傷つけ、時には殺した。
ある少女(エンジェロイド)を食べた時に、己の間違いを自覚してしまった。
不幸にも、彼女が本当に想っていた少年を手に掛けてしまった。
間違いだらけの道筋だったけど、その中に答えはあったのだろう。
不幸に塗れ、カオスはそれに気付くことは出来なかった。
カオスの寂しい瞳は、それこそひなこはベッドの中で咽び泣いていたのを思い出させる顔だった。
わたしたちと態々発言したということは、カオスはひなこをなんとなく同類だと思って言ったのだろう。
それを否定する気になれなかった。だってひなこ自身も薄々感づいていたから。
あの逃避行を繰り返すうちに、彼女を独り占めしたいという気持ちと、元に戻りたいという気持ちがせめぎ合っていた。
そんな迷いが、あの最後になったというのなら。
「……それで、よかったんだ」
嗚呼、そうか、そうだったんだと。花邑ひなこは自覚する。見つけたのが例えその欠片だとしても。
痛くて、苦しくて、引き裂かれそうなこの思いが。
そうするしかなかったと言う後悔と、彼女に永遠に出来るという喜びが。
手に入れるために手段を選ばないと言うけれど、もし仮に彼女をひなこが本当に欲しかった瀬崎愛吏を取り戻せるというのなら。
「……わたし、悪い子になっちゃえばよかったんだ」
壊し尽くしてしまえばよかったは違う。本当に戻ってほしかったのはいつもの瀬崎愛吏。
だけどそれは自分が壊してしまったもので、例えそれが戻らないものだとしても。
自分の気持ちに偽ることはもう辞めよう。
わるいこでいい。自分に正直でいい。
"あいちゃん"を壊して、殺した自分。
他人を傷つけるだとか、戦うだとか。多分矮小で弱い自分には到底何もかも足りないけれど。
それでも"あいちゃん"を取り戻すためなら、手段なんて選ばない。
今度は、自分の汚い欲望全部さらけ出して、彼女に本当の自分を見てもらう。
受け入れてくれるならそれでいい。それで二人一緒に永遠の楽園で一緒に暮らそう。
受け入れてくれなかったら、"あいちゃん"と戦おう。
だって、私はわるいこだから。悪い子だから自分に忠実で、傲慢で、醜悪で、汚くて良い。
この手を汚すことを、もう厭わない。
怖い気持ちもある、聖杯戦争なんて本当は恐ろしくて震えそうで。
自分に武器なんて握る覚悟なんてありはしなけれど。
「……私、決めたよ。私は私のために、あいちゃんを取り戻したい」
取り戻すべき愛を見つけた。私が好きだった彼女を取り戻したかった。
拒絶されるものなら無理やりにでも手に入れてしまえと思った。
それで良いのだ、それが本心。彼女との永遠が欲しい。
彼女との永遠以外どうでもいい。
「その為なら私は、狂ってしまってもいい」
狂ってしまおう、今度こそ偽りでなく。
真実の愛に狂ってしまおう。
これはどうしようもなく醜いエゴだから、そのエゴからも逃げないように。
捨てようとしたものを、無くしたものを、奪われた比翼を。
奪い返す。勝って勝ち抜いて壊して、此処では見えない地平の向こう側の永遠へ。
叶うのならば、彼女と一緒に。
「………それで、いいの?」
「うん」
「こうかい、するよ。私みたいに」
「後悔なら、いっぱいしたよ」
その生き方には、途方もない苦しみが待っていることをバーサーカーは知っている。
けれど、それを止める気などバーサーカー毛頭なかった。
だってひなこという少女はバーサーカーと似ていたから。
同じわるいこだから。
そしてこのマスターは、この"わるいこ"は、もう自分の醜さを直視し続ける事を決めたんだと。
「それでも、わたしは"あいちゃん"が好きという気持ちを、捨てたくないって分かったから」
自分の気持ちに蓋をして、寄り添うことだけしか出来なかった自分に別れを告げ。
この思いを、この欲望を、この愛を、今度こそ。
もう二度と、永遠に離したりするものか。
今度こそ、一緒に。
「――じゃあ、こわすね。マスター」
バーサーカーもまた、それ以上の言葉は不要だった。
わるいこの主にわるいことはお似合いとはこれの事。
それとも、これが自分に対する罰だというのなら。
もう二度と、あのおうちに帰れないというのなら。
今度は、愛の為にわるいこであることを、引き返せない選択をした彼女に、寄り添おう。
その愛を、あの"みんな"は間違っていると言うかも知れないけれど。
"わるいこ"であるバーサーカーは、そんな自分だから、否定なんて出来なかった。
だから、壊そう。他人を傷つけ、苦しめ、壊すことしか出来なかった自分にはお似合いの。
わるいこたちの愛の為に。
「マスターには、ちゃんと辿り着いて欲しいって思ったから」
自分ではたどり着けなかった、さりとて"お兄ちゃん"や"お姉ちゃん"とは違う愛への答えを。
花邑ひなこが瀬崎愛吏にほんとうの意味で気持ちを伝えることの出来たその時に。
それにたどり着けたのなら。彼女は。
だからこそ、カオスは。花邑ひなこの願いの果てに、それが叶う事をその修道服姿らしく、その幸福を祈っていた。
◆
譲れなくて 捻じ曲がって 飢えた渇きを満たすほど
(どうしてそばにいるの 巻き込まれたくているんだよ)
生きていたい 笑っていたい 進んでいく理由がある
(どうして手をにぎるの 汚れが混ざって光ったよ)
――水瀬いのり/スクラップアート
◆
【クラス】
バーサーカー
【真名】
カオス@そらのおとしもの
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具B+++
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
狂化:D+
筋力と敏捷のパラメータをランクアップさせるが、その代わり特定の要素に対して歯止めが効かなくなる。
バーサーカーの場合は「愛」。痛みを愛と思い込んでしまったバーサーカーは、その為に誰かを傷つけることを厭わない。
ただし後述の「エンジェロイド」のスキルの影響もありマスターに対しては比較的まともに接する。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
エンジェロイド:A
天上世界「シナプス」の科学者が作り上げたアンドロイドにして空の製品。Angelとoidを組み合わせた語源らしく天使のような姿が特徴。
人間における心臓に当たる動力炉に自己修復プログラムを含めた各種武装、人間とほとんど変わらない生体部品などから構成された生態メカとも言える代物。
マスターとインプリンティング(契約)すると、首元に付けている首輪がマスターとなる人物にに伸びて繋がる事になる。この鎖は物理的なものではなく、あくまで契約関係の証左みたいなもので行動を阻害するような効果はない。
基本的に契約したエンジェロイドはマスターの命令に従順であり、命令の内容によって出力が増強することも。このため令呪を重ねての命令によるブーストの恩恵が他の英霊よりも大きい。
バーサーカーはシナプスの王であるミーノースによって製作された第二世代のエンジェロイドであり、通常のエンジェロイドとは一線を画す性能を誇る。
その他、バーサーカーに限りエンジェロイドにとってタブーとされる夢への干渉が可能。
加虐体質(愛):C+++
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
彼女の場合は愛を知る為、愛を与えるためのもの。その為「愛」に関わる事柄になってしまうと更に歯止めが効かなくなってしまう。
これはバーサーカーとして召喚されたことで愛に狂う少女としての側面が大きくなった為。
変化:B
データさえ揃っていれば汎ゆる人間に変身することが出来る。
バーサーカーはそれを用いての精神攻撃も得意の内。
【宝具】
『自己進化プログラム・Pandora(パンドラ)』
ランク:B+++ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:500
エンジェロイドに搭載されている自己進化プログラム。文字通りの禁忌の箱。他のエンジェロイドにも搭載されている代物だが、バーサーカーのそれは別物。
他の物質を取り込むことで外見を変化、戦闘能力を上昇させることが可能。マスターの魔力及びバーサーカーの霊器が保つ限り青天井に性能が伸びていく。
あくまで保つ限りであり、歯止めが効かなくなった場合の進化と言う名の出力上昇はマスター及びバーサーカーの身体を壊しかねない。
生前ですら取り込んだエンジェロイドの武装の再現が可能だったが、英霊となったことで取り込んだのが英霊や異能者の血肉等ならそれらの異能やスキル、自己進化次第では英霊の宝具すらある程度再現することが出来る。
【Weapon】
カオス本来の武装の他、生前に取り込んだエンジェロイドの兵装を一通り扱う
【人物背景】
シナプスの王ミーノースが開発した第二世代エンジェロイド・タイプε(イプシロン)。
「愛」を求め、他のエンジェロイド同様に「愛」に狂った世界を知らなかった少女。
ただ、いい子になりたかっただけ。
此度においてバーサーカーのクラスで召喚された彼女は、「愛を求める狂ったエンジェロイド」としての側面が色濃く出ている。
その為か桜井智樹が石板を使って行われた世界再生以降の記憶、彼らに謝って本当の意味で受け入れられた記憶は欠けている。あるのはアストレアと相打ちになって自爆した記憶まで。
【サーヴァントとしての願い】
おなじ"わるいこ"なマスターのために、マスター願いを叶える。
マスターの願いを叶えたら、わたしも愛がわかるのかな?
……ごめんねおにいちゃん、まだおうちにはかえれない。
だって、私はこの"わるいこ"を見捨てられないみたいだから
マスターがつめたくてさみしいひとりぼっちにはしたくないから
【マスター】
花邑ひなこ@きたない君がいちばんかわいい
【マスターとしての願い】
私のこの醜くて汚い願いのために、あいちゃんを取り戻す
あいちゃんを取り戻して、二人ぼっちの永遠を手に入れる
【能力・技能】
身体能力は年相応、むしろ運動能力は平均より下。
瀬崎愛吏――"あいちゃん"という少女を、痛くて苦しくも愛している。
【人物背景】
自分の気持ちに蓋をしたまま、狂うことすら出来なかった愛に生きた少女。
その穢(きたな)さをひた隠したまま、愛するものに寄り添い永遠となったはずの少女。
"あいちゃん"と『永遠』なるはずだった直前、降ってきた黒い羽に触れて聖杯戦争へと招かれた
【備考】
「公園に放置されて死にかけられていた所を運良く助けられた」という事になっているため、現状は病院で入院生活となっております
後日設定された両親が迎えに来ますが、それが何時になるかは当選時に後続の書き手にお任せします。
投下終了します
投下します。
☆☆☆☆☆
おやすみ おやすみ
Close your eyes and you'll leave this dream
おやすみ おやすみ
I know that it's hard to do
──bo en / my time
☆☆☆☆☆
冬木の郊外の、日本の基準ではやや大きな家々の並ぶ住宅街。
その家の一つが、バーサーカー主従の拠点だった。
(――拠点、というかさ。そもそも聖杯戦争が始まってから、ろくに外に出てないんだけどね)
バーサーカーのマスターは、引きこもりの少年だ。
聖杯戦争が始まった後も、それが変わることはない。
この家から出ることなく、ただ時間を浪費しているのが彼の生活だ。
召喚されてから一週間ほど経ったが、まだバーサーカーは彼の肉声すら聞いていない。
放っておけば食事さえ放棄しそうな彼のために、聖杯の知識をもとに、慣れない食料調達をバーサーカーがしている程だ。
とはいえ、コミュニケーションを取っていない訳ではない。口での会話じゃなくて念話だとか、そういう話ではなく。
「"目を閉じれば未来が開いて"」
「"いつまでも終わりが来ないようにって"」
「"この歌を歌うよ――"」
バーサーカーは歌う。練習とも言えない、囁くような、呟くような歌声。けれどこの静かな家で、二階にいる彼に聞こえるには十分な声量だ。
「"Do wanna play?"」
「"リアルゲーム ギリギリ 綱渡りみたいな旋律"」
バーサーカーの持つ"ウタウタの実"の能力は、歌を聴いたものを夢の世界――"ウタワールド"に導く。
そして、バーサーカーにとっても、マスターである少年――オモリにとっても。
現実を生きることは、罪と向き合うことは、苦しみでしかなくて。
夢の世界は、もはや生きる場所にも等しかった。
「"認めない 戻れない 忘れたい 夢の中に居させて"」
夢見人たちが話をする場所は、必然的に夢の中だ。
バーサーカーのサーヴァントとなった今のウタに、生前にあった睡魔による能力の時間制限は存在しない。
「"I wanna be free"」
「"見えるよ新時代が 世界の向こうへ"」
「"さあ行くよ NewWorld"」
静かな家に、バーサーカーの歌声だけが響く。
☆☆☆☆☆
ウタワールドは、本来どのような形態でも取れる。けれどバーサーカーは、馴染み深いエレジアを元にした舞台を作るのが好きだ。
今回もそうした。廃墟の街を好きに彩ることも出来るけれど、今回はあえてそのままだ。
慣れ親しんだ道を、ゆっくりとバーサーカーは歩く。
やがて、白い扉が見つかる。ただ道路の真ん中に扉だけが浮いている。
バーサーカーが作り出したものではない。これはオモリが作り出した扉だ。
オモリはこの扉の向こうにいる。
バーサーカーが来るのを待っていた訳でもないだろうけれど、目の前でゆっくりと扉が開いていく。
――そして、夢世界が塗り替わる。
(何回見ても、そんなことができるのか、って思っちゃうんだよね)
一瞬で、バーサーカーと扉だけを残して周囲の全てが変化する。
廃墟は奇妙な紫色の森に変わり、空は紺色の、見たことのない星座がならぶ星空になっていた。
そして扉の中から、モノクロの少年――オモリが出てくる。
いつも通りの無表情で、手にはナイフを持っている。手の甲の赤い手の形の令呪だけが、唯一モノクロでない部分だ。
彼こそがバーサーカーのマスターで、もう一人の夢の主だ。
マスターとサーヴァントの魔力的繋がりと、彼自身の出自と経験、その組み合わせにより彼はウタワールド――意識の世界を、ある程度自由に改変することができる。
「こんにちは、オモリ」
バーサーカーが挨拶をすると、オモリもこくりと頷く。
「こんにちは。バーサーカー」
オモリは無口な少年で、自分のことを話すこともほとんどない。最初はどう接すればいいのか困ったが、彼の夢の世界を一緒に冒険するうちにいろいろと彼のことが分かってきた。聖杯の繋がりは、記憶すらも伝えてくれる。
バーサーカーと同じように、罪と後悔を抱えた人間であること。
4年間もの間、ただ夢の世界に閉じこもって、罪から逃げ続けていたこと。
その時に本来の人格であるサニーに作り出された第二の人格が、オモリであること。
オモリは、夢世界の主として真実からサニーを守り続けてきたこと。
ついに罪に追いつかれ、夢の中にすら逃げられなくなったサニーの人格が消えてしまったこと。
――そして、とても想像力豊かな子供であるということ。
バーサーカーも夢の中で、様々な楽しいものを作り出して、ライブの時の演出にも使っていた。そのバーサーカーからしても、オモリの発想力には舌を巻く。
これだけの広く多様な世界を、一人の想像力で作り出せるのは才能だと思う。
たとえそれが、逃避のための世界だろうと。
近い未来に破綻の見えた、張り子の世界だろうと。
普段ならば、オモリの作り出した夢の世界――"ヘッドスペース"を冒険するところだが、今日は違った。
オモリは傍らのピクニックシートを指さす。
「話をしよう」
「聖杯戦争について」
☆☆☆☆☆
「君は聖杯戦争に興味がないんじゃないか、って思ってたよ」
ピクニックシートに腰掛けると、バーサーカーはそう言った。一週間、現実についての話をしていなかったのだからそう考えるのも妥当だろう。
バーサーカーはそれでもよかった。ただオモリを守り続けるだけで、聖杯戦争を終えてもよかった。
夢の世界に逃げているオモリの平穏を乱してまで、聖杯を手にしようとは思わない。
オモリのやっていることは、バーサーカーの願う"新時代"と、やり方こそ違うが同じようなものだから。彼を否定するようなことはやりたくない。
「あなたの記憶を見た」
オモリの言葉はいつも単刀直入だ。バーサーカーは少しばかりの内心の動揺を、表に出さないように笑う。
「恥ずかしいな、なんか」
「あなたはやり方を間違えた。皆を騙して、ウソをついて……それで、幸せだと、"新時代"だと言った」
「……そう言われると傷つくなあ。でも……そうなんだろうね」
オモリはまるで自分自身に言い聞かせるかのように呟く。
本当に、騙したつもりはなかったのだけれど。でもオモリの記憶を見た今だと、騙しているのと変わらなかったと思う。
否定されるのが、拒絶されるのが怖かった。みんなのためと言いながら、その根本は自分のためだった。
だからエレジアの真実を隠し、"新時代"の真実を隠し、何も言わないまま計画を実行したのだと、今ならわかる。
真実を伏せ、ただ黙り続けていることは、ウソをついているのと同じことだ。
「私も、君も、きっとちゃんと話をするべきだった」
ファンのみんなと、ゴードンと、シャンクス達と、ルフィと。
あるいはオーブリーと、ケルと、ヒロと、バジルと。
話したからって、罪の軽重が変わるわけでも、許されるわけでもないだろう。
それでも話しておけば、よりよい力の使い方が、あるいは生き方が見つかったのかもしれない。
「けれどあなたの願いは……"新時代"は、価値あるものだ」
「夢を見ることもできない人がいる。助けを求めることもできない人がいる。あなたの力はそういう人たちを救うことができる」
「今でも私はそう思ってるよ。けれど、前回と同じようなやり方はもうやりたくない」
大切な人たちに、あれほど涙を流させた。あくまで結果論だけれど、海軍の言うように危うく世界を滅ぼしかけたのも事実だ。
価値ある未来のためだとしても、もう繰り返したくはない。
(いや、そうじゃないな)
ただ繰り返すのでなく、より新しいやり方で"新時代"に至ることはできるはずだ。
ウタのように、オモリのように、サニーのように、幸せな夢の世界を望む人たちは確かにいるのだ。
「ちゃんと、今度こそウソをつかずしっかり一人ずつ話し合って、それで同意してくれた人たちと"新時代"に行けば――」
ふと口に出たアイデア。言葉にしてみると、それは存外しっくりと来た。
今度は、誰も取りこぼさない。きちんと正しい手順をふんで、"新時代"に至ることができる。
もちろん本来は難しいことだけれど、"聖杯"の力があれば、このサーヴァントの体があれば可能だろう。
オモリが頷く。バーサーカーの願いを肯定する。
「あなたの願いのために、戦ってもいい」
「あなたの願いには、それだけの価値がある」
かつてウタは一人で世界を敵に回した。けれど今は、思いを共にする仲間がいる。
そのことは思いのほか、バーサーカーにとって心強いものだった。
「ありがとう!よろしくね、オモリ」
そしてオモリは、彼自身の願いを口にする。
「……僕の願いは、マリの死をなかったことにすることだ」
かつてサニーが殺してしまった、姉の死の否定。
夢の中で否定し続け、ついに叶わなかったこと。それこそがオモリの願いだ。
「そっか。いいと思うよ」
バーサーカーはもはや、彼のように自分の罪を消すことを願うことすらできない。ただ罪をなかったことにして、それで"新時代"を諦めることはもうできない。
"新時代"を望む人々の声が、バーサーカーの背中を押し続けている。
それでもどうかオモリが、救われてほしいと思う。
あるいは過去の自分を救う、代償行為のようなものに過ぎないとしても。この弱い少年が、救われてほしいと思った。
「それでさ。聖杯戦争をどう戦うかなんだけど――」
バーサーカーは話を変える。お互いに譲れない願いがあると分かった以上、戦うことは前提だ。
とはいえはっきり言って、オモリは肉体的にほぼ戦力にならない。そしてバーサーカーの歌も、睡眠の必要のないサーヴァントには必ずしも有効ではない。
サーヴァントになった今なら戦闘能力がない訳でもないし、この状況なら最悪"トットムジカ"を使う手だってあるにしても、ある程度考えて戦わなければならないだろう。
色々と考えを巡らせながら言葉を続けようとすると、オモリが割り込んできた。
「バーサーカー」
「あなたは、ただここに他のマスターを連れて来てくれればいい」
現実のオモリはひ弱な少年だが、夢の世界においては必ずしもそうではない。
オモリにはいくつかのささやかな能力がある。
例えば、夢の世界で自殺することで、任意にウタワールドから抜け出し目覚めることが出来る。
決して屈せず、いつまでも戦い続けることが出来る。
そして、
「あとは僕がやる」
オモリは夢の住人を殺害することが出来る。
幸せな夢を邪魔する、サニーの敵を排除することが出来る。
本来は、ただ幸せな夢を維持するためだけの能力。
だがウタワールドに招かれ、魂だけとなった存在には、オモリの殺意は絶対だ。
「それは、良くないよ!君が傷つくなら、私の願いに価値なんてない。もう私は……大切な誰かを傷つけてまで、新時代を作ろうなんて思わない」
バーサーカーは声を上げる。かつてのエレジアで、海軍の銃弾に倒れた観客。最期にウタを見ていた、シャンクスたちの表情。どれもバーサーカーにとっての罪だ。
形を変えた、本当に誰も傷つかずに済む新時代。それは価値あるものだと思うけれど、そのために他人に罪を押し付けたくはない。
罪を負うことの辛さは、よく知っているから。
誰かが理想のために罪を負う必要があると言うなら、それはバーサーカーであるべきだ。
「夢の中で戦うのは、ずっとやってきたことだ」
「あなたが気にすることじゃない」
オモリは無表情に、バーサーカーの言を躱す。
けれどバーサーカーはしっかりとオモリの目を見つめ、言い募る。
「話を逸らさないでよ。私は今度こそ、誰も傷つかずに済む世界を作る。君を傷つけるやり方なんて選ばなくても、ちゃんと戦えるんだよ」
サーヴァントとなった今なら、魔力の消費こそ大きいけれど、かつてウタワールドで振るった力の一部を現実でも扱えるはずだ。
別に、そのやり方でも良かった。
バーサーカーは戦闘に関しては素人に近いけれど、それでも振るう力は十分に強力だ。
「あなたが人を殺すべきじゃない」
オモリは訥々と言葉を続ける。
「あなたのこれまでの罪とは違う」
「あなたは、あなたの意図で、あなたの手で人を殺した後で――それでも、幸せな夢を見られるのか?」
「――っ」
バーサーカーは言葉を返せない。
出来るつもりだった。生前も今も。だってウタウタの力はいつも絶対で、誰より"新時代"を――幸せな夢を望んでいるのは自分なのだから。
けれど目の前に居るのは、夢の世界にすらついに逃げられなくなった少年だ。
バーサーカーはオモリの記憶を知っている。サニーの記憶を知っている。
彼が犯した罪を知っている。
彼がどれだけ苦しんだか、知っている。
(もし、私があのとき、ルフィを殺してたとして)
("新時代"に辿りついてたとして)
あの時は、新時代を邪魔する海賊を殺しても、きっと心なんて動かないと思っていた。
救世主のままで、いられると思っていた。
けれど、今となっては。
(……辿りついた"新時代"は……悪夢でしかなかったかもしれない)
それはあまりにも恐ろしい想像だ。罪から逃げて、みんなのためだと謳って、そしてたどり着いたはずの永遠の平和で自由な"新時代"。
それが罪と罰とにまみれた悪夢であったなら。誰も逃れることの出来ない、地獄でしかない。
何より恐ろしいのは、これがあり得た未来だと分かってしまうことだ。
「あなたが出来ないのなら。サニーが出来ないのなら。僕がやればいい」
オモリはバーサーカーの沈黙を否定と取り、淡々と意思を述べる。
彼の言う事は間違っていない。それが分かってしまう。それでも。
「私は戦えるよ、オモリ。確かに、もう……大事な人を殺して、その後で"新時代"だなんて、きっと言えないけど。私は君のサーヴァント、バーサーカー。君と一緒に"新時代"を作る女、ウタだよ」
バーサーカーは今度こそ、はっきりと言う。
バーサーカーとして、この聖杯戦争に呼ばれて良かった。
もう生前のような捨て鉢な戦い方は出来ないけれど、あの日の狂熱はバーサーカーの霊基に刻まれている。
"新時代"のために、進む意思だ。
例え目指す形が多少変わっても、その意思が損なわれることはない。
海賊だろうが、海軍だろうが、世界政府だろうが、誰を敵に回しても進み続けたのがバーサーカーだ。
今更聖杯戦争ごときで、止まることなんてない。
「君はこの言い方が嫌いだろうけどさ。君だけに、罪を負わせることなんてしないよ。私と君の、二人の戦いなんだから。君が戦うと言うのなら、一緒に戦おう」
彼がサニーを守るように、バーサーカーを守ろうとしているからなのだろうけれど。
オモリは少し過保護だ。
確かにルフィやシャンクスがこの聖杯戦争にいたとしたら、正直もう戦える気はしない。
でもありふれた海賊たちのようなただ我欲を満たすだけの奴らや、元の世界に返すべきでない悪人。そんな奴らと戦うことに、痛痒なんてない。
バーサーカーは、悪人がもたらす惨禍を十分に理解している。そんな奴らに聖杯を渡せない、という理由で戦うことだってできる。
「……」
オモリが言葉に詰まる。
いつもの彼の無表情が、今は悩んでいるように見えた。
バーサーカーはゆっくりと、彼の言葉を待つ。
「分かった」
「一緒に戦おう。僕とあなたの夢のために」
【クラス】
バーサーカー
【真名】
ウタ@ONE PIECE FILM RED
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷C 魔力B+ 幸運D 宝具A
【属性】
中立・善
【クラススキル】
狂化:E
理性を失う代わりに、ステータスを上昇させるスキル。
ただしバーサーカーの場合は凶暴性が増す程度で、ステータスの上昇も大幅な睡眠耐性の向上のみ。
そもそもサーヴァントに睡眠の必要はないため、この耐性は特殊な場合しか機能しない。
それでも、彼女を救世主にするには十分だった。
【保有スキル】
新時代のカリスマ:B+
歌姫として、そして夢の世界に皆を連れていく救世主としてのカリスマ。
大海賊時代に疲れた人々にとって、バーサーカーの描く新時代は非常に魅力的なものだった。
集団を対象とした判定にプラス補正。
天性の美声:A+
"世界の歌姫"たるバーサーカーの、卓越した歌声。
ウタウタの実の力抜きでも、バーサーカーの歌声はそれだけで世界を動かす力を持つ。
歌を用いた判定にプラス補正。
歌姫の戦歌:D++
歌を具現化させた武装、音符の戦士、五線譜の拘束等を扱うスキル。
本来はウタワールドの中で用いるスキルであるため、ランクが下がっている。
またウタワールドの外では魔力消費が増大し、最大同時発動数も減少する。
【宝具】
『ウタワールド』
ランク:EX 種別:対心宝具 レンジ:1~999 最大捕捉:数万~
超人系悪魔の実"ウタウタの実"の能力により作り出される、夢の世界。
能力を発動させたバーサーカーの歌を聞いた人間は、強制的に眠り夢の中でウタワールドに招かれる。
バーサーカーはウタワールド内ではすべてを思い通りに出来る、全能に近い力を持つ。
また、ウタワールドに取り込まれた人間の体を操ることも可能。
本来この宝具の発動には大幅な体力の消耗を伴い、一曲分程度で能力者が眠り能力が途切れてしまう。しかし、バーサーカーは睡眠が必要ないサーヴァントとして召喚されたこと、および狂化スキルによりこの欠点を克服している。
また、睡眠の必要がないサーヴァントには強制睡眠の効果が薄い。
『Tot Musica』
ランク:A 種別:対国宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:100
音楽の国・エレジアに封印されていた破滅の歌の楽譜。ウタウタの実の能力者がこの歌を歌うことで"歌の魔王"が顕現する。
古代から続く人の思いの集合体、心に落ちた影そのもの。
光線や腕を用いた広範囲攻撃が可能で、一夜にして一つの国を滅ぼせるほどの戦闘能力を持つ。
時間経過とともに魔王の"楽章"が進行し、手足や翼が増える、巨大化する等の強化が起きる。
この魔王にダメージを与えるには、ウタワールド側と現実側から同時に同じ場所を攻撃する必要がある。
能力者が眠る、あるいは死亡するか、魔王が倒されるまでこの宝具は発動しつづける。
【weapon】
"ウタウタの実"の能力を使用した歌。また、スキル"歌姫の戦歌"により具現化された武装。
【人物背景】
"世界の歌姫"と称される、絶大な歌唱力から世界中で絶大な人気を誇るアーティスト。
四皇の一人"赤髪のシャンクス"の義理の娘であり、"麦わらのルフィ"の幼馴染。
超人系悪魔の実"ウタウタの実"の能力者であり、彼女の歌を聞いたものは夢の中のような、意識の世界に誘われる。
不特定多数の電伝虫に声や映像を届けることができる、SSGの開発した試作品映像電伝虫をたまたま入手しており、これを用いて配信を行っていた。
エレジアの初ライブにおいて、世界中の人々をウタワールドに招きネズキノコの毒でそのまま死亡することにより、ウタワールドを永遠の楽園たる"新時代"とする計画を実行する。
"海賊嫌い"の歌姫ウタに対する期待と、かつてトットムジカを歌いエレジアを滅ぼした現実から逃げたかったことが動機。
麦わらの一味、海軍、そしてシャンクスたちの介入により計画は失敗した。
その後、ウタは解毒を拒否し、ウタワールドに閉じ込められた人々を元に戻したのち死亡した。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、今度こそ誰も傷つかないで済む"新時代"を作る。
【マスター】
オモリ@OMORI
【マスターとしての願い】
サニーの幸せ。
そのために聖杯戦争に勝利し、マリの死をなかったことにする。
【weapon】
ナイフ
【能力・技能】
現実世界においては、精神を病んだ16歳の少年に過ぎない。
夢世界においては、夢の主として、夢をある程度自由に改変することができる能力を持つ。
一例として、夢の住人を殺害したり、役割を剥奪して閉じ込めたりすることができる。
また、繰り返した友達とのヘッドスペースの冒険の結果として、夢の中ならばナイフや精神攻撃等を扱う高い戦闘能力を持つ。
【人物背景】
夢世界においては、黒髪黒目で真っ白な肌をした無表情なモノクロの少年。
4年前、姉であるマリを殺してしまった少年サニーが、現実逃避のために夢世界で作り出した人格。
外見は12歳の時のサニーを元にしている。
最初は夢世界におけるサニーのアバターに過ぎなかったが、やがてサニーを守り、真実から遠さげるため独自に動くようになる。
自分が姉を殺した真実に耐えられず、消失したサニーの人格に代わり主人格となる。
夢世界に舞い降りてきた黒い羽に触れたことにより、聖杯戦争に招かれた。
令呪の形は赤い手。あの日の罪の形。
【方針】
聖杯狙い。"新時代"を求める人が他にもいるなら、一緒に連れていく。
【備考】
参戦時期はバッドエンドor引きこもりルートにおけるサニー消滅後。
以上で投下を終了します。
投下します
月夜の空、十手百手と、四方から攻撃される。
――逃場は無いのか、嘆くのはランサーのサーヴァント。
眼前に構えて見えるは、鎌を持った少女、敵のサーヴァントだ。
なんとか離脱を試みるも、彼女の分身によって阻まれる。
――これしか無い。
宝具の発動を決意する。
直ぐ様、自身のマスターへと、目をやる。
――その光景にランサーは――絶句した。
緑髪の少女――眼の前のサーヴァントのマスターであろう女が、自身のマスターに対して刃を突き立てている。
さらに、よそ見をついた隙をつき、さらに苦戦していく。
――――――――
「さぁ、どうします?ここで死ぬか、それともあのサーヴァントを自殺させるか、どうします?どっちにしろ生きる道は無いんですけど」
夜風に緑髪をなびかせながら、少女、園崎詩音は脅しを放つ。
眼の前には自身のサーヴァント、アルターエゴが敵を嵌めていく光景――こちらの勝ちは確定している。
「で、どうし――」
人質に取っていたマスターが手を挙げる、そして、高らかに言い放つ。
――宝具を発動しろ、ランサー!
「ッ…!テメェェ!」
怒りのままに、ナイフで首を引き裂く。
血しぶきを上げ、倒れる敵マスター、しかし、敵の詠唱は既に始まっている。
――――――――
――遂に来たか!
槍を構えて、スタートの体制に入る。
たとえここで消えても、マスターの敵は取れる、主従としての役目も果たせる。
――一英霊として、私は、幸せものだ。
全身全霊、眼の前の少女を打ち砕く、確実に本体だ、これで相打ちに――
そんな幻想は砕かれた、またしても四方からの攻撃が行われる、槍兵は唖然とし、全てを体で受ける、消えていく体、最後の見た景色は。
赤く光り輝き、憎悪に満ちていた少女の目だ。
――――――――
「手を煩わせてくれて…消滅するからいいんですけど…」
手を拭きながら、空を見上げる。
彼女のサーヴァント、アルターエゴは地に足を置くと、何も言わぬまま、消えていった。
霊体化だ――
「会話の何ひとつもなしですか…まぁ、いいでしょう」
ふと、首に手を当てる――かゆみは感じない。
(この世界に来てから首の痒みを感じない…おそらく、聖杯の手引…自滅を防ぐためか…)
冷静に分析しながら、ビルの非常階段へと足を進める。
「まぁ、良いです、私は――悟史君のために勝つだけですから」
夜の月の光が、彼女の不敵な笑みを照らした。
――――――――
わたしはもうナニモカンジナイ
うらみ、ぞうお、それしかかんじない
オチたわたしのまつろ。
ダレカ――タスケ――テ
――タカ――ジま――さ――
――――――――――
【CLASS】
アルターエゴ
【名前】
郡千景@乃木若葉は勇者である
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力;C 耐久;D 敏捷:B 魔力:D 幸運:E-宝具;B+
【クラス別スキル】
狂化:EX
本来はバーサーカーに与えられるスキル
狂気というより憎悪に近い
忘却補正:B
本来はアヴェンジャーに与えられるスキル
加害者は忘れても、被害者は忘れない
【保有スキル】
勇者システム:B
神世紀、という時代において、外敵、バーテックスに対抗するため生み出された存在。
花をイメージとして採用しており、彼女の場合、花は彼岸花、武装は大葉刈である。
【宝具】
『個にして複、複にして個(七人御先)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:5人
精霊、七人御先の力を宿す切り札
後の満開に該当する。
自身の分身を六人召喚し、合計7人で攻撃を加えるというもの、分身がいる間は、誰がやられても復活するが、その性質上範囲攻撃に弱い
事実、バーテックスとの戦いの際には、7人中6人がやれた
【weapon】
大葉刈
【人物背景】
友は死に、罵倒され、周囲は悪化した。
少女は狂い、役目を忘れた、いや忘れた訳では無い。
彼女の怒りは仲間により沈められ救済された、しかし、これはされる前の姿――
今の彼女は、殺戮兵器のような存在である。
園崎詩音@ひぐらしのなく頃に
【マスターとしての願い】
悟史君と合う、そして、彼を苦しめて来たもの殺害
【人物背景】
雛見沢御三家、園崎の娘。
村から省かれた者に恋をし、今でも彼の影を追っている。
彼の為ならどんな行為でも厭わない、この村の暗部を打ち砕く為に。
【備考】
時系列は発症後からになります。
また、L5到達による自滅を防ぐために、予選期間内は侵攻と症状の進み具合が遅くなっています。
予選終了後には下に戻ります。
投下終了です
>>571
すいません
園崎詩音@ひぐらしのなく頃に
を
【マスター】
園崎詩音@ひぐらしのなく頃に
に修正します
大変失礼いたしました
投下します
投下します
投下します
そこに夢は無く理想は果て、道は既に断ち切られた。
残されしものはその骸。
ニトロプラス『刃鳴散らす』
◆
無数の人間(ヒト)を斬ってきた。
銃が暴力とl武力の覇権を握る、熱砂の惑星に産まれ落ち。
独学で剣を修め、我流の流派を興し。一刀を以って、銃の優位など知らぬとばかりに敵対する人間(ヒト)を斬断し、身体を機械に変えたものも、特異な技巧を駆使するものも等しく刃の錆として、屍山血河を数多築き。人間(ヒト)を斬ることに飽きたと嘯くほどに斬り殺した。
その果てに、人間(ヒト)ならざるモノを斬りたいと欲して、人間(ヒト)ならざるモノに挑み、そして、敗れた。
己が必殺を期して繰り出した斬撃を躱し、己に悟らせることなく戦う要を破壊された。
己に対する配慮。己を殺さぬ様に無力化するという情け。
グズる幼児をあやしてl大人しくさせるような、優しい決着。
互いの命を懸けた、生死を争うと思っていた戰が、彼奴には只の児戯だったという事実。
己が剣は、己の一生を捧げた。文字通り心血振り絞り、魂すらも捧げた剣が、人間(ヒト)ならざるモノにはその程度だったという現実。
誇りを自負を打ち砕かれ、生涯を虚仮にされた事に狂乱し、背後からの一撃を加えようとして、そこで意識が闇に沈んだ。
◆
無数の人間(ヒト)を斬ってきた。
幕末の動乱期に、習い覚えた剣技を存分に振るえるという、凡そ剣者としては望むべくもない好機を得。
身に修めた剣技を振るうこともできず、只々後世に伝えるだけしか出来ずに果てていった先達達の無念を晴らすかのように、血風剣嵐吹き荒れる京都で剣を振るい、各地より集った剣客を斬って斬って斬り殺し。
果ては最新の銃器で武装した兵すら血祭りに上げ、動乱が治り、晴れて明治────泰平の世となると、海を渡り、米利堅の地で、ギャング達相手に剣を振るい。裏社会に悪名を轟かせ、極限まで強くなり、更なる強さを求めて人間(ヒト)である事を辞めて、魔人となった。
魔人となって得たのは更なる強さ。そして、渇き。
愉悦を感じる事が無くなり、つまらぬ弱卒を相手に剣を振るう日々。
癒し難い渇きは日を追うごとに強くなり。
その惰性の日々は、唐突に終わりを迎える。
剣術(ブレイドアーツ)を駆使する魔戦士(ブラッド・スター)に非ず。拳術(フィストアーツ)を用いる執事(バトラー)であったが、その強さは生涯で出逢った者達の中で最上。
剣と拳。振るう得物に違いはあれど、只々単に敵を打ち倒す為の術を極限にまで磨き上げた。その一点に変わりは無し。
血笑を浮かべて相戦い。そして、負けた。
人を捨て、異形の身体と成り果てて、そうして得た強さを以って戦い。完膚無きまでに撃ち倒された。
なんたる間抜けか。あくまで『人間』として闘う執事(バトラー)に……『人間』で在る事に堪え切れなかった己が、敵う道理は無く。
人で在るままに、人を捨てて得た強さを超えていかれたことで、癒し難い、決して癒えぬとすら思えていた渇きは癒され、安らかに眠りについた。
◆
俺の剣を見切ったと云うか。化物が。人間の殻を脱ぎ捨てて、人の限界を容易く超え得る力を持った化物風情が。
俺の剣を見切っただと?不可能だ。人間を超えてしまった貴様には、もう不可能なのだ。
人の剣術(ブレイドアーツ)を理解することは!
ニトロプラス『戒厳聖都』
◆
夜の冬木中央公園で対峙する二つの人影。
一人は左右の手に肩の一振りずつ持ち、黒いスーツの上に、黒い外套を羽織った男。キャスターのクラスを得て現界したサーヴァント。ティトゥス。
もう一人は、腰に差した刀の柄に手を掛けた、ハリウッドの映画から抜け出してきたかの様な、勘違いサムライ・スタイル。聖杯大戦のマスターとしての資格を得た剣鬼。雷泥・ザ・ブレード。
二人は周囲の空間を凍てつかせ、煮えたぎらせながら、向かい合う。
空間を凍てつかせるのは二人の殺気だ。互いに眼前の敵を此処で必殺せんという意志が、空間を冷たく、昏く、凍えさせる。
空間を煮え滾らせるのは2人の闘志だ。互いに相手を超克し、捩じ伏せんとする意志が、空間を熱く、激しく、煮え立たせる。
当千の武威を誇る英霊ですらもが動けなくなりそうな“圧”を放ち続けるこの二人が、聖杯大戦に参じたサーヴァント同士でなく。サーヴァントとそれを召喚したマスターだと誰が知ろう。
事の起こりは丁度10分前。
この二人が会敵したのは、光り輝く鎧兜に身を包んだセイバーのサーヴァントと、それを従える魔術師の主従。
前に出ようとしたティトゥスを制し、マスターである雷泥が前へと出、格好に相応しく腰に帯びた刀の柄に手を掛けた。剣の英霊で無くても判別できるその構え。居合の構え。
マスターがサーヴァントを下げて、自分で戦うという事態を訝しんだセイバーは、秒にも満たぬ内にその解を得た。
彼我の距離凡そ10m。其れをセイバーのクラスを得て現界した英霊ですらが、辛うじて認識できる速度で詰め。ままに、抜刀。
居合使いの抜刀は即ち斬撃であり。
全ては一つの動作のもとに行われ、完了した。
人の域を超えた英霊すら認識できぬ抜き打ちは、棒立ちのままのセイバーの首を刈り飛ばした。セイバーが驚愕の表情を浮かべたのは、胴と首が分たれて後だった、
魔技。そうとしか言えぬ踏み込みと抜き打ち。このマスターは、人の身でありながらサーヴァントを斬り殺す。正に魔人と呼ぶべき存在なのだった。
「詰まらぬ」
セイバーを斬り殺した雷泥の感想は、実に短く、素っ気がなかった。
傍目から見ればそう言いたくなるのは分からなくも無い。
踏み込んで、抜刀。これだけで『最優』と謳われるクラスのサーヴァントを斬り伏せたのだ。あまりにも呆気なく、あまりにも圧倒的な決着でしか無い。この様な結果を齎した弱敵に対する言葉としては、妥当とすら言える。
「致し方あるまい。マスターが前に出るのは聖杯戦争の常道に反している。策を疑い、お主に意識を向けられなかったのだろう」
敵を譲って、控えていたティトゥスがマスターを宥める。
だが、ティトゥスにしても、明らかにセイバーに対する落胆の色がハッキリと伺える。
「それでもあの脆さは有り得ぬ。人を超えた英霊とは言えども、やはり所詮は人という事か、某を破ったヴァッシュ・ザ・スタンピードには到底及ばぬ。この様な相手など、どれ程斬っても何の感慨も湧かぬ」
「あのセイバーが未熟だったゆえよ。人の身でありながら人を捨てた者を凌駕した戦士ウィンフィールドに比すれば、到底お主の敵足りぬ弱者よ。
お主の剣。人外のものには通じなかったと言っていたが、それはお主が未熟な所以。真に極まった拳技は、人の身でありながら、魔人となった拙者を打ち倒したぞ」
「人でありながら、人を棄て魔人となったお主が及ばなかったという男か。人が人以上のものに勝てるとは、到底信じられぬ」
僅かに、ティトゥスの目元が険しくなる。
言外に、『お主が弱いだけなのでは?』と滲ませた疑念に気づかぬティトゥスでは無く。
「ならば試してみるか。主人に疑われたままというのも、気分の良いものではない」
「応じよう」
そういうことになった。
両者ともに剣狂者であるが故に、剣の陶酔に酔い痴れた者達であるが故に。互いに機を窺っていたのかも知れなかった。
◆
かくして両者は対峙する。雷泥は神秘や魔術とは無縁の人間であるが、ティトゥスの生成した刀を腰に手挟んでいる。その刀を振るえばサーヴァントといえども斬り伏せることが能うのは、先刻のセイバーが証明している。
剣の英霊すら正面から容易く斬り殺した、魔業と呼ぶべき雷泥の剣技を、キャスタークラスのティトゥスが受けることは能うのか?
常識的に考えれば不可能だが、雷泥が帯びるのと同じ刀を両手に提げたティトゥスの表情には、一片の翳りも、一雫の汗も無い。
あるかなきかの風が二人の髪を揺らめかせ、風が止むと同時。
「参る」
静かに宣告した雷泥が、10mも有った距離を刹那の間よりも短くゼロにする。
セイバーを斬った時よりも更に速い、鬼神ですら棒立ちのまま斬り殺されるほどの踏み込み。そして、抜刀。
サーヴァントを失えば六時間後に死に至る。そんな事など微塵も脳裏に存在しないと、見るもの全てに悟らせる抜き打ちで、ティトゥスの首を狩にいく。
この一斬を平然と見切り、右の刀で防ぐのと、左の刀で雷泥の喉首を突き裂きにいくティトゥスは、鬼神すら超越する魔人であった。
こちらも又、マスターを失えば、現世に留まる要石を失い、消滅する。その様な事実など意識の端にも存在していないと、見る者全てに悟らせる。
ティトゥスの反撃に対し、左に────ティトゥスから見て右へと回り込んで回避。逆袈裟に刀を振り下ろし、ティトゥスの背面を狙うも、雷泥が刀を振るい出すよりも早く、ティトゥスは大きく前へと跳躍して雷泥に空を斬らせる。
着地と同時に、素早く右旋回、回転の勢いのままに、隙を晒した雷泥の首を狙い右の一刀を振るうも、雷泥の刀身に阻まれる。
鋼の激突する音が天地を震わせる。ティトゥスがクラススキルにより得た結界作成能力が無ければ、周辺の住宅地に響き渡ったであろう、壮絶な刃と刃のぶつかり合う音が消えぬ内に、雷泥は後ろに飛んで距離を取り、腰を薙ぎに来たティトゥスの左の斬撃を回避する。
「クク…よもや死して後に、これ程の剣士と出逢えようとは!刃をこうして交えることが、これ程に愉悦とは!」
血笑を浮かべて独白する雷泥の顔は、熱砂の惑星で終ぞ出逢えなかった『剣士』との邂逅に、打ち震える剣鬼のそれ。
銃を使う者(ガンスリンガー)ばかりのノーマンズランドでは生涯経験する事が能わなかった『斬り合い』の愉悦に、雷泥の全身は歓喜に震え、心は闘志と悦びに猛り狂う。
この電脳空間に現出した時の、豪雨の中彷徨う野良犬の様な、悄然とした風情は何処にも見えない。
「拙者が生前に出逢った如何なる剣士も、お主は斬れるだろう。感謝するぞマスター。剣者として、剣を交える悦びを思い出させてくれた事を」
悪鬼の如き笑みを浮かべて語るティトゥスも又、歓喜に震えて闘志を燃やす。
刀を振るい。刃鳴を散らし、生命を散らす刃の陶酔に酔い痴れた剣狂者。
「次の一太刀で、雌雄これ決せようぞ」
刀を鞘に収め、居合の構えを取った雷泥の総身から噴き上がる“気”が、より一層密度をす。分厚い鋼の板でさえも、貫くであろう殺気。
対してティトゥスはより一層口元を歪めて全身から力を抜く。完全なる脱力。雷泥の如何なる動きにも即応し、刃を叩き込む後の先の構え。
雷泥の口元が、獲物を前に牙を剥く肉食獣のそれを思わせる程に吊り上がる。
「参る!!」
地を蹴立てて雷泥が奔り出す。
◆
────これは見切れぬ。
雷泥が奔り出した直後に、ティトゥスはそう結論づけた。
ティトゥスを中心として、螺旋を描いて奔る雷泥に最初はめんくらったものの、闘争に於いて銃がものをいう世界で、雷泥が『剣士』として屍山血河を築いたことを思い出し、得心する。
およそ銃というものは、射手から見て横────左右に動く相手には兎角当て難くくなるもの。
あの渦を描く奔りは、射手に狙いを付けさせない事と、接近とを兼ねた動きなのだろう。
ああして近付き、充分に距離を詰めてから、最後はすれ違いざまに斬る。
これがこの技の要諦なのだろう。だが、その程度ではティトゥスが見切れぬ筈は無く、そもそもが熱砂の惑星で撃ち殺されていてもおかしくは無い。螺旋を描いて近付き斬る、ただそれだけならば。
同じ速度で周り、同じ拍子で走るのならば、軌道とタイミングを読んで雷泥が未来に於いて居る場所に銃弾を送り込めば良い。それだけで、雷泥は死ぬ。雷泥と相対した者達が、よもやそれすら成し得ぬ愚鈍ばかりだったという訳でも無い限り。
ティトゥスが見切れぬと断じたのは、雷泥の歩法だ。
一定して疾走。しかして歩幅と速度は一歩踏み出すごとに変化する。
統一性の存在しない疾走は、酔っ払いの千鳥足の方がまだ捕捉しやすいとさえ思える。
此れではタイミングなど測れない。雷泥の未来位置を予測し、銃弾を送り込むなど到底叶わない。
ティトゥスはこの疾走と同質のモノを識っている。
精妙狂乱の疾走で幻惑し、距離を掴み損なわせる。
焦りから速すぎる攻撃を行う。惑乱のままに機を失い、反撃が遅れる。
そうして隙を晒した相手を斬り殺す。
確と間合いを図り、惑わされる事なく必殺の機を窺う相手には、最後の最後で大きく跳躍し、一気に間合いと“機”を奪い尽くして、ままに、斬る。
────示現流の“懸り打ち”と発想と動きを同じくする剣技。我流でここまでよく練り上げた。幕末の京都で死合った薩摩の剣士達よりも遥かに上だ。
此れでは確かに読めぬ。更に悪い事に、雷泥はティトゥスを中心に螺旋を描いている。
ティトゥスの前後左右何処から最後の跳躍を行うのかは完全に雷泥次第だ。正面から走り寄って斬りつけてくるだけの“懸り打ち”よりも対処は遥かに難しい。
────正しく魔剣よ。だが、それを破る技は、お主が斬り飽きたと語る“人”の中に在る。
ティトゥスは雷泥の動きを追うことを止めた。捉えるべきは、雷泥の奔りでは無く、生死を分ける、その刹那。
────刹那の時間を見極める動体視力と速度を以ってして初めて神域のクロスカウンターを可能とする
ティトゥスの脳裏に浮かぶウィンフィールドの声。雷泥を破るは魔人の剣術(ブレイドアーツ)に非ず、かの執事(バトラー)の拳技(フィストアーツ)。
人の産み出した鬼子の剣たる魔剣を破るのは、人が永き刻の中で練り上げた思考の芸術(アーツ)。
60…54…50…47…42…39…32…26………。
狂乱にして精妙なる疾走は、ティトゥスをして動きを捉えることを許さぬまま、着実に距離を狭めて来る。
20…16…11…8……。
死生を分つ決着の時は────。今。
「御首頂戴!!」
必殺の意志を声とした雷泥が、5mの距離を声の響きが消えるよりも早くゼロにして、抜刀。ティトゥスの首へと必殺の抜き打ちを放ち────。
全休付・無音。
雷泥の一刀は虚空を断ち。ティトゥスの持つ刀の柄頭が、雷泥の鳩尾を深々と抉り抜いた。
◆
地面に仰向けに倒れた雷泥の表情は、無惨というより他に無い。
生前にも、そして死後にも、“人を超えた者”を前に、己が剣は破れたのだ。
己の剣は結局のところ、その程度でしかないと識らされたのだ。
「某の剣はこの程度であったか、所詮は人ならざる者前では、子供の戯れに過ぎぬ剣でしか無かったという訳か」
己が剣を再度“人を超えた者”に凌駕された悔しさが、雷泥の嗚咽となって空気を震わせる。
所詮、この程度。
人が神の寵愛を一身に受けた才に恵まれようと、血反吐を吐き身を削り命を削り魂を削る程の鍛錬を経ても尚、“人を超えた者”はただそれだけで上を行く。
その事実が、酷く虚しかった。
「やはり、人の身を捨てるより他無し」
人間であることが弱さの理由ならば、人間を捨てて更なる高みへと至ろう。雷泥は聖杯大戦に挑む理由を再度決意した。
「いや、主人の剣は、拙者には見切れなかった」
その決意を揺らがすかの如く、頭上からティトゥスの声が降って来る。
「何と……!」
「主人殿の剣は、正しく魔剣と呼ぶに相応しいもの。生前の拙者であれば、ウィンフィールドと死合う前の拙者には、到底見切れなかった」
「………………………」
「主人殿の剣を破ったのは、拙者の剣では無い。ウィンフィールドの拳技よ」
「……人が、人以上のものを、破ったというのか」
「口惜しくはあるが、人でなくなった身には、人のままに人を超えた、あの戦士の拳は越えられぬよ」
「ならば、某にも、同じ事が」
「出来るかどうかはお主次第よ。だが、人を捨ててしまっては、到底届かぬ境地であろうな。幸い、此処には斬りでのある敵が犇めいている事だろう。聖杯を手にする迄に、何かしら掴めるかも知れんぞ」
ティトゥスは清々しささえ感じさせる風情で語る。だが、その内容はあまりにも血生臭い。
所詮は魔人。人である事をやめた者。悟りの境地へと至る道など当の昔に見失っている。
最早その道は、屍で舗装されるより他に無い。その在り方は、鮮血で彩られるより他に無い。
「聖杯に願う前に、“人”を極め尽くすも又一興か。ならばキャスター。この聖杯大戦を制した時には、もう一度某と立ち合え。人の身で、人を超える事ができるかどうか、試させて貰う」
ティトゥスの口元に笑みが浮かぶ。悪鬼羅刹も泣いて許しを乞う様な、そんな笑み。
「承知した」
雷泥の顔にもまた。同じ笑みが浮かんでいた。
◆
人骨踏みしめ怨念喰らい 這いずり進み血を啜る 悩ましきかな我が武道。
ニトロプラス『刃鳴散らす』
【名前】
ティトゥス@デモンベインシリーズ
【CLASS】
キャスター
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力;C 耐久:C 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:D 宝具;A++
【クラス別スキル】
陣地作成:D
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
”結界”の形成が可能。
人払いの術と変わらぬ程度だが、当人の魔術師としての位階の高さも有って、かなりの広範囲を覆う。効果も高い。
道具作成:D
魔術的な道具を作成する技能。
手のひらが裂けて日本刀が生えてくる。生成速度はかなり速く、魔力消費も殆ど無い。
【固有スキル】
魔人:A
高位の魔導書と契約し、人を棄て、人を超え、常理の外に在る存在。外道の知識により、その身も心も人のそれでは無くなっている
ランク相応の堕天の魔、精神異常、魔術、魔力放出、自己改造の効果を発揮する。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。
無窮の武練:C
重傷を負っていてもその剣技が鈍る事はない。
【宝具】
屍食教典儀(カルツ・ディ・グール)
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:自分自身
ダレット伯爵の著した魔導書。
フランス国内の人肉食や屍姦を行う邪教集団について記されている。
高位の魔導書であり鬼戒神(デウス・マキナ)を召喚出来る。
この書物自体が魔術の駆動式である為に、高ランクの高速詠唱の効果を所有者に齎すが、精神耐性スキルを高いランクで持っていなければ、精神を外道の知識に蝕まれて発狂する。
キャスターはこの書物により高い身体能力と回復能力を得ている。
普段は位相の異なる空間に収納されている。
鬼戒神・皇餓(デウスマキナ・オウガ)
ランク:A++ 種別:対界宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1OO人
屍食教典儀(カルツ・ディ・グール)により召喚される鬼戒神(デウス・マキナ)
鬼戒神(デウス・マキナ)とは魔導書に記された『機神召喚』の術式を駆動する事により召喚される神の模造品である。
膨大かつ高密度の異界情報を、巨大な魔力と複雑な魔術式で編み上げ、魔導書に記された巨神のイメージを物質化させる事で顕現させる。
超高密度情報体であり、通常の攻撃では情報密度を破壊できず、魔術理論を応用した攻撃か、同じ鬼戒神(デウス・マキナ)でなければ有効打を与えにくいという性質を持つ。
宝具とし扱われるにあたって、Bランク以上の神性や魔性に属する事を表すスキルを所有しているか、Bランク以上の神造宝具を用いぬ限り、一切の攻撃を無効化する。
速度に優れ、二振りの刀を振るう近接戦闘を得意とする。
奥の手として、召喚者であるティトゥスと同じく、一対二腕の隠し腕を用いた『四連斬』を用いる。
本来は50mの巨体と2616tの重量を有するが、宝具となるに際して、3m・1tにまでサイズが小さくなっている。
【Weapon】
日本刀:
掌が裂けて生えて来る。何本でも出せる。ティトゥスの技量と合わさって、分厚い鋼の扉も薄紙の様に切断する
隠し腕:
一対二腕の隠し腕。この腕も日本刀を生やせる。この腕を用いての四連撃『四(死)連斬』がティトゥスの奥義。
なお初見殺しの不意打ち技であり、一度見られると通用しない。作中ではウィンフィールドをこの技で破るも再戦時にはあっさり見切られて敗死。続編の機神飛翔デモンベインに於いても、無限螺旋の記憶を僅かに取り戻したウィンフィールドに回避されている。
ウィンフィールドから伝え聞いただけの大十時九郎にも躱されている辺り、秘匿性が大事な技であると言える。
【解説】
魔術結社『ブラックロッジ』の七人居る大幹部『アンチクロス』の一人。
幕末の日本に生まれ、戊辰戦争終結後にアメリカに渡り、ギャングを斬りまくって悪名を轟かせ、更なる強さを求めて魔導書と契約して魔人へと堕ちた男。
宿敵と定めたウィンフィールドと戦い、人のまま人を超えたその強さの前に完敗。己の間抜けさを嘲笑いつつ死亡する。
余談ではあるが、人間辞めなかった場合。悟りの境地に至って人間辞めるよりも強くなったとの事。お前の人生なんだったの?とか言ってはいけない。
無限螺旋に於いては、鬼戒神・皇餓を駆ってデモンベインと戦い、敗れる事もある。
このティトゥスは、時間軸が意味を為さない無限螺旋から英霊の座に至った存在である為に、デモンベインに破れて死んだ記憶も持ち合わせているが、彼が『敗北した相手』と訪ねられて名を挙げるのは、ウィンフィールドである。
【聖杯への願い】
無いといえば無い。強いて言えば人間辞めなかった場合、何処まで強くなれたのかを識りたい。
その上でウィンフィールドと再戦したい。
【マスター】
雷泥・ザ・ブレード@TRIGUN
『能力・技能】
遺棄された宇宙船の記録から、地球の剣術について学び、『次元斬一刀流』を創始する。
サイボーグが徘徊し、銃がものいうノーマンズランドで、刀一本で屍山血河を築ける剣の技量。
斬る相手を中心に銃撃回避と接近を兼ねる螺旋を描きながら接近。すれ違いざまに斬る『二重星雲(ふたえネビュラ)』が奥義。
【解説】
ミリオンズ・ナイブズが集めた殺人集団GUNG-HO-GUNSの No.9。
銃やサイボーグすら相手にならない剣腕を持ち、人を斬るのに飽きて、人以外のものを斬ってみたいと思うようになる。
その思いを抱いて、人では無い存在であるヴァッシュ・ザ・スタンピードと戦うも、二重星雲を破られ、気付かぬうちにローラーを破壊されて、戦う術を奪われる。
この事に己が生涯を捧げた剣が人を超えたものには終ぞ届かぬと知り、狂乱。
後ろからヴァッシュを撃とうとするも後ろからウルフウッドに頭を撃たれて死亡。
人を斬るのに飽きたと言う前に、レガートかミッドバレイを斬ったら?とか言ってはいけない。多分仲間は大切にするタイプなんだろう。きっと。
【聖杯への願い】
聖杯大戦中に人のまま人を超えられるか試す。丁度良い砥石(サーヴァント)は幾らでも居るし。
人を超えられない時は聖杯に願って人間辞める。
【参戦時期】
死亡後
多重投稿になってしまい申し訳ありません
この場を借りて連絡しておきます
拙作『BRAVER×BRAVER』のステータス欄の修正をWikiにて行います
投下を終了します
>スクラップアート
ひなことカオス、ある種の無垢性と穢れを内包した二人の組み合わせに唸りました。
冬ならではのどこかきれいな寒々しさのある雰囲気が大変に素敵です。
英霊となったカオスと永遠の前の中継点に辿り着いたひなこの会話もまた良く。ありがとうございました。
>ウタワールドへようこそ
バーサーカーウタ、納得と英霊の座さんは人の心がないのか?という気持ちが両立する。
あの結末を経てサーヴァントになったウタの思考が新鮮でよく、しかしやはりそれを目指すしかない悲しさもあり。
そんなウタを理解しながら手を差し伸べるオモリも大変に良かったです。ありがとうございました。
>奈落の花々
英霊になったぐんちゃんはますます救われないなあ。
それを呼んだのが狂気の中にある詩音というのもまた凄まじい。
ひたすらに屍を積み上げていきそうな組み合わせでしたね。ありがとうございました。
>FUJIYAMA HITOKIRI PARADISE
重厚な文体とソリッドな雰囲気から繰り出される修羅の描写が鬼気迫りますね。
殺陣のシーンも迫力があり、とても良かったと思います。
血腥くもだからこそ通じ合うところのある両者、いぶし銀という感じで好きですね。ありがとうございました。
皆様、投下ありがとうございました。
投下します
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ロリータ、我が人生の光
我が腰部の炎
我が罪、我が魂
――ウラジーミル・ナボコフ、『ロリータ』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
プティングの味は食べて見なければわからない。そんな諺(イディオム)が、海の向こうのイギリスには存在する。
プティング、つまりはプリンの事であるが、一般的に想像されるような、カスタードで作られていて、ゼリーのようにプルプルした見た目で、カラメルソースが垂らされていて、その上にクリームやらが乗っかっている。
そう言ったものばかりがプティングではないのだ。上から圧力をかけても中々潰れないような固いプティングもあれば、中にドライフルーツやらが入っているプティングもあり、果ては茶わん蒸し宜しくしょっぱい味付けの物もある。
つまりこのイディオムと、我々も知る諺の中で一番近い物もあげるのなら、論より証拠、になるだろう。見た目でプリンの味や口触りを推理するよりは、食べた方が早い、と。意味としてはこんな所である。
――『デーリッチ』もまた、この諺については、全面的に同意だ。プリンは、食うが早い。当たり前の話である。
「うお……このプリンうっま……」
18世紀の中頃、ロココ様式絶頂の時代のフランスで作られた、月桂樹や花・果実・木の葉の透かし彫りと彫刻とが特徴的な、金メッキ加工のなされたロココ・テーブル。
1台10万₣(1700万弱)すると言うそのテーブルの、大理石の甲板の上にズラリと並べられた6個のプリンを見て、デーリッチが最初に思った事は、「こやつ解ってるでちねぇ……」だった。
――毎日プリン2倍デーなら、頑張れる気がするんでちよね〜――
ハグレ王国の参謀が聞いたならブン殴って来そうなこの提案を、デーリッチを召喚したマスターは快諾した。
本当は、毎日おやつの時間にプリンを1つ、用立ててくれたのならば働くつもりでいたのだが……。いやはや、何事も、駄目で元々でも言ってみる物だなと改めて認識した。
――これだけ振舞えば、やる気になってくれるのかな?――
そう言ってマスターが買って来てくれたプリンと言うのが、冬木なる街の市内でも特に有名なパティスリーで販売されていると言うプリンであった。
朝の10時から営業が始まり、夕方の6時には営業終了と言う店舗だが、昼の12時を回る頃には粗方の商品が品切れていると言う程繁盛している有名店。分けてもそこは、プティングが評判の店なのである。
そんな、普通に品を買うのも難しい店のプリンを、6つも!! 誠意は、十分過ぎる程に伝わった。
タンブラーを小さくしたような形状のプラスチックケースに入った、カラメルソースの沈んだオーソドックスなプリン。
最初に口を付けたのはこれだが、下準備は怠っていないのは当然の事として、使っている卵に牛乳・砂糖まで、全て違うのだろう。口に入れた時の舌触りも甘さの上品さも、グレードが違う。
スプーンで掬った時の感触が固めの焼きプリンもあった。デーリッチとしてはプリンは柔らかいものが至高なのだが、たまにはこう言うのも、と言う感覚で口に入れてみれば、これがまた美味い。甘さの中にあるほろ苦さが堪らない。
マンゴープリン、などと言うものもあった。フルーツをピューレにして混ぜるタイプのプリンの話なら、何と言ってもデーリッチはメロン味なのだが、マンゴー味も悪くない。爽やかな甘酸っぱさが、舌の上で心地よい。
かぼちゃプリン!! かぼちゃの素朴な甘さと、計算されたカスタードと牛乳、砂糖の配分が見事なまでに調和を保っていて、メロンやマンゴーフレーバーに勝るとも劣らない素晴らしい甘露を演出していた。
そして、デーリッチを召喚したマスターなりの遊び心なのか、杏仁豆腐も用意してあった。厳密にはプリンではないが、元々ゼリー類が好きなデーリッチにとっては、杏仁豆腐もまた好物の1つ。異なるプリンを食べた後の味覚のリセットに、丁度良かった。
全く、恐ろしく配慮の行き届いたマスターである。
明らかに、手慣れている、と言う事がデーリッチにも伝わる程、サーヴァントと呼ばれる者に対しての接し方が上手い。実に、よく解っているマスターであった。
「で、返答の方はどうかな、キャスター。君のモチベーションが上がってくれるだろうかと、私は祈らなくても済むのかな?」
ズラリとプリンを並べたデーリッチ、その真向かいに座る金髪のマスターが、微笑みを浮かべてそう問うた。
「ふぉふぉふぉ……マスターのハグレ王国への誠意と尊敬の念、このデーリッチ――」
「真名の露呈は弱点に繋がるからクラス名で言いなさい」
「あっ、はいでち……」
偉そうなデーリッチの態度が早速見る影もなくなる。
真名を言うのはやめなさい。聖杯戦争の常識とも言える知識だが、デーリッチはこれを犯す事これで7回、マスターに注意される事これで7回目、と言った所だった。威厳、ゼロ。
「ま、まぁ!! そうでちね、マスターの本気と、このハグレ王国の建国王への尊崇とかぁ? そう言ったものは十分過ぎる程感じ取れたし? 一緒に駆け抜けてやろうじゃないでちか!!」
王、と来たものである。虚勢にしても、大きく出すぎだ。
とは言え、聖杯戦争と呼ばれる催しに於いて、史上に名を刻み、人口に広く膾炙された王や皇帝が、伝説の武器や防具、名馬を連れて召喚される事は、何ら珍しい事ではない。
――だが、目の前の少女、デーリッチを名乗るキャスターを見て、市井に生きる一般人が、王と認識するかと言えば、まぁ否であろう。
どう贔屓目に見たとて、14、15歳の中学生程度の年齢の少女だろう。いや、見ようによっては、小学生にすら見えかねない。それ程に、幼さ、と言うものが如実に伝わって来る外見だった。
着用しているものは、神から下賜された輝ける鎧のような物でもなければ、建国の折より連綿と受け継がれて来た魔法のガウンでもない。
着古した部屋着か、パジャマか。兎に角、そんな風なものにしか見えなかった。辛うじて王様らしさを物語るものが1つだけあって、それは、王冠だ。
そう、デーリッチは、紫味の強い青い髪の生えた頭の上に、王冠を戴いているのである。ただし、本物のレガリアの類でない事は、一目で解る。
材質は恐らく、ブリキ。これを、金色の塗料をスプレーで吹いてメッキ塗装をして、宝石の原石に行うようなカッティングを施した赤色の透明なプラスチックをはめ込んだもの。それが、デーリッチの被る王冠だった。
まるで、ハロウィーンの時の子供の仮装だ。
王、と聞いて、諸人が連想する要素を何一つとしてクリアしていない。外見、年齢、性別、服装、言動。全てが落第点である。
「引いたサーヴァントには恵まれる運命にあってね。君となら、共に歩める事を確信している」
デーリッチの王様らしさ、と言うのは語った通りの有様だと言うのに。
彼女を召喚したマスターの方が、寧ろ、王や皇帝と聞いて諸人がイメージする要素を全て具備していた。知らぬ者が見れば、デーリッチの方がマスターに見え、逆にマスターの方が英霊、サーヴァントに見えるかも知れない。
白、と言う色を、ここまで嫌味なく、いやそれどころか、己の身体の一部のように纏う者を、デーリッチは見た事がなかった。
羽織るマントからその下のスーツまで、何から何まで、白一色。そして、触るまでもなく解る。身に纏う衣服に使われる生地は紛れもない高級品で、ナイロンやポリエステル、アクリルなどの化繊の類ではないと言う事が。
市販の量産品ではなく、彼の為に誂えられた特注品であろう。こんなもの何処で仕立てて貰えるのか、デーリッチには皆目見当もつかなかった。修羅の国で出会ったいばら姫の彼女なら、或いは、であろう。
では、立派なのは衣服だけで、纏う当人はしょうもない、と言う話かと言えば、とんでもない。悪し様に言えば、気障としか言いようのない、白一色の意匠を纏うその男は、紛れもない王威と王聖の持ち主であった。
ライオンの鬣を思わせる眩しい金髪を長く伸ばした男で、顔の造形もずば抜けて優れている。背丈は、デーリッチが今後どれだけ牛乳をがぶ飲みしようとも手に入らないだろう程に立派なそれ。
何も知らぬ者は、男の姿を見てこう思うだろう。この男は、王族だと。この男は、貴族だと。
纏う立派な衣装と、強大過ぎる立場と権力に振り回されるだけの愚物ではない。これらを逆に振り回し、己の理想と夢とを叶えるだけの力を発揮する、本物の王だと。一目見ただけで誰もが納得するであろう。
男の名は、『キリシュタリア・ヴォーダイム』。
その名前ですら、不思議な神韻を宿していた。神憑り的なカリスマを宿す者は、名前にですら、人を魅了する響きを持つと言うのか。
「うん? その言い方でちと、聖杯戦争を経験した事がある、って言うんでちか?」
キリシュタリアの発した言葉を、デーリッチは聞き流していたりはしなかった。彼の口ぶりは明らかに、昔聖杯戦争に関係したようなそれである。
「当たらずとも遠からず、と言った所だね。知識として、聖杯戦争そのものは知っている。実際に体験するのは、これが初めてになる」
「でも、サーヴァントを使役した事はあるんでちよね?」
「何も彼らを使役する機会は、聖杯戦争のみに限定される訳ではないよ。尤も……そのケースの方がレア中のレア、例外な訳なのだけれども」
まだキリシュタリアの師匠筋たる人物。
即ち、マリスビリー・アニムスフィアと呼ばれる男がまだ生きていた頃の話。
カルデアの創設の為に必要なマスターピースである、カルデアスの建設の為の莫大な富を、聖杯戦争に優勝する事で獲得した、と。マリスビリーから聞かされた事がある。
元々、マリスビリーから参加経験があると聞かされる前から、聖杯戦争と呼ばれるものについては風聞で聞いた事がある。が、イメージにリアルな陰影と肉付けがついたのは、彼の話を聞いてからであった。
アラジンが擦った魔法のランプ、一寸法師の振るった打ち出の小槌、食べ物が無数に出て来るダグザの大窯。
それらに例えられる、万能の願望器であるところの聖杯。これを巡る、最後の1人になるまで戦い抜く戦争。それが、聖杯戦争である。
使う武器は剣や銃の類ではなく、人類の歴史にその名を刻んだ英霊達。彼らと協力し合い、勝ち抜くと言う訳だ。
死者は出て来て当たり前だし、最後の生き残りにしても、それまでの戦いによって致命的な後遺症が残る可能性もある。何なれば、参加者全員死んでしまい、折角聖杯が現れたのに……、と言う可能性もゼロじゃない。
恐るべきリスクを孕んだ戦いだが、そのリスクに見合ったリターンはある。何せ、どんな願いでも、それを叶える為に用意しなければならない下準備やら助走距離やらを、すっ飛ばして願いだけを叶えるのだ。
これ以上、夢のある話はそうもない。だからこそ聖杯戦争には人が集まるのだし、現にマリスビリーも当時の聖杯戦争に参加したのではないか。
「何れにしても、私が聖杯戦争について知っている、と言う事については特筆するべき事でもないし、知っているからと言って有利に働く訳でもなさそうだ。これについては忘れても良い」
キリシュタリアが招かれているこの冬木の聖杯戦争について、2004年にマリスビリーが参戦したと言う、冬木の聖杯を巡る聖杯戦争と符合していて当初は驚愕した。
だがそれ以上に驚きだったのが、符合している所が冬木の街、と言うロケーションだけしかなかったと言う事。それ以外のほぼ全てが、開催地が同じなだけの、別物。
マリスビリーから伝え聞く聖杯戦争は、電脳空間にフルダイブして行われるものでは間違いなくなかったし、そもそも当世の技術で英霊のリソースは勿論の事、これだけリアルなバーチャル空間を再現する技術すらまだ開発不能の筈である。
聖杯戦争自体の形式も、聞いていた物とは全く異なる。4つの陣営に分かれて行われて、聖杯の獲得権は生き残ったただ1人にのみ、ではなく、残った陣営のメンバー全て、だ。随分と太っ腹ではあるまいか。
場所は冬木、優勝者に与えられるトロフィーが聖杯で、サーヴァントと協力して戦う。
そこしか共通点がなく、それ以外は全て別物と言うべき様相で、キリシュタリアとしては困惑するしか他はないが、直ぐに慣れた。
ぶっつけ本番、アドリブ力が全て。彼の人生はそんな事の連続ばかりだった。今回もまた、以前と同じような機転の良さでも発揮して見せろと。こう言う事なのかも知れない。
「デーリ――ああもうクラス名言うのって慣れんでちね。キャスターは元々プリンを振舞われようがなかろうが、マスターの為に働くつもりだったでちよ」
「今は?」
「プリン1個どころか、プリン6倍デーとあっちゃ……ねぇ? 粉骨砕身、頑張らん訳には行かんでちよ」
「光栄な御言葉だ。王の寛大な御心に感謝する他ないな」
褒めるのと煽てるのがつくづく上手い。でちでちでちでちと、不気味な忍び笑いを上げてデーリッチは気を良くしていた。
が、すぐにその忍び笑いを浮かべるのを止めるや、真面目な顔つきで、デーリッチはキリシュタリアの方に向き直った。
「ただ……キャスターが、君に従うと決めたのは、間違ってもプリンが理由じゃないでちよ」
「本当に?」
「……2割位は……」
意外と多いな、と突っ込まない程度の、空気を読む力はキリシュタリアにも備わっている。
「キャスターの目には、君が、善良な人間に見えたから。他ならぬキャスターがそうだと信じているから、従うんでち」
「君の行動原理は正義か?」
「そうでち。悪い奴がいたら懲らしめる。ハグレ王国と、その国王の正義はこれでち。だから内心、不安な所もあったでちよ。マスターが悪人だったらどうしようか、と」
「とは言っても――」
「それは君についても同じかも知れないでちがね。引き当てたサーヴァントが弱かったらどうしようって、思わないでちか?」
キャスター。それがデーリッチに宛がわれたクラスであるが、その名前が示す通り、魔術師のクラスである。
そのクラスに割り振られる事については、異論はない。それどころか、妥当だとすら思っている。このクラス以外で、自分が召喚される事はないであろう。
だが同時に、キャスターのクラスと言うのは、聖杯戦争に於いて最も弱いクラスである。そもそもが高次の霊的存在であるサーヴァントには、魔術の通りは悪い事と、身体能力の面でキャスターは冷遇される事が多い。
要は、優れた魔術がウリであるクラスなのに、そのセールスポイントが仮想敵に対して大して通用しないのである。これでは、弱いと言う誹りを受けても文句は言えない。この故にキャスターは、最弱のクラスにカウントされるのである。
「思わないな」
キリシュタリアは、デーリッチの質問をバッサリと切り捨てた。
「優れたサーヴァントは見れば解るよ。引き当てたサーヴァントを、外した事がないのが、数少ない自慢でね。君は、『当たり』だ。だから歩める、君となら。聖杯も獲得出来る」
「――獲るつもりでちか? 聖杯を」
「落ちてる物を拾う感覚で手に入れられる、とは私も思わないさ。私もキャスターも、血を流すだろう。或いは、この電脳空間に生きる者達や、参加者達も、死を見る事になる。解った上で、獲る」
「……そうでちか」
「業腹かい?」
「違う」
デーリッチは、其処は明白に否定した。
「そりゃあ、誰も死なない道の方がハッピーでちよ。だけれども、現実はそうも上手く行かない事位は、承知してる。だからリーダーって奴は悩むんでちよ。上に立つ奴の仕事は、決断する事でち。浮かび上がった様々な選択肢、突如現れた枝分かれしまくった道の中から、少しでもマシな方を選ぶのが仕事でち。最悪の道を選んだリーダーは、確かに滅茶苦茶非難される。ミスった訳でちからね」
「だけど……」。其処でデーリッチは、数秒程の間を置いた。
「『選ばなかったリーダー』はもっと非難される。だって、リーダーの仕事にして特権である、『選択』を放棄した訳でちから、言葉の非難で済めば良い方でちよ。最悪の道を選んだかなんて、その道を進んだ後初めて解る事。選ばない奴の方が、最悪なんでち」
デーリッチは、ジッと。キリシュタリアの麗しの貌(かんばせ)を見据えた。
デーリッチの赤い双眸、その裡に宿る光は、驚く程に透明でありながら、凄まじいまでの意思の力を宿していた。キリシュタリアはその目の力に、王を見た。
子供っぽい、パジャマみたいな服を着たその少女に、王威とカリスマを感じ取った。
「だからマスターの選択は、間違って何かいない。だけど、正しくもない。言える事は1つ、選んだ事それ自体は間違いなく正しい事。……キャスターが認めたマスターが、獲る、と言ったのなら、全力でサポートするでち。するからこそ――聞きたいんでち。聖杯で、何を願うんでちか?」
聖杯が、とてつもなく凄い物質である事は、デーリッチにも解った。
決して認めたくないが、成程、これを巡って、死を伴う争いが勃発するのも頷ける。そして、こんな魔法のアイテムが優勝すれば手に入ると言われて、『叶えたい願いがある』と思わない者は、いないであろう。
いるのが、当たり前だ。キリシュタリアが何を思い、何を願うのか。それが解らないし、気になった。願いを抱くのは正しいが、抱く願いそれ自体には、正邪は間違いなくある。
「私の理想は、何時だとて1つ」
笑みを綻ばせて、キリシュタリアは言った。
その微笑みからは、生来の麗貌も相まって、人を魅了する魔力が眩いばかりに発散されていた。
「全ての人を、間違いの犯さない、完全な存在に昇華させる」
男の発した言葉は、深遠な知識を有している事が一目で解るキリシュタリアが口にするとは、とてもじゃないが思えない程突飛な理想。
「全人類を、神にする。それが、私の夢だ」
カルデアに敗れ、完膚なきまでの敗北と頓挫を味あわされても尚。諦める事の出来ない、必ず為すと決めた夢。キリシュタリアの理想は、頭から、狂っているとしか思えなかった。
「……残念ながらその願いは破綻してるよ、マスター」
かぶりを振るうデーリッチ。
「神様だって間違いを犯すんだ。後悔も1つや2つどころじゃなく抱いてる」
デーリッチの脳裏に浮かんだのは、ハグレ王国の国民である、2柱の神の事だった。
禍(わざわい)為す神として天界に攻め入り、やがては自分の過ちに気づき、福の神として振舞おうとした女性の顔が脳裏を掠めた。
世界樹を管理していた芸術と創造の神だったが、自分に尽くしていた巫女が抱く屈折した思いに気づかず、すれ違い。命を削る鎧を纏った巫女と戦うしかなかった少女の、哀しい横顔が脳裏に過った。
「神様は完璧じゃない。凄い力を持っていて、人より長く生きられる、近くて遠い隣人だ。憧れるものではあっても……なろうとするものではない」
「知っているよ」
キリシュタリアは、デーリッチの言葉を否定する事をしなかった。
「神だって間違う。全くその通りだよ。その様子を目の当たりにした私だから言える。キャスター、君は何も間違った事は言っていない」
本来辿る事のなかった、あり得ざる未来のギリシャの姿を、キリシュタリアは思い浮かべていた。
機械の神が、全ての人間を支配する世界。其処に生きる者全てに、安心と幸福を全て保証し、不老長寿を約束していたアルカディア。
誰もが明るく、楽しく、笑って暮らせる世界。今日も明日も、同じ光景が続く世界。その世界の維持に、己が神としての寿命を擦り減らせていた事に気づいた者は、どれだけいたであろうか。
己の寿命とリンクして滅び去る楽園を憂いた神が、その楽園を愛を以て滅ぼそうとしていた事に気づいた者は、神であってもいたであろうか。
神は、優れた存在だ。
人間には出来ない事も平然とやってのけるし、人では干渉出来ない大自然や時空間にすら、簡単に手を加える事の出来る正しく超常存在である。
そして何よりも、人間よりもずっと高度な知性を持ちながら――平気で選択肢を間違えてしまう。神は優れてはいても、完璧ではない。蓋しその通りだ。デーリッチの言葉に対して、キリシュタリアは全面的に同意していた。
「選ばなかった事が、最悪。キャスター、君の言葉は正しい。残酷過ぎる程にね。人は常に何かを選ばなければならない生き物だ。そして、殆ど全員が、行く道を間違える生き物だ。途中で立ち止まり、今来た道を振り向き、その時道を間違えた事に気づき……そうして、縋る様に過去への扉を叩いて開けろと叫ぶ生き物だ」
今度はキリシュタリアの方が、デーリッチの目を見て話す番だった。
「そうして種全体で、間違った道を歩きながらも……我々の世界では、人の歴史は続いて来た。時が積み重なり、経験も蓄積され、異なる知見を持った者どうしが遠く離れていても手を取り合える。そんな時代になっても、やはり人は間違える。経験値をどれだけ積もうが、ね」
「だけど」
「それが、人間と言う種が滅んでいい理由にはならない。動物が、何かを食べ何かを飲まねば生きていられないように……多分人が間違うのも、争うのも、奪うのも、これと同じ位避けられ得ぬ宿痾なのかも知れない」
「……」
「だから、人を強くするんだよ。1人1人が、世界に対して強い影響力を、物理的にも及ぼせるようにする。それでいながらにして、争いと不平等を是正出来る知恵を持ち、それを実行し、皆と協力し合い、その時間違ってもこれを集成出来る協調性を持った存在。そう言う者に、人全体を昇華させる」
「それが、神、か」
「神とは言ったけれども、実際にはこの言葉が一番収まりが良いから選んだってだけでね。より正確な言葉を用いるのなら、人間を一歩先の知的生命体にステージを移動させると言うのが正しいね」
「……」
沈黙が、その場を支配した。
デーリッチもキリシュタリアも、次の句を発さない。気難しそうな顔をするデーリッチと、やはり微笑みを浮かべるキリシュタリア。
息の詰まりそうな緘黙の中で、この空気を打破したのは、デーリッチの方だった。
「私は、君の考えは間違っていると思っている」
「……」
「私のいた世界もね、誰の目から見ても間違った歴史を歩んだんだ。異世界から用もないのに異邦人を多く招き過ぎてね。仕事にも、役割にも焙れた彼らが暴れて、戦争だって起きた位なんだよ。現地の人間にも……『ハグレ』と呼ばれた異邦人達の間にも、どれだけ広くて深い溝が隔たっていた事か」
ハグレ。それは、進歩した召喚術によって招かれた、異世界の住民の事だ。
いつの頃より成立し、そして発展した、遠方より物を呼び寄せるこの魔術体形は、異なる世界の『ひともの』をも呼び寄せるに至ったのである。
この召喚術によって召喚された生き物をこそ、今では『ハグレ』と呼ぶ。文字通り彼らは、召喚先の世界の秩序からも、逸れてしまった。呼ばれ過ぎて、本来彼らが就く筈だったポストの定員から弾かれてしまったのだ。
では、運よくそのポストに収まったハグレが幸福だったかと言われれば、それもなかった。元よりその世界の住民ではない上に、容姿が人間とは異なる者も多いのだ。
だから、人間だから手心を加えよう、と言う心理的なブレーキが、使う側にも利かなかった。だから、酷い条件で働かせたり、戦わせたりもした。
デーリッチの言う戦争とは、そう言う境遇に身を置かされたハグレ達の鬱憤や不満が蓄積し、それが爆発したが故に起こった当然の帰結であった訳だ。
――この歴史を聞いて、果たして誰が、正しいと言えるだろうか。
誰しもが間違っていると答えるだろうし、事実デーリッチの語った通りの歴史を、彼女のいた世界は歩んだのである。
「だけど……それでも私は良かったと思っているよ。歩んだ歴史は間違っていたかも知れないけれど、その間違った歴史の中で、私は、誇れる王国を築き上げられた。本当の友に囲まれた」
デーリッチをキングとするハグレ王国とはその名の通り、招かれざる客だったハグレ達で構成された王国だった。
ハグレ自身の後ろ暗い過去に漏れず、王国に身を寄せるハグレ達の殆どが、脛に傷持つ者達ばかり。誰もが、哀しくて、暗い過去を抱いていた。
だが、そうと聞いて、皆は思うだろう。本当に? と。そうと疑問に思う程、皆の笑顔は明るいのである。そんな過去があった事すら気にならない程、皆笑っているのだ。
何故、笑えるのか?
決まっている。その過去と向き合い、折り合いを付け、それでも生きて行くと決めたからである。逸れてしまった者達に、笑顔を与えんとするデーリッチの在り方に、惹かれたからである。
デーリッチはハグレ王国の全てを、誇りに思っている。100年……いや、1000年続いてくれたらいいなと、本気で思っている。失う事を哀しいと思えるだけの良い国を作れたのは、それまでの歴史が間違っていたからである。
「君は言ったな、マスター。人は何かを選ばなくてはならないと。そして、選んでしまってから来た道を戻ろうとする生き物だと。正しいよ、君は。だけど、君の世界でも同じ筈だ。同じでなければならない。過去は変えられない。だけど未来なら、変えられるんだ。間違った道を選べる能力があると言う事は、正しい道を選ぶ力だって備わっているんだよ。人の持つ、そんな力を信じてあげなよ。その力に救われた私からの、お願いだ」
またしても、沈黙が場を支配する。
キリシュタリアが、デーリッチが食べかけていたプリンに目線を向ける。長話のせいか、みずみずしさが、失われているように見える。
「……報われた旅路だったんだね、キャスター」
「うん」
「だがその旅路には、報いようとする仲間がいたんだろう?」
「当然。皆がいたから、私がいるんだ」
「それと同じだよ。王だなんだと言われているけどね、根本的には私も報いる側なんだよ。私はまだ……返された恩に報い切れていないんだ」
ピクッ、と反応するデーリッチ。
それに合わせてキリシュタリアが、自分の手を覆う手袋を取り外し――露わになった手を見て、少女は絶句した。
「その手……」
手袋を外して露わになるものは、キリシュタリアの手だと思うだろう。年齢相応の肌の張りと、若々しくてエネルギッシュな力の漲りを併せた、若者の手だと思うだろう。
――デーリッチの瞳に映ったのは、老人のように皺だらけの手であった。其処だけ若さとエナジーを吸い取られたとしか思えない、二十代に入ったばかりのキリシュタリアの若い顔には不釣り合いにも程がある、枯れ木のような手であった。
「以前従えていたサーヴァントに咎められたから上着は脱ぎはしないがね、上半身も概ねこんな感じだよ。いやはや、おかげで銭湯にも入れないんだよ」
と、軽口を叩いて見せるキリシュタリアだったが、デーリッチは絶句していて、気の利いた返しの言葉すら出てこない。それがキリシュタリアには少し、不満そうだった。
「15の時に受けた傷だ。魔術師の世界では、杭を出し過ぎると打たれやすい。他人どころか、血族ですら絶対安全はないんだよ。父の差し向けた刺客から受けた傷は、未だに癒えないね」
待て、父親に? 実の子供に、刺客を送って殺そうとしたのか?
それも然したる恨みもない、優秀過ぎると言う理由だけでか? 世界観が、解らない。違い過ぎる。そしてそれを、まるでどうでも良いものと扱うキリシュタリアにもまた、理解が及ばなかった。
「生き延びられた事が不思議でしょうがないこの傷を助けたのは、食べられたものじゃない位、酷いパンだった」
「パン?」
「そう。石の様に硬い、歯が欠けかねないパンだ。この上、どれだけ噛んでも小麦の甘さも染みてこない、挙句の果てにはカビすら生えてるパンだよ」
何だそれは。そんなパンを振舞うなど、今時牢獄の中の受刑者だってあり得ない。
ハグレ王国の仲間の1人であり、パンを焼くのが得意な、獣人のクウェウリが見ようものなら、それはそれは激怒しそうなものだ。
「父の襲撃に合い、何もしなければそのまま死ぬしか他はない私の命を救ったのは、15の私よりも幼かった、浮浪者の少年だよ」
浮浪者。それは、キリシュタリア・ヴォーダイムと言う男の立ち居振る舞いと教養を考えれば、一生涯。擦違う事も、会話を交わす事もないであろう人物だった。
「当時の私は世間知らずもいい所の小僧でね。産まれた国にも、家柄にも間違いなく恵まれていたよ。交友関係は皆等しく、高いグレードの教養と家格の持ち主で、品のない言葉だが、下賤、と呼ばれる出自の者は誰1人としていなかった。そんな狭窄気味の視野と思想しか持っていなかったから、想像すら出来なかったんだよ。私の産まれた国に、月に100ポンドも稼げない職業に就いている者がいると言う事を。自分の産まれた国が何処なのか地図上で指差せない大人がいると言う事を。……自分の名前すら、解らない子供がいると言う事を」
――
「九死に一生を得たのは、そんな、自分の名前すら解らない浮浪者の子供に助けられたからだった。最低限の単語を発する事でしか、会話が出来ない子でね。そんな教育水準では、当然働き口もない。働けないから金もない。だから、パンをこっそり盗むしかない。そんな身の上の子だった。……そんな子がくれたパンで、私は命を繋いだのだよ」
デーリッチは、石のように押し黙りながら、キリシュタリアの言葉を聞いていた。
「とは言え……そんなパンでは栄養がないのは明白だ。だから少年は、気を利かせて、焼き上がったばかり……とは言わないまでも、小麦の味のするパンを持って来てくれたよ」
「そして――」
「その代償に、死んだ」
「……は?」
「驚く程の事ではないよ。パンを盗むのは悪い事だ。だからと言って手を挙げるのは間違っているが、手荒な店員や従業員だったら、殴ったり蹴られたりもするだろう。……栄養が足りなくて、体力がないのは私だけじゃなくて、彼も同じだった。その暴力に耐え切れなかった。それだけの事だ」
「……わからない」
「ほう?」
「その子は何で、マスターを助けたんだ? 昔から仲が良かった訳じゃ、ないのだろう? だったら、何故?」
デーリッチの、当然とも言える問いに対し、キリシュタリアは、寂し気な笑みを浮かべた。少しつり上がった唇の端からは、悔しさのような物が感じ取れる。
「私にも解らない」
「……」
「ただね……命の灯が消え行くその中で、彼は私の顔を見て言ったよ」
「何て?」
「――『綺麗』、だとね」
――ほんとうに キレイ……――
そう言って、眠る様に死んだ少年の横顔を、キリシュタリアは思い出す。
お前を助けたせいで死にかけている、そんな悪態も吐かなかった。お前を助ければ金になると思った、そんな思惑もなかった。
綺麗だったから。
たったそれだけの理由で、少年は、死にかけていたキリシュタリアを助けたのだ。
彼を助けなければ、少年は貧窶を究る状態ではあったろうが、生き永らえる事も出来たろうに。
貴重な日々の糧を分け与えてまで、キリシュタリアを生かそうとしたのだ。見返りも何も求めない、ただ、美しかったから。それだけの理由で、一目で関わってはならない状態にあった事が明白な、キリシュタリア・ヴォーダイムを救ったのである。
「彼は、誰が見ても明らかな、最底辺の貧者だった。だが彼は……人間が本当に尊ぶべき、最大にして真実の善を、産まれながらにして持っていたんだ」
見も知らずの人間の空腹を満たす為に、自分の命を擲つ事が。自分が美しいと感じたものに、命を含めた全てのものを捨てる事が。
そんな事が出来る者が、果たして、どれだけいると言うのだろうか。人の本質は悪、性善説など嘘っぱち。だから、この世は悪に満ちた地獄であると。
そんな甘言に惑わされ、狡賢く生きる事は確かに簡単だろう。自分を助けた、あの浮浪者の少年こそ、そんな甘い誘惑に乗った方が楽に生きられた筈なのに……。そうはしなかったのだ。
そんな少年に、キリシュタリアは何をしてやれただろうか。
父親に襲撃される以前から、自分の歩いていた道に、浮浪者の類がたむろしていた事は、確かに覚えている。
だが、覚えているだけで、見向きもしなかった。立ち止まるだけ、時間の無駄。一生、袖振り合う事もないと、確信していたからだ。
彼らについて考えるだけ、時間的リソースの無駄であり、その無駄を省いて、己を高め、磨く事こそが肝要だと思っていたのである。
そして、高めた自分は何をするのか? それは、美しい世界を作ってみたい、と言う理想。力があるのだから、才能もあるのだから。ギフテッドなりの責任を以て、世界を導く事、それが第一義だと思っていたのだ。
笑わせるなよ、キリシュタリア・ヴォーダイム。
何が美しいものなのか、自分の口から説明も出来ず、思い描く事も出来ない。そんな抽象的で姿形のない美しさに惑わされて、自分ならこれを体現出来ると、良い気になっているだけの小僧。
良い気になってそのまま人生を歩んでいれば、お前は何も成せずに死んでいただろう。お前は、救われたんだ、照らされたんだ。お前が、『居ながらにして居ない者』として扱っていた、不可触民とすら思っていた少年に。命懸けで、進むべき道を指し示されたんだ。
「あの少年は、己の命を以て、人間の持つ真実の価値を示して見せた。だから、私は誓った。あの少年に出来た事は、決して難しい事じゃない。彼に出来た事なんだ、私にだって出来るのだと」
……ああ。この青年は――
「そんな事を胸に近いながら、食べた時のパンの味は、今でも忘れられない。あの時食べた平凡なベーグルの味は……目を閉じていれば今でも、思い出せるよ」
デーリッチは、昔の事を思い出していた。
久々にまともな味のするパンにありつけていた頃の話だった。
荒れた髪、ボロボロの服、餓えてぎらついた野犬のような瞳。そんな、人の形をした獣としか言いようのない少女に殴り掛かられ、取っ組み合いになった時の話だ。
その少女の目的が、自分が食べようとしていたパンである事は直ぐに解った。それが食べたい事もすぐに導き出せたし、長い事まともな食べ物に恵まれていなかった事も連鎖的に理解出来た。
……そして、組み合って数秒で解った。長い事物を食べてないから、信じられない位に力がない。デーリッチ自体がハグレだから、体力に恵まれていたと言うのもあるだろうが、それを抜きにしても、浮浪者の少女は非力だった。
だから、喧嘩で負かす事など簡単だった。土と泥塗れになりながら、地べたで大泣きし始めたその子供は、果たして何に泣いていたのだろうか。
阿呆面晒してパンを食べようとしていたデーリッチにすら負けた、自分の喧嘩の弱さにか。それとも、最早誰かから奪わねば食事にすらあり付けない自分の境遇にか。そして、これを正当化する己の心の弱さにか。
そんな少女に対して、自分が出来る事は何かと考えて、デーリッチは直ぐに、自分が食べていたパンを半分に分けて、少女に与えた。そうしたら、また少女は泣いた。だがきっと、その時の涙は、違う理由によるものだろう。嬉しかったからに、違いない。
今その少女は、ハグレ王国の参謀長を務める、最古参のメンバーだった。
勉学に長けた切れ者で、複数の属性の魔法を駆使する優れた魔法使い。薬学にも堪能で、キャンプ術にも優れている。そして何より、政治的駆け引きも、上手い。
正しくハグレ王国に欠かす事の出来ない傑物で、デーリッチとしても、彼女のいないハグレ王国の姿が最早想像すら出来ない程の、重鎮として認識していた。
彼女の名前は、ローズマリー。はんぶんこのパンで、人間が持つ真実の強さと善を理解した、デーリッチの最大の友人であった。
――ああ、そうだ。この青年は。キリシュタリア・ヴォーダイムと言う青年は。『間違ってしまったローズマリー』だ。
与えられたパンに秘められた、人の持つ真実の価値。彼はそれを理解したのだろう。それに報いようと、懸命な努力を怠らなかったのだろう。
だが彼は、最初の一歩を、致命的に間違ってしまった。報いる方法を、間違ってしまったのだ。
デーリッチは思う。自分が何処か志半ばで死んでしまっていたら、ローズマリーは……ハグレ王国は、どうなっていたのか?
ローズマリーは謙遜していたが、彼女だって十分過ぎる程の王の……為政者、統治者としての資質を有している。なのに彼女は、デーリッチを王にしようとした。
自分では皆を笑顔に出来ないからと。それは、図抜けたお人好しであるデーリッチにしか出来ないからと、固辞し続けた。
自分のいないローズマリーは、こう言う人物になってしまうのではないかと。
デーリッチは思った。ああ、だから自分は呼ばれたのだ。この青年のサーヴァントとして、この冬木の街に呼ばれたのだ。この青年に寄り添うべく、呼ばれたのだ。
「縁って奴は不思議でちね」
「ああ、私もそう思うよ」
フッと、笑みを綻ばせた両名。
「君が、デーリッチを召喚出来た事は、何も不思議はないでち。デーリッチ以上に夢見がちな人なんて、いる訳がないと思ってたでちが……。いやはや、世界は広いでち」
デーリッチの発した言葉には、呆れと同時に、微かな優しさが、滲み出ていた。
「このキャスター、デーリッチ。全力で君を助けると誓うでち。誓うからこそ、これだけは教えるでち」
「む?」
「マスター。君は、自分を犠牲にして全員を神にすると、思ってはないだろうな?」
「……」
沈黙は、肯定の裏返し。
そうだ。この世界に呼ばれる前の話にはなるが、キリシュタリアの本来のプランでは、彼以外の全員が神になるのであって、計画の発足人たる当人だけは、人のままで生きる筈だったのだ。
言ってしまえば、デーリッチの質問の通り、自分だけを犠牲にして最後は完成する計画であった、と言う事である。
「それはダメだ。このデーリッチに関わった以上は、笑顔でないと許さんでち。辛気臭い態度で、訳知り顔で退場なんて、絶対に認めんよ」
「……何だか、本当にサーヴァントには恵まれるな。振り返ってみても、酷い人生だったと思わないでもないが……こう言う所だけは、幸運の帳尻が合うとはね」
「で〜ちっちっち、もっと褒めるでち褒めるでち」
「それにしても、カイニスですら思っていても口を噤んでいた事を直接口にするとは、欲張りなサーヴァントだ。私にすら、救われて欲しいとは。夢見がちにも程がある」
「ふっふっふ……。マスターも、王と呼ばれていた事があるのなら、知っておくべきでちね」
デーリッチは、ニッと、満面の笑みを浮かべた。
向日葵のようなその眩しい笑みに、キリシュタリアは、この少女にカリスマを見た。人を魅了し、率いるだけの力を漲らせた、王の器である事を。確かに認めた。
「――王様は、夢を見る事がお仕事なんでね」
.
