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コンペロリショタバトルロワイアル Part3
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コンペロリショタバトルロワイアルへようこそ
俺ロワ・トキワ荘にて進行中のリレーSS企画です。
当企画では新規書き手様を随時募集中です。
流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。
wiki
ttps://w.atwiki.jp/compels/
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【参加者名簿】
1/6【忍者と極道】
○輝村照(ガムテ)/●割戦隊(赤)/●割戦隊(青)/●割戦隊(黄)/●割戦隊(緑)/●割戦隊(桃)
3/3【遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's】
○海馬モクバ/○インセクター羽蛾/○龍亞
3/3【NARUTO-少年編-】
○うずまきナルト/○奈良シカマル/○我愛羅
3/3【無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜】
○ルーデウス・グレイラット/○ロキシー・ミグルディア/○エリス・ボレアス・グレイラット
3/3【名探偵コナン】
○江戸川コナン/○小嶋元太/○灰原哀
3/3【Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ】
○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/○美遊・エーデルフェルト/○クロエ・フォン・アインツベルン
3/3【Fate/Grand Order】
○キャプテン・ネモ/○ジャック・ザ・リッパー/○メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)
3/3【ちびまる子ちゃん】
○永沢君男/○城ヶ崎姫子/○藤木茂
2/3【クレヨンしんちゃん】
○野原しんのすけ/○佐藤マサオ/●ボーちゃん
1/2【ドラえもん】
○野比のび太/●骨川スネ夫
1/2【サザエさん】
○磯野カツオ/●中島弘
1/2【SPY×FAMILY】
○ベッキー・ブラックベル/●ユーイン・エッジバーグ
2/2【ひぐらしのなく頃に 業&卒】
○古手梨花(卒)/○北条沙都子(業)
2/2【Dies Irae】
○ウォルフガング・シュライバー/○ルサルカ・シュヴェーゲリン
2/2【金色のガッシュ!!】
○ガッシュ・ベル/○ゼオン・ベル
2/2【ローゼンメイデン】
○水銀燈/○雪華綺晶
2/2【To LOVEる -とらぶる- ダークネス】
○結城美柑/○金色の闇
2/2【BLEACH】
○日番谷冬獅郎/○リルトット・ランパード
2/2【BLACK LAGOON】
○ヘンゼル/○グレーテル
2/2【ハリー・ポッター シリーズ】
○ハーマイオニー・グレンジャー(秘密の部屋)/○ドラコ・マルフォイ(秘密の部屋)
1/2【ONE PIECE】
○シャーロット・リンリン(幼少期)/●ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵
2/2【そらのおとしもの】
○ニンフ/○カオス
2/2【アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
○櫻井桃華/○的場梨沙
2/2【彼岸島 48日後…】
○山本勝次/○ハンディ・ハンディ(拷問野郎またはお手手野郎)
2/2【ドラゴンボールZ&ドラゴンボールGT】
○孫悟飯(少年期)/○孫悟空(GT)
2/2【グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
○風見雄二(少年期)/○風見一姫
2/2【ジョジョの奇妙な冒険】
○ディオ・ブランドー/○マニッシュ・ボーイ
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1/1【とある科学の超電磁砲】
○美山写影
1/1【東方project】
○フランドール・スカーレット
1/1【鬼滅の刃】
○鬼舞辻無惨(俊國)
1/1【魔法陣グルグル】
○勇者ニケ
1/1【HELLSING】
○アーカード
1/1【ロードス島伝説】
○魔神王
1/1【NEEDLESS】
○右天
1/1【葬送のフリーレン】
○フリーレン
1/1【オーバーロード】
○シャルティア・ブラッドフォールン
1/1【ハッピーシュガーライフ】
○神戸しお
1/1【11eyes -罪と罰と贖いの少女-】
○リーゼロッテ・ヴェルクマイスター
1/1【エスター】
○エスター(リーナ・クラマー)
1/1【鋼の錬金術師】
○セリム・ブラッドレイ(プライド)
1/1【アンデットアンラック】
○リップ=トリスタン
1/1【その着せ替え人形は恋をする】
○乾紗寿叶
1/1【お姉さんは女子小学生に興味があります。】
○鈴原小恋
1/1【血界戦線(アニメ版)】
○絶望王(ブラック)
1/1【うたわれるもの 二人の白皇】
○キウル
1/1【ポケットモンスター(アニメ)】
○サトシ
1/1【アカメが斬る!】
○ドロテア
1/1【ご注文はうさぎですか?】
○条河麻耶
1/1【カードキャプターさくら】
○木之本桜
1/1【おじゃる丸】
○おじゃる丸
1/1【【推しの子】】
○有馬かな(子役時代)
0/1【犬夜叉】
●悟心鬼
0/1【高校鉄拳伝タフ】
●石毛(チンゲ)
0/1【魔法少女リリカルなのはA's】
●ヴィータ
0/1【刀使ノ巫女】
●糸見沙耶香
80/94
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『ロワルール』
※候補話における作中時間、殺し合いは深夜(0:00)から開始(キャラクター登場候補話は既に募集を終了しました。)
候補話募集後、本編開始の作中時間は深夜(1:00)より開始。
※最後の一人まで生き残った者を優勝者とし一つだけどんな願いでも叶えることが可能となる。
※6時間毎に放送で死亡者の名前が読み上げられる
※参加者が所持していた武器は基本的に没収。かわりに支給品が最大三つまでランダムに再配布される。
※一部の参加者には制限が掛けられている。その他にも様々な変化を施されている可能性がある
※参加者によっては様々な制限を掛けられている。制限については各々に支給された説明書に書かれている
※参加者名簿はタブレットから見れる。第1回放送後、観覧可能。
※候補話募集後の本編開始時の第0回放送(OP2)にて、禁止エリアの説明を行う。
『参加者の初期所持品について』
何でも入る四次元ランドセル(参加者及び、死亡した参加者の死体の収納は不可)
不明支給品1〜3
マップや参加者名簿を見れるタブレット
文房具一式
水と食料
『放送、禁止エリア、作中時間について』
【放送】
朝(6:00)、日中(12:00)、夜(18:00)、真夜中(0:00)
上記の時間帯に放送を行う。基本は乃亜の姿がソリッドビジョンで上空に映し出され、バトルロワイアルの主催者の声が島中に響き渡る。
【禁止エリア】
放送毎に3エリアずつ禁止エリアとなり、放送から2時間後にそこに踏み入れた参加者の首輪は数十秒の警告音の後に爆破される。
禁止エリアは、原則ゲーム終了まで解除されない。
タブレットのマップには禁止エリアは反映されないので、タブレットのメモ機能を使って指定されたエリアをメモするのが良い。
【作中での時間表記】(候補話は0時スタート、候補話募集後の本編は1時以降からスタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【状態表】
キャラクターがそのSS内で最終的にどんな状態になったかあらわす表。
〜生存時〜
【現在地/時刻】
【参加者名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:
1:
2:
※その他
〜死亡時〜
【参加者名@作品名】死亡
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『ランダム支給品について』
当企画に登場するキャラクターたちに最大三つまで、ランダムでアイテムを支給出来ます。
以下のルールを守っていただければ、基本的には何でもいいです。
【バトルロワイアルを破綻させるかもしれないアイテムには制限を掛けること】
強力過ぎるアイテム、死者蘇生、どんな願いも叶えてしまう。
このようなアイテムは、制限を掛けて支給してください。
【作品の把握難易度を下げる為、参加者名簿に表記された参戦作品に登場するアイテムのみを支給可能とします】
本編開始以降、キャラクターが名簿にはない、未参加作品のアイテムは支給禁止とします。
更に候補話内で一話退場したキャラだけが名簿に表記された、以下の作品からもアイテムの支給は禁止とします。
犬夜叉
高校鉄拳伝タフ
刀使ノ巫女
魔法少女リリカルなのはA's
【意思持ち支給品について】
意思を持ったアイテムや、一部の生物を支給品として出せます(限度はあります)。
そこまで厳しく制限することはありませんが、一例として、一部名指しで例を挙げます。参考にしてください。
支給禁止アイテム(キャラ)
マリィ@Dies irae
ガイモン@ONE PIECE
要制限アイテム
神鳥の杖@ドラゴンクエストⅧ 空と海と大地と呪われし姫君
ドラクエⅧキャラも居ない為、封じられている暗黒神ラプソーンの復活は重制限とし、企画の進行に伴い制限が解除されるような展開も禁止とします。
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その他、支給品の汎用枠になりそうなもののルール
【遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's】
カードを実体化させて、戦わせたり効果を使用することが可能です。出せるカードはデュエルモンスターズと5D'sを出展とするカードのみ。
一度の使用で、使用不可になる時間が設定されています。
時間制限の基準として、例を貼ってみますので参考にどうぞ。
※神のカード、青眼の白龍(攻撃力3000)などの攻撃力の高いモンスターや、強力な効果を持つモンスター、魔法罠カード等は一度の使用で24時間使用不可。
青眼の白龍には及ばないものの、ブラック・マジシャン(攻撃力2500)等の高い攻撃力を持つモンスターは一度の使用で12時間使用不可。
エルフの剣士(攻撃力1400)などの、あまり強くないモンスターは一度の使用で6時間使用不可。
【ジョジョの奇妙な冒険】
弓と矢は支給不可。理由として、オリジナルスタンドを考えるのが大変なため。
スタンドDISCで支給できるスタンドは、原作本編に登場するスタンドで6部までとします。(7部以降や外伝作品に出てくるようなものは禁止)
【本来の所有者以外が使用する斬魄刀について@BLEACH】
乃亜によって調整され、始解まで使用可能とします。所有者によって相性が存在し、始解が使えないという展開もあり。
斬月のみ常時開放型なので、始解のまま支給。
卍解に関しては現状では、使用出来ないものとします。
【本来の所有者以外が使用する聖遺物について@Dies irae】
乃亜によって調整され、一つの武器の範疇として使用可能とします。所有者によって相性が存在し、うまく使えないという展開もあり。
聖遺物以外の要因でも普通にぶっ壊れますが、壊れてもその所有者は死にません(一体化してないので)。
現状では聖遺物と、霊的に融合するのは不可能です。(つまり、活動、形成、創造、流出等は不可、その他諸々も全部なし)
ただし、多少の身体能力向上と、一部の能力は使用できるものとします。(戦雷の聖剣なら雷を出して操ったり、緋々色金なら炎を出して操ったりする等)
【ポケモンの支給について@アニメポケットモンスター】
遊戯王のカードとは違い、それぞれが明確に意思を持つ存在である為に、登場数にルールを設けます。
『ポケモンの登場は先着五匹まで』
以下が、現在の登場しているポケモンになります。
○サトシのピカチュウ/○フェローチェ(SM編第114話に登場した個体)/○サトシのピジョット/○/○
実質、残り3枠となります。
『2023/5/28以降、ポケモンを支給品として登場させられる書き手様は、当企画に於いて候補話を除き、本編を6話以上書いて頂いた方のみに限定させて頂きます』
『書き手様一人につき、ポケモンを登場させられるのは一匹のみとする』
既にポケモンを支給した以下の書き手様は今後、ポケモンを新しく支給させることは禁止とさせて頂きます。
◆lvwRe7eMQE(企画主)
◆s5tC4j7VZY様
◆dxXqzZbxPY様
『伝説のポケモンなど、ロワを破綻させたり、今後の本編執筆に支障をきたすようなポケモンには別途制限を課すこと』
これは参加者、支給品、全てに共通する制限とさせて頂きます。ポケモンも例外ではございません。
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『参加キャラクター達の制限について』
バトルロワイアルを破綻させない程度に全員弱体化、能力に制限が掛かっています。
詳細はそれぞれのキャラの状態表より。
『本編の執筆に関して』
【原則、トリップを必ず付けて作品をご投下下さい】
※トリップとは
酉、鳥とも言います。
名前欄に#を打ち込んだあと適当な文字(トリップキーといいます)を打ち込んでください。
投稿後それがトリップとなり名前欄に表示されます。
忘れないように投稿前にトリップキーをメモしておくのがいいでしょう。
#がなければトリップにはならないので注意
。
【代理投下の際は、その代理投稿者様は、必ずその作品の作者様と分かるトリップを書いて下さい】
本編以降は、作品を投下した作者様の識別に必要ですので、お手数ですがご協力お願いします。
【予約について】
キャラ被りを避けたい、安定した執筆期間を取りたいという場合はまず予約スレにて書きたいキャラの予約を行ってください。
予約はトリップを付け、その作品に登場するキャラの名前を書きます。
キャラの名前はフルネームでも苗字だけでも構いません。
あくまでそのキャラだと分かるように書いてください。
自己リレーは、絶対ダメというわけではないので、予約自体が落ち着いてきた時には、自己リレーと予め言っておけばいいと思います(時と場合によるのと、限度はあるので)。
予約なしのゲリラ投下も可能としますが、書きたいキャラが取られて書いた分が無駄になってしまうこともあるので、そこはご了承下さい。
【予約期間について】
候補作を除き、本編開始から執筆数が2作までの書き手様の予約期限は5日間。2作以上執筆して頂いた書き手様は、5日間の期限に加えて、更に2日延長可能とします。
つまり、最大7日のキャラの予約が可能となります。
2023/6/18現在、延長期間込みで最大7日間予約できるのは以下の書き手様になります。
延長可能の書き手様
◆lvwRe7eMQEa(企画主)
◆/9rcEdB1QU様
◆2dNHP51a3Y様
◆/dxfYHmcSQ様
◆.EKyuDaHEo様
◆s5tC4j7VZY様
◆RTn9vPakQY様
破棄または予約期限を過ぎた場合の、同キャラの再予約は3日後まで禁止とする。
ゲリラ投下に関しても、万が一に揉め事にならないよう、破棄や予約期限を過ぎた場合は、そのキャラの投下を三日間禁止といたします。
厳密な予約期限について。
予約日から、その期限日当日の24時までを期限とします。
ですので、例えば2023/6/18の17:44に予約した場合、延長も利用したとして、2023/6/25の24:00までが厳密な予約期限になります。
当日の17:44を過ぎても、まだ予約期限の超過とはなりません。
企画の進行に支障が生じていると判断した場合等、企画主としてその書き手様の予約に介入する場合もございます。ご了承願います。
【登場させたキャラクターの自己リレーについて】
自作に登場したキャラを、自己リレーで予約出来るのは三日後とします。
これはゲリラ投下も一緒で、投下出来るのも三日後です。
※一部アニロワwiki様とアニロワIFwiki様より、ロワルールを引用したり参考にさせて頂きました。
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◆/9rcEdB1QUさん
すいません。
感想投下時に気付けば良かったんですが
『厨房のフリーレン』にハーマイオニーの状態表がなかったのに今更ながら気付きました。
お手数ですが、状態表の投下をお願いします。
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記載漏れ失礼いたしました。
此方の方に状態表を修正いたします。
【H-5/1日目/黎明】
【美山写影@とある科学の超電磁砲】
[状態]精神疲労(小)、疲労(小)あちこちに擦り傷や切り傷(小)
[装備]五視万能『スペクテッド』
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:ドロテアの様な危険人物との対峙は避けつつ、脱出の方法を探す。
1:桃華を守る。…そう言いきれれば良かったんだけどね。
2:……あの赤ちゃん、どうにも怪しいけれど
3:一旦休息を取る。
[備考]
※参戦時期はペロを救出してから。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
【櫻井桃華@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]疲労(小)
[装備]ウェザー・リポートのスタンドDISC
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:写影さんや他の方と協力して、誰も犠牲にならなくていい方法を探しますわ。
1:写影さんを守る。
2:この場所でも、アイドルの桜井桃華として。
3:……マサオさん
4:マサオさんが心配ですけど、今はガッシュさん達に任せる。
[備考]
※参戦時期は少なくとも四話以降。
※失意の庭を通してウェザー・リポートの記憶を追体験しました。それによりスタンドの熟練度が向上しています。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
【ハーマイオニー・グレンジャー@ハリー・ポッター シリ-ズ】
[状態]:背中にダメージ(小)
[装備]:ハーマイオニーの杖@ハリー・ポッター
[道具]:基本支給品×1、ロウソク×4、ランダム支給品0~1(確認済)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
1:朝の放送と名簿の開示を待った後、ホグワーツ魔法魔術学校へと向かう。
2:当面の間はフリーレン達と行動したい。
3:ハリーやロンがいるなら合流したい。
4:殺し合いするしかないとは思いたくない。
[備考]
※参戦時期は秘密の部屋でバジリスクに石にされた直後です。
※写影、桃華、フリーレン世界の基本知識と危険人物の情報を交換しています。
【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、戦士の1kgハンバーグ
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティアは次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:1回放送後、H-5の一番大きな民家(現在居る場所)にて、ガッシュ達と再合流する。
5:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
※グレイラッド邸が襲撃を受けた場合の措置として隣接するエリアであるH-5の一番大きな民家で落ち合う約束をしています。
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絶望王、山本勝次、奈良シカマルで予約します
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>>9
ありがとうございます!
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フジキング、ドロテア、モクバ予約します
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ディオ・ブランドー、キウル、ルサルカ・シュヴェーゲリン、鬼舞辻無惨、磯野カツオ 予約します
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投下します
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「うーん、貴方の体…大分頑丈に出来ているのね。掠っただけなのと、元から大した毒じゃないのかもしれないけど、この処置でほぼ治ったと思うわ」
「ありがとうございます。ルサルカさん」
矢で傷付けられた腕を、魔術で処置したルサルカ・シュヴェーゲリンは温和にほほ笑む。
その治療を受けていたキウルは一安心し、溜息を吐きながら彼女に礼を言った。
「すまなかったな。キウル君、僕としたことが少々、暴勇な行いだったよ。
紳士として反省しなければ」
「いえ、ディオさんも…みなの安全を守ろうとしての事ですし」
わざとらしく謝るディオ・ブランドーに、キウルは何の疑いもなく赦した素振りを見せる。
この三人が出会ったのはほんの十数分前だった。
藤木茂の襲撃に合い、その応戦を任せた海馬モクバとドロテアから別れて数分後の別エリアにて、息を荒げて走っていた赤髪の少女ルサルカと遭遇した。
お互いに危険人物から逃げてきたこと、殺し合いには乗っていないことを確認し、キウルの傷の治療をルサルカから申し出たことで、警戒を解かれ友好的な関係を築く事となる。
「それにしても、不思議な魔術を使う子が居たのね。影を使って、相手を子供にする魔術か」
「ええ…奇怪な法術でしたね」
(若返りの力か…駄目ね、魂の劣化を止めるようなものじゃない)
ドロテアと同じく、不老不死を求めるルサルカだが、彼女は藤木の扱うセト神には然程興味を惹かれなかった。
理由としては肉体の劣化は、既に自分の収めた魔術の範疇で食い止める事が出来る。
だが、ルサルカの世界特有の現象である魂の劣化を避ける術がなく、だからこそ不死でこそないが、不老であるにも関わらず黄金錬成や、殺し合いの場に来てからはドラゴンボールにすら縋ろうとしているのだ。
肉体の老化を止めるだけであるのなら、ルサルカにはあまり意味のある能力ではない。
(さっきからこの女…やけに奴の能力について聞いてくるじゃあないか……こいつはきな臭いな)
キウルの治療を眺めながら、ディオはルサルカに対し怪訝な心情だった。
先ほどの襲撃者の能力について詳細な説明を求められたのもそうだが、直感的にドロテアに似たものを感じ取ったのだ。
人当たりは全然ドロテアよりも良いので、そこまで悪感情は抱かないが、信用はあまりできない。
「よし、腕も動く…何とか戦えそうです」
矢を数本、試し打ちで放ってみるが、全てがほぼ狙い通りの位置に突き刺さる。
キウルは腕の調子を試運転し、以前の状態から殆ど違和感を覚えない事を確認した。
「大した腕前ね」
あくまで、ただの人間にしては。
そう心の中で付け加えながら、ルサルカは打算的にキウルを評価する。
エイヴィヒカイトの霊的な防御力が消えた今、ルサルカにとってはキウルも利用価値のある人材だ。特に先ほど交戦したガムテを相手にした時、キウルに遠中距離を任せる事が出来れば、あの内臓に干渉する一撃必殺技を喰らう確率を下げられる。
「よし、キウル…モクバ達の所へ戻ろうじゃないか。安心してくれ、今度は無謀な真似はしないよ」
「―――いえ、ディオさん…その前に誰か来ます」
「なんだって?」
「モクバさん達じゃありません。あれは……」
キウルがディオとルサルカを庇うように弓矢に手を掛け前に出る。
月明りに照らされ、その人影が露わになる。
三人の前に居たのは、育ちの良さそうな少年と気丈そうな、ルサルカと同じ赤い髪の少女だった。
―――
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「なるほど、俊國さんとエリスさん……ですか」
新たに合流した二人組の自己紹介を聞き終わり、キウルは確認するようにその名を口にする。
「よろしく頼むわよ! ふん!」
「エリスさん、あまり鼻息を立てるのは宜しくないですよ」
「ふん! う、五月蠅いわね!!」
エリスという少女は、何か気に入らないのか素っ気なくも怒気の籠った声を上げる。
対して俊國という少年はそれを宥めようとする。
(チッ、このエリスという女…見ていて腹正しいじゃあないか)
ディオはエリスの態度に対し、反感を抱いていた。
喧嘩になるのが目に見えているので口にはしないが、こう悪戯に周囲に敵意を撒き散らすのは頭に来る。
(……こ、こんな感じで良いよね?)
もっとも、その当人はむしろ周りから向けられる視線に怯えていたのだが。
磯野カツオがモチノキデパートを発ってから早数分、俊國と名乗る少年と出会ってから行動を共にしてから、更に数十分後にキウル、ディオ、ルサルカと遭遇した。
計四人の参加者と出会って会話をしながら、未だにその正体を疑われることなくエリス・ボレアス・グレイラットに成りすませているのは、帝具の力を借りているにしても、カツオの演技力が高いことの裏付けにもなる。
徐々にだがコツを掴み、それなりに自然体でエリスの性格をトレース出来るようにもなっていた。多少大袈裟になり、俊國に指摘されることはあるが。
「……ディオさん達は船を使って、地図の外に出るとどうなるか確認しようとしていると」
「そうなんだ。流石に対策はしてあるだろうが、施設として用意した以上試す価値はあると思ってね」
ディオの考察を聞きながら、俊國に擬態していた鬼舞辻無惨も関心は地図外の水平線上へと向けられる。
間違いなく、乃亜から何かの干渉を受ける。だが、この島の中で最も外部に近い空間でもある。
調査をする価値はあるだろう。
「その前に、不思議な鎧を着た男に襲われてしまって、私とディオさんは先に避難してきたんです」
「ふん! それは災難ね!!」
「……もし、よろしければ…私がそのモクバさん達の様子を見てきましょうか?」
「それって、どういう意味かしら俊國君?」
目を細め、訝しげにルサルカが口を開く。
「モクバさん達が心配なのは分かります。しかし、島の調査も早めにした方が良い。
そこで、先にディオさん達が港に向かい……そうですね、一時間程そこで待って、それでも合流出来なければ、そのまま船を使い出航するというのは如何でしょう?
こう見えて、エリスさんは腕に自信があるそうですし、私もいざという時は戦えます。
ですから、モクバさんの事は任せていただけませんか?」
無惨の本音は、海の調査はしたいが夜明けも近く、海のど真ん中で日が昇れば逃げ場など何処にもない。絶対に船になど乗ってたまるものか。禰??豆子も探さなくてはならない。
しかし、太陽を避け朝と昼間をやり過ごし、半日待ってから調査するのでも行動が遅い。
だから、代わりに人間のお前たちが調査しろ。多少の面倒ごとは引き受けてやる。
それを要約し、不都合な本音を覆い隠しての提案だ。
「そうだな……あまり、のんびりしている場合でもない。モクバ達を任せられるのなら、先に出航してもいいだろう。
ルサルカ、君は船の操縦に明るいか?」
「……貴女達、二人だけよりはマシかもね。いいわ、付き合ってあげる」
またルサルカも、この島がどういった空間であるか気にもなっていた。
最悪の場合は優勝しても良いが、脱出の算段も考えておきたい。
時間のある内に、潰せる限りの仮説や考察は検証していった方が良い。後の選択肢の数が増えるに越した事はない。
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「よし、僕とキウルとルサルカは港に向かい一時間程待ってから出航。
モクバ達とは合流出来れば港に来てもらい、駄目そうなら陸を調査して貰おう」
ディオにとっても、悪くはない話だ。
タイムロスを減らしたうえで、モクバ達への助太刀と海の調査が、ほぼ同時に出来るのに越した事はない。
船の操縦にも、明るそうに見えたモクバ抜きで船を出すのは些か心配だが、ルサルカも幼い容姿に見合わず豊富な知識を有している。
ディオも聡明だし、多少は本で読んだ知識もある。二人で頭を使えば、多少の航海くらいなら出来るかもしれない。
取り合えず、港まで向かって船を見付け、自分達だけで操縦できるか検討する。
本当にどうしようもなさそうなら、別の操縦できそうな参加者を探すか、モクバとの再合流を目指せば良いだけだ。
あと、無惨を信用できるかは別だが、仮に二人が殺されてもドロテアなら胸がスカッとする。
「モクバは首輪を外せる技術者みたいだ。この僕でも驚くほどの…あいてぃ? と呼ぶらしいが、機械なんかのそういった知識に精通している。
何より乃亜の親族だ。
本人も知らない、重要な情報を握っているかもしれない」
ただし、ドロテアのクソッタレならともかく、モクバに万が一があっては困る。
有益さをアピールしながら、無惨の様子を伺う。
ディオの勘が正しければ、無惨も目的は生存の優先だ。可能であれば殺し合いからの脱出をし、乃亜を始末したいと考えているはず。
利用価値のあるモクバを早々死なせはしないと考えたい。ドロテアのクソッタレなら殺して欲しいところだが。
(やれる限り、布石は打ったぞ。少なくともモクバだけは殺すなよ。
あいつ、僕達が海を調査すると言った時に何か思いついていたからな……)
最初に出会った時、モクバが何かに勘付いたのをディオは当然見逃していない。
強さはともかく、奴を生かしておくのはメリットの方が大きい。
(え? 僕、戦わなきゃいけないの)
その中で一人、カツオだけは頭を抱えていた。
『私はエリス・ボレアス・グレイラットよ! 殺し合いに乗っているのなら潰すわよ!』
(俊國君と会った時、あんなこと言わなきゃよかったなあ)
無惨がモクバ達の助太刀に行く頭数に、勝手に数えられている事にカツオは激しく焦る。
初対面の時、エリスのフリをするのに必死で戦えるような事を言ってしまったのが完全に裏目に出てしまった。
「あの…私は……」
「どうしました。エリスさん? ボレアス・グレイラット邸も近くにありますし、モクバさん達を見付けてから、そちらに向かうのが良いと私は思うのですが。
海に出てる間に、その施設が禁止エリアになっているかもしれませんよ? 貴女のご実家なのでしょう?」
(勝手に決めないでよぉ〜)
何故か分からないが、既に無惨の中では行先を勝手に決められてしまっていた。
それも当然だ。無惨は可能な限り、鬼であることは隠し人間の俊國として振舞いたい。
ゆえに、代わりに戦闘を行えるエリスを、何としても同行させたい。
(嫌だよ、本物のエリスが居たらどうすればいいんだ……)
カツオからしたらたまったものではない。
モクバ達を襲った相手と戦うかもしれないのも嫌だし、名前からしてエリスの自宅の施設で本物のエリスと遭遇するのも勘弁だ。何発殴られるか、怖くて仕方ない。
「ほ…本物の実家な訳がないもの……興味ないのよね! 私は…そう、乃亜の苗字と同じ海馬コーポレーションが気になるから! 一人で行かせてもらうわ!!」
「では、尚のこと一緒に行きましょう。
モクバさん達と無事合流出来て、もし船の出航に間に合わなかったのなら全員で向かえば、一人より戦力も生存率も上がります。
ここで断る理由なんて、何処にもないと思いますが?」
(し、しまったぁ〜。ここから離れたい一心で適当なこと言ったけど、ディオさん達と一緒に船に乗るって言っとけばよかった……!)
やけにしつこく喰らい付いてくる無惨を避けきれず、カツオの同行はほぼ強制的に決定されてしまった。
-
「エリスさん…モクバさん達をよろしくお願いしますね」
「い、いや…ま…まかせなさい……!」
「そうだ! エリスさんは武器は何をお使いに? 徒手で大丈夫でしょうか」
「……剣、かしら」
「剣……」
何か思い当たったようで、キウルはランドセルを漁りだした。
「あまり見慣れぬ剣ですが…かなりの業物だと思います。
エリスさん、お受け取り下さい」
「え、あ…ありがとう……」
キウルの手に握られたのは一本の西洋の剣。
それはグリフィンドールの剣であった。
小鬼が作成し、ホグワーツの創始者のひとりであるゴドリック・グリフィンドールが所有した1000年以上の神秘を重ねた最上級の剣だ。
「これ…相当な名剣よ」
その高い神秘を目にし、ルサルカも心底感心するほどだ。キウルの見立て通り業物の刀剣である事に相違はない。
あらゆる錆や腐食などの剣にとって不利な効果を受け付けず、殺傷力を高める力を取り込む。炎や雷などの付与物は存在しないが、何より斬るという剣としての性能をより特化させた性質を持つ。
単純な格であれば、聖遺物にも匹敵するだろう。
(困るんだよなあ…僕にこんなもの扱えるわけないじゃないか)
使い手が全く釣り合いの取れないカツオでさえなければ、これ以上に強力な武器はそうもないのだが。
キウルは満面の笑みで、何の悪気もなく剣を渡し、押し付けられたような形で渋々カツオは受け取る。
だが、こんなもので何をしろというのだ。戦えない自分が持っていても豚に小判とはこのこと。
ああ、今すぐ変身を解いて戦えない事を白状した方が良いのではないか?
普段なら、あまりしない発想だが命の掛かった現状では、余計な嘘は自分の首を絞める事になる。元の生活と違って、サザエに追い掛け回されて叱られるだけでは済まない。
「あの実は」
「僕達も港に書置きを残しておくつもりだが、もしも君達がモクバ達と合流出来たのなら伝言を頼みたい。
一時間港で待つ。もし間に合わないようなら先に出航する。その場合の合流地点だが―――」
「承知しました。出会えればそのように伝えます。…では行きましょうかエリスさん」
「ちょ、ちょっと…」
カツオにとって命の掛かった告白は中断され、話を勝手に纏められディオ達はその場を立ち去ってしまった。
(特殊な鎧に身を包んだ男か……)
カツオの困惑と焦りなど知りもせず、無惨はディオ達から得た情報を脳内で再整理していた。
海の調査は奴等に任せるとする。自分が行うには危険が多い。
それはそうと、もうじき夜明けだ。至急、太陽の光を避ける術を手にしなければならない。
(この妙な道具を使えば、夜の闇を再現することが叶うが)
忌々しい死神の武具の他に、妙な豆電球が一つ支給されていた。
夜ランプと呼ばれる未来の世界で開発された秘密道具の一つ。
その効果は名の通り、ランプの周囲数mを夜へと変える。それは無惨にとって、太陽が照らす日光の中に闇の結界を作りだすことに他ならない。
問題は、稼働時間が6時間しかないと説明書に記されていたこと。
移動時にしか使用できず、やはり朝と昼間も基本は何処かに潜伏しなくてはならない。
計画的に利用すれば、さほど問題はないが乃亜の性格に歪み方を鑑みれば、油断は出来ない。
また無惨が不利なように、ルールを変更する可能性もある。
さらにもう一点、日光を遮断できるのがいいが昼間に自身の周囲だけ夜になっているなど、悪目立ちすること、この上ない。
確実に遭遇した参加者に警戒されるだろう。
-
(自分達を襲ったという男の着ていた鎧…特殊なもののようであるとディオは言っていたな。あるいはそれを纏えば)
無惨がモクバ達の救援を引き受けたのは、早く海の調査を行わせたいのが一つ。
そして、もう一つ藤木が纏った鎧の存在だ。
去り際、ドロテアがあの防御性能は一筋縄ではいかないと口にしたのをディオは覚えていた。
それを無惨に伝えたことで、無惨の中でも鎧への興味が沸く。
(その高い防御性能……日光すらも遮断はしないだろうか?)
日光を一時的にだが凌ぐ術は手にはしている。
ゆえに、無理をする必要はなく。あくまで遭遇できれば。余裕があればだが。
その鎧を手に出来れば、日光から逃れられるかもしれない手段をもう一つ抑える事ができる。
保険はいくらあっても良いだろう。禰??豆子の捜索もあるが、多少の寄り道をする価値はある。
(私の名前が無惨か俊國か分かっていれば、場合によっては禰??豆子の名を出し別参加者に探させられたものを…だが無惨の名で名簿に乗ってあり、更に柱が居た場合が厄介だ。迂闊に禰??豆子のことは話せぬ)
乃亜への不平不満が腸を煮えくり返しそうになるが、それを抑える。
仮に無惨の名で呼ばれたのだとしても、別参加者に友好的に接したのだ。後でいくらでも良い訳は出来るだろう。
もし、モクバ達を救出できたのなら、信用はそれだけ上げられる。そういった思惑もあって引き受けたのだ。
(……まあいい。精々、エリスよ…その剣を私の為に振るえ)
自分の前を歩く赤髪の少女を見て、無惨は何処までも身勝手に思案を巡らせた。
(ど…何処かで逃げよう。冗談じゃないよ。どうして僕が戦うんだ? モクバって人を助けに行くって俊國君から言いだしたんなら、自分で戦うべきじゃないか!!)
カツオの中では不安と恐怖、そして無惨の一方的に決定に不満を募らせていた。
その結果、彼が決定したのは無惨からの逃亡だ。
このまま無惨と同行しても戦闘を押し付けられ、高確率で死んでしまう。
無惨から一時的に離れ、変身を解いてエリスとは他人のフリをするか、そのまま無惨から逃亡するしかない。
とにかく、エリスであることを辞めなくては、何を任されるか分かったものではない。
(トイレに行くって言って逃げようか…その時にマルフォイに化けるとか)
そしてカツオも、無惨もまだ気づいてはいない。
カツオの支給されたガイアファンデーションの制限により、新たに付与された使用者の出会った参加者の名前が説明書に浮かぶという能力。
(早く、何とか逃げないとなぁ……)
そこには俊國の本当の名前。鬼舞辻無惨の名が記されている事に。
-
【E-2/1日目/黎明】
【磯野カツオ@サザエさん】
[状態]:ダメージ(小) 悲しみ(大)、エリスに変身中
[装備]:変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る、グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2、タブレット@コンペLSロワ
[思考・状況]
基本方針:中島のことを両親に伝えるためにも死にたくない。
0:俊國(無惨)から何としてでも逃げる
1:生き残ることを模索する
2:エリスとして行動しつつ、ガイアファンデーションの幅を広げる
3:ゲームに乗ったマルフォイには注意する
[備考]
ガイアファンデーションの効果でエリスに変身しています。
持ち前の人間観察でマルフォイとエリスの人となり(性格・口調)を推測しました。
じっくり丁寧に変身をしたため、次回以降は素早く変身できるようになりました。
少なくとも、「カツオのための反省室」「早すぎた年賀状」は経験しています。
ガイアファンデーションの説明書に無惨の名前が載っています。
【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:健康、俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。
[装備]:捩花@BLEACH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1(確認済み)、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り6時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:海の調査をディオ達に任せ、モクバ達の救援に向かう(居なければ無視して深入りはしない)。可能なら襲撃者(藤木)の鎧を奪う。
1:もし居れば、禰??豆子を最優先で探索し喰らう。死ぬな、禰??豆子!
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:禰??豆子だけならともかく、柱(無一郎)が居る可能性もあるのでなるべく慎重に動きたい。
5:何にせよ次の放送までは俊國として振る舞う。
6:何故私に不利になりそうな状況ばかりになるのだ…!!
7:エリス(カツオ)の言うように、海馬コーポレーションを調べる価値はあるか?
8:戦闘は全てエリス(カツオ)に任せる。
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わら死ぬと考えています。
また鬼化等に制限があるかどうかも後続にお任せします。
容姿は俊國のまま固定です。
※ディオから無惨に頼んだモクバ達への伝言
先に港に行き、一時間モクバ達を待っていること。
間に合わなそうなら、先に船を使い海の調査に向かう。
その場合の再合流場所は、後の書き手さんにお任せします。
【グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ】
キウルに支給。
ゴドリック・グリフィンドールの依頼により、当時の小鬼の王ラグヌック1世によって鍛えられた剣。
剣としてあらゆる不利なものを受け付けない(錆びないし汚れない)。
そして、自らより強いものだけを吸収するという性能を持つ。
原作ではこの剣を使いハリーがバジリスクを撃破し、その時バジリスクの毒を吸収し、後にネビルがお辞儀(ヴォルデモート)の分霊箱を破壊した。
【夜ランプ@ドラえもん】
ランプを点ける事でその周囲数mを夜に変える。
計6時間の使用で使用不可とする。
-
(俊國とエリスが、海馬コーポレーションを見に行くのなら丁度いいわね)
無惨とカツオと別れ、ディオとキウルと共にルサルカは港へと向かう。
その道中、ルサルカは安堵から小さく溜息を吐いていた。
(シュライバーは多分、東の方角に向かっている…代わりにあの二人に調べて貰って生きて再会できたらラッキーぐらいに思っておけばいいわ。
私の魔眼も制限のせいか上手く働かないけど、俊國はかなりの強いオーラが見えたし、そう簡単には死なないでしょう)
ルサルカの推測では、東はかなりの激戦区だ。あのシュライバーが居るのであれば、それが地獄に変わらない理由はない。
もしエリスの言うように海馬コーポレーションを調べに向かうのであれば、ルサルカにとっては願ってもない話だ。
(シュライバーの話を一切してないし、シュライバーは私をアンナと呼ぶ。
仮にシュライバーと俊國達が遭遇して拷問されても、そこから私を連想して辿り着く事はほとんどない筈よ)
都合よく無惨達が動いてくれたことにルサルカは小さく笑みを浮かべた。
「―――それで私には兄上が二人いまして」
「……」
「……」
港に着くまでの間、無言のままなのも気まずい。
誰が言い出したわけでもないが、身の上話が始まり、ディオとルサルカは適当にそれっぽい事を話した後、キウルが長々と話を始め、ディオ達がそれを聞く流れになってしまっていた。
分かったのは、キウルの知り合いではネコネ、アンジュ、シノノンという少女達が殺し合いに居るかもしれないこと。
それはそうと、本人は隠しているつもりだがネコネの事が好きなこと。
だが、全く振り向いて貰えないのだろう。
これだから、童貞は。
(……とても無駄な情報が、絶え間なく頭に入ってくるわね)
恐らく、気を遣って場の空気を良くしようと気張っているのだろうが、殺し合いに関係のない情報も多く、聞いてて面倒にもなってくる。
キウルの住む特異な世界に、多少の関心はあるが当のキウルが語る内容が内輪の話ばかりなのだから、そちらの好奇心もあまり満たせない。
「―――お兄さん二人に置いて行かれて、可哀そうねキウル君」
だから、少し退屈しのぎに意地悪をしたくなった。
「身勝手なお兄さん達よね。勝手にいなくなって」
キウルが尊敬しているであろうオシュトルとハクを、貶すような言い方をして。
彼の可愛らしい顔がどう怒りを表すか、見てみたくなった。
「……ええ、そうですね。勝手かもしれません。
ですが、理不尽ですけど…その役目をお二人から引き継いでしまいましたから…大役ですし、未だ未熟ですけど。
いずれ私が天寿を全うし、お二人と向こうで再会した時、胸を張って一人前の漢として、誇れるように努めたいんです」
「なに、言ってるのよ…会える訳、ないじゃない……死んだ人間には追い付けないわ」
不味い。信用を得て利用するはずが、口が滑り過ぎた。
ルサルカは後悔する。
だが何故、急にこんな事が口から洩れたのか、ルサルカも分からないでいた。
エイヴィヒカイトの鎧が剥がれ、死が更に身近になったからか?
死が近づいたからこそ、死への逃避が更に躊躇になったのだろうか。
「いえ、きっと会えますよ。その時まで、少しでもお二人の大きな背に近づけるよう精進したいんです」
「死ねば終わりなの。だから―――」
私は永遠になりたくて。
■■の愛する永遠の刹那に。
それを口にすることはなかったが。
改めて、自分が感情的になっていることをルサルカは思い知らされた。
そして、忘却の底から吹き出した想いを自分でもよく分からずにいた。
-
「ルサルカさん…差し出がましいようですが……その先を追い求めるのは、やめた方が良い」
「……は?」
ルサルカの異変を感じ取ったキウルは、少し俯きながら重々しく言葉を紡ぐ。
「私も本当に詳しい事は分からないのですが、そう願った人達を見てきました……」
誰も言葉にしはしないが、キウルはルサルカが言いかけた意図を汲み取っていた。
彼女が望むのが、死のない永遠であることを。
「彼らは、確かに死ななくはなりました…でも―――」
ある時は。赤い液体のような人格も何もない存在に
ある時は死人が変質し、虫や魚の不気味な部分を入れ混ぜたような醜い不死の化け物となり。
それらに共通するのは。
理の外に触れた、触れさせられてしまった人であること。
「とても人とは思えない、醜悪な存在と成り果ててしまいました」
キウルはハクを中心に引き起こされた一連の騒動に関わりはしたが、核心に近かったわけではない。
それでも神(ウィツァルネミテア)が人の願いを叶えた、数々の惨劇を目の当たりにしてきた。
「ルサルカさんは良い人だと、私は信じてます。だから、そうなってほしくはありません」
それらはキウルが見てきた存在だ。
タタリという人の成れの果ても。
そしてウォシスが仮面の力により、人々をノロイへと変えた惨状も。
だから、ルサルカの願いは非常に危ういものではないかと、キウルは憂いていた。
「……おかしなこと、言うのね」
「あの、私は―――」
「もう、その辺にしよう。死生観は人それぞれじゃないかな」
話を聞いていたディオも気分が悪くなり、たまらず口を挟んだ。
ディオとて手段さえあれば、今すぐに不老不死になりたいとは思うだろう。
後の別の未来においては石仮面を使用し、日光を除けば不老不死の吸血鬼となったのだから。
心の奥底では、ディオもまた永遠への憧れはある。
それを、まさかキウルの口から、こんなおぞましい形で否定されるとは思いもよらなかった。
(キウルの奴め、気味の悪い話をしやがって……! それに、ルサルカの何処が良い人なんだ。その目は節穴なんじゃあないか?)
三人は気まずそうに、重々しい雰囲気のまま港へと歩を進めた。
-
【E-2/1日目/黎明】
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]精神的疲労(中)、疲労(中)、敏感状態、服は半乾き、怒り、幼児化(あと10分くらい)
[装備]バシルーラの杖[残り回数4回]@トルネコの大冒険3(キウルの支給品)
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:港へ行き、船を見付けて一時間程モクバ達を待つ。一時間以内に合流出来ないのなら先に船を出す(出せれば)。
1:キウルを利用し上手く立ち回る。
2:先ほどの金髪の痴女に警戒。奴は絶対に許さない。
3:ジョジョが巻き込まれていればこの機に殺す。
4:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
【キウル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]精神的疲労(大)、疲労(大)、敏感状態、服は半乾き、軽い麻痺状態(治療済み)、キウルの話を聞いた動揺(中)
[装備]弓矢@現実(ディオの支給品)
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1 闇の基本支給品、闇のランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出
0:港へ行く。
1:ディオを護る。
2:先ほどの金髪の少女に警戒
3:ネコネさんたち、巻き込まれてないといいけれど...
4:ルサルカさんが心配。
[備考]
※参戦時期は二人の白皇本編終了後
【ルサルカ・シュヴェーゲリン@Dies Irae】
[状態]:ダメージ(小)、シュライバーに対する恐怖、キウルの話を聞いた動揺(中)
[装備]:血の伯爵夫人@Dies Irae
[道具]:基本支給品、仙豆×2@ドラゴンボールZ
[思考・状況]基本方針:今は様子見。
0:港へ向かうディオ達に同行する。
1:シュライバーから逃げる。可能なら悟飯を利用し潰し合わせる。
2:ドラゴンボールに興味。悟飯の世界に居る、悟空やヤムチャといった強者は生還後も利用できるかも。
3:ガムテからも逃げる。
4:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
5:俊國(無惨)が海馬コーポレーションを調べて生きて再会できたならラッキーね。
[備考]
※少なくともマリィルート以外からの参戦です。
※創造は一度の使用で、12時間使用不可。停止能力も一定以上の力で、ゴリ押されると突破されます。
形成は連発可能ですが物理攻撃でも、拷問器具は破壊可能となっています。
※悟飯からセル編時点でのZ戦士の話を聞いています。
※ルサルカの魔眼も制限されており、かなり曖昧にしか働きません。
※情報交換の中で、シュライバーの事は一切話していません。
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投下終了します
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すみません、延長お願いいたします
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延長をお願いします
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投下します
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藤木茂は調子に乗っていた。
おそらく彼の人生で最大級に調子に乗っていた。
殺し合う事を強要され、初戦で的場梨沙のヘイトスピーチの嵐に精神を切り苛まれた挙句、奈良シカマルの前に敢えなく敗走した過去を経て。
今現在、どうやっても勝ち目の存在しないドロテアと対峙しているにも関わらず、藤木茂は調子に乗っていた。
「オラオラオラオラオラーーーー!!なのじゃーーー!!!」
どこか投げやりな掛け声を伴って、藤木茂の上半身にドロテアが無数の拳を撃ち込ま
むも、全武装錬金中最高の防御力を誇るシルバースキンに受け止められ、運動エネルギーすら受け止めるその装甲の前に何の効果も表せない。
ドロテアの拳を一つでも、藤木茂が生身で受ければ確実に即死する威力ではあるが、その悉くを防いで、藤木茂の身体に僅かな衝撃も伝えぬシルバースキンの防御力は、確かに驚異的と言えるものだった。
「うおおお!!!!」
ドロテアに打たれ続けながら、咆哮や気勢というよりは、窮鼠の絶叫と言うべき声と共に、藤木茂は反撃の一打を放つも、あっさりとドロテアに躱されてしまう。
伸ばした右手首を掴まれて思い切り圧搾されるものの、シルバースキンがが弾けることで、ドロテアの拘束を振り解く。
「!?」
こうなる事を読んでいたのか、手首の圧搾が消えると同時に、シルバースキンに覆われた 藤木の顔面が、ドロテアの手に鷲掴みにされ、そのまま藤木茂の身体は弧を描いて宙に舞い、背中から地面に落ちた。
飛距離にして10mを越え、高さに至っては最高で6mを越える高さへと、藤木茂の身体を飛ばした投擲。幾ら藤木が小学生であったとしても、人の身では到底為し得ぬ事だった。
通常ならばこれ程の高さから落ちれば良くて病院送り、悪ければ死ぬ。
然し、この落下に際してもシルバースキンは藤木を無傷で地面へと降ろした。
(ふ…ふふふ……この女の子もシカマルと同じで普通じゃ無い。けれど、僕には傷一つつけられていない………僕は無敵なんだ。僕は、誰にも、負けないんだ!!)
明らかに人の域を超えた身体能力を持つドロテアの攻撃を受け続けて、全くの無傷であるという事実に、シカマルの時の様に、超能力でも使われない限り、自分は無敵なのだと確信する。
セト神の能力も何度か使用したが、本来ならば先程のディオよりも幼くなっている筈が、全く変わらない姿で藤木と対峙し続けている。
一方で、これまでにドロテアに対して何度か攻撃を加えているものの、最初に二発当たっただけで、それ以降は悉くを防がれ、躱されて、反撃を受けている。
明らかに、藤木茂の理解を超えた存在で有り、そんなものと戦い続けて未だ無傷という事実は、藤木茂を更に調子に乗らせていた。
高揚する意識のままに、シルバースキンに覆われた顔に醜悪な笑顔を浮かべた藤木に向けて、ドロテアは掬い上げた土塊を投擲。
ドロテアの埒外の握力で握り固められた土塊は、同じ大きさの石すら超える硬度を獲得、成人男性を片手で振り回す腕力で投げ放たれ、時速200kmを超える速度で藤木の胸に直撃するも、被弾箇所が瞬時に金属硬化、砕けた土塊と、六角形の銀片が宙を舞う。
よろめいた藤木にドロテアが一気に迫り、右のアッパーを放つ。これもまたシルバースキンに無効化されるも、ドロテアは構う事なく拳を突き上げ藤木を宙に浮かすと、腹に思い切り前蹴りを入れ、藤木を20m近く蹴り飛ばした。
派手に土煙を上げて藤木は倒れ込むが、何事もなかったかの様に立ち上がると、再びドロテアに向き直った。
凡そ誰の目から見ても一方的な戦闘であり、シルバースキンが無ければ、当に藤木茂は地に伏していたことだろう。
それでも藤木茂は己の勝利を疑わない。何故ならば、藤木茂には確たる勝算が有るからだ。
(確かに僕の攻撃は当たらないし、当たっても効かない。けれども、あの子の攻撃も僕には通じない。こにまま戦い続ければあの子は疲れて動けなくなる……その時まで頑張れば……!!)
藤木茂の勝算は、要はシルバースキンの防御性能にものを言わせての持久戦。互いに決定打どころか有効打すら持たない以上、激しく動き続ける方が消耗するのは道理で有る。
そうして動きが止まれば、ボウガンの矢で直接刺し殺すなり、首を絞めるなりして殺せば良い。
(このまま適当に攻撃して狙いがバレない様にするんだ。この子を疲れさすんだ……!)
-
◆
(あの防御をどうにかしないと)
モクバはかなりの余裕を持って、襲撃者とドロテアの戦闘を見守っていた。
襲撃者の防御力は脅威というより他にないが、ただそれだけでしか無い。凡そ攻撃面では見るべき点を持たない凡骨だ。あれではドロテアにロクなダメージも与えられまい。
ディオを小さくした能力も有るが、ドロテアの猛攻で使えないのか、はたまた使ったが効果が無かったのか。
前者で有るのならば、小さくする能力は射程が短いという事になる。
襲撃者とドロテアの攻防は、ドロテアにl投げ飛ばされるなり殴り飛ばされるなりして、襲撃者がドロテアから離れた事が何度か有ったが、その際に能力を発動してドロテアを無力化すれば良いのにそれをしていないのだから。
ディオをの時でも、態々ディオが近づいてから小さくしていた。人質にする為に計算の上で、近づいてくるのを待った…とは考えにくい。こちらから誰かが襲撃者へと近づくかどうか分からない上に、ディオが突っかかって行った時、襲撃者はハッキリと動揺していた。
つまりディオが近づいたのは襲撃者の計算外の出来事であり、ディオを、あの小さくする脳力を使って迎撃しなかったのは、動揺して使えなかったか、射程が短かったかのどちらかだ。
そしていまの戦いぶりを見ていれば、あの能力は射程が短く、近づかなければ何とかなると考えられる。
ドロテアもその辺は理解している筈だ。にも関わらず平然と近づくのは、何らかの理由で効果が無いのか、射程距離だけで無く、何か発動条件が有って、それを満たさない様にしているのか、モクバには分からない。
ただ分かるのは、あの防御さえなければ、ドロテアは当に襲撃者を下しているという事だけだった。
(アイツ…明らかに弱過ぎる。防御力と特殊効果が強いけれど、青眼の様に敵を倒す攻撃力がない。乃亜がこの構成にした理由はなんなんだ……?)
-
◆
(煩わしい奴じゃのう)
一言で言えばドロテアはいまの状況に飽きていた。
襲撃者が此方を疲れさせようとしている事は気付いているが、そもそもが疲れて動きが鈍っても、モクバを抱えてこの場から離脱する事は充分に可能だ。襲撃者の走力は論外レベルである。気にする必要すらない。
襲撃者の戦闘能力は恐ろしく低い。にも関わらず四人相手に襲いかかって来たのは、ただの子供が高性能の支給品を与えられて舞い上がった為だろうが、それにしたってこの敵の素の力量は低過ぎる。
仮に、生身の肉体だけでディオと戦えば、一分も経たないうちにディオに生殺与奪の権を掌握される事だろう。ドロテアであれば二秒で終わる。
それがこうまで長引いているのは、単に襲撃者の纏う装甲だ。防御に全振りしている性能であり、同じく全身を鎧う帝具である、インクルシオやグランシャリオの様に、身体能力までを強化する機能は存在し無い。
その為に双方が決定打はおろか、有効打すら入れられていないのだ。この装甲の装着者が敵を打倒するのは、純粋な装着者自身の力量に依るものだ。
そして、襲撃者は弱い。試しに襲撃者の拳を二度受けてみたが、本当に只の子供のものでしかなかった。金属に覆われていたので多少は痛かったがそれだけだ。
この襲撃者の弱さは、ドロテアが戦闘を選択した理由の一つでも有る。
例えば、皇拳羅刹四鬼やシュラ辺りがこの装甲を纏って襲って来たら、若返る能力も無視して、ドロテアは恥も外聞も無く逃走か降伏を選ぶ。
元々が高い戦闘能力を持つ者が、こんな堅牢強固な装甲を纏った場合、撃破どころか抗戦すら難しいからだ。
しかし、この襲撃者の様な弱き者が装着しているのであれば、少なくともドロテアに危険は無い。適当に襲撃者をあしらいながら思考に耽る余裕を持てる程には。
(あの能力、やはり若返らせる能力であったわ。10歳以上は若返った気がするのじゃ)
つい先刻。ディオが襲撃者に襲いかかった時に、全く止めずに傍観に徹したのは、襲撃者の能力を知りたいという意図からだった。
だからこそ、ドロテアはディオが若返らされた時に、ディオではなく襲撃者の方を具に観察していたのだった。
そして今までの交戦で何度か若返らせる能力を受けてみて、襲撃者の影と自身の影が交差する事がこの能力の発動条件だと当たりをつけた。
(このまま更に若返りたいものじゃが、あまりやり過ぎて戦えなくなっては本末転倒…となれば)
-
奪ってから時間を掛けて調べるか…。とドロテアは心中に算段を始める。
襲撃者の戦力は明らかに歪だ。
破格の防御性能を持ちながら、敵を打倒するのは装着者自身によるという守備に特化した装甲。支給された者が余りにもお粗末で、これだけではただ殺され無いというだけになっている。
影が交差した相手を若返らせて無力化する能力。此方も強力ではあるが、ディオの拳があっさり届いた辺り、確実に使い慣れてはいない。この能力単体では、それなりに場慣れしたものと出逢えば、簡単に制圧されてしまうだろう。
破格の性能を持つ装備と能力に対して、慣熟どころか使えているとすら言い難い使用者。性能が破格故に一際目立つ粗。
装甲と能力と、個々ではこの襲撃者がマーダーとなる上で戦力足り得ない。だが、この二つが併されば、マーダーと成る事は出来る。
そして、矛である若返らせる能力と、盾である装甲。この二つのうちどちらかが欠けてもマーダー足り得ない。
これらが物語る事は、装備も能力も襲撃者が此処で与えられたものという事実。ならばドロテアが奪い取る事は可能。
装備の方は惜しいが、これは欲張っても仕方がない。寧ろ襲撃者の手元に残しておく事で、この弱き者の身の安全を確保させる事になる。矛を奪って盾のみを残せば、この弱き者を無力化した上で死なせない様に出来るのだ。
何なら、ドロテアのランドセルの中に入っていた剣をくれてやっても良い。モクバに咎められるだろうが、アレを扱うにはこの襲撃者は弱過ぎる。大き過ぎる上に重いのだ。
ドロテアにしても、不慣れな剣を使うのは気が乗らない、ましてや体に合わないサイズの剣となれば尚更だ。
襲撃者が扱えない武器を与えて、有用な能力を奪い取る。つまりは殺しを厭うモクバの機嫌を損ねずに済む。
(攻略法は二つあるが…死なせないとなると一つだけ)
今までに行った攻撃から、この装甲は瞬間的に金属硬化して攻撃を防ぎ、仮に砕けても即座に再生する事で続く攻撃を無効化するものだと理解している。
観察による理解から思いついた攻略法のうち、左右の拳を同じ箇所にタイミングをずらして撃ち込むとい方法は、死なせない様に加減が難しいので取り敢えずは却下。もう一つの手段で撃破出来なかった時の保険とする。
二つとも効かなかったら────その時はモクバを抱えて逃げるのも手だ。
(何方にせよ。シュラや羅刹四鬼ならば、通じんじゃろうなぁ)
呑気とも取れる感想を抱きながら、ドロテアは二つ目の攻略法を実行に移す。
-
◆
振われる拳をしゃがみ込んで回避すると、両手を伸ばして襲撃者の両足首を掴んで独座に立ち上がると、仰向けにひっくり返った襲撃者の身体を腕力に任せて振り回した!!
「まるでヌンチャクだ!!!」
モクバの叫びがその有り様を雄弁に物語る。藤木茂はドロテアの手により、人型のヌンチャクと化していた。
「フハハハハ!!逃げようとしても無駄無駄無駄無駄ーーーー!!!なのじゃーーーーーーーー!!!!!」
振り上げる、振り下ろす、右に振るう、左へ薙ぐ、手元に勢いよく引っ張り込み、遠投するかの勢いで前方へと振り出す。
ありとあらゆる方向へと捉えた襲撃者の身体を振り回し、装甲内部の肉体に直接ダメージを及ぼしていく。
両足首を掴むドロテアの手から逃げようとする動きを見せれば、身体を空気に叩きつけるかの様により強く力を込めて振われ、ドロテアに攻撃を加えようとしても、攻撃が届かない様に振り回される。
シルバースキンの本来の使い手であるキャプテンブラボーや、ドロテアが思い浮かべたシュラや羅刹四鬼ならば、決して通じないし、ドロテアも使わない攻略法。
彼等相手では、掴みに行った所で撃ち倒され、掴めたとして外されるなりカウンターなりを受けるのは必至というこの手段を平然と持ちいるのは、単に襲撃者が弱き者だからだ。
休み無く振り回される事二分。襲撃者の反応が全くなくなったのを確認すると、ドロテアは襲撃者を放り出した。
「ゴハッ!!!」
仰向けに地面に転がった襲撃者の呻き声。
漸く解放され、久し振りに地面に落ちた事で気が緩んだのだろうか、装甲が解除されて、襲撃者────藤木茂の素顔が晒された。
「さて、と。妾に勝てぬ事は理解できたであろう────!!?」
タップリ振り回されて三半規管に多大なダメージを受けた藤木茂が、大きく痙攣すると口から勢いよく胃の内容物を吐き出していた。
『若返る能力を渡せばこの場は見逃してやる』そう言おうとしたドロテアは顔を顰めて言葉を飲み込むと、藤木がゲロで窒息しないように、爪先で藤木の身体を横に向けてやった。
「妾は優しいじゃろ」
「マッチポンプって言うんだぜ、そういうの」
何にせよ、藤木が回復するまでは暇になりそうだった。
藤木が死なないか気が気で無い様子で見守るモクバをよそに、ドロテアはいそいそと自身のランドセルを回収していた。
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【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]健康、高揚感、10歳程若返っている。
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品 ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:襲撃者(藤木)の回復待ち。若返らせる能力を自分に譲渡させる
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:妾の悪口を言っていたらあの二人(写影、桃華)は殺すが……少し悩ましいのう。ひっそり殺すか?
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
5:...殺さない程度に血を吸うのはセーフじゃよな?
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:健康
[装備]:青眼の白龍@遊戯王デュエルモンスターズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:襲撃者(藤木)の回復待ち。殺すのは止めたいが……。
1:G-2の港に向かい船に乗ってマップの端に向かう。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5::支給品に込められた乃亜の意図は何だ?
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※ここを電脳空間を仮説としてますが確証はありません
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:酩酊(中)、手の甲からの軽い流血、シルバースキン解除。ゲロ吐いてる最中。
[装備]:シルバースキン@武装錬金、セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10、ドロテアのランドセル(基本支給品、ランダム支給品×0〜2)
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:目の前の二人を……!
1:次はもっとうまくやる
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う
3:永沢君達もいるのかな…
4:僕は──フジキングなんだ
支給品紹介
魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
不滅の肉体を持つ魔神王を滅ぼす為に古代魔法王国(カストゥーリア)で鍛えられた剣。漆黒の剣身を持つグレートソード。鋼よりも硬い古竜(エンシェントドラゴン)の鱗を切り裂ける。
『物質的な肉体を持たない魔神王を滅ぼす為に』肉体だけで無く、精神を斬り裂く効果を持ち、掠っただけで破格の英雄が気力を失い戦闘不能になるが、この効果は制限により発揮されない。『なお魔神王に対する特攻効果はそのままである』
『斬った相手から精神力(DQやFFで言うMPに該当する)を奪う効果及び、所有者の肉体の老化速度を半減させる効果を持つ』
『』内の記述はテキストには載っていない為(要は失意の庭のものと同じ)
取説を読んだだけでは単に良く斬れるグレートソードでしかない。
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投下を終了します
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投下します
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最強の妖精騎士と絶対の魔女との戦いから少し経った頃。
木の葉隠れの里の中忍、奈良シカマルは協力者である山本勝次と向き合っていた。
彼の傍らに同行者であった的場梨沙と龍亞はいない。
彼は二人を一先ず安全な民家で隠れている様指示し、メリュジーヌの攻撃により逸れた二人の協力者を探しに先行していたのだ。
その内の一人とは首尾よく合流が叶ったのだが、シカマルの表情は芳しくない。
「そうか…灰原はあの金髪の野郎に攫われちまったか……」
「すまねェ、シカマル。俺とヒー坊がもっとしっかりしてりゃ……いだだだだ!?
ぎィィイイイイ!!やめろヒー坊!俺が悪かった!!」
自責の念に駆られ、協力者の灰原をみすみす連れ去られてしまった事を謝罪する勝次。
それを叱責と受け取ったのか、彼の肩から生える怪物が癇癪を起したように啼き、それに痛みを感じて勝次はのたうち回る。
それを眺めながら、まったく次から次へと全く面倒くさい事態が起きる物だ。
心中で毒づきつつ、シカマルは勝次に責任はない。そう告げた。
「下手に刺激してりゃ灰原とお前、二人とも危なかったかもしれねぇ……
お前の判断は間違ってなかったと思うぜ、勝次」
「そうかな……それでも、灰原を守り切れなかったのは変わりねェよ」
「かもな。でももう結果は出てる。問題はこれからどうするか……だろ?」
酷な話ではあるが。
時は勝次の失敗に寄り添い一緒に悲しんではくれない。
灰原はほぼ丸腰で連れ去られた。自力での脱出は難しいだろう。
となれば、誰か救助に赴くほかない。
だが、シカマルたちの現状は芳しくない。
今しがた最強の妖精騎士、暗い沼のメリュジーヌと百年の魔女、北条沙都子を撃退した所なのだ。
全員が疲弊している今、救助隊を編成できる程の余裕はなかった。
「あの金髪野郎は迷ってる感じだったぜ?そうそう灰原を殺すとは思えねェけど……」
「……だといいがな。殺し合いに乗ってる奴は、何も彼奴一人じゃねーんだ」
例え金髪の少年が灰原を殺す恐れが低くとも。
他のマーダーに襲われればその限りでは無いだろう。
あの金髪の少年は出会った時顔面が焼きたてのパンの様に腫れあがっていた。
それは相当殴打された事を意味し、ひいては金髪の少年はそこまで腕っぷしが強くないともとれる。
自ら手を下さずとも、肉の盾にされる恐れは十分ある。
楽観視できる状況ではとてもなかった。
「……灰原は、その。ブラックって奴には伝えるなって言ってた。
多分、ブラックって奴があのクソ金髪を殺さないか心配してるんだと……」
「だろうな…だが、生憎俺達はその意図を汲んでやれるほど余裕がある立場じゃねぇ」
シカマルも、灰原が何を思って勝次にそう頼んだのかは大方推察できる。
だが、現状のシカマル達は余裕のある立場ではない。
彼自身、夜明けまで休息を取らなければチャクラの残量が乏しい事になっているし、龍亞も肩を切り裂かれている。
極めつけが、龍亞が呼び出し、自分達の窮地を救ったあの龍は暫く出せないという。
可能性自体は低い物の、もし今メリュジーヌ達が引き返して襲ってくる様なことがあれば即、全滅だ。
いや、彼女達が引き返してこなくとも。
(もし交渉が失敗すれば…あのブラックに全員殺されるかもな)
-
ストッパーとなっていた灰原の存在は今はもうない。
殺し合いに乗っていると豪語するブラックが彼女の目のない所で、自分達にそんな応対を見せるか分かったものではない。
シカマルがこうして先行しているのも、もしブラックを敵に回すような事態になった場合。
犠牲を最小限に抑えるためだ。
もしシカマルが一時間以上戻って来なければ、龍亞達が今隠れ潜んでいる民家を引き払う様には伝えてある。
(何にせよ…今ブラックの奴を敵に回したくはねぇ…灰原も助けてやる必要があるし、
やっぱ正直に話すしか…けど、そうなりゃ灰原を連れてかれた俺達に矛先が向かうかも…)
IQ200を超えるシカマルの天才的な頭脳をして。
ブラックの行動が読めない。彼への対応を決めかねる。
だが、時間は有限だ。シンキングタイムのタイムリミットは──直後にやって来た。
「よう、派手なギグがあったみたいじゃないか」
「……ッ!?」
シカマルは、言葉を失い。
勝次は、息をのむ。
何の前触れも無かった。
突然、本当に突然に。その少年は二人の前に姿を現した。
「どうした兄弟。表情が硬いぜ?」
「そりゃ、隣にこうも急に現れられたらな……」
無造作にかき上げた金の髪。
緋色の瞳に、耳に残るハスキーボイス。
そして、暴力的なまでの存在感と、それが急に現れた感覚。
間違える筈もない。
灰原がブラックと呼んでいた、得体のしれない少年だった。
その彼が幽霊の様に突如としてシカマルと勝次の間に現れ。
フレンドリーに二人の肩を抱き寄せ、笑みを向けてくる。
(な…何なんだよ、こいつ…ヒー坊がビクともしねェ)
通常、この距離まで接近され、無造作に接触されれば。
勝次の右肩の人面粗──ヒー坊は無差別に攻撃を加える筈なのだ。
それなのに、ヒー坊はぴくりとも動かないし、泣き叫ぶことも無い。
否、動けない。
まるで見えない巨大な手に鷲掴みにされているように、微動だにしない。
その結果として、ブラックはこうして気軽に勝次を抱き寄せられている。
「───それで?何か俺に話があるんだろ?」
にっこりと、表面上はフレンドリーに。
その実、今すぐにでも此方の首を飛ばしにかかってもおかしくない。
そんな不吉な予感をシカマルはブラックから感じ取っていた。
出来る事なら、もう少し説得のための策を練ってから交渉に臨みたい所だった。
そんな展望は、メリュジーヌと北条沙都子の大暴れで水の泡となったが。
今はそんな不運を嘆いている暇さえない。
兎に角全力でこの得体のしれない少年を納得させなければ、自分達は容易に全滅する。
「色々話さなきゃいけねぇ事はあるが──まず一つ。アンタに要請がある」
「……ま、話だけでも聞いてやるよ。言ってみな」
-
ニコニコと、貼り付けたような笑みを浮かべて。
ブラックはシカマルに囀る事を許可する。
全く嬉しくない心境ではあるものの、意を決してシカマルは口火を切る。
「出会った時に言った通りだ。俺達はここからの脱出を狙ってる。アンタも協力してくれ」
「……アイから聞いてないか?俺は───」
「あぁ、知ってる。その上で言ってる。今の俺達は少しでも戦力が欲しい。
アンタが協力してくれんなら──間違いなく百人力だ」
ブラックが殺し合いに乗っていること。
そんな事はシカマルも百も承知の上だ。
その上で、協力しろ、と。彼はそう告げた。
文字通り命賭の提案だった。
対するブラックの表情は薄ら笑いを浮かべたままで。
笑いながら、シカマルにとって最も答えに窮する問いかけを一つ。
「……それで、アテはあるのか?この首輪を外す具体的なアテは?」
「生憎、今は何も。何しろサンプルすら手に入れたばかりなんでな……
だけど、これからも何のアテもない様にはしねぇ…直ぐにでも取り掛かるさ」
龍亞達のお陰で割戦隊が付けていた首輪は複数手に入ったが。
現時点では首輪の解析どころか、自衛すらままならない状況下だ。
どれだけ言葉を選んだところでそれは覆らないし、下手に誤魔化してもこの男がそれを見抜けないとは思えない。
だから、此処は正直に答える他ない。
しかし、シカマルにとってはほんの僅かではあるが、勝算があった。
「灰原の奴から聞いてるよ。アンタ、実の所どっちでもいいんだろ?
優勝しようと、首輪を外して乃亜の奴に反抗しようと、構わない筈だ
チマチマリスクを考えて乃亜に怯えるタイプには俺にとってもとても見えない」
ブラックが、灰原と自分の見立て通りの人間であるならば。
合理性よりも面白いかどうかを優先する刹那的な快楽主義者であるのなら。
乗って来る芽は、決して低くない。そう踏んでいた。
「……俺は乃亜が怖くて従ってるだけの一参加者だよ。そう言ったらどうする?」
「なら、何で灰原を傍に置いた。あいつはアンタにとってもただのお荷物だろ?
それに乃亜が怖くて従ってる野郎なら、自分は殺し合いに乗ってるなんて公言しねーよ」
そう言う参加者には、既に出会っている。
シカマルの脳裏に浮かぶのは藤木と言う少年だった。
あの唇の青い卑怯者と、目の前のブラックと言う男では、格が違い過ぎる。
あくまでブラックが殺し合いに乗っているのは、其方の方が何となく楽しそうだから、に過ぎない。
もしかしたら、コイントスをして裏が出たから。そんな程度の意志による決定なのかもしれない。
「俺達虐めるより、乃亜と戦った方がアンタは楽しめるだろうぜ。そこは保障する。
なんせ、俺達なんかより乃亜の方がずっと強くて、ずっと厄介だろうからな。
アンタの力なら優勝も夢じゃねぇんだろうが…ハードモード、行ってみる気はねーか」
フッと、不敵に笑みを浮かべて。
シカマルは、現状考えられる最もブラックにとって有効であろう揺さぶりをかけた。
どうしても現状、合理的な理由からではブラックを説得するのは不可能だ。
何しろ、全て後で何とかするという空手形を斬るしか方法が無いのだから。
それなら、よりハードな道を進んでみないか、と。
彼の享楽的な部分を擽る方がずっと可能性がある。
そう読んでの言葉だった。
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「今直ぐ俺達の話に乗ってくれとは言わねぇさ。というか、こっちとしても時間が欲しい。
二十四時間もあれば、何かしらの結果を出してアンタに提示する。それを見て決めてくれ」
その言葉は、今の彼がマーダーとして動くことを暗に許容する旨の言葉だった。
シカマル達としても現状は余裕がない。
今すぐに、自分達の敵に回らないというだけで十分。
元より現状の彼はマーダーとして積極的に動いている訳ではない。
もしこの提案が拒絶されても最悪この要請さえ通れば目的の半分は達成される。
そう考えての言葉だったが──ブラックもそんなシカマルの打算を汲み取ったらしい。
さっきに続いて、シカマルが最も応える事に覚悟を要求される問いを投げつけてきた。
「俺がお前らに協力する事を決める前に、何人殺していようと俺を受け入れる。
───お前が言ってる事は、そう言う事でいいんだな?」
恐ろしく整った顔立ちに微笑を浮かべて。
ブラックは静かにシカマルに尋ねた。
隣の勝次はその問いの内容に「なッ」と声を上げるものの。
シカマルは動じなかった。元より、予想できていた問いかけだた。
「あぁ……少なくとも俺はアンタを受け入れるし、梨沙達が反論しても弁護させてもらう」
「その頃には仲間も増えてるだろうな。俺を増えた仲間で倒して言う事を聞かせようとは思わないのか?」
「それも勿論プランの一つではある。だが、それは俺からしちゃ悪手でしかねぇ。
アンタを倒すまでに一体何人犠牲が出るか分からねーしな。それこそ乃亜の思うつぼだ」
言葉と共に、ニッとシカマルは笑った。
説得(アジテーション)の基本は此方に理があると自信を持って振舞う事だ。
自信なさげに言葉を幾ら並べようと、それこそ幼稚園児すら説得出来はしない。
だから、虚勢でも、張子の虎でも、こうして大風呂敷を広げて見せる。
勝算がある様に、振舞って見せなければらなかった。
「───成程。成程な。シカマル。お前やっぱりスジがいいよ」
クツクツと笑って。青いコートのポケットに手を突っ込み。
ブラックは、シカマルの説得をそう評価した。
どうやら、好感触であるのは見て取れた。
「中々サマになってる。ただ表情はもう少し改善の余地があるな。
お前の言う通り、ただのゲームさ。笑って自分の命をレイズできるくらいで丁度いい。
楽しめ。楽しめよシカマル。これはゲームでしかねーんだから」
「お褒めの言葉どーも。生憎、普段は将棋しかやらねーもんでな」
「上出来だ。あぁ、お前の見立て通り…俺としてもここから出られるならそれでいい。
俺も、まだ見たいモンがあるからな。生きて帰らなくちゃいけないが、方法は何でもいい」
楽しければな。と、そう結論付けて。
笑みを崩さず、舞台役者の様に大仰な身振り手振りで、ブラックは語る。
気づけば、先ほどまで感じていた威圧感は霧散していて。
緊張していた空気が、弛緩したような錯覚を覚える。
それでも、シカマルは未だ緊張の最中に会った。
彼の天才的な頭脳は、未だ自分達が瀬戸際に立たされているのを理解していたから。
「───見てェものって、何だよ?」
だが、彼の隣に立つ勝次はそうではなかった。
何処か空気が緩んだことに安堵して、深く考えず、ブラックに尋ねる。
それ自体は、何てことは無い問いかけだった。
少なくとも、それを尋ねた勝次に落ち度は断じてない。
だが、その瞬間。
シカマルは不味い、と思った。
何故そう思ったのかは分からない。だって。
ブラックは、未だ軽薄な笑みを浮かべたままだったから。
-
「そうだな。一言で言うなら───」
微小を浮かべながら、金の髪をかき上げて。
口ずさむ様に、ブラックは彼の胸にある願いを口にした。
「世界の終わり、かな?」
バカげた返事だった。
この会場にいる勇者辺りが聞いたなら、「そういう時期は、誰にでもあるよな……」と。
宿敵の魔族を視る様な視線を向けていたかもしれない。
だが、一笑に付すには。ブラックと言う少年は余りにも不気味だった。
涼やかな自信に満ちた態度と、身に纏う不吉な雰囲気によって。
彼ならば本当にやってしまうのではないか、そんな錯覚を覚えるほどに。
シカマルの脳裏に嫌な予感が駆け巡る。
「な、何だよそれ、お前何言ってんだ──!」
「勝次落ち着け、今こいつの目的は俺達にとってはどうでもいい筈だ。
それよりも、今後の事を───」
「なぁ、シカマル」
世界の終わり。
それは勝次も見知った光景だった。
日常が、紙細工の様に崩れて、吸血鬼が跳梁跋扈し。
母は慰み者担った挙句、化け物になって自ら命を絶った。
それを経験している勝次にとって、世界の終わりなんてものは、冗談でも受け入れがたい物だった。
例え、ブラックの得体がどんなにしれなくとも。
だから、食って掛かり、シカマルに制止される。
不味い流れだ。シカマルの予感が半ば確信に変わる。
兎に角、ズレた会話を元に戻す。その事だけに注力しようとして。
彼の言葉が遮られ、ブラックは勝次に尋ねた。
「──所で………アイの奴は何処にいる?」
表情はさっきまでと変わらない。
ぞっとするほど、整った顔立ちに微笑を浮かべて。
けれど、見ていると仄かに怖気の走って来る笑みだった。
そんな笑みに促され、考える暇を与えられず、勝次は思わず答えてしまう。
「は……灰原の奴は変な鎧のチビ女に襲われた時に逸れて…見つかってねェよ!!」
勝次も緊張を覚えているのか、叫ぶように答える。
その返答は、灰原が彼に頼んだ通り、マルフォイに連れ去られた事を隠す旨の返事だった。
彼がそう答えると同時に、暫しの間、音が消える。
ブラックは笑みを浮かべたまま押し黙り、シカマルや勝次も口を挟めない。
そうして、二十秒ほど経った後、沈黙を破ったのは、やはりブラックだった。
「シカマル。お前さっきこう言ったよな?」
───俺が例え何人殺していようと、協力の意志さえ見せれば受け入れるって。
-
その言葉を聞いた瞬間。
シカマルの全身が総毛だった。
今迄話していたブラックと言う名の少年が、まったく別の何かに変わった様な。
本能的に、間近に迫った脅威を強く確信する。
逃げなければ、そう思っているのに、体が動かない。
自分が影真似の術で捕らえた相手の様に。
不可視の巨腕に、全身を握られているように。
視線だけ動かして勝次を見れば、彼も同じような状況だった。
「コインの、表と裏だ」
二人は磔にされた様に動けないまま、ブラックの行動を見つめる事しかできない。
そんな二人を尻目に、ブラックは懐からコインを取り出して。
そして──空中に弾いた。
三人の視線が交わる中、コインは静かに弧を描き、ブラックの手の甲に収まった。
それを見て、短くブラックは告げる。
「残念、裏だ」
「ッッ!!勝次ッ!!逃げろッッ!?」
ブラックがその言葉を吐くと同時に、シカマルは叫ぶ。
危惧していた通り、状況は最悪の展開に推移した。
ブラックの気まぐれが、シカマル達にとっての最悪(ファンブル)を引き当てたのだ。
影真似の術を発動し、勝次を逃がそうとするものの、先ほどメリュジーヌと死闘を繰り広げたばかりだ。
気絶するまで酷使したチャクラはまだ回復しきっていない。
つまり、ブラックを止める事はできない。
そんな中でも、シカマルは勝次を逃がそうと声を張り上げたが───!
「ぐ───チクショォオオオオオオオッッッ!!!」
勝次は、逃走ではなく、闘争を選んだ。
一見浅慮の様だが、これもまた、一概に間違った判断とは言い難い。
ただ単に背を向けて逃げた所で、このブラックと言う少年がみすみす逃がしてくれるとは思えない。
今迄は彼の気まぐれで、自分達は生かされていたのだから。
その気まぐれが反転すればどうなるか、シカマル達は身をもって知る事となる。
「いけェ!ヒー坊!!ぶち抜いてやれ!!」
半分は鼓舞するように、もう半分は祈るような声で。
勝次は、相棒である人面瘡に檄を飛ばす。
その檄に呼応するかのように、人面瘡は敵手に向けて鋭い触手を放つ。
人を超えた吸血鬼すら一撃で穿つ威力の触手だ。当たればブラックもただでは済まない。
「……そん、な……そん………」
当たれば、の話であるが。
ブラックの顔の前で、触手は止まった。
高速で、槍の様に吸血鬼たちを倒してきたヒー坊の触手が、受け止められる。
先ほどまでと同じ、ビクともしない。
(──くそっ!やっぱり駄目か!!)
その光景を見た瞬間、敗北を悟ったシカマルは、それでも何とか勝次を逃がそうと影を伸ばす。
印を組み、現状使えるなけなしのチャクラを使って、影真似の術を行使する。
だが、それを読んでいたかのように──ブラックは笑った。
直後、シカマルの頭上から見えない巨大な手が振り下ろされた様に、凄まじい圧力が覆いかぶさって来る。
印を組むことすら敵わず、地面に縫い付けられる。
こうなってしまえば、影真似の術はもう意味をなさない。
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「クソ、やめろ!!やるなら俺を───!!」
「おいおい、お前がいなくなったら、誰が他の奴らを説得するんだ?」
理解。
会話ができる事と、話が通じる事は全く別の話だ。
それもその筈、シカマルと勝次が対峙した少年は魔都H.Lにおいて、13王(エルダーズ・サーティーン)の名を与えられた一人なのだから。
それが意味するのは力の絶大さだけでなく、H.Lきっての人格破綻者の証明である事に他ならない。
「ヒィィイイイイ……やめてくれェエエエエエエ!!!」
勝次が恐怖の叫び声をあげる。
だが、彼の命乞いにもブラックと言う少年は微笑で答えるのみで。
その是非は、数秒後の死刑執行を持って勝次に提示された。
「───ぎ、ィ!?がッああああああああああ!?!?!?!?」
べりべりと、捕まえた羽虫から翅を引きちぎる様に。
ブラックは、勝次の肩からヒー坊を強引に“”むしり取った“”。
それは、半身を引き裂くに等しい行為だ。
身を焼く様な痛烈に過ぎる痛みを受けて、ビグン、ビグンと勝次の身体が痙攣する。
ジョボボボボボ……と股座は失禁し、鮮血と混ざり合ってジーパンを濡らす。
そして、糸が切れたように、血だまりでできた水たまりに彼の肉体は倒れこんだ。
「……悪い悪い、でも、さ───」
浮かべる表情は先ほどまでと同じ。
だが、今のシカマルにとって、その笑みは酷く酷薄なものに思えてならなかった。
ゲームの様に一つの命を消した、その直後に、友人の様な気軽さで。
ブラックは、シカマルに向けて笑い掛けた。
「こうでもしないと──お前ら、絶望(オレ)が誰か忘れちまうだろ?」
-
■
勝次を血だまりに沈めた後。
ブラックは、未だ地面に縫い留められたままのシカマルと対峙していた。
そして、興味深そうに彼の顔を覗き込む。
もう死んだ勝次には一瞥すらせずに。
「……一応聞いておくが、何でだ?」
「おいおい、お前にしちゃ冴えない質問だな、シカマル。
俺はまだマーダー何だぜ?その俺が、誰かを殺すのに──理由がいるか?」
そう、深い理由は無いのだろう。
きっとコインを投げて裏が出たから、その程度の理由でしかない。
このゲームの参加者、鬼舞辻無惨は遠くない未来で自分の事を天災と称したが。
まさしくブラックがたった今及んだ凶行は、二人にとっての天災そのものだった。
予測することはできても、完全に対処するなど出来る筈もなく。
一度災禍に飲まれれば、抗う術はない。
そんな“絶望”の中でブラックと言う少年は、“絶望王”は、今一度問いかける。
「さて、もう一度聞きなおそうか。まだ、俺を仲間にするつもりはあるか?」
皮肉と、嘲笑をたっぷり詰め込んだ笑みで。
絶望王は、聡明なる忍を問いただす。
恐らく、この回答をしくじれば自分は死ぬだろう。
シカマルは、それを強く強く意志して。
そして、立ち上がりながら口を開いた。
「───撤回はねぇ」
強い意志が込められた言葉だった。
怒りと、緊張によって眉間に皺を寄せながら。
それでも、シカマルの頭脳は冷静さを失っていなかった。
「ここでアンタを許さなくても、勝次が生き返ったりはしねぇ。
…俺達にゃ、少しでも戦力が必要だ。勿論アンタの力もな」
中忍と下忍の最も顕著な違いは、小隊を率いる小隊長に抜擢されるか否かだ。
そして、隊長の判断ミスは部下達を死地へと追いやる。
それをサスケ奪還という苦い経験からシカマルは強く理解していた。
勝次はもう、助からない。だから、重要なのはこれからどうするかだ。
感情に任せてブラックを糾弾し、排除しようと動くのは簡単だ。
だが、その後には自分、ひいては梨沙達の死が待っているだろう。
それだけは、絶対に避けなければならなかった。
「こう言っちゃ何だが、俺と勝次はついさっき知り合ったばかりの関係だ。
協力者ではあったが、友達ってわけじゃねーし、それならアンタを敵に回すリスクとは天秤にかけるまでもねぇ」
心にもない、至極合理的な判断を下す。
ぎゅう、と拳を握り締めて。感情を心の底に沈める。
梨沙や、龍亞にこんな真似はさせられない。
中忍試験合格時に小隊長としての精神訓練を経験している自分にしかできない事だ。
そうでなければ誰か代わってくれと、願いながらシカマルは言葉を並べた。
それをブラックは口を挟まず見守っていたが──不意に彼の笑みが固まる。
-
「────。」
背後で立ち上がる、気配があった。
ハァ…ハァ…
そんな吐息が、ブラックの耳朶に響き。
ゆっくりと向き直る。
そこには、血だまりの中からゆっくりと立ち上がる勝次がいた。
「──ハハッ!!驚いたよ。凄いな、お前!!」
どう見ても致命傷だ。裂けたチーズの様に、体を引き裂かれているのだから。
そんな有様で、どうして彼が立ち上がれたのかは分からない。
虫の王から植え付けられたヒー坊という腫瘍が摘出された影響かもしれないし。
逆に虫の王という一際強力なアマルガムの能力によって植え付けられたヒー坊により、勝次の身体も吸血鬼に近しい生命力を得ていたのかもしれない。
彼が仲間として慕っていたハゲこと鮫島の様に。
だが、そんな事ブラックにはどうでも良かった。
この時、憐憫も嘲笑も無く。
純粋な賞賛の声を、ブラックは上げていた。
「当たり前だろ。小4舐めんじゃねェ」
その言葉は、どうしようもなく強がりなのは、一目見ただけで分かった。
勝次の瞳は虚ろで、もう永くない。
足元はヨロ…ヨロ…と生まれたての小鹿のようにおぼついていない。
しかし、それでも、勝次はしっかりと。二本の自分の足で立っていた。
もう肩にヒー坊の存在を感じる事がないのに悲しみを覚えつつ。
それでも全身に力を籠めて、ブラックの方へ歩みを進める。
そして、彼の青いコートを掴んで、そして言った。
「──俺は、さ…負け犬だよ。いつも…明やハゲに守られてばっかりで」
何時だって、明やハゲの様になりたいと思っていた。
彼等の様に、強くなりたいと思っていた。
でも、実際は守られてばかりで。
そんな彼だからこそ、目の前のブラックという少年が許せなかった。
「でも、お前は違うだろ……そんな、そんだけの力があれば……」
もう俺は助からない。
今迄、本土で大勢の死を見てきたから分かる。
きっとその順番が、今俺に回って来たんだ。
だから、最後に俺にできる事をする。
俺が、シカマルや龍亞達にできる事をしてやるんだ。
「───誰だって……何だって……!守れるのに……ッ!!」
だから、さ。頼むよ。
もう、俺や佐吉みたいな思いをする子供は生まれて欲しくねェんだよ。
俺を殺した事は、スゲェムカつくし、嫌だけど、もういいから。
だから、その代わり、シカマル達を助けてやってくれ。
口の端に血の滝を作りながら、勝次はそう叫んだ。
-
「───シカマル」
僅かな沈黙のあと。
コートの裾を、勝次に握られたまま。
ブラックは、少年の命を賭した嘆願に対する答えを述べた。
「興が乗った、話に乗ってやるよ。これから二十四時間以内に……
首輪(コレ)を外せる段取りをつければ、そっからお前達に協力してやる」
取るに足らない少年だと思っていた。
半身を引き裂かれてなお立ち上がる事ができる少年とは思っていなかった。
勝次はこの瞬間違いなく、ブラックの、絶望王の想定を飛び越えていたのだ。
その事実に対して、彼の王は応えた。ただそれだけの話だった。
それを聞いて、コートを掴んでいた勝次の指の力が、フッと抜ける。
その体は今度こそ崩れ落ちて、けれど見えない手にゆっくりと降ろされるように、地面に少年の身体が横たわる。
「勝次!!」
それを見たシカマルは、たまらず勝次の元へと駆け寄った。
その体を支えて、既に冷たくなりかけている事に気づく。
流した血の量が多すぎたのだ。助からないことは、瞬間に確信へと変わった。
「……すまなかったな。さっきはあんな事を言って」
「へ……へへ…別にいいよ。俺よりも、ブラックの方が。きっと…だから……」
勝次は死んだ、そう思っていた時に放った、仲間ではないという言葉をシカマルは詫び。
勝次は小学生らしい、快活な笑顔でそれに応えた。
そこに恨む気持ちは何一つとして無かった。
「すまねェ……龍亞達には…おれはあのチビ女の巻き添えで、って言っといてくれ……」
「あぁ…分かった」
「ほんと、頼む、な…佐吉や、俺みたいな子供は、もう生まれて、欲しく、ねェんだ…!」
「……心配するな」
その言葉を聞いた時。
勝次の瞳にはもうシカマルは映っていなかった。
ただ、彼の背後に広がる夜空の星に、魅入られていた。
───明、ハゲ、ごめん。
───俺、二人みたいにはなれなかったよ。
明たちはいつかきっと日本を雅の手から取り戻す。
その光景を見届ける事ができないのはとてもとても悔しかった。
あぁ、でも───
───母ちゃん、星が見えるよ……。
最後に見えたのが、例え偽りでも、星空で良かった。
辛いときは星を見るからと、母に誓った夜空の下で。
その想いだけを抱いて、山本勝次と言う少年の意識は、夜空に吸い込まれていった。
【山本勝次@彼岸島 48日後… 死亡】
-
「灰原は…あの金髪の奴に連れ去られた。勝次の奴がそう言ってたよ」
「……そうか。なら一応まだ契約は続いてる事だし、見に行ってやるとするかね」
今しがた人を殺したとは思えない気軽さで。
伸びをしながらブラックは、灰原を探す方針をシカマルに提示した。
勝次が秘密にしようとしたことを明かしていしまう後ろめたさはあったものの。
追求すればかわし切れない。そう考えての判断だ。
「じゃあな、シカマル。精々上手くやれよ?」
まるで友人に別れを告げる様なフランクさで。
一言だけを残して、ブラックは一人生き残ったシカマルから離れて行こうとする。
そんな彼の背中に、シカマルは最後に言葉を投げる。
「───おい、ブラック」
ただ一人、今ここで起こった事の顛末を知る者として。
漸く話が纏まった矢先に、合理的ではないと、彼の理性が言う。
だが、ここで黙って見送る事は、彼の中にある、木の葉の里の火の意志に反する事だった。
もう一つ、約束しろ、と。圧倒的強者であるブラックに対して彼は契約を持ちかける。
「俺達の側についたら──少なくとも対主催は、もう誰も殺すな」
勝次の死を無駄にしないためにも。
これだけは、譲れない一線だった。
通るかどうかは関係ない。
ここでブラックの機嫌を損ねて、退くわけにはいかない。
その決意を籠めて、言葉を綴った。
「……ま、それはお前等次第だな。まぁ、安心しろよ───」
───悪魔ってのは、契約を守るもんだ。
その言葉だけを残して、ブラックは口笛を吹きシカマルの前から去っていく。
離れていく青い背中を、無言で見守って。
灰原の方はこれで片が付くだろう、と。そう判断した。
あの金髪の少年の生死は保証できないにせよ、だ。
ブラックの姿が視界から消えると同時に、シカマルは懐から煙草を取り出した。
付属のライターで淀みなく火をつけて、灰一杯に煙を吸う。
二秒でせき込んだ。
「全く、こっちは任務失敗から立ち直ったばっかだっつーのに、
重たいモン背負わせてくれやがって……」
生まれた煙を、口から吐き出しながら、独り言ちる。
態度こそ、気だるげなままだったけれど。
けれど、その言葉に彼の口癖である面倒くせーという言葉は含まれていなかった。
【G-2民家から離れた場所/1日目/黎明】
【奈良シカマル@NARUTO-少年編-】
[状態]健康、疲労(大)
[装備]なし
[道具]基本支給品、アスマの煙草、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:殺し合いから脱出する。
0:ブラックについては話は一先ずついた。勝次の説得を無駄にはしねぇ。
1:殺し合いから脱出するための策を練る。そのために対主催と協力する。
2:梨沙については…面倒臭ぇが、見捨てるわけにもいかねーよな。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒
4:……夢がテキトーに忍者やること。だけど中忍になっちまった…なんて、下らな過ぎて言えねえ。
5:梨沙や灰原には…勝次の事をどう伝えるかね。
[備考]
原作26巻、任務失敗報告直後より参戦です。
-
「少し、惜しかったかもな」
人間と言う生き物は、何処の世界でも案外変わらないらしい。
愚かと一言で断じるには、余りにも無垢で一途だ。
だからこそ、こうして殺した少年に一抹の未練が湧いていた。
見込みがあるなら、シカマルの方だと思っていた。
だが、あの異形の半身を持つ少年も、存外見込みがあったらしい。
早まった真似をしたかもな、と。自身の行動を振り返って、絶望王はそう評した。
「だが──まぁいいか。ここで希望(あいつ)がくたばったとしても」
次の希望は、まだこの会場には数多く存在しているだろう。
絶望(オレ)が此処にいるという事は、そう言う事だ。
そう結論付けた。
「安心しろよ、山本勝次。次の希望(オマエ)がお前を生かすさ」
綴る言葉に込められていたのは、絶望の王からの果てなき祝福の祝詞であり。
希望で在るのは、別にお前でなくてもいいという断絶の言葉でもあった。
もう決して届かぬその言葉を口にして。従者を探すべく独り歩いていく。
その後彼の周りで響く音は、どこか寒々しい口笛の旋律だけだった。
【G-2民家から離れた場所/1日目/黎明】
【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)
[装備]:王の財宝@Fate/Grand Order
[道具]:なし
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:哀の奴を探す。金髪のガキを殺すかどうかは…ま、流れと気分だな。
1:気ままに殺す。
2:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
3:シカマル達が、結果を出せば───、
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。
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投下終了です
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投下ありがとうございます!
>踊るフジキング
怒涛の調子に乗っていた描写、既に一度負けて二度目も襲撃をしくじっても無敵と言い張る姿。
オレにとっては一番キングらしく見えるよ。
キングの戦いは、エンターテインメントでなければならないと、言わんばかりの慢心っぷり、もう見てて好きですね。
モクバの分析通り、決して弱くはないんですけど、火力不足が多いに目立つ装備と能力なんですよね。むしろキングとか言ってる前に、誰かと組むの前提の構成なんだよなあ。
ドロテアお婆ちゃん、死ななないサンドバックってことで、やりたい放題。人間ヌンチャクとか勇次郎かな?
『10歳以上は若返った気がするのじゃ』
ここの隠しきれないお婆ちゃん感すき。
>星の降る夜に
山本勝次、G-2にて散る。
ひいいいいいい!
絶望王こいつやべェぞ! 平気で人殺しやがる! 人殺しが!!この人殺しガァァァ!!
でも、最初からそうだと言ってたんですよね。やけに気軽でフレンドリーな態度で騙されそうになりますけど、最初からマーダーなのは変わらないと。
灰原にはなんか甘かったり、カオス相手に気のいい兄ちゃんやってたかと思えば、次話で平気で人も殺すし、この多面性が下手なステルスマーダーより厄介ですね。
こんな絶望野郎を相手にしながら、立ち上がれる勝次…やはりスーパー小学生ですわ。小4の覚悟じゃなさすぎる。
自分の番が回ってきたから、後に残された者達の為に出来る事をする。
それはもう老戦士の思考じゃねェか。でも龍亞はともかくとして、そこに含まれているだろう重曹ちゃんは死んでるのが更に切ない。
シカマルも最序盤から背負わされ過ぎますね……。この後、仮に生還できたとしてもアスマと親父が控えてるし、シカマルの人生ハード過ぎる。
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江戸川コナン、風見雄二、条河麻耶、勇者ニケ、おじゃる丸、水銀燈、ゼオン・ベル、ジャック・ザ・リッパー
予約します
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予め延長もしておきます
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申し訳ありません。
勇者ニケ、おじゃる丸、水銀燈
この三キャラだけ破棄させて頂きます。
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投下します
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「大丈夫か? ほら、水だ」
目の前で冷や汗をかきながら、激しい動悸に襲われている少年の背を撫でて風見雄二はペットボトルに収まった水を手渡す。
少年は震えた手でそれを受け取り、キャップの蓋を緩めた。
「あ、ああ…悪い」
桜田ジュンの家の前で、ニケ達を見送った風見雄二はそれから程なくして、江戸川コナンと出会った。
自分より一回りは年下で体躯も相応に小柄だったが、受け答えははっきりしており大人びた―――がさつな面も目立つ、麻子よりもある意味しっかりした―――少年だ。
殺し合いに巻き込まれたという自覚も強く、雄二と出会った時もこちらを警戒しつつも自らに敵意がない事を示す的確な行動に移れていた。
その時の鮮やかな話術と手腕は雄二も舌を巻くほどに。
軍人とは違うが、明らかに年齢以上の修羅場を潜った猛者だと雄二は瞬時に見抜いた。
同時にそれだけ度胸もあって頭も回る少年が、まるで地獄を見たような青い顔で語る有様を、雄二は一笑に付す気にはなれなかった。
「人を捕食する少女か」
「……そうだ。オレもまだ信じられねえけど」
「いや事実だろう。俺から見て、コナンは正気そのものだ。話も理路整然としてるし、俺もここで普通では考えられない異能力にも少し触れてきた。
人間を喰らう人の形をした別の生き物が居ても、もう驚かないさ」
黒髪の少女が人の頭蓋を破壊し脳を喰らうという光景。
言葉にすれば簡単だが、人の理性では易々と受け入れられる内容ではない。
その光景を直視しなかった雄二すらも、吐き気を覚えそうになるほどにそれは凄惨だ。
「人の姿をしていたということは、胃袋も人の容量とそうは変わらない。
そいつがもし空腹から人を襲っていたのだとしたら、腹が満たされれば積極的には攻撃はしてこない……というのは、些か希望的観測か」
サバイバルの経験はある。
目の前で飼い犬をクマに殺されるほど自然と密接な生活もしてきたし、野生の生き物にも触れてきた。
あくまで、その少女が人を主食とする生き物であると仮定するのであれば、腹が満たされた以上は無意味な殺戮を繰り返すこともないのでは。
心の底からそう考えている訳ではないが、一つの可能性として口にする。
「……捕食、妙だな。何故奴は脳から食べたんだ」
雄二の推測を耳にし、コナンの脳裏に刺激が走る。
人ならざる存在の捕食を見たショックから、立ち往生していた天才的な頭脳がこの瞬間再び脈動を開始した。
「奴がどういった生物なのか分からない以上断定できないが…腹が減ってるのなら、もっと食いやすい部位から食べる筈だ」
「どういうことだ?」
「脳味噌を優先して食べる肉食の獣なんて、早々居るかって話だよ。普通は内臓を食う方が手っ取り早いだろ」
「チンパンジーは未成熟な子ザルを食う場合、頭から食うと本で読んだことがある」
「ああ、あの女も素手で頭蓋を割れるんだ。手間暇掛けず、頭を食べるのは何てことない。
けれど、あいつが食べていた死体の男の子は全裸だったんだ」
「食べるのに邪魔だから、脱がした…そうじゃないのか?」
「だが、脱がせたはずの服が何処にも見当たらなかったんだ。
状況を考えれば、奴が脱がせて、それを回収した事になる。何故だ? 捕食だけが目的なら服は要らないだろ。
それにわざわざ服を脱がす手間を割いたのに、どうして内臓より先に頭を優先して食べる?」
その光景だけを捉えれば間違いなく、少年の死体を少女が捕食した。その目的も通常の摂理ならば空腹を満たす為だと、雄二のように考える。
だが、コナンの探偵としての洞察力が否として、警鐘を鳴らし続けている。
-
「服を回収したのは着る為か。あの女は裸だったから?
だが、服なんて別に回収できる筈…地図にはない、しかも人も住んでいない民家がこれだけあれば、いくらでも……。
―――あの男の子の服でないと、いけなかったのか? 脳を食べる…脳を……」
脳という部位が持つ意味をコナンは今一度自分に問い直す。
足は移動の為に発展し、手であれば道具を使う為に進化した部位だ。
目玉ならば光の反射を。
耳ならば音を。
口ならば食料を味として。
これらを、情報として取り込むため。
そして脳は、それらの部位に指示を渡し、更にはその生物の思考や記憶を保持する為の特殊な部位だ。
「…まさか、頭を食ってその中の記憶を読んだ……」
あまりにも馬鹿げた推理だった。数時間前のコナンであれば、そんなこと思いつきもしない。
きっと、少年探偵団の誰かが言い出して、コナンが冷ややかな視線を送っているだけだ。
だが既に真実の鏡という異能に触れてしまった。
乃亜がルフィ達に施した蘇生も、コナンの知る常識を超越している。
「―――不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる」
「シャーロック・ホームズか」
「……正直なところ、今のオレには何が不可能かすらも判断が付かないが…あの現場にあった手がかりを元に、一個の仮説くらいなら組み上げられる」
記憶を保持する脳という部位を敢えて食し、少年の服をわざわざ回収する。
今までの殺人事件にも、猟奇的で解せない残酷な殺害方法が少なからずあったが、そこには理由が存在したものが大半だった。
「例えばだが…優れた変装技術を持っていて、相手の脳を食べて記憶まで読み取れるのなら……」
「その人物の服装さえ再現できれば、完全な他人へと成りすませるというわけか」
「つまりあの捕食は生物の生理現象ではなく、殺し合いを有効的に進める為の戦略の一つだったかもしれない」
「腹を満たして、殺しをやめるどころか…より効率よく殺戮を繰り返すうえでの工夫か」
断言は出来ない。かの名探偵の言葉を借りれば、推理に必要な材料があまりにも足りないからだ。
けれども、憶測であろうとも今のコナンと雄二にしてみれば十分なほどに警戒を重なる理由としては妥当だ。
「もしその女が、人の記憶を読みその人物に変装する気なら…その場面を見られたお前が狙われるんじゃないか?」
「多分、な」
アイツが来るとコナンも確信していた。だからこそ、本来なら衛宮邸等に向かい情報を集める筈が、それらを無視して桜田ジュンの家まで走って逃げてきたのだから。
「ここを急いで発とう」
「すまない。巻き込んじまった」
「いや…むしろ、別の脅威を先に知れただけマシ―――」
二人が意見を纏め、方針を定めたその瞬間不意に発生した霧に驚嘆する。
-
「これは……」
「自然に発生したものじゃないだろう」
雄二の言うように、自然界で霧が発生するにはいくつかの条件が必須だ。
しかし、コナンと雄二の居るこの空間には一切合致しない。
「誰かが人為的に起こしたってことかよ」
コナンの出したそれはあまりにも突飛で、だがこれ以上ない程に単純で明快で合点のいく結論だった。
「なんだ…これ、頭痛が……?」
「あまり吸うなコナン…恐らくただの霧じゃない。
……俺が指示した物をこの家の中から急いで探してくれ。
俺はマヤを連れ出す。一分後に家の前で」
「分かった」
最低限の伝達だけを済ませ、雄二とコナンは桜田ジュンの家に飛び込んだ。
―――
「さて、わざわざ北上してやったわけだが」
「うーん、それなりの数はいると思うんだけどな」
ゼオン・ベルはジャック・ザ・リッパーに苛立ちを交えながら一瞥する。
右天を下した直後、ゼオンはそのまま病院の方角へ向かおうと考えていた。
島の中心にあり、負傷した参加者が集まりやすい場所だ。獲物を狩るには絶好の場所だと。
しかし、ジャックは逆に既に別の参加者が張っているだろうから、別の施設を回ってから病院に向かっても良いのではと意見を出した。
スタート地点からして病院に近い訳ではない以上、病院という格好の狩場は先に抑えられている可能性が高い。
他所の狩場に足を踏み入れるのは、自ら地雷原に突っ込むようなもの。
ゼオンと二人なら勝てなくもないだろうが、そんな不毛な消耗をするよりも、長少し時間を置いてから病院での交戦を待った後、残った参加者を襲い漁夫の利を得た方が効率が良い。
これは王と殺人鬼としてのゼオンとジャックの在り方の違いだろう。
ゼオンは何処までも実力で捻じ伏せようとするのに対し、ジャックは搦手はいくらでも使う。
あと、ついでにいえば、彼女達が医者嫌いな為、理由を付けて病院から離れたかったのかもしれないが。
「だが、鼠がいたのは間違いねえな」
霧と暗闇の中、人口の灯りが不自然に煌めく。
ゼオンからすれば、人間界に来てから見慣れた景色の一つだ。
地図にも記されていた桜田ジュンの家、そのありきたりで何処にでもある現代日本の一般住宅から、灯りが漏れていた。
大方、この辺にいた参加者が落ち着くために無断で侵入し利用したのだろう。
「ザケル」
まずは一撃だ。
挨拶代わりに、電気の光を放つ部屋に電撃を放つ。
キャッチボールで相手にボールをパスするような気軽さでありながら、その電撃は一個の家を飲み込み、一瞬にして半壊させてしまった。
「まさか、単なる電気の消し忘れか?」
我ながら呆けたぼやきだなと、ゼオンは思う。
だが、攻撃を加えた住宅からは人の気配がしないのだ。
単にゼオン達とは関係なく、数時間前にこの家を一時的に利用した者が、明かりを点けたまま立ち去ったのか。
-
「その霧も考え物だな」
それとも、こちらの襲撃を予測したのはいいものの、明かりを消す間もなく慌てて避難したのか。
ジャックの霧は、視界を曇らせ、奇襲を仕掛けるには悪くないが反面、勘の良い者なら、それが身に迫る危機の前兆であると直感してしまう。
「そこか」
霧の中、月明りに照らされた人影に向かいザケルを放つ。
常人であれば耐え切れない程の高圧電流を、容赦なく浴びせ続ける。
数秒ほどして、電撃の流れを遮断する。
「あーあ、また外れ〜」
「黙っていろ」
そう遠くはない距離にあって、人体に致死量の電撃を放ったのに異臭がない。
それを察し、小馬鹿にするようにジャックは口を挟む。
ゼオンが睨み付け、ジャックは取り繕うようにそっぽを向いた。
何だか知らないが、映画館での狩りからとても機嫌が悪くて、扱いが面倒臭い。
その鬱憤でちょっとからかってみたのはいいが、今にも矛先を此方に向けそうになるので小さく「ごめん」と口にしておく。
「デコイのつもりか」
ジャックへの苛立ちを募らせながら、更に狩るべき獲物に対しての憎悪も増していく。
怒りを持ちながらも冷静に、濃霧のなかにあったものを見つめた。
電撃で焼かれた先にあったのは感電死した死体ではなく、ボロボロの木片だった。
そばには人毛のようなもの、カツラが毛先を焦がしながら転がっている。
同じようにジャンパーも、端を焦がしながら落ちていた。
恐らくは、スタンド型のラックにジャンパーとカツラを被せて、この夜の暗闇と霧を逆に利用し人型のデコイの仕立て上げたのだ。
(霧の発生から、俺達が接近するまで時間は大して掛かってない。それだけの短時間で、ここまでの小細工を?)
桜田ジュンの家の電気を点け、ゼオンの注意を惹きつけた上で。近くにデコイを置き、今度はそちらに意識を向けさせる。
二重で時間を稼ぐ魂胆が丸分かりだ。
確かに、これらの策を短い時間の中で実行したのはゼオンからしても評価は高い。
だが、所詮は小手先だけの一時凌ぎに過ぎない。逃げの一手でしかない。
それは戦う手段を持たぬ弱者であることを意味している。
「機転の良さは認めてやるがな」
これは戦いではなく一方的な蹂躙になるだろう。
自他ともに認める。紛うことなき強者であるゼオンにとって、当然の結論である。
姿も知らぬ獲物は、ゼオンとの戦闘を極限まで避けていたのだから。
弱者は勝ち目のない戦いなど臨まぬ事が当たり前だ。
「何―――ッ」
ゼオンの足元が光出す。それはデコイの近く、霧の中に忍ばせる様に固定されたタブレットだった。
画面に現在の時刻が表示され、軽快なリズム音が響く。
アラーム機能だ。タブレットの備わった目覚まし時計代わりのアラームを使い、時間を設定したのだろう。
(どういうことだ…何を―――)
たった一つ、ゼオンは誤認していた。
己が狩ろうとする獲物は弱者だ。それに違いはない。
だが、生き延びる知恵と工夫を兼ね備えた人間であることを。
そう、勝ち目のない戦いを避ける。戦場に於ける基本だ。
野生の動物でも理解する程、単純な理屈。
だが、逆に言えば、勝機のある土俵にさえ引きずり込めば良い。
それは知恵を持たぬ動物にはない。人間の持ちうる戦略だ。
-
「っ……!!?」
一筋の光線がゼオンの額へと直撃した。
「―――ッ」
脳を揺さぶられる不快感、僅かな間に消失した平衡感覚。
それらを驚異的な肉体の頑強さにより、一瞬で回復させた後、ゼオンは額の血を拭い二発目の光線を身を逸らし避けた。
「誘導しやがったのか、オレをこの狙撃ポイントまで……!!」
狙撃手は霧の中に隠れて見えづらいが、恐らく向かいの家の屋上だ。
奴はゼオンを小細工を用い、狙撃に都合の良い箇所にまで導いた後、霧と暗闇の中、狙撃対象の人影を明確にする為、タブレットの光を利用したのだ。
「チィ―――ザケルガ!!」
三発目を避け、屋上に向かい速度と貫通力を高めた円柱状の電撃を放つ。
紫電の電撃が螺旋を描き、一秒にも満たぬまで屋上へ着弾し――掻き消された。
「馬鹿な!?」
ゼオンに向けられた光線より、更に数周り大きな光線にザケルガが飲み込まれたのだ。
流石のゼオンとて、驚嘆する。
念を入れ更に数発追撃のザゲルガを放ち、その全てが精密に狙撃され相殺された。
「……分からん。オレに打ち込んだ光線とは比べ物にならん威力だ。確実に頭(きゅうしょ)をぶち抜いた時に、この威力を伴っていれば」
もしも、ザケルガを相殺できる程の光線を頭に当てられていれば、ゼオンもそれなりの痛手を受けるだろう。
だが、狙撃手はその一発と追撃の数発は非常に威力を抑えていた。
それがあまりにも不可解だ。
「解せんな」
呪文を放つのを止め、屋上にいるであろう狙撃手を睨む。
唯一の光源のタブレットを踏みつぶし破壊する。
そして、ゼオンが電撃を放たなければそれが光となることはなく、狙撃手の目にゼオンが映る事はない。
故に今は完全な霧と暗闇の中、膠着状態だ。
未だ姿を見せない獲物、いやゼオンをここまで出し抜いた以上は敵とみなすべきだろう。
最早、これは蹂躙ではなく戦いだ。
お互いの首元に刃を当て、どちらが先に引き裂くかの駆け引きだ。
(さて、どうする…スナイパーなら接近しちまえば話は早そうだが)
問題はその接近すら、敵の誘いであった場合だ。
油断のならない相手だ。不用意な行動一つでゼオンであろうとも、詰まされかねない。
(……こんな時に、奴のありがたみを思い知る事になろうとはな)
この場には居ない無愛想なパートナーを思い出し、苦笑する。
それは未だ姿を見せぬスナイパーに対する賞賛でもあった。
―――
-
「ごほっ…お、ぇ……!」
雄二は吐瀉物を吐いていた。
だが視線は、敵から逸れる事はない。
ゼオンと向かい合った屋上から、雄二は浪漫砲台パンプキンを構えゼオンの動向を伺っていた。
ゼオンを射殺しようとしたポイントは二か所。
一つ目は桜田ジュンの家、その名の通り住民の一人である桜田ジュンの部屋だ。
あえて電気を点けて、内部を散策させて、場合によってはカーテンの隙間から狙撃する予定だったが、これは想定外の攻撃で潰されてしまった。
だがもう一つ、外に設置したデコイにアラームを設定したタブレットで誘き出す仕掛けが功を為し、狙撃には成功した。
(やはり、ただの人間じゃないか……)
その精密な狙撃で、通常であれば血と脳味噌を散らしながら、命を落とす筈の一発をゼオンは僅かな出血のみで留めた。
(この程度じゃ、奴は死なないってことだ)
ゼオンに致命打すら与えられなかったのは誤算だったが、ある意味では雄二にとっては好都合。
(少しは…楽に引き金が、引けるか……)
初弾、雄二は口を手で抑え吐き気に耐えていた。
雄二にとって、人を殺める行為は今や最も逃避する事の一つだ。
後に克服はしたものの、この時間軸の雄二にとっては重すぎる枷。
それでも、人の為に撃たねばならなかった。精神を摩耗させ、壊れようともその背にある二人の命を守る為に。
(不幸中の幸いだな)
ゼオンの頑強さは織り込み済みだ。
やり過ぎたとしても、早々は死なないのなら―――少しは余裕を持ってやれる。
「雄二……!」
「コナン、その話はもう終えただろ。奴は人が居るかもしれない家や、デコイで偽装した人影に平気で電撃を放っていた。
間違いなく、殺し合いに乗る気だ」
桜田ジュンの家にはガラクタが豊富だった。だからこそ、デコイなどの仕掛けを作れるだけの材料もすぐに調達できた。
コナンも察しが良く、二人で細工を拵えるのにも時間はそうは掛からない。
だが、一点だけ反りが合わないのは、コナンには不殺の意思があることだ。
「……お前は俺に従うしかなかっただけだ」
そう揉めたのだ。だから、銃を突き付け言う事を聞かせた。
「……ん、なわけ…あるか」
それをコナンの意思で行わせない為に。
形や経緯は違うのだろう。だが人を殺める事への拒否と、その苦痛は雄二にも十分過ぎるほどに分かっていた。
(くそっ…! ふざけんな、何が探偵何だよ……! オレは!!)
それは当のコナンが一番分かっていた。
本来なら、自分の身を危険に晒してでもゼオン達を殺さないよう立ち回るだろうコナンを押し留めているのは、自分以上に人を殺める痛みに苛まれている雄二を見てしまったからだ。
不慣れなパンプキンの扱いも流暢に行い、卓越した狙撃能力を有しながら瞳には涙を浮かべ、口周りは吐瀉物で汚れていた。
文字通り、身を削って戦っている。トリガーを引く度に心身共に痛んでいるのはゼオンではなく雄二本人だ。
この痛ましい姿を見ながら、今のコナンには何の策も浮かばない。
ゼオンという怪物を止める術が何もない。
これ以上、何を口にすればいい。
-
「……これが、たた…かい?」
そしてもう一人。
条河麻耶は、初めて殺意と殺意のぶつけ合いを見て、畏怖を覚えていた。
間違いなく、正面から戦えば勝ち目などない格上のゼオンを相手に立ち回り次第で拮抗してみせる雄二の手腕。
同時にそこまでしても仕留めきれないゼオンの異常性。
何より、相手の命を絶つことに一切の躊躇がない。それが自らの破滅へ導くと知っているのだろう。
(本当に、雄二なの……?)
怖かった。
ほんの一時間前、自分と軽く言い合って笑い合えていた、何処か世間とはずれているけど心優しかった少年とは同一人物には思えなくて。
ゲロを吐きながら、それでも構える銃には一切のブレも迷いもなくて。
(無理だったんだ、私じゃ)
雄二はずっと気を遣っていたんだろう。
合理的に考えるのなら、マヤの訓練など積ませる必要性はない。
だが―――貧弱な体で仲間を守ろうと決意を固めた姿を見て。
きっと、同情したのだろうと思う。
だから何かをやらせることで、悔いを残さないように自分に付き合ってくれたんだろうと。
(ごめん、雄二…ずっと足引っ張ってたんだ……私が雄二を……)
口に出来ない懺悔を喉元で抑えて、マヤは瞳を潤ませてただ祈るように雄二を見つめる事しかできなかった。
―――
-
「ラウザルク」
雷鳴と共に轟く呪文。
「オレが先行する。ジャック付いてこい」
「はーい」
ラウザルク。
使用者の身体能力を底上げするサポート術だ。
もっとも、欠点として使用中は別の術を発動できないという致命的な欠陥が存在する。
弟のガッシュにとっては、その欠陥を鑑みても有用さが勝ったが、元より術なしで並の魔王候補を屠る事も容易いゼオンにとっては、使う価値すらない。
だが、今この瞬間のみは違った。
雄二の狙撃手としての能力の前に、下手な呪文では相殺されるのが分かり切っていた。
高レベルの術も残されている。
だが、あの奇怪な光線はこちらの発動する術に合わせ威力を跳ね上げているように見えた。
理屈は分からないが、電撃で戦うのは得策ではない。
ならば必要なのは雷ではなく、生身の肉体そのものだ。
己をより高める速度だ。
「褒めてやる。オレにこんな術まで使わせるとはな」
一秒も掛けず、数百メートル先の民家へ到達する。
そのまま跳躍し、ゼオンは屋上へ降り立つ。
ジャックもサーヴァントの脚力で、一気に屋上へと駆け上がる。
階段すら必要とせずナイフを数本壁に付き立て、それを足場に華麗に跳躍した様は美しさすら覚えるほどのアクロバティックな有様だった。
「いないね。逃げちゃったんじゃない?」
「……」
ラウザルクを解除し辺りを見渡す。
いくら、夜の暗闇と霧の紛れたとしても、この至近距離でゼオンをやり過ごせるはずはない。
膠着状態の間に既に逃れたと考えるのが妥当か。
「この霧だし、遠くからてっぽうでうつなんて、無理だよ」
「いや」
ゼオンとジャックの合間を光の線が過っていく。
その刹那、ほぼ間を置かず三発の光線が放たれた。
二つはゼオンの眼球に吸い寄せられ、もう一つはジャックの左肩を掠る。
「グッ……!」
「いったぁ〜」
自らが放った光線の眩さを明かりの代わりとし、瞬時に標的の位置を目視し尋常ならざる技量で三発を叩き込んだ。
「……いい腕してやがる」
マントで光線を弾き、僅かに冷や汗を浮かべながらゼオンは口許を吊り上げた。
初撃でゼオンの頑強さを計算に入れ、狙いを目へと定めたのだろう。
生物であれば、共通して目玉という器官は脆い。
ゼオンと言えど、視力を完全に奪われれば戦力は極端に低下する。
「だが、ここまでだ―――ガンレイズ・ザケル」
ゼオンの手の先に八つの小太鼓が出現する。
全ての太古に紫電が収束し、そして一気に解き放たれた。
八つの雷の弾丸は、光線の射手が居るであろう方角へ向かう。
(やるな…八つの内、三つ撃ち落としやがった……確実に当たる弾だけを処理し、残り五つの射線から安全地帯を見切ったのか)
ガンレイズ・ザケルの電撃の弾を三対の光線が相殺する。
だが、残り五つが降り注ぐ。
その隙間を縫うように駆ける、一つの小さな人影をゼオンは目視した。
「来いジャック! ラウザルク」
まさしく雷足のような速さでゼオンは屋上を飛び降り、狙撃手の元へと疾走する。
「見つけたぞ。ザケルガ!!」
「―――ッ!」
ゼオンが雄二の眼前へと回り込んだ。
初めて、二者の視線が交差する。それと同時にラウザルクを解き、ザケルガの雷光が雄二を照らす。
パンプキンを腰撃ちのまま構え、射撃する。
ザケルガという脅威に脅かされた危機(ピンチ)により、威力が増幅しザケルガと光線が正面から撃ち合い消失した。
-
「やはり、威力が自動(オート)で変わるか」
ここまでは予想通り。
これは、再確認の為に放ったものだ。
先ほどのガンレイズ・ザケルと、今のザケルガを撃ち落とした場合で、光線の規模が変動していた。
そうでありながら、ゼオンに直接撃ち込んだ時は低い威力だ。
(決まりだ…オレの術に合わせて威力が変動し、奴もそれを操作出来るわけではない。
奴の術や能力ではなく、あの銃そのものの特性なのだろう)
ここまで推定しきれば、後の処理は簡単だ。
「ジャック」
「はいはーい」
「ぐはっ……!?」
雄二の真横から、飛び蹴りの態勢でジャックが砲弾の様に突撃する。
咄嗟にパンプキンの銃身を盾代わりにし直撃は防いだ。
しかし、衝撃そのものは殺し切れず雄二は吹き飛ばされていく。
「ようは、術など使わず…直接殺せば良いだけだ」
地べたを転がっていく雄二を眺めながら、淡々とゼオンは呟いた。
「……人間にしては、よく鍛えられている」
「なんだ…急に……」
「良い師に恵まれたようだな」
「……お前じゃなければ、嬉しい台詞だったよ」
乃亜の言動を信じれば、この場には子供しかいない。
そうであれば、その幼い歳で相当に叩き込まれている。
余程、優れた師を持ったのだろう。
非力な人間がよくぞここまで―――。
「フン」
自らの勝利は揺るがない。それは絶対として確定している。
だが、たった一人でここまでゼオンを相手に立ち回ったことは、認めていた。
「一応聞いておくか、殺し合いに乗り……オレと組む気はないか?」
少し、殺すのは惜しいとも思った。
霧が立ち込める夜中という最悪の環境で、あれだけの精密さを損なわず狙撃を成功させていたのだ。
殺し合いには、これ以上ない程に有効な技量に違いない。
「断ると言ったら、どうなるんだ?」
意味のない問答であったなと、ゼオンは嘲笑する。
「死ぬだけだ」
雄二の顔を見れば分かったことだ。
未だ、雷帝ゼオンを前にして、絶対の反抗の意思を見せていた。
鮫肌を振り上げ、無慈悲に雄二の頭上へと振り下ろした。
「絶体絶命というやつか」
魔界の王の血を引く雷帝と令和の世に舞い戻った最狂の殺人鬼を前にして。
後に戦場を経験し、9029として数多の実戦を重ねた雄二であればあるいは、切り抜ける術もあったかもしれないが。
少なくともその高い素質を秘めながらも、ここにいる雄二はまだあまりにも幼かった。
-
「ピンチ…だな」
雄二は笑みを浮かべた。
ゼオンはそれを見て、振り下ろしかけた鮫肌を止める。
妙だ。この笑いは全てを諦め、投げやりになったわけではない。
確信があるのだ。
「―――待て」
どう足掻こうと、この戦況を巻き返す術などない。ゼオンとて力だけではなく、知略も共に鍛え上げている。
だからこそ分からない。理性の中ではありえないと断じながら、勘が告げている。
まだ、終わってはいないと。
「下がれ、ジャック!!」
「ゼオン?」
もしも、この状況が作られたものだとしたら。
その理由は分からないが、奴ならばそれは可能だろう。
純粋な力ではゼオンにもジャックにも劣るが、戦場の立ち回りでは、研鑽を積んだ兵士に相当している。
理想の状況を描き、相手の動きを誘発し、それに近づけることは。
「この銃、パンプキンはピンチになればなるほど力が増す…らしい」
パンプキンは窮地に陥れば陥る程、その威力を増強させる。
ゼオンが腑に落ちないでいた、パンプキンの不安定さの真相でもある。
ゼオンを狙撃したタイミングでは雄二が有利であった為に、威力は抑えられていた為にその真価を発揮しなかった。
逆にザケルガを放たれた時は、ピンチであったが故に、それを飲みこむほどの威力を発揮した。
「ラージア――」
全ての合点がいく。
ゼオンは一気に後方に飛び退き、迎撃の構えを取る。
パンプキンの銃口から漏れ出す、エネルギーの輝き。
ゼオンからしても、直接受ければ重度のダメージは避けられない。
なまじ、この殺し合いの中でトップクラスの力を持つゼオンと、殺しに長けたジャックの組み合わせというのも最悪だ。
今、この瞬間だけで言えば、島の中で最もピンチに陥っているのは雄二をおいて他にはない。
その分だけ、パンプキンは力を増す。
「ぅ、ぐ…おぇ……!」
雄二はせり上がる吐瀉物の異物感と、今にも弾けそうなほどの嫌悪感に耐える。
恐らくはこの一撃が、最初にして最後の好機であり。
精神的にも引き金が引けるのは、これが限界だろう。
「……………?」
パンプキンに集約したエネルギーはより光を増し、唐突に霧散した。
プスプスと気の抜けた音が響き、稼働していたパンプキンはその動きを急停止させる。
「オーバー…ヒート……か」
一驚を喫していたゼオンとジャックの前で、雄二は即座に原因を突き止めていた。
過度のパンプキンの酷使が、内部を過熱し続け限界を迎えたのだ。
自壊する寸前で、稼働を止める安全機能でも付いているのか、一定の熱量でその稼働を強制停止させた。
-
「あの、電撃か……」
雄二は知る由もなかったが、ゼオンは初級の術で中級や上級の術を圧倒する。
あまりにも容赦なく、それでいて軽々しく振るわれた雷撃がパンプキンにとっては、あまりにも過度な負担となっていた。
それは対異能者との戦闘を初めて行った雄二には、予測の及ばないことだった。
「惜しかったな」
後れて事態を理解し、そして嘲るでもなく、事実をありのまま述べる。
ゼオンとてこれを計算して引き起こしたわけではない。
パンプキンの能力を誤認させられ、追い込まれかけたのは否定のしようがない。
もし雄二がパンプキンの性能を試運転し、より理解を深めていれば、戦いの行方はまだ分からなかっただろう。
だとしても、ゼオンは負ける気などなかったが。
「――」
雄二はパンプキンを握る手を緩め、そして目を閉じた。
今度こそ、明確な詰みだ。
もう、他に策はない。これが最後の希望だった。
(……二人か半人前どころか、半々人前以下だな)
五人救え。
十人を半分にまけて、それだけの人を救えと、雄二が師(かみ)から授けられた呪い。
『俺があいつらを引き付ける。コナンと、マヤはホグワーツに向かえ。ニケ達と合流するんだ』
『バーロー! お前は……』
『安心しろ。奴等を倒す算段はある。それに、素人二人を連れたままじゃ足手まといだ』
『雄二…駄目、一緒に行こう!』
『良いから、行ってくれ。ここで無駄な会話をするだけ、俺の生存率も下がるんだ』
『そん、な……』
時間は十分に稼げはしただろいう。
五人どころかその半分以下だが、それでも最期に人を救えた。
(せめて、こいつを道連れに出来れば…間接的には誰か救えたかもしれないが……)
ゼオンの掌から放出される雷を見つめながら、諦めと謝罪と達観の中に安息も交えながら、憑き物が落ちたような笑みが零れた。
(麻子…俺、勝手に死んじゃうけど……)
今までに悪行を重ね過ぎた。
子供の雄二でも分かっている。
事情があった。極限の精神状態だった。暗示を掛けられていて自分の本当の意思ではなかった。
そんなものは、言い訳に過ぎない。被害者の遺族からすれば関係ない。
あまりにも、殺し過ぎたのだ。
きっと目の前の雷の少年よりも、手に掛け殺めて積み上げた屍の数だけならば、雄二の方がずっと多い。
(誰からも許されずに、死んで…ごめん)
こんなのはただの自己満足だ。自慰と言い換えても良い。
自分が今までに流した血を、悪行をチャラになどできない。
「雄二!!」
だから、後腐れはあれど望んだ死を前にして。
それがもう一つの雷に遮られる。
あまりにも見知った、だが付き合いの短い女の声に雄二は驚嘆した。
「マ…ヤ……?」
嬉しさなんてない。あるのは困惑と驚嘆と、震え出すような恐怖だった。
コナンと一緒に逃がした筈だ。
ホグワーツまで行けばニケと合流して、保護してくれる筈だ。
-
「なん、で…お前が……」
「まだ鼠がいやがったか」
ゼオンは鬱陶しそうに、剣を振るい小さな電撃を飛ばしてきたマヤを睨む。
さして脅威にはならない力だ。
同じ雷を操るゼオンと比するまでもない。
だが、ほんの僅かに―――マヤが飛ばした電撃を素手で受け止め、少しだけ痺れを覚えた。
「やめ――がっ……!」
グロック17を構えた雄二はゼオンに向かっていく。
だが、振り返りもせずゼオンはその真横に鮫肌を叩きつけ、その衝撃で雄二は吹き飛んでいく。
「ザケル」
窮鼠猫を噛むという諺がある。
強者に弱者が一矢報いる事は、少なからず起きる事だ。
けれども、その後、弱者に訪れるのは逆鱗に触れた強者から弱者への、責め苦だ。
「っ―――ぁ!」
声も上がらない。
声帯がその機能を果たす前に、電撃がマヤを焼き尽くした。
「ほう、その剣の力か」
「ま、や……?」
まだ、マヤは死んではいなかった。
戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)。
使い手はあまりにも未熟、そもそも見合ってすらいない。
適正はある方だ。しかし、前提に凡夫としてはと付く。
齎されるのは僅かばかりの身体強化と電撃を放つ程度の力。
けれども、それは制限と制約と使い手に恵まれずとも、ある世界に於いて最後にして最強の神秘として謳われた聖遺物の一つ。
その剣が秘める雷という性質は、マヤにそれの耐性を与えていた。
「――ぁ、ゅ……」
高圧電流に体を貫かれる。
今まで、兄と喧嘩しかしてこなかったマヤには初めての経験だ。
全身が痙攣して痛みと痺れで、声をあげることも叶わない。
涙が無尽蔵に瞳をうるわせ、視界はぼやけていく。
「ァ…がっ……!」
絶対に戦雷の聖剣は手放さない。
『コナンはニケ達を探して』
『マヤ姉ちゃん? 駄目だよ! 雄二兄ちゃんの所に戻ったら……』
『でも、雄二…銃を撃つたびに死にそうな顔してた。
あのままじゃ、本当に死んじゃうよ!』
『だったら……オレが―――』
『大丈夫…私の方が……コナンよりお姉ちゃんなんだから!』
あの小さい男の子は逃がした。あとは、雄二だけだ。
死なせなんて、するものか。
最初にマヤを助けてくれた。強くて優しくて、少しすっとぼけた男の子。
自分の事なんか蔑ろにして、会ったこともないチマメ隊のみんなも救ってくれると言ってくれた雄二を。
-
「所詮は借り物の力だ」
ゼオンから見て、マヤには剣の心得がない。
あったとしても実戦の中では誤差の範疇だ。
あの剣も、乃亜から支給され使いこなせもせず、大事そうに握っているだけだろう。
研鑽を重ね、自らの力としてはいない。
「下らねえ」
まるで奴を見ているようだ。
ただ、父からの愛だけを受け。
才も修練も何もかも持ちえない癖に、バオウという偉大な力を怠惰なその身に宿し、何食わぬ顔で王を決める戦いにまで出しゃばってきた愚弟を。
見ていて、腹正しい。
「お前如きでは、その剣の力の一割も引き出せん。
消えろ。目障りだ」
「フ、ゥ……!!」
まぐれだろうと、何だろうと、自分の実力ではなくとも、なんだっていい。
勝てなくたっていい。ただ、ここだけ切り抜けられたら。
友達の行く道を守ってあげることが出来れば。
「ザケ―――」
ゼオンが術を唱え終わるその寸前だった。
「喰らえ!!」
霧の中 もう一つの小さな影が動く。そのシューズに光を灯らせ、何かを蹴り飛ばしてくる。
見たところ人間の6歳か7歳程度の軟弱な子供だ。だが、その脚力だけは目を張るものがある。
ゼオンへ砲弾の様な速度で疾走する物体。
これは人間が素の力で、引き起こせる代物とは到底思えない。
「次から次へと」
もっとも、ゼオンを前にしては単なる児戯にも等しいが。
煩わしそうに、鮫肌を横薙ぎに振るいそれを両断し―――ゼオンの喉に違和感が絡んでくる。
反射的に咳を一つ吐き、そして理解した。
「粉?」
「そうだ。お前の力は電撃…その粉だらけの体で撃てば、爆発しちまうぞ!」
眼鏡を掛けた少年が蹴り飛ばしたのは、小麦粉が入っていた袋だ。
恐らくは、民家の中にあったものを拝借したのだろう。
当然、それが切り裂かれ破れれば中身の粉が吹き出し、ゼオンを白く染め上げる。
「オレを―――この程度で止めたつもりか?」
浅知恵だ。
電撃なぞなくとも、元より備わり磨き上げた膂力で十分に殺せる。
「マヤ、雄二!! 来い!!!」
「なっ―――」
その時、コナンの叫びと共にこの場に居る全員がその光景を目撃した。
コナンの手に握られたサスペンダー。そのベルト部位が数十メートル以上、伸びている。
ベルトの端を、二つの対になるように建てられた民家に引っ掛け、V字型になるように。
ゼオンがマヤに気を取られた間に、霧の中に紛れコナンはこんなものを作り上げていたのだ。
-
「二人とも! 逃げるぞ!!」
「お前、まさか……」
それは巨大なパチンコだ。
弾をコナン達に見立て、上空に自分達を天高く弾き上げる気だ。
「正気か、貴様!!?」
ありえない。馬鹿だ。自殺行為に等しい。
映画館でも似た手段でガキどもを逃がしたが、あれはあの女が特異な能力を持っていたからだ。
仮に自分達の打ち上げに成功したとして、今度はどう着地する気だ?
風を操る力ならば、どうとでもなる。
だが何の力もない人間の子供に何ができる。重力に従い、三つの薄汚い肉片を大地に撒き散らすのが関の山。
「やるしかねぇ―――!!」
雄二も唖然とし、だがそれも一時のこと。
「マヤ!!」
救うべき少女の名を叫び駆け出す。
ゼオンの電撃に打ちのめされたマヤに手を伸ばし抱き上げる。
「ゆ、う…」
「もういい。喋るな!」
ああ――お前ははなんて、馬鹿なんだ。
そう、小さく誰にも聞こえないように雄二は呟いて。
「だーめ、にがさない。
わたしたち、おなかすいたんだもん」
ゼオンの興は逸れていた。
どうせ放っておいても死ぬ。ならば、無駄に労力を割く理由もないと。
もっとも、もう一人の殺人鬼は違う。
一人の無垢な少年を食らい。だがまだ足りぬと立ちふさがる。
-
「お…ね……がい……!!」
雄二と並走し肉薄するジャック。
それをマヤは強く睨み、その手の剣を血が滲むほどの力で握りこむ。
―――お願い、力を貸して。
ジャックのナイフが妖しく光る。
間合いは完全に詰められ、いつそれが雄二を引き裂いてもおかしくはない距離。
マヤを抱き上げたままの雄二では身を守ること、お出来ない。
コナンへの距離はあとわずか。
―――チマメ隊のみんなが、雄二が…友達がその道を見失わぬよう。
戦雷の聖剣。
それは戦乙女ワルキューレの剣を模した宝剣、だが贋作とも言える。
しかしそれは格の高い聖遺物として昇華された。
黒円卓の血生臭い怨念を積み上げたものではなく、人々の信仰と願いにより贋作は聖剣へと変わったのだ。
―――その道を照らす光を。
ならば、人の願いによって聖遺物となったこの剣が。
ただ一人の少女の願いを叶えぬ等という道理はない。
「―――え」
それは一瞬、僅かな瞬間だ。
瞬き一つの間もない僅かな時間。
けれども、その瞬間のみ戦雷の聖剣から放出された雷の斬撃は、サーヴァントという最上級の神秘をも上回った。
「な、に…これ」
目と鼻の先。
もし、直感的に下がらなければ、この雷が刻み込んだ大地のクレーターに己の焼死体が残されていたという事実。
凶器と殺戮に塗れた少女でさえも、気後れし―――だから狩り取れた筈の獲物を前にし、取り逃がしてしまった。
「―――いっけぇ!!!」
雄二とマヤが到着し、コナンは自分を含めた三人の体をサスペンダーに固定する。
そのままサスペンダーのベルトが収縮を始めた。
数十メートルあったベルトが一気に縮む、その速度は子供三人を上空へと放り出すには十分すぎる程のエネルギーを発生させる。
「く、うああああああ!!!」
コナン達は、殺人鬼の毒霧を抜け、雲すら超えかねない程の勢いと速さに乗った。
更に二つの家に仕掛けたサスペンダー。
これもコナンが仕込んだ細工で結びが解ける。そのまま固定されたコナンに装備されたまま一緒に吹き飛んでいく。
そうすることで、ゼオン達が同じように飛び上がり、コナン達を追跡するのを防ぐためだ。
もっとも、出来たとてわざわざ追う真似はしないだろうが。
「―――馬鹿が…。
まあいい、殺す手間が省けた」
その余波で巻き起こった突風が、ゼオンの髪とマントを揺らす。
ゼオンはつまらなそうに、ただ空を見上げた。
-
【B-3 桜田ジュンの家の近く/1日目/黎明】
※ゼオンによって桜田ジュンの家は半壊しました。
【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]健康、額に軽い傷、失意の庭を見た事に依る苛立ち、ジャックと契約
[装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!!
[道具]基本支給品×3、ランダム支給品4〜6(ヴィータ、右天、しんのすけの支給品)
[思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。
1:ジャックを上手く使って殺しまわる。
2:ジャックの反逆には注意しておく。
3:ふざけたものを見せやがって……
[備考]
※ファウード編直前より参戦です。
※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。
※ジャックと仮契約を結びました。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Grand Order】
[状態]:左肩に銃傷(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、探偵バッジ×5@名探偵コナン、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:優勝して、おかーさんのお腹の中へ還る
0:逃がしちゃった…。おなかすいたのに。
1:お兄ちゃんと一緒に殺しまわる。
2:ん〜まだおやつ食べたい……
[備考]
現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。カルデア所属ではありません。
ゼオンと仮契約を結び魔力供給を受けています。
※『暗黒霧都(ザ・ミスト)』の効果は認識阻害を除いた副次的ダメージは一般人の子供であっても軽い頭痛、吐き気、眩暈程度に制限されています。
-
上空を吹き飛ばされ、だが翼を持たない人間は自在に滞空することは許されない。
必ずや重力という引力により、地に落とされることが宿命づけられている。
「ま…だ、だ……!」
夜空を飛び上がり、そして緩やかに墜落し死へのカウントダウンを刻む。
だが、コナンの目には諦めはない。
数エリアを吹き飛び、そして計算通りに落ちていく。
見えるのは、島の中央に不気味に聳え立つ病院の景観。
数秒後にはその壁に叩きつけられ、コナン達は例外なく爆散して死ぬだろう。
それこそ、ゼオンの予想見通りに。
「た…頼む……!」
だが、ゼオンは見誤っていた。
江戸川コナンはただの子供ではなかったことを。
一年の間に最低でも、20件近くの盛大な爆破事件に立ち会いながら、その全てから生還を果たし、事件を収束に導いた探偵であることを。
コナンは最初からこの地点に到達する事のみを目指していたことを。
「届けぇ!!」
キック力増強シューズのスイッチを入れ、コナンは空中でランドセルを蹴り飛ばす。
爆進するランドセルにはサスペンダーが括り付けられ、それはコナン達を固定していた。
別の力に引っ張られコナン達も引き摺られるように、その落下の軌道を変える。
軌道はその先の病院から逸れ、そのエリア内にあるもう一つのエリアへと落下していく。
「「――――!!!」」
コナンと雄二の叫びが木霊する。
二人はお菓子の家へと突っ込んでいった。
チョコレートやクッキーが乾いた音共に圧し折れ砕け散る。
そして家を構成する要素の一つ、巨大なケーキのスポンジと生クリームが隕石の様に墜落したコナン達により爆散した。
周囲一面にお菓子の残骸が弾け飛び轟音が轟く。
しかし、遥か上空を飛行し墜落してきた子供三人を受け止めるクッションとしては、これ以上に最低なものは存在しない。
「―――ごほっ…ゲホッ……お前ら、無事か……?」
お菓子の破片を押し退け、生クリームだらけになったコナンがその中から這い出る。
完全な賭けだった。
もし、お菓子の家が名前だけの駄菓子屋等であれば、コナン達は死んでいた。
だが本当に、童話のような本物のお菓子で作られた家であれば。
皮肉にも、既に魔神王やゼオンなど、この島で非常識な存在を目の当たりにした事で、コナンはそのもしもの可能性に命を賭ける判断が出来るようになっていた。
そして少し体は痛むが、五体満足だ。
賭けに勝ったのをコナンは確信した。
全員、死なせずに助かったのだと―――。
「ま…や……」
響いた声は一つだけだった。
―――
-
それは、まさしく絶望の光景だった。
雄二にとって、己の死以上の受け止めきれない罪の惨状だ。
条河麻耶の胸には、ジャック・ザ・リッパーのナイフが付き立てられていた。
目は閉じられ顔に生気はなく、冷たくなっていた。
簡単な話だ。
聖剣の引き起こした奇跡の裏で、殺人鬼は己が本分を全うしたに過ぎない。
雷を避け、そしてナイフを投擲しマヤの心臓を貫いたのだ。
きっと、即死したのだろう。
背負っていたランドセルはそのままに。
だが、握られていた聖剣は手から消えていた。飛んでいる間に何処かに落としたのだろう。
サスペンダーで離脱するより前に、力尽きたのだから。
「ま…や……」
雄二が使いこなせと言った戦雷の聖剣を手にし、マヤは無茶をして死んでしまった。
殺されたのだ。あのナイフの少女に雷の少年に。
死なせたのだ。他の誰でもない風見雄二が。
(……麻子)
一人の女が死んだ。
救うと誓った少女を救えなかった。
マヤを救おうとした自分は本当に正しかったのか?
自分に何が出来た?
自分のような人殺しより、コナンの方がずっと誰かを救えていたじゃないか。
あの雷帝と殺人鬼を前にして出し抜き、見事に生還を果たしてみせた。
本当に人を救えるのは、きっとこんな奴なんだ。
あの手付きの慣れ方から一度や二度じゃない。
ずっと、何度も何度も誰かを救ってきたに違いない。
自分が人を殺し続け、血を流し続けていた間にも、きっと何人も救ってきたんだ。
ただ自分は、銃を撃って殺そうとしただけじゃないか。
一発一発ゲロを吐いて、そこまでしてやれたことはなんだ?
戦えない女の子を、その気にして死地に赴かせ死体を一つ増やしただけだ。
(教えてくれよ…)
答えをくれる麻子(かみ)はこの場には居ない。
全てを見通す一姫(てんさい)がこの場に居る事も雄二は知る由もない。
気を抜けば、崩れ落ちそうになる。
でも、まだ5人救えていない。
だから死ねない。許されていない。
麻子だって、あの小屋で待っていてくれているから。
それでも、本来の歴史から逸れ、初めて救おうとした少女の死はあまりにも重かった。
【条河麻耶@ご注文はうさぎですか? 死亡】
-
【E-5 お菓子の家/1日目/黎明】
※コナン達の墜落でお菓子の家は半壊しました。
※戦雷の聖剣@Dies iraeは何処かに落ちました。行方不明です。
【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、精神的なダメージ(極大)
[装備]:浪漫砲台パンプキン(一定時間使用不可)@アカメが斬る!、グロック17@現実
[道具]:基本支給品×2、斬月@BLEACH(破面編以前の始解を常時維持)、マヤのランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:5人救い、ここを抜け出す
0:マヤ……
[備考]
※参戦時期は迷宮〜楽園の少年時代からです
※ 割戦隊の五人はマーダー同士の衝突で死亡したと考えてます
※卍解は使えません。虚化を始めとする一護の能力も使用不可です。
※斬月は重すぎて、思うように振うことが出来ません。一応、凄い集中して膨大な体力を消費して、刀を振り下ろす事が出来れば、月牙天衝は撃てます。
【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:疲労(大)、人喰いの少女(魔神王)に恐怖(大)と警戒
[装備]:キック力増強シューズ@名探偵コナン、伸縮サスペンダー@名探偵コナン
[道具]:基本支給品、真実の鏡@ロードス島伝説
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止め、乃亜を捕まえる
0:今後の方針を立てる。
1:仲間達を探す。
2:乃亜や、首輪の情報を集める。(首輪のベースはプラーミャの作成した爆弾だと推測)
3:魔神王について、他参加者に警戒を呼び掛ける。
4:雄二…マヤ……。
[備考]
ハロウィンの花嫁は経験済みです。
真実の鏡は一時間使用不能です。
魔神王の能力を、脳を食べてその記憶を読む事であると推測しました。
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【伸縮サスペンダー@名探偵コナン】
特殊形状記憶素材を織り込んだ繊維でできたサスペンダー。
ボタンひとつで伸び縮みする。
100mは伸びる。
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投下終了です
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フランドール・スカーレット、キャプテン・ネモ、孫悟空、神戸しお
予約します
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永沢君男、城ヶ崎姫子、サトシ、ドロテア、海馬モクバ、藤木茂、磯野カツオ、鬼舞辻無惨、魔神王
予約します
延長もします
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カオス追加します
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延長します
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申し訳ありません。
当企画の地図ですが、私の凡ミスでF列のエリアが存在しないことに気付きました。
E列とG列の間にないとおかしい、F列が存在していないということです。
これから対処を考えますので、現状はF列がない事に関しては作中ではスルーでお願いします。
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投下します
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「10歳、若返った…マジか?」
「女心が分かっておらぬの。そういう時は、いつもより奇麗に見えるとか言うものじゃ」
「……オレに言われて嬉しいかよ」
ドロテアの目的が寿命の延長、究極的には不老不死であることは海馬モクバにも明かされてはいた。
モクバがドロテアを雇うと言った時点で、こちらの思惑も汲み取り配慮されるよう敢えて明かしたのだ。お互いにビジネスパートナー、不用意な隠し事で後から揉めるのも避けたい。
聞かされていたモクバも思う所はあれど、協力体制を維持できるのならその目的を邪魔するつもりもない。下手に人体実験を決行されるより、この藤木茂という少年が保持する能力を奪取して満足してくれるのなら、その方が穏便に済んでありがたいくらいだ。
「で、このセト神ってのでディオを若返らせて小さくしたんだな」
「そうだよ…ちゃんと話したし、た…助けてくれるよね?」
「……殺しはしない」
吐瀉物を吐き終わった後、ドロテアとモクバは藤木から装備品を没収した後で事情聴取を執り行っていた。
やはりというべきか、殺し合いに乗ってしまい支給品の力を借りて参加者を襲っていたようだ。だが話を聞けば聞く程、力を得て増長したのは否めないが、乃亜に怯えてしまい止む無く殺し合いに乗った面もある。
可能ならモクバとしては保護したいと考えていた。
不幸中の幸いというべきか、藤木がドジを踏んでいたお陰で、自分達もだがシカマルや梨沙という別の参加者を襲ったものの、死傷者を出していない。
まだ、藤木は引き返せる。ドロテアもセト神さえ手に入れば、それ以外はどうでもよさそうだ。ディオもこちらの反対を押し切って、無理に殺そうとはしないだろう。
「―――この様子では救援の必要はなかったようですね」
モクバ達を見つめながら、俊國に扮した鬼舞辻無惨は改めて、状況を整理するように呟いた。
同じく、エリスに扮した磯野カツオを引き連れ、いざ交戦が予想されるであろうエリアまで赴いた時には決着は既に決していた。
拍子抜けではあるが無惨にとっては好都合、無益な戦闘を避けられるに越した事はない。
(な…なんとか、助かったぁ〜)
無惨に気付かれないようカツオも内心、戦いを避けれたことに安堵していたが。
「ディオ達は先に船の方に行ったんだな」
「ええ、ルサルカさんという方と合流したようで、間に合わなければ先に行くと」
どうするべきか。
急げば、ディオ達との合流も間に合いそうだ。しかし藤木の処遇次第では、そうもいかないだろう。
「元から海馬コーポレーションに行く予定だったんじゃろ? 海は連中に任せても良いじゃろ」
「……」
時間は限られている。
この島の探索に加え、首輪の解析もしなくてはならない。
二手に分かれて調査をするのも悪い案ではない。合流場所も既に聞かされている。
合流は後回しにし、当初の目的通り海馬コーポレーションを目指しても良いかもしれない。
(シルバースキンか…鉄壁の防御を誇るらしいが、これならば太陽の光を遮断するか?)
無惨の関心は藤木の所有していたシルバースキンに注がれていた。
話に聞いただけだが、怪力のドロテアが傷一つ負わせられなかった性能は非常に興味深い。全身に隙間なく纏うらしく、太陽の下で活動するにも防護服としての役目も果たせるかもしれない。
是非とも手にしたいところだ。可能であれば持ち帰り、産屋敷の元へ突撃するのにも着込んで行けば、万が一の事態にも備えられるだろう。
流石に柱でもない、ただの人間の産屋敷に遅れなど取りようもない。それこそ、家族諸共爆弾で吹き飛ばしでもしなければ。だが、普通そんなことしないだろう。
(この場の全員を皆殺しにし、奪っても良いが……)
ドロテアもそれなりの強者ではあるようだが、無惨の相手にはならない。故にここに居る中では、驕りを抜きにし無惨が最強であることは事実だ。
だが、乃亜の親類者であり、首輪解析の技術を保有するモクバを殺めるのは避けたい。
ディオが念を入れて打った布石がここに生きてきた。
無惨も乃亜に従い優勝するか、またが抗い乃亜本人を叩くかならば、心情的に後者を優先している。わざわざ自分から、首輪解析に有用な技術者を刈り取るつもりはない。
(如何に怪しまれぬよう、自然に振る舞いこの鎧を手にするかだな)
鬼であることは伏せ、無惨が太陽を天敵とする事を明かすべきだろうか。だが鬼殺隊の異常者共が聞きつけ、こちらの討伐に赴く可能性を否定しきれない。
名簿さえ明らかになっていれば、そういった大胆な手段に出るのもやぶさかではないが、この先半日以上、日の上がった時間を閉鎖空間内で、下手をすれば柱から追い回されるのは厄介なことこの上ない。
-
「藤木!? 何やってるのよ!!」
無惨の耳に飛び込んできたのは、鎧の持ち主に呼び掛ける幼い少女の声だった。
―――
(殺し合いに乗ったんだね…きみらしいよ藤木君)
何人もの参加者に囲われ、少なくとも友好的ではない雰囲気を見て永沢君男は藤木が殺し合いに乗ったと確信していた。
それとは別に同行していたサトシとピカチュウ、城ヶ崎姫子は藤木が一方的に虐げられている可能性を考慮し、慌てた様子を見せる。
「フン! あんたらは、この藤木って奴の知り合いなの?」
「ピカァ!」
「ああ、オレはサトシ…殺し合いには乗っちゃいない。そこの藤木って奴は、オレと一緒に居る城ヶ崎と永沢のクラスメイトみたいなんだ」
「フン! どうするのよモクバ!!」
「安心してくれ、オレも藤木をどうこうしようってつもりはない。
だが、事態が事態だ…情状酌量の余地はあると思うけど、殺し合いに乗ったのも事実だ。…拘束なり、監禁なりするかもしれないのは分かってくれ」
サトシと城ヶ崎は苦々しい顔をする。
城ヶ崎からすれば、クラスメイトが殺し合いに乗った事実はやはり心苦しい。それに、自分も人の事は言えない立場だ。
モクバも城ヶ崎の複雑な心境を察したのか、バツが悪そうにする。
「本当に、藤木君に情状酌量の余地なんてあるのかい? 主催の乃亜が強そうだから、そっちに靡いただけじゃないのかな」
「あんた、永沢!」
「……わ、悪かったよ」
(あれ…なんで永沢君がこうもあっさり謝るんだ……? いつもなら、何か言い返してすぐに喧嘩になるじゃないか)
モクバもドロテアもサトシもピカチュウもカツオも無惨も。
捻くれた少年の嫌味な一声に、気の強い女の子が咎めただけに見えた何気ない光景にしか見えなかった。
だが、藤木だけは違っていた。いつも、どんな時も、誰よりも永沢の傍にいた藤木はその違和感に気付いていた。
普段の二人ではないと。
「―――サトシ、お前…よりにもよって羽蛾に会ったのかよ」
「ああ、酷い目にあったぜ。その後、永沢達と会って、リーゼロッテとかいう危ない奴から逃げる為に移動してたんだ。
取り合えず、何か使えるものがあるかもしれないし、モチノキデパートってところに行こうと思ってさ」
藤木の疑念など知る由もなく、サトシとモクバが情報を交換していた。
本音を言えば、居ない方が良いのは間違いないが、遊戯が巻き込まれていれば、当人には災難ではあるものの頼りになると踏んでいたが、よりにもよって来ているのがインセクター羽蛾とは落胆せざるを得ない。
サトシは殺し合いそのものには乗っていないと、強く主張はしているが、相変わらずやっていることは姑息らしい。
羽蛾の悪評はよく聞く話で、KCグランプリでも不正参加して、ジーク・ロイドにダイナソー竜崎諸共瞬殺されていたのは記憶に新しい。
あまり関わりのないモクバでも、羽蛾に良い印象はない。
「のう、サトシとやら…本当にそのリーゼロッテという女は不死なのか?」
「え? オレは直接見てないけど、羽蛾はそう言ってたぜ……でも、本当に不死身なら、ちょっと寂しいよな……ずっと、独りぼっちで生きて行くんだろ?」
「んー? あーそうじゃなぁ……」
サトシの声は後半から、ドロテアの耳には一切届きはしなかった。
セト神といい、この場には不老不死の手掛かりが次から次へと降って湧いてくる。
ドロテアも完全な不老不死は恐らく不可能だろうと、諦めていたところがあったが、ここでならそれをも叶うやもしれない。
-
(とはいえ、その女の力も未知数じゃ…しかも殺し合い肯定派と来ておる……。
何としてでも捕獲(ゲット)して、バラしたいとこじゃが、実力もありそうじゃなぁ)
「サトシさん、その女…本当に人間なのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「いえ、魔女と言っていたので…山姥のような化け物みたいだなと……例えば人を食べたりとか」
「どうなんだろう…流石にないんじゃないか?」
「ピカ?」
無惨の中に一つの懸念が生じていた。
そのリーゼロッテという女、まさか太陽すら物ともせず、永劫の時を生き延びているのではないか。
あの藪医者がどのようにして、無惨を鬼の始祖へと変貌させたのかその術は明らかではないが、リーゼロッテという女が関係しているとも限らない。
認めたくないが、日光を克服しているのなら生物としては無惨の上位互換に当たるのだから。
平行世界という概念は無惨も把握はしていた。先のディオ達との邂逅や、現在のモクバ達との会話から、それぞれの参加者の時代背景や文明文化が明らかに異なっているからだ。
自分以外、全員異常者の線も捨てきれないが。
だが、リーゼロッテが鬼に関する存在であれば、自らの鬼としての起源に関わる事かもしれない。
(場合によっては、禰豆子や青い彼岸花以外の方法で、太陽を克服する術もあるやもしれぬ)
積極的に会う気はないが、手に入るだけの情報は得ておきたかった。
「ピカ!」
「ピカチュウ?」
ピカチュウの声色で、サトシは一気に意識を切り替えた。
遅れて無惨が僅かに視線を動かし、次にドロテアが表情を強張らせた。
そして戦闘という面では、一般の子供の範疇を出ないモクバが事態の異様さを察して、警戒を強める。
「……な、なんで」
永沢が震えた声で喉を震わせた。
「まるで死人でも見たような顔だな」
感情が一切乗らぬ声で、だが皮肉を込めた機械的な声。
その主は、暗闇の中から歩んでくる。
眼鏡のひ弱そうな少年だったが、その容姿を見た時、城ヶ崎は絶句し声も上げられなかった。
「な、中島……?」
カツオも恐怖よりも困惑が勝る。
その容姿は死んだ筈の、親友の中島弘そのものだからだ。だが違うとも、カツオは理解もしていた。
あの中島の形をしたものに、剣さえなければどう見ても中島そのものだ。けれども、あの剣がそれら全ての希望的観測を否定する。
「どうしたんだい一体」
最後に一切事態を飲み込めず、藤木は呆然としていた。
「みんな、あいつはヤバい」
「ピカ…」
サトシがピカチュウと旅をしてきた中で、これ程までに切迫し怯えすら見せるピカチュウの姿は初めて見た。
同時にサトシも目の前の少年が人ではない何かで、しかもポケモンのような人と共存出来るような存在ではないかもしれないことを直感していた。
話し合いの余地などない程に、殺意に満ち溢れている。こんな存在は様々なポケモンを見たサトシからしても、初めてだ。
「覗き見をしていたものを探していたつもりが、よもやお前達を先に見つけるとはな」
サトシはそれが誰に向けられた言葉なのか、一瞬分からなかった。
―――僕達、ここに来る前に眼鏡の人が殺されるところを見たんだ!
逡巡の末、それが自分の後ろに居る永沢と城ヶ崎だと気付く。
思えば永沢の言っていた殺された人物と、特徴は一致している。眼鏡など珍しいものではないが、先ほど奴はまるで「死人を見たような」とも言っていた。
「お前…誰なんだ……どうして中島の格好をしているんだよ!!」
カツオはエリスの演技も忘れ、全てを情動のままに吐き出した。
それを聞き、魔神王は僅かに眉を潜める。
中島の記憶にあのような少女は存在しなかった。であれば、中島の知人がこの短期間で容姿を変えたのだろう。
この口調から考えるに―――。
-
「磯野カツオ…か」
「お前、やっぱり中島を知ってるのか!」
(カツオ? 誰だ? エリス、どういうことだ? 何故取り乱す? 貴様、外人だろう!? 日本人の友人などいたのか? それになんだその口調、まるで男……)
「……待てよ」
―――その殺した奴、顔色が悪くて、唇が紫で歳の割に身長が高い奴だった。
サトシの中で、眼鏡の人物を殺したらしい殺人者。それを見たという永沢の証言が繰り返し再生される。
あの後、城ヶ崎とピカチュウとの再会で流れてしまったが、やはり違和感はある。何より、ここで合流した藤木という少年も不自然な程、特徴と一致している。
サトシも馬鹿ではない。時折、考えなしの時もあるが、むしろ頭の回転は悪くない。
だからこそ、おぼろげながらパズルのピースを合わせ、その全体像が見えてきてしまっていた。
「殺されたよ。そこの永沢と横の少女に。我は屍を食らい姿を借りたにすぎぬ」
中島本人の知人が居るのであれば、中島として振舞う理由もないだろう。偽物とバレている。
そしてここには、この容姿の本来の主の下手人もいるのだ。
不和を撒くのであれば、むしろ事実を述べた方が手軽で早い。
「……殺された? 中島が」
「う、嘘だろ…永沢君」
魔神王への恐怖はおろか関心は既に消え去り、カツオの怒りと殺意は永沢達へと向けられていた。
藤木も自分のことを棚上げし、信じられないと言った顔で永沢を見つめる。
自らを、フジキング等と吹聴していた男とは思えない。
「永沢…お前……」
ほぼ同じタイミングで、サトシもここまで予想してしまっていた。
永沢が藤木に良い感情を持っていないのは、先の皮肉から分かった。だから、自分が手を下した中島殺害を藤木に押し付けたのではないか?
「みんな、落ち着くんだ!」
モクバが声を張り上げる。
現状、優先すべきは魔神王の対処だ。それには、この場の全員で団結の必要もある。
中島という少年には悪いが、ここで犯人探しをする暇はない。
「……モクバや、妾と一緒に二人で逃げるのはどうじゃ?」
「ドロテア、何言って―――」
「あいつと戦うのは、やめた方が良いぞ。勝ち目などないわ。
……それに、ここで下らぬ内輪揉めに巻き込まれてどうする?
落ち着くなんて無理じゃ。あのエリス…いや磯野カツオとかいう奴、怒り心頭と言った顔じゃぞ」
帝具の知識がある分、ドロテアは真っ先にカツオがエリスという人物の名と容姿を偽っているのだと理解した。
そして、あの魔神王が姿を借りた中島という少年と親しいのもだ。
永沢とカツオの衝突は避けられない。それはそれで、争うなら好きにすればいいが時と場合が最悪過ぎる。
モクバ以外の参加者に微塵も価値を感じていないドロテアからすれば、それ以外を囮にして二人で離脱するのが、もっとも最善の選択だった。
「先ずは貴様からだ」
子供達の動揺など意にも介さない。
数m以上空いた距離を一息で踏み込む。
狙うは何時でも屠れる、取るに足りぬ子供ではない。
この場に居て、最も強き生物だ。これを放置しては背中を刺されるとも分からぬ。
魔神王はただ淡々とランドセルから剣を抜き振り上げ、それを横薙ぎに振るった。
-
「貴様ァ……!!」
その理不尽に、無惨は全身に血管を浮かび上がらせ、張り裂けそうなほどの怒りを込め憎悪を声にする。
魔神王の駆るドラゴン殺し。黒の剣士ガッツが、数多の夜を数多の化け物の血で染め上げながら振るい続けた大剣。
その刀身はあまりに分厚く、剣というよりは鉄の塊に近い。最早切るのではなくその圧倒的な質量と怪力を以て、叩き潰し引き千切るという表現が正しいだろう。
使い手が人の身であることを度外視し、また斬る対象がドラゴンを想定され鍛えられた酔狂な剣。
普通の人間であれば振るえない。
振るわれたとして、その一斬はただの人の身では凌ぎきれないであろう度を越した暴だ。
それを無惨は、細い日本刀を手に事も無げに受け止めてみせた。
「やはり、人間ではないか」
得心がいったと呟く魔神王に無惨は怒りを募らせる。
鬼であることを隠し、穏便に事を進める筈が全てが台無しに終わった。
代わりに戦闘を行わせるはずのエリスは何の役にも立たず、何故か魔神王は最初に無惨に目を付ける。
「どうしてだ? 何故私を狙った」
8人だ。8人も居たのだ。
その中から、何故弱者を装った無惨のみを的確に襲ったのか。
返答は声ではなく、更なる剣戟によって返された。
細長く太い棍棒のような大剣を、棒切れのような気安さで片腕で取り回す。
それは無惨の顔面へと薙ぎ払われ、刀で受け止め力押しで弾き返す。
強靭な膂力により、魔神王はドラゴン殺しごと吹き飛ばされた。
「話せ、話してみろ。口が聞けぬのか貴様、私の問いに答えられぬのか」
豪風を巻き起こし、魔神王が無惨へと突撃する。
ドラゴン殺しの質量を持ったまま音速へと差し迫る速度で駆け抜ける。
金属が触れて弾け合う鋭い音と、共に両者もまた弾かれるように後方へと退いた。
「……なんだその刀は」
砂や土が粉塵となって舞い上がる。
土煙の中からドラゴン殺しを一閃し、その剣圧で砂を消し飛ばす。
視界が空けて、無惨の姿を認めた後、魔神王は己の胸に刻まれた小さな一筋の赤い傷を左手の指先でなぞる。
さしたる負傷ではない。だが、無惨の持つ刀に傷付けられた箇所のみ通常の負傷よりも再生が遅く。また、魔神王の魂そのものに直接ダメージを通していた。
「ほう、死神の刀は堪えるようだな」
魔神王の物理的な肉体は依り代に過ぎず、本体ではない。ゆえに入れ物を壊しても、本体である魂に干渉しなければ有効打を与えることは出来ない。
もっとも、それらの不死性は制限され肉体の過度のダメージは魂にも反映されるよう制限を負わされてはいる。先ほどのアーカードとの交戦からも、魔神王も自覚している。
だが、それでも最も有効打であるのは魂への干渉に違いない。
「魂砕き程ではないが、その刀も似た力を持つか」
捩花。
尸魂界の死神の持つ、斬魄刀と呼ばれる武具の一振り。
斬魄刀、その役割は迷える霊を死後の世界へと誘い、虚(あくりょう)と化した霊を斬り伏せ世界の循環へと回帰させること。
元より、霊的存在を斬る為の刀剣である。魔神王の本体である魂という霊的存在に対しても干渉可能だ。
「乃亜も念入りなことだ」
脅威ではない。既に、斬魄刀によって生まれた傷口は修復を開始している。魔神王にとっての最大の脅威は、魂砕きに他ならない。
けれども、馬鹿正直にそれを浴び続けるのも愚行だろう。通じていない訳ではないのだから。
「試すとするか」
元より備わる力に加え、この場に於いて意図せず手にしたもう一つの力。
帝国最強と謳われる女将軍が、冷酷に猛威を振るった悪魔のような帝具。
息を吐き出す。
毒性を浴びたそれは近くの草木を枯らしていく。無惨も目を細め、相手の異形がその秘めたる力を解放に近づけているのを肌で感じ取った。
-
「氷?」
鋭敏な無惨の身体が大気の急激な変化を察知する。
無惨が僅かに後ろに下がる。その刹那、氷山が生成された。
「捩花が使えぬ―――」
説明書には、始解の階位へと引き上げる事で、無から水流を引き起こし操る斬魄刀であるとあった。
水流がそれこそ大きな川や滝のような規模で操作できるのなら、活用方法はいくらべで浮かぶ。
だが、相手の能力が冷気であるのなら別だ。
水は凍ってしまう。捩花は無用の長物と同じ。
何故、今日に限りこうも不運が連続する? 神など信じないが、居るのなら殺してやる!! 無惨の怒りは、絶頂の更に限界を超えていた。
「どうした?」
この程度で、何を驚いている。これからだろうと。
ただ、その一言に嘲りと挑発を込めて。
魔神王の背後、その背景一面には槍の様に鋭利な氷柱が数百を超え、宙に浮かんでいた。
指揮者の演奏の様に、ドラゴン殺しの切っ先を無惨へと向ける。
それらを合図に、氷柱は無惨へと降り注いだ。
「エレキネット!!」
「ピカ! ピカピカ!!」
暴風雨のような飛んでくる氷柱。
それらに合わせピカチュウが飛び上がり、尻尾の先から電撃の球体を振り撒く。
球体は拡散し上空に雷の網を展開した。
本物の網の様に高い伸縮性を持ちながら、それらは千切れることなく、氷柱を絡ませていく。
「みんな、逃げるんだ!!」
サトシの叫び声が響き、その場の全員が駆け出す。
エレキネットは確実に氷柱の大群を受け止め、しかし徐々に軋みだし数秒の後に引き裂かれた。
氷柱は雨の様に大地に降り注ぎ、地面を抉り上げ轟音を響かせる。
通常では、人が生き残るなどありえない破壊痕を刻みながら、そこには血の一滴もない。
「―――」
魔人王の口から人のそれではない奇異な言語が漏れる。
光の矢が無数に生成され、弾け飛ぶ。
「アイアンテール!」
ピカチュウの尻尾が白く光り鋼の如き硬度を得る。
逆上がりの様に宙を舞いサトシに向かう矢を弾き返す。更に横薙ぎに全身を捻り、その後ろのモクバ達を狙った矢を撃ち落とす。
その僅かな滞空の間に、魔人王は肉薄する。空中で逃げ場のないピカチュウを両断せんとドラゴン殺しを振り落とす。
「剣にアイアンテールだ!!」
僅か0.4m前後程の小さな体躯を活かし、体を器用に捩り、硬質化した尻尾をドラゴン殺しへと打ち付ける。
勢いよく金属が打ち合う音と共に魔神王の腕にも衝撃が走る。
されども魔神王の剣を止めるには程遠い。例え硬質化したといえど、魔神王の怪力にピカチュウが真っ向から挑むのは自殺行為にも等しい。
1秒もせず黄色の愛らしい容姿は、赤黒いグロテスクな肉塊へと変貌する。
「ピ、カァ!!」
ピカチュウのアイアンテール。それはドラゴン殺しの刃を正面ではなく、斜めから切り込むように放たれていた。
押し込まれる魔神王の怪力は角度を調整することで受け流され、ドラゴン殺しを尻尾で叩きつけた勢いで、ピカチュウは振り下ろされたドラゴン殺しの軌道線上から離脱する。
「10万ボルト!!」
「ピィカァ〜チュ〜ウ!」
アイアンテールを維持したまま、尻尾に触れたドラゴン殺しのを通しありったけの電撃を直接流し込む。
多くのポケモンを目にしたロケット団を以てして、秀でた個体だと目を付けられ、時として神格にも匹敵する伝説のポケモンにすら通用する。ピカチュウの代名詞にして象徴ともいえる技の一つ。
ドラゴン殺しより伝い、全身を駆け巡る高圧電流。
肉体の再生力は、乃亜から制限されている。
それもあってか、さしもの魔神王とてその一撃には目を見開き、ほんの一瞬ではあるが苦悶の表情を浮かべ、膝を折りかけるほど。
なるほど、見た目の脆弱さに反し、この黄色の奇怪な生き物は戦いに慣れている。
後方で指示を出す少年も、直感や状況判断に優れている。
もしも、この場に居たのがあの最初に出会った闘争狂の不死王であれば、手を叩いて拍手でも送っていたのだろう。
だが魔神王は違う。ただの事象と客観的事実として捉え、ただ滅するだけだ。
-
「ピカチュウ! かわせ!! でんこうせっか!」
魔神王から衝撃波が放たれ、ピカチュウに直撃する。
飛ばされながら受け身を取るピカチュウに、すかさず氷柱の大群を落とす。
「ピッカピ!!」
まるで針の間を縫うように、氷柱の合間に存在する小さな安全地帯を瞬時に見切り、電光石火の如く加速し駆け回る。
「一度距離を取れ! 戻ってこい!」
土煙から飛び出し、ピカチュウはサトシの足元へ着地し魔神王へ向き直る。
「大丈夫かピカチュウ?」
「ピ…ピカ!」
長期戦は不味い。
魔神王が毒を纏っているのは、サトシから見ても明らかだった。
戦いが長引けば長引く程、ピカチュウに毒のダメージが蓄積されていく。
可能な限り近接戦を避けたいが、それは相手も読んでいる。
積極的に接近戦を仕掛けてくることだろう。
不幸中の幸いは、サトシはロートスの英雄達やアーカードのように殺すのではなく、相手を無力化する戦いであったこと。倒すのを目的としていたことだ。
吐息と同じく血にも毒を持つが、サトシは殺傷を目的としない為、流血を伴う負傷は殆どない。その為、齎された毒の総量は非常に少なく、魔神王の想定よりも毒の効きが悪い。
だが効いていない訳ではない。やはり時間は掛けられない。
「サトシ…勝てそうか?」
「いや、難しいと思う」
モクバの問いに、サトシはそう答えた。
玉砕覚悟なら、あるいはと考えなくはないが。
普段のポケモンバトルなら、最後まで諦めず全力を出し尽くすものの、こんな意味のない殺し合いで、ピカチュウを危ない目に合わせてまで戦う意味なんてない。
さっさと逃げるべきだ。
(どうする……みんなを逃がさないと、でもピカチュウにだけは無理はさせられない)
それでも、他の皆を逃がすくらいの時間は稼がなければ。
「俊國、お前人間じゃないらしいな」
「それがなんだ? 今この場で私を排するか? 魔神王(アレ)の前で!!」
声を掛けてきたモクバに対し、無惨は血管を浮き沸かせ苛立つ。
俊國という人間に擬態し、しばらくは様子見に徹するはずだったのが水泡に帰したのだ。
今にも癇癪が起きそうなのを抑えていたのは、別の脅威が存在するからに過ぎない。
「正直、オレはそんなことはどうだっていい。あんたの正体がなんだろうと、殺し合いから脱出したいのなら、協力してくれないか?」
「私に命令か? 私がそれに従う何の義理がある?」
「自慢じゃないが、首輪を外す技術に科学方面なら自信がある。オカルト方面なら、ドロテアがいる。
協力者もディオ達が居る。こう見えて結構盤石に進んできてるんだぜ。
……借りを作っても、損はないんじゃないか?」
「ここで貴様らの為に殿をしろと?」
「そうだ。ここで一番強いのは、お前なんだろ?
お前が訳ありでもいい。協力し合えるなら首輪の解除も約束する」
サトシとピカチュウは技巧で、魔神王を躱していた。
それに対して、無惨は真っ向から打ち合い力でも圧倒する場面があった。
純粋な強さという面に於いては、確かに魔神王が先に始末しようとしただけあり、自分達のような子供と一線を画す。
「……良いだろう。癪に障るが…逃がしてやる。だが、条件がある」
苦々しく、だが無惨は承諾の意思を見せた。
そして音もなくモクバの耳元に顔を寄せ、小さく耳打ちした。
「一つ、シルバースキンとやらを私に渡せ。
二つ、竈門禰豆子という少女が居れば必ず死なせず保護しろ。
三つ、私の立場を一切損なわせるな。名簿が開示され俊國の名がなかった場合でも、私を擁護しろ。
四つ、これらを口外するな」
「分かった」
「もし破れば、命はないと思え」
ディオからモクバは乃亜との?がりがあり重要な情報を握っていて、首輪を外せる技術者であると強調されたこと。
これが普段の無惨にしては、寛容な態度を取らせる要因になっていた。
無惨とて殺し合いの打破の確率は上げておきたい以上、対主催に恩を売るのも悪くはないと無惨に判断させた。
「ドロテア! シルバースキンを俊國に!!」
「なんじゃと!?」
「ぼ、僕の…それはフジキングになる為の……」
藤木から押収したシルバースキンをドロテアは無惨へと投擲する。
これ程の鎧を手放すのは、些か気は引けるが、もし魔神王を無惨が引き受けるのならやむを得ない。
-
「みんな、ここは俊國に任せる」
「逃がすと思うか」
ドラゴン殺しを担ぎ上げ、魔神王はモクバ達を睨みつける。
頭上にある大気中の水分を冷気で冷やし、巨大な氷塊を作り上げる。隕石のような爆発的な加速をし、急落下する。
「私が―――逃がすと言った」
無惨の片手の血管が更に膨張し、腕が膨れ上がる。玉遊びのような気安さで氷塊に触れた。
「これは絶対だ。私の決定した絶対を、お前如きが覆すつもりか」
氷塊に比べれば遥かに矮小な手、その握力だけで氷塊に亀裂を入れ握りしめ、砕いた。
パラパラと氷の残骸が降り注ぐ中で、無惨は絶対の支配者として君臨していた。
「子供のように幼稚な傲慢さだな」
「黙れ、話すな、これ以上不快な腐臭を撒き散らすな」
魔神王は呼気を強めた。
足元の雑草が一瞬で萎れて枯れ果てていく。
「嫌味か?」
一連の流れを見て、無残の腹正しさは増していく。
(シルバースキンとやらは手に入れた。日光を凌ぐ手段はこれで二つ。
何処まで信用できるかは分からぬが、モクバ達に借りを作ったのも確かだ)
当初の目的は達した。
目の前の存在も脅威にはなるが、継国縁壱(ばけもの)程ではない。
利用されるのは腹正しいが、モクバが通常の子供とは違い有能なのは接していて分かった。
交渉や取引で、嘘を吐くような手合いではなさそうだ。連れていたドロテアとかいう女もろくでもない下種だろうが、利用価値を見抜き引き連れている。
自分の感情と大局を見ての判断は別けて考えられる。あの鬼滅隊(いじょうしゃども)とは違う。
時と場合により取引(ビジネス)として、割り切れる側の人間だ。
長年の経験で無惨はそういった人間もよく見てきた。ああいう手合いは信用はしないが、こちらが明確な利を示すなら、相応の対価を支払うことに躊躇がない。
無惨の名で名簿に乗らない限りは明かす事はないが、もしそうなったとしても、良好な関係を築ける可能性はある。
時間稼ぎ程度ならば引き受けてやってもいいだろう。
(だが…もうすぐ夜明けか……時間は掛けられん)
時刻だけならば既に早朝。
辛うじてまだ日は上がらないが、もうじき太陽が天空を支配し無惨を照らしつける事だろう。
「5分だ。それ以上は私を煩わせるな」
ただ一方的な宣言をし、無惨は内に含めた殺気を解き放つ。
魔神王は何の関心も抱かず、ただ邪魔な障害物を退けるようにドラゴン殺しを構えた。
鬼の始祖と魔神の王が激突する。
それは紛れもなく、異なる種の頂点における者達の決戦の始まりであった。
-
【E-3/1日目/早朝(まだ日は昇ってないくらい)】
【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:健康、俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。
[装備]:捩花@BLEACH、シルバースキン@武装錬金
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1(確認済み)、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り6時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:魔神王に対処。夜明けは近いので、無理はしない程度にモクバ達逃走の時間は稼いでやる。
1:もし居れば、禰豆子を最優先で探索し喰らう。死ぬな、禰豆子!
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:禰豆子だけならともかく、柱(無一郎)が居る可能性もあるのでなるべく慎重に動きたい。
5:何にせよ次の放送までは俊國として振る舞う。
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わら死ぬと考えています。
また鬼化等に制限があるかどうかも後続にお任せします。
容姿は俊國のまま固定です。
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:健康 (魔力消費・中)
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク、魔神顕現デモンズエキス×3@
アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2、魔神顕現デモンズエキス(5/2)@アカメが斬る!
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:無惨を始末する。
1:アーカードを滅ぼせる道具が欲しい。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:覗き見をしていた者を殺す
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、中島弘として振る舞う。
[備考]
自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※現在中島弘の姿をしています。
-
(ふぅー、あやつが足止めしてくれて助かったのじゃ)
溜息を吐きながらドロテアは安堵していた。
あの中島という少年の姿を借りた存在は、ドロテアの中であのエスデスと重なって見えた。
支給されたのか、デモンズエキスを使いこなしていたのだ。そんな化け物と戦うなど真っ平御免である。
(しかし、藤木のようなクソ雑魚か写影達の様にそこそこ機転の利く子供ばかりかと思ったが…あのエスデス擬きや、それと戦える俊國のような奴等ばかりだったら、この先骨が折れるのじゃ)
全くもって、何が子供を集めた殺し合いなのだろうかと乃亜に文句を言ってやりたくなる。
当初はドロテアが蹂躙する側だろうと、若干余裕もあったのだが魔神王との邂逅で認識も大分改めねばならないらしい。
実のところ、ドロテアがランドセルに収納したままの魂砕きこそが魔神王の目的であり、もし藤木を見逃す譲歩を進めて、それを取り出していた場合、魔神王は何よりも最優先でドロテアの命を狙っていた。
まだ運に見放されてはいないことを、ドロテアは自覚もしていない。
「おい…教えてくれよ! 永沢が中島を殺したのか!!」
(もーう、面倒くさいのじゃあぁぁぁ)
もう完全に変装を放棄しエリスの容姿のまま叫ぶカツオを見て、ドロテアは内心で愚痴っていた。
「なあ、先ずは確認させて欲しいんだが…お前はカツオって奴でいいんだよな?
エリスって女の子じゃなくて」
「……そう、だよ」
「ちょっと、話して貰っても良いか?」
モクバに言われるまま、カツオはそれまでの経緯を正直に話しだした。
最初に魔法使いのような少年に襲われ、狂犬みたいな美少女が介入してくれたが、あまりの暴力性に怖くなり逃げ出した。
その後、自衛の為に変装して行動していたら無惨と遭遇し、無理やり連れ回されたこと。
「帝具か…確かナイトレイドが持っていたやつじゃったな」
変装を解いて、丸坊主の化粧をした少年の姿に変貌した時は、モクバもサトシも少し引き気味に驚嘆していた。
ドロテアは納得しながら、ガイアファンデーションの効果を思い返す。
「カツオ…永沢達にも何か事情があったんじゃ」
「友達を殺されたんだぞ! どんな事情があるって言うんだ!!」
サトシも永沢達が手を下したことを否定しきれなかったが、それでも悪い人間とは思いきれない。
擁護に回ろうとするが、それがかえってカツオの逆鱗に触れる。
「ああ、そうさ…僕は殺したんだよ。君の友達は本当に間抜けだったよ」
「なんだって……! お前……!!」
グリフィンドールの剣で永沢に斬りかかろうとするカツオを横から突っ込んでモクバが抑え込む。
「離してくれよ!」
「待て。…気持ちは分かるが、今は……」
魔神王から1エリアほど離れた場所に移動したものの、事態はまだ差し迫っている。
無惨を撃破し魔神王が追跡してくる可能性もあるのだ。
もっと距離を開けておきたい。
それに、ここでカツオが永沢を殺めて殺し合いを加速させるのも乃亜の思うつぼだ。
「きみに何の気持ちが分かるんだよ!」
カツオの悲痛な叫びは、ドロテア以外の全員の心を痛めた。
「仕方ないだろ? 文句なら乃亜の奴に言ってくれないか。
僕だって殺し合いに巻き込まれた被害者なんだぜ」
「あの…私……」
本当は自分が殺したと城ヶ崎は白状しようとし、声が震えてつっかえてしまう。
自白がこんなにも怖い事だなんて思ってもいなかった。
それに全てを白日の下に晒すことは、結局のところ永沢が殺し合いに乗り、自発的に中島を襲った事まで話さねばならなくなる。
そうなれば永沢は―――。
でも、このままでは永沢が殺人者として糾弾される。別の嘘を言おうと思っても何も浮かんでこない。
-
(よし…これで良いぞ)
永沢は露悪的に話しながら、ヘイトが自分に集まるのを実感していた。
(僕が、中島とかいう奴を殺した事にしてしまえば良いんだ……。あとは、城ヶ崎の事はサトシ君に任せればいい。
あのピカチュウって鼠、かなり強かったし傍に居ればきっと安全だ)
永沢の選んだのはシンプルな自己犠牲だ。
元から中島を襲ったのも自分であるし、あくまで目的は城ヶ崎姫子の生還。
頭の良さも喧嘩の強さも、からっきしの永沢が生き残る必要はない。
果敢にも魔神王にピカチュウと共に挑んだサトシが居れば、彼女の安全は保障されるだろう。
残った遺恨は全部、永沢が引き受け墓場まで持って行けばいい。最悪カツオを道連れにしてしまえば、彼が城ヶ崎を襲うこともない。
永沢でも、それくらいは出来るはずだ。
(カツオも僕が中島殺人の実行犯だと思い込んでいる。良いぞ…このまま―――)
「お…おかしくないかな? こういう時、いつも城ヶ崎さんが永沢君に食って掛かると思うんだけど」
「なっ……!」
永沢の目論見は上手く行っていた。
全く関心のないドロテアはともかくとし、モクバとカツオとサトシも事態の急変化に気が動転して、中島の殺害犯は永沢だと半ば確定して話を進めていた。
だがただ一人、この中で藤木だけは違っていた。
明らかにおかしいのだ。火と油、犬と猫、きのことたけのこ。顔を合わせれば喧嘩ばかりの二人が、こうして大人しく行動していた事が。
無論、殺し合いの場である為、お互いに控えた可能性もある。
けれども、流石に永沢に殺人の容疑が掛かれば真っ先に口を挟むであろう城ヶ崎が、沈黙を続けているのが不自然でしかない。
「きみは何を言って―――」
「永沢君、なんだか城ヶ崎さんを庇っていないかい?
それに、あの中島って人の見た目をしていた人はこう言ってたよ…永沢と彼女が殺したんだって……」
饒舌な藤木に永沢は苛立ちを増す。
いつもなら人に流されて楽な方向に行く男が、どうしてこんな時に。
「僕が城ヶ崎を庇う訳ないだろ! こんなブス……」
「……嘘だよ。永沢君、きみは城ヶ崎さんの事を気に入らないけど、美人と言っていたじゃないか」
後に中学生になって以降の評価は、もう少し美人が良いという何とも言えないものではあるが。
美的センスが壊滅的に狂っているのだろうが、それはそうと永沢の中でも城ヶ崎は美人よりに位置しているのは事実だ
その上で生意気で気に食わない女なのだが。
「それに…」
分かるよ。友達だから。
声には出さず、心の中でのみ紡ぐ。
藤木の感情もぐちゃぐちゃになりそうだった。
数十分前まで殺し合いに乗る気だった。永沢が居ても、構わないと思っていた。
なのに、こんなに追い込まれた永沢を見た時、その決意を忘れ去ってしまった。
自分は一体、何がしたいのか藤木本人にも分からない。
-
「ごめんなさい。私が銃で殺したの…だから磯野君、悪いのは私なの」
「先に僕が殺し合いに乗ったのが悪いんだ! バットで殴ったら、あいつ息を吹き返して…城ヶ崎はわざとじゃなくて!」
「どっちでもいいよ」
カツオは冷たく言い放つ。
「きみ達のせいで中島は死んだんだろ?」
向こうの事情など知らない。ただ、身勝手な話でしかない。
そして、変な化け物に食べられて姿形まで奪われてしまったのだ。
殴られたらきっと痛いだろう。撃たれたら、どんな絶望や恐怖を味わうのだろう。
死して尚、尊厳すら奪われて弔うこともできないなんて。
中島がそこまでされなきゃいけないほど、悪い事なんてしたのか?
「どうし、て…なかじまが……なにしたって、言うんだよぉ……」
カツオの目から、涙が溢れ出していた。
怒りも悲しみも何もかもが込められた涙だった。
―――くすくすくす
「とても痛そう。知ってる? 痛みは愛なんだよ」。
強風が草木を揺らし、夜明けの薄暗いなかに小さな人影のシルエットが増えた。
ほんの一瞬だけ、それは翼を生えた修道女のような天使のように見えたのは気のせいだろうか。
露わになったのは胴着をきた黒髪の活発そうな少年だった。
「一人だけ愛を貰うのもずるいよね。だから―――」
みんなにも愛をあげる。
「ピカピ!!」
「でんこう―――」
この少年が何をする気か、勘で察知したサトシとピカチュウが動く。
だが遅かった。少年の素早さは尋常ではない。
ピカチュウもスピードでかく乱するバトルを得意とするものの、初動で出遅れてしまった。
少年の向かう先には永沢と城ヶ崎が居た。手に刃物や武器の類はないが、何の害意もないとが考え難い。
「な…永沢君!!」
藤木の中で、肝試しの時にさくらももこを置き去りにしたことを思い出していた。
思えばあれが転機となり、今の卑怯者としての自分が定着してしまった気がする。
(僕に何ができるんだ……)
永沢のピンチだというのは何となく分かる。でも、だからなんだというのだ。
これ以上、自分に出来る事など―――。
「違う―――僕はフジキングだ」
藤木は駆け出していた。
殺し合いが始まってから半強制的とはいえ、自分の意思で人を襲ったことで藤木は歪な自己肯定感と自信を身に着けていたのだ。
自分に向かって走ってくる藤木を見て、永沢はきょとんとした顔をする。
そんなことに構わず、藤木は永沢に抱き着くように押し倒した。
「危ないよ! 永沢君!!」
花弁が散るように、血飛沫が噴き出した。
「ごほっ……!」
少年の腕が城ヶ崎の胸に突き刺さっていた。
血塗れの腕を引き抜き、更に栓を失った血は行き場を求め勢いを増して吹き出す。
「アイアンテール!!」
一秒ほどの後に追い付いたピカチュウのアイアンテールが少年の頬に直撃した。
「ピカァ!!」
「おめえ、やるなぁ!」
首を尻尾で薙ぎ払われ吹き飛ばされる少年。
その口許を吊り上げ、心底楽しそうに微笑んで見せた。
-
「へへ…オラ悟空ってんだ」
一番最初に出会った悟空(おにいちゃん)を模倣するように。
カオスは演技を続けながら、受け身を取りサトシとピカチュウを見つめる。
「永沢君、無事かい? い、行こう…今の内に」
「じょうがさ…き……」
胸から多量の血を流し生気を失っていく城ヶ崎を見つめながら、永沢は放心状態になっていた。
それに藤木が、どうして自分に覆いかぶさってきたのも分からないでいた。
カオスが狙っていたのは、永沢の横に居た城ヶ崎だ。普通に考えて、藤木がカオスより早く動ける筈などない。
勘違いしていたのだろう。永沢が殺されてしまうと。
それでいて、藤木本人は永沢を救うことに成功したのだと思い込んでいる。
「永沢君!!」
藤木が永沢の頬を引っぱたく。不快ながら、永沢はそれで我を取り戻した。
自分の腕を引っ張る藤木を見る。一緒に、ここから逃げろとでも言うつもりなのだろうか。
もう一度、城ヶ崎の方を見た。
「しっかりしろ! 城ヶ崎!!」
遅れて駆け寄ったサトシの腕の中で、何かを言っていた。きっともう、助からない。
永沢には医療の知識はないが、それでもあれは無理だと分かった。
何も悪くない彼女が死んで、こんな卑怯者の自分だけが生き残るだなんて。
よりにもよって、何で藤木が自分の元へ来たのか怒りすら覚えた。
「ごめんよ…城ヶ崎」
永沢は一言だけそう言って藤木と共に走り出した。
後ろから、永沢を呼ぶサトシの叫びが聞こえてきた。
それでも足を止めずに走り続ける。
「どうして…どうして―――守ってくれなかったんだよ。サトシ君……!」
最後に永沢は、一方的なサトシへの懇願と、それに報いてくれなかった勝手な失望を口にした。
「―――二人行っちまったけど、まあいいか。
んじゃ、いっちょ始めようぜ」
カオスは逃げていく永沢達を見ながら、敢えて手を出す事はしなかった。
あの二人組には、悟空が殺し合いに乗ったと吹聴して貰えれば好都合だ。
今のところ、カオスに悟空を倒す術はない。だから、別の強者と潰し合うようなことになれば、カオスにとって二つの意味で美味しい展開となる。
そして、残された子供達にはカオスがもっといい子になれるように、手伝って貰う。
くすくすと、カオスは悟空を演じたまま狂的な笑みを零した。
「サトシさん……」
最初はお金持ちでキザだけど、人として欠点のない花輪君に惹かれていた事もあった。
でもいつからか、永沢のあのヘンな顔が気になるようになった。
気づけば、ヘンな頭もヘンな性格も全てが気になるようになって。それを裏付けるように当たりも強くなっていった。
(ほんとは…中島という人を殺しちゃったあと……)
永沢と一緒に共通の罪を抱えて。
何処までも深くまで逃げようと足掻いて、足掻くだけ足を救われて落ちていく感覚に。
きっと、幸福のようなものを感じていた気がする。
いけないとは分かっていたのに。分かっていたからこそ、背徳的で自罰的になって自分が滅茶苦茶にされていく感触が癖になり、悦んでいたのかもしれない。
奇麗なものが汚されてしまう。そんな歪んだ変態的な悦びを。
だから、これはきっと罰なのだと思う。
死にたくなんてないし、未練もあるけどそれは受け入れる。
でも、自分を何とか生かしてくれようとした永沢には、こうはなって欲しくはない。
「永沢…のこと―――」
そういえば、たまたま遠足の写真で永沢と二人一緒に写って喧嘩したこともあった。
一緒に線香花火をしたこともあった。
永沢や、その永沢と一緒に良くいる藤木。
笹山さんや、まる子などのクラスメイトとの思い出も溢れる程に蘇ってきた。
(さくらさんや、笹山さん達も…居なければ、良いけど……)
腕の中で冷たくなり、瞼を閉じて二度とそれは開く事はなくなった。
-
「……」
そっとサトシは城ヶ崎の遺体を安置して、カオスへと向き直る。
「ピカピ!!」
「分かってる。ピカチュウ」
分かっている。ここはそういう場なのだと。
羽蛾に出し抜かれて、魔神王と僅かに矛を交えて理解していた。
平気で人を殺めるような人間が大勢居て。何喰わない顔で人を騙せるような人間だっている。
この先、人の死を見る事だって覚悟していない訳じゃなかった。
「どうして、こんなことするんだ!」
それでも、聞かずにはいられない。笑った顔で人を殺せるような奴なんかに理由なんてないと分かっていても―――。
「こうしないと、いい子になれないから」
「なん―――」
ほんの刹那の合間、見せた表情は悟空のものではなく。
偽った狂愛の仮面でもない。
ただの寂しそうな子供の顔だった。
でも、それに触れる隙をカオスは与えてくれなかった。これ以上踏み込まれるのを拒むように、黒炎の球体を無数に生み出してサトシとピカチュウへと放つ。
「かわせピカチュウ!!」
「ピカァ!!」
黒炎の合間をピカチュウは駆け抜ける。
「10万ボルト!!」
「愛をあげる。愛を!!」
まだ薄暗い天空を背に、跳躍したピカチュウの雷光が轟いた。
―――
-
「ドロテア、オレ達もやるしかない」
モクバは抑えていたカツオから離れていた。カツオも暴れる様子はなく、ただ項垂れている。
「のう、モクバや…逃げるというのは」
「サトシを置いてける訳ないだろ!」
モクバは懐に忍ばせていたブルーアイズのカードにそっと触れていた。
いざとなれば、これを使うしかない。問題はそのタイミングを何時図るかだ。
使用に制限がある以上は、今後の事も見据えなければならず。だが温存を優先してこの場の誰かを死なす訳にもいかない。
(俊國の奴とも、取引しちまったけど…もし首輪の解析が思うように進まなかったら……)
ディオがモクバを死なせないよう、無惨に色々と吹き込んでくれたのだろう。
打算込みだろうが、そこには感謝している。
問題は無惨の癇癪についてだ。首輪の解析も、今後の見通しがまるで立っていない。魔神王や、カオスのような襲撃が続けば尚のこと手が回らない。
いずれ痺れを切らし、無惨が優勝に切り替える事も十分ありえる。
それはドロテアも同じではあるが、無惨は更に驚異的な力を秘めている。
何より、無惨はドロテア以上に恨みを買われている。
俊國という名が偽名なのは、モクバもやり取りの中で分かったが、モクバに立場の保証を要求しながら本名を明かさなかったのは、その名を聞きつけ無惨を討たんとする者達が少なくない数いるからだろう。
場合によってはそんな連中と対立する必要もある。しかも、それが復讐や報復の類であれば説得は難しい。
最悪なのが、無惨を殺せればあとはどうなってもいいといった輩だ。こちらの説得など、聞く気など更々ないだろう。
(いや、今はそんなことを考えるな。あいつに集中しないと)
だが、それは先の事だ。
この場を生き延びることが出来たその先の。
(いやじゃぁ! あの悟空とかいうガキ、藤木なんぞとは比べ物にならん程に強いではないか……。
ここで一人で逃げるのも……うーむ、だがモクバを亡くすのは惜しいのじゃ)
渋々といった顔でドロテアも戦いへ意識を切り替え構えた。
前向きに考えれば、一人死人が出たお陰でモクバに何も言われず合法的に首輪も手に入るのだ。
状況は一歩ずつ好転している。このカオスさえ倒すか追い払うか、上手くいなしてここから離脱できればだが。
(なんでだよ……)
カツオはこの場から逃げていく永沢と藤木の背中を見つめながら、やるせなさだけを感じていた。
今すぐにでも殺してやりたいほど憎んでいる。でも、それを追おうとしない自分が居た。
カオスが居たから、動けなかった。それもあるのだろう。
「なんで、なんで…あんな奴にも…親友が居るんだよぉ……!」
藤木とかいう奴も、殺し合いに乗った卑怯な奴だと話は聞いていた。
だから殺したって心は痛まない。痛まない筈なのに。
あんな奴等でも、親友を奪われたら辛いだろうなと思ってしまった。
数時間前に自分が、一番の大親友を奪われてしまったから。
「くそ…! ……く、そぉ……!!」
カオスという特大の厄災を前にしながら、カツオはそれに怯える気力すら残されてはいなかった。
【城ヶ崎姫子@ちびまる子ちゃん 死亡】
-
【E-4 /1日目/早朝】
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス半壊、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、悟空の姿
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:サトシ達を殺す。
1:悟空お兄ちゃんかネモお兄ちゃんの姿で殺しまわる。
2:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
3:…帰りたい。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
【サトシ@アニメポケットモンスター】
[状態]:負傷(中)
[装備]:サトシのピカチュウ@アニメポケットモンスター、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王デュエルモンスターズ
[道具]:基本支給品、タブレット@コンペLSロワ
[思考・状況]基本方針:対主催として乃亜をぶん殴る
0:悟空(カオス)を止める。
1:それでもオレは乃亜の企みを阻止して、ポケモンマスターを目指す!
2:リーゼロッテに注意する
3:羽蛾に対する複雑な感情、人を殺すことはないと思いたい。
4:永沢の事が気になる。
[備考]
※アニメ最終話後からの参戦です。
※デュエルモンスターズについて大まかに知りました。
※羽蛾との会話から自分とは違う世界があることを知りました。
※羽蛾からリーゼロッテのオカルト(脅威)について把握しました。
※永沢達から、中島(名前は知らない)の殺害者について、藤木の特徴をした女の子だと聞かされました。
※サトシのピカチュウのZワザ、キョダイマックスはそれぞれ一度の使用で12時間使用不可(どちらにせよ、両方とも必要なアイテムがないので現在は使用不可)。
それと、殺し合いという状況を理解しています。
【磯野カツオ@サザエさん】
[状態]:ダメージ(小) 悲しみ(大)、永沢に対する怒りと殺意(極大)
[装備]:変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る、グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2、タブレット@コンペLSロワ
[思考・状況]
基本方針:中島のことを両親に伝えるためにも死にたくない。
0:どうすればいいんだ……。
1:生き残ることを模索する
2:エリスとして行動しつつ、ガイアファンデーションの幅を広げる
3:ゲームに乗ったマルフォイには注意する
[備考]
変身を解きました。
持ち前の人間観察でマルフォイとエリスの人となり(性格・口調)を推測しました。
じっくり丁寧に変身をしたため、次回以降は素早く変身できるようになりました。
少なくとも、「カツオのための反省室」「早すぎた年賀状」は経験しています。
ガイアファンデーションの説明書に無惨の名前が載っています。
-
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]健康、高揚感
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品 ランダム支給品0〜1、セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:悟空(カオス)へ対処、逃げたい。
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:妾の悪口を言っていたらあの二人(写影、桃華)は殺すが……少し悩ましいのう。ひっそり殺すか?
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
5:……城ヶ崎が死んだのはラッキーじゃな。藤木と永沢も死ねばよかったのにのう。
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:健康、俊國(無惨)に対する警戒。
[装備]:青眼の白龍@遊戯王デュエルモンスターズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:悟空(カオス)を何とかする。
1:ディオ達と港で合流出来そうにないな……。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※ここを電脳空間を仮説としてますが確証はありません
※ディオ達から、港での合流が叶わなかった場合の再合流場所を、無惨経由で聞かされました。
具体的な場所と時間は、後の書き手さんにお任せします。
-
「永沢君、僕と一緒に殺し合いに優勝しないかい?」
カオス達から逃げ延び、安全だろうと思えた場所まで移動してから藤木は永沢に言った。
いかにフジキングといえど、一人では限界があると認めざるを得ない。
協力者が居れば、より効率よく参加者を殺せるはずなのだ。
それに願いを叶えるといった事が本当であれば、どちらか一人が優勝してもう一人が蘇生させることで二人で生還できる。
……どちらが生き残るかで、絶対に揉めるだろうが。
「よく分からないけど中島って人を、城ヶ崎さんと一緒に襲ったんだろう?
……なんで城ヶ崎さんまで、そんなことしたのか分からないけど、まあいいや。
二人なら、最後まで生き残れるさ……だって―――僕はフジキングなんだ」
藤木目線では、永沢の命を自分が身を張って助けた事でこれ以上ない程の成功体験として、その根拠のない自信に刻み込まれてた。
自分が永沢の命の恩人なのだと、こちらの提案を断る事などないと高を括ってもいる。
数少ない、永沢より上の立場に立てた機会に気分も良くしていた。
「冗談じゃないよ」
吐き捨てるように、永沢は声を出す。
藤木は先ほどまでの自信は揺らぎだしていく。
「別にきみは優勝したい訳じゃないだろう?
乃亜に目を付けられるのが怖くて、殺し合いに乗った素振りを続けているだけなのさ」
「な、なんだって……も…もう何人も襲っているんだ。僕は……」
「フン、何がフジキングだよ。きみ、僕が思っていた以上に馬鹿で間抜けでアホだな」
「あ、ァ…あァ……」
何故、こんなことを言われているのか藤木には分からなかった。
永沢に性格は理解している。絶対に殺し合いに乗っているのだと思っていたし、命も助けたのだから乗ってくると思っていた。
だから断られるなんて思ってもいなかった。
「僕は、絶対に生き延びるつもりだ。どんな形でもいい。生き残って願いを叶えるんだ」
「そ…それなら、僕と組めば……」
「もちろん優勝も視野に入れるさ。でも、もし乃亜を倒す手段が見つかって可能性が高いなら、僕はそっちに乗っても良い。乃亜から願いを叶える方法を奪うのさ。
けど、きみは違うだろ?」
「永沢君、そんなの乃亜に聞かれたら……」
「ほらね? きみは乃亜が怖くて、仕方ないんだ。絶対に乃亜と戦うなんて無理だね」
カオスや魔神王といった存在を見て、永沢が優勝できる可能性は低い。ならば、友好的な参加者を利用して潰し合わせる手もあるが、それよりももう一つ選択肢を増やす事を永沢は考えた。
ここに居る対主催連中が首輪を外し、乃亜の元に乗り込んだ時に上手く立ち回り願いを叶える手段を強奪する。
これも決して簡単な方法ではないだろうが、もしも乃亜が対主催に攻め入られたその時、追い込まれていれば永沢も状況によっては優位に立ち、乃亜に交渉や恐喝をして優勝特典を手に入れる事も不可能ではないかもしれない。
恐らく乃亜も特異な力を除けば、素の身体能力は子供範疇の筈なのだ。
対主催がそれを打ち破ることが出来れば、永沢にだってチャンスはある。
-
「きみのような卑怯者は邪魔なのさ。いざって時に乃亜に脅されて、裏切ってくるかもしれないしね」
「そ、それでも―――」
その時は一緒に乃亜に立ち向かえると。
言いかけそうになって、藤木は言葉に詰まってしまった。
「そもそも僕を助けたつもりになっているのも、殺し合いに乗った罪悪感から目を背けたい為だろ?
きみは何時だって、自分中心で自己保身だけ考えているんだ。そんな奴と手なんか組めないね」
永沢はそう言って踵を翻した。
サトシ達の元には戻る気はない。中島殺害の件もバレた上に、カオスとの交戦が予想され戻れば永沢の死亡率が上がる。
賭けになるが、このまま単独で動いて別の強力な対主催と合流し、身の安全を確保すべきだろう。
そして何としてでも生き延びて、優勝でも乃亜の打倒でも良い。願いを叶え城ヶ崎を蘇生させ、生還させる。
それさえ果たせば、あとはどうだっていい。
(ただ…あの悟空とかいう奴……あいつだけは、手段を択ばないで追い詰めてやるぞ!!)
「永沢君」
藤木は、この男との付き合いをずっと考えてきたこともある。
どう考えても性格も悪く、何一つ良い所のない不細工な男だ。
だけど、やっぱり親友なのだと思っていた。
目の前の親友を前にして、永沢だけは死なせない方法を考えて、それで手を組もうと打診した思いもある。
「僕は……」
親友だから。
遠ざかっていく、玉ねぎみたいな頭を見送りながら、ついぞその言葉を言う事はなかった。
目ざとく、土壇場に紛れて回収した城ヶ崎のランドセルを背負い、藤木も永沢とは別の方角へと歩き出した。
「……フジキングなんだ」
その足取りはキングとは思えない程に重かった。
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【E-4 /1日目/早朝】
【永沢君男@ちびまる子ちゃん】
[状態]健康、城ヶ崎に人を殺させた事への罪悪感と後悔(極大)、悟空(カオス)に対する怒り(絶大)
[装備]ジャイアンのバッド@ドラえもん
[道具]基本支給品、ランダム支給品2〜0
[思考・状況]基本方針:優勝でも打倒乃亜でもどちらでも良いので、生き延びて願いを叶える。
1:自分の安全を確保できる対主催で強い参加者を探す。
2:リーゼロッテを始めとする化け物みたいな参加者を警戒する。
3:フジキング? 藤木君、気でも触れたんじゃないのかい?
4:城ヶ崎……。
5:手段を択ばず、悟空(カオス)を追い詰める。
[備考]
※アニメ版二期以降の参戦です。
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:手の甲からの軽い流血、
[装備]:ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(城ヶ崎の支給品)
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:永沢君……。
1:次はもっとうまくやる
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う
3:正直、美人だから城ヶ崎さんと組みたかったけど、死んじゃうなんてなぁ……。
4:笹山さんが居たら、絶対に守らなきゃ。さくらは…まあいいか。
5:僕は──フジキングなんだ
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投下終了します
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F列を追加した新しい地図を作成しました
ttps://w.atwiki.jp/compels/pages/12.html
元の地形画像を消してしまい
新しく作り直したせいでかなり地形は変わってしまいましたが、施設の配置は旧地図と一緒なので作中の描写と矛盾はないと思います
もしも、ここおかしくねって箇所がございましたら、ご指摘頂けると幸いです
それと一回放送後に施設増やすのもありかなと考えています
なので、このエリアにこの施設くれって要望がございましたら、全部応えられるかは分かりませんが、リクエストお願いします。
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お疲れ様です。
一先ず意見などは後日に。
投下します
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「へぇ〜…しおはさとちゃんって奴と一緒に暮らしてたんか」
「うん、毎日一緒にご飯食べて、お風呂入って、遊んだあと眠るの!
さとちゃん、優しくて、暖かくて…甘い毎日だった……とっても」
「そっか!そのさとちゃんって奴もしおの事探してるだろうし、さっさと帰らねぇとな」
「…うん」
背後でそんなやりとりを聞きながら。
孫悟空と神戸しおの前を先行するキャプテン・ネモは考えていた。
周囲への警戒を怠らぬまま、背後の同行者神戸しおについて、思考を回していた。
(……少し引っかかるな。しおがここに来る前に身を置いていた環境のこと)
しおの立ち振る舞いや格好からして、普通の少女であることは間違いない。
殺し合いに乗っていた精神性は兎も角、少なくとも肉体面では。
となれば大人の庇護下にいなければ生活すらままならない存在である筈だった。
また格好から言っても、もう学校に通っている年齢であるはずである。
だが、彼女の話からは両親の話が一切出てこない。
と言うより、“さとちゃん“なる人物以外の話が一切出てこないのだ。
そしてそのさとちゃんとの関係を尋ねてみると、少しの間を置いてから姉の様な、大切な人という返事が返ってきた。
深くは踏み込まなかったが、その微妙な間からさとちゃんという人物としおが血縁関係でないのは伺えた。
(……まぁ、僕も現代日本で生活したことがある訳ではないし、血縁関係が無くても一緒に暮らすのはそうおかしな話ではないか。
少なくとも、さとちゃんという人物がしおに害意を持って接していたとは思えないし)
ネモ自身、現代での生活経験はない。
彼が英霊として初代マスターに召喚された時には、既に人類は白紙化と言う未曽有の危機に瀕していたのだから。
故に、彼の現代の知識は召喚の際聖杯からインストールされた知識がほぼ全てとなる。
だから、多少の違和感こそ覚えたものの、しおをそれ以上追及することは無かった。
そんな彼の疑念もどこ吹く風で、背後で悟空としおの会話は続く。
「そう言えば、悟空お爺ちゃんは何歳なの?私とかわんない年に見えるけど……」
「え?えーっと…何歳だったかな。オラ、チチと違ってあんまり年とか気にした事無いからなぁ。確か50は超えてたと思うけんど……」
「ふーん、昔から私と変わらない背だったの?」
「いんや、そんな事はねぇぞ。ちょっと前にドラゴ───」
齢五十を超える悟空が何故子供の姿なのかはネモは既に知っていた。
ファミレスで二人で食事をした際に、彼に聞かされていたからだ。
何でも、ドラゴンボールと言う願望器の力で少年化してしまったらしい。
常識で考えればどう考えても眉唾な話であったが、ネモの霊基に刻まれた情報の中に、
人理保証の旅路の最中にそう言った事件が起きた例は幾つか存在している。
故にそう言うモノかと納得していたし、既に聞いていた話であるため聞き流していた。
だが、異変が起きたのは、その直後の事だった。
───禁止事項に接触しています。直ちに行為を停止しなければ首輪を爆破します。
ピーッという電子音と共に。
無機質な機械音声が、悟空の首輪から響き渡った。
「おわ〜ちゃちゃちゃちゃ!?なっ何だぁっ!?」
ネモと悟空の血の気が引いた。
突如降って湧いた生命の危機に、悟空は狼狽して転げまわる。
そんな彼の様を見て、ネモは冷静に何故首輪が鳴ったかに思考を巡らせる。
瞬間移動を行おうとした?否、彼は今この瞬間までしおと会話していた、ありえない。
-
となれば、次に当たりをつけるのは会話内容しかない。
まさか、とネモは一つの思い当たる点を口にする。
「──もしかして、ドラゴンぼー…」
そこまで言いかけた時だった。
まるで口封じをするかのように、ネモの首輪もまた、無機質な電子音が鳴る。
それを受けて、彼は即座に己の分身であるネモ・マリーンを複数体出現させた。
「マリーンズ!しおの護衛と歩哨につけ!……悟空、ちょっとこっちに来てくれ」
「お、おいおい、ネモ〜?」
しおと悟空の返事を待たず、有無を言わせない態度でネモは悟空の袖を掴み、しおに声の届かぬ場所まで引っ張っていく。
そして、周囲の警戒を行った後、話を切り出した。
「悟空、気づいたかい?」
「……あぁ、多分首輪(コレ)が反応したのは──」
ドラゴンボールの事を口したからだろう。
それが、二人の辿り着いた答えだった。
「考えてみれば当然の話だね。優勝賞品に万能の願望器を与える触れ込みで殺し合いをさせているのに、
ただ球を七つ集めるだけで願いを叶える願望器の噂を流布されればサンゴの死滅の様に殺し合いの優勝賞品自体が陳腐化してしまう」
「……その前に乃亜が手を打ったっちゅう訳か。まぁ他に思い当たる事も無いしな。
あれ?でもオラたちは今こうしてドラゴンボールの話をできてるよな?」
悟空は、単純であったが要点を既に捉えていた。
その上で、なぜ今の自分達がドラゴンボールの話ができているかに会話は移行する。
ネモは掌を顎に当てて考える素振りを見せた後、指を二本立てて推論を提示した。
「…真っ先に考えられるのは二つ。乃亜がつい今しがたドラゴンボールという願望器の情報を流布される危険性に気づいた」
「お…おいおい。そりゃ幾ら何でもマヌケすぎねぇか?」
「あぁ、だから僕もこっちの線は薄いと思う。となれば後残るのは───」
「…しおが、ドラゴンボールの事を話されちゃ困る奴だったから……って事か」
ネモは悟空のその言葉に無言で頷いた。
首輪の警告音が鳴ったタイミング的に、そう考えるのが最も辻褄が合うためだ。
「分かんねぇな。しおは此処にいる奴らを皆殺しにしてでも叶えたい願いがあんのか?」
「断定はできない。しおに聞いても知らないというしかないだろうし……
下手をすれば魔女狩りになりかねない。乃亜はそっちを狙ってる可能性もある」
「なるほど…で、どうすりゃいい?」
「……取り合えず彼女にはこれまで通り接して、時々それとなく探る程度でいいと思う。
ただ、ドラゴンボールの事はこれから出会う参加者には話せないだろうね。リスクが高すぎる」
「そっか〜…悟飯の奴も大丈夫かな。いきなり爆破されてねぇといいけど」
今回は話すことを辞めたため警告は直ぐに止んだが。
これからもそうである保証はない。
最悪の場合、次はいきなり首輪を爆破される恐れすらある。
(ドラゴンボールの話は、これから出会ったマーダーに交渉材料になっただろうけど…)
無論の事、ネモも実際にドラゴンボールの事は話を聞いただけなので信じ切った訳では無い物の。
それでも、殺し合いに優勝せずとも願いを叶える事ができるかもしれないというのは、対主催にとって無視できないカードになるはずだった。
結果は、乃亜に先回りして潰されてしまったが。
-
───分かるだろう?
───君たち問題児二人も、僕にとっては所詮操り人形(マリオネット)でしかないんだ。
そんな、乃亜の声が聞こえてくるようだった。
これから更に、自分達の立場は難しい物になるだろう。
しおは幸いにして殺し合いに乗っていても無力な少女であったため、こうして連れまわす事もできるが。
もし、最初に出会った天使の少女の様なマーダーが複数いたら?
例え対処できたとしても、しおの様に連れまわそうと思えば早々に悟空と自分が見張っておけるキャパシティを超える。
見張って置く事ができたとしても、其方に行動のリソースを割かれて脱出に向けての行動が遅々として進まなくなるのは想像に難くない。
事実、しおがいなければ、とっくに当初の予定であった教会に着いていた筈なのだ。
怪我をしていて、最も無力であるしおに合わせたため、行動のペースが明らかに落ちている。
乃亜がもしこれを狙ってしおを近くに配置したのだとすれば、これ以上なく効果を発揮したと言えるだろう。
(海馬乃亜……どこまで君の描いた絵図だ?)
しお達の元へと戻りつつ、ネモの脳裏には、ほくそ笑む乃亜の顔を想起していた。
-
■
「傷は大丈夫ですか?」
二人がしおの元へ戻ってから再び教会へと歩みを進め。
辿り着いた一行が教会で出会ったのは金の髪の、紅いロリータファッションの少女だった。
まるでクリスマスのイルミネーションの様な翼を背に生やした少女が人でないことは、ネモと悟空には直ぐに分かった。
「…ありがと、私フラン。フランドール・スカーレット」
教会に備えつけられた帯を巻かれ、ネモの分身体の一人であるネモ・ナースの治療を受けながら、吸血鬼の少女は短く返礼を述べた。
フランドールは、悟空たちが出会った時には酷い有様だった。
ステンドグラスを突き破って落下してきた様子の彼女の片腕は、肉を破り骨が見えるほどの粉砕骨折していた。
それだけでなく、半身そのものに酷い損傷が見られ、常人であれば危篤になってもおかしくない程の傷を負っていたのだ。
だが、ネモは彼女の状態を検証する事によって、ある一つの気づきを得た。
即ち、彼女が吸血鬼である。と言う事実を。
そうなれば早かった。
意識が朦朧としている様子の彼女の口元に切り傷を作った自らの腕を運んで。
そして、サーヴァントの血を取り込ませた。
そうする事が最適解である事を、霊基の奥底に刻まれた初代マスターとの記憶で彼は知っていたのだ。
その中途で悟空も自らの気を分け与え、結果的に驚異的と呼べるスピードでフランドールの負った外傷は治癒するに至ったのである。
「……何があったか、聞かせてもらえるかい?」
フランが再び行動可能になったタイミングを見計らって、ネモは尋ねた。
何故彼女がこんなことになっているかは検証しておく必要があった。
「……私のお友達のしんちゃんって子と、映画館に行って………」
僅かな沈黙のあと、フランドールはぽつりぽつりと語り出す。
彼女の初めての友の存在の出会いと、その死の顛末を。
だが、途中まで話したところで、違和感に気づく。
「……?あれ、なんで……!?」
野原しんのすけを殺した憎き下手人の事が、何も話せない。
容姿や背丈はおろか、性別すら浮かんでこない。
そこだけ虫食いになっているかのように、記憶が欠落している。
側頭部を抑えて、必死に記憶を振り絞ろうとするフランドール。
そんな彼女を見ながら、悟空とネモは小声で協議した。
「……おい、ネモ。どう思う?」
「嘘は言ってないと思う。それにここに招かれているのが皆子供だと言うなら…
彼女に今起きてる現象には心当たりがある。知識としてだけどね」
ネモの脳裏に想起されているのは一人の英霊が持つ能力だった。
情報抹消、戦闘終了後に相手の記憶から自身に纏わる情報の一切を消去する証拠隠滅能力。
そして、それを持っている子供の英霊となれば一人しかいない。
-
「ジャック・ザ・リッパー…もしボクの様に彼女が此処にいるのなら……
殺し合いに乗っていても不思議じゃない」
今、この会場に存在しているネモは厳密に言えばかつてカルデアで人理保証に協力したネモのコピーの様な存在だ。
厳密に言えば、本人ではない。
だが、英霊ネモと言うサーヴァントは、本来人理保証の功績が無ければ英霊として登録されていなかったであろう特異な英雄でもある。
それ故に、知識としてある程度カルデアに登録されていたサーヴァントの情報を索引することが可能だった。
その記録/記憶から、かつてカルデアにて交流のあったジャックの外見的容姿をフランに伝えてみる。
「銀の髪に、黒いコート…手術痕……そんな、風だったかも……」
何とも歯切れの悪い返事だったが、無理も無いだろう。
むしろ、ここまで完璧な記憶処理であれば、ネモの知るジャックである可能性はさらに高まったと言える。
そして、カルデアでこそそう言った面は抑えられていたものの。
ジャック・ザ・リッパーという英霊は本来非常に危険な反英雄である事を、ネモは知っていた。
「……映画館か。何ならオラたち、今から向かっても───」
「無駄よ。もう…あそこに助けを求めてる子なんて一人もいないもん」
凍えそうになる程、冷たい声色だった。
ネモは、話を聞いた瞬間から無論の事考えは及んでいた。
もし本当にジャックに狙われたとすれば、普通の五歳児が生きていられる筈もない。
映画館に要救助者は、もういないだろう。
しおを除くこの場の全員が認識して、僅かな間、沈黙の帳が降りる。
「…フラン、念のため聞いておきたい。……僕たちと、一緒に来るつもりはない?」
そう、もうフランにとっても、映画館での顛末は既に過ぎ去った過去の事でしかなかった。
大事なのは、きっとこれからで。彼女は、岐路に立たされていた。
だから、ネモは静かに自分達と一緒に来ないかと、誘った。
それが一番彼女の為になると、そう思ったから。
返答は、また僅かな間を置いて返された。
-
「────そう、君はやっぱり。そうするんだね」
返答は、無言のままに放たれた殺意を纏った拳で。
冷厳な瞳に、僅かな哀切の彩を映して。
さっきまで立っていた場所に作られたクレーターと、その中心に立つフランドールの姿をネモは見つめた。
「うん、私は優勝して──しんちゃんを生き返らせるの」
冷たい声色で語るフランドールの瞳は、駄駄をこねる子供の様であり。
例え恩のある者でも、目的のためならば壊すと決めている怪物の瞳でもあった。
今の彼女はきっと、言葉では止める事はできない。
相対するネモと悟空、二者が確信を抱く。
「……馬鹿な真似はやめろっつっても、聞くつもりはねぇみてぇだな」
悟空が一言そう呟いて、しおを庇うように前へと進み出る。
その表情は既に先ほどまでの子供然とした無邪気なものではなく。
これまで幾度となく地球の危機を救った戦士の表情をしていた。
きっと、彼に任せればこの場を収める事は容易だろう。
ネモはその事を疑っていなかった。しかし、だからこそ。
「悟空、すまない。ここは僕に任せて欲しい」
腰のホルスターから454.カスールオートカスタムを抜いて。
静かにネモは、悟空の隣に進み出る。
そんな彼に対して、悟空は怪訝な顔を浮かべた。
だって、そうだろう。
目の前のフランドールは確かに普通の人間よりはずっとずっと強いけれど。
でも、自分なら問題なく制圧できる。それが悟空の見立てだった。
それはネモの方も理解しているだろうと思っていたが故に、彼の意図が見えなかった。
「大丈夫、僕に考えがある。彼女を何とか説得して見せるよ」
フランの事を見据えたまま、短く揺るぎない意志を秘めた声で、ネモは言う。
力で上から押さえつけて、この場で言う事を聞かせるのは簡単だ。
でも、マーダーを見張る事ができるリソースが限られている以上、後々必ず限界が来る。
もし来なくとも、乃亜は殺し合いを硬直させる真似を許さないだろう。
ゲームの性質上、直接介入は控えて出来る限り参加者間の争いを煽る方向で動くだろうが、
それでも自分達二人の首輪を飛ばす方がより円滑に殺し合いが進むと判断されれば、次の瞬間首輪が吹き飛んでいてもおかしくない。
この死と暴力が跋扈する世界で、必ず力に依る抑止は限界が来る。
となれば、後取り得る選択肢は一つしかない。
即ち、フランドールに、道を踏み外そうとしている少女に納得させる。
それを置いて他にない。
「……考えがあるってんなら止めないけどよ、無茶はすんなよ。ネモ」
「大丈夫、しおを守るには君がいればそれで事足りるさ。アオダイの様に自明だ」
「バッカ、オメェがいなかったら誰がオラたちの首輪(コレ)外すんだよ」
「…ふ、それもそうだ。善処しよう」
-
当然と言えば当然の指摘に、思わず苦笑が漏れる。
それでも悟空は此方の意図を汲んでくれたようで、異論を唱えることは無かった。
無論の事、いざとなれば介入するつもりはあるのだろうが……。
それでも彼が自分の言葉を信じてくれた事に、ネモは俄かに勇気づけられる。
だが、対するフランドールは面白くない。
「…私を舐めてるのかしら。貴女より後ろのお兄ちゃん方がずっとずっと強いでしょう?
貴方より先に後ろのお兄ちゃんを壊してから、相手をしてあげる。何なら、二人一緒でも構わないよ?」
フランも悟空とネモの力量を理解していない訳ではない。
目の前の二人を相手に二対一を興じる事には明らかに無理がある事は理解していた。
だが、その無理を通さなければ───
───フラン、ちゃん………
自分が殺してしまった、初めての友達は帰ってこない。
だから引けない。退く訳にはいかない。
意地に近い感情で、フランドールは悟空を出せと要求する。
その赤い瞳に、最大級の敵意と恫喝を籠めて。
「───フラン、君に提案がある」
吸血鬼の敵意を全身にぶつけられて尚。
純白の軍服を纏った幼き船長の態度は泰然としたものだった。
アイスグリーンの瞳は、真っすぐフランの姿を見つめて。
これを伝えれば、今度こそ首輪を爆破されるかもしれない。
そう考えつつも、伝える事に迷いはなかった。
「……乃亜に頼らなくても、僕達はこの殺し合いの終了後に願いを叶える手段を持ってる。
もし、君が野原しんのすけと言う少年を生き返らせたいのなら、僕達に協力してほしい」
紅い瞳が揺れる。
もし、殺し合いに優勝せずともしんのすけを生き返らせることができるのなら。
ネモの言葉はフランにとって、降って湧いた光明であった。
だからこそ、服の袖を片腕でぎゅうっと掴んで。ネモに尋ねる。
どうやって?と。
だが、帰って来た返事は、そんな彼女の期待を著しく落胆させるものだった。
「………それは、話せない。今は何も」
何だそれは、と思った。
手当してもらった事から目の前の二人がいい人なのは、何となくフランにも分かった。
でも今の言葉は、耳障りのいい言葉で此方を丸め込もうとしている様にしか思えなかった。
どうして肝心なところを何も話せない相手を信用できようか。
落胆を通り越して怒りすら湧いてくる。
彼女は無言で、握っていたビニール傘をランドセルに仕舞った。
これだけは、傷つける訳にはいかないから。
次いで、今度は背負っていたランドセルから支給されていた剣を取り出した。
この教会に落下してから、何か傷を癒せるものは無いかと、ボロボロの身体で探した折に見つけたものだ。
最初からこれを使っていれば、しんちゃんを守れたかな。
そんな彼女の心中で漏らした呟きは、当然ながらネモ達に届くことは無い。
-
「……もういい。話にならないわ、貴方。そんなに壊されたいなら貴女から壊してあげる」
もうこれ以上話すことは何もない。少女の態度は、そういった様相だった。
無言で、剣を構える。それに呼応するように、ネモも拳銃のグリップを握り締めた。
静寂の中で、二人の様を見つめていたしおは、悟空に小さな声で尋ねる。
「ねぇ、悟空お爺ちゃん。ネモさん大丈夫かな?」
優勝を狙っているしおにとってはもしネモが脱落すれば喜ぶべきことだ。
だが、傍らの悟空は違うだろう。しおもそれは分かっていたが故の問いかけだった。
悟空はそんなしおの問いかけに対して、ネモとフランの二人から目を離さないまま答える。
「ネモがやりたいってんなら任せてみるさ。いざとなったら、オラが何とかする
だから心配すんな。さ、しおはちょっと離れっぞ!」
「……うん」
しおを不安にさせない様に配慮しているのだろうか、微笑みながら応える悟空。
そして、自分よりずぅっと強い相手にも、堂々と対峙しているネモ。
そんな二人を見て、しおは考えるのだ。
(───私たちの“あい“が最後に乗り越えないといけないのは………)
目の前の二人なのかもしれない。
強く意識しながら、その事を悟られぬように表情には出さず。
力の差は明白であるものの、しかし彼女は、彼女のあまい未来を譲るつもりは毛頭なかった。
-
■
「さて、後ろもつかえてるし──始めよっか。できるだけ、楽しませてね」
月光をその背に浴びて。
悪魔の妹が、目の前の玩具に向けて怪しく笑う。
その手に握るのは一振りの抜身の刀剣、神が鍛えし神造兵装。
湖の騎士が振るったその銘を、無毀なる湖光(アロンダイト)といった。
紛れもなく聖剣であり、人類史の中でも有数の名刀であるその宝剣を、魔なる少女が握る。
膂力、速度共に英霊(サーヴァント)に比肩する少女だ。
その彼女に斬られれば、英霊であるネモであっても絶命は免れない。
「……いいよ。受けて立つ。僕は、海神ポセイドンとアンピトリテの子「トリトン」にして、潜水艦ノーチラスを駆る「誰でもない者」──ネモ。キャプテン・ネモだ」
早打ち勝負に臨むガンマンの様に。
御前試合に挑む侍の様に。
決然とした態度で、ネモはフランドールに相まみえる。
船長の勇敢さを前に、フランドールは笑った。
それは無邪気な子供が新しい玩具を与えられた顔であり。
肉食獣が獲物を前に浮かべる笑みととてもよく似ていた。
あぁ、語る言葉は粗悪な詐欺師の様でも、これから壊す玩具としては一級品だ。
「貴方の血はとっても美味しかったから──血を吸ってから、壊してあげるね」
少女の握る宝剣が、熱を放つ。
その温度は一瞬で百度を超えて、無毀なる湖光を悪魔の舌の様な紅蓮の炎が包む。
炎の名を禁忌「レーヴァテイン」、彼女の持つスペルカードである。
異なる神話体系、英雄譚の宝剣のマリアージュ。
今やフランドールはネモを一撃で致死どころか即死させるだけの力を有していた。
絶死の剣を手に、フランドールが疾走を開始する───!
「──これは。僕もカードを切らないと、手に余るな」
目の前に濃密な死の気配が迫っても、ネモの声は冷ややかで。
そしてとても鮮明だった。
次の瞬間、銃声が轟く。本職足るアーチャーのクラスには及ばぬものの、見事な抜き打ちだった。
「チョロいッ!!」
だが、フランドールを止めるには至らない。
聖別された大口径の銃弾を、千度は超えているであろう炎剣で弾く。
弾幕ごっこで飛び道具の対処は知っている。
吸血鬼の心臓を射抜く事は、容易ではないのだ。
そして、銃と言う武器の性質上、距離さえ詰めてしまえばそう怖くはない。
一太刀で斬り伏せて、血を頂き、後ろに控える悟空との戦闘に向けた燃料とする。
既にフランにはその算段が立っていた。
二発三発、次弾が襲ってくるものの、正面からならばさほど労せず対処可能だ。
このまま押し切る。
「───さよなら」
ガンッ!と恐らく距離的に最後の銃弾をいなし、アロンダイトを振り上げる。
この距離ならば心臓に照準を合わせる前に叩き切る事ができる。
他の場所を撃たれたとしても吸血鬼である自分に致命傷にはならない。
返す刀でネモを斬り伏せてお終いだ。
例え肉を切られても、骨を断つ。
その意志の元、フランはアロンダイトを振り下ろした。
振り下ろそうとした。
-
「───っ!?」
それと殆ど同時に。
ネモの足元から、猛烈な速度で水が飛び出してきた。
猛烈な速度と圧力のその局地的な濁流は、マッハ3に達するとまで言われるウォーターカッターに酷似していた。
突如現れたネモが仕掛けた罠と、フランの炎剣が激突する。
当然、勢いはフランの方が遥かに強い。強いが故に──炎剣が一瞬で水分を蒸発させ、猛烈な圧力を生み出す。
結果──二人の間の空間が爆ぜた。水蒸気爆発を起こしたのだ。
「くっ──!」
圧力によって後退を余儀なくされ、水蒸気によって僅かな間視界が遮られる。
それが、合図だった。
フランの吸血鬼としてヒトを超えた視力が、水蒸気の向こうのネモが何かを取り出したのを捉える。
「何を出そうと…次で終わりにしてあげる!」
フランは臆さない。
このバトルロワイアルに連れてこられてから初めての敗北を喫したものの。
あの時はしんちゃんがいた。守らないといけない友達がいた。
でも、今の自分は一人だ。その背に守らないといけない枷は無い。
独りの自分に、壊せないものはない。その事を強く思いながら──少し開いてしまった距離を詰めるべく走る。
「MOOOOOOOOOOOOOッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
そんな彼女を出迎えたのは、勇壮なる神牛の嘶きと、防御壁の様に広がった雷廟であった。
「なっ…!?きゃああああああッッッ!!!」
突如として現れた二頭の牛と、その牛たちが発生させた雷に対処できず。
雷撃の直撃を受けて、フランドールは苦悶の声を上げた。
自身の肉の焦げた匂いを嗅ぎながら、夢中で後方へ後退する。
そして、仰ぎ見る。突如として目の前に現れた戦車(チャリオッツ)を。
「悪いね、フラン。騎兵なのに乗る物一つないんじゃ片手落ちだろう?」
御者台に鎮座し、手綱をしっかりと握り締めて、ネモはフランに告げた。
彼が操る戦車の名は『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』
征服王イスカンダルこと、アレキサンダー大王の愛騎である。
これは元々神戸しおに支給されていた支給品であったが、魔力も乗り物を操った経験も無い彼女ではとても操り切れない代物だった。
だが、今の操縦者であるネモは違う。
彼の騎兵としての格を示す騎乗スキルは最高位のA+ランク。
その気になれば神獣から極音速戦闘機まで乗りこなす事ができる。
(それでも、他人の宝具を使うなんてまずできないけど…ここは乃亜の小細工の感謝かな)
ネモの本来の宝具であるノーチラス号は現在発動できない。
騎乗物を奪われた騎兵など、帯刀を禁止された侍に等しい。
そんな中で、同じギリシャ神話体系である神牛の戦車を得たのは、ネモにとって間違いなく僥倖であった。
制約として魔力消費が劣悪になっており、普段使いは出来そうにないが──
裏を返せば、戦闘時には切り札として問題なく使える。
これは『誰でもない者(ネームレス)」…彼の英霊としての性質も関係しているだろう。
何しろ彼は異なる世界線では全ての英霊達の頂点。
七騎の決戦存在である冠位(グランド)の資格さえ得るのだから。
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「………余り、ワクワクさせないでもらえないかしら」
そんな、先ほどと比べれば数段以上厄介さを増した敵手の威容を見て。
仰ぎ見る吸血鬼の少女が浮かべるのは、笑みだった。
あの戦車をどうやって壊そうか、今はその事しか、彼女の脳裏には存在し得なかった。
臆する気配など、カケラほども感じない。
全力で、目の前の少年を破壊する。
時折同じ幻想郷の存在からも気が触れていると称される彼女の性分では、
守るよりも、壊す方がずっとずっといくつもの考えが浮かんでいた。
そして、その事は船長の英霊も察していたけれど。
それでも、彼女をここで説得する事を諦めてはいなかった。
ここで説得を諦めてしまえば、例えこの場での争いに勝利したとしても。
彼女は優勝を諦めず、遠からず自分達の手を離れて人の命を壊すだろう。
そうなってしまえば、もう彼女は後戻りできなくなる。
彼女を殺して止めるしかなくなる。
それは、野原しんのすけと言う少年も、きっと望んではいないはずだから……
だから、そんなしんのすけという少年が浮かばれない未来は、絶対に阻止する。
「───マスターも、きっと同じ選択をするだろう?」
想起するのは、自分が座に刻まれる切欠となった二代目のマスター。
橙色の髪をした、過酷な運命の中で、それでも諦める事を良しとしなかった少女。
彼女と駆け抜けた日々は、記録だけとなった今でもこの霊基の奥にある。
故に彼もまた、自らの想いを決して退くことは無い。
繋がる筈のなかったそれぞれの想いは交差し。
人間の子供はおろか、魔術師(マスター)のレベルでも介入できる段階を飛び越えて。
紛れもなく、聖杯に選ばれた英雄(サーヴァント)の領域の戦いが幕を開く。
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【B-6 教会内/1日目/黎明】
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:ダメージ(中)、左翼損傷(修復中)、精神疲労(大)
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:友達になってくれたしんちゃんと一緒に行動、打倒主催
1:優勝して、しんちゃんを生き返らせる…?
2:手始めに、目の前の三人を壊す。
2:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
[備考]
※弾幕、能力は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
【無毀なる湖光@Fate/Grand Order】
円卓の騎士、ランスロット卿の愛剣である神造兵装。
決して刃毀れせず、魔力を有する者が抜けば剣を抜いた間に全ての能力を上昇させ、ST判定において成功率が2倍になる。
竜退治の逸話を持つため、竜属性を持つ相手に対して追加ダメージを負わせる。
【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:満腹、腕に裂傷(処置済み)、悟飯に対する絶大な信頼と期待とワクワク
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:ネモが考えがあってやりたいってんならやらせてみるさ。ヤバくなったら助けてやる。
2:悟飯を探す。も、もしセルゲームの頃の悟飯なら……へへっ。
3:ネモに協力する。
4:カオスの奴は止める。
5:しおも見張らなきゃいけねえけど、あんま余裕ねえし、色々考えとかねえと。
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、しおに対する警戒心
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(50発)@HELLSING、ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、
ランダム支給品1〜2、神戸しおの基本支給品&ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:フランドールは、ここで止める。
2:教会→図書館の順で調べた後、学校に向かう。
3:首輪の解析のためのサンプルが欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおを警戒しつつも保護はする。今後の扱いも考えていく。
6:教会で、しおの手当もしてあげる。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(中)全身羽と血だらけ
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:天使さんに、やられちゃった怪我の治療もした方がいいよね。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
【神威の車輪@Fate/Zero】
古風な二頭立ての戦車で、征服王の代表的な宝具。
その戦闘能力は近代兵器でいうなら戦略爆撃機に匹敵する。
牡牛の蹄と車輪が虚空を蹴れば、その都度アーサー王の渾身の一撃に匹敵するであろう魔力とともに紫電を迸らせ、雷鳴が響き渡る。
御者台は防護力場に覆われており、ジル・ド・レェの怪魔の血飛沫を寄せ付けなかった。
制限により誰でも扱う事が出来るようになっているものの、ただの子供が乗りこなせる代物ではない。
魔力の消耗も激しくなっており、普段使いは先ずできない。
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投下終了です
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投下ありがとうございます!!
悟空がしおちゃんと、お爺ちゃんと近所の女の子みたいな関係で接してるのは和みますね。
ロリショタばかりなんで結構新鮮な掛け合いです。ただネモの考え通り、親父も最悪だし治安も悪いしと相当荒んだ境遇なんですよね。
そんなしおちゃんを説得できそうなドラゴンボールを、ピンポイントで封じてくる乃亜君。ちゃんと参加者の動向監視しながら、毎度楽しそうにボタンをポチポチしてるのかもしれない。
早速、その弊害として「でぇじょうぶだ。DBがある!」が出来ずにフランと交戦となってしまったわけですが、ネモの説得方法が気になるところですね。
あと偶然かもしれませんが、しおちゃんの支給品が牛なのは、この娘とさとちゃんの名前の元ネタが、神戸牛と松阪牛だからかなって思ってフフってなりました。
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軽くゲリラ投下します
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―――グレーテル(先客)と入れ違いだったらしいな。
「とんでもねえ、クソガキみたいだが」
つい数分前の光景を舌打ちしながら、リルトット・ランパードは思い起こしていた。
金色の闇。リルからすれば、ただの痴女ビッチのイカれレイパーの殺人鬼を退け、だが同行者の鈴原小恋が裸にひん剥かれた状況。流石に放置しておくわけにもいかず、たまたま近くにあった施設、海馬コーポレーションに衣類を求めて訪れた。
そこまでは良いのだが、海馬という人物の趣味かエイリアンみのある頭部をしたドラゴンの銅像達の間に、少年の生首が晒されていた。
小恋が悲鳴をあげそうになるのを手で口を抑え、目の付かない場所に追いやってから、首の処分を終えて、ようやく一息ついているのが今のリルであった。
この悪趣味なオブジェを置き去った馬鹿ガキは、一体何処のどいつなのか、考えるだけで面倒になってくる。
「お……おねぇちゃん…さっきの……?」
「忘れとけ。カボチャみてーなもんだ」
幼い小恋にとってはトラウマものの光景であった事は想像に難くない。
リルは面倒そうに、ぶっきらぼうに吐き捨てる。
戦いの経験など皆無な子供のメンタルケアなどガラでもないしする気もない。
多少はその気持ちを鑑みて、同情くらしはしてやるが。
「……しかし、海馬って奴はどんだけ、このドラゴン好きなんだよ」
海馬コーポレーション社内を適当に散策して分かった事だが、このビルの主は至る所にこの青眼の白龍と呼ばれるドラゴンを模したインテリアを社内に設置していた。
この会社がほぼ実質運営しているカードゲームの看板キャラらしいが、どう考えても社長の私情が混じっているとしか思えない。
(この会社の社長、よその会社のキャラを我が物顔で使ってんのか?)
よくよく見てみると、版権元にインダストリアル・イリュージョン社と書かれていた。
「あ、このひと…きれいだよ」
声にまだ覇気はないが、青眼以外にも貼られていたポスターに写ったブラック・マジシャン・ガールを見て、少しだけ小恋は元気を取り戻していた。
良くも悪くも子供で切り替えが早いのは、リルにとってもありがたいことではあった。
「クリクリ〜」
「すごーい…このくりぼーって、ほんものみたいだね」
他にも、この会社そのものが非常に子供向けの娯楽施設として優れているのも、小恋のトラウマを和らげている事の一因だろう。
目の前に浮かんでいる、毛むくじゃらの真ん丸な目をしたボールに手足をくっつけたような緩いモンスター。
これは、ソリッドビジョンとやらを用いたイメージの投影。言うならば、科学で作り出した幻覚だ。
だが、リルを以てしても思わず手を伸ばし、触れないことを確認しなければそれが幻だと認識できない程の真に迫った幻覚。
涅マユリや浦原喜助に匹敵しうる技術を、人の身で創り上げたとは。
しかもそれを、多種多様なモンスターが登場するカードゲームのイラストを顕現させる為だけに、注ぎ込んでいるのだ。子供からすれば、大はしゃぎしてもおかしくはない。
本音を言えば、リルもポーカーフェイスを崩さないまでも、少し楽しかった事は否定できない。
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「そんだけに分からねえな…本当にこのビルを作った奴と、乃亜に何か関係があるのか?」
ソリッドビジョン等の技術、悪用すればいくらでも使い道はある。現世での戦争にも大いに利用できるだろう。
だが実際にはアミューズメントとして、この会社は活用しているようだ。
リルの中での印象に基づいた考えだが、乃亜の意地の悪さとガキっぽさ、何よりあの幼稚な悪辣さでこれ程の娯楽施設を一から作り上げるとは考え辛い。
名前からして乃亜の会社かと考えていたが、むしろ別人の作った会社をそのままこの島に持って来たかのようだ。
「……で、お前なんだそりゃ」
「かわいいでしょ!」
ここに来た一番の目的は会社内を楽しむ事ではなく、小恋の服を探す事だったのだが。その目的は達することは出来ただろう。
「ぶらっくまじしゃんがーるのようふく!」
「他にマシな服ねぇのか、クソ」
何かのイベント用に保管されていたのか、ブラック・マジシャン・ガールを模したコスプレを小恋はチョイスしていた。
如何にも魔法使いな帽子。
豊満な乳房であれば、方から胸の上辺が露わになり、見せ付ける様に太腿を大胆に露出した衣装。
辛うじて、幼女向けアニメのヒロインの服と言い張れなくもないが、あまり一緒に連れて歩きたくはない。
「もういっこあったから、おねえちゃんもきようよ!」
「嫌に決まってんだろ」
「そっか…じゃあこっちのかいばーまんの……」
「どっちもいらねえよ!」
軽く小恋をあしらいながら、リルは考える。
場所の特定は出来ないが、そう遠くはない場所で誰かがやりあっているようだ。
霊圧の高さも判別がつかず、強さを測ることも叶わない。
さて、どうするか。
適当に辺りをうろついてみて、戦闘があれば介入してみるか? 対主催とやらに恩を売れるなら悪くない。
だが迂闊に首を突っ込んだ相手が、それこそ死神の隊長格、破面の十刃、リルと同じ滅却師の星十字騎士団のような強者であった場合、最悪死ぬことになる。
かといって、参加者との合流を拒んだままでは情報で後れを取る。今後優勝を目指すか脱出をするにしろ、それらを見極める情報は必須だ。
(ここで、少し張るか……)
ふと横を見れば小恋もうとうとと眠たそうにしていた。こんな時間だ、普通の子供なら寝ている頃合いだろう。
丁度いい。海馬の名を持つこのビルは、相応に参加者の目を引くはずだ。
人の往来は、別の施設よりは多くなることだろう。
ここで待ち伏せし、相手の力量と危険度を図りつつ接触するか避けるかを判断し、可能なら情報を引き出す。やばそうなら逃げる。
あと、ついでに小恋も少し寝かせてやればいい。
眠気に負けた小恋を背負いながら、リルはある部屋を開けた。
そこには辺り一面にモニターが広がり、会社内部のあらゆる場所の映像を映し出している。
(こんだけでかい会社だ。まあ、あるだろうとは思ったが)
監視カメラを利用すれば、侵入者をいち早く察知できるというわけだ。
これを利用しない手はない。
「さて、鬼が来るか蛇が来るか」
小恋を椅子に寝かせた後、リルも適当な椅子に腰掛けドーナツを掴み上げ口に放り込む。
その視線はモニターの映像画面に注がれていた。
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【E-7 海馬コーポレーション/1日目/黎明】
【リルトット・ランパード@BLEACH】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、若干の敏感状態
[装備]:可楽の団扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、トーナツの詰め合わせ@ONE PIECE、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:脱出優先。殺し合いに乗るかは一旦保留。
0:海馬コーポレーションで待ち伏せし、参加者と接触を図る。
1:チビ(小恋)と行動。機を見て適当な参加者に押し付ける。
2:首輪を外せる奴を探す。
3:ジジ達は流石にいねぇだろ、多分。
4:あの痴女(ヤミ)には二度と会いたくない、どっかで勝手にくたばっとけ。
[備考]
※参戦時期はノベライズ版『Can't Fear Your Own World』終了後。
※静血装で首輪周辺の皮膚の防御力強化は不可能なようです。
※ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵の頭は処分しました。
【鈴原小恋@お姉さんは女子小学生に興味があります。】
[状態]:精神的疲労(中)、敏感状態、ブラック・マジシャン・ガールのコスプレ@現地調達、就寝中
[装備]なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:みのりちゃんたちをさがす。
0:ZZZ……
1:おねえちゃん(リル)といっしょにいる。
[備考]
※参戦時期は原作6巻以降。
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投下終了します
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イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、雪華綺晶、美遊・エーデルフェルト、シャルティア・ブラッドフォールン
クロエ・フォン・アインツベルン、リップ=トリスタン、ニンフ、野比のび太、グレーテル、孫悟飯、結城美柑
予約します。延長もしておきます。
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失礼、トリップを付けていませんでした
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、雪華綺晶、美遊・エーデルフェルト、シャルティア・ブラッドフォールン
クロエ・フォン・アインツベルン、リップ=トリスタン、ニンフ、野比のび太、グレーテル、孫悟飯、結城美柑
改めて予約します。延長もしておきます。
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期限までに間に合いそうにないので、一旦予約を破棄します。
キャラの拘束、申し訳ありませんでした
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ゲリラ投下します
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「さくらさんに、謝らないと」
薄暗い教室の隅で、乾紗寿叶は小さく呟いた。
つい数時間前、自分に好意的に接してくれた温かく優しい女の子。
そんな彼女に失礼な事をしてしまった。
さくらだけではなく、その友達の知世という少女にも。
あんな素敵なコスチュームを、紗寿叶はぞんざいに扱ってしまったのだから。
同じ、衣装に触れてきたコスプレイヤーとしてあるまじきことだ。
「……っ」
深呼吸し震える肩を掴みながら、意を決してドアを開ける。
「乾か」
「日番谷君……」
「あいつらは先に行った」
「……そう、なの」
当然の話だ。紗寿叶とさくら達が出会ってから、一時間近く経っている。
二人は人を探しているのだから、ここに長く留まる筈はない。それくらい、普通なら分かることだろうに。
「馬鹿ね。私」
そんな長い時間、ずっと無意味に引きこもっていた自分に苛立ちすら覚えていた。
「ごめんなさい、日番谷君」
こんな自分を、ずっと守ってくれるように教室の前に静かに居てくれた日番谷冬獅郎にも、申し訳がなかった。
「別に気にしちゃいねえよ。俺も休みたかったし丁度いい」
きっと、自分はこの殺し合いの中では運のいい方なのだと、紗寿叶は思う。
会って数時間程度なのに、こんなに気を遣ってくれる頼もしい参加者に出会えたのだから。
-
「…しっかりしないといけないわね」
だからこそ、このまま日番谷に頼り切ってはいけないのだろう。
戦いこそ、どうあっても助けにはなれないが、それ以外の事で少しでも役立てるようになりたい。
どんなに辛くても、絶対に負けずに生意気に笑うシオンのように。
(今は…あまり考えたくないわ)
ふと頭を過った女児向けアニメの登場キャラを思い浮かべ、それが元太を殺害した魔法少女と被って見えてしまった。
以前なら、紗寿叶の心の拠り所になった魔法少女(シオン)の姿が、恐怖に塗り替えられてしまっていた。
「なあ、乾」
「どうしたの?」
「元太の事で気を病むな、なんて言ったところで割り切れねえのは分かってる。
でも、お前はまだ生きてんだ。自分の夢を捨てちまう必要はないんじゃねえか」
「でも…元太君を死なせて……」
「あいつは、何人も夢の途中で死んじまった奴等を見てきたんだと思う」
ほぼ毎週のペースで、殺人事件を見てきたと語っていた元太。
眉唾な話だったが、今になって思い返せばそれは本当だったのだろうと、日番谷は考えていた。
そうでなければ、紗寿叶の窮地に割り込むような真似を小学1年生で取れる訳がない。
「俺も死神だからな。死んだ奴等は沢山見てきた。
まだまだ、やりたいことがある。未練を残してきた死者は少なくない」
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人の死には日番谷も数え切れぬほど触れてきた。
天寿を全うした老人であれば、本人も納得し尸魂界へ逝く事も多い。
だが若者や子供、強い未練を残す者は違ってくる。この世に留まり、それが時として虚として変異し現世の人間を襲い食らいだす。
それら虚を狩り、尸魂界へと送るのが死神の務めだ。
そんな死に近い仕事をしてきている以上、思う所も多くある。
「そんなツラをさせる為に、あいつは死んだわけじゃねえだろ」
元太も子供ながらに、江戸川コナンという少年が解決した殺人事件に立ち会い、人の未練に触れてきたのだろう。
紗寿叶にそんな風になって欲しくなく、だから庇うような真似にも出たのかもしれない。
ここでは死者の姿は見えない為に、日番谷にその意図を聞き出す術はない。
だから日番谷の願望込みの、推測からくみ上げたものになってしまうが。
「ありがとう…日番谷君」
紗寿叶は笑ってくれていた。
もしかしたら、元太が内心では紗寿叶を恨んでいるとも限らない。そんなことはあり得ないと考えたいが、人間の内面を完全に読み取るのは難しい。
けれども、彼女の今の表情があの少年の本望であればいいと、日番谷は心の内で願っていた。
紗寿叶も日番谷が自分の為に、憶測を絡めて自分を励ましてくれているのは分かっていた。
死神で紗寿叶よりも、ずっと歳を重ねた大人なのだろうと。面倒を掛けてしまっていると思う。
「ええ…コスはやめないわ」
美遊(あこがれ)への恐怖はまだあるけれど。
一人の男の子が助けてくれた命と、目の前の死神がそれを捨てるなと背中を押してくれたから。
「それに、ちゃんとさくらさんに謝らないといけないわね」
「ああ…」
日番谷は心底安心したような笑みを零した。
憧れは理解から、最も遠い感情だと否定されたこともあった。確かに日番谷が護ろうとした雛森桃は、藍染惣右介に憧れを抱き、彼を何一つ理解しないまま何度も殺されかけた。
憧れは、その人の目を曇らせるのは否定のしようはないだろう。そして、その曇った目が真実という光に眩む、残酷な光景も目にしてきた。
だから紗寿叶にも雛森のようにはなってほしくなかった。
だが、少しは自分の言葉で立ち直ってくれるのなら。
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「日番谷君…この刀、見て貰えないかしら」
恐怖はまだある。日番谷が傍に居なければ平静さも保てない程、精神も弱りきっている。
それでも、今出来ることを紗寿叶なりに考えて、自分達の武器になりそうなものを日番谷に見せてその判断に委ねる。
これが現状の紗寿叶のやれるだけの行動だった。
「説明書を読むと、飛梅という刀みたいなんだけれど……日番谷君の氷輪丸というのよね? その刀と一緒で名前を呼ぶと―――」
「とび…うめ…だと?」
―――どういうことだ?
日番谷の耳には、紗寿叶の声はもう届かなかった。
己の斬魄刀があるのは分かる。不覚を取って拉致されたのだから、帯刀していた氷輪丸も一緒だろう。
だが、飛梅があるということは。その所持者にして使い手の雛森も、殺し合いの場に呼ばれたのか?
(もし雛森が…斬魄刀もなしにシュライバーとやり合えば……勝ち目はねえ)
最悪の想定だが、副隊長とはいえあの白の狂獣を前にして命を繋ぎとめられるのは、それこそ卍解を取得した隊長格や、黒崎一護などの規格外染みた強者以外はありえない。
いや、仮にシュライバーでなくとも位置も距離も分からず漠然と感じ取るだけだが、この島には強大な霊圧を放つ存在が無数にいた。
決して雛森が弱いわけではないが、一人でこれらの猛者を相手にするのは絶望的だ。
それでも、まだ殺し合いに呼ばれていた方が希望は持てていたかもしれない。
隊長格にも匹敵するような強者が対主催に居て、雛森と合流して協力関係を築いてくれるのなら、戦闘の補助であれば飛梅がなくとも鬼道の天才的な腕前がある。そう易々とは殺されることはないだろう。
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(最悪なのは…乃亜が支給品として飛梅を回収した時に、雛森を―――)
ありえない話ではない。雛森が名簿に記載されていなかったとして、それは単に参加者としての選別から外れただけなのか、あるいは殺し合いの開幕以前に、乃亜が葬ってしまったからではないのか。
用があるのは武器だけで、所有者が目障りであればそれを殺さない理由はない。
(雛森ッ……!!)
殺し合いなんかを開き、高笑いする子供だ。その時、抵抗してきた雛森を嬲り殺しにしたかもしれない。
「日番谷君? どうしたの…」
「……悪い、何でもねえ」
紗寿叶の説明によれば、解号さえ口にすれば誰でも始解を使用できるらしい。
試しに紗寿叶が詠唱し、飛梅の形状が変化していた。
刀から対話もせず、名前を聞き出さず、説明書に従った手順に沿い始解を解放する。通常の斬魄刀では考えられないが、これが飛梅を模したレプリカの可能性もある。
それでも、乃亜が未知数な技術を使い改造を施したかもしれない。
涅マユリは自分の斬魄刀に改造を施し、剣技では遥かに劣る日番谷と切り結んでみせた。前例がある以上、否定はしきれない。
「……日番谷君、私は戦いだと何の役にも立てないけど、不安なことがあるなら…話くらいなら聞けるわ」
露骨に話を逸らされた。
間違いなく、一瞬焦燥した表情を見せていた日番谷の不安を、少しは和らげてあげたかった。
紗寿叶が日番谷に掛けられた言葉で、少しでも前向きさを取り戻せたように。
もしかしたら、何か彼に言ってあげられたかもしれないから。
「俺なら大丈夫だ。
とにかく、お前ももう少し休んどけ、寝る子は育つって話だ」
急に心を開けなんて言うつもりもない。
たまたま会って数時間の仲だ。友達なんて、とても言える間柄でもないし、当然恋愛感情だって存在しない。
(この刀の本当の持ち主の娘…とても大切に想われているのね)
それだけ大切な人、家族とかだろうか。
そんな人物の武器だけがこの場にあるということに、不安を覚えないわけがない。
ただの所有物なら盗まれたくらいで考えられるが、武器となれば基本的には常に所持している。乃亜がそれを無理やり奪ったとしたら、その後の事くらいは紗寿叶でも想像が付いた。
もしも、紗寿叶が日番谷の立場なら、もっと取り乱していた。自分の大事な妹、家族にまで乃亜の手が及ぶなんて考えもしたくない。
少しくらい、不安を口にしても罰なんて当たらないだろうに。
(私を不安にさせないように…そういうことよね)
この島の中では、それなりに年長の方なのに。まったく頼りない自分を情けなく思った。
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【G-5 小学校/1日目/早朝】
【乾紗寿叶@その着せ替え人形は恋をする】
[状態]:健康、殺し合いに対する恐怖(大)、元太を死なせてしまった罪悪感(大)、魔法少女に対する恐怖(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2、飛梅@BLEACH
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
1:魔法少女はまだ怖いけど、コスはやめない。
2:妹(178㎝)は居ないと思うけど……。
3:さくらさんにはちゃんと謝らないと。
4:日番谷君、不安そうだけど大丈夫かしら。
[備考]
原作4巻終了以降からの参戦です。
【日番谷冬獅郎@BLEACH】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、卍解不可(日中まで)、雛森の安否に対する不安(極大)
[装備]:氷輪丸@BLEACH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2、元太の首輪、ソフトクリーム
[思考・状況]基本方針:殺し合いを潰し乃亜を倒す。
0:小学校でしばらく休む。
1:巻き込まれた子供は保護し、殺し合いに乗った奴は倒す。
2:海馬コーポレーションに向かい、乃亜の手がかりを探す。
3:美遊、シュライバーを警戒。次は殺す。
4:紗寿叶が気掛かりだが……。
5:雛森は無事なのか?
[備考]
ユーハバッハ撃破以降、最終話以前からの参戦です。
人間の参加者相手でも戦闘が成り立つように制限されています。
卍解は一度の使用で12時間使用不可。
【飛梅@BLEACH】
解号は弾け飛梅。
始解状態では七支刀の形状に変化し、火の玉を放つことが出来る。
以外に威力は高い。
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投下終了します
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無惨様と魔神王予約させて頂きます
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トリップがついていませんでしたので改めて
無惨様と魔神王予約させて頂きます
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美山写影、櫻井桃華、フリーレン
ハーマイオニー・グレンジャー、リーゼロッテ・ヴェルクマイスター
予約します 延長もしておきます
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予約を延長させてください
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イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、雪華綺晶、美遊・エーデルフェルト、シャルティア・ブラッドフォールン
クロエ・フォン・アインツベルン、リップ=トリスタン、ニンフ、野比のび太、グレーテル、孫悟飯、結城美柑
再予約します、延長もしておきます
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大変申し訳ありませんが予約を取り消します
キャラ拘束済みませんでした
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投下します
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「……それで、ロンったら本当にしょうがないんだから。比べて、ハリーはとても勇敢でね」
「ふふふ…分かった。ハーマイオニーはハリーが好きなんだね」
「なっ!? ど…どうしてそうなるのよ!! 違うわ。ハリーとはただの友達で……」
ボレアス・グレイラット邸の脱出から一時間ほどして。
未だ不安の拭えない子供達の為に、フリーレンがヒンメル達や現在旅を共にしているフェルン達の話をした。
釣られて櫻井桃華が活動しているアイドルのあるある話を始め、そこから話が広がっていきハーマイオニーがホグワーツと、それに関わる冒険の話をした。
それを聞いていたフリーレンは、ハリー・ポッターの武勇伝を意気揚々と話すハーマイオニーを見て、疑念を確信へと変えた。
「隠さなくても良いんだよ。そっか、そうかー…」
「もう…! 違うわよ!!」
むふーとしながら、勝ち誇った笑みを浮かべるフリーレンに顔を真っ赤にするハーマイオニー。
その二人のやり取りを眺めながら、桃華は少し首を傾げていた。
「ハーマイオニーさんが好きなのは…ロンさんという方では?」
「僕もそんな感じがしたけど」
桃華に同意するように、美山写影も頷いた。
それを見て、フリーレンは思う。この二人、逆張り大好きなんだなと。
普通に考えて、ハーマイオニーが好きなのはハリーでしょと。
変な賭け事をして、危ない目に合わなければいいが。
「二人とも、無謀な賭けをして借金とか背負わないようにね?」
「えぇ……?」
「だから、ロンのことなんて…どうでもいいじゃない…そんなんじゃ」
ハリーの時より意識してるような口ぶりだった。
―――凄く、分かりやすい反応してるのに気付かないんだ。
桃華と写影が同じことを思っているのにも気づかず、フリーレンはその確信を揺らがす事はなかった。
「もう私の話は良いでしょう!」
「……そうだね。そろそろ朝だ。明るくなったら、辺りを少し調べてみようか」
楽しい時間ではあるけれど、それがずっと続くわけではない。
ここは殺し合いの場で、その真っただ中に居るのだから。先程、顔も知らぬ襲撃者から非難し、移動してきたばかりだ。
殺し合いからの脱出のための調査も、行わなければならない。
「そう…ですわね」
桃華の顔に陰が差した。
必要であることは分かっていても、例えば首輪のサンプルを回収するのなら、それは既に死んだ参加者から取らなくてはならない。参加者の死の容認にもなる。
この島の中を出歩けば、殺し合いに乗った参加者との接触も起こり得る。この家でじっとしていても、事態の好転にはならないのは分かってはいるが、感情としては気が滅入る。
「大丈夫、暗い顔はしなくていいよ。私が居るんだから」
グレイラット邸から脱した時のように。フリーレンは断言してみせた。
自分が居る限り、ここの子供達には手は出させないと。そう暗に示すように。
ヒンメルがここに居て、不安に駆られた子供達を見たならば、きっとそう言うだろうと。
-
「フリーレン」
「―――!」
この場に響くはずのない声が、フリーレンの耳に届いた。
それは既に死したはずの英雄のもの。
容姿は人間換算で70以上までに老いたそれとは違い、髪が奇麗に抜け落ちた頭皮にはサラサラとした髪が生い茂り、背丈も高いまま若さを保ち続けている。
偽物だろうと、フリーレンは瞬時に見破った。
「ヒンメル?
……攻撃を受けたのか」
グレイラット邸の時と同じように結界を張っていた。
侵入者があれば即座に気付けるはずだったが、相手はそれを易々と破ってきている。
結界に気付いた上で、フリーレンに悟られぬよう逆に結界を改変し、攻撃の当たる距離まで接近してきた。
フリーレンも結界を過信していた訳ではないが、完全に裏をかかれた事になる。
恐るべき強敵だろう。
「どうしたんだい。そんな顔をして」
―――幻影鬼(アインザーム)に近いか。
目の前のヒンメルの形をしたものには一切返事をせず、過去に交戦した魔物を思い返す。
人を捕食する偏食家の魔物で、相手の記憶を読み取り、大切な人の幻影を作り隙を誘い殺す。
「フリーレン」
ヒンメルの手が触れた。
姿形だけではない。物理的な触感すらも再現している。
人の手の柔らかさと、温かみが手を通してフリーレンにも感じ取れた。
記憶を読み取るだけではない。これは、五感にすら干渉されている。
「厄介な―――ッ!?」
腹部に熱い感触が奔る。
それが痛みであると実感した時、目の前のヒンメルが剣を抜いていた。
確かに魔王を倒した勇者ヒンメルならば、これだけの神速を以てフリーレンを殺める事は可能だろう。
激痛に苛まれながら、この不覚を事実として受け止めフリーレンは分析をやめる事はしない。
(痛覚まで、かなり忠実に再現しているのか)
先ず目の前のヒンメルは襲撃者が化けたのか、あるいは同行していた写影達をそう見せているのか?