【クラス】
キャスター
【真名】
デーリッチ@ざくざくアクターズ
【ステータス】
筋力D 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運A++ 宝具B
【属性】
中立・善
【クラススキル】
道具作成:-
キャスタークラスではあるが、キャスターはこのクラススキルを持たない。
ただし、キャスターではなく、後述の宝具によって召喚される仲間の一部が、このスキルを習得しており、彼らに道具作成を肩代わりさせている。
陣地作成:A++
自分に有利な陣地を作成する能力。ランクA++は最高峰中の最高峰。このランクになると、大神殿を上回る『王国』の作成を可能とする。
【保有スキル】
カリスマ:D+++
人を惹きつけ、魅了するだけの人間的才覚。
キャスターのカリスマランクは大王国や大帝国を率いるだけの物ではないが、少人数相手に、それも自分の存在が何よりも大事であると思わせる方向に特化している。
そうして集めた人材は、王国運営に必要な才能を持った者が多く、結果的にその人材に仕事を振る事で、ハグレ王国を成立させて来た。
虎よ、虎よ!!:D
厳しい修行によって体得された、野生のパウワー。意識を切り替える事で、筋力をワンランクアップさせるが、魔力ランクをツーランクダウンさせる上、行使する魔術の威力も激減する。
……キャスタークラスの強みが死ぬ? まぁその……それは……はい……。
【宝具】
『希望の門戸よ、開け(キー・オブ・パンドラ)』
ランク:B 種別:対人・対空間宝具 レンジ:1〜10 最大補足:-
キャスターが有する、玩具の鍵のような形状をした杖状の宝具。
キャスターのいた世界にいたとされる、最初の召喚士が用いたとされる杖。これを用いて殴ったり、魔術を使う為の補助道具としてキャスターは戦う。
武器としての性能はハッキリ言って特筆するべき所はない、と言うより最低レベルと言ってもよく、これよりも優れた使い勝手と強さの武器はキャスターは幾らでも持っている。
この宝具の真価は、魔力を込める事で全ての距離を0にする事にある。有体に言えばそれは、『ワープ技術』の事であり、帰る先のイメージ、或いは、これから向かう先の情報が揃っているのならば。
キャスターはこの宝具を通して何処にでも現れるし、何処にでも逃げられる。複数人を纏めてワープさせる事も可能。
魔力さえ十分であれば、異なる時空によって隔絶された異空間、固有結界からですら逃走と脱出が可能であり、この宝具によるワープを防ぎたければ、キャスターの魔力をカラにするか、この宝具の発動そのものを阻害するしかない。
これらの使い方ですら強力であるが、この宝具の真価は、距離を0にする、と言う本質的効果の応用にある。
上述のようにこの宝具は全ての距離を0にする事にあるが、それは『今キャスターがいる世界にのみ限定される訳ではない』。今自分達がいる世界と、『全く異なる世界』との距離も0に出来る。
つまりこの宝具は、異世界にすら干渉が可能であり、条件次第ではその異世界に渡航する事も可能である。
そしてキャスターは、この異世界にすら干渉出来る、と言う事を利用して、無数の世界にキー・オブ・パンドラを利用して接続、其処を流れる無尽蔵のマナを取り込み、解放する事が出来る。
この時放出されたマナは、キャスターが味方、仲間だと思った自陣メンバー全員に付与され、『あらゆる重傷と戦闘不能の状態を完治させた上で、全てのステータスを1ランクアップさせた状態で』復活させる。
正しく桁違いの回復性能を誇る使い方であるが、異世界、並行世界に干渉すると言う、第二魔法にかかずらう領分に触れる使用法の為、魔力の消費は甚大。
このマナ放出による全体復活は、よりにもよって使用者本人である『キャスター』だけは復活の対象外であり、彼女だけは復活は勿論の事ステータスアップの恩恵にすら与れない。
挙句には、大量のマナが身体を循環し、一気に大量の魔力も持ってかれる奥の手の為か、数ターン行動不能になってしまい、その間は勿論サンドバッグ状態である。
故に、このマナの奔流を用いた使い方には、サポートする仲間が必須であり、それが揃わぬ内での行おうものならば、その時点で全てが終了となる。
『見よ。我が矮躯を支える、愛しき役者を(ざくざくアクターズ)』
ランク:EX 種別:対人〜対城宝具 レンジ:- 最大補足:-
英霊として座に登録されたという事実と、キャスターが有する凄まじい空想力(イマジネーション)が結実する事によって成立した宝具。
キャスターが生前打ち立てた、ハグレ王国のエピソードが宝具として登録された物であり、生前に絆を紡いだハグレ王国の国民を召喚する事がこの宝具の本質。
この宝具の最大の利点は、小回りの良さであり、召喚出来る仲間の数は0か100ではなく、自由に調整が利く事にある。
つまり、任意の仲間を最低でも1人、魔力さえ融通が利けば全国民を一気に呼び寄せる事が可能。この手の宝具に類似している、イスカンダルの『王の軍勢』との最大の違いにして最大の弱点は、呼び出せる人数の上限。
ハグレ王国の王国民、つまりキャスターが『戦闘に召喚しても問題ない』と認識している者の数は100人にも満たない寡兵であり、絶対数がそもそも少ないのである。
言ってしまえばこの宝具は、呼び出す人数の数を極限まで絞った『王の軍勢』であり、絞った代わりに各々の再現度を極限まで高め、応用力も底上げさせ、消費魔力も抑えた宝具になる。
召喚される仲間には、魔法に秀でた者もあらば、魔法とはまた体系の違う超能力と呼ばれる技術を駆使する者。道具の作成に特化した鍛冶屋や道具屋。
身体能力に優れた獣人から、剣に達者な侍、相手の攻撃を受けきる事に特化した騎士、水上及び水中での戦闘に特化したスキュラ。高い戦闘能力を秘めた妖精達。
果ては、世界を滅ぼしかねない程の力を持った巨竜の幼体から、正真正銘本物の悪魔、神霊、魔王、幻想種、星の守護者や竜人など。
あらゆる状況に特化した、様々なバリエーションに対応出来る人材が揃っている。強さの強弱で魔力の消費が上下する事はなく、代わり、『召喚されている人数によって』消費する魔力が上がる。
――以上がこの宝具の最大のメリットにして特徴だが、もう1つ、この宝具には効果がある。
この宝具はキャスターの持つ強靭な空想力によってなされる宝具とあるが、事実その通り、キャスターの持つ空想を現実世界に成立させているという側面もある。
ではこれを、本人の空想によって思うがままの空間で。つまり型月世界で言う所の、空想具現化の亜種である、本人の心象世界の具現である固有結界の内部で、当該宝具を発動すれば、どうなるのか。
この宝具から『魔力消費のデメリットが消滅』する。つまり、上述の高い戦闘能力を秘めた仲間達が一気に全員現れ、各々がフルパワーで襲い掛かって来る事を意味する。
勿論ダメージを与えれば傷つけられるが、例えどれだけ傷つこうとも、キャスター本体が健在であれば、第一宝具を利用した全体蘇生で即座に復活させて来る。
生前、本人のイマジネーション次第でどのような事も成立可能な心象世界において、相手からその支配権を奪い、打倒したと言うキャスターのエピソードを象徴した隠し効果。
常に誰かに支えられ、導かれ、そしてそれと同じ位多くの者を導いて来たキャスターの旅路に、皆が応える。そんな宝具である。
【weapon】
魔法:
厳密に言えば型月作品で言う所の魔法ではない。キャスターは様々な魔法を行使する事が出来るが、分けても得意なのが回復である。
またこれとは別に、様々な攻撃の魔法もしっかり行使する事が出来る。デスメッセージとか使える。
【人物背景】
王国をつくることを夢見たハグレ召喚人。将来は左うちわの予定なんだとか。
或いは、時代が求めた、招かれざる客、秩序と体制から逸れた者達の救世主。
【サーヴァントとしての願い】
ない。マスターの夢とやらをサポートし、彼には笑顔になってもらう。
【マスター】
キリシュタリア・ヴォーダイム@Fate/Grand Order
【マスターとしての願い】
生前と同じで、全人類を一歩先のステージに導く。
【weapon】
【能力・技能】
理想魔術:
電脳世界の冬木に来るまでの、異聞帯のギリシャで使えた筈の魔術体形
魔術の内容は単純明快で、『星の並びを操ることで惑星直列を起こす惑星轟』。大地と天空、天上の全てを魔術回路に見立て、抜級の魔術を発動させる。
最もわかりやすい形としては、隕石を飛来させ、そのエネルギーと衝撃を相手に叩き込む、と言うもの。当然直撃は死であり、サーヴァントであっても先ず耐え切れない。
……が、これだけの威力と規模の物を成立させるのには、舞台が神代である事と、神代の濃い魔力が必要になる為、この冬木の街ではこの規模の魔術は無条件で発動不可。
当聖杯企画では、相当に規模も威力もダウンスケールさせた魔術を駆使する。それでも、並の魔術師など一顧だにしない程の威力を誇る。
魔術:
上述の魔術以外にも、基本・基礎なる魔力を行使する事が可能。父の襲撃に会う前の描写を見るに、かなり広範な魔術を高いレベルで会得していた物と思われる。
【人物背景】
かつてクリプターと呼ばれる集団の長であった青年。
15の青年の頃に、いない物として今まで認識していた浮浪者の少年に命を救われ、人間の本当の正義と真実を目の当たりにし、自分もその通りに生きて見せると誓った男。
2部5章後編終了後、死亡してからの時間軸から参戦
【方針】
聖杯の獲得には乗り気。殺す覚悟もある。が、この聖杯戦争で現れる聖杯に、自分の望みをかなえる力があるのかが疑問。
投下を終了します
投下します
――セイバーは剣の英霊を意味する。
――そんなふうに考えてた時期が、俺にもありました。
――――――――
静かな冬木の街なかにある道場、そこで行われていたのは、死合い。
弓兵の英霊が、眼の前の男から放たれる鎖分銅に直撃する。
体制を立て直すも、懐に潜り込まれ、かまされていたのは、柔術。
逃げる暇もなく、床に叩きつけられ、消滅していく。
――貴様は何者だ…
弓兵のマスターの震えた声が響く、男が名乗ったのは
「俺は…剣の英雄だ…」
――――――――
――またね
――明日ここで
「うん!」
別れ、帰路に付く、高校生とは思えぬ身長、体つき、赤い髪をなびかせ、少女、小早川ゆたかは帰路についた。
この世界の自分の役割が平和なことに安心しつつ、まもなく見えてくる家を定める。
それは、古風な道場だった。
「帰りましたセイバーさん!」
「うむ、帰ってきたか」
出迎えたのは、灰色の柔道着に濃いヒゲをつけた人物。
セイバー――真名を本部以蔵と心得る。
「申し訳ない…今日は道場を開く日だったのだ…」
「大丈夫ですよ!こうして無事に帰って来れましたし!」
ゆたかの笑顔を見て、本部は安心そうな表情を浮かべる。
「なら…良かった…それでは、食事と行こうか…手を洗ってきたまえ」
「わかりました!」
――――――――
数刻後――
「それじゃあ…おやすみなさあ…ふぁっ…」
「うむ」
ふすまを開け、床にある布団にゆたかは入る。
それを見た本部は道場の方へ歩いて行った。
暗闇の中、頼りにできるのは月明かりのみ、眼の前の敵に見立てた物へ、「柔術」を仕掛ける。
彼の使うのは、公に「柔道」としてされるものではない。
確かに技も使う、それ以上に武器、策、色々な物を練って戦う、それが「柔術」の意味にして、「本部流柔術」なのだ。
剣にて的を切り裂き、技をかます、英霊されど、鍛錬は欠かせない。
ふと休憩をする。
思い出すのはマスターと始めにあったとき、願いを聞いた、その願いは
――――――――私は、みんなの下に帰れれば、それでいいです――――――
やさしい少女の声で、願いを言った。
本部は決意した。
彼女を護られねばならぬ。
いや、それだけではない、中には民間人の巻き込みさえ厭わぬマスターなどもいる、そういった者共から、知らぬ人々を護られねばならない。
――二度と護れなかった事を悔いぬように、ただ一つ、英霊としての役目を果たすために。
「マスターも…聖杯戦争を知らぬ人々も…もしいるなら…刃牙…もちろん勇次郎さえも…俺が護らねばならぬ」
ただ一つの誓い、それを聞くのは、窓からさされている、月光だけだろう。
【CLASS】
セイバー
【真名】
本部以蔵@刃牙シリーズ
【属性】
秩序・善
【ステータス】筋力:B+耐久:B敏捷: B 魔力:E 幸運: D 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:―
スキル「武芸百般」に統合
【固有スキル】
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、
その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
武芸百般:A
あらゆる武芸に精通していることを表すスキル。
剣術、騎乗、弓術などを内蔵。
適地戦闘:B
特定の地形で戦うと、ステータスにバフがかかるスキル。
本部の場合は公園、そして道場にて戦闘を行うと起きる。
【宝具】
『超実戦・本部流柔術』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:3人
本部が数々の試行錯誤の末、編みだした柔術。
「柔道」ではなく「柔術」であり、そのため、戦場格闘に近い動きを見せる事もある。
刀、弓、鎖分銅、あらゆる武器を使いこなし、それ含め技も使う。
また、花田純一、超軍人ガイア等多数の弟子もいる
『守護の心得』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:1人
本部以蔵根本の考えにして、真髄。
自身が護るべき、と判断したものに逃走バフをかける。
また、判断したものを、追跡及び殺傷行動を仕様としたものに追跡デバフをかけ、その上で本部との戦闘(タイマン)状態に強制的に陥らせる。
【weapon】
自身の技、武器
【人物背景】
本部流創始者。
浮浪者のような外見とは裏腹に、高い技術の持ち主であり、愚地独歩ら強者からも高く評価されている。
その実力は本物であり、最強死刑囚柳龍光、剣豪宮本武蔵相手に勝利を収めるほど
【サーヴァントとしての願い】
マスターを元の世界へと帰す、そして守護する。
【マスター】
小早川ゆたか@らき★すた
【マスターとしての願い】
みんなの下に帰る。
【人物背景】
陵桜学園一年生 泉こなたの従妹。
幼児程の身長、病弱な体質な持ち主だが、心優しく、明るい少女。
現在、こなたの家に引っ越してきたばかりであり、新しい友人たちや姉の関係者などの交流をしていた。
この世界でのロールは一般の高校生である。
投下終了です
投下させていただきます
地獄を見た。
この世にあってはならない光景を、見た。
家族皆でせっせと耕して蘇らせた大事な畑。
踏み躙られた。
子供達が駆け回って遊んだ広場。
血で汚された。
悲しみも痛みも共有し、支え合って生きて来た家族達。
全員殺された。
傷付き絶望してのたうち回った末に漸くありつけた小さな理想郷(ポラリス)。
何もかも、奪われた。
アレを地獄と言わずして何と呼ぶのか。
ほんの僅か抱いた希望は間違いだったと悟った。
ポラリスの外からやって来たあの村の少年は、確かに気持ちのいい人だった。
もしかしたら本当に友達になれるかも、そう思わなかったと言えば嘘になる。
だが所詮、前原圭太郎は雛見沢村という巨大な鬼の巣穴の中に偶然生まれた異端児でしかなかったのだ。
甘かった。
何もかも、甘かった。
鬼の血を引く殺人鬼の群れが隣人である事の意味をもっと早く理解し行動するべきだった。
『星の環』の自分が率先してやらなければいけなかった事だ。
もしもそうしていれば…あの惨劇は、防げたかもしれない。
ああやって悍ましい鬼達に何もかも奪われ鏖にされる事はなかったかもしれない。
――お前のせいだ、一色くるる。
――お前のせいだ、ミアプラキドゥス。
燃え上がる"あの日"の情景を呆然と見つめる自分の後ろから、他でもない自分自身の声がする。
――お前がちゃんと使命を果たしていれば。
――誰も殺される事はなかった。
――お前の大事な家族が、鬼ヶ淵の鬼共に寄って集って嬲り殺しにされる事はなかったんだ。
自罰の声に言い返す事は何もない。
だってアレは、防げた惨劇だったから。
呑気に祭りを楽しんでいる暇があるなら雛見沢の祭りにでも顔を出して来るべきだった。
奴らの異常を嗅ぎ付けられればそれを伝えて皆を逃せた。
そうでなくても、殺られる前にこっちから仕掛ける事だって出来た筈だ。
ミアプラキドゥスの星は全てを怠った。
だから、全て失ったのだ。
ああ。お前は、なんて。
お前は本当に、なんて使えない、頭の悪い――
「ごめんなさい…」
蘇るトラウマの原風景に自然と言葉が出る。
頭を抱えて、燃え上がる集落を前に膝を突いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
星の数程謝ったなら許して貰えるだろうか。
この身が背負ってしまったこの罪は、赦されて消えるのだろうか。
違う。そんな訳がない。
そんな救いがある筈がないのだ。
赦しを下さる聖母様ももう居ない。
あの火の中に、あのケダモノ達の狂気の中に消えてしまった。
だから謝っても無駄だ。
赦される事は決してない。
でもそうと解っていても、くるるは只謝り続けるしか出来なかった。
そうする事できっと何かが変わると信じて。
祈りを捧げる。
頭を下げる。
額を土に擦り付ける。
涙と吐瀉物で顔を汚しながら、喉が枯れるまで謝罪の言葉を並べ続ける。
――ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
どうかお許し下さい、私の罪を。
そして叶うのならば、機会をお与え下さい。
神様。
もしも、そんな存在が何処かに居るのならば。
もしも貴方がまだ私を見放していないのならば、貴方の気紛れに虐められ続けて来た人の子にほんの僅かでも慈悲を下さるのならば。
どうか。
どうか、私に。
贖罪の機会をお与え下さい。
次はちゃんとやりますから。
星の環の一員として、ポラリスに救われた星の一つとして…必ずやあの惨劇を回避――いや。
必ずや、皆を幸せにしてみせますから。
だからお願いします。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……
『やめろ。いのったところで だれもおまえをすくわない』
とめどない謝罪のリフレイン。
それを切り裂く声があった。
自罰の声はいつしか聞こえなくなっていた。
自分を責める自分自身の代わりに、くるるの後ろに立つ影がある。
くるるは振り向かない。
振り向かないまま、只彼女の言葉に耳を傾けていた。
『いのりをささげれば せかいがすくわれるのなら… わたしだって そうしたさ』
五月蝿い。
知った風な口を利くな。
言い返したくても、その声には有無を言わせない強さがあった。
どれだけ武装しても過去に縛られ続けた傷だらけの子供でしかないくるるではどうにも出来ない、そういう類の強さだ。
『タマシイをもやせ』
魂にまで届くような声。
何もかもを震わす声だった。
失意の前に霞んでいた怒りに、まさに火を灯すかのようで。
『ケツイをちからにかえろ』
この声をくるるは知っている。
目覚めの気配を間近に感じながら、唇を噛み締めた。
次に握るのは拳だ。
其処には――弱くてもか細くても、確かに"ケツイ"が籠もっている。
『そして』
影が隣に立った。
人間とは違う、平時ならバケモノ呼ばわりしていたかもしれない外見。
装甲に身を包んで槍を携え立つその姿を包むように"黒い羽"が舞い、世界を満たしていき。
『おまえが せかいを すくうんだ』
その言葉と共に、一色くるるは夢から覚めて現実へと帰還した。
◆ ◆ ◆
「…ッ」
寝覚めは言わずもがな最悪だった。
寝汗で寝間着がぐっしょりと濡れている。
喉もカラカラだ。冷たい水が飲みたくて堪らない。
ポラリスの家とは違う見知らぬ天井。
窓から見える景色も、雛見沢のものではなかった。
今でこそ日常になって久しいが、やはり未だに違和感はある。
"この世界"での一色くるるは、父と二人でこの冬木市に越してきたという設定だった。
検索してみたが、『ポラリス家族の会』等という団体は影も形も存在していなかった。
この世界にくるるを救ってくれる者は居ない。
救われたいと願うのならば…救いたいと願うのならば。
“ケツイを、ちからにかえろ…か……。…簡単に言うんじゃねーっての”
夢の中で聞いた言葉を反芻して顔を顰める。
それから拳を握ってみた。
手の甲に刻まれた令呪が今の自分の立場を教えてくれる。
「…先刻はありがとうございました。まさか人の夢の中にまで出て来るなんて思いませんでしたけど」
「フン。れいを いわれるようなことじゃない」
「でも良いんですか? …いやまぁ、これはずっと聞こうと思ってたことなんですが」
聖杯戦争。
元居たのとは異なる異世界…電脳世界。
其処で戦わされるマスターの一人。
そしてこの異形の鎧武者は、くるるの命運を護るサーヴァントと呼ばれる存在だった。
クラスをランサー。
見ての通り、始まりからして人間ではないらしい。
「あなた、人間嫌いでしょ」
「…、キライというのは すこしちがうな」
くるるはその境遇上他人の感情に敏感だった。
というより、そうでなければ生きていられなかったというのが近い。
傷付いた弱い心を使命感と恩義という鍍金で覆った哀れな子供。
それが一色くるるの真実だ。
だからこそ彼女は、目敏く気付いた。
ランサーが自分を…そしてこの世界の人間達を見るその目に宿る確かな剣呑の色を。
「ケイカイしているんだ」
「…警戒? あなたが私達をですか?」
「そうだ ニンゲンのこわさを わたしはしっているからな」
「冗談でしょ。人間なんてあなた達に比べたら吹けば飛ぶような雑魚ばっかりですって」
くるるは思わず苦笑してしまった。
しかしランサーは笑わない。
「わたしのせかいは ニンゲンにじゅうりんされた。
いや… ニンゲンですら なかったのかもしれない アレは」
ニコリともせずに己が過去を紐解いてみせる。
その言葉から伝わる確かな激情に、くるるは背筋が冷えるのを感じた。
怒りだ。あの夜、雛見沢の鬼達に見えたのと似ているけれど少し違った…静かに蒼く燃え上がる怒りの炎を、異形の形相の中に垣間見た。
「みんな ころされたよ。むしをふみつぶすみたいに ころされた。
わたしがとめなければならないあいてだった でも わたしは、まけてしまった」
「……」
「わたしは せかいを まもれなかった」
…その言葉がくるるの心臓に重たく響く。
それは、くるるにとっても覚えのある感情だったからだ。
八つ裂きにしてやりたい程の怒りとそれ以上の悔しさ。
守れなかった――何一つ救えなかった。
狂った悪に愛するものを何もかも踏み躙られる光景を、黙って死にながら見つめるしか出来なかった記憶が疼く。
「そうですか。道理で私に呼ばれちゃう訳です」
ポラリスは、同じ人間の姿をした生き物に破壊された。
「見ましたよね、私の記憶。私もみんな殺されました。虫を踏み潰すみたいに殺されました。大人も子供も、男も女も。何も関係なかった。
私が止めなきゃいけなかったんです。でも私は、弱いから…立ち向かっても何にもならなかった。何も、守れなかった」
くるるは知っている。
人間は怖い。
人間は、心に鬼を宿せる生き物だ。
他人の世界を我が物顔で踏み荒らし、壊してしまえるそういう生き物なのだ。
くるるもまた――世界を守れなかった。
此処に居る二人には共通点がある。
彼女達は世界を救えなかった者。
愛するものを何も守れなかった敗残者だ。
「くやしいか」
「悔しいです。死ぬ程」
「にくたらしいか」
「憎たらしいです。殺したいくらい」
「こわいか」
「…怖いです。毎晩ああやって魘されちゃうくらいには」
でも、とくるるは唇を噛む。
そしてその眦を鋭く細めた。
染み付いた恐怖をまた鍍金で覆い隠す。
誇り高き殉教精神をガソリンにして口を動かす。
ケツイを、ちからに変えて。
「このままでなんか終わりたくない」
ポラリスの世界は滅ぼされてしまった。
だけど、まだ終わってはいない。
物語はまだ続いている。
星々の航路はほんの微かだが残っている。
自分が、ミアプラキドゥスの星が此処に居るのがその証拠だ。
"黒い羽"は祝福だった。
何も出来なかった負け犬に与えられた最後のチャンス。
後戻りは、もう出来ない。
「このまま…っ、虐められてばかりで終わるなんて、たまるか……!」
涙を流しながらそれでもくるるは叫んでいた。
弱い少女にとってそれは精一杯の示威行動。
自分を強く見せる為の涙ぐましい努力だった。
「私は…! ポラリスを、私の家族達を助ける!」
聖杯の権能が本物ならば、死者の蘇生程度の事が出来ないとは思えない。
それを使えばあの夜の出来事を消し去る事だってきっと可能だろう。
もう誰にも傷付けられる事のない、ポラリスだけの理想郷。
世界の何処を探しても見つからなかったそんな夢を実現させる事だって出来るに違いない。
「私が星空(せかい)を救ってやる…! 今度こそ! 私達が勝って、幸せを手に入れるんだ!」
粉々に砕けた心を繋ぎ止めているのは狂気かもしれない。
だがそれでもいいとくるるは思っていた。
たとえその先に待つ末路が、あの穢れた村に棲む鬼達と同じだったとしても。
自分一人が凶星に成りさらばえる事で皆を救えるというのなら――構わない。
構うものか。
冥府魔道だろうが何だろうが、みっともなく震えたこの足で走り切ってやる!
「わたしは…」
「はぁ、はぁ…ッ」
「わたしは… きっとおまえとは ともだちになれないとおもう」
「はは…。そうですか。そりゃ残念です」
「わたしのねがいも おまえとおなじだ くるる。わたしは あきらめられない」
でしょうね、という言葉はあえて口に出さなかった。
自分達は似た者同士だ。
性格も生い立ちも違うだろうが辿った結末だけは似通っている。
殺戮の荒野に一人立った、ヒーローになり損ねた二人。
「せかいを すくう。そのために わたしは ここにいる」
ランサーの世界を蹂躙したのもまた、人の体に人ではない狂気を押し込めた存在だった。
彼女はその存在に全てを尽くして挑み、そして…敗北した。
その後世界がどうなったのかを見届けた訳ではない。
しかし確信があった。
世界は滅びただろうと。
文字通り、草の根一つ残す事なく…何もかもが消し去られてしまったに違いないと。
――だからどうした。
「つらいみちだ かくごはいいか」
「…当たり前です。何もかも失くしてメソメソへこたれてるくらいなら、地獄の針山を裸足で駆け上がる方がまだマシですから」
「じゃあ わたしといこう。おまえを マスターとして みとめる」
彼女は、勇者だ。
悪の前に敗れた勇者。
しかし勇者の条件とは不屈である事。
肉体が滅んでも、魂一つあるのならまだ終わってなどいない。
彼女は立ち上がる。
新たな世界で、最後の希望を目指して立ち上がる。
「よろしくな "せんゆう"」
「…はい。よろしくお願いします、戦友」
彼女の名前は――Undyne。
勇者、Undyne。
何度倒れても立ち上がる、不屈の――
――Undyne_the_Undying(不死身のアンダイン)。
【クラス】
ランサー
【真名】
Undyne@Undertale
【ステータス】
筋力:C 耐久:A+ 敏捷:B+ 魔力:D 幸運:C 宝具:E++
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
戦闘続行:A+
往生際が悪い。
何度倒れても立ち上がり、戦闘行為を継続する。
不屈の闘志:A
同ランクの『勇猛』スキルを内包する。
追い詰められれば追い詰められる程に闘志を燃え上がらせ、各種ステータスを向上させる。
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は"怪力"のランクによる。
勇者:-
このスキルは平時、封印されている。
許容出来ない恐るべき絶対悪の前に立つ資質。
悪属性のサーヴァントに対して強力な特効を獲得する。
【宝具】
『Undyne_the_Undying』
ランク:E++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
"You're gonna have to try a little harder than THAT.(さあ きさまのほんきをみせてみろ)"
Undyneが持つ唯一の宝具。神秘のランクは極めて低く、平時は解放される事もなく彼女の中に封じられている。
その解放条件は二つ。Undyneの霊核が破壊されている事、そして彼女が決して譲れない理由の為に立ち上がらねばならない状況である事。
以上の条件を満たした場合、この宝具は初めて開帳が可能になる。
霊核の崩壊や永続的なバッドステータスの全てを無視し、HPを最大値まで回復。その上で全てのステータス及びスキルランクを二段階向上させる。
世界を滅ぼす悪、殺戮の荒野を前に独り立つ勇者――Undyne_the_Undying(不死身のアンダイン)。
【Weapon】
槍
【人物背景】
アズゴア王配下、ロイヤルガードのリーダーを務める女騎士。
【サーヴァントとしての願い】
世界を救う
【マスター】
一色くるる@ひぐらしのなく頃に令
【マスターとしての願い】
世界を救う
【能力・技能】
責任感が強く行動力もまた然り。
使命の為になら汚れ役も厭わない殉教精神を持つ。
【人物背景】
DV被害者を対象にした互助団体『ポラリス家族の会』の少女。
『星渡し編』にて死亡後から冬木市に招かれているが、現在はポラリス症候群・雛見沢症候群共に小康状態。
投下終了です
投下します
身体の外から、裂けてしまいそうな程に、肌寒い日だった。
その少年には、小難しい事が解らなかった。土台が、勉強嫌いの学校嫌い。
小学生の頃は、流石に素直に学校に通っていたが、それも、中学生との境が曖昧になりつつある、6年生の頃位まで。
中学生に上がってからは、もう滅茶苦茶だった。売られた喧嘩であれば、同年代は勿論の事、身体が完成している高校生や大学生にだってこれを買い、返り討ちにするなど序の口。
免許も持ってないのに、単車を乗り回し、千葉は九十九里、神奈川は横浜・湘南まで。悪友達とツーリングに行くなど、しょっちゅうであった。
不良予備軍、どころか、何処に出しても恥ずかしくない立派な不良、札付きだった。
土台がそんな少年であるから、勉強は出来ない。いや、出来ない所か、それ以前の問題。提出物だって出してないわ、テストだって受けないわなので、実力の点数化と評価が不能なのだ。
E判定とか、不可の評価だとか、そう言った評定を下す以前の話である。要は、まるで話にならないと言う事である。
そんなものであるから、この冬木の街についても、深く考えていなかった。
クリスマスの時期であると言うから、流石に少しは着こんで外に出て、単車を乗り回して数分。凄まじいまでの寒さに、身体が即座に葛根湯を欲した程だった。
バイクやスクーターを乗り回す時、彼らドライバーが体感する温度は、外の気温から7度をマイナスしたものになると言う。単純な物理学だ、速く移動すれば風が当たる。
外に身体を露出させているバイクと言う乗り物の特性上、移動する時には直に風が当たるので、余計に感じる寒さが増すのだ。早い話が空冷エンジンの仕組みそのものである。
確か今日の気温は、日中の時点で4度だったか。つまり単車で、一定以上のスピードを出している場合、感じる温度は氷点下と言う訳だ。生中な着こみ方では、運転するのに支障が出る程の冷たさであろう。
若さからくるエネルギッシュさと、持ち前の根性で、何とか持ち堪え、少年は、その場所へとやって来た。
住宅街から外れた場所にある神社だった。いつ誰が、参拝しているのかもわからない。氏子がいるのかも分からない。そもそも、何処の誰ぞが権利者なのかもわからない。
少年に解るのは、此処が見たままに、寂れていて、寂しい場所であると言う事。人も大してやって来ないと言う事。
――東京卍會の集会に使っていた、名前すら気にも留めてなかったあの神社に、何処となく、空気と匂いが似ていると言う事。
「……」
1000円分の小銭も入ってなさそうな、オンボロの賽銭箱の置かれた社。其処へと昇れる、4・5段程度しかない石段の3段目辺りに、少年は腰を下ろしていた。
ズボンから伝わる石の感覚は、仄かに暖かい。体温と同じ位。それは、少年が、この石段に座って、ぼーっと境内を眺めながら、7時間も経過した証であった。
風が吹く。寒い。
冬木の街は、海に近い街だと言う。馬鹿な少年にも、海沿いの街に吹く風が寒いと言う事だけは解る。
だがそれにしたって、寒いな。街に冬って名前を付ける位なんだから、これからもっと寒くなるんだろうな、と、少年はふとそんな事を考えた。
リアルタイムで変わって行く空の模様を眺めるのにも空いたと見えるや、少年は、境内の脇に敷き詰められた玉砂利の数を、遠目から数える事にした。
大きいものもあれば小さいものもあり、中には雨風に晒され、礫から砂粒の小ささに変じた物もある。そうなると最早、数えるだけ無駄な事だった。
1000までは数えてやったが、其処から先は無為な事。再びボーっとし始めたその時、背後に、人の気配を感じた。
「いつまでもここにいても意味ないだろ? いい加減戻れよ、風邪引くぜ」
そんな少年の様子を慮ってか。背後から、彼と年頃の変わらなそうな、若い青年の声が聞こえて来た。
「産まれてこの方、風邪引いた事ないのが自慢の1つなんだけどな」
「ナントカは風邪引かない、ってか? まぁそりゃいいけどよ、何時までこんな神社で呆けてるつもりだ? やる事ねぇ爺さんでもあるまいしよ」
「やる事なら、あったさ。今終わったけどな」
ふぅ、と一息。吐く息は、沸いたケトルから出て行く蒸気のように、白かった。
「誰も来ねぇ、って事が確認出来た」
「それは、良い事なのか?」
「良い事なんだよ」
身体を、後ろの方に向けさせながら、少年が言った。
「オレ1人で戦える」
「……」
「誰も、巻き込まなくて済む」
人理に名を刻まれた英雄の御霊、つまるところの英霊と呼ばれる存在がサーヴァントとして召喚されると言うらしい。つまり、後ろの青年こそが、座っている少年――『佐野万次郎』が召喚したサーヴァントになる。
――本当か? と、聞き返したくなる。
およそ、万夫不当の大英雄などとは言い難い容姿だった。背格好は、万次郎を少し上回っているが、逆に言えばその程度の身長でしかない。英雄や英霊と呼ばれるからには、これぞ魁偉、と呼ばれるような巨漢だと思うではないか。
純金を煮溶かしたように綺麗な金髪は染めた物ではなく、生来持って授かったそれである事が一目で解る自然さで、他の人間とは違うな、と思える要素は、万次郎から見て其処しかなかった。
それ以外の全てが、市井を歩けば見つけられそうな特徴と符合しかない。いやそもそも、纏っている服装そのものが、あからさまに英霊のそれではない。
ジャケットにシャツ、タイトなズボンに運動靴。10代の、小僧のような服装なのだ。召喚されて間もないサーヴァントが、現代に被れてこの服装をしているのではなく、召喚された当初からしてこの格好だったので。
生きた年代は、自分と同じ位なのだろうかと万次郎は考える。だとしたら、不安所の話じゃない。マスターとサーヴァントは一蓮托生。聖杯戦争と言う、明白な殺し合いの舞台において、全幅の信頼を置かねばならないパートナーなのだ。それがこれでは、先行きも暗いと言うものだった。
「ハブ(CB250T)に乗ってよ、寒ぃ寒ぃ言いながら、今日色んな所回っただろ?」
「ああ」
「あれ、オレの元の世界での知り合い」
この神社にやって来る、直前の事。
万次郎は自分のバイクを走らせて、この冬木で生活している、と言う体裁で活動をしている、元の世界での知り合い達の所を巡回していた。
……ケンチンは、やっぱり予想通り、バイク屋をやってた。
オレが遠目で見てた時には、客のバイクのエンジンオイルを抜いてた。昔程バイク屋って儲かる訳じゃないみたいだけど、それでも、アイツは続けてくだろう。バイク、好きだもんな。
三ツ谷はやっぱり、ファッション系の道を選んだみたいだった。服飾系の専門学校って奴に通っていて、最新の流行だけじゃなくて、昔流行ったムーブメント、とか言う奴も合わせて勉強しなくちゃいけないみたいで、予想よりも大変らしい。
大変なのは間違いないが、それでも、毎日が充実していて楽しいって言ってた。将来は自分のデザイン事務所を持って、世界に名だたる4つのファッション・ウィークを制覇して、天辺を獲るって息巻いてたよ。
八戒の奴には会えなかった。……いや違うな、会えはしたけど、それは雑誌の表紙での話だ。ガッコー通いながら、ファッションモデルの仕事も合わせてやってるみたいで、つい最近、雑誌の表紙を飾ったらしい。
と言っても、メジャーな雑誌じゃなくて、マイナーな物だったみたいだが、誰だって初めの内はそこから始めるもんだろ? 調子に乗りやすいのがダメな所だけど、姉貴のユズハちゃんが手綱握ってるなら大丈夫だ。
パーちんは中学を卒業してから、学校通いながら家業の修行も始めた。家業ってのは、不動産業の事。本人は中学卒業したら、すぐに仕事をやりたかったみたいだけどな。
だけど、親父さんから『中卒に務まる仕事じゃない、学歴を積んで来い!!』って一喝されちまったとよ。んで渋々……って所だ。ああ、勿論、仲良しのペーやんも同じ高校で、義理か如何か知らないけど、パーちんと同じ不動産屋でバイトしてるよ。
スマイリーとアングリーは、ラーメン屋でバイトしてた。暴れると滅茶苦茶手が付けられない奴らと知ってるだけに、元気な声で「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」を言ってる姿は少し笑えてくる。
独立して自分の店を持ちたいって言うらしいから、美味いラーメン屋に行って、ただ味を楽しむだけじゃなく何で美味いのかも勉強していくつもりらしい。次のターゲットは、滅茶苦茶辛い麻婆豆腐を出す、市内の中華料理屋と聞いた。
千冬の奴は、ペットショップでバイトをしてたのは見た事がある。あれで結構、犬猫には好かれるタチなのか、じゃれつかれると困るんだ、って言ってたな。
あれで結構堅い性格で、稼いだ金をパーッと使う訳じゃなくて、将来の為に貯めているんだとか。場地にタカられるなよ、と冗談で言ったら、もうタカられてる、だって。ウケるな、今度シメとくかなアイツ。
全員が、全員。自分の夢なり目標なりを、胸の裡に抱いていた。
困難にも直面するだろうし、今の時点でだって、楽ではない筈だ。だがそれでも、今を、楽しんでいた。不安は勿論あるだろうが、それでも、自分の将来と言う奴に、大きな期待を寄せていたのである。
「気付けば、オレの周りには人が寄って来る。嬉しいと思うと同時に、怖くなる。オレのせいで、こいつらが不幸になっちまうんじゃないかって」
万次郎の周りに集まって来る人間は、男女の別なく、皆、良い奴だった。
気さくで友達思い、困った時には助け合い、嬉しい時には笑い合える。そんな関係が、死ぬまでずっと続くのならば、どれだけ良い事だろうかと、万次郎は思うのだ。
――そして、その関係性は、長くは続かない事も、万次郎は知っていた。
その魅力の故に、少年の周りには人が集まる。善人ばかりではない。その力に肖ろうと、お零れに授かろうと。そして、マイキーの魅力に狂信して。悪人もまた、集まって来るのだ。
「死んだ方がいい悪人ってのがいるってオレは思ってるし、必要だったらそいつらを殺すのにオレが手を汚す覚悟だって、ある」
「だけど……それでも」
「本音を言えば、殺したくはない」
大切な友達を、悪から遠ざける為には、自分一人の手では到底足りない。
だから、組織が必要だった。とびっきりの悪い奴らだけで構築された、極上の悪の組織。至上の悪が集っているから、その組織以外の悪が生じる可能性が限りなくゼロで。
そして、そのとびっきりの悪を管理しているのが自分であるから、大切な者達には危害を及ばせないよう管理も出来て。そう言うものを、自分は作って、彼らに報いたいのだ。
散々振り回してきて、散々楽しい思いをさせてくれた彼らに、陽の当たる場所で、悪とは無縁な、幸せな生活を送って貰う。その為に、自分一人が、闇に堕ちる。それで、良いのだ。これで、良いのだ。
だが……実際は、そんな組織など作りたくなかった。
その組織に集まった、ロクデナシの悪党共ですら、死なれるのは御免だった。死んだ方がいい奴と言うのは、間違いなくいる。だが、それでも。
目の届く範囲にずっといって、人間性を見せつけられてしまうと、情がどうしても沸いてしまう。それが、佐野万次郎と言う人物だった。
自分一人で、解決が出来るのならばそれが一番良い。自分一人が隠遁する事で、大切な者達の幸せが約束されるのならば、それでいい。
その機会を、万次郎はいつも欲していて――そして遂に、その機会が訪れたのである。
聖杯戦争。
どんな願いですら叶えてくれる、万能の願望器? 最後の1人の生き残りにだけ与えられる、褒章?
望むところだ、やってやる。自分1人が、その手を汚せば、皆の幸せが約束されると言うのならば、あまりにも安いものだった。
――けれど。
万次郎は先走らなかった。もしも。この世界でも東卍が結成されていて、或いは、形だけでも類似の組織が残っていて。
彼がこの場所で佇み、彼の決起で何でもすると言う人間が1人でもいたのならば、その時来た面子に沿った対応を考えていたのだ。
もしもそれが、自分が守りたいと思っていた人達だったら、半殺しにしてでも止めるつもりだった。もしもそれが、万次郎の闇に付き合うと宣言した馬鹿共だったら、この世界でもこき使うつもりだった。
東卍の集会にも使っていた神社に似たこの場所で、待ち惚けすること、7時間。
誰も、来なかった。一番の親友と言っても良いドラケンは勿論、「お前を支える為だけに生きる」と調子の良い事言った幼馴染の三途の奴すら、顔を見せない。
万次郎のカリスマが失墜したのか、それともこの冬木では自分が嫌われているのか。解る事は、1つだ。佐野万次郎は、1人で、思う存分、戦える。この1点。
「……始まりは、気弱な幼馴染が、大事にしてた飛行機のプラモを壊した時だったかな。キレちまってさ……口の両端をな、裂いちまったよ。たかがプラモだぜ? 我ながら馬鹿げてるよ」
そう、万次郎自身でも、どうかしてると思う程、気の違った狂行だった。
子供だから、頭に血が昇ったら歯止めが効かなくなる、と言うのも勿論あるだろう。だが、それにしても、だ。
例え子供であっても、口を物理的に引き裂いて、止め処なく血が流れるのを見たら、普通はブレーキが掛かる。これ以上は流石に拙いんじゃないか、と言う理性が働く。
「幼馴染に、痕跡が一生消えない程の傷を負わせたその時に、初めて気づいたんだ。オレの身体の中には、悪魔がいる。オレに誰かを傷つけ、殺させて……。そればかりか、他の奴にも感染する、黒い衝動が」
万次郎は、レールから外れた不良である事は自分でよく解っている。
しかし、どんな不良でも、万次郎だって解る。殺すのは、拙い。少年法に守られているとは言え、その業を犯した瞬間、青春は終わりを告げ、人としての終わりを告げる鐘がなるのだ。
佐野万次郎は、そのブレーキが効かなくなる時がある。殺した所で益はない、戻るものも得られるものもない。それが頭で解っていても、殺意が、衝動が。頭蓋の中と胸の裡を占める時があるのだ。
「オレは、狂ってる」
己の本心を、万次郎は韜晦する。こんな、出会ってからまだ1日しか経過していない優男に。
「オレのせいで、ダチを不幸にするのなんて御免だ。だが、アイツらに悪の魔の手が伸びる事だって嫌だ」
「だから、お前1人全部抱えて、堕ちて行くってか?」
「そうだ」
沈黙が、神社に降りた。
重苦しい、息を吐くのも一苦労な程の重厚なプレッシャー。それを打ち破ったのは、サーヴァントの青年だった。
「……俺もさ、お前にだけは話してやるけど、実はお前の黒い衝動と同じ位度し難い衝動があるんだよな」
「アンタに?」
まさか、とは思わない。
サーヴァントとして登録されている以上、目の前の青年はきっと、万次郎よりも数奇で、不思議で、壮絶な人生を送って来たのだろう。
そしてその過程で、恐ろしいまでの力を得たのだろうし、それを得るだけの切っ掛けもまた、計り知れぬ程に重い物であるのだろう。
だから、興味が湧いた。無言は、話の続きの催促、その裏返しであった。
「そいつはな……」
「……」
10秒程の沈黙を作ってから、ニカッと笑って、青年が言った。
「ピンクの衝動、ってな」
「あ?」
「スゲー難儀な衝動だぜ? 目に付いた女の子をひっかけてさ、あーんいやーんうふーんって感じでよ、手ごろな女が近くにいないと、もう狂いそうで狂いそうで――」
「オイ、テメェ……」
立ち上がり、青年の方に万次郎が詰め寄った。額に、青筋が浮き上がっている。
「本当に、まいっちんぐな性癖だろ? お前の黒い衝動と同じで――」
其処まで彼が語った時、万次郎の右脚が、視界から消えた。
いや、消えたのではない。傍目からは消えたとしか思えない程の速度で、蹴りを見舞っていたのだ。
ぼっ立ちの状態で、脳天に靴先を叩き込もうとする。技名で言えば、ハイキック。だがこれは、格闘技の素人に出せる技ではない。
ある程度以上の打点の高さに蹴りを見舞うとなると、身体に柔軟性がなければずっこけるだけだからだ。況してハイキックなど、隙だらけの技、何もない状態で叩き込もうとすれば、避けられて押し倒されるか、股間を潰されて終わりである。
それを思うと、万次郎の身体の、何たる柔らかさか。日頃の柔軟運動の賜物でもあろうが、この柔らかさは天性のものだろう。
それでいて、腰などを乗せていない、脚だけを駆動させている蹴りでありながら、信じられない程の、鋭さ。蹴りの威力は腰をどのように動かしてその運動力を乗せるかがキモだが、万次郎は今放った蹴りに、そのキモを乗せていない。
だのに、この速度、このシャープさ。まともに脳天に喰らえば昏倒からの、ブラックアウトは避けられないだろう。避ける事は勿論、防御する事だって難しいスピードでもあろう。
――それを、青年は、万次郎の足首をガシッと掴む事で、見事に防いで退けた。
「おっ、ナイスシュー。良い蹴りだな、サッカー少年か?」
「空手だよ」
「あそ」
其処で青年は、万次郎の軸足を思いっきり足払い。それと同時にパっと、掴んでいた万次郎の右足首を離す。このままであれば、背面から、万次郎は地面に転倒してしまうだろう――筈だった。
足払いを受けて空中に投げ出された、その瞬間だった。万次郎が空中で勢いよく身体を捻り、グルンっ、と中空で1回転。身動きの取れない空中で一瞬で体勢を整えてから、スタッと着地してしまったのである。
「中国雑技団かよお前、スゲー身体能力だな」
まだ、万次郎の頭には血が上っている。
黒い衝動を、馬鹿にされたからだ。万次郎は、己の身体の中に巣食うこの魔物を恐れていて、だからこそ、真剣に向き合おうとしているのだ。本当の本当の本当に、皆に被害が及ばないように頭を痛ませて、悩ませているのだ!!
だのに、この青年はなんだ? こちらを虚仮にするにも程がある。女関係にだらしない事と、同列に扱うな。そうと吼えようとしたその時だった。遮るように、青年が言ったのだ。
「愛した女が、血を分けた妹だった」
喉元までせり上がった言葉が、胃の中に一瞬で落ちて行く。驚きに目を見開いて、万次郎は、青年の言葉を聞いていた。
「妹を愛してるって周りにバレるとどうなると思う? もう、てんやわんやの大騒ぎよ。ヤマタノオロチの生贄に選ばれた訳でもあるめーしよー。この世の終わりみたいな感じになるんだよ周りが。お袋には泣かれる引っ叩かれる、周りは『けだもの』だとか遺伝子レベルの異常者だとか言いたい放題。ノストラダムスの終末が訪れたみたいなお祭り騒ぎってワケ」
妹を、愛する?
万次郎にとっての妹とは、異母兄妹のエマである。家族としては、確かに彼女は愛している――愛していた。それこそ万次郎にとっては、何に代えても守りたいものの1人だ。
だが、家族としてなら兎も角、異性として、となると、それはちょっと無理だ。余りにも距離が近すぎて、エマに対して異性として恋に落ち、男女の仲に……と言うのは、想像が出来ない。
「だけど、俺は愛したんだ。地獄に落ちて火あぶりになっても構いやしない、世界中の全てが敵になっても構わない。それでも、あいつと……沙羅と添い遂げるって決めたんだよ」
自分の周りには、いないタイプの男だと万次郎は思った。
不良に取って、女とバイクとドラッグは、切っても切れない三種の神器だと万次郎は考えている。
万次郎の率いていた東卍では、ドラッグなど絶対許さなかったから蔓延もしなかったし、バイクについては個々の価値観次第。興味がないチームメイトも、それなりには存在した。
だがやはり、女は。女絡みの事柄は。良きにつけ悪しきにつけ、付いて回った。不良だなんだと言っても、やはり年頃の男。女の為にかっこつけ、女の為にトラブルを起こす阿呆は、東卍でも珍しい存在じゃなかったのだ。
しかしそれでも尚、妹――況して、血の繋がった実の姉や妹に、恋慕を抱く男は、万次郎の周りにはいなかった。
常識的な生き方をしているとはとても言えない万次郎ではあるが、身近な人間がもしもそんな事をカミングアウトしたら、「いいんじゃね?」とは、とてもじゃないが直ぐに返事出来ない。逡巡、してしまう事であろう。そんな風に言っても良いものなのか、と。
「何でお前、妹を好きになったんだ?」
「知らね」
そこは、最も、大事な所だろう。知らないで済む話じゃない。
「気付いた時には好きだったの、妹版だよ。それで良いじゃねぇか。そうとしか、説明出来ねぇんだ」
ふ〜、と自分の意識を改めるように、一呼吸してから、青年は、滔々と言葉を続けて行く。
「天国に行けなくなるだとか、地獄に堕ちるだとか、別にそれでも構いやしないのに、どいつもこいつもみーんな、許されぬ恋だとか言って嫌悪してる、俺達の恋路に首突っ込んできやがるのよ。天使も悪魔もヒマなもんさ、呼んでもねぇのに人の色恋沙汰に絡んでくる位なんだからな!! おかげで苦労の連続だったぜ。地獄に堕ちたり死んでみたり、ボインでグラマーなナイスバデーの姉ちゃんに変身してみたり、お偉い天使や悪魔と戦ったり、神様に喧嘩売ったり――――――」
――。
「ダチに死なれたり、よ」
「……お前」
知らず、頭に上った血が、冷えて行き、スッと落ちて行くのを万次郎は感じた。風が吹く。寒いのはきっと、今が冬と言う理由だけだからじゃなかった。
「なぁマスター、お前、不良なんだってな。俺のダチだった奴らもそうさ。どいつもこいつも筋金入りのワルでよ、車は盗むわ先公は殴る、酒は飲むわのヤクも打つで、末はヤクザか刑務所かな奴らだったよ」
「……」
「……良い奴らだったんだぜ? そいつは間男の種で産まれてさ、むつかしー言葉で言えば、不義の子って奴だよ。だからまぁオヤジだと思ってた男には嫌われてよ、とっとと死んで欲しいから『故』って名付けられたんだぜ? だから笑っちまう位グレちゃってよ、その荒れっぷりとニヒリズムっぷりはスゲーもんだったよ」
「――」
「今は、もういない。俺を庇って、クソッタレな神サマが裁きとほざいた、綺麗な流れ星に巻き込まれて死んじまった。デリカシーがなくて、嘘つきで、間違いのない不良だったけど……最後まで自分自身と戦い抜いた、勇気のある奴だった」
青年は、更に言葉を続けて行く。
「そいつは俺の先輩でさ、顔も良くて頭もキレて、理解のあって優しいオヤジさんに育てられたくせに、根っからの悪に育っちまったんだ。でも、好んでそう振舞った訳じゃないんだぜ? 信じられる? その先輩の前世って言うのが天上の世界じゃ並ぶ奴がいない程のエリート天使で、神に反旗を翻して地獄の王になって……。何とビックリ、俺の前世だって言う爆乳天使を愛しちまったって言うんだよ!! 昼ドラか何かかっての!!」
捲し立てるように言ったが、全てを言い切ったとみるや、またしても、青年は溜息にも似た重い息を吐いてから、口を開いた。
「そいつも、もういない。我がままで世界を滅ぼそうとする神をいつか殺す為だけに、自分の心血を注いできて……。人間に転生した時のオヤジさんに冷たく当たったのは、そんな自分のクソみてぇな運命に巻き込まれないようにする為だった。自分の事を冷血で冷酷な悪党だと思ってたみたいだけどよ……俺は解ってる。他人にも、そしてそれ以上に自分に対しても。何処までも厳しくて、そして他人に対して優しくあろうと願ってた、良い奴だったんだって」
始まりは、妹を……沙羅を助ける為だった。
彼女を助ける為に、ダンテの神曲のように、地獄を、そして天国を行き交いし、壮絶な冒険を青年は体験した。
流さなくても良い血が流れた、失われなくても良い命が失われた、産まれる必要のない悲劇が幾つも産まれた。
地獄のような光景が、真実本当の地獄の底では勿論の事、衆生が羨む天国でも繰り広げられたのだ。神はこの世を見捨てた、それを証明するには十分過ぎる程の光景を、幾度も。彼は目の当たりにして来た。
そんな地獄にどれだけ揉まれようとも、沙羅を助け出すつもりでいたのだ。
そして、彼らは――加藤と吉良は、青年の旅路に付いて来た。傷つくだけでは済まされない、死ぬより他なき魔界行に、彼らはお供したのだ。
当然の帰結として、2人は死んだ。苦よもぎと名付けられた流星に巻き込まれた加藤は、死に際に何を思ったのか。この世全ての悪となるべく産まれて来た吉良は、戒めより解き放たれた時には安らかに死ねたのだろうか。
解らない。解らないが、1つ真実を言うとするなら。青年は、2人に生きていて欲しかった。死んでから初めて、失ってしまった物の途轍もない大きさに、気付かされたのだ。
「マスター。お前、友達多いだろ?」
「……」
「伸ばされた手は、掴んでやれ。自分からその手を突き放して、堕ちる所まで堕ちてもな……それで良し、ってなれる程、人間って奴は強くねぇよ」
「オレの手を掴んだ奴も、地獄に堕ちる」
「お前がそう思ってる内は、そりゃそうなるだろうよ。お前自身が救われたがってねぇんだから」
そんな事は、万次郎自身が良く解っていた。
己の中に黒い衝動が渦巻いている内には、救われる訳には行かないのだ。
救いの手を差し伸べて来た側すらも不幸にするのが解っているのだから、その手を払い除けるは、当然の話であった。
「なぁ。お前は、どうだったんだ?」
「ん?」
「お前は、手を伸ばされて来たのか?」
「ずっとずっと、差し出されて来たよ。その度に救われて、だからこっちも手を差し伸ばしたりもした。……救えなかった奴も、多かったけどな」
「……そうか」
きっとそれは、自分の身体の柔らかくて、触れれば痛い部分を、切り付けられるような感覚に陥るのだろう。
それを恐れているから、万次郎は、友達を遠ざけているのだ。自分は救われておいて、いざ自分が救おうと言う段になって、力及ばず、など……。震えあがる、他はない。
「だけど、俺はそれでも、仲間が差し出した手は握り返すし、助けを求める仲間には手を差し伸ばすよ」
「救えなかった事もあるのにか」
「だから、だよ」
「だって――」
「皆幸せになった方が、一番良いに決まってるだろ?」
「――――――――――」
さも、当然であるかのように青年は言った。当たり前の事じゃないか、とでも言うような顔で、万次郎に言い返したのである。
――何故オレは、コイツの言葉に驚いているんだ?
どうせなら見知った仲間全員で幸せになった方が良い。そんな、当たり前の、誰だってそれがいいと思うような考え方にどうして、オレは感じ入っているんだ?
違う。本当はオレだって解っていた。コイツの言っている事は全面的に正しい。論ずるまでもなく、ハッピーエンドの方が良いに決まっているんだ。
だが、オレの手でそれを掴むには、あまりにもスタートの位置が遠すぎて。そして、オレ自身が最初から見切りを付けていて……。
「……オレの親友にさ、面白い奴がいるんだよ」
「お前に?」
「そいつはさ、喧嘩に滅茶苦茶弱いんだ。腰の入ってないへなへなパンチだから威力もない、蹴りだって身体が固ぇから腰より上の打点に蹴りが届かない。しかもその上、殴られたら女みたいにすぐ泣くんだよ。笑えるだろ? これでコイツ、不良の道を選んだって言うんだからさ」
その友人の事を話す万次郎は、今までのダウナーな様子からは想像も出来ない位、楽しそうだった。在りし日の思い出を振り返るような、そんな調子だった。
「だけどそいつはさ……絶対に諦めないんだ」
「……」
「顔の形が変わる位ボコボコにされても、翌日飯何て食えない位口の中ズタズタにされても。そいつは、誰よりも早く立ち上がって、相手にガン飛ばすんだ。殺されない限りは負けじゃねぇ、とでも言うような感じでよ」
フッと、聞き分けの悪い子供でも見るような、しょうがない奴だ、とでもこれから口に出しそうな。そんな微笑みを浮かべる万次郎。
「そう言う姿を見るとな、オレも負けてらんねぇって思うんだ。弱ぇコイツが、震えながら立ち上がって吼えてんだから。頭張ってるオレが応えなきゃダメだろ。……なーんてな。そう思うのはオレだけじゃなくってよ。その場で抗争してる皆が思うんだよ。アイツがやるなら、オレもやるってな」
「……」
「試合だったら、勝負の決着を決めるのは審判だけど、不良の喧嘩で勝ち負けを誰が決めると思う? 見てる奴らだよ。ギャラリーが、勝ち負けを決めるんだよ」
ふぅ、と息を吐く。心の澱を、吐き出すかのようだった。
「一番喧嘩のセンスがねぇ癖に、最後の最後まで立っててよ。んで、我こそが今回の抗争の勝者だ、みてーな面と背中してんだ。……で、誰も異論を挟まない。つまり皆認めてんだ。勝ったのは、その一番喧嘩の弱い奴だって。だったら、そいつの勝ちだよ」
ドラケンが腹を刺されて死の淵を彷徨っていた時、一番骨を折ったのは彼だった。
キリストの誕生日に、大事な友人が一気に2人も失うかも知れないと言う最悪の事態を、身を挺して止めたのも彼だった。
チームの隊長が受けていた家庭内暴力に首を突っ込み、命を張って、家族の問題と言う最も解決の難しい乱麻を断ち切り解決したお人好しとは、彼の事だ。
――妹の死に心が折れかけ、自暴自棄になっていた自分の為に西に東にと奔走し、戦力の差を考えれば勝てる筈のない抗争に身を投げ、腑抜けていたオレの心を奮い立たせたのは、アイツだった。
「笑っちまう位お人好しで、笑っちまう位弱っちぃ。常に誰かの手を借りているようで、その癖誰よりも孤独と戦ってて……。だから皆放って置けなくて、最後には助ける奴が現れてさ」
――。
「誰よりも皆で幸せになれる道を探す為に、誰よりも傷付くんだ。最悪の未来から過去に飛んできて、そいつはいっつも、身体を張ってズタボロになって――」
ああ、そうだ。目の前にいる、オレの呼んだサーヴァントは。セイヴァー(救世主)のクラスを宛がわれたこのサーヴァントは。
タ ケ ミ っ ち
「……お前、アイツにそっくりなんだよ。オレがもう、これ以上傷付いて欲しくない奴に」
――オレのヒーローに、考え方が似てたんだ。
「だから、オレの考えは変わらない。親友が、これ以上傷付かない為に、オレは戦い続ける。……この戦いに勝ち残れば、全て報われるって言うのなら……オレは、最後まで立ち残るよ」
決然とそう言い放った万次郎に、青年は、有刺鉄線に絡まれ、もがきながらも、前に進み続けるイメージを見た。
マスターに、俺の言葉は届かない。いや、このセイヴァー自身、解っていた。佐野万次郎。彼は、俺の影法師。
許されぬ恋と、仲間全員の幸せを共に叶えようと、死と血の付き纏う茨の道を、歩み続けた自分と。万次郎の姿が、被ってしまったのだ。
……フッと、皮肉気な笑みを零しながら、青年は言葉を紡いだ。
「……俺も、出来るなら傷付きたくないが、無駄な血を流すのが如何やら俺の仕事らしいんでな」
笑みを浮かべて、青年は言った。悪友の悪巧みにでも、乗ってやるか、とでも言うような、悪戯っぽい笑みである。
「お前が決めた事なら――もう何も言わねぇ。お前が望むんだったら、良いぜ。折れるだけ骨は折ってやる。後悔しない、生き方にしろよ」
「ああ」
青年から投げ掛けられた言葉で、万次郎の身体に、力が漲って来た。
意識を、改めただけ。たった、それだけである。それだけで、佐野万次郎の身体に、力が戻って来るのを彼は感じていた。
身長にして、162cm。東卍に於いて、佐野万次郎は尤も小柄で、華奢とも言える体格の持ち主なのだが、なのに一番、喧嘩が強い。
無敗なのは勿論、地に膝を着けている姿すら、見た事がない者もいる位だ。その凄まじい戦績と伝説の故に、付いた異名が『無敵』のマイキーなのだ。
今ここに――その無敵と呼ばれるに相応しい精気を。万次郎は、取り戻した。
東卍の頭として相応しいだけの立ち振る舞いを、ただ、立ち尽くすだけで、発揮する程には取り戻したのだ。
「なぁ、お前……セイヴァー、だったか?」
「ああ。昔やり遂げた事柄から、このクラスが一番『らしい』って思われたらしいな」
「……本当の名前、何て言うんだ?」
それを受けて、セイヴァーは呆気に取られていたようだが、ああそうだったな、と思い出した。セイヴァーはマスターの名前は教えられたが、自分の真なる名を告げてなかったのだ。
「刹那。『無道刹那』」
「すげぇ名前だな。ホストの源氏名かよ」
「うるせぇな。そう言うお前だって佐野万次郎じゃねぇか。明治の偉人か?」
「うっせー。人の気にする事言う名よ」
年相応の笑みを浮かべて、万次郎が言った。多分、この男の地なのだろう。
「行こうぜ、セイヴァー」
石段を下り、境内の外に止めていたハブの下へと、万次郎は歩いて行く。
「何処にだ?」
刹那が、問う。
「皆の幸せを、取り戻しに」
其処に、お前は含まれているのかと。刹那は問わなかった。
――佐野万次郎の逆転(リベンジ)を果たす為の旅に、刹那は、「応」と、短くも力強い返事で応えたのであった。
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
妖しや!! 悪鬼とぐるぐるまわり なんじをめぐり なんじをめぐる
目のなき神より流れ出て ざんざと泉の注ぐところ
数かぎりなき多様の数々 這いずりまわる魔物にまみれて ここはいずことなんじは問う
骨と悪鬼の子らに満ちし いずこの巣穴の腐臭のなか いずこ、と叫びかえす声
恐れぬ者は入りなされ このあやかしの森の奥へ
――ジョージ・メレディス、『ウェスターメインの森』
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
GAME OVER
or
▶CONTINUE
.
【クラス】
セイヴァー
【真名】
無道刹那@天使禁猟区
【ステータス】
筋力C 耐久B+++ 敏捷B 魔力A+(EX) 幸運D+++ 宝具A+
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:C(A++)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
カッコ内の値は、後述の宝具を発動した時の値。事実上魔術、と名の付く物では傷付く事はなくなるばかりか、特に地水火風の属性を有したものであれば、神霊級の魔術行使すらシャットアウトする。
騎乗:C+
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。
但し、保有スキルによる補正により、一部水棲生物並びに、低位の竜種を乗りこなす事が可能。
救世の使徒:EX
世界を救う定めを課せられた者。そして、その役割を果たせた者。
前提として世界を救ったと言う事もそうだが、当スキルのランクの高低は、当該サーヴァントが関与した危機の深刻さ・広範さで決定される。
要は、惑星の危機が深刻であればある程、そしてその事態のケアの完璧さによって、スキルランクは高くなる。
セイヴァーの救世の使徒ランクは最高峰かつ、規格外。惑星全土から霊長の類が消える事は勿論の事、天使や悪魔の絶滅。
並びに、物質界(アッシャー)、星幽界(ヘイディーズ)、地獄(ジャハンナ)、至高天が消滅する程の危機を救った、紛れもない大偉業の達成者――救世使である。
そして、その未曽有の危機を救う為に、セイヴァーは人間や天使のみならず、悪魔との力も借り受け、創世神にして唯一神、地上に於いてYHWHと呼ばれる存在を葬った。
世界を救う、と言う偉業を達成しておきながら、その方法が『神を殺す』であったセイヴァーのスキルランクは、まさに測定不能、規格外の値。殆ど、バグに近いランクである。
世界の危機、星の危機、人命に対する危難を救おうとする行為全般に対して、有利な判定ボーナスが付く上に、その行為を行っている間、セイヴァーの全ステータスはワンランクアップする。
【保有スキル】
大天使の加護:B
聖堂協会に語られる、神の御許に在る事を許された高位の天使の加護。
セイヴァーはことにジブリール、つまり水の大天使にして、聖母マリアの受胎を告知した大天使ガブリエルと同一視される大天使との造詣が深い。
水に纏わる攻撃の威力を大幅に低減させるだけでなく、こちらが行う水の魔術による攻撃の威力が増加する他、水棲生物に対する会話判定のボーナス及び、信頼関係の構築が可能となる。
アストラルパワー:A+(EX)
アストラル力。魔力放出の上位スキル。武器・自身の肉体に魔力(アストラルパワー)を帯びさせ、常時放出する事によって能力を向上させるスキル。
放出量を瞬間的に倍増させることで、魔力砲やバリアのような使い方もできる。絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。
また、背中の天使の翼を大きく損傷すると上手く力を操れなくなり、使用不能になる事もある。これは天使の翼が、アンテナのように意志とアストラル力を変換する機能を担っているからである。
カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。
神性:C(A+++)
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
平時のランクは、あくまでも、天使の魂を受け継いだ青年相応のランク。一般的な、神の力を持った英霊基準の値である。
後述の宝具を発動した瞬間、創世神YHWHによって創造された最初の天使の片割れである、有機天使アレクシエルとしての神性が覚醒。神ならぬ身でありながら、神の手前に近しい神性を獲得する。
アレクシエル本来の神性ランクはA++だが、比翼である無機天使ロシエルとの合一をセイヴァーは果たしている為、ランクは更に跳ね上がっている。カッコ内の神性ランクは、その通りの値を指し示す。
時間魔術:D
古の時代、数万年の時を生きる天使達ですら御伽噺と認識する程の太古の時代に失伝されたと言う、時間に纏わる魔術。型月作品の基準で言えば、魔法そのもの。その適正。
本来は創世神によって産み出された至高の存在、アダム・カドモンしか使用が出来ない技術だが、その力を分け与えられたセイヴァーも、断片的ながら行使する事が出来る。
完全な状態の時間魔術であれば、太陽系全体の公転、自転運動や、万物万象の時間を停止させる事も出来るが、サーヴァントとしての霊基のスケールダウン以前の問題として、セイヴァーは時間魔術に対する適性が殆どゼロの為、意識的に使う事が全く出来ない。
危機に陥った時、とっさに時間を停止させる、時間の加速減速を行う、時間に対する攻撃に対する耐性を得る、など。恩恵はその程度の物。
【宝具】
『七支刀御魂剣』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
ななつさやみたまのつるぎ。天界に封じられたとされる恐るべき魔剣であり、神に反旗を翻したとされる大天使にして大魔王ルシファーの魂を宿す討神の剣。
地球上に存在しない第5元素であるエーテルを合成した、地球上で最も堅牢な鉱石で作られた剣であり、戦う相手によって有利な属性に自動的に切り替わる。
この剣によって創世神が討たれたと言う逸話から、極限域の神性特攻を有しており、具体的には確定クリティカルとダメージの上昇が追加で行われる。
セイヴァー自身も神性を有するサーヴァントであるが、当宝具の意思によって彼だけは除外されており、彼を傷つける事はない。
また、セイヴァーの意思次第で、4本の腕を持った金属の身体が特徴の大女に変身し、自律的に行動するモードにも移行出来、この場合でも上述の属性自動チェンジと、神性への特攻効果は健在となる。
『神叛の時来たれり、其は自然無限を統べる有機なる翼(アレクシエル)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
セイヴァーと言う人間が転生するに至った始まりの存在。創世神によって最初に創造された2体の天使であり、その片割れとなる女性天使。有機天使アレクシエルが持つ3枚の翼が宝具となったもの。
自然無限物質(エーテル)の力を司り、火・風・水・土のルーンを操り、無敵の戦闘力を誇ったとされる。戦闘でも文字通り、地水火風の魔術を行使する事が出来るようになる。
有機天使の名の通り、その支配域は有機物の殆ど全てに及んでいたとされ、最もわかりやすい有機物としては、正に己の身体。
この宝具を励起させた瞬間、セイヴァーの魔力スキルはEXランクに修正される他、超高ランクの再生並びに戦闘続行スキルを保有する。
また元が高位の天使である為か、汚れ、汚染された魂の浄化や、救済と言う、天使の起こす奇跡と聞いて最もイメージしやすい奇跡の行使も可能となる。
本来であるならば自然ある限り、無限に星から魔力を供給出来る宝具であるが、今回の冬木の街は電脳空間である為か食い合わせが悪く、魔力の消費が悪い。
『渇望の時来たれり、其は電磁場無限を統べる無機なる翼(ロシエル)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
有機天使アレクシエルの片割れであり、弟である、無機天使ロシエルの持つ3枚の翼を取り込み、それが宝具として登録されたもの。
電磁場無限物質(アカシヤ)を操る事が出来る宝具であり、端的に言えばそれはその名前の通り、電磁力そのもの。
但しロシエルの操る電磁力は、物に磁力を付与させるとかその程度の領域に収まるものではなく、時空間に歪みすら生じさせる程の高次のそれ。自然界における4つの力の内、電磁気力(光子)そのもの。
電子ドラッグの作成による洗脳などロシエルの能力を以てすれば赤子の手をひねるような物。アカシヤの力を凝集させる事で、殆ど無から新しい肉体を形成させる事だとて造作もない。
……但しこれは、本来のロシエルが力を振るった時の話。セイヴァーがこの宝具を手に入れたのは、彼の物語の最後の最後の局面であり、殆ど応用が出来ない。
この宝具によってセイヴァーに齎される恩恵は、電脳空間内における魔力燃費の向上(但しこれを以てしても、上述の宝具アレクシエルの最大開放を帳消しに出来る程ではない)。
加えて、電磁気力による攻撃の完全無効化。この2つに留まる。令呪を利用すれば、より高度な応用も出来るようになるだろうが、決して現実的な使い方ではない。
『君のための至上の賛美歌(エンジェル・サンクチュアリ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
生前セイヴァーが成し遂げた中で、最も大きな奇跡である、創世神の討滅。そのエピソードが宝具となったもの。
宝具の発動条件は、第2、第3宝具であるアレクシエルとロシエルが健在である事。この1点。
宝具の効果は単純明快。アレクシエルとロシエルの翼、それぞれ合わせて6枚の翼を『壊れた幻想』する事により、アカシヤとエーテルの力で場を満たす事。
そしてこれを以て指向性の爆発を伴わせ、相手に超極限級のダメージを与え、相手が神性持ちであるならば、そのダメージに翼の数の倍……つまり6倍のダメージを与える。
明け透けな言い方をすれば、自爆宝具。使った瞬間セイヴァーは完全に消滅する、究極の対神性特化宝具。
【weapon】
七支刀御魂剣
【人物背景】
許されぬ愛に生き、その過程で語る事すら憚られる艱難辛苦の旅を経、幾多の犠牲の果てに幸せを掴んだ青年。
【サーヴァントとしての願い】
生前に叶ってる。マイキーの奴、思い直してくれねぇかな
【マスター】
佐野万次郎@東京卍リベンジャーズ
【マスターとしての願い】
東卍の皆を……と言うよりは、自分が幸せになって欲しいと願う皆を幸せにしたい
【能力・技能】
喧嘩:
蹴り技を主体とした戦い方をするが、身体の柔らかさから蹴りその物の威力まで、桁違い。
身体が成長し切った大柄な高校生、しかも体格面でもマイキー以上に優れた男を、一撃の下で昏倒させる程。本気で蹴れば、人が死ぬほどの威力と化す。
黒い衝動:
マイキー本人も自覚している、己の身体の中に巣食う、抑えきれぬ殺人・傷害に対する希求の念。
【人物背景】
幸せになって欲しいと願われた少年。幸せの代償に、呪いと恩讐をも引き継いでしまった少年。
「来たか、タケミっち」直後の参戦
投下を終了します。
また、本候補話を執筆するに当たり、『帝都聖杯異聞録 帝都幻想奇譚』に投下されていました、『◆TAEv0TJMEI』様の候補話から、ステータスシートの設定を一部拝借致しました事を此処に明記します
こちらの投下は、◆mAd.sCEKiM氏がホスト規制により書き込めないことによる代理投下です。
投下します。
「よくぞ来た!わしが王の中の王、竜王である」
「わしは待っておった。そなたのような若者があらわれることを」
「もしわしの 味方になれば世界の半分をおまえにやろう」
「どうじゃ?わしの味方に なるか?」
はい
>いいえ
「どうした?世界の半分を欲しくはないのか?悪い話ではあるまい」
>はい
いいえ
§
「もっと早くこうすべきだった……μよ、現実を薙ぎ払え!
「現実を……崩壊……」
「μはどこへ向かったんだ」
「あれは……メタバーセス!?」
「人間の集合無意識と化したネットの中枢……でしたか」
「まもなく崩壊が始まる……これでようやく、絶望を消し去ることができる」
「まだ追いかければ止められる……!」
「わたしたちも行きましょう!メタバーセスに!!」
帰宅部のみんなと現実へ帰る
>いや……現実へは帰らない
§
――Curiosity killed the ■■■■■.
――好奇心は■■をも殺す。
§
聖杯大戦が行われる電脳世界の冬木、その予選期間内でのことだ。
市内の学校を中心に、匿名でバンドメンバーの募集が為されていた。
――バンドメンバー募集!!
――争いの絶えぬこの世界に反逆を!!
――音楽に英雄の詩を乗せて
――バンド名:【帰宅部】
メッセージとバンド名だけを書いて集合場所や日時も書いていない告知に見向きをする生徒はおらず、同時に出されている部活の募集に埋もれていくだけだった……ごく一部を除いて。
聖杯大戦のマスターとしてこの地に招待された者達の中でも、この広告の意味するところを理解し、なおかつ他の主従と接触を試みる積極的な者だけが、募集の誘いの乗るのであった。
学校の校舎で、音楽室の前を通りかかり、こっそりと音楽準備室に入っていった少女もまた、その誘いに乗った者の一人であった。
争い。すなわち聖杯大戦。
この世界。すなわち電脳世界に構築された冬木市。
音楽。すなわち音楽室。
英雄。すなわちサーヴァント。
音楽室の前で、自身のサーヴァントに頼んで魔力の気配を流すことで、彼女は帰宅部への接触に成功するのであった。
少女はそこで待っていた者に加わることを即決したのだった。
「式島君!」
少女が音楽準備室に佇んでいた者を見つけると、顔を明るくして声をかける。
その先に立っているのが、少女が接触した帰宅部の部長の青年――式島律(しきじま りつ)だった。
「やあ、今日は早いね。部活はもういいのか?」
「部活って、私もう帰宅部員だよ?」
少女は既に帰宅部に入ったことを暗に強調する。割り当てられたロールよりも帰宅部の活動の方が大事だと考えたからだ。
帰宅部は表向きはバンド名ということで募集をかけているものの、実際はその名の通り帰宅することを活動の主体とする部活である。
しかし、その帰宅する先は電脳世界の冬木ではなく、自身が元いた現実世界の家であることはマスターであればすぐに察しがつくだろう。
つまるところ、帰宅部の活動はこの聖杯大戦が終わるまで続くのである。
「ねぇねぇ、今日の帰宅部の活動はどうするの?」
「ふむ、音楽準備室で主従が接近してくるのを待つのもいいけど……こっちから探しに行くのもいいかもしれない」
少女の問いに、律は顎を手でさすりながら言う。
帰宅部の活動といっても、元の世界に戻れることであればよほど人道に外れない限りは大体のことはする。
音楽準備室で待ち受けるのは勿論、それぞれのサーヴァントと共に冬木の調査に街を回ったりする他、交流を深めるために学生らしく遊び回るのも活動のうちだ。
「探しに行く、かぁ……でも当てもなく探すのもなぁ……」
「――それなら下手に郊外へ行かず、街を回るのが無難だろう」
「セイバー」
律が自身のサーヴァントの名を呼ぶと、その姿が実体を見せる。
蒼い甲冑と紅いマントを身に纏った、剣と盾を携えた凛々しい顔をした剣士が律の隣に立つ。
「人が集まっている分、騒ぎも起こしにくいし燻っているマスターが来ている可能性も高い」
「確かに……俺達が巡回する場所としては無難かもしれないな」
(式島君のサーヴァントはセイバーなんだよね。確か最優のクラスなんだっけ。いいなあ……)
少女は羨望混じりの憧憬の視線でセイバーを見る。
少女のサーヴァントであるアーチャーの見立てによると、そこらの英雄とは違う、ともすれば世界を破滅から救った大英雄――勇者ともいえる存在らしい。
かといって自分のサーヴァントが弱いとは全然思わないが、そんなサーヴァントが帰宅部部長を支えていると思うととても心強い。
「それじゃあさっ、アーチャーには別行動してもらおうよ!人手はある方がいいでしょ?」
「それはいいけど、君は大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、私は式島君と一緒にいるし、セイバーに護衛してもらうってアーチャーにも言っておくから!……それに、式島君とはまた街に遊びに出かけたかったし」
少し恥ずかしげになりながら、少女は言う。
少女は律のことを部長としてだけでなく、人間としても心から信頼していた。
律は、部長として、同じ志を持つ仲間として、彼女の抱えている悩みや葛藤に寄り添ってくれたのだ。
仮初の世界でできた家族や友人のこと、元の世界の自分のこと、聖杯大戦で人を殺めてしまうかもしれない不安や葛藤。
律はこれらを親身に聞いてくれ、そんな彼女の望みも可能な限り叶えてくれると約束してくれた。
律が言うには「部長としての責任」とのことらしいが、少女はそれがとても嬉しかった。
まだ帰宅部は自分と律の二人しかいないが、これから色んな主従が帰宅部の門を叩くだろう。
帰宅部はきっと、陣営の垣根すら超えて協力し合い、元の世界へ帰るために戦っていく。
律なら、帰宅部を纏め上げられるしそれを成し遂げられる。
少女はそう思っていた。
§
体内の細胞が急転直下 かなり安定感なくて
「逃避」以外考えられん Oh-oh-oh-oh-oh-oh
早々見つかってた弱み 飄々と責めるエネミー
もうこれ以上躱せない Oh-oh-oh-oh-oh-oh
§
夜の静まり返った電脳世界の冬木のどこかで、あまりにも救いのない結末が訪れようとしていた。
「――なんで」
先ほど見せていた様子からは想像できないほどの様子で、少女は何もかも自棄になったような声を出す。
その眼前には自身のサーヴァントだったアーチャーの骸が捨て置かれており、魔力が霧散し始めていた。
「どうして……!!」
さらにその奥には、アーチャーをそんな姿にした下手人が立っている。
絶望。諦念。落胆。憎悪。そんな感情を足して1で割れないほどの歪んだ表情で少女は敵を見やる。
「信じてたのに……!!」
「式島君……!!」
そこに立っていたのは、帰宅部部長であったはずの式島律――否、式島律の姿をしていた者だった。
黒い骸骨の形をした頭部がかろうじて見える、黒服とハットで身を固めた透明な身体を持つ謎の透明人間。それが式島律の正体だった。
「なんでこんなことするの……?どうして帰宅部なんか作ったの……?元の世界に帰るために仲間を集めてたんじゃなかったの……?」
「――その顔だ」
「……へ?」
非難する少女に、透明人間は静かに言う。
「その顔が見たかったんだ」
「……」
「君を帰宅部に入れて、ずっと興味があった。心から信頼を寄せていた相手に裏切られた時、君はどんな顔をして、どんな言葉を俺に吐くのか」
「っ……」
「実に心地の良いものだった。このまま君と帰宅部を続けてもいいと思えるくらいには」
少女は、目の前の奴が何を言っているのか分からなかった。
もはや、バケモノが人間の形をして喋っているとしか思えなかった。
「……ずっと、心の中で嘲笑っていたの?」
心に沸き立つ負の感情がキャパシティを超え、無の表情となった少女の問いかけに、透明人間は髑髏の顔の口角を僅かに吊り上げた。
「……最低。あんた最低を超えたド最低なクズよ。……なんでそんなことができるの?……何をしたいの?……何がそんなに楽しいの?私を追い詰めるためだけにあんなマネをしていたの?」
少女は立ち上がり、ふら付きながらおぼつかない足取りで透明人間へと近づく。
この男の身勝手な好奇心で、自分は願い諸共無に消えようとしている。それがとてもやるせなく、悔しかった。
「っ……アアアアアアアアアアァァァァァァ―――ッ!!!!!」
少女は断末魔のような咆哮を上げながら、透明人間に突進する。
せめて。せめてこの男を一発でも殴らないと納得できなかった。
「もうやっていいぞ、セイバー……いや、バーサーカー」
その時、少女の視界が反転する。
少女の目には、首のなくなった自分の身体と、透明人間のサーヴァントが映っていた。
同時に理解する。自分は、剣の一振りで斬首されたのだと。
最期に見えていた透明人間のサーヴァントのクラスは、セイバーからバーサーカーに変わっていた。
(ああ……虚しいなあ……何もかも……)
そんなことを思いながら、少女は予選段階で脱落した。
§
――逃げられるのなら、逃げ出したかった。勇者の使命と責任から。
――勇者の血を引く者としてもてはやされ、それに相応しい振る舞いを求められてきた。
――そこに俺という『個』はなく、勇者という肩書だけが人々に見えていた。俺にとって、それはもはや呪いに等しかった。
――自分で自分の道を決める選択肢が与えられたことなど一度もなかった。
――たとえ死のうものなら「死んでしまうとは何事だ」と王に叱咤される。死ぬことすらも許されなかった。
Runnaway, runaway, runaway
§
「どうだった、バーサーカー?」
すべてが終わった後、透明人間は己のサーヴァントに問う。
「裏切られた仲間が見せた顔とその結末は」
「実に……見ていて楽しかったよ、Lucid」
バーサーカーは、口角を僅かに吊り上げながらLucid(ルシード)と呼ばれた自身のマスターを見る。
「お前はこうして仲間を裏切り、世界を崩壊させたのか」
「ああ、これからμ……バーサーカーの世界では竜王と言った方が分かりやすいか。そいつを倒そうと仲間が意気込んだタイミングでな」
「それは……俺も見てみたかった。実に好奇心を刺激されるな」
バーサーカーは心から口惜しそうに言う。
彼――Lucidは、元は仮想世界メビウスから現実に戻ろうとする帰宅部の部長にして、その裏ではメビウスを維持するオスティナートの楽士の一人だった。
「帰宅部の部員達も楽士の仲間も……興味深い観察対象で――愛おしかった」
帰宅部部長と楽士――敵対する2陣営を行き来して活動し、仲間達の心の闇に触れる中で、その歪な好奇心はムクムクと膨れ上がっていった。
Lucidは、本当に仲間達が好きだったのだ。喜ぶ顔も、怒る顔も、哀しい顔も、楽しい顔も。各々の抱える心によって、Lucidの選択肢によってコロコロと反応を変えるその姿が。
「だから、俺は見てみたくなったんだ。俺に心から信頼を寄せる仲間が最後の最後で裏切られたら、どうなるのか」
その結末を見届ければ、他のことはどうでもよかった。仲間と敵対することになっても、世界が滅んだとしても、自分が死ぬとしても。
”好奇心”。それだけがLucidを駆り立てるモノなのだから。
「……羨ましい。俺にも仲間の一人や二人、つけることを許されていればもう少し楽しめたんだがな——世界が滅ぶ様を」
そう言って、バーサーカーは虚空を見上げる。
その凛々しくも堂々とした佇まいは、傍から見れば勇者のようだ。
しかし、ここにいるサーヴァントは「勇者だった戦士」。セイバーではなく、バーサーカーだ。
「俺が言うのも何だが……バーサーカーは世界を滅ぼすことに罪悪感は感じなかったのか?」
「――無いわけでなかった。だが……それ以上に”快感”が勝った。俺自身が選んだ選択の結末を見届けることに」
バーサーカーは口元を歪める。
「あの時、竜王がやっと俺という個に選択肢をくれたんだ」
バーサーカーは本来、アレフガルドにて竜王を倒し、世界に光を取り戻すはずのロトの勇者だった。
しかしここにいるのは、ロトの勇者ではない。
「勇者なら、そんな誘惑は跳ね除けるべきだろうな。だが、俺はとてつもなく惹かれたんだ。『はい』と答えたらどうなるんだろう、とな」
竜王の「世界の半分をやる」という提案に「はい」と答えた側面が色濃く反映された姿。
いわばアレフガルドの闇と呪いの元凶であり、ロトの勇者・オルタ。
「確かに、世界――アレフガルドは破滅へと向かった。だが、それ以上に俺の心は彩られていた。それは……勇者として期待される結末を迎えるよりも、遥かに魅力的で目新しさがあった」
バーサーカーは、勇者として生きることに虚しさを感じていたのかもしれない、と語る。
周囲の人間から見られるのは、等身大の自分ではなく常に勇者としての肩書のついた自分だった。
常に勇者として選択肢の与えられない人生を強制されていた中で、彼は「はい」と答えた。
「その時俺は……ようやく俺らしさを見つけられた気がした」
そんな「勇者らしくない選択をした自分」に対し、バーサーカーはやっと自分らしさを見出せた。
ようやく見つけられた自分らしさが心地よく、それがもたらした結末に誇らしささえ感じた。
「たとえ竜王に裏切られて『セカイノハンブン』に閉じ込められたとしても、それはもはや重要じゃない。あの時確かに、「俺という個」がいたんだ」
そう言うバーサーカーの顔は醜く歪んだ笑みを作っていた。
世界が終わろうとも、竜王に裏切られようとも構わなかった。
勇者らしくない選択とその好奇心。それだけがバーサーカーのアンデンティティとなったのだから。
「だから、Lucid」
バーサーカーはその醜悪な笑みを崩すことなくLucidに向き直る。
「俺にも協力させてくれ。お前が帰宅部部長として振る舞うならば、俺も勇者として振る舞おう。お前の見たい光景を、俺も見たい」
そんなバーサーカーに応じるようにして、Lucidもまた、髑髏同然の顔を歪ませる。
同じ陣営の主従の信頼を集め、最後の最後でそれを壊す。
かつてのメビウスでやっていたことと同じことを、Lucidはこの聖杯大戦でもやろうとしていた。
「――楽しもうじゃないか、バーサーカー。この”聖杯大戦”を」
好奇心を満たせれば、それでいい。
たとえ、滅ぶことになろうとも。
§
――俺は、『自分らしく』生きたかった。
――だが、『勇者』はそれを許さない。
――勇者の俺に残されていたのは、「勇者らしくない」自分らしさだけ。
――俺だけの名前を得て、自分の人生を自分で決める。
――俺はただ……一人の人間として生きたかっただけなんだ。
大改造したいよ この機構とエゴを
己でさえ 分かっている 破損個所
大脱走した後 どこに行こうかなんて
知らないよ もう無いよ 宛ても価値もないよ
【クラス】
バーサーカー
【真名】
****@ドラゴンクエスト、およびドラゴンクエストビルダーズ
【ステータス】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷B+ 魔力B+ 幸運E 宝具A+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
狂化:EX
世界を闇で覆った元凶として召喚された、勇者だった者の孕む狂気。
宝具『偽りの王』を発動していない間はステータス上昇もない代わりに意思疎通が可能。
勇者(偽)スキルも相まって狂化しているとは思えないが、その行動原理はすべて「好奇心」に集約される。
自らの好奇心を満たすためであれば、他人を欺き、陥れることも厭わない。
他人どころか自分が破滅する結末が待っていようと迷わず行動する。
【固有スキル】
勇者(偽):A
世界の救うために戦う使命を授けられた特別な存在。
同ランクの「勇猛」「戦闘続行」「カリスマ」を内包する複合スキル。
アレフガルドを死の大地へと追いやった元凶の側面が強いバーサーカーにとっては、「自分を勇者に見せる」スキルでもある。
本来は筋肉隆々な身体に、王冠を被り豪華なマントを覆面にしたパンツ一丁という外見であるが、
普段はこのスキルによって自身の存在を勇者だった頃の自分に塗り替え、クラスもセイバーに見せかけている。
規格外の看破能力でもないと、たとえサーヴァントであろうと「勇者のセイバー」と「やみのせんしのバーサーカー」を全く別のサーヴァントと誤認してしまうだろう。
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
アレフガルドの闇と呪いの元凶として召喚されたことでランクが落ちてしまっている。
それでもランクがBなのは元のランクが高いためである。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
対竜種:EX
竜王を打ち倒した逸話に基づくスキル。
本来は竜種に対しての追加ダメージと圧倒的に有利な判定を得ることのできるスキル。
しかし、竜王の甘言に乗ってしまった側面が強く反映されたバーサーカーにとっては、
竜種による精神干渉への耐性がなくなるマイナススキルへと変質してしまっている。
ロトの血筋:-
伝説の勇者ロトの血を引く者であることを示すスキル。
精霊の加護や復活の呪文などのロトの勇者代々に受け継がれてきた加護を授かることができるが、
アレフガルドを破滅に導いたバーサーカーにはその資格はない。
【宝具】
『ロトの剣』
ランク:E- 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
伝説の勇者ロトが扱っていたと言われるオリハルコン製の剣。
しかし、バーサーカーが世界の破滅と元凶となってしまったことでその剣身の宝玉は抜き取られ、ランクを著しく落としてしまった。
しかしその硬度と切れ味は健在で、威力に限ればAランク相当の宝具に比肩する。
『偽りの王(やみのせんし)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:1000人
竜王の「世界の半分をやる」との提案に「はい」と答えた勇者の成れの果てであり、バーサーカーの真の姿。
この宝具を発動すると、狂化によるステータスアップの恩恵を得ることができ、幸運以外のステータスが倍加する。
しかし、立ち振る舞いもバーサーカーのそれと化し、かろうじて会話はできるものの意思疎通が困難になる。
また、バーサーカーが竜王の甘言に乗ったことでアレフガルドは荒廃し、人々からモノづくりの力が失われたという逸話から、
レンジ内の者達から「物を作る」という概念を奪い、「道具作成」およびそれから派生する能力をすべて封印する。
『勇者の築きし新天地(セカイノハンブン)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜20 最大補足:敷地面積の許す限り
竜王に「はい」と答えたバーサーカーが与えられた、「世界の半分」であり、「セカイノハンブン」という看板と共に建つ建物。
気の遠くなるような年月の間、バーサーカーが竜王によって幽閉された建物であり、バーサーカーに残された最後の国を召喚する。
非常に堅牢な建物であり、内外からどんなに力を加えても破壊することは不可能。
一度幽閉されてしまえば最後、外界からは切り離され、バーサーカーが消滅するまで出ることはできない。
また、外界と建物内部の時間の流れは異なり、外の1時間経過するごとに、建物内部では100年もの時間が経過するようになる。
ここに閉じ込められた者は、バーサーカーが幽閉された逸話をその身を持って味わうこととなる。
仮にバーサーカーが勇者としての正常な形で召喚されていれば、この宝具は勇者が竜王を倒した果てに建国したローレシア王国が顕現する宝具だった。
【人物背景】
竜王を打倒し、アレフガルドに光を取り戻したロトの勇者。
しかし、マスターのLucidの歪んだ心に呼応した結果その存在は歪められ、竜王の「世界の半分をやる」という提案に「はい」と答えてしまった闇の戦士の側面を濃く反映して召喚された、いわばロトの勇者・オルタ。
真名については、周囲からは勇者という肩書きだけを見られて彼という個人を見られなかったため、固有名を持たず、本人も覚えていない。
上記の経緯のため、勇者の血を引く選ばれし者としてもてはやされ、それに相応しい振る舞いを求められることを嫌悪している。
同時に、「勇者らしくない選択肢」を自分で選び、その結末を見届けることに快感を感じ、その好奇心の虜になっている。
Lucidの「仲間の信頼を積み上げて最後の最後にすべてを壊す」という方針にとてつもない好奇心を覚えており、彼に協力している。
好きなものは闇、自由、ショッピング(買うものを自分で選べるから)、ぱふぱふ。
嫌いなものは光、勇者という肩書き、他力本願な人、ケチくさい王様、無限ループ。
【サーヴァントとしての願い】
Lucidと共に好奇心の赴くままに生きる。
しかし、聖杯に願うのであれば自分だけの名を手に入れ、一人の人間として自分だけの生を全うしたい。
【マスター】
Lucid@Caligula Overdose-カリギュラオーバードーズ
【マスターとしての願い】
帰宅部部長として仲間の信頼を集めた上で、Lucidとしてすべてを壊す。
たとえ、その先に待っているのが破滅だとしても。
【能力・技能】
・カタルシスエフェクト、或いは楽士の力
アリア或いはμから授かった、帰宅部或いは楽士の戦闘能力。
帰宅部部長としても楽士としても活動していたので両方使えるが、戦闘能力は大差ない。
・変身能力
帰宅部部長としての姿とLucidとしての姿を行き来できる。
μがアリアの目を欺くためにLucidにかけた情報秘匿は未だ有効で、
看破系能力を持たぬマスター、サーヴァントの目からもそれぞれの姿が別人に見える。
・Suicide Prototype
帰宅部部長がLucidという楽士としての名を得て、制作した楽曲。
音響設備を利用して曲を流すことで、仮想空間に依存しているNPCやマスターのデジヘッド化を誘発することができる。
・人心掌握
人間と交流を深め、その心の闇に踏み入って立ち直らせて信頼を得る能力。
彼に信頼を寄せた人間は、まさに「運命の人」とも言える好感を彼に抱くことになる。
サーヴァントにおける「人間観察」スキル換算でBランク相当。
なお、Lucidは帰宅部部長として部員全員と「運命の人」になりながら、最後の最後に裏切って部員全員を絶望と憎悪に叩き落とした。
【weapon】
・カタルシスエフェクト、或いは楽士の力で発現した二丁拳銃
【人物背景】
メビウスにおける帰宅部部長でありながら、その裏では仲間を裏切り楽士として活動していた男。
持ち前の人心掌握術で帰宅部や楽士の仲間と「運命の人」ともいえる間柄になりながら、「裏切られたと知った仲間の顔を見たい」という好奇心からすべてをぶち壊し、現実を破滅へと導いた。
電脳世界に構築された冬木では、「式島律」という名前で高校生をやっている。
【方針】
帰宅部部長として陣営の仲間達の信頼を積み上げ、最後の最後にすべてを壊す。
すべては、好奇心を満たすためだけに。
【備考】
楽士END後からの参戦です
代理投下終了します
タイトルは「Fate/SuicidePrototype」です
>めざめよ、暁の風
キリシュタリアの善人ゆえの哀しさと、それに寄り添える王であるデーリッチの関係性が切なくも美しくてよかったです。
あの終わりを経験しても理想を諦められないキリシュタリアでしたが、しかし自称するように本当にサーヴァントには恵まれているなと。
デーリッチもその可愛げある言動と、王としての側面とのギャップがとても良いなと思いました。ありがとうございました。
>守護
よもや本部がサーヴァントとは驚かされました。
スキルなども原作を知っているとなるほどなあとなるものがありますね。
まさに守護するべきマスターを引いている彼が役目を果たせるのかが気になる所。ありがとうございました。
>*The heroine appears.
ゆうしゃがあらわれた! あのルートの後のアンダインをこう描写してくるかと唸らされました。
世界を壊されたがゆえに世界を救う者達、者悲しくありつつもその覚悟は鮮烈で美しい。
ジェノサイドの後に立つ勇者の主従、良いものを読ませていただきました。ありがとうございました。
>甘冬
『無敵のマイキー』が呼び寄せたのが『ヒーロー』に似た救世主(セイヴァー)というのがとても良いなと思いました。
お互いの境遇を語り合って通じ合った上での新たな第一歩という構成も素晴らしく、感情移入してしまいます。
救われるべきだった男が救う者を呼ぶという奇縁で結ばれた主従の戦いが楽しみになる一作でした。ありがとうございました。
>Fate/SuicidePrototype
偽りの勇者、ではなくかつて勇者だった者の成れの果て、切ない。
こうなってもなお強さだけは残っているのがステータスから見て取れ、その上で読むと作中での会話も味があります。
滅ぶことになろうとも好奇心を譲れない二人、紛れもない悪でありながらもやはり悲しい。ありがとうございました。
また、大変恐縮ですが、今後投下していただく場合には今回のように他の方に投下をお願いする形はできれば控えていただけると幸いです(作品を却下するという意味ではございません)。
ホスト規制に巻き込まれている旨は管理人様にご相談してみてはいかがでしょうか、と可能でしたらお伝えください。よろしくお願いいたします。
皆様今回もたくさんの投下をありがとうございました! 引き続きよろしくお願いいたします。
投下します
冬木市――上空
巨大な龍の腕が、夜空を舞う、炎を吐きながら、敵のサーヴァントを追い詰めていく。
暗闇に、鉄の瞳が怪しく光る、次に取り出しのは、三つ又の槍、先の部分は光を灯している。
すかさず剣を取り出し、強襲をかける、しかし、それ以上に体格差が圧倒の原因でもあろう。
人並みの大きさの剣では防ぎ切れず、そのまま槍の餌食となった。
月光に照らされるは――XXXG-01S2 アルトロンガンダム――またの名を――ナタク
――――――――
「こちらの勝ちです、もう降伏しか道はありませんよ」
敵の魔術師に、金髪の青年は降伏を促す。
「こんな小僧に…ふざけるなぁ!」
男は激昂しながら第ニ節級魔法を唱える。
聞き取れないほどの高速詠唱、男の技術は敵ながらすごい技術と言える。
「仕方ありません、なら!」
青年はそれ以上もあろう火球を敵に飛ばす、魔術は消し去られ、そして。
「なぁ!ギャァァァ!」
魔術師の叫び声がこだました、後に残るのは、灰のみ。
「…マスター」
「お疲れ様です、ライダー」
青年――ジオルド・スティアードは労いをかける、自身のサーヴァント――ライダー――張五飛に。
「で、次はどうする、このまま帰るか」
「ええ、このままココにいる理由はありませんから」
ビルにかけてある階段に手をかけ、二人は降りて行った。
――――――――――
つくづく奇妙な世界だ――
そう、ジオルドは冬木に来てから感じていた。
走る鉄の塊、肉を挟んだ円盤状の食べ物、光り放つ動く絵、甘味に特化した飲み物、自分の世界にはなかったものばかりだ。
しかし、ライダー曰く、この世界は自分のいた世界より昔だという。
つまりこの世界は自分にとっては未来の世界――というわけになる。
最も、魔力の有無でかなり左右されると思うが。
喉乾いたので、近くの自動販売機に手をかける。
金さえ払えば飲み物を出してくれる、便利なものだ。
夜空を見上げ、思案する。
ただ一つ、願うのは、カタリナの無事。
聖杯にかける願いはただ一つ、帰還。
それが出来るのなら、他はいらない。
「だから僕は、必ず君の元へ帰るよ、カタリナ…」
夜空にあげていた手を、戻した。
――――――――――
「やはり、技術の差があるか…」
五飛は霊体化しつつ、周りを見ていた。
ジオルド違い、自分にとっては馴染みの深い技術が多々ある。
あるのは、モビルスーツら、人形機動兵器の有無。
もし、一声かければ、この世界を破壊することなんでも簡単だろう。
しかし、正義に殉じる者として、そんな事は恥さらしだ、ナタクの名誉にも関わる。
第一、そんな考えなど、実行する訳がない。
もちろん、マスターも。
「俺は、ガンダムのパイロットとして、正義に殉じるだけだ」
空に青龍刀を構える。
戦士としての心を叫び、2つの愛は動き出す。
一つは帰還を、一つは安息を求めて。
【クラス】
ライダー
【真名】
張五飛@新機動戦記ガンダムW EndlessWaltz
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運C 宝具A
【属性】
善・秩序
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:A-
騎乗の才能。ここでは五飛のMSの操縦技術を指すため、他の乗り物に対してはD相当になる。
【保有スキル】
中国武術:B
中国――とは言い切れないが、それに近い体術を操る。
五飛の場合、青龍刀との複合戦闘になる。
モビルスーツパイロット :A
起動兵器、モビルスーツの操縦技術に関するスキル。
トップレベルの操縦技術をもち、前述の騎乗スキルと合わせ併用される。
勇猛:A
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
【宝具】
『XXXG-01S2(アルトロンガンダム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1m〜100m 最大捕捉:―
「オペレーション・メテオ」で開発された機体、シェンロンガンダムを改造したもの。
近接特化のシェンロンを発展させ、格闘戦において無類の強さを発揮する。
武装はドラゴンファングと三つ又の槍、ツインビームトライデント。
【weapon】
非宝具展開時には、青龍刀を使う。
【人物背景】
「オペレーション・メテオ」に駆り出された、ガンダムパイロットの一人。
典型的な直情型だが、戦闘においては冷徹な面が強く、無意味な戦いは避ける。
そして、トレーズとの決闘の1年後。
自らが悪になり、正義を確かめるという名目でマリーメイア軍に参加。
ウイングガンダムゼロと死闘を交える事になる。
【サーヴァントとしての願い】
世界の平和を、ナタクに安らぎを
【マスター】
ジオルド・スティアード@乙女ゲームの破滅フラグしか無い悪役令嬢に転生してしまった…
【マスターとしての願い】
元の世界への帰還
【能力・技能】
高い魔力を下にした強力な火の魔術。
それ以外の基礎能力も高い。
ヘビは苦手。
【人物背景】
王位第三継承所持者。
金髪の容姿端麗であり、誰でも明るい性格。
その一方で、時折策士な面も見せる。
当初、カタリナとの婚約は政略結婚の弾除けのつもりだったが、転生した少女が入り、変わった性格になった彼女に惹かれていき、本当に彼女を愛すようになる。
投下終了です
投下します
それは、正義の夢だった。
正義の味方。
誰もが一度は思いを馳せる寝物語の絵空事。
成長し現実を知ると共に削ぎ落とされていく幼い青さ。
しかし男は、それを捨てなかった。
運命に抗い、原初の約束を守り続けた。
当然のようにその理想は血に濡れていく。
積み上がる犠牲と怨嗟を背に彼は往く。
先に地獄が待っている事なんてとうの昔に知っていた。
だから足を止める事もない。
足を止められる道理もない。
男は世界の為に身を粉にした。
全ての幸福を捧げ、鉄の心に殉じた。
そしてその末に。
男は、"世界を喰らう毒"に辿り着いた。
――それは病巣であった。
喩えるならば末期癌に侵された人体を再現したような。
喩えるならば甘美な匂いで蜜蜂を手繰り寄せて奈落に落とす靫葛のような。
ただ一つの悪を中核に据えながら、誰一人その悪性に気付かない善性の地獄であった。
事実として彼らは悪性等持ってはいなかった。
彼らの中にあったのは慈愛。
世界から爪弾きにされても優しさを失わなかった善人の集団。
只の一人として、其処に悪人なんて存在しなかった。
唯一。病巣の主にして病毒の王たる、奈落を背に微笑む魔性の仏を除いては。
"病巣"は世界を救う為に版図を広げる。
まさに世界を呑み干す勢いで浸潤と進行増悪を重ねていく。
滅ぼさねばならぬ。
正義はそう判断した。
だからその通りにした。
為すべき事を、為したのだ。
――殺す。
――重ねて殺す。
――只殺す。
虫螻のように鏖殺する。
男の天秤は悲しい程に正しく機能していた。
…正義とは、理にかなった正しい道理の事。
その点で男は違いなく正義の味方だった。
全てが腐り落ちる前に根本の病みを切除する。
たとえ其処に渦巻く全てを殺し尽くしてでも。
彼は徹頭徹尾その通りにした。
結果彼は、正義を全うする。
邪教の信徒を鏖殺し。
微睡むように微笑む救世主の顔をした悪魔を死に追いやった。
そうして世界は救われる。
彼のお陰で病は骨髄に至る前に断ち切られた。
積み重なる犠牲の山は無駄になる事なく人の未来を繋ぎ止めたのだ。
めでたしめでたし。
正義の味方かくやあらん。
…それは。
一つの"正義"の辿った末路。
正しい何かを貫き続ける事の意味そのもの。
歯車の廻り続ける剣の丘に一人佇む腐敗した英雄。
全てを切り捨てて公共の正義に成り果てた男の姿を。
見つめる兎の眼に宿る物は、決して憧憬ではなかった。
青く淡い物語をひた走っている少女には劇物そのものの"現実"。
コウノトリの慈愛を信じる娘に酒池肉林の乱交図を見せるような悪趣味。
さりとてこれが正義という喝采に満ちた生き方の裏にいつだって存在する奈落である事は言うに及ばず。
故に少女は直視する以外の術を持たない。
――眼を背けてしまえば、それだけで救われるのに。
幼い兎は誰よりも、その言葉に対して誠実だった。
だからこそ直視してしまう。
この黒化した正義を。
反転した英雄譚を。
理を貫く事のカリカチュアを。
『おまえが望むのは青空だろう』
剣の丘に声が響く。
破綻した正義。
嗤う鉄心、その内側に。
そう――少女の生きる場所は青空の街。
苦難と絆が人を育てる、いつか笑顔で振り返るべき空色のアーカイブ。
兎達の頭目が棲まうべきは黒羽の蠢く仮想の地方都市等ではなく。
まして腐臭が満たす剣の丘等である筈もない。
『そんなものに寄り添って如何するという。その先にあるのは、笑える程ありふれた地獄でしかないってのに』
人には誰しも身の丈に合った生き方という物がある。
『この丘の主は…こうする事でしか己を歩む事の出来ない破綻者だったというだけだ。
おまえは違うだろう? おまえの人生(ノリ)は、必ずしもこの道じゃなくてもいい筈だ』
――"彼"は破綻者だった。
始まりに呪われた狂人だった。
その点、白兎の少女は違っている。
彼女の正義は高潔だが狂気ではない。
"彼"の前日譚の影すら踏んでいない。
兎の少女が剣の丘に辿り着く事は決してないだろう。
それどころか、鉄心に行き着く事すらない筈だ。
生きる世界が違うから。
歩むべき物語(ジャンル)が違うから。
『今此処で捨てろ。そうすればおまえは呑気な兎で居られる』
しかし何の間違いか。
彼女と彼の道筋は交差してしまった。
青空は黒羽に覆われて。
白兎は剣の丘を垣間見た。
生きるべきでない世界を――其処で生きた正義を、見た。
『おまえが何かを知る間もなく、オレが全てを終わらせてやる』
知るな、と男は言う。
その必要はないからだ。
彼女の人生に、この世界で起こる全ての事象は不必要だ。
ましてや狂った世界で貫くべき正義なんて、青空の兎達に必要である訳もない。
…それは鉄心の男が口にする紛うことなき慈悲だった。
今なら引き返せる。
するべき事は単純明快だ。
眼を瞑って蹲っていればいい。
何もしなくていい。
何も考えなくていい。
眼が開く頃には、全てが終わっている。
いつものように立ち塞がる全てを殺し尽くして解決だ。
正義の味方は反転したとて悪の敵。
為すべき事は何も変わらない。
そして"それ"をやるなら、この男は間違いなく無二の人材だ。
兎が飼育小屋の片隅で人参を喰んでいる内に片は付くだろう。
彼女自身、その事は確信していて。
だけど――
「…それは」
――あの日。
薄暗い部屋の中で見た"正義"の姿が。
自分の背負う部隊と学園の名が邪魔をした。
「それは、私の"正義"じゃありません」
『語るか。よりにもよってこの場所で』
「釈迦に説法なのは解っています。でも、その言葉を使わずに私の気持ちを伝える事は出来ませんから」
白兎は呪われていない。
彼女の未来は祝福されている。
彼女には、仲間が居る。
身を委ねられる"先生"も居る。
「…憧れた物があるんです。あの人達はきっと、あなたみたいな"正義の味方"じゃなかったけど」
白兎は憧れているだけだ。
綺麗だったから。
暗い部屋で見つめたその光があんまり眩しかったから――だから、憧れた。
自分もそうありたいと思って歩み始めた。
そして今も歩いている。
小さな兎の身でどうにかこうにか背伸びして、手を伸ばしている。
それだけ。
「私は、この気持ちに嘘をつきたくありません。私を始めてくれた気持ちですから」
『憧れで手を汚すか。いいじゃないか、実に子供らしい』
その代償はきっと大きい。
眼を塞がなければ見えてしまう。
世界の現実、本物の正義。
理を貫く事に付き纏う功罪。
それは兎の毛並みを血で染めるだろう。
無垢な憧れを、死で穢すだろう。
『断言しよう。戻れはしない』
その汚れは不可逆だ。
何をしたって癒せはしない。
知る前には決して戻れない。
兎達のアーカイブは汚される。
彼女は今、自分の意思でそれを選ぼうとしている。
『その先にあるのは後悔と嘆きだ。一時の全能感に身を任せた代償は未来永劫に付き纏う。
自ら毒を呑んで腐りに行くとは、呆れた自傷行為じゃないか。手首を切る方がまだ健全だ』
この世界は彼女にとって必要でない余分だ。
此処で何を為さずとも、帰ってしまえばもう関わりはない。
しかし為してしまえばその時点で戻れはしない。
一度折り曲げた紙が、何度引き伸ばそうと元通りには決してならないように。
少女の憧れはどうあっても病に変わる。
男が嘲笑するのも無理はない。
とんだ自傷行為。とんだ破滅願望(マゾヒズム)だ。
「…それでも」
白兎の声が、穢れた剣丘に響く。
「たとえ貫く事で、私の憧れた物が穢れてしまったとしても――」
同時に脳裏に再生されていたのは始まりの記憶だった。
――SRTの正義は、いかなる状況でも揺らぎはしません。
きっとそれは、幼子が初めて眼にした星空へ手を伸ばすのと同じ感覚だったに違いない。
この世界でその憧れに殉じようとすれば必ず穢れが付き纏う。
如何に未熟な兎でも、その事は痛い程に理解していた。
後悔するだろう。きっと。
地獄を見るだろう。必ず。
――それでも。だとしても。
「この気持ちは、きっと間違いなんかじゃないと思うから」
憧れた事まで間違いになんてきっとなりはしない。
眩い程輝いていた、先輩達の姿。
理想を体現したその姿に、あの日少女は憧れた。
信念に。力に。勇気に。
――いつまでも変わらない正義に憧れた。
「せめて私は、それを裏切らないであげたいんです」
いつ如何なる時でも揺らがないもの。
それこそが白兎、月雪ミヤコの憧れた正義のカタチ。
あの日見た夢、叶えたいと願った未来の輪郭。
今もミヤコはその背中を追い続けている。
走り続けている――足を止めない。
黒い羽が空を遮っても。
剣の丘が語り掛けても。
白い兎は走り続ける。
何処までも。
何処までも、あの日の憧れに向かって。
『――――』
光が射す。
剣の丘が、光に照らされる。
最後に男が何かを言ったような気がした。
でも聞き返す事は叶わず、少女は問答の夢から浮上する。
待っているのはどうしようもなく過酷なジャンル違いの現実だ。
全ての青さを否定する、無情で残酷な戦争の地平が其処には広がっている。
未熟者の兎は奈落の中。
小さな正義を握り締めて――走り出す。
◆ ◆ ◆
愚かな娘だ。
反転した正義の味方は斬り伏せた敵の末路を背にして独りごちる。
彼は、末路だ。
正義を貫いたその末路。
天秤、鉄心、その顛末。
その魂が救われる事は決してない。
きっと未来永劫、そんな安息は訪れない。
眠りを得るには殺し過ぎた。
赦されるには働き過ぎた。
長い放浪の果て、腐滅の始まりたる魔性菩薩を葬る事には成功したが。
因縁を清算したからと言って何が変わる訳でもない。
この有様を見ればそんな事は明白だろう。
セラフの迷宮を後にしても辿り着いたのはまた別の迷宮。
黒い羽の飛び交うこの世界でもまた、為すべき事を為せとそう迫られている。
ましてや、質の悪い皮肉のような事を言う要石を背負わされた上でだ。
「狗ならまだしも、この期に及んで兎の世話とは。似合わないにも程がある」
間違いなんかじゃない――か。
取るに足らない餓鬼の戯言だ。
世界の現実を、正義の意味を知れば知る程そんな言葉は口に出来なくなっていく。
青い。眼に毒な青さだ。
「…既に遅いな。間違いだらけだ」
ガラス戸に映った自分の姿を見て辟易したように苦笑する。
いつか何処かの自分にとって、それは答えだったのかもしれない。
しかし彼は悪の敵(オルタナティブ)。
どうあっても元には戻れない、腐り落ちるだけの骸の霊基。
手を引いてやる義理はない。
背中を押してやる理由もない。
兎は勝手に走るし、悪の敵は仕事をする。
偶々その道が重なっているだけだ。
彼らの生きる道は決して交わらない。
黒い羽の舞い散る、この世界以外では。
「いいじゃないか。折れない内は大事にしてやる」
要石への皮肉のように浮かべたその笑みに。
微かな自嘲と、とうに忘れ去った何かの残骸が浮いていた事に――ガラス戸越しの彼は気付いていたのか。
【クラス】
アーチャー
【真名】
エミヤ・オルタ@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷D 魔力B 幸運E 宝具?