下手に攻撃を仕掛けて、同士討ちを狙うのなら更に面倒な事になってくる。
(凄い痛いけど、我慢してかなり集中すれば、手に杖の感触が戻ってくる…)
強く意識すれば、手には杖の感触が蘇ってくる。視界には写らないが、間違いなく王の杖はフリーレンの手にある。
強力な幻覚だが、反面強く精神を保ち続けていれば幻覚は幻覚であると、見破る事は難しくはない。
(王の杖が使えれば話は早かったんだけど)
魔法を打ち消すこの杖が本領を発揮さえすれば、既にこの魔法を解除していたところだ。
初戦から、これを使わざるを得ないシャルティアという最上位の強さを持つ相手と出くわしたことを、心底災難に想う。
(現実にある杖の感触……これはイメージとしては悪くない。試してみるか)
魔法はイメージの世界だ。
僅かだが、杖の感触はフリーレンにとっては大きな現実との?がりだ。これを辿る事で、現実の世界に戻るイメージを構築しやすい。
-
「きみは僕に会いに来てくれなかったね」
どんな窮地に陥ろうと、決して冷静さを損なわないフリーレンの思考が止まった。
「50年だ」
この手の魔族や魔物の搦手は散々知り尽くしている。
ただ、言葉を模倣しているだけだ。それが人の隙になると、分かっていれば獣の鳴き声となんら変わらない。
それでも言葉である限り、人はそれを脳で理解しようとしてしまう。フリーレンとて、長寿故に表に出す事は少ないが、感情はある。
だが同時に魔族の言動など、取り合う必要などないと完全に割り切ってもいる。その為、感情を揺さぶられようと、それが致命的な動揺や隙に繋がる事はない。
「僕はきみをずっと、待ち続けていたというのに。
もっと、話したいこともあったんだ」
「……」
だがこれは違う。
この魔法の使い手は魔族ではない。人だ。心を理解し、そして弄び嬲る事に特化した人間だ。
「きみに比べて、僕達の寿命が短いことぐらい分かっていたんだろう」
これは幻覚に過ぎない。
全ては、偽りのまぼろしだ。
「本当に薄情だな」
頭では理解している。それなのに、フリーレンの大きな悔いを抉るようにヒンメルの口から、恨みの籠ったような声が漏れる。
ただの声が。魔族の言葉なぞに、惑わされることもなくなったはずのフリーレンにとって、それは剣に刺された激痛よりも尚も鋭く、その身を貫くようだった。
ただの模倣なら、言葉を習い人を学習し動揺を誘う魔族の典型的な手法であれば。
フリーレンが怒りこそ覚えても、その心にまで傷を刻み込まれるはずはないのに。
「…思いの他、堪えるな」
呟き、そのままフリーレンは目を閉じた。
―――
-
(高度な結界を張る術師ではあったけれど、思いのほか楽に仕留められたわね)
幻惑の中に囚われた子供達とフリーレンを眺めながら、リーゼロッテ・ヴェルクマイスターは退屈そうにしていた。
最初にこの民家の周囲に結界を察知した時点で、少なくとも数時間前に矛を交えた魔術師ロキシー・ミグルティアに匹敵か、更にそれ以上の使い手が居ると予測できた。
丁度いいタイミングだ。幻燈結界の制限の確認も行いたく、相手も相応の実力者であるなら実験動物としても丁度いい。
効果範囲が絞られている為、適用範囲にまで近づけるよう結界に細工し気付かれずに接敵するまでに、些か手を焼いたが、結果としてこちらに気取られずに幻燈結界の発動に成功した。
(あとは…維持の時間も短くなっているか)
これも予想はしていたが、常時発動させることは叶わず、時間の経過で強制解除されるようだ。
発動までに多量の魔力と溜めが要るとはいえ、それを維持し続けれることが可能であれば、ゲームバランスを崩壊させるおそれがあるからだろう。
そう易々と制限を重ねる乃亜の力に、最早呆れすらしてきたものだ。どのような手段を用いたのだろうか。
(さっさと、始末して終わりにしましょうか)
普段ならもう少し甚振り、相手の苦悶の表情を嘲りながら惨たらしく殺していたが、時間の制約がある以上は遊んでいる暇もない。のび太や羽蛾と違い、個人的にも特に何の感情も抱いていないのだから。
だから、ある意味幸運なのだろう。
これ以上、悪夢の中で親しい人や大切な思い出を汚され蹂躙され尽くされる前に、リーゼロッテの炎に包まれて焼き死ねることは。
魔女の惨殺方法の中では、まだ楽な死に方だ。
「さあ、お休みなさい」
軽い動作で手を翳し、そこから黒い炎が広がっていく。
炎は民家全体を包み込むほどの大きさにまで増大し―――。
―――地獄の業火を放つ魔法(ヴォルザンベル)
ほぼ同じ規模の炎が放たれ、黒炎が相殺された。
「粗悪な魔法だ。幻覚の出来も悪い。お前の悪趣味さが滲み過ぎだ」
衝突した炎同士が消失し、その中心に立っている少女。
「本物との遜色のなさだけでいえば、幻影鬼のほうが優れていた」
フリーレンは黒魔術の最高峰たる幻燈結界を貶してみせた。
「あの炎、面白い魔術ね。私の知るそれとは体系も異なる。
強いイメージの具現化かしら」
(地獄の業火を放つ魔法を見ただけで、そこまで見破ったのか。やり辛いな)
「幻燈結界をどう破ったの?」
「魔法はイメージの世界だ。幻覚の中でも、私の手には杖の感触が残されていた。
現実世界に戻るには、十分な想像材料になる」
これは大きな失態だと、リーゼロッテは受け入れた。
幻燈結界の行使下において、フリーレンが杖の感触を取り戻したこと。
それが唯一にして、そして最大の抜け穴となったのだろう。リーゼロッテの収めた魔術とは別の体系で発展した魔法であるが為に、その致命的な隙に気付けなかった。
「だとしても…そんなものをイメージさせられるほど、温い幻覚ではなかったはずだけれど」
「……種族の違いで人よりも、エルフには効き目が薄かったんだろう」
幻燈結界はあくまで心を殺す魔術。人であれば耐えられないその責め苦も、人類ではあるが人ではないエルフならば耐えられる。
感情が希薄であるエルフだからこそ、人間であれば精神を崩壊させる幻燈結界内にて常に冷静さを維持し続けられた。
-
(まあ、本当は魔法の解除自体は支給品を使ったんだけど…流石に初めて見た、これだけの大魔法を数分で解析は無理だし。
私の言っている事を真に受けて、私には幻覚が効かないとイメージしてくれれば、大分楽になるんだけど)
より正確には、フリーレンは杖の感触から懐に忍ばせていたもう一つの支給品を強くイメージし、幻覚世界の中でそれを取り出し発動することに成功させた。
フリーレンに支給された玩具のような複数枚のカードの内の一つ。
そのまんま、イラストと共に魔法解除と描かれたカード。効果も名の通り、あらゆる魔法を打ち消す強力なものだ。
王の杖といい、乃亜のフリーレンに期待する立ち回りを察することが出来る。その通りに動かざるを得ないことに、あまり良い気もしない。
「所詮は人外(エルフ)か。
人の心などありはしないというわけね」
後に辿る正史では、皐月駆により同じく幻燈結界を突破された際には激しく動揺したものの、今のリーゼロッテは制限下にある為、これも想定内であった。
「あのヒンメルとかいう勇者の坊やも可哀そうに。
貴女なんかの為に50年も無駄にして、こんな、心を持たない―――」
―――地獄の業火を放つ魔法(ヴォルザンベル)
業火を放ち、その先の言葉を紡がせはしなかった。
リーゼロッテは魔法陣の障壁を張りながら、その黒のドレスに僅かな焦げ目を付けた以外は無傷で立っている。
フリーレンもこの一撃でが有効だとは思わない。だが、聞いていて勘に触った。
「お前がヒンメルを語るな」
気に入らない。
あんなもので、ヒンメルを知った気でいることに腹が立つ。
『撃て』
本物かそれを忠実に再現したヒンメルなら、そう言うとフリーレンは知っていたからだ。
「貴女こそ、何年も共にいたのに、あの坊やを語れないでしょう?」
魔族以上に悪意と嘲りを込めて、魔女は微笑を返した。
同じ人類だからこそ、より急所を突いてくる。
「魔族より、質の悪い女だ」
全く、酷く不快だ。フリーレンは心中で舌打ちをしていた。
冷静さは損なわず、だが心には明確な怒りを。それは魔族の動揺を誘う、表面をなぞっただけの言葉ではなく、生きた人間が人の心も感情も理解しているからこその、純粋な言葉の暴力だ。
あの魔女はそれを繰り返してきたのだろう。魔族ですら、基本的には捕食という目的があり、その為に策を弄する。生きて行く為の手段の一つでしかない。
けれども、リーゼロッテは違う。ただ愉しみと暇つぶしの為だけに、平然と人を貶め傷付け殺めている。まさしく生きた災厄だ。
-
「みんな、目は覚めた?」
僅かに後ろを見る。
幻覚から覚め写影達が頭を抑えながら、現実の世界へと帰還してきていた。
貶しこそしたが、幻燈結界はおぞましくも恐ろしい魔法だ。
乃亜が課した制限下にあった為に、その拘束力が低下していた。さらにフリーレンが通常の人間ではない為に、効き目が落ちていたのはあるだろうが。
もしも、万全の状態で行使されれば、フリーレンも突破に手間取るか下手をすれば幻覚に囚われたまま、写影達は幻覚の中で苦痛を味合わせられながら、悲惨な死を遂げていたに違いない。
「……いまの、なんでしたの…バンジーの紐が切れて、落下していくのが」
「桃華、今のはきっと悪い夢なんだ。映画館のあのマジシャンの時みたいに」
「冷静ね…貴方、あんなもの見て……私…ロンに磔の呪文を……」
「二度目だから、少し慣れたんだよ。……少しフリーレンから離れよう」
写影もここに来て、こんな短時間に二度も幻覚を食らわされるとは思いもよらなかった。
だが二度目だけあって、写影はこの手の悪夢に耐性のようなものが出来たのか、すぐに受け入れ、目が覚めてから意識を切り替えるのは誰よりも早い。
現実に引き戻されても狼狽えていた二人を落ち着かせ、それでいてフリーレンの邪魔にならないよう距離を空けた。
「良い判断だ。
絶対に今は手を出さないで」
「わ…分かったわ…フリーレン」
動揺したハーマイオニーだが、その意味をすぐに理解した。
(なんなの…この人達……)
二人の魔法使いを前にして、頭から冷水を掛けられたように寒気がする。
一目で格の違いを思い知らされたのだ。例えれば、ダンブルドアが二人いてこれから殺し合うかのような。そんな緊張感を覚えた。
写影や桃華は支給品の力で特殊な力を得て、歳の割に機転も利いて高い頭脳も度胸もある。
ハーマイオニーだって、追い込まれこそしたが単独でヘンゼルに対処してここまで一人で生き残れるほど、子供としては高い魔法の才覚がある。
けれども、そんなものでは一切太刀打ちできない程に。
この二人は、自分達とは遥かに次元が違うところにいるのだ。それをこの中で誰よりもはっきりと明確に、ハーマイオニーは理解してしまった。
「四人掛かりでも構わないわよ?」
「お前は、とても悪辣だ。存在し息をするだけで意味もなく害をなす」
リーゼロッテの意識が、全てフリーレンに向けられている事を確認する。
この挑発と煽りを込めた言葉にリーゼロッテは思いの外、その心に刺さったようだ。
これで、交戦中に写影達にヘイトが向く可能性は低くなった。懸念すべき対象が減る事で、フリーレンも戦いやすくなる。
「お前は私が葬送する」
最後のダメ出しとして、敢えて自らの二つ名を口にし眼前の魔女へと宣戦布告する。
敵は自分一人であると、宣言するように。
「私を葬るか、面白いわ。貴女―――とても面白いわよ」
乗ってきたと、フリーレンは確信をより強めた。今の眼中には自分しか写っていないと。
同時にここからが修羅場だと、フリーレンはより強く身構えた。
「教えてあげるわ。私はリーゼロッテ・ヴェルクマイスター、人類鏖殺を願うバビロンの魔女。
世界を救った勇者の仲間が、世界を滅ぼさんとする魔女を葬る……。
良い皮肉よ。少しは、愉しませなさい」
「……そうか、馬鹿げた願いだ」
魔王を倒した勇者一行の一人にして、歴史上最も多くの魔族を葬り去った魔法使い。
神を呪い、世界に災厄を振り撒いた不老不死にして、欧州最強最古の魔女。
それぞれの世界において、間違いなく伝説として謳われた魔道の高みへと昇りついた二者が対峙し、二つの獄炎が世界を染め上げるように迸り、激突した。
―――
-
(こいつの魔力…)
数十の炎を放ち、その全てを相殺されながらリーゼロッテは、訝しげにフリーレンを見つめる。
交戦の中で僅かな魔力の揺らめきがリーゼロッテに違和感を覚えさせた。
非常に自然な魔力の流れだが、本当に注視しなければ分からぬほどに、僅かな揺らめきが見える。
様子見にいくつかの炎を放ってみたが、フリーレンは容易に対処してみせていた。
「変わった技術を体得したのね。魔力を誤認させるだなんて」
「なんのことだか」
「とぼけなくていいわ。それに貴女、見た目以上に年増でしょう」
魔王のように一目でないとはいえ、片手で数えるだけの魔法の応酬を見ただけで、フリーレンの魔力制御を見破ってきた。
これだけで、かつて戦ってきた魔法使いの中でも最上位に位置する使い手だと認めざるを得ない。
それにフリーレンの技量から、研鑽した年数も逆算までしてきた。豊富な魔法の知識と、高い技術と分析力を持つことに他ならない。
(あの女、魔法の使い方から見て800歳といったところか、私より200以上歳は若いけど…腕は良い)
心の奥底でシュタルクのババア呼びに対して刻んだのと同じように、リーゼロッテにも密かにカウントを一つ加算しながらフリーレンも分析を続ける。
「ッ!?」
自らに迫る炎を、防御魔法で生成したガラスのような障壁を展開し防ぐ。だが、その中の一つの火球がフリーレンの足元へと飛び、爆散する。
火球が弾けた勢いに乗り、砕けた床の破片が防御魔法を貫通した。
(防御魔法の弱点に気付かれたか)
フリーレンの頬に一筋のかすり傷が付く。
彼女の世界の防御魔法は、魔法に対しては鉄壁の防御だが反面物理攻撃には脆弱だ。
(それでも、並の戦士や魔物の物理攻撃位なら防げるのに。余波だけで、とんでもない威力だ。
魔力量も規格外で、出鱈目過ぎる)
魔力の流れを視認する内に、リーゼロッテの胎内に特殊な魔力の源があるのが確認できた。
何かの特殊なアイテムを埋め込んだのだろう。そこから、無尽蔵の魔力が供給されている。
フリーレンも膨大な魔力を持つが、上限は有限だ。必ず限界が来る。
だがリーゼロッテは無限の魔力を自在に行使可能だ。制限もあってか出力は大分下げられているようだが、高い火力という優位性は損なっていない。
(早めにケリを着けないと、不味い)
時間はあまり掛けられない。有限(フリーレン)が無限(リーゼロッテ)と戦い続ければ、いずれ魔力切れを起こすのはどちらかは自明の理。
より的確により精密に、攻防の中の僅かな隙を見出し即座に仕留める。
―――人を殺す魔法(ゾルトラーク)
余波で巻き上げられた破片を避けつつ、杖を一振りし光線を射出する。
かつて、魔王軍の魔法使い腐敗の賢老クヴァールが開発した貫通魔法。
今でこそ一般魔法として解析、解明され尽くされ魔法使いの間で浸透したものの、あらゆる防御を無視し、数多の人間を屠り去った凶悪な魔法であることに変わりはない。
それもあくまで、フリーレンの世界においての話であり、一切の対応策もない初見であるならばその脅威性が揺らぐこともない。
リーゼロッテが魔法陣の障壁を展開し、それを光線が貫通し胸を光線が貫いた。
「素晴らしい魔術ね。
速さ、防御の貫通、優れた汎用性……これほど洗練された、美しい魔術を私は知らないわ。
貴女が作ったの?」
リーゼロッテは胸に風穴を開けながら、心底興味深そうに尋ねてきた。
胸の傷が修復を始めているのを見て、フリーレンは相手が数百年歳を重ねた理由を理解した。
胎内にあるアイテムが彼女に魔力と、そして不老不死の肉体を与えている。
(不死身か…)
如何な負傷も再生する為、急所を貫こうが、生半可な攻撃だけでは殺し切れない。
「きっと、それを作った奴も地獄の底で喜んでいるだろうね」
「そう、死んだのね…一目会ってみたかったけれど」
―――私の記憶を何処まで、読んでいる?
リーゼロッテの会話の節々で、フリーレンが注視したのはそれだった。
ヒンメルを幻覚で再現した以上、自分が勇者の一行として魔王を撃破した事は知られているのは確実。
では、フリーレンが使用する魔法は? 重要なのは、フリーレンの手札がどれだけ筒抜けになっているか。
-
(現実の時間と幻覚世界がリンクしているかは分からないが、まだ日は昇り切っていない。
そう長い時間掛かっていたわけじゃないな)
人を殺す魔法やそれを開発したクヴァールに触れた言い様からして、それらを知っている様子はなかった。
あくまで悪夢を見せる為にフリーレンの名前と、ヒンメル絡みの記憶を僅かに引き出したのだろう。
記憶を見たとしても、数分ほどの短時間でフリーレンの千年以上の人生を全て把握するのは現実的とも思えない。
リーゼロッテの幻覚の使い方から考えても、対象のトラウマなどをピンポイントで引き出し、心の傷を抉るのを好んでいる。
それらに必要がない情報は然程知られていないと、考えても良いだろう。
(私の使う魔法が全て読まれていないのなら、少しは付け入る隙もあるか)
無論、リーゼロッテが全てを知った上でわざとフリーレンをそう誘導した可能性もある。
だがそれも考慮した検証も重ねた結果、その可能性は低いと結論を出す。
―――地獄の業火を放つ魔法(ヴォルザンベル)
「またそれなの? もっと別の魔術を見せなさいな!!」
高い威力だ。規模も大きいの炎の魔術だが、火の魔術を得手とする彼女にとっては
小火にも等しい。
人を殺す魔法に比べ速度も遥かに劣っている。
避けるのも当然、防ぐのも容易だがリーゼロッテは敢えて何の処置も施さないまま、生身を晒し自ら炎へと突っ込む。
全身を炎が蝕み、高熱が肌を溶かす激痛を味わいながら、その足は止まる事はせず炎を突き破りフリーレンへと肉薄する。
再生を終えた顔面に笑みを浮かべ、右手から伸びた黒の爪を振り下ろす。
(前衛もこなせるのか)
杖を構えその斬撃を受け切り、続く追撃を後方に飛び退き回避する。
背後の壁を魔法で粉砕し、フリーレンは屋外へと飛び出す。
同じく後を追い、リーゼロッテが振るった爪の斬撃を飛行魔法で上昇し避ける。そのまま、フリーレンは上空から、複数の人を殺す魔法の光線を放った。
それは左肩を貫き、右の膝を砕き、リーゼロッテを僅かに跪かせる。一瞬垂れた首を狙い、無数の光線が迸る。
残された右手を翳し、炎の波を拡散するように空へと打ち上げる。光線の軌道は炎との接触により僅かに逸れ、リーゼロッテの首の真横をすり抜けた。
「貫通するのなら、逸らすのも有効のようね」
その刹那、違和感に気付き首を傾け、光線が横切る。そして腹部に焼けるような痛みを覚える。
もう一つの光線がリーゼロッテの腹部を貫通していた。
「……なるほど」
避けた光線が軌道を修正し、追尾してきている。
担い手の意識のまま、その動きを反映するのだろう。
縦横無尽に展開した光線が、相手を狙い定め着弾までお追い続ける。まるで呪いの魔弾のように。
「避け続けるのも面倒だし」
再生された左手と右手を翳し、魔法陣を形成する。そこから面で攻めるよう範囲を大きくした黒炎を放出した。
「貫通など出来ない程、圧縮した魔力で飲み込んでくれるわ」
より濃密に魔力を圧縮させた炎は光線を飲み込み、瞬く間に消失させていく。
ゾルトラークに対する単純にして明快で最善の回答だ。
その身に埋め込まれた虚無(クリフォト)の魔石の膨大な魔力を存分に発揮し、攻撃魔術を行使しゾルトラークが貫通する前に多量の魔力の塊で圧殺する。
(魔力切れを無視して攻撃されるのが、これだけ厄介とは)
魔法の論理的解明を放棄した、もっとも原始的な解決策。
貫通しきれない程の強大な魔力で理不尽捻じ伏せる。
ただ、そんな芸当が出来るのは無限の魔力を持つ、リーゼロッテくらいのもの。
……あるいは、全知全能の女神に最も近いとされる神話の大魔法使いゼーリエならば、可能かもしれないが。
(本当に嫌な相手だ)
フリーレンの魔法を全て炎で薙ぎ払いながら、リーゼロッテはその侵攻を緩めない。
同じく空を舞い上がり、じわじわと距離を詰め逃げ場を潰し、フリーレンを追い込む。
-
(でも、こいつ攻撃には長けてるが、防御は下手だ)
ここまで三度、人を殺す魔法を当てている。
一度目は胸という急所を、二度目は肩を三度目は膝を。
あまりにも迂闊過ぎだ。魔法使いに限らず、死地で戦いに身を置く者であれば、決してありえない。
それら全てが死に直結することを、長年の戦いを経験した猛者であればあるほど、知っている。
魔族も人も例外なく、必ず避けなければならないと頭に体に技に本能に刻み込む。
だが不死身の体ならば別だ。
如何なる傷も癒すのであれば、避ける必要も防ぐ必要もない。
その為、防御という概念が欠落している。
(だが、膝を潰した時、首を狙った攻撃だけは避けようとしていた。やはり、首輪周りは再生力を強く制限されているのかもしれない。そうでなければ、乃亜が首輪の爆破で奴を殺す事も出来ない)
明確な欠点と弱点が明らかになれば、勝ち筋もいくつか見えてきた。
「ッ!?」
お互いの魔法を打ち合いながら距離を詰め、リーゼロッテの振るう爪を杖でいなす。
「小競り合いも飽きたわ。そろそろ、貴女の中にある臓腑を見せて貰おうかしら」
数度の打ち合いで、フリーレンの杖が爪に跳ね除けられた。
杖はフリーレンから離れ、虚空を舞う。
手元から杖を離した事で、盾とする杖を失ったフリーレンにリーゼロッテはその爪を突き立て―――。
「ヴェラード……?」
フリーレンに触れる寸前、その姿が変わった。
世界で唯一、愛を誓った筈の男が目の前にいた。
生前と変わらぬ険しい目つきと、使い込んだ鎧を纏って。
そしてそれが偽りであることは分かっていた。同じだからだ。自らも同じ、幻覚を見せ惑わせていたのだから。
「ぐ…っ」
上空のフリーレンとリーゼロッテの下、写影が鼻血を手で止めながら帝具の力を解放していた。
五視万能『スペクテッド』の奥の手、それは対象が最も愛する者を見せる能力。
例えそれがバビロンの魔女であろうと、人である以上は、悠久の時の中から最も愛した者を白日の下に晒す事となる。
それこそが、リーゼロッテが人類鏖殺を引き継いだ宿願の主、金眼の魔王ヴェラード。
「―――」
分かっている。姿形だけを似せただけだ。これは、あのフリーレンに他ならない。
あの下に居る少年が奇妙な道具に力を借りて、自分に見せた幻覚に過ぎない。分かっている。
先にフリーレンを引き裂けばいい。この場の脅威はこの女だけだ。
その後に、子供達を嬲り殺しにして痰飲を下げればいい。
だが、リーゼロッテの手は写影へと向けられていた。
魔法陣が形成され、ただの子度を殺すにはあまりにも多量の魔力を込め、黒炎が練り上げられる。
この瞬間、彼女は合理性よりその激情に身を任せてしまった。
「ハーマイオニー!!」
そして、その未来を写影は予知していた。
名を呼ばれたハーマイオニーもそれが分かっていたかのように、手際よく杖を振るう。
「イモビラス(動くな)!」
「!?」
リーゼロッテの体が硬直する。
対象の動きを止め、その場で動けなくするチャーム。
「……これも別世界の発展した魔術みたいね。興味深い。
それに、見習いにしては悪くないわ。お嬢さん…20年歳を重ねていれば、別だったかもね?」
使いようによっては強力で頼もしい呪文だが、使い手とその対象の格の差があまりにも大きすぎた。
リーゼロッテが軽く魔力を体外に開放するだけで、そのチャームはあっさりと強制的に解除される。
それこそ、最高峰の魔法使いであるダンブルドアか闇の帝王。
または、その闇の帝王との戦いを終えて、後に魔法大臣へと昇進し、別人のようにまで成長したハーマイオニーであれば、あるいはバビロンの魔女にすら届き得たかもしれない。
だが、今この場に居るのは未だ未熟で、その才を完全に開花させていない幼少期のハーマイオニーだ。
「フリーレンさん!!」
だから、通じるのはほんのコンマ1秒ほど。
「上出来だ。三人共」
その僅かな時間のなかで、桃華はウェザー・リポートを呼び出し天候を操作する。
疾風がフリーレンに向かい、その手に導かれるように王の杖が吸い寄せられた。
-
「チッ―――」
写影に向けていた激情を抑え、武器を再度手にしたフリーレンへと向き直る。
既に幻覚は解け、その姿はフリーレンのまま、杖の矛先はリーゼロッテへと向けられていた。
『絶対に”今”は手を出さないで』
思い返せば、あれは今ではない後に、必要な事を為せというメッセージだ。
あの三人の子供達もその意図に気付き、虎視眈々とお互いの役割を分担し打合せ、機を狙っていたに違いない。
『お前は私が葬送する』
あの大それた言動も、子供達から意識を逸らせ連携を取りやすくする為の布石か。
(ゾルトラークか)
杖の先から放たれた光は、先の攻防で何度か見た魔術だ。
狙いは首元、首輪の誘爆か首輪の解除対策に再生力の制限を見越し、首そのものを破壊しリーゼロッテの殺害を目論んでいるのだろう。
そして、やはり速い。
避ける? いや―――。
リーゼロッテ自身、ゾルトラークは賞賛に値する魔術だと認めている。
だが、既にその対処法も見出していた。
写影に放つはずだった黒炎に、より魔力を込めゾルトラークへと翳す。
これで、莫大な魔力の炎の前にゾルトラークは無力化され―――
―――違う。これは。
人を殺す魔法ではない。
これは―――。
炎を解き放ち、そして飲み込まれた光が炎を貫通してきた。
「馬鹿な!?」
人を殺す魔法にはない貫通能力。
これは今までにフリーレンが放ったそれ以上に、改良されている。
魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)。
魔族を殺す為に特化し、改良が施された人を殺す魔法。
フリーレンは、あえて改良以前の方を使用することで、それをリーゼロッテに刷り込んでいた。
彼女が、人を殺す魔法の対処を即座に見出すと予見し、咄嗟の場面で防御に移った時、無意識にその防御手段を実行するように。
ゾルトラークはこの程度で防げると、欺く為に。
この一撃は、避けるべきだった。
高い身体能力、攻撃に長けた魔法、更にはフリーレンの魔力制限を見破る聡明さ。
どれも非常に高水準の魔法使いでありながら、危機意識や防御があまりにも疎か過ぎた。
それを証明するように、光線はリーゼロッテの首へと迸る。
避けるには既に遅く、ゾルトラークを防ぐ防御魔法をリーゼロッテは知らない。
だが次があればリーゼロッテは対処法を見付け、対応してみせただろう。
だが、乃亜に科せられた不死の魔女の唯一の急所である首輪周りを破壊されれば、制限によリーゼロッテは死を迎える。
次など、永劫やってくることはない。
「始原の炎(オムニウム・プリンキビア)ッッ!!!」
本来であれば詠唱を必要とし、溜めが要る発動までに時間を有する大規模な暗黒魔術だが、リーゼロッテは即興で詠唱を破棄し、不完全なままそれを解き放った。
完全な発動であれば、触れたあらゆるものを闇精霊(ラルヴァ)へと変質させ、取り込む防御不可の究極の暗黒魔術。
もっとも、今放ったそれは溜めも詠唱も省いた歪なもの。完全な性能には程遠い。それでも―――。
(ゾルトラークが打ち消される。いや、別の性質に変換されているのか)
魔族を殺す魔法が炎を突き抜ける寸前、その勢いが落ちた。
白の光はその先から黒く染まり、黒炎へと変換する。
始原の炎の完全発動は間に合わないと判断したリーゼロッテはゾルトラークが、自らの世界における如何な存在に分類されるかを即座に解析し、それのみを闇精霊へと変換するように機能を敢えて劣化(とっか)させた。
機能を絞る事により、それはイメージをより強く反映させることにも繋がる。
-
(イメージか…中々面白いアプローチね)
フリーレンの世界の魔法は、イメージが何よりの骨子となる。
如何なる攻撃をも通さぬ衣があったとしても、衣は切れるものだと強くイメージさえすればそれは現実として起き得る。
その魔法体系を、リーゼロッテは独自にアレンジをして取り込んだ。
ゾルトラークを打ち消す光景を強くイメージすることで術式を安定させ、始原の炎の詠唱破棄と発動までの溜めの時間を大幅に短縮させることに成功させたのだ。
「―――ッ!!」
ゾルトラークが消失し、リーゼロッテの炎がフリーレンを飲み込む。
上空を飛行していたフリーレンはそのまま墜落し炎に包まれていった。
「その程度で終わりではないでしょう?」
一瞬、突風に吹かれたかのように炎が揺れる。
「魔力を解放して炎を消したか」
フリーレンを避けるように炎が割れ始めた。
炎の中から、僅かに腕に火傷をおったフリーレンが姿を見せる。
「……本当に嫌な相手だ。戦っても骨が折れるだけだし、お前の魔法は攻撃用ばかりで面白味がない」
溜息を吐きながら、うんざりした口調でフリーレンは呟いた。
「殺傷を目的として、魔道を納めたのは貴女もでしょう?
魔力の制御…実力を誤認させ、その誤差で敵を欺き殺す。
間違いなく、殺める事を前提として、数百年は費やして磨き上げた研鑽の賜物。
それだけの執念を抱かせる存在が、貴女にはあったということ」
「……」
「ねえ、聞かせて? 貴女は復讐を果たしたの」
彼女の顔に張り付いた嘲るような笑みは健在のまま、それまでの冷酷な魔女の他に同類を見付けたかのような喜びも含まれていた。
この場に数刻前に交戦した野比のび太が居たのなら、その時と比べて、きっとリーゼロッテを嬉しそうだと口にしていたかもしれない。
「そうか、お前は……」
リーゼロッテは恐らく人間から、特異な力を得て不死の体となった。
元が人間であれば、その報復対象は人間であるのだろう。
人間が復讐などと口にする時、大体の相手は同族だ。フリーレンの世界では、魔族の割合も低くないが。
だが、人の命の儚さはフリーレンも良く知っている。
不死となり魔女として技量を高め、復讐を果たすだけの力を手にした時には、もう―――。
長寿な種族にとっては、珍しくもない話だ。
復讐かは別として、約束や再会を果たそうと思った人間が、既に死んでいた事など。
「……気持ちは理解するし、同情もしよう」
「……」
魔族と違って、同じ人ではあるからこそ分かってしまう。
何をされたかまでは知らないが、強い憎しみはフリーレンにもある。
「だからこそ、お前はやはり生かしてはおけない」
手にした刃を振るうべき者が消え、残されたその刃で大勢を殺める。
痛い程気持ちは理解できる。だがその為に、八つ当たりを黙認してやる程、お人好しでもない。
「お前の言う人類鏖殺も止める。これでも、私は元勇者パーティの魔法使いだ。
そんな蛮行を、黙って見過ごす訳にもいかない」
他所の世界まで救う義理もないけれど。
勇者(ヒンメル)ならば、必ず止めるはずだから。
「そう…なら、やってみなさい。
貴女が一度は世界を救った勇者の仲間であったというのなら。
―――もう一度ここで世界を救ってみせろ。葬送のフリーレン!!」
「さっきも言った筈だ。
お前は私が葬送すると―――」
対立を決定的なものとして、問答が終わる。
次の瞬間、魔を極めた二者の使い手は、己に刻まれた術式を展開した。
フリーレンの放つ光の放流とリーゼロッテの操る逆巻く黒炎の渦が激突し、白と黒の閃光が炸裂し二人の視界を包み込んだ。
―――
-
(去っていったか)
閃光が消え失せ、視界が明けた時にはリーゼロッテの姿は消えていた。
魔力を探知しても気配を感じない。
しばらく周囲を警戒してみたが、襲ってくる様子もない。まだ潜伏している可能性も高いが、戦いを中断し何処かへ消え去ったのが妥当だろう。
(正直あれ以上戦ってたら、みんなを巻き込まない自信はなかったし、どっか行ってくれたのは好都合だった)
口調と態度は余裕を崩さずにいたが、内心では幾重にも戦闘をシュミレーションし、全員の安全を確保する最善策を模索していた。
(ただ、逃げた訳じゃない……温存を優先して後回しにしたのか)
バトルロワイアルというサバイバル形式の殺し合いだ。
手間の掛かる相手との戦闘を避けて、力を温存し終盤で疲弊した獲物を狩るのも戦術の一つになる。
それもあるのだろうが、リーゼロッテが好んで選ぶような戦術とも思えない。
(それか、目を付けられたか…後で時間を掛けて、苦しめて殺すってとこかな)
ヒンメル達やフェルンとシュタルクとの触れ合っていくなかで、改善されたとはいえまだ人の気持ちには鈍感なフリーレンでも、リーゼロッテが特異な目を自分に向けていたのは分かっていた。
戦いに身を置けば、一方的に因縁を付けられるなどよくある事だ。
(何にしても傍迷惑過ぎる話だ)
いずれ、お互い生き延びたのなら、何処かでケリを着けることになるかもしれない。
(本音を言うと…関係ないとこで、あの魔族と潰し合って共倒れしていて欲しいけど。
…あの二人、私の魔力制御のことも知られてるから、出来れば早期に脱落して欲しいし)
ガッシュ・ベルと共に退けた魔族シャルティア・ブラッドフォールン。
彼女も、何処かの世界では上位に位置するだろう強者だ。
フリーレンがシャルティアからも恨みを買われていそうなのを思うと、まとめて二人で相打ちしてくれると面倒が少なくて済む。
そう都合よく行かなそうなのは重々承知しているが、そう思わずはいられない。
「みんなは…大丈夫?」
警戒は解かないまま、振り返る。
フリーレンの顔を見て、戦いが終わったのだと緊張の糸が切れたのか、写影と桃華は安堵の息を吐く。
「終わったのね……」
ハーマイオニーに至っては、三人の中で一番魔法に造詣が深く、戦いの経験にあったからか戦いの規模を最も的確に把握していた為に腰を抜かし、へたり込んでしまっていた。
「ごめん、三人共…無理をさせたね。みんなが居なかったら危なかった」
「……!」
自分より遥かに強いフリーレンに頼られていると、喜びたいところだが、聡明な写影にはそうは思えなかった。
むしろ逆だ。
『残念だけど、ハッキリ言って付け焼刃の力じゃ戦い慣れている相手には勝てない』
『見習い魔法使いの実戦での死亡率、聞きたい?』
フリーレンに以前言われたことだ。
何度も未熟な戦士や魔法使いが、理不尽に命を奪われる光景を目にしてきたのだろう。
そんな彼女が、自分達を頼って戦力に換算した。頼らざるを得なかった。
僅かな時間接しただけだが、俗ではあるがフリーレンは非常に聡明で合理的。
曖昧な要素ならば、初めから自らの戦力からは度外視する性分だと感じた。
それなのに、例え微弱な誤差程度の戦力でも、加えなければ凌げなかったほどの相手ということだ。
最初に遭遇したドロテアですら、本来ならば抗いようのない脅威であるのに、映画館で遭遇した雷帝や先ほどの魔女に比べれば、外見通り可愛く見えてしまう。
(乃亜は…本当に公平な殺し合いなんて、させる気があるのか……)
この先、自分にやれることはどれだけあるのだろうか。
(フリーレンだけに負担を強いては、いずれ何処かで限界が来るかもしれないし…でも、僕には何が出来るんだ?)
やれるだけのことはやっているが、参加者間の戦力差を目の当りにしたら、生き残れるとは思えなくなる。
ここで一人離れて、フリーレンの負担を僅かにでも減らすのが、最もこのチームに貢献するのでは。
そんな考えにまで及んでしまう。
-
「な、ひゃっ…!?」
耳元に風が吹いて、こすばゆく擽ってくる。
横を見るとウェザー・リポートが召喚され、微小な風を生成しているのが見えた。
「ふふ…少しは肩の力は抜けましたの?」
「も、桃華、急に何を……」
「やっぱり、写影さんの悪い癖ですわ。すぐに根を詰めたり、思い悩むのは」
「……ごめん。顔に出てたかな」
「ええ、とても」
不安にさせてしまったと、写影は強く反省した。
写影はあまり愛嬌のある方ではない。自分でも自覚していたし、生意気な子供だろうとも自覚はしていた。
表情も良く言えばポーカーフェイス、悪く言えば無愛想だ。
そんな自分が表に悪感情を出せば、周りはあんまり良い気もしないだろう。
「だから、その度…私が笑顔にしてさしあげますわ」
その桃華の笑顔に釣られるように、写影は少しだけ口許を緩ませた。
「ああ―――そうして貰えると…助かるよ」
次の瞬間、二人の周りに花畑が広がる。
「フリーレン?」
「良いムードだったからね」
花畑を出す魔法。
名の通り、ただ花畑を出す。ただそれだけの魔法だ。
「アヴィフォース(鳥になれ)」
更にハーマイオニーが杖を振り呪文を紡ぐ。
花弁のいくつかが宙を舞い、それらが小さな鳥となって桃華と写影の肩に乗った。
「まあ…!」
「無機物を鳥に変える魔法か。中々習得が難しそうだ。
やるね、ハーマイオニー」
「貴女ほどの偉大な魔法使いに褒めて貰えるなら、きっとそれは光栄なことね。フリーレン」
「写影もそんなに悲観的になることはないと思うよ。
我ながら、私達悪くないパーティだと思うから」
「……ありがとう。みんな」
悩みが解決した訳ではないけれど、不思議と不安が軽くなるようだった。
-
【H-5/1日目/早朝】
【美山写影@とある科学の超電磁砲】
[状態]精神疲労(小)、疲労(小)あちこちに擦り傷や切り傷(小)
[装備]五視万能『スペクテッド』
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:ドロテアの様な危険人物との対峙は避けつつ、脱出の方法を探す。
1:桃華を守る。…そう言いきれれば良かったんだけどね。
2:……あの赤ちゃん、どうにも怪しいけれど
3:桃華には助けられてばかりだ…。
[備考]
※参戦時期はペロを救出してから。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
【櫻井桃華@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]疲労(小)
[装備]ウェザー・リポートのスタンドDISC
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:写影さんや他の方と協力して、誰も犠牲にならなくていい方法を探しますわ。
1:写影さんを守る。
2:この場所でも、アイドルの桜井桃華として。
3:……マサオさん
4:マサオさんが心配ですけど、今はガッシュさん達に任せる。
[備考]
※参戦時期は少なくとも四話以降。
※失意の庭を通してウェザー・リポートの記憶を追体験しました。それによりスタンドの熟練度が向上しています。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
【ハーマイオニー・グレンジャー@ハリー・ポッター シリーズ】
[状態]:背中にダメージ(小)
[装備]:ハーマイオニーの杖@ハリー・ポッター
[道具]:基本支給品×1、ロウソク×4、ランダム支給品0~1(確認済)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
1:朝の放送と名簿の開示を待った後、ホグワーツ魔法魔術学校へと向かう。
2:当面の間はフリーレン達と行動したい。
3:ハリーやロンがいるなら合流したい。
4:殺し合いするしかないとは思いたくない。
[備考]
※参戦時期は秘密の部屋でバジリスクに石にされた直後です。
※写影、桃華、フリーレン世界の基本知識と危険人物の情報を交換しています。
-
『ヴェラード……?』
写影が見せた幻覚が何なのかは分からないが、その名を読んだリーゼロッテの声に困惑と僅かな温かみがあった。
人類鏖殺という悲願も、先立たれた友の願いを叶えようとしているのかもしれない。
だから、死にたくても死ねない。死ぬ訳にはいかない。
己の矛盾をぶつけられるのは他者しかおらず。故に大勢を殺してしまう。
(あの女にも、先立たれた仲間くらいはいたんだろうか)
ただ一人、フリーレンは誰にも言うことなく、そう思った。
【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(中)、疲労(大)、ダメージ(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品、魔法解除&不明カード×3枚@遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's、ランダム支給品0〜1、戦士の1kgハンバーグ
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティアは次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:1回放送後、H-5の一番大きな民家(現在居る場所)にて、ガッシュ達と再合流する。
5:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
6:リーゼロッテは必ず止める。ヒンメルなら、必ずそうするから。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
※グレイラッド邸が襲撃を受けた場合の措置として隣接するエリアであるH-5の一番大きな民家で落ち合う約束をしています。
【魔法解除@遊戯王デュエルモンスターズ】
使用者以外の全ての魔法の類を解除する。
一度の使用で24時間使用不可。
-
「本当に、とても面白い催しに招いてくれたものね。海馬乃亜」
フリーレンとの交戦を打ち切り離脱したリーゼロッテは語り掛けるように呟いた。
『……でも、何だか早く楽になりたいって顔してそうな気がするんだ』
『お前は私が葬送する』
「フフ…アハハハハハハハハハハハハハ!!」
野比のび太、葬送のフリーレンも…今すぐ、ただ殺すだけでは済まさない。
この殺し合いの中で苦痛を味わった後、さらに絶望を味合わせて殺してやる。
だから、まだ殺さずには済ませておく。
かつて、世界の終焉を阻止する為、対峙した使徒共。虹のゲオルギウスと草壁操にこそ不覚を取ったが、他の連中は全員凄惨に嬲り殺してやった。
同じように、戯言をほざいたあの二人も、ついでに癪に障る羽蛾も殺してやろう。
そう決意した嗜虐的な笑いは、だが長くは続かなかった。
―――皐月駆と、ヴェラードの名において―――
―――リーゼロッテ、お前を斬る……!!
人類の歴史の終止符を打つ寸前、乃亜によりこの島の呼ばれる少し前。
劫の眼を持ち、ヴェラードの魂を引き継いだ皐月駆という少年と戦闘が始まる、その直前の問答。
あの少年は、いやヴェラードはかつてリーゼロッテに語った理想を、二人が目指した世界を、否定してきた。
あんなものは、ヴェラードではない。リーゼロッテが愛した男では断じてありえない。
だが、リーゼロッテにはそれが断言できなかった。
『お前がヒンメルを語るな』
あの時のフリーレンのように。
間違っていたというのか? ヴェラードを亡くした後、悲願を成就するまでに重ねた数百年間が。
どんな月日が流れても、ヴェラードが自分を否定することなど、ありえない。
「……なんで、なんで…今なのよ。数百年もあったのに…どうして、ヴェラード……」
間違っていたというのか。
数百年間、味わった絶望も悲哀も苦痛も、そして滅ぼした全ての敵も。
それらすべてが間違いであっただなんて。
「認めない。私は…そんなもの、認める訳には…いかない……!」
【H-5/1日目/早朝】
【リーゼロッテ・ヴェルクマイスター@11eyes -罪と罰と贖いの少女-】
[状態]:ダメージ(大、再生中)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×2、羽蛾のランドセルと基本支給品、寄生虫パラサイド@遊戯王デュエルモンスターズ(使用不可)
[思考・状況]基本方針:優勝する。
1:羽蛾は見つけ次第殺す。
2:野比のび太、フリーレンは必ず苦しめて殺す。
3:ヴェラード、私は……。
[備考]
※参戦時期は皐月駆との交戦直前です。
※不死性及び、能力に制限が掛かっています。
※幻燈結界の制限について。
発動までに多量の魔力消費と長時間の溜めが必要、更に効果範囲も縮小されています(本人確認済み)。実質、連発不可。
発動後、一定時間の経過で強制解除されます(本人確認済)。
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投下終了します
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投下しますします
-
シャルティア・ブラッドフォールンとの邂逅と激突を終えて。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、荒い息を吐きながら膝を付いていた。
その身の夢幻召喚は、乃亜の制限によって既に解除されている。
故に今の彼女は、バーサーカーのいで立ちではなく、本来の魔法少女の姿だった。
戦闘を終えて、アドレナリンが退いた身体の、節々が痛む。
散々大火球を浴び続けた体は痛みこそないモノの、体には不快な火照りが熱病の様に纏わりつく。
とは言え、稀代の吸血姫(ドラキュリーナ)、シャルティアを敵に回してこれだけで済んでいる、というのは正しく奇跡的な戦果だ。
尤もそれは当の本人、イリヤにとって何の価値も無い戦功であったが。
地を駆ける彼女の胸にあるのは、早く合流しなければという焦りだった。
(まずは雪華綺晶ちゃんを拾って……のび太さん達と早く合流しないと)
かなりの手ごたえを感じる一撃を下したが、あれでシャルティアが諦めるとは思えない。
そして更に悪い事に、自分が吹き飛ばした方角は、のび太達が逃げた方向と一致している。
そんな中、のび太達と鉢合わせしてしまえば導かれる結果は一つきり。
鎧袖一触、戦いにすらならない蹂躙だ。
そうなる前に、まずは身を潜め、回復を図る必要がある。
闘いの中で負ったダメージは、その身に宿したギリシャ神話最強と名高い英雄の自己治癒力によって回復している。
だが、元々折れた肋骨が肺に突き刺さった、致命的な状態から無理やり夢幻召喚で復帰したような物だ。
幸いにも体の修復は引き継いだ状態で転身は解除されたとは言え。
消耗が無い訳がない。事実イリヤの顔色はお世辞にも芳しい物ではなかった。
だが、それでものび太達と合流するまでは休むわけにはいかない。
彼等を守れるのは、自分だけなのだから。
……夢幻召喚が解除されてしまった今、それが可能かは怪しいが。
『イリヤ様……』
右手に握るサファイアが、身を案じる様に名を呼ぶ。
だが、それ以上は何も言わなかった。
彼女もイリヤが急ぐ理由はこれ以上なく分かっているからだ。
「大丈夫!私、まだまだいけるから、サファイア!!」
身を案じている様子のサファイアに、イリヤは精一杯の笑みを向ける。
サファイアが何を言いたいのかはイリヤも理解していはいる。
しかし、その意図を汲んでいればのび太達が窮地に立たされる恐れがある。
それ故に、今は無理を通すべき時間だった。
そんな彼女が、運命を分ける再会を果たすのは、この直ぐ後の事だった。
■
ルビーが攻撃を受ける前に物理保護を全開にしてくれていたお陰で。
丁度、彼女が今いる民家に飛び込んでくる少し前に目覚める事ができた。
そして、今。
鼓動が、五月蠅い程早鐘を撃つ。
二つの瞳から、熱い物が流れる。
もう、半ば会えないと思っていた。
身体を包む熱などどうでもいい。彼女との再会の時には、何も感じない。
私は、万巻の想いを籠めて、その名前を呼んだ。
「イリヤ……!」
私がそう呼ぶと。
彼女もまた、一瞬の硬直のあとに。
両目に涙をためて。弾ける様な笑顔で。
「美遊……!美遊なんだね……!?美遊……!!」
その言葉に、ゆっくりと頷く。
もう、彼女も私も止まらなかった。
夢中でお互いに駆け出して、廊下越しに数メートルあった距離を一瞬で0とする。
私達は、夢中で抱き合った。
お互いの存在が蕩け合って、一つになる様に。
もうお互いの事を離さないと、誓いあうように。
私の掛け替えのない、たった一人の親友。
この世で二人、世界を天秤にかけられる大切なひと。
「会いたかった……」
エインズワースに人形にされたイリヤの肉体を見た時の絶望は、言葉で言い尽くせない。
でも、今こうして再会が叶った。私の親友はまた、奇跡を起こして見せた。
再会が叶った今、頭の中に浮かぶのはそれだけだった。
エインズワースの事も、殺し合いの事も、その瞬間だけは忘れて居られた。
そう、その瞬間までは。
-
───人、ごろ、しなんて、やめろよ………。
あ、と。
直後に気づいてしまう。
(そうだ、私……私は………)
イリヤと会うために、人を殺してしまったんだ。
イリヤを元の身体に戻すために。イリヤに、ただもう一度会いたくて。
でも、そのイリヤは今目の前にいて。
それの意味する所は、つまり。
あの、鰻重が好きな男の子は。私、は………
───私は、死ななくてもいい人を。
───殺す必要のない人を殺してしまった。ということ?
一瞬だった。
一瞬で、イリヤを抱きしめる自分の手が、真っ赤に染まった気がした。
それに気づいた時、私は自分がとても穢れた者に思えてならなくなった。
反射的に、イリヤをどんと押して、距離を取る。
そうしないと、イリヤまで赤く染まってしまう気がしたから。
私は愚かだった。何もかも。
そんな事をすれば、イリヤがどう思うかは分かっていた筈なのに。
「美遊……どうしたの……?」
心配する感情を顔中に張り付けて、イリヤは私に尋ねてくる。
彼女の言葉に私は応えられなくて。押し黙ってしまって。
その時、やっと会えたはずの親友が、とても遠く感じられた。
地平線の彼方や深い海の底に行ってしまったような、そんな錯覚を覚えた。
『あ、あのー!!イリヤさん!!そんな事よりも大変なんですよ!!
多分、イリヤさんのお友達が───』
見かねた共犯者が。
ルビーが、訝しむイリヤとサファイアから私を庇うように大声を上げる。
そして、イリヤが決して無視できない話を、強引に話題を逸らすように語り始める。
ルビーもまた、あの鰻重の少年を殺した事を受け止めかねているのかもしれない。
その事を示すように、ルビーはいつにも増して饒舌だった。
「のび太さん達が、リップ君と…クロに!?」
『はいー…どう見ても穏便な空気ではなかったデスネー。
クロさんの事ですから、何か経緯やお考えがあってそうなったとルビーちゃんも思うのですが……』
話ながら、ルビーは此方にちらちらと顔(と言っても、何処までが顔に当たるのかは分からないが)を向けてくる。
苦しい誤魔化しだった。
イリヤの表情を見れば、私達の様子に違和感を抱いているのは簡単に分かった。
もし指摘されれば、どんどんボロが出てくるだろう。
……私達がやったことが露見すれば、イリヤは何と思うだろうか。
いや、本当は確認するまでもなく分かる。
彼女はきっと自分のせいで、死ななくていい人が死んだと考えるだろう。
その時のイリヤの心境を想像するだけで、言葉が出ない。
親友に言うべきことも言えずに。
私はただ捲し立てるように、ルビーがクロ達がいるであろう場所や状況の説明をしているのをただ隣で立ち尽くして聞いていた。
「………分かった、私ちょっと行ってくる」
話を一通り聞いて、彼女が真っ先に口に出したのは、誰かを助けるという意志だった。
この殺し合いで初めて出会った人たちなのに。それでも助ける、守って見せる。
私の親友(イリヤ)は、この殺し合いに巻き込まれても、何一つ変わっていなかった。
対する私は、もう取り返しのつかない事をしてしまっていて。
その事を考えるだけで、何だか泣きたくなった。
でも、今は泣いている場合じゃない。それだけは確かな事だった。
-
「……私も行く」
私は、ありったけの贖罪と、決意を籠めて、彼女にそう告げた。
例えあの眼鏡の少年と天使の少女を助けても、鰻重の子が帰って来る事はない。
それは分かっているけど。イリヤが行くというなら、私もいかないという選択肢は無かった。
「……うん。クロがグレて人を傷つけようとしているなら……
姉としてとっちめてやらないと!美遊もお願い、力を貸して!」
クロも、私も、この殺し合いで変わってしまっている。
同じなのは、イリヤだけだ。
でも、クロはきっと、まだ戻れる。きっと引き返せる。私と違って。
だから、あの子の事は止めてあげたかった。
私の様に、彼女の隣にいる資格を失う前に。
『分かりました!今は契約を移す時間も惜しいです!早速向かいましょう!』
『……姉さん?』
ルビーの不可解な提案に、サファイアが訝し気な声を漏らす。
私の共犯者である彼女は、イリヤと再契約しなおす事で万が一にも今、
私達がやってしまったことが彼女に露見するのを避けようとしたんだと思う。
そうなれば、クロを止めるどころでは無くなるかもしれないから。
普段を思えばそれは余りにも不自然な提案だったけど。
イリヤ達にも時間は無いのは事実で。
「いいよ。ルビーがそう言うなら、私は信じる。今すぐ行こう。
雪華綺晶ちゃんも、協力してくれる?」
「……はい!マスターが行くのであれば、私も行きます」
イリヤは、ルビーの提案を飲んだ。
そして、雪華綺晶という、私を助けてくれた人形…この地でできた様子の仲間と視線を交わして。
二人の間には既に、確かに信頼が築かれている様だった。
そして、雪華綺晶の意志を確かめてから、親友は再び私に視線を向けて。
「───行こう、美遊!!」
力強く、私にそう言った。
「……うん、一緒に」
どこまでも真っすぐな、イリヤの紅い瞳。
燃える焔の様な、煌めくルビーの様な、何時も私に勇気をくれた瞳。
今の私はその瞳を、見れなかった。
-
■
中々計算通りにはいかない物だ。
その事を、リップ=トリスタンは痛感していた。
本当ならば、とっくに片が付いていた筈だった。
古代兵器(アーティファクト)と見られる翼を持っているとは言え、手負いの少女。
それと、如何にも愚図そうで、実際自分の攻撃を避けられなかった眼鏡の少年。
否定者狩りの組織、UNDERの一員としてそれなり以上に経験を積んできた自分なら、簡単に下せる筈の相手だった。
だが、今なお二人の獲物は命を繋いでいる。
その訳は、二つあった。
――――超々超音波振動子(パラダイス=ソング)!!
一つは単純、天使の少女──ニンフが、リップの想定を超えて難敵だった事だ。
治療行為の一切を禁じる否定者であるリップも、肉体はあくまで人間だ。
対するニンフはシナプスのエンジェロイド。
翼を持つ者達にとっての兵器である。
戦闘機能こそ最小限であるものの、レーダーや演算機能は人とは比べ物にならない。
加えてニンフはリップが足の武器で取り込んだ空気を、圧縮した刃として使う事をイリヤの口から聞かされている。
そのため基本的に線の軌道で飛来する走刃脚(ブレードランナー)の軌道を予測し、回避する事は彼女にとって難しい話では無かったのだ。
(あの女の口から出る攻撃…多分音波砲(ショックキャノン)の類だろうが、厄介だな)
武装の視点で見てもエンジェロイドにとって最小限の音波兵器でさえ、ただの人間には致命打に成り得る。
更に、実体を持たない音波兵器である事も彼女にとっては追い風に働いていた。
アーカードの銃撃の様に、ひらりマントを翳せばやり過ごせるとは限らないからだ。
攻撃、防御共に、ニンフはリップと相性のいい相手だったのは間違いない。
だがそれでも、クロが加われば容易に勝てる算段であった。
しかし───
「あぁ、もう。邪魔しないで貰えるかしら!!」
「あら、つれない事をいわないでお姉さん。折角服薬(おめかし)したんだもの。
少しくらいダンスに付きあってくれてもいいでしょう?」
クロも加勢に加わろうとしたところで、グレーテルと名乗る、頭のおかしい銀髪の娘が首を突っ込んできた。
対主催として、眼鏡のガキと天使の少女の救援に来た訳では無いのだろう。
庇うそぶりも一切ないし、クロが纏わりつかれているのも単純に遊び相手としてクロエが少女のお眼鏡に叶ったからに過ぎない。
だが、ただの考えなしの子供(ガキ)ではない。
明らかに、殺しに慣れている。見た目は子供でも立ち回りは血に飢えた獣のそれだ。
身体能力も、天使の少女を超えて人間離れしており、クロエと剣閃を交わしている。
リップ達にとって、まったく予期せぬお邪魔虫であった。
その結果、リップはこうして単独で天使を相手取っている。
「私達もツイてないけど、アンタたちも相当運がないみたいね」
そう言って天使の少女は煽るように笑う。
誘っているのだろう。
飛び込めば、即座にカウンターを叩き込んでくる。リップはそれを感じ取っていた。
アーカード戦で使用したひらりマントも、無形の音波攻撃相手ではカバーしきれるか微妙な所だ。
音波攻撃に合わせて散弾銃の様に飛んでくる羽の攻撃も厄介だ。
こちらはひらりマントで問題なく弾けるとは言え、狙いが正確無比。
精密な弾道予測、音波攻撃による範囲攻撃と、硬質化した翼のショットガンの撃ち分けは、リップにとって確かな脅威だった。
(俺の攻撃の軌道は看破されてる。音の大砲を考えれば、下手に懐に入れば相打ちになる。
クロの援護もまだ暫くは無理。となると、後は───)
冷静に、否定者狩りとしての経験を総動員して、戦術を練り上げる。
近接戦はお互いに不得手、遠距離戦は弾道予測が正確無比な分ニンフの方が有利。
となれば、リップが勝利するにはその予測を超える攻撃を仕掛けるしかない。
「───決めに行くか」
走刃脚(ブレードランナー)に圧縮していた空気を放出。
空気抵抗によりかかる体の負荷がギリギリのレベルまで、移動速度を跳ね上げる。
常人であれば視認不可能な領域の高速駆動だ。
地を蹴り、壁を蹴り、宙を蹴って、彼は縦横無尽に駆け回る。
「──無駄よ。それもイリヤから聞いてるわ。私のレーダーはアンタを完全に補足してる!」
-
レーダーか。
否定能力なのか、古代兵器なのか、それとも全く違った別種の異能なのか。
それは分からないが、天使のこれまでの立ち回りにも合点がいった。
敵手の索敵能力は群を抜いている。きっとどれだけ攪乱しようと意味をなさないだろう。
彼女の対応できないレベルで接近戦が可能であれば真正面から叩き潰せるのだろうが、リップにはそれは無理だ。
だが、それでも───行く。ニンフの前方、側面、後方を韋駄天の如く疾走する。
「何のつもり……蠅みたいにブンブンブンブン!!」
ニンフの周囲を駆け、補足から逃れようとしているのなら全くの徒労である。
人間であれば兎も角、エンジェロイドであれば補足できない速度では全くないからだ。
電子戦に長けたニンフのレーダーの処理性能から逃れようと思えば、最低でも音の壁を超える必要が出てくる。
この地に来てから戦った魔女や吸血鬼ならば可能かもしれないが、少なくとも目の前のリップは肉体的には地蟲(ダウナー)の範疇だ。
今ですら、体の負荷は相当なものだろう。
(何を考えてる……自分の身を削って、やる事が意味のない攪乱?)
ニンフの電子戦能力は強力で、精密だ。
だが、彼女は兵器であって戦士ではない。
駆け引きや読み合いには不慣れだった。
兎に角今はリップがのび太に狙いを定めぬ様に、彼が人質に取られたりしない様に、マスティマの羽を散発的に撃って牽制する。
効果はあった、彼は時折のび太の方に意識を割いていたが、途中から諦めたようにニンフに意識を集中させている様子だった。
これで一先ずのび太は安全、そう考えた丁度その時だった。
キィイイイイイイイ
風斬り音が、周囲に響く。
来る、とニンフは思った。
だが、問題はない。既にあの義足から放たれる空気の刃の軌道は演算済みだ。
後はそのデータから安全地帯を予測し、その場所に身を伏せるか、パラダイスソングで迎撃してしまえば良い。
リップの狙いは未だ分からないものの、切り抜ける自信はあった。
───走刃脚(ブレードランナー)!!
リップの義足から、高密度の空気の刃が十を超える物量で以て放たれる。
空間を裂き、猛スピードで迫るその刃はエンジェロイドの機体であっても切り裂くだろう。
だが、問題はない。数は多いが軌道はこれまで通り、単調で、直線的なものだ。
前方に駆けながら翼を畳み、身をかがめる。
演算結果ではこれで問題なく回避できるとの事だった。そして、その予測は正しかった。
不治の呪いを強制する攻撃はニンフには掠りもしない。好機だった。
(しめた!後は奴が立て直す前に超々超音波振動子(パラダイス=ソング)で──!)
取り合えず威力を落として、リップを気絶させ、拘束する。
不治の解除方法は、その後吐かせればいい。
もしなければ、のび太達は反対するだろうが、ニンフは殺害も辞さないつもりだった。
だが、先ずはリップを沈黙させるのが最優先。
その決定の元、パラダイスソングの発射準備に移行した瞬間だった。
「───かかったな」
リップが、勝利を確信した笑みを浮かべたのは。
ぞく、とニンフの背筋に嫌な予感が駆ける。
予感が現実のものになったのは、直後の事だった。
────月時雨。
回避したはずのリップの斬撃が、全て踵を返したようにニンフの方向へ向かってくる。
そしてその軌道は、これまでリップが放ってきた物とは違う出鱈目な物だった。
それ故に、既存の弾道計算ではよけ切れない。
明後日の方向に跳んでいくものもあったが、数にして五発の斬撃がニンフに殺到する。
(───ラトラに比べれば精度は格段に落ちるが…それでも上手く行ったな)
相棒であるラトラの否定能力に比べれば格段に精度は落ちるモノの。
それでも概ね狙い通りの攻撃となった。
ニンフの後方に配置したひらりマントに視線を向けながら、リップは確信した。
作戦は単純だ、走刃脚の刃をひらりマントで反射する事によってラトラの否定能力との合わせ技である月時雨を再現する。
これまで以上の物量。そこにリップの意志は介在しない。
これまでの弾道予測では対応不可能な跳弾する刃こそ、彼が考えたニンフのレーダーの掻い潜り方だった。
そして、リップの立てた攻略法は、ニンフにとってこれ以上ない程的を射ていた。
-
「く──!!超々超音波振動子(パラダイス=ソング)!!」
回避は出来ない。それを一瞬で脳内のCPUが弾き出す。
その結果を受けた0.1秒後、ニンフは咄嗟にパラダイスソングを放ち、刃を迎撃した。
不治の能力を知っている今の彼女にはこれしかなかった。
例え追撃が直後に飛んでくるとしても、今の彼女にできる最大限の抵抗だった。
当然ながら、それで追撃の手を緩める不治(アンリペア)ではないが。
───走刃脚!!
当初の予定よりも大幅に手こずらされたが、これにて詰みだ。
音波砲は、顔で照準を付ける以上、即座に連射はできない。
後方の刃を迎撃した今、ニンフに僅かにタイムラグが生まれる。
その一瞬のタイムラグが勝負の分かれ目だ。
再び走刃脚に、空気の刃を籠め、一瞬で撃発可能な状態へ移行する。
「───じゃあな」
短い死刑宣告と共に。
断罪の刃を振り下ろそうとする。
が、その刹那。タン、と乾いた音が響き渡った。
「な───」
リップの、眼帯に包まれていないほうの目が見開かれる。
左肩に走る灼熱。鮮血。弾痕。
馬鹿な、と思わずにはいられなかった。
イリヤの時とは違う。奴は確かに不治(オレ)の攻撃を受けていた。
という事は、まさか。
自分を破った不死の否定者と、その仲間たちの顔を想起しながら、リップは音のなった方向へ振り返る。
「はぁ……はぁ……!」
そこには、不治で癒えない傷をつけたはずの、眼鏡の少年が立っていた。
両手で拳銃を構え、今にも気絶しそうな顔で。
それでも二本の足でしっかりと大地を踏みしめ、そして叫ぶように彼は言った。
「ニ…ニンフに手を出すな!!」
「のび太……!」
眼鏡の少年──のび太が発したその言葉は。
まさに、西部劇のヒーローさながらの啖呵だった。
泣きそうな表情で言っていなければ、もっと様になっただろう。
「ちっ──!!」
舌打ちをしながら、リップはのび太を殺すべく疾走する。
ともすれば彼の中でののび太の危険度は、この時に限ればニンフを超えていたかもしれない。
不治の能力。一切の治療行為の禁止。
これにはリップの殺害によって不治を解除しようという行為も含まれる。
しかし、この制約は絶対ではない。抜け穴が存在する。
そもそも治療を考えていなければ、治療以外の目的であれば。
不治の攻撃を受け、能力の説明を受けた後でも、攻撃が可能なのだ。
例えば、不治の治療よりも、仲間を守る、という目的の元攻撃を行った不死の否定者が、リップを打ち破った様に。
だがこれは知っていたとしても早々行える行為ではない。
思考の比率がリップの無力化ないし殺害による不治の解除よりも、それ以外の目的が心の底から上回っていなければならないのだから。
ただ仲間を守る。相当に強く、純度の高い思いで目の前の敵手は攻撃を行ったのだろう。
「っ!?くそ、待て───!!」
背後で、ニンフの制止する声が響く。
遠距離攻撃しか攻撃手段のない彼女ではのび太の殺害は妨害できない。
もし妨害しようと音波砲を撃てば、巻き込んでしまう可能性が高いからだ。
意識を天使の方に7、眼鏡の少年の方に3の割合で割り振り、走刃脚を撃つ準備を整える。
のび太とリップの視線が交わる。
本当に、さっき正確無比な銃撃を撃ったガンマンとは思えない顔だった。
滴り落ちる鮮血と、リップの纏う冷淡な殺意に引き金を引く躊躇が生まれてしまっていた。
不動(アンムーブ)と同じ、能力があっても、使うモノの意志が弱ければ宝の持ち腐れ。
敵手は仲間を守るためなら引き金を引けても、敵を殺すために引き金を引けなかった。
躊躇はほんの僅かな時間だったが、その僅かな一瞬が、命取りだ。
「死ね───」
子供を殺すのは決して気分の良い殺しではないが。
願いを叶えるまで、救えたはずだった恋人を救うまで、不治の否定者は凶行に及ぶ。
一瞬一瞥したニンフがマスティマを振り上げるモノの、既に間に合わない。
空気の刃を放ち、その反動でマスティマの羽から逃れる。
即死はさせない。もう月時雨はニンフには通用しないだろう。
そのため、即死しない程度に深手を負わせて、ニンフを討つための削りとする。
絵図は完成していた。
描いた絵図に従い──断罪の刃を振り下ろす。
-
「ド、ドラえもん───!」
幾つもの冒険を繰り広げてきたのび太も、肉体的には運動音痴な小学五年生でしかなく。
リップの攻撃を逃れる術も当然ない。
さっき使える様になった魔法も、今は用をなさないだろう。
故に、未来からやってきた親友の名を呼ぶことしかできず。
彼の力ではどうしようもない詰み(チェック)を迎えていた。
─────させない!!!
走刃脚の刃がのび太を切り裂くコンマ数秒前の事だった。
のび太の目の前に迫っていた刃が、桃色の光線にぶつかり、四散する。
「……………ったく、次から次へと」
忌々し気に、リップは悪罵を漏らす。
視線の先に立つのは、この殺し合いで最初に出会った二人。
それに加えて、イリヤと同じマジカルな装飾の、ピンク色の服を着た黒髪の少女。
彼女達の姿を認めて、厄介なことになった、と。心中で吐き捨てる。
「………イリヤ、美遊」
声が漏れたのは、彼だけでは無かった。
乱入者を検めるために、後方で切り結んでいたグレーテルとクロエ、双方が硬直する。
その姿を確認してから、クロエは苦々し気に、乱入者の少女達の名前を呼んだ。
そして、その声に導かれるように、乱入者の少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは向き直る。
そして、正にやんちゃをし過ぎた妹にお灸を据える様な厳然とした態度で。
彼女は、声を上げた。
「………何やってるのよ、クロ………!!!」
■
心が、ざわつく。
「アンタと話す事なんて、何もないわ。イリヤ!!」
何故だか、自分がとんでもなく馬鹿な事をしている気になる。
感情のままに投影した剣を、イリヤに叩き付ける。
イリヤはそれをステッキで受け止めた。
ルビーじゃないのね。その時私はそんな感想を抱いた。
「何言ってるの!ちゃんと……ワケを説明して!」
違和感。
このイリヤは何かが違う。
本当に、美遊や、私との出会いを深く考えずに否定したイリヤなのか。
私の知っているイリヤは甘ったれで、追い詰められるとまず考えるのは逃げる事で。
魔術のまの字も知らないでのうのうと普通の日常を謳歌するただの子供。
その筈、だった。
「だから、何もないわ。イリヤは二人もいらない。貴方はそう言った。
そんな私達にこの場は丁度いいじゃない。決着をつけましょう。イリヤ」
「……!?何の話をしてるの?それじゃ、まるで………」
困惑しながらも、私を真っすぐ見つめてくるイリヤの紅い目。
私の知ってるこの子は、こんなに強い眼差しをしてたかしら。
それを考えると、どうしようもなく心が泡立つ。
自分がどうしようもなく、独り相撲をしている気分になる。
投影した莫邪を握る手が、緩みそうになる。
私が私の人生を手にするには、優勝する以外の道は無いはずなのに。
「───何をごちゃごちゃ喋ってる!!」
怒号と共に、リップ君が私に向けて斬撃を放ってくる。
慌ててイリヤとほとんど同時に、飛びのいて躱す。
何をするのと一言文句を言ってやろうかと思って、直ぐに止めた。
-
「あら、残念。二人纏めて送ってあげられそうだったのに」
さっきまで私と戦っていた銀髪の子が、刃に変えた手を戻しながら言った。
イリヤと私が言い合っている間に、私たち二人の命を虎視眈々を狙っていたのだ。
リップ君の援護がなければ、不覚を取っていたかもしれない。
そう考えている間に、義足の高速移動でリップ君が私の隣に降り立ってくる。
「退くぞ。流石に今は分が悪い」
彼の言う通りだった。
さっきまで相手していた二人に、銀髪の子、そして美遊とイリヤに、何か白い人形の女の子まで連れていた。
人数では銀髪の娘を抜いても二倍。
それでも、素のイリヤと美遊ならやってやれない事は無かったかもしれないけど──
──夢幻召喚(インストール)!
「……ま、そー来るわよねぇ」
視線の先には、ローブを纏った美遊の姿があった。
まずキャスターのクラスカード。神代の魔術師メディアの力をその身に宿したと見て間違いないだろう。
リップ君の言う通り、こうなると流石に分が悪い。
敗けるとは思わないが、勝つまでに此方も相当な消耗を強いられるのは間違いない。
退く、というリップ君の判断に異論は無かった。
「…問題は逃げられれば、だけど」
イリヤも、美遊も、逃がしてくれる気は毛頭ないみたいなのは、一目見ただけで分かった。
特に夢幻召喚まで使って私を捕えようとしてる美遊は、気合十分といった所でしょうね。
そう思って、美遊に意識を集中する。
(………?)
そうして美遊を見て、また言いようのない違和感に襲われる。
ローブ越しに見る美遊の瞳。
イリヤからは並び立っているから見えないその瞳に、何時もの光は無かった。
まるで壊れかけのロボットが、無理やり動いている様な、そんな風に映った。
「……ま、それは私も人の事は言えないか。……ねぇ、美遊?」
フッと皮肉気に笑って。私は美遊に語り掛ける。
「………私、は。イリヤを守る。それだけ」
そう。
やっぱり貴方も、何か抱えてるのね。
今の私と美遊は敵同士。貴方が何を抱えてるのかは聞いてあげられない。
でも、それでも。
この殺し合いでも変わらず、貴方がイリヤの隣にいてくれるのは…少し嬉しいと思った。
「絶対、ぜーったい!とっ捕まえて何考えてるか吐いてもらうんだから!」
「そこの眼帯もよ、捕まえてのび太にかけた不治、解除させてやる!」
……全く、無粋な外野が多いわね。
そう思いながら美遊から視線を移すと、イリヤと翼の生えたニンフと言う子が私を睨んでいた。
ゲームが始まって数時間も経ってないのに、よくぞろぞろと集まったものだわ。
乃亜に、首輪を何時吹っ飛ばされてもおかしくないのに。
それでもアンタ達はそんな事考えず、無邪気に脱出しようとしてるんでしょうね。
……本当、見てると剣を握る手が緩みそうになる。
「───だから。握れなくなる前に始めないとね」
そう言って、私は手の中に最強と信じる剣を出現させる。
剣の名は約束された勝利の剣(エクスカリバー)。
魔力の消費は大きいけれど、出し惜しみできる状況でもない。
初手でこの剣を起爆し、リップ君の不治と義足で突破する。
可能かどうかで言えば、十分可能な作戦だろう。
リップ君とアイコンタクトを取り、右手に握る聖剣を見せて、計画を察してもらう。
「分かった、3つ数えたら撃て」
彼が小さく囁いたその言葉に、コクリと頷いて。
それが聞こえていたのかは定かではないが、イリヤ達も構えを取る。
お互いがお互いに集中する。
他の物はすべて背景になって、音が消えて。
世界の焦点が、お互いに集まる。
その時だった。
-
「───おやおや」
粘着質な声で、意地の悪さと、此方を見下しているのが伝わってくる声だった。
同時に、背中に氷水を流し込まれた様な、危機感が体の奥からこみ上げて来る。
この声には、私も聞き覚えがあった。直接言葉を交わしたわけではないけど。
ごくりと喉を鳴らして、声の方を見る。するとそこには、予想した通りの怪物がいた。
突撃槍を片手に握った、黒いドレスを纏った女。
「完璧なる戦士<<パーフェクトウォリアー>>は解けてしまった様でありんすねぇ──」
現れた女は、嗜虐心を隠そうともせず。
イリヤに、そう言って笑いかけた。
場に暴風が吹き荒れたのは、その直後のこと。
■
シャルティアが支給品の闇の賜物によって、再び戦闘可能な状況になるまでそう時間はかからなかった。
少なくとも、あの白髪の小娘はともかく、先に逃げた二人にならば問題にならない。
本調子には程遠いが、そう確信できる程には潰された肺や背骨などの傷の修復は完了していた。
アンデッドにして吸血鬼であるシャルティアにとって、闇の賜物はとてもよく馴染んだ。
自前のリジェネ魔法と合わせて、欠損していた右腕が、大部分が修復した事からもそれは伺えた。
更にMPの方もある程度回復したため、即時戦闘すら可能、シャルティアはそう判断した。
しかしシャルティアは回復後も、暫く息を潜め機を計る事とした。
(丁度いい足止め役もいた様でありんすからねぇ……)
イリヤが決死の覚悟で逃がした二人は、別の二人…乃亜の言葉ではマーダーと言ったか。
マーダーと見られる二人組に襲撃されていた。
何方もそれなりに腕が立つ様子だったので、このままいけば二人が勝つだろう。
それがシャルティアの立てた目算だった。銀髪の少女が乱入してもそれは変わらなかった。
介入するか漁夫の利を狙うか考えていた所で、状況の風向きが変わる。
あの忌々しい白髪の小娘──イリヤと呼ばれていたか、それが現れたからだ。
傍らに見覚えのある白い人形と、同じ魔法詠唱者(マジックキャスター)と見られる黒髪の小娘を引き連れて。
シャルティアは、この時彼女の姿に着目した。
イリヤの姿は先ほどの戦士然とした姿とは違うもので。
最初に現れた魔法詠唱者のいで立ちだった。
どうやら、完璧なる戦士は解除されたらしい。
加えて、彼女が再びそれを使う素振りを見せなかった。
推察するに、自分の幾つかのスキルや魔法の様に、連発できない様に制限されているのだろう。
であれば、最早シャルティアを止められる戦士は存在しない。
「美遊、気を付け───!」
仲間に警戒を促すイリヤの叫びをかき消すように、シャルティアは疾走を開始。
目標(ターゲット)はイリヤ──ではなく、その傍らの美遊と言うらしい小娘。
夢幻召喚と言うスキルで彼女の魔法詠唱者としての格が跳ね上がっているのをシャルティアは確認していたからだ。
魔力量だけで言えば自分を超え、主であるアインズ・ウール・ゴウンに匹敵する魔力量。
無視できる存在では無かった。
「ま、さっきまでの小娘と比べれば───どうという事はありんせん」
そんな無視できない敵手に向けて、シャルティアは余裕を示す冷酷な笑みを浮かべる。
目の前の相手は見た所魔法詠唱者。まず間違いなく放つ魔法の位階は第十位階。
弱い魔法詠唱者ならば第十位階の魔法でも無効化できるシャルティアだが、目の前の相手はそんな領域では断じてない。
恐らくだが有効打を飛び越えて、シャルティアをしてまともに受ければ致命となる魔法を有しているだろう。
───《マキシマイズマジック/魔法最強化》
槍を構え、美遊に突撃しながら自身の魔法の効果を最も上げるバフをかけた。
そのまま瞬きの様な僅かな時間で、顔立ちがはっきりと分かる程の距離まで接近する。
ここで美遊は反射的に後方に魔法陣を展開、迎撃態勢を取った。
流石に早い。殆ど無詠唱で迎撃態勢を整えたのは純粋に驚嘆に値する。
だが、それでもシャルティアの酷薄な笑みは崩れない。
───《ヴァーミリオンノヴァ/朱の新星》
-
美遊が、迎撃の魔術を放とうとした、まさにその瞬間だった。
シャルティアは空中に一瞬で停止し、五指を広げる。
槍での突撃はフェイク。
フェイントの様に停止したシャルティアは滑らかに炎系の対個人攻撃魔法としては最高位の魔法の詠唱を行う。
ただしその目標は美遊ではない。
「───!?私……ッッ!!」
「イリヤ……ッッ!!」
目標は、美遊の傍らで身構えるイリヤに対してだった。
完璧なる戦士が解除された今、彼女がこの魔法を受ければ消し炭になってしまう。
そう確信させる紅蓮の業火が、イリヤへ蛇の様に迫る。
当然、美遊がそれを許す筈もない、発生した魔法陣を轟火球に向けて指向。
コンマ数秒で魔力が充填された魔法陣から放たれるのは、正しく砲撃であった。
発射速度、精密性、破壊力。そのどれもが現代の魔術を凌駕している。
二つの世界体系の違う魔導は数秒もせず接触し───激突、融解、閃光。
数秒ほどの僅かな間であるが、まるで真昼になった様に周囲が明るく照らされる。
さながら夜明け前の太陽の如き風景だった。
(……っ!?何処に……イリヤ……!!)
勝利したのは、美遊の放った砲撃。
着弾と共に熱線の軌道を変え、明後日の方角へと霧散させた。
しかし美遊の顔にあるのは勝利の高揚ではなく、焦燥だけだ。
周囲に閃光が迸った瞬間、シャルティアの姿を見失った。
「美遊!!」
魔力探知を全力で起動しながら、シャルティアの姿を探す。
その最中、シャルティアよりも早く、イリヤの姿を認めることができた。
ここで敵手を見つけるよりも、彼女の傍に戻り追撃を警戒する方向に意識を切り替える。
魔力探知と並行しつつ、高速飛行魔術でイリヤの傍へと飛ぶ。
流星の様に夜空を切り裂き彼女の元へと馳せ参じる。
「マスター!危ない!!」
イリヤの元へとたどり着くまであと2秒程の所で。
地上から悲鳴に似た声が上がった。
それと共に、美遊もまた気づく。
イリヤのすぐ背後に、月明かりに照らされ刺す影を。
獲物を一突きにせんと構える、シャルティア・ブラッドフォールンの姿を。
そして、直感的に理解する。
───間に合わない。
2秒。それは美遊にとって絶望的な数値だった。
シャルティアは今、イリヤの背にぴったりと張り付いている。
生半可な攻撃では彼女を退ける事は出来ない。
かといって彼女を退けられる程の魔力砲を放てばイリヤごと吹き飛ばしてしまう。
故に、彼女の取り得る行動は、たった一つしかなかった。
「イリヤ」
短く名前を呼んで。
儚げに笑い。最後に自分の顔を見る親友の紅い瞳を、目に焼き付ける。
自分と、親友(イリヤ)両方とも拾う事はできない二者択一だ。
その時点で、彼女が何方を取るのかは自明の理だった。
どんッ
高速飛行魔術を全開で使用。
再会した時の様に、親友の身体を突き飛ばす。
スローモーションになった世界で、蒼い死の穂先がイリヤの脇をすり抜けるのが見えた。
そして、その直後に。自分の左胸───心臓が貫かれるのを感じた。
白兵戦を不得手とする、キャスタークラス。回避ができない事は分かっていた。
然し彼女に、それ以外の選択肢などある筈も、無かった。
「美……遊……?」
『美遊様!』
「美遊さん!!」
-
自分の返り血を浴びて。
紅く染まった親友と二本の魔術礼装が、呆然と自分の名を呼ぶのが聞こえた。
夢幻召喚は愚か転身すら解除されて、落下しそうになる体がイリヤの手によって支えられる。
「美遊、美遊……いや……いや……!!…何で、何でこんな……」
二つの瞳に涙を一杯にためて。
現実が受け入れられないかのように、少女は首を横に振るう。
そんな親友のために、美遊は自分が助からない事を承知の上で、最後の力を振り絞る。
気にしなくていい。
自分の運命はきっとあなたの為に見知らぬ誰かを犠牲にした時に決まっていた。
これはきっと、当然の報い。
数々の言葉が、喉元までもたげるが、必死に押しとどめる。
それらはきっとイリヤにとっての呪いになる。
彼女に自分のせいで、誰かが死んだと思ってほしくはないから。
けれど、けれどせめて。
「イリヤは、生き……」
身勝手な私とは違う、この殺し合いでも変わる事が無かった、たった一人の親友だけは。
生きて欲しかった。生き残って欲しかった。
そして、ささやかで、暖かで、幸せな日々に戻って欲しかった。
それが、神稚児の少女が抱いた、最後の祈り。
「敗者が浸ってるんじゃありんせん」
生きて。そんな、最後の祈りが最後まで紡がれることは無かった。
抱きかかえるイリヤごと、シャルティアのスポイトランスによって薙ぎ払われていたから。
イリヤが反応する暇もなく、発射された砲弾の様に二人の身体が撃墜される。
「マスター!!」
雪華綺晶が逼迫した声で叫ぶ。
限りなく彼女にとって最悪に近い状況下で、イリヤはこの時幸運だったと言えるだろう。
最も助けやすい、雪華綺晶のいる方角へと吹き飛ばされたのだから。
彼女のドールは瞬時に白い茨を形づくり、イリヤと美遊の身体を受け止めようとする。
だが、少女とは言え人二人分の質量が砲弾もかくやの速度で飛んできたのだ。
絶大な力をほかったアストラル体であった頃と比べれば、ローゼンメイデン一体分の出力となった雪華綺晶が瞬時に出せる量の茨では、僅かに力不足だった。
(ぐ…ダメ、抑えきれな……)
受け止めた瞬間、ブチブチと茨が瞬時に切断されていく。受け止める事は叶わない。
必死の剣幕で追加の茨を伸ばすが、それでも間に合わないと雪華綺晶は判断した。
一瞬の判断のあと、後方の民家、その外壁に茨を出現させる。
雪華綺晶に目掛けて二人が飛んできたのは、殆ど同時だった。
「………ッッッ!!!」
イリヤ達ごと、雪華綺晶の身体が吹き飛ばされる。
二人と一体の身体がそのまま後方の民家の外壁に叩き付けられる、タッチの差で茨の生成が完了する。
三人の身体はそのまま茨が二段クッションとなり、受け止められた。
「う……」
しかし、雪華綺晶にとってもそこが限界だった。
外傷こそないモノの、衝撃を完全に殺し切れた訳ではなく。
まして瞬間的に出せる全力の出力で薔薇乙女の力を行使したのだ。
負担がない筈がない。彼女もシャルティアの一撃を受けて意識を飛ばしたイリヤと同じく、その場にへたり込んでしまった。
「……ふん、死ぬんじゃありんせんよ。そのためにその人形の方に飛ばしたんだから。
目が覚めた時、並べたぬしの仲間の首を見て、精々いい顔をして貰わないと」
-
始終を見て、シャルティアは多少溜飲が下がったと言わんばかりに鼻を鳴らした。
だが、まだまだ。お楽しみはこれからだ。まだ足りない。
我が忠誠の証に汚い手で触れただけでなく、このシャルティア・ブラッドフォールンに屈辱を与えた小娘の仲間を皆殺しにし、その首を並べてやる。
それでこそ、つい先程小娘に不覚を取った恥辱は漱がれる。
そう思いながら、目下敵の最大戦力の喪失を確信したシャルティアはスポイトランスを一旦仕舞った。
何故か?簡単だ。片腕では折角捕らえた脇に挟んだ戦利品を逃がすかもしれないからである。
「ぬしも、そう思いんしょう?」
『は、離して下さい!離せー!!』
「ダァメ☆意志のあるアイテムは珍しいでありんすし、
アインズ様への献上品としてぬしは持って帰るでありんす。丁度持ち主も死んじゃったしねぇ?」
シャルティアは嘲る様にそう告げると、桃色のステッキ、マジカルルビーを有無を言わさずデイパックの中に放り込む。
彼女は既に、これを使ってイリヤ達が変身しているのを看破していた。
中々に洗練されたマジックアイテムの様であるし、持って帰れば至高の主がお喜びになるかもしれない。
そんな考えを巡らせながら──自身の傍らに浮かぶ朱の球を操る。
「妾に一矢報いれる者もいなくなった以上──ここから先は蹂躙でありんすね。
その前に、栄養補給に洒落込むでありんす」
その朱の球は、美遊・エーデルフェルトの血液で作った、鮮血の貯蔵庫であった。
うっかり浴びて血の狂乱が発動しない様に、貫いていた時に収集していたのである。
それをまるでストローですする様に吸い寄せて、シャルティアは口へと運んだ。
口に含んだ瞬間、彼女の両眼が見開かれる。
「はぁああああああ……!何でありんすこれ!超美味しい!!」
一瞬で分かる。今しがた殺した少女の血はただの人間の血液とは思えない程良質であった。
これだけ質が良ければ、喪った片腕の分の血を取り戻し、必ずや再生までの助けとなる。
──そう思うと同時に、シャルティアの身体に異変が生じる。
ごぽごぽと、今迄中々再生しなかった片腕が音を立てて再生していくではないか。
そうして、彼女の喪った筈の片腕は、此処数時間が嘘だったかのように元の美しい形を取り戻していた。
まるで腕を取り戻したいと願った彼女の願いを叶えたかのように。
「ククク…アハハハハハハ───」
笑いが止まらなかった。
仲間か何なのか知らないが、あのイリヤと一緒に来た小娘はイリヤを助けるどころか自分に色々プレゼントをしてしまった。
これが愉快でなくて何なのか。
こうでなくては、と思う。これまでの機運は自分に相応しい物ではなかった。
踏んだり蹴ったりと言っていいめぐり合わせだったが、ここに来てようやく流れが来たらしい。
この幸運であれば、奪われた真紅の全身鎧もそう時間を掛けずに見つける事ができるかもしれない。
高揚に胸を躍らせつつ、ひょいと飛翔し高度を上げる。
――――超々超音波振動子(パラダイス=ソング)!!
寸分の狂いなく狙いをつけられた音波砲を苦も無く回避して見せる。
余裕と侮蔑を籠めた眼差しで、シャルティアは地上の天使を見下ろす。
彼女の音波攻撃は直線的に過ぎる。既に見切った攻撃であった。
故に、此処から先は闘争ではなく、ただの作業。
「さて……残った塵を掃除するでありんすかぇ」
何処までも冷酷に。怪物として。
シャルティア・ブラッドフォールンは掃討を意味する言葉を述べて。
取り戻した片腕を使い、デイパックに仕舞った突撃槍をぬらりと引き抜いた。
-
■
逃げるように、全速力で走る。
僕が、それを見つけたのは本当に偶然だった。
リーゼロッテとの戦いのあと、美柑さんはますます僕に怯えてしまった様だった。
無理もない、と思う。美柑さんは戦った事なんて無い人で。
お母さんやブルマさんみたいに、気の強い人ではないから。
自分が戻してしまう姿を見られたのも、彼女にとっては物凄くショックだった様で。
ケルベロスさんも、困惑を通り越して僕たちに呆れている節すらあった。
「直ぐに戻ります。直ぐに……」
走りながら良い訳の様に、そう口ずさんだ。
結局、美柑さんが落ち着くまでまた適当な家にお邪魔して。
お父さんを探すのは遅々として進まなかった。
怯えた彼女もどう扱っていいか分からず、取り合えず外の見張りをすると買って出たのが、少し前の話。
その矢先の事だ。此処からすぐ近くのエリアで、火の手が上がっているのが見えたのは。
断続的に上がっているその炎を見て、意識を全力まで集中する。
気で参加者の居場所を辿るのはこの会場では上手く行かない。
舞空術で空から探すのもそうだ。だから、美柑さんと家の中にいたら気が付かなかっただろう。
───な、何を言うとるんや!悟飯がおらんかったら、美柑の奴は……!
誰かが戦っている。殺し合いをしているなら止めに行かなければいけない。
僕は、美柑さんとケルベロスさんにそう言った。
当然、ケルベロスさんは止めた。
僕がいなくなったら、美柑さんを守る人がいなくなる。
当たり前の話だった。僕は、何も言い返せなかった。
ケルベロスさんは、「そりゃ殺し合いを止めるのは大事やけどな」だとか「でも美柑を見てみぃ。とても置いておける状態やないやろ」だとか言っていた。
ケルベロスさんの言う事は正しかった。僕は、怒られて項垂れるばかりで。
きりきりきり、と。頭の奥が痛む様な疼くような、そんな感覚がした。
───いいよ。悟飯君。私の事はいいから、行ってきて。
そんな僕に助け舟を出したのが美柑さんだった。
彼女はやつれた顔で、それでも無理やり笑顔を作って、僕にそう言った。
「私は悟飯君が帰ってくるまで此処に隠れている」
「ケロちゃんがいるから大丈夫」
そんな事を、彼女は言っていた。
ケルベロスさんは反論していたけど、最終的に、僕達二人に押し切られる形となった。
思えば、僕と美柑さんの意見が初めて一致した瞬間だったかもしれない。
だから僕はこうやって、美柑さんを置いて戦いの現場へと走っている。
「大丈夫です……み、みんな助けて……必ず、も、戻ります、から………」
本当に?
頭の中で声が響く。
本当に戦っている誰かを助けるために僕は今走っているの?
美柑さんと向き合うのが怖くて、美柑さんも僕が怖くて。
二人の意見が一致したのも、単にそういう都合が重なっただけなんじゃないの?
きりきりきり。きりきりきり。頭の奥が、鈍く痛む。
「今は、戦う事に集中しなくちゃ……戦わなきゃ……」
本 当 に ?
口に出す言葉は、やっぱり言い訳の様で。
本当は、戦いたいだけなんじゃないのか。
美柑さんを守るだとか、ユーリン君が死んだのは僕のせいだとか。
そんな事を考えたくなくて、ただ暴れたいだけなんじゃないのか。
僕の声で尋ねてくる声は、頭の前に、ずっと響いていて。
「お父さん……何処にいるんですか」
そんな声を、振り払うように走る。走る。走る。
きりきりきり。きりきりきり。きりきりきり。
───強い気を感じる。きっともうすぐ、戦いになるだろう。
-
■
「本当に、あの糞エルフに比べれば他愛もないでありんすねぇ」
それは一言で言って蹂躙だった。
シャルティアにとって既に奥の手が無い事が割れているニンフは、全く問題にならない程度の障害でしかなかった。
何しろニンフの得意とする音波砲も、人間のリップと違い彼女であれば対処する方法は幾らでもある。
イカロスやアストレアの様に戦闘機能を搭載していないエンジェロイドでは、
ナザリックNPCのハイエンド足る彼女を止めるのは、余りにも荷が勝ち過ぎていた。
退屈そうに呟きながら、ぎり、とシャルティアはその手に力を籠める。
彼女に首元を握られ、甚振る様にゆっくりと力を籠められているニンフは、整った顔立ちを苦痛に染めた。
「残念でありんす。ぬし、推察するにオートマトンのようでありんすし…
出会い方が違えば連れて帰り、アインズ様にナザリック入りを提案してあげても良かったでありんすがねぇ。ナザリックは異形種は広く受け入れているでありんすから」
あ、でもどの道生きて帰れるのはたった一人でありんしたか。
シャルティアはそんな事を宣い、ニンフの首を絞めあげながらケラケラと笑った。
「とは言え、海馬乃亜との交渉次第では死者蘇生も可能でありんしょう。
どうでありんす?土下座して私の靴でも舐めれば、これまでの事はお互い水に流して助命に動いてやるけど?」
何処までも小馬鹿にした言い方だった。
シャルティアも、ニンフが乗って来るだろうとは毛頭思っていない。
無論の事、乗ってきたら儲けものではあるが。やはりそれはありえないだろう。
首を絞めあげてなおニンフの視線は、シャルティアを睨み殺さんとする様に鋭い物だったから。
首を絞められているため掠れた声で、絞り出すようにニンフは返答を行う。
「願い…下げよ……アンタ、みたい…な……ビチグソ、と、なんて……
それに……私のマスターは、もう、一人だけ、なの……」
首を締めあげられる痛苦の中でなお、拒絶の言葉を述べるニンフは笑っていた。
白い犬歯を覗かせて、例え死んでもこの意志は折れぬと言わんばかりに。
「そう、ならば仕方ない。ここで死ね」
折角の慈悲を袖にするとは、オートマトンの中でもポンのコツな個体だったらしい。
先ほどまでの笑顔から興味の失せた無表情へと切り替わり、シャルティアはその手のスポイトランスを握り締める。
このまま握りつぶすのもいいが、最初にこのスポイトランスを奪った者をこの手で誅してこそ汚名は雪がれるだろう。
そのままニンフを放り投げて串刺しにしようとして──シャルティアのスポイトランスを握る手が、銃弾に撃ち抜かれた。
「……何でありんす?」
やはり、自分に科されている制限の中でも物理耐性が最も大きく影響を受けているらしい。
その手に刻まれた弾痕を冷めた目で見つめながら、シャルティアはその事を再確認した。
一瞬で血は止まり、早戻しの様に弾痕は消え失せ、元の青白く美しい掌に戻しながら、下手人を射すくめる。
「や……止めろ!それ以上やるなら、つ、次は頭を……」
銃撃の犯人は、シャルティアが最も眼中になかった少年だった。
これまで彼女が背景として扱っていたただの人間が、正確無比な銃撃を放ってきた。
無論の事、脅威にはなりえないが、僅かばかりの興味がわく。
「そうでありんすぇ。撃ってみればもしかしたら助かるかもね?」
ニコニコと。
張り付けたような、のび太からは酷く不気味に見える笑みで。
シャルティアは銃を向けられているのも気にせず、のび太に歩み寄る。
その足取りはゆっくりとだが、迷いのないモノで。
まるでのび太に撃てと誘っている様だった。
「う、動くなったら!動かないと本当に撃つぞ!!」
「当てるなら頭にしなさいね?でないと私は死にんせんからぇ」
そのままてくてくとまるで愛らしい少女の様に歩いてくる。
銃口を向けられているのに、さっきリップと言う男の子だって少しは怯んだのに。
喉がからからに乾く。膝も笑いっぱなしでちびりそうだ。
引き金が重い。ニンフを助けた時は、普通に引く事ができたのに。
-
「さぁ───頑張れ?頑張れ?」
バクンバクンと、心臓が五月蠅い。
もう、銃の前まで女の子が来ている。
おでこをくっつけて、にっこりと笑いかけてきている。
笑いかけられた瞬間、胸が緊張不安や以外で高鳴って、顔が熱くなる。
急に頭がボーッとしてきて。考えが纏まらなくなる。
ニンフを助けないと。そのためにこの女の子を撃たないといけなくて。
でも、あぁ、この子、すっごく可愛いな……
そう思っていたら、女の子がゆっくりと唇を動かした。
こ・れ・わ・た・し・て・く・れ・る・?
銃を指さして、怪物は少年にそう命じ、ニィ……と口元を醜悪に歪ませた。
少年は恐怖と陶酔が入り混じった表情で、銃を手放してしまった。
「くくく……ふっ、アハハハハハハハハハ!!
全く、無様でありんすねぇ────」
嘲笑うシャルティアの行った事は簡単だ。
彼女の持つ魅了の魔眼をのび太に使用した。
やはりのこの魔眼も大幅な制限を受けているらしく、フリーレンやガッシュ、
イリヤなどには通用しなかった。だが、ただの人間であるのび太は違った。
簡単な命令であれば、こうして屈服させることが可能である、と確認が取れた。
その手の銃をぐしゃりと握りつぶし、シャルティアは再びニンフの方へと向き直る。
眼鏡の小僧はもう眼中になかった。事実、魔眼の効果が薄れるまで何もできはしない。
「…さて、あのイリヤとかいう小娘が起きるまでに、ぬしらの首を並べておかないとね?」
スポイトランスをニンフに振り上げながら、シャルティアは周囲に聞こえる声で告げる。
イリヤ達一向にではない。
その場にほとんど無傷でいるグレーテル、リップ、クロエの三名に対しての言葉だった。
邪魔するならご自由に。ただし死ぬ覚悟で来いよ?と言わんばかりの示威行為だ。
既にシャルティアにとってイリヤ達は敵ではなく、誅殺を成し遂げた後の事を考えての示威行為であった。
彼女はリップ達が殺し合いに乗っているのなら、取り込み吸収してしまおうと考えていたのである。
(あのクソ耳長の様に油断ならない相手はいる様でありんすからねぇ……)
自分を出し抜き、手痛い一撃を加えてくる参加者はこの会場に存在している。
そんな手合いを確実に粉砕できるように、シャルティアは手足となる配下を欲していた。
あのエルフとの再戦を見据えると、ガッシュと名乗った金髪の小僧を少しの間抑えておける者がいれば九割方勝利できるだろう。
自前でもエインヘリヤルという自分の分身を創り出す切り札はあるものの、
相手に魔法、スキルの一切を禁じる手段がある以上他の参加者を使った方がより確実な筈。
もしナザリック大墳墓のNPCが自分以外にいればこんな事をする手間は省けるのだが…
「逃げられるなら、逃げてもいいでありんすよ?その代わり、私の標的は逃げた者に切り替わるけど」
三人の子供に対して、視線で邪魔をするなと制した後、今度は遠回しな脅迫をシャルティアは行う。
眼帯の人間、魔法剣士の類と見られる子供、己の身体を剣に帰る子供。
この内虚空から剣を創り出す少女はシャルティアのお眼鏡に叶うレベルの実力が伺えた。
残り二人は可能であれば取り込んで、使えない者ようなら切り捨てて行けばよい。
その考えの元、逃がさない様にだけ釘を刺して──死刑執行に戻る。
「さて、あの小娘が最後だと、やはりぬしになるのかしらね」
嗜虐心を露わにした表情で、シャルティアはニンフを見下ろす。
その次は白い人形、最後に眼鏡の小僧。
並べられた首を見て自分に屈辱を味合わせた小娘はどんな風に啼いてくれるだろうか。
絶望?憎悪?慙愧?後悔?いずれにせよ、自分の溜飲を下げる事ができるだろう。
泣き叫ぶイリヤの姿を想像して、上機嫌で突撃槍を振り被る。
後はそれを振り下ろせば、如何なエンジェロイドとて機能停止は免れない。
「………地獄に堕ちろ」
ニンフにできる事は最早シャルティアを睨みつけ、呪詛の言葉を吐くだけだった。
彼女の自己進化プログラム、PANDORAは制限により発動できない。
槍が、振り下ろされる。
故に彼女に打つ手はなく、断頭の切っ先を、目を見開いて受け入れる他はなかった。
無慈悲な切っ先は、天使の少女の頭を弾け飛ばさんと夜の闇を引き裂いて進んだ。
-
「死ねぇ───!!!」
唸りを上げて迫る切っ先。
ニンフは動けず。イリヤ達対主催は既に壊滅状態。
その瞬間までは、シャルティアの暴虐を止められる者はその場に存在しなった。
「な、に……?」
バシュゥッ!!という音が、シャルティアの耳朶を打つ。
側面から強い衝撃が走り、彼女の手からスポイトランスを叩き落した。
ゴトン、と言うスポイトランスが足元に落下した重苦しい音が響く。
それをBGMに、お楽しみの邪魔をした無粋な闖入者の方へ、視線を動かす。
彼女の視線の先に立っていたのは、右手をシャルティアへと向けた、黒髪の少年だった。
彼は戦意に満ちた笑みでシャルティアに笑いかけ、宣戦を布告する。
───それ以上やるなら、僕が相手をしてやる。と。
-
■
「ぬし、名前は?」
「悟飯、……孫、悟飯だ」
「そう。私は、シャルティア・ブラッドフォールン
残酷で冷酷で非道で――そいで可憐な化物でありんす」
シャルティアは馬鹿ではない。
余裕を示すように笑みを浮かべつつ、現れた少年に誰何の声を掛けて。
名乗りを聞きながら、その裏で考えたのは残るMPが如何ほどかという事だった。
鮮血の貯蔵庫でストックした魔力は右手の修復に使用してしまっている。
スキルの使用可能回数ももうあまり残ってはおらず、残るMPも半分を切っている。
その上で戦うには、目の前の悟飯と言う少年は些か不安を感じる。それ程の相手だった。
無論の事、敗北するとは毛頭思っていないが。それでも目の前の少年は異質に感じられた。
人の姿をしていながら、巨大な大猿とでも相対しているような錯覚を覚えたのだ。
「……いいでしょう。退くでありんす」
少年の出現を受けて、シャルティアが選んだのは彼女にしては珍しい、交戦を避けるという選択だった。
真紅の鮮血鎧の奪還も済ましておらず、残存魔力も半分以下ともなれば。
敗けはせずとも、最初のエルフ戦の様に手痛い反撃を受ける恐れがある。
折角スポイトランスと右手を取り戻し、本調子に近いコンディションになったのだ。
溜飲も大分下がった事だし、欲をかいて万が一があればアルベドやデミウルゴス達、そして敬愛するアインズ様からの無能の誹りは免れない。
引き際を弁える必要がある。
(そう…まだ無理を押して戦う時ではありんせん。向こうもそう思っているハズ───)
この場を一瞥しただけで、重軽傷者が多い事は一目瞭然。
加えて自分が少年の力量を見抜いたように、自分の力量も彼に伝わっているだろう。
救助を優先するなら、ここで交戦するのを避けるのは自明の理。
故に、シャルティアはこの提案が失敗するとはほとんど考えていなかった。
少年の地面が、まるで爆発したように弾けて。
弾丸の様に、その相貌に獰猛な敵意を籠めて悟飯が迫ってくるまでは。
「───は?」
とぼけた声が漏れる。
それと殆ど同時だった。
シャルティアの右頬に、凄まじい熱と衝撃が叩き込まれたのは。
「だあああああああああッ!!!!!」
地面とほぼ平行に吹き飛ばされ。
自信が殴られたのだとシャルティアが認識するまで二秒の時を有した。
油断ならぬ相手であるとは認識していた。
しかし、その認識でも見積もりが甘かった、そう言わざるを得ない相手だったのだ。
砲弾の吹き飛ばされるシャルティアを裂帛の叫びを上げながら、悟飯が追従する。
「喰らえッ!!」
掌に気を集め、圧縮したエネルギーを撃ち放つ。
その威力、一瞥するだけで不味い、とシャルティアの第六感が全力で訴えた。
───<<不浄衝撃盾>>!!
殴り飛ばされながらもスキルを発動し、漆黒の力場が致死の光線からシャルティアの身を守護する。
白と黒の力場の激突の瞬間、夜の闇を切り裂き、数秒の間再び周囲が白く染まった。
近くにいた未だ気絶したままのイリヤと雪華綺晶の身体が二メートル程吹き飛ばされる。
だが、それでも悟飯はそんな周囲の被害には目もくれなかった。
(お前達の様な奴がいるから……!ユーリン君たちは…美柑さんは……!)
倒す。
そうだ、僕の力は、お前たちの様な奴らを否定する為にあるんだ!
怒りと、使命感、そして胸の奥から湧き上がる衝動に突き動かされる様に。
宇宙にその名を馳せた戦闘民族の末裔少年は、眼前の敵手を沈黙させにかかる。
頭蓋を叩き潰すつもりで、本気の追撃を、シャルティアに見舞う。
-
「───調子に乗るなよ、糞餓鬼が!」
轟!と接触の衝撃で突風が吹き、地面にクレーターが出来上がる。
悟飯の一撃は、シャルティアのスポイトランスで受け止められていた。
槍の向こう側で、彼女の真紅の瞳に顔面を殴り飛ばされた怒りの炎が灯る。
「折角こっちが慈悲で退いてやろうとしたのに──そんなに死にたいなら望み通り殺してやるッ!!」
憤怒の唸りを上げて、シャルティアはスポイトランスを振るう。
殴る、突く、薙ぐ、穿つ───。
人の形をした小さな嵐の様な激しさで、シャルティアは怒涛の攻めを見せる。
そのどれもが、悟飯にとってもまともに受ければ致死と成り得る一撃の数々だった。
だが、そんな攻勢の中で、シャルティアは内心衝撃を禁じ得ない。
(───この小僧、無手で私と渡り合うだと!)
白兵戦を繰り広げるシャルティアの脳裏を過る、三人の階層守護者。
序列三位の階層守護者と執事長、アルベド、コキュートス、セバスの三人だ。
この三人は、戦闘の一分野においてはシャルティアを凌ぐだけの実力がある。
アルベドは防御力、コキュートスは武器を用いた戦技、セバスは格闘戦。
目の前の孫悟飯に最も近しいのは、格闘戦を得手とする執事長のセバスだろう。
だが、竜人であるセバスと違い、人間種と見られる悟飯が素手で自分のスポイトランスと鎬を削る光景は、話だけであれば失笑を零すであろう不条理だった。
「小娘の振るっていた石くれと言い、どこまでペペロンチーノ様を愚弄する!」
神器級アイテムであり、シャルティアの誇りであるスポイトランスに打ち据えられておいて、素肌の筈の悟飯の手は傷一つつかない。
その事実は酷くシャルティアのプライドをかき乱し、心が泡立つ。
無理もない、孫悟飯の纏う“気”は展開しているだけで彼の肉体をこの会場のどんな防具よりも強靭な鋼へと変えるのだ。
(………間違いなく、Lv100のプレイヤーかNPC。
基本の戦闘スタイルは肉弾戦。さっきの光弾の様に遠距離攻撃のスキルも持っている…
油断はならないが、戦闘スタイルを見るに搦め手の心配はない、
スポイトランスで体力を回復している以上、持久戦では私に負けはありんせん)
早々に認める他ない。
この孫悟飯と言う少年は、レベル100プレイヤーに匹敵する戦闘能力だ。
だが、衝撃と苛立ちが渦巻く心中とは裏腹に、シャルティアの脳内は冷静だった。
いかなレベル100プレイヤーとて、神器級アイテムであるスポイトランスの効果を容易に無効化できるものではない。
その証拠に、一振りするごとに今もシャルティアの体力は回復し続けている。
アンデッドであるシャルティアに疲労の概念はないため、このまま攻め手を緩めなければ遠からず自分に軍配が上がる。
そして、敵に痛打を負わせた所で、最大までバフを掛けた魔法で消し飛ばす。
故に此処は焦らず、冷静に削っていく。それが彼女のこの場における戦闘方針だった。
堅実で慎重。初戦の敗走を活かした決断だと評する事ができるだろう。
──相手が、孫悟飯でなければ。
「───シッ!!」
突撃槍と拳の交錯が数百を超えた頃。
始めてランスを上段から撃ちおろす形で攻撃する事に成功する。好機だった。
イリヤであれば、このまま押し切る事も可能だっただろう。
だが、押し切れない。それどころか僅かにだが、圧倒的不利な体勢から押し返されている。
槍の向こう側から、腕を盾の様に構え、笑う孫悟飯の顔が見えた。
不味い、と瞬間的に悪寒が駆け巡る。その予感は、正鵠を射ていた。
「だあああああああッ!!」
猿声の様な咆哮と共に、悟飯の全身から凄まじい圧力の力場が噴き出す。
まるで火山の噴火だった。だが、それだけならば十分耐える事ができただろう。
気の圧力にコンマ数秒遅れて、悟飯の拳が撃ちあがって来ていなければ。
爆発音が響く。
ミサイルの発射の様に下段から打ち上げられた拳は、スポイトランスの側面を捕えていた。
気の圧力で緩んでいた手から、スポイトランスが打ち上げられ、くるくると宙を舞う。
「───しまっ」
しまったと思った。
スポイトランスを取りこぼした事ではない。
打ち上げられたスポイトランスを、目で追ってしまった事だ。
その一瞬、スポイトランスに気を取られた一瞬は。
シャルティアにとって致命的だった。
次瞬、べきごき、と何かが砕ける音を聞いた。
-
「だりゃりゃあァああぁあああああああああッッ!!!」
殴る。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴るッ!
超サイヤ人としての力は出せない物の。
宇宙の帝王すら殴り飛ばした膂力で以て、シャルティアの全身を打ち据える。
拳の弾幕、突きのラッシュ。
一秒ごとに肉がひしゃげ、骨が砕ける音が周囲に波の様に広がる。
悟飯にとっても、シャルティアが決して手を抜ける領域の相手ではない事を認めていたが故の猛攻であった。
「ぶ、ぐ、ェェああああああ……ッ!」
シャルティア・ブラッドフォールンにとって、これまで殆ど無い経験だった。
近接戦闘において、ここまで自身が滅多打ちと言えるまで攻撃を受けた事は。
至高の主、アインズ・ウール・ゴウンに敗れた時すら、徒手空拳ではなかったのだから。
敵の纏うオーラの様な物に触れるたび、自分の身体が削り取られていく。
単なる物理攻撃ではない。それだけならば、アンデッドである自分がここまでダメージを負うことは無いはずなのだ。
(セバスの…気功に近い力、かっ!)
拳の津波を受けながらも、シャルティアは悟飯の力を冷静に分析していた。
だが、余りの密度の攻撃に反撃は叶わない。
苦し紛れに振るった腕は空を掻き、カウンターを鼻っ柱に見舞われた。
ぼきん、鼻っ柱がへし折れる音が、耳朶に響く。
(ぐ───ペペロンチーノ様より下賜された、防具さえあれば)
防具さえ装備していれば。
耳長や、イリヤ達との連戦でスキルや魔力を消耗していなければ。
ここまでの不覚を取る事など、ありえなかったのに!
思い通りにならぬ現実を前に、汲んでも汲みつくせぬ怒りが湧き上がってくる。
そんな怒りの形相を浮かべるシャルティアに対しても、悟飯は一歩も臆しない。
猛獣の如き様相で、拳を振り上げ、反撃を叩き潰し、臓腑に膝蹴りを叩き込む。
「がふ……っ!!」
口から鮮血を零し、蹴り飛ばされ、シャルティアの身体が虚空を踊る。
人間であればとうに死んでいるであろう激痛の最中で、彼女は、笑みを作った。
さっきまではお互いの吐息が掛かる距離でのショートレンジ。
スキルも魔法も使う暇がなかったが、今は違う。
肉体の修復は後回し。どうせヴァンパイアは致命傷でなければ死なない。
鬼女の形相で、反撃の一手を放つ。
───清浄投擲槍!!
MPの消費と共に必中効果が付与された光槍がシャルティアの手に形成される。
悟飯の背丈を超える光槍の大きさは、彼女が悟飯に抱いた殺意と危機感の巨大さの証明に他ならない。
全力で、この人間を終わらせる。その意志と、それが叶うだけの力を有した一手。
しかし孫悟飯もまた、シャルティアが接近戦で分が悪いとなれば遠距離攻撃で仕留めようとしてくるのは予想していた。
恐らくシャルティアは、今後絶対に自分に近寄らせようとしないだろう。
だからこそ、遠距離戦でも勝利する。彼女がこれならば有利に立てる。
そう思った土俵で、捻じ伏せる。選ぶ一手は、速射性に優れた彼のもう一人の師の技──
───魔閃光!!
閃光と、衝撃が大気を駆け抜ける。
閃光は視界を奪い、金属音にも似た轟音が全員の聴覚を僅かな間狂わせる。
そんな中でも、悟飯はシャルティアを見失うことは無かった。
彼女の邪悪な気は既に把握している、見逃す筈もない。
シャルティアもまた、清浄投擲槍が破られる事を予期していたのか、中空で悟飯を見下ろす視線に侮りは一切なく。
───《マキシマイズマジック/魔法最強化》
───《マキシマイズマジック/魔法最強化》
───《マキシマイズマジック/魔法最強化》
魔力を高めるバフの重ね掛け。
ここまで来れば認める他ない。目の前の小僧は危険だ。生かしては置けない。
故に付近一帯ごと、全てを焼き払う。
制限下においても、それだけの力を自分は有しているのだから。
-
「消し飛べ……っ!!」
ありったけの殺意を籠めて。
イリヤ達に放っていた物と同じ、しかし全く違う規模の、その魔法を紡ぐ。
───《ヴァーミリオンノヴァ/朱の新星》!!
太陽の失墜。
凄まじい規模の業火が、地表の全てを焼き尽くさんと降り注ぐ。
たった一人を除いて誰も、その場を動く事ができなかった。その威容に、圧倒された。
何人かは離脱する方法はあったにせよ、そんな冷静な判断が零れ落ちる程、差し迫った終焉の具現。
そう、動けたのは、たった一人。
「かめはめ……」
それは、孫悟飯をおいて他にいない。
何故なら彼には、覚えがあったから。
大火力を有する敵が、追い詰められた時にどんな手段を選ぶかを。
迫りくる太陽を見つめて、低い声で短い詠唱を完遂する。
「波────ッッッ!!!」
一条の蒼の波濤が、紅蓮の太陽を迎撃する。
二つの莫大なエネルギーは、拮抗していた。
悟飯がもし、超サイヤ人になれていたならばここまで拮抗することは無かっただろう。
制限下では望めぬ話で、威力に制限を受けているのはシャルティアもまた同じ。
互いに本調子ではないからこそ、こうして覇を競う余地が生まれたのだ。
「ぎぎぎぎぎ……!」
歯を、食いしばる。
まだだ、まだこの程度ではいけない。
超サイヤ人になれぬと言っても、負けるわけにはいかない。
自分が負ければ、周囲にいる人々全てが焼き尽くされる。絶対に、負けられない。
自分は既に知っている。この時大事なのは、気を爆発させること。父はそう言っていた。
制限が及ばぬほどの一瞬。その一瞬で、全てを決める。
腹の奥に力を籠め、全霊で叫ぶ───!
「フルパワーだ!!!」
その叫びを号砲として。
シャルティアの魔法を受け止めていた光条が、爆発的な大きさに変貌する。
大地を飲み込もうとしていた終末の星を、蒼き力の奔流が完全に飲み込んだ。
「───な」
正に、悪夢の様な光景だった。
魔力のバフを重ね掛けした自身の魔法が、真っ向から押し返されている。
思考が飛び、一瞬であるがシャルティアは完全に無防備となる。
だが、世界はそんな彼女の状態に寸借しない。
莫大な二つの力が、彼女を飲み込もうと迫り、そして───
世界が白く染まった。
-
■
大敗を喫した。
本当に、危ない所だった。
制限によって身体能力やスキル、魔法に様々な枷が嵌められていると言っても。
ナザリック最強のNPC、シャルティア・ブラッドフォールンが死の覚悟をした。
吹き飛ばされる瞬間、上位転移の魔法が間に合っていなければ確実に消し飛んでいた。
間に合っているからこそ、彼女はこうして五体満足で此処にいるのだが。
吹き飛ばされる直前に行っていた眷属招来により、何とか回収できたスポイトランスだけが戦果だった。
「このバトル・ロワイアル……」
しかし、全身に負ったダメージは大きい。
特殊技能(スキル)は完全に底をつき、休息と栄養補給を取らなければもう使えない。
MPも、制限により魔力の消費が増大しており既に二割を切っている。
真紅の全身鎧を奪還する目途も立っていない。
イリヤ達を圧倒していた時とは、急転直下で状況は悪化したと言える。
「一筋縄ではいかない様でありんすね……」
エルフや、イリヤを相手に不覚を取った時とは違う。
この二人は武装さえ奪還し、万全の状況で戦えばそう怖い相手ではない。
だが、孫悟飯は違う。
制限によって手札の数に大幅に制限を掛けられているシャルティアにとって、
白兵戦でシャルティアに匹敵し、ともすれば凌ぐ実力を有する悟飯の存在は青天の霹靂と言えた。
認識を改めねばならないだろう。力押しでは、このバトルロワイアルは勝ちぬけない。
(至高の御方より賜った鎧を奪還するのは、より急務……
……それに、使える相手とは同盟を組むことも考えなければいけない、か)
元より、真紅の全身鎧を奪還するのは決定事項ではあったが。
孫悟飯の様なLv100の強者を相手にするのは絶対に必須と言えた。
それに加え、同盟者も必要だ。孫悟飯があのエルフやイリヤと徒党を組む可能性は高い。
そうなれば孤軍で勝てる可能性は格段に下落する。
故に、自分に匹敵するマーダーの協力者は必須であると言えた。
できることなら此処にいるのであればナザリックの階層守護者が望ましいが……
そこまで考えて、シャルティアは自身でも意外なほど思考が冷静な事に気づく。
「ハァ……怒りも余り募りすぎると逆に冷静になるという事でありんすか」
短く嘆息して、その手のスポイトランスを無造作に振るう。
ドッ、と。街路樹が吹き飛び、近場に会った民家に叩き込まれていった。
全身にダメージを負っているが、行動には問題ない。
それだけを認識して、再び歩みを再会する。
一先ずは名簿の開示を待ち、知り合いがいるかの確認を行う必要がある。
(待っているでありんす、耳長、イリヤ、そして孫悟飯。
ナザリック最強の階層守護者の名に賭け、絶対にこの借りは返す…!)
至高の御方が自分に下賜した、ナザリック最強の階層守護者の矜持に賭けて。
自身に敗走と言う屈辱を与えた少年少女を必ず殺すことを、シャルティアは誓った。
【一日目/早朝/D-8】
【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】
[状態]:怒り(極大)、全身にダメージ(大)、スキル使用不能、MP消費(大)
[装備]:スポイトランス@オーバーロード 闇の賜物@Dies Irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2、カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]基本方針:優勝する
1:真紅の全身鎧を見つけ出し奪還する。
2:黒髪のガキ(悟飯)はブチ殺す。ただし、装備の整っていない今は控える。
3:自分以外の100レベルプレイヤーと100レベルNPCの存在を警戒する。
4:武装を取り戻し次第、エルフ、イリヤ、悟飯に借りを返す。
[備考]
※アインズ戦直後からの参戦です。
※魔法の威力や効果等が制限により弱体化しています。
※その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
※スキルの使用可能回数の上限に達しました、通常時に戻るまで12時間程時間が必要です。
-
はぁ、はぁと荒い息を吐く。
超サイヤ人ほど消耗は無いとは言え、明らかに無茶をした。
それでもシャルティアを倒せていれば良かったが、かめはめ波と押し返した炎に飲み込まれる直前に、気が一瞬で移動する気配を感じた。
恐らく、逃げられただろう。
振るっていた槍が消えているのが、その証拠だ。
だが、一先ず追い払う事は出来た、後は───
「あら、残念」
キンッ、と金属が触れ合う音が響く。
視線の先には、目元に幾何学的なラインが走り、楽しそうにほほ笑む銀髪の少女──グレーテルがいた。
彼女は目の前の少年の命を、悟飯の頸動脈を切り裂こうと、刃に変えた自分の腕を振るったのだ。
だが、幾ら消耗しており、グレーテルが違法薬物で身体能力を向上させていると言っても、彼の首を掻き切るのは容易では無かった。
忍び寄るグレーテルの気を探知し、気を纏った腕で払う事で迎撃に成功していた。
「……お前も、殺し合いに乗ってるんだな」
奇妙な光景だった。
如何に地獄の回数券という違法薬物を摂取していると言っても。
グレーテルよりも、悟飯の方が正面からでは強いのに。
それでも険しい顔を浮かべているのは悟飯で、対峙するグレーテルは笑顔だった。
「……そうだと言ったら、お兄さんは私を殺すかしら?」
不気味なほど、にこやかな表情で。
少女は少年に尋ね返した。
この少女は自分よりも絶対に弱い、それは半ば確信を持てる。
それなのに、悟飯の胸中を占めるのは、自分の内側を覗かれている様な不安感だった。
返答に、詰まる。
「……不思議な人ね、お兄さん。たまにいるのよ。世界のルールをもう分かってるのに、
それでも目の前の命を自分の物にできない、命の輪廻(リング)を回せない意気地なし」
無言の悟飯に対して、その手の刃を消して、グレーテルは近づく。
まるで、そうすればシャルティアと違って悟飯は自分に手出しができない。
そう、悟っている様だった。
事実それは正しかった、そのまま悟飯は近づくグレーテルの言葉に耳を傾けてしまう。
彼女の言葉が、絶対に自分にとってプラスにならないと理解していながら。
「私達はそんな事はもう違う。さっきまで命乞いをしていた子の断末魔の響きや、
肉を引き裂いた時に浴びる真っ赤で温かいシャワーが大好きよ?」
けたけたと無邪気に笑うグレーテルの顔は。
シャルティアの怒りの形相よりも、見ていて背筋が冷える様だった。
お互いの腕が届く距離に来ても、グレーテルは攻撃しない。
攻撃すれば、迎撃する口実を与えてしまうから。
それよりも、このお兄さんには此方の方がいい。
直感的に、彼女はそう理解していた。
「でも不思議だわ、お兄さん。お兄さんは私達と同じに見えるのに、
どうして命のリングを回すことを躊躇うのかしら?」
人差し指を顎に当てて。
純粋に疑問だという顔で、グレーテルは悟飯の顔を覗き込んでくる。
「ぼ…僕は……お前達みたいに……こ、殺し合いを楽しめなんか………」
否定しようとした。
そんな筈はない。自分は、暴力を振るうのは嫌いだ。
セルとだって、本当は戦いたくはなかった。
本当に?
「あら、それならどうして───お兄さん、笑ってるの?」
「────っ!?」
バッと、口に手を当てる。
さっきまで怒りで引き絞っていた筈の口の端が…緩んでいた。
だが、それだけだ。それだけの筈だ。
「わ、笑ってるわけないだろ……!い、いい加減な事を言うな……っ!!」
-
違う。
違う。
違う。
僕は、戦うのを楽しんでなんかいない。
美柑さんを置いてまで此処へ来たのだって。
この場にいる人たちを助けるためだ。
殺し合いを止めるためだ。
「───本当に?」
───フフフ。ダメだよ父さん、あんな奴はもっと苦しめてやらなきゃ……
───バイバイ、みんな……
「あ、あああああああああッ!!!」
僕の失敗と、お父さんの笑った、あの時の顔が浮かぶ。
頭の中が真っ白になって、兎に角目の前の女の子の言葉を聞くのが怖くなった。
無我夢中で、僕は目の前の女の子を突き飛ばした。
女の子は、僕に突き飛ばされて、近くの建物の壁に当たって、崩れ落ちた。
そしてまたはぁはぁと、息を吐く。
何も考えたくない。考えると、気が変になりそうだったから。
そう、今は考える時じゃない、動くべき時だ。
そうしなければ、みんな死んでしまう。
だから僕は手に作った気を、此方に向かってくる剣に飛ばした。
気弾と弓矢の様に飛んできた剣がぶつかって爆発する。
剣が飛んできた方向には、褐色の肌の女の子が立っていた。
あの子も、殺し合いに乗っているらしい。
「なら、やっつけないと」
そう呟いて、女の子を倒すために体に力を籠める。
大分疲れているけど、問題はない。
僕が一番強いから、戦えない人を守らないといけない。
そうだよね?お父さん。
誰にも聞こえない様にそう呟いて、女の子に飛び掛かろうとした、その時だった。
「動くな、動けばこの女を殺す」
その言葉を聞いて、走り出そうとした体を止め、声の方へと向き直る。
そこには、眼帯の男の子が無理やり立たせた様子の、蒼い髪の女の子を盾にする様に立っていた。
■
リップ=トリスタンにとってもイリヤ達の乱入から想定外の事態の連続だった。
リップと対峙する孫悟飯の介入こそ、その極めつけと言えた。
悟飯と突撃槍を持った女の衝突は、否定者の戦闘でもまず見ない領域の戦いだった。
正面からぶつかれば結果は火を見るより明らか。しかし逃げる事も容易ではない。
可能であれば、突撃槍の女と悟飯が戦っている間に逃げたい処だったが──
偏に環境が悪すぎた。
下手に動けば、流れ弾で死にかねない状況だったため、それは叶わなかった。
(……ひらりマントを手放しちまったのは失敗だったな)
敵の攻撃を反射できるひらりマントをニンフとの戦いで手放してしまっていなければ離脱も叶っただろうが……
それは今では意味のない泣き言だな、とリップは切って捨てた。
重要なのは、これからどう動くかに他ならない。
リップにとって最も避けたいのは、目の前の対主催と見られる少年と、イリヤ達に結託される事だ。
自分の不治であれば目の前の少年にも僅かにだが勝機はある。
しかし、イリヤ達の口からそれをバラされ、徒党を組んで襲い掛かられれば到底太刀打ちができなくなる。
だから、ただ逃げる訳にもいかなかった。
此処でただ逃げても、後々詰むのは目に見えている。
だからこそ、対主催達への削りも兼ねて、賭けに出る必要があった。
「くそ……アンタ……リップ……」
「動くな。癒えない傷をつけられたくなければな」
憎々しげに睨んでくる、天使の少女ニンフ。
その背中に義足を当てて何時でも殺せることを強調しながら、視線は悟飯から離さない。
その上で、交渉に臨む。
-
「お前を相手にするのは少しきつそうなんでな。此処は逃げさせてもらう。
追ってくればこの女がどうなるかは……分かるだろ?」
ただ逃げるだけでは、あの常識離れの速度で追撃された場合に逃げ切れるか不安が残る。
そのため人質を取り、追って来させない様にするほかない。
対主催を掲げるほど正義感の強い性格であるのは、乱入してきたときの言動から伺えた。
ならば、交渉の余地はある、リップはそう踏んでいた。
「勿論、お前から離れれば人質は解放する。
いつまでも足手まといを引き連れるつもりはないからな」
この発言にも、嘘は無かった。
だが、無傷で返すとは言わない。
最低でも不治の傷をつけて、無力化してからでなければ人質に取る意味がない。
できることなら、悟飯に傷をつけたうえで離脱したい所だが……
彼の戦闘力を考えれば、無理に攻撃を行えば此方の攻撃が届いた時には敵の拳を喰らっていた、何て事になりかねない。
走刃脚の斬撃を目視で躱しかねない相手だ、しくじればそのまま死に繋がる反撃が待っている。
積極的に狙うにはリスクの高い策な以上、このままニンフを連れて逃げる方が確実だろう。
そう算段を立てた、正にその時だった。
「───なに?」
目論見が外れる。
目の前の少年──孫悟飯は、リップの脅迫を受けながらも。
無言で五指を広げて、その手に気のエネルギーを集めて、宣言した。
「逃がしはしない。もしその人を殺したら、次の瞬間お前を殺す」
■
「……ハッタリはよせ。こいつらを見捨てられないからお前はここまで来たんだろう。
そもそも、見捨ててもいいどうでもいい奴らならお前は此処に来なかったはずだ」
「さぁ……どうかな」
できる、と思った。
人質の女の子からリップと呼ばれた眼帯の“マーダー”が、約束を守るとは思えない。
僕から離れたら、人質を殺すに決まってる。
人質を取るような卑怯な奴は、ここで殺しておかないといけない。
(……その上で、人質の女の子も助ける)
敵に掌を向けて、分かりやすく気を集めておきながら。
もう片方の、リップから見えない後ろ手に、密かに気を集める。
一発目は、意識を引きやすく、それでいて敵が女の子を攻撃する暇もない程。
躱す事に専念しないといけない程度の威力で、気を放つ。
狙いはその後、躱して態勢を崩した相手を、もう片方の手に集めた気で撃ち抜く。
ピッコロさんの、魔貫光殺砲の様に。
(いける。奴はやっぱり、もう片方の手の気に気づいていない)
危険な手であるのは分かっていた。
でも、気を感じ取る限り、リップはあまり強くない。
本当なら駆け寄って後ろに回り込み、殴ってやっつけられればそれが一番確実だったけど。
無理をしてフルパワーを出した反動で、体が重い。上手く力が入らない。
きっと乃亜の制限だろう。でも、それを悟られるわけにはいかない。
だからこうして、相手の気を惹きつけやすい方法を選んだ。
(……あと、重要なのはタイミングだ)
このまま睨み合っていてもらちが明かない。
だから、攻めるきっかけが欲しかった。
攻撃を仕掛けるきっかけが。
そう思いながら、僕も、リップも、押し黙ってしまう。
彼奴もきっと、僕に攻撃するか、逃げるタイミングをうかがっている。
僕の後ろに感じる気…褐色の女の子の方を僕の身体越しに時々意識を送っているから、恐らく仲間か。
挟み撃ちにされる心配がないように、其方にも意識を二割ぐらい送って置く。
僕と眼帯の敵の位置は重なっているから、彼女が僕をさっきの様に剣を飛ばして殺そうして、躱されれば眼帯の敵の方に飛んでいく。
彼女も僕の強さは知っているから、近寄っては来ないだろう。
その事を確認した直ぐ後だった。
その時がやって来たのは。
-
「気をつけなさい!こいつに、傷をつけられたら───!!」
人質にされていた女の子が叫ぶ。
来た、と思った。
一瞬だけ、眼帯の敵の意識が、女の子の方へと向いた。
そのチャンスを逃さない。迷うことなく、掲げていた方の手の気弾を撃ち放った。
「っ!?クソッ!!」
リップがしまった、と言う顔で大きく飛びのく。
ここまでは立てた作戦通りだ。
僕はもう片方の手を、奴の前に突き出す。
飛びのいた事で、盾にしていた女の子から、奴の身体が半身ほど出てしまっている。
撃ち抜くなら、今しかない。
一発で、頭を撃ち抜く!
「喰らえ───!!」
言葉と共に。
指先から、気を放つ。
此処まで全て考えた通り、できる筈だった。
「やめろおおおおおおおッッッ!!!」
眼鏡の男の子が、僕の指先の前に飛び込んでくるまでは。
な、と思う。
反射的に、リップに向けていた指先をずらしてしまう。
同時に、僕の指先から光線状の気が発射される。
一直線に伸びたその攻撃に、阻むものは何もなく。
そのまま、リップの身体を撃ち抜いた。
ここまでは、最初の想定通り。
ただし、眼鏡の男の子が飛び込み、軌道はズレて。
青い髪の女の子ごと、僕の放った気弾はリップを撃ち抜いていたけど。
────こんな筈じゃ、なかった。
────リップの言葉を信用できるはずも無かった。
────約束を守っても、女の子が助かる保証はなかった。
────じゃあ僕は、一体どこで間違えたんですか?
────どうすれば、上手くやれたんですか。
────教えてください、お父さん。
きりきりきり。きりきりきりきりきり。
-
■
目の前の、ニンフの身体を貫いて。
悟飯の放った気が、俺に向かってくる。
数十倍、数百倍に圧縮された時間の中で、迫る光線を見て。
俺は、これは躱せないと悟った。
走刃脚は制限のため普段ほどの性能を出せない。
そして、初撃を交わした時に既に空気は出してしまった。
二撃目を躱すには、コンマ数秒足りない。
(くそ…)
イリヤや、黒髪のガキが首を突っ込んで来なければ。
ひらりマントを手放していなければ。
黒髪のガキが、もう少し話の通じる相手であれば。
こんな事にはならなかった。
(クソッ)
あの日と同じだ。あの、ライラの執刀を行った日と。
神様ってクソは、どうあっても俺の事が嫌いらしい。
こんな筈じゃなかった。
俺は、死ぬ訳にはいかないのに。
ライラを…助けるまでは。それなのに!
一体どこで、何を間違えた。ヒーローとして振舞えばよかったのか。
無理だ。
みんな救って、皆仲間にして。仲良しこよしで乃亜を倒してグッドエンドってか?
そんなもんは、ライラが死んだあの日から、とうに置いてきた子供の感傷だ。
何故だ。何故だ。何故だ……ッ!!
何で、上手く行かないんだ……!
「クソォ!!」
-
■
大きな音で、目を醒ました。
何だか頭がぼんやりとして。夢を見ているみたいで。
目を醒ましてから何となくドラえもんの姿を探した。
でもそこは、家でも何時もの空き地でもなくて。
見慣れない街並みが目に入って、おかしいと思った。
顔を上げてみると、首に何かがついている。
ぼんやりしたまま、その首についたものを撫でてみる。首輪だった。
───殺し合い。
その言葉を思い出して、一気に意識が冴えてくる。
頭はまだぼんやりした感じだったし、目も少し霞んでいたけど、飛び起きる。
そして、目を醒ました僕の目に飛び込んできたのは。
───動けばこの女を殺す。
人質に取られるニンフとその後ろに立つリップ、そして。
───逃がしはしない。もしその人を殺したら、次の瞬間お前を殺す。
ニンフの方に手を翳しながら笑う、黒髪の男の子の姿だった。
男の子の笑う顔を見た瞬間、ぞくっと背中が寒くなった。
実際にニンフを人質に取っているのは、リップの方なのに。
そんなリップをやっつけるために、ニンフごと撃ち抜くんじゃないか。
いや、拳銃とかは持ってないけど、ここにはロキシーさんやリーゼロッテの様に魔法を使える人がいる。
もし、目の前の男の子も魔法を使えるとしたら。
そう考えた瞬間、僕は走り出していた。
(あの子、本気だ!!)
本気で、ニンフごと撃つつもりだ。
エラーをした時のジャイアンより、ずっとずっと怖い顔を彼はしてたから。
絶対に、そんな事させるわけにはいかない。止めないと。
火事場のバカ力と言う奴だろうか。いつもより走るスピードはずっと速い。
今なら、出木杉にだって勝てるかもしれない。転びもしなかった。
気をつけなさい!こいつに、傷をつけられたら───
ニンフが、黒髪の男の子に向けて声を張り上げる。
それが合図だった。
黒髪の男の子の手から、魔法が飛び出す。
リップはそれをニンフを抱き寄せながら何とか飛び退って。
それに合わせたように黒い髪の男の子が、もう片方の手を、リップに突き出す。
何で、何でだ。そんな事をすれば、ニンフだって危ないのに。
もしニンフが無事でも、さっきの光線が当たればリップは死んでしまう。
敵なのはそうだけど、でもリップだって元は乃亜に連れてこられた被害者だ。
それなのに、どうして。どうして笑いながら殺そうと出来るんだ!
「やめろおおおおおおッ!!」
叫びながら、リップと男の子の間に割り込む。
間に合った、これで男の子は撃つのをやめるはず。
男の子の心の底から驚いた顔が、目に焼き付く。
───その指から、光線が発射された。
ウルトラマンのスペシウム光線みたいだって、ぼんやりと思った。
男の子が出した光線は僕の顔スレスレを通り抜けて。
どしゅ、と後ろで音が鳴った。
嫌な、心の底から嫌な音だと思った。
「ニ、ニンフ……?」
恐る恐る振り返って。
そこにあったのは、崩れ落ちるニンフの姿だった。
───何で。
僕はただ、ニンフにも、リップにも死んでほしくなかったのに。
死んでほしくなかったから、こうしたのに。
僕の、せいで?
-
「あ……うあ……」
────命令って言うか、お願いになるけど……「死なないで」ぐらいかな?あはは。
────でも、何度でも起き上がるよ。僕はだるまだからさ。
「うわあああああああああああああ!!!!!!!!」
胸を撃ち抜かれて、死んだリップと目が合う。
違う…違う違う違う違うッ!
僕じゃない。僕のせいじゃない!
あの男の子が、ニンフが人質に取られているのに魔法を撃とうとしなければ───
こんな、こんな事にはならなかった!
こんな筈じゃなかった。
頭の中がグルグル回って、何も考えられない。
もうめちゃくちゃに、僕は走り出した。
何で、何で上手く行かないんだ……!
「ドラえもん……何で来ないんだよぉ……!」
その場を夢中逃げ出して。
走って。
走って。
走って。
何もかも分からなくなって。息が苦しくなった所で、ようやく止まる。
それから、親友の名前を呼んだ。
でもこういう時にいつも来てくれるドラえもんは。
今日は、来てくれる気がしなかった。
【一日目/早朝/F-8】
【野比のび太@ドラえもん 】
[状態]:強い精神的ショック、悟飯への反感、疲労(中)、肩に切り傷(小)
[装備]:ワルサーP38予備弾倉×3
[道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス-
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る
1:僕は、僕が、殺した……?
2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる?
3:みんなには死んでほしくない
4:魔法がちょっとパワーアップした、やった!
[備考]
※いくつかの劇場版を経験しています。
※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。
「やったぜ!!」BYドラえもん
※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています
※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)。
※リップが死亡したため、肩の不治は解除されています。
-
■
こんな筈じゃなかった。
徒党を組まれたら面倒だから、と。
イリヤ達の一団が分かれた所を襲って。
それから先は滅茶苦茶だ。想定外な事だらけだった。
同盟者であるリップも、あの傷では助からないだろう。
そんな中で、命を拾った自分は運がいいと思う。
「なんて、思える訳ないじゃない」
同盟を組んだ矢先に、また独りだ。
自分の魔力には限りがあって、使い切れば消えてしまう。
賢者の石という魔力タンクは持っているけれど、それだって無限じゃない。
宝具の使用や転移魔術など、魔力の消費の大きい行動を行うのは怖い。
減った魔力は戻らない。考えなしに使えば命はどんどん目減りしていく。
だから、場慣れしていて、不治なんて強力な呪いを持ってるリップと組んだのに。
運に見放された彼は、あっさりと命を落としてしまった。
「運が悪かったわね、リップ君……美遊も」
呟いたその声は、掠れていた。
考えが上手くまとまらない。
身体を貫かれる美遊とリップの姿が、瞼の奥に焼き付いて。
何より、魂を分けた片割れの、イリヤの顔がちらつく。
甘ったれだと思っていた顔は、強い意志を放っていて。
それを見ていたら、自分は何か取り返しのつかない間違いをしている気分にさせられた。
とんでも無い空回りをしているような、そんな気分に。
「あの子…美遊が死んじゃって、大丈夫かし……っっ!!」
言いかけた言葉を必死に抑えて、のみ下す。
優勝するなら、イリヤにも死んでもらわなければならないのに。
そう願っている自分が、イリヤの身を案じるなんて、片腹痛い話だ。
被りをふって、強引に思考を切り替える。
「これから、どうするか……よね。今、考えないといけないのは」
「あら、それなら私と組まない?お姉さん」
突然響いた、自分以外の声。
反射的に干将莫邪を創り、声の方へと振り下ろす。
だが、子供なら簡単に斬り伏せる事ができる力で振るった夫婦剣は、一枚の布に触れると同時に奇妙な軌道を描いて虚空を斬った。
それを見て、赤い布を掲げる銀髪の少女はくすくすと愉快そうに笑った。
「まぁ凄い。こっそり拾ってきて正解だったわ。このマント」
リップが使っていた『ひらりマント』を得意げにひらひらと振って。
少し前まで剣をぶつけ合っていたとは思えない気安さで。
グレーテルは、本当に無邪気な笑顔で、クロエに笑いかける。
「……それ、リップ君のじゃない。どさくさに紛れて盗んできたってワケ?」
「えぇ。あのお兄さんたちがいたから全部とはいかなかったけど、拾える分は拾ってきちゃった」
あの男の子に殴り飛ばされたのに。
自分は、その場から逃げ出すことで精いっぱいだったのに。
強かなものだ。クロエはそう思った。
もし、あの場に勝者がいたとするなら。
それは目の前の少女なのかもしれない。
「どの道あの眼帯のお兄さんは死んでしまったし、それなら私が貰ってもいいでしょう?」
「……っ!どの口が。そもそもアンタが邪魔をしなければ、リップ君は───」
お前のせいで仲間が死んだ。そんな風なことを思って、クロエは食って掛かろうとする。
だが、彼女の言葉を遮る様に。グレーテルがぐりん!と顔を近づけてきた。
深い虚のような目だと、クロエは思った。
「どうして?お姉さんはこのパーティで優勝しようとしてるんでしょう?
あのお兄さんも、遠くないうちに殺す予定だったのよね?」
「……っ!?そうだけど…っ。まだ死んでもらう訳にはいかなかったのよ!」
近くで視線を交わしていると。
身体の中まで覗き込まれているような、そんな目だった。
視線を逸らして、目を合わせないようにする。
そんなクロエに対して、それなら、と前置きをして。
そして、グレーテルはクロエの指に自分の指を絡め、そして告げる。
-
「……うふふ。それなら、猶更、私と仲良くしましょう。
お兄さんの分の埋め合わせをするわ。それなら、許してくれる?」
「……っ!?」
唇が触れ合いそうな距離で。
甘く、蕩けるような声色で。
壊れ切った、小さな魔女は囁く。
その魔女の誘いを受けて、聖杯の少女は息を飲んだ。
落ち着け。
合理的に考えろ、と心の中で何度も呟く。
目の前の子がいなければ、リップ君は死ななくて。
でも、私でも逃げ出すのがやっとの修羅場を、この子は抜け目なく立ち回って。
女の子。魔力供給もできる。
場慣れしてて、本調子には遠いとは言っても、私と戦える程度には強い。
頭の中に様々な考えが巡るが、困ったことに、彼女の乱入のせいでリップ君が死んだという感傷以外で断る理由は無かった。
何より…直感的に分かってしまった。
優勝を目指すなら、彼女は私の役に立つ。
「……分かったわ」
拒むことはできなかった。
その選択がより深い泥沼に沈んでいく事を承知の上で。
クロエは、こくりと頷いた。
その脳裏に浮かぶのは、美遊の最期。
───イリヤは、生き……
末期の言葉さえ紡げなかった、魂を分けた半身であるイリヤを友と呼んでくれた少女。
その少女の末路が頭から離れない。
死にたくない。生きていたい。
皮肉なことに、少し先の未来でクロエとも友になる筈だった少女の最期が。
彼女の選択を後押ししてしまっていた。
「うふふ。交渉成立ね。私はグレーテル!お姉さんのお名前は?」
「……クロエ、クロエ・フォン・アインツベルンよ
先ずは此処を離れましょう。さっきの子達が追いかけてくるかも」
本来であれば、和解できるはずだった。
クロエとイリヤ、彼女達二人の母親の助力によって。
絡まった心の糸は、解けるはずだった。
だが、この世界に二人の母親はいない。
姉妹喧嘩の、仲裁はしてくれない。絡まった糸が、解ける気配は未だない。
……彼女はきっと、此処に来るべきでは無かった。
彼女は、奇跡に縋るのではなく。
奇跡をつかみ取るべきだった。
その間違いを正せぬまま、一度交わりかけた姉妹の道は再び離れていく。
【一日目/早朝/E-7】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:魔力消費(小)、精神的ショック、自暴自棄
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、透明マント@ハリーポッターシリーズ、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君には…ほんの少しだけ期待してるわ。少しだけね。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品2〜4(リップ、アーカードの物も含む)、エボニー&アイボリー@Devil May Cry、アーカードの首輪。
ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵の首輪、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、ベッキー・ブラックベルの首輪、ロキシー・ミグルディアの首輪
[思考・状況]基本方針:皆殺し
1:兄様と合流したい
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。先ずは双眼鏡で見つけた四人から。
3;殺人競走(レース)に優勝する。港で戦っていた二人は後回しね。
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。あの妖精さんは生きてるかしら?
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい
[備考]
※海兵で遊びまくったので血塗れです。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
-
■
「あの……」
呆然としていた所に、声を掛けられる。
声をした方に悟飯が視線を向けると、奇妙な光景がそこにあった。
声を掛けてきた者の正体。それは一振りの杖と、白い人形だった。
その傍らに、白い茨に包まれた、白髪の少女が眠っている。
『私は愉快型魔術礼装、サファイアと申します、此方は雪華綺晶様』
「……悟飯、孫悟飯」
『悟飯様ですか。……心中お察しします。ですが、どうかお力添えをお願いいたします』
「お願いします…マスターを…イリヤを助けて……」
縋るような声で、懇願してくる人形と、杖。
彼女達からすれば、消耗しきった中で藁をもつかむ思いなのだろう。
だけど、それは今しがた取り返しのつかない失敗をしたばかりの悟飯には。
どうしようもなく、重かった。
「……わ、分かりました。それじゃあ、僕の、その……一
緒に行動している人がいるので。その人が待ってる家に一先ず運びましょう………」
歯切れの悪い、ぎこちない返事を返し。
悟飯はイリヤを担ぎ上げた。
「あ……あの、皆さんは……」
イリヤを担ぎ上げて、出発しようとしている悟飯に、雪華綺晶はおずおずと声を掛ける。
その視線の先には、事切れた美遊と、ニンフがいた。
放って置くのは、心情的な忌避感があるのだろう。
それも悟飯は分かっていた。けれど。
「……すみません。後で僕がちゃんと埋葬しに来ます」
直接は言うことはなかったものの。
二人の遺体を、運ぶことを彼は拒否した。
雪華綺晶とサファイアはその言葉を受けて、何かを言おうとして。
そして、言葉に詰まった。
彼女達が見た悟飯の表情もまた、疲弊しきっていたから。
「……分かり、ました。後で、マスターが目を醒ましてから……」
半分は申し訳なさそうに、もう半分はやるせないと言った様子で。
雪華綺晶は、悟飯の遺体を運ぶことを固辞する意思を受け入れた。
それを見ると、悟飯はまた頭のおくがきりきりと疼くような錯覚を覚えた。
お前がこんなことをしなければ、私達の仲間は死なずに済んだのに。
この場に置いていくなんてひどい奴だ。
そう言われている様で、胸の奥から黒い物が噴きあがってきそうなるのを、抑え込む。
──お父さんと会うまで……しっかりしないと……僕が、一番強いんだから……
きりきりきり。きりきりきり。
歯車がどんどん狂っていくのを感じながら、それでも止められず。
うわ言の様に、そう呟いて。
少年たちは歩き始める。
その様は皆一様に項垂れていて。
殺し合いの最中、マーダーを撃退し、六時間を生き残り。
これから朝を迎える勝者の姿ではなかった。
───きっと、誰もが。運命の奴隷だった。
-
■
ひゅー、ひゅー、と。
息を吐く。
全く、本当に、つくづくツイてないわね。
私…ニンフが目を醒まして思ったのは、そんな言葉だった。
死ぬ前に意識は戻ったけど、本当に戻っただけ。
あの、黒い髪の男の子が撃って来た光線は、私の胸部をごっそりと破壊していた。
自己診断では修復は不可能。
カオスに殺されたヒヨリの様に、私もこれで終わりってワケ。
…あのクソ生意気な医療用エンジェロイドが偶然通りかかれば可能性はあるかもしれないけど。
それでもやっぱり、そんな幸運は来そうになかったし。
修復不可能な損傷を負った私にこれから何ができる訳でもない。
立ちあがって歩くだけで、自壊していくだろう。
このまま寝転がっていれば、数時間は保つかもしれないが、それだけだ。
もう私は助からない。
彼に恨みはない。あの子はあの子なりに、私を助けようとしてた。
ウソ。やっぱりちょっと、もう少し上手くやんなさいよって思いはあったけど。
でも、もういい。
「みんなは……ちゃんと逃げたかしら……」
首から上だけを動かして、辺りを確認する。
私と、イリヤが連れ射ていた黒髪の女の子。
そしてリップ=トリスタン以外の死体は無かった。
良かった。
どうやら、機能停止(し)ぬのは、私で最後のようだ。
それが分かって安心したのか、どっと身体から力が抜ける。
色々ありすぎて、酷く疲れた。踏んだり蹴ったりだったし。
世界が終わりそうになって、訳の分からない化け物に襲われ続けて。羽まで毟られて。
私がいなければイカロスも、アストレアも。………トモキも。
きっと、お終いだろう。でも、現実的に私ができる事はもうない。
もういい、十分だ。疲れてしまった。
後はこのまま、機能停止まで眠ろう────
「───って、んな訳、無いでしょ……!!」
いや、まだだ。
まだ終われない。せめて一度くらい乃亜の鼻っ柱をへし折ってやらなければ気が済まない。
こっちは全部台無しにされたのだ、きつい一発を…彼奴が最も困ることをやってやる。
「素粒子ジャミングシステム……」
これが、最後の一分だ。
この一分に私の全てをくれてやる。
翼が無いなんて関係ない。なくたって一度生やせたんだ。
ならいま一度やってやる。
私の全部を引き換えにするんだから、それぐらいの無理は通させてもらう!
────Aphrodite展開!!
横になったまま、Aphroditeを展開。
ほら…やっぱりできるじゃない。
横たわっているから、背中は見えないけれど。見なくても分かる。
今、私の背中には翼がある。だけど、それを喜んでいる時間は私にはない。
このまま、ハッキングを開始する。
───システム侵入!ウイルス注入開始!制圧まで五秒!
「このまま…丸裸にしてやるわ。アンタの小賢しい首輪(コレ)……!」
狙いは一つ。私達を縛る戒めの象徴である、首輪。
その首輪を解析して、狂わせるプログラムを創り出す。
修復不可能な損傷を負った状態で、そんな事をすればどうなるか。
考えるまでも無い。でも、その時の私のパフォーマンスは、過去最高に超えるものだった。
今ならZEUSの防衛プログラムだって、手が届く。そう確信できた。
-
「────クラッキング、完了……!」
内部構造、爆破システム、それに対抗するウイルスプログラムの生成。
文字通り丸裸にしてやった。後はこれを近場のコンピューターに転送(ダウンロード)するだけ。
候補は、海馬CPと、図書館。ええい面倒だ、両方やってやる。
勿論直ぐに乃亜に消去されない様、私のジャミングのオマケ付きで。
────禁則事項に接触しました。残り五秒で首輪を爆破します。
「遅いのよ、ノロマ……!」
私のジャミングを破って、乃亜が爆破のコマンドを命令したらしい。
相当焦っているのか、爆破までの間隔は数秒。でも、もうそれだけあれば十分すぎる!
数百倍に引き延ばされた時間の中で、何となく。
これが終われば、私のエンジェロイドとしての仕事も終わりか、と思う。
…それから、さっきはトモキも世界も、もう終わりだって投げやりになっちゃってたけど。
本当は、どうなったのかな。
もしかしたら、全部上手く行ってないかな、なんて。
そんな淡い夢を見る───エンジェロイドは、夢を見ないのに。
────俺は、普通で、平和な毎日を送りたいのである。
────みんなを、元通りに。
「は……?」
その時、首輪のデータから流れ込んできたのは。
私が最も知りたかった、夢の結末。
あぁ……そっか。そうなんだ。
乃亜にしてやられた。きっと、私からあと数秒の時間を奪い取るための、防衛措置。
私はそれに見事に引っかかった。
乃亜が首輪を介して送って来たそのデータは、私にとって致命傷だった。
だって…私の心残りが消えちゃったから。
「トモキ……良かった………」
その情報に気を取られたコンマ数秒が、勝負の分かれ目で。
解析したデータ全てを焼き付ける事はもうできない。
だから、せめてそれまで転送した情報を守るためにジャミングシステムをかけて。
それが、限界だった。
────命令って言うか、お願いになるけど……「死なないで」ぐらいかな?あはは。
のび太、ごめんね。
命令、破っちゃうわ。
でも、その代わり、私が遺せるものは遺していくから───、
後は、頑張んなさい。
……負けないでね。
─────ボン。
【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】
【リップ=トリスタン@アンデッドアンラック 死亡】
【ニンフ@そらのおとしもの 死亡】
-
【一日目/早朝/E-8】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:気絶、全身にダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、雪華綺晶と契約
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、クラスカード『アサシン』Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『バーサーカー』Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:────。
1:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
2:殺し合いを止める。シャルティアからのび太さんたちを守る
3:雪華綺晶ちゃんとサファイアを守る。
4:リップ君は止めたい。
5:みんなと協力する
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
【雪華綺晶@ローゼンメイデン】
[状態]:全身に叩き付けられた鈍い痛み、悲しみ、イリヤと契約。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:真紅お姉様の意志を継ぎ。殺し合いに反抗する。
1:マスター、お気を確かに……
2:殺し合いに反抗する。
3:イリヤを守る。
4:この方々は、マスターのご友人の…?
5:彼(乃亜)は、皆人と同じ……?
[備考]
※YJ版原作最終話にて、目覚める直前から参戦です。
※イリヤと媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※Nのフィールドへの立ち入りは制限されています。
※真紅のボディを使用しており、既にアストラル体でないため、原作よりもパワーダウンしています。
※乃亜の正体が鳥海皆人のように、誰かに産み落とされた幻像であるかもしれないと予想しています。
※この会場は乃亜の精神世界であると考察しています。
のび太、ニンフ、イリヤとの情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】
の世界観について大まかな情報を共有しました。
【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、雛見沢症候群“???”、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:………僕の、せいなのか?
1:眼鏡の子や魔法少女の子を美柑さんの所に連れて行って、それから。
2:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。
3:お父さんを探したい。出会えたら、美柑さんを任せてそれから……。
4:美柑さんを守る。
5:スネ夫、ユーインの知り合いが居れば探す。ルサルカも探すが、少し警戒。
6:シュライバーは次に会ったら、殺す
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群を発症しました。発症レベルはステージ1です。
※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
【結城美柑@To LOVEる -とらぶる- ダークネス】
[状態]:疲労(小)、強い恐怖、精神的疲労(極大)、リーゼロッテに対する恐怖と嫌悪感(大)
[装備]:ケルベロス@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
0:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。
1:ヤミさんや知り合いを探す。
2:沙都子さん、大丈夫かな……
3:正直、気まずい。
4:リト……。
[備考]
※本編終了以降から参戦です。
※ケルベロスは「火」「地」のカードがないので真の姿になれません。
【備考】
※ニンフ、美遊の遺体がF-8に放置されています。
※ニンフが首輪に対してハッキングを行いました。そのデータがB-5の図書館と海馬コーポ―レーションのコンピューターに転送されています。
どの程度データの転送に成功しているかは後続の書き手にお任せします。
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投下終了です
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投下ありがとうございます!
リップはここに来て一気に不幸が爆発してきて可哀想過ぎる。
乱入者が多すぎて、本人の裁量だけではどうにもならないことが多すぎるし、とても無念の死に方なのが切ない。
美遊も同じく死んでしまいましたが、ちゃんと友達は守れただけに、やはりリップが一番悲惨ですね。彼は“不運(アンラック)”と”踊(ダンス)”っちまったんでしょうね…。
シャルティアちゃん、強い! 私を倒せるのは、アインズ様だけでありんす!と言わんばかりの無双。
そこに悟飯が殴り込んできて、一気に瓦解するカルタシスもお見事。セル編での無敵感とカッコよさと、不穏さが存分に発揮されてます。
まるで、ジェットコースターのように浮き沈みの激しいシャルティアは間違いなくエンタティナーの鑑、それだけでなく悟飯相手にちゃんと立ち回って生還してるのも格と実力の高さを伺わせます。
ニンフは対主催に大きな貢献をして逝けましたが、残されたのび太が曇っていってしまう。
誰も悪くはなかっただけに、僅かな誤解が大きな悲劇になるのはやるせないです。しかも、悟飯が救えなかったスネ夫の友達と言うのが、何とも言えない皮肉。
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魔神王、鬼舞辻無惨を再度予約させて頂きます
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投下します
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斬る端から傷口が再生する。
殴る端から潰れた肉が元に戻る。
牽制や陽動など全く考えずに、互いに力任せに振るう刃は技巧などとはてんで無縁で、子供が棒切れを振り回すのと変わらない。時折振われる拳脚にしても、雑で粗い。
只々、その身に宿した速度と力とを闇雲に振り回すだけの戦い方。鍛錬の果てに身に着けた武力ではなく、単純に暴力を振るい合う。言ってしまえば外見に相応しい 子供の喧嘩。
だが、その暴力を振るう者共が、双方共に大の大人を、大型の猛獣を、人外化生をただの一撃で屠れるとなれば話は別だ。
振われる一閃一撃が悉く絶殺。当たれば死ぬ。掠めただけで死ぬ。そう、見る者がいれば認識させる攻撃を双方が繰り出し、そして全てが敵に直撃する。
それでも双方が途切れる事なく動き続け、時を経るのに比例して、叩き込み、叩き込まれる攻撃の数が増えているのは、両者が共に不死身の肉体と、規格外の再生能力を有しているからだ。
どれだけ傷を受けても痛みなど知らぬと動き続け、傷など最初から無かったとばかりに即座に再生し、恐るべき子供達の喧嘩は終わりが見えない。
もしも仮に、鬼舞辻無惨に、上弦の壱・黒死牟の様な剣技や、上弦の参・猗窩座の様な体技が有れば。
鬼舞辻無惨は魔神王を圧倒していた事だろう。
もしも仮に、魔神王に、赤髪の傭兵ベルドや、白き騎士ファーンの様な剣技があれば。
戦いの趨勢は一方的に魔神王が有利なものとなっていただろう。
◆
顔中に太い血管を浮かべた憤怒の形相も露わに、無惨が手にした斬魄刀を振るう。
真銀(ミスリル)すら腐食させる血を持つ魔神王に、腕や黒管を伸ばしての打撃斬撃や、生成した口による吸息は、無惨当人にも痛打となる。
それで死ぬのならばまだしも、無惨に匹敵する不死性を持つとあっては意味が無い。
必然。鬼狩の異常者共の様に、手にした刃を振るうしか無い。
鬼舞辻無惨は常に最強であった。技巧を研鑽し、肉体を鍛え上げる必要も無く。血鬼術を習得し、研ぎ澄ませる必要も無く。鬼狩り共の様に武器を携帯する必要も無い。
ただ無造作に腕を振るうだけで、あらゆる敵が粉砕され、死んでいくのに、その様な細かい事に煩わされる必要など存在しない。
この世の序列、法理の外に在る継国縁壱という男は、最初から数に入れてはいない。この世ならざるモノをこの世の序列に組み込む程、無惨は愚かでも酔狂でも無いのだから。
あの怪物を別枠とした場合。鬼舞辻無惨は紛れも無く絶対の強者だ。
本来の歴史に於いても、十重二重に弱らされ、鬼殺隊の総懸りによる猛攻を受けて尚、鬼舞辻無惨は戦い方を変える事なく鬼狩り共を圧倒し、その全てを合わせても、継国縁壱には及ばないと断じてのけた程だ。
それが、此処に引き摺り込まれてからはどうだ?頭を使い。道具を使い。しなくても良い煩わしさに苛まれている。
大元を糺せば禰󠄀豆子から遠ざけられ、殺し合いを強制させられている事自体が煩わしい。
眼の前の相手と刃を交えながらも鬼舞辻無惨の脳裏を占めるのは、海馬乃亜への怒りのみだ。
◆
-
技巧も何も無い一閃は、鬼の始祖の超絶の膂力により、振るい出した瞬間に柱の渾身の一刀を遙後方に置き去りにする速度を獲得。刀身そのものが瞬間移動でもしたかの様に魔神王へと迫る。
斬魄刀が魔神王の頭部を叩き割るよりも早く。魔神王が後方に退がって斬魄刀を躱すと、無惨の脳天目掛けて鉄塊と呼ぶべき重厚長大な剣を振り下ろす。
刃を用いた斬撃では、無惨の不滅の身体は瞬く間に再生する。その為に行うのは巨大な剣身を用いた打撃だ。ドラゴン殺しの質量はそれだけで人を絶命させ得る程のもの。それを魔神王の剛力で振るえば、羆ですら爆ぜて肉塊となるだろう。
骨が肉が、纏めて潰れる湿った鈍い音。大質量の鉄塊は、まともに被弾した無惨の頭を当然の様に潰し、勢いと重量に任せて心臓と肺腑を潰し、胸骨と肋骨を粉砕して、腹まで頭と胸の骨肉を押し込んでしまった。
だが、鬼の始祖である鬼舞辻無惨はこれ程の損傷を受けて尚、死ぬ以前に傷つく事すら無い。五つの脳と、七つの心臓を持つ不死不滅の肉体は、こうまでされても止まらない。
両腕から黒い有刺鉄線状の触手を伸ばし、魔神王をドラゴン殺しごと弾き飛ばした。
(やはり通じぬか)
素人目にも致命傷と分かる程に、体を複数箇所で斬り刻まれ、地面に仰向けに倒れ込んだのも束の間、何事も無かったかの様に、魔神王は平然と立ち上がる。
その姿に、再生を終えた鬼舞辻無惨は更に顔面に太い血管を浮かび上がらせた。
黒血枳棘。無惨の血液から作られる黒棘の鞭は、鬼の始祖の持つ能力により、人を鬼に変えて無惨の支配下に置くか、鬼化による肉体変異に耐えられないものの身体を崩壊させる効果が有る。
弾き飛ばした際に、多量の血液を身体に撃ち込んだにも関わらず、全く何の変異も見せずに立ち上がって来る魔神王に、鬼舞辻無惨は更に怒りを深くする。
相手もまた己と同じ人外化生。鬼化は通じぬだろうと思ってはいたし、不死性も知ってはいるが、実際に試してみて通じなければ腹も立つというもの。
ならばと全身に生成した口から吸息を行い。吸い溜めた空気を砲弾として撃ち出そうとするも、魔神王の吐息を吸い込んでしまい、盛大に吸った空気を吐き出させられてしまった。
咳き込みながら触手を再度振るい、魔神王を更に打ち据えようと図るも、魔神王の周囲に出現した氷塊に阻まれる。
硬い音と共に氷塊が砕け、氷塊に弾かれ逸れて虚空を裂く触手を彩るかの様に、透明な破片が宙を舞った。
無惨が次の行動に移るよりも早く、魔神王の反撃が開始される。
無惨目掛けて伸ばされる氷柱。直径30cmを優に超える其れは、氷柱というよりも氷の槍。否、氷の柱だ。
無惨は構う事なく氷柱を受ける。魔神王の肉体や血や吐息と違い、毒を受ける心配など無い。腹を貫かれながら魔神王の首を触手で刎ねようとして、唐突にその動きが止まる。
-
「おのれエエエエエエエ!!!!」
憤怒の絶叫。腹を貫いた氷柱から無数の棘が生え、無惨の体内を突き刺し抉って、傷をさらに拡げたのだ。
だが、これは明らかにおかしい。異常ですらある。幾ら鬼舞辻無惨が癇性を超えた癇症持ちとはいえ、自ら攻撃を受けたのだ。追撃が有ったとても、此処まで怒りを露わにする理由が無い。
無為に叫んでいる間に、ぐいと氷柱が引かれて、追随して魔神王の方へと蹌踉めきそうになる両脚に力を込めて踏み止まると、氷柱に手を掛けるなり掴み潰し、一気に引き抜く。
肉の裂ける湿った音と共に、無数の体内から、無数の棘を生やした氷柱が引き抜かれる。全ての棘に、血で赤く染まった無数の肉を大量にこびりつかせて。
最早人の形相すらかなぐり捨てて、まさしく鬼面となった鬼舞辻無惨は絶叫する。
「私の身体に何をしたアアアアア!!!海馬乃亜アアアアアアアア!!!!!!」
無惨の怒りは、魔神王の攻撃に起因するものでは無い。この場に居ない、しかして今の無惨を見下ろして嘲笑っている、神を気取る面憎い子供。海馬乃亜へと向けられたものだ。
五つの脳と、七つの心臓。無惨の体内に存在する、人間ならば────鬼であっても一つしか無いはずの臓器。
その十二の器官の内、心臓が一つ、魔神王が無惨に打ち込んだ氷柱から伸びた棘により潰されたのだ。
凡そ生きる事、生き延びること、死を避ける事に特化した思考と気質を有する鬼舞辻無惨の心臓である。狙って潰せるものでは無いし、ましてや偶然で潰されるなど有り得ない。そんな事を許す鬼の始祖では無い。
本来ならば、棘が伸びた位置から素早く移動し、安全な部位へと移動する筈だった心臓が、不動のまま潰された。
この事実に無惨は激怒し、即座にその原因に思い当たって、怒りが天井を複数枚ぶち抜いて噴出した。
「この私の身体によくも!よくも!!殺してやるぞ海馬乃亜!!!!」
凄まじい声量の怒声は、最早声ですらなく音の域。それも雷の轟や山津波の響きを思わせる程のものだ。
常人どころか鬼殺隊の柱であってさえも、動きが止まるであろう轟。
しかし、今この場で、鬼舞辻無惨と対峙しているのは人ならざるもの。魔神王であった。
敵の面前で吠え狂うという愚行を見逃してやるつもりなど、この怪物には存在し無い。再度氷柱を伸ばして、無惨の肉体を貫こうとする。
その数七本。径こそ5cm程だが、貫かれれば生える棘が傷を広げる。むしろ数が増えた分脅威の度合いは増したと言える。
だが、相手は鬼舞辻無惨。生き残る事、生き延びる事に関しては、全参加者中最高と言って良い鬼の始祖。我を忘れるほどに逆上していても、危機が迫れば本能的に対処する。
憤怒の形相はそのままに、無言で左腕を伸ばし、鞭の様にしならせ、振るう。
尋常では無い速度で振われた腕により、七本の氷槍は粉砕された。振われた腕の、あまりの速度に、同時に砕けた様に見える程だった。
「がっ!」
無惨の口から漏れる苦鳴。氷槍に僅かに遅れて放たれた光の矢が、無惨の身体の十数箇所を穿ったのだ。
-
「おのれエエエエエエエエエエ!!!!!!」
しかして不滅を誇る無惨の肉体。この程度では小揺るぎもしない。光条の内の一つが、心臓を穿っていなければ。
此の地に引き摺り込まれてから現在に至る時間は。千年を生きた無惨にしてみれば極小の刻、その僅かな時間に何度も何度も襲い来る、乃亜に起因する理不尽。
逆境、癒えぬ負傷。あまりにも、あまりにも連続する不条理に、鬼舞辻無惨は発狂したかと思う程に猛り狂う。
然して、流石は鬼舞辻無惨。『神仏の寵愛を一身に受けて生きている』とまで評された継国縁壱からも生き延びた存在だ。
無惨の首目掛けて振われたドラゴン殺しに反応し、手にした捩花を真っ向から叩きつける。
鋼と鋼の激突する響きと同時に、衝撃が刀身から手、腕と伝い、足にまで震撼し、僅かによろめいた事に愕然となった。
────拮抗が、崩れている!?
理由は実に単純だ。潰れた心臓が再生しない。この事により身体能力が落ちているのだ。
心臓が再生しないのは乃亜の手になる制限によるものであることは明白だ。問題はこれがいつまで続くか、時間を掛ければ治るのか、制限とやらを解除しなければ治らないのか。
何方にせよ、今のままでは不利であり、鬼舞辻無惨はこの時点で逃走を選択した。
モクバも充分に距離を稼いだ事だろう。もう良い。もう潮時だ。
然して、鬼舞辻無惨と対峙するのは魔神王。弱みを見せた敵を見逃す様なことはしない。
よろめいた無惨が立て直すより早く、魔神王は左半身になると、両手で柄を握りしめたドラゴン殺しを強振する。
判る者ならば、野球のバッティングだと見て取れる動きは、中島弘の脳を喰らって獲得した技術だ。
無論、所詮は児戯に過ぎないその動きは、稚拙にして粗雑だが、今までの棒振りよりと較べれば、確かに理に適った動きであり、速度と重さが跳ね上がった一撃は、立て直したばかりで満足に防げなかった無惨の防御を撃ち破り、無惨の脇腹の肉を抉り、丁度その位置にあった脳の一つを体外へと飛ばしただけで無く、無惨の身体も後方へと跳ね飛ばした。
「グオおおお!!!」
肉片と血潮を撒き散らしながら、宙を飛んだ無惨は、空中で立て直し、両足で大地を踏みしめて立ち上がる。宙を飛ばされている間に手にした核金を使い、躊躇う事無くモクバから手に入れたシルバースキンを装着する。
今まで機を窺っていたが、向こうから離してくれたのは好都合。この機にシルバースキンを纏い、忌々しい死の光から身を守る。
(未だ陽は昇っていない。格好の相手もいる事だ、少し試すか)
シルバースキンを纏っても、無論の思考は逃げの一手。だが、此処で逃げずに道具の試運転をするというのは矛盾している様に思える。
実際には矛盾など全くしていない。生き汚い。昆虫に近いと評される鬼舞辻無惨の思考は、何処までも生き延びる事と、己の身の保全とに集約される。
これから先、陽光下での生存に当たっての不確定要素はなるべく早期に発見し、対策をするというのは、至極真っ当なものであった。
此処を去る前に目の前の相手を使って、この鎧の性能を試す。いざという時に重大な欠陥が有ったでは話にならないからだ。
眼前の敵が、あの怪物(縁壱)であれば、全ての思考と行動が逃走へと振り向けられただろうが、差し当たって己を即座に滅ぼせる事が出来ない敵であれば、試すだけの余裕も持てた。
-
距離を詰める事なく、魔神王が飛ばした来た氷の矢を棒立ちで受ける。一見案山子のように突っ立っているだけに見えるが、その実、脳と心臓に当たる矢に対しては、しっかりと防御と回避を行なっている。
────使えぬ!!!
装甲に当たった矢は音を立てて跳ね返された、それは良い。だが、被弾した箇所の装甲も弾けて散っている。これでは陽の光の下で攻撃を受ければ、弾けたその瞬間に陽光を浴びてしまう!!!
無惨の抱いた憤激を晴らすかのように、腕が音を超える速度で伸ばされ、魔神王の身体を強かに打ち据えた。
────使えぬ!!!
シルバースキンを突き破って伸びた腕で打撃を行った事で、魔神王の皮膚が裂け、血が無惨の腕に付着して皮膚を溶かした。
元よりシルバースキンは人間が装着することが前提だ。内側から腕を伸ばす、触手を生やすなどの人の形を崩す様な行為を行なった場所、変形した中身に合わせて形状を変える様な機能は存在していない。
必然的に、身体の形を大きく変えれば、変化した部分はシルバースキンに覆われていない、剥き出しの状態となる。
────この鎧を纏えば、が使えぬのは判るが、肉体操作すら能わぬとは!!!
シルバースキンの下で、顔を凶相に歪めて無惨が毒付く。
陽が昇るまで最早猶予が殆ど存在し無い。攻撃を受けた時の耐久性を計った上での結論は、やはり逃亡。
思う様に羽虫を払えぬ煩わしさは、堪えることもできるだろう。だが、陽の光はそうもいかぬ。我慢だの忍耐だのではどうにもならない。早急に離脱した上で、対策を講じる必要が有った。
(陽が昇るまで幾許も無い。その前に、此奴をどうにかせねば)
このまま逃げても追ってくる。攻撃をされれば陽光を一瞬とはいえ浴びてしまう。只の一瞬ではあるが、陽の光を浴びるというそれだけは、なんとしても避けねばならなかった。
(アレを使うか…。しかし足止めになるのか?下弦や柱程度では話にもなるまい)
無惨の持つ最後の支給品。一枚の札(カード)に封じられた獣。これを解き放って、足止めとする。
問題なのは強さだ。デュエルモンスターズに関して全く無知の無惨には、このカードで足止めができるかどうかは判らない。
この敵の足を止めるには、上弦の鬼と比肩しうる戦力が要る。そんなモノが、支給品として与えられるなど有り得るのか?
(有り得る。この私や此奴が居るのならば、上弦程度の戦力が無ければ話にもなるまい)
海馬乃亜は殺し合いを成立させる為に、制限と支給品を用意したと言った。その言葉通りならば、上弦の鬼に匹敵する支給品があってもおかしくは無い。先刻出逢った者共の力量は、柱どころか柱に狩られ続けてきた下弦にすら劣る。そんな有象無象が千人万人居たところで。鬼舞辻無惨を討つ事など出来はしない。無惨を煩わせることしか出来ないのだから。
その事と無惨の支給品が上弦の鬼に比肩し得る強さかという事かは、また別の話ではあるが。
(10秒…いや、5秒保てば)
全力で駆ければ魔神王とてもどうにもならぬ距離を離すのに必要な時間を算出して、カードを取り出し、鬼舞辻無惨は魔神王が何もしてこない事に気が付いた。
訝しげに向けた視線の先で、魔神王が赤黒い物体を口に運んでいた。
「……何をしている」
その姿が無性に癇に触ったのは、魔神王が口にしているものが何なのか悟った為か。
-
「先程体外に溢れたお前の脳を一つ喰らっただけだ。おかげでお前の身体についても、滅ぼし方も理解出来たぞ。“鬼舞辻無惨”」
「貴様アアアアアアアアア!!!!!」
己が食われているという赫怒。己の正体が知られたという焦燥。それらが合わさった、何が何でも此奴を殺すという殺意。
そして、これ程の激情に全ての脳を灼かれながらも、己の不利を正しく認識する生存本能。
拮抗が崩れた以上。脳と心臓が動かせず、その位置を全て知られた以上。取るべき選択は逃走しかない。
足止めとするべくカードを使おうとした無惨の動きが停まる。
魔神王はさっきまでの場所から動いていない。ドラゴン殺しといえどもあの距離では届かない。光の矢や衝撃波も用いていない。
無惨の動きを停めたのはそれらとは別で、無惨には最も馴染み深いもの。
後ろで束ねられた長い黒髪。
額にある炎のような形状の痣。
赤みがかかった赫灼の瞳。
両耳の日輪の耳飾り。
無惨の両目の瞳孔が限界を超えて開かれる。
鬼舞辻無惨の脳に────否。全身の細胞に刻まれた記憶が、恐怖を絶望を絶叫している。
言葉すら無く、数瞬の間、天上天下唯我独尊という言葉の擬人化と言っても良い人格を有する鬼舞辻無惨が、我を忘れて震えていた。
(支給品の効果!?有り得ぬ!!これでは殺し合いなど成立せぬ!制限など意味をなさぬ!!!)
所持した者が絶対強者となって、確実に勝利する。そんあ殺し合いを破綻させる様なモノなど許される筈はない。
理性はそう判じても、思考がそう断じても。記憶に残る、全身の細胞に刻まれた恐怖が一切の行動を封じている。
いまの鬼舞辻無惨を鬼狩りの者達が見れば、嬉々としてその全身を斬り刻んだだろう。
だが、それほどの恐怖の記憶であっても、それほどの恐怖の記憶だからこそ、程なく気付く。
継国縁壱の持つ圧倒的な気配が無い事に。継国縁壱が、これ程の間、己を放置などしない事に。
『幻術』。その言葉が脳裏に浮かぶと同時に、継国縁壱の姿が風に吹き散らされた煙の様に消え失せた。
発声というレベルを超えて、爆音ともいうべき怒声と共に、鬼舞辻無惨が再始動する。
愚弄を超えた愚弄を更に超えた愚弄は、鬼舞辻無惨の理性を完全に消し飛ばした。
「幻術というモノだ。見るのは初めてか?鬼舞辻無惨」
背後からの声に竜巻の様な勢いで振り向いた無惨の前に、黒の威容が在った。
「本来ならば、幻を見せるだけに留まらぬのだがな」
手にした札(カード)を無惨に見せびらかしながら、魔神王は嘲笑する。
「お前の手にした札から尋常では無い魔力を感じたのでな。興味を惹かれたので貰う事にした。丁度良い記憶も見れた事だしな」
無惨には馴染みの薄い。魔神王には馴染み深いその威容は、ドラゴンと呼ばれる存在。
“真紅眼の黒龍(レッドアイズ・ブラックドラゴン)”それがこの龍の名である。
「良いモノをもらった。礼を言うぞ、鬼舞辻無惨」
何度も何度も無惨の名を口にするのは、無惨が名を知られる事を厭うている事を知った上で愚弄しているのだった。
怒りに顔を歪めた無惨だが、真紅眼の黒龍を見て、即座に行動と思考を切り替えた。
既にその口腔に強大なエネルギーが溜まりつつある。それを見てとった無惨は、回避行動に移ろうとするが、無惨の弱味を知っている魔神王が見逃すはずも無い。
余裕綽々で嘲笑しながら、氷の矢を百本程射出。三分の一が無惨へと殺到し、残りは周囲を埋める様に飛んで回避先を潰しにかかる。
いつ陽光に照らされるか分からない状況下に於いて、シルバースキンの防御力に任せるという選択肢は無惨には無い。憤怒の余りに怒号を上げながら、捩花を振るって自身へと飛来する矢を悉く打ち砕き────真紅眼の黒龍の口腔から放たれた破滅的なエネルギーが、無惨の総身を呑み込んだ。
-
◆
無惨を呑み込んだエネルギー塊が飛んでいった方向と逆の方向へと移動しながら魔神王は思考する。
只の二戦。たった二人と戦っただけでこうまで消耗するとは思わなかった。これでは制限の所為もあって、もう一度あのレベルの者と戦えば魔力が尽きる。何処かで回復を図るべきだった。
タブレットで周囲の地図を見ながら思考を巡らせる。
(先程の者共は逃げたが、かえって好都合)
魔神王の変身能力をあの者共は知っている。誰が殺されて入れ替わられているかなど、この地で初めて出逢う者共には、死者の名を伝える乃亜の通達が有っても判るまい。何しろ名前を告げられても顔と一致しないのだから。名を偽ればそれまでだ。
そして、魔神王の名も知らぬ以上。常時入れ替わりを警戒し続ける事になる。出逢う者達に警告し、人を殺して入れ替わる存在について触れ回れば、事態は更に悪化する。
(変わる姿を増やす必要が有る)
変わる姿が多ければ多い程、惑わし易く、事は露見しにくくなる。今の中島弘の姿から、別の者に姿を変えれば、先程の者共も判別がつくまい。
その為にも、生死を問わずに脳を喰らう必要が有る。
(“器”の姿を知る者の抹殺も必ず行わねばならぬ)
だが、生存者が少なくなり、死人の顔と名を知る者が多くなる最終局面では、その時まで秘していた本来の姿で活動する事になるだろう。
その時の為にも、本来の姿を知る、最初に交戦した不死王と、中島弘の脳を喰らっていたところを覗き見ていた者は、必ず殺さなければならなかった。
己の正体と姿を秘匿する。それこそが魔神王の勝利へと繋がる事になるだろうから。
戦場跡から去る魔神王、暁の光が照らしていた。
【E-3/1日目/早朝】
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:健康 (魔力消費・大)
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク、魔神顕現デモンズエキス×3@
アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2、魔神顕現デモンズエキス(5/2)@アカメが斬る! 、真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:アーカードと覗き見をしていた者を殺す
1:アーカードを滅ぼせる道具が欲しい。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
[備考]
自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※現在中島弘の姿をしています。
※真紅眼の黒龍は12時間使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
-
◆
怒号と共に、鬼舞辻無惨は猛速で飛ばされていた。
『回避が間に合わない』そう悟った刹那。思考よりも速く肉体が動き、回避行動に移ったのが運の尽き。生存本能により動いて跳躍した瞬間に被弾した無惨の肉体は、踏みとどまる事も叶わず飛び続ける。
「がアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
無惨にとっては永遠にも感じられるが、その実短い飛翔の果てに、無惨の肉体は鉄筋コンクリート製の壁に激突しシルバースキンの硬度と無惨の質量、飛翔の勢いで壁を貫通。
衝撃で背中側のシルバースキンが弾けると同時。壁に着弾した黒炎弾が盛大に爆発。前面
のシルバースキンも弾け飛び、爆風で無惨の身体は建物内の鉄筋コンクリート製の壁に全身が潰れる勢いで激突。更に爆風で飛散したコンクリート片や鉄骨が無惨の身体に無数に襲い掛かった。
哀れにも鬼の始祖は、全身の護りが無くなった状態で、本来の歴史で受ける攻撃を受ける事と相成った。
鬼殺隊の面々が見れば、指差して嗤うだろう光景だった。
〜20分後〜
身体を何とか再生し、癇癪のままに周囲を破壊し尽くした鬼舞辻無惨は、叩き込まれた建物内────モチノキデパートの内部を探索していた。
シルバースキンの性能は把握した。
アレだけのエネルギー塊を受けても、直接のダメージが無かったのは驚嘆に値する。後は煩わしいが自分で工夫して欠点を埋めれば良い。
取り敢えず陽光を防げそうなモノを見付けて着込む。その上からシルバースキンを装着すれば、例えシルバースキンが弾けても、内部に在る無惨の身体は死の陽光から護られる。
そうして内部を探索し、見つけた諸々の品を身に付けたモノは、雨合羽とマスクとサングラス。
ハア ハア
何か聴こえてきたのはきっと気の所為。
丸太はどうしたとか突っ込んではいけない。
見るからに変質者だが、陽光を浴びると死ぬから仕方無い。返り血浴びると吸血鬼になるくらい仕方無い。
-
◆
シルバースキンを装着して、鬼舞辻無惨は今後の方針について考える。
一先ずは陽光への備えは出来た。後は今後の方針だが────。
(中島は必ず殺す)
あの中島という子供に入れ替わっていた者は、絶対に、何があっても殺す必要が有る。
愚弄を超えた愚弄を行なったこともそうだが、鬼舞辻無惨の名と、不死身の秘密を知った以上、生かしておくことは出来ない。
アレが『鬼舞辻無惨』の名と存在について触れ回る前に殺す必要が有る。
然し、それがまた面倒な事ではある。先程の戦闘で、身体能力が相当に落ちている事に気づいてもいる。脳と心臓とが動かせなくなっている上に、潰された脳と心臓の再生が異常に遅い事も込みで考えた場合。
あの強さの敵でなくとも、柱並の者が複数でくれば殺されかねない。
先ずは首輪を外す事。自分を此処まで飛ばした、支給品のあの獣。海馬乃亜は当然アレと同等のモノを所持していると考えて良いだろう。首輪の爆破という条件を抜きにしても、現状では勝てる相手では無い。
(やはり首輪を外さねばならぬ。その為にもモクバに死なれる訳にもいかん)
最悪なのが、中島がモクバを殺して、知識と記憶を奪い、入れ替わる事だった。そうなって仕舞えば鬼舞辻無惨は、首輪の解除を握られ、中島に隷従を強いられる事になる。
(それだけは、それだけは、絶対に許さぬ!!!)
モクバが死んでも心は痛まぬが、首輪を外すか、若しくはモクバには首輪を外せないという事が判明するまでは、生きていて貰わなければならない。
顔に焦燥を浮かべて、鬼舞辻無惨はモクバと合流するべく走り出した。
どれだけ愚弄されても、どれだけの苦境に立たされても、鬼舞辻無惨の生きようとする意志は、決して挫ける事が無かった。
【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(中) 回復中 脳4/5 心臓5/7 俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。 魔神王(中島)に対する強烈な殺意(極大)
[装備]:捩花@BLEACH、シルバースキン@武装錬金 雨合羽、マスク、サングラス@現実
[道具]:基本支給品、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り6時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:中島(魔神王)にブチ切れ。次会ったら絶対殺す。
1:もし居れば、禰豆子を最優先で探索し喰らう。死ぬな、禰豆子!
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:禰豆子だけならともかく、柱(無一郎)が居る可能性もあるのでなるべく慎重に動きたい。
5:何にせよ次の放送までは俊國として振る舞う。
6:モクバと合流する
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わらず死ぬと考えています。
また鬼化等に制限があるかどうかも後続にお任せします。
容姿は俊國のまま固定です。
雨合羽と、マスクと、サングラスを身に付けた上からシルバースキンを装着しています
※モチノキデパートの南側の壁に大穴が開きました。
※デパート内の穴から入った付近は、鬼舞辻無惨により破壊の限りを尽くされました。
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投下を終了します
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鬼舞辻無惨の状態表を修正します
【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(中) 回復中 脳4/5 心臓5/7 俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。 魔神王(中島)に対する強烈な殺意(極大)
[装備]:捩花@BLEACH、シルバースキン@武装錬金 雨合羽、マスク、サングラス@現実
[道具]:基本支給品、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り6時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:中島(魔神王)にブチ切れ。次会ったら絶対殺す。
1:もし居れば、禰豆子を最優先で探索し喰らう。死ぬな、禰豆子!
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:禰豆子だけならともかく、柱(無一郎)が居る可能性もあるのでなるべく慎重に動きたい。
5:何にせよ次の放送までは俊國として振る舞う。
6:モクバと合流する
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わらず死ぬと考えています。
また鬼化等に制限があるかどうかも後続にお任せします。
容姿は俊國のまま固定です。
心臓と脳を動かす事は、制限により出来なくなっています、
心臓と脳の再生は、他の部位よりも時間が掛かります。
雨合羽と、マスクと、サングラスを身に付けた上からシルバースキンを装着しています
※モチノキデパートの南側の壁に大穴が開きました。
※デパート内の穴から入った付近は、鬼舞辻無惨により破壊の限りを尽くされました。
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投下ありがとうございます!
お労しや無惨様…。
心臓潰れるわ。脳味噌食われて名前バレ、弱点バレするわ。踏んだり蹴ったりで可哀想なんですが、何処となく人を笑顔にさせてくれる無惨様は、やはり素敵なお方ですね。
でも、実は鬼殺隊も誰も居ないしロワ内でのムーブは真っ当な対主催なので、信頼は割と築けていたりと、日光を凌ぐ方法も手にしてますし、実はそこまで悪い事だけでもないという。
あといつもの癇癪で、全部台無しにさえしなければとてむ有力な対主催なんですよね。
魔神王、やはり強い! ネタにされがちですが無惨様と正面からバトルして、実質撃退までしてるのはまごうことない化け物ですわ。
お互いに、化け物同士の再生力と怪力に身を任せた殴り合いは、壮絶の一言ですし、お互いに種として最強だったからこそ技巧だけがなくて、それさえあれば拮抗が崩れる程の接戦だったと描写されたのも好きですね。
あと、唐突な彼岸島ネタは草。でも、鬼滅と割と共通点あるからちくしょう!!
なんてこった! ニケと遭遇して丸太を手にしたら、無惨様が完全な彼岸島形態になっちまう!
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ドロテア、海馬モクバ、藤木茂、磯野カツオ、カオス、ガッシュ・ベル、古手梨花、風見一姫、北条沙都子、メリュジーヌ 予約します
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すいません。間違えました。
藤木茂は要らないです。
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あと、延長もお願いします。
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すいません。予約にサトシが抜けてたのでwikiの方で直しといたのと
追加で絶望王予約します。
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◆/9rcEdB1QU様の代理でこちらのキャラを氏の予約扱いとさせていただきます
フランドール・スカーレット、キャプテン・ネモ、孫悟空、神戸しお
私は代理ですので、執筆及び投下は◆/9rcEdB1QU様の作品となりますので、ご了承願います
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グレーテル、クロエ
予約します
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投下します
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「すげぇすげぇ! おめえ、思ったより強ぇぞ!!」
「ピカピカァ!」
カオスの拳とピカチュウのアイアンテールが打ち付け合う。
はがねタイプに分類され、時として岩すら砕く高い切断力を持つピカチュウの尻尾の打撃を、拳でいなし捌き続けるカオス。
既に交戦開始から数分は経過しており、カオスの猛攻を避けながら何度もピカチュウはアイアンテールを叩き込んでいるにも関わらず、ダメージは然程通っていない。
以前、対立していたポケモンハンターjにもアイアンテールを腕に装備した機械を盾にして受け止められたこともあったが、今のカオスと同じ芸当をするなど不可能だろう。
「───!!」
拳と尻尾の殴打の応酬を繰り返しながら、埒が明かないとカオスが意識を後方に向ける。
一気に加速し距離を稼ぎ、空へと羽ばたき上空から遠距離攻撃で嬲り殺しにする。
見たところ、ピカチュウは電撃を操る性質を持つが、飛行能力は有していない。
一度飛べさえすれば、カオスに万に一つも敗北はあり得ない。
「10まんボルト!!」
ピカチュウとカオスの鍔迫り合いを見ながら、まるで予知したかのようにサトシが瞬時に指示を出す。
それを聞き、ピカチュウは硬質化した尻尾を横薙ぎに払いながら飛び上がる。
「ピィーカァー、チュ!!!」
ピカチュウから放たれた電撃がカオスへと迸りその全身を貫く。
長年、必殺の一撃として磨き上げた電撃は、例えエンジェロイドとして強固な装甲を積んでいるカオスであろうとも、直接受ければ確実に全身の稼働を僅かに停止させる。
さらに飛び上がった上空から、カオスに向かいアイアンテール振り下ろす。
カオスは両腕を交差し、その一撃を受け止める。
「クスクス…おめえら、ほんとにやるなぁ」
口調と容姿は悟空を模したままカオスは賞賛を口にする。
当初の想定では、サトシとピカチュウを即座に殺し、後ろの参加者を片方だけ殺し、もう一人を逃がして悟空の悪評を撒いて貰うつもりだった。
ピカチュウという生物は初めて見た。カオスも制作され稼働してから日は長くないが、地上にいるどの生物にも合致しない特殊な生き物に違いないのは理解した。
強さも通常の地蟲(ダウナー)よりは高いが、決してエンジェロイドに迫る程、秀でた種とも思えない。
この想定通りに、事は進むと思われた。
だが、戦ってみれば未だカオスはピカチュウはおろか、サトシすら屠れずにいる。
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「オラの動きが読まれてるみてぇだ」
速さ、力。
全てが格上のカオスを相手に、ピカチュウはその小柄さと身軽さを武器に、ヒットアンドウェイで食らい付いてきていた。
ならば、飛翔し距離を離し遠距離からの攻撃で削ればいい。戦況を分析し次なる戦術を組み上げるが、カオスが距離を空けようとするその瞬間をサトシに確実に見切られる。
先ほどの10まんボルトを浴びせられ、妨害される。
恐らく、サトシとピカチュウは過去にカオスのようにマッハで動き、飛行する敵と戦っている。
その時の経験が一人と一匹の強さとして積み重ねられ、最凶のエンジェロイドたるカオスとの戦いを成立させている。
(あいつに飛ばれたら、終わりだ…。タクトさんのラティオスみたいに、こちらの攻撃を全部回避されてしまう。
何とか、地上の近接戦に持ち込まないと。…リザードンやオオスバメが居てくれれば、空中戦でも……)
ふと、そこでサトシの思考は逸れて行く。
まるで今の自分は、ポケモンを武器のように考えている事に。
これはポケモンバトルではない。相手を死なせるための殺し合いだ。
理屈の上では自衛の為に、後ろのモクバ達の為にピカチュウと共に、応戦しなければいけないのは分かっている。
けれども、こんな殺し合いにサトシだけならまだしも、ピカチュウを巻き込んでいい筈がない。
(こんな殺し合い、ポケモンなんか居ない方が良いに決まってるんだ…!)
それなのに、先ほどサトシはあろうことか別のポケモンが居てくれることを、無意識に願って望んでしまっていた。
(…クソッ今はあいつを何とかしないと)
ピカチュウは素早く撹乱しながら、カオスから付かず離れず近接戦闘を維持し続ける。
カオスの初動を潰しつつ、加速させないよう立ち回れていた。
「へへっ」
口調は相変わらず悟空のまま、カオスは余裕と笑みを表面的には浮かばせていた。
そのまま、ピカチュウに注視したまま、横から飛び込んでくるもう一人の攻撃に意識を向ける。
「チィ───硬いのう」
岩をも容易く持ち上げる程の膂力で振るわれた大剣を腕一本で受け止める。
魂砕きを振り下ろしたドロテアは、舌打ちしながら更に二撃目三撃目を斬り込む。
拳で刃を殴りつけ、刃が拳を斬りつけながら、斬撃と殴打が飛び交う。
(お兄ちゃんの見た目だと、戦い難いな)
元よりドロテアは錬金術師、研究職である為に戦闘の心得は然程高くない。本来のカオスなら即殺害にまで至れた。
障害はカオスが悟空を真似して、徒手空拳での戦闘をメインにしていたことだ。
今は見えない背の翼を刃のように振るえば、剣を得手としないドロテアであれば、対応しきれず串刺しにしていたことだろう。
拳二つという、リーチも手数も翼に比べれば少ない得物では実力を十分に発揮しきれていない。
ならば悟空への変装をやめれば良い。永沢と藤木を逃がした事で悪評はあの二人が撒くのだから、あとはここに居る全員を殺しておけば、初期の想定通りにはいかないが、正体がカオスであると露見することはない。
だが、カオスにはそれが出来ないもう一つの理由がある。
(あの子が持ってるカード…)
サトシとピカチュウ、ドロテアの後方でカードに触れて身構えているモクバ。
変身を解いてカオスの本来の力を発揮するのは良いが、問題はそれでこの場の全員を殺せなかった時だ。
生き残った者に、カオスが悟空の容姿を借りていると吹聴されれば、悪評で追い詰める算段が崩れてしまう。
モクバがどんな奥の手を隠しているのかは分からないが、地蟲であろうと油断ならないのは悟空と絶望王との戦闘で分からされた。
故にカオスは慎重さを崩さず、ピカチュウとドロテアを相手にしながら様子を伺っていた。
お互いの思惑や算段が噛み合った事で、この場の戦いは拮抗という形で成り立つ。
ならば、それらのボタンが一つでも掛け違えれば、そのバランスはすぐにでも崩れ去る。
-
「ザケルガ!」
一筋の雷の光線が、カオスとその対峙者を分断するように迸った。
「私の名はガッシュ・ベル! 殺し合いには乗っておらぬ!!」
「早速で悪いのだけれど、貴方達のどちらかがマーダーか事情聴取をさせて貰っても良いかしら?」
雷撃と共に飛び込んできたのは金髪の少年、ガッシュと気だるそうな顔で赤い本を持つ少女、風見一姫。
そしてその少し後ろで銃を握っている少女、古手梨花だった。
「どう見ても、あっちの胴着の小僧が乗っている側じゃろうが!!」
「さあ? 貴女達が結託している可能性も0ではないわ」
「なんじゃと!?」
『あとは、最初に私達が襲われたお年寄りのような口調をした方ですわね』
(この娘、二人を襲った人物と容姿と口調が一致するわね)
一姫の中でも胴着の少年、カオスの方がマーダーであることは見て察していた。
だが、自ら口にしたように、先ず結託して少年を襲っている可能性が一つ。
さらに、カオスと交戦していた少女が、美山写影と櫻井桃華から聞いていた人物と特徴が合致していることが懸念事項であった。
「オレはモクバ…後で事情は説明するけど、乃亜の知り合いだ。
でも、殺し合いには乗ってない!」
モクバの後ろには、どう見ても戦いには縁遠そうな坊主頭の少年、磯野カツオが居る。
マーダーであれば、あんな足手纏いを庇い守る必要はないだろう。
更に、介入する前に一姫は戦いの様子を僅かに観察していたが、サトシとピカチュウも場慣れてしたものの、高い殺意は感じられない。
「でぇぶ、数が増えちまったなぁ。こんだけ殺すのはちょっと骨が折れるかもなぁ」
「おぬし、殺し合いに乗ってしまったのか!?」
「そうカッカすんなって、オラが優勝したら、乃亜に頼んでよ。おめぇら全員生き返らせてやっからよ!」
「馬鹿なことを……!」
「そっかぁ? オラ、でぇぶ頭使ったんだけどな」
胴着の少年は一切の自己弁護をしないどころか、自ら殺し合いに乗ると宣言していた。
「……わざとらしいくらいね」
一姫は気だるげな顔はそのまま、視線だけは鋭く、カオスを捉える。
一先ずの敵はあの少年であることに違いはなさそうだ。
本を握る手に、より力を込める。
モクバ達にも追々事情を聞く必要はあるが、あの少年を退けるなりしないろくに話も出来ないだろう。
「梨花」
「分かってるわよ」
ガッシュと一姫がカオスと戦っている間、梨花は二人の背後をモクバ達から守るよう、そしてモクバから情報を引き出すよう役割を分担した。
写影達を襲った少女も連れている以上は、事情を深堀りするまで味方とするのもリスクが高い。
なおかつ、こちらがその少女ドロテアの脅威を知っていると察知され、写影達に危害が及ぶのも避けなければならない。
一姫としてはそれは自分が担当したかったことだが、こちらに害をなすカオスが居る以上梨花に任せるしかなかった。
「ボクは古手梨花、よろしくお願いしますなのですよ。モクバ。
戦いは一姫とガッシュに任せて、少しお話したいのです」
「モクバ、こやつ知〇遅れじゃ」
「馬鹿、お前…!」
「みぃ?」
-
───
(ドロテアという女と、モクバは利害の一致で協力してる。そういうことね)
モクバからここまでの事情を掻い摘んで聞いた梨花は、二人の関係性を徐々に把握していった。
ドロテアとモクバが首輪の解析に別の方面で有益であり、モクバは乃亜の親類者であり、一度はモクバの仲間が乃亜を倒している。
乃亜への手掛かりを、モクバ自身も自覚しないまま握っている可能性も高い。
写影から聞いたように、ドロテアは危険思考ではあるが脱出を優先しているようであった。その方針とも矛盾はしていない。
「…悪いが、オレ達もそのマサオっておにぎり頭は見てないな」
「そうなのですか…写影達はとても心配していたのですよ」
(写影と桃華って娘、ドロテアの悪口を振り撒いてる訳じゃないのか…)
同じく、モクバもドロテアが最初に手を出した二人組の少年と少女を懸念していた。
誤解ではないが、もしもそれでこちらを敵対視する対主催が現れるのなら、説得し協力体制を築かなければならない。
だが、梨花の口からはむしろ首輪の解析に協力的で信頼の出来る人物として、ドロテアのことが語られていた。
そして、その二人は今、フリーレンという凄腕の魔法使いの庇護下に置かれていると。
(あっちの銀髪の娘の入れ知恵かもしれないけどな)
手際が良すぎる。
ドロテアと写影、桃華の衝突を避けた上で、更に万一ドロテアが口封じに動く可能性を、フリーレンという抑止力で潰しに掛かっている。
ドロテアを制御する材料が増えたのはモクバにとっても嬉しい誤算だが、それ以上に盤上の駒の動きを、何手先も見据えて誘導されているかのような不安も覚える。
梨花が馬鹿とは思わないが、この少女一人の判断とは思えない。
モクバの視線が一姫の元へ注がれる。
確証はないが、直感的に彼女が梨花のブレインではないかとモクバには思えた。
(少なくとも対主催だっていうなら、頼もしい限りだが)
ガッシュと共にカオスと交戦している一姫の背を見て、モクバは不安と共に奇妙な安心感を覚えていた。
「……」
「モクバ、あの坊主頭の男の子は大丈夫なのですか? それに、どうして化粧してるのです? オカマさんなのですか?」
「いや…化粧は色々事情があったみたいなんで、触れないでくれ」
モクバとの情報交換の中で、磯野カツオという少年が友人を殺されたのは聞いていた。
ループするとはいえ、梨花も仲間を惨殺された痛みや苦しみは分かる。
事務的な情報交換の範疇を超え、梨花は感傷的な想いを抱いていた。
(沙都子……あんたもここに居るの?)
この島に呼ばれるまで、自分と殺し合いを繰り広げていた親友の姿を思い浮かべる。
(この島で死んだら、次はないかもしれない)
一姫に指摘された事だ。殺し合いの公平性の為、ループ能力を制限されているかもしれない。
梨花がそうであれば、沙都子も当然同じ制限を課せられている。
この島の死は、本当の意味での死に繋がるかもしれない。
-
「梨花…ちゃん、だったよね……きみはここに来るまで、永沢っていう玉ねぎみたいな頭の男の子を見なかった?」
「みぃ?」
「カツオ?」
ずっと俯いていたカツオが梨花に視線を向けて口を開いた。
「別にそれぐらい聞いたって良いじゃないか」
「敵討ち…か」
恐らく、無辜の命を何人も残虐に奪い去っているドロテアを黙認している以上、モクバがそれを咎める資格はない。
それでも一般人のカツオにそういうつもりがあるのなら、やはり考え直すように説得はしたかった。
「分からないよ。凄い、殺してやりたいのに…今は追いかける気にもならないんだ。
……僕は、友達が死んでも、怒れない人間なのかもしれないね」
「所詮、オレには他人事だから、お前の気持ちは分かってやれない。…気に食わないと思ったら聞き流してくれよ。
オレは…怒りを束ねて復讐をしようとした人を間近で見てきたけど……それって酷く脆いんだぜ。
強い憎しみと一緒に…大事な過去すら、かなぐり捨てちまう。
お前は…憎しみに耐えながら、友達との思い出を大切に守ったんじゃないか? オレはそう思いたいぜ」
遊戯という過去を粉砕し、憎しみと復讐と共に、かつては確かにあった優しさと自分に見せてくれた温かな笑みすら捨て去ろうとした。
モクバは、そんな自分の兄の事を思い出していた。
───
-
「セット! ザケル!!」
「おーいちちち!! おめえ、ほんとに痺れっぞ…!」
呪文の詠唱と共にガッシュは雷撃を口から放つ。
雷撃はカオスを飲み込み、その強固な装甲を貫通していく。
強い。
先ほどのザケルガとやらの威力から見て、雷撃そのものの火力はピカチュウという生き物に匹敵かそれ以上だと分かっていた。
だが、雷撃を放つ瞬間に意識を失っていること。雷撃の射出は口からであり、手などの小回りの利く部位とは異なること。
より致命的だったのは、ガッシュの雷撃はガッシュの意思ではなく、もう一人の少女、一姫の呪文を必要とすること。
隙も多く、即席の連携であれば簡単に揃った足並みを崩せるだろうと、高を括っていた。
「セット───」
まただ。また、一姫の指先に導かれるようにガッシュは視線を向け、高い精度で照準を合わす。
一姫は呪文の詠唱と発動までのズレを計算し、カオスへの着弾に一切のラグを発生させない。
一切の言葉も交わさず、定型の掛け声だけで一姫とガッシュは抜群の連携を披露してくる。
「でんこうせっか! そしてアイアンテールだ!!」
「ピカピカピカァ!!」
それだけじゃない。
ガッシュの雷撃に気を向けた瞬間、サトシの掛け声と共に加速したピカチュウが肉薄する。
「ザケルガ!!」
「ぐ、ァ───」
硬質化した尻尾の打撃を片手で受け、動きを止められた隙に雷撃を叩き込まれる。
全身を激痛と痺れが蝕み、アイアンテールの勢いを止めきれずカオスは吹き飛ばされていく。
「終わりなのじゃ!」
地面に打ち付けられたカオスの眼前にドロテアが大剣を振り下ろす。
両腕を交差しながら受け止め、悟空のように雄叫びをあげて力づくで吹き飛ばす。
力負けしたドロテアは不服そうに弾き飛ばされ、入れ替わるようにピカチュウが電撃を放出する。
「10まんボルト!!」
「がっ、ぐ、ぅ……!」
数の上でもそして戦力面でも、ガッシュが加わったことでカオスが劣勢だ。
このまま悟空の真似をして、慣れない徒手空拳で戦えば敗北は必須。
カオスとして全力を出して戦っても、負けはしないが全員仕留めきれるかは分からない。
くすくすくす。
顔を俯かせながら、カオスは口許を吊り上げ笑っていた。
これだけ強い子達が、悟空を悪い子だと思ってくれたら。
悟空が勝っても、きっと体力を減らしてくれる。負けたら、勝ったこの子達を、今度はカオスが食べればいい。
良かった。強い子達に、悟空お兄ちゃんが悪い子だと思って貰えて。
「オヌシ、これ以上、こんな馬鹿げた殺し合いの為に、誰かを傷付け殺すのはやめるのだ!!」
「ッ……」
カオスの笑みが掻き消される。
ガッシュの怒気とその威圧感は、カオスですらもほんの一瞬たじろぐ程に鬼気迫る。
その小さな背には、カオスでは考えられない程に、大きくてそしてとても多くのものが背負われているようだった。
身長も体躯もそんな変わらない筈の子供なのに、カオスは自分がとても小さくなったように錯覚してしまう。
-
「……人を殺して、いい子になんかなれるわけ…ないじゃないか」
サトシがガッシュの怒りとは対照的に、静かで憐れみを含んだ声色で言う。
「このガッシュって子に、怒られるのが…お前の言ういい子なのかよ。悟空?」
「……」
ほんとに私は駄目だな。カオスはそう自嘲したくなった。
『こうしないと、いい子になれないから』
あんなこと、悟空ならば絶対に言わないことを口走ってしまった。
でも、本当に小さな声で言ったのに丁寧に聞き取って覚えているなんて、このサトシという少年も物好きなのだろう。
「おう! 乃亜も言ってたろ!! 優秀なやつは評価するってよ!」
もっと、もっと悟空に悪い子になって貰わないと。
だから悪い子が言いそうなことを、悪い子がやりそうなことを一杯して───。
「いい子になりたいってことは…誰かに褒めて貰いたいってコトだろ? そいつは、本当にこんなことをして、キミを褒めてくれるのか」
どんどん、いい子から遠ざかっていく。
「……でぇじょうぶだ、死んでも乃亜の野郎が生き返らせてくれる!」
そう叫んで、手から黒炎を放つ。
「ラシルド!」
ガッシュの前方、地面から出現した雷を纏った盾に触れ、黒炎が雷の性質を得て跳ね返される。
「じゃあ、こいつならどうだ!」
更に威力を増幅させた黒のエネルギーを鈍器のように叩き付ける。
反射の上限を超えたラシルドに亀裂が入り、罅割れていく。
-
「エレキネット!!」
「ピカピカピカァ!!」
限界を迎え、砕け散る寸前のラシルドにエレキネットが補強するように絡みつく。
軋む音は更に増していき、カオスの放つエネルギーを受け止めていく。
だが、それも一瞬の僅かな拮抗に過ぎない。カオスがエネルギーの出力をより上昇させ、ラシルドは砕け散った。
「ピカチュウ、かわして10まんボルト!!」
ラシルドを破ったエネルギーの濁流をかわし、ピカチュウは頬を叩いてから電撃を放出する。
何度も見てきたピカチュウのメインかウェポンだ。カオスとて、既にそれらの対処法は組み上げてている。
体を逸らし、電撃を避け手に溜めた黒炎の照準をピカチュウに合わせ───背後から電撃が全身を貫いた。
「な───」
ガッシュという少年か? 否、ガッシュはカオスの視界内にある。
なら、避けた筈のピカチュウの電撃が軌道を変えてカオスを貫いた? だが、何故? 追尾機能などこれまでの戦いで見せて来なかった。
「盾の破片で……!!」
砕けたラシルドの破片を補強するように絡ませたエレキネットで跳ね返し、それらの破片に電撃が当たり、反射する。
空中で拡散したラシルドの破片は、10まんボルトに触れ反射する。無数の破片による電撃の乱反射は、カオスの周囲を電撃の結界内に拘束しているかのようだった。
左右から襲ってくる電撃を両手から吐き出したエネルギーで相殺し、上下から噛み砕くように迸る電撃を後ろに下がって避ける。
だが、電撃はラシルドの破片に弾かれ勢いを留まる事を知らず、カオスへと次々に降り注ぐ。
「翼!?」
カオスは容姿を悟空に固定したまま、背中の翼を鋭利な刃として振るう。
ラシルドの破片を全て叩き落とし、縦横無尽に駆け巡る電撃を遮断する。
焦りに駆られ、カオスは翼を拡げる。悟空の戦闘を模していては、手数が足りず対処が間に合わない。
「悪いな、ちっと本気で行くぞ!!」
豪風がサトシとピカチュウに襲い掛かる。
サトシが咄嗟に顔を腕で庇ったのと同時に、カオスの姿が消えた。
ソニックブームが木々を薙ぎ倒し、音速を越えた速度でピカチュウへと弾ける。
「今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)」
───ピカチュウとサトシが轍にされる寸前、カオスの視界が白く染まる。
「だれ───」
妖精騎士の放つ魔力の剣の威光に、カオスは飲み込まれていく。
丁度良かった。
カオスは光の中で笑い、そしてイージスを展開する。
半壊こそしているが、その防御性能の高さは健在。
初めからそれを壊すと意識したのならまだしも、乱入がてら威力を抑えているならば、防ぐのは簡単だった。
このまま戦線を離脱して、悟空が悪い子だと広めて貰おう。
-
「悟空───!!」
「え?」
「ピカピ!?」
光の中に、手を伸ばそうとするサトシがカオスの目に写った。
生身の人間では、耐え切れないこの魔力の渦の中に、飛び込んで来ようとしている。
理屈に合わない行為だ。
どうして?
私はあの女の子を殺したのに……。
「くっ!!」
ガッシュのマントが伸び、手足のように自在に変化しながらサトシを絡み取る。
そのまま、光とカオスから遠ざけるようにサトシはマントに振り回された。
「……」
カオスはほんの一瞬、後ろ髪を引かれ、差し出された手を見て───自分が殺した女の子を思い出し、そして離脱した。
「急に飛び出すから、巻き込んだかと思ったよ」
光が収まった後、そこには小柄な甲冑に身を包んだ少女が一人立っていた。
「…オヌシ」
クリア・ノートとの決戦を目前に控え、修行を積んだガッシュだからこそ分かる。
目の前の少女の強さ、その異様さも。
ガッシュの脳裏に浮かんだのは、竜族の神童アシュロンだ。感知した魔力が竜族のそれに近い。
そしてその強さも、アシュロンに匹敵かあるいは…。
「僕は…メリュジーヌ。
殺し合いには……乗っていない」
今、自分が同行している共犯者の立てたシナリオ通りに。
嘘を口にして。
メリュジーヌは完璧な騎士を演じた。
───
-
「梨花、会いたかったんですのよ。梨花ぁ!!」
何度も練習して息を吸うように流せるようになった涙で、泣いた顔を作り上げ、感動の再会を演出して。
北条沙都子は先ほど、一人の少女の命を奪ったとは思えない程の弱弱しい声をあげて、梨花へと駆け寄った。
筋書きは簡単だった。
シカマル達から離脱ししばらくしてから、孫悟飯に似た少年と戦っているサトシ達とその後ろの梨花を見付ける。
沙都子は自分達は対主催であるという設定の元、それをメリュジーヌにも徹底させるよう指示し戦いに割り込ませた。
そうすることで、梨花に自分は味方だと信じ込ませるように。
メリュジーヌに介入させた悟飯に似た少年は宝具に巻き込まれ、姿を消していた。
逃げたのか、完全に消し飛んだのか。
それは沙都子からしても、どうでも良かった。ただ生きていれば、別の場所で参加者の数を減らしてくれればありがたいが。
(他にも対主催が数人いますわね。丁度いいですわ。
シカマルさんから、私たちの情報が出回る前にこちらで先手を打てるというもの)
「動くな」
その足元に銃跡が刻まれ、梨花の手に握られたデザートイーグルの銃口から煙が吹いていた。
「梨花……?」
「あんた、忘れた訳じゃないでしょ。私達がここに来るまで、何をしていたか」
「梨花ちゃん、何を!?」
横に居たカツオは梨花の豹変に唖然としていた。
あの変な口調が消えて、普通の標準語の女言葉になったのもそうだが、明らかに友人らしき沙都子を威嚇とはいえ、射撃したことに。
(あいつ…銃にびびってない?)
対するモクバは梨花よりも沙都子に違和感を覚えた。
海馬コーポレーションは、社員教育として銃の扱いを義務付けている。
モクバもその一環で、銃の知識はあり、初めて銃に触れた人間の反応もよく見てきた。
だから、梨花の威嚇への沙都子の反応に、”慣れ”が混じっているように感じられた。
むしろ発砲した梨花の打ち方を見るに、こっちの方が素人臭いほどだ。
「梨花…」
「続きをするなら相手になってやるわ。
ただし、少し場所を変えるわよ」
梨花は自分の知らない別のカケラから殺し合いに招かれている。
逡巡の末、沙都子はそう結論付けた。
先ほど、シカマル達との情報交換で別世界の存在を認識したこと。
乃亜が沙都子のループ能力を制限したらしきこと。
これらの要素から、乃亜は平行世界にも干渉できる。それは別のカケラから、別人の梨花を呼び寄せる事も不可能ではないのだろうと。
-
「梨花…どうしたんですの……私ですわよ?」
「散々、部活の皆を惨劇に利用したあんたを信じろって言うの?」
───なるほど、その世界でも私が惨劇を起こしているんですのね。
あえて、梨花に話を合わせつつ曖昧な回答をしてみたが、沙都子の想定通りだった。
そのカケラの沙都子も、ここの沙都子と同じくオヤシロ様として惨劇を結構している。
ただ、違うのは何処かでしくじり、梨花に正体を知られた事か。
ここに来るまで何をしていたか。梨花のその発言を推察すれば、お互いに殺し合いを続け、複数のカケラに渡って戦っていたのかもしれない。
「梨花、どういうことだ?」
話が見えてこないモクバが梨花に声を掛ける。
カオスを撃退した事で、サトシとピカチュウ、一姫とガッシュ、ドロテアも一触即発の雰囲気の二人を取り囲むように寄ってきた。
「梨花……どうして銃なんて、本当に私を救ってくれた梨花なんですの…?」
「……は?」
「おじさまから、私を救って、くれ…た…のは……圭一さんと、レナ、さんと…魅音さんと、詩音さんと……他の誰でもない、梨花じゃありませんの……」
沙都子の声にしゃくりが混じり、涙はより一層瞳を潤す。
───不味い。
たじろぐ梨花、何で揉めているのか一切理解できない周りの子供達。
ガッシュも一姫から梨花と沙都子の事情は聞いており、沙都子とその仲間らしきメリュジーヌに警戒しながらも、その沙都子の放つ言葉の意図にピンとこない。
そのなかで、一姫ただ一人はその思惑に気付く。
「梨花───」
そして、気付いてしまったからこそ手が出せない。
「まさか…別の、カケラから……?」
一姫より少し遅れて梨花がそれを口にした。
───かかった。
沙都子は涙で溢れた顔を抑え、俯くようにして釣り上がった口許を隠した。
なにも、全てのカケラで北条沙都子がオヤシロ様となる訳ではない。
むしろそうならないカケラの方も数多く存在する。エウアの介入、それによる沙都子へのループ能力の付与そのものが、イレギュラー側の事態であったといっても良いだろう。
沙都子はそれを逆手に取り、演じた。
エウアなどいない。惨劇の記憶を継承した圭一と部活の仲間達が、記憶を継承する前の北条鉄平の手から沙都子を救い出し、そして惜しくも鷹野三四の起こす惨劇を打ち破れなかったカケラの沙都子を。
(考えたわね)
一姫は内心で舌打ちする。
沙都子と同じく、別の無害である世界の自分を演じるという発想に辿り着いたからこそ、その厄介さも想定できる。
それが本当か嘘かは、最早どうでもいい。
証明する手段がない以上、この沙都子がオヤシロ様となった沙都子であると断定できない。
この厄ネタを排する大義名分を掲げるのが、より困難となってしまう。
下手に独断で排除しても、別の参加者からの反感を受ければ危険なのは一姫だ。かといって、好きに参加者に干渉されて、雛見沢症候群とやらを撒き散らかせる訳にもいかない。
「沙都子…あんた本当に……」
「梨花に何があったかは分かりませんわ」
梨花が構えている銃に触れ、そして沙都子はそっと自分の胸元へと押し当てる。
-
「でも…もし、私が信用できないのなら……撃ってくれて構いませんわ」
「沙都子……」
「恨んだりなんかしませんわ。だって───」
親友ですもの。
梨花の銃を握る手の力が弱まり、銃口は沙都子の胸から離れ沙都子の手に誘導されるように降ろされる。
一姫は気だるげな表情のまま、ただ目線だけは冷たく沙都子を見つめていた。
沙都子はその視線に気づき、一姫に微笑んでみせた。
あの銀髪の少女が聡明なのは、明らかだ。部外者でありながら、こちらのやり方に梨花よりも先に気付いたのだから。
梨花が本当に信頼しているのは私なんですのよ。
そう、見せ付けるように梨花に抱き着いて。その笑みをより歪ませた。
一姫はやはり気だるげな顔で、ただ沙都子を見つめ続ける。
ほぼ答え合わせに近い。この沙都子は、惨劇を引き起こしている北条沙都子に他ならない。
ただ、これで一姫が沙都子に文句を付けようものなら、無害な沙都子のフリをして梨花と周りの同情を誘って、一姫を孤立させようとするのは明白だ。
あの笑みも、それを狙ったうえでの挑発なのだろう。
思ったより子供ね。
声には出さず、一姫は目線だけでそう伝える。
勝ち誇った嘲るような笑みを、一姫だけに見えるように沙都子は顔面に張り付けて。
この場での主導権を手にした勝利宣言を果たした。
「おいおい、ここはコント会場か?」
「ピカ!」
少女のように透き通った、だが変声期を迎えるか否かというほどのハスキーさを含めた声色。
「へえ、勘の良い鼠だな」
物珍しそうに、その少年はピカチュウを見下ろして呟いた。
ピカチュウは頬から紫電を散らし、警戒と攻撃の態勢に移行している。
サトシもピカチュウの変貌に気付き、少年への警戒度を引き上げる。
-
「オレはマサラタウンのサトシ、それとこいつは相棒のピカチュウだ。
きみは……?」
「ゲームだ。俺が何だか当ててみな?」
「え…なにいって───」
「礼儀を弁えて、魔王とお呼びすればよろしくて?」
サトシから引き継ぐように、一姫が返答を紡ぐ。
「ハッ…良いよ、お前……かなりキマってる」
それを聞き、愉快そうに少年は───絶望王は微笑んだ。
「だが、躊躇いなくレイズするには、微妙じゃねえか?」
「勝敗が分からないゲームほど、楽しむものでしょう?」
「それで、この場の全員死んでもか?」
ケラケラ笑いながら、冗談のように言ってのける。
だが、それが嘘偽りのない事をこの場の全員は直感で察していた。
ガッシュやピカチュウのように戦いに慣れた者達から、カツオのように戦いなど一切経験のないただの子供ですら、それが真に迫った本音だと理解する。
この男は、たった一人でこの場の全員を皆殺しにすることも叶うと、本気で言っているのだと。
「それ、冗談? あまり面白くないよ」
絶望の体現者を前にして。
それを一切の脅威とも思わぬ、竜種(さいきょう)を除き。
「ああ…ジョークだ。今、お前らがやってる事と大して変わりやしない。笑えよ、メリュジーヌ……それと北条沙都子」
なんなんですの、こいつは!!?
激情のままに叫びかけようとしたのを堪え、沙都子は焦りの中で思案する。
「なっ…なんのこと……」
「お前らマーダーだろ? 俺と同じだよ。既に一人殺ってる。
だから言ったんだ。コントかってな」
シカマル経由で、既に先ほどの戦闘の話が回っているのか? では、この男は一体誰だ?
殺し合いに乗ると公言し、シカマルと面識があると思わしき人物。
「シカマルとやり合ったんだろ? 確か…そう、アリマカナとかいう雌ガキを殺したって話も聞いたよ」
「そのシカマルという子は何処に居るか聞いても良いかしら」
「さあな。最後に見た時はG-2に居たけどな。生きてりゃ、まだあの辺に居るんじゃないか?」
絶望王と一姫の会話を聞き沙都子は確信を強めた。
こいつが、恐らくシカマルが警戒していたブラックという男なのだろう。
「沙都子、あんた…」
「待って、梨花……わたくしは」
肩を強く押され、跳ね除けられる。
「梨花…信じて……わたくしを───」
「無理よ」
それは友からの断絶の意思の表明で。
勝ち誇った沙都子の笑みは一瞬で崩れ去った。
-
「なあ? 北条沙都子…お前はもう俺を知ってるよな?」
それが見たかったんだよ。
山本勝次を見た後、次はその逆を見たくなった。
甘いパフェを食べたら、苦いコーヒーが飲みたくなったのと同じだ。
そんな、楽し気な笑いを浮かべる絶望王を沙都子は強く睨みつけた。
「……ふふ」
ああ、何て上手くいかない。
「うふふふふふ……」
別に構わない。リカバリーは考えてある。
こちらには最強(メリュジーヌ)がいる。
全てを更地に変えて、そしてこのカケラの梨花を殺して終わりだ。
少しは対主催に紛れて、梨花と戯れるのも一興だったが構わない。
「まだ、足りませんのね」
あんなぽっと出の男に、すぐに靡いて。
親友を放り出してしまうなんて。
あんな、つまらない人達に囲まれて。
気取った顔してお茶を飲んで、お姫様のように過ごしていたあの梨花と何も変わらない。
ここでも、あんな一姫(おんな)と組んで。
そこに居るべきはわたくしのはずなのに。
足りていない。惨劇が足りていない。
もっと、もっと…もっと積み重ねないと。
もっと、繰り返さないと。
「待ってよ、みんな!!」
全てを無に帰そうと、指を鳴らそうとして、沙都子の前に庇うようにカツオが飛び出した。
「本当に…あの人が言ったことが、全部本当か分からないじゃないか!!」
鳴らしかけた指を止めて、沙都子はカツオの背中を見ていた。
「梨花ちゃんも…この娘のことを信じてあげなよ!」
ここでこんな声を荒げて、みんなを敵に回しそうな真似をするのは馬鹿だとカツオにも分かっていた。
正直なところ、梨花と沙都子の事情は分からない。
喧嘩してるにしても、銃を撃つとは梨花の正気を疑うし、沙都子も殺人の容疑が出る時点でまともな娘じゃない。
けれど、沙都子は本当に梨花の事が大好きなのは、痛いくらいわかった。
きっと、唯一無二の大切で大事な友達なんだと。
「きみの、親友なんだ……ここで、突き放したら一生後悔するかもしれない」
カツオはもう中島を助ける事も、話すこともできない。でも、梨花と沙都子は違う。
「もっと…ちゃんと、話し合うべきだよ。……喧嘩したって、きっと仲直りできるさ」
「……カツオ」
梨花のなかで、二つの想いが揺らいでいく。
確かに、絶望王の語る内容を全て信じられるかは別だろう。本人はマーダーを公言しているし、こちらを惑わすガセかもしれない。
だが、情報元を明かしているのが信憑性を上げている。
それにこれまでの沙都子の凶行を見ていれば、平然と息を吸うように嘘をついてもおかしくない。
-
「良いんですのよ…もう」
出来る限り、温和な声を作ってカツオの肩にそっと手を置いた
「私達はここから離れますわ……でも───」
不利な現状を、もう一度客観視して沙都子は強く確信した。
「孫悟飯さんなら……!」
今、この状況は使える。
「孫悟飯さんと結城美柑さんなら…お二人なら…わたくしが殺し合いに乗っていないことを証明してくれますわ! きっと、東側に……だから、どうか…梨花、お願い……」
こちらの切札はもう一つある。孫悟飯だ。
沙都子の立場を利用し疑心暗鬼を促進すれば、悟飯に感染させた雛見沢症候群の発症率は更に高まる。
それに、本物かどうかは別として悟空の見た目をした誰かが暴れているというのも、悟飯の耳に入れば丁度いい。
もし居れば、最強の対主催である孫悟空と潰し合ってくれるかもしれない。
そうでなくとも、運が良ければ、対主催同士で同士討ちを狙える。
仮に、雛見沢症候群が発症しなくとも、メリュジーヌが勝てるか分からないと評すほどの実力を持つ悟飯に擁護して貰えるのも悪くない。
立場は悪化したが、むしろ切れる手札が増えたというもの。
だから、懇願するように縋るように梨花に叫ぶ。
「沙都子…」
分からない。
梨花には沙都子の言っている事が真実なのかも、この少年の言う事が嘘なのかも。
仲間を信頼することを、かつての惨劇を変える時に梨花は身をもって知った。
それなのに、今の梨花は…目の前の仲間を信頼できない。
「……未練だな。俺もお前らも」
温かいような冷たいような。
演技染みた台詞ではなく、嘲るような笑みもない。
心の奥底から零れたように、絶望王は静かに呟く。
「まあ、選べよ。カードもチップも好きなだけ揃えてな。
……いつだって、最後に選ぶのは、いつもお前らなんだ」
何度も見てきたような言いぶりで、絶望王は言う。
「…そうだ。もしハイバラアイって女に会ったら、伝えといてくれ。ブラックが探してるってな」
その名の響きに、沙都子は覚えがある。
シカマル達と共にいた少女だ。容姿以上に落ち着いた性格が印象に残っていたが、彼女もまた生き延びているらしい。
「じゃあな」
気紛れで道草を食ったが、そろそろゲームに戻らねばならない。
灰原とのゲームは続行中だ。
絶望王(バンカー)と灰原(プレイヤー)の賭けの勝敗は着いていない。
中断も許されない。
13王ですら、その賭けから降りてはならないのだから。
「対主催共(ヒーロー)」
その声は、誰に向けてのものか。
魔界の命運を託された王の息子に向けてか、名実ともに世界最強のチャンピオンとなったポケモンマスターを目指す少年か。
あるいは、一度は繰り返す百年の惨劇に終止符を打った少女か。
あるいは誰でも良いのだろう。
全員が、乃亜の元に辿り着く必要はないように。ヒーローにも代わりはいるのだから。
-
「沙都子」
庇うようにメリュジーヌが沙都子へと駆け寄り、そして姫のように抱き上げる。
「なあ…聞き忘れるところだったが、メリュジーヌ…俺の名前を言ってみろよ」
その問いかけを前に、オーロラが脳裏を過る。
もしも、あの少年の正体がそうであるのなら。
「……」
きっとメリュジーヌは、いや沙都子もその名を言えるのだろう。
「難儀なもんだよな、兄妹。なあ、その先に望みはあるか?」
「僕はその為にしか生きられない」
「そうかい……全くもって、同感だよ」
メリュジーヌは沙都子を連れ、豪風を巻き起こしこの場から消え去った。
───
-
「僕…悟飯って人に会いに行くよ」
絶望王も去り、残された子供達はそれぞれの情報を交換し、そしてカツオは誰よりも先にそう言った。
「あのブラックって人、自分も同じだって…殺し合いに乗っているみたいな言い方だったじゃないか。そんな人の言うこと、僕は信じられないんだ。
沙都子ちゃんのことを知ってる別の人にも、話を聞いた方が良いと思うよ」
理屈で言えば、正しいのだろう。
ただ、一姫もモクバも沙都子が普通の少女でないと見抜いている。
証拠はないが、恐らくは殺し合いに肯定的な参加者であることも想像できる。
「カツオ、あの沙都子って娘は中島じゃない」
それに踏み込むのは躊躇われたが、モクバもこうなっては言わざるを得ない。
友達を亡くした事は同情するが、それで判断を誤り命を落とされては寝覚めが悪いし、可能な限り参加者も死なせたくはない。
「……そう…なのですよ。……カツオ、もう…良いのです」
梨花もまたこれまでの惨劇の黒幕が沙都子であることを知り、彼女なら殺し合いに乗ってもおかしくはないと考えている。
殺めたくはない。止めたいとも思う。
『確か…そう、アリマカナとかいう雌ガキを殺したって話も聞いたよ』
だが、雛見沢と関係のない名前も聞いたことのない顔も知らない女の子が殺されたと聞いて、梨花は事の大きさを改めて再認識させられた。
自分の友達が人を殺している。それも、雛見沢の惨劇と違い繰り返すこともないかもしれない。たった一度きりの命を奪い去っている。
自分に責任がないだなんて、言えるはずがなかった。
「良くないよ。まだ、沙都子ちゃんは死んでないじゃないか。
もう…僕みたいに友達を亡くしてほしくないんだ」
魔神王との遭遇で、中島の死の真相を知りそしてその容姿すら利用され、死後の安寧さえ奪われた。
その怒りを、永沢にぶつけることも叶わず。項垂れていたカツオに、新たな原動力を与えたのは、別のまだ引き裂かれていない友情だった。
根がお人よしのカツオには、それは自分達のように喪わせてはいけないものだと、強く意識させられた。
「なら…オレと来いよ。オレ達も、東の方に行く予定だったんだ。
方向は一緒だ。別に良いよなドロテア?」
「……いざという時は知らんぞ」
足手纏いが増えるのにいい気はしないが、元よりモクバの善性は承知の上だ。
まあ首輪のサンプル候補が増えたと考えればいいだろうと、ドロテアは素っ気なく承諾した。
「オレ達の仲間が、港で海を調査してくれているんだ。そいつらと、東のホテルで二回放送時に合流する予定になってる。
その間に、海馬コーポレーションを調べたり、沙都子の言う悟飯って奴を探す暇くらいはあると思うぜ」
「ごめんよ…モクバ君」
「気にするなよ。これで、お前の安全もちゃんと保障してやれる訳じゃないしな」
ドロテアは利用価値のあるモクバの身しか守る気はない。
余裕があれば、カツオも死なせない程度に立ち回ってくれるだろう。それでも、あくまで余裕さえあればの話だ。
それに対し、モクバも意義は挟めない。彼女とて悪人だが身を守る権利はあり、面倒ごとの種であるカツオを連れるのはリスクもあれどメリットもない。
いつ、ビジネス関係を破棄されるか分かった物ではない。
カツオも薄々それに気づいていた。
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「私は…シカマルって子を探すわ」
「梨花?」
訝しげに一姫が名前を呼ぶ。既に一度、一人で沙都子を探そうとする梨花を咎めたばかりだ。
その時と同じことを、何度も言うのは面倒で気が引ける。
「言いたいことは分かってるわよ。でも、沙都子は私の親友よ。
本当に、雛見沢と無関係の娘を一人殺してるなら…私も無関係でいられないわ」
「ならば、私達も一緒に行くのだ!」
「ガッシュは、マサオって子を探さないといけないじゃない。
危ないのは分かっているけど、このまま沙都子を放っておけないわ。それにマサオも時間が経てば経つ程、死ぬ確率はあがる。
二手に分かれた方が良いって、一姫…天才のあんたならそう考えるでしょ?」
「梨花にしては冴えてるわね。あと、天才と呼ばれるの好きじゃないの」
「は?」
「馬鹿が馬鹿と呼ばれたら、怒るのと同じよ」
「……うざっ」
事実確認は必要となる。
沙都子の今後の方針がメリュジーヌに任せ、片っ端から殺戮を繰り返すのならまだしも、別の対主催に潜り込み、内部から人間関係を崩壊させるのなら、やはり彼女がマーダーである証人が要る。
「だったら、オレとピカチュウが梨花についていく。
梨花一人よりはマシだろ?」
一姫がガッシュと共に戦いに介入するまで、悟空と名乗る少年に立ち回れていた実力はある。
あの悟空が本気を出していたか、一姫にとっては懐疑的でもあったが。どちらにしろ普通の参加者ならば、蹂躙せしめるほどの強者であったのも違いない。
梨花について行ってくれるのなら、無駄な犠牲者が減る可能性は高い。
(梨花が居なくなると、私も困るけれど…)
ガッシュから聞いた清麿の戦術を元に一姫なりのアレンジも入れて実践したが、中々にシビアで体力も使う。
特に心の力とやらも、調整と節約をしなければすぐに底を付く。可能であれば、梨花と交代で体力を温存しながら、ガッシュの戦闘を補助するのが理想だった。
「分かったわ。その代わり、みんな雛見沢症候群には注意すること」
物事は想定通りには、進まないこともままあることだ。
人間が相手である以上、計算が通じないことは少なくない。今ある盤上を受け入れ、次の一手を模索するしかない。
万が一に備え、雛見沢症候群についても警戒を呼び掛ける。
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「人に寄生し疑心暗鬼を誘発する寄生虫じゃったか? ふむ、興味深いの」
何処ぞの大臣なら、これ以上ない程に悪用しそうなものだ。
「───話もこれで大体纏まったようじゃな……
あとは」
面倒そうに魂砕きを片手に、ドロテアは城ヶ崎の遺体の前まで行き、そして剣を振り落とす。
「お前、何やってるんだ!!」
サトシが声を荒げて制止するが、ドロテアは構わず城ヶ崎の遺体の首を切断した。
「なんじゃと? 決まっておるわ。首輪の解析にはサンプルが居るのじゃ」
「だけど……!」
何かを言い返そうとして、サトシは沈黙した。
ここまで色々あって考えて来なかったが、首輪を外すにしても最初から生きている参加者の首輪を使う訳にはいかない。
無論、ドロテアはそれでも別に構わないが、モクバ達対主催に着いている以上は可能な限りは死者の首輪を活用するつもりだ。
「く…首が……ひっ……」
まだサトシは長年の旅の中で、強靭な精神的を持っている為に理屈さえ通れば、それがやむを得ないと割り切れた。
だが、カツオにとっては理屈以上に感情的な嫌悪感に支配され、溜まらず咳き込んで吐いてしまった。
「チッ、面倒臭いのう…同行者なら、まだ話が早いディオのがマシだったわい」
「カツオ、しっかりしろ!」
モクバはカツオの背を摩りながら介抱する。
死んでいるとはいえ、女の子の首を斬り落とす場面はモクバでさえ気分が悪くなる。
幸いカツオ以外は、その必要性を理解している為に反発が起こらず、ドロテアと衝突もしないだけマシだが。
だが、これが子供の普通の反応なのだろうとも思う。
「首輪が妾が貰うのじゃ。よいな一姫とやら?」
「ええ…ぜひ、貴女には首輪の解析に励んで頂きたいわ」
そのまま、ドロテアは首と胴体が真っ二つに分かれた城ヶ崎に目もくれず歩き出す。
「おい、この娘をこのまま放っておく気か!?」
サトシが食って掛かる。
首輪の回収まではやむを得ないが、この無惨な姿になった遺体を道端の石のように杜撰な扱いをするのは我慢ならなかった。
「忘れたか? いつ俊國が殺されて、あの中島とかいう奴の見た目をした化け物が追いかけてくるか分かった物ではないのじゃぞ?
あの胴着の少年も死んだとも思えぬし、沙都子とメリュジーヌとブラックとかいうのも引き返して妾達を襲いに来るかもしれぬ。
こんな場所で、ちんたらしている暇はないのじゃ」
「だからって……」
「口論する時間も惜しいのじゃ。行くぞモクバと坊主頭!」
-
振り返りもせず手にした首輪を、ランドセルの中に放り込んでドロテアは進んでいく。
モクバは一言、すまないと口にしてカツオを連れて駆け足で追いかけていった。
「…意外ね」
訝しげに梨花は一姫に言う。
「あんたなら、ドロテアを言い包めて首輪の一つや二つ奪えそうなものだけど」
「別に、異世界の錬金術師になら、首輪のサンプルを渡しても無駄にはならないでしょう?
それに……首輪なんて、この先嫌でも手に入るもの」
それは口調こそ楽観的だが、むしろ殺し合いはこれからより加速すると冷酷な考えの元、一姫は断言した。
───
「ごめんな。みんな、城ヶ崎を埋めるのを手伝ってくれて」
サトシはあまり人目の触れない端の方で、近くの民家から回収したシャベルで穴を掘り、簡素ながら城ヶ崎を埋葬した。
出来る事なら、彼女の両親に遺体を返してあげるべきだとは思ったが、遺体を持ち運ぶ術がなく、下手に放っておいても魔神王の言動からして遺体を食われる可能性も考慮して、こうして埋葬することにした。
魔神王対策ならば、火葬までするのがベストなのだろうがそれだけの施設もない。
梨花やガッシュも快く手伝ってくれたのもあり、時間にしては20分程で済んだ。
「……よし、G-2だったな。行こう梨花」
「サトシは休まなくて、大丈夫なのですか?」
「平気さ。それに善は急げだ。梨花こそ疲れてるなら、オレが背負って行ってあげるところだぜ」
「流石ね。旅をしているだけはあるわ」
大した体力だと一姫は感心する。
「私達はこのアイドル・レイプ・タワーの方まで行って、マサオ君を探して、それからグレイラット邸まで戻ってフリーレン達と一旦合流するわ。
梨花、結界のことはさっき説明した通りよ」
「ガッシュが居ないと、魔族に反応する結界の異変に気付けないってことよね?」
「そうよ。だから、グレイラット邸に向かうのなら、細心の注意を払うか……最悪の場合はそこは無視してH-5の指定地点に向かいなさい。
サトシもそれはよく覚えておいて」
「分かった」
一姫から結界の仕組みをより細かく説明され、それを頭に叩き込んだ梨花とサトシは後れを取り戻すように走り出す。
本当に元気で体力が有り余った子供だと、呆れるような顔で一姫は見送った。
「……俺の名前を言ってみろ、か」
「一姫、ブラックの言っていたそれは一体何なのだ?」
「悪魔を憐れむ歌よ。ローリング・ストーンズの名曲よ」
───
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「ピカピ」
「ピカチュウ?」
「ピカゥピーカーピー ピカ?ピッカピッカウ ピカピッカピカチユゥ ピカピッカピカウちゅ ピカピッカピカチュチュ ピカピッカピカウゥ」
「分かってるよ……。さっきの、悟空の時の事だろ?
ああ、もう無茶しないから、そんな怒るなって……」
似ていた気がした。
今まで、サトシの会ってきたポケモンの中で。
トレーナーに裏切られたポケモン達と。
人とポケモンは違う。あの少年に何があったか分からない。
でも、誰かを求めているのに違いはないと思った。
誰かに認めて欲しくて、一人になりたくなくて。
きっと孤独なんだ。
必要なのは、道を正してくれる誰かで、あの少年を想ってくれる人なんだと思った。
「ピカピ……」
「安心しろよ。オレは…オレは死なないからさ」
───
-
「悪い子じゃない……」
メリュジーヌの宝具を受けながら、しかし損傷は殆どない。
サトシ達にも悟空の悪印象は植え付けられた。翼を使った事で、悟空の戦闘スタイルからはズレたが、それでも早々にバレる事はないだろう。
参加者も一人殺し、戦果だけなら悪くない。このままいけば優勝だって夢じゃない。
それなのに、カオスの顔は曇っていた。
「わたし、悪い子じゃない。悪い子なんかじゃ……」
殺して食べて賢くなって強くなって、そうすればいい子になれる。お兄ちゃんの元に帰れる。
それ以外に、おうちに帰れる方法を知らないから。
でも、もしも他の方法があったら?
『そいつのためなら何人死のうと構わない。世界だってブッ壊せる』
「壊せるもん」
帰るべき場所の為に、お兄ちゃんの為なら壊せる。
あの青い服の少年の言うように、きっとそれは愛なのだから。
だから、きっと正しい筈で。
『いつは、本当にこんなことをして、キミを褒めてくれるのか』
どうしても、お兄ちゃんが自分を褒めてくれる姿が思い浮かべなかった。
本当は分かっているから。
そうでなければ、悟空に悪い子になって貰うなんて発想は生まれない。
悪いと理解していたから、その姿を借りていたのだから。
「……もう、いいか」
悟空の姿から、元の天使の姿へと戻る。
先ほどのサトシとピカチュウ、ガッシュとの交戦でよく理解した。
ここには油断できない強者が数多くいる。
永沢達とサトシ達、そして新たに乱入してきた少女達。
十分に悟空は悪い子だと印象を植え付けた。
「ちゃんと、今度はちゃんと愛をあげるから」
それはこの場の全てに対する、殺戮の宣言だった。
そして拒絶の意志でもあった。
最初に出会った最強の少年も
愛を教えてくれたあの絶望の王も。
この島で、初めて手を差し伸べてくれた少年に対しても。
例外なく、愛を与えると。
そうすることで、きっとおうちに帰れるから。
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【E-4 /1日目/早朝】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]全身にダメージ(小)
[装備]赤の魔本
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:マサオという者と赤ん坊を探すのだ。
2:戦えぬ者達を守る。
3:シャルティアとゼオンは、必ず止める。
4:絶望王(ブラック)とメリュジーヌと沙都子も強く警戒。
[備考]
※クリア・ノートとの最終決戦直前より参戦です。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【風見一姫@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:殺し合いから抜け出し、雄二の元へ帰る。
0:マサオというおにぎり頭と赤ん坊を探す。
1:0をしながらも、首輪のサンプルの確保もする。解析に使えそうな物も探す。
2:北条沙都子を強く警戒。殺し合いに乗っている証拠も掴みたい。場合によっては、殺害もやむを得ない。
3:1回放送後、一時間以内にボレアス・グレイラット邸に戻りフリーレン達と再合流する。
4:俺の名前を言ってみろ……悪魔を憐れむ歌ね。
[備考]
※参戦時期は楽園、終了後です。
※梨花視点でのひぐらし卒までの世界観を把握しました。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
※絶対違うなと思いつつも沙都子が、皆殺し編のカケラから呼ばれている可能性も考慮はしています。
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に卒】
[状態]:健康、髪の毛がチリチリ、沙都子が人を殺したかもしれない事への罪悪感と責任感
[装備]:デザートイーグル@Dies irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:生還して、沙都子と一緒に聖ルチーア学園に行く。
0:G-2に行き、シカマルという参加者を探し沙都子について聞く。
1:この島に呼ばれた沙都子がどのカケラから呼ばれた沙都子が見極める。
2:もし、沙都子が殺し合いに乗っているなら……
[備考]
※卒14話でドラゴンボールみたいなバトルを始める前からの参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※フリーレンがボレアス・グレイラット邸に張った結界を一姫から聞かされました。
※沙都子が、皆殺し編のカケラから呼ばれている可能性を考えています。
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【サトシ@アニメポケットモンスター】
[状態]:負傷(中)、ポケモンに殺し合いをさせる罪悪感
[装備]:サトシのピカチュウ@アニメポケットモンスター、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王デュエルモンスターズ
[道具]:基本支給品、タブレット@コンペLSロワ
[思考・状況]基本方針:対主催として乃亜をぶん殴る
0:梨花に同行する。
1:それでもオレは乃亜の企みを阻止して、ポケモンマスターを目指す!
2:リーゼロッテと悟空(カオス)に注意する。特に悟空はなんとかしてやりたい。
3:羽蛾に対する複雑な感情、人を殺すことはないと思いたい。
4:永沢の事が気になる。
[備考]
※アニメ最終話後からの参戦です。
※デュエルモンスターズについて大まかに知りました。
※羽蛾との会話から自分とは違う世界があることを知りました。
※羽蛾からリーゼロッテのオカルト(脅威)について把握しました。
※永沢達から、中島(名前は知らない)の殺害者について、藤木の特徴をした女の子だと聞かされました。
※サトシのピカチュウのZワザ、キョダイマックスはそれぞれ一度の使用で12時間使用不可(どちらにせよ、両方とも必要なアイテムがないので現在は使用不可)。
それと、殺し合いという状況を理解しています。
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]健康、高揚感
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品 ランダム支給品0〜1、セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、城ヶ崎姫子の首輪
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:首輪一個目ゲットじゃぜ! どっかでカツオ死んでくれれば、首輪二つ目ゲットなんじゃが。
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は凄腕の魔法使いが着いておるのか……うーむ
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:健康、俊國(無惨)に対する警戒。
[装備]:青眼の白龍@遊戯王デュエルモンスターズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
1:東側に向かい、孫悟飯という参加者と接触する。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:ホテルで第二回放送時(12時)にディオ達と合流する。
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※ここを電脳空間を仮説としてますが確証はありません
※ディオ達から、港での合流が叶わなかった場合の再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
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【磯野カツオ@サザエさん】
[状態]:ダメージ(小) 悲しみ(大)、永沢に対する怒りと殺意(極大)
[装備]:変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る、グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2、タブレット@コンペLSロワ
[思考・状況]
基本方針:中島のことを両親に伝えるためにも死にたくない。
0:モクバ達に同行して、孫悟飯を探して沙都子について話を聞く。沙都子と梨花の友情は引き裂かれて欲しくない。
1:生き残ることを模索する
2:ゲームに乗ったマルフォイには注意する
3:永沢を見付けたら……。
[備考]
変身を解きました。
持ち前の人間観察でマルフォイとエリスの人となり(性格・口調)を推測しました。
じっくり丁寧に変身をしたため、次回以降は素早く変身できるようになりました。
少なくとも、「カツオのための反省室」「早すぎた年賀状」は経験しています。
ガイアファンデーションの説明書に無惨の名前が載っています。
【全員共通の備考】
最低限、雛見沢症候群については情報共有しています。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(中)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(7/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:カツオを経由で、悟飯を扇動してもらう。今の不利な私の立場は使えますわ。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:あの悟空っぽい人物が本物かどうかは別として、色々利用できるかもしれませんわね。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※H173入り注射器は使用後破棄されました。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、鎧に罅、自暴自棄(極大)
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
1:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
3:絶望王に対して……。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
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【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)
[装備]:王の財宝@Fate/Grand Order
[道具]:なし
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:哀の奴を探す。金髪のガキを殺すかどうかは…ま、流れと気分だな。
1:気ままに殺す。
2:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
3:シカマル達が、結果を出せば───、
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。
【F-4 /1日目/早朝】
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス半壊、ヘパイトス、クリュサオル使用制限
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
1:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
2:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
3:…帰りたい。わたしは、わるいこじゃない…よね。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
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投下終了します
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予約したメンツにリルトット・ランパード、鈴原小恋を加えて投下します
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歌声だけなら天使の様だと、そんな事を思いながら、クロエはグレーテルの後ろを歩いていた。
この狂人に背中を晒して歩く気には到底なれない。横に並ぶ事すら避けたい。そんな思惑から、グレーテルの後ろを歩くクロエは、グレーテルが口ずさむ歌に、いつしか聴き入っていた。
グレーテルと行動を共にすると決断してから、そんなに時間は経っていない。
その間にグレーテルのした事を思うと、こんな綺麗な声で歌う少女と本当に同一人物かという疑念が尽きる事なく湧いてくるが。見てくれと声だけは天使と呼んでも、誰も異を唱えない。
◆
クロエは、グレーテルの行動は、最初は理解できた。
双眼鏡を取り出してE–8の方を、正確には孫悟飯の動向を窺う。クロエとグレーテルの二人がかりでも、最後に乱入して来た少年、孫悟飯には勝てないのだから、彼がどこに行くのかを知る必要があった。
退こうとしたシャルティアに問答無用で襲い掛かり、ニンフを盾にしたリップを躊躇無く殺しに掛かった孫悟飯は、マーダーに対しては無差別に攻撃を仕掛けてくると観て良い。
まだ、純粋にマーダーであるシャルティアの方が、話が通じる。クロエもグレーテルもそう認識していた。
だからこそ、孫悟飯を警戒する。適当に動いて、遭遇してしまえは目も当てられない。悟飯が移動した方向と異なる方へと移動し、少しでも離れるべきだった。
そして、気絶したイリヤをかかえた悟飯が、心身の疲労と制限により、2人に気付く事なく悄然と南へと去っていったのを見送った。
悟飯達が去った後、二人は今後の方針を手短に相談して、まず海馬コーポレーションに寄ってから、聖ルチーア学園を経由して、病院を目指す事となった。
クロエとしては、聖ルチーア学園が兎も角、海馬コーポレーションには近づきたくは無かった。
閃光の中に消えたシャルティアが死んでいない事は、アーチャーの視力を持つクロエは見てとっていた。
悟飯と比べればマシ…というだけで、シャルティアもまた、避けるべき相手なのは疑いようの無い事実。間違い無く深傷を負っているだろう現状でも、それは間違い無い。
この近辺に居るであろうシャルティアが、獲物を狩る為に、或いは待ち伏せする為に、海馬コーポレーションに赴くという事は充分に予想出来た。
だからこそ、一刻も早く此処から離れる。そう主張したクロエの言は、誰しもが頷く全く正しいものだった。
対してグレーテルは、シャルティアと孫悟飯の脅威を主張。あの2人は制限を受けて実力を発揮できない現状ですら、グレーテルとクロエが敵う相手では無い。
そんな連中が首輪を外して仕舞えば、グレーテルとクロエの勝ち目は完全に無くなる。
そうならない様に、首輪を外せる道具なり情報なりが有るだろう海馬コーポレーションに彼らに先んじて赴き、内部を破壊する必要が有った。
この言に、クロエは賛意を示したが、あの二人、特にシャルティアが先行している可能性が有る以上、やはり避けるべきだと主張。至極真っ当な論理である。
だが、相手はグレーテルである。真っ当で無い者であり、理屈が通じる相手では無い。
「お留守番の子を『置いて来た』の。だから、お客様が来ていらしたらすぐに判るわ」
そう言ったグレーテルの、赤黒く汚れた服装を改めて認識して、クロエは『お留守番の子』というものが、どんなものかを理解した。
此処まではまだ良かった。クロエの理解の範疇だったから、その後のグレーテルの行動は、全く理解できなかった。
-
「気絶したイリヤを担ぐ悟飯が此処に戻ってくることは無い。シャルティアは重傷。当分の間は戦闘を避けるはず」
そう主張して、グレーテルは違法薬物で超強化された走力で何故かさっき逃げて来た場所へと走っていった。
不意を突かれて出遅れたクロエが追いついた時には、グレーテルがニンフの胴体を解体している最中だった。
「シャルティアが言っていたけれど、本当に人間と違うのね。血の匂いも臓物の臭いもしない」
そう言って屈託無く笑ったグレーテルの目線が、リップと美遊の骸に向いたのを見て、クロエは血相変えて制止。殺気立ったクロエの様子に、元々必要なのは首輪では無く殺害人数(キルスコア)であり、反応の無い死体で遊ぶのはそんなに好きで無いグレーテルは2人の死体で『遊ぶ』事を諦めて、2人の骸を埋める事を提案。
クロエが“壊れた幻想”で地面を穿ち、二人の骸を穴に納めて埋葬し、その間後ろから聞こえ続ける音に、吐き気と嫌悪感を堪えて振り向くと、ニンフの腹の中身を地面に並べ終えて、残った四肢をバラバラにして並べている最中だった。
グレーテルの、言葉で形容できない狂気に、言葉を無くすクロエだったが、グレーテルとて故無くこんな事はしている訳ではない。
【あ……あの、皆さんは……】
【……すみません。後で僕がちゃんと埋葬しに来ます】
違法薬物『地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)』は身体機能のみならず五感すらも強化する。
悟飯の言葉を強化された聴覚で聴き取ったグレーテルは、悟飯が戻って来た時に、悟飯の手で殺してしまったニンフの骸が『壊されて』いたらどういう顔をすのだろうと、そんな事を考えていたのだ。
シャルティアの仕業と判断してくれて、シャルティアを追ってくれれば、孫悟飯の眼がこちらに向く事もない…という計算もあったが。
「あの子にも、お友達が出来たわね」
そう言って、顔を口の左右の端から耳まで裂かれて、歯と歯茎が露出したニンフの頭を、長いツインテールをハンドバッグの取手のように手に持って、ぶら下げたニンフの頭を手に、グレーテルは朗らかに笑い。クロエは『お留守番の子』が自分の推測通りだという事を確信した。
かくして二人は海馬コーポレーションへと向かう。シャルティアと悟飯という超絶の強さを有する二人。この二人が首輪を解除出来ないように、海馬コーポレーションを破壊するのだ。
一番最初に海馬コーポレーションに辿り着いたグレーテルが、何もせずに居たのは、狩場として使う為。最早海馬コーポレーションは狩場としても拠点としても使えないのなら、他社に有効利用されない様に壊しておく。
実に論理的且つ、他の者達にはクソ迷惑なグレーテルの発想に基づき、二人は海馬コーポレーションを目指していたが、高層ビルの威容がはっきりと見えて来たところで、グレーテルが足を止めて、ニンマリと笑った。
「留守にしている間に、お客様が来たようね」
玄関部分に置いておいた『お留守番の子』が消えている事を、強化されたグレーテルの視力は見て取る事ができた。
「お姉さん。私が合図したら、さっきの爆発する剣を飛ばしてね」
海馬コーポレーションに誰かが居たら、その時はクロエの“壊れた幻想”を正面玄関に撃ち込んでから逃走する。予め決めておいた段取りに従って、グレーテルは引き摺っていたニンフの頭を思い切り投げ放った。
-
【一日目/早朝/E-7 海馬コーポレーション付近】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:魔力消費(小)、精神的ショック、自暴自棄 グレーテルに対する嫌悪感(大)
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、透明マント@ハリーポッターシリーズ、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君には…ほんの少しだけ期待してるわ。少しだけね。
6:コイツ(グレーテル)マジで狂ってる。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品2〜4(リップ、アーカードの物も含む)、エボニー&アイボリー@Devil May Cry、アーカードの首輪。
ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵の首輪、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、ベッキー・ブラックベルの首輪、ロキシー・ミグルディアの首輪
[思考・状況]基本方針:皆殺し
1:兄様と合流したい
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。やっぱり死体はつまらないわ
7:星ルチアーノ学園に、誰かいれば良いけれど。
[備考]
※海兵で遊びまくったので血塗れです。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
-
◆
────終わったか。
制限を受け、距離があっても尚、理解出来る程の強者同士の激突。護廷十三番隊の隊長格や、破面の十刃が戦っていたと言われても信じられる程に、凄まじい霊圧のせめぎ合いが終わっても、リルトット・ランバートは緊張が解けなかった。
あの激突を制した者が此方に向かってくるかも知れないのだから。
逃げ出す為の算段を脳裏に巡らせ、モニターを見つめる事暫し、現れた二人連れに、リルはハズレを引いた事を理解する。
────クソッ!戻って来やがった!!!
褐色肌の方はどうでも良い。問題なのは銀髪だ。
リルが片付けた頭の有った場所に目を向けて、何かを悟った様な顔をして、邪悪な笑みを浮かべた銀髪があの少年の頭部を置いた事は明らかだ。
遠目からでも人の頭部だと判る程度に、実の親ですら己の子供とは判別できない程に壊された頭部。それでいて断末魔の形相をハッキリと刻み込んだ顔は、少年が長い時間を掛けて嬲り殺しにされた事を物語っていた。
銀髪が何処かで拾って頭を置いた…という事は、銀髪の赤黒く染まった服が否定する。
元々は漆黒だったろう服を、斑らに赤黒く染めているのは、銀髪が浴びた返り血だ。
あの頭の付近に血が無かった事から、あの銀髪は何処かで嬲り殺しにした少年の頭部を切り離して、此処まで運んできた事になる。
何を考えているのか全く分からないし、分かりたくもない。
わかっているのは、あの銀髪がイカれているという唯一つ。
一人だけならまだしも、二人相手では小恋を守りきれない。足手纏いには違い無いが、情も湧いているし、此処まで護ってきたというのもある。気狂いに捕まって嬲り殺しにされるなどという最後を迎えさせたくは無い。
眠っている小恋を、素早く丁寧に抱き上げて、モニターに目を向けたリルは、己の眼を疑った。
「なにっ!」
銀髪がハンマー投げの要領で投げてきた青い物体。それが人の頭部だと知って、リルが驚きを言葉にした瞬間。
轟音と共に海馬コーポレーションの正面玄関が破壊された
「な…なんだあっ!?」
エントランスに飛び込んだ直後に、爆発により生じた暴風により更に加速し、壁にぶつかって潰れた何処かの誰かの頭などどうでも良い。
エントランスが派手に壊れたが、人が入れない程では無い。イカレ女と褐色が侵入してくるのが時間の問題だ。
────私達以外にまともな女いねーのかッ!
轟音と震動で起きた小恋を宥めつつ、リルは予め立てておいた算段通り、小恋を抱えて、二人組の居る方とは逆方向へと走り、適当な窓を粉砕すると、己の不運(アンラック)を嘆きながら飛廉脚を用いて海馬コーポレーションを後にした。
【E-7 海馬コーポレーション/1日目/早朝】
【リルトット・ランパード@BLEACH】
[状態]:疲労(小)、若干の敏感状態 、銀髪(グレーテル)に対する嫌悪感(中)
[装備]:可楽の団扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、トーナツの詰め合わせ@ONE PIECE、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:脱出優先。殺し合いに乗るかは一旦保留。
0:海馬コーポレーションから離れる。
1:チビ(小恋)と行動。機を見て適当な参加者に押し付ける。
2:首輪を外せる奴を探す。
3:ジジ達は流石にいねぇだろ、多分。
4:あの痴女(ヤミ)には二度と会いたくない、どっかで勝手にくたばっとけ。
5:あの銀髪イカレ過ぎだろ。
6:二つの巨大な霊圧に警戒。
[備考]
※参戦時期はノベライズ版『Can't Fear Your Own World』終了後。
※静血装で首輪周辺の皮膚の防御力強化は不可能なようです。
※現在小恋を抱えて移動中です。行き先は後続の書き手様にお任せします
【鈴原小恋@お姉さんは女子小学生に興味があります。】
[状態]:精神的疲労(中)、敏感状態、起きた
[装備]ブラック・マジシャン・ガールのコスプレ@現地調達
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:みのりちゃんたちをさがす。
1:おねえちゃん(リル)といっしょにいる。
[備考]
※参戦時期は原作6巻以降。
※現在リルに抱えられて移動中です。行き先は後続の書き手様にお任せします
【備考】
※海馬コーポレーションのエントランスに潰れたニンフの頭が転がっています。
※海馬コーポレーションの正面玄関付近が破壊されました。
※美遊とリップの死体がF–8に埋葬されています
※ニンフの原形を留めない頭部以外の死体がF–8に放置されています。
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投下を終了します
投擲からの爆発はお約束っスね
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投下乙です
自分も投下します
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※この作品にはえっちぃ表現が含まれています。
えっちぃのは嫌いですという方には不快となるかもしれない内容なのでご注意ください。
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「むぅ...誰もこない...」
もうじきに日が昇ろうとする中、金髪の少女・金色の闇は不満げに唇を尖らせていた。
リルトットとの戦闘を経てから闇が向かったのは、浜辺だった。
水がある場所を目指そうと決め、真っ先に思いついたのは海。
幾らか試運転してみて、これだけの水量を操れればリルトットのような強者にも引けを取らないと確信したのはいいものの、彼女やキウル達はおろか、誰とも出会えず。
えっちぃことが更新できないまま、朝を迎えようとしていた。
「海水も使えるってわかったのはよかったけど、ここから離れたら元も子もないし...どうしようかなぁ」
闇は考える。
如何に多くの参加者と遭遇するか。
如何に効率よく多くのえっちぃことを回収するか。
如何に効率よく優勝を目指していくか———
「...ダメダメ、こんなのぜんぜん気持ちよくない!」
殺し屋としての思考に呑まれそうになる己の頭をぶんぶんと横に振るう。
ダークネスと化す前の闇であれば、優勝を狙うにせよ脱出を狙うにせよ、冷静にシリアスに物事を考え、効率よく過程を踏んでいくのが当たり前だっただろう。
だが、今の自分はダークネス。欲望の枷を外した本物の自由。
本能に欲望に快楽に、もっと正直になれ。
ルールも理性も投げ捨てて混沌を生め。
それこそがえっちぃことなのだから。
「二回もお預け喰らってイライラしてるんだ...そうだ、きっとそう」
結城リト以外と『本番』をするつもりはないけれど、獲物を四匹も逃がしたままでは欲求不満にもなるというもの。
なにか発散したい。どんな形でもいい。スッキリしてまた欲望に身を委ねたい。
「仕方ない...次の獲物を探しに行くかなぁ」
ぽりぽりと頭を掻きつつ、闇は踵をかえす。
その時だった。
ふらふらと覚束ない足取りで、こちらに向かって少年が走っていることに気が付いたのは。
-
☆
逃げる。逃げる。
立ち止まっては、また走りだして。
ぜぇぜぇと息を切らして、やっぱりまた走りだして。
ただひたすらに彼は逃げる。
ごとりと地に落ちこちらを見つめる少年の空虚な双眼から。
どくどくと地を伝いこちらに向かってくる赤色から。
一緒に殺し合いを止めると約束してくれた彼女の躯から。
己の犯した失態という名の罪から。
「ど、どらえも...ぜぇ、ぜぇ」
のび太は射撃の腕前以外は決して高い身体能力を有しているわけではない。
基本的に運動もできなければ体力も無い。
それでも足を止めないのは怖いからだ。
足を止めたら置いてきたものたちに追いつかれそうで、ただただ恐ろしいのだ。
「た、たすけて...」
みっともなく涙と汗と鼻水を撒き散らしながら、それでも誰かのせいにしなかったのは彼の良心からか。
けれど、もう耐えられない。
置いてきたものが身体に纏わりつき、咎人を押さえつける鉄球のように重たくする。
倒れた。
どことも知らぬ砂浜で、ついに彼の身体は動けなくなる。
-
(...ぼく、このまま死んじゃうのかなぁ)
じゃりじゃりとした感触を肌で確かめながら、ぼんやりと思う。
ここは殺し合いだ。
このまま寝ていれば、ドジでのろまな自分はあっさりと誰かに殺されてしまうだろう。
(...ふふっ、それでもいいかもね。僕のせいでみんな死んじゃったんだもん)
だが、身体に力が入らない。いや、入れたくないのだ。
もしもここで立ち上がって、また誰かが拾ってくれたら、きっとその人にも迷惑をかけてしまう。
そんなのはいやだ。
もう誰にも自分のせいで傷ついてほしくない。誰の死も背負いたくなんてない。
(ジャイアンや静香ちゃんたちはこんなところに来てないといいな...スネ夫、僕もそっちに行けたら今度は仲間はずれになんてしないでおくれよ...なんて、僕がスネ夫のところに行けるわけないか)
思考も身体も投げ出してしまえば楽になる、なんてことはなくて。
目を瞑れば、すぐにでもリップやニンフ、ベッキーやロキシーの最後の姿が浮かんでくる。
折れても諦めても逃がしてくれない。
それどころか力を抜いたばかりにもっと重たくずっしりとのしかかってくる。
(楽に...楽になりたいよう...)
誰も助けになど来ない。
誰も慰めになど来ない。
ただ空しく風が吹くだけだ。
-
「こんにちわぁ」
甘ったるい声音に、のび太はゆっくりと顔を起こす。
見れば、金髪の少女がしゃがみ込みのび太の顔を覗き込んでいた。
(か、可愛い...)
少女は控えめに言っても静香並に可憐で可愛らしい顔立ちだった。
そんな少女に声をかけられたものだから、のび太の頬も思わず紅潮してしまう。
「どうしたんですか?そんなにバテバテになって」
「ぁ...」
問いかけに返答しようとするも、喉がつかえて声が出ない。
疲労と溜め込んだ罪悪感によるものだ。
代わりに出るのは涙。
温かい体液が頬を伝い砂浜に零れ落ちる。
「...大変な目に遭ったみたいですね」
「...ぅ」
「楽になりたいですか?」
楽になりたい。その言葉にのび太は目を見開き、少女を見つめる。
少女は笑っている。
それが好意的なものではないなにかであることはなんとなく察しがついた。
けれど、楽にしてくれるというのなら。仮に自分を殺すという意味でも。
「なりたい...楽になりたいよぉ...」
この辛く苦しい現実から逃げたいと、縋らずにはいられない。
のび太のその返事に、少女・闇の笑みは深まり。
「ええ。たっぷりどっぷり、蕩けさせてあげますよ♡」
闇が右手を掲げると共に、海流がのび太に躍りかかった。
-
「わっ!?」
海水が蠢き、のび太の服の隙間から入り込む。
「な、なにこれ...!?」
驚くのび太が身を捩ろうとも逃げることはできない。
にゅる
「!?」
海水が、蛞蝓のように身体を這う感触がする。
ぬるぬるとしたソレに怖気が走り、拭おうと藻掻く。
「大丈夫、大丈夫。そのまま身を委ねて...」
「は、はい...」
虐められっ子の性か、囁かれる声に反射的に従ってしまう。
にゅる ぬるっ にゅるっ
気持ち悪いと思った感触は、徐々にむずむずとしたもどかしさに変わっていく。
「ん...」
思わず声が漏れた。
それを皮切りに、もどかしさはまた別の感覚に変わっていく。
つぅ、と背筋をなぞられればゾクゾクと肌が粟立ち、不思議な感覚に陥っていく。
海水はにゅるにゅるとのび太の肢体を蠢き、脇の下、うなじ、耳の穴、へそ、臀部...あらゆる箇所を這いずり回っていく。
「ふわぁ...」
自分でも想像だにしないほどの甘い声に、のび太は驚いた。
出そうと思って出したわけではない。ただ、闇の言う通りに身を委ねていたら自然と漏れ出ていたのだ。
「ふふっ、感じてるみたいですねぇ♪」
「か、かんじる...?」
「快感...気持ちいいってことですよ」
「きもち、いい...?」
-
のび太の知る気持ちよさとは、汗だくの身体を洗い流した時のさっぱり感だとか、あやとりを見事完遂させた時の達成感、あるいは睡眠欲を満たした時に感じるものである。
いま与えられているコレは、のび太の知る気持ちよさとはまるで違う。
不快感と浮遊感をちょうどいいバランスで与えられているような新しい感触だ。
その未知の感覚は、のび太の重苦しい気持ちと身体を確かに軽くしていた。
「っ、はぁ、はぁ」
気が付けば頬が熱くなり、息も荒くなっていた。
のび太は苦しいことが嫌いだ。何事も楽に済めばこともなしと思っている。
なのに、この荒い呼吸には嫌悪を抱かない。熱い顔にも拒否感がない。
「イヤですか?」
「う、ううん...もっとしてほしい...」
むしろ、この先を知りたいと心身が求めていた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
その懇願に闇の背筋がゾクゾクと粟立つ。
快楽に負け、涎や涙が滲むあまりにもみっともない顔。
これだ。
普段、リトの不本意なテクで少女たちが曝け出す欲望の表情。
闇の求める"えっちぃ"モノはここにあった。
(これが女の子か、あるいは結城リトのような可愛らしい顔立ちなら満点でしたが...)
闇とて、えっちぃことをするのが相手が誰でもいいというほどに無差別ではない。
この会場に連れてこられる前でも、顔立ちは整っていても好みのタイプではないザスティンら青年以上の所謂『おっさん』、校長のような不快感の塊である肥満体脂肪漢は論外だと食指が動かなかった。
のび太は好みのタイプではなく整った顔立ちでもないが、嫌悪を抱くほどでもないので、欲求不満でハードルの下がっているいまでは落第点。
なにより、キウルや小恋と違って自分から求めてくるという新鮮な息吹なため、闇の興もそそるというもの。
「いいですよ...もっと、もぉっと気持ちよくなりましょうね♪」
そして凌辱(にゅるにゅる)は更なるステージへと進む。
-
「ひあっ!?」
のび太の声が甲高く漏れる。
身体のある一点を包まれたのだ。
その一点とは———男にも女にも共通する部位、乳首。
小学生であるため、未だに未開発の新雪を海水がにゅるにゅると弄り始める。
「ひゃっ、だ、だめっ」
「ダメ、ですかぁ?ならやめましょうか?」
「やっ、やめ、ないで...」
にぎにぎと乳首が摘ままれる度にのび太の声は甘く漏れ出ていく。
のび太はまだ小学生。
彼とて異性に興味はあっても、精々、静香のパンチラや入浴シーンがあれば鼻を伸ばす程度。
自分から積極的に異性に触れようと思わなければ、自らの身体を慰めるほどに成熟しているわけでもない。
そんな彼が、心が弱り切ったいまの状態で甘い刺激に襲われれば、ソレに傾倒してしまうのも無理はない話で。
のび太の願望に応えるように、海水は指の形を象り、その先端をコリコリと弄り始める。
「ひゃああああ!」
「あっ、ここが弱いんですねえ♪」
弱点を見つけた闇は、ここぞとばかりに海水で乳首を責め立てる。
巧みな指使いで摘まみ、軽く引っ張ったりしたかと思えば。
チ ュ ウ ウ ウ ウ ウ
「んんんっ!」
タコの吸盤のように吸い付かせてみたり。
「はっ、はっ」
止めて⇔止めないで。
こそばゆい⇔気持ちいい。
恥ずかしい⇔スッキリする。
しつこいぐらいの乳首への責めにのび太の思考はふやけ、正反対の感情が反復横跳びしてしまう。
けれど、のび太はそれがイヤではなかった。
だって。
いま、この瞬間は、怖いのも、辛いのも、苦しいのも、ナニモカモを忘れられるから。
-
「もう一押し...えいっ♡」
海水が蠢く速度を増し、乳首だけでなく、ついには白ブリーフの中にまで侵食していく。
「あひぃっ!?そ、そこは...!」
さしもののび太も急所を弄られれば羞恥が勝る。
にゅにゅにゅ
だがそんな感情も、己の分身を包み込まれる快感には勝てなくて。
海水はブリーフの中ののび太を伸ばしては縮め刺激を与え続ける。
「あっ、あっ、あっ、あっ」
下半身と上半身への刺激にのび太の意識はチカチカと点滅し始め、声にならぬ嬌声が漏れ始め、快楽を求めているのか無意識のうちに腰がヘコヘコと動き始める。
「ふふっ、いいですよその調子ですよ。そのままイッちゃってください」
「い、イッちゃう?」
荒い息遣いのまま、辛うじて保っている意識の中問いかける。
闇はその言葉ににんまりと笑みを深め、耳元に唇を寄せ囁いた。
「...最高に、えっちぃ瞬間ということですよ♡」
闇の囁きにのび太の背筋はぞわぞわと粟立ち、下半身にこみ上げてくるモノの勢いを止めることもできず。
『のび太さんのえっち!』
闇の囁いた『えっちぃ』と頻繁に耳にする静香の『えっち』が脳内をリフレインし。
「し、しずか、ちゃ...」
未知の快楽に屈した彼の意識は、そこでぷつりと途絶えた。
そして意識が消え、力が抜けると共に。
じょぼぼぼぼぼ
溜められた欲望が、海水の中に解き放たれた。
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「え?うそ...ナニこれ...」
それを見届けた闇は、思わず放心していた。
ダークネスと化す前に習っていた保険の授業で、男の子のアレを弄り最高にえっちぃ気分になると白い粘液が出ることは知っている。
だがのび太が発射したのは粘液ではなく尿。
遍く生物が雌雄関係なく排出する、しかし人前で出すのは憚られる液体だ。
大人の階段を昇る時に見ることになる粘液以上に、誰にも見られたくない代物だ。
けれど、彼はソレを出した。
女の子の前で、粘液以上に恥ずかしいものをお漏らししたのだ。
「こ、こんな...こんなの...」
両手を頭に添えつつぷるぷると震える。
あまりの出来事に臆したのか?