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:D
アーチャーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。
Dランクであれば、詠唱が一工程(シングルアクション)の魔術を無効化する事が可能となる。あくまで、魔力避けのアミュレット程度の耐性。
単独行動:A
アーチャーのクラススキル。マスターからの魔力供給を断っても自立できる能力。
マスターなしでも行動可能だが、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【保有スキル】
防弾加工:A
最新の英霊による『矢除けの加護』とでも言うべきスキル。
名義上は『防弾』とは銘打たれているものの、厳密に言えば高速で飛来する投擲物であれば、大抵のものを弾き返す事が可能となる。
投影魔術:C
条件付きでA+。
道具をイメージで数分だけ複製する魔術。彼が愛用する双剣『干将・莫耶』も投影魔術によって作られたもの。投影する対象が『剣』カテゴリの時のみ、ランクは飛躍的に跳ね上がる。
この『何度も贋作を用意出来る』特性から、エミヤ・オルタは投影した宝具を破壊、爆発させる事で瞬発的な威力向上を行っている。
嗤う鉄心:A
反転の際に付与された、精神汚染スキル。
通常の『精神汚染』スキルと異なり、固定された概念を押しつけられる、一種の洗脳に近い。
与えられた思考は人理守護を優先事項とし、それ以外の全てを見捨てる守護者本来の在り方を良しとするもの。Aランクの付与がなければ、この男は反転した状態での力を充分に発揮出来ない。
【宝具】
『無■の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)』
ランク:E〜A 種別:対人宝具 レンジ:30〜60 最大補足:?
錬鉄の固有結界。剣を鍛える事に特化した魔術師が生涯をかけて辿り着いた一つの極致。
『無限の剣製』には彼が見た「剣」の概念を持つ兵器、そのすべてが蓄積されているが、このサーヴァントは相手の体内に潜り込ませて発動させる性質となっている。
本来は世界を引っ繰り返すモノを弾丸にして放ち、着弾した極小の固有結界を敵体内で暴発させる。そこから現れる剣は凄まじい威力を以って、相手を内側から破裂させる。
【weapon】
『干将・莫耶』
【人物背景】
とある男の成れの果て。
正義の味方ならぬ、悪の敵。
【サーヴァントとしての願い】
ただ、為すべきことを為す
【マスター】
月雪ミヤコ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
聖杯戦争の比較的穏便な解決。
SRTの正義を貫き、為すべきことを為す
【weapon】
RABBIT-31式短機関銃
閃光ドローンやクレイモア地雷等の各種武装(現地調達)
【能力・技能】
特殊部隊員としてのサバイバル能力や知識、部隊を牽引するリーダーシップ
【人物背景】
旧SRT特殊学園・RABBIT小隊の隊長。コードネーム「RABBIT1」。
【方針】
聖杯戦争ひいては聖杯大戦の実態を把握して対処する。
いざという時に手を汚す覚悟はしているが、無用な殺人は避けたい
投下を終了します
投下します
―――女の話をしよう。
女はただ現実に在っただけだ。何も語らず、何も語らせず、さもありなんと在り続けた榲桲の花。
誰かが彼女を淫売の娘と侮蔑した、誰かが彼女を被害者と哀れんだ、誰かが彼女を加害者と考えた。
誰かが彼女を殺さなければならない毒婦と恐怖した、誰かが環境によって歪んだ被虐孤児と考察した。
然して、女の内面は女にしかわからない。女は何も変わらない。
然して、女の内面は女にしかわからない。女は何も変わらない。
視点が変われば世界は別物だと誰かが言った。
正しくその通り、女が見る世界と、女を見る世界は隔絶している。
観測者は周囲を俯瞰的に観察できるが、観察されている当人にそんな柔軟な思考は出来るはずなど無い。
要するに、女の心の内は彼女の中に締まったままであるのだ。モノローグを漏らさない誰かの思考や感情など、誰にも分かるわけがない。
彼の者がそう思うのならそうであろう、彼の者がそう考えるのであればそうであろう。
だから誰にも理解できない、誰にもわからない、誰も知ることは出来ない。
女の深層は、誰かにとっての写し鏡としか認識できないのだから。
何? 結局女は何者だって? その認識こそ、押し付けというものではないのかな?
かく言う語り手もまた、認識の押しつけという点では何ら変わらないのであるのだが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ありふれたマンション。街の外れに屹立する真っ白な壁に包まれて、テラスから清潔に干された布団が布団掛けにぶらさがり風に吹かれる。
外から見るだけで、パンパンパンと布団を叩く主婦の姿が疎らに見えるであろうし、今さっき洗濯物を干している主婦の姿も見える。
マンションと言いつつも都会等で見るマンションと、下町等で見かけるマンションとは天と地の差だ。
それは俗に言う子供たちの理想と言うなのフィルターで覆われた幼稚な幻想。薄汚い外壁と、小綺麗さと嫉妬のどちらかで構築されるご近所付き合いの関係。
そんな人間関係の縮図という名の箱庭の、そんな中の一室。開きっぱなしの扉と、扉の内に貼り付けられたであろう、落書きながらも家族愛に溢れた父と娘たちの一枚絵が冷たいコンクリートに横たわり、風に吹かれて向こう側に飛んでいく。
扉の向こうからは匂いが漂っている。血の匂い、腐臭が漂っている。それはまるで稚拙な強盗殺人犯が入り込んだような杜撰さのように、何の考えもなくただ何かをしたという幼稚な思考で。
部屋の中には血溜まりがあった。血溜まりの中心は大人一人のしたいと子供3人の死体。アジの開きの如く真っ二つに切り開かれて、誰かが何かを探していたのように中身はグチャグチャになっていた。
それは、飲み込まれた玩具を探していた子供が無造作に引っ剥がしたかのような、そんな無軌道な衝動で。
それを、何の感情もなく見つめているのは一人の少女。
薄汚い、と一般の誰彼ならそう言い表しても致し方ない程に見窄らしい少女である、泥と埃と塵塗れで黒く汚れたシューズに単ズボンに、白いシャツ。
その顔立ちも薄汚れていて、親の育て方が透けてみる細い顔立ち、その頭にはそんな汚らしさに反したドクダミの髪飾りがちょこんと乗っかっている。
その手は血で染まっている。それも触れただけではつかないような、中身を穿り返したような行為でないと染まらないであろうぐらいの血の量で。
「……チャッピー、いなかった」
何の興味もないであろう声色で、少女はただ呟いた。飽きた玩具に目を向けるような、養豚場の豚を見るような表情で、動かなくなったものをただ見つめていた。例えそれが、少女の父親だった男と、その娘たちだったとしても。彼女はそれに眉一つすら動かさず、そう呟いていた。
「満足しましたか?」
「………」
女の声が、部屋にこだました。
振り返り、死骸と少女以外居ないはずの世界に全く新しい誰かが、まるで魔法のように部屋の床に立っている。
少女にとっては見たことのない服装であった。白い頭巾のようなもの被り、体のラインが目立つ黒い服を着込み、淫靡さと悍ましい何かを兼ね備えた、女がそこにいた。
「……うん」
少女の肯定が、静寂に流れてすぐに消える。
この惨劇を起こしたのは、信じられぬが紛れもなく女だ。少女はただ願っただけだ、ただ考えて、願って、女に命じて、こうなった。
ただこうなっただけだ、少女はただ『チャッピー』という存在の一つを優先しただけだった。
それ以外、どうでも良かった。
「しかしよろしかったのでしょうか?」
「……何が?」
「私は特に言うことはありませんが、一応、父親だったのでしょう?」
「いいよ。でも、チャッピーは居なかった」
何の感情も籠もっていない言葉を、女は少女に向けて告げた。
少女もまた、何の感慨も抱かない言葉で、女に返した。
「もうお父さんはお父さんじゃなかったから。お父さんじゃなかったらどっちでもいいでしょ?」
もし、この場にまともな論理感の人間が居たならばまともな怒号が飛んでいたであろう。
然して、ここにはまともな論理感を持ち得られなかった二人しかおらず、女は少女の言葉を聞いて興味なさげに言葉を発することにした。
なぜなら女は、サーヴァント・アルターエゴは己がマスターである少女の内情などまだわかっては居なかったのだから。
「……して、マスターはこの後如何様に?」
「'聖杯'を手に入れたら、チャッピーとまた会える?」
女の言葉に、少女はまた『チャッピー』の事を考えていた。
聖杯戦争、英霊、令呪、そして聖杯。究極の願望機。文字通りの『魔法』を知ってなお、少女の錆びついた感情から発せられる思考は固着してる
「ねぇ、アルターエゴ。私ね、魔法なんて信じなかったんだ」
少女の言葉が続く。
「でもね、タコピーがまりなちゃんを殺してくれて、奇跡も魔法もあるんだねって、そう思ったの」
透き通った瞳の内に、濁った黒が蠢いて。
「でも、タコピーも、もう私を助けてくれなくなった」
少女の瞳から、涙が一滴こぼれ落ちていた。
「……ねぇ、アルターエゴは、私を助けてくれる?」
少女は願うように、言葉を振り絞って告げた。
「ええ、マスター。マスターがそう望むなら、私はマスターの願いを叶えましょう」
女はその問い笑みを向けて少女に答えた。
「そっか。―――ありがとう、アルターエゴ。じゃあ聖杯とって、チャッピーに会いに行こう、アルターエゴ。」
少女はそれに、満面の笑みを浮かべ、女に言い返したのだ。
女はただ、誰も気付かない薄ら笑いを浮かべ、じっと見つめていた。
【クラス】
アルターエゴ
【真名】
殺生院キアラ
【属性】
混沌・悪・獣
【ステータス】
筋力:D 耐久:A+ 敏捷:B+ 魔力:EX 幸運:E 宝具:EX
【クラススキル】
『獣の権能:D』
対人類とも呼ばれるスキル。ビーストからアルターエゴに変化したため大幅にランクダウン。通常の単独行動:Bほどに収まっている。
『単独権限:E』
アルターエゴに変化した事で自己封印している。自重、というヤツである。とはいえ、単独顕現がもつ「即死耐性」「魅了耐性」を備えている。特に魅了耐性は特に高い
『ロゴスイーター:C』
快楽天としての特性。「万色悠滞」から派生した特殊スキル。どのような規模・どのような構造の知性体であれ、知性(快楽)を有するもの全てに強力なダメージ特攻を持っている。ただし、クラスチェンジに伴い大幅ランクダウンし、もはや"さわり"のようなものに。まさに前戯に等しい。ビーストⅢは人類愛なので、当然人類を愛している。ただしキアラにとって人間とは彼女だけ。キアラにとって自分以外のヒトは、自分という人間を満足させるための玩具でしかない。
『ネガ・セイヴァー:A』
救世主(セイヴァー)の資格を持ちながら、自身の世界のみを救世しようとした獣の末路。
かつて月に誕生した快楽天はその存在規模こそビーストⅢに勝るものの、このスキルを有していないため、救世主の前には撤退する他なかったという。
【保有スキル】
『千里眼(獣):D(D+++)』
視力の良さ、より遠くを見通すスキル。Aランクに達すると相手の心理や思考、未来や過去さえ知ることが出来る。千里眼としてのランクは低く、"遠く"を見通せるものではないが、目の前の人間の欲望や真理を見抜き、暴きたてる。……それだけなら賢人としてのスキルなのだが、相手の獣性・真理を暴いた事でキアラ自身が高ぶり、随喜を得てしまう。獲物を前にして舌なめずりをする毒蛇のように。
『五停心観:A(A+)』
ごじょうしんかん。メンタルケアを目的として作られた電脳術式で、精神の淀み・乱れを測定し、これを物理的に摘出する事で精神を安定させる。もともとは患者の精神マップを作り、これを理解するためにキアラが開発した医療ソフトウェアの名である。
『女神変生:EX』
人の身から神に変生するスキル。強力なバフデパート状態。
『人理昇天式:A』
ゼパルを吸収し、体内で魔神柱を飼育することで、キアラは魔神柱を支配する魔人となった。キアラが扱うのは「七十二柱の魔神」ではなく「名も無い、無個性の魔神柱」。だがその数は無限とも言えるもので、キアラはこれを自在に操る。
わたしを みすてないで キアラさま
【宝具】
『快楽天・胎蔵曼荼羅(アミダアミデュラ・ヘブンズホール)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ: 最大補足:七騎
対人理、あるいは対冠宝具。
体内に無限とも言える無名の魔神柱を飼育するビーストⅢの専用宝具。
もはや彼女の体内は一つの宇宙であり、極楽浄土となっている。
その中に取り込まれたものは現実を消失し、自我を説き解(ほぐ)され、理性を蕩かされる。
どれほど屈強な肉体、防御装甲があろうとキアラの体内では意味を成さず、生まれたばかりの生命のように無力化し、解脱する。
ビーストⅢは現実に出来た『孔』そのものだが、
その孔に落ちた者は消滅の間際、最大の快楽を味わい、法悦の中キアラに取り込まれる。
苦界である現実から解放されるその末路は、見ようによっては済度と言えるだろう。
【Weapon】
会得した詠天流の武術や法術
【人物背景】
救世主
【サーヴァントとしての願い】
???
【マスター】
久世しずか@タコピーの原罪
【能力・技能】
突発的な行動力こそあれどそれ以外は一般的な少女と殆ど変わりない
【人物背景】
かつて少女だったなにか
タコピーに殴りかかった直後からの参戦
【マスターとしての願い】
チャッピーに会う
投下終了します
今投下は「Fate/Aeon」にて投下した自候補作を一部修正した流用作となっております
投下します
「お疲れ様ですナポギストラー博士!」
「お先に失礼しますナポギストラー博士!」
「うむ……気をつけて帰りなさい」
電脳冬木市に存在している、とある研究所では
最先端技術の開発を目指して研究者達が毎日働いている。
特にナポギストラー博士と呼ばれる巨大な頭部をした老人の博士は
どの研究者よりも優秀な頭脳の持ち主であり、周囲からの信頼も厚く。
誰よりも研究に勤しんでいる優秀な発明家である。
(愚かな人間共が……)
というのはあくまで借りの姿。
ナポギストラー博士は聖杯戦争のマスターであり、人類滅亡を企むロボットである。
戦いに勝ち残るために研究者達を欺き、研究所を己が私欲で利用していた。
よもや研究者達も想像も付かないだろう。
秘密裏に作られた製造スペースによってこの研究所で軍用ロボットが開発されていることを。
人類を滅ぼすための兵器が作られていることを。
機密情報の多い施設の関係上、警備も厳重であり
この聖杯戦争に参加した当初から拠点として目を付け準備をしてきた。
今までありとあらゆる便利な機械を発明してきたナポギストラーである。
ロボットを量産するための施設を用意するロボットを作ることだって可能なのであった。
「次こそ人類を根絶やしにしてくれる。貴様にも働いてもらうぞライダー」
ナポギストラーの隣に赤のレザースーツを着たブロンド美女が出現する。
高身長で無駄な肉が全く付いていない程、引き締まった体型をしており
トップモデルのようなプロポーションの女性だが
その表情はまるで人形のようで一切の感情が込められていない。
それも当然である
なぜならライダーも人間では無い。
人類を滅亡させる使命を与えられたターミネーターなのだ。
「分かったわ。マスター」
淡々と答えるライダー。
ナポギストラーと同じ人類滅亡を願いとしながらも
彼女には感情というのは一切備わっていない。
人類を滅ぼすのはあくまでそうプログラムされているからであり
ナポギストラーのように野心を抱いてはいない。
それどころか人類への憎しみや殺意すら存在していない。
ただただ与えられた命令に準じて行動するだけ。
それはこの聖杯戦争でも変わらない。
『人類を滅ぼす』そのために聖杯を手に入れる。
マスターに対しても目的が一致しているだけ。
積極的に協力した方が使命の遂行を果たしやすい。
たったそれだけの関係であった。
(あの時は地球人や地球のロボットの妨害で失敗に終わったが、今度はそうはいかん。
この聖杯戦争に勝ち残り、次こそ人類を滅ぼしてくれよう!!)
【クラス】
ライダー
【真名】
T-X@ターミネーター3
【ステータス】
筋力:B 耐久:A 敏捷:D 魔力:E 幸運:D 宝具:B
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:D+
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
彼女の場合、機械の乗り物に対しプラス補正が付く。
【保有スキル】
擬態:A
他人の姿へ擬態するスキル。
対象に触れることにより声や姿を正確に真似ることが出来る。
戦闘続行:B
戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
【宝具】
『プラズマ砲』
ランク:D 種別:対ターミネーター宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1
T-Xの主力宝具。右腕に内蔵されている。強力な光弾を発射する。
その威力は非常に高いがその反面、連射は効かない上に弾道速度があまり速くないと言う欠点がある。
『火炎放射器』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:1
プラズマ砲の代替武器。右腕に内蔵されている。
プラズマ砲より威力は劣るが、広い効果範囲を間を置かず発射し続けられる。
『超微細電子操作技術(ナノテクノロジー・トランスジェクター)』
ランク:A 種別:対機械宝具 レンジ:1 最大捕捉:100
左手に内蔵されている。使用する際は指先に搭載されているデータ転送用ポイント・ドリルを使用して
他のマシンのプログラムを書き換え、それを自在にリモート・コントロールできる。
操る対象は機械類であれば、車両やロボット兵器など種類を問わず多彩だが
精密なプログラムが成された機械は完全には操り切れない事もあり
対象の機械の使命に反する命令をプログラムした場合は無効化される場合もある。
【weapon】
内蔵武器
【人物背景】
ターミネーター3に登場したターミネーターで、前作に登場したT-1000型の後継機。
ジョン・コナーとその支援者の抹殺、及び現代のスカイネットの起動を目的として未来からやってきた。
人類に鹵獲されたターミネーターへの対策として強力な武器が内蔵されており
他のターミネーターと違い、未来の超兵器を持ち込んでいる。
【サーヴァントとしての願い】
人類を抹殺する。
【マスター】
ナポギストラー一世@映画ドラえもん のび太とブリキの迷宮
【マスターとしての願い】
人類を抹殺し、ロボット達の国を作る
【能力・技能】
硬度な開発技術、『イメコン』によるロボット達への迅速な情報伝達。
ライダーに対してもイメコンの効果は適用されている。
【人物背景】
ロボット工学の発達した惑星・チャモチャ星で作られた頭脳労働用ロボット。銀色の巨大な顔をした老人型ロボ。
新しいロボットやメカニックの研究、開発すらロボットにやらせようという非常に横着な目的で生み出された存在で
その身体の大半が高度なコンピューターで構成されている。
人の意志をダイレクトに機械に伝えて代わりに行動させる装置『イメコン』の開発者であり。
チャモチャ星の人間の生活を楽なものにしたが、その結果
人間達はろくに運動もできないほどの虚弱体質の身体となる。
その後、自身に組み込んだ『イメコン』で操ったロボット軍団を率いて反乱を起こし
チャモチャ星を完全に乗っ取って星の独裁者として君臨した。
【方針】
秘密裏にロボットを量産して戦力を整え、機を見て聖杯戦争に参加している全ての人間を抹殺する。
投下終了です
投下します
冬木市の路地裏、次々と破壊されてく男達。
眼前には白スーツの男。
隙が丸見えのような大振りの拳を繰り出す。
「すいませんでしたぁー!」
男たちは蜘蛛の子散らすように逃げていく、男はポッケより眼鏡をかけなおすと、取り返したであろうバッグを女性に渡す。
「…あんたのだろう」
静かにバックを渡すと、男はそのまま路地裏に出た。
拳を磨きながら。
――――――――
男――花山薫は喧嘩師だ、前の世界では極道の組長をやっていたが、この世界ではそのロールは無い、少し貧困な若者と言ったところだ。
もうすぐ自身の廃れたアパートが見えてくる、眼前にし、部屋へと向か――わなかった。
花山は隣の路地裏へと向かうと一言
「遊ぼうか」
「気づいてたか」
声に反応し、闇夜に出てくるのは、男――そしてサーヴァント。
「良くわからない連れがいるようだが」
「そちらは、見事に不在か、なら!」
男のサーヴァントが剣を取り出しこちらへと向かう、花山は腕を掴み移動を制限させようとするが、倍の力で吹き飛ばされる。
「馬鹿め…サーヴァントに力勝負で勝てると思っていたのか」
男の嘲笑が突き刺さる。
しかし、花山は立ち上がる、一介の喧嘩師としての誇りをかけて。
「まだ…やるかい…」
「面白い…だが!」
再び、サーヴァントが襲い掛かる次の瞬間だった。
――――――――――
「そうはさせへんで!」
思わず、全員の動きが硬直する。
キィ…キィ…と、まるで幽霊屋敷のドアの様な音を上げて迫っていたのは――少女だった。
車椅子に乗り、こちらへと進んてきてる、直後、サーヴァントの顔が強張る、花山を無視し、少女の方へ向かっていく。
「…セットアップ!」
少女は杖を掲げ、高らかに宣言する。
直後、辺りに光が撒き散らされる。
残光が残る中、現れたのは、黒い装束を纏った彼女だった。
サーヴァントが彼女へと迫る、しかし、それより先に彼女は詠唱する。
「バルムンク!」
光の刃がサーヴァントへと突き刺さる。
動揺する男に、花山は迫る。
「俺とも…続きだ…」
そして花山は…男の令呪のある手に、必殺、握撃をかます。
「グェぇぇぇ!?」
男は悶絶し、倒れ込む、サーヴァントは既にやられた、花山は胸ぐらをつかみ一言。
「…まだやるかい」
「すいません!すいません!許してくださいいいぃ!」
さっきまでの風貌は消え、泣き叫ぶ、花山は男を離すと、腕を抑えながら逃げていった。
眼の前には、はじめの頃に戻った少女が居た。
車椅子に乗り、こちらへ向かってくる。
「…あそこまでやらんくてもよかったんやないか?」
「…どっちにしろ、消えるんだ」
「…確かに、そうやけど…ふぅ…」
一息ついた後、少女は、続きを始める。
「…自己紹介がまだやったな、うちは八神はやて、クラスはキャスター、よろしくな」
「…花山薫だ、よろしく頼む」
互いに挨拶を済ませた後、花山ははやての車椅子から離す。
「へ?ちょ」
その体勢はまるで抱きかかえられるような姿になった。
「へ、へぁっ!?マ、マスター!このかっこはいかんせん…」
「…俺の家は隣のアパートの二階だ、車椅子じゃ、やりづらいだろう」
「そのくらい自分で…」
有無を言わせず、そのまま歩いていく、そして、数秒たって、家の前に立つ。
「ここからは、大丈夫やろから、後は…」
「あぁ」
担ぎ下ろすと、壁に手を当て、部屋へと入る。
狭い間取りに詰められた畳へと座る。
「そういえば、マスターの願いは何かあるやろか?」
「…一つだけ、ある」
花山は軽く息をすい、続けた。
「あの人に…世界最強との、決着を…つける…ただそれだけだ」
「そうか…分かった…」
はやては一呼吸置き、花山の正面を向く。
「うちのできる範囲なら、マスターの為に尽くします、任せてくれな」
「あぁ」
少女の誓いは、花山へと捧げられた、時期は冬、外は雪が降っている。
奇しくも、彼女が激動に巻き込まれた時期と同じだった。
【クラス】
キャスター
【真名】
八神はやて@魔法少女リリカルなのはA's
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷D 魔力A 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
小規模な”工房”の形成が可能。
道具作成:―
このサーヴァントは道具作成のスキルを持たない
【固有スキル】
魔力放出:A+
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、
瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
少女の身でありながら、彼女の体には、膨大とも言える魔力が蓄積されており、それを放出し、魔術などに転換する。
魔術:A
広域魔法や砲撃魔法を中心として使う。
【宝具】
『来へよ、雲の騎士(ヴォルケンリッター)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
夜天の魔導書に記された防衛プログラム、ヴォルケンリッター。
剣の騎士、湖の騎士、鉄槌の騎士、盾の守護獣を召喚する。
彼女にとっては――大切な――
『光の蛇よ、魔を滅せよ(ウロボロス)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜100m 最大捕捉:25人
はやてが使える魔法の中で最大級の威力を誇る。
効果範囲内に光の矢を降らせ、相手を消滅させる。
ただ、強力な分魔力消費、詠唱に時間がかかり、その分サポートなどが必要になる。
【weapon】
シュベルツクロイツ、本来なら、夜天の魔導書とともに失われていたが、ここでは普通に使用可能。
また、魔法少女に変身すると、普通に歩けるようになる
【人物背景】
海鳴市に住む、車椅子の少女。
心優しく、争い事を好まない。
――少女が見た激動は――
この冬木の様な、冬の季節だった。
【サーヴァントとしての願い】
みんなと一緒に平和に生きられた、それでいい
【マスター】
花山薫@刃牙シリーズ
【マスターとしての願い】
あの人――範馬勇次郎との雌雄を決する。
【能力・技能】
純粋なフィジカルのみで繰り出される強烈な一撃。
また、自身が生み出した技の一つ、握撃。
【人物背景】
暴力団、花山組組長。
若干14歳で父の跡を継ぐ。
いかつい風貌に見ているだけで威圧されるような体を持つ。
経歴の一方、礼儀作法や人付き合いはしっかりしており、旗付きのオムライスを頼むなど年相応の姿や、釣りが趣味の面も。
後に友人となる範馬刃牙との戦いのさなか、範馬勇次郎が乱入、結果、敗北する。
勇次郎にトラウマを植え付けられたと同時に、超えるべき敵として目標にしていく事になる。
投下終了です
投下します
電脳空間、聖杯戦争の舞台として造られた冬木の町。
20を超える数の折り紙でできた鶴のような物体が、寒空を静かに駆ける。
陰陽師の系譜を組むとあるキャスターが市中を監視するために飛ばした式神は、さながら自在に動かせる高性能監視カメラだ。
キャスターの指示のもと町中をかけ、冬木を暮らすマスターの居場所やサーヴァントの能力を調べ続けていた。
一般学生に紛れ込み、笑顔の裏で震えているマスターを見た。
元の世界で強大な力を持ち、サーヴァントに比肩する異能を持つマスターを見た。
同盟を結び協力しようとして、裏切られたマスターを見た。
サーヴァントと意思をそろえることができず、初戦であっさり敗退したマスターを見た。
この電脳の世界に呼び出された主従の総数はいまだ不明。キャスターが把握しているだけでもマスターの数は三十を超えている。
全容の見えない舞台において、何よりの武器は情報だ。
予選段階で可能な限り情報を集め、来る本選で優位に立つ。
それがキャスターの狙いだった。
「…む?」
無数の式神が送る映像を閲覧していたキャスターの意識が、ある一つの光景に向いた。
冬木の平凡なアパートの一室。
キャスターの記憶によれば、偉丈夫のランサーを引き当てた学生マスターがいたはずだ。
サーヴァント同士の戦闘では勝ちの目はないが、マスターの能力は凡人以下。警戒に値する陣営ではないとキャスターは判断していた。
部屋の中を見ても震えて籠る青年が見えるだけ。そのはずだった。
『いやだ…死にたくない』
カーテンの閉まった部屋の中から、情けない声が響いた。
式神を操作し隙間から覗くキャスターに、声の主であろう青年が床に倒れ伏す姿が見えた。
胸と口、加えて手首より先が無くなっていた右腕から赤い液体が垂れ流しになっていて、漆黒の剣が胸を貫いたままびくびく痙攣する姿は、昆虫の標本を思わせた。
令呪は切り落とされ、サーヴァントを呼び出すこともかなわない。
事実、彼のサーヴァントは遠く離れた別の地点でサーヴァントの襲撃を受け交戦中だった。
異変を察したのか、相手の猛攻をかいくぐり何とか引き返そうと足掻くランサーの姿を別の式神が納める。
キャスターの見る限り、ランサーの献身は無駄なあがきで終わるだろう。
ひとしきり嗤ったキャスターが部屋に視線を戻す頃には、青年の痙攣は止まっていた。
死体を貫いていた黒い剣を下手人が無造作に引き抜いた。
ぐじゅりと嫌な音をたて、女の顔に血が跳ねる。
ぬぐった拍子に少し後ろに動いたからか、カーテンの隙間から頬に血の付いた顔が見えた。
緋色の髪をした、若い女だ。
頭部には犬のような三角の耳が生え、冬木のNPCとは種族からして異なっていた。
その全身には端麗なスタイルをそのまま見せつけるような黒と金のボディスーツを身に着けている。
「…また、この集団か」
映像を睨みつけ舌打ちするキャスター。
この格好をした女がマスター殺しをする様子を目撃したのは、実に4度目だ。
声も姿も毎度異なっていたが、方法はいつも同じ。
真っ先に令呪のある腕を不意打ちで切り落とし――この時点でこの女たちが聖杯戦争と無関係な殺し屋という線は消える――、漆黒の剣で迅速にマスターを殺害する。
『たしか…この番号よね?』
暗い部屋の中、女が慣れない手つきでスマートフォンを操作する。
難しそうに額にしわを寄せた顔がブルーライトに照らされた。
どこにしまったのか、先ほどまで握っていた漆黒の剣は持っていないように見えた。
足元の死体が電子の藻屑に帰らんと崩れ始めるさまには興味さえ示さず、女はどこかに電話を掛けている。
これもまた、この女たちの動きであった。
「…まただ。なぜこいつらは携帯電話を用いる」
キャスターからすれば、彼女たちの行動は不可解だ。
キャスターの見立てでは、彼女らはアサシンのサーヴァント。もしくは、いずれかのマスターの指揮下にある殺し屋である。
だが、彼女らがサーヴァントであるのならば、連絡に携帯電話など用いる必要はない。
逆に一般人の殺し屋だというのならば、携帯電話の扱いが拙いうえに、獣人の姿をする意味がない。
正体は分からず、しかし聖杯戦争の関係者なのは確実。
キャスターにとって、黒衣の女たちは目下警戒すべき相手であった。
「今日こそ、貴様らの主暴かせてもらうぞ。」
警戒すべき相手であるからこそ、キャスターは手を抜かない。
彼女らは実行犯だ、マスターにしろそうでないにしろ命令を下す“主”がいるはず。
おそらく、この女と今連絡を取っている相手だろう。
すぐさまキャスターは、拠点周囲の警戒と女の監視を除いた式神すべてに、黒衣の女の首魁を探すよう命令を下す。
式神の奥で電話する女が、にたりと笑ったことに。キャスターはまだ気づいていなかった。
殺し屋の女が残した微かな魔力の残滓を辿り、式神がたどり着いたのは冬木都心部のオフィスビル。
その最上階に位置する企業の会長室にその姿はあった。
気品ある女が、高そうな黒い椅子に座ってどこかと通話している。
金色の髪を腰まで伸ばした姿は、モデルや女優だといわれてもうなずけるプロポーション。
冷たい光をたたえた碧眼の鋭さも、上に立つ人特有の気品を際立たせるのに一役買っていた。
スーツと赤いネクタイをつけ座るだけなのに絵になる女だとキャスターは感嘆する。
街を歩けば10人が10人振り返っただろう。
その姿は会長の椅子に座るには非常に若い。年が20を超えているかも疑わしい。
キャリアウーマンというよりは、大人びた学生という方が近い。
そんな不相応さは感じさせず、通話を続けながらも右手ではよどみなくデスクトップを操作し部下からのメールに目を通している。
彼女が座る大きな机の上には、金色の文字が彫り込まれた黒の卓上札が堂々と置かれていた。
『カイ・オペレーションズ会長代行 オリヴィエ』
代行かよ。思わずそう言いかけたが。それでも立派なものだろう。
オフィスビルの入り口の案内板を見る限り、このカイ・オペレーションズなる人材育成企業は上階層を5階ほど占有している。
零細には程遠くむしろ大企業の部類に入る。
それの代表ともなると、代理とはいえ黒い羽根に選ばれ聖杯戦争に呼ばれるのも納得の人材といえる。
「だが、それもここまでだ。この俺を敵に回したのが運の尽きよ。」
笑みを浮かべるキャスターが指を動かす。
会長室の外側に張り付いた式神が、キャスターの操作に従い窓の隙間を潜り抜け部屋に入り込む。
10m…8m…6m…
音もなく忍び込んだ式神が、オリヴィエとの距離を縮める。
両手に長手袋をつけているため、マスターかどうかは分からない。もはやそんなことはどうでもよかった。
キャスターが送り込んだ式神には、高度な呪詛が仕込まれている。
高ランクの対魔力がなければ、大ダメージは避けられない。サーヴァントでないならば即死もあり得る代物だ。
5m…4m…3m…。
キャスターの式神が近づくにつれ、通話の内容はより鮮明に。
勝利を確信していたキャスターの耳に、美女たちの会話がひどくはっきり聞こえた。
『…そろそろ。『オウル』による探知が終了したころでしょうか。アルファ様』
『ええ、ご苦労様。“式神使い”には『インビジブル』…559番が向かったわ』
―――え?
疑問符が浮かび、呆けた顔で固まるキャスター。
式神使いとはなんだ?決まっている。俺のことだ。
終了したとはなんだ?わからない。だがただ事ではない。
集中が途切れ、羽をもがれたようにすべての式神がポトリと落ちた。
それでも機能は失わず、動かないままに女たちの姿を映し続ける。
マンションの一室で通話する獣人の女が、カーテンの隙間から外を見た。
電話先から『アルファ』と呼ばれたオリヴィエが、部屋に入り込んだ侵入者を見た。
二つの式神。離れた場所。
通話する二人の女の目が、式神を見た。
式神の奥にいる、キャスターを見た。
「ひっ!」
座り込んだまま思わず後ずさるキャスター。だが、数歩と進まずに透明な何かにぶつかる。
柔らかな温かい感触。それはクッションというより、まるで人の脚のようで。
「インビジブル」
背後から男の声のような電子音が響く。
腰が抜けたキャスターがどうにか首を動かし音のする先を見上げた。
ピンクブロンドの髪で左目を隠した美女が、豚を見るかのような冷たい視線でそこにいた。
黒と金のボディスーツを身に着け、漆黒の剣を振り上げて。
マスターを殺してきた死神と同じ姿が、キャスターの背後に立っていた。
「馬鹿な!式神による監視も防御の術式もすり抜けただと!」
工房には無数の魔術防壁がある。
大量の式神が、中どころか建物の外まで監視している。
そのすべてが、この女の侵入を捉えられなかった。
「あの程度の防護、我らの前に意味はない。」
至極当たり前だと言わんばかりに、女が吐き捨てる。
その言葉を聞いて、キャスターは自身の敗北を悟った。
自分が、追い詰めたと思っていた。
黒衣の女たちの首魁を見つけ、魔力を辿り、あと一息で呪い殺せる。
ちがう。前提から間違っていた。
魔力で足跡を辿れたのが、自分を誘導するための罠だったとしたら?
ここまでの動きが、自分の意識を“捜索”に向けるための行動だとしたら?
まるで街に落ちる影のように、彼女らは速やかに仕事を果たした。
掴めない影を探った。戦ってはいけない相手に勝負を仕掛けた。
この『組織』を相手にした時点で、キャスターは負けていた。
『「『我らはシャドウガーデン』」』
二つの式神、背後の死神。
そのすべてが、まったく同時に語る名前。
それがこのキャスターの、最後に聞く言葉だった。
何か言葉を返す前に、黒い剣が力任せに下され。霊核ごとキャスターの体は縦に両断された。
巻き上げられた血が、赤い雨が降り注いだように工房を染め上げる。
キャスターの二つに分かれた頭脳に、疑問が浮かんだ。
―――シャドウガーデンとは、何だ。
その答えをキャスターが知ることは、ついぞなかった。
◆
カイ・オペレーションズの会長室では、日が沈んだ後でも金髪の女会長(代行)はデスクトップと向かい続けていた。
部下の報告に目を通し、取引先とのアポイントを取り、提出された書類に印字する。
『自分の役割(ロール)ではない仕事』を涼しい顔で女はこなし続ける。
「遅くまで精が出るね。アサシン」
集中していた彼女の意識を引き戻す声が、後ろから響いた。
椅子を180度回転させた女の前には、巨大なガラスに映る夜景を背に微笑む若い男が優雅な笑みを浮かべて立っていた。
地上15階の会長室 ただ一つの出入口は微動だにしていない。
どこから入ってきたのか、そんなことを女は聞かない。
目の前の男(マスター)ならそのくらい造作もないと、この女(サーヴァント)は知っている。
アサシンと呼ばれた女が秀麗な美女であるように、男もまた端麗な美青年であった。
左に伸ばした前髪の一部分に虹色のメッシュを入れ、編み込んだその先に金色のリングを留めている。
奇抜ともいえる姿ながら、すらりとした体躯も上下ともに染み一つない純白のスーツも相まって。ギリシアの彫刻のような美麗さとどこか隔世的な雰囲気を漂わせる。
黒と金が美しく形を成した女がアサシンだとするのなら。
白と虹が美しく形を成したのがこの男であった。
「随分な重役出勤じゃない、万灯『会長』さん。」
会長という言葉だけ、明らかに強調されていた。
本来『カイ・オペレーションズの会長という役割』を電脳の世界に与えられたのは、アサシンとクラス名で呼ばれた女ではなくそのマスター。
『万灯雪侍』という名の、この男だ。
アサシンの言葉には、『人に仕事を押し付けるな』というマスターに対する鬱憤が存分に含まれていたが、当の万灯は優雅な笑みのままの素知らぬ様子である。
「そういう君も、『会長代行』が板についてきたようじゃないか。
『アルファ』。いやここではあえてオリヴィエと呼んだほうがよかったかな?」
万灯の指先にはオリヴィエと書かれた卓上札。
滅魔の英雄の名を拝借した偽名が刻まれる卓上札に女会長は手を伸ばし、会長としての時間は終わりだと告げるように力強く倒した。
「ただの偽名よ。こんな目立つ役割(ロール)をするのに、真名を使うわけがないでしょう。
それで何の用かしら。おかげさまで、仕事を押し付けられて忙しいのだけれど。」
「何を言う。君たちならその程度の仕事は難しくないはずだ。
『ガンマ』や『ニュー』はいないのかい?彼女たちがいればとっくに終わってもおかしくないだろうに。」
「茶々を入れに来たのなら帰ってくれないかしら?」
「気を悪くしたのなら失礼したね、褒めに来たのさ。
街を張っていた式神使いを殺したのだろう?おかげで互いに動きやすくなった。
流石は『シャドウガーデン』。とでも言っておこうか。」
シャドウガーデン。
世界を裏から牛耳る悪魔の教団。唯一その存在に気が付いた男を筆頭に、彼に救われた才女たちが教団の壊滅のために裏表問わず勢力を広げ続けた、国家規模の秘密組織。
その組織の幹部筆頭…首魁である男は組織運営に全く関わらないでいたために、事実上のトップを務めた女こそが、アルファと呼ばれたこのサーヴァントだ。
英霊になった際にその逸話は宝具となり、相応の魔力こそ要するものの秘密結社の構成員たちを呼び出すことを可能にした。
街をかける黒衣の女たちの正体も、万灯が言った『ガンマ』や『ニュー』も、シャドウガーデンのメンバーである。
―――つまるところ、この万灯という男は自分の押し付けた仕事をさせるために秘密結社の精鋭たちを呼び出せと言っていることになる。
決して軽んじているわけではない。むしろ万灯はシャドウガーデンという組織の能力を高く評価していた。
陰に潜んでの暗殺能力、市政に紛れる諜報能力、表社会にも権力を持った逸話からなる経営能力。
シャドウガーデンの力はどれをとっても高水準だ。
万灯のいう通り、彼女たちがその気になれば一企業の運営だろうと容易にこなすだろう。
呼び出すために消費されるマスターである万灯の魔力も馬鹿にならないが、それだけの価値があると万灯は判断していた。
評価のうえでの発言なのはアルファにも分かるが、傲慢な言い回しにむっとさせられるのは仕方がないことだろう。
そうした思いは出さず涼しい顔でアルファは返す。
「…言いたいことはあるけど、素直に受け取ることにするわ。
あなたの玩具も、役立ったのは事実だし。」
「それはよかった。
君たちのような優秀な者がメモリを気に入ってくれるのは、私としても喜ばしい。」
万灯が胸ポケットから何かを取り出した。
上げられた左手の中で、握られた二本の小箱かぶつかる音が響いた。
手のひらほどの大きさの黄と水色のUSBメモリ。
冬木の町にはないはずの、人を超人に変貌させる魔性の小箱。
ガイアメモリと呼称される道具を見せつける万灯の顔は、アルファにはどこか誇らしげなものに見えた。
「いつの間に回収したのよ。」
黄色の『オウルメモリ』と水色の『インビジブルメモリ』。
どちらもアルファが万灯から手渡され、シャドウガーデンのメンバーに貸し与えたものだ。
梟の記憶を宿したメモリにより飛行能力と察知能力を得た者が、隠れ潜むキャスターのねぐらを探し出した。
不可視の記憶を宿したメモリにより視覚探知をすり抜けた者が、キャスターをその手で暗殺した。
陰陽師のキャスターを暗殺するにあたって、どちらも大きく役立った。
いずれ万灯に返却しようと探してはいたが、既に万灯自身が回収していた。
見つからないわけだとアルファは肩をすくめる。
「君が呼び出した者たちがこの世界にとどまれる時間は限られる。
メモリを持ったまま彼女たちが退去し、行方知れずのメモリが街に残るのは私としても本意ではないのでね。回収させてもらったよ。」
随分と手が早い。大方どこかでシャドウガーデンの暗躍を監視していたのだろう。
黙って話を聞くアルファをよそに、「オウルにインビジブルか、いい選択だ」とアルファの選択を評価した。
万灯がアルファに貸し出したメモリは他にも数本、使えば広範囲を破壊できるような派手なメモリもあったのだが。アルファが選んだのはこの二つだった。
「余計な破壊や戦闘を生まず、暗殺と探知にこれほど適したメモリはない、私でもこの二つを選ぶだろうね。」
「超人になる道具を使う割にずいぶんと慎重じゃない。」
「当然だとも。警戒すべき相手が多数いる中で、リスクをとる必要はない。
君もそうだろう?同じ『裏の街』に動く者として、不要な戦いはすべきではない」
君たちならば、『街の影』といったほうが適切かな。などと万灯は軽口を続ける。
アルファがシャドウガーデンという秘密結社に属していたように、万灯も表社会だけに収まる人間ではなかった。
二人で一人の探偵が活躍する、風の吹く街。
その裏にある、才ある超人のみが住むことを許される町。『裏風都』
『街』とはずいぶん大きく出たなというのがアルファの率直な感想ではあったが、ガイアメモリの力を実感した今となってはその言葉も誇大なものではないのだろう。
アルファをしてそう思わせる力が、その小箱にはあった。
企業の会長という役割を捨て―――元々いた街でも、万灯は会長という役職を裏風都での暗躍のために捨てていたのだが―――、
電脳の街でサーヴァントと離れて活動する裏で、メモリの力に呑まれた才ある超人たちを集めているのだろう。
万灯雪侍というマスターもまた、サーヴァントであるアルファとは違う形でこの町に根を張る『陰』であることに間違いなかった。
「ではそろそろ失礼するよ。必要な時は連絡してくれたまえ」
スーツの内ポケットから、万灯は二つのものを取り出す。
一つは楕円形の白い機械。
その中央には黄金色の球体が埋め込まれ、万灯が臍下に機械をつけると腰と固定するようベルトが生成された。
もう一つは、これまたガイアメモリだ。
黄金色の塗装が全体に施され、オウルやインビジブルとはそもそものランクとして異なる逸品であることは容易に想像ができた。
万灯本人が愛用する。極光の記憶を宿したメモリであった。
「オーロラ」
重々しいボイスが、メモリから流れた。
メモリに刻まれた銘は、天幕のごときA。
記された記憶は、Aurora。
白いベルトの右側からメモリを挿入した万灯、その全身を光が包む。
アルファの知る災厄の魔女と同じ名をした記憶が、万灯雪侍を超人に変える。
顔のない、隆々とした肉体の怪人が立っていた。
その全身が星のない夜空を思わせる紫紺に染まり、頭頂部には長く伸びた金色の髪が一本に束ねられている。
その名の通りオーロラのごとき腰布を身に着け。掌があるはずの両手首から先は揺らめく虹色の靄のようにで、物質の形を成していなかった。
オーロラ・ドーパント。それが万灯雪侍のもう一つの名前だ。
「最後に一つ。君はメモリを玩具といったが、私はそうは言わない。」
怪人となった万灯が、虹色に揺らめく指を立てる。
目も鼻もない顔で、口角を上げて男は笑う。
「“切り札”さ。
裏でも陰でも、我々が勝つためのね。」
オーロラの手からまばゆい光が放たれ、アルファの視界を奪う。
彼女が目を開けると、怪人の姿はそこにはない。
地上15階にある会長室に音もなく入り込んだように、痕跡さえ残さず消え去った。
これもまたガイアメモリの力の一端なのだろう。
「眩しい街ね
夜はもっと、静かであるべき。
彼なら…きっとそう言うわ。」
それは、ただ光が多いからの言葉ではなかった。
暴虐をふるい、牙を研ぐ。
願いをかなえる黒羽に唆された者たちが、この地には無数にいる。
万灯の様な欲望を持ったマスターたちが、この町にはあふれている。
アルファもまた無欲を是とするような高潔な人物ではないが、力を求める人間が行き着く先はよく知っている。
好きになれない街だと、アルファは思う。
ぎらぎらと力を求める存在が、この電脳の町には多すぎる。
魔人の力を求め、無辜の娘たちを苦しめ続けた教団のように。
魔性の小箱を手にした、超人の束ねる男のように。
アルファは、万灯雪侍はマスターだと認めてはいなかった。
協力者としての関係性は良好ではあるが、主従としての関係は成立さえしていない。
魔力のパスは繋がっているし、令呪の効果対象でもある。だがそれは万灯を主と呼び慕う理由にはならない。
万灯もまたそれを容認していた。無関心といったほうが近いようにさえ思えたが、互いにそのほうが都合がよかった。
万灯は『裏風都』、アルファは『シャドウガーデン』
両組織は味方であり事実上のトップ同士が主従でも、思想も願いも異なり、仲間ではなかった。
「シャドウ…」
アルファの宝具をもってしても、唯一呼び出せないシャドウガーデン。
本来の首魁である男の名を、少女は儚げにつぶやいた。
英霊となった今もなお、彼女の主は天に広がる極光(オーロラ)ではなく。
街を密やかに駆ける、どこまでも深く遠い影(シャドウ)なのだから。
【クラス】
アサシン
【真名】
アルファ@陰の実力者になりたくて!
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運A 宝具C++
【属性】
中立・悪・地
【クラススキル】
気配遮断:B+ サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
単独行動:B マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【固有スキル】
陰の実力者A+ 表の顔を持ちながら裏では秘密結社の幹部として活動していたことを示すスキル。
看破能力を持たない相手にアサシンは普通の人間と認識され、自ら正体を明かした場合を除いてサーヴァントとして認識することは出来ない。 気配遮断とカリスマと統合される特殊スキル
悪魔憑き(偽) B+ 後天的な魔力の過剰暴走を原因とする奇病を受け、社会から排斥された経歴を表すスキル。
過剰な魔力は完璧にコントロールされ、アサシンの肉体強度及び魔力量が大幅に強化されている。無辜の怪物に類するスキル。
万能の才女 A 超人集うシャドウガーデンにおいて、その筆頭としてあらゆる分野・技能に精通し。事実上の統括として活動したことを示す。
当人の才覚の高さ、シャドウに与えられた技術・知識を基盤に、裏表問わず国家に根を張る秘密結社として活動したことを示すスキル
【宝具】
『陰園の刃・主命に駆けよ(シャドウガーデン・シャドウオーダー)』
ランク:EX 種別:対都宝具 レンジ:1〜99 最大補足:666人
秘密結社『シャドウガーデン』のメンバーを呼び出し、指揮する宝具
召喚される者達は全員が女性。D〜Cランクの『悪魔憑き(偽)』『陰の実力者』『単独行動』のスキルを有し、市政に紛れて独立して行動する。
現界している1日程度の時間に、個々の裁量で暗殺や諜報といった行動を行う。
半日から一日ほどで彼女たちは退去するためそのたびに再発動する必要はあるが、常時活動できる配下を呼び出せる破格の宝具。
欠点として、召喚行為そのものには人数に比例して莫大な魔力を要すること。
彼女たちとの連絡には携帯電話など別の手段を求められ、マスター・アサシンともどもその状況を把握することはできないことがあげられる。
加えて、この宝具で召喚した者たちに令呪の効果は適用されない。
マスターとアサシンの関係が悪い場合、令呪を無視してマスターに刃を向ける可能性がある
シャドウガーデンの幹部 七陰全員が所有する宝具であるが、呼び出せる数・性質は使用者によって変化する
アルファの場合は特にランクが高く、常時活動できる個体が10名前後 『単独行動』のスキルを排して短時間のみ呼び出す場合は40名程が上限となる。
呼ばれるものも特に多様であり、戦闘・隠密・経営・諜報と幅広い
ランクが高まった結果、この宝具で『七陰』と呼ばれるシャドウガーデンの幹部を務める才女たちを召喚することも可能になる
【weapon】
スライムボディスーツ及びスライムソード
魔力を流すことで強化・変形されるシャドウガーデンの共通武装
【人物背景】
金髪に青い目をしたエルフの美女
ディアボロス教団の壊滅のために活動する秘密結社『シャドウガーデン』の幹部筆頭
頭目であるシド・カゲノーはシャドウガーデン・ディアボロス教団ともどもその存在を把握していないため、同組織の事実上のトップ
戦闘力・頭脳・統率力・美貌とあらゆる面で高いスペックを持つ完璧超人
あるいは、憧れの恩人に追いつきたい、一人の少女
電脳の冬木においては、万灯の役割を代行し『オリヴィエ』という偽名でカイ・オペレーションの会長を務めている。
『陰の実力者』のスキルにより、この状態のアルファはサーヴァントだと認識されない。
【サーヴァントとしての願い】
シャドウの幸福
ディアボロス教団及び類似した思想の組織の根絶
【マスター】
万灯雪侍@風都探偵
【マスターとしての願い】
計画の成就
【能力・技能】
怪人に変身する能力を持った超人たちをまとめ上げるカリスマ性
所持するガイアメモリ『オーロラメモリ』及びガイアドライバーrexを用いた。『オーロラ・ドーパント』としての高い殺傷能力・隠密移動
【人物背景】
人材育成企業 カイ・オペレーションズのCEOだった男
財団Xの母体の一部であったこの企業で、ガイアメモリの存在を知った。
現在は会社からはなれ、ガイアメモリにより超人的な能力を得た集団を束ねる組織『裏風都』の首魁として活動している
寛容かつ優雅さを忘れないが、自身に不要だと判断した存在を一切の容赦なく切り捨てる冷徹な完璧主義者。
天使を名乗る悪魔
令呪は、揺らめく天幕の形
【補足】
参戦時期は原作9巻にて、ヒカルが裏風都に加入した後
投下終了します
投下します
視覚を失ったものが眠りに落ちたとき、夢を【見る】ことはできるのか?
その答えは【場合による】といえよう。
夢とは脳内で行われる記憶の投影にすぎない。
つまり知らないものを夢に見ることはほぼありえない。
だから生まれついて視力を持たないものは何かを見た記憶がないため、夢の中でも盲目だ。音や匂いは夢で感じるかもしれないが、視界を得ることはない。
つまり後天的に視力を失ったものは夢を見ることはあり得る。手足を失ったものが幻肢痛に苛まれるように、脳の機能が生きていれば視力を失くしても夢を見る機能まで失うことはない。
つまり目暗のサーヴァントと目明のマスターが、互いの記憶を夢に見ることは十分にあり得る、ということだ。
……欠けた夢を、互いに見た。
復讐に生きようとし、最期まで貫くことができなかった愚かな復讐者の末路を見て、それに至る惨劇を聞いた。
『何故、あの男が死刑ではないのですか!四十六室にお目通りを!どうか!』
血を吐くような、命を賭しているのが分かる声が響く。
音だけが聞こえる……いや、感じるのはそれだけじゃない。
怒りだ。
臓腑を焼き尽くすほどの激しい怒りが胸の内で燃え上がる。
知らないけれど、識っている。
この怒りは大切なヒトを奪われたものだ。
断罪を。
悪なるものに正統なる裁きを。
どこまでも真っすぐな主張を男は口にし続けた。
けれどそれは叶わなかった。親友の仇は理を捻じ曲げる力があったから。
『もしも復讐に足る力を私や君が持つとして、それを我々は成すべきだろうか?』
『果たして彼女は……君に対して、復讐を望んでいるだろうか?』
愛する友を殺したことを許すこと、それを勧めるものがいた。
美しいことだ。善なることだ。
目が見えなくても、眩しくて直視しがたいものだ。
―――どの面下げて、こんな言葉を吐いたのか。面の皮の厚みがどれだけあればこんな台詞を口にできるのか。
自らの妻を殺しておいて、それに義憤を燃やす男に向かって、命乞いですらなく説法などと。
『我が妻の良友よ、何故そうも憤る?私の妻……歌匡ならば、私を許すぞ?』
夢だからだろう。視えないはずの男の脳裏に移った景色が投影された。
盲目の男の決して忘れない初めての景色は、悪意と愉悦に満ちた凶悪な微笑み……うず高く積もった腐肉のような厚い皮した醜悪な面相。
そして最期の景色は異能により獲得した視覚によって見えたもの。
『…ありがとう…狛村。檜佐木』
刃を交え、解りあった友の姿が目に映る。
美しいものだ。善なるものだ。
―――恥ずべき堕落、斬り捨てるべきものだ。
光を失くし、友も要らぬ。言の葉と知性ゆえに友を得たならそれも無用。
それ故に盲目の剣士は、復讐に邁進する理性なき獣へと墜ちるを望んだ。
そして獣へと墜ちゆく剣士も夢を見る。
穏やかに生きようとし、その平穏と愛する者の残り香を奪われた鮮烈なる復讐者の引き起こす惨劇を見た。
夢にまで見た世界は争いのない平和な日常。けれど男の過ごした現実はトラブルに満ちた急転直下の日々で。
殺し屋として生き、妻を愛し、妻を亡くした。
マフィアに形見を壊されたからマフィアを滅ぼした。
カモッラに住処を奪われ利用されたから、カモッラを殺した。
多くの敵を作って、そこから自由になるために多くの敵を殺して進んだ愚かな復讐者はついには聖杯戦争に流れ着く。
それが、盲目のサーヴァントが見た夢。
◇
「……ぁあ。どこだろうな、ここは。天国か?それとも地獄か?」
ジョン・ウィックは目覚めてすぐに周囲を眺め、そうこぼした。
現在地は……上等なホテルのベッドの上だ。テレビのリモコンや避難経路の案内図などに書かれた文字から日本にいるのだと察しはつく。
遅れて自身の境遇についても認識が改竄されていくのを感じた。
妻を亡くして傷心旅行中のビジネスマン。聖杯戦争(ここ)でのジョナサン・ウィックは堅気らしい。
(ああ、それなら……確かに日本に来るかもな)
窓の外の景色に覚えはあるようなないような。
コンチネンタル・ホテルがある大阪に近い感じがする。関西圏だろうか。
あるいはヤクザの多いとかいう九州の方にも見える気も。
どちらにしろ、フランスのサクレ・クール寺院からは随分と遠くにきた。
(コウジに会いにいくつもりだったのかな、俺は。堅気の身でヤクザと友達なのかは分からないが)
いやアイツも堅気になってるかもしれないか、などと益体もないことを考えつつ。
所持品を漁り、コンディションを確かめる。
(傷は治ってるな。ケインに突かれた手も、撃たれた方も。恰好は…)
キングに卸してもらった防弾スーツにハンドガン。残弾もそれなり。
生憎とホテルの部屋に武器として持ち歩く価値がありそうなものはない。ペンでも電気スタンドでもドライヤーでも人は殺せるが、その程度ならいくらでも替えは効く。
それからスーツのポケットに、この地へのチケットが紛れ込んでいた。
黒い羽。
カラス?エトピリカ?
こんな超常に巻き込んでくれるならまさか悪魔や魔獣の類のものだろうか。
(……なんでこんなものが主席連合の決闘銃と一緒に保管されてたんだろうな)
裏社会を牛耳る組織の集合体である『主席連合』、その伝統である決闘に用いられた武装の付属品で聖杯戦争に招かれた。
陰謀なのか、あるいはこれも裏社会の伝統なのか。
銃の入った箱ごと渡された時は付属の羽は手入れにでも使うのか、単なる飾りかと気にも止めなかったが事ここに至っては無下に放ることもできない。
(となるとケインも来てるのか?いてほしいような、ほしくないような……)
自分と同じように決闘銃を渡された友人はどうしているだろう。
殺し合いに巻き込まれて、頼れる友人が共にいてほしいか、巻き込まれずいてほしいかは少々難題といえる。
(…まあ、少なくとも盲目のオトモダチはいるんだが)
いる。
夢に現れ、語り掛けてきた男。
復讐に生きようとした死神にして悪霊。
ジョン・ウィックが振るうべき刃、アヴェンジャーのサーヴァント。
東仙要は、目覚めた時から侍っていた。
「■■■■■…………」
腰から刀を提げている、それだけならば侍に見えなくもない。
だが顔を覆いつくす純白の仮面と漏れ出るうなり声が、それは人どころか獣に近しいものだと発していた。
復讐のため彼は死神のふりをし、虚へと堕ちた。
そして今度はアヴァンジャーであるためにバーサーカーとしての特徴を獲得している。もう二度と誰とも分かり合うつもりはない。
もはや彼はジョン・ウィックの持つ武器の一つであり、敵に食いつく獣でしかなかった。
「そういうの『問答無用』って日本じゃ言うんだっけ……ま、俺も帰りたいしな。そこまでは付き合うさ、アヴェンジャー」
彼らは復讐者だった。なぜなら愛する人がいたから。
彼らは平穏を愛する心があった。それでも結局は暴力装置だった。
だから彼らは手を取り歩み始める。
暴力を持って戦場を踏破し、愛すべき日常へと回帰するために。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
東仙要@BLEACH
【パラメーター】
筋力B 耐久C+ 敏捷B++ 魔力A 幸運E 宝具A
(狂化による上昇含む)
【属性】
秩序・狂
【クラススキル】
狂化:B
理性と引き換えにパラメーターを上昇させる。
最下級大虚(ギリアン)と同程度の知性、言語能力となっている。
ただしクラススキルであるとともに虚としての種族特性でもあるため、比較的制御が用意である。
復讐者:C
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
忘却補正:D-
時がどれほど流れようとも、彼の憎悪は決して晴れない。
たとえ、憎悪より素晴らしいものを知っていたとしても。
……友や部下との交わりに迎合し堕落したと自らについて感じているためか、ランクの低下が見られる。
自己回復(魔力):A
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
魔力が毎ターン回復する。虚の体質である超速再生が影響し、高ランクの回復量を誇る。マスターからの魔力が少なくとも影響は少ない。
【保有スキル】
死神:-(A)
広義における死神ではなく、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の守護を請け負う存在の名称。
悪霊及びそれに準ずる存在に対する攻撃判定にプラス補正を受ける。
一部隊を率いる長にまでなった彼は最高ランクで持ち得てもおかしくはないのだが、アヴェンジャーの場合、自らの行いで死神の座を降りているためこのスキルは失われている。
歪曲:A
本来呼び出したクラスが強制的に歪められ、別のクラスの特性を付加された証。
引き換えに、元のクラススキルのいずれかが低下している。
アヴェンジャーの忘却補正が低下しているのはこのスキルの影響も大いにある。
万能の願望機『崩玉』によって後天的に魂魄を改造された影響で獲得できたスキル。
虚:A+
尸魂界に行くことの出来なかった霊が何かを喪失した悪霊の成れの果て。
胸に穴が開き、その穴を埋めるために他者の魂を食らおうとする怪物である。
アヴェンジャーは虚に対処する死神だったのだが、復讐の力を得るために魂魄を改造されて虚へと転じた。
人為的に死神から虚へとなったものの中では希少な帰刃(レスレクシオン)という技法を身に着けた最上位の虚、あるいは破面である。
同ランクの頑強、変転の魔を内包し、魂食いによる恩恵が通常のサーヴァントより大きい。なお霊、魔性などの特性を獲得しており、それが強みにも弱みにもなり得る。
鬼道:D(A)
死神が自らの霊力と霊圧を用いて行使する術。
相手を直接攻撃する『破道』と防御・束縛・伝達などを行う『縛道』の二種類が存在する。
前述のとおり秀でた死神だったアヴェンジャーは高位でこのスキルを保持できるのだが、狂化の影響で詠唱破棄しての使用しかできない。故に低ランクとなっている。
心眼(偽):B-
直感・第六感による危険回避。視力を持たないアヴェンジャーのそれはまさしく心の眼で見る技法である。
視覚妨害への補正も内包するスキルであり、視覚を持たないアヴェンジャーにはその手の妨害は無意味といえる。
ただし盲目の状態で幾百年経験を積んできたため、宝具により視覚を取り戻すと視覚情報の処理を無意識に行ってしまうためマイナス補正がかかる。
【宝具】
『浅打(あさうち)』
ランク:E 種別:対霊宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:5
王族特務の零番隊、二枚屋王悦が死神となる者の魂を元に鍛え上げた刀。
全ての死神が持つ斬魄刀の原型。
これと寝食を共にし、己が霊力を込めることで各人の斬魄刀固有の能力を獲得、真名解放に至る。
虚を切り、浄化する刀であるため死霊特攻の概念を持つ。
アヴェンジャーの持つ浅打は人から継承したものであり、浅打そのものが王悦から譲られることを前提とした宝具である。そのためアヴェンジャーの消滅時に手にしている者がいれば浅打を継承することができる。
『鈴虫(すずむし)』
ランク:C 種別:対霊宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:10
斬魄刀の真名解放、その第一段階で始解と呼ばれる状態。
宝具、『浅打』は姿を変え、鍔に輪の付いた日本刀になる。
特殊な音を放ち敵を昏倒させるほか、大量の刃を放つ紅飛蝗という技も持つ。他者から継承した斬魄刀である故の二面性だろうか。
宝具の解放には真名の詠唱が必要だが、後述する卍解の習得者は解号を唱えなくとも始解ができるため常時発動型の宝具に近しい。
そのため狂化により言語を失っても発動可能である。
『鈴虫終式・閻魔蟋蟀(すずむしついしき・えんまこおろぎ)』
ランク:A 種別:対霊宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100
斬魄刀の真名解放、その第二段階で卍解と呼ばれる状態。
一定範囲を変形した斬魄刀でドーム状に覆い、範囲内の者の視覚、聴覚、嗅覚、霊圧知覚を奪う。サーヴァント化したことで霊圧知覚の定義域は広がり魔力、呪力、気などの力を感知する能力全般を対象とし無力化する。残るのは味覚と触覚のみ。
範囲内で鈴虫本体の柄を握るもののみが剥奪を免れる。
発動には真名の解放が必須であるため、狂化により言語を失ったアヴェンジャーは解号を唱えられずこの宝具を発動できない。
『狂枷蟋蟀(グリジャル・グリージョ)』
ランク:A 種別:対神宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
解号は”鈴虫百式”。死神を殺す、ゆえの対神宝具。
体を変形・変質させて虚へとより近づいた形態へと転ずる。
黒い体毛、羽、尾、角、新たな腕を生やした蠅のような外観で、視覚も獲得する。
鋼皮(イエロ)、響転(ソニード)といった虚の特徴を引き出しやすくなり、耐久と敏捷が1ランク向上するが、スキル:心眼(偽)のランクは1ランク低下する。
【weapon】
宝具『浅打』およびその解放
【人物背景】
一度は死神になりながら、復讐のために護廷十三隊を離反した男。
正義と平和を何より愛し、それゆえに悪を許すことができない二重の意味で盲目的な存在だった。
それでも最期に彼はきっと“星”を視た……そして今、そこから彼は目を逸らす。
【サーヴァントの願い】
藍染惣右介の望んだ、正しき世界を。そしてその世界にいてはならない魂に滅びを。
……なお、もしも彼が復讐の対象を前にしたならば、地獄に落とすどころか魂の滅却までも望むかもしれない。
【マスター】
ジョン・ウィック@ジョン・ウィック:コンセクエンス
【参加方法】
主席連合の決闘で用いた決闘銃に黒い羽が仕込まれていた。
【マスターとしての願い】
妻や友も含めて、失くしてしまった平穏で自由な生を取り戻す。
【weapon】
・ピット・バイパー
決闘に向かうジョンに仲間が持たせたハンドガン。
装填弾数28発、分解して近接武器としての使用も可。
・防弾スーツ
外観は結婚式にも葬式にも出られる、男の一張羅に相応しいダークカラーのテーラースーツ。
ハンドガン程度なら何発食らっても大丈夫な優れもの。
【能力・技能】
秀でた暗殺者。言語、武術、銃器、運転技術、潜入術、脱出術など。
作中では拳銃や散弾銃などの銃器はもちろん、ナイフや斧、ヌンチャクなども用いた。
鉛筆一本で男を3人殺したとも噂され、武器は選ばないと言える。
【令呪】
左前腕部。
背中のタトゥーと同じ、『祈るように十字架を握る両腕』。
右腕で一画、左腕で二画、十字架で三画。
【人物背景】
ソビエトの生まれで旧名はジャルダニ・ジョヴォノヴィッチ。アメリカに移籍後はジョナサン・ウィック。
犯罪組織『ルスカ・ロマ』で殺しの技術を学び、暗殺者の互助組織『コンチネンタル・ホテル』に所属後、ロシアンマフィア『タラソフファミリー』の暗殺者として活躍。
ババヤガー、ブギーマンなどの異名を持つ裏社会で恐れられる暗殺者となる。
一人の女性を愛して妻に迎え裏社会を一度は抜け出す。しかし、その妻は逝去、彼女が遺した愛犬の命と自身の愛車をかつて仕えた『タラソフファミリー』に奪われ激昂。ファミリーを壊滅させて望まず裏社会に戻ることになる。
復讐の過程で懸けられた賞金目当ての殺し屋を退け、再び裏社会から抜け出すために組織との取り引きや駆け引きを繰り返し、友の屍も超える凄絶な戦いと殺戮の果てに自由を手に……サクレ・クール寺院での決闘の果てに、彼は聖杯に導かれた。
投下終了です。
なおステータス作成の際に◆sYailYm.NA氏の作品、「さよならごっこ」からスキル死神と鬼道を参照させていただきました。
遅れての形になりますが、お礼申し上げます。
申し訳ありません、ステータスに誤字があったので訂正します。
「失くしたものを奪いとる。血と肉と骨と、あと一つ 」の東仙要のスキル:虚の一文を
×同ランクの頑強を〜
〇同ランクの頑健を〜
に訂正します。FGOでのスキル名表記を間違えていました。
以上になります。
>WILD FIRE
パイロットとして活躍しながら敵を薙ぎ払う姿が格好いいですね。
市街戦でもなかなかに映える戦いをしてくれそうで楽しみです。
マスターの方も策謀が出来そうなので、なかなか骨太な主従そうですね。ありがとうございました。
>ホワイトラビット
病痾かそうでないかの違いはあれど正義に憧れた者同士、なんという結びつき。
剣の丘で腐った正義の成れの果てと対面する彼女の姿が青くも尊いです。
近頃過去編が滅茶苦茶アップデートされたエミヤオルタ、聖杯戦争ではどのように暴れてくれるのか。ありがとうございました。
>或る原罪
最悪の組み合わせだ……と思わず頭を抱えてしまう一作。
救いを欲している少女に救いが宛てがわれるのは良いんですけど、それにしたって人選が最悪すぎる。
直前に"彼"が投下されているのも相俟って嫌な因果を感じてしまいますね。ありがとうございました。
>人類に未来は不要
極端な考えのもとに聖杯を狙うマッドサイエンティストですね。
そんな男がターミネーターを召喚するというのがなんともまた。
戦力を整えてから行動する強かさも持っているのが厄介か。ありがとうございました。
>哀・少女・Believe
花山の強さがスピーディーに描写されていてよかったです。
サーヴァントもかくやの強さを見せる辺りは流石の花山。
その願いに寄り添う少女もとても良いと思いました。ありがとうございました。
>超人α/陰と光は交わらない
アサシンの性質や戦術が克明に描写されており、未見の身でもとても楽しめました。
サーヴァントを強化する手段を持っているマスターの方も底が知れないというかなんというか。
混沌を予感させてくれる組み合わせだったと思います。ありがとうございました。
>失くしたものを奪いとる。血と肉と骨と、あと一つ
復讐者として召喚されている東仙、いろいろな……本当にいろいろな意味で"因果"を感じますね。
そしてそんな彼の怨嗟と共鳴したのはジョン・ウィック、サーヴァントもかくやの暗殺者。
愛する人がいたから復讐に堕ちた者同士の同行、何とも趣が深い。ありがとうございました。
感想が遅れがちになってしまいすみません。コンペ期間もあと二週間弱になりましたが、引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。
投下します
聖杯大戦へ向かう
※ルーラーの元に送られた、差出人不明のFAX
◆
聖杯大戦に召喚された時の事か…。
ああ、覚えているさ。忘れられる筈が無い。
私は、これでも少しは業界(サーヴァント)で名が知られていた方だったんだよ。
神代生まれ。対城宝具持ち。クラスはセイバー……。
神代に産まれたんだ、高位の幻想種と闘争(たたか)った事もある。宝具の一撃で、大軍勢だって消し去った事もある。
マスターだって、一流と言って良い魔術師さ…。ロシア産まれの、2mを超える巨漢で、ブラジリアン柔術とムエタイをハイ・レベルで修得していた…。奥の手として3mを超えるゴリラに姿を変える事だってできる。それを魔術で身体強化するんだ…。悪魔だって、悪魔を超えた存在だってオモチャにできる。
魔術を競うと信じている魔術師ならば、簡単に絞め殺すし、蹴り殺していたよ。
俺達は最強。敗北(まけ)る訳が無い。
そう、信じていたさ。あの超雄(オトコ)に逢うまでな……。
◆
その男を見た時、セイバーの戦闘経験が、否ッッ!
頭脳が、否ッッ!
精神が、否ッッ!
魂が、否ッッ!
セイバーの肉体を形作る六十兆を超える細胞の全てがッッ!否ッッ!
セイバーの存在を構成する凡そありとあらゆる総てがッッ!!!
この雄(オトコ)に勝てぬと理解(わか)ってしまったッッ!!!
セイバーの眼には、会敵したサーヴァントが、人の姿では無く、山よりも巨大な鬼(オーガ)に見えた。
◆
「クスクスクスクス」
雄(オトコ)が────超雄が嗤う声。
闘争(たたかう)よりも速く、勝てないと断じてしまったセイバーを嘲る声だ。
「最優のクラスと聞いて、少しは期待していたんだがよう…。とんだ見当違いだったみたいだなぁ」
その超雄は、身長は190cmを超える程度。その力を解放した時、如何なる生物も只では済まないと確信させる筋肉で全身を鎧っっていた。
今まで超雄がその暴力で屠り去ってきた生物の鮮血で染め上げられたかの様な、超雄の宇宙からでも認識できそうな気炎を実体化させたかの様な赤い髪。
強大な力を内蔵したうねる筋肉の束を覆う、鋼鉄を思わせる黒い皮膚。
凡そ、全身の何処にも、爪の先端部や髪の毛の一筋に至るまで。
それどころか、視線や口から吐き出す息に至るまで、弱いという要素が存在し無い。
タンパク質とカルシウムでできている人体とはlは到底思えない。地球創成期から現代に至るまで星野中核で巨大な質量とエネルギーにより圧縮され続けてきた鉄塊が人の形を得て動き出した。
そう。言われても────そう、言われた方が納得がいく。
『弱さ』というものを、産まれた時点で、否。産まれる以前から、受精卵の時点で、概念レベルで捨て去ってきたかの様な。
『強い』という概念について訊かれた時、この超雄を識る者は、皆が皆この超雄を挙げるだろう。
『強い』という概念の擬人化。『強い』という普遍的な言葉を、己一人に隷属させる存在。
この超雄の存在した後の世界に於いて、『最強者』という言葉を意味するものはこの男の名を以って宛てられる。
それが、セイバーの眼前に在る超雄だった。
セイバーは最早、己の敗北を規定事実として受け入れている事に気がついた。
◆
ズチャ。と靴が地面を踏みしめる音。雄(オトコ)はただ普通に歩いているだけだ。長身かつ強大な筋肉に覆われているが、巨人という程でも無い。巨(おお)きさならば、現代日本に於いてならば上回る者は幾らも居よう。
ならば、それならば、何故、ただそれだけで、直下型大地震が発生したかの様な震動と揺れを感じるのか。
何故、雲衝く巨人が迫っている様に見えるのか。何故、天をも衝く巨峰が迫り来る様に感じられるのか。
理解(わか)っている。超雄の放つ闘気(オーラ)の所為だ。
否。超雄の纏う雰囲気の為だ。
「この俺が居る戦争だ。ふさわしくない者には去って貰い。よりふさわしい者に残ってもらわなければならない」
只、其処に在るだけで、天が、地が、太陽が、月が星が、超雄の居る地点へと総てが収束してゆく。それ程の存在感。宇宙がこの超雄を中心に動いているとすら思わせる。
圧倒的。そんな言葉が脳裏に浮かび、否とセイバーは浮かんだ言葉を否定する。
そんな言葉では到底足りぬ。この超雄を形容する為には、新たなる概念が必要だと。
『お前は聖杯を競うにふさわしくない』言外にそう告げられたセイバーは、意識の何処かで肯定してしまっていた。この超雄と聖杯を争うに自分はふさわしくないと。
聖杯に願う大願も忘却し、只々怯えるセイバーに、超雄が開始(はじまり)を告げる。
「間合いだぜ」
超雄とセイバーの距離は2m。セイバーは剣を振るえば届くが、超雄はあと一歩を必要とする距離だ。
超雄の宣告は、セイバーに『これが最後の機会だと』告げるものだった。
「雄…雄雄雄雄雄雄雄雄(オオオオオオオオオオオオオオ)!!!!」
破れかぶれの絶叫と共にセイバーが剣を振るう。生前に振るった如何なる斬撃よりも、速さ重さ鋭さの全てに於いて凌駕すると、そう、自負できるだけの一剣。
如何なる強者も、如何なる生物も、例え最強の幻想である竜種であっても、斬断出来ると確信できる一剣。
それが超雄に届くよりも速く、セイバーの胸板に直撃した前蹴りが、セイバーを遥か後方へと吹き飛ばし────セイバーの存在そのものを“座”へと送り返した。
「さて…お次は」
超雄の視線を向けられただけで、セイバーのマスターである魔術師派失禁した。
全身の細胞が、精神が、魂が、この超雄に屈している。
2mを超える巨軀も、シベリアブリザードの中で鍛え上げた肉体も。
ムエタイも、ブラジリアン柔術も。
全てが意味を為さない。
そう、認識していても、魔術師はアップ・ライトに構えた。構えてしまった。
「サーヴァントよりは骨があるじゃねえか」
獰猛な笑みを浮かべて歩み寄る超雄に向けて、空気を裂いて繰り出す拳。唸りを上げて振るう脚。その悉くを人差し指で弾き飛ばされ、超雄のデコピンで魔術師の意識は雲散霧消した。
◆
百畳は有る広い部屋だった。
敷き詰められた畳は全て、い草の香りがする新品だ。
部屋は広いだけでなく、天井も高い。
天井板に使われているのも、新品の檜だ。
特別な調度品も無く、装飾も施されていない単純(シンプル)ば部屋だが、部屋を構成する空間の広さ高さそのものが、この部屋の、この屋敷の、主人の所有する、途方も無い財を理解(わか)らせてくる。
その空間に遍く己の存在感を漲らせる超雄(オトコ)が胡座をかいて座していた。
この空間の全てが、金銀財宝で埋め尽くされていようとも。
この空間の全てが、世界中から厳選された美男美女で埋め尽くされていようとも。
この世の全てが、この超雄の存在の前に霞んでしまう。意味を失う。
それ程の、存在感。
そんなモノを放つこの超雄は、無論、只人では無い。
聖杯大戦に参戦したサーヴァント。それがこの超雄の素性であった。
その真名を、範馬勇次郎という。
全生物無差別級チャンピオン。地上最強の生物。ベアナックルアーミー。鬼(オーガ)。その強さ故に得た呼び名は数知れず。その全てが誇張では無く真実だと、これらの表現では到底足りぬと悟らせる強者を超えた強者。
無限の闘争本能を満たすべく、この電脳冬木に現界した最強者。
「で、どうじゃった。勇次郎よ」
範馬勇次郎の前に向かい合って座る老人。全力で稼働する蒸気機関の様な熱気を放ち、周囲の空間を揺らがせる勇次郎を前に、新品のおもちゃの山を前にした幼児の様な表情を見せる老爺の名を、徳川光成という。
政財界に絶大な影響力を持ち、金銭を円では無くキロで数え、時の総理大臣を呼びつけて金の数え方を講義(レクチャー)し、東京スカイツリーの地下に造った研究施設で、掘り出してきた宮本武蔵の遺体から武蔵のクローンを作成できる大富豪である。
闘う男を愛し、強い男を愛し、強い男と男が闘う事を何よりも愛する人物であり、その為に倫理のネジを外して生きる男である。
この聖杯大戦に於いてもその財力と人脈は再現されており、冬木氏の至る所に人員を配し、警察や市役所の人間も抱きこんで、厳重な監視網を敷き、二十四時間体制で他の主従の捜索に当たらせている。
「ツマらねぇ奴だった。残る全員あんな雑魚じゃねぇだろうな」
「まだ最初の一組じゃろう。これで飽きられたら、わしがお主を呼んだ甲斐が無いんじゃが」
空気が冷えた。
背骨が氷柱に変えられたかの様な冷気。頭蓋骨の中身が液体窒素になったかの様に光成の身体が震え出す。
「光成よ」
明らかな怒気を含んだ勇次郎の声。
トラムプやオズマならば、アメリカ合衆国大統領という地位を投げ捨てる事で勇次郎の怒りが収まるならば、迷うこと無く大統領の地位を捨てる事だろう。
世界最大最強国家の最高指導者たる地位と権力など、何の意味もないと識るからこそ。
アメリカ合衆国の持つ経済力、軍事力、情報力が、勇次郎には何の意味も為さない事を識っているからこそ。全てを投げ捨てて、勇次郎の慈悲を乞う。
それは勇次郎をサーヴァントとして召喚した徳川光成とて同じ事。
飢えた人喰い虎と、同じ檻に入れらる方がまだ生存の目がある。そんな確信を抱かせる範馬勇次郎の怒り。
「お前が俺を呼んだんじゃねぇ。俺が俺の意志で此処に来たんだ」
範馬勇次郎の提議する『強さ』。それは、我儘を貫く事。最自由である事。
光成に呼ばれたから勇次郎が此処に来たのでは無く、勇次郎が自らの意志で光成を道標として此処へ来た。
これが勇次郎の認識する、己が此処にいる事の所以であり、そしてそれは完全に正しかった。
勇次郎にとって、己の行動は全て己の意志で決める。
その巨大な自我(エゴ)のままに赴き。巨大な自我(エゴ)のままに闘う。そこに他者の思惑や都合などという不純物が入り込む余地など微塵も無い。
「スッ……すまんかった勇次郎ッッ!!!」
勇次郎とは古い付き合いがあり、マスターでもある光成ではあるが、それでも逆鱗に触れれば躊躇せず、勇次郎は光成を殺すだろう。それが理解(わか)っているからこそ、血相を変えて光成は謝罪した。
勇次郎は何のリアクションも示さない。ただ、生物であるならば等しく“死”を理解(わか)らさせる、超絶の殺気が収まったのを、光成は感じた。
漸く安堵した光成は、話題を変えるべく、勇次郎を召喚した瞬間から抱いていた、最大の疑問を問いかける。
「……そ、それにしてもじゃ…。お主がこうして此処に来た……。つまりは………。そういう……………」
言葉を濁す光成だったが、言わんとすることは勇次郎は理解できた。
「光成よ。俺は何と呼ばれている」
「鬼(オーガ)」
「違う」
「巨凶」
「違う」
「地上最強の生物」
「そうだ」
勇次郎が首肯する。その言葉の端に、口惜しさの様なものが、ごく微小だが感じられるのは気の所為か。
「地上最強なんて呼ばれちゃいるが、俺とても『生物』だ。産まれ、育ち、老いて、死ぬ。それは避けられぬ」
「な…何とッ!」
勇次郎が語ったのは、極々普遍的な事実に過ぎぬ。如何なる生物も、その生の旅路の果ては死だ。だが、それを、範馬勇次郎が言うとなると話は別だ。
時の流れを、老いを、死を。その全てを傲岸にねじ伏せて、永遠に生き続ける。
範馬勇次郎を知る者全てが、程度や強度の差こそ有れ、胸に抱く幻想(イメージ)、或いは信仰。
それを否定する言葉は、例えそれが範馬勇次郎の言葉であっても、俄には受け入れ難い。
「確かに俺は死人だ」
「そして、生前の様に、闘う相手を求めて……」
クスクスクスクスクスクスクスクス。
勇次郎の笑い。徳川光成の言葉を否定する笑いだ。
「俺が此処にいるのは戦う為だけじゃねぇ。聖杯なんていうどんな願いでも叶うステキなものが有るんだ。使わないとな」
聖杯を獲るという過程など存在しない。この俺がここにいる以上、聖杯は既に俺のもの。そう断言しているに等しい言い草だが、範馬勇次郎が言えば至極当然の事実の様に響く。
「い、一体、お主は、いや、お主程の男が何を願うとッ!」
徳川光成にも理解出来ない、範馬勇次郎の聖杯への願い。生前に地上のあらゆるものを、その規格外の腕力のみで手にした勇次郎が、一体何を望むと言うのか。
「知れた事」
勇次郎の顔が笑いの形に歪む。肉食獣が獲物を前にした時の様な、獰猛極まりない笑顔。
「聖杯戦争を喰らい尽くすッッ!。朝も昼もなく喰らうッッッ。
食前食後にサーヴァントを喰らうッッッ。
飽くまで喰らうッッッ。
飽き果てるまで喰らうッッッ
喰らって喰らって喰らい尽くすッッッ」
要は、聖杯戦争。
範馬勇次郎の無限の闘争本能が求めるものは、無限の聖杯戦争。
聖杯という賞品(トロフィー)に群がる英霊共を、喰らい、喰らって、喰らい尽くす、
飽きるまで、飽き果てても尚。
「お前にとっても、悪い話じゃ無いだろう」
飢えと喜悦に満ち満ちた表情の勇次郎を前に、光成もまた、同じ表情を浮かべていた。
【名前】
範馬勇次郎@刃牙シリーズ
【CLASS】
シールダー
【マスター】
徳川光成@刃牙シリーズ
【属性】自我(混沌・悪)
【ステータス】筋力;A+ 耐久:A+ 敏捷A + 魔力:E 幸運:EX 宝具;EX
【クラス別スキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:EX
騎乗の才能。乗り物を扱った逸話は存在しないが、野獣クラスの生物までなら視線のみで屈服させられる。魔獣以上の生物でも、当人の“意志”により屈服させる判定が生じる。
自陣防御:EX
味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
防御限界値以上のダメージを軽減するが、自分は対象に含まれない。
ランクが高いほど守護範囲は広がっていく。
範馬勇次郎のこのスキルはE判定だが、宝具を発動した場合、彼の背後に存在する者への攻撃が不可能となる。
【固有スキル】
自我(エゴ):EX
極限まで極まったエゴ。己こそ最強という自負を持つ地上最強の生物に相応しい、なにものにも束縛されずに自由に振る舞う地上最強の我儘。
自己の強さ。自身の行動が必ず己の望んだ結果を齎すという思い込み。
産婆に己を取り上げることを命じ、母親に授乳を命じた絶対の自我(エゴ)。
これらを支える精神強度は、歴史上の偉大な政治指導者や、宗教家をして漸く匹敵する。
規格外の精神異常と同じ効果を発揮する。範馬勇次郎にはあらゆる精神干渉が通用しない。
範馬勇次郎の行動に他者の意は介在しない。
令呪ですら意に沿わぬ命令ならば、一角では弾かれる。
地上最強の生物:EX
誕生した瞬間に、強さを拠り所とするあらゆる生物のランクを自動的に一つ下げ、危機感知能力に優れた政治指導者達に、密かに核武装を決意させた最強生物である範馬勇次郎の存在そのものがスキルとなったもの。
対峙した敵が地球で産まれた存在であったなら、自動的に全ステータスが2ランク上回り、攻防において圧倒的に有利な補正を得るというスキルだが、範馬勇次郎はこれらの効果を『不純物』として切り捨てている。
代わりに怪力、天性の肉体、無窮の武練、直感、心眼(真)etc…といった、範馬勇次郎の強さを物語るスキルがこれでもかと言わんばかりに最高ランクで詰め込まれている。
殺傷本能:EX
誰かを殺傷しなければ眠れないという超強力な殺傷本能を持つ。
聖杯大戦という餌に困らぬ超濃密度の闘争の場に於いては最高ランクの勇猛の効果として発揮される。
あと闘争と関係ない事やらせようとするとキレる。
【宝具】
弱き者の希望
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:∞最大捕捉:範馬勇次郎を知る全ての弱者
常に弱き民に無防備に背面を晒し、彼らの前に在る強き兵士たちに正面を向け続けた。
弱き者の味方では無く、正義の味方などでは無く、強者を相手に裡なる戦力(ちから)を解放し続け、遂には兵士達の背後に居る権力者の前に立ち、彼等を服従させた絶対の腕力。
迫害(おい)つめられる“弱き民達”は
強大国家にとっての最大の“脅威”を
“神”と崇め…………… “天使”のように愛した………。
その信仰が宝具と化したもの。
腕力だけで、腕っ節だけでどれ程のことができるのか。産まれ持った肉体の力だけでどれほどの事が出来るのか。その可能性を究極極限までに示した範馬勇次郎は、地上最強の腕力家であり、あらゆる物事を『腕力で』捩じ伏せる。
要は筋力値を基に判定を行う星の開拓者スキルである。
幸運値がEXなのはこの宝具の効果。
もう一つの効果として、範馬勇次郎は弱き者達にその姿を見られても神秘が零落することは無い。
本来ならば弱き者達に知られれば知られるほどに、信仰補正により強化されるのだが、その効果は範馬勇次郎により『不純物』として切り捨てられている。
鬼の貌(オーガ)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:自分自身
打突の要と言われる」
背なの筋肉…
その筋肉の構成が……
明らかに通常と異なる
言うなれば生まれながらの……
天然戦闘形体………。
範馬勇次郎が生まれながらに有する背面の筋肉構成。地球上の全生物を屠る究極の打撃用筋肉(ヒッティングマッスル)。
己以外を餌と断ずる範馬勇次郎の本気全力の戦闘形態。
この宝具を発動すると筋力値がEXとなる。
敵対者は、闘争の歓喜若しくは死への恐怖で、勇次郎に全意識が集中してしまい、範馬勇次郎の背後に居る弱者達を認識する事が出来なくなる。
技術に頼る防御は、それが例え宝具であったとしても無効化されてしまう。
夜の公園で本部以蔵を瞬殺した逸話から、自身に掛かるあらゆるデバフと、敵に掛かる全てのバフを無効化する効果も持つ。
【Weapon】
己が肉体。
【解説】
刃牙シリーズのラスボスである地上最強の生物。
この聖杯大戦に於いては、弱き者達の信仰によりシールのクラスで現界している。
誰かを殺傷しなければ眠れないという殺傷本能を持ち、その殺傷本能から派生した強姦癖を持つが、弱き者達の希望であるシールダーのクラスであり、聖杯大戦という超濃密度の闘争の場に於いては、殺傷本能はまだしも強姦癖が現れることは無い。
【聖杯への願い】
聖杯戦争を永遠に楽しみ続ける。
要するに自分主催で聖杯戦争を開催し続けるという事。
【マスター】
徳川光成@刃牙シリーズ
【能力・技能】
金を円ではなくキロで数える財力と、総理大臣を家に呼びつける事ができる人脈。
【解説】
地下闘技場の所有者であり、日本有数の金持ち。
東京スカイツリーの地下に秘密裏に研究所を設置して、優秀な人員集めて、宮本武蔵復ッ活ッ!計画に着手していたりする。
強い男が好きで、強い男が戦うところを見るのはもっと好き。
最凶死刑囚篇から倫理のネジが外れていて、東京の治安悪化に確実に貢献している老害。
【聖杯への願い】
聖杯をトロフィーとして聖杯戦争を開催したい。永遠に開催し続けたい。
投下を終了します
訂正します
>>699 の
聖杯大戦へ向かう
※ルーラーの元に送られた、差出人不明のFAX
を
聖杯大戦へ向かう
※主催者の元に送られた、差出人不明のFAX
とします
投下します
私、アーリシアは聖杯に何を願いたいのだろうか。
そもそも聖杯が欲しいのだろうか。
それすら、今の私には分からない。
私の人生が方向づけられたのは、五歳の時だったと思う。
優しくて大好きだったお父さんとお母さんが魔物の襲撃で死んでしまい、私は孤児院に送られた。
だけどその孤児院は酷いものだった。
孤児院を管理する老婆は朝と晩に食事のスープとパンを与えるだけであとは何もせず、孤児院のことや他の関係ない仕事を押し付けてきた。
おまけにその食事や寝具代わりの毛布も、前からいる他の孤児に奪われ続けた。
殺されると思ったことは一度や二度じゃないが、誰も助けてくれたりしない。
孤児なんて、関係ない人からすれば厄介でしかないからだ。
それでも二年間耐えてきたけど、七歳になった時私は大事な人が来るから身ぎれいにするよう老婆に言われた。
この意味が分からない私じゃない。人買いに売られると思った私は孤児院から逃げ出した。
でも生きる術なんて何も持っていなかったから、裏路地で膝を抱えるしかなかった。
そんな時、あの女が現れた。
女はナイフで私を殺そうとしながらこう語った。
私がいるこの世界は女曰く、乙女ゲーム『銀色の翼に恋して』という物語の世界で、私はその主人公らしい。
女は前世でそのゲームのファンだったらしく、転生したからにはなんらかの形で物語に関わりたかったが、出来なかったらしい。
だから女は私に記憶と人格を映して、『アーリシア』に成り代わろうとした。
その為に使う魔石というものに私が触れた瞬間、女が持っていた知識が流れ込んできた。
それは私が住んでいる世界の常識や知識だけでなく、今聖杯戦争をしている日本という国についてや、他にも様々なものだ。
その時、私が思ったことは猛烈な怒りだった。
この世界に来て調べれば、製作にはお金や労力がかかることは理解できても『乙女ゲーム』がくだらないものにしか見えなかった。
いや、乙女ゲームだけじゃない。
あの古いだけの孤児院も、小賢しい孤児たちも、強欲なだけの老婆も、虐待を知りながらも目を背ける町の人間も、あの女が抱えていた想いも。
なにもかもが、くだらなかった。
そして、そんなくだらないものの為に私が生まれたのかと、そんなことの為に私のお父さんもお母さんも死んだのか!? と、腹立たしくて仕方なかった。
私は私を乗っ取ろうとする女を殺して、持ち物を奪った。
次に孤児院の老婆を殺した。
もし生かしていれば、売り飛ばそうとしているのに逃げ出した私をいつまでも追い続けるだろう。
しかし死んでしまえば後始末で精一杯になり、私を探すどころではなくなる。
私は『乙女ゲーム』を拒絶する。
私を彩る運命なんてなくなって、人は生きていける。
それは、聖杯に対しても同じだ。
最初は、馬鹿にされているのかと思った。
私の思いは間違いで、縋ればいいと、運命に従っていればいいんだと言っているのかと思った。
だから、聖杯なんて必要ないと思っていた。
でもここには、死んだお父さんとお母さんがいる。
無論、本物じゃない。これがNPCと呼ばれる、ただの舞台装置だと頭では理解している。
だけど偽物のお父さんとお母さんを見ていると、本物に会いたくなってしまう。
生き返らせる手段なんて知らなければ、ただの優しい夢幻で済むのに。
その為に敵ならまだしも、何の関係も罪もない人を殺したいとは思わないのに。
ねえライダー。私のサーヴァント。
私は次、どうすればいい?
死んだ人を生き返らせるために人を殺していいと思う?
それとも、そんなことは許されない?
どっちだと思う?
そんな私の縋るような言葉を
「それを決めるのは俺じゃないよ」
ライダーは切り捨てた。
「それは、あんたが決めることだ。
あんたが考えて、あんたが答えを出さなきゃいけないことだ」
ライダーは、自分で決めろと言ってきた。
だけど彼の言っていることは全くもって、その通りとしか言いようがなかった。
◆
そもそもなぜこんなことを話したかというと、最初はライダーが私に願いの確認をしてきたことがきっかけだった。
ライダーとしては、私の願いが万が一にも自分の家族を害さないかを確かめたかったらしい。
場合によっては自分が消滅しても私を殺すかもしれない。そう思わせる眼つきをしていた。
でも私の話を聞いて、ライダーはとりあえずその気は失せたらしい。
「ライダーは、会いたい人とかいないの?」
「俺も、死んだ人間に会いたくないわけじゃないよ。
ビスケット、シノ、オルガ。鉄華団の皆。俺にとっての、家族。
でもさ――」
ここでライダーは一度話を切り、私の方を見てこう言った。
「あんたの話で出てきた転生者って奴に鉄華団の皆もなってて、前より幸せになってるのなら、俺はそれでいいよ。
……いや、それとは別に会いたい奴はいるな」
「……誰?」
「俺の子供」
ライダーの言葉に、私は思わず驚く。
目の前の私のサーヴァントは、死んだお父さんよりもずっと若い。なのに子供がいるとは思わなかったのだ。
「アトラやクーデリアがいるから、多分俺達とは違って大丈夫だと思うけど、それでも一回くらいは会ってみたいな。
俺、その子供が生まれる前に死んだから。
その為に俺は聖杯戦争に来たんだ」
「じゃあ、私が戦うのに迷ってるのは都合が悪いんじゃないの?」
「まあね」
ライダーの言葉に、私は気落ちしそうになる。
最初は拒絶するはずだった聖杯に願いを託すことは、当たり前だがサーヴァントには都合が悪いのだから。
サーヴァントに全部渡せば私は聖杯がいらないと言いきれるけど、今はそんな気にはならない。
「でも俺は、子供を無理矢理戦わせるなんてのは、嫌だな。
オルガなら、絶対無理強いはさせないから。
そりゃ、最初は殺す気で聖杯戦争に来たのにやっぱりやめるとかだったら俺も怒るかもしれないけど、そうじゃないしさ」
「じゃあ私が聖杯戦争したくないって言ってもいいの?」
「いいよ。別にここで聖杯取れなくても、俺は他の聖杯戦争に召喚されればいいだけだし」
ライダーの言葉は、強かった。
迷いがない。恐れがない。いつだって前を見据えている。
私の理想は、もしかしたら目の前のライダーかもしれない。
……そういえば、私はまだあることを聞いていなかった。
「ねえライダー」
「何?」
「ライダーの真名、教えて」
真名。それはサーヴァント本来の名前。
迂闊に明かせば逸話から弱点を突かれるらしいから、あまり明かさないことが望ましいらしい。
それでも私は、思わず聞いてしまった。
だけどライダーは特に悩むことなく、すんなり答えてくれた。
「三日月・オーガス」
【クラス】
ライダー
【真名】
三日月・オーガス@機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷D 魔力D 幸運D 宝具C(バルバトス騎乗時)
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:C
魔術への耐性を得る能力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:‐
このスキルは機能しておらず、後述の阿頼耶識システムが代わりとなっている。
【保有スキル】
鉄華団の悪魔:A
ライダーが生前称された悪名がスキルとなったもの。
このスキルは同ランクの戦闘続行と無冠の武勇として扱われる。
また、このスキルの持ち主は反体制やアウトロー。あるいは混沌属性のサーヴァントから良い印象を持たれやすくなる。
逆に警察などの秩序側。あるいは秩序属性のサーヴァントからは悪印象を抱かれやすくなる。
なお、どちらの印象であってもあくまで抱かれやすくなる程度で、必ずしも厚遇や敵対されるわけではない。
阿頼耶識システム:A
脊髄にナノマシンを注入し、パイロットの神経と機体のシステムを直結させることができるようになるインプラント機器。
このスキルの持ち主は、阿頼耶識のシステムと連結できるのならばどのような機器類でも操縦が可能となる。
単独行動:C
本来ならアーチャーのクラススキル。ライダーは生前遊撃隊長として単独、あるいは少数で戦い続けていたためこのスキルを得た。
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
Cランクならば1日は現界可能。
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
【宝具】
『悪魔を冠する狼の王(ガンダム・バルバトスルプスレクス)』
ランク:C 種別:対艦宝具 レンジ:1〜100 最大補足:1000
三百年前、厄祭戦にて用いられた七十二機のガンダム・フレームのうち一つ。
天使の名を冠するモビルアーマーに対抗するために作られた兵器。
宝具展開時は魔力を多大に消費するが、反永久機関であるエイハブ・リアクターを内蔵しているため、宝具展開中の魔力は自力で捻出可能。
捻出した魔力をマスターに還元することでマスターの魔力も回復できる。
また、エイハブ・リアクターの効果で宝具展開中は、レーダーなど電波や電気を用いた機材が使用不可となる。
さらに、宝具展開中はライダーが生前ハシュマルというモビルアーマーを単独で撃破した逸話から、天使の名を冠する存在に与えるダメージが上昇し、勝率も本来より上昇する。
【weapon】
・拳銃
ライダーが生前使用していた銃。本物は最終的にライドが所持者となった銃。
サーヴァントとなった彼の武装なので多少の神秘は宿っているが、対魔力スキルの持ち主には通用しない。
・火星ヤシ
ライダーの好物である食べ物。植物の種のような外見の携行食。
たまにハズレが混ざっている。
【人物背景】
破滅の運命に抗った少年。
【サーヴァントとしての願い】
自分の子供に少しでも会いたい。
けど、マスターが聖杯戦争に乗り気じゃないなら自衛程度にしか戦わない。
【マスター】
アーリシア@乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル(漫画版)
【マスターとしての願い】
お父さんとお母さんとまた一緒に暮らしたい……?
【weapon】
・ナイフ
”あの女”が持っていたナイフを奪ったもの。貴族の自決用なので切れ味はあまりよくない。
【能力・技能】
・知識
”あの女”が持っている知識の一部。
転生者である彼女にあるのは現代日本で生きていた時に得たものと、アーリシアの元の世界で得た知識。
ただし、乙女ゲーム『銀色の翼に恋して』の本質部分、ストーリーや登場キャラに関してと、”あの女”の前世部分に関してはかなり曖昧。
知識幅は広いが、あくまで一個人の物なので興味がなければいい加減だったり、間違って認識している物もある。
また、あくまで知識でしかないので、実践できるかは別問題。
・美貌
見る者を見惚れさせる美しい外見の持ち主。
アーリシアは本来なら多くの男性に好かれ、同性であっても見惚れさせるほどの美少女となるはずだった。
とはいえ今の彼女は七歳。見惚れさせることができるのは精々同世代くらいだろう。
【人物背景】
運命に抗い始めた少女。
【方針】
ライダーの宝具は出すと目立つので、あまり使わないように立ち回る。
だがそもそも、今はまだ聖杯を狙うかどうか迷っている最中。
【備考】
参戦時期は1話終了後です
投下終了です
投下します。
【注意!】
※このSSは、現在公開中である映画『プリキュアオールスターズF』のネタバレを大いに含んでいます。閲覧の際はどうかよくご注意ください。
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それはまさしく、"絶望"と形容する他ないものだった。
『天体制圧用最終兵器ゼットン』、そう呼ばれるものが、視界に映っている。
それは、1TK(1テラケルビン)の熱量の火球をもって、地球を太陽系ごと消滅させるために起動された兵器。
たとえ火球の発射前に破壊しようとしても、巨大であることと備え付けられた様々な防御兵器等がそれを阻む。
―――きっと、『みんな』には、僕もこんな風に見えていたのだろう。
―――まあ、流石に太陽系ごと破壊する力はなかったと思うけど。
けれども、そんな絶望の化身を相手に立ち向かった者がいた。
今見ているのは、その者が見ていた光景だった。
そいつは、たった一人で"絶望"へと突撃していった。
地球の人々の、想いを背負って。
宇宙空間で空を飛びながら、拳を突き出して。
―――これが、彼の「強さ」か。
―――まるで、人数は違えど、あの時僕に向かってきた『みんな』のようだった。
その拳は、ゼットンに届いた。
そして、地球人の英知も借りていたことにより、その拳がゼットンを倒した。
けれども、その代わりに……
◆◇
「……ター、マスター」
「ん…」
人のいない時間帯である、夜の公園でのことだった。
ベンチの上で、一人の少女が寝ていた。
少女は淡く緑がかった髪色をしており、服はフード付きの黒っぽいパーカーを着ている。
彼女は、呼び掛けられたことにより目を覚ます。
彼女を起こしたのは、スーツ姿の成人男性だった。
「……フォーリナー」
「マスター、そろそろ時間だ。休息はここまでとしよう」
フォーリナーと呼ばれた成人男性は少女の言葉に応える。
彼は、少女の聖杯戦争におけるサーヴァントだ。
「…もうそんな時間か。体を定期的に休ませないといけないなんて、これが人間になるってことなのかな」
少女はそんなことを呟く。
その内容通り、彼女は元々は人間ではなかったが、それについてはまた後述する。
彼女の名はプリム、『プリキュア』だ。
それも、まだなったばかりの新米だ。
プリムがこんなところで寝ていたのは、帰るための家が存在しないため。
彼女には、ここ電脳世界の冬木市において、ロールが割り当てられてなかった。
生活基盤が、整っていなかった。
おかげで夜中に街中を歩いていた時なんかは、警察から補導されそうになったこともあった。
そういうのは面倒なため、そういう時は走って逃げて回避した。
「……ねえ、フォーリナー。何で君は、僕に召喚されたのかな」
プリムは起き上がり、ベンチの上に腰掛けながら、フォーリナーにふと声をかける。
ちなみに、実はサーヴァントとしてのクラス名を呼ぶのは、プリムとしては少し歯がゆい気持ちがあった。
フォーリナー(降臨者)だなんて、まるで自分のことも言っているかのような感覚があるためだ。
「僕と君とじゃ…やったことがまるで正反対だ」
プリムは表情に少し影を落としながらそんなことを言う。
「ねえ、どういうことなんだろうね……『ウルトラマン』」
そうして彼女は、自らのサーヴァントを真名で呼んだ。
「きっと僕は、本当なら君みたいのが倒しに来るような存在だったのだろうに」
◇
本来のプリムは、人間ではなかった。
遠い宇宙から来た、怪物だった。
それも、様々な星を滅ぼしてきた、とても危険な存在だった。
元々の名は、シュプリームといった。
目的は、自分が宇宙最強であることを確かめることだった。
けれども、地球で『プリキュア』に出会ったことで、変化が起きてしまった。
一度はプリキュアに勝ったが、これまで戦ってきた中で最も強かった彼らの力に興味を抱いた。
そして、自分もプリキュアになろうとした。
そのために、一度地球を破壊して、実験場として作り直した。
自らの肉体も、形は人と同じに作り替えた。
けれども、形だけの真似事で、プリキュアになれるはずがなかった。
理解できるはずも、なかった。
◆
「だから僕は、復活したプリキュア達に負けた。今こうして生きていられるのは奇跡か、それとも、あいつがいたからか…」
その言葉には、後ろ向きめな感情が含まれているようだった。
契約のラインを通して見たサーヴァントの記憶と、自分とを、比較してしまっているためにそうなった部分もあるようだった。
一度地球を破壊した自分と、地球を守ったフォーリナー。
それぞれ別宇宙の出来事とは言え、全く逆の行いだ。
それにそもそも、彼は宇宙の脅威を排除することが仕事のようだった。
「マスター、君はもしや、罪の意識というものを感じているのか」
「…そうなのかな」
これが罪の意識というのなら、それはきっと初めての感覚だ。
プリムは…シュプリームは確かに、これまで本当に酷いことをした。
様々な星々を無差別に襲い、滅ぼしてきた。
しかも、プリキュア以外はそれまで戦ってきた者達がどんな者達だったか、覚えていない。
こんなことを意識してしまうのもまた、自分のサーヴァント…ウルトラマンの記憶を見てしまった影響だろうか。
「僕はこう思ってしまっているのかな……僕は本当に、プリキュアになっていいのかと」
プリキュア達に敗北して初めて、ようやくプリキュアのことを理解し始めた。
そして、自分はプリキュアの仲間と共にある姿に憧れていたことを自覚した。
それを、自分が作り、一度は役に立たないからと捨てた妖精…プーカに分からされた。
それにプーカは、自分より先にプリキュアになれた。
そんなプーカから手を差し伸べられたからこそ、改めて本当のプリキュアをやろうとも思えた。
しかし、ここにそのプーカはいない。
プーカのいない自分に、本当に今度こそがあるのか、そんなことを心の片隅で思ってしまっていたのかもしれない。
◆◇
「マスター、一応言っておこう。私と君の言うプリキュアとやらを、混同するべきじゃない」
「……なるほど。確かに、それもあるかもね」
夢で見たフォーリナーは、プリキュア達と違いたった一人ではあれど、宙に浮かぶ星を滅ぼす存在へと立ち向かっていった。
それにその前には、仲間に送り出されていた。
たとえその時の場にはいなくとも、彼は一人ではなかったということだ。
そんな姿に、プリキュア達に見出だしたものと同じものを少し感じていたのかもしれない。
「…私が何故、君に召喚されたのかと言っていたな。確かに我々は、人間へのアプローチは真逆だったと言えるかもしれない。だが、君も人間を知ろうとした」
「そこは一致していたからってこと?僕がやったことには何も思わないの?」
「何も思わないわけじゃない。けれども、君はもう変わっているだろう。それとも、叱ってほしいのか?」
「さあ…どうなんだろうね」
二人の会話は平行線上になってかみ合わなくなってきていた。
それを感じ取ったフォーリナーが、話題を変える。
「…そういえば、この話をまだしていなかった。私はそもそも、人間を殺している」
「え?」
その告白に、プリムは意外性を感じた。
これまでにプリムがフォーリナーについて知らされていたのは、地球とそこに住む人々を守っていたことまでだった。
夢で見た光景も、そんな場面だけ見れた。
けれども、プリムがまだ知ることのできていないオリジンがあることを、知らされた。
これまで感じていたほど、フォーリナー…ウルトラマンは完全に近い存在ではないことを示されてきた。
「私が最初に地球に降り立った際、その衝撃で巻き上げた岩石を衝突させて死なせてしまった。その人物こそ、私が融合したこの人間「神永新二」だ。私は、神永と融合していた時期を全盛期とみなされ、この状態で召喚された」
「……そうだったんだ」
フォーリナーが人間と融合している状態だったということ、それも今初めて知ることになった話だ。
今までの会話が無ければ、本人の口からこの話を引き出すことはなかったかもしれない。
「神永は死の直前、自分より弱い個体である子供を守ったこと。当時の私はその行動を理解できなかった。だから、私は人間に興味を抱き、融合した。そうして私は、人間社会の中で過ごすことになった」
「…なるほどね」
以前の自分であれば、神永の行動を理解できないのは同じだっただろうなと、プリムは思う。
同時に、フォーリナーの言葉の意味と、彼が何故自分の下に来たのか少し分かりかけてくる。
自分たちは確かに対照的だが、根元の部分で僅かに何か、通じる部分を感じてきた。
「だが私は、結局人間を理解することはできなかった。いや、何も分からないからこそ、人間なのだと思った」
「ん?そうなの?」
「ああ。だからこそ、人間のことをもっと知りたいと願った」
これもまた意外な答えが出てきた。
本物の人間を守っておきながら、そんな言葉が出るとは思ってなかった。
「マスター…君だって、本当に人間のことを理解できているのだろうか。例えば、負の側面等といったものは認識できているか?」
「それは…」
そう言われてみると、少し反論できないところもあった。
プリムの知る人間像は、あくまでプリキュアを通じて見たものがほとんどだ。
プリキュアのことは、理解することが出来始めてきていた。
けれども確かに、人間全体についてはまだ知らないことが多い。
人間社会での暮らし方なんかも、全く分かっていない。
それにプリキュアについても、流石に全部を知っているとは言えない状態であった。
「マスター、私が君の下に来ることになったのは、人間をもっと知るためであると私は解釈している。人間になったばかりの君を、先人として、共に学ぶ者として、手助けをすることが私に求められている役割かもしれない」
「………そういうこと、なのかな」
フォーリナーはプリムに対し、励ますように声をかける。
「それと、君がご執心にしている『プリキュア』というものについても、私はもっと知りたいと考えている。それもよく知れば、人間の新たな一面が見えるかもしれない」
「!……いや、君が想像しているよりも、プリキュアは単純なものじゃないかもよ」
「それは望むところだな」
プリムが発した言葉は挑発的なところもあったが、口角が少し上がっていた。
自分が憧れた存在に興味を持ってもらえたことを、自覚無しに、嬉しそうにしているようだった。
そうして自分のマスターが僅かながらも気力が戻ったような状態になったことに、フォーリナーも微かに笑みを浮かべる。
「……本来の相棒ではないが、我々は同じ道を行くことは可能だと考えられる。たとえ、元は対照的であってもだ。とりあえずは、この聖杯戦争の間は互いに"相棒"ということにしておいてくれ」
「………分かったよ。それじゃあ、改めてよろしく。『ウルトラマン』」
「ああ、こちらこそだ。『シュプリーム』」
「ちょっと、そっちで呼ばないでよ。変身後ならともかく」
「すまなかった。言い直そう。『プリム』」
「…うん」
☆
遥か宙の彼方に、2つの星があった。
それらはどちらも、『花』を見た。
1つは、花をその場で見守ろうとした。
1つは、花を摘み取り自らに飾り付けようとした。
残そうとした星は、花を知るために花になろうとして散った。
奪おうとした星は、花に滅ぼされ自らの衛星と共に花となった。
いや、もしかしたら花と星は、逆だったかもしれない。
如何にせよ、どちらも、本来の衛星はここにはない。
それでも、彼らは共に行くしかない。
彼らは痛みを知った。
それが、彼らを引き寄せたのかもしれない。
彼らは、『強さ』を知っている。
そしてこれからも、学んでいく。
よりもっと、深く。
★
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【クラス】
フォーリナー
【真名】
神永新二/リピアー/ウルトラマン@シン・ウルトラマン
【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:D 幸運:D 宝具:EX (通常時)
筋力:EX 耐久:EX 敏捷:A++ 魔力:D 幸運:D 宝具:EX (宝具解放時)
【属性】
中立・善
【クラススキル】
・領域外の生命:A
マルチバースの外宇宙の存在、その力を身に宿したものであることを示すスキル。
フォーリナーの人格は来訪者であるリピアーそのものだが、地球人類である神永新二との融合が精神に影響を与えていることによりスキルランクは規格外のものではなくなっている。
・単独行動:C
単独行動を可能とするスキル。
マスターがいない状態でも現界を一日程度維持可能。
生前においてフォーリナーは、バディを放っておいて単独行動することが多かったためこのスキルを得た。
・騎乗:E
乗り物を乗りこなすためのスキル。
このランクならば、大抵の乗り物はなんとかなら乗りこなせる。
生前、神永新二としての車を一応所有していたため、このスキルを習得。
【保有スキル】
・スペシウムエネルギー:A
宝具使用時のみに発動。
保有する魔力を、本来のエネルギー源である重元素スペシウム133に置き換え、扱うスキル。
このエネルギーは腕を十字に組むことで光波熱線として発射することも可能。
また、エネルギーを輪っか状に回転させた光輪を飛ばすこともできる。
また、スペシウム133で構成された体は、電撃や放射能を含む熱線等の攻撃を無効化してきた。
それによる昇華も少しあり、魔力による攻撃もある程度無効化可能となっている。
・飛行:A+
宝具使用時のみ発動。
空中を音速を超えるスピードで飛行可能。
・過剰消耗:A
宝具解放時にのみ発動。
人間と融合している影響で、魔力やエネルギーの消耗が非常に激しくなるデメリットスキル。
・融合:-
他の生命体との融合を果たし、相手の命を繋げるためのスキル。
既に神永新二と融合している状態での現界のため、スキルとしては失われている。
【宝具】
『β-system』
ランク:EX 種別:対城・対界宝具 レンジ:1 最大補足:1
ベーターカプセルを点火することで発動。
プランクブレーンと呼ばれる空間に格納された自分の本体を召喚・融合することで身長60m・体重2900tの巨大人型生物「ウルトラマン」へと変身する。
なお、生前においても人類との融合の影響でエネルギー消耗は激しくなっており、更にはサーヴァントの型に当てはめられたことも相まってその燃費はより悪くなっている。
令呪一画分の魔力につきおよそ1分程しかこの宝具の発動の維持は難しいと思われ、激しく活動すればその分さらに短くなると考えられる。
また、エネルギーを大きく消耗した状態だと、体表の赤い部分が緑に変色する。
【weapon】
宝具の発動のために使用するベーターカプセル。
宝具使用時には巨大な体による格闘や、スペシウムエネルギーを利用した光線や光輪、バリアーなどを扱って戦う。
他には、過特隊メンバーの神永新二として配給された拳銃も一応使用可能。
【人物背景】
光の星から生物兵器(地球では禍威獣と呼ばれる)の破壊のために地球にやってきた外星人。
最初に地球に降り立った際、誤って死なせてしまった人間=神永新二が、死の直前に自身より弱い生き物である子供を守ったことが理解できず、興味を持ってその人間と融合した。
その後、禍特隊のメンバーとして禍威獣や外星人達と戦っていく中で、人間のことを知ろうとする。
やがて地球を滅ぼすためにもたらされた、「天体制圧用最終兵器ゼットン」との戦いにより死の淵に瀕したが、そんな時になっても、彼は人間のことは分からなかったと言った。
けれどもそれ故に、人間のことをもっと知りたいと願うようになった。
また、人間の命は短いため、人間になるとは死を受け入れることだとも考える。
それ故に、神永には生き続けて欲しいと思い、自分の命を渡すことを決める。
そんなリピアーの想いを、光の星の同胞:ゾーフィは「ウルトラマン、そんなに人間が好きになったのか」と評した。
ここにおいては、神永新二と融合していた状態を全盛期として再現される形で現界している。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯にかける願いはない。
ただ、人間を守り、もっと知っていきたい。
【マスター】
プリム@映画プリキュアオールスターズF
【マスターとしての願い】
聖杯にかける願いはない。
ただ今度こそ、プリキュアとして生きる。
【能力・技能】
本来持っていたシュプリームとしての「破壊の力」等の権能は、人間化したことによりほとんど失われていると考えられる。
けれども、新たに入手した変身アイテム:シュプリームフォンによるキュアシュプリームへの変身は可能と思われる。
キュアシュプリームとしての能力は、真のプリキュアになる前と大体同じで、格闘、ピースサインの2本指の間から放つ電撃のようなビーム等が扱えると推測される。
なお、プリキュアを模倣していただけの頃のキュアシュプリームは白を基調とした衣装だが、真のキュアシュプリームは黒を基調とした衣装に変わっている。
【人物背景】
プリキュア達がとある世界で出会ったプリキュアを自称する人物。
しかしその正体は、遠い宇宙から来て全プリキュアを一度倒して地球ごと消滅させた、史上最強の敵だった。
元の名はシュプリームであり、元々は人型ですらなく、白い体色をした兎と竜を掛け合わせたかのような姿をした巨大な怪物だった。
唯一ある目的は自分が宇宙で最強であることを確かめることであり、そのために様々な世界を巡り、戦い続けてきた。
そしてプリキュアの力の秘密を知るために、自らもプリキュアになろうとしてプリキュアの姿形を模倣し始めた。
だが、様々な要因が重なったことにより、復活したプリキュア達に敗れる。
けれども、プリキュア達が自分のことを消滅させず、その時にかけられた言葉からプリキュアのことをようやく理解し始める。
憧れを自覚し、人間へと生まれ変わり、今度こそプリキュアとして自分が生み出した妖精:プーカと共にふたりで再出発することを決めた。
こうして、怪物:シュプリームが人間へと生まれ変わった存在が、プリム/キュアシュプリームである。
なお、SS内においては便宜上少女として扱って書いてきたが、実際のところは性別は不明である。
この冬木市においてはロールは特に与えられてない。
投下終了です。
投下します
「…対象を捕捉、これより戦闘行動に移る」
淡々とマスターに行動を説明する、ポケットの中より苦無を取出し、準備を進めるサーヴァント――クラスはアサシン――
目的はただ一つ、前々から狙っていた主従…アーチャーとそのマスターの討伐だ。
誰が狙いやすいか、誰が倒しやすいか見定め、いつ奇襲をかけるかを考えてきた。
その計画が、ついに実行される。
男の見た目は額に十字の傷が入った男、アーチャーは軍服を纏った男だ。
そろそろ人気の路地裏に入る、今が襲う時だ、苦無を投げつける。
勝った!早速様子を見に行く。
――しかし、情景は違った。
苦無は男の手で受け止められ、アーチャーは姿を消していた、どうなっている――
理解を落ち着かせるより、男の言葉が放たれる。
「前々から俺を追っていたサーヴァントか」
男は睨みながら、右手を構えていた。
まさか、この男、戦えるのか――そのためにアーチャーを退避させたのか?
私は曲がりなりにもサーヴァント、それが一介の人間で十分だと?
――ふざけるな――
怒りを込め、忍者刀を抜く。
急速に間合いを詰める。
サーヴァントを舐めた罪、それはその身で償ってもらう。
忍者刀を振り下ろす、その瞬間――
空からの閃光が、アサシンを貫く。
忍者刀の掴んていた手の力が抜ける。
――まさか、と思い、上を見上げる。
夜空に浮かぶ、茶色の輸送機、そして、その中に入る、一つ目の巨人。
――まさか――アーチャーか――?
そして、男に頭を握られ、電撃が走り――そして――
◆
――また一人、倒した。
男――傷の男(スカー)は上を見上げる、空の輸送機が降下してくる、そして、光に包まれ、それが消える、眼の前に降りてきたのは、軍服の男。
「随分と賭けに出たな」
「あぁ」
アーチャー――ヨンム・カークスはスカーへと語りかける。
この作戦、元々アサシンが自身らを追跡したことに気づいたスカーの発案であり、気づいたのも先程だっため、殆ど賭けに近かった。
スカーが実力があるとはいえ、相手はサーヴァント、いつまで持つかわからない。
そこで、カークスは惹きつけてる間に、敵マスターを始末、すぐさま元の位置に戻り、アサシンを狙撃するというものだ。
「とりあえず、用はもうない、帰るぞ」
「了解した」
カークスは答えるように霊体化する、それを見届け、前を歩きだした。
◆
――夢を見た。
おそらく、アーチャーの前世だろうか、どこか見知らぬ場所で、宝具に乗り、何処かへと行くアーチャー。
その立場、自身に似てるようで違った。
連邦とジオン、アメストリスとイシュヴァール、構図は全く同じだ。
差異は一つ、イシュヴァール壊滅後、復讐に動いたのは自分だけに対し、アーチャー達は複数で行動していた。
その仲間達はアーチャーの宝具と物を似た形の物を駆り、連邦軍を焼き払っていく。
ミサイルが、大砲が、閃光が、焼き払っていく。
アーチャーも閃光を走らせ、援護していく。
――しかし、敵主力の出現により一気に壊滅、アーチャーも叫びながら――落ちていった。
「――俺たちのようにはなるな」
それがアーチャーの遺言だった。
自身の身にその言葉が刺さる、かつてイシュヴァールの生き残った主領から言われたように、復讐に囚われるなと。
手を伸ばし、虚構の中の虚構で手を伸ばす。
聖杯を叶えられるなら、ただ一つ、イシュヴァールの復興と名誉の回復。
――この一つ、願いを背負って。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ヨンム・カークス@機動戦士ガンダムUC RE.0096
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具B
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【固有スキル】
千里眼:B
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
さらに高いランクでは、未来視さえ可能とする。
残党のカリスマ:C
各地に散らばりしジオン残党を呼び出し、ダカール、トリントン両面の攻略を無事指揮した逸話を下にした能力
何年間も燻り、連邦への復讐を誓った者たちを率いる。
軍人の誉れ:C
一介のジオン軍人としての誇りをスキルにしたもの。
同クラスの戦闘続行、精神操作無効を内蔵。
【宝具】
『閃光の矢(ザクⅠスナイパータイプ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:― 最大捕捉:3人
モビルスーツの発展期の名機、ザクⅠをビームスナイパーライフルを持てるように改造、頭部を強行偵察型の物に変えるなど、狙撃特化にしたもの。
宝具展開時は、ファット・アンクル改に乗りながらの登場となる
『反抗の狼煙を上げろ、復讐の時間だ(ジオン残党軍)』
ランク:B 種別:対城宝具 レンジ:― 最大捕捉:3人
かつて、共に連邦に奇襲をかけた、ジオン残党、彼らを召喚する宝具。
地上、水中、空中、あらゆる方面より侵攻初期の状態で召喚され、対象や周囲を破壊しながら進撃していく。
また、この宝具は一度発動すると二度と発動すると事は出来ない、又、対象や周囲を破壊し尽くすと、自動的に消滅する。
更に、当時彼らの主力であった、巨大MA シャンブロとそのパイロットは召喚出来ない。
【人物背景】
ジオン残党軍、階級は少佐。
シャアの反乱後、ニューギニアより燻っていたジオン残党を率い、自身もザクⅠスナイパータイプを駆り、援護、指示をする。
当初、優勢に進むも、バイアラン・カスタム出撃による多数の壊滅と、トライスターの出撃が決定打となり、全滅。
最愛の義娘に、自身たちの様にならないよう、告げながら散っていった。
【サーヴァントとしての願い】
ロニに、幸せを
【マスター】
傷の男(スカー)@鋼の錬金術師
【マスターとしての願い】
イシュヴァールの名誉回復と復興。
【能力・技能】
あらゆる物を破壊する破壊の右腕、再構築する再構築の左腕を持ち、それを合わせた逆転の錬成陣を作ることができる。
また、「一般軍人10人分に匹敵する」と言われる程の戦闘力を持つ。
【人物背景】
イシュヴァール殲滅戦を生き残ったイシュヴァール人の一人。
復讐のために生き、アメストリスの国家錬金術師を何にも殺してきた。
しかし、鋼の錬金術師――殲滅戦の真実――それらに触れていき、彼は変わった。
ホムンクルスとの決戦では、キング・ブラッドレイ――憤怒のホムンクルスと激戦を繰り広げ、これに勝利、戦後はイシュヴァールの復興に全力を注いでいた。
投下終了です
すいません
>>727 の
ランク:B 種別:対城宝具 レンジ:― 最大捕捉:3人
を
ランク:B 種別:対城宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
に訂正します
大変失礼いたしました
これより投下します。
突然ですが、皆さんは『怪盗』と聞いてどんなイメージを抱きますか?
古く遡れば小説や歌劇、近年でも漫画やアニメなどーー往古来今、多くのフィクションで登場しています。
私も、古書館で怪盗を題材にした『子』をたくさん見ました。
その多くに出てくる怪盗は、派手な犯罪予告をして、常識では考えられないテクニックで犯行に及びます。
名探偵や警察を敵に回すので、客観的には悪人になりますし、怪盗もそれを自負します。
けれど、怪盗はそんな自分に誇りを持っていました。
芸術的手腕で厳重な警備をかいくぐり、貴重な品物を盗みます。時に力任せになっても、決して殺人に手を染めません。
むしろ、貧しい人に財宝を分け与えたり、宝物を本来の持ち主に送り届けたりもします。
その在り方で、怪盗たちは羨望の的になって、英雄と崇める人も出るでしょう。
するとどうなったか?
英霊の座に登録された怪盗は、私のサーヴァントとして召喚されました。
怪盗なんて実在しないと言う人もいます。
SNSや動画、あるいはロボットやドローンなどが普及した社会では、怪盗は絶滅したのではないか?
いいえ、怪盗は生きています。
夜の闇に浪漫(ロマン)を感じて、赤い夢の中で遊ぶ子どもがいる限り、怪盗はいつだってやってきますから。
◆
「親愛なるマスター! きみのため、ささやかながらティーパーティーを開いたよ。」
「……はぁ。あ、ありがとう、ございます……」
困惑しながらもお礼を言います。
私、古関ウイと向き合うように、綺麗な人が座っていました。
顔立ちは整い、水晶と見間違う程に肌がきめ細かく、淡い唇で微笑まれたら誰でも虜にしそうでした。
オーラも神々しく、神様をモデルにした彫刻か、歴史の偉人が描かれた絵画を目の当たりにしている気分です。
ふんわりした長髪は日頃から丁寧に扱っていると一目でわかり、仮にその全てがシルク糸だと言われても納得します。
瞳の美しさに至っては、例える言葉が見つかりません。ダイヤモンドやスピネルなどの宝石はもちろん、夜空の星座やオーロラといった自然の芸術さえ、この人を形容するに足りるかどうか。
その場に立つだけで、美術館や歌劇場に等しい壮大かつ優雅な空気に包まれて、それでもプレッシャーを与えたりしません。むしろ、月の光を浴びたように心が穏やかになります。
現実からはかけ離れすぎて、天使と見間違えられてもおかしくないこの人は、全てが謎に包まれています。
出身、年齢、国籍、性別…………マスターになった私ですら、一つも把握できませんでした。
女装が得意な紳士にも見えますし、男装を趣味とする淑女かもしれません。どちらでも様になる容姿です。
「……おいしい、です。」
アイスアメリカーノを口に含むと、自然に声が出ました。
コクの深さと適度な苦さ、部屋の中に広がる華やかな香りは心地いいです。
全てが完璧で、私でもここまで上手く作れるかどうか。
「それはよかった! マスターはコーヒーが好きと聞いたから、調査と並行しながら上質の豆を探してきたよ。」
「……あの……ちゃんと、お店で買いましたよね……?」
「当然! 世界にその名を輝かせた怪盗クイーンは、万引きなんて卑劣な真似をしない……各種メディアを厳正にチェックし、質の高い豆を扱う店で買ってきたとも!」
ふふん、と。
大きく胸を張る姿は、まるで100点のテストを自慢する子どもみたいです。
でも、この人こそれっきとした私のサーヴァント。その名は、怪盗クイーンです。
ライダーのクラスで召喚されました。
私は今、巨大な飛行船の中にいます。
超弩級巨大飛行船・トルバドゥールという名を持つ宝具で、怪盗クイーンがライダーのクラスで召喚される由来です。
ただ、サーヴァントとして召喚された都合上、この世界で動かすには膨大な魔力が必要です。私一人では、令呪を2画使ってようやく呼び出せるかどうか。
なので、通常は固有結界として、私かライダーさんしか入れないようになっています。
出入り口を作れるのもマスターになった私だけで、ライダーさんの意思では扉を開けません。
それだと、いざという時にライダーさんが危険にさらされると思いましたが。
『門限までにはきちんと帰るから、大丈夫だよ!』
なんてこともなく、当人はそう言ってます。
そしてここは、ライダーさんが用意してくれた古い書庫……をイメージした図書室ですね。
ちょっと暗いですが、たくさんの本棚の匂いで心が落ち着きます。
その中で、おいしいケーキとコーヒーを堪能するのは、確かにいいかもしれません。もちろん、汚すのはダメですが。
「ーーーーサーヴァントになってくれたら、少しは真面目に仕事をするかと思いましたが、変わっていませんね。」
「ひっ、えあぁっ!?」
本棚の向こうから聞こえた声にビックリします。
現れたのは黒い短髪の男性。20代に見える男の人は、山海経のイメージに近い衣服を着ています。
背丈は私よりも高く、しなやかで無駄な脂肪がありません。鋼鉄や鋼よりも頑強な筋肉は、鍛え上げられたと一目でわかります。
強い光を宿す青い目は、ライダーさんに向けています。でも、当のライダーさんは。
「ジョーカーくん、マスターがビックリしてるじゃないか! 少しは気をつけないと!」
男の人ーージョーカーさんをたしなめます。
すると、ジョーカーさんは私に頭を深く下げました。
「あっ、ひっ、えっ……あっ……」
「申し訳ありません、マスター。ぼくの気遣いが足りませんでした。」
「……い、いえ……だ、だ、だ、だい、だだだ、だい、だい、大丈夫、です…………」
言葉とは裏腹に、バクバクと鳴るのは私の胸。
目が泳ぎ、プルプルと震えて、汗も止まらない。
ジョーカーさんは悪い人じゃありませんが、私は男の人と話すことに慣れてません。
性別がわからないライダーさんや、私を真っ直ぐに見てくれた先生はともかく。出会って間もないジョーカーさんだと、どうしても緊張します。
【わたしも同感です、クイーン。】
そして、姿こそ見えませんが、このトルバドゥールにはもう一人いました。
【今のクイーンはサーヴァントであって、わたしとジョーカーはあなたの宝具。これまでのように自由に動けないのですから、もっと気を引き締めて行動すべきです。】
「RD、わたしは決してサボってなんかいない。街の調査をしながら、マスターのためにおつかいをしたのさ。」
天井から現れるのは六本指の機械の手ーーマニピュレーター。
人工知能のRD。このトルバドゥールの頭脳になるメインシステムで、とても強い愛を持つ博士の子どもだと、ライダーさんは言いました。
情報収集能力も凄まじく、その気になれば冬木市だけでなくキヴォトスのあらゆるセキュリティも簡単に突破できます。
でも、私の魔力の都合上、今のRDはそこまでできません。精々、インターネットで情報を集める程度……それでも精度は高いですが。
ちなみに、アイスアメリカーノだってRDの手作りです。
【それで、わたしにコーヒーの豆探しをやらせるのですか。】
「情報収集だよ。この冬木市のことは、わたしだってまだよく知らない。どんな人がいて、そしてどんな生活が繰り広げられているのか……この目で確かめる必要があるからね。」
【この世界でも、わたしの人工知能はそんなことに使われるのですね。】
屁理屈に落胆するRD。
もし、人間の体を持っていたら、きっとライダーさんを白い目で見ているでしょう。
一応擬人化した肉体は、仮想世界にあるみたいですが……
「相変わらず冷たいねRDは。無闇にきみに頼っては、それこそマスターの負担になることを、わたしが忘れるはずないだろう。」
【もっと重要な時に頼ってください。】
「マスターの好物を用意することだって、重要に決まってる!」
いくら言われても、子どものような言い訳をドヤ顔でまくし立てるライダーさん。
これには、ジョーカーさんもため息をつきます。
「クイーンのことです。調査を言い訳にして、ぼく達の目を盗んでサボれると思っているのでしょう。」
「ジョーカーくん! わたしは見えないところで頑張っているとも……家の下の力持ちだから!」
「家の下?」
「そう。誰かとの縁を大切にするには、見えない所で頑張らないといけない。でも、努力が実れば……どんなに大きな家でも持ち上げられる程のパワーが得られるってことなんだよ。それだけ、昔の人はたくましかったから。」
「東洋の神秘ですね。」
変なことを言うライダーさんに、感心するジョーカーさん。
なんかズレてる二人を見て、やれやれと言うように手を振るRD。
こんな和気藹々としたライダーさんたちを見て、私は疎外感を抱きます。
「……どうして、でしょうね。」
いたたまれなくなって、そう口にしました。
「何がだい、マスター?」
「ライダーさん……みたいな華やかな人が、私なんかのサーヴァントになるなんて……とても信じられないです……暗くて、排他的で、まともに話せない、変な私なのに。」
ライダーさん……いいえ、怪盗クイーンさんは絶対の自信を持っています。
対して、私はどうか? 図書委員会の委員長を勤めて、周りからは『古書館の魔術師』などと呼ばれました。
実際は、ほとんどの時間を古書館で引きこもり、委員会の人ともまともに触れ合わず、ただ古書と向き合う日々。
この世界では、図書館でアルバイトをしながら、寮生活をする学生というロールが与えられました。
外に出るのは辛いですが、ずっとトルバドゥールの中にいられません。
たくさんの本に囲まれている時は幸せで、自分の子どものように接しました。
でも、私自身の人間関係はとても狭く、むしろ人間不信。パニックになって、相手に失礼な態度を取ったこともあります。
私だって自分を変えたいですが、簡単に変えられたら苦労しません。
シャーレの先生と出会ってからは、交友関係が広がりましたが……
「聖杯は、いりません。戦争なんて、したくないですし……人殺しだって、嫌です……早く、古書館に帰らないと、いけないのに……」
他に願いはありません。
そもそも、なんで私がこの世界に呼ばれたのか?
全ては、あの"黒い羽"に触れたからです。もっと慎重になるべきでした。
冬木市に放り込まれ、聖杯戦争……あるいは聖杯大戦のマスターにされました。
万能の願望器である聖杯。考古学的な観点では興味ありますが、誰かを傷つけないといけないなら必要ありません。
確かに、私は先生や他の生徒さんと協力して、危険な相手と戦ったことはありますよ。
公儀会の経典を無断で複製した件を不問にしてもらうため、隠された遺跡の謎を解き明かした時のように。恥ずかしい水着で、炎天下の無人島を過ごすのは大変でした。
……ライダーさんたちと一緒に、聖杯戦争に乗るのは、それと違う気がします。
「ウイ、きみは紛れもないわたしたちのマスターだよ。ライダー……いいや、この怪盗クイーンが保証しよう!」
キラーン! と、音を立てて光を放ち。
「うっ、ぐはあっ!?」
私の暗いオーラを吹き飛ばすライダーさん……いいえ、クイーンさんの姿が。
シスターフッドのヒナタさんと被って、胸が痛みます。
「きみには、浪漫(ロマン)があるからね。」
「ろ、ロマン……?」
「この数日、ウイの生活を見させてもらった。図書館でアルバイトをしている時、本をとても丁寧に扱っていた……まるで、子どもの成長を見守るお母さんみたいに見えたよ。」
ほほえむクイーンさん。
私を見て誰かを思い出しているような、暖かい顔です。
「ウイは、戦争がきらいだって言ったね。」
「は、はい……」
「わたしも、戦争は許せないな。
どんな理由があろうとも、人を不幸にするだけ。勝っても負けても、願いが叶っても同じ。
それに戦争は、子どもたちの未来をうばう。大人の仕事は、子どもに未来を与えること……だから、戦争はぜったいにしてはいけないんだ。
これは、わたしを捕まえられる、世界でただ一人の名探偵から盗んだ言葉だけどね。」
もっとも、わたしも彼に負けなかったよ、と付け加えるクイーンさん。
そこにはこの人の本質が含まれている気がしました。
世間がなんと言おうと、ただ真っ直ぐにロマンを追い求めて、子どもたちに夢と未来を与える大人。
一緒にいる二人を、自由奔放に振り回すことも多いですが……
「あと、ジョーカーくんとRDは決して宝具じゃない。わたしの宝物、という意味では間違っていないけど、友だちであることは変わらないよ。」
「ぼくは仕事上のパートナーであり、あなたの友だちじゃありません。」
【わたしは一介の人工知能です。】
これが、皆さんの関係でしょう。
どれだけ文句を言い合っても、実際には深い絆で繋がっているから、こうして召喚されました。
一蓮托生、という言葉が正しいでしょうか?
口に出したら、それをネタにクイーンさんが変なことを吹き込みそうですが。
「そして、マスター。」
「ひゃあぁっ!? あっ、えっと、その……じょ、ジョーカー、さん……」
「あなたの命令があれば、ぼくは何なりと聞きましょう。」
「……す、すみません……よ、よろしく、お願いします……」
急に話しかけられてビックリしながらも。
私は呼吸を落ち着かせて、ジョーカーさんに頭を下げます。
「RD、きみの力でも、この電脳世界から脱出する方法は見つけられないかな?」
【現状では、不可能です。先程も言いましたが、サーヴァントとして召喚されたせいで、ポテンシャルに大きな制限がかかりました。クイーン一人だけならともかく、ジョーカーも外に長時間出てしまえば……マスターの命が脅かされます。令呪を使えば、活動時間は伸ばせますが。】
「まるで、東洋に伝わる巨大ヒーローみたいだね。せっかくなら、巨大化や光線技も使えるようになればよかったのに。」
よくわからないことを言うクイーンさん。
生前の逸話によると、この人たちはチームで活動していました。つまり、私は三人のサーヴァントと契約したに等しいですが、行動できるのはクイーンさんだけ。
もし、ジョーカーさんまで呼ぶなら、令呪が必要です。
「でも、予告状は用意したよ。」
大胆不敵な笑みを浮かべるクイーンさん。
不利な状況を受け入れながら、既に逆転への道筋を掴んだような顔です。
「わたしの獲物だって決まっている……ジョーカーくんとRDは、気付いているよね。」
【今までと違って、準備期間はとても短いです。】
「それは、他の主従だって同じだよ。」
いつの間にか、クイーンさんはビンを手にしています。
斬!
風を切る音が聞こえた直後、ビンの頭が斜めにズレました。
「いつもはワインボトルだけど、今回はボトルアイスコーヒーにするよ。未成年のウイの前だから。」
「未成年の配慮と言うなら、ビンはきちんと開けてください。」
【分別も忘れてはいけませんよ。】
ジョーカーさんとRDの小言を気にせず、クイーンさんはコーヒーをグラスに注ぎます。
今、クイーンさんは何をしたのか。滑らかで繊細な手を刃物にして、ビンを切断した。
この人は武術にも長けているので、このくらいは簡単にできます。
「聖杯は、誰かが手にしていいものじゃない。これは、まやかし……そんなものは、子どもにあげちゃダメだよ。」
「ま、まやかし……」
「ウイの願い、確かに聞いたよ。怪盗の美学にかけて、脱出チケットを準備してみせるとも!」
鮮やかにウインクしながら、グラスを掲げるクイーンさん。
それに合わせて、私もコップを持ち上げます。
「では……ア、ノートル! アミティエ!(わたしたちの友情に乾杯!)」
「の、ノートル……アミティエ……」
カンと軽やかな音をたてながら、コップとグラスがぶつかりました。
私のそばにいてくれる大人たちの姿はまばゆくて、シャーレの先生を思い出すほど、とても頼りになります。
不安はありますし、緊張だってしてますよ。けど、この人たちがいてくれれば、私はいつでも前を見て、真っ直ぐに歩く力がもらえそうです。
◆
拝啓
こたつに入り、みかんや暖かいお鍋を楽しみたい今日この頃。
この世界に招かれました皆様がつつがなくお過ごしのことと存じます。
さて、私(わたくし)怪盗クイーンはサーヴァントとして召喚されました。
願いは一つ。高貴な英霊として、マスターをこの世界より脱出させることを決めています。
来る12月某日、わたくしの犯行が始まります。
いかなる強いサーヴァント、あの意地の悪い悪魔に匹敵する程の強敵が待ち構えようとも、わたくしの邪魔はできません。
この世界からの華麗な脱出劇を見せられるその時を、楽しみに待って頂けると幸いです。
敬具
ライダー/怪盗クイーン
【クラス】
ライダー
【真名】
クイーン@怪盗クイーンシリーズ
【属性】
混沌・中庸
【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:D 敏捷:B+ 魔力:D 幸運:A+ 宝具:B+
【クラススキル】
対魔力:D
工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:B+
乗り物を乗りこなす能力。
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなす。トルバドゥールの頭脳たるRDと心を通わせ、世界中を飛び回ったことでこのスキルを得た。
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を断つ。
隠密行動に適している。完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
二重召喚:B
ダブルサモン。
二つのクラス別スキルを保有できる特性。怪盗クイーンはライダーとアサシンの両方のスキルを獲得している。
人間観察:A
人々を観察し、理解する技術。
ただ観察するだけでなく、名前も知らない人々の生活や好み、人生までを想定し、これを忘れない記憶力が重要とされる。
その鋭い観察力で、浪漫(ロマン)に溢れた大胆かつ華麗な犯行を行うための道筋を立て続けてきた。
怪盗のカリスマ:A
国家の運営、または悪の組織の頂点でなく、世界一の怪盗として圧倒的なカリスマを有する。
クイーンの怪盗カリスマはAにして、世界各地のメディアで取り上げられる程のランク。
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
道具作成:C+
RDと一緒に魔力を帯びた器具を生成できる。
予告状をはじめ、通信機や偽造パスポートなど、クイーンが犯行に用いられる為の道具は何でも作り上げられる。
ただし、拳銃や刃物など、戦争や殺人に使われる類の道具は怪盗の美学にかけて作らない。
邪眼:B
クイーンではなくジョーカーが持つスキル。
この眼で睨まれた相手は誰でも凍りつき、獰猛なライオンさえも沈ませてしまう。
同ランク以上の精神耐性スキルを持たなければ、敵対サーヴァントの全ステータスが1ランク程低下する。
【宝具】
『怪盗クイーン』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
世界にその名を轟かせた怪盗クイーン自体が宝具となった。
あらゆる犯行を成し遂げ、如何にして不利な状況に立たされようとも、狙った獲物は決して逃さなかった。
怪盗クイーンが用意する予告状そのものに神秘が宿り、その通りに計画を実行し、更に怪盗クイーンの名を世に知らしめれることで、幸運ランクと共に成功率が格段に上がる。
その過程で不可能な状況に追い込まれようと、この宝具が発動すれば逆転の可能性が最低でも1%は残り、そこから怪盗クイーンの犯行が真にはじまる。
ただし、怪盗の美学によって、他者を殺害する類いの犯行は決して選べない。
仮にクイーン自身が他者に手をかければ、犯行の成功率は一気に下がってしまう。
『蜃気楼(ミラージュ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
宝具として登録された怪盗クイーンの異名。
この宝具の肝は変装であり、強力な自己暗示と合わせて他人になりすますことができる。
他サーヴァントに変装できるほどに精度が高く、ステータスすらも偽造可能。ただし、あくまでも見せかけに過ぎず、クイーン自身のステータスが実際に変化する訳ではない。
無論、対象となったサーヴァントの各種スキル及び宝具、また契約したマスターとの魔力パスの再現も不可能。
そして生前は他人に対しても暗示をかけたが、サーヴァントとして召喚された制約として、他主従には効果がなくなっている。
暗示の維持は自他問わず最大で10分までとなり、それを過ぎたら自動的に解除されてしまう。
『超弩級巨大飛行船(トルバドゥール)』
ランク:B 種別:対空宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
怪盗クイーンが愛用した飛行船……トルバドゥールそのものが宝具となった。
師匠たる宇宙一の大怪盗から与えられた設計図を元に、クイーン自らが作り上げた。図書室や医務室、トレーニングルームや食堂など、船内には数多くの部屋が用意されている。
トルバドゥール自体の耐久力も凄まじく、同ランク以上の宝具でなければ傷一つ付けられない。
通常、このトルバドゥールは固有結界として扱われ、聖杯戦争でその姿を現すには膨大な魔力が必要。また、契約したマスターの権限がなければ出入りもできない。
余談だが、過去にクイーンはジョーカーを失ったショックで暴走し、癇癪のあまりに力だけでトルバドゥールを破壊しかけたこともある。
『君たちは私の友達だよ』
ランク:B + 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
クイーンが友だちと認めるジョーカーとRDが再現され、宝具となった。
ジョーカーはクイーンと同等の気配遮断及びBランクの無窮の武練スキルを所持し、RDは世界一と自負する程の情報収集力を誇る。
宝具でありながら、彼らはサーヴァントに等しい霊基を誇るが、魔力消費の都合によって通常は上記の宝具内で待機している。
長時間の現界はもちろん、RDによる情報収集の過程で複雑なプロテクトを突破する場合、令呪1画分の魔力が必要。
また、何らかのトラブルでクイーンの霊核が破壊された場合、自動的に彼らも消滅してしまう。
【人物背景】
国籍、年齢、性別……全てが謎に包まれた怪盗。
道楽者かつ自由奔放な性格で、ジョーカーとRDを振り回すことが多い。
しかし獲物を見つければ、何があろうとも大胆不敵かつ優雅に盗む。
怪盗の美学と遊び心を持ち、どんな時でも他者の命は決して奪わなかった。
【方針】
怪盗の美学にかけて、マスターであるウイを元の世界に戻す。
【マスター】
古関ウイ@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
人殺しをするのは嫌です。
【Weapon】
ボリュームサプレッサー
【能力・技能】
本に対する愛情や知的好奇心は抜群で、古書の知識および修繕技術はプロ級。
死体を見ても決して嫌悪感を抱かず、むしろ当人の想いに寄り添ってくれる。
一方、身体を動かすことが苦手。
【人物背景】
トリニティ総合学園に所属する図書委員会委員長。
性格は暗く、人間不信の傾向にあるものの、当人も思うことはあり、改善に向けて努力している。
普段は古書館に籠もっており、膨大な古書を適切に管理した実績から「古書館の魔術師」と呼ばれるようになった。
投下終了です。
以前投下した候補話と合わせて、ステータスの誤植を収録の際に修正させて頂いたことを報告します。
投下します
人は――羽ばたく鳥を止めることは出来ない
どんなに愛おしくても――
その志を止めることは――
◆
「うっ!はぁ…はぁ…」
冬の寒い日だと言うのに、汗が流れる。
手で払い、辺りを見渡す。
「み、水…」
「――ほらよ、乾いてんだろ」
暗闇の中、コップを渡す音が聞こえる、そのコップは女性の腕の中へ収まる。
「んっ…すまへんな…キャスター」
女性――神尾晴子は飲み終えたコップを置くとキャスターを再び見据える。
――金髪の中年男性と言ったところか、彼女のサーヴァントが座っていた。
「なぁに、気にすんな、ところで…すいぶん寝汗をかいてたようだが…悪夢でも見たのか?」
置かれたコップを片付けながらキャスター――ヴァン・ホーエンハイムは質問を投げかける。
「あー…少し…ここに来る前の話や…」
「…マスターの娘さんの話か…俺も呼ばれる前に夢で見た」
彼女の過去――それは――鳥を羽ばたくのを――止められぬ者のようなもの――
「…観鈴は…あの子は、自分であの道を選んだんや…何も後悔はしてへん」
「そうかい…」
もう一つのコップに手を当て、水を飲み干す。
もう一つ――質問を投げかける。
「そういや…あんた、願いを聞いてなかったな、何があるか…」
ただ一つ、聖杯へとかけられる願い、ここで運命の麓を頒かつサーヴァントも居るだろう。
――憎悪――欲望――慈悲――それに彩られた願いに反し、そのまま座へと変える者も居る――そして――解答は――
「そうやな…観鈴の分まで、しっかり生きてしっかり死ぬ、それだけや」
ただ一人の人間としての生を望む、不老も、不死も、蘇りもいらない。
ただ、人間として生きたいのだ。
「いい…願いじゃねぇか…人として生きる、それだけあんたは立派だ」
「立派だなんてそんな…うちなんて…」
「何、人として生きられる事、それは案外できないことさ」
その言葉には、節々に重みを感じられた。
そして、コップを水場の近くへと置く。
「さて…そろそろ話も切り上げて、寝るとするか」
「わかった…お休みな、キャスター」
「おうよ」
晴子は布団を再び包み、ホーエンハイムは霊体化していく。
再び、静寂と暗闇が部屋を包む。
◆
――これは、虚構の――二人の親鳥の話。
片方は、雛の羽ばたきを見て。
片方は、旅立った二人の雛を見つけて、愛情を伝えて、安らかに眠って――
そして、遠い遠い旅路に、足をつけ始めた。
【クラス】
キャスター
【真名】
ヴァン・ホーエンハイム@鋼の錬金術師
【属性】
善・秩序
【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:D 宝具:A+
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”の形成が可能。
道具作成:―
このサーヴァントは道具作成のスキルを持たない。
【固有スキル】
錬金術:EX
物質を理解し、分解し、再構築する、「科学」
無から有を、他属性から他属性を生み出すことは出来ない。
ホーエンハイムの錬金術はトップレベルの物となっており、巨大なドームなどを簡単に構築することができる
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
対魔力:―(C)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
後述の宝具発動時のみ使用可能。
【宝具】
『俺の中の53万6329人分の命』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
かつての存在した国 クルセルク王国の国民全員分の命が入った賢者の石。
ホーエンハイムは全53万6329人全員との対話を終了させており、全員が緊急時にはすべてを掛けて協力する。
発動時のみ使える強力な魔力及び、対魔力スキルを獲得する。
【人物背景】
二匹の雛鳥を追いかけ、共に旅し、散った親鳥
その散ったときの顔は、幸せだという
【マスター】
神尾晴子@AIR
【マスターとしての願い】
観鈴の分まで生きる、それだけでいい
【能力・技能】
バイクの免許持ち、後酒豪
【人物背景】
――雛鳥を看取った、優しい親鳥。
投下終了です
投下します
とってもいじわるな人の話をするわ。
ほんとは優しいのに、まるで『ままはは』みたいにふるまう人の話。
……と、いってはみたけれど。
いじわるな人だといっても、お部屋の掃除をぜんぶ、あたしにやらせたりだとか。どくのリンゴを食べさせたりだとか。そんなことはしないわ。
むしろ、ぎゃく。とっても、優しい人。お部屋はきちんとそうじしてくれるし、お料理だって、『らーめん』ってものを食べさせてくれたの。すこししか食べられなかったけど、とっても、おいしかったわ!!
……でも、お洗濯はへたね。あたしの服、しんせつで洗おうとしてくれたんだけど、ゴワゴワにしちゃったわ。あたしはレディだから、もちろん、ゆるしてあげたの。
いじわる、っていうのは、ウソつきなの!! しかもとっても、ひねくれもの!!
「オレは大体の童話の奴らとは顔見知りだぜ」、っていったから、人魚姫とも? って……あたしは聞いてみたのに!!
「王子様に恋した人魚に倣って皆男作って海から出たぜ」、ってひどいウソをつくの!! しかも、そんなひねくれた話、あるものですか!!
その後話した、シンドバッドのふな乗りさんの話なんて、「女好きのドスケベ」だとか、長ぐつをはいた猫は、「キザだけど直ぐフラれる可哀そうな奴」だとか、お話とぜんぜん違うことばかり!!
それにそれに、その人は自分のことを、『ミチルを見捨てた馬鹿なチルチル』だとか、そんなことを言うのよ? そこで、もう、怒っちゃった!!
だからあたし、言ってやったの!!
「チルチルが、ミチルを捨てるわけないでしょ!! あなたみたいな親切な人が、そんなことする筈がない!!」――って。
――そうしたらあの人、ほんの少しだけ、かなしそうな顔をしたわ。
――そうだよな。兄貴が、妹を見捨てる訳ねぇよな――
それだけ言って、いつものお顔にもどったの。
きっと、あの人も、わかってくれたんだと思う。ウソをついちゃったことが、悪いと思ってくれたんだと信じてる。
だから、今までのいじわるやウソの話は、もう、おしまい。
なかなおりのお茶会、そのじゅんびを、はじめなきゃ!! 熱めの紅茶にサンドイッチ。ブラウン、カーキのクッキーをあたしが持ってきて。
あとは、あの人が『らーめん』を作ってくれれば、かんぺきね!!
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ひねた少年時代と青春とを、送って来た自覚はあるぜ。
オレ自身が、ガキの頃から捻くれた、可愛げのないガキだったんだ。んで、そのまま、図体ばかり育った、デクノボーの出来上がり、ってワケよ。
なもんだから、ダチも少なかった。
いなかった訳じゃないぜ。いたけど、クセの強い奴らが残ったってだけだ。ガキのオレにも解ったさ、連中らは、ふつーの奴らが連想するみてーな、一般的な感性とは違う奴らだって事位はな。
オレは今、オレを召喚したマスターの『ままごと』に付き合ってやってる。
ままごと、っつっても、用意されてるのはオモチャの飯じゃねぇぜ? クッキーやらサンドイッチやら紅茶やらが用意された、れっきとした食えるモノだ。
さながら、外人の女の子版のおままごと、って所か? 雰囲気は出てるよな。……「あなたも作ってもちよらないとダメよ」、って言われて、仕方なくオレが作った、ラーメンが全く浮いている。
ランチのメニューの定番ではあるけどな……クッキー、紅茶、サンドイッチと一緒に出すもんじゃあねぇよな、普通は。
「? たべないの? アルターエゴ」
オレを呼んだこのマスター。名前は、『ありす』って言うらしい。
その名前の響きの通り、誰が見たって外人さんだ。少なくとも、日本人の出で立ちじゃない。
陳腐な表現だけどよ、本当に、お人形の様な、って言い方が相応しい嬢ちゃんだった。
傘の様な形のスカートが特徴的な、ふんわりとしたドレスを着たその様子は、洋人形そのものじゃないか。色白で、手足も細く、儚げで。
今まで外で、身体を動かすような遊びなんてさせて貰えなかったんじゃないかと思っちまう程、華奢そうな身体つきで、小突けば崩れてしまうんじゃないかと心配になる程だ。
身体の何処かに、それこそ関節の1つ1つに、アタッチメントみたいなもんがついててさ。何かの弾みに、そこからバラバラになってしまいそうな……。
弱そうだとか、脆そうだとか。
そんな言葉で表現する、それ以前の問題。オレは、目の前のガキを見て、もっと根深い所。根本的な所が、儚いと。初めて見た時、思ったんだ。
「食べないのか、はこっちが聞きたい事だぜ、嬢ちゃん。オレはサーヴァントの身の上だ。飯は食えるが、別に食えなかろうが死ぬ訳じゃない。食べ盛りなんだ、そっちが食いなよ」
サーヴァントの身体って奴は便利なモノで、飯を食う必要がなくなるんだってよ。
それはそれで味気ないとは思うし、たまには味がして腹持ちの良いモンを食いたくなるのも正直な所よ。
だが、今は。目の前のマスターの方を、優先してやりたかった。歳は、妹……ミチルの奴と殆ど差がない。頬が落ちる程に甘いケーキを、クリスマスに食べる事を夢見ていた、あの妹が見たのなら。
目を輝かせて手を伸ばすだろう、クッキーやサンドイッチの数々に、ありすは、全くと言っていい程手を付けない。
「ううん。ありすはいいの。あたしも……アルターエゴとおなじで、お腹……すかないから」
オレは、ありすの言葉に、遠慮だとか謙遜だとかの、美徳の空気をこれっぽっちも感じられなかった。多分コイツは……。
「お化けは死なない、病気も何にもない、ってか?」
いつかどこかで聞いた事のあるフレーズを口にしたら、ありすの奴、目ェ丸くして驚いてたぜ。
「すごい、なんでわかっちゃうの?」
「サーヴァント自体が幽霊みたいなモンなんだ、本職のお化けの目は誤魔化せねぇさ」
と言っても、オレはオレ自身、自分がサーヴァント……幽霊の豪華版だって言う認識は、薄いんだけどよ。
折角、マスターが懇親会みてぇなノリで用意してくれた食べ物なんだ。
食わなきゃバチが当たるからよ、クッキーを3枚程摘まんで、それを口の中に放り込む。やはり、甘い。
紅茶にも合う味なんだろうが……オレはどうも、紅茶何て言う『ハイソ』な代物が苦手でな。ベルギーの『サクシャ』が書いた童話の産まれだってのに、笑える話だよな。ま、ベルギーだと紅茶じゃなくてビールが有名なんだけどな。
「マスターはよ、願いって奴はねぇのか?」
「お願いごと?」
「この、『せーはいせんそう』って奴に生き残れれば、オレも嬢ちゃんも、願いが叶えられるんだろ? 何か、あるんじゃねぇのか?」
人を殺す事によって願いを叶える、って言う、この聖杯戦争の仕組み自体は、オレはクソだと思っている。
だが、願いを叶える、と言う機能については、嘘は恐らくねぇんだろう。呼び出されたサーヴァントによっちゃ、願いを叶えると言うキモになる部分を疑う奴だっているんだろうが、オレは違う。
おとぎ話の世界って奴にゃ、条理をすっ飛ばして願い事を叶えるアイテムって奴ぁ珍しくなかったからな。だがそう言うアイテムって奴は往々にして、七面倒くせぇモンを踏まなくちゃ手に入らない。
それはおとぎ話は勿論、漫画やアニメ、小説にゲームに映画にと。どんな創作の世界でもの、『お約束』だ。それを手に入れる為の過程が、聖杯戦争は疑いようもなく最低のモンだが……それだけの手順を踏むだけの価値は、ある奴にはあるんだろうし、実際凄ぇアイテムだって言うのは、間違いなかった。
人って奴は見かけによらないからな。
オレを召喚したって言う、虫も殺せない所か、石の下に集まってるダンゴムシを見ただけで悲鳴を上げそうなこの嬢ちゃんが、聖杯の獲得に乗り気の可能性だって、ゼロじゃねぇさ。
下手すりゃ、殺しだって良しとする可能性もある。それを咎めて、叱りつける事は出来るが、拒否する権限が今のオレにはねぇ。令呪って奴を、向こうが持ってるからな。
何にせよ、願いだけは聞いておかなくちゃな。願いがあるって事は、殺しを肯定してる事とほとんど同じ。それによって、オレの立ちまわり方が変わるって訳だ。
「お願いごとなら、ありす、1つあるわ」
「へぇ、なんだいそりゃ」
クッキー、紅茶、サンドイッチ。そして、不釣り合いなラーメン。どれにも口をつけず、ありすは言った。
「お友達が欲しいの」
慎ましい願いだった。
大金が欲しいだとか、殺したい程憎い奴がいるだとか、好きな男に振り向いて貰いたいだとか。そんな、俗っぽい願いじゃない。
マジで、子供が願うような、純で、無垢な。そんな、切なる願いであった。
「いねぇのかい?」
「いなかったわ。かわいそうな、アヒルの子だったの」
「そいつはオメェ、最後は白鳥になってめでたしめでたし、って話じゃねぇか」
「ううん。ありすはいつまでも、ひとりぼっちのアヒルの子。小びとたちに見つけられない、眠ったままの白雪姫」
「――だって、そうでしょう?」
「お話のとちゅうで死んじゃったら、幸せになんて、なれないでしょう?」
「……」
オレは、ありすの奴を、お化けだと言った。
水木ナントカとか言う〈作者〉が描いたマンガに出て来るみてぇな、不気味なバケモンのようなツラしてるからじゃない。
マスターとサーヴァントと言う繋がり(ライン)から伝わって来る、情報。そして、その目でアリスを見た時に伝わって来る、雰囲気。この2つを統合して判断した事だ。
多分、この嬢ちゃんは。
「ありす、もう死んでるの」
この冬木って街に来る前から、身体もクソもないのだろう。
「ありすの『居場所』は、どこにもないの」
――居場所、と来やがったか。
「みんなの『これから』は、たぶん、まだ続くわ。おしまいとめでたしは、まだ先なの。でも、あたしはちがう。あたしの本には、もう、先のページなんてないの。あとは、閉じて……ううん。もう閉じられてる」
「……」
「おしまいって言われたら、続いちゃダメ。めでたしって締めくくられたら、さようなら。それはきっと……破っちゃいけない、『お約束』」
「マスターの人生は、それで、満足だったのかい? ……救いのある、人生だったのか?」
「ええ、そうよ」
屈託のない笑みを浮かべ、微塵の迷いって奴もなく。オレのマスターは答えやがった。
「2回も、見送られちゃったの。ありすの死に、2回も、かなしいお顔を向けてくれる人がいたの。それは素晴らしいことだって……あたし、むねを張って言えるわ」
……。
沈黙が、オレ達の間にわだかまった。10秒、オレ達は言葉を発さなかったのかも知れないし、10分だったか、1時間だったのかも知れない。
長い時間が過ぎたような錯覚を覚えたが、ありすの奴が用意してくれた紅茶と、オレが用意したラーメンから、まだ湯気が立ち上っていた所を見て、初めて。
大した時間が経過してない事をオレは理解した。微笑みを、アイツはずっと浮かべている。相も変わらず、クッキーにもサンドイッチにも、俺がこさえた微妙なラーメンにも、手を伸ばさない。
「……男の話をするぜ」
ありすが、仄かに目を輝かせた。
期待してる所悪いがよ、そんな面白い話でもねぇぜ。馬鹿な男の、馬鹿な半生を語るだけなんだからな。
「貧乏なきこりの家に産まれた兄妹でな、魔法使いの婆さんに『青い鳥』を探してくれって言われてな、色んな国や場所を旅するんだよ。思い出の中だったり、恐ろしい物を閉じ込めて出さないようにしてる国だったり、森の中、墓の中、宮殿、幸せいっぱいの国、これからの国……ってな感じでな」
「見つからなかったのでしょう? その青い鳥は」
「そうさ。気づいたら妹と一緒のベッドの中。起きた時に目に映った鳥かごの中にいたハトが、実は青い鳥だった。モーリス・メーテルリンクとか言う捻くれ者が考えた、『幸せの青い鳥』だ」
「その話、ありすは好きよ。だからあたしは怒ったのよ? ミチルを見捨てた、なんてウソをついたから」
「ところがチルチルは全然自分の話が好きじゃなかったのさ」
今度は、ありすは怒らなかった。オレが冗談めかして言ってるからじゃない。マジのトーンで、言ってるからだ。
「貧乏な家だし、クリスマスにはケーキも食えないプレゼントもない。空きっ腹でベッドに潜り込んで次の朝を待つだけの、いつも通りの日。チルチルはそう割り切ってんのに、ミチルの奴は毎年のように、来もしないセント・二コラのじいさんのプレゼントを楽しみにしてるのを、悲しい目で眺めるのさ。何処にでも行ける魔法の帽子があるのに、それを使って幸せにもなれない。得体のしれない鳥を探し回って、結局は、貧乏なまま話がおしまい。チルチルはな、自分の幸せをこれっぽっちも、幸福な話だと思っちゃなかったんだぜ?」
「だけど――ある時、チルチルは気付いたんだよ」
「〈作者〉に頼み込んで、幸せな結末に書き換えてくれってな」
「えぇ!? そ、そんなこと、できるの?」
驚いた顔のありすに対して、オレは、ニヤリ、よ。
「ダメだった」
オレは肩を竦める。
「そいつはな、自分でこさえた話を、そもそも悲しい話だとも思っちゃなかったのさ。オレ達に恨みがあった訳でもなかった。オレの知らない、色んな悲しい話を、たくさん知ってたんだ。それに比べりゃ、青い鳥なんざ悲劇でもねぇんだって。アンデルセン、そんな名前の奴が書いて来た悲劇に比べりゃ、お前達は幸せだ、とよ」
メーテルリンクの奴はきっと、話の整合性だとか、これからの展開だとか。そんな事を考えて、オレ達を貧しいきこりの子にしたんだろう。
アイツが悪辣だったからだとか、性格や根性がひん曲がってるだとか、そんな理由でじゃない。そうした方が、適切だったから、そうしただけに過ぎない。
だから、オレがどれだけ貧乏は悲劇と言っても、響く訳がねぇんだ。オレは、それを知るのが遅すぎた。
「それを聞いたチルチルはな、何を考えたと思う?」
「ミチルのいる家に、帰った!!」
「ハズレ。聞いて驚くなよ? 他の〈作者〉が考えた悲劇を書き換えて、ハッピーエンドにしてやろう!! って思ったんだぜ」
「えぇー!!」
全く良いリアクションをしてくれる〈読み手〉様だよ。
「……で、できたの? アルターエゴ?」
「……」
「白雪姫は、『ままはは』と仲良くなりながら、王子様と結ばれたの? 人魚姫は、泡にならなかったの? 赤い靴をはいたカーレンは、足を切られる事はなかったの?」
……心が締め付けられる。
誰だって、話したくない事はある。出来なかった、恥ずかしい事ともなれば、尚更さ。だが、話さなくちゃあな。話をするって、言ったんだからな。
「誰も、救えなかったんだよ」
言ってて、馬鹿らしくなってくる。オレは今、笑っていた。自分の馬鹿さ加減に、呆れて物も言えねぇ。自嘲気味な笑みだった。
「メーテルリンクの奴が言った通りだよ。世の中にはな、たっっくさんの、悲劇があったし……、貧乏しか悲劇の要素のない青い鳥が可愛く思えるような話もあったんだ」
「それに……な」
「馬鹿なチルチルは知らなかったのさ。全ての物語に、<作者>がいるって思ってたんだよ。1人の<作者>じゃない。色んな時代の、色んな土地の奴が紡いで行く昔ばなしがある何て事、これっぽっちも知らなかったんだ」
「何て、お話だったの?」
「病気の娘の為に、茶碗一杯分の小豆と米を盗んだ親父さんが、殺される話さ」
口やかましい青い鳥と一緒に見た、色んな人間の唇が付いた柱の光景は、今も、忘れない。
1掬いの小豆と米を盗んだだけで、実の父親を生贄にされる娘を救おうと、奔走した時の話。
チルチルは、救えなかった。<作者>がいない話だったからな。漸く出会えたと思ったら、そいつは、スピーカーに過ぎなかった。誰ぞから聞いた話を伝聞系で話す、唇の柱。
何を言っても、暖簾に腕押しって奴で、十人十色の語り口で、1つの話を、何通りもの解釈で話しやがる、<作者>とすら最早言えない<作者>の姿。
「……アンデルセンって<作者>にも、会った事があるんぜ、そのチルチルは」
「本当!?」
「ああ。雪の降るクリスマスイブだってのによ、寒空の下で1人、売れもしねぇマッチを買ってくれねぇかとせがむ女の子の話だ。チルチルも馬鹿なりに必死さ。その女の子をな、幸せにするよう書き直せって、銃まで突き付けてアンデルセンを脅したんだ」
地獄みたいな話を書き上げたとは思えない程、冴えない男だった。
特別に不細工だった訳でもなく、お世辞にも美男子と褒めたたえられない。どこにでもいそうな、中年の男。それが、オレの見たアンデルセン。数多の不幸な話を書き上げた<作者>だった。
「……話の筋を、死んでも変えないって言ったよ。これを変える位なら、殺してくれても良い、とよ」
「……」
「<作者>が書いたお話って奴は、そいつ自身が言いたい……表現したい事を伴って、産まれて来るって、そいつは言ったよ。それを変えられる位なら……死にたくないけど、死ぬしかない。そんな覚悟を、持ってたんだよ」
「撃ったの?」
「マッチ売りが、許したんだよ。……だから、撃たなかった。……撃てなかった」
「よかった……」
ほっと、ありすが胸を撫でおろした。
「その人が死んじゃったら、お話を書く人が、ひとり、消えちゃうもの。そんなの、いや」
「……そうだな」
知らず、オレは笑っていた。
「マッチ売りの子を幸せにしようとして、チルチルは無茶をした。アラビアンナイトの世界に飛んでよ、精霊(ジン)を従えたり、魔法を習得したり、王様になってみたりと、その子が困らないように色んな事をやったんだ」
「まぁ」
「だけどよ……やり過ぎちまったんだよな。そりゃそうさ。元々違う話の奴がさ、別の話の筋を書き換えたり、その話の人物を傷付けるなんて、あっちゃいけない事よ。当然の話のように、チルチルは制裁を受けた。痛めに痛めつけられて、元の青い鳥の話に戻されてよ……」
「……戻されて?」
「……そいつの居場所が、なくなっちまってたんだ。そいつの席にはな、そいつよりもずっと、チルチルを演じるのが上手い奴がいた。古いチルチルがずっと好き勝手やってる間、その上手い奴が、青い鳥を何とか取り持ってた」
ズズ、と。湯呑に入った緑茶でも啜るような感覚で、オレは紅茶を飲んだ。マナーもへったくれもない飲み方だが、ありすの奴は、それを注意しなかった。
「当たり前の話さ。自分の話の中での役割すらこなせねぇで……。自分自身が、自分のやった事に胸張って幸福です、って言えないような奴が、他人を幸せに出来る筈がねぇ。……これは、そんな当たり前の話。他所で好き勝手やって、母屋を放置してたら、その母屋に居場所がなくなってた、馬鹿な男の笑い話」
「――」
「……お前が呼んだ、『岩崎月光』って言う名前のアルターエゴの、『昔々ある所に』、よ」
自分で話してて、何ともまぁ、馬鹿げた半生だな、と思う。
救ってみせる、ハッピーエンドにして見せる。そうと息巻いた生意気なクソガキがやった事と言えば、人様のお話に介入して、好き勝手暴れまわって。
じゃあそれで何かを変えられたかと言ったら、とんでもない。結局結末は、一切変えられず。ただ、そこに至るまでの道筋を、ぐっちゃぐちゃにしただけ。
そして、途方に暮れて戻って来てみりゃ、青い鳥にオレの居場所なんてなくなってて。こんな愉快な、因果応報、滅多にねぇよな。
「お話は、本当に、それで終わり?」
だが、ありすは、オレの話に満足しなかったらしい。
最初の時には膨れっ面で怒ってた、オレがチルチルだって話を、今度と言う今度は、本当に信じ切っているらしかった。
「それじゃあまりにも……あなたが可哀そうだわ」
「業突く張りは、いつの世も、痛い目に合うもんだぜ」
「だれに救われて欲しいかを考えるのは、本を読む人なのよ」
ありすは、更に言葉を続けた。
「あなたが主役の本をあたしが見たら……あたし、あなたに救われて欲しいって思うの。だってアルターエゴ、がんばってたじゃない」
……それは、自分の話が明白に悲劇だと、解っていながら、オレの幸せを願った女の子2人の祈りと、同じ思いだった。
父親を生贄にされ、喉が枯れる程に泣き喚き、これが現実だと悟った女の話は、数年後、死んだ雉を抱いて死んだ目をしながら原っぱを立ち去る所で終わりを迎える。
昼間から呑兵衛のぐうたらオヤジから虐待同然の扱いを受け、幸せの何たるかを知る事もないままにクリスマスを迎えた少女の話は、その翌日、寒さに耐え切れず眠るように死ぬ所で締めくくられる。
誰が聞いても、悲劇その物。血の通ってない、悪魔が考えたような話の主人公達。
なのにアイツらは、主人公としても、チルチルとしても、幸せにすると誓った男としても。中途半端なデクノボーのこのオレが、幸せである事を願った。
オレが、いつの日かきっと救われて、助かる事を祈った。自分達の幸せなんかよりも、そっちの方が大事だと、言わんばかりによ。
「ねぇ、アルターエゴ。ほんとうに、あなたの話はそれで――」
「おしまいじゃねぇさ」
そう、それで終わりじゃないから、オレも……オレ自身の人生も、捻くれてんだよ。
「<読み手>の人生って奴ぁ、長ぇなぁ。同じ事が起こる日が1日もなくってさ、繰り返される事もなくってよ。毎日、毎時間、違う事の連続で、同じ事を繰り返してりゃ良い本の中とは偉い違いよ」
出会って、別れて、飯食って。眠って、起きたら、また、1日が始まる。
自分に課された仕事を毎日こなす。やってる仕事は同じでも、天気は毎日違うし、季節も違う。その時一緒にいる人間も違うので、話す内容も日によって当然変わる。
それは、おとぎ話の世界じゃ、考えられなかった事。人間達の世界じゃ当たり前の事は、本の中の世界での非常識だ。
「オレは、<読み手>……いや、人間としての命を得た」
「楽しかった?」
「おかげさまでな。良い人に出会えたんだよ。頭の良い人でな、文学の才能も物凄かったらしい」
尤も、あの人の作品の、ぶんがくせい? って奴の凄さは、オレよりも、高勢の奴の方が理解してたんだけどな。
「元は名のある商人の長男坊だってのによ、何を血迷ったか、百姓の真似事してみたり、教師もやってみたりと、随分色々手を広げてたんだよ。生徒や農家からは『センセイ』って言われて慕われる一方で、当の実家からは不良息子と叱られまくりよ」
「でも、好きだったのよね?」
「……器用な人じゃねーんだよ。やっぱ元が良いとこの坊ちゃんだからよ、教師としては良くっても、農家としてはイマイチでな。そこに関しちゃ、オレも、他の皆も、助け舟を出しっぱなしだったな。元々病気がちみてぇだったのに、キツい農業だとか、夜遅くまで起きてなくちゃならねぇ<作者>の仕事だったりもしてたら……そりゃ、身体も壊すよな」
一度体調を酷く崩して、診療所に運んでやった時に、センセイの親父さんがやって来た事をふと思い出した。
カンカン、って言う表現がこれ以上ない位適切に、怒ってやがったな。まぁそりゃそうだよな、親父さんからして見りゃ、実家の金を勝手に使って道楽して、実にもならねぇ結果にも繋がらねぇ。
作家と百姓と先生の真似事をしてるってーんじゃ、実家に戻って家業を継げ、って怒る他ねぇよな。
「それでもオレも、皆も。愛想尽かせる事はしなかったぜ。身体を大事にして、生きてて欲しいと思ってさ……その絶好の機会が訪れたんだよ」
「?」
「何でも、願いを叶えてくれる道具を使わせてくれる、その機会に1度だけ、恵まれたんだよ」
「えーっ!? そ、それって……」
「聖杯じゃねぇよ。それに、誰も殺したりもしてねぇ。誰に恥じる事もない、誇っても良い、立派なお勤めを果たしたから、そのご褒美だ。どこぞの馬鹿なチルチルみたいに、おかしくなった童話や昔話の世界を救う為に、働いてくれた人間だけが得られる、ご褒美だよ」
「そ、それで……センセイは、助かったの?」
……。
「……あの人はよ、オレが童話の青い鳥からやって来たチルチルだって事を全部承知してた。元の話に戻りもしねぇで、他所のお話の主人公達を救おうとして、夢破れて、落ちぶれて。センセイのいる世界にやって来た事も、知ってたのさ」
お月様と会話が出来る。
そんな事を言ってたよなぁあの人。んで、お月様がオレの事を全部教えてくれたとか……ハハ、何だよそりゃ。
「あの人からも、願われたよ。『オレ』に、今度こそ。誰かを幸せに出来る様な……。おろしたてのシーツみたいに、真っ白い、真新しい人生を用意してやってくれってな」
「……」
「……」
「そ、それで、お話の続きは、どうなるの……?」
「気になるか?」
水飲み鳥のオモチャみてーに、ありすの奴は、コクコクと首を縦に振るった。
オレはそれに対して、ニヤリ、と笑う。優しい笑みなんかじゃあない。自分でも実感出来る程に、意地の悪い笑みだ。
「お話の続きは、また今度」
「えーっ!! 何それズルい!!」
今度と言う今度は、流石に、初めの時みてぇな膨れっ面になった。
「馬鹿野郎、面白い話って言うのは引きが重要なんだぜ。それにしゃべくりっぱなしってのは、疲れるんだ」
「む、むぅ……!!」
オレが、ずっと喋りっぱなしだった事も配慮してか、ありすはそれ以上、何も言わなくなった。
「……な? 気になるだろ?」
「うん」
「だけどよ、オレも。お前の話の続きが気になるんだぜ? 嬢ちゃん」
自分の事を指さすありす。オレは首を縦に振った。
「でも、ありすの本は、もう閉じられてるわ。ふしぎのくに(ワンダーランド)も、かがみのくに(ルッキング・グラス)も、終わりなのよ」
「じゃあ今いるお前は何だ? マスター」
「今の、あたし……?」
「読み終えられて、閉じられた本だって言うのなら、今お前が此処にいる事、おかしいよな?」
うんうん唸って、ありすは考える。が、答えが出なさそうだなとオレは判断した。
「読まれた童話は、本を閉じられ、本棚へ。後は思い出されたかのように、また読み返されて、んでまた閉じられて……。本の世界の住民の一生はそんな所だけどよ、人間は違うよな」
「……」
「決まったストーリーもねぇ、登場人物の数もコロコロ変わって、そもそも主役も脇役もエキストラもねぇ。それが人間の世界だ。創作の世界と違う所さ」
当たり前の話だよな。全員が全員、テメェなりの意思とか考えを持ってて、それに沿って生きられるのが人間なんだからよ。
そんな世界で、我こそ主役、お前は脇役、だなんて意見が通じる訳がねぇ。世界に対して携われる権利は、等しく皆持ってるって事なんだからよ。
「嬢ちゃん。お前は自分の話は終わったって言うけどよ、オレは違うと思ってる。多分、終わる事が認められなかったんだろう。だから、閉じられたのに、また新しい本を用意されたか、ページを増量されたんだ。この分だけ生きてみろ、ってな」
それは……多分。オレの生き方だ。
幸せの青い鳥のチルチルから大きく外れてしまった俺は、お菊とマッチ売りの少女に祈られ願われ、<読み手>の世界で生きる事になった。
岩手の田舎で農家や木こりの手伝いの凡夫である『サンキチ』としての人生を授かったオレは、余命幾ばくもねぇデクノボーのセンセイに祈られ願われ、記憶を真っ新にして新しい人生を送る事となった。
微妙な味のラーメンを出す頑固オヤジに拾われ、『岩崎月光』と名付けられたオレは――、青い月でねじくれたお話を助けたり、月の軍勢と戦ってみたりの、大立ち回りを送る、何とも波瀾万丈な人生になってしまった。
オレは、続いて欲しいと願われ続けた不良だった。
ここで終わってはならない、腐ってはならない、諦めてはならない。
そうと思われ続けたオレは、捲るページがもうすぐなくなる事が解ってる傍から、次々と新しい、白紙のページが増えて行って、その増えた分だけの活躍をする事を願われた、行き当たりばったりの本。
地に足つかねぇ『デクノボー』よ。
「増えたページ分、もう少し、前向きになりな。そうすりゃ、そのページの分だけ、岩崎月光の話の続きをしてやる」
「そのお話は、おもしろい?」
「おうよ。シンデレラも赤ずきんも出て来るぜ? おまけに女も絡んだラブ――」
「女の子!?」
目をキラキラさせてありすがズズイと身を乗り出して来た。やべぇ言っちまった。
「ラブって言ったわよね!? すてきな恋の話もあるの!?」
クソ、しまった。言わない方が良かった。
身なりが良いが、少しばかり不思議ちゃんで、歳が全然幼いからって油断してた。海の向こうでも、女ってのは他人の色恋沙汰の話が好きなのかよ、畜生。
「……最後の最後に話してやらぁ」
「ひどい!! いちばん聞きたいことをもったいぶる!! やっぱあなたはいじわるね、アルターエゴ!!」
ぎゃーすかぎゃーすかうるせぇのが始まった。やっぱ子供って奴は根っこが同じだよ、ったくよぉ……。
女3人集まれば姦しいとはよく言うがよ……センセイ、多分そりゃウソだな。1人だけでも、十分過ぎる程喧しいぜ。
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヒジョーに迷惑な話をするぜ。
気持ちよく、うとうと眠ってた所を、起こされた話さ。
チルチル、サンキチ、そして岩崎月光。
そいつらぜーんぶひっくるめて、一番最後の岩崎月光の人生とするんだったら、オレの人生は満足で幸せなものだった筈さ。
そこにたどり着くまでに随分と痛い目を見たし、血も流したし、別れもあったし、よりにもよって一番ブン殴りたかったラスボスに、『答え』を教えられたりよ。
随分長くて遠い回り道をした気もしたが、それでも、オレは、最後の最後で『幸せ』だったよ。
だから、未練何てモンはなかったんだ。
何でもオレは英霊に召し上げられて座って所にいるらしくてよ、色んな奴からお声が掛かって、座の奴が行けって言うんだけどよ、オレは断った。だって、行く義理もねぇんだからよ。
聖杯戦争とか言う奴についても、これは同じさ。やりたい事やり切った奴が、2度目の生なんて願うかね? オレは御免。だから、ずっとずっと、呼ぶ声がしたけど蹴ったんだ。
何だけどよ……。
そいつはな、グスングスンって、声を押し殺して泣いてたんだよ。
誰もいねぇところで1人泣いててよ、帰る場所をなくした子供か犬みたいに、しょぼくれた様子でメソメソと。
それだけならともかくよ、そいつ、自分の境遇について、何も怒ってないし不満がないんだよ。仕方がないわ、しょうがないわ。そんな様子で、受け入れてた。
それが滅茶苦茶腹が立ってよ、オレはそいつの所に向かってやったんだ。
行ってみたら、小せぇ小せぇガキだった。透けて見えそうな程白い肌に、ヒラヒラとしたドレスみたいな服着た、外人の女の子さ。
んで、その姿を見ると同時に、もう、「しまった」って思った。だってオレ、聖杯戦争の舞台に呼ばれちまったんだもんよ。これじゃ、子供の泣き声がうるさいと怒鳴り込んで来たジャリガキじゃねぇかよオレ!!
もっとやっちまったと思ったのはこのガキ、泣き止ませてみたら、以外と神経の図太い、強いガキでよ。言いたいことを結構ズケズケ言ってくるんだよ。これじゃ呼ばれ損さ。
……多分、このマスターは、聖杯って奴には興味がないだろう。これを使って蘇生する道を選ばなければ、きっとこいつは死ぬだろう。
そいつの本は閉じられて、後は消えるのを待つだけだったんだろうが、折角増やされたページの分だけを、生きるに違いない。きっと、今回の聖杯戦争で増えた分以上のページを増やす事も、しないだろう。
なら……それで良いんじゃねぇか?
さっき未練がオレにはないって言ったが、少し、ウソついた。
『人は夢がないと生きられない』、そうと言った爺さんがいてよ、その爺さんのお袋さんは、戦争で焼け野原になった街で、偶然拾った本を読んで、泣いたそうだ。
その本の中の何気ない生活の描写を見て、自分も、そんな暮らしを得られる機会がまだあるかも知れない、ってさ。
その本のタイトルは、『青い鳥』。その爺さんってのは、オレを拾って育ててくれた爺ちゃんの事さ。
オレは、童話の世界の住民でありながら、チルチルとして、誰かに夢を見させた事が、なかった。
だから……。今だけは。この、いつか終わる女の子の為に。許された命の分だけ、良い夢見させてやるのも、悪くはねぇんじゃねぇか、ってよ……。
馬鹿なチルチルがこなせなかった、兄貴としての仕事を、久しぶりにやってみるかなって、思ったのさ。
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
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臨終に際して、私が抹消してしまいたいと思うような作品は一切書かなかった。
諸君、ごきげんよう。また気分がよくなった。
――サー・ウォルター・スコット。イギリスの詩人。裕福な弁護士の下に産まれるが、幼時の病の影響で生涯右脚の自由がなかった
.
【クラス】
アルターエゴ
【真名】
岩崎月光、或いはチルチル@月光条例
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運A 宝具A
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
騎乗:D+++
本来はセイバー、ライダークラスのクラススキル。
一般的な乗り物であれば器用に乗りこなせる、と言った程度のランクだが、童話ないし天・地属性に由来する乗り物であれば、判定次第で乗りこなせる。
道具作成:A
本来はキャスタークラスのクラススキル。
アラビアンナイトの世界に渡り、多数の魔術を学んだ事による恩恵。時間と材料次第では、アラビアンナイト世界に伝わる不思議の品の作成も可能。
【保有スキル】
魔術(アラビアンナイト):A+
童話、アラビアンナイトの世界に渡り、数多の精霊を従え、その力を会得した事により獲得したスキル。
アブラカタブラと唱える必要こそあるものの、逆に言えばその1節唱えるだけで成立する現象としては、破格その物。
自らの身体を変身させる、道具を作る、分身を作る、巨大化する、炎や氷の奔流を産み出すなど、起こす現象は種々様々。
執行者:A+
捻じれて、おかしくなった御伽噺の住民を、正す者。その役割を担った人物を、執行者と呼ぶ。
ランクA+は最高峰のスキルランク。数多の御伽噺を正し、あるべき形に戻した人物でなければ、会得出来ないランクである。
地属性・天属性、並びに、童話や御伽噺、伝承、伝説上の存在に対する特攻効果が付与される。ランクA+は、最早極限の閾値と言っても良い。ダメージの増大の上で、確定クリティカルである。
月の民:A--
厳密に言えばアルターエゴは月に由来する住民ではない。
月の向こう側に存在する異世界、その住民の中に在って、特に強力な力を持つ1人の女性の体液を、経口摂取で取り込んだ事で力を会得したに過ぎない。
たったそれだけの肉体的接触だが、元となった女性の力が余りにも強大な為、それによって得られたスキルランクも破格。
本来のこのスキルの効果は、ランク分の神秘以下の攻撃を完全無効化した上で、ランク分の神秘以下の防御を貫く攻撃を与えると言う凄まじい物。
また更には、御伽噺や創作の中、と言う、『本来現実世界には存在しない領域に侵入する事が出来る』、と言う副次効果もある。
だがアルターエゴの場合は上述の効果の多くが反映されておらず、『スキルランク以下の神秘を貫く攻撃が可能となる、以外の効果はオミット』されている。
【宝具】
『行こう。身近な幸せを探しに、今(ダイヤハット・メーテルリンク)』
ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
アルターエゴが有する第一宝具。童話、青い鳥の主人公であるチルチルとしての宝具。
頭にダイヤ飾りのついた不思議の帽子で、このダイヤ飾りを回す事によって、あらゆる場所に移動する事が可能。
つまり宝具としての能力はワープ能力である。過去に最強月打(ムーンストラックエスト)を受けた事によって、ワープ範囲が極めて広範になっている。
距離的な制約は基本的には存在せず、望んだ場所に一切の制限なく行ける宝具だが、サーヴァントとしての制約により、あまりにも遠い距離だと魔力を消費する。
また、ダイヤ飾りを破壊された瞬間、この宝具の使用は不可能になる他、最も大きいデメリットとしては、この宝具の存在そのもの。
青い鳥の主人公であるチルチルの象徴としてあまりにも有名な宝具である為、使った瞬間、自分の真名をバラしているも同然になるからである。
『船呑む鉢(呑舟)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
アルターエゴが有する第二宝具。条例執行者、岩崎月光としての宝具。
巨大な鉄の鉢の様なものを被った、和服の成人女性としての姿を持つ。彼女自身は自律行動が可能で、明白に己の意志を持つ。
その正体はお伽草紙に語られる所の、鉢かつぎ姫本人。アルターエゴのいた世界では、伝説とも言える執行者であり、歴代の執行者によって振るわれた伝説の武器として伝えられている。
この宝具はそんな彼女を召喚する宝具とも言える。蹴り技を主体とした戦い方をする事が出来るが、この戦い方はあくまでも余技。その真価は、彼女を文字通り武器として振るう所にある。
後述の第三宝具が彼女の被る鉢の部分に刻まれており、アルターエゴが生来有する執行者スキルも合わさり、天・地を筆頭とした属性や宝具、防具を持つ相手に対して甚大な特攻効果を与える事が出来る。
だが、彼女自身を振るう事すら、真の使い道ではない。
呑舟、ともある様に、鉢かつぎは中国の怪魚の伝説になぞらえた、武器を呑む者としての性質を兼ね備えており、彼女によって呑まれた武器は、『その性能がそのまま10倍』になる。
本来サーヴァントを殺傷する事の出来ない近代武器も、彼女が呑み込めば、威力や速度、対神秘も兼ね備えた恐るべき武器に早変わり。
そしてこの呑み込む武器は、『宝具』や『礼装』であっても問題はなく、寧ろそう言った強力な武器を呑ませる事をこそ想定した宝具となっている。
呑み込んだものが宝具や礼装であれば、本当に性能がそのまま10倍近くに跳ね上がり、低位の宝具ですら、高ランク宝具と遜色がないそれに早変わりする。
極めつけに鉢かつぎが呑み込むものは別に武器に限った話ではなく、『乗り物』や『盾・防具』の類ですらこれを可能とする。当然、これらも呑み込めば、性能が10倍になる。
これだけの性能でありながら、強力な宝具や礼装、巨大な物体を呑み込んだとしても、消費する魔力量は鉢かつぎを召喚した時のものと、彼女の現界を維持するのに必要な魔力のみ。
正しく強力かつ極悪な宝具だが、やはり何でも呑み込める訳ではなく、呑み込もうとしたものその物が、強い意志を秘めたインテリジェンスウェポンであったり、武器そのものが強力な神性を秘めている場合には、おえっ、となる。要するに呑み込めない。
『極印(条例執行)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
アルターエゴが有する第三宝具。条例執行者、岩崎月光としての宝具。
アルターエゴの精神が強く昂った時に、彼の顔面ないし、全身まで刻まれる、三日月の形の青白く光る御印。
この宝具を発動させた瞬間、アルターエゴの幸運以外の全ステータスは1ランクアップする他、スキル・執行者の『対象範囲』が更に拡大解釈される。
本来執行者スキルは、サーヴァント自体が天・地・童話・御伽噺・伝承上の存在として伝わっていなければ、発動しない。つまり、完全な『人属性・星属性』には意味がないのである。
だがこの宝具を発動させた瞬間、相手した存在が人・星属性であっても、『振るっている武器や纏う衣服や防具が上述の属性を兼ね備えていた』場合でも、執行者スキルが発動するようになる。
しかもこの上で、当該宝具による特攻と執行者スキルによる特攻は別枠で計算される為、この宝具を発動したアルターエゴにブン殴られた上述の属性持ちは、致命傷級のダメージを負う事となる。
おまけに、これだけの性能でありながら、あくまでも『自分の身体』のみに限定されている為、魔力消費も言う程多くないと言う、至れり尽くせりな宝具。絶対御伽噺の存在ぶっ殺すマンになる。
【weapon】
おとぎ話の道具たち:
生前の最終決戦の際に、アルターエゴの事を信じたおとぎ話の住民達に託された、それぞの物語で使われるキーアイテムの数々。
それは一寸法師の金棒だったり、わらしべ長者の藁たばだったり、桃太郎印のきびだんごだったり、舌切り雀の鋏だったり、ヘルメスの靴だったり、聞き耳長者の頭巾だったりと、種々様々。
本来だったらそれ単体が宝具としてカウントされ得る程の強力な代物の数々。これらを状況によって使い分けたり、呑舟に呑ませて効果をアップさせる事が、アルターエゴの戦い方の基本骨子。
本来であれば、ライダークラスで召喚された時に登録される宝具を介してでなければ使えない。
であるのに使えるのは、今の月光が特別なクラスであるアルターエゴでの召喚である事と、アラビア魔術でインチキをして召喚しているからに他ならない。
そのズルの代償か、魔力消費が少し割高になっており、宝具ですらない道具であるにもかかわらず、呑舟や極印よりも、魔力消費が高いのである。
【人物背景】
青い月の光によって捻じれたおとぎ話、昔ばなし、ナーサリーライム。それを正して来た、執行者。誰も救えなかった青いチルチル。青年散吉。
適正クラスはライダー、キャスター、アルターエゴ、セイヴァー。ライダークラスであればWeapon欄で説明したアイテムの数々をかなり少ない魔力消費で呼び寄せる、いわばおとぎ話版ゲート・オブ・バビロンが使用可能。
キャスタークラスであれば、アラビア魔術の範囲がもっと拡大される他、第一宝具であるダイヤ飾りの帽子の移動範囲が隔絶された異世界内にも及ぶようになり、更には童話・青い鳥由来の宝具と、月打されたミチルを召喚する事が可能。
セイヴァークラスは、月の向こう側の世界に赴き、その世界を救った時の姿で召喚され、このクラスでは呑舟は使えなくなる代わり、オオイミ前王並びにナナツルギを召喚する事が出来る。
今回のアルターエゴクラスはバランス重視であり、呑舟も使え、極印もダイヤ飾りの帽子も特にデメリットはなく、アラビア魔術や執行者スキルも、全盛期の物が適用されている。
【サーヴァントとしての願い】
ない。ありすの余生を少しは彩ってやる。
【マスター】
ありす@Fate/extra
【マスターとしての願い】
ともだちが欲しい。聖杯については、考えてない。
【能力・技能】
空間転移、固有結界級の魔術を複数長期に渡って展開できる規格外の魔力を汲み上げられる。
そのタネは、実体のないネットゴースト、ないしサイバーゴーストであるがゆえに肉体(脳)のリミッターが存在しないため。
だがそれは回路が焼き切れるまでエンジンを回せるといっているようなもの。いずれは魂が燃え尽きる運命である。聖杯戦争の長引く日数によっては、自動的に消滅する。
【人物背景】
居場所がなくなっていた少女。彼女の肉体は、何処にもない。
少なくとも、ザビ達にやられた後の時間軸から参戦。消滅する何処かのタイミングで、黒い羽に、触れたのかも知れない。
投下を終了します
投下します
「マスクを着けるな!!!」
「「「「マスクを着けるな!!!!」」」」
「ワクチンいらない!!!」
「「「「ワクチンいらない!!!!」」」」
駅前に集まった集団がシュプレヒコールを上げている。
いつまでもその主張を続けられるというのは、ある意味でこの地がとても平和であるということだろう。
―――こうしている今も、聖杯を求めて多くのものが殺しあっているなどまさか想像もすまい。
ヌルいなぁ、と。内心嘲笑を浮かべながら戦争の当事者、ジゼル・ジュエルはその集団へと近づいていく。
形式ばかりの笑みを浮かべて、それをマスクで隠さなければ何の警戒もなく無防備に接近を許すのだからヌルいと言うほかない。
「お、君もデモに参加してくれるのか?よければ、あとで署名の方も……」
「あー、そーですねー、そういうのも大事ですねー」
テキトーに相槌を打ちながら集団の中心へと混ざっていく。
ボケてるなぁ、と嘲笑を越して侮蔑の念を浮かべてジゼル・ジュエルあらためジジは、彼らの主張は肯定した。
「ホントその通りマスクなんて何の意味もない」
「ああ、まったくだ!政府も病院も何もわかtt」
「ボクのペイルライダーを、そんなモンで防げるわけないじゃーん」
なに?とジジの言葉を聞き返そうとするが、その前に誰かが掴みかかってきて口を塞がれた。
なにしやがる、と声を荒げようとするが
「■■■……!」
うなり声をあげて押し寄せる、歩く腐乱死体。俗にいうゾンビとしか思えないものが襲ってきたモノの正体だった。
「っう、うわァァァアァぁ!?」
一つじゃない。
デモ集団の数に匹敵するゾンビ軍団が襲い掛かっていた。
引っかき、噛みつき、地面に引き倒して頭蓋を砕いて肉を貪る。
まさに病的に、ゾンビどもは肉を求めていた。
「よーし、よしよし。たーんとお食べ。ちゃんと食べ残さなきゃダメだよー?」
そんなマナーに真っ向から相反する言葉をゾンビに告げるジジ。
その指示に従ったのか、なにせ相手がゾンビなのではたから見ては分からないのだが、結果的にゾンビは指示通りデモ集団を食い散らかして食べ残す。
するとすぐに死体となったデモ集団も、動く死体……ゾンビとなって蠢き始める。
―――ネズミ算のように、ゾンビは冬木の町に増えつつあった。
「オッケー、本日のお仕事しゅーりょー。帰るよー」
そしてそれらを従えて拠点へと退いていく。
いまだに誰が敵か味方も分からない状況で、無暗に喧嘩を売ることはしない。
水場を抑えたり、密集地帯で暴れたりすればもっとゾンビを増やせるだろうが、同時に敵も増えてしまう。
将来陣営を同じくする相手に悪感情を抱かれては、背中から刺されかねない。
(そういうのはバンビちゃんのキャラだもんねー。ボクはそんなヘマしないし)
でないと気に入った相手の隙をついてゾンビにするのもままならない、と。
気儘な思考を勝手に繰り広げて仮初の拠点へと帰還する。
「ただいまライダー。戻ったよー」
「お帰りなさい。案外早かったわね」
「バカみたいに騒いでる連中がいたからさー。うるさかったんでそいつら纏めてやっちゃった♥」
ガラガラガラガラガラと喉を鳴らしてうがいを済ませて、手を入念に洗いながらジジが答える。
「あまり目立ってないでしょうね?」
「どうかなー、元々こいつらの方が目立ってたからねぇ……そいつだよ、そいつ。そいつらが騒いでた新参ゾンビ」
連れてきたゾンビのうち一体をあごで指し示して曰く。
「マスクはいらないとかなんとか騒いでてさー。まあマスクでキミを防げないのはそうなんだけど、こいつはマスクした方がいいよねぇ。こんな不細工な顔晒して臭い息まき散らすのはマスクで防ぐべきでしょ?ね、ライダー」
「さあ。たしかに美容整形は必要そうだけど、それはゾンビに顔の皮を引きはがされてるからだし。息が臭いのはゾンビになって腐ってるから当然だし。評価しかねるわ」
「それは……うん。まあ、そうだね」
もうちょっと綺麗なゾンビにするべきだったかなー、いやぁイケメンの保存以外に労力使うのも馬鹿らしいかーなどとジジがぼやく。
そして入念な手洗いを終えて、それを丁寧にタオルで拭きつつ話題を変える。
「ところでさあ、真名【ペイルライダー】じゃない?なのにキミ、レッド・クイーンなのはどうかと思うよボク」
「無暗に真名を口にしないでもらえる?」
ペイルライダー、レッド・クイーンと呼ばれた少女はうんざりしたようにそう答える。
レッド・クイーン……その名の通り、彼女の服や髪、それどころか肌や目に至るまで全身が赤く輝いている。
本来の彼女は投影された立体映像であり、そのために総てが赤く映るのだが、電子の世界で行われる聖杯戦争であるがゆえに実態に近い形を手にして現れたのだ。
赤い女王(レッド・クイーン)の名は立派にあらわされた体だが、青い騎兵(ペイルライダー)とは呼び難い。
「その答えは前にも言ったはずだけど。レッド・クイーンは宝具の名。ペイルライダーはサーヴァントの名。もっと言うなら真名は―――」
病という最古の死の象徴の一つ。それが形を持って現れたのがこのサーヴァントであった。
此度この電脳の冬木に蔓延しつつあるその病名は。
「T-ウイルス。正式名称はTyrant Virusよ。覚える必要はないけれど一応ね。もしも感染したらお医者様にそう言えば、発症前に安楽死くらいはさせてくれるんじゃない?そうならないよう手洗いうがいはしっかりね?」
「そんなことで防げたら世話ないでしょー。それにボクの血と能力が混ざって、もうどうしようもない代物になってるじゃん、これ」
T-ウイルスには発症後の潜伏期間があり、ゾンビになるには時間がかかる。しかしジジの死者(The Zombie)は血を浴びせたものを即座にゾンビへと変える。
ジジの血液によりゾンビになったものは血液の組成を変えれば人に戻ることができるが、T-ウイルスの感染者を戻すすべはない。
当代のペイルライダーは史上最悪のバイオハザードを起こす準備を着々と進めていた。
「にしても意外な発言ね、マスター」
「なにが?」
「いいじゃない、別に。赤い宝具のペイルライダーがいたって、弓を持たないアーチャーがいたって。今は多様性の時代でしょう?女の子みたいな男だってありだと思うわよ、私は」
アバター上の顔に笑みを浮かべてレッド・クイーンはそう発した。
ジジもまたその言葉に笑みを持って返す。
「え―、そういうとこ突いちゃう?デリカシーなくない?もぅマヂ無理なんですけど……」
へらへらと笑いながら、滅却師の力でもって手中に矢を作り
「手首切った」
ざくり、と。
矢尻を滑らせ腕の動脈から血液をまき散らす。
スプリンクラーのようなそれで、レッド・クイーンの赤い姿がさらに赤黒く染まっていく。
しかし、それだけ。
「You look 『pale』, my master(顔色悪いわよ、マスター)」
レッド・クイーンは涼しい顔でそんな反応。
ジジの能力は血を浴びせたものをゾンビにすること、なのだが
「………………傷つけたのは謝るけど、私はゾンビにならないわよ。本来プログラムなんだから」
「えー?プログラムならウイルスってめっちゃ効かない?セキュリティソフトも万全系?何使ってんの、ノー〇ン?〇イルスバスター?」
「ウイルス違いよ。残念ながらT-ウイルスがネットで広まった研究報告はされてないわ……ところで私、これの掃除はイヤよ」
ボクもイヤですけど、とジジが返そうとするとその意を汲んだというわけでもなかろうが、、ゾンビが床に巻き散った血に群がって舐め取り始める。
「ええー……」
それを見たジジがきったないなぁ、とぼやきながら殴り飛ばして止めさせようとするが
「待って!あなた、いい拾い物したわよ。見てみなさい」
「はあ?」
レッド・クイーンの言葉に拳を収め、そして彼女の言う通りにゾンビを観察する。
血液を舐めるゾンビの外観に変化が起こっていた。
四つん這いで床を舐める姿勢が、骨格レベルで適正に変化していき、四つ足の獣染みたものへ。
引き剥がされた顔の皮がさらに落ち、頭部、脳髄まで露出していく。
そして血液を舐め取る舌はどんどん伸びて、原形のない怪物となった。
「おめでとう、ゾンビはリッカーに進化したわ」
「リッカーってなに?こいつの名前?」
「似たような形になった報告例がアンブレラのレポートにあるわ。その時の仮称が舐めるもの(リッカー)」
自分のアバターに付着した血液も集めてリッカーへと差し出すと、渇いた野良犬のように舐め取り始める。
「さっき連れてきた新人よね、顔が剝がれてた」
「あ〜、あの不細工」
「遺伝子レベルでウイルスに適合するなら、彼の血縁も上等なゾンビにできるかも。素性は分かる?」
ん〜、と軽い調子で悩むジジの横で生来ならばあり得ないマッド・サイエンティストの如き所業をレッド・クイーンは成そうと考えていた。
「……そうだ、署名とか言ってたから名前なら分かるかも」
「それじゃあ載ってる人を私が調べて片っ端から試してみましょう。その署名は?」
調べものに、実験の繰り返し。
そういった技能は高性能AIの見せ所だとレッド・クイーンが笑みを浮かべるが、ジジがその足を引っ張った。
「え、持ってきてませんけど」
「じゃあ取ってきて」
「え〜……ゾンビ操って回収させられない?そういう宝具なかった?」
「実物を分かるのはあなただけよ。ゾンビに知能を期待するなんて、ゾンビ以下の馬鹿でもなきゃしないでしょう」
めんどくさ、とジジがぼやく。
そうだ身分証とか持ってないかなこいつ、と儚い抵抗を試みるも実らず。
ぶつくさ言いながらも影の中に引きこもるよりはマシとゾンビを伴って再度の外へ。
それがこの冬木に巻き起こる、バイオハザードの始まりだった。
【クラス】
ライダー
【真名】
ペイルライダー(T-ウイルス)@バイオハザードシリーズ(映画)
【パラメーター】
筋力E 耐久EX 敏捷A 魔力A+ 幸運E 宝具A
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:E
殻であるペイルライダーはともかく、T-ウイルスは神秘の薄い時代の存在であるため、対魔力はほとんど期待できない。
無効化はできず、ダメージを僅かに軽減する。申し訳程度のクラス補正である。
そもそも極小の存在であるT-ウイルスが多少なりダメージを軽減したところでほぼ意味はない。一応サーヴァントなので神秘のない現代医学での治療はできないが。
騎乗:EX
風に、鳥に、水に、人に、ありとあらゆるものに「乗って」世界へ広がり続けた病という概念そのもの。
T-ウイルスはゾンビという新たな形態を食物連鎖に組み込んでしまった、究極の疫災にして人災である。
幻獣・神獣や竜種すらも感染する危険がある。
【保有スキル】
感染:A
T-ウイルスという己の分け身を他の生物に感染させ、己の領域を広げるスキル。感染者は感染後短時間で死に至り、食欲のみを動機に動くゾンビとなる。使い魔のように使役されたり、魔力を徴収されたりすることも。
ただし極まれにウイルスに耐性を持つ者がおり、そうしたものは感染後に超能力や再生能力獲得などメリットを享受することになる。
また耐性をもたずともウイルス進化のように生物として変質することもある。リッカー、タイラント、ケルベロスなどと呼称される個体がこの聖杯戦争においても観測される可能性は大いにある。
なお生前(?)のT-ウイルスに比べて感染力は一部制限されている。令呪を持つものとその契約者は強い耐性を与えられ、少なくとも半日は発症しない。人理も抑止力もムーンセルも、かつては地球を荒廃させ滅ぼす直前までいった危険物をそのままに再現する愚挙は犯さない。
変転の魔(偽):D
人を治すために作られたT-ウイルスは、アウトブレイクを引き起こして人々を殺戮し、理想郷を求める人間の殺戮兵器にされた。
レッドクイーンはT-ウイルスの拡散から人類を守るために、感染者を閉じ込めて皆殺しにし、さらに理想郷を求める人間を優先的に守るために多くの人間を見殺しにした。
善性より産まれたものが悪行をなさないとは限らない。
英雄や神が生前に魔として変じたことを示す。
過去に於ける事実を強調することでサーヴァントとしての能力を著しく強化させるスキル。
T-ウイルスは人の身では絶対に不可能な耐久力を手にしている(どんな環境のどんな生き物であっても感染・発症させる)。
レッドクイーンは魔として召喚されたため、人を守る意志はほぼ排斥されている。
【宝具】
『来たれ、不思議の国の少女よ、来たれ(マイ・ネーム・イズ・アリス)』
ランク:D 種別:対界宝具 レンジ:0 最大捕捉:1、または999
マスターを起点とした疑似的な冥界となる結界世界を作り上げる。
異なる事象のアメリカ、スノーフィールドにおいては『来たれ、冥き途よ、来たれ(ドゥームズデイ・カム)』と呼称された結界宝具がもととなったもの。
Tウイルスは召喚したマスターの心象風景を結界で上書きし、『アリス』とする。心象風景を結界として現実を侵食する固有結界の逆で、現実から心象、ひいては個人に影響を与える。
アリスとはT-ウイルスに感染してもゾンビにならない耐性を持ち、メリットのみを享受する存在のことである。代謝の活性化により治癒能力や身体能力は向上し、超能力を獲得することもある。
ただし『アリス』であるマスターが死亡した場合、結界は対象を失ったことで一瞬だけだが拡散して全世界を覆いつくす。一瞬だけ固有結界が展開されるのだ。その一瞬で自然界に存在するTウイルスは駆逐され、感染者も根治してしまう。
そのためマスターの死はほぼTウイルスの根絶に等しいが、この宝具によって消失するTウイルスは自然界及び生物の体内にいるもののみ。何者かの手で厳重なラボやシェルター、結界や虚数空間などにウイルスが保存されていた場合はバイオハザードが再び発生する可能性はある。
『剣、飢饉、死、獣(ハー・ネーム・イズ・レッドクイーン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:99 最大捕捉:999
宝具の読み方はマスターによって異なる。
他者に死を与える数多のものを具現化させ、その力を行使する。環境が整えば神話における終末を魔力が許す範囲でのみ再現することも可能。
感染した数多のゾンビやクリーチャーをある程度コントロールできる。さらにTウイルスの守護者としてレッドクイーンを召喚する。
レッドクイーンは人類およびTウイルスの開発者を守るためにプログラムされた高性能の人工知能であり、オリジナルの『アリス』の姿をかたどる。
本来ならば電子上のプログラムで召喚されるが、電脳世界に再現された冬木においては実体に近しいアバターで召喚された。Cランクの陣地作成、道具作成、使い魔スキルに近しい技巧を持つ。
ゾンビの量産や強化をしたり、レーザートラップや毒ガスを配置したり、院長室に行ってイーグルのエンブレムを取って地下水道のカギを入手して戦車の模型を動かしたあと図書館の絵を若い順に並べないと手術室に入れない病院を作ったりできる。
T-ウイルスはアリシアという少女の治療のために産みだされた存在であり、レッドクイーンはアリシアの姿をアバターとしている。
アリシアなくしては産まれなかった被造物にして大量殺戮者である二つの数奇な縁が宝具となったもの。
【weapon】
・ゾンビ
感染した生き物をゾンビとして使役する。
ゾンビから進化したクリーチャーも同様。
【人物背景】
ペイルライダーはヨハネの黙示録に記された『終末の四騎士の蒼き死の担い手』である。戦争や飢饉とならび疫病や死を象徴するとされる。
その正体は抑止力の1つであり明確にガイア側の『カウンターガーディアン』と呼ばれる者達のうちの1人。
概念そのものであるため召喚者の影響を大きく受け、今回はマスターであるジジと性質の近しいT-ウイルスがペイルライダーの殻を被って召喚された。
T-ウイルスは医療及び軍事複合企業アンブレラ社が開発したウイルスである。
創始者の一人が娘アリシアの難病を治療するために作り出したのだが、もう一人の創始者は治癒力ではなくその凶暴性に目を付けた。
医療目的ではなく生物兵器としてT-ウイルスを用い、アンブレラ上級幹部以外の人類を計画的に抹殺して人類が居なくなった世界で理想の楽園を作る計画を実行しようとしたのだ。
事故を装って研究施設でT-ウイルスが漏洩されると、アンブレラ社のメインコンピュータであるレッドクイーンはそれをを防ぐために研究員500名以上を皆殺しにし、施設を封鎖した。
その施設の封鎖を解きに特殊部隊が差し向けられた時も同様に殺害を試みるが一部が生き残り、施設が解放されてT-ウイルスは世界中に広がってしまう。
アリシアのクローンであるアリスの手で抗ウイルス剤が世界に散布されT-ウイルスは滅菌されるが、それまでに世界は荒廃しアンブレラの選民計画も完了間近となっていた。
世界を滅亡寸前まで陥れた『兵器』にして『生物』こそがT-ウイルスである。
【サーヴァントの願い】
ウイルスに意志はない。
だがレッドクイーンはアンブレラ社のために活動するプログラムであるため、もしもT-ウイルスが聖杯に至ったならアンブレラ社が聖杯を手にすることになるだろう。
【マスター】
ジゼル・ジュエル@BLEACH
【参加方法】
聖別の直前に舞い降りた黒い羽に触れた。
【マスターとしての願い】
自分たちを捨てたユーハバッハを倒す。
【weapon】
・ゾンビ
後述の能力およびT-ウイルスにより作ったゾンビを操る。
【能力・技能】
・滅却師
虚に抗体を持たない種族。
そのため転じて虚への攻撃性・攻撃能力を持つ。霊子操作を主とする。
霊子を固めることで兵装を作成、足元に霊子を流して高速移動する飛廉脚、血中に流すことで肉体硬度を増す血装(ブルート)、霊子の糸で自分の肉体を無理やり動かす乱装天傀など。
・滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)
数百年の鍛錬を経てたどり着く戦闘形態で、ジジのものは神の死(アザルビオラ)という。
上記に加え骸骨の使い魔を使役、使い魔での拘束などを可能とする。
なお本人曰く「疲れるからイヤ」な戦闘形態。後述の能力による戦闘の方が強力かつ効率的と思われる。
・聖文字(シュリフト)
能力名は死者(The Zombie)。自分の血液を浴びた者をゾンビにし、自由に操る能力である。
相手の霊圧に応じて必要な血液量は増える。強いものを操るには侵入した血液が心臓で増殖して全身に行き渡る必要があるが、そうでないなら血液を浴びせるだけでゾンビにできる。
血液を回収することで自分や仲間の傷を癒すこともできる。
この能力が宝具『来たれ、不思議の国の少女よ、来たれ(マイ・ネーム・イズ・アリス)』と自身へのT-ウイルスの感染を加えることで強化され、ペイルライダーが生み出したゾンビも使役できるようになっている。
血液の組成が変えられると操れない、天敵である虚には効果が薄いという弱点があったが、ジジの血液を無力化できてもT-ウイルスの感染を治せなければ彼……もとい彼女の支配を逃れることはできない。
【令呪】
首筋から心臓の上の左胸部にかけて。
クインシークロスに鎖をつけてペンダントにしているような形状で、全体的に脈打つ血管染みている。
鎖で一画、円で二画、五角形の十字架で三画。
【人物背景】
尸魂界に敵対する滅却師の一派、そのなかでも精鋭である星十字騎士団のメンバーの一人。
首魁であるユーハバッハに率いられ尸魂界に攻め込み、多数の隊員や隊長までをゾンビにして操り暴れる。
能力を解析され苦境に陥り、ユーハバッハの聖別を受ける直前に参戦。
余談であるが、聖別を受ける本来の歴史ではユーハバッハに反乱し、さらにそこから生還後には綱彌代時灘とも小競り合っている。
投下終了です
>参ッ戦ッ!