いや、違う。
「さいっっっっっこうに、えっちぃじゃないですかぁ♡」
むしろその逆。
彼女は、のび太の放尿に『えっちさ』を見出していた。
快感に屈し、見せたくないものまで曝け出してしまう。
それこそが『えっちさ』の真髄である。
今回は好きでもない少年相手だったので直接触れずに海水でにゅるにゅるしたが、もしもこれがリトで、自分の技でやっている最中に起きればもう青天の霹靂だ。
それに美柑。
もしもこの会場に彼女がいたら、こんな風にえっちくしてあげたくなる。
みんなから頼られる美柑。
いつも自分に構ってくれる美柑。
自分と友達になってくれた優しい美柑。
愛しい愛しい親友が、あんな風に快楽を求めて情けなくへこへこと腰を振り自分を求めてくれたら。
そして誰にも見られたくない放尿なんて見せてくれたら。
もうそれだけで最高にえっちぃだろう。
そんな中で彼女を殺せたらきっと天井至極のえっちさだろう。
(ああ...もっと知りたい、突き詰めたい♡)
頬を紅潮させ、荒い息遣いのままに、闇はのび太を変身(トランス)で変化させた髪の毛で包み、彼の来た方角へと足を進める。
今回は初の絶頂体験でタイミングを逃し、『えっちぃ気分のまま天国へ送る』ことが出来なかった。
だから、快楽を自ら求めてくれた彼は、今度こそそんな感覚のままで殺して本番(リト)の時に失敗しないように練習台にしたい。
とはいえ、無理やり起こすのも可哀想だし、かといって彼が目覚めるまでここで待つというのも時間が勿体ないので、彼が逃げてきたと思しき方角へと向かうことにする。
逃げてきたということは即ち、他の参加者がいる可能性が高い。
開始から数時間、他の参加者に出会えなかったため、彼女の欲求はまだ満たされていない。
いまはとにかく他の参加者に出会い、えっちぃことを見出しながら殺したい。
のび太の開発で実践したことから、ブラックマリンの扱いにもかなり慣れてきたし、いまならリルのようなと遭遇しても遅れをとることはないだろう。
期待に胸を弾ませながら、次なるえっちぃことを求め、ハレンチな彼女は歩き出すのだった。
-
【一日目/早朝/F-8/浜辺】
【野比のび太@ドラえもん 】
[状態]:強い精神的ショック、悟飯への反感、疲労(大)、肩に切り傷(小)、気絶。闇の髪にくるまれている。
[装備]:ワルサーP38予備弾倉×3、シミ付きブリーフ
[道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス-
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る
0:気絶中。
1:僕は、僕が、殺した……?
2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる?
3:みんなには死んでほしくない
4:魔法がちょっとパワーアップした、やった!
[備考]
※いくつかの劇場版を経験しています。
※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。
「やったぜ!!」BYドラえもん
※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています
※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)。
※リップが死亡したため、肩の不治は解除されています。
【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:疲労(小)、興奮、ダークネス状態
[装備]:帝具ブラックマリン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(小恋の分)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから帰還したら結城リトをたっぷり愛して殺す
0:のび太が目を覚ましたら彼でもっとえっちぃことを突き詰めたい。
1:えっちぃことを愉しむ。脱出の為には殺しも辞さない。もちろん優勝も。
2:えっちぃのをもっと突き詰める。色んな種類があるんだね...素敵♡
3:さっきの二人(ディオ、キウル)は見つけたらまた楽しんじゃおうかな♪
4:あの女の子(リル)は許せない。次に会ったら殺す。
5:もしも美柑がいるならえっちぃことたくさんしてあげてから殺す。これで良い…はず。
[備考]
※参戦時期はTOLOVEるダークネス40話〜45話までの間
※ワームホールは制限で近い場所にしか作れません。
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投下終了です
-
投下ありがとうございます!
>ピンポンダッシュ
なるほど、タイトル通りなんすけど、ピンポンダッシュの規模を超えてるんすよね。
生首をボーリングの球と勘違いしてるんでしょうか。
ニンフを愚弄する為だけに、リスクを承知で引き返すグレーテル。好きなことで、生きていくを体現してますね。
もうクロは、完全にグレーテルちゃん係なんすよね。
そしてリル、急にタフキャラになってしまいましたね。このロワはタフの把握も必要なのかもしれない。
あと、すいません。ご指摘になってしまいますが、リルの一人称はオレですね。
>Escape〜楽園の扉〜
グレーテルに続き、もう一人、自由な女がいましたね。
リル戦以降、音沙汰がありませんでしたが間違いなく強マーダーのヤミちゃん。そんなのとソロで遭遇したのび太は、一応生きているのは運が良いのか悪いのか。
それにしても、のび太のチクチク・B・チック責めと、潮吹きを見せられる日が来るとは思わなかったですね。
俺は一体、何を見せられているんだ……? 乃亜君も、これモニターで見てるんすかね? 正気か?
当ののび太はとてもシリアスで、投げやりになっている温度差がしんみりとしつつ、何かシュールなんですけど……。
出会う奴も知り合いもみんな頭おかしいの、美柑ちゃん可哀想過ぎないですか?
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あと以前も言いましたように、一回放送後に施設をいくつか追加しようと思っております
一応、以下の施設で検討してます。
この施設欲しいなとか、リクエストございましたら、それににお応えできるかは保障できませんが、検討させていただきますのでご意見お待ちしております。
ポケモンセンター@ポケットモンスター(アニメ)
終末の谷@NARUTO-少年編-
人理継続保障機関フィニス・カルデア@Fate/Grand Order
トロピカルランド@名探偵コナン
阿笠博士の研究所@名探偵コナン
東京タワー@現実
博物館@現実
天下一武道会会場@ドラゴンボールZ
中央司令部@鋼の錬金術師
満願神社@おじゃる丸
第三芸能課事務所@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)
海馬ランド(KCグランプリ)@遊戯王デュエルモンスターズ
決闘塔アルカトラズ@遊戯王デュエルモンスターズ
コンドルの地上絵&神殿@遊戯王5D's
モルツォグァッツァ@血界戦線
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すみません、延長お願いします
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ゲリラ投下します
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『お前も物好きだなァ。別に知り合いでも何でもないんだろ?』
「放っておくわけにもいかないだろ」
近くの家から拝借してきたシャベルで、地面をパンパンと叩きニケは嘆息を吐いた。
穴を掘って埋める。これらの作業を、朝になるまで三回繰り返した。三回ともなれば手付きは慣れてくるが、それなりの重労働だ。
新鮮な空気と休息を求めて、ニケはシャベルを突き立てて柄の上に顎を軽く乗せた。
「ニケ…ニケぇ……!! もう終わったかの!」
「ああ、もう終わったよ。怖いのは居ないから安心しろって」
「……ほ、本当でおじゃるか?」
「なんで、俺がそんな嘘吐くんだよ」
物陰に隠れたおじゃる丸が、恐る恐る震えた声で話す。
ニケも普段のツッコミの要領で話すが、声色はむしろ大分温和でおじゃる丸に同情的ですらあった。
「もう朝じゃない」
呆れたように水銀燈が呟く。腕を組みながら苛立ちを視線に乗せて、ニケとおじゃる丸に向けていた。
まず最初に映画館に立ち寄ったのが事の始まりだった。
背負われてる癖に、おじゃる丸が疲れたとゴネ出し(おじゃる丸曰く、ニケの背負い方が雑過ぎるらしい)仕方なく、映画館で休憩を取る事にした。
-
『ギエピー! 太すぎるっピ!!』
『ピカ!』
『脱糞すなー!』
『マスターボールはいただいたカゲ!!』
『それは俺の金●だろ!』
公開していた映画はお下劣なアニメ映画だった。肥え太ったピンクデブが間抜けな言動とお下品な行動を繰り返し、周りのキャラも全員お下劣だ。
何故、誇り高き薔薇乙女の私がこんな映画を……? そんなことを考える水銀燈の横で、ニケとアヌビス神は大爆笑し、それをおじゃる丸と水銀燈が引き気味で見る羽目になったが、それだけならまだ良い。
さらに映画館内の探索をすると、戦闘痕と二人分の死体を発見したのだ。
それを埋葬しようというニケの提案を、流石のおじゃる丸も凄惨な死体を前に顔を青くして、意義を挟むことはなく、
更に水銀燈が首を落として首輪を回収するよう指示を出し、僅かにニケと揉めはしたが、首輪の解析のサンプルに必要であると最終的には合意して、野原しんのすけと右天の遺体を埋葬した。
その後、暗鬱な面持ちで映画館を出て、ニケがうんこをしたくなって急遽飛び込んだ家が、よりにもよって最悪を引き当ててしまった。
家の中から漂う生臭さ、家の中を調べてみれば二階には先ほどの、二人の死体がまだ奇麗だったと思える程の惨殺死体が放置されていた。
しんのすけは心臓を、右天は頭部と心臓を。それぞれ損傷こそ酷いが、あくまで下手人の必要とする最低限に留まっていた。
だが、これは違う。衣類がなく体つきや性器の有無から、女の子であるのは分かった。全裸だったから当然だ。
顔も美人の部類に入るというのに、一糸纏わぬその姿に全く劣情すら湧かないほど、死体の損壊ぶりは常軌を逸していた。
おじゃる丸は絶叫し、死者の尊厳を無視し少女の───糸見沙耶香の生首を指差し、物の怪呼ばわりしてしまう。
やんわりとニケは注意をしつつも、だが流石に幼少の子供には酷な光景だとおじゃる丸を宥める。
その後、血だらけの部屋で、腹から飛び出し錯乱した臓物を、家の中にあったゴム手袋をして出来る限り集めてやり、屋外で穴を掘り埋葬した。
ひんやりとした、それでいて肉感的な柔らかさの触感は未だ手に残っているほどだ。仕方なしに手伝った水銀燈も、不快そうに眉を歪ませていた。
不幸中の幸いは、首を落とす手間もなく臓物と一緒に首輪が転がっていた事か。
-
「のうニケ、マロはもう帰りたいでおじゃる。はよ、何とかしてくれぬか?」
「へーへー、もうしばらくお待ちください。おじゃる様」
聞き慣れた駄々を雑にあしらいながら、ニケは土中の下に眠る沙耶香を見つめる。
自分達が見ただけで三人の死体だ。多分、もっと大勢の子供達が死んでいるに違いない。
その殺戮者達の中には、あのクロエという少女も混じっているかもしれない。
あの時、もっと自分が気の利いた事を言えば……あの場で戦って、力づくで止める事さえできていれば、もしかしたら自分の埋めた死体の内、一つくらいは減っていたかもしれない。
「のんびりしてる暇はないよな」
柄に乗せた顎を上げて、シャベルを握った手はより強く力を込める。
「ニケ、貴方の言っていたクロエとかいう娘、どんな病気なのぉ?」
「はえ?」
水銀燈の問いに、ニケは目を見開いて馬鹿のように口をポカンと開けていた。
「不治の病なんでしょぉ? なにかの病気だとかぁ、理由があるはずよぉ」
「いや、それは…その……」
聞いてないの、こいつ?
水銀燈は完全に呆れ果て、冷たい眼差しを送る。
少しだけ、境遇がめぐのようだと思い、気紛れに確認してみたがまさかそんなことすら知らないとは思いもよらなかった。
「まさかとは思うけどぉ。なんでも、病気が分かる都合の良い魔術があるとか考えて、ホグワーツに行くわけじゃないわよねぇ?」
「だぁぁー! もうしょうがないだろ! クロの奴、剣振り回して追っかけてくんだから!」
『お前、ヘタレだなぁ』
「黙ってろお前は!!」
「剣と喧嘩出来るなど、ソチは退屈せん男よの」
「お馬鹿さぁん、魔術はそこまで万能じゃないわぁ。本当にお馬鹿さぁん、症状に合わせた適切な魔術を選ばないといけないに決まってるでしょぉ?
良い? ホグワーツは魔術の学校らしいけどぉ、間違いなく学問として、蓄積された資料は膨大よぉ。素人の私達が片っ端から、調べても日が暮れるわぁ。
せめて、その子が死ぬ理由から逆算して調べないと、時間がいくらあってもたりないわぁ」
指摘された通り、見切り発車で事を進めようとしていたが、クロエの病状も何もかもをニケは知らない。
彼女の治療法を見付けるにしても、先ずはその原因を特定する必要がある。
「……だったら、雄二とリゼと別れる時に言ってくれても」
「うっさいわねぇ」
「お前も忘れてたのかよ!
……じゃあ、ホグワーツに行くのも無駄足ってことかよ」
「そこまでは言ってないでしょぉ。もう近くまで来たんだしぃ、寄るぐらいの価値はあるんじゃなぁい?」
雪華綺晶に攫われためぐを救出する為、巻かなかった世界への帰還を急ぐ水銀燈らしからぬ発言ではあった。
現代医学では治癒できないめぐの病も魔術ならば、そういった思惑もあってのことだろう。
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>>268
>「……だったら、雄二とリゼと別れる時に言ってくれても」
間違えました。リゼじゃなくマヤでした
以下に差し替えます
「のうニケ、マロはもう帰りたいでおじゃる。はよ、何とかしてくれぬか?」
「へーへー、もうしばらくお待ちください。おじゃる様」
聞き慣れた駄々を雑にあしらいながら、ニケは土中の下に眠る沙耶香を見つめる。
自分達が見ただけで三人の死体だ。多分、もっと大勢の子供達が死んでいるに違いない。
その殺戮者達の中には、あのクロエという少女も混じっているかもしれない。
あの時、もっと自分が気の利いた事を言えば……あの場で戦って、力づくで止める事さえできていれば、もしかしたら自分の埋めた死体の内、一つくらいは減っていたかもしれない。
「のんびりしてる暇はないよな」
柄に乗せた顎を上げて、シャベルを握った手はより強く力を込める。
「ニケ、貴方の言っていたクロエとかいう娘、どんな病気なのぉ?」
「はえ?」
水銀燈の問いに、ニケは目を見開いて馬鹿のように口をポカンと開けていた。
「不治の病なんでしょぉ? なにかの病気だとかぁ、理由があるはずよぉ」
「いや、それは…その……」
聞いてないの、こいつ?
水銀燈は完全に呆れ果て、冷たい眼差しを送る。
少しだけ、境遇がめぐのようだと思い、気紛れに確認してみたがまさかそんなことすら知らないとは思いもよらなかった。
「まさかとは思うけどぉ。なんでも、病気が分かる都合の良い魔術があるとか考えて、ホグワーツに行くわけじゃないわよねぇ?」
「だぁぁー! もうしょうがないだろ! クロの奴、剣振り回して追っかけてくんだから!」
『お前、ヘタレだなぁ』
「黙ってろお前は!!」
「剣と喧嘩出来るなど、ソチは退屈せん男よの」
「お馬鹿さぁん、魔術はそこまで万能じゃないわぁ。本当にお馬鹿さぁん、症状に合わせた適切な魔術を選ばないといけないに決まってるでしょぉ?
良い? ホグワーツは魔術の学校らしいけどぉ、間違いなく学問として、蓄積された資料は膨大よぉ。素人の私達が片っ端から、調べても日が暮れるわぁ。
せめて、その子が死ぬ理由から逆算して調べないと、時間がいくらあってもたりないわぁ」
指摘された通り、見切り発車で事を進めようとしていたが、クロエの病状も何もかもをニケは知らない。
彼女の治療法を見付けるにしても、先ずはその原因を特定する必要がある。
「……だったら、雄二とマヤと別れる時に言ってくれても」
「うっさいわねぇ」
「お前も忘れてたのかよ!
……じゃあ、ホグワーツに行くのも無駄足ってことかよ」
「そこまでは言ってないでしょぉ。もう近くまで来たんだしぃ、寄るぐらいの価値はあるんじゃなぁい?」
雪華綺晶に攫われためぐを救出する為、巻かなかった世界への帰還を急ぐ水銀燈らしからぬ発言ではあった。
現代医学では治癒できないめぐの病も魔術ならば、そういった思惑もあってのことだろう。
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「そうだな…先にホグワーツ行って、その後クロを探して、病気の話を聞くしかねえか。
色々、急がないとな……
待てよ……あいつと会ったら、今度はチャンバラしなきゃいけないのか?」
「良かったの。マロからアヌビス神を受け取っておいて」
「結果オーライなの、なんかムカつくな」
一応、ニケにも元々の戦闘手段はあるが、名刀の類であるアヌビス神を入手できたのは大きい収穫だ。
クロエと再会し交戦になっても、何とか凌ぐことくらいはできるだろう。
「ニケ、おぶってたもー」
「お前、話聞いてたか!? 俺、結構急いでるって話したろ!」
「おじゃ? マロの歩く遅さを知らぬは言うまい。
やんごときなき、みやびなお子様のマロに、殺し合いなど向いておらぬでの」
『こいつ、置いて行っちまえばいいんじゃあねえか?』
「奇遇ね、ワンちゃん。同意見よぉ」
「に、ニケは……こんなかわゆくて…か弱いマロを……置いて行って、殺されてしまっても平気でおじゃるか? ニケ、ニケぇ……!!」
「……あーもう! 分かったよ!!」
狙ったかどうかは分からないが、先ほど埋葬した三人の遺体を見たばかりだ。
ニケもおじゃる丸を放置すれば、間違いなく死ぬ。ニケがマーダーなら真っ先に殺す。
それを分かっている為に、ニケはおじゃる丸を背におぶる。
「優しく運ぶでおじゃる。マロは繊細ゆえ、ちょっとの揺れも頭に響くでの」
「お前、ここから生きて帰れたら両親に金請求すっからな!!」
───やはり、こいつら俺の姿が見えてるのか。
おじゃる丸を背負い、ぜーぜーと息を荒げながら歩くニケの腰に差されたアヌビス神は首を傾げていた。
装備しているニケはともかくとして、水銀燈やおじゃる丸にも自分の姿は見えていた。
話を聞けば、奴等はスタンド使いでもないらしい。
恐らくは、スタンド使い以外にもスタンドが見えるようになっているのだ。
───まあ、何でも良いか。俺は最後に生き残った奴に便乗して、生き延びさせてもらうぜ!
DIO様でも居ない限りなぁ!!
最初はニケを乗っ取り優勝を目指す腹積もりだったが、いずれにしろ生還できるのならどっちでもいい話だ。
制限は多々あれど、アヌビス神の強さは未だ健在。ニケやニケが死んでも別の参加者に取り入って、甘い蜜を吸わせてもらうだけだ。
むしろ、下手なマーダーに拾われ雑に扱われるよりは、おじゃる丸を見捨てられない甘ちゃんのニケに拾われたのは、ツイているかもしれない。
スタンド使い以外ともコミュニケーションを取れるのも、参加者から好感度と信頼を築くことで生き延びる確率を上げられる。
だが、アヌビス神は知らない。
───DIO様が居ないし、気楽にやらせてもらうぜ乃亜君よォ!!!
まだスタンドはおろか、石仮面すら被らず人の身である時間から呼ばれたものの、アヌビス神が懸念するDIOが一応は居る事に。
-
【C-3/1日目/早朝】
【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:健康、不安(小)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、シャベル@現地調達
[道具]:基本支給品、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's、丸太@彼岸島 48日後…、沙耶香のランダム支給品0〜2、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:クロがまだ人殺してなきゃ良いけど。
1:とりあえず仲間を集める。でもククリとかジュジュとか…いないといいけど。
2:一旦、ホグワーツに寄る。その後、クロエを探して病状を聞き出す。
3:あのマヤって女の子も大丈夫か?
4:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
【水銀燈@ローゼンメイデン(原作)】
[状態]健康、めぐ救出への焦り
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2、ヤクルト@現実(本人は未確認)、しんのすけと右天の首輪
[思考・状況]基本方針:一刻も早くここから抜け出す
0:一先ずニケと同行する。
1:首輪を外して脱出する方法を探す。どうしても無理そうなら、優勝狙いに切り替える。
2:ハンデを背負わされるほどの、強力な別参加者を警戒。
3:契約できる人間を探す。(おじゃる丸は論外)
4:真紅が居たら、おじゃる丸を押し付ける。
5:ホグワーツにめぐを治す方法があればいいけど。
[備考]
※めぐを攫われ、巻かなかった世界に行って以降からの参戦です。
※原作出展なのでロリです。
※Nのフィールドの出入り、契約なしで人間からの力を奪う能力は制限されています。
【坂ノ上おじゃる丸@おじゃる丸】
[状態]健康、ニケに背負われ中、惨殺死体を見たトラウマ(大)
[装備]こぶたのしない
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:カズマの家に帰りたい
1:カズマや田ボを探す。
2:シャクを誰か持ってないか探す。
3:誰でもいいから豚にしてみたいでおじゃる(子供故の好奇心)
4:銀ちゃんはかわゆいのう……絶対持ち帰るでおじゃる。真紅ちゃんも会ってみたいのう。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※三人とも、クロとしおを危険人物と認識し、参加者が平行世界から呼ばれていると結論付けました。(おじゃる丸は話半分で聞いてます)
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投下終了します
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皆様投下乙です!
輝村照(ガムテ)予約します。
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期限ぎりぎりになってしまい申し訳ありません
投下します
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深い藍色から少しづつ白み始めている空を、私は踊る様に飛ぶ。
未だ月も星も鮮明に見えるけれど、夜明けはそう遠くはない。そんな空だった。
考えてみれば、こんな風に夜空を飛ぶ機会も基本的に引きこもっていた幻想郷(あそこ)ではそうなかったかもしれない。
「ふふ……っ」
笑いがこらえきれない。
それも、こんなに楽しいと思いながら飛ぶことは、もしかしたら初めてかも。
しんちゃんを守るためにしんちゃんを殺した奴と戦った時とは違う。
今の私は自由だった。
「あぁ───楽しいわ、ネモ!」
飛び上がって、沈み始めた月を背に私は、私を止めるというネモという子に叫ぶ。
本で読んだことのある戦車(チャリオッツ)という乗り物を操る、白い服と帽子の男の子。
彼は戦車で空を駆けながら、落ち着いた様子で私の動きを観察してるみたいだった。
まず、彼を壊す。私の初めてのお友達のしんちゃんを生き返らせるために。
「嘘つきでなかったら…………」
実際にこのゲームが始まるときに私に見せて見せた乃亜と。
しんちゃんを生き返らせる方法がある。だけど何も具体的な事は話せない。
そう言ったネモ。どっちが信じられるかなんて、ハッキリしたことだった。
まるで私が機嫌を悪くして、駄駄をこねた時に丸め込もうとするお姉様みたい。
ムカついた。
だから壊す。壊されるその瞬間まで同じことが言えるか試してあげる。
どっちみち私にも勝てない子が、乃亜に勝てるはずがないもの。
これは私のそんな考えから始まった壊しあいだった。
「壊すのが惜しいくらい」
乃亜に逆らおうって言うだけあって、彼は強かった。
少なくとも、空を駆ける戦車は噂に効く天狗くらい早かった。
そしてそんな速さで突進を受けたら私だって多分おしまい。それぐらいの相手だった。
多分人間じゃない。吸血鬼の私でも勝てるか分からない相手。
───壊して見たい、そう思った。
「もう勝ったつもりかい?キロネックスでも毒を与えなければ殺せはしないよ」
何かこの子、時々良く分からない例えをするわね。私はそう思った。
思いながらその手に握った剣を、ぶぅんと振るう。
ビリリ、という手に痺れるような衝撃が走った後に、ほっぺが熱を持つ。
ネモがこれまた本で読んだことのある、人間が使うという武器、銃を撃って来たのだ。
私は流れる血をぺろりと舌で舐めながら、考えを巡らせる。
銃の攻撃は剣で守るのは難しくないけど、威力で言えば弾幕よりもずっと強い。
まともに受ければ、私だって危ないだろう。
受けるとしてもこの攻撃を決めればネモを叩き切れる、そんな時でないといけない。
問題は───
「MOOOOOOOOOOO!!!!」
凄い嘶きと共に、私の前を猛スピードで牛が駆ける。
本当に、びっくりしちゃうくらい早い。ひょっとしたら天狗よりも早いかも。
もし正面からぶつかったら、間違いなく私の負けだと思う。
(むぅ……ちょっとずるい)
物凄い速さで跳びまわっているネモには私が振り回す剣は届かない。
届く位置に入っても、一瞬で駆け抜けて行ってしまうからだ。
無理に追いすがって斬ろうとすれば、あの戦車の周りを巡る雷が襲い掛かって来る。
飛べなくなったら、いよいよ私に勝ち目が無くなってしまう。
だから、無理やり力技で捻じ伏せる事は出来ない。
-
「でも、私だって──剣を振り回すだけじゃないんだから」
力技でダメなら、他の方法を試せばいい。
まだまだ試したい、今迄殆ど使ったことのない“遊び方”があるんだもん。
私は興奮と一緒に、滑らかに呪文を口ずさんだ。
───禁忌『フォーオブアカインド』
選んだスペルカードはフォーオブアカインド。
陽炎の様に、私の影が四つに増える。
例え、相手の方が私より早くても、このまま囲んで押しつぶす。
剣を持ってるのは私だけだから、どれが本物かはすぐ分かっちゃう。
でも、ネモはそもそも私を殺すつもりがないから問題ない。
問題は、四人に増えた私達の手の届くところに来てくれるかだったけど──。
「あははっ!そうこなくっちゃ!」
ネモは来た。
真っすぐに、私の目を見て。
雷を瞬かせながら、こっちに突っ込んでくる。
でも、私はもう知ってるんだよ、ネモ。
貴方が、私にぶつかるぎりぎりの距離で、スピードを緩めるって事は。
だから、そこを突けば───!
「ほぉらッ!!」
これまでは躱してきた。でも今度はぎりぎりまで躱さない。
掠める位置取りをした後、迷わずに突っ込む。
怖くは無かった。むしろこれまで感じた事がない位胸がドキドキしていた。
半身になって戦車そのものをやり過ごして。
迎撃のための雷が飛んでくるが剣を盾に耐える。
「ぐ、うううううううっ!!」
痛い。吸血鬼の身体でもとっても痛い。
でも、死んでしまう程でもない。それにこれが最初で最後だ。
痛みに耐えながら、翼を降りたたんで一瞬だけ全速力を出す。
そして───目の前に剣を翳しながら、牛さんに体当たりをする。
「くっ!」
「MOO!?」
咄嗟にネモが手綱を引っ張ったおかげで、牛さんにネモにも殆ど傷は無い。
でも、一瞬動きが止められればそれで十分。
重要なのは、この後。
「「あはははははは───!!」」
動きを止めた所に、私の分身二人が突っ込む。
向こうもそれを予想していたのか、ついさっきの様に牛さんの雷が飛び出してくる。
しかも、それだけではない。
後ろから迫る私の分身に向かって、弾幕ごっこの弾の様に水の砲弾を撃って来たのだ。
咄嗟なのに、凄いなって、素直にそう思った。
でも、まだだ。私が狙いは、これからだから。
-
「───これで、勝ちっ!!」
水の弾幕に撃ち抜かれた私の背後から、もう一体の新たな私が飛び込む。
いける。元々雷で防がれるだろうと前の分身は一人だけだったけど。
ネモの目が届かない後ろには二人用意しておいた。
最初に突っ込む分身から少し離れた、でも重なる位置にもう一人を置いて。
本物の私が一瞬戦車の動きを止めて、最初に突っ込んだ分身たちがネモにやられてから時間差で突っ込む。
作戦は、上手くいった。もう雷も水も出すのが難しそうなくらいネモの近くに飛び込んだ。
できればレーヴァテインを出して攻撃したかったけど、このままぶん殴るのでも十分。
ネモの頭が砕けたお星さまになるか、そうでなくても数秒動きが止まれば本物の私のレーヴァテインで串刺しにできる。
そう思った次の瞬間だった。
「───うそ」
とぼけた声が上がった。分身の、私の声だった。
ネモの頭を粉々にするべく拳を振り上げた私の分身を待っていたのは、銃口だった。
それに気づいて避けようとしてももう遅い。
既にネモは引き金を絞っている途中だったから。
BANG!
大きな音が響くと同時に、分身の私の頭に大穴が空いた。
後ろの私に銃を向けたまま、ネモの目は、牛さんに取りついた私をじっと見つめていた。
分身の私には、振り向きすらしていなかった。
「後ろに目でもあるの!?」
思わず、そんな言葉を漏れたけど。
そんな事を言ってる場合じゃなった。
「MOOOOOOOOO!!!!!」
「きゃあああああああッ!!!!」
驚いて抑えていた手が一瞬緩んだのを見逃さずに、牛さんは大きく啼いて。
そして、私目掛けてぶつかって来た。
私よりもずっとずっと大きな牛さんにぶつかられる。
手に握っていた剣も、取り落として飛んで行ってしまった。
凄い衝撃だった。私の身体はあっという間に宙を舞った。くるくると。
何とか翼で羽ばたいて、墜落こそしなかったけど、体中が痛む。
この痛みも、紅魔館で引きこもっていた時には経験しなかった痛みだ。
「でも……我慢できない程じゃない」
腕も翼も折れてない。
きっと、ネモは手加減したんだと思う。
全く、こんな所をお姉様に見られたら情けない、何て言われちゃうかも。
そう考えながら、ネモの方を見る。
彼は、相変わらず戦車に乗ったまま、空の上で止まって私を見ていた。
攻撃する絶好のチャンスなのに、態々私が調子を立て直すのを待っている様だった。
怒りは、沸かない。だって、多分このままいけば勝つのはネモだろうから。
「このままじゃ、ダメ……」
そう、今のままじゃ勝てない。
ネモに勝てないんじゃ、その後ろの悟空にだって勝てないだろう。
今のままじゃ、しんちゃんを生き返らせてあげられない。
力がいる。
私の、本来の力が。
「………やってみましょうか」
ふっと、笑った。
ここに来てから、ずっとできなかった。
多分乃亜って子が言っていたハンデって奴だと思う。
何時もなら力を使おうと思えば何時でも見えていたもの。
私の、『ありとあらゆるものを破壊する程度の力』
それを使うために必要な、どんなものにもある、『目』が、この島では見えない。
…ううん、本当の事を言えば、たった一つ感じることのできる『目』がある。
だけど、それを壊せば私もただじゃすまない。
その事は、試す前から分かっていた。
あぁ……でも。
「こうした方が──もっと面白いもんね」
このまま、力を使えないまま負けるよりは。
自分の力で倒れた方がいいもん。
すっと、首の近くに手を翳す。
たった一つ、今の私が見えなくても感じ取れる『目』
それは私自身の目だった。
何となくだけど、ハッキリわかっていた。
この賭けに負ければ、私は死ぬ。
でも、勝つことができれば──私は、きっと。
-
「……見ててね、ネモ」
訝し気に此方を見つめるネモに笑いかける。
そして、開いた掌をゆっくりと握り締めていく。
出来るかどうかは分からない。きっと失敗する可能性の方が高いと思う。
でも、私がこのゲームで勝ち残っていくには、この力が絶対に必要だ。
だから、私は迷わない。
「きゅっとして───」
掴んだ『目』を。
握り締める。
「どっかーん!」
握り締めるのと同時に。
星が瞬くみたいに、紅いしぶきが上がった。
痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い……っ!!
でも、それでも。猛烈な痛みの中で、私はそれを確信した。
────掴んだ。
-
■
僕は大した英霊ではない。
少なくとも、戦闘能力で言えば下の上、良くて中の下と言った所か。
成り立ちから言っても幻霊と神霊を掛け合わせて生まれたおかしなサーヴァントだ。
少なくとも万難を排せる英雄には程遠く、この血と戦闘が支配する世界で意志を貫ける英霊かと問われれば、それも心もとない。
少なくとも今の僕は、大時化の海原に放り出された一隻の小舟だ。
それを、強く強く痛感している。
「───ふふ、あははははははっ!すっきりしたぁ……」
首筋から夥しい量の鮮血を流しながら。
目の前に浮かぶ少女───フランドール・スカーレットは無邪気に笑った。
僕は、彼女の事を深く知っている訳ではない。
さっき会ったばかりの少女だ。
でも、今の彼女がさっきまでの彼女とは別の存在である事は一目見ただけで分かった。
月の光を浴びて、血のドレスを纏う彼女の姿は、怖気が走るほどに神秘的で。
つま先から頭に至るまで、全身の肌が泡立つ錯覚を覚えた。
(さっきの彼女のあの行動……)
フランの変貌がさっきの彼女の行動に依るものだという確信がある。
その手を自分の首輪の隣で開いた瞬間、彼女の掌に凄まじい量の魔力……
かどうか定かでないが、凄まじい密度の何某かのエネルギーが集まったのを感じられた。
彼女が開いた掌を握り締めた時、彼女ごと、彼女の周囲の空間が弾けた。
何かを破壊したのだろうと、僕は一連の光景から推察した。
僕達を縛る首輪の機能か、それとも鳥籠であるこの空間か、或いは制限という概念のものか……
それは定かではなかったが、確かなことが一つ。
彼女は、その手に何かを握り締めたのだ。
そして、つかみ取った力で今まさに僕を殺そうとしている。
───勝てないな。これは。
彼女の今しがた“取り戻した”力が推測の通りだとするなら。
それは正しく必中必殺。万物必壊の力だ。
素のキャプテン・ネモならまず間違いなく太刀打ちできない力。
例え神威の車輪があってもそれは変わらない。
そもそも僕は征服王本人ではない。
二頭の雄々しき神牛達は僕を仮の駆り手として認めてくれている様子だが。
騎兵として、単に乗る事ができるのと、乗りこなせる事には天地の隔たりがある。
真の駆り手でない僕は当然前者だ。この宝具の真名解放すら叶わないのがその証明。
土台不可能なのだ。正式に譲渡された訳でもない他人の宝具の真名解放なんて。
(──いや、それは適当な表現じゃない)
この戦車に飛び乗った瞬間から、ある種の直感が働いた。
乃亜が行った措置だろう。正確にはこの会場においては。
正式に譲渡された訳ではない、他人の宝具の真名解放という無理を押し通す事は、可能だ。
だが、無理を押し通すにはそれに見合った賭け金(チップ)がいる。
恐らく、真名解放に必要な魔力量は自身の宝具の少なく見積もっても十数倍。
僕個人の魔力量では到底足りない。故にこれは現実的な方法ではない。
(そう……本当に、僕だけの力なら──)
ある。
あるのだ。今の僕には。
その無理を押し通すだけの力が。
でもそれは、僕にとっても非常にリスクが高いのには変わりない。
-
「ネモ!撃たせるな!あれはまともに喰らったらオラでもやべぇ!」
考えている最中に、背後で僕達を見守ってくれている悟空の叫びが聞こえた。
彼も、いま彼女が何をしようとしているか見当がついたらしい。そしてその危険性も。
流石だと思った。彼は正しく、上の上に値する戦士だろう。
だが、その言葉は僕を制止する役割としては逆効果だったかもしれない。
何故ならその言葉で、僕は彼女に受けて立つと決めてしまった。
「大丈夫だよ悟空、勝算はある」
その言葉に嘘偽りはない。
けれど、どの程度勝算があるかと問われれば口を噤む程のものだった。
でもそれでも、僕は勝負のテーブルに自分の命をレイズすると決めていた。
冷静な部分がそんな危ない橋を渡るべきではないと制止をかける。
確かに、今の自分の思考に論理性はない。それは自覚している。
だが、降りる訳にはいかない。何故なら今の彼女に打倒乃亜を掲げさせるという事は。
必然的に、そこにある願いを叶える手段を放棄させて。
叶うかどうかも分からぬ脱出計画に、彼女にも命を賭けてもらう前提となるのだから。
脱出計画において、今の僕が彼女に提示できる物は余りにも少ない。
だからせめて単なる楽観ではなく、本気で取り組み、それを達成するためなら命を賭けられることを彼女に示すのが筋と言う物だろう。
だから、僕は降りない。
「───っ!……分かった。死ぬなよ、ネモ」
悟空は僕の意思を汲んでくれたらしい。
彼に向けて薄く笑みを創り向ける。
昔から、笑う事は苦手だった。
「──待っててくれてありがと」
声を掛けられ、其方の方に向き直る。
視線の先には変わらず微笑を浮かべたフランがそこにいた。
だが、彼女の手に集まるエネルギーは先ほどまでとは比べ物にならない。
「いつもと違って乃亜のハンデのせいかな…『目』が見えにくくて……
でも、もういいよ。もうこれで───貴女を壊せる。悪いけど、後がつかえてるから…
そろそろ終わりにしましょう、ネモ」
出血による消耗もある。
それに加えて、優勝を目指すならば彼女の道のりは余りにも長く険しい。
だから、此処からはそう時間を掛けず終わりにしたいと願うのも無理はない話だろう。
その言葉を受けて、僕はおもむろにデイパックに手を伸ばした。
そして、つかみ取ったそれを握り締めて。
彼女の言葉に応える。
「……いいよ。受けて立つ。でも、僕は壊されない。
優勝する為にその力を使って、誰かを一人でも殺せば…君はきっと後戻りできなくなる」
例えそれを君が望んでいても、僕はそれを受け入れる訳にはいかない。
だから、ここで君が頼りにしている能力ごと、君を止める。
僕は迷うことなく、そう宣言した。
そんな僕を、フランは不思議そうな瞳で見つめてくる。
「…分かんないわ。私と貴方はお友達と言う訳でもないのに、どうしてそこまでするの?」
成程、確かに。
もっともな問いかけだ。実際に、僕が彼女について知っている事は殆どない。
でも、じゃあ単に正義感で止めたかと言われれば、そうではない。
だから。
「……そうだね、僕が勝った後、君に教えてあげるよ」
-
はぐらかす様な物言いに、少しむっとした顔を彼女はするものの。
直ぐに平静を取り戻し、それじゃあ無理ね、と僕に告げた。
その後、少し俯きがちに顔を伏せ。
───だって…アンタは直ぐにコンティニューできなくなるからさ!
彼女が伏せていた顔を上げ、獰猛な笑みを見せる。
それを見て、僕も神威の車輪に魔力を籠める。
彼女が、右手を此方に向けその五指を開く。
それが合図だった。
再び神牛が勇壮な嘶きを発して、夜天を駆ける。
その速度は瞬きの間に音の速度を突破して。
きっとここから一分足らずで勝者が決する。
僕も、きっと彼女も。その確信の下駆けだした。
-
■
「ねぇ、悟空お爺ちゃん、ネモさん、大丈夫かな」
一部始終を観戦していたしおが、再び悟空にその問いかけを行った。
しおの目には、ネモもフランも夢か何かの登場人物としか思えなかった。
完全にスケールが違う。何方が勝つか何て分からない。
だから、悟空に聞いてみたのだ。
「……さぁな。オラもネモの奴が何を考えてるのかは分かんねぇ。
でも、あいつが考えがあるって言ってるのは嘘じゃねぇと思う。
それなら、ギリギリまで任せてみようと思うんだ」
勝算はあると言っていたが。
悟空にとっても、ネモが何を狙っているのかは分からない。
ただ、フランが今しがたモノにした攻撃──あれを受ければ自分でも不味い。
ネモで言えば、間違いなく即死だろう。それが分かっていないとも思えない。
故にネモが何を考えているのかは分からないが───鍛え上げた戦闘の直感が告げていた。
ここは、手を出すべきではない。
だから、彼はこうしてこの地で出会った協力者を見守る事を選んだ。
今はただ死地に立つ彼に、短い言葉を送る。
「負けんなよ」
-
■
───偽りの仮面(アクルカ)よ……!
神牛が疾走を開始すると同時に、ネモはその手にあった物を迷わず顔に装着した。
それは彼へ送られた一枚の仮面だった。
その銘をアクルカという。
彼の世界とは遠く隔てた亜種並行世界とでもいうべき世界。
そこで覇を唱えていた強国ヤマトの、帝を守護する兵たちの頂点に位置する八柱将のみ着ける事を許された賢者の結晶であり、愚者の末路。
使用者に代償と引き換えに絶大な力を齎すとされる、サーヴァントの宝具に匹敵する兵器。
ネモにとって正真正銘の隠し札ともいえるそれを彼は開帳した。
沈着な普段の彼ならまず見せぬ咆哮と共に。
───扉となりて、根源への道を解き放て!
実はこの仮面の本来の持ち主、八柱将達は仮面の力を三割ほどしか振るう事ができない。
元々仮面はヤマトの民である亜人である彼らが使用する事を想定して設計された物ではないからだ。
仮面(アクルカ)の力を十全に発揮できるのは、亜人達がオンヴィタイカヤンと伝える、人類の為に生み出された代物なのだから。
仮面に最も適合し、十全の能力を発揮できるのは人間の男。
翻ってこの殺し合いに参加するにあたって受肉させられた人の英霊であるネモはその適合者と言えた。
半分はトリトンという神を内包しているが、英霊ネモの『誰でもない者』という特性がそれをカバーする。
故に、ここに。
仮面(アクルカ)は、不撓不屈の航海者に微笑む。
英霊ネモ・トリトンは仮面の担い手、仮面の者(アクルトゥルカ)として霊基を再臨する。
───この先、我が道は修羅道。例え全てを喪おうと、この歩みは止められぬ。
何故なら、我が名は───オシュトル。右近衛大将オシュトルである───!
偽りの仮面(アクルカ)を通して、先代の仮面の担い手の断片が流れ込んでくる。
ハクという男が、友の意志を受け継ぐために仮面の者(アクルトゥルカ)となった一幕。
それを垣間見た瞬間、ネモは奇妙なシンパシーのような物を感じた。
──白(ハク)か…成程、『誰でもない者(ネームレス)』である僕の手に渡る訳だ。
皮肉めいためぐり合わせに、薄く笑みが漏れる。
だが直ぐに表情を引き締めて、ネモは密かに仮面の正当なる所有者に乞うた。
許しもなく勝手にこの仮面を使う無礼、どうか容赦してほしい。
そして、どうかこの殺し合いを止めるために力を貸して欲しい…と。
届くはずのない、願いにも似た嘆願。
しかし、ハクと言う男の代わりに、仮面(アクルカ)は応える。
「真名、解放───!」
ここまで超高速で狙いを定められぬ様に空中を飛び回っていたネモだったが。
この瞬間を以てその均衡が崩れる。
──疑似根源接続。
仮面の力を最大まで引き出し、莫大なリソースを通した局地的な魔力制限の完全解除。
神牛の車輪の威力を最大に発揮するための最後のカードを、今ここに。
「『偽・遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)───!』」
迸る雷が、ネモの魔力の影響で蒼き輝きを放つ。
蒼雷を纏った二頭の神牛が、空の彼方にまで届くような唸りを上げる。
その威容は、ここまで事態の推移を地上で冷静に見極めていた孫悟空ですら僅かに瞠目する程だった。
研ぎ澄まされていく。研磨されていく。洗練されていく。
同時に、食われていく。削ぎ落されていく。失っていく。
当然だ。こんな力、代償が無い方が不自然と言うもの。
だが、それでも今は無視できる。
立てた作戦の遂行は可能、ネモはそう判断した。
-
「行くよ、フラン」
アイスブルーの蒼雷を身に纏い。
血潮を滾らせ、言葉と共に。
誰でもない航海者は真実一条の雷となり、幼き吸血鬼に相対する。
「ふふふふふ……あははっ!本当に凄いね、貴方
……次で終わりにするつもりだったけど、全部試したくなっちゃった」
しかしてフランもまた、常人では及びもつかない超常の存在。
蒼き雷霆を前にしても、気圧される様子は全くない。
彼女は舌をちろりと出して、悪戯っぽく微笑み。
「それじゃあ私がこうしたら……今の貴女はどうするのかしら?」
───秘弾「そして誰もいなくなるか?」
フランの姿が掻き消える。
姿を透過し、完全に不可視になるという、弾幕ごっこにおいては圧倒的とも呼べる防御法。
それを前にして、ネモは無言だった。
瞼を細め、唇を横一文字に引き絞り───疾走を開始する。
────MOOOOOOOOOOO!!!!!
早く、早く、疾く───!
これまでとは次元の違う速度で、縦横無尽に戦車が白み始めた夜の空を蹂躙する。
音速のさらに先へ。雷速にまで届けと言わんばかりに。
深夜の漆黒から黎明の紺へとグラデーションされつつある空を、蒼き雷霆で塗りつぶす。
雷の魔力を完全開放し、周囲の空間全てを埋め尽くすように蒼雷を迸らせる。
「───きゃああああああ!!」
ここまで超高速で範囲攻撃を為されれば、不可視のスペルカードも意味をなさない。
雷が触れたのだろう、痛苦を表情に露わにして、フランの姿が再び現れる。
ここまでで彼女の劣勢は明らか。だが、戦意は全く陰りを見せていない。
当然だ、彼女にはこの劣勢を一手でひっくり返すことのできる切り札を有しているのだから。
「いたたた……はぁ…やっぱりこれでもダメね、やっぱりあれしかないか」
パンパンと焦げたスカートの裾を払い。
未だ流れる鮮血を拭って、彼女は意を決したようにネモに告げる。
「これ以上長引くと私も本気でバテちゃいそうだし…次で終わりにしましょうか」
何方が勝つにしても、次が最後になる。
フランは、己の言葉とは余りにも不釣り合いな、穏やかな笑みを浮かべて。
今一度、その開いた掌をネモへと向けた。
それに対し、ネモも真っすぐにただ彼女を見つめて頷く。
彼と彼女の間に、憎しみや怒りの感情はなく。
ただ雌雄を決するというシンプルな意志だけがそこにあった。
そして一秒後、二者の最後の交錯が幕を開ける。
「壊すわ、ネモ」
「壊させないよ、フラン」
-
それが鬨の声となり。
ネモは神威の車輪に魔力を送り込み。
フランは、この戦いにおいて最後となるスペルカードを切る。
放たれた弓の如く空を走破し、命を賭けて、ネモはフランの万象を破壊する力に挑む。
──早い。間違いなく今のネモは天狗よりも早い。
フランの永い吸血鬼生の中でも、ネモの操る戦車は信じられない程の早さだった。
あの速さがある限り、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力は意味をなさない。
物質の存在限界とでもいうべき『目』を認識し、それを握りこむ事で破壊するのが彼女の能力だ。
あの凄まじいスピードで駆けまわられれば、ネモは目視から一瞬で消えてしまう。
『目』を目視せずに能力を使った事がフランには無かった。
実際視界になくても目を認識していれば能力は使えるかと問われれば、
ハンデにより、“少なくともこの島では“無理だろうとフランは直感していた。
故に、仕留めるために十全の状態で能力を使用しようとすれば、ネモの動きを一瞬でも止める必要があった。
───禁忌「カゴメカゴメ」
そして、それを可能とする一手が彼女にはあった。
空中を駆けまわり、フランに突進せんと迫っていたネモと戦車の前に、網の様な力場が現れる。
「………!」
ネモの表情が驚愕に彩られる。
タッチの差だった。恐らく後コンマ一秒でも遅れていれば、彼の姿はフランの視界から掻き消えていただろう。
だがこれで、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力の行使を阻む障害は何もない。
「きゅっとして───」
これで決める。これで決まる。
ネモの『目』は視界に捉えた。もう、彼の最期まで目を離すことは無い。
勝った、フランはその瞬間自分の勝利を疑わなかった。
しかし。
(なんで───)
ネモの瞳の光が、消えていない。
彼は今ここに詰んだ。それは彼だって分かっている筈だ。
既にこの能力を一度見ているのだから。
フランが見つめている限りこの力は必中必殺。万象必砕。決まれば防ぐ術など無い。
能力を理解していない?彼の程の存在がそれはありえない。
となれば、能力を理解した上で彼は、彼の蒼の瞳は───
死地において揺らぐことなく、力強くフランを見ているという事になる。
───いいわ、ネモ。最後の勝負よ。
───何が来ようと、私は貴方の全部を壊して見せる……!
この瞬間に限っては、しんのすけの事すら頭の中から吹き飛んでいた。
ただ目の前の相手を捻じ伏せてみたい。
一切合切を壊してみたい、フランドール・スカーレットは強く強くそう願った。
その願いに付き動かされる様に、その手を握り締めようとした瞬間の事だった。
「AAAALaLaLaLaLaLaie!!!!!」
びりびりと、フランですら気圧されそうになる程の気迫と声量で、ネモが叫ぶ。
何時もの沈着な彼の声とは思えぬその咆哮は、正しく猿声だった。
そして、そんな彼の声に連動するように、二頭の神牛も猛り狂う。
それと共に、先ほどと比べてもなお凄まじい轟雷がフランのスペルカードへ迸った。
「眩しっ!まさか、突き破るつもり───!」
視界が白一色に染まる。
成程これならば攻防一体。フランの視界を潰しつつ周囲に張り巡らされた縛めも突き破る事ができるだろう。
凄まじい光量だった、常人であれば暫しの間視力を喪失してもおかしくない。
───フ、ランちゃん……
-
だが、それでもフランは顔を背けようとしなかった。
ここで視線を逸らしてしまえば、カゴメカゴメを破られる。
そうなれば同じ手は二度通用しないだろう。
機動力で圧倒的に負けている以上、これが現時点のフランの唯一の勝ち筋と言っても良かった。
故に、通す。絶対に通して見せる。初めてできたお友達の為に。
譲れない思いと共に、視線だけで射殺すと言わんばかりに敵手を睨みつける。
いける。『目』は見えている。まだ相手はカゴメカゴメの包囲から抜け出せていない。
私の、勝ちだ。
「どっ」
掌を握り締めていく。
数百倍に圧縮された時間。眩い光の中、それでも『目』は目視下のままだ。
カゴメカゴメの一部は雷によって突き破られていたようだが、戦車は未だ包囲の中だ。
戦車のサイズ故に、一手及ばなかったらしい。
眩んだ視界の中で、それでもネモの姿は克明だった。
「かー…」
未だ戦車の座席に腰掛けたネモと、目が合う。
その相貌に、絶望はなかった。揺るがない信念と覚悟だけがそこにあった。
そして、何より。
彼の首には、首輪が無かった。
(───え?)
おかしい。
何故、と思う。
だが、その疑問は既に握り締められようとしていた掌を抑えるには遅すぎた。
「───ん……!?」
ありとあらゆる物を破壊する程度の能力が発動するまでのコンマ一秒の間に。
戦車上にあったネモの姿が、光の粒子となって消え失せる。
能力によって破壊されたのではない。その前に霞の様に消え失せてしまっていた。
その現象を前にして。
首輪のなかったネモ船長の姿と、自分も使えるスペルカードの存在を想起する。
(まさか───!?)
直前のあの凄まじい雷も、カゴメカゴメにこじ開けられた風穴もそうだ。
それが狙いだったとするならば、合点がいく。
その能力はフランにも馴染み深いものだった事も相まって、僅か数秒に満たない時間で、フランはネモが何をしたかを看破した。
尤も、その時既に彼女は二手遅れていたが。
「───僕の勝ちだ、フラン」
「────ッッッ!!!!!」
背後で、ネモの声が響く。
振り返りながらスペルカードを切ろうとするが、その前に銃声が大気に轟く。
銃弾は、フランの翼を正確に撃ち抜いていた。
バランスを崩し、高度を下げながらもネモの方を見るフラン。
彼は、戦車から飛び出し、上空から落下しながらもフランにピタリと狙いをつけていた。
それを確認する事だけが、フランにできた最後の一手となった。
次の瞬間、吸血鬼を駆るための聖別済み13mm爆裂徹甲弾七発が、フランの全身を食いちぎった。
-
■
「………はー、また私の負けね」
全身から鮮血を流して、フランドール・スカーレットは天を仰いでいた。
両翼や関節を撃ち抜かれて、戦うどころか暫く立ち上がる事すら困難だろう。
何しろ重機関銃を超える口径の、化け物対峙専門の拳銃で撃ち抜かれたのだ。
再生も遅く、右手など骨が見えて皮一枚で繋がっている有様である。
「……あれ、分身だったのね」
そんな中で首だけ動かして、フランは問いかける。
紅い瞳の先に立つ、勝者はその問いかけにゆっくりと頷いた。
それに伴い、彼の背後に彼と瓜二つな少し色黒の少年が現れる。
「ど、どうも〜…ネモ・マリーンでーす…」
「マリーンの霊基の構成情報は僕と殆ど同一だ。背格好も勿論同じ。
本体と端末の魔力量の差は勿論大きいけど…それを誤魔化す手段もあったからね」
そう言いながら、手に持った仮面をくるくると手の中で弄ぶ。
仮面から供給される余剰魔力を分身体であるマリーンに供給する事で、本体との差異を誤魔化したのだ。
通常司令塔であるキャプテン・ネモを除くネモシリーズに戦闘能力はほぼないモノの。
それでも元は同じネモであるため、ごく僅かな時間神威の車輪を操る事位は可能だった。
「…入れ替わったのは、あの雷を出した時?」
「あぁ、あの雷を出したのは君の包囲魔術を破るのと、単なる目くらましだけじゃない。
周りに魔力をばら撒く事で、魔力の探知も狂わせるチャフの役目でもあったんだ」
フランに魔力からネモが本体であるかどうか見破る手段があるか、彼は知らなかったが。
万が一見破られた場合は、ネモの方が後がなかった。
欺き切るか、見破るかで勝敗はまるで逆になっていただろう。
ネモはフランにそう語った。
「…あと、ついでに言えば君の分身が襲ってきたとき、迎撃できたのも単純なトリックだ」
「はい〜…私が遠くから見ていましたから〜。あ、ネモ・プロフェッサーと言います〜」
気の抜けた声で、ネモの背後から更にもう一人、彼に似た少女がぺこりと頭を下げる。
彼女の名はネモ・プロフェッサー。主にネモ達の中でもエンジニアの役割を担っているが、戦闘時には弾道計算なども行う個体だった。
彼女もまた戦闘能力はないものの、本体と視覚共有は行える。
離れた場所で戦闘を見守り、ネモがフランに不意を撃たれそうになった時は弾道計算を済ませた上で視覚共有を行いネモの迎撃の補助を行ったのだった。
「なにそれ、ずるい……」
唇を尖らせ、へそを曲げたようにぷいとフランはそっぽを向いた。
しんのすけが殺された後、不意を撃たれた時とは違う。
正面から戦って、完膚なきまでの敗北を喫したのだ。
二度目の敗北の苦渋は、一度目の時と変わらぬ苦さだった。
「もういい…さっさと壊すなり何なりすれば、でないと私は止められないから」
不貞腐れた様に大地に大の字で寝転がり。
やけっぱちと言う様相で、ぶっきらぼうにフランはネモにそう告げた。
酷く疲れた。勝てない勝負なんて全然楽しくない。もういい。
不貞腐れきったフランの言葉。
当然ネモがそれを受け入れる筈もない、というのは彼女も薄々分かっていたけれど。
「ヤケになるより先に、君には知って置いてもらいたいことがあるんだ。フラン」
投げやりなフランの様子をじっと見つめて。
何かを決心した様子で、ネモは彼女に語り掛ける。
あぁ、そう言えば何故私の為にそこまでするのか、という疑問の。
その答えをまだ聞いていなかったっけ。
フランはこれからネモが語るのはその事だろうと思っていた。
だが、彼の様子は勝利のあとのピロートークとは思えぬほど緊張に満ちたもので。
一度瞼を閉じた後、意を決したように、彼は口を開いた。
「フラン、僕たちはドランゴンボ───」
『───禁止事項に接触しています。即刻行為を停止しなければ、三十秒以内に首輪を爆破します』
-
彼がその話を口にするのと、首輪が無機質な電子音で応えるのは殆ど同時だった。
フランにも分かった。
ネモは今自分に話しかけただけで、禁止されるような事は何もしていない。
フランは読書家だ。対人経験が乏しい為に幼児の様に他者と接するが、頭の回転や知識量まで幼児のそれかと問われればそんな事は断じてない。
ネモが何かおかしい事をした様には、フランには見えなかった。
となると行きつくのはネモの話した事だ。
ただ話す事すら乃亜にとって不都合な何かを、彼等は知っている。
フランはそう結論を下した。
「……え、ちょ………」
その考えに行きついた直後に、フランの上体がネモの手によって起こされる。
そして、後頭部を片手で支えられながら、顎にクイ、ともう片方の手が添えられる。
そのままゆっくりと、ネモの整った顔立ちが近づいてくる。
フランは何をしようとしているのか尋ねても、静かに、と一言返されただけで。
跳ねのけようとしても手足は撃ち抜かれているため動けず、首から上も彼の腕で固定されている。
(あ……血の匂い……)
直前に、ネモの口の端から血が垂れている事に気づいた。
戦闘で口の中を切ったのか、それともこれから行う事の為に自分から切ったのか。
それは分からなかったが、その一筋の血に目を奪われている間に。
「ん…っ」
二人の唇が重なる。
くぷ。くちゅ、ぷはと粘膜が重なり合い、短い水音が響く。
始めて経験する口づけは、温かい血の…生命の味だった。
(やっぱり、美味しい……もっと……)
ネモの血の味は、いつも飲んでいる人間の味とは殆ど別物に等しい味わいだった。
比べ物にならない程豊潤で、味も良く、飲んでいると軽い酩酊状態(と言っても、彼女に酔った経験など殆ど無いが)になった様な錯覚を覚える。
ちゅうぅ…ちゅく、ちゅるる…こく、こく……。
気づけばいつの間にか舌を絡めて血を啜っていた。
(もっと……もっと欲しぃ……)
それは深手を負った傷を癒そうとする吸血鬼の本能だったのかもしれない。
不躾に唇を重ね合わされた拒否感は当に何処かに消え失せ。
自分から唇を押し付けて、血を舌で出迎える。
下腹が茹だる様に熱を持ち、蕩ける様な心地だった。
そのまま溶け合って一つに成ろうとするように、血と唾液を交換し合う。
そんな風に、夢中で口づけを交わしていた時だった。
頭の中に、ネモの声が響いてきたのは。
『フラン……フラン……聞こえるかい?』
『……?ネモの声、聞こえるけど……何で、私達、今──』
未だ口は塞がったままだ。
それなのに、ネモの声が頭に響いている。
奇妙な感覚だった。
『…まず、いきなり礼節を欠いた真似をしてすまない。謝罪するよ。
でも、必要な措置だったと思ってほしい、これから君に知っていて欲しい事を話すための』
『話って…もしかしてさっきの?』
『そうだ、さっき僕が首輪の警告で止められた…君に直接は話せない事を伝えるために、
君が気絶している間に仮契約をしようとしたけど、上手く行かなかったから…
こうして粘膜の接触で整えたうえで、一時的にパスを繋げたんだ』
申し訳なさそうなネモの声が何だかおかしくフランは思えた。
確かに急に口づけをされたのは驚いたし、多少は拒否感も覚えたけれど。
ちゃんと理由があったのならチャラにできる程度の拒否感ではあった。
……決して、血の味が美味しかったからではない。
『これは念話と言ってね、この方法なら首輪に盗聴機能や盗撮機能があっても問題無い。
ただ、何時乃亜に気取られるか分からないから、手短に話すよ』
ここでフランにもネモが口づけを行った意味が見えてきた。
乃亜に悟られぬ様に、テレパシー…念話で密談をするために必要な手段だったのだろう。
ついでに言えば、傷ついたフランに血を与えて癒す事も目的の一つだったのかもしれない。
「これは僕も悟空から聞いた話なんだけど、乃亜が口封じに躍起な事と、
僕自身酷似した願いを叶える為の儀式を知っているから、一定の信憑性はあると思う』
-
ネモはそのまま淀みなく、語るべきことを語った。
とは言っても、ドラゴンボールについては彼も聞かされた知識のため、そう多くを語る事は叶わなかったが。
フランはその間じっと異論を挟むことなく彼の言葉に耳を傾けて。
話が終わると、少しの沈黙を挟み、少年に問いかけた。
『話は分かったわ…でも、何で?どうして私なの?
貴方が勝ったら、教えてくれるんでしょ?教えてよ』
フランは、不思議だった。
フランもネモも、接した時間は余りにも短い。
お互いを知っている事は殆どない。
でも、そんなフランの為にネモは相当危ない橋を渡った。
乃亜から直接首輪を爆破すると脅されるほどに。
恐らくだが、最初話すことに逡巡があったのを見るに、警告を受けたのは今回が初めてでは無いだろう。
猶更話そうとした時点で首輪を爆破されてもおかしくはなかったのに。
それでも彼はフランに伝える事を辞めようとはしなかった。
そこまで来ると何故自分にそこまでするのかと、違和感の方が勝ると言う物だ。
『───そう、だね。実を言うと、そこまで論理的な答えは無いんだ』
その声色からは俄かに迷いが感じられたものの。
続く言葉は、確かな意志が籠められていた。
『ただ、君…出会った時に言ってたじゃないか。ここに来て、友達ができたって』
その言葉を聞いて、こうなる前に行ったやりとりがフランの脳裏に蘇る。
───しんちゃん、私に傘をくれたんだ。太陽に当たったらいけないからって。
───それでね…いい子まで殺すのは正義じゃないからって……ボーちゃんもきっとそれは望んでないからって……
今思えば、なぜあんなに一切合切全てを話したのか、フランには分からなかったが。
それでもあの時フランが語った余りにも短い初めてのお友達の交流が。
ネモの方針に影響を及ぼしていたのだった。
キャプテン・ネモは船長だ。
そして船長と言う物は、常に船全体の秩序と規律、そして何より安全を考慮して決定を下さなければならない。
それが例え時に非情な決定であったとしても。
きっと、彼女が人を殺すことを何とも思わない正真正銘の吸血鬼であったなら。
ネモもこうして説得を行おうとはしなかっただろう。
『危険だとしても、君の様な友を想える子が乃亜の手で踊らされるのを見たくなかった。
それなりに迷いはしたけど、結局は我儘な感情論』
己の感情をそうラベリングして。
少年はその後に、でもそれでいいんだと続けた。
『自分の感情に従うからこそ……実際に危ない橋を躊躇いなく渡れた。
…命も張らずに口先だけで信用してくれと言う相手なんて、君も信用したくないだろう?』
自分達について来れば確実にしんのすけを救えるとは限らない。
でも、僕達が口先だけで君を丸め来ようとしている訳ではないのは分かって欲しい。
その事を伝える為の賭けでもあった。
ネモは、そう語った。
『……もう一つは?二つあるって言ってたわよね?』
話を聞いて、八割ほど合点がいった様子のフランだったが。
まだ彼が語っていない、もう一つの理由を尋ねた。
フランの問いかけに、ネモはまた僅かな間沈黙して。
ここにはいない誰かに思いを馳せる様な声で、もう一つの理由を語った。
『これはさっき話した訳よりももっと個人的な理由なんだけど…
僕に大切なことを伝えてくれた人も……君と同じ吸血種だったんだ』
『ふーん、それってネモの好きな人?』
ぶっと噴き出す音が聞こえた。
『違うよ』
『ホントに?』
『本当だよ……まぁ……その人がいなければ、僕は僕としてここにはいなかっただろうね』
『よく分かんない』
-
歯切れの悪い言葉に、釈然としないフラン。
そんな彼女の様子に、口づけを続けていなければ苦笑を漏らしていただろう。
そう思いながら、ネモは数秒ほど、その女性の事を想起した。
───断る。人類が滅んだとしても、それは人類の自業自得だ。僕が力を貸す義理は無い。
───それに、人類を助けた所で、また新たな悲劇を生むだけだ。徒労だよ。
キャプテン・ネモの苦渋と後悔に満ちた人生。
その記憶で一杯のトリトンに、彼女はそれでも飽きることなく話し続けた。
───人類は、悲劇ばかりを生み出すものではありません。
───貴方が首を縦に振ってくれるまで、私は貴方にそう伝え続けましょう。
自身がその恩恵を受けた事はないのに、それでも彼女はそう唱え続けた。
やがて自分がその説得に心を動かされて、消失した世界を取り戻そうとする若者達に協力する事を決めるまで。
きっと、彼女と自分。フランとしんのすけを重ねてしまったのだろう。
『まぁ兎に角…なおさら君を切り捨てたくはなかった。
僕の大切な人(マスター)と同じ、人と歩もうとした君を』
これが、僕が話せる全部だ。
そう言って、ネモは話を締めくくった。
その声は、最初に出会った時と変わらない、意志が籠っていた。
『…………』
話が語り終えられてから、フランは暫しの間無言だった。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
ぐるぐると、目まぐるしく考えを巡らせる。
しんちゃんが一番喜ぶ選択は何なのだろうと考えて。
その答えは、そう時間を置かずに既に出た。
『ネモ』
短く、名前を呼ぶ。
しんのすけの様に、お友達になってくれるかは分からないけれど。
それでも、彼の言葉を信じてもいい。
そう思ったから。
『───いいよ、貴方が生きてるうちは、殺し合いに乗るのはやめておくわ』
それが、彼女の出した答えだった。
それを伝えると、ぷは、と。重ね合わせられていた唇が離れる。
離して早々、自分の手足を動かして見た。
ネモの血の影響か、既に傷は癒えつつあり、動かす事は問題なくできた。
だが、その代わりに強烈な渇きに襲われる。栄養をつけなきゃ、フランは考えた。
「フラン……その、僕を信じてくれて、え、ちょっ───!」
「ごちゃごちゃいう前に、もっと血をちょうだいっ」
何か宣おうとする口を、先手を取って封じて。
有無を言わさず、押し倒した。
その後、肌がツヤツヤと光沢を放つまで栄養補給に勤しんだのは言うまでもない。
-
■
「おめぇら、口と口くっつけて何やってんだ。気持ち悪ぃな」
「君、確か妻帯者だったよね」
少し経った後、どこかげっそりとやつれた様子のネモと、それを呆れた様子で見つめる悟空としおの姿があった。
悟空からしてもネモの無茶は明らかだったためひやひや物だったが、上手く話しは纏まった様だった。
それについては間違いなく朗報だったのだが……
「けどよ、乃亜の奴もやるもんだなぁ。もうおめぇの念話っちゅうのを封じてくるなんてよぉ。話してる内容もバレたんかな?」
「どうだろうね。まだ僕の首輪が爆破されていない辺り、限りなく黒に近い灰色って判断したのかもしれない。まぁ、バレて居なくても会話の内容なんて凡そ察しがつくだろうし」
あの後すぐに、首輪からの警告が鳴った。
『禁止事項に接触しました。再度禁止事項に接触した場合警告なしで首輪の爆破を行われます』、と。
予期していた事ではあった。例え会話の内容が乃亜側に漏れずとも。
ついさっきまでゲームに乗る事を公言していたフランが穏やかな様子で自分達と接して知れば何某かの密談があったのは明らかだ。
疑わしきは罰せよ、で首輪の警告を行うだけで十分な牽制になる。
-
「何にせよ、同じ手はもう使えないだろうね」
それが意味する所は、つまり。
ネモは一枚限りのカードを使ってしまったという事を意味する。
と、そこでフランの視線に気が付いた。
バツの悪そうな、本当に自分に使ってよかったのか、そう問う様な眼差し。
それを見て、肩を竦めながらネモは口を開く。
「心配ないよ。乃亜にも脇が甘い所があるのが分かっただけで収穫だ。
それに、これは結果論だけど、フランの能力を考えれば決して悪いトレードじゃない」
フランの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』
この島に来た当初は使えなかったが、現在は使えるようになったという。
ネモ相手には生憎不発ではあったが、後天的に能力が使えるようになったという事は。
彼女の力は、乃亜の科したハンデにも手が届く可能性があるという事に他ならない。
ともすれば、ハンデさえどうにかすれば、首輪の破壊さえ視野に入って来る。
「あんまり期待されても困るけどね。今はまたネモ達の『目』も見えなくなってるし、
多分、ハンデってのをちゃんと壊せたわけじゃないと思う」
「それでも…僕はこの選択に後悔はしていないよ。少なくとも前進だ」
-
生まれて初めてプレッシャーというものを感じたのか、彼女にしては本当に珍しい事に謙遜を行うフラン。
だが、それを加味しても意味のない選択では無かったと、ネモは断言した。
後はこれで、彼女がこのまま自分達に同行してくれれば言うことは無いのだが───
「それで、フラン。
君はまだ、しんのすけという男の子の仇を追う。それでいいんだね」
「うん。ネモ達には悪いけど……私はやっぱりしんちゃんを殺した奴を許せない。
そいつ…ジャックって奴?と決着をつけないと、貴方達とは一緒にはいけない」
彼女は、それを否定した。
しんのすけを殺した相手を許せない。
そいつと決着をつけるまでは、ネモ達と一緒に行くことはできない。
殺伐とした復讐の道行きだ。
殺す事を躊躇しない彼女と一緒に行けば、ネモ達の信用にも関わる。
「貴女達は、貴方達の戦いをしなくちゃ」
同行を提案したら何故か諭される始末。
彼女の決定は揺らぎそうもなかった。
それからそれに、と前置きをして、フランは爆弾発言を繰り出す。
「それに…私はまだずっと対主催ってのをやるのを決めたわけじゃないもん。
と言うか多分、ネモ。貴方が死んだらまた優勝しようとすると思う」
「お、おいおい。おめぇなぁ……」
誰でもいい訳じゃない。
貴方だから話に乗るの。貴女以外の人間が誘っても、多分聞かないわ。
彼女はそんな旨のセリフを続けた。
それを聞いた悟空が指さしながら、大丈夫かこいつ、とネモに視線を送る。
視線を送られたネモは、悟空とフランをそれぞれ一瞥した後、ゆっくりと一度頷いて。
「問題ないよ、僕が生きていれば何も問題ない」
そう言ったのだった。
彼は分かっていたのだ。もし自分が死んだら、という条件の裏に込められた思いを。
これで自分は死ぬ訳にはいかなくなった。
死ななければ、彼女が再び凶行に及ぶ危険性は下がったと言えるのだから。
だが、その後「ただし」と言葉を重ねる。
「フラン、生憎僕らは殺し合いに乗った君をずっと見張って置く余裕がない。
もし君が、今後も殺し合いに乗ったと耳に入ったら……僕が責任を以て君と決着をつける」
殺し合いに乗ったままのフランを連れまわすわけにはいかない。
拘束したとしても、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力を有する彼女にはそれほど効果が見込めるかは分からない。
もし連れまわせたとしても、その後の自分達の行動が著しく制限されてしまう。
フランの見張りにリソースを割かれ、首輪の解除も進まなくなるだろう。
武装解除すれば限りなく危険性の下がるしおとは訳が違う。
彼は船長として最悪の想定もしておかなければならなかった。
「うん、いいわ。その時はまた壊しあいましょう」
もしもう一度殺し合いに乗れば、お前には容赦しない。
その旨の発言を聞かされても、特段フランは気分を害した様子は無かった。
彼女の視点から言っても、それは当然の措置だと思ったからだ。
「でも…そうね。今はそんな気分になれないし、もし心配なら───指切りしましょ」
そう言って彼女はメイドに教えてもらったというまじないをしようと、小指を差し出してくる。
約束を行う時にするらしいそのお呪いは、ネモにとっては馴染みの薄いものだった。
だが、やがて決心したように彼も小指を差し出し、ピンと立った小指に自分の小指を絡める。
「指切げんまん、嘘ついたらハリセンボン飲―ます!。指切った」
見た目相応の元気な声で。
フランドールとネモは約束と言う名の契約を交わす。
それが終わると、これで大丈夫だと、少女は朗らかに笑った。
その時は、見た目相応の少女の様だとネモは思った。
指切が終わると共に、くるりと吸血鬼の少女は身を翻し、その矮躯が浮かび上がる。
-
「それじゃあね、ネモ、悟空」
「あぁ、ちょっと待ってくれ、フラン」
飛び去ろうとする少女にネモがあるものを放りなげる。
それはくるくると弧をかいて、受け止めようと突き出したフランの両手に収まった。
投げ渡されたそれは、フランにはなじみの深くない、ネモが扱っていた銃の様な太い筒状の何かだった。
「それはテキオー灯と言う道具らしい。君が太陽が苦手な体質かは分からないけど……
紫外線にも効果があるらしいから、念のため持っていくと言い」
引き金部分に取り付けられたスイッチを押すと、鈍い光がフランを包んだ。
この光を浴びていれば、一回で三時間程効果があるという。
日光が弱点であるフランにとって、嬉しい餞別であった。
「…代わりと言っては何だけど、二つ頼みがある」
「ん、なーに?」
「もし、道中君が争いに巻き込まれている対主催の子がいたら───」
助けになってやって欲しい。
その言葉が最後まで紡がれることは無かった。
それよりも早く、それは無理よ、と。
フランは否定の言葉を放っていたから。
「弱くて壊れやすい人間を守って戦うなんて、もう再度と御免だもの。
それに……本当はね、妖怪は人間を食べるものなのよ。今はそんな気分じゃないけど」
「…………」
要請に対する答えは、拒絶。
だが、ネモはそんなフランの拒絶の言葉を否定できなかった。
彼女がどんな体験をして、何を思って言っているのか理解できていたから。
「…………分かった。でも此方の方は聞いて欲しい。
もし、君が一緒にいてもいい、そう思う人と出会ったら──その時は一緒に行ってくれ」
そう頼みを口にして幼き航海者は、破壊の吸血姫の赤い瞳をじっと見つめた。
アイスブルーと、ルビーの瞳が幾度目かの交わりを迎えて。
そして、しばらく見つめ合った後──根負けしたように吸血姫が一度頷いた。
その後ぼそりと「そんな子、いるかしら」と漏らしていたけど。
ともあれ分かったと、了承の意志を示した。
「それじゃあね、ネモ。私、もう行くわ」
「……あぁ、僕達のこれからの進路はさっき伝えた通りだ。少なくとも正午から午後にかけては西のエリア…海馬コーポレーションの辺りにいると思う」
ネモも悟空も、乃亜の言葉に従い殺戮を行うというのであれば制止したが。
友の弔い合戦と言われれば、無理に引き留めることもできなかった。
しかしもし彼女が復讐よりも自分達との同行を優先するのなら。
合流できるように、これから差し当たっての行先は伝えておく。
「うん、分かった。色々ありがと。ネモ、悟空」
差し当たっての目的地は映画館。そこで下手人の手がかりを探す事とする。
そう決めた吸血鬼の少女は、背中を向けて、白み始めた空を昇っていく。
舞空術を制限されている悟空も、神威の車輪を仕舞ったネモも、それを見送る事しかできない。
だが彼女はその中途で何かを思い出したように止まり、ネモに最後の問いかけを行った。
「ねぇ……ネモ」
「……何だい、フラン」
「もし、しんちゃんの仇を討って貴女達とまた会ったら、その時は───」
────私を、船に乗せてくれる?
少女はそう尋ねた。
尋ねられた少年は、薄く笑みをこぼして。
「あぁ、待ってる」
振り返っていなかったため、フランの表情は伺えなかった。
ただ、その後暫く言葉に詰まった様に彼女は固まって。
その後に最後に一言残して、ネモ達の前から去っていった。
───絶対、また逢いましょう、と。
-
■
「行っちゃったね。良かったのかなぁ」
そう零したのは、この場において最もフランの眼中になかった少女だった。
そんなしおの疑問に答えたのは悟空だった。
「そうだな。まぁ無理やり連れて行ってもどっかで逃げちまっただろうし……
オラたちがさっさと首輪を外して、助けにいってやらねぇとな。そうだろネモ」
悟空にとってもフランを一人で行かせるのは不安があったが。
本人が仇を討つのだと言ってきかない以上は、行かせるほかは無いだろう。
無理やり力で押さえつけて連れて行ったところで、少し目を離したら逃げ出してしまうのは想像に難くない。
普段なら気の探知でそう言ったアクシデントも防げるが、この島ではそれも望めない。
故に、彼女の意志を尊重する事とした。
……合理的な視点でいうのであれば、マーダーに転びかねない彼女が返り討ちにあっても対主催としてはそこまで影響がない事もある。
「……そう、だね。直ぐにでも出発───」
悟空の言葉に肯首し、直ぐに出発しようとした、その時だった。
ふらりと、ネモの身体がブレて、立ち眩みの様に倒れかける。
「おっと!ん〜……ちょっと休んでから行った方がいいな、おめぇ。
フランと戦った疲れ、まだ抜けてねぇだろ?」
倒れかけたネモの身体を、力強く悟空が支える。
そして頭の天辺からつま先まで何度か確認した後、休憩してからいく事を提案した。
当然だ、直ぐに吸血行為で回復できる吸血鬼のフランとネモは違う。
その上、戦闘後に大量の血液を彼女に提供している以上、消耗しない筈がない。
それに加えてもう一つ、消耗を強いられた要因を悟空は見抜いていた。
ネモの耳元に顔を近づけて、低い声でぼそりと囁く。
「……おめぇ、もうあの仮面は使うんじゃねぇ。死んじまうぞ」
「そう、だね……善処するよ」
霊体化できないほぼ受肉体とは言え、サーヴァントであるネモを最も消耗させた要因。
それは彼が使った仮面(アクルカ)にあった。
ヤマトに伝わる仮面は全て帝が本来とは違う目的で作った言わばコピー品だ。
それでも絶大な力を使用者に授けるモノの、そんな代物がリスクが無いはずがない。
仮面は、魂を喰らうのだ。そして、喰らわれ切った者は塩の柱となり消滅する。
つまり、これをつけた時点で穏やかな最期はまず望めない。
戦いに生き。戦いに死ぬこととなる。
だがそれでもネモはそれをつける事を躊躇わなかった。
「…………」
今回仮面は外れ、ネモの手の中にある。
だが、次付けた時は脳と癒着し、外れなくなる。そんな確信めいた予感があった。
そうなれば、時限爆弾のスイッチが入ったも同然だ。
生に執着はない。しかし死にたいわけでは無かった。
でも、きっと。また時が来れば、彼は仮面を付ける事を厭わないだろう。
キャプテン・ネモと言う英霊は。偏屈で、人間不信で。それでいて寂しがり屋で。
そして何より、支配と蹂躙に抗う信念の英雄なのだから。
-
【B-6 教会内/1日目/早朝】
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:ダメージ(小)、精神疲労(小)
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:一先ずはまぁ…対主催。
1:ネモを信じてみる。嘘だったらぶっ壊す。
2: もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す
3: しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※ネモ達の行動予定を把握しています。
【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:満腹、腕に裂傷(処置済み)、悟飯に対する絶大な信頼と期待とワクワク
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:ネモの奴無茶するなぁ。オラ冷や冷やしたぞぉ。
2:悟飯を探す。も、もしセルゲームの頃の悟飯なら……へへっ。
3:ネモに協力する。
4:カオスの奴は止める。
5:しおも見張らなきゃいけねえけど、あんま余裕ねえし、色々考えとかねえと。
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(中)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、神威の車輪@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、神戸しおの基本支給品&ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:一先ず彼女を止められたみたいで良かった…かな。
2:教会→図書館の順で調べた後、学校に向かう。
3:首輪の解析のためのサンプルが欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおを警戒しつつも保護はする。今後の扱いも考えていく。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※フランとの仮契約は現在解除されています。
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(中)全身羽と血だらけ
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:天使さんに、やられちゃった怪我の治療もした方がいいよね。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
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投下終了です
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投下ありがとうございます!
ネモVSフラン、お互いに頭も切れれば手数も戦術も豊富で、見てて面白いですね。
冒頭のフランの分身が、同じ能力を使われるという伏線なのも良き。
令和のうたわれとFataのクロスオーバー、男の子の味なんだ。
ネモがハクに敬意を見せるの良いですねぇ。実はクロス系は直接共演より、こういう間接的な?がりのが好きだったりしますね。
フランも翻弄はされつつも実力のある吸血鬼らしく、制限の独力解除といった、嵌められた枷を外すまさしく化け物らしい立ち回り。
ただ最後に差が出たのは、人の勇気と知恵と工夫といったところでしょうか。
化け物を倒すのは、いつだって人間と言わんばかりにラストで活躍する.454カスール カスタムオート君。銃の元の持ち主のアーカードも、地獄で喜んでいることでしょう。
公式キス魔のクロより先にキスを達成するとは…ネモ、やりますね彼。肉食の片鱗を見せるフランも……えっちぃだ。
あと悟空さ、Zじゃキスしてたんですけど鳥山先生に猿空間ならぬ、鳥空間にベジータと悟飯ちゃんの尻尾諸共、送られてしまいましたからね。アニオリだから、ノーカンかもしれませんが。
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カオス、北条沙都子、メリュジーヌ
予約します
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佐藤マサオ、エスター(リーナ・クラマー)、シャーロット・リンリン(幼少期)、江戸川コナン、風見雄二、ウォルフガング・シュライバー
予約します
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すいません
ハンディ・ハンディを忘れてました
予約します
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予約を延長します。
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予約を延長します
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延長します
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予約を破棄します。キャラ拘束すみませんでした。
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投下します
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近代戦争において、制空権と言う概念がある。
ある空域で敵に妨害されることなく,自由な作戦行動を可能とすることを意味し。
1849年にオーストリア帝国がヴェネツィアを気球と風船爆弾で攻撃したのが近代史における史上初の航空攻撃と伝えられている。
そこから第一次世界大戦で航空機が実戦投入され、第二次世界大戦では海を隔てた遠方の制空権を確保する為に空母が発明された。
近代戦において、制空権を制した者が戦の趨勢を制すると言ってもいい。
そしてそれはこのバトルロワイアルにおいても変わらない。
その事は妖精騎士ランスロット…暗き沼のメリュジーヌが証明している。
竜の炉心から生み出される無尽蔵の魔力は、彼女に安定した飛行能力を担保する。
更に音速を超える飛行速度と合わせれば、この蟲毒において彼女と互角以上の空中戦を挑める者は両手の指に収まる程度の数だ。
北条沙都子を抱えた所で、パフォーマンスは何ら低下しない(尤も、余りに高速飛行を行うとGによって沙都子が死亡するため相応に速度は抑えているが)。
また、視力や聴覚などの五感の鋭さも人のそれとは天地の隔たりがある。
基本的に常にメリュジーヌが先に相手を補足し、滞空状態で発見した他の参加者の様子を伺う余裕が彼女にはあった。
その時、同盟相手の北条沙都子は知己であるという古手梨花に執心の様子だったが。
メリュジーヌが注目した相手は違っていた。
彼女が注目したのは、その場において最も戦闘力の高い者。
即ち、孫悟飯の関係者と見られる黒髪の少年だった。
一目見て違和感に気づいた。
この少年は、あの孫悟飯の関係者ではない。
メリュジーヌから見ても黒髪の少年は強い。
間違いなく強者である。だが、孫悟飯から感じた強さとは質が違う。
姿だけ似せた模倣(イミテーション)。
彼の延長線上にある存在ではない事だけは確信できた。
次に浮かぶのは、では彼は何だ?という疑問だが、流石に具体的な解までは導けない。
───あの少年、どうにも妙だな。
その一団を見つけた時点で、メリュジーヌの観察対象になったのはその少年一人だった。
後の顔ぶれは、メリュジーヌなら単騎で叩き潰すことができる。
電気を放つネズミとそれに指示を出す少年は、緩急をつけてネズミを抜き去り、後は一息で支持を出す少年を串刺しにする。
もう一人の金髪の少女は人間にしてはそれなりに腕が立つようだが、自分には及ぶべくもない。十秒かからず斬首できる。
後の長髪のカードを握り締めた少年は、少し前に自分を退けた龍を出した少年と同一の能力者だろうか。ならば奇襲して最初に両腕を落とす。
慢心ではなく冷然たる戦略眼を以て、鏖殺が可能だとメリュジーヌは判断した。
───動きがまるでちぐはぐで、その上悪い。
対主催と見られる三人組は問題ないと判断した中、唯一警戒対象と見たのがその少年だったのだが。
当の彼はまるで弓兵が剣を持って戦場に出ている様な不自然さだった。
トップスピードで言えば自分にも渡り合えるほどはあるのに、それを活かせていない。
馬鹿正直にネズミと戦わずとも、頭脳である少年を潰せばそれで事足りるだろうに、それもしない。
何か狙いがあるのかと思っていたが、どうやら単純に考えが及んでいないらしい。
───成程、あの少年の関係者の姿を装って戦っているから、本来の能力を発揮できないのか。
少しの間観察を続け、メリュジーヌはそう結論付けた。
そしてその後、一言で言って勿体ないと感じた。
あれだけの性能を有しているのに、あの程度の三人に手こずっている。
戦術眼と言う物にも乏しいのだろう。
彼(彼女?)がもっと効率的に動けば参加者もより早く減っていくのに。
その分自分が願いに近づくのに。
苛立ちにも似たもどかしさを感じる中で、観察を続ける。
そして、彼女は少年がぼそりと吐いたその言葉を聞いた。
───こうしないと、いい子になれないから。
-
その言葉を聞いて。
あぁ、そうかと思った。
彼も、きっと自分と同じなのだ。
自分の進んでいる道が過ちと理解していながら、それでも進むことを辞められない。
かつて得たぬくもりを諦めきれないで足掻いている。
それでもその温もりを得るまで、何も必要としない程に強くはなれず。
ただ、暗闇の道行きを惑っている事に気づいた。
───救われないな。僕も、君も。
その少女を、見て。
先ず抱いたのはある種の共感と同情心だった。
そしてその後に。
使える、と思った自分に吐き気を抱く。
だが、自分の中の非情な部分が使うべきだ、と頭の中で囁く。
共犯者である少女は、巡り合った運命の相手に夢中で気づいていない。
自分が黙っていれば、少年はいずれ優しい誰かに止めて貰えるのかもしれない。
光の道を歩めるのかもしれない。
だがそれは、自分が目指す願いの障害になるという事を意味する。
孫悟飯一人とっても自分の全てを賭けて挑まなければならないというのに。
これ以上自分に対抗しうる障害が増えるのは、間違いなく望ましくなかった。
故に、脳裏で良心と自分の願いが天秤にかけられる。
その結果は、直ぐに出た。
「沙都子」
感情の一切を抹殺した声色で、共犯者の少女に話を切り出した。
-
■
「ん……よし、じこしゅうふく…終わった……」
路地裏で身を潜め、身を癒す小さな影が一つ。
言うまでも無く、第二世代エンジェロイド、カオスのものだった。
彼女は先の戦いでは幾らか電撃を浴びたものの。
それでも孫悟空や、超能力者の少年の戦い程消耗は無かった。
そのため、自己修復もつつがなく終わった。
だが、少女の…カオスの表情は芳しくない。
何故なら、戦闘が終わってからも彼女の脳裏には。
───そいつは、本当にこんなことをして、キミを褒めてくれるのか。
ずぅっと、先ほど戦った少年の言葉が纏わりついていたから。
それは、今のカオスを否定する言葉だ。
カオスの抱いた願いを否定する言葉だ。
でも、カオスはその言葉を拒絶できなかった。
彼女自身、自分が悪事を働いているという自覚があったがために。
少年が、自分を助けようと視界に光が満ちる中で駆け寄る姿を見てしまったがために。
「痛いなぁ……本当に、これも、愛なのかな……?」
あの帽子のお兄ちゃんも殺さないと、智樹お兄ちゃんのお家に帰れない。
でも、あの帽子のお兄ちゃんを殺す所を想像しただけで、動力部が軋んだ。
本当に殺してしまったら、動けなくなるくらい痛むのではと思う程に。
もう、私は痛いのはいらないのに。
私には、愛はいらないのに。
私はただ、お兄ちゃんのお家に帰れればそれでいいのに。
なのにこうして、愛が私の邪魔をする。
「私……どうすればいいのかなぁ……お兄ちゃん」
ごそごそとデイパックから宝物である上履きを取り出して。
それを吹雪の中で纏う防寒着の様にぎゅうと抱きしめる。
そうすれば動力部に走る痛みが和らぐ気がしたから。
実際に、ぎゅうと抱きしめて見て、予想通り動力炉の痛みは和らいだ気がしたが。
それでも、上履きはこれからどうすればいいのかまでは教えてくれなかった。
「────!」
丁度、その時の事だった。
カオスの探知レーダーが、とても強い反応を捕える。
覚えのある反応だった。
これはさっき、自分を吹き飛ばした相手だ。
きっと、悪い子である自分を追ってきたのだろう。
カオスは少し考えて、また悟空の姿を形どった。
この姿は戦いにくいが、ついさっきの相手ならこの姿でないと自分が化けていたのがバレてしまう。
「───行かなきゃ。愛を、あげなきゃ」
うわ言の様にそう呟いて。
彼女は翼を広げた。
また自分が悪い子になるとしても、やめられない。
ただ一つ得た暖かな場所への帰路につくために。
それを阻む全ての者に、愛を与えるために。
蝋の翼が焼け墜ちるまで、彼女は愚直に羽撃き続ける。
それ以外の生き方を、幼い彼女は知らないから。
-
■
「あの少年の姿で来たか……」
路地裏から飛び上がって来る、小さな影。
黒髪の快活そうな少年の姿を、無感動に最後の竜は見つめた。
理屈の上では仕方ない、と思う。
自分が既に彼が姿を騙っている事実に気づいている事を知らないのだろう。
それ故に、先ほどの襲撃の辻褄を合わせるために少年の姿で迎撃を行おうとしている。
無理もない。少年の思考は間違ったものではない。その上で───
「舐められたものだな、僕も」
突風が吹いた。
直後、腹の底まで響いてくる様な衝突音が響く。
それに遅れて、衝突の衝撃により生み出された突風が周囲を吹き抜ける。
もしこの場に常人がいて、この光景を見たなら。
路地裏から飛翔した少年の姿が掻き消え、まるで瞬間移動の様に鎧の少女に肉薄し拳を見舞ったとしか思えない光景だろう。
理外の速度。戦闘機でも離陸直後の数秒にも満たない時間で音速の壁を突破するのは困難だろう。
その不条理を、少年は成し遂げて見せた。成し遂げたうえで、拳を振るった。
然しその振るわれた拳は少女に届く事は無かったが。
「拙い」
右からの拳を、左腕の手甲で受け止めながら。
最強の妖精騎士はその拳をそう評した。
膂力は強い。速度など上級妖精を超えるそれだ。
スペックだけで言えば人間など数秒の内に殺害して余りある。
だが、技術がない。戦闘のカンも乏しいのが見て取れた。
恐らく、この少年は見た目相応の齢か、それよりも更に幼いのかもしれない。
「───早く元の姿に戻る事だ」
追撃の拳を、右腕の手甲で受け流す。
半身に構えつつ後退すれば、自らが生んだ慣性で相手の上体が流れてくる。
そこに、カウンターの拳を叩き込んだ。
「───かっ……!?」
凄まじい衝撃に、少年は言葉を失う。
ど、と。
響いた音は一音だった。だが、衝撃は三つあった。
音が重なって聞こえる速度の拳を、叩き込まれたのだ。
人間ならば、それだけで胴体が泣き別れになっていてもおかしくない威力の拳。
その一合だけで、嫌でも敵手に自身の歴戦を知らしめす、研ぎ澄まされた一撃だった。
「……そう、それでいい」
能面のような無表情で見つめながら。
騎士の少女は、相対者を見つめた。
向かい合う少女の姿は既に少年ではなくなっていた。
対照的な二人だった。
透き通るような銀の髪に、氷点下の無表情を浮かべる最後の竜、メリュジーヌと。
それに相対する、輝くような金の髪に、幼い敵意を満面に浮かべる天使、カオス。
夜明けに向かう空の下で、超常の少女二人が相まみえる。
「───負けない!」
短くそう呟いて、天使の少女は周囲に黒炎を生み出す。
それは、壊滅状態にあったアポロンの残骸を修復して使用可能にしたものだった。
孫悟空に放った時とは見る影もなく零落しているが、それでも人間を殺す程度なら十分事足りる威力の炎だった。
「…それじゃあダメだ、それじゃあ僕は殺せない」
ただし、それはあくまで人間相手の話。
混沌の少女が相対するのは、最強の幻想種、その中でも頂点に位置する者だ。
迫りくる黒炎を、楽観でも慢心でもなく、厳然たる事実として不足であると断じる。
そして、ただ、両手を前に。黒色の殺意へと向けて。
そのまま──迷うことなく、一直線に吶喊した。
「───突き穿つ!」
黒炎がまるで効いていない、という訳ではない。
鎧や、妖精國において最も美しいとされた美貌に俄かに火傷を刻んで。
それでも燃え尽きる事無く、一本の槍の如く突き進む。
止まりはしない、その速度を落とす事すらありえない。
自身を包む熱すら切り裂き穿つという強固な意志で、敵手の下へ。
-
「……っ!?うそ……!」
天使の少女が再び、言葉を失う。
竜の少女の黒炎を穿って進むその鋭さに。
自身の身を顧みない、捨て身とすらいえる戦い方に。
そして何より彼女の貌のその美しさに、息を飲む。
身を焦がす炎すら、彼女を引き立てる演出の様だった。
「いーじす!」
目を奪われてなお、その判断が叶ったのは流石シナプス最高のエンジェロイドと言ってもいいだろう。
コンマ1秒後に、竜の少女は黒炎を完全に突き破り。
展開した絶対防御(イージス)に両手の剣を突き立てていたのだから。
間違いなくカオスの反応速度と思考能力でなければ串刺しにされていた。
「カットライン──!」
だが、その距離は既に、竜の少女の間合いだ。
突撃を完璧に秒御されてなお、メリュジーヌは涼しい顔で速度を上げる。
停止した状態から物理法則を無視し、一秒かからず音速に至る彼女の特性。
それを以て、天使の少女の背後に回り込む。
「くっ───!」
「ラーンスロット!!!」
絶対防御(イージス)は孫悟空との戦いで半壊している。
本来のイージスと違い、全方位をカバーする事ができない。
そんな中で、戦闘用エンジェロイドであるアストレアに匹敵する速度を誇るメリュジーヌはカオスにとって難敵と言えた。
迎撃の為に漆黒の機械翼を伸ばすが、怒涛の連撃でその全てが撃墜される。
「いーじ…!」
「遅い!」
翼をいなされ、無防備になったカオスの右肩に。
メリュジーヌの袈裟懸けの手刀が、叩き込まれた。
数時間前の絶望王との交戦時と同じく、天使は隕石の如く地に失墜する。
「これで───!」
「………!!!」
凄まじい衝撃。痛い。とても痛い。
どうして、こんな事になっている。私が、悪い子だから?
だから、いい子になるために頑張っているのに。痛い思いをするばかりで。
もう私は愛/痛みなんていらないのに。
私はただお兄ちゃんのお家に帰りたいだけなのに。
嫌だ。嫌だ!こんな所で壊れるのは───いやだッッ!
「終わりだッ!」
「う、ぁ。ああああああああ!!!!!」
咆哮を上げて。
迫りくる竜の少女に、地に墜ちた天使の少女は翼を振るう。
ただ、帰る事が出来なくなった暖かな場所に帰るために。
現状彼女が制限を受けてなお発揮できる最大出力で翼を振るい。そして。
「───正直、驚いた。良く間に合わせたね」
喉元に、竜の少女の刃が突き付けられていた。
だが、彼女が敗れたわけではない。
その証拠に、天使の少女の翼もまた、竜の少女に突き付けられている。
お互いが首を落とせる状態での、膠着。
その最中で、竜の少女の口から出たのは、天使の少女が予想していなかった台詞。
一触即発の状況には似つかわしくない。賛辞だった。
皮肉ではない。さっきまで殺しあっていた相手より受ける、心からの賛辞。
「………?」
その意図を測りかねて、翼を動かす意志に戸惑いが生じてしまう。
無我夢中だった瞬間とは違い、これを動かせば即殺し合いだという認識が重くのしかかる。
その時の事だった。
パンパン、と。
手を叩くような音を、天使の少女が認識したのは。
-
「…素晴らしいですわ、天使さん」
音の出所に視線を向けると微笑みながら拍手を行う、金髪の少女が立っていた。
新たに現れた参加者を前に、天使の少女の警戒心が高まる。
だが、その拍手を行う金髪の少女が現れて。
竜の少女が行ったのは、彼女にとって予想外の行動だった。
何と、その両手の剣を、天使の少女の首元から降ろしたのだ。
「───何、で……?」
「………………………」
理解の出来ぬ行動に思考が止まる。
問われた竜の少女は応えない。
代わりに応えたのは、この場において最も弱いはずの、地蟲(ダウナー)の少女だった。
「それは勿論、貴方と仲良くしたいからです」
そう言われて、どきりと動力部が跳ねたような気がした。
ぎゅう、と。地蟲(ダウナー)なら心臓がある部分をぎゅっと抑える。
今なら、竜の少女の首を撥ねる事ができると言うのに。
背から伸びる機翼は、まるで鉛の様に重く動かなかった。
そんな天使の少女を見て、地蟲の少女は瞼を細め、そして告げる。
「……私達も貴方と同じ、優勝を狙っているマーダーでして。北条沙都子と言います」
その言葉を、天使の少女は最初理解できなかった。
だって、優勝できるのは一人だけの筈なのだから。
願いを叶えてもらえるのは一人だけ。生き残れるのも一人だけ。
今まで彼女はそう思っていた。
だが、目の前の地蟲の少女は自信に満ちた笑みで、天使の少女に言葉を重ねる。
「貴方と協力したい、というお話がしたくて、ここまで参りました」
殺しあうのは、話を聞いてからでも遅くはないでしょう?
そう言って、彼女は不敵に笑う。
どうしよう、と考える隣で。
仲良くしたい、その言葉が何度も中枢システムでリフレインされる。
硬直状態のまま数十秒の時間が経過してから、ゆっくりと口を開いた。
そして、返答を述べる。
「うん……分かった」
-
■
「成程、カオスさんはお家に帰るために、優勝したいのですわね」
十分ほどあと。
三人の少女はモチノキデパートの屋上に河岸を移し、三人並んでベンチに腰かけていた。
中央に沙都子、その両隣にカオスとメリュジーヌが位置している。
先ずはお互いの名を名乗り、その後何故この殺し合いに乗っているのかを沙都子は尋ねた。
問われたカオスはたどたどしく、しかし途中から堰を切った様に語った。
エンジェロイドの事。マスターに廃棄処分という決定を下されたこと。
そして、智樹お兄ちゃんの家へと赴こうとした所で、エンジェロイドは帰って来るなと断じられたこと。
それらの事を夢中でカオスは語った。まるで、人との交流に飢えていたようだった。
「カオスさん」
ハッキリ言って初めて聞く単語が多く、カオスの説明も拙かったため、何度も何度も少しずつ確認しながら話は進められた。
根気よく確認を繰り返した甲斐あってか、沙都子にもこのカオスと言う少女に何があったのか察しがついた。
そして、その上で判断する。
この少女は、利用できる、と。
「今までよく一人で頑張りましたわね、大変だったでしょう」
「………!」
カオスの話を一通り聞いたうえで、沙都子は優し気な表情と声で問いかけた。
この島に来て初めてだった。
孫悟空やサトシは、彼女の行いを否定した。
絶望王は否定こそしなかったけど、同時に軽口の様な物である事は何となく分かった。
それが今、自分のやって来た事が、直接的に肯定されて、気遣われた。
カオスにとって、直ぐに言葉が出てこない程の衝撃だった。
「貴方は間違っていませんわ、カオスさん。
誰かを想い戦う貴方がどうして間違っていましょう」
沙都子は、優しかった。
カオス自身すら疑念を抱きつつあった彼女の願いを、間違っていないと断言する。
その上で今度は声のトーンを落とし、今度は詰問するように言葉を紡ぐ。
「むしろ、この島に来て始めて顔を合わせた様な方の言葉に従って、
願いを投げ捨ててしまえるのなら、私は其方の方が蔑如しますわ。だって───」
その程度で捨てられる願いだったという事でしょう?
さっきとは打って変わって、冷たい声。
カオスの動力炉がずきりと痛んだ。
ぎゅっと修道服の様な黒衣の裾を握り締めて、違う、と反論する。
「違う…!違う…!私の願いは、そんなのじゃ───!」
でも、今のままじゃどうしてもお兄ちゃんが褒めてくれる姿が浮かばない。
どうしても、悪い事をするたびに動力の所が軋む。
もう“痛い”愛は、私はいらないのに、痛い事ばかり増えていく。
どうすればいいのか分からない。
カオスは迷子の子供の様に憤り、悲しみ、訴えた。
その訴えに対して、沙都子は尚も薄い微笑を浮かべて。
どうすればよいのかを少女に刷り込む。
「……カオスさん、先ず貴方に知って置いて欲しいことがありますわ」
優しい眼差しのまま、少し屈んで。
沙都子はカオスに視線を合わせる。
髪色が同じ少女二人が見つめ合うその様は、まるで姉妹のよう。
「───愛にも、色々な種類があるということを」
「しゅ…るい……?」
-
双眸に涙を浮かべて。
じっと、カオスは沙都子の言葉に聞き入る。
翼を持つ美しい少女がじっと聞き入るその様は、神の啓示を待つ天使のよう。
「貴女の言う通り、愛は時に痛みを伴う時もあるという事です
……私も、親友に分かってもらうために、痛い愛を与えた事がありますわ」
でも、それだけじゃない。
沙都子はそう告げると、ぎゅっと。
優しく包みこむ様に、カオスの小さな機体を抱きしめた。
そして、小さな子供をあやす様な仕草で、話を続ける。
「貴方の感じている痛みを、癒せる愛もありますわ」
そして、私は貴方にこの愛を与えてあげられます。
貴方の願いを、何があっても肯定してあげます。
何故なら貴方は、私と近しい願いを持つ人だから。
「───お、ねぇちゃんも……?」
抱きしめられて。伝わる35度の体温を感じながら。
ゆっくりと、カオスは尋ねた。
後ろに上体を退げ、再び目を合わせてから沙都子は頷く。
やはりその表情は微笑みを浮かべた優しいものだった。
「えぇ、この愛を伝えるためなら、どれだけ心が痛んでも我慢できます。
どれだけ悪い子になったとしても、私は諦めず、前に進むことができますわ」
他の何を犠牲にしても。
力強い声だった。
迷いなど欠片も感じない、自分は間違っていない自信があると、伝わってくる声だった。
今のカオスには無くて、なおかつ欲している物をこの人は持っている。
そう信じさせるだけの力が、いま彼女が発した言葉には籠められていた。
「………おねぇちゃんは、凄いね」
直感的に感じた。
今の自分に必要なのは、賢さでも強さでも無くて。
きっと目の前の少女のような、揺るぎのなさなのだと。
ただの地蟲に、最新鋭エンジェロイドがそう思わされてしまった。
迷い惑っていたカオスにとって。
目的に向かう事に迷いがない強固な沙都子の精神は、輝いて見えてしまった。
でも、それでも。
「……まだ、迷いがあるようですわね。それが何なのか教えていただけます?」
天秤は確実に傾きつつある。
しかし、カオスの表情の迷いは未だ払拭されていない。
百年以上に渡って惨劇を引き起こしてきた魔女はその事を見逃さない。
此処で彼女の内にある迷いを看過し強引に迫れば、後々必ず計算違いが起きる。
そんな可能性は、今のうちに摘んでおきたかった。
問われたカオスは、僅かに逡巡を見せたが、やがてぽつりと。
「……悪い子にならなくても、願いを叶える方法はないのかなって……」
そう思ったの。
俯きながら、少女は己の中の迷いを吐露する。
修道服に包まれた小さな肩は、震えていた。
こんなことを言えば今、優しい目の前のお姉ちゃんが変わってしまうのではないか。
空(シナプス)の、マスターの様に。
そんな怯えが見て取れた。
「……カオスさん、私が思うに───
貴方にとって本当に重要な事はその事ではありませんわね」
「え……?」
だから、論点をすり替える。
-
「貴方が本当に恐れているのは悪い子になる事ではなく。
悪い子になった時に痛い“愛”を与えられること。
つまり、智樹さんに拒絶される事ですわ」
どれだけあなたの愛は間違っていないと正当性を説いた所で。
彼女の認識が、今の自分の行いは悪い事である、という認識そのものを変えるのは難しい。
今言いくるめたとしても、結局手を汚すのは彼女だ。
自分の行っている事は悪い事なのではないか、という疑念の発露は避けようがない。
それを認めたうえで、大事なことは────
「なら、貴方は猶更私達と共に征くべきなのです」
彼女に『仕方ない』と言い訳を作ってあげること。
悪い事をしているというストレスに対する、よすがになってやること。
悪い子になっても、“お姉ちゃんたちが味方になってくれるから大丈夫だ“。
そう思わせること。
「私達は、貴方が悪い子であったとしても一向に構いません。
貴方が私達と一緒に来てくれるというのなら、私は貴女をいらない。なんて言いませんわ」
目の前の少女は、迷子の子供だ。
もしくは親鳥を探す雛鳥と言ってもいい。
誰からも指針を得られず、幼い躊躇いを解消する方法も知らない。
だから、沙都子の自己の絶対の自信に満ちた態度と言葉は、刷り込みに実に効果的だった。
「………でも、願いを叶えられるのは一人だけって言ってた……」
沙都子の言葉を聞くたびに、どんどんカオスの中の天秤は傾いていく。
それほどまでに、沙都子の言葉はカオスにとって心地よかった。
甘い甘い、ジュースの様に毒は広がり、幼い心を犯していく。
「……そうですわね。願いを叶えられるのは一人だけ。
でもね、覚えていますか?乃亜が二人の男の子を生き返らせたのを」
その言葉に、カオスの記憶からオープニングセレモニーの様子が想起される。
この惨劇の始まりとなった二人の少年の再生と死の一幕。
カオスの認識で言ってもあの二人の少年は確かに死亡しており、その後生き返った。
トリックではない。正真正銘の死者蘇生。
乃亜が願いを叶える力を持っているという、証拠。
「乃亜さんにとっては何でもない様に生き返らせていたでしょう?
私はね、あの死者を生き返らせる力と、願いを叶える力は別口なのではないかと思っておりますの」
あれだけあっさりと見せたのだ、乃亜にとっては、死者蘇生は何でもないことなのだろう。
もし願いを叶える力によって蘇生させたのだとしても、死者蘇生は副産物として叶えられる可能性がある、と沙都子は持論を述べた。
ジュースを買って、当たりが出たらもう一本とでも言うかのように。
言うまでも無く、詭弁だった。
「私としては最終的に雛見沢に帰る事ができれば目的の半分は達成できます。
もし私がお二人に敗れた場合は、その場合はお二人に願いを叶える権利は御譲りしても宜しいですわ」
「……いいの?」
「えぇ、少なくとも、私にとっては」
本心と虚構を織り交ぜる。
無論沙都子に勝利を、梨花と永遠に雛見沢で暮らすという願いを譲るつもりは無いが。
敢えて、自分が敗れた場合は願いを叶える権利を譲ると宣言した。
それでカオスさんは願いを叶えられるし、私達も死なずに済む。
死なずに生きて帰られれば目的の半分は達成できるというのも、嘘では無かった。
梨花と共に生きて帰れば、自分の力だけで彼女を屈服させられる自負があったからだ。
「とは言えこれは私達に大分都合のいい考えなのは否めません。
もし願いで叶えられるのが、本当に一つきりなら───
その場合は、カオスさんに選んでいただくほかはありませんわね」
私達を生き返らせるか、それともそのまま願いを叶えてお兄ちゃんのお家に戻るか。
ともすれば沙都子にとっても都合の悪い想定だったが、彼女はそれを口にした。
当然、カオスの表情は曇り、押し黙ってしまう。
だが沙都子に焦りはない。このカオスの反応も想定通り。予定調和でしかないからだ。
「……もし仮に、いい子になるための願いではなく、私達を生き返らせてくれるのなら。
カオスさんの大切なお兄ちゃんに私も一緒に謝ってあげますわ」
-
カオスさんは私たちの言葉に従って動いていただけのこと。
カオスさんのやったことが貴方には悪い事に映るかもしれませんが。
彼女に罪は何もない。ただ貴方の為に必死なだけだった。
そう弁護する事を、約束したします。
どこまでも優しい声で、その口約束を、魔女は述べた。
「……お兄ちゃん、許してくれるかな……?」
縋るような声で、天使は魔女に尋ねる。
かかった、と沙都子は心中でほくそ笑んだ。
全ては計画通り。
誘ってみれば当初描いた絵図の通り、彼女は自分を頼みにしようとしている。
このまま、自分が舗装したレールの上に誘導していく。
「もしかしたら、許してはくれないかもしれませんわね」
その言葉に、びくりとカオスの小さな肩が震える。
落胆と失望がない交ぜになった彩で、二つの瞳が沙都子を見つめてくる。
ここだ、と思った。
百年の惨劇の中で鍛えた、苦楽を共にした仲間すら欺く演技力。
その演技力で作った真摯な態度で、救いの糸を垂らした。
この子は、最初から智樹という方のお家を求めていた訳ではない。
その前に、マスターという方に拒絶されたから、代替として縋ったのだ。
という事はつまり。今の彼女が最も欲している言葉は───
「───でも、その時は、私がカオスさんのお家になってあげます」
カオスの両眼が見開かれる。
信じられない物を見る目で、沙都子を見つめる。
数十秒の時を置いてやっと、彼女は確認の言葉を発する事が出来た。
「……え…と………?おねぇちゃん、が……?」
「えぇ、帰るお家が無いと泣くなら、私と一緒に雛見沢に行きましょう。
そこで梨花と、私と、三人で暮らしましょう。豊かな自然と、気心の知れた私の仲間に。
部活メンバーに、カオスさんを紹介して差し上げます」
少なくとも私の仲間に、悪い子だからと爪はじきにする様な方はいません。
皆さんそれぞれ手強い精鋭たちですから。
そんな仲間達と、カオスさんも永遠に、ずっとずっと雛見沢で遊んで暮らしましょう。
本当に輝くような笑顔で、そう言った。
その笑顔に嘘は無かった。
最早信仰と言ってもいい、病的なまでの自らの故郷に対する絶対の憧憬がそこにはあった。
完全にネジが外れている。
その語り口や笑顔を見る者が見ればそう評したかもしれない。
だけど。
「───いいの?私、悪い子でも沙都子…おねぇちゃんと一緒にいていいの?」
生みの親にすら『廃棄処分』だと断じられ。
心を許した相手に帰って来るなと拒絶され。
独りきりだと思っているカオスには、沙都子のその笑顔は。
どうしようもなく、輝いて見えてしまった。
「えぇ、勿論……あぁ、そうですわ。メリュジーヌさんも、
願いと死者蘇生が別口の力だった場合は……私達を生き返らせて頂けます?」
と、そこでここまで沈黙を保っていたメリュジーヌに、沙都子は話を振る。
カオスから見えない様に、分かっているな?という目配せをして。
彼女から、言葉を促す。
「……あぁ、君はどうなろうと知った事じゃないけど……
少なくとも、カオス。君は蘇生するように持ち掛けてもいいと思ってる」
その言葉に嘘は無かった。
カオスを懐柔するため、という打算もあったが。
彼女にとってもオーロラのための願いは譲れないけれど、それさえ叶えば後はどうなろうとどうでも良かった。
殺し合いが終わった後に、自分が生きていくつもりすら、彼女にはなかった。
オーロラの最期をもっと穏やかになものにする願いが叶うのなら、後はどうでもいい。
何なら全員を生き返らせることができるなら、そう持ち掛けても良かった。
そう思っていたから、彼女は沙都子の望む台詞を吐いた。
-
「私が入っていないのは良しとしましょう。メリュジーヌさんは素直ではありませんから。
という訳です、カオスさん。貴女さえよければ…私達と一緒に来てください」
「あ……」
メリュジーヌの意志を確認した後、沙都子は改めて協力を持ちかけた。
そっと、隣に座るカオスの小さな体を、優しく抱きしめて。
そして、耳元で甘く、蕩ける様な声と共に。
「私達が勝つためには、貴方の力が必要なんです」
その言葉を聞いた時、カオスの身体に電気が走った様な錯覚を覚えた。
ここまで誰かに必要とされた事なんて、今迄なかった。
───カオス、お前は廃棄処分だ。
───エンジェロイドは帰ってくんなーッ!!
脳内のデータから、これまでで最も痛かった記憶が蘇ってくる。
でも、抱きしめられて伝わってくる沙都子の体温が、彼女の肢体の柔らかさが。
その痛みを、癒していく。
───あぁ、そっか。これも…愛なのね。
沙都子の言った通りだった。
痛みを与える愛もあれば、痛みを癒す愛もある。
彼女は、それを自分に教えて、与えてくれたのだ。
それを認識した時、同時に、ついさっきの記憶が浮かび上がってくる。
自分と戦った、帽子の少年の言葉。
自分を惑わせていた、原因が今一度蘇る。
───そいつは、本当にこんなことをして、キミを褒めてくれるのか。
その言葉を思い出した時。
じくりと、動力部がまた痛んだ。
だから。
「───うん、私…沙都子おねぇちゃんたちと一緒に行く」
もう私は、痛い愛はいらないの。
帽子のお兄ちゃんの愛よりも、沙都子お姉ちゃんの愛の方がいい。
私は沙都子お姉ちゃんと一緒に行く。
だって、お姉ちゃんは。
私が、悪い事をしても一緒にいてくれるって、そう言ったから。
私が悪い子でも良いって、言ってくれたから。
だから沙都子お姉ちゃんの為に。沙都子お姉ちゃんの言う通り。
一緒に、皆に“痛い“愛を与えてあげるんだ。
もう、そう決めた。
私を助けようと走って来る帽子のお兄ちゃんの姿が何故か頭に浮かんだけど。
今は遠く色褪せていて、直ぐに消えてしまった。
でも、いいよね?
もう私に“痛い“愛はいらないんだから。
-
■
「ありがとうございました。メリュジーヌさん。
私ひとりでは梨花に夢中で、見落としていたでしょうから」
けど、まさか貴方の方から持ち掛けてくるとは思いませんでしたわ。
流石私の右腕ですわね。
そう言って、沙都子は共犯者に笑いかけた。
「礼なんていい。今、君の顔を見ると反吐が出そうだ」
「辛辣ですわね。言っておきますが私、あの子に言った言葉は大体本心ですのよ?」
だから性質が悪いんだ。メリュジーヌは心中で吐き捨てた。
沙都子がカオスを利用する為に近づいたのは間違いないのに。
愛の為に戦うという思想に共感を抱いたのも。
もし彼女が大切な人に拒絶されれば、一緒に故郷に行こうと誘ったのも。
生還さえ叶うのなら、自分が敗北した時は願いの権利を譲ってもいいという言葉すら。
カオスにとって重要な部分は全て本心なのだろう。
最後の三人になるまでずっと一緒にいる、というのも嘘ではないはずだ。
だって、この三人の中で一番弱い彼女が勝とうと思えば。
自分とカオスを潰し合わせるのが、最も達成に近づくのだから。
メリュジーヌも舌を巻くマインドコントロールの手腕だった。
「あの子には私の左腕を担ってもらうために、うんと優しくしてあげようと思います。
あの強さに変身能力。効率的な使い方を教えてあげれば鬼に金棒ですわ」
古物商で掘り出し物を見つけた様に、沙都子は上機嫌だった。
カオスの非常に高い戦闘能力に変身能力にこの性悪の入れ知恵が合わさればどんな惨劇が起こるかは想像に難くない。
それを承知の上で、メリュジーヌはカオスの話を持ち掛けた。
優勝に近づくために。
「…僕はこれから遊撃に出る。それでいいんだね?」
「えぇ、折角これからはカオスさんが私の護衛をして下さるんですもの。
それならメリュジーヌさんには鉾として動いてもらった方が効率的ですわ」
遊撃はメリュジーヌに割り振り、カオスはこれから暫く自分と行動を共にしてもらう。
それが沙都子の決定だった。
下手に別行動を取らせて、また誰かに懐柔されても困るからだ。
それならば、自分の手元に置いておいて更に自分に依存させておきたい。
そんな目論見の下、沙都子は支給されていたイヤリング型の機器をメリュジーヌに渡した。
「通信機ですわ。これで離れていても貴方とお話しできます
説明書を挟んでおきましたから後で確認しておいてください」
両耳につけるイヤリングと同じく、二つで対になっている通信機。
これで単独行動を取っても、直ぐに合流する事ができる。
「…他の参加者を減らすことに異論は無いけど、考え合っての方針なんだよね」
「勿論、いずれ優勝するのなら……悟飯さんや、
カオスさんも言ってらっしゃった悟空さんとも勝負する事を考えなくてはいけません。
そうなれば、殺害数を稼いでおくことに越したことはありませんわ。何故なら…」
恐らく、私の見立てでは早ければ朝の放送。遅くとも次の放送には……
殺し合いを加速させるための特典が発表されると思います。
そんな根拠のない推論を、しかし自信満々に彼女は口にした。
「乃亜さんも言っていたでしょう?忠実で優秀な参加者には見合った評価を与えると。
殺害数上位の参加者には追加で支給品を用意したり、或いは傷の治療を行ったり……」
そう言った特典を経て得られる支給品は、強力な物の可能性も高い。
自分が主催者でも、そう言った殺し合いをした方が得だと言うルールを追加する。
殺し合いの加速と、反乱分子への牽制にもなり、一石二鳥だ。
そして、そんな支給品の中にはメリュジーヌをして全てを賭けて挑まなければ勝てるか分からぬ孫悟飯達にも通じる支給品があるかもしれない。
「ま、この話についてはまだ決まった訳ではないので、話半分でいいですが…
変身能力のあるカオスさんが仲間になってくれたんです。先ずは身近な方で試運転しましょう」
得意げな沙都子の様子に、メリュジーヌは面白くないと言った様子で鼻を鳴らした。
確かに、参加者を減らすことに異論はない。ないが───
「沙都子おねぇちゃーん!メリュ子おねぇちゃーん!」
何故真っ先に変身させるのが自分なのか。
憤懣やるかたない思いを抱かずにはいられなかった。
そう、カオスの現在の姿は、メリュジーヌと瓜二つのものになっていた。
-
「見つけたよ!さっきの子達、みなとの方に行ってた」
「そう、ありがとうございます。カオスさん。
……だ、そうです。メリュジーヌさん。後はよろしくお願いしますわ」
沙都子に頭を撫でられて嬉しそうに笑顔を浮かべる自分の顔と言うのはメリュジーヌにとってどうにも不快なものだった。
だが当然口には出さず、粛々と出発準備を進める。
カオスは既に沙都子に懐いている。演技では無いだろう。
これなら自分が離れても彼女が沙都子を守る筈だ。
「カオスさんの話では、黒の長髪の男の子は、龍亞さんと同じカードを使う様ですから、
気を付けて。可能なら奪って来てください」
「…君がいずれ僕達を殺すため、かい?」
「まさか、戦力は多いに越したことはないでしょう」
白々しい言葉を吐く同盟者に冷ややかな視線を送りながら、これから向かう方向を見る。
その方角には、先ほど逃げられた対主催達が目指していると見られる港があった。
「我々は適当な参加者と接触して、貴方のアリバイ作りをさせて頂きますわ。
朝食を用意して待っていますから、放送前にもう一人か二人、お願いします」
沙都子の立てた計画はこうだ。
本物のメリュジーヌにはこれから既に沙都子の悪評を知っている参加者……
港に集っている者達を襲撃してもらう。
本物のメリュジーヌが暴れている間に、メリュジーヌの姿となったカオスと共に他の参加者に接触する。
メリュジーヌから仕事を果した連絡が入れば、頃合いを見てカオスと入れ替わってもらう。
そして、カオスにはシカマルや一姫、悟空などの邪魔な参加者に再度変身してもらい、本物のメリュジーヌと八百長の勝負をしてもらう。
その後、また頃合いをみてメリュジーヌに変身したカオスに入れ替わってもらい、本物のメリュジーヌは遊撃に徹してもらう。
こうすることによって、メリュジーヌはアリバイがあるまま殺戮に及ぶことができ。
入れ替わりの際に邪魔な参加者の姿で襲わせる事によって参加者間で不和が見込める。
「人は一度信じたものを疑いなおすというのは難しい生き物ですもの。
まさか、姿を騙られた側と騙った側がグルなんて真相、なおさらですわ」
シカマルや一姫の様な勘のいい参加者にバレた場合は、メリュジーヌを呼び戻し、カオスの二人で押しつぶしてしまえばよい。
それだけの戦力がこの二人にはあるのだから。
そして、殺害した参加者はカオスに食べさせて戦力の強化を図る。
つくづくいい拾い物をしたものだと、沙都子は己の天運に身震いする思いだった。
「……仕事が終われば連絡する。それじゃあね」
対するメリュジーヌは何処までも冷淡な態度で。
愛想も愛嬌もない事務的なセリフと共に、飛び立とうとする。
だが、先ほどまでと違い、そんな彼女の背に「待って!」と呼びかける声があった。
「メリュジーヌおねぇちゃん……」
振り返れば、カオスが沙都子の隣で自分を見上げていた。
その瞳は無垢で、無邪気で、メリュジーヌへの信頼があった。
ああ、その様はまるで。
自分が育てた、“彼”のようで───
「あの…沙都子おねぇちゃんは…私が守るから、頑張って」
やめろ。
やめてくれ。そう願わずにはいられなかった。
僕は、君に感謝されるような者ではないのだと。
私は、自分の願いを叶えるが為に。
未だ引き返せたかもしれない君を、魔女に売ったのだから。
僕が沙都子に言わなければ、君の未来はきっと違ったモノになったのだから。
私は君を、地獄の道ずれにしてしまったのだから。
そう言った言葉の数々が、喉元まで昇りつめてくる。
だが、耐えた。耐える事ができてしまった。
オーロラの為なら、彼女の無垢な視線も耐えられた。
「……あぁ、沙都子の事はよろしくね。カオス」
高度を落として、カオスの頭を撫でる。
それだけで彼女は嬉しそうに頬を染めて、心地よさそうに瞼を細めて。
力強く、頑張ると言ったのだった。
ぎこちない笑みだったが、どうやら彼女に疑念は抱かせなかったらしい。
-
「それじゃ、発艦(で)るよ」
ボッ、と炎の様に、魔力を噴出する。
もう、振り返ることは無い。
「行く前に念押ししておきますが、できる限り他のマーダーの方は───」
「交戦を避けるんだろう。僕も勝手に他の参加者を減らしてくれる相手を削りたくはない」
「よろしい。気を付けていってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしていますわ」
沙都子の言葉を無視して。
一瞥もしないまま、飛翔を開始する。
暁の空を切り裂き、沙都子からはあっという間に見えなくなる。
「さて、では私達も行きましょうか、カオスさん。
梨花達が私の悪評を広める前に、できる限り他の参加者に会っておきたいですし」
「うんっ!でも、その前に───」
「その前に?」
「もう一回、なでなでして…沙都子おねぇちゃんの愛が欲しいの……」
何だそんな事かと苦笑して。
メリュジーヌの姿のカオスを、沙都子は優しく撫でた。
本当に、いい拾い物をしたものだ。
カオスは勿論、メリュジーヌもだ。
自分一人では梨花に集中するあまり、カオスの様な他の重要な事を見逃していた。
例え気づいていたとしても、メリュジーヌの飛行速度がなければ追いつけなかった。
仮に追いついていたとしても、彼女の戦闘能力がなければ死んでいただろう。
あぁ本当に、つくづく以て。
「やっぱり貴方は優秀なる私の右腕(きょうはんしゃ)ですわ。メリュジーヌさん?」
一体だれが信じるだろうか。
異聞の空において、最も強く美しいとされた、最古の竜と。
シナプスの最新鋭エンジェロイドを従えているのが、ただの人間の少女など。
■
身体の奥から、黒い物が溢れそうになる。
気を抜けば、自分が厄災に変わってしまいそうなそんな予感があった。
だが、まだだ。まだ自分は厄災となる訳にはいかない。
まだ、オーロラへの愛がこの身を燃やし尽くすには早すぎるのだから。
───そいつは、本当にこんなことをして、キミを褒めてくれるのか。
竜の五感は、人のそれを遥かに凌駕する。
サトシと言う少年のその発言は、メリュジーヌの耳にも届いていた。
「くだらない」
しかし、心にまでは届かない。
彼女は理解しているからだ。
少年の言葉は正しい。正しさは周囲を惹きつける。だけど。
その正しさは決して、オーロラへの救いにはなりえない。
彼等の様な、周囲を惹きつける輝きを持つ者達がいる限り。
オーロラは、決して一番になりえない。
故に彼等ではオーロラは救えない。
オーロラの救いにならないのなら、自分にとってどんな言葉も救いも意味がない。
「あぁ、殺してやるとも───」
元より彼女の身は既に未来がない。
生還したとしてもオーロラを喪った今、そう遠くないうちに彼女の身体は厄災と化すか。
それともオーロラと出会う前の腐肉に戻るか、その二択なのだから。
だから命の燃やしどころはここだと既に彼女は定めた。
未だその身は厄災にあらじ、しかし対主催達への暴威として振舞う事に微塵の躊躇もない。
ただ彼女は機械の様に、戦いに身を委ねる。
「───全員、暗い沼の底に連れて行こう」
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【E-3 モチノキデパート屋上 /1日目/早朝】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(7/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:カツオを経由で、悟飯を扇動してもらう。今の不利な私の立場は使えますわ。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス半壊、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、メリュジーヌに変身中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
【F-2 /1日目/早朝】
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、鎧に罅、自暴自棄(極大)、イライラ
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』
[道具]:基本支給品、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
1:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
3:港にカチ込み、集まった対主催達を削る。
4:カオス…すまない。
5:絶望王に対して……。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
【イヤリング型携帯電話@名探偵コナン】
メリュジーヌに支給。
4〜5cm程のイヤリングの形をした携帯電話。
見た目は片方のみの有線イヤホンとキーパッドが付いたイヤリング。
携帯電話の技術進歩に置いて行かれた博士の発明品である。
親機と子機として二対支給されており、通話ボタンを押すだけでお互い話ができるように乃亜に改造されている。
また、番号さえ知っていれば当然通常の電話やスマートフォンとも通話できる。
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投下終了です
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投下ありがとうございます!
メリュジーヌ、自分と似た境遇の女の子を見て同情したりパーシヴァルと重ねたりと優しさも垣間見えなくもないんですけど、それよりも愛が上回ってしまうのが痛々しい。
サトシの台詞が、カオスとメリュ子に刺さってるのも好きですね。
メリュ子はサトシの真っすぐな台詞にも理解を示しつつも、オーロラの救いにはならないから分かり合えない。
カオスは本当は自分を想ってくれる言葉なんですけど、それ故に痛みを伴ってしまうから拒絶して、沙都子の表面上だけは甘い愛に靡いてしまった。
二人とも救いの道はあったんですけど、メリュ子にとっては本当の意味での救いではないし、それに巻き込んでしまったカオスに罪悪感を抱くの、なんか芸術的。
みんな可哀想だけど、一人だけ同情できないダラズの沙都子。これもう詩音をぶち込んでやりたいですね。
>そこで梨花と、私と、三人で暮らしましょう。豊かな自然と、気心の知れた私の仲間に。
本心らしいですけど、梨花ちゃんとても困りそう。
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輝村照(ガムテ)、ヘンゼル
予約します
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投下します
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「…うぅ、何て屈辱なの」
「バーロー! 殺し合いなんかに乗るからだろ」
ハンディ・ハンディは敗北した。
殺し合い開始から1時間後、どの参加者よりも早く病院を根城とし、あらゆる罠を仕掛け、人間を狩ろうと待ち続け早数時間。
ようやくやってきた得物、江戸川コナンと風見雄二、特に雄二はまだ幼いが中々の色男だ。
これは楽しんでから、食べてあげなくちゃ。そう、嗜虐的な笑みを浮かべ病院内での闇に紛れ、そして息を潜め牙を研ぎ、待ち伏せる。
「どうして、1個も罠に引っかからないのよォ!!!」
運が悪い事に、雄二はただの子供ではない。少年兵として、テロリストの教育を受けてきた。
罠の回避などお手の物で、しかも相方には知識頭脳共に優れたコナンが居たのも、ハンディ・ハンディにとっては災いした。
お互いの知識を掛け合わせ、不足分を補いながらいとも簡単に病院内を突破され、そのままハンディ・ハンディは無力化されてしまったのだ。
「くゥ…あのクソガキのせいで、とんだ厄日だわァ!!」
クソガキとは海馬乃亜のことでもあり、チン毛捕食後交戦したルーデウス・グレイラットでもあり、こんな体でさえなければ殺し合いなんぞに巻き込まれることもなかった、現在のボディの本来の主である左吉のことでもある。
遡れば、そもそもあんな場所で、立ちションさえしていなければこんなことには…!
「コナン、こいつなんだと思う?」
「頭に、カニパン付いてんだぞ。人類か甲殻類なのかも、分からねえよ」
「哺乳類……か?」
左吉の肉体はともかくとして、この愛らしい本体の頭部をカニパン呼ばわりされ愚弄されているというのに、ハンディ・ハンディはただ耐えるしかなかった。
なにせ、全身を縄でグルグルに拘束され、頭部の指も丁寧に結ばれて床に転がされている状態なのだ。
こうなれば、加工されて紐で縛られたハムのようなもの。生殺与奪の権を、他人に握られているといっても良い。
罠を突破した雄二とコナンを相手に、激戦を繰り広げたものの敗れ去ったハンディ・ハンディに尊厳はなく、ただ屈辱を募らせていくばかりだった。
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「こいつの処遇を考えておこう」
「……その前に、少し休んでおこうぜ」
背負っていたランドセルを下ろし、縛って転がしたハンディ・ハンディに警戒しつつもコナンは待合室に備え付けられたソファーに腰を預けた。
「雄二、おめーも休むんだよ。寝ろとは言えねえけど、座るくらいはしとけ」
「……気を遣わせて悪いな」
「そんなんじゃ…ねえよ」
お菓子の家に墜落し、そして条河麻耶の死を確認した雄二とコナンは、病院内を調べる前に彼女を埋葬していた。
その時に当然、首を切り落とし首輪の回収も忘れてはいなかった。普段のコナンであれば忌避すべき行為だが、参加者の枷である首輪の解析は避けては通れない。
そして、その解析をぶっつけ本番で自分達の物で行うにも、リスクは高い。
雄二もその必要性に気付いていたようで、斬月という大剣と既に調達していた毛布をランドセルから取り出していた。
そのあとの行為は、コナンですらあまり思い出したくない光景だった。
コナンも手伝いこそしたが、現在進行形で破壊されている遺体よりも、それを行っている雄二の方が壊れそうなほどの表情で、何度もゲロを吐いて、その手付きは震えながら、だが一切止めようとせず、全ての作業は行われた。
「雄二……」
先ほどまでは事態が切迫していたのと、ハンディ・ハンディの対処に追われ落ち着いて話も出来なかった。
だが、明らかに雄二の出自は異常だ。
コナンが分かる範囲でも、軍の経験を積んでいるし殺しの技術を磨いている。
本人も軽くだが、少年兵だったと話してはいたが、これだけ流暢な日本語を話せる日本人の子供が、戦場に赴く事などありえるのだろうか?
それがありえたとして、とてもではないがまともな過程を経てはいない。
精神も擦り減り、正常な人格の維持も困難であるはずだ。
それでも、マヤを保護しコナンと協力体制を取るなど良心的な行動に移れるのは、彼が真に強い心持ち続けているからなのだろうか。
むしろ、壊れかけた心を何かで繋ぎとめて、強引に補強している。そんな風に、コナンには見えた。
だからこそ、真実を追求する探偵のコナンでも、迂闊に雄二の過去に足を踏み入れさせるのを躊躇ってしまう。
(そもそも、どうすればいい……?)
雄二が何かの犯罪に関わったのは間違いない。
だが、それを追求すべきなのか? ゼオン達への殿を引き受けたのを鑑みれば、善良な人物だ。
元の法治国家である日本国内であれば、しかるべき施設に手厚く保護されるべきだろう。
当然、雄二を利用した大人達は法の裁きを受けさせた上で。
けれども、この島に法はない。それどころか、より凄惨な死と戦場が充満する殺し合いの場だ。
少なくとも、この場においては雄二を保護する法も救うための術も存在しない。
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(このままじゃ、こいつ)
法が届かぬ辺境の地で、自分の無力さをここまで痛感させられるとは思いも寄らなかった。
未だに、少年を捕食した少女や電撃の少年への対策すら見つからない。
今、この瞬間も殺し合いは加速し犠牲者は増えるばかりだというのに、事件を解決させるための手掛かりすら掴めていない。
「えーーー!!! なんで、お菓子の家が壊れてるのぉーー!!
「「!?」」
それの到来に、最初コナンと雄二とハンディ・ハンディは地震かと勘違いした。
だが、リズミカルにずしんと地響きが轟き、そして爆音で響く声量で二人と一匹は一人の人間のものであると認識する。
病院の窓越しに外を除けば、巨大な肉の風船のような少女が数mはある巨体を揺らして叫んでいた。
横に居た二人の幼児と少女など、まるで人形の玩具のように見えるサイズ差だ。
「た、助けてェ!! 私はここよォ!!!」
「バーロー……!!」
好機とばかりにハンディ・ハンディは叫ぶ。
こうなった以上は、事態をかき回して脱出のチャンスを狙う。
最悪の場合、自分と一緒にコナン達とも共倒れてもらう。
その思惑通り。
巨体の少女、シャーロット・リンリンは鋭い聴覚でハンディ・ハンディの声を聞き取り、病院へと駆け出して行った。
───
-
「喧嘩は良くないから、仲直りしないと駄目よー」
「イヒヒヒヒ……リンリンは良い子ね」
(こんな化け物、さっさと殺しなさいよ)
エスターは内心で舌打ちしていた。
佐藤マサオと共にリンリンを言い包め、そして彼女の庇護下という名の安全圏を手に入れたのが数十分前。
そして同行してお菓子の家に来たのは良いが、その近くの病院に囚われていた頭にカニを付けたアホ面の化け物、本人はハンディ・ハンディと名乗るそれ。
どう見ても人類に仇なす醜い化け物を───というか、服にべったり血が付いていた───リンリンは喧嘩は良くないと説教をし、コナンと雄二に、半ば脅迫染みた要求を通し、解放させたのだ。
「あなた、魚人さんなのね」
「ええ、そうよ」
魚人という単語の意味を知らないまま、ハンディ・ハンディは平気で嘘を吐く。
リンリンからしてみれば、ハンディ・ハンディはかつて共に羊の家で暮らした魚人の子供そのものだった。
魚人は魚の特徴を持っている。だから、それを引き千切ってはいけない。マザーに、キツく言われてきたことだ。
もしも、羊の家に妖精のような羽を持った種族が居たのであれば、きっとそれはマザーから、同じ人間であると厳重に注意されていて、きっととあるエンジェロイドにも違った未来があったかもしれない。
「みんな、仲良くして。仲良くしてるうちは俺がまもってあげる!!」
(仲良くしてるうちは?)
コナンの中で、引っかかる言動だった。
先ずこの少女は年相応に純粋で、だがそれに見合わぬ強大な力を秘めている。
だから、説得は通じないし、ハンディ・ハンディの解放もやむを得なかった。
ただ、それら一連の流れは彼女の幼い善性から来るもので、何とか後から追々意識を矯正出来ればとコナンは考えていた。少なくとも、悪人ではないのだから。
しかし、この言動はまるで独裁者のようだ。自分の意に沿えばいいが、そうでなければ誰であろうとも許さない。
そんな意味合いに聞こえてしまう。
(考えすぎか? ただの子供が、深く考えず話してるだけか?)
(この眼鏡のガキ、何なのよ…まるで刑事みたいじゃない)
エスターもまたコナンの異様さに気付き、苛立ちながら警戒を強めていた。
『あれれぇ〜お姉さん、入れ歯なのぉ?』
『お姉さん、リボン着けるのが好きなんだねぇ〜』
『おっかしいぞぉ〜。手が赤いよ。何か殴ったのぉ〜?』
エスターは年齢がバレるのを避ける為、歯の治療を受けられず、状態が悪い、さらに永久歯である事も隠す為、入れ歯をしている。
そして、精神病院での度重なる凶行から、全身を拘束された時、手足と首に消えない痣を作ってしまい、それを隠す為にリボンを巻いて隠していた。
そして、この殺し合いに呼ばれセリムと遭遇する以前、癇癪に任せて壁を殴ったり家具を破壊したせいで出来た手の傷。
これらを初対面の数秒間で、瞬時にエスターの不審点として的確に見破り、とぼけたふりをしてコナンは追求してきた。
エスターの勘だが、恐らくこのガキはただの子供じゃない。
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(……下手にナルトとかいうのと、影使いのガキの話はしない方が良いわね)
最悪の場合、自分の正体がバレてもこの子供は日本人だ。流石に、ロシアの精神病院の患者の事なんて知らない筈だし、事件も日本では報道されていないだろう。
体が成長しない不幸な病の上に、殺し合いに巻き込まれた運の悪い女性を演じれば、コナンもそれ以上、何も手は出せまい。
だから、悪評に関してはボロが出るのを避けて、ここでは吹聴しないのが得策。
「あのね。コナン君、雄二さん…うずまきナルトっていう───!!」
マサオに悪気はなかった。だが、リンリンもさることながら人の悪意を小さな体にありったけ閉じ込めたような、そんなエスターに対しても恐怖を抱いていたマサオは、特に何も命じられてもいないのに、失敗したら殺されると、常に気を張り続けていた。
だから、先走ってリンリンに吹き込んだのと同じ悪評を口にしてしまう。
「マ サ オ……?」
「ひ、ひぃィィ!?」
期待に沿えなければ、切り捨てられ殺されてしまうだろうと怯えながら。
「マサオが言うには───」
最悪だ。最悪の展開だ。
自分の見た中で、大人もひっくるめてこの江戸川コナンは最も優れた頭脳の持ち主だ。
下手な嘘は即座に見破られる。だから、ここでは下手な事は口にしないつもりだった。
それを独断で、マサオは勝手に口走ってしまっている。こうなった以上は、エスターも話を合わせるしかない。
”マサオが”と強調して、エスターも可能な限り自分に責任が向かないよう、マサオに合わせた偽りの真実を述べていく。
「……そうか」
「……」
コナンと雄二は静かに聞き、訝しげにエスターを見つめていた。
やはり、こいつら普通の子供じゃない。
今はリンリンが居るから、何も言わないが間違いなく疑われている。
こいつらが、もしもナルトや別の対主催と合流すれば、こちらの立場が悪くなるというのに。
「ね! ひどいやつらだから、おれが懲らしめてやるの!!」
エスターとマサオに同調するように、リンリンも鼻息を荒くする。
「そりゃ酷いね。なんて、酷い奴等なんだ」
その声はコナン達でもなければ、リンリン達でもない。
軍服を着た隻眼の少年が、わざとらしく頷いてリンリンに向けて喋っていた。
先ほどまで、そこに居たかのように馴れ馴れしく、そして何時からいたのか誰にも分からない。
「うん! おれ、悪い奴等やっつける! お前も仲間になるなら守ってあげる!
おれと海賊やろう!!」
「本当かい?」
コナンとエスターは急に現れた目の前の少年を見て、それを測りかねていた。
ふっと風のように現れたようだ。
それでいて抜けているような呑気な仕草。
今までに見たことのない人種だ。
-
「コナン…」
「雄二?」
「ひいいいいいいいいい……!!!!」
だが、雄二は冷や汗を流し、ハンディ・ハンディは小さく悲鳴を漏らし、それを両手で抑え込んでいる。
まだ幼いとはいえ戦場を生き延び、磨き上げられた雄二の直感と。
人間を超えた人外の本能が、警鐘を鳴らしている。
「僕はウォルフガング・シュライバー。よろしくね、海賊のお嬢さん」
「おれ、リンリン! ……そうだ、マザーって人、知らない? 急に消えちゃったの!!」
「さあ? それよりさ、悪い奴等と戦う前に練習しようか」
「練習?」
轟く銃声。
リンリンがシュライバーを見れば、その手に握られたルガーとモーゼルが銃口から煙を吹いていた。
子供のリンリンでも分かる簡単な道理。
シュライバーがリンリンの仲間を傷付けようとしている。
「私に感謝しなさい。マサオ、あなた良いものもってたわね」
数千を超える銃弾の雨。
ハンディ・ハンディが、この場で最も弱く人権が存在しないと目ざとく見抜き、マサオから支給品を奪う為に引っ手繰ったランドセルから、数匹の奇怪な生物が飛び出した。
マサオにとって幸運だったのは、殺し合いの開始から現在に至るまで碌に落ち着く時間もなかったことだろう。
お陰で支給品を確認する暇もなく、ランドセルを空けたと同時にこの怪物たちと鉢合わせずに済んだ。
肥大した下腹部に人の足が二本、目と鼻はなく口らしき部位の下に左右二本ずつ計四本の人の手。
人間と獣をアンバランスな配合をしたような気色の悪いそれは、タッと飛び上がり、口を大きく開き、シュライバーの弾丸を飲み込んだ。
膨大な銃弾の質量を一気に飲み干し、腹部が風船のようにボンッと膨らむが、まるで苦しむ様子もなく、腹に収めてしまった。
「アハハハ! これは私の子供達、ミサイルだって平気で食べちゃうの! 人間よ、恐れなさい私を!! そして崇めるのよ!!」
耐ミサイルへの性能を持つ、人間や吸血鬼が変異した特殊な変異種。
国連のミサイルを飲み込み体内で爆破しても、平然とする強固な内臓器官を兼ね備えている。
「みんな、こいつの後ろに隠れろ!!」
コナンの声にリンリン以外の全員が賛同し、ハンディ・ハンディの後ろに回り込む。
雄二はすかさず羽交い絞めにし、コナンとエスターも身動きできないよう抑え付ける。
「え、ちょっ……私を盾にする気!? やめさないクソ人間ども!!!」
「あはははははははははははははは!!!」
「ひいいいいいいいいい」
さらなる銃撃に餌を与えられた鯉のように群がり口を開ける変異種達。
確かに、強固な口と内臓を持っているとはいえ、シュライバーの連射速度は尋常ではない。吸血鬼はおろか、アマルガムでさえあんな芸当を再現出来る者はそうはいない。
このまま銃弾を食わせたとして、いずれ上限の容量を超えパンクするのでは?
「おれの…ともだちをいじめちゃ、駄目ェ!!」
「───!」
愉快に笑っていたシュライバーの隻眼が見開き、リンリンを見つめる。
射撃を止め、一気に後方へ飛び退く。
その視線には嘲りがなく、むしろ一瞬のみだが強い危機感と同時に懐かしさが含まれていた。
既知感を覚えたからだ。黄金に屈し、誰よりも速く忠誠を使ったあの瞬間と。
この醜く膨れ上がった肥満(デブ)の放つ、覇王色の覇気(プレッシャー)。
黄金のそれと同等ではない。だが、同質の覇気。
世界は違えど、世界を手にする巨大な力の一端。
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「お友達を守るんだろ? なら、力を示せ」
覇王色の覇気という名も知らなければ知識もない。
だが、未熟ではあるが、紛れもない王の素質を持つ者であると嗅ぎ分けた。
決して黄金には及ばないが、ただの凡夫でもない。
「少しは楽しませなよ。
仮にも王の資質(それ)を持つんだ。つまらない戦場を宛がうなら許さない」
刹那、シュライバーが消えた。
遅れて、雨のように降り注ぐシュライバーより生成された魔弾。
「いったぁい……!!」
たったの二丁の拳銃から数千もの弾丸を弾き出し、リンリンの全身を撃ち付ける鉛の嵐。
だが、服が少し破ける以外は一切の傷も付かず、血の一滴すら流れない。
四皇と呼ばれる大海賊として名を馳せた未来では、リンリンは鉄の風船と呼ばれるほどの鉄壁の肉体を誇り、それは幼少のころから既に健在であった。
だが、全身を延々と突かれるのは気分が悪い。リンリンはむっとしながら、握り拳を作って殴りかかる。
「こ、のォ!!」
大地に隕石が墜落したかのような、数メートル単位のクレーターを刻み込まれる。
だが、その中心にあるのは人の拳だった。
リンリンが思いっきり、ただ子供の稚拙な暴力を振るったそれだけで、地形が変動しかねない規模の振動が大地を震わせる
「鈍いんだよォ!」
クレーターから内から飛び上がり、更にもう一発、更にもう二発。
拳を振るっては大地を揺らし、その破壊音はエリア一体に響き渡り地形が変貌する。
土煙が撒き上がり、爆音が響き渡る中、シュライバーは涼しい顔でリンリンの拳を回避していく。
丸々と太った巨体からは想像も付かない程の俊敏な速さ。砲弾が意思を持ったように縦横無尽に飛び跳ね、殴り、蹴り、体当たりを繰り返す。
辺り一帯のコンクリートが砕けて、舞い上がり、更にそれを巨体が触れて弾き、流れ弾が四方八方に飛散する。
人間がまともに息を吸うことすら叶わぬ死地のなか、全ての敵意と殺意を注がれ、未だシュライバーは笑みを絶やさず、無傷のまま。
その絶速は触れる事を逃避し、リンリンにより齎されるありとあらゆる質量を持った死を避けていく。
リンリンの猛攻を避け、肉薄し、その顎の下からシュライバーは弾丸を連射し叩き込む。
「ごっ、ぼごごごごォォ!!?」
弾丸はリンリンの顔面に直撃し、とても人体が鳴らす音とは思えない硬い轟音を鳴り響かせる。
眼が、鼻が、口が。ありとあらゆる顔面を構成するパーツを弾丸を叩き付ける。
「やめて!!」
両手を合わせ強く握りこんでから、シュライバーの頭上へギロチンのように振り落とす。
瞬間移動のように白騎士の姿は消えて、空ぶった一撃は大地を砕く。
打ち付けられた地面が罅割れた。巻き上げられた岩盤が、重力に従い雨のように降り落ちる。
シュライバーは器用にそれらを回避しながら、リンリンの数m先の正面で足を止めた。
「口の中、入っちゃった…ぺぺぺぺぺぺぺぺ!!!」
スイカの種のように、リンリンは口からシュライバーの魔弾を吐き捨てる。
その弾丸がリンリンが巻き上げた岩盤を一瞬で蜂の巣にし、数秒で砂塵へと変えてしまう。とても、人間の肺活量で吐き出せる吐息ではなかった。
-
「いやはや、君…凄いね。頑丈さだけなら聖餐杯に次ぐよ。
一応聞いておくけど、人間でいいかい?」
「うん!」
リンリンは満面の笑みで頷いた。
ひゅんひゅん、すばしっこい男の子だけど、何だ簡単な話だなとリンリンは思う。
この子は玩具のピストルで遊びたいだけなのだ。
都合の良い解釈で、リンリンはこの子と友達になろうと思った。
そうすればきっと乃亜の奴も懲らしめられるし、みんなお友達になれればマザーだって喜んでくれる。
だから、目一杯遊んであげなきゃ。
「うん……?」
シュライバーの手刀が、リンリンの豊満な腹に減り込んでいた。
音速をも超えた絶速のそれは、鉄をも引き裂く程の鋭利な矛と化している。
「ちぇっ、自信なくすなァ。腸ぶちまけるつもりだったのに。君、本当に硬いね」
シュライバーが飛び上がる。
振り上げた踵が、蹲ったリンリンの後頭部に落ちた。
ずしんと人体から響くはずのない鈍い音と共に、リンリンの顔面がその形状を維持したまま地面へ減り込む。
本来ならば頭蓋が砕け内容物が外に飛び出し、原形を留めない筈なのだが、リンリンの体はビクともしない。
種族が人間であるのなら、急所である箇所に一撃入れたというのにまるで死ぬ素振りすら見せない。
「が……っ!?」
だが、シュライバーにとってはそれも想定内。
幾ら頑丈であろうと、人間である限り酸素を取り込まねば生きてはいけない。
人の殺し方など、外傷を負わせる以外にもいくらでもある。
踏まれた頭に掛かる圧力が増し、鼻と口を圧迫され、呼吸が困難になり酸素を求めようと起き上がろうとしてする。
だが、シュライバーの足に抑え込まれた顔はびくともしない。
「ははははははははは!! 息を吸えなきゃ死ぬなんて、本当に人間みたいじゃないか!!」
「ぁ、か……は、ぁ……はッ……! ほ…ほんと、し……んじゃ……」
産まれて初めて、もしかしたら別の未来でも鬼ヶ島で最悪の世代、その筆頭たる二大海賊の船長たちを前にした時を除けば、唯一にして初めての窮地。
今までに感じたことのない命の危機と、おぞましい程の他者からの悪意と殺意。
それらを受けながら、平然と笑ってリンリンを甚振るシュライバーの異常性と嗜虐的趣向を目の当たりにして。
幼いリンリンにとっては、全てがトラウマになりかねないほどの衝撃であり、初の恐怖という感情だった。
「ま、所詮は子供か…こんなんで泣きじゃくるなら、もう用はないかな。
このまま死んじゃいなよ」
涙が溢れて、鼻水が垂れて、涎が流れる。
どうしてこんなひどいことができるの? 苦しいし怖いし、何にも楽しくないのに。どうして笑っていられるの?
弱いものいじめはいけないことだって、マザーだって言っていた。
みんな、平等なのに。仲良くすればいいのに。
おれ、死んじゃうの?
「だ、め……」
酸欠の中、朦朧とする意識でリンリンは走馬灯のように思い出した。
マザーや羊の家のみんな、それだけじゃない。ここに来てからお姉さんのように自分に良くしてくれたエスター、美味しそうなおにぎり野郎、カニの魚人のハンディ・ハンディ、賢そうな眼鏡、カッコいい顔した雄二、顔は知らないけどEDのルーデウス、同じく顔は知らないけどお説教しなきゃいけないエリス。
みんな、みんな、自分の大事な友達だ。仲間だ。
「し…ぬなんて……そ、そんなの……!」
守らなきゃ。だって、一番おれは強いんだから。
喧嘩をする奴は止めなくちゃ。死んじゃったら、みんなで美味しいものも食べられない。
「おれは……お前なんかに、負けないんだァ!!!」
叫びと共に両腕を振り上げて地面に叩き付ける。
凄まじい振動と轟音により、リンリンを踏み付けていたシュライバーの体制が崩れた。
その隙に跳ねるようにリンリンは飛び上がり、後方に退いてシュライバーから距離を空ける。
涙を拭ってリンリンは闘志を宿した目でシュライバーを睨む。
-
「うおおおおおおおォォォォ!!!」
雄叫びが木霊する。
拳を振り上げて、リンリンはシュライバーへと突っ込む。
「意気込みは良いけどさ」
速さも威力も、シュライバーからして驚嘆に値する。
だが技術がない。知恵もなければ、経験もない。
どれだけの破壊力を秘めていようと、それは当たらなければ意味がない。
ただの暴力では、最速のシュライバーを捉える事など出来ない。
「そんなんじゃ、掠りもしないんだよ!」
拳を避けて、猛るリンリンの背後に回る。
未だに人間に属する生物なのか、多くの殺戮を繰り返し人間と言う得物を理解し尽くしたシュライバーを以てしても甚だ疑問だが、肉体の構造自体は、飛び抜けて頑丈である以外は人間のそれと大差ないようだ。
銃撃と打撃では、ほぼダメージにはならないが、観察した限りでは、酸素を必要とするのは人間と同じだ。ならば首を圧迫し窒息させてやればいい。
殺し方として、面白味はない。
数十年、死者ばかり殺して欲求不満で、生きている血の温かさや心臓の鼓動も感じたかったものだが、まあそれは後ろの劣等共で楽しめばいい。
それよりも、強い失望感がシュライバーの中を駆け巡る。仮にも、あの黄金を連想させたプレッシャーの持ち主が、この程度とは。
未熟とはいえ、所詮はこんな肥えた豚の劣等には不相応の装飾品だったのだろう。
「なに───」
手順は簡単だ。リンリンの死角から飛び上がり、その巨体に迫り銃撃で撹乱し、本命の一撃を首に見舞ってやる。
シンプルで簡単、呆れるほど退屈だ。
なのに、シュライバーはリンリンから離れていた。
僅か1ミリほど先、リンリンの拳がシュライバーの軍服の先を掠る。
コンマの差で回避には成功したが、あらゆる敵の攻撃を絶対に回避するシュライバーならざる動きだった。
運が悪ければ、拳はシュライバーに到達し得た。そんな失態を狂乱の白騎士が許す筈がない。
(なんだ? おれ、こいつの行きたいところがなんか分かる!!)
だが、現実としてリンリンの拳はシュライバーに届きつつある。
「おおおおおおおおォォォォ!!!」
咆哮を木霊させるリンリン。けれども依然変わらず、シュライバーの速さには付いてこれず、常に後手に回り続けている。
しかし、その拳の乱れ打ちはより的確で精密に、シュライバーの行く手を遮るように放たれていた。
まるでシュライバーの行先が分かっているように、リンリンはその先に拳を置いているといった方が正しいかもしれない。
これから先、起きる事を予知しシュライバーの退路へと先回りしている。
「───ッッ!!」
徐々にシュライバーの軌道が狭まっていく。優れた計算能力から、脳裏に展開する数百を超える次手の中から、確実にシュライバーが導き出した最善手をリンリンは予測し動く。
鼻先を拳がすり抜ける。僅かに上体を逸らして、右へ飛ぶ。
その先を覆うように、既にリンリンが動いている。
上空へ跳躍、だが先にリンリンが飛んでいた。
振り落とされた拳骨を、空を蹴り上げもう一段飛躍し避ける。
着地し、頭上から迫るリンリンを視認し銃撃で弾幕を張る。ダメージはほぼないとはいえ、リンリンは人間の生理的な反応として顔を腕で庇う。
その太い腕が視界を遮る事で、一瞬の間にリンリンはシュライバーを見失う。
-
「やっぱりね───」
シュライバーの前方、その進行先を知っているかのようにリンリンは、素早く回り込んでいた。
腕の薙ぎ払いを避けながら、得心がいったようにシュライバーは笑う。
先ほどの弾幕から、視界は完全に潰した。
つまり、目で追ってシュライバーの行先を予測しているのではない。
五感ではない、第六感による鋭敏な感度でシュライバーの行動を察知しているのだろう。
「凄い能力だ。でも、練度が足りていない」
(はぁ‥…はぁ……なんか、こいつもう少しで殴れそうなのに、おれ…疲れてきちゃった)
見聞色の覇気。
シュライバーの分析通り、それは相手の気配を読み取る感知能力。
目見えぬ敵を補足し、相手に動きを先読みすることも可能とする。
リンリンは無意識化で見聞色の覇気を発動し、シュライバーの気配を読み彼我の差であった速さを埋めて、その絶速と互角に渡り合っていた。
だが、覇気もまた無限ではなく有限だ。使えば使うだけ摩耗し消耗する。
しかもリンリンは覇気を理解せず、無意識に使用している。徐々に使い慣れてきてはいるが、加減と温存を知らずどんどん体力をすり減らしていく。
更に言えば相手も悪い。黒円卓内最速のシュライバーでさえなければ、リンリンもここまで削られることもなかった。
だが、いくら動きを先読みしようと、それに追い付けなければ意味がない。常にリンリンも全速力で動かなければならない。
慣れない覇気の行使に加え、シュライバーのスピードに追いすがる為の肉体の強烈な酷使。
それはリンリンという規格外の怪物であっても、体力を大幅に消費させれる荒業であった。
もしも、後にビッグマムと恐れられた時系列での彼女であれば、この時期よりもより強大かつ無尽蔵のスタミナで、地力の差を見せつけたか。
あるいは別の搦手や経験と知恵と技量を活かし、形成創造を封じられたシュライバーであれば既に下していたかもしれない。
けれども、ここに居るリンリンは絶対な強さはあれど、未だ闘争という命の奪い合いは未経験。
「だけど、おれ…まもんなきゃ……みんな、おれの子分だ、仲間なんだ……! 誰もいなくならないで!!」
消えてしまったマザーに懇願するように、必死で必死で必死でシュライバーに食い下がる。
だが、引き離されていく。拮抗にまで翻した盤面は、リンリンの生きた年数の浅さにより、再び劣勢へと傾く。
掠りかけていた拳はシュライバーから徐々に遠ざかり、置いて行かれる。
「おれ……! おれ、おれ……!! もういやなんだ! マザーもみんな消えちゃうの!!」
いくら空を殴ろうと、大地を砕こうとシュライバーに追い付けない。
何者をも寄せ付けぬ最速は、少女の拠り所になっていた仲間達に死を齎そうとしていた。
「ははははははははははは!! 鬼ごっこはもうお終いかなァ!」
「うわああああああああああああああああああああ!!!」
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
みんな死ぬ。居なくなる。消える。また一人になってしまう。
お願い止めて、そんなことしないで。
もう、寂しいのは嫌だ。
-
…………………………お腹空いた。
おれ、こんなに追いかけっこしたの初めてで、こんなに疲れたのも初めてで。
だから、お腹空いて───お菓子の家、食べたいな。
でも、お菓子の家は壊れてて、食料も全部食べちゃった……。
「ご…ごめん、みんな…おれ……おれ……」
「リンリン!?」
「エスター、おれ…お腹減って……お菓子の家が食べたい」
リンリンは蹲り、そして動けなくなる。
ぐう〜と腹の虫を鳴らし、燃料切れであることを外部へと知らせた。
(パンプキンはまだ使えないか……!)
雄二はランドセルに手を伸ばし、そして舌打ちする。
窮地に真価を発揮する帝具パンプキン。
だが、ゼオンとの戦いでオーバーヒートを迎え、再使用可能になるまで時間が掛かる。
掌で触れたパンプキンには、まだ熱が籠っていた。オーバーヒートから脱してはいない。
もう一つの武器、性能だけであれば斬月はシュライバーに対抗し得るかもしれないが、この場に居る者の中でこの大剣を振り回せる怪力の持ち主などいない。
「あんた達! 何とかしなさい! マサオ、男でしょ!!」
「む…無理だよぉ」
「あんた、おにぎりみたいな頭してるわね」
「食べられろって事!? いやだあああああああ」
「一人の犠牲で皆助かるのよ? 素敵なことじゃない!!」
ハンディ・ハンディの変異種も飛び道具への対処には特化しているが、シュライバーが体当たりでもしてくれば瞬時に肉片と化してしまう。
苛立ちに任せマサオに怒鳴るが、こんな子供にどうにか出来る筈もない。
「なにか、食べさせてあげたら?」
狼狽する子供達に、シュライバーは温和に声を掛けた。
「暴れた分だけ、時間も置かずすぐに腹が減るなんて、人間の体はそう簡単な仕組みじゃあないんだが…まあ、その娘は例外って事なんだろう。
それよりもほら、何か御飯があるなら食べさせてあげなよ。待っててあげるから」
「なんの、つもりだ……」
コナンが訝しげにシュライバーに問いかけた。
遭遇してから碌な会話もなく、こちらに銃を向けて殺しに来た少年が態度を急変させたのだ。
裏がないわけがない。
「簡単だよ。そうだな…例えると僕はちょっと前まで、君達の言う天国みたいなところに居たんだが、そこでは死人ばかりを殺していたからね。味気ないんだよ、彼ら。
だから、どうせやるなら生きた人間のが良いのさ。血や肉に触れる感触も…リアクションも楽しめるからね。
お腹減らせて動けないんじゃ、死体壊すのとあんまり変わらないだろ?」
「天国……さしずめ、あんたはあの世から現代に舞い戻った最後の大隊ってとこか?」
「おや? 鋭いね。君の場合、あのチョビ髭の妄言の方で言ってそうだが、強ち間違っちゃいないか」
シュライバーの服装がナチスの軍服のようで、半ば皮肉交じりで、アドルフ・ヒトラーが言及した謎の戦闘集団の一人かと口にしたが、シュライバーは否定はしない。
気が狂いそうな会話だった。
令和の現代、世界基準で言えば2020年以降の時代にナチス崩れのカルト臭いイカれた少年が現れ、それが人間の域を超えた戦闘をリンリンと繰り広げてみせたのだ。
ただの二丁拳銃でマシンガン以上の連射と速度で弾丸を射出し、音速に差し迫る速度で平然と走る脚力。
コナンの知る常識ではありえない。
-
(マジで、ナチスの亡霊って言いてえのかよ。何処のB級映画だってんだ)
現実離れした馬鹿げた会話だが、魔神王やゼオンなどの超越者を見た後では一笑に付すのも愚行だ。
「じゃあさ。君賢いから、お互いに情報交換としようか?
後ろのお友達は、その間にそこのピンク風船をどうにかするなり、僕を倒す方法なり考えてみなよ。
支給品も見てないのなら、ちゃんと確認するといい。何か面白いものが入ってるかもね」
「……何が知りてえんだ?」
一瞬、雄二に目配せをしてからコナンは口を開いた。
少なくとも、今のコナンに現状を打破する武器はない。シュライバーの会話相手に選ばれたのは好都合だ。
雄二に装備と戦力を把握させ、打開策を練る時間をコナンが稼ぐ。
「そうそう、出来る限り話を引き延ばしなよ? 話す事なくなったら戦争再開だ。
で、知りたいことなんだけど……アンナ、いや…ルサルカって女の子知らないかな? 僕達愛し合ってるんだよ」
「特徴がないと分からねえよ」
「うん、赤い髪でさ…僕と同じナチスの軍服着ててね」
気紛れか酔狂なのか知らないし判別も付かないが、コナンは幾つもの難事件を解決したその天才的な頭脳をフルで回転させ、シュライバーとの会話を試みる。
その気になれば即座に話を終わらせ、殺しに掛かってくるような凶獣だ。
会話のキャッチボールが続くように、神経をすり減らしながらコナンは言葉を選ぶ。
「リンリン、私に支給された御飯よ。これなら……」
「違う。お菓子、お菓子食いてぇ…そんなんじゃ、力が出ないよ」
エスターは内心で舌打ちする。この化け物、見た目に反して、やけに偏食の一面がある。
「お菓子の家、食べたかったのに誰がぶち壊したの!!」
(俺達だ)
絶対に口にはしないが、雄二は冷や汗をかきながらそれを認めた。
「み、みんな…なんとか……なるかも」
途方に暮れる中、マサオがおどおどしながらも声をあげた。
「この道具なら、リンリンちゃんの食べたいお菓子の家も復活するかも」
そう言って、一枚の布を取り出す。それなりの装飾されたデザインを見るに、テーブルかけのようだ。
「グルメテーブルかけって言って、何でも食べ物を出せるんだって!
お菓子の家も食べ物だよね!?」
シュライバーに言われた通り、マサオも改めて一度はハンディ・ハンディから引っ手繰られたランドセルの中を開いてみた。
あの銃弾を食べた生物がまとめて一つのアイテム扱いなら、まだ他にも支給品が眠っている可能性がある。
またあの生物のようなものが飛び出ないか警戒しつつ、四次元ランドセルの中に手を伸ばし、その奥底で眠るこのひみつ道具を発見した。
「運だけは良いじゃない! さっさと使うのよクソおにぎり!」
「わ…分かってるよぉ」
「早くしなさい!」
「蹴らないでぇ……」
ハンディ・ハンディの怒鳴り声に急かされながら、マサオはグルメテーブルかけを広げて欲しい食べ物にお菓子の家を念じた。
グルメテーブルかけ。
未来の技術により生み出された科学の結晶の一つ。
ただ願うだけで、それが存在しないメニューであろうと望んだ料理を無から出現させる。
物理法則、質量保存の法則などを小賢しい世界のルールを真っ向から否定する、卓越した科学の産物だ。
「凄ェ、お菓子の家ぇ〜〜〜〜!!!」
その布から、小さな面積に見合わぬ一軒家が飛び出す。
チョコのドアと屋根にクッキーの壁、水あめのガラス、クリームやグミの装飾、長いバームクーヘンの煙突。
屋内にはケーキのソファーにビスケットのテーブル。
可愛くて華やかでメルヘンで甘く香ばしい匂いが漂う。
リンリンは、その新たに出現したお菓子の家に釘付けになり、溺れるように飛び込んでいく。
-
「美味しい〜〜〜〜!!」
大喜びで大きな口を開け、お菓子の家へとかぶり付く。
お菓子の家は施設扱いでもあった為、不安はあったものの食品として口にすることが可能であれば料理として扱われるようだ。
美味しそう頬張るリンリンを見て、マサオは俯きながら溜息を吐いた。
「嫌アアアア!!!! 私の子供達がァ!!!! 何してんのよクソデブ!」
ハンディ・ハンディの怒声が響き渡る。
「……え?」
何が起きたのかと、リンリンの方へ顔を上げてみれば、その口周りが赤くなっており、シュライバーの銃撃から、ハンディ・ハンディを守った変異種が一気に半数近く消失していた。
シュライバーという少年が殺したのかと思ったが、コナンと向き合ったまま動いた様子はない。
じゃあ、誰が───。
「幸せぇ〜〜〜!!!
チョコやクリーム、ビスケットの破片を顔にたっぷりくっつけながら、焦点の当たらない虚ろな瞳でリンリンは叫ぶ。
「……へえ」
次の瞬間、膨大な威圧感を伴った覇気(プレッシャー)が轟く。
それは、魔人たるシュライバーですら眉を潜めるほどに。
(畜生! なんだこれは!?)
コナンも飛びそうになる意識を繋ぎ留めながら、事態の異様さを肌で感じていく。
何かが起きそうな予感がある。しかもそれは質の悪い事に、シュライバーではなく味方であるはずのリンリンからだ。
───……そうだ、マザーって人、知らない? 急に消えちゃったの!!
ふと思い起こすのは、しきりにマザーという人物について、探す素振りをしていたことだ。
どうやら育ての親らしく、それなりの高齢の人物のようで、乃亜の言う子供には当て嵌まらない。
この殺し合いには縁遠い人物だ。でもリンリンはそこまで考えが及ばず、自分のように参加者として呼ばれていないか、心配しているのだろう。
(消えた? 居なくなったんじゃなく……消えただと?)
最初にそれを聞いた時は、シュライバーとの交戦に突入した為に、コナンも見落としていた。
けれども、不自然だ。消えたという表現は腑に落ちない。
まるで、目の前から急に煙のように消え去ったようではないか?
「───お前ら、そこから離れろ!!」
その瞬間、シュライバーの危険性すらも忘れてコナンは大声で叫ぶ。
探偵としての勘が告げていた。今、この場で最も危険なのはシュライバーではないと。
「え、何? 何なの……」
エスターとハンディ・ハンディ、そして雄二はそれを理解していた。
何せ、三人はその決定的な場面を目撃していたのだから。
本来であれば捕食者側の変異種が、哀れな餌に変わったその光景を目の当たりにした。
だから、素早くその場からの離脱に移れた。
だがマサオだけは、運のない事にその時に限って視線を外していた。
「ひっ……」
リンリンから放たれた覇気、覇王色と分類されるそれを直接浴びて、マサオは腰が抜けた。
本来ならば、マサオ程度の子供なら即座に意識を奪うそれは制限により、威嚇程度に済んでいるものの、それに触れた者へ誘発する恐怖心は別だ。
「ちょ、ちょっと…なんで、やめ……」
気付いた時にはもう遅く、そしてその巨大な手が迫っていた。
「おいしい〜おいしいよぉ〜〜〜。ありがとう。マサオ、みんな…おれ、絶対に皆を守るから!!」
「ブギーーーーーーー!!」
手当たりお菓子の家と、逃げ惑う変異種に無差別に食い付いていくリンリンの目は、ハートになり正気をなくしていた。
反面、その言葉だけは仲間達に感謝の念を伝えているのが、尚更異様さを引き立てる。
一つだけ言えるのは、あと一秒もせずマサオはこの世界と別れを告げているだろうということのみ。
-
「う…うわああああああん!!!」
だから、泣き叫びながら、震える手でマサオは最後の切札をここで翳した。
「……………は?」
リンリンの手の先、そこには腰が抜けたマサオと入れ替わるようにエスターが居た。
当のマサオは先ほどまでエスターが退避した場所へと移動している。
咄嗟に起きた超常現象に呆気に取られ、目の前に迫るリンリンの手に掴まれる。
「どうして…マサオォォォォ!!!」
「ひ、ひいいいいいいいいいい」
子供を演じるのも忘れ、本性のまま怒りを口にする。
マサオは顔にある穴から液体という液体を垂れ流し、だが何度も転びながら腰を上げようと藻掻き続ける。
その手には一枚のカードが握られていた。
モンスター・リプレイス(シフトチェンジ)。
名の通り、モンスターの位置を入れ替える魔法カードである。
この殺し合いにおいては、参加者の位置を入れ替える効力を持つ。
マサオはこれを発動することで、エスターと自分の位置を変換し窮地を脱した。
エスターという身代わりの贄を捧げる事で。
「マサオ……ッ!!」
耳に延々と鳴り響く叱咤の声。
「マサオ、助けなさい!」
視界に飛び込む、絶叫と切望。
「マサオ、マサオォォ!!!」
何処だ? 何処でしくじった?
あの影を使う子供を襲った時か? いや、まだ挽回は可能だった。
リンリンを利用しようと、言葉巧みに誘導した時か? だが、あれが最善だったはず。
マサオ? あんな餓鬼を手駒にしたのが、それが原因なのか?
「離せ、リンリン!! 離しなさい!!」
それが届かぬと分かっていても、エスターにはそう叫ぶしかない。
腕ごと巨大な手で人形にように掴まれたエスターに抗う術はなく、支給品の力すら借りることが出来ない。
(いやよ、こんな死に方するくらいならあの泉で沈んだ方が……!!)
また巡った来た好機を、こんな形で潰されるなんて認められない。
だが、強固なリンリンの肉体を突き崩す力をエスターは持ちえない。
だから、最後の賭けに出るしかない。
「逃げてマサオ……必ず、私を生き返らせなさい!!!」
「え、ぇ……」
エスターが最後に動かせるのはその口しかない。言葉だけが、残された最後の武器だ。
けれどもリンリンにそれは通じない。
ならば、今この場で最も容易く精神を犯せる存在に、エスターという呪いを刻み込める者がいるとすれば、マサオを置いて他には居ない。
「そうでないと、アンタは本当の人殺しよォ!!!」
優勝を託し、その蘇生をマサオに預ける等、現実的ではないのは分かっていた。
だが、もうこれしかエスターに残された足掻きはない。
最悪で最低の賭けだ。反吐が出そうになる。
しかし、僅かな望みであろうと生き延びる為に、エスターは死の直前まで喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
叫び、マサオの脳裏に己を刻む。
「分かってるわね! アンタのせいで、こうなったのよ!!!」
「ひ、ひぃ……ィ」
「全て、アンタが悪い子だから───」
ただの子供一人に向けるには、あまりにも重い重責と呪いをありったけ注ぎ込む。
そして、その死の間際、全てが飲み込まれる寸前までマサオから一切の視線を逸らさず、笑みを浮かべた。
お前は私からは逃がしはしない。
その視線だけで、マサオは全身が張り裂けそうなほどの恐怖に支配された。
-
「も、や…だ……ぁ……!!」
耐え切れず、マサオは転がるように走り出した。
「このォ!!!」
コナンがキック力増強シューズを全開にし───。
(いや、駄目だ……)
ありえないとは思いながら、もしもそれが致命打となれば。
仮に全開にしても、あれだけの銃弾を浴びて傷一つ付かない鋼の肉体には無意味な配慮だと分かってはいる。
それでも、僅かな逡巡のなかで、万が一を考えてその威力を下げて、リンリンとシュライバーの戦いで巻き上げられたボール大の岩盤を蹴り飛ばした。
「くそっ!!」
リンリンの頬に激突し、岩盤が砕けるが全く意にも介さない。
「コナン」
「離せ、雄二…エスターが……!」
「……無理だ」
冷たく、雄二に断言される。
掴んだ腕を乱雑に、引き摺るように引っ張って雄二は走り出す。
「おい…!?」
こうでもしないと、きっとこの少年は自分を犠牲にしてでもあの少女を救出しようとするから。
誰の血も流さず、人を救い続けてきた真っ直ぐな少年を死なせるぐらいなら、自分が後で恨まれる方が良い。
もうマヤのような犠牲を出したくはなかった。
(クソっ……)
最悪の死に方を前にして、涎とお菓子が入れ混じった死の入り口を目の当たりにし数秒後の自分の凄惨な姿を思い浮かべて、エスターは今までの人生を走馬灯として頭の中で繰り返していた。
凶悪な精神異常者として、犯罪者として収監される身になっていたが、元々はそんなことするつもりもなく、殺人も好きでやっていた訳ではない。
利己的ではあるが、意味もない快楽殺人者でもない。
本当に些細なことでも理由さえあれば徹底して非情に徹するが、逆にほんの一ミリも理由がなければ好んで相手を害することもない。
気紛れに、鼠に餌を分け与えるような良心だってある。
ただ、そうでもしなければ手に入らないものがあったから、大勢を殺めてきた。
「ただ、私は───」
求めていたのは、何てことない単純で簡単なもので。
普通の女性であれば、手に入る普通なものだった。
「はあ〜美味しかった。ウップ、おれ…これで戦える。ありがとう、みんな……いつか一緒におやつを食べようね!」
そう、対等な普通の女性として、同じ大人としての目線できっと愛されたかった。
ただそれだけだったのに。
【エスター(リーナ・クラマー)@エスター 死亡】
-
「うふふふ……あははははははははははは!!!」
シュライバーは笑って目の前の喜劇を見ていた。
何せ、シュライバーの見てきた行ってきた中でもトップクラスにはイッてる殺し方だ。
シュライバーも魂を取り込むことを喰らうと比喩するが、よもや本当の文字通りの意味での人の踊り食いというのは、そうお目に掛かれるものじゃない。
サイズ差を考えれば当然で、人同士のカニバリズムではありえない。
だが、不幸なことに目の前の少女は人に属しながらそれが出来てしまう体格を有していた。
「さぁて、お腹も膨れた所で続きをしようか。待ちくたびれて、溜まってきちゃったよ」
面白い前座ではあった。
あとは人の突然変異とも言えるこの希少な獲物をどう狩るかだ。
轢き殺し、轍になったリンリンを振り返るのが楽しみだ。
「あれ…? エスター、マサオ……? みんな、どこ」
加えて、こいつにはその自覚がない。
リンリンの目線では、自分にお菓子の家を用意してくれたマサオと優しく接してくれたエスターが突然消失したように見える。
そして、そんなことをするのは眼前に居る白の凶獣、ただ一人。
「おまえ…おまえが皆を殺したのォ!!?」
怒りと共に咆哮と覇王色の覇気を、シュライバーへと一点に集中して叩き付ける。
最初に会った時と違い、意識したものかはともかく既に覇気の出力をコントロールしだしている。
少なくとも先ほどのように、すぐにバテるようなこともないだろう。
そよ風に吹かれるような心地の良い顔で覇気を浴びながら、シュライバーはリンリンを観察した。
「ゆるさない……おれの友達をいじめたお前は、こらしめてやる!!!」
「おっと、待ちなよ」
リンリンの殺意を涼しい顔で受け流し、シュライバーはそれを静止した。
「つまり、それは敵討ちって事だろ? 駄目だよ。敵討ちするなら仲間は死んでなきゃ」
「何いってんだ! おまえが皆を殺したんだ!!!」
「馬鹿だなァ。
少なくとも、そのエスターってのはまだ生きてるじゃないか」
シュライバーが指差した方向を見て、リンリンは首を傾げた。
「なんでおれのお腹を指差してるの」と。
「あれじゃあ、即死は無理だろうね。ちゃんと、物を噛みな? 数分もすれば死ぬだろうけど。
まあ…だからさ、一人も死んでなきゃ敵討ちにならないわけ。
大事だよこういうのは」
「変なこと言うなァ!!」
「うーん、話が通じないなァ。
敵討ちするなら仲間が死んでなきゃ駄目だって、ガキでも分かるだろォ!!
敵討ちの意味、分かるよねぇ!? 菓子の食い過ぎで、頭に脂肪こびり付いてんじゃないのォ!」
「うるせェ!!!」
轟音を鳴り響かせ、リンリンの拳が大地を砕いた。
当然、そこにシュライバーの姿はない。既にリンリンから距離を取った場所へ後退している。
-
「……じゃあ、仲間のおにぎりでも探しに行きなよ。
その頃には、エスターも死んでるよ。それでその後、君は復讐開始だ」
「おにぎり…マサオのこと!?」
「ああ、真っ先に逃げてたよ。あの裏切りおにぎり」
それを聞いて、リンリンの殺意が揺らいだ。まだ自分には友達が仲間が残されていた事に。
シュライバーの言っている事は、意味がよく分からなかったが、それだけ知れれば十分だ。
ドスドスと愉快な地響きを立てて、リンリンは走り去っていった。
「……あっ、敵討ちって言ったけど、僕あのエスターって娘に何もしてないや」
リンリンが去った後、ふとそんなことを呟く。
ルサルカの敵討ちと違って、加害者は通してリンリンではないか。
「うーん、たまにはそういう趣向でもいいか」
人違いで殺意を向けられるというのも、そうなかった気もする。
そもそも戦場なんて場では、誰が誰を殺したかなんて当事者ですら分からないものだ。
そう思うと新鮮にも感じられた。
ルサルカの敵討ちのように、リンリンも変則的な理由で殺すのも楽しめるだろう。
「……大変だ。僕やる事が多いじゃないか」
リンリンの復讐もあれば、あの悟飯に大量の轍もプレゼントしなければならない。
帰ったら、遊佐司郎に敵討ちをしなくてはいけなくて、ルサルカには生きていて貰っては困る。
シュライバーに膝を折らせた日番谷冬獅郎だって逃がす気はない。
「あぁ、面倒なハンデさえなきゃ、思いっきり楽しめるんだけどねぇ」
不満はあるが、なんであれ、また走り抜けるだけだ。
いつもと同じだ。駆け抜けた後で、屍は轍として転がっているのだから。
-
【E-5/1日目/早朝】
【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)ダメージ(大 魂を消費して回復中)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)
[装備]:ルガーP08@Dies irae、モーゼルC96@Dies irae、グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
───
「は…ァ……は……ァ……はァ……」
肺が張り裂けそうになるまでマサオは走っていた。
腕を振り、地を蹴りながら新鮮な空気を求めて息は荒い。何度も転んで足に幾つも擦り傷を作っているのに、涙を流してもマサオは泣く素振りも見せず走る。
『マサオ……ッ!!』
『マサオ、助けなさい!』
『マサオ、マサオォォ!!!』
脳裏に焼き付けられた命が噛み砕かれた瞬間。
伸ばされた手を掴めない罪悪感と、本来ああなるべきだったのは自分だという恐怖と悍ましさ。
『全て、アンタが悪い子だから───』
どうして、あんなことになったのか分からない。
ただ、お腹が空いたリンリンを助けなくちゃと支給品を使って。
それで、殺されそうになった時、ただ身を守ろうとして。
違う。僕は悪くない。僕は……。
逃げなくちゃいけない。
きっと、多分他の殺人鬼に出会って殺されても、リンリンに見つかるよりはまだマシな死に方ができるだろう。
「ひ…っ!」
何度目かの転倒をして、マサオはようやくガソリンの切れた車のように動かなくなった。
そう、思い返せば同じようなものだったのかもしれない。
燃料がなくなれば、それを元に動く機械は止まってしまう。それは人間も同じことでエネルギーを切らせば、何処かから消費した分を摂取する必要がある。
だから、きっとそうなのかもしれない。
シュライバーと戦っていたリンリンが急に動かなくなったのは。
そして無差別に何でも口に放り込んだのは。
マサオの生き物としての、もっとも原初的な本能がにより拒否感。
その嫌悪感は人に向けるもののそれとは異なっていた。
-
「マサオ」
逃げた先、その後ろには地響きを鳴らしてあのピンクの悪魔のような少女、リンリンが追い付いていた。
「え、ぇ……」
「見つけた。良かった、一番弱そうだったから…おれ、ほんと心配して。
眼鏡と雄二とカニの魚人さんは、居ないみたいだけど……良かった無事で」
「やめ…やめ……」
食べに来たの? 僕を?
さっき食べたばかりじゃないか。お腹一杯じゃないか。
「おれ、気付いたら急にみんな居なくなってて……あのシュライバーとかいう奴、意味わからねえ事ばっか言ってきて……もう何が何だか分からない」
何言ってんの、この娘……みんな、怖くて逃げたんだよ。
「エスターはおれ…お姉ちゃんみたいだなって思ってて……おれ、守りたかったのに……エスターはやっぱり、死んじゃったの?」
……え? 意味わからないよ。
だって、エスターはきみが……■■ちゃったじゃないか。
もういやだ。頭がおかしくなっちゃうよ。
いっそ、殺してよ。なんで僕ばかりこんな目に合うんだ。
何か悪い事したの? 赤ちゃんを守ろうとして、ナルトなんていう薄汚い化け物をやっつけようとし───あれ、そういえばどうして、ナルトのことこんなに…いや、あいつは悪いやつなんだ。
僕は何も悪い事したくてやった訳じゃないのに、こんなのおかしいじゃないか!
なんでこんなことに、桃華さんと出会った時はようやく信用できる人と会えたと思って……。
「……桃華さんが悪いんだ」
ぽつりと、その名がマサオの口から零れてしまった。
映画館から脱出する時、朧げな意識の中でマサオは見ていた。桃華が不思議な力で映画館から自分達を一緒に吹き飛ばしたのを。
そして、あろうことか赤ちゃんと戦えない自分を別個に放りやって、桃華は写影と一緒に何処かへ行ってしまったことを。
そもそも、あの二人手を握っていた。
つまり、そういうことだ。あの二人は自分達以外はどうでもいいんだ。
「ももか…そいつがエスターを殺したの!?」
「ぁ、っ……」
違う。駄目だ。ヤバい。
我に返った時にはもう遅かった。
落ち着いて考えれば、桃華に悪意はないはずだと分かっていた。
けれども、実際に理不尽な目にあっていたことで、その遠因であるのが桃華であるのも事実だ。
だから、精神が限界を迎えたマサオはそれを口走ってしまった。
そして、それが更なる地獄への扉を開けてしまったことに、マサオは気付く。
「許さねぇ……エスターを殺したそいつを、おれが殺してやる!!」
リンリンの怒りは、きっと上書きをする為の物だろう。
彼女は幼いが馬鹿ではない。本当は心の奥底、深層的な部分では全ての真実を察してはいる。
だが認めない。それを認めてしまえば───だから、敵がいる。
「あ、いや……ちが」
違う。違うと言え。
これは本当に、ここで勇気を出して否定をしないと取り返しがつかなくなる。
だから、勇気を出して───。
-
「マサオ。おまえ…その、ももかって奴の事知ってるんだよね? 全部話せよ」
「え、ゃ、ぁ……」
「でないと、名前なんか知ってる訳ないだろ? おれに、嘘吐く気?」
リンリンの放つ声は幼い少女の愚直で無知なものではなく、大海賊ビッグマムの片鱗を垣間見せた。
マサオの勇気など塵芥のように散らされてて行く。
もう無理だ。一度言葉にして声に出した以上、引き返す事ができない。
「ぁ、の……おんなのこ、で、ぇ……しゃ…えいっていう……おとこのこと、ォ……」
しゃくりを上げて、ろくに回らない活舌で必死に喋る。
今も同行してるであろう写影のことまで口にして。
話さなくても良い事と、そうでない事の区別すらつかない程にマサオの精神は崩壊寸前だった。
「───へえ、桃華と写影だね? おれ、そいつらの名前、覚えたよ」
【E-5/1日目/早朝】
【佐藤マサオ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:精神疲労(限界寸前)、失意の庭の影響?、ナルトを追い詰めるという確固たる意志、エスターを犠牲にした罪悪感とトラウマ(極大)、
リンリンへの恐怖(極大)、桃華への憎しみ(逆恨みの自覚アリ)
[装備]:モンスター・リプレイス(シフトチェンジ)(24時間使用不可)&不明カード×4@遊戯王DM&5D's
[道具]:基本支給品、グルメテーブルかけ@ドラえもん(故障寸前)
[思考・状況]基本方針:生きて帰りたい。
1:赤ちゃんを殺したあの怪物は許さない、絶対に追い詰める。エスターの言う通りナルトの横に居た子も絶対に追い詰める。
2:何だよ皆おにぎりおにぎりって…!
3:桃華さん……せ、聖母だ……!出来たら結婚し(ry
4:写影さんや桃華さんが…リンリンに……どうしよう。
5:エスターを……。
[備考]
※デス13の暗示によってマニッシュ・ボーイの下手人であるナルトを追い詰めるという意志が発生しています。
※自分を襲った赤ん坊に与する矛盾には暗示によって気づかない様になっています。
【シャーロット・リンリン(幼少期)@ONE PIECE】
[状態]健康、満腹、思いきりハサミの影響。エスターを亡くした強い悲しみと怒り、桃華への憎悪(極大)
[装備]なし、
[道具]基本支給品ランダム支給品1、ニンフの羽@そらのおとしもの(現地調達)、エリスの置き手紙@無職転生、首輪探知機@オリジナル、エスターの首輪(腹の中)
スミス&ウェッソン M36@現実、思いきりハサミ@ドラえもん、エスターのランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:喧嘩(殺し合い)を止める。
1:喧嘩をしてる人を見付けたら仲良くさせる。悪い奴は反省させる
2:他の人を探して仲間(ともだち)にする。マサオは親分として守ってやる。
3:ナルト本人と、ナルトと共にいた男の子は懲らしめて反省させる。
4:出来れば乃亜とも友だちになりたいなぁ。
5:この手紙を書いたエリスって娘にはお説教が必要かなぁ? いるかどうかわからないけど。
6:もしルーデウスって子にあったらちゃんと伝えておかないと、じゃないとちょっと可哀想。こっちもいるかどうかわからないけど。
7:エスターを殺した桃華と写影、訳の分からない事を言うシュライバーは殺す。
[備考]
※原作86巻でマザー達が消えた直後からの参戦です。
※ソルソルの能力は何故か使えます。
※思いきりハサミの影響で、エスター達に一定の距離を取るようになっています。
※粗削りですが、徐々に覇気を使いこなしてきています。覇王色の覇気は制限により、意識を奪うのは不可能です。
【モンスター・リプレイス(シフトチェンジ)@遊戯王デュエルモンスターズ】
佐藤マサオに支給された5枚のカードの内の一つ。
参加者二人の位置を入れ替える魔法カード。罠カードにもなるらしい。
一度の使用で24時間再使用不可。
余談だが、原作ではシフトチェンジという名前で迷宮兄弟戦での遊戯&城之内タッグのフィニッシャーに繋げたカード。
アニメでも活躍は同じだが、カード名等が変更されている。
後にシフトチェンジ名義で、OCG効果になったこのカードを遊戯が使用する場面もある。
【グルメテーブルかけ@ドラえもん】
佐藤マサオに支給、どんな食べ物も出てくるテーブルかけ。
お菓子の家も食べ物扱いとする。乃亜の調整により、故障寸前で支給されている。
-
「畜生、畜生ォ!!」
リンリンから遠ざかり、落ち着けた場所まできたコナンは掌を強く握りしめて、己の行いを悔いていた。
エスターという少女、彼女を目の前でみすみす死なせてしまったこと。
それもあんな最悪の形で。
魔神王のそれに匹敵する悍ましい光景だが、今はそんな嫌悪感より何もできない自分が恨めしかった。
「……コナン、あの娘は」
「分かってるよ…間違いなく、殺し合いに乗っている。マサオも脅されて、だから身代わりにしたんだ。
だけど…犯罪者だろうと、探偵が死なせていい理由になんかならねえんだよ」
如何なる犯罪者も生きて罪を償わせる。それがコナンの信条であり、曲げられない信念だ。
「お前の考えは間違ってない。だが、リンリンにもそれを通すのか?」
「なんだと?」
「シュライバーもだ。あいつらを、ぶち込める牢屋が何処にある」
エスターまでなら、雄二も配慮はする。だがリンリンやシュライバーは無理だ。
あれを人として換算するべきではない。
「鏡で見た人食いの女も…あの電撃使いの銀髪も……思い出せないが、マヤを殺した奴も。
そいつらを縛れる法なんて、何処にあるんだ?」
「じゃあ、殺せって言うのか!?」
「必要なら、そうするしかない」
雄二も自分が強者側の参加者であるという自負が心の何処かであった。
仮にもヒース・オスロの元で実戦を積み、日下部麻子から戦闘技術も叩き込まれている。
人を撃つ際の嘔吐を加味しても、易々と後れを取りはしないと。
だが違う。この場に呼ばれた連中は子供だ。駄々をこねて我儘で愚直な子供だ。
その子供の幼稚さを貫けてしまう。大人になる事を拒絶し、子供のまま厄災を振り撒ける強さを兼ね備えた者が多数を占めている。
「ただ、強いだけじゃない。マヤを殺した女みたいに、人の記憶にだって干渉も出来るんだ。
俺達が手加減とか考えるような次元じゃないんだよ」
「それが乃亜の狙い通りなんだろうが! あいつらはオレ達を殺し合わせる為に───」
「お前に殺せとは言わない。でも、無謀な不殺の為に自分を殺そうとするな」
「だが、リンリンは悪人じゃねえ! 理屈は分からねえが……あれは」
恐らく発作的なものだ。
通常の人間とはことなる習性であり、食欲がトリガーとなって暴走してしまう。
マザーというのも、きっとそれに巻き込まれた事で。
だが、だからこそ止めなくてはならない筈だ。
彼女本人は悪人ではないのだから。
生きて、罪を償わせるべきだ。
「あれは、初めてじゃない。きっと…またやる」
「雄二?」
「あの娘を…救う方法は……」
リンリンが話したマザーという人物の事は知らない。
でも、それが雄二にとっての麻子のような神にも等しい人物なのは察することが出来た。
そして察したからこそ、彼女はもう手遅れなのだと雄二は深く理解する。
自らが手を掛けたというその事実は、リンリンにとっては耐えがたいもの。
直視すれば壊れて、きっとより多くを殺す。逃避しても逃げ延びた先で同じ過ちを繰り返す。
雄二は麻子が居たから、オスロに刷り込まれた「殺人マシン」としての性格を抑え込めた。
壊れる寸前だった心身を回復させた。
彼女が居なければ、もっと大勢の人間を殺していただろう。
麻子と会う前の雄二であれば、マヤもコナンもニケとおじゃる丸も水銀燈も自分がこの手で殺していたと確信できる。
理由なんか必要としない。機械として淡々と殺すだけだ。
逆に言えば、麻子が居ない雄二の姿がリンリンなのだろう。
食欲というトリガーを刺激されることで、それを満たすだけの効率の良いモンスターになる。
善も悪もなく腹を満たそうと本能のままに動くのは、ある意味で虫に近いかもしれない。
そんな相手とどうやって対話して、しかも災害のような強さを持つ相手を武力的に制圧させる方法など雄二には思いつかない。
「救えるとしたら、マザーって人だけだ。
俺達に、その代わりになんてなれると思うか?」
なれっこない。
もしそれが麻子なら、きっと…誰かが代わりになんて考えることも出来ない。
-
「オレは探偵なんだ……どんな理由があっても、人を死なせる訳にはいかねえんだよ」
論理的な答えなど放棄した発言であり決意であった。
交わすべき議論を避け、自分の主張だけを通している。
「……これ以上の議論は平行線だな」
コナンの過去に何かあったのだろう。
探偵として、救えない誰かが居たのだろうと思う。
だから、その誰かを亡くした後悔を背負って、他の全てを拾上げようとしている。
それは否定すべきではない。
(お前はお前で誰かを救い上げればいい……必要な引き金は俺が引いてやる)
心の奥底で決心する。
もうこれ以上、マヤのような犠牲は出さない為に。
他人の為になら、迷わず引き金を引く事を。
いずれそれは、コナンとの決定的な亀裂と対立を意味する。
この探偵を名乗る聡明な少年の目を盗んで、引き金を引き続ける事など出来ないのは雄二にも分かる。
だが、構わない。
雄二が5人を救う。そしてコナンならば、その間のより大勢を救えるだろう。
その為なら、いくらでも引き金を引こう。
【E-5/1日目/早朝】
【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、精神的なダメージ(極大)、リンリンに対しての共感
[装備]:浪漫砲台パンプキン(一定時間使用不可)@アカメが斬る!、グロック17@現実
[道具]:基本支給品×2、斬月@BLEACH(破面編以前の始解を常時維持)、マヤのランダム支給品0〜2、マヤの首輪
[思考・状況]基本方針:5人救い、ここを抜け出す
1:コナンに同行しつつ、万が一の場合は自分が引き金を引く。
2:可能であればマーダーも無力化で済ませたいが、リンリンのような強者相手では……。
[備考]
※参戦時期は迷宮〜楽園の少年時代からです
※ 割戦隊の五人はマーダー同士の衝突で死亡したと考えてます
※卍解は使えません。虚化を始めとする一護の能力も使用不可です。
※斬月は重すぎて、思うように振うことが出来ません。一応、凄い集中して膨大な体力を消費して、刀を振り下ろす事が出来れば、月牙天衝は撃てます。
【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:疲労(大)、人喰いの少女(魔神王)に恐怖(大)と警戒
[装備]:キック力増強シューズ@名探偵コナン、伸縮サスペンダー@名探偵コナン
[道具]:基本支給品、真実の鏡@ロードス島伝説
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止め、乃亜を捕まえる
1:仲間達を探す。
2:乃亜や、首輪の情報を集める。(首輪のベースはプラーミャの作成した爆弾だと推測)
3:魔神王について、他参加者に警戒を呼び掛ける。
4:リンリンや他のマーダー連中を止める方法を探し、誰も死なせない。
5:マサオやカニ(ハンディ様)も探す。
[備考]
※ハロウィンの花嫁は経験済みです。
※真実の鏡は一時間使用不能です。
※魔神王の能力を、脳を食べてその記憶を読む事であると推測しました。
-
ジョーーーー ドボドボドボ ブリブリ
「ひいいいいいいいいいい、化け物ォ!!」
小便と大便を撒き散らしながら、ハンディ・ハンディは必死に走っていた。
「乃亜のクソガキィ! あんなの寄越すなら、もうちょっと強い武器くれても良いじゃない!! 依怙贔屓よォ! バーカ!」
それからしばらく走り、荒げた息を整えながらハンディ・ハンディはランドセルを下ろした。
中から変異種が5匹出てくる。
マサオから強奪した時は、20匹は居たのだ。それが一瞬で5匹にまで間引きされて、餌にされてしまった。
しかも、邪鬼ならまだしもただの馬鹿でかい人間にだ。
「冗談じゃないわ。乃亜の奴、私を優勝させる気ないわね。馬鹿でしょアイツ…ほんと馬鹿」
とても正攻法で優勝できる殺し合いではない。
「……ただ、数は減ったけどこの子達を拾えたのは運がいいわ」
だがハンディ・ハンディにも強みがある。
藁にも縋るような矮小な強みだが、飛び道具に関してはミサイル規模で泣ければ変異種達で対応できるのだ。
仮にもウォルフガング・シュライバーと鉢合わせて、掠り傷一つ負わなかったその防御性能だけは信じられる。
無論、近接戦はからっきしではあるが、それをカバーできる強力な参加者に取り入る事が出来れば話は変わってくる。
「リンリンもコントロールできれば悪くはないわ。でも……」
あの食に対する異様さは、同じ人食いのハンディ・ハンディからしても一線を画す。
そもそも共食いじゃない気持ち悪いわね。そう毒づきながら、だがマサオが手にした奇妙な道具を思い出した。
「あれから、食べ物を出していたわね。上手に使えばコントロールできるかしら」
例えば、敵側にお菓子の家を出してリンリンを誘導すれば、食べられるのは当然のその傍に居る敵となる。
あの発作も利用次第では兵器になるかもしれない。
「……だけど、あんま近づきたくないわね。
私、乙女だもの」
そうと決まれば話は早い。
ハンディ・ハンディを守って貰える対主催かマーダーを探すのだ。
愛らしさには自信がある。
人形も第三弾まで作られているのだ。この容姿は武器になる。
こびり付いた血を拭きとって、身なりを奇麗にすれば信用を勝ち取れるだろう。
「イヒヒヒヒ……出来れば良い男に守って貰いたいわね」
チンゲの返り血と小便と大便を奇麗にしなくては
ハンディ・ハンディはシャワーを求めて歩み出した。
【E-5/1日目/早朝】
【ハンディ・ハンディ(拷問野郎またはお手手野郎)@彼岸島 48日後…】
[状態]:左吉の体、ダメージ(小)、リンリンに対する恐怖(大)、失禁と脱糞
[装備]:レナの鉈@ひぐらしのなく頃に、対ミサイル型の変異種×5@彼岸島 48日後…
[道具]:基本支給品一式、ランダム品0〜2
[思考・状況]
基本方針:優勝するわよ。
1:いずれ、ルーデウスとさくらは楽しんで殺してやるわ。
2:ストレス解消にもっと人間を食べたいわね。
3:飛び道具の防御には自信があるわ。だから、マーダーでも対主催でも良いから前衛を探すのよ。
4:リンリンも利用できそうだけど、怖いわ。
5:乃亜、あいつほんとバカ。死ね。
[備考]
※蟲の王撃破以降、左吉の肉体を奪って以降からの参戦です。
※生首状態になった場合、胴体から離れる前に首輪が起爆し死亡します。
※変異種は新たに作れないよう制限されています。
※こいつの血を摂取しても、吸血鬼にはならないよう制限されています。
※対ミサイル型の変異種はハンディ・ハンディしか操れません。
そして、ハンディ・ハンディが死ねば死にます(後の原作と矛盾した場合、ロワ内の制限ということにします)。
【対ミサイル型の変異種@彼岸島 48日後…】
佐藤マサオに支給後、ハンディ・ハンディが強奪。
血の楽園を守護する変異種であり、ハンディ・ハンデから生まれたらしい。
国連のミサイルを食べ、体内で爆破されてもケロッとしており、飛び道具には強い。
反面、脱走した際には豹丸にあっさり捕まるなど、近接戦はそこまで強くないと思われる。
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投下終了します
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沙都子、カオス、羽蛾、エリス、我愛羅 予約します
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投下します
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「羽蛾、アンタ…万が一の時は自分の身は自分で守りなさい」
「ひょ?」
「この先、多分殺し合いになる」
ボレアス・グレイラット邸。
限りなく似せた模造品といえど、それはかつては雨風を凌ぎ衣食住を繰り返した懐かしき我が家そのものだった。
外観も内装も、その中の匂いもあの実家そのもの。
例え紛い物であろうと、ほんの一瞬、涙を瞳に浮かべそうになるほどに。
ただ一つの異物を除けば。
「二人か」
エリス・ボレアス・グレイラットとインセクター羽蛾。
グレイラット邸に足を踏み入れた二人の前に大きな瓢箪を担ぎ、額に愛と刻んだ奇異な少年が待ち受けていた。
砂漠の我愛羅。
乃亜の殺し合いに賛同し、多くの血を流す事を良しとする殺戮者の一人。
「一応聞くけど、殺し合いに乗っているの?」
「問う必要があるか?」
「……アンタを斬るわ。文句があるなら聞くけど」
「……」
最早、言葉も交わす事もなくエリスは和道一文字を抜く。
横の羽蛾が制止する声が聞こえるが、それに答える義務も必要も余裕もない。
一目見て分かったからだ。あの少年からは、死臭がする。
戦いに身を置いた者としての勘が、警鐘を鳴らし全身をひりつかせる。
可能であるなら、戦いは避け撤退すべきだが、ここにはルーデウスも来るかもしれない。
負ける事などありえないが、ルーデウスに余計な消耗をさせるくらいなら脅威は先に排除する。
きっと、首輪の解析も殺し合いの脱出にも、ルーデウスは何とかしてみせる。
何より対峙した以上、あの少年はこちらを逃す事などしない。
「うらァァアアアア!!」
罵倒から踏み込みまで、全ては並の下忍程度なら抜き去る程の素早さだった。
見た目は可憐な少女だが、その実鉄の塊であり相当な重量を持つ刀を、まるで棒切れのように軽々振るう。
「遅いな」
───奴に比べれば…だが。
瓢箪の砂が独りでに吹き零れた湯のように沸き立ち、エリスの刀と我愛羅の頬へと割って入る。
たかだが砂。掬えば零れ触れれば崩れるような柔く脆い、小石の集合体だ。
だが、四皇幹部たる本来の担い手には劣ると言えど、ルイジェルドという歴戦の戦士に鍛え上げられ魔物が闊歩する過酷な大地を剣一つで旅路を歩んだエリスが駆る大業物21工の内の一振り、名刀和道一文字の一斬を受けるには、あまりにも脆く見える名の通りの砂の壁。
既に戦いの全容すら全くつかめない程、エリスの動きに付いて行けない羽蛾だが、それでも決着は着いたと素人でも分かる程、力強い一振りだった。
-
「く───」
だが、刃は弾かれた。エリスは行き場を失くした己の膂力を、そのまま刀から流し込まれたように、腕に僅かな痺れを覚える。
砂は壁を形成したまま、欠けてすらいない。
腰を落とし、我愛羅の顎下からの切り上げ。砂が防ぐ。
更に敢えて滑り込む要領で姿勢を崩し、足を狙った薙ぎ払い。砂が防ぐ。
床に手を付き立ち上がり、足をバネに飛ぶ。頭上から降り下ろす兜割り。砂が防ぐ。
僅かな滞空時間の中で体を捻った空中での回し蹴り。砂が防ぐ。
「っ!」
砂が覆いかぶさるように足を包もうとする瞬間、体を一回転させもう片方の足で砂を踏み抜く。
鉄の硬度へと変貌した砂はエリスの運動エネルギーを受け流せず、その反動はエリスの体へ迸る。
砂に囚われるより早く、エリスは床で受け身を取り後方へ飛び退いた。
「ハァ……」
額の脂汗を拭い、荒げた息を整える。
強い。
特筆すべきは無詠唱魔術の行使、羽蛾からそういった存在を見て標準の技術ではないかと皮肉を聞かされていなければ、初見で対応が遅れ、今頃は砂の中で圧死していたかもしれない。
もう一つは、変幻自在の砂の操作。
あらゆる角度からの攻撃を防ぐ絶対防御。
防御から転じて、攻撃へと変換する不形ゆえの変幻自在さ。
圧倒的な質量による圧殺は、それ一つでも直撃を許すだけで致命打に繋がり得る。
攻守ともに高い水準で、総じて隙が無い。
(ただ…砂の速さ自体は何とか、見切れる)
反面、砂という性質とそれを戦闘に転用する都合上、質量が多くなり必然的に重量も増している。
故に速さにおいては、攻守の高性能さに反してはであるが、高くはない。
理屈で言うならば、砂の追い付けぬ高速度で攻撃を掻い潜り、防御すら間に合わぬ神速の一太刀であれば、我愛羅には通用するだろう。
だが遅いとは言っても、今のエリスには、砂を抜き去る程の素早さも、砂の硬度を打ち破れるほどの剛力も持ち合わせていない。
「これで終わりだ」
砂がボコボコと泡立ち───「さきどり!」羽蛾の声が轟く。
───連弾砂時雨。
羽蛾が繰り出したフローチェから、我愛羅が放とうとした砂の弾丸、連弾砂時雨が射出された。
「なに?」
連打される砂の弾を、瓢箪の砂が盾となりガードする。
剣士の後ろの眼鏡の少年、あれが口寄せした白い虫が我愛羅の術をコピーした。
はたけカカシのような、術をコピーする忍者は確かに存在する。
だが、カカシも瞳術を利用したコピーである以上は術を見なければ、複写はできない。
それをあの虫は何故?
「エリス!」
羽蛾の声に、エリスは言葉も交わさず意図を汲み取った。
相手が悪すぎる。一度退くしかない。
幸いにして、出入り口にはエリス達の方が近い。あの砂に捕まる前に、こちらが逃げる方が早い。
「そういうことか」
我愛羅は確信する。
あの、さきどりという術、つまるところ先手を取る事で術を模倣する。
逆に言えば先に手を打てなければ、術自体が発動しない。
加えて言えば、術も劣化コピーだ。術は同じでも、あの虫以上のレベルの規模にはならない。
それを証明するように、既に床下一面に仕掛けた蟻地獄をフローチェは先取りでコピー出来ていなかった。
「ぎょえええええええええええええ〜〜〜〜〜!!!」
「羽蛾!」
大したことはしていない。
フリーレンとのニアミス後、暇な時間を持て余し罠を張っただけの事。
床の下を地道に砕き砂に変え、常時は硬さを維持して、獲物を狩る時に一気に軟化し足場を崩す。
アリジゴクという虫の狩りの生態を気紛れに思い返し、真似をしただけだが効果は悪くない。
「……ヒョヒョ…昆虫族使いのオレが、蟻地獄で死ぬなんて……因果なもんだピョー」
「言ってる場合!?」
羽蛾を怒鳴る。
だが、エリスにも打開策はない。強いて言えば下手に動かず、流沙に飲まれるのを遅らせるくらいだ。
それも時間稼ぎ、良くて数分寿命を先延ばしする程度で、我愛羅がそれを見てるだけとも思えない。
「そうだ、アンタの魔物!」
「ヒョヒョ、ジルは賢いからねぇ」
「ホーチェ!!」
ガサガサっと、あの漆黒の嫌悪感を催す動きを幻視する動きで、フローチェは流沙から逃れ逃げていた。
「アンタ、人望なさすぎだわ!」
二足歩行と白いのが救いか。
-
(素早いな)
もし、羽蛾がトレーナーとして優れていれば、もう少し苦戦していたかもしれない。
あれも我愛羅のビジョットと同じように、ボールから口寄せしていた。羽蛾の骸から、ボールを回収すれば従うだろう。
あの素早さと機動力は是非とも手に入れたい。
「死ね」
いずれにしろ。まずは二人だ。
流沙に沈め、潰した果実のように血と肉と骨を絞り出す。
その血生臭い光景を予想し、光を纏った騎士が流沙へと突っ込んできた。
「───なんだ?」
騎士は小柄で、体躯のフォルムや肌の質感、長い髪から少女であるのは見て取れる。
それを我愛羅からすれば膨大なチャクラを噴射し、己の機動力に変換し流沙に囚われた二人を担ぎ上げ、そのまま飛び上がり安置まで移動した。
それも瞬き一つの間にだ。
「メリュジーヌさん!」
「沙都子、二人は無事だよ」
甲冑を着た少女と、逆に夏の装いらしき軽装の少女。
「……」
砂を操り、乱入者を捕縛せんと巻き上げる。狙うのは甲冑ではなく、軽装の沙都子と呼ばれた方だ。
先に飼い主から潰し、犬を屠り去る。厄介なのは指示を与える頭脳だ。
「沙都子に手を出すな」
抱えた二人を沙都子の横に放り投げ、両手のトンファーのような鞘を高速で回転させ、砂を弾き飛ばす。
───砂瀑送葬!!
丁度いい。獲物が一か所に纏まったのなら、一気に潰す好機だ。
右の掌を掲げ、そして握り込む。手の動きに連動し砂が舞い上がりメリュジーヌを沙都子をエリスを羽蛾を、包み込む。
膨大な砂の質量で、対象を圧殺する。
名の通り砂の棺桶に葬り去る。それが砂瀑送葬。
人が包まれれば、潰れた虫のように、赤黒い液状の物体に変貌するだろう。
「カットイン───」
『……この叫ぶ技名は何の意味があるの?』
『それは、おいおい分かるよ』
叫ぶ。
『悟空と違って、僕の姿を模倣するのなら……君が覚える事はただの一つだけだ』
『誰よりも強くある事』
最強の竜種にして、最も美しい妖精騎士のように。
産まれて初めて、1時間も満たぬ時間ではあるが剣技を習った。
最強より譲り受けし、誇り高くも美しい剣を今この場に光輝かせる。
「ランスロット!!」
天使(カオス)が模倣した竜の刃は、翼のように爆風を引き起こす。
鉄の硬度を誇る砂は斬り裂かれ、露散していく。
「メリュジーヌさん!」
「分かっている」
エリスと羽蛾を抱え、沙都子は恋人に触れるようにメリュジーヌの姿になったカオスの首に腕を回す。
次の瞬間には、我愛羅の眼前から四人の姿は消えていた。
───
-
「とにかく、ありがとう。助かったわ……」
我愛羅から離れ、落ち着いた場所でエリスは沙都子に礼を言った。
先の一戦は、本当にこれ以上ない程の敗戦だった。沙都子と横のメリュジーヌが来てくれなければ、今頃は羽蛾諸共、人の形を留めていなかっただろう。
「いえ、困ったときはお互い様ですわよ」
「僕も騎士としての務めを果たしただけだ」
「それよりも───」
完全に信用しきっている沙都子を見つめながら、沙都子は内心でほくそ笑んでいた。
メリュジーヌのアリバイを作るにしても、西側の多数の参加者に悪行をバラされた以上、沙都子の立場はやはり不利なのだ。
都合よく、情報で出遅れている参加者を探していたところ、目に付いた施設に物資の調達もかねて足を踏み入れたところ、丁度いい二人組が襲われていた。
さも対主催のように駆け付けて助けて、そして話を聞いてみればエリスは殆ど参加者と接触していない。
これはこちらの手駒を増やす、またとないチャンスだった。
「ええ、ルーデウスは───」
(もう良いんですのよそれは)
メリュジーヌに化けたカオスも、心底辟易した顔をしていた。
巻き込まれた可能性のある知人のことを聞いたのが間違いだった。
エリスはルーデウスという少年の事をペラペラと数分に渡り語り出し、沙都子ですらドン引きする程の熱量でルーデウスの良さを説き出したのだから。
(……これ、口裏合わせる時にメリュジーヌさんに伝えなければいけませんの?)
面倒ごとを増やさないで欲しいですわね。苦々しく思いながらも口には出さぬよう、口許に無意識に力を入れていた。
「……私はもう一度、家に戻るわ。ルーデウスが来るかもしれないもの」
(さて、どうしましょうか)
エリスはルーデウスとの合流を最優先に動いているらしい。沙都子の梨花への執着を考えれば、人の事を言えた義理ではないが病的だ。
流石に我愛羅が居るのを考えた上で、家の周辺を張るとは言っており、一度負けた相手に喧嘩を売るわけではないらしいが、沙都子としてはあまり美味しくない。
下手にシカマルに合流でもされて、こちらの悪評を聞かれれば面倒だ。このエリスという女、猪女に見えて理屈が通れば理解を示す。馬鹿ではない。
シカマルならば、エリスを納得させることは容易だろう。それではアリバイどころではなくなる。
「それは、わたくしに任せて貰えませんか?」
だから、エリスには遠ざかって貰う。
「気持ちはありがたいわ。でも、ルーデウスと会うのは私の都合よ」
「あの砂を使う殿方がいらっしゃいます。危険ですわよ」
「……確かに、悔しいけど私はあいつに勝てない。だけど、ルーデウスが知らずに来たら───」
「だから僕達が代わりに見張っておく」
ともすれば、本物よりもより騎士らしく。カオスはそう言った。
-
「僕なら、あの砂の使い手と戦える。沙都子一人なら庇いながらでもね」
「どうしてそこまでしてくれるのよ」
「わたくしにも、会いたい人が居たから…でしょうか」
「……」
敢えて、意味深にぼかしながら言葉を紡ぐ。
意識を取り戻さないにーにのことを、そして梨花からの拒絶を思い起こし感情に乗せる。
そして、エリスは何かを察したかのように口を閉ざして、同情的な目で沙都子を優しく見つめてくれた。
そう、こういう思わせぶりな態度を取っておけば相手が勝手に警戒を解いたり、親身になってくれることを沙都子は経験則で知っていた。
こうして一度懐に入ってハメれば、後は大抵の台詞を都合よく解釈してくれる。
「だから、エリスさんを放っておけなくて」
「なら……私も同行する」
「いえ…もしルーデウスさんが、エリスさんのお家に来ない場合も考えられますわ。
例えば…タブレットの使い方が分からなく、地図を確認できないとか……。
ですから、別のエリアも探した方が良いと思いますの」
エリスの話が本当なら、彼女の住む世界は文明の水準が低い。故に、タブレットが見れないという可能性も信憑性が増す。
言われたエリスも心当たりがあるのか、少し考え込む素振りを見せた。
いける。このまま言い包めて、梨花達と遭遇しないであろう場所まで移動して貰えれば、メリュジーヌのアリバイになる。
沙都子は強く確信を持った。
「エリス、沙都子の言う通りだ」
羽蛾が沙都子の言い分に同調する。
「だから、沙都子ちゃん…僕に武器を分けて貰えないかな?」
「羽蛾?」
エリスが驚嘆し羽蛾の胸元を掴み上げる。だが羽蛾は怯まず、ペラペラと舌を回した。
「いやあ、僕もエリスを守りたいんだよ…ジルも女の子だしね。
だから、この娘達を守れる力が欲しいんだ……それなら、思いっきりルーデウスを探しに行けるんだけど……無理なら、沙都子…僕は別れるべきじゃないんだと思うんだよ」
「……」
「今の僕一人じゃ、エリスを守れる自信がなくてさぁ!」
「羽蛾! 助けて貰っといて、支給品までたかる気!?」
遠回しに、見返りさえ寄越せば何処へでも行ってやると羽蛾は暗に言っていた。
───誘導が露骨過ぎたか?
エリスの心を開かせる為に、羽蛾からの心象を疎かにした可能性もある。
だが、それ以上にこいつは恐らく、クズだ。
面倒な相手と組んでいるものだと、沙都子は内心で苛立つ。
時折、こういうのが一切効かない下種がいるものだ。
(まあ、アリバイがどうこうまで勘付いた訳ではないと思いますが……)
一時間前なら殺していたとこだが、今の沙都子には貴重なアリバイ要員だ。エリスだけいれば良いが羽蛾だけピンポイントで殺す訳にもいかないだろう。
別れた後、別の姿に化けたカオスにやらせるのも思いついたが、エリスが出張って間違って殺める可能性もある。
それに、そこまでの時間もない。梨花達が分散して、悪評を撒かれる前がリミットだ。
(武器がないと、とぼけても構いませんが)
流石にランドセル内を確認させろとまでは言ってこないだろうし、その場合は流石に反論する。
ただ、一応友好的な姿勢を見せて、信用を得ておく。少なくとも羽蛾が根っこから信頼することはないだろうが、沙都子が対主催だと印象付けておくのも悪くないか。
それに、自信満々にカオスを従えたものの、沙都子も相応には追い込まれた立場だ。あまり選り好みもできない。
-
(銃、一丁でも渡しておけばポーズとしては十分でしょうか?)
今更、銃を手放したところで、戦力に大きな差異はない。銃で死なない化け物が多すぎるのだ。そこまで惜しくはない。
(それか、わたくしが持っていても意味のない武器もありますが……)
沙都子のランドセルに眠る一振りの剣、カオスの持ち物を確認して手に入れたそれ。
その名を、悪鬼纏身インクルシオという。
白の竜の鎧を呼びし鍵剣。
それを纏えば、素材となった竜の力を手にすることが出来る。
強力な帝具の一つだが、帝具には相性がある。
沙都子には使えず、カオスも使うと体調の悪化を訴えた。
『自分より弱い竜を着る必要がない』
メリュジーヌの言い分は意味が分からなかったが、インクルシオの使用を拒絶し、結果として鍵剣はこの島に主なき帝具として沙都子の手の中にある。
手放すこと自体には、さして後ろ髪を引かれる思いはない。
ただ、戦力として他者に渡るくらいなら、持ち続けている方がマシだと思っていた。
(まあ、銃で……)
身に着けていた銃に触れようとして、体が拒絶していた。
こんなもの、この島の参加者には通用しないのはゴロゴロいる。そんなのは分かっていた。
分かっていたのに、手放す事が出来ない。それを思い浮かべた瞬間、沙都子は恐怖を覚えた。
効かない参加者が居ると分かっていても、それが今の沙都子を守る数少ない武器だから。
勿論、メリュジーヌもそうだが、現在はカオスも居て何なら自分に依存してくれていて以前より、身の安全は盤石となっている。
それなのに、銃を手放すのが怖い。
何故なら、沙都子はカオスを完全には信用していないから。
カオスはこれ以上ない程に、沙都子に信頼を寄せているのに。
理屈としては分かっている。個人的にもカオスの事は可愛いく、好ましい。本当に雛見沢に連れ帰っても良いくらいだ。
ただ、百年以上掛け替えのない友を、仲間達を欺き、弄び、殺め続けた沙都子がはるか以前、無限回前に置き去りにしてしまった何か。
(妙な…気分ですわね……)
外見は変わらぬまま、欠損し欠落した何かが、沙都子に非合理な行動を取らせた。
「……この、剣をエリスさんにお渡ししますわ」
何も考えなしではない。まず、インクルシオは羽蛾と相性が悪そうだ、
あまり言いたくないが、性根がひん曲がっている自覚のある沙都子が使えない以上、似たような性悪の羽蛾が使えるとは思えない。
予想通り、持たせて使わせてみれば眩暈を起こし、逆にエリスには適合した。
つまり、インクルシオの戦力が加わりエリスの生存率はそれなりに上昇したのだ。
(まあ、羽蛾の言う通りエリスさん達には戦力が足りないのも事実…。
この蟲はともかく、エリスさんが生き延びて、メリュジーヌさんのアリバイを主張しつつ、こちらに好意的であるのなら、インクルシオを譲っても良いでしょう)
「悪いわね…沙都子、私の───」
「いやぁ、ありがとう!! 助かったよ!」
エリスが自分の支給品を譲ろうと言いかけたのを羽蛾が大声で遮る。
「で、西の方…I・R・Tの方角にはルーデウス君は居なかったんだね? さあ、エリス…それ以外のエリアを探しに行こうか!」
勝手に方針を決める。それほどまでに、自分の戦力を減らしたくないのだろう。
まあ、沙都子からすれば願ってもない事だ。梨花達から遠ざかってくれればありがたい。
「……沙都子、この恩は忘れないわ!」
(ええ……そう遠くない内に返してもらいますわ)
真っ直ぐに武人としての真摯さが垣間見えるエリスの瞳を、沙都子は邪な穢れた目で見つめ返した。
(あいつ、エクゾディア捨てる時に、遊戯の前で猫被ってたオレに似てる気がするぜ……)
羽蛾もまた沙都子を見つめ、きな臭さを覚えつつあった。
───
-
「……あの女」
『沙都子に手を出すな』
我愛羅はグレイラット邸に残りながら、先ほど矛を交えたメリュジーヌと呼ばれた少女を思い返していた。
あの少女の希望を得たような力強い声に、伽藍の器を注がれ満たしたような輝く瞳。
何を得たか、僅かな気掛かりとなっていた。
何かをずっとずっと欲していたようで、それを手に入れて無邪気にはしゃいている。
そんな風にも感じられた。
そしてそれを与えたのは、あの沙都子という女なのだろう。
こんな己一人しか生き残れぬ、己しか愛せない場で他人から何を得た?
『こいつは…オレの愛すべき大切な部下だ』
何故か、以前戦ったあの体術使いの下忍と、それを庇った上忍の姿が浮かんだ。
【G-4 ボレアス・グレイラット邸/1日目/早朝】
【我愛羅@NARUTO-少年編-】
[状態]健康
[装備]砂の瓢箪(中の2/3が砂で満たされている) ザ・フールのスタンドDISC
[道具]基本支給品×2、タブレット×2@コンペLSロワ、サトシのピジョットが入っていたボール@アニメ ポケットモンスター めざせポケモンマスター (現在、サトシのピジョットは空を飛行中)、かみなりのいし@アニメポケットモンスター、血まみれだったナイフ@【推しの子】、スナスナの実@ONEPIECE
[思考・状況]基本方針:皆殺し
1.出会った敵と闘い、殺す。一先ずグレイラッド邸で待ち伏せを行う。
2.ピジョットを利用し、敵を、特に強い敵を殺す、それの結果によって行動を決める
3.スタンドを理解する為に時間を使ってしまったが、その分殺せば問題はない
4.あのスナスナの実の使用は保留だ
5.俺の知っている忍者がいたら積極的に殺したい、特にうちはサスケは一番殺したい
6.かみなりのいしは使えたらでいい、特に当てにしていない
7.メリュジーヌに対する興味(カオス)、いずれまた戦いたい
[備考]
原作13巻、中忍試験のサスケ戦直前での参戦です
守鶴の完全顕現は制限されています。
【G-4/1日目/早朝】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(7/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:カツオを経由で、悟飯を扇動してもらう。今の不利な私の立場は使えますわ。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス半壊、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、メリュジーヌに変身中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品2〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
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【エリス・ボレアス・グレイラット@無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜】
[状態]:健康、少しルーデウスに対して不安、沙都子とメリュジーヌに対する好感度(高め)
[装備]:旅の衣装、和道一文字@ONE PIECE、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!(相性高め)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ルーデウスと一緒に生還して、フィットア領に戻るわ!
0:あの砂使いは警戒する。……あんなに強いのが、まだいるのかしら
1:首輪と脱出方法はルーデウスが考えてくれるから、私は敵を倒すわ!
2:殺人はルーデウスが悲しむから、半殺しで済ますわ!(相手が強大ならその限りではない)
3:早くルーデウスと再開したいわね!
4:私の家周りは、沙都子達に任せておくわ。
5:ガムテの少年(ガムテ)とリボンの少女(エスター)は危険人物ね。斬っておきたいわ
6:羽蛾は利用させてもらう。一応戦闘は引き受ける。
7:ルーデウスが地図を見れなかった可能性も考えて、もう少し散策範囲を広げるわ。
[備考]
※参戦時期は、デッドエンド結成(及び、1年以上経過)〜ミリス神聖国に到着までの間
※ルーデウスが参加していない可能性について、一ミリも考えていないです
※ナルト、セリムと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました
※沙都子から、梨花達と遭遇しそうなエリアは散策済みでルーデウスは居なかったと伝えられています。
例としてはG-2の港やI・R・T周辺など。
【インセクター羽蛾@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:右腕に切り傷(小)疲労(中)
[装備]:モンスターボール(フェローチェ)@アニメポケットモンスター、グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)
[道具]:基本支給品一式&ランダム支給品0〜1(マルフォイのランドセルに収納、タブレットは破壊済み)、タブレット@コンペLSロワ 賢者の石@ハリーポッターシリーズ
[思考・状況]基本方針:優勝を狙いつつ生き残る。もし優勝したら、願いも叶えたいぜ。
1:とりあえず、エリスに同行する。エリスが優秀狙いにならないか、警戒もしとく。
2:ほかの参加者とも、色々会っておきたいぜ。
3;優勝も視野に入れているが、一番は自分の生存。当面は対主催の立場で動く。
4:リーゼロッテちゃんのようなオカルトの力には注意だな
5:せいぜい、死なないよう祈ってやるか…ヒョヒョヒョ
6:エリスの代わりに情報収集や、交渉役はしてやる。
7:沙都子は猫被ってると思うねぇ…ヒョヒョ―。
[備考]
参戦時期はKCグランプリ終了以降です
ポケモンについて大まかに知りました。
サトシとの会話から自分とは別の世界があることを理解しました。それと同時にリーゼロッテのオカルは別世界の能力だと推測しました。
ルーデウスについて、エリス視点から話を聞かされて無駄に詳しくなりました。
無職転生世界についてエリス視点で知りました。
【悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!】
超級危険種タイラントを素材として作られた帝具。
グランシャリオのプロトタイプであり、同じく鍵剣から名を叫ぶ事で鎧を装備できる。
その鎧は装着者に合わせ進化する。
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投下終了です
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ディオ・ブランドー、キウル、ルサルカ・シュヴェーゲリン、メリュジーヌ 予約します
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投下します
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そう高くないビルの屋上で、小さなラップ音が、大気に響く
すると、さっきまで一つだった筈の薬剤が、分裂するように二つに分かれた。
分裂と言っても、元の薬剤の大きさはそのままで、だが。
「ワーオ!非実在(アリエ)ねぇ〜!どうなっとん、質量保存とかそーゆーの」
ガムテープを顔中に巻き付けた怪人少年、破壊の八極道。
殺しの王子様(プリンス・オブ・マーダー)、ガムテは感嘆の声を上げた。
ルサルカとの交戦後行った実験の成果を、恐る恐る口に含んでみる。
「うぉお真実(マジ)かァ〜!ガチで同じのもう一個増えてるッ!嬉ち〜い!!」
口に含んだ瞬間開始する、地獄の回数券(ヘルズ・クーポン)の覚醒作用。
同時に粉砕骨折していた片腕も、二度目の服用により完全に治癒した。
間違いない、分裂した地獄の回数券と分裂源のオリジナルの差異は全くないと言っていい。
その事を、手の中にあった支給品である『バイバイン』の薬剤から確信する。
「これで薬(ヤク)の在庫にゃ困らねェ。乃亜…マジ感謝(アザ)」
バイバインという、染みこませた物品を時間経過で増やす薬剤。
制限により本来の物よりも遥かに増えるペースが落ちているが、それでも収穫だ。
これで、ガムテに地獄の回数券の枯渇はなくなった。
一舐めするだけで極道を忍者に並ぶ超人へと変える、地獄の回数券は彼の生命線と言っていい。
そんな地獄の回数券に未知の薬剤をかけるのは当初の内は抵抗があった。
もし最悪(ハードラック)を引けば、地獄の回数券二枚キメという、死が確定する憂き目を招いたかもしれないのだから。
「あとは俺も異能(チート)手に入れられたらい〜んだけどなァ……」
地獄の回数券にバイバインを使うのは間違いなく賭けだった。
負ければガムテはこの殺し合いにおいて何も成せず死ぬ。
だが、この地には忍者すら再現不可能な術理を操る魔人たちがいる。
その者たちを相手にするなら、地獄の回数券の残量を気にせず戦えるのが絶対条件だった。
そして彼は賭けを挑み…今ここに勝った。
分裂した地獄の回数券を口に含んだが、いつも通りの薬効だ。
それ以外、体には何の異変も無い。
紛い物の超人(フィジカルギフテッド)と化した彼は、ひとしきりはしゃぎ。
そして、デイパックから半分だけ出した刀を引き抜いた。
「メラゾーマ」
一秒前までガムテが立っていた場所に、業火が立ち上る。
ただの人間であれば、間違いなく焼け死ぬ規模の炎だった。
それが何の前触れもなく現れた、当然、人為的な者だろう。
覚醒した感覚と持ち前の超直感を用いて周囲を睥睨してみる。
すると、下手人は即座に発見できた。
「マヒャド」
刀を抜いた相手に急接近しても慌てる様子は無く。
業火を放った張本人と見られる銀髪の少年は涼やかな声で、新たな呪文を唱えた。
瞬間、ガムテが何よりも信頼を置く直感がけたたましくアラートを奏でる。
脚のバネに力を籠めて、跳躍を行う。
「ビヨヨ〜〜ン!!」
銀髪の少年は俄かに驚愕の表情を浮かべるが、既に振られた杖は止まらない。
杖からミサイルの様に、ガムテの上背よりも大きい氷塊が連続で発射される。
だが、撃ちおろす形で放たれたそれは、常人離れした跳躍を見せたガムテには一発も命中しない。
「キャハッ☆マジ簡単(イージー)」
ガツ!と落下の瞬間氷塊に刃を突き立てぶら下がり、氷塊に足を着け即席の足場とする。
直後、膝を折り曲げ、脚部と上半身のしなやかなバネに力を籠めて──刀を引き抜くと同時にミサイルの様に吶喊を行う。
「メラゾ───」
良い判断だと、ガムテは思った。
新たな詠唱を行おうとしていた少年は、飛来してくる敵手を見て回避に切り替えた。
もしそのまま詠唱を行っていれば、少年の喉元にはガムテの刃が突き立っていただろう。
素人ではない。刹那の思索を行える、殺し殺されの世界を渡って来た者のそれだ。
「あははっ!」
-
それを裏付けるように、少年は笑顔だった。
まるで気に入った遊び場で、気の合う友人を見つけたような。
本当に楽しそうに、殺し合いに興じていた。
(あぁ、そうか────)
その表情を見て、ガムテは確信した。
言葉など交わさなくとも。
ただ殺意をぶつけ合うだけで分かる。
目の前の銀髪の子供は───
(お前も、か)
壊れている。
もう元々はどんな形をしていたか、分からなくなってしまった程に。
こいつは、間違いなく割れた子供だ。
自分が導くべき、グラス・チルドレンで相違ない。
「だったら、俺がやるべきことは……」
導くために、力を示す。
割れてしまった子供達、全ての王として。
力なき王など、裸の王にも劣る。
ガムテの直感が、目の前の相手は決して勝てない相手ではないと告げていた。
なれば相手が何某かの未知の異能を持っていようと関係ない。
勝つ。殺しの王子様として、勝って見せる。
「───おいで」
妖しく笑った銀髪の少年が、その手の杖を振るう。
すると、空間に切れ目のような物が走り、そこから人型の影のような物が三体現れた。
直感を働かせずとも分かる、これは、危険なものだと。
影でありながら三次元的な厚みの伴った人型の影が、二本の腕をびきびきと膨らませ。
ガムテに向かって殺到する。
「ぴゃっ!オバケ〜〜〜!?」
ガムテは怖がるような仕草を見せる。
一瞬で目尻には涙が浮かんで、如何にも震え上がっているという様相だった。
思わず見ていると脱力してしまいそうな、そんな彼の雰囲気。
「────良かった☆」
交錯の瞬間、一瞬のうちにそんな彼の態度が切り替わる。
夜の闇に、白刃が煌めく。
杖で超常の力を得ている少年の目にも、ガムテが何かを振るった事しか分からない。
そんな速度で妖刀村正は振るわれていた。
「───烏合(チョロ)くてよォ〜〜」
一秒に短い間で少年が呼び出した怪物…怪しい影達は切り捨てられていた。
これでガムテと銀髪の少年の間に障害はない。
距離的にも少年が言葉を紡げるのは後一言。
次で決まる。ガムテはその確信と共に、トップスピードへと移行する。
「ラリホーマ」
笑顔と共に唱えられる呪文。
ズン、とガムテの頭が重くなる。
「不ッ味(ヤッベ)……」
急激に襲ってくる、眠気。
おぼつかなくなる足元。
このままではあと数秒で眠らされる。
直感でその事を悟った。
それは奇しくも、正史において彼が殺す忍者との戦いの再現の様だった。
故に、
-
「僥倖(ラッキ)ィッ!!一瞬だけど大臣たちに会えた〜!」
この戦いでも、彼は睡魔と言う人間が抗えぬ欲求に勝利する。
苛烈な虐待で得た、数週間に一度の睡眠でも生存が可能な特異体質。
それに依って得た睡眠耐性が作り上げた、意識が堕ちるまでの数秒間。
殺しの天才であるガムテにとって、数秒あれば十分すぎる。
「ど〜よ…!僕チン偉大(パネ)くなァ〜い……?」
どしゅ、と言う音と共に。
ガムテの掌に鮮血の花が咲いていた。
その中央から伸びた日本刀は、真っすぐに。
銀髪の少年の喉元を捕えていた。
意識はママから与え続けられてきた愛と同じもの──即ち、痛みのお陰でクリアだ。
後ほんの少し力を籠めれば、串刺しにすることができる。
そうすれば、攻撃の為に呪文を唱えなければならない少年は詰む。
「……うん、凄いね、お兄さん」
だが、両者共にそうならないことは分かっていた。
銀髪の少年が杖を降ろすのと、ガムテが掌から日本刀を引き抜くのは同時だった。
少年たちは、知っていた。
お互い、殺す側の存在である事を。命のリングを回す側の存在である事を。
そして、殺し続けるためにはただ暴れるだけではダメだという事も知っていた。
時には殺さず、利用しなければならない者もいる。その事を彼等は知っていた。
そして、今、お互いがお互いの眼鏡に叶った。ただそれだけの話なのだった。
数分後、ビルを降り、連れ立って歩く少年たちの姿がそこにあった。
まるで戦いの後に和解し、友情を結ぶ、児童誌のような光景がそこにあった。
-
■
「う〜んこれめっちゃ美味(ウマ)ッ!美味ち〜い!!」
「そうだね、ボルシチが無いのは残念だけど、ここのデザートも結構美味しいや」
十分ほど後、ビルに隣接していた大き目のコンビニエンスストア。
そのイートインコーナーで、勝手に拝借したスイーツとジュースを肴に、二人の少年が交流していた。
ガムテとヘンゼル。日本とルーマニアが育んだ殺し屋二人であった。
彼等はプリンやバナナサンド、チョコレートなどの甘味が所せましと並べられ、それぞれ思い思いの物に舌鼓を打つ。
支給品の食料はダメだ。最後の晩餐には間違いなく選ばないほど味気がない。
腹減っては何とやら、これから仕事の前に糖分を摂るのは間違っていないはず。
「ふ〜ん、ヘンゼルはその杖で魔法使い(なろう)になったん?」
「うん、この杖を握った時から魔法使いになったんだ。普段の獲物は違うんだけど…
今はこの杖で腸をかき回したい気分かな。魔法で殺すのもいいかも」
朗らかなやり取りとは真逆の、血なまぐさい会話内容だった。
だが、殺しこそのこの二人にとって最も円滑なコミュニケーションツールだった。
そのままひとしきり殺しについての談義を通わせて。
その後お互いの支給品の話になると、ガムテはぽりぽりと頭を掻きながら自身の支給品を腐した。
「いいよなァ〜ヘンゼルは、いい得物(モン)貰ってさァ〜
俺なんか日本刀(ポン)も短刀(ドス)も最初無くて枝で殺しあってたんだぜェ〜?」
「そうなんだ。う〜ん……ナイフなら僕の支給品にあったけど、使う?」
「真実(マジ)!くれくれくれッ!!!」
人差し指を顎に当てて、少し考えこむ様子を見せて、提案するヘンゼル。
案の定、使い慣れた武器が手に入る可能性のある話が舞い込んだガムテは目を剥いた。
そんなガムテを尻目に、ごそごそとデイパックからヘンゼルは一本の短剣を取り出す。
その短剣は、ハーマイオニー・グレンジャーを探していた時に見つけた物だった。
街角に打ち捨てられていた所を発見し、暫く探してみると近場に説明書も発見できた。
それは元々灰原哀の支給品だった。
だが、ドラコ・マルフォイの治療の為にデイパックを開いていた所に、
メリュジーヌとスターダストドラゴンが激突し、その衝撃の煽りを受けて、
一部の中身が零れ、隣接するエリアまで吹き飛んでいたのだった。
「ほらこれ、ルールブレイカーって言うんだって。
どんな魔法も打ち消せる魔法のナイフらしいから、君が使ってみなよ。
僕にはこっちの杖の方がいいし、そのナイフを握ってたらこの杖使えないし」
「ほほォ〜……?」
取り出されたのは、雷の様な形状をした、紫の短刀だった。
しかもただの短刀ではなく、支給品の説明によれば、魔力のあるものが扱えば敵のあらゆる魔術を打ち消す効果を持っているらしい。
その説明を確認して、成程これはヘンゼルには扱えないだろう、と思う。
これは先ず使用者に魔力が無ければ効果を発揮できないが、ヘンゼルにとって握るだけで魔力を生み出し、魔法が使えるようになる杖の方が余程使い勝手がいい。
両方使う事も考えたが、このナイフを握っていると、魔法が使えなかった。
どうやら、魔法を打ち消す効果が魔法の杖の力と反発して効力を発揮できないらしい。
これではただのナイフと変わりがないし、使うなら多種多様な魔法が使える杖の方がよい。
「もし欲しいなら、お兄さんが飲んではしゃいでたお薬と交換でいいよ」
だから、手放しても惜しくない武器と引き換えに、交換を提案する。
交戦前にガムテが摂取していた怪しい薬物。
ヘンゼルは、彼が自分と戦えたからくりはこの薬物にあると目を付けていた。
薬はあまり好きでは無かったが、ただの人間が杖を持った自分と戦いになるまで強くなる超人薬であれば話は別だ。
断られてもそれならそれで自前の武器を手放す事にならずに済む。損は無い。
むしろ、虎の子の薬を手放す事になるガムテの方がゴネそうなものだ。
ヘンゼルは笑顔の裏に、そんな考えを巡らせていた。
-
「了解(ラジャ)。オケ丸。ほんじゃ〜薬(ヤク)三枚とトレードなァ〜」
だが、ガムテの反応は当初ヘンゼルが予想していた物と違っていた。
あっさりと虎の子の筈の薬をイートインのテーブルに並べると、ヘンゼルが出したナイフをひったくった。
ヘンゼルは余りの即決即断っぷりに目をぱちくりと瞬かせて、ガムテに尋ねる。
「いいの?お兄さん、魔法使いにはみえないけれど。
どっちかと言うとハロウィンに出てくるスケアクロウだ」
「あぁ、勿論(モチ)。後で良いなら無くなったら追加で薬補充してやっから薬(ヤク)が底をついたら言えよ〜?」
「…いいの?それは魔力っていうのがないと扱えないし、お兄さんどう見ても魔法使いの様には見えないけど」
「良いって言ってんだろ〜が。別に異能(チート)なしでも短刀(ドス)として使えれば
花丸(ゴーカク)だしなァ。ほれっ!じゃあこれ、取っとけ」
ガムテはそう言って袖から抜き出した地獄の回数券をヘンゼルに投げ渡す。
受け取った地獄の回数券とガムテの顔を交互に見比べた後…ヘンゼルはまぁいいかとその手のナイフをガムテに渡した。
ナイフの特性を考えればそれなりにリスクのある選択だったが、地獄の回数券が魔法によるものではないことは杖が教えてくれる。
ならばあのナイフで刺されても地獄の回数券の回復力であれば即死はしない。
そして、まだ杖の力を信用していなかった頃、あのナイフを試しに杖に使ってみた事が彼にはあった。
その時、何も起きなかったし、尚も試そうとするとその直後に首輪で警告音が鳴った。
どうやら、乃亜のハンデに接触するらしい。
恐らく、自分以外の参加者があのナイフをこの杖に接触させても同じだろう。
あのナイフはこの杖の脅威にはなりえない。そうヘンゼルは判断した。
…如何な神代の魔術師の誇る宝具である短刀であっても、ヘンゼルの握る杖に眠る暗黒の神の魂を消し去る事は出来ず、
また封印を解く事も乃亜の制限によって封じられているのだが、そんな事彼には知る由も無かった。
「よォ〜し、短刀(ドス)も手に入ったし高揚(アガ)って来ちゃァ〜!
張り切ってぶっ殺すぞォ〜〜!!」
ぶんぶんと頭の悪い三下の様に振舞いながら、ガムテはその実考えを巡らせていた。
この短刀(ドス)は魔力が無ければ術師殺し(チートスレイヤー)として使えないらしい。
だが、ガムテの支給品にはその条件をクリアする支給品が眠っていた。
だからこそ、貴重な地獄の回数券の約半分を渡してでも交換を迫ったのだ。
(……ま、問題は使えるか。だけどなァ……)
魔力髄液という、例え新宿を歩いている様なチンピラでも魔力回路を覚醒させ。
最高位の神秘であるサーヴァントにすらダメージを与えられるようになる魔術薬品。
それが、ガムテに与えられた最後の支給品だった。
更にそれだけに留まらず、説明書にはに魔力を持たない者でも、
これを摂取した後一時間ほどであれば礼装や宝具の使用が可能と説明欄に書いてあった。
記載が虚偽でなければ、この薬品を脊髄に注射した後であればこの短刀(ドス)の真価が発揮できる。
それは異能(チート)跋扈するこの地で、これ以上なく心強い事実だった。
「極道(きわみ)なら…やる。どンだけ異能(チート)野郎がいようと…
極道流の怪物(バケモン)退治、かますだろ〜な」
-
少なくとも、自分が父と見定めた怪物、輝村極道ならばやるだろう。
人を超越した超人(フィジギフ)共…忍者達によって滅亡の危機に瀕した極道。
そんな中で華麗に忍者をブッ殺し、反撃の狼煙を上げた父ならば。
どれだけ純粋な戦闘能力で劣っていようと、最後に立っているのはあの男だ。
ガムテはそう確信していた。信仰してすらいた。
────パパができンなら、俺ができねェ道理はねェ。
誰であろうと、殺す。
刺して、殺す。それが殺しの王子様(プリンス・オブ・マーダー)だ。
そして俺は、俺達は優勝し、乃亜の前に立ち────、
「ねぇ、お兄さん。どうしたの?」
意識を夢想から引き戻す。
既にヘンゼルの姿は隣にはなく、陳列棚の前に彼はいた。
栄養補給を済ませ、気に入ったスイーツをありったけデイパックに詰め込んで。
二人並んでの再出発。さて、誰を殺そうかと言う意見交換。そう言う運びだった。
「ああ、謝罪(ワリ)。んで、何だっけ?」
「うん、だからそろそろ誰か殺したいなーって。流石に放送までに誰も殺せてないんじゃ、
姉様に笑われちゃうのを通り越して、がっかりされちゃいそうだからね」
だからお兄さん、あのビルの上に居た時他の子見たりしなかった?
そうヘンゼルは尋ねた。
その笑みに、ガムテは獰猛な笑みで応える。
「あぁ、当然(バッチ)しなァ。取り合えず、此処の近くの館周りが臭ェな。
あとはE-4の方から何人か近くに来てんのが見えた、どっち行く?」
ガムテの問いかけに、うーんと子供らしく首を傾げてヘンゼルは思案する。
そうして獲物が近い方はどっち?とガムテに次いで尋ねてくる。
「ン〜ゾロゾロ居たのは港の方に向かってた連中だなァ。
館の方は人の出入りが激しくて今もいるか分かんねっ☆」
「そう。されじゃあ多い方を狩って、その後館の近くに行ってみようか」
「オケ丸ゥ〜!そんじゃ〜サクサクブッ殺して行こうぜ〜!!」
方針は決まった。
ガムテとヘンゼル本体はこれから港に向かう者達を狩る。
遠い昔に壊れてしまった二人の少年は、血を求めて歩き出す。
その表情は一様に笑顔だった。気の合う友人を見つけたような顔を、各々はしていた。
(悪ィなァ、ヘンゼル……)
だが、その実彼らは理解している。
そう遠くない未来に、自分達が殺しあう事になることを。
今こうして彼らが並び立っているのは単なる利害の一致。
そして、誰かを殺さずにはいられないサガが合致した、それだけの話で。
真に分かり合った訳では決してないからだ。
ヘンゼルは、彼自身と同じく買われた子供達を何人も何人も何人も殺してきた。
その時が来ても、ガムテを杖で貫くことを躊躇わないだろう。
最早人を殺すという事は彼にとっては食事と同じ。
それほどまでに、彼は壊れてしまっているのだから。
最早、元の形が何であったかも分からない程に。
(お前が死んでも、お前は俺の心の中で生きていくよ)
ガムテもそうだ。
ガムテもまた、殺してきた。彼が味方すると決めた割れた子供達を。
割れた子供達に卒業と言う儀式は存在しない。
穢れた大人になるための儀式など、グラス・チルドレンには不要な物だ。
だから、卒業が間近になった年齢の子供達はみんなガムテに挑んでくる。
大人になる前に、殺してもらうために。
そんな彼が、導くべき子供だと言っても、今更殺すことを躊躇したりしない。
時が来ればその手の短刀を容赦なくヘンゼルに突き立てるだろう。
何故なら、彼にはそうしてでも辿り着くべき地平があるのだから。
-
――――地獄行きの誘導(てつだい)をしてる自覚、ある?
知ってるよ。
うるせェよ。
でも、初めて、もしかしたら。
変わるかもしれないんだよ。
変えられるかもしれないんだよ。
「どうしたの?ガムテ」
死人だって生き返られるなら。
何でも本当に願いが叶うなら。
俺の隣で歩くこいつが。
ヘンゼルなんて殺し名(コードネーム)を与えられた、そんな人生を。
割れた子供達になるしかなかった、そんなクソみたいな運命を。
変えられるかもしれねェんだろうが。
────優勝した者にはどんな願いも叶えよう。
乃亜の奴はムカつくし、ぶっ殺してやりてェけど。
殺すしかなかった俺達が。
これからも殺していくしかできないだろう俺達が。
始めて、殺す事で何かを創れるのかもしれないなら。
そりゃ殺すだろ。あぁ何だってブッ殺してやるよ。
それに何より。
「………なんでもないさ」
──結局の所、願いが叶おうと叶うまいと、俺達はこうやって生きるしかないんだからな。
【G-3/1日目/早朝】
【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康
[装備]:鉄パイプ@現実 神鳥の杖@ドラゴンクエスト8
[道具]:基本支給品×1、死者行軍・八房@アカメが斬る!
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:あれ?逃げられた? 魔法学校で待っていればそのうち来るよね。魔法使いなんだし。
1:姉様と合流したい。
2:魔法の力でイロイロと愉しみたい。 人形でも遊びたい。
3:魔法使いのお姉さん(ハーマイオニー)はお人形にする。
4:ガムテープのお兄さんとは気が合いそうだし、姉様と合流するまで一緒に行こうかな。
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく。
[備考]
※参戦時期は死亡前です。
※神鳥の杖の担い手に選ばれました。暗黒神の精神汚染の影響は現在ありません。
【輝村照(ガムテ)@忍者と極道】
[状態]:全身にダメージ(小)
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、
破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order、妖刀村正@名探偵コナン、
[道具]:基本支給品、魔力髄液×10@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2
[思考・状況]基本方針:皆殺し
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:ヘンゼルは割れた子供として接する。…いずれはぶっ殺すだろうな。
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
【魔術髄液@Fate/Grand Order】
輝村照に支給。
ただの人間を魔術師に仕立て上げる霊薬。
脊髄に打ち込むことで僅かな刻の間、疑似的な魔術回路を形成する。
投与された人間は一時的に最高位の神秘であるサーヴァントにもダメージを与えられる程の魔力を得る(それでサーヴァントに勝てるかは別問題だが)。
十本セットで支給された。再臨もスキル上げもできない微妙な量。
【バイバイン@ドラえもん】
輝村照に支給。
目薬状の容器に入った薬品で、増やしたい物に一滴垂らすと5分ごとに数が倍に増える。
しかし本ロワは制限により、増やせるのは薬品をかけた本体のみ。
増えた物体が分裂してさらに増える…と言う現象は起こりえず、倍になるスピードも一時間に一度まで遅くなっている。
本編の様に一個の栗饅頭にかけても増えるのは一時間に一個。当然食べきればなくなってしまう。
また、薬品自体も一回限りの使い切りである。
【破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order】
元々は灰原哀に支給。
裏切りの魔女メディアの宝具。
真名解放した状態で突き刺せば、あらゆる魔術的機能をキャンセルする効果を持つ。
幾節にも折れ曲がった奇妙な形状をしているが、普通のナイフとしても使用可能。
ただし、魔力を持つ者でなければ真名解放は行えない。
-
申し訳ありません。>>367を此方に差し替え、ヘンゼルの支給品に地獄の回数券を追記しておきます。
「了解(ラジャ)。オケ丸。ほんじゃ〜;薬(ヤク)三枚とトレードなァ〜」
だが、ガムテの反応は当初ヘンゼルが予想していた物と違っていた。
あっさりと虎の子の筈の薬をイートインのテーブルに並べると、ヘンゼルが出したナイフをひったくった。
ヘンゼルは余りの即決即断っぷりに目をぱちくりと瞬かせて、ガムテに尋ねる。
「いいの?お兄さん、魔法使いにはみえないけれど。
どっちかと言うとハロウィンに出てくるスケアクロウだ」
「あぁ、勿論(モチ)。後で良いなら無くなったら追加で薬補充してやっから薬(ヤク)が底をついたら言えよ〜?」
「…いいの?それは魔力っていうのがないと扱えないし、お兄さんどう見ても魔法使いの様には見えないけど」
「良いって言ってんだろ〜が。別に異能(チート)なしでも短刀(ドス)として使えれば
花丸(ゴーカク)だしなァ。ほれっ!じゃあこれ、取っとけ」
ガムテはそう言って袖から抜き出した地獄の回数券をヘンゼルに投げ渡す。
受け取った地獄の回数券とガムテの顔を交互に見比べた後…ヘンゼルはまぁいいかとその手のナイフをガムテに渡した。
ナイフの特性を考えればそれなりにリスクのある選択だったが、地獄の回数券が魔法によるものではないことは杖が教えてくれる。
ならばあのナイフで刺されても地獄の回数券の回復力であれば即死はしない。
そして、ナイフを拾った時に、試しに杖に使ってみた経験が彼にはあった。
その時、何も起きなかったし、尚も試そうとするとその直後に首輪で警告音が鳴った。
どうやら、乃亜のハンデに接触するらしい。
恐らく、自分以外の参加者があのナイフをこの杖に接触させても同じだろう。
あのナイフはこの杖の脅威にはなりえない。そうヘンゼルは判断した。
…如何な神代の魔術師の誇る宝具である短刀であっても、ヘンゼルの握る杖に眠る暗黒の神の魂を消し去る事は出来ず、
また封印を解く事も乃亜の制限によって封じられているのだが、そんな事彼には知る由も無かった。
「よォ〜し、短刀(ドス)も手に入ったし高揚(アガ)って来ちゃァ〜!
張り切ってぶっ殺すぞォ!!」
ぶんぶんと頭の悪い三下の様に振舞いながら、ガムテはその実考えを巡らせていた。
この短刀(ドス)は魔力が無ければ術師殺し(チートスレイヤー)として使えないらしい。
だが、ガムテの支給品にはその条件をクリアする支給品が眠っていた。
だからこそ、貴重な地獄の回数券の約半分を渡してでも交換を迫ったのだ。
(……ま、問題は使えるか。だけどなァ……)
魔力髄液という、例え新宿を歩いている様なチンピラでも魔力回路を覚醒させ。
最高位の神秘であるサーヴァントにすらダメージを与えられるようになる魔術薬品。
それが、ガムテに与えられた最後の支給品だった。
更にそれだけに留まらず、説明書にはに魔力を持たない者でも、
これを摂取した後一時間ほどであれば礼装や宝具の使用が可能と説明欄に書いてあった。
記載が虚偽でなければ、この薬品を脊髄に注射した後であればこの短刀(ドス)の真価が発揮できる。
それは異能(チート)跋扈するこの地で、これ以上なく心強い事実だった。
「極道(きわみ)なら…やる。どンだけ異能(チート)野郎がいようと…
極道流の怪物(バケモン)退治、かますだろ〜な」
【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康
[装備]:鉄パイプ@現実 神鳥の杖@ドラゴンクエスト8
[道具]:基本支給品×1、死者行軍・八房@アカメが斬る!、地獄の回数券×3@忍者と極道
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:あれ?逃げられた? 魔法学校で待っていればそのうち来るよね。魔法使いなんだし。
1:姉様と合流したい。
2:魔法の力でイロイロと愉しみたい。 人形でも遊びたい。
3:魔法使いのお姉さん(ハーマイオニー)はお人形にする。
4:ガムテープのお兄さんとは気が合いそうだし、姉様と合流するまで一緒に行こうかな。
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく。
[備考]
※参戦時期は死亡前です。
※神鳥の杖の担い手に選ばれました。暗黒神の精神汚染の影響は現在ありません。
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投下終了です
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投下、感謝(アザ)!
開始冒頭からテンション満点(アゲ)のガムテ、とても楽しそう。
半信半疑で薬(ヤク)を繁殖(ふや)せるか、自由研究(じっけん)してたのかと思うととても微笑ましい。
寝っ転がりながら、間近で満面の笑みで観察(み)てそう。
いつものハイテンションで、ヘンゼルとの交戦に入りますけど、やはり一目で同じ割れた子供だと分かってしまうのは物悲しい。
だからこそ、勝たなくてはいけないと思うガムテの独白が良いです。
異能をバリバリ使う相手に、技量や体質、駆け引きで同じ土俵に立つガムテの戦闘は見応えがあります。ラリホーマを突破するガムテ、もう叶わぬ想いですが、ちょっとマニッシュボーイと出くわして欲しかったかも。
しかし、地獄の回数券がヘンゼルにも渡って、双子揃って薬漬けなのは皮肉というか…こんなのに狙われてるハーたんのハードルが上がっていく……。
-
投下します
-
「漁船は乗ると、一時間以内に起爆…そして地図外に出ても起爆、ですか……」
キウルが呟く。
G-2 港。
海馬モクバ、ドロテアと別れてから1時間以上が経過した。
だが二人がやってくる様子が見られなかった為、ディオ・ブランドーは船を出す事を決意。
数百年を生きたルサルカ・シュヴェーゲリンの豊富な知識と、腹正しい事に乃亜があらかじめ用意したマニュアルを読み、船の出航はそう難しくはなかった。
自分達の知る船とは打って変わり、風がなくともエンジンで動く船はキウルとディオを驚嘆させ、その速度も帆船の比ではない。
これならば、本当に脱出も可能なのではと夢想するが、地図外に出ようとした瞬間、首輪からの警告が鳴る。
「頭に来る奴だ。僕達の考える事など、お見通しとでも言いたいのか?」
見ればマニュアルにもそれらの旨が載っており、やはりこの程度は想定済みなのかと、ディオは苛立つ。
そのまま旋回し、再び港へと帰ってきた頃には日も上がっている。放送とやらも、もうじきなのかもしれない。
「しかし、わざわざ首輪で警告するなんて、最初から船なんて置かなければ……」
「案外、海が弱点の参加者でも、居るのかもしれないな。……例えば、伝承の吸血鬼とかね」
吸血鬼は流水を渡れない。もっとも、そんなもの居る筈がないと、ディオは考える。
だから、半ば冗談と皮肉を交えて、ディオはそう吐き捨てた。
「……ま、収穫かは分からないけど、いくつか興味深い事を知れたわ」
ルサルカは、夜から朝になり替わる間際の空を見ながら言った。
「この海、出来立てね」
「なんだって?」
ルサルカを訝しみながらも、ディオじゃ砂浜の波打ち際に寄って行き、そして違和感に気付く。
「この海、奇麗過ぎる……」
港に着いた時点では、暗くて気付かなかったが、よく見れば海と呼ぶには透き通り過ぎている。
水を入れ替えたプールのように。
「そう、それに魚も泳いでない。だから、作られたばかりなのよ」
船に乗っている間、日が昇り始め影が生まれたのを利用しそれを操る魔術、食人影(ナハツェーラー)を使用し、海中を探らせていた。
海の中はしょっぱく、紛う方ない海水だ。だが、その生命の源とも言える海の中に、生物が一つたりとも存在しないのだ。
「たしか、電脳世界がどうこうと、モクバさんは…えーと……」
くしゃくしゃと、折り畳んでいた紙を取り出す。
───しかし、これだけ上質な紙が非常に安価で用意できるとは、世界はやはり広いものだ。
そんな、どうでも良い事に感心しながら、キウルはそこに記された文字に目を通す。
モクバは万が一、自分が死んだ時、あるいはチームが分散して片方が有力な知識を持っていながら、その場にモクバが立ち会えず、自分の持つ乃亜への情報を伝えられない事を予測し、予めメモに自分の考察や知り得る知識を書き記しキウルに手渡していた。
平行世界が関係し、参加者はそれぞれ別世界から呼ばれている事から始まり、混乱を避ける為に自分の仮定を強調しながらも、この世界が電脳世界である可能性とそうであればかつての自分達のように、機械に繋がれた本体が現実世界に存在するだろうと書き記している。
そして、乃亜は現実世界で死んだ同一人物の意識記憶を電脳世界に再現した少年で、自分達との諍いの後、改心して最後は助けてくれたのだとも。
-
「僕はその電脳とやらに詳しくはないが、この世界が偽物なら、魚や生き物がいないのも納得がいくよ」
ようするに、科学で再現した幻なのだとディオは理解した。
思い返せばここまで参加者を除いて、鳥どころか虫一匹見た覚えがない。
どんな都会でも、これらの生き物を完全に排するなど不可能だ。
「……頭に機械繋いで、ゲームをさせたんだっけ?」
「えーと、そうですね…特殊なカラクリで……」
「多分、その線は薄いと思うわ」
「ほう…どんな根拠があると言うんだい?」
「簡単よ。人間を数十人も昏睡させて、生かしておくってかなり大変なのよ?」
まるで経験があるかのように、ルサルカは言ってのける。
「この殺し合いが何日続くか…早くて一日、長引いて数日とかそこらでしょうけど、食事は誰が取らせるの? それにトイレは?」
人間は生き物だ。身なりを整え清潔さを保ってはいるが、それは日々の自己メンテナンスのよる賜物である。
「モクバ君って子が、前に乃亜にゲーム世界に連れ去られた時は、多くて10人も居なかったんでしょう? それにゲームも1日以内に終了……。
今回は人数が段違いだし、ゲームの想定期間も違うじゃない」
その意思を剥奪した上で、拘束して一定期間生かし続けるというのは、そう簡単なものではない。
科学でもそうだが、ルサルカの知る魔術であっても本体を丁重に保管するという前提では、難しい。
しかも、前回のモクバ達と乃亜の騒動と違って、今回は規模が桁違いだ。
やはり、この大人数を機械に繋げて数日間に渡る殺人ゲームをプレイさせるというのは、現実的じゃない。
脳味噌だけにして…なんてことも考えたが、それこそ肉体のない脳の保持に手間が掛かる。
だから、ルサルカが主催をするのであれば、全員肉体ごと作った空間に閉じ込める。
それに、あのシュライバーや、それと渡り合う悟飯を連れ去る事すら至難だというのに、機械の中でずっと眠らせておくというのも無理がある。
「……じゃあ、この海は…いえ、この島は」
おそるおそる、キウルも波打ち際に手を浸して呟く。
ここまで言われて、科学や魔術にも疎いキウルでもその結論に当たりは付いたが、とても自分の口からは言えそうにない。
「何もかも、一から作ったのよ。私達を戦わせる舞台として」
海を、陸を、空を、この空間そのものを。
乃亜が作り出した。それがルサルカの導き出した推論だ。
ハイドリヒ卿の城のように、異界と化した前例もある。
参加者全てが電脳化されたというよりは、乃亜を含めた電脳世界が異界として実体化し、参加者を生身のまま招いたと考えた方が無理がない。
自らを神と称したのも、世界を作ったという意味では、強ち誤った呼称でもないのだろう。
「……脱出方法は、あるのか」
ディオは表向きは強がった表情のまま、だが声に覇気はなく諦観したように呟いた。
最初は首輪を何とかし、通りすがりの船があればと考えていたのだ。
後のDIOならばともかく、今のディオは養子としての義理の兄弟の殺害を考える以外は、普通の子供だ。
異世界に連れ去られた挙句、殺し合えと命じられるなど、その許容量は既にパンクしていた。
「私の知る種類の力なら、乃亜を殺せばこの空間は崩れるかもしれないけど」
ルサルカ達、黒円卓の魔人が扱うエイヴィヒカイトに属する力であるのなら、その使用者を殺害すれば能力が止まる可能性は高い。
だがこれに関し、ルサルカは自分の発言そのものに疑問を持つ。
シュライバーに対抗した悟飯の能力は、エイヴィヒカイトの真逆にある。体内で高めた自らの生命エネルギーを解放し、破壊力へと変換する力。
それは、他者の魂を取り込み燃料とするエイヴィヒカイトとは、在り方が違っている。
他にも相手を若返らせる能力など、直接は見ていないが多様な異能がこの島にはある。しかも、その全てが別の世界の法則によるものであると見ていい。
安直に乃亜を殺せば、脱出できると考えるには、非常に危険だ。
首輪の解析と並行して、脱出手段を確保する必要がある。
-
(最悪、優勝したって良いけど…それで願いを叶えて……私は───)
その先の、渇望を思い浮かべようとして脳裏にノイズが走った。
あのキウルとかいう獣人の少年が、妙なことを言ったせいだ。
(……ただ、優勝するにしたってシュライバーや悟飯を何とかしないといけないし、あのガムテの子だって、あまり相手にしたくないわね。
私の創造も制限されてて、何度も連発出来ないみたいだし……。おかしいじゃない。シュライバーが居るなら、私にハンデなんて必要ないでしょ。何が公平性よ!)
(ふざけやがってッ! このディオを、何処まで舐め腐っていやがるッ!!
乃亜、貴様だけは殺してやる…殺してやるが、脱出も優勝も困難だと……?
あいつ、ゲームのパワーバランスぐらい考えられないのか、頭脳が間抜けかァーーーッ!?)
(お二人とも、とてもすごい剣幕だ。お怒りになられているのだろう。…当たり前だ。戦でもないのに、これだけの人が…しかも子供が亡くなっているのだから。
何としても、この殺し合いを止めなくては……しかし、別の異世界……兄上達ならば、どう立ち向かうのだろう?)
「見ない顔だね」
凛々しい奇麗な声だった。
キウルにしてみれば、目の前のルサルカも美声だが彼女の場合は、絡みつくような甘い艶めかしい声質。
この声は、透き通るようでありながら静かに冷たく、だが力強い。
「これ、は……」
声の通り、その主も美しい。
白銀の長髪に青紫の鎧を纏った可憐な騎士。
キウルは思わず息を飲んだ。
触れる事すら烏滸がましい程の、この世にこれ程の美貌を与えられる事が許されるものが居ようとは。
「キウルです」
「……メリュジーヌ」
少女は僅かに惑い、そして短くその名を名乗った。
恐らくは、このような場、追い詰められている精神状態であろうとも、完璧な騎士として振舞う癖が影響したのだろう。
「我々は殺し合いには乗っていません。メリュジーヌさん、貴女は……」
さて、どうしたものか。
沙都子の策通り、港…その周辺に居るであろう対主催とシカマル達も含めての処理、悪評が撒かれる前の妨害が、メリュジーヌのカチコミの目的の一つだ。
てっきり、先ほどの長髪の子供や、梨花という少女に帽子の少年が来ているのかと思ったが、自分が早く到着しすぎてしまったのか、彼らの姿はない。
あるいは別の方角へ向かってしまったのだろうか。
少なくとも、このキウルと名乗る少年は、メリュジーヌを知らない様子だ。
まだ梨花達は港の周辺には着いておらず、彼らとも接触はしていない。
───沙都子なら、何か吹き込みそうだけど。
また、下種な企みを実行に移し、他人を弄ぶのだろう。それに加担する己も同じ外道だが。
「……残念だけど、僕は君達を殺す」
沙都子に倣って、姦計を巡らせることも考えたが、もしも梨花達と通じていた場合、後から事が発覚して沙都子を追い込む可能性もある。
少なくとも、今は沙都子には有利でいて貰いたい。吐き気を催す程の嫌悪感はあるが、他者を操り誘導する手腕は高く、孫悟飯のような強者を相手にする以上、メリュジーヌも正面から挑むわけにはいかない。
彼女には利用価値がある。だから、その害になるのなら排除する。
それに、別の参加者達と合流し、結託されるのも面倒だ。
負けはしないが、後に控える悟飯や悟空という参加者を考えると、余計な消耗は避けたい。
数の少ない内に各個撃破するのが、効率も良いだろう。
-
「なっ……」
「抵抗しなければ、楽に死なせる」
まるで機械のように、淡々とプログラムされた台詞を無感情に吐いていく。
キウルの額から汗が流れる。
汗が濡れた個所が冷たく、つぅと、筋の線のように下に流れていく感触。
海から鳴り響く波音。
メリュジーヌの小さな口の動きまで、はっきりとキウルの五感は捉える。
(この方…強すぎる……一体……?)