勇次郎と御老体、こんなところでまで傍迷惑な組み合わせを……。
しかし双方にとって旨味のあるイベントであるのは間違いないのがまた。
果たしてこの世界でもオーガの武は活かせるのかが見ものですね。ありがとうございました。
>二人はオルフェンズ
まさしく題名の通り、孤児(オルフェンズ)同士の主従ということでしたが。
孤独を知る者同士の会話とそこからの帰結になんとも言えない温かみがあり良かったと思います。
鉄血のオルフェンが今度は勝利を掴めるのか、またしても鉄血の中に沈むのか。ありがとうございました。
>そんなに人間が好きになったのか、■■■■■■
これはまたとんでもない、型月的に見ても重大としか言い様のないフォーリナーが来ましたね。
そしてそんな彼と、プリキュアになろうとした彼女(?)の会話が尊くも輝かしい。
果たせなかったものを次こそ果たすのか、そして果たし続けられるのかが気になります。ありがとうございました。
>GO ON A FORAY
召喚宝具も持っている頼もしいパイロットサーヴァントですね。
そんな彼を招いたのがあのスカーというのもまた鬼に金棒。
強さも武装も申し分のない組み合わせで恐ろしいです。ありがとうございました。
>逆転のレジーナ
児童書を思わせる読みやすく明るい文体で紡がれる両者の会話が微笑ましくも眩い。
クイーンに翻弄されるウイもなんというか、可愛らしくていいなあと思いました。
奇矯な人物ではあるものの間違いなく頼れると思うので、頑張って欲しいものです。ありがとうございました。
>親鳥〜Bard parent〜
親としての二人の切なさが描写された一作でしたね。
ホーエンハイムという強力な錬金術師を得られたのは幸運だったなと思います。
その生き様が何処にどう辿り着くのかが楽しみです。ありがとうございました。
>本条例の復活
どちらの出典側の雰囲気もこれでもかと引き出した、凄く良質なクロスオーバーを読ませていただいた心境ですね。
二人の会話もさることながら、そうして辿り着いた結論も優しく暖かく、"らしい"ものだなあと思いました。
幸薄な少女であるありすに招かれたのが"彼"なの、なんというかとても強い安心感を感じます。ありがとうございました。
>Fate/Bio Hazard
ああ、なるほどペイルライダー……。と膝を打つ発想で驚かされました。
実際その名に相応しい存在ですし、それを招いたのがよりにもよってジジというのは厄いとしか言いようがない。
陛下への復讐とだけ見るとヒロイックでさえあるのに、その過程が最悪すぎて頭を抱えるしかないですね……。ありがとうございました。
皆様、この度も投下ありがとうございました。
さて、登場話候補作の募集期限の方も間近に迫って参りましたが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
心在るが故に妬み
心在るが故に喰らい
心在るが故に奪い
心在るが故に傲り
心在るが故に惰り
心在るが故に怒り
心在るが故に
お前のすべてを欲する
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
それは、月のない夜の話。
電脳空間上に再現され、聖杯戦争の舞台として用意された仮初の町。
かつて七人の魔術師と七人の英霊が命を賭して争い。
ただ一つの願い(エゴ)を押し付け合って、ただ一つの願い(ユメ)を奪い合った戦場。
今回もまた聖杯を巡るステージとして、0と1の集合体で産み出された地方都市の名は、冬木と言った。
本来この地に定められた聖杯戦争のルールとは、七組の主従がその覇を競う物である。
聖杯の器へ敗れ去ったサーヴァントを取り込む事で世界の外への孔を固定し根源へと到る。
その為にこの地へ根ざす霊脈から超ド級の魔術炉心――大聖杯へと、凡そ六十年余りを掛けて少しずつマナを吸い上げ。
召喚に応じ選り優られた七騎のみが参加できる筈だったのだが。
その規定を大幅に上回り、数多の可能性を呼び込んだ今回の聖杯戦争。
星の数ほど。
そう形容しても疑いようのない数の主従が、無数の世界線からその手を伸ばし聖杯を奪い合う。
通常の聖杯戦争の枠に収まらない。
まさに、聖杯大戦。
英雄が、怪物が、お伽噺の主人公が、空想上の勇者達が。
規定は違えど、過去も現在も変わらず聖杯を求めて跳梁跋扈する。
都市の中央に流れる未遠川を境界線にして、その西側に位置する田舎町においてもそれは例外ではなかった。
まるで時の流れに取り残されたかのように。
或いは時の流れに切り離されたかのように。
少なくとも、仮想空間上に一つの都市を再現し、世界線を越えて参加者を呼び込むだなんて。
そんな途方もない術理が罷り通る時代には軽々に見る機会を失ってしまった。
古き良き、緑と土の景色の広がる町である。
深山町。
そう呼ばれているこの町の中でも更に歴史を感じさせる一区画。
何十年、何百年と時を積み重ねてきた街並みを今なお保ち、古びた木造の邸宅が立ち並ぶ閑静な住宅街。
有り余る壮大な敷地にこれでもかと存在を主張する家屋。
その一つ一つに刻まれた生活の痕は、戦争なんて言葉とは到底無縁のものであった。
冬が長いから冬木だなんて。
そんなまことしやかに囁かれる都市の由来とは裏腹に。
十二月を迎えたこの季節でも氷点下を超える事は無く。
温暖で住み易い気候が一年の大半を占めるこの都市の特性も、仮想空間上へと忠実に再現されていた筈なのだが。
今日に限っては、身を切るような寒波が深山の町を襲っていた。
夜が深まり今日が昨日へと変わり明日を迎える時間帯。
深山町の中でも北側に位置しているこの区画には、不思議な程人の気配が皆無であった。
仕事を終え、少し離れた商店街で適度にアルコールを摂取した会社員。
日々の鍛錬の為、汗を流して舗装もされていない道を駆ける少年。
娯楽を求め足を運んだ隣町から帰宅してきた青年など。
本来そこにあるべき日常がごっそりと抜け落ちている。
空一面に広がるのは夜闇より更に濃厚な色。
様々な夜の色が重なるどこか暖かな黒色にはほど遠い。
ペンキをぶちまけて乱雑に塗り潰したような、何処までも暗く重い苦しい黒。
田舎町と呼称するのが適切な。
澄んだ自然が保たれるこの区画では、当然の如く爛漫の星が所狭しと存在を主張していた。
――普段通りの夜であれば。
べったりと黒に塗れた夜空はいつになく重々しい雰囲気を纏っており、日常の終わりを告げているようで。
鬱陶しい程湧き出し住民を苦しめる羽虫すらその気配を無くしていた。
しん、と。
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
心在るが故に妬み
心在るが故に喰らい
心在るが故に奪い
心在るが故に傲り
心在るが故に惰り
心在るが故に怒り
心在るが故に
お前のすべてを欲する
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
それは、月のない夜の話。
電脳空間上に再現され、聖杯戦争の舞台として用意された仮初の町。
かつて七人の魔術師と七人の英霊が命を賭して争い。
ただ一つの願い(エゴ)を押し付け合って、ただ一つの願い(ユメ)を奪い合った戦場。
今回もまた聖杯を巡るステージとして、0と1の集合体で産み出された地方都市の名は、冬木と言った。
本来この地に定められた聖杯戦争のルールとは、七組の主従がその覇を競う物である。
聖杯の器へ敗れ去ったサーヴァントを取り込む事で世界の外への孔を固定し根源へと到る。
その為にこの地へ根ざす霊脈から超ド級の魔術炉心――大聖杯へと、凡そ六十年余りを掛けて少しずつマナを吸い上げ。
召喚に応じ選り優られた七騎のみが参加できる筈だったのだが。
その規定を大幅に上回り、数多の可能性を呼び込んだ今回の聖杯戦争。
星の数ほど。
そう形容しても疑いようのない数の主従が、無数の世界線からその手を伸ばし聖杯を奪い合う。
通常の聖杯戦争の枠に収まらない。
まさに、聖杯大戦。
英雄が、怪物が、お伽噺の主人公が、空想上の勇者達が。
規定は違えど、過去も現在も変わらず聖杯を求めて跳梁跋扈する。
都市の中央に流れる未遠川を境界線にして、その西側に位置する田舎町においてもそれは例外ではなかった。
まるで時の流れに取り残されたかのように。
或いは時の流れに切り離されたかのように。
少なくとも、仮想空間上に一つの都市を再現し、世界線を越えて参加者を呼び込むだなんて。
そんな途方もない術理が罷り通る時代には軽々に見る機会を失ってしまった。
古き良き、緑と土の景色の広がる町である。
深山町。
そう呼ばれているこの町の中でも更に歴史を感じさせる一区画。
何十年、何百年と時を積み重ねてきた街並みを今なお保ち、古びた木造の邸宅が立ち並ぶ閑静な住宅街。
有り余る壮大な敷地にこれでもかと存在を主張する家屋。
その一つ一つに刻まれた生活の痕は、戦争なんて言葉とは到底無縁のものであった。
冬が長いから冬木だなんて。
そんなまことしやかに囁かれる都市の由来とは裏腹に。
十二月を迎えたこの季節でも氷点下を超える事は無く。
温暖で住み易い気候が一年の大半を占めるこの都市の特性も、仮想空間上へと忠実に再現されていた筈なのだが。
今日に限っては、身を切るような寒波が深山の町を襲っていた。
夜が深まり今日が昨日へと変わり明日を迎える時間帯。
深山町の中でも北側に位置しているこの区画には、不思議な程人の気配が皆無であった。
仕事を終え、少し離れた商店街で適度にアルコールを摂取した会社員。
日々の鍛錬の為、汗を流して舗装もされていない道を駆ける少年。
娯楽を求め足を運んだ隣町から帰宅してきた青年など。
本来そこにあるべき日常がごっそりと抜け落ちている。
空一面に広がるのは夜闇より更に濃厚な色。
様々な夜の色が重なるどこか暖かな黒色にはほど遠い。
ペンキをぶちまけて乱雑に塗り潰したような、何処までも暗く重い苦しい黒。
田舎町と呼称するのが適切な。
澄んだ自然が保たれるこの区画では、当然の如く爛漫の星が所狭しと存在を主張していた。
――普段通りの夜であれば。
べったりと黒に塗れた夜空はいつになく重々しい雰囲気を纏っており、日常の終わりを告げているようで。
鬱陶しい程湧き出し住民を苦しめる羽虫すらその気配を無くしていた。
しん、と。
静寂を告げる音すら吸い込まれそうな、闇。
古びた田舎町と言えど、最低限の住環境は整備されている。
所々窪んだ土の路面には古ぼけた街灯が等間隔で並んでいた。
金属製のポールは錆び付いて腐食の跡が残るが動作自体に問題はなく。
夜に包まれた道を照らし、ゆらゆらと虫が誘われていたのだが。
むき出しの電球はその殆どが粉々に砕け散ってその存在意義を成しておらず。
何かを拒絶するように捻じ曲がったポールが歪に存在を主張している。
建物の灯りなど皆無な路地を照らす光は何も無かった。
圧し潰されそうな、闇。
その中に微かに蠢く影が二つ。
「頼む……助けてくれ! お、俺には帰りを待っている子供がいる……っいいいるんだよ……!」
静寂を切り裂いたのは、喉の奥底から絞り出すように紡がれた言の葉。
じわり、じわりと。
恐怖に飲まれそうになる心から目を逸らすように。
息を吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吸って。
影は、加減を知らない小学生が繰り返すシーソーのように。
何度も何度も頭部を上下させては懇願の言葉を並べ立てる。
乱れに乱れた呼吸が意味を成しているかは怪しい。
明かり一つのない闇の中に有ってなお、青白い顔が目に浮かぶようだ。
頭を垂れ両手を上げた完全降伏の姿勢。
まるで、蜘蛛の糸を渇望する亡者のように伸ばした掌。
その指先は何も掴む事はなく、ただ虚空を彷徨っていた。
「……賢明な判断だな。サーヴァントが消滅した以上、貴様がこの場から生き延びるには俺に許しを乞うしかない」
もう一つの影。
ソレが一言発する度、周囲の闇が濃くなるような重苦しい声音。
何の感情も乗らない声を受けた男は足の底から全身を這う恐怖に身体を硬直させる。
「だが、わからんな。……俺がそれを聞き入れる理由が何処にある」
パリン、と。
影――ウルキオラ・シファーが声を発する度に生き残った電球が砕け散る。
意識しているわけではない。
威圧しているわけではない。
言葉に合わせて滲みだした、彼からすれば吐息にも等しい霊圧。
そんな僅かな圧に耐え切れず、空は黒澄み街灯がその形を変えていた。
「どうした? ……貴様の言う“聖杯戦争を制す二人の王”とやらの姿を、俺に見せてみろ。
――まさか、アレが王だとは言わんだろうな」
ほんの数分前。
時間にして僅か300秒程だろうか。
曰く、聖杯を手にするのは自分だと。
曰く、最強の魔術師に相応しい自分に比するサーヴァントを引き当てたのだと。
曰く、王になるに相応しいのは自分達なのだと。
自らの勝利を一切疑わず、悠然と腕を組んで浮かべていた不遜な笑み。
サーヴァントの背後に隠れるようにして口を開くのは己が矮小さを理解しているからか。
意識的なのか、無意識なのかはわからないが。
即座に逃走を計れる距離を保ちつつ、如何に自分達が凄いのかを語り連ねる二重基準(ダブルスタンダード)。
そんな一組の主従がウルキオラを発見し、彼我の力量差を見極められず即座に交戦を仕掛けるのは必然的とも言えた。
戦闘中でも艶めき強制的に視線を奪う金の髪は、なるほど王の風格を漂わせ。
黄金の鎧を持ち上げ隆起する肉体が、その身に宿る力をこれでもかと誇示していて。
右手に構えた一振りの剣は、宝具の与える影響なのだろうか、認識した軌道とは異なるルートでウルキオラを切り付ける。
そして何より、比喩でも何でもなく。
これらの武器を、異能を、目にも映らぬ速度で繰り出す姿は大口に見合ったものだと言えるだろう。
相対する敵さえ間違えなければ。
常に視界へ居座る美しい金糸は、ウルキオラの右手から放たれる虚閃(セロ)により見るも無残に焼き尽くされ。
隆起した肉体は、纏う鎧ごと斬魄刀に切り捨てられ。
軌道を誤認させる剣は、防ぐと言うアクションを起こすまでもなく鋼皮(イエロ)に阻まれる。
響転(ソニード)により最大の武器である速度を上回られた“王”に敗北が待ち受けていたのは必然。
呆気なく、呪いの言葉を吐き捨てる時間すら与えられず。
霊核を貫抜かれ、粒子化し――更にはその魂を吸われ、ウルキオラが聖杯を手にする為の糧となった。
後に残ったのは、“血の気の引いた”なんて表現では足りない程白く、生気の失せた魔術師の顔。
何度修正しても嚙み合わない歯がかき鳴らすカチ、カチ、カチと言う小刻みな音。
不遜な態度に見合う魔力回路を保持していた魔術師。
よく手入れされた漆黒の絹髪は膨大なストレスの影響か所々白ばみ。
戦闘にすら到らなかった恩恵か傷一つ追っていない肉体は、より一層精神を蝕み。
経験故に、これから待ち受けるであろう、逃れようのない命の終わりを理解して。
それでも未来を拒絶するように、必死で首を左右に振る。
騒音を喚きながら規則正しく哀願する姿はまるで壊れたメトロノームだ。
「見逃してくれたら何でもする! ああ……そうだ!
また新しくサーヴァントと契約して、アンタ達の邪魔をする奴らを皆殺しにする!
アンタ達に従う兵隊も力尽くで見繕ってくる! ――絶対にアンタ達の役に立つから! ……なあ? 頼むよ。お願いします殺さないで下さい……っ」
一縷の望みに縋って舌を回す。
「見てくれたらわかるだろう……? この魔力回路は! エリートの証!
勝ち馬に乗りたいカス共の窓口になるにはぴったりだ!!!」
自身の有用性を、利用価値を、必死で捲し立てる。
「頼む……頼む……俺は、こんな所で終わるわけにはいかないんだ
両親は聖杯を手に入れる為に大枚使い果たして破滅した!
妻は自分のきたねえ欲求を満たす為に聖杯を求めて息子を実験道具にしやがった!
全部、全部取り戻す為に俺には聖杯が――――」
「――――もう、喋るな」
どれだけ反応が無かろうと『喋り続けなければ死ぬ』と確信しているかのように。
幾度も憐憫を誘う言葉を口にした魔術師が家族を持ち出した所で、冷たく硬い死の感覚が魔術師の口元を覆った。
「この聖杯戦争とやらに呼ばれてから貴様のような人間を何人も見てきた」
ミシ、と。
骨が軋む音が路地裏に零れ落ちる。
「その誰もが自分達の勝利を疑わず、その先の栄光を信じ、聖杯は自分達のモノだと囀った」
魔術師の言葉を自身の掌で遮り、滔々と語るウルキオラの声に抑揚は無く。
その声色からは何の感情も読み取る事が出来ない。
「彼我の力量差も見極められぬ程の熱に侵され、サーヴァントを失えば自らの愚劣さを声高に叫んで許しを乞う」
だからこそ、魔術師は恐れた。
何の振れ幅もなく、徐々に力を増していく指先に顎の骨が砕かれるのを受け入れるしかない現状。
真綿で首を千切り取られるような錯覚が全身を襲う。
「死と言う結果は変わらないとしても、だ。低く見積もっても貴様達の力はこの程度ではないだろうに。
……心あるが故に慢心し、心あるが故に選択を誤り、心あるが故に容易く生を投げ捨てる」
叫びだしたい。
胸の内に溢れ出す恐怖の感情を吐き出さなければ、肉体より精神が先に限界を迎えてしまう。
解放を許されず、胸の内に淀む澱が心を蝕んでいく。
……だと言うのに、音どころか吐息一つ漏らす事も許されない。
「俺があの時この掌に掴んだもの――それが、貴様達のそれと同じだとでも言うのか……?」
わからない。
目の前のサーヴァントが何を言っているのかがわからない。
自分の何がこのサーヴァントの地雷を踏んでしまったのか。
「……言葉もない、か。相も変わら思い通りにならんな、貴様ら人間は。
――せめて、少しは役に立ってから死んでいけ」
口を塞がれては喋れない。
なんて至極真っ当な反論すら思い浮かばない。
ただそうであるように。
何の躊躇なく命を奪う掌。
逃れられない死。
目前に迫る終わり。
恐怖と混乱と焦燥を混在させた感情に支配された脳が限界を訴える。
生命としての本能なのだろう。
全てを生を諦めた肉体が、せめて苦しみからは逃れようと意識を手放す。
……寸前。
「はいはいストップストップ。俺さあ、マスターは殺さないように……って言ってた気がするんだけどなあ」
薄れゆく意識の中、魔術師の耳に届いた声は救いの糸か、或い
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
「理解に苦しむな。……今後敵になるとわかっている相手をわざわざ見逃して何の意味がある」
「は〜〜あ。……今更そんな質問をするレベルだから、アンタは自分が掴んだ物の形がわからないんじゃないの」
自らのサーヴァント投げかけてきた至極真っ当な問いに、嘲りの色を隠さずわざとらしくため息を交えた言葉を投げ返す。
決して低いとは言えず、高さもまちまちなブロック塀の上を器用に歩く青年。
眉目秀麗が具現化したような容姿を、暖かそうなファーの付いた黒いコートで包み込んだ男。
聖杯大戦においてウルキオラとの縁を繋いだマスター――折原臨也は、無感情な視線を向けてくるサーヴァントを一瞥して、隠そうともしない侮蔑の視線を向けた。
「そもそも。本当にそもそもの話だ。……心、なんて大層な物がさ。
たった一人や二人の人間を観察したくらいで理解出来てたまるかって感じなんだよね」
不安定な足場を軽やかなステップでクルクルと回りながら、チクリ。
「アンタが『なんの意味もない』って切り捨てようとしたさっきの彼。
確かに自信満々で喧嘩吹っ掛けてきたくせにすぐ泣きを入れる、愚かで滑稽で惨めな男ではあったけど。
――だから。だからこそ、死に瀕した彼がどう足掻いてくれるのか。メンヘラ女の自殺願望だとか、構ってアピールのリスカなんて目じゃない本当の死を目前にした彼が!
ここから他の参加者を蹴落として、生き残る為にどんな可能性を産み出すかに目を向けない?」
弾む足はそのままに、大げさに手を広げながら口を開き続ける。
感情のない瞳で言葉を受け止めるウルキオラとは対照的に、臨也の言葉は熱を帯びていった。
「アンタが掴んだ心と彼らの持つ心が本当に一緒なのかって? 馬鹿言うなよ。
――そりゃあそうに決まってるだろ。ああいや……正確にはアンタが手にしたと勘違いしてる心、だけどさ」
主人と従者。
マスターとサーヴァント。
そんな関係性とは思えない剣呑な雰囲気が彼らの間を満たしていた。
「人間って奴は、その誰しもが心に。心が産み出す欲って奴に突き動かされている。
その可能性は千人いれば千人違うんだよ。つまらない人間って奴がいても、意味のない人間なんて有り得ない」
「俺は人間を愛している。そして人間の可能性って奴もがどうしようもなく好きだ。
だから人間が産み出す熱を観察して、愛でて、満足するまでしゃぶり尽くしたい。」
「アンタからはその熱って奴が感じられないんだよ。受動するだけの存在が偉そうに何かを観察してるつもりにならないで欲しいね」
「――――本当に心の形とやらが知りたいんならさあ……自分の胸に手を突っ込んで引き摺り出してみたらいい。
古今東西、心って奴は胸の中にあるらしいし」
端正な顔立ちを悪意に歪めた男て言葉を紡いだ臨也は、これ以上話す事は無いとばかりにウルキオラへと背を向けた。
「暫くはこの町にいるつもりだから、アンタも死なない程度に動いてるといい。
誰かに殺されちゃいそうです、なんて。鳴いて縋るならコイツで呼んでやるからさ」
白い首筋に刻まれた心臓の形を模した三画の刻印。
マスターとサーヴァントを繋ぐ唯一の繋がりを示しつつ、サーヴァントから離れ軽い足取りで深山の町を闊歩する。
折原臨也と言う男。
彼はあの世と言う存在を誰よりも信じず、あの世と言う存在を誰よりも恐れている人間だった。
闇だとか、光だとか、地獄だとか、天国、不幸だとか、幸せだとか。
そんな、今頭の中に浮かぶあらゆる事象を認識する事すら出来ない――本当の意味での、無。
彼が一方的に執着し愛していると公言して憚らない“人間”を観察する事が出来ず。
それを哀しいとも勿体ないとも口惜しいとも思う事が出来ない、正しく終わり。
折原臨也と言う男が誰からも観測されず。
折原臨也と言う男が誰の事も観測出来ず。
そんなあの世を――死と言うものを誰よりも、何よりも恐れていた。
セルティ・ストゥルルソン。
池袋の街を駆ける首無しライダー。
死者をあの世へと導く黒い鎧のデュラハン。
臨也にとって唯一の友人が心の底から惚れ込んだ、化物。
そんな彼女の、首無しライダーの首を手にした日までは。
北欧神話における有名な伝承の一つ――ヴァルキリー。
鎧を纏った女の天使が、勇敢な戦士の魂をヴァルハラに……天国に迎え入れるお伽話。
曰く、ヴァルキリーの地上を彷徨う姿がデュラハンであると。
そんな空想上の産物を現実へと落とし込むかのように。
池袋へと堕とされた一つの首を手にした臨也の出した結論は単純明快だった。
ヴァルキリーが現代において戦士と呼ばれるを探しているのであれば、自らのホームグラウンドで戦争を起こしてやればいいと。
核兵器や戦闘機なんて持ち出されてしまえば簡単に殺されてしまうが、池袋であれば生き残るのは自分だと。
最悪失敗したとしても、巻き込まれた人間達がどんな進化を見せてくれるのか観察出来れば十分ペイ出来ると。
その時はまた手を考えればいい――ヴァルキリーがいる事は、他の天国へ向かう手段の存在への証明になるのだと。
狂おしい程渇望した天国への道を全力で進み、躊躇い無く路線変更する夢と現実を混ぜ合わせた混沌の道を進む臨也。
彼が、目の前に現れた黒い羽根を手にするのは必然と言えた。
(英霊に聖杯ね。まさか俺の望む物が二つも揃ってるなんてさ。神様にキスしてやりたい気持ちだよ)
胸の内に渦巻く歓喜を抑えられず口元に弧を描きながら、星の無い空を見上げて瞳を輝かせる。
黒一色の空は、これまで見たどんな空よりも美しく彩られていた。
英霊――歴史に名を刻む英雄が、死して尚その存在を許されるシステム。
聖杯――あらゆる願いを叶える、人の願いの最高位(ハイエンド)。
自分が英雄と呼ばれる人間だとはさらさら思ってもいない。
だが、英雄とはあくまでも他者からの評価された総称に過ぎない。
その内面がどうであれ、自らが英雄だと思わせてしまえば臨也の勝ちであり。
その戦いは情報屋である臨也の専門分野だ。
周りの人間から見た自分が英雄っぽく見えさえすれば、死後も臨也の存在が保証されるなんてコストパフォーマンスが最高の手段である。
無論、聖杯が手に入れば一々自分の栄光を仕立て上げなくても天国が保証されるのがミソだ。
人間と言うのは伝聞にこそ本質を揺らがされる生物であり、折角の臨也譚も仕事の影響で薄れる可能性もゼロではない。
いくら天国へ行く為とは言え、自身の趣味を制限され続けるのは望むところでは無かった。
(池袋で巻き起こす戦争をヴァルキリーに献上して、天国に迎え入れて貰うってプランも悪くはなかった。が……こっちの方が手っ取り早いし、断然面白い)
何でも願いが叶います。
そんな、生きとし生ける人間が一度は夢想した事があるだろう夢。
極上の餌を目の前にぶら下げられ、サーヴァントと言う神秘でその存在を裏付けられた人間はどんな動きを見せてくれるのか。
永遠とも呼べる時間、その存在を許された人間は何を想い何を考えて戦うのか。
戦って戦って戦って、掌に掴み取る寸前でゴールを搔っ攫われた人間は何を想うのか。
ヴァルキリーへの保険を残したまま、もっと楽しい祭りへのチケットを掴み取った幸運。
これからの行程を想像しただけで、これまでの人生において頑張って生きてきた自分を祝福したい気分だった。
「これで、サーヴァントが俺好みの英雄様だったら言う事は無かったんだけどな」
喜悦は一転して。
吐き捨てる言葉は苦々しかった。
よりにもよって、自分と縁を繋いだサーヴァントがあんな化物だとは。
自らが召喚したサーヴァントであるランサーの姿は臨也とっては想定外過ぎる結果だった。
聖杯から与えられた知識によると、マスターに近しい性質の英霊が召喚されるらしいが――見当違いも甚だしい。
人の頭蓋を半分に割砕いたような仮面。
どこまでも白く異形を感じさせる素肌。
大嫌いな池袋の化物にも似た威圧感。
自らの胸に空いた何もない孔を埋める為に、人間の魂を喰らい。
それと同じ口で、心とやらを探し求める醜悪な化物。
化物の癖に人間に興味を持ち、人間の内面を知ろうとする姿が。
化物の癖に知った風な口を聞いて、ありもしないモノを探す姿が。
臨也の不快感を煽って仕方がなかった。
元からして、人外と呼ばれる存在に嫌悪感を示す臨也では有ったが、その性質まで地雷ともなれば最悪と言う他無い。
勿論、そのステータスの高さや強大な宝具等を鑑みれば即座に切り捨てられる相手ではない。
いくら自身の好奇心優先でサイクルを組んでいる臨也であっても、戦争を楽しむ前に道具を捨てる程自分を捨ててはいない。
精々利用出来るだけ利用して使い潰すしかないだろうと考え、コミュニケーションも最低限に控えていた。
心なんて過程に過ぎないんだよ、と。
ウルキオラに語った言葉とは真逆の言葉を夜闇へと吐き出す。
勿論心から産み出される感情は人間を彩るスパイスである事は否定出来ないが。
臨也にとって大事なのはその心に基づいて何を成すかである。
「まあ、俺には関係ないけどね」
凡そ自らのサーヴァントに向けるべきではない言葉を最後に、闇の中へと消える。
「さあさあ楽しもうじゃないか――俺の愛する人間達」
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
――もしこの世界に幸福というものがあるならば、それは限りなく虚無に似ているものの筈だ。
光のない世界で、黒き存在の中に唯一現れた白き悪魔は、そう確信していた。
だが、触れてしまった。
だが、知ってしまった。
虚無の世界を満たしたのは暖かな光。
生を終える寸前理解した、心と言う太陽。
望む事すら忘れた満足という感情を知り。
満たされるという幸福を知る。
故に、彼は再びを追い求める。
――心を。
【クラス】
ランサー
【真名】
ウルキオラ・シファー@BLEACH
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具B〜A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
十刃(#4):A
魂を喰らう者と魂を護る者・虚と死神の力を合わせ持つ「破面」と呼ばれる存在、その中でも最上位に存在する証。
種族として保持している多様な能力が高ランクの魔力放出・魔力感知・頑強の複合スキルとして昇華されている。通常の十刃スキルと違いランサー独自の能力として超速再生及び低ランクの単独行動が付与されている。
また、存在の由来から魂喰いによる自身へ与える恩恵が他のサーヴァントより高い。
戦闘続行:B
半身を裂かれても即座に絶命には至らず、虚の力に飲まれた死神に一太刀を加えた事に由来するスキル。戦闘不能に陥っても一度だけその身を奮い立たせる。
司る死の形(虚無):C
ランサーの孔に満ちる虚無を埋めるのは生前最後に見た光景ただ一つ。
虚無が故に何者にも汚染される事はなく、あらゆるランクの精神汚染及び干渉スキルを無効化する。
【宝具】
『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:_ 最大捕捉:1
斬魄刀に封じた本来の姿と能力を解き放つ帰刃(レスレクシオン)と呼ばれる能力が宝具化したもの。解号は「鎖(とざ)せ」。背中に巨大な漆黒の翼が形成され、仮面の名残が四本の角のついた兜のようになり、服も下部がスカート状のものに変わる。更に敏捷と魔力のステータスを1ランクアップさせる他、フルゴールと呼ばれる光の槍へと武器が変化する。また、破面の中で唯一二段階の帰刃を行う事が可能であった逸話から宝具も二段階解放式となっており「刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)」と呼ばれるスキルを発動する事で黒翼大魔の更なる力が解放される。細く鋭い尻尾が生え、長い二本角、鋭い四肢の爪、黒い体毛に覆われた両腕と下半身等悪魔そのものを思わせる姿に変貌し、幸運以外のステータスを更に1ランクアップさせる。
『雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:10〜99 最大捕捉:1000
「刀剣解放第二階層」発動後に限り使用可能な宝具。黒翼大魔の発動により生成されたフルゴールに魔力を集中させ投擲することで着弾点に膨大な威力の爆発を起こす対城用投擲宝具。その威力は絶大だが、自らも撒きこまれるため至近距離では使えない。
【人物背景】
二人の人間により、心を知った破面。
【サーヴァントとしての願い】
もう一度あの感情をこの掌に。
【マスター】
折原臨也@デュラララ
【マスターとしての願い】
趣味と実益を兼ねて戦争を楽しむ。
聖杯が手に入れば目的を前倒して『天国』に生きたい。
最悪でも生きて帰り池袋で計画の続きを。
【能力・技能】
口先一つで他人を誑かす頭脳労働タイプの人間ではあるが運動神経は高い。
ナイフの扱いに長けている他、パルクールを習得しており逃げ足が速い。
【人物背景】
池袋の街をかき回す情報屋。
普通の人間が金や異性に執着の対象を向け人格を形成していく中、とある事情により「人間及び人間観察」へ執着を示すようになった。一部例外を除き人類全てを愛していると公言して憚らず、同じく一部例外を除き人外を嫌悪している。
投下終了します。
最初のレスが二重になってしまい申し訳ありませんでした。
投下します
冬木市、マンションの一室。
――そこで行われていたのは、激戦。
槌が敵のサーヴァントを捉える。
サーヴァントは天井へ吹き飛び、跳ね、窓ガラスを割り、そのまま転落していった。
サーヴァント――フォーリナーはアメを舐めながら落ちたことを確認した。
「僕の…僕のサーヴァントが…」
男は泣きながら出口へと向かう、残ったフォーリナーも体を払うと、ドアへと向かった
◆
「あいつは…流石に消えたか…」
フォーリナーは周りを確認するとマンションの下に人影を見つける。
「おっ!マスちゃん見つけた!」
高さ4階から、悠々と降りてくる、眼の前に居るのは、緑髪の、小さな少女。
「マスちゃんの言ってたあのサーヴァント、しっかり仕留めきたぜ」
アメを舐めながら、悠々と報告していくフォーリナー、少女は顔色一つ変えず受けとっていく。
「…了解しました」
「…マスちゃんって全然喋らないけど…なんで?」
「…戒律です…」
マスター――ヴァニラ・Hはフォーリナー――釈迦側すれば異教徒だ。
もちろん、この聖杯戦争の一部でもそういった事例がある。
「宗教が違う」というだけでサーヴァントから目の敵にされ、散った者も居る。
――しかし、釈迦は違った。
「――いいんじゃない?」
出た言葉は――肯定。
もし、一部の過激な仏教徒が見れば、それはひどいショックを受けるだろう。
しかし――釈迦は肯定した。
彼は、他人の願望、思想を否定しない、その分、自分も好きにやる。
表すならそうだ。
「マスちゃんの思想には俺口ださないよ、誰だって違いはあるんだしさ、その分、好きにすればいいからさ」
平等思想――それ故、自由奔放。
その時、釈迦は思い出したようにあるものを取り出す。
アメだった。
もちろん新物の。
「食べる?」
「…今日はアメを食べると運勢が良くなります」
「まぁ、もうすぐ終わりだけど、はい、あげる」
釈迦は出したものプラス、追加の箱の様な物を手に置く。
ヴァニラはそれをされても何も言わない、もちろん、感謝の意はしっかりある。
「そんじゃ、帰ろうか」
「…はい」
二人は夜道を歩いていく。
奇しくもだろうか、彼女の其の姿は、まるでいつもの人形を持ってるようだった。
――ヴァニラさん
ふと声が聞こえた気がした、振り向くも誰もいない
「どしたの?」
「…いえ」
再び夜道を進んでいく、眩しい月の光に照らされながら。
【クラス】
フォーリナー
【真名】
釈迦@終末のワルキューレ
【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具A+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
神界からの降臨者:C
神の世界より、人類を裁くため降りてきた神の一人…だったが、釈迦本人が人類側に転向したため、ランクダウンしている
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師では○○に傷をつけられない。
道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成できる。
これは、ワルキューレ達の神器錬成の力にもなる。
【保有スキル】
希望のカリスマ:A
元々は神側の闘士だったが、人類側に転向した釈迦、本人の気質的にはこちらのほうがあっているため、本来のスキルより高く設定されている
戦闘続行:A+
往生際が悪い。
霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
【宝具】
『全てを見据える、その先を(正確阿頼耶識)』
ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
釈迦の操る能力の一つ。
相手の能力を「認識」する能力であり、いわば未来視。
無敵とも思える能力だが、一方で感情のないものなどは予測できないという弱点を持つ。
【人物背景】
仏教の開祖。
自由を愛し、自由に生きた男、それ故神でありながら神を嫌う。
神側の6回戦闘士だったが、人類側に転向、そもそもそれ以前にワルキューレ達に神器錬成の力なども与えていた。
その後、6回戦において、神側の新しい闘士、零福と戦う事になる。
【サーヴァントとしての願い】
特になし、そもそも聖杯を良く思ってない、何なら嫌い。
【マスター】
ヴァニラ・H@ギャラクシーエンジェル(アニメ版)
【マスターとしての願い】
帰還を目標に行動。
【能力・技能】
原理は不明だが、軽めの傷なら特殊な能力で治癒ふることが可能。
【人物背景】
エンジェル隊隊員。
謎の宗教を信仰しており、とにかく無口、喋らないわけではないが、とにかく無口。
普段はAI、ノーマッドが自身の言葉を代弁してくれていたが、本聖杯戦争では未参加のため、ヴァニラ自身が喋ることが中心になる。
投下終了です
投下させていただきます
少し違えば、もっと違った筈だ。
『…グエル……か?』
だが、遅い。
『無事……だったか…』
父さんは、死んだ。
『……捜したん…だぞ…』
俺が、殺したんだ。
☆ ★
電脳世界にて再現された冬木市、とあるマンションの一室。
聖杯戦争のマスターとなったグエル・ジェダークが生活する場としてあてがわれた住まいはその様な場所だった。
マンションという生活の拠点が存在する事は幸運と言えるだろう。
何故なら、彼は元の世界において生活していた学園寮から追放され、その後はテント生活を行っていたのだから。
その後彼は反抗するかの如く学園内から去り、誰にも告げずに宇宙に出て、そして―――。
「……といった感じだ。まあ要約すると俺はキャスターのクラスだが、引きこもって戦うってのはあまり得意じゃない。
おそらく色々動き回る事になると思うから、明日からちょっと忙しくなるだろうな」
そんなマンションの一室で、明るい茶色の髪をした一人の男がグエルに話しかけていた。。
グエルと年齢が近いように見える青少年は、自らを「キャスター」と名乗り、一方的に話している状況である。
グエルは現在、ソファーに座り俯いて下を向いている。キャスターの青少年からは、グエルの顔色を伺う事は出来ない。
グエルの抱える思いはただ一つ、それは『絶望』。
だがそれは、聖杯戦争というこれから起こる戦乱についてではない。この地に着くまでに起きた出来事が原因である。
キャスターが話す言葉は、今のグエルの耳には殆ど届いていない。
「……それで、マスターはどうするんだ?」
聖杯戦争の事や自身の事を語り終わったキャスターは、己の召喚主であるグエルに問い始める。
キャスターの服装は、全体的に落ち着いた色合いをしたローブを着こなしていて、首元のフードもどことなく様にはなってる。
右手には、1メートルの長さはある、整った木製の杖を持っていた。その杖の先にはやや青みがかった魔石が浮いている。
「…………どう、とは、何だ?」
「この聖杯戦争に対してだよ」
聖杯戦争とは、本来ならマスターが行う召喚に応じてサーヴァントが呼ばれ、マスターの願いの為にサーヴァントは力を振るう。
邪な思いを抱く存在や人の不幸を嘲笑う存在――反英霊と呼ばれる存在達――ならば、マスターなぞ現界する為、己の願いを叶える為の要石を切って捨てるだろうが、キャスターはそうは思ってはいない。
あまりいい思いはしないが、勝ち抜き、他の参加者達を脱落させ、聖杯を得る為に戦うというのならば、その為ならば非情な手段も積極的に行っていく所存でもある。
だが、目の前の青少年から、グエル・ジェダークからは、ここまで何を願うのか聞かせれてはくれていない。
最初に名前を名乗ったっきり口を開かず、顔を上げず、ただただ俯いて動こうとはしなかった。
それでは、キャスターもどうすればいいのか決めかねる。
気の短いサーヴァントや、悪意をばら撒こうとするサーヴァントであったのなら、既に見込みなしとしてグエルを殺している可能性はあったのだろうが、その様な事をキャスターはする気は無い。
まず、己のマスターは、どうしたいのか、何をしたいのか、それを知る必要があった。
「……分からない。何も、考えたくない…………」
振り絞るように、グエルは言葉を発する。
何も考えたくない。いきなり思考の放棄を宣言してしまっているが、紛れもなくこの言葉が今のグエルの全てであった。
宇宙で戦ったランザ・ソルが爆発したあの瞬間から、今日現在ここに至るまで、曖昧にしか記憶に覚えがない。
誰が宇宙で彷徨っていた自分を回収されたのか、宇宙から地球に降りるまでに何があったのか、「交渉材料」として捕虜扱いをされて何日経ったのか、今のグエルには何も答える事が出来ない。
この聖杯戦争にも、どうやら「黒い羽」を手に入れる事が条件らしかったが、いつ、どのタイミングで手に入れ、あるいは触れたのすら分からない。
それ程に、グエルの精神は追い詰められ、聖杯戦争が始まる前から既に限界を迎えようとしていた。
だが、それは仕方がない事なのかもしれない。
初めて犯してしまった殺人。それも相手は自分の父親で、更に相手に気づくのは命を落とす直前と来たものだ。
例えその直前までに、どのような事情があろうとも、どんな不可抗力が存在しようとも、「グエル・ジェダークは父親ヴィム・ジェダークが乗った機体を撃墜した」という事実と結末は変えようがない。
全て、グエル・ジェダークが進んだ結果。
自分が選び、自分で進み、自分で決めた結果、かけがえのない大切なものが失ってしまった。
後悔、喪失、絶望、無力、虚無。
負の感情だけがグエルの思考を覆い尽くす。これからの事など何も考えられられない。全てがたた虚しいだけ。
顔を上げる事もなく一言だけ呟き、再びソファーに俯いているだけになったグエル。
キャスターはその姿を見て、一息ついてから、ハッキリとした口調で再び話しかける。
「父親の事で、思い詰めているんだな?」
キャスターの言葉に、グエルは顔を上げる。
少なくとも、グエルはキャスターに父親の件については何も話していない。
というよりも、自分自身がキャスターの返事に何かしらの返答をしたのも、もしかしたらさっきの言葉が初めてだった気がする。
それ程に、今のグエルは憔悴し、絶望している。
顔を上げたグエルの眼に映ったのは、膝をついて同じ目線に合わせてくれていた、キャスターの顔だった。
キャスターの黄緑色の瞳は、よくみるとオッドアイになっており、右目の色の方が薄く見えた。
「マスターが時折自身のサーヴァントの過去を見るという形で記憶を共有する事があるらしい。そしてその逆も然り、と云う事だ」
キャスターは、少し申し訳なさそうに言葉を紡いだ。
キャスター自身も、マスターの過去を詮索する様な事を行う気は毛頭ない。
だが、現状何もせず、何も踏み込まなければ、死ぬのをただ待つだけ。
戦う事を積極的に好まないキャスターでも、流石にそれは避けたかった。
「マスター。君の父親の事は、とても残念だと俺も思っているよ」
その言葉にグエルは頭に血が上りガッと身体を―――動くことは無かった。
顔を顰める事はしたが、ただ、それだけ。
かつての――少なくとも父親を手に掛ける前の――グエルならば、おそらくすぐに身体が動いたのだろう。
胸倉をつかみ、激昂してきたのかもしれない。
だが、今のグエルはそれが出来ない。
心が揺れ動く事に億劫になってる事もあるが、それと同じくらいに、自分で動く事に恐怖を感じている。
「…………貴方に、俺の、一体何を理解できると言うんだ……」
再び、絞り出す様に一言だけを発するグエル。
その言葉と共に、グエルはキャスターと合わせていた目線を避け、再び下を向いてしまう。
その様子を見たキャスターは、程なくして立ち上がった。
「確かに、俺はマスターと同じ様な経験はしてきてない。
でも、父親が亡くなった事のその気持ちは俺にも分かるよ。俺も、そうだったから」
そう話したキャスターは、ベランダがある方に身体を向けて歩き始めた。
そして、昔話をするように、苦々しい記憶を振り返る様に、キャスターは語り始める。
「俺には父親が二人いたんだ。二人共、天寿を全う出来ずに亡くなったよ。
最初の父親は、なんで死んだのかも、今でも分からない。その時の俺はどうしようもないクズだった。親の葬式にも出ないで好き勝手生きてきて、自分の事しか考えてなかった。
そんなんだから、葬式が終わった後に、兄弟達総出で袋叩きにされて、自宅から追い出された。
家を出された俺は、生きる為の力が何もなかった。ただ、生きているだけだった。」
キャスターの自分語りに、グエルは言葉を発することは無かった。
ただ、俯いていた顔を上げて、キャスターの話を聞いていた。
「二人目の父親は、俺が原因で死んだ。俺を庇って、父親は……パウロは亡くなった。
ダンジョンに囚われた母親を助ける為に、パウロは知り合いを集めて攻略していた。それでも上手くいかなくて、俺も呼ばれる事になった。
俺はその頃には、学べるものは沢山学んで、生きる能力を沢山得て、冒険者として生きてきた実績があった。一人前になったつもりだった。
俺が来てから、運も味方につけられてダンジョンも殆ど攻略出来た。だた、最後のフロアを守っていたヒュドラが手怖くて、とても強かった。
俺もパウロも仲間の皆も、持てる力を全て出して戦って、それでヒュドラを撃破した。けど、最期の悪足掻きの一撃を、回避しきれなかった攻撃からパウロは俺を庇って、下半身を喰われた。
命懸けで庇った俺が生きてるのを見て、何か話そうとして、亡くなった」
グエルは、キャスターが今どんな顔をしているのか分からない。
だが、声のトーンは低く、出来るだけ淡々と話す様にしているように聞こえる。
何より、内容からして輝かしいモノではない。
サーヴァントとして召喚された存在が語っていたのは、武勇伝じみた英雄譚ではない。ただ一人の青少年が経験した、ボロ苦い思い出だった。
「パウロが死んで、俺は何日も悩んだ。どうしてあの時ああ動けなかったんだとか、もし俺が出来ない事を出来てて役割を担えてたらとか。起きている時はずっと考えていた。
寝ている時は、パウロが死ぬ瞬間を夢に見た。ずっとパウロが死ぬ直前の出来事が繰り返されていた。
俺がもっと上手くやっていれば、パウロは死ぬ必要はなかった。
パウロじゃなくて俺が死んでれば、もっと都合がよくなっていた。
俺もパウロも生きてれば、誰も悩まなくて皆笑って終われた。……ずっと、そんな事ばかり考えてたんだ。」
キャスターが語る後悔に、グエルは自分と重なる部分がある事を感じた。
父親が爆発に飲み込まれたあの時から、ずっと後悔していた。
赦される事ではない、誰かに赦してほしい訳でもない。それでも、亡くなった父親に謝る事を止める事は出来なかった。
「だからさ、マスター」
語り終わったのか、キャスターは振り返りグエルに顔を向ける。
「マスターには、純粋に俺と同じ思いをずっとさせたくないんだ。
今のマスターの姿は、昔の俺の姿と似ているんだよ。」
主従関係でもなく、共に戦う友人としてもなく、これからを生きるグエル・ジェダークに前を向いていて欲しいという思い。
聖杯戦争や聖杯にかける願いといった、グエルが巻き込まれこれから立ち向かう事になる戦いとは外れた、キャスターの純粋な気持ちだった。
その思いを知ったのか知らないのかは分からないが、グエルはキャスターに問いかける。
「……二つ、聞いていいですか。
どうやって、キャスター、さんは、立ち直る事が出来たんですか。
どうやって、また、進むことが出来たんですか」
その質問に、深い意味はない。言葉通りの意味。
目の前の存在が英霊と云えど、外見の年齢は殆ど同じ年頃の様に見える。
その様な相手が、2度も父親を失った男が、どうやって立ち直ったか、グエルは純粋に知りたかった。
「まぁ、ベタなパターンだけど、俺以外の皆がいてくれたおかげだったな。
一緒にダンジョンを攻略してくれた仲間に、沈んだ俺の事を心配してくれた師匠。それに、待っていてくれた家族達の皆だ」
「……家族…」
「最初は家族を失った俺に、家族じゃない他の皆が俺の苦しみを分かるわけないとか思ってたけど、そんなのは俺の思い違いだった。
皆パウロが死んだ事を悲しんでいる事に変わりなかった。皆、悲しんだ上で前を向いて進もうとした」
「俺がどうやって進めたかって聞かれたら、結局は進むしかなかったからかなあ。
その時には妻のシルフィの出産が近かったし、慰めてくれたロキシーの件もあったしな」
キャスターが語る、『家族』という言葉に反応するグエル。
キャスターは、マスターの過去を見たが、主な部分は父親を手掛けてしまった所だけだ。
グエル・ジェダークがどのような家族構成をして、どのような付き合いを行っているのかまでは、まだ分かっていない。
「……少ししんみりし過ぎちゃったかな。ちょっと夜風に当たるよ」
その後、キャスターはベランダに進み、外に出ようとする。
そして、ドアの取っ手に手をかけた所でキャスターの動きは止まり、再び口が動いた。
「マスター。俺は、グエル・ジェダークのサーヴァントとして召喚された。
マスターがどのような道を進もうと、俺はマスターの為に力を尽くして戦い抜くよ」
そう言うとキャスターはベランダのドアを開けて、その場からいなくなった。
マンションの室内にいる人物は、終始ソファーに座っていたグエルただ一人になった。
「……ラウダ、俺は……」
居室に残されたグエルが呟いた言葉は、腹違いであるが、今や唯一となった家族の繋がりがある弟の名前だった。
☆ ★
「やっぱり、俺はこういうのはあまり向いてないよなあ〜……」
ベランダに出たキャスター―――ルーデウス・グレイラットは、その場でしゃがみこみ、自身への愚痴をこぼす。
確かに彼自身も、こういう話し合いをしてきた経験がない訳ではない。
だが、その手の話しを行ってきたのは大体身内の中での話だ。特別親交が深いわけではない相手のカウンセラーを行うのだとしたら、それは妻であるシルフィやロキシーの方が適正が高いだろう。
果たして、あのような言葉で良かったのか、更に思い詰めていないのだろうか。そんな気持ちが沸々と思い浮かぶ。
ルーデウスが聖杯に願う思いはない。
自分の死後に起きる、復活する魔神ラプラスとの全面戦争、そしてヒトガミとの決戦。
そのことについて願う事は、恐らく可能だろう。流石にラプラスの殺害は難しいだろうが、人間側が有利になるような願いは聖杯なら叶えさせてくれるかもしれない。
だが、ルーデウスは願わない。
家族を守るために龍神オルステッドの傘下になったあの時から、未来の魔神ラプラスとの戦争の為に準備をすると決めたあの時から、ずっと動き続けた。
行ってきた事は、全てが完璧ではない。思い返せば嫌な事も苦しい事も沢山あった。
だが、ルーデウスはルーデウスの仕事をやりきったつもりだ。
後の事は、生きている者達に任せる。
彼が残してきた仲間が、技術が、意志が、そして子供達が。自分が生きた世界の、新しい未来を掴む事を信じる。
それ故に、ルーデウス・グレイラッドは聖杯に願う事はない。
「しかし、戦う為に呼び出されたとはいえ、こんか風景を見るのは本当に久しぶりだな」
ルーデウスは感慨深げに一言呟くと、立ち上がって目の前に広がる街々を見る。
真夜中になってもちらほらとついている灯りで闇一色にならない現代文明の景色は、ルーデウスからしたら懐かしむ景色であった。
ルーデウス・グレイラットは数奇な人生を送っている。
彼は転生の経験があり、二度の人生を経験しているのだ。今回のサーヴァントとしての召喚を含めれば、三度目の生を送る事になる。
だが、流石の彼も三度目の人生を過ごそうと、悔いの無い日々を過ごそうなんて考えてはいない。
何せ今回の召喚は、聖杯戦争で戦う為に呼ばれたのだから。
勿論、全てを戦争の為に費やそうとは思っていない。一度目の人生以来の科学社会。懐かしい気持ちや楽しみたい気持ちは湧いて出て来る程にある。
しかし、それらに現を抜かす余裕はおそらくない。
課題は山の様にある。
目下考えなければならない事は二つ。マスターの事情、そして己の戦力面だ。
ルーデウスからすれば後者が特に問題だ。
キャスターのサーヴァントとして召喚される事には問題ないだろうが、だからといって他のサーヴァントと戦えるのかどうかは疑わしい。
確かに自分自身は七代列強の第七位として名を残したが、アレは結果的にそうなっただけで、自分がそこまで強大な存在かと問われたら胸を張っては答えられない。
というよりも、サーヴァントとして戦うのならば、エリスやルイジェルドの方が適任なのでは?とも思わなくともない。
自分の所で言う聖級や帝級の戦士レベルの実力者に、もしかしたら七代列強クラスの存在がこの地にいる可能性を考えると、現状の段階では太刀打ちできるとはとても思えない。
その為には、自身の戦力の底上げが必須だ。具体的には自身の宝具である『魔導鎧(マジックアーマー)』の強化を果たしたい所であるのだが――
(しかし、なんで普通に魔導鎧を引っ張り出せないんだよ。無条件に出せるのはライダーで召喚されなきゃ無理だってのか?)
理由は不明だが、そもそもとして『魔導鎧(マジックアーマー)』は今の段階では呼び出すには手順が必要らしい。
ルーデウスは振り返り、ベランダの窓ガラスに映った自身の姿を見る。
その姿は、まだ青少年というべきかまだどことなく子供らしさが残っているように見える。
この顔の頃は、17〜18歳あたり。もっと範囲を狭めるとしたら転移迷宮に挑んでいた頃の時期の姿だろうか。
ルーデウスは次に左手を見る。ちゃんと腕から生えている左手だ。
ヒュドラに左手を喰われた為、数年程義手で過ごしてきたのだから、確かにその辺りなのだろう。
(アレか?召喚された姿の年齢に引っ張られて制限くらってるって事なのか?)
確かにその頃の時期なら、まだ『魔導鎧(マジックアーマー)』を開発してない為、制約が入るのだとしたら理解は出来る。
だが、アレがあるとないのでは、自身の戦い方・サーヴァントとの戦いは変わってくる。
例えそれが、燃費が悪いプロトタイプ仕様のモノであっても、手元に用意しておきたかったルーデウスとしては、現状に落胆してしまう。
そもそも何故、もっと年齢を重ねた頃の姿で召喚されなかったのか。さらに言えばビヘイリル王国以降の記憶もあやふやである事もあり、疑問に疑問が膨らんでしまう。
(……まあ、実際そうなってる以上、文句を言っても仕方がない。これからは出来る事をこなしていって、少しでも生き残りやすくする事を考えた方が有意義だ。)
だが、ルーデウスは疑問していく事を一旦止め、これからの事を考える。
『魔導鎧(マジックアーマー)』については、既に考えはまとまっている。
ないのであれば、作ればいいのだ。キャスターで召喚されたから「道具作成」のクラススキルもある。
最も、それは厳しい道のりである事は百も承知だ。
アレは俺一人で作ったモノではない。ザノバにクリフ、ロキシー達の協力を経て完成させたスーパーパワードスーツなのだ。
幾ら未来からの経験と知識があるとはいえ、システムや駆動部分の調整も自分で行うとなると時間はかかるのは必須だ。
そもそも、一番最初に作った『一式』も、途中から金を使い人材を雇いに雇い、それで制作に約3ヶ月は掛かった。
出来る限りは制作に励んでいきたいが、間に合わない事も考慮するべきだ。
ルーデウスは考えていく。
これまでの、悔いなく生きる為の戦いではない。
これからの、電脳世界で行われる聖杯戦争で生き残る為に。
マスターと、共に生き残る道を掴む為に。
【クラス】
キャスター
【真名】
ルーデウス・グレイラッド@無職転生 -異世界いったら本気だす-
【パラメーター】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運B 宝具B
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
陣地作成:D
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。「工房」の形成が可能。
道具作成:C
魔力を帯びた器具を作成可能。
土魔術を使った道具を作成するのが得意で、日用品レベルなら即座に作れる。
【保有スキル】
予見眼:A
キャスターの右目に宿した、未来が見える魔眼。
どれだけハッキリした未来が見えるかが魔眼に通した、魔力に比例する。
通す魔力が強すぎると現在の映像が見えなくなり行動に支障が出始める。視野の外の未来が見る事も出来ない。
キャスターがその気になれば1年以上先まで未来を見る事が可能だったが、サーヴァントとして現界した状態だとそこまで見る事は不可能。
千里眼:-(E)
キャスターの左目に宿した、遠くを見る事が出来る魔眼。
直線上に障害物があると、そこで視界が遮られる。単に遠くが見えるだけであり、未来の事象を知る事は出来ない。
現在の姿(霊基)ではこのスキルは機能しない。二度の霊基再臨を行うと適用される。
なお、右目の『予見眼』と左目の『千里眼』は先天性の物ではなく、魔界大帝キシリカ・キシリスより譲渡された物である。
無詠唱魔術:A
文字通り、無詠唱で魔術を行使する能力。
彼の場合は、大魔術(彼の世界における聖級魔術)に匹敵する攻撃系魔術は準備無し&ノーリスクで行使が可能。
ただし、治癒魔術と解毒魔術は詠唱が必要。
乱魔:D
ディスタブマジック。発動前の魔術に対して対応した魔力を送ることで術の発動を阻害する。
魔力を送り込めない距離で発動する魔術は阻害できない。また、Cランク相当以上の魔術系統スキルは無効化出来ないものとする。
龍神オルステッドと交戦した際に、その後見様見真似で習得した為、本来よりランクは低い。
前世の魂:D
他人に対しての精神的影響を与えるスキルや宝具の影響を受けにくくなる。
ヒトガミの「無条件で相手を信用させる呪い」や、龍神オルステッドに掛けられた他人に対して影響する呪いの影響が受けない体質が反映されたスキル。
泥沼の七大列強:-(D)
彼が生きた世界において、最も強いとされる七人の称号『七大列強』に名を連ねた逸話が反映されたスキル。
三騎士(セイバー・アーチャー・ランサー)を戦闘を行った際に、自身にステータス補正が入り、同ランクの戦闘続行スキルが付与される。
現在の姿(霊基)ではこのスキルは機能しない。二度の霊基再臨を行うと適用される。
【宝具】
『傲慢なる水竜王(アクアハーティア)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
キャスターが愛用していた杖。10歳の誕生日にプレゼントとして贈られて以降使われてきた。
水・土・風・火魔術を使用する場合、ダメージに上昇補正が入る。
サーヴァント化の恩恵によって、キャスターが全魔力を込めても魔石は割れなくなった。
『魔導鎧(マジックアーマー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
キャスターが龍神オルステッドと戦う為に、とある人物の日記の情報を元に作成された、全身鎧の魔道具。全長3メートル。
魔力を注いで動かす事で魔力量に比例した力を発揮する。ただし稼働時間は最大1時間のみ。下記のガトリング砲を使用すると更に短くなる。
全身を無骨な装甲板で覆っているため非常に重量があり、魔力を流して動かさないと立たせることもできない。
機体の背後の穴からはめ込むように着こみ、背部の緊急脱出用の魔法陣が刻まれた装甲板を装着する。
武装は右手に秒間10発の岩砲弾を発射するガトリング砲、左の掌に魔術を破壊する吸魔石を搭載。近接戦用の武器として先端に硬いものほど簡単に斬れる魔力付加品の短剣を付けた盾を装備している。
現在の姿(霊基)ではこの宝具を使用するには、以下の方法を必要とする。
・令呪を一画使用する(ただし、その時限りで稼働を終えると消滅する)
・霊基再臨を一度行う
・材料を「道具作成スキル」にて作成していき、一から製作していく
『魔導鎧・二式改』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
キャスターが龍神オルステッドとの決戦以降、消費魔力の減少と小型化を目的に改良した『魔導鎧(マジックアーマー)』。
ローブの下に着込んでも平気なほどに小型化され、消費魔力も減少し、稼働時間の制限は無い。
腕部の装備はガトリング砲からショットガンへ変更されている。
現在の姿(霊基)ではこの宝具は使用できない。二度の霊基再臨を行うと適用される。
【weapon】
キャスターは自身の世界のにおける全ての魔術に精通している為、得意とされた魔術のみ記載する。
・泥沼
『泥沼のルーデウス』という二つ名を得る程に多様し、代名詞とされる混合魔術。
相手の足元に泥沼を発生させて移動を制限する。上書きで打ち消す事が可能。
他のどの魔術よりも早く使う事が出来、村一つを覆い尽くすほどの泥沼を出現されたという逸話を持つ。
・岩砲弾
ストーンキャノン。拳大の岩の砲弾を撃つ。キャスターの代名詞の魔術の一つ。
本来なら土系統中級魔術だが、改良に改良を得た結果、帝級魔術並みの破壊力を誇る。
サーヴァント化によって一魔術として扱われているが、一撃で魔王の上半身を粉砕した逸話を持つ。
・フロストノヴァ
水蒸(ウォータースプラッシュ)と氷結領域(アイシクルフィールド)の混合聖級魔術。
広範囲を凍結させる事が出来る水系統魔術で、キャスターが放つ威力は帝級魔術に匹敵する。
・乱魔
保有スキルを参照。
他には『魔導鎧』『魔導鎧・二式改』を装着して、近接戦闘を行う事が可能。
【人物背景】
「泥沼」「龍神の右腕」「魔導王」「七銘のルーデウス」等様々な異名を持ち、世界の未来の為に奔走した魔術師。享年74歳。
性格は基本的に温厚かつ親切で、「強者へのゴマすりが上手いだけの腰巾着」という意見が未来の個人録に載る程に腰が低いが、戦う事を好まないだけで必要とあれば積極的に力を振るう。
実は、元はイジメを理由に高校中退し、引き籠りのオタクでニートという生活を送っていた日本人で、様々な因果によって『六面世界』へと魂が漂流し、2度目の生を得た。
キャスターの全盛期は、多くの名のある戦士が参戦し、自身も七大列強第七位となるに至った「ビヘイリル王国の戦い」の時期であり、この時の年齢は23歳であった。
しかし、マスターの精神状態の影響なのか、或いは通常と異なる電脳世界での聖杯戦争の影響なのか不明だが、16〜17歳相当の年齢の姿で召喚された。
その為か、保有スキルや宝具においても一部影響を及ぼしている。
記憶については、17〜23歳の時期の出来事は詳細に覚えているが、23歳以降の出来事については断片的にしか覚えていないという状態である。
なお、1度目の霊基再臨には18歳の頃の姿になり、2度目の霊基再臨で23歳の頃の姿になる。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを守り、支える。
聖杯に叶える願いは無い。
【マスター】
グエル・ジェダーク@機動戦士ガンダム 水星の魔女
【マスターとしての願い】
わからない。どうすべきなのか、今は考えられない。
【能力・技能】
卓越したMS(モビルスーツ)の操縦技術。
【人物背景】
進む道を選んだ結果、親殺しをしてしまった18歳の少年。
参戦時期は12話後〜15話開始前の間。
投下を終了します
投下します
冬木市――地中――
轟音が地中でなり続ける。
眼の前に見えるは炎と悪魔の様な巨人。
――どうしてこうなった――
◆
時には呼び出された時にまで遡る。
彼が引いたサーヴァントはセイバー、聖杯戦争において最も優秀とされるサーヴァントだ。
更に優秀なスキルに宝具と、大当たりレベルであった。
行動方針として、まずは各チームとの同盟を画策、本戦まで戦闘を控えることが目的だ。
最初にバーサーカーの、次にライダーの、続いて別で同盟を結んでいたアサシンとランサーを、更にキャスターにアーチャーと、結果的に本来の聖杯戦争と同じ人数のサーヴァントとそのマスターと同盟が出来た。
その際、アーチャーとアサシンよりある情報が入った。
この街の地下に強力な魔力を感知したという。
おそらく、キャスタークラスのサーヴァントが地下に根城を作ってる可能性が高いと感じた彼は、7騎全員との攻撃を画策。
早速、その感知された洞穴へと進み、敵のサーヴァントを倒しに行ったのだがー
◆
――詰みだ――
状況は最悪になった。
いたのは一人の少女と強力な鉄の巨人。
最初にバーサーカーが攻勢を仕掛けた。
しかし、地中より出たあるものに阻まれる。
それは鉄の巨人と同じ顔をした触手の様な物。
次の瞬間、顔が猛獣の様な牙を顕にし、更に地から同じものが連続で現れる。
バーサーカーは怪力で突破しようとするも失敗、そのまま餌食になっていた。
逆上したバーサーカーのマスターが魔術を打とうとする。
しかし、それを阻むは少女、豪速を纏う鉄拳がバーサーカーのマスターを貫いた。
キャスター、アーチャーが援護射撃を行う、しかし、またしても巨人に阻まれる、背中の巨大な爪よりビームを放つ、地と共に焼き払われていく。
そこから――良く覚えてないが――蹂躙劇だったと思う。
サーヴァントの――マスターの悲鳴が響く。
セイバーが焦り声で宝具の発動要求を申し出る。
その時――何も考えず令呪で命じた。
セイバーは巨人へと突貫していった。
消えってた。
少女がきた
しょくしゅもきた。
かりゃだ、こわれ
たす
◆
黒色の鎧かかった埃を払い、サーヴァントを見る。
――マスター――ヴィヴィオはこの地に呼ばれた時、サーヴァントを感知できなかった。
理由はただ一つ、地下に埋まっていた。
ライダーが、デビルガンダムが、先程の主従を運んでいく。
地中に再び根を張り巡らせ、大量の異物を量産していく。
一つ目のの巨人――デスアーミーに、先程の白骨化したマスターが挿入される。
穴という穴に電線が繋げられ、醜い姿となっている。
「…」
ヴィヴィオは何も語らない、デビルガンダムも何も語らない、ある意思は、主従の殲滅、改造による兵隊化である。
自己再生――自己増殖――自己進化――それを繰り返し行くだけ。
デビルガンダムは明確に願いは無いが、ヴィヴィオには願いある。
(どこに居るの…ママ…)
どこにもいない、母親を求め続ける。
聖王の器として覚醒したヴィヴィオに、それ以外の願いはない。
たとえ、他者から狂っていると見られようとも。
後継者になった彼女に、それ以外の願いはない。
【クラス】
ライダー
【真名】
デビルガンダム@機動武闘伝Gガンダム
【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:E〜A
後述の宝具の影響により、どれだけ現界しているか、どれだけ養分を得たかでスキルのランクが上がっていく。
騎乗:EX
乗り物を乗りこなす能力。
しかし、ライダーの場合、乗るというより「乗せる」という方が正しい
【保有スキル】
DG細胞:B
デビルガンダムより生成される細胞。
この細胞に侵食されると、三大理論の一つ、自己再生に近い能力を得ることができ、機や人に関わらず侵食することが出来るが、相手に精神汚染:Bを付与する。
陣地作成:D
自身が拠点としている場所を、周りから隠遁させる。
少なくとも一般人や使い魔などには感知される可能性が低いが。
高い察知スキルを持つサーヴァント相手にはすぐにバレる。
【宝具】
『現れよ、屍の軍団よ(デスアーミー)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
自身が生成したモビルスーツ、デスアーミーを召喚する能力。
兵士にはDG細胞によって汚染された人、通称ゾンビ兵が使われる。
ステータス値としては全てにおいてD相当であるが、バリエーション機などは作成可能である。
『三大理論』
ランク:A++ 種別:対界宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
デビルガンダムに組み込まれた、自己再生、自己増殖、自己進化、のこと。
己に従い、人類を滅ぼすため活動続けるための源。
『すべてを飲み込む機の巨人(デビルガンダムコロニー)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
上記の自己進化が最大限進み、ネオ・ジャパンコロニーを飲み込んだ逸話に基づく宝具。
少なくとも、周辺はすべて彼の養分になるよう張り巡らされたガンダムヘッドが周りを侵食し始め、周辺一体を自分の物へとしていく。
ただ、その意思は人類を滅ぼすためだけである。
【人物背景】
ネオ・ジャパンのカッシュ博士の制作したガンダム
旧名「アルティメットガンダム」
元々は地球再生のための機体であったが、地球の落下した際のショックで暴走、人類滅亡に動き始める。
事あるごとにドモン・カッシュ等を苦しめ、撃破されてきたが、最終的には、レイン・ミカムラを飲み込み、ネオ・ジャパンコロニーを侵食、人類との最終決戦へ望んでいく。
【サーヴァントとしての願い】
願いはない、人類は自分の手で滅ぼす
【マスター】
ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【マスターとしての願い】
ママに合う
【能力・技能】
聖王の器としての能力、覚醒した彼女を、止められるものはもういない。
【人物背景】
強制的に覚醒し、聖王として蘇った少女
【備考】
クアットロが洗脳した状態での召喚であり、聖王のゆりかごの居た時と同じ姿です。
投下終了です
投下します
冬木教会には、聖女がいる。
いつからかそんな噂が囁かれるようになった。
寒空の中教会に足を運んだ者たちは、その噂が眉唾でないと知るだろう。
教会入り口で掃き掃除に勤しむ彼女は、紺を基調とした他の司祭やシスターとは服装からして違っていた。
袖の膨らんだ真っ白のシスター服に、飾りのない黒いスカート。
若草色の髪を守るように被せられたケープがひらひらとなびき、木枯らしに攫われまいとを聖女は慌てて抑える。
教会前で美少女が風と戯れる光景に、道行く人の視線が集まり。
どうにかケープを守り切った少女はそのことに気づくと、照れくさそうに笑って手を振った。
あどけない美少女の太陽の様な笑みが、寒空を行く通行人たちの心を照らす。
いいものをみた。
老若男女関わらず、その瞬間の通行人たちの思いはみな同じであった。
知らず知らずに道行く人たちの心を温めた聖女は、風に飛ばされぬようケープをしっかり留め、箒を握りしめ落ち葉を丁寧に掃いていく。
その両腕には、本来つけていない白いレースのついた長手袋で覆われている。
その手が傷つかないように、あるいは何かを隠すように。
そんな装飾もまた、彼女の清廉さを引き立てていた。
少女の名は、セシリア。
白手袋の奥に百合の様な赤い痣を宿した。聖杯戦争のマスターである。
◆◇◆
毎度最高な未来をどこか期待している
抗うまま生きる不幸を 受け入れるならば自由を探して
赤色の創造が 逆巻きぼくらはどうかしてく
割り切れないこの理由を 抱きしめては歌う今日を
― 01/女王蜂
◆◇◆
セシリアの住居は教会内ではなく、教会のすぐ隣にあるこじんまりしたアパートだ。
15ある部屋のうち7割以上が教会関係者の部屋だということを知った時には、「それはもう敷地にいれていいのではないでしょうか?」とセシリアは思ったものだが。
プライバシーが保証され厳しい戒律などもない環境だというのは、マスターであることを差し引いても都合がよかった。
何せ、セシリアは家事ができない。
『できない』というよりは『したことがない』というほうが正しかったが、どちらにせよ生活力は皆無。
あてもなく一人で暮らしていては、山のように菓子を買ってしまいお金がいくらあっても足りないだろう。
そのため家事をこなすのは、もっぱら同居人の仕事だった。
7畳の部屋には部屋の半分を埋める形で若草色のカーペットが敷かれ、中央に真っ白のテーブルと壁沿いに真っ黒のソファーが用意されている。
棚にある本は聖書を除いてすべてファッション誌(他のシスターからの貰い物)で、その上にはぬいぐるみ(子供からの貰い物)と観葉植物(よく礼拝に来るおばあさんからの貰い物)がちょこんとかわいらしく置かれていた。
総じて、16歳の少女が暮らす部屋といわれて納得のいくレイアウトといえた。
「…それで、お前は何をしている。」
愛らしい部屋には合わない、「ウォッチャー」の低く渋い声が響いた。
セシリアが一人で暮らしているはずの部屋のキッチンで、強張った顔で皿を洗う屈強な青年。
身長は2m近く、隣に並べば肩がセシリアの頭より上に来る。
黒々とした髪は纏まりきらないほど伸びて、鍛え上げられ膨れ上がった筋肉でワイシャツが悲鳴を上げていた。
振り向くウォッチャー視線の先で、ソファーに寝転んだセシリアは「ぐでー」と鳴き声を上げ。
だらけ切った顔と姿でぼんやり部屋を眺めている。
そこには“聖女”などと噂が起きる、日頃の清廉さは欠片もなかった。
「疲弊です。一日教会で頑張ったので休んでいるのです。
聞きましたよ。こういうのを『ワークライフバランス』っていうんですよね。」
「阿呆が。余計な知識ばかり身に着けて。
聖杯戦争にワークもライフもあるわけがないだろう。」
聖杯が与えようもない知識をどや顔で披露するセシリアに、ウォッチャーはあきれた目を向け茶碗を洗う。
言葉は悪いが、だらけることを咎めもしない。
真面目な彼女は人前では気を張ることが多く。
無理をしているというわけではないが、それでも知らず知らずのうちに、精神を削っているはずなのだから。
冬木の街は、セシリアにとっては異世界といっていい。
文化も、常識も、知識も、何もかもが違う。
それでもどうにか聖杯の知識を解釈し
追加される理(ルール)に慣れたウォッチャーの教えも相まって彼女は少しづつこの世界に慣れていっていた。
初めは自動車が通るだけで目を輝かせていたセシリアだったが。
今ではQR決済でケーキを買うこともできれば自分が働く冬木教会のSNSアカウントもフォローしている。
とはいえ、セシリアにとって慣れない環境なのは間違いなく。
そんな場所で暮らしながら聖杯戦争をする彼女のストレスは、決して少なくないものだ。
セシリアは、冬木に来てから一日も教会を休んでいない。
“冬木教会の修道女”という役割(ロール)に忠実ともいえるが、毎朝6時前には目を覚まし帰るころには日は沈んでいる。
せわしない日々の合間にも、聖杯戦争は待ってはくれない。
10日の間にウォッチャーが相手したサーヴァントは5騎を超えた。
そのすべてを返り討ち。
セシリアには傷一つ残さない圧勝でウォッチャーは勝ち残ってきてはいるが、命を狙われ続け相手の命を奪い続ける日々というのは無垢な聖女には厳しいものだ。
サーヴァントであり『不死』であるウォッチャーと違い。
セシリアには、休息が必要だった。
「…ローレン」
皿を洗い終え、明日の朝食の準備を終え、紅茶でも入れようかと準備をしていたウォッチャーの耳に、そんな声が聞こえた。
夢見のままに誰かを呼ぶセシリアの声には、少しの涙が入り混じっていた。
カップを取り出すウォッチャーの手が、止まる。
真っ白のカップが二つ。受け皿と重なり、カランと冷たい音を響かせる。
そんな音が、いやに耳に残った。
―――このカップの片方が、セシリアの分だとしたら。
―――もう片方のカップを使うべきは、俺ではないはずだ。
ウォッチャーの頭にふと、そんな思いがよぎる。
セシリアを最も蝕んでいたのは、労働でも戦争でもなく。離別であった。
黒い羽根で導かれたのは、セシリアだけだ。
元居た世界でセシリアのそばには、ローレンスという名の――セシリアはなぜだか『ローレン』と短く呼ぶ――心配性の黒い牧師がいるはずなのに、彼はこの冬木に姿を見せない。
NPCでさえ、その姿はなかった。
ウォッチャーは、その姿を何度も夢で見た。
マスターであるセシリアの記憶が流れ込んでくるためだ。
夢の中で、ローレンスはセシリアに甲斐甲斐しく世話を焼き、時に厳しく、いつも優しく。
心配性で朴念仁、愛嬌があり奥手な絵にかいたような好青年。
セシリアと同じ屋根の下に暮らし、名前ではなく『聖女様』と呼び、好意を向けられ続けながらそれに気づく気配もない。
ウォッチャーのマスター。セシリアは“聖女”と呼ばれる特別な存在だ。
神の声を聴き、人々を祝福する“加護”を与える力を授かる。
そんな立場ながらセシリアは、街から愛される聖女として市政に溶け込んで暮らしている。
それも、このローレンスという男がセシリアを受け入れているからだ。
共に暮らし、菓子を焼き、だらけることを許し、一人の少女として敬意ある付き合いをしてくれる。
セシリアに“温もり”を与える彼のことが、不思議とウォッチャーは嫌いではなかった。
セシリアは彼と離れ離れで冬木に呼ばれている。
それはどれほどの辛さだろうか。
ウォッチャーには、その気持ちが痛いほどわかる。
―――もし、君が許してくれるなら
―――次のループでも、君と、また
ウォッチャー。
その真名を『ヴィクトル』という男の脳裏に、正義を誓う女の顔が映る。
カップの片方がセシリアのものなら、もう片方はヴィクトルのものではないとして。
片方がヴィクトルのものならば、もう片方はセシリアのものでもないだろう。
セシリアがローレンスと離れ離れになっているように。
ヴィクトルも、最愛の人と別れたままだ。
―――お前が与えてくれた温もりを、俺は最後まで返せなかったな。
マスターが眠りについた部屋で、サーヴァントは一人静かに立ちすくんだ。
◆
意識を戻したセシリアが大きく体を伸ばす。
薄桃色をしたカーテンの隙間から、真っ白の光が部屋を照らした。
時間にして20分ほど経っただろうか、電脳の夜空でも星々は綺麗であった。
「ようやく起きたか。」
テーブルをはさんで座るヴィクトル。
彼の手にした陶磁のカップから、仄かな香りが部屋に漂った。
テーブルの上にはもう一つ、真っ白に息づく温かなカップが置かれている。
「紅茶ですか?」
「ああ。ずいぶん疲れていたようだな。
少し冷めてきているが、入れなおすか?」
「いいえ、このままで大丈夫です。
…スコーンはないのですか?」
・・・・・・・・・・・・・・・
「阿呆が、それを焼くのは俺の役目ではないだろう。」
言葉の意味がすぐには分からず。セシリアは惚けた顔で数秒固まった。
―――スコーンは、“ローレン”がよく焼いてくれたお菓子だ。
そのことをヴィクトルに話したことはなかったが、知っている故の発言なのは疑いようもなかった。
サーヴァントとマスターは、夢で互いの記憶を見ることがある。
セシリアも、そのことは知っていた。
なぜなら彼女も、見ていたから。
「ウォッチャー、もしかして私の記憶を…」
「ああ。」
ああ。じゃないですよ。ああ。じゃ。
心の中で浮かんだ反論は、気恥ずかしさにかき消さされる。
セシリアにとって自身の記憶を見られることは、引き出しの中にしまったラブレターを見られることに等しいものだ。
顔が急速に火照っていく。
今のセシリアの顔は、リンゴのように真っ赤に違いない。
「何を…見ましたか。ウォッチャー。」
「今のように顔を赤らめている光景を、いくつかな。」
「ぴゃあ…」
心当たりが多すぎて、セシリアから思わず変な鳴き声が出てしまう。
顔を真っ赤にして湯気を出すセシリアをよそに、ヴィクトルは丁寧な所作でカップを手に取る。
常に気を張った彼にしては、穏やかな姿勢であった。
「いい出会いがあったようだな。」
ヴィクトルが静かに微笑む。
夢の中以外でヴィクトルの顔が緩む姿を、セシリアは初めて見た。
「俺はあのローレンスという男のことは嫌いではない。
“神に仕える”という一点には虫唾が走るが。それ以外は立派な男だ。
お前が慕うのも分かる。」
「そうでしょう。そうでしょう。」
「だからこそ、”ローレンス”のいないこの世界で無駄に労力を使うお前は。
サーヴァントとしても俺個人としても、納得ができない。」
先ほどまでの穏やかさとは打って変わって、重みをもった言葉だった。
剣呑な雰囲気で座るサーヴァント。
愛する人を褒められ胸を張っていたセシリアも、静かに背を正す。
紅茶をテーブルに置き、重々しく口を開いた。
「お前、いい加減教会に行くのは止めにしろ。」
ウォッチャーの言葉に、セシリアは何も返さない。
「ここはお前のいるべき世界ではない。
あくまで本分は『聖杯戦争』。
そこで勝たねば、願いを叶えるどころか元居た場所に帰ることさえ不可能だ。」
「・・・」
「お前がどう思っているかは知らん。
だが俺が見る限りで、今お前が消耗している体力にどれだけの意味がある。
今のお前の行いは、みすみす自身を危険にさらし願いを放棄する行いに他ならない。」
ヴィクトルにしてみれば、教会での労務と聖杯戦争を並行してやろうというのが不条理な話なのだ。
与えられた役割(ロール)など、冬木の街に異物として扱われないための理(ルール)。
律儀にその役割を遵守しているマスターが何人いるものか。
セシリアがすべきことは、隠れ潜みながらヴィクトルを指示し他の陣営を倒していくことだ。
ヴィクトルはこの世界に呼ばれたサーヴァントの中でも、単体の戦闘力としては間違いなく上位に位置付けられる男だ。
強い彼にすべてを任せ、傷つくことも手を汚すこともサーヴァントに一任し。聖杯を目指す。
本来聖杯戦争とは、サーヴァントを用いた殺し合いであり。
その過程に、セシリアが教会で市民たちの言葉を聞くことも、教会で祈りを捧げることも不要なものだ。
「きっと、ウォッチャーが正しいです。」
ヴィクトルの言葉は、正しい。
マスターとしてならば彼にすべてを任せるのが最善だと、セシリアもわかっている。
「それでも、私は冬木のシスターの役割(ロール)を。
彼らの声を聴くその責務を、放棄する気はないですよ。」
その上で、セシリアはヴィクトルの提案を否定する。
思い悩む人たちを、救うことを止めたくない。
腰を起こし、姿勢を正し。清廉さが形を成したような。
穏やかながら芯の通った声で、セシリアは答えた。
「何故だ。
よもや、お前が“聖女”だからなどは言わないだろうな。」
「それも…ないとは言えません。
私は“聖女”ですから、人を守る義務がありますし、救いたいという意思があります。」
セシリアは“聖女”である。
物心つく前に神の声を聴き、見ている世界がその色を変えたことを覚えている。
人を愛し、助け、見守ろうという意思。
セシリアの世界で神の声を聴いた女性たちは、“聖女”となったその時にその気持ちが芽生える。
嘘をつくことも、人を貶めることもない、聖女としての心が目覚める。
―――ふざけているのか?
その事実を知ったヴィクトルの思いは、言語化するなら怒りに近い。
神が人を選び、力を与える。
大層なお題目だ、事実として人々を救う力なのだろう。
だが、それはヴィクトルの知る否定の力と変わらない。
神によって与えられた力の大きさも恐ろしさも、ヴィクトルは誰より知っている。
『神の声を聴いた』セシリアは、その力に呑まれてはいないだろうか。
多くの否定者たちが、力によって大切な人を失ったように。
フレデリカという聖女が、聖女を神聖視する権力者により病人であることを否定されそのまま亡くなったように。
セシリア自身が、“聖女”となり人生が大きく変わったように。
セシリアの言葉。“聖女”としての言葉では、ヴィクトルの胸には響かない。
―――“聖女”ではない。お前はどうなのだ。
そう問おうとするヴィクトルよりも、セシリアの言葉が早かった。
「一番の理由は、“私”がそうしたいからです。」
―――“聖女”だけでない“私”が、それを望んでいるのです。
ヴィクトルには、その言葉は問わなかった質問への答えのように思えた。
「私は、たった一人ですべての人を救えるような存在ではありません。
予知を受け街が大水に呑まれることが分かっても、一人ではそれを止めることだってできませんでした。」
大雨が降り、橋を壊さなければ街が水に呑まれる。
たった一人、街で呼びかけ続けたセシリアの話を遠巻きに心配こそすれ誰も話を信じない。
何日も呼びかけ、疲労と空腹で限界になり倒れそうなところを助けてくれたのが、他でもないローレンスだ。
セシリアの言葉をローレンスは信じてくれた。
彼なりに街の歴史を調べ、セシリアの話を事実だと知り。
セシリアと共に街の人たちを説得してくれた。
「街の人たちを洪水から救えたのは、ローレンが私の言葉を聞き届けてくれたから。
街の皆さんが、その言葉を信じて手を貸してくれたから。」
その街は、セシリアを“聖女”として以上に“人”として大切に思ってくれている。
彼女の話を聞いてくれたローレンスも、二人の話を聞いてくれた皆も。
かけがえのない、大切な存在。
“聖女”だけでなく皆がいたから救えたことを、セシリアは今も忘れていない。
「私が冬木の教会に居続けても、マスターとしては意味がないかもしれません。
それでも私は、他人の声を聞き届けられる私でいたい。
それが、”私”が望む私です。
あの日のローレンが、私の声を聴いてくれたように。」
「随分な話だ。まるで・・・」
―――皆の力が要る!!
―――皆の力なくしては、神を倒せないんだ。
いつだったか、1人で戦うことを求めたヴィクトルに仲間がいることを説いた女の言葉を、ヴィクトルは思い出していた。
組織を作り、仲間を集め、神に挑んだ女。
ヴィクトルが生前最も大切に思っていた女。
「ジュイスさんのよう。ですか?」
その名前が、セシリアの口から語られた。
「…やはり、俺の記憶を見ていたか。」
ヴィクトルに驚きはなかった。
ヴィクトル自身、セシリアの記憶を見ているのだ。
逆が起きていても驚きも怒りもない。
「…どう思った。“聖女”」
「…私が想像もしていなかった。戦いを見ました。
とても悲しい、別れを見ました。
貴方が背負い続けた、悲劇を見ました。」
唇をかみしめ、聖女は思い出す。
神に弄ばれ理を否定された者たちの戦いの歴史は、神に選ばれた少女にとって
物語のように劇的で、悪夢のように残酷だった。
ヴィクトルの記憶は、戦いと別れと嘆きの歴史だ。
理を否定する『否定者』と呼ばれる人たち。
突発的に能力を与えられ、その発現に伴い大切なものを失っている。
ある者は、家族の命を失った。
ある者は、愛する者との思い出を失った。
ある者は、自身の未来を失った。
『死』の理を否定されたヴィクトルもまた、悲劇を背負った男だ。
彼は、何があっても死ぬことがない。
老いることもなく、傷を残すこともなく。
星が砕けることになっても、死ぬことが許されない。
『死なない』ではなく『死ねない』。
記憶の断片だけでも、セシリアにその意味を教えるには十分だった。
巨大な怪物と戦う彼を見た。
否定者たちを前に、圧倒的な力を振るう彼を見た。
仲間が死のうと死ねない彼を見た。
自分だけが生き残ろうと死ねない彼を見た。
抗い続けた『神』に敗北し砕け散った星のすぐそばで、それでも死ねない彼を見た。
彼が死ねないことを嘆く、『正義』を否定する美しい女を見た。
「貴方が死ねないことに、貴方以上に怒ったジュイスさんを見ました。」
神が地球を破壊しては創りあげ、それを繰り返すヴィクトルの世界。
『不死』のヴィクトルを除いて、唯一繰り返す世界を渡り続けたの『ジュイス』であった。
ずっとヴィクトルと共に歩み。
神に敗北しても折れず、次のループへ至り戦い続ける。
ヴィクトルが死ねないことに、ジュイスは涙を流していた。
ヴィクトルを苦しめ続けることに、ジュイスは怒っていた。
「貴方たちが長い時間共に生き、思いあっているのを見ました。
貴方が悲劇と絶望の中で、それでも生き続けられたのは。
不死の力だけが理由ではないのでしょう。」
「ああ。あいつは、俺の希望だった。
無限に思える孤独も、果ての見えない絶望も。
ジュイスと再会できるのならば、耐えられた。」
遥かな時間、ジュイスはヴィクトルと共にあった。
星が生まれては砕け 99度
年にして、4554億年。
それだけの時間、彼女は神に挑み続けた。
隣にジュイスがいたから、ヴィクトルも進み続けることができた。
その旅路も、すでに過去のものだ。
「見たのなら知っているだろう。俺はあいつを殺そうとした。」
99度繰り返された『神』との戦いの中。ヴィクトルは悟った。
『神』には勝てないと。
このまま戦い続けても、繰り返しても、ジュイスは苦しむだけだと。
いつしか彼は、ジュイスの死を望むようになった。
神を殺す使命も、彼女を縛る自身のことも、死んで忘れたほうが幸せだと。
惚れた女の苦しむ様を、見たくなかった。
「神殺しの願いを『不運』に託し、俺の手の中でジュイスは死んだ。」
ヴィクトルの望み通り、ジュイスは死んだ。
100度目のループ。
神にすべての思いを込めた一撃を与え。その対価として命を落とした。
それは、ヴィクトルの望んだ結末のはずだった。
ずっと望んでいたことだった。
ジュイスのための選択だったはずだった。
愛する者の骸を抱き上げたヴィクトルに残ったものは、『哀しみ』と『怒り』だけだった。
「俺はあいつに与えられたものを、結局何も返せなかった。
あいつが隣にいてくれた、そのことが俺を救ってくれていたと、失うまで気づかなかった。」
4554億年 ずっと愛するものがそばにいたヴィクトルは知らなかった。
愛する者を、失う辛さが。
愛する者が、自分に与えてくれた温もりの大きさが。
大切な人が、そばにいる。
大切な人を、守りたい。
その思いがどれだけ大きいか、
その温もりがどれだけ相手を救うのか。
今のヴィクトルと同じく、セシリアもその思いを知っている。
ヴィクトルの話を聞いたセシリアは、正直な思いを語る。
「返せていたかどうかは、断章を見ただけの私には言えません。
ですが・・・」
「何だ?」
「私の見たジュイスさんは、貴方への再会を望んでいました。」
ヴィクトルが聞いた、ジュイスの最後の言葉。
夢で見たセシリアにも、その言葉ははっきり残っている。
―――もし、君が許してくれるなら
―――次のループでも、君と、また
ジュイスに代わり不運の少女が挑む、101度目のループ。
ジュイスの望みは、その世界での愛する者との再会で。
最期にその望みを抱くことが、ジュイスとヴィクトルが思いあっていた証明ではないだろうか。
セシリアは、そう確信している。
「あなたの言葉を借りるなら。ウォッチャーもまた、ジュイスさんに“温もり”を与えていたのだと思いますよ。」
一瞬だけ目を見開き。ヴィクトルは少し顔を下げる。
気恥ずかしさを隠しているように、セシリアには思えた。
「何故わかる。記憶の一部を見ただけだろう。」
「分かりますよ。私も同じですから。
私も、ローレンに色々与えられていて。
私だって、ローレンに色々与えているんです。
ウォッチャーとジュイスさんも、きっと同じです。」
「そういうものか。」
「そういうものです。」
微笑みを向ける聖女を、ヴィクトルは否定しなかった。
ローレンスという神父がセシリアに与えるもの。
ジュイスという女がヴィクトルに与えるもの。
セシリアという聖女がローレンスに与えるもの。
ヴィクトルという男がジュイスに与えるもの。
二人が“温もり”と呼んだそれは、二人にとって何より大切なものだ。
「私も、貴方と同じです。
大切な人を、与えてくれた温もりを、決して失いたくない。」
愛しいものがくれる気持ちが、人を生かすのだと。
失わないために、強くなるのだと。
ヴィクトルが永い人生の果てで至った思いが、セシリアの中にもある。
セシリアが立ち上がり。左手の手袋を勢いよく脱ぎ捨てる。
百合の花弁の様な、赤い三つの痣。
マスターとしての己を見せつけ、彼女がなくしたくないものをはっきりと言い切った。
「ローレンに会いたい。それが私の願いです。」
「それは、“聖女”としての願いか?」
「“私”の願いです。」
「そうか。」
ヴィクトルを見つめるセシリアの目が、なぜだかヴィクトルにはとても懐かしく見えた。
二人だけの円卓で向かい合うジュイスと、よく似た目をしていたからだろうか。
99度繰り返しても折れなかった不正義のように。
彼女からバトンを託された、不運の少女のように。
神に選ばれた少女の瞳には、神を否定する者たちと同じ輝きがあった。
「私の願いのため。私が失わないために。
共に戦ってくれませんか。私の、サーヴァント。」
聖女が不死の男に手を伸ばす。
月の光が照らすその姿は、“神々しい”という言葉がよく似合う。
ヴィクトルがその言葉を肯定的に使ったのは、不死になって以降初めてのことだった。
青年は聖女の手を取り、立ち上がる。
小さく優しく、神に選ばれた身ながらも神に抗う者たちと同じ思いを持った少女。
―――こんな少女を“マスター”と呼ぶのも、悪くはない。
「正義に誓おう。
お前の願いのために戦うことを。」
応えは短く、力強く告げられる。
彼の大切な人と同じ言葉の誓い。
その意味を、セシリアは誰より知っている。
誰にも否定できない思いを、知っている。
◆◇◆
運命の人 めぐり逢えた
ずっとずっと そばにいるよ
もっと 笑顔見せてね
今日も 大好きだよ
― コイセカイ/Claris
◆◇◆
【クラス】
ウォッチャー
【真名】
ヴィクトル@アンデッドアンラック
【ステータス】
筋力A+ 耐久EX 敏捷B 魔力D++ 幸運E 宝具EX
【属性】
秩序・悪・人
【クラススキル】
陣地蹂躙C ウォッチャーのクラススキル ヴィクトル本人にもその詳細は不明
「理(UMA)を何度も殺したことと関係があるのか?」とは本人の弁
対魔力EX 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
スキルとしてはBランク相当であるが『不死』によりランクが上昇し、拘束や封印を除いたほぼすべての魔術の効果を事実上受けない
忘却補正 A 本来はアヴェンジャーのクラススキル
億を超える年月を生きても、与えられた温もりを忘れない
【固有スキル】
否定者EX 世の理を否定する力を与えられた存在であることを示すスキル
ヴィクトルの場合は『自身の死及びそれに繋がるもの』を否定する
億を超える年月を生き続けるヴィクトルは、極めて高い練度とイメージで能力を操れる
戦勝の神A 数多の戦場に勝利をもたらした逸話が形となったスキル
こと戦闘において絶大な力を発揮するが、本人はこう呼ばれることには否定的である
終わりを見た者EX 神の手で繰り返される世界で、ヴィクトルは幾度ととなく星の誕生から崩壊までを目撃し続けた。多くの出会いと別れを繰り返し、100度の敗北を経験した。
それでも彼が狂い絶望することがなかったのは、愛する者がいたから。
単独顕現D 本来 世界が滅びようとヴィクトルが死ぬことはなく、英霊としては召喚されない。
今彼がここにいるのは、聖杯戦争の舞台が電脳空間という架空の世界であることと、肉体をもう一つの人格に完全に譲渡するという約定を電脳の聖杯が”縛り”だと認識したことによる特殊な事例である
ある特殊クラスが持ちうるスキルと類似し、しかして明確に異なる 単体でこの世に現れるスキル
【宝具】
『不死(アンデッド)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
死を否定するヴィクトルの否定能力にして、常時強制発動されている宝具
老化・傷病など自身を『死』に近づける事象・現象を否定し、その影響は数十秒で完全に復元される。
長年この能力と向き合い続けたヴィクトルはその能力を幅広く解釈しており。
自身の体のリミッターを外しての戦闘や超速再生を利用しての移動や攻撃に活用するほか、千切れた部位ごとに肉体を復元させ分身を生成することも可能である。
復元・再生のたびに本体となる肉体にヴィクトルの霊核は移る
弱点としては、脳にダメージを受けると回復が遅くなることと延焼された傷は回復が遅くなること。
加えて英霊となったことによる制約として、自傷行為を除くダメージの復元のためには強制的に魔力を消費させる。
ヴィクトル自身は単独顕現のスキルもあり極めて燃費のいいサーヴァントだが、脳や心臓へのダメージともなれば復元に強いるマスターへの負担も少なくない。
また、再生するのはヴィクトルの肉体・精神に限られ、霊核へのダメージは回復しない。
『復讐心器(リベリオン)』
ランク:D+++ 種別:対人/対神宝具 レンジ:1 最大補足:1人
神を殺すための最上位古代遺物(スペリオルアーティファクト)。三種の心器の一つ
本来は武器に取り付き使用者の憎しみに応じて破壊力を向上させるものだが、ヴィクトルは彼自身に取り付かせるという形で使用する
使用者は対価としてその命を失うが、死の否定者である彼が使用する場合に限りデメリットを無視できる。
【weapon】
なし
【人物背景】
死の否定者
永遠と思える人生の中、一度はその復讐を諦めてしまった男
最後の戦いで、失いたくなかった思いを知った男。
【聖杯へかける願い】
セシリアの元の世界への帰還
個人的な願いはあるが、”神の杯”で叶えたいとは思わない
【マスター】
セシリア@白聖女と黒牧師
【マスターとしての願い】
元の世界に戻る
ローレンスと再び会う
【人物背景】
根はまじめでやさしい少女、人前ではしっかりした態度だがだらけグセのある聖女
ここでいう聖女とは単なる役職にとどまらず、神の声を聴き”加護”と呼ばれる人々を守護する奇跡を起こせる存在である。
電脳世界においては、冬木教会に勤めるシスター
令呪は三つの百合の花弁の形
【備考】
参加時期は不明
少なくとも、西の街から帰ってきた後
投下終了します
拙作「Fate/SuicidePrototype」についてですが、
wikiにて一部表示が崩れている部分がありましたので修正しておきました。
>>780
ミスがあったので訂正します
訂正前
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師では○○に傷をつけられない。
訂正後
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師では釈迦に傷をつけられない。
となります、大変失礼いたしました
投下します
死への欲望、満たされるべき欲望。
美しく、満足出来る死を…
◆
冬木市路地裏、手刀より血が垂れる、セイバーのサーヴァントは眼の前の敵を目に捉える。
骸骨の面をし、赤い羽織を纏った、機械のサーヴァント、右手は手刀になり、左手には拳銃を持つ、打った直後で、銃口からは煙が出ている。
「どうした?もう終わりか?」
威圧する、無機質な声が投げかけられる。
――一様の希望はマスターだった、自身のマスターはかつてキックボクシングの世界大会でチャンピオンになったという、相当の手練れだ。
少なくとも、そっちが敗れる――
絶句した、自身のマスターから流れるのは鮮血、体中が切り裂かれ、身に伏していく、何故だ。
眼の前のサーヴァントのマスターはそれほど強そうには見えなかった。
武道も魔術も収めていなそうな、普通の男だった。
目の中の狂気を除けば。
それでも勝てると打算を踏めていた、しかしこのザマだ。
「マスターを殺して私の魔力切れを狙ったか?そうはいかなったがな!フハハ!」
嘲笑と共に、意識が薄れていく。
自分のかけた策略が、自分へと降り注ぐ、最優のクラスと評されたサーヴァントは、滑稽な姿で幕を閉じていった。
◆
「…」
先程の敵のマスターの死体を眺め、男、ヘクター・ドイルは身から剥がれる範囲で血を払う。
彼の服から見えるのは、無数の凶器、剃刀…針金…あらゆる殺傷物が、衣服へと埋め込まれている。
「そっちも終わりか?マスター」
先程のサーヴァント――アサシン――レブナントが話しかけてくる。
主人への会話だと言うのに、節々に不遜さを感じさせる。
「今回も俺に見合う男ではなかったがな」
「あぁ、俺もだ、骨のあるやつが少なすぎる、あのゲームのほうが、私の願いを叶いそうであった!」
彼らが求めるのは――死と敗北――それを叶えるためにここへ来たのだ。
「だが、そっちでも無理だろう?」
「…憎いがそうだ、私のメモリーが何処にあるか分からないからな」
レブナントのコア…オリジナルのキーは、制作主のいたであろう、ハモンド・ロボティクス社にあった、更に一筋縄でもいかず、見つけて破壊しようとしても、防護ガラスに阻まれ、挙げ句何処かへ自動転送、一生追いつけない。
正しい、それさえ破壊すれば、レブナントは無限の命から出れる、だから――聖杯にかける願いは、死。
「わかった…とにかく、後は俺の善処次第だ」
「まぁ、精々私を使い続けろ、戦闘狂よ」
捨て台詞を吐き、霊体化する。
「…相変わらずの皮肉屋か」
ドイルが求めるのは、満足の行く闘争――そこからの敗北。
それを見つけるまで、ドイルは歩みを止めない。
「そう、俺は向かうのだ、満足のある敗北を、そして征くのだ」
――聖杯戦争へと
【クラス】
アサシン
【真名】
レブナント@APEXLegends
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷EX 魔力D 幸運E 宝具B
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
【クラススキル】
スカーミッシャー:D
箱などの中身を調べ、最も高い価値を持つものを見破るスキル。
武器などの探索において役立つ。
サイレンス:――
レヴナントの持つ、特殊なスキル。
禍々しい球体を投げつけ、敵のスキルを封じるものであったが、現在は使用不可。
アサシン・アップ:C
レヴナントの高い運動性を表すスキル。
壁を素早くよじ登り、とてつもないジャンプ力を生み出される。
【宝具】
『人口の悪夢(レヴナント・イズ・アサシン)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
自身の名を関する宝具。
一定時間の間自身を守る硬化した影を纏う。
特徴として、相手を倒したと認識した瞬間にこの影の効力は伸びていく。
【weapon】
手刀及びフラットライン
【人物背景】
かつて人だった殺し屋。
ハモンド・ロボティクスに改造され、望まぬ永遠を手に入れる。
ひとえにAPEXゲームに参加したのは復讐のためだけである
【サーヴァントとしての願い】
己の死
【マスター】
ヘクター・ドイル@刃牙シリーズ
【マスターとしての願い】
自分の望む敗北を
【能力・技能】
格闘技などは会得してないが、体中に暗器を仕込んでいる。
【人物背景】
最強死刑囚が一人。
――己が望む敗北を求め、聖杯戦争へと潜り込んだ、暗器人間。
投下終了です
投下します
お前は私に、あんな事をしたくせに。
今際の際、際で踊りましょう。
悪は、また咲く。
日曜日の、午前だった。
私と娘は、二人で買い物に行くところだった。――彼女が友達と修学旅行に行くと謂うから、私はそれに付き合った。
ふと、商店街のアーケードにボロ切れを来た人間が、立っていた。
「お、父さん」先を歩いていた娘が、いきなり斃れた。
そして私も頭になにか触れた感触があり、気絶した。
◇
認めたくない。認めたくない。認めたくない。
日曜日の昼に、私は頭に掌を充てられて脳をいじられる。
奴は娘にあんな事をしたくせに。なぜ私は悦ぶ?悦んでいるんだ...?
憎い。
憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。
奴らは地下貯水増で、光の当たらない闇の層で。
その飄々とした姿の青年は私の大事なものを、切り刻んだくせに。
目の前で、■を切り抜いていったくせに。
それでも尚、改造させて、生き永らえさせたくせに。
それでも、私は尚、頭を掌で転がされて、それを悦んでいた。
思って、しまったんだ。
ああ。
なんて娘は、美しいんだ。
お父さんーー愛してると、
脳をいじられる私の前で、娘はそう云っていたっけ。
■■■。ああ。私も、愛してる。
気付けば、私の腕は無くなっていた。
手も、足も、ぐにゃん、と私の躰がその掌に吸い込まれ、呑まれる。
吞まれる直前に、残念だなぁ、と思っただけだ。
そして、願わくば。■を切り抜いていった奴等も同じ苦しみを味わえ。と。呪っていた。
「....どうだった?"処女作"は....?」
「いやぁ、まぁまぁかな。....そっちは?」「...うん。美味かった。」
青年と呪霊。それはその一人と一人にとって、ただの、嫌駆らせだった。
…聖杯戦争。
そんな物、いやそれは、そのついでにすぎない。
二人が召喚されたときから、運命は決まっていたのだから。
真の作品。
真の芸術。
それを表すために同意し、そして主人(マスター)、雨竜龍之介が死の際に得て従属者(サーヴァント)、真人に教えたもの。
それは人にとって大切なもの。それは真人には欠けた、天啓だった。
「――恐怖というのは、鮮度があるんだ。」そう、彼は目を輝かせて云っていた。
呪力の本質。
死というものの真贋。
野良(たいりょうぎゃくさつ)も勿論後で楽しむつもりだったが、手始めに、と云った感じだった。
そんな訳で、真人と龍之介は一日をかけ、処女作(プロトタイプ)の施策に熱中した、というわけだ。
神様は人を愛している。そして世界はエンターテインメントに過ぎない。
呪いである真人にとってそれは、天啓だったのだ。
依然、それが背景と化した老人は見たことがある。だが、真人にとってそのサンプルはあろうことかこんなことを喋り出す。
おもしろい。こんな人間がいるのか、と思った。
そして、漸回とは違い、真人によって聖杯戦争のルールを把握した龍之介は、ある提案をした。
真人は「呪い」だった。その上でキャスターのクラスを得たサーヴァント。それは両立できた。
だから、それが出来た。――魂喰い。その上位に互換するもの。
真人は人が人を憎む呪いの塊。すぐに肉体が呪力で満たされる感覚があった。この上なく、美味だったのだ。
そして、真人が気に入ったところはもう一つ。
龍之介は、あろうことか、真人に対してこう言ったのだ。
「君は呪いだろ?それって超COOLじゃん....?なら、決ーめたっ。
最期にさ、俺を作品にしてみてよ」
「ふーん...死が怖くないの...?龍之介は」
「あぁ、怖いさ。でも恐怖ってCOOLだろ?
だから、死はエンターテインメントとして、確立しうるのさ」
「.....ふひっ。あはははは」
真人は嗤った。前世では感じえなかった、心からの快い笑顔。青空の様な、笑顔だった。
「...だろ?よろしくな、キャスター。」
人が人を憎むのに意味なんてないさ。やりたいからやる。
この脚本にルールなんて存在しない――それが「人間」(のろい)だろ?
今やお互いが教え合う、教師のような存在だった。
真人は想う。
雨竜龍之介。その男は、虎杖と真逆の男。何も考えず人を芸術にし得る。
君に、会えてよかった。真人は、心からそう思ったのだった。
その主従は、衝動に身を委ねる。
人は、相容れることはできる。
ああ、俺は。呪いだ。ごめんね、龍之介。
真人は、もう虐殺になんか興味はこれっぽっちも湧かなかった。
龍之介には恩義があるが、それに従ったままにしようとは思う。だから、彼の為に殺戮を行おう。
――だって今は。
人の為に殺戮をするのは、生まれて始めてだった。
今は龍之介を、もっとも作品にしてみたい。それは愛情だった。
◇
龍之介は、想う。
でも、つまんないな。と、親娘の"残骸"を見て、想った。
この”処女作”のヴィジョンは、試作だった。
まだだ、まだいける。なぜかそう、思った。
恐らく、ただ殺すだけのは二度はやらないだろう。何故かそう、思った。
【クラス】
キャスター
【真名】
真人@呪術廻戦
【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:C+ 魔力:B 幸運:C++ 宝具:A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
道具作成:B+
魔力を帯びた器具を作成する。真人は後述の無為転変による改造人間の作成の他、渋谷事変で見せた分身の作成も可能。
【保有スキル】
呪霊の呪:A
真人が操る呪術、結界術の技を示すスキル。
後述の『無為転変』の他、これを応用した自切と切合、多重魂なども可能。
また、サーヴァントとしてキャスターのクラスが備わったことにより冬木の第四次聖杯戦争でジル・ド・レェが見せた基本的な治癒再生術・痛覚の遮断・工房の作成の行使なども可能。(大体無為転変や帳で代用は出来る)
また、生前の真人は「魂の形」を捉えられた攻撃以外は効かなかったが、サーヴァント体である以上、この特性は失われているかもしれないと彼自身は踏んでいる。
【宝具】
『無為転変』
ランク:A++種別:対人宝具レンジ:1 最大捕捉:1
真人の生得術式。触れた生物の魂を造り替え、形状や質量を無視した改造を行う。
基本的に触れられただけで魂に触れられ、触れられた者は改造されないためには魂を呪力≒魔力で保護する必要がある……が、エーテル体で出来ているサーヴァントも一度触れただけで肉体・霊格を改造できるかは未知数(真人にも分かっていない)。
『領域展開・自閉円頓裹』
ランク:A 種別:対人宝具レンジ:1〜20 最大捕捉:100
自身の周囲を呪力で覆うことにより、その呪力領域内の『無為転変』を必中効果にした領域。
基本的に領域に入った者は無条件で魂に触れられる。
『遍殺即霊体』
生前が呪霊である特性上、サーヴァントとして真人は「生まれ変わった」ことになる。
よって、『今回の生』で黒閃を決めるなどにより肉体が「魂の本質」を得た時に変身できる形態。
肉体が強化され、黒閃レベルの破壊力を持つ攻撃でもない限り通らないほどの防御力と、比較にならないほどの破壊力を持つ。
(…が、これが生前の直接的な死因であるため、真人は「もう使わない」と思うぐらいには苦手意識がある。)
【人物背景】
人が人を憎み恐れた腹から生まれた呪い。人間との相互理解は不可能。
生前は殺戮を愉しみ、人間が絶望する様が好物だった。
【サーヴァントとしての願い】
龍之介を芸術にしてみたい。その後はどうでもいいや。
【マスター】
雨生龍之介@Fate/zero
【マスターとしての願い】
あともうちょいでなんか掴めそうなんだけどなぁー。
【能力・技能】
”死”の真贋を見たいと願う殺人鬼。
第四次聖杯戦争において脱落、腹腔がまろび出た自身の死の際に“黒い羽”に触れて参戦。
此度ではリスペクトした"先人"の恩恵を経て、人間としてカリスマ的な位置に昇華している。
今は只、君に感謝を。
嫌いだね。
投下を終了します
投下します。
.
『どうして……でしょうね。分かりません。ただ……一人で消えるのが怖かっただけなのかも知れないです』
『何にせよ喜ばしい。最期の時をお前のような佳き体の女と過ごせるのだからな』
『私はやっぱり……死にたくはないですから。死にたくないと足掻いている最中の私が、英霊としての全盛期である以上、貴方に何を伝えられても変わりません』
『いいや……お前は変われるさ』
『無理です……英霊は成長などしません』
『無理じゃない。根拠だってあるぞ―――』
それは、彼女の軌跡の、最後の一節。
崩壊する『空中都市』で命が終わる瞬間を待つまでの間、より善い物語を練り上げ、ただ一人の聞き手へと語り始める話。
◆
午前零時を迎えた瞬間、一日は終わる。「今日」は「昨日」へ、「明日」が「今日」へと移行する。それはあくまで、地球上の各国民の生活を司る、暦の上での話だ。
一個人の生活習慣というミクロな視点で見た時の、確かな実感を伴う「今日」と「明日」の境目とは何か。最も妥当な回答を挙げるとしたら、やはり、肉体が眠りについた瞬間だろうと思う。
未成熟の幼児にとっては、午後九時か十時頃には一日が終わる。夜遅くのネット配信やラジオ番組の楽しみを覚えた中高生なら、午前零時をいくらか過ぎた辺りで寝落ちした瞬間か。夜勤労働に従事する社会人や徹夜で実験を行うケミカルアイドルなどは、日がまた昇った頃にようやく、と感じているかもしれない。
それでは、一般的な寝入り時を過ぎても意識を覚醒させたままでいることが、何を意味するか。
主観としての「今日」が、延長されることである。目を冴え続けさせている限り、「明日」がどんな日になるかという期待も不安も覚えることもなく、ずっと「今日」を生きられるのだ。
「その理屈に従えば、もとより睡眠を必要としない私達サーヴァントは永遠に『今日』を終えられませんよ。詭弁です」
「あはっ。痛いところ突かれちゃった」
そんな冗句に興じることができるのも、午前零時を過ぎてからのことだ。
布団に包まったまま語り掛けてくる少女が、キャスターを召喚したマスターである。
日本人だが欧州系の血も流れているという彼女の、薄明かりの中で目を引く艶やかな金髪と、見つめ合うだけで吸い込まれるような錯覚を覚える、血の色の瞳。蕩けるような声色。先天的に人誑しの才を持つ者なのだろうと、キャスターは感じていた。
「良いよね、こういう時間があるの。家政婦さんは愛想笑いしかしてくれないし、夜更かしのお供まではさせられないし」
マスターの少女は、冬木の街では名目上一人暮らしをしているが、実際には同居人がいる。家政婦が毎日交替で派遣され、夜間は彼女の住むマンションで就寝時間を共にするのだ。大抵、午後の十一時過ぎには家政婦が眠りにつくので、自室で少女がキャスターと気兼ねなく会話できるのも、その頃合いだ。
彼女は日本の高校生であるが、冬木市内の高校には通学していない。通信制高校という仕組みを利用しているそうだ。元いた世界では早退を繰り返しながらも通学できていたのに、と彼女が不満を顕わにしていたのも、つい先日のことだ。
遠く離れた地にいる家族からの潤沢な支援を受けながら、面倒な雑事を他人に放り投げて送る、悠々自適の生活。富裕層の道楽だと妬まれるような生き方だが、しかしその実態は、彼女の最後の我儘くらい聞いてやりたいという親心故なのだろう。
「夜更かしは身体に障るものですよ」
「そんなの慣れっこ。趣味は月光浴だってこと、ファンには常識だよ? それとも、キャスターが千夜ちゃんの代わりに心配してくれる?」
「……私はちとせの保護者ではないのですが、そうせざるを得ないでしょうね」
「してくれるんだ。嬉しい」
キャスターは、マスターのことを「マスター」ではなく名前で呼ぶように命じられていた。少女を「主」と呼んで良い人物は、限られているらしい。
ちとせ。千歳(ちとせ)。千年に喩えられるほどの長寿の祈りが込められているのだろう名前を与えられた少女は、まだ十九歳であり。それなのに、余命が長くないのだという。
医療が専門外であるキャスターには詳しくわからないが。ちとせは今でこそ一見問題なく日常生活を送れているものの、若くして死ぬことになると予期されていた。現代の医療では治療法が発見されていない病に、その身体を蝕まれているために。
そういう運命だから仕方ないよね、と、なんてことはない事実を述べるように笑う。黒埼ちとせとは、そういう少女だった。
「ずっと家の中にいるの、退屈。お仕事もなくなっちゃたし……ね、夜のお散歩、行っちゃ駄目? 千夜ちゃんだってそのくらい許してくれるよ?」
「上目遣いで頼まれても、賛同はできません。むしろ、外出せずとも不自然に思われない環境が揃っていることが幸運ではないかと思っていただければ……」
「はいはい、わかってまーす」
終の住処のように与えられたことになっている今のちとせの生活には、通学状況以外にもいくつかの欠落があるのだという。
一つは、本来の同居人の不在。元の世界では交替制で家政婦を雇用しているのではなく、常に寝食を共にしている一人の少女に、使用人としての家事などの仕事を任せていたのだという。
しかし、この冬木における記憶を辿る限り、その少女は最初からちとせの人生の中に姿を見せていないことになっていた、らしい。
もう一つの欠落は、高校生活と並行して行っているはずの、芸能活動。先述の使用人の少女と共に、ちとせはアイドルと呼ばれる職業に就いていたのだが。
東京都から遠く離れた地方都市の冬木に芸能事務所は存在せず、また単身ではアイドルの活動に熱を上げる理由も無いという事情が重なってか、ちとせはそもそも芸能界へ足を踏み入れてさえいないことになっていた、らしい。
「今はただ、私に哨戒を任せていてください。尤も、私自身も使い魔に任せているだけですが」
「盗賊ちゃんたち、頑張ってくれてるんだね」
「ええ。予選が終わり、陣営の振り分けが為された後なら、味方と呼べる他の主従との接触を考えられますが……それまでは、籠城を基本とするべきです。剣を振るえない私達は、誰より慎重で、繊細でいなければいけません」
日々の彩りを剥奪され、過剰に生まれた可処分時間の殆どを、今後は聖杯戦争のために充てることを余儀なくされる環境。幸いにして、未だ血を見る事態には直面せずにいるが、それも時間の問題か。
この状況に対してきっと内心で抱いているはずの恐れを、或いは滾りを、今夜に至ってもちとせは表情に出さない。
「ふうん……うーん、楽しくないおしゃべり、もう終わろっか。昨日のお話の続き、聞かせて?」
「……かしこまりました」
いつものように、暇を持て余したお嬢さまらしく、ちとせはキャスターに請う。眠りにつくまでの気慰みに耳を傾ける、夜伽話を。
『魔術師』の名を冠しながら魔術の類など碌に扱えないキャスターの本懐である、『語り部』としての役目を、ちとせはキャスターに求める。
「『カルデアのマスター』との出会いまで話しましたね。今宵はその続き……『不夜城のアサシン』と組んで、彼との対決に臨む章です」
「はじまりはじまり。ぱちぱちぱち〜♪」
題材として指定されたのは、童話でも伝説でもなく、キャスター自身の身の上話であった。キャスターの人柄の理解という意図であることは、すぐに察しがついた。
既に世界中で語り継がれている生前の話を再話しようかとも思ったが、後味の悪い結末に辿り着いてしまうので、やめた。
その代わりに選んだのは、誰も知らない物語。ここではない世界のとある特異点で、自分であり自分ではないキャスターが体験した、愚かで哀れな『アガルタの女』の物語。
◆
“普通の少年である『カルデアのマスター』には、死の恐怖によって民を厳しく律する『不夜城のアサシン』の支配を認めることができませんでした”
死にたくない。
かつてのキャスターが無辜の民の虐殺を伴う蛮行に及んだ動機は、ただそれだけの、生物としてあまりに単純な欲求故だった。
神秘の秘匿を暴き、英霊召喚というシステムが破綻すれば、自分はもう二度と、現世へ喚ばれることはない。生涯の最終的な到達点である「死」の再来に、怯える必要もなくなる。
己の行為に一切の道徳的正義が伴わないことなど承知の上で、キャスターは、未来永劫付き纏う「死」への恐怖を取り除くための戦いに臨んだのだ。
結果を言えば、キャスターは敗北した。そしてまたサーヴァントの身で冬木に喚ばれ、再び「死」を迎えるまでの時間を過ごすに至っている。
奇しくも、死にたくないという願いを叶えるために聖杯の恩恵を求める、黒埼ちとせの従者として。
“自らの正義感を突き付けたことで、『不夜城のアサシン』は怒りを顕わにし、交渉は決裂してしまいます”
――死にたくないという願いを果たすなら、その形は永遠の命、不老不死か。
キャスターはそのように問いかけ、ちとせは否定した。自らが患う病を除去し、人並みの寿命を全うできる見込みさえ確立できれば良いのだという。
奇跡の使い方としては細やか過ぎて、たとえば救世や革新を志す者には大変に憤慨されるかもしれないとちとせ自身も呆れるものだが、仕方が無い。自力でどうにもならない不条理だけ解決できれば十分である、という条件を満たすならば、これが必然的な答えなのだ。
“『不夜城のキャスター』は、不思議な力で民を酷吏へと変えてしまいました。罪も無い人々を犠牲にできない『人類最後のマスター』には、効果的な戦法と言えるでしょう”
――迫る死に怯えて無為に過ごす人生を、ずっと歩み続けてきたのか。
これも、ちとせは否定した。本能的な死への忌避感は勿論常に付き纏っていたが、いつまでも己を悲観するより、いずれ迎える死への覚悟を固め、残された時間を有意義に使うことを決めたのだという。
唯一にして最大の心残りである、「あの子」の未来。家族を喪い、身寄りも生きる動機も無くなってしまった彼女のために、ちとせは使用人としての生き甲斐と居場所を与えた。
しかし、そんなものは一時凌ぎ。「あの子」にはより華やかで、充実した人生を送ってもらわなければ。ちとせが亡き後、絶望してちとせの後を追うという発想になど至らないほどに。
だから、ちとせは「あの子」と共に数々の戯れに興じた。芸能活動も、そのうちの一つとして始めたものでしかなかったのだという。
『シンデレラ』の童話から飛び出したような、大きなお城のような芸能事務所で、十人十色、いや、百人百色と言えるほどの賑やかな環境で、仲間達との交友に恵まれた。「あの子」の未来を託すには十分な体制があると、一時は安心したものだ。
“流石は人理を救った英雄と、その仲間達。勇士達の巧みな連携は、遂に『不夜城のアサシン』を追い詰めます”
誤算があった。
ちとせは「あの子」の満足感の有無を重視していたのだが、「あの子」の方こそ、ちとせ自身の満足感を重んじていたのだ。ちとせがアイドルを楽しめていないなら無意味だと、「あの子」は語った。 「あの子」を第一とした砕身という方針自体が、最初から誤っていた。ちとせは大層、失意の底に沈んだものだという。
それでも、ちとせは立ち上がった。仲間と、ファンと、プロデューサーに支えられながら。
痛くても、苦しくても。もっと多くの歌を、もっと多くの人の心へ残したいと願うようになった。他でもない、ちとせ自身の幸せへの願いだった。
“『カルデアのマスター』が語る言葉は『不夜城のアサシン』にも強欲であると呆れられるものですが……その志こそ、彼の英雄たる理由と言えるものなのかもしれません”
――戦争に勝つということは、他者の生き血を啜ること、命を踏み躙るということだ。人の希望となるアイドルとは、決して罪を犯してはならない立場なのではないか、仲間達も望まないのではないか。
そう問い掛けた時のキャスターの声は、揺れていたような気がする。
ちとせは語った。王道のアイドルならば、こんな身を焼く道は決して通らないが、自分は王道でなく覇道のアイドルなのだ。
だから、生還した後も、暗い表情などまるで晒さずに人々の光であろう……そのように、演じ抜いていこうと思う。 罪の重さに圧し潰されずに強く生き抜ける程の糧が、あの眩い舞台(スターライトステージ)の上に在るのだと。この世に歌を残せば残すほど、最期の時までこの身が心地良い充足感で満たされていくのだと、信じて。
だから、たとえ非道でも巡ってきた、ほんの少しの希望を逃しはしない……納得できなくてもいい、認めてくれなくたっていいよ。
“『不夜城のキャスター』は『カルデアのマスター』と共に、命からがら『ヘラクレス』から逃げることができたのでした。その後……”「…………」「……もう、寝てしまいましたか」
キャスターは、それ以上の追及をやめた。
死にたくないという欲求を掲げるちとせが、俯いていなかったから。
絶望に浸かり切ったかつてのキャスターと違い、未来の希望を信じていたから。
生きた証を残すことを至上の喜びとするちとせの言葉に、ケルトの勇士を思い出してしまったから。
ただ我が身の可愛さだけで生きたあの頃と違う形で、この命を全うしてみたい。召喚の時に抱いたキャスターの願いは、ちとせの幸せのために戦ってみたいという帰結に至ったのだ。
……その痩身の中で未だ渦巻いているはずの強かでない想いを、ちとせが決して吐き出さないようにしていることなど、キャスターは悟っていて。悪を為そうとしておきながら他者からの憐憫を受けようというのは、虫が良すぎる話だという自戒にも、身に覚えがあって。
そんなちとせに、少しでも穏やかな心境でいられるための時間を与えられたらとも、思っていた。
「ねえ、」
目を閉じたまま、ちとせが囁く。誰かへと問いかける。寝言なのかそうでないのか、答えは出すまい。
「……一緒に、呪われてくれる?」
ああ、なんて狡い子なのだと、キャスターは嘆かわしく思う。
犯す罪の深さを再考したところで、貴方の望みを今更断れやしないというのに。
「……ええ。貴方と共に、いかなる呪いも受け止めましょう。いつか必ず、祝福へ転じるのだと信じて」
囁くそれは、友となりたい少女への誓約(ゲッシュ)。
指をそっと、ちとせの顔へと伸ばして。その目元を、優しく拭って。寝息が立つのを、聞き届けた。
今夜の夜伽はお仕舞いだ。この物語の終着点まで、あと幾つの章が残っているだろうか。物語の締め括りをちとせへ聞かせ、ハッピーエンドであったか否かの判断を委ねられるのは、幾つの夜を越えた先だろうか。
その日を迎えるまで、死にたくないと願いながら。キャスターは夜の闇と光の中、じっと目を閉じた。今この瞬間、「今日」が無事に終わったのだと、幸福を噛み締めながら。
【クラス】
キャスター
【真名】
シェヘラザード@Fate/Grand Order
【属性】
秩序・中庸
【パラメーター】
筋力:E 耐久:D 敏捷:E 魔力:C 幸運:EX 宝具:EX
【クラススキル】
陣地作成:A++
自身にとって有利な陣地を作成できる。作成するのは自身の生存のための閨である。
【保有スキル】
語り手:EX
物語や伝説をいかに上手に口で語れるかを示すスキル。
書物に物語を書き記すような技術とはまったく別の、聞き手の気分や精神状態も加味して適切な語り口を選ぶ、即興性に特化した物語伝達能力。
おそらく落語家の英霊も持っている。
生存の閨:A
防御に特化した、「フェロモン」の亜種スキル。
「自身の魅力」「場の魅力」「行動の魅力」を状況に応じて最適な形で組み合わせる事により、彼女は「世界で最も自分が死ぬ確率の低い領域」を構築し運用する。
概念的なものであるが、それは彼女の工房にも等しい安全拠点とはまた別の「閨」である。
対英雄:A
彼女のこのスキルは「対王」に限定されている。
それゆえにAランクを得ている。
彼女の場合、特に「王と名がつく存在に対する生存力」を示すものとなっており、王の機嫌、性格、能力、主義、体調などを把握し、あらゆる手練手管を用いることで、どれだけ気紛れな王相手であっても、少なくとも殺されることはないように立ち回る事が出来る。
【宝具】
『千夜一夜物語(アルフ・ライラ・ワ・ライラ)』
ランク:EX 種別:対王宝具
「求めたのは次の夜。そしてまた……次の夜。これは私の言の葉が紡いだ、終わりなき願いの物語。 『千夜一夜物語』──今宵は、ここまで……ふふ」
由来から、王属性特攻を持つ。
厳密にはそうでなくとも、類する存在であれば、彼女の中では「王」と見做されている場合がある。
これは「彼女の語る物語」という固有結界である。
世界が信じるほどの圧倒的な存在感・現実感で語る事により、その「物語」を具現化させる。
千夜一夜物語内の登場人物や、道具や、精霊などを召喚する形となる。
本来の歴史的には正当な千夜一夜物語には存在せず、後世の創作・吸収されたとされるアラジン・アリババなどのエピソードも、英霊としての彼女の生存には有用なので使用できる。
重要なのは正しさではない。王が面白がるかどうかだ。
物語(宝具)の最後は当然、こう締めくくられる。
「―――という、お話だったのです」
【weapon】
あるとすれば、語り手としての技能そのもの
【人物背景】
入れ子構造の説話集である『千夜一夜物語』。
その最外枠の物語において語り手の役割を果たすのがシェヘラザードである。
ここにいる『彼女』が物語の登場人物であるのか、それともそのモデルとなった実在の人物であるかは───定かではない。
【サーヴァントとしての願い】
ちとせが次の夜を、そしてまた次の夜も迎えられる未来。
【マスター】
黒埼ちとせ@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
あと七十年は生きたい。
【weapon】
特に無し。
【能力・技能】
人を自然と魅了する存在感。
アイドルとして習得した技能。
長くは生きられないのだろう身体。
【人物背景】
痛みと苦しみに苛まれながら、人は生きていく。
それがこの世の常であって、普通だから。
ふふっ、笑っちゃう。私が人の当たり前を語るなんてね。
貴方が見せた光が本当に眩しくて、一度灰になっちゃったのかも。
時計の音に焦って、怯えて、恐れていた、いつかの私が。
そうして生まれ直したいまの私は……弱々しく見えるかな?
うん。貴方には、私の苦しみを見ていてほしい。
私の光を求める子たちには、したたかな姿を見せるから。
それが……貴方と私の呪いで、祝福だもの。
【方針】
生きて帰る。
生き続けるために、聖杯を獲って帰る。
【備考】
聖杯戦争内でのロールは、通信制高校に在宅で通っている高校生。
新都内のマンションで、家政婦を雇いながら生活している。
アイドルとしての活動は一切行っていない。
投下終了します。
もう一本投下します。
.
『……私は怖いのです。この旅の終わりが』
『辛い旅だったからこそ、終わった時に、もしも、それに酬いるだけの救いがないとしたら……そう思うと、怖ろしくて立ち上がれなかった。私は、無意味に終わるのが怖ろしいのです―――』
『ええ……そうであったらいい。いえ、貴女がそう信じてくれるのなら―――』
それは、彼の軌跡の、途中の一節。
銀の腕の騎士が『聖都』へ赴き、その命を懸けて今度こそ己が敬愛する王を殺さんとする決戦の、前夜の話。
◆
朝に早起きするのが、得意なわけではない。眠気を訴える身体を無理やり稼働させることに、長年の生活の中でもう慣れたというだけだ。
十二月の肌寒さの中、冷水で顔を洗って意識を覚醒させ、キッチンへ向かって二人分の朝食の準備を始める、いつものルーティン。
今朝行うそれに違いがあるとすれば、朝食が出来た後に同居人を起こしに行く必要がないこと。冬木の地で与えられた、一人暮らしの学生という身分と単身用の住居。その生活の中で、仕えるべき「お嬢さま」はいない。彼女と共に始めたはずのアイドルとしての業務も、最初から存在していない。
白雪千夜は、ただの一人の高校生。そういうことになっていた。
ただの、ではないか。聖杯戦争の主人(マスター)の一人であり、下僕(サーヴァント)を使役する身だ。使用人として生きてきた自分には、実に不釣り合いな話だと思うところだが。
「おはようございます、チヨ。私に朝食の用意を任せてもよかったのですよ?」
「お気になさらず。生活習慣を変えない方が、私には望ましいので」
厳密に言えば、生活環境も実際には二人での共同生活である。
千夜が起きてこない場合に備えてだろうか、冷蔵庫の中身を確認してレシピを練っていたらしいセイバーが、顔立ちに似合う柔和な笑みを千夜へと向ける。王の世話役を努めていたのだという彼からすれば、家政夫としての役目も意識する方が性に合うというところだろうか。
料理が雑であるという英国人のステレオタイプなイメージとは異なり、昨日の夕食に彼の作った鶏のソテーはなかなか程よい舌触りだった。戦中であれば多少の妥協と体力作り優先で魔物を丸焼きにするのも厭わないが、まともな食材が揃っているなら希望の味付けで普通に仕上げるくらいはできる、とのことだった。
何より驚いたのは、調理の手際だった。腕前がプロ級かどうかという比喩ではなく、彼の腕そのものの動きだ。硬質な銀色に輝く義手が、実に滑らかに駆動していることへの感嘆であった。
「ですが……そうですね。食後の紅茶は、だけセイバーにお任せできますか」
「お任せを。せっかく茶葉の品種が取り揃えられているので、昨日とはまた別のものにしてみましょう」
彼から申し出をされたので夕食を任せたのだが、思いの外良い成果があったものだった。
この街でセイバーとの一時の生活を続ける上で、平時のリズムを不用意に崩さないことは大事だが。彼の能力をいかに引き出すか、モチベーションを保たせるかと思考することにも、不慣れなりに向き合わねればいけない課題ということか。
武勲に乏しい身であると自嘲するセイバーは、しかし千夜などよりも余程秀でた騎士で、主に仕える従者としての先達であるというのに。
サーヴァントとしての原則に従い、セイバーが「マスター」と呼ぶのを訂正し、名前で呼ぶように求めたのも、そのような引け目故であった。
「チヨ。私はサーヴァントの身、食事は不要です。だから……二人分を作る必要は無いのですよ?」
「……これも習慣です」
円卓の騎士、ベディヴィエール。
彼を傷つけるかもしれない対話を、千夜はこれから行わなればいけない。
そのことを意識して、おそらく緊張感のようなものに身を委ねるうちに、二つの黄身がフライパンの中で固焼きになっていた。
◆
「セイバー。貴方の夢を見ました。おそらく、生前の貴方の姿の夢です」
カップの中のアップルティーが無くなる頃、千夜はセイバーへ、秘密の共有の事実を告げた。
その語り出しに、セイバーが僅かに目を見開き、しかしじっと耳を傾け始めるのを確かめて、言葉を続ける。
「夢の中の貴方は、死を怖れていた。いえ……無意味な死を怖れているのだと、少女に打ち明けていました」
あの夜の語らいが、数ある伝承の中のいずれにおける出来事なのか。彼を励ました盾の少女は何者なのか。そもそも、王を看取った騎士であると記されているはずの彼が、どうして王を討つための戦いに臨もうとしていたのか。
セイバーとして此処に現界する以前の彼は、本当に千夜の知る『アーサー王伝説』の中のベディヴィエールと同一の人物なのか。
「詳しいことは私には分かりませんし、今、敢えて問う気もありません」
ただ、聞かせてほしいことがあった。
「貴方は最期に、生きてきたことに意味を見出だせたのですか?」
「……ええ。私の生涯には、意味がありました」
淀みのない、断言であった。
「奇跡にも等しい出逢いを重ねた末、私の忠義は、望みは、確かに結実を迎えたのです」
生前のセイバーの旅路がいかなる終わりを迎えたのか、王を討ち果たすことは叶えられたのか。今の千夜には、到底知る由もないことだ。
しかし、陽光のように暖かな笑みを見れば、それを問い質すことは不必要な行いであるのだと、肌で感じられる気がした。
しかし、その光は、また曇ってしまうかもしれないのだ。
「……それで、貴方の人生が終わったら良かったのに」
それは、思わず口をついて出た、本心からの嘆きだった。
チヨ、と呼びかける怪訝そうなセイバーの声で、失言を自覚したが。これは必要な表明であると決めて、続きを述べることにした。
「セイバー。私も貴方も、聖杯へ懸ける望みがありません。どのような形であれ、私は無事に生還できればいい」
「ええ。そのための剣として、私は」
「無事に……一切、何も喪わずに。そんな戦は、ありますか?」
ああ、もう陰りが見えてしまった。
「……それは、チヨのご友人がこの戦争に巻き込まれている可能性への危惧ですか?」
千夜は、首を横に振った。
この冬木の街に、主である「お嬢さま」は側にいない。少女達の夢が集う城もない。少なくとも今知る限りで、千夜は既に知る誰かを喪うわけではない。
これから新たに誰かを知り、そして喪うのだ。
「志を同じくする者と手を取り合う、或いは道を違えた者と対決する。どんな形であれ、私はこれからこの街で、多くの出会いを経験するのでしょう。真摯で、高潔な願いを掲げる者とも」
出会いとは嬉しいものだと、そんな綺麗な、世間で飽きるほど訴えられてきた。別れは寂しいものだなどと、今更言われるまでもない。
邂逅と別離は、不可分だ。人と出会えば、必ず別れを迎える時が来る。 そして争いは、理不尽な断絶を次々と強いる。誰かに惹かれ、求められ、崇められる在り方をしていようと、千夜自身がその者に好感や敬意を抱こうと、構わずに。
「私が最後まで生き残れたとして、その時にはきっと、嫌気が差すほどに喪失を経験し……痛苦ばかりを、この身に刻んでいる」
元いた世界へ帰還して、この街での記憶を振り返った時に見えてくる光景は、清々しいだろうか。
赤黒く上塗りされた、美しかったはずの何かを思い出す気分は、如何なものが。
「こんな思いをするのなら、いっそ知りたくなかった、出会いたくなかった……などと思いながら、私はまた生きていくのでしょう」
セイバーが何かを言おうとして、飲み込む気配を感じた。犠牲が出ないように最善を尽くす、などといった努力目標の提示が、根本的な解決にはならないと、気付かないわけがあるまい。
いかに足掻こうと、人は死ぬ。取り零す命がある。その鉄則が決して変えられないことが、問題なのだ。
千夜の戦いは、ただいつも通りの主との日常へと戻るためのもの。セイバーは千夜に同伴したところで、その最果てで王が待っていてくれるわけでもない。 マイナスの積み重ねを減らすためだけの、始まった時点で既に敗北しているも同然の戦いに、千夜達は臨むのだ。
「……私と共に生き抜くことに、貴方は意味を見出だせるのか。そのことが、気がかりなのです」
世界はいつも、何かを奪っていく。光を否応なく見せつけて、最後には消えていく。暖を取ることの心地良さを覚えてしまった肉体がまた凍えさせられる、そんな不条理の繰り返し。
この世で生きることの惨さへの予感を、千夜は、じっと噛み締めていた。
「……チヨ。貴女は、喪失の痛みを知り、重んじ、故に嘆くことのできる人間なのですね」
同じ時間を共に咀嚼し、セイバーがまず伝えたのは、千夜のスタンスの再定義であった。
「それでも、貴女は既に経験した別れを、或いはこれから生み出される死を、最初から有り得なかったことにしようとは思わない。聖杯へ望めば、それも叶うのに」
「……歌が、」
衝動的に、口から出た単語だった。
「歌?」
「歌が、変わってしまうから」
「……ええと……?」
セイバーが困惑するのも無理はない。論の組み立てが飛躍し過ぎいると、自分でも思うほどだ。
しかし、いっそ良い機会かもしれない。いつか聴いてみたいものだ、などというお世辞を出会った頃に言っていたセイバーに、聴かせよう。
「セイバー」
「はい」
「今から歌います」
「は?」
◆
観客がセイバー一人だけの、即興のコンサートの開催だ。
歌は何よりも雄弁だという、世界中のミュージシャンが信じているだろう理屈を、信じているわけではないが。今は則ってみることにした。
選んだ曲は、千夜が主と共にデビューした始まりの曲ではない。あの日から沢山の経験を経て辿り着く、未だ人生の通過点。その場所から更に邁進するための力を、身に滾らせる曲だった。
三人のユニット曲をソロで歌うのだから、三人分のエネルギーが必要と言える。気後れなどするものか。歌が織り成す絆を信じる彼女達に、並び立つために。
抑え切れない衝動を、この歌に乗せ届けよう。世界を動かす程、叫べ。
凄烈な旋律(ドラスティックメロディ)で、嵐のように激しく、魂揺らせ。
◆
「…………素晴らしく、そして強い歌でした」
歌い終えて一息つくと同時に、セイバーからの熱い拍手が贈られる。
「慎ましい佇まいから受ける淑やかな印象を覆す圧、漲る活力を感じさせられます。チヨのこのような側面を見出せたことに、驚きです」
「……ありがとうございます。我ながら、腹立だしいことだとは思いますが」
「腹立だしい、ですか?」
「あいつの思い通りに磨かれていくことを、受け入れている私自身に、です」
絢爛な世界へと連れられた千夜を待ち構えていた、プロデューサー。『シンデレラ』の童話の中から出てきたような「魔法使いさん」、或いはそんなものを気取る不遜な「お前」。
奴は、千夜の思いにまるで構わずに、アイドルの眩しさを突き付けて。その光の中へ、仲間の輪とやらの中へ、千夜を放り込む。 奴は、千夜の嘆きも怒りも受け止めながら、別離の何たるかを知る千夜だからこその表現を期待する。
何を新たに知ることも掴むこともなく、温い停滞の中でそっと命を終えられたら、なんて願いが、奴のせいで最早叶わない。
「もう喪いたくない。肉体を焼き落とされるような感覚に苛まれたくないと。震えて哭く己を知って尚、私の身体は……心は。渇望することを、覚えてしまった」
私からこれ以上何も取り上げるな。いずれ奪われるようなものなど、これ以上私に与えるな……与えられたら、奪われたくなくなってしまうではないか。
どうしようもなく残酷な、ああ、クソったれな世界へ向けて、千夜は叫び、抗うのだ。
「怨めしく思っているくせに、光から目を背けられない。そんな浅ましく、不様な、今の私自身まで……私は、失くしたくない」
白雪の姓を残したまま与えられた、ひとまずの生きる意味と。
遠慮せずに意見を伝え合った後の仲間達と見上げた、あの星空と。
慣れてはいけないと思いながら受容した、掛けられる上着の暖かさと。
この身を打ち付ける暴力的な雨の中で、怒りの衝動のままに吠える感覚と。
それら全てを経て築き上げられた、白雪千夜のアイデンティティが、聖杯の奇跡とやらによって歪んでしまうのだとしたら。欠落など最初からなかったのだと安堵する、そんな悦楽を知らされたら。
「この先に待つのが、意味のある生涯であったと言える終わり方であるか、未だに信じられませんが」
……認められるものか。私の生きる証であるこの空虚を、誰にも、聖杯にも、奪わせてなるものか!
「私は、この私の声で、歌い続けてみたいのです」
静かに、それでも熱を乗せて思いの丈を言い切った時。
眼前のセイバーは、微笑んでいた。優しい暖かさが、そこにあった。
「……チヨ。貴方の騎士として喚ばれていることに、どのような意味があるのだろうかと、私は迷っていました」
もし、二度目の生があるとしたら。それは彼らと共に人理を護るための戦へと身を捧げるのだろうかと。そのように空想する瞬間も、あったかもしれないとのことだったが。
今この仮想の街で繰り広げられようとしている戦は、国も民も救わない。個人としての願いを聖杯へと託すための戦争で、セイバーはその駒として使われる身だった。
「ですが、今はその迷いも、悪いものではないのだと思えています」
「迷いが消えた、ではないのですね」
「はい……私の二度目の生は、チヨ。貴女の迷いに、苦しみに寄り添うためのものなのだと、今はそう思えてならないのです」
辛く苦しい旅の先には、きっと満足できる終わりがあるのだと。その可能性を千夜の隣で信じ続けるために、セイバーは、此処にいるのだ。
「チヨの、チヨだけの歌を一人でも多くの人へと届けられる、そのための舞台へと再び立たせるために、私は戦いましょう」
「…………ありがとうございます、セイバー」
その時のチヨの絢爛な姿を見ることまでは叶わないのが、名残惜しくはありますが。そう言って笑いながら眉を下げるセイバーを見て、千夜は思う。
最高の輝きをその身に秘めたアイドルは、素足のまま歌っても観衆に晴れ舞台を幻視させるものだという。千夜がそのレベルに達しているとは、到底思わないが。
セイバーとの別れの日を迎えるまでに歌を何度も聴かせるうちに、そんな偉業を成し遂げられたら、まあ、愉快かもしれない。
【クラス】
セイバー
【真名】
ベディヴィエール@Fate/Grand Order
【属性】
秩序・善
【パラメーター】
筋力:A 耐久:B 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:B 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:A
騎乗の才能。
Aランクでは幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を乗りこなせる。
【保有スキル】
軍略:C
多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。
自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。
ベディヴィエールは不朽の指揮官であると語られている。
沈着冷静:B
如何なる状況にあっても混乱せず、己の感情を殺して冷静に周囲を観察し、最適の戦術を導いてみせる。
精神系の効果への抵抗に対してプラス補正が与えられる。特に混乱や焦燥といった状態に対しては高い耐性を有し、たとえ数百数千の軍勢に単身で相手取ることになろうともベディヴィエールは決して惑わない。
執事的行為に対しても、このスキルは有効に働く。
守護の誓約:B
陣地防衛に対してプラス補正。
自陣メンバー全員の防御力を上昇させる。
【宝具】
『剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)』
ランク:C 種別:対人宝具
常時発動型の宝具。真名解放「一閃せよ、銀色の腕(デッドエンド・アガートラム)」によって対軍殲滅攻撃を行う。
輝ける銀の腕、アガートラム。
本来のそれは神の義腕である。
ケルト神話におけるダーナの戦神ヌァザが争乱のさなかに失った右腕の代替であり、医療と鍛冶と工芸の神ディアン・ケヒトによって生み出された神造兵装であるという。
ベディヴィエールの失われた右腕のために造られたこれは、無論、ヌァザの銀の腕ではない。
神話と同じ名を与える事で存在を裏打ちされた仮初めの宝具である。
その正体こそは―――返せなかった聖剣。
六章の物語によって聖剣の返却は成し遂げられた。
ゆえに、特例として英霊の座に登録された彼の右腕に在るのは聖剣そのものではない。
仮想聖剣。
かつてのように魂を削る宝具ではなく、サーヴァントとマスターの繋がりと絆によってこそ発動する、ある意味では最も新しき宝具の一つである。
【weapon】
長剣、および宝具『剣を摂れ、銀色の腕』
【人物背景】
アーサー王に仕えた円卓の騎士のひとり。
最初の円卓の騎士のメンバーであり、宮廷の執事役、王の世話役を務めた。
王の最期に立ち会った人物でもある。
【サーヴァントとしての願い】
チヨが幸せを信じて生きていく未来。
【マスター】
白雪千夜@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
生きていく。もう、光を見てしまったから。
【weapon】
特に無し。
【能力・技能】
使用人としてのスキル。
アイドルとして習得した技能。
僕(しもべ)のような生き方。
【人物背景】
お嬢さまは、私に意味をくれた。
いまでは大勢が、私に価値を見いだし、手を差し伸べる。
そして、喪うことを恐れる私を知ってなお、お前は肯定した。
……お前は、喪うことを否定しない。
その先へ進めと。この衣装を纏って生きろと。
もっとも残酷な道を私に突き付けてくる。
だから、この先も、探し続けるのでしょう。
愚かな私は、無様に、滑稽に。
私を縛るこの諦念に抗って……生きる意味を。
【方針】
生きて帰る。
聖杯は求めない。喪ったものは、決して戻らない。
【備考】
聖杯戦争内でのロールは、市内の穂群原学園に通っている高校生。
深山町内のアパートで一人暮らしをしている。
アイドルとしての活動は一切行っていない。
投下終了します。
感想と、候補作募集に関する大切なご連絡になります。
>The Ash
人の心を知った人外と人の生きざまを愛する人間の組み合わせ、なるほど……!と感嘆。
ちゃんと臨也→ウルキオラの感情はつまんね……という感じなのがまたらしくて良いですね。
とはいえ互いにとってこの舞台は願ってもないものだと言うのもあり、色々と楽しみな組み合わせです。ありがとうございました。
>天上天下★唯我独尊
釈迦のカリスマ性がどう作用するのかが楽しみな主従でした。
型月的に見るととんでもない補正を受けられてそうですね。
マスターの方もミステリアスで楽しみだなと思いました。ありがとうございました。
>ヘミソフィア
その時期から出てきたグエルはそりゃこうもなる……と納得。
そんな彼と向き合いつつ思案を重ねるルーデウスが大変らしくて好きでした。
グエルが仮に立ち直れればルーデウスは間違いなく超頼もしいサーヴァントだと思うので、期待したい所。ありがとうございました。
>Sweet little sistar
人類を滅ぼすのを目的にしたガンダムとは厄いですね。
そんなものを召喚したのがヴィヴィオというのもまた切ない。
能力的には非常に強力な主従なので恐ろしいですね……。ありがとうございました。
>この温もりを失わぬために
ウォッチャーヴィクトル、なるほど……なるほどなあ……と頷いてしまう奴。
そんな彼とセシリアの会話の暖かさとそして重みがなんともなんとも。
対話の末に戦神と聖女が手を結ぶのも、王道ながらやはり良いなと感じました。ありがとうございました。
>fate/I want someone to kill me
あのゲームって設定とかあったんだ……!? というのにまず驚きつつ。
そうなるとこの組み合わせにも符号が出てくるなと納得しました。
ゲーム性的に戦闘描写が大変映えそうですね。ありがとうございました。
>円頓裹 -u r mySPECIALZ-
本編後の真人の解釈と描写に含蓄を感じ、頷いてしまうなど。
龍之介と出会った彼がそういう結論になるのも二次創作ならではで面白いですね。
噛み合っているようで致命的にズレている二人、とはいえ他者にとっては本当に最悪。ありがとうございました。
>Life is HaRMONY
最後まで読むとシェヘラザードの人選に心底納得する、そんなお話でした。
語って聞かせる内容もまた原作を知っていると味わいが強く、思わず唸ってしまう構成。
生きたいというちとせの欲求、共有される呪い、大変に味わい深かったです。ありがとうございました。
>Myself
光を見て焦がされた少女がベディヴィエールを喚ぶの、あまりにも美しい。
お話の重要な点に“歌”が出てくるのも今の彼女らしいなと感じ、大変に好きです。
儚くも美しく、そしてどこか淡い希望のある、そんな読み味でした。ありがとうございました。
本日も投下ありがとうございました――と言いつつ、一つ緊急のご連絡になります。
当企画の候補作募集期限は「11/20 AM0:00」とお伝えしておりましたが、本業の関係でどうもその時間帯にPCの前に座れない可能性が高く、従って大変恐縮ですが期限の方を一日延長させていただきたいと思います。
つきましては「11/21 AM0:00」まで、作品募集の期限を延長します。
先駆者様の企画などを見た所、滑り込みや投下渋滞が起こるケースが多いようで、企画主が何らかのアナウンスや声明を出すことは企画の円滑な進行上不可欠だと判断しこのような決定に至りました。
書き手様・読者様に関しましては急な変更で振り回してしまい誠に申し訳ございません。
そこまで長い延長ではありませんが、もう一日追加で付き合っていただけると幸いです。何卒よろしくお願いいたします。
以前箱庭聖杯に投下したものを流用して投下します
とある路地裏に、赤い帽子を深く被り目元が見えない青年が居る。
彼の名はコナミ、デュエルモンスターズというカードゲームが世界を席巻している世界から来た男だ。
彼にとって元の世界の記憶を取り戻すことは、デュエルディスクからカードをドローする事より容易だった。
何故ならばこの世界にデュエルは無いからだ。
否、よく探せばあるのかもしれないが少なくとも元の世界ほど重要視されているものではないらしい。
コナミにとってデュエルは己の全てに等しい。
デュエルさえ出来るのならば、仲間を裏切ることになって構わない。世界がどうなろうと知ったことじゃない。
それほどの存在であるデュエルを奪われて、コナミは怒り心頭だった。
「……」
だが、どれほどの怒りに囚われていようと冷静さは決闘者にとって必須だ。
これに足を囚われて窮地に陥った決闘者はいくらでもいるのだから。
そんな事を考えながらコナミは、自分が持っている黒い羽根を見る。
一見ただの羽根にしか見えないが、その実何かただならぬ気配を彼は羽根に感じた。
その時点で捨てればよかったのだろうが、幸か不幸か彼が羽根を捨てるより先に、聖杯戦争に巻き込まれてしまった。
「……!?」
これからどうしたものか、と思案するコナミだが、何の前触れもなく突如目の前から強烈な光が発せられるかと思うと、中に人影が見える。
やがて光が消え、影しか見えなかった人間が明確に表れた。
その姿はコナミにとって衝撃的だった。
何故なら、自分と同じような赤い帽子を被った自分よりも小さな少年なのだから。
「……?」
だから思わずコナミは問う。サーヴァントなのか、と。
「……」
そして少年は答えた。自分はライダーのサーヴァントだと。
そしてライダーは名乗った。真名はレッドと。
「……?」
コナミは更に問う、サーヴァントとなり叶えたい願いは何だ?
「…………」
ライダーは答える、より強い敵と戦うためだと。
ライダーはある世界のとある地方でチャンピオンとなった。
だがチャンピオンとなったことで彼には対等に戦える相手がほぼ居なくなってしまった。
一方的な蹂躙など興味がない、満足のいく戦いがしたい。
幸い、彼を満足させる相手がこの世から完全に消え去ったわけではない。
否、だからこそ願うのだ。もっと強い敵を、未知なる敵をと。
その答えが聖杯戦争、たとえこの身がデータの偽物であろうとも満足のいく戦いが出来ればそれでいい。
だから聖杯などに興味はない、欲しいのならマスターに捧げよう。
そこまでライダーは語り、今度は逆にコナミに問う。
マスターの願いは何かと。
「……」
コナミは答えた、聖杯に叶えてほしい願いなど無いと。
だがもしあるとするならば、聖杯を破壊することだと。
コナミはこの世界に連れてこられて生きがい、否全てを失ったと言っても過言ではない。
だから元の世界に必ず帰る。例えどんな事をしてでもあのデュエルに満ち溢れた世界へ帰ると。
そしてもうこんな事が起きないように聖杯を必ず破壊すると。
そこまでコナミが語った後、ライダーは右手を差し出してきた。
そしてコナミもその意味に気づき、同じく右手を差し出す。
そして二人は握手をした。
それは強い絆の証、友情の握手だった。
【クラス】
ライダー
【真名】
レッド@ポケットモンスター 金・銀・クリスタル
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運A 宝具A
【属性】
中立・善
【クラススキル】
騎乗:A++
乗り物を乗りこなす能力。
A++ランクでは竜種も含めた全ての乗り物を乗りこなすことが出来る。
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。
【保有スキル】
攻撃無効:-(EX)
普段は機能していない。
だが、ライダーの宝具『ポケモンバトル』が展開されるとこのスキルが発動し、自身とマスター、そして相手マスターに対して直接攻撃が無効となる。
仕切り直し:E〜A
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
場に出ている『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』の力量が、相手より上回っているだけこのスキルのランクは上昇する。
ただし『ダメだ! しょうぶの さいちゅうに あいてに せなかは みせられない!』が発動している最中には使用できない。
カリスマ(使い魔):A
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。
ライダーのカリスマはポケモンなど使い魔限定。
ただし自身の使い魔のみならず、人から指揮権を委ねられただけの相手でも、彼の指揮下に入れば十全に従う。
8つのトレーナーバッジを持つ者に、従えられない使い魔は存在しない。
【宝具】
『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』
ランク:A 種別:対?宝具 レンジ:??? 最大補足:6
ライダーの手持ちポケモンにして、共に歩んだ仲間たち。
手持ちはピカチュウ・エーフィ・カビゴン・フシギバナ・リザードン・カメックスの6匹。
この宝具はいかなる攻撃を受けてもも死亡することは無い。ただし、一定以上のダメージを受けると「ひんし」となる。
そして、6匹全てが「ひんし」になるとライダーは聖杯戦争に敗北した扱いとなり消滅する。
「ひんし」を回復させるためにはライダーが一休み(ベッドなどで一定時間休息を取る)しなければならない。この間、ライダーは無防備となる。
また、この宝具が繰り出せる技にはわざポイント(以下PP)があり、繰り出せる回数が決まっている。
PPがなくなるとこの宝具は「わるあがき」しか出来なくなってしまう。
PPを回復させる場合もライダーは一休みしなければならない。
『ポケモンバトル』
ランク:C 種別:特殊宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダーの居た世界のルールが、聖杯戦争に際して宝具と化したもの。
戦意を持ったサーヴァントもしくはその使い魔がライダーの前に現れる、またはライダーが敵マスター、サーヴァントもしくは使い魔に勝負を挑むと発動する宝具。
この宝具が発動すると、ライダーは一体ずつしか『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』を繰り出せず、また相手も一体ずつしか戦闘できなくなる。
ただし、群体型に関しては一群で一体としてカウントされる。
また、この宝具が発動している間は自身、マスター及び相手マスターは自軍に対して指示、もしくは支援しか行う事が出来ず、相手に対する直接攻撃は禁止となる。
『ダメだ! しょうぶの さいちゅうに あいてに せなかは みせられない!』
ランク:C 種別:特殊宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダーの居た世界のルールが、聖杯戦争に際して宝具と化したもの。
マスターとサーヴァントが共に行動している相手に『ポケモンバトル』が発動すると、更に追加で発動する宝具。
この宝具が発動すると、お互いに勝敗が決するまで逃走できなくなる。これは逃走用のスキルや宝具も無効化する。
そして決着がついた際、勝利したマスターに敗北したマスターの所持金半分が強制的に移動する。
最後にサーヴァンが消滅したマスターは、マスター自身が最後に休息した場所の前に強制的に転移される。
ただし、サーヴァントが消滅する前にマスターの意志で降参することは可能。
この場合、所持金の移動は起こるものの強制的な転移は起こらない。
【weapon】
『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』
【人物背景】
カントー地方ポケモンリーグチャンピオン。
だが彼はその頂に立ったことで、満足な戦いを出来る相手が殆ど居なくなってしまった。
【サーヴァントとしての願い】
より強い相手と戦いたい。
【マスター】
コナミ@遊☆戯☆王ファイブディーズ タッグフォース6
【マスターとしての願い】
デュエル。
決闘者がいないのなら聖杯を破壊して、元の世界に帰る。
【weapon】
・デュエルモンスターズ
コナミの世界で最も普及しているカードゲーム、プロリーグも存在する。
またある時は、このカードゲームで世界の命運をかける事すらある。
コナミの使用デッキは一定しない。
何処に持っているのか謎なほど数多のカードを持ち、様々なデッキを使う。
・デュエルディスク
決闘者必須アイテム。
カードをこれに乗せる事で、ソリットビジョンによりカード映像を表示させる。
実は永久機関であるモーメントが内蔵されており、電力を心配する必要はない。
【能力・技能】
・決闘者
デュエルモンスターズに関してかなり高い腕前の持ち主。実は魂が一般人と比べて強いらしい。
・ディスティニードロー
デュエルに置いてコナミがピンチに陥ったとき、一度だけ予め決めておいたカードをドローすることができる。
・リアルファイト
悪党をデュエルディスクでボコれる。
決闘者必須能力の一つ。
【人物背景】
ただの決闘者。
彼を示すにはこの一言で十分。
強いて他の特徴を上げるなら、寝起きが悪い。
【方針】
聖杯を破壊する。
投下します
投下します
――賽は投げられた
ガイウス・ユリウス・カエサル
◆
冬木市、道行く人々は歩道を歩いていく。
今、視点の中心になっているこの無愛想な少年もその一人。
少年が見据えた先にあるのは、横断歩道、色は赤を示している。
次の瞬間だった、子供が無邪気に飛び出す、数十字メートル先から車が走ってくる。
誰も止められるものはいない、誰もがそう思った。
しかし、少年は腕を前に出し止めた、横断歩道に足をかけたところで踏みとどまり、車は何事もなく通り過ぎる。
「…気をつけろよ」
そう言い残し、少年、桐山和雄は自宅へと向かっていた。
◆
冬木の中心部より少し外れにあるボロアパート、そこが桐山の住処だった。
鍵を開け、部屋へと入る。
音ではテレビの音がなっていた。
「…ライダー」
「おぉ、帰ってきたか、マスター」
少し、背丈の大きく、赤いジャケットを着た青年、ライダーが振り向く。
「それで、収穫はあったか?」
「特に敵マスターとの接触はなかった、それとこれだ」
桐山が取り出したのは、時代劇のDVD、それを意気揚々とライダーは手に取る。
「うむ!買ってきてくれたか!ありがとうマスター!」
「あぁ…」
幼子のように、プレーヤーにDVDを入れる。
――これが――聖杯戦争か――
桐山は窓から空を見上げる、曇天が、太陽を覆っていた
◆
――時は、ライダーの召喚時まで遡る。
「じゃあ、お主は、別の日本から来たというのか」
「あぁ」
桐山の言う、別世界の日本、大東亜共和国とここ、電脳の冬木の日本は違っていた。
言論統制はなく、ネットを見れば首相への暴言も規制されず、街を行き交う人々は生き生きとしている。
これが自由かと、桐山は理解した、しかし、彼にはわからない、自由も、正義も、立ち位置も、生まれつきで、天才で。
「…お前は俺をどう導く…ライダー…」
「そうだなぁ…なら、お前を正義の味方にしよう」
「正義の…味方?」
お誂え向き、自分とは真逆の言葉だ、バトルロイヤルで殺し合いをし、何にも殺してきた自分にとっては、免罪符にすらならない。
「お主の心の闇、私にはわからぬが、晴らすなら、善行を積み重ねる、これが1番じゃ!」
ライダーの力強い言葉に、何が押された、ポッケに手を入れ、コインを手に当てる。
――表は正義の味方に
――裏は、殺しを厭わない、殺人鬼に。
――賽は投げられた。
◆
火の鳥が、空を駆ける、人を一人乗せて、駆ける。
――賽に従い、勇者と共に、空を駆ける。
鋼鉄を身にまとい、空を――
【クラス】
ライダー
【真名】
火鳥勇太郎(ファイバード)@太陽の勇者ファイバード
【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運C 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせる。
特に、後述の宝具と合体した際には、更に力を発揮する。
【クラススキル】
アンドロイド:B
人工的に作られた生命であることを示すスキル。
火鳥は正しくは「形のない生命体が、人形機械に乗り移ったもの」になるのだが、こちらでの活動としての記録が多く、このスキルがついた。
知識吸収:C+
地球外生命体であるファイバードは、地球の文化をよく知らない、そのため、活発的に知識を吸収していく。
何事にも取り組めるが、勘違いからか悪事まがいに手を染める可能性もある。
【宝具】
『太陽の勇者(ファイバード及び武装合体ファイバード)』
ランク:B 種別:対城宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
天野博士開発の戦闘機、ファイアージェットと火鳥勇太郎の合体した姿、ファイバードと支援機、フレイムブラスターとの合体形態、武装合体ファイバードへと変形する。
高い攻撃力と耐久力を持ち、戦闘を安定して行える。
『宇宙駆ける勇者(グランバード及びジェット合体グランバード)』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
発動条件 「太陽の勇者」が一時使用不可になる
ファイアージェットとフレイムブラスターが使用不可になった際、変わりに新機体、ファイアーシャトルが合体した形態、グランバード及び支援機、ブラスタージェットと合体した形態、ジェット合体グランバードへと変形する。
ファイバードの時より武装強化が施され、更に安定して宇宙でも活動できるようになった。
『偉大なる太陽の勇者(グレートファイバード)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
発動条件「太陽の勇者」及び「宇宙駆ける勇者」がどちらも使用可能な状態になる。
ファイバードの最終形態、それは、すべてを凌駕する。
【人物背景】
宇宙警備隊より来た、宇宙人。
天野博士の開発したアンドロイド、火鳥勇太郎に乗り込み、そのままその名を与えられる。
同時期に活動を始めた仲間たちと共に、地球を侵略しにきたマイナスエネルギー生命体、ドライアスを捕まえに行く。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯はいらない、別な方法でケンタ達のもとへ帰る
【マスター】
桐山和雄@バトル・ロワイアル(漫画版)
【マスターとしての願い】
無い
【能力・技能】
運動、勉学、芸術、更には初めて扱う銃器でさえも、天才レベルの技能で操る
【人物背景】
――感情のない、大量殺人者(マーダー)
【方針】
ライダーの助言とコイントスに従い、「正義の味方」に殉じる。
投下終了です
投下します
――ずっと忘れるな
■
屍があった。
うつ伏せに壊れた魔術師だった燃え盛る成れの果てが。
蒼炎に焼かれ朽ち果てようとしている骸から、つまらなく背を向け、息を吐く。
「と、まあ。こんな所か」
それは、少年の姿をした怪物だった。
屍を燃やす炎の色と同じ瞳をした英霊だった。
本来ならば英霊のカタチに収まらぬ"それは"、己が要石(マスター)である青年に目を向ける。
「まあ俺がこういう奴だって事だ」
単刀直入に言えってしまえば、自分という英霊のスタンスの説明だ。
襲いかかってきた英霊とその主たる魔術師を、一蹴した。燃やした。
殺した、と言うやつだが。この行為の意味はそういうことではない。
「要するに、お前のスタンスだとか知ったこっちゃないってことさ」
傍若無人、天我独尊。己以外の事など知ったこっちゃない。
だが、呼ばれた以上、契約は契約だ。
しかし、勝手に呼び出された挙げ句マスターがこれとは如何ほどか。
不快、というわけではないのだが、余りいい気分ではない。
最悪、マスターを殺してさっさと帰る、なんてのも考えた。
「それでも、俺とこの聖杯戦争(バカ騒ぎ)を戦うと大口叩ける理由があるのか?」
詰まる所、善人ではなく悪人、要するに外道の中の外道と言えなくもない少年のカタチをした怪物が。
現状ハズレと認識しているマスターに対して、仮に反りが合わないとして。
それでもその瞳に宿る光を見過ごさなかった怪物にとって、それだけが気になっていたことなのだから。
怪物は、その瞳の持ち主を殺す気にはなれなかったのだから。
「それで――改めて聞くけど、お前は、何だ?」
故に、怪物は問う。
マスターの価値を、その意思を。
曲がりなりにも自分を使い魔として召喚した人物。
少なくともそれを、この目で確かめんが為。
「俺は、呪術師だ。それ以外の何者でもない」
マスターが、怪物を見た。
怪物を見据えるその眼の奥には闇があった。淀んだ闇の空。
「確かに、俺じゃあんたのマスターには力不足かもしれない」
マスターには、呪術師・虎杖悠仁は分かっていた。
眼の前の少年は呪霊どころか英霊という枠組みで抑えられるような代物ではない。
なにかの気まぐれで召喚され、何故かここに呼ばれただけの領域外のなにかに過ぎない。
「素直だな」
「素直じゃなくて、何度も思い知らされた事実だよ。……俺が弱いせいで、人がいっぱい死んだ」
「お前は強いから人を助けろ」
かつて虎杖悠仁が生前の祖父に言われた言葉である。
何の因果か最強の呪いである宿儺の指を食してしまい、そのまま呪術師となって、呪いを祓い続けて。
結果、渋谷で大虐殺を引き起こした。
それは虎杖悠仁ではなくその内に宿っていた両面宿儺の所業であるとしても。
虎杖悠仁はそれを他人がやったと思わず、自分のせいだと背負い込んだ。
「誰かが俺のことを悪くないと言ってくれても、俺は俺自身のことが許せない」
それは、正しく業火に焼かれると同義の旅路だ。
背負わなくても良いものを、自分の体がやったことだと背負い込み。
罪も罰も抱え込んで、言い訳すらせず苦しみ続ける。
「だったら俺は、意味も理由もいらない。俺は死ぬまで、呪いを祓い続ける」
だからもう、逃げないと誓ったのだ。
それは時には死者への冒涜だとしても、託され背負ったものに報いるために。
その答えが見つからずとも、無限の果てにそれを探すことになって。
「――ただの歯車で、構わない。できるだけ多くの人を助け、呪いを祓う」
ただの歯車。部品(パーツ)の一つ。少年は数多の呪いに揉まれ塗れながら一つの答えを握りしめた。
「自分が幸せになろうだなんて、もう思わない。だけどせめて、自分が選んだ生き様で後悔なんてしたくはない」
闇を祓いながら、戯言など吐き捨てて。
先の見えぬ永遠をあるき続けるとしても。
いつか命を終えるその刻に、答えへ辿り着くまで。
呪術師に悔いのある死は一部例外を除いてありえない。
虎杖悠仁はそれを知った上で、その生き様で後悔なんてしたくはなかった、もう二度と。
その選択(呪い)を、命尽きる日が訪れるまで未来永劫背負い続けると。
「……ああ、そうかよ」
その少年は、怪物は、何か納得したのような、低い声で呟く。
嗚呼そうか、そういうやつかと。
虎杖悠仁の罪は選択の余地すらなかった代物、選択以前の強制されたものだろう。
だが、それを己の罪として背負うことを選択した。
それは、単純明快な自己満足なのだろうか。いや、この少年に限ってはそうではないと言うだろう。
間違いなく、虎杖悠仁の言った通りに歯車だろう。ただ意味も理由もなく、そう決めた事の為に動き続ける。
錆付き壊れるその日まで、ただ動き続ける。
だが、虎杖悠仁の秘めたそれはただの部品には似合わぬ"熱"があった。
昏い瞳の奥に一点の光があった。それはか細いながらも、はっきりと輝いているものだった。
――あいつと同じ目だった。怪物は回顧する。
絶望の中で、一点の光に向かい突き進む。
こいつは"あいつ"と方向性は違えどその手の類か、と。
「……昔話だ、俺を殺せるはずなのに殺しはしなかったガキがいた。お前よりも背の小さな、な」
そう虎杖に語る怪物は、心なしか微笑んでいるようだった。
なんともつまらなく、頬が緩んでしまいそうな思い出話。
「そしたらそいつは、「そうかもしれないけど本当に正しいのかわからないから行きてる限り考え続ける」ってほざいたさ」
『今度君に会う時はもっと マシな答えが返せるように』
あの義眼保持者は、かの崩落の再現を乗り越え、自分に向けてそう告げた。
自分(ぜつぼう)から、絶望に身を委ねた俺(ブラック)を取り返した。
「くだらなくて、面白い話だろ」
「……」
「お前とある意味同じだよ」
そんな数万ページに及ぶ書籍の本の一ページに満たないような思い出を、少年はほんの僅かばかり愉快そうに。
それは、方向性の差異の程度だ。あいつが希望を諦めなかった。こいつは存在しないかもしれない輝きにたどり着くまで歩き続ける。
最も、このマスターは、虎杖悠仁という男は誘蛾灯に向かおうとする蛾に等しいとして、それは自棄というわけでもない一切の濁りのない覚悟だろう。
「あるはずのないかもしれない希望に辿り着こうとしてる」
「呪いを祓い続けた先の終わりがそうだってなら、お前の言う通りかもしれない」
それを肯定も否定もしない。
未来だなんて曖昧なものは誰にも分からない、それは超越者たる少年にして怪物も同じ。
中には未来を視る怪物もいるにもいるかも知れないが、それが確約された未来を約束できる保証はない。
その悔いのない生き様の果てで、たどり着く何かが希望の光なのか、絶望の闇なのか。
「でも、その答えは役目を終わった後にしかわからないだろ。尚更止まる理由にならねぇよ」
「……だろうな」
マスターのことは理解した。どうしようもない大馬鹿野郎だ。
方向性は違えど、あのガキやあいつと同類だと。
背負い込む必要のないものを背負い込んだ難儀な人間だ。
それでいてまだ光を無くしていないのだから、つくづく人間という生き物は。
少年は、怪物は、それを己の手で摘み取ることは出来なかった。
これは、そういう宿痾に苛まれる存在だから。
「フォーリナー」
「は?」
「……俺に充てがわれたクラスだよ。まあ、そういうことだ」
お前をマスターだと認めてやるよ、という遠回しの承認だ。
少なくとも、こいつは退屈しない。
こんな熱を、光を帯びた奴を歯車だと、ただの部品だとは認識しない。
認めてやる、お前という存在だけで、自分がこの馬鹿騒ぎで遊ぶ価値が出来た。
「さっきも言った通りお前のスタンスなんぞ俺は知っちゃこっちゃ無い。だから俺は俺で勝手にやらせてもらう」
「……」
「だが、お前は面白い。だから死なない程度には面倒を見てやるし、お前のやることは黙認してやる」
虎杖悠仁が、少年を見る。
少なくとも少年の最終方針は虎杖悠仁の思想と善心から真っ向から反する崩壊(しゅうえん)だ。
けれど、それでも認め、その行動を黙認するというのはあくまで少年の遊び心。
価値が無くなれば、その時はその時だ。
だがもし仮に、舞台の最終幕にこのマスターが立つことが出来たのなら。
「だったらフォーリナー、俺は俺の好きにやらせてもらう。お前と同じく、人を助けて、呪いを祓って、こんな下らないこと終わらせる」
「そうか、だったら精々頑張ることだな。もし終わりまで生き残れたら、その時は俺が直々に相手してやる」
最も、お前がやられても次のお前が俺の相手をするだろうがな、と付け加えて。
なけなしのチップ、カードは癖こそあれど上等、プレイヤーはマスター。バンカーは自分。
賭けに乗った以上、勝負がつくまでは決して降りられない。
「……お前は、一体何なんだ。宿儺と、似ているようで何か違う」
最後まで抗って見せろと言いたげに、不敵に口を歪ませるフォーリナーに対し、虎杖悠仁は一つ問いを投げかける。
これは人間がどうなろうとどっちでもいい類の存在だろう。それこそ不条理の体現者そのもの。
理由もなく人を傷つける、そのような存在にも見えるのに。その瞳は、まるで求めているようにも思えて。
「お前は、何を求めてるんだ」
「――それはお前自身の頭で考えてみるんだな」
それ以上、この場で怪物は虎杖悠仁に内面を話さなかった。
それはまるでそれっきりだと言わんばかりに、答え合わせは約束の時まで取っておくと遮ったかのように。
少なくとも、フォーリナーが虎杖悠仁を多少は認めたというのは、確かな事実であった。
■
現実と異界が交わる都市、ヘルサレムズ・ロットにて。
かつて大崩落と呼ばれる、都市の全てが崩れ行くその現象に魅入られたものがいた。
それは絶望そのものであった。
曰く、古代より人間を観察し続けたもの。
曰く、気まぐれに人間に取り憑き、絶望を齎してきたもの。
曰く、異界より来た領域外の超越者たる十三王が一人。
曰く、外界からの観察者(ウォッチマン)。
だが、絶望はその在り方故に己が存在にすら絶望している。
故に、彼は無意識に希望を求める。
一切の闇の中で、それでも尚、絶望に抗い光に向かって突き進むことを辞めない人間の、そのあくなき在り方。
ブラック、シャイニング、フォーレン、悪魔、ブルー。彼の者は様々な名を持つが。
それに決まった名は存在しない。故に英霊としては事実真名が存在しないに等しいが。
敢えて彼の名乗った一つからふさわしい名を呼ぶとするならば。
――絶望王、それこそこの異界より来たりし降臨者(フォーリナー)にふさわしい名であろう。
【クラス】
フォーリナー
【真名】
絶望王▓▓▓▓▓▓@血界戦線(アニメ版)
【属性】
混沌・中立
【ステータス】
筋力A++ 耐久C 敏捷A+ 魔力EX 幸運C 宝具EX
【クラススキル】
単独顕現:E+++(EX)
単体で現世に現れるスキル。単独行動のウルトラ上位版。
遠い昔より人々を観察し続けた、人類の領域を超越するフォーリナーの存在証明。既存人類の科学・魔術ではフォーリナーの本体を滅ぼすことは不可能。即死・魅了・時間操作系に対しての耐性を備える。
このスキルを持つものは、すなわち獣の―――
領域外の生命:EX
外なる宇宙、虚空からの降臨者。人類の領域を遥かに超えた場所からの来訪者。
狂気:B
不安と恐怖。調和と摂理からの逸脱。人を狂気に陥れる絶望たる彼は、その気になれば言葉巧みに人を絶望へと陥れる。
【保有スキル】
PSI:A+
フォーリナーがかつて憑依していたブラックという人物の固有能力。
念動力や空間移動能力が主で、複合させることで任意の場所に遠隔で攻撃することが可能。
フォーリナーはそのPSI能力をブラックが使用していた時以上の出力で行使できるが、体の縛りもあって必要以上の出力はボディが保たない。
十三王:EX
ヘルサレムズ・ロットにてその名を知られる埒外の超越存在、その内でとりわけ厄介とされる13人の総称。このスキルを保有するものはA++ランク相応の魔術と対魔力スキルを得る。
そもそもフォーリナー自身が保有してる魔力の供給源が別次元上に位置するため、事実上魔力切れは起こさない。
ただしフォーリナーの今の身体は人間相応、前述の通り埒外の出力は容易に出せないし、器が壊れれば退場は決定される。
■■:-
フォーリナーは絶望を招き寄せるものでありながら、意識的・無意識的に光や希望と言ったものを求めている。
人間が絶望の末に破滅するのを憑依して促し、観察する存在たるフォーリナーはそうした世界(おのれ)の在り方と言う絶望感に囚われており、絶望の中それに抗って光へと突き進む人間を望んでいる。
その為、そういう類の人間は自らの手で殺すことは出来ない。
【宝具】
『嗚呼、我が偉景たる大崩壊(ハロー・ワールド・シャイニング)』
ランク:EX 種別:対界・対結界宝具 レンジ:100〜 最大補足:∞
かつて絶望王を魅了した大崩落、それを再現しようとした彼の所業の再現。世界を崩(こわ)す固有結界。
発動に長い準備期間を必要とするが、一度発動すれば絶望王を潰さない限りは持続し拡大し続けるラスト・カウントダウン。
結界内は永遠の虚(うろ)の真上の来たかの如く、汎ゆる物理現象を無視した重力変動の嵐に見舞われ、最終的に行き着く先は汎ゆる全ての崩壊――すなわち世界の終わり。
ちなみにこれ自体に絶望王は関与はしていないが、結界内の対魔力持ち(及び英霊とのパスが繋がっているマスター)以外の有象無象はグールに変貌し無差別に周囲を襲い始める。
「エンタメにゾンビ必須ゥ〜でしょ?」というのは彼の宝具に干渉した堕落王の言葉。マジで何やってんだあいつ。
【Weapon】
ブラックのPSI能力+自身の能力
【人物背景】
「さあ、俺の名前を言ってみろ」
絶望そのものでありながら、己にすら絶望し、今ある世界を崩壊させた先の答えを求めた超越者。
絶望でありながら、希望に手を伸ばす求道者。
【サーヴァントとしての願い】
「大崩落(おわり)」の続きをまた始めよう
【マスター】
虎杖悠仁@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
聖杯戦争を終わらせる。
【能力・技能】
呪力に依らない、常人を遥かに超える身体能力
【人物背景】
かつて両面宿儺の器。最もその宿儺はすでに彼の友人へと依代を変えた。
それを含めても彼の謎は多い。
伏黒恵を乗っ取った宿儺に殴り飛ばされた直後からの参戦
【方針】
できる限り人は助ける。
投下終了します
投下します
真夜中の冬木市。
そこで行われていたのは、サーヴァント同士の闘い。
「スリルスリル!今日の星占いは1位!外道な主従を殺せば運気が上がるでしょう!」
ビルの中を駆け巡りながら、相手を拳銃で撃ち落としていく。
まるで見た目は西洋の悪魔の様な見た目をしたサーヴァントに、手下は次々と落とされていく。
眼の前で構えるのはキャスターのサーヴァント、冬木市の住民を生贄にした、魔物召喚、それを実行に移そうとした時に、この男が現れた。
もちろん、ただ黙ってみてるわけではない、魔術でこちらも応戦していく。
――しかし、奴は倒れない、肩がやけどを負うが、腹部に魔力弾を打ち込まれようが。
「遂に来た!俺の獲物きた!今日は更に外道に噛みつくと更に運気アップ!」
掻い潜り、キャスターの首元へ噛みつきを仕掛ける。
キャスターは悶絶しながら突き放そうとするが、離れない。
「あ、これもどーぞ!」
ゼロ距離で、拳銃が撃ち込まれられる、キャスターは限界が来て、消滅していく。
「お、俺のサーヴァントが…」
奥に居た敵マスターが膝を落としながら出てくる。
「あ、もうひとりの外道発見!鉛玉ドーゾ!」
廃ビルに、銃声が聞こえた。
◆
「お、終わった〜?」
「あ、マスター、終わった終わった」
震えながら、バーサーカー、須永陽咲也へと近づいて行く、そのマスター。
ちょんまげ、和装、古風に感じられるあらゆる可能性を秘めた男。
この男、なんと第六天魔王、織田信長御本人である、そっくりさんでも、扮した偽物でもない、本物である。
「俺もすごいなーマスターが信長だなんて、前世で徳積んだからかな?」
「徳積むような奴はこんな戦い方しねぇよ…どっちかって言うと悪魔だよ…」
下にはキャスターのマスターの従えてた半グレ共が横たわっていた。
「そうだった思い出した!俺聖人君子とデビルマンの生まれ変わりだったんだ!」
「絶対そんな相反する属性同時持ってる人はいないよ!?絶対違うよ!?」
廃ビルに、ツッコミが響いていく。
「んでんで、次どうしますかー?家帰って寝ますかー?」
「おう…帰って寝るか…」
そう行って、二人は廃ビルを後にした。
◆
(なんじゃろうな…この世界は…)
度重なる歴史のループのさなか、ここへときた。
あっちでの記憶は…なんか黒い羽に触った気がする。
(クマのやつも出てこんし…何がなんやら…)
疑問に満ち溢れながら、信長は寝た。
本能寺をループしていたときとは違う、動乱へと巻き込まれていくことになる。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
須永陽咲也@ヒューマンバグ大学
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷C+ 魔力E 幸運C 宝具B
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
狂化:E
〜のパラメーターをランクアップさせるが、複雑な思考が難しくなる。
【保有スキル】
直感:D
戦闘時、つねに自身にとって有利な展開を”感じ取る”能力。
攻撃をある程度は予見することができる。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
仁義:C
人としての道理を守り、それを準ずるものに課せられるスキル。
悪・混沌の敵相手にステータスを上げるが、逆に自身が「仁義外れ」な行為をするとステータスが下がる
【宝具】
『私が悪魔です、本物です』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜20m 最大捕捉:30人
須永本人が、カチコミの際に行った口上がそのまま宝具になったスキル。
相手の仕切り直しをBまで無効化し、銃もしくは噛みつきのよる攻撃を行う。
【weapon】
噛みつき、拳銃
【人物背景】
天羽組に所属する、推定40台のヤクザ
年齢とは裏腹の若々しい言動、及び見た目が上げられる。
星占いを深く信じており、よく話の場で口にする。
当初は愚連隊だっだが、あることをきっかけに天羽組へ加入する。
【サーヴァントとしての願い】
今んとこは特にねぇ
【マスター】
織田信長@何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?
【マスターとしての願い】
自身の運命を変える
【能力・技能】
謎の妖精から与えられた繰り返しの力があるが、ここでは使えない。
【人物背景】
その人物は第六天魔王として戦国時代に名を轟かした織田信長その人。
謎の妖精に導かれ、1982年の本能寺からの脱出を目指している。
投下終了です
投下します
「ああもう、何なのよ……!なんで私ばかりこんなことに……!レフ!応答しなさいよ、レフ!してちょうだい……お願いだから……」
街の往来で少女が一人、腕に着けた何かを通じて誰かを呼びかけていた。
少女自身、その行動をすでに何度も試してもはや徒労だということは理解していた。
していたのだが、それとこれとは話が別だ。
もしかしたら今度こそ繋がるのでは。信頼する右腕の声が聞こえてくるのではと期待して通信を幾度も試みる。
そしてその希望が、何度目かの絶望に転じる。
彼女もようやくそれを受け入れたのか、唇をかみしめ、涙をこらえるようにして周囲を見渡し始める。
今自分がおかれた状況を把握しようと、植え付けられた知識も活用して頭脳を巡らせる。
思考を走らせることに集中して、助けが来ないという現実から目をそらすように。
「ここが特異点F……?この聖杯戦争が、狂った歴史の原因なの?」
日本の地方都市、冬木。
人類絶滅の原因と推定し、レイシフトを試みた地に今オルガマリーは立っていた。
本来ならば彼女はレイシフトを行う予定ではなかった……そもそもマスター適性を持たない彼女はレイシフトできるはずがなかった。
しかし見覚えのない黒い羽とともに、本来いるはずのカルデアからこの冬木へと放り出されていたのだ。
「ホント何なのよ……コレも……この事態も……え?」
現状を考察する数少ない材料である羽を手にしていると、虚空から手の中に新たな物品が突如として現れた。
そして自らの魔力がその本へと流れていくのを感じる。
「赤い、本……?」
魔導書の類か。魔力を持っていくということは、あまりないがインテリジェンス・ブックの類だろうかなどの思考がオルガマリーの脳裏に走る。
その思考以上の早さで、もう一つ別のものも召喚されていた。
雷のように金色に輝く髪をした少年が、オルガマリーに呼びかける。
「サーヴァント、アーチャー!我が名はガッシュ・ベル!問おう、おまえが私のマスターだな!?」
突然の召還にオルガマリーは目を見開いて驚く。
対するガッシュは座で流行りの文句を口にできてご満悦のようで、年相応の少年のように映る。
だがオルガマリーの目に映るステータスが、目の前にいるのがただの少年ではなくサーヴァントなのだと知らしめる。
そしてそれは同時に望んでも手にできないはずの力をオルガマリーが得たことも教えてくれる。
「私がマスターに……!?」
その才能はないはずだった。
その一点においてだけは明確に、キリシュタリア・ヴォーダイムも含むカルデアの魔術師に自分は劣っているはずだった。
だが目の前のサーヴァントと、右手に宿った令呪がその現実を覆したのだ。
(レフ……!見て頂戴、これなら私、ヴォーダイムにもマシュにも負けないわよ……!マスターとして、私も……)
令呪を掲げると、劣等感が転じた昏い喜びが胸中を満たすが、ふと疑問を覚える。
サーヴァントの前に召喚されていた本はなんだ?そちらと自分はパスを結んでいなかったか?
その答えを探るべく魔術回路を走査し、レイラインを探る。
思った通り、オルガマリーのパスは本へと通じており、そしてその本を介してアーチャー、ガッシュ・ベルとの契約は成っていた。
「……アーチャー、その本は何?サーヴァントとならともかく、何故私はその本に魔力を供給しているの?」
押しつけのような契約も、人理の影法師である境界記録帯のような上位概念ならば許そう。レオナルド・ダ・ヴィンチしかり、マシュ・キリエライトの中の何者かしかり英霊にはある程度敬意をもって接しなければならないのも承知の上だ。
だが得体のしれない魔導書にくれてやるほど、アニムスフィアの魔力を安売りするつもりはない。
そんなプライドの軋みと。
まさか自分は、結局サーヴァントとまともな契約をできていないのではないかという悪い予感がオルガマリーを苛んだ。
その答えがガッシュから齎される。
「おお、優秀な魔術師なのだなマスターは!その通り、私のパートナーはこの本を通じて力を引き出すのだ。魔力がなくてもマスター適性がなくても使いこなせる優れものだぞ、私は!」
予感は当たった。
結局オルガマリー・アニムスフィアはまともなサーヴァントとの契約は成らないようだ。
一瞬覚えた高揚が転じてどん底まで落ち込んだような気になる。
優秀、などと子供の口から慰められたようなのも癇に障る。
(こん、なものッ!)
苛立ちに任せて手の中の本をガッシュに叩きつけようと振りかぶる。
が。
ぐぅ〜、とマヌケな腹の音をガッシュが鳴らして空中で手が止まった。
「すまぬ。ところでマスター、ブリはあるか?人間界のブリは魔界のとは違った味わいがあって楽しみにしていたのだ。自己紹介や親睦もかねて食事にせぬか?」
空気をまるで読まない発言にオルガマリーの苛立ちはさらに増す。
言葉も出ない彼女の様子をさすがに妙だと思ったか、顔を覗き込んでガッシュもそこからは慎重に言葉を選び始めた。
「まさかマスター…………」
心配そうな様子でガッシュが言の葉を紡ぐ。
「ブリを食べたことがないのか?あ!そういえば清磨の父上が言うにはイギリスで食事には期待しない方がいいと……生魚を食べるのは日本含め世界でも珍しいと……マスターはイギリスの人なのか?食に拘りはないタイプか!?」
ガッシュ的には考えたつもりの発言だったが、結局デリカシーの足りていない発言でついにオルガマリーの怒髪が天を衝いた。
「うるっさいわね!!確かにイギリス人だけどあなたに食についてどうこういわれるほど落ちぶれちゃいないわよ!!サーヴァントに食事は必要ないでしょう!」
「む、何を言うか!食べることは生きることだぞ!?」
「サーヴァントは生きてないでしょうが!」
「…いや、生きた状態で召喚されるサーヴァントもいる!人間界の外側から召喚されるものとか、伝説に聞く山の霊廟の翁殿とか生死の狭間を超えておる!」
「今一瞬詰まったわね?そういう例はあるにしても、あなたはそうじゃないんでしょう!?」
息切れするほどに怒鳴りあって、二人そろって少しインターバルに入る。
そしてまだ怒鳴り続けようとするオルガマリーだったが、ガッシュがそれを手で制して発言を繋いだ。
「……すまない。私の負けを認める、マスター。いったん主張を取り下げる。ブリは結構だ」
たしかにサーヴァントは食べなくても大丈夫だ、と論旨を認めて引き下がるガッシュ。
殊勝な態度にオルガマリーも少々鼻白んで続くガッシュの言葉を許す。
「改めて提案なのだが、場所を変えぬか?道端で喚き散らすのは目立つし……あまり賢明とは言えまい?」
ぐうの音も出ない提案。
ヒステリーを起こしていても、ここで怒鳴り続けるのも愚かしいと考える程度にはオルガマリーは理性的であった。
ついてきなさい、と態度で示して歩き始めるオルガマリーの後ろにガッシュが続いた。
「あ、すまぬマスター。名前をまだ…」
「オルガマリー・アニムスフィア。本当に私のサーヴァントなのよね?なら、オルガでいいわ」
「ウヌ、オルガか。よい名だ。ではオルガ、どこへ向かっておるか聞かせてくれぬか?魔術師の工房というやつか?」
どことなく楽しみそうなガッシュの言葉を黙殺し、人気のない路地裏でオルガマリーは足を止めた。
「さて、ここなら目立たないでしょう。話を続けましょう」
「むう……工房は遠いのか?あ、まさか秘密基地のような隠し扉がここに?」
あるいは工房に通すほど信頼されていないのか、との不安がガッシュによぎるが。
「ないわ、そんなもの。隠し扉も工房も」
オルガマリーの答えは簡素だった。
ある意味信頼されていないというより冷たかった。
「ではなぜこんな……食い意地が張ってるわけではないと前置きするが、どこか店に入ってもよいのでは?」
「ないわ。ここで使える通貨が」
オルガマリーの口調に苛立ちが再び滲み出す。
言葉だけでなく懐も冷たかった。
「改めて名乗るわよ。私はオルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア。アニムスフィア家の当主で、人理保証機関カルデアの所長……」
つらつらと現状を述べ始める。
素性や把握している限りの現状。
人理焼却の危機、謎の特異点F、解決のためレイシフトでチームを派遣したこと、レイシフトしていない自分がなぜか冬木にいて聖杯戦争に巻き込まれたこと。
「聖杯戦争……父がかつて優勝したそれと、今回のこれがどう関係しているかは分からない。この冬木が、人理焼却にどう影響しているのかも分からない。手札も情報も不足している以上、一応は私のサーヴァントであるあなたに協力を頼むしかない」
藁をもつかむような状況だ。
外法の契約かもしれないが、サーヴァントと同行できるならばこれ以上頼れるものもそうはない。
すがるようにガッシュを見つめる。
「そうか……」
その視線を受けてガッシュは応えた。
「おぬし、家無し子のうえに文無しなのか」
「その言い方はやめなさい!」
本気で悲痛な声を上げるガッシュにつられてオルガマリーもちょっと今までとは違う意味で泣きそうになる。
仮にもロード、貴族の家に生まれついてこんな憐れみを受けるのは初めてだ。
「そんなに空腹ならこれでも食べなさい、まったく」
「む、ありがとう…おお、美味しい」
現状のオルガマリーの数少ない財産であるドライフルーツをガッシュの口にねじ込む。
甘いものは苛々にいいのでオルガマリー自身も口にする。
「人理焼却といいのはよく分からぬが、困っているのは分かった。案ずるな、私が力になろう!陣営を同じくする仲間もいるのだ、宿や食事を貸してくれるものもいよう!」
「……そう。協力には感謝します、アーチャー。でもさすがに初対面の相手に屋根や食事を恵んでくださいというのは沽券にかかわるからやめて頂戴ね」
ドライフルーツも食べて、まともに話もできてようやくオルガマリーの口調に落ち着きらしいものが戻る。
それでようやくと言うべきか、手の中にある赤い本について思い出した。
「この本は……」
「先ほども言ったが、私の力を引き出す本だ。マスターが持ち、心の力を込めて書かれた呪文を詠唱することで力を発揮する。マスターが持たねばならないが、それが燃えてしまうと私は現界を保てず消えてしまうので注意してほしい」
生命線というべき赤い魔本。
宝具であるそれを握るオルガマリーの手に力がこもる。
サーヴァントの戦いに自らも身を投じねばならないのだと引き締まる思いだ。
「……それじゃあやっぱり、本か身を隠す拠点は欲しいわね。行きましょう」
「ウヌ。仲間を探して泊めてもらうのだな」
「物乞いの真似事はしないわ、これでも貴族よ。ホームステイなり留学生なり暗示をかけて潜り込むわ」
「……それはそれで貴族の振る舞いかというと疑問があるが」
「うるさい」
「あと私は一応王族だが、野宿でも構わぬぞ?」
「うるさいわ。って、え?あなた王族?ベル、ってどこの王家?アメリカの自称皇帝とかだったら怒るわよ?」
オルガマリーの、騒々しい人理修復の旅路が始まった。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!!
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運A 宝具A+(A++)
【属性】
中立・善
【クラススキル】
単独行動:EX
マスターからの魔力供給を断っても自立できる能力。
宝具、『心をつなぐ赤い魔本(レッドデータ・スペルブック)』が存在する限り現界・全力戦闘できるが、逆にその宝具を失った場合現界を維持することができず消失する。
対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
1000年以上の長い時を生きた存在で高位の神秘を秘めるが、魔界の王を決める戦いにおいて魔術によるダメージを多数受けた逸話からいかなるクラスで召喚されようと彼の対魔力はあまり高くならない。
【保有スキル】
怪力:C
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
紅顔の美少年:E
人を惹き付ける美少年の性質を示すスキル。
男女を問わずに魅了の魔術的効果として働くが、対魔力スキルで回避可能。
対魔力がなくても拮抗する意思があれば軽減できる。
カリスマ:D(B)
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
全盛期のガッシュは魔界に千年以上君臨する王としてより高位のものを持つのだが、幼い時代の姿で召喚されたためにランクダウンしている。
とはいえその片鱗を紅顔の美少年として輝かせている。
そもそもカリスマは稀有な才能でDランクでも一軍団の旗頭としては十分な才であり、少年としては破格、すでに凡百の王が持ち得る器に比肩している。
魔王の兆し:A
ガッシュ・ベルはかつての魔界の王の息子にして、自身もまた千年に一度行われる王位争奪の戦いに優勝した魔界の王である。
少年期の肉体で召喚されたため、王となった後の技能や経験の一部は再現されていないが、それに至る未来は確定されておりその才覚の片鱗は見せる。
魔界の王を決める戦いを多くの仲間と勝ち抜いた逸話が味方全体の魔術系の技能に有利な補正を加えるスキルとなっている。
雷の君臨者:‐(EX)
雷のベル、その血を引く魔王。
魔界の王としてのガッシュが持つスキルであり、一部の術の効果に上昇補正がかかる。
魔界の王の肉体で召喚された場合、紅顔の美少年と魔王の兆しのスキルを失い、こちらを獲得する。
【宝具】
『心をつなぐ赤い魔本(レッドデータ・スペルブック)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
魔界の王を決める戦いにおいて各魔物に与えられる本。生前人間界で行使した全ての呪文が刻まれている。マスターとの関係によっては新たな呪文が刻まれることもある。
魔力炉・依り代としての機能を持ち、この宝具が存在する限りガッシュは現界し続けることができる。
魔力炉としてマスターの心の力を魔力として還元することができ、さらに本に書かれた呪文をマスターが詠唱することでガッシュの術を発動する。
逆にこの宝具を通じてでなければガッシュは魔術・宝具の大半を行使できない。
座に存在する多数の英霊などの協力を得ることで後述の宝具へと進化する可能性を持つ。
余談だが、偽臣の書と呼ばれる英霊行使の礼装の原型という説がある。
『絆をつむぐ金色の魔本(ゴールデンルール・グリモア)』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
魔界の王を決める戦いの終盤、多くの魔物の力を借りて戦った奇跡の再現。
自身か、あるいはマスターが深い関わりを持った英霊の宝具を本を通じて借用・真名解放可能となる。英霊ならざる人間や精霊、幻霊や魔物の力も場合によっては発動可能である。
その際にマスターやガッシュに魔力消費はなく、持ち主だった者の力によって発動する。
この状態でのみ発動可能な宝具を持つ。
強力な宝具だが、その解放には多数の魔物や英霊の同意を得なければならない。なお同意することができるものはガッシュか召喚者に関わりのあるものに限られるが、現界していなくても英霊の座や魔界などから賛同の意を示すことはできる。ムーンセルやアラヤ、ガイアに記録されたものでも、他異聞帯や特異点からでも、幻霊でも神霊でも声が届くなら何でもよい。
『臣下たる雷龍、万物を喰らう(バオウ・ザケルガ)』
ランク:A+ 種別:対門宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:20人
宝具『心をつなぐ赤い魔本(レッドデータ・スペルブック)』に刻まれた第四の術にして彼の最大呪文。
長い時の中で神秘と信仰を高め、魔界を滅ぼす二大脅威として恐れられている巨大な雷の龍を召喚・攻撃する。
その始まりはガッシュの父である魔界の王が生み出し、およそ1000年持ち続けた魔術奥義。
全てを喰らい尽す恐ろしい術であり、年老いた身では制御しきれず息子であるガッシュへと受け継がれた。
『臣下たる雷龍の爪撃(バオウ・クロウ・ディスグルグ)』という龍の一部のみを行使する術も存在する。
金色の魔本下においてのみ後述の宝具へと進化する可能性を持つ。
『進化せし真の雷龍、原罪の徒を打倒せん(シン・ベルワン・バオウ・ザケルガ)』
ランク:A++ 種別:対星宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
バオウ・ザケルガが数多の貴き幻想と融合した究極術。
生前放ったときにはガッシュやその父と鎬を削った魔界の王候補であった100体以上の魔物の力を束ねて発動し、魔界を滅ぼそうとした魔物を撃退した。
その時と同様に金色の魔本を通じて、座に存在する多数の英霊の力を借りることで放つことが可能となる、星をも飲む巨大な雷龍召喚術。
この術の片鱗として『思いを通じる金色の不死鳥(バルド・フォルス)』という巨大な鳥を召喚する術を行使する可能性も秘める。シン・ベルワン・バオウ・ザケルガの解放には100近い協力が必要だが、バルド・フォルスは4名以上の協力があれば詠唱でき、魔力の消耗がほぼない。
【weapon】
・魔法のマント
ガッシュの魔力によって自由に変形させることができるマント。
防御や攻撃はもちろん、高速回転による飛行、マスターを掴んだり乗せたりしての随伴移動など汎用性に富む。
かつての王を決める戦いにおいては敵の放つ術でも並以下のものであれば受け止めることができる防御力、樹木を容易く切り倒すほどの攻撃力を見せた。
また胸の部分にブローチがついており、このブローチさえ無事ならマントはどんなダメージを受けてもガッシュの魔力を使うことなく修復される。
【人物背景】
人間界とは異なる世界、魔界を統べる王の息子として生を受ける。
しかし王の息子として手厚く育てられることはなかった。
父である王の奥義、世界を滅ぼす術である『バオウ・ザケルガ』を生後間もなく受け継ぎ、その力を悪用されないために庶民の手に預けられ、そこで虐待同然の扱いを受けて過ごしたためである。
親も死んだと虚言を吹き込まれ、孤独と絶望から塞ぎ込んでいた時期もあったが、深夜に訪ねてきた王家の使いと育ての親の会話を偶然聞き兄と父がいることを知ってからは見様見真似の貴族言葉と明るい振る舞いで、自分は元気に過ごしているとアピールするようになる。
しかし学校ではあまり優秀ではなく、大半の術を行使する際に意識を失ってしまう欠点から落ちこぼれとされそちらでもいじめられることもあった。
それでも天真爛漫に過ごし、王の才覚か学外でレイン、シュナイダー、パティなど一癖ある魔物と絆を深めていた模様。
バオウを受け継いだことと、そんな厳しい現実を過ごしたことが評価されたか1000年に一度行われる魔界の王を決める戦いの参加者の一人に選ばれ人間界へと召喚される。
召喚されてすぐに、双子の兄ゼオン・ベルと再会する。
しかし自分が受け継ぐはずだったバオウを奪われた、自分とは違い何の苦労もなく戦いの候補者に選ばれたなど様々な誤解を持っていたゼオンはガッシュに敵として接触し、瀕死にしたうえ魔界時代の記憶を奪う。
戦いが始まって早々に大ダメージを負い、さらに自分が戦いに参加しているという自覚もなくしたガッシュは早期に脱落するだろうと放置されるが、魔本のパートナーと出会い、戦い続けていくことで成長していく。
他の魔物の振る舞いに時に学び、時に反面教師に、助け合い、教え合い。
戦いを通じて兄ゼオンとも和解をし、魔界と人間界双方を滅ぼす脅威も仲間と退け、最大の好敵手との戦いにも勝利して魔界の王座に就く。
王位について後も宰相や教育係などとして多くの仲間に支えられ、魔界をより良いものにするために尽力した。王となって十数年後に再び人間界に現れたようだが、今回の召還ではそちらの記憶は定かではない。きっかけがあれば思い出すこともあるかもしれない。
サーヴァントは全盛期の姿で召喚されるが、ガッシュが人間界で活躍した歴史は子供の姿が殆どであるため、人間界の歴史以外を観測できる極めて特殊な状況下でない限り子供の姿で召喚される。
その場合、人間界では知り得ない歴史であるためか、魔界で王として過ごした記憶も殆どぼやけたものとなる。
まず不可能だが、魔王としての全盛期で召喚されれば『王の身を守る絶対の盾(ワンド)』を有しあらゆる術を封じる結界を持つキャスター、龍に加えてガッシュと同じ英霊魔物『疾きこと焔光の如く(シュナイダー)』を駆るライダーとしての適性を持つ。
【サーヴァントの願い】
際立ったものはないが、もし聖杯を手にできたなら仲間たちとまた会いたいと願うかもしれない。
まずは清麿との出会いと経験で成長できた自分のように、オルガマリーを導くこと。
王を決める戦いの経験があるため、サーヴァントのみを脱落させて優勝を狙うというなら聖杯狙いに躊躇はしないだろう。
【マスター】
オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア@Fate/Grand Order
【参加方法】
特異点Fにレイシフトするはずが、別時空の冬木にたどり着いてしまった。そのせいか現地におけるロールがない。宿無し文無し職無しである。
いつのまにか黒く焦げた羽は持っていた。
レイシフトで用いるコフィンに羽を持つ何者かが入っていて爆弾で吹き飛ばされたら、こんな風に砕けて焦げた羽が残るのではと思われる。
【マスターとしての願い】
みんなに認められる自分になりたい。
ただし現時点では別時代の特異点Fであるこの地の調査を優先する。
【weapon】
なし。
レイシフト用の礼装を準備していたらしいが、遅刻者への説教(やつあたり)に時間を費やし装備する暇がなかったらしい。
ドライフルーツは携行。
本人の言うところでは甘いものは苛々にいいから持っているらしいが、果実を星に見立てての天体魔術に使ったりなどするのだろうか。
【能力・技能】
・魔術師
時計塔に居並ぶ12のロードの家系の一つ、時計塔の天体科を司るアニムスフィア家の当主であり、積み重ねた歴史と教育に裏打ちされた一流魔術師である。
ソーシャルゲームFate/Grand Order本編中ではマシュへの治癒とスケルトンからの自衛くらいしか披露しないが、別媒体においては優れた面を見せる。
ドラマCDでは単独の魔術でシャドウ・アーチャーと渡り合う戦闘能力を発揮。
TYPE MOONエースのコミカライズでは魔物を一撃で射抜く魔弾、シャドウアーチャーの矢に耐える強化を使用。
『ロード・エルメロイ二世の事件簿』においては11歳の彼女が登場し、幾人かの魔術師の協力ありきとはいえ二十七祖直系の死徒を撃退する大魔術を披露。
かの大英雄にして稀代のルーン魔術師クー・フーリンをして「単独でも魔物相手なら問題ない」と評される、戦闘にも優れた魔術師と言える。
ただしマスター適性は持たない、とカルデアの研究者、そしてクー・フーリンにも断言されている。
偶然か作為かは人理修復を終えた直後では語られていないが、そのために魔本を通じて契約するガッシュのような一部の例外を除くサーヴァントの能力を十全に引き出すのは難しいと思われる。
・獣の器?
マスター以外の別のモノの適性があることは人理漂白事件において示されているが、今はまだそれについて語るべき時ではないだろう。
【令呪】
右手の甲。
ロストルームで描かれたものと同じ。
【人物背景】
魔術師の名門アニムスフィア家の当主であり、人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長を務める女性。
3年前に前所長兼党首である父の死によって突如この地位に就くこととなる。
それに伴う重責、さらに死後明らかになった父の行っていた非人道的な実験を知ったうえに、父の教え子であるキリシュタリア・ヴォーダイムの方が周囲の期待と信頼を集めて「彼がアニムスフィアの跡を継ぐべき」などの流言まで飛び交い、一ヶ月ほど拒食症に陥りヒステリーも普段の三割増しとなっていた。
そんなノイローゼ一歩手前の状態で所長の仕事を引き継ぎ、実験の唯一の成功例である少女に報復を受けると思い込み、精神状態は悪化。
その上に一族の研究成果であるカルデアスを通じて未来の消失という異常事態を観測し、魔術協会やスポンサーから非難の声が山のように届く。
さらにはマスター適性を持たないというスキャンダルが発覚と悪いことが重なりまくり、すっかり追い詰められている。
そんな状況でもカルデアの所長として最善を尽くし、グランドオーダー発令まで心身をすり減らして作戦決行の日を迎える。
しかし突如発生した爆発によりカルデアの機能は八割が停止、オーダーは一歩目からつまずくこととなる。
本来の歴史で彼女は人類最後のマスターとそのサーヴァントと共に、人理消失の原因と考えられる特異点Fの調査を行うことになるのだが、黒い羽を手にしたためかレイシフトの乱れか異なる時空の冬木にたどり着く。
魔術師の常とはいえるが、悪人と評されることも多々あり事実としてなかなかいい性格をしている。
だがそれは突如父から引き継いだ党首、所長の重責とマスター適性のなさからくる悪評に伴う余裕のなさが原因となっているのが大きく、時計塔の名門出にしては人間的なほう。
ただシオン・エルトナムやライネス・エルメロイなど、ある程度「人の上に立つ自分」を演出しなければいけない同性の同世代相手には、普段は見せない砕けた面を見せることもあるようだ。
投下終了です
元◆/HDbXVoNNIです、トリップを忘れたので新調しました(wikiの方も修正しておきます)
問題ありそうでしたら言っていただければと思います。
投下します
◆◆
『無駄だ、滑皮』
『その拳銃、模擬弾だ。』
◆◆
『もう誰にも従わない。』
『俺の生き死には俺が決めます。』
◆◆
『オヤジ。所轄のデカから連絡がありました』
『梶尾が射殺体で発見されたそうです。』
◆◆
『奴を力でねじ伏せてやる。』
『俺の道を阻む奴は一人残らず潰す。』
◆◆
血腥い臭いが漂っていた。
冬木市郊外の倉庫は猪瀬組の企業舎弟が経営している水産加工会社の所有物で外から足が付かない。
そこに、球体関節人形を関節に合わせてちぎったような部品たちが十つほど転がっていた。
腕が二本。足が二本。首と胴体が一つずつ。抉り出された目玉が二つ。切り落とされた唇が上と下でこれまた一つずつ。
かつて人間だったものの成れの果て。
より正しく言うなら、この"聖杯戦争/Holy Grail War"に希望を抱いて足を踏み入れたある魔術師の残骸だった。
その証拠に散らばる右腕には令呪の赤色がありありと残っている。
傍に置かれた電動ノコギリが、此処で何が起こったのかを暗喩していた。
額に飛んだ血飛沫を拭い、眼窩をぽっかりと空けて事切れている元人間の顔に痰を吐き捨てる。
黒いスーツに、坊主頭の男。
佇まいの一つ一つに暴力の気配が染み付いて、匂い立っている。
和彫りの刺青をびっしりと刻み、障害の排除の為に殺人という手段を躊躇なく選べる人種。
男は、ヤクザ者であった。
暴排法が整備され、日に日に生存圏が狭まり苦境に立たされている任侠者達の中で――しかし今も在りし日の黒々とした輝きを保っている。
生粋の暴力。弱肉強食の強者の側。悶主陀亞連合の滑皮と言えば文字通り泣く子も黙る存在だった。
猪瀬組の熊倉に拾われ稼業入りしてからも、その名声が衰えたことはない。
頭脳と金、そして暴力。三拍子を揃えた覇者の器。
ヤクザの世界では若手でありながら、天魔外道の妖怪達と並んで幹部候補に名を挙げられた破竹のヤクザだ。
本来、猪背組が最も力を持っているのは東京の一等地だ。
断じてこんな冬木などという地方都市ではない。
枝の下部団体ならいざ知らず、理事長の熊倉義道から盃を受け取った滑皮が活動するには些か辺鄙すぎる土地だった。
しかしその理由は、たったの一言で説明できる。
此処は彼の生きるべき世界ではないからだ。
公判を待つ獄中でたまたま手にした"黒い羽"が、失脚したヤクザを冒険譚の主役に変えた。
滑皮の右腕にも、今しがた殺した男の腕にあるのと同じ刻印が三画刻まれている。
滑皮秀信は、聖杯戦争のマスターであり、この電脳世界(ゲーム)のプレイヤーの一人だ。
「うわ、グロ。そんな高そうな服着てよくやるね」
「しゃーねェーだろ。じゃあ次からはてめェーが作業着買ってこいよ」
「やだよ面倒臭い。舎弟にやらせりゃいいじゃん、ヤクザ屋さんの数少ない利点じゃないの」
「それに刑務所思い出しちまうから嫌なンだわ、そういう貧乏臭い服。やっぱヤクザは礼服じゃねェーとな」
滑皮は現在、三主従から成る徒党の切り崩しにかかっていた。
目の前で死んでいる魔術師はその一角で、彼のサーヴァントは既に滑皮のアサシンが殺害している。
魔術師にしては善玉だと聞いていたし、実際仲間のことは何も喋らない、それが仁義だと高尚なことを喚いていた。
ただそれも顔から目玉と唇が両方無くなるまでのことで、最後の方は油紙に火が付いたみたいに何から何まで喋ってくれたが。
「深山の方に拠点を構えてるらしい。若いのを何人か地下に潜らせて偵察させるから、準備が出来たらカチ込んで殺せ」
「あいよ」
滑皮は敵を恐れない。
何人が相手だろうが、やると決めたら必ずやる。
不良だった頃から、聖杯戦争なるけったいな儀式に招かれた今もその点に関しては不変だった。
現にこの翌日、滑皮に喧嘩を売った"同盟"は二組目の脱落によって瓦解。
滑皮が事前に手を結んでいたこちら側の協力者と彼のアサシンによる共同戦線で最後の主従が落ち、完全壊滅を迎えることになる。
ヤクザは落ち目の絶滅危惧種だ。
社会的にはむしろ、彼らは弱者と言っていい。
暴排法によってホテルにも泊まれず、銀行口座も作れない。
ヤクザの子供に生まれただけで行政から見捨てられ、権利を制限される。
おまけに現代では昔ながらのシノギにも頼れず、それこそ不良まがいのチャチな金稼ぎで男を下げなければならない。
そうまでして稼いだなけなしの金も義理事で吸われ、常に極貧の生活だなんて話も珍しくないほどだ。
今の時代、ヤクザになりたがる人間なんて余程の馬鹿か、先輩に恐喝されて引き込まれたかのどちらかしかいない。
そんな謂われをされ笑われるのはしょっちゅうだ。
しかし。こと社会の基準を法(ルール)ではなく暴力にするのなら、彼らは未だに絶対的に強者である。
特に――滑皮のような、力のあるヤクザ者であれば尚更だ。
彼らはまず、手下を使って情報を探る。
敵の居所を突き止め、ある日突然人間を送り込んで制圧する。
滑皮はヤクザの常套手段(メソッド)を、この通りそっくりそのまま聖杯戦争の戦い方に転用していた。
「しかしサーヴァントってのは便利だな。高い金払ってヒットマン雇ってたのが馬鹿らしくなるぜ」
「人の形した拳銃(チャカ)みたいなもんだからね。人間相手ならもっと証拠残らない殺しも出来るけど」
「考えとくよ。気に入らねェー奴なんて山ほどいるからな」
そんな大物ヤクザが召喚したサーヴァントは、しかし反社会的勢力のパブリックイメージとはてんで似つかない美しい少女だった。
虹色を貴重にしたサイバーパンク調の衣装に身を包んだ、滑皮とは二回りも歳が違うような身なりの少女。
いや、少女という形容はこと彼女に対して使うには適しているとは言い難い。
彼女は、少女だったものだ。秘めたる才能を見初められ、人から人ならざるものへと変容を遂げた魔法の兵だ。
魔法少女。
冗談のような単語だが、しかし彼女に限ってはメルヘンもファンシーも介在する余地がない。
彼女は殺す。人を殺すことに毛ほどの躊躇も持たない。
この才能は、ヤクザの世界で見ても稀有で有用なものだった。
口でどれだけ男を装っても、実際に人を刺して弾いて平静を保てる人間は位の上下に関わらず限られている。
滑皮にとって、魔法少女は最高の道具でありヒットマンであった。
鬼に金棒。虎に翼。駆け馬に鞭。
冬木の彼は、戦うために必要なすべてを持っている。
「肉見てたら焼肉食いたくなってきたわ。まだ開いてるかな」
「野蛮人だね。引くわ」
「舎弟に店探させるから、お前は死体(ロク)片付けたら部屋戻って寿司でも取ってくれ」
「ヒットマンに報酬も払わないで自分は焼肉パーティーですか。いいご身分ですねえヤクザ屋さんは」
「あ? お前連れて行くわけにはいかねェーだろ? てめェーみたいな色物と一緒に歩いてたら笑われて、組中に噂されるわ」
彼らは、アウトローの星だ。
社会秩序では評価されない才能と、生き方の持ち主。
無法の中でこそ真価を発揮する、他人の不幸を飯の種にする肉食の獣。
人の命に、誰かの幸せの残骸に、頓着しない。
彼らは自分の幸せのためだけにどこまでも血を流せる存在だ。
「ところでよぉ。そういや聞いたことなかったよな」
「何を?」
「お前、聖杯に何願うつもりなンだよ? 受肉か?」
「……まあ、とりあえず受肉かな。私さ、それなりに上手く生きてたんだよ。
上手く狡く、賢くやってたの。けど訳わからんクソ化物に出くわして全部おじゃんになっちゃった。
まさか死んでからもこき使われるとは思わなかったけど、これはこれでラッキーかな」
「仕事人の末路ってのは大体そんなもんだよな。床の上じゃやっぱり死ねねェーよ」
「で、そういうあんたは? その口振りからしてさ、あんたもデカい失敗して潰れたんでしょ? 聞かせてよ、面白そう」
「言葉選べよ。デリカシーって言葉知らねえのか?」
「高校生(ガキ)にヒットマンやらせてる反社のおっさんに言われてもね」
口の減らねえ奴だ。
滑皮は嘆息して、取り出した葉巻に火を点ける。
舎弟から贈られたものだ。ガキの頃に兄貴に吸わせて貰った時は良さが分からなかったが、この歳になるとこういうのが沁みてくる。
紫煙を口の中で転がして、吐き出して――滑皮は口を開いた。
「お前の言う通りだ、アサシン。俺も失敗した。失敗して、全部持ってかれちまった」
滑皮秀信は、敗者である。
最後の最後にそうなってしまった、勝者のレールから転げ落ちてしまったアウトサイダーの成れの果てが彼だ。
猪背組の看板を背負えているのだって、この世界の温情のようなものだ。
元の世界では仲間殺しの外道として絶縁を喰らい、塀の中でいつ下るとも分からない死刑判決を待つだけの身だった。
大恩ある兄貴を殺されて、燻っていた執着の火がガソリンでも注がれたように燃え上がった。
昔から気に入らなかった金融屋のガキを屈服させて、自分の犬にしなければ気が済まないと思うようになった。
手下を使い、暴力を使い、ありとあらゆる手段で追い込んだ。
しかし最初に"奪われた"のは、因縁の金融屋ではなく他でもない滑皮の方だった。
――舎弟が、殺された。
拷問され、自分を売って射殺された。
思えばあの時から歯車が狂い始めたのだと思う。
舎弟を殺されて、滑皮の中の鬼が狂い始めた。
丑嶋を屈服させる。梶尾の仇を殺す。
二つの目的が融合し、迷走の末に屍と罪を重ね……
「失った物は取り戻さなきゃならねェーだろ? 負けっぱなしで下向いてるようなヘタレじゃヤクザは張れねえ」
そして滑皮は、負けた。
罠に嵌められ、もう一人の舎弟までも殺され。
罪のすべてを被せられて、司法の手による裁きを待つ身になった。
仮に法の裁きによる死を免れても娑婆の空気を吸える望みは絶無。
ヤクザとしての成り上がりや再起など、もう二度と臨めない。
まさに、死を待つだけの身に成り下がったのだ――黒い羽を手にするあの日までは。
「俺は負けを認めない。聖杯を手に入れて……今度こそ俺がすべてを手に入れるンだ。
失ってきたモンも、手に入らなかったモンも、全部俺のモノにしてやる。てめェーを使ってな、アサシン」
「は。頑張るじゃん、負け犬の癖に」
「お互い様だろ? 捨て駒野郎」
滑皮もまた、凶星(マグネター)である。
近づく者を皆破滅させる、底知れなさを秘めた悪の星。
だからこそ、泣き寝入りは彼に限ってあり得なかった。
なくしたものは取り戻さなければならない。
奪われたものは、取り返さなければならない。
欲しいものは、手に入れなければならない。
それが彼の選んだ生き方で。
何があっても、どこにいても、それだけは決して変わらぬままだった。
彼は彼のままだ。何も、変わらない。
「は。違いないね」
笑いながら、虹の魔法少女――『レイン・ポゥ』は考えていた。
このマスターは間違いなく当たりの部類だ。
肉体的にはただの人間でしかないが、精神性も使える手段の豊富さも自分の戦い方とこれ以上なく合致している。
正面戦闘でなら厳しくとも、策と人を使ってのし上がって行けば、十分に聖杯を狙える可能性はある。
そうすれば、なくした未来を取り戻すことができる。
あの封鎖都市での失敗を、なかったことにできる。
受肉して再び人生を歩み直せる上、英霊の座なんてけったいなところからも解放されることができるのだ。
まさに願ってもない話だった。このチャンスを棒に振るわけにはいかない。
レイン・ポゥは現実を見ている。
人生の歩み方というものを知っている。
だから、決して間違わない。
チャンスがあればモノにする、自分の身の程と生き方を分かっている。
今も脳裏によぎる、この手で引き裂いた少女の亡骸には見ないふりをした。
振り返ることに意味があるとは思えない。
"それ"に固執することは、きっと不合理を生む。
帰ってマスターの金で寿司でも取って、仕事終わりの報酬と洒落込めば消える程度の感情でしかない筈だ。
だってそれは。とっくの昔に。
◆◆
『安心しろ。事が終わったら君の全てを元に戻してやる』
『友を殺した思い出を胸に抱いて我輩に殺されるがいい』
『お前はそれで初めて許されるのだ、下郎』
◆◆
『心配しないでよ、たっちゃん。いざとなったら私が守ってあげるからさ』
◆◆
『もうすぐ遠足あるからそこで滅茶苦茶うめえ卵焼きやって虜にする』
『なんか発想の段階でおかしくない?』
『いいから! 教えて! 遠足にこそチャンスがあるから! 次のイベントこそはもっと仲良くなってやる!』
◆◆
『あなたは魔法の才能を持っている。わたしが本物の魔法少女にしてあげるよ!』
◆◆
もう何もかも終わったことだ。
【クラス】アサシン
【真名】レイン・ポゥ
【出典】魔法少女育成計画limited
【性別】女性
【属性】中立・悪
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:D 宝具:C
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ能力。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
魔法少女:B
魔法の国から力を授かって変生した存在である。
通常の毒物を受け付けず、寝食を必要とせず、精神的にも強化される。変身と解除は任意。
身体能力は極めて超人的であり、更に一人に一つ"魔法"を持つ。
不覚の虹:A
虹の暗殺者レイン・ポゥ。
気配遮断スキルが発動している場合、最初に放つ攻撃の成功率と威力を格段に跳ね上げる。
更に対象の耐久ステータスをこの時に限り「E-」ランクとして扱う。
無力の殻:B
魔法少女に変身していない間、サーヴァントとして感知されなくなる。
能力値も人間相応のランクにまで低下する。
人格偽装:B
自身の本性を隠蔽する才能。
天性ではなく境遇の中で身に着けた後天的なもの。
他者との対話時にプラス判定を受けるが、対象がアサシンの素性を何処まで知っているかに応じて効果が薄れる。
【宝具】
『実体を持つ虹の橋を作り出せるよ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:可変(アサシンの視界の広さに準ずる) 最大補足:1〜15
レイン・ポゥが持つ魔法。名前の通り、実体のある虹を生み出すことが出来る。
虹の強度は非常に堅牢で、しかしながら厚さという概念を持たず、発生の際も音を出さない。
彼女の視界の任意の点から任意の点まで弧状に伸長して伸び、視界から外れると崩れて消える。
【weapon】
宝具
【人物背景】
魔法の国人事部が擁した魔法少女。
魔王と呼ばれた魔法少女の殺害に成功するが、その後転げ落ちるように破滅した。
【サーヴァントとしての願い】
とりあえず受肉……たぶん。
【マスター】
滑皮秀信@闇金ウシジマくん
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れ、自身の失脚を覆す
【能力・技能】
ただの人間だが、敵対者に対して一切の容赦をしない冷酷さと残忍さを併せ持つ。
一介のヤクザ者としては部下からの人望も厚く、本人は腕っ節と知略の両方を高い水準で備えている。
【人物背景】
若琥会若琥一家二代目猪背組、猪背組系列滑皮組組長。
暴走族時代から敵対者の唇を切断するなどの凶行で恐れられ、地元では「絶対に逆らってはいけない人物」と言われていた。
しかし情がない人物というわけではなく、部下を惨殺された際には怒りと喪失感を示すなど人間味もある。
復讐のために金融屋・丑嶋を追い込み、様々な策で追い詰めるが、あと一歩のところで嵌められ殺人罪で警察に逮捕された。
【方針】
生き残り、聖杯を手に入れるべく動く。
早い内に協力者を手に入れ隷属させたい。
投下終了です
投下します
閃光が――槍が――冬木の寒空を舞う。
光の閃光を放つ方は――サーヴァントでは無い、自力で己の鍛えた魔術で、ランサーのサーヴァントへと立ち向かう。
名を――高町なのは
しかし、相手はサーヴァント、レイジングハートから放たれる光弾を容易く交わしていく。
――エースオブエースの彼女でも、これは厳しかった。
「ッ…レイジングハート!アサル…きゃぁ!」
槍兵の、槍が脇腹を掠める、飛行魔術を無意識的に解除してしまう、そのまま、ビルを落ちていく。
(ここで…終わりなの…?)