手に持った弓矢は下に向いたまま、構える事ができなかった。
動けない。下手に微動だにすれば、次の瞬間にはキウルの命は絶たれていると、直感していた。
数々の戦を生き延びた戦士としての勘が、本能が、経験則が、ありとあらゆる機能が警鐘を鳴らし、五感を鋭敏に研ぎ澄まさせていた。
その上で、キウルの体は凍り付いたように動けない。
「フゥ…、フッ……」
今まで生きた中でもっとも高まった五感を駆使しても、一分の隙すら見つからない。ただ悠然と立つだけの少女に、畏怖を覚え、矢を射る事すら叶わない。
ただ対峙するだけで、息が荒ぎ、体力が根こそぎ持って行かれるほどに。
「形成(Yetzirah───イェツラー)」
だからこそ、この場でもっとも生に固執し、執着しているからこそ、魔女の判断は早かった。
この手駒は使えない。
ガムテならばまだしも、あの騎士を前にしては相手にならない。
勝負の前から負けている。
ならばこちらも、初手から最高戦力たる自分が出るしかない。
自らの聖遺物を実体化させ、エイヴィヒカイトを第二階位へと引き上げる。
制限により、霊的な加護は著しく劣化し本来通じ得ぬ物理的な干渉を受けてしまうものの、エイヴィヒカイトによる怪力や肉体の頑強さなど、魔人に相応しい高度な身体能力は未だ健在。
さらに聖遺物を目視可能としたことで、全ての身体スペックは飛躍的に向上し、一個軍隊を壊滅させる程の戦闘行為を可能とする。
「血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)」
歪な形状の鎖が、触手のように無数に出現する。
それらが意思を持った人の手のようにメリュジーヌへと襲い掛かる。
十以上の縦横無尽に駆け回る鎖の動きを、視線を流すだけで全て見切り、立ち尽くしたまま両腕の鞘を螺旋状に回転させる。
鞘の先、魔力で形成した刃は、鉄の鎖を容易く斬り砕く。
さらに、血生臭い針の山がメリュジーヌの顎下から穿ってくる。
「フンッ!」
翼を拡げるように腕を地面へと開き、魔力を解放した圧のみで針山を粉砕する。
「はぁ……!」
解放した魔力を促進力とし、音をも置き去りにする戦闘機のようにメリュジーヌは突っ込む。
捕縛しようとする鎖は触れる事すら叶わず、穿とうとする針山は触れた瞬間、高濃度に圧縮された魔力により弾け飛ぶ。
鞘を鈍器に、徒手空拳の要領で拳を打ち出すかのような動きで振るう。
その先、青ざめた顔のルサルカの前に壁が出現する。
構わない砕く。
その刹那、メリュジーヌの両脇に針山を携えた壁が二つ。
息を吐く間もなく中央のメリュジーヌを圧し込む。
「バン・カー!!」
血肉が零れる赤黒い光景ではなく、青紫の魔力の威光が数十発弾けるように輝く。
それらは壁を貫き、針を打ち折り無機質な破片へと粉砕した。
崩れ去る土屑を踏みながら、その中央でメリュジーヌは傷一つ負わず立っている。
「この、化け物……!」
叫びながら、ルサルカは後ろへ飛び退く。
あのメリュジーヌという少女、自分以上の年数を重ねた何かだ。
自らの操る魔術以上の神秘を秘めた別次元の存在。
ルサルカの世界ではない、別の世界の法則に於ける最上位の神秘。
莫大な魔力を機動力に変換し、その速さを御す優れた動体視力と身体能力。
それは、仮にも創造位階にまで到達した超人たる、ルサルカ以上といってもいい。
-
(なんだってのよ…悟飯君やシュライバーの次は、こんなものを……)
姿形は人に寄せているが、種として人間の上に属する。
聖遺物を操る魔人といえど、あれに張り合えるのは、大隊長以上をおいて他にはない。
黒円卓の中では、決して戦闘向きではないルサルカが、策も弄せず挑める相手ではない。
「武器の分霊みたいなものか」
ルサルカの手にある一冊の本、日記のように見えるそれが本体だ。
仕組みは分からないが、あの本がルサルカと密接に繋がっているに違いない。
これらの武器、いや拷問器具の類だろうか。
痛みや苦しみ、怨念や憎悪、血と肉のこびついた生臭い死臭。
あの本に記された拷問の記録を、現実に再現し具現化している。
「本体を潰せば、すぐに終わる」
故に結論は明快にして単純、日記を壊せばよい。そしてそれだけ肉薄すれば、ルサルカを殺す事も容易い。
(そりゃ、そうよね───仕方ないけど、創造で……)
敵討ちだなんだのと、意味の分からない理屈を宣うシュライバー。
制限下にあるのなら、悟飯との戦いで使った創造に回数制限が掛けられ、現在は発動できない可能性は高い。
本来なら活動位階でも相手をしたくないが、場合によっては悟飯と組んでルサルカが創造を繰り出す事で、あのシュライバーをも下せるかもしれない。
だから、温存をしておきたかったが、メリュジーヌを前にしてそれは自殺行為だと悟る。
「何故、殺し合いに乗ったのですか?」
己が内の渇望を、顕現させようとし───割り込むようにキウルが口を開いた。
「……一人しか生き残れないからだよ」
「いえ、貴女は戦士です。礼節を心得ている誇り高き戦士だ。
乃亜に命じられたからとはいえ、人を殺めるようには見えません」
「買い被りだ。僕は…死にたくないだけだ」
「国や世界は違えど、私も戦士の端くれだ。未熟故、矛を交えて想いを知る事は叶いませぬが……。
だからこそ、命を賭すならば、その理由をお聞かせ願いたい……!」
「聞いてどうする?」
「別の方法を明示できるかもしれません」
威圧するだけで動けなくなった有様から一転して、力強い眼でキウルはメリュジーヌを見る。
その声も芯があり、聞く者を揺さぶる熱を帯びている。
(兄上達ならば、このような状況であっても、必ずや光明を掴むはず……)
良い手本がいたのだろう。
キウルが見て来た者、その大きくも偉大な背を手本とし、自らの血肉へと変えて発露させている。
決意は揺らがないが、感嘆はしていた。
「別の方法などありはしない」
だが、メリュジーヌが示すは拒絶の意志だ。
沙都子と初めて出会った時と違い、その内面を吐露する気はない。
(この杖を、いや……おのれッ、このディオが怯えているのか……ッッ!!)
ランドセルに隠し持ったトルネコの杖。
ヤミを撃退した時のように、ディオはメリュジーヌを目の当たりにし、ルサルカとの交戦の間もずっと機会を伺っていた。
隙の一つはあろう筈だと、使用回数の温存など考えている場合ではなく、今が絶好の使い時であると。
だが終ぞ、杖を構える事も出来なかった。
ディオが動こうとするその瞬間、的確にメリュジーヌの眼はディオを捉える。
杖を使えば、確実に死ぬと確信させられた。
-
「───ナイスよ。キウル君」
「えっ……」
メリュジーヌが背後からの気配を察知する。
ルサルカの足元から伸びた影が人型になり、黒の怪人として一振りの刀を振っていた。
上体を逸らしその不意打ちを避け、メリュジーヌの長い銀髪の端が剣に触れ───ルサルカはその瞬間、己の勝利を確信した。
「これが戦士としての礼節とはね」
「ちが…これは……」
少なくとも、対話の意思に偽りのなかったキウルは困惑と共に狼狽し、ルサルカは元より持ち合わせてもいない武士道も騎士道も下らないと嘲笑う。
ただ重要なのは、キウルが期せずして好機を作った事。
「もう貴女は私の物、メリュジーヌ…私の愛おしい騎士」
「……な、んだ…?」
瞬間、メリュジーヌの脳内に溢れ出した───存在しない記憶。
目の前の影と拷問器具を操る、妖艶な少女の名はルサルカ・シュヴェーゲリン。
妖精國ブリテンにて女王モルガンから着名した妖精騎士の一人にして、水の精(ルサルカ)の名を与えられた美しき魔術師。
妖精騎士ガウェイン。
妖精騎士トリスタン。
妖精騎士ランスロット。
そして妖精騎士マレウス。
───誰だ、お前は。
「貴女が剣の鍛錬でパーシヴァルを泣かせた時、よく一緒に歌ってあげたわね」
よく、パーシヴァルは泣いてしまって、その時に歌を歌って聞かせた。
『なにそれ』
『漂流物の詩だよ』
『ずっと遠くで輝く星…だったわよね?』
漂流物の詩、ずっと遠くで輝く星。
あの場にメリュジーヌとパーシヴァルともう一人、ルサルカが居て、共に歌ってパーシヴァルを泣き止ませた。
『あるのは骨も残らず燃えつきた―――――きゃあああああああああああああああ!?』
『あら、妖精國最強の騎士様にも、可愛らしい弱点があったのね』
カルデアのマスターとそのサーヴァント、そしてルサルカと共にコヤンスカヤを退けた。
鏡の氏族を、この國で一番輝く妖精の為に襲った時も……。
『きみの、きみのため、なんだ…』
『良いのよ。泣いても、貴女はケダモノなんかじゃない……!』
彼女だけは、そっと抱き締めてくれた。
「メリュジーヌ」
ブック・オブ・ジ・エンド。
月島秀九郎が発現させた完現術であり、乃亜により支給品として徴収した武具の一つ。
栞の形状から、戦闘時には剣へと変化し高い切れ味を持つ。そして秘める異能は斬りつけた対象の過去に、使い手を挟むというもの。
一度挟めば、その相手の友にも、家族にも、恋人にも、恩人にも、救世主にも、成る事が叶う。
限定的な過去の改変。
キウルに支給された物であるものの、関わりの薄かった概念的な力を理解することは難しく、放置されていたがルサルカが目ざとく目を付けた為に譲られた。
-
「私は貴女を愛しているわ」
非常に強力な能力であり、あまりにも容易く他人を疑似的な洗脳下に置く力だが、大きなデメリットも存在する。
他人の記憶に、部外者たる自分を挟むことでの矛盾である。これは、自分の記憶も改変している為、本来であれば敵対する人物を、長年の歳月を過ごした友好的な仲間であると矛盾した認識となってしまう。
通常の精神構造であれば、耐えられない板挟みになるが、本来の使い手の月島は銀城への献身による異常な精神でそれを抑え、克服していた。
つまり、月島以外の使用者では、相手の洗脳に合わせ使用者自身も矛盾した情報に苛まれ、早々に精神に異常をきたしてしまう呪物でもある。
月島本人も能力を解除しているのに、未だに井上織姫を織姫と馴れ馴れしく呼ぶのは、その一因だろう。
(普通の人間なら、改変された記憶の矛盾に耐え切れなくなる───でも、私は違う)
ルサルカは自らを天才だと自覚していた。
元より、己の生だけを考えて、何人も陥れ姦計を巡らせてきた魔女だ。
親しい相手を陥れる事など、今更何とも思わない。
口に出した魔女の甘言を自ら本当の真実として、信じ込み、その数刻後には冷酷に掌を返すなど造作もないことだ。
故に、過去改変の矛盾などで、崩壊する程軟な精神ではない。
(えぇ、メリュジーヌ…私、貴女を愛しているわ……哀れで、惨めで…悲しい貴女を)
言葉通り、ルサルカはメリュジーヌを愛している。そういう過去を挟んだ。
けれども必要とあれば、いつだって殺せる。愛していても、そうしなくてはならないのなら、容赦なく切り捨てられる。
「───美しい貴女を……」
その先は紡がれることはなく、光の刃の一閃が瞬いた。
右肩を盾に一筋、赤い斬撃が切り込む。されど両断まではいかず、骨を断たれる前に、皮と肉切り裂くだけに留まる。
「な、ん…で……!」
音速にも匹敵するメリュジーヌの攻撃を避けれたのは、ルサルカが魔人として、高度な身体能力と動体視力を有しているのと、その動きを知っていたから。
この動きは、過去で何度も見たことがある。メリュジーヌの過去にルサルカという異物を挟んだことによる二次作用だ。
だからこそ、分からない。
メリュジーヌの友であり、彼女を愛する妖精騎士を、なぜこうも躊躇いなく斬り伏せようとするのか。
髪先を僅かに斬っただけだからか? 能力の発動条件が不十分過ぎた?
いや、過去にルサルカがメリュジーヌと鍛錬に励んだ過去がなければ、ルサルカは今の一撃を避けられなかった。
ブック・オブ・ジ・エンドは間違いなく効いている。
「すまない。ルサルカ…だが、友であるきみは知っているよね? 僕がオーロラを愛している事に」
「まさか……!?」
傷口を左手で抑えながら、拷問器具を召喚しメリュジーヌへと叩きつけた。
全てが両断されて、鉄屑へと変わっていく。
それでも僅かに生まれた刹那の間に、更に後方へ飛び退いていく。
-
「私より…あんな女のが……!!」
少なくとも、メリュジーヌの中でルサルカは掛け替えのない友であり、仲間であり、家族として確立されている。
だというに、それでもオーロラに比べれば、優先順位は下なのだ。
───あれだけ、良くしてやったのに?
いや、元よりメリュジーヌの姿はオーロラを模したもの。オーロラが居なければ、彼女は消えるも同然、その優先順位を崩す事は不可能に近いか。
しかし、まだだ。切札はある。この頭の固い、オーロラ馬鹿を止める方法はある。
ようは人を殺めるのが目的のシュライバーとは違い、その先の願望の成就の代案を提示してやればメリュジーヌがそれに乗らない理由はない。
うってつけの、代案をルサルカは知っている。
「聞いて、ドラゴンボーr───『禁止事項に接触しています。直ちに行為を停止しなければ首輪を爆破します』……は?」
───何が……? 何もしてないじゃない!!
何をしたというのだ? 悟飯から聞いたドラゴンボールを餌に、メリュジーヌに交渉をしようとした。ただ、それだけなのに。
まさか、禁止されているのか? マーダーにドラゴンボールの話をすることが?
より正確には、強い願望を持ったマーダーに、優勝以外の別の方法を提示することが、禁じられている?
何故、こうも都合の悪い事が連続して起こるというのか。
「く……っ」
落ち着け、まだだ。まだ、別の手がある。
ルサルカは見ている。立ち会っている。妖精騎士ランスロットの、メリュジーヌ誕生の瞬間を。
愛の始まりの時、オーロラが救い上げた奇跡の刹那を。
その運命の出会いから、自らを挟んでいる。
「オーロラは貴女を愛していた」
「───ッ」
求めるは、訪れた最期のやり直し。
あれを避けることはできない。いわば、来るべき必然だ。
でも、だとしても、まだ別のより良い終わりがあるのだろうと。
己を責め、後悔を重ね続けている。
「愛していたのよ」
その十字架と責を、解き放ってあげよう。メリュジーヌの生涯に寄り添い続けた家族として、友として、愛を捧げた想い人へと。
この言葉に偽りはない。ブック・オブ・ジ・エンドによる過去改変と、ルサルカは己自身に暗示を掛けている。
彼女を愛して、その身を案じ、救おうとする暗示を。
故にその偽りは真実となりルサルカの口を伝い、メリュジーヌへの愛として具現化する。
だからやめて、これ以上殺し合いに乗るのは、貴女自信を傷付けないで。
祈るようにルサルカは願う。
「……違う…それは違うよ」
その声は、その瞬間のみメリュジーヌへ愛と慈しみを乗せた、本当の言葉だった。
だが、だからこそメリュジーヌは苦笑していた。
「オーロラは僕を愛してなどいない」
記憶はある。感情も彼女に対し、殺意をぶつけるだけで心が張り裂けそうになる。とても大事な家族だ。
-
「きみが斬ったあの刀の力みたいだが、僕は君をとても大事に想っている」
心の底から、自分に対し深い愛と救済を望んでくれている。
「それでも…僕は在り方を変えられないんだよ」
「何を、言って───」
この見た目で、何を言っているこの女は?
その美しさと、その可憐さと、その儚さと、その健気さは。
妖精國で最も強く、そして美しい存在に他ならないだろう?
そんなもの、ルサルカがオーロラなら、手元になんて置く事は許さない。
何故なら、傍に居るだけで自分を蝕む毒など、早々に切り捨てねばならないから。
普通、もっと早くに捨てるだろう?
あれは、そういうものだ。己以外の美を毒とする生態なのだ。
分かっていないのか、この女は。
自らを枯らす泥だと分かっていながら、オーロラはメリュジーヌを捨てる事が出来なかったことに。
オーロラは自らを高める事が”出来ない”。怠惰ではなく、そういう在り方にしかなれない。
そのうえで、自らが最も美しくあればならない。だが、研鑽を重ねる事も出来ないという呪い。
結果生まれるのは、より優れたもの、恵まれたもの、美しききものを引き摺り下ろすこと。
そんな、毒婦にしかなれない惨めで愚かで醜い生き物が、それでもなお、メリュジーヌを手元に置き続けたのは───。
『俺は幻想になりたくないが、時の止まった不変は好きだよ』
私は言えなかった。
その幻想が私だと告白して、不変たるものを愛しく思うあなたは、魔女(わたし)を愛すのか見限るのか?
知りたかった。でも、言えなかった。
流れ去っていく彼を掴めなかった。
もっとも深い部分に、記憶の中で檻として残り続けた。
「……妬ましい」
愛した者が、もっとも美しいと感じる存在になれて。
例え結末は悲劇であっても、貴女はその最期に立ち会えて、決別であろうともその愛を説くことができたのに。
それをやり直したいだなんて、我儘にも程がある。
「貴女に渡すくらいなら……わたしが貰う」
何を、何をやり直すというのか。
わたしなんて、永劫届かなかったのに。
最期に会えたのなら、それいいだろう。
わたしは、彼に出逢う。彼に追い付きたい。
だから永遠に───本当にどんな願いが叶うとでもいうのなら、それはわたしが手に入れる。
───不味い。
ルサルカの中に大きな戸惑いが生まれた。
完全にブック・オブ・ジ・エンドの影響を受けている。
メリュジーヌに挟んだ過去が、ルサルカの精神に支障をきたしていると。
───いや、わたしはこんなものに呑まれはしない。わたしは天才だ。
記憶の奥底、積み重ねた時間に生まれた原初の渇望を、ルサルカはメリュジーヌの過去から受けたノイズだと誤認し続ける。
-
「っ……!」
鞘を回転させ、メリュジーヌが駆け出し、足元が液状のように揺らぐ。
黒い影が足に絡みつき、突如として現れた拷問器具───女性を模した像が、その空洞の中にメリジューヌを飲み込んだ。
鉄の処女。中世ヨーロッパの拷問に用いられたもの。
左右に開く扉から伸びた釘と、本体の背後から生えた釘で、挟むように中の罪人を串刺しにする。
さきの拷問器具の能力からすれば、こんな代物が飛び出ても不思議はない。
だが、能力を発動するまでの予備動作が、メリュジーヌにも見切れなかった。
まるで、既に発動していたかのような。違和感が生じる。
「そう、そこには罠を張っておいたわ」
ブック・オブ・ジ・エンドが挟むのは、人だけにあらず。
足場に剣で斬ることで、例え無機物であろうとも、そこに何かを仕込んだという過去を挟むことが出来る。
例えば、既に食人影と拷問器具を具現化し、メリュジーヌの足場に隠しておいたという過去を挟むことも。
───大丈夫、わたしはこれを使いこなしている。
「手数の多さは、大したものだね」
鉄の処女を切り裂き、無傷で脱出したメリュジーヌに更なる拷問器具が襲い掛かる。
全てをひらすらに両断しながら、そのレパートリーの豊富さにメリュジーヌは感嘆した。
あらゆる拷問器具を出現させ、不形の影を操るルサルカの能力は非常に応用性に優れている。
ルサルカ本人も強いのではなく、戦い方を上手に進めることを得手とし、小細工と言えばそれまでだが、手数も非常に豊富だ。
つまり、ブック・オブ・ジ・エンドで挟める過去(わな)は、無数に存在する。
-
「行くぞ、キウル!!」
「で、ディオさん……」
ルサルカとメリュジーヌの対峙を前に、自分が為せることを模索していたキウルの腕をディオが引く。
それの意図することを察せない程、キウルも鈍感ではない。
逃げようと、ルサルカを置いてその間に自分達は離脱しよう。そう訴えている。
「し、しかし……」
だが、役に立てないと分かっているが、果たして本当にルサルカ一人を置いて行って良いものか。
ディオだけを逃がして、戦士であるキウルも残るべきでは。
そう考えた時、キウルはディオの瞳から涙が溢れている事に気付いた。
(この…このディオが……あんなビチクソチビ女に怯えているというのかッ!!
ゆ、許さん…ッッ! いずれ殺してやるッ! 乃亜もメリュジーヌ、貴様もだッッ!!)
許せなかった。誰よりも優れていると考えていたこのディオが、あんなちっぽけな女一人に怯えているなどと。
その現実と屈辱にディオは涙を流していた。同時に激情の中にあっても、冷静にルサルカに戦わせている今こそが離脱の最大の機会だと、ディオは理解している。
これを逃す手はない。
(な、泣いている……あ…あの気丈なディオさんが、泣くだなんて。
辛いのは、ディオさんも一緒なのか……)
この場でもっとも強いルサルカが殿を務めるのであれば、キウル達は必ずや生きてここを切り抜ける。
それが、彼女に報いることに繋がる。そうディオは考えているのだと、キウルは思った。
「ルサルカさん…ご武運を……!!」
逆にディオの手を引き、キウルは素早く駆け出した。
「わたしは死なない……!!」
当のルサルカには、キウルとディオの安否などどうでもよく、既に眼中にない。
あるのは、どうこの場を生き延びるか、それだけだ。
混濁した記憶と、そこから汲み上がる渇望が入れ混じりながら、魔女は眼前の最強種に宣言する。
「貴女が最強の個であるなら、わたしは最多の数よ!」
その矮小な個を数で磨り潰し、圧殺することを。
「……忘れているようだね。その数の頂点に立つからこそ、最強なんだ」
冷たく、何の感傷もなく、メリュジーヌは事実のみを口にするように言い放った。
-
【G-2 港/1日目/早朝】
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、鎧に罅、自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカが挟まれた過去(数分で強制解除)
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』
[道具]:基本支給品、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:ルサルカを殺す。
1:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
3:港にカチ込み、集まった対主催達を削る。
4:カオス…すまない。
5:絶望王に対して……。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
【ルサルカ・シュヴェーゲリン@Dies Irae】
[状態]:ダメージ(小)、右肩に切り傷、シュライバーに対する恐怖、キウルの話を聞いた動揺(中)メリュジーヌに対する妬み(大)
[装備]:血の伯爵夫人@Dies Irae、ブック・オブ・ジ・エンド@BLEACH
[道具]:基本支給品、仙豆×2@ドラゴンボールZ
[思考・状況]基本方針:今は様子見。
0:何としても、メリュジーヌから生き延びる。
1:シュライバーから逃げる。可能なら悟飯を利用し潰し合わせる。
2:ドラゴンボールに興味。悟飯の世界に居る、悟空やヤムチャといった強者は生還後も利用できるかも。
3:ガムテからも逃げる。
4:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
5:俊國(無惨)が海馬コーポレーションを調べて生きて再会できたならラッキーね。
6:どんな方法でもわたしが願いを叶えて───。
[備考]
※少なくともマリィルート以外からの参戦です。
※創造は一度の使用で、12時間使用不可。停止能力も一定以上の力で、ゴリ押されると突破されます。
形成は連発可能ですが物理攻撃でも、拷問器具は破壊可能となっています。
※悟飯からセル編時点でのZ戦士の話を聞いています。
※ルサルカの魔眼も制限されており、かなり曖昧にしか働きません。
※情報交換の中で、シュライバーの事は一切話していません。
【ブック・オブ・ジ・エンド@BLEACH】
キウルに支給。
月島秀九郎の完現術。普段は栞の形を取っているが、戦闘時には剣へと変わる。
その能力は斬ったものに、過去を挟むこと。
その対象の過去に、仲間として自分を挟めば、さも最初から仲間であったように振舞える。
万能な洗脳能力にも見えるが、対象に最上位に優先すべき者がいるのであれば、例え恩人や友として対象の過去に挟んだとしても、躊躇いなく敵に回ってしまうこともあり
これは原作で、月島が朽木白哉に敗れた敗因でもある。
この為、殺し合いに決して乗らないような善良な参加者に過去を挟んで、殺し合いを強制させようとしても、本人の善性が優先される。
更に無機物にも過去を挟むことが出来、月島は「以前そこに罠を仕掛けた」などの使い方をしていた。
2回斬ると自主的に解除も可能。普通の、切れ味のいい剣としても使用出来る。
制限として、効果の持続時間は数分間、それを過ぎれば強制解除かつ、対象にされた相手は過去を挟まれたことも認識できる。
そして無機物以外の参加者や、意思持ち支給品に一度過去を挟んだ場合、12時間のインターバルを挟まなければ、再度同じ対象に効果を発揮できない。
制限とは別のデメリットとして、挟んだ過去は使用者にも影響を与えてしまうこと。
殺し合っていた敵に、友人となった過去を挟んんだのであれば、それは友人と殺し合う苦痛を使用者本人も味わうことになる。
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【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]精神的疲労(中)、疲労(中)、敏感状態、服は半乾き、怒り、メリュジーヌに恐怖、強い屈辱(極大)、ボロ泣き、乃亜やメリュジーヌに対する強い殺意
[装備]バシルーラの杖[残り回数4回]@トルネコの大冒険3(キウルの支給品)
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:メリュジーヌから逃げる。いずれ殺してやりたい。
1:キウルを利用し上手く立ち回る。
2:先ほどの金髪の痴女に警戒。奴は絶対に許さない。
3:ジョジョが巻き込まれていればこの機に殺す。
4:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
5:海が弱点の参加者でもいるのか?
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
【キウル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]精神的疲労(大)、疲労(大)、敏感状態、服は半乾き、軽い麻痺状態(治療済み)、ルサルカに対する心配(大)
[装備]弓矢@現実(ディオの支給品)
[道具]基本支給品、闇の基本支給品、闇のランダム支給品0〜2、モクバの考察が書かれたメモ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出
0:メリュジーヌから逃げる。ルサルカさんの助けになりたいが……
1:ディオを護る。
2:先ほどの金髪の少女に警戒
3:ネコネさんたち、巻き込まれてないといいけれど...
4:ルサルカさんが心配。
[備考]
※参戦時期は二人の白皇本編終了後
【ルサルカ、ディオ、キウル、三人の共通認識】
【海について】
船や何らかの方法で海上に滞在する場合、一時間以上の滞在で起爆…そして地図外に出ても警告が鳴り起爆する。
現状、首輪を外して地図の外へ出ると、どうなるかは不明。
つまり、海上での遅延行動は不可能。
【バトルロワイアル会場について、ルサルカの考察】
数十人を機械や魔術で生きたまま、数日間管理するのは現実的ではなく、恐らく乃亜は自分も含めた電脳世界を異界として再現して、参加者は全員生身のまま招かれたと考えています。
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投下終了します
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投下お疲れ様です
無力感や屈辱で泣いちゃうディオと何だかんだでブック・オブ・ジ・エンドの影響で
困惑しちゃうルサルカがいい味出してました。果たして逃げ切れるのか
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感想ありがとうございます!
本スレ感想、やはり頂けるといいものです
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灰原哀、ドラコ・マルフォイ、絶望王、ウォルフガング・シュライバー
予約します
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失礼します、◆lvwRe7eMQE氏に一点伺いたい事があります。
拙作「世界と世界のゲーム」にて登場した支給品の設定を一部改訂を行いたいのですが、宜しいでしょうか。
もし問題であれば取り下げますので、ご回答のほどよろしくお願いします。
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>>391
大丈夫です
一部改訂の件、了解しました
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>>392
ありがとうございます
wikiの方で改訂を行いましたので、ご確認ください
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投下します
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「……もう一度言うわ。貴方、殺されるわよ?」
「っ……く、そんな出まかせ……」
「あの、メリュジーヌって娘の強さを見たでしょう? あれと戦えるほど、ブラックは強いのよ」
山本勝次から、灰原哀を連れたまま逃走したドラコ・マルフォイは、恐怖と困惑と疑心の中にあった。
灰原が語るブラックの存在に畏怖していたのだ。
彼女曰く、身を守って貰う契約を交わしたと。その強さは、到底マルフォイでは勝てないだろうと。
具体的な比較例として、家一つを簡単に消し飛ばしてしまったメリュジーヌを上げてきた為、その信憑性も高い。
そして契約を守る気があるのなら、灰原に害を及ぼしているマルフォイを殺めてしまうだろう。
もっとも、灰原はブラックを、そこまで信用はしていない。
良くも悪くも気まぐれで、マルフォイを見逃す事だって、あると考えている。
ただ、もしそうでなかった事を考えれば、やはり最悪の場合を想定させて脅す形にはなるが、殺し合いに乗るのを断念させた方が良い。
「お前を、どうしろというんだ……」
灰原の思惑など知らず、ブラックに恐怖し灰原を解放したマルフォイは、震えた声を絞り出す。
自分の力量など、マルフォイ本人が一番分かっている。磯野カツオ程度なら、なんとかなるだろうが、エリス・ボレアス・グレイラットに手も足も出ずに無様に敗北したのだ。
それでも、不意打ちなり作戦さえ考えれば、難しいかもしれないものの、なんとかエリスは倒せなくはないかもしれないが、あのメリュジーヌという女は絶対に無理だ。
並の魔法使いでは相手にならない。マルフォイが知る中でも、とても不敬だが、偉大な父であるルシウス・マルフォイが相手でも、勝負にもならず瞬殺されてしまうだろう。
それこそ対抗できるのは、あのアルバス・ダンブルドアか、闇の帝王くらいのものか。
あるいは…例え不可能であっても、どんな強大な敵にも、折れない勇気で立ち向かっていく、あのハリー・ポッターなら───。
(なんだというんだ……!? なぜ、ポッターが浮かぶ? 僕は…奴に、助けて欲しいとでもいうのか!!)
認めたくなかった。
賢者の石を、闇の帝王から守り退けた自分と同じ歳の英雄を、無意識の内に頼ろうとしている事を。
だが、もしハリーが居れば、その友であるハーマイオニー・グレンジャーも連れ去られており、何か知恵を出してくれるかもしれない。
彼女は幼いものの、非常に優秀な魔女だ。
(ぐ、グレンジャー…あ、あんな…穢れた血に……!!)
プライドとアイデンティティが崩壊していくようだった。
自分は純血として、高い地位に居る優秀な魔法使いである。その前提を木っ端みじんに砕かれ、それだけならばまだ良いが、受け入れる時間もないまま、命の危機に瀕しているのだ。
溢れる感情が大洪水を起こし、マルフォイの全身から弾けて飛び出してきそうだと、錯覚すらする。
-
「簡単よ。貴方は殺し合いには乗らず、私の仲間として行動していた。
……それだけでいいの」
まだ仮にも魔法の才があり、気に食わないが有能な魔女に成り上がったハーマイオニーに関しては、辛うじて納得はいく。
だがこんな魔法も知らないような女の子にまで、諭される自分がとても矮小で惨めに感じてしまった。
「……だが」
もう殺し合いに乗るのは現実的ではない。そう分かっているが、もし殺し合いを拒否した場合、首輪が爆破してしまう。
そう考えるだけで、マルフォイは全身が震え出す程に恐ろしい。
「こうしましょう? 貴方は優勝を目指す為に、私を利用している。
放送で、乃亜は言っていたわ。対主催を欺き、人数が減ったところで裏切る算段かもしれないと…。このゲームでは、相手を利用することを他の誰でもない、ゲームマスターから認められているのよ。
逆に私は、貴方に利用されるかわりに、しばらく見逃してもらう。そういう取引なら、殺し合いを否定する事にはならない」
屁理屈だなとマルフォイは思った。
子供染みた言い訳だ。どう考えたって、マルフォイが殺し合いを放棄しているのは、明らかではないか。
だが、追い込まれたマルフォイにとっては、これ以上ない程、縋りたくなるほどの妥協案であった。
「よう、我が荷物持ち」
───来てしまった。
マルフォイを説き伏せた直後、聞き覚えのあるハスキーな美声が響いてきた。
青いコートを着て、虫も殺せなさそうな幼い顔に見合ぬ目力の強さと、後ろに坂上げた金髪。
この島で灰原が初めて出会い、そして契約を結んだあの少年の姿に相違ない。
「殺さないで」
マルフォイを庇うように腕を広げ、ブラックの前に立つ。
「どういう意味だ?」
「状況は…多分、もう聞いてるんでしょう?」
「ああ」
「この子はもう……殺し合いには乗ってないわ」
「荷物持ちをしている間は、生かしてやる。そういう契約だったな?
だが、俺の契約料(にもつ)は、お前の持ってるそれ一個だ」
灰原はその意図を理解した。
つまり、どっちでもいいが、二人も荷物持ちは要らないという事だ。
決して灰原だけを生かしたい訳でもなく、マルフォイでも良い。
ただ、契約を結べるのは一人だけだと、選択を迫っている。
マルフォイも薄々、その意味が分かってきており、灰原がそこまでして自分を助ける筈がないと理解していた。
(終わりじゃないか…死ぬの───)
「分かったわ」
背負っていたランドセルを灰原が下ろそうとする。
(こいつ、なんでだ……?)
マルフォイは、自分が恐怖のあまり幻覚を見ているのかと、この光景を現実だと思えなかった。
友や家族ならば分かるが、こんな赤の他人のマルフォイにランドセルを譲る理由が分からない。
-
「お取込み中、悪いんだけど良いかな?」
凄まじい轟音が鳴り響き渡る。それは、何かが走ってくる音だ。
音速を超えた速度で大気中を走り、空気に触れ、振動を引き起こしている。
ソニックブームと呼ばれる大音響だ。
「ルサルカって女の子知らないかな? アンナって本名もあるんだけど、ああ…一応、マレウスとも呼ばれてるんだけど」
それを引き起こしたと思わしき物体は人だった。
軍服を着た白髪の華奢な、女性のような体躯をした中世的な美少年。
整った顔は、右目の眼帯を加味しても天使のような美しさと、人懐っこい愛らしさを振り撒く。
だが、左の隻眼からは、これ以上ない程の災厄が込められている。そう、灰原には見えた。
「おいおい、今時珍しいな。絶滅危惧種のナチス馬鹿を、お目に掛かれるとはな。
ここはいつから、カビ臭い博物館になったんだ?」
「おや? ご希望とあらば今すぐ、血生臭い戦場(ヴァルハラ)に変えてあげよう」
ブラックの意識は灰原から逸れ、眼前の少年へと注がれている。
背後の空間が捻じれ、無数の炎が砲弾のように射出される。
人が触れれば一瞬で消し炭になるであろう高熱の炎が、さらに数を伴って、弾幕を張る光景は絶望以外に他ならない。
それらがまるで、ただ一人の人間を屠り去る為だけに、豪風に煽られた雨のように降り注ぐのだ。
「おい、俺の名を言ってみろ」
絶望の根源であり、体現者たる王は口許を吊り上げ、言い放った。
次の瞬間には、周囲一片を一掃し巨大なクレーターを空け、その中央で真っ黒な炭となるであろう少年に。
「良いねぇ、楽しめそうだ」
あろうことか、正面から突っ込んでくる。僅かな残された1秒ほどの寿命を、更に縮めるような自殺行為にも等しい。
炎が触れる寸前、少年は跳躍し、更に空を蹴り上げ軌道を下方へと修正し、隕石のような速さで滑空した。
「あはははははは!!」
強者と血の匂い。
先程のリンリンと違い、すでに完成された強者とそれが纏う死を嗅ぎ付け、ウォルフガング・シュライバーは狂乱の笑みと奇声をあげる。
「───ッッ!」
-
降下しながら、ギロチンのように脳天を狙った踵落としを、ブラックは後ろに飛び退き、避ける。
次の瞬間、シュライバーの両手の拳銃が銃声を木霊させる。
ルガーが吠える。モーゼルが哭く。
異様なほどにまで使い込まれ、光沢を発さなくなった二丁の拳銃が火を噴き、魔を帯びた弾丸を弾き出す。
ブラックの全身を穿つように、数百を超える弾丸が叩き込まれ、数㎝程浮いたまま、血肉を穿つ寸前で停止する。
ブラックの持つPSIの中で、もっともポピュラーな能力、念動力だ。
マシンガンのように連射された弾丸を念動力でを掴み停止させる。タネを明かせば単純な手品だが、全ての弾丸を見切り的確に停止させる離れ業は、まさしく人類の領域を遥かに超えた存在である13王にしか許されない。
「伏せなさい!」
「……っ!?」
灰原には、この戦いで何が起きているのか判別がつかない。
だが鼓膜を劈く銃声とそれに拮抗する念動力の轟音すら、常人にとっては引き裂かれそうなほどの衝撃波に感じられる。
いつこの流れ弾がこちらに向くかも分からず、それをブラックが庇う保証もなく、逃げるにしても戦いの規模が大きすぎる為、下手に動くのも危険すぎる。
今出来るのは可能な限り、身を屈め、その流れ弾の被弾率を可能な限り最小限に押さる事。
マルフォイは灰原の叱咤を聞き、震えながら頭を押さえて屈みこむ。灰原もマルフォイを覆うように、蹲った。
(なんだ…なんなんだ、この女……!)
いざという時は、自分が盾になってこの子だけでも生き残れるように。そんな灰原の、祈るような行動にマルフォイは動揺を隠せなかった。
「───ッ」
数千以上の弾丸を浴びながら、ブラックは未だ無傷。
だが、シュライバーもまた全人類の中でも秀でた超人の一人、黒円卓の中における最上位の大隊長だ。
その射撃は勢いを増し、弾丸を止め続けるブラックが勢いを殺せぬまま、ジリジリと後方へ圧されていく。
「返してやるよ」
先に痺れを切らしたブラックが呟く。
滞空し続けた弾丸が、全て吸い寄せられるようにシュライバーへと反射される。
二丁の拳銃、その銃口を空に向けシュライバーが駆けた。
数千以上の魔弾が放出され、コンクリートは廃人と化し周囲一帯を蜂の巣に変え、砂塵を巻き上げる。
だが、そこに人の欠片の一片もありはしない。全方位を囲むように魔弾を弾いた筈だが、ただの一つも掠りもせず、シュライバーは消えたのだ。
「……」
さしものブラックも僅かに眉を歪ませた。
「チッ…」
ブラックの目と鼻の先、手を伸ばせば容易に触れる程の超至近距離まで接近される。
PSIの発動よりも早く、シュライバーの靴底がブラックの鳩尾へと突き刺さった。
「───が、ッ」
骨が軋み、皮と肉が減り込む靴越しでも分かる柔い感触。
吹き飛んでいくブラックを見て、シュライバーは歓喜に浸っていた。
人の原型を保ったまま、肉体の欠損もせずシュライバーの速さに乗せた蹴りを受けて、なおも息がある。
-
「そうそう、すぐに死なないでよ」
面白い。面白い。面白い。面白い。
孫悟飯を始め、制限もあるにしろシュライバーに喰らい付く多くの猛者ども。
この男もまた極上の獲物だ。
だからこそ、ここまでのらしくもない殺戮の中断、それも三度も行ってきたが故の、殺人衝動の飢えが絶頂を迎える。
「僕、ここに来てから三回もお預けを喰らっちゃってさ、そろそろ最後までやって発散したいんだよ」
この少年、肉体(いれもの)はともかく、中身は別格だ。
あの悟飯にすら匹敵、あるいは制限や肉体などのあらゆる枷がなく、全快であればそれ以上の存在かもしれない。
安い言い方をすれば、それは神だとかそういった次元の存在。
ならば、それを轢き殺して轍とした時、何を計れるのか。
興味深い。なにせ、18万以上を殺戮した狂乱の白騎士も、未だ神を手に掛けた事はないのだから。
「……一人で好き勝手に盛り上がりやがって」
粉々に崩壊した民家、瓦礫をどけ、その中から気だるげにブラックは立ち上がる。
右手で首元に触れながら、頭を傾け、心底面倒そうに悠然と佇む。
「ブラック…?」
灰原がブラックと関わった期間は、決して長くない。通算すれば二時間も居たか分からない。
けれどもこの時、ブラックが一瞬見せた表情は、心底何も感じていない虚無のように見える。
いつ誰にでも軽薄で飄々とした態度で、それが敵意か好意か分からないが、だが自ら人に囚われたままだと口にしたブラックが。
あの軍服の少年に対し、一切の関心がないように思える
まるで、害虫や害獣を前にして、淡々と処理をするような。とても冷たい機械のようだ。
「遊ぶなら、一人でやってろ」
「えぇ!? こっから楽しくなるんじゃないか、まーたお預けだなんて、頭がおかしくなっちゃいそうだよ!
遊んでよぉ〜〜、おにーーーさーーーん!」
「その出来損ないの脳味噌なら、それ以上ぶっ壊れる事もねえだろ」
ブラックの軽口に、おどけたような稚拙な喋り方をしていたシュライバーの雰囲気が変わった。
「───出来損ない……?」
殺意の張は衰えぬまま、むしろ鋭さを増して、そこに憤怒を交えたような不穏さを醸し出す。
これにブラックは違和感を覚える。何せ、こいつ狂っているようで冷静なのだ。
先程まで楽し気な台詞を吐きながら、ブラックに一切の隙を見せず、逆にこちらの挙動をただの一つも漏らさず注視していたほどだ。
「そうだ……僕、出来損ないって言われたんだ」
そんな奴が、急に激情を表に出し始めた。
トリガーはブラックの放った一言で、あまりにも唐突過ぎる。
-
「おまえなんか、おまえなんか、おまえなんかがいい気になるな。男のくせに、男のくせに、私の方が奇麗なのに女なのに───」
「あの子、親に……」
それを言ったのは他でもない親なのだろうと、灰原には容易に想像が付いた。
あの少年の容姿は本当に天使のようで、髪を伸ばせばそれこそ性別の見分けが付かない美貌だ。
それに恐らく嫉妬した母親が。
理由は分からない。いや、推測することは出来るが、現代の価値観ではやはり理解しがたい。
ただ、本来祝福されるはずの子が、恨まれ妬まれ呪われていて、そんな憎悪を愛情代わりに注がれてきたのだとしたら、この子供は……。
「……?」
対してマルフォイは言動の内容がまるで理解できなかった。
(子にあんなことを言う親など、いる筈がないだろう)
超人達の戦いに怯え、気が動転しているのもあるが、シュライバーの言動の他に、灰原の呟いたことも意味不明だ。
少なくとも今まで築き上げてきたマルフォイの価値観の中では、そんなものは親としてカテゴライズされなかった。
「病院行きな」
心底呆れたように、溜息交じりにブラックは呟く。
そして自分の頭を人差し指で見せつけるように叩く。
「頭(ここ)のな」
その刹那、空を覆い尽くすように拡がる炎の弾幕、それらがただ一人の人間目掛けて天空から殺到した。
まるで針の穴を通すような、極小にして僅かな炎の隙間を、シュライバーは自慢の絶速と精密さを駆使し次々と潜り抜けていく。
「おまえなんか、出来損ないの化け物じゃないか───!」
読めていた。分かっていた。こんな程度の弾幕では、この凶獣は止まらぬことを。
「ああ、お前…ほんとにツイてないんだな」
そして、確信していた。こいつは、その絶望(な)を知らないのだろうと。
簡単な話だ。シュライバーはありとあらゆる事象が、最終的に殺人へと直結する。
そこには絶望もなければ希望もない。なにせ、全てが殺人という結論に達するのだ。例外もなければ、劣化も進化も一切の変化も未来も可能性もない。
全ての結末が、決まりきった定石をなぞるだけだ。
こんな奴に、一体何の見込みがある。
何の望みがある?
こうなるまでの悲惨な過程など、いくらでも想像できる。
不幸で最悪な生い立ちであることは察しが付く。
ブラックは呆れを通り越して、最早憐れみすら抱いた。
-
「同情はしてやるよ。お前に配られた人生(カード)はクソッタレのブタだ」
狂える白騎士(アルベド)の狂言を受け流し、ブラックが呟く。
幾度目かの回避、シュライバーが駆けたその先にある物質から青白い炎が瞬く。
ブラックの能力の一片なのだろうと、乱れる狂気の中で冷静に判断する。
その炎が足元へと広がるころには既に宙を舞っていた。
「やるよ。欲しいだろ玩具、遠慮すんな。全部タダだ」
───別に俺のじゃないしな。
跳躍したシュライバーを串刺さんと、剣が槍が斧が射出される。
見ればブラックの背後、空間が捻じれ歪み、その中から無数の武具が姿を見せていた。
王の財宝を開き、目に付いた宝具を価値を考えもせず、片っ端から念動力で弾き飛ばす。
それら一つ一つが、聖遺物に匹敵する魔具の類であるとシュライバーは即座に理解し、空中で体を捻り初撃を避け、更に空を蹴り上げ加速、二丁の銃口をブラックへと向ける。
これらの宝具は制限によるものか、射出された時点で既に自壊を始めていた。
よって追尾機能等もなく、一度避けてさえしまえば勝手に消滅する一度限りの使い捨てだ。
こんな物に己が当たるわけがない。
「ッッッ───!?」
強い根拠とその絶速への信頼は、一瞬にして揺らぐ。
武具が青く燃え上がり、爆破し燃焼範囲が拡大したのだ。
射撃への態勢から、一気に全身をバネに炎から遠ざかる。腕を着いて着地し、大地から燃え広がる炎から遠ざかりながら、視界に飛び込む無数の武具。それらが瞬く間に、炎へと変貌し爆炎を広げていく。
「───」
シュライバーの能力は速さだ。何物をも寄せ付けず走り去る、絶対の速さ。
だが、逆に言えば走る先がなければ、その速さは何の意味も持たない。
今、この場に燃え広がる青い炎のフィールドのように。
シュライバーの行き場は限られていく、狭まれていく、拒まれていく。
「よう」
炎の中、それをものともせず音すら立てずにブラックが背後に立つ。
PSI能力の一つ、テレポートだ。孫悟空のようにこの島からの脱出には転用出来ないが、戦闘行為内の応用の範疇に限っては、ブラックはその行使が許されていた。
シュライバーが反射的に飛び退こうとし、前方左右に広がる炎が遮る。
跳躍しようとして、空を覆うように炎が猛る。
そして、背後には王の財宝を展開し、武具の切っ先を向け射出態勢を万全としたブラック。
「じゃあな、ヴィラン…相手はヒーローじゃなくて悪かったな」
いつもの軽い口調のまま、だが人に向ける何かへの期待や、願望は一切込められていない。
ただ目障りな蠅を落とすような冷酷さと気楽さで、ありったけの宝具を叩き込む。
さらにブラックの炎を宝具へと点火し、シュライバーの逃げ場を一切潰すように念入りに燃やし尽くす。
───駄目か。
手応えはあるが、まだ終わっていない。
予感めいたものを覚え、後方の灰原へ一瞥をくれる。
さて、どうするか。ブラックは一秒ほど逡巡した。
「アイ、口閉じてろ」
絶え間なく宝具を打ち込み続けながら、ブラックは一瞬で灰原とマルフォイの元へと移動し、二人を掴んで跳躍し浮遊したまま加速する。
-
「ブラック?」
「黙ってろ。舌噛むぞ」
炎の中、黒の人影が見えた。しかもそれは燃え滾り、苦しむのではない。
「グランシャリオォォォォォ!!」
名を叫び、漆黒の竜の鎧を纏い、怒声を雄叫びに乗せながらシュライバーは叫ぶ。
炎の中を駆け抜けながら、凄まじい速さで空中のブラックへと肉薄し、その視界が閃光に眩む。
「くっ───」
壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。宝具を自壊させることで、莫大な破壊を齎す一度限りの自爆技。
これは宝具を炎に変えてる中で、宝具の特性に気付いたブラックが利用し、再現したものだ。
PSIの炎で宝具の内部を刺激し、意図的に起爆させている。
本来の所有者が壊すそれに比べれば、強引に内部干渉した為に爆破の威力は大幅に下げられてはいるが、攻撃範囲の広さとしては上々な代物。
名付けるならば、疑似・壊れた幻想とでも言ったところだろうか。
もっともそんなもの、グランシャリオを突破する程ではない。派手な爆竹の玩具と何ら変わらない。
しかし、だとしても、例え竜の鎧に守られていても、それが鎧の下の体に一切の傷すら付けられないと知っていても、シュライバーはその攻撃を避ける。避けてしまう。
「やっぱりお前、攻撃を避けてるんじゃなく、避けずにはいられないんだろ?」
ここに至るまでの戦闘の中で、明らかに避けるまでもない攻撃がいくつかあったが、シュライバーはその全てを自らのルールに従うように避け続けた。
つまり、避けずにはいられない。理由は知らないし興味も全くないが、そういった癖なのだろうと、ブラックは見破る。
ゆえにこれは、それを利用した時間稼ぎと目晦まし。
「───ッ」
縮まった距離は爆破により乖離し、視界が明けた瞬間、更に飛び込んでくる武具の数々。
それらが全て起爆し、青の炎へと変換され広い範囲に拡散され、シュライバーの行く手を遮る。
ただの炎ならば超えられただろう。グランシャリオなどなくとも、霊的な加護が制限されたとはいえ、シュライバーの速さならば焼ける事などない。
だが、攻撃と認識した以上は別だ。シュライバーにとってそれは、最優先で避けなければならない障害となる。
「こ、の……ッ!!」
真っ直ぐ全速力で突っ切れば、いとも簡単に追いつく筈のブラックに対し、シュライバーは後方へ下がり、炎を迂回する。そうせずにはいられない。
だが、その進路方向へブラックが再び爆炎が轟かせる。
それを幾度か繰り返した時には、ブラック達は姿を消していた。
「なんだよ、もぉ……!!」
どんな速さであろうとも、後を追うべき標的が居なければ追い付けない。
視界の中に獲物が居ない以上、シュライバーが狩りを続けられる道理はない。
「せっかく、最後までやれると思ったのにさぁ!」
獲物を取り上げられた狼は苛立ちながら叫ぶ。
ここに来てから、調子が狂うばかりだ。まだ二人しか殺せていない。
沸き立つ殺戮衝動を発散できぬまま、行き場のない殺意を何処にぶちまければ良いのか。
さっきは、気紛れにリンリンの敵討ちに合わせてやったが、こんなことならば、そんなの関係なく最後まで殺し合えば良かったと後悔する。
「……まったく、すぐ逃げちゃうんだから困っちゃうよな」
ブラックを探し回してもいい。己の速さなら、こんな島一時間もせず一周できる。
制限のない本来のコンディションなら、もっと最短で最速で全エリアを走り抜ける自信があるが、これに関してはやむを得ない。
優勝した後に、たっぷりと乃亜にお返しをして、溜飲を下げさせてもらうとする。
「ま、僕足速いからさ…いつもすぐに追いついて、面白くなかったんだよ。だから、出来る限り、遠くへ逃げなよ」
犬歯を晒す程、歪んだ笑みを見せシュライバーは駆け出した。
何処かへ消えたブラックを探しに、そしてブラックがいようがいなかろうが、目に付いた参加者全てを鏖殺する為に。
どんな過程を経ても、全ての結果は殺戮へと至る。
そのあまりにも少なすぎる選択肢に、当のブラックからは全ての関心が消え失せている事に、シュライバーは欠片も気付いてはいなかった。
-
【D-3/1日目/早朝】
【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)ダメージ(大 魂を消費して回復中)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、欲求不満(大)
[装備]:ルガーP08@Dies irae、モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
空を飛んだのは灰原にとって初めての経験だった。
あまりのメルヘンな機会に、感動でもしたいところだったが、明らかに常軌を逸した殺人者に出くわした直後だ。
空という安全圏にいる安心感が勝り、その感動は薄れ、気付けばブラックに放り捨てられるように、地面を転がっていた。
「ツイてたな、お前」
灰原の横、同じように転がっているマルフォイをブラックは指差す。
「そこの荷物持ちを見張ってろ」
「見張るって……何をしろっていうんだ」
「自分で考えな。
アイ、俺は少し寝る。放送が終わったら、起こせ」
疲弊している。あのブラックが。
灰原にとって想像もつかぬほどの強者であり不遜なブラックが、恐らくは荷物持ちを生かすという契約を果たすのに、もう一人従者が居た方が楽と考えた。
元より気紛れな性分なのもあるのだろうが、あの軍服の少年はブラックにとっても脅威に数えられる程の実力者。
そんな相手と殺し合わされているという事実に、灰原は背筋が凍るようだった。
「……そうだ、先に言っておくか。勝次ってガキ、知ってるだろ? あいつは俺が殺した」
「なっ…!? どうして───」
「忘れたのか? 俺はマーダーなんだぜ。ルール通り、ゲームをしてるだけだろ」
近くのエリアに居たのだ。この二人が遭遇する可能性は非常に高い。
何をやり取りしたのか、灰原には予想できないが、少なくとも灰原と勝次が面識がある事を把握した以上、マルフォイ関連の事を口にし、そして殺害されたのだろう。
あの時、大人しくしろ、ブラックには伝えるなとマルフォイの身を案じたせいか?
決してそんな理由で勝次を殺す程、ブラックは自分に執着しているとは思えないが、考えば考えるだけ後悔が募っていく。
そして目の前のブラックに対する反発心や、怒りも込み上げてくる。
-
「ブラック…貴方、これで私に貸し一つよ」
「あ?」
欠伸をして、眠れそうな施設を見渡しているブラックに灰原は声をあげた。
「貴方、最初に荷物持ちをしている間は、私を生かすと契約したわね?
でも実際には沙都子とメリュジーヌが襲ってきた時に、貴方は何処かでほっつき歩いていたじゃない。あの子は、私を守ろうとしてくれたわ。貴方の代わりによ?」
「……」
「あの時、私は死に掛けたわ。これはゲームなんでしょ? ゲームにはルールが必要よ。そしてこれは、ルール違反だわ。
一度ルールを破った貴方には、ペナルティがあって然るべきじゃない?」
勝次の死を悼む気持ちはある。短い付き合いだったが、とても根が善良で真っすぐな子だったと思う。
だが、それでこのブラックを糾弾していては始まらない。むしろ状況を逆に利用し、多くの命を生かす為に活用させて貰う。
「分かったよ。お前に貸し一つだ。精々、何処で使うか頭捻ってろ」
口調はぶっきらぼうに、だが口許を釣り上がり愉快気にブラックは呟いていた。
まるでシュライバーと話している時とは、別人のように。
逆に言えば、シュライバーには何の未練もなく、最早頭も片隅にまで記憶を放り出し忘れかけているようだ。
あんな強烈な存在を歯牙にもかけない。異常性とそれを裏付ける強さ。
その事実が灰原にとっては、恐ろしくて溜まらない。
僅かに震える灰原を見ながら、やはりブラックは楽しそうに口笛を吹き、仮の寝床を探し始めた。
【B-4 /1日目/早朝】
【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)
[装備]:王の財宝@Fate/Grand Order
[道具]:なし
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:哀に貸し一つ。何処で使うか楽しみに待ってる。
1:気ままに殺す。
2:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
3:シカマル達が、結果を出せば───、
4:放送まで寝たい。
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。
-
(なんだというんだ、この女)
マルフォイには理解が及ばなかった。
あの軍服の子供の尋常ではないが、それに張り合えるブラックも当然次元が違う強さだ。
しかも殺し合いに乗ったマーダーだと、公言しているではないか。
マルフォイはあまりの恐怖に、声をあげることも出来ず震えていた。
頭にあったのは両親やダンブルドア、スネイプが救出に来る瞬間。あまりにも都合の良い、希望的観測の現実逃避だけだった。
だが、この灰原という少女は違った。マルフォイよりも歳も下で、魔法も使えない穢れた血の癖に、ブラックに喰らい付いて言葉で対等に渡り合おうとしている。
「貴方、血が……」
灰原が処置した負傷箇所から血が滲んだのか。マルフォイの頬から血が伝っていくのを見て、灰原はハンカチを取り出してマルフォイに差し出す。
身長差がなければ、今頃頬を拭いてあげたのだろう。それを察して、マルフォイはわなわなと震えて、その手を弾いた。
「やめろ、僕にかまうな!」
「そう…分かったわ」
情けなかった。惨めだった。
名門の純血の家に生まれ、権力も備わり魔法も使え、容姿にも恵まれたマルフォイがあろうことかマグルの年下の女の子に庇われ憐れまれるなど。
あまりの屈辱に、さっさとこの場から離れたいところだが、勝手に離れたらブラックに何をされるか分からず、エリスやメリュジーヌ、シュライバーとまた出くわすのも怖くて、灰原から離れることも出来ない。
それが更に自分の情けなさに拍車をかける。
もっとも灰原の実年齢を考えれば、マルフォイはそう恥じる事もないのだが、薬で幼児化したなどという事情を知る由もない。
(そういえば、あの二人は来てるのか……)
情けなさにわなわなと震えながら、改めて落ち着いた時間も出来た事で、マルフォイの中で気掛かりが生まれた。
自分の取り巻きであるグラップとゴイルだ。
あの二人も、殺し合いの参加者の条件に当て嵌まってしまう。もし居れば、迅速に合流し守られねばならない。
優勝するにしても、何とか三人が最後に残れるように立ち回らねば。最悪の場合、自分が犠牲になり二人の内どちらかを生き残らせ、乃亜にもう一人を生き返らせれば最低でも二人は生還できる。
「……そうだ、放送前に替えの服も探しましょう。貴方も、いつまでもそれじゃ気持ち悪いでしょ?」
灰原に指摘され、改めて股の辺りがひんやりと冷たく、アンモニア臭が漂っているのを自覚する。
(クソッ……!)
こんな一回りも幼い女の子に、お漏らしした無様な姿を晒したのが悔しくて情けなくて仕方がなかった。
-
【B-4 /1日目/早朝】
【灰原哀@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:絶望王の基本支給品、救急箱、絶望王のランダム支給品×0〜2
[思考・状況]基本方針:コナンや探偵団のみんなを探す。
0:放送前までにマルフォイの着替えを探し、放送後ブラックを起こす。。
1:殺し合いを止める方法を探す。
2:ブラックについていき、説得できないか試みる。もし困難なら無力化できる方法を探る。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒する。
4:ブラックに対する貸しは、有効活用したい。
5:あの軍服の子(シュライバー)、親から……。
[備考]
ハロウィンの花嫁は経験済みです。
【ドラコ・マルフォイ@ハリー・ポッター シリーズ】
[状態]:現状の怪我は応急処置済み(鼻骨骨折、前歯があちこち折れている、顔の至る所に殴られた痕)、ボサボサの髪、失禁、
灰原を見ていると実感する自分の惨めさ(極大)、エリス、メリュジーヌ、シュライバー、ブラックへの恐怖(極大)
本人は認めたがらないポッターへの信頼(極大)
[装備]:ホグワーツの制服、サブマシンガン(灰原に支給)@彼岸島 48日後…
[道具]:灰原の基本支給品
[思考・状況]
基本方針:生き残る。ゲームに乗るのは……。
0:グラップとゴイル等の自分の家族や身内が殺し合いに居るか確認したい。
1:殺し合いで一人になるのが怖いので、灰原と一緒にいるが、惨めさも感じる。
2:エリス、メリュジーヌ、シュライバー、ブラックが怖い。
3:着替えが欲しい。
4:ブラックに何をされるか分からず怖いので従う。
5:ポッターやグレンジャーが居れば、合流する……?
[備考]
※参戦時期は、「秘密の部屋」新学期開始〜バジリスクによる生徒の石化が始まるまでの間
-
投下終了します
-
ウォルフガング・シュライバー、エリス・ボレアス・グレイラット、インセクター羽蛾、うずまきナルト
予約します
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すみません、予約にセリム・ブラッドレイも追加します
-
延長します
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間に合いそうにないので一旦予約を破棄します。
長期間の拘束申し訳ありません
-
丁度、予約が空いている状態になりましたので、放送話を投下させて頂きたいと思います
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「……6割方、といったところか」
一人用のソファーのような高級椅子に腰掛け、腕起きの先に備わったキーを入力しながら海馬乃亜は呟く。
殺し合い開始から、既に6時間が経過しようとしている。脱落者は0回放送以前を含めれば、既に20名以上を軽く超え、悪くないペースでゲームは進行していた。
ただ一点、参加者を縛る戒めであり枷たる首輪の解析情報の流出を除けば。
乃亜の前に展開された巨大なモニターに表示されているのは、首輪の内部構造とそれを司るシステムの全て。
「流石は天才ダイダロスの生み出したエンジェロイド、これは僕の想定を超えていたよ。
首輪の解析データを6割も会場の施設に転送されるとは」
制限下にありながら、命と引き換えとはいえニンフは首輪の制限を突破し、数秒足らずで首輪の解析を終えたのだ。
「制限を解除されること自体は想定していたけど、まさかニンフが一番先にそれを行うととはね。
中々、楽しませてくれる」
たまらず、苦笑しながら乃亜は呟く。
乃亜の予想では高い爆発力と潜在力を持つ孫悟飯、または強固な渇望を抱くウォルフガング・シュライバーか、本来の姿へと還ったメリュジーヌ等が制限を真っ先に外してくるだろうと考えていたが、それは大きく外れた。
おまけにもう一人、フランドール・スカーレットも一部の制限を超えた能力を行使している。
これも乃亜の想定外の事象だ。しかも、ネモの説得により純粋なマーダーでもなくなっている。
「存外、分からなくなってきたな。
マーダーのパワーと質を重視したつもりだけど、対主催も中々粘るじゃないか」
無論、結末の決まった出来レースでは面白くない。乃亜に反抗するであろう者も、敢えて殺し合いには招いている。
とはいえ、乃亜が敗北するなど万一も考えてはいなかった。対主催の足掻きは無駄に終わり、そしてマーダーに蹂躙され、最後には一人の優勝者が残るのだろうと。
とはいえ全員がマーダーでは、見ていてつまらない。
対主催は、あくまでマーダーの当て馬、踏み台のようなつもりだった。
だが、首輪の解析を一気にここまで推し進めたのは乃亜の計算外だ。場合によっては、乃亜の前に対主催達が辿り着く可能性も否定しきれない。
「まあ、対主催連中の相手をしてやってもいいけど…1日も経たず殺し合いを破綻させられてもね…。
それに僕の前に立つからには、相応の選別を行わなくては」
改めて、乃亜はモニターを注視する。
海馬コーポレーションと図書館に転送された情報は、ニンフのジャミングにより保護されていた。
「この情報を消すには時間がかかるか……」
非常に強固なジャミングシステムだ。これを突破するには、かなりの時間を有するだろう。
主催本部(こちら)からの攻撃で施設を潰すのもアリだが、参加者同士の殺し合いというルールである以上、主催である乃亜の介入は極力避けたい。
「禁止エリアも露骨過ぎる…さて」
禁止エリアの指定も考えたが、データ転送されたエリアに付近には絶望王と灰原哀、そして孫悟空とネモがいる。聡明な灰原とネモのことだ。あまり人のいないであろうエリアを禁止したことで違和感を覚え、逆にヒントを与える結果にもなりかねない。
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「施設を増やしてみるか」
カタカタとキーを入力し、巻き込まれた参加者達の世界から目ぼしい施設をピックアップする。
「施設のチョイスと配置に関しては、僕もあまり納得も行かなかったしね。丁度いい」
単純な話だ。
海馬コーポレーションや図書館以外にも、目に付くような施設を増やし参加者をそちらに誘導する。
追加施設の配置も調整することで、参加者が一部のエリアに固まり過ぎたのもある為、それなりに分散させることも狙える。そうすることで、より多くの参加者を接触させ、殺し合いへと発展させられるかもしれない。
仮にこれらの乃亜の動向から、聡い参加者が思惑に気付き、首輪の情報を手に入れてもそれならそれで構わない。
乃亜の前に立つ者として、優秀な参加者である事を自ら証明した事になるのだから。
「このデコイに惑わされず、僕への挑戦状を手にするのは果たして何人いるのかな?」
───
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夜明け後の早朝、5時間前と同じようにソリッドビジョンにより、乃亜の姿が朝空に投影された。
『やあ、諸君。
夜も明け、ようやく朝を迎えた所だね。中々、気持ちのいい気候だとは思わないかい?
こう見えて、君達が快適に殺し合えるように、島の気候には注意を払っているんだ。
フフ…さて、先ずは0回放送後からの脱落者を読み上げていくとしよう。
小嶋元太
アーカード
ロキシー・ミグルディア
ベッキー・ブラックベル
右天
野原しんのすけ
マニッシュ・ボーイ
有馬かな
山本勝次
条河麻耶
城ヶ崎姫子
美遊・エーデルフェルト
リップ=トリスタン
ニンフ
エスター
素晴らしい。想像以上の脱落者数だ。僕も、気候に気を遣った甲斐があるよ。
次に禁止エリアの指定だ。
E-4
G-2
H-5
以上の三か所を二時間後に禁止エリアとする。
……これは、力の弱い者にとってはチャンスかもしれないね。どんな参加者であろうと、首輪の爆破には耐えられない。
力で及ばないのなら、知恵と工夫で対抗するんだ。ただ強いだけの者が優勝出来るほど甘くはないのさ。
精々頑張ってくれたまえ。弱者や、哀れな抵抗を続ける対主催もね。
ああ、もう一度言っておくが禁止エリアは地図には表示されない。覚える自信のない者は、メモしておくといい。
さてこの放送後、参加者名簿を君達のタブレットに転送しよう。お友達が居ないか確認したいのなら好きにすると良い。
特に…クク、誰とは言わないけど仲間がいるか確認もせず、早とちりして意味なく死んだ馬鹿な女の子も居たからね。何やら祈って死んでたけど、あれは見てて傑作だったよ。フフフ……。
それと島にある施設をいくつか増やす事にする。地図も確認し、新たな戦略に組み込むと良い。
テコ入れのようなものかな。
参加者が集まりそうな地点に先回りし、待ち伏せして狩るも良し。
まあ、無駄だと思うけど、対主催は逆に殺し合いから脱し、僕を倒す為のお仲間探しにでも活用しても良いんじゃないかな?
そうそう…マーダー諸君も、もう少し奮って欲しいものだね。
脱落者の数こそ多いものの、個別に見れば大して殺せていない者も少なくない。
特に自らを強者と思ったマーダーほど、大して殺せていないじゃないか。
言った筈だ。僕は、優秀な者を評価するとね。これ以上、僕を失望させないでくれ。
この意味は分かるよね? 次の放送までに、君達の誇る強さは驕りではないと、この僕に認めさせてみたまえ。
フフ…では、今回の放送はここまでとしよう。殺し合いをより促進させてくれることを期待している』
───
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「以前は遊戯の絆の強さとやらに不覚を取ったけど、所詮はこんなものか……」
絆…結束といった数というアドバンテージは否定しようのない事実だが、反面容易く崩れるのものだと乃亜は思った。
ちょっと時系列を弄ってやっただけで、美遊・エーデルフェルトは無駄に人を殺め、無駄に死んで、助けたかったはずのイリヤに重荷だけを背負わせた道化と化した。
ほんの少し、工作するだけで人の絆など容易く弄べるのだ。
「やはり、この小説を元にしたのは正解だったよ。
……僕の”世界線”では僕を捨てた父上も瀬人も遊戯達も、全てミサイルで吹き飛ばしてしまったからね。
だから退屈で仕方なかったけど、これ以上の娯楽はそうはない」
乃亜の前に映し出されたモニターの下、デスクの上に置かれた一冊の本。
本来の歴史とは異なり、別の歴史を歩んだ乃亜が出逢った一作の小説。
それは架空の国で、中学生を島に集め殺し合わせるといったもので、とある別世界で流行した小説だった。
少なくとも乃亜が目を通し、面白いと感じる程に高水準にまで仕上げた一作。
そしてインスピレーションを受け、乃亜が作中のデスゲームを再現する元凶にもなった。
「全てを殺さねばならない敵だらけというゲームの中で、どれだけ絆が力を発揮するか、見物だね」
そのタイトルは、今まさに行われている殺人ゲームと同じ、バトル・ロワイアルと題されていた。
※乃亜の参戦時期は119話にて剛三郎に捨てられて以降、モクバの肉体を乗っ取る以前の何処かです。そこから、原作本編と分岐しています。
※ニンフが転送した首輪の解析データは6割ほど、乃亜が消去するには時間が掛かります。
※二時間後にE-4、G-2、H-5が禁止エリアとなります。タブレットの地図アプリに、表示は反映されません。
※参加者のタブレットに、参加者名簿のアプリが追加されました。
※新しく追加された施設は以下になります。
A-8 決闘塔アルトカラズ@遊戯王デュエルモンスターズ
C-2 人理継続保障機関フィニス・カルデア@Fate/Grand Order
C-5 東京タワー@カードキャプターさくら
C-7 第三芸能課事務所@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)
F-2 モルツォグァッツァ@血界戦線(アニメ版)
F-4 阿笠博士の研究所@名探偵コナン
F-6 中央司令部@鋼の錬金術師
I-5 海馬ランド(KCグランプリ編)@遊戯王デュエルモンスターズ
I-8 終末の谷@NARUTO-少年編-
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投下終了します
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新施設を追加した地図がこちらになります。
ttps://w.atwiki.jp/compels/pages/12.html
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第一放送おめでとうございます。
本編開始後動かすのが難しいコンペで、これほど短期間で最初の放送まで行けた主催者様の実力は凄いと思います。
私も強い企画主の神輿を担ぎたいところですが、残念ながら把握作品が少ないので(それでも楽しんで読めるのは凄いですが)
これからも応援だけさせていただきます。
第一放送後の話も楽しみにしてます。
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ありがとうございます!
やっぱりこうして感想貰って読んでもらえてると思うと、モチベが上がります。
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我愛羅、ルーデウス・グレイラット、木之本桜 予約します
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投下します
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「あの、どうしましょう?」
「……」
木之本桜とルーデウス・グレイラットの二人は、ボレアス・グレイラット邸の前で動けずにいた。
理由は二つ、まずこの館の周辺に結界が張られている。
ルーデウスも詳しくはないが、さくらの魔力感知も併せてこれは結界の類だと察知できた。
さらにそれが破壊された痕跡があり、少なくとも先客が二人以上いた事に違いはなく、その邂逅も穏やかであったとは言い難い。
もう一つは、ルーデウスと同じくこの館に向かう人物で結界を張れる者が居ないからだ。
エリスも簡単な魔術は使えるが、ここに張られた結界は非常に高度なもの。彼女が扱えるとは到底考え辛い。
総じて、エリス以外の誰かがここに居る、あるいは居た事になるが、それが殺し合いに乗るマーダーか否かの判別が付かない。
「さくらさん、万が一の時は一人で自分を守れますか?」
「え? は…はい、今は杖もカードさん達も居てくれるから」
「一度、館に僕一人で入ります。30分経っても戻ってこないようなら、さくらさんはここから離れて下さい」
ルーデウスは頭の中で、いくつか可能性を考えていた。
エリスが支給品の力を借りたか、または友好的な同行者が魔術師で結界を張り、館を拠点にしている可能性。
ただこれは、恐らくありえない。何故なら一度破られた結界を張り直せばよいのに、それをしないからだ。
同じ理由で、魔術師の対主催がここを拠点にしている可能性も低い。
むしろ壊れた結界を修復もせず、参加者居座るのであればそれは魔法に明るくない参加者か、壊れているのを認識していて、それでも構わない参加者。
そして結界の破損を認識したうえで、殺し合いという環境に置かれ、人との接触を拒まないスタンスであるのなら、マーダーの可能性が高い。
安全を優先すれば、ルーデウスはさくらを連れてこの館から離れるのがベストだ。
名簿が開示され、エリスの名がなければルーデウスは迷わずそうした。
だが、今はまだ一回放送前。名簿は確認できない。
ルーデウスが居て、エリスの実家があるのなら、その住人であるエリス・ボレアス・グレイラットを呼ばない理由はない。
「名簿を見てからでも…」
さくらからしても、ルーデウスがエリスを心配して危険な行為に出ようとするのは明白だった。
「いえ、それじゃ遅いかもしれない」
名簿を見てから行動を決めればいい。
それぐらい、ルーデウスにも分かっていた。
「エリスは剣の才能はありますが、僕やさくらさんと違って、魔術に明るい訳ではありません。
恐らく、ここの結界に気付けない。だから…館にエリスが居る可能性は否定できません」
「じゃあ、わたしも……」
「はっきり言います。あの中にはマーダーが居る可能性も高い。
僕一人の方が潜入しやすいですし、小回りも効きます。もしもの時はさくらさんは逃げて、誰か別の対主催に助けを求めてくれませんか?」
もしも、今館の中でエリスが交戦していたら。今ならまだ、ルーデウスが助力すれば助かるかもしれない。
確率は高くはないが、それでもリスクを負ってでもルーデウスはエリスの安全を優先したい。
それにグレイラット邸には数年住んでいた。内部の構造は熟知しているし、地の利は得やすい。仮に戦闘になっても、勝算は低くはないはずだ。
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「今ここで纏めて葬ってやる」
ルーデウスとさくらの背後から殺気に満ちた声が響く。
「な…!?」
殺し合いの経験はないが、クロウカードを巡る騒動から得た判断力と、類まれな身体能力を有するさくらが真っ先に動いた。
「風(ウインディ)!」
相手が、こちらに敵意を持っている危険な存在であるのは分かっている。だが出来る限り傷付けないように、温和で争いを好まない優しい性格を持つ風を解放する。
カードを投げ、その先に星の杖を振るう。
風を纏った女性が召喚され、その風が戒めの鎖となる。
二人の背後に居た額に愛と刻まれた少年を、抱き締めるように風の鎖は包み込む。
「温い」
表情は変えぬまま、少年は鼻で笑う。
次の瞬間、砂嵐が撒き上がり風は弾き飛ばされた。
───
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次の標的も二人。
飛行しているピジョットから、グレイラット邸の前に隠れていたルーデウスとさくらを発見し、我愛羅は気配を殺して背後に回り込んだ。
我愛羅の身のこなしはかなりの素早さを持つ。
当時はまだ未成長とはいえ、うちはサスケでも見切れない程の抜き足を披露した事もある程に。
(良い反応だな)
敢えて声を掛け、動揺した隙を突いてまとめて瞬殺するつもりだったが、思いのほかさくらの反応が速く、我愛羅は後手に回ってしまった。
「クソッ、あいつか!」
空を飛び回る奇怪な鳥、ピジョットに気付いたルーデウス。
我愛羅から距離を空け、意識は逸らさぬまま岩砲弾(ストーンキャノン)を射出した。
この手の敵は、ボスの補助から始末しておくに限るのを、ルーデウスは前世の引きこもり時代にプレイしたゲームでよく理解していた。
岩の砲弾が高速で空目掛け打ち上がり、ピジョットに触れる。
「チッ」
砂が撒き上がり、ピジョットを庇うように盾となり岩の砲弾を防ぐ。
(今なら……!)
その刹那、ルーデウスは我愛羅の周囲の砂の量が減っていることに目ざとく目を付けた。
再度、岩砲弾を発動し我愛羅に砲弾を数発叩き込む。
「ッ、───」
少ない砂ではルーデウスの攻撃を防ぎきれない。ルーデウスの予想した通りだった。
数発は弾かれたが、他は砂の防御を突破し、我愛羅へと直撃する。
短く呻き声をあげ、砲弾を撃ち込まれた箇所から固まった砂が剥がれ落ちる。
(砂で全身をコーティングしたのか?)
生身の体への着弾は防いだとはいえ、魔術で勢いを付けた岩石を受けたことで、衝撃が我愛羅を貫く。
鈍い痛みを覚えながら、我愛羅はモンスターボールから赤い光線を発射し、ピジョットへと浴びせた。
通常の鳥としては、1m超えの規格外の巨体が手に収まる程度のボールの中に収納されていく。
それを確認し、砂を守りから攻めへと転じさせる。
───砂縛柩。
砂が渦を巻き、ルーデウスとさくらを取り囲む。次の瞬間、砂が圧縮された。
「跳(ジャンプ)!」
さくらの踵に小さな羽が生え、天高く跳躍する。
跳のカードは名の通り、その対象に人知を超えた跳躍力を授ける効果を持つ。
対して、ルーデウスはまるで砂の動きが分かっていたかのように、スムーズな動きで身を屈め横へ飛び退いた。
───連弾砂時雨。
砂を弾丸にし連続して乱れ打つ。
ルーデウスは最小限の動きで、それらを回避し岩の砲弾を撃ち返す。
(瞳術か)
右目からチャクラ───正確には、チャクラに近しい別の力のように感じるが───特殊な力が込められているように見える。
写輪眼か百眼のような眼に関する血継限界だろうか。
(写輪眼ほど、多機能ではないが…動きの先読みに特化しているようだ)
予見眼。
ルーデウスの右目に宿る魔眼であり、我愛羅の予想通り数秒先の未来を見る能力がある。
身のこなしも良い。先ほど交戦した赤髪の女剣士相当の相手ならば、あの眼と合わせてあしらうのも容易だろう。
(鍛え上げられているな)
総じて、研鑽を重ねた高い水準の技量を持った実力者だと我愛羅は判断した。
-
「だが足りん」
避けられた砂の弾丸を今度は一つに纏め、広範囲に展開する。
動きを読まれるのならば、読んでも避けられないよう一気に捻りつぶすまで。
敷物のように拡がった砂が、ルーデウスを囲むように巻き上がる。
「っ───!」
風が噴射され、ルーデウスを前方へと圧し飛ばす。後方で砂が、ルーデウスの居た空間を圧し潰していた。
「多彩な奴だ」
風の勢いに乗ったままルーデウスは我愛羅へと肉薄する。杖の先、圧縮された炎の砲弾が放たれ我愛羅の顔面を穿つ。
「る…ルーデ───」
通常の人間であれば、首から上を焼き消され死んでいる。さくらは絶句し、その殺害者であるルーデウスの名を口にする。
だが、それよりも先にルーデウスの叱咤のような叫びが轟く。
「まだです!」
消し飛んだ我愛羅の姿が砂のように崩れ去る。
その刹那、さくらの背後から寒気がした。
「先ずは一人」
それは極限にまで研ぎ澄まされた殺意。
今まで生きた中で、クロウカードにすらそんなものを浴びせられたことはない。
近いとすれば、さくらがこの島で最初に出逢ったカニパンの化け物だが、格が違う。
(不味い……!)
さくらの背後に、抜き足で回った我愛羅が手を翳す。その一秒後の光景を、魔眼を使うまでもなくルーデウスは予見する。
風系統の魔法での高速移動では間に合わない。遠距離からの魔法で狙撃、いやこれも確実性がない。
「水流(フロードフラッシュ)」
巨大な水の塊が発生する。ルーデウスの膨大な魔力をありったけ込めたそれは魔力量に比例し、川の流れのように拡がっていく。
(水の無い所でこのレベルの水遁を……大した奴だ)
拡がった水が我愛羅の操る砂に触れ、砂はその性質から水を吸収してしまう。
水を吸った砂はその質量分、重さを増していく。
「さくらさん!!」
重量が増え、砂の操作速度が鈍ったことで、さくらへの攻撃まで我愛羅の想定以上のラグが発生する。
跳の脚力でさくらは後方へ飛び、動きの鈍った砂が誰も居ない地面を抉った。
───流砂瀑流。
「なんだあれ……!」
水に塗れた砂、それは我愛羅の忍術の妨げになる。だが、より膨大な質量で飲み込めばなんら意味はない。
地中に潜らせた砂が更に地中の石や岩を砕き砂へと変え、その砂が更なる砂を作り出す。
ねずみ講で増えていった砂は、グレイラット邸を優に飲み込む程の巨大な波へと変貌する。
(あれを相殺するには、聖級以上の魔術が必要か……)
-
『やあ、諸君』
その時、空に乃亜の姿が映し出されこの島全土にその声が響き渡る。
『フフ…さて、先ずは0回放送後からの脱落者を読み上げていくとしよう』
(クソッ、こんな時に!)
ルーデウスは舌打ちしながらも、その声にも僅かに意識を割き───。
『ロキシー・ミグルディア』
頭が真っ白になった。
詠唱を飛ばし、魔術を構築していく過程が完全に脳裏から消し飛んでいく。
(いま、なんて…いま……)
理性で、今はそれどころではないと分かっていた。
エリスの名は呼ばれていない。
だから、ここで死ぬ訳にはいかない。
この島で出会ったさくらの命も、自分に掛かっていると分かっていた。
だが、それでもロキシーの死という事実がルーデウスの思考を止め、体の動きを阻害する。
(まにあわ───)
ルーデウスの立て直しは素早かった。
前世での社会経験が皆無といえど、実年齢が30以上であったことと、転生後のそれまでの実戦からの経験から、今為すべきことの最優先順位を瞬時に再把握し魔術を再構成する。
その間、僅か1秒足らず。
だが、上忍にも匹敵する我愛羅を前にして、その時間はあまりにも悠長すぎた。
「樹(ウッド)!!」
ルーデウスの魔術の発動より先、さくらが星の杖を振るいカードを突く。
砂の波を遮るように、地に根を張り大木が出現する。その規模は数百年の成長を一瞬で早送りしたかのように、天を突く程の巨体へと急成長した。
大木は砂の波すら跳ね除け、ミシミシと軋ませながらも波に呑まれ局所的な砂漠となったグレイラット邸周辺で、微動だにせずそびえたっていた。
「奴の水遁と、それを吸った砂と地面から栄養を吸い上げた木遁というわけか」
大木の影で、無傷のまま砂を凌いだ二人に我愛羅は感嘆の声を零す。
木遁自体が極めて稀な血継限界であり、そう使い手もいない筈だが、よくぞここまで使いこなしたものだ。
(だが、俺の知る水遁ではないな。もっとも、木遁はそうお目に掛かれるものでもないが……。
やはり忍術とは異なるようだ。ここにはチャクラ以外の異能が存在するのか)
先程、戦ったメリュジーヌ(カオス)という女騎士もだが、チャクラの類を感じ取れなかった。
何かしらのエネルギーを利用しているはずだが、戦闘中に一切関知出来ないのも奇妙な話だ。
「どうして、こんなことするの……?」
樹の後ろで、僅かに我愛羅に怯えながらさくらは声を振り絞った。
「これは殺し合いだろ?」
「さっきの鳥さんは守ってたよね…。本当は、こういう戦いも嫌なんじゃないかな?
殺し合いだって……みんなで力を合わせたら、絶対大丈夫だよ!」
ピジョットを庇った我愛羅を見て、さくらはこの男の子は悪い人じゃないと思った。
少なくともそれでルーデウスから攻撃を受けるリスクを負ってまで、あの鳥を助ける優しがあるのだと。
きっと、今は乃亜に殺し合いを命じられて、怯えてしまっているのかもしれないと。
「使える道具を温存しているだけだ」
「え……」
「……お前もそうか、誰かを守ろうとする人間」
無表情だった我愛羅がくつくつと笑う。
笑い慣れていない引きつった笑いで、だがとても凶悪な形相はさくらが今までに見たことのない人種だった。
『こいつは…オレの愛すべき大切な部下だ』
『沙都子に手を出すな』
「お前も奴等と同類か、丁度いいな」
あのメリュジーヌの前座くらいにはなるだろう。
この女とこの女が守ろうとする者を殺す。そしてメリュジーヌも殺し、うちはサスケも居れば殺す。
居なくても優勝後、奴の元へ行き殺す。
「大丈夫だよ…きっと、みんなで力を合わせれば……」
「クク…お前、まだ何も分かっていないのか」
嘲るように、我愛羅は言葉を紡ぐ。
馬鹿何度も見てきた。あのうずまきナルトなどもそうだが、奴ですら我愛羅の殺気を前にして怯えていた。
しかし、このさくらと呼ばれる少女はまるで違う。我愛羅を前にして、まだ見当違いの事を抜かしている。
知らないのだ。本当の命のやり取りを。
そんな甘ったるい世界の女に負ける気など、我愛羅は微塵もしない。
「殺し合いなど関係ない。俺は、俺以外の誰かを殺す。それが生きる理由だ」
「っ……」
さくらには我愛羅の言っていることも、今の状況も分からなかった。
人が死ぬなんて誰だって嫌なはずだし、悲しい事でなんとしても回避しなければいけない事だとさくらは思い込んでいた。
でも、この男の子にはまるで話が通じなくて、何だか別の生き物と話しているような気にさせる。
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「わたし、貴方の言っていることがよく分からないけど…だけど……」
さくらの出会ったもの達の中の誰とも違う。
それは、かつては敵対した者達もすべて含めて。
この少年には、本来誰かから授けて貰うであろう愛が存在していない。
「人を傷付けるのが、生きる理由なんて絶対おk───」「おい!」
敬語を崩し、口調を荒げながらルーデウスは叫んでいた。
それはさくらの声を最後まで届けさせず、上書きするように。
「……お前、禁止エリア覚えてるか」
「なに?」
「禁止エリアだよ……!」
先程、流れた第一回放送のことだろうと我愛羅は察する。
当然戦闘の最中だったが、放送内容は正確に記憶した。
忌々しいが、この殺し合いにはルールが存在する以上、その運営である乃亜からの情報を聞き逃す訳にはいかない。
「お前、頭良さそうだしな。案外ちゃんと覚えてそうだけど、でも戦闘中だ。
その正確さに自信あるか?」
「何が言いたい」
「俺も禁止エリアは覚えてるが、正直自信がない。なんせ、砂の音でやかましかったからな。
お前もそうじゃないか?
そこでどうだ? 俺とお前の聞いた内容を擦り合わせるのは」
ルーデウスは懐から神を一枚取り出し、我愛羅に見せ付けるように弄ぶ。
「ここに俺が聞いてメモした内容がある……。こいつを渡す代わりに、俺達を見逃せ」
「フッ……」
呆れたように大きく瞬きをして、我愛羅は手を翳す。
「お前を殺して手に入れればいいだけだ」
「だよな……!」
我愛羅の目線が僅かに紙に向かった間に杖に炎を収束させる。
砂が撒き上がる寸前、炎を水浸しになった地面へと打ち込んだ。
「さくらさん急いで───」
炎が水を沸かし、蒸気となる。それも屋外で広域に展開した水を一気に沸かす程の高熱だ。
瞬時に湯気はカーテンのように視界を閉じ、白い煙幕となった。
「ルーデウスさん……」
「黙って、今は逃げる事だけ考えて下さい」
さくらを抱き上げ、風の魔法で促進しながらルーデウスは走っていく。
我愛羅の強さを前に、これ以上の戦闘は危険だと判断したのが一つ。
奴はまだ本気ではない。自分以外の異能力の存在を確認する為、此方の様子を伺っていた。
だが、それ以上にさくらを我愛羅と会話させるべきではないと、ルーデウスは直感していた。
───人を傷付けるのが、生きる理由なんて。
(分かるさ。その気持ちは……あの砂野郎は頭おかしいよ)
さくらの価値観は間違っていない。思いやりも優しさもある。
言っていることも正しい。
だが、あの少年はさくらが当たり前のように享受していた愛を、一片たりとも受けた事がないのだろう。
だから、人を傷付ける事に何の躊躇いもない。決して二人の会話が噛み合う事もない。
(でも、それを否定するのは……多分、マズイ)
これはさくらの為でもなければ、今までの価値観を全否定される我愛羅の為でもない。
ただ、あれ以上我愛羅を刺激した時に、我愛羅の中に抑え込まれた激情が吹き出した時、それを直感的にルーデウスは警戒していた。
何かあの少年の中にまだ住み着いているような、猛獣の檻を無防備に覗き込んでいるような。そんな予感がした。
(あの放送……エリスの名前は流れなかった…とにかく後で落ち着いた場所に行って、名簿を確認して、エリスが居たらグレイラット邸に向かうだろうからその前に探して……それで……)
───ロキシー・ミグルディア。
(ロキシー…誰に……待て、今はさくらちゃんも居る…とにかく落ち着けるとこに行くんだ。
その後、ロキシーを殺した奴を……いや、それよりもエリスだろ…! エリスを……)
悲しみと憎しみ、そしてエリスを守らなくてはいけないという使命感が入れ混じり、纏まりのない思考のままルーデウスは走る。
今は情報を整理しなくてはいけない。それからだ。それから方針を決めよう。そうルーデウスは自分に言い聞かせるように、思考を無理やり打ち切った。
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【G-4 ボレアス・グレイラット邸周辺/1日目/朝】
【ルーデウス・グレイラット@無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜】
[状態]:健康、ロキシーが死んだ動揺(極大)
[装備]:傲慢なる水竜王(アクアハーティア)@無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜
[道具]:基本支給品一式、石毛の首輪、ランダム品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出する
0:ロキシーが……? とにかく、我愛羅から逃げて名簿を見る。
1:さくらに同行してエリスを探す。(身内の中で、エリスが一番殺し合いに呼ばれた可能性が高いと推測したので)
2:首輪の解析をする。
3:カニパン野郎(ハンディ・ハンディ)を警戒。
4:ボレアス・グレイラット邸に行く。
5:ロキシーや滅茶苦茶強いロリババア、ショタジジイの居る可能性も考慮する。
6:そういえば、あの鳥(ピジョット)…どっかで見た気が……まあ今はどうでもいい。
7:ロキシーを殺した奴を……。
[備考]
※アニメ版21話終了後、22話以前からの参戦です
※一回放送はしっかり聞き取り全内容を暗記しました。
【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:健康、封印されたカードのバトルコスチューム、我愛羅に対する恐怖と困惑(大)
[装備]:星の杖&さくらカード×8枚(「風」「翔」「跳」「剣」「盾」「樹」は確定)@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品一式、ランダム品1〜3(さくらカードなし)、さくらの私服
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない
0:人を殺すのが生きる理由なんて……。
1:ルーデウスに同行して小狼君、知世ちゃん、友達や知り合いを探す。
2:紗寿叶さんにはもう一度、魔法少女を好きになって欲しい。その時にちゃんと仲良しになりたい。
3:ロキシーって人、たしか……。
[備考]
※さくらカード編終了後からの参戦です。
【我愛羅@NARUTO-少年編-】
[状態]健康
[装備]砂の瓢箪(中の2/3が砂で満たされている) ザ・フールのスタンドDISC
[道具]基本支給品×2、タブレット×2@コンペLSロワ、サトシのピジョットが入っていたボール@アニメ ポケットモンスター めざせポケモンマスター、かみなりのいし@アニメポケットモンスター、血まみれだったナイフ@【推しの子】、スナスナの実@ONEPIECE
[思考・状況]基本方針:皆殺し
1.出会った敵と闘い、殺す。一先ずグレイラッド邸で待ち伏せを行う。
2.ピジョットを利用し、敵を、特に強い敵を殺す、それの結果によって行動を決める
3.スタンドを理解する為に時間を使ってしまったが、その分殺せば問題はない
4.あのスナスナの実の使用は保留だ
5.俺の知っている忍者がいたら積極的に殺したい、特にうちはサスケは一番殺したい
6.かみなりのいしは使えたらでいい、特に当てにしていない
7.メリュジーヌに対する興味(カオス)、いずれまた戦いたい
8.あのさくらとかいう奴も殺したい。
[備考]
原作13巻、中忍試験のサスケ戦直前での参戦です
守鶴の完全顕現は制限されています。
一回放送の内容は全て聞き取り暗記しています。
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投下終了します
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ゲリラ投下します
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「……勝次、そんな」
「放送の通りだ。あいつは、メリュジーヌの巻き添えで…やられちまった」
ブラックと別れ、そして山本勝次の遺体を埋葬し首輪を回収した後、龍亞達のいる民家に戻り、乃亜の放送前に、シカマルは勝次の死を龍亞へと伝えていた。
その後、それを裏付けるように乃亜の一回放送が流れる。
全てを聞き終えた龍亞の瞳には、涙が浮かんでいた。
数時間の関係だが、決して悪人ではない少年だったと龍亞は思っている。
割戦隊に襲われた時も、龍亞を庇うように戦ってくれた。かなと会った時もいざという時は自分が体を張って、全員を逃そうとしていた。
「ごめん、勝次…オレ……」
あの時、首輪の分配をした時から勝次の事を案じていた。
それなのに、自分は勝次を助ける事も守る事も出来ずに命を落としてしまった。
メリュジーヌの襲撃で、龍亞がもっと早くスターダスト・ドラゴンを呼べていれば助かったかもしれない。
「……っ」
シカマルは唇を噛み、今にも吐き出しそうな本音を口にしないよう堪えていた。
真実は異なる。龍亞の行動は間に合っていて、メリュジーヌが殺した者は誰も居ない。
龍亞は少なくとも、メリュジーヌからは全員を守れていた。
───すまねェ……龍亞達には…おれはあのチビ女の巻き添えで、って言っといてくれ……。
勝次から頼まれた最期の頼みの一つ。
きっと、龍亞がブラックと揉めないように配慮したものだ。
その約束を守る為に、シカマルは口を閉ざし続ける。
「……アタシの知り合いは一人よ。桃華って娘」
梨沙が敢えて、重苦しい空気の中で声をあげる。その手には、参加者名簿を表示したタブレットがあった。
彼女も勝次の死に思う所がないわけではない。だが、このまま沈黙を続けていても事態は好転しない。
だから、話を前に進める為に自分から切り出した。
「俺の知ってる名前はうずまきナルトと我愛羅って奴だ。ナルトは絶対に殺し合いには乗らねーよ。
我愛羅はちと怪しいが、味方になると思う」
ナルトは言わずもがな、我愛羅もサスケ奪還時にロック・リーの救援に駆け付けたと聞いている。
どうやらナルトに負けた後、心境に変化があったらしい。今なら、そう積極的に殺しをすることはしないだろう。完全に信用も出来ないが。
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「知り合いって言うか、有名人の名前というか…ここにある海馬モクバって人、海馬コーポレーションの副社長なんだ。
さっき言ってた海馬瀬人の弟で、小学生の頃から会社の経営を任されてたらしくて……」
「副社長……? 小学生じゃない」
「ま、乃亜の言うガキって選定基準には合ってるな」
「あと、このインセクター羽蛾も一応凄くて、デュエルモンスターズの元日本チャンピオンなんだ。武藤遊戯と海馬瀬人のいない時期だったけど……。
だけど、決闘者の王国で武藤遊戯と戦って追い詰める程強くてさ。歳も13とか14くらいだと思う」
その歳でも背や体格次第なら、子供と言えなくもない。龍亞の話を聞きながらシカマルは特に不審な点も見いだせず、その意図も掴めずにいた。
「だけど…それはもう何十年も前の話で、今頃は二人とも絶対におじさんなんだよ」
龍亞の話しぶりでは、後世に活躍が伝わっているまるで過去の偉人のような言い方だった。
「同姓同名じゃないの?」
「インセクター羽蛾なんて名前、この人しか居ないと思う」
「そ、そうね……」
梨沙の反論を龍亞はばっさりと切り捨てた。
だが、言われてみれば海馬モクバという名前も響きも悪く独特で、インセクター羽蛾なんてネーミングも早々ないだろう。
「梨沙、ないとは思うが…今は仲良くても以前はその桃華って娘と対立してたとかないか、昔は悪い奴だったとか」
「は?」
「良いから答えろ。お前の知る範囲で良い。昔はヤンチャしてたとか」
突拍子もない言動を、真顔で真剣な顔で言うシカマルに圧され梨沙は僅かに考え込む。
「……桃華はずっと良い娘で優しくて、怒っても全然怖くないし……。
っていうか、一体何よ!?」
「二人とも…さっき、俺が言った我愛羅のことは忘れて、あいつを警戒してくれ」
眉を潜めながら梨沙は首を傾げる。
「確証はない。だが、龍亞の言うモクバと羽蛾はガキのまんまここに連れて来られたと俺は思う。
龍亞の時代より、過去の時間から呼ばれたんだ」
「はあ? そんな映画みたいな……」
梨沙は、やはり意味が分からなそうにきょとんとしていた。
「龍亞の世界には居たんだろ? 未来から過去を変えに来た奴等が。
少なくとも、その世界ではいつの時代か知らねえが、時間移動の技術が確立されてるってことだ。
乃亜が龍亞と同じ世界の住人なら、奴が何らかの方法でそいつを手に入れても、まだ話は通る」
「そ…それと、さっきの桃華の事と関係するっていうの?」
「参加者の呼ばれた時系列を乃亜は、わざとズラした可能性がある。
例えば、俺の言った我愛羅…こいつは以前、俺達と敵対していた。だが今は、まあ仲間と言ってもいい関係になってる。それを……」
「それって……我愛羅って男子を、アンタと敵対してる時期から、誘拐してきたかもってこと……?」
梨沙が導き出した結論を聞いて、シカマルは頷いた。
「そうだ。人間の関係なんて月日で変わるからな。
乃亜が時間を超えられるなら、同じ世界で面識のある友好的な参加者間でも諍いが起こせるように都合の良い時期から、それぞれ島に連れてくるなんて真似もやりそうだろ?
そんでもって、さっきの放送の誰かみたいに嘲笑うって寸法だろ」
自分で推測を口にしながら、事件の規模が飛躍していくのを感じてシカマルは頭痛がしそうになった。
我愛羅は接触する候補として完全にグレーだ。シカマルと同じ時間からなら、これほど頼もしい仲間は居ない。
だが、違えば確実に今のシカマルと梨沙と龍亞では殺される。
敵か味方か、2分の1確率で賭けるにはリスクが大きすぎる。
(やっぱナルトか、あいつと……)
───バーーーーーカ!! うっせんだってばよ!!
シカマルの脳裏を過ったのは、火影岩に馬鹿みたいな落書きをして存命時の三代目やイルカ先生に叱られていた光景だった。
今でこそ、ナルトはアカデミーを卒業し、着実に実力を付けて夢である火影に近づいている。
あの木の葉の下忍の中なら最強の日向ネジすら、正面からやりあって下すほどに。
だが、過去のナルトはまだ分身の術すらろくにできない。影分身もそうだが、体術も恐らくは実戦経験のなさから現在と比べれば覚束ない。シカマル風に言えば、イケてない側だ。
(おい……影分身もできねー頃なら、あいつ本当にやべーぞ)
メリュジーヌや絶望王を見た後だ。もしも、あの時期のナルトがあんな連中に襲われでもすれば、何の抵抗も出来ないまま殺されてしまう。
放送で名前を呼ばれていない事から、最低限身を守れる力を付けた頃から呼ばれたか、頼れる同行者がいると考えたいが、単に誰とも接触していない事も考えられる。
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「ナルトは大丈夫だ。どの時期でも、殺しなんてする奴じゃねえ…ちと、頼りになるかは分からねえが」
「桃華も大丈夫よ。本当に怒っても全然怖くないわ」
「……羽蛾ってたしか、試合前に武藤遊戯のカードを海に投げ捨てたり、バトルシティでも不正をしてたって噂を聞いたことあるけど」
「完全にアウトよね。そいつ」
「信用はおけねーな。モクバってのは?」
「ごめん…海馬瀬人は頭のおかしい人で有名なんだけど、弟のモクバのことはあんまり……」
「……」
怪訝そうに龍亞を見つめた後、シカマルは両手で円を作り座禅のような独特のポーズを取る。
「なあ、龍亞」
そして僅かに考え込んだ後、口を開いた。
「今から、俺の言う質問に答えてくれるか?」
「う、うん……?」
「先ず一つ、その海馬コーポレーションの前社長…海馬瀬人の前の社長は誰か分かるか?」
「前任? え、えーと……確か……」
「名前が出ないなら良い。だが、前任の社長が居たって事は間違いないな?
それなら、その会社は瀬人ってのが、一代で築いた会社じゃねえ。それなりに歴史もあるな」
「そういえば、元々軍事産業だったのを海馬瀬人が変えたとか、何かで見た気がするけど……」
「なら龍亞、他にも───」
話を聞きながら、シカマルは小さく口許を釣り上げた。
やはり龍亞は海馬瀬人に対し、奇行の多い問題人物という色眼鏡で物事を語っている。
シカマルも話を聞いて、そのインパクトに呆気に取られていたが、落ち着いて龍亞の持つ情報を引き出してみると、まるで別の人物像が浮かんできた。
前任から社長業を引き継ぎ、軍事産業から撤退し真逆の玩具産業へと転身させ、見事に成功させた才能のある若手社長。
軍事産業は儲かるイメージもあるが、実際にはそう上手くいく代物でもなく、安定性がない。龍亞の世界の情勢を正確には把握出来ないが、民生品で利益を上げようとするのは、おかしな行為ではなく真っ当な価値観と経営センスを持っている証。
むしろ先を見据えた上で、デュエルモンスターズというカードゲームに目を付け、一つの街を貸し切り大々的に大会を開き、全世界へと中継。
そのカードゲームと、そのプレイに必要なソリッドビジョンシステムの宣伝を兼ねる見事な戦略性や先見性、そして優れた販売促進能力が伺える。
むしろ海馬瀬人は、非常に大胆でありながら非常に幅広い視野を持つ思慮深い人物。
かなが、宗教扱いしたカードを宇宙に飛ばした奇行も、むしろ宣伝としてはアリだ。奇抜でありながらイメージに残り、強い関心を与える。
「龍亞、多分だが海馬瀬人はこの殺し合いとは直接は無関係だと思う。こんなもんを開く、メリットがねえよ」
そんな大成功を収め、この先の発展性も多いに期待できる大企業の長が、こんな娯楽として提供するにも決して表には出せず、リターンも大きいがリスクも大きい人死にのデスゲームをわざわざ主導するとは考え辛い。
「そもそも、仮にも副社長の弟を放り込む理由も分からねえしな。
会社の実権を巡った争いにしても、こんな派手な殺し合いやらすより、もっと確実な暗殺をする」
「そ、そっか……そうだよね…言われてみたら……」
「むしろ、海場兄弟と乃亜は敵対してたと俺は思う。会社の表舞台に上がってるのは瀬人とモクバなんだろ? じゃあ、乃亜は何処へ行ったんだ?
恐らくは、会社内の抗争で海場兄弟に敗れたのかもしれねえ」
「じゃあ、乃亜はモクバを仕返しで殺し合いに巻き込んだって言いたい訳ね?」
「そんなとこだな。だから、モクバには話を聞いてみる価値はあると思う。敵の敵は味方とも言うだろ。
俺らは今、何の情報もない。取り合えずモクバから乃亜について知ってる事、洗いざらい話してもらうしかない」
もっとも、モクバに会うのも一苦労だとシカマルは考えていた。
やはり名簿の中で、乃亜と同姓なのは目を引く。同じ考えに至る参加者は多くなるはずだ。
それは何も対主催ではなく、マーダーも同じこと。
モクバを中心に集まった参加者を狩ろうと、沙都子やメリュジーヌみたいな連中がやってきて鉢合わせるかもしれない。
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(やはり、戦力が足りねえ……出来ればナルトと早く合流して…他にも対主催の実力者とも協力関係を結びたいが……)
メリュジーヌに対抗できそうなブラックは24時間後まで味方にはならず、そうするだけの説得材料も未だ用意できていない。
首輪の解析までする必要があるが、そのあてすらなく、身を守る手段も確立できていない。
状況は芳しくなかった。
「……やることは、色々ある。だが先にかなの遺体を埋めてくる」
「そう…だね……」
場所を移したとはいえ、同エリアだ。沙都子達が引き返し、シカマル達を襲う算段を立てているかもしれない。
早めに移動するべきだが、その前にここまで一緒に連れてきたかなの遺体を埋めようとシカマルは口にした。
場所を変えるのを優先し、埋葬は後回しにしていたが、このまま放置しておくわけにもいかない。
「少し待っててくれ」
「オレも手伝うよ。それくらい……」
「お前は休んどけ。やれるだけ手当はしたが、肩を切られて撃たれてんたぞ」
シカマルが応急処置を施し、包帯を巻いたが龍亞の怪我も軽くはない。
人を埋めるのも、かなりの肉体労働で怪我に響く。それに首輪を回収する為に首を落とすのを龍亞に見せたくないとも思った。
「龍亞、アタシが手伝うわ」
「大丈夫だよ…オレも……」
「あの娘の首、落とさなきゃいけないのよ」
「オレだって、知ってるよそれくらい」
「……あの娘は女優じゃない。人に見られる仕事をしてたのよ?
アタシなら、死んだ後に首を切られた姿なんて、見て欲しくないわ。
出来る限り、多くの人に自分の奇麗な姿を覚えていて欲しいと思う。
だから、アンタだけはせめて…生きてた頃のあの娘の事を、覚え続けてあげなさい……」
「っ……」
諭すように、穏やかな声で梨沙は言う。
龍亞はそれ以上は何も声を出さず、ただ静かに頷いた。
───
-
「大丈夫か、梨沙」
「平気よ」
かなを埋葬し、シャベルを手にしたシカマルが横で腰を下ろして顔色を悪くしている梨沙に声を掛ける。
首を切断したのはシカマルだったが、その後の遺体を埋葬したのは二人でやった。
シカマル一人ですべきなのだろうが彼も肉体的にも精神的にも疲弊しており、梨沙が手を貸してくれたのは、かなり助かった。
「悪いな」
「……これくらい、やって当然じゃない」
今までがシカマル一人に頼りっきりだったのだ。
この程度の事、手伝えないのならきっと梨沙もシカマルも一緒に共倒れしてしまう。
「ねえ」
「なんだ?」
「勝次、本当にメリュジーヌに殺されたの?」
「だから、それは……」
「あのブラックにやられたんじゃないの」
シカマルらしくもなく、梨沙に何も言い返す事が出来なかった。
「ブラックの奴、ぶらついてるとか言っといて全然帰ってこないし、勝次が死んだんなら哀だって名前呼ばれてないのおかしいわ。
生きてるなら、アンタと帰ってこなきゃおかしいじゃない」
「……24時間後、首輪の解析の目途が出来たらブラックは俺らの味方をする。そういう約束をした。
だが、それまではあいつはマーダーで……勝次は殺されちまった」
「アンタ、ほんとに仲間にする気なの……」
「味方に出来りゃ、これ以上の奴は居ねえ。あいつは極端な話、優勝しようが脱出しようがどっちでもいいんだ。だから、条件さえ満たせば約束は守るはず。
仮に上忍以上の…強い奴が俺らに協力してくれて、ブラックに勝つ算段があっても、やり合えば無駄に消耗しかねない。乃亜をぶっ飛ばす前にそれは避けたい」
シカマルを訝しんだまま、だが梨沙はそれ以上強く食って掛かる事もなかった。
勝次を殺した事に思う事はあっても、シカマルの言う理屈は通っている。
ブラックと敵対しない方法があるのなら、それが一番なのは梨沙にも分かっていた。
「それ、龍亞に言った方が良いんじゃない」
だが納得いかないのは、それを勝次の同行者だった龍亞に話さなかったことだ。
「勝次からの頼みだ。メリュジーヌにやられたことにしろって……」
「アンタ、勝次が死んだのは自分が弱かったからって、あの子ずっと自分を責めてるわよ!」
「龍亞が、ブラックと対立するのを避ける為だ……勝次はそれを危惧して……」
「っ…だけど……!」
話すべきか?
龍亞は子供っぽいが、馬鹿じゃない。メリュジーヌに襲われた時も、カードの力を借りたとはいえ的確に対処していた。
計算などは苦手なタイプだが、地頭は悪くない。
命を賭けたカードゲームに慣れているだけあって、判断力は低くない。ちゃんと説明をすれば───。
───ぎ、ィ!?がッああああああああああ!?!?!?!?
───こうでもしないと──お前ら、絶望(オレ)が誰か忘れちまうだろ?
脳裏にブラックに惨殺され血塗れになった勝次と、それを嘲笑うようなブラックの姿がリフレインした。
「……駄目、だ。万が一でもあいつと敵対するのは、危険だ」
「ブラックの奴、自分から勝次を殺したって口にするんじゃないの?」
「俺ら側に付いたら、ブラックに対主催は殺すなと約束した。だから……その時に龍亞を説得する」
迷っていた。
龍亞なら大丈夫だと思っているが、もしものことがあれば。
それをシカマルは恐れていた。
───ほんと、頼む、な…佐吉や、俺みたいな子供は、もう生まれて、欲しく、ねェんだ…!
「勝次の最期の頼みだ。
俺は…あいつを死なせるわけには、いかない」
勝次の最期の言葉を、シカマルはこの先ずっと忘れる事はない。
もっと多くの死者が出る。勝次のような子供も増えて行ってしまう。それは避けようがない。
それでもシカマルの目の届く範囲は、誰も犠牲者を出させたくなかった。
死者を0には出来ずとも、限りなくそれに近づけたい。
もし、それすら出来なければ勝次が死んだ意味が、なくなってしまう。
「シカマル……」
梨沙も腑に落ちないまま、口を閉ざした。
自分が知らないところで、あまりにも大きな物を背負ってしまったシカマルに梨沙は何と声を掛ければ良いのか分からずにいた。
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【G-2民家/1日目/朝】
【奈良シカマル@NARUTO-少年編-】
[状態]健康、疲労(大)
[装備]シャベル@現地調達
[道具]基本支給品、アスマの煙草、ランダム支給品1〜2、勝次の基本支給品とランダム支給品1〜3
首輪×3(割戦隊、勝次、かな)
[思考・状況]基本方針:殺し合いから脱出する。
0:ブラックについては話は一先ずついた。勝次の説得を無駄にはしねぇ。
1:殺し合いから脱出するための策を練る。そのために対主催と協力する。
2:梨沙については…面倒臭ぇが、見捨てるわけにもいかねーよな。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒
4:……夢がテキトーに忍者やること。だけど中忍になっちまった…なんて、下らな過ぎて言えねえ。
5:龍亞がブラックと敵対しないようにしたい。
6:我愛羅は警戒。ナルトは探して合流する。せめて、頼むから影分身は覚えててくれ……。
7:モクバを探し、話を聞き出したい。
[備考]
原作26巻、任務失敗報告直後より参戦です。
【的場梨沙@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]健康、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)
[装備]シャベル@現地調達
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:シカマルについていく
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
4:龍亞にちゃんと勝次の事話した方が……。
5:桃華を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。
【龍亞@遊戯王5D's】
[状態]疲労(大)、右肩に切り傷と銃傷(シカマルの処置済み)、殺人へのショック(極大)
[装備]パワー・ツール・ドラゴン&スターダスト・ドラゴン&フォーミュラ・シンクロン(日中まで使用不可)
シューティング・スター・ドラゴン&シンクロ・ヘイロー(2日目黎明まで使用不可)@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、DMカード3枚@遊戯王、ランダム支給品0〜1、割戦隊の首輪×2
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
0;かな、勝次……。
1:妹の龍可が居れば探す。首輪を外せる参加者も探す。
2:勝次が心配。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒
4:モクバを探す。羽蛾は信用できなさそう。
[備考]
少なくともアーククレイドルでアポリアを撃破して以降からの参戦です。
彼岸島、当時のかな目線の【推しの子】世界について、大まかに把握しました。
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投下終了します
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ウォルフガング・シュライバー、エリス・ボレアス・グレイラット、インセクター羽蛾、うずまきナルト、セリム・ブラッドレイ
予約します
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前編を投下します
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朝陽が、登る。
それを目にするのは、このバトル・ロワイアルで二度目の放送までを乗り切った勝者だ。
木ノ葉隠れの里の下忍、うずまきナルトもその一人。
だが、そんな彼が今何をしているかと問われれば。
「あっきれた!そのおにぎり頭を探して、朝になるまでこんな所ほっつき歩いてたの?
闘えないセリムを連れて?」
「め、面目ねぇってばよ……」
女の子に正座させられていた。
理由は単純、戦えないセリムを連れて、危険な殺し合いの会場を彷徨っていたからである。
その理由がまた情けない。
五歳ほどのナルトよりもずっと小さな男の子と逸れ、見つけられていないというのだから。
本来ナルトの身体能力なら直ぐに追いかけていれば容易に追いつけたのだろうが。
マサオからかけられた言葉により少し追跡に時間が空いてしまったのが痛手だった。
そして、ナルトは追跡術の類があまり得意ではなく。
加えてセリムが秘密裏に光源を確保できるルートへ誘導し、進んだが故の迷走であった。
つまり、この数時間エリス出会うまで彼は無為に時間を過ごしていたという事になる。
「きっとルーデウスだったらそんな事にはならなかったわ!
私が誘拐された時だってね、ルーデウスは────」
「エリスちゃん。今はそれよりも重要な事があるだろ?」
「そんな事、アンタに言われなくても分かってるわよ!」
がるる、と猛犬の様に同行者の羽蛾に叫ぶエリス。
何かあったのかは知らないが、気が立っている様子だ。
機嫌が悪い時のサクラちゃんと同じ匂いがするってばよ。
ナルトはそう思った。
「あの、エリスさん。ナルトさんは悪くありませんよ。
今までずっと、僕の事を気にかけて護衛してくれていましたから」
このままルーデウスの賛美会になっては話が進まない。
その運びとなる事を予感したセリムはさりげなくナルトに対するフォローを入れた。
擦り傷一つないセリムの姿を検分し、エリスはふんと鼻を鳴らす。
どうやら、護衛に関してはナルトはここまでしっかりと役目を果たしたらしい。
「…まぁ、私達がさっき戦ったみたいな厄介な奴に出会わなかっただけみたいだけど」
とは言えそこは狂犬エリス。
しっかりと歯に衣着せぬ物言いは忘れない。
その言葉に言い返せず、ぐぬぬぬと悔し気にナルトは呻きを漏らした。
(見た所、こいつも頭の弱い馬鹿みたいぴょ。
隣のセリムも育ちがいいだけでただのガキみたいだし、良く生き残れたもんだ)
この場に集った者達を、インセクター羽蛾はそう評した。
まぁ馬鹿は扱いやすいし乗せやすい。肉の壁としては使えるだろう。
下種の考えを巡らせつつも、知り合いと、危険人物の周知は行っておく。
エリスはルーデウスの事を(エリスの熱弁を途中で話を打ち切るのに五分の時を要した)。
羽蛾はモクバの事を。と言っても頭のおかしい社長の、態度のでかい弟という情報位だが
それを受けて、知り合いがいないという話だったセリムの話はそこそこに、ナルトも見知った名前について話す。
奈良シカマルと、我愛羅についての情報を。
そんな時だった。話を聞く二人の反応に変化が現れたのは。
うっすらと剣呑な雰囲気を醸し出す二人に、ナルトがそうなった真意を尋ねてみると、
返って来たのはナルトにとってやはりか、という思いと。
そうなって欲しくなかったという、二つの感情が湧いてくる話が帰って来た。
「……何だと!?」
「うげぇッ!?い、いきなり何するん……」
「うるせェ!本当にそりゃ我愛羅だったのか!!」
羽蛾からしてみれば業務連絡染みた軽い気持ちで行った話だったが。
それを聞いたナルトは目を剥いた。
羽蛾に掴みかかり、本当に自分と同年代かと思う力で締め上げてくる。
そして、凄い剣幕で全て話せと羽蛾に迫った。
「ちょっと、やめなさい!」
他人が行う暴力には否定的なのか、エリスが止めに入る。
オレンジの服の袖を掴まれてようやく、ナルトは不承不承と言った様相で羽蛾を降ろす。
だが、本当に絞め殺しにかかって来るのではないかという迫力はそのままだった。
馬鹿だと見下していた相手の威圧に気圧されて、羽蛾も珍しく煽る事無く語った。
エリスも合間合間に言葉を挟み、ボレアス邸での戦いの顛末がナルトへと伝わる。
「間違いねぇ、我愛羅だ……」
-
紅い短髪、額の愛の文字、目の周囲の隈取、背中に背負った瓢箪。
ここまで材料が揃えば、もう間違いようがない。
間違いなく、ナルトが戦った砂瀑の我愛羅の特徴そのものだった。
我愛羅も此処に連れてこられ、殺し合いを強制されている。
マーダーとして、殺戮を行おうとしている。木の葉崩しの時の様に。
その事実は、ナルトに俄かに衝撃を与えた。
「……すまねぇ、エリス。ちょっとセリムを見てやってくれねーか」
そして、猪突猛進を絵に描いた様なナルトが、話を聞かされて黙っていられる筈もない。
暫しの沈黙の後、セリムをエリス達に預け、我愛羅のいるらしい場所に向かおうとする。
「バカ言ってんじゃないわよ。私が勝てない相手にアンタが勝てる訳ないじゃない」
「俺もそう思うなぁ。犬死にするのはおすすめしないぜ。忍者くん」
そんなナルトに対して、エリス達の反応は冷淡だった。
無理も無いだろう、如何にも頭の軽そうなナルトでは、我愛羅に勝てるとは思えない。
顔見知りで手の内は知っている様だが、一人で行った所で玉砕するのが目に見えている。
……この殺し合いに招かれる少し前。
うずまきナルトが、単騎にて我愛羅を打倒しているといっても、彼女等は信じないだろう。
だが、そんな事はナルトには知った事ではない。
「でも……俺はあいつに言ったんだ」
「あん?そんなぼそぼそ言われても聞こえないヒョ……」
「俺が彼奴を止めるって言ったんだよ!!!」
「なぁッ!?」
人が変わった様に、鋭い怒号で、羽蛾の襟首を再び締め上げにかかるナルト。
無理も無いだろう。彼にとって、一番の友がうちはサスケであっても。
同じ苦しみを知っている人柱力である我愛羅が殺し合いに巻き込まれていると認識すれば、
心穏やかに受け入れられる筈も無かった。
殺し合いに乗ったのなら、手足の骨をへし折ってでも止めて見せる。
日本チャンピオンである羽蛾すら竦ませる、病的ともいえる決意を、今のナルトは纏っていた。
そんな彼の背後で、ちゃきりと音が鳴る。
「そこまでよ、ナルト。それ以上やるなら私がアンタを斬るわ」
わざと分かりやすく腰の和道一文字に手をかけ、エリスが警告する。
如何にナルトが殺気立っていても、エリスがそれに畏怖されることは無い。
彼女もまた、筋金の通った狂犬なのだから。
必然的に訪れるのは、この場に集った全員が表向きは対主催であるにも関わらずの、一触即発の雰囲気だ。
(……さて、どうしますか。ナルトさんは話を聞きそうにない。となると……
ここは僕がエリスさん達と動向を申し出て、エリスさんが譲る方向に話を誘導しますか)
そんな中で、冷静に場の状況を俯瞰している者がいた。
始まりの人造人間、プライド/セリム・ブラッドレイだった。
現在、現在の彼のスタンスは未だ保留のままだ。
人柱である鋼の錬金術師がこの場にいれば、迷うことなく対主催に傾いたのだが……
開示された名簿にエドワード・エルリックの名前は記載されておらず。
結果的に、今後どう動くべきか決めかねている段階だった。
本領を発揮できる朝を迎えたとは言え、考えなしに殺しまわる訳にもいかない。
夜に戦闘能力を著しく制限されるのは、以前彼の大きな課題として横たわっているのだ。
そこで一先ず、まだナルトを隠れ蓑に行動を共にする事にしていた…のだが。
最早今のナルトは、此方の話に聞く耳を持たないだろう。
対するエリスもまた聞き分けのない娘だが、今回のケースではまだこちらの方が説得しやすい、そう判断した。
我愛羅というマーダーがどれほど強いかは知らないが、ナルトが数時間前に見せた力を用いれば少なくとも死にはしないはず。
仮に死んでしまえばあの謎の力を解明できず、惜しい気持ちはあるものの、
エリス達と一緒に居られるならセリムにとって殊更状況は悪化しない。
それに夜明けを迎えているため、いざとなれば自分のホムンクルスとしての力が振るえる。
そうなれば自衛はできるし、夜までにまた新たな庇護者を探せばいい。
そう考えて、戦いに赴こうとするナルトに援護射撃を行おうとした、その時の事だった。
「そうだよ、そんな奴の相手をするより───」
一瞬。
本当に、刹那の事だった。
喜色に満ちた、その声が響くと同時に、四人全員が言葉を失う。
本能が、けたたましく警鐘を鳴らす。
死が、すぐそこまで迫っている。今すぐ逃げろ、と。
だが、全員が本能に突き動かされ、行動を開始するよりも早く。
ずん、と腹の奥まで響く音を立てて。
死の予感の元凶がエリス達の前に降り立った。
「────餓えて死んじゃいそうな、僕の相手をしてくれるかい?」
-
言葉と共に。
白色の餓狼が、姿を現す。
少女の様に整った顔と言うキャンパスに、溢れんばかりの殺人欲求を漲らせて。
一瞥しただけで、死の予感が確信へと変わる。
これを退けねば、全員が死ぬ。
言葉などいらない。確定した未来として、全員がそれを共有する。
「な、何だってばよ、お前………」
乾いた誰何の声をナルトがあげる。
平時の大雑把で、自信に満ちた態度は、今の彼にはなかった。
特大の爆弾を前にしている様な、緊迫した面持ちだった。
そんな彼の問いかけに、問われた少年はくすくすと笑って。
「あぁ、そうだね。殆ど意味がないとは思うけど、一応名乗っておこうか。
僕はウォルフガング・シュライバー、君“たち”の様な怪物を殺す───」
英雄さ。
侮蔑と嘲弄を含んだ態度で、彼はそう宣言した。
怪物、その二文字にナルトの顔が俄かに歪む。
その脳裏には、おにぎり頭の少年から投げつけられた言葉が蘇っていた。
目の前の少年は、強い。間違いなく自分よりもずっと強い。
だから、自分の中にいる九尾を見抜いてもおかしくはない。
そう思わせるだけの凄味を、目の前のシュライバーは纏っていた。
だが、解せない点が一つ。
何故、彼は、君たちと形容した?
「あれ?君たち、もしかして気づいてないの?
そこの二人……特にその子は人じゃないよ」
そんなナルトの抱いた疑問を読んだかのように。
問われる前から、シュライバーは指を指しながらナルト達三人に告げた。
その指の先には、ナルトの傍らに立つ……セリムがいた。
「セリム、お前………」
「……………」
シュライバーが告げたのは、荒唐無稽ともいえる内容だった。
だが、セリムは否定しない。否定しないまま押し黙っている。
そして、その表情は先ほどまでの無邪気な少年然としたものでは無かった。
冷たく、貼り付けたような無表情を浮かべていた。
後方で、羽蛾が「子供のフリした化け物ばっかりかぴょ、ここは」と呟きを漏らす。
「おっと、喧嘩なんかしないでくれよ?知らなくてもここまで仲良くしてきたんだろ?
今君たちは仲間割れ何て犬も食わない真似をしてる暇はないんだから」
「それはつまり……私達とやり合うつもり、アンタ」
問わずとも、シュライバーが現れた時から分かり切った事だった。
だが、それを承知の上でなお、問う事をエリスは避けられなかった。
巨大な亀裂の入った堤防を見て、決壊までの時間を少しでも伸ばそうとするかのように。
どれだけ無為で涙ぐましい行いかは分かっていたけれど、それでも止められなかった。
彼女以外の三人も、エリスの意思確認を咎める事も、無駄な努力だと嘲笑する事も。
シュライバーを除く全員ができなかった。羽蛾ですら、だ。
「あぁ殺すよ。何しろ僕、恥ずかしい事に最初の放送からこっち、誰も殺せてなくてね。
これじゃあハイドリヒ卿に顔向けができない。だから君たちには全員──僕の轍になってもらう」
誰も殺せていない。
字面だけで言えば、見掛け倒しの弱卒かと見紛うセリフだ。
事実それを聞いた時、羽蛾だけは少し安堵したような表情を浮かべていた。
だが、残りの三人は即座にシュライバーが見掛け倒しの弱者である可能性を否定する。
彼の総身に満ちる覇気は怪物だ。紛れもなく。
そして、そんな彼が吐いた言葉は、ナルト達にとって死刑宣告に等しい発言だった。
それの意味する所は、皆殺しにするまでお前たちは絶対に逃がしはしない。
そう言った旨の宣言だったのだから。
どうする。どうすればいい。
打開策を必死で考えるモノの、妙案は誰の頭にも浮かんでこないまま、時は進む。
「最後に一つ聞いておきたいんだけど。人探しをしていてね。
そこの君に似た髪の長い赤毛の子…アンナ、いやルサルカって名乗ってる子を知らないかい?」
その手に何処からともなく出した、白銀の銃を握り締めて。
無邪気な子供の表情で、シュライバーは尋ねた。
その場に一瞬、ほんの数秒沈黙が満ちる。
-
「あ、あぁ〜〜!そう言えばその子、さっき見かけた様な気がするな〜〜!!」
口に出したのは、羽蛾だった。
何時もの調子で口八丁、シュライバーをやり込めにかかる。
羽蛾もシュライバーがただ者ではない事は見抜いていた。
先の発言で少し警戒を引き下げたが、それでも交戦を避けたい相手だという認識は保っている。
だからこうして、ルサルカなる少女の情報を餌に、少なくとも自分だけは見逃すように立ち回ろうとした。
しかし。
「あぁ、嘘だね。そっかぁ、全員知らないのか
アンナは相変わらず隠れるのが上手だねぇ」
シュライバーはそんな羽蛾の計算を一瞬で見破り、切り捨てた。
羽蛾が何故、と問う暇もなく。
にっこりと美貌に微笑みを浮かべた少年はその手の二丁拳銃を此方に向ける。
そして、それが合図となった。
エリスはデイパックから取り出していたインクルシオの帝具を掲げ。
ナルトは術を行使するためのチャクラを練り。
セリムは音もなく自身の影(プライド)を展開する。
「まぁ、一人残らず逃がさないから。頑張りなよ劣等───」
獣の笑みを浮かべて、魔人は開戦の火蓋を斬る。
「この朝陽が、君たちの取るに足らない人生の終着点だ」
■
「インクルシオッッッ!!!」
帝具インクルシオ。
超級危険種タイラントを素材として作られた融合装着型の帝具。
その性能は帝国の中でも最強と謳われる将軍エスデスにも届きうる性能を有している。
エリスは北条沙都子から譲渡されたそのカードを、初手から切る事を選んだ。
でなければ死ぬ。理性ではなく本能がそう断じていた。
「へぇ、エイヴィヒカイトは施されていないみたいだけど……
それなりに優秀そうな聖遺物だね。少しは楽しめそうだ」
対するシュライバーは、堅牢そうな鎧を展開されても嬉し気な表情を浮かべるばかり。
舐められている、見下されている。
エリスはそれを敏感に感じ取った。
しかし、その思考は冷静だ。
自分とシュライバーの間に途方もない規模の力量差があるのは彼女も理解している。
それを認識するだけの成長を、魔大陸での冒険は彼女にもたらしていた。
故に、怒りに任せて突っ込む様な愚行はしない。
敵が握っているのは恐らく羽蛾が数時間前に自分に披露した武器と同じものだろう。
つまり、攻撃の軌道はまず間違いなく直線的なものとなる。
であれば発射のタイミングを読み、フットワークを駆使すれば接近できない事は無いはず。
急ごしらえであったが悪くはない読みの元、彼女は先手を取って駆けだす。
「はぁああああああああッッッ!!」
裂帛の気合は、銃撃を誘う見せ札。
さぁ撃って見せるがいい。初手をやり過ごしたのち、一気に距離を詰めてやる。
そんなエリスの戦意に満ちた思考は、如何に格上とて揺るぎはしない。
だが、しかし、彼女は一つ思い違いをしていた。
「……え?」
羽蛾の撃って来たそれと、シュライバーが扱う二丁拳銃が同一のものであると思った事だ。
一秒後、彼女の眼前に数百発の鋼鉄の弾丸が放たれていた。
(えっ…嘘、こんな、多すぎ……)
思考が停止する。
重機関銃を遥かに超える弾幕は、現在のエリスが対応できる領域を遥かに越えた物だった。
あの怒涛を受けてこの鎧は耐えられるだろうか、鎧は耐えられたとしても、私自身は?
数百倍に希釈された時間の中で、何処か他人事の様な考えが脳裏を過り。
彼女の視界が黒く染まった。
───そして着弾の時は訪れる。
-
本当にあの手に収まる武器から奏でられたのか、信じがたい程の轟音が耳を打つ。
エリスの身体に痛みは、無かった。
凄まじい衝撃はあったが鎧のお陰で影響は軽微、軽い痺れを覚えるがそれだけだ。
それは、鎧で防御力が上がっていただけでは説明がつかない程の軽傷だ。
鎧で守れたのは衝撃だけ、銃弾本体を防御できたとは思えない。
その結果を導いた手品のタネは、エリスと銃弾の間に展開されたあるものが原因だった。
「………影か。アンナのエイヴィヒカイトとそっくりだね」
エリスと死の鉄雨の間に立ち塞がったモノの正体。
黒色のそれは、影だった。
影が変幻自在の触手の様に自由自在に動き、エリスを守ったのだ。
自身を守った先端部から、何処から伸びているか、視線だけで彼女は探る。
視線の先に立っていたのは、先ほどのシュライバーの発言を裏付ける人物だった。
「アンタ……セリム……」
意識をシュライバーに集中させたまま、エリスは伸びてきた影の大本を辿る。
そこに立っていたのは、つい数分前まで普通の子供然としていたはずの、セリム・ブラッドレイだった。
彼の足元より伸びる影が、エリスを凶弾より救ったのだった。
「……私の正体を気にかけている場合ではないでしょう」
望まぬ形で正体が露見にしたにも関わらず、セリムは努めて冷静だった。
冷静に、現在進行形で襲い来る掃射を影で防ぎつつ、エリスらに婉曲に告げる。
今自分を排斥していれば、全滅は避けられないぞ、と。
そしてそれは、セリム自身にも適用される事実だった。
始まりの人造人間、傲慢(プライド)をして、単騎では逃げる事すらままならない。
全員と連携して隙を作ってようやく、逃走が叶う可能性が生まれる。
魔人ウォルフガング・シュライバーはそう言う相手だった。
彼の鉄面皮の様な無表情に、一筋冷たい汗が流れる。
兎に角、信用は出来ずとも、ここで共闘してもらわなければ全てが終わる。
その為に自分の力を示した、エリス達も拒絶する事は出来ないだろう。その目算だった。
だが、返って来たエリスの返答は、傲慢(プライド)の予測と僅かに外れていた。
「───ありがと、セリム!」
「………!?」
弾丸の雨を駆け抜けつつ、エリスが放ったのは感謝の言葉だった。
セリムの表情に、ほんの僅かに動揺の色が浮かび、二秒後には消える。
呉越同舟とは言え、感謝されるなど彼には全く予期していない事だったからだ。
「アンタのお陰で───」
エリスは直情的だが、素直な少女だ。受けた恩を即座に忘れる恩知らずではない。
加えて、排斥され恐れられていたスペルド族のルイジェルドと仲間として過ごした時間が、
彼女の価値観に変化をもたらしていた。
人間であろうと、なかろうと、風評では判断しない。
人間であっても敵対するなら叩きのめすし叩き斬る。
逆に言えば人外であっても敵対の意志が無ければ、剣は向けない。
恩を受ければ礼を言う。それだけの話だった。
「助かっ」
「助かってないよ」
エリスのセリムへの感謝の言葉が最後まで紡がれることは無かった。
それよりも早く、正しく風の様にシュライバーが彼女に肉薄していたから。
セリム達が危険を告げる暇すらない、純白の手袋に包まれた握りこぶしが振り被られる。
彼女の顔面を凄まじい衝撃が襲ったのは、直後の事だった。
間違いなく、インクルシオを纏っていなければ即死だっただろう。
そう確信するだけの威力を受けて──エリスは地面にぶつかりながら吹っ飛んでいく。
(……役に立たない!)
セリムは、思わず毒を吐いた。これなら排斥された方がまだマシだったかもしれない。
とは言え目の前の敵手の理外の速度を考えればやむなし。
最速の人造人間、怠惰(スロウス)の速度と、少なくとも同等以上の速さは、
プライドにとっても決死の応戦を要求される相手だった。
そして、その速さは最前線のエリスが脱落した事により必然的にセリムが次のターゲットとなる。
(───早すぎる!)
-
お父様と呼ばれる人造人間(ホムンクルス)が生み落とした人造人間達の中でも。
無形にして変幻自在、鋼すら易々切り裂く影を操るプライドは屈指の実力を誇る。
彼に迫る戦闘能力はそれこそ最強の目を持つ憤怒のラースくらいのものだ。
だが、最強の目を持つラースですらシュライバーを相手にすれば捉えられるかどうか。
限界まで加速させた影の怒涛の攻勢を軽やかに躱す姿など眩暈すら覚える。
影による面攻撃で何とか距離を保っているが、時間の問題だ。
そんな彼の考えは、エリスが吹き飛ばされて数秒で現実のものとなる。
「あはははははははははははァ────!!!」
満面の狂笑を浮かべて、シュライバーが影を躱しつつ突っ込んでくる。
不味い。本当に不味すぎる。
一度殺された程度ではプライドは死なない。だが、あのシュライバーならば。
死に切るまで、きっと自分を殺し続ける事が可能だ。
肉薄されれば未来はない。
そう確信するものの、より出力を上げて影を殺到させる事しかできない。
あの速さの前には、どんな攻撃も無意味である──それは分かっているのに。
「温いなぁ。その影の能力、アンナの方が多分上だよ」
(くそ、突破される───)
セリムの魂に死の予感が走る。
それとほとんど同時だった。
これまでセリムを護衛してきた者の声が響いたのは。
「影分身の術!!」
良く通る声が戦場に響くと共に、セリムの眼前に人の城塞が出来上がる。
見慣れたオレンジの背中。
忍者を自称するうずまきナルトの背中だった。
尋常ではない数の彼の背中が、セリムの眼前に並んでいた。
人、人、人……数で言えば優に百人は超え、千に届いているだろう。
突如出現した大量の障害物を前に、一旦シュライバーも後方へと飛びのく。
まるで、ぶつかるのを厭うたように。
「大丈夫か、セリム」
「……うずまきナルト、貴方は…」
「安心しろ、忍者ってのはな、一度受けた依頼は簡単には投げ出さないんねーんだよ」
確かにうずまきナルトはセリムを護衛すると数時間前に言ったが。
別に正式な依頼であるわけではない。
そも火の国とアメストリスに国交はないのだから。
だから、突き詰めればナルトが今しがた人外だと判明したセリムを守る義理は無い。
しかし、それでもナルトははっきりとお前を守ると、セリムに宣言した。
セリムの肩に、ポンと手が添えられる。
彼の隣で、ナルトは畏怖と決意がない交ぜになった顔でシュライバーを睨んでいた。
「やいテメー!降伏するなら今の内だぞ!
お前が相手にしてんのは、未来の火影だ!!」
この島に連れてこられた人数の優に十倍以上の人数で作った人の壁。
居丈高にシュライバーを威嚇するナルトだが、その言葉には少なからず願望が籠められていた。
チャクラの大半を使ってこしらえた影分身だ。頼むからこれを見て退いてくれ、と。
だが、現実はそんな彼の願いを裏切る残酷な物となった。
「火影だかトカゲだか知らないけど───」
シュライバーは止まらない。
一騎当千の英雄が、たかが凡夫千人を前にして止まる筈がない。
本来千の軍勢を相手にするには余りにも心もとないはずの二つの銃口を指向する。
「「「「「うぉおおおおおらあああああああああッッッ!!!!」」」」」
弾けるようにナルト達も駆け出す。
始めから防御は捨てている。数を頼みに十人でもシュライバーに到達できればそれでいい。
そんなナルトの決死の吶喊を、シュライバーは嘲笑った。
「その程度の人数で僕を止められると思っているなら温すぎる。
身の程を知れよ劣等。僕を止めたいならその千倍は持ってこい」
-
銃口が火を噴く。
響き渡る音色は最早銃声ではなく爆発音と言った方が正しいだろう。
シュライバーが引き金を引くたびに、十人近いナルトの影分身が吹き飛んでいく。
化け物にもほどがあるだろ、ナルトは思わず心中で毒づいた。
このままでは一分かからず影分身たちは殲滅されてしまうだろう。
「うずまきナルト!私の影の動きに合わせなさい!」
そんなナルト達に助け船を出したのがセリムだった。
影分身たちの前面に、伸ばした影を展開し、即席の盾とする。
これにより被弾率は大きく下落し、影分身が消滅するスピードが幾ばくか落ちる。
だが、落ちただけだ。セリムの影の防御を加味しても数分も保たないだろう。
「そぉら踊れ踊れ劣等ォッ!鴨撃ちの時間だ!あははははははは!!!」
ナルトとセリムの連携もまるでシュライバーは意に介さない。
鉄の豪雨で以て、影分身たちの特攻を迎え撃つ。
セリムがどれだけ影を伸ばし捕えようとしても、風の様にすり抜け掠る事すらしない。
影分身の数は、そのままナルト達の命の残量だ。
尽きた瞬間、王手を獲られる。
にも拘らず、ナルト達はシュライバーの影すら踏めない状況に陥っていた。
このままではジリ貧だ。
「クソッ!あの野郎出鱈目だ!」
「飛び出さないで下さいうずまきナルト、今あなたが殺されればすべて終わりです」
放って置いたら自棄になってシュライバーに突っ込んでいきかねないナルトを宥めつつ、
セリムは思考を必死に巡らせる。
恐らく後三分ほどが考えられるリミット。
それを過ぎれば、シュライバーの対処に全てのリソースを割かなければならない。
だが、この戦力差で三分以内に命を繋ぐ策を練る?
ほとんど不可能と同義だと、思わずにはいられなかった。
(一応、発動さえできれば勝ち目が存在する一手はある。しかし……)
自身に支給された支給品。
人間相手に過多すぎる火力だと確認当初は思ったが、使うに相応しい相手はいるものだ。
だが、それを使うには準備がいる。最低でも数分間は。
その数分と言う時間を埋めるのは、現時点のセリムにとって絶望的な試みだった。
どうする。どうすればいい。
湧き上がる焦燥を必死に堪え、新しい手札を求めるように周囲を睥睨する。
エリスは…ダメだった。まだ膝を付いて戦闘を再開できるようには見えない。
そして、もう一人───姿が無かった。
「あっ!羽蛾の野郎どこいきやがった!彼奴一人で逃げやがったなぁ!!」
羽蛾の姿がない。それに気づいたナルトが声を挙げる。
対するセリムは、少し前から羽蛾が逃げようとしている事に気づいていた。
くん、とグラトニーから奪った嗅覚を駆使し、匂いを辿る。
彼の匂いは既にセリム達の後方五百メートル程後方から感じ取る事が出来た。
セリム達三人が戦っているどさくさの間に、逃げ出したのだ。
成程、抜け目のない賢い選択であるだろう。
「さて────そろそろかな」
相手が、血に飢えた凶獣でさえなければ。
そもそも逃げる事が可能であったなら。
そしてシュライバーは、さっき一人残らず逃がさない、と言った。
言葉と共に、一旦銃撃がやんで。
シュライバーの姿が掻き消える。
これで数十秒ほどは時間を稼げるだろう。
羽蛾の姑息さに感謝しながら、セリムは嘆息した。
-
■
あんな化け物と戦ってられるか。
勝てもしない相手と戦うのは脳筋の馬鹿共だけでやっていればいい。
俺は一足先にお暇させてもらう。
何時だって、上手く狡く。勝つためならどんな努力だってする。
それが彼の在り方であった。
弱虫と呼びたければ呼ぶがいい。
だがその代わり、自分はそう呼んだ奴らより長生きさせてもらう。
長生きして、死んでいった勇敢な奴らを嘲笑ってやる。
「ヒョヒョ〜!ジル、もっと早く頼むピョ〜」
「ホーチェ!」
だまして手に入れたフェローチェに抱えられて。
羽蛾はそそくさと戦場を後にする。
元より彼にはエリス達と力を合わせて戦うつもりなど無かった。
先の我愛羅の様なまだ勝負になるレベルの相手なら戦ったかもしれないが。
シュライバーはダメだ。
実力は元より、これまで出会ってきた参加者の中でも輪をかけて狂人だ。
話し合いの余地など皆無であることを彼は見抜いていた。
同時に、その狂気の方向性が戦闘欲求に向いている事も見抜いていた。
「エリスちゃん達が殺されるまでに逃げないとな〜ヒョヒョ!
折角うずまきの馬鹿が時間稼ぎにうってつけのオカルトを披露してくれたんだから」
戦闘欲求が頭抜けているという事は、逃げる敵よりも、立ち向かう敵を優先するはず。
間抜け共に囮になっている間に、安全な場所まで離脱するつもりだった。
何度でも言おう。あんな、正真正銘の化け物に立ち向かうなんて馬鹿のする事だ。
馬鹿と俺は違う。俺は、元とは言え日本チャンピオンの決闘者なのだから。
この殺し合いでだってそうだ。
支給品がガラクタで、魔女なんてオカルト女と出会っても切り抜けた。
サトシの馬鹿からジルを奪い。エリスから銃を奪い。沙都子から武器を奪った。
全ては口八丁。手玉にとれない相手はいなかった。例え俺よりも強いとしても。
だから、今回も大丈夫だ。
そう、大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫
大丈夫。
………どさっ。
鈍い音を立てて、抱えられていた羽蛾の身体が落下する。
そして、強かに地面とキスをした。
かけていた眼鏡が割れて、視界がぼやける。
「っ!?ぎょえええええええ〜〜!!な、何だよジル!しっかり持って───!」
抗議の声をあげるものの、ジルには届いていない様子だった。
カタカタと震えて、羽蛾の方には一瞥もせず。
ただ立ち尽くしていた。
ポケモンともいえど獣、彼女は理解していたからだ。
目の前の相手が“死”そのものである事に。
「やぁ、何処へ行くんだい?」
-
実に親しみ溢れる、にこやかな笑みを浮かべて。
ウォルフガング・シュライバーは羽蛾たちの前へと立っていた。
ほんの数秒前まで、ナルト達の人垣の向こう側にいたはずであるにも関わらず。
「な…何で」
乾いた声が漏れる。
喉がカラカラで、息をするのも苦しい。
漏れ出た言葉には、様々な意味が籠められていた。
何故、ナルト達を放置して戦意のない自分の方に来たのか。
何故、肉の壁であるナルト達がいたにも関わらず此処まで来れたのか。
何故、何故、何故────
「何故って顔をしているけど、僕、あらかじめ言っていた筈だけど?」
羽蛾の表情から、心を読んだかのように。
シュライバーはあらかじめ宣言していた、絶望を突き付ける。
「君みたいな敗北主義者の劣等も、一人も逃がすつもりは無い、ってね」
未だ地に尻もちをついたままの羽蛾を見下ろして。
輝くような笑顔で、事実上の死刑宣告を告げる。
そう、羽蛾は一つ、大きな誤算をしていた。
シュライバーは彼の見立て通り、確かに戦闘狂である。だが、それだけではない。
赤子も女も老人も等しく殺し、黄金の君主に捧ぐ───殺人狂でもあったのだ。
「あぁ、もしかして君の相手をしている内に皆逃げちゃうんじゃないかと思ってる?
それはないね。僕が殺すと言った以上、君たちの死は絶対だ」
不味い。殺される。
一歩シュライバーが前進するとともに、羽蛾は確信めいた死の予感を感じ取った。
このままでは、間違いなく死ぬ。
ナルト達が救援に来る気配はない。役にたたない奴らだ。
だから──僕自身が、何とかするほかない。
「ジル!さきど───」
「遅いよ劣等」
ドン!と。轟音が迸った。
ジルが技を発動する暇もなく、放たれる夥しい数の魔弾。
断末魔の叫びをあげる暇すらなく、フェローチェの全身に風穴が空いた。
その終幕として、最後に頭部に当たる部分が銃弾によって吹き飛ばされる。
頭部を失ったえんびポケモンは、よろよろと不格好なダンスを踊って崩れ落ちた。
「君たち敗北主義者はいつもそうだ。手遅れになってから自棄で挑んでくる。
破れかぶれで振るった剣で英雄を討ちとれるとでも?余り笑わせるなよ、虫けら」
単純な理屈だった。
虫如きが餓えた狼に歯向かえば、引き裂かれるのは当然の帰結でしかなかった。
もし、先ほどナルト達の援護に徹していれば。
フェローチェは今も命を繋いでいたかもしれないが、詮無い話だ。
ポケモンは、主を選べないのだから。
「さて……次は君だね」
フェローチェをハチの巣にして、喜色満面に銃口を向けてくるシュライバー。
がくがくと膝が笑って立つことすらままならない。
だが、立つべきだ。立たなければならない。
頭脳をフル回転させろ。自分の頭脳ならこんな殺ししか能がない狂人手玉にとれる。
そう、少なくともこの殺し合いの島に来てから手玉にとれなかった奴はいなかった。
「い…いやー君凄いね!いや本当に凄いよ!どうだろう、僕を君の手下にしてよ!!」
がばりと立ち上がり、必死になって言葉を紡ぐ。
破綻した論理だと、口に出した瞬間理解していた。
だが、今の羽蛾には余りにも時間と言う物が無かった。
僅か数秒にも満たない時間で、打開策など浮かぶべくもない。
咄嗟に口に出た言葉が、媚びへつらい、部下にしてくれと頼む事だった。
分かっている。こんな事を言っても、次の瞬間には撃たれているであろうことなど。
だが、フェローチェが倒された今、自分にはこれしか打つ手がない。
-
「僕も君と同じく優勝を狙っていてね。こう見えても頭の回転には自信があるんだよ。
きっと、役に立てると思うんだけど、どうかなぁ?」
心臓が五月蠅い位に早鐘を撃つ。
エリス達は何をやっているんだ、早く助けに来い。
口を全力で回転させながら、羽蛾は心中でそう強く強く願った。
そうしている間に、シュライバーが口を開く。
その表情は、今迄と同じ笑顔で。
しかし語る内容は羽蛾の予想とは全く違うモノだった。
「───いいよ!」
「………ヒョ?」
その言葉を聞いた時、意味を理解するまでに数秒の時を要した。
まさか受け入れられるなど、思ってもみなかったからだ。
呆けた反応を示す羽蛾に、何を不思議そうな顔をしているのかとシュライバーは尋ねる。
「い、いやァ〜〜だって…ねぇ?で……でも助かるピョ〜〜!!
きっと後悔はさせないって約束するよ!さぁ俺と一緒にエリスって凶暴な女からまず──」
分かっている。
彼にだって分かっているのだ。全て。
でも、自分から破滅の引き金を引きに行くような真似は出来ない。
それが訪れるまでに、都合よく誰かが救いに来ることを祈る事しかできない。
だけど。
「あぁ、でも手を組む前にやっておかないといけない事があるんだよね」
「や、やっておかないといけない事?」
破滅と言う物は、希望が完全に尽きた時にやって来るのは稀だ。
大抵、コンマ1パーセントほど残っている時にやって来るもの。
それを証明するように。
「………え?」
ボキリ、と。
何かがへし折れた響く。
その後に襲ってくるのは、凄まじい熱。そして、鋭い痛み。
恐る恐る視線を熱を持っている場所に動かして見る。
───そこには、右腕がある場所だった。
デュエルディスクを付けるための右腕が、あらぬ方向を向いていた。
「あっ……はぁ……っ……ぁ……っ」
直後に到来するのは。
気が狂うのではないかと思う程の、激痛。
激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛───、
「ぎ、ィ……!?いぎ、がああああああああああああああああッッッッ!!!!!」
喉が割れるのではないかと思う程、絶叫した。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い───
皮膚を突き破って骨が飛び出しているのか、血がドロドロと流れ出してくる。
「はっ……はっ……がぁあああいいいいいいいッ!!!!!」
「くく───ふ。あははははははははははははははははは!!!」
必死に血が流れて行かない様に残った方の腕で押さえて。
その痛みに再び絶叫を漏らす。
その様を見て、狂った大爆笑をシュライバーは堪えきれなかった。
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ。
呵々大笑。腹を抱えて、地獄の痛みに藻掻く一匹の蟲を踏み躙る。
-
「これでも僕、沢山殺してきたんだよね。その中には君みたいな人間もまぁ沢山いたよ。
周りの人間を見下してる。小賢しさと叡智って物をはき違えた人種が」
痛みのせいで他の全てが曖昧なのに。
最も聞きたくない白騎士(アルベド)の声だけは嫌になるほど鮮明だった。
「そう言う奴は決まって手足の一本も弾いたら、皆決まって何故?って顔をするんだよね。
何故賢いはずの自分がこうなってる?って。君も例に漏れず、そんな顔だった」
黙れ。
俺は日本チャンピオンなんだ。
城之内にだって、遊戯にだって、計画通りに行けば勝てていた筈なんだ。
あぁそれなのに。それなのに乃亜のせいでこんな殺し合いに連れてこられて。
────この弱虫野郎!
五月蠅い。笑うな。俺を見下すな。
俺よりもずっと馬鹿なお前なんかが、俺を見下していいはずがないんだ。
いい筈がないのに──どうしてこうなった?何を間違えた。
「そんな君に良いことを教えてあげるよ」
本当に楽しそうな語り口。
無邪気な子供が、解答者が分からなかったなぞなぞの答えを発表するような。
侮蔑と嫌悪と嘲笑がない交ぜになった声で。
狂人、ウォルフガング・シュライバーは羽蛾に告げる。
────君が思ってるより、君ってずっと馬鹿だから。
それが、羽蛾の意識が途絶える前の、最後に聞いたセリフとなった。
【フェローチェ@ポケットモンスター 死亡】
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前編の投下終了します、後編はもう暫しお待ちください
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投下ありがとうございます!
開幕から正座させられるナルトで草。
エリスとのコミカルなやり取りといい、羽蛾がストッパーになってのも面白いですね。
そんな雰囲気も我愛羅の話題で一気に打って変わり、さらにシュライバーの乱入で戦場へと切り替わる緊張感。
シュライバー、誰かが話してる最中に友達でもないのに割り込むという、一番嫌われるムーヴしか出来ないのがぼっちとしての哀愁を感じさせますね。
それはともかく、シュライバーの台詞回しがノリに乗っててとても上手いですし、バトル描写もこれでもかと無双してて見てて気持ちいいぐらいです。
何とか喰らい付くセリムも間違いなく強いんですが、相手が悪すぎるんですよね。それでも、ナルトの影分身と連携して上手く戦況を進めようとしてるのは流石。
そして羽蛾……南無。
ドロテア、海馬モクバ、磯野カツオ、クロエ・フォン・アインツベルン、グレーテル
予約します
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延長しておきます
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延長します
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後編を投下します
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■
朝陽に包まれる街を駆ける、3つの小さな影とそれに追従する大量の人影。
言うまでもなく、ナルト、エリス、セリムの3人と、ナルトの影分身だ。
彼等は必死にシュライバーから逃走しようとしていた。
だが、セリムはいかなホムンクルスと言えど体は子供相応の身体能力。
それに加えてエリスも明らかに足取りに精細さを欠いている。
焦燥が募る中、ナルトは目下一番の懸念事項を口にする。
「なぁおい!羽蛾の奴はどうすんだってばよ!エリス!!」
ナルト達が戦っている中、一人逃げ出した同行者の名前を叫ぶ。
彼にとっては出会ったばかりの、一目見ただけで分かるいけ好かない相手だったが。
それでも、エリスの方は別れてから行動を共にしていた相手だろう。
シュライバーが突如ナルト達をおいて掻き消えた理由。
それを考えれば、羽蛾を追っていったのは明らかだ。
逃げきれればいいが、シュライバーの速度を前に逃げ切れるとは思えなかった。
そして追いつかれてしまえば羽蛾は確実に死ぬ。
それはエリスも分かっているはずだ。
「そんなの分かってるわよ!でも逃げ出したのはあいつが勝手にやった事だし、
そもそも私達が助けに行ってどうなるって言うの!?」
一番行動を共にしてきた筈のエリスの態度はどこまでも冷たく。
そもそも彼女にとって羽蛾は半ば丸め込まれる形、利害の一致で同行していたのだ。
彼個人の人格で言えば、下種である事を確信する好感度だった。
彼女だって情がない訳ではない、目の前で羽蛾が死にかけていたら助けに入るだろう。
しかし、それはあくまで彼女の力が及ぶ範囲での話だ。
助けに行けば、エリスは死ぬ。
最早羽蛾は利益をもたらす存在にはなりえない。
利害の一致で同行していた相手なのだから、害しか無くなれば切り捨てられるのは必定だった。
「私はルーデウスにまた会うまで死ねないのよ!分かる!?
あいつがあのバケモノに襲われたとしても、それは全部あいつが選んだ結果!
ルーデウスだって、きっとそう言うわ!」
表情こそ白い鎧に包まれて見えないものの。
焦燥と苛立ちとシュライバーの畏怖とルーデウスと再会したい恋心がない交ぜになっているであろうことはナルトにも察せられた。
彼にとっても見捨てるのは後味が悪いが、エリスの言う事ももっともだと反論ができない。
「…分かった。せめて影分身を向かわせて───」
それが、どれほど意味がある事かはナルト自身疑問だったけれど。
それでも何もせずに同行者を見捨てるのは後味が悪い。
支給品などを使い、上手く羽蛾が逃げおおせていた時の為に影分身を逃げた方向へ向かわせようとする。
「いや、その必要はないよ」
直後、後方から声が響く。
大きな声という訳でもないのに、克明に聞こえるその声を聴いて。
3人の背筋が凍り付く。
弾かれた様に振り返ってみれば、黒い影が空中を疾走し、此方に迫っているのが見えた。
視認してから、逃げるには遅すぎた。
補足された時点で、詰み。本能が訴えていた。
事実黒い影は空中からあっという間に、影分身たちや、3人の子供を追い越して。
そして、彼等の眼前にふわりと鷹の如く降り立った。
新鮮な、死臭を纏わせて。
「君たちにも言ったはずだろう?一人も逃がさないって」
どしゃりと、何かがナルト達の前方の足元に落ちてくる。
それは、ボーリングの球程の大きさをしていた。
尚且つ、三人取って、見覚えがあった。
特徴的な眼鏡をして、顔中を恐怖で歪ませた、彼の名は───
「……羽蛾……っ!?」
それは、羽蛾の生首だった。
さっきまで生きていたその男の末路を目の当たりにして、三人の間に戦慄が駆ける。
そんな彼らを眺めて、くすくすと笑い。
死線が、訪れる。
-
■
圧倒的な存在感。
暴風よりなお速く鋭いその俊敏さ。
餓えた白狼は、決して獲物を逃がさない。
言葉にせずとも、直感的にエリス、ナルト、セリムの3人はそれを悟った。
「何、でだ……」
一秒後の生存すら絶望的な状況。
しかしだからこそ、絞り出すような声で。
ナルトはシュライバーに言葉を投げかける。
何故そんなにも力があるのに、乃亜に従うのか、と。
何故、乃亜に立ち向かおうとしないのか、と。
「んー……そんな事言われてもなァ。乃亜は最後に勿論殺すよ?
だけど60年間ずぅっと死体ばかり殺してきた所に折角用意された余興だ。
楽しまないと損だろ?」
僕が戦争をするに値する、それなりに面白い奴も何人かいたしね。
語るシュライバーの言葉は、アメストリス国の人間すべてを父に捧げる予定のセリムですら理解しがたい物だった。
狂っている。
セリムは父の計画のためなら何人だって殺すし、その事に良心の呵責は無い。
その点においてはシュライバーと同じだ。
だがシュライバーは、行動理念の最上位に他者の殺害を置いている。
損得や利害など度外視、必要があれば殺すし、無くとも殺す。
我殺す故我在り。単純にして、だからこそ説得は不可能だと確信させられる。
「それに僕の忠誠を誓った方…獣の軍勢に捧ぐ魂は多い方がいい。
君たちを殺して、最後に乃亜を殺す。それが一番“アガリ”が大きいと思わないかい?」
その言葉はナルトやエリスには変わらず理解不能だったけれど。
セリムにはシュライバーの言っている事の輪郭が掴めていた。
ホムンクルス達がアメストリスで行ってきた様に、彼も“血の紋”を刻もうとしているのだろう。
己が敗れると一切思っていないが故の、鏖殺宣言。
だが、同時にシュライバーならやってのけるだろう。
相対者にそうおもわせるだけの力を彼は有していた。
「……ふざけんな。んな訳分かんねー理由の為に、全員殺すつもりか、お前は」
納得ができない、と言う顔で、ナルトは尚も食い下がる。
彼だって理解している。シュライバーが自分よりもずっとずっと強い存在である事など。
強者の理屈がまかり通るのも世の常だ。
しかし、それに頭を垂れて受け入れるかどうかは別の話。
狂った動機の為に、自分の火影になるという夢を譲るつもりは、毛頭なかった。
それに、何より彼の反骨精神をかき乱すのは。
「そんな事、させっかよ……!!」
襲い来る凶獣の瞳には、見覚えがあった。
シュライバーの瞳は、少し前に自分が戦い、この殺し合いにも参加させられている忍。
砂瀑の我愛羅にとてもよく似ていた。
世界の全てを憎んで、目の前にいる相手を全て殺さなければ気が済まない。
だからこいつは、自分も、同じく参加させられている我愛羅も、シカマルも、それ以外の参加者も、殺しつくすつもりだろう。
絶対に膝を折ってはいけない相手だった。
だからこそ、力の差は歴然と分かった上で、反抗の意志を示し続ける。
「はぁー……それで?吠えるのはまぁいいんだけどさ」
相対する白騎士は、冷然とした態度だった。
シュライバーはぽりぽりと面倒くさそうに頭を掻いて。
直後、爆発音染みた衝撃が、空間に伝播する。
「───!?下がりなさいうずまきナルト!!」
不味い、セリムがそう思考した時にはもう全てが遅かった。
苦し紛れに大規模展開した影をシュライバーに見舞うモノの、蝶の様にひらりと躱される。
セリム達の現在の状況は、先ほどまでと違う。
先ほどまでは、ナルトの影分身と言う大量の障害物があった。
その隙間をセリムの影で埋め、また影を影分身たちの防御壁にすることによって防戦が成立していたのだ。
だが、今の位置取りは本物のナルトが、最前列でシュライバーと向かい合っている。
それは殆ど無防備な状態で相対しているに等しい。
セリムの危惧は、正確に戦況を掴んでいた。
-
「許せないのなら、言葉じゃなくて力で語れ。
僕よりも弱い分際で、僕に意見するなんて万死に値する」
影分身という障害物を欠いた状態では、セリムの影でもシュライバーは止められない。
鋼を軽々切り裂く影の鋭利な触手を踊る様に躱し、ナルトの眼前に肉薄する。
同行者を救うべく乾坤一擲で放った最後の影の刃は、やはり空を切り、そして。
「が、ぁ………っ!?」
「君じゃ僕に勝てないよ。
…君の内側に在るモノを早く出せ、僕の気は長くない。」
見透かしたように言いながら、
シュライバーの突きがうずまきナルトという肉の塊を、貫き吹き飛ばす。
肺をぶち抜かれた。印も結べない。
疑いようも無く、致命傷だった。
そのまま壁に近場に会った建物の壁に激突して、ずるずると崩れ落ちる。
影の妨害が無ければ、壁にぶつかった勢いでナルトは挽肉になっていただろう。
尤も、致死が即死に変わっただけで、結果は同じだっただろうが。
「さて、二人目だ」
今しがた敵手を討ったとは思えぬ気軽さでそう漏らし。
うずまきナルトの返り血を滴らせて。
死を運ぶ白き風は、エリスとセリムに向き直る。
戦況は、いよいよ絶望の色を濃くしていた。
■
…………………。
………。
……。
うずまきナルトが倒れてから数分。
嬲り殺し。
エリスの今の状況を形容するなら、その一言で言い表せた。
「がっ……はっ……はっ……あぁぐ………」
「やれやれ、亀の様に撃たれ続けるだけかい?
宝の持ち腐れだね。そんな体たらくで僕に挑もうとは片腹痛いにも程がある」
エリスの身体の状態は満身創痍だった。
セリムの展開する影と、インクルシオの防御力によって何とか凌いでいる。
この二つが無ければ、とっくの昔に死臭を放つ銃殺死体に変わっていただろう。
そしてそれはセリムも同じだ。
彼の協力無比な影は、しかしこれまで一度もシュライバーを捕えられていない。
精々がエリスに放たれる大砲かと見紛う威力の銃弾を逸らして守るぐらいだ。
それも守り切れていない。エリスは確実に削られ続け、その戦意は最早風前の灯火。
それでもエリスが前線を張って、シュライバーがエリスを集中的に狙っているからこそ戦闘が成立しているのだ。
もし一対一に持ち込まれればセリムにも勝ち目はない。
残存する賢者の石が尽きるまで銃弾を撃ち込まれて、それで詰みだ。
(どうする……どうすれば………)
目まぐるしく脳を回転させて、セリムは必死に策を練ろうとする。
エリスを置いて逃げるのはずっと考えていたが、論外だ。
彼の移動速度は入れ物である子供の身体に依存する。
補足された状態で、シュライバーの速度から逃げ去るのは難しい。
ただ逃げただけでは羽蛾の二の舞になるのが目に見えている。
かといって、このままエリスの援護に徹していても、もう時間が殆ど残されていない。
可能性があるとすれば、セリムが黒人の赤ん坊から得た支給品だが……
(あれの準備には最低数分はかかる。彼女(エリス)を守りながらでは手が足りない。
……ですが僕が援護を止めれば、彼女は数十秒も生きてはいられないでしょう)
臍を噛む思いで影を操作し続ける。
その脳裏には、ずっと2文字の言葉が浮かび続けていた。
“詰み”と言う脳裏に浮かぶ2文字が、継戦の意志すら削ぎにかかる。
愚直に人間を守り、掠りもしない影を振るう様は、普段の冷徹なプライドが見れば冷笑を禁じ得ないだろう。
-
「ハァ……ッ!ハァーッ!」
凶獣と相対するもう一人。
エリスは鎧の下に珠のような汗を幾つも浮かべ、ぜいぜいと荒い息を吐き、肩で息をして。
諦観と言う死神を必死に抑え込んでいた。
全身に走る痛みと、今迄どれだけ剣を振っても掠りもしていない事実は。
幼い少女剣士の心を折るのに十分な絶望だっただろう。
それでも今なお彼女が膝を折っていないのは。
「まだ……ルーデウスに会うまで、死ぬ訳にはいかないのよ………!」
エリスの予想通り、やはりルーデウスもこの島に来ていた。
そして自分と同じく2度の放送を乗り越え、生きている。
ただ、好きな男の子にもう一度会いたい。
それが、一条の光明すら見えない戦況の中で、彼女を支える理由だった。
戦力差は歴然、遠からず自分の身体は限界を迎える。
それは分かっていたけど、それでも諦めきれない。
艶のある唇を?みちぎり、その痛みで全身の鈍痛を誤魔化し、構えを取る。
「んー…君たちの相手も飽きてきたな。
そろそろ殺して、次に行かせてもらうとするよ」
人造人間の計算も、少女剣士の恋心も意に介さず。
白騎士は欠伸を浮かべるような所作をした後、詰めの宣言を行った。
彼の視線はエリス達を見てすらいない。
それも当然だ。エリス達の速度では、決してシュライバーを捕えられないのだから。
最早これは戦争は愚か戦闘ですらなく、ただの殺害と言う名の作業。
耐えきれなくなるまで弾丸を見舞って、崩れた所を轢き潰す。それだけだ。
彼がその気であれば、もっと早く決着がついていた。
そうならなかったのは、シュライバーの中に僅かに期待があったからだ。
今しがた体を貫いた少年の仲間を嬲れば、彼の中に潜むものが出てくるかもしれない、と。
結果は甚だ期待はずれなものに終わったようだが。
「それじゃあね、劣等。つまらなかったよ」
極寒の声でそう告げながら、シュライバーは白銀の銃口を向けた。
エリス達は身構え防御姿勢を取るものの、その瞳に光は無い。
希望など存在しないが、ただ現実を受け入れられない敗北主義者の挙動だ。
魔人ウォルフガング・シュライバーの瞳には、二人はそう映った。
さっさと殺して、あの青いコートの少年等を探そう。
その思考の元、白銀の引き金を引き絞ろうとする。
────待てよ、眼帯ヤロー、
その直後の事だった。
肺を貫かれた筈の、オレンジの服を着た少年が、シュライバーの背後に立っていた。
その手に、一本の剣を握って。
「この木の葉流忍者、うずまきナルト様は───まだ死んでねーってばよ」
その相貌に、消える事のない火の意志を燈して。
言葉を紡ぎながら、うずまきナルトは不敵に笑ったのだった。
-
■
強かった。
白髪の眼帯ヤローは、俺なんかよりずっとずっと強かった。
俺と同じくらいの年で、カカシ先生より強いガキがいる。
それが忍者の世界だって、カカシ先生は言ってた。
とてもじゃねーけど、敵う気がしねぇ………
火影にもなれず。
サスケの奴に勝つこともできず。
我愛羅も止めてやれないまま、俺ってば殺されるんだ。
だってあいつは、俺よりもずっと強いんだから。
それぐらい、俺にだって分かるってばよ。
あぁ……でも、何でかな。
彼奴の…あの片方しかない目。
彼奴の目を見た時に思ったんだ。
あの目は、同じだった。
俺が戦った時の、我愛羅の目と。
とても寂しくて…孤独で…何もかもを憎んで殺してやるって目だった。
……あの目だけはダメだ。
やっぱ、俺ってばあの目にだけは────負けたくねぇ。
────ナルト、いい事を教えてやる。
不意に、綱手のバーちゃんを大蛇丸から助けた後に。
エロ仙人から言われたことを思い出した。
───忍ってのはのぉ…多くの忍術が使える奴の事を言うんじゃねぇ。
───忍び耐える者の事を言うんだよ。
正直、言われたその時は、エロ仙人が何が言いたいのか俺ってば良く分かんなかった。
でも、その後言われた事は分かる。
あの時、エロ仙人は───、
───お前は直情タイプだからのぉ…難しく考えなくていい。要するに、必要なのは……
───諦めねぇド根性だ。
あぁ。
偶にはいい事言うってばよ、エロ仙人。
そうだ、力で言えば敵わねぇかもしれないけど、諦めの悪さだけは絶対に負けねぇ。
そう決めた瞬間、腹の内側に力を籠める。
お陰で、いいモン持ってるの思い出したぜ………!
さぁ出番だぜ九尾。
さっき俺にあれだけエラソーに言ったんだ。
根性見せろ!
-
■
前提として、確実に致命傷ではあった。
箸を通した豆腐の様に風穴が空いていたのだ、疑いようもない。
しかし、その傷は現在完全に塞がっており、死に至る兆候は見られない。
自分が出会った時に感じた少年の中に潜むものの力だろう。
シュライバーはそう判断した。そしてその上で抱いたのは。
「なーんで君かなぁ。さっきまで僕にビクビクしてた敗北主義者に用はないよ。
もう一度言うよ。さっさと消えて君の中に閉じ込められてる怪物(モノ)と変わりな」
失望。落胆。
漸く面白くなりそうだと思っていた展開が、途端に尻すぼみになってしまった様な。
如何にもぬか喜びをさせられた、といった様相で肩を竦めて。
これならばさっきさっさと殺しておくんだったと、嘆息する。
そんな見下し切ったシュライバーの態度を前にしてもナルトは笑みを崩さなかった。
「へっ、言ってろ。バケ狐に何か頼らなくても、
こっちにゃ切り札がまだあるんだってばよ」
ナルトは言葉と共に、刀を構える。
シュライバーの目にはその刀には見覚えがあった。
数時間前に交戦した、氷を操る剣士の刀と似たものを感じたのだ。
得意げに刀を構える敵手に対して、狂気の白騎士は失笑を禁じ得なかった。
「…何かと思えば、最後に頼りにするのが乃亜から下賜された支給品と来たか。
そんな刀百年振った所で、僕に掠りもしないよ」
前提として、シュライバーはナルトの握る刀を侮っている訳ではない。
彼は氷を操る剣士の策に追い詰められたのだから。
その上で、得意げに斬魄刀を握るナルトの事を醜悪なものとして見ている。
あの氷の剣士とは違い、ナルトは目に見えて握る刀に慣れていない。
感じる魔導も、構え方も、氷の剣士には遠く及ばない。
与えられた自分の物ではない力を、自分の力と錯覚している者のそれだ。
「興覚めだね。君じゃあ僕とは釣り合わない、期待外れもいいところだ」
吐き捨てるようにそう一言呟いて、構えを取る。
本当に、期待外れな戦いだった。
放送前に戦った、青いコートの少年。
あの少年の様に、中に潜むものを引きずりだして殺せれば。
己の欠落を埋めてくれる黄金の獣に捧げるに相応しい殺戮になると期待したのに。
その打算もあって、ナルトを致命傷で留め、エリス達を嬲り殺しにしたのに。
結果は愚にもつかない劣等に無駄に時間を取られる結果となった。
こうなれば、さっさと全員殺す他ない。
世界が、爆ぜる。
その光景を見ずに少年の疾走の影響によるものであると信じられる者はいないだろう。
アスファルトを、コンクリートを、街路樹をなぎ倒し粉砕して。
餓えた白狼が敵手の喉笛へと駆ける。
「───このッ!」
「………ッ!!」
しかし、シュライバーが動くよりも早く、その行動を予測して動いている者がいた。
エリスが刀を振り上げ、セリムが影を放出して凶獣の行く手を阻む。
二人にとっても、これが最後の賭けだ。
限りなく信頼性は低い物の、ナルトの切り札とやらに全てを託す他ない。
「もっと必死になりなよ。そうでないと遅すぎる」
二人が死力を尽くしてなお、止められた時間は一秒足らず。
全力の妨害を紙細工の様に蹴散らして。
目標の元へと飛び上がる。
「───出番だぜ」
視線が交わる。
瞳に秘めた力だけは立派なものだと、白騎士は思った。
まぁ、尤も。
実際の力が伴っていなければ、無意味に等しい事に変わりはないが。
-
「鏡花水月!!」
叫んだ名前は、刀の銘か。
とは言えもうどうでも良い話。
───二人目だ。
何故なら駆け抜けた先で、振り下ろしたシュライバーの手刀は。
うずまきナルトの左脳を一撃で以て破壊していたからだ。
「ナルト!!」
白い鎧が少女の声で叫びをあげる。
さて、次だ。
くるりと華麗にバックターンをキメて、次の敵を沈黙させにかかる。
襲い来る影をひらりひらりと躱し。或いは銃弾で撃ち落として。
苦し紛れに放ってきた拳を叩き落とし、無意味な抵抗を一蹴する。
「────っ!?」
末期の言葉を吐く暇さえ与えずに。
シュライバーの理外の速度で放たれた拳が、白い鎧を穿つ。
「三人目」
「がッ……ああああああッ!!!」
それでも最後の執念か、此方に掴かかろうとした少女の心臓をぐちゃりと潰して。
そして、触れられるより早く投げ飛ばす。
そして脚部に力を籠めて、殺到する影の触手を闘牛士の様に美しいフォームで躱す。
最後の獲物を仕留めるべく、魔人は朝を駆ける。
「くっ───!!」
散々鬱陶しい影を伸ばしてきた少年の顔が、焦燥と絶望に彩られる。
何とか死神から逃れようと後退しているが、シュライバーにとってその速度は亀の歩みでしかない。
迎撃のために伸ばしてきた影を避けつつ、詰め(チェック)にかかる。
「四人目だ」
轟音と共に、凄まじい数の死の雨が降り注ぐ。
最早ホムンクルスを前線で守る盾はいない。
迎撃と防御を一手に引き受けるには、ウォルフガング・シュライバーは難敵すぎる。
一騎打ちの開始から十秒足らずで、均衡は崩される。
一発の魔弾がセリムの肩を引きちぎり、それが終わりを示す合図となった。
「くく───あはははははははははははははははははは!!!!!」
狂笑と共に、影の少年をハチの巣にして。
狂える白騎士は殺戮の味に上機嫌に笑った。
駆け抜けた先にたっているのは、これまで通り。彼だけだ。
全てを轢殺の轍に変えて、一人の子供が乱れ狂いながら、敵対者の抵抗全てを踏み躙った。
-
■
どんなもんだい、と。
喧嘩相手を叩きのめしたガキ大将が力を誇示するように、ひとしきり笑って。
そして、銃を仕舞った。
相手が取るに足らない敗北主義者の劣等とは言え、数十年ぶりに感じる生の肉と血の感触は得も言われぬ快感があった。
戦争もいいが、虐殺もまた良い物だ。
猫の様に大きく伸びをしながら、そう考え。
轢殺死体が散らばる戦場を後にしようとする。
「────?」
違和感を抱いたのは、その時だった。
特に理由はない。ただ“何となく”だ。
その何となくの勘に突き動かされる様に、物言わぬ肉袋達を眺める。
殺した後の残骸にもう一度意識を裂くなど、シュライバーらしからぬ行動だった。
───何故。
何故、エイヴィヒカイトによる魂の収奪が始まらない?
シュライバーの違和感の発露は、その事実を発端としていた。
聖槍十三騎士団副首領メリクリウスより与えられた魔導。
高等魔術永劫破壊【エイヴィヒカイト】。
黒円卓の魔人たちが有する聖遺物の種類こそ多種多様で在るモノの、
そこに付随するエイヴィヒカイトには共通する性質が存在する。
それは殺害した相手の魂を取り込み、聖遺物所有者を強化すること。
内包した魂が多ければ多い程、聖遺物保有者の存在強度は上がっていく。
十八万を超える魂を簒奪し、活動位階であっても上位の位階を凌駕するシュライバーなどがよい例だ。
そんなエイヴィヒカイトが、魂の簒奪を遂げられていない。
考えられる可能性は二つだ。
一つは、海馬乃亜の手によってエイヴィヒカイトの性質が封印されていること。
そして、もう一つは────
「───何処だ」
まだ、連中が死んでいない。
確証はなかった。
何方の可能性が高いかと問われれば、100人中99人が前者を選ぶだろう。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚。
全てが既に獲物は屠ったと伝えてくる。
伝えてくるからこそ、自身の魔人たる象徴だけが反応しないことが。
拭えない違和感としてシュライバーの疑念を揺り起こした。
シュライバーが疾走を開始するのと同時に、大気が爆ぜる。
街路樹をなぎ倒し、アスファルトを粉砕し、コンクリートを削り飛ばして。
白狼は今、破壊の具現となる。
「何処にいる」
短い言葉と共に。
少年は、極小の嵐となり荒れ狂う。
今しがた手にかけた死体が千々に千切れ肉片と化しても気にも留めず。
ただ己の獣の直感に従って、目視で見える範囲全てを荒野へと変貌させるべく駆ける。
彼が周囲を駆けまわるとバリバリと大気を引き裂くような轟音が空間に満ち───
そこで、気づいた。
「さっさと出てこい!!」
狂える魔獣の表情が、怒りに歪む。
よくもコケにしてくれたな、と。不服な事が起きた時の子供そのものの顔で。
さっきまでうずまきナルトの死体があった場所を射すくめるように睨みつける。
そう、ナルトを殺した時には確かに傍にあったものが無かった。
彼が握っていた剣が無かった。
敵手が切り札とまで称していた剣が、何処にもないのだ。
ナルトを葬ってからその仲間も十秒足らずで殺したため仲間が動かした訳ではない。
闖入者が現れたのなら自分が気づかない筈がない。
では、剣は一体どこに行った?誰が動かした?
エイヴィヒカイトの性質から感じた違和感も考慮に入れて。
その上で、勘に従ってシュライバーは決断を下す。
-
「この程度で僕から逃げおおせるなんて、百年早いんだよ!」
シュライバーの速度が上がる。
周囲の何もかもを破壊しながら、空間を跳ね回る。
都度、人外の踏み込みによる圧力と、衝撃の余波で周辺の空間が崩壊していく。
可憐な容姿を怒りに歪ませ暴れ狂う姿は、本当に遍く全てを破壊しつくそうとしているかのよう。
事実シュライバーの周囲半径150メートルは、生物の生存を許さぬ死の領域と化していた。
「オイ」
シュライバーの読みは当たっていた。
死んだはずの人間の声が、背後で響く。
「どーだってばよ、俺の切り札ばッ」
得意げな言葉を吐き終わる前に、心臓をぶち抜く。
確かに、殺している。
さっきまでの分身を蹴散らした時の感覚では無く。
敵の本体を葬った、と。
五感全てが、伝えてくる。
だが───彼の殺戮の本能だけが、その判断に異を唱える。
「おいテメー!!人の話はちゃんと聞けべっ」
まただ。今度も確かに殺した。
その筈なのに、魂の簒奪は始まらない。
それなのに、殺害の感触だけはしっかりとある。
実に奇妙な感覚だった。
「───ッ!!」
だが、その違和感の修正を行う事を敵は許さない。
シュライバーの死角である角度から突撃槍の如き鋭さで伸びてくる影。
それを人外の直感だけで躱し、銃弾をばら撒いて撃ち落とす。
違和感が募っていく。
単純な幻覚ではない。その程度の力が黒円卓の大隊長たる彼の瞳を欺けるはずがない。
だが、現状進行している状況として。
果たして今自分が撃ち落としたのは本当に影なのか?
今しがた自分が殺したのは額当てをしたガキなのか?
それすらも疑わしくなってくる。
シュライバーの渇望は絶対回避。どんな攻撃も、彼に触れる事は叶わない。
だが───シュライバー本人が攻撃を攻撃と知覚できなければどうか?
「────へっ、どーだ。驚いたろ」
銃声。
銃声。
銃声。
銃声が響くたびに、敵手は倒れ、死体だけが増えていく。
「これが木の葉流忍者──うずまきナルト様のとっておきだってばよ」
言い終わるのと、胴体に風穴が空いて倒れるのは同時だった。
既に戦場に転がるナルトの死体は十体を超えている。
それだけの戦果を挙げながら、シュライバーの表情から笑みは消えていた。
張り付けたような無表情で、引き金を引き、戦場を駆ける。
依然戦力差は圧倒的、一発たりとて彼の力はその牙城を崩していない。
しかし──彼の圧倒的な速さをもってしても勝負を決めきれない。
「生憎、我慢比べなら自身があんだよ───退くなら今の内だぜ」
最早数えるのも馬鹿らしくなる程の殺害を成し遂げても。
それでもうずまきナルトは、シュライバーの眼前から消えないのだ。
「退く?随分とまあ吠えたね。
潰した端から沸いて出るしか能のない、腐肉生まれの蛆虫の分際でさ」
「へっ!その蛆虫を殺せてねーのがお前だろうが」
本当の事を言えば、出会った時からずっと恐怖を抱いている。
目の前の相手…シュライバーは、カカシたち上忍よりも強いだろう。
火影に届く実力すらあるかもしれない。
けれど、もうナルトもただ怯えるだけでは終わらない。
ここで敵に臆する男が、火影になどなれるはずがない。
恐怖を抑え込み、押し殺して、白騎士に忍者は相対する。
-
「吠えるのなら───」
「僕の影の端でも触れてから吠えて見ろ、ってか?」
まるで心を読んだかのようだった。
シュライバーが口にしようとした言葉を先んじてナルトは口にする。
直後に、銃口が火を噴き、胸に大穴を開けて倒れ伏す。
つまらなそうにその様を眺めるシュライバーの表情に、やはり笑みは無い。
「本当にうざったいなぁ、もう」
不快感を露わにした表情と所作を浮かべるシュライバー。
それも当然だろう、彼にとってこれは殺戮でも戦争でもないのだから。
つまらない不快な手品を延々と見せられている気分だった。
「「──うんざりして来たからさ、そろそろその薄汚い口を閉じて死ねよ劣等」」
言葉が重なる。
眼前に広がるのは、既知感に溢れる光景だった。
殺したはずのうずまきナルトが、不敵な笑みを浮かべてそこに立っている。
銃声は響かない。
先ほどまでの焼き直しになると、シュライバーも理解したからだ。
代わりに訪れるのは、不気味な沈黙と、そして。
「───くっ」
嘲笑だった。
「っく、ふふふ。はは。ははははははははは────!!」
見る者に凶兆を確信させる様相で、白き餓狼は嗤い狂う。
ビリビリと、大気すら振るわせて、ただ笑い声だけが周辺に波及して。
相対しているナルトの背筋に、必然的に冷たい物が走った。
「……何、笑ってるんだってばよ」
尋ねる声色に先ほどまでの余裕はなく。
再び、抑え込んでいた恐怖が噴出しそうだった。
そんなナルトに、余裕を内包した笑みでシュライバーは応える。
「いや。だって、さ。どれだけ必死に隠れた所で───君たち、まだ近くにいるんだろ?」
ナルトの表情が強張る。
シュライバーの指摘が、正に図星だったからだ。
「どんな姑息なまやかしに命運を託したのかは知らないが──
未だに君が僕に触れられてもいないのに、うろちょろ付きまとっているのがその証明だ」
最初に見せた分身能力の延長なのか、それとも全く別の、幻覚でも見せる力なのか。
それは定かではないが。
何某かの力使ってもなお、ナルト達の攻撃は一発とてシュライバーには届いていない。
彼の理外の速度と、己の渇望より来る獣の危険察知能力で全て躱されてしまうからだ。
つまり、勝ち目の以前絶望的な勝負である事は間違いない。
では何故、何時までも自分を煽って玉砕の様な真似を繰り返すのか。
もし既に逃げおおせているなら、分身や幻覚などをけしかける必要性がない。
ともすればそこから形跡を辿られ、追撃を受ける恐れがあるのだから。
それに彼の感覚すら誤魔化す能力の維持にかかるリソースも、バカにならないだろう。
逃げ切ったのなら解除してしまえば良いのに、それをせずヘイトを集める真似をするのは。
まだ付近にいて、必死に本体から自分の気を逸らそうとしているのではないか。
他にも幾つか可能性は考えられたが、その可能性が最も高いと殺しの本能が告げている。
では、その仮定を踏まえたうえでウォルフガング・シュライバーは如何な選択をすべきか。
「そこで、だ───ここら一帯、君達ごと更地にしてあげる事にした」
-
それが、シュライバーの答えだった。
小細工ごと、盤面を叩き潰して平らにする。
本体が近くにいると言うのなら、本体に攻撃が当たるまで戦場を蹂躙する。
空気を蹴って空中に飛翔し、活動位階から宇宙速度で暴威を振るう速度が可能にする荒業。
それは至極単純で、だからこそ抗しにくい作戦だった。
「クソッ───!!」
シュライバーの作戦を受けた後、ナルトの表情に焦燥が浮かぶ。
不味い、気づかれた。
ナルトがシュライバーにかけた能力と、シュライバーの立てた対抗策の相性は頗る悪い。
何とか阻止しようとするものの、それよりも遥かに早くシュライバーの姿が消える。
───逃げても構わないよ、僕から逃げられる者なら、ね。
次瞬、訪れたのは破壊だった。
白色の風が、隠れ潜む敗北主義者たちの命運を終わらせにかかる。
ナルト達の死体も、時折襲ってくる影の触手も、全てを轢殺していく。
それこそが、彼の英雄/怪物としての在り方。
全ての参加者を轍に変えるまで───殺人機械が止まることは無い。
ただ、圧倒的な速度(スペック)で相手の策を叩き潰し、蹂躙する。
そこに駆け引きなど必要ない。三匹の蟻を踏み潰すのに策を弄する狼はいない。
彼は、暴風のシュライバーなのだから。
■
半径二メートル。
それが、ナルト、セリム、エリスの三人に許された唯一の生存可能領域だった。
そこから先は、迂闊に踏み出せば即死すらあり得る死の世界となっている。
「……で、どうするの」
詰問するような声色で、エリスが尋ねる。
議題は勿論、ここからどうやって生き延びるか、だ。
射殺す様な鋭い視線を、この状況に持ち込んだ張本人にぶつける。
「……………………」
対するナルトは、無言だった。
冷や汗をダラダラと流し、頭を抱えて。
一目見て手詰まりであると分かる様相を呈していた。
「…考えて無かったのね」
「だーッ!しょーがねーだろ!見ろアレェ!
滅ッ茶苦茶だぞアイツ!!あんなん予想できる訳ねーってばよォ!!」
「それはまぁ、そうだけど……」
周囲を指さすナルトに従い視線を移して見れば。
エリスをして、目にすれば強くは責められない凄まじい様相を呈していた。
民家の外壁が何処かに吹き飛んでいき、アスファルトがタールに塗れた砂利へと変わり、
街路樹を根こそぎ蹴散らし周囲を更地にするべく、縦横無尽に餓狼が大地を駆ける。
絶えず轟音が鳴り響き、衝撃こそ届かないものの、腹の底に響く振動は、不可視の巨竜が荒れ狂っている様だった。
どんなに低く見積もっても王級、帝級と言われてもカケラほどの違和感もない。
寝物語に聞いた、人界で最強の七人と謳われる七大列強にすら届いているかもしれない。
もしあれがルーデウスと出会ったらと思うと、悪寒が走った。
「くっそー…あのままやり過ごせればよかったんだけどな」
-
ナルトはその手の刀を見つめながら、悔し気に呟く。
それはナルトの支給品として入っていた刀だ。
刀の銘を鏡花水月。
宿す力は、解号を目撃した者への完全催眠。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、そして霊圧の知覚すら欺く圧倒的な誤認能力。
鏡花水月を支給された事に関するナルトの幸運は幾つかあった。
まず、この殺し合いに当たって斬魄刀が死神以外の参加者にも扱える様に、乃亜の調整を受けていた事。
この調整が無ければそもそもナルトは鏡花水月を扱えなかった。
次に、鏡花水月が始解の状態から強力な効力を発揮する性質の斬魄刀だったことだ。
斬魄刀を扱える様になったと言っても、乃亜より許された範囲は始解まで。
死神の奥義たる卍解にはうずまきナルトでは到達できなかったのは間違いない。
更に言うなら、鏡花水月を扱うナルトの中に、九尾と言う莫大なエネルギーリソースが存在した事だ。
エリスは愚か体内に賢者の石のエネルギーを備えるセリムですら、ナルトが秘めるエネルギー量には遠く及ばない。
死神同士の戦闘でも、能力を莫大な霊圧差で抑え込むという芸当が可能なのを考慮すれば、
もし、ナルト以外が鏡花水月を使っていても、即座にシュライバーに見抜かれていた可能性が非常に高かった。
そして、無形で変幻自在、質量を伴った影を創れるセリムがいた事も追い風として機能していた。
今、シュライバーを現在進行形で欺いているのは、プライドの影だ。
ナルト達の体格の影を形づくり、それを鏡花水月の催眠によって欺いている。
未熟なナルトではAをBに変える催眠効果しか発揮できない。
もし街路樹などを誤認させていれば、あっという間に誤認させられる物体が無くなっていただろう。
「…幻術返しもだけど、エロ仙人に幻術のかけ方とかも習っとくんだったってばよ」
そう、ナルトは確かに鏡花水月の力を引き出す事に成功していたが。
それでも使いこなす水準には遠く及んでいなかった。
もし本来の担い手ならば、完璧に自身の死を偽装していただろう。
未来を見通し、自由自在に未来を見通す帝国の主すら欺いた、本来の担い手ならば。
だが、ナルトには最低限運用するためのエネルギーはあったが、センスが無かった。
結果、シュライバーの天性の殺しに対する才能が、ナルトの発動した偽装能力を上回ってしまった。
結果、やり過ごすことに失敗し、こうして窮地に立たされている。
「無い物ねだりをしていても仕方ありません。
うずまきナルト、その刀の力はあとどれぐらい保ちますか?」
焦燥を隠し切れないナルト達とは対照的な、沈着な声が響く。
鏡花水月を指さしながら、セリムはじっとナルトを見つつ尋ねた。
醸し出す雰囲気は、見た目相応の無邪気で聡明な子供のそれではなく。
つい三十分前までの態度は擬態でしかなかったのだと思い知らされる。
だが、そのただならぬ雰囲気は、今の二人にとって恐ろしさよりも頼もしさが勝った。
「……後、十分くらいだってばよ。それが終わったら十二時間はただの刀だ」
支給品の説明書に書いてあった制限時間は十五分。
それを過ぎれば鏡花水月の完全催眠は解除されてしまう。
そして、再使用には放送二回分の時間を跨ぐ必要がある。
もし今解除されれれば即刻、ナルト達は怪物の餌食だ。
「十分ですか……私のバリアーポイントはそれよりも早く効力を失いますね」
ナルトの言葉を聞いた後、セリムはその手の支給品の説明書に視線を落とした。
鏡花水月の完全睡眠と並び、三人に安全地帯を提供しているのがセリムに支給されたバリヤーポイントと言う道具だった。
その道具は半径二メートルに見えない障壁を展開し、使用者を自動的に防御するという防御においては非常に強力な支給品だった。
シュライバーの暴虐の余波を完全にガードしている事からもそれが伺える。
だが、強力さ故に乃亜はその道具に手を加えていた。
二メートルの安全圏が保証されるのは、発動した地点に限る、という。
つまり、三人はこのバリヤーポイントが展開している二メートルから動けない。
竜巻の中に無策で突き進めば、結果は火を見るよりも明らかだ。
「なによそれ……それってつまり」
エリスの口から、絶望が零れる。
当然だ、この場にいる者全員の残された時間はあと十分足らず。
そう宣告されたに状況は等しい。
今もこうして刻一刻とその時は迫っている。
それを受けてナルトも何か言葉を返そうとしたが、何を言っても気休めしかならない、と。
言葉に詰まってしまう。
-
「十分ですか……きわどいですが。不可能ではありませんね」
人間二人が絶望の淵に立つ中で。
この場において唯一人間ではない存在──ホムンクルスだけが。
一筋の光明を見ていた。
元より勝機はあった、それを仕込む時間が無かったが。
だが、ナルトの催眠能力により条件はクリアーされた。
制限時間は厳しいが、決行は可能だ。
セリムはそう結論付けた。
「なに…セリム、何か手があるの!?教えなさいよ!」
何か策があるのを感じ取ったエリスは、望みを託すようにセリムに詰め寄る。
彼女の縋るような眼差しを、冷たい視線で返しながら。
それでも彼は首を縦に振った。
そして、時間がないから簡潔に策を伝えます、と二人に告げて。
静かに、しかし確かな感情を感じさせる声で口火を切った。
奴を倒します、と。
反論はない。
エリスもナルトもセリムの立てた作戦に従うしか打つ手はないと理解しているためだ。
だが、直情的な二人では当然「どうやって?」という視線を控える事は出来なかった。
そんな二人に。
「簡単ですよ、あの狂った自称英雄と同じです」
始まりの人造人間は、事も無げに答えた。
「この周辺一帯を、丸ごと吹き飛ばすんです」
-
■
話は纏まった。
うずまきナルトとエリス・ボレアス・グレイラットを先行して逃がし。
エリアの端で待機させる。
うずまきナルトの話では時間経過だけでなく、刀の使用者がエリアを超えて移動した場合も効果が解除されてしまうらしい。
故に流れ弾が被弾せず、同時に刀の能力が発揮されるギリギリの位置にいてもらう。
そして殿を務めた私が、ウォルフガング・シュライバーの討滅を決行するタイミングで逃走するように伝えた。
…最もリスクの高い殿を務めたのは、別に彼らへの情が湧いたわけではない。
ただ、この作戦を決行するのは私が一番適任であると、私自身が断じてしまったからだ。
うずまきナルトも、エリス・ボレアス・グレイラットも、肉体的にはただの人間。
つまり、一度死ねばそれまで。
常時ならば死んでもらっても構わないが、今この時だけは困る。
彼等を生贄にして逃げた所で、目前の度し難い殺人狂は追いすがって来るだろう。
そうなれば詰みだ。
つまり、追撃の余裕すら奪う程に手痛い一撃を与える以外に道はない。
それに最も適任なのが、一度死んだ程度では大した痛痒にならない私だ。
何しろ、今実行しようとしている作戦は、決行者の死が前提となるのだから。
「セリム」
うずまきナルトが、申し訳なさそうに私を見てくる。
この作戦の発案者は私で、全ては織り込み済みのため、同情的に見られても困るのだが。
「心配ありませんよ。僕はこんな所で死ぬつもりはありません」
まぁ正確には一度死ぬが。
それでも約束の日が差し迫ったこの時に、滅ぼされるつもりは毛頭なかった。
それに、先に逃がすと言っても相手が相手だ、危険度に関して言えばそう変わりはない。
だから気にする必要はない、そう伝えた。
その言葉を聞いて、うずまきナルトは少しの間俯いてしまう。
人間とは面倒なものだ。コミュニケーションを取っている時間も惜しいのだが。
そう思った二秒後に、彼の顔が上がる。
彼の表情に、既に暗い色は無かった。
「…分かった。火影岩で待ってるから、お前も追いついて来いよ」
そう言って、うずまきナルトはニッと白い歯を見せて笑った。
まるで私を仲間だと思っているかのようだった。
まったく呑気なものだ。
「貴方は」
人ではない私が、マーダーになると思っていないのですか?
平和ボケと形容した方がよさそうな信頼に、思わず口に出てしまった。
そんな事を聞いている暇では、当然ないと言うのに。
我ながら合理性を欠いた行動と言うほかない。
では、何故私は彼に問いかけたのか。
新たな疑問が脳裏で浮かびそうだった所に、先んじてうずまきナルトは返事を返してきた。
「……別に、お前が人じゃなくたって。今俺達と戦おうっていうんじゃないだろ」
これまで頭の軽そうな少年だと思っていたが。
今、語る彼の表情は今迄の物とは違っていた。
その直後に、だけど、と彼は付け加えて。
「勿論、お前がこんなふざけた殺し合いに乗ろうって言うなら遠慮はしねーってばよ。
ボッコボコにして、思いとどまらせてやる」
私への情と、剣呑さが入り混じった答えだった。
「でも、今敵じゃないならそれでいい。少なくとも俺はそう思ってる」
彼の笑顔には、様々な感情が籠められているのが見て取れた。
シュライバーは私だけでなく、うずまきナルトも人外に類する者であると言っていた。
それは数時間前に目撃した彼の内側にある存在を指しているのだろう。
だが、彼自身はあくまで人間だ。
あのおにぎり頭の少年の時もそうだったが。
化け物と言う言葉に抵抗を示したのは、恐らく迫害を受けていたのではないだろうか。
-
人は弱く愚かだ。
アメストリス建国から各地に血の紋を刻んでいる時に飽きるほど確認できた。
簡単な扇動で昨日まで同胞だった者達と殺しあう。
もし内に潜むものが周囲の人間に周知されていた場合、彼がどんな人生を送って来たかは想像に難くない。
まぁ、興味のない話だが。
彼が私に自分の境遇を重ねているというなら、利用させてもらうだけの話だ。
そう思いながら、私は自分の鞄を彼に放り投げた。
「セリム、お前これ……?」
「預かっていてください。爆発で吹き飛んだら面倒なので」
そう言うと彼は私と鞄を何度か見やって、口の端を引き締め、何度も首を縦に振った。
全くもって、扱いやすい男だ。簡単に私を信じて。
「ナルト、そろそろ行くわよ。時間がないわ」
そう、会話をしている時間はもうない。
エリスと言う少女は、それを理解している様だった。
彼女は、ナルトとは違い、私の事を怪物として精神的に距離を置いている。
此方の方が余程人間らしいと言えば人間らしいかもしれない。
ただ、彼女は最後に私に一瞥すると、短く、ぶっきらぼうに。
「……ありがと」
そう言ったのだった。
私はそれには応えない。ただ一度頷くだけだ。
それで十分だと、判断した。きっと彼女も。
二人はバリヤーポイントの効果範囲の淵に立って、覚悟を固めた顔している。
未だ外では凶獣が荒れ狂っていたが、幸いにして刀の効果は発揮されているらしい。
彼の意識が此方に向く事は現在なさそうだった。
だが、問題はこの後、この後の数分間で、全てが決する。
あの速度だ、その気になれば一時間もかからず島の端から端まで駆けまわれるだろう。
そもそも放送のたびに生存可能な領域は減っていく。
いずれ確実にぶつかる相手。あの自称英雄を討たなければ、未来はない。
しかし、本当に可能なのか────、
「───セリム!お前見た目より根性あるってばよ!
こっから生きて帰ったら、ラーメン奢ってやるぜェ!!」
生まれ落ちてから初めて感じる、自分の命に他者の指が掛かる感覚。
その重圧の中で聞いた彼の声は、轟音と振動の中でもはっきりと聞き取れた。
本当に、呑気なものだと改めて思う。
一時間後の生死すらはっきりとしない、魔人闊歩するこの地で。
生きて帰った後の話ができるなんて。
それも、数百万の人間を父の計画の生贄にしようとしている人造人間(ホムンクルス)を相手に。
だが、まぁ、彼のお陰で────差し迫った状況から感じていた重圧は消えていた。
「……不思議な男ですね、貴方は」
彼は私が元の世界に戻ったら行おうとしている事を聞いて、何を思うだろうか。
失望?落胆?憤怒?
どれでも別段不思議ではないし、どう思われようと別段どうでも良かったけど。
それでも確かめたい、と。私はそう思った。
取るに足らない興味。けれどそんな興味がきっと今の私には必要だった。
だから、此方を覗き込む彼に述べる答えは決まっていた。
「嫌です」
はい、と。そう答えると。
これで終わってしまう気がしたから。
-
■
結果だけ述べるならば。
うずまきナルトとエリス・ボレアス・グレイラットの撤退戦は成功を収めた。
如何な狂える白騎士とは言え、五感全てを掌握され。
第六感だけを頼りに、二人の殺害を行うのは失敗した。
セリムも、その時だけは影を“仕込み”からナルト達のサポートに割り振っていた。
エリスはどうでもいいが、ナルトに死なれれば計画全てが水泡だからだ。
セリムの影、そして残りのチャクラ全てを用いた多重影分身と、インクルシオの防御力が彼らの命を救った。
もし何方かが無ければ、シュライバーの起こす破壊の余波を切り抜ける事すら叶わなかっただろう。
───だが、それだけでは足りない。
彼の速度を相手にしては、一時的に逃走に成功しても根本的な解決にはならない。
鏡花水月の完全催眠が、次も通じる相手とは断言もできない。
だから、ここで息の根を止める。
最低でも、追撃を行う余裕は奪う。
その過程で一度自分は死ぬが、一度の死であの怪物を下せるのなら安い買い物だ。
その意志を胸に、セリム・ブラッドレイは狂える英雄と相対する。
(時間は……およそ後二分か)
射程だけで言えばアメストリス全土にも影を伸ばせる傲慢(プライド)の影を総動員し。
周囲に仕込み、張り巡らされた切り札の結界。
この調子でいけばかなり危ういが、鏡花水月の効果が切れる前に仕掛け終わる。
ほんの一分に満たない僅かな時間だが──その数十秒が勝負の分かれ目だ。
(やはり時間は厳しいが、勝機はある)
ウォルフガング・シュライバーの速さの前にはプライドの影も意味がない。
無形にして変幻自在ではあっても、所詮は点と線の攻撃だ。
面の攻撃…逃げる隙間のない飽和攻撃でなければ、あの怪物は倒せない。
だから、逃げ延びる事の出来ない規模の飽和攻撃を加える。
このエリア一帯を吹き飛ばす。
この、影の下に張り巡らせた起爆札で。
────その総数、6000億。
ウォルフガング・シュライバーの内包する魂の総量の約300万倍の物量だった。
暁最後の生き残りが、うちはの始祖を倒そうとした時に用意したものだ。
それを、乃亜は支給品として支給していた。
本来の使用者が使った時の様に時間差起爆はできず、一斉起爆しかできない制限を受けているが…
それでも、今のセリムにとって、死に続ける心配がないそちらの方がありがたかった。
乃亜の支給品の説明が信用できるかどうかは、運を天に任せる他ないが。
ともあれ、起爆札を張り付けた影は今や一つのエリア全体を包む様に伸びている。
ある程度上空にも伸ばし、上方もカバーしておく。
(後数十秒で準備が終わる、そうすれば)
シュライバーは未だあらぬ方向を駆けまわっている。
未だに影の攻撃は掠りもしないが、鏡花水月の影響下にはあるようだ。
いける。このまま起爆に成功すれば───
そう思った、その瞬間の事だった。
────見つけた。
その言葉を聞いた瞬間。
時が止まった。
さっきまで明後日の方向を向いていた筈のシュライバーが。
今この瞬間、正確にセリムの姿を捕えている。
何故?ナルトの話ではまだ鏡花水月の効果時間は残っている筈。
彼が離れた事で、効果が減退したのか?
いや、そんな事は今はどうでもいい。
それよりも、重要なのは────
-
(間に合え───!)
白狼が獲物の喉笛を食いちぎろうと駆けてくる。
彼我の距離は約百メートル。
防御を捨て、影を全力で繰り出し迎撃する。
無意味でも、奴の時間を少しでも奪い取れれば、それで勝てる!
「あははははははははは────!!!!!」
狂気の爆笑があらゆる均衡を破り。
白き餓狼は、瞬きよりも短い刹那で、百メートルの距離を一瞬でゼロとする。
次瞬、セリムはずぶ、と言う。自分の体内に何かが侵入する感触をまず認識した。
心臓を抉られたのだと、一瞬のうちに悟った。
(───問題ない。再生した後、起爆すれば────!!)
シュライバーの方が認識しているかは定かではないが。
お互いレッドゾーンの交錯だ。
例え一度死んだとしても、人造人間(ホムンクルス)は、死なない。
死に行く時も、再生までに影だけは維持する様に強く強く、魂を保つ。
その時───気づいた。
(────再生が)
そう、再生が始まらないのだ。
この地に来てから一度も死んではいない。
賢者の石の魂のリソースはまだある筈なのに。
そんな、セリムの思考を読んだかのように。
百万分の一秒の世界で、声が届く。
「君のその力、僕らのエイヴィヒカイトと似てるみたいだけど」
───エイヴィヒカイトの特性を知らないのは、不運だったね。
そう。
高等魔術永劫破壊【エイヴィヒカイト】。
その基本特性として。
殺害した人物の魂の簒奪がある。
それはつまり。
セリム・ブラッドレイ。始まりの人造人間(ホムンクルス)プライドにとって。
エイヴィヒカイトの特性は、まさに致命的だった。
「僕には結局───追いつけないんだよ、誰もね」
魂の簒奪が成されていく。
セリムと呼ばれていた少年は今終わる。
それを確信して、シュライバーは嗤った。
だが、まだだ。まだ満足していない。
即刻、逃げた二人にも追撃を───
「───何?」
偶然だった。
彼が手にかけた後の敗者に視線を向ける事など早々ある筈もない。
ただ偶然、何某かの予感がして、一瞥した。
影が霧散し、その下に隠されていた夥しい数の紙切れが露わになっていく。
目撃した瞬間、シュライバーにぞくりとした何かが駆け巡り。
今度は、彼が声を掛けられる側となる。
────やはり、慣れない賭けなどするものではありません。
────だが、貴方も道連れです、ウォルフガング・シュライバー。
セリムの最期の言葉が響くのと同時に。
世界は、轟音と閃光に包まれた。
-
■
エリアの端に避難して早々の事だった。
今迄自分達がいたエリアが、大爆発を起こしたのは。
セリムの作戦は決行されたらしい。
ナルトとエリスの二人は、その事実を悟った。
セリムは死なない。正確には一度死んだぐらいでは終わらない。
そう言っていたが。無事に切り抜けられただろうか。
「ダメよ、ナルト」
爆発した場所を睨む少年に、エリスは釘を刺した。
今ここで戦場に戻り、シュライバーが生きていれば。
セリムが殿を務めた意味がなくなってしまう。
幸いにして、シュライバーが追いかけてきていないという事は。
半分は目的を達成したのは確かだ。
だから、今の自分達がやるべきは直ぐにこの場を離れる事。
それ以外に何もないと、彼女は視線だけで語った。
「あぁ……分かってる」
ナルトもそれを理解していたから、特に反論することは無かった、
ただ、拳を握り締めて。
可能性がどれだけ存在するか思考しつつも、もう立ち止まりはしない。
火影岩の前で、セリムが姿を現すことを信じてひた走る。
その背に、二つ分のランドセルの重みを感じながら。
【D-5/1日目/朝】
【エリス・ボレアス・グレイラット@無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)、少しルーデウスに対して不安、沙都子とメリュジーヌに対する好感度(高め)、シュライバーに対する恐怖
[装備]:旅の衣装、和道一文字@ONE PIECE、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!(相性高め)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ルーデウスと一緒に生還して、フィットア領に戻るわ!
0:シュライバーから逃げる、その後暫し休息を取りたい。
1:首輪と脱出方法はルーデウスが考えてくれるから、私は敵を倒すわ!
2:殺人はルーデウスが悲しむから、半殺しで済ますわ!(相手が強大ならその限りではない)
3:早くルーデウスと再開したいわね!
4:私の家周りは、沙都子達に任せておくわ。
5:ガムテの少年(ガムテ)とリボンの少女(エスター)は危険人物ね。斬っておきたいわ
6:羽蛾は……自業自得ね、あいつ。
7:ルーデウスが地図を見れなかった可能性も考えて、もう少し散策範囲を広げるわ。
[備考]
※参戦時期は、デッドエンド結成(及び、1年以上経過)〜ミリス神聖国に到着までの間
※ルーデウスが参加していない可能性について、一ミリも考えていないです
※ナルト、セリムと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました
※沙都子から、梨花達と遭遇しそうなエリアは散策済みでルーデウスは居なかったと伝えられています。
例としてはG-2の港やI・R・T周辺など。
【うずまきナルト@NARUTO-少年編-】
[状態]:チャクラ消費(大)、疲労(大)、全身にダメージ(治癒中)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品×3、煙玉×4@NARUTO、ファウードの回復液@金色のガッシュ!!、鏡花水月@BLEACH、ランダム支給品0〜2(マニッシュ・ボーイ、セリムの支給品)、
エニグマの紙×3@ジョジョの奇妙な冒険、ねむりだま×1@スーパーマリオRPG、
マニッシュ・ボーイの首輪
[思考・状況]
基本方針:乃亜の言う事には従わない。
1:火影岩でセリムを待つ。
2: 我愛羅を止めに行きたい。
3:殺し合いを止める方法を探す。
4: 逃げて行ったおにぎり頭を探す。
5:ガムテの奴は次あったらボコボコにしてやるってばよ
[備考]
※螺旋丸習得後、サスケ奪還編直前より参戦です。
※セリム・エリスと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました。
-
「………っ!」
この島に来る以前、最後に疲労、という概念を感じたのは何時だったか。
きっと最後にそれを感じたのはアンナ・シュライバーと名乗っていた頃。
少なくとも、ウォルフガング・シュライバーと名乗り出してから疲労の概念は彼にはなかった。
「全く、忌々しい……」
路地裏で、壁にもたれ掛かり。
シュライバーは実に不服そうに吐き捨てた。
普段の自分であれば、あの程度の四人、瞬く間に殺すことができた。
乃亜が余計な事さえしていなければ。
二人殺したが、残る二人には逃げられてしまった。
最後の爆発から逃れるのに活動位階でかなりの無茶を強いられたのは、
彼にとって、全くもって予想外の事態だった。
氷を操る少年と戦った時もそうだ、シュライバーが全力を出そうとすると、
首輪から体力を吸い取られた様な感覚を毎回覚える。
全く、乃亜は何故自分に気持ちよく戦わせようとしないのか。
「だけど……まぁいい。次だ。まだまだ戦場は残ってる」
どの道この首輪がある限り、根本的に何処にも逃げられはしない。
時間は劣等たちに味方しない。
狭まっていく世界は、常にシュライバーに微笑む。
焦る必要はない。
放送で聞いた脱落のペースなら、一日程でこの殺し合いは終わる。
無論のこと、自分の勝利によって。
その後、乃亜を絶殺し、ツァラトゥストラとの戦争に舞い戻る。
それはシュライバーの中では既に確定事項だった。
今回も、誰も、自分に触れる事は出来なかったのだから。
「───まだまだ足りない。ハイドリヒ卿に捧げる血と魂を、もっと寄越せ」
ただ己の欠落を埋めてくれる男が本懐を遂げられるよう。
不老不死の軍勢との永遠の戦争の日々と言う地獄が顕現するよう。
たかが四人程度では我慢ならない。
そうだ、ボクは────
「誰一人として逃がさない。ボクは、」
男でも、女でもない。
完全無欠の生命体。決して死なない英雄で、化け物なんだよ。
そんな、ともすれば気が触れたとしか思えないアイデンティティに身を委ね。
餓えた白狼は、生ある限り更なる血を求め疾走する。
───逃れられるものなど、誰もいない。
【インセクター羽蛾@遊戯王DM 死亡】
【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 死亡】
【E-4/1日目/朝】
【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)ダメージ(中 魂を消費して回復中)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、欲求不満(大)
[装備]:ルガーP08@Dies irae、モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
※バリヤーポイント@ドラえもんは爆発に巻き込まれ破壊されました。
※D-4は爆発によって更地と化しました
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【鏡花水月@BLEACH】
うずまきナルトに使用。藍染惣右介の斬魄刀。
その能力は解号を目撃した対象への完全催眠。
相手の五感・霊圧知覚を支配し、対象を誤認させることができる。
蠅を竜に見せたり、沼地を花畑に見せたりと、対象に全く違うものを認識させられる能力。
非常に強力だが、解放前に刀身に触れて居たり、そもそも盲目の相手には通用しないという弱点がある。
本ロワでは更に乃亜によって調整が加えられており、以下の制限が加えられている。
・完全催眠が効果を発揮するのは10〜15分以内。
・同エリア内にいる対象に対してのみ。
・また、霊圧に差がありすぎる相手に対しては効果が薄れる。
この事から一般人が使用しても、効果は薄い。
・一回の解放後から12時間経過しなければ、再発動はできない。
【6000億枚の起爆札@-NARUTO-】
元々はマニッシュ・ボーイに支給される。
暁、最後の一人である小南がうちはマダラ(推定)を打倒する為に使用した起爆札。
その尋常ではない量以外は普通の起爆札と相違ない。
一枚使用した所で勝手に周囲に散らばって展開されるが、
一枚起爆すると他の起爆札も全て連鎖して起爆する様に調整が加えられている。
故に周囲に張り切れていない起爆札があってもそれを単体で再使用することはできない。
完全に一発切りの大花火である。
また原作では十分間の連続起爆と言う形で使用されていたが、本ロワでは時間差なしの一斉起爆する様に制限が掛かっている。
【バリヤーポイント@ドラえもん】
セリム・ブラッドレイに支給。
22世紀の警察官などが使用するひみつ道具で、紫の球体の形をしている。
これを使用している限り、不可視の障壁が半径二メートル以内に展開される。
ただし、乃亜によって以下の調整を受けている。
・一回の使用できる時間は十分以内。
・障壁は発動した場所で固定されるため、使用中は使用者は身動きが取れない。
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投下終了です
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投下します
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「ちょっとムカついちゃうわね!」
ぷくっと頬を膨らませ、愛らしい声でグレーテルは愚痴を吐き出した。
先ほど放送された乃亜のお叱りが、思いのほかグレーテルの勘に触ったのが原因だ。
ろくに殺せていない。
なるほど、だが確かに言われてみれば否定できないのも事実。
この殺人競争でグレーテルがやったことは、最初のロシア人よりはマシな軍人らしき男の子を殺した事だけだ。
兄様たるヘンゼルはもっと殺して大差を付けているかもしれない。
もっとポイントを稼がないと。
「ねえ悔しいと思わない?」
「……別に」
賛同を求められながら、クロエ、クロエ・フォン・アインツベルンはこいつ馬鹿なんじゃないかと頭を痛めていた。
乃亜の言っていた馬鹿な女の子。それは恐らく、美遊のことだろうと思っていたし気分は悪い。殴れるなら殴るだけ殴って乃亜の奴を殺してやりたいが、それでも乃亜に反旗を翻そうとは思えない。
クロとて自分が死にたくない為に殺し合いに乗っている。乃亜に怒る資格はない。
それとは別に、マーダーの煽りも別に聞く必要はないと考えていた。
優勝するのが目的でその為に参加者を減らすのは大事だが、最終的に生き残れば勝ちのゲームだ。わざわざ殺した数を気にする必要なんて───。
「貴女、ヴァージンね?」
「歳、考えてくれる?」
「あら? 私なんて、ヤリまくりだったわ。今時の娘にしては遅れてるのね」
ロリビッチという単語がクロの頭に浮かぶ。けれども、それが世のロリコンが喜ぶような代物ではないのも理解していた。
この娘はもう何処かで壊れているのだ。何があったかは知らないが、世界の裏側に放り込まれ壊されてしまった娘。
救う手立てはなく、あるとすれば死こそがこの先散らされていく多くの命と、この少女自身の救済にもなる。そんな極限までに壊され戻れなくされた少女。
「そういう意味じゃない事は、分かっているでしょう?」
気配を消して、すっと素早くグレーテルはクロを抱擁した。
これらの殺しに通じる技量も非常に高い。だが、粗削りで我流で得たものだとクロの英霊(ちょっかん)が判断する。
技が磨かれておらず、研鑽されていない。生活の中で必要だから、無意識の内に身に着けた能力であって誰かから師事されたものではない。それでも高い水準にはある為、才もあれば場数も踏んだのだろうが。
グレーテルの力は知っている。全身を鋼鉄の刃物に変える能力だ。
やろうとすれば、クロをこのまま刃に変えた全身で引き裂く事も可能。
だが、常に全身が刃物になっている訳ではない。一定の切り替えが行える。硬さなどの耐久値は鋼鉄の性質を維持したまま、非戦闘時は通常の人の体として運用できる。
逆に言えば、非戦闘時から攻撃に切り替えるまでにほんの僅かにラグが生まれる。
そのラグの間にクロがグレーテルを斬り裂き、返り討ちにすることは十分可能だった。
鋼鉄を破る剣も脳内にイメージし、それを扱う技量もある。
だから、グレーテルが殺しに来ることをクロは熱烈に望んでいた。殺す理由が欲しかったから。
「まだ誰も殺した事がないのね」
耳に吐息が掛かり唇の動きが伝わってくるほどの至近距離でグレーテルは囁く。
「ええ、分かるわよ。私達もそうだったの。そういう顔をしていたの」
ちゅっと、水音と共に粘膜が頬に触れる。クロの褐色の肌に口付けをし、グレーテルは頬を赤らめていた。
「可愛いわ。お姉さん、貴女とても可愛いわよ」
からかわれていた。遊ばれていた。ふざけられていた。
クロがグレーテルを何時でも殺せるのを見越した上で、その理由をチラつかせてクロの反応を見て楽しんでいる。
「うるさい……!」
まるで水の中を、亡霊に足を引かれ沈められているようだった。
───
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「海馬ランドにアルトカラズまで…乃亜の奴……!」
放送を聞き終えて、海馬モクバは憤っていた。
15人の新たな死者に加えて、モクバと海馬の夢である海馬ランドをこんな殺し合いに持ち込んだことに。
「施設を増やすと言っておったが、それは本当に施設を新しく作って増やしたのか? お前はどう思っておるのじゃ?」
ドロテアが気にしたのは乃亜の口ぶりだ。
この地図に記載された施設の表示を増やすのではなく、施設を増やすと言ったのだ。
言葉通りの意味なら、そのまんま施設を新たに建設したような言い方になる・
「多分マジで増やしたんだと思う……」
ここが電脳の世界ならかつてのBIG5との諍いの場のように、乃亜の自由自在に操作出来るだろう。
しかし、モクバにとっても一つ気になる点があった。
『人間の身体を昏睡させたまま保存するのは中々骨が折れるわ』
放送前に合流し情報交換後に分かれた風見一姫という少女。
一姫の明晰な頭脳を前にし、モクバも確証は持てないまま電脳世界という仮説を伝えた。
それに対し、元々タナトス・システムに繋がれていた経験から、殺し合いに巻き込んだ90人近くを接続するのは考え難いと話す。
奇遇にもそれは、キウルがルサルカから聞かされた推測とほぼ同じ内容。
『実体験から言っているの。どう? 説得力は増したでしょう』
一姫の言うようにこれだけの人数を機械に接続するのは、海馬コーポレーションの技術でも難しい。
『もっとも、私や貴方の知らない未知の技術が使われているかもしれないけど』
考えられる想定は無限だが、その中から的を絞っていかなければならない。
-
(だけど、乃亜は俺の世界の住人だ。技術の基になってるのは、海馬コーポレーションから流用してるはず……)
使いようによっては30日で人類を滅ぼせるオーバーテクノロジーだ。これを使わない手はない。
1から全てのシステムを再構築するのはいくら乃亜でも難しい。というより無理だろう。
モクバもシステム開発の難しさは理解している。通常のシステムだって、様々な技術を流用して骨組みを作り出すものだ。
そこに異世界の技術や、ドロテアの言う錬金術、一姫が出会ったフリーレンというエルフの言う魔法。
他にも数々の異能が介入するのであれば猶更、白紙から絵を描くより骨組みから肉付けしていかなければ、システムとしての方向性も定まらない。
(……この手があいつに通じるか、だな)
青眼のカードを手に取り、モクバは見つめる。
ドロテアが言うにはカードから特殊な力を感じるらしい。
だが、果たしてカードがそれ単独の力で実体化するのだろうか?
ドーマの暗躍で、モンスターが実体化する現象は記憶に新しい。それで海馬コーポレーションの株価は下がったのだ。とんだ風評被害だ。
電脳世界ではないという前提で、ではこの世界がドーマや千年アイテムのような力が蔓延った空間でモンスターが実体を得るのだろうか?
しかし、解せないのはカードの使用に時間制限があることだ。ゲームとしては当然のデメリットかもしれないが、そう簡単にモンスターの力を制御できるものなのか。
(海馬コーポレーションのソリッドビジョンシステムが、ここでのモンスター実体化のシステムに流用されているとしたら?
このカード自体に何かしらのテキストデータが含まれているんじゃないか)
殺し合いに合わせてデュエルモンスターズを実体化し、特殊な効果も再現しているのならカードからデータを読み取っている可能性は高いとモクバは予想する。
(カードのデータにウィルスを持たせて、この殺し合いに関わるシステムを破壊する。
ジークがやっていた手だけど……)
ドーマの風評被害やその他諸々の損害と損失を取り戻す為に、海馬コーポレーションはKCグランプリを開いた。
だがそれに付け込んで、海馬瀬人を逆恨みするジークフリード・フォン・シュレイダーが大会に潜入し、あろうことか使用不能カード「シュトロームベルクの金の城」を使えるようシステムを改造し、更には発動後に海馬コーポレーションのプログラムにウィルスが発生するよう仕込まれていた。
その時は海馬とモクバの迅速な対応で最低限の損害で済み、遊戯が機転を利かせデュエル内で「シュトロームベルクの金の城」を破壊した事で、ジークの目論見も頓挫したが。
それと同じように、カードの実体化を管理するシステムから、ウィルスを送り付けることが出来れば乃亜に大打撃を与えられるかもしれない。
場合によっては、同じようにシステムで管理されているであろう首輪の制御も乗っ取れる。
(首輪の解析もだが、カードの解析も必要だ)
青眼は戦力として貴重過ぎる為に、下手に使えないが下級モンスターであれば実験に召喚して見ても良いかもしれない。
そしてモンスター召喚のメカニズムを把握し、そこからウィルスを送り込む。
(ドロテアには伝えておくか)
監視カメラに気付かれないよう、メモにそれらの仮説を書き込みドロテアへと渡す。
ドロテアも呑み込みは早く、既にIT関連の仕組みには明るくなっていた。
(───ほう、中々面白い案じゃの)
それらの仮説も一通り中身を確認し、ドロテアは静かにほくそ笑む。
-
「僕は死んだ中島以外、知り合いは居なかったよ」
その横で、名簿の確認を終えたカツオが報告するように呟く。
ドロテアは特別親しい子供も居ないようなので、名簿を雑に流し見しただけだがカツオは家族や友人がいないか、何度も見返していた。
「そっか、中島の事は残念だけど…他に知り合いが居なくて良かったな」
「モクバ君は大丈夫なのかい?」
「いや…インセクター羽蛾は別に……それにしても、この龍亞って誰だよ?」
カツオと中島の名前が並んでいた事から知人同士を纏めて記載していると思っていたが、モクバと同じ列に並ぶ最後の名前だけが全く見覚えがない。
知り合いにこんな名前はなく、ならデュエルで優秀な成績を残した子供かとも思ったがやはり心当たりはない。
「知り合いだけではなく、同じ世界の住人を纏めているというのはどうじゃ?」
「ありえる話だな」
自分と羽蛾だけならともかく、全く無関係の子供まで連れて来られた事に怒りが込み上げてくる。
何とかして、乃亜の元に乗り込みぶん殴ってでももう一度人の心を取り戻してやらなくてはならない。
「急ごう。海馬コーポレーションへ」
ウィルスカードを作るにあたって、やはり機材の調達先としての有力候補は海馬コーポレーション。
乃亜がこちらの思惑に気付いて禁止エリアにされる前に、何とかカードの解析を終えるかウィルスカード作成のヒントを掴んでおきたいところだった。
「……モクバ君は凄いな。会社の副社長なんだろ?
Amazonとか東芝みたいな大手企業なんだよね」
歩きながら、カツオが口を開く。
カツオからすれば、あまりにも現実味のないモクバの境遇には感嘆しかない。
だからこういう殺し合いの場でも、冷静に行動できるのかと尊敬すらしてしまう。
「兄サマのおかげさ。俺は兄サマを手伝ってるだけで、そんな大したことはしてないぜ」
「副社長なんて、僕からしたら神様みたいなもんだよ。部下だって一杯居るしさ。
僕なんてしょっちゅう父さんに怒られるし、姉さんには追い掛け回されるんだ」
「……俺からすると、そっちのが羨ましいぜ」
「えぇ!?」
「俺、両親が死んじゃって本当の父親に怒られることも……もうないから」
そこまで話掛けて、モクバはふと我に返る。
こんな話を聞かされたって、面白くもなんともない。
カツオも気まずそうにしていた。
「だ…だから、兄サマと俺には夢があるんだ。親のいない子供や恵まれた子供達が楽しんで遊べるような遊園地を世界中に作ってやるんだぜぃ!」
ただでさえ殺し合いなんかに巻き込まれ暗い気分なのだ。もっと前向きな明るい話に繋げようと、兄弟二人の夢について口にした。
「そう、貴方も孤児なのね」
幼い少女のあどけなさと陽気さが入れ混じった声だった。
本当に声だけなら天使のような。
でも、それが天使の声帯を持っただけの飢えた肉食獣なのはすぐに分かった。
彫りのある整った美顔、喪服のような黒いドレスと白銀の長髪がマッチし少女の神秘さを醸し出す。
ただの一点、べたりとこびり付いた赤黒い血を除いては。
しかもその血は乾き出している。だから見積もって、数時間前に殺害したということになるが、その間この少女は一切血を洗い流そうとかそういった考えをせずに、今この瞬間モクバ達に見せ付けるように微笑んでいる。
「奇遇ね。私もなのよ。
見たところ日本人だけど、ルーマニアやシチリアなんかに比べればマシかしら。
治安がいいと聞くものね」
「っ……」
少女の隣に居るもう一人の褐色の少女クロは眉を歪ませて、改めてこの血塗れのグレーテルを目にした。
恐らくは出会ってから初めて、同じ人間としての視線をグレーテルに送る。
この少女が壊れたルーツの一端を目の当たりにした気がした。
「……ルーマニア?」
「モクバ」
呆けたように呟くモクバに二人の少女を見比べ、品定めを済ませたドロテアが声を掛ける。
-
「厄介なのは喪服、強いのは色黒じゃ」
その意味合いをモクバはすぐに理解した。
見た通り、殺しに抵抗はないのがグレーテル。逆にまだ殺しを忌避しているのがクロ。
ドロテアも血生臭い世界を生きてきた。相対者の強さや覚悟を測る勘は養われている。
「どちらか一人ならともかく、両方はきついのう」
「お前は喪服を相手してくれ」
「ほう…良いのか?」
「ああ…考えがある───」
モクバから耳打ちされた後、魂砕きをランドセルから引き抜きドロテアが駆け出す。
狙いはモクバの指示通り、喪服の少女グレーテル。
華奢な体格には不釣り合いな大剣を軽々振り上げ、グレーテルの愛らしい顔へと振り落とす。
「残念、剣では死ねない体になってしまったの」
鼻先から人体には不釣り合いな金属音を響かせ、グレーテルは口許を釣り上げていた。
顔面で大剣の刃を受け止め血すら流れない。ドロテアの手にある柄から伝う感触は人のそれではなく、鋼の剣と打ち合うのと同じ硬さ。
「変わった体じゃ。時間があれば解剖(バラ)したいとこじゃの」
「フフ…私も貴女で遊びたいわ。簡単には死ななさそうだもの」
こいつ趣味悪いのじゃ。
ドロテアは自分を棚に上げ、グレーテルを腫物を見るような目で見る。
我ながら悪党の自覚もあるドロテアだが、そのドロテアからしてこの少女は血の匂いがこびりつき過ぎている。
ドロテアの剣戟を両腕を広げ、けろっとした顔でグレーテルは受け続け微笑む。
そして腕を螺旋状に変質させ回転させ、ドリルのように振るう。
斬り付けていた魂砕きを手元に引き寄せ盾にしながら、グレーテルの常人離れした膂力に圧される。
「随分硬いのね」
火花を散らしながら、欠片も削れていない魂砕き。
グレーテルは刀剣に明るくないが、スパスパの実の能力を凌げるこの剣の強度は並ではないと理解できる。
この剣を砕こうと更に腕に力を込めるが、ドロテアは微動だにしない。
相手もまた容姿に見合わぬ怪力の持ち主らしい。
地獄の回数券で身体能力を強化していなければ、こうして鍔迫り合いも叶わなかった。
「ふん、その面にこの匂い。何かの薬じゃな」
「へえ鼻が利くの?」
空いた片手も柄に沿え、両手持ちで魂砕きを振りかぶった。
ドロテアの構えが野球のバッターのようであれば、グレーテルはまさしくボールのように打ち飛ばされていく。
電柱を薙ぎ倒し、何度もコンクリートの地べたに打ち付けられ転がっていく。
普通の人間なら血を撒き散らし、原形を留めていればマシな程の破壊痕を刻みながらグレーテルは狂的な笑みを浮かべて平然としていた。
やはり大したダメージが入っていない。鋼の肉体もさることながら、ドロテアから見て未知の薬品で肉体を更に強化している。
肉体改造を重ねたドロテアの膂力と打ち合えるのがその証拠だ。
(どんな調合か知らぬが、妾とやり合えるほどの怪力…興味深いのう。
じゃが、あの娘…あれがどんな薬か理解しておるのか?)
永い時を生きる事を目的とするドロテアであれば、地獄の回数券は興味こそそそられるが決して服用することはない。
身体の異常活性化、あれは服用者へのリスクを考えていない。
1回や2回の使用ですぐにどうにかなるものでもないだろうが、余程追い込まれでもしない限りドロテアは絶対に使いたくない。
あとでどんな副作用が待ち受けているか、考えるだけで悍ましい。
「ッ!」
肉薄し袈裟懸けに一太刀、横薙ぎに腹を切り裂く、剣を引き胸元へと突く。
しかし、服が破れるばかりで肉を裂く柔い触感が一向にない。
防御を必要としないグレーテルはゆっくりと歩きながら、ドロテアへと刃物に変えた両腕で抱き締めるように触れる。
ドロテアは刃の左腕に剣を叩きつけ、右腕を身を逸らして避ける。
一度距離を取ってから、大きく剣を振りかぶってグレーテルへ打ち付けた。
小柄なグレーテルの体は浮き上がり衝撃に煽られたまま吹き飛んでいくが、やはり傷一つ付いていない。
「チィ…イゾウさえおれば……」
鋼鉄の身体が厄介だ。
ドロテアの怪力を以てしても切り裂く事が叶わない。仮にこれがイゾウのような優れた剣技を持つ戦士であれば鉄すらも両断し得るかもしれないが、ドロテアは身体スペックを引き上げただけで、本職は戦闘ではなくサポート向きの研究者だ。
魂砕きもほぼ力任せに棒を振り回すのと変わらず、その性能を最大限発揮していない。
-
(負けはせんが、奴を切れもせぬ。これでは同じことの繰り返しよ)
いくつか搦手もなくはないが、相手の動きを止めるといった程度では元から備わった鋼鉄の身体を打ち破るには至らない。
(さて奴の方は……)
戦況の進まぬ斬り合いに苛立ちながら、横方のモクバを一瞥した。
───
(何なのよこいつ!!)
白と黒の双剣、干将莫邪を投影しクロはモクバとカツオへと斬りかかる。
その瞬間、モクバが翳したカードからエルフの剣士が召喚された。
あの少年の使い魔や式の類か。
見た目通り剣技を収めたエルフのようだが、クロがその身に秘めた英霊の力には及ばない。
数度の斬り合いで動きを見切り、クロはエルフの剣士を斬り裂いた。
(斬れない……! どうして?)
確実に斬れると踏んだ一撃を、何故かエルフの剣士は確実に防ぐ。
まぐれかと思ったが、一度や二度ではなく何度も同じように致命的な一撃をエルフの剣士は避け続けていた。
力量だけで言えば、クロが勝っている筈だ。現にエルフの剣士はろくにクロに剣を当てれていない。
なのに何故、致命打に繋がる一撃だけはクロの剣技を上回れるのか。
説明のつかない事象にクロは翻弄されていた。
(そう、翻弄するエルフの剣士は攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。
やっぱりこいつはデュエルでいう上級モンスター以上の強さなんだ)
タネを明かせば簡単な話、モクバが召喚したエルフの剣士持つ能力は戦闘耐性。
上級のモンスター以上の強さは持つ者では撃破不可の効果を持つ。
青眼以外にも支給されたカードの一つで、決して強力ではないが小回りの利くカード。
先の悟空に化けたカオスとの交戦では、サトシとピカチュウに後から来たガッシュ達も加わったために温存と様子見に徹し、藤木は弱すぎてその戦闘態勢を発揮できない為、使う暇がなかったが、今の戦況にこれ以上に適したカードはない。
あえて強さとしては、クロ以下のグレーテルをドロテアに任せたのもエルフの剣士の能力を発揮させる為。
「下がってろ。カツオ」
「う、うん……」
エルフの剣士とクロの剣の打ち合いを見ながら、モクバはカツオと共に数歩後ろに下がる。
ドロテアの見立ては正しい。
モクバはクロの様子とグレーテルを見ながら、それを再認識する。
(あの色黒女、強いけど…多分殺し合いに乗るのはまだ迷ってるんだ)
エルフの剣士の戦闘耐性があるとはいえ、もっと冷静に立ち回れていればエルフの剣士を無視して後方のモクバ達を襲うことも出来るはず。
それをしないのは視野が狭まっているから、そしてそうなるほどに精神的に追い込まれているから。
逆にドロテアが相手をしているグレーテルは殺しに一切の歯止めも良心の呵責もない。
もしモクバの相手がグレーテルであれば、クロと違い冷静に戦況を分析して即座にモクバ達に攻撃を仕掛けているに違いない。
-
(リミットはあの色黒女が冷静になるまでだな……!)
精神的な揺らぎは大きいとはいえ、生半可な相手ではない。時間を与えればその分だけ、分析の猶予を与えてしまう。
「フンッ!」
エルフの剣士の咆哮が轟く。
剣術を学んだ素早い動きでクロに斬りかかるが、干将莫邪から使い手の技量を再現し更に赤い弓兵の力を継承したクロには届かない。
剣を一閃振るった時には、既にクロは10以上の剣戟を叩き込む。
普通ならそれで細切れにされるはずなのだが、この瞬間持ち前の戦闘耐性により俊敏さが跳ね上がり全て避けきっている。
「ハァッ!!」
(おかしい)
クロを狙った剣が空ぶっていく。何度目かも分からない同じ光景を見て、クロも違和感に気付く。
(もしかして、こいつはそういう因果操作の能力を持っている?)
力量では及ばないこの剣士が未だ倒れないその理由はクロの知識に照らし合わせれば、そういった因果を操作しているものではないか。
つまるところ、こちらの攻撃は全てを避けられるが純粋な実力ではクロには及ばず勝てもしない。
(こんな雑魚、相手にしても時間の無駄ね。狙うべきは───)
弓を投影し、偽・螺旋剣を螺旋状の矢へと変形させ現出させる。
おそらくカードを除けばただの子供だが、これ以上厄介な使い魔を出されても面倒だ。
魔力消費は些か荒いが、狙撃からのオーバーキルで確実に仕留める。
「あいつ、剣士の癖に弓も使うのかよっ!! ゲームでも職業は固定だろ!?」
「ゲームと現実の区別はつけなさい。坊や」
「お前もガキじゃないか!!」
モクバの抗議を受け流し、クロは弓矢を構え照準を合わせる。
後は矢を射れば、それだけで二人の少年は粉々に消し飛ぶ。
(間に合わなかったわね……ニケ君)
この殺し合いを何とかすると、そしてクロの問題を解決すると約束した勇者の少年を思い浮かべて……矢を射る動きが僅かに静止した。
まだ未練があるのか。
自分に心底飽き飽きしながら、クロは唇を噛みしめ弓を引く。
「今だ!!」
モクバの叫びと共に、カツオが一枚のカードを掲げる。
「水(ウォーティ)!!」
モクバの使う玩具のようなカードとは別のタロットカードのようなものをカツオが翳す。
膨大な流水が発生し、それが人魚姿の少女のフォルムへと変化する。
それは好戦的な笑みを浮かべ、津波のように水を伴ってクロへと押し寄せた。
新たな主により、クロウカードより生まれ変わったさくらカードの内の一枚。
それはデュエルモンスターズ同様、本来の主のさくら以外が使用する場合、魔力のない者でも一度のみ発動でき、一定のインターバルを置く事で再使用可能になるよう乃亜に調整されていた。
-
「ドロテア!!」
「そう叫ばずとも分かっておるわ」
モクバの叫びと同時にドロテアがグレーテルに剣を叩きつけ、動きを阻害させながら飛び退いていく。
そうこの位置は丁度、クロとグレーテルが一列に並ぶ。二人を一網打尽にするのに適した位置だ。
まるで滝のような水流が人を飲み込もうとする様は津波のよう。
グレーテルのひらりマントでも、あれは避けられるか分からない。
クロは舌打ちし、切札の一枚をここで切った。
「させない───熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!」
クロの腕の先に紫の花びらのようなシールドが展開され、濁流のような水の防波堤のようにクロとその後方にいるグレーテルを覆う。
英雄ヘクトールの投擲を唯一防いだとされる逸話から、投擲に対し無敵の耐性を持つ宝具。
翻弄するエルフの剣士同様、条件を満たした場合に無敵となるクロの持つ最大の防御。
本家ではない劣化した投影品、更にその劣化した投影品という代物ではあるが、クロウ・リードを超えた魔術師であるさくらならまだしも、魔術に関しド素人以下のカツオが発動した「水」であれば防ぐのは造作もない。
「ッ───!!」
元より気性の荒い「水」が平然とするクロに苛立ちながら水流の勢いを強めるが、花びらは変わりなくその勢いを殺し二人の少女を守り続ける。
「頑張って考えたみたいだけど、終わりよ」
この水の魔術、恐らくは時計塔の階位に当て嵌めれば高位の階位にあたるであろう魔術師が作り上げた魔術品。
乃亜の手が加えられているのだろうが、担い手がド素人以下でも人を飲み込む程の規模の水を操れるのは驚嘆に値する。
だがやはり相手はただの子供。これさえ凌げば、後は雑魚の使い魔を無視して二人を殺してグレーテルに加勢して終わりだ。
「それはどうかな?」
勝ちを確信したクロの目には、不敵に笑いランドセルから籠手のようなものを一つ取り出し両腕で構えていたモクバの姿が飛び込んだ。
(あれは───)
その籠手から発せられる雷を見て、クロは足元がぬかるんでいることに気付く。
そして背後のグレーテルも同じく。
「小学生でも、水は電気を伝うってのは分かるだろ? 鉄だって電気は防げない」
モクバに支給された最後の武具、雷神憤怒・アドラメレク。
雷神の名が表す通り、雷を操る籠手の帝具だ。
その重量や反動から、モクバの幼い体躯では二つあるうちの一つを両手で構えないと使用出来ないが、威力自体は半減されるとはいえ人を簡単に感電死させられることに変わりはない。
カツオの放った水により足場を濡らされた事で、そこを通電させクロとグレーテルを感電死させる気だろう。
特にグレーテルが高い耐久値を持っていようと、アドラメルクの雷であれば話は変わる。
鋼鉄の刃に全身を変化させるのがスパスパの実の力であり、物理には耐性を得ても電気を無効化する能力は元より存在しない。
地獄への回数券の強化を鑑みても、致命的な一打に繋がるのは明らかだ。
-
「グレーテル───」
駄目だ。クロ一人なら何とかなるかもしれないが、グレーテルを救うのは無理だ。
熾天覆う七つの円環の行使で、通常以上の魔力を消費したのも手痛い。
ここはグレーテルを見捨て、そして撤退する。
心の中でまだ人を殺めずに済んだことに酷く安堵している自分が居るのを、クロは見つめないようにしてここからの離脱方法を脳裏に展開していく。
「ここからの脱出プランがある。俺達と組む気ないか?」
籠手は水に付けられ、だが雷撃は発せられないまま代わりに響いたのはモクバの声だった。
「なんですって……?」
水流の勢いが止み、クロは熾天覆う七つの円環の展開を停止し僅かに息を荒げながらモクバを見る。
「確実じゃないけど、少なくとも首輪を外すまでは考えてる。
殺し合うなら、そいつが失敗してからでも良いだろ?」
モクバの言葉を聞きながら、クロはモクバとの距離を測る。
人知を超えた英霊の脚力であれば瞬時に縮まる程度の開きだが、相手が使うのは雷撃だ。
足元は濡れたまま、雷撃より速く走れというのも難しいか。
なら転移魔術で背後に回り斬り殺す。だが、エルフの剣士がモクバの傍に付いている。奴が盾になればクロでは斬り捨てることはできない。
しかもカツオの召喚した水も未だ健在で、下手に突っ込むのは危険だ。
グレーテルもそれを理解している。
しかも、彼女にはクロのような高速移動の手段は持ちえない。まず近づくだけでも非常に困難である。
状況はグレーテルが一番不利だった。
「手を組むなら、プラン内容は話してやる」
「そんなのを信じろっていうの?」
「盗聴や盗撮の可能性もある。伝える方法は限られているからな。
だが、こいつは“交渉”だ。信頼で成り立ってる。
そこで嘘を吐くなんて高いリスクを冒すような素人染みたマネはしない」
もっともらしいと言えばそうなる。
だが信憑性は不思議と感じられた。
この少年は、この手の駆け引きが初めてではない。その一点に限ってクロやグレーテルより場数を踏んでいる。
「……私は、どうしても優勝しなくちゃいけないの」
「何が望みだ」
「永くない。不治の病に近いわ…残された時間は数日ほどよ」
「こう見えて、俺は大企業の副社長だ。最新の医療を提供できるぜ。
あそこにいるドロテアも錬金術師、オカルト方面の医療にも詳しいらしい。
あいつに病状を話せば、力になれるかもしれない」
「錬金術……?」
現代医療では解決できないが、錬金術といったオカルト方面なら話は変わってくる。
モクバもそれを不治の病に近いというワードから察し、海馬コーポレーションの人脈を使った最新医療の他にオカルトに関する解決策を提示した。
その目論見通り、クロから敵意が薄れだし考えが揺れ出していた。
まるで都合の良い話が、次から次へと降って湧いてくる様に動揺もしているようだ。
あともう一押しだ。
焦らず、しかし迅速にクロの心代わりを後押しするよう言葉を選ばなくては。
-
「まだ目を背ける気? お姉さん」
モクバが切り出す前にグレーテルが割り込んだ。
この局面、一番美味しくないのは他ならぬグレーテル一人だ。
揺らいだクロをこちら側に引き戻さなくては、グレーテルに先はない。
「この世界は人を殺す事で生きられるの。貴女もそれを分かっていたから殺し合いに乗ったんでしょう?
生きる為に殺さなくちゃいけないのよ。そうやって世界というリングを回す。そういう仕組みなの」
「な、何を言ってるんだ……?」
こういった場では自分に出来ることはないと沈黙していたカツオが溜まらず疑問を口にした。
クロの不治の病を治す為に、優勝して乃亜に願いを叶えて貰うのは理解できる。それが良いとは思えないが。
グレーテルの言っていることは、それ以前の問題な気がする。
まるでカルト宗教の教えを説いているような胡散臭さと、相互理解不可能な程の価値観の差を覚えた。
「人を殺さなくたって、別に生きてたって良いじゃないか」
カツオにとっては本当に当たり前で普通の摂理だ。
牛や豚や魚を食べなければ生きていけないのは知っているし、自分の見えないところでそうして命を奪っているのは理解している。
けれども、わざわざ人間を殺す必要なんて何処にもないはずだ。
「モクバ、色黒はともかくこやつの話に耳を貸すな。
色黒、お前もこやつの言っている事には頭を痛めていたとこじゃろ?」
ドロテアも伊達に長年を生きていない。
クロはまだこちらに取り込める余地を見出していたが、グレーテルは完全に理外の理で生きている者だと察していた。
自分も含めイェーガーズの面々やエスデスなども心底ろくでなしの外道だと自覚しているが、人の社会には可能な限り溶け込み利害を考え手に掛ける人間は選んでいる。
ドロテア達にも一定のルールと線引きは存在しているからだ。
それはあの最強たるエスデスも例外ではない。
だが、グレーテルは無差別だ。全てが殺戮対象に含まれた爆発物。ただ生きているだけでそこかしこに災いを齎す、完全な災害のような存在。
乃亜の人選にも納得してしまうものだ。殺し合いを回すという点では、これ以上の適任者はない。
「……お前、“チャウシェスクの子供たち”だろ?」
「なんじゃモクバ?」
「意外に博識じゃない」
「ルーマニアに孤児って言われたら、簡単に分かるぜ」
ある独裁者が労働力の確保の為、中絶と避妊を禁止したことで溢れかえった子供達。
親達は自分達の子ではないと、望まれなかった子供を独裁者の子だと比喩した事で孤児たちはチャウシェスクの子供と呼ばれた。
子供のいない人々に税を掛けるなどして出生率こそ上昇したが、増えた子供を育てられず親は育てられない子ならば捨てるしかない。
捨て子が増え、孤児院のキャパシティも当然ながら崩壊していく。そうなれば当然孤児の境遇も劣悪の一途を辿る。
恐らくこの少女はその中の一人。
別世界が存在するのはモクバも認識していたが、ドロテアなどの全く別の異世界を除けばある程度の歴史は一致しているのもカツオや一姫達との会話で確認済みだった。
それは当然、負の歴史も。
-
「お前も俺達と一緒に手を組む気はないか」
「モクバ!」
「ここから脱出した後、お前達の生活を俺が保証する。
薄汚い大人の好きになんてならなくていい。そこらの孤児院なんか、比べ物にならない悪くない生活が出来るぜ」
ドロテアの叱咤を受けながら、モクバもあの少女が話し合いに応じるような相手ではないのを理解していた。
スパスパの能力さえなければ、モクバの承諾も得ずドロテアはグレーテルの首を刎ねていた。それだけの厄ネタだ。
だが、そうだとしても交渉する意味はあると考えていた。
グレーテルと住む世界が違うとしても、本当にここから脱出出来れば自分達の世界に招いて戸籍も用意し生活の面倒も見るつもりだ。
「それは素敵な提案ね。私も仲間に入れて欲しいわ!」
「ッ───」
それは望んだとおりの返答。
しかし、あまりにも迷いのない返事であるが故に裏が絶対にあるとモクバは思考してしまいグレーテルの身が逸れた事に1テンポ反応が遅れる。
次の瞬間、グレーテルの両手に二丁の白と黒の拳銃が握られていた。
エボニー&アイボリー。
“45口径の芸術家”と謳われたガンスミスにより制作されたカスタムガン。
人間を愛し悪魔を討つ半人半魔のデビルハンターに託されたそれは、皮肉にも今は世界を憎み人にあだなす殺人鬼の手に渡っていた。
「グォオオオォ───!!」
マシンガンのように弾かれる弾丸をエルフの剣士が盾となり庇う。
ただの二丁拳銃からは考えられない弾丸の連射。
悪魔を殺す為に、人外の膂力で扱うことを想定された無茶なカスタム。
地獄への回数券により人並外れた強靭な肉体を得たグレーテルはその性能を引き出す事に成功していた。
だが、なまじグレーテルが悪魔の実と地獄への回数券の併用によって戦闘力が上昇した事で戦闘耐性への条件を満たした為、エルフの剣士は破壊されない。
「ぐ、痛ってぇ……!」
エルフの剣士が庇いきれない弾丸がモクバの肩を腕を足を掠り血で赤く染めていく。
幸いにして着弾はないが、全身を掠り傷という極小のサイズとはいえ抉られるのは中々の激痛だ。
アドラメレクの籠手も濡れた地面から離れ、クロに突き付けられていた雷撃の矛先も完全に逸れた。
「ええい! 喪服は諦めるのじゃ!」
ドロテアの怒声が響く。
クロと違いこれと話し合う余地は存在しない。
片腕で顔を庇い、グレーテルから弾丸を浴びせられながら魂砕きを振るう。
強化された肉体はマシンガン程度なら、一定以上は耐えきれるうえに急所は確実に庇っている。
一気に肉薄し剣とグレーテルの鋼鉄の腕から金属音が響かせながら、効かないと分かっている剣戟を叩き込む。
モクバから狙いを外しドロテア自身に注意を向けるのが目的だ。
「諦めろ……?」
いつでも雷撃を浴びせられるという状況下の中、迷いもせず敵対を選んでくるグレーテル。
頭は切れるが理性があるとは言い難い。
殺しや争いが息を吸うような当然の行為として、グレーテルの中で染みついている。だから、殺しの判断基準は彼女の気まぐれであり、それをしたいかしたくないかのどちらかでしかない。
そんな常人には測れない価値観の持ち主を説得するのは困難を極める。
「一日で良い。殺しをやめてみろ」
理屈では理解していた。意味のない行為だと。
だが、生きてきた世界も境遇も異なれど、親と望まぬ別れを強いられ大人達に好きなように弄ばれた苦しみをモクバは知っていた。
「俺と兄サマの作った海馬ランドで、好きなだけタダで遊ばせてやる。金なんて要らない、上手い飯も温かい風呂も寝心地の良いベッドも全部タダだ!」
尊敬する偉大な兄と誓った夢。
親のいない恵まれない子供達がタダで遊べるような遊園地を世界中に作ること。
-
「その一日でお前の大好きな殺しなんかより、よっぽど楽しくて好きになれる事を見付けられるはずだぜ!」
この少女こそ、こういう世界中の子供達の為に作ろうとしているのが、兄と自分の夢である海馬ランドのはずだ。
その救わねばならない子供の一人を、目の前で取りこぼすなんて真似はモクバには出来ない、してはいけない。
「そう、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわね。
ここに居る全員を殺してから───」
モクバの必死の訴えも何も響かないまま、グレーテルは右手のアイボリーをドロテアに撃ち続けたまま左手のエボリーでモクバを射撃する。
「ぐ、がっ───!」
弾丸はエルフの剣士が庇うが、例え直撃でなくとも連射し続けていれば、いずれは無数に増える掠り傷にモクバは耐えられなくなる。
焦る必要はない。じっくり削って行けばいい。
腕をクロスさせた格好のまま、グレーテルは更に笑みを増していた。
ドロテアの剣では自分は斬れない。モクバの籠手は脅威だが、気を張っていれば不意を突かれでもしない限り当たる事はない。後ろの坊主頭など、カードの力を加味してもまるで脅威じゃない。
「お姉さん、いつまで逃げ続ける気なの? 良い事を教えてあげる。
私が見た中で一番最初に死んじゃうのは、決まってお姉さんみたいな聞き分けの悪い子だったわ。
お姉さん、死にたくないんでしょ?」
「それ、は……」
クロは揺れているが、まだこちらに傾かせることは出来る。
モクバがグレーテルに意識を割いていたお陰で、まだ完全には説得しきれず相手陣営には落ちてはいない。
有利なのはグレーテル。まだ巻き返せる。そう死ぬはずがない。だって、自分達は何人も殺してきてその分だけ───。
「お前、このままじゃ本当に死んじゃうぞッ!!」
動きは止まらない。常にドロテアとモクバとカツオに意識を向け、不測の事態に対応できるように立ち回り続けている。
ただ、グレーテルの顔から笑みが消し飛んだ。
エルフの剣士の後ろでモクバは張り裂ける程の大声で叫ぶ。
「死ぬ? 私は死なないわ。沢山殺してきたもの、”私達”はその分生き続けられる───」
「逆だ! 過去が積み重なって今があるんだ! だから憎しみを積み重ねたって、また次の憎しみが生まれるだけだ!
自分の憎しみや怒りに他人を巻き込んだって、永遠に闇から抜け出せやしないんだ!!」
「だから殺すのよ。そうしてリングを回していく、それが……」
「そうして、敵だけ増やして何が残るって言うんだ。誰かを殺したら、そいつの仲間や家族が必ずお前の敵になっていく。
そんな奴等が手を組んで結束されたら、もうどうにもならないぞ!
お前も分かるだろ!? 一人の奴より一人じゃない奴のが何倍も何十倍も何百倍だって強いんだ。
お前の仲間が他に何人いるか分からないしどれだけ強いか知らないが、いずれ数の暴力でリンチされて殺されちまう!!
きっと俺なんかよりも戦いを潜ってきたお前なら、数の強さは身に染みて分かっている。違うか?」
結束の力。
それは経験から、モクバが知った事だ。
仲間と共に武藤遊戯が、何度も強敵を破ってきた力の源。
モクバの知る限り史上最強のデュエリスト、海馬瀬人すら完璧な手札と最高の戦術を駆使してなお遊戯と友の絆の前に敗北した。
この殺し合いを開いた乃亜ですら、一度はその力の前に敗れ去っている。
結束の力の尊さと共に強大さを知っているからこそ、いずれこの少女もその力の前に倒されてしまうと確信していた。
その時と誰が相手かは分からない。
だが、より巨大で強固な絆と結束の力の前に屠り去られてしまうだろう。
-
「……」
言い返せない。
殺しを、世界のルールを否定するだけであれば、グレーテル達の信仰を批判するだけであれば、いくらでも反論できる。
だが、モクバはそれとは別に戦いの中にある鉄則を絡めてきた。
実戦に於ける数の利はグレーテルも否定できない。グレーテルも兄様であるヘンゼルと共に工夫と機転で相手を出し抜き、数々の勝利を得て殺戮を繰り返してきたからこそ相手の数には常に警戒を重ねていた。故に数の利は否定できない事実だ。
無論、敵がいればいるだけ殺す事が出来る。理論上はその分生きられるのだが、当然多人数に包囲されれば生還するハードルも上がっていく。これも事実。
それは矛盾だ。殺せる数が増えてその分生きられるのに、何故か生存確率が下がるという覆せない矛盾。
狂った倫理観と信仰に、実戦で培われた合理的な判断が矛盾をグレーテルに突きつけようとする。
「お姉さん、あの黒髪のお姉さんの死を無駄にする気?」
グレーテルは会話を打ち切り、モクバではなくその矛先をクロへと変更した。
「お姉さんは自分が生きる為に黒髪のお姉さんを犠牲にしたの」
口でモクバは崩せない。
なるほど、人心を掌握する術に関しては優れている。
グレーテルもこれは認めざるを得なかった。
「違う、わたしは……」
だがクロは?
シャルティアとイリヤ達の交戦、そして美遊の最期をグレーテルは目撃している。
その時のクロのやるせなさと動揺も。
「違わないわ。優勝を目指すのはそういうことでしょ?
お姉さんが生きる為に、黒髪のお姉さんを糧にした。お姉さん、貴女がその分まで生きないと彼女は無駄死になるのよ」
この戦場の中でもっとも精神が追い込まれているのはクロだ。
数が利であるのが戦いの鉄則ならば、最も弱いものを追い込むのもまた鉄則の一つだ。
「あんな奴の言うこと、聞くな!!」
ここでようやくモクバも自分のミスを痛感する。
グレーテルに対し自分の境遇を重ねせいで、あまりにも感情的になり過ぎてしまっていた。
何よりも先にクロをこちら側に引き入れるのを優先すべきだった。それは分かっていた。分かっていた筈だった。
まだ彼女は揺らいでいる最中で、完全に説得しきれていない。
それなのにモクバは頭に血が上って失念していた。
急いでグレーテルの声から庇うように言葉を投げるが、それはクロに届かない。
「お姉さんも、ああなりたいの?」
───イリヤは、生き……
「───ッ」
グレーテルは知っている。
美遊という少女の死に、クロは罪悪感を抱いていること。
その少女の末路に恐怖も抱いていたこと。
彼女は死にたくない。生きようとしている。
「一度乃亜に逆らえば、ペナルティで願いを叶える権利を剥奪されるかもね」
そんな相手の扱い方は簡単だ。なにせ、自分達がそうだったのだから。
「……くっ」
大人たちが喜ぶ殺しをすれば殺されずに済むように、この島も乃亜が喜ぶ殺しをすれば死なずに済むと示してあげればいい。
それしかないのだと、分からせてあげればいい。
-
「ッ……!」
緩んでいた手に力が籠められる。双剣を握る手がより強まる。
殺意が緩やかに戻っていくのをモクバは実感していた。
数分前の自分を責めるが、もはや過去は変えられない。
エルフの剣士は、グレーテルの射撃を受け続けている。こうなれば青眼を召喚するしかないか。
クロがにじり寄る。ゆっくりとこちらに歩んでくる。
モクバは懐に忍ばせた青眼に触れた。
「迷(メイズ)!」
その瞬間、クロとモクバを別つように緑の壁が生成され二人を分断する。
「これは……!?」
クロが疑問を口にする。
それはクロだけではなく、ドロテアとグレーテルの間にも発生し無数の壁が作られていく。
グレーテルは反射的に生成されかけの壁の頭を踏み、脱出を図ろうとするがそれを上回るように壁が空高く上昇しグレーテルを遮った。
「大丈夫かい? モクバ君!」
「カツオ?」
「このカードの力だよ」
モクバの後ろから、カツオが声を掛けてくる。
その手にはもう一枚のさくらカード「迷」のカードが握られていた。
巨大な迷路を作り出し、迷い込んだ者は出口を自力で見つけなければならない。
迷路の外、緑の壁を眺めながらカツオも改めてその効果を思い知った。
「よくやったカツオ。あとは……」
「ちょっと!?」
同じく迷路に巻き込まれなかったドロテアが状況を即座に把握し、そしてカツオへと肉薄する。
そのまま手を伸ばし、カツオの手にあるもう一枚のカード「水」を取り上げた。
「「水」よ。そこの入り口から水を流し込んでやるがよい」
「何をするんだ!?」
ドロテアの手に渡った「水」はその命令通り、「迷」の迷路の出入り口へと周り、水を大量に生成し放水し始める。
「決まっておろう。中で迷っているあの二人を水に沈めて溺死させてやるのじゃ」
「ドロテア、よせ」
「何故じゃモクバ? あやつらはマーダーじゃ。
藤木と違い御しきれる相手でもない。ここで殺しておけば、未来の犠牲者はぐっと減るぞ。
この迷路もいつまで続くか分からぬしな。今の内じゃ」
「それ、は……」
モクバが後ろ髪を引かれる思いなのを見透かされていた。
グレーテルやクロに対して、手を差し伸べたい思いは今も薄れてはいない。
けれど、自分が完全にしくじったのもモクバは自覚していた。
駆け引きで冷静さを失う事など言語道断。
それを、モクバはよりにもよって最悪の相手にやってしまった。
ドロテアの真意は別にあるとはいえ、これが結果として犠牲者を減らす行為であることも理解は出来る。
「そ、そこまでしなくても……殺し合いを何とかした後、警察に捕まえて貰うまで縛っておくとか……」
「妾がその警察じゃ!」
「え、ぇ……」
カツオは狼狽えながら、ドロテアを見つめていた。
本当にこのまま殺してしまって良いのか。
いくら、殺し合いに乗っているとはいえこんな事までして良いのかと。
しかも殺すにしてもやり方がエグすぎる。溺死だなんて、恐怖と苦しみが長く続く悲惨な死に方だとカツオにだって分かる。
こんなの警察のやり方なんかじゃ断じてない。
───
-
「壊しても、駄目…飛んでも妨害される。ちゃんと出口を探して迷路を攻略しろってこと?」
干将莫邪を爆破させ壁を破壊しても即座に再生され、壁の上から迷路全体を見渡し出口を探そうとしても阻止される。
「迷」は迷路への不正に対し厳格に対処する。
「この子でも駄目みたいね」
グレーテルの足元からダンジョン・ワームがモコモコと飛び出す。
建物内を自在に行き来できるこのモンスターならば、あるいは出口を探し当てられるかと思ったがそれすらも妨害してきているようだ。
巨大な芋虫に、丸くて大きな口と複数の牙に目を取り付けた奇怪な見た目に反して、グレーテルには懐いているのか、全身をフルフルさせ出口の発見に至らなかったことを表現する。
「……ここで、じっとしときましょう。きっと時間の経過で迷路は消えるわ」
もはや殺し合いどころの話ではない。
この迷路がある以上、他の参加者との接触も難しい。それどころか禁止エリア指定された時に離脱も叶わない。
完全に別の脱出ゲームを行わされるこのカードの力は一つの支給品の域を超えている。
乃亜があくまでも公平な───それも怪しいが───殺し合いに拘るのなら、一定時間で強制的に解除するよう制限を設けるだろう。
「下手に動くより、これが消えるのを待った方が───」
クロとグレーテルの足元を冷たい感触が伝う。
水だ。水が物凄い勢いで迷路内を浸水し、その水かさを増していた。
少し視線を外してからもう一度足元を見れば、踵を濡らしていた水は気付けば足首にまで届きそうなほど水位が上がっている。
「冗談でしょ!?」
やられた。
あの坊主頭の少年が召喚した水の精霊の力だ。
この迷路を水で溢れさせて、クロとグレーテルを溺死させる気なのだろう。
「のんびりしてる暇はなくなったわね」
慌てる様子もなくグレーテルは状況を再確認するように呟く。
そう、そこまで焦る必要はない。
グレーテルの装備は充実している。先ほどのシャルティアと悟飯、その後のリップとのいざこざのどさくさに紛れ、少なくない支給品を回収している。
その中には、何か使える代物があるかもしれない。
仮にそんなものなくても、ようはこの迷路が消えるまで、耐えれば良いのだ。しかも、迷路に時間制限があるのなら先に召喚した水が消える方が早いのも道理だ。
そう焦る必要などない。最悪の場合は壁に刃物化した手を突き刺して、高所で迷路と水の消失を待ち続ければいい。
「───な、ん」
水位が膝まで上がった段階で、急に全身が脱力する。
自らの意思とは正反対に力が入らない。
「グレーテル……?」
クロも異変に気付きグレーテルに呼び掛ける。
血生臭い戦いには、自分よりも慣れたグレーテルが明らかに動揺している。
(うごけない…なん、で……)
水位が上がれば上がるだけ、力が水に吸われていくようだ。
まさか、カツオが使用した「水」の効力か。だが、クロだけが無事なのが説明が付かない。
グレーテルが口にした悪魔の実は海に嫌われる。
それは真水であろうと例外なく全ての能力者はカナヅチとなり、体が水に浸る部位が多ければ多いほど身動きが取れなくなっていく。
殺し合いを支配する乃亜からすれば当然の事象の帰結に過ぎないが、クロにとっては想像も及ばない異常事態。
-
「私は…死なない……」
ありえない。こんな事が起こる筈がない。
沢山、大勢、数えきれない程殺し続けてきた。
だから、死ぬ訳がない。
その分だけ、生き続ける事ができるのだから。
「死ぬ、わけが……」
動かない。動けない。
水位がどんどん上昇し、グレーテルの命を繋ぐ気道を覆わんと迫っていく。
意識ははっきりしているのに、徐々に自分の命が削られていくのを感じていくのは恐怖だった。
もしもグレーテルが悪魔の実の弱点に気付いていたのなら、その行動は早かったはずだ。
真っ先に壁に上り、何としても水との接触を避けた。
だが、グレーテルは知らなかった。知っている訳がない。スパスパの実の説明書には、そんな記載何処にも存在しなかったのだから。
「大丈夫よ……わたし、私達は、だって───」
僅かに動かせる口だけを回し、クロにも聞こえない小さな声で自分を信じ込ませるように信仰を口にする。
大丈夫、この信仰は間違ってなどいない。死ぬはずがない。絶対に大丈夫。
体温を奪われ冷えていく体は徐々にグレーテルから赤みを引いていく、頬は青白く染まっていった。
死を拒絶する精神に反し、肉体は一切動けず望んだ生から遠ざかっていく。
「嘘でしょ。こんなのごめんよ!!」
跳躍し壁に剣を突き刺し、クロはそれにぶら下がり水から避難していた。
クロの見立て通りならば、時間が過ぎ去れば迷路も水も消える。消えてくれなければ困る。
だがもしも消えなかったら?
この迷路に閉じ込められたまま、延々と水位が上がるなか逃げ続けるのか?
「グレーテル……あいつ、何してんのよ」
今のクロに悪魔の実など知る由もない。
まるで動かなくなり、死を受け入れて諦めているようにもクロには見えた。
そして、諦めるということはこの状況を打破する手段も持ちえないということだ。
(……対界宝具なら)
1つだけ、確実で間違いのない手段がある。
騎士王の宝具、約束された勝利の剣(エクスカリバー)を投影し真名解放すれば良い。
クロも詳細は知らないが、自分が核としているクラスカードの英霊の力は宝具の投影に特化している。
そのバリエーションの中で最も強力で最強の一振りがこの剣だ。
「迷」の迷路は高い再生力を持つが、それを上回る膨大な魔力を放射すれば再生が追い付かず迷路を維持するのは難しくなる。その間に脱出を図る。
問題はそれを使えば、クロは激しく消耗してしまう。
魔力がなければクロは消滅する。
ここを突破しても、その後どう生き延びればいい。クロには弱った己を任せられる仲間なんていない。一人ぼっちだ。
グレーテルや彼女の言う兄様など、そうなればすぐにこちらを殺しに掛かるかもしれない。
それも天使の少女の遺体にやったような行為を、生きたままのクロにすることだってありうる。
(無理、それだけは嫌)
そんなの絶対に御免だった。
-
(迷路の外のあいつらを打てれば)
もう一つ、確実性は下がるが方法はある。
それはクロが核とするクラスカードがアーチャーであることを利用する。
アーチャーのサーヴァントには、千里眼というスキルが付与されることが多い。
遠方の敵を狙撃する高い視力を齎すスキルで、極めた英霊であれば透視すら可能とする。
この迷路の壁を透視し、外にいるモクバ達の方向を視認できれば狙撃は難しくない。
(破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)…魔力を打ち消す槍、これなら触れた迷路を打ち消して外に飛ばせる)
クロがチョイスしたのは、ケルトの英雄ディルムッド・オディナの宝具。
刃が触れた部分の魔力及びそれに類する異能を触れた間のみ打ち消す。
あくまで触れた部分のみの無効化であり、これで迷路を突いてもその箇所だけが効力を失うだけで脱出には使えない。
だが、これをアーチャーとして射ることが出来れば、迷路の壁を全て貫き外界に届かせられる。
そして迷路の本体であるカツオのカードに当てる事さえ出来れば、迷路を実体化させる魔力源が経たれた事で迷路は消失する。クロはそう読んでいた。
(問題は、私が力を借りてる英霊の千里眼のランクはCってとこ)
遠方の敵を補足し動体視力を向上させるが、透視に至らないのがCランク。
何度も強く壁を凝視するが、外界どころか壁一枚透けて見る事も無理だ。
そこでクロは、ランドセルから液体が収められた一つの小瓶を取り出した。
(グレードアップえき……これの効果が説明書通りなら)
それをワンプッシュ、目に振りかける。
名の通り、グレートアップえきの効果は振りかけた対象の性能をグレードアップさせる。
吸い込みの悪い掃除機の吸引力を改善し、つまらない漫画を傑作へと変貌させる。
あらゆるものの性能を引き上げるドラえもんの秘密道具、例えそれがサーヴァントのスキルであろうと例外ではない。
(見える……!)