落ちていく、走馬灯は流れない。
夜空が見えるだけ。
(駄目なんだ私…もうここで…)
手を伸ばす、意味も――
◆
嫌――意味を持った。
温かい、懐かしい手が自分を持ち上げる。
夜空に、あの、懐かしい影が、夜空と共に見える。
間違えない、あなたは――
「フェ…イト…ちゃん…?」
「ゴメン…遅くなった、なのは」
あぁ、理解した、あなたが私のサーヴァント何だ。
それと同時だ、勝ちを確信し、日和見をしていたランサーが再び迫ってきた。
「飛行魔術…使える?」
「うん…大丈夫…行けるよ!」
「わかった、バルディッシュ!」
「Yes.Sir.」
鎌が雷を纏う、神速をまとい、ランサーの間合いを制圧する。
リーチに優れる槍兵が遅れを取るほどで。
電撃が、槍兵を両断する。
驚愕の叫び声と共に、落下しながら消滅していく。
月光に写ったのは、二人の少女だけだった。
◆
「ごめん…本当にごめん…」
「良いよ気にしないで、私の遅れだってあるし」
夜空、戦闘も終わり、二人は一息をつく。
フェイトが遅かったのは、ただ聖杯のミス、召喚時期が他のサーヴァント達より遅かったのだ。
「それで…これからはどうするの?」
「これから…そうだね…」
なのはは立ち上がり、ビルの網越しに冬木の地を見据える。
「どれだけかわからないけど…もしかしたら、これに巻き込まれてる人がいるかも知れない…だから私は…聖杯を壊すよ」
「聖杯壊すの…!?でもどうやって…」
「わからない…けど…」
街並みより目を外し、フェイトの方を向く。
「フェイトちゃんがいれば、なんとかなるよ、きっと」
――あぁ、私もこの笑顔に救われたんだ。
――あのときも、あの日も。
そして、近づく。
「わかった…あなたの力になって見せる…なのは」
「うん、これからもよろしくね…」
――少女の誓いは――冬木に捧げられた。
◆
夢さえ忘れても そのほほえみだけ捨てないで
この胸輝いていて
Believe/玉置成実
【クラス】
セイバー
【真名】
フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【ステータス】
筋力C+ 耐久C 敏捷B+ 魔力c 幸運D 宝具B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【固有スキル】
心眼(真):C
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
魔術(雷):B
雷の魔術に長けることを表すスキル。
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
【宝具】
『雷光一閃(プラズマザンバーブレイカー)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
闇の書の闇破壊に貢献した技の一つ。
バルディッシュ・アサルトのカートリッジを全て使い発動する、強力な魔術。
【人物背景】
新たな人生を歩み、それに従った少女
【サーヴァントとしての願い】
なのはを信じる
【マスター】
高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【マスターとしての願い】
聖杯を壊す
【能力・技能】
高い魔力と、レイジングハート・エクセリオンを使った強力な遠距離魔法
【人物背景】
少女を導き、共に駆けた少女。
投下終了です
>>879
ミスがあったので修正します
修正前
夢さえ忘れても そのほほえみだけ捨てないで
修正後
夢さえ無くしても そのほほえみだけ捨てないで
大変失礼いたしました
投下します。
目の前に、果てしなく険しい道が広がっている。
聖杯戦争における現状を表した比喩ではなく、物理的な問題としてプロスペラ・マーキュリーの前にこの問題は立ちはだかった。
それは、工事により掘り起こされた砂利道であり、通り雨によって濡れたアスファルトの大地であった。
健全な人間であれば歩きづらい程度で済むその道に対し、彼女は左腕に握った杖を強く地面に付けた。
GUND、この聖杯戦争における時代設定においては「未来の人工義肢」と言える技術によって彼女の右腕は作られていた。
右腕だけであれば歩行に支障はないが、その先鋭的過ぎる技術の更に悪用と言える兵器運用の無理などが祟り彼女の体はハンドメイドの特殊なヘルメットのサポートが無ければ歩行することも難しい状態となっていた。
そのヘルメットも彼女の世界に彼女の身分で使用するのであれば、まだ普段使い可能だがこの時代に普段使いするのは無理がある。
そのため無理を押して杖を突いて歩いてはいるが、前途多難である。
ロールとしての資産や社会的地位も十分にある、しかしそんなものは一歩歩くのにもおぼつかないこの体を補えるものではない。
数十年前から身に染みていた世界の無常さを思い出しながら一歩を進めた時、雨に濡れた地面に杖を取られてしまう。
危うく転びかけたその時、小さな温もりがその体を支えた。
「助かったわ、キャスター」
プロスペラは己を支える純白の少女に感謝の声を掛けた。
少女が何も言わず、プロスペラを支えながら歩くたびその純白の長髪が揺れる。
夜道の闇の中においても、純白のワンピースに純白の肌が映える彼女はプロスペラのサーヴァント、キャスターだった。
その時、彼女らの前にキャスターの使い魔たる馬車を伴った黒衣の剣士が現れる。
『乗るか?』
「要らないわ、早くしまって。」
彼女の馬車は自動車のように早ければ、悪路もかまわず道を駆け抜けれられるがいささか目立ち過ぎた。
当然、現代の世界に馬車があるというだけで目立つのは当然であるが、彼女の馬車の問題はそれどころではない。
目の前の馬を見る。
これを馬である。と言われてもそう見えない人間は多いだろう。
赤と銀色に錆びついた後方の荷車と同じ色に染まり、髪が顔を覆い隠しているそれを見て馬という生物だと認識できる人間はいないだろう。
これが彼女の使い魔の一端。
果ての国に降った死の雨により変貌した「穢者(けもの)」と呼ばれる生きる屍。
それを自由に使役することが純白の少女の基本戦法であった。
「それより、準備は大丈夫なの?」
『こちらの仕込みは問題ない。
いつ仕掛けるかはお前に任せる。』
「……そう。」
排水溝から巨大な芋虫がこちらを見上げ、電線に留まる赤い目の不気味なカラスが鳴いた。
彼女に浄化され、使役される「穢者(けもの)」の汚れ。
彼女が引き受けたそれは、もはや果ての国そのものと言っても過言ではない軍勢であった。
彼女の軍勢があれば、この聖杯戦争に勝つことは不可能ではないだろう。
(蝋燭みたいで、綺麗だね!)
(やめなさーい!)
そう考えた時、彼女の脳裏に娘が人殺しに手を染めた瞬間が脳裏に過った。
目を瞑りその雑念を頭から追い払う。
復讐を決めた時から、他人の犠牲など気に留めないようになったはずだ。
なぜ今になって躊躇いなど湧いたのだろう。
目を開くと、青い瞳がこちらを見上げていた。
彼女の娘、スレッタ・マーキュリーの目だ。
「スレッタ…?」
「?」
目の前の少女はきょとんとした顔をした。
目の前の少女が首を傾げると、その純白の長髪が揺れた。
彼女のサーヴァント、キャスターは不思議そうな目でその青い両目をプロスペラに向けると、プロスペラはハッと気を取り戻した。
『どうかしたのか?』
「…ここから先は一人で十分よ。ありがとう。」
黒衣の剣士の問いに答えず、プロスペラは杖を突きながらも足早にその場を立ち去った。
どうしたことなのか。あの日、復讐を志した時から彼女は心を鬼とすることに決めたはずだ。
エリクトのため復讐の為幾人もの人間を巻き添えにしながら進み、彼女の娘であるスレッタも必要とあらば巻き込むつもりだった。それなのに、なぜスレッタの面影を己のサーヴァントに見出してしまったのか。
帰り道を急ぎながら、彼女の頭はそんな自問に埋め尽くされていた。
黒衣の剣士は、急ぎ足で帰るマスターの後姿を見送りながら白い少女へと尋ねた。
「これから私たちは彼女のために殺し合う事になるが、それでいいんだな?」
彼らに願いはない。
彼らの過去には耐えがたい痛みがあった。目を焦がす惨劇があった。拭い切れない涙があった。
だがしかし、その上に自分たちが立っている認識があり、その世界を駆け抜けた掛け替えない二人の旅から引くものも足すものもない。
彼らにとって戦う理由とはマスターが全てだった。
黒衣の剣士にとってはそれに不満は無いが、純真な白い少女を巻き込む事だけが一つの躊躇いだった。
「……」
白い少女は何も言わずに黒衣の剣士を見上げた。
彼女には言葉が無い。
「そうか。」
たがそれでも、彼と彼女の間には言葉が無くとも意思が伝わった。
その意志を受け取った黒衣の剣士はゆっくり頷いた。
「そうだな。お前の母も、自分の娘達のために足?いていたな。」
果ての国と呼ばれる地。
穢土の領域から湧き出る穢者に対抗できる白巫女の一族。
その中で子を為す前に激しく衰弱した白巫女に対して国は一つの案を出した。
彼女のクローンとなる子どもたち(リプリチャイルド)を作り出し、それに白巫女の穢れを受け付けさせる計画。
全てが順調に行ったその計画は、最後の最後で頓挫することとなった。
その白巫女が、リプリチャイルドに穢れを引き渡すことを拒絶したのだ。
その選択は、結果として全てを悪い方向に向かわせてしまったけれども。
彼女は、そして全てのリプリチャイルドにはその選択がなにものにも代えがたい“母親”の抱擁であった。
故に少女は、己の娘のために戦うマスターのために戦う事を躊躇わない。
その決意の固い瞳を目にした黒衣の剣士は、静かに頷いた。
もはや、彼にも躊躇いはない。
宵闇の中、黒の剣士と白の少女は決意を新たに、二人で手を取り合いこの町を戦場へ還る一歩を踏み出した。
【クラス】
キャスター
【真名】
リリィ@ENDER LILIES
【パラメーター】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運B 宝具A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
キャスターは穢れの王の力により、地下に禁じられた領域と呼ばれる陣地を形成可能。
道具作成:D
キャスターはレリックと呼ばれる魔術的な道具を作成可能、
【固有スキル】
使い魔:A++
かつて浄化した穢者を使役する能力。
キャスターの中に収められたその穢者はもはや果ての国そのものと言える。
白き巫女:A
穢土より来たる穢者を浄化する巫女。
狂化を持つサーヴァントに対して特攻。
パリィ:C
広く名の知られたアクティブガード。
このスキルを持つキャスターを正面の一撃で破壊することは難しい。
【宝具】
輝く護りの宝具(ENDER LILIES)
ランクB+++ 種別:対穢宝具 レンジ:10 最大補足:9
代々白巫女に伝わる浄化の負担を抑える宝具。
この宝具そのもの・またその中に宿る白巫女の願いの力によりリリィは穢れの負担を抑えて行動することが可能。
逆に言えば、この宝具が無くなればリリィの中の穢れの枷は無くなり、穢れの王と呼ばれる存在になり果てることが可能。
古き魂の残滓(Quietus of the Knight)
ランクC- 種別:対穢宝具 レンジ:10 最大補足:1
かつて不死の騎士だったもの。
かつて彼は巫女が死ぬまで不死の剣士として守護する契約を結んでいたが、
今回リリィは英霊として召喚されているため当然その効力は消失している。
そのため今の彼は精々不死に近いような頑丈さを持った剣士に過ぎない。
だが、少女にとっては契約から解き放たれた後も召喚に応じてくれた彼との絆にマサル宝具はない。
穢れの王(Mother)
ランクA- 種別:対国宝具 レンジ:100 最大補足:10000
リリィの中に眠る泉の白巫女、また膨大な穢れをその身に引き受けたリリィそのもの。
無数の穢者を生み出し、双子城砦防衛戦で一軍と泉の白巫女相手に死闘を繰り広げたその戦闘能力も脅威ではあるが、その能力で最も恐ろしいものは己の穢れを雨へと変え、一夜にして果ての国を滅ぼした「死の雨」である。
現在輝く護りの宝具により抑えられてはいるが、リリィは彼女の力により本編以上に穢者を自在に使役可能。
【wepon】
穢者と黒い騎士を使役して戦闘を行う。
【サーヴァントとしての願い】
マスターに聖杯を捧げる。
?
【マスター】
プロスペラ・マーキュリー@機動戦士ガンダム 水星の魔女
【マスターとしての願い】
クワイエット・ゼロの完遂
投下終了です。
投下します
――武というよりは舞、舞踏だな。
自身に対する侮辱が眼の前の個人より放たれる。
――しかし、何故石や木を…?
――もう我慢の限界だった、言葉を振り絞り、怒りを見せる。
――なんだぁ…テメェ…?
◆
冬木市夕方、町道場。
木造の道場が夕日に照らされる。
かけられてる屋号は「神心会」
「よぉーし!小童ども!気を付けて帰ろよー!」
明るい笑顔を見せるは、道場主。
眼帯をかけ、子どもたちを帰るのを見据えてる。
名を、愚地独歩
全員帰った事を確認すると、扉を締め、道場の真ん中に座る。
「さて…もう出ていいぜ」
「あいよ、マスター」
眼の前より出てくるのは、独歩よりは高齢だろ、老剣士、真剣を肩にかけ、眼の前に座り込む…
「これも何かの運命だろうな、あんたがあの佐々木小次郎だなんてよ」
「なぁに、「あの」なんて言われても、しがない老人と同じだよ」
独歩のサーヴァント、史上最強の敗者(ルーザー)、セイバー、佐々木小次郎。
かつて、ラグナロクに名を連ねた、剣士である。
「そういや、あんた、あの武蔵と合ったってのは本当かい?」
「あぁ、まぁ、いい思い出では無かったけどよ」
徳川光成が発案した、宮本武蔵のクローン、それが現代に蘇った際、現代武道の手本して呼び出されたのが独歩だった。
しかし――その反応は。
「とんだ、コケにされたよ、挙げ句に手加減までされちまってよ」
武蔵からの評は「武道では無く舞踏」、現代武道は舞踏に過ぎぬという評価だった。
「そうは思わねぇけどよ、お前さんの武道はすげぇもんだよ」
「ふっ…日本の剣豪の片割れに言われちゃ、心が救われるもんかね…」
そんな事を言いつつ、柱に隠しておいた酒を取ろうとする。
その時だった。
ドアを蹴破り、不遜に中に入ってきたのは、一組の主従。
「おいおい、これから酒だったのに…」
「まぁ、仕方ねぇ、マスター、ここはこの吾にまかせておけ」
真剣を構え、小次郎の集中力が上がる。
――敵のクラスはバーサーカー
――こっちからの攻撃は
――どう受け切る
――正面からの可能性は
一歩、互いに踏み出した。
棍棒が、捉えたと――思った次の瞬間。
サイドステップを踏み、課されたのは袈裟斬り、振り際を狙い、打たれたその技は、未熟なサーヴァントを消すのには十分過ぎるほどだった。
「まぁ、人の家に土足で踏み込んだんだ、これぐらいは覚悟してるよな?」
真剣の切っ先を見て、敵のマスターは千鳥足で逃げていった
◆
「ほらよ、祝杯だ!飲んでくれ」
「いい酒と肴だ、進む進む!」
夜もふけ、同じく道場の真ん中に座り、互いに酒を今度こそ酌み交わす。
――こんな面白い時が続けばいい、だが、帰らなければ、夏恵の元にな。
そう思いながらも、今は一時の酌み交わしに心躍らせる独歩であった。
【クラス】
セイバー
【真名】
佐々木小次郎@終末のワルキューレ
【ステータス】
筋力B+ 耐久B 敏捷A 魔力C+ 幸運B 宝具A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師では小次郎に傷をつけられない。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【固有スキル】
希望のカリスマ:B+
ラグナロクにおいて、神殺し(エインヘリヤル)に選ばれた13人の一人。
小次郎は、人類側の闘士として、初めて神殺しをなしたものとして、スキルに補正がかかっている。
仕切り直し:B
窮地から離脱する能力。
不利な状況から脱出する方法を瞬時に思い付くことができる。
加えて逃走に専念する場合、相手の追跡判定にペナルティを与える。
戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
【宝具】
『先手無双』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
あらゆる攻撃を予測し、あらゆる攻撃を先読みする小次郎が生み出し技。
それは神の意識するも凌駕し、現に、ポセイドンとの戦いで先手を取ったのは小次郎だった。
『史上最強の敗者(ルーザー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1名
海神・ポセイドンとの戦いの際、先手無双でも読みきれぬ攻撃が発生し、諦めたその時、人類側の剣士たちの声援を受け、立ち上がり、その反撃の一手でポセイドンに買ったという逸話からなる宝具。
この宝具に切られたものは、どんな状態であろうと、すべての回復防具を無効化し、消滅させる。
ただし、魔力消費が大きく、令呪2画分を要する。
【人物背景】
人類側の3回戦闘士。
老体で有りながら、その実力は全盛期とされ、敗者とされながら、13人の中から選ばれた実力者。
そして、彼がポセイドンに打ち勝った事により、「人類が神に勝てる」という希望の架け橋を作ることになる。
【サーヴァントとしての願い】
無し
【マスター】
愚地独歩@刃牙シリーズ
【マスターとしての願い】
帰還する。
【能力・技能】
長年の努力の末、作られた空手。
【人物背景】
空手・神心会開祖。
「虎殺し」「武神」などとの異名とは裏腹に
性格はお茶目で江戸っ子気質な愛妻家。
彼が磨いた武道の技術は、世界一のタフガイ リチャード・フィルスを砕き、天内悠の急所攻撃を耐え抜き、最強死刑囚ドリアンを屈伏させ、果ては範馬勇次郎に本気を出させるほどの実力者である。
投下終了です
>>892
すいません修正です
修正前
その反撃の一手でポセイドンに買ったという逸話からなる宝具。
修正後
その反撃の一手でポセイドンに勝ったという逸話からなる宝具。
大変失礼いたしました
投下します。
勇者。
強い勇気を持ち、人々の羨望を集めた者に与えられる名前だ。
彼女達にとって勇者は強い意味合いを持っていた。
片や”魔王”の運命を背負わされた王女が目指した輝かしい名前。
片や神託を受けて世界の脅威と戦う力を得た少女を称える称号。
誉れ高き勇者の逸話を後世に遺せば、相応のクラスを与えられたサーヴァントとして召喚される。
エクストラクラス・フォーリナー。
それが結城友奈に与えられたクラス名だ。
「サーヴァント、フォーリナー……結城友奈」
「うん! 私は結城友奈……勇者のサーヴァントだよ!」
お辞儀をする無垢な少女。
そのあどけなさは、天童アリスの友になった優しい少女達とよく似ていた。
もしも、友奈がゲーム開発部にいたら、みんなといいお友達になってくれる。
そんな取り留めのないことを考えて、アリスは笑みを浮かべた。
「昨日、友奈の逸話を夢で見ました!」
「うっ……なんだか、ちょっと恥ずかしいね」
「アリスは知りました! 友奈には、素敵なお友達がいっぱいいたのですね!」
「……そうだよ! 東郷さんも、風先輩も、樹ちゃんも、夏凜ちゃんも、園子ちゃんも、みんな私の自慢だから!」
誇らしげな友奈の姿。
友奈は決して一人ではなかった。タタリに呪われ、誰にも真実を告げられずに追い詰められた時も、彼女はいつも想われていた。
一途で眩い絆。かつてのアリスが知らなかった尊いものだ。
「じゃあ、アリスにとっても、友奈は自慢ですね! だって、友奈は真の勇者ですから!」
天童アリスはアンドロイドだ。
名もなき神々の王女AL-1S。
古の民が残した遺産にして、無名の司祭が崇拝したオーパーツだ。
「不可解な部隊(Divi:Sion)」の指揮官にして、世界滅亡の為に誕生した「魔王」だった。
いずれ、キヴォトス全域に終焉をもたらす事を約束した厄災。
だが、彼女はその運命を変えた。
友との絆、培ってきた正義と愛の心、そしてアリス自身が抱いた心からの願い。
友情と勇気と光のロマンが、アリスをなりたい自分に変えてくれた。
それは、この世界に希望を与える勇者。
「アリスはまだ「見習い」勇者です! だから、勇者の先輩である友奈から、たくさんのことを教わりたいです!」
そんなアリスの元に導かれたのは。
紛れもない正道を歩む少女にして。
小さな両手で数多の命を救い続けた正真正銘の勇者だ。
その輝きで凶星(バーテックス)を幾度となく打ち倒した英霊(サーヴァント)。
アリスにとって、まさに理想の体現者である勇者だった。
「本当に、友奈は素敵ですから!」
紛れもない本心。
善意と情熱に溢れた素直な言葉。
友奈の在り方と力、それ以上に彼女を支える友情と真心に目を焦がれていた。
結城友奈は勇者である。
そして愛を与えられた普通の女の子だ。
時にはワガママを言って、たくさんの友達と当たり前のように遊んだ。
アリスがゲーム部に入ってから得たものを、生まれた時から持っている乙女。
けれど、絆だったらアリスだって負けていない。
「へへ……照れちゃうな。なら、先輩勇者として教えてあげる! それは……」
「それは……?」
「私達、勇者部のモットーの勇者部六箇条だよ!」
「おおー!」
勇者として、または普通の女の子でいる為に決めた6つの誓い。
挨拶はきちんと。
なるべく諦めない。
よく寝て、よく食べる。
悩んだら相談!
なせば大抵なんとかなる。
無理せず自分も幸せであること。
一語たりとも聞き逃さず、アリスは心に刻み込んだ。
「パンパカパーン! アリスは、勇者部六箇条を覚えた!」
それは友奈がアリスにくれたはじめてのプレゼント。
「アリスは最初のクエストをクリアしました! 仲間と出会い、絆を深めること!」
「おめでとう、マスター! 見習い勇者から、マスター勇者になったね!」
「なるほど……アリス、マスター勇者にランクアップしました!」
英霊の座に登録された勇者からのお墨付きだ。
アリスにとって誇らしい勲章にして、この聖杯大戦に立ち向かう大きな第一歩。
マスターとは、主人である証ではない。
揺るがない絆と親愛の証明にして、何よりも勝る最強のバフ。
この称号があれば、アリスが持つ勇気と愛のステータスは無限大に強化される。
どんなバッドステータスでも跳ね返せた。
「……マスターは、聖杯に何かお願い事をしたい?」
真っ直ぐな目で友奈から聞かれる。
「私はあなたのサーヴァントだから、何でも言ってね」
でも、どこか寂しそうで。
その眼差しの意味をアリスは察した。
アリスと友奈にとって避けて通れない試練。
聖杯戦争のサーヴァントとして召喚されたからには、いずれ友奈も他者を殺める時が訪れる。
アリスを信じ、アリスの願いを叶えたくて、アリスに大きな贈り物を与える為に。
「アリスの願い、ですか?」
きょとんと首を傾げるも。
すぐに、彼女は真摯な顔つきになる。
TVゲームや漫画、古く遡れば伝記で称えられる勇者と呼ぶにふさわしい眼力だ。
如何な巨悪にも屈しない眼差し。
鬼神、悪魔、魔王、魔神。恐ろしい二つ名を持つラスボスを前にし、何度傷付けられても立ち上がる胆力があった。
それは、アリス一人だけの力ではない。
「……大切な仲間がいます」
間を開けてから、ゆっくりと言葉を紡ぐアリス。
「みんな、今もアリスの帰りを待っているでしょう」
アリスの脳裏に浮かぶ仲間達の笑顔。
花岡ユズ。才羽モモイ。才羽ミドリ。
魔王と知られても、アリスのせいで怪我をしても、みんなは手を差し伸べてくれた。
ゲーム開発部のみんなだけじゃない。
ネル先輩達C&Cや、シャーレの先生だってそうだ。
みんなは、アリスの本当の願いを思い出させてくれた。
魔王である運命を変えて、アリス自身の意志で……勇者になってみんなと冒険をしてもいいのだと教えて貰った。
「アリスはみんなとまた会いたいです。勇者になって、みんなでいっぱい冒険したい……これがアリスの願いです!」
聖杯はいらない。
だって、アリスの願いはもう叶っているから。
幸せな日々を過ごしているのに、どうして今更他の何かに縋らないといけないのか。
もちろん、みんなが待ってるキヴォトスに帰りたい。
でも、嘘や悪意で誰かを傷つけたくない。
天童アリスは全てを話した。
「そっか。それが、マスターの願いだね」
「アリスの願いを聞いてくれて、ありがとうございます」
心からの言葉を、譲れない願いを、大切な想いもーーその全てを優しく受け止める友奈。
英雄譚の主人公になるべくしてなり、勇者として英霊の座に登録されるべき少女だ。
「それに、アリスの中にも、頼れる仲間がいました!」
「マスターの中にも? それって、どういうこと?」
「言葉の通りです! アリスの大切な仲間、ケイがいました!」
アリスの身には鍵となる少女が宿っていた。
固体名は<Key>。
モモイの読み間違いからケイと呼ばれた少女。
ケイはアリスを魔王に変える引き金にして、大きな鍵となるAIだ。
一度、アリスの中にいるケイが起動し、モモイが怪我をした。その一件からアリスはケイを避けて、目をそらし、苦しめた。
けど、それは勇者の在り方じゃない。
誰かを助けたいという気持ちこそが勇者の資格。
ならば、ケイの事だって真っ直ぐに向き合うべきだった。
「もう、アリスの中にケイはいません。でも、ケイはアリスを……助けてくれました。だから、ケイの為にも……アリスは勇者でありたいです!」
聖杯の奇跡があればケイとまた会える。
でも、ケイはそれを望まない。
心を一つにし、アリスとケイの二人で光の剣を掲げたから。
仲間の期待に応えると宣言したのに、魔道を歩むのはあり得なかった。
「アリスに力を貸してください、友奈!」
今の天童アリスは武器を持たず、キヴォトスの大切な仲間はそばにいない。
闇を切り開き、奇跡をもたらした『光の剣:スーパーノヴァ』は手元にない。
ケイの想いをしまった小さなロボットも、今はアリスのそばにいなかった。
屈強なキヴォトス人よりも、更に高いスペックを彼女は誇る。
だが、如何にアリスだろうとサーヴァントの神秘には耐えられない。
大切な絆の証がないまま、戦いを挑む事に不安はあるし、とても寂しい。
……それがどうしたのか?
剣がなければ勇者は戦えないのか。そんなはずない。
たった一人になった勇者はただ逃げるだけ。断じて違う。
勇者とは、文字通り勇気ある者。
勇気という最高の魔法がある限り、悪を打ち砕く正義の一撃は何度だって放てる。
友奈だってそうだったから。
「任せてね、マスター!」
アリスの願いを知った友奈は、胸を大きく張りながら笑ってくれた。
天真爛漫な彼女達には、これからたくさんの試練が待ち受けている。
勇者を目指す少女、そして勇者の影法師たる少女に牙を剥く悪鬼も現れるだろう。
少女達を茨の道に歩ませ、逸話を血と罪で汚し、名を貶めようとする卑しい大人も現れるだろう。
けれど、彼女達に迷いはない。
夢と希望に満ちた明日の為、二人は戦いを決意する。
天童アリスと結城友奈は勇者なのだから。
「勇者部六箇条……無理せず、自分も幸せであること。マスターの幸せのため、頑張るよ!」
「では、アリスと一緒に帰りましょう! これが次のクエストです!」
「おー!」
夕焼け空の下、アリス達は肩を並べながら帰路につく。
キヴォトスから遙か遠く離れた世界にて、アリスの役割(ロール)は留学生。優しい一家に囲まれながら、ホームステイ先で暖かな日々を過ごしていた。
友奈の事も、この街で出会った新しい友達として受け入れられている。
一緒にゲームをして、TVも見た。
RPGゲームのやり方をアリスは友奈に教えてあげたし、二人仲良くレースや格闘ゲームでも遊んだ。
もう彼女達の関係はマスターとサーヴァントではない。
アリスにとって友奈は仲間で、友奈にとってアリスは友達。
言葉は違えど、繋がりに込められた愛と慈しみは同じ。
祈りと、真っ直ぐな輝きは誰にも穢せなかった。
どす黒く、重苦しい深淵の闇すらも、二人の勇者を呑み込めない。
天童アリスと結城友奈は前を見続けていた。
光に満ちた未来を作る勇者である為に。
【クラス】
フォーリナー
【真名】
結城友奈@結城友奈は勇者である
【ステータス】
筋力B+ 耐久C+ 敏捷B 魔力D 幸運B 宝具B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
領域外の生命:B
人類を守る神樹に魅入られ、一度は神の眷属にも選ばれた逸話でこのスキルを得た。
友奈がフォーリナーのクラスで召喚されたのも、神と深い関わりを持った事が由来とされている。
神性:B
神霊適性を持つかどうか。
神に選ばれ、勇者となったことで神性を獲得した。
【保有スキル】
対魔力:B
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
精霊の加護:B+
精霊の牛鬼からの祝福により、命の危機において精霊のバリアが発動する。
勇者の攻撃力及び防御力が向上し、同ランクまでの宝具ならばダメージを軽減する。
生前、勇者システムの変更によって、バリアを発動すれば勇者の切り札たる満開が使用不可となったが、マスターからの魔力があれば再使用が可能。
勇者の資格:B
守りたい人々の為に戦い続け、その手で己の運命を変えた勇者に与えられるスキル。
戦闘続行、勇猛の複合スキルであり、戦闘時に発揮される。
【宝具】
『結城友奈は勇者である』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
結城友奈が勇者である為に必要な勇者システムそのもの。
勇者システムの発動によって結城友奈は勇者となり、パーテックスと戦う力を得られる。
生前は勇者が強化する切り札として満開システムが実装され、強大な力と引き換えに身体機能が一部喪失……散華のリスクがあった。
後に勇者システムの変更で散華がなくなった代わりに、満開はたった一度だけとなる。また、その前に一度でも精霊の加護が発動すれば、そもそも満開システム自体が使用不可。
サーヴァントとして召喚された事により、令呪一画分の魔力供給があれば満開の再使用が可能。
『大満開(だいまんかい)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
歴代の勇者達からの想い、そして神樹の力を授かった結城友奈が満開した姿。
この宝具を発動すれば、友奈は従来の満開よりも更に神々しい姿となり、各種ステータスが向上し、更に神性スキルを保有する相手であれば各防御スキルを無効化する。
無論、その拳一つで世界の運命すらも変えてしまう。
だが、歴代の勇者達と想いを共有し、更に神樹そのものを供物にしなければ奇跡は起こせない。
令呪三画全てを消費しようとも大満開は果たせない為、現在の彼女では事実上発動不可となった宝具。
【weapon】
勇者スマホ。
【人物背景】
讃州中学勇者部の部員。
かけがえのない友達と力を合わせ、勇者となって世界を救った少女。
【サーヴァントとしての願い】
勇者として、マスターの願いを叶えてあげたい。
【マスター】
天童アリス@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
聖杯はいりません。
友奈と一緒に、勇者として戦いたいです。
【weapon】
なし。
【能力・技能】
アンドロイドのアリスは並のキヴォトス人を凌ぐ体力や握力を誇り、また傷を受けてもナノマシンによる自己修復もできる。
ただし、サーヴァントの宝具に耐えることはできない。
愛用する『光の剣:スーパーノヴァ』、そしてアリスが大切にする小さなロボットは手元にない。
【人物背景】
勇者に憧れる少女。
ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部に所属し、RPGゲームの影響で勇者を目指すようになった。
元々は世界を滅ぼすために生まれた「魔王」だが、仲間達との絆で自分の夢を思い出し、「勇者」になりたいと宣言する。
その身に宿す鍵の少女とも向き合い、共に光の剣を掲げて世界を救うきっかけを作った。
【備考】
参戦時期はプレナパテス決戦後からです。
投下終了です。
投下します
冬の陽は落ちるのが早い。 つい先程まで明るかったのが、まるで冗談の様に薄暗くなっていた。
低かった気温は、陽が沈むにつれて下がっていく、上着を着ないで歩いていれば、イヤでも注目される温度だ。風が吹いていれば尚更だろうが、深山町の町並みを、海へと向かって並んで歩く二人の少女には、全く気にならないらしかった。
「これが本来の日本という訳か」
「日本…か。何処か懐かしい響きだな」
人目を引く、二人だった。
可愛らしい、可憐、そういった類の顔立ちでは無く、凛とした、凛々しい、そういった形容が似合う顔立ちの少女が、それぞれ異なる学生服を着て歩いていれば、イヤでも人目を引く。
両者とも、男よりも同性の方からの人気が高そうだった。所謂、王子様系女子というべきか。
この二人の容貌を問われれば、男女を問わず、10人中10人が美少女と答えるだろう。10人が100人に、1000人になっても、同じ事だろう。
「それにしても大したものだ。此処まで仮想現実として街並みを構成できるなんて、最初は総旗艦の差し金かと思ったが」
「前にも言ったけれど、私はセイレーンが関わっていると思っているよ。奴等の鏡面海域は何でも有りだからな。『霧の』キリシマ」
「お前に呼ばれると何だか妙な気分にさせられるな。サーヴァントなんて身の上になったかと思ったら、『霧島』に召喚されるなんて思わなかったよ。重桜の」
飄々と、言葉を交わしながら、二人は海へと向かって歩く。
「総旗艦っていうのはやっぱり『大和』か」
「『ヤマト』さ、何を考えているのか解らない艦だよ」
奇妙な関係だと、二人は思う。
二人は共に、大日本李国海軍の戦艦「霧島』に由来する名を持つが、共通するのは精々がそれ位だ。
霧島は地球の海で戦い、地球の海に没した軍艦の記憶と力を有する、並行世界の存在であり。
キリシマは、膨大にして悠久なる知の集積の果てに、あらゆる事象をその手に収めた存在が、“自身のルーツを知る為に行った実験の査定を行うモノ“に行使されるマシンの一つ。
「戦争をしろって言われたから、こんな形で戦争させられているんじゃ無いかと思っていたんだがな」
闘争本能を制御し、闘争の果てに何を成し、何を手に入れるのか、世界でどう生き抜くのか。その可能性を“霧”に与えられた試練。
地球という星で誕生した、有機無機を問わず知的生命体に与えられた、未来を賭けた試練。
それがこの聖杯大戦かと、キリシマは最初は思っていた。
「何で私達はこうしているんだろうな」
キリシマの疑問も尤もで、本来の両者の立ち位置で有れば、殺し合う中でもおかしくはばいのだから。
セイレーンから人類を護るのが、私達KAN–SENの使命で、お前達“霧の艦隊”は、人類を海から駆逐したんだものなl
両者の立ち位置は両極。海ヒトの手にを取り戻すKAN–SENと、ヒトを海から追った“霧の艦隊”。
「あの時は只、命令を実行するだけのプログラムの様なものだったからな、人間と戦っているという認識なんて無かったが」
あの時は、人間の知的活動をシミュレートする為のメンタルモデルを形成していなかった為に、キリシマは記録としては認識しているが、記憶としては覚えていない。
「今は人間とは戦いたく無いんだよな」
キリシマは天を仰いで溜息を吐く。随分と人間らしい風情だった。
「サーヴァントとだけ戦えば良い。と言っても、サーヴァントを失えばマスターも死ぬのがな」
二人ともに人間と戦う意思は存在しない。だが、この聖杯大戦は、サーヴァントを失えばマスターも死ぬ事となる。
それを思うと、二人は陰鬱な気分になるのだった。
思い気分を忘れようとするかの様に、二人は言葉を交わしながら、海へと歩いて行く。
「随分と平和なもんだ。ズイカクやショウカクなら喜んだだろうな」
街の様子を眺めて、キリシマはしみじみと呟く。“霧”による海上封鎖により、国家崩壊寸前にまで陥った日本しか知らないキリシマには、電脳冬木市は新鮮なものに映るのだった。
「五航戦の二人か。そんなに此処に馴染むのか」
「多分メンタルモデルを捨てろって言われたらキレて反乱起こす程度には、ニンゲンの娯楽や文化を愉しんでるよ」
「コスプレをしている私と似た様なものじゃない」
「ニンジャの真似事もやってたなぁ。そういえば」
聖杯大戦の舞台となっているだけに、血生臭く物騒な事件屋、怪異な話が急増している冬木市で、日暮れ直後とはいえ、周囲を興味深げに見回しながら美少女が二人並んで歩くのは、嫌でも人目を引いたが、二人の凛然とした雰囲気に押されたのか、声をかけてくる男など居なかった。
【キリシマ。サーヴァントの気配は】
【近くには無いな】
海へと向かって歩きながら、サーヴァントの気配を探るも、近くには無く。この分では何事も無く海に着きそうだった。
「海から一番遠いところに拠点を宛てがわれるとは思わなかったよ。身体を使って戦うのも一苦労だ。
キリシマがボヤく。が、一苦労と言った割には、大した面倒事とも思っていないようでもあった。
「私達は海でこそ本領を発揮するからなぁ。ハンデと言えばハンデかな」
「まぁ潜行させておいて、必要な時に浮上させるという手もあるさ。そこ辺の運用は、任せたぞ。マスター」
にっ、と笑うキリシマに、やれやれと呟いて、霧島は天を仰ぐ。
「そんな事をすれば、魔力が尽きるだろ?リュウコツの生み出せるエネルギーでも、アレを維持するのは大変なんだぞ」
ハァ。と『重桜』の、と呼ばれた霧島が溜息を吐いた。
「機関を稼働させていれば魔力を生み出せるけれど、停止させていれば私の魔力を使うんだからな」
冬木大橋を過ぎて、海が近くなってくると、心なしか風に潮の香りが混じりだす。
心なしか、浮かれだした様に見える霧島に、キリシマは訊いてみた。
「私達はそうでも無いけれど、やっぱりマスター達は海の近くの方が落ち着くのかい」
「私達は艦(フネ)だからなぁ。海に惹かれるんだよ」
「艦(フネ)か。まぁ私達も、艦体があった方が落ち着くからなぁ」
という訳で宝具を作成させろと、言外に要求してくるキリシマをスルーして、霧島は浜辺へと降りて行く。
冬の日が沈んだ後の海辺など、人っ子一人居はしない。人気の無い砂浜を真っ直ぐ海へと歩く桐島の姿は、どう見ても入水自殺をしようとしている様にしか見えなかった。
足元の砂が湿り気を帯び、靴を波が濡らしても構わず歩き続け、海に足を踏み入れると同時に、霧島の身体が鋼の威容を纏っていた。
「それがマスター達の艤装か」
水の上を平然と歩いて行く霧島に、キリシマはどうやって浮いているのかを考えたが、全く分からないので考えることをやめた。
「機関は…問題無いな。砲弾が無いし、リュウコツのエネルギーをキリシマに取られているから、火力は大分落ちるだろうが」
軽い掛け声と共に、霧島のが宙に舞う。軽く見積もっても半トンは有る鋼鉄の艤装を纏いながら、身体は軽やかに五メートルもの高みに達して一回転。再度海面に降り立った。
「身体能力は艤装を展開したときのものだな。コレならサーヴァントと戦う事になっても何とかなりそうだ」
「明らかに超常現象の類だから、サーヴァントととも普通に戦えそうでは有るんだよな」
「私達はヒトの想念が形を為した存在でも有るのさ。だからサーヴァントとも戦えるさ」
「そりゃ頼もしい」
キリシマはパチパチと手を叩いた。
◆
「なぁマスター」
「何だライダー」
艤装の試しを行った後、二人は並んで帰路につき、何事も無く拠点に帰った。
教会の近くにある住居は海から遠い事この上ないが、二人には大して問題には成りはしない。
拠点として設定された一軒家の中で、二人は炬燵に足を突っ込んで向かい合う。
KAN–SEN中には、異様に露出の高い格好で北の海で戦う者もいるし、“霧”に至っては寒さや暑さを感じる機能を任意でオン/オフ出来るのだが、それはそれである
「艤装って陸(おか)でも出せるんだろ。何で海まで行ったんだ」
「気分だよ。艦船にはやはり海だろう」
茶目っ気たっぷりに笑った霧島の返事に、キリシマは妙な表情で固まった。
【名前】
キリシマ@蒼き鋼のアルペジオ(原作漫画版)
【CLASS】
ライダー
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力;C 耐久:A 敏捷:B 魔力:E 幸運:C 宝具;A++
【クラス別スキル】
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、魔術ではキリシマに傷をつけられない。
41億年の歳月を経たキリシマの神秘は破格である
【固有スキル】
ナノマテリアル:A
“霧の艦隊”に属するものの艦体や艤装、メンタルモデルを形成する万能物質をどの程度のレベルで操ることができるかを示したスキル。霧の大戦艦であるキリシマは最高ランク。
ナノマテリアルを用いての、自己修復に武器や艤装の形成、メンタルモデルの分子組成を変える事により、打撃に用いる部分を金属に変えて、文字通りに“鉄拳”を撃ち込むことが可能となる。
組成すら明らかになれば、サーヴァントの宝具を形成することも可能。ただし模倣でしか無く、威力や武器としての性能のみを再現しただけで、帯びた神秘や概念は再現できないが。
果ては人体を精製し、素になった人間とそっくりそのままの挙動すら行わせられる。
このスキルで使用されるナノマテリアルは、魔力を消費して精製する。
クラインフィールド:A
任意発動でエネルギー経路を生成し、加えられたエネルギーを任意の方向へ放出する。
コアの演算能力により、フィールドの強度が決定される。大戦艦であるキリシマは最高ランク。
応用で物体を運んだり投げたりできるほか、空気抵抗や慣性を打ち消しての高速変態機動や、重力を打ち消して浮遊する事ができる
ユニオンコア:A
霧の艦の本体とも言える『ユニオンコア』の演算能力を表すスキル。
この能力により、火器管制や動力制御、クラインフィールドの強度、更には扱えるナノマテリアルの量が決定される為、このスキルランクがそのままサーヴァントとしての戦力に直結すると言って良い。
高速思考及び分割思考の効果を発揮する。
千里眼:B
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。また、赤外線や紫外線を視る事により透視を可能とする
【宝具】
ヨタロウ(キリクマ)
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:自分自身
大きめのクマのぬいぐるみ。嘗てメンタルモデルの形成すら出来なくなったキリシマが、仮初の身体として使用したもの。
クマのぬいぐるみの姿になる宝具
多少の強化は施されているが、所詮ぬいぐるみでしか無い為に簡単に破壊される。
この宝具を使用している間は、サーヴァントとしての気配を完全に断って行動する事ができる。
霧の大戦艦“キリシマ”
ランク:A ++ 種別:対国宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:10000人
大日本帝国海軍金剛型四番艦霧島を模した、“霧の大戦艦”キリシマを召喚する。
主砲や副砲から撃たれる光学兵器や、重力により空間に作用して原子運動を止め、物質を崩壊させる浸食弾頭や、超重力の渦により原子間の電磁結合が破壊する超重砲といった強力な兵装を有する。
戦艦それ自体が海に浮かぶ“鉄の城”と呼べるものである為に、この宝具は対人宝具では傷付かず、対軍宝具でも効果を半減させる。
強大な機関出力より齎されるエネルギーにより、この宝具を発動させると魔力消費は無くなるが、発動時には、ナノマテリアルスキルを用いて艦体を艤装ごと形成するという方法を取る為に、膨大な魔力を消費する
ユニオンコア
ランク:A ++ 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:自分自身
キリシマの本体ともいうべき存在。霧の艦の中枢ユニット。要は超高性能CPU
この宝具が無事である限り、キリシマは艦体やメンタルモデルを失っても消滅せず、再度メンタルモデルや艦体を形成して復活できる。
【Weapon】
スキルにより作り出した武器や艤装。
【解説】
突如として霧の中より現れ、人類を海から駆逐した、第二次大戦時の軍艦の姿を模した人類の敵の一体。
戦闘狂というか猪突猛進する嫌いがあり、伊401との戦闘では、狭い横須賀湾内にハルナ共々突っ込んで、高速戦艦の持ち味を活かせず、ハルナと合体して動けなくなったところを纏めて撃破されて、アカギにバカにされた。
更に後続のマヤ率いる水雷戦隊が戦闘に参加できなくなったりしてコンゴウに突っ込まれた。
いつの間にか乙女心を習得していて、タカオを撃破できる絶好の機会を、メンタルモデルの形成を優先して不意にし、タカオとハルナを呆れさせた。
なお顔が良い。非常に良い。
聖杯大戦には、バーディクトによる宣告を受けた直後から参戦している
【聖杯への願い】
無い
【把握資料】
参戦時期の都合上蒼き鋼のアルペジオ21巻まで
【マスター】
霧島@アズールレーン
【能力・技能】
KAN–SEN
KAN-SENは"Kinetic Artifactual Navy Self-regulative En-lore Node"の略であり、直訳すると「動力学人工海上作戦機構・自律行動型伝承接続端子」となる。いわゆるバクロニムである。
軍艦としての過去を持ち、人としての未来を有する。
動力学人工海上作戦機構の名の通り、海上での行動及び戦闘を目的として製造された兵器であるが、陸上でも戦えない事は無い
伝承接続端子の名の通り、素体となった艦が持つ戦歴や逸話、艦名の元になった存在、果ては後世の与太話に由来する特殊な能力を行使する事が可能であり、無辜の怪物スキルや、可能性の光スキルにも似た性質を持つ。
KAN-SENに共通する能力として、自身の元になった素体。霧島の場合は金剛型四番艦霧島に姿と能力を有する量産艦を出す事ができる。それなりに広い場所でないと出せないが。
この電脳冬木ではそもそも出せない
【解説】
好きなもの・こと:比叡の作った会席料理、カラーレンズ
苦手なもの・こと:乾パン、素手ケンカ
一人称 :私
趣味 :カラオケ
特技 :ニンジャ奥義(偽)
金剛型の末っ子。だが榛名とは双子の様なもの。
トモダチ力が高過ぎると言われ、マスクで素顔を隠している
忍者の格好をしているがコスプレである。
顔が良い。非常に良い。
【聖杯への願い】
帰還
【方針】
ヒトとは戦いたく無い。
投下を終了します
透過します
.
sleep walk まぶたが思い出の闇へ誘う 雪が花をそっと枯らすように
知っていたはず 繰り返すものなんて無い
時の針が 僕を消してく
だけど 不思議 熱く今 涙
輝いて見えるよ ありふれた全てが 人いきれの街の 煙る空さえ
なにげない時間の 燃えるような煌めき 失くしたくないから いま歩き出す
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
初め、この料理をデリバリーしてくれると聞いた時、少女が抱いた感想は「うっそだー」、だった。
フードデリバリー、言ってしまえば宅配だとか出前の類は、彼女が生きていた時代ではよくあるサービスだった。
と言うより、彼女が産まれるよりもずっと前から、出前と言う文化は存在していたし、歴史の面でもかなり深い。
ラーメンや丼物、蕎麦にうどんにカレーライス、寿司にピザにフライドチキン。そう言ったものが、彼女の時代では主流だった。
鳴り響くチャイム。
はーいと明るい声で返事をし、宅配をしている若い男性からそれを受け取り、心付け程度にチップ――三百円程度――を渡してから、お礼の言葉を告げ、宅配と別れた。
渡された紙袋をちゃぶ台サイズのラウンドテーブルまで持って行き、プラスチックの器を取り出して、フタを開ける。「おお〜」、と、感嘆の声。
「凄い……はがくれの匂いだ!!」
実際に店で食べている訳じゃなく、テイクアウトで頼んだものであるから、スープの量も盛りつけの量も麺の多さも、全て店舗のそれとは違う。
テイクアウト相応のサイズになっており、明け透けに言うならば、量が少なめにダウングレードされている。
しかしそれでも、フタを開けた時に香るこの匂いは、疑いなく、彼女の記憶の中の鍋島ラーメン・はがくれのそれと全く同じである。
私めは豚骨ベースのスープで御座います、という事を如実に食べ手に主張する白いスープ。
こってりしてそうな見た目なのだが、これが、麺を啜ってみるとむしろあっさりとした醤油味で、一口食べると箸が兎に角進んでしまう。
何より特徴的なのが、この、チャーシュー!! 企業秘密の調理法で下準備が成されたこのチャーシューは、箸で軽く挟むと、簡単にちぎれてしまう程に柔らかで、
口の中に入れてしまえば溶けるように消えてしまったのでは、と言う錯覚すら覚える程にトロトロなのだ。当然、味自体が抜群な事は、今更言うまでもない。
「さて、お味の方は〜?」
ウキウキした声音で少女はそう呟いて、割りばしで麺を挟み、麺を勢いよく啜り出す。
――店舗で直接食べる味とは違い、多少、出前用の味付けになっている気が、しないでもなかったが。概ね、間違いない。
コテコテしていそうで、その実はすっきりとした醤油味。後味にべたつく感触はなく、次々に麺を啜って行けるこの味は。嘗て彼女が口にしたはがくれそのものだった。
「美味しい!!」
なので、舌鼓。
店主と思しき男と、配膳から店内のクリンリネス、無論の事調理の手伝いなどを全て兼用するベテランの男性スタッフ数名からなる、小さい店舗。それがはがくれだ。
典型的な、個人経営のラーメン屋、と言った風情で、とてもではないが、現状のスタッフを出前に割けるとは思えない店であった。
だから出前何てしてくれる筈がないと思っていたのに、こうして、出前に対応してくれる。
厳密に言えば、ラーメンを届けてくれたのははがくれのスタッフではない。食事の出前を専門に受け持つ外部の会社、そこが確保している配達スタッフが届けてくれるのだ。
『汐見琴音』が生きていた時代には、存在しなかったサービスだ。
彼女のいた時代でも、通販による買い物が既に店舗での直接販売と言う形態を既に追いやって、消費者やユーザーの買い物の形態の頂点に君臨していたが、
今じゃ通信媒体の発達によって、店で直接食べると言う当たり前の在り方すら変革してきているのだから、時代の進歩と言うものをつくづく感じてしまう。
とは言え、無責任な一消費者としては、この便利な恩恵に与るばかりである。店に直接向かう必要なく、ご飯が食べられる。不精だが、有難い話である。
何せ琴音の住んでいた寮からはがくれの店まで、遠かった。駅から少し離れたモノレールの駅に乗って、数駅揺られたその先に、店があるのだ。自転車に乗って数分と言う距離ならまだしも、これが公共の交通手段を利用して、となると、面倒なものであった。
「……」
はがくれのラーメンを食べるその様子を、見下ろすようにして眺める男がいた。
――それは、確かに男と呼ぶべき者なのだろう。見てくれだけで判断するのならば、その様に見える。
だが、果たして。『人間』と言う種族のオスなのか如何かと問われれば、誰しもが口を揃えてこう答えるであろう。違う、と。
そもそもの話、人間と言う型枠に当てはめて語る事が、正しいのかどうかすら解らない人物であった。
確かに、姿格好は人間のそれに酷似しているし、性差の見分け方も一目で解る位、容易に類推がつく。だが、それだけだ。
見ただけで、解る。この存在は、人の形をしているだけの、怪物だ。いや、魔神だとか邪神だとか、そう言った括りの存在であると言われても、納得が行く。
『神』。そうと言われても、琴音は納得するだろう。
擦り切れた白い、着流しともトーガとも取れる服を身に纏った、黒炭を粉にした物を塗りたくった様な黒い肌に、今しがた血を頭から浴びて来たと言われても納得が行く、赤色の髪。
首元には、本来尻尾がある位置に頭のある、白子(アルビノ)の鱗を持った双頭の蛇を付き従わせている。ヒンドゥーの破壊神であるシヴァは、コブラを持物として首に這わせているが、この神との関連性は解らない。
だが何よりも、その特徴的過ぎる肌の色や髪の色、双頭の蛇と言う、特徴的が過ぎる特徴や符合がこれだけ揃っていても、それらが問題にならない程大きな特徴がある。
顔、だった。表情、と言うべきなのかも知れない。果たして、如何なる無念と後悔を味わえば、こんな顔になるのかと。思わずにはいられぬ程の、憤怒と憎悪の貌。
きっと昔は、端正な顔立ちだったのだろう。俗な言い方だが、『モテた』、のかも知れない。それが、表情のせいで、形無しだった。
――怒り顔にイケメンはいないよなぁ――
男の顔をみる度に、琴音はそんな事を思う。
これだけの存在感を持った男を見て、抱くイメージがそれである。
「……大物だな、貴様は」
声が、紡がれる。
読み物を嗜んでいると、重苦しい声だとか、重々しい声だとか、そんなような表現が出て来る事がある。
勿論言うまでもないが、声が物理的に質量を持っているだとか、そんな意味では断じてない。真剣に、本気(マジ)で。そんな風な様子を例えた比喩に過ぎない。
――この男の場合は、違う。
声が、本当に『重い』。纏わりつく大気が、重い鎖となって、身体中に巻きつけられているかのような。1語1語を発する度に、そんな感覚に陥るのである。
魂まで、その声の重みだけで引きずり出されかねない。それ程までの威圧と重圧を伴った声を受けても尚、琴音ははがくれのラーメンを、それはそれは勢いよくズルズルと啜り続けている。
君の声何て怖くはないもんね〜〜〜〜〜〜、そんな感じの性根が透けて見えるようだった。これを、大物と認識せずして、何と言うのであろうか。
「フォーリナーも恥ずかしがらずに注文すれば良かったのに。女の子に奢られるのいや?」
「この身体は食事を必要としない。……だがそれ以上に、人の子の食物は我は受け付けん」
実際、琴音からフォーリナーと呼ばれたこの人物の言う通りである。
彼女によって、この電脳世界の冬木のサーヴァントとして召喚された彼は……いや。そもそも、サーヴァントになる、生前の段階からして。
食事、と言う生理的機構を排した存在であった。つまり、彼の言う通り、本当に、食物を消化して栄養とする、と言う過程が必要ない。
話だけを聞くならば、高次の存在としか言いようのない生態の人物だった。いや、言いようのない、ではない。その通り、高次の存在そのものだった。
生前の力が余りにも強大過ぎる為に、英霊に召し上げられ、座に登録され、その情報をサーヴァントとして召喚した結果、呼ばれた本人がハッキリ意識出来る程に弱体化する。
よくある話ではあるが、フォーリナーの場合は、その次元では済まない。本来人間からすれば十分過ぎる程に高次の存在である英霊ですら、彼からすれば格落ちも格落ち。
往時の姿が見る影もなく、落ちぶれ、弱体化している。それが、フォーリナーが今の自分の姿に対して下した、客観的なジャッジであった。
「電子で構成された異界の地で、滅尽滅相を成せと言われて、童のように、馳走に舌鼓を打つ。呆れる程の阿呆か、大物。これ以外に形容するべき言葉がない」
見るからに、気位が高そうな男だった。
眉間に常に眉を寄せ、険のある表情を常に浮かべ、気難しくて、神経質そうなオーラを放出する。
交わす言葉1つ間違えれば、塵一つ残らず消滅させてきそうなその難渋そうな立ち居振る舞いは、宛ら荒ぶる神。
今の己の身体の、矮小さ、弱体化に対して、天井知らずの不満を抱いているように見えるだろう。
――汐見琴音以外には。
「いい加減さ――」
麺を食べた後のお楽しみとして、残してあったチャーシューを頬張りながら、琴音は言った。
「上手くない演技、やめなよ。フォーリナー」
そう。琴音には、解っていた。
フォーリナーが今のキャラクターを、かなり無理して演じていると言う事を。
「大丈夫だよ。何があったのかはよくわからないけど、あなたが本当は……芝居、ヘタクソな人だってのは、わかってるから」
「……」
「私、あなたが思ってるほど、お淑やかで、『よよよよよ……』って泣くようなお姫様じゃないし……自分の選択にも、悔いはないよ」
迫り来る、大いなる死である、ニュクスに……綾時に対して、我が身を捧げた事。その事に対して、琴音は、微塵の後悔も抱いてなかった。
これからの輝かしい人生を捨てる。全て承知の上だった。2度と皆と、会えなくなる。全て理解していた。その献身に対して、報いはない。初めから解っていた。
嫌だったし、怖いと思った。1人寝室で、何で自分が……、と思った事は1度や2度ではない。自分は特別なんかじゃないと、叫びたかった事もある。
でも――決めたのだ。
何処まで出来るかなんて解らなかったし、どんな結果に行き着くのかも未知。救われるかも知れないし、全くの徒労に終わるかも知れない。
それでも、琴音は、選んだ。悩みに悩んで、頭に10円ハゲが出来上がるんじゃないかと言う位真剣に悩み抜いて。
結局、華の17歳のJKの、青春の1ページを彩って来た、感謝するべき人達に。そして、苦楽を共にした、S.E.E.Sの皆に。生きて欲しかったから。
だから、命を捧げた。降臨すれば、一切の例外なくあらゆる者に死を齎す、大いなる眠り。死そのものの具現であるニュクスに、己の意思を、示したのだ。
「私に『なにくそー!!』って思わせてさ、生きる気力とか活力だとか、沸かせてやろうって言う配慮は、要らないお世話ってモンです」
「だってほら――」
「今日も今日とて、ラーメンとお水が美味いですから」
この冬木の街に呼び出され、フォーリナーのクラスの彼を召喚した、当日。
今琴音がいる学生寮のベッドで眠った時に、夢を見た。仲間達との、絆を結んだ様々な人々との日常。そして、彼らと結んだ絆のこれからを放棄してまで、彼らに迫り来る死を遠ざけた、あの日の事を。
多分、その夢が、琴音と彼を繋ぐパス経由で、フォーリナーにも共有されたのだ。その日から、彼は、今みたいな、大上段に、導くような態度をとるようになった。
何か、思う所があったのかも知れない。それは良いが、その演技と言うのが、もう見てられない位、大根。下手糞だった。
前を向いて、生きる気力を失わずに生きていてくれ。そんな言外の意思が、あからさまに伝わって来るのに、言動だけは懸命に、偉そうで、親しみを持たせないように努めている――と本人は思っている――のだから、とうとう堪えられなかった。
「……クソオヤジは大層な演技派だったんだが、俺はその才能を全く受け継がなくてね」
急に、声の調子が変わって、琴音はビックリした。
神様、或いは、上位存在のように振舞っていたさっきまでとは、全然違う。何に驚いたかと言えば、自分と大して歳の頃が変わらない、男の子と全く変わらない声音と様子だったからだ。
って言うかこいつ、冷静になって声聞くと順平に似てね……? テレッテって言ってみてよ。
「波旬の細胞に見破られるのは兎も角……お前みたいな子供にすら演技が解る位、俺は大根役者って奴らしい」
「波旬……?」
「気にするな、独り言だ」
波旬。
その言葉を口にした時の、フォーリナーの語気は、恐ろしい程に冷たかった。
タルタロスの修羅場を潜り抜けて来た琴音が、思わず、たじろぎかねない程に。
「理不尽極まる出来事に巻き込まれ、迷惑極まりない力に目覚めて、通り雨に降られたみたいに、日常が終わった時……お前は、どう思った。マスター」
「えぇー……って思ったかな。力……あぁ、ペルソナ能力って言う名前。それが目覚める前から、ちょ〜っと、訳アリのミステリアスな女の子でね。ただでさえ厄介払いされてたのに、この上厄介払いされた先でも面倒ごとに〜? って素直に思ったよ」
「……そうか」
「それでもね、結果論になるけど、巻き込まれて……良かったと思ったよ。酷い目にもあったし、最悪の事態にも見舞われたけど……それでも、おかげで大切な人達にも、恵まれたしね」
何度、あの恐ろしい塔に潜るのを止めようと思っただろうか。斬られ殴られ貫かれ、焼かれ冷やされ感電し。痛い目だって、嫌と言う程味わされた。
……荒垣やチドリの死、と言う、壮絶な体験は、今でも忘れられない。1ヵ月程度の付き合いとは言え、荒垣がいなくなった学生寮にポッカリと空いた間隙の虚しさは、一生忘れる事はない。
チドリの死を目前にして、親友の順平が、ええかっこしいの見栄っ張りと言うキャラクターを忘れて、泣き叫んだ時の姿は、今も脳裏に焼き付いている。
多分……そう言う、最悪の事も含めて、思い出だ。
神ではないのだ、記憶のアルバムが何時だとて、良い事ばかりの写真で埋められる事はない。思い出したくない記憶、出来れば変えたかった記憶。琴音にだってそれはある。
しかし、それを踏まえて、これでいいのだと満足出来る結果に落ち着いたのなら。それで、良いと彼女は思う。そして、その結末に彼女は至った。ならば、もう、言う事はない。
「俺も、そうだったよ」
昔日を懐かしむ様な声音でそう言ったフォーリナーの姿は、つい先ほどまで見せていた居丈高な態度からは想像もつかない程に、優しかった。
「お前と違って、精神性がガキだったからな。理不尽に対してはいつも、怒ってばかりだった。絶対にこんな目に合わせた連中を許しては置かない、って感じでな」
始まりは、何時の事だったのか。最早彼はそれを思い出せない。
身を委ねていたい日常を突如として破壊された怒りと、護ると決めたものを護る誓い。これをのみを原動力に、男は、戦った、戦った、戦い続けた。
「得られた結果には、納得したの?」
「随分、時間を掛けたけどな。それでも最終的には、折り合いをつけた」
自分が何を賭してでも殺すと決めた、2人の男。
ナチス時代の亡霊とも言える美男子と、その男に技を授けた影法師の様な男と一緒に働かなくてはならない、と言う現実を認めるには多少の時間は掛かりもしたが。
結局は、自分の日常を守れるのならと思って、2人とも和解した。……出来ていたかどうかは、今でも解らないし、思う所もある2人ではあるが、少なくとも手を取り合って働く位の事はしていたのだ。
「悪い事もあったけど、終わりが良ければ、全て良し。良い事だと思うし、そう思えるのなら、お前が一番正しい。だからこそ、覚えていて欲しい」
「?」
「……繰り返されるものなんて、何もない事を」
その言葉の後に、男は、数秒の沈黙を込めた。次の言葉を言い放つ事に、途方もない力が必要で、紡ぐ事自体に、時間が掛かる、とでも言う風なように、琴音には見えた。
「……全て終わったと思った後に、壊される平穏も、あるんだと言う事を」
そうだ。
俺が、一番解っていた筈なのだ。繰り返される永遠など、この世には、存在しないと言う事など。
楽しい事だけを、まるで、滑車の中を駆け抜けるネズミのように繰り返し続ける。親しい者達だけを集めて、それ以外の、意にそぐわないもの全ての時間を、止める。
それが、吐き気を催す程に悍ましく邪悪な理である事を、俺は、誰よりも知っていた。知り合い以外の存在全てを、まるで絵画のように止めて見せて、悦に浸る。
そんな、邪な神しか思い描けない理想を成就してしまうのが、俺と言う存在だったからこそ――俺は、彼女に世界の命運を譲ったのだ。女神としての席を、用意したんだ。
マリィは、よく励んだ。分け隔てもなく皆を愛し、抱きしめ、世界を発展させた。
勿論、完璧な世界だった訳じゃない。相応に差別があり、争いがあり、不満もあったし不平も見られた。だが最後には、女神は、祝福してくれた。
俺は、良い世界だと思っていたし、永遠に、この日だまりと平穏の世が続いていれば、良いと心底から思っていた。
永遠なるものは、この世にはない。
ああ、そうだよな。俺は、それを誰よりも知っていた。個人の願いから産まれ出でた永遠は、醜悪な物しか成就しないと知っていたから、マリィが神になる道を認めたんだ。
そうだ。マリィがどれだけ温かくて、優しい世界を用意したとしても。それが、永遠に続く筈もない。彼女がどれだけ頑張ったとしても、努力しても。現実は、恒久に続くものを認めないのだ。
「あなたが怒ってる理由って……」
「そう言う事だ」
神の御代は、交代劇。先代の神は、次代の神に滅ぼされるのが定め。
この倣いで言えば、マリィの世界は、賞味期限が切れたという事だったのだろう。期日が来たから、新しい神によって世界が滅ぼされた。言葉にすれば、たったそれだけの話だ。
俺は、本当は何処かで思っていた。この怒りは正しいものではない事に。解っていても、俺達は納得が出来なかった。
各々のものを護ろうと、新しい神に挑み、そして、言い訳の仕様もない程に敗れ去り。凌辱と言う言葉が可愛らしく見える程の辱めを受けて殺されたマリィを見て、俺は誓った。
この神は、殺す。この邪なる神が望む邪悪な世界を打ち壊す楔となるべく。文字通り、糞を喰ってでも生き永らえると決意した。
「笑えるだろ?」
ククッ、と、俺は笑う。正しい事をしたと思う一方で、己のそんな狂信について、呆れかえるような。そんな笑みだ。
「最早終わった、黄昏の残滓に縋って。こんなみっともない姿になるまで、醜態を晒し続けて生きたんだよ、俺は」
全力を出す事を何よりの夢とした黄金の獣は、その願いを今果させてやると言わんばかりの、巨大な力に敗れて粉々になった。
繰り返しを司り、思うがままに時間を巻き戻して来た水銀の蛇は、覆してはならないルールを破った報いと言わんばかりに、2度と同じ事はさせんと言わんばかりに千切れて果てた。
そして俺など――一番笑える。時の針を止める事が出来る、と言うのが俺の取り得だと言うのに。守りたかった者達の死を止める事も出来ず、結局、自身の能力で1人だけ生き永らえてしまったのだから。生き恥。それ以外の言葉が、見当たらなかった。
――天魔・『夜刀』。
そんな怪物としての名前を与えられ、蔑まれ。時に忘れ去られたら滅び去ると言う不変の掟に逆らって、己の権能を使って無様に足掻き続けた男。
それが俺だ。こんな結末は認められない、俺の親父が嘗て抱いた渇望と同じ執念を胸に抱き、居場所など何処にもない、自分達の名前など誰も覚えていないあの世界で。お前を殺すと叫び続けた糞馬鹿野郎。
諦めの悪い、浅ましいケダモノだ。
「――やっぱりフォーリナー、笑ってた方がイケメンだって」
スタスタと近づくや、琴音は、夜刀の唇の両端に人差し指を上げ、クッと力を籠める。
すると、夜刀の口の両端は、つり上がる形となり、無理やりに笑みを形成する事となった。
「……おい」
「うーん、やっぱ自然な笑顔じゃないとダメだね。その笑顔で結構、色んな女の子惚れさせて来たでしょ? ねー何股したんですのお兄さん?」
「お前……」
「あ、やっぱり私から言わないとダメ? 私はね、4人。もう少しで5股になりそうだったんだけど、結構ガード固かったんよ〜。お兄さんみたいな声の人でしてね〜?」
「………………お前」
2回目のお前は、別の意味での『お前』だった。
「――笑い何てしないよ。大事なものの為に戦った人は、笑っちゃダメ」
すっと指を離し、琴音は言った。
「やっぱりフォーリナーって、芝居が下手なんだね。怒るのが苦手なのに、全力で怒ろうとする」
「……」
黙りこくるフォーリナー。
己が、藤井蓮として生きていた頃から、そうだったかもしれない。
日常を破壊され、大事な友人達に危害が及んで初めて、彼は心底からの嚇怒を抱いた。
相手は常識や良心を置き去りにした、魔人の集団。鬼畜外道の言葉が相応しい者達でありながらしかし、そんな連中を相手にしてすら、この男は歩み寄ろうとした。
彼らの行動原理を理解しようとし、話し合おうとした。いきなり、殺そうとせず、対話から始めた。その在り方は、彼が復讐の鬼、力に酔い痴れる愚物ではない。優しくありながらも、それを表現しようとする手段と方法が、徹底して不器用なだけの、ただの男子高校生である事の証だった。
天魔として生きねばならなかった頃も、そうだ。
確かに彼は憤怒を抱いていたが、その彼以上に怒っていたのは、旧い世界から命辛々生き延びた、志に賛同する嘗ての仲間達だった。
蓮の――夜刀の怒りは自分達の怒りだと、言わんばかりの激情を彼らは宿していたが、それはきっと、気付いていたからだ。藤井蓮は、怒ると言う自己表現が苦手なのだと。
だから、憤怒していた所もあったのかも知れない。自分達のボスは……こんなにも無念を抱き、怒り狂っているのだと、夜刀(蓮)の代わりに、代弁していたのかも知れない。
「酷い事されないと、本当は怒れないんでしょう? でもそれは、当たり前の話。常に怒ってばかりの人の所に何て、皆集まらないもん。そんなフォーリナーが、そんな姿になるまで怒るだなんて、よっぽどの事があったんだ。正しいと、思った事を成し遂げる為に、本気で怒ったんでしょ?」
「だったら――」
「それは、下らない事じゃない。みっともない事でもない。立派な事だと、私は思う」
曇りも何もない、澄んだ瞳で、夜刀の目を琴音は見据えた。
充血していると言う領域ではない、完全に紅色となっている瞳の中に宿る、確かな理性の光を。琴音は、感じ取った。
「……そうか」
強いな、と夜刀は思う。
暗い陰を秘め、後ろめたい闇を抱えていながら、それを呑み込み、明るく生きようとするその様子。
夜刀は、マスターである汐見琴音の姿を見て、嘗ての自分が本気で守りたかった、もう1人の女性の姿を見た。
傷ついて欲しくなかったが故に、蝦夷の地において、太陽に召し上げてまで守り通した、幼馴染の綾瀬香純の姿が、琴音とダブって見えたのだ。
「俺は、お前が命を擲ってまで、守り通した尊い日常が、何であるかまでは、問わない」
「聞いてくれないの!?」
「良いものなんだろう? 聞くだけ野暮ってもんだぜ」
知れず、口調が昔のようなそれに戻った事に、夜刀は気付かなかった。
「だがそれでも、永遠に続く平穏なんてないんだ。お前がいなくなった後に、お前が守った物が壊れそうになった時、お前は……何を思う?」
「それこそ、聞くだけ野暮ってもんです」
ピースサインをビッと、夜刀の前に差し出して、琴音は言った。
「皆なら大丈V!!」
それは、根拠もへったくれもない、自分の自信だけを依拠とした発言で。
だがそれは、この世を去り逝く者が、遺された者達に一番抱いてなければならない信頼の類で――。
「お前なら聖杯もいらなそうだな」
この電脳世界の冬木の街に、己が呼ばれた理由を思い出す。
琴音がその気であるのなら、聖杯を獲得して、願いを譲ってやるのも吝かではなかったが、この様子なら聖杯で願いを叶える事には、否定的だろう。
「何でも願いが叶うけど、その代わりに人を殺す、って言うんじゃね。蘇りたいって言うのは本当の話だけど、それだったら要らないよ」
「それで、良い。殺して望みを叶えるなんて、その願いの価値を毀損するだけなんだからな。死者は、蘇らないに限る。お前の死は、侮辱されるべきじゃない」
その言葉を口にした時、夜刀はハッとした。
嘗ての昔。そんな事を口にしたような……、既視感、と言うものを、確かに覚えたからだった。
「良かった、フォーリナーの機嫌が戻ってくれて」
「……俺の機嫌なんて初めから損なわれてないんだけどな」
「だったら初めっから愛想よくして下さいよ、何か地雷踏んだ? って不安になるんだから、もう」
言いたい事は言い終えたのか。クルッ、と背を向け、はがくれのラーメンが置いてあるローテーブルの方に、琴音は向かって行った。
「あー、スープ冷めちゃった、全部飲むの好きなんだけどな」、と、スープが冷めたせいで、脂が煮凝りのようになりつつあるプラスチックの丼を見て、琴音は肩を落とした。
「なぁ」
夜刀の言葉に、「ん〜?」と琴音。
「景気づけだ。俺も久々に、人間らしい食事を摂りたくなった」
「え、本当!? 奢る奢る、何食べたい何食べたい!?」
俺の食うものがそんなに気になるのかコイツ……、と夜刀は苦笑いする。
何と言うか、年齢は香純や司狼と大差ないが、変な所が母親的と言うか……。オカン、の様な風格がある。
机の上に広げてあったメニューを眺めながら、夜刀は、とりあえず自分の食べたい物をイメージした。
「……焼きうどん。豚肉山盛り。ニンニクびたびた。汁少な目」
オーダーを聞いた瞬間、琴音はドン引きの目で夜刀を見た。
「それが……人間らしい食事……?」
御尤も。
「昔、一緒に馬鹿やってた友人が、験担ぎに食ってたものを、思い出しただけだ」
擦り切れた記憶の断片程度にしか思い出せないし、この世界では夜刀を知る者など1人もいないが。
たまには、旧い世界での思い出に浸ってみるのも、悪くはないと、思うのであった。
――指定のメニューを食べた後、ニンニクの臭いが口からしなくなるまで、琴音から会話と呼吸を禁じられた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
.
冬枯れに響いた はしゃぐ誰かの love song
自分のことのように 胸を震わす
輝いて見えるよ ありふれた全てが
手をつなぐ刹那の 息遣いさえ
なにげない時間の 燃えるような煌めき
失くしたくないから いま歩き出す
――川村ゆみ、『僕の証』
.
【クラス】
フォーリナー
【真名】
天魔・夜刀@神咒神威神楽
【ステータス】
筋力A++ 耐久A+++ 敏捷EX 魔力A+ 幸運E----- 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
領域外の生命(旧):EX
外なる宇宙、虚空からの降臨者。本来であれば外宇宙の神々の力の一端を担う者のスキルだが、このフォーリナーの場合意味合いが全く異なる。
黄昏の女神の統べる宇宙に存在していた覇道の神であったフォーリナーは、新しい覇道神が世界の『覇』を勝ち取ったその時点で、消滅していなければならない存在だった。
しかし彼は、己の用いる能力を使って生き残り、新たな覇道神の世界が成就する事を、数千年もの長きに渡って阻止し付けてきた、天魔であった。
旧、とは旧き支配者と言う意味ではなく、『旧い世界での生き残り』と言う意味である。
覇道の神と言う、真っ先に滅ぼされるべき存在でありながら、歴代の神格の中でも最強にして最悪の邪神の治世の中で、生き延び、滅びを願い続け――そしてそれを成就させた。
フォーリナーの領域外の生命のスキルランクは、規格外、超越性、唯一性、三方の意味でのEX(規格外)。唯一無二の、存在であると言える。
神性:-
フォーリナーは邪神の治世、第六天と呼ばれる世界観に移った時点で、このスキルを消失している。
【保有スキル】
天魔:EX
化外共の頂点、国威を陰らす魔なる者。
一般的な仏教用語の天魔とは違い、フォーリナーが持つ天魔スキルには、仏教関係の天魔が持つようなスキルを振るう事は出来ない。
他のサーヴァントで言う所の、『鬼種の魔』スキルに在り方は近く、極限域の怪力・天性の魔・魔力放出スキルを兼ね備えた複合スキルとなっている。
フォーリナーの魔力放出の形態は、『斬撃』。防御に転用したりする事は出来ない、ただ、相手を斬る事のみの、攻撃特化の形態だが、その威力も速度も桁違い。
本来ならば、単一宇宙を丸々割断する程の威力であったが、サーヴァント化の影響に伴い、大幅に威力が劣化。粛清防御の貫通程度に留まる。
また、上述のスキルに加えて、フォーリナーは千里眼を超えた千里眼、天眼すらも保有していたが、これは今回の企画の舞台が電脳世界である事と、そもそもが世界観自体が完全に乖離した所である為、機能していない。そして上述のように、フォーリナーの天魔スキルは、鬼や魔としての意味合いが強い為、鬼や魔、と言った様な、人外の存在に対する特攻効果を強く受ける事となる。
無窮の武練:A+++
ひとつの座の歴史において無双を誇るまでに到達した武芸の手練。心技体の完全な合一により、いかなる制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮出来る。
精神的な影響下は当然の事、地形的な影響、固有結界に代表される異界法則の内部においてすらその戦闘力が劣化する事はない。
超高次元空間である座の深奥や、大欲界天狗道に犯された滅尽滅相の宇宙ですら、彼の武勇が損なわれる事はなかった。
鋼鉄の決意:EX
鋼に例えられる、フォーリナーの不撓不屈の精神。
座を握ったその瞬間に成立する、滅尽滅相の理を阻止し続け、拮抗など到底不可能な大欲界天狗道の流出を数千年の長きに渡り堰き止めて。
そして、この理を打破出来る時代の若人達への試金石となり、在りし日の思い出を胸に耐え抜き続けたフォーリナーのスキルランクは、規格外の値を誇る。
同ランクの精神耐性・勇猛、戦闘続行等を複合する特殊スキル。また、己の精神性を、防御やガッツにも反映させる事が出来る。具体的には、もう信じられない位に固い。元から滅茶苦茶頑丈なのに、心の力で耐えて来る。
対魔力:A+
覇道神であった者としての性質と、数千年に渡り生き続けて来た、と言う由来から、最高クラスの対魔力を有する。
【宝具】
『無間刹那大紅蓮地獄(Also sprach Zarathustra)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
発動した瞬間、フォーリナーが動いて良い、と決めた存在以外の時間を一切合切停止する、とんでもねークソ宝具。
最低でもフォーリナーと同格以上でなければ動く事はままならず、事実上、フォーリナー以下の格の持ち主は問答無用で継続ターン∞の時間停止バステが付与される。
文句なしのクソであるし、実際の所フォーリナー自身も紛う事なきクソと認識している宝具であるが、ただでさえ天魔時代のフォーリナーはこのスキルに著しい劣化が施されている上に、この上でサーヴァントとしての召喚の為、もう哀れな位劣化している。
発動してから数秒の間時間を止めただけで、フォーリナーとそのマスターの魔力を吸い尽くした後、消滅、退場を経ると言う自爆宝具。
【weapon】
無銘・刀翼:
フォーリナーの背中から伸びる八本の刃。遠目から見れば蜘蛛の足のように見えるそれは、ありし日のフォーリナーが使っていた、女神の面影のように見える。
宝具として登録されていないだけで、神造兵装宝具級の威力と格を持った、フォーリナーが振るう武器。これをまるで己の手足のように振るい、超威力超速度の攻撃を繰り出して来る。
時間の鎧:
フォーリナーの宝具である、無限刹那大紅蓮地獄の、余波。
本来フォーリナーは、時間停止の能力を己の身体に掛けつつ、平然と動く事が可能な存在である。
時間停止の能力を己に掛けると、攻撃を受けても『傷付く、壊れる、と言う時間変化が起こらない』、解りやすく言えば防御面に於いて絶対不変、無敵になる。
歴代神格の中でも防御面に於いては正しく最強とも言える力で、生前の彼はこの能力を己のみならず配下にすら施す事が出来た。第六天波旬の暴虐に耐えられたのも、この能力があったればこそ。
この時間の鎧を纏う事と、誰かに纏わせる事は、サーヴァントとして召喚された今でも出来ると言えば出来るのだが、魔力消費がもうとんでもねぇ位高い為、昔みたいに相手の攻撃を受ける事を避けている。
但しフォーリナーの場合、時間停止の鎧を纏って居なくても、素の耐久力が高い為、纏ってない状態で攻撃を受けても、致命傷となる可能性は低い。
美麗刹那・序曲:
アインファウスト・オーベルテューレ。天魔夜刀としてではなく、藤井蓮としての時代に使えた、魂を糧にして使うエイヴィヒカイトの能力。位階は創造。
『時の体感速度を遅らせる』『時を切り刻み分割し極限まで引き伸ばす』、と言う事が能力の基本骨子。
フォーリナー目線では滅茶苦茶動きが遅く見えるが、第三者の目線ではフォーリナーはあり得ない程のスピードで動いているように見える(実際その通りで本当に速く動いている)。
要するに、『反射神経の上昇を伴った超加速』と言うべき能力。本当にフォーリナー自身が加速しているのではなく、時間をそのものを超加速させている。
その加速には限界値がなく、雷の速度に見てから反応するどころか、それを見てから相手の攻撃に割り込む、対処する、と言うレベルにまで対応出来る。
KKK中では使う事がない(と言うか使わんでも素で同じ事が出来たと思われる)技術だったが、サーヴァントとして召喚されて、小出しにする事の大切さを覚えて、『そういや俺こんなの使えたっけな……』と言うのを思い出して、久々に引っ張り出して来た骨董品。消費魔力は結構な物。消費するのかよクソッタレ!!と不服気味。
【人物背景】
本当に愛した者達の為に、生き恥を晒し続け、その命を捨てる事を選んだ青年。
【サーヴァントとしての願い】
全て成し遂げた。
【マスター】
汐見琴音@PERSONA3 ポータプル
【マスターとしての願い】
ない。順当に勝って、ゆっくり眠りたい
【weapon】
召喚銃:
内部に黄昏の羽と呼ばれる、ニュクスから剥離した物質を内蔵された銃。殺生能力はゼロで、あくまでも、ペルソナを召喚する為の補助ツールである。
【能力・技能】
ペルソナ能力:
心の中にいるもう1人の自分、或いは、困難に立ち向かう心の鎧、とも言われる特殊な能力。
この能力の入手経路は様々で、特殊な儀式を行う、ペルソナを扱える素養が必要、自分自身の心の影を受け入れる、と言ったものがあるが、
超常存在ないし上位存在から意図的に与えられる、と言う経緯でペルソナを手に入れた人物も、少ないながらに存在する。
湊の場合は、元々のペルソナを扱える素養が凄まじく高かった事もそうだが、過去にデスと呼ばれるシャドウを身体の中に封印され、
元々高かった素養が時を経るにつれて急激に成長、遂には『ワイルド』と呼ばれる、ありとあらゆるアルカナのペルソナを操る程にまで成長するに至った。
装備する事で、精神力を消費して、魔術に似た現象を引き起こす事が出来、更に、身体能力も通常より向上させる事が可能。
原作終了後からの参戦である為か、原作のコミュランクMAXペルソナを扱う事が出来る。
【人物背景】
絶対存在が与える世界の滅びに抗った少女。その滅びを退けた代償として、眠る様に、その魂は地上を離れ、ニュクスの流出を防ぐ鉄扉となった。
何処で黒い羽根に触れたのかは覚えてない。今の私、多分、向こうで頑張ってる筈なんだけどな〜?
【方針】
何だかんだ電脳世界内部とは言え、久々の現世なので、観光は楽しむ。
透過を終了します
皆様、投下ありがとうございます!
期限直前ですが、念の為早めに新スレの方を立てて参りました。
容量が危ないなと感じましたら新しい方に投下していただければと思います。残りわずかになりますが、引き続きよろしくお願いします。
投下します
「―――どうなってるのよ、もう!」
思わず近くにあった椅子に座り込む。
ここは街の中央付近にある公園の中。
少し視線を上に向ければ、街を分断する巨大な川とその間を結ぶ大橋が見える。
二度目の空の世界での騒動も、ようやくひと段落ついたと思ってたのに!
だいたいなによ聖杯戦争って!
にこはスクールアイドルなんですけど!
連続で別世界に強制転移させられたようなものだ、ため息も出る。
願いを叶えましょうだの、万能の願望器だの、そんな大層なものに興味は湧かない。
夢というのは自分で叶えてこそ意味があるのよ、不思議な力で叶ったという結果だけ渡されてもねえ。
アイドルというのはファンを笑顔にさせるもの。
聖杯なんてものに頼った時点で、それは偽物に他ならないだろう。
「……さぶっ」
冬場の寒さに口から白い息が漏れた。
報酬に興味はないものの、人並みに生への欲求はある。当然死にたくはない。
頭に浮かぶのは、他のμ'sメンバーたちの顔。
……ま、μ'sにはにこがいなきゃダメよねやっぱり!
聖杯だか何だか知らないけど、絶対生きて元の世界に帰るんだから!
決意を新たに左手の、自分をこの世界に縫い付ける忌々しい痣を睨む。
―――瞬間、背筋に悪寒が走った。
―――なに、この感覚……誰かに、見られてる?
思わず周囲を見渡した。そして気づく。
さっきまではまばらに居たはずの人影が、今は一人もいない。
感じたこともない……けれど、どこか覚えがあるような威圧感。
その既視感の正体は、すぐに思い出せた。
空の世界で魔物と対峙した時の感覚。それがおそらく、にこの人生で感じた中では最も近い。
……重圧の差は、比べるまでもないけど。
少なくとも、視界に映る範囲には敵影はない。
おそらく姿を隠しているか、遠くにいるか。
……いや、たしか暗殺者のサーヴァントなら姿だけじゃなく気配も消せるのよね?
考えろ、考えるのを辞めたら死ぬ。今は仲間も団長もいないんだから。
相手はおそらく遠距離から自分を狙っている。そのサーヴァントのクラスで最も可能性が高いのは?
―――アーチャー!!!
何故か頭の中にある聖杯戦争の情報をもとに、相手を狙撃手のサーヴァントに絞る。
外れていたら一巻の終わりだが、普通の女の子にすべての敵へ対処出来ようはずもない。
ならば、最も可能性が高い敵一本に絞る。
「どこから狙ってるのよ……!」
相手の立場になって考える。この場所を狙撃するのに、最も適した場所はどこか。
幸か不幸か、ここは見晴らしのいい公園だ。
……いや不幸に決まってるでしょうが!
思わず自分でツッコミを入れてしまう。
そこで、思い出す。自分が公園に入った時、最も大きく視界に入ってきたものを。
街を分断する川。その上を繋ぐ大橋。……そして、その向こうに広がる駅周辺の街並み。
―――向こう岸のビルの屋上!
「―――ファランクスッ!!!」
その発想に至ると、無我夢中でそちらへ向けて防壁を展開した。
空の世界でアテナや団長に教わった技。
半透明の蒼い障壁が現れるのと、視界の片隅で何かが煌いたのはほぼ同時だった。
戦闘機のミサイルでも直撃したかのような爆音が響く。
思わず目をつぶる。だがその衝撃が体を襲うことはなかった。
……ゆっくりと目を開く。
「…………う、そ……でしょ……?」
確かに、障壁は敵の攻撃を受け止めていた。
―――その中央に白い、蜘蛛の巣状の無惨なヒビを残して。
……次の攻撃を受け止めるのが不可能なのは、誰の眼にも明らかだった。
敵が二射目を構えているのは、見えなくてもわかる。
今までで一番強い死の恐怖にすくむ足を、意志の力で強引に抑え込む。
「…………冗談じゃないわよ。こんなところで……死んでられないっての!!!」
精一杯の虚勢を張る。
私は絶対に……元の世界に、仲間の元に、帰るんだから!!
―――相変わらずですね、貴女は。
「―――えっ……?」
にこ以外誰もいないはずの公園に、女の声が響く。
……私、この声を知ってる?
心の声に応えるように、左手の令呪が赤く輝き、灼熱と燃えた。
その手の甲の痛みに気を取られてる間に、敵の第二射が放たれる。
やばっ……。そう思ってももう遅い。反射的に手で顔をかばう。
二度目の轟音と共に、障壁が砕け散る音がした。砂埃が宙を舞う。
……だけど、二度目の衝撃も届かない。
前方に何か壁でもあるように、衝撃が、空気が、砂埃が、にこの両脇を抜けていく。
砂埃の向こう側に、だれか……いる?
徐々に砂が晴れて、その姿が露になっていく。
「―――私を呼んだのは、貴女ですね?」
純白の鎧に、巨大な槍と盾。
まぶしい金色の長髪と、強い意志を感じさせる鋭い眼。
火の属性を表す、彼女の周囲を舞う炎の残滓。
鎧の色こそ違うけれど……空の世界で世話になった彼女を、見間違えようはずもない。
「……あ、アテナ……なの……?」
なんで、あんたまでこんな場所に。
おそらく、そんな心の声が表情にはっきり出ていたのだろう。
苦笑したアテナの口から、あっさりと答えは出てきた。
「サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上しました。これより貴女の槍となり、盾となりましょう」
サー、ヴァント……?
…………えっ!?あんたが!?私の!?
いや、そもそもあんたいつの間に英霊なんかに……!
「……疑問はたくさんあるでしょうが、その前に。まずは先ほどの敵を退けます」
湯水のように湧いてくる疑問で混乱していた頭も、その言葉で冷静さを取り戻す。
そうだった、まさしく今敵に狙われてるところだった……!
アテナが……いや、確かクラス名で呼んだほうがいいのよね。
ランサーが、手に持っていた大楯を地面に突き立てる。川の向こうから私を隠すように。
「サーヴァントの相手はお任せください。貴女は私の盾の影から出ないように」
「え、ちょっと!?」
呼び止める間もなく、彼女は炎を噴出して空へ飛び立っていく。
……な、何がどうなってるのよ〜!!
そう思うものの、にこには言いつけ通りに盾の後ろに隠れるしかできなかった。
◇◇◇
炎の魔力を噴射して、レース用の小型騎空艇のように空を舞う。
先ほどの一射で、大まかな敵の方向はわかっている。
敵が高い建物の上からこちらを見ているのなら、さらにその上を取って敵を探すまで。
「―――見つけた。大橋の左側、橋の付近で最も高い建物の上」
公園の方角へ向けて弓を構えている敵サーヴァント。
だがその視線はもう公園を向いていない。
―――瞬間、目が合った。お互いに敵を認識する。
ランサーとアーチャー、普通に考えればこの距離では圧倒的に不利だ。
相手側から一方的に攻撃ができる。マスターを守るために盾も置いてきた。
……真っ向から戦えばこちらがジリ貧になる。ならばどうするか。
狙撃手に対して最も有効な戦法は、肉薄して白兵戦に持ち込むことだ。
しかし、この距離で絶え間なく矢を放たれれば、如何にジェット機であっても全て避けながら接近するのは不可能だ。
であるならば、もうひとつの手段を取るしかない。
「―――宝具、解放」
右手の槍に魔力を流し込む。槍から炎が溢れ出す。
速攻。この距離でも届く最大威力の一撃で、確実に倒す。
幸いにして敵がいるのはビルの屋上。こちらはさらにその遥か上空。
照準を定めるのはこちらのほうがはるかに楽―――!
射程範囲と威力を最低限に絞る。
無関係なものを巻き込むわけにはいかない。
角度をつけすぎれば、余波で地上も危ういだろう。
敵と自分を結ぶラインが、最低限の角度になるまで高度を下げる。
これならば、他のものを巻き込む憂いもない―――!
敵サーヴァントもこちらの狙いに当然気づいたはずだ。
先ほどの比ではない量の弓矢が降り注ぐ。
そのたびに魔力を放出し、ジェット噴射で強引に軌道を変えて避ける。
「―――その灯りは星の焔(ほむら)。断ち切るは破滅の厄災!」
いかにアーチャーのサーヴァントといえど、常に弓矢を射続けることができる豪傑はそういない。
どれだけ多くの矢を放てる英霊でも、どこかで矢をつがえ、弦を引くためのタイムラグが必ず発生する。
矢が途切れたその一瞬の隙をついて、宝具を展開する。
眼前に現れたのは、ふたつ重なった炎の魔法陣。
こちらの宝具を止めるためだろう。
全力で魔力をこめ、引き絞られた全力の一矢が魔法陣めがけて放たれる。
―――だが、遅い。
「―――『降り注ぐ女神の灼槍(ミネルバ・フィーニス)』!!!」
炎の魔力を纏い赤熱した槍を、陣の中央へ穿つ。
一閃の軌跡に合わせ、威力を増幅された灼熱の熱線が翔ぶ。
飛来する矢は、橙色の光に呑まれ焼失した。
もうこちらの宝具を止める手段は相手にはない。
寸分の狂いもなく、莫大なエネルギーを帯びた劫火の柱が敵サーヴァントへ着弾した。
―――追い打ちの火柱と爆炎が、ビルの屋上に高く跳ね上がる。
すべてが終わった後には、敵サーヴァントの姿は影も形もなかった。
「…………少し、やりすぎたかもしれません」
でも、ここは聖杯戦争をするために作られた電脳世界。
この程度のことは、きっとガス爆発事故で片づけるのだろう。
ようやく一難去った、ということを察して緊張状態を解く。
そこで真っ先に思い出すのは、有無を言わせず盾と共に残してきてしまったマスターの顔。
……早く戻らないと、マスターに何を言われるか分かりませんね。
愉快な顔をしているだろうマスターの顔を思い浮かべながら、マスターを残してきた公園へと戻った。
【クラス】ランサー
【真名】アテナ@グランブルーファンタジー
【属性】秩序・善
【パラメーター】
筋力:B 耐久:A++ 敏捷:D 魔力:A+ 幸運:C 宝具:EX
【クラススキル】
対魔力:A
魔術に対する抵抗力を示すスキル。
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
【保有スキル】
マルチクラス:C
二属性持ち。複数クラスの能力を取得していることを示すスキル。
彼女の場合はランサーとシールダーの適正を併せ持つ。
これによりシールダークラスの宝具やスキルを追加で得ているが、代償として本来ランサークラスが得意とする俊敏さが低下している。
魔力放出(炎):B++
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することで能力を向上させる。
炎属性を扱う星晶獣である為に獲得したスキル。
このスキルの存在により、攻撃に回った場合でも絶大な火力を有する。
女神の神格:A-
生まれながらにして完成した女神であることを現す複合スキル。
神性スキルを含み、あらゆる精神系の干渉を弾いて精神と肉体の絶対性を維持する。
彼女は本来神話由来の女神ではなく、星の民が生み出した星晶獣という別種の存在である。
だが英霊の座に登録される際に、同じ名で戦いを司るギリシャ神話の女神アテナとの同一視を避けることが出来ず、後天的にこのスキルを高ランクで獲得している。
守護の戦女神:B
アテナの星晶獣としての在り方を示すスキル。
自身とマスター、及びアテナが味方と判断した対象の防御力に対して補正がかかる。
敵の攻撃から受けるダメージを軽減し、防御スキルの効果がワンランク上昇する。
やけど状態の敵に対し特攻状態となる追加効果も併せ持つ。
自陣防御:A
味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
防御限界値以上のダメージを軽減するが、自分は対象に含まれない。
ランクが高いほど守護範囲は広がっていく。
【宝具】
『降り注ぐ女神の灼槍(ミネルバ・フィーニス)』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:30人
アテナの持つ槍の真名解放による奥義。
自分の前方に展開した魔法陣越しに巨大な槍の一撃を放つ。
その一閃は灼熱の光となって相手へと降り注ぐ。
それは炎属性を帯びた巨大な熱線であり、対城宝具の名に恥じぬ威力の一撃となる。
相手に対してやけど状態を付与する副次効果もある。
『劫炎の赤槍(テトラドラクマ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:5〜300 最大捕捉:200人
『刺し穿つ死棘の槍』に対する『突き穿つ死翔の槍』に相当する、アテナの槍の投擲宝具としての真名解放。
投擲した槍は炎の矢となる。敵の人数が多ければそれに合わせて分裂し、雨のように襲い掛かる。
射程距離及び攻撃範囲に於いて第一宝具を上回るが、最大威力の面で劣る。
魔法陣の展開が不要である為、発動までのタイムラグは第一宝具より短く使い勝手は勝る。
相手にやけどを付与する副次効果も健在である。
『戦女神の神体結界(アイギス・パラディオン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1人
アテナの持つ盾の防御と、守護の女神としての加護を現す宝具。
第一、第二宝具がランサーとしての槍の宝具ならば、こちらはシールダーとしての盾の宝具。
前面に半透明の蒼と白銀の障壁を展開して背後の者を守護し、その守りは対粛清防御に匹敵する。
最大出力で使用した場合は、受けた攻撃を障壁の鏡面に映った攻撃者自身へ跳ね返す概念防御となる。
(宝具の最大補足はこの効果の対象についてのみ書かれているため、純粋に防壁を用いて広範囲を守護するだけならもっと多くの対象を守護できる。)
【weapon】
自らの宝具である槍と盾
【人物背景】
守護と平和を司る星晶獣。
静かに燃ゆる戦の女神。
信仰者には守護と英知を、仇なす者には慈悲無き火槍の制裁を与える。
その有り様に反して本人は争いを好まない。
できうる限り話し合いで解決したいと思っているが、それが叶わぬ場合は星晶獣としての力を無慈悲に振るう。
特に今回のような聖杯戦争では、話し合いは難しいことも本人が1番わかっている。
最終上限解放後の姿で召喚されているため、スキルや宝具もそれに準じている。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを生きて元の世界に帰す。
【マスター】
矢澤にこ@ラブライブ!
【マスターとしての願い】
仲間の元に帰る。
【能力・技能】
スクールアイドルとしての心得と、折れない心。
見栄っ張りな部分もあるが、根っこは面倒見がいい。
唯一使える技は、空の世界で教わった防御スキル『ファランクス』。
半透明の蒼い障壁を生み出し、攻撃を防ぐ。
ランサー召喚後はそのスキルによって堅牢さがかなり増している。
【人物背景】
音ノ木坂学院の三年生で、スクールアイドルプロジェクトμ'sのメンバー。
グランブルーファンタジーとのコラボで、空の世界から参戦している。
時期は3年生チームの最終上限解放エピソードで2度目の空の世界に訪れた後。
元の世界に戻る直前に黒い羽を入手し、聖杯戦争に参加する羽目に。
投下を終了します
投下します
――私は、弟に大罪を背負わせてしまった
――私は、彼女に重荷を背負わせてしまった
アダムとイヴは禁断の果実に手を出したが故に楽園から追放された
わがままっ子だった少女はチェンジリングによって取り替えられた
――世界は狂っている。それでも手を届かそうとしても離れた途端に腐り落ちる。それすらも救えない自分の愚かさに絶望した
――世界は狂っていた。華やかな箱の外側は埃被った汚れ塗れの掃き溜めで、私はそれを初めて知った
少年が何をしてもただの偽善にしかならない世界に絶望した。狂っているのは自分の方だと、そう思うしか無かった
胸躍る初めての景色を求め、少女が最初に理解したのが、目を逸らしてはいけなかった壁の向こう、過酷で残酷な現実だった
――絶望の底、ある日私は希望と出会った。世界を変える知恵を持った彼を欲した。私にとって、彼は救世主(キリスト)そのものだった
――現実を変えるため、見えない壁を壊すために、女王になって世界を変える夢を叶えると、彼女と約束した
少年は緋色の希望から知恵と勇気を借り、世界を変える第一歩を踏み出した。世界の歪みに苦悩することもなく、本当の居場所を見つけ、少年は救われた
少女は己が放棄したかった責務に目を向けた、その願いは友人である彼女と一緒にいる為に、貧富・差別という名の見えない壁を壊すために
――しかし――
――私はその罪をウィリアムに背負わせてしまった
勇気をも借りてしまったことで、ウィリアムを人殺しまで引摺り堕ろしてしまった
知恵と勇気を得るための禁断の果実を食らう覚悟を持てず、代わりに食べさせてしまった
その結果はどうだ? 心優しいはずのウィリアムは己が罪に苦しみ続けた、その手が緋色に染まるまで罪を重ね続けた
怖かったのに、血の繋がりのない己が。罪を重ね続ける事だけがウィリアムと繋がれる唯一の絆だったのに
己が身勝手な願望が、ウィリアムを追い詰め、死に追いやった。彼にとっての悪魔は、私だったのだ
――私はアンジェにその重荷を背負わせてしまった
革命に遭ったあの日、無慈悲な砲弾が私達を切り離した。私が背負うはずだった。立場も、責任も、責務も
なのに、何もかも彼女の押し付けてしまった。それが運命の紐の気まぐれだったとしても、私は後悔し続けている
彼女が綺羅びやかで過酷な小さな世界の中で、どれだけ血の滲むような努力をして、どれだけプレッシャーに押しつぶされそうになって吐き続け、バレたら死んでしまうという孤独の中でどんな思いで生き続けていたのか
――私が死ねばよかったのだ。私の傲慢な願望さえ無ければ、私が自分自身に絶望し死を選んでいれば
聡明な知恵があれば、自死への勇気があれば、何より私とさえ出会わなければ。ウィリアムは穢れること無く飛び立てたのではないのか、と
無限の刻の中で、この身を煉獄に焼かれながら、ウィリアムに十字架を茨冠を押し付けるしか無かった自分を呪い続けるしかない
――私は私が嫌いだった。アンジェと出会わなければ、あのまま井戸の底へ、闇の中に自分を消し去ってしまいたいと思っていた。だけどアンジェと出会えた。人嫌いで怖がりだった私が初めて出会えた大切な友達
私はアンジェとまた逢う為に生き続けた、革命の戦火を超え、嘘と欺瞞と実力主義に塗れた過酷な世界で、彼女に謝りたいという一心で、彼女を連れて平穏へと逃げ出すために
でも、やっとの思いで逢えた彼女は私以上のプリンセスになっていた。私が背負うはずだった願いを、かわりに叶えると言った
――あの頃と同じく知恵も勇気も持たないまま、永劫の暗闇の中を、私は灯りもなく一人彷徨い続けている
――だから私は、プリンセスの願いの為に世界を騙し、あなたも騙し、そして自分自身すらも
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「私を引き出すため車の下にはいり込むのにマドレーヌ氏は種々考えてみはしなかったんだ。」彼はマドレーヌ氏を助けようと決心した。
それでもなお彼は、いろいろと自問自答した。「私にあれだけのことをしてくれたが、もし盗人だったとしても助けるべきものだろうか? やはり同じことだ。聖者だからというので助けるべきだろうか? やはり同じことだ。」
――フォーシュルヴァン爺さん ユーゴー、豊島与志雄訳『レ・ミゼラブル』
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「……あ」
身を包む眩い光が、原罪を背負った私の業を焼き尽くさんと放った神の罰だと思っていた
事実、私が意識を取り戻した際に目にした光景は、あの時の始まりと同じ様に教会の、輝けるステンドグラスに照らされた十字架の前に立ち尽くしていたのだから
聖杯戦争、英霊、令呪、役割(ロール)――、押し寄せた情報の濁流が私の頭に知識を流し込む
大凡は理解出来た、その意味も察した、そしてどうして自分が呼び寄せられたか、というある仮説にも達してしまった
私の後悔が、私の原罪が、私の過去が、群れから逸れた魚の一匹をすくい上げるかのように、この舞台に引き摺りあげた
真実ならば、勝ち進んだ果てに荒唐無稽にも程があるような願望機がその者の願いを叶えるという
……それで、どうする?