居た。
壁を何枚も隔てた迷路の外、あの三人の姿が見える。
カツオは馬鹿正直に「迷」のカードを握ったままだ。丁度いい、狙い通り破魔の紅薔薇の照準をカードに合わせる。
矢となった槍に弦を付け、そして射る。
宝具殺しの槍は、その名の通り「迷」の力を殺しながら無数の壁をぶち抜き、空間を超えて外界へと飛び出す。
-
「───う、わ……!」
「何をしたのじゃお前!?」
「ちが、僕じゃ……」
カツオとドロテア間を、赤い一閃が横切り手にあるカードへと直撃した。
次の瞬間、迷路が消失しクロとグレーテル、そして迷路内に溜まった膨大な水が雪崩のように流れだす。
「水が───」
モクバの叫びは紡がれず、水の波にそのまま飲み込まれてしまう。
(出れた…けど……!!)
クロは複数の剣を永めの刀身で投影し、それを突き立て柄の先を足場にして水を避けて立つ。
数十分ぶりの外の空気を吸い、目論見通り事が運んだことを確認した。
だが同時に計算外が一つ。
あの「迷」のカードを破壊できなかった。
破魔の紅薔薇に触れ、その効果を一時的に効果を打ち消しただけに過ぎない。
高位の魔術師によって生み出されただけあり、霊的な格が高い。破壊にまで至れなかった。
カツオの手元から吹き飛んでいったカードはまだ残っている。
(壊れた幻想で爆破しておけば……!)
目算が甘かったことを後悔するも、だが支給品として何かしらの制約はあるはずとクロは切り替える。
こんなもの連発できれば殺し合いの進行を阻害してしまう。
「げほっ、か…カードが……!」
カツオが溢れ出す水の波に呑まれながら、必死に顔を水面に浮かばせ流れていく「迷」に手を伸ばしている。
大丈夫だ。仮にもう一度カツオの手元に戻ろうとも、再発動は早々ありえない。
あの少年は魔力もろくにない。魔術の知識も技術もないただの子供で、支給品の力を借りただけ。
カードの使用は一度きりで、使い捨てでないにしても再発動させるのに何か制限がある。
殺すにしても優先順位は一番低い。だから、優先すべきは剣を持った金髪と剣士の使い魔を操る少年の方だ。
二人は水に流され行方が分からない。だけど、そう遠くにはいないかもしれない。
集中して辺りを警戒して───。
(───ほんとに……カードに制限なんてあるの?)
乃亜から直々に説明されたわけではない。
ただ、公正な殺し合いをさせるという乃亜の口ぶりから推測したに過ぎない。
確証なんて何処にもない。
殺し合いを阻害するからという理由で、そうかもしれないと予想しているだけ。
カードの説明書を見たわけでもでもない。
クロは逡巡の末、カツオのランドセル内にある説明書を透視しようとして、既に千里眼のランクが元に戻っていることに気付いた。グレードアップえきの効果が切れている。
グレードアップえきの本来の効力持続時間は一時間だが、乃亜によって僅かな短時間しか効力が持続しないよう調整されていた。
ゆえに確証を得られない。
(また、迷路を出されて水でも流し込まれたら……あの迷路を破るのに、魔力が減らされる……)
迷路の突破に、少なくない魔力を消費してしまった。魔力はクロの残り寿命と言っても差し支えない。
もう一度同じことをされれば、それを破る為にまた多量の魔力を使い、死へと強制的に近づけさせられてしまう。
気付けばクロは弓矢をカツオへと向けていた。
-
(あの子には悪いけど、こっちも余裕がないのよ)
弦を引き狙いは定めた。あとは、手を離すだけ。
たったそれだけの動作が、気が遠くなるほど複雑な工程のように感じられた。
そんなことをして、いいのか。
相手は本当にただの子供だ。グレーテルやシャルティアのような危険人物でもなければ、肉体や精神も普通の何の罪のない子供でしかない。
クロの中でもう一人のクロがそう説いてくるように、矢を射ようとするクロを止めるような錯覚をする。
先程のモクバとのやり取りが走馬灯のように繰り返される。
脱出プランを用意し、クロの身体の異常に対しても力になれるかもしれないと。
それが真実であれば、カツオを殺すのは悪手でしかない。
やはり話を聞いてから、判断をすべきでは。
『ルフィィィィィ!!!』
『お前……お前ェ!! ゴムゴムのォォォ!!!』
でも、もしも脱出プランとやらが上手くいかなかったら。
一番最初に歯向かった子供たちのようにクロも。
『『無様な敗北者達』キミたちにぴったりの名前じゃないか!』
そうならなかったとしても、グレーテルの言うように一度逆らった罰としてクロから願いを叶える権利を剥奪することだったありえる。
あの傲慢な子供のことだ。機嫌を損ねれば、何を言い出すか分からない。
『私は断じて負けぬ。負ける筈がない。決して────』
『美遊、美遊……いや……いや……!!…何で、何でこんな……』
『イリヤは、生き……』
『クソォ!!』
『うわあああああああああああああ!!!!!!!!』
『あの子にも、お友達が出来たわね』
多くの死と断末魔、残された者達の悲鳴とそれを嘲笑う声。
クロにとってそれは他人事じゃない。殺し合いなど関係なく、この場で一番死に近づいているのは僅かな魔力でしか生きられないクロだ。
だから、生き延びる為には手段なんか選んでいられない。
こうするしかない。
もう引き返せない。引き返して、あんな惨たらしい死者たちと同じ場所になんか行きたくない。
死にたくない。
「ごめん…なさい……」
手は離れ、弦が撓り矢は射られてしまった。
───
「は、ァ…ごほっ……!!」
もう一度、あの迷路を出すしかない。
「水」はドロテアに引っ手繰られ、ランドセルも何処かへ消えた。
今のカツオに身を守る術はない。
藁にも縋る想いでカツオは流されていくカードに手を伸ばす。
一度発動したら一定時間で解除され、再使用に時間を置かねばならないと説明書にあったが、クロの妨害で強制的にカードの効果を打ち消されたように見えた。
他者の妨害で打ち消されたのであれば、もしかしたら発動回数にカウントされないかもしれない。
淡い希望だが、カツオにはこれに賭けるしかない。
「っ、ぁ……!」
カードに手が届く間際のその刹那、高所の足場を作っていたクロと目が合ってしまった。
黒い弓と矢を構えていて、カツオを殺そうとしているのは明らかだ。
急がなきゃ。
頼れるのは「迷」のカードだけ。
必死に手を伸ばしながら、カツオはクロの顔に既知感を抱く。
『お前も見ただろう!マグル達が殺されたり生き返ったりするのを!!』
あの時だ。オールバックの魔法使いの少年が怯えている時と同じ顔だ。
怖いんだ。あの娘は今とても怖がっているんだ。
当たり前だ。迷路に閉じ込められて、水を流し込まれて殺されそうになったんだ。
怖くて怖くて仕方ない。当たり前のことじゃないか。
「げほっ、ぼ…くは……」
「迷」のカード。
クロにとってこれは銃やナイフのような凶器にも等しい。
そんなものを手にして、もう一度自分達を殺しに来るかもしれない。
そう考えているに違いないと、カツオは想像する。
徐々に水が引き、足が付きカツオは自由に動けるようになってくる。幸いカードも手前にあり急げば拾える。
「僕は……!」
カツオは拾えたはずのカードを前に、腕をひっこめた。
怖いという気持ちはよく分かる。乃亜の残酷な兄弟たちへの処刑に始まり、エリスの過度の暴力や魔神王の襲撃と、城ヶ崎という女の子が殺される場面にも立ち会った。
死にたくないのなんて、当然のことだ。生きていたいと思うのが普通なんだ。
あの褐色の女の子も同じだ。同じ、怯えてるだけの子供なんじゃないか。
これが、きっと馬鹿な行為だというのは分かっていた。
だけど、あの娘にも中島みたいな友達がいて、それで悲しむ誰かが居るのなら。
エリスやマルフォイの時は逃げてしまった。
永沢は藤木の時も、自分は迷い続けて答えを出せなかった。
今度はちゃんと向き合って、あの娘と話すべきなんじゃないか。
「聞いて───」
振り返り、意を決し、勇気を振り絞った時。
胸に強い衝撃と痛みを覚えた。
-
「う、そ……」
矢を放した瞬間、カツオはカードに触れることなくクロに向き直っていた。
クロの脳裏に何故と疑問が沸く。
別の武器が存在しているのか? 不味い、対処をしなくては───。
しかし、その考えが見当はずれである事にすぐに気付いた。
「なん…で……」
矢を胸が穿つまで、カツオはずっと無抵抗だったから。
痛みに藻掻いて呻き声をあげて、そのまま動かなくなってしまった。
虚ろな瞳がクロを見つめ続けている。けど、そこに痛みによる苦痛はあれど、敵意や殺意はなく、まるでクロを心配しているような穏やかな顔で。
「どうして……わた、し……」
まさか、無抵抗のただの子供を殺してしまったのか。
一線を超えてしまったのか。
「べつ…に、こんなの……」
殺し合いに巻き込まれてから、覚悟はしていたつもりだった。
だけど、きっと想定していたのはリップやグレーテルのような人を殺められるような相手で。
あの、のび太とかいう眼鏡の少年にも戦える天使の少女が付いていて。
ニケだってふざけておどけてはいたが、クロの剣を全て避けていた。きっとまだ、奥の手だって本当は隠していた。
「ぁ、っ……」
足場にした剣がクロの心境を現すように崩れ、そのままクロは覚束ない足取りで物言わなくなったカツオだった物にまで歩んでいく。
心の何処かで、少なくとも自分と戦える相手を仮定していた。
最低限、死を覚悟した戦いを心得た者が相手だと。
勝手に思い込んでいた。
そんなこと、あるはずがないのに。
「そんな、目で…見ないで……」
近づいて、それで分かった。
本当に死んでいる。死んでしまった。自分が殺してしまった。
なのに、その目は……。
どうして、この男の子は。
お願いだから恨んで、憎んでいて、怒っていて。
敵なら、まだ私は、だけど───こんなのは耐えられない。
「ようやく、リングを回せる側になれたのね」
クロの肩に手を回し、そして天使のような声が鼓膜を打つ。
空っぽの伽藍洞の心を埋めるように。
囁きながら、グレーテルは優しくクロを愛撫する。
「大丈夫よ。私達もね…最初はそうだったの」
その時だけは狂った殺人鬼グレーテルではなく、居場所のない女の子に語り掛ける優しい少女の声だった。
同じ居場所がない子供を心配する同じ捨てられた子供の声だ。
「笑えばいいのよ。これは仕組みなんだから」
慰めるように、褒めるように。
貴女は間違っていないわと。
まるで、自分にも言い聞かせているように。
「クロ」
名を呼んで、そしてクロの顔を掌で撫でて口づけをした。
「っ…ぁ、んっ……」
クロの口からグレーテルのものと混じった唾液が溢れ、嬌声が零れる。
そして、魔力が譲渡されていく。
命が繋がれていく。
「死なないのよ。殺せば、殺すだけ……私達は生きられるの。
だから、何も悪い事なんてしていないの」
死の淵まで追い込まれても、グレーテルは生きている。
それは自分が信じる信仰のお陰だと、彼女は疑わなかった。
モクバの言っていた事を、いずれ死ぬという自らの運命を否定するように、艶めかしい笑みで、クロの唇と繋がった唾液の糸を引いた唇を歪ませた。
───
-
「あの色黒のガキめ、面倒なことをしてくれたものじゃ」
ドロテアは全身びしょぬれになりながら、小脇にモクバを抱えていた。
二人揃って同じ方向へ水に流されたのは不幸中の幸いだった。
どさくさに紛れ、カツオのランドセルも回収し支給品の補充も出来た。後は利用価値のあるモクバだけ保護して、そのまま逃げればいい。
「ごほっ…」
モクバは気絶していたが、咳き込んでいる以上は生きているようだ。
(しかし起きたら、カツオのことを聞かれそうじゃが……)
凶悪マーダー二人を、水を流して始末しようとしたことの何が悪いというのか。
想定外は起きたが、元を正せばクロの説得に専念せずにグレーテルを説得しようとしたモクバも悪い。
ドロテアの見立てでは、あのままクロは説得を続けていれば折れたと見ている。
クロさえ仲間に引き入れれば、こんなことにはならなかったのだ。
モクバの聡明さがあれば、グレーテルに話が通じないはすぐに分かること。それをモクバは私情を絡めて無視した。
仮にドロテアに責任があったとしても、モクバと同じで連帯責任だ。
「うむ、妾は悪くないのじゃ」
けろっとした顔でドロテアは軽快に歩き出した。
【磯野カツオ@サザエさん 死亡】
-
【E-6/1日目/朝】
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]健康、高揚感
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品 ランダム支給品0〜1、セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、城ヶ崎姫子の首輪
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!
グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、カツオのランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:カツオの首輪が手に入らぬのは残念じゃったな。
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は凄腕の魔法使いが着いておるのか……うーむ
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、気絶
[装備]:青眼の白龍&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
1:東側に向かい、孫悟飯という参加者と接触する。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:ホテルで第二回放送時(12時)にディオ達と合流する。
7:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
8:グレーテルを説得したいが……
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
-
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:疲労(中)魔力消費(大寄りの中、キスして回復中)、精神的ショック、自暴自棄 グレーテルに対する嫌悪感(大)、カツオを殺した罪悪感(極大)
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、透明マント@ハリーポッターシリーズ、ランダム支給品0〜1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら
グレードアップえき(残り三回)@ドラえもん
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
0:……
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君…何やってるんだろ。
6:コイツ(グレーテル)マジで狂ってる。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品2〜4(リップ、アーカードの物も含む)、エボニー&アイボリー@Devil May Cry、アーカードの首輪。
ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵の首輪、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、ベッキー・ブラックベルの首輪、ロキシー・ミグルディアの首輪
[思考・状況]基本方針:皆殺し
1:兄様と合流したい
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。やっぱり死体はつまらないわ
7:聖ルチーア学園に、誰かいれば良いけれど。
8:水に弱くなってる……?
[備考]
※海兵で遊びまくったので血塗れです。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
【「水」@カードキャプターさくら】
【「迷」@カードキャプターさくら】
カツオに支給。
2枚で1セットの扱い。
・「水」は好戦的な性格で水を操れる能力を持つ。
さくら以外が使用した場合は12時間再使用不可。
・「迷」は迷路を出現させる。入り込んだ者は出口を探すまで出られない。
非常に厳格な性格で不正は許さず、その割に正規攻略も難易度が高い。
再生の追い付かない攻撃で壁を破壊するなどすれば脱出可能。
ロワ内の制限として、一定時間の経過で強制解除。
こちらは誰が使用者でも一度の使用で24時間再使用不可。
【翻弄するエルフの剣士@遊戯王デュエルモンスターズ】
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1400/守1200
(1):このカードは攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。
モクバに支給
ロワ内では一定の強さを持つ者との交戦では破壊されない。
例としては、シルバースキンを装備した藤木には戦闘耐性の効果が発揮されず、スパスパの実と地獄への回数券をキメたグレーテルには破壊されない。
ただ破壊されないだけであり無視して召喚者を攻撃される場合もある。
一度の使用で6時間再使用不可
【雷神憤怒アドラメレク@アカメが斬る!】
モクバに支給。
ブドー大将軍の持つ籠手の帝具。
雷を操り、地形すら変化させてしまう。防御しても衝撃や電撃の性質上感電してしまう。
雷撃を防御に使うなど、攻守ともに優れている。
支給されたモクバは籠手一つしか使えないので、性能が半分以下までしか引き出せない。
【グレードアップえき@ドラえもん】
クロエに支給。
振りかけた対象をグレードアップする。
掃除機の性能を上げたり、漫画の面白さという概念的なものにまで効果がある。
本来、効果は1時間持続するが、乃亜により数分程度に短縮された。
使用回数は4回分。
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投下終了します
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感想投下します
>誰も彼も、シルエット
投下ありがとうございます!
開幕、生首と化したHA☆GA……いざ死ぬと寂しさを覚えますね。どうせ死ぬなら、腕折られる必要なかったの可哀想。
当たり前っちゃ当たり前なんですけど、エリスがひたすら冷たく反応してる横でナルトがせめて影分身送るかってなるの、ナルトの人の好さが出て好き。
ただHA☆GAのお陰でセリム達もちょっと休憩できたので、やっぱ羽蛾さんの元日本チャンプの肩書は伊達じゃないですね。
始まる第二ラウンド、普通なら影を出せるセリム、インクルシオ、過剰すぎる戦力なのにまるで歯が立たないシュライバー、こいつ強すぎか?
そこへ鏡花水月を引っ提げて復活するナルト、やはり長年ジャンプの看板を背負った主人公だけあります。
元の持ち主も、ポエム読みだすくらいには勇気ある人間が好きですからね。だからこそ、鏡花水月も力を貸してくれたのかもしれません。
合理的な理由ですけどセリムが殿を務める時に、結果的にナルトとエリスと少しだけ歩み寄れたの対して、仮にも人間のシュライバーが全く会話不能なのも良い対比でしたね。
正直セリムが落ちるとは思わなかったので、読んでて良い意味でビックリしました。魂を奪われるのも、そうだよなと納得しかない。
あと、6000億枚の起爆札を赤ちゃんに支給した主催は何考えてるんですかね。
こんなどう使うかも分からないもの支給されといて、それでもマサオ君を手駒に選んだマニッシュボーイの姿、俺にとっては一番侍らしく見えるよ。
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勇者ニケ、水銀燈、おじゃる丸、魔神王
予約します
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藤木茂、ウォルフガング・シュライバー
予約します
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延長お願いします
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投下します
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「全く、厄介なハンデだよ」
路地裏で壁に持たれかかったままシュライバーは呟く。
疲労という概念が、こうも厄介なものとは。
わざわざ、休息を取らねばならないほどの重さを覚える鉛のようなこの肉体が、本当に己の物かも疑わしい。
なるほど、乃亜の言う公平な殺し合いとやらも納得ものだ。
「フフフフ……とっても疲れているみたいだね君?」
わざわざ獲物が向こうからノコノコやってくる。
歳の割には長身で唇が青紫の少年だった。
そいつは口許を釣り上げ、ニタニタと笑っていた。
「やあ、歓迎するよ。
僕から探す手間が省けた」
隻眼で少年を見つめシュライバーも腰を上げる。
やはり、疲労が邪魔して動きが阻害される。傍から見れば、消耗して弱っているようにも見えるのだろう。
少なくともこの少年はそう思い、そして絶好の機会だと考えている。
「じゃあね」
その考えは愚かだと断じるように、片手の拳銃だけで百近くの弾幕を張る。
疲弊しているといえど、この程度は造作もない。
少年は笑みを浮かべたまま、事態の急変化に付いてこれず全身に風穴を開けた。
────
藤木茂は勝ち誇った笑みを崩さないまま、ウォルフガング・シュライバーを眺めていた。
急に拳銃一個で、マシンガンみたいな連射をしてきたのは驚いて漏らしかけたが。
だが藤木は全身を銃弾で穿たれたというのに、血飛沫一つあげずに立ち続けていた。
「なんだ?」
シュライバーの隻眼が疑念の色を浮かべる。
銃弾は全て直撃した。
それに違いはない。だが、その全てが藤木の身体を突き抜けていったのだ。
「───僕は、神(ゴッド)・フジキングなんだ」
訝しげに見つめながら今度は両手の二丁の拳銃で射撃する。
先程の倍以上の弾幕を前に、やはり藤木は余裕のまま立ち尽くす。
銃弾は全て藤木に吸い寄せられ、そしてシュライバーの目に写る藤木はまるで幻のように銃弾はすり抜けていく。
「言った筈だよ。僕は神なり」
そう実体が存在していないのだ。
本来、人体を構成する物質ではなく、代わりに藤木の肉体を雷が構築していた。
いかにシュライバーであろうと、実体を持たない存在を殺す事は不可能。
「喰らえ! フジキサンダー!!」
藤木が顔の横で両手の手首を交差させ、ウルトラマンのスペシウム光線を模して雷の光線を放った。
当然ながら、シュライバーには当たらない。だが、当のシュライバーは怪訝そうに藤木を睨む。
「ふはははは!! 逃げ回るだけかい?」
無駄に構えを変えながら、雷撃を射出する藤木の姿は滑稽極まりない。
しかし、藤木の操る雷それ自体は馬鹿にしたものではなかった。
威力も速さも一級品、更に言えば自らを雷そのものへと変化させ、シュライバーの弾丸を透過させる芸当は創造にも匹敵する。
「驚いた。まるで、ヴァルキュリアだ」
シュライバーの知る中で、最も近いのは同じく黒円卓であったかつての第五位ベアトリス・キルヒアイゼン。
彼女の能力も雷に纏わるもの。
己を雷に変えるのも全てが合致している。
「君みたいな劣等には不釣り合いだよそれ」
藤木の頭上へと跳躍し銃弾を浴びせ続けるが、一向に藤木に着弾する様子は見られない。
あのベアトリスに比較して、まず藤木が優れているのは安定性だ。
絶え間なく弾丸を受け続けながら、藤木は常に全身を雷へと変化させ維持し続けている。
あのベアトリスですら、高い実力と精神力、そして弛まぬ鍛錬の末に優れた安定性を手にしたのだ。
それをただの卑怯なだけの子供が、何もせずほぼ同程度かそれ以上の雷の力を保持している。
-
「逃げ回るだけの卑怯者に、何を言われても僕には響かないね」
くつくつと笑いながら藤木は強く言い放つ。
数時間前、藤木は新たに手にした城ヶ崎姫子のランドセルから一つの支給品を取り出していた。
奇妙な形をした木の実。
甘いものが欲しくて口にしたが、死ぬほど不味かった。
(僕は守りには強かったけど、攻撃力がなかった。
……だけど、この力は全てを僕に与えてくれた)
しかし、その木の実に添付されていた説明書には悪魔の実と記されていた。
自然系(ロギア)と称される悪魔の実の中でも無敵と謳われる能力。
ゴロゴロの実。
そこには能力の詳細と、かつて神が口にしたという煽り文が記載されており。
藤木はそれを真に受けた。
「どうしたんだい。ぴょんぴょん走るだけで、君のチンケな攻撃なんて僕には何も効かないんだ」
物理攻撃を無効にする雷の身体。
正直、藤木も半信半疑でシュライバーの銃を向けられた瞬間には走馬灯を垣間見た。
けれども交戦が始まり数分、藤木は一切の怪我も負っていない。
この能力は本物だ。そして攻撃力も本物の雷そのものなのだ。
攻守ともに長けた無敵の存在となってしまった。
(ほ、本当に優勝しちゃうぞ僕……)
これなら、先ほどの中島という子供の姿をした化け物にも、悟空という少年にも負けはしない。
ドロテアやシカマルなんぞ、話にならない程の雑魚になってしまった。
あの眼帯の少年だって、もう自分の敵じゃない。
「この力に一番戸惑っているのは僕なんだよね」
藤木は強くなりすぎてしまっていた事実に震撼していた。
相手は速く、全く攻撃が当たらないが、絶対に自分が倒されることはない。
自分に対する攻撃はすべて無効化されているのだ。敗北も死もありえない。
「……その力は凄いよ。その力はね」
シュライバーは冷ややかに、藤木に宿る悪魔に対してのみ賞賛を送る。
「負け惜しみかい? いいよ。今の僕は寛大だから────」
藤木はこの時、危機感が完全に死んでいた。
気付くべきだったのだ。自分の発する雷を避けている相手は、雷速を見切ってそれを躱す速さで駆け回り、息一つ乱さない理外の存在であることを。
「────ぶげっ……!?」
左半身に猛烈な勢いで何かが衝突した。
鼓膜が轟音で打ち鳴らされ、藤木の視界が10回程回転する。
体の内部をシェイクされたような気持ち悪さと嘔吐感、これはドロテアに敗北した時と似ていた。
「ご、…げ、ぇ……!!?」
ぐしゃりと音を立てて地面を転がっていく。
悲鳴を上げようとし、嘔吐物が食道を駆け上がる。
吐瀉物を吐き散らしながら呻き声をあげ息を吐き出すばかりで吸うことが出来ず、酸素を求め脳が苦痛という信号を流す。
「試してみるものだね」
地べたで苦しみ藻掻く藤木を悠々とシュライバーは眺めていた。
その背後では、数階建てのビルのような巨体を誇る白骨の四足獣が佇んでいた。
眼帯に覆われたシュライバーの右目と呼応するように、骸骨の眼窩から血を垂れ流し長い白髪を靡かせる。
「別の強い力を当てれば、実体を捉えられるってことかな」
行ったのは至極簡単なこと。
シュライバーが従える白骨の獣に命じ、前足で藤木を薙ぎ払った。ただそれだけ。
ゴロゴロの能力で自らを雷に変換できるのなら、雷の速さで避ける事も叶った。
だが藤木は元より今の身体スペックを発揮する程の動体視力もなければ、避けるという発想すらなく無様に地べたを転がる羽目になる。
「ご、ほ、ォ…っ……ぼ、くは……ぁ……」
説明書にそう書いてあった。
乃亜が言っていたんだ。
神になれると。
それなのに……。
困惑と恐怖と混乱と怒りを交えながら藤木は苦しみのたうち回る。
とある新世界の海賊はこう言った。
自分を無敵と勘違いしてきた"自然系"の寿命は短い。
自然系は物理攻撃に対しては無敵の性能を誇るが、覇気と呼ばれる特異な力を纏わせることで流動する体の実体へダメージを通す事が可能となる。
それは別世界の異能力も同様であり、覇気ほどではないがエイヴィヒカイトのような異能力等も込められた力の量に比例し自然系に通用する。
-
「これ。ただの遊びなんだけどさ。まさか、こんなことで役立つなんて。分からないもんだね」
形成の使用は制限により封じられたが、活動と形成の中間は別だ。
この白骨の獣はただの可視可能なオーラだが、大隊長クラスならば、それを攻撃へと転じさせることができる。
もっともシュライバー本人が言うように、これはただの遊びに過ぎない。
シュライバー自身が殺しに行った方が遥かに強く、手早く終わるのだから。
だが藤木に宿った能力は活動位階以上だ。
格上のシュライバーであっても、活動位階で生成した魔弾程度では通用しない。
元々、愛用する拳銃も魔弾も聖遺物ではない。
しかも相手は同じ聖遺物の使徒とはいえ、ゴム弾と比喩されるほどの威力しか持ち得ない。
それ故に、シュライバー自身の連射能力で威力をカバーしている。
所詮、弾丸一つに込められた力は微小だ。その程度では、自然系にはただの物理攻撃にしかならない。
だが聖遺物を実体化させる手前の形態であれば、それが遊びであろうとそこに込められた魂の量も決して少なくない。
それは魂という燃料の塊ともいえる。自然系の能力者に共通する流動する体を捉えるに値する程に濃密な力の集合体だ。
「ふーん。
やっぱり君はともかく、その能力だけは目を張るものがある」
藤木に通ったダメージはシュライバーのオーラの具現化で、戯れ程度に殴った箇所のみ。
そのまま地べたを転がり全身を打ち付けられようが、藤木には傷一つ付いていない。
雷の身体である為、物理的な干渉が無効化されたのだろう。
別の力で実体を捉えるという方法は有効打のようだが、決して悪魔の実の能力を無効化する訳ではない。あくまでダメージを通すだけに留まる。
磨き上げられた実力者であったのなら、流動する体の形を変形させ攻撃を回避することもあったのかもしれない。
「君、名前は?」
「……な、永沢…で、す…」
シュライバーは隻眼の眉を潜めて、ふっと苦笑する。
藤木は神と名乗った3分前からは考えられないほど、全身を震わせ歯をカチカチと揺らし音を立てる。
ただの一発、シュライバーからすれば赤子の手をひねるような遊びの攻撃で藤木の戦意は消し飛び、恐怖心が全身を支配する。
その中で辛うじてできる防御手段が別人の名を騙ること、ただそれだけだった。
「そうかい。じゃあ永沢」
藤木の態度から嘘を吐いているのは明白だった。
それ以前に自分から、フジキングと名乗ったのだ。永沢という名の横に、藤木というフジキングに似た響きの名があったのをシュライバーは記憶している。
「そんな怯えなくていいよ。僕は乃亜を殺してやろうと思っていてね。
その為に、ここに居る皆には死んでもらおうと思ってるんだよ」
だが敢えて、嘘を追求しない。その理由など特になく、まるで藤木に関心などないから。
「君にはそれを手伝って欲しいんだ」
来た。
藤木はそう思った。
自分は強い。利用価値がある。たまたま、この白髪の少年が特別だっただけなんだ。
藤木はそう都合の良い妄想へ逃避していく。
「話は簡単だ。3回放送までに、10人殺してその生首を僕の前に揃える事。
そうすれば、君は生かしておいてあげるよ」
藤木は絶句した。
「な、なま……」
指を三本立てて藤木の前でチラつかせる。
具帝的なリミットと殺害数を改めて提示された事で、藤木は改めて殺し合いの最前線に立たされているのだと理解させられる。
「首なんて、いらないんじゃ……」
殺すのはまだ良い。藤木は最初からそのつもりだ。
だが、首などいるか? あって何の役に立つというのか、藤木には皆目見当もつかない。
それに殺すだけなら銃を撃つか雷で感電死させるだけでいいが、首を落とすのはグロテスク過ぎて藤木には抵抗があった。
-
「分かんないかな」
藤木の背中に圧力が増す。
見れば、シュライバーの白骨の獣の前足が地べたに転がる藤木の背に乗せられていた。
「が、ぁ…かはっ……ぁ……や、め……」
ミシミシと背中から、軋んだ音が耳に伝わる。
「君が嘘を言って、僕を騙すかもしれないだろォ!!
一々説明しなきゃ分かんないのかなぁ? 君は馬鹿か!!」
明かに人体が出していい音じゃない。
このままじゃ、踏みつぶされた虫けらのように藤木も無残な死体へと変わってしまう。
「わか…わかった……分かったからぁ!! やめてぇ……っ!!」
藤木に選択肢などあるはずもなく。
涙と鼻水を垂れ流しながら、悲鳴を上げて承諾した。
「じゃあ、精々頑張りなよ」
「ぐべっ」
犬がボールを転がすように藤木は蹴飛ばされていく。
更にそこへランドセルも一つ投げ付けられた。
「餞別だ。それもあげるよ」
数時間前にシュライバーが殺害した羽蛾のランドセルだった。
正確には、エリスがマルフォイから強奪したのを羽蛾が確保したものだが。
藤木は恐る恐る手を伸ばし、ランドセルを掴む。
そっとシュライバーを見上げる。
ニタニタと笑い藤木を見下ろしているが、何かするような素振りは見えなかった。
多分、何もされない。大丈夫だろうと自分を安心させて、掴んだランドセルを自分の元へ引き寄せる。
「そうそう、聞き忘れるところだった。
君はルサルカ・シュヴェーゲリンという女の子を見なかったかい?
見た目は、赤い髪の可愛らしい女の子さ。着替えてなきゃ、僕みたいな服を着てるかな。
あとは……そうだねぇ。青いコートを着た髪を逆立てた男も探してるんだが……」
赤い髪の可愛らしい女の子?
藤木に記憶の中に一人思い当たる人物がいた。
ドロテアにのされた後、サトシと永沢達が合流する前にやってきた二人組の男女。
「え、と…服は違うけど、赤い髪の女の子は見ました。
俊國君という男と一緒に居ると思います。名前はちょっと……」
その時はグロッキーだったのと、日本人の藤木にとって外人の名前は聞きな慣れず頭に残らなかった。
だが確かに藤木は見ていたのだ。
シュライバーの語る赤い髪の女の子の特徴に一致する、エリス・ボレアス・グレイラットに化けた磯野カツオとそのカツオを連れた鬼舞辻無惨の姿を。
「俊國? そんなの名簿にはなかったけど」
「ほ、本当なんですぅ! そう言ってましたぁ!!」
「君みたいに偽名でも使ってるのかな」
「ぼ…ぼく…ぼくはぁ、永沢ですぅ!!」
偽名か。
赤髪といえば、先ほど取り逃がした劣等の片割れがそうだ。
しかし、金髪はナルトと黒髪はセリムと呼ばれていた。
あの緑髪の蟲野郎が名乗った偽名か。
だが藤木から俊國とやらの詳細を聞けば、蟲野郎の特徴からかけ離れていた。
「なるほど、俊國…俊國ねぇ。
……アンナ、どうして僕以外の男と?
どうして……僕ら、愛し合ってるんじゃないの?」
探す対象がまた増えた。
笑みから表情を変形させ、犬歯をむき出しにしシュライバーは叫ぶ。
-
「許さない……僕の君なんだ。僕の…僕のアンナなのにィ!!!」
愛し合う二人の間に邪魔者が入り込もうというのなら、それはもう轢殺するしかないじゃないか。
「俊國ィ、僕のアンナをよくもォ!!
あは、ははははははは……!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ────!!!」
楽しみがまた増えた事を無邪気に喜ぶ。
今度は怒りの形相から一転して腹筋を縒り哄笑し、笑い声を木霊させた。
「……ん? 何してるんだい。早く行きなよ」
羽蛾のランドセルを握りながら、ガタガタと手を震わせ藤木はシュライバーをじっと見つめ続けている。
「あ……っ」
感情のジェットコースターのような、シュライバーの不安定さを見ながら藤木は恐怖に苛まれる。
「あの…あの……ほんとうに10人殺したら、僕は……」
「しつこいなぁ。生かしてあげるって、言ってるじゃないか」
けれども、この一言だけは必ず通さなばならないと決意し。
「じゃあ、あの……僕と、もう一人……」
永沢君(ともだち)も助けてくれますか。
藤木はこの殺し合いに来てから、一番の勇気を振り絞った。
こんな事を言うだけで、今までの人生を振り返り自分が死ぬのを覚悟してしまう程に。
「構わないよ。
そうだ。その友達も入れて僕達で乃亜を殺しに行こうよ────」
シュライバーは天使のような笑みで快諾した。
片目を覆った眼帯を加味しても、人とは思えない程の美貌だ。
口調を聞かなければ美少女と勘違いしそうな。
だから、藤木は安心して背を向けて歩み出した。
これはこれから先起こる事は、自ら望んだことじゃない。仕方ない事だ。友達の為に自分は戦うんだと、そう言い訳を取り繕うように。
あの時振り絞った勇気は、その時だけは友の事を心の底から考えていたのに。
白騎士の表面上の美しさだけを見て、偽りの安堵を与えられ藤木の勇気は歪まされていく。
「ああ……生かしてあげるさ」
藤木を生かして放逐した理由は一つ。
シュライバーの知らない間に、0回放送後から1回放送まで16人も死んでいる。しかも、その内の誰一人としてシュライバーは殺せていない。
それはとても口惜しかった。
この殺し合いの勝者が、シュライバーであると確定されていたとしても、鏖殺を掲げながらそれだけの戦場を取りこぼすなど、英雄としてあるまじきことだ。
しかし腹正しいが、多くの獲物を見落としているのも事実。
だから、藤木には身を潜めた獲物を誘き出す餌になってもらう。
藤木本人は塵芥の屑以下の劣等中の劣等にすぎないが、あの身に宿した悪魔の力は別だ。隠れた敗北主義者共を、炙り出すには丁度いいだろう。
場を乱せば、そこが戦場となりシュライバーはその匂いを嗅ぎ付けやすくなる。その分、より多くの戦場を駆け抜けられる。
仮に藤木から事情を知った対主催が、逆にシュライバーを討ち取らんと挑みに来るのも面白い。
「君と君の友達は僕の中で永遠に生き続ければいい」
殺して魂を簒奪し、シュライバーの中に取り込む。
その中で永劫囚われる事をシュライバーは死んだとは認識していない。
だから、嘘など何も言っていない。
藤木が本当に10人殺そうが、殺せなかろうがどうでもいい。
次に再会すれば、それが3回放送前だろうが本当に10人殺せていようが構わずに殺す。
そして藤木は、シュライバーと共に歩み続ける。
いずれ黄金の齎す、この世の地獄で未来永劫死者と殺し合い続ける凄惨な有様。だがシュライバーは、黄金の祝福と信じて疑わない。
-
「───10人。や、やってやる…僕は……」
少なくとも10人殺せば生かして貰える。
あの軍服の少年はそう言っていた。それだけの強さを持っていた。
だから、だから……あの少年なら乃亜だって倒せるかもしれない。
────もし乃亜を倒す手段が見つかって可能性が高いなら、僕はそっちに乗っても良い。乃亜から願いを叶える方法を奪うのさ。
あの少年の力があれば、永沢とだって手を組めるかもしれない。
一緒に乃亜を倒して、そうすれば乃亜の持つ死者蘇生の力だって奪えるかもしれないし、永沢と一緒に城ヶ崎だって生き返って、いやこの殺し合いの犠牲者全員が生き返るかもしれない。
そうだ。だから、これは一時的なもので仕方い事で、皆の為なんだ。この島の全員を助けて、友達を守る為に自分は戦いに臨むのだから。
シュライバーの信ずる黄金の祝福、その真実など知る由もなく卑怯者は進む。
(梨沙ちゃん……僕が会った中であの娘が一番弱かったぞ────)
────だから、梨沙ちゃんとその友達から先ず狙おう。
【E-4/1日目/朝】
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:手の甲からの軽い流血、ゴロゴロの実の能力者、シュライバーに対する恐怖(極大)
[装備]:ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(羽蛾が所持していたマルフォイの支給品)
グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)、賢者の石@ハリーポッターシリーズ
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:第三回放送までに10人殺し、その生首をシュライバーに持って行く。そうすれば僕と永沢君は助かるんだ。
1:次はもっとうまくやる
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う
3:先に、梨沙ちゃんとその友達を探して殺す。最優先でね。
4:僕は──神・フジキングなんだ。
※ゴロゴロの実を食べました。
【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)ダメージ(中 魂を消費して回復中)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、欲求不満(大)
[装備]:ルガーP08@Dies irae、モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
4:僕からアンナを奪った俊國(無惨)も殺す。
5:3回放送までに10人殺し? 知らないよ。次、会ったら藤木は殺す。友達も殺す。
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
※アニメ版で使用した骸骨も使えます。
【ゴロゴロの実@ONE PIECE】
城ヶ崎姫子に支給。
自然系の悪魔の実で、その中でも無敵と謳われる能力の一つ。
口にした者は雷を操り自らも雷になる能力を得る。
雷という性質上非常に強力かつ応用の幅が広い。
原作の能力者エネルは、見聞色の覇気を電波に乗せ一つの島一帯から住民の心を読んだり。
宇宙船を開発しその動力源として無尽蔵の電力を供給し、黄金を溶かしそれを武器に変えたり黄金内を雷に変えた自分を通電させて移動するなど、様々な使い方を披露する。
現状、藤木にはそんな使い方はできない。
そして、自然系に共通する特徴として、操れる自然の力へと変換した体は物理攻撃を受けない。
ゴロゴロの実の場合、この能力者を殴ったり刺したりした者は雷に触れたのと同義であり、ダメージを与えるどころか雷が逆流し感電してしまう。
しかしもう一つの共通点として、拳や剣などに武装色の覇気を纏う事で自然系の悪魔の実の能力者の実体を捉えダメージを通す事が可能となる。
あくまでダメージを通すだけであり、能力そのものを無効にするわけではない。
ただし、覇気以外でも気、魔力、霊圧、チャクラ等の別作品の異能力や特異なエネルギーでも自然系にダメージを与えられるものとする。
そしてもう一つ、ゴロゴロの実の致命的な弱点としてゴムには一切の電撃が効かない。
覇気や異能力が込められていなくとも、ゴムであれば実体を捉えダメージを通す事が可能である。
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投下終了します。
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すいません
>>511を以下の文に修正させていただきます
理由は、藤木はエリスに変装したカツオが元に戻った瞬間を見ているのに、私が完全に失念していて矛盾した描写をしたからです
「分かんないかな」
藤木の背中に圧力が増す。
見れば、シュライバーの白骨の獣の前足が地べたに転がる藤木の背に乗せられていた。
「が、ぁ…かはっ……ぁ……や、め……」
ミシミシと背中から、軋んだ音が耳に伝わる。
「君が嘘を言って、僕を騙すかもしれないだろォ!!
一々説明しなきゃ分かんないのかなぁ? 君は馬鹿か!!」
明かに人体が出していい音じゃない。
このままじゃ、踏みつぶされた虫けらのように藤木も無残な死体へと変わってしまう。
「わか…わかった……分かったからぁ!! やめてぇ……っ!!」
藤木に選択肢などあるはずもなく。
涙と鼻水を垂れ流しながら、悲鳴を上げて承諾した。
「じゃあ、精々頑張りなよ」
「ぐべっ」
犬がボールを転がすように藤木は蹴飛ばされていく。
更にそこへランドセルも一つ投げ付けられた。
「餞別だ。それもあげるよ」
数時間前にシュライバーが殺害した羽蛾のランドセルだった。
正確には、エリスがマルフォイから強奪したのを羽蛾が確保したものだが。
藤木は恐る恐る手を伸ばし、ランドセルを掴む。
そっとシュライバーを見上げる。
ニタニタと笑い藤木を見下ろしているが、何かするような素振りは見えなかった。
多分、何もされない。大丈夫だろうと自分を安心させて、掴んだランドセルを自分の元へ引き寄せる。
「そうそう、聞き忘れるところだった。
君はルサルカ・シュヴェーゲリンという女の子を見なかったかい?
見た目は、赤い髪の可愛らしい女の子さ。着替えてなきゃ、僕みたいな服を着てるかな。
あとは……そうだねぇ。青いコートを着た髪を逆立てた男も探してるんだが……」
赤い髪の可愛らしい女の子?
藤木に記憶の中に一人思い当たる人物がいた。
ドロテアにのされた後、サトシと永沢達が合流する前にやってきた二人組の男女。
シュライバーの語る赤い髪の女の子の特徴に一致する、エリス・ボレアス・グレイラットと鬼舞辻無惨が擬態した俊國の姿を思い出す。
だが、エリスの正体は坊主頭の少年カツオだった。シュライバーの探し人じゃない。
(ルサルカ? あれ……)
いやエリスではなく、名前の方に聞き覚えはないか?
「───そ、そういえば俊國って子が」
あの時、藤木はグロッキーだった為に会話の内容を全て正確に把握はしていなかったが、俊國とモクバの会話の中で、ルサルカという名前を聞いた気がする。
そして先にその名を口にしたのは、あの俊國からだった。
「俊國? そんなの名簿にはなかったけど」
「ほ、本当なんですぅ! そう言ってましたぁ!!」
「君みたいに偽名でも使ってるのかな」
「ぼ…ぼく…ぼくはぁ、永沢ですぅ!!」
こんな場所でわざわざ名簿の開示も待たずに偽名を使うなど、余程の馬鹿か小心者か。
どちらでもいい話だが。
「なるほど、俊國…俊國ねぇ。
……アンナ、どうして僕以外の男と?
どうして……僕ら、愛し合ってるんじゃないの?」
探す対象がまた増えた。
笑みから表情を変形させ、犬歯をむき出しにしシュライバーは叫ぶ。
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ゲリラ投下します
-
「元太……」
海馬乃亜の放送を聞き、江戸川コナンは悲痛そうな表情を風見雄二に晒していた。
小嶋元太は工藤新一がコナンになってから数ヵ月、数十件以上の事件を共に解決してきた仲間だ。
かつては、コナンでいる間の短い付き合いだと割り切っていたが、今となっては掛け替えのない友になってしまった。
それを差し引いても、ただの子供がこんな殺し合いで無慈悲に命を奪われたのだ。
悲しみと怒りが綯い交ぜになっていき、コナンに影を落としていく。
だが同時に不幸中の幸いなのが、開示された名簿には同じ子供としての括りに入る円谷光彦や吉田歩美が載っていない事。
乃亜の言う子供はコナンが見てきた参加者の年齢層を見る限り、大体小学校低学年から、中学生程度を指していると考えられる。
その証拠に、法律上は未成年で子供に入る毛利蘭をはじめとする鈴木園子や服部平次のような、コナンの本来の同年代の知人の名前はなかった。
(灰原まで呼ばれてんのか)
予想はしていたが、やはりコナンと抱き合わせるように灰原哀まで殺し合いに巻き込まれていた。
二人の共通点は、実年齢より幼い容姿に戻されていることがある。そして、その元凶には黒の組織が繋がっている。
(オレと灰原の正体が奴等にバレた……いや、それなら元太を巻き込む理由が分からない。
それにいくら奴等でも、こんな殺し合いを開くほど酔狂でもないだろ)
謎の多い組織だが、決して快楽殺人を目的とする集団ではない。
これを見世物として利益を得ようとしているのではとも考えたが、リスクが高すぎる。
なにより、先ほどのリンリンやハンディ・ハンディの語った世界観がコナンの知るそれとはあまりにも別すぎる。
考え難いが、SF映画のような別の世界が存在するのではとコナンでも信じてしまう。
魚人という種族なども聞いたことがないし、吸血鬼なんていうのは伝説上の存在だ。
だが実際に目にした人を食う少女に、生身のまま音速以上の素早さで走り回る蘇ったナチスの亡霊。
黒の組織と言えど、こんな連中を島に一斉に拉致し殺し合わせるなど不可能に近い。
(灰原と合流しとかねーと…アイツなら首輪の解析も出来るかもしれねえし、オレもプラーミャの爆弾に関してはある程度構造を把握してる。首輪を外すヒントになるかも)
元太と違い灰原は大人だ。
判断力も頭脳もずば抜けて高い。そう簡単に死ぬとは思えないが、荒事が得意な訳ではない。
(もう、そんなことはないと思うが……)
最近は鳴りを潜めているものの、以前は軽率に自分の命を投げ出そうとする危うさも見られた。
早い所、灰原の安全を確認しておきたいところだ。
(あとは、あのマサオっておにぎり頭も早いとこ見付けてやらねーと……)
「……姉ちゃん」
「雄二?」
殆どポーカーフェイスを崩すことのない雄二が、名簿に目を通した瞬間明らかに動揺していた。
「俺の死んだ姉の名前が載っている」
「なんだと?」
この時系列の雄二にとって、風見一姫は既に故人だ。
「乃亜が生き返らせたって事か?」
コナン達は最初に見せしめに殺された兄弟の内の片割れが蘇生したのを目撃している。
あれが何かのトリックであると穿った見方も捨てきれないが、これだけ人知を超えた能力を見てくると、絶対にありえないとは否定しきれない。
一姫が同姓同名ではなく、本人であるとしたらそれは死者の蘇生を乃亜が施したのだとコナンは結論を出すしかない。
「警戒はした方が良いかもしれないな……。
コナン、お前が見た人食いの怪物のように容姿と記憶を読み取った後、同じ名前を名乗っている別人の可能性もある」
「それは、そうだが……」
雄二の言うようなケースもコナンは想定していない訳ではなかった。
先に言い出した雄二も今にも見えない重圧に押し潰されそうな、苦々しい表情を浮かべている。
コナンが目撃した少女のような同種が別に居て、それが一姫の姿を借りているとしたら、その遺体は悍ましい光景を晒している。
身内でないコナンですら、考えるだけで気分が悪い。弟の雄二など、本当は口にするのも忌避しているはずだ。
-
「ねえ、人が生き返るってお話聞いても良いかしら?」
それは空からだった。
パタパタと飾り物のような華奢な羽で重力に逆らいながら、洋風の少女がコナンと雄二達を見下ろしていた。
「そこの人間、貴方のお姉さんが生き返ったのって本当なの?」
ネモ達と別れた後、フランドール・スカーレットは野原しんのすけの仇を討つ為にジャック・ザ・リッパーを探していた。
手掛かりを求め映画館を目的地としながら、丁度島の真ん中、さほど遠くない距離に病院があることにフランは気付く。
ジャックは直接戦闘であれば、フランには及ばない。一般の子供なら百人いても勝てないだろうが、一定のレベル以上の戦い慣れてる者からすればそこまで強くない。
495年の引きこもり生活から、対人及び対妖の戦闘経験は多くない為、フランも断言はしきれなかったが、搦手を駆使する戦闘スタイルなのは間違っていないはずだ。
殺し合いの開始から6時間、負傷者も増えている頃合いだ。
医療機器を求めて、病院に向かう参加者は少なくないかもしれない。
ジャックならば、そこで待ち伏せし、自分に有利なように罠でも張るのではないかと予想する。
そして、「その罠ごと全部壊してあげる」と一人で冷たく言い放ち、島の中央へ向かった。
病院とその周辺を調べてから、改めて映画館へ行く進路を選んだのだ。
道中、放送が響いたがしんのすけとネモ以外の名前には何の関心もない。
禁止エリアだけ記憶し、名簿に姉のレミリア・スカーレットをはじめ知り合いの名がないのだけ確認すると、さっさとタブレットを仕舞い込む。
強いて言えば、放送で呼ばれたアーカードの名前だけは気になった。
これはドラキュラ(Dracula)の名を下から読んだものだ。吸血鬼絡みの小説や映画などでもよく使われており、吸血鬼のフランとも完全に無関係とは思えない。
案外、本物のドラキュラ伯爵でも呼ばれていたのかもしれない。
しかし、死者として名を呼ばれたのならそれを確認する術もなく、少し会ってみたいと残念に思っていると、飛んでいるフランの下方から少年たちの話し声が聞こえてきた。
偶然にもそれは死者が蘇ったかもしれないという会話。
アーカードのことなど一瞬で頭の片隅に押しやり、フランは少年達に声を掛け下降していく。
コナンと雄二は訝しながら、その光景を見つめていた。
「大丈夫よ。取って食うつもりはないわ」
人間らしく、恐れを交えた目で見つめられているのを認識しフランは警戒を解くよう口にする。
少なくとも今は襲う気はない。ネモも生きているし、何より死者蘇生の情報を握った重要な証言者だ。
ネモを疑う訳ではないが、しんのすけを生き返らせる保険はいくつあっても損ではない。
「フランドール・スカーレット。私は名乗ったわ。貴方達も名乗って欲しいわね」
心底面倒そうな顔をして、フランは溜息交じりに自分の名を口にした。
(しんちゃんなら、何も言わなくてもあっちから何か察して話してくれて、会話楽なのに。
臆病な人間ね)
しんのすけという少年が非常に陽気で高いコミュニケーション力を持っていたことに加え、彼もまだ幼く良くも悪くも人を疑うことを知らなかったのも大きいのだが、フランからすれば知る由もない。
ただ人間は妖怪を恐れるもので、その中でしんのすけがやはり特別だったのかもしれないと、初めての友達への特別視をより深めていくだけだった。
「えへへ…ぼく、江戸川コナン! お姉さんにびっくりしちゃった! お空飛べるなんてすごいな〜」
いつも通り、猫を被ったあまりにもわざとらしい子供の演技でコナンはフランに接する。
「へえ、その名前…両親はシャーロキアンかしら?」
「分かる? うん、僕とパパはホームズの大ファンなんだ!」
「ホームズなんて何度も読んだもの。アガサ・クリスティのが私は好きだけど」
「ぼくが居候してるお家の下には、ポワロってお店があるよ」
思い掛けない趣味の一致から、フランの声も少し弾んでいく。
スペルカードの命名をアガサ・クリスティから取ってくる程だ。フランもそれなりにミステリー小説には明るい。
「死んだ人間の蘇生に興味があるのか」
雄二はパンプキンに手を回し、いつでも臨戦態勢に移れるよう構える。
-
「そう怯えなくていいわ。
死者蘇生に興味あるけど、優勝して願いを叶える以外の別の手段も考えてるし……一応、貴方のお姉さんの事も聞きたいと思っただけよ。
少なくとも今は殺し合いに乗らないもの」
今は。
それを聞き、コナンと雄二はフランへの警戒をより強めた。
まるで隠す素振りもなく、フランはあっけからんとしていた。
隠していた素を出したわけではなく、そもそも殺し合いに乗り気な事を悪びれもしていない。
「────同姓同名かもしれない。まだ、俺達もそれが本物か確認していない」
自分の姉について、フランに話すのは気が引けたが既に一連の会話を聞かれた以上しらばっくれるのも難しい。
下手に誤魔化し機嫌を損ねるよりは正直に話した方がマシだ。
他にも魔神王などの危険人物の情報も含め、雄二は自分の持つ情報をある程度話した。
「ふーん…でも、まだ6時間程だものね。知り合いが居てもそうは会えないか」
つまらなそうにフランは呟く。
「ねえ、お姉さんはマサオ君って男の子見なかった? 頭がね、おにぎりみたいなんだ」
そのままコナンは作り物の猫撫で声を維持したまま会話を繋げる。
シュライバーの乱入やリンリンの暴走で逸れてしまったが、佐藤マサオという子供を放っておくのは非常に危険だ。
一連の一部始終は知っているし、それが元で自暴自棄になって殺し合いに乗るかもしれない。
そうでなくとも、あんな幼稚園児が一人で殺し合いの場をうろつけば、マーダーに狙われない方が不自然だ。
「マサオ……そういえば、しんちゃんの……」
聞き覚えがある。
しんのすけの友人として、挙げられた名前の中にそんな名前があった気がする。
「一緒に探そうよ! しんちゃんってしんのすけって子だよね?
名簿でマサオ君の近くに、名前が載ってたからきっと友達なんだと思うよ」
僅かに考え込む素振りを見せたコナンはこれをチャンスだと思った。
恐らくフランはしんちゃんと愛称で呼んでいて、更にマサオという名に反応した事から、名簿にあり放送でも呼ばれた野原しんのすけと非常に親しい間柄だと考えられる。
殺し合いに比較的乗り気で死者蘇生に関心を持っていたのも、死んだしんのすけを生き返らせる為だと推測した。
「……どうして?」
首を傾げて、何の悪意もなくただ疑問をフランは口にする。
「あの子、怖い目に合ってとても大変なんだよ。見付けてあげないと……。
しんのすけ君ならそうするよ」
「しんちゃんは私の友達だけど、マサオは他人よ」
「でもさ、しんのすけ君の友達なんだよ?」
「それって、私と関係ないでしょ」
「───ッ」
フランはきょとんとした顔のままコナンを見つめていた。
だからこそ、逆にコナンはたじろいでしまう。
「そうそう、ジャック・ザ・リッパーって女の子見てないかしら?
特徴はね……」
人の価値観と相違があり過ぎる。
淡々とジャックという少女について、サーヴァントがどうだのとネモから聞いた話を語り出すフランは、マサオの事など欠片も気にしていない。
「───そいつ、しんちゃんの仇だから私が壊したいの。
相手の記憶を消去する能力があるらしくて、何かうろ覚えになってるなら間違いなく貴方達と出会ってると思うんだけど」
しんのすけの死に心を痛めるのは理解できるが、その下手人のジャックを仇として執着する割にマサオに対しての無関心さは歪だ。
「なにか、心当たりがありそうな顔してるわね」
コナンと雄二も、ジャックの記憶消去に関しては身に覚えがあり、僅かに反応してしまう。
人と妖怪の差に動揺していたせいもあるだろう。取り繕う余裕がなかった。
マヤを殺した少女について、容姿がうろ覚えである事をフランに即座に見抜かれてしまった。
-
「何処に居るのそいつ」
フランにとっては友好的な態度から一転し、淡々とした殺意の籠った声が紡がれる。
偽ればただではおかないと、声に込められた圧がそう伝えてくる。
「情報が欲しいなら、そちらからも見返りがあって然るべきだと思うが」
雄二が毅然とした態度を取り戻す。
「……それもそうか。
北の方にネモと悟空って言う対主催がいるわ。
ネモは首輪の解析をしてるみたいで、私を対主催で居るよう説得してくれたの。
あと、悟空は多分この島じゃ最強で────」
フランも少し悩んだ後に自分が出会った少年達の情報を渡した。
目の前の二人は間違いなく対主催だ。
ネモ達の事を伝えるだけでも有益な情報だろう。
それは雄二からしても悪くない情報で、首輪を解析する技術者と強力な戦力のあてが付いたのは大きな前進だった。
「俺達は銀髪の電撃を操る少年と共に、そのジャックという奴に襲われた。
桜田ジュンの家だ」
まだ北辺りにいるらしい。
こんなことなら、ネモ達と同行しておけば良かったかとフランは少し後悔した。
「そ、ありがとう。お互い有意義な時間だったわね」
そう言ってフランはまた羽をパタパタと動かして宙に浮いていく。
「しんのすけ君、悲しむんじゃないかな」
フランの羽の動きが止まった。
「もしも、自分を殺した相手でも友達のフランちゃんが殺したと知ったら、とても悲しむと思うよ」
フランは滞空したまま、コナンへと振り返る。
「ジャックは英霊よ。ネモが言うには死んだ過去の人間のコピーだったかな、まあ何でもいいけど。
コピーに人権なんかないんだから、それは殺人にならなくない?」
「仮に法で裁かれなくても、しんのすけ君の友達を見捨てて優先することが復讐なの?」
雄二が驚倒した顔でコナンを見つめていた。
「うふふふ……私ね? ここに来てから、初めてばかりだわ」
両手を広げて、うっとりしながらフランは感傷に浸る。
初めて出来た人間の友達。その友達との初めての離別。
初めての復讐。初めて意識した異性との接吻。
「自分より、遥かに弱い子に威勢を張られたのも初めてよ。
空威張りも程々にしないと、貴方壊れちゃうわよ。
だって弱いんだもん」
吹けば飛ぶような小さな体で、よくもここまで吠えられたものだ。
そこまでして、他人が壊れるのを否定する人間も初めて見た。
あのネモだって場合によっては、フランを殺す事を覚悟している。もし殺し合いに乗れば、自分が手を下すとも宣言したのだ。
「ああ、よえーよ……もう二人も目の前で死なせちまった。
だから、せめて……マサオを助けるまでは、力を貸してくれ。頼む……」
コナンは頭を下げ、そして懇願する。
リンリンの根は善良だが、今の二人では太刀打ちできる相手じゃない。
エスターを食らったことを自覚すれば、それこそ話し合いも出来ない。
聞けばフランは、人間を超えたサーヴァントとも戦いを繰り広げられるらしい。
だから、万が一を考えて強者の協力者がコナンには必要だった。
「……まあ、ついでに探すくらいならしてあげる。ついでによ。
だけど、貴方達と一緒に……クスッ…犬みたいに嗅ぎまわって、その子を探すなんてごめんだもの」
皮肉と批判を交えて。
フランは小さな探偵に嘲笑と拒絶の意を告げる。
-
病院周りはコナン達の言い分を信じれば、まだジャック達は来ていないようだ。
恐らくまだ北に居るのかもしれない。
それか、今になってようやく南下して病院などの目ぼしい施設を目指すか。
ある程度の場所を絞りこめたのは大きい。
今度こそコナン達に背を向けて、フランは飛び立っていった。
(ジャック────貴女の行く先々、逃げ場も救いも何もかも壊してあげる)
頭の片隅の更に端っこ辺りに、佐藤マサオの存在をちょこんと置いて。
「バーロー……」
戦力の当てが外れ、コナンは力なく項垂れる。
急がなければ、リンリンはまた更なる犠牲者を出してしまうのは分かっているのに。
いくら口で高説を述べても、そこに力が伴わない事がこれ程にまで無力だとは。
「ポワロは一次大戦後の探偵でホームズはその前の時代の探偵だ。
時代も技術も捜査方法だって、ちげーだろうが……」
力さえなければあの少女の批判に対する反論すら、届かせることが出来ない。
-
【D-5/1日目/朝】
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:ダメージ(小)、精神疲労(小)
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:一先ずはまぁ…対主催。
0:桜田ジュンの家を起点にジャックの行先を考える。
1:ネモを信じてみる。嘘だったらぶっ壊す。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か
5:マサオもついでに探す。
6:乃亜の死者蘇生は割と信憑性あるかも。
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※ネモ達の行動予定を把握しています。
【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、精神的なダメージ(極大)、リンリンに対しての共感
[装備]:浪漫砲台パンプキン(一定時間使用不可)@アカメが斬る!、グロック17@現実
[道具]:基本支給品×2、斬月@BLEACH(破面編以前の始解を常時維持)、マヤのランダム支給品0〜2、マヤの首輪
[思考・状況]基本方針:5人救い、ここを抜け出す
1:コナンに同行しつつ、万が一の場合は自分が引き金を引く。
2:可能であればマーダーも無力化で済ませたいが、リンリンのような強者相手では……。
3:悟空やネモという対主催にも協力を要請したい。
4:一姫がいるのか?
[備考]
※参戦時期は迷宮〜楽園の少年時代からです
※割戦隊の五人はマーダー同士の衝突で死亡したと考えてます
※卍解は使えません。虚化を始めとする一護の能力も使用不可です。
※斬月は重すぎて、思うように振うことが出来ません。一応、凄い集中して膨大な体力を消費して、刀を振り下ろす事が出来れば、月牙天衝は撃てます。
【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:疲労(大)、人喰いの少女(魔神王)に恐怖(大)と警戒
[装備]:キック力増強シューズ@名探偵コナン、伸縮サスペンダー@名探偵コナン
[道具]:基本支給品、真実の鏡@ロードス島伝説
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止め、乃亜を捕まえる
1:灰原を探す。
2:乃亜や、首輪の情報を集める。(首輪のベースはプラーミャの作成した爆弾だと推測)
3:魔神王について、他参加者に警戒を呼び掛ける。
4:リンリンや他のマーダー連中を止める方法を探し、誰も死なせない。
5:マサオやカニ(ハンディ様)も探す。
6:フランに協力を取りつけたかったが……。
7:元太……。
[備考]
※ハロウィンの花嫁は経験済みです。
※真実の鏡は一時間使用不能です。
※魔神王の能力を、脳を食べてその記憶を読む事であると推測しました。
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投下終了します
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投下します
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───こいつ、友達いねーな、絶対。
運よく誰にも襲われる事無く、ホグワーツ魔法魔術学校で朝を迎えて。
乃亜からの二度目の放送を聞いた俺は、そう思った。
今回も一度聞いただけで根性がねじ曲がってるのが分かる放送だった。
あんまり言いたくはないけど、こんな奴に命を握られているのだと思うと泣けてくる。
嫌な予感が当たっちまった。
思い浮かぶのは夜が明ける前に出会った女の子。
絶対にこんなゲーム壊して帰るんだって笑ってた女の子。
俺にあっけなく負けて、ククリと同じくらいの小さい肩を震わせていた女の子。
そして、ついさっき乃亜に死んだ人間として呼ばれた女の子。
条河麻耶の名前を思い出しながら、俺はマヤが得意げに握っていた剣を見て呟いた。
見つけたのは、偶然だった。
ホグワーツに着いてすぐ、入り口の辺りにそれは突き刺さっていて。
その柄に付いた血を見てまさか、と思ったそのすぐ後の事だった。
乃亜の放送から、マヤの死を伝えられたのは。
「…かわいい子だったな」
しょーじき、マヤと過ごした時間はほんとに少しで。
俺があの子について知ってることは殆ど無いけど。
それでも、こんな場所で死んでいい子じゃなかった。
それだけは確かだ。
あの時、ホグワーツに行くことを優先しないで。
俺達も一緒に居たら、マヤは死なずに済んだのかな。
雄二の奴は無事なのかな。
マヤを殺したの、クロじゃねーだろうな……
色んな考え…大体ろくでもないのが、頭の中で浮かんでは消えた。
「ま……ククリやジュジュが此処にいないのは唯一いい話か」
後ろ向きになっててもしょうがない。
溜息を吐きながら、乃亜の奴が用意した情報の中で唯一良い情報に考えを移す。
放送の後見た名簿に、ククリやジュジュ、トマの名前は無かった。
あと、当たり前だけどキタキタ親父も。
つまり、この島に知り合いは連れてこられてないってこと。
それは間違いなくいい話だった。
おじゃる丸も、知り合いはいないらしい。
水銀燈の奴は雪華綺晶という欲しがりで、性悪な末っ子が来ていると言ってた。
何でも話では姉妹の物なら何でも欲しがる壊れたジャンクってことらしいけど。
ぶっちゃけ、水銀燈の姉妹ならそう悪い奴じゃなさそうなんだよな。
取り合えず、姉妹喧嘩に巻き込まれたくないので、妹なら仲良くしとけよと言っといた。
水銀燈は生返事で「あの末妹が此処にいるなら…」だとか、「めぐは今……」だとかチャンスと焦りが混ざった様な顔で暫く考えこんでしまった。
「この学校も無駄に広いしなぁ……案内も無しじゃ
クロの身体何とかしてやる方法見つけるのは一体いつになる事やら」
『もう放っとけよ、何なら俺がそのクロって奴叩き切って───』
「お前は黙っときなさいね」
『チッ』
隙あらば他の参加者を斬りたくて仕方ないアヌビスを一言で黙らせる。
こいつもこいつで名簿を覗いてから何か考え込んでいる様子だった。
まぁどうせろくでもない事なんだろうが。
ともあれ、乃亜のいうマーダーってのに襲われる事が無かったのは良かったけど。
代わりに収穫も何一つなかった。
グチグチ我儘を言い続けるおじゃるを宥めすかして、やっと辿り着いたホグワーツ。
でもそこは学校と言うより最早でっかい城だった。魔王城って言っても信じるぞ。
道案内の看板もろくに無く、闇雲に歩き回っても都合よくクロの問題が解決するような話はなーんも転がってなくて。
当然、この殺し合いをどうにかする方法も見当もつかない状態で今に至る。
収穫があったとすれば────
「なぁ中島、お前は知り合いいた?」
「うん、僕の知り合いは磯野カツオって男子だよ。
見た目は普通なんだけど、すっごく悪い奴で。とてもじゃないけど信用できない」
ナカジマっていう奴に出会った事くらいか。
眼鏡をかけてトマに負けず劣らずモブっぽいナカジマは、殺し合いには乗ってないって話だった。
ただ、俺達に出会うまでに相当危ない奴らに出会ったらしい。
二人組で殺し合いに乗ってるらしい永沢って奴に、鬼舞辻無惨って人食い鬼の怪物。
水銀燈は人形だしどんな人選だよ、乃亜はどういう基準で参加者を選びやがったんだ?
俺にはさっぱり分からないし、ナカジマに振ってみても肩を竦めるだけだった。
まぁ今はそんなことどーでもいいか……
取り合えずナカジマはこれからどうするか。
それを尋ねようと思って、俺はナカジマの方に向き直ろうとした。
丁度、振り返ったその時に。
鞄から何かを取り出そうとするナカジマの姿と。
その背後で竹刀を振り被る、おじゃる丸の姿が見えた。
-
「おじゃっ」
彼奴がナカジマに竹刀で突っつくと同時に。
ぽんっと音が鳴って。
ナカジマの姿が豚へと変わる。
一体全体何が起きてるのか分からなかったが、緊急事態ってことは分かった。
豚ジマの足元に、あいつのランドセルとクソでかい鉄の塊みたいな剣が転がったからだ。
剣とナカジマの変貌に呆気にとられる俺に、水銀燈が叫んだ。
「ニケ!逃げなさい!!」
何から逃げるのか、って聞く必要はなかった。
豚に変わったナカジマの目は、一目見てヤバいって分かったからだ。
殺す。彼奴の目から感じ取れるのは、その一言だった。
───ったくよォ!やってくれるぜっ!
無我夢中で、手の中のアヌビスを引き抜く。
おじゃるを背負ってなかったのは、不幸中の幸いだか。
でもそれを喜ぶ暇も無い。
俺が突っ込んできたナカジマに吹っ飛ばされたのは、そのすぐ後の事だったからだ。
-
■
おじゃる丸がその時こぶたのしないを魔神王に使用したのは、偶然だった。
彼が魔神王の眼中にない、空気中の塵同然の認識を受けていなければ。
乃亜の気まぐれによってこぶたのしないの強制力が、異様な強化を施されていなければ。
先ず起こりえない状況が、ここに展開されていた。
おじゃる丸が子豚の竹刀の被検体魔神王を選んだ理由は、特にない。
ただ、時に子供は侮っていもいい、舐めてもいい相手を見分けるのは非常に嗅覚が効く。
中島の如何にも冴えない風体を見て、まぁこいつなら手頃だろう。
そんな悪戯盛りの子供らしい考えで犯行に及び。
その結果、「豚マン」を生むこととなったのだった。
乃亜から通達された二回目の放送は、魔神王にも俄かに衝撃を与える者だった。
あのまま戦っていれば自分が勝負を制していたのは無論のこと。
しかして曲がりなりにも自分と殺し合いが成立していた、吸血鬼(ナイトウォーカー)。
不死王アーカードの名前が死者として告げられた。
それは詰まるところ自分に迫る不死性を誇るアーカードが討伐された、という事であり。
あの吸血鬼を殺し切る参加者がこの地にいるという事であった。
アーカードの存在に最早興味はない。
自分と雌雄を決する前に不様に討たれた敗残者でしかないのだから。
だがあの不死性と実力を誇ったアーカードを殺しうる手段や参加者が此処にいるなら警戒しない理由はない。
アーカード以降であった参加者は鬼舞辻無惨を除き、自分にとって取るに足らない相手ばかりだったが、これからもそうとは限らない。
そう認識を検めた矢先、彼が出会ったのがニケと言う名の“勇者”だった。
────この男。
絶対に、間違いなく、確信を以て言える。弱い、と。
智謀という視点から見ても秀でているとは思えない。
むしろ頭の中に馬糞でも詰まっていいそうな手合いだ。
この男に自分が遅れを取る事など絶対にない。断言してもいい。
にも拘らず……魂が、一度、違和感にも似た警鐘を鳴らした。
魔王と勇者の邂逅は、魔王にのみほんの僅かな影響を与えていたのだ。
その影響が、魔神王に敵を探る時間を与えた。
どうせその気になれば即座に三人纏めて殺せる相手なのだ。
ニケは勿論のこと、水銀燈という人形型の魔法像(ゴーレム)も問題にならない。
おじゃる丸とかいう子供など蛆虫に等しい。考慮にも値しない。
であれば、情報を幾らか引き出してから殺害しても遅くはない。
そう考え、僅かな交流に臨んだ。
中島の記憶から得た情報を用いれば人間の子供のフリをする事など造作もない。
リィーナ姫を騙り、国全てを欺いた経験すら、自身にはあるのだから。
────殺すか。
慎重策を取り探ってみたが、やはり邪神に等しい力を有する魔神王が危惧するものは何も見られなかった。
見た通りの凡愚。であれば殺すことに微塵の躊躇もない。
そう結論付けながらドラゴン殺しをデイパックから引き抜こうとして───
背後から豚にしようと密かに迫る、おじゃる丸の竹刀を見逃した。
取るに足らない、と評していても。
その実無意識のうちに魔王は、勇者の挙動を注視してしまっていたのかもしれなかった。
-
■
『ニケや……起きなさい……ニケや……』
『今、貴方にゴイスーなデンジャーが迫っているの……ニケ……』
聞き覚えのある声に、目を醒ます。
声のした方に顔を向けてみれば、そこにいたのはやっぱり知った顔だった。
知りすぎた顔だった。
羽の生えた親父、お袋が目の前でふよふよと漂ってた。
というか、親父たちがいるって事は、俺は死んじまったのか?
『勝手に殺すな。死ぬとすればお前だけだ』
それが実の息子にかける言葉か?
まぁ親父たちが何故かいるのは、何時もの事(グルグルげきじょー)だし、
聞いてもどうせまともな答えが返って来るとは思えない。
でも、親父たちの言う通り、今俺達がピンチだって言うのは分かる。
だから、そーゆーピンチを跳ねのけられる何か都合のいい力俺持ってないの?
二人に対して出たのは、そんな言葉だった。
『そんなものは……ない!』
だよね。知ってた。
『ニケ、前にも言った通り……お前は凡!人!なんだ!!!』
『そうよニケ!貴方は頑張ってるけどまごう事無き凡人!
そんな貴方にピンチの時覚醒する都合のいい力なんて存在しないわ!!』
『『おぉ凡人勇者ニ〜ケ〜〜!!!』』
この人達、息子褒めるセンス致命的に無いな。
『だが安心しろニケ…時代はお前に追いついている』
親父が無駄に自信満々に意味不明な事を言う。
二人がわけ分かんねーのは何時ものことだけど、今はそんな場合じゃないってのに。
露骨に不満そうな顔をしてやるが、二人は気にせずそのまま話を続ける。
『ニケ、今の勇者にはね、“”チート“”と言う物があるの。
今迄定職に就いた事のないダメダメな子でも、世界を救える英雄になれる!』
『そうだ!昨今のトレンドはチートだ!!ニケ!!
神様から与えられた力で問題をスパッと解決でモテモテ!これぞ現代の勇者!!』
………!!
すげェ……!それって最高じゃん。修行とかもしなくていいんだろ?
というか、してる暇なんてないし。
正に俺向き、この二人も偶には役に立つ情報を教えてくれるなぁ。
で、そんな都合のいい神様とやらにはどうやったら会えんの?
『それはな、死ぬことだ』
『死んで転生したらそういう神様からお呼びがかかるわよ、きっと』
───却下。やっぱこの二人ダメだ。
死んでから能力くれてどーすんだよ!
生きてる時に助けて欲しいんだよ俺は!!
『あぁッ!ま、待てニケ!!どうしてもと言うなら同行者の支給品を確認するんだ!』
『そうよニケ、凡人でも諦めちゃだめよ!!』
びっくりするくらい役に立たない。
何しに出てきたんだこの二人は。
呆れている間に、夢から醒める様な感覚が体を突き抜けてくる。
『……っ!そろそろ時間らしいな。生き抜けよニケ!ククリちゃんも待ってる!』
『そうよニケ!どれだけ弱っちくても、だらしなくても、ギャグキャラでも、
それでも、貴方は勇者なんだから!!』
ったく。
分かってるよ、そんなこと。
次に会う時は、もっとマシな話をしてくれよ。父さん、母さん。
それじゃ、行ってきます。
-
■
ギィン、と鉄がぶつかり合う音で俺は目を醒ました。
次に意識するのは、剣を握ってる感覚と、額から感じる熱。
勿論めちゃくちゃ痛い。触ってみると血が滲んでいた。
痛みに泣きそうになってる俺に、今握ってる剣のアヌビス神が話しかけてくる。
『げッ、目を醒ましやがったか、クソガキ
そのままくたばってりゃ良かったのに』
「おう、お前のお陰で無事今迄死に損なったみたいだわ、サンキュー」
どうやらあらかじめ試してた細工が上手く行ったらしい。
契約の時、俺はわざとアヌビスが体を動かすこと自体にルールを決めなかった。
そうしなくても乃亜の制限のお陰で無理やり乗っ取られる心配はないし。
上手く使えば、さっきみたいな俺の意識が飛んでる時でも戦えるからだ。
何せこいつは、魔法の契約書のお陰で俺に協力しないといけないからな。
だから俺が殺されそうになったら、自動的に体を動かして防御せざる得ない、という訳だ。
何ならアヌビスが倒してくれてれば楽だったけど、まぁ甘くないよな。
「目を醒ましたのねぇ、三分くらい気を失ってたわよ貴方」
声のした方を目だけ動かして見れば、水銀燈がシリアスな雰囲気を出しながら、でも余裕は失わずに浮かんでいた。
勿論それには訳があったみたいだけど。
「あの豚さん、貴方とおじゃる君にご執心みたいねぇ。
どっちか殺されてる内にお暇しようと思ってたけど…ワンちゃんが中々粘って驚いたわぁ」
『フン!当たり前だ。このアヌビス様が豚なんぞにやられるかァ〜〜!!』
おじゃるは分かるけど、何で俺なんだよ。俺いきなりぶっ飛ばされたんだけど。
アヌビスは無駄に威勢はいいけど、お前俺の身体で人斬ろうとしてたの忘れてないからな。
キタキタ親父がマシに思えるオンボロ・パーティだった。
「それでねぇ、提案なんだけど……どうかしらぁ。
おじゃる丸君を煮るなり焼くなり好きにどうぞって差し出して、見逃して貰うのは」
とんでもない提案をしながら、ちらりと目線を動かす水銀燈。
釣られて其方を見てみれば、「お、おじゃ…」と不安そうに呟きながら元凶が此方を見ていた。
うん、名案だ。確かに俺もそれもアリかなーと思ってる。
「大丈夫だ、心配すんなって」
「ニ、ニケ……」
ガチで見捨てられると思っていたのか、それとも俺の血を見てビビったのか。
おじゃる丸は言葉を失ってるみたいだった。
普段からそれくらいの奥ゆかしさがあれば可愛げもあるもんだけどなぁ。
そう思いながら、俺はおじゃる丸に心配するなって言ってやった。
なぁに、ナカジマだってさっきまで普通に話してたんだ。話の通じない相手じゃない。
ここは勇者ニケの必殺技、華麗なDOGEZAで場を収めてやろう───、
そう思って、向かい合っていたナカジマの方を見る。
(あ、これ許してくれなさそう………)
今は目を醒ました俺を警戒しているのか、それとも豚の身体に慣れないのか、襲ってはこなかったけど。
もう目が、全身がぶっ殺す、そう言っているみたいだった。
よっぽど頭に来たらしい。ただ豚に変えられただけなのに……
いややっぱ殺されても文句言えないなこれ!
…って、うわぁあああああっ!?
「お前ーっ!いきなり何しやがる!!死んだらどーする!!」
『殺す気でやってるから当たり前だろ、バカか?』
猛スピードで突っ込んできたナカジマの体当たりが掠って、ごろごろと転がる。
咄嗟にアヌビスで受けたけど、とんでもない速さと力だ。
しかもこれ、多分慣れてない豚の身体でこの威力。
本来のナカジマの力で殴る蹴るされたらと思うとぞっとする。
「おっ!落ち着けよ!怒る気持ちも分かるけどさ!中々イカしてると思うよ、その姿!」
何とか宥めすかそうとしてもナカジマの奴は話を聞かない。
彼奴の蹄の攻撃を何とか躱して横に飛びのくと、さっきまで立っていた場所にでっかいクレーターができた。
あんなもん喰らったらグチャグチャのミンチになって夕方のスーパーでタイムセールにされちまう!
-
「無駄よ、多分豚にされたのを怒ってる訳じゃないもの」
俺が躱すのを見越してたのか、水銀燈が即座に切り込んで、クレーターの中央に立つナカジマにその手の剣を振るった。
その剣には見覚えがあった、マヤの持っていた剣だ。
水銀燈が振るのと同時に、雷が飛び出して、ナカジマを襲う。
それを見たナカジマは無表情のまま、後ろに十メートルは跳んで雷を躱す。
そして、また俺達と睨み合う形となる。
「銀ちゃんよ、どういう事だよ。じゃあ何でナカジマの奴は俺達襲ってんだよ」
「誰よ銀ちゃん。簡単よぉ、あいつは元々殺し合いに乗ってたって事。
それどころか、人間ですらなかったみたいねぇ」
マジか。
全然気づかなかった。
「私もさっきまで確証は持てなかったけどね。
だからできる事ならやり過ごしたかったけど……やってくれるわぁ、本当に」
やってくれたってのは、ほぼ間違いなくおじゃるの事だろう。
見捨てる気はないにせよ、やってくれたってのは本当にその通りだな。
全く、事あるごとに何かやらかさないといられないのかあいつは。
そんな事を考えている間にも、ナカジマは俺達を殺そうと迫って来る。
「マジで落ち着けって!あんなガキの言う事聞いて殺し合いとかどーかしてるって!!
あぁ言う奴は『だれにでもああ言う年ごろがあるもんね』とか、
『五年後位に思い出して枕に顔埋めて呻いてそうだね』とか聞き流すもんだろ!!」
俺の必死の説得にも耳を貸さず、豚ジマが突っ込んでくる。
さっきまで四足歩行だったのが今では二足歩行だ、進化してやがる……!
だけど俺もさっき不意をうたれた時とは違う。
アヌビスが体を動かしてくれているお陰で、ナカジマの速さにもついていける!
「───っ!わああああああっ!!!無理ぃいいいっ!!」
甘かった。
速さはアヌビスのお陰で互角かこっちの方が少し早くても、馬力が違い過ぎる。
多少早く打ち込んだ程度じゃ撃ち負ける。勝てる気がしねぇ。
かち合った衝撃で十メートル以上吹き飛ばされてようやく止まる。
水銀燈がすかさず電撃を放ってフォローしてくれるが、焼け石に水だ。
「おいアヌビス、お前ビームとか出せたりしないの?
できるなら何とかしてくれ。このままじゃ殺される」
『知らんな。俺にできるのは斬る事だけだ。ってかお前がパワー不足すぎるんだよ!!
まっ、お前がこのままくたばってくれれば、俺は晴れて自由の身って訳だ!ウケケーッ!』
こいつ、後で分解して粗大ごみに出してやる。
俺はそれを決意しながら、必死でナカジマに剣を振るう。
ロクでもない剣だが、今は手放すわけにはいかない。
アヌビスのお陰で俺が生きてるのは俺だって分かってるからだ。
もしアヌビスが無い状態でナカジマと出会っていたら、きっと戦いにすらならない。
そう、おじゃるの支給品のアヌビスが無ければ────
────どうしてもと言うなら、同行者の支給品を確認するんだ!!
そうだっ支給品!
ナカジマの奴は此処から穏便に事を収めくれなさそうだし、何とか撃退するしかない。
でも俺の支給品じゃこの状況をひっくり返せそうにないし、後はおじゃるを締め上げるしかない。
前にアヌビスを渡された時、あいつの視線が微妙に泳いでたのも忘れてない。
「水銀燈!おじゃるの奴締め上げてっ!何か持ってないか確認してくれっ!お願い!!
俺がっ!殺されるっ!前にっ!うおおおおおおおおッ!!
生まれも育ちもギャグ漫画の人間に無茶さすんじゃねーッ!!」
ヤバい。
二足歩行になってからナカジマの奴どんどん攻撃が早くなってる。
アヌビスもそれに合わせて早くなって、俺の身体じゃないみたいだ。
水銀燈も俺が殺されるのは旨くないと思っているのか、素直に頷いてくれた。
状況は依然俺にとてつもなく厳しくて嫌になるが、このまま粘るしかない。
「えぇいこうなりゃヤケだ。生姜焼きかトンカツに料理される覚悟でかかって───」
自分の気持ちを奮い立たせようと威勢のいいことを言おうとするけど、上手く行かない。
どんどんナカジマの姿が人間に戻っていってるからだ。中途半端豚になってるのは正直グロいしおっかない。
今からでも謝ったら許してくれないかな。
そう思いながら俺は必死にナカジマの攻撃を躱した。
-
■
「おじゃる丸くぅん、私が何を言いたいか分かるわね?」
「お、おじゃ……」
ニコニコと笑顔を浮かべる水銀燈と、対照的に戸惑いを浮かべたおじゃる丸。
ランドセルをかき抱いて、水銀燈から庇うようにおじゃるは姿勢を低くして言った。
水銀燈の言わんとしている事は分かる。自分にだって分かっているが、しかし……
「い、いかに銀ちゃんの頼みでも嫌でおじゃる。これはマロのものでおじゃる」
「そう、じゃあニケがこのまま死んでもいいって言うのね?」
水銀燈の態度は、冷淡だった。
いなす様だった先ほどまでの雰囲気とは違い、冷たい雰囲気を今の彼女は放っていた。
声を荒げてもいない、表情も眉根を寄せたりもしていない。
けれど今の彼女からはおじゃるは恐怖を感じた。
「元は貴方が蒔いた種よねぇ。
それを何とかするためにニケが命懸けで転げまわってるのよ?」
「し…しかし……マロは雅でかわゆいお子様で………」
「それが?今必死に戦ってるニケに何もしてあげないなら雅でも可愛くもないわ。
今はそういう時で、この島はそう言う場所なの。お馬鹿さんな貴方にも分かるでしょ?」
優し気な口調で、諭すように。
けれどその実反論を一切許さないといった様相で、水銀燈はおじゃる丸を詰める。
彼女からしてみれば、これ以上子供の駄駄に付き合っていられない。
平時ならニケや雄二たちの手前穏便に接する事もできた、だが今は瀬戸際だ。
ニケの利用価値はおじゃる丸よりは遥かに高く、天秤にかけるまでも無い。
これ以上駄駄をこねる様なら、殺してでもランドセルの支給品を回収する。
かつて薔薇乙女最凶を自称した彼女は、言葉にせずともその段階まで考えつつあった。
「う、うぅう……わ、分かったでおじゃる。
こ、これをニケに渡して着けさせてたも!!」
逼迫した事態である事は理解していたので、おじゃる丸も遂に折れた。
急いで自身の背負っているランドセルを降ろし、そこから一枚の仮面を取り出す。
そしてそれを水銀燈に手渡し、ニケに着けさせろと促し。
そのまま仮面を素早くひったくった水銀燈は、ニケに叫んだ。
「ニケ!使いなさい!!」
-
■
やばい、ホントに死ぬ。殺される。
豚になっても強いとか、もうこいつが優勝でいいだろ。
後の参加者は自由解散って事にしない?なぁ乃亜。
「がはっ、げほっ……あーっ!たく、帰りてー……」
『さっきから弱音ばっかりだなお前、そろそろ最期の言葉考えとくかァ?』
「るせー、ほっとけ。お前も無駄口ばかり叩いてないで少しは勇者様の武器の自覚持てよ」
アヌビスの軽口も今はムカついてる余裕がない。
全身土だらけの痣だらけだ。所々避けきれなくて血も滲んでいる。
アヌビスのお陰で何とか命を拾ってはいるが、それも限界が近い。
ナカジマの奴は未だに殺す気満々みたいだし、うーん、正に絶体絶命。
────ニケ、使いなさい!
そう言って俺とナカジマの上空から水銀燈は一枚の仮面を投げ渡してくる。
どうやら、運にはまだ見放されちゃいないらしい。
その事を感じながら、俺はナカジマの方を見た。
予想通り、素直に受け取らせちゃくれないらしい。
だけど───俺にもまだ彼奴に見せてない力がまだあったりするんだよな。
「風の剣!!」
俺の勇者っぽい力、その名も光魔法キラキラ。
いつもは出るかどうかすら怪しいクッソテキトーな魔法だが、今回は空気を読んだらしい。
フカーフ状だった剣が形を変え、ハリケーンよりも大きな暴風を作り出す。
「───ッ!?」
仮面へと注目した隙を突かれて、ナカジマの奴もこれには驚いた様子で俺と風の剣を見る。
だが、今更ビビった所でもう遅い!
作り出した暴風を叩きつけて、背丈は俺とそう変わらない豚マンを吹っ飛ばす。
そして、風の向きを調節して絡め取った仮面は、すとんと俺の手に収まった。
「ニケ!それを着けてたも!」
遠くからおじゃるが声を張り上げて仮面を付けるように伝えてくる。
手に取った瞬間分かった。これは魔法のアイテムだってな。
しかも、そこら辺の防具屋で買える代物じゃない。これまでの冒険の経験が言ってた。
このままじゃ殺される以上、着けない道は俺にはなかった。
視界の端で、ナカジマがまた俺を殺そうと突っ込んでくるのが見える。
だが、関係ない。深く息を吐いて───そして、右目を覆うその仮面を、俺は装着した。
「────っおおおおおおおおお!!!!」
ドン!!と。
ここで初めて、俺はナカジマの攻撃を受けた。
俺の体中の骨をバラバラにしようと突き進んでくる蹄の付いた奴の腕を受け止めた。
しかも、それだけじゃない。そのまま俺は声を張り上げて、押し返す!!
アヌビスのスピードと仮面から貰えるパワーがあれば、普段の俺なら絶対に無理な芸当もできたのだ。
まさか押し返されると思っていなかったんだろう。
ナカジマはモロに俺の反撃を受けて、数十メートルはごろごろと転がっていく。
いける。これなら勝てる。そう思った。
「ははっ、すげー!!おじゃる丸、ありがとな!!」
さっきまでどん底だった状況に光が見えてきた。
これなら何とかなるかもしれない。
そう思って、俺に希望をくれたおじゃる丸に感謝の言葉を投げかける。
「───うむ、当然でおじゃる」
当然だとでも言うように胸を張るおじゃるの姿はムカついたけど、今は帳消しだ。
いやむしろ、これまでの事は水に流してやってもいいとすら思える。
なんせ、こんな凄い仮面をくれたんだから。
やっぱ時代はチートだよチート!!
-
「あぁ、それとの、ニケ。その仮面はアクルカといってのう」
ん?
「着けた者は塩の塊になるらしいので、気を付けてたも」
───それ。
─────俺、死ぬじゃん。
「お前マジでふざけんなあああああ!!どう気をつけろってんだああああああ!!!」
俺は、魂の叫びをあげた。
くそっ!!しかもこれ取れねぇ!!
何でこいつは強くても呪いの品みたいな支給品しか渡してこねーんだ!!
「だからマロは嫌だと言ったのでおじゃる。マロのせいではないのう」
「私はただ渡しただけよ。着けたのはニケ、貴方だわぁ」
こ、こいつら……!全力で責任を俺に押し付けに来てやがる。
俺に味方はいないのか。
「チクショーめ!!」
半ばヤケになりながら再びナカジマの攻撃を剣で受け止める。
微塵も納得がいかないけど、この仮面が無ければ俺は多分ナカジマに殺される。
つまり、どの道着けなきゃ死んでたのだ。それに、今の所俺の身体のどこかが塩になる気配はない。
なら多分恐らくきっとメイビー大丈夫だと、無理やり自分を納得させる。
塩になり切る前にこのゲームをぶっ壊す。俺に残された選択肢はそれしかなかった。
ダメだったらおじゃると水銀燈の枕元に化けて出てやる。
幸いこの仮面を身に着けたお陰で、ナカジマとも互角の勝負ができてる。
今はまだ仮面の力に馴染んでいないのに、だ。
このまま押し切ってやる!
「だぁああああああッ!!!」
ナカジマの蹴りを躱して、全力の峰撃ちを叩き込む。
そーとー痛いだろうけど我慢してもらうぜ!
おじゃる丸は後で一緒にシメよう!
そう思いながら、勝負を決めにかかる───
「───ふ」
振り下ろされる刀を前にして。
ナカジマは嗤った。
その顔はもう豚じゃな無くて、黒髪の女の子の姿で。
「他愛ない」
ナカジマがそう呟くのと、殆ど同時に。
次の瞬間、俺の身体は凍り付いていた。
-
■
「行くわよ、早く」
「し、しかしニケが……」
「それじゃあ残る?私はそれでもいいわよ。殺されるでしょうけど」
黒髪の少女が作り出した大氷壁。
それを目の当たりにした瞬間、水銀燈は勇者の敗北を悟った。
アレはもう、使えない。僅か数秒でそう判断を下し。
撤退を、おじゃる丸に告げた。
おじゃる丸は逡巡を見せるが、凍り付いたニケの姿を見て竦んでしまう。
俯いた状態で凍らされたニケの表情は見えない。
彼はニケを即座に見捨てない程度の情はあったけれど。
逆に言えば、助けに行こうとする程の勇気も無かった。
「早くしなさい、待てる時間はもうないわ」
ナカジマだった何かは、まだニケに注視しているけれど。
死んだのを確信すれば今度は此方を殺そうとしてくるだろう。
故に時間はもう残されていない。
ここでぐずる様であれば、置いていく。水銀燈はそう決めていた。
彼女はナカジマとの戦闘になった時点で、ニケかおじゃる丸何方かを犠牲にする。
最悪の場合を想定し、その算段を立てていた。
何しろ、彼女は二人だけなら助かるための手段を持っていたからだ。
「…………ぎ、銀ちゃぁ〜〜ん、置いて行かないでたも〜〜」
(チッ、結局それか)
暫しの間沈黙して考えるような素振りを見せた後、
結局水銀燈の足元に縋りつきめそめそと泣き出すおじゃる丸。
彼は、命懸けでニケを助けに行くという選択肢は選べなかった。
本当ならばこいつよりもニケの方に生き残って欲しかったが仕方ない。
逃げた先での囮位にはなるだろう。ニケへの僅かばかりの義理もある。
役立たずの足手纏いを連れて行くことを許容し、逃走への準備へと移ろうとする。
────逃げられると、思うか。
凍り付いたニケの氷像を背にして。
黒髪の少女が嘲る様に笑う。
それを皮切りとして、彼女の足元から凄まじいスピードで世界が凍てついていく。
豚になっていた時は使えなかったのか使わなかったのか分からないが。
この凍結性能を披露していない時点で、彼女は実力の半分も見せていなかったのだ。
「───えぇ、逃げるわ。私はこんな場所でジャンクにはなってる暇はないの
それに、ふんぞり返る前に周りを見てみたらどうかしら?」
おじゃる丸の心胆を身体だけでなく心すら凍り付かせる少女の笑みですら。
黒薔薇を凍てつかせるには至らない。
嘲りを含んだ笑みに余裕を含ませた笑みで返して、誇り高く咲き誇る。
水銀燈の言葉を受けて、ナカジマは周囲を見渡した。
すると、あるべきものがない。自身のランドセルが無くなっていた。
バッ、と。視線を戻すと、人形型のゴーレムが二つ分のランドセルを背負っている。
そして、勝ち誇る様に笑みを浮かべると、ランドセルから取り出したエンブレムを掲げる。
それに伴い、彼女を中心として魔法陣が展開される。
その範囲には、おじゃる丸も含まれている。
「それじゃあ、さよなら────」
光が魔法陣から放出され、水銀燈たちを包み込まんとする。
水銀燈が使用した、支給品であるエンブレムの銘は帝具シャンバラ。
空間移動を可能とする帝具である。
長距離移動は六時間に1度。
それも、対象にできる相手は最大でも二人という制限が科されてはいたものの。
元より二人なので、今の彼女にとってはそれは問題ではない。
人外のマーダーに襲われてもなお、余裕の笑みを見せた自信の裏付けが此処にあった。
三十六計何とやら、ニケの尊い犠牲を無駄にするわけにはいかない。
おじゃる丸を連れ、そのまま離脱しようと────
「───は?」
目の前に、ナカジマが迫っていた。
馬鹿な、と瞠目する。
これまでのニケとの戦闘で戦闘速度についてはほぼ見切っていた。
百メートル近い距離を保てば、妨害を受けてもその前にシャンバラが発動する。
その目算だった。それなのに、早すぎる。
手加減していた?実力を出せていなかった?いや違う。
これはまるで、時が凍り付いた様な────
-
(いや、違う、そんな事を考えてる場合じゃ───あ)
ナカジマの拳が、振り下ろされる。
タッチの差で間に合わない。油断していたのは、水銀燈の方だった。
ジャンク。その一言が、水銀燈の意識を染め上げる。
その、刹那。
───光魔法、かっこいいポーズ!
朝を迎えてなお、二度目の旭日を此処に。
眩い光が、ナカジマの後方から迸った。
「───ニ、ケ」
先ほどまで、氷壁の中に閉じ込められていた筈のニケが。
ニッと笑って。空中に浮かび上がり。
ふざけたポージングで眩いばかりの光を放っていた。
これぞ、彼の誇る光魔法キラキラの秘奥。
魔なる者の動きの一切を封じ込める、光魔法かっこいいポーズであった。
がくりと膝を付き、ナカジマの動きを完全に封じ込めている。
勇者としての意向を示すその魔導は、ナカジマと名乗った少女に対して覿面の効果を示していた。
水銀燈に人間ではないと告げられた時からもしやと思っていたが、やはりか。
推察が当たり、不敵に笑うその笑みは同時に誇らしげで。
置き去りにしようとした水銀燈に対する恨みは感じ取れず。
その事実は、薔薇乙女の心の水面を俄かに波立たせた。
待て、そう思うモノのすでに遅く。
ニケが放つ光とは別の、シャンバラの光が既に彼女を包み込んでいたから。
そして、水銀燈たちの姿が掻き消える。
勇者と魔王をその場に残して。
-
■
転移した先で、少しの間水銀燈は天を仰ぎ。
複雑な感情がない交ぜになった様子で、思いを馳せていた。
そんな彼女の様子を、同じく転移したおじゃる丸は不安そうにのぞき込む。
「────全く」
「ぎ、銀ちゃん……?」
これまでとは違って、本当に見捨てられたのに。
それでも自分を笑って送り出して。
それだけじゃなくて、私の事を助けたつもりになって。
勝手に好きなようにやって、勝手に満足して。
ブサイク真紅じゃないんだから。
本当に、お馬鹿さん。
「私、貴方の事、嫌いだわ。ニケ」
【F-6/1日目/朝】
【水銀燈@ローゼンメイデン(原作)】
[状態]健康、めぐ救出への焦り
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3(魔神王の物も含む)、戦雷の聖剣@Dies irae、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!、
魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ、ヤクルト@現実(本人は未確認)、しんのすけと右天の首輪
[思考・状況]基本方針:一刻も早くここから抜け出す。雪華綺晶を見つけて締め上げ、めぐの居場所を吐かせる。
0: 魔神王をやり過ごし、ニケと合流する。その間おじゃる丸が死のうとどうでも良い。
1:首輪を外して脱出する方法を探す。どうしても無理そうなら、優勝狙いに切り替える。
2:ハンデを背負わされるほどの、強力な別参加者を警戒。
3:契約できる人間を探す。(おじゃる丸は論外)
4:真紅が居たら、おじゃる丸を押し付ける。
5:ホグワーツにめぐを治す方法があればいいけど。
[備考]
※めぐを攫われ、巻かなかった世界に行って以降からの参戦です。
※原作出展なのでロリです。
※Nのフィールドの出入り、契約なしで人間からの力を奪う能力は制限されています。
【坂ノ上おじゃる丸@おじゃる丸】
[状態]健康、惨殺死体を見たトラウマ(大)、水銀燈に対する恐怖。
[装備]こぶたのしない
[道具]基本支給品
[思考・状況]基本方針:カズマの家に帰りたい
1:カズマや田ボを探す。
2:シャクを誰か持ってないか探す。
3:ニケは無事でおじゃろうか……
4:銀ちゃんはかわゆいのう……絶対持ち帰るでおじゃる。真紅ちゃんも会ってみたいのう。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※三人とも、クロとしおを危険人物と認識し、参加者が平行世界から呼ばれていると結論付けました。(おじゃる丸は話半分で聞いてます)
-
■
「ぶえっくしゅん!あー…風邪かな。ナカジマの息臭すぎてさっきまで調子悪かったんだよね」
『生きるか死ぬかの時に風邪の心配してる場合か?』
「死ぬつもりはさらさらないね。俺が死んだら全国1500万のファンはどうなるんだよ
まだとっておきがあるし、お前にはまだまだ付き合ってもらうからな」
仲間が全て去った後で、その手の刀剣と軽口を叩き合い。
鼻水を垂らしながら勇者は黒髪の少女と対峙する。
言葉の通り、仮面を付けるまでは回避に専念していたのが知らず彼の命を救っていた。
ナカジマの放つ吐息や血液は、鉄すら溶かす猛毒の瘴気に他ならないからだ。
それが今は偽りの仮面(アクルカ)の力によって完全に無効化している。
ヤマト最強の豪将と名高いヴライに与えられていたその仮面は剛力と軍勢を一瞬で焼き払う業火を担い手にもたらす。
さらに仮面の本来の用途を考えれば、人間では本来生存不可能な瘴気の環境下でも生存を可能とする力すら備わっていたのだ。
瘴気を無効化し、高密度の熱線で以て氷壁を溶かし、仮面はニケの命を救った。
────この男、やはり……
ナカジマを名乗った黒髪の少女……真名を魔神王というその怪物は考える。
強さで言えば自分は愚か魔神将……いやさ上位魔神にすら及ばない。
依り代のリィーナ姫の兄であるナシェルの様な傑物ですらない。
だが…見ていると何故か魂が泡立つ。意識が引き寄せられる。
それは何故か、今迄ずっと思考を巡らせていた。
「ニケ……勇者ニケ、か」
タブレットに記載されていたその名前を舌の上で転がして。
漸く合点がいったようにくく、と笑う。
「あぁ、汝はここで我が滅ぼしておかねばならんらしい」
「俺、お前に何か恨み買うようなことしたかなぁ!?」
理不尽な殺害予告に半泣きで反論する勇者。
やはり締まらなかった。何処までも。
確かに恨みはない。畜生にされた屈辱はあるが、それは目の前の相手は関係が薄い。
だが、豚化の呪いが解除された時に真の姿に戻ってしまった。
真の姿を知られた以上、眼鏡の小僧と同じく生かしては置けない。
だが、それ以上に、魔神王は目の前の勇者を殺して見たくて仕方がなかった。
その感情に名前を付けるのなら、それはきっと本能だった。
魔王と勇者は、何時の時代も殺しあう運命だ。
「言っておくけど!こっちにはまだ切り札があるかんな!
思いとどまるなら今の内だぞ!ていうか思いとどまってくれ頼む!!」
「面白い、見せてみるがいい。汝のその矮小な力の全てを」
でなければ、我の前から生きて帰る事は叶わぬ。
泰然と、魔神王はそう宣言した。
ニケは泣きそうになった。
いよいよやるほかないらしい。一世一代の芝居を。
覚悟を(できる範囲で)固めて、アヌビスに小さく呟く。
「おいアヌビス。俺が許す。峰打ちじゃなくて、あいつ斬っていいぞ」
『あぁ?俺としちゃあもうお前がくたばった後、アイツの手の中で斬って斬って、
斬りまくるつもりだけどなァ〜まぁ精々頑張れや!ギャハハハハハハ!!!!』
この野郎、絶対生き残ってやる。
生き残って、肥溜めに突っ込んでやる。ニケは強く強く決意した。
その怒りと怨念を糧に、恐怖を抑え込む。
そして、一度浅く息を吐いた後、魔神王に向かって吶喊した。
「はぁあああああああっ!!!」
走る最中、ぎゅっとアヌビスの柄を握り。
仮面に意識を集中させる。
呼び起こすのは冷たい氷に包まれて、意識が閉ざされる寸前の感覚。
氷を打ち破るために熱線を放った、その一瞬の感覚だった。
すると、彼の想いに応えるように。
「光魔法───火の剣!!!」
-
仮面から熱線が放出され、それを受けてニケが新たな光魔法キラキラの魔法名を呟く。
光魔法火の剣。厨房のおっさんこと火の王から授けられた光魔法の奥義が一つ。
その力を、アヌビス神に纏わせる。
『なっ、なんだぁっ!』と驚いていたが気にしない。
光魔法。仮面(アクルカ)。スタンドパワー。
三種の異能が合一を果し、そのまま最大速度で魔を執たんと迫る───!
───これは、
ドラゴン殺しもどさくさに紛れて水銀燈が回収していたため、今の魔神王は無手。
故に同じく刀で打ち合う事は出来ない。
無論、無手でも人間一人容易に殺害せしめる怪力を魔神王は誇るが。
だが、今回の相手はとてつもなく相性が悪かった。
一拍、二拍、三拍……数回の交錯の後、魔神王の手を灼熱が襲う。
それに気をやったほんの僅かな一瞬をアヌビス神のスタンド特性は見逃さない。
僅かな隙を縫うように、体勢の崩れた魔神王に切り込む。
そして、ザンッ!と。
勇者の一撃が魔王の右腕を切り落とした。
その結果に、さしもの魔神王も瞠目せざる得ない。だがしかし、
────それでも勝つのは、我以外はあり得ぬ。
己の体内に取り込んだデモンズエキスの力を解放。
隕石の様な巨大な氷塊を一瞬にして完成させる。
相対する勇者の表情が、驚愕に彩られる。
だが、魔神王はそれに対して一切の手心を加えない。
作り出した氷と同じ極寒の殺意を漲らせて、勇者の息の根を止めにかかる。
〈ハーゲルシュプルング〉
そう名付けられ、放たれた氷塊は寸分の狂いなく勇者へと放たれる。
殆ど十メートルも無い距離で放たれたのだ。
回避は不可能。そう計算し…そして、魔神王のその計算は正しかった。
阻むものは何もなく、ノミを大砲の砲弾で潰すように。
氷塊はニケの全身に向かって直撃し、遥か天空へと吹き飛ばしていった。
────死んだか?
咄嗟に放った大技。それもこの島に訪れて初めて放った技だ。
生死の確認と言う観点は度外視していたため、これでは死んだかどうか分からない。
周囲を見渡して見れば、支給品は盗まれ、一人殺せたかどうかすら怪しい。
最も強かったはずの魔神王が、その実最も敗者となる結果に終わってしまったのかもしれなかった。
───いや、ともすれば……ク、ク。我を謀ったか。あの“勇者”は。
最後の交錯の際。
あの自称勇者の表情は、放たれた氷塊に対して驚愕こそしていたが。
そこに絶望の彩は無かった。むしろ狙い通りとすら考えて居そうな表情をしていた。
もし、逃走の為に魔神王の攻撃を利用したのだとしたら?
そうであれば、再び相まみえた時には借りを返さなければならない。
あの阿呆面を引き裂く時の感触は、得も言われぬものとなるだろう。
あぁ、そうだ。それがいい。
その瞬間を想像し、魔神王は仄かな恍惚を得た表情で、薄く笑った。
【D-3/1日目/朝】
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:健康 、魔力消費(大)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:ニケと覗き見をしていた者を殺す
1:アーカード…所詮雑魚だったか。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※真紅眼の黒龍は12時間使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
-
■
ごっちん。
■
-
「よっしゃぁあああああっ!!!生き残ったぁあああああっ!!!」
クソデカい氷にぶっ飛ばされた先で。
俺は勝利の雄たけびを上げた。
本当にギリギリだった。今度こそ死ぬかと思った。
でも何とか作戦は上手く行ったと、俺はポケットに入れていたアイテムを取り出す。
花の形をしたその髪飾りは、リコの髪飾りってアイテムだった。
一度だけ使用者を攻撃から守ってくれるアイテムだ。しめて200G。
元は死んでいた女の子の支給品で、放送の前に埋葬した時、料金として貰っておいた。
『しかしまぁ、良く上手く行ったもんだな』
アヌビスが感心したような声を掛けてくる。
当然だ、俺自身上手く行くかスゲー不安な作戦だったんだから。
水銀燈からナカジマの奴が人間じゃないって聞かされて思いついた作戦だった。
まず、こっちが強い攻撃でナカジマを追い詰める。
追い詰めた後、ナカジマはより強い攻撃で反撃してくるだろう。
それにぶっ飛ばされるフリをして、リコの花飾りを使う。
そして、ダメージだけを抑えて、そのままぶっ飛ばされて逃げる。
もし、ナカジマの奴がそんな強い攻撃出してこなかったら負けだし。
その強い攻撃のダメージを花飾りで無効化できなかったらやっぱり負けな訳で。
余りにもガバガバで、俺自身八割くらいダメだろうなーと思っていたけど、上手く行った。
「……きっと、ククリが守ってくれたんだろうな」
俺を待ってるであろう、魔法使いの女の子。
俺を勇者様って呼ぶ、大切な子。
きっと俺は、ククリに守られてたんだと思う。
だから、作戦を成功させることができたんだ。
………なぁ、だからさ。
「ふーん、それで?」
そう言う事で感動的に終わらせておかない?
「それが、いきなり空を飛んでた私の方にぶっ飛んできた理由なの?」
氷にぶっ飛ばされた俺と空で正面衝突して。
頭にでっかいたんこぶを作って。
顔に青筋を浮かべて。
後でフランって名乗ったその女の子は、俺の前で仁王立ちでそう尋ねた。
因みに笑顔だった。
「いや、これは事故で……俺だって好きで君にぶつかった訳じゃ……」
だらだらだら、と汗を流して。俺は必死に弁明する。
だけど、うーん。聞き入れてはくれないみたいだ。
だって、指パキパキ鳴らしてるもんな。
少しの間を置いて、彼女は俺に判決を下した。
「うーん……わざとじゃないみたいだし………私も今は殺し合いに乗ってる訳じゃないし。
判決は……そうね、一発は一発にしておくわ!!」
握りこぶしを作って。
輝くような笑顔で、その女の子は俺にそう判決を下した。
因みに墜落直後も殴られかけて、その時クレーターを作ってるのを見た。
つまり殴られたら死ぬ。
ゆうしゃは にげだした!
「逃げると罪が重くなるよー?」
背後で響く、追いかけてくる女の子の声を聴いて。
俺はたまらず叫んだ。
「ククリー!ジュジュー!トマー!親父―!!助けてくれーッ!!!」
-
【C-4/1日目/朝】
【勇者ニケ@魔法陣グルグル】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)、仮面の者(アクルトゥルカ)
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険、ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇
[道具]:基本支給品、龍亞のD・ボード@遊戯王5D's、丸太@彼岸島 48日後…、リコの花飾り×3@魔法陣グルグル、沙耶香のランダム支給品0〜1、シャベル@現地調達、沙耶香の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗っちゃダメだろ常識的に考えて…
0:クロがまだ人殺してなきゃ良いけど。
1:とりあえず仲間を集める。でもククリとかジュジュとか…いないといいけど。
2:一旦、ホグワーツに寄る。その後、クロエを探して病状を聞き出す。
3:マヤ……
4:取り合えずアヌビスの奴は大人しくさせられそうだな……
※四大精霊王と契約後より参戦です。
※アヌビス神と支給品の自己強制証明により契約を交わしました。条件は以上です。
ニケに協力する。
ニケが許可を出さない限り攻撃は峰打ちに留める。
契約有効期間はニケが生存している間。
※アヌビス神は能力が制限されており、原作のような肉体を支配する場合は使用者の同意が必要です。支配された場合も、その使用者の精神が拒否すれば解除されます。
『強さの学習』『斬るものの選別』は問題なく使用可能です。
※アヌビス神は所有者以外にも、スタンドとしてのヴィジョンが視認可能で、会話も可能です。
※仮面(アクルカ)を装着した事で仮面の者となりました。仮面が外れるかは後続の書き手にお任せします。
【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:精神疲労(小)、たんこぶ
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、テキオー灯@ドラえもん、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:一先ずはまぁ…対主催。
0:桜田ジュンの家を起点にジャックの行先を考える。
1:ネモを信じてみる。嘘だったらぶっ壊す。
2:もしネモが死んじゃったら、また優勝を目指す
3:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
4:一緒にいてもいいと思える相手…か
5:マサオもついでに探す。その前にニケをシメる。
6:乃亜の死者蘇生は割と信憑性あるかも。
[備考]
※弾幕は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。
※能力が一部使用可能になりましたが、依然として制限は継続しています。
※「ありとあらゆるものを破壊する程度の力」は一度使用すると12時間使用不能です。
※テキオー灯で日光に適応できるかは後続の書き手にお任せします。
※ネモ達の行動予定を把握しています。
【次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!】
水銀燈に支給。
一定範囲の人間を予めマークした地点へと転送する。ただし、制限により消耗が激しく連続使用には向かない上、相性の良さが特別高くない限り一度に二人しか転送できない。
10メートル以内の短距離は通常通り使用できる。
長距離の場合制限が掛かり、一日に一度が限度で主催が予めマークした場所にランダムで飛ばされる。
【ヴライの仮面@うたわれるもの 二人の白皇】
おじゃる丸に支給。
ヤマトの帝によって製作され、偉大な功績を残した者に与えられる仮面。
仮面を与えられた者は「仮面の者(アクルトゥルカ)」と呼ばれる。
仮面を装着すると、身体能力や治癒力が向上する他、それぞれの仮面固有の特殊能力が行使できるようになる。
ヴライの仮面の場合固有能力は敵軍も一瞬で蒸発させる程の高熱火炎と、膂力の強化。
これによって仮面の元の持ち主であるヴライは、ヤマト最強の将として名を馳せた。
絶大な力を与える仮面だが、仮面の力をしようすればするほど魂魄が削られ、やがて肉体が塩の結晶となり死に至る。
また、仮面の能力を解放する事でウィツァルネミテアという怪獣形態へと変身可能になるが、本ロワでは調整により制限されている。
その代わり身体能力や治癒力の強化は通常の物よりも大きくなっている。
【リコの花の髪飾り@魔法陣グルグル】
元は沙耶香に支給。
身に付けていると装備者を一度だけ守ってくれる。
四つセットで支給されたが、眠らせられた沙耶香には身に付けられなかった。南無。
-
投下終了です。
まt、事後になり申し訳ありませんがフランドールを予約に追加させて頂きました
-
投下ありがとうございます!
おじゃる丸、最早特急呪物なんですよね。事態を悪化させたり、呪いの品を集めるのはもう間違いなくそういうフェロモン出してる。
ただし本人の幸運ランクが間違いなく高いと思われるので、結果オーライになるのは強い。ある意味、扱いのピーキーな装備なのかもしれませんね。
こぶたのしない、ヴライの仮面、アヌビス神。
主催の想定した邪悪な使い方が伝わってきますね……。
アーカードが脱落したのも束の間、魔神王にとって宿命の相手のような勇者と因縁が付くのも良き。
不死身でフィジカルに任せて怪力で殴ってくる相手より、勇気を秘めた人間が化け物に一矢報いるというのは納得です。
豚に変わった魔神王、モンハンのモスみたいな戦闘スタイルでアヌビス神とやり合ってたの、シュールだけど凄くないですか?
ニケ君、クロとの約束も果たさなくちゃいけなくて、ここから魔神王ちゃんに目を付けられてフランちゃんとも仲睦まじく遊んで、とても忙しくも微笑ましいですね。コインいっこの残機で足りれば良いんですけど。
銀様、装備面は充実したんですが、ある意味ではおじゃる丸をソロで運用しなくてはいけないわけで……。
ニケが居た頃のギャグ時空を展開できないまま、おじゃる丸を使いこなせるかどうかと、ニケに助けられたのを意識しての今後の変化が見所ですね。
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キャプテン・ネモ、孫悟空、神戸しお
予約します
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延長もしておきます
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金色の闇、野比のび太、孫悟飯、結城美柑、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、雪華綺晶
予約します
それと延長します
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投下します
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『ねぇ……何でもするから。私のお願い、聞いてくれる?』
見入る。
視線が吸い寄せられる。
視聴覚室と銘打たれたその部屋で。
少女は一人、気まぐれに付けたテレビの画面に釘付けになる。
『お願い聞いてくれたら……女の子が何でできてるか、教えてあげるよ?』
画面の向こうに広がるのは、淫蕩で、煽情的な光景だった。
一匹の少年と女が向かい合い、ベッドに腰掛けて。
お互いの吐息を感じる距離で向かい合っている。
『ふふ…っ!かわいそう……何日シてないの?自分を慰める暇さえ無いなんて……』
身に纏う衣服をはだけさせて。
蠱惑的に、女はほほ笑んだ。
画面の向こうの男も、二人を見る少女も、それを食い入るように見つめる。
『いいよ…?私でスッキリしちゃお……?私をはけ口にして……?』
女の纏う雰囲気には、少女は覚えがあった。
自分の“愛”が、さとちゃんが頼った人。
あの人も、きっとこんなことをしていたんだろうと。
直感的にそれを確信した。
『ふふ……っ。結局、男の子はこれに逆らえないものね………』
同時に、これは“苦いこと”だって理解する。
見てはいけない。だって、これは愛ではない。
それなのに、どうしようもなく視線が吸い寄せられてしまう。
テレビの電源ボタンに手が伸びない。
何をしているか理解できぬまま、けれど視覚の暴力として。
映像は続いていく。
『大丈夫……そんな貴方も、ちゃんと愛してあげるから』
少女が、浅く息を飲む。
男女の服がゆっくりと脱げていく。
人から獣に変わっていく過程の様だった。
そのまま二人の唇がそっと近づき、重なろうとして────
「あ……っ」
ブチン。
映像はそこで途切れた。
慌てて、背後を振り返る。
そこには無表情でリモコンを向ける。同行者の少年が立っていた。
「子供が見る様なものじゃない」
キャプテン・ネモはそう言って、諫める様に。
今迄テレビにくぎ付けだった少女、神戸しおにそう告げた。
「だって、テレビ付けたら、最初からこの画面だったんだもん……」
何処かバツが悪そうに、反論する。
ただ、二人が自分だけ除け者にして、内緒話をしてたから。
だから何となくぶらついて、テレビのあるお部屋に入って。
そしてたまたま付けたらあの映像が流れていた。
見入ってしまったのは確かだけど。
見たくて見たわけじゃない。
そう言おうとして。
「………っ!?」
-
ふらりと、足がふらついた。
気持ち悪い。
頭の中を突然かき回された様な。
胃の中から酸っぱい胃酸と、此処に来る前食べた物が込みあがって来る。
立っていられない。
がくりと膝を付いて、胃の中にあったものをそのまま床と自分の服にブチ撒けた。
「───っ!?しお!しっかりしろ!大丈夫か!しお!!」
それを見た途端、血相を変えてネモが駆け寄る。
さっきまで感情の分かりにくい、平坦で冷静な態度だったのに。
今のネモは、本気でしおの状態を案じている様子だった。
ゆらりと、後頭部から倒れこもうとするしおを支えて。
必死に呼びかけるその姿は、誰かに似ていた。
誰に似ているんだろう。ぐるぐると回る視界の中、考えを巡らせる。
そして、少し間を置いて、あぁそうか、と。
答えに至る。
ネモさん。
お兄ちゃんに似てるんだ。
■ ■ ■
フランドール・スカーレットとの交戦後、一行はつつがなく図書館に到着した。
傷の手当が完了したしおを、ネモが背負って移動した事で移動速度が格段に向上し。
何よりマーダーや他の対主催に出会う事が無かったため、あっさりとたどり着いた。
丁度、放送開始の十分ほど前の事だった。
各員、持ち場に付け!
図書館内の案内を発見すると、手早く地図を把握し、分身(マリーン)達を呼び出す。
呼び出した十人を超える分身のマリーン達はさっと役立つ情報を求めて散らばった。
こういった作業で人海戦術が行えるのは、ネモと言う英霊が持つ小さな強みだった。
そして数分後、図書館内にも響く音量で乃亜の放送が流れ始める。
───では、今回の放送はここまでとしよう。殺し合いをより促進させてくれることを期待している。
死者と禁止エリアの発表、そして名簿の開示。
その後、底意地が悪いと確信できる愚言と共に放送は締め括られた。
死者の数は15人。想定以上のスピードだった。
ゲーム開始から僅か六時間ほどで、30人近い子供達がこの島を去っている。
この脱落速度の速さは、ネモと悟空の想定を遥かに超えた者だった。
(いや、カオスやジャックの様な子供が混じっていれば、
悟空やフランは兎も角…しおの様な普通の子供はひとたまりもない、か……)
もし脱落した参加者の中に一般人の比率が多いならばこの脱落ペースの速さも頷ける。
問題は、それから先の話だ。
「最初の放送と合わせればもう三十人近く……多すぎるな」
「あぁ、流石にここまで死人が出るのが早ぇと、首輪を外す方法を探すのは後に──」
想定以上の脱落者の多さに、ネモと悟空は今後の方針を見直す必要があるやも、と考える。
このままでは、首輪を外す頃には生存者はほんの一握りになっている可能性が高い。
そして、その中には首輪を外したり、乃亜について有益な情報を持っている者がいるかもしれない。
首輪のサンプルが手に入っておらず、解析する目途も全く立っていない以上。
首輪の解析よりも、他の対主催との連携と支援を目的に動くべきか。
その結論に二人が行きつこうとした、その時だった。
「キャプテーン!大変大変たいへーん!!」
血相を変えて、薄い褐色肌のネモ…ネモ・マリーンが駆け寄って来る。
電子書籍コーナーや、来館者用の電子端末が設置されている区画に割り振った個体だった。
悟空とネモの袖を引っ張り、急いで来るように促す。
「凄いモノ見つけちゃった!早く来て!あと、プロフェッサーも出して!」
どうやら、余程のものを発見したらしい。
正直何か役に立つ手がかりが見つかればいいと思ってはいたものの、
先に訪れていた教会は何の変哲もないただの教会だった為、左程期待は無かった。
だが、もしかするととんでもない当たりを引き当てたのかもしれない。
ネモと悟空は顔を見合わせ、そのまま悟空が傍らのしおを担ぎ上げると、現場に急行した。
-
■ ■ ■
予想は的中した。
来館者用の電子端末。
三台並んでいたそのうちの一つに、そのデータはあった。
それはネモ達にとって勝利へのタイトロープともいうべき情報だった。
とは言っても、悟空としおにその内容を理解する事は出来なかったが。
ただ、ネモは画面を少し眺めた後、意を決したように何かを行った。
やはりしおには分からなかったが、悟空にはネモが何かをやったのは感知できた。
そこから数分間、ネモは上の空となり。
しおが不思議そうに手を顔の前で振るが、プロフェッサーに制止されるまで成すがままで。
そして、困惑しつつ二人がネモを眺めていると、端末の画面がフッと黒く染まる。
重要そうな情報があった様なのに、消えてしまったのか。
IT技術に疎い彼らはそう思い、俄かに慌てたその時だった。
神妙な表情と共に、ネモの意識が虚空より舞い戻る。
そして彼は悟空に告げた。
これからの方針を、改めて話したい、と。
「……で?一体何だよ。ネモの分身って事は、おめぇにも話の内容は伝わってんのか?
えっと……ネモ・プロフェッサーだっけ?」
」
電子端末の前での調査の数分後。
ネモの分身である、ネモ・プロフェッサーに手を惹かれて。
悟空はプレイルームと銘打たれた、児童用の待合室に連れ込まれたのだった。
「お、おいおい……なにすんだ?喋れねぇのかオメェ」
無言のままに。
連れ込んで早々、ネモ・プロフェッサーは何かを悟空の首に巻き付ける。
それは、何の変哲もないタオルの様だった。
マフラーの様に巻き付けて、首輪を覆う。
その後、しーと、静かにするようジェスチャーを見せて。
次に、きょろきょろと周囲を見渡しつつ、古びたカーテンをお互いの頭上にかけた。
まるで、周囲からの目を遮断する様に。
『色々、重要な情報が分かりましたー
それをご説明するまで、少しの間喋らない様お願いしますー』
カーテンに包まれた空間の中で。
カキカキ、と、無言でプロフェッサーはマジックを走らせ。
備え付けてあったと思わしき、ホワイトボードに書かれた文字を見せてくる。
さっきのジェスチャーと合わせて、兎に角今は喋ってはいけないらしい。
それを理解すると、悟空は口に両手を当て、コクコクと首を縦に振った。
それを確認したのち、またプロフェッサーはペンを走らせる。
アナログで酷く古典的な、筆談と言う手法だった。
『まずー、さっきキャプテンが得た情報をご説明するとー
首輪に関する事が書かれていました。絶対ではないですが、罠の心配も薄いと思いますー』
「な、なにっ!?」
首輪に関する情報。
その文字列に、俄かに悟空の心も湧きたち。
思わず声が出てしまう。
しーしーと慌ててジェスチャーを行うプロフェッサーを見て、悟空は申し訳ねぇと謝った。
『では、これから本題に入りますので、リアクションは抑えてもらうと助かりますー
バレれば本当に乃亜に首輪を爆破されかねない、トップシークレットなのでー』
じとー、という視線と。
念を押す様な文字列に、今度はぶんぶんぶん!と首を大きく縦に振って答えた。
それを確認してから、この密会の趣旨ともいうべき情報をホワイトボードに書き込む。
『まず、首輪に内蔵されている装置が一通り分かりましたー』
その情報にまた悟空は声を上げそうになるものの、今度は何とか抑えた。
一度書いた文字を消しつつ、悟空の様子を無表情で見つめながら、プロフェッサーは本題となる情報を開示する。
書き込まれる文字は文量が多いためか、先ほどよりも小さなものだった。
『1.盗撮用カメラ
2.盗聴用マイク
3.内臓爆弾
4.永久エネルギー炉
5.エネルギー吸収装置
6.各種信号の受発信装置
7.衝撃感応装置
8.翻訳装置
以上が、あの電子端末に残されていたデータからサルベージできた装置の一覧ですー』
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箇条書きにして八つの装置が、首輪の中に内蔵されているという話だった。
それを眺めて、凄い情報だという事は分かる。
だが、機械に疎い悟空には今一つピンと来ない。
つんつんとプロフェッサーの持つペンを突いて、貸してもらう。
さしあたって、最も気になる疑問を書いてみた。
『これ、確かなんか?ノアがわざと置いたウソじゃねぇのか?』
いずれ定職に就いた時の為に、と。
チチや悟飯に、亀仙人のじっちゃんの修行の時以来に字を習っておいて良かった。
そう思いつつ、悟空は抱いた疑問を書きこんだ。
それを見て、僅かに考える素振りをしつつ、プロフェッサーが返事を書き込む。
彼女は、確証はないが、その可能性は低いと思います、と前置きを書き。
その根拠となる推測を語った。
『まずー、罠であるなら図書館という立地からして違和感がありますー』
図書館と言えば、多くの蔵書を有し、誰にでも門戸を開く現代における知恵の泉である。
更に言えば、プロフェッサーの世界ではサーヴァントにもダメージを与えられる魔導書のエネミーは珍しくは無かったけれど。
それでも純粋に、殺し合いに有益な情報が得られる本があるとは考え難かった。
何より、悠長に蔵書を一冊一冊検めるよりも、手がかりが得られそうな施設が他にある。
殺し合いの情報を求める参加者であれば、真っ先に海馬CPを目指すだろう。
罠を張るならば、確実に人が集まる場所に張る筈なのだ。
『誰も来ないような場所に罠を張っても、意味がありませんからー』
しかし、とは言え。
これだけでプロフェッサーも罠の可能性は低いと考えたわけではない。
この理屈だけならば、乃亜が各施設に罠を張っていたとなれば破綻してしまうからだ。
最も有力な判断材料は、この後だった。
『残されていたデータには外部からのアクセスに対して非常に強力なジャミングを施されいましたー』
データを検分した所、直ぐに外部からの一切のアクセスを弾く非常に強力なジャミングシステムが施されている事に気が付いた。
つまりこの殺し合いの会場に赴き、電子端末の前で直接アクセスしなければ、ポインター一つ動かせない。
乃亜が用意した罠であるなら、こんなジャミングを仕掛ける必要性が全くない。
会場に赴けば参加者に出くわし、襲われる可能性がある以上、
どう考えても何処かにある拠点から、遠隔で操作できた方がいいに決まっているのだから。
仮に、殺し合いの参加者の関係者、外部勢力の介入を警戒しているのだとしても……
それならこんなむしろ主催への足掛かりと成りかねないデータを転送する必要性が極めて薄い。
考えられるメリットは首輪を外せる技術者を炙り出し、処分できる事位だが。
そもそもそれならそんな事が可能な技術者を呼ばないか、
首輪を外そうとした瞬間技術者の首輪が爆発する仕掛けでも作っておけばいい。
乃亜の罠ならやり口の必要性が薄い上に婉曲すぎる。
『それに、これは…特殊な方法でデータを取得したので、感覚的な話になりますが―』
残っていたデータの末尾に、データを残した者の名前が記載されていた。
ニンフ、という。水の妖精を示し、先ほど放送で呼ばれた同じ参加者の名前。
死してなお、恐らくは対主催のために手がかりとなる情報を残した子供。
ネモはこのデータをサルベージする際、特殊な手法を用いたために。
ハッキングを行いデータを取得する際に、データを残した者の感情のごく一部。
恐らくは死に行く少女が、最後に抱いた感情の欠片をも受け取っていた。
───後は、頑張りなさい。
論理(ロジック)と、感情。
二つの側面から、この情報が乃亜による罠である事を否定する。
『この情報を遺した…ニンフ氏は味方だと思いますー
叶うなら……一度お会いしたかったです』
勿論絶対とは言い切れないものの、全てを疑っていては何も行動できなくなる。
それは悟空も分かっていた。
だから、恐らくブルマ程ではないが。
自分よりも余程機械に詳しい様子のネモが信じたこの情報を信じてみるか。
他に当てもない以上、一先ずはそういう結論にまとまった。
故に、この遺されたデータが罠ではない事を前提として、筆談は進められる。
『まず、読み取れた装置の概要を順に追ってご説明していくとー。
カメラやマイク、スピーカーはそのまま参加者の監視用ですねー。
これがある限り、こういったアナログな方法でなければ此方の情報は筒抜けかとー』
-
成程、態々首の周りにタオルを巻きつけたのはこのためか。
悟空は合点がいった。
そのまま口を挟まずコクコクと頷くと(と言っても、今は無言でいなければならないが)、
プロフェッサーも意図が分かってもらえたらしいと、説明を続ける。
『衝撃感応装置もまた参加者の監視用でしょうねー、簡単に首輪の解除ができない様に早ければ二十秒、
長くとも一分ほど連続して衝撃を受け続けると、起爆信号の受発信装置に伝達するようですー、
これを何とかしない限りは、首輪を解除しようとしても自爆して証拠隠滅されてしまうかとー』
兎に角、簡単には外せない作りになっているらしい、と悟空は解釈した。
またコクコクと頷いて、話の続きを促す。
『永久エネルギー炉はそのまま首輪のバッテリーですねー。
首輪の燃料切れで機能停止…何て言う事は残念ながらまずないかとー。
翻訳装置は恐らく参加者の公平性を保つためでしょうがー、
視覚情報にも影響しているのを考慮すると、神経に接続されている可能性もありますー』
知識のある人間が効けば、おい、それは大丈夫なのかと思うであろう内容だったが。
生憎悟空には漠然とした事しか理解できず、取り合えず今自分が何も起きていない以上大丈夫だろうと話を流す。
一応悟空が話について来ている事を確認した後、キモは此処からですー、
と、プロフェッサーはホワイトボードに書き込んだ。
『乃亜の語っていたハンデの正体でありー
悟空氏がカオスと言う少女と交戦後に体験した力が抜き取られる…という感覚は。
恐らく、このエネルギー吸収装置が、その正体かとー』
データによると、この制限装置とでも言うべき首輪の機構は接触式であるらしい。
つまり、被膜の様に首輪の外殻に張り巡らされており、参加者の素肌や何らかの異能に触れる事を起点として、エネルギーを吸い取る仕組みになっている様だった。
その性能は非常に高く、その気になれば参加者の生命が危ういレベルでパワーを徴収できるだろう、とプロフェッサーは続けた。
接触式の、エネルギーを吸収する機械。
悟空の記憶に、かつて戦ったある科学者の記憶が浮かび上がる。
つんつんとペンを突いて、プロフェッサーから譲ってもらうと、少し興奮した様子で文字を綴った。
『オラ、そういうパワーを吸収する機械を作った奴知ってっぞ
…………今考えっと確かに、パワーを吸われた時の感覚も同じだった』
ドクター・ゲロとそのドクターゲロが生み出した人造人間19号。
既に戦ったのは昔の話だが、悟空の記憶でもその二人組は残っていた。
何故なら、ナメック星での戦いの後、地球に帰還してから初めて闘い…
そして敗れた相手にほかならないからだ。
そうだ。カオスと戦い、かめはめ波を撃った時。
その時に首輪から感じたパワーを吸い取られる感覚。
あれは、人造人間に吸収される感覚とほとんど同じものだった。
『悟空氏程力がある方を封じ込める事ができる性能なら可能性は非常に高いですねー。
それも、貴重な手がかりですー』
徐々にだが、これまで自分達の命を握り、力を吸い取る事以外は曖昧だった、
首輪の実態が輪郭を鮮明にしてきている。
自分達は正体に迫っているのではないか。そう思えた。
その感覚を噛み締めながら、プロフェッサーの説明は尚も続く。
『少し話が逸れてしまったので、首輪の話に一度戻りますねー
残るは、一番悟空氏が気になっている爆弾本体の話と、
これから我々がどう動くべきかの相談になるので―』
その文字列を見せた後、プロフェッサーは手早く伝えるべきことを書き込む。
そこに書かれていた内容は、悟空にとって信じがたい内容だった。
『さて、我々の命を握る首輪の爆弾ですが……
実はこれ、本当にただの爆弾の様ですー』
ここで明確に、悟空の頭に疑問符が浮かぶ。
最初から爆弾だって言われているのだから、当たり前だろう。
そんな悟空の疑問符を感じ取ったのか、その疑問は当然だと言うかのように、プロフェッサーは頷いて。
そして、ペンを走らせた。
『ただの爆弾というのはー、それそのものは薬剤の化学現象で起爆するだけのー
本当に何一つ異能の絡まない、物理的な爆弾と言う意味ですー
私の知る魔術やー、悟空氏の言う気なども絡んではいないでしょう』
-
成程、ただの爆弾と言うのはそう言う意味かと納得するものの。
直ぐに次の疑問が浮かんでくる。
その薬を混ぜて作られる爆弾はいったいどれほどの威力なのだろうか、と。
気を解放した自分や、悟飯の首を吹き飛ばせる物なのだろうか?
そう思ってペンを借りて尋ねようとした所、既にプロフェッサーは答えを書いていた。
『まず間違いなく、単体の火力では悟空氏はおろか、
サーヴァントであるキャプテンも確実に殺傷できるか怪しい威力の爆弾ですー』
へ?と流石に声が漏れる。
それでは、爆弾が爆発しても問題ないのではないか、という当然の疑念が湧き上がる。
参加者が全員サタンの様な普通の人間なら兎も角、幾ら何でもザルすぎる。
そう考えるのを見越していたかのように、プロフェッサーは急いで解答を書き上げた
『えぇ、恐らく悟空氏が抱いた疑問はもっともかとー。
そしてこれはデータを残した方と私の推測ですがー。
爆弾そのものは所謂常人であれば殺傷できる水準のもので、
それを爆発時に外付けの異能で強化しているのではないかと―』
裏取りのできていない、現段階では確証のない推測ではあるが。
常人しか殺せぬ威力の爆弾をあらゆる参加者に必殺の威力まで高めるのにはそれしかない。
そして、この推測が的を射ていれば。
必然的に首輪には致命的な弱点が存在する。
そうプロフェッサーは書き連ねた。
『実はですねー、この首輪……前述の仮説が正しければ制限機能と、
爆破性能の強化の両立が成立していない可能性が非常に高いんですー』
その文字列を見た時悟空はまた首を傾げた。
一応、車の運転や通信機器で連絡を取ったりした事は今迄何度もあるものの、
使うだけで、機能や構造の知識に触れてきた事など無いのでプロフェッサーの言わんとしている事が良く分からない。
そんな悟空に、少しプロフェッサーは何と説明したものかと言う顔を浮かべて。
少しの間を置いて、説明の続きを行う。
『まず、その推測に至る前にー、そう考えた根拠を話す必要がありますねー
ここまで一通りの装置を説明してきましたがー、まだ一つ、説明していない装置がありますね?』
そう問われれば、えーと……と、悟空は見せられた装置の一覧と、
プロフェッサーのこれまでの説明の記憶を辿る。
そう言えば、まだ一つ、説明を受けていない装置があったはずだ。
『はいー、残る一つは命令信号の受発信装置ですねー
これまたデータ上では内臓爆弾と同じ特性がありましてー
此方も、一切特異な点が見当たらないんですー
配られたタブレットに内蔵されている様な、普通の電子装置かとー』
勿体ぶって伝えられても、やはり悟空には話が見えてこなかった。
普通の電子機器と同じで、特別な仕掛けが無いとしても……
結局だからどうなんだ、と思わずにはいられない。
そもそも、単純な機械だとしたら。
参加者の中にブルマの様な機械に強い者がいたらどうするのか。
ネモの言う魔術や、フリーザが使っていた様な超能力も組み込んで居たらより外されにくい首輪が出来上がりそうなものなのに。
そこまで考えた時、ん?と何か引っかかる様な感覚を覚える。
目の前ではプロフェッサーが再び此方の心を読んだかのように。
良い疑問ですーと言いたげな眼で、ペンが躍る。
『乃亜が爆弾と起爆や各種命令を発する装置と言う、我々の生殺与奪を握る部分に、
特殊な力を用いなかったのはー。正にこの首輪の欠陥を示しているのではないかとー
首輪の外殻を覆う形で、被膜の様に制限用のエネルギー吸収装置が設置されていますがー
異能力が触れた瞬間効力を発揮するこの装置に、特殊な能力で遠隔から命令を送ったら、どうなると思います?』
例えば、首輪の操作に気を送るという手法を用いていた場合。
禁忌を破った参加者に首輪を爆発する様、遠隔で気を飛ばした場合どうなるだろうか?
瀕死の敵に、気を分け与えて延命させるように。
目的はまるで逆だが、その過程で行われる事は変わらない。
だが、首輪に気を送ると言う手法上、どうしても首輪の外殻に触れざるを得ない。
その場合、当然参加者の制限機能たるエネルギー吸収装置に触れざるを得ず───
あ、と。
その時、悟空も気が付いた。
『そうですー、もし魔術や悟空氏の気の様な干渉ではー
首輪の制限機能と相殺されてー、機能不全を起こす可能性があるんです』
そして。
今から話すのが一番重要な部分ですー、と。
プロフェッサーは敢えて小さな小さな声で前置きを行うことで強調した後。
天使が遺した記録から得た、首輪の一番の陥穽に切り込む。
-
『それでですねー、今話した事に密接に関わってくるのですがー……
実は、我々を縛る制限装置が一切機能を停止する瞬間があるんです。
さて、それは何時でしょー?ヒントは爆弾が、首輪の外殻に触れる時ですー』
突然なぞなぞの様に問いを投げかけてくるプロフェッサーに少し面食らいながら。
問われるままに、解答を考えてみる。
が、悟空にも直ぐに答えが分かる問いかけだった。
ペンを借りて、ホワイトボードに答えを書き込む。
『首輪が爆発するときか?』
『ハイ花丸ー、爆破の瞬間だけは、
普段内蔵されていて不干渉な爆弾と、外殻の制限装置が接点を持ってしまうんですー
だから確実に全参加者を殺傷できるくらい爆弾の火力を強化する為には、
一度制限機能をダウンさせるほか無い、という。そのまま爆発させれば―、
参加者によっては、爆発してもケロリと立っている事になるのでー』
全ての参加者の特権を封じ込める戒めと、
全ての参加者を殺す神の火は両立し得ない。
何方かの効果を最大限発揮するためには、僅かな時間ではあるが、
何方かの機能をダウンさせるほか無い。
これがニンフが解析によって弾き出し、ネモがサルベージした、首輪の弱点。
それを聞いて、待てよと、悟空の頭に一つの案が浮かび上がる。
『もし、これから爆発するっちゅう時にパワーが吸い取れなくなるってんなら……
その時に超サイヤ人4になれれば、爆発に耐えられたりしねぇか?』
爆破の威力がどれほど強化されるのかしらないが。
ハンデさえなければ、ある程度ダメージを負っても耐え切る自信があった。
それ故の提案であった。だが、プロフェッサーは渋い顔で首を横に振った。
『キャプテンと悟空氏が出会った時ー、首輪の実験をしていましたがー、
その時首輪の爆発まで一分ほど猶予があるって言ってたでしょ?
これ、今思うと爆発までにパワーを吸い取るための時間だと思いますー』
──禁止事項に接触しています。直ちに行為を停止しなければ一分以内に首輪を爆破します。
ホワイトボードに書かれたプロフェッサーの推測を読んで、うげ、と声を漏らす。
もし爆発までの時間にパワーをカラカラになるまで吸い取られた状態で、強化された爆発を受けるのだとしたら、果たして耐えきれるか。
分の悪い賭けである事に間違いはなかった。
『ハンデを考慮しなくても、爆発の強化具合も分かりませんしー、
失敗した時は首が吹き飛んでいるでしょうから、オススメはできません』
失敗=死である以上、流石に博打に過ぎる。
それを悟空も直ぐに理解したため、食い下がる事無く即座に案を棄却する。
だが、そうなると実際どうすれば首輪を外せるのか。
工学に造詣の深くない彼は、そこで行き詰ってしまった。
そんな彼に、プロフェッサーはニヤリと不敵な笑みを見せて。
脱出計画の中核に話を移行する。
『法則を理解し、条件さえ揃えれば、誰でも同じ結果を導けるのが科学と言う物ですー
だから、首輪の制御が純粋な電波信号で行われているとしたら、その信号を解析して再現すれば………』
制限や爆破機能の停止命令も出せると思いますー
文の末尾には、そう綴られていた。
本当にそんな事が可能であれば、首輪の解除が現実味を帯びてくる。
『できんのか?』
書かれたその問いには、文字ではなく、力強い視線と頷きで応えられる。
『ニンフ氏は、受発信装置の信号パターンの雛型となるデータも遺されていましたー
どれが首輪の解除に繋がるものかまでは示す時間は無かったようですけど……
これを元に、悟空氏から頂いた支給品を使えば可能だと思いますー』
それは、元は悟空の支給品であったが。
確認した際、どうしてもネモから譲って欲しいと頼み込まれた代物だった。
悟空にとってはどう使うのか分からなかったし、譲る事に躊躇は無かった。
ネモにとって、ある意味では馴染み深い、世界の滅びを回避するための組織(アトラス)でも爪はじきにされていたテクノロジー。
『エーテライトが悟空氏に支給されていたのは幸運でしたー』
-
エーテライト。
エーテル(第五架空元素)によって紡がれたミクロン単位のフィラメント。
元は医療用に設計された疑似神経、一言で言うならば、常人では見えない細さの糸である。
これを対象の神経に突き刺し、融合させて、電流で操作する事によって他者の脳内を強制ハックする。
応用すれば電子端末と接続し、記憶媒体やハッキングツールとして扱う事も可能だ。
今は亡き天使の遺した記録(データ)を、図書館の電子端末から吸い上げたのもこのエーテライトによる物だった。
『託されたデータとー、エーテライトをツールとして、信号情報を解析し、
停止命令を出すコマンドを疑似的に再現できるプログラムを作っちゃいます。てへ』
『よく分かんねぇけど、オラ達で乃亜のフリして首輪を操れるようにするって事か?』
YESYESとブンブン首を振って肯定するプロフェッサー。
悟空はこんな細い糸でどうやってそんな事ができるのかと思ったが、敢えて聞かなかった。
聞いてもどうせ分からないと思ったからだ。
それよりも聞くべきことが他にある。
『大体話は分かったけどよ、実際外すには後何がいるんだ?』
話が終わりに差し掛かっている事を感じながら。
悟空はこれからの行動方針に関わって来るその問いを、投げかけた。
問われたプロフェッサーはこれまでで最も早いスピードで文字を書き連ねる。
そして、ロードマップと銘打たれたそれを、平たい胸を全力で張りながら提示した。
『1.これから地図に追加されたカルデアという施設に赴き、今回得たデータを元に、
エーテライトを用いて首輪の信号パターンの解析と、命令プログラムの作成を行う』
『2.作成したプログラムを用い、首輪の外殻を覆うエネルギー吸収装置と、
解除時の爆破を防ぐために、衝撃感応装置の停止命令を会場内の電子端末から発信する』
『3.可能であれば熟練した魔術師(キャスター)によって、爆弾の火力補助を行っている何らかの異能、魔術術式を可能であれば解除、妨害を行う』
『4.最後に、残った爆弾を生成した解除液で無力化し、首輪を取り外す』
『5.悟空氏の瞬間移動で非戦闘員を避難させた後、乃亜の拠点を強襲する』
以上が、簡単に表したネモの首輪解除計画であった。
そして、次にその計画に必要な物を書き出していく。
『まず、首輪の解体に必要なのはさっき言った命令信号をハックするプログラムとー。
爆弾に仕掛けられた何らかの術理…異能力を解除できる専門家(キャスター)や、
宝具(ツール)とー、爆弾本体の解除液ですねー。
この三つが揃えば首輪の本格的な解体に望めますー』
信号を偽造するプログラムについては先ほど言った通り。
万全を期すなら、爆弾に仕掛けられているであろう仕掛けについては、精通した魔術師や、
ネモの知る裏切りの魔女メディアの破戒すべき全ての符や、
輝く貌のディルムッド・オディナの振るう破魔の紅薔薇であれば解除が叶うかもしれない。
もし魔術による物でない場合、これらの宝具が効果を発揮するかは未知数だが。
それでもエネルギー吸収装置が、悟空の言う気を魔術と同一のものと処理している以上、干渉できる可能性はある。
また、会場に存在するかも未知数ではあるが、しおに支給された戦車の様に支給品として配られている可能性もある上に、
この会場には投影魔術を扱えるクロエ・フォン・アインツベルンがいる。
彼女の非常に高精度の投影魔術であれば都合がつくだろう。
最悪の場合、もし専門家や使えそうな宝具が用意できずとも、先に爆弾を解除してしまう手もある。
仮に爆破の威力を一億倍にする効果があっても、爆弾が無力化されていれば無意味だ。
0に何をかけた所で0なのは変わらないのだから。
そして、混合爆弾の解析自体はデパート病院やデパートに赴いて薬品を集めれば一時間もあれば可能だという事だった。
改めて必要な物を確認してみれば、意外に少なくて簡単だな、と悟空は思った。
-
『ニンフ氏の遺したデータが無ければここまでの情報を得るのは不可能でしたねー
なんせ、首輪の解体しなければ得られない情報が殆どですが、
現時点で首輪を解体すれば自爆してしまいますからー』
首輪の内部の情報など、言うなれば、施錠された金庫を開くための鍵。
それを鍵のかかったままの金庫に、小さな隙間から放り込まれていた状態だった。
そう考えれば乃亜の首輪解除に対する対策はほぼ盤石だったと言えるだろう。
純粋な電子戦で首輪の内部を解析される事態は、主催にとって青天の霹靂だったはずだ。
その代償として彼、或いは彼女は命を落としたようだが…決して無駄にはしない。
ここから、海馬乃亜の致命傷となるまで研ぎ澄ませていくのが、自分達の役割だ。
『今しがた得た情報はー、今の我々にとって…金銀財宝に勝る遺産ですー』
まず、行わなければならないのはニンフの遺したデータから首輪の電気信号の解析。
挑むのには流石にこの図書館の電子端末では心もとなさすぎる。
必然的に、それなりの設備が整った施設に赴かなければならない。
そして、ネモにはその施設の当てがあった。
だが、進路についてからの行動は、悟空の判断を仰ぐ必要があった。
決して両立し得ない二者択一を、彼に迫る事になるのだから。
僅かに逡巡しながらも、ネモ・プロフェッサーはその問いを書き上げた。
『…さて、今迄説明した事を踏まえて、悟空氏には、選んでいただきたいんですー』
『先ほど話していた様に、他の参加者を助けに回るか、それとも……』
『キャプテンや私と共に…これから行く施設、カルデアで首輪の解析を優先するか』
-
■ ■ ■
ネモが尋ねたそれは、命の選択だった。
孫悟空という男の力があれば、きっと。彼と運よく出会えた子供達は助かる。
彼は、守り抜くだろう。その実力は既に目の当たりにしている。疑う余地もない。
誓って言うが、命が惜しくてその選択を迫った訳ではない。
元よりこの身は歴史の影法師。
進んで命を捨てるつもりは無くとも、未来ある子供達を犠牲にしてまで生きたい訳では無かった。
だが、ネモという英霊の現実主義的な部分が告げていた。
彼にはこのまま自分の護衛についてもらった方が、ゲームの転覆と言う視点では最も実現可能性が高い、と。
だから、尋ねた。彼に判断を委ねた。
──いや、少なくともそのプログラムっちゅうのが完成するまでは、ネモと一緒にいるさ。
孫悟空と言う男は、優しくて、合理的だった。
彼は他の子供達を助ける事よりも、首輪の解除する事を優先したのだ。
だけど、それは決して彼が冷淡である事を意味しない。
彼も、手がかりが何もなかった時は他の参加者を助けるために動こうとしていたのだから。
それに、カオスという少女に対する心情だってそうだ。
本当に合理的なだけの人間なら、明らかに殺し合いに乗っていた彼女を、止めたいなんて言わなかっただろう。
(彼の判断は間違ってない。でも)
サーヴァントとして、普通の人間よりはずっと強い自負はある。
だが、あのカオスと言う少女が最後に見せた武装が健在であるなら、勝つ自信はなかった。
あの少女は、騎士王や英雄王などの大英雄でもなければ止められない。
仮面(アクルカ)と、神牛の戦車を考慮しても、勝算は五分を切るだろう。
更に言えば、悟空に並ぶマーダーがいた場合、ネモ一人ではどうにもならない。
そのようなマーダーを乃亜が連れてきていないと、どうして言い切れるだろうか?
(僕としおの事は大丈夫だから、君は他の参加者を助けに行ってくれ。
僕がシャチの様に強ければ、そう言えたんだけどな)
心中に浮かび上がる、澱の様な感傷。
せめて、自分自身の宝具があれば、また心持も違ったのだろうが……
そこまで考えた時、悟空からかけられたもう一つの言葉が蘇って来る。
───そんな顔すんなよ。どの道首輪は外さねぇと、オラ達何時までも乃亜のいいなりだ。
そして、オメェも賢いんだから分かってんだろ?と。
彼はそう言った。それを聞いた時想像以上に、大局を見ていた男だと思った。
確かに会場を巡り、マーダーを倒して対主催の子供達を保護していけば一時的に死者は抑えられる。
だが、その後を考えれば、それは対処療法。根本的な解決にはなりえない。
大勢で協力して首輪を解除すると言えば聞こえはいいが、しおの様な子供が大半であれば首輪の解体には貢献できない。
それどころか、基本的に人数が増えれば増えるほど纏めるのは難しく、行動速度は鈍化していく。
そして、何よりマーダーがいなくなれば殺し合いそのものが停滞する。
それを、乃亜は黙ってみているだろうか?
(…もし、悟空や僕の首輪が吹き飛ぶだけならまだいい。でも……)
殺し合いが停滞した会場を見て。
最悪の場合、乃亜が殺し合いそのものに見切りを付けたら。
我儘で傲慢な子供が、冷え切った展開を見て黙ってゲームを続けるだろうか。
最悪の場合、次はもっと上手くやろう、とリセットに走る恐れがある。
即ち、全員の首輪の爆破という結末でこの殺し合いが終わるリスクだ。
今の所直接的な介入は為されていないものの、全ては乃亜の気まぐれでしかない。
一時間後には方針を180度転換させていても、何ら不思議はないのだ。
首輪を嵌めている限り、どんな無法も横紙破りも彼には許されるのだから。
(だから、それを止めるには……首輪を外すしかない)
その手から伸びるミクロン単位のフィラメントを眺めながら、複雑な感情を抑え込む。
首輪の解析にはこのエーテライトが不可欠だ。これ以上のツールを探すのは難しいだろう。
だが、問題はネモ自身が扱えるかどうかにかかっている。
恐らく、安定して使いこなせるようになるまで習得にかかる時間。
電気信号を解析し、それをハックするプログラムの時間を足せば、半日はかかるだろう。
その間は自分も、そして自分を護衛する悟空もかかりきりになる。
何処にいるかも分からない誰かを助けに行ける余裕は、首輪を外した後までない。
実に、歯がゆかった。
-
───大丈夫だ。その間に死んじまった奴は、ドラゴンボールで必ず生き返らせる。
───それに此処にはオラだけじゃなくて、悟飯だっているんだ。
犠牲者が出ても、最終的にドラゴンボールで帳尻を合わせる。
それは多分、彼なりの気づかいの言葉だったのだろう。
彼の言うドラゴンボールと言う願望器が本当なら、全員を救う事すら現実味を帯びる。
だからこれがきっと、今の自分達が出せる、最善の一手。
そう納得するほかない。
(カルデアに着いたら、直ぐに中央管制室のコンピューターにエーテライトを接続して…)
一秒でも早く使いこなせる水準まで到達しなければならない。
少なくとも、今のままではまだまだだ。とてもその水準には達していない。
エーテライトによる霊子ハックを敢行した相手が、嘔吐して倒れてしまう程度にしか扱えていないのだから。
(……しおの反応を見るに、少なくとも人に対する霊子ハックは今の僕じゃ無理だ)
悟空とプロフェッサーが議論をしている最中。
熱心にテレビにかじりついているしおに、密かにネモは霊子ハックを試みた。
元々は電子機器ではなく、人体に接続するのがエーテライトの本来の運用だ。
理解と熟練度を高めるために必要な措置。そう考えて、しおの神経とネモは繋がった。
(……便利だけど、非人道的か、成程確かに君の言う通りだったな)
それは時間にして五秒に満たないごく短い時間の接続だったけれど。
その接続によって、ネモはしおの数奇な事情を垣間見た。
神戸しおと言う少女の悲惨窮まる家庭環境。
松坂さとうと言う少女に誘拐され始まった、奇妙なしかし甘い共同生活。
しおが、さとうと言う少女と心を通わせ、愛し合う仲となったこと。
彼女の兄が、誘拐犯から妹を取り戻しにやって来たこと。
その衝突の果てに、神戸しおと、松坂さとうが詰んだこと。
その矢先にこの島に連れてこられて───ゲームに乗る決意を彼女が決めたこと。
それらの事実を、霊子ハックという技術はたちどころに暴き立ててしまった。
──エーテライトと言うメッチャ便利な技術を使わない、ポジティブな私になったのです。
実際に触れてみて、“彼女”がその選択をして、そう成長したのも頷ける話だった。
この力は、本来明るみにするべきではないことまで暴いてしまう。
それに加えて下手をすれば相手を廃人にしてしまいかねない。
ネモはこの力を人相手には使わない事を決めた。
とは言え、もう知ってしまったことをなかった事にはできない。
それが示すのは無論、しおの事だ。
恐らく彼女は今も────
「あの……ネモさん」
不意に、声を掛けられて。
後方に意識を傾ける。
声がしたのは、ネモが立つ場所のすぐ後ろにある、職員用と見られるシャワールームだ。
その入り口からしおが顔だけ出していた。
つやつやと光沢を放つ黒髪の毛先から、透明な雫が流れている。
「その……タオルが無くて……」
しおは幸い、嘔吐し、倒れてから直ぐに意識を取り戻した。
神経が焼き切れていれば廃人になっていてもおかしくない霊子ハックの後遺症。
今回は接続時間が短く、幸運にも免れた様だった。
ただ、胃酸塗れの身体と服は異臭を放っており、女の子には余りにも不憫な状態だった。
だから、職員用と見られるシャワールームに案内したのだ。
そして、しおがシャワーを浴びている間にタオルがないのではと思い調達してきて今に至る。
「ああ、これを使うといい」
新品と見られるバスタオルをなるべくしおの方を見ずに放り投げて渡す。
丁度顔の辺りに命中したのか、柔らかな感触に「わぷ」としおが声を漏らした。
───こうしていると本当に、普通の子供だな。
一皮?けば、彼女が躊躇なく他の参加者に銃口を向けられると知っても。
こうして平穏なひと時の中では、神戸しおという少女は、本当に普通の子供の様に映った。
だからこそ、どう接するべきかこうして頭を悩ませているのだが。
-
(…………………?)
違和感を抱いた。
扉を閉める音が一向にしない。
それに気づいた、およそ二秒後の事だった。
ネモの背中に、温かくて、柔らかな感触が伝わる。
そして、その感触はふるふると震えている様だった。
「ネモさん」
想起するのは、男女のまぐわいが流されていた、映画の映像。
だから、子供が見る様な物じゃないと、そう言ったのに。
「嫌わないで、お願い」
同時に、仕方ないな、とも思う。
彼女は、一人で戦おうとしているのだ。
これまで兄や松坂さとうに守られていた彼女が。
この島に独り放り出されて。
それでも自身を救ってくれた愛を守ろうと、戦おうとしている。
そして、子供は影響されやすいモノで。
きっと、彼女なりの戦略なのだろうと、そう思った。
「何でも……し───」
「しお」
思う所がないわけでは無い。
だから、彼女の言葉を遮って。
僅かな逡巡が生んだ静寂の後に、ハッキリとした声で。
キャプテン・ネモは神戸しおに問いかけた。
「君は……今も、殺し合いに乗っているんだね?」
-
■ ■ ■
気持ち悪くてなってから、まず目を醒ました時に目に入ったのは。
さとちゃんの優しい顔じゃなくて、複雑そうな顔で此方を覗き込んでくるネモさんだった。
目を醒ましてから直ぐに、ツンという酸っぱい匂いが匂ってきた。
上着は脱がされていて、ネモさんの白くて分厚い服が私にかけられていた。
「職員用のシャワーがあったから、少し浴びてくると良い」
ネモさんはそう言って、私に水浴びしてくるように言った。
その言葉に、私はコクリと頷いた。
そして、シャワーの扱い方は分かるかと尋ねられて、さとちゃんと何度も使ったよ。
そう答えた。
そのままぽいぽいと服を脱いで、シャワー室に入る。
「つめたっ…」
考えたら、さとちゃんのおうちでも一人で入ったことは無かったかもしれない。
いつもはさとちゃんが、シャワーの水の温かさ丁度良くしてくれてたから。
冷たい水にぶるっと震えながら待つと、直ぐに水は温かくなった。
水が温かくなると、シャンプーを出して、わしゃわしゃと頭を洗う。
洗ってから、「あ、頭を洗う必要はなかったな」って思ったけど、もう遅いのでそのまま洗った。
(頭も……さとちゃんがいつもは洗ってくれてたな………)
さとちゃんの事が直ぐに浮かんでくる。
逢いたかった。逢って、今すぐさとちゃんの胸の中に飛び込みたかった。
でも、名簿にさとちゃんの名前は無かった。だから、逢えない。
お兄ちゃんもいなくて、此処には私だけ。
お母さんに捨てられた時みたいに、一人ぼっちだった。
頭を流してから、ボディーソープを手に付ける。
もこもこと泡を塗り伸ばして、酸っぱい匂いのする体を洗う。
(ネモさんの目………)
ネモさんの目は、何だか、見透かしたような目をしていた。
元々、私の事をしんよーしてないのは分かっていたけど。
今ではそれが出会った頃よりずっと強く、そう思えた。
悟空お爺ちゃんも、私に優しいけれど、優しいだけだ。
本当は、ネモさんの味方で。私の味方にはきっとなってくれない。
今だって、きっとネモさんと二人で秘密のお話をしてる。
私だけをのけ者にして。
……二人は私よりもずっと、ずーーーーっと強くて。
そんな二人に、どうやったら勝てるのか、全然分からなかった。
さとちゃんがいたら、他の優勝を目指している事がいたら。
教えてくれたのかもしれないけど、今の私は、一人だった。
「あ……タオル」
身体を洗い終わってから。
身体を拭くタオルが無いのに気づいた。
どうしようか少し考えた後、まだ近くにネモさんがいる筈だと思って。
ネモさんに頼むしかないと、扉の外から顔を出した。
そしたら、ネモさんは何か考え事をしてるみたいで。
でも、私が頼めば分かってた様に、此方を振り向かないままタオルを私にくれた。
その背中を見たら、さっき見た映画の内容を思い出した。
「ネモさん」
男の子は、これには勝てない。その台詞が、何度も頭の中に響く。
本当は、嫌だった。さとちゃん以外の人に触らせるのは、嫌で嫌で仕方なかった。
でも、私が優勝する為に。さとちゃんとの甘い日々を手に入れるために。
ネモさんのけーかいを少しでも解いておくのは必要だって、その時は思った。
ネモさんが私が殺し合いに乗ってたって広めたら、多分みんな信じちゃう。
ずっとずっと、私よりも賢くて、ネモさんは強いから。
そしたら、ネモさんや、他の人に殺されちゃうかもしれない。
それだけは、嫌だった。だから。
「嫌わないで、お願い」
ぎゅっと目を瞑って。
勢いに任せて、私はネモさんの背中に飛び込んだ。
タオル一枚挟んで、白くて分厚い服にぎゅっと抱き着く。
映画に出てきた女の人はこうするのが良いって、言ってたから。
たいよー君も、私に触ってもらいたいみたいだったから。
こうすれば、言う事を少しでも聞いてもらえるかもしれない。そう思った。
だから。
-
「何でも……し───」
苦い。これはとても苦くて、泣きそうになる。
嫌。嫌。いやだ。こんなの。さとちゃん。
でも我慢しなくちゃいけない、私は必死の思いで言葉を吐き出す。
咄嗟に出ようとしているその言葉。
私はその言葉にうっすらと覚えがあった。
多分、これはきっとお母さんが言ってた───、
「しお」
息が詰まる。
ネモさんは、私の言葉を遮って。
そして…私に聞いてきた。
「君は……今も、殺し合いに乗っているんだね?」
-
■ ■ ■
しん、と。
世界を、静寂が包む。
少年は身じろぎ一つせずに。
背中で、小さな肩を震わせる少女の言葉を待った。
尋ねて直ぐに、何度か何某かを口にしようと少女はしていたが。
結局、言葉を返せたのは一分は経ってからだった。
「………………………そうだって言ったら、私を殺す?」
振り返っていないため、しおの表情は分からない。
でも、その時彼女が浮かべている表情に名前を付けるとするなら。
それはきっと、決意だとか、覚悟になるだろう。
誤魔化せない。そう思って彼女は本心からネモと向き合う事に決めたのだ・
声のトーンから、ネモは確信めいた思いを抱いた。
そして、尋ね返された問いかけに、短く答える。
殺さないよ、と。
「どうして?あのフランって子がまた殺し合いに乗ったら……
ネモさん、その時はあの子を殺すって、そう言ってたよね」
重ねて放たれる問い。
その問いにも、やはりネモの返答は簡潔だった。
「可能性の話でしかないし、そんな結末(コト)にはさせない。
そのために僕がいる。悟空もだ。そして、それはしお、君に対しても同じことだよ」
例え殺し合いに乗っているのだとしても。
誰かを傷つけない限り、一線を超えない限りは、保護対象である事に変わりはない。
ネモはゆっくりと振り返って、自分の来ている純白の軍服をしおに被せた。
向かい合った上で、船長は少女に告げる。
「君は、僕達が責任を持って“さとちゃん”の元へと帰す」
少し屈んで、しおに視線を合わせて。
真っすぐ、しおの瞳を見て。
毅然とした態度で、ネモはしおにそう告げた。
「……君は、“普通の子供”としてこのバトル・ロワイアルを終えるんだ」
エーテライトで垣間見た、松坂さとうと神戸しおの関係に思う所がない訳ではない。
彼女と、彼女の兄の関係にもだ。
でも、例えどれだけ感情面で思う所があろうとも。
雨の降りしきるあの日、打ち捨てられ、絶望していた目の前の少女を救ったのは。
紛れもなく、松坂さとうという少女なのだ。
どんなに言葉を重ねた所で、その事実は変える事はできない。
してはいけないと、そう結論付けた。
だけれど。だからこそ伝えておかねばならない事がある。
「……僕は、君のお兄さんじゃない」
安全は保障する。願いも否定はしない。
でも、それまでだ。
騙すことも。
犯すことも。
奪うことも。
殺すことも。
しおの兄なら…神戸あさひなら。
しおがどれだけ愛の為に過ちを犯しても許しただろう。
でも、ネモも悟空も、彼女の兄ではない。
「君が自分の愛の為に、他の者を蹂躙しようとするなら…その時は絶対に阻止する」
その言葉は、しおにとって、とても苦い物だった。
「……そう」
-
でも、ネモなりにしおの事を考えて行ってくれている事は理解できた。
だから、苦みから俯かない。背を向けない。
華奢な肢体を反らし、向き合ったうえで、宣言する。
「じゃあやっぱり……私は、ネモさんの敵だね」
あの甘い日々は譲れない。
力や知恵では勝てなくても、想いの力では負けない。
ここで俯き、ネモさん達よりずっと弱いから願いは諦めます、なんて。
言えるはずがなかった。だから今の自分の想いを全てさらけ出してぶつける。
「負けないよ、ぜったい」
そう言った時には。
少女の肩は、もう震えてはいなかった。
少年は、そんな少女の事をじっと見て。
数十秒ほどの静寂の後に、瞼を閉じて、一度大きく頷いてから言った。
「───しおの気持ちはアオブダイみたいにハッキリしたものだと分かった。
ひとまず、話は此処までにしようか。さ、直ぐに出発するから、着替えて来て欲しい」
そう言って、くるりと身を翻して、ネモは話を打ち切る。
これ以上は平行線。結論は双方とも決まっているのだから、続ける必要も無い。
「……本当に、追い出したりしないの?」
さとちゃんの元へと帰す、とは言われたけれど。
それでもやっぱり、これからも優勝を諦めるつもりは無いと言えば。
態度も変わって来るだろうと思っていた。
でも、良くも悪くも、ネモの接し方は先ほどまでと変わらない様に思えた。
「昔取った杵柄、と言う奴かな。悪事を企てるだけじゃ罰したりしない。
………そういう組織だったんだ。僕の働いていた所(カルデア)は」
善を尊び、悪を許容する。
どれだけ非合理でも、彼の居場所はそう言う組織だった。
松坂さとうの元へ帰すと言った以上、違えるつもりもない。
しおに背中を向けたまま、ネモは今一度、その言葉を紡いだ。
聞いたしおは暫くの間無言だったけれど、やがて再起動し、ととと、と更衣室へ戻る。
そして、タオルを求めた時の様に顔だけ出して、ある表明を行った。
「……こう言うこと、さとちゃん以外にはもうやらないから」
すっかり素が出ている様相で吐かれた言葉に、ふっと脱力する。
顔を向けて居なくてよかった、今の表情を見られれば、へそを曲げられるかもしれない。
悪い気分ではなかった。どうしようもない断絶がある事はハッキリしたけれど。
でも、彼女が素顔を晒して向き合ってくれたことが。
相容れずとも、例え彼女にとっては生存のための腰掛けに過ぎなくとも。
それでも、彼女が本音を吐き出してなお、行動を共にする判断をしてくれたのは。
決して、悪い気分ではなかった。
「───そうだね。君にはどうか普通の子供として……健やかな旅をして欲しい」
その言葉は、きっと、導きの神トリトンとして口にした言葉だった。
-
■ ■ ■
数分後。
ネモと悟空、そしてしおは図書館を後にしようとしていた。
もうここには特に得られる物は無い。
それよりも、今は一刻も早くカルデアに赴き、設備の状態を確かめなければならない。
その結果如何で、生存者の数が変わる事になるかもしれないのだから。
カルデアの設備とエーテライトを接続し、ニンフの遺したデータを元に。
衝撃感応装置と、エネルギー吸収装置の停止命令を出すための電気信号を解析する。
解析結果から実際に停止させるためのプログラムを、エーテライトで組み上げる。
これ等の工程は実際に首輪に干渉するものではないため、乃亜も悟りにくいと踏んでいた。
勿論それでも尻尾を掴ませないまで隠し通すのは不可能だろうが、
首輪を解体しにかかるよりは爆破されるリスクは間違いなく低い。
「おし!じゃあ行くか」
快活な声で、悟空が出発の合図を発する。
三人は今、ネモの有する戦車の御者台にいた。
魔力消費的に普段使いできないチャリオッツだが、今回は急いでいる事と。
そこまで施設間の距離が無い事から、妨害を避けるために空路での移動を決めた。
無論限界まで魔力を絞り、ヘリの隠密飛行に近い移動となるが、それでも徒歩よりはずっと早い。
「よし、しおは念のためしっかり僕らにしがみついてくれ!」
「うん!!」
元気よく声をあげるしおから、さっきまでの体調不良は伺えない。
しおからは見えない様に一瞬悟空とアイコンタクトをして。
今のところは大丈夫だと、そう告げる。
何が大丈夫かと問われれば、それは勿論しおの事だ。
───『首輪の解体計画はー、話す時は必ず我々二人で同意を取ってからにしましょう』
───『そして、しおさんについては気を付けてください』
プロフェッサーは予め悟空と口裏を合わせていた。
だから、しおが倒れたと聞いても、ネモに対応を任せたのだ。
一先ず丸く収まったと状況の推移を把握し、任せたのは間違いではなかったと判断する。
そして、ネモを労うようにニッと悟空は笑みを向けた。
「───よし、出発!」
ネモも薄く笑い返し。
神牛と戦車を繋ぐ縄を振るう。
殺し合いを阻止するため、首輪を解除する為に。
───ネモさん、やっぱり似てるな………でも。
戦車を駆るネモを見て、しおは思うのだ。
その横顔は、やっぱり似ているなと。
さとちゃんとの甘くて幸せな日々の為に、乗り越えなければならなかった、あの人と。
でも、やはり違う部分もある。だって、キャプテン・ネモは、兄・神戸あさひよりも。
───お兄ちゃんより、ずっと大人だった。
目の前に聳え経つ夢への壁の高さを噛み締めながら。
それでも少女は勝負のテーブルから決して降りることは無く。
二人の少年は、そんな少女に目を光らせて。
一行は、カルデアへと進路を取る。
-
【B-5 図書館前/1日目/朝】
【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:満腹、腕に裂傷(処置済み)、悟飯に対する絶大な信頼と期待とワクワク
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:首輪の解析を優先。悟飯ならこの殺し合いを止めに動いてくれてるだろ。
2:悟飯を探す。も、もしセルゲームの頃の悟飯なら……へへっ。
3:ネモに協力する。
4:カオスの奴は止める。
5:しおも見張らなきゃいけねえけど、あんま余裕ねえし、色々考えとかねえと。
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(小)、疲労(小)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、
オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、神威の車輪Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、
ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、エーテライト×3@Fate/Grand Order、
神戸しおの基本支給品&ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:カルデアに向かい設備の確認と、得たデータをもとに首輪の信号を解析する。
2: 魔術術式を解除できる魔術師か、支給品も必要だな……
3:首輪のサンプルも欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおとは共に歩めなくても、殺しあう結末は避けたい。
6:エーテライトは、今の僕じゃ人には使えないな……
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、
優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※フランとの仮契約は現在解除されています。
※エーテライトによる接続により、神戸しおの記憶を把握しました。
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
【エーテライト@Fate/Grand Order】
孫悟空に支給。
エーテル(第五架空元素)によって紡がれたミクロン単位のフィラメント。
元々は医療用の疑似神経で、一言で言うなら基本的に目で見えない超細い糸。
アトラス院の貴族エルトナム家によって情報搾取のための媒体に用いられ、
電子機器は勿論、人間の脳内に接続する事によって情報のハッキングを行う事ができる。
ただし、運用は基本的にエルトナム家相伝ともいうべき技術なので、例え魔術に精通した者でも容易に扱う事は不可能である。
よって基本的に、電子媒体に対する単純な情報の読み取りと記憶、転送に運用は限られる。
脳髄への接続による魂の強制介入(ハッキング)はまず不可能。
行ったとしてもハッキングを行った対象はおろか、制限下では使用者すら廃人になりかねない危険窮まる行為である。
運用における初歩の初歩である情報の読み取りすら、常人に行えば廃人化のリスクが伴う。
四本セットで支給。
【首輪に対する考察】
首輪に内蔵されている装置、機能(今回の解析で分かった部分)
・監視用カメラ
・盗聴用マイク
・制限用エネルギー吸収装置@ドラゴンボール
・無限エネルギー炉@ドラゴンボール
・内臓爆弾(プラーミャの爆弾@名探偵コナンと同じもの)
・各種命令信号の受発信装置
・衝撃感応装置
・爆破性能増幅魔術式?
【解析に当たって必要になると推察できる物】
・制限用エネルギー吸収装置や衝撃感応装置に連なる、各種命令信号の受発信装置の一時停止信号を発信させるための電子プログラム。
・爆発火力増幅術式を解析できる魔術師(キャスター)、魔術式を解除できるアイテム。
・薬品の混合爆弾本体の解除液。
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投下終了です
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投下します
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「大丈夫? イリヤさん」
「うん、ありがと。美柑さん」
「熱いからゆっくり飲んで」
結城美柑が淹れたホットココアを受け取り、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはぺこりと小さく会釈をした。
シャルティアとの交戦を終えた後、孫悟飯に担がれ雪華綺晶と共にイリヤは美柑の待つ民家へと運び込まれた。
「しかし、ローゼンゆうのもけったいな奴やなぁ。こんな呪いの人形7体も作るなんてなぁ。
まあ腕のええ魔術師は大体変人なんやけども、クロウの奴もせやったわ」
「あの、呪いというのは訂正して欲しいのですけれど」
「ほんま苦労しとるみたいやな。なあ? きらきー!」
「き、きらきー……」
目が覚めた時、知らない女の子の美柑に顔を覗き込まれ驚いたが、美柑と一緒に居た空飛ぶぬいぐるみケルベロスが陽気な性格なのが幸いした。
ずかずか話してくれるケルベロスのお陰で自然と会話が弾み、お互いの警戒は解けていく。
些か強引で人の話を聞かないケロべロスに、雪華綺晶は振り回されているが。
「ケロべロスさん、そして雪華綺晶さん……僕は、ニンフさんと美遊さんを埋葬してきます」
僅かな休息すら拒むように悟飯は急いていた。
「悟飯、死んだ子らが気になるんは分かるで。せやけど……」
「あの女、グレーテルやシャルティアが何をするか分かりません。
遺体でもあいつらの好きにはさせられませんよ! それに、のび太君もまだあの辺に居るかもしれない!!」
一方的に叫んで、悟飯は仮の拠点としていた民家から飛び出す。
ケルベロスと雪華綺晶が止める間もなかった。
「あの坊主、人の話も聞かんでほんまに」
悟飯からシャルティアとの激戦とその後の悲劇に関しては聞いていた。
美柑を置いてけぼりにしたのはともかく、結果としてイリヤと雪華綺晶が助かったのは良かったのだろう。
ケルベロスも自分の反対を押し切られたことは良く思えないが、犠牲者が減った事は認める。
その後に出来事も無理をしたとは思うが、状況を思えば一概に責める事もできない。
のび太という少年の介入がなければ、きっと悟飯の思惑通りに進んだ筈だ。
だからこそ、まだ一回放送前だ。放送まで時間を置いて休息を取りながら、埋葬に向かっても遅くはないだろうに。
戦闘が出来るらしいイリヤも目を覚ましたとはいえ、美柑に介抱されている状態で置いて行かれても困る。
「きらきーも戦えるとは言え、そのシャルティアゆうバケモンやさっきの黒ドレスの女がこっちに来たら、どうしようもないやろに」
「ケルベロスさんは……」
「ワイも真の姿になれれば戦えるんやけどな。
ほんまカッコええんやで、ワイの真の姿。きらきーに見せてやりたいもんや。
でっかい翼が生えてな? 顔もイケメンなんや!!」
余計な情報は頭から排除しつつ、雪華綺晶はこの場の戦力を数える。
正直に言えば相当辛い。
シャルティア程ではなくても、グレーテルやクロ等に襲撃されれば応戦も難しい。
実体を得た事で弱体化した雪華綺晶と、連戦を重ねたイリヤでは誰の犠牲もなくそれを凌ぐのは現実的ではない。
やはり、悟飯にここに残って貰う方が最善だったのではと思う。
「ケルベロスさん、悟飯さんの事なんですが……」
「言いたいことは分かるで。明らかに様子がおかしいわ」
美柑達と合流した時、悟飯と一切目も合わさずぎこちない会話をしていたのを雪華綺晶は印象深く覚えていた。
そういう女の子なのかと思っていたが、イリヤと美柑は普通に会話しており何ならとても大人びた雰囲気を醸し出している。
「ワイが起きた時には、もうギスギスしっとたからなあ……」
だからこれは、きっと悟飯との間に問題が生じているのだろう。
「あのイリヤの嬢ちゃんが復帰して、そんで悟飯が戻ってくるまでここで息潜めて大人しくするしかないわな。
まあ、この家あんま目立たんとこにあるさかい、余程の事がなければ大丈夫やろ」
「ええ……」
────
-
乃亜の放送が流れた。
内容はイリヤにとって予測できたものだった。
友である美遊・エーデルフェルトと乃亜に抗うと誓った仲間ニンフの死。
だが、それは更に最悪の情報で更新されていく。
「美遊……まさか、嘘だよね……」
────クク、誰とは言わないけど仲間がいるか確認もせず、早とちりして意味なく死んだ馬鹿な女の子も居たからね。
これだけなら、まだ違うと言い切れる。
────何やら祈って死んでたけど、あれは見てて傑作だったよ。
だが、この最期をイリヤは目撃していた。目の前でシャルティアに殺害されたのだ。
その時、美遊は祈っていた。イリヤの無事を。
最後まで紡がれることはなかったけれども、その真意はイリヤにも伝わっていた。
「乃亜……何がしたいの? 貴方は……」
名簿を最初から開示しなかったのは、美遊を誘導する為だったのか。
『姉さん……』
考えたくはないが、美遊とルビーの態度は妙だった。
彼女達がどんな心境だったのかは分からないが、名簿を確認させない事で美遊を殺し合いへ乗るよう仕向けた。
そして、美遊とイリヤが再会できるように近くに配置した。
「はあ〜やっぱりおるんかぁ」
開示された名簿を見て、ケルベロスは溜息を吐きながら「さくらが居る」と呟く。
これは想定内で、ケルベロスも事前に皆に説明をしていた。
自分を道具扱いで放り込んだのだから、その主のさくらも巻き込まれているだろうと。
恋人と友人の李小狼や大道寺知世もあるいはと考えていたが居ないのは嬉しい誤算だった。
「黒薔薇のお姉様がいらっしゃるようです」
雪華綺晶は少し予想外の知人の名に驚いていた。
究極の少女をテーマに生み出された薔薇乙女全員に、欲しくもないこの殺し合いの参加資格があるのは理解していたが、それでも呼ばれるのは第6ドールの雛苺だと思っていたからだ。
末妹の自分が居るのなら、無難に考えればその次の姉の彼女の可能性が高いだろうと。
「非常に強いお姉様です。戦いという点では……私達、薔薇乙女の中では恐らく最強でしょう」
「その娘は……」
イリヤが不安そうに声を上げる。
雪華綺晶が、殺し合いに巻き込まれる以前の話は大体聞いていた。
アリスゲームという別の殺し合いの渦中に居て、雪華綺晶もかつては積極的に戦いを加速させていたとも聞く。
その中で戦いを得手とするのなら、好戦的で殺し合いに乗っているかもしれないからだ。
「大丈夫です」
以前の水銀燈ならば、雪華綺晶も危険人物だと警戒を強めていた。
だが、アリスゲームを経て真紅を勝者と認めた水銀燈なら別だ。
素直じゃないが、ローザミスティカを失った真紅を復活させる為に、桜田ジュンに助力もしている。
ここでも嫌味や愚痴を散々聞かされるだろうが、きっと力を貸してくれるだろう。
「今のお姉様なら、きっと力になってくれる筈ですわ」
まさか、この島に居る水銀燈は自分と敵対している時間軸から呼ばれたのだと、雪華綺晶は思いも寄らない。
-
「ヤミさん……!」
そして、一番有力な情報なのが美柑の言う金色の闇という少女だった。
殺し屋という経歴はともかく、現在は美柑と接することで日常に馴染み温厚は思想になっている。
何より戦力として、非常に頼もしい。
美柑の話す範疇でも、高い規模の戦闘力を有しているのが伝わってきた。
その人柄も名簿に名を見付けた瞬間、安堵感から今にも泣きそうな顔になった美柑を見れば信用もできそうだった。
美柑もヤミが居ない方がいいのは分かっているが、やはり力になってくれるのなら心強い。
(……私、勝手だ。悟飯くんにもあんな態度取って、それにヤミさんだって殺し合いなんかに居てくれた方が良いわけないのに)
より強く自分への嫌悪感を強め、そして罪悪感も募らせながら。
それを悟らせないように、顔を俯かせる。
「おーい、イリヤ!! どこー!!?」
名簿を確認した頃合いを見計らったかのように、少年の声が響き渡る。
小柄で気付かれ辛い。仮にバレても、お互いぬいぐるみと人形のフリをするよう打ち合わせたケルベロスと雪華綺晶が、こっそりと窓から外の様子を伺う。
「のび太さん?」
声も容姿も雪華綺晶の知る野比のび太その人だった。
「本当だ。のび太さんだよ」
イリヤも確認するが間違いない。
「のび太っていうと、イリヤの嬢ちゃん達の仲間やったな……じゃあ横の姉ちゃんもそうなんか?
あの恰好、おかしいやろ」
『あんな痴女、見覚えはありません』
「どう考えても変やで。
あんなけったいな格好した姉ちゃんが横に居るんは」
ケルベロスの言うように、のび太の横に居た金髪の少女。
ルビーのような真紅の瞳にシミ一つない白い肌、そして整った美貌は人目を惹く。
ただ、その服装が常軌を逸していた。
黒い布っ切れのような衣服で、雑に小ぶりな乳房と股を覆うだけの露出過多な格好。
尻など布が割れ目に食い込んでいた。
この場に居る全員が、あれは変態だと確信する。それ以外のワードが浮かばない。
「あれが本物ののび太か分からへんな」
ケルベロスの知る中ではミラーのカードなら、他人と同じ容姿になることが叶う。
これがそうかは判断が付かないが、のび太に成りすました別人ということもありうる。
「……私が最後に見たのび太さんとは、少し様子が変です」
「雪華綺晶ちゃん?」
「マスター、ケルベロスさんの言うように警戒した方がいいかと」
気絶したイリヤは見ていないが、雪華綺晶は悟飯とのび太の一部始終をその目で見ている。
悟飯がニンフを誤殺した際ののび太のパニックさが嘘のようだ。
痴女の同行者が落ち着かせたとも考えられるが、果たしてシャルティアやグレーテルもまだ近くに居るかもしれない場で大声などあげるか?
-
「ヤミさんだ。ケロちゃん! ヤミさんだよ!!」
「……なんやて? 嘘やろ…」
ケルベロスは引き気味に尋ねる。
美柑の語る金色の闇とは月とスッポン程の落差がある。
真面目でクールで頼りになる少女という話が、実際には痴女でニタニタと艶めかしい笑みを浮かべた変質者だ。
「ヤミさんだよ。間違いなく……」
しかし、様子がおかしいのは美柑から見ても明らかだった。
確かダークネスという形態で、色々あったのは聞いている。角は知らないが、リトと変な格好でくっ付いていた時と同じ服装なのもきっとその証拠だ。
「……多分、ダークネスって言う力で」
ヤミの力が暴走したが、モモ達の協力もあり、リトがそれを食い止めた話は美柑は聞いていた。
これも同じように暴走しているのか。
しかし、それならきっとあののび太という少年はただでは済まない。
「制御、出来てるのかな……」
「暴走する代物なんかいな」
それは美柑からしても判別が付かない。
「だけど、のび太さんを放っておけないよ」
ヤミ一人であれば、気付かれないようやり過ごすという選択肢もあった。
イリヤにとって仲間であるのび太が居るのであれば、偽物の可能性があっても見過ごせない。
彼は射撃の飛び抜けた才能はあるが、それ以外の戦闘手段をほぼ持たない無力な子供だ。
暴走しているかもしれないヤミと一緒になど出来ない。
「のび太さん」
今、この場で一番体力を温存し戦える雪華綺晶とヤミについて知っている美柑が二人に接触する。
そしていざという時は、雪華綺晶の茨でヤミを足止めし、ケルベロスとサファイアと共に潜んだイリヤが転身し美柑とのび太、雪華綺晶を連れ飛んで逃げる。
雪華綺晶は言わずもがな、美柑とのび太は子供で体重も軽い。
イリヤにかなりの無理を強いてはしまうが、逃げられなくはないだろうという判断だ。
「良かった……無事だったんだね」
「あの、横の彼女は……」
怪訝そうに見つめる雪華綺晶の心境など知らないまま、のび太は朗らかに言う。
「大丈夫、僕はこの人に助けて貰ったんだ」
────
-
のび太が目を覚ました時、ヤミは彼に心を落ち着かせるマッサージを施した。リンパの流れを正したと話した。
当初は目が覚めたら、今度こそ絶頂させてそのまま殺害しようと考えていたが、ここまで碌に参加者と出会えずにいたのを思い出す。
ここは一度、のび太から別参加者との接触はあったか情報を引き出すのも悪くない。
また我慢するのは腹正しいが、一度のび太のお漏らしで楽しめたのもある。
その為に話したマッサージという嘘も、性知識がまだ不十分なのと、小学生の浅い教養なのも影響したのだろう。のび太はそういうものなのかと納得し、あろうことかヤミに感謝までしていた。
落ち着けた事で、凄惨な光景を作り出してしまった自責の念や悟飯への反感や恐怖について、改めて向き合うことができた。
取り合えず、一度はイリヤ達と合流しなくちゃいけない。そこに悟飯が居たとしても、ちゃんと話し合う方がきっと良い筈だ。
それらの考えをのび太が口にした時、ヤミはのび太にもう一つの利用価値を見出した。
自分は変態の格好をしている。その自覚はある。
それではやはり無駄に警戒を誘発し抵抗されてえっちぃ事から遠ざかる。
だが、仮にものび太を保護した善良な対主催の体であれば、警戒はされ辛い。
「さ、サファイア…リンパって……そういう、あの……」
『イリヤ様、それ以上はいけません』
「あの姉ちゃん、マッサージ師には見えへんけどなあ」
隠れながら、のび太の様子を伺うイリヤ達。特にイリヤはマッサージと語るのび太の顔が気まずそうなのが気になる。
しかし、それ以外の話の筋は通っているようにも聞こえた。
混乱状態ののび太を落ち着かせ、ここまで守って連れてきてくれたのだけは確かだ。
「……」
雪華綺晶は警戒を維持したまま、自分の横の美柑へと一瞥する。
「美柑、フフ……ようやく会えましたね」
「ヤミさん……?」
美柑も困惑していた。
改めて対面したこのヤミが、自分の知るヤミとあまりにも違っていることに。
服装を除いても、口調や容姿も全く同じなのに、見たことのない艶めかしい笑みとそこから滲ませる冷たい雰囲気が美柑を凍てつかせた。
かつて出会った地球に来た当初のヤミのような孤独感とも違う。
あの頃のヤミですら、こんなにも冷たい殺意は持っていなかった。
「雪華綺晶さん────」
友達であったが為に、この場の誰よりもヤミの異変を感知し警鐘を鳴らす。
名を呼ばれた雪華綺晶もただならぬ美柑の荒げた声に茨を展開する。
「な、なにをするん……うげっ……!!」
自分と美柑を覆うように茨を広げ、そしてのび太を絡めとり引き摺るように雪華綺晶の背後へと放り投げる。
「勘が良いですね。流石、美柑」
次の瞬間、ヤミの金色の毛が二つの拳へと変身し数十以上の打撃を打ち込んできた。
自らの前に広がる茨の棘を物ともせず、何度も殴りつけてくる拳の圧力が雪華綺晶の顔を歪ませる。
「ぐっ……!」
何重にも重ねた茨の盾が破られ。金髪の拳が雪華綺晶へと打ち込まれる。
その小さな体躯はあまりにも呆気なく、バットで打たれたボールのように軽々跳ね飛ばされていく。
そのまま地べたを転がって、純白のドレスは泥に塗れ汚されていった。
「砲射(フォイア)!!」
「!?」
ヤミの危険度を察知したイリヤが雪華綺晶とヤミの合間に割り込む。
サファイアを介し形成した魔力の砲弾。
仮にも美柑の友達であり、何かの外的な理由により自分の意思ではなく、こちらを襲っているかもしれないと考え、イリヤは一定の加減をした。
だが、相手は仮にも数多の標的を葬ってきた最上位の殺し屋。
そんなものでは、到底ヤミには通用しない。
ヤミはそれを笑みを絶やさぬまま、金髪の拳で弾く。それどころかより笑みを深めていた。
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「あ……ぁ、……あなた……あなた……あなたって……!」
「な、なに……?」
「とーーーーーーーーーーーーーっっっっても♪ えっちぃ?」
イリヤの美貌に見惚れ、そしてヤミは頬を紅潮させる。
絹のように滑らかで、雪のように透き通った白銀の髪。
汚れ一つない白の美肌と、強い意志を秘めたルビーの瞳も美しい。
小さく膨れた胸の丘は、未成熟で生意気な自己主張をし自然と目線が吸い寄せられてしまう。
腰のくびれも艶めかしいウェーブが生まれていて、背にある桃尻が前面からでも見て取れる。
そんな秘めたる少女の肢体が薄っぺらな水着のような紫色の布っ切れ一つで覆われているのだ。
ぴっちりと密着し、布はイリヤの乳房の形を精密に浮き上がらせる。同時に無駄な贅肉のない均整の取れた腹筋をヘソまで浮かばせ、より官能的に彩っていく。
しかも本人はそれに気づいていない。何食わぬ無垢な顔で、あんなハレンチな格好を平然としている。
見ているだけで、ヤミは自分の息が上がり興奮していくのを自覚していた。
自らも含め、結城リトの周りには美女が多い。地球はおろか、全宇宙からトップクラスの美女たちが集っていると言っても過言ではない。
その中にも食い込めるであろう美貌とスタイルの持ち主だった。
更に恐ろしいのは、彼女はまだ幼く成長途中の青い果実。高い成長性を秘めているという点だろう。
いずれにしろ。一つだけ言えるのは、この女えっちぃ過ぎる。
「宣言します。貴女は最高にえっちぃ事をして殺しますから」
「ええーっ!? ど、どういうことなのぁー!!」
少なくない戦闘の経験から、相手が殺意を滾らせているのは分かっている。
だが、それ以上に発情した獣の表情にイリヤは理解が追い付かない。
「決まっているでしょう。貴女にはとっても気持ちよくなって貰って、とってもえっちぃな痴態を晒して貰って……そして、絶頂を超える絶頂の快楽の中、死んで貰うんですよ。
そうして────あの人へ捧げる手向けになる」
「あの人って…リトのこと、言ってるの?」
ヤミの言うあの人、それは美柑の兄である結城リトの事を言っているのだろう。
「ええ、貴女も大好きな結城リトのことですよ」
「……うそ、でしょ」
ヤミがリトを好きなのは知っている。だけれど、こんなのは違う。
人を手向けと言って殺して、それでリトが喜ぶ筈なんかないのに。
「私はこの殺し合いを終わらせて、そして結城リトを殺して一つになる。
美柑、貴女も────」
あなたも……もう一度、そう言いかけてヤミは言葉に詰まった。
リルトット・ランパードの交戦後と同じように、疑問が生まれる。
こんな殺し合い、真っ当な手段で抜け出すなど不可能なのだから、全員えっちぃ目に合わせて殺して、結城リトの元へ帰還しそして彼も殺す。
美柑もこのまま怖い目に合うよりは、自分の手で殺した方がずっと良い筈だ。何も間違ってなどいない。
「させないよ」
イリヤはヤミを強く見つめる。
自分の横の美柑も。
結城という苗字は美柑と同じものだった。
きっと、兄妹でお兄ちゃんなのだろうと思う。兄を好きな気持ちは、イリヤにも痛い程理解できる。
イリヤにとって妹がお兄ちゃんを好きだなんて、当たり前の事なのだから。
それにヤミの事も、とても大事な親友だと美柑から語られたのを覚えている。
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「イリヤちゃん?」
「大丈夫、美柑さん。
絶対に二人を死なせる事なんて、私がさせないから!」
訳が分からないまま、美遊と死に別れてしまった自分と違って美柑とヤミは生きている。
まだ間に合う。
あの変態的な思想に憑りつかれた少女を正気に戻し、二人の友情と絆を取り戻してあげたい。
『イリヤ様……』
「分かってるよ。無茶をしてるって」
シャルティア戦後からまだ時間はあまり経っていない。
体力も魔力もまだ回復しきらず、底を突きかけている。
「だけど……」
殺し合いに乗ったかもしれない美遊(ともだち)を止める事も怒る事も、もう自分には叶わない事だから。
「もう、こんな悲しい事は私達で最後にしないと」
まだ間に合うかもしれないこの二人には、同じ轍を踏んで欲しくなんかない。
「言いますね。ハレンチ小学生の癖に」
「ハレンチじゃない!」
「鏡見たことある?」
『失礼な! れっきとした魔法少女の正装だというのに』
魔力の砲弾を掻い潜りながらヤミは一気に肉薄する。
「そんな、スク水みたいな衣装で言われも説得力ないかな」
お互いの唇が触れ合いそうな程の距離の中、ヤミの甘い香りが鼻腔についた。
イリヤが見惚れる程に美人で、こんな時でなければ同性のイリヤもドキドキしていたに違いない。
(きた────)
ヤミの金髪が蠢く。変身(トランス)の前兆だ。
「斬撃(シュナイデン)!」
魔力を鋭利な刃物へと変える。球状の砲弾のような用途から一変した事に、ヤミも反応が遅れた。
拳を形作ろうとした髪が断髪され、ボリュームのある金髪が舞っていく。
(やっぱり、基本は髪の毛なんだ!)
能力の大本は髪の毛。
その性質は、刃物であっさりと斬れるものだ。
それならば戦い様はある。
髪を操り武器へと変身する前に、斬撃をメインに攻撃を封じる。そして本体への攻撃を砲弾で直撃させれば、殺すことなく無力化出来るかもしれない。
「ふーん、私の能力を髪を操る程度のものだと思ってるなら────」
「駄目、イリヤちゃん!! 変身能力は……」
全身を変えられる。
その声が届くより先に、ヤミの右手が一振りのハンマーへと変身する。
イリヤの顎下、鳩尾に吸い寄せられるようにハンマーが叩き込まれた。
「───ッ?」
光と共に、巨大な縦長の岩がヤミのハンマーを遮る。
先程まで存在しなかったそれは無骨でありながら、人が握るよう設計された剣だった。
だがそれ一本の全長は人間が使うことを想定していない巨大さ。
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「乱入?」
別の第三者が割り込んだ可能性を考慮し、ヤミは岩剣から退き周囲を警戒する。
この岩剣はイリヤが扱えるような代物ではない。つまり、別人が使用したものではないか。
体躯の違う異星人も存在する事から、このような岩剣を軽々と振り回す戦士を抵抗なく想定してしまったが故の行動だった。
「違うよ。これは────」
岩剣が再び光に包まれた瞬間消失し、イリヤが杖として使用していたサファイアへと変化する。
サファイアを手に取ったイリヤは雷のように加速し、ヤミの懐へと潜り込む。
『変身は貴女だけの専売特許ではありません!!』
英霊の力を秘めたクラスカード。イリヤ達の主な用途は二つ。
いわゆる、特撮ヒーローのようなフォームチェンジに当たる夢幻召喚(インストール)。
これは英霊と同化することで、肉体のスペックもスキルもほぼ同等のものを再現する。
疑似的な英霊の召喚であるが、魔力や体力の摩耗に加え場合によっては大きなデメリットも存在する諸刃の剣の一面もある。
だが、もう一つ。その劣化とも、あるいは限定的な英霊の行使とも言える用途が存在する。
限定展開(インクルード)。
英霊の力の一部をステッキに宿し、顕現させる召喚方法。
それはステッキを英霊の宝具のみを呼び出すという形で行使し、使用者の負担も少なく済む。
宝具単体で使用可能な代物であれば真名解放することも可能だが、この岩剣のような並外れた怪力を必要とするような特異な武器では召喚するだけで、持て余すという事態にもなりうる。
だが召喚し、その場に留めることだけでも価値はある。
バーサーカーのクラスカードの限定展開はその岩剣のみを呼び出す。
ナザリック最強の守護者シャルティア・ブラッドフォールンが武装した上で、終ぞ打ち砕く事も叶わなかったほどの硬度と強度を誇るその武器は、一度限りの盾と目晦ましには十分すぎる。
「砲射!!」
超至近距離から、残った魔力を溜めに溜めた魔力弾の放出。
この一撃でヤミの意識を奪えさえすれば、一時的にでも拘束し彼女を美柑の知る元のヤミへ戻す方法もあるかもしれない。
「貴女って、とっても健気で可愛くて……」
魔力の光に照らされたヤミの顔は、未だ彷彿とした不気味な笑みを浮かべていて。
「イリヤ!!」
何かに気付いた雪華綺晶が痛む体を酷使しながら茨を伸ばす。
遅れてイリヤも異変に気付く。
「───えっちぃ」
ヤミのランドセルから海水が飛び出す。
帝具、水龍憑依ブラックマリンによる海水の操作。
ありとあらゆる液体を操作するその能力は液体があればあるだけ力を増す。
ヤミとて、リルトットとの交戦以降のび太と出会うまで、ずっと遊んでいた訳ではない。
支給されたランドセルに質量を無視する性質を持っていることに気付いた後、時間が許す限り水をランドセルに詰め込んでいた。
「なに、これ…ちょっと……!」
水は雪華綺晶を茨ごと吹き飛ばし、その後細長い触手のように枝分かれし、イリヤの未成熟なボディラインをなぞっていく。
魔力弾を放出する寸前、イリヤの全身から甘い感触が迸る。
痛みとは別の感覚、痛みであれば一定の範囲で耐えきれたが、まだ幼い少女のイリヤにとっては未知に等しい触感と愛撫の悦楽にイリヤは僅かに思考と動きを停止した。
「その杖は没収♪」
「あ、っ……」
触手と化した水によりサファイアも絡めとられていく。
サファイアを遠ざけられた事で、イリヤの戦闘手段は絶無となる。
『イリヤ様!』
元より、イリヤも自覚する程に無茶を押し通した戦いだった。
今のイリヤは絶不調の頂だ。
クラスカードの使用も限定展開に留まっているのも、夢幻召喚を使わないのではなく使えないから。
今の状態では負担が重すぎて、それを維持できない。
シャルティアとの死闘の影響は大きい。僅かな休息では埋められない程に。
「こういうのも、中々えっちぃくて良いですね」
水がイリヤの服の下を弄る。
「ん、ぁ……?」
ひやりとした水の冷たさと、意志を以て統制された水流の動きがこそばゆい。
腰を撫ぜられ、尻を揉みしだかれ脇の下を擽られていく。
「あれ? まだえっちぃ所、何も触ってないのに……イケない娘」
「ふ、ぅ……っ」
水がイリヤの身体の熱を吸い、表面の温度が温かくなっていく。
ブラックマリンの細かな調整によるものだ。常に人体に触れる箇所を同じにし、人体とほぼ同じ熱を保つように操作している。
完全な体外の物質であった冷ややかな水が、人にとって最適な温かみを含んでいくとき、違和感が心地よさへと変わっていく。
冷たさで微かに震えた体は、その硬直を解き抵抗を和らげていく。
愛撫に耐えていたイリヤの身体から力が抜けていく。
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「っ〜〜〜〜〜〜?!!?」
温水に触れていたイリヤの体が突然の違和感に反応する。
胸の周りを水が弄った時、ヤミはそれを敢えて冷水の表面で触れた。
小ぶりな乳房を冷水で撫で、揉みしだく。
温水の心地よさに慣れていたイリヤは、冷たい水で触れられる乳房に意識を割いてしまう。
胸だけが冷やされ、イリヤの神経は乳房のみ鋭敏にされていく。
「見て、貴女のここ……とってもえっちになってますよ」
ぴっちりと体のラインを浮き彫りにするマジカルサファイアの服は、その下の痴態を包み隠さず露わにしてしまう。
まだ発育途中の青い果実の丘にある桃色の頂が、ぷっくりと服を押し上げイリヤの意思に反して強く己を主張する。
「胸を揉んだだけで、こうなるだなんて……。
ねぇ? 吸ったらどうなっちゃうのかな」
「ぁ、ぁっ〜〜?」
胸の周りの水が形をうねうねと変えていく。
変身のような要領で、それが人の口を形作っていく。
模倣するのはハレンチの化身、結城リトのそれ。
どんな女であろうとも、いとも容易く感じさせ快楽を齎す口技。
乳房の先、その根元からから嘗め回し、舌先で擽られてから一気に先の小さな丘の頂が加えこまれる。
冷たい水の触感が、その口内は温かな人肌の温度で保たれていた。
疑似的に再現された他人の口内、ねっとりした生暖かさと強い吸引を受けながらイリヤは喘ぎ声を漏らしだす。
「こ、こ…ん、なぁ?……こん、にゃ……ぁ、っ……??」
「あぁ……本当に、ほんっとうにぃ…えっちぃ……」
快感に喘ぎながら、呂律も回らない。
そんな無様な有様を晒しながら、その宝石のような瞳に宿った火は未だ消えていない。
より強く、ヤミを睨む。
だからこそ、ヤミはその視線だけで感じてしまう程だった。
キウルのように、男なのに女のように悶えるのも。
小恋のように、心に決めた相手とは違う相手によって、気持ちよくさせられてしまう背徳感も。
のび太のように、男としてありえざる強制放尿によるお漏らしも。
ヤミに新しいえっちぃ事を教えてくれた。
「ぜ、ぜ……っらい……? わ、ら……ひ、ぃ…? は、ぁ……ッ!」
こんなにも可愛くて。
こんなにも美しくて。
こんなにも子供なのに性的な体つきをしていて。
こんなにも気持ちよくさせられて。
こんなにもよがらせているのに。
まだ諦めていない。まだ折れていない。まだ屈していない。
こっから抜け出す方法なんて、もうない癖に。
とっても滑稽で哀れで切なくて。
もっともっともっともっと、虐めてあげたくなってしまう。
「貴女が何処まで耐えきれるか、私見てみたくなっちゃった」
「ひ、ぐっ……?」
精神は高潔で、その目はまだ死んでいないのに。
体はどんどんえっちぃ事に染まって犯され侵食されていく。
肉体の電気信号はイリヤの意志の及ばない脳にまで到達し、その刺激によって別のスイッチを押していく。
まだ子供が行ってはいけないとある行為へと。
生き物が共通して備える本能を刺激し、理性を退けその欲望を解放させようとしていく。
異なる性を受け入れようとする準備を完了させてしまう。
「さあ、もっと見せて……イリヤスフィール」
イリヤの股下の異変に気付いたヤミは嗜虐的で艶めかしい笑みを浮かべる。
-
「なん、だ……これ………」
目の前で、一人の少女の尊厳を奪い去ろうという蹂躙劇を目の当たりにして、のび太は呆然としていた。
何がマッサージだ。何が落ち着かせてくれただ。
こんなの、間違っている。
どうしてこんなことに気付けなかった。どうして、あの女の子の危険さに気付けなかった。
どうしてあんな女の子を、イリヤの元へ連れて行ってしまったんだ。
「僕の、せいだ……」
自暴自棄になって。
逃げ出して。
出会った女の子に言い様にされて。
何も考えないで。
考えてしまえば、リップの死んだ姿を思い出してしまうから。
ニンフの死に顔が自分を恨んで、呪っているように見えてしまって。
自分のせいで起きた惨劇を、あの胴着の男の子に押し付けようとする自分の嫌らしさから目を背けたくて。
だけど、その罪と向き合う程の強さも勇気も自分にはなくて。
「何やってたんだよ……っ! 僕は!!」
女の子の前でおしっこなんか漏らしてる場合じゃないだろ。
「やめてよ! ヤミさん!!」
「坊主、アカンで!」
のび太は叫びながらヤミに向かっていく。
勝ち目などなくても、自分のせいでこんな酷い目に合わされてしまったイリヤを何とか逃がさないと。
ほんの一瞬でも、自分に気を取られてくれればイリヤが逃げるくらいの隙にはなるかもしれない。
「野比のび太、貴方には感謝しないと。
貴方のお陰で私はイリヤスフィールに出逢えましたから」
こんなえっちぃさを小さな体に秘めたドスケベハレンチ小学生との邂逅は、ダークネスとなったヤミには衝撃的だった。
だから────。
「貴方も最高にえっちぃイリヤスフィールを一緒に見ましょう?
そして、とっーーーても気持ち良くしてから殺してあげる」
「あ、ぁ……あひいいいいいい!!」
先程と同じように水が服下に潜り込み、乳首とチン〇ンとその下の弱点を掌握される。
もうこうなると、のび太にはどうにもならない。
アヘアヘしながら、喘いでいく。
「ど……どうしよう……わたし……どうしたら、わたし……」
「落ち着き! ダークネスちゅうんは、一度は止める事が出来たんやろ?
その方法はなんや!?」
ケルベロスの推測通り、ヤミは一度暴走したダークネスを仲間と友の力によって静止させられた事がある。
結城リトへの恋心でバグが生じたダークネスには、その方法が存在する。
「確か、リトが……ヤミさんにハレンチなことして、セクハラして止めたってモモさんが……」
「あのなッ! ワイは今、真面目な話しとるんや!!」
「……真面目だよ。ほんとうに……それしか知らなくて」
「嘘やろ!?」
それもモモから聞いた話で、どう具体的に止めたのか美柑にも分からない。
-
「はぁ……はぁ……? んっ、ぁ……あぁ?」
あられもない姿を晒し、気付けば衣服も全て剥ぎ取られたイリヤ。
嬌声と共に体を何度もびくびくと痙攣させる姿は官能的だ。
だが、イリヤは消耗している。そんな体力ない状態でこのような蹂躙が継続されれば、恥辱に塗れた最悪の死に方を迎える事になる。
「雪華綺晶…ちゃん、起きて、お願い!!」
水流に吹き飛ばされ、水と泥に塗れて倒れ伏す雪華綺晶に駆け寄り、美柑は雪華綺晶を揺さぶる。
雪華綺晶の目は閉じており、まるで死んでいるかのようだった。
「わたし……だけじゃ……」
ヤミさんもイリヤちゃんも、あののび太って男の子も助けられない。
縋るように何度も声を掛けるが、雪華綺晶は返事をしない。
「どうしよう……ケロちゃん、わたし────」
「お前、何やってるんだ」
その時、大きな力の主の到来をヤミは鋭敏に感知した。
────
最悪だった。
シャルティア達と交戦した戦場に戻った時、そこに広がっていた光景はその一言に尽きる。
赤黒い人だった肉片の残骸がこれ見よがしに置いてあった。
「どっちだ……シャルティアか、あのグレーテルという女か」
最初こそ激しく動揺した悟飯だが、しかしそれもすぐに冷静になる。
何故か、死体を損壊させたのはニンフのものだけだったのが引っかかった。
首から上の頭部こそないが、ご丁寧に並べてあった妖精のような羽が、彼女が装備していた天使の翼の武器を連想させた。
恐らくだが、この死体はニンフのものだ。
なら、何故他の死体はないのだろうか。辺りを注意深く探せば、土が掘り返された場所がある。
他の二人の死体は埋葬されたのだ。シャルティアがこんな事をする理由がない。
「あ…あいつだ。ふざけやがって……!」
普段の丁寧な言葉使いが鳴りを潜める。
犯人は間違いない。グレーテルだ。
そして、死体を損壊している際にクロから妨害にあったのだろう。
リップとは組んでいたようだし、美遊という少女とは親しい仲だと聞く。
シャルティアが負け惜しみにやるなら、残り二人の死体もズタズタに引き裂くはずだ。
────殺し合いをより促進させてくれることを期待している。
そして流れた一回目の放送。
死者は既に30人を超えたハイペースで、殺し合いが進行している。
この人達、全員シュライバーが殺したんじゃないか。
そんなありもしない。少なくとも最低でも、美遊とリップとニンフはそうではないと分かっているのに、妄想が浮かぶ。
次に浮かぶのはあの黒いドレスを着た不死身の女、さらにその後に戦ったシャルティアとグレーテル。
あの死んだリップという少年もだ。
どいつもこいつも、身勝手に殺し合いに乗って悪戯のに人の命を奪う悪党どもだ。
何故、こうも簡単に乃亜の言う事を聞いて人を殺す事が出来る?
怒りが、憎しみが、義憤が破裂しそうなほどに激しく渦巻く。
同時に、そんな奴等を仕留め損ねた自分を激しく責め立てていく。
殺さないと。
殺さなくちゃ駄目じゃないか。
こんな殺し合いに乗るマーダーは全員皆殺しにしないと。
-
「───ふざけるな」
「……チッ」
滾る殺意は十分、それに伴う実力もヤミの知る中でも最上に位置する。
面倒な相手に出くわしたものだと、ヤミは溜まらず舌打ちした。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ?!!!」
「ひああああああ!!!」
全裸で空飛ぶお風呂に入って喘いでいるイリヤ。
アヘアヘしているのび太。
何をしているか分からないが、とにかくこの金髪の少女もシュライバーのような人を簡単に殺すマーダーなのだと理解した。
ここで始末してやる。
気を全開にし、ヤミを睨みつける。
「はぁ……面倒だけど、先に貴方から殺してあげる」
顔は良い。
男前だ。
だが、鍛えられた体は幼い体躯には不釣り合いすぎる。正直に言えば、タイプじゃない。
ここには幼い少年も大勢集められているらしい。だから、男でもキウルのようにえっちぃ子が一杯いると思っていたが、今回はハズレのようだ。
「待って、悟飯君……ヤミさんを────」
「やってみろ。その前にお前を殺してやる」
殺さないで。
そう言おうとして、悟飯の殺意に充てられてしまった。
「……っ、ひ」
恐怖で竦み、声が出ない。
「はあああああ!!」
ヤミの金髪の拳と悟飯の拳が激突する。
耳の鼓膜が張り裂けそうなほどの轟音を響かせ、ヤミが後方へ吹き飛ばされる。
華麗に慣れた仕草で受け身を取り、改めてヤミは悟飯を睨み返す。
その眼前に悟飯が迫る。素早い動きで肉薄し、ヤミの顔面に拳を突き刺した。
「がっ…あぁぁ!!」
少女とは思えぬ野太い声を上げながら、ヤミは頬を殴り飛ばされる。
そのまま、追撃のラッシュを叩き込もうとした悟飯に水が纏わりつく。
「こんなもの!」
気を放出し水を弾く。
ブラックマリンの操作すら及ばない程の勢いで、水が吹き飛ばされていく光景にヤミは唖然とする。
「終わり────」
殴り飛ばされ、地べたを転がるヤミの頭上へ。
悟飯は拳を振り上げ、その可愛らしい美顔を叩き潰すべく降り下ろす。
-
顎がジンジンと痛む。
「なん、で……」
足元を見下していた視線は、気付けば朝空を仰ぎ見ていた。
全身を大の字の形にして、悟飯は転がっている。
自分は蹴り飛ばされたのだと、遅れて理解するが。何故、急にこうなったのか納得がいかない。
さっきまで優勢だったのは、自分だったはずだ。
「人の恋路を邪魔するお邪魔虫は、馬に蹴られて死んじゃえってね?」
わざとらしく、馬の脚へと変身させた髪の毛をうようよと悟飯の頭上で浮かばせる。
刹那、踏み潰すように足が振り落とされた。
悟飯は横へ転がりながらそれを回避し、一息に飛び上がる。
「あーもう、さっさと死んでよね!」
落ち着け。
落ち着くんだ。
僕は少なくとも、この娘よりは強いんだ。
だから、勝てない戦いじゃない。
拳を強く握り込み。そして悟飯はヤミへと迫る。
「───ッ」
簡単に距離を詰められた。
よし、後は殴るだけだ。難しい事じゃない。
こんな悪い奴、いくらだってぶん殴ってやればいいんだ。
「今の、ちょっといい表情(かお)してるかも」
「───どう、して……?」
避けられた。
凄く簡単に。
「自分が絶対に強いと思ってる男の子が、鼻っ柱をへし折られてプライドを傷つけられた顔────それも、えっちぃくて…良い」
殴る。蹴る。
殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る蹴る蹴る。
全部が当たらない。空ぶっていく。
どうしてだ?
「なんで、なんでだ……!!」
シュライバーのような絶対回避の能力を持っているのか?
それなら何か、作戦を立てないと。
弱点を見付けるんだ。
「単に、ペース配分が滅茶苦茶なんですよ」
悟飯の鳩尾にヤミの拳が減り込んだ。
「ご、ほ……ッ!」
肺から息を吐き出し、唾液が口から飛び出していく。
気を抜けば拳が体を突き抜けそうなほどの激痛。
-
「貴方、ここまでパワーを全開にして戦ってきちゃったでしょう?」
「ッッ!!?」
「駄目じゃない。あの乃亜って子は、私達に制限を掛けてるんだから」
膝を折り、鳩尾を抑えながら悟飯は思い出す。
シュライバーとの初戦でも、スーパーサイヤ人の使用制限に加えて、戦闘時における普段以上の疲労感があった。
あのシュライバーですら、本来存在しない疲労という概念を付け加えられ休息を必要としたのだ。
「ようするに、貴方の敗因はスタミナ切れってコトかな」
特に悟飯に至っては、この島でも上位の実力者たちと連戦を重ねてきた。
碌に休まず戦いを続けていれば、体は限界を迎えかけていても、何ら不思議はない。
「どうして……」
疲労のピークに至った肉体は動きが鈍り遅くなる。当然の帰結だ。
鈍い攻撃なんて、避けられて当たる筈がない。
そんなことになる前に、どうして気付けなかったのだろう。
怒っていたからだ。
ここまでずっと、シュライバーと戦ってから強い憎しみに支配される事が多くなった。
それが、自分の肉体を蔑ろにしてしまった原因なのか?
怒りが自らの不調を無視してしまったのか。
振り返れば、ヤミと相対してからも無暗に気を解放していた。
制限下ではそれは自爆行為だと、分かるようなものなのに。
(僕は、一体……どうしてしまったんだ────)
分からない。
セルの時に十分懲りて、後悔してもしきれなかった筈の過ちを何度も犯している。
更にもっと被害を拡大させてしまっている。
いくらなんでも、ここまで短期間で何度も怒りに呑まれるだなんて、自分でも信じられない。
「はぁ……く、ぐぅ…ぅ────波ァ!!!」
「ッッ────」
残された気を全て掌の一点に集約させる。
この至近距離とヤミが己の勝利を過信していた完璧なタイミング。
膝を折ったまま、油断しきったヤミへとエネルギー波を解き放つ。
エネルギー波はヤミを飲み込んでいき、そしてより大きいエネルギーの渦に覆われる。
「舐めないでくれる? わたしだって惑星の一つや二つ、制限がなければ消せるんだから」
「なっ……!」
同じく掌から光を放出するヤミが呆れたように呟く。
気付けば、残された力を込めた渾身の一撃は呆気なく消失していた。
「ぐわああああッ!!」
そのまま金髪の拳の連撃が全身を打ち付け、悟飯は吹き飛ばされていく。
-
「なんだか、貴方って……」
せめて、僅かでも休息を取れていれば。
イリヤを運んだ時、埋葬ではなく体を休める事を優先していればこうはならなかった。
仮にそうでなくとも、怒りに支配されず冷静に残った気と体力の配分を計算して戦えば。
スタミナ切れで、ここまで劣勢に追い込まれる事なんてなかった。
「とっても弱い」
顔を女の子に足蹴にされ、心底侮蔑するような嘲笑した顔で見下される。
ここまでされても、何もやり返す事も出来ずにいる。
力が入らない。
(ま、最初から冷静なら、ちょっとヤバかったかもしれないけど)
見誤っていた。
この少女は、あのシャルティアにも勝るとも劣らない程の強者だったのを。
イリヤとのび太に変な行為を仕掛けていたのを見て、悟飯は完全に力量を計り損ねた。
少なくともこの島の中で、絶対に勝てる相手だと軽く見ていいような相手ではなかった。
(その悔しそうな表情がえっちぃから内緒♪)
ヤミの足の下で踏まれている悟飯の視線、それを浴びているだけでゾクゾクしてくる。
全く、この島には新しいえっちぃことが溢れかえっている。
「ヤミさん」
悦に浸っていたヤミは、声を掛けられてようやく美柑の事を思い出した。
いけない。いけない。
彼女にえっちぃことをして殺してあげないといけないのに。
どうして、さっきまでずっと忘れていたんだろう。
「お待たせしましたね。美柑……」
「私、良いよ」
涙を目じりに浮かべて、小さく肩を震わせながら美柑は自ら体を差し出すように胸元を開ける。
「え?」
「ハレンチなこと、えっちぃこと、一杯してくれていいよ」
普段、もっと気丈で賢くて大人びていて、みんなから頼りにされている美柑とは思えない弱弱しさと、ハレンチさ。
そのギャップが溜まらなく、えっちぃのに。
(何も感じない────)
美柑からえっちぃ事を求めているという願ってもない中で、満たされるはずの欲がすり抜けていく。
「その代わりに、もうこれで最後にして」
「最後?」
「そう、私の事は何でもしていいから……だから、もうみんなを…傷つけないで。
またヤミさんが独りぼっちになって、寂しくなるのなんて嫌なんだ」
独り? 誰が?
様々な女の子を手向けにして、結城リトを殺す事で1つになる。
それの何が独りぼっちなのか。
-
「リトへの手向けなら、私一人で十分でしょ?」
寂しさなんてあるわけがない。自分の中で、結城リトは永遠に生きていくのだから。
「ヤミさんになら、私……」
怖くて引き攣りそうになる表情を、無理やり笑顔を作って美柑は誤魔化そうとする。
やっぱり今のヤミは恐ろしかった。
いつもの、リトを中心に繰り広げられるエロコメディとは違って、ヤミは冷たく殺意を尖らせている。
今までに美柑が見てきたヤミとはまるで違う。本当に別人のように怖い。
「あひいいいい……」
「ぁ、っ、ん……?」
水に囚われてイカされ続けているのび太とイリヤも、本当に洒落にならない程に衰弱している。
こんなことを平気で出来るような人じゃなかった。
こんなことをして、もし後で正気に戻ったら、きっとヤミはもっと深い悲しみと絶望と孤独に苛まれてしまう。
そうなる前に止めなくちゃいけない。
「殺されたって良いから────」
だから、もうこれしか方法が思いつかない。
これでここに居る参加者の人達を誰も死なせないで、殺し合いから抜け出して。
もしリトに手を出しても、その時はララやモモ達が守ってくれる。
リトさえいればヤミは元に戻れる。
だから、その時にヤミが失ってしまうものが最小限に済むように。
美柑が犠牲になればいい。
「み、かん……」
嬉しくない。
全く、これっぽっちも嬉しくない。
それがどうしてなのか、分からなくて。
大事なことを忘れているのかなって思いだそうとすると、頭が鈍くなって。
段々と苛立ちが増していく。それを美柑にぶつけようとして────。
「うわああっ!!」
足元の悟飯を思いっきり蹴り飛ばしていた。
美柑がやめてと叫ぶのを聞きながら、ヤミはより困惑を深めていく。
────私は、何がやりたいの。
「さ、させにゃ…ぁ、い、からぁ…んっ? そんな、のぉっ…ま、ちが、あっぁぁんっ?
友達が…死んだ、ら……貴女ずっと、ずっとぉ…んっ? 後悔し、あっ? ぁん…つ、づ…ける、ぁっからぁっあぁぁぁっ?!!」
あのイリヤという娘は、どうしてまだ折れない?
快楽という快楽を体に刻み込み、常人ならそのえっちさに耐え切れず屈するだろうに。
一体何を支えにして、まだ抗えるというのか。
何を懸命に訴えかけているのか。
その懸命さに、ヤミは忘れていたモノを思い出しかけそうになる。だけれど、まだ分からない。
-
「だりゃあああああああああ!!!」
「────ッ!」
咆哮が木霊する。
美柑に気を取られた一瞬の間に、悟飯が僅かに残った気を噴射し加速する。
水の触手に囚われていたイリヤとのび太、そしてサファイアへと体当たりのように突っ込む。
盛大な爆音が響き渡り、水は爆散し二人を抱えたまま悟飯は転がっていく。
「っ、ぁ”ーーッ??」
「アア〜」
脇に抱えた二人から、嬌声が上がる。
「だ…大丈夫、ですか……?」
『あまり……触れないであげて下さい』
何なんだこの人たち。
苦しんでるのか、満更でもないのかよく分からない顔だ。
気味の悪さを覚えながら、悟飯は困惑した表情を浮かべた。
「ふざけないでよ! もうっ!!」
ヤミのなかで苛立ちが募る。
せっかく、えっちぃの素質の塊であるイリヤと出会えて、途中まで凄く楽しめていたのに。
気付けば、そんなことどうでも良くなるような変な感情に支配されている。
美柑をこの手で、殺さないといけないのに。迷いが生じて何も出来なくなってしまう。
「……謝っておきますよ、美柑」
「ヤミさん?」
「こういう、展開になってしまって」
ヤミが黒い翼を背に生成し、天空へ飛翔する。
「あ…あいつ……」
その光景を見て、悟飯が唖然としながら肩を震わせる。
何をするつもりか、この場で一番先に予想が付いたからだ。
その予想通りに、ヤミの掌に光が収束する。これは美柑も見たことのある変身の光だ。
「貴方達、全員消し飛ばしてあげる」
美柑を狙うのではなく、悟飯達を狙った大規模攻撃を放つ。
この周囲一帯を薙ぎ払える程のエネルギーを放射すれば、その余波で美柑だって死ぬだろう。
きっと苦しみも味合わずに、一瞬で楽に。
あくまでこれは、悟飯達を殺す為に放つ物であって、美柑を殺す為の物じゃない。
たまたま、彼女が巻き込まれてしまうだけ。
それならこの迷いを抱えたままでも、戦うことは出来る。そう自分の疑問に答えを出す。
本当ならたくさんえっちぃことをしてあげたかったけど。
今のヤミにできるのはこれが精一杯だ。
「クッソ……!」
悟飯は思い切り地面に拳を叩き付ける。
完全に王手を掛けられたと、分かってしまったからだ。
あの膨大なエネルギー波に対抗する術がない。
気も体力もほぼ使い切った悟飯に、あれを迎撃するエネルギー波は作り出せない。
────フルパワーだ!!!
あの時、シャルティアとの交戦さえなければ。
奴は退こうとしていた。その時に追撃をせず、戦いを避けていればこうはならなかった。
気と体力を温存して、ヤミとの戦いは別に展開へと変わっていたのに。
「クソォ!!」
武空術で飛んで、ヤミがエネルギー波を放つ前に本体を潰す?
駄目だ。制限下でかつ今の残された気では、空中戦もままならない。
なんで、いつもこうなってしまうんだ。
どれだけ強くなっても、やることが全て最悪の方向に向かってしまう。
「私が…あれを相殺します」
「なにを────」
悟飯の耳に響く、少女の声。
これは忘れもしない。
「無理だ……君じゃ、あれには」
「いえ、手は一つだけあります」
リップ達を殺めた後、イリヤ達への助けを求めたあの白薔薇の人形の声だ。
────
-
「しっかりせい! きらきー!!」
私が目を覚ました時、つぶらな瞳でケルベロスさんが私を覗き込んでいた。
ケルベロスさんはぺちぺちと私の頬を叩いている。
そう、確か私は金色の闇という美柑さんの友達が、正気を失っていてそれで戦っていた。
だけど彼女は強くて、攻撃を何度か受けてしまって螺子が切れてしまい意識を失くしてしまっていた。
「私は……」
「ようやく、気付いたんか! やっぱネジ回して正解やったで!!」
口調は関西弁の変な方だけれど、私のランドセルから螺子を探してそれが私達ローゼンメイデンにとっての動力源であることに気付いてくれていた。
流石は高位の魔術師の使い魔だ。
ケルベロスさんは力を失くしているらしいけど、サファイアさんと一緒で魔術の知識や洞察力は優れている。
「ただ……状況はもう、最悪や」
ケルベロスさんの言うように、それは酷い有様だった。
イリヤとのび太さんはとんでもないことになっている。
悟飯という男の子は、体力が底を突いて、ヤミという娘に負けていた。
無理もない。あの、シャルティアという化け物を相手にあれだけ立ち回って、ろくに休息すら取っていないのだから。
いずれにしろ。本当に状況は芳しくなかった。
「あれ、なら」
「きらきー、なんや考えがあるんか」
一つ、確証はないけれどもしかしたらと思うことがあった。
今の私のマスターであるイリヤの武器、夢幻召喚。なんでも、英霊の力をその身に宿して戦うんだとか。
きっとそれは、あのカレイドランナーへと変身させるサファイアさんと、イリヤ自身の特殊な力によるところが大きいと思う。
でも────私ならそれを再現できると思った。
────
-
「……な、何を言っているんだ」
悟飯は驚いた顔をして、雪華綺晶を見つめていた。
「雪華綺晶ちゃん、本気なの」
悟飯の横に居るイリヤも同じように信じられないといった顔をしていた。
「ええ……かつての私のようになれば」
英霊をその身に降ろす夢幻召喚。
なるほど、人知を超えた力を宿すというのは非常に強力で絶大だ。
しかし、雪華綺晶から見た欠点は一つ。それは英霊自身に完全に成り代われる訳ではない。
元の体を維持した上で、英霊の力を具現化する必要がある。その為にバーサーカーであれば、使用者の精神に狂化の影響が及び、その精神を汚染してしまう。
その他にも膨大な魔力を消費し、使用者に大きな負担を及ぼしている。今のイリヤのように。
なら、実体がないのであれば? 物質世界に囚われずに英霊の力を具現化するのならばどうか。
「アストラル体に戻れば、私は」
実体の体を持たないアストラル体。
それは以前の雪華綺晶にとって、どんな薔薇乙女にでも着替えられると豪語する特殊な存在。
「どんな英霊にだって着替(なれ)るかもしれない」
形のない幻影を形作る事に長けた薔薇乙女は、ドールズの中でも雪華綺晶を置いて他にはいない。
この今の体を捨てて、アストラル体に戻ればあるいは────。
「ただ、必要なのはマスター。
イリヤの道標だけなのです」
一つだけ分からないのは、英霊の召喚たる手順。
これだけは雪華綺晶も過程を知らない為に模倣しきれない。
「お願いです。マスター、私のバックアップを」
英霊召喚の召喚、その道標をイリヤに提示して貰う。その英霊への接続後に雪華綺晶がその力を引き出す。
少なくない負担を強いる事に、雪華綺晶は申し訳なさそうに肩を竦める。
「……雪華綺晶ちゃんはどうなっちゃうの」
『イリヤ様……』
「体を失くしたら、雪華綺晶ちゃんは……!」
アリスゲームの事は聞いていた。
雪華綺晶は実体を持たず、孤独に苛まれていたことも。
それが狂気を駆り立て、アリスゲームを促進させドールズ達と矛を交えた事も。
いくつかの戦いを超えて、そして紅薔薇の姉、第五ドール真紅の手によって実体を手にし、掛け替えのないマスターと愛しい姉妹との?がりも生まれた。
「雪華綺晶ちゃんにそんなことさせられない! 私が戦う!!」
「体が無くなるって、どういうことなの! ねえ!?」
遅れてのび太も話を理解する。
のび太の認識からすれば、英霊どうこうはともかく体が消えればそれに直結するのは死だ。
「駄目だ。やめてよ、僕が悪いんだから、雪華綺晶が死んじゃうなんて……」
自分のせいだ。
自暴自棄になって、まともな判断力も消えて。
ヤミをこんな場所にまで連れてきてしまって
それで、またニンフに飽き足らず雪華綺晶まで。
もっと色々、上手くやれたはずなのに。
駆け巡る後悔がのび太を苛む。
やり直したい。こんなことになる前に全部。
それか自分が責任を取りたい、ここで消えるべきは自分なのに。
-
「……のび太さん、貴方は優しいのですね」
「な、んで……」
のび太の頬を伝う涙を小さな指ですくい、雪華綺晶は微笑む。
「昔の私では考えられない事でしたもの。
私の為に泣いてくれる方が居るだなんて」
「僕は……っ!」
アストラル体であった頃、まだ何も持たずにいた頃。
雪華綺晶は独りぼっちだった。
別のドールのマスターを奪い去り、糧とする。
でもそこには何の繋がりもなくて、他のドールズが築き上げる絆もない。
ただ満たされぬ愛慕を満たすために、他人の物を横取りする卑しい欲しがりな壊れた子。
「こんな私の為に、涙を流してくれる方が居るのなら……それは命を掛けるに値するでしょう?」
「ぼ、くは……ぼくは、ぁ……!!」
項垂れて、涙を流し声を上げるのび太の頭を小さく撫でて。
「きっと、ニンフさんも同じ思いだったのだと。私は思っています」
そう囁いてから、雪華綺晶はイリヤを一瞥すると、振り返る。
天上に座する黒い悪魔とも取れる金色の少女へと向かって。
「ここに居る誰も。
誰一人として、死なせたりはしません」
そして、その小さな背を不安げに見つめる美柑にも語り掛けるように。
「雪華綺晶ちゃん……どうして、そこまで……」
誰一人死なせない。それは敵であるヤミすらも含まれている。
美柑にとっては大事な友達だ。だけど、それは他の人達にとっては当て嵌まらないもの。
むしろ、イリヤ達にとっては痴態を晒させた怨敵と言っても過言ではないのに。
雪華綺晶はヤミも助けたいと、そう口にしている。
「……独りの寂しさは、私も良く知っていますから」
────殺されたって良いから。
あの時、美柑にそう言われた時のヤミの表情は、きっとかつての自分と同じだったのだと雪華綺晶は思った。
本当に欲しい物も分からずに、悪戯に誰かを傷付けるしか知らない頃の自分と。
だけど、あの頃の雪華綺晶と違うのは、ヤミはそれを一度認識し手に入れている事。
それを乃亜の手によってゆがめられた事。
「じゃあ、死んじゃってよ! お邪魔虫共!!!」
チャージを完了させたヤミがその膨大なエネルギーの塊を解き放つ。
-
「イリヤッ!!」
もう時間がない。
「やろう……サファイア!!」
瞳に溜まる涙を拭って、イリヤはサファイアを手にする。
全裸だった肢体にカレイドサファイアとしての衣装を身に纏う。
もう一枚のクラスカードを手にし、イリヤは叫ぶ。
────力を貸して、美遊!!
『イリヤは、生き……』
それは美遊が死の間際、イリヤのランドセルへと託したカード。
感じる。そこにある美遊の想いと絆を。
もうこれ以上、友達が引き裂かれる場面なんて見たくない。
友情を否定し悦に浸るような、あんな乃亜なんかの思い通りになんかさせない。
────夢幻召喚!!!
英霊の召喚までの道標を、そこに至るまでの過程を構築しその道(ロード)をイリヤと契約し繋がっている雪華綺晶が辿る。
(ありがとう。イリヤ……私の、マスター……)
離れていく。
実体の感触が消えていく。
もう、あの温かさを感じることが出来なくなる。
ああ、それはなんて悲しくて寂しくて冷たくて。
だけど、あんなにも拒んだ孤独がまたやってくるのかもしれない。
でも怖くない。
(だって、私には涙を流してくれるような仲間が居てくれる)
雛苺の無垢さも。
金糸雀の愛しさも。
真紅の気高さも。
翠星石の烈しさも
蒼星石の切なさも。
水銀燈の孤高さも。
幾つもの私になれるのなら。
人の願いによって形作られた幻想であろうとも、私はなってみせる。
真紅(おねえさま)から頂いた体を失くしてしまうけれど。
きっと、お姉様が私ならこうしただろうから。
「約束された(エクス)────」
イリヤが道を示し、雪華綺晶が具現化した英霊は青き甲冑の騎士。
ブリテンの王、アーサー王その人。
束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。
意志を持たず具現化したアーサーが駆る聖剣の光が集約する。
「────勝利の剣(カリバ―)!!!」
天から降り注ぐ破壊の光と、大地より放射される人の願いを集った光。
二つの光の放流が衝突する。
今、ここに最強の対惑星兵器と人々願いが集った最強の幻想が激突した。
-
「邪魔、を……しないでよ!! このガラクタァ!!」
二つの巨大なエネルギーの塊の衝突は、その余波だけで莫大な破壊を齎す。
雪華綺晶の周りのコンクリートは耐え切れず罅割れ、その閃光は太陽の光すら凌駕する程に暴力的な眩さで輝く。
雲はその風圧により蹴散らされ、今空には雲一つない。
「いえ……退きません。ここで退けば、貴女は本当に独りになってしまう……ッ!」
「うる、さいなァ!!」
押し切れない。
あんな小さな人形の何処にあれだけの膨大なエネルギーを持っているのか。
制限さえなければ、惑星を軽く数回は吹き飛ばされるだけの攻撃なのに。
「さっさと、潰れてよ!!」
よりエネルギーの圧を強めていく。先ほど悟飯にペース配分を指摘したヤミとは思えない程に、今はヤミが感情に支配されていた。
「────ッ!?」
こいつは必ず倒さなくていけない。
イリヤにえっちぃ事を完遂せずに殺すのは非常に惜しいが。
それ以上に、この妙な感情の沸き上がりを抑えないと。
自分を否定されているようで、間違っていない事を無理やり正されるようで。
「とにかくもう、全員消えて!!」
結城リトを手に入れるのなら、誰だろうと何だろうと消す。
それでいい。それで間違ってない。その筈だ。
だからもう、邪魔をするな。私を乱すな。私を惑わすな。お願いだから────。
(なんて力強さ……これほどとは……)
約束された勝利の剣、その光の放流が徐々に弱まっていく。
ヤミのエネルギー波が大地へと距離を縮める。
実体を捨てアストラル体に戻り、英霊という最上位の幻想を具現化するという荒業を顕現させた。
その上で、宝具の解放まで行う。一度はドールズを全滅寸前にまで追い込んだ雪華綺晶でなければ出来なかった神業だ。
だがその英霊もその宝具も、本来想定された召喚方法ではないイカサマで具現化したもの。
性能は著しく劣化している。
それはともすれば、ヤミに科せられた制限以上の枷となって雪華綺晶を苛む。
(駄目……なんて、燃費の悪さ…力が、抜けて……)
死した英霊を現世に繋ぎとめるには、想像もできない奇跡と魔力を消化する。
例え、幻を現実のように作り上げる事に長けた雪華綺晶も例外ではない。
ここに為した奇跡は、だが長くは持たない。
「せめて、マスター達が逃げられる時間だけでも……!」
現実という物質世界に拒絶され、召喚された騎士王の幻影諸共、雪華綺晶は消失していく。
それでも抗い続ける。
確定された破滅を、突き付けられようとも。
その意思を託した仲間を生かす為に。
この島を支配する神が決定する惨劇に逆らう為に。
「サファイアさん、私の力を雪華綺晶ちゃんに送れないの?」
悟飯に抱えられる中、美柑が思い付きを口にする。
ローゼンメイデンについて詳しい事は知らないが、人間と契約し力を分け与えるというのは聞いていた。
だからサファイアの返事も待たずに、イリヤの握るサファイアへと触れる。
(ヤミさんは私の友達なのに、私は何も出来ない。何もしてあげられない……!
せめて、これくらいは…雪華綺晶ちゃんにちょっとでも、力をあげられたら)
『美柑様……』
「ぼ…僕も、やるよ! 少しでも雪華綺晶の力になるんだ!
僕だって、少しは魔法が使えるんだ!!」
────チンカラホイ!!
のび太も美柑と同じように手を伸ばしサファイアへ触れる。
-
「ッ────こ、これは…結城リt…いや、ちが……ぁ?」
その時、ヤミに異変が起こった。
股下の細い布が突如として浮かび上がり、ヤミの股間へと食い込んだのだ。
それも的確に、ヤミの性感帯(じゃくてん)を突くように。
まるでそれは結城リトの愛撫もように。
何もハレンチの化身は結城リトただ一人ではない。
長年、ただ一人の少女の入浴現場に何度も突撃し続けてきたこの少年、野比のび太もまたハレンチの化身たる存在。
「ゆ、ゆう…き……リ、ト、いが、い……に、ぃ……」
怒りと快感が入れ混じった表情で、のび太を睨む。
悟飯がヤミの実力を見誤ってしまったように、ヤミもまたのび太の潜在能力を誤認していた。
初対面の女の子の前で、お漏らしできる男だ。結城リトに並ぶハレンチでない筈がない。
(力が流れ込んでくる……これらなら……!)
ヤミが一瞬隙を作り、攻撃の手を緩めたこと。
そしてもう一つ、イリヤを通じて美柑とのび太の力が魔力へと変換したこと。
それが騎士王の幻影と雪華綺晶を存続させる糧となる。
簡単なことだ。
イリヤの内に秘められた願望機の力、それは人の願いを叶える。
極めて限定的ではあるが、イリヤと契約し繋がっていることでそれを通じ美柑とのび太の願いを小規模の範囲でイリヤも意図しない内に叶えたのだ。
「う…鬱陶しい、んだって…もう!!」
怒りに駆られ、股下の布を引き千切り快感の元を断つ、
そのままヤミは再度攻撃に力を込める。
結城リト以外に感じさせられた。その事実に怒りを覚える。
殺す。あの男、野比のび太は絶対に殺す。あのスケベガキ、絶対に許さない。
「な!? ぐ、ぁぁああ!!」
より強大さを増した攻撃に雪華綺晶の顔は歪んでいく。
まだこれだけの力を残していたなんて。
あの少女は見掛けと言動と行動以上に、巨大な力を秘めている。
-
「負けません……! 絶対に、私は……」
「しつこいって言ってるでしょ!!」
ウザイウザイウザイ。
もう本当に、誰も彼も邪魔しかしてこない。
そんなにも自分と結城リトが結ばれるのが、気に入らないのか。
「早く、消えてよォ!!」
「ッッ!!」
雪華綺晶が押し返した攻撃はより強い圧力を伴い押し返される。
イリヤとのび太と美柑の力を上乗せしても。
それでも、まだ届かない。
どんなに強い思いを抱いても、それを貫く強さがないとでもいうのだろうか。
(そ、んな……いえ、まだ私は……)
絶望が迫る。
それでも、耐えて抗い続ける。
最後の最後まで。
この身を捨てて、イリヤと仲間達の想いを乗せたこの一撃を無駄にするわけにはいかない。
きっと、諦めない。
あの人なら。
誇り高きローゼンメイデン第五ドールなら。
気高い紅薔薇の姉ならば。
「あと、もう一押しっと……」
「ぐっ…!?」
そんな雪華綺晶を嘲笑うように、ヤミは残ったエネルギーを一点集中させる。
拮抗が完全に崩される。
己の光がヤミの放つそれに飲み込まれていく。
破壊の権化が大地へと降り注ごうとする。
僅かに背後を見る。
流石の悟飯といえども三人を抱き抱えての移動では、1エリアを抜け出すには時間が掛かる。
その背はまだ雪華綺晶の視界の中に小さく留まっていた。
これでは、ヤミの攻撃で全員が死んでしまう。
「そん────」
駄目だ。いけない。
そんなの。
自分は良い。だけど、せめて皆だけは。
-
「全く、手に掛かる末妹なのだわ」
「え?」
ぴしゃりと、鞭のようなもので叩かれる。
いや鞭ではなく、それは髪の毛だった。
細長い絹のような金髪のツインテールで、その主は赤いドレスを着て。
「何を呆けた顔をしているの?」
その瞳は、イリヤに似ていて。
「な、にが────」
赤い光と共に紅の薔薇の花びらが瞬く。
上空のヤミからは何も見えない。
エネルギーの激突による閃光が、彼女の視界を狭めている。
ただ、視界の節々に赤い薔薇の花弁が写りだす。
そして、何よりも重大なのは。
(どうして、私は圧されて……!!)
理由もなく、突然雪華綺晶の攻撃が重くなったことだ。
どうして? 私が戦っているのは、ただの一人。
ただ一体の小さな人形の筈なのに。
「真紅……お姉様────」
雪華綺晶は体を捨てた。
元のアストラ体に戻る為に。
それは、真紅から与えられた体を放棄し、そして真紅がアリスとなり再分配したローザミスティカを放棄したということ。
言い方を変えれば、雪華綺晶は真紅へと体と薔薇乙女の魂であり命でもあるローザミスティカを与えたとも言える。
「お姉様……どうやって……」
ああ、きっとそれは永くはない。本当の奇跡なのだろう。
「決まっているでしょう。この真紅は貴女の姉なのだもの────」
イリヤと契約しパスが繋がった事で、聖杯の力が僅かに雪華綺晶にも現れたのだ。
そして、雪華綺晶が放棄した肉体とローザミスティカという条件を満たした事で、その願いを叶えるに至った
「妹が助けを求めているのなら…私は、貴方を一人にはしないわ」
だけど、それはあまりにも無理を通した限定的な復活。
真紅の魂も定着しきれていない。
雪華綺晶が具現化した騎士王のように、一時の幻でしかない。
「だから、もう泣かないで」
しかし、そんな理屈は必要ない。
「泣いて、なんか……いま…せん……」
妹の涙を姉が拭うのに理由など要らないのだから。
────
-
「嘘でしょ、どうして、私が……」
ヤミの放つ攻撃をより膨大な力に飲み込まれていく。
分からない。急なことだった。
赤い薔薇の花弁が舞い始めてから、急激に力が増していって────。
「そんな、どうして……これ、は……」
────ヤミお姉ちゃん。
なんで、こんな時にメアの事を思い出してしまうのだろう。
なんで、この薔薇を見ると、おねえちゃんという響きを心地よく感じてしまうのだろう。
まるで私が置き去りにした大事なものを、今目の前で見せられているようで。
聖剣の光を浴びて、だが直撃は避けたものの撃墜されてしまった。
悟飯に偉そうに言った癖に、自分も後先考えず全力全開になってガス欠だ。
凄い上空から飛ぶ余力もなくて落っこちていく。
まあ、この程度で死にはしないからいいけど。
「美柑……メア……私、は……」
もう考えるのも疲れてきてしまった。だからいいや。
取り合えず落下に身を任せて、それで……後で考えれば……。
「どうして、こんなに悩んでるのに……貴方は来てくれないんですか、結城…リト……」
疲労とダメージに耐え切れず、ヤミはそのまま意識を手放した。
【一日目/朝/E-8】
【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、興奮、ダークネス状態、迷い(極大)、気絶
[装備]:帝具ブラックマリン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(小恋の分)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから帰還したら結城リトをたっぷり愛して殺す
0:……。
1:えっちぃことを愉しむ。脱出の為には殺しも辞さない。もちろん優勝も。
2:えっちぃのをもっと突き詰める。色んな種類があるんだね...素敵?
3:さっきの二人(ディオ、キウル)は見つけたらまた楽しんじゃおうかな♪
4:あの女の子(リル)は許せない。次に会ったら殺す。
5:もしも美柑がいるならえっちぃことたくさんしてあげてから殺す。これで良い…はず。
6:イリヤもえっちぃことをたくさんして殺す。
7:のび太は絶対殺す。
[備考]
※参戦時期はTOLOVEるダークネス40話〜45話までの間
※ワームホールは制限で近い場所にしか作れません。
-
悟飯さん達は、無事逃げられたみたいだった。
あの攻撃を跳ね返して、それで最期に確認したのは自分の期待通りのもの。
良かった。
さよなら、悟飯さん、美柑さん、のび太さん…そして二人のマスター、イリヤと巻かなかった世界のマスター。
私は、あなた達の幸せな……お人形。
全ての戦いが終わった後に残されたのは。
力を使い果たし、自ら魂を消失させた。一体の罅割れた物言わぬ白薔薇の少女人形だけだった。
【雪華綺晶@ローゼンメイデン 死亡】
-
【一日目/朝/F-8】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(極大)、精神疲労(大)、雪華綺晶と契約、全裸、全身敏感状態(極大)
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、クラスカード『アサシン』&『バーサーカー』&『セイバー』(美遊の支給品)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、雪華綺晶のランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:雪華綺晶ちゃん……。
1:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
2:殺し合いを止める。
3:サファイアを守る。
4:みんなと協力する
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:疲労(極大、スタミナ切れ気味)、ダメージ(小)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、雛見沢症候群“???”、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:イリヤ、のび太、美柑を連れて安全な場所まで退避する
1:眼鏡の子や魔法少女の子を美柑さんの所に連れて行って、それから。
2:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。
3:お父さんを探したい。出会えたら、美柑さんを任せてそれから……。
4:美柑さんを守る。
5:スネ夫、ユーインの知り合いが居れば探す。ルサルカも探すが、少し警戒。
6:シュライバーは次に会ったら、殺す。
7:雪華綺晶さん……ごめんなさい。
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群を発症しました。発症レベルはステージ1です。
※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
【結城美柑@To LOVEる -とらぶる- ダークネス】
[状態]:疲労(大)、強い恐怖、精神的疲労(極大)、リーゼロッテに対する恐怖と嫌悪感(大)
[装備]:ケルベロス@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
0:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。
1:ヤミさんや知り合いを探す。
2:沙都子さん、大丈夫かな……
3:正直、気まずい。
4:リト……。
5:ヤミさんを止めたい。
6:雪華綺晶ちゃん……
[備考]
※本編終了以降から参戦です。
※ケルベロスは「火」「地」のカードがないので真の姿になれません。
【野比のび太@ドラえもん 】
[状態]:強い精神的ショック、悟飯への反感(緩和気味)、疲労(大)、肩に切り傷(小)
[装備]:ワルサーP38予備弾倉×3、シミ付きブリーフ
[道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス-
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る
0:雪華綺晶……。
1:ニンフ達の死について、ちゃんと向き合う。
2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる?
3:みんなには死んでほしくない
4:魔法がちょっとパワーアップした、やった!
[備考]
※いくつかの劇場版を経験しています。
※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。
「やったぜ!!」BYドラえもん
※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています
※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)。
※リップが死亡したため、肩の不治は解除されています。
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投下終了します
感想はまた後ほど投下させていただきます
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感想投下します。
>不平等な現実だけが、平等に与えられる
ニンフがデータを解析したとはいえ、ここまで首輪解析の方針を立てられるのは流石ネモですね。
護衛に悟空という最高戦力もあるので、滅茶苦茶盤石なんですけど、肝心のネモが頼りにする宝具を持ってたり投影出来るのが両方マーダーなのは草。
しかも、ガムテや今のクロもあまり話を聞いてくれなさそう。
しおが殺し合いに乗る事は否定しつつも、その先の願望自体は否定しないネモ。
確かに大人なんですけど、その分しおの中のあさひ評がドライ過ぎて可哀想。
でも、本当の意味で許してくれのはあさひだけで、ネモも悟空は絶対に許してはくれない。
普通の子供としてバトルロワイアルを終えるんだって発言も、それ以外は絶対に認めないっていう厳しさに溢れてますね。
悟空も一時の感情ではなく大局を見てネモの護衛を選ぶのも、やはり老練された戦士ですね。
悟空とネモ、とても安定感があるこのコンビ。その分、しおという爆弾が何処で起爆するか分からないのが怖いところ。
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メリュジーヌ、ルサルカ・・シュヴェーゲリン、サトシ、古手梨花
予約します。延長もしておきます
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投下します
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「成程、確かに最多の数を自称するだけの事はある───」
暖かな朝陽に照らされる島に、凍てつくような声が響く。
それは、一体の竜種から発せられていた。
メリュジーヌと名付けられたその竜は、冷徹に魔女を見下ろして。
「物量で言えば、人間どころか妖精でも勝てる者はそういないだろう。応用性もある」
冷たい声色とは裏腹に、次々と評価の声を述べる。
実際に、魔女の扱う影の魔術は大したものだった。
数時間前に交戦したシカマルと言う少年とは比べ物にならない。
準備を弄された上で術中に嵌まれば、シカマルの影の拘束と違い不覚を取る可能性がある。
面倒なな能力だと、およそ竜が人に向ける最大級の評価を、竜は魔女に与えていた。
「だけど、君の力はあくまで人を嬲り殺す為の物だ」
その上で今度は、魔女の力の致命的な弱点を指摘する。
確かに、人を殺すのには十分すぎるくらいの能力だ。
自分の斬撃を避けた事から身体能力も人間を超越し、妖精クラスの実力なのは伺える。
だがしかし、彼女の力はあくまで人間を嬲り殺す為の物である、と。
竜は魔女の能力の本質を見抜いていた。
「竜を墜とすには、破壊力が足りない」
人を嬲るには十分すぎる性能を有していても。
天を飛翔する竜を墜とせるものだろうか?
その問いの答えが、今の竜(メリュジーヌ)と魔女の状況だった。
「私を……見下ろすな………!」
空から冷厳に見下ろしてくる竜(メリュジーヌ)を仰ぎ見て。
魔女──ルサルカ・シュヴェーゲリンは情念の籠った、唸るような声を漏らした。
彼女の胸の中に渦巻くのは、メリュジーヌに対する妬み、それから来る執着。
ルサルカには許せなかった。
偽りの記憶をしかと植え付けたはずなのに。
自分を愛しい者として見るように、過去の改変を行ったハズなのに。
それなのにメリュジーヌは──空から自分に冷たい視線を送って来る。
まるで、明日屠殺場に送られる家畜を見る様な瞳だった。
(許せない……許せるもんですか……私を空から見下すなんて……)
ぎり、と歯を強く?み合わせて、ルサルカは中空に浮かぶメリュジーヌを睨みつける。
挟みこまれた数百年間という時間の中で、あれだけ愛し合ったのに。
私を大地に永遠に横たわらせ、彼女は届かぬ高みを目指そうとしている。
私を殺して、置き去りにして、優勝と言う座に至ろうとしている。
オーロラなどと言う、醜悪な、他人の足を引っ張るしか能のない女の為に!
許せない。絶対に認めるものか。
私に屈服させて、足元に跪かせてやる。
どろどろの淫欲で蕩けさせて、オーロラの事など忘れさせやってもいい。
置き去りになどさせるものか、遥か彼方に飛び立つなど許せるものか。
「今、その足を掴んで、私と同じ大地に引きずり降ろしてあげる!!」
咆哮と共に。
ルサルカの立つ大地に伸びた影が、立体的な輪郭を得る。
食人影(ナハツェーラー)と名付けられた、人間をゼリーの様にかみ砕き咀嚼する、彼女の操る魔道だった。
同時に、その影を媒介に様々な拷問道具が現出する。
槍の穂先の様に尖った椅子、鉄の処女、表面が真紅に見えるほど熱された牡牛、その牡牛の放つ熱から逃げようと大挙する鼠の影、鎖、鎖、鎖。
数えきれない断末魔と血を啜って来たそれらの凶器が、空のメリュジーヌへと殺到する。しかし。
「言っただろう───」
津波の様に迫りくる拷問器具の群れに対するメリュジーヌの反応は、実に冷え切っていた。
黒円卓の一席を担い、紛れもなく魔人たるルサルカでも微かにしか見えぬ速度で、腕を振るう。
疾風(はやて)が、世界を駆け抜ける。
「それは僕を墜とすには弱すぎるし、遅すぎる」
-
メリュジーヌの行った迎撃は実に単純。
竜の炉心より生み出され、手甲より伸びる剣に纏わされた超高濃度の魔力。
それを音の速さを超える速度で振るった。
結果、放たれた魔力の鎌鼬は、空を刈り、それだけに留まらず。
「………っ!?」
ルサルカの放った拷問器具の群れを一蹴した。
もし彼女の本来の形成であれば、ここまで一方的な結果にはならなかったかもしれない。
だが、現在のルサルカのエイヴィヒカイトには乃亜のハンデが加えられている。
霊的防御が剥ぎ取られ、物理的干渉が可能となっている。
その結果、ただでさえ内包した神秘の質で後れを取っていた彼女は、更にメリュジーヌの後塵を拝する結果となっていた。
「君の能力は影を起点にしてる。なら、影の軌道に意識を集中するだけだ。
下からしか攻撃が来ないと分かっていれば、対処は難しくない」
簡単に言ってくれる。ルサルカは臍を噛む思いだった。
確かに攻撃を行うのは影を起点としている。
故に、今のメリュジーヌにとっては、下からしか攻撃が飛んでくる心配はない。
何処まで行っても影は影、大地を這うしかないのだから。
いくら影を伸ばしてきた所で、叩き落すか切り落とせば問題にはならない。
ルサルカがブック・オブ・ジ・エンドで仕掛けた罠の地雷原も、地面に降りなければ踏みぬく恐れはない。
「問題は私と君の体力、先に根を上げるのは何方かだけど…それも結果が出つつあるね」
指摘されたルサルカの肩が、図星と言うかのようにびくりと震える。
事実、今の彼女の状態は今はまだ、僅かであるが。
息が上がり始めていた。
当然だ。メリュジーヌもホバリング状態で飛行し、少しずつ体力を使っているとは言え。
一度守勢に回ればそのまま空から襲い来るメリュジーヌを躱しきれない。
躱せたとしても、まず軽傷では済まないダメージを負う事になるだろう。
それを回避しようとすれば、彼女はメリュジーヌを撃墜するために攻め続けるしかない。
必然的に、食人影達を全力で稼働する羽目になる。
限られた方向からしか襲ってこない攻撃の迎撃に専念すればいいメリュジーヌとは違い、
精神的にも体力的にも消耗が早いのはルサルカの方だった。
(どうする…逃げる……?それとも、創造を……
でも、もし創造でも倒しきれなかったら……!?)
ルサルカの脳裏に浮かび上がる、撤退か、切り札を切るかの選択肢。
逃げるのは現状難しいだろう。
先ず速度で此方が相当に劣っている以上、それなり以上の隙を作らなければならない。
背を向けて逃げるなど論外だ。
メリュジーヌの、形成位階に達したシュライバーとも張り合えそうな理外の速度を考えれば背を向けた次の瞬間貫かれている。
では、自分の切り札たる、『創造』のカードを切るか。
如何にメリュジーヌが大隊長に匹敵する猛者でも、創造なら確実に動きは止められる。
乃亜のハンデを考慮すれば…止められる筈だ。
創造──『拷問城の食人影(チェイテ・ハンガリア・ナハツェーラー)』であれば。
影に触れた者の動きを完全に停止させる。それが自分の創造の能力。
強制力は絶大であり、メリュジーヌにも通じる筈だ。
だが、動きを止めたとして、食人影でメリュジーヌを倒しきれるだろうか?
形成で攻撃を行ったから分かる。メリュジーヌの鎧や肉体は、鋼の様だった。
人間程度であれば余裕で喰らえる食人影でも、短時間のうちに倒せるかは非常に怪しい。
それに、メリュジーヌ自身の動きも妙だった。
メリュジーヌが地に落とす影と、自分の伸ばす影が接触しそうになった場合、彼女はその時だけ高速移動で移動している。
まるで、影で相手を縛る相手とついさっき戦ったかのようだ。
理由はさておき、ルサルカの影に警戒を向けているのは明らかだった。
こうなると、不意打ちでメリュジーヌを拘束する事は難しいだろう。
もし倒しきる前に創造が解除されてしまえば、窮地に立たされるのは自分の方だ。
それに倒せたとしても、その後に再び創造が使える時までにシュライバーと出会ったら…
(くそ…!何でこんな……巡り合わせが悪すぎよ!!)
そう叫びだしたくなる衝動を、必死に堪える。
ルサルカの本領は権謀術数を活かした策謀だ。
準備期間さえあれば、メリュジーヌだって撃破できる自負が彼女にはあった。
だが、それはあくまで相応の陥れる準備を行った場合の話。
こんな、突発的な遭遇戦は全くもって想定していない!
(落ち着け……落ち着くのよ。メリュジーヌだって私の能力を警戒して近づけない。
ここは撤退のための陽動に力を割り振れば───)
-
破壊力が足りないだの、トロ臭いだの、好き放題言ってくれてはいるが。
しかし、メリュジーヌだって自分に近づけていない。
ブック・オブ・ジ・エンドで見た記憶でもそうだが、彼女の得意とする戦闘は白兵戦。
遠距離攻撃は門外漢であるはず。
ならば、此処は攻勢に割り振っていた魂のリソースの約三割を、陽動のための一手に回す。
選ぶ拷問器具は最も名の知れた鋼鉄の乙女(アイアン・メイデン)。
ただし、サイズは急場で作れる最大級に。簡単には出られぬよう、内部の作りは堅牢に。
いける。メリュジーヌであっても、三十秒は捕らえられる、形成の檻の出来上がりだ。
後はこれでメリュジーヌを捕えられれば。
そう考えた矢先の事だった。ルサルカの耳朶に「ジャキン」という金属音が響いたのは。
(あれは、不味───!?)
天空で未だルサルカを見下ろすメリュジーヌ。
その手には、漆黒の長筒が握られていて。
黒光りするその砲門を見た瞬間、ルサルカの背筋が凍り付いた。
拷問器具の群れを含めた、食人影の全てを防御に回す。
最早、陽動など考えている場合ではない。メリュジーヌは、勝負を決めに来ている。
然しまさか、彼女があんな武器を使うなんて───!
「意外かい?まぁそうだろうね、マレウス。騎士の決闘には相応しくない兵装ではある。でも僕個人の趣味としては中々好みなんだ」
マレウス、と。
冷え切った感情を示すように、その名を呼ぶ時だけ声のトーンを低くして。
彼女は言葉を続ける。
「それにもう、今の僕はオーロラのためだけの騎士で───
そして、君たちにとっての厄災だ。僕は僕の在り方を、そう定めた」
そして、何より。
「他人の大切な過去を、土足で踏み荒らす毒婦を誅すには、相応しいだろう?」
その言葉に、ルサルカの表情が更に強張った。
キウルから奪い取った支給品の解説の通りだ。
メリュジーヌに対するブック・オブ・ジ・エンドの精神干渉は既に解除されている。
冷淡でありながらドス黒い憎悪が籠められた視線が、その証明だ。
まるで、害虫の遠くから殺虫剤を向けるように。
トン単位で重量があるであろうその砲門を軽々振るい、狂いなくルサルカに狙いをつけた。
ブック・オブ・ジ・エンドによる罠の挟み込みはもうできない。
何もない空中に罠を仕掛けるなど、ルサルカであっても不可能だからだ。
不可能な過去は、挟み込むことができない。
「この、卑怯者───!!」
それでも騎士かとなじりたかったが、既に騎士である事は否定されている。
影を集め、敵意を露わにするルサルカを見るメリュジーヌの視線は、どこまでも冷たい。
このまま虫けらの様に押し潰れろ、そう語っている様だった。
腹立たしかった。百年以上妖精騎士として肩を並べ、愛し合ったはずのメリュジーヌに。
身下げ果てた視線を向けられることが。
そして───そんな彼女ですら、美しいと感じてしまう事実が。
ルサルカには、空に浮かぶメリュジーヌが朝に現れた星の様に煌めいて見えた。
同時に、お前は決して星(わたし)の様には成れないんだぞ、と。
そう突き付けられている様で、燃え盛るような嫉妬の炎が魂を焦がす。
「消え失せろ、マレウス」
-
能面のような、一切の感情が欠落した無表情で。
メリュジーヌはその手の兵器を。
かつて、狂気に堕ちた湖の騎士が使用し、魔力によって再現されたその機銃を。
M61機関砲の引き金を、容赦なく発射した。
瞬間、世界に暴風の様な轟音が響き渡る。
「───うっ、ぐっ、あぁぁああああああああ────!!!!」
鋼鉄の豪雨が、毎秒百発と言う密度でルサルカに襲い掛かる。
着弾した瞬間察する。
これは、近代兵器であるにも関わらず聖遺物に匹敵する魔道を帯びている。
人食影を盾にして防いでいるが、これが無ければ魔人たるルサルカの肉体でも当の昔に挽肉に変わっているだろう。
当然だ。現在進行形でルサルカを蜂の巣にするべく唸りを上げている機関砲こそ。
カルデアに招かれた、狂戦士として現界した湖の騎士の宝具なのだから。
正確には宝具に変化させられた兵装であり、通常の機関砲と違って魔力の続く限り射撃し続ける事ができる。
そんなガトリングガンを竜の炉心により無尽蔵の魔力生成量を誇るメリュジーヌが扱えば、容易に通常の機関砲の威力を遥かに超えた鋼鉄の豪雨を生み出すことができる。
そんな魔弾の波濤を防御できているだけ、ルサルカの形成も人の領域を遥かに超越していると言えた。
しかし、直接的なダメージこそ形成の効果で完全に防げている物の、凄まじい衝撃が、継続的にルサルカに襲い掛かる。
まるでサンドバッグにされている様だ。
(こ、の……っ!?いい加減───!!)
最早、温存がどうとか言っている場合ではない。
時間にして一分近く銃撃は続いている。恐らく、単純な弾切れはあの銃にはない。
このまま形成で防御し続けられればいいが、そこまで集中力を保てる自信は無かった。
それよりも先に、創造位階でカタをつける。
『───ものみな眠る小夜中に───
────In der Nacht, wo alles schlaft───』
腹を括り、鈴の音の様な美しい声で、辿り着いた魔道の秘奥の調べを奏で始める。
弾幕から身を守れるだけの形成の能力を維持しつつ、創造を発動しようとしている事そのものが、ルサルカの能力の高さを証明している。
戦塵が噴きあがる中、紫電の魂を帯びる彼女の姿は、高名なオペラ歌手さながらだった。
そのまま次の一説を口ずさもうとした瞬間、違和感に気が付く。
(───銃撃が、止んだ?)
数秒前まで飛来してきた嫌になるほどの怒涛の掃射が、ピタリと止んだのだ。
(───弾切れ?それとも、私の創造を使う気配を感じ取って離脱したの?)
前者であれば僥倖だが、後者であれば不味い。
メリュジーヌの速度を考えれば、彼女が本気で退けば既にこの場を去っているだろう。
そうなれば創造を発動しても、ただの切り札の浪費に終わる。
浪費に終わるだけならばいいが、その直後にメリュジーヌがUターンしてきたり、
シュライバーが襲来すれば目も当てられない。
殆ど何の抵抗もできないまま殺される事となる。
どうする、と。ルサルカの詠唱が五秒にも満たない時間、中断される。
(…いや、待って。そもそも、今のあいつは、何処に───?)
撒きあがった粉塵によって、視界はすこぶる悪い。
そこで視界での捜索を早々に切り捨てて、エイヴィヒカイトによる索敵に切り替える。
あんな出鱈目な出力を誇る小娘だ。直ぐに見つからぬ訳もない。
-
「どこ、何処に────!?」
「此処だよ」
事実、直ぐに見つかった。
ルサルカの後方、約三十センチの距離に、メリュジーヌは佇んでいた。
その事実を認識すると、ルサルカは戦慄を禁じ得なかった。
慌てて影を殺到させようとするが、すでに遅い。
食人影がメリュジーヌに食らいつくよりも早く。
「────かっ!?」
メリュジーヌの手甲に包まれた鉄拳が、ルサルカを撃ち抜いていた。
ボクシングで言うアッパーカット。一撃で顎が砕け。脳が揺れる。
起死回生を狙った詠唱は完全に妨害され、顎が砕かれた以上仕切り治すこともできない。
更に当然、追撃の一撃が飛んでこない道理はない。
「わざと逃げ道を作れば、必ず乗って来ると思ったよ」
既にルサルカが過去を挟んだのは割れている。
挟まれた過去のルサルカの情報は誇張と虚偽に溢れた物だ、アテにはならないだろう。
だが、他人の過去を騙り、その方法も不意打ちと言う下種窮まる相手なのは確定している。
そう言った者は逃げ場を与えれば戦おうと考えない。
真っ先に考えるのは保身で、即ち逃げる事だ。ルサルカは想定通りの判断をした。
メリュジーヌは安堵した。切り捨てるに一片の躊躇も抱かずに済む。
「安心したよ、君が憐れみながら首を差し出してくる相手では無くて」
其方の方が、地獄だった。
超人の聴覚であるルサルカであっても聞き取れない小さな呟きと共に。
アッパーカットで浮き上がったルサルカの鳩尾に更にもう一発。
「ご……ッ!?!?ぐぉぇっ────!!!!!」
ぶちゅり。
臓腑が潰れる手ごたえと共に、女性が出してはいけない嗚咽がルサルカの口から零れ出る。
だが、構いはしない。
そのまま握りつぶす勢いでルサルカの柔らかな腹部を鷲掴みにして、全力で魔力を放出。
二人の少女の姿が、空へと打ちあがる。
メリュジーヌはルサルカの死刑執行を、竜の領域で行う事に決めた。
(ぐ───しまった。空中戦じゃ私が────!!)