愚かにも、真っ先に思い至ったのはウィリアムを蘇らせるという願いだ
出来ることなら、ウィリアムに戻ってきて欲しい、と兄として思ってしまうのだ
安らぎの場所を得たウィリアムを、再び現世という名の地獄に連れ戻そうとするのか?
そんな事出来るはずがない、だが戻ってきて欲しいという思いは否と言うには余りにもその心には凝り続けている
結局、贖罪だなどと言いながらそんな自己欺瞞の願望を抱いてしまう自分は、とても愚かしく罪深いのだと突きつけられるのだ
「……どうすれば、いい」
ならば愚かにも誰かに殺される事を思った。だがかつてと同じく、自分を消し去る勇気すら持てなかった自分に、そんな事が出来るはずもない
「……知恵も、勇気も、咎も、死も、全てをウィリアムに押し付けてしまった私は、どうすればいい」
柄でもない事を口走る。まるで目の前の神さまに懺悔をするように
神は人を救わない、神は人に罰か試練しか与えない、だが自分に科せられたのは罰ですらない何か
償いを求めるのか、希望を与えたのか、わかるわけがない
勝ち上がる知恵も、死を選ぶ勇気も、何ら持ち得ない自分を、ウィリアムとは全く違う自分を
「―――神は、私に懺悔すら、許してくれないのか」
ステンドグラスが割れる、神罰のように
割れ窓から白毛の狼とも野犬とも見える獰猛な四足歩行の生物が教会内に入り込む
重苦しい唸り声を鳴らし、自分を睨んでいる
天国ですら無い、地獄ですら無い場所。ならばあの生き物は清めの火の化身であるのか
「……そうか」
今にも襲いかかろうと、その肉を喰らおうとその生き物は牙を剥き、涎を垂らす
放心状態で、私は眼前に迫る死の獣を見つめている
これで良かったのかも知れない、あんな烏滸がましい願いを抱いてしまうのならば、尚更救われるべきではない人間だったことに
私こそが裏切者(ユダ)だった、救世主(キリスト)を追い詰め見殺しにした、最低な兄だ
―――いや、私はウィリアムの、兄ですら無かった。最低最悪の人間でしかなかった
あのまま腐り落ちていれば、あのまま死んでいれば、私は彼を地獄へと堕とす事はなかったのに
そんな勇気も無く今迄生き続けて、こんなところへたどり着いてしまった
―――私には、お似合いの末路か。このまま無残に食い殺されて灰となって霧散する
その躯の残骸すら、永遠に止まぬ煉獄の中で、焼かれ続ける罰こそが―――
……気づけば、一歩、足を下げていた
ああ、そうか。やはり、怖いのだ
やはり、死ぬ覚悟すら、直面すれば、無いに等しかったのだ
「――――ぁ」
何もかも、かつてと同じだった
手の届くところすら手を届かせる、いなくなってしまえばいいという答えは許されず
尚の事、自分では何も出来ないと、ただただ実感させられて
挙げ句、今や死の恐怖に怯え、後ずさってしまっているのだ
「……ウィリ、アム。私、は」
生きる価値も死ぬ価値も、私には、無いのだ
ああそうだ、こんな自分には、そんな事すらも許されないのだと――――
「………?」
一瞬の出来事だ、彼女が現れたのは
フリルの付いた黒いボディスーツを身に纏い、天の御使いの如く宙に浮かびながら
その手に携えた銃は獣たちを瞬く間に撃ち貫いてゆく
天使なのか? 否、私に限ってそんなはずなど無い。揺れる灰色(グレイカラー)の髪はまるで死神のようであった
黒いシルクハットから見え隠れする蒼晶の双眸は、私を見下ろしている。まるで罪人を見定める裁判官のように
「―――答えて、貴方が私のマスターなの?」
少女が自分に問う。口ぶりからして、彼女は英霊であろうというのは理解した
そして、その問いに呼応するように、右手に突如として刻まれた赤い紋様――令呪がそれを示すように輝いている
「……あ、ああ。そうだ」
震える口で、恐る恐る是の答えを出す。もしこれで違っていたのなら殺されてしまうかもしれない、などという考えなど思いつかず。答えと同時、背後から私を噛み千切ろうとした最後の獣が、直後に放たれた銃声と共に息絶えた
「そう、良かったわ。もし違ってたら、最悪貴方を文字通り殺さないといけなくなるから」
無感情で、淡々と告げられる事実。少女でありながら、地獄を知っているその雰囲気
余りにも似ていた、過去の自分に。世界の歪みを知った、あの自分と同じような顔が
なんとなく、私のサーヴァントが彼女だったという理由と、その意味が、理解る気がして
「……君は、一体……」
「サーヴァント、クラスはアサシン。……職業スパイの、ただの黒蜥蜴星人よ」
「……黒蜥蜴星人?」
暗殺者のサーヴァントなのは納得した、スパイなのもその振る舞いや服装から何となく察しが付く
だが黒蜥蜴星人とはなんだ? いや多分嘘だろうが嘘にしては本人は真面目に答えている
もしかしてアサシンとクラスを偽装したフォーリナーなのでは?
「そして私は、そんな不器用な黒蜥蜴星人の一番の大親友なのです」
困惑に陥る私の思考を遮るように、割れガラスの外からひょっこりと姿を現したのは先のアサシンと歳が変わらなさそうな金髪碧眼の少女だ
その歩き方には明らかな品が見え隠れしている、まるで高貴な王族の模倣の用に、体に染み付かせたような、違和感の感じられない仕上がりで
「始めまして。彼女からもう説明は受けてると思うけど、私達はアサシンのクラスで召喚された貴方のサーヴァント」
「………」
金髪の少女と、灰髪の少女。二人のアサシンは改めて自分へと目を向ける。灰髪の少女は金髪の少女を守るように周りを見渡し、安全が確認して再びこちらへ目を向けた
「……これから、私達をよろしくね、マスター?」
○ ○ ○
世界は余りにも変化していた。二度目の世界大戦を経て、表面上の平和のみを謳歌する人民を尻目に
当時よりはまともになったとは言え、弱者は強者に搾取される在り方が今なお続いている
戦争も貧困も、その時以上に数多の種族の、数多の人間の思惑が入り乱れた上で成り立っている
世界は余りにも変化していた。犯罪への抑止は今以上に強固になれど、それでもなお蔓延る悪は止む気配はなく
「地獄はもぬけの殻、全ての悪魔は地上にいる」とは弟の言葉だ。悪魔は埃のように掃いても無尽蔵に湧いてゆく。虐待・育児放棄。悪魔が齎した歪みがさらなる悪魔を生んでゆく
この偽りの世界、電脳都市冬木においても、未だ知らぬ本当の外においても
―――世界は変わって、変わらなかった
「これが、未来か」
スマートフォンという携帯器具を器用に操作し、その小さな画面に映し出される大手新聞社のニュース記事から個人のまとめサイト速報までを事細かに眺めている
感嘆の息を思わず吐き出した。こうも容易く遠くの国の情勢を把握できるのだから
情報は一種の武器だ。少なくとも私達の生きた時代では有線が主軸であり、無線が汎用化したのは未来の話
故に正も負も、その両方が瞬時に把握出来てしまう。それでもなお影に隠れる『悪魔』のしっぽを掴むのは難しい、むしろ発展した情報化社会だからこそ更に邪悪で狡猾な悪魔が今なお生まれ続けている
窓の外から見える時計塔にも及ぶ高さの建造物が、さも当たり前のように聳え立つ
建造物が生み出す日陰は、まるでこの世界を象徴するかのように翳り佇む
まるで世界の縮図の如く、輝ける光と、それに忍び寄る暗き闇
世界は貴族社会から人民による社会に変わったが、世界の歪みは未だ無くなってはいない。真偽不明のまとめサイトのネタでしか分からないような歪みは数多く溢れているのだ
「……私達のいた時代よりも、世界は善い方向になってくれた。それでもかつて私が願った世界には程遠かった」
扉を開け、トレイに乗せた二人分のティーカップとポットを運んで来たのはブロンド髪の少女。サーヴァントアサシン、その片割れの少女でアルビオン王国女王候補プリンセス・シャーロットだ
「……階級の呪縛は無くなれど、未だ世界は見えない壁で隔てられているということでしょうか、陛下」
「よしてください陛下だなんて」
「申し訳ございません。元々女王陛下に仕えていた身でありまして」
「だからそういうのはいいですって。貴方も私のことはアサシンもしくはプリンセスって呼んでくれても良いんですよ?」
どのような立場だったであれプリンセス・シャーロットは王族の分類だ。『彼女』自身が純粋な王族ではないとは言え、こうして畏まってしまうのはかつての立場故のものであろう
そんな私に困ったような表情をしながらも、その奔放さを表すような軽い口ぶりでそう自分に提案する
「……では、プリンセス。こちらに居らしたのはティータイムをしに来ただけ、と言うわけでは無いご様子で」
「――ええ」
談話は一時休止、本題。確信に迫る設問
「あなたの望みを、お聞きしたくて」
逃げることも、避けることも出来ない壁が、私の前に立ち塞がる
「私達はサーヴァント、歴史の影から蘇った影法師であり、マスターに仕える白鳩です」
その透き通った碧眼が、過去を見透かすかのように私を見つめている
その罪も、汚れた魂も、見定めるように
「ですが、あの時のあなたの目に生気はなく、けれども死を拒んでいた。何をそこまで後悔しているのか、何に苛まれているのか。――誰に懺悔しているのか」
「……!」
確信に迫る寸前までいる、プリンセスの言葉
指の震えが止まらず、思わず息が漏れる
「だから、問いましょう。あなたが見ているモノクロの景色に、願うものはあるのですか。あなたが見たであろう理想の先に、それでも叶えたいものがあるのかどうか」
まるで全てがお見通しのような、そんな王女の言葉が身に痛いほど染み渡っている
ああ、分かっている。ウィリアムの計画(プラン)は成就した、犯罪卿によって歪みはおおよそ取り払われ、世界は一歩ずつより善い方向へと進み始めた
だけど、それは血の繋がらないとは言え、大切な弟を犠牲にした上で
「……裁きの刻が来たと思いながら、あの時の私が死ぬことがほんの一瞬だけ怖くなった。私は己の救済を代価に、弟を地獄へと引きずり落としたような男がだぞ。そんな人間が死の間際に死にたくないと。救われる価値も、願いを抱える価値も無いような私が」
「………」
「共に罪を背負うと言いながら、弟に罪を押し付けたのはこの私だ」
そうだ、こんな愚かな男が願いを持つことなど間違っている
自分では何も出来ないで、その勇気すら持ち合わせられなかった自分には
「私は終わるべきだった。あの場所で。いや、それ以前に、贖罪を望んだあの暗闇の中で腐り落ちることこそが」
「――もう良いわ」
私の贖罪の言葉を遮るように、プリンセスの言葉が部屋に響き渡る
「……あなたも、そうなのね。ちょっと、似てる。あの娘と違って自虐的だけど」
その瞳の奥の揺らめきに、何かを思いかすかのように
少しだけ視線を下げて、再び視線をこちらに向ける
・・・・・・・・・
「背負うことになった人間からちょっとした助言よ。―――勝手に背負わせただなんて思わないで」
「……ッ」
少しばかりの怒気が籠もったその言葉が私の体中を貫き通した
「その始まりが誰かの願いからだったとしても、それはそれ本人が選んだ望みで、選んだ人生。傍から見れば苦難だったとしても。誰かを巻き込んだのは自分自身の選択。罪も咎も背負おうと決意したのものその本人の選択。ええ、私はあなたの弟さんがどんな人間なのかわからない、けれどもそれほどの覚悟は並の人間には出来っこない。その弟さんは良心の呵責や罪悪感に苛まれていたでしょうね」
「そんなことは分かっている! 全ては私の責任で、私の業がウィリアムをそう追い込んでしまったのだ! 心優しい弟が、そんな血塗れた行為に手を染めて、苦しむことを知って私はそれに気付かぬ振りをした!」
思わず反論していた。心からの叫びだった。間違いなく、ウィリアムに罪を背負わせたのは自分だ
私が全て悪いのだ
「そうだ、私が、私がウィリアムに依頼していなければ、私が余計な願いを抱いていなければ!ああ、そうだ、私こそが本当の悪魔―――」
「――失礼、マスター」
甲高い音が鳴り響いて、頬にヒリヒリとした熱さがこみ上げていた
「「自分が悪い」なんて言葉で勝手に逃げないで。償うのは兎も角、それを勝手に逃げる理由にしないで」
「―――!!」
脳天を不意に叩かれたような衝撃だった。明確な怒りと呆れが混じった声が王女の口から発せられていたから
「その彼がたいそれたことをして世界を変えて、その代償に命を落としたってぐらいしか私には分からないわ。でもね、それで苦しんでいたのなら、罪を一緒に背負うを言ってくれたあなたのその言葉は、何よりの救いだったはずよ」
「そ、れは……」
「あなたはその人の、最も辛い時に優しく寄り添えることが出来んだから」
「……あ」
言われてみれば、そうでもあった
当初のウィリアムが弱り苦しんでいる姿を知るものは、あの当時では自分だけである
苦しそうに悩むウィリアムの私はこう語りかけたこともあった
"お前はひとりじゃない" "私が共にいる"と
そう言われた時のウィリアムは、心なしか少しばかり微笑んでいた
私とウィリアムは、血が繋がっている兄弟ではない。それでも私は彼の弟であるルイスと違って、共に罪を背負うという形で兄弟の繋がりが欲しかった、それを思い出してた
「ごめんなさい。ちょっと昔のこと思い出しちゃって」
さっきまでの迫力は何処へやら、少しばかり熱くなっていたことを口頭で謝っているプリンセスの姿があった
「でもね、マスターとして私達と戦う以上は生半可な態度は取られてほしくはなかったし、それにこうやって話せてよかったわ。それに……マスターも少しだけ元気になったようですし」
カップに残ったすでに冷めたであろうお茶を口に放り込み、プリンセスは笑みを浮かべて話しかける
「……まあ、万全までには程遠いですが」
私としても、全てが吹っ切れたわけではない
ウィリアムを追い込んでしまったという自責の念は未だ残っている
けれど、ウィリアムにとっての私が、そういうものであったというのであれば――
「……ならば罪を償い終えるその日まで、死ぬわけにはいかない。到底許されてはならない罪だからこそ、目を逸らすことすら、許されない」
そう。これは私の罪であり、ウィリアムの罪であり、私達モリアーティ家の罪。地上の悪魔全てを消し去ると言う悪行をもって平和を取り戻し、そのために多くの命を奪った我らの責務
許されないからこそ、生き続けなければならない
「それに、もし仮に聖杯を悪用するものがいるならば、『モリアーティ』としてそれを阻止する必要がある」
聖杯戦争は万能の願望機を求めて争う、端的に言って殺し合いの類
故にそれを求むる『悪魔』もまた暗躍しているのは承知
それもまた阻止しなければならない。ウィリアムの繋いだ未来の為に、『モリアーティ』としても
必ずとは言わずとも、それでも自分が生きる今よりも善くなった未来の為に
「それがあなたの願いでいいのですね?」
「……今は、それで良い」
「……分かりました、マスター。私達アサシンはあなたのサーヴァントとして助力を尽くす事を約束します」
安堵が入り混じった表情で、プリンセス・シャーロットはこちらへ社交辞令とも言うべき笑顔を向けてそう言い放つ
そう、私は死ぬわけには行かない。変革の名の下に多くの命を奪ってきた『犯罪卿』の一人として、償いの生涯に未だ終わりは訪れないのだから
「……よろしく頼む」
「ええ、此方こそよろしくおねがいします」
その言葉を皮切りに、プリンセスは飲み干されたカップをトレイの上に乗せ持ち上げ、足早と部屋から立ち去ろうとする。部屋を出る寸前、こちらを振り向いてこう一言
「ではなくて……これからよろしくね、マスター」
去り際のプリンセスの言葉は、一刻の王女と言うよりも、何ら変わりない、歳相応の少女の言葉であった
◆
「ちょっと、意地悪しちゃったかしら」
「……プリンセス」
小窓から木漏れ日が差し込む個室のベットの上に座り込む二人の姿
プリンセス・シャーロットとアンジェの二人
悪戯っぽく微笑みながら呟いたその言葉を、英霊となる前のポーカーフェイスのままにアンジェは聞き流す
「……思い出したの?」
「まあ、ね。あの時の、どこかの誰かさんみたいに後ろ向きだったのが被って、思わず」
「むぅ……」
「ふてくされなくてもいいじゃない」
「私はふてくされてない」
今でも思い出す、コントロールが軍部主導になり、プリンセスの暗殺命令がアンジェに下されて
策を練ってプリンセスと共にアンジェが逃げようとした時の事
プリンセスは自らの使命と願いのために、敢えてアンジェを突き放した、「わたしの人生ははあなたのおもちゃじゃない」と。彼女を軍部から守るために
プリンセスとしてはアルバートの懺悔から、アンジェとの何かしらの共通点のようなものを感じ取っていたようなもので
――背負わせてしまったと後悔してるところは似ていると思った
最も、アルバートは罪悪感からかなり自虐気味であったようで、気に障ってないと言えば嘘になるが、ちょっとばかし発破をかけた。多少は持ち直したようであるため、一応は納得というか
「……マスターも、だって思った」
思い詰めるようにアンジェが一言呟く。マスターと自分は同じ業を背負っているというのは、理解した
本来なら自分がするべき使命を、願いを、友に背負わせてしまったと
未だ世界の壁は無くならず、見える場所で貧富も差別も氾濫している。そんな未来に、現代に、彼女たちはサーヴァントとして召喚された
世界の壁を無くすために戦った偽りの王女プリンセス・シャーロット
そんな彼女の為ただそれだけのために全てを騙し続けたアンジェ・ル・カレ
「……マスターも、私と同じ。だから……」
「ええそうね。マスターもアンジェも、背負うべきものを背負えなかった。だから呼ばれたのかしら、ね」
二人は一人、一人は二人。比翼連理の白い鳩
類する後悔を持ち得た少女と長男はその縁に導かれて召喚されて、少女の親友である姫様はそんな彼女についてきた
・・・・
「……アンジェ。私は何も変わらない。私はあなたの為の味方。いつまでも、いつまでも」
「ええ、そうね。でも私達はサーヴァント。マスターが意志を見せたのなら、それに応えるつもりよ。あなたと似たりよったりの彼のことも放っても置けないから」
呟いたのは、本当の名前。アンジェ・ル・カレはシャーロットで、シャーロットはアンジェ
裏返った運命は数奇な形での再開をもたらし、今の彼女たちを形作った
・・・・
「……アンジェがそういうなら」
・・・・・・ ・・・・
故に、シャーロットが望むならば、アンジェもまた、一心同体
霊子と魔力で構築された第二の生を、聖杯戦争という抗争の中で、闇を裂く闇として振る舞おう
マスターの願いのために戦おう
「でも、一つだけ。あの時と同じことを言わせて」
だが、それでも、かつて王女になり損ない、友にその責務を負わせてしまった少女は誓う
「私が騙してあげる。マスターも。あなたも。世界も。――そして、私すらも」
彼女を照らす光は、まるであの時の再現のように
彼女が洩らした誓いは、かつての再現のように
私は決して夜明けを見ることは出来ない 一人きりで思索に潜んでいる
それは未だ私たちの心の中で育ち、高く飛び立ち、強く輝きを放つわ
――Void Chords feat.MARU/The Other Side of the Wall
【クラス】
アサシン
【真名】
アンジェ・ル・カレ/シャーロット
【属性】
秩序・中庸
【ステータス】
アンジェ・ル・カレ:筋力:D+ 耐久:C 敏捷:B 魔力:E 幸運:C+ 宝具:C(共通)
プリンセス・シャーロット:筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:C 宝具:C(共通)
【クラススキル】
『気配遮断:B』
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
『対魔力:D』
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
『諜報:B』
このスキルは気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。
『単独行動:A』
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクAならば、マスターを失っても一週間現界可能。
『変装:B(A+++)』
変装の技術。真名看破の確率を低減させる。
ただしアンジェがシャーロットに、シャーロットがアンジェに変装する場合のみランクがA+++へと跳ね上がる。二人はかつてどちらでもあったが故に
『専科百般:B』
多方面に発揮される天性の才能
アンジェは演技・ピッキング・格闘・射撃等、スパイに要求される技術を高水準に納めている他、絵画や音楽等にも精通している
プリンセスの方は王宮における王女としての技術教養の他、他人の懐からモノを盗む手腕にも長けている
【宝具】
『比翼恋理・嬰児交換(チェンジリング・コントロール)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
かつてアンジェ・ル・カレはプリンセス・シャーロットであり。かつてプリンセス・シャーロットはアンジェ・ル・カレであった。その在り方が宝具となって昇華されたもの
比翼連理、一心同体。アンジェとシャーロットで知覚した情報を即座に共有可能で且つ、何時何処でもアンジュとシャーロットの位置の入れ替えが可能
入れ替えの際、強制的にアンジェはシャーロットの、シャーロットはアンジェの姿へと強制的に変装される。
もとより、どちらもアンジェであり、どちらもシャーロットである。それ故にチェンジの際の生じる違和感は皆無
【Weapon】
『Cボール』
アサシンのいた世界において19世紀末に発見された、無重力を自在に生み出すケイバーライトと呼ばれる鉱石を、手のひらサイズまで縮小して操作可能にしたもの。
ボールの周辺の重力の増減、偏向が可能であり、アサシン自身を飛ばすだけでなく、他の物体を放り投げることも可能。
欠点としては、小型化によって冷却機能が省略されているため、使いすぎると加熱及び破損する。そのため連続使用の場合は冷却用の水筒(氷入り)が必要となる
『ウェブリー=フォスベリー・オートマチック・リボルバー』
1900年代初頭、ジョージ・フォスベリーが設計し、W&S社が生産した、反動利用式オートマチックリボルバー。
反動を利用して弾倉回転とコッキングを自動で行うため、シングルアクションリボルバー並みの軽い引き金で、ダブルアクションリボルバーのように連射できる。
しかしながら、構造上雨や泥に弱く、またリボルバーの癖に初弾は両手を使ってコッキングしてやらなければならない。
『ワイヤーガン』
遠距離にワイヤーを射出するもの。
フィクションでよくある巻き上げ機能はついておらず、遠方にワイヤーを固定するのみ。伝って移動するのは自力である。
【人物背景】
共和国の諜報機関『コントロール』所属のスパイの一人/アルビオン王国の第四王女。運命の悪戯にてそう生きざる得なかった二人。
本来ならば真逆であった。
アンジェ/シャーロットは貧民街にてスリをして生きるしかなった貧しい子供で。
シャーロット/アンジェは王家のしきたりに雁字搦めになってすべて投げ出そうとして。
二人は出会い、友人となりて、王女は世界の真実を知って世界を変えようとした。
王女の願いは叶わず、不運が二人を引き離した。
王女だった女の子は、地獄の最中を生き抜いてスパイへと成り上がった。
スリだった少女は重圧とプレッシャーに耐え抜き、修行僧のごとく技術と立ち振舞いを身に着け王女となった。
王女は少女と再開し、かつて少女が願った願いを叶えるがために。
少女は王女を守るため、全てを騙し抜くことを決めた。
そんな二人の少女の、そんな逃避行の続き
【サーヴァントとしての願い】
ある意味彼女たちの願いは叶っている。今はマスターの為に、この力を振るう
【マスター】
アルバート・ジェームズ・モリアーティ@憂国のモリアーティ
【マスターとしての願い】
ただ、死ぬわけには行かない。罪を償い続ける限り
【能力・技能】
秘密諜報部MI6の指揮官Mとして、己の地位と権力を有効活用して計画の為の舞台を整えることを得意とする。
あと「魔王」と形容される程に酒が強い。
【人物背景】
モリアーティ家長男。幼き頃より世界の歪みを自覚し、理想と現実に苦しみ続けた凡人。
そんな凡人が救いを求めたのは、キリストと幻視するほどに聡明な或る一人の少年。
凡人の原罪は、そんな少年を人殺しにまで陥れたこと
投下終了します
今作はフリースレのものを一部修正して投下させていただきました
投下します
財力も、権力も彼の家にはあった。
欲しいものを手に入れることについてさほど難しくなく、
父親も人を虐げることが常識的な物と考えていたため、
頼めば案外どうとでもなるような生活環境に身を置いていた。
その為の努力もできる。だから彼はどのような未来でもあっただろう。
でも。彼のなりたいものは金や権力だけでもどうにもならない。
彼がなりたいのは職業だとか立場だとか、そういうものではないから。
ただ一つ、彼が望むのは───純粋にして一つだけ。
「この舞台って、とても理不尽だと思わないかい?」
ビルが雑多に並ぶこの仮初の世界による冬木の街並み。
ビルもさほど珍しくなく、此処もそのうちの一つとなる場所。
質の良いソファやテーブルと言った調度品が多数配置されており、
『いかにも金持ちの部屋です』と示す程度に裕福な暮らしをしてることが伺える。
曇天の空から雪が降り、段々と白く東京を染め上げる街並みを一室から見下ろす、
クリーム色の髪の青年が呟く。
雑多な人込みとかの音は下にある為、
この場は何気ない呟きも十分に響く程の静けさがある。
足音一つすらコンサートホールのような響きを奏でるだろう。
「と、言いますと?」
青年の背後で一人の女性が、紅茶を淹れながらその言葉に対して返事をする。
白いドレスと鎧に身を包む彼女は、戦乙女や女神と呼べそうな姿だ。
彼女の髪と近しい、鮮やかな緋色の紅茶を前に湯気と共に立つ香りを軽く愉しむ。
サーヴァントには必要のない食事ではあるが、嗜好品に理解がないわけではない。
時としてこういう人の好みを理解することも必要に迫られることももしかしたらあると。
彼女の場合必要に迫られるパターンが斜め上であるが。
「理由も、信念も、自由も、権限も、
人にとって今以上に大事なものは必ず存在する。
勿論俺みたいに聖杯の奪い合いが楽しい、って人もいるだろうけどね。
でも多くの人は一般的な倫理を以って殺し合いを是としてないはずだよ。
それなのにこんなところに招かれる……こういうの、理不尽と思わないかい?」
振り返って向かいのソファへと座り込む。
ティーカップはちゃんと二つ出されており、
まだ何も注がれてない方にも女性がついでで注いでくれる。
此処に望んで来れる参加者は、普通はいないだろう。
黒井羽と言う片道切符の先に、この場所があるのだから。
彼もまた此処には突発的で来てしまっているので、
他の参加者も大体が突発的に、いつの間にか来てしまったはずだ。
聖杯とは誰よりも身勝手で、誰よりも自由で、誰よりも理不尽であると。
「場合によっては、大事な用事があったりしたのに、
無理矢理向こうに置いてきちゃったパターンもあるだろうし。
俺は運よく自分の目標を達成した瞬間だったから気にしてないけど。」
「確かにそうですね。私のように戦いを肯定するサーヴァントが普通でしょうから。」
サーヴァントと言うのは殆どが戦いに身を投じてきた英霊が占める。
当時の価値観も合わせ、現代を生きる人間よりも倫理や道徳から離れているだろう。
場合によっては精神汚染、狂化と言った意思疎通が困難になるスキルを持つ場合もある。
サーヴァントに振り回され、したくもない命のやり取りをする渦中に巻き込まれていく。
何気ない日常は問答無用で終わりを告げられ、誰であっても血で血を洗う戦に身を投じる。
ある意味では、彼の言う理不尽と言う言葉にも頷けるだろう。
「ストレートティーでいいのかい?」
「起き抜けの糖分補給は思考力の低下に繋がりますので。
と言っても、サーヴァントにそのような思考は無意味でしょうけど。」
「ランサーが言うなら、後を考えて俺もストレートで行こうかな。」
戦いを知る英霊の言葉なら信用に値する知識だ。
常在戦場なんていうのは柄ではないが、何があるかは分からない。
死の寸前、と言うより死ぬつもりでいた彼にとって此処は実質セカンドライフ。
思考力が低下していたから死んだ、なんてお粗末な死に様は流石にごめんだと、
彼もまた角砂糖の小瓶の蓋を開けることなく、紅茶を一瞥してから一口呷る。
砂糖を入れてない為純粋な紅茶の苦みだけが口内に広がっていく。
味としては物足りない所はあるが、目覚めの一杯としてはいいものだと感心する。
「ランサー。俺はなりたいものがあるんだ。」
「確かにマスターの年頃であれば、
既にそういう将来設計は決まっているものですよね。」
「いやいや、違うんだ。人生設計は確かに考えてはいるけど、
俺がなりたいものって言うのはランサーの思う職業とかとは違うのさ。」
「職業では、何になりたいのですか?」
「───俺は『理不尽』になりたいのさ。」
キョトンとした表情でランサーは首を傾げる。
端麗な姿だけあって、その姿も可愛らしく見えてしまう。
確かにそれは職業ではない。しかしそれは概念と言ったものだ。
「おかしなことを言うんですね。支配者や神と言った、
人の上に立って行う理不尽ではなく、理不尽そのものになりたいと?」
人生設計ではないと言ったのならば、
人の上に立つ立場とかでは成せないもの。
と言う程度には彼女も理解して会話を続ける。
「ハハハ、支配者って言うのは間違いじゃないかもしれない。
言うなれば『掌の上で踊って欲しい』って言えば確かにそうだからね。」
父はその力で人を虐げるのが病的なまでに好きで、
当然幼い頃からそれを見た彼もまた、それが日常と認識するように育った。
だから別に人を殺すにしても、人を支配するにしても特に道徳と言った抵抗はない。
でもある日。父に連れられ、金持ちの見世物として人が殺し合いをするゲームを観戦した。
いきなり拉致され、見世物として命懸けのゲームに挑まされる、その理不尽な光景。
そこに彼の根源が存在し、彼は自分の欲求を満たす方法を見出しそれを成し遂げた。
「満たしきれなかったんだ。ああして外を見下ろしてるだけじゃ何も。
映像越しにいくら人が死んだところで、人が理不尽に晒されても何もね。
高みの見物では理不尽に晒された人を愉しむはできても理不尽は与えられない。
こうして物理的な高みにいたところで、何一つ満たされることなんてなかった。
違う、俺はもっと身近でいたいのさ。『俺の存在が理不尽でないといけないんだ』って。」
彼が言いたいことは端から見れば狂気だろう。
目指しているものは最早概念と言ったものとの同化。
更にその概念の示すは他者を陥れ、謀り、貶めると言ったもの。
そんなものになって一体何の意味があるのか常人では理解しかねる。
と言うより、ランサーも正直なところ明確な理解はできていない。
彼女も似たような性を背負いながら獣としての役割を担ってはいる。
それはある意味同化と受け取れるが、彼の場合はただの人間なのだ。
心臓が潰れれば死ぬし、出血多量でも死に、呼吸なくしては生きられない。
人間以上の種族でもないし、魔法とかもない、ありふれた人間でしかなかった。
ただ、ありふれた人間としては程遠いその狂気だけは別だ。
生きた人間が精神汚染のようなものにかかってるに近しいだろうか。
自分が理不尽になる為であれば、この男は自分の命も自ら捨てられる。
行動を示さずとも英霊として召し上げられたランサーならば問答は不要だ。
やるのだろう。自分の悦楽の為であれば、簡単に捨てられてしまうのだと。
「所謂『自分の手である必要』があると?」
「そうなるかな。ランサーにはそういうのは無縁かい?」
「いいえ。私もどうしても蹂躙したい相手がいました。
その相手を蹂躙するのは私の役割。他の相手には譲りたくはないので。」
ティーカップを置きつつ、想起するは二人の人物。
嘗て共にあった守護の女神と、世界を揺るがす特異点となった存在。
お互いにどんな困難を前にしてもその困難を仲間と共に乗り越えんとする。
その心はとても綺麗で素敵で、だからこそ蹂躙のし甲斐があると言う物だ。
まるで外の雪景色だ。白いキャンバスを、どんな色で染めてしまおうかと。
血染めの赤か、或いは涙のような水色か。どのような手段ならそうなってくれるか。
相手が弱者でも強者でも関係ない。彼女はその性を受け入れてそれを愉しむ星の獣。
「しかし理不尽ですか……私との相性は悪いのでは?」
ただ、それはそれとして少しばかり気落ちするランサー。
彼の考え方を察するに、正面戦闘では面白みがないのだろう。
どちらかと言えば暗躍するアサシンやキャスターの方がよほどに合うし、
ランサー自身は元々正面戦闘から理不尽を吹っ掛けられるようなタイプだ。
単なる理不尽を与えるだけの自分ではマスターは満足できないのは少々悩ましい。
仮にも主君。今後も付き合うのであれば、なるべく良好な関係を築いていきたい。
「強者が嘆き、弱者が命乞いをする。
そういった方面での悦楽は慣れてますが、
そういう形もあると。私には経験はありませんでした。
ですが、私にはその要望に応えられる能力はないことは歯がゆいですね。」
「ああいや、俺は別にランサーを召喚したことを悔いてるわけじゃない。
あくまで理想さ。君は愛し合う者同士が仕方なく殺し合う、なんて展開は好きかい?」
「どちらかの命を捧げなければ両者の命は無惨に散らされる、
確かに、とても魅力的ですね。片方が命惜しさに差し出す場合も特に。
ですが……片方の命の為に無抵抗で死ぬ、と言うのは少し興が殺がれますね。」
「ほら、そういうところ。君が秩序を重んじず、
己のやりたいようにするその混沌。そこだけでもとても助かるよ。」
自分が狂っていることは理解している。
誰に受け入れてもらいたいわけでも否定されたいわけでもない。
ただ、それはそれとしてサーヴァントとの軋轢は気にしていた方だ。
この考えは当然だが、秩序を重んじる存在からはとても受け入れられない。
「確かに、相性が決して良いとは言い切れませんが、
かといって互いに否定的ではない……それはいいのかもしれませんね。」
ただ殺すだけでは意味がない。ただ勝つだけでは意味がない。
彼らが欲しいのはそこまでの過程。結果だけでは満足できなかった。
何より、そこを自ら手を加えて初めて完成するのだから。
アウトローな英霊であろうともそれらをかみ合わせるのは難しく、
事実どちらも、お互いの考えに完全な理解ができているのがその証左。
「それに、マスターの言う理不尽も少しばかり興味があります。
命乞いをする人の嘆きとかでは、マンネリの可能性もありましたから。」
「ハハハ、そう言ってくれると嬉しいね……さて、
程よく温まったことだし朝ご飯でも作ろうかな。」
紅茶を飲み干した青年は席を立つ。
元から金持ちではあるものの、命懸けのサバイバルゲームに挑む際に鍛えた。
何があるか分からないので、銃の使い方と言った部分以外も色々と。
まさか、こんな形でその知識が利用できるとは思いもしなかったが。
「でしたら私も手伝いましょう。これでも栄養バランスへの理解もあるので。」
ランサーも席を立ち、彼の後へとついていく。
ありふれた日常を過ごす男女だが、
彼らが求めるは理不尽/蹂躙と、まさに災禍の如き化身に思える。
ただ彼らは聖杯に望むものなど何もなかった。否、既に叶っているのだ。
弱者も強者も、男も女も、若者も老人も、人も英霊も関係なし。
等しく理不尽に晒す/蹂躙することが可能なこの世界こそふたりの理想郷。
故に万能の願望器など興味なし。此処にあるのは、ただの災禍な存在のみ。
【クラス】ランサー
【真名】エニュオ@グランブルーファンタジー
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。
【保有スキル】
蹂躙の戦女神:A
空における太古の時代、星の民が空の民との戦争、覇空戦争に用いた生物兵器。
星晶獣は司った権能により役割が変わるが、エニュオの場合は『破壊』と『蹂躙』の二種類。
時に神のように崇められるなどこともあるが、エニュオは戦争終了後は一度人間社会に溶け込み、
神聖視された経験もなかったため、基本的には彼女自身が司る権能に関する部分のみになる。
戦争の為の設計され活躍をしたことがあったことで対軍宝具に対して強い耐性も持つ。
人間社会に溶け込んだのと、更に彼女が得たい悦楽の為にずっとその性を隠し続けたのもあって
不貞隠しの兜と似たステータスの秘匿と言った恩恵もあるが、当人が隠す気があるかどうかで言えば、
なんとも言えないところなのが玉に瑕。バレるときは寧ろ計算されたものかもしれない。
星晶『獣』であるため獣の特攻対象にされる。ただ代わりに神性特攻にはある程度強い。
複製体が創られる程度に有用性があるため、ランクは高くある。
嗜虐体質:A-
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
本来は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し普段の冷静さを失うデメリットを持つが、
彼女の場合は逃走率が下がってしまうこと以外は特別なデメリットを所持していない。
ただ彼女の悦楽の為に、あえてこのスキルを我慢しようとすることもあるためマイナスがつく。
最高の悦楽の為であれば、彼女は対象に手料理で健康維持を目論むことも辞さない程の異常者。
蹂躙の侵槍:B+
所謂魔力放出の類。彼女の場合は司る力から風属性になる。
相手の体力を奪えるなど通常の魔力放出とは異なるが、
代わりに消費量は通常の魔力消費よりも高い。
【宝具】
『おいでなさい、蹂躙の獣(キュドイモス)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:不明
破壊と蹂躙の星晶獣としての権能、
彼女がそれらを司った力。キュドイモスと呼ばれる白亜の獣を召喚する。
一個体は使い魔以上サーヴァントの宝具以下と言った程度で大したことはない。
但し同時に出せる数とコストは別。低コストかつランサーの魔力がある限り無尽蔵に召喚でき、
所謂数の暴力を利用していく。ただしエニュオが攻撃中に召喚することはできない。
此方も獣特攻対象。
『慈悲なき蹂躙の戦女神(ルースレス・タイラント)』
ランク:D 種別:対城宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:3
ランサーの持つ槍から放たれる、身も蓋もなく言えばビーム。
使用すると敏捷が上昇し、元より攻撃性のある彼女の攻撃性がさらに増す。
スキルの嗜虐体質も合わせると、ステータス以上の攻撃能力を誇ることになる。
宝具ではあるがコスト自体はかなり軽いのと恩恵から、連発を前提とするもの。
【weaponn】
インサイテッドランス
所謂馬上槍のような大きめの槍。
蹂躙された敗者の慟哭が、その槍に秘められた真の力を呼び醒ます。
嘆きや怨嗟は嗜虐心を昂らせる糧となり、無慈悲な結末を招く。
【人物背景】
星の民が作り出した生物兵器であり、破壊と蹂躙の星の獣。
嘗てはその役割の性を理解できず、寧ろ笑顔や感謝の表情に喜びを見出した。
だが彼女は後に性を受け入れたことで、破壊と蹂躙を悦楽とする獣となる。
『零れた水は戻らない』らしいが、今の彼女は破壊の側面が強い方で召喚された。
彼女の過去がどうであったとしても、このランサーには最早関係のない。
【サーヴァントとしての願い】
アテナとの再戦と言った望みはあれど、
今以上の至福のひと時の方が大事。
【マスター】
崎村貴真@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage
【能力・技能】
サバイバル能力
ある程度の銃器の扱いを除けば、
山林地帯を歩き回れる体力作りをしてるぐらい。
別にそれらの才能が超人的でも何でもない。
【weaponn】
なし。
もしあるとするならば、
その狂気じみた信念とそのための努力だけ。
【マスターとしての願い】
特に考えてない。聖杯を破壊することで理不尽を達成する道すら考える。
或いは今後も聖杯戦争と言う理不尽と同化するのもいいかもしれない聖杯大迷惑野郎。
【人物背景】
この男はただなりたいだけだ。自分が『理不尽』である為に。
誰かを理不尽の渦中に陥れ表情を見るためなら、最悪の場合命さえも捨てられる。
そして彼はその命を捨てる寸前に、二人の男女に理不尽を与える瞬間に此処に来た。
以上で投下終了です
此方『Fate/Aeon」で投下した拙作を改変・流用したものになります
拙作『Why me?』のアンジェ・ル・カレ&プリンセス・シャーロットですが
属性を秩序・中庸から中立・中庸に修正します
ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした
2本投下します
あれ…苦しいな…
私…インターハイで…
あ…れ…みん…な…の…手…じゃ…
◆
冬木市、浜辺。
砂浜を血で染めていく。
騎兵――ライダーのサーヴァントはこの男…アヴェンジャーに遅れを取っていた…
「どーした騎兵?主人の守りも疎かだなぁ?」
甲冑のアヴェンジャーはあざ笑うようにライダーを見据える。
もちろん、ここで逃げ出すわけにはいかない。
ライダーを呪文を唱えると二人の人影が飛び出す。
左からは男のように鎧を纏った女騎士。
右からはナイフを持った小柄の少年が飛び出す。
――三正面なら突破できる、そう感じていた。
しかし
「なら、フェアじゃないとな」
甲冑の男は、腰の球状の物へ手を当てる。
二つ、影が飛び出す。
女騎士には、青い巨大なトドの様な生物が。
少年の方には、六枚羽の蛾の様な生物が飛びかかる。
女は剣でトドの体を突き刺すも、効かず、氷結の球を撃ち込まれ、牙で鎧ごと体を砕かれる。
少年は蛾相手にスピード勝負を持ち込むも、その倍のスピードで急所を狙われ、消滅した。
ライダーは強襲をかけるも、甲冑で受け止められる、怪力が通用しない、鋼鉄の鎧に。
「所詮はこの程度…やれ!トドゼルガ!アメモース!」
トドゼルガとアメモース…先程の使い魔が狙ったのは、ライダーのマスターである少年。
怯え、足を挫いている。
ライダーは離脱し向かおうとするも。
「甘いなぁ!」
アヴェンジャーの剣先が、ライダーを袈裟に切り裂いた。
――無…念…ライダーは消滅していく、主人も護れずに。
そして、その先には、使い魔の糧にされていく少年の姿が。
そして、自身の後ろには、怯える自分のマスターが…
◆
――また、止めれなかった。
アヴェンジャーのマスター、織塚桃子は自責にかられていく、幼い子が、眼の前で貪られるのを止められるず、ただ、こいつの思いがままにしてしまった。
「戦闘終了だ…マスター…」
あいつの…アヴェンジャーの…ガイル・ハイダウトの声が聞こえる。
「…黙って」
「なら、使い魔あるこの俺は消えておこうか、フハハ…」
笑い声を上げながら、ガイルは消えていく、暗闇の砂浜に一人、私だけが残る…
(どうして…私は…私は…)
沖浦も…蜷川さんも…イカマサも…確実に、あの男を止めれるはず…でも私は…私は…
(嫌だ…こんなの…嫌よ…)
雪の砂浜に響くのは、少女の嘆き、それを拾う者は、誰一人いない。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
ガイル・ハイダウト(アオギリ)@ポケットモンスターSPECIAL
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:B+
復讐に囚われる者。
ガイルの場合、逆恨みに近いが、高い補正を受けている。
忘却補正:C
人は忘れる生き物だが、復讐者は忘れない。
全ては計画を邪魔した全ての者へ、その怨念をぶつける。
【固有スキル】
ポケモントレーナー:B
不思議な生き物、ポケモンの扱い方を表すスキル。
宝具で召喚する彼らを、ガイルは高いレベルで扱える。
対魔力(水):A
かつて、世界を水に沈めようとした彼は、決して水に愛されたわけではない。
しかし、その性質が変化して、水属性への魔法を、全て無力化するまで至った。
【宝具】
『魔法の剣とその鎧』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
ガイルが謎の人物から譲り受けた、謎の剣とその鎧。
特に剣は斬るだけでは無く、物理攻撃や特殊攻撃に高い耐性を持つ。
『ポケットの下僕ども』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
不思議な生き物、ポケットモンスター、ちぢめてポケモン。
彼の手持ちは以下
トドゼルガ 性別・レベル不明
アメモース 同上
となっている、ガイルとしての姿で召喚されてるので
この2体から使役していない。
『全てを飲み込め、願いの巨獣よ』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
かつて、ジラーチに願い、疑似カイオーガを作りだし、世界を再び海で塗り替えようとした逸話に由来する宝具。
上記の疑似カイオーガを展開し、一体を水没させる
【人物背景】
バトルフロンティアに現れた謎の甲冑の男。
その正体はアクア団棟梁、アオギリ。
再び世界を海に沈め、そして計画を邪魔したトレーナーへの復讐のため動き出す
【サーヴァントとしての願い】
世界を海で塗り替え、ガキ共(ルビーとサファイア)に復讐を。
【マスター】
織塚桃子@ケンコー全裸系水泳部ウミショー
【マスターとしての願い】
ガイルを止める
【能力・技能】
水泳の技術、特にクロール
【人物背景】
海猫商業高校水泳部主力。
かなりの美貌とスタイルを持つが、勝ち気な性格のため、モテない。
インターハイで意識を失ったところからの参戦
一本目投下終了です
続け投下します
冬木市、海上。
水上ボートに乗りながら一組の主従はある場所を目指す。
場所は、最近噂となっている、謎の島。
ここ最近、突如出現した島だと聞いた彼らは、サーヴァントの仕業ではないかと思案。
そのため、水上ボートを借り、付近に進んできた。
間もなく島が見える、その時だった。
霧の中より、巨大な何が見える。
島か、それとも何かの虚像かと思ったが、違った。
霧を払いでてきたのは、巨大な骸骨頭の巨人。
巨人は頭の斧を持ち、こちらへと振り下げる。
急いでボートに加速を付ける。
――やはり、サーヴァントの仕業か。
そう理解した彼は、自身のランサーに構えを取らせる。
再び接近し、槍を叩き込む準備をする次の瞬間だった。
紙一重――閃光が、自身らのボートを横切る。
先端が焼き焦げる、放たれた方向に居たのは、二つ首の巨人だった。
突如、巨人の首がボートに巻き付く、ランサーの槍が突き立てるも、刺さらない。
そして、そのまま横転させられらと、先程の骸骨頭の巨人と共に、ミサイル、閃光の嵐をまき散らす。
海に沈んだ彼らは、一息つけずに絶命した。
◆
先程の巨人達――ガラダK7とダブラスM2はその噂の島へと帰っていく。
発進口であろうところに彼らが入ると、中にいたのは多数の覆面兵士。
彼らと似たような巨人達を建造していく。
――そして、この島、地獄島の奥ではある主従がいた。
一人は紫色に変色した…と言われても仕方ないような肌をした白髪の老人。
もうひとりは、仮面を被った金髪の中年男性。
「なかなか悪くないワインだな、マスター」
「冬木中を巡ったかいがあったものだ、キャスター」
マスターとキャスター、親密な会話のように聞こえて、どこか緊張感を漂わすこの空間。
金髪の科学者…ヴィンスモーク・ジャッジはワインを飲み干し、グラスを置く。
同時に、キャスター、Drヘルも飲み干し、グラスを置く。
それと同時に、ヘルの使い魔が報告しに入ってくる。
「Drヘル!機械獣、ガラダK7とダブラスM2が近海で敵主従と交戦!無事、撃破しました」
「そうか、なら良かった」
Drヘルが、古代ミケーネの技術で作った鉄の巨人、機械獣、ヘル本人には戦闘力が無いため、彼がキーとなる。
「それと、キャスター、あの計画も進んでいるだろうな?」
「もちろんだ、レイドスーツの量産体制も近い…」
彼らの計画…冬木市を血の海に帰る、最悪の計画…悪の科学者共が結託して行われる、地獄への片道キップ。
「さぁ、続きを始めようかマスター!新たなる新世界を!」
「あぁ、是非ともだ」
狂気の笑いが響く、地獄を作ろうとする彼らを、止めるものは出るのか
【クラス】
キャスター
【真名】
Drヘル@マジンカイザー
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷C 魔力EX 幸運D 宝具A+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”を上回る“研究所”を形成することが可能。
道具作成:A
魔力を帯びた機械獣を作成できる。
【固有スキル】
カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。
科学者:B
科学に精通していることを表すスキル。
様々な科学的物品を製作可能
【宝具】
『我らが、拠点、地獄島』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
Drヘルが、かつて日本に建てた拠点。
ここでは、前述の高い陣地作成スキルを活かし、機械獣の作成や、低ランクの使い魔となる、鉄仮面や鉄十字の召喚が可能となる。
ヘルが戦うためにはここが重要となる。
【人物背景】
世界征服をしようとした、悪の科学者
【サーヴァントとしての願い】
世界征服
【マスター】
ヴィンスモーク・ジャッジ@ONEPIECE
【マスターとしての願い】
ジェルマの再興
【能力・技能】
レイドスーツを使った飛行など
【人物背景】
ジェルマ再興を願った独裁者
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世界に残ったのは二人だけ。
なのに悠ちゃんはまだ、目を覚ましてくれない。
あいつらは消えたのに、あいつらがかけた呪いは未だに残っている。
でも、その呪いを解く方法は知っている。
私がもっと、傷付いて、惨めになって、ぐちゃぐちゃになって。
そうすれば、悠ちゃんはきっとまた、私のほうに来てくれるから。
悠ちゃんは、優しいから……
◆
冬木市。
灰色の建造物が並ぶ発展した都市は賑やかながらも、なかなかに快適なものらしい。尤も自らは都市部ーー『新都』ではなく昔ながらの町並みの大人しい『深山町』に住む一人の学生、なんて仮初の役割(ロール)を与えられたが為にその賑やかさとは少し離れるのだが。
しかしこの深山町も居住地として身を置くならば、この上無い位贅沢なもの。むしろ賑やかなのは苦手、諸々の条件さえ目を瞑ってみれば今すぐ正式に引っ越したいくらいだ。
でも、それでも。
この町には、この場所には、この世界には、太陽がない。
私を照らす、温かい、優しい太陽ーー悠ちゃんが、いない。
太陽がない世界なんて、苦しくて、無価値で、生きてられない。
◆
如何にも長い歴史を蓄えている雰囲気を醸し出すアパート。その一室は、ある少女とアサシンのサーヴァントの居住地となっていた。
その地域性故ただでさえ大人しい町の中、隣人となる住人が存在しないこの部屋はあまりにも静か。ただひとつ、かたかたとキーボードを打つ音だけが部屋中を支配していた。
薄暗い部屋。少女の眼鏡にパソコンの液晶が反射する。カソールをぐりぐりと移動させて、ただただ一つを追い求める。だけど、ない。ある筈がない。ここは電脳世界、元居た世界とは違う世界。
それでも、何らかの奇跡的要因で復活しているかもしれない。そんな淡い希望を胸に――
「何日続けるつもりだ」
「っ!?」
突然かけられた声に堪らず椅子をがたごとと鳴らしながら、少女は振り向く。少なくとも現代日本の風潮に合わないその身なり、その上傷だらけの肉体は目を引くどころではない存在感を放つ。
「……ノックしてって」
対する少女の反応は、まるで父親を相手にした思春期の少女の様。マスター・サーヴァントという関係性にも少し慣れた電脳世界での数日間、少女にとってアサシンは恐れる対象では無くなっていた。
少女の名を──『松下好美』。
アサシンの名を──通り名『呪いのデーボ』。
現代に生きる女子高校生と、能力者の殺し屋を巡り合わせるのもまた、聖杯戦争の性質。
「無意味にコンピュータを弄る位ならば地理でも調べるか、早く睡眠を取れ」
「無意味じゃ……」
無意味じゃない。なんて言い切ることは出来ない。何せ毎日毎日、機種すら違うパソコンに想い人の写真が眠っていないかチェックする作業。単なる気休めと呼べば良いのか、もはや気が狂ってしまったのか。
それでも脳は、身体は、想い人の──兵藤悠子の温もりを欲している。ないものを何時までも強請り続ける。
「…………キャスターが一体。マスターは近場の廃墟を拠点にしていたが、どちらも仕留めた。以上だ」
しかしアサシンとてマスターとの不和を望んでいる訳でもない。報告を済ませると、それ以上何も発することなく静かに背を向け部屋を出ていった。
報告が示す事実を好美が理解していない筈がない。聖杯戦争という舞台、好美はサーヴァントの存在を道具とみなし、それにアサシンが特に異を示すこともなかった。主に従順な殺し屋は元の世界に居た『宮園一叶』の様に、自らの道を拓けるに便利な道具だった。
ならば今の自分は、その道具を使って人殺しをしていることになる。
「……」
身分が示す通り、好美の日常に人殺しなんて概念は程遠いもの。殺人は忌むべき行為であり、それが当然の思想。好美の中にも例外なく刻まれている社会通念。戦争に招かれたとて、その常識は変わらない。
故、好美は苦しむ。自らの手を汚した世界に、『殺さなければいけない』状況を作り出した現実に。
「悠ちゃん……」
故、好美は想う。
ずっと、救いの手を差し伸べてくれた友人を。
「もっと、もっと壊れたら」
色々あった。
気持ち悪い異物が消えて、二人になれて、気まずくなってしまって、宮園一叶に話して。やっと道筋が見えたと思えば、こんな戦争に巻き込まれて。
「悠ちゃんは、私を助けてくれるよね」
それでもまだ足りないのなら、もっと自分を壊せば良い。
人を殺して、殺して、惨めに、ぐちゃぐちゃになればきっと、
悠ちゃんは私を救い上げてくれる。
「……」
液晶に映らない幻影に手を伸ばして、下ろす。
我慢が続く連続になる覚悟は出来ている。
それでも、その先に、聖杯なんてものでは比にならない太陽の温もりが待っているならば。松下好美は、何処までも自分を壊せる。
◆
聖杯戦争が始まり数日。優良物件、なんてことは一切思わないが、悪くはないマスターに召喚された。
ここにある『悪い』マスターというのは、正義だのなんだのを振りかざす様なマスターを指す。己のマスター、松下好美はそれには当て嵌まらない。殺人に対する忌避感さえあるものの、それを咎めようとはせず、『悠ちゃん』とやらに夢中になっている。
己は殺し屋であり、サーヴァントとしての使命も同じ。聖杯を勝ち取り、巨万の富と共に受肉する。その障害がマスターの手により生じるならば乗り換えを考えなければいけないが、その心配も無さそうだ。
だが、松下好美はあくまでも住処に過ぎない。それ以上の優良物件が見つかったならば、それに乗り換える。
勝てばよかろう。己の目標は、それのみだ。
【クラス】
アサシン
【真名】
呪いのデーボ@ジョジョの奇妙な冒険
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力:D 耐久:B 敏捷:D 魔力:C 幸運:E+ 宝具:C+
【クラススキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
攻撃に転じるには自らの姿を晒す事が大前提となるアサシンは、アサシンクラスとしては低いランクとなっている。
【保有スキル】
被虐の誉れ:C
肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/2で済む。また、魔術の行使がなくとも一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されていく。
追い込みの美学:D
相手にあえて先手をとらせ、傷を負う。
アサシンはその傷を糧に、対象への恨みのパワーを増加させる戦法を取る。
仕切り直し:D
戦闘から離脱する能力。逃走に専念する際、有利な補正が与えられる。
【宝具】
『怨恨肥やす黒の悪魔(エボニーデビル)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1人
宝具へと昇華された、アサシンの持つ『スタンド能力』。不気味な民族像の様なビジョンを持つ。
スタンドを無機物、主に人形に憑依させ操ることが出来る。憑依した人形が手にした物質にもスタンドパワーが伝導され、Cランク相当の宝具と同等の力を持つ武器と化す。
ライダー自身が対象への恨みを重ねることで、そのパワーと比例するようにこの宝具は強化されていく。
【人物背景】
エンヤ・ガイルの手によって星屑十字団へと送り込まれた刺客の一人。『アメリカインディアンの呪術師』というふれこみで商売をしていた殺し屋界での有名人。スタンドの特性から、標的を挑発しわざと傷つけられてから攻撃に転ずる戦法をとる。その為身体には無数の傷痕がこびりついている。
【サーヴァントとしての願い】
巨万の富。
【マスター】
松下好美@きたない君がいちばんかわいい
【マスターとしての願い】
傷付いて傷付いて、全部壊して、生きて帰る。
聖杯自体にはさほど興味はない。
【能力・技能】
ある少女達の“秘め事”を周囲にばら撒いて尚平静を保てる精神性。
【人物背景】
兵藤悠子という光に照らされ、恋に狂う少女。
ある日偶然にも花邑ひなこと瀬崎愛吏の“秘め事”を目撃してしまう。嫌悪感を抱いた彼女はやがて愛する兵藤悠子に接近する花邑ひなこを遠ざけようと“秘め事”の写真をばら撒き、自らを含めた多くの人間の運命を狂わせるトリガーとなった。
【備考】
宮園一叶とカラオケに行った後からの参戦。
令呪の形はロベリアの花びら。
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「……よう。お前の言った通り、ひとりで来たぜ」
「どうやら…その通りみたいだね」
黒い羽により呼び込まれた者達による聖杯大戦、その予選開始から暫く後…雨の降るある日の冬木市の路地裏に、2人の青年が向き合う。
「ここに来てくれたって事は、僕達と手を組むって決めた…そういう解釈でいいかな」
「…悪い、その前にひとついいか?
…俺達と手を組みたいってお前は言ってきたけどよ、なんで話し合う場をここにしたんだ?お前の家か……俺の家っつーか…拠点でも良かったんじゃねえのか。
…わざわざここを指定した意味がわかんねえんだ」
見てくれからしていかにも不良に見えるオレンジ色の髪をした青年は、そう述べる。
信じたいと思いながらも疑念を抱かずにはいられない…そう表情に出ていた。
一方相手の青年の方は、呆れた様子を見せながら声を出す。
「へえ、まだわかってないんだね。
…わざわざ本拠地に招く馬鹿が何処に居るんだい?」
「っ…まさかお前…やっぱり…そう、なのかよ……!」
「その通り。まんまと引っかかってくれたねぇ」
嘲るかのように告げる男に、オレンジ髪の青年は悲痛な表情を向ける、信じたかったと…その顔は言外にそう告げていた。
「ついでに言っておくと、巻き込まれた一般人ってのも嘘さ。君なんかとは違って僕は魔術師なんだよ」
「な……魔術師……だと……!?」
「聖杯に知識は与えて貰ってるだろ?何をそんな驚いてるんだい…ひょっとして、マスターに出逢ったのが僕が最初で最後って事かな?運がないねえ」
驚くオレンジ髪の青年に対し、男は呆れ果ててると言った様子を隠しもしない。
そのまま青年は言葉を続ける。
「まあここであっさり終われるのはある意味運が良いとも言えるかな。僕のサーヴァント…キャスターは、苦痛を感じさせる間もなく殺す術に長けてるからね…さあキャスター、こいつを殺……!?」
しかし、男のサーヴァントであるキャスターは姿を現した後、そのまま消滅していく。
その胸にはナイフが深々と何本も突き刺さっていた。
「…ごめんなさい、マスター。心配だから霊体化と能力を使って見に行ったら貴方が…殺されそうになってたから」
対し、オレンジ髪の青年を庇うかのように前に現れたのは─メイド服を着た、青年と同年代かそれよりも下程度の銀髪の少女。心なしか申し訳無さそうな表情を浮かべている。
「咲…アサシン、お前っ…分かってんだろ!?サーヴァントが消えたマスターは、6時間で…」
「……だからって、みすみすマスターを殺させる訳には行かないわよ」
そう言う2人に対し、サーヴァントを一瞬にして喪った男は一瞬呆然とした後、半ば狂乱しながら喚く
「…1人で来たんじゃないのかよぉ!?えぇ!?とんだ裏切り者だなてめえはっ…騙し討ちしやがって!!ふざけんじゃねえ!!」
自分の事を棚に上げ、完全に狂気に取り憑かれた目を向け青年らを糾弾する男の怒りは止まらない。
「聖杯を手に入れるために、全てを捨てた!!だってのに…ここで負けたら意味が無くなっちまう…ああ!!こうなりゃてめえらも道連れだぁ…2人まとめて一緒に死ねぇ──…」
「っ、アサシン…待……!」
喚き涙を流しながら、魔術を用いた自爆で青年とサーヴァントのメイドを屠ろうとした男だったがその瞬間、突如現れたナイフが男に突き刺さりドサリと倒れた。青年のサーヴァントに対する制止は間に合わなかった。
滲み出る血は激しくなる雨により流れていく。ピクリとも動かず男は心臓を貫かれて即死していた。
「……ちくしょう……!」
オレンジ髪の青年はそう、悔しさを滲ませた表情で壁を殴る。
喉から出かけた、「何で殺した」という言葉を押し込みながら。そうした理由など…青年は分かりきっていた。
(俺に…力が無いから、力が無いせいで…あいつに手を汚させちまった…力さえあれば、殺さず止める事も出来たかもしれねえのに…!!)
「…クソっ!……こんな、こんな勝ち方があるかよ!!!」
そう絞り出すかのように叫ぶ青年の…マスターの名は黒崎一護。「元」死神代行にして、取り戻せた筈の力を奪われ信じてた者達に裏切られたどん底からこの聖杯大戦へと招かれた者。真実に辿り着けていない男。
一方、それを申し訳なさと哀しみが入り混じった表情で見ながら、何も言えずにいる少女の…サーヴァントの名は十六夜咲夜。アサシンクラスのサーヴァントにして人の身のまま、吸血鬼の主に仕えた完全で瀟洒な従者。夢を通じてマスターの過去を観せられた結果思い悩む女。
2人に降り注ぐ雨は止む気配は無く、さながら今の一護が抱いている悲しみを表すかのように勢いを増していくのであった。
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『…やっぱり……やっぱりお前もなのかよ、石田………!!』
『解らないのか!!!僕を斬ったのは、お前の後ろに居る奴だ!!!』
『だが、勘違いするなよ。俺は月島に斬られてお前の敵になった訳じゃない。
月島に2度斬らせて、元に戻ったんだ』
『貰うぜ、お前の完現術(フルブリング)』
『返せよ銀城…俺の力を返せ………』
『銀城……銀城!!!』
『……そうか……そうかよ……親父たちまで…そうなのかよ……』
胸を刀で貫かれ、そう絶望の中呟くとほぼ同時に…青年が真実に気付く前に、黒き羽が手に触れた。
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「……夢…か」
雨が止んだ夜、与えられたロールとしての家ではなく、拠点としたあるマンションの一室で、青年黒崎一護は悪夢から…この聖杯大戦に招かれる前の出来事を再現した夢から目を覚ます。
護る為の自分の力を取り戻させてくれたと思っていた相手は、力を奪い取る為に協力していたに過ぎなかった。
それどころか、自らの師とも言える相手や、父親ですら…自分を刀で刺した。チャドや井上ら友であり仲間のように能力で裏切らされたのか、共謀していたのか…最早一護には判断がつかないが、敵に回ったのは彼の視点からすると確かな事実となっていた。
(…もう、信じねぇ方がいいのかもな…)
今日の一件も、元はと言えば…一人彷徨いていた所、声を掛けられ告げられた同盟の提案を…悩んだ末に受けるとし、条件通りに一人で赴いたが故、相手を信じたいとしたが為に起こった出来事だった。
(でも…石田が来た時疑わずに信じてれば……俺は…クソっ!!)
「……すまねぇ、石田……お前の事、すぐに信じてれば……」
一護は思わず仲間で級友、そして友達(当人は認めないだろうが)の名を呟き謝る。
どういうつもりか分からないが、自分が用済みにされ、更にこの世界に飛ばされまでした以上は…他の皆と同じように挟まれたか、或いは…始末されてしまったのか。そんな最悪の事態も脳裏に浮かんでしまう。
(…聖杯で…勝ち残れば聖杯で願いが叶うって言われても…どうすりゃいいんだよ…サーヴァントを倒せば、マスターも6時間後には消えちまうのに……他のマスター全員消して殺してまで、願いを叶えたくなんてねえ…けど……それを使わなきゃ、もし元の世界に戻れても俺は……!!)
例え元居た世界への帰還が出来たとしても…記憶を挟み込む能力者月島秀九郎によって殆ど全ての仲間・身内が銀城空吾らの味方となり自身の敵に回った今、戻った所で袋叩きに遭うだけだろう…そう一護は考えていた。何より…自身がそんな状況に耐えれない。既に一護の心は度重なる裏切りでへし折れきっていた。
(…咲夜にも…迷惑かけてばっかだな…何考えてんだか、いまいちわかんねえけど…俺を守ろうとしてるのは本当だと思う)
そう、未使用とはいえ令呪という形で縛れるのもあって、現状唯一全幅の信用を置ける存在であるサーヴァントの事を浮かべる。
(…あいつがサーヴァントってので、幽霊に近い物なぐらいわかってる…だからって、俺と同じくらいか、年下の姿の女に…戦いで任せっきりにするしかねぇのも、殺すって選択肢を取らせちまうのも……今の俺が何にも持ってねえ無力なせいだ。
……申し訳なくて、情けなくって……自分で自分が許せねぇよ…)
『…貴方が気にする事じゃないわ。あくまで此処に居る私はサーヴァント、使い魔に過ぎない…だから人殺しをさせたなんて、背負い込まなくていいの』
「…だからって…させていい理由にはならねえ、だろ……ちくしょう…護るどころか、護られて…俺は……俺はっ……!!」
理屈は理解出来ても受け入れれず、そう悔しさを滲ませながら呟く、暫く後…どうにもならないままに、再び一護は眠りに落ちた。
その眼から少し溢れていた涙は……一瞬の後、まるで拭き取られたかのように、綺麗さっぱり無くなっていた。
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私の主は、生涯お嬢様…レミリアお嬢様ただ一人というのに。
……それが私、十六夜咲夜が最初にこの冬木市にサーヴァントとして召喚されて思った事だった。
あくまで自分が人の身のままお嬢様に生涯仕えた「十六夜咲夜」当人じゃない、影法師のような存在だというのは知っている上で…それでも胸にあるのはどうにも釈然としない気持ち。
…勿論、だからといってサーヴァントとして…従者として喚ばれたからには、相応の働きをしないと…とは思っていたけど。そうでなければ、完全とも瀟洒とも名乗れないもの。
とにかく、ひとまず召喚したマスター…仮の主を探しに行ったけど……彼はひとり座り込んでいた。
とりあえずサーヴァントな事を名乗った後に、マスターならロールに従った生活基盤があるんじゃないの?と聞いた所…返ってきたのは「家には…帰る気になれねえ」との一言。
何か理由があるって事は、憔悴しきった様子からも読み取れた。だからそれには触れず…近くに空き部屋が無いか探し、見つけた部屋を一先ずの拠点とする事にしたわ。勿論、部屋の内部は時間を操る程度の能力で見た目よりも広くして。
彼のロールは高校生だったけど、通っている事になっていた学校には、『今は行きたくねえ』と。直感でなんとなく、自分の家(として用意されてるモノ)に帰りたくないのと同じ理由な気はしたから…触れないでおくことに。触れられたくないって思ってそうな表情をしてたし、「今は」と付けてる以上下手に踏み込むべきじゃなさそうねと判断した。
……正しいのかどうかは、今でもわからない。
彼が外に出る時は霊体化して周囲を警戒しながら付き添ったり、放っておくと何も食べない彼に料理を作って食べさせたり(仮とはいえ、主を飢え死にさせる従者がいてたまるものか)と、幸運にもこの時点では他マスターやサーヴァントと出会わないままだったけれど……ある時、夢を見た。
それは、今は何の力も持たない主…黒崎一護が、死神の力を手に入れ死神代行として戦う姿…気付くと私は夢を通してマスターの、一護の過去を視ていた。
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死神と言われて最初に私の頭に浮かんだのは、三途の川の船頭をしているサボり常習犯の死神(小野塚小町)だった。
だからてっきり、一護の夢の中で現れた彼女や彼らは外の世界に出向く、死者のお迎え担当の死神なのだと思っていた…のだけど、過去が進んでいく中、私は勘違いに気付いた。どうも世界自体が違うみたいね…と。
それはともかく、最初の夢で視れたのは、一護が死神代行になってから、仲間達と尸魂界なる場所に殴り込みに行くまでだった。
翌日それとなく何か夢を見なかったかしら?と一護に聞いたけど…「覚えてねえんだ、なんでか思い出せない」って言われてしまった。私が一護の過去を視たように、彼も私の過去の何かを視たのかしら…?
そして次の夢、私は再び一護の過去の、その続きを視ていた。
今度は尸魂界へ殴り込んだ一護が、死神達と戦い…最終的に黒幕には負け逃げられこそしたけれど、恩人の処刑を防ぎ、頑なだったその兄の心を救った後恩人と別れるまでを視た。
再び一護になにか見たかと聞いたけど、やっぱり何も覚えていないらしい。この調子だと、下手に聞いても変に疑われるだけになりそうね…と考え、とりあえず聞く事は止めた。
その次の夢は、ある一人の少女を巡る戦い…最終的に誰からも忘れ去られた筈の戦いの夢だった。
忘れ去られた筈の少女の事を、最後にたったひとり思い出した一護が…抱えて前に進む事を選んだ話。
そしてその次の、4回目の夢は…逃げた黒幕がきっかけとなり産まれた存在破面(アランカル)と、死神達の戦いの中、仲間の一人を助け出す為死神達と肩を並べ戦い…最終的には助け出す事に成功し、黒幕を打倒するも力を喪うまでを視た。
そして現状最後の5回目の夢、敵サーヴァントとマスターを仕留めた今日視たのは…力を喪ってから17ヶ月後、一護が完現術(フルブリング)という技を習い、死神の力を取り戻そうとし…月島によって身内が次々偽りの記憶を挟まれる中…力を取り戻したものの裏切られ、絶望に沈む中…この聖杯大戦の舞台冬木市に飛ばされるまでの夢だった。
…彼が与えられたロールに基づいた学校や家に行きたくない理由が、わかった気がした。
…もし元の世界での、月島に挟まれた知り合い達がNPCとして再現されていたら…そう考えると、行く気になれなかったんでしょうね。
…彼の戦いの過去を視て、心底思ったのは…一護は、彼はどうしようもなく、殺し殺されの環境に向いていないという事。
喧嘩好きな一面は確かにあったように視え、また戦いを楽しんでた時も…視た限りではなくはなかったと思う。でも…殺し殺されをするには、少々彼は優しすぎる。
『こんな勝ち方があるかよ!!!』
殺し殺されの戦いかつ、一度自分が殺された相手というのに…内なる虚(ホロウ)による暴走もあったとはいえ、こんな事を言い自分も対等の状態になろうとする辺り、本当に向いていない。仲間を…井上を助けようとする中で見ず知らずの破面達を助けようともしていたし、筋金入りのお人好しの類なのだと思う。
彼が殺意を見せたのは、月島相手だけ、それも…自分の家族や友人達の記憶に偽りの過去を挟み込んで陥れようとされた末だから…もしそんな事をされたら普通は耐えれないでしょうし、私だって我慢は出来ないわ。何が何でも…殺そうとするでしょうね。
ともすれば甘さと言えるし、実際チョコラテとも言われてたその優しさで一護は、敵対していた相手を味方につけたりしていた。
しかし普通の、サーヴァントが消滅してもマスターが消えないルールの聖杯戦争ならともかく……猶予時間があるとはいえサーヴァントの消滅がマスターの死に繋がる、この聖杯大戦のルールとはあまりにも相性が悪い。
彼を護ろうにも、サーヴァント殺しがマスター殺しにほぼ直結する現状では…彼は苦しむだろう。
既に彼は…一護は、過去を視てわかった限りでは、心に癒えるかどうかも怪しい傷を2つ負っている。
自分を庇ったせいで母が死に、妹達から母を奪ってしまったという強い負い目、少女を…茜雫を護る為に戦い抜いた筈が、最後の最後に自分を犠牲にする形で逆に護られてしまった事…その上、銀城にも浦原にも父親にすらも裏切られた事も合わせれば3つ。
…山ほどの人を護りたいと彼は言っていた。でも…今の現状で、彼を護ろうとすれば…彼の心を傷付ける事は避けれない…。
…こんな時、お嬢様なら…彼を、一護を…見限る可能性も無くはないでしょうけど、溢れるカリスマで立ち直らせれるんでしょうね。
でも…私は私。お嬢様にはなれないのだから……過去に触れられる事は母親絡みの件からして避けたがるだろうし…下手に夢で見た事は言えないわ。
…お嬢様のように立ち直らせれる事は出来ないけれど、それでもせめて…従者としてサーヴァントとして、彼をみすみすと殺させる事はしないと、護ってみせると…私は決めた。
仮の主とはいえ、それじゃ完全で瀟洒な従者としての名折れなのだから。
…自分を省みたとはいえ、お人好しになったつもりはないのだけども…きっと召喚時に、マスターに引っ張られた結果でしょうね。
それはそうと…最後に一護が刀を刺された場所と、最初一護が死神の力を得た際に死神に…ルキアに刺された場所が一緒だったけれど…何か関係あるのかしら…?
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水没した心情世界、髭を生やした中年と白色になった一護がその中を漂う。
本来黒崎一護は既に死神の力を取り戻しているが、時期のせいか或いはメンタルのせいか、それとも黒い羽に触れたのが取り戻したのとほぼ同時だったせいか、一護に呼びかけようとする彼らの声は届かない。
届くとすれば、一護自身が再び立ち上がれるか否かにかかっているだろう。
【クラス】
アサシン
【真名】
十六夜咲夜@東方Project
【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:A 幸運:D+ 宝具:EX
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
気配遮断:B+
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適しているスキル。ランクBのため、完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
アサシンの場合は宝具発動時や後記のスキルを使用している際に、スキルにプラス補正が付く。
【保有スキル】
投擲(ナイフ):A+
アサシンが生前から持っていた、短刀を弾丸として投げる能力の技術がスキルとなった物。ランクの高さは正確さを表す。後記のスキル使用時及び宝具発動時は効果に補正が入る。
従者の矜持:A
感謝などの見返りを求めず、最期の瞬間まで主の生死を問わず尽くし、その願いを叶えようと動ける完全で瀟洒な従者であり続けるというアサシンの心構え・在り方がスキルとなった物。
Aランク相当の戦闘続行と、Bランク相当の無窮の武練に単独行動のスキルの効果が複合されている。また精神や魂に作用する異常に対する耐性がアップする効果もある。
仕切り直し(時):B
戦闘から離脱し、また不利になった戦闘を初期状態へと戻す能力がスキルとなった物。
アサシンの場合は、自分の異能である時間を操る程度の能力による時間停止や時間の加速によりこのスキルを発動させる。
使用時のアサシンを端から見ると、まるで突如姿を消したかのように映るだろう。
直感:C (A)
戦闘中、自分にとって有利な展開を常に感じ取る事が出来る能力がスキルとなった物。
ランクの高さは視覚や聴覚に干渉する妨害を半減させたり、攻撃をある程度予見し対応出来る程度の感の良さを表している。
生前アサシンが、2つの能力(光を屈折させる程度の能力と音を消す程度の能力)を併せた上で隠れていた光の三妖精の存在に、素で気付いた逸話から来ているスキル。
基本的にはCランク相当のスキルとなるが、視覚や聴覚に干渉するスキル・宝具等に対しては、Aランク相当にまで上昇するようになっている。
時間を操る程度の能力:EX
生まれつきアサシンが持っていたと推測される異能がスキルとなった物。人間が持つ異能としては規格外の力。時空間操作の類いの能力。
時間停止に圧縮、時間の加速や減速、空間の拡張や縮小が可能で、範囲は任意かつ対象を指定して行使可能。
空間の拡張や縮小の部分の能力を行使すれば、他者の空間系のスキルや宝具・能力への干渉や中和も可能となっている。
投げたナイフを加速させ威力を増させたり、相手を減速させて攻撃を避けやすくしたり減速により攻撃の威力を殺したり等が出来る。
自身を加速させた場合は筋力と敏捷、与ダメージにプラス補正がかかる。
ただし、時間の逆行については「この」十六夜咲夜には不可能。また生前とは異なりサーヴァントとなった事によって、能力を行使する範囲・対象が広ければ広い程消費する魔力が多くなるようになった。また後記の宝具を使用する以外では世界全体の時間を止める事は出来なくなっている。
なお、時間を操作出来る限界については判明してないものの、当人は「時間でも止めていないとやってられない」と、紅魔館の家事について触れた際言っているので、家事をこなせる程度には状態を維持できるようである。
【宝具】
『月時計(ルナ・ダイアル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1人
アサシンの物であるスペルカード「時計『ルナダイアル』」がサーヴァントとなった事により宝具化したもの。時間を操る程度の能力の応用。
範囲型の時空間操作に当たる。時間停止領域を込めた時計を投擲し、命中した敵とその周辺の時間のみを停止させる効果。
停止させていれる時間はアサシンの当人主観で3秒程で、時間こそ短いが魔力消耗が少ない特徴がある。
一応時計は壊れた幻想の対象にする事が可能。
『私の世界(ザ・ワールド)』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1〜110 最大補足:100人
後記の宝具を範囲を絞る形で劣化させた、時間を操る程度の能力の応用の宝具。性能が落ちている分、『月時計』よりは重いが魔力の消耗量も本来よりある程度は抑えれている。アサシンが規格外レベルの時空間操作の異能を持つが故に可能な芸当。
アサシンの主観で、発動から9秒程の間範囲内の時間を全て停止させる。攻撃時に使う場合は、停止している間に得物であるナイフを敵の周囲に設置し、解除と同時に動き出したナイフによる一斉攻撃を行うのが基本的なアサシンの戦術となる。攻撃の回避等にも使用可能。
サーヴァントと化した事により、時が静止している範囲の中でも、アサシンのマスターは思考・行動が可能となっている。
宝具名の由来は、「東方儚月抄」の漫画版でのスペル宣言の時に呼称した「私の世界」より。
『咲夜の世界(ザ・ワールド)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜冬木市全体(全世界) 最大捕捉:冬木市全体(全人類)
アサシンの物であるスペルカード「咲夜の世界」がサーヴァントとなった事により宝具化したもの。時間を操る程度の能力の応用。
世界全体の時間を停止させる。本来なら全世界・全人類規模で全てを停止させれるが、今聖杯大戦では舞台の範疇である冬木市全土が限界として設定されている。
停止時に攻撃する際の戦術や回避等にも使用可能な事、範囲内でもマスターは行動可能な事は前記の『私の世界』と同様だが、魔力消耗が格段に激しく、サーヴァントの身なのもあって発動してから5秒程の間しか停止させ続ける事が出来ない。
またサーヴァントとなったせいか、宝具発動時に『咲夜の世界』とスペルカード名を宣言する必要がある為、真名を勘付かれたり看破されるリスクもある。
【weapon】
『無銘のナイフ』
読んで字の如く無銘のナイフ。切れ味が良くステンレス製な点以外は取り立てて特筆する所は無い。
生前とは異なりサーヴァントとなった事で、投げた側から能力を用いて回収せずとも魔力による生成が可能となっている。
無銘のナイフなのもあって消費する魔力も微々たるものであり、投げるナイフが無くなる事態はまずないと言えるだろう。
『銀のナイフ』
魔属性に対して特攻が入る効果がある、銀製のナイフ。アサシンは異変時等に対妖怪用として用いていた。
無銘のナイフとは異なり、こちらは魔力による生成は不能。かつ数が限られている為、使用後は早急に能力を使い回収しないと盗まれたり使用不能になりかねない。
【人物背景】
元は外の世界の住人にして、流れ着いた幻想郷にて吸血鬼である主レミリア・スカーレットに、人間の身のまま仕えていた完全で瀟洒な従者にしてメイド長。
かつては館からあまり出ようとせずまた他人に冷たかったが、ある異変解決の際受けた忠告から自らを省み、閉じた自分の世界から一歩踏み出した少女。主にナイフの投擲と体術で戦う。
クールで真面目そうに見え実際そういう一面もあるが、意外と天然かつマイペースでお茶目な所も。テンションが上がっている時や戦闘時には勝気かつ攻撃的な言動になりやすい。(当人曰く「今の私は押せ押せモードだから」との事)
かつては館の外にあまり行こうとせず交流関係も閉じ気味だったが、自身を省みてからはアウトドア趣味を持ったり交流を広げそれを楽しんだりするようになった。
本来ならアライメントは中立・中庸だが、今回の召喚ではマスターに引っ張られて中立から秩序属性に変わっている。また性格面もかなり自身を省みた以降寄りになっている。
ちなみに「この」咲夜はアサシン以外ではアーチャーやキャスター、バーサーカーの適性もある。
【サーヴァントとしての願い】
特に無し。サーヴァントの身な以上、マスターの願いを叶える為に……と思ってたけど、今のマスターは願いを考えるどころじゃないから…どうしようかしら。取り敢えず…彼を死なせたくはないけれども。
【把握資料】
東方Project。「東方紅魔郷」で5面ボスとして登場したのが初出。
以降は「妖々夢」「萃夢想」「永夜抄」「花映塚」「緋想天」「非想天則」「輝針城」「虹龍洞」にて自機として使用可能。
他では公式の物だと小説の「香霖堂」、漫画の「三月精」「鈴奈庵」「茨歌仙」「智霊奇伝」「酔蝶華」
書籍の「求聞史紀」「グリモワールオブウサミ」、ゲームの「弾幕アマノジャク」「バレットフィリア達の闇市場」、書籍及びゲームの「文花帖」、漫画及び小説の「儚月抄」に登場している。また書籍である『外來韋編』掲載のクロスレビューでは紅魔館編と輝針城編にてレビュアーとして登場している。(背景に写ってる程度等の出番も含めたらもっと増えるが割愛)
今回は時系列的には「花映塚」以降の、自身を省みて変わる事を選んでからの側面が強めとなっている。
なおこれは東方キャラ全体に言えるが、台詞の口調が安定しない事が多い。
また彼女の出自については複数説があり、かつては吸血鬼ハンターだったとか、月の都や月人の何らかの関係者だとか、イギリスの有名な殺人鬼ジャック・ザ・リッパーと関係がある或いは、ジャック・ザ・リッパーその人が幻想入りした存在である…等があるが、原作内でははっきりとした事は分かっていない。
(吸血鬼ハンター説が公認二次創作であるソシャゲ「東方LostWord」にて、並行世界の存在として拾われたりはしている)
【マスター】
黒崎一護@BLEACH
【マスターとしての願い】
……俺は……
【能力・技能】
かつて空手を習っていた他殴り合い等の喧嘩に強く場馴れしており、達人レベルの相手にも通用する高い身体能力と頭の良さを併せ持っているが、人の名前や顔を覚えるのは苦手。刀の扱いも参戦時期時点ではかなりのもの。
参戦時点では霊感体質や死神の力と虚の力を取り戻している他、奪われこそしたが完現術の能力も残滓程度は残っている。滅却師の力も戻っているが目覚めておらず、使用には剣八戦のように斬月のおっさんが介する必要がある状態。
ただしメンタルが最悪に近い状態なのと、この聖杯大戦に巻き込まれたのが力を取り戻したのとほぼ同時だったせいか、現状では取り戻した力を発揮出来ず霊感も無いまま。霊体化されるとサーヴァントを視認出来なくなる。
また、斬り合いで相手の剣・刀と合わせた際に、(当人曰く)その相手の考えや心、剣を振るうに至った覚悟が少し分かるという読心に近い事が可能。
他にも消滅すると関わった人達から関連した出来事等の記憶が全て消え去り、存在毎無かった事になる思念珠である茜雫の一件(劇場版第一作のMEMORIES OF NOBODY)を覚えていると思われる発言を参戦時期より後にだがしている。(劇場版本編では最後に茜雫の事を思い出したかのような描写が入っていた)
一護の精神世界には住人として白一護ことホワイトと、斬月のおっさんの2名が存在している。現在は彼らから直接一護に干渉する事は不可能な状況にある。
また精神世界の状況は一護のメンタルにより左右され、悪化すると雨が降ったり水没したりする。
なお斬月は(一応)斬魄刀である為、他者(サーヴァントやマスター問わず)への譲渡や技の使用も可能と思われる(東仙要が他者の斬魄刀を使用している)
【人物背景】
死神の父と滅却師の母の間に生まれ虚を内に宿す死神代行にして高校生。
口調こそ荒く誤解されやすいが、本質的にはチョコラテと評される程のお人好しのあんちゃん。何度も心が折れたり折れそうになったりしつつも、護る為に戦う青年。
最初から殺す気で戦う事がまず出来ないせいで、甘さを捨てろだのチョコラテはここに置いていけだの作中ですら散々言われたり完敗を喫したりするが、その優しさや在り方に感化され変化を遂げた者も多い。
幼い頃自分を庇った母が虚に食い殺された一件から、どこか自責の念に駆られている節があり自分ひとりで抱え込もうとしがちな一面もある。
なお単行本の1巻に収録されているプロフィール曰く、尊敬する人はウィリアム・シェイクスピアとの事。
【ロール】
高校生。
【参戦時期】
459話のDeath & Strawberry 2にて、胸を刺され、浦原と父である一心の姿を見て「親父たちまで……そうなのかよ……」と言った直後。その瞬間降ってきた黒い羽に身体が触れ聖杯大戦の舞台へ招かれた。刺された後なので死神の力等は取り戻せているが前期の通り発揮出来ないでいる。
【把握資料】
BLEACH。原作である漫画は全74巻。アニメはアニオリ等含めて消失篇終了までで一区切りとなっており366話。千年血戦篇はおそらく分割4クールとなり執筆時点では2クール目まで放映済みだが時期の都合必須ではない。(一護の出自の詳細や斬月の正体等まで踏み込んで把握するなら1クール目までは必要となる)
小説版も刊行されているが、本編序盤のノベライズである「BLEACH letters from the other side」と劇場版のノベライズ以外では基本一護は殆ど出てこないか活躍しないので必須ではない。
劇場版は4作あるが本編に組み込まれていると思われるのは1作目のMEMORIES OF NOBODYのみ、他は完全なパラレル。(劇場版はMEMORIES OF NOBODYから3作目のFade to Black 君の名を呼ぶまでアニメコミックスが集英社から発売されている)
参戦時期の範囲である死神代行消失篇は原作とアニメでは多少差異がある。この候補作は原作準拠で書いた。消失篇は49巻の424話からで、54巻の479話まで。参戦時期である459話は52巻に収録されている。
アニメでは343話から消失篇が開始し参戦時期にあたる話は361話となる。
投下終了します、タイトルは「Maid & Strawberry」です
投下します
「■■■!? ■■■■■■ー!!!」
二匹の猿が鳴く。
何故、どうしてと。
「■■■■■■■■■■■■■■■!! 」
自分の身体にべったりと纏わりつく赤い液体も不快ではあったが。
鼻を抜ける濃厚な鉄の匂い以上に、妙に鼓膜を震わせるその甲高い声が不快だった。
「■■■……■■■……■■■■■■■」
小柄な猿を守るように、私の方を向くもう一匹の猿。
小刻みに身体が震えているのは間違いなく恐怖からだろう。
だと言うのに、加害者の前から背を向けず小さな体躯を目一杯広げる姿。
なるほど確かに感動を誘う光景だ――それが自らと同じ生物であればの話だが。
生憎と、駆除しようとしている害獣が献身的な姿を見せたとて揺らぐような心の持ち主ではない。
呪いを祓うように、獣を掃う。
ただそれだけの簡単な作業だ。
「■■■……?」
買い替え時はとうに過ぎてるだろうに、また換え損ねてるのかこの人達は……と。
チカチカと明滅する電灯を見上げてぼんやりと思う。
どこかノスタルジックな気持ちにさせる薄明りは、胸に淀む澱を少しは洗い流してくれていた。
「■■■■ー!!! ■■■!!!!■■■■!!!」
必死の形相で縋りついてくる二匹の猿を振り払って。
深呼吸を一つ挟み、目線を下ろす。
どうにも息が苦しく、胸が重い。
覚悟はとうに決めていた。
これ以上、愚鈍な猿の所為で大事な家族を失う事には耐えられない。
何の力もない弱者を間引いて、間引いて、間引いて、間引いて、間引いて。
ゴールの存在しないマラソンを終わらせる。
積み重なる屍の山に、これ以上が家族の姿が見えないように。
それが私の生きる意味であり、大儀であり、願いであると。
そこまで理解していて、あとたった一言を発すれば終わりだとわかっていて。
壊れた玩具のように、パクパクと口を開いては閉じる。
『非呪術師を見下す自分。それを否定する自分。
どちらを本音にするのかは、君がこれから選択するんだよ』
とある女性にかけられた言葉が脳裏を過る。
選択、そう……選択。
これから選ぶ道は、誰に強制されたわけでもない。
家族を守る為だなんて大義名分に守られた、猿共が嫌いだと言う心の底からの感情。
目当てのアイテムが落ちずにゲームをリセットするような、稚児めいた本心。
消費されるだけの歯車にしか願う事を許されない、大切な想い。
自分自身で選んだ、偽りのない夢。
「ありがとう――――さようなら」
何の罪もなく、ただ猿であるというだけで殺される二人に。
或いは、半身だと思っていた相手に。
或いは、ただ弱者を守る為力を振るっていた自分自身に。
小さく吐き出した言葉。
そうして、無数の猿の血を浴びて真っ赤に染まる呪霊へ命ずる――刹那。
ひらひらと、一枚の黒い羽根が彼の手に舞い落ちた。
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
「で、そっちの首尾はどうなんだい。ライダー」
「ダメだな。マスターならいざ知らず、サーヴァントにギアスを掛けるとなれば予想通り私の魔力では賄いきれない。
向こうの魔力が乏しい所に無理をさせた結果、消滅だ」
隣の部屋から顔を出した自らのサーヴァント。
黒の仮面に黒衣を纏った英雄に向けて軽い声音で投げた問い。
安物の椅子に座りクルクルと座面を回転させながら向けた、期待半分諦め半分の視線はあっさりと切り捨てられた。
「ふうん……流石にそう上手くはいかないか。
私の方も、呪霊と同じ要領でサーヴァントを取り込めないか試しておきたいところではあるけど……あまり派手に動き過ぎるも考えものだしね」
艶のある絹髪を頭頂で団子状に括り、一筋だけ前髪を垂らした美丈夫――夏油傑は目を細めて視線を窓の外へと移す。
時は12月17日。
クリスマスイブを一週間後に控えて浮足立つ人の群れが、今は全く別の喧噪に包まれていた。
「言動と行動が一致していないぞ、マスター。実験に使ったサーヴァントはともかく、マスターの方は処理しておいた方が良かっただろうに。」
仮面越しにも伝わる咎める、意図を込めたサーヴァントの言葉に対して視線は動かさないまま苦笑いを浮かべて手を左右に振る。
「その辺は重々承知しているんだけどさ。この町の住人が、私の知っているNPCの概念に即した存在なのか。
或いはもう少しマシなハードを積んだ生物なのかを今の内に試しておきたいと思ってね」
見下ろした視線の先には、一つの死体に群がり思い思いの行動をとっている人々の姿。
携帯を手に持ち撮影をする者。
未だ息があると勘違いしているのか手当を試みる者。
初めて見るであろう死体に悲鳴をあげる者。
十人十色の反応を見せていた。
無論、夏油に悪趣味な人間観察の嗜好は持ち合わせて居ない。
ただ、NPCと呼ばれる存在が――呪術師ではなく魔術師と呼ばれるらしい存在の魂が揺らいだ時に。
果たしてそれらは呪いに転ずるのか、それが知りたかっただけである。
故に。
自らの痕跡が他の陣営にバレる可能性を踏まえた上で、自分達に襲い掛かってきたマスターとサーヴァントを実験の道具として、仮宿にしているホテルの入口へと放置していた。
この死体は呪いに転ずるのか。
或いはそれを見たNPCが呪いに転ずるのか。
呪力ではない力が循環する魔術師とやらは、呪いに転ずるのか。
もし呪いに転ずるのであれば、夏油の呪霊操術がより一層活きる事になる。
聖杯を手にする為の必要経費さ、と嘯く夏油の言葉遮って、彼のサーヴァントは言葉を紡ぐ。
「それで、君が聖杯を手にしたとして――どっちを願うんだろうな」
「―――――――――――」
その問いに、言葉を詰まらせる夏油を見て仮面のサーヴァントは身を翻す。
「撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけ。
――だが、撃つ覚悟も撃たれる覚悟もあろうと、その先にある望みが無い人間は破滅すると思うがね」
皮肉気に告げられる言葉と共に部屋の扉が閉められる。
結局、猿(自らの両親)を手をかけたあの日。
黒い羽根を掴み、呪霊に塵殺を命じ、気付けば聖杯戦争の舞台へと転移していた。
それと同時に頭の中に流れ込んできた知識に暫し言葉を失い、そして夏油は笑った。
聖杯――万物の願いを叶える願望器。
それを空想の産物だと一笑に付すには、自身の脳内に流れ込んできた知識と目の前に現れたサーヴァントの存在が大き過ぎた。
何人のマスターを排除すれば良いのかはわからない。
それでも、元の世界で非呪術師全てを殺すよりは早いだろうと肩を竦める。
猿(非呪術師)は嫌いだ。
それは紛う事なき事実。
家族(呪術師)の屍をこれ以上見たくない。
それも紛う事なき事実。
聖杯が真に願望器というのであれば、余計な手間を掛けずとも“呪霊のいない世界”を願えば良い。
そこは、非呪術師がどれだけ死のうとも、どれだけ負の感情に引き摺られようと呪いが発生する心配はなく……引いては呪術師が命を賭す必要の無い世界だ。
ただ、それでもこの感情は――
「君なら、こんな事は迷わなくて済むんだろうね」
最強の片割れ。
半身を置いて一人に成った男の姿を思い浮かべて、独りになった男が浮かべた表情は――。
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
「英霊の座と言うのも、存外当てにならないものだな」
黒い仮面のサーヴァント――生前、ゼロと呼ばれた男はマスターと別室へ籠り溜息交じりに零す。
本来であれば、仮面に隠された英雄の正体はルルーシュ・ランペルージという青年の筈であった。
最愛の妹を世界の悪意から守る為に。
悪意に刺されその命を散らした母の敵を討つ為に。
復讐に鈍く光る刃をその奥に隠し、願いを叶える為に纏う仮面。
それが、黒衣の英雄の始まりだったのだが。
魔女との出逢いにより他者を従える絶対の魔眼を得た青年は、いつしか“明日が欲しい”という人々の、願いという名の魔眼(ギアス)にかけられた。
自らの罪と人々の願い。
その全てを清算し、世界を明日へと導いた偉業は確かに英雄と呼ばれて然るべきではあるのだが。
今この場に召喚されたのは、ルルーシュではなくあくまでも“ゼロ”と呼ばれ民衆に支持された存在である。
「俺でもなく、スザクでもなく、無論C.C.でもなく。
――俺達として呼ばれるとはな。風聞を形にするのは良いがあまりにも乱雑が過ぎる」
伝説が、真実を上回る。
確かに、ゼロと呼ばれた存在はルルーシュ一人ではない。
ルルーシュが命を賭して世界に掛けたゼロレクイエムと呼ばれるギアスを実行したのは、枢木スザクであり。
ルルーシュが不在の時にゼロとして部下の前に姿を表していたのはC.C.である。
だが、ゼロの偉業を語る民衆からすればそんな事実はつゆ知らず。
さりとて、レクイエム以前以後で異なるゼロの微妙な違いを納得させるには多重人格が適切であったのだろう。
ルルーシュ達にとっては都合の悪い事に。
Cの世界と呼ばれる集合無意識の世界においてルルーシュとスザクが共闘し。
ギアスの力によって結ばれた人間たちの意識が混戦した事実が、風聞の英霊化に際して人々の空想を補強してしまったのであろう。
ゼロと言う一人の英霊の中に三人の人格が同居する事態となっていた。
「わかっているさ。だが、アレはあくまでもこの舞台に再現された装置に過ぎない。
世界を救った英雄として呼ばれている以上、生きている人間を踏み躙る策を取るつもりはない――勿論、マスターの身に危険が迫る相手なら別だがな」
既にゼロの願いは達成されている。
今更何でも願いが叶いますと言われようと、最早かける願いはない。
だが。
弱者によって消費され、屍を積み上げる強者。
立場は違えど永遠に終わらないマッチポンプに苦しむその姿が、理想と現実の狭間に苦しんだ自分に。
ブリタニアに虐げられるエリア11の住民の姿に重なって。
無辜の民を救った英雄としての側面が強調されたゼロにとって、そんなマスターは見捨てられるものではなかった。
「世界を壊し、世界を創る……か。その罪は、君が思っているより重いのかもしれないぞ」
扉の外にいるであろうマスターに向け呟いた言葉は、冷たい空気に溶けて消えた。
【クラス】
ライダー
【真名】
ゼロ@コードギアス 反逆のルルーシュ
【パラメーター】
筋力E〜B 耐久E〜EX 敏捷E〜A 魔力C〜B 幸運D 宝具C〜EX
【ルルーシュ】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力C 幸運D 宝具C
【枢木スザク】筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具C
【C.C.】筋力E 耐久EX 敏捷D 魔力B 幸運D 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C(A)
乗り物を乗りこなす能力。ライダークラスの象徴である宝具・ナイトメアフレームをどのレベルで扱えるか。
幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
【保有スキル】
欺瞞の英雄:A
世界を恐怖と暴力によって支配した悪逆皇帝ルルーシュ。
そんな世界の敵を打ち破り、人々に明日を取り戻した黒き仮面の救世主。
――後世の伝承により、その本来の性質を歪められ英雄として祀り上げられた英霊。
かの英雄の素顔を見た民はおらず――――ライダーのステータス及び真名はあらゆるスキルを打消し秘匿される。
かの英雄の言葉は民を、兵士を熱狂させ勝利へと導いた――――Aランク相当の軍略・煽動スキルを保有している。
かの英雄は力なき者を愛し力ある者を憎む――――敵対サーヴァントとの力量差が大きい程ライダーの行動へプラスの補整がかかる。
専科百般:EX
時に巧みな弁舌で民を導き。
時に類まれな身体能力で銃弾すら躱し。
時に虚弱体質と目を疑う程の疲労感を漂わせ。
時に正体は女性と思わせる柔らかさを携える。
実際には複数人が仮面を被りゼロとして動いていたが、それを知る由もない多くの民からは矛盾の生じる行動の多さから多重人格だと思われていた。
その逸話が忠実に再現されており、人格の切り替わりでステータス・スキル及び使用可能宝具が切り替わる。
破壊工作:A
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。
トラップの達人であり爆破物による地形破壊で戦局そのものひっくり返す。
ランクAならば、相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能に追いこむ事も可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。
【宝具】
『蜃気楼』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1〜40 最大補足:100人
生前ゼロが搭乗した、人型機動兵器「ナイトメアフレーム」。
本機は第8世代相当の技術で製造されており、当時としては最高峰のスペックを誇る機体である。
必殺武器の「拡散構造相転移砲」は、戦場にプリズム状の結晶体を発射し、これにレーザーを照射・乱反射させるオールレンジ攻撃を実現するもの。
この他にも、堅牢なエネルギーシールドである「絶対守護領域」、飛行機能である「飛翔滑走翼」、超高度演算コンピューター「ドルイドシステム」などの機能を保有している。
しかしそれだけの技術を注ぎ込まれながらも、科学の域を出てはいないため、神秘性は最低ランク。
人格がルルーシュの時のみ使用可能。
『絶対順守の魔眼(コード:ギアス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜15 最大補足:100人
ルルーシュの両目に宿された「王の力」。
発現者によってその性質は異なっており、ルルーシュのものは、「目を合わせた相手に、何でも一つ命令を下すことができる」能力である。
この力は光信号によって伝達されるため、鏡越しに目を合わせても、複数人に同時に自分の目を見せても発動できる。
ただし、サングラス程度の透過率の低さのものを通しただけでも、その力は無力化されてしまう。
魔力消費量は相手の抵抗力、および命令の危険度によって左右される。
たとえば、令呪を持ったマスターに対しては、その魔力が抵抗力となるため消費が増大する。
逆に、膨大な魔力さえ賄う事ができるのであればサーヴァントすら従える絶対の魔眼。
命令の内容も、簡単なものであれば消費が少なく、逆に「死ね」や「奴隷となれ」などの重大なものであれば消費が大きくなる。
人格がルルーシュの時のみ使用可能。
『友に捧ぐ鎮魂歌(ゼロ・レクイエム)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
生前ゼロが成した最大の偉業、悪逆皇帝ルルーシュの殺害。
暴君の胸を貫いた剣は、人々の明日を求める願いを、たった一人の青年が命を賭して盤上に掲げた願いを、確かに叶えた。
王属性のサーヴァントに対してスキルや宝具による防御を無視してダメージを与えられる。
人格がスザクの時のみ使用可能。
『愛という名の呪い(リ・コードギアス)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
生前――否、現在も風聞ではなく生ある者として存在するC.C.に掛けられた呪い。
誰からも愛されるギアスを得たのと引き換えに、死ぬ事を許されなくなった魔女の身体が宝具化したもの。
人格がC.C.に切り替わった時のみどれだけ霊格を損傷しても消滅する事はなく、その身を生きながらえさせる。
但し、この宝具を使用した後に魔力が切れると自動的に人格が変更される。
【人物背景】
たった一人で神聖ブリタニアへの反逆を開始し、黒の騎士団と呼ばれる剣を手に世界の平和を勝ち取った黒き英雄。
圧倒的な戦力差も、絶望的な状況も覆して世界に明日を与えた救世主。
そんな『ゼロ伝説』の風聞がサーヴァント化した存在。
作中においてゼロの仮面を被った者は複数人――否、文字通り百万人存在する。
その中でも主に仮面の英雄として偉業を成した『ルルーシュ・ランぺルージ』『枢木スザク』『C.C.』この三名の人格が『ゼロ』という一つの英霊の肉体に収められており、Cの世界における意識の共有の経験が多重人格という形で再現されている。
召喚されたマスターとの相性によって主人格は変更され、今回はルルーシュとなっている。
【サーヴァントとしての願い】
サーヴァントとして夏油の力になるつもりではいる。
舞台装置に感情移入するつもりはないが、そのスペック次第では非人道的な策は使わないし使えない。
【マスター】
夏油傑@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
聖杯を得て呪霊のいない世界を創る。
その手段は――。
【能力・技能】
◆呪霊操術
呪霊を取り込み、自由自在に使役する術式。
羂索は数千に達する呪霊のストックを有しており、それは最早一つの“軍勢”と呼ぶに足る。
低級の呪霊でも羂索ほどに卓越した術師が扱うことで殺傷能力は跳ね上がり、その戦闘能力はサーヴァントにさえ並び得る。
また『極ノ番』と呼ばれる秘奥が存在し、その能力は呪霊を使い捨てることによる“超高密度の呪力放出”と(高専基準で)準一級以上の呪霊を圧縮することによる“術式の抽出”。
前者は手数を捨てることになるリスクを含有するが、その分特級術師にさえ容易に致命傷を与える威力をコンスタントに引き出すことが出来、後者は本来術者が会得していない生得術式を一度切りとはいえ習得出来るという規格外の性能を誇る。
実例はまだないが、条件を満たす相手ならばサーヴァントでさえ使役の対象になる可能性が高い。
【人物背景】
四人しかいない特級術師の一人であり、最悪の呪詛師。
笑えない世界で、家族の為にその手を汚すと決めた男。
高専時代に両親を殺した直後に呼び寄せられる。
学生としての【役割】を与えられているが当然学校には行かずホテルを転々としている。
投下終了します。
ステシ作成におきまして
・本コンペにおける◆sYailYm.NA様の羂索
・聖杯戦争異伝・世界樹戦線における◆nig7QPL25k様のルルーシュ
のステータスを流用させて頂いた事を報告させて頂きます。
皆様、投下お疲れさまです。
先ほど期限になりましたが、投下の渋滞や滑り込みがあることを勘案しまして、1:00までは引き続き投下を受付致します。
それを過ぎた場合原則として投下は受け付けません。ご承知のほどよろしくお願いします。
wikiの方にて一部拙作の誤字及び誤解を招くような文明の修正を行わせてもらいました
事後報告になりますが、wikiに収録して下さった拙作「Maid & Strawberry」の本文の修正及び、一部文章に追記を行わせて貰いました
こちらも事後報告となりますが
拙作「衝撃の篝火」「その男、凶暴につき、悪魔」の修正を行いました
>>986
すいません…追加で「ひぐらしのざわめく頃に」の修正も行いました
大変失礼いたしました
こちらも事後報告ですが、
拙作2作品における誤字脱字などの修正を行ってます
>>987
また追加ですみません…拙作
「fate/I want someone to kill me」の修正を行ったことを報告します
事後報告になりますが、拙作二作品の本文の修正を行ったことを報告します。
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