空中で影を操る事は出来ない。
影が伸びるべきが、存在しないからだ。
遥か彼方となってしまった大地より、空中まで影を伸ばすことは可能だが。しかし、
「がはァッ!?」
それは竜(メリュジーヌ)の妨害を掻い潜ってと言う話になる。
ちらりと大地の食人影を確認するための一瞥すら許されない。
まず空中に放り投げられ、ルサルカの体躯が宙を舞う。
如何な魔人、黒円卓第八位とて、空を飛ぶことは叶わない。成すがままに空を踊る。
直後、上段二時の方向から衝撃が来た。
あろうことか、放り投げたルサルカを追い越し、メリュジーヌが殴りつけたのだ。
その勢いで、今度は下段八時の方角にルサルカが吹き飛ぶ。
「げほッ!!」
大地へ落下するルサルカにメリュジーヌが再び追いつき、今度は下段から蹴り上げた。
みしみしと蹴りがめり込み、サッカーボールの様にまた上へと蹴り上げられる。
とても影を操る余裕はなかった。人(ルサルカ)にとって空は、死の世界だった。
「ごぇ……ぎゃッ!ごふッ!げぇえ……あぁあ───ああああああああああ───」
手刀、突き、掌底、貫手、蹴り上げ、蹴り降ろし───
混じり気のない暴力がルサルカの全身を蹂躙する。
まるで、ミツバチの群れに群がられる雀蜂の状態──蜂球の様だった。
それをたった一人で、残像すら残る速度でメリュジーヌは成し遂げていた。
全身の骨を砕き、宝具で以てトドメを刺す。
私を相手に過去を騙った、自身の醜悪さを呪いながら逝くがいい。
ドス黒い憎悪と殺意を胸に、メリュジーヌはルサルカの元へと突き進む。
-
「お、ねが……も、やめ────……」
腫れあがった顔で、ルサルカは懇願の声を上げるが。
そんな彼女に、メリュジーヌが抱いたのは、もう遅いという感情だった。
元より殺さない選択肢は存在しない。
凍り付いた眼差しはそのままに、トドメの刺すべく宝具の開帳に移行する。
照準はルサルカが今迄これだけはと、必死に守っていた日記だ。
あれを破壊すれば彼女にとって致命となる。
ならなくとも、そのまま胴体をぶち抜いて終わりだ。
それで死なない様であれば、首を落としても良い。
一片の慈悲も無く。
竜は魔女を殺す、死刑執行の断頭刃へと変貌する───!
「───敵、生命境界、捕捉」
手甲から、内包されていた刃が飛び出す。
ルサルカの食人影ですら枯れ木の様に切り裂く、硬度と鋭さを備えたメリュジーヌの槍。
それをルサルカの握る日記と、ルサルカに狙いをつけ、吶喊。
音の速度を一瞬で突破し、目の前の敵手を貫きにかかる。
「たすけ────」
その時、魔女(ルサルカ)が誰に助けを求めたのか。
竜(メリュジーヌ)には分からなかった。
メリュジーヌ自身か、愛しきものか、仲間か、それとも通りすがりの、都合の良い誰かか。
だが、竜にはそんなこと、どうでも良く、関係のない話だった。
放たれた弓矢の様に、二人の距離は縮まり、竜の穂先が魔女を貫こうとしたその時───、
────黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!!!
爆炎が、メリュジーヌとルサルカを見舞った。
横合いからの奇襲に、さしものメリュジーヌも動きを止める。
ルサルカも巻き添えを食ったのか、服や体を焼け焦げさせながら吹き飛んでいく。
五体全ての骨を砕かれ、臓腑も幾つか潰した。
間違いなく致命傷で、あの女の生命力の高さを考慮しても直ぐに遠くへはいけない筈。
「……いい度胸だ」
ぐりんッ!と。
魔術の砲撃が飛んできた方向へ顔と首を動かす。
その方角には、桃色を基調とした煽情的な服装の魔術師がいた。
だが、その姿を認めて数秒、本当の目標ではないとメリュジーヌは看破した。
変わらぬ氷点下の殺意を全身に漲らせ、彼女は無言で高度を上げた。
最強の妖精騎士の次なる戦端が幕を開けた瞬間だった。
-
■ ■ ■
メリュジーヌとルサルカが交戦を開始した同時刻。
古手梨花とサトシの二人は同じエリアに足を踏み入れていた。
梨花の足取りは重かった。
この近辺に、シカマルと言う少年がいる。
彼に会えば、きっと北条沙都子が殺し合いに乗っているかハッキリするだろう。
そう考えると、会うのは気が重かった。
だって、自分にとって望む答え…沙都子が殺し合いに乗っていないという答えは。
きっと、九割方待っていない。胸の内では、そう確信していたから。
だが、同時にハッキリさせなければ前へは進めない。
その想いも強く胸の内に在った。
「梨花…大丈夫か、疲れてないか?」
「大丈夫なのですよ。ボクには部活で鍛えた体力があるので、にぱー」
足取りの重い梨花に合わせるように歩き、サトシが尋ねてくる。
旅をしていて体力には自信があるサトシとは違い、梨花の身体の線は目に見えて細い。
ついでに言えば、凹凸も壁と見紛う程平らである。
そんな自分を気遣っての言葉だろう、と、梨花も直ぐに考えが及んで、笑みを返す。
空元気に近かったが、百年間通してきた演技だ。こんな時でも淀みない。
「私の知り合いは沙都子だけですー、サトシも知り合いが来ていない様で良かったのです」
「あぁ、みんなが連れてこられてなくて良かったよ。ピカチュウと一緒だから心強いしな」
梨花にとって、この地に連れてこられた知り合いは沙都子一人だけで。
サトシにとっては、人間の知り合いは一人もいなかった。
それについては間違いなく朗報だったと言えるだろう。
だが、梨花の表情はあまり明るくない。
見かねたサトシは、僅かな間を置いて尋ねた。
「………梨花は、やっぱり沙都子の事が気になるか?」
その問いかけに、言葉に詰まってしまう。
気にならない筈がない。百年間苦楽を共にしてきた、北条沙都子が。
一緒に奇跡を成し遂げた掛け替えのない仲間が、自分を地獄に叩き落した張本人で。
この殺し合いの儀式の中でも、凶行を及んでいるなんて、梨花は考えたくなかった。
「はい……沙都子は…僕の親友なのですよ」
もっとも、この島に連れてこられる前に、大喧嘩をしてしまいましたが。
そう言って表面上は普段通りに、しかし力なく梨花は笑った。
どうしても考えてしまうからだ。
沙都子が殺し合いに乗っていた場合、自分はどうするべきなのか。
「沙都子は多分、この殺し合いも部活の延長だと考えていると思うのです」
人一倍勝利に貪欲だった沙都子の事だ。もし殺し合いに乗っているのなら。
この殺し合いも、部活の延長線上として、ゲームの様に優勝を目指しているのだろう。
ただでさえカケラ渡りは正常な倫理観を破壊する。梨花もそれは良く知っている。
壊れた倫理観で、勝つことを目指す沙都子を止める方法は果たしてあるのだろうか。
古手梨花の魔女としての側面が、風見一姫の言う様に殺すしかないのではないか?と囁き。
北条沙都子の親友だった梨花の側面が否定する。しかし、代案は未だ思いつかない。
表情が暗くなるのも、無理はない話だった。
「……そっか、でもさ。二人は親友だったんだろ?」
そんな梨花を励ますように、サトシは肩に乗るピカチュウを撫でながら告げる。
頭を撫でられるピカチュウは気持ちよさそうに瞼を細めてほほ笑む。
一瞥するだけで、一人と一匹が強い絆で結ばれているのが見て取れた。
「俺とピカチュウも、最初は全然上手く行ってなかったけど…今では最高の相棒なんだ。
だから……二人でちゃんと話しあえば、また仲直りできると思うんだよ」
勿論、俺とピカチュウも協力する。
サトシは、梨花に力強くそう告げた。
肩に乗るピカチュウもピッカァ!と元気よく鳴き声を発し、頷いている。
そんな二人を見ていると、梨花も不思議と身体の奥から力が湧いてくるようだった。
「…そうね、良くも悪くもあの子は変わってない。ただの勉強嫌いのクソガキだったわ。
それなら、ちゃんと話し合えば…せめて此処だけでも協力できるかもしれないわね…」
-
最後に殺し合いながらお互いの心情をぶつけ合った時。
北条沙都子は本当に良くも悪くも、何も変わっていない様子だった。
雛見沢症候群を罹患している訳でも、誰かに操られている訳でもない。
ただ意固地になっているだけで、話が全く通じない相手では無かった。
なら、説得次第で一時停戦位は望めるかもしれない。
あの子、絶対そういうノリ好きだし。そこまで考えて、くすりと笑った。
「──サトシのお陰で元気が出ました!ありがとうなのです!
そうと決まれば、急ぎましょう!もうすぐここも禁止エリアになってしまいますから」
「あぁ、もうすぐ港が見えてくるところまで来てるし、急ごう!」
にぱーと、調子こそ何時もの猫を被ったものだが、笑顔は屈託のないモノを浮かべて。
ジョギングの様な所作を行い、急ぐように促した。
何せ先ほどの放送で既にここは禁止エリアだと告げられている。
シカマル達が近辺に居るのなら、嫌でも移動を始めているだろう。
であれば、今が最も遭遇できる可能性が高いのは自明の理。
今を逃せばこのエリアから離れてしまうだろうし、首輪が爆発して梨花達も死んでしまう。
故に、まだ二時間近く時間はあるが、急がなければならなかった。
てててて、と駆けながら、梨花は考えを巡らせる。
(そうね……沙都子(あのこ)が一番乗って来そうなやり口は……
テストの点数や、課外活動の評価を部活の様に競うのはどうかしら)
聖ルチーアにおいて、穏当に、共に歩むことができないのなら。
あえて憎まれる事で、好敵手(ライバル)として沙都子と関係を再構築する。
沙都子の勝負ごとに対する執着を利用するのだ。
不意に浮かんだ考えだが、不思議と上手く行きそうな気がした。
もしかしたら、そんなカケラが実際にあって、その残滓を感じ取ったのかもしれない。
今なら、沙都子が例え殺し合いに乗っていたとしても、その事実を直視して対峙できる気がした。
「先ずは全部をハッキリさせて──その後は、サトシ達の力を借りてでも、沙都子と話す」
サトシのお陰で、自分の心持の態勢が整った気がした。
ふん縛って、参考書を口の中に突っ込んででも先ずは彼女と対話する。
そう、強く強く決意を胸に、意志を表明した、その時の事だった。
鋼鉄の暴風とけたたましい破壊音が、周辺に響いたのは。
「───梨花ッ!!」
先ほどより緊張を露わにした声と顔で。
サトシが、梨花の手を掴む。
そして、有無を言わさず一番近くにあった民家の塀の影に二人そろって身を隠す。
緊張が走り、ドクドクと生命の危機を感じ取った心臓が鼓動を早める。
それを落ち着けてから、二人は意を決して、建物の影から音のした方向を伺った。
「な……何あれ………」
二人が目にしたのは、目を疑う光景だった。
赤毛の軍服を纏った少女が、空で銀髪甲冑の少女に嬲られている。
落下する事も出来ずに、全身を滅多打ちにされている少女の姿は遠目に見るだけでも心胆を一気に冷やす光景だった。
数秒ほどその様を呆然と見つめた後、サトシがある事に気づく。
銀髪甲冑の少女には、見覚えがあった。
「梨花、あれって……」
「……えぇ、沙都子と一緒にいた子だわ」
サトシの言葉に、苦虫を?み潰したような顔で梨花は応える。
あの目立つ格好に、人間離れした美貌。沙都子と一緒にいた少女だ。
確か名前は…メリュジーヌと名乗っていたか。
近場に沙都子がいない様だが、間違いないだろう。
「当たって欲しくない予想が、当たってしまったかもね……」
吐いた言葉は、実に苦々しい物だった。
あの様子であれば、メリュジーヌは殺し合いに乗っていると見て間違いないだろう。
赤毛の少女が襲った側であるなら、当に勝負はついている。
撃退するだけなら、全身の骨を砕く勢いで痛めつける必要はないからだ。
そして、そんな彼女と行動を共にしていた沙都子も恐らくは………
-
(今は一人みたいだし、沙都子は騙されているだけ、という線も無くはないけど……
それなら今度は沙都子が今も生きているのか怪しくなる、か………)
浮かんできた可能性は、何方も梨花にとって喜ばしい物では無かったし。
これ以上思索した所で、応えはあの騎士少女に問わなければ答えはでないだろう。
かぶりを振って、考えを切り替える。
問題は、これからどうするか、だ。
「……止めないと」
梨花が沙都子の事を考えている間に。
サトシは既に、目にした光景に対する結論を出していた様子だった。
その表情は強い決意に満ちている。
彼の肩に乗るピカチュウも、それは同じだった。
「ダメよサトシ、幾ら何でも無謀だわ」
猫を被る事を辞めて、梨花本来の口調で、サトシを制止する。
サトシの実力を疑っている訳ではない。
でも、幾ら何でもメリュジーヌを相手にするのは危険すぎる。
放送前に襲われた孫悟空という少年と比べても、なお強いだろう。
速さは同じくらいでも、体さばきは比較にならない。
下手に助けに入れば、此方も巻き添えを食う。
それが梨花の見立てだった。
「でも、放って置く訳にはいかないだろ。
俺も、何も勝負しようとは思ってないさ。それよりも………
さっき、梨花に支給されたあれ、貸してくれ」
サトシが譲渡を求めた物は、此処に来る道すがら確認した梨花の支給品だ。
梨花にとっては使い方すらピンと来ないが、サトシにとっては切り札になり得るアイテム。
渡しても惜しくはないが、それでも譲渡にあたって梨花の表情には躊躇があった。
そんな彼女に向けて、もう一度サトシは「頼む」と、要請を行う。
「大丈夫だ、約束する。梨花も、ピカチュウも危ない目に会わせるつもりは無いよ。
ただ……もしあいつが俺達に気づいて追ってきたら、きっと必要になる」
そう言われては、梨花も反論しようがなかった。
元より自分が持っていても意味のない道具だ。それならサトシ使ってもらった方がいい。
無言でランドセルから件の支給品を取り出し、サトシに手渡す。
「………それで、どうするの?」
渡された支給品を手早く身に着けるサトシを眺めながら、素の梨花の口調で問いかける。
メリュジーヌとの距離は五百メートル以上離れている。
ピカチュウの電撃の射程距離は、多分そんなに長くは無いだろう。
となれば、近づけなければならないが、そうなるとどうしてもあのメリュジーヌに近づかなければならない。
そこは最早死地だ。この距離であっても、安全であるとは言い難いのに。
「あぁ、ピカチュウもあれだけ強くて、しかも離れても相手を狙うのは難しい。
だから……これを使うんだ」
彼はポケモントレーナーであって決闘者ではなかった。
だから、可能なのかは間違いなく未知数だった。
それでも…目の前で危機に瀕している人がいれば放って置けない。
それが、ブラックマジシャンガールのカードを梨花の前に翳す、サトシと言う少年だった。
-
■ ■ ■
目論見は、半分は成功した。
呼び出したブラックマジシャンガールは、見事に作戦を遂行したのだ。
正確に放たれた魔力砲によって、メリュジーヌから、赤毛の少女を引き離した。
爆風によって、赤毛の少女が吹き飛んでいくが、今はサトシ達も気にしている余裕がない。
少女が生きているかは、祈るほかなかった。
今はただ、メリュジーヌの目標を此方に引き付ける事を優先する。
「よし、梨花、離れ───!」
後はこの場を急いで離れる。
敵はブラックマジシャンガールの方に気を取られて、サトシ達には気づいていない筈。
使用者が一定距離離れればカードから現れたモンスターは消滅するそうだから、
このままブラックマジシャンガールが殺される前にこの場を離れれば、犠牲者は0で済む。
その算段だった。急ごしらえとは言え、悪くない作戦だっただろう。
「……飛び上がった………?」
姿勢を低く、できる限り補足されにくい様にしながら、メリュジーヌの様子を伺う。
彼女は攻撃を受けて直ぐ、ブラックマジシャンガールに襲い掛かる真似はしなかった。
ただ、まるで「そらをとぶ」の様に更に高度を高く飛び上がって、そして静止した。
───まるで、高所から何かを探すように。
「────!!!ヤバいッ!ブラックマジシャンガール!!」
それは、サトシがメリュジーヌの意図に気づいたのとほぼ同時だった。
彼女(メリュジーヌ)は、ブラックマジシャンガールがカードによって呼び出された存在だと気づいている!
視線と視線が交錯する。
メリュジーヌの爬虫類めいた目と、目が合った。
見つかったと、瞬時に判断。こうなれば、腹を括るほかない。
ブラックマジシャンガールを呼び戻しながら、迎撃の態勢を整える。
「梨花…ごめん。結局こうなっちゃって」
「…いいわ。私も何となく予感はしてたし。あの子に聞きたい事もあるし。
その代わり、絶対に二人で切り抜けるのです。にぱー」
立てた算段を遥かに超える相手だった事をサトシは梨花に詫びた。
そんな彼の謝罪を、梨花は責めなかった。
ここまで連れてくるように頼んだのは自分自身だし。
責めた所で、何も状況は好転しない。
元より戦う力のない彼女にはサトシを信じる他ないのだから。
当初の計画は破綻したが、梨花の目に映るサトシの表情は未だ信頼に足るものに思えた。
迫りくる怪物を相手にしても、サトシの瞳に怯えは無く。
ただ強い意志だけを秘めた───歴戦のチャンピオンの目をしていた。
-
■ ■ ■
サトシの目論見は、きっと成功していただろう。
メリュジーヌが数時間前、カードから呼び出された星屑の竜を相手にしていなければ。
ブラックマジシャンガールの容姿が子供であったなら。
メリュジーヌはサトシの想定通り、ブラックマジシャンガールと交戦を開始していた。
だが、彼女は既に知っていた。
強力な幻想種を呼び出すカードが、参加者に支給されていることを。
そして、まず真っ先に目に入ったブラックマジシャンガールの容姿は、
これまで自分が出会ってきた参加者の共通した特徴と合致しない。
首輪も、参加者に嵌められている物とは大きく違っていた。
これ等の情報から、メリュジーヌは突然現れた魔術師をあの星屑の竜と同じ召喚獣だと判断した。
「見つけた」
召喚獣であるなら、呼び出した人間がそう遠くない位置にいる筈。
そう考えて高度を高くとっての索敵だった。
予想通り此方の様子を伺っている子供が二人、見つかった。
少年の方の行動は、迅速だった。
見つかったと判断するや否や、陽動役として前に出していた女魔術師を呼び戻した。
瞳の彩も冷静。戦う覚悟を既に決めている様だった。
「もう一仕事、働くとしようか」
両手の手甲から、『今は知らず、無垢なる湖光』を伸ばす。
目標との距離は一キロ近くある。
例え人智を超えた知覚能力を有するサーヴァントであったしても。
索敵スキルがないサーヴァントであれば、距離を詰めている間に近辺の民家に身を潜められれば探すのはそれなりに骨だっただろう。
だが、二人の子供達にとっては不運な事に相手は最強の妖精騎士。
その飛行速度は音速を優に超える。
制限下であっても、一キロに満たない距離であれば、数秒で到達可能だった。
「悪くない判断だ」
メリュジーヌは、追撃を行わず女魔術師を呼び戻した少年の判断を賞賛した。
女魔術師の魔力砲では自分を止められないと判断したのだろう。
その見立ては、決して間違っていない。
全身から魔力を放出、一秒でその速度は音速を超える。
先ほどまで小さな人影だった少年少女の顔立ちすらはっきりと見える距離まで駆け抜ける。
そして、黒髪の少年少女の前に、ドン!と。
右膝と左手を大地について、着地。
誅罰に横やりを入れた二人の“標的”と対峙した。
-
■ ■ ■
ゆらり、と。
膝立ちの状態から立ち上がり、二人を見定める。
その威圧感に、梨花とサトシは息を飲んだ。
まだ、何も荒事を経験したことのない子供の方が平静を保てたかもしれない。
だが、二人がそれぞれが数々の命のやり取りや冒険を経験してきたからこそ。
相対するメリュジーヌの力を正確に感じ取ってしまった。
「さっき邪魔してきたのは……君たちだな」
冷徹。冷淡。冷厳。
聞く者が凍り付くような平坦で冷たい声で、二人にメリュジーヌは尋ねてくる。
それを聞いて、二人の間に緊張と、ある種の希望がほんの僅かに胸に湧く。
即刻襲い掛かって来るものと思ったが、まず話しかけてきた。
対話の余地が全くない相手ではない、二人はそう受け取った。
サトシは僅かに間を置いて、静かに頷いた。
そして再び数秒ほどかけて、メリュジーヌに問う。
「……確か…メリュジーヌって呼ばれてたよな。君は、殺し合いに乗ってるのか」
その問いかけに、メリュジーヌは無言で首肯する。
最初から予想できていた事ではあったが、やはり重々しく伸し掛かる事実だった。
彼の傍らに立つ梨花は輪をかけて心穏やかにはいれなかった。
食って掛かる様に、重ねてメリュジーヌに問いを投げかける。
「沙都子は!あの子もやっぱり……殺し合いに乗っているの!?」
梨花の問いに、メリュジーヌが答えることは無かった。
無言で両の手の手甲を構えて、宣言する。
「……それは、これから死ぬ君たちが知っても意味がない」
メリュジーヌが纏う、殺意のボルテージが一段階上がる。
相対する二人は全身が総毛だつ思いだった。
サトシにとっては伝説のポケモンを前にした時の感覚に近いが、それとはまったく別の濃密な死の予感。
何とか最悪の状況に進むのを阻止しようと、サトシは孫悟空に試みたように、メリュジーヌにも問いかける。
「待て!何で君はこんな、殺し合いに───」
「私の大切な人のためだ。これで応えたよ。では、死んでくれ」
答えをあらかじめ用意していたかのような速さで、問いに即答し。
つかつかと、メリュジーヌは二人の方へ歩みよる。
その瞳は、既にサトシと梨花を人として見ていなかった。
まるで、路傍の邪魔な石ころを見る様な瞳。
孫悟空とは何もかも違っていた。
「……っ!?その人は君がこんな事をして喜ぶのかよ……っ!!」
絞り出すような声で、訴える。
どうしてだ、どうして大切な人を想える心があるのに。
どうして他人を平気で殺そうと出来るんだ。
そんな事をして、大切な人が喜ぶと思っているのか。
サトシは、腹の底からそう訴えた。だけど、彼の言葉はメリュジーヌに届かない。
「───喜ばないだろうね。彼女は、私が何かをして喜ぶことがまずありえない」
「どういう意味だ!?」
「これは全部僕の自己満足、と言う話だよ」
そして、自己満足であるからこそ、地の果てまでだって戦える。
最後にそう一言零し、メリュジーヌはその手の白刃を煌めかせた。
朝陽に照らされ輝きを放つ刃は、思わず見惚れそうになるほどの美しさだった。
───ピカチュウ!でんこうせっか!!
対話は決裂した。
そう確信してからのサトシの指示は疾風の様だった。
指示を告げられたピカチュウも正に阿吽の呼吸で。
凶刃を閃かせるメリュジーヌに向かって最も有効な一手を放つ。
二対の刃を躱し、すり抜け、竜の肩口に突進する。
疾風の様に突進してきたピカチュウの体当たりに、痛痒はないモノの、装甲に包まれた身体が僅かに揺らぐ。
-
「……成程、大したものだ。これまでよく研鑽を積んできたんだろうね」
息の合った呼吸、練り上げられた突進。
一言で言って、洗練されていた。
小手調べとは言え、大振りとは言え、まぐれで躱せるほど自分の剣は甘くない。
だからこそ、惜しいと思った。
「その芽を摘まなければいけないことが」
言葉を吐くと共に、竜の炉心から魔力を噴出させ、全身に魔力を漲らせる。
そして、その魔力でジェット噴射の様に加速し、再びピカチュウに迫る。
「躱してアイアンテール!!」
「ピッカァ!!」
未来の動きを読んでいたかのように、速度が上がったメリュジーヌに動じず指示を飛ばす。
本当に早い。乃亜の言うハンデが無ければ、視認する事すら困難だったかもしれない。
だが、ハンデ上の速さならタクトのラティオスを初めてとして、戦ったことがない訳ではない速度の相手だ。
ならば、全く勝負にならない相手ではない。
「───え?」
サトシのその見立ては、正しかった。
彼のこれまで経験してきた冒険や出会いは、メリュジーヌの強さと比べても見劣りするものではない。
だが、しかし。すべてにおいて正確な訳でもなかった。
メリュジーヌは、彼にとって未知の相手でもあったのだ。
それを示すように。
“メリュジーヌは、アイアンテールを放とうとするピカチュウを飛び越えた”。
彼女の視線は、今はもうサトシと梨花以外映してはいなかった。
ポケモンを素通りする。敵の想定外の行動に一瞬、サトシの思考が停止する。
メリュジーヌは、ピカチュウがサトシに使役されている存在だと知っていた。
だから、先にトレーナーを仕留めようとしたのだ。
だってこれは、ポケモンバトルではなく、殺し合いだから。
そう、脳が情報を処理するまで、二秒の時を有した。
そして、その二秒の時は、彼にとって余りにも致命的だった。
彼が意識を引き戻した時には、既にメリュジーヌが眼前まで迫っていた。
サトシの培ったポケモントレーナーとしての経験値が告げている。
この刃は、避けられない。詰みだと。
「ピカチュウ───!」
それでも何とか抵抗を試みようとピカチュウに指示を出そうとするも、既に遅い。
言い終わるころには斬り伏せられているだろう。
彼の中の冷静な部分が、そう告げていた。
だが、未来は彼の予期したものとは変わる。良くも悪くも。
「サトシ!!!」
梨花がメリュジーヌとサトシの間に割り込んで。
彼女は、すぐさまその手の銃を構えた。
力の差は理解している。それでも、一歩も退くつもりはないと確固たる姿勢で。
彼女は眼を見開き、メリュジーヌの姿を捉えていた。
梨花が引き金を引く。メリュジーヌが剣を振り下ろす。
両者のタイミングはほぼ同時で、たどり着いた結果は真逆だった。
銃弾は鎧に阻まれ、手甲から伸びた剣は梨花の両腕の肘から先を正確無比に刈り取った。
「───う、ぐ…ぁ………あああああああああああああああああ!!!!!!!!」
切り落とされた両腕からどぼどぼとホースのように血が流れる。
見ただけで、致命傷だと分かった。
痛みに凄絶な悲鳴を上げながら、梨花は膝から崩れ落ちる。
「り、梨花………」
目の前で起きた流血を伴う惨劇に、流石のサトシも怯みを見せる。
夥しい量の血というものは、いやでも本能的な恐怖を思い出させるのだ。
即座に動かなければ、自身も同じ運命を辿ることが分かっていても。
恐怖は、体を凍り付かせる。
そんなサトシに、梨花は叫んだ。
-
「───しっかり、しなさい!アンタは……チャンピオンなんでしょ!!」
痛みには慣れている。百年間ずっとずっと付き合ってきたのだ。
拷問されて殺されるよりは、余程マシな痛みだ。
だから、私のことは気にしないで、戦ってほしい。
梨花は視線だけで、サトシにそう訴えた。
致命傷を負ったばかりの少女とは思えない、力強い視線だった。
「………っ!……わかった、分かったよ、梨花」
竦んだ体がフリーズから復帰する。凍り付いた戦意が熱を持つ。
仲間の言葉と視線で、チャンピオンは息を吹き返した。
「チ…ッ」
梨花に続きサトシをも切り裂こうとしていたメリュジーヌが、その動きを止める。
その手の剣に、濃密な魔力の砲弾が着弾したからだ。
手甲でも守られているからダメージはない。しかしその一瞬の隙を切り込むように、彼女の胴に横なぎに衝撃が走った。
「ピィ〜カ!!!」
ピカチュウが、避けられたアイアンテールで攻撃を行ったのだ。
そして、サトシを守るようにメリュジーヌの前で威嚇を行う。
チラリと後方を見てみれば、先ほど砲撃してきた女魔術師の姿があった。
問答を行っている間に、追いついたらしい。
「ふむ……」
状況を把握し、冷たい眼差しはそのままにメリュジーヌは短く声を漏らした。
後方の女魔術師はピタリとこちらに杖の先の照準をつけている。
前方の黄色いネズミのような幻獣は戦意に満ちた顔つきで、此方を威嚇している。
挟撃の態勢になった上に二対一。数と状況は人間側に利があった。
「エレキネット!!」
「ピカッ!!」
ピカチュウから雷の網が発射される。
10万ボルトではメリュジーヌを補足できない。
そう判断したが故の、広範囲をカバーできる技の選択だった。
それに呼応するように、メリュジーヌの後方に位置するブラックマジシャンガールが魔力砲を発射する。
即席ではあったが、非常に息の合ったコンビネーション、挟撃のアドバンテージを活かした攻撃だった。
「問題ない」
相手が、魔境妖精國において400年間無双を誇った妖精騎士でなければ。
放たれた魔力砲を躱し、全身の魔力を放出。向かう先は、桃色の女魔術師。
即ち、ブラックマジシャンガールの方向に向かって吶喊する。
速度はやはり、人を超えたそれだ。だが、その速度は既にサトシ達も知っている。
だからこそ、メリュジーヌの速度を考慮しても捉えられるであろうエレキネットを選んだのだ。
「な───!?」
だが、ここで計算違いな事態が起きる。
エレキネットは確かにメリュジーヌであっても避けきれない攻撃だった。
直撃こそしなかったものの、命中はした。
だがそれでも───メリュジーヌが、止まらない。
ぞく。
瞬間、悪寒が駆け抜ける。
「悪くない手だった………でも、密度が薄すぎる」
-
確かに、命中はした。
だがしかし、命中する一瞬前に、メリュジーヌは全身から魔力を放出していた。
非常に高密度の魔力は、時に強固な鎧となる。
その魔力の鎧で以て、ピカチュウの電撃を反らし、弾いたのだ。
素の耐久力でも耐えられたかもしれないが、ここでは確実性を優先した。
だから、そのお陰で───、
こうして、電撃を利用できる。
魔力で電撃を逸らし弾いた、ここまではいい。
では、その弾いた電撃を纏った電撃は何処へ向かうのか。
決まっている。最も近い、魔力が指向された先だ。
「………っ!!!」
ブラックマジシャンガールの顔が、痛苦に歪む。
メリュジーヌが逸らした魔力を帯びた電撃が、彼女の柔肌に向かったのだ。
迫りくるメリュジーヌの迎撃の為に向けられていた杖の照準がブレる。
最強の妖精騎士は、その一瞬の陥穽を見逃さなかった。
瞬きに等しい一瞬でブラックマジシャンガールに肉薄し、杖を握るその手を取る。
そして、ごきりと音が響いた。
「〜〜〜〜!!!!!」
声にならぬ叫びを響かせるブラックマジシャンガール。
彼女の腕が肘の辺りであらぬ方向を向いていたのを考えれば、無理からぬ話だろう。
更にそれだけで収まらず、鮮血が舞い、骨が見えていた。
だが、追撃は止まらない。
胸部の服を鷲掴みにして、ぎらりとメリュジーヌは黄色の電気鼠を睨みつける。
サトシとピカチュウ、両者がまさかと思った瞬間、それは成された。
メリュジーヌは、自分より背の高いブラックマジシャンガールを、以前展開されたままのエレキネットに放り投げた。
人を人ではなく、投擲武器として扱う。その非道の策によって。
エレキネットは、皮肉にも味方であるブラックマジシャンガールに向かって威力を発揮した。
「────!!!」
余波を受けただけだった先ほどと違い、今度のエレキネットは寸分の狂いなく直撃した。
へし折られた腕の傷が電熱によって焼かれ、じゅうじゅうと音を立てる。
最早、戦闘は不可能。それは誰の目から見ても明らかだった。
それでも、尚もメリュジーヌはブラックマジシャンガールに向けて突き進む。
「やめろっ!もう、その人は───!!」
制止の声は、当然聞き入れられる筈もない。
ドスドスドス!!!!と、
肉を抉る音が、三度響いた。
ブラックマジシャンガールの眼窩と、喉と、心臓を正確に穿つ一撃だった。
最早声すら上げられず、女魔術師はその場に崩れ落ちる。
これで、“的”は一つに絞られた。
冷たい殺意と共に、残る障害、黄色い幻獣種を排除するべく行動を開始する。
否、開始しようとした。
「………?」
メリュジーヌの足が止まる。
彼女の顔に、影が差す。
表情に、僅かに驚愕の彩が混じる。
差した影の主は、たった今殺したはずの相手の物だったからだ。
ブラックマジシャンガールが、メリュジーヌを羽交い絞めにしていた。
当然、羽交い絞めと言ってもメリュジーヌを何時までも拘束できるはずもない。
例え、ブラックマジシャンガールが致命傷を負っていなくとも、だ。
だから、女魔術師はじっとサトシを見据えて。視線だけで何かを伝えて。
身体に残る魔力を最後の一滴まで用いて、為すべきことを遂行する。
────黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!!!
最後の力を振り絞って。ゼロ距離からの魔力砲。
言い換えれば、自爆だった。
勿論、杖も無い状態で、死にぞこないの苦し紛れの攻撃だ。
その程度で痛痒を覚えていては最強の妖精騎士の称号は冠せない。
だが、捨て身の一撃は、ほんの僅か。数秒ほどの時間を作った。
主(サトシ)が、切り札に至るための、その時間を。
「────っ!!」
-
彼は、例えブラックマジシャンガールがカードから出てきた存在でも。
こんな、犠牲にする様な戦い方をしたくなかった。
だが、ここでショックを受けて、立ち止まってしまえば。
ブラックマジシャンガールの最後の奮戦が無為に終わる。
それだけは、絶対に許しがたい事だった。
彼は歴戦のポケモントレーナーとして、湧き上がってくるあらゆる負の感情を抑え込む。
「行くぞ、ピカチュウ」
「ピカ」
ピカチュウも、きっと同じ思いで。
だから、そこから先の指示は要らなかった。
ふわりと投げられていたサトシの帽子が、ピカチュウの頭部に収まる。
拳と拳、尻尾と腕でハイタッチ。
同時に、サトシが梨花より譲渡された腕のリング──Zリングに嵌め込まれたZクリスタルから莫大なエネルギーが装填される。
「───10まんボルトよりでっかい100まんボルト……!」
一目見た瞬間から。
あの騎士を下せる可能性があるとすれば。
この技を置いて他にない。サトシはそう確信していた。
「いや───もっともっとでっかい、俺たちの超全力!」
キョダイマックスしたポケモンのキョダイマックスわざですら、真っ向から打ち破れる。
トレーナーとポケモンが互いの意志を重ねて放つZ技と言う、正真正銘の切り札。
それを切るための布石は、たったいま整った。
ブラックマジシャンガールの放った最後の一手から復帰し、メリュジーヌが噴煙の中から飛び出してくる。
だが、僅かに遅い。最早、この技を止める事などできはしない。
全身の力と、想いの全てを籠めて。彼らは叫んだ。
「ピカチュウ!1000まんボルトォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
「ピィカ…ヂュウウウウウゥゥウウウウウウウウウッッッ!!!!!!!!」
-
朝日に照らされる街の中を、七色の雷が駆ける。
その巨大さ、力強さは、少年の本当に肩に乗れるサイズの生物が出したか信じがたい規模のものだった。
これを受けるのは不味い。万が一もあり得る。
妖精騎士ランスロット。最古にして最強の竜ですら瞠目する雷撃。
「───だが、それを受けるかどうかは別の話だ」
見たところ、雷撃の威力は目を見張るものがある。
しかし、軌道が直線的すぎる。
これならば如何に強力で鋭く、早くとも躱すのはメリュジーヌにとって難しくはなかった。
竜の炉心より生み出された魔力を完全開放。コンマ一秒でトップスピードへと至る。
七本の雷条の僅かな隙間を水のようにすり抜ける。
「終わりにしよう」
そして、ピカチュウの脇を軽々と抜き去った。
これで、少年を守る障害は存在しない。
大技を放った以上、直ぐには電気鼠も体勢を立て直せないだろう。
故にここは捨て置く。確実に、最短距離で、司令塔である少年の命脈を断つ。
断つ、ハズだった。
「ピカチュウ!」
少年が、よく通る声を発する。
今更何か指示を行おうとしているのか、だが無駄な話だ。
だって、頼みの幻獣は、まだ技を撃つことすら中断できていない───、
(待て、まだ?)
違和感が、奔る。
目の前の少年と幻獣のコンビネーションは相当なものだ。
また、戦術眼も一流の評価を与えてもいい。
その彼らが、切り札として直線的に過ぎるこの技をなぜ選んだ?
撃つタイミングは確かに、女魔術師が作り出したこの数秒しかなかっただろう。
だが、もっと此方の体勢を崩してだとか、移動し座標を変えて撃つだとか。
そういった駆け引きがあってもよかったハズだ。
メリュジーヌの中で萌芽した小さな小さな違和感。
チラリと、抜き去った幻獣を一瞥する。
答えは、すぐそこまで迫っていた。
「な───!?」
視線を移した瞬間、七色の雷撃のうちの一色。
紫の光の矢が、すでにすぐそこまで迫っていた。
躱そうと魔力を放出する軌道を変えるが、既に手遅れだった。
「ぐ……っ!」
さっきのエレキネットと名付けられた雷撃とは桁違いの威力の雷が、メリュジーヌの左肩に蛇のように食らいついた。
そして、それだけでは終わらない。
躱したはずの、他の六本の雷撃ですら、メリュジーヌに向けて軌道を変える。
彼女の背後で、囁くようにサトシは呟いた。
「読んでたよ……君がピカチュウを無視して、俺を殺そうとしてくることは」
Z技、一千万ボルト。
その特性は、普段放つ十万ボルトとは次元が違う規模の威力だけでは、ない。
自由にピカチュウの意志だけで軌道を変更できる、追尾(ホーミング)能力にあった。
そして、サトシはこれまでの戦闘の流れから読んでいた。
メリュジーヌがピカチュウを殺傷するより、自分を殺すことを優先するはずだと。
(……っ!?読んでいたとしても……っ!指示も出さずに……!!!)
-
雷条から脱出しようとするも、ハンデの枷を科された体では数秒ではとても不可能だった。
そのまま自身に迫ってくる雷撃を見つめながら、メリュジーヌは考える。
自分の狙いが最初から主(マスター)だと分かっていれば、軌道は限定できるだろう。
だが、タイミングはどうにもならない。
メリュジーヌの戦闘速度は人間の反射神経を置き去りにして余りある。
予めタイミングすらも読んだうえで、殆ど名前以外の指示も出さず。
幻獣の雷を、敵手に向けて命中させる。
少年が、幻獣と夢を刻んだ月日と修練だけが成せる、神業と呼んで相違なかった。
「ぐぅヴうううううあああああああああああああ─────!!!!!!!」
試行している間に、残りの雷が追いつく。
そして、今度こそ───メリュジーヌの全身を蹂躙する。
最強の妖精騎士に、肉体的な痛苦を与える。
同じ妖精騎士であるガウェインやトリスタンですら困難な所業を達成したのは、あろうことか人間の少年だった。
だが、しかし。
「─────!!!!!!!!!!」
それで竜を墜とせる、とは限らない。
悲鳴とも咆哮ともとれる、声ならぬ叫びを竜はあげて。
ここで、再びの全開の魔力放出。その目標を変える。
五指を広げ、本能をむき出しにして、ピカチュウに肉薄する。
「オォオオォオオオオオオオオオアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
竜は、墜ちぬからこそ竜なのだ。
それを示すように。
大気をビリビリと震わせる規模の絶叫。
サトシがピカチュウに何かを伝えようとするが、それすらもかき消される。
そして、広げた両手の五指でもって、ピカチュウを竜は捉えた。
「ヂュウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!!」
ピカチュウも必死だった。
声が枯れるほどの声量で叫び、体の力すべてを振り絞るように雷を放つ。
ピカチュウ達にとってもこれで倒せなければ後がない。それを理解しているからこそ。
全力で、ダンテとの決勝戦すら超えるかもしれない出力の雷撃でもって竜を墜とすのを試みる。
「……君は」
そんな時だった。
不意に、穏やかな、優しさを伴った声をピカチュウは聞いた。
同時に、猛烈な浮遊感に体が包まれる。
それは正に、竜が羽撃たいた瞬間だった。
「────!!────!!」
眼下で、サトシが何かを叫んでいるのが聞こえた。
だが、上昇時の空気抵抗の音で、かき消される。
二人の距離は開いていく。もう距離的にも、声を届けるのは難しいだろう。
「……君たちは、本当に強い絆で結ばれているんだね。そして………」
自身を抱きかかえる、メリュジーヌの声すら、もう聞こえない。
ピカチュウの脳裏に浮かぶのは、過去の記憶だった。
サトシとの旅の日々。数々の輝かしい冒険の日々。
オニスズメから守られた日のこと。
サトシをチャンピオンにした日のこと。
ほんの僅かな、数秒ほどの時間で、これまでの日々が駆け抜ける。
やめてくれ、と思った。
だってこれじゃあ、これが最後みたいじゃないか、と。
今こんな時に、こんなことを思い出すなんて、縁起でもない────
そんな風にどれほど、ピカチュウが願っても。
メリュジーヌは、止まらなかった。
-
「………すまない」
短い浮遊感と共に、ピカチュウの体が、メリュジーヌから発せられた何かに包まれる。
それは、彼女が生み出した魔力だった。
本来自身が身にまとうためのモノだから、数秒で消えてしまうけれど。今はこれで十分。
そして、魔力の膜で包まれたピカチュウを────放り投げた。
ピィイイイイイイカアアアアアアアアアアア─────!!!!
300キロは優に超えた剛速球で投げられたピカチュウは、彼方へと消えていく。
普段やなかんじと吹き飛ばしてきたロケット団も、こんな気持ちだったのだろうか。
そんな風に考えながら、数秒。
ピカチュウは、デパートの屋上に設置されていた柵にぶつかり、ぼよんと打ち上げられた。
衝撃は、魔力が吸収していたために痛みはなかった。
「ピカ……」
短く、鳴き声を上げて。
すぐさま、ピカチュウは走りだした。
絶対に、間に合わない。それはわかっていたけど。
それでも。
───ピカチュウ!お前は、俺の代わりに……みんなを助けてくれ。
あの時、轟音にかき消された、サトシの指示。
唇の動きから伝わってしまった、その言葉を。
否定する方法も、瞼から溢れるものを止める方法も。
今のピカチュウには、ただ走ることしか思い浮かばなかった。
■ ■ ■
────賭けに負けた。
ピカチュウが放り投げられたのを見た瞬間、サトシは作戦の失敗を悟った。
自分達ならば可能だと信じていた。
しかし、メリュジーヌの強さが、一歩彼等を上回っていたというだけの話だ。
そして、もう、打つ手はない。
「見事だった」
羽毛の様にふわりと眼前でメリュジーヌが降り立つ。
その瞳には惜しみない賞賛と、だからこそ君たちは此処で殺すという冷たい殺意があった。
彼女の瞳を見て、サトシは己の内側からこみ上げる物を抑えきれない。
「……何、でだ。本当に何で、君みたいなとても強い子が、こんなことを」
メリュジーヌはその問いにはもう答えたと言いたげな顔で、前に進むことを辞めない。
それでもサトシにはどうしても納得がいかなかった。
こんな事をして、本当に誰かを助けられると思ってるのか。
本当に乃亜が願いを叶えてくれるのか。
願いが叶ったとしても、他ならぬメリュジーヌが幸せになれるのか。
サトシにはどうしても、目の前の少女が本懐を遂げたとしても、笑っている姿が想像できなかった。
だから嘆き、怒り、訴えた。
「随分と買ってくれているようだね。乃亜に甘言に乗った私を
……だけど、それは君の見込み違いだ」
自分は私利私欲の為に殺し合いに乗った。
その在り方は正にかつてオーロラが言ったように、醜い厄災以外の何物でも無い。
尤も、願いの成就か、誰かほかの参加者に打倒されるその瞬間まで。
この生き方を変えるつもりは毛頭なかった。
だから、また一歩。少年を殺すべく歩みを進めて。
-
「でも、君は」
続く少年の一言で、足が止まる。
「……君は、ピカチュウを殺さなかった」
殺そうと思えば、殺せる瞬間は幾つもあった。
でも、君はずっと俺達だけを狙ってた。
殺してしまう方が安心なのにさ。
それをしなかったのは………
「君が、自分で言うよりも優しい奴だったからじゃないのか?メリュジーヌ」
だから、どうして嫌だった。
我慢ならなかった。放って置けなかった。
メリュジーヌが、これからも誰かを殺していく事が。
どうしても止めたかった。考え直して欲しかった。
「本当は、分かってるんじゃないのか?こんな事をしても…誰も救われないって
君の大切な人も、メリュジーヌ、君自身も」
そう言って今度はサトシの方から一歩を踏み出す。
目の前の相手が自分を殺そうとしているのは分かっていたけど。
それでも、確固たる意志と足取りで前に踏み出した。
メリュジーヌは応えない。微動だにしない。
何かを考えている様子だった。
無言の思索を続ける彼女の姿は、サトシにとってか細い希望となった。
まだ、話せる。説得できるやもしれない、と。
だから、もう一歩踏み出し、メリュジーヌの名前を呼んだ。
「優しいね、君は」
メリュジーヌが口をきいた。
それに意識を裂かれ、サトシの足が止まる。
そんな彼にふわり、と。蝶のように軽い足取りで彼女は近づき。
「───サトシ、逃げなさい!!!」
瞬間、横合いから梨花の声が響く。
だけど、その時にはもう全てが遅かった。
ずぶ、という肉を貫く音が大気に乗って広がり。
遅れてサトシは、自分がメリュジーヌに貫かれている事に気が付いた。
「メリュジー…ヌ、ダメ、だ………」
それでもサトシは諦めようとしなかった。
心臓を一息に貫かれた。もう死ぬという時でも。
それでもメリュジーヌに向かって手を伸ばした。
だが、彼女がその手を取ることは無く、虚しく彼の手は虚空を掻いた。
それが、彼の最期だった。
「───でも、私は、私が救われたい訳ではないんだ」
そう言って事切れた彼の身体を横たえて。
妖精騎士は、もう一人の獲物へと向き直る。
もっとも、もう一人の方ももう失血で死に行くのを待つばかりだが。
「………それで?後は私を殺して全部お終いってワケ?」
「…そうだ」
血の海に沈む少女の顔には既に死相が浮かんでいた。
放って置いても永くない。だが、苦しみを長引かせることもないだろう。
無言で歩みを進め、倒れ伏す古手梨花と同盟相手が呼んでいた少女を見下ろす。
-
「そう…それじゃ一つ教えて」
梨花には、どうしても知っておかなければならない事があった。
それを聞くまでは、死ぬ訳にはいかない。
目の前の相手は、どうやら冥途の土産を用意してくれそうな手合いであったから。
尋ねるのは勿論、沙都子の事だ。
彼女は、殺し合いに乗っていたのか、と。
これから死に行くとは思えない程の不遜な態度で、少女は尋ねた。
「……あぁ、彼女は殺し合いに乗ってたよ。多分、君の想像してた通りだ。
君が裏切ったのは許せないって、絶対に逃がさない、その為なら殺し合いに優勝するのだって躊躇はない…そう言ってた」
ある意味、予想通りの答えだった。実に沙都子らしいスタンスだと思う。
でも、それを知っても梨花にはもうどうする事も出来ない。
古手梨花にとっては、慣れ親しんだ死がもうすぐやって来る。
それはもう変えられない。
「……そう、それじゃ沙都子に伝えてくれる?」
だけど、それで運命に屈従して、全てを投げ出すのとは別の話だ。
「きっと、これが私達の終わりじゃない。対主催の誰かが…乃亜を倒す。
そうしたら、多分私達は……アンタの大好きな雛見沢に戻ってるわ」
何の根拠もない。けれど、何某かの確信を伴った言葉を。
死に行く少女は力強く紡ぐ。
「沙都子好みの勝負を考え付いたから、それで一度勝負をしましょう。
私が…アンタの大嫌いな聖ルチーアの生活で、アンタを満足させられたら私の勝ち、
そうでなければ、アンタの勝ち」
語る言葉は生命力に満ちていて。
本当にこれが死に行く少女の様相なのかと、メリュジーヌは言葉に出さず驚嘆していた。
「もしアンタが勝てば、私は雛見沢から出るのをきっぱり諦める。
それまでの時間は……まぁアンタを唆した奴に融通させなさい…そう伝えて」
だが、流石に少女にも限界の時が迫っていた。
元より今迄生きていたのが不思議なくらいの大出血だったのだ。
視線はおぼつかなくて、ハァハァと呼吸も苦し気なものに変わった。
その様を見て、メリュジーヌが、重苦しく沈黙を保っていた口を開く。
そして、尋ねた。
何故、対主催が勝つと言えるのか、と。
何故、沙都子がその言葉を聞き入れると思うのか、と。
その問いを聞いて、梨花はふっと笑って。
「希望や……奇跡って言うのは、意外としぶといものなのですよ。にぱー」
そして、もう一つ。
これを答えずに死ぬ訳にはいかないと。
梨花は最後の力を振り絞る。
どうして、彼女が私の言葉を聞き入れるか、だって?
「私と沙都子が、友達だからよ」
既に、袋小路を打ち破る糸口は掴んだ。きっと、恐らく、多分。
だから今は。
どんなすれ違いも、衝突も、惨劇も。乗り越えて。
また、何かのなく頃に。
何某かの確信を得たように、彼女はもう一度笑った。
その笑みは、猫を被ったモノではなく。
百年の魔女としての物でもなく。
明日の可能性を信じた、少女の物だった。
そうして。
古手梨花は、死んだ。
【サトシ@ポケットモンスター(アニメ) 死亡】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に卒 死亡】
-
二人分の死体を横たえ。
ランドセルの中の支給品を回収し、一息つく。
古手梨花のランドセルの中にあった、一枚のカード。
水色を基調としたそのカードには、治癒の効果が籠められていた。
それを使用し、電撃で負ったダメージを幾ばくか癒した。
だが、沙都子への報告も兼ねて一先ず休息を取りたかった。
古手梨花の最後の言葉を聞いたら、彼女はどんな反応をするかな。
独りになって浮かぶのはそんな考えだった。
当初は、生きたまま沙都子の前に引き渡すことを考えた。
だが、メリュジーヌは別に沙都子の部下になった覚えはない。
むしろ、古手梨花は北条沙都子の悪評を流布するだけでなく。
北条沙都子の視野を極端に狭めてしまう危険因子だった。
それに、古手梨花を拘束したとしても足手纏いを連れて歩く羽目になる。
それならば、殺してしまった方がいい。
メリュジーヌの至った結論だった。
(私が古手梨花を殺した事を知ったら、彼女は怒るかな)
まぁ怒った所で、と言う話ではあるが。
目指す場所は優勝なのに、この程度で決裂するようなビジネスパートナーは願い下げだ。
むしろ今回の一見は彼女との関係性を試すいい試金石になる。
そう結論付けて、ランドセルから沙都子に譲渡された通信機を取り出し、身に着ける。
「あぁ、沙都子かい?少し手間取ってね。二人…上手く行けば三人仕留めた。
今から戻って諸々話すよ。場所は何処にいる?………あぁ、分かった」
そんな業務連絡染みた一報を入れて、返事も待たずに通話を打ち切る。
此処ももうじき完全な禁止エリアとなる。一刻も早く脱出しなければならない。
最後に、もう一度殺した少年少女を一瞥する。
自分が持っていない物を確かに持っていた二人だった。
きっと、これからも自分が得ることはできない物を持っていた二人だった。
眩しい二人だった。
この子供達と比べれば、自分は───
「結局の所、僕は泥の底から届かない星を追いかける、腐肉でしかないんだろうね」
そう、一言残して。
メリュジーヌが飛び上がる。
地上で幾つか人影を見定めたが、今は無視した。
二人の子供の未来を喰らって、最後の竜はその地から姿を消した。
【G-2 港/1日目/早朝】
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、
デザートイーグル@Dies irae、『治療の神ディアン・ケト』@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
0:一旦沙都子の元に帰投する。
1:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
3:ルサルカは生きていれば殺す。
4:カオス…すまない。
5:絶望王に対して……。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
-
「クッ……クククク……ツメが甘いのよ……最強の妖精騎士が聞いて呆れるわ………」
派手に吹き飛ばされた。
墜落位置は、温泉の看板が見える事からC-2とD-2の境目あたりだろう。
ハァ…ハァ…と荒い息を吐いて。
仙豆で回復したはずなのに、鋭い痛みが走る身体で、それでもルサルカは窮地を脱した安堵の笑みを浮かべた。
メリュジーヌが振るう、切開剣技という技を受けた影響だった。
彼女の剣技を受けた者は簡単には治らない。
斬りつけられるだけでなく、魂にぞりぞりと鑢をかけられた様な状態だからだ。
それでも、あの怪物から生き延びた事実はルサルカの精神を高揚させた。
「絶対に…許さない…願いを叶えるのは、この私、何だから……」
自身の愛と確かな決着を付けられたにも関わらず、それ以上を望む欲張りには負けない。
絶対に、私が願いを叶えて見せる。
願いを叶えて、その時はあの愛しい人に───
あれ、だけれど。
その愛しい人とは、果たして誰だったか???
分からなくなった。分からないなりに考えて、一つの名前を導き出す。
「メリュジーヌ…貴方に絶対に追いついて、縛り上げて、私の元から去れなくしてあげる。
私が、貴方にとっての……『不変』になる。私は貴女を、手に入れる」
支離滅裂な思考だった。
原初の渇望が僅かに顔を覗かせ、そしてあっという間に醜悪な執着に変わっていく。
彼女を知るものが見れば、冷笑を禁じ得ない程見るに堪えない光景であった。
成就した時の光景を夢想して、ルサルカは悦に浸った。
オーロラは愚にもつかない毒婦だったが、何故彼女がメリュジーヌを飼い続けたのかは理解できた気がした。
愛もあるだろう。でもそれと同じくらい、飛んでいってほしくなかったのだ。
自分と同じ大地に這いずり、朽ち果てて行って欲しかったのだ。
置き去りなど、させたくなかったのだ。
あぁ、それは今のルサルカにも共感できる気がした。
だって、私は足が遅いから。
「手に入れて……私から離れられなくしてから殺せば、キモチいいでしょうね。
その上で願いを叶えれば、きっと格別だわ」
自分は、ブック・オブ・ジ・エンドと言う刀の影響を受けていない。
その証拠に、メリュジーヌも屈服させ、手に入れた後はゴミの様に捨てられる。
切り捨てて、願いの成就を優先できる。
確かに、その視点ではブック・オブ・ジ・エンドの影響を受けていないと言えた。
だが、彼女のもっと深い所……根源たる渇望は、深刻な影響を受けていた。
元より、自壊衝動という魂の寿命限界を迎えつつあり、永遠の刹那を忘却していた彼女が。
ありもしない過去を改変し挟み込むというブック・オブ・ジ・エンドを使用して真に何の影響も受けないなどありえる筈もなかった。
「この刀を使って、他の参加者を操れば…シュライバーをぶつけるのもいいかも」
キウルに支給されたブック・オブ・ジ・エンドの説明は記載されていない事項があった。
それは、斬られた対象は数分で効果が解除され、記憶を挟みこまれた事実も認識可能だが。
ブック・オブ・ジ・エンドを握る本人───使用者には、その効果が永続する。
正確には、持ち続けている限り、効果は解除されない。
ブック・オブ・ジ・エンドを手放せば、斬られた対象と同じく十分ほどで効果が解除されるが…
人は、一度手に入れた力と縁を切るのは難しい。
手に入れた力を強力だと認識していれば、猶更だ。
今のルサルカ・シュヴェーゲリンをキャンパスとするなら。
掠れた原初の渇望(ねがい)の上から、改変された過去というペンキを塗りたくっている状態だ。
ブック・オブ・ジ・エンドを使用すれば使用する程、
彼女が世界で自分以外に唯一美しいと思った思い出は、■■■■は塗りつぶされていく。
だが、彼女自身がそれに気づけていない。
「───今度こそ、置き去りに何か…させないんだから」
魔女は笑う。自分こそ全てを手玉に取る者だと信じて。
自分自身の手で、最も美しかった記憶を犯している事に気づきもしないで。
それこそ、彼女もまた決して交わらない空に浮かぶ星を追いかける、地星であることの証明だったのかもしれない。
-
【C-2 /1日目/早朝】
【ルサルカ・シュヴェーゲリン@Dies Irae】
[状態]:全身に鋭い痛み (中)、シュライバーに対する恐怖、キウルの話を聞いた動揺(中)、メリュジーヌに対する妄執(大)、ブック・オブ・ジ・エンドによる記憶汚染
[装備]:血の伯爵夫人@Dies Irae、ブック・オブ・ジ・エンド@BLEACH
[道具]:基本支給品、仙豆×1@ドラゴンボールZ
[思考・状況]基本方針:今は様子見。
1:シュライバーから逃げる。可能なら悟飯を利用し潰し合わせる。
2:ドラゴンボールに興味。悟飯の世界に居る、悟空やヤムチャといった強者は生還後も利用できるかも。
3:メリュジーヌは絶対に手に入れて、足元に跪かせる。叶わないなら殺す。
4:ガムテからも逃げる。
5:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
6:俊國(無惨)が海馬コーポレーションを調べて生きて再会できたならラッキーね。
7:どんな方法でもわたしが願いを叶えて───。
[備考]
※少なくともマリィルート以外からの参戦です。
※創造は一度の使用で、12時間使用不可。停止能力も一定以上の力で、ゴリ押されると突破されます。
形成は連発可能ですが物理攻撃でも、拷問器具は破壊可能となっています。
※悟飯からセル編時点でのZ戦士の話を聞いています。
※ルサルカの魔眼も制限されており、かなり曖昧にしか働きません。
※情報交換の中で、シュライバーの事は一切話していません。
※ブック・オブ・オブ・ジ・エンドの記憶干渉とルサルカ自身の自壊衝動の相互作用により、ブック・オブ・ジ・エンドを使った相手に対する記憶汚染と、強い執着が現れます。
※ブック・オブ・ジ・エンドの効果はブック・オブ・ジ・エンドを手放せば、斬られた対象と同じく数分間で解除されます。
【JM61Aガトリングガン@ Fate/Grand Order】
狂化した円卓の騎士、ランスロットがかつて第四次聖杯戦争において自身の宝具である『騎士は徒手にて死せず』により宝具化したF-15の装備のガトリングガン。
何故かカルデアの狂化ランスロットの霊基にも刻まれており、宝具使用時にはこのガトリングを乱射する、気に入ったのだろうか。
宝具化によって使用者の魔力量に比例して弾丸を発射できる。
また、黒い魔力に浸食されていることで威力は大幅に向上している。
【Zリング@ポケットモンスター(アニメ)】
古手梨花に支給。
トレーナーの気力体力を使って、ポケモンが Zパワーを放てるようにする不思議な腕輪。
このZパワーを用いて放つ技は、通常の技よりも遥かに強力なZワザと呼ばれる。
デンキZのZクリスタルとセットで支給された。
【治療の神ディアン・ケト@遊戯王デュエルモンスターズ】
古手梨花に支給。
使用すれば1000ライフポイント回復できる魔法カード。
本ロワでは参加者の回復に用いられ、使えばダメージや疲労を一段階引き下げられる。
例:ダメージ(大)→ダメージ(中)
ただし、対象が致命傷を負ったとみなされる参加者の場合発動は失敗し、不発に終わる。
当然ながら欠損した腕が生えたりもしないし、複数人を一気に回復させることもできない。
一度使用すれば三時間使用不可能となる。
【ルサルカ、ディオ、キウル、三人の共通認識】
【海について】
船や何らかの方法で海上に滞在する場合、一時間以上の滞在で起爆…そして地図外に出ても警告が鳴り起爆する。
現状、首輪を外して地図の外へ出ると、どうなるかは不明。
つまり、海上での遅延行動は不可能。
【バトルロワイアル会場について、ルサルカの考察】
数十人を機械や魔術で生きたまま、数日間管理するのは現実的ではなく、恐らく乃亜は自分も含めた電脳世界を異界として再現して、参加者は全員生身のまま招かれたと考えています。
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投下終了です
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投下ありがとうございます!
強い!!!
このメリュ子、滅茶苦茶強ェ!
サトシとピカチュウも最終回後なので、めっさ強い筈なんですがそれでも一歩及ばない圧倒的強さ。
逆にこんなのと戦えてたピカチュウ、こいつ種族の限界超えすぎだろ。
ルサルカとの合流があと一歩早ければ勝負は全然違ったかもしれません。
梨花ちゃまも最後までメンタルがブレる事無く、芯の強さを貫き通していて精神的には負けてなかったんですよね。
巡り合わせが悪すぎたのが何とも……。
メリュジーヌがピカチュウを殺さないでいる優しさも、ピカチュウにとってはある意味残酷なわけで。
気絶も出来なかったから、間に合わないと分かっても走るしかない……。
メリュジーヌも勝ったのに、何も得るものがないまま突っ張っ知るしかない。
ルサルカも老人ボケが悪化する。
生存者に誰も勝者が居ないのが悲しい……。
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我愛羅、北条沙都子、カオス、美山写影、櫻井桃華、フリーレン、ハーマイオニー・グレンジャー、佐藤マサオ、シャーロット・リンリン、ハンディ・ハンディ
予約して延長します
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絶望王、ドラコ・マルフォイ、灰原哀、魔神王、ゼオン・ベル、ジャック・ザ・リッパー
予約します
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延長お願いします
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tesu
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投下します それと申し訳ないのですが状態表は未完成なのですが、後から追加させてください
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「そろそろ、一姫が戻ってくる頃合いだ」
乃亜の尊大で不快な放送を聞き終え、フリーレンは時計の針に一瞥をくれる。
開示された名簿には知人や仲間の名前はない。子供の知り合いなどそう多くもないが、もし乃亜が死者を蘇らせるのなら断頭台のアウラでも復活させているのではと懸念したくらいか。
それもただの思い過ごしで済んだのは幸いだったが。
何にせよ、フェルンとシュタルクが巻き込まれていないのは僥倖だった。
「三人の名前は呼ばれてないね」
写影がフリーレンに確認するように呟く。
数時間前にマサオの探索に出掛けた一姫、梨花、ガッシュの名前は呼ばれていない。
殺し合いのルールに則ればまだ命を落としていないことになる。
だからこそ、フリーレン達はまだこの仮拠点の民家から移動していない。
リーゼロッテの急襲後、怨嗟の魔女を警戒しながらも一姫達との合流を考え、この拠点に滞在していた。
「マサオさん……」
あの時、雷帝の少年から逃げ出したときに、取りこぼしてしまった二人の小さな子供。
その内の一人は名も知らない赤ん坊だった。
桃華は二人が助かるように、遥か上空から自分の安全をかなぐり捨て余力を回してマサオ達を着地させた。
そのつもりだった。
けれど、この島の中で本当に戦えない無力な子らを、突き放してしまったようで。
胸が抉られてしまうような錯覚に陥る。
「僕らにやれることは、多くはなかった」
それが慰めにならないと分かってはいる。
だが、桃華と写影がほぼ身動きのできなかった上空の中で、取れる選択肢はあまりにも少ない。
こうして助かったのも、フリーレンと合流できたのも運が良かったからだ。
場合によっては、本来は自分たちが死ぬ可能性の方が高かったすらとさえ思う。
「私も聞いた限りだと、桃華に非はないと思うわ」
「あまり、マサオという子に気を取られても仕方ないよ」
ハーマイオニーは心中を察して同情的に、フリーレンは逆に現実的に物事を見て切り替えていけと指摘する。
放送で名前を呼ばれていない以上、マサオは少なくとも死んではいない。
赤ん坊も写影の推測を聞く限りでは、相当きな臭い。赤ん坊に擬態した魔族というのもありえない話じゃない。
それに、この島の中で上位の戦闘力を持つガッシュと、高度な頭脳を持つ一姫を探索に向かわせている。
やれるだけの救助は送っているし、それで間に合わなければ仕方のないことだ。
フリーレンも自分や、ここの子供達を死なせずに済むだけで手一杯なのだから。
「ガッシュと一緒に戻ってくるかも。案外、元気かもしれないよ」
「……えぇ」
桃華は小さく笑みを作って、みんなに微笑えんだ。
「ところで、名簿が開示されたけど皆、知り合いはいた?
マーダーになりそうな人物や、友好的な人が居るなら知っておきたい」
「梨沙さんは、大丈夫だと思いますわ」
「僕は誰もいなかった」
「マルフォイ! 絶対に殺し合いに乗ると思うわ!!」
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ドラコ・マルフォイという子供が少し、危険思想なのはハーマイオニーの口ぶりから伝わってくる。
ハーマイオニーの住む世界だが、大分差別思想が蔓延しており魔法使いとそれ以外を区分しているようだ。
マルフォイもその例に漏れず、マグル──魔法が使えない者の総称らしいが──を殺して自分だけ助かろうとするのではないか。
そうハーマイオニーは懸念していた。
「落ち着いてハーマイオニー。
所詮、子供だよ。会ったら無力化しておけばいい」
本当に誰かを殺していて、引き返せないところまできているならまだしも。
殺し合いに巻き込まれた混乱と恐怖で、パニックに陥っているだけなら、軽くあしらい殺し合いに乗るのを断念させればいい。
差別思想もただ大人の真似をしてるだけで、本人が心の奥底から考えているとも分からない。
こちらが寛大に扱って、それでも言う事を聞かないのなら、その時だが。
「もう、うんこと小便だらけで最悪よ!!」
血と排泄物の匂いを纏わせ、玄関から一個の異形が飛び込んできた。
首から下は肥満体系の子供、だが頭部は人のものでは考えられないサイズと両脇から五本ずつ伸びたカニのような造形。
人一人の頭なら、一口で丸飲みにできそうな巨大な口。
一目で魔物や魔族に属する存在だとフリーレンは直感する。
(どうやって入った───いや)
リーゼロッテに張られた結界を破られたとはいえ、交戦後に即座に修復した。
破壊前より急ごしらえになってしまったのは否めないが。
だが、こんな見るからに化け物然とした魔族の侵入を許すほど、雑なものでもない。
───魔族を殺す(ゾルトラ───)
「ひいいいいいい!!!?」
ハンディ・ハンディにとってはとんだ災難だった。
リンリンから逃げる際、うんことおしっこを漏らしそれが冷えてひんやりとした気色悪い触感に耐え。
放送で山本勝次の名を呼ばれ、上機嫌になり、宮本明と横のいつもくっついているクソハゲに「ざまあみなさい! クソ人間!!」 等と蔑みながら上機嫌になり。
見つけた手ごろな家でシャワーを浴びようと飛び込んだ次の瞬間、妙な服を着た耳の長いクソ女に杖を向けられ光がハンディを照らしている。
魔法なんてものは存在しない世界の住人のハンディでも、ルーデウスとの交戦を経てこの女があれと同系統の力の使い手なのは理解している。
それが尋常ではない勢いで光を瞬かせているのだ。
今、人間でいうところの、眉間に銃を突きつけられて引き金に指を掛けられているのと同じ状況なのは理解していた。
「待ちなさいちょっと! ねぇ!!?」
だから叫ぶ、ありったけ。
もっとも、相手が最悪すぎた。
この島で最も魔族を憎み、そして信用を置かない狩人。
多くの魔族を葬送してきたフリーレンが血の匂いと、排せつ物の匂いしかしないこんな化け物の命乞いに耳を傾けるはずがない。
「ちょっと、何をしているのよ!!」
そこに、割り込んだのはハーマイオニーだった。
フリーレンの前に立ち、ハンディを庇うように腕を広げる。
-
「ハーマイオニー、そいつは魔族だ」
「魔法生物かもしれないじゃない。
話くらい、聞くべきよ。見た目で判断するのは良くないと思うわ」
これはフリーレンの世界とハーマイオニーの世界の価値観の違いだ。
ハーマイオニーの世界には、人語を話す異形は少なくない。ケンタウルスのように、あくまで一部ではあるが、ダンブルドアやハリーに等の人に好意的な種もいる。
それらの事情もあり、フリーレンの話は聞いていたが、何も全ての魔族とやらを殺処分するのはやりすぎではないかとハーマイオニーは反感を持っていた。
このカニのような怪物が、フリーレン世界の魔族とも限らないのだから。
「その返り血……」
「これ、一緒にいた男の子が殺されちゃってぇ!!」
ここぞとばかりにハンディは叫ぶ。
この血は石毛もといチンゲという自分が同行していた男の子が殺されてしまった時に浴びてしまったものだと。
着替えなかったのも、その後に隠れるのを優先したのと色々あったからだという。
実際に名簿には石毛という名前があった。少なくとも、石毛と面識があったのは事実らしい。
「誰が殺したか見てないの?」
「だから、暗くて見えなかったのよ! 怖くてすぐ逃げちゃったし」
「……」
「な、なによ……仕方ないじゃない! 私も死にたくないんだから!」
話の筋は通っている。
ハンディは一番最初の放送前に襲われたと供述していた。
血の固まり具合から見て、その頃合いに襲われたのであれば矛盾もない。
(見た目よりは、賢いな)
こいつは人間の血がどれだけの時間で固まるか、正確な知識を経験則で得るほどに人を殺めたのだろうと予測する。
フリーレンはハンディ語る話を嘘だと確信していた。
ただ、証拠が一切ない。それを証明するすべがフリーレンには欠けている。
「警戒をしたほうが良いかもしれないけど、だからといってすぐに殺すのはやり過ぎよ」
「……」
フリーレンは人間性に欠けているが、社会性を重んじない訳ではない。
魔族を前にして衛兵に取り押さえられれば、実力行使で抜け出せたにも関わらず敢えて連行され、事を荒立てないように努めた。
かつて、ヒンメルやその時立ち寄った村の村長が魔族に情けを掛けた時も、警告はしつつも止めは刺さなかった。
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「もし、妙な真似をしたら殺す」
「し、しないわよ……」
無表情のまま睨みを利かせ、フリーレンは杖を下す。
ここでハンディを殺すのは簡単だが、ハーマイオニーの反対を押し切って関係を悪化させ、内輪揉めにもつれ込むのもよろしくない。
さすがに、村長を殺された時の繰り返しにならないよう、厳重に監視はしておくが。
(封魔鉱か…こんなものが支給されているなんてね)
ハンディの取り調べを行う中で、支給品をカツアゲしたところ興味深いものをフリーレンは発見した。
封魔鉱、魔法を封じる力を持つ鉱石。
ハンディがフリーレンの結界を突破したのも、これが理由だろう。
(だが、これは非常に出来が良いとは言えない贋作だな)
面白いのは、フリーレンの結界を完全解除するのではなく、フリーレンすら気付かない程の一部分だけを無効化した事。
そして本来は魔法を封じ光を放つ封魔鉱が、光ではなく罅が入っている事。
何より、フリーレンが放とうとしたゾルトラークをランドセル収納時とはいえ、無効化しなかった事。
この事から、無効範囲も狭まった上で魔法を無効化する度に、亀裂が入り耐久にも問題がある偽物だと判断した。
(乃亜も封魔鉱は加工できなかったのか)
硬すぎて、乃亜の技術でも加工する術が存在しなかった。
あるいは。
(純度の高すぎる封魔鉱は、この島の魔法に影響を及ぼすから持ち込めなかった)
これは悪くない情報だ。
もしも、乃亜が封魔鉱を自在に加工でき武器へと仕込めるのなら、フリーレンには手立てがなかった。
無論、この偽物がフェイクで油断させる為と考えられなくもないが。
「───マサオ、さんが……?」
あまりにも臭う為、シャワーを浴びさせ着替えも民家から拝借しハンディに着せた後。
ハンディも一息着いて気が抜けたのか、シュライバーという気狂いとリンリンという怪物に襲われて、大変だったと口を滑らせた。
その時にエスターという少女が捕食され、その場にマサオが立ち会っていたとも。
「そうよ、あいつ追い詰められた時、変なカードの力でエスターと入れ替わったのよ。
そしたら、そのまんまエスター、食べられちゃったワケ」
特殊なカード、フリーレンに支給されたアイテムと恐らく同一種のものだろう。
リンリンが巨人のような体躯の持ち主で、人を食らいだした理由は分からない。強く半ば脅すようにフリーレンが聞き出そうとしても、ハンディも要領を得ない口ぶりで、ハンディ自身も理解しきれていない様子だ。
-
(魔族? いや、奴らならもっと狡猾にする)
個体差はあるが、魔族の知能は低くない。フリーレンを侮り、実力差も分からず挑んだアウラの配下のような個体もいるが、一先ずは対主催という体で溶け込んだのなら、そんな発作のように人を捕食するような、あからさまな真似はしないだろう。
それは、フリーレンの世界の魔族という概念であるため、別世界の魔族という事も考えられるが。
「そん、な……」
リンリンの異常さと危険性などよりも、桃華にとって驚嘆に値したのはマサオが間接的な殺人を犯してしまったことだった。
そして、そのマサオの元には赤ん坊はおらず、なおかつマサオ本人が語るにはうずまきナルトという化け狐を操る殺戮者に襲われ、命を落としたのだという。
「あの時……」
選択肢はほぼ無いに等しかった。
マサオ達を安全に着地させられるようにするのが精一杯で。
でも、ハンディが言うにはマサオが飛ばされた施設はろくでもない場所らしかった。
施設の名称を確認し、写影が顔をしかめるのを見て。
写影ははぐらかしていたものの、地図を見てハーマイオニーが「とんでもない施設ね! 頭がおかしいんだわ!」と叫んでいたのを聞いて。
どういうことかと聞けば、気まずそうにハーマイオニーは話してくれた。
本当に最低な施設名で、流石の桃華といえども乃亜に対する嫌悪感が、その上限を更に飛び越えていく。
人の命を弄ぶ輩に言っても今更だが、女性を何だと思っているのか。
映画館にそこを運営するスタッフが居なかったように。
仮にそういう場所であったとしても、今は誰もいないもぬけの殻で、危険性はそうないだろうと写影は言ってくれたが。
自分があの二人を死地に追いやったのではないかと、ずっと自分を責め続けていた。
もっと桃華が上手くウェザーリポートを操れていれば、全員はぐれることなくフリーレンと合流できたかもしれない。
今頃は皆でハンバーグを食べて、あの赤ちゃんも死なずに済んだかもしれない。
「アンタ、せめてデパートとかに飛ばしてあげれば良かったじゃない」
それが本当にあの佐藤マサオなのか、確認のために容姿やそれまでの経緯を知る限りハンディに話させたが。
間違いなく、その全てが佐藤マサオ本人であることを示していた。
ハンディもその中で事情を知りながら、特に悪気もなく人間相手に珍しく同情的な発言を漏らす。
「君、黙れ」
「ひぃ……!」
写影から殺意のボルテージが引きあがったのを感じ、ハンディは冷や汗をかきながら口を噤んだ。
常日頃、馬鹿人間と見下した言動を繰り返すハンディでも、この殺し合いは自分よりも何百倍も強い人間がごまんと居るのは理解していた。
この写影も、それに連なる強さを持っているかもと考えると、生きた心地がしない。
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「良いんですのよ。写影さん、ハンディさんの言う通りですもの」
「それは違うよ。君は……」
「ちゃんと、地図を見て立地をちゃんと頭に入れていれば、もっとマシな場所に。
ウェザーリポートの扱いももっと練習していれば……マサオさんも赤ちゃんも……」
「桃華、それはもう…そう出来るのが理想かもしれないけど、いくら何でも無茶だわ」
一人の人間が並行して行うには限界がある。
幼いながら、豊富な知識とそれに見合った能力を兼ねるハーマイオニーだが。
殺し合いを強制され、変な島に送られ、慣れない未知の能力を手にしてその練度を二時間もしない内に深め、島の立地も正確に頭に叩き込むなど、不可能だと匙を投げる。
「万全を期するのが一番だけど、そうならずに賭けに出るしかない場面もある。
仕方ないで、済ませられない気持ちは分かるけどね」
フリーレンも、桃華の立場でそんな完璧な立ち回りを要求されて、叶えられるとも思えない。
かつてエルフの村を滅ぼされ、誰も守れなかった。
あまり他者への共感性の高くないフリーレンでも、その過去から桃華が自分を責め続けてしまう辛さも想像がついた。
「マサオさんは、まだこの近くにいるかもしれない。ハンディさん、そうですわね?」
「様付けにしてくれないかしr───」
ひやりと、後頭部に冷たいものが当たる。
フリーレンの杖の先だった。
「は、ハンディで……い…良いわ……桃華ちゃん……。
ま、子供の足だしそう遠くには行ってないんじゃない?」
「……フリーレンさん、私」
「駄目だよ。桃華」
桃華の意図を察し、先回りするように否定する。
「そのリンリンという娘も危ないけど、それ以上にシュライバーという男の子も不味い。
正直に言うけど、私でもあまり勝てる気がしない」
不安にさせるのは分かったうえで、説得力を持たせられるように敢えて自分を卑下するような言い方をする。
ハンディの話を聞いただけでもシュライバーの実力は高い。その残虐性も、ある意味では魔族をも凌ぐだろう。
本当に戦うのであれば、絶対に負ける気などないが。それは別とし、交戦のないまま殺し合いからの脱出を達したいのが本音だ。
-
「全員で固まっている方が良い。私もその方が守りやすいから。
……多分だけど、シュライバーは機動性が高すぎて、逆に一つのエリアに留まることは多くないと思う。マサオとは、きっとそう何度も遭遇しないよ。
リンリンというのも、腹が膨れたのならそう人は襲わないだろうし。
だから、慌てて探すより……ガッシュとの…合流を待とう」
「……」
理屈では、フリーレンが語るまでもなく、この場に留まり続けた方が良いと分かっていた。
だけど、今もこうしてマサオが辛い目に合っていると考えるだけで、良心の呵責に苛まれていく。
フリーレンに保護され、食事まで提供されて、談笑までして。
そんなぬるま湯に浸かっている時に、あの子はどんな怖い目に合って苦しんだのか。
自分はそんなことも知らずに、最低な事を。
「───この結界、あの屋敷のものと同じだな」
フリーレンが異変に気付き、結界の破壊を悟ったのと同時に冷たく声が響き渡る。
民家の壁が吹き飛び、その破片が舞い散る。
そこから詫びることもなく、外から土足で大きな瓢箪を担いだ少年が入り込む。
「……しつこいな」
「禁止エリア、殺し合いの停滞を考えたうえでの処置であれば、そこに多くの参加者が潜んでいるのは当然か。
もしやと思ったが、移動して正解だったようだな」
砂漠の我愛羅。
血に飢えた殺戮者は、新たな血を求め狩場を移動した。
(こいつ……)
血の匂いがする。
今まで出会った人類と魔族と魔物と野生の獣も。
その全てを合算した中で、上位に位置するほどの血の匂いだ。
殺した数は生半可なものではないだろう。その死臭がこびりついて、我愛羅から剥がれていない。
「良い腕だ」
不穏な殺意はそのままに、フリーレンの実力を高く称賛する。
それが忍術かまでは分からず、畑違いのものではあるが。フリーレンの張った結界は非常に高度なものだった。
一度目は、それで顔も拝めず取り逃がしたのだから。
だが二度目であれば、我愛羅も相応に対策も思いつく。砂で地面を砕き、結界の及ばぬ地中から接近し内部に潜り込み、内部から結界を破壊する。
フリーレンが気付いた頃には、既に我愛羅は目の前だ。
「────!!」
瞬時にして五つの光線が迸る。
我愛羅の意識と関係なく砂の自動ガードが展開された。
「凄まじい貫通力だ」
盾のように広げられた砂の塊。
そこに五つの風穴が広げられ、その奥から我愛羅の視線がフリーレンを捉えた。
砂を抉り、貫く触感の僅かな違和感から、我愛羅は砂の防御を自動から手動へと変更。
防ぐのではなく、射線を逸らすよう砂を変形させしフリーレンの魔法を避けた。
「……」
完全な不意打ち、そして初見の人を殺す魔法(ゾルトラーク)を、その性質を見抜き対処された。
そして砂の防御も非常に厄介だ。
自動に攻撃を感知し、意識外であろうと攻撃を遮断する。砂という不形の性質も特定の形に囚われることなく、優秀な防御を可能とする。
ただの防御であれば、ゾルトラークの着弾で決着が着いたのだ。
それを射線をずらす等と器用な真似を出来たのは、砂のその性質ゆえだ。
-
────砂縛柩
足元から砂がうねりを上げ、フリーレンを取り囲むように浮かぶ。
四方を囲む砂に、防御魔法を展開しその身に触れるのを阻む。
(物質に魔力を練り込んだ砂の魔法)
ゾルトラークがそのあまりの強さに解析、普及したが為に一般攻撃魔法と成り果て、防御魔法は魔法には強いが、物理的な攻撃には脆弱であるという独特な変化を遂げた。
今の魔法使い。フェルンならばいざ知らず、例え一級魔法使いでもこれを初見で食らえば今の防御魔法で防ごうとし、砂に押し潰され血と肉片を撒き散らしていたに違いない。
「写影、すぐにカタを着ける。皆を連れて逃げて」
「フリーレン……」
どの時間に、何処で合流するか。
それらの情報を口にしない理由は一つ。
フリーレンも我愛羅を確実に仕留めきる自信がないから。
もしもフリーレンが破れてしまえば、それを聞いた我愛羅に追跡されてしまう。
そして、リーゼロッテもリンリンもシュライバーも近辺に居るかもしれないこのエリアで、フリーレンがこの場への離脱を指示したのは。
「ごめん。巻き込まない自信がない」
民家を覆い隠し朝日を遮断し、大きな影が写影を黒く染め上げる。
その正体は砂だった。山のように膨大な砂が、我愛羅の背後から盛り上がり蠢いている。
地中を掘り進めた時に、石を岩を砕き、それらを砂に変えたのだ。
あの結界の主であれば我愛羅も苦戦は必須だろうと考えて。
(なん、だ…あれ……)
まるで生きた砂嵐だった。
あんなものを、ちっぽけな人間にぶつける気なのか?
固まっていた方が良いと言ったフリーレンが今はリスクと危険を承知で、自分から離れ逃げろというのも納得がいく。
こんなものを、庇いながら対処するなど不可能だ。
「写影、行くわよ。フリーレンの犠牲を無駄にしては駄目」
「ハンディ、お前は残れ」
「え、そんな……そん……」
「僅かでも動けば殺す」
フリーレンから僅かに睨まれ、ハンディはその場を微動だに出来ずにいた。
自分の監視から離れて、写影達と同行させるなどフリーレンが許す訳もない。
「フリーレンさん……」
「桃華、行こう」
躊躇う桃華の腕を掴む。
リーゼロッテの時は、フリーレンが敢えてヘイトを稼いで攻撃がこちらに及ばないよう調整してくれた。
だが、我愛羅は────。
────流砂瀑流
一度、取り逃がした経験から。
ここで逃がすくらいならばと、一気にこの場の全員を圧殺する。
声で語らずも。その殺意に満ち溢れた目が語っている。
-
「くっ、皆! 走るんだ!!」
まるで海のように、砂が波立ち民家をも遥かに超えた津波となって、一斉に降り注ぐ。
以前、ルーデウスとさくらに放ったそれとは、規模が比較にもならない程の砂の津波。
間に合うかなんて分からない。逃げろと言われたが、これはフリーレンすらも想定外の異常事態かもしれない。
ただ、ハーマイオニーが涙目になりながら自分の横を走り去ったのを確認して、写影も桃華の腕をより強く掴んで、引っ張るように走る。
もう、今はただただ走るかしない。
意思を持った砂は雪崩の如く民家を飲み込み、その仲まで砂が流れ込み、一秒もせずにフリーレンに迫っていく。
その次は、写影達だ。猶予は一秒にも満たないだろう。フリーレンのほんの数コンマ後に死ぬかどうかでしかない。
「大丈夫だよ。写影」
膨大な量の砂の蠢くなか、その轟音にかき消されそうな小さな声。
だが、深い強さを込められた声で、フリーレンは言い放つ。
「ここから先は誰も通さない」
絶体絶命だった。
フリーレンの強さは先のリーゼロッテとの戦いで知っていたが、それでもこれをどうにか出来るとは到底思えない。
だけど、その砂の波に比べあまりにも矮小な後姿が。
今はとても大きく力強く思えて。
「お前────」
鏖殺を確信していた我愛羅が表情を驚嘆へと染め上げる。
感じるからだ。チャクラではない。だが、非常に近しいエネルギーの鼓動を。
その強大さ、絶大さ、膨大さ。
どれを取ってもそれはまるで、尾獣のようだ。
「そうか、力を」
砂がそれを上回る光線により相殺された。
この流砂瀑流は、決して我愛羅の負担も少なくない大技だ。
それを相殺する程の力量を、この少女からは見いだせなかった。
だが、今ならば分かる。これは敵を欺く為の罠だ。奴の持つエネルギーの総量は、尾獣にも匹敵し得る。
それを長年の研磨により、悟らせぬよう力を低く見せる技術を習得している。
何の為かなど聞くまでもない。強さを誤認させることで、相手の隙を突く。
確実にして万全の態勢で相手を殺す。何を仮想敵にしているか知らないが、この女はそれに強い殺意を胸に抱き、こんな騙しの技術を磨き続けたのだ。
「フリーレン────」
まるでミサイルでも投下されたかのような爆風が炸裂し、目が開けられない程の閃光が迸る。
その風圧は、今にも写影の小さな体躯なら吹き飛ばしてしまいそうだ。
それなのに、風は髪や服を揺らすだけでその体には傷一つ付いていない。
民家の破片や砂の粒など、人を簡単に殺傷するようなものが、風に煽られて飛び交っているというのに、そのどれもが写影達を避けるように飛んでいく。
フリーレンが自分達の逃げ道を守っている。
どんな魔法なのか知らないが、でもそれしか考えられない。
フリーレンの強さを改めて知ると同時に、あんな大技何度も連発すればきっと消耗も激しいのだろうとすぐに分かる。
そこへ、写影達への配慮もして戦えば猶更だ。
自分達は邪魔なんだ。
もう、振り返る事すらせず写影は走り去る。
(行ったか)
二つ結びにした髪を揺らし、フリーレンは無表情のまま相対者へと視線を向ける。
砂の防御を展開しながら我愛羅は健在だ。
フリーレンに驚嘆しながらも、決して己が劣るとも考えてはいない。
むしろ、笑みを深めていた。
-
「ク、……く、ク……」
引き攣ったような笑いで、普段からそういったことになれていないのだろう。
糸で皮を無理やり吊り上げたような、口許の笑みに反して瞳孔は見開いている。
それは笑いというよりも、威嚇のようにすら見えた。
「中に何か飼っているな」
「知りたいなら教えてやる」
両手を動かし、印を素早く組む。
なるほど、この男の世界の魔法は手の動きにより設定(プログラミング)されるのだろう。
自分達の扱う魔法がそのイメージにより具現化するのであれば、あの男の術は印を組むことでより強くイメージの固定化を図っているのかもしれない。
フリーレンは努めて冷静に、相手を観察し分析する。
「生きていられたらな」
我愛羅は歪んだ笑みを更に歪ませる。
開示された名簿には、あのうちはサスケの名はなかった。
期待外れも良い所だろう。うずまきナルトとかいうアホ面を呼んで、奴を呼ばなかった乃亜の目は節穴のそれだ。
だが、あの沙都子を守ろうとするメリュジーヌという少女。
そしてこの未知数の力を持つフリーレンという女。
少しは、楽しめる相手が増えた。
それに、うずまきナルトと奈良シカマルもいずれは殺すつもりだった。逃がす気はない。
「フリーレン、あ…あんた……ほ、ほんとに……あいつなんとかできるんでしょうね?」
怯えながらハンディはやはり微動だにせず震えた声を絞り出す。
我愛羅もヤバいが、フリーレンも怖すぎる。
戦いの最中、その節々からあの男と似たものを感じるのだ。
吸血鬼を憎み、一切の慈悲もなく鬼のように斬り捨てる修羅のような男。
あの宮本明に。
「操られてるって訳でもないね。それなら、私も加減はしない」
こいつも同じだ。この憎悪、この刺すような殺気。
写影に穏やかに接していたあの少女と同一人物とは思えない。
我愛羅と、そしてそれ以上に我愛羅の中に潜むであろう者に対し、深い憎しみを抱いている。
砂と光線が交わり、爆音を鳴り響かせる。
殺意と殺意のぶつけ合い、それが文字通り殺し合いの開幕のゴングとなった。
────
-
『二人…上手く行けば三人仕留めた』
「期待以上の戦果ですけど」
メリュジーヌから連絡を受けて、沙都子は息を飲んだ。
上手くいけば三人。あの時、仕留め損ねたシカマル、梨沙、龍亞。
人数で言えばあの三人組になるが。
確か、港に向かったのは他にも、サトシともう一人梨花も居た筈だ。
彼らが合流し五人になり、その内の三人というのも考えられる。
(……梨花を、殺したんですの?)
メリュジーヌは会ってから話すと言った。その時、何故沙都子は誰を殺めたか聞かなかったのか、自分でも分からずにいた。
ただ、何かを悟られぬように平静を装っていた。望んだ通りに期待通りの返事を聞けたのというのに。
───ここでは君のオヤシロ様の力も制限されている。自殺するのはやめた方がいい。
今になって、乃亜のメッセージカードが脳裏で何度も反唱してしまう。
もしかして自分の知らぬところで、取り返しのつかない事になっているのでは。
自分と同じく、梨花も同様の制限を科せられていないとどうして言える?
(いえ、あれは…別のカケラの梨花、関係ない……そうよ、関係ない)
引き金を引く事に躊躇いなんてなかった。他人が梨花を殺すのも、散々やり尽くした事だ。
死んでも別のカケラへと移る。世界がループする。例え、その世界が惨劇であっても、最後に行き付いた世界が幸せであれば何の問題もないから。
だけど、その前提が崩れようとしている。
(……仮にそうでも、優勝すれば何の問題はないでしょう)
この手で殺めた有馬かなも。
薬を盛った孫悟飯も。
メリュジーヌが殺した誰かも。
別のカケラの梨花も。
いずれ、死んで貰うこの島の全員も。
優勝した暁には、その願いを叶える力で生き返らせたって良い。それが不可能であれば、その時は悪いが諦めて貰うが。
(ええ……生還さえすれば、私のカケラの梨花が待っているんですもの)
だから、何の問題もない。
問題などない。
「お姉ちゃん、何処か痛いの?」
沙都子の手を取って、メリュジーヌの容姿のままカオスは囁く。
放送が終わってメリュジーヌとの連絡を終えてから、ずっと沙都子は浮かない顔をしていたから。
稼働してから少ない経験の中で、こうなるのは何か痛い事があるんじゃと、カオスは心配そうに顔を覗き込む。
「────ッ、いえ…大丈夫ですわ」
メリュジーヌの顔で、目と鼻の先にまで近づかれるのは心臓に悪かった。
見れば見る程に美しい顔で、幼い顔つき故の未完成さもまたその美に一役買っていた。
カオスの無垢で純粋な奉仕も、その美しさを更に引き立てる。
全くもって、こんな女の子を捨てたらしいオーロラの考える事はよく分からない。
「カオスさんは良い子ですわね。とても」
「んっ……」
頭を軽く撫でてあげる。
自分に反感を抱いているメリュジーヌの容姿のまま目を瞑って、飼い主に懐く犬のように心地よさそうにしている様は悪くない気分だった。
-
「カオスさんもお知り合いが呼ばれたんですのよね」
「うん、ニンフお姉様が……でも、良いの。
きっと会ったら、痛い愛を与えてくるから」
先程の放送でカオスも身内の名前が呼ばれたらしい。
一瞬、それで自暴自棄になって襲ってはこないかと警戒したが、杞憂に終わってくれたようだ。
「沙都子……」
「ええ、私も分かりますわ」
目を開けて、カオスは意識をメリュジーヌを演じる事へと切り替える。
「僕の後ろに居て」
一人称も妖精騎士のものへと変えて。
堂々と騎士然とした態度で、カオスはこちらへと走ってくる少年と少女達を見つめる。
────
────最悪の展開だ。
北条沙都子とメリュジーヌ。
一見して、とても友好的でメリュジーヌもまるで絵本から飛び出した王子のような。
凛々しくも誇り高い戦士としての毅然とした態度で、写影達へと接してくれている。
慌てて逃げ出し、行き場もろくに定めないまま──運が良ければガッシュと再合流出来るかもしれないと、大雑把に西側へ──体力も尽き掛けた所へ優しく、落ち着く様諭し、体を休めた方がよいと、そしてメリュジーヌがその間のしばしの護衛を買って出てくれた。
(どっちなんだ?
本当に北条沙都子は殺し合いに乗っていないのか、乗っていてメリュジーヌはグルか?
それとも、メリュジーヌも騙されているのか?)
写影と桃華はグレイラット邸での情報交換で、風見一姫から北条沙都子は危険であるかもしれないと注意喚起を受けていた。
その知人である古手梨花も同じく、ループする世界で何度も惨劇を起こされ殺され続けたとも。
俄かには信じがたいが、梨花や沙都子は死ぬことで前の時間軸かつ、ほんの僅かに梨花に関わる範疇で歴史の異なってくる世界へタイムリープするのだという。
それを利用し、沙都子は梨花の心をへし折る為に、幾度なく惨劇を繰り返し暗躍したのだと。
「良かったわ……沙都子とメリュジーヌに会えて」
「いえ、困ったときはお互い様ですもの」
「僕は騎士道に従っているだけだ」
ハーマイオニーはこの事を知らない。
沙都子に関しては一姫の憶測でしかなく、殺し合いに乗っているという明確な根拠がないからだ。
これは当の一姫も言っていた事で、雛見沢症候群に関しては警戒を広めるべきだが沙都子の悪評を悪戯に撒くのは、逆にこちらの信用を落とす可能性もあるので控えた方が良いと。
「疲れたでしょう? 私、レモンティーを淹れてきましたの。先ずは落ち着く為にも、一杯如何でしょう?
このランドセル、優れモノでして。
温かいお茶を淹れれば、ずっと温かいまま。冷たい物も冷えたまま。鮮度を一切落とさず、質量も無視して、好きなだけ入れられる冷蔵庫要らずでしてよ」
ランドセルから美柑達に振舞った時、その民家からくすねておいた水筒とカップを取り出し、沙都子はレモンティーを注ぐ。
「そう、淹れたてのまま保存できるのね。
えぇ……一杯もら……」
「は、はっくしょん……!!」
大袈裟にくしゃみをするフリをして、桃華がよろめいたままハーマイオニーへと衝突する。
強い衝撃でハーマイオニーもよろめき、手にしたカップを傾けてお茶は零れてしまった。
「ご、ごめんなさいまし。ハーマイオニーさん! お怪我は……」
「い、いえ……良いわ。大丈夫よ」
鼻を啜る仕草を見せた桃華に、むしろハーマイオニーは風邪を引いたのかと心配してくれた。
内心で猛烈に謝りながら、桃華は地面に落ちて土に吸収されていくレモンティーを見つめる。
これにもし薬が盛られていれば、雛見沢症候群という疑心暗鬼を誘発する病に掛かるというのだから、信じられない。
-
(そうだ……フリーレンが確か、変な風土病が持ち込まれているかもしれないって言ってたわね。
口にする物には気を付けろって……)
遅れて、ハーマイオニーがフリーレンからの注意喚起を思い起こし、戦慄した。
今、自分は桃華に偶然を装い助けられたのか?
この沙都子という少女は、警戒しなくてはいけないのか?
「メリュジーヌ、フリーレンが心配なんだ。
頼む。力を貸して欲しい」
沙都子に違和感を悟られる前に、本音とその矛逸らしの半々の入れ混じった思いでフリーレンの応援を要請する。
「……沙都子?」
メリュジーヌのアリバイと信用を稼ぐという点では、彼らの求めに応じるのも悪くない。
それぐらいはカオスでも分かったが、襲ってきたのはあの砂の少年らしい。
カオスとしては、沙都子を連れてあれの相手をするのは、あまり良い気持ちではない。
高い範囲攻撃を可能とする砂の能力は、沙都子を庇いながら戦うのは難しい。
(彼らに借りを作るのも悪くありませんが)
あの砂使いを相手にするのは、大分リスクが高い。これがメリュジーヌならともかく、カオスは表面上を真似ているだけに過ぎない。
可能なら、カオスと本物のメリュジーヌを入れ替えてからフリーレンの救助に向かいたい。
それに、どうにも彼らはきな臭い。
まるでこちらのことを知って、警戒をしているような。先の桃華のくしゃみも、あれは本当に故意ではないのか。
誰かが雛見沢症候群について、触れ回っていて警戒されているのか?
(一姫という女が、梨花から話を聞いて彼らに言いふらしても、おかしくありませんわね……)
写影達が一姫と繋がっていれば、沙都子を危険人物として考えいることだろう。
そして、雛見沢症候群について知っていても当然だ。
(さて、問題は……この後、どうするか)
メリュジーヌと合流して、カオスと入れ替わってからフリーレンの元へ行く。
しかし、これは時間的に無理だ。そこまで戦いは長引かないだろうし、仮に長引いても写影達の前で気付かれず入れ替わるのも無理だ。
では、見捨てるか? しかし、心象は決して良くない。メリュジーヌを対主催だと誤認させるのに、それでは意味がない。
いっそ自分を知っている可能性のある写影達を殺すのもアリか。
(そうですわね……無力なただの子供三人なら────)
疑わしきは罰する。
エリス達以外にも友好関係を築きたい所ではあるが、懸念事項を抱えてまで優先すべきことでもない。
(────口封じに、僕らを殺すなんて考えられたら……!)
その最悪の可能性に、写影も気付いている。
この場で、生殺与奪の権利を握っているのは沙都子だ。
やれる限り、事を荒立てないよう穏便に済むよう慎重に話してきてはいたが、やはり違和感を隠しきるのは難しい。
沙都子もそれに気づかないような馬鹿でもない。
-
(どうする……考えろ。あの娘が、それを思いとどまる何かを……!)
リーゼロッテとは違うのは、会話自体はまだ通じる相手。
あくまでメリュジーヌを従ている以外は、肉体的なスペックではこちらとほぼ同等の条件だ。
だから、取引や交渉もあちらに利があれば応じる可能性はある。
だが何を口にすればいい? 何が彼女の利になる?
こちらへの攻撃を躊躇させる切り札は何だ?
「ねぇ、写影さん────」
「なんだい……沙都子」
それは、死刑宣告に等しかった。
「私……」
口調は相変わらず、だがそこに込められた冷たさは刃物のように。
首元に凶器を突き付けられているような錯覚を覚える。
まだ写影は次の一手を考えられてはいない。ここで、沙都子が凶行に及ぶのであればそれを止める手立てはない。
(せめて、桃華とハーマイオニーを逃がすくらいは……それで、沙都子を道連れに……)
なんとか、自分を犠牲にしてでも二人を生かして、可能ならメリュジーヌのブレインである沙都子を潰す。
そうすれば犠牲者はより少なく済むはずだ。メリュジーヌも沙都子を殺められた影響を受けて、桃華達への追撃を緩めるかもしれない。
(やるしかない……。予知能力とスペクテッドを合わせて、一撃でもメリュジーヌの攻撃を避けるんだ。
その後、沙都子を……殺す)
自分の命を勘定から度外視し、写影は特攻の手順を脳裏に組み立て、いつでも動けるように注視する。
「今、写影って言ったよな」
ズシリと。
怪獣が街並みを破壊しながら、進行するかのように。
地響きが木霊する。
それは沙都子にも、そして写影にとっても。お互いにとっての不幸であった。
「お前が、エスターを殺したんだな」
風船に手足の生えたような、ピンクの服を着た肥満体系の子供だった。
ただ、その巨体さは人の物ではなく。
まるで巨人の子供のようでサイズ差で言えば、その足元にも及ばない小ささの沙都子や写影が虫けらのようにすら見える。
「しゃ…写影さん……お知り合い、ですの……?」
「いや、僕も……」
さっきまでの一触即発の空気から変わって、お互いに同じ困惑を共有する。
これが一体誰の敵で誰の味方なのか分からない。
しかも、エスターというのはハンディが語っていた捕食されたという少女で。
思えばハンディの語るその化け物の特徴にも一致している。
────
-
『小嶋元太
アーカード
ロキシー・ミグルディア
ベッキー・ブラックベル
右天
野原しんのすけ
マニッシュ・ボーイ
有馬かな
山本勝次』
なんでこんな酷い事をするのか、リンリンには分からなかった。
『条河麻耶
城ヶ崎姫子
美遊・エーデルフェルト
リップ=トリスタン
ニンフ』
まだ幼いリンリンには数字を数えるのは苦手だが、でも多くの子が死んだのはよく分かる。
『エスター』
最後に呼ばれた女の子名前。
リンリンが、助けることが出来なかった。守れなかった女の子。
「ごめん、エスター……おれ、おれ……!」
どんな酷い目にあったんだろう。どんな苦しい思いをしたんだろう。どれだけ怖かったんだろう。
考えるだけで、涙が溢れてきた。
しかも、エスターだけじゃない。他にもたくさんの子の名前が呼ばれた。
これがエスターと同じ目に合った子達ということくらい、リンリンでも分かる。
「しん、ちゃ……ん……」
マサオはもう涙すら涸れ果て、口をだらしなく開けて終わったと呆然と立っていた。
まだどこかで希望はあった。
いつものように、あのお馬鹿でお下品で。
でも、勇気もあって本当は優しいヒーローみたいな男の子が。
自分をお助けしてくれるんじゃないかって。
だけど、それは都合の良い幻想でしかなかった。
野原しんのすけは死んだ。この殺し合いに巻き込まれ、誰かに無慈悲に殺されてしまったんだ。
ボーちゃんと同じように。
────もう、僕死んだ方が楽なんじゃないかな。
「マサオ……お前……」
しんのすけという名前は憶えていた。
マサオの友達らしい。見付けたら、友達になって守ってあげなきゃと思っていた。
だけど、間に合わなかった。
-
「ごめん…マサオ……おれ、強いのに……しんのすけの事……」
悔しかった。
自分が強いのは、この殺し合いの中でエスターに話を聞いて、よく理解出来て来ていたから。
────リンリン、貴女の強さは人を守る為に使うのよ。
貴女は優しい子なんだから。
江戸川コナン達と合流する前、エスターはこんな事をリンリンに言った。
表面上は美しい人道を説いたものだが、本音は自分を守るように都合よく誘導したいハリボテの台詞ではあったが。
リンリンにとってそれはとても良い響きだった。
人を守れるなら。仲間も友達も家族も。みんな、失わなくて済む。
両親が居なくなっちゃった自分のような子が居たら、優しくしてあげられる。
そしてみんなで仲良くなったら、一緒にテーブルを囲んでお菓子を食べるんだ。
この殺し合いも。そう出来れば良いと、リンリンは本当に思っていたのに。
エスターもしんのすけも居ない。
知らない子達も両手の指じゃ足りない位居なくなってしまった。
「おれ…おれ……弱いんだ……全然、強くなんかねぇ……!」
それは、自分は弱いからだと。リンリンはそう思っていた。
────この娘、何言ってんの。
マサオは死ぬほど冷めた目でリンリンを見つめていた。
エスターを美味しそうに殺しといて、それと同じ口で吐いた台詞とは思えなかった。
挙句、その仇を勝手に勘違いして。
(エスターが死んだのも、桃華さん達を巻き込んだのも……全部、僕のせいじゃないか……)
もう、助けてなんて思う事も出来ない。
だって悪いのは自分だから。しんのすけも居ないのなら、きっと誰も自分に手を差し伸べてなんかくれない。
対主催(ヒーロー)に出会っても、自分は悪い子だから誰も助けてくれないし、殺されちゃうかかもしれない。
正義の味方は悪者を合法的に殺せるんだから。
「あれ……誰だ‥‥…」
放送を聞いてから、桃華と写影を探し当てもなく彷徨っていると。
数人の集団が前方に見えてきた。
そして、金髪の女の子が一言、致命的な台詞を吐いてしまう。
-
ねぇ、写影さん────。
マサオには全く聞こえなかったが、リンリンはその小さな声も逃さず聞き取ったらしい。
その後の行動は早かった。
鬼のような形相で、リンリンは台風のように駆け出していく。そしてマサオもその後に続いていく。
本当は逃げれば良かったのかもしれないけど。もし、リンリンから離れたら何をされるのか分からなくて、やっぱり怖かったから。
こんな時すら勇気を振り絞れない自分をより嫌悪して、マサオも走っていく。
────
「マサオ…さん……!!?」
この人間離れした存在の傍らに、小さくおにぎり頭の男の子が居た。
見間違える筈もない。雷帝ゼオンから逃げる時に、自分が救い零した男の子。
少なくとも桃華はそう思っている。
「も……もも、か…さん……?」
「良かった、マサオさん。無事でしたのね……!」
「お前が桃華か、エスターを殺しやがって」
激しい怒りと敵意、そして殺意が込められていた。
「マサオから聞いたんだ! お前らが、エスターを殺したって!!
お前ら二人がマサオに酷い目に合わせたんだって!!!」
その叫びは咆哮のように。声の圧だけで、全身が砕け散りそうなほどの声量だった。
「写影さん、貴方何したんですの?」
「知らない。本当に知らないんだ……」
「知らないフリするんじゃねえッ!! マサオが言ってたんだ!!
おれの仲間が嘘ついてるって言うのか!!?」
困惑しかない。
もし、沙都子のように殺し合いに乗っているなら手を組むのもアリだが、この様子では言いがかりを付けられているようにしか見えない。
その情報源も、桃華と面識のあるマサオというおにぎり頭のようだが、部外者の沙都子からしても信憑性に乏しい。
「あ……あなた…巨人ね。
お、落ち着くのよ。話せば分かる────」
「うるせええええ!!!」
「ッ、ァ……」
ハーマイオニーは涙を流して、腰が抜けてへたり込む。
股間辺りが生暖かく、服を濡らしていく。恐怖のあまり失禁してしまった。
怖さと人前で放尿した情けなさで、ハーマイオニーは顔を俯かせた。
「エスターはおれの子分で仲間だったんだ!! お前ら、絶対に許さねえ!」
「さ…沙都子……エスターってあの時の子じゃないかな」
「なっ……!?」
やられた。
沙都子は舌打ちし、写影を睨み返す。
当然、写影はおろか沙都子はエスターなんて知らない。会ったこともないのだから。
だが例え嘘でも、あの時の子だと問われてしまえば。
まるで旧知の中で、共に組んでいたように思われてしまえば、
ただでさえ頭に血が上って、ろくにハーマイオニーの話も聞かないこんな相手が。
-
「お前、こいつらと一緒にエスターを殺したのか?」
沙都子を標的としてカウントしない理屈はない。
「許さねぇ。お前────」
「沙都子に手は出させない」
リンリンの拳とメリュジーヌの剣を模したカオスの翼が激突する。
お互いに奪おうとする者と、守るものが相まみえたのなら交戦は避けられない。
(どうしよう……桃華さん達が……)
リンリンが急に走ったと思えば、そこに居たのは今一番出会いたくない人達で。
自分のせいで危険な目にあっている。
マサオの良心が強く痛み、何とかしなきゃいけないのは分かっている。
それでも、自分に何が出来るのか全く分からない。
焦りだけが積もっていき、桃華達が殺されるのは恐らく時間の問題だろう。
だけど、自分に何が出来るって言うんだ。
むしろここでリンリンがやっつけてくれた方が良いのかもしれない。
だって、僕は────
全て、アンタが悪い子だから───
何もしなければ、自分が助かろうとしたから死んでしまった女の子。
絶対に生き返らせろと、彼女は言っていた。
嫌だった。人なんか殺したくない。それでも、殺し合いで優勝しなければ願いは叶わない。
エスターが生き返らないと、自分はずっと許されない。それも凄く怖くて。
関係ないと言い訳したいけど、何処かで吹っ切れない。
リンリンに写影と桃華の悪評を撒いたのは、マサオだ。エスターを実質殺したのも。
そんな自分が受け入れられる訳がなくて。
そんな身勝手な事を考える自分に、更にまた嫌気が差して。
マサオは自己嫌悪のループに陥いっていく。
「ぁ、う、ぅ……」
ようやく会えた、頼れる年上の桃華にも写影にも。
助けを求める事も、謝る事も出来なかった。
涙すら、枯れ果ててしまった。
-
【H-5/1日目/朝】
フリーレン達の場所
【G-5/1日目/朝】
リンリン達の場所
【封魔鉱@葬送のフリーレン】
ハンディ様に支給。
魔法を封じる鉱石だが、今ロワでは乃亜が作った偽物として支給されている。
効果はその通り魔法を封じ無効化する。魔法以外の異能力も無効にできる。
その効果範囲も極めて小規模になっており、ランドセルへの収納でも効果は発揮されない。
そして一度の使用で亀裂が入り、あまりに強い異能を無効化したり何度も使用すればで自壊してしまう。
-
投下終了です
リアルとネット回線の不具合で、色々バタついてしまいました
状態表は後でしっかり追加しますので、ご了承願います
-
キウル、ディオ、永沢、ドロテア、モクバで予約します
-
状態表、投下します
-
【H-5/1日目/朝】
【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(中)、疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品、魔法解除&不明カード×3枚@遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's、ランダム支給品0〜1、戦士の1kgハンバーグ
封魔鉱@葬送のフリーレン
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:早急に我愛羅を倒し、写影達を追う。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティアは次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:H-5の一番大きな民家(現在居る場所)にて、ガッシュ達と再合流したいけど。
5:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
6:リーゼロッテは必ず止める。ヒンメルなら、必ずそうするから。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
※グレイラッド邸が襲撃を受けた場合の措置として隣接するエリアであるH-5の一番大きな民家で落ち合う約束をしています。
【ハンディ・ハンディ(拷問野郎またはお手手野郎)@彼岸島 48日後…】
[状態]:左吉の体、ダメージ(小)、リンリンに対する恐怖(大)、フリーレンへの恐怖(大)
[装備]:レナの鉈@ひぐらしのなく頃に、対ミサイル型の変異種×5@彼岸島 48日後…
[道具]:基本支給品一式、ランダム品0〜1
[思考・状況]
基本方針:優勝するわよ。
1:いずれ、ルーデウスとさくらは楽しんで殺してやるわ。
2:ストレス解消にもっと人間を食べたいわね。
3:飛び道具の防御には自信があるわ。だから、マーダーでも対主催でも良いから前衛を探すのよ。
4:リンリンも利用できそうだけど、怖いわ。
5:乃亜、あいつほんとバカ。死ね。
6:フリーレン怖いわ。
[備考]
※蟲の王撃破以降、左吉の肉体を奪って以降からの参戦です。
※生首状態になった場合、胴体から離れる前に首輪が起爆し死亡します。
※変異種は新たに作れないよう制限されています。
※こいつの血を摂取しても、吸血鬼にはならないよう制限されています。
※対ミサイル型の変異種はハンディ・ハンディしか操れません。
そして、ハンディ・ハンディが死ねば死にます(後の原作と矛盾した場合、ロワ内の制限ということにします)。
【封魔鉱@葬送のフリーレン】
ハンディ様に支給。
魔法を封じる鉱石だが、今ロワでは乃亜が作った偽物として支給されている。
効果はその通り魔法を封じ無効化する。魔法以外の異能力も無効にできる。
その効果範囲も極めて小規模になっており、ランドセルへの収納でも効果は発揮されない。
そして一度の使用で亀裂が入り、あまりに強い異能を無効化したり何度も使用すればで自壊してしまう。
【我愛羅@NARUTO-少年編-】
[状態]健康
[装備]砂の瓢箪(中の2/3が砂で満たされている) ザ・フールのスタンドDISC
[道具]基本支給品×2、タブレット×2@コンペLSロワ、サトシのピジョットが入っていたボール@アニメ ポケットモンスター めざせポケモンマスター (現在、サトシのピジョットは空を飛行中)、かみなりのいし@アニメポケットモンスター、血まみれだったナイフ@【推しの子】、スナスナの実@ONEPIECE
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:フリーレンを殺す。
1:出会った敵と闘い、殺す。
2:ピジョットを利用し、敵を、特に強い敵を殺す、それの結果によって行動を決める
3:スタンドを理解する為に時間を使ってしまったが、その分殺せば問題はない
4:あのスナスナの実の使用は保留だ
5:俺の知っている忍者がいたら積極的に殺したい、特にうちはサスケは一番殺したい
6:かみなりのいしは使えたらでいい、特に当てにしていない
7:メリュジーヌに対する興味(カオス)、いずれまた戦いたい
[備考]
原作13巻、中忍試験のサスケ戦直前での参戦です
守鶴の完全顕現は制限されています。
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【G-5/1日目/朝】
【美山写影@とある科学の超電磁砲】
[状態]精神疲労(小)、疲労(小)あちこちに擦り傷や切り傷(小)
[装備]五視万能『スペクテッド』
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:ドロテアの様な危険人物との対峙は避けつつ、脱出の方法を探す。
1:桃華を守る。…そう言いきれれば良かったんだけどね。
2:……あの赤ちゃん、どうにも怪しいけれど
3:桃華には助けられてばかりだ…。
4:沙都子とメリュジーヌを強く警戒。リンリンも何とかしないと。
[備考]
※参戦時期はペロを救出してから。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
【櫻井桃華@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]疲労(小)
[装備]ウェザー・リポートのスタンドDISC
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:写影さんや他の方と協力して、誰も犠牲にならなくていい方法を探しますわ。
1:写影さんを守る。
2:この場所でも、アイドルの桜井桃華として。
3:マサオさん、様子が……。
[備考]
※参戦時期は少なくとも四話以降。
※失意の庭を通してウェザー・リポートの記憶を追体験しました。それによりスタンドの熟練度が向上しています。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
【ハーマイオニー・グレンジャー@ハリー・ポッター シリーズ】
[状態]:背中にダメージ(小)、失禁、リンリンに対する恐怖
[装備]:ハーマイオニーの杖@ハリー・ポッター
[道具]:基本支給品×1、ロウソク×4、ランダム支給品0~1(確認済)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
0:あの巨人の娘、どうすればいいの……。
1:ホグワーツ魔法魔術学校へと向かう。
2:当面の間はフリーレン達と行動したい。
3:マルフォイを警戒。
4:殺し合いするしかないとは思いたくない。
[備考]
※参戦時期は秘密の部屋でバジリスクに石にされた直後です。
※写影、桃華、フリーレン世界の基本知識と危険人物の情報を交換しています。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死(まだ予想だが)に対する動揺
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(7/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:何なんですの、このデカブツは!
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんも厄介ですわね。死んで欲しいのですけれど。
8:梨花……。
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス半壊、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、メリュジーヌに変身中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品2〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:リンリンから沙都子を守る。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
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【佐藤マサオ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:精神疲労(限界寸前)、失意の庭の影響?、ナルトを追い詰めるという確固たる意志、エスターを犠牲にした罪悪感とトラウマ(極大)、
リンリンへの恐怖(極大)、桃華への憎しみ(逆恨みの自覚アリ)
[装備]:モンスター・リプレイス(シフトチェンジ)(24時間使用不可)&不明カード×4@遊戯王DM&5D's
[道具]:基本支給品、グルメテーブルかけ@ドラえもん(故障寸前)
[思考・状況]基本方針:生きて帰りたい。
0:もう、何をしたらいいのか分からない……。
1:赤ちゃんを殺したあの怪物は許さない、絶対に追い詰める。エスターの言う通りナルトの横に居た子も絶対に追い詰める。
2:何だよ皆おにぎりおにぎりって…!
3:桃華さん……せ、聖母だ……!出来たら結婚し(ry僕ができるわけないだろ……。
4:写影さんや桃華さんが…リンリンに……どうしよう。
5:エスターを……。
[備考]
※デス13の暗示によってマニッシュ・ボーイの下手人であるナルトを追い詰めるという意志が発生しています。
※自分を襲った赤ん坊に与する矛盾には暗示によって気づかない様になっています。
【シャーロット・リンリン(幼少期)@ONE PIECE】
[状態]健康、満腹、思いきりハサミの影響。エスターを亡くした強い悲しみと怒り、桃華への憎悪(極大)
[装備]なし、
[道具]基本支給品ランダム支給品1、ニンフの羽@そらのおとしもの(現地調達)、エリスの置き手紙@無職転生、首輪探知機@オリジナル、エスターの首輪(腹の中)
スミス&ウェッソン M36@現実、思いきりハサミ@ドラえもん、エスターのランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:喧嘩(殺し合い)を止める。
0:こいつら全員エスターの仇だ。殺す。
1:喧嘩をしてる人を見付けたら仲良くさせる。悪い奴は反省させる
2:他の人を探して仲間(ともだち)にする。マサオは親分として守ってやる。
3:ナルト本人と、ナルトと共にいた男の子は懲らしめて反省させる。
4:出来れば乃亜とも友だちになりたいなぁ。
5:この手紙を書いたエリスって娘にはお説教が必要かなぁ? いるかどうかわからないけど。
6:もしルーデウスって子にあったらちゃんと伝えておかないと、じゃないとちょっと可哀想。こっちもいるかどうかわからないけど。
7:エスターを殺した桃華と写影、訳の分からない事を言うシュライバーは殺す。
[備考]
※原作86巻でマザー達が消えた直後からの参戦です。
※ソルソルの能力は何故か使えます。
※思いきりハサミの影響で、エスター達に一定の距離を取るようになっています。
※粗削りですが、徐々に覇気を使いこなしてきています。覇王色の覇気は制限により、意識を奪うのは不可能です。
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投下します
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海馬乃亜の二度目の放送の後。
灰原哀は、支給されたタブレットを無言で見つめていた。
画面が移すのは、無機質な参加者の名前の羅列。
そこに記された、江戸川コナンと、今しがた行われた放送で呼ばれた名前。
小嶋元太の名前が記載されていた。
(小嶋君が、生きている可能性は………)
若干18歳にして組織の科学者として抜擢された類稀なる頭脳で、灰原哀は考える。
海馬乃亜の死者の通達が、虚偽である可能性を思索する。
ふぅ、と息を吐く。
考えるまでも無い。分かっている。小嶋元太はもうこの世にいない。
これまで江戸川コナンを取り巻く事件の被害者たちや、姉である宮野明美の様に。
乃亜に集められた子供が全員ただの子供であれば、体格のいい元太は有利かもしれないが。
この場には大人どころか人智を超えた怪物が集っている。
そんな相手と、元太が出会ってしまったのなら、命を落とすしかなかっただろう。
元太は愚か、自分や江戸川コナンですら一時間後に生存しているか分からない。
この島はそう言った残酷で、弱肉強食の世界なのだから。
「……円谷君や吉田さんがいないだけ、マシだったと思うべきなのかしら」
何時もの冷静な灰原哀でいようと、心にもない台詞を言う。
何度経験したって慣れないし、嫌なものだ。
親しかった人間が死んでしまうというのは。
小嶋元太は、実年齢は離れていたけどそれでも友人で、仲間だった。
──母ちゃんが言ってたんだよ。米粒一つ残したら罰が当たるってな!
命を救われた事だってあった。
帝丹小学校に通う一年生、少年探偵団の一人、灰原哀の掛け替えない人物の一人だった。
もし生きて帰ったら、この場にいない二人の仲間に何と言えばいいのか。
尤も、自分だって生きて帰れるなんて分からないけれど。
もう一度、大きく息を吐いて思考を切り替える。
(恐らく、この催しは『組織』が仕組んだものではないハズ……
となると、先ずは何とかブラックを抑えつつ、工藤君との合流を目指すのがベターね……)
組織の力は強大だ。
世界各国の財政界や医療・軍事産業に至るまで、強い影響力を持つ。
二十歳にも満たない小娘が研究する新薬のプロジェクトに湯水のように予算をつぎ込めたのも、灰原哀が恐れる組織の力の象徴。
でも、そんな彼等であっても自分が出会った参加者…メリュジーヌや絶望王、ナチスの少年等を捕えて殺し合いさせるのは不可能だろう。
この三人は、例えジンが1000人いようと殲滅して余りある力の持ち主なのだから。
彼等の様な『超人』が出会った三人だけと言うのも考えにくい。
よって、灰原哀が知る組織主導の催しの可能性はありえない。
もしかすれば、協賛くらいはありえるかもしれないが。
とは言え、自分の知る組織の情報から海馬乃亜の目的や、殺し合いの経緯、脱出の方法を導くのは難しいだろう。
となれば、後は絶対的にこの殺し合いを良しとしないであろう江戸川コナンや、他の参加者と情報を集めて脱出を目指す他ない。
だから、先ずは手近なところから。そう思い、隣で同じく端末を覗き込む少年に声をかけた。
「どう?貴方は知り合いがいたかしら?」
声を掛けられた、顔中痣だらけの少年、ドラコ・マルフォイはぶっきらぼうに答える。
「マグル如きの質問に答えてやる義理はないよ。
お前は物を知らない様だから教えてやるが、僕は魔法使いだ。それも両親とも純血の」
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差別意識を隠そうともしない、慇懃無礼な返答だった。
哀は特に怒る様子もなく、その一言からマルフォイという少年をプロファイルする。
意味を伝えられた訳ではないが、マグルとは類推するに彼の様な特別な力を持つ存在ではない、普通の人間の事を指すのだろう。
成程、彼が自称の通り魔法使いなら、自分を下に見るのも無理はないかもしれない。
「魔法使いな事に誇りに持っているのは結構だけど、そんな態度じゃ長生きできないわよ」
「………………………」
だが、この島に居るのはマルフォイの言う“マグル”だけではない。
少なくとも彼よりも遥かに強い魔人たちが跳梁跋扈する地だ。
例え魔法が使えたとしても、戦力的には哀と比べても誤差でしかない。
ブラックの様な常軌を逸した強さでない限り、他の参加者と助け合わなければならない立場だ。
それは恐らくマルフォイ自身理解しているだろう。
それでも父や母から受けた教育と、魔法使い族としての誇りはそう簡単に捨てられない。
環境とは、そういうものだ。
「せめて、名前だけでも教えて欲しいわね。これでも私、貴方の命の恩人よ?」
だがしかし、せめて名前だけでも教えてもらわなければ色々不便だ。
これまでの指摘とは違い、じっとマルフォイと視線を合わせて、名前を尋ねる。
暫く彼は意地を張るようにそっぽを向いていたが、やがて根負けした様子で。
「……マルフォイ。ドラコ・マルフォイ」
「ドラコ君ね。私は灰原哀。よろしく」
ここで二人は漸く、お互いの名前を知ったのだった。
とは言っても、流れる雰囲気は和気を感じられる物では無く。
「ブラックが起きたら今後の事を話し合っておきたいんだけど、行きたい場所はある?」
「それを聞いて何の意味がある」
完全にマルフォイは意固地になっていた。
それは、ただ単にマグルに対する差別意識だけではない。
この島にいる知り合いが、穢れた血と蔑視するハーマイオニー・グレンジャーだけだったのも関与していた。
ハリーポッターがいないのは置いておいても、何故クラップやゴイルなどのスリザリン生がいないのか。
穢れた血と殺し合いなど、屈辱窮まる上、あの女なら恨みのある自分を殺しにかかってもおかしくない。
そうでなくとも、仲良く協力などまず間違いなくできはしない。
親しい知り合いがいないのは本来喜ぶべき事であるのはマルフォイも理解していたが、それでも憤懣やるかたない思いは消えなかった。
そんな不満が、こうして灰原哀へと向けられていたのだった。
「僕らが何を決めた所で、どうせ決定をするのはそいつだろう」
マルフォイの視線の先には、すやすやと寝息を立てるブラックの姿があった。
これには哀も言い返すことはできない。
彼女にとっても、幾ら方針を立てた所でブラックが否やと言えばそれに従う他ないからだ。
「…ブラックは理屈や道理は理解してる男よ」
反論を唱える哀の声は、小さな物だった。
無理もない、彼女もまた、ブラックの事は何も知らないに等しい。
これまで行動を共にした時に垣間見た僅かな情報を頼りにしている。
これまでのブラックは刹那的な快楽主義者に見えて道理や理屈を理解している男だ。
だが同時に理解した上で、それらのしがらみを気まぐれに蹴っ飛ばす側面もある。
彼に対して、絶対はない。だが、それでも。
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「彼が納得する筋道を立てれば、全てではないにせよ此方の意図に沿った方向に誘導する事は───」
哀の言葉に、俄かにマルフォイが慌てた様子を見せる。
本人が直ぐ傍にいる状況で、利用する算段のような物を言うべきではない。
哀もそれは理解していたが、構うことは無かった。
どうせ自分程度の考えはブラックに隠しきれるものではない。
ならば堂々としている方が彼の趣味にあっているはずだ。
そう自身の中で結論付けて、マルフォイを納得させる言葉を述べようとした。
その後は次に向かう施設の事に話を戻す。向かう場所も既に決まっていた。
乃亜の放送で告げられた、追加された施設。そこに向かう事を提案するつもりだった。
直近にある、人理保証機関カルデアと言う、特徴的な名前の施設に。
だが、彼女が言い終わる前に、口を挟むものがいた。
「おい、お前ら」
特徴的なハスキーボイス。聞き間違える事もない。
間違いなく、ブラックの物だった。
だが、その声色はこれまでの芝居がかったトーンではなく、冷たいもので。
まさか気分を害したのか、と哀は彼の寝ていた場所を慌てて確認した。
「舌とお別れしたくなけりゃ口を閉じろ」
反射的に口を閉じる。同時に、哀は全身に強い圧迫感を感じた。
みえない巨人の手に鷲掴みにされている様だった。
圧迫感が強い浮遊感に変わったのは次の瞬間の事。
傍らを一瞥すれば、マルフォイも同じ状況になっているのが見えた。
浮遊感は二秒かからず霧散し、どっ、と音を立てて二人は大地に落ちる。
「随分冷えたモーニングコールじゃねーか、おい」
視線を上に向け、見上げてみれば欠伸をしながらブラックはさっきまで哀たちがいた場所を眺めていた。
誘われるように其方の方を見てみれば、巨大な氷塊が突き刺さっていた。
ブラックが超能力を行使しなければ、哀とマルフォイの二人はあっけなく刺し貫かれていただろう。
そして、そんな氷塊の奥に。
一人の少女が佇んでいた。麗しい、寝物語に伝わる姫の様な容姿をした少女。
事実月の姫と呼ばれた少女の姿が、そこにはあった。
「……何故」
少女が、口を聞いた。
そこに籠められていた感情は、混じり気のない疑念だった。
「何故汝は、人間と馴れ合っている」
それは元リィーナ姫、現魔神王にとって当然の問いであった。
勇者ニケを殺す為に追跡していた道すがら。
勇者と同等なほど、強く惹かれる気配を感じ取った。
その気配は、強かった。
ただ強いだけでなく、ある種の共感(シンパシー)のような物も、同時に感じられた。
元より勇者は実力的には何時でも殺せる程度の強さだ。
気づけば彼女は足を気配の方へと向けていた。
そして彼女は、同胞(はらから)と相まみえた。
「何だ、そんなもん一々気にして。人間に嫌な思い出でもあるのか?」
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緋色の瞳に金の髪の少年。
彼はクツクツと笑って、魔神王の問いを煙に巻く。
魔神王にとっては一言で言って、理解不能だった。
人間の中に潜伏し、扇動し、争いを煽るなら理解可能だ。
魔神王もまた、依り代たるリィーナ姫を隠れ蓑として、ロードスを戦乱の坩堝に叩き込んだのだから。
だが、近場で矮小な人間2匹の話を盗み聞けば、既にこの同胞は正体を明かしているという。
そして、今しがたも自分の攻撃から人間2匹を守った。
ブラックと、人間から呼ばれていた少年が守らなければ、氷塊は人間2匹を反応すら許さず潰していただろう。
人間を利用しているにしても、同胞かつ、人間二匹とは隔絶した強さを誇る自分の不興を買ってまで守る理由など………
「そうでもないぜ?荷物番ってのは結構馬鹿にできないもんだ。
少なくとも、身ぐるみはがされたお前は否定できないだろ?」
「…………」
思考を読んだかのようなブラックの言葉に、魔神王は押し黙ってしまう。
ブラックの指摘は、客観的に言って魔神王の痛い腹を突いていた。
勇者との戦闘の隙に、自動人形<ゴーレム>に荷物を持ち逃げされた彼にとっては。
「………些事はいい」
だが、支給品をすべて失ったとて、魔神王にとってそれは些末事でしかなかった。
ドラコン殺しという一級の獲物を失ったのは僅かに痛手ではあるものの、それぐらいだ。
身体能力、魔力、魂のへ直接攻撃以外に対する絶対的な耐性、変身能力。猛毒の瘴気。
どれをとっても、蒙昧な人間の子供を万の数並べたとておよびつく領域ではない。
例え無手であっても、優勝を目指すのに何の支障もない。魔神王にはその自負があった。
故に、ブラックの揶揄も一蹴した後、冷厳に命じる。
「我の軍門に下れ」
単刀直入に、魔神王は少年に告げた。
確信を持って言える。目の前の少年は、自分と同じ魔なる存在だ。
それは、間違いない。
上位悪魔<グレーター・デーモン>等目ではなく、魔神将でも彼と並べるには心もとない。
ともすれば、魔神王たる自分に匹敵するやもしれぬ超越者。
魔神王は人間を利用することはあっても協力するつもりは毛頭なかったものの。
目の前の少年は、少なくともこの場の人間を駆逐するまでは手を組んでもよかった。
単純に、戦力としても見る打算もあった。だが、それ以上に。
「我は人間どもに召喚され、数百年において魔界と物質界の狭間に虜囚となった。
だが…愚かな人間の王より解き放たれ、一国の姫の体を依り代に再起を果たした」
「………はぁ、それで?」
唐突に始まった自分語りに耳を傾けながら、ブラックが合いの手を打つ。
彼の反応の薄さを訝しく思いつつ、魔神王は続けた。
「我が受けた屈辱の日々を雪ぐには、人間どもの鏖殺をおいてあり得ぬ。
それに手を貸せ。汝の力があれば、より人間どもの悲痛に満ちた地獄を生み出せる」
これがもし吸血鬼や鬼種程度の魔族であれば、アーカードや無惨に行ったように即座に攻撃を仕掛け、しかる後に屈服か死を迫っていただろう。
とはいえ、不死王や始祖の鬼の再生力を前に千日手を悟り、提案は為されなかった訳だが。
しかして今魔神王が対峙するのは吸血鬼と同等以上の力で、人間の体を依り代とする…
恐らく吸血鬼よりもなお魔神王の近しい魔(デーモン)だ。
ならば、人間に味方した疑問の解消を兼ねて、ブラックに軍門に下ることを迫った。
己の中の魔神王(デーモン・ロード)としの矜持が、彼にそうさせた。
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「………一つ聞いていいか?」
対するブラックの態度は、実に飄々としたもの。
背後の子供二人は、魔神王の殺気に体を引っ切り無しに震えさせ、怯えを見せているのに。
彼は臆する様子など全く見せず、魔神王に問い返した。
「お前は、人間を滅ぼしてどうしたいんだ?」と。
お前の最終的に目指す場所は何処にあると。彼はそう尋ねた。
尋ねられた魔神王は、僅かな沈黙の後、力強く答えを述べる。
「人を殺し、妖精を殺し、物質界を第二の魔界とする。
もう再度(にど)と屈辱を受けぬ……我等の新たな世界をこの手で築き上げるのだ」
魔神王は五指を広げ、ブラックの前へと翳し……そして何かを掴もうとするように閉じた。
人間の世界を、第二の魔界とする。
それが全ての魔神を率いる王としての、最後に至るべき地平。
種を背負うものとして、人類種の絶対的な厄災の具現として、そう宣言した。
それを聞いたブラックは、成程、立派だ。そう零したあと。
「でも悪いな、全く興味ねーわ。お前の話」
返した答えは、決裂だった。
「支配するのか滅ぼすのかは知らねーが、要は人間の今の位置にお前らが収まるだけだろ」
魔神王が目指す、人が駆逐され、魔神達が支配し、跳梁跋扈する世界。
それは魔神王にとって酷く退屈な世界に思えた。
配役を微妙に変えているだけで、筋書きは人の歴史と大差ない。
古来より人の営みを眺めてきた観測者であるブラックにとって、新鮮味のない景色と言えた。
「俺が見たいのは、その先の景色なんだ」
善悪を超越し、ブラックの手すら離れた混沌。
それが、彼が最後に至ろうとする終着点であった。
法も倫理も種も及ばぬ、生き残った者こそ善であり正義。
世界が文字通り転覆し、書き換わる瞬間。現世と異界(ビヨンド)の交差点。
その終焉と可能性の美こそ、彼を魅了してやまない大崩落なのだった。
「ま、それでもお前が俺を下に付けたいなら……分かるだろ?」
「お前が勝てば、協力でも人間の皆殺しでも、望むとおりに踊ってやるさ」
魔神王の提案を袖にしながらも、ブラックの表情は友人に向ける様な笑みだった。
それを見た魔神王は能面の様に感情を一切示さぬまま、ゆらりと両手を広げた。
ブラックの言は魔神王の提案を否定するものだったが、不思議と悪感情は無かった。
立場が逆であれば彼も提案を蹴っていただろう。
それを鑑みれば意味のない問答だったやもしれぬが……まだ目の前の不遜な青コートの少年を従える見込みが潰えたわけではない。
「───道理だな」
妖艶な笑みを浮かべ、全身に瘴気と魔力を滾らせて、魔神達の王は命じる。
自分が魔神<デーモン>達を従えていたのは血筋でも人望でもなく。
ただ純粋なる強さで従えていた。その威光を、今一度示す時だ。
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「おい、お前ら」
戦意を露わにする魔神王を前にして。
ブラックは二人の従者を一瞥し、反論を許さないと言った様相で告げた。
離れておけ、と。
「今回は、お前らが傍にいたら邪魔だ」
語るブラックの視線は魔神王に向けられつつも、微妙な違和感を抱かせるものだった。
目の前の少女は、あのナチスの少年から自分達を守り抜いたブラックが、守り切れないと判断する様な相手なのか?
それに少女に向ける意識9とするなら、残りの1割は近場の周辺に向けている様な…
指摘しようかとも考えたが、今にも戦闘を始めんとしている黒髪の少女を見て断念する。
詳細な力の強弱は分からないが、目の前の彼女もまた、放送前に出会ったナチスの少年に勝るとも劣らぬ怪物である。
少なくとも自分達がいては邪魔なのは確かだ。それだけは確信が持てた。
「逃げるわよ!ドラコ君!」
「マグルなんぞに言われなくても、分かってるさ!」
二人の超常者の背後では、二人の子供が避難を始めていた。
蟻の上で象がタップダンスを始めようとしている様な物だ。逃げなければ命はない。
哀がローブの袖を引っ張り離れようとするのを、振り払いつつマルフォイは食って掛かる。
しかし口では威勢のいい言葉を吐きながら、体は迷うことなく全力で逃走を始めていた。
何で出会って早々戦いを始めようとしているんだこいつら、脳筋なのか?
そんな疑心が胸に浮かぶ物の、魔神王の威容を見れば口に出す勇気も即座に消え失せえる。
「……………」
逃げる二人の背に向けて、魔神王は無言で容赦なく氷の弾丸を連射する。
その瞳は、人が生ごみや害虫に向けるそれであった。
発射された氷は音の壁を超え、対物ライフルもかくやの威力と数で脆弱な人間二人に迫り。
その全てが、ブラックの念動力によって静止させられた。
「さっさと行け」
事も無げに二人を守ったブラックの表情は、ずっと変わらない。
見世物を見る観客の笑みだ。
その見世物が果たして傑作なのか、笑い見られる程度の駄作なのかは判断がつかないが。
やはり、この少年のは何を考えているのか良く分からない。
そう考えつつも、そんな彼に対して、静かに哀は一言だけ言葉を送った。
「かっこつけておいて、負けたりしないでね」
実に辛辣な物言いだったが、ブラックは笑みを深めるばかり。
お返しにちゃんと荷物番をしておけと告げて、道の曲がり角に消える二人を見送る。
そして、お荷物の二人が消えてから、改めて魔神王に向き直り、礼を言った。
「悪いな。待っててもらって」
「我は構わぬ。それよりも本当に良かったのか?あの人間二人を遠ざけて。
我に敗れた時の弁明としてはもう使えぬが」
「何だ。意外と冗談も言えるじゃねーか、おい」
言葉を重ねながら、大気が、大地が、震えるように揺れる。
少女と、少年。二人の存在に畏怖しているように。
魔神王の足元が凍てつき、凍結した地面は周辺をも飲み込もうと勢力を拡大させる。
だが、ブラックの前方十メートル程まで来た所で、見えない壁に阻まれた様に凍結が止まった。
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「敗れる前に、その魂魄に刻んでおくがいい」
両手を、これから飛び立とうとしている鳥の様に広げて。
かつて月の姫と謳われた少女の肉体を得た凶星は、笑みを浮かべた。
見る者を凍り付かせる、昏く妖艶な笑み。
ブラックは紅い瞳を煌めかせ、それを見つめる。
「我は魔神王。全ての魔神(デーモン)の頂きに座する者だ」
その大仰な名乗りを聞いて。
少し考えた後、ブラックは青いコートをはためかせた。
そして、魔神王が行った名乗りに呼応するように、口ずさむ。
何時もの様に俺の名前を言ってみろ、とは言わず。自身の本当の名を。
「そうかい。俺は絶望王───お前らの──ま、友達になれるかはお前次第か」
その言葉が、開戦の合図となった。
凍結した冷気と、空間に瞬くスパークが、周辺を包み。
対峙した二人の王は、引かれあう様に激突した。
■ ■ ■
極寒の風が、無人の街並みを吹き抜けていく。
氷河期でも訪れたのかと錯覚しそうになる速度で大地と建物が凍てついていく。
凍土と化す街並みを、蒼い人の形をした疾風が駆け抜ける。
瞬きの間に数十メートルの距離を駆け抜け、不可視の力場が、襲い来る氷塊を砕く。
「ハハッ───」
氷河の最中で、絶望王は愉しげに笑った。
気温を示す電光掲示板が故障したかのように表示する気温を低下させていく。
それを尻目に、左右に付いた腕(かいな)を無造作に振るった。
振るわれる腕の動きに合わせて、周辺に会った民家が質量兵器に姿を変える。
コンクリートの躯体ごと引き抜かれた民家は、数十トンはあるその重量で以て敵対者に迫る。
「下らぬ」
最早人間に向ける重量ではないその殺意の弾丸を、相対する魔神王はそう評した。
絶望王が民家を土台から引き抜いたタイミングで対面するビルの外壁に手を突き、動じることなく殺意の砲弾を迎え撃った。
ヒュオオオという、豪雪地帯で耳にする、大気が凍る音が奏でられ、そして。
魔神王のビルの外壁を起点に生み出した氷柱は、民家を瞬時に凍らせた。
まるで衝突の衝撃すら凍らせたかとでも言う様に、氷柱は十メートルはある民家の飲み込んでいた。
灰原哀やドラコ・マルフォイがこの光景を目にすれば、眩暈すら覚えたかもしれない。
「怖い怖い」
だが、魔の王と相対する者もまた、遥か怪物。
少年のハスキーボイスが響くとほとんど同時に。
ミシリ、と魔神王の腕から音が鳴った。その後に、凄まじい衝撃がやって来た。
魔神王が自身が蹴り飛ばされたのだと認識したのは、衝撃がやってきてからだった。
少なく見積もっても数十メートルあった筈の距離を、敵手は一瞬の内にゼロとして。
そして、魔神王を蹴り飛ばしたのだ。民家を投擲する念動力に神速の如き移動速度。
瞬間移動(テレポート)というありふれた異能を発揮しただけで、ここまでの不条理を生む。
それが、絶望王と言う存在だった。
-
「…………」
常人ならば確実に挽肉に変わっている攻撃を受けてなお、魔神王は健在だった。
身を包む慣性が消失した時には既に肉体の修復を完了させ、大気中の水分を凍結させる。
彼の周囲に現れる氷の礫。その数は哀やマルフォイに撃った時とは桁違いの数だった。
数千を超え、数万。凍れる殺意が絶望王に向けて殺到する。
「またそれか。芸がねーな、おい」
キャッチボールで子供の投げたボールをキャッチする父親の様な。
そんな気の抜けた声と共に、氷の制御権が強引にもぎ取られる。
出力の高さだけではない。恐ろしいまでの精密動作性だ。
念動力の類はやろうと思えば魔神王にも行使できた、だがこの水準には到底及ばない。
異なる世界。中島から奪った記憶が鮮明に浮かび上がる。
「そうかな」
「うおっと!?」
静止した氷の弾丸が輝きを放つ。
次瞬、氷たちが次々に割れて、その中から閃光が弾けた。
鳥類や爬虫類が見せる卵の孵化さながらに、飛び出た閃光はその全てが矢となる。
<光の矢(エネルギーボルト)>という名の、初級呪文であった。
だが、それを数千数万の規模で放てるのは、ロードスにおいて魔神王以外にいないだろう。
無形の力そのものである光であれば、如何な絶望王の念動力でも止める事は不可能だ。
「いやー、少しビビった」
だが、たかが念動力一つ攻略されたとて、それで絶望王が動じる筈もない。
光の矢の初段が着弾する瞬間、彼の総身から蒼い炎が噴き出す。
噴き出された蒼き焔は一瞬で絶望王の周囲を焼き尽くし、光の矢を飲み込んでいく。
「まだだ」
光の矢は追撃の機転でしかない。
魔神王は前方に光の矢の弾幕を収束させ、炎の防御をそこに集中させる。
同時に、絶望王の背後五十メートルに氷塊と氷柱……否、氷山と氷槍を出現させる。
「<ハーベルシュプルング>」
つい先程勇者に発射した時よりも更に威力を強め。
数十トン……ともすれば数百トンはあるであろう氷山を、絶望王に向けて発射した。
「──ハハッ!やる気満々じゃねーか、おい!!」
絶望王の矮躯の百倍はある氷山を放たれて尚、健在。
念動力を操作し、笑う余裕すら彼にはあった。
氷が念動力によって破砕され、出力を上げた炎に飲み込まれる。ここまでは魔神王の想定内。
本命はこの後、作り上げた氷槍を、最高の硬度でぶつける!
もしかすれば死んでしまうかもしれないが、その時はやむなしだ。
「<グラオホルン>ッッ!!」
力強い言霊の調べと共に、放たれる氷槍。
その速度は音の壁を突破し、マッハ3を記録していた。
人間であれば、到底太刀打ちできない一撃。認識すら許されず串刺しになっている。
絶望王とて、ただでは済まないだろう。
-
「当たればな」
再び絶望王の両の手から蒼い炎が生み出され、彼を包む様に、覆い隠すように広がる。
着弾の刹那の、一瞬のこと。
そのコンマ一秒後にグラオホルンは絶望王がいた座標を正確に穿った。
だが、しかし、貫いたのは彼が放った青い炎のみ。
それを確認した瞬間に、魔神王は<逆感知(カウンターセンス)>の魔法を使用。
絶望王の所在を索敵する。2秒で結果は出た。魔神王の上空50メートルに彼はいた。
「さて、あの街じゃできなかった事をしてみるか」
ぱちんと、指を鳴らして。空間を閉じ、世界を灰色に染め上げる。
彩を失い、灰色になった風景の中で、唯一元の彩と同じ輝きを放つ物が一つ。
朝陽を背に、絶望王は悠然と両手を広げる。
その威容に、魔神王をして思わず見入った。
正確には絶望王でなく、彼の背後の朝日を注視していた。
絶望王の為そうとしている事を予見し、まさか、と言う言葉が口から洩れる。
────太陽光を、捻じ曲げる、だと………!
「焼き加減はどんなもんがいい?」
絶望の具現である少年は謡うように口ずさみ。
彼の手が振り下ろされるのと同時に、裁きの光が魔神王の上空で猛る。
大地を蹴り、全力で回避を試みるものの、天の光からは逃げられない。
太陽は誰に対しても、平等に降り注ぐものなのだから。
精密、緻密、綿密に練り上げられた裁きの炎が───魔王へと降り注いだ。
「はー、意外としんどいな。これ」
美しい肢体が真っ黒な炭の塊に変貌するのを眺めながら、絶望王は独り言ちた。
その頬には疲労を示す汗が一筋浮かんでいる。
疲れる割に、効果は今一つだったな。というのが今しがた行った攻撃の評価だ。
事実魔神王は既に焼かれた部位の再生を始め、べりべりと炭化した組織の下から瑞々しい少女の肌が現れようとしている。
如何な天の炎とて、魔神王の魂魄まで焼き尽くす事は叶わなかったのだ。
だが、流石に再生に手いっぱいになっている様子なのは確かだ。
「……こいつも試して見るかね」
そう言って何処からともなく現れる鍵剣が一つ。
王の宝物庫の鍵であるその宝剣を、絶望王は魔神王の再生の頃合いを見計らいつつ開帳しようとする。
物理的攻撃は効果が薄い様だが、ならこの蔵の中に入っている武具ならどうか。
何が入っているか絶望王も良く把握していないため数撃つ必要があるが、
掃いて捨てるほどある宝剣、魔剣の群れであればその内当たりを引き当てるだろう。
そう考え、宝物庫を開帳しようとした、その時の事だった。
絶望王の視界の端で、猛スピードで突っ込んでくる影が一つ。
「ふー……ここでか」
-
パーティの途中で飛び入り参加の客が来たホストの様に。
僅かな気だるさと喜色を顔に浮かべて、絶望王は念動力を発揮した。
彼が哀たちを逃がした理由が、この乱入者だ。
魔神王が現れ、問答を行っている時からその殺気は感じていた。
明らかに、此方を狙っている。それもかなりの実力者だ。
一対一ならば問題ない。
だが魔神王と戦いながらとなると、哀たちを巻き込まずに戦うのは厳しい相手と彼は見た。
乱入者は今迄好機を伺っていた様子だったが…絶望王が大技を放ち、消耗したと見られるこのタイミングを狙ってきた。
現れたのは、白銀の髪の少年。
それが殺意を籠めて、身の丈以上の大剣を此方に向けて振り下ろしている。
「よく来たな、兄弟」
中々いい奇襲だった。だが、気配の殺し方がまだ拙い。
恐らくは魔神王も気づきながら捨て置いたのだろう。
そんな事を考えながら、普段通りの軽口を叩いて。
絶望王は、敵意と殺意が籠められた大刀を念動力で止めようとする。その刹那。
「────!?」
違和感が生じる。
白銀の少年は強い。強いが自分の念動力ならばまず間違いなくその動きを止められる。
その見立てだった。だが、そんな絶望王の見立てに反して状況は進む。
大刀の動きを止める筈だった不可視の力場が、大刀に触れた瞬間消え去ったのだ。
まるで、刀が彼の念動力の力場を喰らったかのように。
結果、運動エネルギーは何の影響も受けず、そのまま絶望王に向かって突き進む。
(そうか、こいつ。この刀で───!)
防御されるのを見越しての攻撃だったのだ。
ニィ、と。鮫の様な歯を覗かせ、白銀の少年は笑みを浮かべた。
作戦の成功を悟った笑みだった。そして、短く一言、絶望王に告げる。
「力の強さに驕ったな」
嘲るようなその言葉が、絶望王の耳朶に吸い込まれるのと同時に。
鮮血が、空中に舞った。
-
■ ■ ■
伝わって来る戦いの余波だけで、気がどうにかなりそうだった。
闇の帝王やダンブルドアの様な化け物共を連れてくるなら、僕なんて必要ないじゃないか。
僕みたいなただの魔法使いは死ねと、そう言っている様な物じゃないか。
理不尽だ。理不尽に過ぎる。
理不尽に対する怒りが腹の奥で渦巻き、ドラコ・マルフォイはそれを抑える事ができなかった。
「おい!お前の持っている支給品に杖があっただろう!それを渡せ!!」
ランドセルの背負い紐に手をかけて、怒りを隠そうともしない形相で隣の女に命じる。
落ちついて。マグルの女であるハイバラアイはそう言ってマルフォイを宥めようとした。
だが彼の精神はエリスとの敗戦以降、メリュジーヌの襲撃、絶望王とシュライバーの来襲など休まる暇がなかった。
既に、彼の精神は限界を迎えつつあった。一言で言うなら、ヒステリー状態だ。
そのはけ口は、必然的に最も近く見下して良い対象へと向けられる。
「分かったから、落ち着いて。今の貴女は冷静じゃ───きゃっ!」
少女らしい叫び声を上げて、哀は大地に身体を投げ出す。
突き飛ばされたのだと理解したのは、軽く擦過傷が作られた自分の腕を見てからだった。
「……っ!お前がさっさと渡さないから悪いんだからな!」
マルフォイは擦りむき傷を作った少女を見てバツの悪そうな顔を浮かべる物の、
傍らに横たわるランドセルを目にすれば、すぐさまそれに飛びついた。
自分は一体何をやっているのか。
杖があった所で、メリュジーヌや絶望王たちに敵う筈もないのに。
行き場を失った恐怖心は、爆発的な攻撃性を生み出し、支離滅裂な行動を誘発するものだ。
涙が零れそうになるのを堪えて、必死にランドセルの中を探る。
兎に角、杖が欲しかった。杖があれば、少しは安心できる。
杖のない魔法使いの見習いなど、殆ど無力なマグルと変わらない。
そんな事、ブラック家の嫡子であるドラコ・マルフォイにあってはならないのだ。
「……!あった!!」
杖を引き抜いて、ようやく子供らしい笑みを浮かべる。
入っていた杖を最初に目にしたのは、偶然だった。
放送前に支給品の確認の為に哀はブラックの支給品を一通り取り出していたのだ。
それを目ざとくマルフォイは見逃していなかった。
この杖はブラックの支給品だが、奴は使っていなかったし、借りるだけ。
そう、借りるだけだ。
奴が戦っている間、これであのマグル女を護衛してやれば彼奴だって文句は無いだろう。
杖を手にした瞬間、ここまで散々足蹴にされてきた魔法使いとしての誇りが、戻って来た様な高揚感を覚えた。
それは実の所、杖があった所で何ができるのかという疑心を一切無視した逃避に近い物だったけれど。
でも、それでも今の彼を支えるのに必要な精神的防衛行為でもあった。
-
「………どうやら、落ち着いてくれたみたいね」
耳に響くのは呆れと安堵と哀れみがない交ぜになった様な声だった。
マルフォイが杖から声の方向に顔を向ければ、既に立ち上がって若干自分の事を睨んでいる様子の哀の姿が目に映った。
その様は、やはり落ち着いている様に見えた。
あんな、怪物どもの宴を目にした直後であるというのに。
諦めと言う言葉を知らないのか、この女は。
見ていると、酷く劣等感に駆られる。
きっとこの女は純血の魔法使いに劣等感を抱かせた、最初のマグルになるだろう。
「………さっさと渡していれば、そんな傷作らずに済んだんだ」
「えぇ、そうね。次からは気を付けるわ」
バツの悪さと劣等感から目を逸らして吐いた嫌味はあっさりと受け流される。
憤懣やるかたない心境だったが、一応マルフォイは哀から離れようとしなかった。
ブラックの護衛兼見張り役を務めろという言葉は、彼からそれ以外の選択肢を奪い去っていたのである。
「しかし、この杖………」
哀からもう一度手の中の杖に視線を戻す。
手の中の杖は、何か言い知れない物を感じた。
強い杖だ。とてもとても強い杖だ。それは間違いない。
そして、不思議なほどに手に馴染む。
まるで、以前からマルフォイの杖であったかのように。
この杖があれば絶望王やシュライバーまではいかずとも、自分を散々嬲ったエリスには勝てるかもしれない。
その時の光景を想像し、
ドシュッ。
ほくそ笑む。
「────あ?」
-
自分の手の中にある杖。その丁度真下。
胸の辺りから、一本の冷たい刃が生えていた。
直後に襲い来る、冷たい灼熱の感覚。そして、激痛。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたい────
「なっ!?がっ!?グぉ…え……ッ!?」
ずるり、と刃が抜かれて、感じる喪失感。
何が起きたのか、という言葉も発する事は出来ず、その場に崩れ落ち。
自分の口から零れ出た血だまりでごぼごぼと溺れる。
マルフォイ君!と慌てた様子で叫ぶ哀の姿が、遠く思えた。
「あはっ!ねぇねぇねぇ!アナタ魔術師だよね?」
倒れ伏したマルフォイの前に、いつの間にか一人の少女がいた。
銀の短髪と黒の外套。そして整った顔立ちに走る縫合痕が目に付く少女だった。
くるくると手の中でマルフォイの血液が付いたナイフを弄び、妖しく微笑む。
それは、獲物を見つけたネコ科の猛獣の顔にとてもよく似ていた。
「魔術師のしんぞーは他の子よりおいしーから楽しみ!」
異邦の地で偶然故郷の料理を作っている店舗を見つけた様な、弾んだ声で。
踊るように襲撃者である少女───ジャック・ザ・リッパーは放たれた弾丸を躱した。
人間の動きではない。硝煙の煙るマシンガンを構えていた哀の顔が驚愕に染まる。
「っく───!」
余りにもタイミングが良すぎる。この接敵は意図的に引き起こされたものだ。
目の前の少女は息を潜めて待っていたのだろう。
羊が、羊飼いから離れる瞬間を。
パララララとタイプライターを撃つような乾いた音と共に弾丸が発射されるが、少女には掠りもしない。
完全に射線を読まれていた。
それでも何とか狙いをつけ、撤退とはいかずとも硬直状態に持ち込みブラックの到着を待とうとしたが───
「っ!?う、ぁあ────」
ガツン、とマルフォイのサブマシンガンを握っていた手に衝撃が走る。
引き金に添えられていた嫋やかな指先は、あらぬ方向を向いていた。
見た目は自分と同じ年かさの少女なのに、プロレスラーの様な怪力だ。
恐らく、この少女もまた、ブラック達の様な超常の存在なのだろう。
片膝を付いて蹲りながら、哀は迫りくるジャックを見つめた。
「ぐっ………考え……直しなさい……こんな殺し合い……意味がないわ」
目の前の少女は、どう見ても積極的に殺し合いに参加している。
説得できる可能性は殆ど無いだろう。
それでも指先に走る激痛を堪え、哀は少しでも時間を稼ぐことを試みる。
だが、返って来た反応は彼女の予想に輪をかけて悪いものだった。
「んー、でもわたしたち、まだまだ食べたりないし?
それにお母さんの中に帰るためだもん、仕方ないよね」
-
砂糖菓子の様に甘い声で、無邪気な子供の様に人殺しの少女は凶行に及ぶ理由を述べた。
それを聞いてここだと、哀は思った。
人の心臓を喰らうというのは悪夢のような情報だが、重要なことはその後。
彼女もまた、母親の元へと帰りたいのだ。
心変わりを誘発できなくてもいい。彼女を躊躇させられるとしたらここしかない。
震えそうになる声を精神力で調律し、哀はジャックに向けて訴える。
「貴方も…知ってるんじゃないかしら。ブラックの強さを。
彼と戦って優勝を目指すよりは、皆で協力してお母さんの元に帰ることを───」
哀の説得は、少女よりも強いであろうブラックの事をまず話したのは正しかっただろう。
それについては、ジャックはまだ交渉の余地があったかもしれない。
だが、続く彼女の願いについては…哀は完全に見誤っていた。
説得を耳にしたジャックはクスクスと含み笑いを漏らして。
「ごめんね。そういうのじゃないの。わたしたち」
ドスリ、と。
少女が投擲したナイフが、哀の脇腹の位置に突き刺さった。
そこは、肝臓がある位置だった。
ごふりと鮮血を吐いて、尻もちをつく。
最早死を待つだけの憐れな獲物に、とてとてと可愛らしい所作で殺人鬼が迫る。
「わたしたちは、ジャック・ザ・リッパーだから」
世界で最も著名な殺人鬼。
その正体は水子の亡霊が切り裂きジャックの役割を被ったもの。
当然ながら、彼女の帰りを待つ母親など存在しない。
だから彼女達は奇跡を求め、殺戮に興じるのだ。
そして、それ以上に。
ジャック・ザ・リッパーが殺人鬼以外の在り方を選べるはずも無かった。
「じゃ、そろそろ死のっか」
哀の眼前まで迫ったジャックがその手の凶刃を閃かせる。
完全なるトドメを刺すべく、憐れな獲物を見下ろして。
喜色に染まるその表情は、殺人鬼以外の何物でも無かった。
(これは……報いなのかしらね)
組織に入り、毒薬を作った自身には似合いの末路なのかもしれない。
この傷では、どの道自分はもう永くない。致命傷だ。
なら、今更じたばたした所でどうにもならない。
決して覆らない死の袋小路を、諦観と言う冷たい水が満たしていく。
情け容赦なく、処刑人である少女は哀の目の前で白刃を振り上げ────
「────わあぁッ!!」
そして、吹き飛ばされた。
突然見えない車に突き飛ばされた様に吹き飛ばされた殺人鬼は、空中で体勢を整える。
まるで体操選手の様な一回転と共に、華麗にジャックは着地した。
そして、自身を吹き飛ばした下手人を見やる。
「……ドラコくん」
-
哀が杖を構えるマルフォイの姿を見て、驚愕を露わにする。
そんな彼女に対して、マルフォイは憤怒の形相で叫んだ。
「何を……している!はや、く……奴の元に行け!!」
豪奢なローブを鮮血に染めて。
ドラコ・マルフォイは頼んでもいない恩を売って来た女に向けて感情をぶつけた。
それを聞いて、哀の胸の内から諦観の二文字が消えていく。
もう、お互いが助からないは分かっていたけれど。
それでも、ここまでされてそのままただ死ぬなんて、ありえない。
傷口を抑えながら、哀は立ち上がった。幸いにして、ナイフは刺さったままだ。
引き抜かなければ、大出血する心配はない。
まだだ。まだ自分には……やるべきことがある。
その執念染みた思いを最後の燃料として、哀は駆けだした。
「逃がさないよ」
だが、それを許すほどジャックも甘くはない。
何らかの魔術攻撃を受けた様だが、痛痒はない。
最上級の神秘である英霊にダメージを通すには魔術師でも熟達した者でなければ困難だ。
ほんのちょっぴり驚いたが、これで終わり。虚しい抵抗だ。
と、その時の事だった。
「───ヴ」
ジャックの胸に、猛烈な嘔吐感がせりあがって来る。
気持ち悪い。何かが臓腑から喉の奥まで這い上がってきている。
がくりと地面に膝を付いて、そして口の中からそれを吐き出した。
「ヴぉええ………ッ!!」
三日酔いの酔っ払いの様に。
ジャックは口から唾液と共にあるものを吐き出した。
粘ついた細長い軟体と、滴り落ちる粘液。二本の触覚。
粘ついたナメクジが、彼女の口内から産み落とされたのだ。
最早嘔吐感で獲物を殺すどころでは無い。
ジャックは、脇を奔っていく哀の背中を見送るしかなかった。
もし、これが普通の杖ならばこんな結果にはなっていなかっただろう。
だが、マルフォイが振るったその杖は特別な物だった。
ニワトコの杖と呼ばれる、死の秘宝。最強の杖。
彼が未来にダンブルドアから手に入れ、闇の帝王を倒す決定打となる杖だった。
正当な使用者としてマルフォイは認められていたため、
サーヴァントに対しても最上級の呪詛として、マルフォイの魔法は効力を発揮していた。
「くくっ!ハハハハハハ……ざまぁみろ………ッ!」
跪くジャックと走っていく哀の背中を見て、乾いた笑いをマルフォイは見せた。
そして、今度こそ地面に倒れ伏す。
まるで、命の残り火を使い切ったかのように。
それでも胸に宿るのは、魔法使いとしての誇らしさだった。
(そうだ……いつまでも、マグルなんぞに舐められてたまるか。僕は……)
-
僕は代々の純血にして、優秀な闇の魔法使いであるドラコ家の末裔なのだから。
あんな、途轍もない魔力を感じる子供を相手取ったことなんて、きっとあのハリー・ポッターだってない。
そんな怪物が、自分がかけた、ウィーズリーでもできる呪詛に苦しんでいる。
胸がすく思いだった。
クラップやゴイル、そしてあのハリー・ポッターに自慢してやりたかった。
父上や母上にだって伝えたかった。きっと良くやったと褒めて下さるだろう。
そうだ、だから自分は帰らなければならない。帰りたい。
でも、裏切者の身体は動いてくれなかった。
息をするだけでも苦しい。きっと肺をやられた。
だから、自分はもう、帰ることはできない。
そんなの、嫌だ。
……嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
いやだ。
(嫌だ、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだ………)
……恐らく、ドラコ・マルフォイの人生において最も不幸な瞬間は、今この時だっただろう。
誇らしさを胸に死ねればよかった。
自分は大事を成し遂げたのだと思って死ねれば良かった。
だけど、彼の完成は闇の魔術を扱う家系にしては“正常”に過ぎた。
だから、酩酊にも似た、誇らしい気分はあっという間に覚めてしまって。
代わりに訪れるのは、意識が堕ちていく感覚。二度と帰らぬ死出の旅路に向かう感覚だ。
涙が零れた。死にたく、無かった。
魔法使いの誇りなんていらない。マグルと協力してでも、生きて帰りたかった。
父と母に、もう一度会いたかった。
────父上、母上に、もう、一度………
父と母の元に帰りたい。もう一度会いたい。
そうして、ドラコ・マルフォイの意識の最後の一欠片が闇に沈むその時まで。
彼が考えていたのはただひたすらに家に帰りたいという、子供そのものの願いだった。
-
■ ■ ■
ゼオン・ベルは、当初南下する予定だった。
病院の近辺を散策し、手負いであろう獲物やそれを守ろうとする対主催を狩る目算だった。
どうせなら美味しいものがありそうなデパートに寄っていきたい、というジャックの意見を採用し、南下していた矢先の事だった。
丁度彼らの目と鼻の先のエリアで、大爆発が起きたのは。
奇妙な感覚だった。爆発の音は響いているのに、近いのか遠いのかよく分からない。
爆発の閃光も一瞬だった。エリアの縁に到達した瞬間、一瞬で爆風は凪となったのだ。
そのため偶然隣接するエリアにいた事と、ゼオン、ジャックの両名が人間を遥かに超えた知覚能力を有していたが故の察知だった。
恐らくエリア間に特殊な結界が展開されている、ゼオンはそう推察した。
ともあれ、現時点ではその情報は重要ではない。
重要なのは大きな戦いが起き、手負いの参加者が近くにいるかもしれないということ。
そう考え、近辺を捜索した所、方角については完全に当て勘だったが、当たり玉が出た。
強者と見られる青いコートの少年と、黒髪の少女が対峙しているのを発見したのだ。
ゼオンは対峙する二人の超越者を目の当たりにしても、直ぐに突撃することは無かった。
その間手を出さず、存在だけは双方感じ取れるように殺気を放った上で潜伏した。
絶望王、そして魔神王を名乗った二人の子供は何方も自分の存在は気づいていただろう。
その上で、来るなら来いと手を出さなかったのだ。
ゼオンはそれを、慢心だと獰猛に笑った。
二人が襲ってきたとしても受けて立つつもりだったが、折角の好機は利用させてもらう。
支給された鮫肌を上手く行けば絶望王と名乗った少年はここで殺害できる。
そう目論み、そして彼は決行した。
蒼いコートの少年が大技を放ち、双方疲弊した瞬間に切り込んだ。
「…………っ!?」
「残念、皮一枚だ」
速度、タイミング、武装。その全てが雷帝にとって理想的な奇襲だった。
疲弊した瞬間を狙うだけではなく、相手が異能による防御を行った瞬間それそのものを喰らう鮫肌で強襲する。
だが、そんな理想的な奇襲を以てしても……絶望王は死ななかった。
半身を削り取る筈だった一撃は、彼が携えていた鍵剣の破壊と、動かすのに支障のないレベルの抉り傷を作るのにとどまっていた。
恐るべきはその反応速度と念動力の精密動作性。
彼は刀身そのものを止めようと働かせた念動力が削り取られ不発に終わった事を悟ると、
瞬時にゼオンの関節部に能力を使用したのだ。
突発的な対応だった為、無傷とはいかなかったが…結果致死の攻撃から見事彼は生還した。
「いい線行ってたよ、お前」
賞賛と共に、ゼオンの身体を猛烈な力が包む。
凄まじい圧力だった。それを、薄笑いさえ浮かべて目の前の少年は行使している。
それを認識した瞬間、彼の白いマントに包まれた矮躯は秒速500メートルの勢いで大地に向けて射出された。
「───がはッ!」
爆発音にとてもよく似た音を立てて、修羅の雷帝が地面へと縫い留められる。
強い。強い敵だった。
パートナーであるデュフォーの答えを出す物(アンサー・トーカー)があれば初撃の奇襲で終わっていたかもしれないが……
正面切っての戦い、それもパートナーのいない単独戦闘では分が悪いのは間違いなかった。
ジャックがこの男と戦いたがらなかったのも頷ける話だ。
ぎりり、と鮫のような歯を軋ませ、ゼオンは己の中の修羅を猛らせる。
そして、同時に笑った。
落下から一秒足らずで即座に復帰し、純白のマントで飛翔を行う。
-
「テオザケル!!」
五指を広げ、咆哮を上げるように呪文を唱える。
並みの魔物の子なら一撃でぶちのめすどころか、死ぬかもしれない威力の電撃だった。
だが、絶望王は薄ら笑いを浮かべて。
「さっきの不意打ちに比べりゃ、やる気がなさすぎるぜ、兄弟」
指の一本すら動かす事無く。
絶望王の念動力の力場は、雷帝の雷を霧散させた。
やはり、この程度の電撃では無駄か。
自分の有する呪文でこの男を殺せるのは、ジガディラスの雷をおいて他にないだろう。
それは、ともすれば絶望的ともいえる事実だったが、ゼオンの表情は変わらぬ笑みだった。
紫電の瞳は、超越者気取りの道化を見下す嘲りの形に歪んでいた。
「───なぜ俺が、お前に斬りかかる前に気配を隠さなかったと思う?」
ゼオン・ベルのその問いかけは、絶望王の耳に嫌によく響いた。
問いの意味を喉の奥で転がし、脳内で刹那の間思索する。
そして、問いの意図にたどり着いた瞬間、初めて彼の表情から笑みが消える。
例え目の前のガキが奇襲を仕掛ける前に気配を殺していても、自分は気づいていただろう。
だがしかし、気配をわざと殺さなかったとこのガキは言った。
自分を、相手に完全に気取られないように息をひそめるのは不可能だと考えたか、
真っ向勝負になっても、自分は負けないという自負に依るものだと考えていた。
だが、それだけではないとしたら?
わざと気配を殺さないことで、隠れて狙っている者がいると自分に知らしめ。
連れていた人間二人が奇襲で殺されることを厭い、遠ざけるのを狙っていたとしたら?
殺し合いに乗っていると見られるこの白い子供に協力者がいたとしたら?
「やられたな」
嵌められた。
まんまと策にハマったことを自覚し、先ほどまでとは違う皮肉気な笑みと声が漏れる。
ババ抜きでまんまと駆け引きに引っ掛かり、ババを掴まされた、そんな気分だった。
「レードディラス・ザケルガ!!」
ゼオンの詠唱が虚空に響く。絶望王に向けて新たな雷の殺意を放った合図であった。
思索のために訪れた硬直を好機と見たのか、ヨーヨーの様な形状をした雷撃の刃が迫る。
それを絶望王は緋色の瞳で見つめて───蹴り上げた。
「チッ───!」
蹴り上げられた電撃のヨーヨーは、ゼオンの手とつながっている。
必然的に、それがカチ上げられれば彼も影響を受けざるを得ない。
ほんの一瞬であるが、無防備な瞬間が、修羅の雷に訪れる。
その一瞬を、絶望王は見逃さなかった。
「じゃあな」
-
その言葉に怒りの感情はなかった。
ただ淡々と、事務的に短い言葉が紡がれる。
それと共に、ゼオンの肉体を再び凄まじい圧力に包まれ。
ぐるり、と絶望王の体が回転する、砲丸投げの選手のようだった。
そして事実ゼオンは直後に、見えない巨人に放り投げられる砲丸となる。
先ほどよりもなお早い。秒速1000mは達していそうな速度で。
ゼオンの肉体は隕石の如く大地に落下した。
10メートル以上はあるクレーターが出来上がり、濛々と土煙が舞い上がる。
落下の瞬間身にまとっていたマントで体をすっぽりと覆っているのが見えたから、大した怪我は負っていないだろうが、それでも直ぐには戦えないはずだ。
これ以上奴に構っている暇はない。
その思考のもと、絶望王は瞬間移動でその場を去ろうとする。
だが、それよりも早く、彼に向けて氷塊が放たれた。
「あー、そうだったな。お前もいたんだったか」
先ほどまでと違いどこか煩わしそうな態度で、向き直る。
絶望王の眼下には、肉体の修復を8割がた終えた魔神王の姿があった。
彼女の漆黒の瞳は今もなお、爛々と戦意が燃えていた。
そんな魔神王に対して、まず絶望王は放たれた氷塊を細かく砕き、敵手に向けて放った。
当然、その程度で魔神王が痛痒を覚えるはずもない。
肉体を修復しつつ、絶望王に向けた追撃を放とうとする。
「悪いな、先約なのに」
だが、絶望王が後の先を獲った。
瞬間移動で魔神王の背後に現れ、その手を添えて。
そして、先ほど見せた蒼い焔を炸裂させた───少女の肉体の内部で。
「─────!!!!!」
魔神王の、声にならぬ絶叫が響く。
先ほどの太陽光線は彼女の魂にダメージを与えなかったが、これは別だ。
明らかに、異なる魂の輪郭。それを知覚した者だけが放てる炎だった。
それを、肉体の内部で炸裂させられた。
致命傷ではない。だが無視できぬダメージを受けて、二歩、三歩と後退する。
そんな魔神王に対して絶望王は遊びの一切ない、戦闘の終結を目的とした一撃を放つ。
「決着は今度にしよう」
お互い生きて居たらな。
そう言って、緋色の瞳をした少年は、ゴッ!と魔神王に正拳を叩き込んだ。
当然、ただの拳ではない。念動力によって数千倍の威力を伴った拳だ。
更に、今しがた受けたばかりの蒼い炎も纏っていた拳であった。
物理攻撃である拳そのものにダメージは殆どない。
また炎によるダメージも内側で燃やされた先ほどよりもずっと小さなものだ。
だが、しかし──それで運動エネルギーが消える訳でもない。
「フッ───」
ホームラン王に打たれた野球ボールの様に、魔神王の少女の肉体が飛んでいく。
その刹那、彼女はもう一人の王に向けて笑みを形作った。
その笑みは、先ほどゼオンが浮かべていた嘲弄の笑みにとてもよく似ていた。
惰弱な人間などに入れ込んだところで、利する事など何もない。
視線だけで雄弁にその事を語り───魔神王は空に打ち上げられていった。
遠くまで飛ばせてはいないだろうが、ダメージを考えれば直ぐに戻っては来られない筈だ。
周囲を探ってみれば、もうゼオンの姿も既になかった。撤退したのだろう。
戦線の終結を確認した後、一人になった空で絶望王は独り言ちる。
「あぁ、全く。不自由なもんだよ」
戦闘の結果だけで言えば、勝者は絶望王だろう。
連戦となったにも拘らず、二人の敵手を悉く追い払った。
大した傷も負っていない。しかし。
吐く言葉の音色は、敗残者の様に寒々しい物だった。
-
■ ■ ■
吹き飛ばされた先で、むくりと起き上がる。
月の姫と謳われたその美貌は、未来からやって来た殺人機械の様に無表情だった。
負ったダメージを考えれば、一時間ほど休息をとる必要があるか。
立ち上がり自身の状態を検分した魔神王は、そう結論付けた。
「やはり、理解できぬ」
理解できないし、惜しいとも思った。
あの絶望の王が、何故あそこまで人間に執着を見せるのか。
人間は魔神王にとって屈辱と憎悪を募らせるだけの存在だった。
そしてきっとこれからも、魔神王の胸から憎しみが消え去ることは無いだろう。
闇の中に生まれ、闇の中に死ぬ。それが魔神(デーモン)の定めなのだから。
「……魂砕き(ソウル・クラッシュ)は今、何処にある」
この地には魔神の盟主たる自分にも匹敵する兵(つわもの)が少なからずいる。
それらを制圧するには、無手では多大な労力が必要とする。
あの蒙昧な子供に豚にされ、武装を盗またのは痛手であった。
絶望王などの強者を下すためにも、他の参加者を殺し、武装を奪う必要がある。
その思考の元、魔神王は少女の姿を辞め、新たな姿を形どった。
その姿は放送前に最も激しい戦闘を繰り広げた相手となっていた。
その姿の本来の持ち主を鬼舞辻無惨と言った。
食らった脳からの情報によると、あの者は暫く対主催の人間どもの中に潜む予定らしい。
だが、その性根は人間の事を何とも思っていない正しく魔族のそれだ。
ならば、あの男の姿を借りて不和を煽れば、必然的に奴も他の対主催を排除せざるを得ない。
「魔に連なる者は、魔なる者らしく生きるべきなのだ」
そして、その生とは人間に対する絶対不変の天敵である事に他ならない。
魔神(デーモン)達が、全ての人間に、痛苦と絶望を与え続けるように。
この殺し合いでも、彼女はロードスを闇に覆おうとしてた魔の王として君臨する。
-
【B-2 /1日目/朝】
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(大)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:ニケと覗き見をしていた者を殺す
1:絶望王は理解不能、次に出会う事があれば必ず殺す。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
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■ ■ ■
ゼオン・ベルは一旦絶望王との交戦地点から離れ、一足先に撤退していたジャックと合流する事を選んだ。
奇襲が完全に成功しなかった以上、まだ六時間しか経過していない内から、あの二人と正面衝突するのは得策ではないという判断だ。
概ね、作戦は狙い通り運んだのだから、欲張るとろくなことがない。
ゼオンにとってはこの殺し合いにおいて初となる強敵との交戦だったが、悪くない結果だったと言えるだろう。
戦況においてはあの絶望王が優勢だったものの、奴は己の命以外の全てを失った。
従属していたと見られる人間二人も、与えられた支給品も。
その何方も、自分達が奪ったのだから。
「それに何より───奴も血を流した」
能力は強大だ。
自分や龍族の神童と畏怖される二体の魔物の子に匹敵か、ともすれば超える実力があるやもしれない。
それでも、自分の一撃によって血を流した。
ならば殺せる。殺して見せる。
しかし──それよりも先に、今の自分には片付けておくべき事があった。
「だが、その前に先ずはお前だ……ガッシュ………!」
タブレットに記載されていた、愚弟の名前。
ゼオンが世界で最も殺したい相手の名。
魔界の王を決める戦いとは違うが、丁度いいだろう。
此処で始末してやると、拳を岩の様に硬く握りしめた。
───下らんことを気にしている暇があったら技を磨け。
脳内でリフレインするのは、映画館で見せられた忌み物がもたらした悪夢。
それがフラッシュバックするたびに、ドロドロとした黒いものがゼオンの心を満たした。
魔女モルガンが作り上げた呪物は、見事に彼の心の罅に呪いを流し込んだ。
それからずっと、雷帝の紫電の瞳には、消える事のない憎悪の炎が燃え滾っている。
その憎しみに支配されている限り、彼は凶行に及び続けるだろう。
「ヴォエッ!……ヴぇ〜……ぎぼぢわるい………だずげでお兄ぢゃん……」
そんな殺意と憎悪に燃えるゼオンとは対照的に。
ジャックは未だ自分を苦しめる嘔吐感に辟易していた。
足元には彼女が吐いたナメクジが散乱していて、正直近寄りたくない。
どうやら、敵の子供の呪いを受けてしまったらしい事を、ゼオンは記憶を読み取り知った。
「大したことのない呪詛だ。あと三十分もすれば自然に収まる」
「ぞんなぁ……」
「呪詛を使った子供の心臓はちゃんと回収して来たんだろう?
ならお前が呪詛から回復して、腹ごなしが済んでから出発する。有難く思え」
「う〜……分かった……おやつまで頑張る………ヴォエッ!」
涙目でまたぶっといナメクジを吐き出すジャックを見て、ゼオンは思わず顔を背けた。
手傷を負った程度なら気に留めなかっただろうが、流石にこれは同情する。
暫くジャックは使い物にならないだろう。
足止めを喰らうのは歯がゆい思いがあったが、ジャックは自分の命令を遂行した。
手足としては申し分ない。
であれば、自身の休息も兼ねて休ませるのも王の務めと言うのものだろう。
ジャックが呪詛から回復するまで、奴らから奪ったという杖や支給品の確認でもするか。
そう考え、ゼオンは奪い取ったランドセルの中身を検分するべく開いた。
-
【C-5 /1日目/朝】
【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]失意の庭を見た事に依る苛立ち、全身にダメージ(小)、ジャックと契約、魔力消費(小)
[装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!!
[道具]基本支給品×3、ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ、ランダム支給品5〜7(ヴィータ、右天、しんのすけ、絶望王の支給品)
[思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。
1:ジャックを上手く使って殺しまわる。
2:絶望王や魔神王に対する警戒。更なる力の獲得の意思。
3:ジャックの反逆には注意しておく。
4:ふざけたものを見せやがって……
[備考]
※ファウード編直前より参戦です。
※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。
※ジャックと仮契約を結びました。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Grand Order】
[状態]:なめくじ喰らえ(三十分程度で解除)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、探偵バッジ×5@名探偵コナン、ランダム支給品1〜2、マルフォイの心臓。
[思考・状況]基本方針:優勝して、おかーさんのお腹の中へ還る
0:ぎもじわるい…(涙目)
1:お兄ちゃんと一緒に殺しまわる。
2:ん〜まだおやつ食べたい……
[備考]
現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。カルデア所属ではありません。
ゼオンと仮契約を結び魔力供給を受けています。
※『暗黒霧都(ザ・ミスト)』の効果は認識阻害を除いた副次的ダメージは一般人の子供であっても軽い頭痛、吐き気、眩暈程度に制限されています。
-
■ ■ ■
分かっていた事だった。
自分は舞台(ステージ)の上に立つ役者(ヒーロー)ではない。
ただ、戯曲を眺める観客(ウォッチャー)でしかないのだから。
どれだけの力を持とうと、脚本(シナリオ)の内容は変えられない。
僕から奪え。
最愛の妹を救うために、その言葉を吐いた時もそうだった。
メアリー・マクベスは死んだ。救えなかった。
死ぬだけでなく、彼女の魂は魔都HLの結界となり果てた。
死後の安息さえ、彼女に用意してやれなかった。
絶望王(ウィリアム・マクベス)は、何も変える事はできなかった。
そしてそれは、今も変わらない。
「悪いな、やられたよ」
血溜りに沈む少女を見下ろして。
失血で死に行く灰原哀に、絶望王は謝罪の言葉を述べた。
「謝らなくて……いいわ………私も………荷物番………できなかった、もの」
息も絶え絶えで、壁を背にもたれ掛かり、謝罪の言葉に対して哀はそう応えた。
荷物はあの無邪気で狡猾な殺人鬼に奪われてしまった。
身一つで、マルフォイも置き去りにして、絶望王の元まで逃げてきたのだ。
尤も、迫りくる死からも逃げきるには、彼女は血を失い過ぎた。
もう死ぬ。あと五分も保たない。それは決定した事実だった。
無言で絶望王はしゃがみ込み、少女に視線を合わせて告げる。
「……それでも一応、お前は俺から逃げなかった。ゲームはお前の勝ちだ。
さっき言った貸し一つと合わせて二つ、頼みを聞いてやる」
それは、死に行く少女に対して、絶望王ができるせめてもの手向けだったのかもしれない。
その言葉を聞いて、哀はマルフォイに感謝しなければいけないと思った。
彼が、もう無駄だと分かっていてもやってくれなければ、こうして絶望王が来る前に自分は死んでいただろうから。
本当ならばもう少し貸しを使うタイミングは吟味したかった。だがもう仕方がない。
思考をかつてない程回転させ、掠れていく視界の中、必死に意識を保って。
哀は一つ目の願いを言った。
「奈良君たちを………助けて、あげて」
先ず哀は、放送前に出会った少年少女の身を案じた。
彼らは戦力に乏しい。強い参加者の助けが必要だ。
そう考えたが故の、一つ目の願いだった。
願いの吐露と共に、ごほごほと血の塊を吐き出す。
まだ喋る余裕があるのは、ブラックの能力で傷口の血流を操作しているからだろう。
「…もう一つ、言ってみな」
-
絶望王は了承も否定もせず、ただ次の願いを促した。
その様に不安を抱くけれど、もう肉体は八割がた彼岸の向こう側だ。意識は霞かかって、酷く眠い。
組織に消された姉もこんな感覚だったのだろうかと、何処か他人事の様な思考が過った。
いけない。ちゃんと考えなければ。
そう思って、強引に思考を引き戻して、最後の力を振り絞る。
絶望王(ブラック)に人を殺すのを止めろという?
それとも、他の対主催を守ってやれという?
アガサ博士には、吉田さんには、円谷君には……
それとも、それとも、それとも………
考えが浮かんでは消え、思考が纏まらない。
───灰原。
そんな中で、最後に辿り着くのは、やはりあの少年の事だった。
ぎゅう、と握りこぶしを作り。最後の願いを紡ぐ。
「……新、一くん、を……ゴホッ………江戸川、コナン君を………」
助けてあげて。
それが、灰原哀が、宮野志保が遺す、最期の願いだった。
彼はきっと苦しんでいる。
この世界は、法に守られていない世界だから。
暴力の強さが全てを決めてしまうこの世界で、彼はずっと苦渋を味わい続けるだろう。
打ちのめされる事も、否定される事も、きっと一度や二度では済まない。
それでも、彼にこんな強くて残酷なだけの世界に負けて欲しくなかったから。
いつだって、疑惑と混迷の闇に、一条の光をもたらしてきた彼は。
江戸川コナンは灰原哀にとって、ずっと。
世界一の名探偵(シャーロック・ホームズ)だったから。
だから、このバトル・ロワイアルと言う事件もきっと解決に導ける。
尽きる事のない信頼を胸に、灰原哀は絶望の王に、祈りを綴った。
「…全く、守れだの助けてだの……俺が誰か、分かってねーな、お前」
祈りを聞いて、絶望王は困ったように笑った。
彼の力は全て、人間に絶望を与えるための力だ。
つまり人を傷つけ、殺す為の力なのだ。
本質的に、彼は人を守る事など出来ない。
それは目の前の少女は分かっているだろうに、それでも願うというのか。
「ふふ……それ、でも。人は、変われる、わ……私が、そうだった、から………」
絶望王の緋色の瞳から、思考を読んだかのように。
笑って、哀はそう告げた。
そして、最後に言葉を贈ろうと、闇に落ちていく意識の中で思い立つ。
身体の奥に残った力の全てを出し切って。最後の言葉くらいは、淀みなく。
絶望王(ブラック)と、江戸川コナンの二人に、精一杯のさよならを。
───彼にも、伝えて
───『成し遂げんとした志をただ一回の敗北によって捨ててはいけない』って。
言葉を言い終わると同時に。
ふっと、哀の瞳から光が消える。
僅かに体を支えていた力が抜けて、ズルりと壁からずり落ちようとする。
絶望の王はそんな彼女を静かに抱きとめて。
そして、永い旅路に出た少女の瞼をそっと降ろした。
───あぁ、お休み。アイ。
【灰原哀@名探偵コナン 死亡】
【ドラコ・マルフォイ@ハリー・ポッター シリーズ 死亡】
-
■ ■ ■
少し後。
灰原哀と、彼女が倒れていた場所から少し離れた場所にあったドラコ・マルフォイの遺体を、ブラックは埋葬した。
能力で土の地面の場所に穴を掘り、二人の遺体を安置した後、もう一度土をかぶせる。
五分と掛からず、二人の子供がいた痕跡は殆ど分からぬほどに消えて行った。
一仕事終えて、んー……と大きく伸びをする。
「さて……先ずはシカマルの方に行ってやるかね」
先ずは大まかな居場所が分かっているシカマル達の方に向かう事とする。
哀は何時まで守れとは告げていなかったが……まぁ、他の対主催の強者と合流するまででいいだろう。
精神的にも、所持品的にも、折角身軽になったのだから。
そうと決まれば、早速向かおう。
そう決めて、瞬間移動を使うために意識を集中する。
「…………江戸川コナン、か」
瞬間移動が発動するまでの、ごく短い時間に。
絶望王はその名前を反芻する。
アイが信じていたヒーローは、どんな男だろうか。
自分が見つけるまで、生きているだろうか。
この暴力に支配されている世界でなお、折れずに信念を掲げ続けているのだろうか。
出来る事なら、会ってみたいと思う。
まだ見ぬ名探偵との出会いを期待し、願いながら……絶望の王は口笛と共に、姿を消した。
【B-4 /1日目/朝】
【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:死んじまったモンは仕方ない。一先ずシカマル達の方に行ってやるかね。
1:気ままに殺す。
2:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
3:シカマル達が、結果を出せば───、
4:江戸川コナンは出会うまで生き伸びてたら、な。
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。
【ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ】
絶望王に支給。
史上最強の杖であるとされ、普通の魔法では直せない折れた杖を修復するなど、一般的には不可能とされる魔術の妙技も繰り出せる。
その力は魔法使いの戦闘において、杖そのものが至高の魔力を持つニワトコの杖を手にする者は負けることはないと言われているほど。
この杖の所有者となったある闇の魔法使いは一振りでパリを火の海に変えた。
また、他の杖と違い、所有者と決して精神的な絆を育むことのない冷酷な「死の杖」「宿命の杖」である。
決闘に敗北した所有者に対する忠誠を必ず失うニワトコの杖は、
所有権が「必ず」「完全に」勝者に移動する事となるが、魔法などで所有者を確認する事はできない。
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投下終了です
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予約を延長します
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投下ありがとうございます!
序盤から始まる絶望王VS魔神王のドッカンバトル、ド派手な戦闘規模と繊密な文章表現がマッチしてとても読みごたえがあります。
二人の問答もいいですね。同じ人外に属しながらもスタンスの違いや、接し方の差異が出ていてとても良い。
魔神王もかなり難しいキャラなんですが、因縁を作って徐々にドラマが作れる土台が組み上がってきて、この後どうなるか楽しみです。
ジャックちゃん、このロワ開始以降、毎話確キルしてくる女。
ゼオンという同行者が居る事で無理に強者を相手にしない分、生存力は高まりつつ、弱者は楽に屠れますし仮にも英霊なので弱った強キャラも暗殺出来なくもないというがマーダーとして優秀ですね。
なまじ強くて、強キャラに喧嘩売りまくるマーダーより着実にキル数上げてるのがらしい。
マルフォイ、初登場話からは考えられない位頑張ったんじゃないのこの人。
やってることは、ライバル(の取り巻き)の技を借りて、灰原という希望を絶望王に繋ぐ激熱転換なんですよ。
あの魔法、ギャグで流してるけど結構凶悪なんだ。
ジャックちゃんがナメクジ吐くの、そういう人たちに需要ありそう。
ただ死ぬ時、恐怖して逝くのが凄い一般人メンタルしてて良いですね。なんか親父諸共、蝙蝠と言えばそれまでですが普通の感性かつ、何か変な立場になっちゃったから小悪党になった面もあるんでしょうね。
パパフォイはナチュラルに差別するけど、色々あって成長したマルフォイはかなり真人間になっているらしいので。
最後の灰原の願い。こう言っては何ですけど、絶望王に色んな要求通す為に灰原なら、もっと合理的で効率の高い言い回しもあったと思うんですよ。
でも最期に名指しでコナンを想うのが切ないし、それでもコナンならって信じて逝くのがパーフェクトヒロインムーヴ。
バイバイだね。江戸川コナンくん……。
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ゲリラ投下します
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「イリヤさん。美柑さん。すみませんでした。不甲斐ない姿を見せてしまって」
ダークネス・ヤミの襲撃から一時間ほどあと。
H-8のマンションの一角まで、イリヤら一行は避難していた。
端部分の地区だけあって戦闘痕は見られず、この一時間余り敵襲は無かった。
誰も彼も疲弊しきっていた状況で、幸運だったと言えるだろう。
20分程ケルベロスを除く全員が倒れ込み、口さえきけない有様だったのだから。
一時間を数えて漸く行動できる程回復し、起き上がった悟飯の口から出たのは先ず謝罪の言葉だった。
「い、いいよ……悟飯君が謝る事なんて何もないし」
「うん、私だって…雪華綺晶ちゃんがいなければ、ヤミさんを止められなかったし。
悟飯君は頑張ってくれたと思う」
「………うん、私もそう思う」
深く深く頭を下げる悟飯に、負い目を感じさせる表情で美柑と服を着なおしたイリヤは返答を返す。
襲撃してきたダークネス・ヤミに対して何もできなかったのは自分達も同じだ。
イリヤは加えて悟飯君は良くやってくれたと、労いの言葉をかける。
美柑もやや間を開けて、その言葉に同意した。
(もし……悟飯君が元気だったら)
言葉にはしなくとも。
悟飯の敗北は、美柑にとってほんの僅かにだが安堵する要素があった。
だって、あの強い悟飯が。敵に一切の容赦がない悟飯が。
もし、万全の状態で自身の友人であるヤミと相対していたらどうなっていただろうか?
彼は───リーゼロッテに行った様な暴力を、ヤミにも振るうのか。
その時に訪れる結末を想像して、体を流れる血の温度が三度は下がった様な錯覚を覚える。
(────っ!最低だ、私………)
と、その瞬間の事だった。
美柑は気づいた、安堵してしまっている自分に。
悟飯がヤミを手にかけるような事が無くて良かったのは確かだ。
これについてはどんなに冷血だと罵られようとも、曲げるつもりは無い。
でも、ヤミが死ななかった代わりに命を落とした者がいる。
雪華綺晶は、凶行を及ぶヤミを止めようとして命を落としたのだから。
美柑が知り合ってから過去の事になっていたはずの禁忌を、ヤミは犯してしまったのだ。
安堵できる様な状況では一切ない。
それにヤミがもう一度殺そうとしてきたら、その時悟飯が十全に力を発揮できる状況だったなら。
不安と、自己嫌悪が再び頭をもたげてくる。
「美柑さん………大丈夫?」
「友達があんなんなっとったのはショックやろな…」
だが、そんな美柑の表情を読み取り、案じる者が今は隣にいた。
イリヤとケロベロスが心の底から心配した様子で、美柑の顔を覗き込んでいた。
彼女だって、少し前に友人を失ったばかりだというのに。
それでも何とか俯くことも蹲る事もせず、顔を上げている。
美柑にとって彼女の存在は少し眩しく思えた。
「うん……大丈夫、ありがと」
「気ぃ落としたらアカンで。
あのヤミって子を止められるとしたら、美柑以外におらんのやから」
「……そうだね。ヤミさんの事、次は絶対に止めてあげたいから」
ケロベロスの言葉は今の美柑にとって厳しくもあり、同時に活力も与えた。
ぎこちなく、空元気そのものでも、笑みを作る。
闘えない美柑にできる事は、せめてイリヤや悟飯に負担をかけない事だ。
何の役にも立たないなら、せめて足を引っ張らない様にしなければ。
それに、今の美柑には果たさなければならない仕事ができた。
またヤミと会ったら今度こそ止める。そして、彼女と共に帰る。
ここに結城リトはいない。止められるとしたら美柑だけだ。
どれだけえっちぃ事をされても、結城美柑と金色の闇は友達だから。
何もせず、後ろで悟飯にヤミを傷つける未来を怯えて待つわけにはいかない。
-
「……何ていうか、一緒だね、私達」
「え?」
そんな美柑を気遣う様に、同時に何処か皮肉気にイリヤが笑いかける。
「私も…ルビーをシャルティアから助けてあげないといけないし、クロも……
殺し合いに乗ってるなら、絶対に止めてあげないと」
美柑よりも気丈にふるまうイリヤも、実の所ギリギリの所で踏ん張っていた。
親友の美遊が命を落とし、たった一人の姉妹であるクロエは殺し合いに乗っている。
依然の彼女なら抱えきれず、逃げ出していたかもしれない程状況はすこぶる悪い。
でも、今の彼女は毅然としていた。
「それが、雪華綺晶ちゃんとの約束だから………」
共に過ごした時間は瞬きの様な短い時間だったけれど。
それでも心を通わせた彼女は、掛け替えのない戦友だった。
その彼女が祈り、イリヤは託された。投げ出すわけにはいかない、友との誓いだった。
-
「…イリヤさん、ありがとう」
自分と近しく、自分よりも悲惨な状況の中、それでも折れる事無く立つイリヤの姿勢。
それを見ていると美柑も勇気づけられる思いだった。
悟飯とケロベロスだけなら、ここまで持ち直すことは不可能だっただろう。
もう何もかも嫌だと蹲っていた可能性だって0ではない。
この人がいてくれてよかった。心の底から、そう思えた。
この子がいてくれたら、これからも。こんな酷い世界でも、諦めずにいられる気がした。
「まー!まー!皆色々大変なもん抱え取るけど、今は兎に角休憩や休憩!
ここにはヤバいのが大勢おるし、無理は禁物やで!!」
ギャラリーそっちのけで、イリヤと美柑が二人の世界に入りかけている事を察知したのはケロベロスだった。
ぽむぽむと前足で柏手を打つように叩き合わせて、休憩を取るように促す。
「悟飯も今までよーやってくれたわ!色々厳しい事も言ったがお疲れさんやで!
取り合えず此処でもう暫く休んでいこか!汗流して、仮眠の一つでも取ったらええ!」
「…え、でも」
「でももカモも無いで!またいつ襲われるかも分からんのやから、とれる時に休憩しとくもんや!」
表面上ケロベロスも朗らかに言うモノの、彼も必死だった。
悟飯の様子は時折明らかにおかしい。
おかしい…のだが、それが殺し合いという異常な状況から来るストレスに依る物なのか、
それとも外部に原因があるのか彼には分からなかった。
少なくとも、魔術や魔法に纏わる異変なら直ぐに分かるのだが……
兎に角、原因が分からない以上は現実的な対処をするしかない。
元々全員が疲弊している。件のシャルティアやヤミがまた襲ってきたら保たない。
無理やりにでも休息を取らせる必要があった。
何なら、次の放送まで休憩しても良いとさえ彼は考えていた。
だから表面上は穏やかに、けれどその実有無を言わさぬ語気の強さで休息を促した。
「わ…分かりました、休憩…します。
………そうだ、確か僕の支給品に…」
ケロベロス必死の説得に悟飯も折れ、休憩を決める。
その最中に、休憩の二文字から自分に支給されていたある支給品のことを思い出す。
思い至ってすぐに自分のランドセルをゴソゴソと漁り、一枚のカードを取り出した。
それは蒼い肌の女性が描かれた、紫色のカードだった。
何でもこのカードには使用者を回復させる効果があるらしい。
「ホーリーエルフの祝福を発動……これでいいのかな。って、うわっ!?」
カードを掲げて、恐る恐る発動を宣言する。
すると数秒後、カードに描かれていた青肌の美しい女性が姿を現した。
それに伴い、イリヤ達を暖かな光が包む。
「凄い、これ…っ!?」
「……っ!少し、体が楽になった?」
特に効果が覿面だったのはイリヤと悟飯だった。
両者とも連戦で疲労が色濃いだけに、体が癒されていくのを肌で感じる事ができた。
美柑も疲労が抜けていき、のび太もリップに付けられた肩の傷が消えていく。
カードの文面によると、その場にいる人数によって効果が上乗せされるらしいが、この恩恵は嬉しい誤算だったと言えるだろう。
-
「ありがとう、悟飯君!」
『私からも御礼申し上げます。悟飯様』
イリヤと、その傍らにふよふよと浮かぶ魔法のステッキ、サファイアが御礼を述べる。
愉快型礼装の全性能を発揮しイリヤの体組織の治癒促進を行っていたが、ここまで回復できるとは思えなかった。
紛れもなく悟飯と、悟飯に与えられていた支給品の功績だった。
「い、いや……別に僕の力という訳じゃないし…当然の事をしたまでですよ」
少し照れたような顔を浮かべて悟飯は困った様に笑った。
身体に纏わりついていた疲労が抜けて、彼にも幾分か余裕ができたのだ。
とは言え、精神的な疲労まで緩和された訳ではない。
休憩をとる決定は依然変わらなかった。
「えっと、じゃあこれから僕とイリヤさんの交代で見張りをしますから…
皆さんはその間仮眠を取ったり食事をしたり、休みましょうか」
休憩をとると言っても、一度に全員という訳にはいかない。
また奇襲を受ける恐れがあるからだ。
となると、誰か戦えるものが他のメンバーの休憩時に見張りをしなければならない。
必然的に、悟飯とイリヤが交代で見張りをするという流れになるのだが………
それに異を唱える者がいた。
「ぼッ、僕も!!」
声を上げたのは、眼鏡の少年だった。
失態続きで、銃も失い、それでも役に立とうと───のび太は声を上げた。
「僕も……見張りするよ。その方が、悟飯君やイリヤも休めるだろうから……」
一言で言って、無駄な提案であった。
見張り役は最低限戦えるものでなくてはいけないのだ。
出会い頭に殺されてしまうような手合いでは意味がない。
それはのび太にも漠然と理解できていたけど、それでも役に立ちたい一心だった。
それくらいしか、辛そうなメンバーに貢献できることが思いつかなかった事にも起因する。
「のび太くん。気持ちは有難いんだけど、その───」
イリヤの言葉に嘘はなかった。
のび太の申し出は嬉しい。でも、彼では不適合だ。
シャルティアに襲われる前に1秒かからず眠れる事が特技だと豪語していた彼では……
最悪、見張り中に眠ってしまうかもしれない……そこまでは考えないものの、
やんわりとのび太の申し出を断ろうとする。
「でもっ!僕だって見張り位……」
だが、のび太は食い下がった。
そこには純粋にみんなの役に立ちたい思いもあった。
しかしそれ以上に彼の心を占めていたのは……
「もとはと言えば、僕がヤミさんを連れてきたからああなったんだし……
少しでも役に立たないと、雪華綺晶に申し訳が……」
-
深い深い、自責の念だった。
悟飯がイリヤと美柑に謝罪した際口を挟めなかったのも、申し訳なさからだった。
勿論これで失敗が帳消しになるとは思っていない。
それでも犯してしまった罪に対して、何か自発的な埋め合わせがどうしてもしたかった。
自分がヤミを連れてこなければ、あぁはならなかったのだから。
「のび太さん……」
イリヤと美柑は顔を見合わせて、困った様な表情を浮かべる。
だが、ここまで真摯に頼まれれば、無下にする訳にもいかないだろう。
数秒ほど見つめ合った後、やがて何方ともなく決心したように頷き合った。
見張り役とまではいかずとも、彼の自責の念が少しでも和らぐような。
そんな案を、一緒に考えようと告げるつもりだった。
「─────なんだって?」
だが、悪意と言う物は、いつだって。
水面下で、想像よりもずっと早く。
憐れな生贄たちの背後まで、忍び寄っている物なのだった。
-
■ ■ ■
ヤミという女が襲ってきたのは僕がいないタイミングだった。
だから、野比のび太は偶然その時に居合わせただけだと思っていた。
でも、あの女を連れてきたのは野比のび太自身だという。
はは、と乾いた笑いが漏れた。
それじゃあつまり───またこいつのせいで死人が出たって事じゃないか。
「どういう事だ」
まるで油を染みこませた紙に火をつけたように。
僕の中で、怒りの炎が燃え上がった。
こいつが、のこのこあの女を連れてきたせいで美柑さん達は襲われた。
こいつが何も考えずに行動したせいで、雪華綺晶さんは死んでしまった。
偶然なのか故意なのかは知らない。でも、故意の方がまだましだとすら思える。
悪気はなかったという言葉で済むのは誰も犠牲が出ていない時だけだ。
二人も死なせておいて、わざとじゃなかった何て物言いが通じる筈がない。
カッとお腹の奥が熱くなって、僕は野比のび太の襟元を掴み上げていた。
「ぐ、ぇ……苦し……な、なん、で………」
突然掴みあげられて、睨みつけられた野比のび太が理解できないという目で僕を見る。
それが無性に苛立った。自分が何故こんな目に遭っているかも考えられないのか?
きっとこいつは、何も考えずに僕の前に飛び出してニンフさんを死なせて。
そしてヤミという女を連れてきた時も何も考えていなかったのだろう。
騙されていたなら兎も角、事前に異常な事をされていたとも野比のび太は喋った。
呆れてものも言えない。そんな明らかに異常者の女を、みすみす引き合わせたのか?
「何を考えてるんだ、お前は……!」
「そん、な。僕゛、はァ………」
襟首を掴んだまま吊し上げ、睨みつけるとたちまち野比のび太はべそをかいた。
表情は言葉にしなくても何が言いたいのか分かる物だった。
そんなつもりじゃなかった。きっとそう言いたいのだろう。
そんなつもりじゃなくて僕の邪魔をしてニンフさんを殺し。
そんなつもりじゃなくてヤミを呼び寄せ雪華綺晶さんを殺した。
きっとこいつはまた同じような事があったら、こういうのだろう。
そんなつもりじゃなかったって。
そう言ってまた何食わぬ顔で一緒に行動しようとするのだろう。
想像するだけで、苛立ちで頭がどうにかなりそうだった。
「やめろや、悟飯!!」
慌てた様子でケロベロスさんが割って入って来る。
入って来ると言っても、僕の腕を前足で掴んで引き離そうとするのが精一杯みたいだけど。
「のび太に悪気はなかったんや!落ち着け!!」
「ダメだよケルベロスさん、きっとこいつはまた同じ失敗をする」
見張りを買って出たのが良い証拠だ。
戦えるとか戦えないとかはこの際置いておくとして、それ以前に。
本当に申し訳ないと考えているなら、今しがた騙されて死人を出した人が、見張り役何て買って出ない。
つまりこの人は、今も何も考えてはいないのだ。
この人に任せていたら、マーダーが殺し合いに乗っていないって近づいて来てもあっさり信じそうだ。
それでまた死人が出たらきっとこういうのだろう。
そんなつもりじゃなかったって。
その時死んでいるのは美柑さんか、イリヤさんか、ひょっとしたら僕かもしれない。
そんなの、認められるはずがなかった。
-
「君に見張りなんて任せられない」
彼の胸ぐらをつかんで、僕はハッキリと宣言した。
僕だって彼の事をとやかく言えるほど褒められた働きができた訳じゃない。
それでも、この人に任せていたら命がいくつあっても足りない。
それなのに目の前のこいつは、ショックを受けた様な顔で此方を見ている。
まるで僕が酷い奴だって、そう言いたそうな視線だった。
「やめてよ、二人ともっ!!」
「そうや、ホンマこういうのはアカンで悟飯!!」
美柑さんとケロベロスさんが必死になって止めに入る。
二人とも必死だった。美柑さんはまた泣きそうな顔をしていた。
それを見ると、胸の中に在った自信がどんどん目減りしていくような気持ちになる。
でも、どうすればそれが元に戻るのか、僕には分からなかった。
「………二人は」
分からなかった。
何で二人が、野比のび太の肩を持つのか。
僕は、何か間違ったことを言ったのか?
いいや、そんな筈はない。
事実野比のび太に見張りを任せるなんて二人も無理だと思っている筈だ。
なのに。それなのに。
「僕が間違ってるって言うんですか」
「ちゃう!そうやない!!でも今の悟飯はやりすぎって言うとるんや!!」
「そうだよ、こんなのおかしいよ!!」
やりすぎ?
やりすぎと言っても、僕は胸ぐらを掴んでいるだけだ。
それ以外に暴力を振るったりはしていない。
と言うより、この人は少し痛い目の一つでも見ないと分からないんじゃないか。
そんな風にも思うが、美柑さんたちを怯えさせたいわけじゃない。
僕は無言で、野比のび太の胸ぐらから手を離した。
「ごほっ!ごはっ……はぁ……はぁ………」
野比のび太は目を白黒させて、尻もちをつく。
そして、僕を化け物を見る様な目で見上げてきた。
だけど、不思議と野比のび太に限っては、そう見られても腹立たしさはあったが、悲しくはなかった。
冷静に、淡々と、僕は言うべきことを告げた。
「……貴方は何もしないで下さい」
邪魔ですから。と言う言葉は飲み込んだ。
出来る限り、責める様な態度で言うのはやめて、ちゃんとこの人にも伝わる様に告げた。
でも、そう言われた野比のび太は少しの間言葉を失って。
その後に頭に血が上ったのか顔を赤くして。
「…そうやって、またリップとニンフの時のような事を繰り返すの?」
低い声でそういった。
言われた瞬間、瞬間的に拳を握りこんだ。
それを、よりによってお前が言うのか!?お前が!!
-
「ニンフの事だけじゃない。リップだって……きっと生きたいってそう思ってたよ」
歯を食いしばって、拳を岩みたいに硬く硬く握りしめる。
イリヤさんには言われても仕方ない。だけど、お前にだけは言われたくない。
誰のせいで、ニンフさんと雪華綺晶さんは死んだと思ってるんだ!
お腹の中を衝く様な燃え滾る怒りの中、もう一度僕はのび太に掴みかかろうとした。
その一瞬前の事だった。
「やめてぇッ!悟飯君、お願いだから!!」
「そうや悟飯、ちょっとおかしいでお前!頭冷やしてこい!」
まただ。
また二人は、野比のび太の方の肩を持った。
迷惑ばかりかける野比のび太の方を。
僕だって、決して褒められるような戦いは出来ていないと思う。
でも、それでもシャルティアが襲ってきた時は僕がいないとみんな助からなかった!
ヤミと戦った時だって、一番危なくて、痛い思いをして戦っていたのは僕の筈だ。
なのに、何で分かってくれないんだ。
なんで、こんな奴の肩を持つんだ………!!
「やめてよ」
その時、美柑さんとも違う、ケロベロスさんとも違う声を僕は聞いた。
悲し気なその声は、イリヤさんの物だった。
この人も、野比のび太の肩を持つのか。そう思ったけれど。
続く彼女の言葉は僕の側でも、野比のび太の側でもないモノだった。
「こんな喧嘩をさせる為に……雪華綺晶ちゃんは命を賭けた訳じゃない」
イリヤさんのその言葉は、僕達のために犠牲になった雪華綺晶さんへと向けた物だった。
悲し気に顔を伏せる彼女を見て、すっと怒りが抜けていく。
何をやっているんだ、と自分に対して思わずにはいられなかった。
続いてやって来るのは、どうしようもない虚しさだった。
「……ご、ごめんなさい。イリヤさん
………………す、少し……頭を冷やしてきます」
そう言って、僕は部屋を出る。
誰も、引き留める人はいなかった。
鉛の様に重たいドアノブを数秒かけてゆっくりと回して、部屋を出る。
自分は一体何をしているんだろうという思いで頭がぼうっとしていた。
そうだ、シャワーでも浴びてさっぱりしよう、そう思って、浴室と思わしき部屋へ向かう。
浴室に向かう廊下は暗く、寒々しくて……酷く、孤独だった。
-
■ ■ ■
「のび太、悪いけど悟飯の言う事は間違ってない。のび太に見張り役は任せられへん」
悟飯が部屋から出てから十分以上にも渡って。
誰も、何も言えなかった。
沈黙だけが、部屋の中を支配していた。
腕を組み、短く溜息を吐いて、そう切り出したのは、ケロベロスだった。
悟飯の主張は物言いこそ正しくない物だったものの、的を射ていた。
尤も、これまで彼が犯した失敗の視点からの言葉では無かったが。
のび太が見張っていても、ヤミやシャルティアの様な超人に等しい相手だった場合見張りの意味を成さない。
そう考えての判断だった。
「………」
その言葉を告げられたのび太は、無言で部屋を見回した。
イリヤも、美柑も俯いたままで、何も言ってはくれなかった。
ケロベロスの言葉を肯定しないまでも、否定する事もできなかった。
全員が全員、ギリギリの所でいたのだから。慰める余裕はその時なかった。
「……………うん」
やがてのび太は小さな声で肯定の意志を示した。
これ以上食い下がった所で自分の我儘で、余計迷惑が掛かると思ったからだ。
少なくとも悟飯は自分よりもずっと強くて。みんなの為に戦える。
その悟飯の不興を、これ以上買うべきではない。
自分が不興を買うだけならいい。
でも、イリヤ達まで彼に嫌われる様な事があったら大変だ。
だから、ここで引き下がるのは僕であるべきなんだ。そう思って。
「……ごめん。でも、僕はどうしても嫌だった………」
悟飯は味方には優しい。でも、マーダーは容赦なく殺そうとしている。
それが、のび太には認められなかった。
彼に殺されたリップだって、言葉を尽くせば考え直してくれたのかもしれない。
地球を侵略しに来た鉄人兵団の尖兵だったリルルが、最後に味方してくれたように。
悟飯の主張は、そんな和解の可能性を摘み取ってしまうものだ。
「嫌な奴は殺して解決って言うのは……例え正しくても、僕は嫌だった」
悟飯の言葉の殆どはのび太には否定できなかったし、するべきでないとも思ったけど。
でも、全てを肯定する事も出来なかった、
その感情が、最後に悟飯への批判のような形で口から出てしまったのだ。
それでイリヤ達に庇われて、のび太の胸は情けなさで一杯だった。
でも、そんな彼の言葉を。
「………のび太さんは正しいことを言ったと思うよ」
「私も……そう思う、かな」
イリヤと美柑は、肯定した。
悟飯のスタンスを突き詰めると、彼女らの友人と最後に殺し合う事になってしまうから。
イリヤはクロ、美柑はヤミ。それぞれ大切な人がこのゲームに乗っている。
それぞれを止めたいと考える彼女等にとって、のび太の言う事は心に染み入る様だった。
応援したいと、その想いを捨てないで欲しいと、心の底からそう思った。
でもそれは、勿論悟飯のスタンスを否定するわけではない。
-
「悟飯君が落ち着いたら……もう一回、皆で話し合いたいね」
「うん、悟飯君も、ちゃんと話し合えば……きっと分かってくれるよ」
「そう、だね…うん、僕も、悟飯君とはちゃんと話し合いたい」
三人にとって悟飯は、普段は優しくて礼儀正しい少年であるが。
時折すごく恐ろしくなる。そんな少年だった。
裏を返せば、優しくて礼儀正しい普段の時に話せば分かってくれる可能性がある。
だって、彼は此処までずっと、誰かの為に拳を振るっていたのもまた事実なのだから。
「せやなー、幾ら強いゆーても繊細な所もあるみたいやし。
これからはケロちゃんも悟飯の事、もうちょい気遣ってやらんと」
『悟飯様は……悪い方ではないと思います。のび太様との和解の余地はあると私も思います』
空中を漂いながら、守護獣と魔術礼装も賛同する。
様々な負い目や確執はあれど、この場に悟飯を敵視したり嫌う者はいなかった。
今すぐに、と言うのは難しくても。
頃合いを見計らって、休憩後にこの部屋を後にする前でも、もう一度話し合うのも視野に入れてもいいかもしれない。
その時既に、悟飯を除いた、部屋にいる者全てがそう考えていたのだった。
……もしも、この場に、雪華綺晶がいたなら。
孫悟飯の異変にも気づけたのかもしれない。
人の心に寄り添うという力では、薔薇乙女の能力はこの殺し合いに招かれた参加者達の中でも有数のものだからだ。
だけど、彼女は既にこの島を去っている。それが現実で。
事態は彼女等の想像よりも深刻に進行している事を、まだ誰も気づけなかった。
■ ■ ■
-
シャアアアアと流れていく泡を、無感情に僕は見つめていた。
シャワーを浴びて汗や血を流して、体はさっぱりしているのに。
胸の中を占めるのは、どうしようもない孤独感と虚しさだけだった。
「僕は一体……何をやってるんだろう………」
誰に問う訳でもない問いが、泡と一緒に流れていく。
きゅっと蛇口を絞って、手早く外にかけてあったバスタオルで体を拭う。
その間も頭の中に浮かぶのは、美柑さん達の僕を見る目だった。
分かってる。ここまで僕が上手くやれていない事ぐらい。
でも、そんな目で見ないで欲しかった。
まるで、獣を見るような目で、僕を見ないで欲しかった。
「僕だって、好きでやってる訳じゃないのに……っ」
誰かに暴力を振るう事は、元々好きじゃない。
でも、そうしないと僕は皆を守れない。
お父さんみたいに、上手くできないから、嫌々やっているのに。
殺すことが、皆の安全を一番確保できると思ったからやっているのに。
それなのに皆は、僕が暴力を振るいたくてやっているような目で見る。
事あるごとに、それが浮き彫りになる。
「今……皆は、何話してるんだろ………」
僕のいない部屋で、イリヤさん達は何を話しているのだろうか。
ふっと笑みが出た。そんなの、決まっているのに。
僕が怖いって、おかしいって、そう言っているのだろう。
だって、ケロベロスさんもあの時そう言っていた。
考えながら、服に袖を通していく。
────悟飯、頑張ったな。凄かったぞ!
辛くなった時に思い浮かぶのは、お父さんの顔。
お父さんは、お父さんなら今もきっと、誰かを助けているだろう。
皆が助かる道をきっと進んでいるはずだ。
ここには僕だけじゃない。お父さんがいてくれている。
どんなに辛くても、それだけでこんなに心強いことは無かった。
どんなに辛くても、独りでも、分かってもらえなくても、頑張れる気がした。
それに、お父さんだけじゃなく、沙都子さんもいる。
僕に優しく接して、美柑さんを励ましてくれた。
彼女の様な人が他にもいてくれたら、その人を守るためなら嫌な暴力を振るう事だって我慢できる。
「今僕が投げ出したら……沙都子さんや、お父さんにも迷惑がかかっちゃうよな……」
すっと、静かにドアを開けて、浴室を出る。
そうだ、今ここで分かってもらえないとへそを曲げて、全部を投げ出したら。
何よりお父さんにも迷惑が掛かる。
お父さんの名前に、泥をかけてしまうかもしれない。
それだけは、やってはいけない事だ。間違いない。
僕は、強いから。皆を守らないと。
お父さんにも言われた。僕は、本当は誰よりも強いんだって。
だから、ブレるな。強い人としての役目を果たせ。
そう自分を励まして、寒くて暗い廊下を進んでいく。
-
────なんだか、貴方って……とっても弱い。
……本当は、分かっている。
野比のび太も、あの人なりに精一杯やろうとしていることは。
でも、あの人を見ていると、自分の失敗を突き付けられている様だった。
あの人の顔を見るたびに、僕が死なせてしまったニンフさんや雪華綺晶さんの顔が浮かぶ。
それなのに、あの人は、のうのうと皆に馴染んで、庇われて。
それがどうしても許せなかった。
───悟飯君が…………
───うん、悟飯君も……
───そう、だね…うん、僕も、悟飯君は…………
部屋から漏れ聞こえる、皆の声。
それを聞いていると、爪はじきにされている様でどうしようもなく心が軋んだ。
美柑さんでも軽く回せるはずのドアノブが、どうしようもなく、重い。
「先ずはイリヤさんに休んでもらって…僕も休んで……早く万全にならなきゃ……」
ぽつり、と。
呟きが漏れる。
同時に、その呟きに対してある疑問が生まれた。何のために?
体力を回復させて。その回復した体力を、何に使うの?
僕は、その頭の中に浮かんだ疑問に、答えを出すことができなかった。
-
【一日目/朝/H-8】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(中)、精神疲労(大)
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、クラスカード『アサシン』&『バーサーカー』&『セイバー』(美柑の支給品)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、雪華綺晶のランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して───
0:雪華綺晶ちゃん……。
1:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ……
2:殺し合いを止める。
3:サファイアを守る。
4:みんなと協力する
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。
のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、雛見沢症候群L3、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、のび太への嫌悪感(大)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0〜1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:今は兎に角、体力の回復に努める。
1:野比のび太は………
2:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。
3:お父さんを探したい。出会えたら、美柑さんを任せてそれから……。
4:美柑さんを守る。
5:スネ夫、ユーインの知り合いが居れば探す。ルサルカも探すが、少し警戒。
6:シュライバーは次に会ったら、殺す。
7:雪華綺晶さん……ごめんなさい。
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群を発症しました。現在発症レベルはステージ3です。
※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
【結城美柑@To LOVEる -とらぶる- ダークネス】
[状態]:疲労(中)、強い恐怖、精神的疲労(極大)、リーゼロッテに対する恐怖と嫌悪感(大)
[装備]:ケルベロス@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
0:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。
1:ヤミさんや知り合いを探す。
2:沙都子さん、大丈夫かな……
3:悟飯さん、一体どうしたの………?
4:リト……。
5:ヤミさんを止めたい。
6:雪華綺晶ちゃん……
[備考]
※本編終了以降から参戦です。
※ケルベロスは「火」「地」のカードがないので真の姿になれません。
-
【野比のび太@ドラえもん 】
[状態]:強い精神的ショック、悟飯への反感(緩和気味)、疲労(中)
[装備]:ワルサーP38予備弾倉×3、シミ付きブリーフ
[道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス-
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る
0:悟飯さんの言う事は、もっともだ……。
1:ニンフ達の死について、ちゃんと向き合う。
2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる?
3:みんなには死んでほしくない
4:魔法がちょっとパワーアップした、やった!
[備考]
※いくつかの劇場版を経験しています。
※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。
「やったぜ!!」BYドラえもん
※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています
※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました
※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)。
【ホーリーエルフの祝福@遊戯王デュエルモンスターズ】
孫悟飯に支給。
自分のライフをフィールドのモンスターの数だけ回復する効果を持つトラップカード。
本ロワでは同行者の数によって回復量が左右される。
単独で使用しても回復量は微々たるものだが、四人以上付近にいる場合で使用すればダメージや疲労の段階を一段階引き下げられる。
また、その回復効果はその場にいる全員に及ぶ。敵味方の区別なく、その場にいる者全ての人数によって回復量が決定し、またその場にいる全員が回復の恩恵を受けられる。
ホーリーエルフは、微笑む相手を選ばない。
ただし、制限により致命傷を負ったと見なされる参加者は判定対象外となり、回復の効果も受ける事ができない。
-
投下終了です
-
投下ありがとうございます!
感想はまた後ほど、投下いたします。
風見一姫、ガッシュ・ベル 予約します
-
皆様投下お疲れ様です
私も投下します
-
『次の放送までに、君達の誇る強さは驕りではないと、この僕に認めさせてみたまえ。フフ…では、今回の放送はここまでとしよう。殺し合いをより促進させてくれることを期待している』
六時間前の放送と同じく流れる乃亜の声にディオの眉根が寄り、口元が不快気に歪む。
(チッ、乃亜のやつめ、ふざけやがって...!)
つい先ほど、乃亜の言う失望したマーダーに実質的な敗走を喫したのだ。
乃亜の言いぐさでは自分までもけなされたようで不愉快だった。
それに、自分と同い年くらいのジョナサン・ジョースターが呼ばれていなかったことにも怒りを抱いていた。
なぜあの甘ちゃんが呼ばれず僕だけがこんな催しに呼ばれなければならないのか。
もしもあいつも呼ばれていたら、ここで殺してジョースター家の財産を引き継ぐ後継者となれたというのに。
理不尽だ。不公平だ。僕が苦しんでいるいま、あいつはのうのうと紳士ごっこをしていると思うと腸が煮えくり返りそうになる。
せめてもの置き土産とでもいうべきか、ここに連れてこられる前にあのダニーとかいうアホ犬を殺しておけてよかった。
だが憎悪するほどに気に入らない相手からのものとはいえ情報は情報。
無下にし無策で臨むのは命取りの環境であることは身をもって理解させられている。
(よかった...ネコネさんたちは巻き込まれていなかったみたいだ)
憎悪を滾らせるディオの一方で、キウルはホッと胸を撫で下ろす。
自分と同い年くらいのネコネやアンジュ、シノノンは選考対象に選ばれている可能性があった。
そのため、この放送が始まる前は嫌でも緊張せざるをえなかった。
その不安は杞憂で終わった。
喜ばしい、と言えば周囲に失礼ではあるが、しかし、これから先のヤマトの未来に必要な彼女たちがこんな地獄に巻き込まれなかったのは不幸中の幸いとしか言えない。
メリュジーヌとの圧倒的な戦力差を思い知らされた今となっては、己の未来すら不安視する他ないのだから。
「キウル。乃亜から齎された情報だが、少し整理させてほしい」
「はい」
ディオは端末の参加者名簿のページをキウルに見せながら話を続ける。
「乃亜が言っていた死亡者を信じるならば、モクバ達とルサルカは無事だ。向こうも向こうでどうなっているかはわからないがな...」
モクバ達が襲撃者を引き受けてからもう数時間、ルサルカと別れてからは10分程度といったところか。
後者はともかく、前者は形はどうあれ決着がついているだろう。
本来ならば、ルサルカのところに戻り、戦闘が続いていれば援護するべきなのだろうが、ディオにしてもキウルにしても、どう足掻いても足手まといにしかならない。
ならば、ルサルカが勝つ、或いはどうにか逃げおおせることを祈り、ほぼ無事が確定しているモクバ達のもとへ向かい戦力を整えるべきだ。
増援に送ったエリスと俊國がちゃんと合流できていれば、予定通りホテルで僕らも合流できるだろう。
故に、これから目指すのはホテル。
予定していた時間よりはだいぶはやくなりそうだが、先に行って待つ分には問題はないはずだ。
そのディオの考えに、キウルは歯がゆい想いを抱きながらも同意する。
(...情けない)
キウルは己の無力さを嫌でも思い知らされる。
オシュトルとハク。二人の義兄に後を託され、自分のような義弟を持てて誇らしいとまで言われたのに。
この数時間、なにもできなかった。
本来ならば役に立たなければならない場面は何度もあった。
自分は戦闘員だ。
荒事が起きたならば率先して引き受けなければならない。
なのに、最初の少女には犯されかけたのを助けられ。
次の相手には毒矢で不覚を取り。
そして三度目は仲間に押し付ける形で逃亡を余儀なくされ。
現状、自分は何の役にも立っていない。
このままでは駄目だ。
キウルの思考に焦燥が募っていく。
-
そんなキウルに構うことなく、ディオはいま定めた方針に則り、ホテルへと歩みを進め始める。
それからほどなくして。
「き、きみたち。ちょっといいかな」
二人に、緊張で上ずった声がかけられた。
☆
幸か不幸か。
藤木と別れた後の永沢は、誰とも遭遇することなく放送を迎えた。
城ケ崎姫子。
死者として告げられたその名前にぐっ、と下唇を噛み涙を堪える。
泣いちゃダメだ。
泣けばそれだけ隙が生まれる。
孫悟空や中島の皮を被った怪物のような絶対強者がいる以上、ほんの数秒だって無駄にしている暇はないのだから。
滲みかける涙を袖で拭い、改めて名簿と向き合う。
クラスメイトで参加者として呼ばれているのは自分と城ケ崎、藤木の三人だけ。
知り合いがこれ以上死ぬのを見なくて済むという点を考えれば幸運と捉えるべきか。
そして、先ほど孫悟空の襲撃により別れさせられた面々も無事。
どうやらお互いに犠牲なしで事なきを得たようだ。
改めて連中のもとへ向かって保護してもらうかと考えるも、しかし、中島殺害の件が露呈した以上、それは諦めざるをえない。
なにより中島の友達のカツオが怖い。友達の仇を討つためならなにをしでかすかわかったものじゃない。
...城ケ崎さえ生きていれば、それを加味し犠牲になるのを承知の上で迎えたのだが、いま、自分の命は自分だけのものじゃない。
藤木のアホはどうせ自分が生き残ること以外は考えていないだろうし、優勝したら城ケ崎を蘇らせることなく、自分が利を独占するようなくだらない願いを叶えるだろう。
そして、この会場で知り合った面々は恐らく願いを叶える権利を手に入れても城ケ崎姫子を蘇らせるために使うはずがない。
つまり、彼女の命は自分が担っていることになる。
だから死ぬわけにはいかない。どんなにみっともなくても生き続けなければならない。
そのためには自分の身の安全を第一に考えなければならない。
となれば、やはりひと悶着生まれそうなサトシたちのもとへ戻るのではなく、他の対主催側の人間に取り入るべきだ。
そうして永沢は藤木やカツオたちのような厄介ごとを招かないような参加者に会えることを祈りつつその歩を進める。
やがて見つけたのが、金髪のお高くとまった少年と、くりくりとした目と獣の耳が特徴的な少女。
時折止まりながら周囲を警戒し、衣服もところどころ擦れている様に、先に遭遇した面々と比べれば見るからに頼りなさげだ。
そんな彼らが一緒に行動しているからこそ、永沢は、きっと彼らは対主催側だと判断し、二人の前に姿を現した。
-
「あ、あのさ」
「動かないでください」
近づくために一歩踏み出そうとした永沢に向けて、キウルは弓矢を構えて警告する。
「え...ひ、ひいっ」
可愛い顔には似つかわしくない凶器を前に、永沢は思わず小さな悲鳴と共に尻餅を着いてしまう。
そんな姿に、なんて情けないんだと自嘲する。先ほどまではこんな醜態を晒さずにいられたのは、隣に城ケ崎がいたからだろうか。
(お、落ち着け...こんなのがなんだっていうんだ。ぼ、僕はもう人を殺してる...城ケ崎だって目の前で死んでしまったんだ。こんなくらい...!)
確かに弓矢を向けられるとは思ってもいなかった。
しかし、これから先は凶器が飛び交うのは当たり前だ
こんな程度でイチイチ腰を抜かしていては城ケ崎蘇生などまた夢の夢。
なけなしの勇気を振り絞り、永沢は震える声を喉から絞り出す。
「ま、待ってくれ。僕は殺し合いには乗ってない!ただ少し話合いをしたかったんだ!」
「......」
永沢の叫びが終わり、沈黙が訪れる。
(この怯えようは偽物じゃない)
キウルは幾度も戦を経験した身であり、曲がりなりにも一つの村を統治する立場にあったからわかる。
目の前の彼からは恐怖と動揺しか感じない。
正真正銘の一般人だ。
「...すみません」
キウルが弓を下ろしぺこりと頭を下げると、ようやく永沢の心に平穏が訪れる。
「い、いやいいんだ。こんな状況なんだ。警戒するのは当り前さ」
多少どもりながらも努めて冷静さを取り戻し、キウルと情報交換を始める永沢。
そんな彼をディオは訝し気に見る。
永沢を警戒して———というよりは、果たして彼が役に立つか値踏みしているだけだが。
ディオはここまで闇やルサルカ、メリュジーヌといった人外の力を有する者たちを見てきている。
そんな彼らに対して、今の自分たちははっきりいって無力同然。
自分よりも強いキウルですら、精々自分より少しは抵抗できるくらいなものであり、いまは支給品でもなんでも、とにかく新たな力が欲しかった。
この玉ねぎ頭がなにか力を持っているか期待したのだが———
(ダメだな。あのビビリようは嘘じゃないし、矢で脅されてもなおなにも出そうともしない。ハズレだな)
よしんぼ、戦闘は無理でもモクバのように特別な知識があればとも思ったが、キウルに話す内容を聞く限りではそんな気配は微塵もない。
得られる情報も、城ケ崎というクラスメイトが孫悟空という襲撃者に襲われ殺されたというディオからしたらさして興味のないことだけ。
-
(本当にただの一般人のようだな。こんなのが何の役に立つものか)
ハッキリ言って、ディオからして永沢に価値はない。
せいぜい、有事の際の肉壁か首輪を解析するためのストック要因といったところだろう。
しかし、キウルやモクバがこういうのも見捨てられないのも容易に想像できる。
となれば、彼らの信頼を得る為の引換券とでも思えばいいだろうか。
そんな風に己の中で結論付け、ディオは永沢に語り掛ける。
「事情はわかったが...永沢、きみさえよければ僕らと同行しないかい?僕らもこんな殺し合いなんてうんざりしているからね」
「いっ、いいのかい?」
「もちろん!困ったときはお互い様さ!」
自分から言い出す前に同行を申し出てくれたディオの微笑みに、永沢は目を潤ませて感謝する。
僥倖だ。
まさか一番厄介だと思っていた工程を省けるとは。
自分はツイている。藤木を見限ってきただけのことはあると思わずにはいられなかった。
「永沢さん。安心して...とは言い切れませんが、私は貴方方を護れるよう尽力します」
「ありがとう、ディオくんにキウルさん...友達も殺されてしまって本当に怖かったんだ...ぐすっ」
鼻をすすりながら感謝の言葉を漏らす永沢の悲痛な姿にキウルは一層守らねばと決意を固め、ディオはキウルに見られないよう、心底くだらないと溜息を吐き、さっさと出立の準備を始める。
「さて。僕らも相当疲れている。さっさとホテルに向かってみんなを待とうじゃないか」
「誰かと待ち合わせているのかい?それは心強いなあ」
「ええ。モクバさんやドロテアさん、それに順調に進んでいれば俊國さんやエリスさん...上手くいけばルサルカさんも合流できるはずです」
「えっ」
滲んでいた涙が急速に引っ込むのを自覚する。
「どうされましたか?」
「い、いや、なんでもないよ」
永沢の反応を不思議に思ったキウルは思わず疑問符を浮かべるが、永沢は慌てて取り繕う。
モクバ。ドロテア。俊國。エリス。
キウルの挙げた名前は、そのどれもが永沢の知っている名前だ。
より深く言うならば、永沢と城ケ崎が中島を殺したことを知っている連中だ。
(エリスっていうのは化けた磯野カツオのことだろうが...マズイ。このままだとすごくマズイぞ!)
よりにもよってキウルとディオが彼らと合流しようとしているとは思わなかった。
再びカツオに遭遇すれば、今度こそ殺されるかもしれない。
城ケ崎が生きてきた時はそれでもよかったが今は駄目だ。絶対に死ぬわけにはいかない。
ここから離れようとも思ったが、しかし、同行したいといった手前、即座に離れるのは違和感がすぎる。
うまい言い訳も思いつかない。
(こ、こうなったらまた誰かに来てもらうのを祈るしかない。対主催でなくとも、また乱戦になれば僕が逃げる隙も生まれるはずだ!)
永沢が願うのは、第三者による介入。
新しい対主催の人間が来て二手に別れるのもよし、サトシが語っていたインセクター羽賀や藤木のような手に負える範囲の危険人物が来て状況をかき乱してくれるのもよし。
なんでもいいからキッカケをくれと願い続ける。
しかし、奇跡は起こらず。
道中は誰とも遭遇せず、至って平和であり。
「おお、キウルとディオではないか」
むしろ、ホテルに着くまでのタイムリミットが短くなっただけだった。
-
☆
「うへえ」
カツオやクロ達のことは切り替え、海馬コーポレーションへ向かおうとしていた矢先、東の方角から聞こえてきた轟音と迸る閃光にドロテアは思わずそんな言葉を漏らした。
この会場には自分では到底及ばない強者共がいるのは理解していた。
そのつもりだった。
しかし、あの規模の戦闘までもが行われているとは予想だにしていなかった。
あれは先ほどの中島の皮を被った怪物やそれとやり合う俊國、そのさらに上の領域だ。
大雑把にみても自分も調整を手伝った至高の帝具・シコウテイザーの攻撃力と遜色ないように思える。
あんな異次元バトルに巻き込まれるのはごめんじゃ、と海馬コーポレーションへと向かっていた進路を切り替え、近くの施設である聖ルチーア学園の方へと向かう。
ドロテアの知る由もないが、ここは勉強第一の進学校。
その名に恥じぬ簡易的な医療道具や薬品、双眼鏡や独房などそこそこ役立ちそうなものも多くあり、彼女の萎えかけた気持ちを少しだけ癒してくれた。
「さーて。周りはどうなっておるかの」
ドロテアは屋上から双眼鏡を覗きながら周囲を見渡す。
「むむっ」
学院から南の方角において、ドロテアは東に進むディオ・キウル・永沢の三人を発見する。
永沢はどうでもいいが、どうやらディオとキウルは無事に海の調査も終えたようだと判断し、彼らのもとへ向かうためにモクバを起こそうとする。
が、しかし、思いとどまる。
いまモクバを起こすのはウマくないと。
(こいつがいるとできることの幅が狭まるからの)
先のグレーテル達との戦いでもそうだったが、モクバは誰でも受け入れようとする度量がある代わりに誰の犠牲も許そうとしない。
ある程度までは現実主義者でいられるのだが、一つの線を越えると一気にロマンチストと化してしまう。
ドロテアとしても、ずっとそれに縛られるのは窮屈でしかない。
「ま、未だに目を覚まさないお主が悪いということで」
ドロテアはカツオのデイバックに眠る最後の支給品、『チョッパーの医療セット』の中から麻酔を取り出し、首筋に打ち込む。
すると、モクバはそのまますーすーと穏やかな寝息を立て始めた。
「これでよし。あとは適当に、もう少し苦戦した様相を醸し出して...」
ドロテアは教室にあった黒板消しでポンポンと服を叩き、埃っぽく彩ると、モクバを抱えたままディオたちの先回りをするのだった。
-
「電脳世界を実体化させた...それがルサルカとやらの考えか」
ディオとキウルから聞かされた海の調査報告に、ドロテアはそう言葉を漏らした。
「信じ難いかもしれないが、一応根拠も提示されている。彼女の考えでは、ただ電脳世界で支配しているだけではこれだけの参加者の肉体を管理するのは難しいとのことだ」
「まあ概ね同意じゃの。その場限りで厄災から守るだけならいざ知らず、意識のない数十人を生理的欲求からなにまで面倒を見るのは骨が折れる」
「じゃあやっぱりルサルカさんの予想は正しいのでしょうか」
「そうとも限らん。ルサルカの考えはあくまでも乃亜が1人だった場合じゃ。1人で数十人を管理するのが無理なら同じ人数を揃えれば問題なくなる。部下か、或いは事情をよく知らんその場限りの日雇いなんかをな」
「となると、現状ではまだ断定できないか...」
ドロテアにしてもディオにしてもキウルにしても、電脳世界の知識に通じていないためできることは殆ど無いが、しかし浮かびかけた答えを断定できず放置するのは些か気持ちが悪い。
「まあこの件は置いておこう。電脳世界や乃亜に関してはモクバが目を覚ましてから聞くとしよう」
ディオのこの言葉で一旦打ち切られ、次の話題に移ることになる。
「それで、そっちはなにがあったんだい?その怪我からして僕を小さくした奴以外にもなにかしらがあったと窺えるが」
「察しの通りじゃ。お主を小さくしたのは藤木という名でな。俊國達が到着する前にカタがついたんじゃが...というか永沢、お主、こやつらに伝えとらんかったんか」
急な振り方にここまでずっと黙って存在感を殺していた永沢がビクリと体を震わせる。
「い、いや、その...」
「ドロテアさん、永沢さんと会っていたんですか?」
「うむ。藤木を取り押さえた後にこやつらもやってきてな。その後、なんやかんやで新しい襲撃者に襲われてそやつは先に藤木と共に逃げ出したんじゃ。同郷の士だったらしい」
ドロテアのその告発にキウルとディオの懐疑の視線が永沢に集まる。
「ち、違うんだ!あれは藤木くんが勝手に僕を連れ出して!」
永沢は慌てて弁明を試みる。こうなるから嫌だったのだ。現状、自分は殺し合いに乗っていなくても、あの現場に居合わせた者ならマーダーの藤木と共謀して逃げたと思われても仕方ない。ーーー本当に余計なことをしてくれたな、あいつは。
内心で藤木に毒を吐きながら、永沢は必死になって弁解を続ける。
「その証拠に僕はあいつと行動していないじゃないか!僕があいつと協力して殺し合いに乗ったなら丸腰同然でどう人を殺せと言うんだ!?」
「確かにそうですけど……」
「そんなもの、そこらの石でも拾えれば事足りるだろう。知ってるか?大昔の人間は石を使って戦争をしていたんだぜ」
永沢の弁明も虚しくキウルとディオの懐疑は消えない。
当然だ。永沢とて、立場が逆なら同じ反応をする。だが、今は対主催に協力しようとしているのは本当なのだ。
どう信じて貰えばいいか悩んでいた時だった。
「あー、待て待て。妾の言い方が悪かった。確かにそやつは藤木と一緒に逃げたが、手を引いてたのは藤木じゃ。おそらく永沢を盾にしたつもりだったんじゃろう。で、難を逃れて用済みになった永沢をいざ殺そうとはしたが、なんらかのアクシデントでできなかった。その隙を突いて逃げ出した。言い出せなかったのは疑われるのが怖かった...といったところじゃろ?」
思わぬ助け舟に永沢はつむりかけた目を開ける。
「安心せい。妾はちゃんとわかっておるからの」
「そ、そうか。それならいいんだ……」
ドロテアのその言葉に永沢は心底ホッとした。何故かはわからないが、ドロテアは中島殺害の件とそれに伴うカツオとの問題を二人に知らせるつもりはないらしい。
「まあ、そういう事情なら僕からはこれ以上なにも言うことはないな」
「そうですね。すみません問い詰めるような真似をしてしまって」
ディオもキウルも一応の納得はしてくれたようだ。
「ああ、いや、いいさ。僕も隠していたから紛らわしいことになっただけだからね」
ひとまずの難を逃れたことから、永沢は安堵の息をつく。
それからドロテアからも、藤木からの一連の流れと、全身刃物女と色黒の少女から、モクバと二人でなんとか逃げ出したことを、大雑把にディオ達に話し、ひとまずの情報の共有も終わる。
-
「あらかた情報も交換し終えたことだし、モクバの奴も起こして方針を決めようと思うが...その前にやっておきたいことがある」
「やっておきたいことだと?」
「うむ。現状、妾たちは協力者を多く作れておる。この場の五人に、サトシ、古手梨花、磯野カツオ、俊國、ルサルカ、一姫、ガッシュの11人。半日も経たずに1割も手を組めたのは僥倖じゃ。しかし、俊國が相手をした奴や北条沙都子の率いていた奴、孫悟空といった強者側の連中が殺し合いに乗っておったことを考えると、ハッキリ言って心許ないのは否めん。もしも奴ら、或いはそれに匹敵する者に襲われて、大なり小なり抵抗できるのは妾達の中でも半分くらいじゃからな」
ドロテアの言う通り、11人も集まっている中で、戦闘ができる面子は俊國、サトシ、一姫、ドロテア、ルサルカ、ガッシュ、キウルの七人。
その中でもまともに通用すると言えるのは俊國・サトシ・ガッシュ・ルサルカくらいなものだ。
「ならもっと協力者を増やせばいいんじゃないかい?」
「それが理想じゃが、果たして人数が減っていく中でどれだけの人間と手を組めるかの」
時間は絶えず動いている。こうして四人で話し合っている内にも知らぬ場で誰かが命を散らしているかもしれない。
「誰かに頼るばかりでなく、僕らの中でどうにかする手段を探るべきか」
「その通り。何よりもまずは地力を上げておくのが手っ取り早いわ。と言うわけで」
ドロテアはそこで一旦言葉を切り、ディオ、キウル、永沢の順番に指を指す。
「主らの中から1人選んで妾に血を吸わせておくれ」
「なに?」
突然の申し出にディオが顔をしかめる。
「簡単に言うとじゃな。妾は他者の血を吸って力を増すことができる。さっきの戦闘で消耗したからの。今後のことを見据えて今のうちに摂取しておきたい」
「そういうことですか。なら私が」
「待て」
ドロテアに血を差し出そうとするキウルをディオはすぐに制する。
「ドロテア。きみはいま、僕らに誰を吸わせるかを選べと言ったな。それはつまり、僕らが嫌がることだということ。きみを強化する代わりに僕らがなにかしらのリスクを負うことになるんじゃあないか?」
ディオの指摘に一瞬流れる沈黙の空気。程なくして、ドロテアはニィと口角を吊り上げた。
「察しがいいの、ディオよ。まあ端的に言えば、ちょっとの吸血ではすまんということじゃ。なに、殺しはせん。ただ少し貧血で動けなくなるかもしれんがの」
あっけらかんと言い放つドロテアに、三人の表情が強張る。今は殺し合いの場だ。こんな状況下で動けなくなることはそれだけ死に近づくことになる。
「さあどうする?誰も立候補せんのなら妾が適当に選ぶが?」
「...血を吸わないという選択肢はないのか?」
「無い。言ったじゃろ。妾も消耗しておるからここで摂取しておかんと生死に関わってくる。無理矢理襲ってもいいならそうするが」
「くっ...」
ディオは小さく歯噛みする。
ドロテアの言葉が真であれ嘘であれ、吸血されるのは避けられない運命にあるようだ。
この中で1番強いと思われるドロテアがこちらに選択肢を委ねているのは気まぐれかあるいは彼女なりの譲歩か。
なんにせよ、戦力になるとはいえ、モクバならいざ知らずこんな微塵も信用できない相手に血を与えるような真似はしたくない。
どうにかして血を吸われない方法を思考模索しているディオの一方、永沢もまた己が狙われない方法を脳内で探す。
永沢はディオとは違い、ドロテアに対して反発心や警戒心を抱いていない。
しかしだからといって彼女のために動けなくなるかもしれないリスクなど負いたくない。
しかし、戦力的にも技術的にも彼女とモクバの協力無しに勝ち残るのは困難を極めるだろう。
「...わかりました。私を吸ってください」
二人が悩んでいる間にそう進言したのは、キウルだった。
-
「待てキウル」
ディオはそんなキウルを咄嗟に止めようとする。
キウルを気遣っているわけではないが、どうせならロクに役に立たない永沢を吸わせておきたいという魂胆からだが。
「大丈夫です、ディオさん」
そんなディオの目論見など知る由もなく、キウルはディオを安心させるかのように微笑みかける。
「殺すつもりならドロテアさんもこんな提案せずに力づくでくると思います。それに、万が一のことがあったら...お願いします」
『万が一』。意味深に添えられたその言葉の意図を察したディオは「わかった」と小さく肯首する。
キウルとてドロテアを信頼しきっている訳ではない。だからこそ、危険を買って出て、もしも彼女が裏切って殺しに来たら、ディオの持つバシルーラの杖で彼女を何処ぞにとばすなり永沢を連れて逃げるなりして欲しいと言外に頼んだのだ。
永沢はそんなキウルの意図など知らないが、立候補してくれるなら助かったと声をあげずに空気に徹した。
「お主か。ものわかりが良い奴は好きじゃぞ。よく妾の手を煩わせなかった」
えらいえらい、とドロテアは子供を褒める教師のようにキウルの頭を撫でる。
どこか胡散臭いところはあってもドロテアは見た目美少女だ。
そんなドロテアに頭を撫でられてキウルは年相応の少年らしく頰を紅潮させて照れる。
-
「ご褒美じゃ。どこから血を吸われたい?30秒だけ考える時間をやろう」
「え?えと...」
突然の質問にキウルは戸惑い疑問符を浮かべる。
「質問の意図がわかっておらんのかの?なら実演を踏まえて教えてやる」
ドロテアは自前の怪力でキウルをくるりと反転させると、その背中にピタリとほんのり膨らんだ胸を押し付ける。
「ふえ!?」
思わぬ感触にキウルは頓狂な悲鳴をあげた。
「背中であれば妾のキュートなボディを直に感じられるし」
これまたすぐさまくるりとキウルを反転させると、今度は向かい合わせになり、密着してじっとその眼を見つめれば、ますますキウルの顔は赤く染まっていく。
「正面からの頸筋なら妾を抱きしめながら吸われることができる」
「あ、あわわわわわ」
ますますぐるぐると眼を回していくキウルの頬にそっと掌を添え、己の唇を徐々に近づけていく。
「恋人のように熱い口付けを交わしながら舌から吸うのもオツかもしれんなあ」
甘い吐息が口内に侵入してくるのを必死に堪え、キウルは理性と本能の狭間で叫ぶ。
「せ、背中!背中でお願いしますぅ!」
「うむ。了解じゃ」
キウルの要望に答え、ドロテアはキウルをくるりとまわし、背中側から抱きつく。
「では...あーん」
ドロテアの体温とほのかな柔らかさを感じどぎまぎしつつ、牙が迫ってくる気配に晒されながら、キウルはぎゅっと目を瞑った。
(あれ、どこでもいいなら腕とかで良かったんじゃ...)
キウルがそのことに気がついた時にはもう遅い。
かぷり。
ドロテアはキウルの背中に噛み付いた。
-
「んっ...」
鋭い刺激にキウルは顔を歪める。
(...?思ったより痛くない?)
てっきりもっと痛いものだと思っていたが、意外にも痛みはそれほど強くない。
むしろ擽ったいような心地よい感覚がドロテアの牙から伝わってくる。
(あとなんだか...力が抜ける感じが気持ちいい...かも)
恍惚の表情でトロンとした目をするキウルに構わずドロテアは血を吸い上げていく。
(ん...うまっ。獣の野暮ったさと若人の血特有の精気の溢れ具合が程よく絡まり合って極上じゃ!)
彼女も彼女でキウルの血の美味さに爛々と目を輝かせていた。
危険種と混じったレオーネやタツミの血は濃厚で美味かったため、獣人らしいキウルには最初から目を付けていたがこれが大当たり。
つい夢中で吸い付いてしまうが、そこはなんとか理性を保ち加減する。
じゅるじゅるじゅる。
「んんっ...はあっ、うっ...」
キウルは顔を真っ赤にしながら堪える。背中に張り付くドロテアの体温がまるで愛撫のように感じられて身体が疼いてしまう。
「ぷはっ」
ドロテアの牙が抜かれると同時、キウルは放尿にも似た脱力感と浮遊感に襲われる。
(お、終わった...?)
全身が疼き、弛緩したその隙を突くように。
トスリ、とキウルの首筋に小さな痛みが走る。
「美味であったぞキウル。しばし休んでおけ」
ドロテアのその言葉を聞いた途端、キウルの瞼が重くなり意識も闇に堕ちていった。
-
☆
「ふっ。胸の一つでこうも初々しく慌てふためくとは。童貞はちょろくて助かるわ」
「...どういうつもりだ?」
ディオも永沢も一連の出来事を見ていたが、いま、ドロテアは明らかにキウルの首筋に何かを打ち込み失神させた。
息はしているので殺してはいないようだが。
「簡単なことよ。もとから妾はキウルを吸うつもりだった。ああいう風に言えばキウルが立候補するのは目に見えていたからの。用があったのはお主らじゃ。こいつやモクバがいては出来ん話もあるからの」
「なんだいその話っていうのは」
ドロテアの言葉に永沢は眉を潜める。
「喜べ永沢。カツオの奴は恐らく死におったぞ。中島の件で憂いてた諍いもこれで消えたであろう」
カツオ。その名前が出た途端に永沢の鼓動がドキリと跳ねる。
それは、死んだことに対する悲哀ではなく。
カツオという最大の警戒対象の名前が出され、あまつさえそれを喜べと言われたからだ。
つまり、永沢のスタンスがただの一般人対主催ではないことは、とうにドロテアにはバレていたことになる。
だから敢えて先ほどまでカツオが同行していたことを明かさなかったのだ。
「ドロテア。きみは永沢のことをよく知っているようだが、庇ったり所業を暴いたりどういうつもりだい?」
「もう猫は被らんでいいぞ。いまここにいるのは同じ穴の狢だけ。己の為なら他人などどーでもいい悪党だけじゃ」
口角を釣り上げ邪悪な笑みを浮かべるドロテアに対し、ディオは紳士然とした微笑みを捨て真顔になる。
「...フン、女狐が。改めて問わせてもらうぞ。どういうつもりで僕らの前で本性を表した?」
ディオは、いつ襲い掛かられてもいいように、バシルーラの杖を懐に忍ばせながら問う。
「なに。理想を夢見る子守りに少々飽いただけのことよ。今は妾たち3人で悪党の話をしようではないか」
ドロテアの言葉にディオは少しだけ逡巡する。
確かにこのままモクバやキウルを宛てにして協力するだけでは、なるべく犠牲者を出さないようにと、とれる手段が限られていくのは目に見えている。
ならば、こうして彼らの目がかからないうちにダーティな手段を進めておくのも必要なことだ。
「...いいだろう。いつまでも正攻法でいけると思うほど僕は能天気でも馬鹿でもないからな」
クツクツと邪悪に笑い合う二人に挟まれ、空気的に置いて行かれていると思った永沢は、とりあえずクラスメイトの野口笑子のように「くっくっくっ」と笑みを漏らして二人に合わせるのだった。
-
【G-6/一日目/朝】
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]健康、高揚感、キウルからの吸血でお肌つやつや
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品 ランダム支給品0〜1、セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、城ヶ崎姫子の首輪
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!
グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、チョッパーの医療セット@ONE PIECE
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:モクバとキウルが起きないうちに悪党同士の悪だくみを済ませておく。
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は凄腕の魔法使いが着いておるのか……うーむ
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
5:キウルの血ウマっ!
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。
【チョッパーの医療セット@ONE PIECE】
カツオの最後の支給品。
包帯とか麻酔とか輸血用の血液パックとかメスとか、だいたい揃っている。
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]精神的疲労(中)、疲労(中)、敏感状態、服は半乾き、怒り、メリュジーヌに恐怖、強い屈辱(極大)、ボロ泣き、乃亜やメリュジーヌに対する強い殺意
[装備]バシルーラの杖[残り回数4回]@トルネコの大冒険3(キウルの支給品)
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:モクバとキウルが起きないうちに悪党同士の悪だくみを済ませておく。
1:キウルを利用し上手く立ち回る。
2:先ほどの金髪の痴女やメリュジーヌに警戒。奴らは絶対に許さない。
3:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
4:海が弱点の参加者でもいるのか?
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
【永沢君男@ちびまる子ちゃん】
[状態]健康、城ヶ崎に人を殺させた事への罪悪感と後悔(極大)、悟空(カオス)に対する怒り(絶大)
[装備]ジャイアンのバッド@ドラえもん
[道具]基本支給品、ランダム支給品2〜0
[思考・状況]基本方針:優勝でも打倒乃亜でもどちらでも良いので、生き延びて願いを叶える。
0:とりあえずこのままドロテアたちと話をする。なにを話すつもりだ?
1:自分の安全を確保できる対主催で強い参加者を探す。
2:リーゼロッテを始めとする化け物みたいな参加者を警戒する。
3:フジキング? 藤木君、気でも触れたんじゃないのかい?
4:城ヶ崎……。
5:手段を択ばず、悟空(カオス)を追い詰める。
[備考]
※アニメ版二期以降の参戦です。
-
【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、睡眠
[装備]:青眼の白龍&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:睡眠中
1:東側に向かい、孫悟飯という参加者と接触する。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:ホテルで第二回放送時(12時)にディオ達と合流する。
7:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
8:グレーテルを説得したいが……
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
【キウル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]精神的疲労(大)、疲労(大)、敏感状態、服は半乾き、軽い麻痺状態(治療済み)、ルサルカに対する心配(大)、睡眠、貧血気味(行動にはさほど支障のない範囲)
[装備]弓矢@現実(ディオの支給品)
[道具]基本支給品、闇の基本支給品、闇のランダム支給品0〜2、モクバの考察が書かれたメモ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出
0:睡眠中
1:ディオや永沢を護る。
2:先ほどの金髪の少女に警戒
3:ネコネさんたち、巻き込まれてないといいけれど...
4:ルサルカさんが心配。
[備考]
※参戦時期は二人の白皇本編終了後
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投下終了です
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フリーレン、我愛羅、ハンディ・ハンディ、北条沙都子、シャーロット・リンリン、佐藤マサオ、美山写影、櫻井桃華、ハーマイオニー・グレンジャー
予約します、延長もしておきます
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投下ありがとうございます!!
>スプーン一杯のグロテスク
悟空ー!!!!はやくきてくれーっ!!!!
悟飯ちゃん、とうとう発症しましたね。こんなパーティに放り込まれた意思持ち支給品ケロちゃんに厳しき現在。
とはいえ言っていることは正論ティーなのが何とも言えない。
アヘッてたのび太でゲラゲラ笑ってたのが懐かしいです。あれから、ここまで事態が深刻になるなんて想像つかないですよ。
ただ、どんなに正論でも言う人物によって、言葉の重みや価値も変わる物なんですね。悟飯ちゃんもシュライバー相手に舐めプ噛ます盛大なやらかしをしたから……。
一個のやらかしでどんどん事態が悪化していくのは見ていられないですし、変な現実感がありまよね。
頑張ってるけど、それでも着実に信用を落としてる悟飯ちゃん、一人でマーダー退治に繰り出した方がみんな幸せなのかもしれない。
イリヤと美柑のコンビ、僕は好きなんですが中々幸先が……。
あとのび太君、リーゼロッテ様との嫌な因縁あるので、また禄でもない事引き寄せそうなのちょっと可哀想。
>坊や、よい子だねんねしな
永沢君、ようやくやっとこさ出会えた相手が微妙な戦力のチームなのが何とも言えないですね。
ちょくちょく、藤木君をディスってるの好き。やっぱり、基本藤木の片思いなのがエモい。
運良くカツオが脱落したのは彼にとって幸運なのでしょうが。
ドロテアがモクバ達を寝かせて、悪だくみするのは良いんですが……メリュ子とかカオスを相手にして、手段を択ばなくなっても勝ち目があんまなさそうなのも辛いとこ。
キウル君、こいついつもエッチシーンに巻き込まれてんな。イリヤですら脱いだのまだ一回で、美柑がまだとらぶるしてないのに、キウル君が2回もそういうシーンあるのおかしいだろ。
まだドロテアは頭脳や技術があるのでIT関連にも付いて行けそうですが、ディオはまるでその辺が駄目だし、永沢君も取り合えずノリで笑う始末。笑ってる場合じゃないぞ!
モクバもドロテアを抑えては来てたんですが、やはり根っこが甘いので段々不満も溜まってくるよなと。
しかも、今回は自分とグレーテルを重ねたせいでより感情的になってしまいましたからね。そりゃ、ドロテアもこういう行動にも出るよなと
まさに八方ふさがり。
後半へ続く。
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延長します
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投下します
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────時間を掛け過ぎた。
珍しく、風見一姫は己の失態を悔いていた。
「ガッシュ、もう諦めましょう」
「しかし……」
「残念だけれど、もうこれ以上マサオに時間は掛けられないわ。
貴方も、救うべき子供はこの子だけではないと分かるでしょう?」
「……それは…分かっておるが」
元々、フリーレン達と友好的な関係を結べるように。そしてガッシュという強力な戦力の確保及び、フリーレンの魔族への敵対心から二人は分断した方が良いだろうという大局的判断。
あとは一応、マサオ本人の救助という人道的な理由も多少は込みで。
一姫はマサオの探索を引き受けた。
だが結果はマサオを見付ける事は叶わなかった。
(時間を割き過ぎたわね)
本音を言えば。
マサオにこれだけの時間を掛ける価値はない。
救えるのなら、手を差し伸べるつもりだが。
だが、優先して生かさねばならない程の重要人物では到底ない。
フリーレンを味方にするという特大のメリットと、子供の足であれば然程遠くには行けないだろうと考えて、この探索を引き受けた。
誤算だったのは、マサオは大きく移動したことだろう。
そして移動先も見当が付かない。
良く考えれば、強い対主催に保護され同行しているか。悪く考えればその逆か。
名前が放送で呼ばれてない以上、まだ死んではいない。
いずれにしろ、一姫には判断できる情報がなかった。
モクバ達の合流を除けば、ここまでアリ一匹見掛けていないのだ。情報面でも不利なのは否めない。
「もう少し、探さぬか? それにゼオンも……」
ガッシュもまた無力な少年と、それと同じく兄であるゼオンの行方を気にしていた。
映画館にも立ち寄っては見たが、戦闘痕と施設の裏側に人を埋葬した形跡があるだけだ。
桃華の証言通り、ゼオンが残したとみられる痕跡は確認できたが、当のゼオンもマサオも当然見当たらない。
「ガッシュ、ゼオンの事だけど……」
どうして敵対していたの。
そう続けた一姫の意図がガッシュは理解できなかった。
「さっき確認した名簿だけど、私の弟の名前が載っていたわ。
もう高校生よ。高嶺清麿よりも年上で、身長も歳相応。この殺し合い、その参加者の選定条件には不適合よね」
「ウヌ…?」
「もし、同姓同名でないとすれば、ユージを幼少期の頃から連れてきたと私は思うわ」
「何を言っておるのだ? その雄二という者は清麿より大人なのだろう」
「だから、別の時間から参加者を集めているというのはどうかしら」
梨花は死ぬたびに別の時間軸、過去の時系列にタイムリープすると話していた。
カケラと表現したパラレルワールドへと移動しているとも解釈できるが、時間移動に近しい芸当を行っている。
梨花と言うより、羽入という神の力の行使らしいがそれには制約があり融通が利かないらしいが、乃亜がそれらの力を更に発展させ、自由の効く時間移動を完成させた。
あるいは別世界にそういった技術が存在し、流用したとも考えられる。
-
「貴方と敵対していた、その時期から拉致された。その頃のゼオンなら」
「……殺し合いに、乗るかもしれぬ」
聡い子だ。
清麿というパートナーから良い影響を受けているらしい。
一姫のヒントから、ガッシュは論理的に結論へと辿り着く。そして辿り着いたからこそ、事態はより悪化していると判断出来てしまった。
ゼオンと和解できたのは、ガッシュがバオウを継承した理由を知ったからだ。
それも意図的に引き起こしたのではなく、暴走状態のバオウをゼオンが最大呪文で受け止めその記憶が流れ込んだから。
はっきり言えば、偶然に過ぎない。今の制御しているバオウをゼオンにぶつけたとして、果たしてそれがゼオンに伝わるのか。
「今、ゼオンに会っても説得は出来ぬ……」
クリアの件で、魔界とガッシュの為に殺し合いに乗っているのであれば、対話は可能だろう。
だがバオウと父親を巡った件であれば、ゼオンは感情的になりかつ修羅の一面がより一層際立っている。
口で話しても、対話が成り立つ相手ではない。
恐らくは、そのまま殺し合いへと発展するだろう。
「私もユージが気になるわ。場合によっては、殺し合いに乗っているかもしれない」
ヒース・オスロに飼われていた時期であれば、積極的に他者を殺め殺戮を繰り返していることだろう。
一姫にとっては何よりも優先すべきは弟の風見雄二。
他者にとっての脅威であり、仇であろうとも死なせる気はない。だからこそ、早期に合流し状況の把握に務め、場合によっては無力化し監視下に入れたい。
更に言えば、より懸念すべきはタイムパラドックスだ。ここに呼ばれた過去の雄二が死ねば、現代の一姫の時間軸の雄二はどうなるのか。
別の世界として何の干渉もなく、枝分かれした世界線として存続するのか。
あるいは矛盾を消化する為に、現代の雄二が消えてしまうのか。
多くの血で汚してしまったその罪諸共。
────もしかしたら、その方がユージにとっては。
「とにかく、一旦方針を再度考え直すべきだと思うわ」
過った破滅的な救済に結論を出さず。
一姫は雄二を死なせないという己のエゴを優先し、ガッシュを急かす。
「……梨花達を見に行かぬか?」
合意をしながら、ガッシュは一つの要望を出す。
港に向かった梨花とサトシとの再合流だった。
「……」
時間はあまりない。
放送一時間後にグレイラット邸で、フリーレン達と合流の手筈だ。
一姫の足では急いでも、そんな寄り道をしては間に合わない。
だが、ガッシュがマントで抱えて走れば別だ。方角的に大きく回り道をするわけでもない。
ただフリーレンとの合流を疎かにするほどかと考えれば、素直に首を縦には振れない。
結局得られるのは北条沙都子が殺し合いに乗ったという証言のみ。
沙都子を追放し糾弾するのであれば、これ以上ない証拠だが。
メリュジーヌを連れている以上、そうなれば力づくで襲われ交戦する羽目になる。
そもそもの話、警戒対象ではあるが、一姫の目的は雄二の安全の確保と殺し合いからの脱出。
沙都子だけに気を取られるより、早期に脱出手段を見付けるほうが先決だ。
決して、一度でも裏切る相手を信用することはない一姫だが。
脱出手段というカードを手にすれば、沙都子相手の駆け引きには使える。結果的には沙都子を抑制する手段にもなり得るのだ。
「少しだけよ」
逡巡の末、一姫はガッシュの要望を快諾した。
不要と断じれば即斬り捨てる冷徹な一姫でも、この殺し合いという極限下で極端な行いをすれば自分の首を絞め、挙句の果てに雄二にまで追求が及ぶ可能性を考慮しない程愚かでもない。
特にガッシュの善性をこの殺し合いで最も間近で見てきたのだ。
この少年には、カリスマがある。優しき王になると豪語するだけの器はあるようだ。
その善性に惹かれ、大勢の対主催と友好的な関係を築けるのは後々大きなメリットになる。
「あくまで、港の様子を見るだけよ。そこに梨花達が居なくても、そのままグレイラット邸へ向かう。
良いわね?」
「分かっておる」
ガッシュの方針に従う方が一姫にとっても得だと判断したまでのこと。
────
-
間に合わない。
絶対に手遅れだ。
小さな体で、持ち前の俊敏さを活かし確定された結末へと抗う。
「ピカ、ピ……」
最強の竜種という、伝説のポケモンにも匹敵する強敵との交戦を後にして。
疲弊が蓄積された肉体は休息を求める。
肉体も精神も。既にピカチュウは限界を迎えていた。
目にも止まらぬ初速から、素早く駆け抜け相棒の危機へと一秒でも早く辿り着くために走る。
分かっている。どれだけ早く走っても、精々短縮できるのは良くて数分。
それすらも希望的観測だ。
「……ピ、カァ!!」
きっと、全ての決着は着いている。
もう全てが終わっている。
分かってる。分かっているが、意識がある限りそれを認める事は出来なかった。
「ピカピ……」
全身が痛い。戦闘のダメージか全速力で一エリアをぶち抜いて走り続けた影響か。
上がった息はまるで収まらず、何度も深呼吸しても苦しさが和らぐことはない。
こんな時に、誰かに襲われでもしたら何も抵抗もできない。
だから、隠れた方が良い。そう理屈で分かっていながら、今のピカチュウにとっては些細な事だった。
「……ピカピ、ピカ――チュウ!!!」
なけなしの電撃を放つ。
1000万ボルトはおろか、十八番の10万ボルトにすら遠く及ばない。
それでも人に撃てば、骨が透けて見える程の電圧。
常人ならばともかく、ずっと旅を続けて、冒険を重ねて。
色んなものを一緒に見て。色んな困難も一緒に乗り越えて。
この先もまた、ずっと旅をする筈だった相棒には何てことない電撃だ。
「ピカ……ピカピ、ピカ…ピ……」
きっと疲れて寝ているだけだ。こうして起こせば、もう少し寝かせてくれよとピカチュウに怒りながら飛び上がってくれるだろう。
何でも良かった。怒ってくれても、これで嫌われてもいい。
だから、何か言って欲しかった。何でも良いから、口を動かして声を掛けて欲しかった。
「……ピカチュウ? ピカ、ピカピ?」
揺すっても、突いても、痺れさせても。
何も言ってくれない。
まるで石みたいだ。生き物じゃなくて、物になってしまったように。
一つだけ物と違うのは、サトシの周りに赤い血だまりが出来てしまっていること。
「ピカチュウ……」
そう。
間に合わなかった。
自分は間に合うことが出来なかった。
相棒の危機に、友達のピンチに。死の間際に看取る事も叶わず。
大敗を期し、そして取り返しの付かない大事なものを喪ってしまった。
自分だけが生き延びてしまった。本当に守りたい大事なものを守れずに。最後まで戦うことも出来ずに。
「梨花、サトシ……! どういうことなのだ、これは……!!」
自分とよく似た声の少年。
数時間前に出会った、ガッシュという男の子の声だとピカチュウは思い出した。
-
────間に合わなかった。
それはピカチュウと同じく、ガッシュも惨状を見て抱いた後悔だった。
腕を欠損した梨花と、胸を貫かれたサトシに横たわった遺体。
ピカチュウの扱う言語の意味は分からないが、身振り手振りでそれをやったのはあのメリュジーヌという騎士だと一姫とガッシュは察する。
アシュロンに匹敵する程の竜種にして、高い実力を持つ最強の妖精騎士。
世界を制した最強のポケモンとトレーナーである一匹と一人ですら、及ばないのも無理からぬこと。
「すまぬッ……私がもっと早く、ここに来ていれば!」
マサオという少年の探索に時間を費やし、見つける事も叶わず、自分達と志を同じとする仲間を死なせてしまった。
「私の判断ミスよ」
メリュジーヌを侮っていた訳ではなかった。
だが、沙都子が口封じに港へ引き返す可能性は低いと考えていた。理由はあれだけ悪事をばら撒かれた以上、一気に移動し一姫達とまだ未遭遇の参加者の信用を買う方が話が早い。
いくらメリュジーヌが強いと言えども、悪戯に戦いを吹っかけるやり方は沙都子も好まない。
彼女自身は普通の人間の域を出ないのだから。
だからこそ。沙都子がメリュジーヌと別れ、港に襲撃を掛けたのは想定外。
彼女の唯一にして最大の戦力だ。それを手放し、別行動を取るなど。
(別の手駒を増やしたみたいね)
候補は、場所的にあの悟空と名乗る少年か。あるいはモクバ達が出くわした中島という少年の容姿を借りた怪物か。
厄介なのは、沙都子に切れる手札が増えた。しかも、恐らくはメリュジーヌより扱いやすく信用のおける完全な支配下に置いた相手。
でなければ、その恐れは極端に低いと言えど、返り討ちに合うか、そうでなくとも深いダメージを負うなどして再合流出来ず逸れたままになる可能性も考慮せず、メリュジーヌを単身で突っ込ませる大体な手は打たない。
最悪の場合、メリュジーヌが居なくとも沙都子は戦力を最低限維持できる環境を手にしている。
(面倒ね。早めに手を打たないと……)
まだ脱出の目途も立っていないというのに、厄介なマーダー同士で手を組まれるのは最悪だ。
それだけに意識を割かれる訳にはいかないが、彼女らの妨害も視野に入れ、脱出方法を模索しなくては。
「ガッシュ、分かっているわね」
酷だとは分かっていた。
一姫も人の心が分からない訳ではない。
このピカチュウという生物も、人と同じような高い知性を持っているのも確認している。
その上で、ここで立ち止まる訳にはいかない。
最愛の弟の為でもあり、自分自身が生き延びる為でもあり、この場の罪のない子供達が一人でも助かる為でもある。
「……ピカチュウ、お主は私のランドセルに入るのだ」
首輪の回収。
それが意味するのは、二人の首を落とすこと。
一姫もガッシュもまだ耐えられる。気持ちのいいものではないが、首輪のサンプルは必要だ。
関わった時間も非常に短く、だからまだ割り切れる。
でも、ピカチュウは違う。
一姫やガッシュとは違う。サトシと共に長い時間を積み重ねた掛け替えのない友だ。
「ピカ」
抱き上げようとしたガッシュの手を拒むようにして、ピカチュウは顔を振る。
「お主、何故……」
ピカチュウは尻尾を光らせ硬質化させている。
そう、確かサトシはアイアンテールと呼んでいた。
それを意味することを、分からない程、ガッシュは幼くない。
「……もう、よいのだ」
優しく、僅かに震わせた声を出す。
「お主はもう、戦わなくて良いのだぞ」
悟空と名乗る少年相手に、共に戦った時から分かっていた。
「ずっと、この者の為に戦っていたのだろう」
────これからオレの体に何が起ころうと、オレを振り返るな。
そして知っていた。
信頼を置き、絆を積み上げたパートナーの死を。
どれほどの絶望と空虚さと悲しみに支配されるか、短い間だがガッシュは痛い程経験した。
もしも清麿が蘇生せず、本当に死んでいたら。
魔本を読めるパートナーの有無に関わらず、ガッシュはあの後も戦えていただろうか。
-
「ピカチュウ……」
「お主、だが……」
ピカチュウは技を解かなかった。
涙を浮かべたまま、サトシの帽子だけ前足で掴んで────。
───ピカチュウ!お前は、俺の代わりに……みんなを助けてくれ。
最高の相棒の最後の願いを叶える為に。
もう二度と、声を交わす事が出来なくとも。
もう二度と、目覚めなくとも。
こうしろと、サトシが言う事をピカチュウには分かっていたから。
「すまぬ……」
拳を強く握りしめ、ガッシュは頬を涙で濡らす。
尽きる事のない後悔と共に。
こんな殺し合いに乗り、何人も殺めるメリュジーヌへと憤り。
戦うことを望まぬ者に、それを強いられせ、神を気取りほくそ笑む乃亜に怒りを滾らせ。
ガッシュはその小さな肩を震わせるしかできない。
「お主は少し、休むのだ」
「ピカ……」
ガッシュの差し伸ばした腕を、今度は拒むこともせず。
そのままピカチュウは意識を失ったまま、丁寧にランドセルの中に入った。
「梨花」
ぽつりと、少し前までの同行者の名を呟き、今は自分の手にある首輪に視線を落とす。
特別、親しい友という訳でもなかった。死ねばいい訳でもないが。
ただ組む相手としては、妥協点をあげられる程度の間柄だ。特段、その死を引き摺るような存在ではない。
「……後悔してるわ。こんなに後悔したのは、大分久しぶりよ」
だが、梨花が港に行くと言い出したあの時、もっと自分にやれることがあった筈だ。
もっと沙都子の動向を予測することは可能だった。
出来ることがあったのに。一姫がもっとも悔しいと思う後悔を。今、彼女はしていた。
だから、これは失敗だ。それも特大級の大失敗だろう。
「それでも、約束するわ。失敗を失敗のまま終わらせないと」
もう今は居ないかつての同行者に向けて。
きっと、この娘は諦めが悪いだろうから。
何せ遺体の背には損傷が一つもなかった。最後まで、何かしらの糸口を掴もうと足掻いていたのだろう。
なら、その糸口を引き継ぎ掴んで手繰り寄せ、結果を出すのは天才たる己の仕事だ。
「ガッシュ」
「ウヌ!」
首輪を回収した二人を埋葬し、二人は港に背を向けた。
-
【G-2/1日目/早朝】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]全身にダメージ(小)
[装備]赤の魔本
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、サトシのピカチュウ&サトシの帽子@アニメポケットモンスター
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:梨花、サトシ……すまぬのだ。
1:マサオという者と赤ん坊は気になるが、今はグレイラット邸へ向かう。
2:戦えぬ者達を守る。
3:シャルティアとゼオンは、必ず止める。
4:絶望王(ブラック)とメリュジーヌと沙都子も強く警戒。
[備考]
※クリア・ノートとの最終決戦直前より参戦です。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【風見一姫@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3、首輪(サトシと梨花)×2
[思考・状況]基本方針:殺し合いから抜け出し、雄二の元へ帰る。
0:グレイラット邸へ向かう。
1:首輪のサンプルの確保もする。解析に使えそうな物も探す。
2:北条沙都子を強く警戒。殺し合いに乗っている証拠も掴みたい。場合によっては、殺害もやむを得ない。
3:1回放送後、一時間以内にボレアス・グレイラット邸に戻りフリーレン達と再合流する。
4:可能な限り早くに雄二を見つけ出す。
[備考]
※参戦時期は楽園、終了後です。
※梨花視点でのひぐらし卒までの世界観を把握しました。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
※絶対違うなと思いつつも沙都子が、皆殺し編のカケラから呼ばれている可能性も考慮はしています。
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投下終了です
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すみません
一旦フリーレン、我愛羅、ハンディ・ハンディ以外のキャラの予約を破棄し、投下します
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砂塵が舞う。
閃光が迸る。
殺意と殺意が交錯する。
「砂縛柩」
低く底冷えのする声と共に、赤毛に隈取の少年───我愛羅が拳を握り締めていく。
眼前に立つ銀髪を二つに纏めたエルフの少女──フリーレンに砂が魔物の様に襲い掛かる。
だが、砂の魔手がフリーレンに届くことは無い。
フリーレンが、ワンドを振るうと同時に光線が発射され、砂を吹き飛ばす。
彼女の背後に控える異形の怪物、ハンディ・ハンディにも傷一つない。
「アハハハハハハ!どう人間!私の下僕の実力は!泣いて許しを乞うなら今の内よ!!」
同行者のフリーレンの強さにハンディは快哉を叫ぶ。
最初こそ大丈夫かと不安だったが、フリーレンは少年の操る砂を寄せ付けていない。
自分を守りながら戦っているにも関わらずである。
フリーレン自身は怖かったが、彼女は仲間との…ハーマイオニーとの軋轢を恐れている。
なら自分は殺せない。ヒー坊を失うのを厭い自分を取り逃がした宮本明たちと同じだ。
故に一先ずこの戦闘では自分に累は及ばない。その考えが彼女の気を大きくしていた。
((この敵は………))
厄介だな。背後の堆肥以下の愚物は無視し、我愛羅とフリーレンの思考が重なる。
我愛羅にとっては後ろの口寄せ獣なのか何なのか良く分からない汚物を守りながら戦っているフリーレンの実力は驚異的だったし。
フリーレンにとってはまだシュタルクやフェルンにも満たない年齢で自分と渡りあっている我愛羅の実力もまた驚嘆に値するものだった。
───砂時雨!
我愛羅の身に纏う砂が、散弾銃に匹敵する速度で射出される。
これだけで、ハンディだけならば穴あきチーズになっている威力の攻撃だった。
だが、やはりフリーレンには届かない。
幾何学的な形状を形どった一般防御魔法によって、全ての散弾が防御される。
ここまで我愛羅は本気でフリーレンを殺すべく戦っていたが、今迄彼女に一撃もダメージを与えられていない。
(攻撃も防御も変幻自在……いい術を持っている。だが、それ以上に………)
この、フリーレンと言うらしい女の判断力が頭抜けている。
砂の散弾を放てば特殊な防御の術で防御し、砂で包み込もうとすればこれまた特殊な攻撃術で薙ぎ払う。
地盤を砕き流砂で包み込もうとすれば、空を飛行して無効化してくる。
我愛羅が繰り出す術の悉くを看破し、都度的確で冷静な対応を返し手を放ってくる。
チャクラ量も人柱力に匹敵する総量で、どんなに低く見積もっても上忍以上は確実。
ともすれば、木の葉に伝え聞く伝説の三忍にすら届くかもしれない。
そんな相手と戦っている───殺しあっている。
それは我愛羅にとって痺れるほどの高揚感をもたらしていた。
この女を殺し、自分の生を証明する。それが、彼を殺戮マシンとして突き動かす。
(あの女を殺すには並の術では不可能………)
点の攻撃では女の防御術を突破できない。
線の攻撃でも女の攻撃術に撃ち負ける。
ならば、狙うのは面の攻撃。
流砂瀑流で二人纏めて飲み込み、砂漠大葬で押しつぶす。
自分がいま使用可能な術で、この敵を殺せるとすればこの一手をおいて他になかった。
だが、あの女は今しがた流砂瀑流に対応して見せた。
如何に効果範囲の広い流砂瀑流とて、無策で撃っても対応されるのは必至。
駆け引きで、フリーレンと呼ばれた女に勝利する必要があった。
-
「チッ」
数十の交錯の果てに、フリーレンが肩に軽く走る衝撃と痛みに舌打ちする。
大地から伸び、槍のように鋭く形状を尖らせた砂の塊が掠ったのだ。
それを見た我愛羅はここだ、と。歴戦の魔法使いの陥穽を見抜く。
(女の防御術は完璧…だが、それはあくまで自分のみを守る時の話だ)
標的は、背後の掌のような頭をした化け物を守っている。
バケモノに対して致命的な攻撃を行ったときのみ、防御や攻撃が僅かに遅れる。
怪我を負ったことは今が初めてだが、砂自体が触れる事はこれまで幾度かあった。
そのどれもが、頭が掌の怪物を守ろうとした時の事だった。
一度や二度ならともかく、先ほどの接触で四度目。ここまで来れば間違いない。
これが、この女の……フリーレンの隙だ。
「ク、ククク……そうか、お前も………」
同じだ。
この女も、あの体術使いの下忍を庇った上忍や、金髪の女を守った甲冑の騎士と。
自分から、他者を守ろうとするもの。
絶対に、殺さなければならない。死を与えてやらねばならない。
この女を殺せば、自分はより強く生を実感できるだろう。
甲冑の女と戦った時とは違う。逃がすつもりはない。
その瞬間を思い浮かべ、ほくそ笑み。同時にそこへ至るための策を講じる。
砂瀑の我愛羅の殺意のボルテージは、最高潮に達しようとしていた。
(食いついたな)
そんな我愛羅の様子を冷静に観察し、フリーレンは彼の攻撃を捌きながら確信する。
彼は、自分の仕掛けた罠に食いついた。
まず前提として、目の前の少年は優れた魔法使いだ。
回避可能な状況なら、フェルンやシュタルクには交戦を避けるよう伝える手合いだ。
魔法は遠近両用かつ攻防一体で非常に強力。
更に魔力量も人間のそれではなく、精神(メンタル)も殺人に一切のブレーキがない。
恐らく、少年の中に潜む魔物の影響だろう。
フリーレンをして非常に危険な相手である。そう評価せざるを得ない相手だった。
もしこの少年が真っ当に成長したなら、きっと歴史に名を遺す魔法使いになった筈だ。
(だけど……殺す意思が強すぎるというのも考え物だね)
最初に違和感を持ったのは、砂の津波から写影たちを守った時だった。
フリーレンが戦闘時には常に行っている魔力感知が、少年の魔力に僅かなブレを生じさせているのを看破した。
フリーレンが自身を守る時には、彼は一切魔力の揺らぎを発生させていない。
だが、ハンディを守る為に防御魔法を使った時のみ、僅かに魔力に揺らぎを生じさせている。
まるで戦意高揚により、パンチが大振りになるボクサーの様に。
最初は規模の大きい魔法を使用したからかとも考えたが、ハンディを狙い撃ちした規模の小さな魔法でも揺らぎは発生していた。
そこで実験的に何度か交錯を繰り返したのち、フリーレンは確信する。
敵手は標的の、他者に対する防衛行動に執着している。
これを看破した瞬間、フリーレンの策は始動した。
後は、少年が乗ってくるのを待つのみ。そして、それはきっともうすぐの事だ。
(その前に、ハンディに聞いておかなくちゃいけない事がある)
放つ魔法の精度、威力の一切を緩めず。
視線も敵から切らぬままに、静かにフリーレンは背後のゴキブリ以下の存在に語り掛ける。
-
「ハンディ・ハンディ。これから一つ尋ねる。黙って答えろ」
「アハハハハハ!!怖いか人間よ!己の非力を嘆きなさ………って、え?」
「早く答えろ」
種族全体で人類とは尺度の違う気の長さであるフリーレンらしからぬ気の短さだった。
だが、彼女はこれ以上この喋って動ける汚物と口を利きたくなかった。
だから訝し気な態度を見せるハンディの心情を、一切気遣うことなく問いかける。
「ある魔法使いがいた。
その魔法使いは敵に操られた死体を容赦なく吹き飛ばす戦いをしていた」
ハンディ・ハンディは、魔法を知らない様子だった。多分演技ではないだろう。
となれば、ガッシュの様な別世界の魔族に類する存在であると見るべきだろう。
ではここでフリーレンが知りたいのは、ハンディがどちらの存在であるか、と言う事だった。
彼女の知る魔族と同一の存在であるのか。
それとも、ガッシュの様な、フリーレンの常識とは大きく外れた魔族であるのか。
この後の作戦にも関わる、一度きりの問い。
「それを咎める男がいた。ヒンメルという男だ。
その男に言われて、魔法使いは操られた死体を吹き飛ばす戦いをやめた」
「……?な、何の話よ?」
フリーレンの語る言葉の真意を測りかねて、ハンディ・ハンディは困惑した声を上げる。
だが、フリーレンにとってはそれで良かった。
発言の意図を探られて、無駄に言葉を選ばれては意味がない。
魔族は人間以上に人の感情を弄ぶ言葉を扱うのだから。
だから、間髪入れずに問いの根幹を、ハンディにぶつける。
恐らく、自分の予想が正しければ───
「やがて魔法使いを咎めた男は魔法使いよりも先に死んだ。
それでだ、魔法使いは男の死後も、男の言葉に従ったと思うか」
「ア、アンタそんな事より戦いに集中しなさいよ!」
理解不能。理解不能。理解不能だった。何だというんだこのクソ人間はこんな時に!
闘いの真っ最中に。そんな理解不能な魔法使いだか何だかの事を聞くなんて。
そんな事を聞かれても、ハンディにとってはどうでもいい。
咎められたからと言って、死後も言いつけを守るなんて馬鹿としか思えない。
フリーレンだって、そう思っているだろう。
冷たく凍り付いた視線と、宮本明のような合理性を突き詰めたような戦いっぷり。
この氷の様な女が死人の感傷を是とする心があるとは、とても思えなかった。
考える余裕をほとんど与えられないまま、ハンディは本能に従い解答を述べた。
「意味わかんない事言ってんじゃないわよ!そんなの、守る訳ないでしょ───」
だって、魔法使いを咎めたその男はもう。
「そのヒンメルって男はもういないんでしょう!?」
そう述べた。
そして、フリーレンの様子を恐る恐る仰ぎ見る。
「そう」
-
フリーレンは、正解だとも、不正解だとも言わなかった。
魔法も、飛んでこなかった。
だけれど、その瞬間。
ハンディ・ハンディはある一つの推論にたどり着く。
話に出てきた、魔法使いを咎めた男。
一緒に戦場に出ていることから、人間の男は子供などではないだろう。
だけれど、件の魔法使いとやらは男よりずっと長生きしたらしいと言う事は話で伺えた。
男は戦場で命を落としたのか?そうであったらいいのだが………
もし、その魔法使いと寿命で死に別れたのだとしたら?
ハンディ・ハンディはエルフが人間などよりも遥かに長命である事など知らない。
だけれど、魔法使いなら魔法で通常の人間よりも永く生きることが可能なのではないか?
他者の血を取り込むことで頂点に立った自分の主の様に。
何かしらの超常の手段で生きながらえたのだとしたら………?
そして、そう。その魔法使いがもし、もし目の前の───
「安心したよ、ハンディ・ハンディ」
そう言って、一瞥するフリーレンの流し目を見た瞬間。
ぞく、と。ハンディ・ハンディの身体に悪寒が走った。
「お前は“私の知っている”化け物だ」
それはどう意味だと、問う暇すらなかった。
ハンディの視界を砂塵が覆いつくしたのは、その直後の事だったからだ。
────砂漠葬送!!
砂瀑の我愛羅は、勝負に出た。
何やら言葉を交わしている様子の二人の周囲の地盤を砕き、流砂を作る。
更に、二人の周囲の砂を結集する事によって圧殺しにかかる。
二段構えの攻撃。ここまでは目の前の女なら対応して見せるだろうと我愛羅は見ていた。
だが、流砂に沈む身体と圧殺しにかかる砂を女自身はどうにかできても、後ろの手の怪物は別だ。
あれを助けようとすれば、流砂からの引き上げと迫る砂の消滅で二手遅れる。
更にここで我愛羅は今まで見せていない隠し札を切った。
「───ッ!?……伏兵か」
フリーレンの表情が無表情のまま、瞳だけが僅かに驚愕に染まる。
殺到してくる砂の中から、四足歩行の犬の様な怪物が飛び出したからだ。
怪物の名は『愚者(フール)』と言った。我愛羅が脳内に挿入したDISCにより得た力だ。
愚者のスタンドの犬の様な爪で、フリーレンの肩口が切り裂かれる。
反撃の光線が飛ぶが、愚者は命中よりも早く、俊敏に砂の中に潜り、溶け込んでしまう。
お陰で傷は浅かったが、我愛羅にとってこの攻撃は元より本命に繋げる布石でしかない。
隙は出来た。更にここからハンディを助けようとすれば致命的な物へと変わる。
果たして我愛羅のその予期した未来は、予期した通りにやって来た。
「イヤアアアアアア!!たっ助けッ!早く助けなさいフリーレン!!」
完全に砂に拘束された手の怪物が悲鳴を上げる。
助けようとしたためかは定かではないが、フリーレンの意識が完全に手の異形に向いた。
ここだ。我愛羅は確信を以て術を発動する。
────流砂瀑流!!
-
発動と共に、再び二人の獲物に押し寄せる砂の津波。
先ほどとは比べ物にならない速度で、周囲一帯ごとフリーレン達を飲み込みにかかる。
こうなれば先んじて砂に飲まれた異形を救うのは不可能だ。
救うために光線を発射すれば、その間に砂の津波に飲み込まれる。
見捨てられず砂に飲み込まれた場合はそのまま砂瀑大葬で殺す。
もしこれまで甲斐甲斐しく、手傷を負ってまで守って来た異形を見捨て空に逃げた場合は、砂に潜伏させた愚者で首を刈り取る。
何方を選んだとしても、フリーレンと言う女を待ち受けるのは死以外にありえない。
確信と共に、我愛羅は敵手の選択を見届けた。
───砂漠大葬!!
数秒後、女は最も愚かな選択をした。
自身の防御のための光線も、手の異形を救うための光線も撃つことはできず。
恐らくは動揺のままに、砂に飲み込まれていった。
我愛羅は間髪入れず砂にチャクラを送り込み、数十トン以上は確実にある砂の全てが殺意の塊に変貌する。
ただの人間がこの術を受ければ即死だ。間違いはない。
しかし、途中まではそれなりに楽しめたのに、最後は消化不良な幕引きだった。
「次だ……」
とは言え、相応に消耗させられた、休息をとる必要はあるだろう。
また戦闘を行うには一時間から二時間程休憩をとる必要がある。
その算段を立てながら、その場を後にしようとしたその時の事だった。
もう存在するはずのない視線が、彼の背筋を駆け抜ける。
視線の出所は、我愛羅から数十メートルは上空から感じ取れた。
「何────!?」
振り返り、仰ぎ見てみれば。
太陽を背に、表情を感じさせない氷の様な美貌はそのままに。
フリーレンが杖を掲げ、我愛羅に向けて指向していた。
まさか、脱出していたのか。これまで必死に守って来た蟹の異形を見捨てて?
それにしたって、早すぎる。あの状況から見捨てる判断をしても間に合わない。
思考を回し、その考えに行きついた時、我愛羅は気づく。
そう、最初から見捨てるつもりで、それを前提に飛行する術の速度をわざと落としていたのだとしたら?
敵の狙いは、あの異形を守ると思い込ませるためだったとしたら?
「その通りだ、お前は私の他人を守ろうとする行動に固執しているのには気づいていた」
上空で、フリーレンが我愛羅に告げる。
距離は離れていて、大きな声でもないハズなのに、妙に鮮明に聞こえた。
「だから罠を張った、わざと飛行魔法の発動時間を伸ばして、魔族を守る素振りをして。
痺れを切らしたお前が大きな魔法を掛けてくるまでじっと待った」
仲間を守る筈だと思い込ませた。
本来なら砂に包まれる一秒前でも脱出可能な上昇飛行の速度を誤魔化した。
力量を誤認させる、フリーレンの十八番。
それはただ、今この瞬間の為に。
「くっ………!!」
「遅い」
全身のチャクラを放出し、防御のための砂を操ろうとする。
だが、それよりも早く、フリーレンの杖から光線が迸った。
強く、眩い光だった。
我愛羅にとっては、当たれば死ぬ。そう確信させる死神の刃だった。
そうして、我愛羅の視界が光に包まれ。
白一色に、世界の全てが塗りつぶされた。
-
◆◆◆
地中より落ちのびた先で。
ゼェ、ゼェと荒い息を砂瀑の我愛羅は吐いていた。
敗北。
今はただ、その二文字が彼の脳を占領する。
殺そうとして取り逃がしたことは、この殺し合いで経験している。
だが、今回は明確な敗走だった。
敵の策に嵌まり、チャクラを無駄に消耗させられ。無傷では済まなかった。
敵の忍術が掠めた脇腹は、ごっそりと抉り取られたように消失していた。
既に血は止まり、肉体の再生が始まっているのは人柱力としての生命力の強さ故である。
もし守鶴の大狸が我愛羅の内に封印されていなければ、致命傷であったのは間違いない。
「ハァ……ハァ………ぐっ!」
ガン!と拳を大地に打ち付けて、悔しさを露わにする。
何だ、この体たらくは。
俺は俺以外の人間すべてを殺す為に存在していた筈だ。
その為に、母の命を奪い生まれ落ち。
あの日、夜叉丸を殺して生き残った。
───この子の名は我愛羅……我を愛する修羅………
───貴方は、愛されてなどいなかった……!
何度も何度も何度も何度も。
あの夜の夜叉丸の言葉が数えきれないくらい脳裏に呼び起こされる。
我愛羅にその言葉を吐いた夜叉丸の、その真意も知らぬままに。
ただ殺意と憎しみだけが、彼の中で膨れ上がっていく。
「クク……アハハハハハ……!」
敗北の事実を自嘲気に笑うと、堰を切ったかのように笑みが溢れてくる。
敗けはした、だが……俺は未だ生きている。それがどうしようもなく楽しい。
俺の存在はまだ消えていない。闘争と殺戮こそ、何よりも強い生の実感を与えてくれる。
「お前も……そうなんだろう………?」
周囲の気配に気を払いながら、独りの道をただ歩いていく。
考える事は、つい先程戦ったフリーレンと言う名の、杖を持った女。
あの女は強かった。
力で言えば金髪の女を守っていた甲冑の女の方が上だろうが。
それでも狡猾さ、戦場の経験値(キャリア)と言う点では群を抜いている。
あの女と比べれば、甲冑女以外はすべて有象無象と言わざるを得ない。
そして、フリーレンと言う名の女の瞳に、我愛羅は自身と同じものを見出していた。
即ち、強い憎しみの視線。
守る力よりも、敵を憎み殺す力の方が強いのだと、自分の在り方が肯定された様な気がした。
後は自分が彼女を殺し、自分の憎しみの方がより強いのだと証明するのみ。
まずは一度休憩を取り、消耗したチャクラと傷を回復させる。
人柱力であるこの身ならば、全身を強力な爆弾で吹き飛ばされるなどしない限り、二時間もあれば復帰できるだろう。
その後は……フリーレンを追撃するのもいいが、このエリアの付近に火影岩があるらしい。
木の葉の里の者ならば合流時のシンボルとして使用してもおかしくはない。
火影岩の近辺に身を潜め、奈良シカマルとうずまきナルトら木ノ葉隠れの里の忍を殺し、フリーレン戦のための戦力を蓄える。
もしこの二人が来なければそのままフリーレンの追撃に入ればいい。方針は定まった。
ただ、殺す。この後も憎しみが尽きぬ限り、殺し続ける。
そうだ、俺は────、
「俺は……自分のために戦う」
きっと、最後のその時まで。
-
【E-5/一日目/午前】
【我愛羅@NARUTO-少年編-】
[状態]チャクラ消費(大)、疲労(中)脇腹損傷(治癒中)
[装備]砂の瓢箪(中の2/3が砂で満たされている) ザ・フールのスタンドDISC
[道具]基本支給品×2、タブレット×2@コンペLSロワ、サトシのピジョットが入っていたボール@アニメ ポケットモンスター めざせポケモンマスター
かみなりのいし@アニメポケットモンスター、血まみれだったナイフ@【推しの子】、スナスナの実@ONEPIECE
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:一旦身を隠し休憩をとる。
1:出会った敵と闘い、殺す。フリーレンは特に殺したい。
2:火影岩の付近で身を潜め、うずまきナルト、奈良シカマルを待つ。来なければフリーレンを追撃する。
3: ピジョットを利用し、敵を、特に強い敵を殺す、それの結果によって行動を決める
4: スタンドを理解する為に時間を使ってしまったが、その分殺せば問題はない。
5:あのスナスナの実の使用は保留だ。
6:かみなりのいしは使えたらでいい、特に当てにしていない
7:メリュジーヌに対する興味(カオス)、いずれまた戦いたい
[備考]
原作13巻、中忍試験のサスケ戦直前での参戦です
守鶴の完全顕現は制限されています。
-
◆◆◆
「ダメだな……逃げられた」
本当に、大した相手だった。
あの状況から逃げおおせるとは。
フリーレンは眼下の砂の抜け殻を眺めて、そう評価した。
砂の抜け殻の下には、流砂と化した地面が広がっている。
恐らく大地を流砂化することで地面に潜り、そこからトンネルの様に地中を掘り進め離脱したのだろう。
フリーレンの力なら今から追跡できない事もないが、先に逃がした写影たちが心配だ。
追撃よりも彼らの保護を優先する。
だが、その前に“始末”しておかなければならない仕事がある。
「ピギュウウウウウッ!!!」
襲い掛かってくるハエトリグサに手足がついたような怪物。
怒り狂った様子で、フリーレンの矮躯を頭から飲み込まんとしてくる。
フリーレンは怪物に向けて無言で魔法を放った。
放つ魔法はもちろん魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)。
怪物は顎をもたげて、魔法ごとフリーレンを飲み込もうとする。
だが、それが叶うことはない。
放たれた魔法は怪物の体躯よりも遥かに大きく太い光の矢だったのだから。
抵抗すらできず、怪物たちは次々に光に飲み込まれ、消えていく。
ミサイルすら飲み込む変異種と呼ばれる怪物五体をフリーレンは瞬く間に葬り去った。
そして、つかつかと先ほどの戦闘で作り出された砂丘に歩み寄り、杖を指向する。
十秒ほど後に、ずるりと砂丘からグロテスクな怪物の残骸が姿を現した。
「テ…テメェ……ふざけんじゃ……ないわよ……この、クソ……おん、な……」
今や七割以上肉塊と化したハンディ・ハンディが恨み言をフリーレンに向けて吐く。
酷い有様だった。手の形をした頭部の指はどれもこれもあらぬ方向を向き。
頭部から下の肉体はぐちゃぐちゃに潰れてひき肉になっている。
我愛羅の魔法によって破壊されたのだろう。やはりあの少年は敵ながら強い魔法使いだ。
その我愛羅の魔法を受けて半死半生とはいえ生きているハンディの生命力も驚嘆に値するものではあるが。
だが、それももう終わりの時が迫ってきていた。
「アン、タ……最初、から、私を……嵌める、つも、りで………」
途切れ途切れになりながら憎しみを向けるハンディに、フリーレンは無言で杖を向けた。
ガッシュとこの汚物は同じ異世界の魔族だが、あり方は決定的に違う。
元より汚物まみれの匂いの中に血の気配を漂わせていたため十中八九人を殺すのに何の躊躇いもない魔族であることは確信していた。
それでも最後のチャンスとして、あの問いを投げた。
結果、見事にハンディ・ハンディはフリーレンの逆鱗に触れ、
その瞬間をもって、ハンディを囮にする作戦の決行が決定した。
ハンディに残れといった時点からこの策を思いついてはいたが、決行するかどうかはまだ決めかねていた。
ハンディが違う答えを返していれば、フリーレンの作戦も違うものになったかもしれない。
だが、その仮定は意味がない、というのが彼女の考えだ。
問いを投げた時点で、ハンディが彼女の知る魔族と同じ答えを述べることを確信していたから。
「……ぐ……ワタシ……達は、仲、間……でしょうが!?」
「お前と仲間になったことはない。これまでも、これからも」
図々しいハンディの発言をバッサリと切り捨て、フリーレンはその場を立ち去ろうとする。
その様を見て、ハンディは見苦しく引き留めようと声を上げた。
-
「待、ち、なさい……それ、なら……怪我を…治す、魔法、とか………」
「回復魔法は使えないんだ。そう言うのはハイターの役目だったからね」
尤も、使えたとしてもフリーレンがハンディに使用したかは非常に怪しいが。
「追って来るなら止めはしないし、もし望むなら楽にしてやるけど」
それがフリーレンにとって最大限の譲歩だった。
トドメを刺すことはハンディが希望しない限りしないが、助ける事もしない。
戦闘でズレたランドセルを担ぎなおし、冷淡に、冷徹にハンディに告げる。
傍目から見てもハンディの状態は完全に詰んでいる。
ここから自力で復活を果たすのは無理だろうし、助ける者もきっといない。
故に、待ち受けるのは二択だ。介錯を受けるか、そのままゆっくりと朽ち果てていくか。
当然、ハンディ・ハンディはそんな二択はごめんだった。
「ふざ…けるな。ふざ、けんじゃ……ないわよ……!そんなの、どっちも御断りよ………!」
「そう。それなら好きにするといい。じゃあね」
介錯を拒絶した以上、これ以上ハンディ・ハンディにフリーレンができることは無かった。
直ぐに写影達を救援に行かねばならない状況で、これ以上此奴に構っている暇はない。
そのまま場を去ろうとして、その直前に何かを思い出したように砂丘に向けて杖を掲げる。
そうして、確かあの怪物が出てきた地点はこの辺りだったと、魔法で何某かを行い始めた。
ハンディに、無防備な背中を晒して。
(こ、のクソ女……!本当に私を置き去りにするつもりね………!)
ハンディの血潮が憎悪に滾る。
殺す。絶対にこの女だけは殺すのだ。
クソガキから奪った体はもう使い物にならない。
だから───この女から体を奪う。
生首だけになろうとすれば首輪が警告するものの、爆発する前に身体を乗っ取ればいい。
無防備なフリーレンの背中を見て、ハンディは決意した。
例え多大なリスクを負うとしても、どの道ここで勝負に出なければ後がない。
ただ朽ち果てていくよりはよっぽどマシだ。
逼迫した状況と失血、そして何より憤怒と憎悪でハンディは冷静な思考力を失っていた。
故に、フリーレンをブチ殺す決定を下すのに躊躇は無かった。
(イヒヒ……この女の身体を奪えば、私も魔法ってのを使えるようになるかも……)
フリーレンは容姿だけなら、ハンディも認める可憐さだ。
更に魔法が使えるようになれば、あのさくらとかいうガキや自分を虐めた茶髪のガキに復讐ができる。
拷問のレパートリーも、更なる広がりを見せるだろう。
その未来を妄想して、ハンディ・ハンディは狂気にその異形を歪めた。
(殺す……殺す……殺す……殺す……殺す!)
あの女はきっと油断しているのだろう。
四肢がぐちゃぐちゃに潰れているのだから、もう動けまいと。
だが、このハンディ・ハンディ様は違うッ!
人間の様な下等生物と違い、首だけでも生存可能だ。
それどころか、這いまわり人間の子供程度なら食い殺せる。
(乗っ取ったらたっぷり使い倒してあげるわ、アンタの身体……)
-
ハァ…ハァー……
獰猛な吐息を漏らして、もぞもぞと蠢き、フリーレンに狙いを定める。
彼女は何かを発見した様子で、最早こちらには目もくれない。
今、思い知らせてやる。
誂えたように、首も千切れかけだ、フェイス・パージするのに支障はない。照準も良し。
このままクソガキの身体から一気に飛び出してあの能面のような面を貪り喰らってやる!
(さぁ…行くわよ。死になさいクソ女!!)
スポッ
「ガアアアアアアアア!!!ガアアアアアアア!!!!」
気の抜けた音と共に、ハンディの頭部が佐吉の肉体から分離する。
目にも止まらぬ早業だった。ハンディはその瞬間に限り、首輪の処理速度を完全に凌駕した。
そのままバキバキに折れたはずの頭部の五指を大地に付け、全霊の力を籠める。
背後(頭後)で首輪がピーッと音を鳴らすが気にしない。
そのまま猫科の肉食獣の様に、折り曲げた頭部の指を伸ばして跳躍。
フリーレンの背中に襲い掛かった。
「バリバリ頭から食べてやるわ!!死にクサレ、クソ女ァアアアアアアアッ!!!!!」
猛スピードでフリーレンの元へ。
狙いはクソ女の首級ただ一つ。
このハンディ・ハンディ様を裏切ったことを地獄に逝くがいい!
人間の頭部一つ、飴のようにかみ砕けるあぎとが疾風の様に迫る───!
ガンッ
そして、当然の様に展開されていた防御魔法に押し返された。
────禁止事項に接触しました。首輪の爆破を行います。
ハンディ・ハンディが最後に見た景色は、出会った時から一切変わる事無く冷徹だった、フリーレンの視線だった。
直後、ぼとっと跳ね返された先で、聴覚に響く、無機質な音。
彼女の終焉を示す、首輪の爆破を通達する電子音声だった。
「ウソよ………このワタシが………」
そして。
多くの自衛隊員や無辜の市民を弄び貪り喰らった拷問野郎が、首だけになって放った最期の言葉は。
皮肉にも同じく葬送の魔法使いに倒された、断頭台の二つ名を持つ大魔族と、全く同じものだった。
────ボンッ
【ハンディ・ハンディ@彼岸島 48日後… 死亡】
-
フリーレンは今しがた一世一代の賭けに挑み、そして敗れた敗残者を数秒見つめた。
そして、さっき砂の中から取り出したある物に視線を落とす。
それは、ハンディ・ハンディのランドセルだった。
口は開いていて、恐らくさっきの異形はこれを出て襲い掛かって来たのだろうと推察する。
流石に支給品まで奪っていくのは盗賊の様で、するつもりはなかった。
最後にハンディ自身の支給品だけでも砂の中から掘り起こし与え、去るつもりだった。
それは、魔族に対するフリーレンの心情を加味すれば破格ともいえるほど温情に溢れた措置だっただろう。
もっとも、それも無駄に終わったが。
「………さて、急がないと」
数秒かからず意識を切り替えて、ハンディのランドセルの中身を自分の物に放り込む。
ハンディが生きていれば置いていくつもりだったが、死んでしまっては仕方ない。
もし凶器が入っていて、他のマーダーに拾われても面倒だ。持っていく事とする。
心配なのは写影達だ。自分が追いつくまで無事でいればいいが……
考えながら飛行魔法を使用し、その場を去ろうとする。
その前に、魔法使いは最後にもう一度、首から先を失った怪物の亡骸を一瞥した。
最後に襲い掛かって来たことについては、裏切りだとは思っていない。お互い様だ。
だから、自分がハーマイオニーと合流すれば、彼女の口利き次第では自分達が戻ってきて助かる芽も僅かにだがあった。
だがそれでも、この怪物は自分を殺すことを優先し、自らの手でその可能性を零とした。
実に、フリーレンの知る魔族らしい最期だったと言えるだろう。
「それじゃあね。ハンディ・ハンディ」
かつて、蟲の王に仕え、多くの人々を喰らった吸血鬼。
日本の東京と言う地に影を落とした悪は、世界を救った魔法使いによって討たれた。
葬送のフリーレンの伝えられぬ伝説が、また一ページ刻まれた瞬間だった。
【H-5/一日目/朝】
【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(中)、疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品×2、魔法解除&不明カード×3枚@遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's、ランダム支給品1〜2(フリーレン、ハンディの分)、
戦士の1kgハンバーグ、封魔鉱@葬送のフリーレン、レナの鉈@ひぐらしのなく頃に業
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:写影達を追う。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティア、我愛羅は次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:H-5の一番大きな民家(現在居る場所)にて、ガッシュ達と再合流したいけど。
5:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
6:リーゼロッテは必ず止める。ヒンメルなら、必ずそうするから。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
※グレイラッド邸が襲撃を受けた場合の措置として隣接するエリアであるH-5の一番大きな民家で落ち合う約束をしています。
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投下終了です
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すみません>>739の内容を此方に訂正しておきます
ハァ…ハァー……
獰猛な吐息を漏らして、もぞもぞと蠢き、フリーレンに狙いを定める。
彼女は何かを発見した様子で、最早こちらには目もくれない。
今、思い知らせてやる。
誂えたように、首も千切れかけだ、フェイス・パージするのに支障はない。照準も良し。
このままクソガキの身体から一気に飛び出してあの能面のような面を貪り喰らってやる!
(さぁ…行くわよ。死になさいクソ女!!)
スポッ
「ガアアアアアアアア!!!ガアアアアアアア!!!!」
気の抜けた音と共に、ハンディの頭部が佐吉の肉体から分離する。
目にも止まらぬ早業だった。ハンディはその瞬間に限り、首輪の処理速度を完全に凌駕した。
そのままバキバキに折れたはずの頭部の五指を大地に付け、全霊の力を籠める。
背後(頭後)で首輪がピーッと音を鳴らすが気にしない。
そのまま猫科の肉食獣の様に、折り曲げた頭部の指を伸ばして跳躍。
フリーレンの背中に襲い掛かった。
「バリバリ頭から食べてやるわ!!死にクサレ、クソ女ァアアアアアアアッ!!!!!」
猛スピードでフリーレンの元へ。
狙いはクソ女の首級ただ一つ。
このハンディ・ハンディ様を裏切ったことを地獄に逝くがいい!
人間の頭部一つ、飴のようにかみ砕けるあぎとが疾風の様に迫る───!
ガンッ
そして、当然の様に展開されていた防御魔法に押し返された。
────禁止事項に接触しました。首輪の爆破を行います。
ハンディ・ハンディが最後に見た景色は、出会った時から一切変わる事無く冷徹だった、フリーレンの視線だった。
直後、ぼとっと跳ね返された先で、聴覚に響く、無機質な音。
彼女の終焉を示す、首輪の爆破を通達する電子音声だった。
「あり得ない……こ……このワタシが………」
そして。
多くの自衛隊員や無辜の市民を弄び貪り喰らった拷問野郎が、首だけになって放った最期の言葉は。
皮肉にも同じく葬送の魔法使いに倒された、断頭台の二つ名を持つ大魔族と、全く同じものだった。
────ボンッ
【ハンディ・ハンディ@彼岸島 48日後… 死亡】
-
投下ありがとうございます!
ハンディ様、こいつアウラ様と共通点多かったから、ちくしょう!!
アウラとハンディ様が同じなら、それってCVも竹達彩奈ってことかァ?
ひいいいいいい! こいつがあずにゃん、ほたるさん(28)、二乃と同じ声帯を持っているなんて、そんな… そんっ……。
なんか、俺のこれまでの人生全否定されてるみたいでムカつくんスけど。
しゃあけど、血だらけで、飛び込んでくる化け物とかそらこうなりますよ。ハーマイオニーと桃華以外からは間違いなく疑われてましたからね。
……意外と、信用買ってんなこいつ。
間違いなくクロの殺戮者と確信しつつも、念入りに魔族診断心理テストを行い、それでもなお見逃して助かる余地を残したフリーレン、
ハ 感じ入ったよ。流石、日テレで2時間放送枠を獲得した女だ。
なんて…なんて神々しいんだ……。
我愛羅、敗走ではあるし守る者に対する執着で、完全に判断を誤ったんですけど。それでもしっかりリカバリして、切り抜けてるのは強き者。
自分と同じ人種として、フリーレンにタゲを定めたのが面白いですね。
フリーレンも師匠にフランメが居なければ死んでたし、そこ切り抜けてもずっと一人で狂ったかもしれませんからね。
ヒンメル達や、ゼーリエ様やフェルンとシュタルクなんかがフリーレンを一人にしなかったからこそ、今のフリーレンがいるわけで。
我愛羅も原作ではナルトや、何だかんだでずっと付き添ってくれた姉と兄が居てくれたから風影にはなれたんですが、このロワだとね……。
フリーレンもタゲられたは良いけど、そういうカウンセリングはちょっと無理だよねと。
ハンディ・ハンディ
コンペロリショタロワにて散る_______
-
ウォルフガング・シュライバー、ヘンゼル、輝村照(ガムテ)、ルーデウス・グレイラット、木之本桜
予約と延長します
-
魔神王
予約します
-
投下します
-
「……ン〜、不味(マッズ)いなァ……」
ガムテこと、輝村照は右手の親指と人差し指で輪を作り、望遠鏡のように片目で覗き込む。
そして心底うんざりしながら、溜息交じりに呟いた。
「あいつ、滅茶苦茶強くね…?」
自作の望遠鏡の先、そこには自分が見知った女。
軍服(ナチス)の馬鹿赤髪女(メンヘラ)と、それをひたすらに殲滅(ボコ)す紫の甲冑を着たチビ女が居た。
何度か漁夫るかと、虎視眈々と隙を狙ってみたが、どうにも隙が無い。
遠く離れた建物の屋上から、豆粒ほどの景色としてガムテは二人の戦いを観測しているが、これ以上下手に近づけば、奴の狩場(テリトリー)に足を踏み入れかねない。
「凄いね。お兄さんはそんな遠くまで見れるんだ」
「いや〜結構、限界(ギリ)だなァ。これ以上、近づくのは危険(ヤバ)い」
赤髪の女が無力化され、その後黄色の鼠と帽子の少年、銃を持った少女との交戦にもつれ込む。
あの鼠、見た目は愛慕(キュン)だが、帽子の少年との息の合わさりようから、ガムテからしても油断ならない相手だ。
殺しはともかく、歴戦を潜り抜けた猛者だろう。プロの殺し屋として、一切の驕りもなく高い評価を下し、そしてガムテは観測を止めた。
奴等が勝つか負けるかは分からない。案外、下克上(ワンチャン)あるかもしれない。
だが、もし甲冑の女が勝てば次は自分達だ。
「行くぞ。ヘンゼル、あれと今やり合うのは面倒い」
「……僕の魔法で眠らせちゃえば?」
「間抜け(アホ)。さっき、俺に効かなかったばっかだろ」
「ちぇっ」
ガムテにとって、赤髪の女と帽子の少年。
ルサルカとサトシも、相応の実力のある敵として認識すべき参加者だった。
だが相対した甲冑の女、メリュジーヌはそれすらも捻じ伏せる桁違いの強さだ。
負ける気はないが、かといってようやく中盤に差し掛かろうというこのゲームの進行状況で当たりたい相手じゃない。
「今、ここでやり合っても良い事なんざ皆無(ねえよ)」
恐らく、これは勘だがメリュジーヌもラスボスではなく、まだその格上が居る。
ラスボスを控える中で、ここで全力を賭して倒したところで、回収(ドロップ)するものもたかが知れている。
後回しにして、経験値稼ぎ(レベリング)するのがもっともコスパが良いだろう。
ゲーム攻略として、些かベターすぎるのも気に入らないが仕方ない。
「蘇生(リセット)のない高難易度(フロムゲー)なら、慎重(ビビリ)過ぎってこともないだろしな……」
乃亜が麻薬(ヤク)の増殖に手を貸した。その魂胆も見えてくる。
そうまでしなければ、ガムテには僅かな勝ち筋すらない。それ故の憐れみということだ。
(あいつ、愚弄(ナメ)やがって……)
腸が煮えくり返りそうな程だが、事実としてこれだけの強者が居るのであれば納得せざるを得ない。
何より、それでも乃亜を恨み切れないのは。
同類(グラスチルドレン)だと、鋭敏な嗅覚で嗅ぎ分けてしまったからなのかもしれない。
────
-
「キャハッ☆!!」
ガムテの振る村正と水竜王の杖が切り結ぶ。
如何にもなローブを着た涙袋がチャーミングな少年。ガムテの見たまんま魔法使い(なろう)だったが、いざ戦闘を吹っかけて見ればこれが中々の胆力の持ち主だ。
「退いて貰えませんかね。僕達は殺し合いに乗る気はないですし、貴方にもそれはお勧めできませんよ」
魔法は専門外故、詳細な熟練度合い(ステータス)は分からない。
だが、近接戦を主とするガムテと普段の得物(ドス)ではないとはいえ、剣戟を捌き立ち回る。
この少年の練度は、1級には及ばないが、それに喰らい付けるだけの剣の技量はある。
惜しむらくは、この少年の剣術のベースになったであろう流派。
それが合っていない。
戦士としては優れていても、師としてはまるで駄目な相手から教えを受けた影響だろう。
それさえなければ、この少年は剣士として非才ではあれど、もっと高みには上れた。
「ば〜か! 殺せって言われたのに、殺さないバカなんておりゅ!?」
話が通じない。
あの砂使いの少年とは別ベクトルの方向で、この少年も狂っている。
「怖いですね。Z世代(イマドキ)の子供は……」
肉体年齢で言えば、自分もその世代ではあるな。そう心の中で苦笑しながら、ルーデウスは眼前の少年を改めて観察する。
木之本桜を連れて、グレイラット邸から離れ休息を取った矢先に襲撃してきた二人組。
一人は喪服を着た銀髪の少年。魔法を扱うが、使い方は杜撰そのものだ。
「可愛いお姉さん、僕も魔法使い(なろう)なんだ」
「な、なろうって何なの?」
「さあ? ガムテのお兄さんがそう言うから」
さくらが操る風(ウインディ)とヘンゼルが放つ炎が吹き合う。
業火は女性のような風の精霊に抱き締められ、消化していく。
(なんだか、面白くないな。早くこの女の子で遊びたいのに)
腹正しい事に、まるで自分が軽くあしらわれているようだった。
何度も魔法を放っては、さくらに対処され攻撃が全然当たらない。
魔法の使い方の熟練さを身を以て痛感させられる。
「ラリホーマ」
ならばと、先ほどガムテに掛けた眠りの魔法を放つ。
「……ほぇ?」
さくらはヘンゼルの詠唱をきょとんとした顔で見つめる。
(……やっぱ、効かないか)
詳しい事はヘンゼルにも分からないが、確かにこの魔法は効く相手とそうでない相手に分かれるようだ。
特に同じ魔法使いだと、耐性があるのかもしれない。
(さくらちゃんの魔力量は相当なものだ。才能もとんでもない。あれぐらいの魔術なら、何とかなる)
ガムテの剣を弾きながら、ルーデウスは二人の魔法少女と少年を一瞥する。
ヘンゼルの手にした杖は別にしても、ヘンゼルそのものは魔術のド素人だ。
戦いの勘や経験は秀でているが、魔術に関する知識は怖い程に欠落している。しかも、本人も意識していない程に。
ようは、使い慣れていない。
人を殺せない優しい性格のさくらが勝てるかは別にして、魔術戦に限っては、ヘンゼルの強化された身体能力を踏まえても、易々と後れを取る相手ではない。ルーデウスはそう判断した。
「キャハッ☆、キャハハハッ!!」
「ッ────!!」
むしろ、一番厄介なのはこのガムテープの少年。
一見とぼけた馬鹿を演じているが、その実狡猾そのもの。
ルーデウスの予見眼を発揮しても尚、その未来は無数にブレる。
速さもさることながら、幾重にも張り巡らされた戦術とガムテの直感がルーデウスの魔眼にすら匹敵する。
予見した未来を更に超えた精度で、ガムテの第六感が危機を回避する。
馬鹿みたいな口調とふざけたコミカルな動きも、油断とミスリードを誘う罠がいくつも伏せられている。
剣技も、決して鍛錬を欠かさない。研磨され尽くした技量が伴った達人(プロ)のそれ。
-
(こいつを片付けて、早くさくらちゃんの所へ行かないと……!)
僅かにでも読み負ければ、一瞬でルーデウスの首が飛ぶ。
しかし、ヘンゼルとの交戦を続けるさくらも長時間放っておくわけにもいかない。
例え戦いに勝利しても、さくらではあの少年の命を絶つことはできない。無力化する為の拘束も考えが及ばないかもしれない。
高い実力の魔法使いであることに違いはないが、そのメンタルは日本の平和な小学生となんら変わらないのだから。
ルーデウスも殺人は極力避けるが、いざという時に腹を決める覚悟はある。
だが、さくらにそんなものを強いるのはあまりにも酷だ。
(────なーんて、考えてるよなァ、お見通し(バレバレ)なんだよ)
その焦燥を感じながら、だがガムテも攻めきれずいる。
剣技だけならば圧倒できるが、こいつの本職は魔法だ。水だか岩だかがポンポン飛び交う。
それだけならばまだ良いが、足場を崩す魔法も多く。狡賢い。
(つっても、こっちも中々攻めあぐねてるけどな……)
意識を割く対象が多く、その分ガムテが攻め込むタイミングも狭まっていく。
ガムテの油断を誘う演技にも引っかからず、外見以上に中身はおっさん臭い。
思いの他、やりづらい相手だ。
(ヘンゼルがあっちの少女漫画(なかよし)殺っちまえば、二対一で蹂躙(フルボッコ)だが……手間取りそうだな)
やはり、ここで確実に自分が息の根を止めるしかないか。
村正を握る手を逆手へと持ち替え、ガムテは一呼吸置き、意識を切り替える。
こいつは殺す。ここで確実に殺す。
「……ッ、な、っ!」
空気が変わる。まるで凍ったかのように。
何か、この戦況を一変させる何かが来る。それを予感し、ルーデウスも予見眼により魔力を回す。
避けなければ、この一撃では何としても絶対に回避しなければ。
「やあ、楽しそうだね」
ルーデウスを前にして、ガムテはその構えを完全に解いた。
「────真実(マジ)ィ?」
それは一見して、無謀で愚かな愚行である。相手はガムテを殺すつもりの、腹の据わった戦士だ。
隙を見せれば、喉元を平気で食いちぎるなど造作もない。
知識や記憶ではなく、本当や勘と言った体の奥底の芯にまで染みついた当たり前の理屈だ。
特に殺し屋として、多くの命のやり取りを行ったガムテにとってはより当然の。
「人探しをしているんだ。赤い髪のルサルカという女の子を見ていないかな?
可愛いんだけど、頭の弱い娘でね……。悪い奴に虐められてないか心配なんだよ」
だから、その愚行には理由がある。優先順位が変動したのだ。
この白銀の乱入者こそ、最も警戒すべきであると。
「────?」
ルーデウスの手も止まり、新たな乱入者に視線を向けていた。
「あとは、コートを着た髪を逆立てた男の子も見てないかな?」
さくらもヘンゼルも。同じく、戦いを中断しその場の全ての視線が注がれる。
眼帯を付けた隻眼の軍服少年。
ルーデウスの前世の知識に照らし合わせれば、あれはナチスの軍服だ。
そう、オタクが好きなやつ。そう、ルーデウスは思った。
更には少女のような中性的な美貌だが、貼り付いた笑みがその本性が血に飢えた獣だと訴える。
-
「そう、怯えなくてもいいよ。僕は人探しをしているだけなんだから」
嘘だ。
ルーデウスもヘンゼルもガムテも。
あまりにも薄っぺらい、その言動を訝しみ。奴の最終的な到達点は、殺戮以外にあり得ないと断定した。
「る、ルサルカさんっていうのは……」
「僕の恋人なんだ。愛し合ってるんだよ」
恐る恐る。さくらだけは口を開く。
答えを聞いた筈なのに、さくらはより困惑が増すだけだった。
(なに? この嫌な感じ……)
人を好きになる事は素敵な事だ。
色んな好きの形が、きっとあるのだと思う。
さくらも小狼が好きで、小狼もさくらのことを好きでいてくれている。
すごく幸せで、心が温かくなって。もっと小狼のことが好きになる。
(この人、本当にルサルカさんが事が好きなの?)
だから、分からない。
様々な愛を見たさくらにとって、シュライバーの語る愛のハリボテさは異様の極みだ。
ロボットが表面上、字面だけ真似て人間と意思疎通を図っているような歪さ。
きっとこの人は賢い。賢いから、言葉の意味は通じる。通じるが、言葉に込められた感情を理解していない。
理屈として事象として、知っているだけだ。
「だから、教えてくれないかな? アンナに早く会いたくてね」
────あいつだ。
────絶賛、敗北(いじめ)られてたよ。
ガムテは奴と同じ軍服と赤髪という特徴から、即見当を付け、そしてそれを悟られぬようガムテープだらけの顔の奥底に仕舞い込んだ。
こいつに、ルサルカの居場所を吐く(ゲロ)っても得はない。駆け引きにも使えない。
恐らく、殺しに変化を付ける為に縛りプレイを楽しんでいるだけで、居場所を知ってもそちらへ行くことはない。
どんな返答をしても、この場の全員皆殺しにして、ルサルカを探しに行くだけだ。
「おい、魔法使い(なろう)。
約束してやる。
今、ここでお前らは殺さない────だから」
組まないか。
ガムテの狂乱の仮面を外した冷徹な一言が、ルーデウスの耳に響く。
殺し屋として、残酷でありながら愚直なまでに高い美学を持つガムテが殺さないと言った。
つまり、本当に殺さないという意味だ。
ルーデウスも無言で頷く。
ここで小競り合いを続ける場合ではない。
ガムテの言動を鵜呑みに出来ないが。目下、最大の脅威はあの少年だからだ。
歴戦の殺し屋と、異世界へ転生し修羅場を潜り抜けた魔術師の判断は早かった。
「さくらさん」
「ヘンゼル」
お互いの同行者に声を掛け。
潰すべき対象の変更を伝える。
「フフ…ウフフフフ、アッハハハハハハハハハハ────」
殺意が三つ。一つそれに及ばない甘ったるい敵意が一つ。
温いが、まあ悪くない。やはり死人を殺めるより、生きた人間を殺す方がずっと良い。
ここが戦場であると実感できる。
-
「ウォルフガング・シュライバー」
名乗る。
(シュライバー……日番谷隊長が言ってた……)
己が英雄であることを知らしめるように。
「……破壊の八極道、輝村照(ガムテ)」
それに名乗り返したのはただ一人。
どいつもこいつも、礼儀作法(マナー)がなっていないようだと、ガムテは呆れ果てた。
(もっとも、お前も…別に気まぐれで名乗ってるだけで、美学(ルール)なんぞ皆無だろうけどさ。
にしたって、あの中性的な見た目……)
何処かで見たような。まるで、鏡に自分を写し出されているかのようだ。
(ああ、お前もか────)
壊れている。
最早割れたのを通り越し、粉々に砕け散っている。
心を殺されたんだな。
ガムテが見た中でも、もっとも最大で最狂の割れた子供かもしれない。
だからこそ、勝つしかない。勝たなければならない。
「ハハハハハハハハ────」
吹き荒れる嵐のように。狂気の嬌声と共に魔弾が隙間なく敷き詰められ、カーテンのように四方八方へ荒れ狂う。
執拗なまでに使い込んだ二丁の拳銃、通常では考えられぬ連射性能とそれを可能にする魔人の神業。
薬(ヤク)決めた極道はおろか、忍者すらも超越した化け物だ。
「ッッ!!?」
シュライバーの足元がぐらついた。
不自然に足場が柔らかく変質していた。
先程まで、固くシュライバーを支えていた大地が一瞬にして、底なしの沼へと変貌したのだ。
これこそが、ルーデウスが後の通り名としても定着した泥沼の魔術。
直接的な殺傷力はないが。足場を沈め、行動不能に陥らせるか。そうでなくとも数秒の隙を生み出す。
「キャハフヒホ〜〜ッッ☆」
魔弾の嵐を、生身のままガムテは単身突撃する。
その手にある刀は稀代の名刀であり、高い神秘を兼ね備えている。
シュライバーの魔弾は、聖遺物には遠く及ばない。
一発の弾丸と一振りの名刀であれば、その格は後者が上回る。ガムテは持ち前の動体視力で弾を弾き落とし、傷一つ付きはしない。
だが、その数が数百を超えるのであれば別だ。
数という圧倒的な質量を前にすれば、ミツバチの大群に殺されるスズメバチのように、村正も限界を迎える。
「直撃(ちょく)で受ければな」
飛び交う弾丸を瞬時に、己に着弾する軌道上のものだけを全て計算に入れる。
瞬時に最低限の動きで、最大限の効率を重視した身のこなしで刀を振るう。
数百を超えた魔弾を受け────村正は未だ健在。
傷一つなく、刃こぼれすらしていない。まるで弾丸など、最初からなかったかのように。
「じゃね〜☆」
弾幕をガムテは生身一つ、無傷で突破しシュライバーへと肉薄する。
ガムテはただの殺戮者ではない。プロの殺し屋だ。
こと、殺す事においてガムテの右に出る者などいない。例えそれが首領副首領を除く、黒円卓、最速最強の白騎士であろうとも。
その魔弾の威力を技術(わざ)で殺し、村正への負担を最小限に留めた。
忍者の馬鹿げた膂力すら、涼しい顔で受け流し、あしらうガムテにとっては赤子の手を捻るにも等しい芸当。
完璧に殺った。
ガムテもルーデウスも即席とは思えぬ連携を発揮した。
それは、かの黒円卓の魔人を相手にしても通じる高度な領域の水準で
-
(────いやッ、こいつは)
しかし、ガムテの第六感が告げる。
(眼が……!)
ルーデウスの予見眼がブレる。
今までにない程、脳が直接シェイクされるかのような嘔吐感が込み上がる。
これは────。
「やるね」
シュライバーは驚嘆し素直な賞賛を送る。
一秒もしない内に、その刃は自身を切り裂きその命を絶つと分かっていながら。
沈み行く底なし沼に沈み、何の抵抗も出来ぬと理解しながら。
その余裕を崩さずに。
「危険(ッブ)ねェ……」
前進しかけたガムテは、あらゆる理屈を押し退けた直感に従い後退した。
シュライバーを殺す絶好の機会を、何の躊躇いもなく捨て去った。
その約一秒未満の後、ガムテの目と鼻の先に巨大なクレーターがこじ開けられる。
隕石が落ちたのと同じ理屈に過ぎない。
「────まだまだァ!!」
ただ、それを人間を行っているかどうかの違いだ。
簡単だ。一人の人間が跳躍し、そのまま降り落ち、莫大な破壊痕を刻み込んだ。
別にそれは良い。忍者でも極道でも、馬鹿力でぶん殴ってそれぐらいのことはする。
ガムテにとって目を疑うのはそんなことではない。
奴は、絶対に沼に嵌っていた。そこへ沈む運命だった。
跳躍など不可能だった。
「目視不可(みえね)ェ」
確か人間は高所から落下した時、下が水面であろうともコンクリートのように固くなると聞いたことがある。
つまり、シュライバーは同じことを再現したと推測した。
本来、人の身では数え切れぬほどの高所から落下した時に発生するであろう落下速度を、沼に触れた瞬間、ただ蹴り上げるだけでそのスピードを再現。
沼に沈む前に、それがコンクリートのような硬度を発揮する程の速さで蹴れば、シュライバーにとって沼と平地になんら違いはない。
(そうか、あいつの自慢は────)
速さ。
何者にも触れられぬ。最狂の絶速。
目にも止まらぬ速さから降り注ぐ魔弾の雨は、シュライバー以外の全ての生命を刈り取ろうとする。
「「樹(ウッド)」!!」
さくらの叫びと共に、巨大な大木がさくら達を包み込むように覆う。
分厚い樹の幹はシュライバーの魔弾すら通さぬ鉄壁だった。
「ルーデウスさん」
「さくらさんは防御を」
十以上の岩の砲弾を生成し、それらを散弾のように拡散し射出する。
詠唱を破棄し、瞬時に構築した魔術は物質世界に顕現するまで、コンマのズレもラグも生じない。
「ハハァッ────」
影を捉えたと思った次の瞬間には、シュライバーはルーデウスへの死角へと回り込んでいる。
岩(ストーンキャノン)でシュライバーの撃墜を試みるが。
空も地上も、縦横無尽に駆け巡るシュライバーを捉えきれない。
本来、無詠唱魔術を可能とするルーデウスは魔術の早打ちに関しても折り紙付きだが、相手のスピードが埒外過ぎる。
(先読みが役に立たない……!!)
予見眼も、その速さに最早効果が意味を成さない。
ありとあらゆる角度から、シュライバーは切り返せる。1秒後の未来でシュライバーは百以上の動きを可能としている。
その全ての情報を脳に流し込まれれば、銃弾に触れるより先にルーデウスが情報を処理しきれず死ぬ。
元から、速すぎる相手、強すぎる相手にはキャパシティを超えて大きな反動を受ける能力だったが、ここまで極端に使い物にならないのは初めてだ。
予見眼に回す魔力を最小限にし、脳への負担を軽減するなど本末転倒だった。
(どうなってんだ。あのガキ、いくら何でも────)
威力など二の次だ。
より速く、もっと速く。何を差し置いても速さだけを特化させ、魔術を放っても。
シュライバーの影すら踏めない。
龍神オルステッドとの交戦ですら、通用はしないが攻撃は当たった。
単に避けなかっただけかもしれない。本気をまるで出していないだけかもしれないが。
(クソッ、もう少しプロレスぐらいできないのかよ!!)
奴の強さは分かったがその上で、徹底してこちらの攻撃を避けている。
明かに、こちらを格下と舐め腐っているのに。その一点に関して、油断も隙も無い。
オルステッドでも、もう少し戦いに付き合ってくれた。
-
「見た目に合わない醜悪な中身を、引き摺りだしてやろうかァ!!」
(こいつ、俺の……!?)
シュライバーの手元から二つの火花が弾け、鉛の牙が撃ち出された。
狙いも精密にして的確。樹の大木の盾をすり抜けるよう、絶妙な角度へと計算された連続射撃。
ただの罵倒に意味はないのか。それともまさか、自分の正体に一目で気付いたのか。
刹那の間、刺激されたコンプレックスに苛まれる暇すらなかったのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。
「────」
迫る弾丸の対処に、冷静さを崩さずにいられた。
予見眼に魔力を回し、その機能を再起動させる。
シュライバーはその未来を自らの手で変動させるが、銃弾は違う。
これらは意思を持たない道具であり、シュライバーから離脱した時点でその運命が定められている。
全方位を囲う魔弾の雨の中、それらが向かう運命の最終地点へと意識を飛ばす。
(間に、合うか────)
豪風を巻き起こし、魔弾へと叩き付ける。
使用するのはエアバースト。
風を一点に集中させ、敷き詰められた魔弾の幕の中から僅かな隙間をこじ開けた。
更には自身にも風をブーストさせ、その隙間から吹き飛んでいく。
「ぐ、が……ァ」
地べたを転がりながら、脳が焼き切れる寸前まで酷使した影響か吐き気を催す。
体の外側と内側、両方から激痛に苛まれながらルーデウスは受け身を取る。
鼓膜を響かせる銃声は続くが、大木の影に遮られ着弾には至らない。
これも計算通り。さくらの樹の防御下に行けるよう角度も調整した。
(ふざけ、やがって……こんなの、何度もやってられるか……!!)
死に物狂いで死地を脱したというのに、とうのシュライバーは涼しい顔で未だに走り回り、飛び回っている。
シュライバーにとって、あの銃の連射など児戯に過ぎないのだろう。
あの程度、避けれて当たり前だ。
馬鹿げた話だった。
予見眼を限界まで稼働し、大きなリスクを負ってようやく生還したこの死地が、シュライバーには遊びなのだから。
(どうする……なにか、なにか方法は……)
このままでは死ぬ。
オルステッドの時に植え付けられたトラウマが脳裏を過り、ルーデウスの背筋に悪寒を走らせた。
「メラゾーマ」
同じく、乱雑に業火を打ち上げるヘンゼルも苛立っていた。
魔弾そのものはさしたる脅威はない。数発なら地獄の回数券で強化された肉体ならば耐えられるし、致命打に繋がるものではない。
やはり問題はその数だ。
数百数千と打ち込まれれば話は変わってくる。
(この子確かに速いけど……なんで銃を使うんだろう?)
銃は便利だ。ヘンゼルは斧を好んで使うが、銃はより簡単に人を殺せる。
痛い事をする大人が居たら、すぐに黙らせられる。
だから銃を使うのは分かる。分かるのだが、この少年に必要なものなのか。
だって銃を撃つより、自分で殺しに来た方がずっと速くて、ずっと速いじゃないか。
何故、自分から殴りに来ないのか。
-
「ラリホーマ」
だから分かった。
この子は触れるのを嫌う程、弱いのだと。
闇の世界を聡く生き延びたヘンゼルだから、相手の仕草に鋭敏だった。
これだけ、馬鹿げたスピードを発揮しながら、直接殴れば既に決した勝負なのに。
あらゆる攻撃を絶対に避けようとし、まだ自分達を殺し切れていない。
ルーデウスのスピードの特化した岩など、今のヘンゼルからすれば避けるまでもないのに。
玉砕覚悟で肉薄しても、お釣りがくるほどだ。
そんな弱い攻撃を丁寧にシュライバーは避け続けている。
だからたった一撃でも、当ててしまえば簡単に屠れる。
彼は、肉体的にはとても弱いから。
「おやすみ。お兄さん」
速い。速いが、それは物理的な法則には逆らっていない。
概念的な力には、その速さは及ぶのか。
「ッッ────!!?」
止まった。影すら掴めなかった狂乱の白騎士が動きを止めた。
「チィ……劣等がァ…!」
眠気。
人間が逆らえぬ欲求の一つ。それを強制する魔法は、制限により疲労という概念が付加されたシュライバーにも通じた。
数ある可能性の分岐の中で、シュライバーは本来の能力を完全に開放した上で。
相手の体力を吸い上げるという、格下の放った創造の効果が適用されたことがある。
シュライバーは物理的な回避に長けたその速さの反面、概念的な攻撃の防御手段は少ない。
それはルサルカにも戦争屋としては一流でも、魔術戦はからっきしだとも指摘された。
制限さえなければ、その格の違いで一喝したか。
または、孫悟飯と日番谷冬獅郎との連戦と、そしてセリム・ブラッドレイの命を賭した自爆から避ける為に疲弊した消耗さえなければ、無効化していたかもしれない。
いずれにしろ。ヘンゼルの高い洞察力と偶然が重なることで、シュライバーは止まった。
「そして、さようなら」
迂闊には近づかない。
シュライバーは眩暈を覚えているが、眠るまでには至らないと予想。
多分ガムテと同じで、頭が壊れて眠りと言った欲求に鈍い。
だけど、銃撃はまだ難しいだろう。
動けもせず、銃撃も叶わず。そうシュライバーは詰んだ。自分が詰ました。
ヘンゼルはそう強く確信した。
「────こんなもので、僕をやれると思ったのか。
劣等一匹殺すのに、指一本動かす必要もないんだよォ!!」
銃撃がなかろうとも。
体が動かなかろうとも。
「がっ────?」
強い衝撃が全身を叩きつけた。
地獄への回数券で、強化された肉体すらも軋む程の強烈な殴打。
怪獣のような巨体を持つな犬のような骸骨が、シュライバーのも差し迫る程の速さで突進してきた。
「ぐ、ゴホッ……!!」
活動と形成の中間。
藤木に対して遊びで放ったオーラの具現化を使い魔のように操作しヘンゼルへとぶつける。
「……やっぱりか。
あっちのテープの子もだけど、肉体に何か”細工”してるね」
「ッ────!?」
最悪だ。こいつ狂っているが、冴えてる。
(地獄への回数券にに気付いたのか!?)
こういうタイプが一番厄介極まりない。
ガムテの中でシュライバーの警戒が上限を更に飛び越えた瞬間だった。
-
「退避(にげろ)ォ。ヘンゼル!!」
雄叫びと共に降り注ぐ銃弾の威力を殺し、ガムテは前に行く。
いずれは殺す。ヘンゼルは必ず殺す。でもそれは今じゃない。だから、死なせない。ここで無駄に死なせるつもりはない。
「頸椎の隙間を走る。0.5ミリの一線(ライン)って、ところかな」
シュライバーが、呪文のように口にしたその意味をガムテは誰よりも理解していた。
地獄への回数券による超人化(まほう)の種が既に割れている。
奴は、骸骨に突撃させたその僅かな接触の中でヘンゼルのダメージ具合を把握し、唯一地獄への回数券では強化できぬ弱点を暴き出した。
間違いない。莫大な数の人間を殺したからこそ、人間の構造を熟知し尽くしている。
だからこそ、肉体に異常を起こす地獄への回数券にも目ざとく気が付いた。
「くっ、ッ────」
ガムテが弾幕を切り抜けた時、シュライバーはもう片方の銃で精密に横並びに銃弾を並べて射撃していた。
先程口にした頸椎の隙間を走る。0.5ミリの一線を切断(なぞ)るように。
「無駄無駄ァ!!」
「ッ────」
近づくガムテからシュライバーは離れ、発された魔弾は最早射撃主にも制御不能。
ヘンゼルの首輪とその隙間を狙う精密な弾丸は、ガムテでも追い付けない程の近距離に縮まっていた。
「樹!!」
大木の枝が意思を持ち、さくらの意のままにヘンゼルの盾となる。
弾は一列に樹の枝に減り込み勢いを殺された。
「邪魔な雑草だ。先にそっちから狩り尽くそうか!!」
シュライバーの叫びに応え、骸骨が一息に走り、砲弾のように樹へと体当たりをぶち当てる。
地震が起きたかのような轟音と振動が空間を木霊させた。
「潰れろォ!!」
声帯を持たない、骸骨の犬が雄叫びをあげる。
それはシュライバーに取り込まれ囚われた人間の怨念のように。
「まだ……まだ、諦めないから…絶対大丈夫……!」
殺意が高まれば高まる程、樹の幹を押す力はより高まり樹の幹に亀裂が走る。
「ルーデウスさん!! 二人も早く!!」
ヘンゼルとガムテにも声を掛け、さくらは樹の耐久の限界ギリギリを見測らう。
懐から頼みの一枚のカードを掴む。
「させる訳ないだろ! 劣等ォ!!」
爆ぜるようにシュライバーが駆ける。
樹の亀裂はより深刻に、あと数秒も持たない。
だがその数秒すらシュライバーが待つ道理はない。
骸骨と共にミサイルのように突っ込んだシュライバーの突撃。
世界が吹き飛ぶような錯覚を覚える程、莫大な破壊を齎し、限界を迎えた樹は消し飛んでいく。
「────盾(シールド)!!」
だが、その中央にありながら。
さくらを薄い透明の幕が包み込む。
「盾」のさくらカード。
その力はありとあらゆる物から、使用者を守る。絶対防御。
「非実在(アリエネ)ェ〜〜!!?」
はっきり言えば死んだと、ガムテも観念しかけていた。
さくらの声を聞き、一か八かその後ろに回り込んでは見たが何をするのか。
シュライバーの突撃は、その速さの分だけ破壊力に直結している。
低く見積もって、マッハ規模の速さ。戦闘機がただの一個人相手に、神風(メガンテ)を仕掛けるようなものだ。
それを防ぐ、この防御はなろうもびっくりの超規格外(チート)だった。
-
「さくらさん……」
ルーデウスの知る魔術の概念からも、この防御は飛び抜けている。
シュライバーであっても、これを突破する術はない。
「────素人目にも凄い魔術だ。
アンナが見たら、嫉妬しそうだよ」
だが、シュライバーはあっけからんと笑ってみていた。
シュライバーがこれ見よがしに持ち上げたその物体を目にした時、ルーデウスとさくらは絶句した。
「……ヘンゼル」
ガムテが漏らしたその名の主が、シュライバーに髪を握られ持ち上げられていたからだ。
さくらの呼びかけに、近くにいたルーデウスと、シュライバーの攻撃を捌いてダメージを抑えたガムテは即座に反応できた。
しかし、ヘンゼルは攻撃が直撃し動きが鈍ったのと、さくらもルーデウスもガムテすら、シュライバーの突撃前にヘンゼルを連れる余裕がなかった。
その為、盾の防御範囲に包まれる前に、シュライバーに捕まってしまっていた、
「その盾は、外部からの干渉に強いみたいだ」
わざと理解させるようにシュライバーは銃弾を撃ち込む。そして、その全てが弾かれる。
これを破るのはシュライバーでも至難の業だ。
「だから、君達から出てきてもらうように、心代わりを誘ってみるとしようか」
意地の悪い、いじめっ子のような無邪気さと邪悪さを織り交ぜた無垢な笑みのまま。
そう言って、ゴミを放るようにヘンゼルを投げた。
「が、ぎゃああああああ────!!」
そして足の膝を的確に撃ち抜く。
「肉体の再生力も高いようだし、そう簡単には死なない。考える時間はたっぷりある」
シュライバーは狩人だ。
獣を狩るハンターは、その獣の性質を良く知っている。
同じようにシュライバーも人を狩り、その性質を熟知していた。
これからするのはそれと同じだ。人間の習性に働きかけ、そして誘き出す。
「ぐ、が、があああああああ!!!」
数発、死にはしないが効率よく痛みを与えられる箇所に弾を撃ち込む。
不思議な事に、目の前で誰かが傷つけば耐えられず、自ら犠牲になる人間はかなりの数が居る。
「これから、僕はこの男の子をたっぷり甚振るよ。君達はそこで見物してると良い。
誰か出てきたら、やめてあげるよ」
考えうる限り、残虐で苦しくて長く痛みを与え続けられる方法で拷問をする。
怯えて出てこないか、罪悪感で自らのこの小首を差し出すかは分からないが。
結界に遮られた留飲を下げるには、十分な発散方法だ。
「ああ、いや……違うね。元、男かな?」
ふと、痛みに藻掻くヘンゼルにシュライバーは視線を落とす。
奇妙だと思ってはいたのだ。
あの顔にテープを貼った少年もだが。顔つきが中性的過ぎる。
「なるほど、君もか────」
ホルモンのバランスが崩れているのだと、すぐに見当がついた。
「僕も似たような事してたんだよ。
邪魔だからさ。こう、僕はお母さんに……ブチブチッと、男性器(だいじなとこ)を取られちゃったんだ」
懐かしい過去を振り返るように。
思い出話のようにシュライバーは語りだす。
ヘンゼルを死なない程度に射撃し、地獄への回数券で高まった再生力で塞がる前の傷口に靴先をねじ込み、甚振りながら。
「なに、言って……」
さくらが絞り出した言葉は、何に対しての言及だったのか。
シュライバーが語るその先の全てを耳にし、さくらは自分の信じる世界が崩れ去るようだった。
親から虐待を受けただの。それはまだいい。理解出来ないが、ニュース位でさくらも見たことがある。
だが、体を売ってただの。父親に犯されただの。そんなものが家業だの。
視界から入る情報すら、本当に空間で息をして生きている同じ人間なのか信じ難く。
口にするシュライバーの断片的な人生の背景も、世界の裏側を突き付けられているようだ。
-
「ん〜? 何って」
目の前の事態に気が動転し漏れた声を、シュライバーは目ざとく聞きつけた。
「君、お父さんと強姦(ファック)したことないの?」
言っている意味が分からなかった。
「なに、言っ、て……」
聞いているだけで心が痛い。辛い。苦しい。
あまりにも惨くて、残酷すぎて。
でも、なんで。そんな事をする人が居るのか分からない。
しかも、親に。
どうして?
昔、雪兎さんに言われたことがあった。
────もしお母さんなら、さくらちゃんを危ない目に合わせたりするかな。
あの子はお母さんにお父さんに、本当にそんなことをされたの?
そんな酷い事を……。
どうして、あの人はあんな楽しそうに話してるの?
あんなに辛そうなことを、知って、どうしてそれを今度は人にやってしまえるの?
「し、死なないよ…ぼ、くは……」
全身を赤く染めて、ヘンゼルは声を張り上げる。
「だって、一杯殺してきたんだ」
自らの信じる信仰を正しいと証明する為に。
「だから、ぼ、くは……それだけ生きることができるのよ。命を増やせるの」
-
「……」
ガムテは動けなかった。
情けないが、シュライバーは強い。
純粋な強さだけなら、今まであってきた中でぶっちぎりの化け物だ。
勝ち筋を全く見いだせない訳ではないが、ここで迂闊に飛び出せば死ぬ。
だが、ここで死んだらようやく手に入るかもしれない願いが。
殺すしかなかった自分達を、変えられるかもしれないものが。
創り出せるかもしれない希望が。
潰えてしまう。
「……」
奴に地獄への回数券を与えたせいか。
強くなった肉体に驕り、ヘンゼルは油断をしたのではないか。
「……クソッ」
あいつには誰も味方が居ない。だから、誰よりもガムテが味方にならねばならない。
他の割れた子供達同様、誰よりも狂ってイカれていなければ。
なのに、どうして、何もしてやらない。手を差し伸べてやらない。
――――地獄行きの誘導(てつだい)をしてる自覚、ある?
世界に見限られたあいつを、今度は自分が見捨てるのか。
「チッ」
駄目だ。落ち着け。
シュライバーと渡り合う自信はある。銃弾を避け、奴の徒手空拳も威力を殺して捌ききれる。
だが、勝ち筋がない。奴を確実に殺す術が見つからない。
(奴を殺すなら、一撃で絶対に殺す────でないと、“何か”がある)
第六感が告げている。
半端な一撃ならば、シュライバーには決して触れるなと。
だから、動けない。
絶対に殺せると確信したその瞬間まで。
-
「……ルーデウスさんと君も一緒に上手く逃げて」
「あ? 何言って……」
隙を探す為に神経を集中させていたガムテに、さくらは声を掛けた。
「さくらさ────」
ルーデウスが止めるよりも早く、さくらは盾の結界から飛び出していく。
「その子から離れて」
怖い。
いつもは傍に居るケルベロスも知世も小狼も月も居ない。
それに、クロウカードやエリオルとも違う。明確な殺意を持った敵と戦うなんて、桜にはあまりない経験だ。
────魔法は誰かを不幸にする為じゃなくて、幸せにするものだって私、信じてるもん!
だけど。
あの時、言った自分の言葉に嘘は吐きたくなかったから。
────……とても、素敵な
今は怖がられてしまったけど。
魔法少女(じぶん)を好きになってくれるかもしれない女の子に。
もう一度、胸を張って会いたいから。その時に、あの人が大好きなものは絶対に間違ってないよって言ってあげたいから。
そして。
「ぼく、は……し、な……」
この人たちがどんな世界で生きてきたかなんて分からない。
「私が、助けるから……」
本当はずっと苦しくて。誰よりも辛いのに。
「だから────」
一度も、助けを求めて来なかった。
きっと、誰も聞いてくれなかったんだ
「絶対、大丈夫だから」
そんな誰も手を差し伸べなかったこの人達に。
「良いねぇ────戦争再開だ」
だけど、世界はそんなものだけじゃないって教えてあげたいから。
────
-
魔術の腕はあるが、戦争屋としてはド素人も良いとこだ。
さくらに対するシュライバーの下した評価だった。
付随する魔術に価値はあるが、所詮は平和ボケした劣等の猿。
自分が殺した中で、この島で言えば悟飯の近くに居た塵芥と、インセクター羽蛾の次にマシといったところだろう。
「「闘(ファイト)」!」
「ッ────?」
シュライバーの放つ魔弾をさくらは身を屈め避けた。
速射と連射が合わさる事で魔人の域に達した攻撃手段へと昇華しとはいえ。
魔力で生成したとはいえ、所詮は銃弾の規模を出ないが。
本来はただの人間にとっては、過剰なまでの脅威だ。
さくらも子供に割には動けるようだが、だとしてもマシンガンを避けるような経験はない筈。
(なんとか、なんとか避けられる…けど────)
さくらが使用したのは、「闘」のカード。
ケルベロス曰く格闘戦専用のカードと話していたのをさくらは聞いていた。
恐らく、使用者を武術の達人にする効果がある。
一か八かだった。
武術の達人であれば、銃弾の対処方法もあるのではないか。
ガムテはシュライバーの弾幕を、さくらから見れば刀を振り回して何とか対処し、時には避けてもいた。
きっとあれだって、何かの格闘技や武術のはずだ。
賭けに近かったが、さくらの期待通り「闘」はその能力を発揮した。
別世界ではあるが、銃弾を避ける空手家も少なからずいる。優れた武術家は銃弾を避ける。
さくら自身、どうやっているのか分からないが、身のこなしは武術を極めた達人のように軽やかに動く。
「小細工だけはよくやるよ」
唇が頬に触れそうなほどの距離、肉薄したシュライバーの手刀が迫る。
「「跳(ジャンプ)」!!」
闘により高められたさくらの反応速度は辛うじて、シュライバーの接近を察知した。
足に小さな翼が生え、さくらが跳躍する。
「「翔(フライ)」!!」
背中からより巨大な翼を生やし、さくらはより高く飛翔する。
シュライバーの武器がその速さなのは分かっていた。身体能力も恐ろしい程に高い。
だが、空を飛ぶ能力はなかった。
(空からなら、私の方が────)
「有利────なんて、考えちゃってるのかな?」
さくらの観察通り、シュライバーは空を飛べない。少なくとも活動位階では。
だが、ただ跳び上がるだけで優にさくらの飛翔距離を上回ってしまえるのだ。
遥か上空から浴びせられた声と、狂乱の微笑みがさくらを捉える。
突き付けられた二丁の拳銃は容赦なく弾丸を射出した。
「「風」!!」
襲い来る魔弾を人型の姿を模した風が腕を広げ、疾風の盾となり遮る。
「アハハハハハ!!!」
射撃を続けながら、シュライバーは空を切り一気に滑空する。
「風」の腹部へと蹴りを入れ、そのまま後方のさくらを吹き飛ばす。
「きゃああああああ!!?」
腹をぶち抜いて、臓物を吹き出すところを「風」が庇い防御したのだろう。
急激な速度で落下し、地面に触れる寸前、「風」が柔く抱きとめるようにさくらを受け止める。
-
「あ、ありがと…カードさ────」
落下の衝撃は皆無で、傷も痛みも何もない。
だが、まだ安心するには早い。
「闘」で鋭敏になった直感が更なる追撃を予感させ、さくらは横方に転がるように飛び退く。
次の瞬間、そこに降下したシュライバーの足跡が刻まれた。
「君があの子を助けるんじゃなかったけ?」
「────ッ!!」
眼前に迫る拳をさくらは星の杖を翳して受ける。
ガムテが行った相手の力を殺す技量を、闘の力で再現したものだ。
それは中国拳法の化勁の技術を応用したもの。
武術であるのなら、闘のカードの効果の範疇にある。
普段のさくらなら粉微塵になるところを、威力を受け流し────そしてさくらは吹き飛ばされた。
「ガハッ……!」
最高位の魔導士クロウ・リードの後継者として、さくらが使った闘は高名な武術家としてガムテの技を再現はした。
だが、ガムテが0から身に着け昇華した技量を完全にトレースすることは、例え「闘」でもできない。
「闘」はダメージを最小限に留める為、さくらの意識も追いつかぬ程の反応で自ら後方へ飛び、受け身を取る。
それでも、地面に打ち付けられ全身に衝撃が走る。
「が、ァ……げ、ほ……ォ…!」
痛い。苦しい。怖い。逃げたい。助けて。
その痛みと苦痛は、愛や優しさに満ちた世界で生きてきたさくらにとっては大きすぎた。
「だ、め……わた、し…が……」
ただ、それでも。
戦わなくちゃ、助けなくちゃ。
星の杖は、凄い衝撃だったけど折れてない。全然軋んでもない。
闘のカードのお陰だ。
だから、まだ戦えるんだ。
「は、ァ……は……」
立ち上がる。今までもカード集めで戦うこともあったけど、こんなに息が上がったのは初めてだ。
一歩でも間違えれば、死んでしまう。そんな緊張感も初めてだった。
(……怖い)
体が震えている。
(逃げたい……)
今すぐに、何もかも放り出してここから走り去っていきたい。
「駄目、諦めない……諦めたら、みんな……」
全員がここで死んでしまうかもしれないから。
皆を死なせない為に、自分が戦わなくちゃ。
「助けてみなよ」
嘲笑うように、冷たくシュライバーは言い放つ。
さくらが痛む体に鞭を入れ、立ち上がるとシュライバーは目の前には居なかった。
「今からこの子を殺すからさ」
「なっ────」
さくらから距離を空けた場所。
ヘンゼルが倒れている横で、シュライバーは口許を釣り上げる。
全身が血だらけで、虫の息になったヘンゼルの胸元を掴む。
空いた片手は銃を握っておらず、手刀の形を作っていた。
「やめて……!」
星の杖を振り、カードから「風」を呼び出しシュライバーへと放つ。
何度もカードに無理をさせてしまっていたのは、分かっていた。だけれど、今はこれしかさくらにやれることはなく。
「風」もまたさくらに想いに応えるように、より速くシュライバーへと迸る。
「ストーンキャノン!!」
ヘンゼルを助ける義理はルーデウスにはないが。
これ以上、さくら一人に戦闘を任せられない。
一定の体力の回復を感じてから、ルーデウスも「盾」から飛び出し、「風」と挟み撃ちにするよう回り込み岩の砲弾を縦横無尽に展開する。
-
「ふふ、うふふふ……」
風の鎖と岩の砲弾、その包囲網の中央からシュライバーはヘンゼルごと消えた。
「アハハハハハハハハハハハハハ!!!」
一瞬で。
さくらの眼前へと現れる。
「が、ッ……!」
ヘンゼルの胸をシュライバーの手が貫いた。
「ぁ、っ……」
背中から生えた腕と、そこから吹き出す鮮血がさくらの顔を濡らす。
飾り付けられたバトルコスチュームも赤く染まり、鼻腔に血の生臭さがこびり付く。
口の中を切ったり、鼻血を出したり、血の匂いや味を感じた事はあった。
だが、他人の。それもこんな多量の血に触れるのは、さくらにとっては初めてだ。
「あぁ……」
唖然とし、恐怖と衝撃と混乱で悲鳴も上げられず固まるさくらとは対照的に。
シュライバーは余韻に浸っていた。
生きた人間の血の温かさと心臓の鼓動。
ここに来てから銃殺が主で、羽蛾に至っては少し虐めた後に勢い余って首を刎ねて即殺してしまったが、これでようやく生きた人間を殺す醍醐味を味わえるというもの。
「っ、ォ、マ……」
「おっと」
ヘンゼルの右腕から先が消し飛ぶ。
「また変な手品を見せてくれようとしたみたいだけど。
もう飽きちゃったんだよ」
シュライバーの使役する骸骨の犬が、食いちぎっていた。
喰われた右腕ごと、神鳥の杖は骸骨の牙に砕かれる。
「心臓を貫いたのにまだ生きてるとはねぇ。どんな方法で肉体を強化したかしらないが、時代が時代なら、軍事利用してたろう────」
その言葉は最後まで紡がれぬまま、シュライバーは突如として現れた刃に驚嘆する。
「ウヒッ☆キャハハハハハ!!!」
ヘンゼルの背から、刀を突き刺し、その切っ先は真っ直ぐにシュライバーへと向かう。
一度は手を組んだ相手を、何の躊躇いもなく刺す。
狂気の笑みでガムテはそれをやってのけた。
「そう…だよ……ガムテ、の…お兄さん」
ヘンゼルもまた安堵したように笑う。
だって、これで助かるから。
ガムテは殺す。
何があろうと、必ず刺す。
何をしてでも、必ず敵を刺して殺す。
数時間にも満たない僅かな付き合いでも。その殺しへの執念には信頼を置けた。
殺せば、その分だけ自分は生きられる。だから、死なない。
ガムテがこいつを殺せば、自分は。
-
「僕は────」
「死ぬよ」
届かない。
「劣等は劣等さ。死ぬんだよ。君ら、簡単に死ぬんだ」
刀は、僅か数㎝先、シュライバーへと届かない。
(回避(さ)けられた────)
狩人が獲物を狩る。その瞬間こそが隙だった。
ガムテが唯一見付けたシュライバーの隙。
ヘンゼルが命を落とす、その間際まで。
あれだけ、静観(けんぶつ)決め込んで、見つけたのがたったのこれだけだ。
だが、大きな致命的な隙。
気配を殺し、殺気を殺し、距離を殺し、そしてヘンゼルという特大の死角からの急襲を仕掛けた。
「流石だよ。殺しにおいては、僕の右に出る者は居ないと自負していたんだが、暗殺って点じゃ君は僕より上かもしれない」
だが読まれた。気付かれた。
それもコンマ一秒、ほんの僅かの時間気付くのが遅れれば、ガムテはシュライバーを殺せていた。
「けど、結局殺せない。僕は不死身の英雄(エインフェリア)なんだよォ!!」
刀を抜く、いや手放して────駄目だ、奴の銃撃か徒手空拳か、いずれにしろシュライバーの方が速い。
「ルサルカって女を見た」
苦し紛れに。ガムテは叫ぶ。
シュウライバーに動揺を誘発する為に。温存した最後の切札を切る、
「残念。そういうのには、乗らないぞ」
だが、シュライバーは素っ気なく、呟くだけだった。
(……分かってた)
別にシュライバーはルサルカに特別な感情を抱いているわけではない。
いや抱いてはいるのだろうが、最終的には殺害に直結する。
全てが殺戮に辿り着くのなら、それは全てを平等に殺してることに他ならない。
だから、奴に駆け引きは通じないし、探してるというルサルカの名を出しても動揺を誘う事もできない。
いずれ殺すのだから、その価値は平等だ。動じる必要すらない。
そんなもの、一目で察した。同じ割れた子供達だからこそ、ガムテにはその思想がよく分かる。
(第六感(カン)が告げてたんだ)
この奇襲は失敗(しくじ)る。
分かっていた事だった。
ヘンゼルを殺した時の隙も、致命的なものではない。避けられると分かっていた。
分かっていたが、行くしかない。
死ぬ間際、ヘンゼルの信仰を肯定してやるために。
信仰の通りに奴を殺さなくてはならない。
その信仰に意味がないと、分かっていても。
ガムテだけはそれを肯定しなくてはならないから、この時だけは第六感に逆らってでも進むしかなかった。
「────ッッ」
腹に凄まじい衝撃を覚え、ガムテは蹴り飛ばされる。
地獄への回数券の強化と、化勁を応用した攻撃の威力を殺して。
ようやく原形を留める程度にまでダメージを抑えたが、刀ではなく、生身にモロで喰らうとなると、ガムテでも再起に時間を有する。
-
「…………ッ…」
残された希望(ガムテ)が落ちていく。
自分よりもイカれていたかもしれない。そんな男でも、太刀打ちできない。
「……くッ、」
ヘンゼルの胸から、血が止まらない。
「永遠(ネバーダイ)なんだ…っ────僕らは、私たちは……永遠なのよ」
「君のそれは、ただの妄想だ」
白の死神は無慈悲に切り捨てる。
「うッ。うッ……う………」
体が冷たくなっていく。怖い怖い、寒い。
痛みすら遠のいて、段々何も感じなくなる。
「君如きが永遠を語るなよ」
「うえっ、えっ……うええっ……」
しゃくりを上げて息を吸うのもままならなくなり。
息を吐き出したまま、更に声が喉を通って息苦しくなる。
涙は止まらない。
「身の程を知れ」
シュライバーにとって、永遠というものがあるのだとすれば。
それはただ一つ。
「劣等」
黄金の齎す祝福に他ならないのだから。
「うっく、う……」
「うふふ……」
死んでいくヘンゼルを見下ろし侮蔑し蔑み。
「くくく……」
笑う。
「うえっ………う。‥‥‥‥」
「アハハハハハハハハハハハハハ!!」
楽しくて楽しくて仕方ないと言わんばかりに。
「うおおおおおォォォ!!」
ルーデウスの杖先から、火球が収束する。兼ね備えた莫大な魔力に、モノを言わせた広範囲攻撃。
皮肉にも溜めの時間は二人が稼いだ。
後に辿る正史の未来で、一瞬にして魔物の群れを一掃する業火の魔術。
シュライバーがかわしきれないほどの、広範囲を焼き尽くしさえすればどんな速さだろうと意味を成さない。
「ハハッ────」
杖を振りかざす寸前、背後から凶獣の嘲笑が木霊する。
制限下のシュライバーであれば、ルーデウスの戦術は有効だ。
現状のシュライバーは速いだけ。
絶対回避の創造(ルール)は未だ復帰の兆しを見せない。
元の世界で、三隊長の中で相性が悪いとされるザミエルも世界を焼き尽くす事で、シュライバーに攻撃が必中するという理屈だ。
それを小規模ながら再現するのは理にかなっている。
-
「く、ッ────」
だが、決定的な違いは。
ルーデウスの魔術では、ルーデウスより背後という安置が存在する。
そしてシュライバーならば魔術の発動より先に、その安置へ移動するなど造作もない。
「ルーデウスさ────」
ヘンゼルの血を浴び、抜けた腰を起こそうとしてさくらは体勢を崩して転ぶ。
カードを掴み、杖の先に当てようとする。
「闘」の効果は切れ、シュライバーの動きは完全に見えないが。
その嘲笑を聞いた瞬間、ルーデウスが危ないのだけは分かった。
(助けない、と……私が……!)
ここまでずっと、自分を気に掛けてくれた男の子が危ない。
大丈夫。
(私、が……!!)
絶対、大丈夫────。
「間に合わないさ」
嘲笑う。
その罵りが、さくらの腕から力を奪っていく。
「諦め。
君ら劣等が大好きな言葉だろ」
(違う、私は────)
────助けてよ。
瞳から、光が消えたヘンゼルと目が合った。
もう声を発さない少年の唇が動いた気がした。
「っ、や……」
いつも、ずっと、どんな時も。
さくらを支えていた無敵の魔法が、否定(きえ)ていく。
自分に出来ることと出来ないこと。
理想と現実のギャップを弁え、理解させられる。
「諦観(ぜつぼう)、これが君らを死に向かわせる病だ」
ルーデウスが振り返る。
「こ、の────」
額には銃口が突き付けられていた。
あとは、トリガーが引かれれば頭蓋を弾丸が貫き、ルーデウスは死ぬ。
(エ…リ、ス……)
ロキシーを殺した奴も探せず、エリスを故郷に帰す事もできない。
オルステッドのように、運良く生き残るのも無理だ。
今なら、よく分かる。まだオルステッドには良心があった方だった。
(せめて、さくらちゃんは────)
思考だけは素早く回転するのに、視界に写る光景はルーデウスは一向に進まない。
これは走馬灯だ。
足掻きようがない程に、ルーデウスは死へと近づいている。
打つ手がない。命と引き換えにシュライバーを道連れにするなんて、カッコつける手段もない。
だから、詰んだ。ルーデウスが死に、少し遅れてさくらも殺される。
全員、殺されてこの戦いは終わり、シュライバーは次の狩場へと行く。そして同じことを延々と繰り返す。
この島の己以外の全ての生命を刈り取るまで。
(誰か────)
神様でも、邪神でも、ヒトガミでも竜神でも。
何でも良かった。
エリスと、ここで会ったさくらを。二人の女の子だけは、せめて……。
-
「ザケル!!」
白銀の死神が放つ死を齎す鉛は、金色の雷光により、掻き消された。
まるで、テレビの特撮ヒーローのように都合良く────。
(これ、は……?)
ルーデウスの知識に照らし合わせれば、上級相当の魔術。
恐らくは、雷に関してだけ言えば。
ルーデウスの見た中で、最も強い使い手だ。
「安心するのだ。お主ら」
何より、今のルーデウスにとって最も救いなのが。
「私は殺し合いには乗っておらぬ。お主らの助太刀だ」
この雷の少年が、自分達の味方であるということ。
「なんだ、君?」
シュライバーは雷撃から飛びのく。
そして、雷の主へと向き直った。
「我が名は、ガッシュ────」
紺色のマントを羽織った金髪の少年。
「ガッシュ・ベル!!」
一目見て、気に食わない髪の色だった。
────
「お主、何をしておるのだ」
「戦争さ。英雄には、戦場が付き物じゃないか」
何を当たり前の事を。
馬鹿な劣等だと、シュライバーは嘲る。
「英雄だと?」
ここが何の場か理解すらしていない。
「"One murder makes a villain; millions a hero. Numbers sanctify"
一人を殺せば人殺しだけど、数千人殺せば英雄である。中々の皮肉ね」
もう一人、金髪の横にいる白髪。
赤く輝く本を抱えた聡明そうな少女。
こっちの方が、話は早そうだ。
「何が英雄だ」
ガッシュは辺りを一瞥し、怒りの籠った声を震わせる。
シュライバーの殺されたと思わしき子供の遺体。それも損傷が酷く、生前に凄惨な拷問を受けたのは明らかだ。
「スマヌのだ。もう少し、早く来ていれば……本当にスマヌ」
そして血を浴び、絶望に染まった少女と今しがた殺されかけたもう一人の少年。
向こうの方で倒れているガムテープを巻いた子供もボロボロだ。
「……何も守らぬ。人を傷つけるだけの、お主の何処が英雄だ!!」
「すぐに分かるさ」
口許をより吊り上げ、隻眼は狂熱で煮える。
「もっとも、その頃には君らは轍になってるだろうけどね」
新たな殺戮対象の追加に歓喜していた。
その狂喜の笑みは、ガッシュが見た中で最も人の悪意に溢れたもの。
ともすれば、クリア・ノートですら純粋な悪意ではシュライバーに劣るかもしれない。
この世のありとあらゆる汚物と憎悪と災厄を巻き込み、人の形に無理矢理整えたような不吉さ。
-
「一姫、この者は倒さなくてはならぬ」
だが、ガッシュは退かない。より己の決意を強める。
先程見たサトシと梨花の遺体。
未来ある少年少女達の命を、悪戯に刈り取るような輩を野放しにはできない。
もう二度と、あのような悲しい思いをする者を出してはならない。
「この者は英雄などでは断じてない!!」
ガッシュの知る中で、無敵の英雄を名乗る仲間がいた。
その者は、決して暴力を振るわなかった。
情けなくても、時に馬鹿にされながらも。高貴な信念を貫き、心の闇に囚われたパートナーをも導いた。
多くの者を守り通した本物の英雄だった。
「……分かったわ。避けては行けないようね」
風見一姫も溜息を吐きながら、魔本を改めて構え直しページを開く。
いずれにしろ。シュライバーを放っておけば多くの被害が生まれ、その中に雄二が含まれない可能性は否定しきれない。
厄ネタが潰せるうちに潰すのがベストだ。
「良かった良かった。意見も纏まったようだし……」
金髪の雷撃少年と(ライトニングブロンド)と狂乱の白騎士(アルベド)。
「さあ、二度目の怪物狩りの始まりだァ────!!」
「ザケル────!!」
金色の雷と白銀の暴風が、ここに激突する。
────
-
良い一撃を喰(も)らった。しばらく動けなる程の痛打(ダメージ)。
身動き出来ないまま、目の前でヘンゼルが死んでいく。
嘲笑われ、蔑まれ、惨めに。
最初に泣き声がしなくなり、それから微動だにせず。
頬を伝え涙が、冷たくなり。
ヘンゼルは死んだ。
俺の目の前で死んだんだ。
ほんの、数十秒の差だった。
それだけ早く来ていれば、ヘンゼルは死なずに済んだ。
────やっぱりな。
割れた子供達(おれたち)はいつだって、運命から嫌われる。
魔法使い(なろう)の危機には、あんなアニメのヒーローみたいに駆け付けても。
どうしたって、零れ落ちる奴等は出てきてしまう。
無理もない話だ。あいつらだって、完璧じゃないんだ。救えない奴等だっているさ。
でも、と思う。
どうして、もっと早くに来れなかったんだ。
ほんの少しで良いから。あと少し、早く来ていれば。何かが変われた、そんな奴等を山ほど見てきた。
忍者も正義の味方も、来るのはいつも手遅れになってからだ。
そして殺す。人を殺しただけの、オレ達が殺される。そんな、殺戮劇(ヒーローショー)は珍しくもない。
真っ当に生きられた幸運者(シアワセモノ)の味方にしかならない。
────ザケル!!
「……閃光(マブ)しいんだよ」
あいつの口から吐かれた雷撃のせいで、その背中はより眩く見えた。
【ヘンゼル@BLACK LAGOON 死亡】
【神鳥の杖@ドラゴンクエスト8 破壊】
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【G-3/1日目/午前】
【輝村照(ガムテ)@忍者と極道】
[状態]:全身にダメージ(中、腹部に大きなダメージ再生中)、疲労(中)
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、
破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order、妖刀村正@名探偵コナン、
[道具]:基本支給品、魔力髄液×10@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:ヘンゼル……。
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:シュライバーを殺す隙を見つける。
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。
【ルーデウス・グレイラット@無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜】
[状態]:疲労(中)、ロキシーが死んだ動揺(極大)
[装備]:傲慢なる水竜王(アクアハーティア)@無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜
[道具]:基本支給品一式、石毛の首輪、ランダム品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出する
0:シュライバーへ対処
1:さくらに同行してエリスを探す。(身内の中で、エリスが一番殺し合いに呼ばれた可能性が高いと推測したので)
2:首輪の解析をする。
3:カニパン野郎(ハンディ・ハンディ)を警戒。
4:ボレアス・グレイラット邸に行く。
5:ロキシーや滅茶苦茶強いロリババア、ショタジジイの居る可能性も考慮する。
6:そういえば、あの鳥(ピジョット)…どっかで見た気が……まあ今はどうでもいい。
7:ロキシーを殺した奴を……。
[備考]
※アニメ版21話終了後、22話以前からの参戦です
※一回放送はしっかり聞き取り全内容を暗記しました。
【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(大)、封印されたカードのバトルコスチューム、我愛羅に対する恐怖と困惑(大)、ヘンゼルの血塗れ、ヘンゼルの死へのショック(極大)、シュライバーへの恐怖(極大)
[装備]:星の杖&さくらカード×8枚(「風」「翔」「跳」「剣」「盾」「樹」「闘」は確定)@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品一式、ランダム品1〜3(さくらカードなし)、さくらの私服
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない
0:……。
1:ルーデウスに同行して小狼君、知世ちゃん、友達や知り合いを探す。
2:紗寿叶さんにはもう一度、魔法少女を好きになって欲しい。その時にちゃんと仲良しになりたい。
3:ロキシーって人、たしか……。
[備考]
※さくらカード編終了後からの参戦です。
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【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(中)ダメージ(中 魂を消費して回復中)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、欲求不満(大)
[装備]:ルガーP08@Dies irae、モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
0:ガッシュを殺し、この場の劣等を全員殺す。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]全身にダメージ(小)、シュライバーへの怒り(大)
[装備]赤の魔本
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、サトシのピカチュウ(休息中、戦闘不可)&サトシの帽子@アニメポケットモンスター
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:シュライバーを倒し、ここに居る者達を守る。
1:マサオという者と赤ん坊は気になるが、今はグレイラット邸へ向かう。
2:戦えぬ者達を守る。
3:シャルティアとゼオンは、必ず止める。
4:絶望王(ブラック)とメリュジーヌと沙都子も強く警戒。
[備考]
※クリア・ノートとの最終決戦直前より参戦です。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【風見一姫@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3、首輪(サトシと梨花)×2
[思考・状況]基本方針:殺し合いから抜け出し、雄二の元へ帰る。
0:グレイラット邸へ向かう。その前にシュライバーを倒す。
1:首輪のサンプルの確保もする。解析に使えそうな物も探す。
2:北条沙都子を強く警戒。殺し合いに乗っている証拠も掴みたい。場合によっては、殺害もやむを得ない。
3:1回放送後、一時間以内にボレアス・グレイラット邸に戻りフリーレン達と再合流する。
4:可能な限り早くに雄二を見つけ出す。
[備考]
※参戦時期は楽園、終了後です。
※梨花視点でのひぐらし卒までの世界観を把握しました。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
※絶対違うなと思いつつも沙都子が、皆殺し編のカケラから呼ばれている可能性も考慮はしています。
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ゲリラ追加でガッシュと一姫を登場させていただきました
投下終了です
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北条沙都子、シャーロット・リンリン、佐藤マサオ、美山写影、櫻井桃華、ハーマイオニー・グレンジャー、フリーレン
再予約します。延長もしておきます
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短いですがとうかします
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翼を広げた少年が高空から地上を睥睨していた。
朝を迎え、陽光に満ちた天空を背に、地上に昏い影を落とすのは、鬼舞辻無惨が姿絵を変え
ていた少年の姿となった魔神王。
「随分と端へと飛ばされたものだ」
伊達や酔狂で魔神王は空に居るわけではない。単純な話で、水銀燈に地図を奪われ、絶望王に殴り飛ばされて、現在位置を把握出来なくなった為に、上空から周囲の地形を確認する事にしたのだ。
頭部から角を生やし、両腕を剛毛の生えそろった獣のそれに変え、両脚もまた、蹄の有る獣のそれに変えて、漆黒の翼を拡げて天に有るその姿は、正しく悪魔と呼ぶに相応しい。
他の者が見れば、この姿の本来の主である鬼舞辻無惨を、人外化生の類と思うだろう。
悪目立ちする事この上無いが、鬼舞辻無惨を対主催を掲げる者共から孤立させるという目的には合致している。
「二つは海か」
高みから四方を見渡した結果、二方向が海であり、進む先は実質二つしか無い事を見て取った魔神王は、何方へ向かうかを考える。
視界に収まる大きな施設は二つ。無傷なものと、屋根に大きな穴が空いたものと。
少しの間考えて、魔神王は向かうべき方向を決めた。
◆
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魔神王が移動する先として選んだのは、屋根に大穴が空いた建物、映画館である。
此処を選んだ理由は、魔力が回復するまでの間、潜む場所として丁度良いと思ったからだ。
堅牢な鉄筋コンクリート製の建造物の屋根に大穴が空いているという事は、此処で戦闘が有ったという事。そして、これ程の威力の攻撃を行える者は、既に戦闘を終えて他の場所へと移動しているであろう事。
当面の間、強敵とぶつかる可能性が低く、尚且つ隠れ潜むには困らない広さの建造物。更には回復した後に、他の場所へと移動するのにも適している。
これらの理由から、魔神王が此処を当面の拠点とする事にした。
そして今、角も無く、両手足も人のそれとなった魔神王の眼前に、頭蓋に穴の空いた子供の頭と、半分しか無い子供の頭が並んでいた。
ゼオン・ベルとジャック・ザ・リッパーの手により命を落とし、勇者ニケにより首輪の回収のために首を切断され、その後に埋葬された野原しんのすけと右天の頭部である。
二人を埋葬したのが、人の脳を喰らう事で、その記憶と技能を獲得するという特性を持つ魔神王の存在を知らないニケであった為に、地面を掘り返し、埋めた跡が簡単に分かってしまったのが、この二人の不幸だった。
「あの時の子供か」
二人の脳を喰らい尽くし、その記憶を確認した魔神王は、絶望王と交戦している最中に乱入してきた修羅の雷帝を脳裏に思い描いた。
右天の記憶から識る事ができたゼオンは、これもまた強者と呼ぶに相応しい。今の消耗した状態であれば、勝つ事は困難であるといえる程に。
それだけに、ゼオンが絶望王相手に使わなかった呪文を識る事が出来たのは幸いだった。この事は、ゼオンとの一戦に於いて、必ずや有利になるだろう。
「良い拾い物をした」
右天の脳が齎したものはゼオンに関する知識だけでは無い。F・バミューダアスポートこそ、脳が二つになっていた影響か、使える様にはならなかったが。
失意の庭というマジックアイテム。それを使用したものを蝕む呪詛。
反英霊ジャック・ザ・リッパーですらが避けた程の呪詛ではあるが、魔神王にはむしろ糧だ。呪詛に蝕まれた右天の脳を喰らい尽くし、魔力をある程度回復させることが出来たのは予想外の事だった。
もう一人の子供。野原しんのすけの記憶は全く判然としないものだった。何しろ全く分からないうちに殴り倒され、気がつけば此処で友人となった吸血鬼の、フランドール・スカーレットに殺されているのだから。
しんのすけの首から下の部分も地面から掘り出して、死体を具に観察してみるものの、フランから受けた傷と、心臓を抉り取った跡が有るだけ。
「喰らったか?」
死んだ子供から心臓を引き抜いてどうするのか。喰らうのか、魔術の触媒にでもするのか。死体だけでは、当然ながら魔神王にも判別が付かない。
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「まぁ良い」
紛れも無い強敵である、ゼオンの事が知れただけでも収穫といえる。
それよりも気にするべきは、並んで埋葬されていた右天としんのすけの間に、面識が存在しない事。
二人揃ってこの場所で死亡したのにも関わらず、両者は出会ってすら居ないのだ。これは一体どういう事なのか。
他にも居合わせた者がいるが、その全員がしんのすけと接触していない。しんのすけの記憶からは、フランドール・スカーレット以外と接触してはいないのだ。
これはしんのすけが命を落とす原因となったジャック・ザ・リッパーの能力によるところもあるが。
ジャックの不意打ちで意識を失い、気がついた時には致命傷を負っているでは、ジャックの能力など関係無しに、しんのすけの記憶から得られる情報など存在しないが、魔神王には知る由もない。
無言でしんのすけの身体をもう一度検め、そして脳を失った頭部を観察すると、後頭部に傷が有った。
おそらくはこの傷を受けた際にしんのすけは意識を失い、そのままフランへの盾とされたのだろう。だが、これはゼオンの仕業とは思えない。
右天の記憶から窺い知れるゼオンの戦い方は、正面から力で捩じ伏せるものだ。絶望王に対して奇襲をかけたが、それにしても隙をついて真っ向から向かったもの。肉盾を使う様には到底思えない。
ゼオンのあの気性は、魔神王と戦った赤髪の傭兵ベルドに近しい。この様な真似をする様には思えないのだ。
「もう一人居るか」
となれば解は一つ。他に最低でも一人は居て、その者がしんのすけを気絶させ、フランと戦ったのだ。
ゼオン単体であっても侮れない強敵である。そこに加えてもう一人、ゼオンが伴う程ともなればこれもまた強者と見て良いだろう者がいる。
屈指の強さを誇るゼオンが正面から対峙し、もう一人が背後より不意を突く。完璧で完全な必勝パターンではあるが、タネが割れて仕舞えば魔神王ならば〈エネミー・センス〉で発見出来る。
ゼオンと次に邂逅した時には、認識されていないとタカを括っている暗殺者を、一撃で殺してやろう。
だが、その前に、力を回復させなければならない。しばらくは此処に潜み、回復を待つべきだろう。
「間に合わせだが、武器も手に入った事だ」
死体を検めた後も手にしていた、野原しんのすけの死体に、冷気を纏わせ凍らせていく。
魂砕き(ソウルクラッシュ)とは言わぬまでも、真っ当な武器が手に入るまでの間に合わせだが、デモンズエキスの能力と組み合わせれば、充分使えるだろう。
試しに冷凍首無し死体を右から左へと一振り。振り切ったタイミングでしんのすけの胴体を突き破り、複数の氷柱が生えた。
俊圀の顔で魔神王が邪悪に笑う。この武器は見た者の嫌悪感を掻き立てる。それはそのなま鬼舞辻無惨への嫌悪と怒りに繋がり、鬼舞辻無惨を追い詰める事へと繋がる。
身に覚えのない事で、あの癇性の主が責め立てられれば、結果は火を見るよりも明らかだ。
「佐藤マサオ。ヴィータ。ボーちゃん」
二つの脳から得た記憶より、識った名を呟く。
三つの名のうち生者は佐藤マサオのみ。しんのすけの記憶から読み取れる人物像ならば、如何様にも利用できそうな愚鈍な子供だ。
「ヴィータの死体の位置は……ふむ」
死んだ場所も判らぬ者などどうでも良い。右天の記憶によれば、結構な戦闘能力を有していたらしいヴィータの脳を喰らえば、この殺し合いを制する上で有用な力を得られる事だろう。
ある程度魔力が回復すれば、行ってみるのも悪くない。
邪悪に口元を歪めたまま、俊圀の姿をした魔神王は、映画館の中へと歩いて行った。
-
【C -3/映画館/朝】
【魔神王@ロードス島伝説】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(中)
[装備]:魔神顕現デモンズエキス(3/5)@アカメが斬る! 野原しんのすけ(頭部無し)
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:乃亜込みで皆殺し
0:ニケと覗き見をしていた者を殺す
1:絶望王は理解不能、次に出会う事があれば必ず殺す。
2:魂砕き(ソウルクラッシュ)を手に入れたい
3:変身できる姿を増やす
4:覗き見をしていた者を殺すまでは、本来の姿では行動しない。
5:本来の姿は出来うる限り秘匿する。
6:魔力が回復すればヴィータの脳を喰らいに行く
[備考]
※自身の再生能力が落ちている事と、魔力消費が激しくなっている事に気付きました。
※中島弘の脳を食べた事により、中島弘の記憶と知識と技能を獲得。中島弘の姿になっている時に、中島弘の技能を使用できる様になりました。
※中島の記憶により永沢君男及び城ヶ崎姫子の姿を把握しました。城ヶ崎姫子に関しては名前を知りません。
※鬼舞辻無惨の脳を食べた事により、鬼舞辻無惨の記憶を獲得。無惨の不死身の秘密と、課せられた制限について把握しました。
※鬼舞辻無惨の姿に変身することや、鬼舞辻無惨の技能を使う為には、頭蓋骨に収まっている脳を食べる必要が有ります。
※右天の脳を食べた事により、右天の記憶を獲得しました。バミューダアスポートは脳が半分しか無かった為に使用できません。
※野原しんのすけの脳を食べた事により、野原しんのすけの記憶と知識と技能を獲得。野原しんのすけの姿になっている時に、野原しんのすけの技能を使用できるようになりました。
※野原しんのすけの記憶により、フランドール・スカーレット及び佐藤マサオの存在を認識しました
※変身能力は脳を食べた者にしか変身できません。記憶解析能力は完全に使用不能です。
※幻術は一分間しか効果を発揮せず。単に幻像を見せるだけにとどまります。
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投下を終了します
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すみません、予約に北条沙都子とカオスを追加します
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投下ありがとうございます!
魔神王は一体無惨様の何が気に入らんかったのか。
まあでも、こいつ怒らせときゃ人間とやりあってお互い潰し合うだろって考えは正解すぎて草。
このロワの無惨様、まだ何も悪いことしてないのにろくな目にあってないですね。
武器にされてしまったしんちゃん、銀魂の長老みたいなノリですね。フランのメンタルにぶっ刺さる展開ばかりでお辛い。
人はドロップアイテムじゃねえんだよなあ。
しんちゃんの記憶から、マサオ君に行き付くの。あんま関心はないとはいえ、マサオ君また厄ネタ生やしてるよ……。
なんかもうマサオ君が悪い奴引き寄せてるんじゃねェか?
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すみません、使用PCの不調のため予約を破棄します
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ウォルフガング・シュライバー、ヘンゼル、輝村照(ガムテ)
ルーデウス・グレイラット、木之本桜、風見一姫、ガッシュ・ベル
予約と延長します
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コピペミスです
ヘンゼルはなしでお願いします
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PCの不調から復帰したため、北条沙都子、カオス、シャーロット・リンリン、佐藤マサオ、美山写影、櫻井桃華、ハーマイオニー・グレンジャー、フリーレンを再予約し、前編を投下します。
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落ち着け、と混乱した状況の中、努めて自分に言い聞かせる。
梨花の死が濃厚な状況下で、今の自分は少々冷静さを欠いている。
もうすぐメリュジーヌが到着するかもしれないが…同時に写影という少年が言っていたフリーレンという凄腕の魔法使いも到着するやもしれない。
怪物の乱痴気騒ぎに巻き込まれた状況で、今の自分が撃つべき手とは………
「写影さん」
びくりと、写影と呼ばれた少年の身体が硬直する。
彼が緊張状態にあるのは、一目見ただけで分かった。
この少年を殺すのは、そう難しくないだろう。
見た所普通の人間であるようだし、銃で撃てば事足りる。
だが、何か強力な支給品を隠し持っている恐れがある。
無理に勝負にでるべきではないと判断。どうせ、沙都子が手を下さずとも───
「があああああああ!!!ちょこまかするなぁ!!!!」
あの太った怪物(シャーロット・リンリンが、放って置いても始末してくれるだろう。
だからここで重要なのは、演技力。
「貴方、分かっていますの?恩を仇で返すというのはこの事でしょう。
守って欲しいというなら素直におっしゃればいいのに、裏切られた気分ですわ」
腕を組み、争う気はないという所作をしながら、表情は厳しく。
不義理を成され、決裂した正義感の強い少女であるかのように振舞う。
「な……違……僕は……っ」
「何が違うと言うんですの?あんなあの大きな方をけしかけるような事を言って、
言っておきますが私、スジの通らない事は大嫌いで御座いましてよ」
「………っ!?」
気が動転しているのか、上手く言い返せず写影は口ごもる。
それを見た沙都子は心中でほくそ笑んだ。
どうやら、彼らの中でも自分が完全にクロかどうか判断しかねている様だ。
だから、糾弾されてもそれが策の上なのか、善意を裏切られ厄介ごとを押し付けられて憤っているのか判断に困っている。
それを即座に見抜いた沙都子は、心中で笑みを浮かべながら、駆け引きを開始する。
「……とは言え、桃華さんやハーマイオニーさんまで連帯責任と言うのは酷でしょう。
ですから、こうしましょう…………メリュジーヌさん!」
沙都子が名を呼び、指を鳴らす。
すると、戦闘時にも拘らずメリュジーヌは彼女の言葉をしっかりと捕えて。
「おごぉ!?」
巨大な少女のテレフォンパンチを流麗に躱し、アッパーカットを叩き込む。
当然、その程度では巨人の少女は倒れない。
だが、顎を撃ち抜かれた事で脳が揺れ、くらくらとたたらを踏んでいた。
その隙を見逃さずメリュジーヌは後退し、沙都子を優しく抱き上げる。
呆気にとられる写影達を尻目に、沙都子は余裕を伴った笑みを浮かべた。
「私達があの方を引き付けます。ですから、皆さんは御逃げ下さいな」
その言葉を受けて、写影は頭を殴られた様な感覚を覚えた。
まさか、ついさっきまで自分が殺そうとしていた少女が、自分達を庇うために囮となるとは考えていなかったからだ。
-
「で、でも……それでは沙都子さんが……」
「そうよ、危険じゃ……ないの?」
桃華とハーマイオニーが異論を唱える。
彼女たちもまた沙都子を疑っていた側の人間だ。動揺を隠せない。
普段なら淀みなく出ていたであろう身を案じる声も、酷く歯切れの悪い物となっていた。
「申し訳ありませんが、私は写影さんが信頼できませんし、
皆さんも……どうやら私の事を信頼しては下さっていない様なので、ここで別れましょう」
そう言って儚げに沙都子は笑った。
その演技力は、数々のカケラで培った彼女の技能(スキル)そのものだ。
疑っている写影達ですら、ずきりと心が軋む名演技であった。
「何を楽しそうにお喋りしてる……!エスターを殺したクソ野郎が………!」
その時だった。
煮えたぎる憎悪を両眼に溢れさせ、悪神が咆哮を上げる。
最早、これ以上お喋りをしている時間は無いだろう。
「では、お願いしますわ。カオスさん」
「うん、任せて。沙都子おねぇちゃん」
しっかりとカオスの首に手を回して、桃華達に聞こえない様に小さな声で囁く。
カオスもまた、絶対に沙都子を落とさぬ様にかき抱き、沙都子と同じ声量で、しかし力強く応えた。
そのまま写影達が呆然と見送るしかない中、意を決したように殺意の幼子の前に躍り出た。
「死ね!!」
殺意と共に、拳が振り下ろされる。
だが、沙都子達には掠りもしない。
そのまま拳は空を切り、地面へ吸い込まれる。
ドオッ!という轟音と共に、数メートルのクレーターができた。
恐ろしい怪力だ。沙都子だけなら一発で挽肉にされているだろう。
「さぁさぁ鬼さんこちら。手のなる方へ……ですわ」
挑発するような言葉と共に、パァンと銃声が響く。
沙都子の手には、拳銃が握られていた。
放たれた銃弾はカオスに抱えられている態勢にも関わらず、巨人の少女の瞼に狂いなく命中する。
「ぐお!?おれの目に何しやがるこの野郎ォオオオオオオオ!!!」
野郎ではありませんし、目を撃たれたんだから血の一つでも流したらどうですの?
銃を構えながら、思わず沙都子は心中で毒づいた。
全く、とんでもない怪物だ。こんな化け物に単独で出会ったらと思うとぞっとする。
「メリュジーヌさんは回避に専念してください。引き付ける役目は私で十分ですわ」
「うん、分かった」
巨人の少女の力は凄まじい物があるが、速度や身のこなしはカオスに比べれば遥かに劣る。
加えて、これまで彼女が戦ってきた相手とは違い戦闘の経験値も皆無。
となれば、速度差と小回りで沙都子を守りながら翻弄するのもそう難しい話では無かった。
回避に専念しなければならないため、挑発行為は行えないが、その代わりを沙都子が務める。
沙都子の銃の腕は、積み重ねた研鑽により凄腕のガンマンに迫るものだ。
巨人の少女が突っ込んで無防備になった瞬間を狙うのは、造作もないことだった。
何しろ的は大きいし、どうせどこに当たろうと効かないとわかっているから、当てるのはどこでもいい。
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「うおおおおおおおおお!!!!!」
既に三発撃ち込まれている巨人の少女は怒り狂った。
痛痒はないものの、攻撃されているという認識が彼女の凶暴性を引き出す。
しかし、それでも沙都子たちには当たらない。
まるでひらりひらりと桃色の殺意を躱し、写影達からあっという間に引き離していく。
その華麗さは、まるで闘牛士のようだった。
やがて巨人の少女と沙都子たち二人の位置は曲がりかどに達し、写影達からは見えなくなった。
「ほらほら、頑張って。エスターさんとやらの仇を撃つんでしょう?」
そう言って、沙都子は煽るような言葉を吐きながら発砲した。
また少女の瞼に命中する。
血は出ないが、他の部位とは違い瞼に命中した時だけは痛みを感じているようだった。
「調子に乗ってんじゃ……ねぇえええええええ!!!!!」
「!?」
だが、敵手もされるがままでは終わらない。
付近にある看板や街路樹、瓦礫などを手当たり次第に沙都子たちに向かって投げつける。
その度に、爆発音のような轟音が周囲に響き渡る。
球速で言えば三百キロを超えているだろう。
そして、巨人の少女が投げているのは野球ボールではない、看板や瓦礫だ。
そんなものが数百キロの速度で投擲されれば、大砲の威力となんら遜色なかった。
「まぁ、当たりませんが」
それでも、沙都子の表情から余裕は消えない。
カオスは致死の砲弾を事も無げに躱し続ける。
シナプス最強最高のエンジェロイド『空の女王(ウラヌス・クイーン)』が発射する遠距離兵装すら回避してのける彼女にとって。
電子制御もされていない、人力の大砲程度では沙都子を抱えていても躱すのは難しくなかった。
「クソォ!!このおぉおおおおお!!!」
本気で殺すつもりの攻撃は、一発すら当たることはなく。
怪物の顔にも、憎悪以外の焦りという感情が浮かぶ。
熊さんや狼さんだってここまで素早くなかった。
エスターを殺したこのひとごろし達は、この素早さでエスターを殺したのか。
悔しい。エスターの仇を取れないのがとても悔しい。
このままでは駄目だ。それを強く認識した時、今から少し前の事を思い出した。
そうだ。エスターもまだ生きていた頃。あの眼帯の子から皆を守ったとき。
あの、相手の行くところがわかる力を使えば────!
「………ッ!!いーじす!!」
「きゃああっ!!」
ここで初めて、冷厳なメリュジーヌの表情を保っていたカオスの表情が強張り。
瞬間的に、彼女は防御兵装(イージス)を展開した。
彼女はここまで回避行動だけで敵の攻撃をいなしていた。
迂闊にイージスを展開すれば、メリュジーヌに化けた別人だとバレかねない。
バレずとも、違和感を抱かれる一助になってしまうかもしれない。
そう考えて、イージスの使用を彼女はここまで控えていた。
だが、たった今、彼女は迷うことなくその伏せていたカードを切った。
-
「ごおおおおおおおお!!!」
轟音と衝撃が響く。
巨人の少女の拳が、カオスたちのいる場所を正確に捉えていた。
まるで、彼女たちが進む座標を先読みしたように。
イージスを展開していなければ、カオスは兎も角沙都子は肉塊に変わっていただろう。
本当に怪獣の様な方ですわね。沙都子は再び心中で毒づき、メリュジーヌの指示を変更する。
「カオスさん。もういいですわ!ここまで引き付ければ十分です!」
先ほどまでの余裕は消え失せて。
必死さを含んだ表情で、沙都子はカオスに新たな指示を下した。
既に写影達からはだいぶん引き離した。彼らから見ても十分仕事は果たしただろう。
これ以上リスクを犯してまで無駄弾を使い、不毛な鬼ごっこに付き合うこともない。
「……うん!捕まって、おねぇちゃん!!」
メリュジーヌの演技を辞めたカオスは沙都子の指示に従順に従った。
イージスを展開し、沙都子を守りつつ、ステルスシステムで隠していた翼を広げて飛翔する。
「飛んだ!?スゲー!!」
憎悪も忘れて、巨人の少女が感嘆の声を上げた。
そうしている間にも、カオスと沙都子の二人はあっという間に、空という少女の巨躯でも手の届かぬ領域へと逃げ延びる。
直ぐに我に返り少女は地上で、“逃げるな“”降りてこい“など憤りの声を上げるが、当然それに従う義理は二人にはない。
そのままごきげんようと捨て台詞を残して、沙都子たちはその空域を離脱する。
「……ふぅ。ここから学園の方まで飛んで下さいます?カオスさん」
短く息を吐いて。
東のほうのエリアへと向かって飛翔しながら、沙都子は差し当たっての目的地を告げる。
メリュジーヌの顔をしたまま、カオスは了承するが、その表情はあまり芳しくない。
どうしたと問いかけると、僅かな間をおいて天使の少女は謝罪の言葉を述べた。
「ごめんなさい……いーじす、使っちゃった……」
最後まで上手くできなかったと、カオスは浮かない顔で謝罪する。
沙都子はメリュジーヌと入れ替わっているときは、カオスにできる限り兵装の使用を制限するように伝えていたのだ。
武装の違いで、メリュジーヌとカオスの入れ替わりに気づく者がいるかもしれないためだ。
実際はそうそう気づくものはいないだろうし、支給品だと言い張る事もできるが…
尻尾が出る余地は少ないほうがいいのは間違いなかった。
そう言う意味では、カオスは言いつけを破ったと言える。
だから沙都子の護衛を勤めあげたにも関わらず、しゅんとした顔をしている。
それが沙都子にとってどうしようもなくいじらしく、愛らしく映った。
抱きかかえられたまま彼女の首に手を回して、添えた手のひらで無言のまま、しかし愛おしげに沙都子はカオスを撫でる。
「お……おねぇちゃん……?」
「カオスさん……貴方は本当にいい子ですわね」
「………怒ってない?」
カオスのその問いかけを、すぐさま沙都子は否定する。
貴方は私を立派に守ってくれた。
確かにイージスを使ってしまったが、写影さん達に見られてはいない。
なら怒ることなど何もない。
次々にカオスを労い、きっと彼女が望んでいる言葉を与えていく。
それは雛鳥に惜しみなく餌を与える親鳥の様な情景だった。
-
「……ありがとう、沙都子おねぇちゃん……私、おねぇちゃんのこと、絶対守るから」
数々の労いの言葉を与えられたカオスが、華が咲いた様な笑顔を見せる。
彼女は今まで知らなかった。人に必要とされることがこんなにも満たされる事を。
貴方がいてよかった。そう一言言われるだけでどれだけ動力部が温かくなるかを。
沙都子お姉ちゃんについて行けば、この温もりをもっと与えてもらえる。
(もし…お姉ちゃんに、ますたーになって貰えたら……)
刷り込み(インプリンティング)を行い、沙都子に鳥籠(マスター)になって貰う。
それは今のカオスにとって、とても魅力的に思えて。
沙都子の専属エンジェロイドとなり、命令される自分の姿を想像してしまう程に、天使は着実に沙都子に心酔しつつあった。
────カオス、お前は廃棄処分だ。
だが、それを阻む様に、忌まわしい記憶(データ)が何度もサルベージされる。
もし、沙都子にも同じことを言われたら。
お前はもういらないと言われたら。想像するだけで、動力部が自壊しそうになる。
それに、自分は優勝しなければならないという考えだって、今もちゃんとあるのだ。
沙都子をマスターとして据えてしまえばカオスの優勝は100%なくなってしまう。
エンジェロイドは、マスターの命令が絶対なのだから。
故においそれと、言える事では無かった。
その事実を認識してしまい、思考回路が葛藤を帯びる。
「どうしましたか?カオスさん」
また表情が陰るカオスを見て、沙都子が心配そうに尋ねる。
何か不味いことを言ったか。彼女の表情からはそう言った感情が読み取れた。
誤魔化すように、カオスは話を切り替える。
「ううん、何でもない。それよりも、良かったの?
あのお兄ちゃんたちに……愛を与えてあげなくて」
おねぇちゃんのやることに、きっと間違いなんてないと思うけれど。
それでも、先ほどまでの沙都子と自分の動きは中途半端なものに思えた。
帽子のお兄ちゃん達を殺すのでも、フリーレンという子との合流まで守るでもなく。
あの大きな地蟲(ダウナー)の女の子から引き付けて逃げるだけ、だなんて。
カオスには、沙都子の真意が分からなかった。
そんな彼女に、沙都子は悪童そのもの笑みを浮かべて。
「……そうですわね。もしかしたら与えてあげる方が良かったかもしれません。
でも、あの方々が生き残っても、別段私たちに損はございませんことよ」
断定はできないものの、写影達は疑いを沙都子にかけていた。
恐らく、梨花か誰かから自分のことを聞いていたのだろう。
だがそれは、沙都子を魔女だと確定させる情報ではない。
梨花本人ですら、沙都子がどのカケラから呼ばれたのか断定はできなかったのだから。
証拠もなく、元の世界で非道を行っていたのだから、北条沙都子は殺し合いに乗っているなんて話がまかり通ればまさしく魔女裁判だ。
穴だらけの暴論など幾らでも論破できるし、疑心暗鬼を煽動することもできる。
梨花と蔓んでいたお賢そうな白髪女にも、証拠無の裁判(レスバトル)なら負ける気はしなかった。
問題は沙都子が殺し合いに乗っていることの証人であるシカマル達だが…恐らく写影達は彼からは話を聞いていないだろう。
沙都子が写影に憤りを見せた時、彼らの表情にはひょっとしたら冤罪をかけてしまったのではないかという戸惑いが隠せていなかった。
少なくとも、彼らと一緒にいるときの沙都子は怪しい素振りは見せていない。
むしろあらぬ疑いをかけられても、一番危険な囮役を買って出た功労者だ。
巨人の少女の誘導も、本気で行った。そこに瑕疵は何一つない。
まぁ白髪女は口が回るようだし、ある程度丸めこまれてしまうだろうけれど。
それでも、沙都子を拘束したり、あまつさえ殺そうなんて意見には賛同できる恩知らずではないはずだ。
-
また、シカマル達が沙都子が殺し合いに乗っているという情報を流布した場合や、
別行動を取っているメリュジーヌが殺戮をしている姿を、誰かに見られた場合でも。
沙都子がメリュジーヌと共に、写影達を庇ったという事実は活きてくる。
庇ったエリスや写影たち自身に、沙都子たちの潔白を証言してもらえばいい。
その時間は僕たちと一緒にいた。時系列が合わない……と。
この会場には様々なファンタジーやオカルトがある事から、姿を騙る能力にアタリをつけるかもしれないが。
その場合はこう主張すればいい「他の参加者の姿を騙り、襲っているマーダーがいる」と。
まぁそれは沙都子たち自身なのだが、今までの沙都子たちの凶行を、いもしない架空の殺人者になすりつけてしまえばいい。
自分達は姿を騙られた被害者であり、その証拠にエリスや写影達を助けていると、そう主張するのだ。
カオスがメリュジーヌや他の参加者に姿を変える瞬間を見られない限り、いくらでも“真実”はでっちあげられる。
それでももし周囲が拘束や沙都子の殺害に踏み切った時は……
その時は、メリュジーヌとカオスに皆殺しにしてもらう。それだけの話だった。
「………ですので、写影さん達がこの場面で生き残っても何の問題もありません」
意気揚々と語った後、それに、と付け加える。
自分とカオスがあの大きな方を引き付けたのは十分ほど。
それから引き返す時間を考えれば、写影達の足でもそれなりに距離を稼げたはずだ。
理屈の上では、既に逃げきれている筈。だが………
何時だって想定外の事が起きるのが戦場と言う物。
それに何より、巨人の少女の執念は以上だった。
あの怨念めいた執念を考えれば、もしかすればもしかするかもしれない。
「彼らが無事に逃げ切れたかは、まだ分かりませんわ」
写影達が生きていてもアリバイ工作としてよし。
もし彼らが巨人少女の復讐によって前に全滅していたとしても、疑っていた人間は減る。
結局の所、北条沙都子に負けはない勝負なのだった。
とは言え、貴重な拳銃の弾を使ったのだから、精々生き延びて下さいね?写影さんたち。
皮肉気にそう零しながら、沙都子は短いエールを少年少女に送った。
「……そっか!沙都子おねぇちゃんはやっぱり賢いね!」
「ありがとうございます。一先ず私達は、このままメリュジーヌさんと合流しましょう」
「はーい!えへへ……メリュ子おねぇちゃん、褒めてくれるかな?」
「────………」
話に納得したカオスは、再び笑みを浮かべ、もう一人の“おねぇちゃん”との合流に心を弾ませている。
きっと、彼女にとってはあの少女騎士も。自身の孤独を埋める、大切な片翼なのだろう。
それが見て取れて、沙都子は僅かにだが表情を硬くした。
メリュジーヌさんは、梨花を殺したのかもしれない。
その事実は、沙都子の脳を大いに揺さぶり──数秒ほど、祈るように瞼を閉じる。
分かっている。彼女の立場からすれば梨花はリスクでしかないだろう。
私の悪評を広めて、懐柔にも失敗した時点で、梨花は障害でしかない。
何人か殺すように頼んだのも私。彼女は立派に任務を遂行した。
彼女に非はない。あるとすれば、私の余計な感傷ぐらいだ。
梨花自身は何度も殺してきた。死自体に思うところもない。
むしろ、有象無象に殺されるよりは、彼女の手で殺されるほうがいい。
そう考えて、パチンと指を鳴らした。
「───えぇ、きっと……メリュジーヌさんは、カオスさんには優しいですから」
-
思考を切り替えるルーティーンを終えて。
完全に、メリュジーヌさんが梨花を殺していた場合の覚悟は決めた。
動揺は今も胸の中にあるが、そこに怒りはない。
これから私が勝ち残っていくには、カオスさんに加えて彼女の力も不可欠だ。
ここで決裂するような真似はしない。
ただ、確かなことが一つ。
これで私は、勝負を降りるわけにも、負けるわけにもいかなくなった。
例え、誰が相手であろうとも。メリュジーヌさんであっても、カオスさんであっても。
ただそれだけ。
【G-6 上空/一日目/午前】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(小)、梨花に対する凄まじい怒り(極大)、梨花の死に対する覚悟
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(4/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:一旦メリュジーヌさんと合流する。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:カオスさんはいい拾い物でした。使えなくなった場合はボロ雑巾の様に捨てますが。
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
6:エリスをアリバイ作りに利用したい。
7:写影さんはあのバケモノができれば始末してくれているといいのですけど。
8:梨花のことは切り替えました。メリュジーヌさんに瑕疵はありません。
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※梨花が別のカケラ(卒の14話)より参戦していることを認識しました。
※ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました
【カオス@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、自己修復中、アポロン大破、アルテミス大破、イージス半壊、ヘパイトス、クリュサオル使用制限、沙都子に対する信頼(大)、メリュジーヌに変身中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品2〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して、いい子になれるよう願う。
0:沙都子おねぇちゃんを守る。メリュ子おねぇちゃんが待ってる場所に行く。
1:沙都子おねぇちゃんと、メリュ子おねぇちゃんと一緒に行く。
2:沙都子おねぇちゃんの言う事に従う。おねぇちゃんは頭がいいから。
3:殺しまわる。悟空の姿だと戦いづらいので、使い時は選ぶ。
4:沢山食べて、悟空お兄ちゃんや青いお兄ちゃんを超える力を手に入れる。
5:…帰りたい。でも…まえほどわるい子になるのはこわくない。
[備考]
原作14巻「頭脳!!」終了時より参戦です。
アポロン、アルテミスは大破しました。修復不可能です。
ヘパイトス、クリュサオルは制限により12時間使用不可能です。
ルーデウス・グレイラットについて、とても詳しくなりました。
-
「ねぇ、どう思う?沙都子は……本当に殺し合いに乗っていたのかしら」
小山の様な巨体の女の子から逃げ延び、身を隠してから15分ほど。
ハーマイオニー・グレンジャーは僕と桃華に、まずそう尋ねてきた。
「……分からない。取り合えず僕の目から見ても、あの子に怪しい所はなかった」
あの女の子…シャーロット・リンリンという女子が追ってきていないことから。
沙都子は本気で僕たちを逃がしてくれたんだと、後から実感が沸いてきた。
殺すつもりで接していた僕たちを、身を挺して助けてくれた彼女は、
………本当に殺し合いに乗っていたのだろうか。
暫く行動を共にすれば、スペクテッドの読心で本心が分かったかもしれないけど。
あのギリギリの状況で、そんなことをしている暇はなかった。
「……何かの間違いだったり、誤解であって欲しいですわね」
「そうね………」
桃華が呟き、ハーマイオニーが相槌を打つ。
口には出さなかったけど、僕も同じ思いだった。
できることなら、メリュジーヌ共々対主催であって欲しい。
一姫は彼女のことを邪悪の権化のように言っていたけど、この場にいる皆が、彼女がそんな非道を行っていた姿を実際に見たわけではない。
手放しで信用するのは危険でも、実際に接してみれば印象は違うように思えた。
例え殺し合いに乗っているのだとしても、できることなら説得できないものか。
そう考えてしまう所まで、彼女の計算なのだろうか。
いくら考えても、答えは出ない。きっと彼女にもう一度会う時まででないだろう。
「まぁ、今度会ったときに彼女に聞くしかないだろうね」
次の再会がどうか穏便であるように、祈る事しか今はできない。
だから沙都子のことは、今はこれで置いておく。
それよりも、多分今の僕にはもっと向き合っておかなければならない事がある。
「───マサオ、落ち着いた?落ち着いたのなら…話をして欲しいんだ」
そう言って、僕は床に直接座り込むマサオに声をかけた。
あのリンリンという子が、沙都子を追いかけていった隙に連れてきたのだ。
本人はその場から動きたくない様子だったが、置いていくわけにもいかない。
仕方なく桃華のウェザー・リポートで運んで、半ば無理やりに、やっと連れてこれた。
「……………………………」
マサオはずっと、話しかけても殆ど何も答えてはくれない。
ただ恨めしそうに僕を睨んで、黙りこくっている。
これでは彼に何があったのか聞けないし、一緒に行動するのも難しい。
僕はもう、ここから一歩も動かない。そう言っているようだった。
「マサオさん……私にも、お話しては下さいませんか?」
僕から半歩ほど距離を開けた隣に桃華が座り込んで、マサオに尋ねる。
ハーマイオニーはマサオと面識がないため、後ろで見守っていた。
彼女のマサオを見る視線が若干鋭くて、怯えさせてしまうかもしれない。
ただでさえ不安定な様子のマサオにそれは不味い。
だから、それとなく身じろぎを一つ。
マサオとハーマイオニーの間に壁のようになるよう動く。
丁度、桃華とぴったり隣になるような位置に移動したその時のことだった。
-
「………だ」
マサオが恐らくこの家に入って初めて何かを喋った。
けど、その声は穏やかなものじゃなかった。
同時に聞き覚えがある声でもあった。
恨みの伴った、腹の底に響くような低い声。
それは僕が、以前大河内に投げかけられた声と同じものだった。
「全部全部!写影さんたちが悪いんだ!
僕を赤ちゃんと置き去りにして!二人で手をつないでどっか行っちゃって!!
それなのに今も目の前で当てつけみたいに仲良くして!僕をバカにしてるんだろ!!」
マサオは、突然キレた。
□ □ □
しんちゃんの名前が呼ばれたとき、何だかもう全部がどうでも良くなっちゃった。
いつも僕たちカスカベ防衛隊の先頭で、何度も凄いことをやってきたしんちゃん。
そのしんちゃんが、僕に会うこともなく死んじゃった。
これでもう、僕を助けてくれる人はいなくなった。
しんちゃんが死んじゃうような場所で、僕が生き残れる訳ないじゃないか。
もう、何もしたくなかった。放っておいてほしかった。
それなのに。
「───マサオ、落ち着いた?落ち着いたのなら…話をして欲しいんだ」
「マサオさん……私にも、お話しては下さいませんか?」
何で、僕に構うんだ。
何で、そっとしておいてくれないんだ。
もう僕は疲れたんだ。きっと、死んじゃったほうが楽になれるんだ。
なのに。それなのに!
「全部全部!写影さんたちが悪いんだ!
僕を赤ちゃんと置き去りにして!二人で手をつないでどっか行っちゃって!!
それなのに今も目の前で当てつけみたいに仲良くして!僕をバカにしてるんだろ!!」」
仲良さそうに並んで僕をのぞき込んでくる二人を見て。
溜め込んでいたものが、一気に噴き出した。
二人に会った時は、リンリンに殺されてしまうから、申し訳ないと思っていたけど。
今も見せつけてくる二人を見てそんな気持ちは吹き飛んだ。
申し訳ないと思っていた分、これまでの怒りが噴き上がってくる。
「マサオ、君は………」
「……何を言ってるんですの?マサオさん………」
二人が意味が分かんないって顔で見てくる。
それが余計にイライラした。
だから、写影さんと桃華さんが僕にやったことを突き付けてやる。
「何を考えて僕と赤ちゃんだけを置き去りにしたの!二人きりになりたかったから!?
二人がそうやって仲良くしてる間に、僕はナルトの化け狐に襲われてたんだ!!」
-
二人がいてくれたら、あの赤ちゃんだって助かったかもしれないのに。
一番年下の僕に押し付けて、二人はのんびりしてたんだろう。
だから、今まで、僕が会いに来るまで迎えにすら来てくれなかったんだ!
それなのに、今更心配するふりをして……!
写影さんと桃華さんを見ると、ぎくりとした表情だった。
「ほらやっぱり!二人は僕と赤ちゃんの事なんてどうでも良かったんだ!
化け狐に襲われただけじゃないぞ、僕は、僕は……エスターのっ…リンリンも……」
喚き散らしている間に、涙が溢れてきた。言葉も上手く出てこない。
目の前の二人の姿がぼやけてよく見えなくなる。
その代わり名前も知らない赤ちゃんと、エスターの顔が浮かんでくる。
──マ…マサオ…皆に…伝えてくれ…最後に……俺を殺したガキの事を……!
全て、アンタが悪い子だから───
二人は、ずっとずっと恨めしそうに僕を見てくるんだ。
早く私たちを生き返らせろって、そうしないとお前はずっと悪い子だって。
もうやめて。僕にそんなことができる訳ないじゃないか。
僕はしんちゃんじゃないんだ。許して。そう何度言っても、二人は消えない。
僕にやれ。早くしろって言い続けるだけ。
もう嫌だ。本当に、本当にうんざりだ!
それもこれも、全部目の前の二人が悪いんだ!!!
いいや、目の前の二人だけじゃない。
「みんな、みんな嫌いだ………」
うずまきナルトや白い髪の男の子みたいに、僕を殺そうとする子も。
僕に無茶な頼みごとをする赤ちゃんやエスターも。
僕を食べようとして、エスターを食べた癖に、僕を守るだとか勝手な事を言うリンリンも。
僕が大変なのに助けに来てくれないパパやママ。風間君やネネちゃん。
僕を置いて行っちゃった───ボーちゃんやしんちゃんも!
みんな、みんな嫌い。僕に関わらないで欲しい。
「もう僕の事は───放って置いてよ!!」
そう、叫んだ。写影さん達がバツの悪そうな顔で項垂れる。
いい気味だ。少しは僕のしてきた苦労を気まずく想えばいいんだ。
そう思っているところに。
「ちょっと、幾ら何でもそれはないんじゃないの」
知らない女の子が、話に割って入って来た。
波打った茶色の髪を伸ばした、気の強そうな女の子だった。
写影さん達が、ハーマイオニーって呼んでた人。
「桃華達はフリーレンって言う私達の仲間が助けて無ければ死んでたのよ?
貴方とその赤ちゃんを安全に建物の上に降ろすために」
ハーマイオニーさんの僕を見る目は、冷たかった。
「貴方は私達と比べてもずっと小さいし、こんな事を言うのは酷でしょうけど…
桃華達に責任はないわ。八つ当たりするのはやめなさい」
「ハーマイオニーさん、それは………」
「ごめんなさい。でも私、理屈の通らない事って放って置けないの。
桃華達はずっとこの子の事を心配してたじゃない。逆恨みされる謂れはないわ」
-
な、何だよ何だよ何だよ!
あの時いなかった人のくせに、勝手に話に割り込んできて。
知った様な顔でボクの事を虐めるのか!?
さっき、おしっこを漏らして匂ってた人のくせに!
そう考えていると、ハーマイオニーさんは僕の方に進み出て。
「貴方は小さいし、色々理不尽な目に遭ってきたのは分かるわ。だけど……
今は皆で助け合わないといけない時よ。それは貴方だって例外じゃないわ」
だから、二人を許してあげて。僕にそう言った。
でも、その言葉を僕は、
「う……うるさいうるさいうるさい!!僕は、桃華さん達と助け合いたくなんかない!!」
僕は、跳ねのけた。
僕が酷い目に遭っているときも、のんびりしてた二人を許したくないし、助け合うなんてしたくない。
この場所では簡単に人が死ぬ。しんちゃんですら、あっけなく死んでしまう。
そして、死んでいった人たちは僕のせいだという。
…………あぁ、赤ちゃんやエスターが死んだのは確かに僕のせいだよ。
それは認めるよ!認めればいいんでしょ!でも、だから、なおさらもう嫌だった。
僕のせいで、誰かが死ぬことになるのは………
───神様、僕が全部悪かったんです。助けてもらえないのももう分かりました。
一人ぼっちで死ぬしかないことも、もう分かったから。
だから。だからせめて。
「これ以上、僕を苦しませないでぇ……………」
床に蹲って、そう頼んだ。
涙でぼやけた桃華さんやハーマイオニーさんが何かを言いかけて、やめる。
もう何もかもどうでもよかった。好きにしてほしかった。
殺すなり、出ていけというなり。
もう僕は何もしたくなかった。助けてということすら、できなかった。
生きていたけど、多分死んでいた。
そんな僕に。
「マサオ」
だいぶん時間をかけて、のろのろと顔を上げる。
声をかけてきたのは、写影さんだった。
もう放っておいて。何度目か分からないけどそう言おうとしてやめる。
きっとこの人も、ハーマイオニーさんと同じで。
僕が悪いってそう言うんだろうから。無視しよう。
そう思った。
「マサオ、聞いてほしい」
そう、思っているはずなのに。
僕は、何でこの人の話を聞いているんだろう…………
-
□ □ □
「写影、貴方………」
ハーマイオニーが心配したような声を上げる。
でも、僕は心配ないよ、と言って笑った。
笑顔を浮かべるのは今よりずっと小さな頃から苦手だったから。
彼女を納得させるのは無理だったけど、取り合えず僕に話させてくれる様子だった。
ハーマイオニーが、僕たちを心配してくれているのは分かってる。
彼女の言っていることは正論だ。でも、正論だと今のマサオは多分救われない。
今のマサオに必要なのは、きっと。
「────ごめん、マサオ」
そして、美山写影は、佐藤マサオにそう言った。
これが正解なのかはわからない。
筋道や解法のない問いは、今の僕には難しい。とても。
だから、手探りで。こう伝える事がマサオにとって一番いい方法なのかは分からないけど。
それでもマサオをまっすぐ見て、はっきりと伝える。
「僕が、君たちの手をちゃんと掴んでいれば、きっと君は辛くて怖い思いをせずに済んだ」
いくら仕方の無い事だったと言い張っても、それは変わらない。
そこに対して、目を瞑って、見ないふりをするわけにはいかない。
「だから、悪いのは僕だ。桃華は悪くない」
桃華に責任はない。
そもそも彼女がいなければ、僕たち全員、あの映画館から生きては出られなかっただろう。
その言葉に、桃華が何か言おうとする。
でも、今度は彼女の隣にいたハーマイオニーが彼女の口を押えた。
ありがとう、一瞥して視線でそれを伝えてから、僕は続ける。
一番重要なことを、マサオに告げる。
「君もだ、マサオ。君は悪くない」
「………ッ!ぇ、あ…………」
例え、他の話を一切聞いてもらえなくても。
これだけは、彼に伝えたかった。そして、その言葉に意味はあった。
伝え終わってから数十秒ほど間をおいて、マサオがのろのろと顔を起こす。
上手くいくか不安だったけれど、どうやら見立ては外れてはいなかったみたいだ。
さっきマサオが僕たちに対して当たり散らしたのは。
きっと、見捨ててほしかったんだと思う。それぐらい、追い詰められていたんだ。
助けてって、そう言えないくらいに。
ペロを助けてって、風紀委員に告げられなかった僕みたいに。
でも、それは違う。マサオは助けてって、言っていいんだ。
「悪いのは僕だ。本当に……ごめん。
その上で、二つ我儘を言わせてほしい」
「ワガ、ママ……?」
-
疲れ切った顔で、マサオが僕の言葉を復唱する。
話は聞いてくれているらしい。もしかしたら、怒るかもしれないと思っていたけど。
これなら、遮る物なく彼に頼むことができる。僕の我儘を。
「一つは桃華を許してあげて欲しい。彼女に、責任はないよ」
僕の事は恨んでくれていい。
でも、桃華はずっとマサオの事で苦しんでいた。
その桃華が恨まれたままじゃ、余りにも彼女が報われないから。
だからどうか、彼女を許してあげて欲しい。
僕はそう言って頭を下げた。それから暫くして、顔を上げる。
マサオは、もう当たり散らしたりはしなかった。
ただじっと、僕を見ていた。それを確認してから少し間をおいて、僕は続けた。
「……もう一つ。僕達にこれまでの埋め合わせをする機会をくれないか」
その言葉は、マサオには少し難しかったみたいで。
少しキョトンとした表情で、埋め合わせ……?と呟いていた。
「うん…あの後、僕なんかよりずっと頼りになる人たちと出会えたんだ。
だから、今度は映画館であったみたいな事にはならない。だから………」
その言葉は、情けない位に他力本願な物だったけれど。
事実としてガッシュやフリーレンと合流すれば、あの時より取れる選択肢はずっと増える。
今度こそ、皆で協力してこのゲームに抗える。
だから、やり直すチャンスをくれないか。
それが、僕がマサオに乞う我儘だった。
「……………っ」
マサオは、暫くの間無言だった。
時折何かを言いかけて、しかし押し黙る。
桃華も、ハーマイオニーも口を挟まない。
ただ黙って、この会話の行先を見守っている。
そんな中で、桃華は祈るように手と手を重ね合わせていた。
「………どうして?」
三分程経った後。
呆然と、マサオは僕に尋ねてくる。
「どうして、写影さんは僕にそう言ってくれるの?
………僕、写影さんに一杯一杯酷いことを言ったのに」
そう尋ねられて。そう言えば、どうしてだろうと考える。
僕とマサオはこの場で初めて出会った。彼を守る義理も義務もない。
彼のせいで、危ない目にも遭った。以前の僕なら、助けようと思ったか分からない。
そんな僕が助けようと思ったのは────
─────貴方、私に似ていますもの。
考えを巡らせて浮かんできたのは、正義の味方の、彼女の顔だった。
ペロを助けてから暫くして、そよ風の吹く日に、彼女は僕にそう言った。
………あぁ、多分。僕が、マサオを放って置けなかったのは、
-
「僕、英雄(ヒーロー)に憧れてるんだ」
うん、多分、そう言う事なんだと思う。
僕の力はちっぽけで、彼女みたいにはなれない。そう思っているけど。
でも、叶うなら彼女みたいになりたい、とも思っている。
風紀委員(ジャッジメント)、本物の英雄(ヒーロー)である、彼女に。
「だから、マサオの助けになってあげたいって、そう思うんだよ」
きっと、彼女も同じ選択をするだろうから。
彼女の生き方をなぞる事しかできない、ちっぽけな僕でも。
自分よりずっと小さな、泣いている子供に泣かなくていいよ、と。
そう言うくらいは、してあげたかった。
□ □ □
君は悪くない。
写影さんの、その言葉を聞いた時。
僕の口から出たのは、恨みの言葉じゃなかった。
「────いいの?」
許してもらっても、いいの?
お助けしてほしいって言っても、いいの?
皆と一緒に行っても、いいの?
僕は、気が付いたら写影さんにそう言っていた。
「うん……桃華達がよければ、だけど」
写影さんはそう答えて、桃華さん達の方を向く。
すると二人は、僕達に優しく笑って。
「……えぇ、勿論です。写影さん、マサオさん」
「ま、私はほとんど関係ないし、二人がそれでいいならそれでいいわ」
それを聞いた時、ずるいと思ってしまった。
二人にそんな事を言われたら、もう恨み続けるのは無理だ。
僕自身、どうでも良くなってた、どうしようもないと思ってた僕を。
写影さんと桃華さんは、それでもお助けしてくれるって、そう言ってくれたから。
「ぇ……ううっ、うぇ…………っ」
不思議だった。
本当は、誰かに助けてって、そう言いたかった。
でも、僕にはそんな資格はないって、そう思ってた。
しんちゃんが死んじゃって、もう何もかもどうでも良くなった筈だった。
きっと、死んじゃったほうが楽だと、そう思ってた。
なのに、それなのに。今はこんなに。
「ありがどう……ありがどう、じゃえいざん……ももがざん………っ」
もう一度、生きたいって。そう思ってる。
僕は桃華さんと写影さんに飛びついて、そして泣いた。
涙と鼻水と涎で服が汚れるのも構わずに、二人はただ、君はよく頑張った。
そう言ってくれた。二人は、慈しかった。
それから少しの間、僕は泣き虫おにぎりから戻れなかった。
-
前編の投下を終了します。
残りも可能な限り年内に、もしダメでも期限内には投下いたします
-
中編を投下します
-
□ □ □
「写影さん、ありがとうございました」
桃華はそう言って、写影に深く頭を下げた。
マサオの爆発を目の当たりにした時は動転してしまったが。
それでも何とか、マサオは自分達を許してくれた。
それも、この、大人びた少年のお陰だと、桃華は感謝してもしきれなかった。
だが、当の写影は、
「………いや、その、色々勢いで口に出ただけだから。余り言われると、その」
何だか歯切れが悪かった。
帽子を深くかぶって、微妙に桃華達から顔を背けている。
それを見た桃華は怪訝な顔で、ハーマイオニーと顔を見合わせた。
「どうしたんでしょう?写影さん」
「多分、勢いで口に出た言葉が、今になって恥ずかしくなってるんじゃない?」
ぐさっ。
ハーマイオニーがその言葉を口にした時、誰かの胸に突き刺さる様な音が響いた。
もう一度写影の方に桃華が視線を移せば、帽子で隠しきれていない耳元が赤くなって、ぷるぷると震えていた。
どうやら、ハーマイオニーの見立ては正しいらしい。
年相応の少年らしいところもあるんだなと、くすりと笑みが漏れた。
「恥ずかしがる必要なんてございませんわ。写影さん」
「桃華、うん。恥ずかしがってはいないんだけど、でもちょっと、その」
「少なくとも、マサオさんを助けたいと言った写影さんは、そう……
ヒーローみたいだって、私はそう思いました」
「…………うん、ありがと」
そう言われると、少しだけ帽子をずらして。
羞恥で赤くなった顔を少しだけ覗かせて何とか写影は言葉を返した。
「……二人とも、もうそろそろ、その辺でいいかしら」
そんな二人に、どこか呆れた様子でハーマイオニーが声を掛ける。
一先ず脅威をやり過ごし、話は纏まったものの、まだ全く気は抜けない状況である。
今は一刻も早く、フリーレンと合流しなければならない。
各々が気持ちを切り替える。
「マサオは僕が背負う。桃華やハーマイオニーはいつでも能力を使えるようにしておいた方がいい」
フリーレンがいない今、自衛のための力があるのは桃華とハーマイオニーだ。
それもあのリンリンの様な怪物が相手では心もとないが……できるだけ彼女達が即時に動けるようにしておいた方がいい。
写影のその判断に、二人が頷く。
だがそこに、異論を唱える者がいた。
「ぼ、ぼく!自分で歩けるよ!!」
マサオは、両手で握りこぶしを作り、そう叫んだ。
確かに、マサオが自分の足で動いてくれれば写影も楽だし、即座に動けるが……
写影はじっとマサオの目を見てから尋ねた。
-
「………マサオ、大丈夫なんだね?」
「うん、僕だって……しんちゃんと一緒に沢山冒険してきたもん!!」
意気軒昂でそう告げるマサオに、ハーマイオニーは反論しようとする。
此処にいるメンバーはマサオよりも全員一回り年が上だ。
半数が女子とは言え、合わせるのは過酷だろうし、移動ペースも落ちてしまう。
そう言った旨の事を、彼女は言おうとした。
「いや、ハーマイオニー。どの道僕がマサオを担げば移動する速さはそんなに変わらないよ」
だが写影は、マサオの側に立った。
マサオを担げば体力は普通の少年でしかない写影の速度は半減するし、
それに元より、この会場にはヒトを超えた参加者が闊歩している。
マサオを背負うか背負わないかは、誤差でしかない。
そう言われれば、ハーマイオニーも否とは言えなかった。
「……分かったわ。確かに、あの巨人の子みたいなのに出くわしたら大差ないでしょうね」
「うん、リスクはあまり変わらない。それならマサオの選択を尊重したい」
理詰めに拘るハーマイオニーもその言葉に納得の姿勢を見せ、場の意見が一つにまとまる。
フリーレンがあの隈取の少年に勝利していれば、自分達を探しているだろう。
空を飛んできているだろうから、建物の上に昇るか、スペクテッドの遠視を使ってもいい。
一先ずは身を隠しつつ、フリーレンやガッシュとの合流を目指す。
北条沙都子の作ってくれた時間のお陰で態勢は立て直すことができた。
後はスペクテッドを上手く使えば、不意の遭遇を避けられ、再合流を果たせる筈だ。
ピンポイントで、自分達の居場所を把握できるマーダーがいない限り────
そう思った、十秒後の事だった。
ずん!と地揺れの様な音と、振動が響く。
まさか、と全員が思った。
いや、だとしても、居場所がバレたわけではない筈だ。
このまま家の中で隠れていれば、やり過ごせる。焦って飛び出す方が危険だ。
「あっ!?」
声にするでもなく、全員の意志が一つとなり、息を潜めていた中で。
マサオが、何かを思い出したように声を発する。
一同の視線が集中する中、青ざめた顔で、マサオは思い出した事を告げた。
「あ、あの子……あのリンリンって子………確か、他の人の居場所が分かる機械を……」
それを聞いた瞬間、全員の血の気が引く。
それならば隠れるのではなく、一刻も早くその場を離れるべきだった。
もし、マサオの言っている事が本当ならば────
「マサオォオオオオオオオオ〜〜〜!!!!!」
ドン!!!
轟音と衝撃が、家の中の少年少女を襲った。
写影達が身を寄せていた民家の壁が、爆ぜたのだ。
桃華が咄嗟にウェザーリポートを出さなければ、瓦礫や木片が彼らを貫いていただろう。
だが、それは悪夢の始まりを告げる開幕ベルに過ぎない。
「マサオォオオオオオ!!!助けに来たよ!!」
四皇。
悪神。
ナチュラル・ボーン・デストロイヤー。
人間、五歳。
半壊した民家から見えた、少女───シャーロット・リンリンの巨躯が。
“絶望”の具現として、少年少女の前に立ちふさがる。
-
□ □ □
ピッピッと光点を映す機械をその手に持ち。
獰猛で残酷な殺意を瞳に滾らせながら、リンリンは写影達を睨みつける。
「………っ!!」
それだけで竦みあがって、腰が抜けそうになる。
それどころか緊張とストレスで嘔吐してしまいそうだった。
きっとその場にいる誰もが、そう思っていただろう。
写影達はその威容に威圧され、リンリンが口を開くまで微動だにする事ができなかった。
「………エスターを殺すだけじゃなくて、マサオまで攫いやがって……」
エスターと言う少女を殺したのは全くの冤罪だが、マサオを連れ出したのは事実だ。
だから、反論できない。弁明しなければならない時であるにもかかわらず。
写影は、指先一つ動かす事ができなかった。
そんな、一秒後の生存すら保証されていない、死地の中で。
「それは、誤解ですわ」
櫻井桃華は、毅然とした態度で幼き暴君の前へと進み出た。
その背後に、守護霊であるスタンドを佇ませて。
近づくだけで気が遠くなる威圧感を放つ、怒り狂った悪神に、灰被りの少女は対峙する。
「………どうか、話を聞いてもらえないでしょうか」
あるべく刺激しない様にゆっくりと、柔らかな声で。
表情は穏やかに、ファンに向けるように。日々のレッスンの成果を発揮する。
その上で、対話を望む意志をはっきりと伝える。
身体の頭の天辺からつま先に至るまでの勇気をかき集めて、桃華はリンリンに懇願した。
きっと、何かの間違いだ。写影さんも私も、そんな事はしていない。
それとなくマサオを庇いつつ、どうか対話の糸口を掴むことを試みる。
だが、しかし。
「何を……ごちゃごちゃと………!」
リンリンが話を聞き入れる筈がなかった。
当然だ。だって、話を聞き入れればリンリンにとっての真実に致命的な矛盾が生じる。
エスター殺害の犯人は櫻井桃華。
実際の事実がどうであれ、リンリンにとっての“真実”はそうでなくてはならない。
でなければ───直視してしまう。
エスター殺害の真相を、ひいてはあの日いなくなった羊の家の顛末を。
それだけは、リンリンにとって絶対に受け入れられない事だった。
「さっさと……エスターを殺した報いを受けろォ!!!!」
腕を振り上げる。
交渉は失敗した。と言うより、元々成功する筈のない試みだった。
リンリン本人が、偽りの事実を真実としようとしている限り。
だから当然の如く、彼女は桃華達にとっての災厄と化す。
「マサオ!今助けるからね!!!」
-
怪獣の様な唸りを上げて、リンリンが拳を振り上げる。
それに真っ先に対応したのは、やはり桃華だった。
「ウェザーさん!」
例え能力であっても呼び捨てにできないのは、彼女の育ちの良さ故か。
それとも、スタンドを通して持ち主の断片を垣間見たからか。
それは定かではないが、リンリンが腕を振り上げるよりも早く、桃華は行動に移していた。
スタンドの名を叫び、それに伴い『ウェザー・リポート』が始動する。
「彼女の周囲を集中豪雨!」
桃華がまず切った手は、リンリンの周囲に雨雲を作り、雨を降らせるという手だった。
当然、雨粒などで未来の四皇であるリンリンが痛痒を覚えることは無い。
「うぉッ!?な、何だこの雨、見えねえっ!!」
だが、ウェザーリポートは30キロ先のハイウェイをピンポイントで止めるだけの豪雨を降らせる事ができる。
100ミリを超える猛烈な雨。
それはリンリンを止めるには、近距離パワータイプのスタンドが殴り掛かるより余程的確な一手だった。
100ミリを超える降雨量は、常人であれば目を開いて数メートル先を視認する事すら困難だ。
猛烈な雨で視界がぼやけるか、或いは瞼を持つ生物として本能から目を瞑ってしまう。
齢6歳にして巨人族の戦士を投げ飛ばす怪物の膂力を持つリンリンであっても、雨粒はどうする事も出来ない。
「皆さんは……私が守ります!」
作り出した隙に、桃華が切り込む。
ウェザー・リポートが狼狽するリンリンの元へと切り込み、拳を振るう。
「うぉおおッ!?」
リンリンの脇に、ウェザー・リポートの拳が吸い込まれる。
まるで、鉄の塊をノックした様だ。桃華はその感触に戦慄した。
およそ人が持つ肌の強度ではない。下手に殴れば。此方の手が壊れてしまう。
「最大風速───!!」
一瞬の判断。桃華はウェザー・リポートのその手にハリケーンを纏わせる。
風速280メートル、人は愚か大型車両や民家ですら倒壊の恐れがある風圧で以て、リンリンを打ち据える。
「ぐ、ぉッ!?」
相変わらず、ダメージはない様子だった。血の気が下がる。
だが、生み出した気流の渦はリンリンの平衡感覚を狂わせ、転倒させることに成功した。
その隙を縫うように、不可視の魔術が空間を奔る。
「イモビラス(動くな)!!」
ハーマイオニーが桃華の奮戦により恐慌から復帰し、杖を構えていた。
そして、彼女の呪文は遥かに格上の魔女、リーゼロッテにすら一瞬ではあるが通用した。
逃走するなら、今しかない。全員の心が一つになる。
-
「今だ!皆!!」
「うぇえええええ〜ん!!」
同じく恐慌から復帰した写影が叫び、マサオを火事場の馬鹿力で担ぎ上げる。
この少女は話が通じない。逃げの一手を打つほかない。
全員が半壊した民家から飛び出す。
民家に入った時から、靴を履きっぱなしだったのが幸いした。
(どうすれば……また、映画館の時の様に私が皆さんを………!?)
逼迫した状況の中で、桃華は必死に考えを巡らせていた。
このまま闘っても勝ち目は殆ど無いだろう。
でも、相手に此方の居場所が分かる機械がある限り、隠れても無駄だ。
となると、後思いつくのは映画館の時の様にハリケーンを生み出し、飛んで逃げる事だが…
(ダメ、ですわ。あの時とは何もかも違う。フリーレンさんがいなければ…
それに、マサオさん……また映画館の時のような事になったら………)
映画館の時はその場にいた四人を飛ばし、現在の同行者も桃華を入れて四人。
人数だけならばあの時と同じだが、条件が違う。
あの時いた桃華、写影、マサオの重量は変わらない。
しかしハーマイオニーと赤ん坊ではハーマイオニーのほうがずっと体重が重いのだ。
それに、敵が桃華たちを侮り、無視してくれていたあの時とは違う。
リンリンは桃華たちを逃がすつもりは絶対にないよう注視していた。
そのプレッシャーの中、準備無しで飛翔すればまた弾きだされる者がでるかもしれない。
それに、リンリンからもし何らかの妨害を受ければ、全員の命が危ない。
(でも……今は沙都子さんもいない以上、もうこうするしか……!!)
桃華は、腹を括った。
リスクは大きいが、飛んで逃げるのに成功すれば、全滅は少なくとも避けられる。
どの道このままではジリ貧だ。賭けに出るほかなかった。
「皆さん、私の周りに集まってください!」
集合の指示と共に、桃華はリンリンの頭上に作り出した雨雲に加え、更に雷雲を作り出す。
これから逃走を行うにあたって、妨害されないようにするためだ。
写影たちも桃華の意図を察し、脱兎のように彼女のそばへと集合する。
映画館や、我愛羅に襲撃を受けた際の経験が生きた。
(どうか、ご無事でいてくださいまし!!)
殺してしまう事がないようスタンドパワーを調節し、リンリンが死なないように祈りつつ、
悪神を黙らせるべく、雷雲から雷を発射した。
「待て、逃げるなあああああ!!!!ッ!?ぎゃああああああッ!!!」
リンリンは敵が逃げようとしているのを察し、桃華たちに飛び掛かって来ようとする。
だが、それよりも早く雷雲から伸びた一条の雷霆は、誘導弾のようにリンリンへと着弾した。
先ほどまで無敵の耐久力を誇ったリンリンが、初めて痛痒を感じさせる叫び声を上げて膝をつく。
今だ。チャンスは今しかない。
「最大風速───」
-
作り出した時間を使って、再び最大風速のハリケーンを作り出す。
同じ手はもう二度と通用しないだろう。きっとこれが最初で最後のチャンス。
桃華たち四人を中心として、ハリケーンを発生させる。
いける。まだリンリンは電気ショックの痺れが抜けていないのか膝をついたままだ。
桃華は咄嗟に写影と、傍らのマサオの手を握った。ハーマイオニーも桃華の背中に抱き着く。
これで準備は整った。
全開のスタンドパワーによって生まれた暴風が四人の身体が、空へと押し上げる──!
「ッ!!ダメだ!!桃華ッッ!!!」
その時、先んじて動いたのは写影だった。
半ば体当たりするように、桃華へと身体をぶつける。
それによって集中が途切れ、作り出したハリケーンが霧散してしまった。
まだそれ程高度はなかったため、着地には問題なかったものの。
何をするのかという思いは、その場の写影を除いた全員が思わずにはいられなかった。
その真意は写影に尋ねるよりも早く、雷という形で示される。
ゴオオオオオンッ!!!
さっきリンリンに放ったものと同じ雷が、さっきまで桃華達がいた場所を貫いていた。
何故?ウェザー・リポートの操作を誤ったのか?桃華の脳裏が困惑で埋め尽くされる。
だが、状況は彼女の想像よりもなお悪く進行していたのだった。
「マザーのやってた手品がおれにも出来た…………」
『ママー!!』
未だ雷撃の痺れが抜けていないのか、膝をついたままのリンリン。
彼女の傍らに浮かび上がる、先ほど桃華が作った雷雲。
その雷雲に、ファンシーな表情が浮かんでいた。
とてもポップでファンシーな絵面だったが、桃華達にとって恐怖以外の何物でもなかった。
「きっとマザーも、お前らを許すなって、そう言ってるんだ………」
シャーロット・リンリンの未来である四皇ビッグ・マム。
彼女はソルソルの実という悪魔の実の能力者である。
六歳の誕生日の日より得たその能力は──自身や他者の魂を用い、無機物に命を吹き込む。
魂を与えられた無機物はホーミーズと言う名の生命体となり、マムの敵に裁きを下す。
マムは海軍や海賊たちからその能力により『天候を支配する女』として恐れられた。
リンリンはまだ羽化を迎えていない幼体、練度は四皇となった彼女に遠く及ばずとも。
既に、弱冠六歳にしてその才能を開花させていた。
彼女は桃華のウェザー・リポートが生み出した雨雲に無意識のうちに魂を吹き込み、制御を完全に奪っていたのだ。
「ゼウ〜〜〜ス!!!マサオを取り戻してから、そいつらをブッ殺せ〜〜〜!!!!」
『は〜い、ママ〜!!!』
今だ痺れの抜けない自身の代わりに。
魂を分けた雷雲に、始動の号令をかける。
それに伴いゼウスと命名された雷雲は笑顔を浮かべて、命令の遂行にかかった。
『どけ〜〜〜!!!』
バチバチと雲のボディにスパークを瞬かせ、ゼウスは雷撃を放った。
「みんな、右によけろッ!」
-
攻撃に合わせ、写影の指示が飛ぶ。まるで攻撃の軌道を予見しているかの様だった。
ハーマイオニーと桃華が、彼の指示に従い身を翻す。
だが、独りだけ歩幅の関係で遅れる者がいた。
「ひぃいい〜〜〜!!!」
マサオだ。マサオだけは、ゼウスの攻撃までに十分な距離を駆ける事ができなかった。
バリバリと空間を裂く音が、周囲に響き渡る。
飛びのいた写影達と、取り残されたマサオの間に境界線の様に雷が迸る。
「マサオさん!!」
「た、助けてぇ〜〜〜!!!」
桃華が手を伸ばすが、当然それが届くことは無い。
マサオは襟口をあんぐりと口を開けたゼウスに咥えられて、連れ去れていく。
『連れてきたよ、ママー!!』
「あ………ぁ…………」
連れ去られた先で、マサオは再び悪夢と対面した。
取り返した自分を嬉しそうに見つめる、人食いの怪物。
リンリンはにっこりと笑って、マサオを安心させようと口を開く。
「マサオ!怪我とかない!大丈夫!?」
その言葉を聞いた瞬間、マサオは気が遠くなりそうだった。
この子、まだ僕の親分のつもりでいる。
守るだとかなんだとか、それなら桃華さん達を襲うのを止めてくれればいいのだ。
そう言った内容の言葉を口にしようとして。
「あいつらは……絶対おれがぶっ殺してやるからな………!!!!」
「……ち、ちが……やめて………」
蚊の鳴くような声で否定して、リンリンの凶行を止めようとする。
違うんだ。あの時咄嗟に口に出ただけで。桃華さん達は関係ないんだ。
そう言おうとしたけど、言葉が出てこない。
「違う……何が違うのマサオ?
……………お前……おれにウソついた訳じゃないだろ……!?」
「………っ、ぁ………ち、違う、よ………その、話を聞いて………」
「じゃあ早く話せよ!エスターを殺したのは誰!!!」
「そ、そのぉ……それはぁ………」
築かれたちっぽけな勇気の砦は、悪神の一睨みで崩壊した。
ガチガチと歯の根がかみ合わず、まともに言葉を発する事ができない。
桃華達の助命を乞えるのは自分しかいない。それは分かっているのに。
真実を言ったら殺される。間違いなく殺される。それを確信してしまったが故に。
結局の所、佐藤マサオは今までと何も変わる事無く無力だった。
自分を許してくれた。助けを求めてもいいのだと言ってくれた写影達を助けたい。
それは偽らざる本心だ。
だが実際の行動としては、涙をとめどなく流しながら、話を引き延ばす事しかできない。
その間に、自分と写影をお助けしてくれる都合のいい誰かが来ることを祈りながら。
だがリンリンは見てわかるように苛立っていて、もう二、三分もすれば再び写影達に襲い掛かるだろう。
「エスターは……ぐすっ……えぐっ………」
想いなどでは、何も変える事はできない。
-
□ □ □
佐藤マサオと時を同じくして。
絶望と言う名の死病を、櫻井桃華は罹患しかけていた。
だって、もう。こんなのどうしようもない。
唯一の活路だったのだ、飛んで逃げるという方法は。
だがそれも、あの意志を持つ雷雲の出現によって封じられた。
飛んでいるところを雷で狙い撃ちされれば、間違いなく全滅だ。
もしくは、雲に乗ってあの少女は追いかけてくるかもしれない。
下手をすれば、逃走の為に作った暴風すら、彼女は支配下に置いてしまうかもしれない。
(…どうする。どうすれば。先ずはマサオさんを。いやそれより、あの雲の方を。
でも、今動いたらあの女の子も。フリーレンさんやガッシュさん。どうすれ、ば)
思考が纏まらない上に、悪い想像ばかりが膨らんでいく。
何をどうしようと不正解。袋小路の行き止まりに辿り着いた様な気がして。
彼女の精神の均衡(キャパシティ)は、既に限界を迎えつつあった。
傍らのハーマイオニーに視線を移して見れば、彼女も同じような状態だった。
聡明であるがゆえに、自分達が限りなく詰み(チェック)にハマっている事を理解してしまっている。
末期症状の諦観へと至るまで、もう数十秒も猶予はなかった。
そんな時だった。
「桃華、聞いて欲しい」
桃華の耳に写影の落ち着いた声が響く。
絶望的な状況の中で、なおも彼は冷静さを失っていなかった。
その事実に桃華も雑然としていた思考が沈静化し、瞳に光が灯る。
そして、縋るような視線を写影に向けた。
「これから僕が指示する通りに能力を動かして欲しい、できる?」
写影の顔色も、桃華に負けず劣らず劣悪な物だ。
だがその瞳はまだ諦めていない。
絶望的な状況の中で、悪足掻きに挑む意志を感じさせる瞳だった。
「ちょっと。私もいる事、忘れないで」
二人の背後で、ハーマイオニーが不服そうに声を上げる。
彼女もまた、写影の様子になけなしの勇気を取り戻したらしい。
そして、意を決したように尋ねてくる。何か、考えはあるのかと。
縋るような視線。しかし写影は静かに首を横に振った。
「…悪いけど、考えなんて言えるものじゃないよ。ただフリーレンが来てくれるまで……
或いは、マサオを助けて逃げ出すチャンスを見つけるまで凌ぎきる。それだけだ」
「簡単に言うけど、そんな事が可能なの?」
「それについては考えがあるけど……実際上手くいくかは、これから試すしかない
ただ────皆に迫る不幸は、全部、僕が視る!絶対に、見逃さない……!」
勝算など度外視。これはただの悪あがきなのだから。
だが、ここで足掻かなければ待っているのは死だけだ。
写影は納得させることを隅に追いやった物言いで、断言した。
その決然とした言葉にハーマイオニーも、桃華も覚悟を決める。
出来るかどうかではない。やるしかないのだ。全員が今一度腹を括った。
-
「……分かったわ。やりましょう。どうせやらなきゃ、ここで皆死んでしまうんだし」
ハーマイオニーの言葉は、気の強い普段の彼女を感じさせる声色だった。
杖を強く強く握りしめて、最後に残った戦意を結集させる。
逆に言えばこれでダメならもう、逆さに振っても何も出てこない。
絶対に、生きて父や母、ホグワーツで秘密の部屋の謎に挑んでいるであろうハリーやロンの元へ帰る。
彼女の胸にあるのは、それだけだった。
「マサオ……おれ、分かった………マサオはあいつらに脅されてるんだろ………?
子分のお前が……おれに嘘つくはずないもんなァ…………」
前方では、また話の数向きが悪い方向へと向かっていた。
マサオが時間を稼いでくれているが、あれではもう一分も猶予はないだろう。
桃華はそれを見て、静かに傍らの写影に語り掛けた。
「………写影さん」
顔は真っすぐ前方のリンリンの方を向いたまま。
お願いがあります、と。桃華は写影に願いを紡ぐ。
「あの時のように、手を、握っては下さいませんか」
その言葉に、浮ついた雰囲気は微塵もなかった。
彼女の願いを一言で形容するならば、それはきっと。
「……うん、分かった。それが桃華の頼みなら」
それはきっと、戒めだ。
ただのアイドルの少女が、命の賭かった戦場に立つには、その戒めこそが必要だった。
写影の手が、隣に立つ桃華の手を取る。
そこから感じる温もりは、桃華の内から恐れを遠ざける。
本当は、怖くて怖くて仕方ない。
例え守るためでも、誰かを傷つけたりしたくない。
出来る事なら、誰かに助けてもらいたい。
ただ助けてと言って、その場に蹲ってしまいたい。
(でも、私(わたくし)の手に伝わる温もりは────)
少女が、無力である事を許してはくれない。
「ウェザー・リポート………」
握った手は、とても暖かくて。
けれど、震えていた。美山写影もまた、限界ギリギリなのだと、桃華は悟った。
それでも、彼は自分を奮い立たせてくれた。この温もりを無くしたくない。
残酷な現実は、この温もりを失いたくないのなら戦えと、少女を駆り立ててくる。
そんな中で、桃華は強く祈った。
思い浮かぶのは、垣間見たウェザー・リポートに纏わる人々の記憶。
記憶のDISCではないため、見ることのできた記憶はごく限られた物だけれど。
それでも石の海(ストーン・オーシャン)から自由になるべく戦った、つよい人たちの姿は、桃華の脳裏に強く焼き付いていた。
「力を桃華に貸してください、皆さん」
それは誰に向けての言葉なのだろうと桃華は口に出してから考えた。
父や母、プロデューサーかもしれない。
第三芸能課の仲間かもしれないし、写影たちかもしれない。
或いは、ウェザー・リポートか、記憶で見た、彼の仲間たちなのかもしれない。
そこまで考えて多分、全員だろうと桃華は結論付けた。
無力な桃華は独りでは立つことすら危ういから、皆の力が必要だ。
夢を夢で終わらせないために。この悪夢に負けないように。
どうか。
私たちが、この冷たく閉ざされた石の海から自由になれるように。
-
□ □ □
「もういい!意気地なしで薄汚くて貧乏臭いマサオのもごもごした話は、おれ後で聞く!」
「ま、待ってよ……エスターは、だから………」
リンリンはこれ以上、マサオのじれったい態度に付き合う気は失せていた。
既に彼女の中では桃華達が犯人という図式が完成されていた。
エスターを殺したのは桃華と写影というガキ、そうでなくてはいけない。
それ以外の真実など、あってはいけない。
それなのに、マサオはもごもごと食い下がってくる。
これまでは親分として子分の話を聞いてやっていたが、もう業を煮やした。
もし他にエスターを殺した奴がいるなら、桃華達を殺してからゆっくりマサオに聞く。
だから、この期に及んでもまだ蚊の鳴くような声で何かを喋っているおにぎりは無視。
「ゼウス!あいつらみーんな殺せ〜〜〜!!!」
『は〜〜い、ママ〜!!』
再びゼウスを、エスターを殺した奴らに突撃させる。
自分がマザーと同じ手品で作った雷雲であれば、あんな人形には負けない。
だって、マザーの手品はいつも凄かったのだから。おれの手品だってきっと凄い!
無邪気な全能感に突き動かされるように、リンリンは生み出した雷雲がひとごろし達を全滅させるのを見届ける。
『逃がさないぞ〜〜〜!!!』
生み出したゼウスは、素早かった。
未来の女帝の魂を使い、雷雲として生まれたその速度は常人が及ぶ速度ではない。
少なくとも、美山写影にも、桜井桃華にも、ハーマイオニー・グレンジャーにも。
その場にいる少年少女全員がどうにかできる速さではなかった。
ゼウスは猛獣のような速度で迫りながら、同時に体内で雷を作り出す。
『黒こげになれ〜〜〜!!』
ゼウスの響きだけならば愛らしい声と共に、彼の身体から雷が放たれる。
どんなに姿が愛らしくともその雷を受ければ写影達は焦げたの肉片へと変わる。
雷は広範囲に拡散し、アスファルトや街路樹、看板などを容赦なく灼く。
少なくとも一人か二人は殺した。ゼウスはその事を確信する。
仮に先ほどの様に飛びのいて躱したとしても、追撃の雷で確実に仕留められる。
敵の足は遅いのだから。
ゼウスはほくそ笑みながら追撃のための電気を体内で作り出す。
そして、何体の肉片が出来上がったが確認しようとして──思考が空白に染まった。
一つたりとも、死体が無かったのだ。
『……っ!?上かあっ!!』
前後左右何処にも敵の姿はない。
となれば、後残るのは上だけだ。
上等だ、逃げ場も障害物も無い空中に飛び上がった所を灼いてやる。
元々自分はその為に生み出されたのだから。
一瞬の内にそこまで考えて、体内で新しい雷を用意しながら上を向く。
それとほとんど同時だった。
「スティーピファイ(麻痺せよ)!!」
「っ!?ぎゃああああああ!?」
-
少女の声と共に、赤い閃光がゼウスのボディに吸い込まれた。
ゼウスのボディは無形の雲である。その上、未来の四皇の魂によって生まれた存在だ。
故に物理攻撃は強力な“覇気”を纏った一撃でしか通用しない。
にも拘らず、ゼウスは少女の放った閃光によってダメージを受け、動けなくなる。
少女──ハーマイオニーの麻痺魔法は、例えホーミーズであっても逃れられなかったのだ。
(闇の魔術に対する防衛術の教科書……上の学年の分まで読んでて良かった!!)
本来、ハーマイオニーがこの魔法を本格的に多用するようになるのは三年後。
不死鳥の騎士団が結成されてからであるものの、学年一の秀才であり勉強熱心な彼女は既にこの呪文を知っていた。
この危機的状況に、殆どぶっつけ本番で唱えた呪文だが……見事に彼女は才覚を発揮したと言えるだろう。
この機を逃すべきではない。瞬時に彼女は傍らの桃華へとアイコンタクトを送る。
「ウェザーさん!!」
ゼウスが硬直した一瞬の隙を突いて、桃華が切り込む。
雷を回避する為に使用していた上昇気流のベクトルを操作し、推進力とする。
失意の庭によってウェザー・リポートの能力の理解度が向上していたのが幸いした。
指向性を得た風圧は、桃華達をゼウスの眼前へと疾風の様に運ぶ。
『な、殴ろうと蹴ろうと、ママから貰った雲の身体は……』
一息の内に距離を詰めてきた桃華達に、僅かに狼狽した様子を見せるゼウス。
だが、大丈夫だ。この雲のボディは物理的な干渉の一切を拒絶する。
だから、殴られようと蹴られようと、問題はない。
風で吹き飛ばされるとしても、即座に戻って雷をお見舞いしてやる。
だが、直後にゼウスは計算違いを思い知らされる事となった。
「曇って言うのは湿度が上空で冷えて固まったものだ。小学生でも知ってる。
なら───その中に乾燥した熱い空気を大量に送り込めばどうなると思う?」
ウェザー・リポートの拳が突き入れられ。
写影の冷淡なその言葉を聞いた瞬間、ゼウスは不吉な物を感じ取った。
『ま、待て───やめろ〜〜〜ッ!!!』
ゼウスの制止の声が聞き入れられる事は無かった。
桃華は下唇を噛んで、為すべきことをを成し遂げる。
こうしなければ手の中の温もりを守れない。
ゴオオオオオオオオッッッ!!!
熱風が、ゼウスの体内で爆発した。
彼の身体を構成する水分が、あっという間に気化していく。
リンリンに制御を奪われたが、元はウェザー・リポートによって生み出された雷雲だ。
メラメラの実が炎を焼き尽くすマグマグの実と上下関係があるように。
如何にリンリンの魂を得ていると言っても、こと天候その物を操るウェザー・リポートの能力の前には明確な上下関係が存在していた。
故に、ゼウスの命運は此処に決する。
『ぎゃあああああああああ〜〜ッ!!!』
「ゼ、ゼウス〜〜〜!?」
一陣の風が吹き荒れた後に、雷雲の姿は消失していた。
一撃で消え去ったゼウスに、あんぐりと口を開けてリンリンは驚愕を隠せない。
敬愛するマザーが行っていた奇跡の御業が、戦闘開始から数秒で消え去った。
その事実はリンリンを動揺させた。だが、すぐさま動揺は怒りへと変わる。
エスターだけじゃなくて、ゼウスまでこいつらは殺しやがった!!
-
「許さねェエエエエエエエ!!!!」
拳を振り上げて、リンリンは桃華に向かい突撃する。
マザーと同じ手品はダメだ。またやられてしまう恐れがある。
おれの手で、確実にこいつらを殺す!
憤怒と憎悪、使命感が入り混じった殺意を以て、敵手に迫る。
だが、桃華たちのもとへとたどり着くその前に、ゼウスを殺した人形(ウェザー・リポート)がリンリンの前へと立ち塞がる。
「桃華───左後ろに三歩。その後ジャンプだ」
だが、振り下ろされたリンリンの拳は空を切った。
その直後に踏みつぶそうと足を振るうが、人形は風圧で飛び上がった。
「風を出して、五歩後ろに!」
声に合わせて、ウェザー・リポートが暴風をリンリンにぶつける。
リンリンはその中で何とかウェザーリポートを捕まえようと藻掻くものの、彼女の五指は虚しく空を切った。
「ずるばっかり……してんじゃねぇええええええ!!!」
大型車両でも横転するであろう局地的なハリケーンの中、
それでもリンリンは膝を着くことなく前進する。
人が気象現象に逆らうことはまず不可能だ。
だが、リンリンは巨人族の戦士すら震え上がらせた“悪神”である。
強引に風の戒めを突き破り、桃華たちの元へと突撃した。
突破されると思っていなかったのか、邪魔な人形はまだ宙に浮いたままだ。
例え雷を落とされようと我慢して、このまま潰してやる。
殺意に突き動かされるままに、リンリンはその巨躯を砲弾に変える。
「────え?」
だが、その先には何もなかった。
桃華たちの元に達した瞬間、靄のように姿が空気に溶けて消える。
リンリンはまだ知らないその現象を蜃気楼といった。
ウェザー・リポートの能力で蜃気楼を作り出し、位置を誤認させたのだ。
例え彼女がこの瞬間、見聞色の覇気を発動させていたとしても。
情報を処理する脳が騙されていては何の意味も無かっただろう。
「ステューピファイ(麻痺せよ)!」
呪文が紡がれ、白光が空間を走る。
標的のロストを受けて、思考が空白化したリンリンに、それが避けられる筈もなかった。
麻痺呪文に貫かれ、電気ショックを受けたような痺れと痛みがリンリンを襲う。
「やめろォっ!」
痛みに膝を着きながらも、リンリンの戦意は衰えない。
咄嗟に地面を砕き、その瓦礫を握りしめる。
両手いっぱい握りしめたその砲弾に、ありったけの憎しみを乗せて撃ち放つ。
ちょこまかと躱されないよう、視界一面に拡散することを意識した投擲だった。
「前方四歩。それと風を」
-
だが、敵手はリンリンが瓦礫を握りしめた時すでに、行動に移っていた。
彼らに後退はなかった。ゆらりと前へと進み出て、突風を発生させる。
いかなウェザー・リポートの発生させた突風であっても、正面からリンリンが投げた投擲物に抗うのは難しい。
だが、逸らすことなら十分可能だ。
生み出された乱気流は、絶死の砲弾から生存可能領域を作り上げる。
(こいつら、もしかして────)
放送の前に眼帯の少年と戦った自分のように。
先の動きを読んでいるのか。リンリンはその可能性に行き着いた。
そうでなければ、あの早い男の子でもないのにここまで触れないのはおかしい。
彼女のその推理は正しかった。だが、僅かに遅い。
「今だ、桃華!」
少年の叫び声が、リンリンの耳朶を打つ。
それを聞いた時、不味いと思った。
即座に攻撃に備えて身構えるものの、眼前の桃華達は動かない。
彼らの前に立つ人形(ウェザー・リポート)も沈黙したままだ。
彼らの攻撃は、既に完了している。
「ッ!?ぎゃあああああああああああッ!!!!!」
轟音が、響く。
先ほどよりも遥かに上空。リンリンの巨体でも遠く届かない高さに。
そこに作った雷雲の雷が、リンリンを貫いていた。
(いでぇ………負ける………おれ、負けるのか…………)
皮膚の表面を黒く染めながら、リンリンがよろめく。
掠れた視界と意識の中で、過るのは敗北の二文字だった。
負ける?自分は負けるのか?
また守れないのか?エスターのように。
居なくなってしまうのか?羊の家のみんなのように。
マザーのように。
いやだ。
いやだ。
いやだ─────!!!
-
□ □ □
もしかしたら、フリーレンが到着するまで本当に何とかなるかもしれない。
その瞬間まで、美山写影はそう感じ始めていた。
写影も、桃華も、ハーマイオニーも、ここまで傷一つ負っていない。
まともなダメージは与えられてはいないが、それでもあの大きな少女と渡り合えている。
写影が開発により得た能力。人の不幸を予知し、映像として投影する能力。
それにより桃華達が損傷を負う未来を先読みして、回避していたのだった。
本来、彼の能力はもっと予知に時間も手間もかかり、予知した未来を変える事はできない。
その工程を一気に短縮し、また彼の能力に用いる演算の莫大な補助を行っているのが…
彼の頭部に装着されたヘッドギア、帝具『五視万能スペクテッド』であった。
能力者が外付けの機構で能力を大幅に向上させる例は、学園都市でも幾つか確認されている。
例えば木山春美という科学者が用い、史上初の多元能力者(マルチスキル)すら生み出した、
音楽プログラム、幻想御手(レベルアッパー)。
一時的に能力を暴走させ、限界以上の出力を引き出す能力体結晶。
暗部間で凄惨な争奪戦を引き起こし、学園都市第二位の能力使用を補助した超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター、通称ピンセット。
それらのアイテムと同じ作用を、帝具スペクテッドは写影にもたらしていた。
また、写影自身は知る由もないことだが。
彼にとって幸運だったのは彼の世界に存在する魔術とは別の異能として、帝具がその効果を発揮したことだろう。
そうでなければ、能力開発を受けている彼は血を噴き出して横たわっていてもおかしくなかった。
(フリーレンと別れた場所からはそう離れていない。
大きな音や風が吹いているのに気づいてくれれば、きっと駆けつけてくれるはず…)
問題は、それまでの自分の体力が持つかどうか。
写影の能力は消耗が大きい。
無茶な運用をすれば、赤血球が破壊され非常に危険な状態に陥る。
実際、戦闘開始からまだ五分も経過していないが、既に写影の息は上がり始めている。
スペクテッドの力で演算効果は大幅に向上しているが、消耗はむしろ更に激しい物だ。
頭の中がずきずきと痛む。経験から言えば、そろそろ鼻血が流れてもおかしくはない。
(持ち堪えるんだ………僕さえちゃんと役目を全うすれば、桃華達は助かる)
写影単独での能力使用と、スペクテッドを使用した際の能力には大きな差異が二つある。
一つは、カメラや特殊なペンライト等の媒体を用いない、単独での未来予知。
そしてもう一つ、スペクテッドを使用して垣間見た未来は改変可能なのだ。
写影単独の能力では予知した未来は“基本的に“変えられない。
しかしスペクテッドの力の恩恵か、使用中に見た不幸の未来は回避可能なのだ。
恐らく、現時点の彼がレベル判定を受ければ大能力者(レベル4)の判定を受けるだろう。
(どんなにこの子(リンリン)が強くても……僕が視る限り、誰にも不運は届かせない)
ごし、といよいよ垂れてきた鼻血を拭いながら、写影はリンリンを見据える。
彼女を通して、これから起こり得る不運(アンラック)を見通そうとする。
リンリンの拳や蹴り、瓦礫などで死者が出る未来を予知し、彼は対処を行ってきた。
ドロテアや映画館での一件を通して能力に対する理解度が向上していたのも彼にとっては追い風だっただろう。
(─────は?)
-
だが、しかし。
人間の抵抗など、神がその気になればあっさりと崩壊する。
それを、彼らは突き付けられることとなる。
(この、未来、は………)
写影が未来視により見た、すぐそこの未来。
三人全員が、吹き飛ばされている姿だった。
リンリンの拳によってではない。何か瓦礫を投げつけられた訳ではない。
それでもその一手で、写影達は壊滅していた。
何が、一体何が起きた?それを疑問に思うモノの、すぐさま分かる筈もない。
(い、やそれよりも、もっと重要なのは………)
そう、それよりも重要な事があった。
今しがた見た予知は、これまでスペクテッドの補助を受けて視た物とは違う。
直感的に確信する。この予知は、普段の写影が行使するものと同じ────
────■■■■■■■!!!!!!
その瞬間。
予知で見た未来が現実のものとなる。
時間にして一秒足らず。その振動は破滅の二文字を乗せて。
(そう、か予知で見た僕たちの姿は────!!!)
写影達に破滅の未来を届ける正体。
その正体は、音だった。
巨人族の戦士達すら悪神として恐れるシャーロット・リンリンの咆哮は。
音響兵器の如く、写影達の抵抗の一切を吹き飛ばした。
成程、攻撃の正体が音では、どれだけ未来を予見したところで意味はない。
恐るべきは、ただの絶叫を攻撃へと変えるリンリンの暴力的なまでの声量。
まだ未成熟な上に、ハンデにより覇王色の覇気を抑えられているにもかかわらず。
純粋な声という身体機能で子供三人を蹴散らす。
まさしく、神か悪魔の領域の業(わざ)に他ならなかった。
もしこの咆哮に覇気が込められていればそれだけで写影達は全滅していただろう。
「───!!───!!」
不意に全身を叩かれた衝撃により、桃華と共に吹き飛ばされる。
手をつないだまま、二人一緒に地面に倒れ伏す。
少し離れた位置には、ハーマイオニーも転がっていた。
幸いにして……否、不幸にも意識は失わなかった。
恐る恐る耳を確認すると、血は流れてはいない。鼓膜も破れてはいないだろう。
だが、聴覚はダメージを受けていた。桃華もきっと同じハズだ。
その事実は、未来を予知しても指示を出せなくなったことを意味する。
だが、それよりもなお最悪なのが────
「エスターの………仇………」
リンリンが、殺意を総身に漲らせてやって来るこの時に。
「う………ぁ………」
立ち上がることが、できない。
地面に手をついて立ち上がろうとするが、ぐらりと視界がねじ曲がる。
それに伴い、膝から力が抜けてどさりと倒れてしまう。
リンリンの咆哮により、三半規管に異常を来したのだ。
これでは、逃げることすら叶わない。
-
「ぁ……………」
ゆっくりと、神に逆らった愚者に絶望を突き付けるように。
シャーロット・リンリンは、数分の時間をかけて。
憎い憎い。仲間の仇。エスターを殺した人殺したちの前へと聳え立った。
「覚悟しろ………エスターを、よくも殺しやがって……!」
狂った論理を口にしながら、リンリンは狙いを定めるように腕を振り上げた。
その威容、その巨大さを見て、写影は意識を失えなかった自身の不幸に絶望する。
どうして自分は、何とかなるかも、何て思ってしまったのだろうか。
こんなの、小学生どころか園児だってわかることだ。
こんな大きな相手には、勝てないってことくらいは…………
「死ねェエエエエエエエエエエッッッ!!!!!!」
振り下ろされる神の裁きを前に。
スペクテッドの能力が作用したのか、それとも今際の際で能力のタガが外れたのか。
それは定かではないが、写影の瞳に新たな不幸の未来が投影される。
引き切れた体で横たわる、自分と桃華の姿。
それは、スペクテッドの能力ではなく、写影本人が予知した未来だと悟った。
間違いなく確定した、決して覆るこのない未来だ。
それを見た瞬間写影は、全てを諦めたように瞼を閉じた。
-
□ □ □
やめて。
やめてよ。
お願いだから。
僕は、何度もリンリンって子に頼んだ。
あの子が、写影さん達に襲い掛かった時からずっと。
でも、それがリンリンの耳に届くことは無かった。
あの怪物は、写影さんたちを殺すことしか頭にないみたいだった。
僕のせいだ。僕のせいなのに。
僕は今も見ているだけしかできない。
僕は、役立たずだ。
────マサオ君。
そんな僕の頭の中に、しんちゃんの顔が浮かんだ。
しんちゃんだったら、どうするだろう。
みんなのヒーロー。僕のお友達なら。
アンカーになりたくないって、蹲っていた僕の手を取ってくれたしんちゃんなら。
しんちゃんなら、多分………きっとこうするハズだ。
そう思って、何とかしなきゃってランドセルの中を漁って取り出した手の中のカードを見る。
頭の中の裏切りおにぎりが、必死に僕を止める。
赤ちゃんや
おかしいことをしてるぞって、それをやったら取り返しがつかないぞって。
何とか僕を生かそうと、僕はしんちゃんじゃないだからと、そういい続ける。
でも、僕は。
────マサオ、君は悪くない。君は助けてって、言っていいんだ。
これ以上僕を嫌いになりたくなかった。
しんちゃんが放送で呼ばれてからずっと暗い場所にいた僕を。
もう一度、明るい場所に連れ出してくれた人たち。
怖がりで、情けなくて、何もできない僕の弱さを許して寄り添ってくれた人たち。
写影さんや桃華さんがいなくなったら、もうきっとそんな人たちには出会えないだろう。
その人たちに、死んでほしくない。だから。
どうかしんちゃん、君の勇気を、少しだけ僕にください。
僕は手の中の二枚のカードを、強く強く握りしめて、そして掲げた。
涙は止まらない。お股が湿って気持ち悪い。
この島に来て始めて、誰かの為になる事をするのに。
あぁ、やっぱり僕はしんちゃんみたいに格好よくはなれないんだなぁ。
しんちゃんなら、きっと全部が上手くいく方法が思いついたんだろうなぁ。
僕はやっぱり、しんちゃんとは違うし、しんちゃんにはなれない。だけど。
「最後くらい、しんちゃんみたいになりたかったんだ………」
────うん、マサオ君にしては頑張ったと思うゾ。
その時、しんちゃんの声が聞こえた気がした。
まったく、最後までマサオ君にしてはって………もう、本当に。
「ひどいよ、しんちゃん………」
でも、ありがとう。
【佐藤マサオ@クレヨンしんちゃん 死亡】
-
□ □ □
命を刈り取る衝撃は、やって来なかった。
まず最初に、微かにぱぁんと柘榴が弾ける様な音がして。
その後に香ったのは、鉄さびの匂い。
むせ返るような、血の匂いだった。
───ア、
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!
その後に響き渡る、再び大気を震わせる咆哮。
そのショックで期せずして写影は意識を覚醒させる。
朧げな意識。聴覚と三半規管は未だ不調を訴えてくる。
その不快感によって自分がまだ生きているのだと認識し、周囲を確認する。
結果、彼は何処までも無慈悲かつ残酷な“現実”に直面する事となった。
「マ………サ………オ………?」
写影には当初、何が起きたのか分からなかった。
ただ、桃華の手を繋いだまま、リンリンに拳を振り下ろされた態勢で座り込んでいた。
だが、目の前にリンリンはいない。
いつの間にか、二十メートル程前方に、彼女は移動していた。
そして、リンリンの足元には。
頭部を潰された、誰かの死体があった。
背格好や来ていた衣服。そして潰された顔にわずかに残った生前の面影。
それは紛れもなく。
「───な、んで……」
佐藤マサオが死んでいた。
美山写影と櫻井桃華の代わりに、死んでいた。
呆然とした思考の中では、現状をそう形容する他なかった。
でも、何故?
確かに自分の能力が指し示したのは、自分と桃華の死だった筈だ。
それが、何故書き換わった?
これまで自分が能力を使った時、直近の不幸は予知した順番通りに発生していた筈だ。
マサオが死んでしまうとしても、写影達が先になる筈なのに。
それなのに、どうして。
「何で、何で、何で、なんでぇ゛ッ!?何でだッッッ!!!!!」
マサオが何をしたのかは分からない。
でも、直感的に聡明な写影は悟ってしまった。
自分と桃華は、マサオに庇われたのだと。
その結果が、今の状況だ。
涙を浮かべながら自分に礼を言っていた少年は、血だまりの中に沈んでいる。
助かって欲しかった少年は。助け合いたかった少年は。たった今肉塊に変わってしまった。
「────!────!!─────!!!」
だが、状況は写影の事など置き去りにして容赦なく深刻化していく。
ばしっと右頬に衝撃が走ったのが、その合図だった。
衝撃が来た方向に顔を向けてみれば、涙を流しながら桃華が何かを必死に訴えている。
彼女の視線の先には人の形をした怪物が一体と、仲間の女の子が一人。
ハーマイオニー・グレンジャーに、荒神の狂った正義が執行されようとしていた。
それを目にした瞬間、少年は嫌でも思い知らされる。
悪夢は今も続いている、終わってなどいない。
-
中編の投下を終了します
後編の投下も可能な限り年内に
-
>>817ですが、文中に抜けがあったので此方に修正します。
□ □ □
やめて。
やめてよ。
お願いだから。
僕は、何度もリンリンって子に頼んだ。
あの子が、写影さん達に襲い掛かった時からずっと。
でも、それがリンリンの耳に届くことは無かった。
あの怪物は、写影さんたちを殺すことしか頭にないみたいだった。
僕のせいだ。僕のせいなのに。
僕は今も見ているだけしかできない。
僕は、役立たずだ。
────マサオ君。
そんな僕の頭の中に、しんちゃんの顔が浮かんだ。
しんちゃんだったら、どうするだろう。
みんなのヒーロー。僕のお友達なら。
アンカーになりたくないって、蹲っていた僕の手を取ってくれたしんちゃんなら。
しんちゃんなら、多分………きっとこうするハズだ。
そう思って、何とかしなきゃってランドセルの中を漁って取り出した手の中のカードを見る。
頭の中の裏切りおにぎりが、必死に僕を止める。
赤ちゃんや、エスターも一緒になって止めていた。
おかしいことをしてるぞって、それをやったら取り返しがつかないぞって。
何とか僕を生かそうと、僕はしんちゃんじゃないだからと、そういい続ける。
でも、僕は。
────マサオ、君は悪くない。君は助けてって、言っていいんだ。
これ以上僕を嫌いになりたくなかった。
しんちゃんが放送で呼ばれてからずっと暗い場所にいた僕を。
もう一度、明るい場所に連れ出してくれた人たち。
怖がりで、情けなくて、何もできない僕の弱さを許して寄り添ってくれた人たち。
写影さんや桃華さんがいなくなったら、もうきっとそんな人たちには出会えないだろう。
その人たちに、死んでほしくない。だから。
どうかしんちゃん、君の勇気を、少しだけ僕にください。
僕は手の中の二枚のカードを、強く強く握りしめて、そして掲げた。
涙は止まらない。お股が湿って気持ち悪い。
この島に来て始めて、誰かの為になる事をするのに。
あぁ、やっぱり僕はしんちゃんみたいに格好よくはなれないんだなぁ。
しんちゃんなら、きっと全部が上手くいく方法が思いついたんだろうなぁ。
僕はやっぱり、しんちゃんとは違うし、しんちゃんにはなれない。だけど。
「最後くらい、しんちゃんみたいになりたかったんだ………」
────うん、マサオ君にしては頑張ったと思うゾ。
その時、しんちゃんの声が聞こえた気がした。
まったく、最後までマサオ君にしてはって………もう、本当に。
「ひどいよ、しんちゃん………」
でも、ありがとう。
【佐藤マサオ@クレヨンしんちゃん 死亡】
-
引き続き、後編を投下します
-
□ □ □
今は亡き佐藤マサオの遺体には、二枚のカードが握られていた。
一枚目は、彼の罪の象徴であるモンスター・リプレイスのカード。
この場にいる全員が知る由もないことであるが。
彼はこのカードを使って、写影達と自らの位置を入れ替えたのだ。
だが、モンスター・リプレイスのカードは前に使用した時からまだ三時間も経過していない。
通常であれば、再使用可能になるまでまだまだインターバルが必要なはずだった。
その無理を通したのが、彼が握るもう一枚のカード…城之内克也の墓荒らしのカードだった。
このカードは使用済みとなったカードのリサイクル効果を持つ。
墓荒らしの効果をモンスター・リプレイスに使用し、即時再使用可能な状態に戻したのだ。
そして、彼は再使用可能となったエクスチェンジの効果を使用した。
自身にとってそれがどんな結果を招くか、知った上で。
それでも、写影達には生きていてほしかったから。
だから彼は自分を生かすためではなく、誰かを生かすためにカードを切った。
写影が予知した不運を書き換わったのも、このマサオの行動に起因する。
帝具の補助なしの写影単体によって予知された未来は、三次元的な干渉では改変できない。
分かりやすく言い換えれば、通常では何を如何しようと発生する不幸は回避できない。
だが、何事にも例外がある。美山写影の能力にも抜け道があった。
それが十三次元を介して人や物体に干渉する空間転移(テレポート)能力だ。
だからこそ彼はこの島に招かれる以前、風紀委員(ジャッジメント)である白井黒子を頼り、多くの人を不幸から救った。
マサオが今しがた行った行動も、白井黒子の空間転移(テレポート)と同じ物だった。
それ故に、彼は不可避の未来を、写影と桃華の死という不運(アンラック)を書き換える事が可能だったのだ。
まぁ、尤も。
それが遺された者たちにとって救いとなるかは、別問題だけれど。
-
□ □ □
何が起きたのか、おれには分からなかった。
やっとエスターの仇を取ってやれる。そう思って手を振り下ろしたのに。
手を上げたら、エスターを殺した奴らじゃなくて。
何故か、マサオが潰れていた。何で?どうして?
おれは、親分として、子分のエスターの仇を取ってやりたかっただけなのに。
なんで、マサオが潰れてるの?
エスターだけじゃなくて、マサオまで。
おれを置いていなくなっちゃった。
何で?どうしてだよ。
おれは、みんなにいなくなって欲しくないから頑張ったのに。
必死で戦ったのに。なんで誰も彼もいなくなっちゃうんだよ。
マザーも、羊の家のみんなも、エスターも、しんのすけも、マサオも!
どうしても、分からなかった。何でだよ。何で。何で。何で。なんで───
「───ア、
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」
分からないから、吼えた。
吼えてから、すぐ目の前にもうひとりのひとごろしが倒れているのに気づく。
茶色の長い髪に、黒いローブを羽織った、エスターを殺したひとごろしの仲間。
マサオの話には出てこなかったけど、こいつもエスターを殺したに違いない。
そうだ、そうに決まってる。だから、殺さなくちゃ。
こいつらがいるから、おれの仲間はみんな死んじゃうんだ。
許さない。絶対に許せない。こいつらのせいで、エスターやマサオは死んだんだ。
だから殺す。おれからおれの仲間を奪うやつは、一人でも生かしておかない。
もう、おれの傍にいてくれる子は誰もいないのに。
このひとごろし達だけ仲間がいるなんて、ずるい。
そんなの、ずるい。許せない。
ずんずんと、おれを怖がっている茶髪のひとごろしの前に歩いていく。
十歩もせずたどり着いた。
茶髪の女が杖を向けて、何かを叫ぶ。すると、持っている杖が光った。
それに当たるとゼウスがやられたみたいに、強くたたかれたみたいに体が痛んだ。
多分このひとごろしは魔法使いだったんだろう。初めて見た。
でも、下がらない。マサオやエスターはきっともっと痛かったから。
魔法使いだろうと、敗けてやらない。
我慢して我慢して我慢して──体がどれだけ痛くても、後ろに下がることだけはしない。
杖が光るたびに体が痛くなるけど、おれは嬉しかった。
だっておれに痛いことしたということは、やっぱりこいつは悪い奴なんだ。
殺したっていい奴なんだ。それが分かって、嬉しかった。
おれは間違ってないんだ。
ぶぅん、
ボグッ、
ぐちゃっ
うれしくてうれしくてうれしくて───ひとごろしをたたきつぶすそのとき。
にくをたたきつぶしたときのおれは、きっとわらっていた。
-
□ □ □
ハーマイオニー・グレンジャーがどれだけ魔法を放っても。
シャーロット・リンリンは耐え抜いた。
彼女は幼いながら聡明で、勇敢な魔法使いだった。
正に、勇猛さで知られるグリフィンドールの模範生の様な少女だった。
不運にも一人で立っていられるだけの精神的な強さが、彼女にはあった。
本当は、彼女も怖くて、写影か桃華の手を握りたかったけれど。
桃華のサポートとして状況に応じて魔法を放たなければならないと考えた理性と。
不意にロン・ウィーズリーの顔が浮かんだ感傷。
その二つが彼女に手を繋ぐという選択肢を奪い去った。だから、
手を繋いでいたため座標が同じで、マサオが発動したカードの恩恵を受けられた二人と違い。
彼女は、荒ぶる神の前に一人取り残される結果と相成った。
彼女は聡明な少女だ。
だから、思いつく呪文を手当たり次第に唱えて。
そのどれもが、悪神の前には無意味であることを突き付けられた時。
自身の命運が尽きたことを悟った。
もう、父や母の元へは帰れない。
もう、ホグワーツには帰れない。
主席となり、噂で伝え聞く逆転時計で全教科の授業を受けたり。
ホグワーツを含めた三校で行われる魔法対校戦を見ることもできない。
ハリーが出るクディッチの試合をロンと応援したり、寮の皆と旅行に行ったり。
そんな、過ごしてみたかった青春も。
マグル生まれからひとかどの魔法使いになるという目標も。
全てがここで終わるのだ。
「二人とも………」
死が目前に迫った中で視界の端に移る、この島に来てから出会った仲間。
目前に聳え立つ死神を隔てた、彼女にとって永遠とも言うべき距離の先にいる二人。
その二人に向けて、口を開く。
彼女の理性が、それをいうのはダメだと制止をかける。
桃華達は、優しい子だ。マサオのことでもずっとずっと苦しんでいた。
その彼女たちにとって、今から自分が言う言葉は彼女達を苦しめる呪詛となる。
だから、言うべきではない。今自分が言うべきなのは、この一言だ。
逃げて。
そう言うべきなのだ。
だがその時、彼女の聡明な頭脳はある事に思い至る。
今、自分はよく音が聞こえない。きっと、写影達も同じだろう。
だったらこれから自分が何を言っても、彼らには聞こえない。それに気づいた。
だから、ハーマイオニー・グレンジャーは泣き笑いの表情を作って、言葉を紡ぐ。
彼女は最後まで理性の人だった。
────■■て。
彼女が、最後に何と言ったのかは写影達には聞こえなかった。
リンリンも聞いていなかった。
だから、彼女が最後に何の言葉を発したかは彼女自身しか分からないだろう。
…そして、
ぶぅん、
ボグッ、
ぐちゃっ。
一つの命が終わりを迎える調べが響いた。
【ハーマイオニー・グレンジャー@ハリーポッターシリーズ 死亡】
-
□ □ □
────僕、英雄(ヒーロー)に憧れてるんだ。
あの時美山写影は確かにそう言った。
それなのに、なぜこんな事になっている。
マサオと、ハーマイオニーが立て続けに死んだ。
それなのに、自分には何もできなかった。
いや、何かしていたところで、自分の力ではきっと無意味だっただろう。
それでも何かできたはずなのに。
こうして自分は立ち上がることもできず、地面に蹲っている。
「………何が……何がヒーローだ……ッ!!」
がりがりと頭を掻きながら、項垂れる。
もう、立ち上がることすらできなかった。
一時的に狂った聴覚や三半規管は回復の兆しを見せていたけれど。
それでも立ち上がって逃げるなんて無理だ。
いや、可能だとしてももう、やりたくなかった。
とにかく、酷く疲れていた。
もう、立ち上がりたくなかった。それが今の彼の結論だった。
「写影、さん………」
そんな写影の傍らで。
桜井桃華も力のない声で、少年の名を呼んだ。
彼女にとっても、もう立ち上がって欲しいとは、一緒に逃げようとは言えなかった。
彼女の精神状態も、写影と同じ。
絶望という名の死病の、末期症状に罹患していたからだ。
だから彼女は、繋いだ方とは逆の手で、そっと項垂れる写影の体を抱き寄せた。
寄り添うように、彼の頑張りを労う様に。
「……大丈夫」
その言葉が聞こえていないのか。それとも聞こえていても返事を返す気力が無いのか。
返事は帰ってこなかったけれど。
それでも、桃華はぎゅっと写影の体を抱きしめた。
最後の瞬間まで、共に在れるように。
ずしんずしんと地響きとともに迫りくる暴君も、もうどうでも良かった。
何故彼女がこんな凶行に及んだのかは分からないけれど、今更それを問いかけた所で。
もう佐藤マサオが死んだ時点で、行きつく所まで行くしかない。その確信があった。
「一緒ですから」
殉教者の表情で、少女はそう伝えた。
アイドルとして、多くの人に自分の愛を届けるのが目標だった。
その目標は最早叶うことは無い。
だからせめて、傍らの少年が孤独に逝く事が無いように寄り添って、
この地に同じく呼ばれている友人であり、仲間である的場理沙。
彼女が生きてこの地を去れる様に願う事だけが、今の彼女に可能な最後の行いだった。
「エスターの仇……やっと…………!!!」
-
そんな二人の前に、仁王立ちで聳える影が一つ。
リンリンは涙で腫らした瞼で、遂に追い詰めたひとごろし達を睨んでいた。
エスターを殺しやがった癖に、一丁前に仲間の死に悲しんでいるのか。
そんな、仲間の死を悲しめる心があるのなら。
どうして、どうして…その優しさをエスターに分けてやらなかったんだ……!
挙句の果てに、当てつけの様に寄り添って、仲がいい所を見せつけて。
もうおれの傍には、誰もいないのに。
仲良しができても、何かあるごとにいなくなってしまうのに。
それなのに、どうしてひとごろしのお前等が温もりを得ているのか。
そんな、狂った……否、壊れた衝動に従って。
生まれながらの破壊者は、目の前の“絆”を粉砕するべく拳を振り上げる。
標的は抵抗する素振りを見せない。ただの一発で、全てを終わらせよう。
そして、こいつらを殺した後は、また新しい仲間を作って。今度こそ守り抜くんだ。
いや……仲間じゃなくて家族がいい。家族は裏切らない。勝手に何処かにもいかない。
何処かに行く奴は家族じゃない。そんな裏切者は殺してやる。
そんな纏まりのないドス黒い感情が脳と胸の中に渦巻き、ただ破壊の衝動に従って。
悪神は、神に歯向かった愚者に向けて鉄槌を振り下ろした。
悪夢が終わりを告げたのは、その直後の事だった。
□ □ □
まず感じたのは焼けた鉄を押し当てられた様な熱だった。
それに続いて、猛烈な痛みがリンリンの振り上げた腕を襲った。
「は………?」
素っ頓狂な声を上げる。
それも当然だ、だって六歳の少女が。
突然利き腕を吹っ飛ばされれば、何が起きたか直ぐに理解するのは難しいだろう。
「お、おれの腕がああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?!?!?!?」
ぶしゅうううううッ!と噴水のような勢いで。
手首から先を喪失したリンリンの腕から鮮血が噴き出る。
こんな痛み、彼女はこれまでの短い人生で感じた事が無かった。
彼女の肉体は、生まれた時から強靭だったのだから。
熊だろうと一撃で殺す膂力、鉄の風船と称される不落の肉体。
その彼女を傷つけられる者など、ただ一人として存在しなかった。
痛みに涙と嗚咽を漏らしながら、この不条理が起きた原因を探る。
「フリーレンさん………」
その原因は、足元のひとごろしの少女の言葉で漸く掴むことができた。
彼女がリンリンの後ろに向けている視線に導かれる様に、振り向く。
すると、今立っている場所から五十メートル程先に、一人の少女が立っていた。
白銀の髪を二つに纏め、氷の様な美貌を備えた、尖った耳の少女が、杖を向けて立っていた。
「お前か………!」
また、このひとごろし共の仲間か。
断定と共に、リンリンは見る者を凍りつかせる殺気を放ちながら、少女を睨む。
どうしてだ。どうしてこの人殺し達ばかり仲間がいる。
おれに仲間は出来た端からいなくなってしまうのに………!
仲間だけじゃなくて、手までおれから奪うのか!
-
「よぐもおれの手をオォオオォオオオォオオオオ!!!!」
鬼女の形相で、リンリンは疾走を開始する。
奪った手の代償は、命で支払ってもらう。
血がドボドボと流れていくのも激昂している彼女は意に介さない。
彼女は未来の四皇だ。だから手を失った程度では止まらない。止められない。
それを見た魔法使いの少女は、冷淡な顔で、新たな魔法を放った。
「もう、当たらねぇ………!」
ぼそりと呪詛の様に呟いて。
リンリンは迫る白き光の動きを先読みし、ひらりと躱す。
既に見聞色の覇気を習得しつつある才覚。
シャーロット・リンリンはどこまでも天才であり、天災だった。
彼我の距離が二十メートルを切った。
いける。リンリンは勝利の匂いを敏感に嗅ぎ付けた。
また魔法が飛んできても、絶対に躱す。
そして、次の魔法を躱せばそれで自身から右手を奪ったこの女を叩き潰せる。
さぁ、来るなら来い。その魔法を撃った時がお前の最期だ。
血走った眼を見開き、最後の十五メートルの距離を詰めにかかる。
「がああああああ!!!」
巨大な掌を広げ、未来で四皇と恐れられる少女は、これまでと同じく暴虐を振るわんとした。
死んでしまえと、殺意と暴威を叩きつけるべく突き進む。
だが、しかし。常人なら失神してもおかしくない殺気を向けられながら。
今回の彼女の相手は、全く動じなかった。
淡々と、鈴の音の様な声を響かせて、彼女はリンリンにとっての不条理を紡ぐ。
「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」
声と共に、少女の杖の先から光線が発射される。
だが、見聞色の覇気のお陰でその軌道は見えている。躱すのは難しくない。
突撃の最中、太った身体から想像もつかぬ俊敏さで半身となり光線を躱す。
勝った。これで───
「おれの勝ちだ………!」
そう呟くのとほぼ同時に。
彼女の左ひざから下の感覚が消え去った。
-
□ □ □
できることなら、手を吹き飛ばした段階で退いて欲しかった。
駆けつけた時には既に、二つの遺体が横たわっていて。
次に目に入るのは追い詰められた写影と桃華の姿。
即座に判断が求められる状況である事を、フリーレンは瞬時に認識した。
だから彼女は、躊躇なく呪文を唱え、巨人の少女の手を吹き飛ばした。
その痛みで敵が臆し、追い払える事がフリーレンにとっての理想だった。
「よぐもおれの手をオォオオォオオオォオオオオ!!!!」
何故なら巨人の少女は、手加減をして、殺さない様に立ち回るには強すぎる。
写影達は愚か、下手をすれば自分でも命を落としかねない相手である。
そうフリーレンは激高しつつ迫る巨人の少女を評価していた。
非殺傷の一般攻撃魔法では止めるのは不可能。少女の肌が堅牢すぎるためだ。
恐らくは、膂力も相当なものだろう。先読みの能力も非常に高い。
一瞥した瞬間、フリーレンの知る最強の戦士アイゼンを想起した。
殺意を漲らせたアイゼンを非殺傷の一般攻撃魔法でどうにかするなど、フリーレンにとっては悪い冗談としか言えなかった。
必然的に、残る選択肢は一つしかない。
迷いはあった。
少女は魔族ではない。魔族であれば当然感じる筈の魔力が感じられなかった。
それとは別の異質な力を感じたが……どちらにせよ魔族では無いだろう。
できることなら、殺したくはなかった。
だが、既に此方には犠牲者が出ていて、相手は心の機微に疎いフリーレンでも対話は不可能だと分かる状態だった。
「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」
だから彼女は、少女の膝を狙った。
機動力を奪えば、流石に戦闘の続行は不可能だと、そう判断した。
人を殺す魔法(ゾルトラーク)。彼女の世界で考案された史上初の貫通魔法。
人体や物質の耐久値を無視し、命中した個所を消し飛ばすその魔法は。
人外の堅牢さを備えた、巨人の少女の肉体に対しても例外では無かった。
後は、躱したと思い込んでいるゾルトラークの軌道を操作し、少女に命中させる。
それはフリーレンにとっては、非常に簡単なミッションで。
事実彼女は全て命中まで思惑通りの結果を引き出した。
これで止まってくれ。もう一度心中で祈るように呟いた。
だがそんな彼女の思いは、残酷な形で裏切られる事となる。
「……ぎ、ィ……ッ!?……っ!!まだだぁああああっ!!」
フリーレンは、彼女にしては非常に珍しいことに、目の前の少女の怪物性を見誤っていた。
魔族でもない人間が、手だけでなく足まで失ってなお止まらない事があろうとは。
執念。その二文字が、フリーレンを追い詰める。
最早、時間は無かった。今この瞬間に決断せねば、自分は死ぬ。
そして自分死ねば、写影達も後を追う事となるだろう。
だから、だから彼女は、少女の完全な沈黙を遂行する事を決めた。
ほんの一瞬、コンマ数秒の時間。祈るように瞼を閉じ、フリーレンは決断を下した。
「───人を殺す魔法(ゾルトラーク)」
人間が、杖を構えたフリーレンに向けて正面から突撃する。
それは、常人が戦車砲の前に突撃するのとほぼ同義だった。
老練されたビッグ・マムであれば、その危険性に気づいただろう。
ホーミーズによる攻撃か、威国など強力な覇気の攻撃で挑んだだろう。
そうなればフリーレンは更なる苦戦か、敗北すらありえた。
だが、それは子供の時代に呼ばれた彼女にとって何の意味も無い話。
あり得ぬIFの話でしかない。
故に、この瞬間。二つの伝説が交錯し、そして、
-
「くそぉ………!」
伝説は、二つも不要(い)らない。
そう告げるかのように。
ガオンッ!
非常に硬い何かが削れる音と共に。あっさりと。
シャーロット・リンリンの心臓を、無慈悲に人を殺す魔法が穿った。
一撃、一瞬で勝負は決まった。
例え彼女の肉体性能が人類と言う枠組みの頂点に立とうとも。
人類を殺す為に創り上げられた魔法の前に、その防御力は意味を成さなかった。
暴虐を振るってきた神が、積み重ねられてきた叡智によって、その座を引きずり降ろされる。
「ちぐ、しょ………エス……マサ…………」
どうっ!と音を立てて、巨体が大地に倒れ伏せる。
その音色が、惨劇の終わりを告げるカーテンコール。
一つの伝説の終わり。
巨人族から悪神と畏れられ、ひとつなぎの大秘宝を巡る海を荒らしまわった大海賊は。
その未来に至る前に、伝説の魔法使いに討たれた。
まるで御伽の話の様な文句と共に、物語は一つの結びを迎えた。
□ □ □
───間に合わなかった
ここまで立て続けに状況が悪化する事は、フリーレンにとっても想定外の事態だった。
だが、今更悔やんだところで、死者は生き返らない。
自分を信じていたハーマイオニー・グレンジャーは帰ってこない。
写影達が言っていた、佐藤マサオもだ。
「いえ……っ………ぅ……フリー……レン……っ……さん、は…………悪く……
よく………来て、下さい…………まし、た…………ありが、とう……ございます………」
全てが終わった後、フリーレンが短い、業務連絡染みた謝罪の言葉を述べると。
嗚咽を漏らしながら、桃華はそれでもフリーレンに感謝の言葉を述べた。
写影も言葉こそ出さなかったものの、無言でその言葉に頷いていた。
本当に聡明な子供達だとフリーレンは感じた。
今しがた本当に辛くて、多分一生残る恐怖を味わったのに。
フリーレンに怒りをぶつけても何ら不思議ではない立場で、必死に感情を抑え込んで。
「……そう」
フリーレンは人間の心の機微に疎い。少なくとも彼女自身はそう思っている。
事実今も、救いきれなかった自分に対し感謝の言葉を述べる彼女達に向ける感情は少ない。
フェルンやシュタルクよりも小さい年齢で立派だとか。
当たり散らして当然の立場で、それでも不条理に対する怒りを抑え込めてしまう。
子供らしい感情を捨てないといけないと考えている様子の彼らが哀れだとか。
そう言う事を考えたりはしない。だから、彼女はただ目の前の事実だけを咀嚼して。
「でも………すまなかった。怖くて、辛い思いをさせたね」
そう、謝罪の言葉を二人に告げたのだった。
人は死ぬもの。自分より早く先立って当然の種族。そこに感慨はない。
昔の自分であれば、こんな事は言わなかっただろうなと考えながら。
フリーレンは真っすぐに二人の目を見て、守れたかもしれない犠牲を悼んだ。
-
「ぐ…………」
そんな時だった。
フリーレン達三人の背後で、桃色の小山が動いた。
倒れたはずの、死んだはずの、朽ちていくだけのはずの小山が、鳴動した。
シャーロット・リンリンが、息を吹き返したのだ。
「ひっ……」
桃華が怯えた声を上げて、後ろに後ずさる。
写影も、顔を強張らせて、桃華を庇う様に進み出る。
心臓を吹き飛ばされたのに、まだ生きているのか。
そう信じるほど二人にとってのリンリンは、怪物を超えた怪物だった。
「………大丈夫」
そんな二人を安心させようとしたのか、それともただの現状確認か。
フリーレンは、短く心配しなくていいという旨の言葉を吐いた。
事実、リンリンは今も動いているが、本当に動けているだけだ。
片手片足を失った肉体では、立ち上がる事すらできない。
ただもぞもぞと地を這いながら、惨めに蠢くのみ。
「もう、永くない」
冷たい声で、フリーレンは断言した。
ここからの復活はありえない。彼女は致命傷を負っている。
もう、暴れる事もできない。即死ではないだけで、このまま死に行くだけだ。
万が一動けたとしても、今の彼女にフリーレンの防御を打ち破る事は出来ない。
だが念のため近寄らない様に言おうとすると、それよりも早く写影が前に進み出た。
「…………」
当然だ、当然の報いだ。
もぞもぞと地面を這いずるリンリンを見て写影はそう思った。
訳の分からない理由で自分達に襲い掛かって、マサオとハーマイオニーを殺して。
その罪と比べれば、あっさりと死ねるだけ神は有情だと思う。
やりたい放題やった災厄の最期に、そんな言葉を送り付けてやろう。
歩みだした時は、確かにそのつもりだった。
「独りは………いや、だ………マザー…………」
その筈だったのに。
地面を這いずり、誰かに救いを求める怪物の姿。
もう、その瞳は写影達を映していない。ここでは無い何処かにいた誰かを映している。
その誰かに助けを求めている。
さっきまで怪物そのものだった少女は、何だかさっきよりも、とてもとても小さく見えた。
倒れていてなお、自分よりずっと大きな体であるにも関わらず。
涙と血の水たまりで溺れ、藻掻くその姿はまるで年相応の子供の様だった。
怪物のくせに。
マサオと、ハーマイオニーを殺したくせに。
哀れみと、怒りがない交ぜになった表情で、写影は悪神の少女を見つめて。
それを見て、彼の真意を測りかねた背後の桃華が、彼に向けて駆け寄ろうとする。
だが、傍らのフリーレンがそれを引き留め、無言で首を横に振った。
今から彼のやろうとしている事に、口を挟むべきではない。たとえそれが何であっても。
視線だけで彼女は告げていた。
「くそ………」
二人の少女を尻目に。
写影は、何処か悔しさを孕んだ呟きを漏らし、能力を使用した。
-
□ □ □
なんで。どうしてだよ。
おれはただ、みんなとお友達に……家族(ファミリー)になりたかっただけなのに。
そのために、一生懸命頑張ったのに。
皆おれから離れていく。おれの前からいなくなってしまう。
嫌だよ。おれ、頑張るから。一人にしないで。
どれだけそう言っても、皆はおれを置いて行っちゃって。
おれは一体、何処で何を間違えたんだ?
いくら考えても分からない。誰も教えてくれない。分からないまま、
おれはこうして、ひとりぼっちで死のうとしている。
いやだよ。
死にたくないよ。
まだやりたい事いっぱいある。
世界中の人や珍しい動物さんとお友達になりたい。
海賊になって、仲間と一緒にお宝を探したい。
マザーの言ってた、誰でも同じ目線でテーブルが囲める夢の国を創りたい。
おれ、まだ何一つ叶えてないよ。
「助けて……誰か………マザー………」
真っ赤な血を吐き出しながら、おれはマザーの名前を呼んだ。
でも、マザーは来てくれない。羊の家の皆も。
エスターも、マサオも、通りすがりのヒーローも。
おれがどれだけ願っても、誰一人来てくれない。
意識がどんどん暗く……闇の中に落ちていくのが分かる。
怖いよ。寒いよ。苦しいよ。おなか減ったよ。
みんな、おれを独りにしないで……………
「独りは………いや、だ………マザー…………」
最後の力を振り絞って。
おれは、残った方の手を伸ばしながら、もう一度マザーが来てくれるように願った。
一人ぼっちで死ぬのは、とてもとても怖いから。
きっとおれは何か大切なことを間違えて。
だから、マザーは来てくれないだろうなって言うのは、もうおれも気づいていたけど。
でも、それでも願わずにはいられなかった。
そして、
────マ、ザー………!
これはきっと、奇跡だ。おれはそう思った。
涙でぼやけて掠れた世界の中に、マザーがいた。
見間違いじゃない。目を見開いて、もう一度よく見る。
確かにマザーだった。マザーが、俺に優しく笑いかけてくれていた。
普段通りの笑顔で、両手を広げて。
言葉は話してくれなかったけど、それでも。
誕生日からいなくなってしまったマザーそのものだった。
「お、れ……ずっと……ずっと………」
-
この島に来てからずっと、マザーに会いたかった。
この島に来てからできた仲間に、マザーを紹介してやりたかった。
よく頑張ったわね、リンリンって、マザーに褒めてもらいたかった。
それは叶わなかったけど、でも、良かった。マザーが来てくれて………
これでもう、独りで死ななくていいんだって、そう思えたから。
最後に、笑うマザーの優しい笑顔をしっかりと目に焼き付けて。
「あり、がと…………マザー………」
おれも笑って、そう言った。
【シャーロット・リンリン@ONEPIECE 死亡】
-
□ □ □
自分は一体、何をやっているのか。
スペクテッドの能力『幻視』を使用しながら、写影はそう思わずにはいられなかった。
「あり、がと…………マザー………」
孤独に死んでいく絶望から一転。
写影達を恐怖と絶望の底に突き落とした張本人は、満ち足りた表情でこの世を去った。
彼の作った幻覚によって。
何故この怪物の為に自分はこんな事をしたのか。
怪物を更なる絶望に突き落とそうとしたのか。
それとも、独りぼっちで死んでいく少女に、せめてもの救いを用意しようとしたのか。
「分からない。そんなの、分からないよ………」
写影自身にもそれがどちらなのかは分からなかった。
ただ、どんな幻覚を見たのかは知らないが、リンリンは安心した表情でこの世を後にした。
ただその事実を受け止めて。ぼろぼろと、大粒の涙を流しながら。
満ち足りた表情で逝ったリンリンを前に項垂れる。
ハーマイオニー達は何の救いも無かったのに。
その下手人だけこんな真似をしてよかったのか。
それすらも分からない。
「……写影」
そんな彼の頭の上に、手が乗せられる。
フリーレンが写影の隣に並び立つように立ち、片手で写影の頭を撫でていた。
「君は間違った事はしてないよ」
写影達を守るために、必要な措置だったとは思っている。
相手に会話の余地はなく、手加減をして勝てる相手でも無かった。
また、人を殺した事にショックを受けるには、彼女は余りにも多くの知己を見送りすぎた。
自分の手を汚すことを厭い、目の前の二人を死なせる訳にはいかなかった。
人は死ぬものだ。エルフの彼女には、割り切って受け止められる。
だが、それでも………
「君のした行いや気持ちは、生きていくうえで必要な物だ。大切にするといい」
人が死ぬのは、哀しいことだ。
勇者が没したその日から、彼女はその事を知っていた。
だから、彼女は写影の哀しみと怒り、死者を悼む想いに少しだけ寄り添う。
葬送のフリーレンという魔法使いは、氷の様に冷たく、雪の様に慈しかった。
「わたくしも……そう思います」
フリーレンとは反対側に位置し、桃華もまた、写影の隣に並んで写影に言葉を贈る。
写影と同じで涙を流している、それでももう、嗚咽を漏らしてはいない。
背筋を伸ばしてリンリンの前へと立ち、その亡骸をじっと見つめていた。
言葉を尽くす余裕はない。アイドルとして、歌や踊りで励ます事も出来ない。
だから彼女はただの櫻井桃華として、そっと少年の隣にいる事を選んだ。
貴方は独りではない。みんなで一歩ずつ前へと進んでいきましょう。
言葉にせずとも、その想いが伝わる事を信じて。
-
「…………二人とも………ありがとう…………」
そんな二人の想いを受け取り。
写影はただただ、感謝の言葉を返した。
二人の言葉は、存在は。写影にとって無明の闇の底で見た、鈍く輝く星の様だった。
ヒーローになる資格は、きっともう失ってしまったけれど。
それでも、そんな自分でもまだ何かできる事がある、そう思えた。
□ □ □
数分後。
フリーレンは三人の死者の支給品と首輪を回収した。
首を切断した死体を見せぬよう、簡素な墓を作り、そこに安置。
ハーマイオニーが使っていた杖だけは、彼女の遺体に添えて、埋め立てる。
弔える時間は殆ど無い。此処は戦場だ。
死体を弔っていた人間が死体になりかねない環境なのだ。
だが、フリーレン自身の魔力感知と、巨人の少女が持っていた首輪探知機のお陰で近場の安全は確認できた。
「準備できたよ」
フリーレンの言葉を受け、陰で休んでいた桃華と写影が頷き、墓前の前に出てくる。
墓石のような物はないため、知らなければそこに人が眠っているなど分からない。
そうそう掘り返される事も無いだろう。
その事実に少し安堵を覚えながら、写影と桃華は静かに瞼を閉じ、手を合わせた。
ただ、眠りについた者達の安息を願う。
殺しておいて、この行いは傲慢なのかもしれない。
無意味な行いなのかもしれない。
けれどその場にいる全員が、きっと間違いではないと考えていた。
仲間だった者にも、敵にしかなれなかった者にも。
今はただ、亡き人に祈りを───────、
-
【F-5/一日目/午前】
【美山写影@とある科学の超電磁砲】
[状態]精神疲労(大)、疲労(大)、能力の副作用(小)、あちこちに擦り傷や切り傷(小)
[装備]五視万能『スペクテッド』
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:─────
1:ドロテアの様な危険人物との対峙は避けつつ、脱出の方法を探す。
2:桃華を守る。…そう言いきれれば良かったんだけどね。
3:……あの赤ちゃん、どうにも怪しいけれど
4:桃華には助けられてばかりだ…。
5:沙都子とメリュジーヌを強く警戒。リンリンも何とかしないと。
[備考]
※参戦時期はペロを救出してから。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
【櫻井桃華@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]疲労(中)、精神疲労(大)
[装備]ウェザー・リポートのスタンドDISC
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:ハーマイオニーさん、マサオさん………
1:写影さんや他の方と協力して、誰も犠牲にならなくていい方法を探しますわ。
2:写影さんを守る。
3:この場所でも、アイドルの桜井桃華として。
[備考]
※参戦時期は少なくとも四話以降。
※失意の庭を通してウェザー・リポートの記憶を追体験しました。それによりスタンドの熟練度が向上しています。
※写影、桃華、フリーレン世界の基本知識と危険人物の情報を交換しています。
【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(中)、疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品×5、モンスター・リプレイス(シフトチェンジ)&墓荒らし&魔法解除&不明カード×6枚(マサオの分も含む)@遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's、
ランダム支給品1〜4(フリーレン、ハンディ、ハーマイオニー、エスターの分)、グルメテーブルかけ@ドラえもん(故障寸前)、戦士の1kgハンバーグ、封魔鉱@葬送のフリーレン、
レナの鉈@ひぐらしのなく頃に業、首輪探知機@オリジナル、スミス&ウェッソン M36@現実、思いきりハサミ@ドラえもん、ハーマイオニー、リンリン、マサオの首輪。
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:写影達を追う。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティア、我愛羅は次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:流石に一度ガッシュと合流して態勢を立て直したい。
5:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
6:リーゼロッテは必ず止める。ヒンメルなら、必ずそうするから。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
※グレイラッド邸が襲撃を受けた場合の措置として隣接するエリアであるH-5の一番大きな民家で落ち合う約束をしています。
ニンフの羽やエリスの置手紙、ハーマイオニーのロウソクなどは確認後破棄しました。
【城之内君の墓あらし@遊戯王DM】
佐藤マサオに支給。
城之内克也が使用するカード。戦闘によって破壊されたモンスターや使用済みのトラップ、魔法カードのリサイクル効果を持つ。
このカードを他のカードに使用する事によって、再使用可能までのインターバルを無視する事が可能となる。
城之内の墓あらしはOCG版と違いモンスター、罠、魔法カード問わず使用可能。
一度使用すると12時間使用不可となる。
-
投下終了です
-
投下します
-
「ザケルガ!!」
一姫の詠唱とともにガッシュの目が白く染まり、その口から電光が主役され雷となり迸る。
初級呪文ザケルに貫通力を付与し、拡散性を抑え高い狙撃性を抑えた強化版の術。
威力もザケル以上に高く、一定の防御や一か所を集中貫通することで相手の攻撃を突き抜けることもある。
「遅い遅い!」
光線上に直線を描くように放出されたザケルガは速度も段違いに速い。
だが、シュライバーはそれを目視し、後から走り出しながらザケルガを容易く避けた。
「ヌウウウウ!!」
雷を吐き終え、意識を取り戻したガッシュの眼前には百以上の鉛玉が展開されていた。
身に纏うマントに魔力を流し、それらを伸長させる。
撓ったマントは紺色の鞭のように。
シュライバーの放つ無数の弾丸を一弾も漏らさず叩き落とす。
「ラウザルク」
天から降り注ぐ雷に打たれ、ガッシュが虹色の輝きに包まれる。
刹那、砲弾のように驀進しガッシュの背後にいる一姫を担ぎ上げる。その直後、白の暴風が大地を揺るがす。
ガッシュが一秒前まで居た場所は、巨大な亀裂が刻まれ、周囲一帯の電柱や建物が砂の城のようにあっさりと粉塵と帰す。
「───!!」
膨大な破壊跡の中心から、シュライバーは疾走する。
狙うは、怪物の首。
自らを英雄足らんと示すように。
人ではない魔物を討ち取らんと、轍へと変える為、シュライバーは駆け抜ける。
「ハハァ───!」
水のようにしなやかに、形を自在に変化させ無数の枝のように伸びるマント。
その全てを神掛かったタイミングで避け、ほんのわずかの攻撃の合間に生まれた空間へと飛び込む。
マントの迎撃を突破したガッシュの鼻先に銃口を向け、雷光が煌めく。
「ザケル!」
「鈍いんだよォ!!」
シュライバーはその頭上、雷撃(ザケル)より遥か上空へと飛翔し鉛の雨を降り注がせる。
一姫はガッシュの襟首を掴み、正面を向いた体制から上方へ傾けた。
収束性のない拡散された雷は弾丸を蒸発させ、空へと昇っていく。当然のように、その雷の先にシュライバーは既にない。
-
「あの者、何という速さなのだ。攻撃が当たらぬ!」
昔、戦った魔物にも速さを誇る者がいたが。あの頃はザケルしか攻撃呪文がなく、素早く動く相手に攻撃を当てるという点から、苦戦を強いられた。
今は速射性に優れたザケルガもあり、一姫の采配もガッシュの特性を理解し最大限活かすなど、アンサートーカーを除けば、殆ど清磨とほぼ遜色ない。
仮にこの状態で再戦をしても、以前のような遅れは取らないだろう。
その戦闘での経験も活かし、対クリア戦を想定した修行で会得した魔力を感じ取る術を活用し、視界だけではなく気配も追い、ガッシュ自身も常に視線を逸らさぬようにシュライバーの動きを追っている。
だが、ただ視界の中にシュライバーを留めておくことすら、10ヵ月の修行を経たガッシュですらも至難の業だ。
「私でもわかるわ。あの速さは別格ね」
一姫自身は、特別争いに長けてはない。そういった芸当は、弟の風見雄二の方が才もあれば経験も豊富だ。
だが相対するシュライバーが、埒外の速さを持っているのは嫌でも分かる。
ガッシュが遅いのではない。雷よりも速く、シュライバーが動けているのが異常だ。
「ザケル」
雷撃が射出され、シュライバーが避ける。戦闘が始まってから、幾度となく繰り返された光景だった。
存在する全てを破壊し粉砕し轍へと変え、死の狂風はより速く疾走する。
「ザケル」
ガッシュがシュライバーの動きを追い、一姫が機を見て術を唱える。
一連の動作はスムーズに、ガッシュが共に息を合わせた清磨の行動を一姫が高い精度でラーニングすることで、詠唱と術の発動にラグは殆どない。
「君、欠陥だらけだな」
ザケルを背に、シュライバーは風のように駆け回りながら、声だけを置いていく。
「攻撃時に気絶する。論外もいいとこだ」
これは決定的かつ、致命的な隙だ。
戦闘時に意識を手放すなど、どうかしている。狂気に駆られたシュライバーであろうとも、そんなことは絶対にしないと断言する。
「もう一つ、雷を口から吐くってのもねぇ」
例えば、手から放てるのであれば、非常に小回りも効き、意識を失うにしてもまだある程度は融通も働かせられる。
しかし、口という顔の一部が射出口になっているのは最悪だ。
「こんな風に、背中を取られたら」
冷水を浴びせられたかのような、冷たい囁きがガッシュの背を撫でる。
マントに魔力が走る。シュライバーの銃撃に合わせ、マントは変形し銃弾を弾き落とす。
「絶対に君は振り向くしかないだろ」
十八番の雷撃を放つには、必ずガッシュはシュライバーを見なければならない。
気配を読んで居ると分かっていても、振り向くという無駄な手間が発生する。
手だけを後ろに向けるといった動作が出来ない。
「────ッ!?」
シュライバーは、マントの合間をすり抜け肉薄していた。振り返ったガッシュが雷撃を放つ寸前に既に拳を振るっている。
一度雷撃を撃てば、意識がない以上、マントによる迎撃も回避行動も行えない。
酷く劣った生物だ。
よくもこんな劣等の落ちこぼれが、三騎士の一人である己にデカい口を叩けたものだと呆れ果てる。
「ぐああああああ!!」
顔面に入った右ストレートを、間一髪で腕を滑り込ませガードする。
一姫の瞬時の判断が優れていた。呪文(ザケル)の詠唱が間に合わないと、ガッシュのフィジカルに命運を委ねたことで、術による気絶もなくガードの構えが間に合う。
「ラウザルク!」
あまりの衝撃に脳が掻き回される錯覚を受け、腕が軋み今にも圧し折れそうだ。
肉体強化(ラウザルク)の補助を受け、それでも耐え切れず、吹き飛ばされていく。
「ハハハハハハハ!!」
殴り飛ばされ、空を漂う一秒にも満たない浮遊時間をシュライバーは見逃さない。
ガッシュの頭上へと俊足で回り込み、ガッシュの頭目掛け踵を振り落とす。
「ヌ、ゥ!!」
マントが螺旋を描き、プロペラのように回転する。
ヘリコプターのように、空中で推進力を得たガッシュは一気に加速しシュライバーから離脱した。
「ガッシュ」
「ウヌ、大丈夫なのだ……」
-
一姫の元へ退避しガッシュは荒げた息を整える。
「フー、フゥー」
息を深く吸い、呼吸を整える。デュフォーにもレクチャーされた呼吸法だ。
優れたアスリート等は息を整える事で、如何な極限下でもコンディションを発揮できるという。
「良いコーチに鍛えられたみたいね」
一姫も知識として、呼吸が大事であることは知っていたが。ガッシュが行ってみせたそれはとても理想的なリズムを刻んでいる。
「聞きなさい、ガッシュ────」
幾つかの指示を耳打ちされ、ガッシュはそれを疑うことなく一度深く頷き、肯定の意を示す。
「セット」
一姫の掛け声と共にその指先へ視線を集中させる。
「ザケル!!」
「相変わらず、またそれか」
何度も何度も見た攻撃だ。威力はそれなりに高い、シュピーネ程度ならそこそこダメージを通せるだろう。
だが所詮その程度、雷を操るにしてもベアトリスにも及ばず、体術もそれ以下だ。
ただ棒立ちで、雷を吐くだけならそんなものではシュライバーには当たらない。
「ご自慢の電撃も、フジキングとかいう馬鹿の方がまだマシだ」
あの底なしの劣等中の劣等ですら、能力だけならばガッシュをも遥かに上回る。
こんなものか、仮にも狂乱の白騎士に挑んだ金色がこの程度なのか。
せめて、雷そのものになれでもしなければ話にならない。
「ザケルガ!」
速射に優れた光線形状の電撃。
これも狙いをいくら付けようが、シュライバーの影にも掠らない。
音速を超える速度で走りながら、跳躍し雷を背により走る。
胸前に突き出した両腕は広げられ、空中に浮いたまま高回転する。
「人を傷付ける僕は英雄じゃないんだよね?」
二丁の銃が火花を散らす。
「だったら守ってみせろよッ!! 力を示めせッ!!」
高回転のまま連射され、縦横無尽に弾丸が放たれる。
激しい動きの中、その射撃は精密そのもの。
シュライバーの知覚する全ての範囲にある生命に目掛け、その命を刈り取らんと魔手を伸ばす。
的確に全ての生き物の急所目掛け、弾丸が吸い寄せられていく。
「君が真の英雄だと、僕に証明してみせろォ!!」
ガッシュのマントが蠢く。
数百以上の弾丸を前に、音すら置き去りにする程の速さで飛び回るシュライバーに合わせ、マントは後手に回りながらも弾道を遮る。
マントと魔弾の鬩ぎ合い。ガッシュの背後にいる一姫、そしてさくらとルーデウス達を庇うように、より魔力を回しガッシュはマントの伸張距離をより広範囲へと広げた。
「ぐ、ううううう!!」
しなやかな布から発せられているとは思えない、激しい銃撃音。
弾丸に撃たれガッシュの眉間の皺もより深く刻まれていく。
「お得意の電撃は何処行ったのさ!」
術の発動時に気絶する。それは、マントの操作と雷は同時には操れない事を意味する。
ガッシュは攻撃と防御を両立させることができない。
「消え失せろ劣等ォ! 僕の前に立つ資格もない愚図めッ────!!」
未だかつて、こんな劣った下等生物は見たことがない。
一人では戦うことすらままならない。愚図で鈍い、愚かで弱い。不完全な劣等種。
ここで淘汰されるのが、自然の摂理だ。
物の役に立たぬ劣等など、絶滅させる。
「────ッ!!」
刹那、シュライバーの足元から土の矛が打ち上げられる。
後退しながら、追従する矛へ射撃の銃口を変更し一瞬で塵芥へと粉砕する。
「ザケル!!」
射撃が止んだ途端、響く詠唱と雷光を横へ飛び退き避ける。
その進行先へ今度は炎の幕がシュライバーを覆う。
「良いよ。数の利でも何でも生かすと良い」
急ブレーキを掛けながら、その場で後方展開し空中で逆さの体制のまま射撃を再開する。
ガッシュがマントを広げるのを、一姫が制止し────土壁が隆起し弾丸を弾く。
「ああ、そうさせてもらいますよ」
ガッシュの一歩程後ろ、一姫の横にルーデウスが立つ。
「好きに足掻け。全員、逃がさない。鏖殺だ」
高まる殺意のボルテージ。
狂獣の狩人は、獲物を吟味し牙を尖らせる。
-
「ザケルガ!!」
穿つように雷の光線が迸る。
消えたように離脱し、目にも止まらぬ速さで駆け回るシュライバー。
雷のお返しとばかりに、四方八方から銃弾がばら撒かれる。
「防御は僕が!」
「任せるわ」
土壁を生成しガッシュ達とルーデウス達を覆うように即席の盾とする。
壁を撃ち付ける鈍い音と共に、罅割れ砕ける箇所を魔力を充填し修復を続ける。
一秒もあれば、粉々に砂塵へと帰すであろう猛攻をルーデウスは凌ぎ続ける。
無尽蔵の魔力量を誇る、ルーデウスでなければ成り立たない芸当だ。
「ザケル!」
雷を避けながら、シュライバーは一気に直線的に加速する。
「アハハハハハハッッ────!!」
土の砲弾の隙間を縫うように、シュライバーは一直線にルーデウス達を守る土壁へ突進する。
(なんて、威力────ッ!?)
速ければ速い程、発生するエネルギーも比例して増す。
さしずめ、今のシュライバーは大地を駆ける隕石のようなもの。そんなものが意思を持って、一つの対象を狙えばどうなるか。
自然災害並の莫大な破壊が、ただ一個人を殺す為だけに軽々しく振るわれる。
(壁の修復が、間に合わない……!!)
底なし枯渇知らずの魔力であれば、その運用前に崩せばよい。
目障りな壁が再構築されるよりも速く、より加速し威力を底上げしシュライバーは土壁を轍へと還る。
轟音と爆風が鳴り響き、ガッシュは無意識に顔を庇う。
シュライバーは肉薄し、刃物のようにルーデウスの胸元へ手を突き出す。
避けようとして、ルーデウスは気付く。自分の後ろにはさくらが居る事を。
(よけたら────)
予見眼で見える。シュライバーの動きが見える。
避ければ後ろの少女が死ぬぞと。
どちらから死ぬか、好きに選べとシュライバーは嘲笑を浮かべている。
極限下で与えられた選択肢は、その判断と動きを鈍らせる。
もっとも、選択肢など本当はありはしない。避けようが避けなかろうが、この絶速から逃れる事など叶わぬのだから。
「ザケルガ!」
横方から轟く雷音、振り向くことすらなくシュライバーは前方へ跳躍。
三日月を描くように、ルーデウスとさくらの頭上へ舞う。
銃口の先は二人の幼い脳天へ向けられた。
「セット────ガンレイズ・ザケル!」
細かい雷の球体が、シュライバーを取り囲むように放たれる。
今までにない新たな雷撃。
一つ一つの攻撃範囲は小さいが、一つの雷だった物が無数の弾となって襲い来る。
「なんだ────?」
身動きの取れない筈の空中で尚、シュライバーは体勢を捻り弾の隙間を掻い潜るように避ける。
空を蹴り、ルーデウス達から距離を空けて着地。
シュライバーは冷笑を貼り付けたような笑みから、一転し釈然としない様でガッシュと一姫を見る。
「セット、ザケルガ!!」
シュライバーの眼前、雷光で眼が眩む程の間近にまで雷が迫る。
「ッッ────!!?」
後ろに身を逸らし避け、シュライバーは飛び退き────。
「ザケル」
シュライバーの進行先に置いておいたように雷が轟いた。
片足をブレーキにし、角度を急転換させ進路を変更。
目障りな雷の主ごと、小賢しい搦手を轢き殺す。
「な、に……!?」
殺意を滾らせたシュライバーの隻眼は驚嘆へ染まる。
「ガンレイズ・ザケル!」
シュライバーの目と鼻の先にガッシュが迫っていた。
まるで、シュライバーの動く先を知っていたかのように。
ガッシュの背から八つの和太鼓が召喚され、雷の弾丸が連射される。
「こんなものッ!」
十数近くの弾を一息で潜り、ガッシュへと肉薄する。
その頭蓋を砕いてやる。拳を握り凶悪な笑みを浮かべ、獣のような犬歯を見せて。
術の発動後、気絶しているガッシュには為す術はない。
「ザケル!!」
仕組まれたようなタイミングで、ガッシュの目に光が宿り、術が再度唱えられる。
拳を振りかざす寸前、目の前で集約された雷光にシュライバーが取るべき行動はただの一つ。
回避。
シュライバーは何を差し置いても、回避を優先する。
-
「────!!?」
妙だ。
シュライバーのガッシュへの到達時間と、呪文の発動後意識が戻るまでの時間を計算して、合致させたような。
あまりにも出来過ぎている。
「ザケルガ!!」
「────!!」
回避した先、同じようにシュライバーを遮るように雷が発せられる。
この光景には、覚えがある。数時間前に交戦したリンリンも先読みの能力を持っていた。
「違う、あれとは別の……!」
「ザケル」
雷を避け、後方へ飛び退く。刹那、先程までシュライバーが居た場所を別の雷が抉る。
「ザケルガ」
シュライバーは宙を舞い、その座標へと的確に狙い撃つように雷が奔る。
明かにガッシュの能力を超えていた。あの劣等如きが、ここまでシュライバーを精密に狙撃できるわけがない。
その証拠に、ガッシュは一姫の指の先に導かれるように、視線を変えている。
ガッシュは照準を合わせていない。
「チッ!」
リンリンのそれと違うのは精密性だ。
あの見聞色の覇気(さきよみ)も正確だが、一定のムラは存在していた。
だが、これはあまりに正確無比過ぎる。リンリンは練度が足りないとはいえ、それを差し引いてもこれは別種の理屈により引き起こされた事象だ。
「ザケル!」
「く、ッ!」
雷とシュライバーの距離の差が縮まっていく。徐々にだが、シュライバーにガッシュの雷撃が近づいている。
ガッシュの動きが、雷が速くなったわけではない。シュライバーの動きが予測されていた。
いや、予測など生温い。予知や予見でもない。これはまるで、そうなると予め答えを知っている者の動きだ。
「そうか、僕の動きを記憶して────」
シュライバーが至った結論はシンプルだ。
ここまでの事象をデータとして蓄積し、分析し、仮説を立て、証明し結論を出す。
皮肉にも今、シュライバーが不可解な事象に対し、脳裏に展開しているのと同じ。
シュライバーの動き、癖、パターン。全てをデータとして記録し、高度な頭脳で処理することで、過去のデータからより正確な答えを弾き出す。
「あの女……!!」
雷と暴嵐が飛び交う刹那、隻眼と紫の瞳が交差する、
シュライバーに対し、一姫は正解と返答する代わりに挑発的な笑みを浮かべた。
ガッシュを導く、あの一姫という女の頭脳、確かに高機能という点では劣等とは言い難いらしい。
一姫は圧縮記憶法と呼ばれる特殊な記憶法を持ち、本の内容などを絵として記憶できる。
脳内にデータを保存し必要な時に取り出し、閲覧する。いわば生きたコンピュータのようなもの。
本を一目で脳内に記憶し、未読のまま保存した数は100冊を超える。
その記憶法と、鋭い観察力に加え、人心掌握にも長けている。
自分の親すら、手玉に取り、自らに有利なように人間関係を構築するほどに。
脳内のデータを観測し、あらゆる傾向を検討しシュライバーの出し得る次撃の中で、より高い確立のものを選び対処する。
更にシュライバーの回避を優先する性質上、狙った位置に雷を放ち動きを誘導するのは一姫の頭脳があれば難しい事ではない。
だが、やはり分からない。
いくら、ずば抜けた頭脳を持ち得ようと、シュライバーの神速に追いすがる動体視力は別だ。
身体的には、一姫は凡夫の一言に尽きる。
”データさえあれば”答えを出せるのであれば、逆に言えば”データがなければ”答えは出せない。
例え天才と称される人間であろうと、一姫は無から答えを見付ける、答えを出す者(アンサートーカー)は持っていない。
ならば、一姫は何処からデータを蓄えた?
-
「確固たる理由もなく、人にレッテルを貼る行為は非常に危険よ。特に、他人の精進を笑うような輩は」
「うおおおおおおおォォォォ!!」
そうだ。ガッシュだけはどんなに速かろうとも、シュライバーの動きを追い続けていた。
意識を失い、口から雷を吐く都合上、ガッシュは術の狙いをパートナーに合わせて貰うしかない。その負担を僅かにでも軽くする為、ガッシュはどんな敵だろうとその視界に捉え続けてきた。
動きは追い付けなくとも、その視線だけは常にシュライバーを視界の端に捉え続けていた。
「奴の向きで、角度を計算していたのか」
ガッシュの視線の方角から、シュライバーの動きを割り出し、一姫は脳へ保存し続けデータを増やしていく。
シュライバー本人を見ずとも、これならば一姫はガッシュだけを見れば良い。
だから一姫は初級の発動コストの低い呪文を、手当たり次第に詠唱しシュライバーの動きを目で追うガッシュの動作を観測し続けていた。
「ザケルガ!!」
欠陥だらけなのはガッシュが一番分かっていた。
戦う時に、守るべき時に、肝心な時に意識を失くす自分を一番不甲斐なく思っていたのは自分だ。
だから、絶対に目を放すまいとした。大切な相棒(パートナー)を信じ、勝利を掴むために。
決して、視線から外さない。常に戦うべき相手を見続ける。
「ッッ!!」
着実に雷はシュライバーへと迫っている。後数撃で確実に当たる。
認めよう。劣等共にしては、こいつらはやる。
聖遺物の使徒の卓越した超人としての傲慢さ。だがシュライバーの獣染みた直感はその慢心を捻じ伏せた。
(動きが変わった……?)
一姫の表情が驚嘆に歪む。
蓄積されたデータとは異なる新たな行動パターン。
無数に脳に保存された行動パターンから、次の一手を絞り込む一姫。
だが、またシュライバーも18万以上の人間を取り込み、その記憶知識全てを解析し、やろうと思えば、その言語も再現できる。
凄まじい規模の演算力を発揮し、シュライバーもまたここまでの戦いで繰り広げられた戦いの記憶から計算する。
一姫の弾き出すであろう次の一手を。
二人の先を見据えた読み合い。
チェスや将棋のような、盤上の駒を動かすような熾烈な駆け引きは、瞬きの間に百手先をも読み通す。
「ガンレイズ・ザケル!」
上空へ舞い上がるシュライバー、周囲にはガンレイズ・ザケルガの雷弾。
身動きの取れない空中、逃げ場は全て封じた。
「ハッ!!」
骸骨の犬が召喚される。
空中で尾を描くようにその巨体を回旋させ、雷弾を弾き落とす。
そのまま骸骨が先陣を切り、滞空したままシュライバーはより加速し、雷をすり抜け、下降する。
「ジケルド」
迎え撃つように飛び出した光球はこれまでの雷撃に比べ遅い。
当然、こんなものに触れる道理はない。
ジケルドを最小限の動きで骸骨と離散する形で身を捻り避けた。
「ストーンキャノン!」
「────ッ!」
この時、ジケルドを追い越し飛んでくる岩の砲弾を身を逸らして避ける。
だがジケルドから距離を空けようと、転回したシュライバーはそこで止まらざるを得なくなった。
「な、ッ」
その瞬間、光球はひとりでに弾ける。シュライバーが何もせずとも。
同時にシュライバーと骸骨の体に負荷が掛かった。見えない鎖に全身を縛られ、拘束されているかのようだった。
壁のない空中で身動きの取れないシュライバーは、下方のガッシュに弾丸を見舞おうと拳銃を構え、照準を合わせる。
だが、シュライバーの腕が生まれたての小鹿のように震えだし、狙いが定まらない。
「磁石、か……?」
ジケルドには、今までの雷撃と違い速射性はない。半面、一定の距離で発動することで対象に磁石の性質を与える。
当たらなくとも、近くで弾けさせることでその効果を発揮する。
-
戦い初めのシュライバーならば、距離を大きく開きジケルドの効果範囲外へと回避した筈だ。
だが、後から撃たれたルーデウスの岩砲弾が、シュライバーの回避先を狭めた事でジケルドから距離を稼げなかった事が分かれ目となった。
「ふ、ざける、なァッ!!」
ぶれているのは腕ではなく、磁石となったシュライバーの磁力に引き寄せられた銃そのもの。
そしてそのシュライバー自身も、建築材に鉄を含む、クソみてェな旗を揺らめかせた国会議事堂へと引き寄せられていく。
「テオザケル」
磁力に抗うシュライバーへ、高火力広範囲に及ぶザケルの上位互換を叩き込む。
空を蹴り磁力から逃れようと藻掻き、未だ磔にならず僅かに身動き取れているのは驚きだが。
あの神速を誇るシュライバーも今は見る影もなく、テオザケルの範囲から逃れるほどではなかった。
「舐め───るなッ!!」
磁力に囚われた、使い物にならない骸骨を消して。
冷酷な殺意を込めた叫びで、その名を呼ぶ。
黒き竜の鎧を。
「────グランシャリオッッ!!」
白騎士の矮躯を鎧が纏う。
磁石化したシュライバーへ、グランシャリオを構成する鉱石が反応するが、それ以上にシュライバーへ齎される身体強化の恩恵が上回る。
それはシュライバーの形成には及ばないが、初速で音速の数百倍以上を誇り、ジケルドの磁力下に置かれながら音を置き去りに加速した。
グランシャリオという異物は、一姫のデータにはない。よって正確な予測を立てられない。
音速を遥かに超えた速さで、シュライバーは一直線にガッシュへと靴の底から降り落ちた。
「砕け散れッ!! 劣等ッ!」
テオザケル、シュライバーはその中の弱所を即座に見切る。
活動位階という渇望が比較的抑えられた初期段階であったことと、グランシャリオという鎧により外界との接触が遮断されたことで、触れる事への忌避は薄まり、己の体を砲弾に持ち前の速さを破壊力へと直結させシュライバーは突っ込む。
弱所を一点突破され、テオザケル内を貫通した。
「がぁあああああああ!!!」
マントが盾となりシュライバーを遮り、だが竜の力をも上乗せた神速の蹴りはガッシュへと直撃する。
クリアとシャルティアの猛攻をも防ぎきるマントが軋み、悲鳴をあげる。
同時にガッシュの体も、その矮躯に全ての衝撃を受けた。
「ラウザルク!!」
遅れて一姫の呪文が響き、ガッシュの体を照らす。
「ヌ、アアアアアァァァァ!!」
「無駄なんだよォ!!」
マントの下、ラウザルクにより補助された肉体を存分に発揮し腕を交差し、攻撃を受け止める。
ジケルドの効力は切れ、シュライバーは元の神速を取り戻し、グランシャリオの力も込めた一撃は今までの比ではない。
通常の素のシュライバーの拳すら、ようやく一発受けるのが限度のガッシュにとって、限界を超えた桁違いの攻撃。
-
「…………泣いて、おった……」
全身の血管が浮き上がり、額を脂汗が伝う。奥歯を砕けるほどに?みしめ、瞳孔は穴が空くほどに開かれた。
力みすぎた筋肉は膨張し、骨は鈍い音を立てて警鐘を鳴らす。
「あの者は、泣いておったぞッ!!」
張り裂けそうなほどの高負荷を全身で負いながら、ガッシュの瞳にはヘンゼルの遺体が写されていた。
あれが何者かは分からない。もしかしたら、殺し合いに乗った悪人かもしれない。
出会いが変われば、ガッシュが倒さねばならなかったかもしれない。
「何の、心も痛まぬのか……これだけの強さを持ちながら───」
だが、あの少年はその死の間際、泣いていた。
ただの子供が怖さと痛みと悲しさでなきじゃくっていた。
それを前にして、勝ち誇った笑みで高らかに笑うシュライバー。
あの少年だけではない。自分たちと別れた古手梨花とサトシの死、そして悲しい別れを強制されたピカチュウ。
そんな悲劇を生み出し、今もどこかで殺戮を繰り返しているであろうメリュジーヌ。
「お主”達”はッ!!!」
悲劇を未然に防げず、間に合わなかった己の不甲斐なさを。
悲劇を引き起こし、今も誰かを傷付ける者達へ。
肉体の限界値を迎えながら、ガッシュの義憤が肉体を支え力をふり絞る。
「何を、グタグタ吠えてるんだよ! 劣等が!!」
速さであれば、間違いなく最速の敵。
その一撃も重い。ガッシュの小さな体には有り余るほどに。
しかし、だから何だというのだ。
思い出せ。
「私は、それが許せぬッッ───!!!」
バリーとアシュロンの拳(パンチ)はもっとずっと重かった。
それに比べればこんなもの。
「───ッ!?」
何故だ。確かに、奴らは劣等の中では実力者だった。
それでも強さでいえば孫悟飯には及ばず、底知れなさでは絶望王にも満たない。
奴らの仕掛けた戦術も策略も全てを振り切り、粉砕し轍にして、優勢になったのは自分のはずだ。
目の前の劣等は、でかい口を叩くしか能がない。制限下のシュライバーを相手に、ようやく食らいつける低レベルな落ちこぼれ。
黄金に召された英雄であるシュライバーが劣る道理などない。
なのに、僅かにシュライバーが臆した。死にかけの劣等の戯言如きに。
「ぐ、ぐ、ゥ……ぐぁ……!」
もっとも、いくら御大層な御題目を掲げようが、力が釣り合わねば負け犬の遠吠えでしかない。
何人も殺したシュライバーの嗅覚が告げる。ガッシュは人間ではない。
だが、それがなんだ。ただの凡夫な怪物に過ぎない。
「ハハッ───」
そうだ。今までに狩ってきた獲物と何一つ変わらない。
想いだけで、現実を歪められる超人などそうはいない。居るとすれば、それは自らのような英雄か、黄金のような神格にも匹敵する者だけだ。
「それが限界、君の魂の上限だ」
ここでまた怪物を狩り、英雄譚に新たな1ページを刻むとしよう。
何よりも速く駆け抜け、自らが振り返った後の轍をここにまた増やすのだ。
「「闘」(ファイト)!!」
響く少女の愛らしい声、その時膝を折りかけたガッシュの構えが明確に変わる。
「────ヌゥゥウウウ!!」
ガッシュに圧し掛かる力が流されていく。
いや、死んでいく。
中国拳法の化勁の技術により、シュライバーの齎す破壊力が殺される。
「闘」のカードは対象を武術の達人へと変える。その対象をガッシュへと設定すれば、その技能(スキル)は魔物という人外の領域へと昇華する。
「チッ」
グランシャリオの噴射を利用し、シュライバーはガッシュから後方へ飛びのく。
「ハァ……ハァ……ヌ、ゥ……」
ガッシュは膝を付き、顔を俯かせながら五体満足のまま生存している。
まだそれはいい。面倒なのは、ルーデウスの横、精神をへし折ってやったさくらが再び杖を構えていたことだ。
-
「さくらさん……」
「ルーデウスさん、私は───」
大丈夫と、その先は紡がれないまま。
消える前の蝋燭の火のような危うさで、さくらは立ち上がる。
休めとは言えなかった。そんな余裕はルーデウスにも、あのガッシュという少年たちにもない。
「ルーデウス……そういえば、君あの娘の知り合いか」
「な、……」
どっちだ。
ルーデウスの脳裏に浮かぶ候補は二人。
放送で名を呼ばれたロキシーと、少なくとも一回放送時点では死んでいないエリス。
どちらもありえる。そして放送から数時間経過し、ロキシーは別人に殺害され、エリスも放送後シュライバーに殺されても矛盾しない。
「ふーん、何人か心当たりがいるのかな。
馬鹿の一つ覚えみたいに君の名をよく叫んでたけど、君の恋人かい?」
「────」
最悪の想定が現実になりつつある。
エリスがシュライバーに会ったとしたら、どうエリスに忖度して考えても太刀打ちできないだろう。
だから、次の放送でエリスの名が呼ばれても。
「落ち着きなさい」
憤るルーデウスに、一姫がストップをかける。
奴のペースに乗るな。暗にそう伝える、氷のように冷たい目線がルーデウスに突き刺さる。
「1時間で14人が死ぬハイペースな死亡数から、5時間で15人へペースが落ちているでしょう?
母数の変化もあるけれど、死亡者のペースは下がってる。乃亜のマーダーへの挑発も見過ごせないわ」
強力な支給品や参加者が多かったのか。
臨時放送から一回放送まで、運や偶然が作用したとしても、生き延びる力を持つ者たちは多かったのだろう。
「思いの他、あの英雄様は首級を上げられていないのよ。取り逃がした参加者の方が多い筈。
笑わせるわね。中々、滑稽な英雄ごっこだと思わない? 砂のお城を立てて、自分は王様と吹聴する3歳児と変わらないわ」
乃亜が参加者の脱落ペース、もといマーダーの働きに不満を抱いていたのは、口ぶりから疑いようがない。
エリスもその例に漏れず、シュライバーが殺せなかった内の一人だと否定する材料もない。
「仮に、エリスに会っていても……殺せたとは限らない」
「そういうことよ」
その指摘を受けて、希望的観測を交えながらも平常心を取り戻す。
「来ます!」
「「樹」(ウッド)!!」
土壁と大木の防波堤が築かれる。
朝の日光すら遮る、巨大な壁を前にしてシュライバーは突貫する。
しゃらくさい。鬱陶しい障壁だ。
グランシャリオを纏ったシュライバーはより苛烈な暴嵐となり、木々を圧し折り土壁を次々に打ち砕く。
目にも止まらぬ豪風となり、その道にあるあらゆる物を薙ぎ倒し、通り過ぎた後には銃弾がばら撒かれる。
温存など考える暇もない。二人は残された魔力を全て、大木と土壁の生成に回しシュライバーに視認されないよう、より高く防波堤を作り上げる。
狙いさえ付けられなければ、射撃の被弾率が下がる。
「ヌォオオオおおおお!!」
バネのように足元を蹴り上げ、ガッシュが走る。
撒かれた弾丸をマントで防ぎ、拳を降るようにマントの打撃をシュライバーに叩きつけた。
鎧を纏いながら、シュライバーは回避する。
やはり、基本的な本質としてグランシャリオを使っても回避が第一となるようだ。
反面極限下では、鎧が接触を防ぐことで、テオザケルを貫通すると言った発想にも繋がるのかもしれない。
「────ッ!!」
ガッシュへの突貫が行われるより早く、土壁と大木が割り込む。
一瞬でそれらを轢き潰し轍にした時、ガッシュの姿は消えていた。
-
「ザクルゼム!」
ジケルドよりは速く、ザケルより遥かに遅い。
また、つまらない小細工か。
ジケルドの例から念を入れ、大きく距離を取る。シュライバーが先程までいた場所に着弾し、僅かに発光している。
「何を考えてるか、知らないけど」
シュライバーが高く飛翔する。グランシャリオの補助もあり、天高く乃亜が支配し参加者へと許可された領域の寸前まで。
ザクルゼムという術の詳細は分からない。だが、間違いなく被弾した箇所に何かの効力を付与する術だ。
これ以上、劣等共のつまらない茶番に付き合う気は毛頭ない。
だから、最速で最短でここに居る全員を皆殺しにし、この戦争に幕を下ろす。
雲を超えた遥か上空から、シュライバーが真っ逆さまに墜下した。
落ちる箇所が高い程、シュライバーの速さは破壊へと直結する。
これだけの高度、グランシャリオの促進力も合わされば、ミサイルなど比にならない程の広範囲へ、辺り一帯を一掃できるだろう。
宇宙から流れ落ちる流星のように、黒の凶星が白の殺意を内に秘め、地上に蔓延る命を根こそぎ奪い去らんとする。
「ラシルド!!」
心の力をより込めて、巨大な雷を纏った盾を生成する。
「ザクルゼム!」
更にラシルドにザクルゼムを当て、強化する。盾はより巨大に硬度も比例して膨れ上がる。
ラシルドの強化と、シュライバーが地表へ帰還するのはほぼ同時。
爆音が大音響で木霊し、周囲一帯の建物が風圧によってガラスは砕け、電柱はねじ折れ、舗装された道路は罅割れ、コンクリートの破片が巻き上がる。
多くの人工物のを破壊し風の中に取り込み、鋭利な刃物のように命を奪う暴風雨となる。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハッッ────!!!」
計り知れない死の狂風の中心地で、シュライバーは一人愉快に笑う。
ラシルドは数秒の後、耐え切れず砕け散る。
その背後でガッシュがマントを展開し、さくらが「樹」をルーデウスが土壁を盛り上げ防御する。
ラシルドで殺した威力を、そのまま自分達の即興の盾で受け切り耐える算段だろう。
「そんなもので、生き残れた気になってるつもりか。甘いんだよッ!」
豪風が吹き止まぬまま、シュライバーは疾走した。
狙うべきは一人。
目障りで邪魔で、この場の中で最も優先して排すべき相手。
「ヌゥ!!」
ガッシュが前線へ躍り出て、マントのラッシュを叩き込む。
掻い潜りながら、射撃を撃ち込みガッシュの眼前をマントが覆う。そのままシュライバーは
肉薄し急転換する。
「ッ────」
さしものガッシュも一瞬呆気に取られ、狙いに気付く。
人間界で戦う魔物の子が共通する弱点、それは一部の例外を除き、本のパートナーたる人間は魔物より弱く脆い。
「一姫!!」
自らの口でラウザルクと唱え、自身の魔力で呪文を発動しガッシュは駆ける。
この島では魔界の王を決める戦いと違い、心の力がなくとも呪文を撃てる。ガッシュは殆どの呪文で気絶する以上、あまり関係のない話だが。
だが、心の力ではなく魔力を介して発動したラウザルクは、肉体強化の性能が落ちている。
シュライバーの後を追うだけでは、永遠に追い付きようがない。
叫びながら、視線を一姫へと合わせ、アイコンタクトで打開策を講じようと試みて。
「ガッシュ!」
その目は違うと、訴えかける。
ガッシュも違和感に気付く。シュライバーは一姫など眼中に入れていない。
今、この瞬間、狙われたのは一姫ではない。
-
「がっ────!!」
ルーデウスの左肩ごと腕が弾け飛ぶ。
ほぼ直感だった。
ガッシュへと向かったシュライバーが予見眼の中で妙なぶれ方をして、殺意が自分に向いたと察した途端に風を起こし横方に飛ぶ。
それでも黒の絶速を避けきるには叶わず。
「ぐああああああああああああ!!」
腕の一本と、左半身を大幅に抉られただけで済んだのは、恐らく儲けものなのだろう。
「ルーデウスさん!!?」
神経を焼く激痛に苛まれ、溢れ出す鮮血と叫ぶさくらを見ながらルーデウスは何処となく他人事に思えてしまう。
「魔力は大したものだけど、傷の治療にそれを活かせるって訳でもないらしいね」
ルーデウスは魔術を一切のモーションなく発動していた。
もし、回復系の魔術を有しているのなら即座に止血するなり、腕を再生するなりやりようはあるはずだ。
それが出来ていないということは、少なくとも回復系統の能力には一定の制限があるのだろう。
これは嬉しい誤算だった。
ここに来てからの戦いで、シュライバーにとって面倒だったのはルーデウスだ。
いざという場面で、適切にシュライバーを阻害し、ジケルドもルーデウスの攻撃による邪魔が入った結果、効果範囲から離脱できず、あんな失態を犯した。
「君はかなり目障りだったからさ」
シュライバーが一瞥した先、一姫が膝を着いて息を荒げていた。
「……く、っ」
シュライバーに対し動きを見切る為とは言え、初級呪文を連発し過ぎた。
消費の少ない初級だが、数を重ねれば相応量の心の力を削ってしまう。
心の力も尽き掛け、元から運動も得意ではなく体力もない。
真っ先にリタイアするのであれば、それは必然的に彼女だ。
「う、そ……ルーデウス、さ……」
さくらは才能は高いが、凄惨な場面に出くわせば先に精神が折れ戦闘不能になる。
殺害の優先度は低い。
「ヌウアアアアアア!!!」
この中でシュライバーを除き、最も生物としてのランクが高いガッシュも。
「一人じゃ戦えない、不完全な劣等なんて目じゃないんだよッ!!」
突っ込んできた所へ、百以上の射撃をマントに叩き込んで吹き飛ばす。
戦えるパートナーが尽きれば、必然的にその戦闘力も格段に劣化する。
そう、狙うべきはガッシュではない。
時間を置けば体力切れで自滅する一姫でもない。
戦いに向かないさくらも違う。
莫大な魔力量を有し、シュライバーの猛攻にも対処し続け、未だ体力も残し続けるルーデウスだ。
ルーデウスが残っていれば、一姫からガッシュのパートナーを引き継ぐことで、前線の要であるガッシュの戦力を維持される可能性も考えられたが。
その可能性もここで完全に潰えた。
あとは、絞りカスのように残った劣等共を一掃するだけだ。
「さあ────」
何より、ずば抜けた嗅覚と本能が嗅ぎ分けたのだろう。ルーデウスが何かの神に魅入られていることを。
「泣き叫べ劣等」
この男は、神に愛されている。
だから、何だというのか。だとしても関係ない。
絶対の勝利を確信し、シュライバーは言い放つ。
「────ここに、神はいない」
必ず殺すと。
-
「ヌ、ゥ……!!」
また一人、命を奪われてしまった。しかも今度は目の前で。
あまりにも非力な己の無力さに、ガッシュは自分自身への怒りに震えていた。
殺し合いを止めようと動き、それでも時間の経過と共に人が死に続ける。
誰一人として、守れていない。
「ウオオオオオオォォォ!!!」
これ以上は誰も死なせない。
例え呪文の力を借りれなくとも、シュライバーがいくら速かろうとも。
「いい加減、死になよ。そのアホ面も見飽きた」
マントの殴打もガッシュの突撃も全てを軽やかに避けて、シュライバーは銃の照準をガッシュの後頭部へと定める。
「ガッシュ────」
一姫の声が響く。
後ろにシュライバーの気配を感じながら、ガッシュは振り向かない。
ようやく諦めたか。
「意識を集中なさい!!」
ガッシュは絶体絶命の危機の中、驚くほどの平常心を保ち両腕を前に付き出す。
シュライバーを後ろへ退きながら、銃弾を撃ち込む。
奴はまだ諦めてなどいない。何かが来る。
「ジオウ・レンズ・ザケルガ────!!!」
一姫ではなく、ガッシュの口から呪文が唱えられた。
心の力ではなく、ガッシュの魔力により術が顕現する。
「こいつは……!?」
ガッシュの前方から雷光と共に、東洋を思わせる龍が召喚された。
怪獣のような巨体が宙を舞い、蛇のように長い。
次の瞬間、シュライバーの弾丸が龍の細長い尾により、全てが弾き落とされた。
「ッ!?」
ガッシュが自力で呪文を唱えるのはまだ良い。意識が飛ばない呪文であれば、自力で使用出来るのは見た。
だが、それは肉体強化に関連する呪文だけのはず。
雷を操るは、ガッシュには気絶するデメリットが生じる。
その為、ガッシュは呪文を発動しながら相手を狙い撃つという行為ができない、筈だった。
これまでの法則を覆し、ジオウ・レンズ・ザケルガは意志を持ち、シュライバーの攻撃を防いだ。
あの龍そのものに意思が宿っているのか?
「────ッ」
巨体に見合わぬ速さで龍はシュライバーへと突貫する。
シュライバーをして、自分程ではないが速いと認めても良いスピード。そして国会議事堂を穿ち風穴を刻み込む威力。
「あの女が操作しているのか!」
国会議事堂を食い千切りながら、龍はシュライバーを追跡する。
ガッシュに意識はない。ガッシュは、その場で立ち尽くし微動だにしていない。
恐らく、ガッシュが本の持ち主に意識を集中することで、呪文の操作権を譲渡しているのだろう。
一姫が目となり、ガッシュの代わりに狙いを定める。
シュライバーのありとあらゆる動きを、過去のデータから割り出し。
同じくシュライバーも高速移動の中、超演算能力を駆使しジオウ・レンズ・ザケルガの動きを見切っていく。
国会議事堂が爆ぜる。建物として残った面積は、かつての僅か三分の一程。
雲が割れ、影が交差し、雷(ジオウ・レンズ・ザケルガ)と黒(グランシャリオ)の龍は鬩ぎ合う。
-
「穴だらけにしてやるよッ! 劣等ォォッ!!」
空と陸を縦横無尽に駆け回り、二対の龍の戦いは加速する。
シュライバーは銃を構え、地上で動きの取れないガッシュとジオウ・レンズ・ザケルガの操作に手一杯の一姫へ狙いを付けた。
ジオウ・レンズ・ザケルガの首下の周り、鱗のような鎧がパージする。
シュライバーの射撃が始まる寸前、鎧が雷を纏う弾となる。
その数、二十以上を優に超える。それら全てが雷速の如きスピード。
鎧の弾は雷の線を描きシュライバーへと注がれる。
「あははははははは!! 無駄なんだよォォッ!!!」
弾の軌道を見切り、二丁の拳銃の銃口を上げて射撃する。
グランシャリオによる強化の影響か、シュライバーの繰り出す魔弾もまた強化されている。
しかし、仮にもクリアのバードレルゴを穿つ程の最大級呪文。ランクで言えばシン級にも匹敵するこの術をシュライバーといえど、射撃で突破するには格が足りない。
故に、銃弾による相殺は不可能。触れれば即座に自分の弾が蒸発するのは目に見えている。
だから、狙ったのは軌道の変更。
鎧の弾に直撃させず、斜めに着弾するよう調整し、全ての弾を逸らすのが目的。
二十以上の弾に、さらに少ない面積で己の弾を無数に当て続ける連射と精密さの両立。
一秒以下の時間で、シュライバーはそれらを全てやり遂げてみせた。
「なんて、────」
一姫から見てもあまりに馬鹿げた異様な光景。
ガッシュの最大呪文、バオウ・ザケルガより威力は落ちるが。
狙いを一姫が付けられるのと、速さが秀でているという点から、最悪の場合はガッシュの独力発動でも問題ない。
お互いに、シュライバーへ食らわせる呪文はこれだと想定し策を練っていた。
だが、それでもやはり仕留めきれない。
鎧の弾は全てが逸れ、そして残るジオウ・レンズ・ザケルガも軽やかに跳躍し避ける。
鎧の下、シュライバーは苛烈に嗜虐性を顔に張り付け笑う。
終わりだ。あの呪文も、いつまでも持続するようなものではないだろう。
「キャハッ☆」
本来、シュライバーであれば絶対に近寄らせない間合いに。
ガムテが口角を吊り上げ、迫ってきていた。
ガッシュ達を相手にしながら、シュライバーはガムテにも意識を回していた。
再起には時間がかかるほどのダメージがあり、何かする素振りを見せれば分かるはず。
ここまで接近されることなど。
「ッ───」
「殺し屋(オレ)は何でも殺す」
殺し屋は殺す。
人も攻撃も、当然気配すらも殺す。
例え、シュライバーが18万5731人を殺した規格外のシリアルキラーであろうと。
暗殺に於いては、自分よりも上だと認めざるを得ない程に。
シュライバーは何処まで行こうと、殺人鬼だ。
殺人に優れているが、相手に気取られず殺すなど、敢えて手間を掛けることは少なかっただろう。
戦場であれば、戦って殺す事が常だ。
英雄を自称し、戦場を駆け抜ける。それは、暗殺などとはほど遠い。
人の身であった頃も、目についた獲物を狩るばかりで要人を狙って、暗殺するといった意図はない。
同じ殺しを極めた専門家(プロフェッショナル)であろうと、身に着けた技巧(スキル)の種類(ベクトル)が異なる。それ故、ガムテの気配に寸前まで気付けない。
───破戒すべき全ての符───
「ウヒッ☆ キャハッ、フヒホッ!!!」
手にしていた刀はなく、代わりに歪んだ形状の短刀(ドス)が煌めく。
この一撃は不味い。シュライバーの回避を優先する渇望と、より純粋な危機感(アラーム)がけたたましく、シュライバーの脳内に木霊する。
ガムテに突如として流れる魔力と、集約される短刀は何かしらの聖遺物。
-
「キャハハハハハハハハハハッ!! フヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!☆」
誰よりも狂わんとして、ガムテは笑う。
「……相変わらず大した技量だが、言ったよね」
今度ばかりは、シュライバーも確実に避けられるかは断言しきれなかった。
シュライバーは、その僅か先へ身を捩って避けた。
だがほんの数ミリ、同じような光景だ。ヘンゼルを目くらましにシュライバーに仕掛けた不意打ちと。
凶器(エモノ)が刺さるまでの距離はセンチを切ったが、ガムテの持つ破戒すべき全ての符は触れなければ効果を発揮しない。
触れさえすれば、一時的にグランシャリオを強制的に解除しただろう。
破戒すべき全ての符はあらゆる魔術要素を初期化(キャンセル)する。
帝具もある世界では賢者の石と呼ばれるアイテムを利用し、魔術要素を活用し生み出された兵器だ。
破壊することは無理でも、未変身(ナマミ)に晒(もど)すだけならば問題ない。
「英雄(ぼく)は死なないんだ」
魔術髄液(ヤク)を脊髄に注射(シャブって)わざわざ魔力を一時的に得て、宝具の真名解放まで行っても。
ジャイアントキリングは成せない。
「言ったじゃん? オレは何でも殺すって☆」
ガムテの攻撃を避けたと同時に、後方へ生じる違和感。
「風よ、縛めの鎖となれ!」
「「風」(ウィンディ)!!」
風がシュライバーの後方を上下を遮るように拡がっていく。
いくら魔術の才があろうと、争いでシュライバーがさくら如きの動きを見落とすなど。
「キャハハハハハハハハハハ!!」
ガムテそのものがフェイント。
滲み出た殺気、全身を刺すような鬼気迫る威圧感、宝具(エモノ)の真名解放(ヤキイレ)。
全てが虚構(にせもの)。
本命を上げるため。さくらの気配を殺すための幕(カーテン)
「なーんだ……やることが、こんなものに望みを託すことか」
呆れ果てながら、シュライバーは溜息交じりに呟く。
ガムテの殺しのセンスだけは一目置いたが、それを以てして繋げた一撃がこんな生ぬるいものとは。
もうこの戦場は十分だ。これ以上の面白味は皆無、さっさと全員始末し別の狩り場を探す。
「ストーンキャノン!」
感傷もなく、「風」を射撃で蜂の巣にしようとした時。
数発の岩の砲弾が打ち上げられる。
最早シュライバーにとっての脅威ではないが、僅かに驚嘆したのはそれは死に掛けたルーデウスが放ったものだった。
まだ、あれだけの魔術が撃てたのか。
そこにのみ多少の驚きはあれど、死に掛けた劣等が、苦し紛れに放った。ただそれだけだ。
何せ、自分へまるで狙いも付けられていない。全てが見当方向の違いへ、打ち上げられている。
「礼を言うわ」
だが、一姫はその瞬間、勝ちを確信した笑みを放っていた。
「これで連鎖のラインは整った」
-
────
「泣き叫べ劣等────ここに、神はいない」
こいつ、何か勘違いしてるんじゃないのか。
死ぬほど流れる血に我ながらドン引きして、俺はシュライバーとかいうクソガキの言葉を聞いていた。
あいつの言葉には、多分嫉妬が混じってる。よく分からんが、神というのはヒトガミのことだ。
別にあんなのに好かれても、やきもち焼かれるようなもんじゃないと思うが……。
「がああああああああああ!!」
「ハハハハハハハハハハ!!!!」
キンキンと耳障りな声で笑いながらシュライバーは飛び跳ねて、ガッシュという子を嬲っている。
マントを器用に操り、致命傷を避けているが、あれでは時間の問題だ。
シュライバーの狙いは的確だ。俺も頃合いを見て、あの一姫って女の子から本を借りる気だったし、一姫もそのつもりで策を練っていた。
声には出さなくても、俺は長年のパーティでの冒険の経験からそういった連携には明るかったし、一姫は頭が良いからすぐにこちらに合わせてくれた。
シュライバーは俺達の僅かな表情や雰囲気の変化で、こちらの動向を察知したんだろう。
頭がおかしいだろあいつ。
とにかく、今俺がすべきことは……傷の回復。
腕の再生は、諦めるしかないか。
幸い肺は潰れてない。シュライバーは、俺が治癒魔術を使うのに、詠唱が必要というのに気付いてない。
ガッシュに気を取られている間なら……。
本当に、そんな暇はあるのか?
俺が傷を癒しても、今度はガッシュが死ぬ。ガッシュがやられれば、俺達に勝機はない。
「ぐ、ゥ……」
腕がなくなってバランス感覚がおかしくなったのか、痛みと血を失くしたせいでそうなったのか。
分からないが、とにかく立ち上がるだけでも一苦労だ。
立つだけで、血がダラダラと滝のように流れてくる。
正直言って、滅茶苦茶怖い。こうやっているだけで、死ぬかもしれない。
いや、ここで治癒魔術を使わなければ、きっと死ぬ。
死にたくない。
エリスとの約束はどうなる?
でも、あいつをこのまま放っておくわけにはいかない。
シュライバーが次はエリスを殺すかもしれない。
約束を破っても、俺が死ぬかもしれなくても。
あいつは、ここで食い止めないと。
だけど、本当に俺の命と引き換えにすべきことなのか?
決まってる。すべきことなんだ。
ルーデウス・グレイラットに転生した時に、決めただろ。
本気で生きていくと。
後悔なんかしない。全力で。
心残りはある。
ロキシーを殺した奴は分からない。シルフィだって、元の世界でどうなってるか分からない。
────ルーデウスはすごいのよ!
こんな俺でも、一途に信じてくれる。
そんなエリスまで死なせたら、例え生き残っても俺は一生後悔し続ける。
────
-
避けられて、消滅を待つだけのジオウ・レンズ・ザケルガが急旋回し、シュライバーへと襲い掛かる。
「────ッ?」
ルーデウスが撃ちあげた岩の中に混じる帯電した岩、それらがジオウ・レンズ・ザケルガに触れ、その姿をより大きくし誘導されていく。
───ザクルゼム!
あの時だ。シュライバーが避け、地面に当たったあの呪文。
ザクルゼムはガッシュの呪文を強化すると同時に、一度触れた呪文を誘導する性質を持つ。
複数個所にザクルゼムを打ち、別の攻撃呪文を打ち込めばそのライン通りに呪文の軌道は変更される。
ルーデウスはザクルゼムが被弾した土をそれぞれの岩弾へ分割細分化し、無数の砲弾に変えて、ジオウ・レンズ・ザケルガに食わせた。
強化率はザクルゼム一発分のみだが、無数に分散されたザクルゼムは雷を誘導するという性質を遺憾なく発揮する。
「それが何だって───」
何度でも避ければいい。
「避けられんならね? キャハッ☆」
その声は、もう一つの狂的な笑い声に上書きされる。
「ッ───!!?」
シュライバーの後方には「風」が展開されている。これを突破するにも、僅かな時間のロスは避けられない。
そのロスが致命的な遅れになる程に、ジオウ・レンズ・ザケルガは速い。
残された鎧の弾も同時に連鎖し誘導され、シュライバーの全方位を囲っていく。
背後から抱き締めるように追いすがる「風」と、前方、上下左右から迫るジオウ・レンズ・ザケルガと弾の包囲網。
この中で最も火力の低い「風」に向かい、テオザケルにやったような一点突破を試みて、両脇から鎧の弾が滑り込む。
拘束技の「風」と違って、これは避けなければ───。
「───く、そ……!!」
その全てを避けるのであれば、その理を捻じ曲げるしかない。
だが、その法は宇宙最強の戦士との戦いで切ってしまい、現状復帰の兆しは見えない。
だからこれは───。
「ぁ、───ッ」
轟く銃声を掻き消すように、雷音をけたたましく鳴り響き。
金色の閃光に飲み込まれていった。
否定しようがない、敗北の二文字を心中に刻み込まれながら。
────
-
「が、く…ぅ……」
俺は血反吐を吐きながら倒れる。
当たり前だ。俺は、治癒魔術より攻撃を優先した。
ザクルゼムという技が、あのガッシュという子の補助技だと一姫から聞いていた。
地面に保険で撃った一撃をいざという時は、シュライバーに繋げるように砲弾にして打ち上げてくれと言われていたから。
あのガムテの奴が乱入してきて、シュライバーの気を逸らしてくれたのは予想外だったが、上手くいったみたいだ。
どうなったかは、火を見るよりも明らかで。あの龍はシュライバーに喰らい付いてくれた。
遺体も何も見つからないのが、懸念されるが、それなりに痛手は負わせたのだと思いたい。
「エリ、ス……を……」
声をあげるのも精一杯で。
それならそれで、先に駄目元で治癒魔術でも掛ければいいのに。
しくじったな。さくらちゃんに教えておけば、今頃使いこなせてたかもしれないのに。
だけど、俺はこれだけは伝えないと。そう思って、声帯を震わせて出せるだけの声量を絞り出す。
「分かったのだ……その者は、必ず……私が守ってみせる……!!」
最後まで聞きもせず、この子は俺が望む答えを力強く言いきってくれた。
あんだけ強かったし、まあ信頼は出来るだろう。きっと……。
「ルーデウス、さん……」
さくらちゃんの顔は、涙で濡れていた。
無理もない。平和な日本から、あんな血みどろな世界の裏側を見せつけられたんだ。
「間違って、ませんよ……さくら、さんは……」
俺も初めて人の血に触れた時は、恐ろしかった。まだ俺は、そう言う世界だって割り切れたかもしれないが。
この娘はそう言う世界とは無縁で、関わる必要もないんだ。
だから、間違ってない。この娘の世界は尊いもので、あんな奴に貶されるようなものじゃない。
「……フ」
もっと、良い言い回しでもあったんだろうが、血が流れ過ぎて頭が回らない。
脊髄反射のように、咄嗟に笑顔を作って浮かべたが……。
「まだ、寝る…には……」
心残りは、ある。ありすぎるくらいだ。
俺は何の問題も片づけてない。エリスをフィットア領に帰さないといけないし。
シルフィのことや、ロキシーを殺した奴も……家族のことだって。
「もう少し……」
瞼が落ちていく。
ふと、もしもこんな殺し合いに巻き込まれなければ。
シルフィとロキシーとエリスも居て、家族に囲まれてベッドで死ぬような。
そんな未来もあったんだろうか。
ありもしない未来に思いを馳せて、俺は目を閉じた。
【ルーデウス・グレイラット@無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜 死亡】
-
「キャハッ☆! キャハハハハハハ!!!
こいつ、おっ死(ち)んでやんのォ〜!! バ〜〜カ!! キャハハハハハハ!!」
ルーデウスが息を引き取ったのとほぼ同じタイミングで、ガムテが刀を振り回し突っ込む。
ガッシュはさくらと一姫を庇うようにマントを広げた。
布と刃が数舜、鬩ぎ合った後、ガムテから後方へ退いていく。
「お主!?」
「こいつは貰ってくね☆」
その左手には、ルーデウスのランドセルが握られていた。
「キャハッ☆ 支給品(アイテム)、奪取(ゲット)!! 僥倖(ラッキィ)!!」
ルーデウスとそしていつの間にか、ヘンゼルのランドセルまで回収して。
ガムテは知能指数0の顔で、狂乱の笑みを振り撒く。
「返して、それはルーデウスさんの……!」
「お前、頭花畑(あたおか)か? 返却(かえ)す訳ねーじゃん!!」
許せない。
色んな事が起こりすぎて、悲しい事も怖い事も一杯あって。
様々な感情が入れ混じったさくらが取った行動は、魔法を使った攻撃だった。
カードを抜いて、杖の先に触れさせようとする。
「────お主、何故悪者のフリをしておる」
「…………あ?」
それを止めたのは、ガッシュの声だった。
「ヘンゼル(あの者)が死んだ時、お主は悔しそうにしておったではないか」
ガッシュの瞳には写っていた。
間に合わなかった自分を見て、その時にヘンゼルの死を悔やむガムテの姿が。
「お主の事情は分からぬ。だが、話して貰えれば…力になれるかもしれぬ」
自分の失態(ミス)だなとガムテは考える。
シュライバーを相手に、止むを得なかったとはいえ。
『約束してやる』
『今、ここでお前らは殺さない』
ああ言ったのは、余計だった。
殺し屋は必ず殺す。裏を返せば、殺さないと言えばまた殺さない。
無法のガムテでも美学はある。
「あ〜あ……あんなこと、失言(い)わなきゃなぁ」
未来の優しき王の瞳を、ガムテは直視せず。
踵を翻し、背を向ける。
「追ってくるなら来いよ。だが、その時は本気(ガチ)で殺す」
ガッシュは後ろの一姫を振り返る。
ダメージはないが、この戦いで相当疲弊しているのは間違いない。
もしも、ガムテと交戦となれば、また一人死ぬかもしれない。
「話してくれぬか! 私はお主の────」
それでも、想いと声だけは届けたくて。
ガッシュは叫ぶ。
「……」
ガッシュの声だけが木霊し、ガムテは消える。
やることは結局変わらない。やれることは、結局殺すしかない。
今更、何を言われようがもう引き返しなど出来ない。
(あいつ、まだ形成とかいうのを使ってねェ……)
ガッシュの事を振り払うように、ガムテはナルトとの交戦後に遭遇したルサルカの事を思い返していた。
あの女は、形成とかいう異能を発揮していた。顔見知りで同じ服を着たシュライバーが奴と同じ力を持っているのなら、シュライバーにも形成は存在しているはず。
グランシャリオという鎧は、奴の支給品で別系統の力を借りているだけだ。
シュライバーはまだ全力を出せていない。
それが制限によるものか、何かの制約があるのか分からないが。
しかも、奴があのまま死んだとも思えない。
(まあいい。少しアテも出来た)
眩暈がするような推測を重ねながら、一つ妙案が浮かぶ。
ガッシュのように、本をパートナーに委ね力を発揮する子供が別に居るのであれば、
交渉(くどきかた)次第では、自分の戦力に加えることも出来るかもしれない。
「……じゃあな、ヘンゼル」
自分の心の中で生き続ける一人の割れた子供に別れを告げる。
もう一人の自分が殺し切れなかった割れた子供へ、複雑な想いを抱きながら。
-
【G-3/1日目/午前】
【輝村照(ガムテ)@忍者と極道】
[状態]:全身にダメージ(中、腹部に大きなダメージ再生中)、疲労(大)
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、
破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order、妖刀村正@名探偵コナン、
[道具]:基本支給品、魔力髄液×10@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×5
基本支給品×2(ヘンゼルとルーデウスの分)、死者行軍・八房@アカメが斬る!
石毛の首輪、ルーデウスのランダム品0〜2
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:ヘンゼル……。
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:シュライバーは警戒しつつ絶対に殺す。
5:ガッシュのような本を持つ奴が居れば、利用(つか)えるか?
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。
「……ガッシュ」
「一姫?」
「少し、寝るわ。あとは……任せていいわね?」
ガッシュの肩を叩いて、短く言うと一姫はもたれかかるように倒れる。
元々、特殊な脳を持つ彼女は人一倍睡眠を必要とする。
心の力を多用し、シュライバーに対しフルでその記憶力を発揮したとなれば、休息も必要となるだろう。
ガッシュはマントで一姫を受け止め、器用に抱き抱える。
「私はフリーレンという仲間と、待ち合わせをしているのだ。お主も……」
「……うん」
「だが、その前に少しやらねばならぬことがあるのだ。
お主は、一姫と一緒に少しあそこで待っててくれぬか?」
ガッシュの言う事は、さくらにも分かっていた。目を背けたくなるような事だが、死者から首輪を回収しなければいけない。
ガッシュはさくらに気を遣い、少し離れた民家でさくらに一姫を預けて、それから20分程で戻ってきた。
手には二人分の首輪と、少し土でマントが汚れていた。
民家から出た後、遺体は何処にも見えない。きっとこの子が埋葬まで、してくれたのだろう。
さくらは、何も手伝えなかった自分に嫌気がしながら、先導するガッシュの後をゆっくりと追いかけて行った。
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【G-3/1日目/午前】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]疲労(大)、全身にダメージ(中)、シュライバーへの怒り(大)
[装備]赤の魔本
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、サトシのピカチュウ(休息中、戦闘不可)&サトシの帽子@アニメポケットモンスター、首輪×2(ヘンゼルとルーデウス)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:フリーレン達を探すのだ。
1:マサオという者と赤ん坊は気になるが、今はグレイラット邸へ向かう。
2:戦えぬ者達を守る。
3:シャルティアとゼオン、シュライバーは、必ず止める。
4:絶望王(ブラック)とメリュジーヌと沙都子も強く警戒。
5:エリスという者を見付け、必ず守る。
[備考]
※クリア・ノートとの最終決戦直前より参戦です。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。
【風見一姫@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(極大)、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3、首輪(サトシと梨花)×2
[思考・状況]基本方針:殺し合いから抜け出し、雄二の元へ帰る。
0:……。
1:首輪のサンプルの確保もする。解析に使えそうな物も探す。
2:北条沙都子を強く警戒。殺し合いに乗っている証拠も掴みたい。場合によっては、殺害もやむを得ない。
3:1回放送後、一時間以内にボレアス・グレイラット邸に戻りフリーレン達と再合流する。
4:可能な限り早くに雄二を見つけ出す。
[備考]
※参戦時期は楽園、終了後です。
※梨花視点でのひぐらし卒までの世界観を把握しました。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
※絶対違うなと思いつつも沙都子が、皆殺し編のカケラから呼ばれている可能性も考慮はしています。
【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(大)、封印されたカードのバトルコスチューム、我愛羅に対する恐怖と困惑(大)、ヘンゼルの血塗れ、ヘンゼルとルーデウスの死へのショック(極大)、シュライバーへの恐怖(極大)
[装備]:星の杖&さくらカード×8枚(「風」「翔」「跳」「剣」「盾」「樹」「闘」は確定)@カードキャプターさくら
[道具]:基本支給品一式、ランダム品1〜3(さくらカードなし)、さくらの私服
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない
0:……。
1:ガッシュに付いていく。
2:紗寿叶さんにはもう一度、魔法少女を好きになって欲しい。その時にちゃんと仲良しになりたい。
3:ロキシーって人、たしか……。
4:ルーデウスさん……
[備考]
※さくらカード編終了後からの参戦です。
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「がッ、────あいつ…ら……ッ!!」
道端のガードレールに、手を突きながらよろめく軍服の少年。
これがかの黒円卓第十二位・大隊長、ウォルフガング・シュライバーであると語り、それを信じる者が何人居ようか。
だが、風と雷の包囲網の中、形成の手前であるオーラの具現化を行い骸骨の犬を自分に覆いかぶさるようにして、攻撃の中の弱所を探り出し、一点を貫くように突破した。
そこまでは良いが、鎧越しである為に”触られなかった”とはいえ、鎧を通じた雷のダメージは無視できない。
むしろ、シュライバーの打たれ弱さで、なおダメージをここまでに軽減したグランシャリオは非常に高い硬度を持っていたのだろう。
直撃よりはマシだが、最早戦闘続行が不可であるというこれ以上ない辱めを受け、シュライバーは殺す為でなく逃げる為に、その神速を行使する。
「図に、乗るなァ!! あいつらッ!!」
疲弊しきった体で吠えても、それは敗者の遠吠えだ。
だが、叫ばずにはいられない。
ガッシュという少年を初め、奴のパートナーの一姫という女。
ガムテという子供に、さくらとかいうメスガキ。
腹正しい事に、殺したとはいえルーデウスとかいう神に愛されたあの劣等の思惑通りに事が運んだのも気に入らない。
「銃、まで……ク、ソッ!!」
二丁ある内の一丁が粉々に砕け散っていた。
これで、奴等に触れるかもしれない可能性が飛躍したのだ。
許せるわけがない。
「僕は、ハイドリヒ卿の、英雄(エインフェリア)なんだッ!!!」
狂的な怒声で、黄金の近衛死せる英雄は吠える。
取り込んだ魂を消化し、本来のシュライバーであれば、ありえないダメージと疲労の回復に務めるという行為を行いながら。
新たな獲物と戦場を探す。
次は必ず、あの屈辱を味合わせてくれた劣等共を殲滅すると。
【ルガーP08@Dies irae 破壊】
【F-3/1日目/午前】
【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(極大)ダメージ(大 魂を消費して回復中)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、欲求不満(大)
[装備]:モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
0:銃を探す。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
4:ガッシュ、一姫、さくら、ガムテは必ず殺す。
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
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投下終了です
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投下お疲れ様です
リルトット・ランパード、鈴原小恋を予約します
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>悪の不在証明
NATURAL BORN DESTROYER
青嵐のあとで
投下ありがとうございます!
沙都子、前話で殺す気満々だった写影君に恩を仇で返すとかほざいてるの。面の皮が厚すぎて草。
一見、洗脳されてるようなカオスですけど、心の底では信用しきれていないのが可哀想。
沙都子を間近で見て、マスターにしたいかっていうと、ガタッさん並に警戒はしちゃいますよね。
同じように沙都子も、ギリギリの綱渡りをしていて、当面の戦力としてはカオスにも期待できますけど、最終的にはメリュジーヌを倒さなくちゃいけないし、
どっちかというとメリュジーヌとカオスのが良好な関係気付いてるのも皮肉ですね。
メリュジーヌはカオスには優しいという発言や、このインフレしきった環境で地の文で貴重な銃弾なんて言ってしまう程、銃に信頼を置く辺り、沙都子は仲間がいるようで孤軍奮闘な感じがしますね。
マサオ君のブチ切れ発言から、それが本音じゃない事を諭して受け入れてくれた写影君、俺には一番ヒーローらしく見えるよ。
色々被害を拡大したのは間違いないですけど、ナルトの悪評以外は地味にステルスマーダー落としてるだけだし、マサオ君が明確な悪意で人を陥れたことってないので。
ここまで、本当によく一人で頑張ったのは間違いないんですよね。
説得のためとはいえ、勢いで言ったことに恥じらう写影君、やはり小学生なのだなと微笑ましくなる。
しかし、ハーマイオニーやたら正論ぶつけるのは不味いですよ。それを止めたり、受け流す写影と桃華は良いトリオだったのかも。
まあ状態表が流れなかった不穏さのまま、リンリンと出くわしちゃうんですがね。
桃華が対話の場を設けたり、対応は間違ってないんですが、べらぼうに強いし精神状態がおかしいせいで、全く聞いて貰えないから畜生!
ウェザー・リポートをソルソルでメタるの酷い。初めて使って、使いこなしてるの天才すぎでしょ。
それに対抗して、写影とスペクテッドのコンボを活用して、ハーマイオニーが補助を担当、桃華が移動と攻撃をする連携は面白い。
ゼウスを科学知識で倒すの、これもうとあるだよ。熱々の紅茶だかコーヒーで熱膨張起こしてテロリストを撃退した上条さんと同じく、写影君は間違いなくヒーローです。
しかし、何度やられても打たれ強いリンリン。最後は覇王色を乗せた咆哮で吹っ飛ばすのは強すぎる。
確かに、音は見れないし音速に反応できるキャラがここに居ないですもんね……。
絶体絶命の窮地に裏切りおにぎりと決別したマサオ君、漢なんだ……。エスターからするとふざけんなだけど。
マサオ君、間違いなくこのロワの序盤を盛り上げてくれた、エンターティナーの一人だったので感慨深いですし、悪落ちするんじゃなく最後は誰かをお助けする為に落ちたのは良いですね。
自分の中で、マサオ君そのものは悪人じゃないという拘りもあったので、とても満足感がありました。
マサオ君が多用したシフトチェンジ(モンスター・リプレイス)のカード、原作だとATMと城之内君が、あの迷宮兄弟を撃破した結束のカードなんですよね。
ここだと、友情しか破壊してないけど。
マサオ君殺したリンリンも切ないですが、勇敢だからカードの範囲外にあったハーマイオニーも悲しい。
最後まで笑みを作って、声が届かないのを分かった上で本音を言うのお辛い。
ワンチャン逃げた先が違えば、近くに日番谷隊長も居そうだったし、ハンディ絡みでフリーレンが無駄に時間をロスしなければと、ほんとボタンの掛け違いで色々別の未来があったかもしれないの切ないですね。
ようやく到着したフリーレンも間に合った訳ではなく、リンリン戦も後味が悪い締め方。
写影が最後に良い幻覚を見せて、リンリンだけが救われていく。
夢の内容を見るに、やっぱり根っこは悪人じゃないんですよ。
リンリンも強すぎなければ、こんな間違った方向に行く事はなかったんでしょうね。
リンリンを指導して死なないの、多分ガープとかあの辺のレジェンドクラスしか居ないですけど。
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熱の籠った感想ありがとうございます!
ウォルフガング・シュライバー、鬼舞辻無惨
予約します
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ゲリラ投下します
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(ついていないで、ありんすねぇ……)
孫悟飯との交戦後、傷を癒すために血(ジュース)を探し、新たに見つけた二人。
シャルティア・ブラッドフォールンは喜びよりも先に、苛立ちを覚えていた。
人が集まるとすれば、このエリアの近辺だと海馬コーポレーションに目を付け、陣取っていたが。
「お前────」
「……」
二人のうち、女の方は良い。一秒もせず殺せる。
厄介なのは太刀を背負った少年の方だ。
背丈は低く、一見して女の方よりひ弱そうにも見えるが、決してそんなことはない。
シャルティアにも匹敵しうる実力者であると、少年の纏う圧が伝えてくる。
また少年もシャルティアを見て、同じように実力を図ったらしく、常に臨戦態勢を保ち警戒を怠らない。
負けなくとも、消耗は必須。
しかも、スキルも使用回数を尽きた以上、本来のコンディションからは更に遠ざかっている。
───
妙なことになったものだと、シャルティアは思う。
土を掘って埋葬しているのはニンフとかいう天使の女の生首だ。
先ほどまで、敵対していた相手の墓を作ってやるとは、やむを得ないとはいえ奇妙なものだった。
シャルティアは、自分は殺し合いには乗っていないと説明した。
相手の少年も訝しんではいたが、太刀の柄から手を放し、お互いの腹は分からないものの一先ず、交戦は避けるという認識で合致したらしい。
向こうも足手纏いの女を庇いながら、戦いたくはなかったのだろう。
そして、海馬コーポレーションの入口、誰かが先に来て爆破でもしたのかロビーは滅茶苦茶だったが。
その中で転がっていたグチャグチャになった頭部。
僅かな面影から、あの天使だと分かった。
相手の少年、日番谷冬獅郎はその遺体を埋葬しようとしていた。信用を稼ぐわけでもないが、敵対しない流れで手伝わないのも不自然だろうと思い、シャルティアも面倒だが一緒に土を掘る羽目に。
後は、もしこれを孫悟飯が見て、シャルティアがやったと思いこまれ粘着されるのも面倒だったのもあるだろう。
いずれ、やり返すつもりだが、向こうから付け狙われるのも厄介だ。
(ウォルフガング・シュライバー……警戒はしておいた方がいいでありんしょうね)
ニンフの頭部埋葬後、情報交換を行ったが。
生憎、日番谷達はそこまで参加者との接触は多いとは言えなかった。
得られたのは、殺し合い開幕時に襲ってきたマーダー達ぐらいだ。
しかも、恐らくだが日番谷は自分と友好的な人物の情報を、一切渡してはいない。
大分警戒されているようだ。
ただ、一つ面白い情報が手に入り、シャルティアは心の中でほくそ笑む。
───
(イリヤスフィールか……)
日番谷が話したのは、数時間前に交戦したシュライバーと、その後に襲撃を受けた魔法少女についてだ。
だが、思わぬ返答だったのは、その少女の名前は恐らく美遊ということ。
そして彼女と組んで、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンという少女が殺し合いに乗っているらしいということだ。
「ええ、私はイリヤスフィールを信じて、そして殺されかけたわ。油断していたの」
「確かに、俺達が見た女の特徴と”フリーレン”、お前が騙されたというイリヤスフィールの使う能力の特徴は一致する」
廓言葉を抑え、そしてガッシュ・ベルが呼んでいたあの耳長───フリーレンの名を騙り。
シャルティアは殺し合いの開始から、最初に出会った美遊とイリヤスフィールに騙し討ちされたと話す。
使う能力も日番谷に見たそれと同じで、信憑性は低くはなかった。
(こいつが何処まで本当の言っているか、分からねえけどな)
日番谷はシャルティアを信じていない。
死神としての経験は浅くとも、少なくない実戦の中でこういった血生臭い手合いは何人か見てきた。
理屈としての根拠はないが、シャルティアは恐らくマーダーだ。
ただ、やはり証拠はないのと、この場で交戦すれば同行者の乾紗寿叶を巻き込んでしまう。
戦闘は避けざるを得ない。与えた情報も危険人物のみで、ルーデウス・グレイラット達の事に関しては一切話していない。
そこまで念入りに警戒しながら、一点のみ妙な信憑性を帯びるのがイリヤスフィールの件だ。
美遊・エーデルフェルトの名が呼ばれた事から、小嶋元太を殺めたあの少女が脱落したらしいのは僥倖だが。
それと手を組んで殺し合いに乗っているらしい、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはまだ生きている。
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「外面は非常に良かったの、だから騙されてしまったのよ。
名簿にあったクロエ・フォン・アインツベルンも親族なら、イリヤスフィールと同じで危ないかもね?」
「……」
何処まで信じるべきか。
元太の件がなければ、ほぼシャルティアの嘘だと確信していたが。
美遊が殺し合いに乗った事は、言い逃れが出来ない事実だ。
だが、その情報元であるシャルティアは信用しきれない。
「私は仲間を探しに行くわ」
適当に話を切り上げてから、シャルティアは海馬コーポレーションを後にする。
日番谷に語った魔法少女の話から、特徴を深堀すればシャルティアが殺しイリヤが美遊と呼んでいた少女の特徴が似ていた。
だから、恐らくシャルティアは元太というガキを殺した少女と、美遊が同一人物なのだろうと判断し、咄嗟にイリヤが殺し合いに乗っていると吹聴する。
悟飯がマーダーであると話しても良かったが、美遊の知人であるイリヤの方が信憑性は高い。
何なら、悟飯が勘違いして、そのままイリヤと敵対するのも面白いだろう。
シャルティアの名を出せば、すぐに殺し合いに乗っていることがバレるので、恐らくは今も対主催のフリーレンの名前を借りておいて、口調も変えればそう正体に辿り着く事もないはず。
(ま、そう上手くはいかんでありんしょうが……)
もっとも、日番谷はシャルティアを信じていない。それは自分でも分かっていた。
名を騙っても、少し話し合えばすぐにバレる話だ。
だから、シャルティア自身もそこまで気にしていない。一番は日番谷と戦闘をせずに、この場を離れる事なのだから。
これは単に、ちょっとした嫌がらせのようなものだった。
上手くいけばそれで良し、駄目なら駄目で然程期待してもいない。
(奴等も、早々馬鹿じゃないでありんしょうから)
【一日目/午前/E-8 KC近く】
【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】
[状態]:怒り(極大)、全身にダメージ(大)、スキル使用不能、MP消費(大)
[装備]:スポイトランス@オーバーロード 闇の賜物@Dies Irae
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2、カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]基本方針:優勝する
0:日番谷から離れる。警戒しつつ、今は戦闘は避けたい。
1:真紅の全身鎧を見つけ出し奪還する。
2:黒髪のガキ(悟飯)はブチ殺す。ただし、装備の整っていない今は控える。
3:自分以外の100レベルプレイヤーと100レベルNPCの存在を警戒する。
4:武装を取り戻し次第、エルフ、イリヤ、悟飯に借りを返す。
[備考]
※アインズ戦直後からの参戦です。
※魔法の威力や効果等が制限により弱体化しています。
※その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
※スキルの使用可能回数の上限に達しました、通常時に戻るまで12時間程時間が必要です。
※日番谷と情報交換しましたが、聞かされたのは交戦したシュライバーと美遊のことのみです。
-
「乾、フリーレンの言う事は鵜呑みにしない方が良い」
「……ええ」
海馬コーポレーションから立ち去っていくシャルティアの背を見ながら、日番谷はきな臭さを覚えていた。
美遊絡みのイリヤの話は、やはり一言で嘘だと断じる事は難しいが。
だが、それで鵜呑みにするのも危険だろう。
(やっぱり、情報が足りねえな……。放送前、海馬コーポレーションの近くで、激しい霊圧がぶつかりあったのは間違いねえ。
あのフリーレンって女が、その片割れって可能性もある……。あいつはやはり信用できねえ)
慎重に情報を集めた上で、イリヤがクロかどうか判断した方が良い。
(日番谷君の言っていることは、分かってる……分かってるけど……)
日番谷の様子から、シャルティアが危険な相手かもしれないのは紗寿叶にも分かっていた事だ。
迂闊に彼女の話を信じ込むべきではないのは、分かっていた。
「乾……美遊って女が殺し合いに乗ったのは、間違いないかもしれねえ。
イリヤスフィールとも仲間かもしれない。
だが、イリヤスフィールを美遊が裏切ったのかもしれないし、イリヤスフィールの知らないところで美遊が殺し合いに独断で乗っている可能性もある。
いくらでも考えようはあるんだ。あまり、悪く考えるな」
日番谷の言っていることは、とても大人びた正論だった。
────ごめんなさい。死んで
────危ねえぞ、姉ちゃん!!
あの時の、撃ち抜かれた元太とそれをした美遊の姿が脳裏にこびり付いて離れない。
その仲間と言っていたイリヤという少女も、きっとそうなのでは?
外面は良いと言っていたから、対主催を騙して殺す機会を狙っているんじゃないか。
そんな事を考えてしまう。
(私……嫌な人ね……)
どうしても、見た事も話した事もないイリヤスフィールという女の子への悪感情を捨て去ることが出来なかった。
【一日目/午前/E-8 海馬コーポレーション】
【乾紗寿叶@その着せ替え人形は恋をする】
[状態]:健康、殺し合いに対する恐怖(大)、元太を死なせてしまった罪悪感(大)、魔法少女に対する恐怖(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2、飛梅@BLEACH
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
1:魔法少女はまだ怖いけど、コスはやめない。
2:さくらさんにはちゃんと謝らないと。
3:日番谷君、不安そうだけど大丈夫かしら。
4:イリヤという女の子、殺し合いに乗ってないわよね……。
5:妹が居なくて良かったわ。
[備考]
原作4巻終了以降からの参戦です。
【日番谷冬獅郎@BLEACH】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、卍解不可(日中まで)、雛森の安否に対する不安(極大)
[装備]:氷輪丸@BLEACH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2、元太の首輪、ソフトクリーム
[思考・状況]基本方針:殺し合いを潰し乃亜を倒す。
0:とにかく、情報が欲しい。一旦、海馬コーポレーション内を探索する。
1:巻き込まれた子供は保護し、殺し合いに乗った奴は倒す。
2:シュライバーを警戒。次は殺す。
3:乾が気掛かりだが……。
4:名簿に雛森の名前はなかったが……。
5:フリーレン(シャルティア)を警戒、言ってる事も信用はしない。
6:イリヤスフィールも警戒はするが、あくまで警戒のみ。
[備考]
ユーハバッハ撃破以降、最終話以前からの参戦です。
人間の参加者相手でも戦闘が成り立つように制限されています。
卍解は一度の使用で12時間使用不可。
シャルティアの事を、フリーレンという名だと認識しています。廓言葉も聞いていません。
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投下終了します
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投下します
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追って来ない。
海馬コーポレーションを脱兎の勢いで飛び出し早数十分。
天を突き上げ聳え立つ海馬瀬人の城も、今では遠くの景色の一部。
背中へ刺さる殺意も皆無、自分達以外に生き物の気配は虫一匹だってありやしない。
振り返り暫しの警戒。
逃走の継続か交戦に移るか、どちらだろうと即座に動けるよう霊子を集中。
「……鬼ごっこする気は無かったってことかよ」
それでも追跡者が現れる様子は無く、本当に気を抜けると判断したらしい。
気怠さをため息に乗せて吐き出し、地べたへ乱雑に腰を下ろした。
斬り落とした参加者の頭部を弄び利用した挙句、エントランスの爆破という派手な真似に出た二人組。
褐色肌の少女はまだしも、銀髪の方は兎を追いかける狼にでもなりきってハンティングに興じるのではと考えたが。
存外、逃げた獲物への拘りは低いのか追跡はして来なかった。
今更ながら少々焦り過ぎていた自分が馬鹿に思えて、舌打ちを一つ零す。
クセの強い輩など、見えざる帝国(ヴァンデライヒ)の同僚で散々見慣れてるだろうに。
直前に感じた強者同士による霊圧の衝突に、緊張が解けなかった故か。
「うぅ〜めがまわるよ〜…」
或いは、抱き上げたちっぽけな命が原因か。
夢の世界で束の間の休息を取っていた筈が、意識を現実に引き戻され訳も分からぬ内に逃げる羽目になった。
飛廉脚を使った移動は、ジェットコースターも未体験の小恋には刺激が強い。
数時間前に暴風で吹き飛ばされた時と良い勝負だ。
尤もリルからすれば、逃走の際に出した速度はノロ過ぎると言ってもいい。
最早過去の称号であるがリルは星十字騎士団の一人だった身。
ユーハバッハの力を分け与えられたのは同じでも、一般聖兵とは一線を画す実力者だ。
単に聖文字を持つのみならず、滅却師の基本的な能力がより洗練されている。
霊子兵装の扱い、血装による能力向上の練度、そして飛廉脚の速度。
だが此度は実力が高過ぎる故に、自らへ枷を付ける必要に迫られた。
リル一人ならば全力のスピードを出したとて問題は無いが、小恋がいるなら話は別。
滅却師でもなければ死神でもない、正真正銘只の人間の幼子の体は耐えられない。
とはいえわざわざノロく走ってやった意味も無かったのだが。
もう一度舌打ちが零れそうになり、耳障りな声が聞こえ出す。
タイミングが良いのか悪いのか、乃亜による定時放送の時間だ。
-
○
「うぜぇ」
放送が終わって真っ先に口を付いて出るシンプルな罵倒。
6時間前の放送での口振りから予想していたが案の定、聞きたくも挑発を垂れ流された。
全く持って人を苛つかせるのにかけては天才的なガキだと、つくづく思う。
耳に入れたいとは微塵も思わない煽りの数々だが、必要な情報も手に入った。
禁止エリアは今の自分達に大きく影響する場所では無い。
死亡者も同様。
知人の名は一つも呼ばれず、小恋が言っていた連中も無し。
いい加減見れるようになったらしい名簿を開くと、小恋も画面を覗き込む。
ジジも、キャンディも、ミニィも、ついでにバンビもいない。
乃亜が始めたデスゲームの参加者は皆子供ばかり。
大半が現世で言う小学生か、精々が中学生辺りのガキ限定。
中身まで子供かはともかくとして、参加条件からジジ達は除外確実。
よりにもよって自分だけピンポイントで巻き込まれたのは、言ってやりたい文句と罵倒が山ほどある。
親しい者達はいないが知っている名前が一つもない訳ではなかった。
(こいつかよ…)
日番谷冬獅郎。
護廷十三隊の十番隊隊長は参加条件に合致する少年だ。
瀞霊廷襲撃の前に死神達の情報は伝達されたのもあって、日番谷を知ってはいる。
が、向こうからリルへの印象が良いか悪いかで言えば後者だろう。
元々敵同士だったのは当然として、何より日番谷は一度ジジの能力で支配下に置かれた。
自分をゾンビ化させた奴とつるんでいたリルへ友好的に接するとは、幾ら何でも有り得ない。
それこそ黒崎一護のような甘ったるい男でもない限り。
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(ま…他の連中よりはまだマシか)
いざ対面となったら警戒はされるだろうが、問答無用で殺しに来る程の能筋では無い筈。
事態が事態だ、こっちが殺し合いに乗って無いと分かれば一時的な共闘くらいは承諾すると思いたい。
少なくとも、十一番隊のバーサーカーや十二番隊のマッドサイエンティストよりかはスムーズに事を運べる。
加えて京楽春水から叫谷での一件の報告を受けていれば、リルへの印象も幾らか和らいでいるだろう。
ジジがやらかした件については今だけ水に流して欲しいものだ。
(そういや、アイツはいないんだな)
思い出すのは褐色の肌をした一人の子供。
綱彌代時灘に従っていた、というよりは使われていた彦禰という名の霊王の器。
日番谷と同じく参加者の条件に当て嵌まるが、乃亜のお眼鏡に適わなかったのだろうか。
リル本人は彦禰へ思う所があるものの、不参加ならばこれ以上考える必要もない。
「むむむ……」
唸るような声に視線をくれてやれば、険しい表情でタブレットを睨む幼女が見えた。
こちらが何かを口にするより早くバッと顔を上げる。
「おねえちゃん…」
リルを見つめる顔付きたるや、一桁の年齢らしからぬ真剣さ。
知っている名前、それもリルと違って親しい人間のものが載っているのだろうか。
それなら流石に少しは真面目にもなるだろうなと、ありきたりな予想をし、
「かんじがいっぱいでよめません!」
「カッコ付けて言う台詞じゃねえだろ」
飛び出した内容に思わず真顔で返す。
深く考えなくても当然と言えば当然の話だ。
こんな1+1の問題を大真面目に取り組んでるだろう子供では、名簿の確認もままならない。
フリガナを付けてくれる親切さが乃亜にある筈も無く、大層面倒くさそうにもう一度名簿を隅から隅までチェック。
小恋が言っていた「みのりちゃん」を始め、知り合いが一人もいないのを伝える。
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「よかったぁ…みのりちゃんたちはこわいめにあってなくて……」
「案外、お前がいない隙に別のガキに手を出してんのかもな」
「そんなことないもん!ほかのコにデレデレしないってやくそくしてくれたよ!」
頬を膨らませて反論する小恋を尻目に、今後の動きを考える。
とにかく日番谷とは会っておいて損はない。
金髪の痴女に、イカレた趣味のガキと組んでる褐色女。
まともの「ま」の字も知らない連中ばかりと遭遇する羽目になったが、ようやく話の通じる相手の存在を知れた。
それに日番谷なら、小恋を預ける相手としても申し分ない。
一護程甘くはないだろうけど、幼女を守るくらいの正義感は持ち合わせているだろう。
実力に関しても特記戦力に名は連ねなかったが、それでも隊長に上り詰めるだけの強さはある。
それなら小恋一人を守るくらいは問題無い。
「…………何考えてんだか」
と、そこまで思考を回し自分への呆れを吐き捨てる。
日番谷と組むのに不満はない、かといって別に協力して乃亜を倒そうなどと暑苦しい理由は含まれていない。
自身の生存の為に組んだ方が都合が良いから。
だというのに、いつの間にやら小恋を守れる参加者という方に理由がシフトし掛かってるではないか。
合理的とは言えないチョコラテのような甘ったるさ、口内に広がるのは吐き出しそうな苦い味。
優先順位を見誤る己への不快感。
「おねえちゃん…?」
「……」
こちらを見上げる幼女を無視し、太陽が見え隠れする空を睨む。
小恋を連れ歩き、何らかのメリットがあったとは正直言えない。
金髪の痴女との殺し合い、敵が繰り出す大規模な一撃との衝突を避け逃走に移った。
もし小恋がいなければ迎撃し、始末できたか或いは痛手を食らわせてやれたかもしれない。
海馬コーポレーションに現れた二人組。
自分一人ならもう少し冷静に動けただろうが、小恋の存在が逃走を急かし今に至る。
-
「……」
ジジ達のように戦闘で背中を任せられる奴じゃない。
戦えなくとも、首輪解除などで役に立つ頭脳も持っていない。
お人好しな参加者とスムーズに組める為に連れ歩いた。
だがそういった者と会えるまでにこいつと一緒にいたせいで、いらぬ災難が自分に降りかからないと何故言い切れる。
この先も小恋を連れて行くのは、果たしてマシな選択と言えるのか。
「……」
いっそここで首輪を手に入れるのも、悪い手ではないんじゃあないか。
周囲に霊圧は皆無。
今なら幼女一人を朝食にしたって、乃亜以外には分からない。
後で日番谷や善良な参加者に遭遇しても、リルが黙っていれば永遠に知る機会はない。
現世のガキ一人殺すくらい、駄菓子を噛み砕くのと同じだ。
ドーナツ一箱で繋がった薄っぺらい関係を自ら壊すか否か。
天秤が前者へと傾きを見せ――
「…………あ?」
ぷにっと、気の抜けた擬音が聞こえそうな感触。
自分の首に腕が回され、マシュマロのようなモノが頬に当たっている。
「えへへ…すりすり〜」
視界に映る水色は数時間前に着替えた、魔術師の衣装。
むず痒くなるような甘ったるい匂いが鼻孔を擽る。
横目で見ると、何が楽しいのか悪戯っぽく微笑む見慣れた幼女の顔。
自分に頬を摺り寄せる小恋へ、次に言うべき言葉が出て来ない。
-
リルの視線に気付き頬を離すも、体勢は抱きついたまま。
互いの吐息が当たる程の至近距離で、満面の笑みを向ける。
「いまの小恋はぶらっくまじしゃんがーるだから、げんきがでるまほうをかけてあげたのです」
「……」
得意気に言うけどリルは無言で顔色一つ変えない。
ほんのちょっぴり不安になったのか、眉を八の字に下げて言う。
「えっとね…おねえちゃん、なんだかおこってるみたいにみえたの。小恋のためにたくさんがんばってくれて、それでつかれちゃったのかなって」
「……」
「小恋はおねえちゃんみたいにびゅわーってはしったりできないけど、でも、なにかしてあげたくて……」
乃亜が自分達に何をさせようとしてるのか、具体的には分かっていない。
だけど最初に二人の少年が殺され、金髪の裸みたいな女の子に襲われ、別の少年の頭部が置かれてるのを見た。
今自分達がいるのは、前に「みのりちゃん」と二人で入ったお化け屋敷よりも恐い場所だとは小恋も察しが付いている。
一人だったらきっと大泣きしていたかもしれない。
金髪の女の人や、他の危ない人達に酷い目に遭わされていたかもしれない。
でもそうならなかった。
守ってくれて、助けてくれる人がずっと一緒にいてくれたから。
嬉しいけれど、それだけじゃ嫌だった。
「みのりちゃん」が沢山大好きをくれた分、小恋からも大好きをあげたように。
貰ってばかりは嫌だから、自分からも何かをしてあげたかった。
「だから、これでげんきがでるかなぁっておもったんだけど…おねえちゃん、まだおつかれモード?」
「……」
「んーと、それじゃあ…ほっぺにチューする?小恋もヒメとよくチューしてるから、おねえちゃんともチューすればもっとなかよしになれるかな?」
大真面目に首を傾げて思案する幼女を前に、無言を貫く。
ほんの数十秒前まで、小恋を切り捨てようと考えていたとは夢にも思わないだろう。
極めて利己的に喰い殺すのを決めかけたなんて、絶対に気付かないだろうガキをポーカーフェイスで見つめ、
-
「いらねえよアホチビ。ガキの癖に脳内真っピンクのド淫乱かよ」
「うにゃっ!?」
すらすらと毒を吐きつつ、頬をつねる。
軽く動かすと面白い様に伸びる、まるで餅のようだ。
(…っとに、何考えてんだか)
真剣に小恋を喰い殺そうか考え込んだというのに、すっかりどうでも良くなった。
あれだけ考え込んだ自分が馬鹿みたいだ。
乃亜が人を小馬鹿にする天才なら、こいつは差し詰め思考を投げやりにさせる才能の持ち主か。
非情にどうでもいいことを思い浮かべる辺り、あながち間違いでも無いとリルは少々現実逃避気味に思う。
(まぁ、あのクソガキがいらねえ横槍入れてバラす可能性もあるか…)
仮に小恋を密かに殺し、何食わぬ顔で日番谷と手を組んだとしてもだ。
主催者という立場の乃亜は小恋の殺害を当然把握してるだろう。
余計なタイミングでそれを曝露され、協力関係から一転し大勢を敵に回す羽目にならないとも限らない。
最初の場や放送での口振りから、乃亜は時灘と同じく腐り切った性根の持ち主なのはほぼ確定。
今は高みの見物を決め込んでいても、いつ参加者へちょっかいをかけるか分かったもんじゃあない。
己の嗜好の為だけに三界の均衡を崩そうと目論んだ男の顔が、嫌でも思い出される。
(いっそこいつが……)
「うにゅ…おねえちゃん?」
「なんでもねーよ」
引っ張られた頬を擦りつつ、不思議そうな顔をする小恋を雑にあしらう。
いっそ小恋が、もっと我儘でロクに言う事も聞かない奴なら。
余計なトラブルばかりを招き、悪びれもしないクソガキだったら。
迷う必要も無く切り捨てられた。
-
そんな言い訳染みた内心を馬鹿正直に伝える気はなく、地図を開き行き先を決める方を優先。
施設は複数あれど選べるのは一つだけ。
しかもどのような奴と会えるかは完全に賭けだ。
放送前に感知した巨大な霊圧の持ち主とぶつかる羽目になってもおかしくはない。
せめて護廷十三隊や見えざる帝国と関係のある施設が設置されていれば、そこを目指す気になれたのだが。
何にしろ、日番谷でなくともいい加減まともな参加者と会えることを願いタブレットを睨む。
――『リルのそういう冷たい顔で暑苦しいところ、本当にキモいと思うけど、結構好きだよボク?』
(るっせーんだよ変態趣味の糞ビッチ)
いつだったかジジに言われた、褒めてるのか貶してるのか分からない言葉。
頭にチラつくソレに、相も変らぬ毒を吐き捨てて。
◆
自分達を利用した騎士団の滅却師を迷わず喰い殺すくらいには容赦がなく。
満身創痍の強敵を四人掛かりで袋叩きにするくらいには冷酷。
ユーハバッハの元にいただけあって人でなしであるのは否定できない。
だけど、自分を治療した女への義理は果たし。
危ない橋を渡ってまで、十二番隊に囚われた腐れ縁の少女達の奪還に動き。
他愛のない口約束を交わしただけの相手が、死後も利用されてると知り、元凶の男へ殺意を抱く。
リアリストの面はあれど、情を捨て切った訳でもない。
リルトット・ランパードとは、そういう少女だった。
【F-7/1日目/朝】
【リルトット・ランパード@BLEACH】
[状態]:若干の敏感状態(時間経過で回復)、銀髪(グレーテル)に対する嫌悪感(中)
[装備]:可楽の団扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、トーナツの詰め合わせ@ONE PIECE、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:脱出優先。殺し合いに乗るかは一旦保留。
0:どこに行くか…
1:チビ(小恋)と行動。機を見て適当な参加者に押し付ける。(現状の有力候補は日番谷)
2:首輪を外せる奴を探す。
3:十番隊の隊長(日番谷)となら、まぁ手を組めるだろうな。
4:あの痴女(ヤミ)には二度と会いたくない、どっかで勝手にくたばっとけ。
5:あの銀髪イカレ過ぎだろ。
6:二つの巨大な霊圧に警戒。
[備考]
※参戦時期はノベライズ版『Can't Fear Your Own World』終了後。
※静血装で首輪周辺の皮膚の防御力強化は不可能なようです。
【鈴原小恋@お姉さんは女子小学生に興味があります。】
[状態]:精神的疲労(中)、敏感状態(時間経過で回復)
[装備]ブラック・マジシャン・ガールのコスプレ@現地調達
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:みのりちゃんたちのところにかえる。
1:おねえちゃん(リル)といっしょにいる。
[備考]
※参戦時期は原作6巻以降。
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投下終了です
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投下ありがとうございます!
現状、数少ない微笑ましい掛け合いが見れるコンビ。
リルもリアリストで冷酷な面もあるんですが、小恋という圧倒的光に照らしつけられる事で影ごと上書きされてしまう。この娘強いぞ。
はっきり言って、組んでる相手がおじゃる丸とか藤木君だったら、もう餌になって死んでますからねこれ。
計算ではなく天然で、人をたらせる小恋ちゃん。
戦える訳でも頭脳労働要因でもないんですが、独自の魅力が出てきていいと思います。
今いる参加者の中で一番純粋で子供らしいんですけど、原作で色々とアウトなのもこの娘なのが面白い。
みのりさん、ヤバい人だよ。
実際、リルが小恋ちゃんを殺した場合、乃亜君は平気でバラしてきそうなので、様子見に回る方が堅実な気もしますしね。
日番谷隊長なら、小恋ちゃんを任せられるだろと考えながらニアミスしてるのは、ちょっと笑ってしまう。
しかも進行方向的に、おじゃる丸や沙都子というトラブルメーカーと、場合によっては悟飯チームと出くわしそうなのも何というか……まだこれから苦労しそう。
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キャプテン・ネモ、孫悟空、神戸しお、藤木茂、リーゼロッテ・ヴェルクマイスター
予約します
延長もします
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すみません、予約を延長します
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投下します
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「クソッ、どうしてうまくいかないんだ……!」
藤木茂はぼやいていた。
ウォルフガング・シュライバーに脅され、10人殺しの難題を押し付けられたのは良くはないが止むを得ない。
だから、一番弱そうな的場梨沙とその知人を付け狙おうと考えたのは良いが。
梨沙には奈良シカマルがいる。
雷になった藤木の相手ではないと思いたいが、シカマルの術は物理攻撃によるものではない。
流石の藤木もシュライバーとのやり取りから、ゴロゴロの力が特別な能力を無効化するかは微妙である事には気付く。
そうなると、あの影の術を無効化する方法がない。
雷速で動いて避ければ良いだけなのだが、藤木にそんな度胸はない。
とにかく、一度首を絞められ殺されかけた事がトラウマになっていた。梨沙は最優先で狙うが、それはそうとシカマルの名前が放送で呼ばれるまで待ってても良いんじゃないか?
そして、ふと気付いた。
シュライバーは生首を10人分持って来いと言っていたが、何も全員殺す必要はないじゃないかと。
そこらで死んでる誰かの首を差し出したって、バレないんじゃないか?
数時間前、目の前で死んだ城ヶ崎姫子の事を思い出す。
本当に申し訳ないと思うが、今を生きる藤木の方が優先度は高い筈だ。彼女から首を失敬して、シュライバーに持って行こう。
戦いも流石に終わっているだろうと、恐る恐るかつての戦場へと引き返す。
「ど、何処にも城ヶ崎さんがいないじゃないか……ッ!」
もっとも、城ヶ崎の遺体はサトシとガッシュ・ベル達によって埋葬されている。
辺りを見渡したが、当然だが何処にも見当たらない。
藤木は焦る。貴重な時間を無駄にしてしまったのだと。
いつまでも、このエリアにいる訳にもいかない。シュライバーに提示された、期限が刻一刻と迫っているのもあるが、何よりもうじきここは禁止エリアになってしまう。
────やっぱり、梨沙ちゃんを殺しに行けばよかった。
────あの娘になら、僕は勝てるんだ。
そう考えつつも、梨沙が居たエリアも禁止指定されている。もうあの辺に居る事はない。
貴重な絶対に確実に勝てる相手を取り逃がし、何処へ向かったか見当もつかない。
シカマル一人に竦み、折角に機会を自ら手放した事に藤木は自己嫌悪に陥った。
「誰か…誰でも良いから、殺さなくっちゃ……」
藤木は焦燥感に駆られていた。
シュライバーの事もあるが、それ以前にここまで誰一人殺せていないのだ。
何をやっても上手くいかない。殺さなくては、自分が乃亜に殺される。
その恐怖が、思考をより単純で尖らせたものへと変えてしまう。
誰か殺せば、自分は生き残れるのだと。
実際には、藤木という男はきっと運が良いのだろう。一線を超えようとして、その事如くが未遂に終わっているのだから。
だが、藤木はそれに気付けない。気付かせてくれる人とも、未だ出会えていない。
己の幸運さを知らぬまま、彷徨っていると藤木は新たな参加者を見付ける。
変な牛に乗っていて空を飛んでいたが、速度は思いの他、ゆっくりだった。
普段の藤木なら、異様さを感じてスルーしていたかもしれない。
けれど、今の藤木は時間を無駄に扱い、焦っていた。
────雷で下から狙い撃てるんじゃないかな?
一刻も早く、誰かを殺したい。
誰も殺せない自分は駄目な奴だ。そんな元来の卑屈さも相まって、藤木を後押ししてしまった。
掌を掲げて、大雑把に狙いを付けて、雷を放つ。
狙いは大分逸れていたが、予想より遥かに雷は拡散していき、まるで散弾のようだった。
それが、牛の引く戦車に直撃した。
────
-
「MOOOOOOOOO!!!?」
「────くっ……!」
敵襲にあったとキャプテン・ネモは瞬時に理解した。
神威の車輪による移動を選択し、危険が少ない空路を選んだまでは良かった。
距離の近さ。
そして神戸しおの容態。
休息は取ったとはいえエーテライト使用の影響を鑑みて比較的スピードを緩めていた。
出発前の声は元気そのものだが、やはりネモの背に掴まるしおの力は、少し弱弱しかった。
エーテライトもさることながら、殺し合いの開始が深夜である都合、ほぼ夜通し不眠にならざるを得なかったのも体力を削っていた。
だからこその配慮だったが、裏目に出たのだろう。
地上から、天に上る雷という世にも珍しい光景に出くわし、それは戦車へと直撃してしまった。
幸い、戦車の損傷は殆どないが、雷の威力自体は相当なものだ。
車体が揺れて、牛が動揺のまま暴れバランスが崩れる。空中で体勢が崩れたまま、ネモは地上へと不時着させる。
自分一人なら、アンバランスな空中でも戦車を御しきれたが、しおを後ろに乗せているのであれば別だ。
万が一にもしおが振り落とされれば、そのまま彼女は落下死してしまう。
一旦地上で、体勢を整えた方が良い。だが、それは地上で待ち構える狩人の狩場へ飛び込むことと同義だ。
「おめえ、何やってんだ」
しかし、問題はない。
何故ならば、こちらには宇宙最強の戦士が居る。
だから、ネモはしおについて全ての配慮を注いで、万全な安全策を取る事ができた。
「き…君達には悪いけど、ここで死んで貰うよ」
不時着した戦車の前に仁王立ちで立つ胴着の少年、孫悟空。
悟空の目に写る敵の姿は、藤木茂はあまりにもひ弱だった。
背丈は悟空より高いが、ごぼうのように細長い痩せた手足と紫色の唇。目つきも挙動不審。
はっきり言って、肉体的にも精神的にも軟弱だ。
当初、悟空も一切の気配を感じられないまま電撃の奇襲を受けた事で、気の操作に長けた強者が襲ってきたのかと身構えていたのだが。
真相はなんてことない。弱すぎて、気の探知が制限された悟空では、感知できなかっただけだ。
ただ、藤木にあまりにも見合わない能力だけが、異質だった。
(こいつ、どうなってんだ……。電撃だけは大したもんだけどよ)
恐らくは魔導士バビディのように、魔術などの特殊な力には長けているが、直接の戦闘はからっきしなタイプなのだと仮定する。
「喰らえッ! フジキブレイク!!」
藤木が両腕を広げ、壮大なポーズを取ると両手の掌から電撃が放たれた。
古来より人が恐れた自然災害の一つ。
叡智を重ねた人間ですら、未だ御しきることが出来ない雷。
それを一人の人間が振るう事があれば、神の御業とも呼ばれるだろう。
触れれば、人間など一瞬で黒焦げた煤に変えてしまう高圧電流。
サーヴァントであるネモですら、直撃は避けなければ不味い一撃。
「……やめとけ」
悟空は僅かに眉を歪ませ、そして軽く腕を払う。
たったそれだけで、電撃を散らしてしまった。
幾度となく地球を救い、神の領域すら超えた悟空にとって、制限されていても電撃程度では虫に触られた程度のダメージにもならない。
「こ、この……!」
両者の間にあった数メートルの距離が、瞬きの時間も掛けず詰められる。
藤木の目と鼻の先に悟空の顔があった。
次の瞬間、鳩尾に衝撃が走る。悲鳴と恐怖で引き攣った顔で、藤木は慄くが痛みはない。
「ッ……」
悟空の拳を流れる電流。
藤木の体は自然系の力により、流動する雷のものへと変貌している。
物理的な攻撃で、藤木を傷付ける事は出来ない。
-
「そ、そうだよ……僕に、攻撃は────」
藤木の言葉が最後まで口から零れる事はなく、光弾が藤木を吹き飛ばす。
悟空は打撃が効かないと見るや、腕を引き、拳を解いて手を広げ、溜めた気を放った。
「そこそこ気を込めれば、その体にもダメージは与えられるみてえだな」
「か、かはっ……ごほっ……!?」
腹部に強い打撲感を受けて、地べたを転がりながら藤木はのたうち回る。
悟空がその気なら、藤木の腹をぶち抜いて臓器の大半を消し飛ばしていた。
加減に加減を重ねた、最弱の威力でこの有様だ。
物理攻撃に耐性があろうと、抜け穴はいくらでもある。それをカバーする頭の冴えもない。
どう見積もっても、藤木がこの殺し合いで勝ち抜くのは無理だった。
決して悟空は口にしないが、しおのが立ち回り次第ではまだ可能性があるくらいだろう。
「はァ……は……っ、ぼ…僕は、フジキングなんだ……!
神(ゴッド)・フジキングなんだぁ!!」
痛みに耐えながら、一分程時間を掛けてよろよろと立ち上がり。
自分が持てる全てを出し切ったと、思い込んだ精一杯の電撃。
悟空は立ち尽くしたまま、それに飲み込まれていく。
やった。あいつは、自分に何も出来ずに負けたんだ。そうやって、藤木が悦んだのも束の間。
「ぐっ……!」
電撃をほぼ無傷で突っ切った悟空の、”気”を込めた拳が藤木の体の実体を捉え、腹に減り込んでいた。
「ごっ……! ぐ、ご……ォ……」
藤木に血一つ流させない事に、心底苦労したであろう手心の加えられた一撃。
それでも、藤木にとってはあまりにも差が開いた彼我の実力に、屈するほかなかった。
全身から力が抜け、膝を負って藤木は嘔吐する。
不幸中の幸いなのは、ここ数時間何も食べていなかったので、逆流する内容物がなかったことか。
唾液を飛ばしながら咳き込み、藤木は蹲る。
「ど、して……だ……どうして……」
涙が流れ、鼻水を垂らして藤木の顔はぐちゃぐちゃに汚れていく。
悟空はおろかネモや、遠目に見ているしおですら惨めで滑稽にすら写る、哀れな男の姿だった。
それが憐れみであり、嘲りであろうと。
これ以上、藤木に攻撃的な意志を持つ者は誰もいなかった。
あまりにも、弱くて愚かで阿呆な生き物を目の当たりにして、憐れみが勝ったのかもしれない。
「くそ……くそっ……」
悔しかった。悔しかったが、それでも藤木には何処かで分かっていた事だった。
古畑任三郎が、殺人容疑を掛けられた今泉慎太郎を擁護した時と同じ理屈だ。
人を殺すなんて大層な真似、そんな度胸も頭脳も自分にはない。
土台無理な話だったのだ。そんなこと、藤木本人が一番良く理解していた。
「だ、けど……誰も、助けて、くれないじゃないか……」
「……おめぇ」
仮面ライダーやヒーロー戦隊はお芝居だ。
殺し合いに巻き込まれた時、的場梨沙達を襲撃した時にそんなことは痛感していた。
本物のヒーローが居れば、きっと海馬乃亜に逆らったあの兄弟が殺されることはなかった。
その前に助け出されて、誰の犠牲もなく、こんな多くの死亡者も出さないで済んだんだ。
-
「ひ…ヒーロ、が…居ないなら……僕が、僕だけの……なるしか…ないじゃないかぁ……!!」
泣きじゃくり、錯乱したかのように叫んで腕を振り回して悟空に突っ込んでいく。
本当にただの子供だった。
フリーザやセルのような、悪事を好み、自分の意志で非道を働く悪人達と違う。
こいつは、ただ死ぬのが怖くて怯えてるだけだ。
───大丈夫だ。その間に死んじまった奴は、ドラゴンボールで必ず生き返らせる。
少し前にネモに言った言葉が、悟空に返ってくるようだ。
普通の子供は、普通の人間は死ねば一度っきりの人生を終わらせるしかない。
二度目なんて存在しないし、だからこそ良くも悪くも自分の命が終わるその時まで精一杯生きている。
悟空は、自分の考えが間違っていると思わない。切札であるドラゴンボールがあるのなら、それは積極的に活用すべきだ。
感傷的になって、ネモの計画にズレが生じて殺し合いを打破できず、全員死んで蘇れない事こそが最悪の結末だと分かっている。
「ぐぎゃっ……!」
向かってきた藤木を気を込めたデコピンで弾く。
手応えがまるでない、ないからこそ悟空の中で複雑な感情の縺れが生じる。
理屈では合理的になるべきだと分かっていながら、自分が一か所に留まるせいで多くの子供が犠牲になっている。
ドラゴンボールなら、全てを巻き返せると分かっていても。
「だ、誰か……」
「なっ!?」
その僅かな感傷が、悟空にとって最悪にして最大の隙を生んでしまった。
『誰か、助けて下さああああああああああああああい、誰かああああああああああああああああ!!!!』
藤木はランドセルから、拡声器を取り出し大声で叫ぶ。
もう、やけくそと行き当たりばったりだった。
ヒーローなどいないと悟りながら、それでいて他人頼りの思考回路。
どうにもならない強敵の出現に、藤木はまだ見ぬ誰かに希望を託したのだ。
「────ッ!!」
ネモが水流を巻き起こし、藤木の持つ拡声器を奪い取る。
奪い取ったのは良いが、既に藤木の叫びは拡散されてしまった。
それも、音量をマックスにしたおかげで広範囲へと拡がっている。
「ネモさん、これって……」
黙って事態を静観していたしおが口を開く。
幼い彼女でも分かっていたのだ。
この叫びは、少なくない数の参加者に聞かれているだろうことは。
それが、どのような結果を齎すか。
殺し合いに否定派の対主催が集まるのならまだいい。だが、肯定派のマーダーに包囲でもされれば、たちまち地獄絵図が出来上がる。
同じくマーダーのしおからしても、他人事ではない。
「悟空、早く────」
「何処へ行くの?」
冷たく投げかけられたその声に、ネモは悪寒を覚えた。
この場に居る誰のものでもない女の声。
振り返れば、黒のドレスを着た銀髪の幼い少女がいた。
「ようやく、人に出会えたんだもの」
見た瞬間、容姿と中身の差異にネモは気付く。
可憐な見た目に反し、少なく見積もってもサーヴァントに匹敵、それを打破し得る実力の持ち主だ。
カルデアに向かう、その寸前でよりにもよって拡声器を使われ、それでいてこんな奴まで呼び寄せる羽目になるとは。
ネモはたまらず、藤木を一瞥して、藤木は自分でしでかしたことを忘れているかのように短く悲鳴を漏らした。
────
-
フリーレンとの交戦後、リーゼロッテ・ヴェルクマイスターは人の影も見当たらないまま彷徨っていた。
交戦の後と見られる痕跡は節々で見つかるのだが。
放送を迎え、更に数時間経っても誰とも遭遇出来ずにいる。
強いて言えば道中、あの虫ガキ、インセクター羽蛾が付けていた特徴的な眼鏡が、ボロボロの状態で転がっていた事か。
何だ、殺そうと思っていたのに先を越されたのか。
特に何の感傷も持たないまま、眼鏡を踏み潰す。
地図を見て気になったのが、ホグワーツ魔法魔術学校だった為に向かってはみたが、こうも誰とも出会えないとは思わなかった。
最終的に優勝さえ出来れば、他の参加者で勝手に潰し合うのは構わないが。
こうもニアミスをしてると思うと、退屈にもなる。
もっとも、魔術の知識をかき集めた施設としては、ホグワーツに勝るものもない。
時間つぶしには最適だ。
この時だけは、世界への憎しみもヴェラードへの愛慕も忘れて。
純粋な魔術への探求、その知的欲求に従い、ホグワーツを探索しようと思ったその時だった。
『誰か、助けて下さああああああああああああああい、誰かああああああああああああああああ!!!!』
ようやく聞こえた人の声だ。
無視しても良いが、ここまで退屈だったのもある。
少し、首を突っ込んでこれまでの退屈の憂さ晴らしをしても良いだろう。
悪辣な魔女の笑みで、リーゼロッテは声の方角へ向かった。
「貴方……人間じゃないわね。ただ、死人とも言い難い。……英霊か」
日本のある土地を使い、英霊を呼び出し使役し競い殺し合う、戦争の儀式があると風の噂で聞いたことがある。
なるほど、目の前にいる最上級の神秘を目にすれば、強ち与太話ではなかったのかもしれないと認識を改めねばならない。
「ッ……」
ネモを見て、通常の人間でないことを見抜かれた。
「君は魔術師(キャスター)か」
ネモの知るそれはとは違うが。
リーゼロッテはネモの見てきた魔術師とは、異なる感覚を覚えていた。
悟空との話し合いで、平行世界の可能性には行き付いていた為に、同じ魔術師でも別の系統の発展をした魔道を収めた者ではないかと推測する。
ただ、いずれにしろ。魔術師としては、極上であることに違いはない。
首輪解析の協力者として可能なら、こちら側に引き込みたいのが本音だが。
フランドール・スカーレットのように説得が通じる相手とは思えない。
彼女ですら、説得するのに非常に骨が折れたというのに。
何より、ネモ自身がリーゼロッテを好ましく思えないのもあるだろう。
ああいう目は、何度も見てきている。弱いものいじめを嗜好として愉しむ輩だ。
「一応聞いておくけど、僕達は殺し合いに乗っていない。
首輪を外す方法を探している。出来れば、君程の魔術師には協力して欲しい」
個人的に決して相容れたくないが、事態が事態だ。
猫の手も借りたいのも確か。
少なくとも、乃亜によって拉致され殺し合いを強制されたという点では、同じ立場だ。
協力を打診する程度は試しておきたい。
-
「……興味ないわね」
リーゼロッテはそう言って、手をネモへと向けた。
「私にとって、貴方達は人類を滅ぼす前に死ぬか、その後で死ぬか。どちらかでしかないもの。
乃亜に逆らう理由がないわ」
「……そうか」
その瞳は、カルデアのマスターと正反対のものなのだろうとネモは思う。
魔術師らしく、己の悲願と宿願にのみ固執し、それ以外を無慈悲に切り捨てられる。
切り捨てようとするものを、見ようともしない。
その在り方は。皮肉な程に対照的だ。
ああ、それならば。
人理保証の旅路を共に歩んだ英霊であるネモにとって。
決して、相容れない相手なのだろう。
「────だから、消えなさい」
火球が放たれる。
「ッ────!!」
ネモは水流を巻き上げ、火球へとぶつける。
高温の炎に水が触れた事で、蒸気が霧のように巻き上がり視界を白く染め上げた。
これもとんだ皮肉だ。
相容れぬ者達の扱う力が、そのまま火と水なのだから。
「海水? ……海神の権能かしら」
ネモの力に感心しながら、リーゼロッテは微笑む。
炎に対し水というアドバンテージを取られながら、一定の威力を相殺したに留まる。
火球は勢いを殺されながら、ネモへと吸い寄せられていく。
ただの人間を殺すには有り余る威力を維持し、サーヴァントであってもダメージを反映させるには十分な一撃。
「MOOOOOO!!」
牛が咆哮と共にネモを乗せ、空へ跳び上がる。
リーゼロッテの頭上から4発、銃声が響き弾丸が飛来する。
ネモの扱う454カスールカスタムオートマチック。
人間ではなく、吸血鬼を滅ぼす事を想定した狂った性能を誇る。
常人が受ければ、ほぼ致命傷となるだろう馬鹿げた火力と、ふざけた反動は普通の人間が扱う事を考えて設計されていない。
しかし、戦闘向きでないとはいえ、サーヴァントたるネモは反動を極力抑えた上で精密な射撃を行い、眉間、胸、腹、的確に人の急所を撃ち抜いた。
「銀を溶かした弾丸か、残念だけれどそれじゃ私は滅ぼせない」
体に複数個所、穴を空けられてもけろりとした顔でリーゼロッテは笑みを作る。
これが恐らく、この女の誇る一番の特異な力なのだとネモは察した。
不死身。
乃亜の言うハンデにより、恐らくは首輪の周辺は制限されており弱点化しているか。
不死性に制限を設け、再生力に限度があるはずだが。
それでも、銃弾数発程度では致命傷にはならないらしい。
確実に、人の生命活動に必要な臓器を穿ったというのに、気味の悪い話だった。
「これだけで、終わりじゃないでしょう? 何処の英霊様か知らないけれど。
世界にその名を刻んだ英雄が、この程度では拍子抜けだわ」
「生憎、僕はそういった柄ではなくてね」
牛の背に乗りながら、空を撹乱するように舞い水流を叩き付ける。
リーゼロッテは気だるげに手を上げ、炎を呼び起こす。
それらは無数の細長い虫の手足のように蠢き、四方八方から襲い来る水流を灼熱で蒸発(もや)し尽くす。
「見た目通り、可愛らしいのね。お水遊びと鉄砲ごっこがお好み?」
「つまらなければ謝るよ。代わりに────」
蒸気の中、揺れる人影に気付きリーゼロッテは構えた。
頬に打ち込まれた右ストレート。
防御が間に合わず、直撃を受けて血反吐を撒きながら吹き飛ぶ。
「拍子抜けの僕よりは、彼の方がお気に召すだろう?」
首が捻じ曲がるかと思う程の打撃の衝撃。
-
「だりゃあああああ!!」
吹き飛ばされた先へ一瞬で肉薄し、体勢を持ち直したリーゼロッテが振るう黒い爪の動きを見切って捌く身のこなし。
リーゼロッテも戦いには向かない無垢な幼女の容姿に反し、格闘戦も高い実力を誇り、かつて自らを討伐しに現れた禁書目録聖省(インデックス)の使徒。
その中でも、徒手空拳や剣技に長けた猛者どもを相手取り、格闘戦で終始圧倒し続ける程だ。
生半可な打撃ではリーゼロッテに触れる事も叶わぬ筈が、悟空の放つ拳の連打にリーゼロッテは圧され続ける。
(ッ────こいつ、あの胴着の……)
ガードに使った腕が一撃を受けるだけで、骨が砕けくの字に圧し折れる。何発もの拳はリーゼロッテの不死の再生速度をも凌駕する程に、体に傷を刻み込んでいく。
この膂力の高さ、そして容姿も含めて数時間前に交戦した悟飯という少年と瓜二つだ。
「全く、厄介だわ!」
全身を炎で包み、悟空が僅かに退いたのを見て、リーゼロッテも距離を取る。
広範囲へ拡がるように、炎を拡散し幕のように放つ。
「波ァッ!!」
悟空が気合を発し、炎は豪風に吹かれたように裂けて、悟空達から逸れて炎の向こうに居るリーゼロッテを露わにする。
突貫してきた悟空の拳が迫るのを、空へ飛翔して避ける。
悟空も一気に跳躍し追随した。
「肉弾戦以外にも、器用な男……」
空中で殴打を一ついなす間に、数発打ち込まれ、剣戟すら容易に止めるリーゼロッテの黒爪を難なく避けてみせる。
しかも、リーゼロッテのように空中を浮遊する術すら持っている。
「ッッ────!!」
悟空の打撃が連続してリーゼロッテに直撃し、地上へと叩き落とされる。
ひしゃげた手足を、一切意に帰さず立ち上がり飛び退く。
肉体の頑強さも大したものだが、悟空の操る力も目をはるものがる。
恐らく、気功術の類だろう。数千年前に、中国の医学として発祥したと聞いたことがあるが。
東洋の知識には明るくない為に、断定はできないものの、そういった類の力には違いはなさそうだ。
研磨し尽くした肉体と、気の操作と総量はあのフリーレンの魔力量をも上回るかもしれない。
制限さえなければ、冗談ではなく惑星すら砕くかもしれぬ程。
「羨ましい物ね。それだけの力があれば、私も手間のかかる大規模魔術などに頼らず、既に人類鏖殺を成し遂げていたというのに」
「じゃあ元から、おめえには無理だってコトだろ」
「……言ってくれるわ」
悟飯の方が潜在力と爆発性は高く、瞬間風速では悟空をも超えるのだろう。
だが反面、強さや精神性にムラもあった。戦いの駆け引きも、姦計に長けたリーゼロッテならば優位に立てるだろう。
悟空は反面、強さとしては完全に上限に達しており、完成され過ぎた故に制限さえ解けなければこれ以上の力はないだろうが。
戦いの技量も心構えも成熟し、安定した強さを誇っている。
見た目以上に歳も重ねたのだろう。
老練されたこの戦士を陥れるのは、800年に渡り世界に災厄を撒き続けた魔女であっても容易ではない。
「それもやりようか」
両足と左腕の再生を終え、残った圧し折れた右腕を片手で掴み引き千切る。
悟空も僅かに目を見開き、ネモは驚嘆し咄嗟にしおを抱えて、その目を掌で覆う。
藤木はあまりに光景に、声を上げることすら出来ず腰を抜かす。
-
「おめえら、下がってろ!!」
リーゼロッテは千切った腕をゴミのように放り投げ踏み潰す。
人ならぬ人外の怪力で潰された腕は血飛沫と、二度と血の通わない肉が飛散する。
それらが飛び散りながら、それぞれの肉片に足が生える。
グロテスクな人の一部だった部位は、意思を持ったように蠢き、足の他に虫のようなフォルムを形作っていく。
鈍い機械的な羽音、数匹の巨大な虫に形を変えた肉片は羽ばたき悟空達へと向かう。
「────!!」
誕生経緯を除けば、虫そのものに奇怪な点は見られない。
人肉程度なら容易く食い破るだろうが、悟空はおろかネモを殺すには不足している。
だからこそ、警戒する。
こちらの間合いに入る前に、一斉に気弾を打ち込み消し飛ばす。
「っ……!!?」
気弾が虫に触れる寸前、独りでに虫が起爆する。
灼熱と爆風に顔を庇いながら、悟空は視線だけは外さない。
この程度で悟空を殺せるとは、リーゼロッテも思っていないはずだ。
殺傷力は高いが、所詮は目晦まし。
ネモもしおを連れて、牛を駆り退避している。こんなもので、殺せる者など────。
「居るわよ。一人虫けらが」
「ッ……」
心を読むように、リーゼロッテが告げる。
ただ一人、誰の加護も受けずない弱者がいた。その事に悟空も気付き、爆風の中を突っ切る。
「ひ、いいいいいい!!?」
藤木の周りを2匹の虫が飛び交う。
虫という生理的嫌悪を催すデザインと、何より道端で時折見る死骸に集まるような挙動が、自分は今餌になっているのだと錯覚させる。
ゴロゴロの力を使えば、この程度の窮地は切り抜けられるが。
パニックに陥った藤木に、そんな発想は消え去っている。
例え力だけ身に着けようが、扱う者の実力が伴わなければ宝の持ち腐れだった。
「動くんじゃねえぞ!!」
虫と藤木の間に割り込み、気を展開し簡易的なバリアを作る。
刹那、起爆する虫の爆破は、悟空と藤木を避けるように爆炎と爆風は逸れていく。
「あ、あの……」
強大な力の前に、あんな禍々しい虫たちの前に飛び出して、自分を庇ってくれた悟空の姿は本当のヒーローのようだった。
こんな自分でも守ってくれるなんて。
「まさか、こんな思った通りに庇うだなんて」
藤木に差し込んだ、何かの光明を嘲笑うような魔女の笑いが響く。
煙の立ち込める中、一筋の光線が瞬く。
一直線に悟空に向かって奔るそれを避けるか。
一瞬、眉を歪ませ悟空は後ろの藤木を一瞥し、気のバリアをより強化した。
-
「ッ、ぐ、────!?」
想定はしていた。あの光線は悟空の知る中では、気円斬に近い技だ。
格上にも通用し、制限下の悟空ならば当たり所によっては致命傷も与えられる。
避けても追尾する機能も持たせているように見える。
一人ならともかく、藤木を抱えてあれとチェイスするのは厄介だ。
一度バリアで防ぎ、藤木を自分から離してから改めて、別の対処を行う。
初見でそこまで見抜く悟空の慧眼は、非常に優れていたと言えるだろう。
「ぐあああああああ!!!」
だが、光線はバリアを突き抜け、悟空の右肩を貫通した。
「え、え……?」
「悟空ッ!?」
悟空の肩に空いた傷口から漏れた血を見て、藤木は放心状態になり。
ネモはあの悟空が後れを取った事実に驚嘆する。
「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」
名の通り、人間を殺傷することに長けた魔法であり。
その突出した性能は貫通。あらゆる鎧も防御も、貫通する事で多くの人を殺めた防御不可の魔法。
悟空の見立ては、ほぼ誤ってはいなかった。ただ、藤木の安全を憂うあまり、守りの一手に偏り過ぎたのだ。
「…あの女……い…良い技持っていやがる……!」
だらりと垂れた腕を見て、悟空は舌打ちする。
腹は立つが、人を殺す魔法を生み出した奴は本物の天才だと、心底感心している自分も居る。
リーゼロッテも、誰かの使った姿を見た模倣(ラーニング)で放ったのだろう。
精度は本家よりも遥かに劣っているに違いない。
でなければ、確実に急所を撃ち抜かれて死んでいた。
「……そこだけは同感ね。良い魔術だわ。
この術式は、美し過ぎる」
悟空の分析通り、フリーレンの使う魔術を見よう見まねで解析し、編み出した模倣品だ。
本来、世界も違い別系統の発展をした魔法を瞬時に真似る等、リーゼロッテの技量でも不可能に近い。出来たとしても、真似事でしかないが。
だが、ゾルトラークには最大の長所(けってん)がある。本来、呪いと呼ぶべき理解不能な高みの魔法でありながら、人類でも理解し扱えてしまう程、洗練され過ぎた術式構造をしていたこと。
しかも、人類が半世紀を掛けこの魔法を克服する研究に費やし、洗練された術式はより洗練を重ね過ぎて、一般攻撃魔法と称されるまでに昇華されてしまった。
その高すぎる汎用性は、例え真似事であろうと一定の効果を再現されてしまうほどに。
(本当に、劣化に劣化を重ねた劣悪品だけれど……。
連射も速射もできない、精密性も悪い。一度きりの騙し討ちといったところね)
二度目は通じないことを痛感しながら、戦果としては上出来ではあるだろう。
「そろそろ幕引きにしましょう」
再生を終えた右腕と共に左腕も掲げ、リーゼロッテの両手に特異な力が集約していく。
魔法陣が展開され、黒い輝きが集約していく。
紫電のようなスパークが蠢き、暴力的な力が今かと溢れ出すようだ。
「……あ…あそこに居る。ネモって奴のとこまで、走って逃げろ」
悟空は脂汗を浮かべて、低い声で言う。先程藤木を圧倒した余裕は感じられない。
-
「……え、ぇ…む、無理…腰が……」
「早くしろッ! 死にてえのかッ!!!」
温厚で穏やかな風貌から一転し、鬼のような怒声を浴びせる。
リーゼロッテは悟空諸共、この場の全員をあの世に送るつもりだ。
彼女の溜めた力には、それだけの威力が含まれている。
余裕が消え、焦りと苛立ちから崩れた声色に藤木は真っ青になった。
「ひいいいいいい!!!?」
抜けた腰のことなど忘れ、無我夢中で転がるように走り出す。
「ネモ、そいつら連れて、こっから出来るだけ離れろ!!」
「……分かった」
悟空と同じ結論に至ったネモは静かに頷く。
仮面の力を借りて悟空に加勢すれば、リーゼロッテを滅ぼす事も出来るかもしれないが。
今、自分の命を燃やすべきはここではない。
「悟空お爺ちゃん……」
「口を閉じるんだ。舌を噛む」
走ってきた藤木の胸倉を掴み戦車に放り投げて、ネモは牛を駆り空へと昇っていく。
この瞬間のみは魔力の消費など考えず、全速を上げて。
「逃げられるとでも? 無駄よ。全員、ここで死ぬんだから」
動きそうにない右腕は下を向いたまま、左手を腰に沿えて構えを作る。
青い光が瞬き、悟空は意識を集中させる。
「Azi Dahaka(アジ=ダハーカ)」
リーゼロッテと同じく魔術結社「トゥーレ」に所属する地球規模の魔術師。
「憤怒」(ツォーン)の名を持つ、黒羊歯鼎の最大魔術。
世界を滅ぼすような、馬鹿げた規模の大魔術を、本来の担い手であれば、溜めと詠唱を必要する手間を一切省き。
石ころでも投げるような気軽さで、リーゼロッテは放つ。
「かめ────はめ……」
集った光球は弾け、雷のような曲線を描き悟空とその後ろのネモ達へ向かう。
「───波ァァァァ!!!」
青の光は場ぜて、極大の光線となり黒い光と激突する。
空間が捻じ曲がり、舗装された街路は紙細工のようにコンクリートが捲れ、粉砕されていく。
近くの木々も建造物も全て薙ぎ倒し、粉々になった破片が巻き上げられては塵に還っていく。
「片腕では、その程度か」
「く、ぐ、くく……」
乃亜の制限という枷を嵌められたうえ、スーパーサイヤ人への変身を禁止され。
片腕のみで放ったかめはめ波は、膨大な魔力の塊と拮抗しつつ徐々に圧され出していた。
傷から溢れ出す血と痛み、何より腕一つで全ての負荷を支える行為に無理が生じている。
「馬鹿な男、貴方一人ならどうとでもなったでしょうに」
片腕を潰したとはいえ、リーゼロッテもそれで勝てると甘く見ていない。
自分の最大魔術ではなく、他人の猿真似を行ったのも詠唱や溜めを必要としない速さを優先したからだ。
悟空がネモ達を守ろうとしなければ、別の方法でこれも突破された可能性は高い。
「貴方は私が見てきた中で、最も強く、そして甘い戦士だったわ」
黒い魔力はかめはめ波を侵食し、悟空に今にも喰らい付かんと迫っていく。
「くッ……」
厄介な相手だが、この段階で始末できたのは幸運だった。
もしも、あの悟飯や他の強力な対主催と手を組まれれば、リーゼロッテにも手が負えなくなる。
足手纏いを連れている内に接触し、殺せたのは優勝に向けた大きな前進になるだろう。
-
「…………く…くそったれめ……!!」
悟空の放つかめはめ波が半分以上消失し、黒い魔力が覆い始める。
「…………か、っ……」
その圧に膝を折り、顔を項垂れ毒づく姿は無様でもあった。
「か…い…王……拳、ッ……!!」
だが、急激に勢いが増し押し返される。
悟空を纏う白いオーラが一転し、真紅のオーラを放ち。全身が沸騰しているかのような、パワーが溢れ出している。
「なに───」
リーゼロッテの手から伝う力は、先程の比ではない。
2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍……。
「……10倍、だァっ!!!」
10倍の規模にまで膨れ上がったかめはめ波は、黒の光を青く染め上げリーゼロッテへと向かう。
幻燈結界(ファンタズマゴリア)は───使えない。
フリーレンに使用した際にも感じていたが、使用にインターバルを設けられている。
ならば最大魔術の始原の焔(オムニウム・プリンキピア)か?
いや、発動が間に合わない。
「───ッ、ぐ……」
気の濁流に魔術ごと跳ね返され、リーゼロッテは飲み込まれていく。
その姿形が跡形もなく見えなくなるまで、悟空は気を放出し続けた。
「は、ァ、は……はァ……」
ズキズキと全身に痛みが走る。これはかつて、地球を襲来してきたベジータとの交戦時、当時は限界だった界王拳4倍を引き出した時の現象に似ている。
後に克服した反動だったが。
あの時ほどではないが、制限された現在の悟空にとって、限界に近い力を発揮したということだろう。
「あ…あのクソガキ…もうちっと、は…ハンデが緩くても良いんじゃねえか……?」
制限を設定した乃亜に毒づくが、殺し合いに積極的ともいえない悟空を優遇する理由もない。
それよりも、全身の疲労感にも参るが、肩の傷の容態も芳しくはない。
これを放っておくのも不味いか。
本来向かう予定だったカルデアという施設は、戦闘行為も必要となるマスターのサポートも充実していたとも聞く。医療設備も最低限は設置されているだろう。
マーダーが集まる事も考慮しつつ、気配を消してネモ達と再合流すべくカルデアに向かう。
「ッ───!!?」
方針を定めた次の瞬間、耳障りな羽音共に数匹の虫が飛来する。
見覚えがある。リーゼロッテが生み出した使い魔達だ。
そして、この次に拡がる光景も予想が出来る。
「あ…あの野郎───!!」
戦闘後、界王拳の反動も無視出来ない中で、飛来した虫たちを弾き落とす術はなく。
虫たちの起爆に巻き込まれ、悟空は片腕で顔を覆い、全身に気を張り巡らせ防御力を引き上げるしかない。
だが爆破の勢いに煽られ、望まぬ方角へと吹き飛んでいく。
焦りに駆られながら、それでも今の悟空はその爆風に流されるしかなかった。
───
-
「……とんだ化け物が居たものね」
半身と顔の半分が消し飛び、普通であればとっくに息絶えているような致命傷だった。
リーゼロッテも一瞬、死を思ったが、この殺し合いの中で急所となる首回りの損傷を避けられたことが幸いした。
大きく飛ばされ、軽くないダメージを負ったが生きている。
もっとも、憎しみと怒りに塗れた800年の人生に終止符を撃てなかった事は、彼女にとって本当の意味では、不幸だったのかもしれないが。
「あの程度じゃ死なないでしょうけど……」
千切れた肉片を虫に変え、悟空へと向かわせ爆破させた。
いくら悟空と言えども、大技、しかもあの界王拳という技はドーピングの類だ。
一時的に爆発的な強化を受けられる代わりに、反動も桁違いに大きい。
あの負担を考えれば、それなりに効果はあるだろう。
「……少し、疲れたわ」
悟空の強さも埒外だったが、もう一人僅かな会話をした程度だが。
ネモの目も嫌に印象に残った。
きっと、自分とは異なる旅路を歩んだのだろう。そんな目だった。
それが心底気に入らない。
あの目は、人類の愚かしさも醜さも知っている。ただの小童のものではなかった。
世界に名を残した英霊であれば、当然だ。
それでも尚、世界を最後には肯定した。肯定させるだけの誰かに出会えたのだ。
どんな旅路の最果てを迎えたか、知らないが。きっとその最期は───。
「どうでもいいことよ」
ただ一人、愛した男にすら否定された自分とは雲泥の差のようだ。
自虐的に嘲笑しながら、リーゼロッテは肉体の再生を待ちつつ、壁に背を預ける
悟空のかめはめ波を喰らって、大分離された。今からネモ達を追っても何処に居るか分からない。
今は回復に務めた方が、賢い選択だろうと瞼を閉じた。
───
『妙な真似をしたら、君を殺す』
『僕は悟空程、優しくない』
冷たく、威圧感を込めて藤木を牽制し、ネモは戦車を駆る。
カルデアへの距離は近づいており、魔力を豪快に回しても息切れもなく辿り着けそうだ。
今のところ、別の参加者とは一切接触していない。
藤木が拡声器を使ったのが、カルデアでなかったのが幸いか。
少なくとも、カルデアが戦火の中心になることは当面はなさそうだ。
(ただ、あまり時間は掛けられないな)
首輪の命令プログラムの作成も、可能であればカルデアで腰を据えて行いたかったが。
周辺の参加者の集まり方によっては、そうもいかなくなる。
カルデアではないにしても、その近くで拡声器を使われたのも事実で、その近辺でカルデアは目の付く施設だ。
ここまで足を運ぶマーダーが居ないとも限らず、最高戦力の悟空とも逸れてしまった。
必要な事とは言え、そんな状態で、プログラム作成に時間を割き続けるのも危険だ。
(悟空にも念のために、データの控えは持っていて貰ってるけど……)
もしも、自分が死んだ時、今回のような不慮の事態に合った時に備えて。
首輪の解析データはメモに全て控え、それを悟空に託してある。ネモの方針や考察も全て交えて。
運が良ければ、逸れた悟空が別の技術者や優秀な魔術師と合流して、別個に首輪の解析プログラムを開発してくれるかもしれない。
(出来れば、あの声を聞いて対主催が集まってくれれば……)
リスクを飲み込みながら、僅かな好機にも期待しつつネモは牛を駆る。
正直な考えでは、しおの他に藤木まで見張る余裕はない。
ネモ・シリーズにより実質複数人になれるとはいえ、首輪の解析に集中したいのに、藤木に割かれるリソースは無駄と言わざるを得ないが。
その身に宿した能力だけは面倒極まりない。
ネモでも鎮圧は出来るが、余計な事をされたら後々に響きそうなのが質が悪い。
しかも、通常の拘束は流動する体に通用しそうにないのも厄介だ。
自分以上に機械や魔術に詳しい参加者ならば、首輪の解析を任せて藤木はネモが見張る。
逆にそうでないなら、事情を話して藤木を見張って貰う。
とにかく、人手も欲しかった。
-
───今なら、二人纏めてやれるんじゃないか。
後ろからネモの表情は読み取れないが、何となく背中から必死な感じは伝わってくる。
きっと自分の動きにも気付かない。そんな感じがする、
藤木は、ようやく千載一遇の好機が回ってきたと思った。
これで首が二つ手に入る。これを5回繰り返せば、10個なんてすぐだ。
───や、やれるぞ。僕はやれる。これで僕はシン・神・フジキングになれるんだ。
いつだって殺せる。後は心構えだけだ。
大丈夫、ここにシカマルは居ない。自分をボコしたドロテアも居ない。死ぬほど強い悟空も居ない。
悟空に比べたら弱そうなネモと、それより遥かに弱そうな女の子だけだ。
───この娘、梨沙ちゃんよりも弱そうだ。
───こ、この娘の友達も居れば、簡単に殺せそうだぞ……。
何だか分からないが、希望が見えてきた。
本当に10人殺せそうじゃないか。
シュライバーが仲間になってくれれば、怖い物なんて何もない。
永沢も一緒に守って貰えて。あとは、シュライバーが何とかしてくれる。そうだ、きっとその筈なんだ。
と、とにかく、殺してしまおう。か……覚悟の準備は、じゅ、十分取ったんだ。
震える手で、藤木は腕を上げて。
「っ、ぇ───」
しおが振り返っていた。じっと、ぱっちりと開いた奇麗な瞳で藤木を見つめている。
何てことない眼だ。
ゴロゴロの力がなくとも、絶対に藤木の方が強い。
しおとタイマンを張れば、藤木が勝つ。強いのは自分なんだ。
そう言い聞かせて、でも藤木は電撃を放つことができなかった。
(……この人)
どうして、殺し合いに乗っているんだろう。
たまらなく、しおにとっては不思議な事だった。
-
しおだって、好きで人殺しがしたい訳じゃない。ただ、そうしないといけないから。
火に囲まれて、残された退路もなく。
屋上で二人、松坂さとうと飛び降りるしかなかった。
そんな最中に、乃亜に自分だけ連れ去れてしまった。
二人で永遠に一緒になる事すら許されないのなら。何が何でも、例え乃亜の思惑通りでも、さとうをあの場から救い出すしかない。
その為には、優勝するほか手段はない。
これ以外に方法がないから、愛を守る術がないから。だから、しおは殺し合いに乗っている。
今の自分の持てる手段で殺せるかはともかく、本音を言えばネモも悟空の事だって、好き好んで殺したいだなんて思わない。
いずれ敵対するとしても、自分に良くしてくれた人達だ。
叶うことなら、ずっと仲良しでいたい。
(殺す必要なんかないのに)
他の人が優勝を狙う事を否定する気はない。自分が絶対に正しい訳でもない、みんな我儘を通そうとしているのは同じだから。
幼いしおにもそれ位は分かる。
分かるからこそ、藤木はどんな我儘を抱えているのか、いまいち伝わってこなかった。
ヒーローがどうとか言っていたけど、それならもう願いは叶っている。これ以上ない程に───。
孫悟空以上のヒーローなんて、この島に居るとはしおには思えなかった。
しかも、そんなヒーローが自分の味方になってくれて、守ってくれるのだから。
願いが叶った、真っ当な幸福者(しあわせもの)が、じゃあなんでまだ殺し合いに乗るのか、本当に意味が分からない。
「……何がしたいの」
何の感情も籠っていない。
だからこそ、藤木に突き刺さるような鋭利な声だった。
きっと、ネモにも聞こえないような小さな声だったのに。
藤木の耳には、一字一句聞き洩らす事無く鼓膜に響いてくる。
「ぁ、ぁ……っ……」
藤木は泣いていた。
情けなかった。梨沙のような女の子はおろか、こんなちっぽけで貧弱な女の子にすら泣かされている自分に。
殺せるはずの機会に恵まれているのに、全く活かせない自分の駄目さに。
しおに言われた事へ、何も言い返せ泣くしかない。何も意見も持っていない自分の無さに。
───何がしたい?
───そんなの、僕だって分からないよ。
実際には。
仮に電撃を撃とうとしても、ネモが先に反応して藤木を戦車から付き落とすか。
何らかの対処をして、殺していただろう。それだけの力の差がある。
だから、やはり藤木は運が良いのだ。またしても九死に一生を得たのだから。
「ぐ、……く、ぅ……っ」
けれども、それに気付けないまま藤木は泣き続けていた。
しおはやはり理解が出来ないような顔で。
ネモも何故泣き出したのか、困惑して。
それぞれの考えや思いを浮かべながら、藤木の情けない泣き声が虚しく響き渡る。
-
【E-5/1日目/朝】
【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:疲労(大)、右肩に損傷(大 動きに支障あり)、ダメージ(中)、界王拳の反動(中)、満腹、腕に裂傷(処置済み)、悟飯に対する絶大な信頼と期待とワクワク
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済み)、首輪の解析データが記されたメモ
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:首輪の解析を優先。悟飯ならこの殺し合いを止めに動いてくれてるだろ。
2:悟飯を探す。も、もしセルゲームの頃の悟飯なら……へへっ。
3:ネモに協力する。
4:カオスの奴は止める。
5:しおも見張らなきゃいけねえけど、あんま余裕ねえし、色々考えとかねえと。
6:大分飛ばされちまった。ネモ達を追いかけてえけど、肩の傷も放っとくとやべえな……。
7:リーゼロッテを警戒する。
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
【C-5/1日目/朝】
【リーゼロッテ・ヴェルクマイスター@11eyes -罪と罰と贖いの少女-】
[状態]:ダメージ(大、再生中)、疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×2、羽蛾のランドセルと基本支給品、寄生虫パラサイド@遊戯王デュエルモンスターズ(使用不可)
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:休息を取る。
1:野比のび太、フリーレンは必ず苦しめて殺す。
2:ヴェラード、私は……。
[備考]
※参戦時期は皐月駆との交戦直前です。
※不死性及び、能力に制限が掛かっています。
※幻燈結界の制限について。
発動までに多量の魔力消費と長時間の溜めが必要、更に効果範囲も縮小されています(本人確認済み)。実質、連発不可。
具体的には一度発動すると、12時間使用不可(フリーレン戦から数えて、夕方まで使用不可)
発動後、一定時間の経過で強制解除されます(本人確認済)。
-
【C-2 カルデアの近く/1日目/朝】
【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(小)、疲労(中)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、
オシュトルの仮面@うたわれる者 二人の白皇、神威の車輪Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(40発)@HELLSING、
ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、エーテライト×3@Fate/Grand Order、
神戸しおの基本支給品&ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:しお、泣かせたのか?
1:カルデアに向かい設備の確認と、得たデータをもとに首輪の信号を解析する。
2:魔術術式を解除できる魔術師か、支給品も必要だな……
3:首輪のサンプルも欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおとは共に歩めなくても、殺しあう結末は避けたい。
6:エーテライトは、今の僕じゃ人には使えないな……
7:リーゼロッテを警戒。
8:カルデアにマーダーが襲ってくる前に何とか事を済ませたいけど……。
9:悟空とも合流したいし、藤木もどう対処するか……。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、
優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※フランとの仮契約は現在解除されています。
※エーテライトによる接続により、神戸しおの記憶を把握しました。
【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(小)、全身羽と血だらけ(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]ネモの軍服。
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
0:何なんだろう、藤木(このひと)。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:また、失敗しちゃった……上手く行かないなぁ。
3:マーダーが集まってくるかもしれないので、自分も警戒もする。武器も何もないけど……。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:手の甲からの軽い流血、ゴロゴロの実の能力者、シュライバーに対する恐怖(極大)、泣いてる、自己嫌悪
[装備]:ベレッタ81@現実(城ヶ崎の支給品)
[道具]:基本支給品、拡声器(羽蛾が所持していたマルフォイの支給品)
グロック17L@BLACK LAGOON(マルフォイに支給されたもの)、賢者の石@ハリーポッターシリーズ
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
0:第三回放送までに10人殺し、その生首をシュライバーに持って行く。そうすれば僕と永沢君は助かるんだ。
1:次はもっとうまくやる
2:卑怯者だろうと何だろうと、どんな方法でも使う
3:最優先で梨沙ちゃんとその友達を探して殺したいけど、シカマルが怖い。
4:僕は──神・フジキングなんだ。
5:梨沙ちゃんよりも弱そうな女の子にすら勝てないのか……
※ゴロゴロの実を食べました。
※藤木が拡声器を使ったのは、C-3です。
-
投下終了します
-
状態表の時間帯を間違えました
朝でなく午前です
-
投下します
-
鬼舞辻無惨は激怒した。
必ずあの邪知暴虐の海馬乃亜を抹殺する事を、硬く硬く硬く金剛石よりも固い十七回目の決意を固めたその時だった。
「一体私が何をしたァアアアアアアアァアアアッッッ!!!!!」
「やかましいんだよ、劣等ォオオッ!!!!」
魔神王に食いちぎられた心臓と脳の再生をやっと終えて。
この殺し合いから脱出するのに重要な手がかりである、海馬モクバの身柄を抑えるべく移動していた最中の事だった。
突然白髪に眼帯の、異装の装いをした通り魔に何の脈絡もなく襲い掛かられたのは。
そう、狂犬。今しがた無惨を銃の連射と拳で滅多打ちにしている少年は、無惨にとって異常者である鬼殺隊以上の狂った狗だった。
「全く、屍が欲しいなら何前何万何億だろうと殺してやるのに──」
苛立つ。
苛立つ。
苛立つ。
“黄金“の近衛である大隊長、ウォルフガング・シュライバーの精神は、
この殺し合いの開幕から最高峰にささくれ立っていた。
「一体全体乃亜の奴は、何を考えてるんだ?」
雷より負ったダメージは既に癒した。
体を包む疲労感も、黄金錬成によって取り込んだ魂を薪にして回復した。
その所要時間、おおよそ数分。驚異的なスピードでシュライバーは復調した。
だが、シュライバー本人の認識と考えから言えば──なんだそれは?と。
憤慨せざるを得ない事実だった。
白騎士(アルベド)は傷など負わない。
いついかなる時もその速度で標的を圧倒し、見目麗しい様相を保ったまま虐殺に興じる。
英雄(エインフェリア)は疲れない。
そもそも魔人の身体を得る前から、シュライバーという少年は疲労とは無縁の肉体だった。
何時間戦い続けようと、何人殺そうと、その肉体に疲労の概念は存在しなかった。
にも関わらず───この島ではシュライバーがその速度を発揮すればするほど、
疲労の二文字が纏わりついてくる。
ある一定の閾値を超えると、体が水を吸った衣服の様に重くなるのだ。
「ハイドリヒ卿の元で行う戦争なら、こんな事にはならなかった」
どうせ最後に勝つのは自分なのだから、建前だけの制限など撤廃してしまえば良い。
殺して欲しいのなら、どうして自分に全力を出させるのを良しとしない。
忠誠を誓った黄金の君であれば、こんな面倒なハンデなど設けない。
ただあるがままに、己の魔名を轟かせ、狂い踊る事を良しとするのに。
せめて形成さえ自由に開放できたなら、三十秒もかからずこの島を焦土としてやるのに。
殺す。自分に窮屈で不快な思いをさせた海馬乃亜は必ず殺す。
「いい加減死ねよ、ベイにも劣る蝙蝠が。僕の手をこれ以上煩わせる事は───
君の下らない人生における、一番の大罪だとまだ理解できないのかい?」
愛用の銃を破壊された瞬間から、苛立ちは治まるところを知らない。
取るに足らない、戦争の二文字も知らない小僧共に不覚を取ったなど認められない。
その事実を塗りつぶすには、新たなる殺戮。
殺戮兵器としての自身の性能の証明に他ならない。
端的に言って、恥をかいたガキ大将がいじめられっ子を叩きのめし、下がった株の回復を図るのと全く同じ思考回路だった。
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「黙れ……品性下劣のゴミ屑が………!」
常人なら子供どころか大人でも三度は卒倒しそうな殺意と憤怒を向けられて。
対する白の外套に身を包んだ少年…否、男は自身の死を求める言葉を一蹴した。
当然だ。なぜなら彼はシュライバーに劣らぬ魔人。
全ての鬼の始祖。鬼神。鬼舞辻無惨その人なのだから。
憤怒に狂う白狼を前にしても、精神的には一歩も劣らぬ強固な自我を備える。
そして、無惨もまたシュライバー以上に憤慨していた。一言で言ってキレていた。
何故自分がこんな目に遭わなければならない。
鬼舞辻無惨は神も仏も信じてはいない。
そんな者は脆弱な人間が作り上げた妄想でしかない。
この地に招かれる以前、千年間の生涯で数えるのも馬鹿らしく成程人を殺してきたが、
未だ神も仏も無惨の前に現れた事はない。
そして、あぁ──やはりこの地においても神などいないか、役立たずだと確信できる。
自分より余程裁かれて然るべき殺人を是とする狂犬を、のうのうと生かしているのだから。
神や仏がいるのなら、この狂犬を今すぐ何とかしろ!!
無惨の憤りは留まるところを知らなかった。
「誰の許しを得てこの私の打擲に及んでいる。身の程を弁えろ狂人が!」
「身の程ならこれ以上ない程弁えてるよ。僕は英雄だ。英雄には怪物退治が付きものさ。
とは言っても、君程度の劣等じゃ誇るのも馬鹿らしい陳腐な一節にしかならないだろうけどねェッ!!」
言葉と共に、シュライバーの手の中の魔銃より轟音が轟く。
無惨の人外の移動速度を以てしても、撃たれてからの回避は不可能。
腹の底に響く鉄の号砲と共に、戦車砲の斉射のような魔弾が無惨に襲い掛かる。
「この、乃亜の走狗如きがァ……っ!」
凄まじい威力の銃弾だ。携帯火器の火力とはとても思えない。
その上、今まで銃弾の装填作業をしている様子が一度もない。
つまり、大砲を超える威力の銃弾を、無尽蔵に目の前の通り魔は放っている事になる。
海馬乃亜は何をやっている。
支給品なのか血鬼術の様な術理なのかは知らないが、こんな無法をなぜ許している。
無能無能無能無能無能無能無能無能無能無能。制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁。
撃ち込まれた銃弾が三百を数えた頃には、脳内がその二つの言葉に埋め尽くされていた。
「チッ……!」
しかし、無惨の思考を怒りで染め上げる猛攻も。
当のシュライバーには、ただただ不満が募る結果にしか繋がっていなかった。
まず単純に、自身の武装の双翼を担うルガーの拳銃が破壊されたことによって火力が半減している。
もし普段の二丁拳銃が健在であれば、撃ち込んだ銃弾はとっくに千を超えていた。
標的の黒円卓の魔人に匹敵する速度を考慮しても、今の自分の制圧力は失望を禁じ得ない物である事は間違いない。
「本当に……忌々しい………!」
尖った犬歯を軋ませ、相対する白い外套を纏った少年を睨みつける。
自分にこれだけ銃弾を撃ち込まれているにもかかわらず、標的は健在だった。
感じる気配は、同僚であるヴィルヘルム=エーデンブルグ、ガズィクル・ベイ中尉にとても良く似ていた。
だが、ベイ中尉と比べればその強さは絶対に劣る。
黄金に愛される白騎士である、自分と比べれば絶対的な差があるものの。
ベイであればここまで一方的に自分に遅れは取らない。
彼が創造を開放すれば、自分に少しは追いすがる筈だと、シュライバーは評価していた。
翻って目の前の吸血鬼もどきの蝙蝠男は白い外套を頼り、サンドバッグにされるのみ。
防戦一方で、自分に攻撃することすら殆どできていない。
時折聖遺物と見られる刀から水流を出して攻撃してきたが、狙いは雑の一言。
当然掠りもせず、数回繰り返した後無惨は諦めたように刀を仕舞った。
それを目にすれば、最早戦争という死の舞踏の踊り手としてはとても見れない劣等。
シュライバーが少年へそう評価を下したのは無理からぬ話だろう。
そして、だからこそ憤る。
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「邪魔な白服さえなければ……とっくに陽の下に放り出してやるのに………!」
そんな劣等を、未だ始末できていない自分に。
ルガーの喪失による火力の半減も関与している。
しかしそれ以上に標的の纏う白の外套が堅牢なのだ。
恐らく、何某かの聖遺物に匹敵する代物なのだろう。
その防御力を、シュライバーは未だ突破できていない。
直撃した銃弾であれば外套を削ることもできるが、すぐさま再生してしまう。
そして、着ている吸血鬼擬きも生命力だけは黒円卓の魔人に匹敵する水準。
一言で言ってタフだった。それ故に、未だシュライバーは殺害を遂行できていない。
劣化ベイは自身に攻撃することすらできないが、
自身もまた、頑健な劣等を殺しきることができない。
結果、訪れるのは千日手。互いに決定打が無い泥仕合。
「さっさと僕の勝利(わだち)になって消え失せろ、劣等ォッ!!」
絶対回避。その不条理を以てあらゆる攻撃をシュライバーは回避する。
それは敵対者にとって無敵の盾に等しい。
だが、矛の視点では黄金の近衛。三人の大隊長の中で彼は最も後塵を拝す立ち位置だ。
世界全てを灼熱の砲門に内包してしまうエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ、
ザミエルであれば、覇道を示す業火の爆撃で外套が再生する暇もなく敵手を焼き尽くし、
その果てに怪物を陽の光の下へと追いやっただろう。
防御不可能な死そのものの一撃を有するゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン、
マキナであれば、小賢しい外套など幕引きの一撃で貫き、
その内側にいる敵手の肉体をも、強制的に終焉に導いたはずだ。
翻ってウォルフガング・シュライバーも攻撃力の平均値こそ二人に並ぶ水準であるが。
それは取り込んだ魂の総量が桁違いである事実に担保されたものだ。
他の大隊長と比べれば、火力の最大値という点では能力の性質上どうしても劣る。
その欠点を埋めるのが、町一つを軽く焦土とする形成、魔人の愛機である軍用バイク。
如何に劣等の身に纏う外套が頑丈であっても、自身の形成であれば確実に吹き飛ばせる。
シュライバーはそう見ていたし、事実その見立ては正しかった。
一撃の吶喊で地方都市を焼け野原にする彼の形成であれば、一度目の突撃で外套を吹き飛ばし、二度目の突撃で敵の総身を微塵に砕けただろう。
だが、乃亜のハンデで形成はあと数時間は封じられている。無い物ねだりでしかない。
この程度の劣等を殺しきれぬ姿を黄金の君主に見られれば、無能の誹りは免れないだろう。
シュライバーは圧倒的優位に立ちながら、終始歯噛みする思いだった。
「いい加減にしろ、この異常者がァッッッ!!!」
対する無惨もまた、怒りのボルテージは指数関数的に上昇し、怒髪天を突いていた。
これまで散々射的の的にされ、沸点が瞬間湯沸かし器並みに低い彼が狂わぬ筈もない。
防護服の武装錬金、シルバースキンは凶獣からしっかりと無惨の命を守っていたが。
完璧に守り切れている訳でもなかった。
回避しきれず、受けた銃弾は容赦なくシルバースキンの装甲を削っていく。
例え装甲が削られても、即座に自己修復できるのがシルバースキンの強みである。
しかし人間と無惨には決定的に違う条件が一つあった。
それは、日光に当たれば消滅してしまうという特性だ。
じゅう、と肉が焼ける音が無惨の耳朶に届く。
「乃亜ァアアアアアァアアアア何をしている!!」
着弾と共に装甲が削れ、日光が容赦なく雨合羽の隙間から肌をソテーにする。
陽光が鬼を焼き尽くすには十数秒程の猶予があるため、致命には至らない。
そして無惨の肉体が限界を迎えるまでに、シルバースキンは再生を果たす。
さっきからこれの繰り返し、戦闘開始から無惨の肉体は陽光に蝕まれ続けている。
この時点で、無惨の身に纏う鎧に下す評価は決まっていた。
担い手を保護する責務も果たせぬ欠陥品のガラクタ。使えぬ愚物。
こんな物より、もっと高性能な鎧を用意すればいいものを。
いや、それよりも先にあの凶獣の制限をもっと強めるべきか。
不満は数え切れぬ程あるが、この時無惨が言いたいことは一つだった。
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「主催者だというなら、責務から逃げるな乃亜ァアアアアアア!!!!」
勝手に拉致し自分に首輪を嵌めて、殺し合いを強いるだけでも万死に値するが。
呼ぶだけ呼んでおいて管理も放棄など、億死を超えて兆死でも足りぬほどだ。
無惨は怒った。全身の沸騰した血が頭に集まり、顔色が赤黒く変色する。
満ちた怒りを噴火させるように、彼は反撃の咆哮を響かせた。
「調子に………乗るなァッ!!」
「おっと」
ドン!という旋律が大気を駆け巡る。
ここで初めて、シュライバーが守勢を取った。
射撃をいったん中断し、後方に目にも映らぬ速度で飛びのく。
大気に満ちた音の正体。それは無惨が行った攻撃だった。
少し先に未来にて鬼殺隊を苦しめた衝撃波を、眼前の狂犬に向けて放ったのだ。
僅かでも掠れば腕や足が吹き飛ぶ威力である衝撃波を、波の様に広げ制圧する。
それを狙っての攻撃であった。
「……………………」
そんな無惨の思惑を苦も無く飛び越え。衝撃波を刹那で躱し。
果たしてシュライバーは暫しの間苛立ちも忘れ、怪訝な顔で無惨を見つめ尋ねた。
目の前では白い外套の敵が蹲っている。当然ながら、自分が何かをした覚えはない。
「………何してるんだい?君」
「〜〜〜〜〜!!!!!」
無惨自身を起点として円状に広がる衝撃波。
成程シュライバー相手にカウンターを狙うなら、最適解ではあったのだろう。
だが、この時無惨はシルバースキンを身に纏っている。
この武装錬金は裏返して使う事で、最強の拘束具となるほど内側も頑丈なのだ。
そんな物を身に纏った状態で衝撃波を出せばどうなるか。
答えは簡単だ。内側で跳ね返った衝撃波が放った本人を切り刻む。
それが、たった今鬼舞辻無惨が招いた惨事の原因だった。
挙句衝撃波がシルバースキンの内側を切り裂いた事で日光に焼かれ、のたうち回っている。
日光対策に身に着けていた雨合羽など、襤褸切れになってしまっていた。
「ハァ……君さ、自分より強い相手と戦ったこと、殆ど無いんじゃない?」
何だかバカバカしくなってきたと、呆れた様子でシュライバーは無惨に指摘を行う。
実際、その指摘は正しかった。
日輪の剣士、神の寵愛を受けし者、鬼舞辻無惨にとっての怪物。
始祖の呼吸の担い手を除けば、常に無惨こそ最強の存在だった。
鬼の序列では頂点に位置する上弦の壱ですら、無惨には及ばない。
ただ無造作に腕を振るうだけで、自身の命を狙う異常者たちの肉体は粉砕する。
彼は自身の存在を最も完璧に近い生物だと考えていたが、概ね間違っている訳でもない。
もう一度述べよう。
日輪の寵児の没後、彼は大正の闇において紛れもなく最強の存在だった。
しかしだからこそ、自身に匹敵する存在との交戦経験が彼には圧倒的に不足していた。
鍛える事すら女々しいと肉体の研鑽も積まず、血鬼術を高める事もしない。
更に乃亜のハンデにより肉体分裂の逃走すら封じられれば、自爆の不様もやむなしだろう。
「黙れ……痴れ者が…………!!」
だがそれでも、無惨の心は折れない。
これまで相対者の心胆を凍らせてきたシュライバーを前にしても。
退かず。媚びず。省みず。
外套の下から射抜く様に殺気をぶつける。
だが、幾ら無惨が睨みつけようと、シュライバーにとっては不快害虫の威嚇でしかない。
冷え切った視線で地を這う蛆虫を見つめながら、シュライバーは告げる。
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「もう潮時だろう。さっさと諦めて死ぬといい。
僕の様な英雄に討たれるんだ、君みたいに下等な怪物には過ぎた栄誉じゃないか」
どうせ勝ちの目は君にはない。
怪物を殺すのは、いつだって英雄なのだから。
既に夜は明けた。闇の中に生きる怪物は闇に還る時間だ。
英雄として怪物を滅ぼすべく、チェックメイトの宣言を果たすべく。
シュライバーはこの地に訪れて得た武装を展開する。
「────グランシャリオ」
無惨の身に纏う白の外套と対になるような、漆黒の全身鎧を身に纏い。
白騎士は、獲物を狙う餓狼の如く姿勢を深く沈みこませた。
これ以上時間をかけるつもりはない。次の一撃で終わらせる。
「まずその面倒くさい装甲を吹き飛ばして、その後存分に日光浴をさせてあげるよ」
シュライバーの考えた詰みへと繋がる一手は、実に自身の速度に物を言わせた物だった。
グランシャリオで身を包み、最高速度で相手にぶつかる。それだけだ。
単なる突進と言えばそうだが、シュライバーの速度でそれを行えば。
それは防御不能、回避不能の破壊槌に等しい。
ここまでシュライバーが放ってきた銃弾は強力であったが所詮は点の攻撃。
無惨本人が回避する割合も考えれば、決定打にはならなかった。
故に、吶喊で一時的に白い外套を一度大きく吹き飛ばし、即時修復不可能な損傷を与える。
その後、こじ開けた風穴が塞がる前に、修復スピードを超える銃弾を撃ち込み日光の下へ引きずり出す。
単純であるが故に、速度で圧倒的に劣っている相手には極めて対処が難しい一手であった。
「泣き叫べよ劣等。ここに神はいない」
語る言葉に、怒りの彩はもう無かった。
怒りを向けるに値しない夜魔もどき、目の前の標的はシュライバーにとって既にその程度の存在なのだ。
最短距離、最高速度で殺戮兵器として駆動し、劣等の死と言う結果を導く。
今まさに羊を貪らんとする狼のように姿勢を低く、構えを取る。
「───何が」
差し迫った死を目前にして。
鬼舞辻無惨は逃げる素振りを見せなかった。
どうせ、ただ逃げただけではこの狂犬から逃げ延びる事は出来ない。
肉体分裂は封じられている。となれば、逃走の為には賭けに出る他なかった。
日光に灼かれた肉体の修復は既に終わっているため、立ち上がるのに問題はない。
全身に力を籠め、眼前から目を逸らす事無く始祖の鬼は立ち上がる。
「何が英雄だ」
「あぁ、まだ囀れたんだね。いいさ、これが最後だ。
なんなら好きに抵抗しても構わないよ。どうせ無駄だから」
揺さぶりなど無意味。
シュライバーにとって劣等の口から出る言葉は言葉ではない。
家畜の発する鳴き声だ。豚の嘶きを不快に感じても、言葉を交わそうとする者などいない。
無惨の言葉は、シュライバーに届かない。
だが、始祖の鬼にとって届くも届くまいもどうでも良かった。
始めからそんな事は関係ないと言う様に、これまでの生に従い感情をぶつける。
「自己を他人に依存して存在し、威勢がいい様に見えて常に逃げ腰の戦闘、
不死の英雄が聞いて呆れる。一言で言って、醜い」
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戦闘の経験値に劣ると言っても、無惨の観察力は冴えを見せる時もある。
それを裏打ちする様に、自爆の際も無惨は敵の状態をしっかり観察していた。
そこで彼はある事に気づいた。無惨が衝撃波を放った時、凶獣は回避行動を取ったのだ。
元より当たる可能性がほぼ絶無であるにも関わらず。
シルバースキンから漏れ出た僅かな衝撃も厭う様に飛びのいた。
ここまで無惨は銃弾の豪雨を受け、攻撃する機会はほぼなかったが。
苦し紛れに斬魄刀を振るった瞬間は、何度か存在していた。
その時も、猛攻の影でシュライバーは回避を優先していたように思える。
それに気づいた時、無惨は確信した。
「貴様など私の知る真の化け物には遠く及ばぬ」
目の前の狂犬は、狂ってはいるが日輪の剣士ほど怪物ではない。
あの鬼滅の化身であれば、分裂逃亡を封じられたこの身にここまで手こずりはしない。
乃亜から与えられた欠陥品の防具など。瞬きの間に紙のように切り裂くはずだ。
少なくとも、敵の攻撃の余波にすら怯える臆病者などでは断じてない。
ならば、やりようはある。そこまで思考が行きついた瞬間、無惨に一つの策が浮かぶ。
「貴様は英雄などではない。ただの───臆病な野良犬だ」
策と言う名の賭けを成功させるべく。
それ以上に自分の怒りを知らしめるため、無惨はありったけの侮蔑を突き付ける。
成功しても失敗しても、恐らく次が、最後の交錯となるだろう。
確信と共に放たれた挑発の言葉が、絶殺の意志と衝突を果たす。
挑発を受けた狂乱の魔狼が吐く言葉は、やはり凍てつく様に冷たい物だった。
「そうかい、陳腐に過ぎて欠伸が出る遺言だった。劣等は語彙まで劣等らしい」
今まさに獲物に飛び掛からんとする狼が如く。
無惨が上下左右前方後方何処に逃げようと、確実に捉えられるように。
意識を集中させ、総身に満ちる殺意を漲らせる。
さぁ、我が牙を以て死に絶えるがいい。夜明けの吸血鬼よ───!!
「アハハハハハハハハハハハァ─────!!!」
狂笑と共に。轟ッ!とソニックブームを発生させながら。
悪名高き狂乱の狼が、不遜な愚者の下へと駆ける暴風と化す。
極限域まで時間が圧縮され、コンマ一秒が百万倍へと引き上げられる。
白い外套のお陰で、無惨の表情はシュライバーからは見えない。
だがきっと、恐怖と絶望に彩られた表情をしているはずだ。
現在のスピードは先ほどとは桁違いの、正しく本気の疾走なのだから。
一瞬で防御と回避、共に不可能だと確信させるほどの速度。
その勢いで以て、一気に距離をお互いの吐息すら感じそうな距離まで詰める───!
「───来い、狂犬が」
届いた声に、絶望の感情は籠められていなかった。
シュライバーの想定を超越せんと、鬼舞辻無惨が勝負に出る。
始祖の鬼としての意地で以てして、狂った走狗の肝を抜かんと、一か八かに挑む。
「────な、に?」
シュライバーの隻眼が瞠目した。
無理も無いだろう。先ほどまで外套に頼りきりであった劣等が。
外套を身に纏っていなければ日輪に灼かれ死に至る筈の劣等が。
外套を消失させて、日光の下にその五体を晒したのだから。
想定外の挙動に一瞬呆気にとられ、しかし直ぐに何も問題はないと結論付けた。
邪魔な防護服はこれで消え去った。ならばこのまま敵の身体を砕くことを優先する。
機械のように冷酷無慈悲な判断によって駆動し、腕(かいな)を振り上げて。
そのまま目の前の敵を引き裂きバラバラにせんと────
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かかったな。間抜けが。
交錯の刹那。
露わになった鬼の始祖の眼差しは、雄弁に白騎士(アルベド)に向けてそう語っていた。
ウォルフガング・シュライバーに対して、鬼舞辻無惨の勝機はこの刹那を置いて他にない。
視線が交差し、無惨の瞳を見てシュライバーが想起するのは先ほどの喜劇芝居。
吸血鬼もどきの劣等が、自爆した瞬間のこと。
先程は身に纏っていた外套のせいで、英雄を討ち取らんとした怪物の牙は届かなかったが。
しかし、その外套を自ら取り払った今ならばどうか?
不味いと、白狼の本能が警鐘を高らかに鳴らす。
しかし、既に敵を撃滅せんと攻撃態勢に移っていた五体は既に止める事は出来ず。
────死ね!!
ドン!と遠雷に似た爆音と同時に。
カウンターの要領で、無惨渾身の衝撃波がシュライバーに向けて放たれた。
彼の“渇望”の制約を考慮せずとも、ハンデを受けた肉体で受ければ死に至る。
そう確信させるほど、鬼種の頂点の全霊がその一撃には籠められており。
「───ォ、オオオオオオオオッ!!!!!!」
着弾までのコンマ数秒の中で、シュライバーは吼えた。
エイヴィヒカイトの全力使用。創造位階に達さないまま、絶対回避を成し遂げる。
両断しようとしていた腕を引き抜き、慣性の法則を完全に無視し、後方へ退避を行う。
後方へ。後方へ。この攻撃さえ凌げば、自分の勝ちだ。
態々自分から邪魔な甲羅に等しい外套を解いてくれたのだ。たっぷりと料理してやる。
邪で獰猛な必殺の意志を燃料として、白騎士は遂に衝撃波を躱しきった。
さぁ反撃だ。そして今度こそ、この戦いの幕引きを導く。
殺意を胸に拳銃を構え、照準を付けようとしたその時だった。
鬼舞辻無惨の矮躯が、中空を舞っていた。
「待て──」
無惨の取った手は、実に単純な物だ。
挑発を行い、カウンターでシュライバーの殺害を狙うのと同時に。
衝撃波に指向性を付与し、体の角度を調整して前方と足元を狙いうち、推進力とする。
カウンターでシュライバーを殺害できればそれでよし。
出来なかった場合の保険として、空中を飛び逃走する。攻防一体の策であった。
「逃げるなァッ!!」
当然、それに感づいたシュライバーが心穏やかでいられる筈もない。
銃を瞬時に彼方の空に飛んでいこうとする無惨に向け、乱射を行う。
しかしシュライバーが引き金を絞るのに先んじて、無惨はもう一度衝撃波を放った。
魔弾の数々が凄まじい密度の衝撃波に強引に軌道を変えられ、明後日の方向へと飛ぶ。
こうなれば空中疾走が可能な創造位階に達していない現状では打つ手がない。
最後に残った選択肢として白狼の化身を招来するが、銃撃を行ったために一手遅れた。
劣等の肉体が、白狼の巨躯でも届かぬ彼方の空へ消えていく。
油断した。あの臆病者がこんな分の悪い賭けに出るとは。
無惨が消えていった方角を睨みながら、銃を仕舞った。
鋭く尖った犬歯を?み締め、握りこぶしを地面に叩きつけ。
ただの一発で出来上がった十メートル規模のクレーターの中心で、餓狼は怒りを咆える。
「僕に戦争をして欲しいなら……なんでもっと気持ちよく戦わせないッ!!」
-
【F-4/1日目/午前】
【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、
欲求不満(大)、イライラ
[装備]:モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
0:銃を探す。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
4:ガッシュ、一姫、さくら、ガムテ、無惨は必ず殺す。
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。
────武装錬金!!
千年間の内で。
ここまで生命の危機に晒されたことは、耳飾りの剣士に追い詰められて以来なかった。
戦場から離脱し、武装錬金を再展開するのがあと数秒遅ければ。
もしくは、正史と同じく珠代の老化薬を投与されていれば。
無惨の肉体は、日光で消滅していただろう。
「ハァー……ハァー……ぐっ……あ、の、狂犬がァ………」
しかし逃走成功の代償として、無惨もまた満身創痍。
通常の損傷なら一瞬で治すにも関わらず、焼け爛れた肉体の再生が鈍い。
耳飾りの剣士に切り刻まれた時と同じ、痛みと身体に纏わりつく熱がいつまでも後を引く。
それでも暫し時間を置けば完全回復に至るだろうが…
乃亜のハンデを考慮すれば、あと一〜二時間は戦闘を行うのは避けたい処だった。
「こんな乱痴気騒ぎに巻き込まれなければ……既に産屋敷を殺し、
竈門禰豆子を喰らって……完全な生物になっていた筈だった………!」
頸の切断すら克服した、最も完璧に近い鬼の始祖。
しかしそんな彼でも、日光は特級の弱点として機能し続けている。
それ故に、無惨は日光の克服をこの千年間悲願として生きてきたのだ。
兎に角、身を休めなければ。
竈門禰豆子も名簿に記載されていなかった以上、無理を押して行動する理由も無い。
それに今襲われれば、死にはしなくとも……例え狂犬に劣る相手でも不覚を取りかねない。
モクバの救援に赴くのも取りやめだ。予期せぬ飛翔により位置も大分離れてしまった。
日光で死にかけた今、直ぐに外に出る気にはならない。
というよりも、何故自分が多大なリスクを抱えて出向いてやらねばならないのか。
護衛してやるのだから、向こうが自分の下に来るのが筋と言う物だろう。
ままならない。何もかもが全くもってままならない。
それもこれも───、
「殺してやる……殺してやるぞ海馬乃亜………!!」
全部、乃亜が悪い。優勝でも脱出でも、顔を合わせた瞬間八つ裂きにしてやる。
そう結論付けて、無惨は近場にある潜伏場所にできそうな施設の選定を始めた。
【B-3/1日目/午前】
【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(極大) 、回復中、俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。 魔神王(中島)、シュライバーに対する強烈な殺意(極大)
[装備]:捩花@BLEACH、シルバースキン@武装錬金
[道具]:基本支給品、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り6時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:中島(魔神王)、シュライバーにブチ切れ。次会ったら絶対殺す。今は回復に努める。
1:禰豆子が呼ばれていないのは不幸中の幸い……か?そんな訳無いだろ殺すぞ。
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:柱(無一郎)が居る可能性もあるのでなるべく慎重に動きたい。
5:一先ず俊國として振る舞う。
6:モクバと合流は後回し、モクバの方から出向いてこい。
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わらず死ぬと考えています。
また鬼化等に制限があるかどうかも後続にお任せします。
容姿は俊國のまま固定です。
心臓と脳を動かす事は、制限により出来なくなっています、
心臓と脳の再生は、他の部位よりも時間が掛かります。
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投下終了です
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皆様投下お疲れ様です
新年から激動の展開が続いて目が離せない!
ここまでかき回してきたマサオやリンリンの最期、大暴れシュライバーなど見所が多すぎて感想が纏めきれませんが、応援しています
自己リレーになりますが、永沢、ドロテア、ディオ、モクバ、キウルで予約します
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投下ありがとうございます!!
開幕ブチ切れで喧嘩し合う狂獣二匹、申し訳ないが何か銀魂みたいなノリで草。
無惨様もう滅茶苦茶怒ってて叫びまくってるのが、全て正論なのが面白い。
シュライバーはそれはもう異常者だし。
責務から逃げるなと、主催者にこんなに面白い絡み方してる参加者はあんま見た事ないですね。
衝撃波出したら、反転しちゃって自分で喰らうの、もう完全に萌えキャラ化してますよこれ。草。
シュライバーが毒気抜かれるの、相当じゃないですか?
力づくで通じない相手に、まともな血鬼術がないのは、かなりきついですね。
無惨様より弱くても、氷柱とかなら息吸わせるだけで肺にダメージとか与えられたりで、色々搦手のしようはありそうだし。
それでも諦めず、立ち向かう無惨様。
口にしたのはあの優しい王ガッシュと同じ、シュライバーを否定する言葉。
これもう同じ王者の風格を出しているのでは?
こっからの、一連の台詞は普通にカッコいいんですよ。言っているのが、無惨様でなければ。
ただ、そっから見事にカウンター決めて逃げ出してから、もう表出たくない、モクバからこっち来いやするのやっぱ無惨様で素敵。
しかし、楽しそうに暴れてるようなシュライバーも、ずっとイライラしてるし、このロワを楽しんでるの絶望王しかいない気がする。
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予約を延長します
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奈良シカマル、的場梨沙、龍亞、絶望王
予約と延長します
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クロエ・フォン・アインツベルン、グレーテル、おじゃる丸、水銀燈
予約します。延長もしておきます
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投下します
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☆
地図でいうG-6エリアに配置された施設・中央司令部。
本来ならば屈強な軍人がひしめく要塞も、この場で使うのは子供のみ。
合流予定であったホテルに集う必要のなくなったドロテア達は、海馬コーポレーションの通り道且つ近場にあるこの施設にひとまず身を寄せた。
モクバとキウルが眠らされている部屋。
その壁を一枚挟んだ部屋でドロテア・ディオ・永沢の三人は会議をしていた。
「妾が話したいのはまず俊國のことじゃ」
タブレットで名簿の項目を弄りながら、ドロテアはそう切り出す。
「奴の名前なんじゃが」
「名簿に載っていない、だろう?舐めるなよ、それくらい僕もとっくに把握している」
ドロテアの言葉を待つことなく、先に言ってのけたのはディオだ。
「え、な、なんでだい?」
永沢は思わず狼狽えてディオに聞き返す。
名簿は全て目を通したつもりだったが、クラスメイトを探していただけだったからか、完全に俊國の名前のことなど頭からトんでいた。
己の名前を教えない。
もしも対主催に協力しているのなら、本名を偽る必要はなく、堂々と名前を明かせばいい。
なのに偽名を名乗られていれば、彼が生きているか死んでいるかもわからないではないか。
「まー、単純に、誰かに襲われてる犯罪者じゃろ。それも個人ではなく、組織相手じゃ」
その永沢の疑問に、ドロテアはあっさりと答えて見せた。
「だろうな。僕も概ねそう見ている」
「ほぉぅ。ならばディオ、お主の考えを聞かせてもらおうかの」
「...名前を明かさないというのは、特定の誰かに知られたくないのが基本だ。最初から誰がいるかわかっているなら本名も明かせるだろうが、誰もわからない状態からスタートならそうもいかない。もしもその追われたくない誰かが悪評を撒いているかもしれないからな。ただ、これも個人ならば大した問題じゃない、その辺りは自分の手腕でどうとでもなるし、予め数を集めておけば、いまは敵対している場合じゃないと丸め込むこともできる。だが組織相手ならどうだ?もしも複数人が参加していて、自分の悪評を撒いていたら一気に敵対者が増えることになるし、逆に本名が割れていなければ自分の生死を誤魔化せる。犯罪者だと定義したのも、そもそも追っている相手に後ろめたいことがあるなら同行者にそういえば言い。それが防衛にも繫がるからな。だがその逆、俊國が何かしらの犯罪でも犯していれば、もう護ってくれる奴なんていなくなる」
「うむうむ。ディオはちゃんとわかっておるの。そういう訳じゃ。わかったか永沢?」
「あ、あぁ...」
永沢は狼狽えながらも肯首する。
淀みなくドロテアと情報を共有しているディオと違い、自分は完全に置いていかれている。
自分は城ケ崎と自分のことで手一杯だったというのに、この二人はここまで思考を巡らせていた。
顔が良い奴は頭もいいというのか。軽い嫉妬を覚えつつも、置いて行かれまいと必死に耳を傾ける。
「というわけでじゃ。俊國が強さを持ち合わせた危険人物かもしれんという可能性が出た訳じゃが、永沢は奴をどうするべきだと思う?」
「え?え、えと...」
突然答えを振られ、永沢は戸惑いつつも考える。
殺人犯かもしれなくて組織から追われている危険人物。それも化け物とやり合える力を持っているならやることは一つだ。
「みんなに知らせよう。俊國が危ない奴だって。仲間に入れておいたら何をされるかわからない」
永沢は当然の答えを告げた。
殺人犯とそれを追う者たち。後者がいれば、厄介ごとのタネは更に増えることになる。
本名も解らないやつのいざこざに巻き込まれるのはご免だ。
だから、永沢は彼の追放を選んだ。
「なるほどのー。永沢はそう考えるかぁ。ディオはどうじゃ?」
うんうん、と頷きながら、ドロテアはディオへと質問をふる。
「別にこのまま同盟継続でいいんじゃないか?対策は考えておくとして、現状、僕たちに危害を加えないならやつが何者かなんてどうでもいい」
「ほう」
ディオの意見に興味を惹かれたように、ドロテアのリボンがぴょこぴょこと動く。
「奴が国を揺るがす大量殺人犯だとしてもか?」
「ああ。奴が重罪人だろうが、連続殺人鬼だろうが、逮捕するのも裁くのも司法の役目だ。僕らがそこに身を削る必要はない」
「うむうむ。実のところ、妾も同感じゃの。なんせ妾たちは国柄どころか生きる時代も違うと来た。どうせこの殺し合いが終われば顔を合わせることもないんじゃ。ならどんな大罪人であろうが妾たちには関係ないわ」
「え、えぇ...?」
-
あまりにも価値観の違いすぎる二人に、永沢は思わず困惑の声を漏らす。
自分だって生き残るのに優勝が必要であればそうするつもりではある。
だが、この二人は対主催を謳いながら、明らかに危険人物臭い俊國ですら平然と受け入れようとしているのだ。
決して全てを平等に愛する慈愛の心ではなく、利用する気満々でだ。
正直、ついていけないと思うが、いまここでチームから外されればかなり不利になる。
せめて次の保護先を見つけるまでは離れるわけにはいかない。
「俊國に関しては同盟を継続させるとして...次は孫悟飯たちと北条沙都子たちについてじゃ」
ドロテアは支給品のチョッパーの医療セットに入っていた麻酔やメスなどを三等分しながらそう続ける。
「妾たちは海馬コーポレーションに寄っていくついでに孫悟飯と結城美柑という奴らに会いに向かっておった」
孫悟空の襲撃の際に永沢が離れた後に、北条沙都子とメリュジーヌが現れ、こちらに取り入ろうとしたところをブラックという少年が現れ、沙都子たちをマーダーだと明かした。
沙都子たちがそれに対抗して、孫悟飯と美柑という二人に会えば自分たちが殺し合いに乗っていないことを証明できると反論。
それを受けてカツオから彼らに会おうと提案し、向かいたい方角が重なっていたドロテアとモクバが護衛ついでに同行した。
以上の旨をディオと永沢にドロテアは説明した。
「そして、ディオの出会ったメリュジーヌに襲われたことを踏まえれば、奴らが殺し合いに乗っておるのは明白になったわけじゃが...北条沙都子たち、そして孫悟飯たちについては、お主らはどうしたい?永沢」
またもドロテアに話題を振られて永沢は戸惑う。
(なんでまた僕から...)
脳内で文句を垂れつつも、それは極力出さないようにして考えを絞り出す。
できるだけ、自分はイヤだと思いつつも彼らに沿えるような答えを。
(えーっと、さっきは俊國も受け入れるって言ってたから...)
たとえ俊國が危険人物でも二人は受け入れると言っていた。
ならば、殺し合いに乗っているとはいえ、戦力になるなら受け入れるべきであるはずだ。
本音を言えばそんな連中を懐に入れたくはないが、彼らに合わせた答えならば致し方ないだろう。
「そのメリュジーヌって奴は強いんだろう?できれば味方にしたいよね。悟飯って奴らに会って、メリュジーヌたちが殺し合いに乗ってないって言って貰えば、奴らも動きづらくなるんじゃないかな」
「そう考えるかー。ディオ、お主は?」
「イチイチ測るようなことをするんじゃあない...僕としては反対だ。既に奴らは殺し合いに乗っているんだぞ?仮に悟飯たちとやらが殺し合いに乗っていないからって、わざわざそっちに合わせるとは思えないね。そもそも、その悟飯たちに会えということ自体が罠の可能性がある」
「なっ!?さ、さっきは危険でも強ければ仲間にするって言ったじゃないか!」
「そんなもの時と場合によって使い分けるに決まっているだろう。俊國はまだマーダーとしての動きをしていないが、北条沙都子たちはもう僕たちを襲っただけじゃなく、殺害までもしてしまっているんだろう?それに現状の僕らの同盟と比べても一番強いのはあのメリュジーヌときた。力づくで従わせるのも無理なら協力なんて無理だね。あまりにもリスクが高すぎる」
「そんな勝手な...都合が良すぎるよ!」
「...僕は自分の考えを言っただけだが。ひょっとしてきみ、なにも考えずに適当に答えてるんじゃあないか?」
「うぐぅ!...そ、そんなこと...なぃけど...」
痛いところを突かれてごにょごにょと声が小さくなっていく永沢をドロテアは横目で見る。
まるでなにかを品定めするかのように。
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「妾はディオに一票じゃな。あのタイミングで悟飯たちへと誘導したのがどうにも胡散臭い。絶対に悟飯たちに擁護してもらえるという自信があるのか、それとも悟飯たちのもとへ向かうこと自体が罠かもしれんし。妾は相手に害がある時は殺して首輪も回収するが、見えている地雷を踏みに行くようなことはせんよ」
「......」
「な、なんだよ。またぼくが一人じゃないか...ドロテアさん、ディオくんに合わせてるだけできみこそ何も考えていないんじゃないか」
「そう思うならそう思っておけばいいわい」
またも一人になったことに永沢は不貞腐れたように疑惑の目を向けるが、しかし、まるで相手にされないのでそのまましょんぼりと肩を落とした。
「ああ、この際じゃからついでに言っておくが、お前たちが最初に会った金髪の痴女にも交渉はしようと思っておる。最低限、羅刹四鬼くらいの実力はありそうじゃし味方に引き入れられれば現状はかなりマシになる」
ドロテアの言葉にディオは殊更に不機嫌な表情を浮かべるが、ドロテアはまあ待て、と軽く宥める。
「妾も直接見た訳ではないからなんとも言えんが、お主らも別に傷つけられたわけではないのだろう?美男美女を漁りたいだけの色狂いなら、適当にこちらから贄を出しておけば良い。まあこの場合はキウルになるが、奴で満足できなければ顔の良いメリュジーヌや北条沙都子とぶつけ合わせれば厄介な奴らを消耗させられて一石二鳥。それでダメなら排除する。これでどうじゃ?」
「...まあ、そういうことなら構わない」
痴女のことはソレについて何も知らない永沢は口を挟むこともできず、ひとまずの保留で落ち着いた。
「さて。俊國との同盟は継続、北条沙都子たちは排除する方向で動くとして、他に考えておきたいことはあるかの?なければモクバたちを起こしに行くが」
二人を見回すも、特に反応がないことを確認すると、ドロテアはそこで話を打ち切り二人に背を向ける。
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「おっとその前にひとつ」
ドロテアはドアノブに手をかけると、そこでピタリと動きを止め、振り返らないままに言葉を続ける。
そんな彼女に、永沢は疑問符を浮かべ、ディオは無言でその挙動を見つめる。
「生物というものは難儀でのう。如何に強くとも己の力量を越えるものを護り切ることはできん。例えばとある局面でガッシュが護れるのが二人までだったとする。一番被害なく済ませるにはどうしても足切りが必要で、価値あるものを残さねばならん。じゃが極限であればあるほどその正常な判断を的確にこなすのは難しくなる。いま、この場にいるのは妾を含めて三人じゃな」
瞬間、彼は動き出した。
ドロテアが振り返るよりも早く、その手にメスを握りしめて。
「価値の無い者は間引いておく必要が...うむ、やはりお主はちゃあんとわかっておったか」
振り返り、その目に飛び込んでくる光景に、ドロテアはニィと口角を吊り上げた。
彼女の眼前で。
彼―――ディオ・ブランドーはそのメスを振るっていた。
噛みつけないよう口腔に布を突っ込まれ、目を見開き驚愕の色を顔に浮かばせる永沢の首筋目掛けて。
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「ぐもっ!?」
突然の衝撃と激痛にわけもわからず混乱する永沢は、反射的に暴れようとする。
だが、ただの小学生である永沢とボクシングを出来る程度には身体能力に勝るディオ。
この二人では筋力勝負で適うはずもなく、暴れ始める前にディオは永沢を押し倒し馬乗りになって再びメスを首に突き立て、裂く。
再びの激痛。首筋からドクドクと溢れ零れていく温かいナニカ。
永沢はくぐもった声を漏らしながら必死に暴れようとするも無駄。
かつてディオの過ごした貧民街では野良喧嘩など日常茶飯事だ。
如何に力で劣る相手の抵抗を奪うか。マウントを取った時に必要な位置取り・重心移動はどうするべきか。
そのイロハは身体に染みついている。
ダメ押しとばかりに首筋に打たれた注射により、永沢の身体から力が抜けていく。
「なんでお主がこうなったかわからんか」
薄れゆく意識の中、こちらを見下ろしてくるドロテアとディオの顔が視界に広がる。
「一つ、情報の確認を怠り俊國の名が無いことを知らなかった。
二つ、俊國をどうするか考えさせた時、善性を基に排除に舵を切ろうとした。
三つ、明確なマーダー側である沙都子達をチームに入れようとする愚策に走ろうとした」
次々と吐かれる指摘と共に、身体が鎖で繋がれたように重たくなっていき動かなくなる。
「四つ、妾の『害がある時は殺して首輪も回収する』という言葉を聞き流し、自分は安全だとタカを括った。
五つ、最初にこれは悪党同士の会話だと言った真意を測れず、こうなる図に思い至れなかった。
六つ、せっかくくれてやったメスや薬という武器を使おうという思考すら頭になかった。
七つ、そもそもこれまでの会話が全て己の価値を試されていることに気づかなかった」
ほどなく視界は閉じられていき、意識も朧気になりドロテアの言葉も掠れていく。
「おい、まだ終わって...まあ、どうでもいいかの。とにかく、その他諸々含めて審査した結果、お主は不合格。居座れても困るだけじゃ。お主は善人にも悪党にもなり切れん、一貫して中途半端の蝙蝠であったからいざという時に価値が見いだせず容易く切り捨てられる。もしも『次』があればこうならないようにうまくやるんじゃよ〜」
『中途半端』。
意識が完全に閉じる直前、永沢の瞼の裏にこびりついたのはその言葉。
―――僕は卑怯者さ
城ケ崎に中島を殺させてしまったことと、藤木の名を借りてそれすらも隠ぺいしようとしてしまった罪悪感から漏らした言葉。
―――きみのような卑怯者は邪魔なのさ。いざって時に乃亜に脅されて、裏切ってくるかもしれないしね
自分と手を組んで優勝を目指さないかという藤木の提案を蹴った時にいつもの調子で言い放ってしまった言葉。
『卑怯者』
果たしてそれは悪い奴にだけ当てはまるものなのだろうか。
城ケ崎に生きて貰いたいと願うならば、下手に誤魔化さず、中島との件をサトシに打ち明けるべきだったのではないか。
藤木に共闘を提案された時、それを受け入れるべきだったのではないか。
これまで城ケ崎のためなら、と決めていた覚悟は、果たして本当に彼女を生かすためだったのか?
自分の心やプライドを護るための自己保身だったのではないか?
本当に卑怯だったのは、誰かを騙そうとする姿勢ではなく。
己の心に向き合おうとしなかった弱さではないのか。
善に寄り切り、サトシに城ケ崎を託すこともできず。
悪に寄り切り、藤木のように優勝という道を選ぶこともできず。
そういった中途半端さこそ真の卑怯であり、極々僅かな可能性すらも潰してしまったのではないか。
数多の疑問が浮かんでは消えて、浮かんでは消えていく。
そして、最後の最後に彼が思ったのは。
城ケ崎への謝罪でも、彼女を殺した孫悟空、そして自分を殺したディオとドロテアへ向けた呪詛でもなく。
(...ちくしょう)
何も果たせず終わる、己の無力を嘆く言葉だった。
-
☆
「これで良かったんだろ」
永沢の頸動脈を切り裂いてから数分が経過し、呼吸も脈も完全に止まったのを確認したディオは、事も無さげにドロテアへ振り返る。
「これでこの玉ねぎを殺したのは僕だ。乃亜の奴が捏造でもしない限り、お前がコイツを殺したことにはならないし、モクバとの同盟にも支障はさほど出ないだろう」
「うむうむ。そこまでわかっておるとは感心感心、じゃ。これで足手まといは消せて、首輪も新たに増えた」
「切断はお前がやってくれ。このメスじゃあ切り離すのは時間がかかる」
「適材適所もわかっておるか。とことん妾と相性が良さそうじゃ」
ドロテアははにかみながら魂砕きを振り下ろし、永沢の首を切断し首輪を回収する。
「よしこれで首輪二つ目。イイ流れじゃわい」
上機嫌に手に入れた首輪を指先でくるくると回すドロテアを他所に、ディオは永沢の血を頬や服に塗り、メスで行動に支障が出ない程度の掠り傷を身体に刻んでいく。
「これで争ったように見えるか?」
「ウム。バッチリじゃ。警察的にもこれで無抵抗の者を殺したと判断できる奴はそうそうおらん。涙もあれば更に良し」
「チッ、仕方ない...」
ディオは口では軽い文句を言いつつも、目元を軽く擦りたちまちに涙を滲ませる。
「ぐすっ...こんな感じでいいだろう」
「うむうむ。これで純情(ウブ)なお子様たちのハートも鷲掴みじゃ!」
己の要望に即座に答えてくれるディオに、親指を立ててサムズアップで称賛するドロテア。
まるで最初の同行時の険悪な空気が嘘のように和気藹々とする二人。
その空気感は、つい先ほど人ひとりを殺したとは思えないほどに温かった。
そもそも最初にこの二人が険悪だったのはタイミングが悪かったのが大きい。
ドロテアはまだ他の参加者の力の程を知らなかった故に、手軽に首輪を回収できるのにモクバとの契約の所為でできないもどかしさを覚えており。
ディオはディオで最初に強姦されかけ、ジョナサン・ジョースターの存在の有無が気にかかっており。
どちらも平常心とは言い難かった。
それが、ここに至るまでの経験を経て、モクバとキウルというある種の枷を外した途端にこれだ。
自分が最強ではないと理解させられれば選ぶ手段を問わず。
己の身を最優先に他者を排するのにもお互いに全く抵抗がなく。
立ち塞がる問題に対しては意見の波長が面白いほどに合う。
ドロテアからしてもディオからしても、互いが互いにこれ以上なくやりやすい悪党であった。
「さて。念のため死体の検証でもされては面倒じゃから、こいつを埋めたら奴らを起こすとするか。お主の演技力に期待しておるぞ」
「女狐が。誰の心配をしているんだ。それとこいつの支給品は僕が貰うからな」
「よいよい。妾からの信用の証として受け取っておくれ」
悪党二人はケラケラと笑い合う。
これから繰り広げる茶番劇に臨むお互いの姿を思い描いて。
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・
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ペチペチと頬を叩かれ、それでも起きないかとため息を吐かれ、水をかけられることでようやくキウルは目を覚ました。
「プハッ!?」
「ようやく起きたか」
キウルが思わず跳び起きると、そこにはバケツを手にしたドロテアが此方を見下ろしていた。
「あ、あれ、えっと、私はどうして...」
「妾の吸血で気を失っていたんじゃよ」
吸血による失神。
それは予め起きうる可能性としてドロテアに告げられていたことである。
なのでそれ自体にキウルが異を唱えることはなかった。
「それで、起き抜けに悪いんじゃが...悪い報せがある」
不意に表情を陰らせるドロテアに、キウルは胸騒ぎを覚える。
軽薄な印象しかないドロテアがこうまで顔を曇らせるのだ。イヤでも緊張感を覚えざるを得ない。
「永沢が死んだ。殺したのはディオじゃ」
重たい口調で告げられた事実に、キウルは思わず息を呑む。
永沢とディオ。己が護ろうとした人物の内、一人が死に、その下手人が残る一人だというのだ。
これが困惑を抱かずにいられるだろうか。いや、いられない。
「な、なんで...!」
「お主が気絶した後、妾は周囲の安全を確認するため、偵察に出かけたんじゃ。五分...そう、たったそれだけのこと。じゃが、奴は、永沢はここで行動を起こした。奴は本当は殺し合いに乗っておったのじゃ。今、この場にいるのはディオ一人だけ。それなら自分でも勝てると、そう思ったのか、ディオに襲いかかったのじゃ。当然、あやつも抵抗し、二人で揉めあっている内に...」
「そんな...!」
キウルの顔に悲嘆と同時に懐疑の色が浮かぶ。
永沢が怪しい動きをしていたのは知っていた。けれど、それは自分たちの知る由もない誤解であり、その誤解も解消されたはずだった。
だがそれすらも嘘だったとは俄かには信じがたい。それにディオだって、藤木に間髪入れず向かっていったことから、それなりに近接戦の心得もあるはず。そんな彼が、言っては悪いが永沢程度の子供を殺すことなく制圧できないことがあるだろうか?
そんなキウルにじわじわと浮かび始める疑念を嗅ぎ取ったドロテアは釘を刺すように続ける。
「キウルや。如何に強がっておっても、ディオもまだ幼き子供じゃ。お主のように戦場を経験している訳でもない...向こうの部屋であやつもふさぎ込んでおる。どうか声をかけてやってくれんか」
ドロテアの言葉にキウルはハッとなる。
ディオは自分と違い、戦乱の時代を駆け抜けた武士ではない。無辜の民だ。
経験と鍛錬を積んできた自分とて、戦場に於いて常に正しき思考且つ最適な動きをできるわけではないのに、それをディオに強いるのは間違っている。
ドロテアの言う通り、まずやるべきことは彼の心傷を癒すこと。
キウルは浮かびかけた疑念を懐にしまいこみ、隣の部屋へ向かう。
その背に嘲笑うような視線を向けられていることにも気づかずに。
(さて、次はモクバの番じゃな)
ドロテアはモクバを起こす為に、キウルにやったのと同様、蛇口を捻りバケツに水を貯めていく。
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キウルが扉を開けた時、目に飛び込んできたのは、膝を抱えて蹲るディオの姿だった。
殺されたという永沢の死体はどこにもなく、少々荒れた部屋と床を濡らす赤い血だまりだけが彼の凄惨な姿を想起させる。
「キウル...僕は...僕は...!」
顔を上げたディオを見た途端、抱いていた疑念は全て吹き飛んだ。
彼は泣いていた。震えていた。
至る箇所が傷だらけだった。
返り血すら浴びていた。
それらがディオという少年にとって、どれだけの恐怖だったかは、語る間でもないことをキウルに言外に示していた。
溜まらず溢れそうになる涙を抑えるように、再び顔を膝に埋めるディオに、キウルは慌てて駆けより背中を擦って宥める。
「...知ってるだろ。僕が頭に血が上りやすいこと」
「...はい」
「本当なら僕は永沢に襲われようとも冷静に対処しなければいけなかったんだ。出来たはずなんだ。なのに、彼のメスに斬られた途端、カッとなってしまった...気が付けば、互いに切りつけ合い、彼を...!」
震える声は如何にディオが後悔を抱いているかを端的に表している。
共に力を合わせるべき対象に裏切られ、そう容易く冷静に対処できようか。いや、難しい。
それを責める権利は、その場に居合わせなかったキウルにはありはしない。
「キウル、悪いのは僕だ!だが償う時間をくれないか!彼の死を無駄にしない為にも、この過ちを無かったことにしないためにも!僕は紳士として彼の分まで皆の為に戦わなければいけないんだ!だから、どうか...!」
その先の言葉は紡げない。
嗚咽交じりに咽び泣くディオと向き合い、キウルはディオの心に寄り添おうとする。
「大丈夫です」
何が、とは敢えて言わない。
それは自分に対する戒めでもあるから。
「貴方を護ります。貴方の罪も私が一緒に背負います」
これは決してディオだけの責任ではない。
もしもドロテアの吸血に耐え、自分の意識があれば、永沢とてこんな暴挙に出ることも無かった。
そうすれば、ディオの手が汚れることもなかった。
それに、万が一それでも永沢が裏切り、彼を殺すしかなくとも、既に戦場で数多の命を奪ってきている自分の方が負担は少なく、割り切ることもできただろう。
これは二人を守らなければならない立場にあった自分の責任である、とキウルはそう思っている。
「許してくれるというのか...こんな愚かな僕を!すまない、すまない...!」
いっそ大袈裟なほどに声を張り上げると、ディオは更に涙腺を緩め、キウルに縋りつく。
そんなディオを受け入れるようにキウルは抱き止め、落ち着かせるように彼の涙を発散させる。
(...本当に扱いやすくてイイ奴だよ、お前は)
そんな彼の気遣いなどどうでもいいことのように、ディオは内心で嘲笑う。
そもそもディオとドロテアが永沢殺害を明かしたのは、今後の憂いを断つためである。
下手に殺害を隠蔽すれば、先の永沢の中島殺害のように思わぬ形で暴露した時に不利になるからだ。
参加者間でなくとも、主催である乃亜がそうしないとも言い切れない。
だからこそ敢えて永沢殺害を明かした。
あくまで不慮の事故であると証拠を揃えることで、むしろ誠実さを示し、キウルから信頼を勝ち取ることにしたのだ。
キウルは見た目と違って戦場経験者。極限の状況での咄嗟の反撃にも理解を示してくれるはず。
その予想通り、キウルは今回の件でディオを糾弾することなく、かえって護らなければならないと責任感を抱いた。
全ては脚本通り。
首輪も手に入り、ここからが僕の逆転劇の始まりだと、何処ぞでふんぞり返っている乃亜を睨みつけるのだった。
-
☆
「...ドロテア、お前...!」
水をかけられ起こされ、永沢をディオが殺したという事情を聞き、開けた扉の先の光景を見た後、モクバはキッとドロテアを睨みつけた。
「なんじゃその眼は。妾を疑っておるのか?」
「当たり前だろ...!」
果たして仕掛けたのが本当に永沢なのか、それともディオが嘘を吐いているのかまではわからない。
その二人に対しては人となりを把握しきれるほど関わっていないからだ。
だが、少なくとも、ドロテアが永沢をディオに殺させようと環境を整えたのはわかる。
さらに言えば、二人が同士討ちしてくれれば首輪が二つ手に入って儲けもの、とまでは考えていただろう。
モクバの知るドロテアならば、絶対に己の身を最優先する為、一人で周囲の探索になど行かない。
その確信がドロテアへの懐疑をよりいっそう深める。
「...はあぁぁ」
そんなモクバへとドロテアはわかりやすく深いため息を吐いた。
「お主はよっぽど妾を悪者にしたいようじゃな。そうやって己の罪から目を背けて同じことを繰り返そうというのかの」
此方を蔑む目。
今までの価値観の違いによる『面倒』というものとは違う感情を込められたその目に、モクバは虚を突かれる。
「なに?」
「お主の浅はかな行動のせいで、カツオと永沢は死んだと言っておるのじゃよ」
「...は?」
突然の覚えのない糾弾にモクバの思考が止まり、その隙を見逃さずドロテアは言葉を続ける。
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「あの色黒と喪服との戦いで、お主は二人とも此方に引き入れようとしたな。色黒の方はいい。妾も同意したからの。じゃが喪服の方はどうじゃ?早い段階で奴は危険すぎると解っておったじゃろ。なのに色黒の心を此方に向ける為の時間を、喪服の説得に使い、結果、色黒も喪服もマーダーのまま野放しになった。カツオも恐らくはそのまま殺されておるわ」
「ぅ...」
ドロテアの指摘にモクバは返す言葉も無くなる。
その失態は、モクバ自身も認識していた。
モクバの激情の火が萎んでいくのを見逃さず、更にドロテアは続ける。
「本音を言うとな、妾はカツオにはどこかで殺されてくれればいいと思っておった。ロクに戦力にならぬなら、どこかで首輪になってくれた方がマシじゃと。ところがソレは妾の見当違いじゃった。奴は決して妾たちを裏切らず、どころか正確なタイミングでカードを使いお主の危機を救ってみせた。
奴とて中島の件もあり、妾たちを売ってマーダー側に取り入ろうとすることもできたというのに、そんな素振りはいっさい見られんかった」
『いまにして思えば』と心の中で付け加えさらに続ける。
「カツオは一般人にしては一切の失点なく戦闘に貢献しておった。あの齢と温い環境で足を引くことも裏切ることもないのは賞賛に値する。惜しい逸材を失くしたもんじゃ。...もしも、色黒の説得に成功しておれば、あやつが死ぬ理由などどこにも無かったのにのう」
モクバはなにも言い返せない。
カツオは確かにこれ以上ない働きをしていた。
親友が殺されただけでも相当に堪えただろうに、それでも中島を蘇らせるという甘言に惑うことなく。
それどころか梨花と沙都子の関係に気を遣い続け。
戦場なんて初めてだろうに、怯えながらもしっかりと役割を果たし。
自分とは違い、カツオは何一つ失態を犯していない。
「じゃが死んだ。カツオが生きて同行しておれば、永沢も迂闊に動けず、ディオに襲い掛かることもなかったじゃろう。お主の迂闊な失態があの喪服と色黒を放ち、周囲にも危害を加えさせ、カツオを殺し、そして永沢をも殺した。それでもお主はこの件ではこう言うのじゃろう。『永沢が死んだのはお前のせいだ』と」
ドロテアの言葉がモクバの内腑を抉るように突き刺さってくる。
「お主は妾が永沢を殺させたと考えておるが冷静に考えよ。妾がわざわざこんな回りくどい真似をする必要があるか?奸計を用いるくらいなら、お主が目覚める前にこの手で永沢どころかディオもキウルも殺して首輪を増やすとは思わんのか?お主はどうせ、妾が周囲への斥候などするはずないとでも思っておるようじゃが、そんなことこの短時間で分かるとなぜ言えるんじゃ」
『まあ合っとるんじゃが』と心で思いつつも、それを悟らせない為に反論を挟む余地なく言葉を続ける。
「そして妾に罪を押し付けたお主はこう思うんじゃろうな。『次は失敗しないから』。そして再び喪服のような奴に説得の時間を割き、今度はディオやキウル、そして妾までもを犠牲にする」
「ち、ちが...」
「違わん。よいかモクバ。『次は失敗しない』ではない。もう『次はない』のじゃ。救える者も救えない者もいる。その現実を受け入れよ」
最後までモクバはなにも言い返せなかった。
決してドロテアがここにいる面々のことを思って非難しているのではなく、この状況をダシに彼女が自分に優位を取ろうとしているのはわかっている。
だが、いくら優秀な頭脳を持っていても心が追い付かない。
己の失態で二人の参加者が死んだという事実は、確かにモクバの心を縛る楔となっていた。
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「モクバ、お主は喪服にも結束の力は強いと説いておったな。それは正しい。じゃが、結束とは誰もかれもお手手を繋いで仲良く並ぶことではない。お主の会社で管理しておるカードゲームがあるじゃろ。ソレでも己の好きなカードを無制限に入れられるわけではない。それと同じじゃ」
「......!」
身近なものを例えに引き出されたことで、一層、ドロテアの言葉への理解が進む。
デュエルモンスターズにおいても、戦略上、不要と思ったカードをデッキから外すのは当然だ。
どれだけ思い入れのあるカードがたくさんあっても、環境に適さなければ、或いは規定枚数を越えれば、デュエルの台に立つことすらままならないからだ。
ゲームと人命では話が違うのはわかっているが、理屈の上では同じこと。
必要な駒であれば残せるが、不必要な駒は弾かなければならない。
そこを誤れば、モクバもまた主催を倒すという台に立つ前に振るい下とされてしまう。
「おれ、は...」
目に見えて萎縮していくモクバの肩に手を置き、そっと囁く。
優しい声で、甘やかすように、慰めるように。
「安心せい。まだこの失敗は挽回できる程度のもの。ここから首輪を解析し皆を解放してやれれば、カツオと永沢の死も無意味ではなくなる。
そしていま一度考えるのじゃ。妾たちに期待を寄せている者たちとの結束を護るためにはどうするべきか。みんな、お前に期待しておるからな」
その言葉に、モクバは唇を噛み締める。
ドロテアが自分を良いように使おうとしているのはわかっている。
彼女がグレーテルやブラック、沙都子らマーダー程ではないにせよ、危険な人物であることも。
けれど、いまのモクバには、彼女の『まだ挽回できる』『みんなが期待している』という言葉がどうしても胸にのしかかってしまうのだった。
(はー気持ちがいいわい!)
暗い面持ちで気を鎮めるモクバの一方で、ドロテアの胸中は清々しいほどに晴れ晴れとしていた。
ドロテアにとって永沢は最も不要な存在だった。
中島の一件から、既に多くの参加者から不信を抱かれており。
土壇場の局面では、此方を裏切らず役割を果たしたカツオのような期待もできず、裏切る或いは逃亡するのは目に見えており。
そのくせ頭がキレる者でもなければ、モクバのように技術・知識もないときた。
念のためにディオ共々テストをしたが全て不正解。
聖人君子ではないドロテアは、モクバたちが目を覚ます前に早々に首輪に変えるべき不良債権だと判断した。
首輪が手に入り、ディオという良き理解者が手に入り、そして先の戦いで失態を利用しモクバに優位的な立場を取ることが出来た。
今までの全てに不運が付きまとっていたわけではないが、まだまだ自分の運にも目が傾いていると実感する。
「さて!いつまでもふさぎ込んでいても仕方あるまい!永沢の死に報いる為にも、落ち着いたらこれからの動きを決めるとしようかの!」
パンパンと掌を叩いて音頭を取り、場の空気を入れ替える。
(化け物染みた連中ばかりで少々萎えてしまっておったが、恐らく首輪のサンプルは妾が抜きんでておる。あとは海馬コーポレーションでなにかしらの解析が進めば文句なしじゃ!)
今まではモクバに指揮を譲っていたが、自分とディオ、そしてディオに信頼を寄せるよう仕向けたキウルの三人がいれば、自分のやり方に寄せることができるだろう。
というか、ここまで釘を刺しておいてなお喪服のような連中にまで手を差し伸べようとして失敗を重ねるなら、切り捨て時を考えるべきかもしれない。
(仏の顔もうんとやらじゃ。モクバ、これ以上妾を失望させるような真似はしてくれるなよ?)
やはり善人面をするより、多少は悪というスパイスがあったほうが自由でやりやすい。
内心でほくそ笑みながら、ドロテアは今後の展望に思いを馳せるのだった。
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【永沢君男@ちびまる子ちゃん 死亡】
【G-6/1日目/午前/中央司令部】
※永沢の死体が近辺に埋めてあります。
【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]健康、高揚感、キウルからの吸血でお肌つやつや
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品 ランダム支給品0〜1、セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、城ヶ崎姫子の首輪、永沢君男の首輪
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!
グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、チョッパーの医療セット@ONE PIECE
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:改めてどうするかを決める。ここからが巻き返しなのじゃ!
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は凄腕の魔法使いが着いておるのか……うーむ
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
5:キウルの血ウマっ!
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]精神的疲労(中)、疲労(中)、敏感状態、服は半乾き、怒り、メリュジーヌに恐怖、強い屈辱(極大)、乃亜やメリュジーヌに対する強い殺意
[装備]バシルーラの杖[残り回数4回]@トルネコの大冒険3(キウルの支給品)
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、永沢の支給品。
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:改めてどうするかを決める。巻き返してやるさ、ここからな
1:キウルを利用し上手く立ち回る。
2:先ほどの金髪の痴女やメリュジーヌに警戒。奴らは絶対に許さない。
3:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。
4:海が弱点の参加者でもいるのか?
[備考]
※参戦時期はダニーを殺した後
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【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢が死んだという自責の念(大)
[装備]:青眼の白龍&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
0:改めてどうするかを決める。俺は...
1:東側に向かい、孫悟飯という参加者と接触する。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか?
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
無惨もそれを知っています。
【キウル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]精神的疲労(大)、疲労(大)、敏感状態、服は半乾き、軽い麻痺状態(治療済み)、ルサルカに対する心配(大)、睡眠、貧血気味(行動にはさほど支障のない範囲)
[装備]弓矢@現実(ディオの支給品)
[道具]基本支給品、闇の基本支給品、闇のランダム支給品0〜2、モクバの考察が書かれたメモ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出
1:改めてどうするかを決める。もう失わない。ディオやモクバ、ドロテアら対主催を護る。
2:先ほどの金髪の少女に警戒
3:ネコネさんたち、巻き込まれてないといいけれど...
4:ルサルカさんが心配。
[備考]
※参戦時期は二人の白皇本編終了後
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投下終了です
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少し早めですが、次スレを立てました。
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1705928135/
今後の進行でレスが950を超えた場合は、その次の投下からは次スレの方でお願いします。
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遅れてしまいましたが感想投下します
>A ridiculous farce-お行儀の悪い面も見せてよ-
永沢君、逝ってしまったか……。重箱の隅をつつく事に関しては、口も達者で嫌に頭も回る永沢君ですが、所詮は一般人なのが辛いとこ。
掲げた目的は立派だし、肯定して良い物でもないとはいえ奉仕精神も強いんですが、実力が伴わず呆気なく切り捨てられてしまうのは無常さを覚えますね。
>(...ちくしょう)
ここの切ない感じ好き。
フジキングはマジで支給品ガチャが良すぎるのを実感しました。
ディオ君、今までキウル君と微笑ましいショタコンビって印象もあったんですけど、ここにきていつもの邪悪さが芽生えてきましたね。
まあドロテアが見てる前でひよる訳にもいかないって面もあったんでしょうけど、改めてキウル君が本格的に騙されて利用される描写はなんかショック。
キウル君、気付いたらヤミちゃんの貢ぎ物候補になってるし、ドロテアからはアイテムみたいな認識されてますねこれ。
モクバ君もデカすぎる失態を改めて突き付けられて、言い負かされて優位に立たれてしまってるのが不味い所。
なまじ、ドロテアが正論なのが厄介ですね。ドロテア、伊達に歳は取ってなく、自分にテンポが傾けばレスバが中々お強い。
ドロテアとディオ君が仲良くなってきてるのも酷い。仮にも警察が、ショタに殺人を示唆し、隠ぺいに加担するなと。
カツオの評価が上がったり、ディオとの共犯性も深まったりと人間関係の変化が面白いお話でした。
ドロテアとディオは無惨様に友好的なのに、無惨様はモクバ達が私を迎えに来いよと、スレ違いしてるの。味がある。
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投下します
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「傷は大丈夫か?」
「うん、肩もちゃんと動くし…ちょっと痛むけどさ」
「安静にはしとけよ。さっきよりは、マシになってると思うが……」
場所はモチノキデパート。
奈良シカマルは的場梨沙と龍亞を連れて、長い時間を掛けながら禁止エリアから離れるために港近くの民家から移動していた。
他の参加者、特にマーダーに見つからないよう、慎重に気配を消して、戦闘の気配を感じれば迂回した。
元の目的地は病院だったが、聞こえる轟音などから断念し、第二の目的候補地であるモチノキデパートへとようやく到着する。
デパートだけあって、龍亞の傷の治療に使えそうな道具はある程度拝借できたのは幸いだ。
病院でしっかり医者にでも見せるべきなのだろうが、それでも最低限やれる限りの処置は行えただろう。
「生きた心地…しなかったわね」
「まあな……」
有馬かなを埋葬してから、メリュジーヌが引き返す可能性を考慮し、龍亞の傷の手当ても兼ねて三人の意見は場所の移動へと一致したが。
はっきり言えば、この三人の戦力はこの殺し合いの最低限のラインにすら到達していない。
メリュジーヌはまだしも、支給品の力を借りた藤木茂にすら、若干追い込まれてしまうのが現状。
元よりシカマルは直接戦闘を得意としておらず、使用カードによっては、瞬間最大戦力は龍亞になるかもしれないほど。梨沙は論外。
ここにいる面々には、戦力が不足していた。マーダーに出会えば、例え藤木が相手でも苦戦は必須、龍亞のカードを使って倒せても、その次はない。
とにかく誰とも会わないよう、ゆっくりでも移動して、出来れば強力な対主催と合流したい。
モチノキデパートの様子から、ニアミスはあったようだが良くも悪くも他の参加者と顔を会わせなかったのは僥倖だった。
ただ戦力は依然変わらず、厳しい状況に変わりはないが。
(これから、どうする……?)
シカマルにとってやはり優先すべきは戦力の確保だ。
メリュジーヌとブラックの時も、結局は強さがないから犠牲を出した。
首輪の解析も、この島の中を移動することすら命懸けでは、いつ着手出来るかわかったものじゃない。
ブラックに首輪解析の目途が立てば、協力するように約束を取り付けたが、それまでは奴はマーダーであり、信用も出来るとは言い難い。
それに龍亞にも、殺された山本勝次のことをどう説明するべきか。
(リスクはあるが、海馬コーポレーションまで行くか? 目に付く施設だ。参加者との接触率は上がる。
情報面でも俺らは不利だ。対主催と合流したいとこだが、マーダーと出くわすこともありうる)
他にも、うずまきナルトとの合流を考えて、火影岩や終末の谷に向かうのもありだが。
砂漠の我愛羅と鉢合わせする可能性もある。
ナルトの安全を考えれば、先回りして我愛羅と鉢合わせる前にナルトを抑えておきたい。
下忍だが実力を付け成長しているナルトなら、正面切っての殴り合いなら、シカマルよりは遥かに強い上に、仲間としても安全を確認し同行したいのもある。
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「シカマル、俺ならもう平気だよ。
早く、何処かに行った方が良いんじゃないの? 俺達、誰とも出会えてないよ」
「私もそう思うわ。
……ここでじっとしていても」
二人の言う事は最もだ。
じっとしていても、事態は好転しない。誰かが殺し合いを破綻させてくれるなら、それに越した事はないが。
だからといって、自分から何もしないで気付いた時には全てが手遅れになるのだけは避けたい。
「危険すぎる」
それはこの中で一番頭が冴えたシカマルも良く理解している。しているが、だからこそ誰よりも責任を感じ、全員の安全を優先することも考えている。
もう、かなや勝次のような犠牲者を出す訳にはいかない。
うちはサスケの奪還から、ここに来て計三回もシカマルはしくじっている。これ以上、自分の判断ミスで誰も犠牲にしたくない。
「危険って、アンタ……!」
消極的なシカマルに、梨沙は声を荒げた。
「状況分かってる訳!? もう30人位死んでるのよ! 私達だって、ここでボーとしててもいつ襲われるか分からないのよ!
早く、何とかしないと……」
「……俺達がマーダーに会えば、もう手の打ちようがねえんだよ」
「それは、だけど……」
「乃亜の野郎はゲームバランスをまるで考えてねえ。
マーダーのレベルが高すぎる。何か、最低限の自衛手段がないと───」
「なんだ、まだこんなとこに居たのか」
背筋が凍った。
龍亞はポカンとして、梨沙も同じように唖然とする。だが、シカマルにとってその声は忌々しさすら覚える。
「そう離れてないとは思ったが、こんな場所でまだ道草食ってたとはな」
飄々とした態度で、音も気配もなく、青いコートをはためかせて。
馴れ馴れしく不遜で。シカマルに気安く語り掛けてくる。
「なんで……」
どうしてこのタイミングで、お前が来る。
「……ブラック」
約束の24時間にはまだ程遠い。
それに、何故灰原が居ない?
「アンタ、哀は……」
シカマルより先に梨沙が口を開いた。
「死んだよ」
「ッ……」
「!」
考えていなかった訳ではない。シカマルにしてみれば、ブラックが灰原を生かす理由もない。
灰原当人も生きているのは、ブラックの気紛れだと言っていたぐらいだ。
マルフォイの処遇を巡って、ブラックが殺したことだってありえる。
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「さて、シカマル弁護士(せんせい)のお手並み拝見といこうか」
「ど、どういう意味よ。ちょっと」
「俺がどれだけ殺そうと、そっちの大先生は弁護してくれる。そういう契約だよ」
「はあ!?」
ブラックを仲間にする算段なのは、梨沙もシカマルから聞いていたが。
何人殺そうとシカマルがフォローするなんてことは初耳だ。
「シカマル、この人と何が……」
龍亞に限っては、そもそも仲間にすることすら聞いていない。
「……安心しろ。アイをやったのは俺じゃない。金髪のガキ、マルフォイとかいうのもな」
三人を一瞥して、小さく笑いながらブラックは話す。
「ただ、この様子じゃ…お前───俺が勝次を殺したこと、話してないだろ?」
口元は吊り上げていたが、目は笑っていない。
退屈そうに、期待外れだと言わんばかりに虚ろな瞳でシカマルを見つめている。
「勝次は…メリュジーヌに……」
シカマルが語った事と、ブラックの自白がかけ離れている。
龍亞は自分が嘘を吐かれたことに驚嘆していた。
しかも、見れば梨沙はそれには然程驚いていない。つまり、二人はその秘密を共有していた可能性が高い。
「なんで、隠して…どうなってるんだよ! シカマル!!」
「違う。落ち着いて聞いてくれ。
こいつは……」
最悪だった。
シカマルの当初のプランでは、ブラックを対主催に引き入れたうえで龍亞を説得する。
対主催転向後であれば、ブラックも龍亞を殺害に踏み切る可能性は低いだろう。そうリスクを軽減しての考えだ。
「ちゃんと話すつもりだったんだ。だけど……」
いくら何でも、どうしてブラックがこんな早くに戻ってくる?
考えていた計画が全て崩れた。
「どうして、勝次が死ななきゃいけなかったんだよ!!」
勝次を守れなかった自分への怒りと、なんでそれを見殺しにしてしまったのかというシカマルと、人を殺めながら軽快に笑っているブラックへの問いだった。
「腕の見せ所だな。シカマル、俺を無罪放免にしてくれよ」
「なんで、人を殺してそんなこと平気で言えるんだよ!!
あいつが何か悪いことしたのかよ!」
「待て、龍亞!」
「そんな奴、どうして庇うんだ!?」
ブラックはまだ対主催ではない。
怒りの矛先を向けた龍亞に寛大な処置などするはずがない。
「アイから頼まれたんだ。シカマル、お前を助けてやれってな?」
ブラックは意地悪く笑みを作ってシカマルを見る。
灰原とどんなやり取りをしたか分からないが、所詮はブラックの受け取り方次第だ。
「首輪の解析も捗ってないようだし。一個サンプルを増やしといてやろうか」
「待ってくれ、ブラック…まだこいつは……」
「待つ? お前さ」
───この数時間、何やってたんだ?
放たれたのは、失望が込められた声。
そうだ。何も解析に踏み切ることはできなくとも、もっと情報を集めるなり、三人でしっかり情報を共有するなりはできた。
それなのに、犠牲者を増やすのを恐れて、シカマルは何も動けなかった。
刻一刻とゲームオーバーが迫る中で、貴重な時間を無駄に費やした。
「くっ……!」
龍亞がカードを握る。
完全にブラックとは決裂し、そして殺されるだろう。そこまで予見しシカマルは身を乗り出してブラックを遮るように飛び出す。
一触即発、いつ誰が死んでもおかしくはない。
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「全部、悪いのアンタじゃない!!」
梨沙の声がデパート内に響き渡る。
「?」
その瞬間、ブラックの顔面に何かが飛び込んできた。
巨大なカニパンのような頭に、肥満体系の少年の体をくっつけた奇怪な生き物の人形だった。
ハンディ・ハンディ様人形、第三弾。
何でも売っているモチノキ・デパートにハンディ様のグッズが並んでいたのは必然だったのだろう。
大量のハンディ様人形を抱えた梨沙が、それらを野球のピッチャーのようにブラックへと投げつけている。
「勝次殺して、何エラソーにしてるわけ?」
ポコポコとブラックにハンディ様人形が打ち付けられていく。
「ほんっとうにサイテーね! 乃亜に逆らうの怖くて、弱い者いじめしか出来ない癖に!
アンタなんか、藤木かそれ以下のクズよ!!」
あいつ、何やってんだ!?
梨沙、ヤバいって!
シカマルと龍亞は冷え上がるように背筋が凍る。
「そもそも何? 回りくどい喋り方して、カッコいいと思ってやってるのそれ?
チョーダサいわよ!! この卑怯者!!」
「……」
何も言わず、ブラックは梨沙を眺めている。
言い過ぎた……私、死んだかも。
見た目だけでは何を考えているか分からなくて。これだけ言われて、何も言い返してこないのが本当に怖い。
梨沙とて、こんなこと言って相手を刺激するべきではない。そんなことは分かる。
でも、シカマルと龍亞が言い争って、ブラックが高みの見物を決め込んで悟ったような顔をするのは腹が立った。
全部悪いのは、こいつのせいなのに。
どうせ、落ち着けと言っても、きっとシカマルと龍亞の耳に入らないのは目に見えてる。それなら、自分が言ってやる。
「な、何見てるのよ! このヘンタイ!!」
怖い。今にも震えてしまいそうだ。
きっと、殺されてしまうかもしれないけど。
最後まで睨み付けてやる。
(ママ、パパ───)
梨沙は覚悟を決めて、逆にガンを飛ばす。
目力だけなら自分だって負ける気はしない。
「梨沙に手を出すな」
梨沙の視界を龍亞の背中が遮る。
「首輪にするなら、俺だろ」
「別に。俺はどっちでも良いんだけどな。
ま、俺に文句あるなら何でも聞いてやるよ。どうする?」
「……ないよ」
拳を作って、思い切り握り込む。
龍亞は瞳を潤せながら、そう言い切った。
「俺は梨沙と……シカマルを信じる」
怒りはある。付き合いは短いが勝次は良い奴だった。
こんな、ふざけた男に殺されて許せるわけがない。
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『ただ、お前のデュエルは自分勝手すぎる』
梨沙がブラックに怒声を飛ばしてくれたことで、龍亞は冷静さを取り戻していた。
ここで怒りに任せて、あのブラックに挑むこと。
それは遊星にかつて咎められた、身勝手なデュエルと同じだ。
梨沙やシカマルを危険に晒してしまう。
それに、シカマルがブラックを味方に引き入れようとするのも、交渉の末の為なんじゃないか?
殺人の弁護だって、好きでやっているはずがない。
あの時は頭に血が上ってしまったが、勝次の死を偽ったのもブラックの危険さを知っていて、迂闊な真似が出来なかったからじゃないのか。
『俺がどう反撃するか読まず、独りよがりのデュエルをやっているようでは、キングへの道は遠いな』
あの時の遊星とのデュエルと同じだ。自分の使いたいカードだけを場に出し、満足するな。
盤面をしっかり見ろ。状況を見極めろ。
自分の事だけじゃなく、味方や相手の事も読むんだ。
シカマルは頭が良い、それに信用だってできる筈だ。本当に自分を裏切るような奴なら、メリュジーヌとの戦いで一緒に戦うなんて、そんなことしない。
一人でなら、シカマルならいくらでも逃げ出せたはずなんだ。
むしろ、シカマルともしかしたら死んだ勝次が説得を重ねて、ようやく掴んだ光明がこのブラックなんじゃないのか?
肩の傷だって、シカマルはしっかり手当してくれた。自分一人が生き延びるだけなら、龍亞も梨沙も見捨てれば良いのに。
そうだ。目に写る事だけに惑わされるな。
「シカマルと梨沙がアンタと協力するなら……」
一度ブラックに食って掛かってしまった。だから、ここで殺されるかもしれない。
でも、自分がここで殺されても、その後にシカマル達が首輪の解析をしてブラックを味方に付ければ。
シカマル達が乃亜をきっと倒してくれる。
「俺がここで死んでも、希望は繋がるんだ!」
俺はもう傍観者なんかじゃないんだ!!
絶望の番人を前にして大事な仲間と、最悪の妹を命に代えても守り抜いた。
ここでも同じだ。一寸の希望であろうと、集いし願いが光差す道となることを龍亞は知っていた。
「後ろのマセガキの為に命張るのか? お前のコレでもないだろ」
「梨沙は一緒に戦った仲間だ。
それに、乃亜がこの殺し合いを成功させたら、今度は俺の妹だって巻き込まれるかもしれない」
例えこの島に居なくとも、乃亜にとって龍亞の双子の妹の龍可を、参加者の候補としているのは想像に難くない。
この殺し合いが一度で済むとも思えない。
「龍可を守る為なら、俺は命だって懸ける!!」
「……ここはシスコンしかいねえのか?」
心底呆れた口調で。
(あれ、目の色……)
龍亞にはブラックの感情を現すように。
羨望するような、一瞬だけ瞳の色が変わったように見えた。
梨沙もシカマルも気付いた様子はない。
「……ブラック、そいつらに手を出したら。お前との契約はここまでだ」
「へえ? いいのか。俺を仲間にしたいのは、お前の方だろ」
「調子に乗るんじゃねえぞ」
先程と打って変わった強気な物言いに、ブラックも笑みを崩し些か驚嘆する。
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「何なら、ここで俺らを皆殺しにでもして次に行きゃいい。だがな、困るのはお前だぜ?」
あの時は、勝次を殺された時は情報が不足していた。ブラックの次の一手を読み切るのが困難だった。
「お前のマーダーってスタンスを尊重したうえで、弁護までしてやる心の広い対主催が他に居りゃあ良いな?」
だが今は違う。奴は人格破綻者だ。人を殺す事を何とも思わない冷酷な殺人者だ。
しかし、奴にも優先順位はある。譲れない最優先事項が存在する。
『俺も、まだ見たいモンがあるからな。生きて帰らなくちゃいけないが、方法は何でもいい』
『───見てェものって、何だよ?』
『世界の終わり、かな?』
結果として勝次の死に繋がってしまった墓穴を掘る掛け合いではあったが、それは間違いなくブラックの根底にある目的だ。
その目的の為に、ブラックの行動は収束している。
「どれだけ本気で守ってたか知らねえが、お前は灰原を死なせた。これはお前も絶対無敵の存在でも何でもないって事の証明だ。
この島には、てめえを出し抜けるほど、強い奴が居るって事のな。
俺らは別に良いんだぜ? 強くて、もっと物分かりの良い別の奴と組めるならお前じゃなくても」
所詮殺人など、そこに至るまでの必要過程か暇潰しでしかない。
そう奴は、飄々としているようでその実、筋は一貫している。
「断言しても良い。マーダーをやって乃亜に尻尾振りながら、都合がよくなりゃ俺ら側に回って飼い主の手を噛もうなんて蝙蝠。
許してやるのは俺らだけだ。別の対主催なら、確実に爪弾きだよ。土壇場でまた乃亜に尻尾振るような奴を、どうしたって信じられる?」
結局のところ、この殺し合いに従うのは乃亜の言い分を信じることだ。こちらに何の承諾も得ず拉致し殺し合いを強要し、安全地帯で煽り散らす癪に晒す神様気取りの子供をだ。
ブラックも頭から信じてる訳ではないだろう。
だからこそ、シカマル達に可能性を感じれば協力してやると契約を結んだ。
逆に言えば、保険を掛けた。ブラックも選べるのであれば、乃亜の打倒の方を選びたい。
当然だ。他人の甘言より、自分の行動で願いを叶える方がずっと信じられる。
「この恵まれた立場を自分からおじゃんにする程度の馬鹿なら、むしろこっちから願い下げだ。
その上で、もう一度良く考えろよ」
ここまで言っていて、自分でも眩暈を覚えそうになった。
本当にブラックがこっちを切り捨てるかもしれない。そうなれば、太刀打ちなど出来ない。
だが、守りに入れば奴はこちらを平気で削る事を厭わない。
それなら、いっそ攻めに入る。
攻撃は最大の防御とは誰が言ったか。今だけは、そいつの言ったことを信じて、ブラックにジャブを利かせる。
笑って自分の命をレイズする。
奴好みのやり方だ。
だが、恐らく効果は高い。
これは懇願ではなく、交渉であり取引なのだ。ブラックは客ではない。いくら強かろうが、乃亜に枷を嵌められた参加者だ。
同じゲームプレイヤーである以上、原則として対等でなければならない。
懇願では、ブラックの気紛れに振り回される。だから、対等な取引として奴にメリットとデメリットを叩きつけてやる。
「それに、灰原が俺を助けろだって? いやあいつなら、奈良君”達”を助けろ。そう言うね。
達には、梨沙も龍亞も含まれてなきゃおかしいんだよ」
あとは、あの頭脳明晰な灰原哀を信頼して、最後の駄目押しだ。
頼むからこれで納得しろ。
顔に張り付けた大胆不敵な笑顔の下で、全身を強張らせているのを悟られぬよう口調を強く、余裕を含ませるよう演出する。
その仮面の下で、神様仏様、閻魔大王でも何でもいいからこの祈りが届いてくれと、今までに無いくらいに祈りを捧げる。
もし、木の葉隠れの里に生きて帰れたら、きっとシカマルは真っ先に神社に賽銭を投げ込みに向かうことだろう。
「……マーダーやってるのも、割と苦肉の策でさ。詐欺と分かっても、吊るされた餌に乗るしかない」
シカマルは印を組めるように身構える。龍亞もカードを握り、どんな動きも見逃さないように注視する。
それがかの13王の一人、絶望王に対しどれだけの意味を持つか。力量の差が分かっていない訳ではないが。
やれる限りの抵抗を諦めないのは、相応に修羅場を潜ってきた経験からだろう。
-
「そうだな……乃亜を殺す算段が付いて、ハブられるのも困るよな。
けど、あいつからご褒美を貰うのも、やぶさかじゃない」
どういう意味だ?
シカマルは焦慮に駆られていく。
ブラックの言い方から、その望みである世界の終わりは自分でも引き起こせるものであると判断していた。それだけの力は、多分あるのだろうと。
だが、まさか、乃亜に頼らねばならないような望みだというのか。
読み違えた?
やはり妙だ。勝次を殺した時、ブラックは生きて帰れればどちらでも良いと言っていた。
飄々とした破綻者だが、頭が狂った馬鹿ではない。今にしてみれば、むしろ、目的には合理性を持って動く男に見えたが。
勝次の殺害もシカマルを試したのであれば、理由はある。本当にマーダーを抱え込む度量があるかどうか、奴の視点からすれば試したくなるのも不思議はない。
そんな奴がここに来て、乃亜の優勝特典に目が眩むだろうか?
人間の尺度で、ブラックを測るのが誤りか?
いや、そもそも……奴の思考に一貫性などないのか?
「ま、俺に人望がないのは、よく分かったよ。顔を見せただけでこのバカ騒ぎだ。
他の連中と揉めるのも、手間だしな。ああ、今はお前の言い分に従ってやる。アイの願いもお前のいう通りだ」
「……」
外見とのギャップが大きい北条沙都子とは別の意味で読みづらい。
まるで、別の思考が交えているような、そんな錯覚を覚える。
(多重人格…てなわけじゃないよな……)
ありえなくはない。それが医学的な物かは別としてだが。
人柱力という存在をシカマルは知っている。
尾獣と呼ばれる怪物を封印された人間達で、砂漠の我愛羅もそれに値する。
思えば、我愛羅も精神的に不安定だった。
体内に別の人格があれば、通常のそれより精神に掛かる負担も大きくなるのだろう。
(思えば、ブラック何て名前は名簿にない。単なる偽名か渾名かと思っていたが、別人格ごとに名前が振られていたってコトか?)
「そう睨むなって。
お前の言う通り、俺も不自由してるんだ。暫くは、大人しくしといてやる」
(こっちはその”暫く”ってのが、一秒後か一時間後かも判断できねえんだよ)
別の人格があったとして、それが急に方針を百八十度変える事も否定しきれない。
想像以上に、とんだ爆弾を抱え込んだのかもしれない。
「10分待ってやるから、何処行くか決めとけ。
決められないなら、俺は昼飯を食いに行く」
両手を上げて、何も持ってない事をアピールするように手をひらひらと降る。
「俺の荷物は、全部パクられたんでな。飯も食えやしない」
長距離の瞬間移動が使えず、何度も短距離の瞬間移動を乱用したせいか、腹が減っていた。
モルツォグァッツァ。
絶望王のお友達、フェムトが好きなレストランだったが、乃亜の配った質素な飯よりは美味いものが食えるだろう。
調理済みが置いてあるか分からないが。
どうせなら、ちょっと覗いてみたいところだ。
ブラックは背を向けて適当にデパート内をうろつきだした。
───
-
「梨沙」
シカマルが名前を呼ぶ。
「分かってるわよ……その勝手なことして……」
命を捨てるような無謀な真似をしたのは分かっていた。
シカマルが龍亞に真相を話さず、伏せようとした気持ちも身をもって分かった。
「やり方は褒められねえが……ありがとな」
「……は?」
憑物が落ちたように、シカマルは安堵した顔を浮かべる。
てっきり、何かしら叱られると思ってた梨沙にとっては逆に気味悪く思えた。
「ブラックは俺に失望していた。
お前が、あいつに怒鳴ってくれなかったら……正直、どう転ぶか分からなかった。
俺もパニくってたしな」
任務の失敗から、殺し合いに巻き込まれて、何人も死なせてきて。
背負いすぎたのだろうと、自分でも思う。
龍亞の身を案じていたが、結果として全員の身を危険に晒したのはシカマルだったのかもしれない。
「ま、まあ……分かれば良いのよ」
「……龍亞、お前にも迷惑かけた」
「良いよ……」
「あ、ああ……」
ポコッ
ポコッ
龍亞とシカマルの顔面にハンディ様が投げ込まれる。
「シカマル、アンタそこは素直にごめんなさいって言うとこよ!」
「お、おう……ご…ごめ……n」
「龍亞、アンタもいつまでも不貞腐れない!」
俺が謝るの遮ってんじゃねーか。
心の中で突っ込みながら、言えばこれ以上ないほどに面倒くさくなりそうなので、決して口にはしない。
「……不貞腐れてなんか」
「口答えしない!」
「は、はい……!」
「アンタ達が喧嘩したら、乃亜の思うつぼじゃない!
冷静さを欠いたら負けって……シカマルが言ったんだから、忘れないでよ」
そういや、そんなことを言ったかとシカマルは苦笑した。
あの時は梨沙がパニックになって、シカマルが落ち着かせるのに苦労したが、数時間で立場が逆転してしまった。
「……お前が居てくれて、助かる」
「何? 文句あるのシカマル」
呆れながら、シカマルは溜息を吐く。まあ聞こえてないなら、それならそれで構わないが。
「女の小言は母ちゃんだけで、十分だと思ったんだけどよ。
まあ、なんか……悪くないかもなっていっただけだ」
「……小言? 誰がが小言ばっかなのよ!」
「何か分かるな。梨沙って、服装がヒョウ柄だし、五月蠅いおばちゃんみたいじゃん」
「おばちゃん!?」
「げっ……」
こいつ、余計なことを……。
怒り狂って胸倉掴まれた龍亞は涙目になっていた。
完全にいじめっ子といじめられっ子だ。
掠れそうな声で、何度も「ごめんなさい」と繰り返している。
「もういいや……めんどくせー」
庇って梨沙の矛先がこっちに向くのも怠い。
一通り怒って落ち着かせてから、改めて何処に行くか話し合うとする。
-
【E-3民家/1日目/午前】
【奈良シカマル@NARUTO-少年編-】
[状態]健康、疲労(大)
[装備]シャベル@現地調達
[道具]基本支給品、アスマの煙草、ランダム支給品1〜2、勝次の基本支給品とランダム支給品1〜3
首輪×6(割戦隊、勝次、かな)
[思考・状況]基本方針:殺し合いから脱出する。
0:何処へ向かうか、ブラックを戦力に数えていいなら大きく移動できそうだが。
1:殺し合いから脱出するための策を練る。そのために対主催と協力する。
2:梨沙については…面倒臭ぇが、見捨てるわけにもいかねーよな。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒
4:……夢がテキトーに忍者やること。だけど中忍になっちまった…なんて、下らな過ぎて言えねえ。
5:我愛羅は警戒。ナルトは探して合流する。せめて、頼むから影分身は覚えててくれ……。
6:モクバを探し、話を聞き出したい。
7:ブラックは人柱力みてえなもんか? もし別人格があれば、そっちも警戒する。
[備考]
原作26巻、任務失敗報告直後より参戦です。
【的場梨沙@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]健康、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)
[装備]シャベル@現地調達
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:シカマルについていく
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
4:桃華を探す。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。
【龍亞@遊戯王5D's】
[状態]疲労(大)、右肩に切り傷と銃傷(シカマルの処置済み)、殺人へのショック(極大)
[装備]パワー・ツール・ドラゴン&スターダスト・ドラゴン&フォーミュラ・シンクロン(日中まで使用不可)
シューティング・スター・ドラゴン&シンクロ・ヘイロー(2日目黎明まで使用不可)@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、DMカード3枚@遊戯王、ランダム支給品0〜1、割戦隊の首輪×2
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
1:首輪を外せる参加者も探す。
2:沙都子とメリュジーヌを警戒
3:モクバを探す。羽蛾は信用できなさそう。
4:龍可がいなくて良かった……。
5:ブラックの事は許せないが、自分の勝手でこれ以上引っ掻き回さない。
[備考]
少なくともアーククレイドルでアポリアを撃破して以降からの参戦です。
彼岸島、当時のかな目線の【推しの子】世界について、大まかに把握しました。
【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、空腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:暫くはシカマル達に付き合ってやるかね。アイの約束もあるしな。しかし、腹減ったな……。
1:気ままに殺す。
2:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
3:シカマル達が、結果を出せば───、
4:江戸川コナンは出会うまで生き伸びてたら、な。
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。
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投下終了します
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すみません、期限までに間に合いそうにない為一旦破棄します
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クロエ・フォン・アインツベルン、グレーテル、おじゃる丸、水銀燈
再予約します
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投下します
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ここで別れましょう。
人形は、雅な平安貴族のお子様にそう告げた。
貴族のお子様は瞼に涙を一杯に溜めて、いやいやと首を横に振った。
一人にしないでたも。マロも連れて行って銀ちゃん。そう懇願する。
だが、人形にとっても状況は逼迫していた。
何しろ敵は二人。
戦力外のお子様を守りながら戦う余裕はとてもない。
このままでは二人纏めて共倒れになる状況下で、お荷物を連れている余裕は無かった。
人形には、やらなければならない事があるのだから。
―――死が二人を別つまで?
―――いいえ 死んでも一緒だわ。
肉体的には壊れかけの、精神的には既に壊れてしまっている自分の媒介(ミーディアム)。
彼女を攫った欲しがりの末妹が、この地にいるという。
では、自分の媒介は今どうしているのか?
末妹が傍にいるときは、彼女が面倒を見ていたはずだ。
だから生命の維持という一点に限れば、人形はそこまで心配していなかった。
だが、その末妹がここにいるというという事は、つまり。
今、媒介(めぐ)は一人きりという事か?
病院で治療を受けていなければ、命の維持すら危うい体で?
────私はね、ニケ程甘くないの。
作り出した黒翼をひた、と。お子様の首筋に添えて。
異を唱えるなら、ここで殺す。
口にすることなく、人形はお子様にその決定を突き付けた。
シャンバラの長距離移動はさっき使ってしまったばかりだ。
短距離移動を連続使用し距離をとることに成功したものの、このままでは追い付かれる。
残された時間はもう一分もないだろう。
だからこれ以上、駄々ばかりの甘ったれに付き合っている暇はない。
───この曲がり角でさよならよ。着いてきたら殺すわ。
そう言っても、お子様は動かない。
いやだいやだと、駄々をこねて。
だから人形は、容赦なく黒翼をお子様に見舞い、追い立てた。
本当は、お子様のことを僅かに哀れに思う気持ちも僅かにあったけれど。
それでも共倒れするよりは余程マシな選択肢だろう。
頭の中でそう反芻して、自己を納得させた。
勇者がいた頃とは違うのだ。何もかも。
お子様は足が遅い。狙うとしたら、彼だろう。
対する自分は飛べる。シャンバラと組み合わせれば、逃げ切れる勝算は十分だ。
もし、追跡者二人ともが自分を追ってきたとしてもそれは変わらない。
その間にお子様が何処かの誰かに保護されれば、上手くいけば二人とも助かる。
だから恨みっこなしよ。口にしないまま、胸の中で言い聞かせるように呟いた。
───こんな所で……ジャンクになるわけにはいかないのよ、私は。
薔薇乙女。生み出された時からたった七人の姉妹と争う事を宿命づけられた人形。
血の通わぬ実の姉妹を相手に何度も戦い、傷つけあった。
全ては父に愛されるために。完璧な少女(アリス)となるために。
自分たちは、絶望するために生まれてきたのだ。
やがて永い時間をかけて、人形が行き着いたのは、そんな考えだった。
かつて姉妹が共にあった時間を遠い過去と打ち棄て。
壊しあい(アリスゲーム)における最も積極的な“マーダー”として人形は行動し続けた。
現在の、媒介(めぐ)に出会うまでは。そして、出会ってからは。
自分と同じ壊れた子(ジャンク)を、何故か放っておけず。こうして駆けずり回っている。
不思議なものだと、人形は独り言ちる。
-
───あんなに、アリスを目指していたのに。
───あんなに、お父様に愛されることを求めていたのに。
この殺し合いに招かれてからずっと。
思い浮かぶのは、媒介の顔だった。
まさか、自分の中でお父様よりも媒介の方が大きい存在になっているとでも言うのか?
馬鹿らしい。そんなの、手段と目的が逆転しているじゃないか。
あんな壊れた子(ジャンク)を、お父様よりも───
「何て、ね………」
どこか哀切を帯びた表情で、浮かんだ考えを一蹴する。
第一今は感傷に浸っている場合ではない。
生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから。
思考を切り替えて、翼を広げる。
大丈夫、あのお子様を囮に飛んで逃げれば、きっと逃げ切れる。
一対一なら戦ってもよかったが、媒介もいない以上無駄なリスクを負うべきではない。
そう考えて、人形は黒翼をばさりと羽ばたかせた。
空中でシャンバラを使用すれば、人形がそこにいた痕跡は消えてなくなる。
それを狙い、シャンバラを掲げて使用しようとしたところで。
地上ではお子様がよたよたと民家に隠れようとしているのが見えた。
……人形が付けた傷から流れた血痕にも気づかずに。
───ジャンクなんて、誰もいないのだわ。
その姿を見て、何故かどこまでも反りの合わない五番目の妹の言葉を想起した。
彼女なら、この状況においてもお子様を見捨てないのだろうか。
例え二対一の絶望的な状況下で、それでも美しく咲き誇るのだろうか。
雑念めいた思考が、胸中を漂う。
「バッカみたい」
それでジャンクにされては元も子もない。
あのお子様は自分の媒介とは違う。命を懸ける理由はどこにもない。
だから、これでいい。これが正解。
殿を務めた勇者の姿を見てから、過剰に感傷的になっている。良くない兆候だ。
いつもの自分に戻るために。冷酷な逆十字を背負わされた最凶の薔薇乙女に戻るために。
一抹の躊躇を切り捨て、人形は帝具を使用した。
全身が、帝具が発した光に包まれる。
────っ!?
その刹那の事だった。
「隙あり、よ」
ついさっきまで人形を追いかけていた二人組の片割れ。
褐色の少女が突如隣に現れ、その手の姉妹剣を振り下ろしていた。
人形の漆黒の羽が、青いキャンパスに垂らした墨のように広がった。
◆ ◆ ◆
逃げ込んだコンビニの物置で、こぶたのしないをぎゅっと握りしめて。
坂ノ上おじゃる丸は考え付く限りの神や仏に祈っていた。
銀ちゃんは本当に自分を置いて行ってしまった。ニケもここにはいない。
つまりそれは、頼れる者は誰もいないということを意味する。
たった一人取り残されたおじゃるにとって、今の状況は心細さと不安、それに恐怖でおかしくなりそうだった。
-
(カジュマァ…田ボ…父上…母上…パパ上…愛ちゃん……月光町のみな………
この際小鬼めらでも構わぬ……シャクも三日くらいなら返してもよいから………)
だから、マロを助けて。
水銀燈に付けられた傷がじくじくと痛む中で、必死に体を縮ませて。
父や母、友誼を交わした者たちに助けを乞う。
この恐怖から生きて帰ることができたら、もっといい子になるから。
ここから生きて帰れるのであれば閻魔大王に、尺を数日返したっていいから。
だから、どうかこんな怖い場所から、今すぐ自分を帰してください。
今のおじゃる丸の胸にある思いはただそれだけだった。
ぎゅう、とお守りのように抱いたこぶたのしないを握りしめて、一心に祈る。
「Midnight with the stars and you───(真夜中に星々と君と)」
しかし、祈りだけで救われる程、この島は優しくなかった。
ヴィィン、と扉が開く機械音がして。
コツコツと白いタイルを靴が叩く音が響く。
息を潜めた静寂を破るのは、悪徳の街においても天使と称される歌声だった。
(き、来たでおじゃる………どうして来るのかの………)
おじゃる丸に追跡を撒けるような技術はない。
元より鬼ごっこやかくれんぼは足の遅い彼は苦手だ。
その上で、血痕という目印があれば、逃げ延びる事は不可能だった。
それ狙って、同行者である水銀燈は、攻撃を行ったのだから。
羊飼いが、餓えた肉食獣の前に羊を差し出して見逃してもらうように。
「Saying I surrender all my love to you───(すべての愛を私にささげると)」
おじゃる丸の緊張と恐怖を他所に、侵入者は楽し気に詩を口ずさむ。
この時狭いコンビニの中は、彼女専用のステージになっていた。
生憎歌を聴く観客は一人だけだけれど、それでもどこまでも無邪気に、旋律を刻む。
(奇麗でおじゃる………)
胸に抱いた奇麗という言葉は侵入者の容姿か、それとも美声に向けられた言葉だったか。
おじゃる丸には我のことながら分からなかった。
それほどまでに、物置の扉の隙間から覗き見た侵入者の容姿と声は美しかったのだ。
朝日に照らされる中、黒の喪服と長い銀の髪を優雅に揺らして。
くるくるとステップを踏み、歌を口ずさみながら店内を物色する様は、息を飲む程だった。
もしこんな島でなく月光町で出会ったなら、きっとお近づきになりたいと思っただろう。
ただ、少女の身に纏う喪服に染み込んだ返り血と、鉄錆の匂いが。
幼いおじゃるの本能に、目の前の少女は危険な存在だと訴えてくる。
「Midnight brought us sweet romance───(真夜中は甘いロマンスのひとときと)」
地獄の聖母の様な少女を前に。
おじゃる丸は彼女が一刻も早くこの場を去ることを祈っていた。
お願い、見つけないで。早くどこかに行って。
血痕を補足されている以上虚しさしか残らない願いを、しかし天に届くと信じ。
雅なお子様は、食い入るように少女を見つめる。
(…………ひっ)
-
そうしている内に。
陳列棚のあるフロアを一通り検めた少女の視線が、トイレと物置に向かう。
それを受けたおじゃるは慌てて隙間が空いているのに気づかれないように、扉を閉めた。
それがいけなかった。
少女の歌声と足音以外は無音でなければならない店内に、微かにだがはっきりと。
キィ……という音が響いたのだから。
(な、何故音を立ててしまうのでおじゃる〜〜〜!!!!)
バクバクと心臓がうるさい程に早鐘を打つ。
おじゃる丸は自分の犯した失態に泣きたい気分だった。というより泣いていた。
口を押えて最後の悪あがきとでもいう様に息を潜める。
股座が湿り熱を持って気持ち悪かった。
ぶるぶると身を震わせて、時が過ぎるのを待つ。
やがて耳に響いていたコツコツという靴音が、すぐ近くで止まった。
目を閉じていても、扉一枚を挟んだ向こう側に死神がいるのだと分かってしまう。
助けてカズマ。助けて田ボ。助けて父上。助けて母上。助けてパパ上。助けて愛ちゃん…
目を閉じて、胸の中で祈る語気をより強く。
(………………)
天に祈りを捧げてから、十秒…二十秒……三十秒………一分。
隠れ潜む物置の扉が開けられる事はなかった。
引きずり出されて、殺されてしまうなんて事は起こらなかった。
(い、行ったのかの………?)
足音も、歌声も聞こえない。
静寂だけがおじゃるの小さな体を包み、平穏な時間が続く。
もしかして、やりすごせたのでは?
頭の中に沸いた都合の良い考えに、おじゃるは逆らうことができず。
ぐっしょりと緊張の汗で汗だくの顔を上げ、瞼を開き。
物置の扉に窓のように据え付けられたガラス部分を仰ぎ見る。
すると、そこには。
「おっ!?おじゃぁああぁああ〜〜〜〜!?!?!?」
天使のように美しい、悪魔の笑みがそこにあった。
銀髪の少女は無言で、楽し気に。
必死に祈りを捧げるおじゃるの姿を見下ろしていたのだ。ずっと。
…少し考えればわかる話ではあった。
歌声はともかく、足音が響いていないのに少女が何処かに行ったなど、あり得ぬ話だと。
「た…助けてたも。雅でかわゆいマロを殺すなど………できぬはずでおじゃ………」
おじゃるの言葉に、少女は答えなかった。
ただ一度頷いて、こつこつと何処かに歩いていく。
物置の扉に鍵のようなものはない。殺そうと思えばいつでも殺せる。
なのに、何で押し入ったり、引きずり出して自分を殺さない?
呆然とするおじゃる丸の耳に、また歌声が響いてきた。
その歌声に誘われるように身を起こし、また扉を少しだけ開いて。
その隙間から、喪服の少女の様子をもう一度検める。
「I know, for my whole life through──(生まれてからずっと知っていた)」
少女が歌い出したことによって。
再び店内は、彼女という歌手の独占ステージに代わる。
朝日に照らされながら歌声を綴る喪服の少女の姿は。
一枚の宗教画の用に非日常的で、美しかった。
死の美というものが、おじゃる丸の視界に広がっていた。
-
「───殺すわ。私と兄さまが生きるために…永遠に輪廻(リング)を回すために。
殺している限り、私たちの存在は終わらない。Never Die だもの」
扉を開く気配を察したのか。
歌を中断し、くるりと喪服に包まれた体をターンさせて。
ふわふわとした、愛玩動物のように愛らしい笑顔で。
けれど吐かれた言葉は、餓えた肉食獣そのものだった。
事実上の死刑宣告。
後半の意味は理解できなかったけれど、前半の言葉の意味は幼いおじゃるにも分かった。
再び、ドッと汗が噴き出す。
少女の所作が。笑顔が。短いやりとりの中、頭ではなく心で理解させてくる。
この娘は、自分を生かして見逃すつもりなどないと。
「〜〜〜〜〜〜♪」
だけれど、少女は言葉とは裏腹に。
鼻でハミングなど刻んで。またくるりと身を翻してしまう。
そして、陳列棚に並べられたお菓子などを見分し、おじゃるに無防備な背中を晒した。
少なくとも、自分から仕掛けてくるそぶりは見られない。
その姿を見て、おじゃる丸にある一つの考えが浮かぶ。
───今なら、このこぶたのしないを使えば……
少女を子豚に変えて、逃げられるのではないか?
何しろ、つい先ほど目の前の銀髪の少女より強そうだったナカジマにも通用したのだ。
豚にしてしまって驚いている内に逃げる事は、不可能ではないのでは?
さっきとは別種の理由で鼓動が早くなる中、ぎゅうとこぶたのしないを握りしめる。
(い、いや……たとえ無理でも、やらねば、マロは………!)
少女はこのコンビニで唯一の出入り口の前に陣取っている。
店員用の出入り口も一応あったが、どの道少女の前を通っていかねば辿り着けない位置だ。
故におじゃるのいる場所は、どちらにしても袋小路なのだった。
だから、目の前に立ちふさがる死から逃れようとすれば、少女を何とかするほかない。
覚悟を決める他ない事を、状況は嫌でも幼いお子様に突き付けてくる。
(や……やるでおじゃる。マロは、まだ死にたくないでおじゃる………!)
ミッションは実に単純。
油断しているとみられる目の前の少女の背中をこぶたのしないで突き。
相手が豚になって驚いている間に逃走する。これだけだ。
(できる。マロはできる子でおじゃるぅ……!も、もう怖いのもいやでおじゃる……!)
これ以上、恐怖に怯えるのも耐えられなかった。
今でこそ少女は楽しそうに歌っているが。
殺すと宣言した以上、いつ気が変わって自分を殺しに来るかわからないのだから。
だから、やられる前にやる。やるのだ。やらなければ未来はない。
血走った眼で、己の内側から湧き上がる初めて感覚に突き動かされるように。
おじゃる丸は、決意を固めた。
体の震えはそのままに、その手に握る武器だけは手放さぬよう固く握りしめて。
一秒。
──二秒。
───三秒。
-
「おっおじゃあぁああああ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
おじゃる丸は、駆け出した。
バン、と体で物置の扉を押しのけて。
狭くて寒々しい空間から、朝日に照らされる明るい空間へ躍り込む。
目指す先は勿論、脱出口を塞ぐ喪服の少女の元だ。
てしてしてしてしと、彼を知るものが見れば目を疑うであろう速さで。
転倒することもなく、おじゃるは死神の今なお無防備な背中に肉薄した。
「おじゃっ!」
ぎゅっと目を瞑って、祈るように。
その手のこぶたのしないを突き出す。
通じてくれ。自分を逃がしてくれ。何とかしてくれ、お願いだと。
物言わぬ竹刀を神のように崇めつつ、おじゃる丸は僅かな勝機をつかみ取らんとする。
果たして、彼の狙いは達成された。
ぱしんと音を立て、身長差の関係で突き出された竹刀が少女の足を捉える。
当たった。この手ごたえは間違いない。
後は、ナカジマの様にこの少女が豚に変わるだけ───、
「フフッ、ざーんねん。サムライにはなれないわね、貴方」
竹刀を引き戻したとき、先端が引っかかって命中した部分、少女の脚部が露わとなる。
気づいたのは、直後のことだった。
モノにしたと考えた勝機が、少女の仕掛けた陥穽。
張りぼてでしかなかったことに。
こぶたのしないは、乃亜の調整で対象者の肉体に直接当たらなければ効果を発揮しない。
では、おじゃる丸の感じた手ごたえは全く見当違いであったのかと問われればそれも違う。
彼の一撃は、確かに少女の足を捉えていた。
少女の、金色に輝く義足の部分を。
古代遺物(アーティファクト)、走刃脚(ブレードランナー)と、その義足は呼ばれていた。
───分かったわ。お姉さん。そんなに怖い顔をしないで。
───お姉さんのいう通り、お姉さんのお友達には何もしないから。
───だけど、“武器”は必要よね?
今から数時間ほど前。
少女が海馬CPのエントランスを吹き飛ばした少し後、
錬金術師と海馬乃亜の類縁者の少年を襲う空白の時間。
少女がその義足を得たのはその時のことだった。
不治(アンリペア)が義足を用い戦闘を行っているのを、少女もまた目撃していた。
あれは優れた武器だと思っていたため、ただ埋葬するのは惜しい。
そう同行者の弓兵の少女に訴えた。
弓兵の少女は二人の死体を玩具とする事は断固として反対だったが。
戦力の増強という合理的な理由を提示されれば否定もできなかった。
仕方なく投影魔術で解析を行った所、使用者を選ぶタイプの武器では無い事が判明。
しかしこれを身に着けるならば両足を切断する必要がある。
嫌味たっぷりに述べられた装着条件を、喪服の少女は涼しい顔で受け入れた。
地獄の回数券を言う非合法ドラッグの存在が、両足切断というリスクを踏み倒させたのだ。
───ふふ、ぴったりだわ。ガラスの靴に見えるかしら?
据え付けられた、先ほどまでサイズが違っていたはずの義足は。
少女の足に据え付けられると同時に、ぴったりと彼女の切断した足の断面に収まった。
担い手と認めた相手のサイズにぴったりと収まる。
例え別の古代遺物(アーティファクト)の効果で、十年以上肉体年齢を操作された肉体でも。
それが走刃脚(ブレードランナー)の特性だった。
-
まるで本当にガラスの靴を履いた灰かぶりの様に、くるくると笑顔で舞う喪服の少女。
そんな彼女を、相方である弓兵の少女は完全に気狂いを見る視線で見つめていた。
だって、そうだろう。ドラッグを摂取した状態であれば失血の心配はないとはいえ。
両足切断なんて、筆舌に尽くしがたい痛みを伴うなど自明なのだから。
イカレてる。両足の切断作業を担当した弓兵の少女は吐き捨てるようにそう零し。
喪服の少女は特に気にすることなく、上機嫌で弓兵の少女と接吻を交わした。
そして、現在。
錬金術師との戦いでは彼女に隙が乏しく、披露する機会がなかった刃は。
雅なお子様にとって最悪の形で、再び血を吸うために現れたのだった。
「うふふ、そうだわ。“練習相手“として、丁度よさそうね」
ヒュッと、風切り音が店内を巡り。
それと共に、お子様の握る竹刀が持ち手の部分を残して切り裂かれる。
これでもう、武器としては用をなさない。
───助けて、カズマ。
尻もちをついて、喪服の少女を見上げた刹那。
脳裏に浮かぶのは、同居人であり、友である石好きな少年の顔だった。
その顔が消えるのと同時に。
お子様にとっての短く、しかし酸鼻を極める地獄が始まった。
◆ ◆ ◆
本当に、お馬鹿さんねぇ。
臍を?みたくなる劣悪な状況下で、水銀燈は襲撃者の少女に蔑如の言葉を投げかけた。
「こんな殺し合いに優勝したとして、乃亜が願いを叶えると貴方本気で思ってるの?」
声色は冷たく。
しかし相手に冷静な思考を呼び起こさせ、少しでも戦意を削げる様に。
ニケがいるときに出会った中島ほどではないが、目の前の少女は強い。
常人なら相手にならない薔薇乙女の自分と比較しても、勝てるとは断言できない水準だ。
だから媒介との契約もできていない身で、ぶつかるのは避けたかった。
「…お生憎様。願いが叶おうと叶うまいと、やるしかないの、こっちは」
水銀燈のそんな思惑を真っ向から打ち砕くように。
クロエ・フォン・アインツベルンの戦意は陰りを見せず。
弓兵の少女は、澱んだ瞳で両手の夫婦剣を人形へと向ける。
「はッ、乃亜の靴を舐めてまで、叶えてもらいたい願いでもあるのかしら?」
嘲笑う様な言葉を述べながら、その裏で自分の状態を確認する。
初撃の奇襲で、黒翼は片方に損傷を負っていた。
飛ぶことは問題ないが、速度はかなり落ちる。
更に、発動前だったためにシャンバラも奇襲によってどこかに飛んで行ってしまった。
現状では、正攻法での逃走は非常に困難であると言う他なかった。
戦闘で決して小さくはない隙を作ってから逃走するしか選択肢はない。
故に会話で状況を引き延ばしつつ、脳裏で策を巡らせる。
今は、考える時間をこそ最も欲していた。
-
「………………」
「……だんまりじゃつまらないじゃない。お話しましょうよ。
どうせこれが、お互い最後になるんだし………ね?」
余裕。悠然。不敵。
水銀燈は苦境である事を悟らせない、底を見せぬ立ち振る舞いを徹底していた。
アリスゲームの経験と、ローゼンメイデンの能力を総動員して、目の前の敵手の隙を見出さんとする。
(…雛苺や翠星石よりは少なくとも強い。武器が剣だけって感じでもない感じかしら)
だが、付け入るスキはある。
それを即座に水銀燈は見抜いた。
「フフ、緊張してるの?剣が震えてるわよ」
「……ッ、誰が…………」
目の前の敵は、強さは厄介だが、精神的には確実に本調子ではない。
事実剣は震えていないが、初歩的なブラフに反応を示したのが良い証だ。
説得できるかもしれない、とまでは考えない。
このまま心理戦で揺さぶりをかけ、隙を引き出す。
そして、一度でも大きな隙を作る事ができれば自分はそれを見逃さない。
少なくとも目の前の相手をジャンクにする事は十分可能だという自負があった。
「お話もできないくらい……私が怖い?」
だから彼女は挑発の言葉を重ねる。
少しでも相手の情報を引き出せるように。
策を練る時間を得るために。
手持ちのカードを僅かにでも強く見せられる様に。
目論見は、ある意味では功を奏した。
彼女の狙い通り、僅かにだが気圧された様に、弓兵の少女が口を開いたからだ。
「───生きる為」
「え………?」
その言葉を聞いて。
水銀燈の思考に、空白が生まれる。
策を練る筈だった意識と思考の全てが、クロエの言葉へと向けられた。
「私、もう永くないのよ」
だって、短い発言の中から伺える少女の境遇と。
哀切を含んだ表情は。
水銀燈の良く知る少女と、全く同じものだったから。
「──私は、取り戻すの。私の人生を………!」
魂を分けた片割れの奥底に意識を沈められて。
お前は要らないと言われて。
そんなの、受け入れられるはずがない。
そのまま消えていくなんて我慢ならない。
ただ、生きて居たい。
その一心で自分はこの手を血に染めたのだから。
そして今回も。苦渋の決意と共に双剣を握り締める。
-
「だから───貴女も死んで!!」
言い終わると同時に、疾走を開始する。
その表情に先ほどまでの動揺はなく。
鋭利な狩人の表情に、クロエ・フォン・アインツベルンは変わっていた。
「───ッ!」
対する水銀燈は、一手遅れた。
揺さぶりをかける筈が、揺れてしまったのは逆に自分の方で。
これでは結果があべこべだ。
「チッ!」
舌打ちを一度行った後、その手に握っていた戦雷の聖剣を振り上げる。
意識を切り替えろ。思考を切り替えろ。
目の前の相手は、ただ殺し合いに恐慌を起こして乗った相手と変わらない。
だから、願いが何であれ、自分に思う所は何一つない!
「──このッ!」
ガァン!と硬質の物質同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
人間の少女の膂力ではない。水銀燈は瞠目した。
速度も間違いなく白兵戦において、薔薇乙女の中で随一の蒼星石を上回るそれだ。
接近戦は不味いと一瞬で判断。
何しろ彼女は薔薇乙女以外との戦闘経験は殆ど無い。
お互いを知り尽くした蒼星石ならば兎も角、手の内の分からない相手となれば。
出来る事なら、普段通り遠距離からの黒翼を用いた戦闘に持ち込みたかった。
「人形のくせにやるじゃない」
「お褒めの言葉ありがと、ねぇ……!」
のしかかる剣の重みに堪えながら、余裕の笑みを作り直し。
数秒前の動揺を感じさせない淀みのなさで、そのまま戦雷の聖剣から雷撃を放つ。
本来の担い手と比べれば数パーセントの出力しか発揮されていないとはいえ。
英霊に匹敵する黒円卓の魔人が振るっていた聖遺物。
本来の英霊よりもさらに劣化した出力であるクロエには十分脅威となる雷だった。
鍔迫り合いの状態から肉食獣のように素早いバックステップで距離を取る。
「死になさい──!」
後退した敵手に向けて、容赦なく水銀燈は黒翼を振るった。
最初に襲撃されたただの人間の少女と違い、とても手加減できる相手ではない。
持てる力をすべて使って、速攻で潰す。そう彼女は決断した。
翼が振るわれると同時に、数十発以上の漆黒の羽がクロエへと殺到する。
散弾銃を遥かに超える速度と量だ。ただの人間ではとても対応できない。
周囲の景色が黒一色へと染まる。しかし───
「悪いわね」
一本の矢が、漆黒の津波を貫く。
波濤を突き破る凶撃。咄嗟に反応できたのは、殆ど偶然に近かった。
突風が顔面のすぐ隣を吹き抜け、射抜かれた自身の銀の髪の毛を目の当たりにして。
水銀燈の全身に戦慄が走る。
「私、むしろ遠距離戦(そっち)の方が本職なの」
-
弓兵(アーチャー)だから。
クロエは二の矢、三の矢を引き絞りながら、そう水銀燈に告げた。
その様を見た水銀燈の第六感が、けたたましく警鐘を鳴らす。
今しがた敵手が言った言葉は嘘ではない。立ち振る舞いを見れば分かる。
慣れた遠距離戦であれば主導権を握る事は可能だと、そう踏んでいたが甘かった。
それでも防御が間に合ったのは、彼女の薔薇乙女としての能力の高さの証明に他ならない。
「くっ───!!!」
ダメージを受けていない翼の黒翼を何層も重ね合わせ、即席のバリケードへ。
初手の奇襲によって羽にダメージを受けたとは思えない早業だ。
更に、もう片方のダメージを負った翼をも動かし、防御と迎撃を一手に行う。
彼女は雪華綺晶の言葉の通り、最強の薔薇乙女と呼ぶに相応しい判断力を有していた。
「っ、冗談じゃない……っ!」
二の矢の防御は叶った。
先ほど防御を貫いてきた致死の矢を、今度は見事に反らすことに成功する。
だが、二の矢に重ねるように発射された三の矢は。
二の矢を反らしたことで防御が甘くなったポイントを突き進む。
反らし弾く様な複雑な操作は最早叶わない。
そう判断した水銀燈は一瞬のうちに可能な限りの黒翼を展開し、砦の様に展開する。
直後、ズン!という砲弾が撃ち込まれた様な音と衝撃が、翼を通じて水銀燈を襲った。
衝撃は激しかったが、ダメージは無い。防御を解き、反撃に移る。
そう。移ろうとした、その時の事だった。
(────まず、いッ!?)
水銀燈は、己の失策を悟った。
防御した弓矢が、消えていない。
消えていないだけならば問題はない。
だが、黒翼に突き立てられたその矢を見た瞬間、冷たい物が彼女の背筋を駆けた。
即座に防御態勢に移行しようとするが、一手遅れた。
───壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)
一秒後、射られた矢が眩い輝きを放ち。
閃光と衝撃が、水銀燈を襲った。
◆ ◆ ◆
ハァハァと荒い息を吐いて。
水銀燈は吹き飛ばされ、叩き込まれたスーパーの壁に背中を預けた。
状況はすこぶる付きで悪い。
褐色の少女は、媒介と契約していない状態で戦うには厳しい相手だった。
あの爆発で五体満足で生還できたのは奇跡だったと言ってもいいが。
吹き飛ばされた時にボディ全体が叩きつけられ、あちこちが痛い。
(おじゃる丸と契約しておくべきだったからしら………)
一瞬そう考えるものの、追手が二人の状況では既にあの子供は死んでいるだろう。
戦っている最中に供給が途絶えた方が危険だと、即座に窮地に沸いた考えを棄却する。
都合よくニケが助けに来ればいいが、彼を見捨てて逃げたのが自分だ。
だから、自分自身の手で何とかするしかない。
と、そんな時だった。
水銀燈の頭上で、小さな輝きがチカチカと瞬く。
-
「………メイメイ。見つけた?えぇ、そう。分かったわ」
チカチカと、水銀燈の顔の隣を揺蕩う光点。
彼女の自動精霊であるメイメイだった。
水銀燈が戦っている最中に探し物を命じられ、つい先ほど目当ての代物を発見したらしい。
更に、捜索の最中メイメイが発見したのはそれだけではなかった。
偶然探し当てたそれを、自動精霊は主へと差し出す。
「────これって」
水銀燈の目が見開かれる。
メイメイが差し出したそれは、水銀燈にとって馴染み深く、憎んだ姉妹のものだった。
鈍い輝きを放つ、真紅のローザミスティカが、そこにあった。
「………お手柄よ、メイメイ」
何故これがここにあるのかは分からない。
だが、使えるものを使わぬまま安穏とできる余裕のある状況ではない。
例えそれが、最も気に入らない姉妹のものであってもだ。
刹那の思索ののち、無言で水銀燈は真紅のローザミスティカを取り込む。
そっと胸に添えたその輝きは、溶けるように抵抗なく水銀燈の胸に吸い込まれた。
「ふ、ぅ……あ………」
力が満ちる感覚に伴い、官能的な声が漏れる。
全身に負ったダメージが癒されていく。
折れた片翼は元通りに動かせるようになり。
戦雷の聖剣を握っていた手にも、力が籠った。
「これなら……」
メイメイが発見した物の所まで、妨害を?い潜り到達は可能。
彼我の戦力差を理解しながらも、そう水銀燈は判断する。
更にランドセルから一枚のカードを取り出し、準備は整った。
後は行くだけだ。
「さぁ………勝負よ」
脳裏に自身の媒介の顔を強く焼き付けながら、剣を握りしめて。
待ち伏せを行っているであろう弓兵の待つ外へと、その身を飛び出した。
◆ ◆ ◆
思ったより、早かったわね。
水銀燈が吹き飛ばされたスーパーから200メートル程離れた電柱の上に陣取り。
店内から飛び出してきた人形を観察しつつ、クロエはそう考えた。
壊れた幻想を受けた後、店内に逃げ込んだのは確認していたが、あえて追わなかった。
理由は単純に、白兵戦での消耗を抑えたかったからだ。
乾坤一擲の覚悟で突撃を受ければ、思わぬ反撃を負う可能性がある。
だから、選んだのは遠距離からの狙撃。狙いすました一射で標的の絶命を狙う。
標的はまだ気づいていない。きょろきょろと周囲の様子を伺っている。
「───じゃあね」
-
躊躇や不安を心の奥底に沈め。
自分でも驚くほど冷静で、冷淡な声を発して。
手にしていた弓矢を放った瞬間の事だった。
────お手付きよぉ、お馬鹿さん。
先ほどまで周囲を伺い、自分を探していた筈の標的と目が合う。
殆ど同時に、コンマ数秒前に顔があった場所を弓矢が突き抜け、後方へと突き刺さる。
俄かに驚愕するクロエだったが、驚愕はそれだけに留まらなかった。
初手の奇襲で損傷させたはずの翼で、人形──水銀燈が羽ばたいたからだ。
これでは壊れた幻想で爆撃を行った所で、爆風は彼女には届かない。
どうやって即座に位置を割り出していたのかは分からないが。
だが視線を向ける迷いのなさと表情から、虚を突くことを狙っていたのは明白だった。
「くっ───!」
消耗を敬遠し、追撃に消極的だったのが裏目に出た。
恐らく支給品の効果で負った損傷を癒したのだろう。
いや、それどころか、飛行速度は出会った時まで遡ってももっとも早い。
(飛ぶ速度が上がってる………!)
二射、三射と弓を射かけるも、今の水銀燈には当たらない。
ひらりひらりと三次元的に中空を躍り、放たれた矢を潜り抜けていく。
クロエが文字通り命を消費して作った矢を、だ。
三射目を回避され、彼我の距離があっという間に100を切る。
(それなら、宝具で───)
通常の矢よりも更に高速かつ、空間すら捻じ切る攻撃力の宝具で射落とす。
魔力消費は痛いが、人形の速度から逆算すればこれで決められるはずだ。
目まぐるしく思考を回しながら、投影を開始する。
───この瞬間を待ってた。
通常の弓矢とは違い、宝具を投影する僅かなインターバル。
攻撃の手が緩む、5秒にも満たない時間。
クロエが作ってしまった僅かな陥穽を、水銀燈は見逃さなかった。
漆黒の両翼が、渾身の力で振るわれる。
(……ッ!攻撃も、さっきより早い上に強い───!)
さっきまでは散弾銃が如く放たれていた黒翼が、今は機関銃(マシンガン)だ。
飛行速度だけでなく、攻撃の鋭さも威力も先ほどまでとは段違いに上がっている。
弱体化しているとは言え、サーヴァントに近しい肉体でも危険な攻撃。
その上、今回はクロエの方が一手遅れていた。
迫って来る漆黒の天蓋は、最早純粋な回避運動では躱せない。
残された選択肢は、受ける事だけ。
───熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!
クロエの掌に紫の花弁を模した防御壁が現れる。
対軍宝具すら防ぎきる盾だ。如何にパワーが上がっていようと黒翼が貫くことはない。
だが、油断はしない。慢心も無い。
既にクロエにとって水銀燈は単独のうちに倒しておきたい脅威だ。
アイアスの盾で身を守りつつ、今度はクロエの方から距離を詰める。
敵の攻撃範囲は先ほどよりも広く、威力も遥かに増している。
物量で押されれば危険だ。そのため、遠距離戦より不得手と見た接近戦で確実に倒す。
そう、死ぬのは───
-
────貴方よ。
彼我の距離が20メートルを切る。
奇しくもその瞬間に考えた事は、双方同じだった。
クロエは展開していたアイアスの代わりに慣れ親しんだ夫婦剣を手に飛び掛かり。
水銀燈は片手に握っていた戦雷の聖剣を跳ね上げる。
投影された干将莫邪と、戦雷の聖剣が空間に火花を散らす。
一拍の間に十を超える剣閃が交錯し、鎬を削る衝突音は大気を震わせて。
(やっぱり力も上がってるか………でも!)
先ほど剣を交わしたときは膂力でいえば自分が圧倒していた。
今はいなして真っ向から打ち合わなければ、押し負けない程度に敵の力が上がっている。
一言で言ってやり手だ。人形に人の年齢の概念を当てはめるのは滑稽だが。
それでも戦うことを念頭に置いて、かなり長い年月を重ねたのは間違いないだろう。
人間の子供の経験値では断じてない。
(実力では私のほうがやっぱり上みたいね!)
先ほどよりもスペックが上がっているとはいえ。
それでも膂力、スピード、共に自分には及ばない。
このまま行けば押し切れる。
両手に握りしめた二刀を操りながら、クロエは自身の勝利を予感していた。
そして、その決定打となる瞬間が到来する。
撃ち込まれた水銀燈の剣を、交差させた二刀で絡めとったのだ。
「せぇええいッ!!」
カァンと乾いた音を立てて、戦乙女の剣が宙を舞う。
いける。予感が確信へと変わる。
今の水銀燈は空手だ。ほかに何か武器を隠し持っている気配はない。
接近戦では黒翼での迎撃も、自分を止められる水準の物は難しいだろう。
このまま押し切る。クロエは両手に力を込めて。
そして、眼前の水銀燈と視線を交差させた。
───お手付き。これで二度目、ね?
視線が交差した瞬間。
クロエは感じた勝機が、敵によって用意された虚像だった事を悟る。
交錯前の刹那、彼女は己の心眼に従い目前に迫った勝機を放棄した。
後退する水銀燈へ向けて踏み込まず、側頭部を守る様に剣を掲げる。
コンマ数秒後、水銀燈の物より遥かに大きな剣閃が襲い掛かった。
弓兵の肉体を得ている体にも響く、衝撃と圧力。
もし防御を優先していなければ、そのまま両断されていただろう。
とんでもない伏兵がいたものだ。
焦燥に胸を焦がしながら、奇襲を行ってきた新たな敵手を見据える。
水銀燈が呼び出したのは、漆黒の鎧に身を包み、大剣を肩に担いだ戦士だった。
彼こそ竜破壊の剣士。その名をバスター・ブレイダーと言った。
「いい使い魔持ってるじゃない……!」
語る言葉は気圧された物ではないが、クロエの表情には焦燥が浮かんでいた。
口にした通り、目の前の剣士は強い。
少し前に戦ったエルフの剣士とは比較にならない。
真っ向から、自分と切り結ぶだけの実力を有している。
更に、この戦士を従える水銀燈自身の攻撃も脅威となっている状況。
弓兵の少女は、確実に劣勢に追い込まれつつあった。
-
◆ ◆ ◆
「───形勢逆転、攻守交替って所かしら?」
涼やかな、しかし獰猛な笑みを浮かべて。
水銀燈は、戦の様相が変わったことを確信する。
その傍らには、彼女の自動精霊であるメイメイがふよふよと漂っていた。
小さな体に、重たそうにバスター・ブレイダーのカードを掲げて。
薔薇乙女の補佐をするのが自動精霊の役目。
メイメイは水銀燈の指示に従い、スーパーを飛び出す前に予めクロエの座標を伝え、
今度は、接近戦を挑む水銀燈に代わりカードを使用したのだった。
その結果が、現在の形勢の逆転である。
「………えぇ、分かったわ。よくやったわね、メイメイ」
更に、メイメイから先ほど探すことを依頼していた目当ての物の場所を伝えられ。
水銀燈の思考に一つの選択肢が生まれる。
即ち、このまま逃走するか。襲ってきた少女を殺すか。二者択一。
今なら、逃走する事も叶うかもしれない。
しかし、再び追撃を受ければ、バスター・ブレイダーのカードはもう使えない。
それに難敵と見た相手が、遠距離から爆発する弓矢で狙撃してきたら。
そう考えれば、単に逃げるだけでは安全な相手とは言い難かった。
(………殺しておきましょう)
数秒の間をおいて。
水銀燈が出した結論は、襲撃者の殺害だった。
他の姉妹ならば、きっと逃走を選ぶのだろう。
だけど、自分はほかの姉妹とは違う。
確実に禍根を断っておく方を選ぶ。
敵は、仕留める。
────ジャンクなんて言って悪かったわ。
五月蠅い。そう思った。
今、大事な時なのだから貴方の事を考えている暇はない。
既にローザミスティカになった分際で、余計な記憶を思い出させるな。
拒絶の言葉をいくつか口に出さず述べた後。
脳裏に湧いた考えを、かぶりを振って打ち消して。
水銀燈は、勝利を掴むべく行動する。
アリスゲームだって、そうやって勝つことを考えて動いてきた。
これまで、気の遠くなるような長い時間をそうやって生きてきたのだ。
今更変えるつもりは無かった。
「こんな時まで…ほんっと、うるさいのよ」
一言毒づいた後に、翼を広げ飛翔する。
眼下でまだ褐色の少女と龍破壊の剣士が鎬を削っていた。
行ける。剣士で引き付けている間に狙いを定め。生意気そうな顔を吹っ飛ばして見せよう。
勝利を掴むため、水銀燈は狙撃のためのポジショニングに移る。
隼の様に旋回すると、目的を達成するのに最もいい位置を捜索。
そして、数秒でその座標を特定し、翼をはためかせ移動を行う。
着いたのは、敵手の頭上にして後方二十メートルほどの位置。
眼下の弓兵の少女は水銀燈の動きに気づいている様子だったが、
バスター・ブレイダーの攻勢が激しく妨害ができない。
-
「───捉えた」
完全に自分の土俵に持ち込んだ。
狙撃だけではなく、敵が予想外の反撃を行ってきた際の“保険”も。
今の位置ならば都合がいい。
バスターブレイダーが斬り結んでいる間に回収した戦雷の聖剣を掲げ。
更に、漆黒の翼に意志とローザミスティカから送られてくるエネルギーを全て籠める。
文字通り、決着を前提とした全力の一撃。
バスターブレイダーにも当たるだろうが、どうせカードから呼び出されたモンスターだ。
構うことは無い。このまま放つ!
「ジャンクになりなさいッ!」
心の何処かで澱の様な思いが渦巻くが、それを容赦なく振り払い。
水銀燈は背に生える黒翼を、これまでで最高の速度で振るった。
それだけでなく、聖遺物から発生させた雷の威力をも籠める。
前方からはバスターブレイダー、後方は雷を纏った漆黒の津波。
必殺の挟撃が、生を求める少女に迫る────!
◆ ◆ ◆
水銀燈が黒翼を放つ数秒前。
クロエ・フォン・アインツベルンは、これから起きる攻撃は躱せないと判断した。
アイアスを展開しなおした所で、前方の剣士に斬り伏せられる。
前方の剣士とこのまま斬り結べば、背後を黒翼に撃ち抜かれ終わりだ。
生き残るには、目の前の剣士の虚を突き一撃で倒し。
そして、一瞬で後方の攻撃に対処しなければならない。
チャンスは、一手。これを外せばすべて終わりだ。
干将莫邪の攻撃は警戒されている。虚を突くのは難しいだろう。
他の宝具も前方と後方をカバーした上で自爆にならず、
更に数秒の時間の中で投影を完了できるものは───
(いや……ある)
過程を省略し、望む結果を導く聖杯としての機能によるものか。
それとも、純粋に記憶から辿り着いたか。
それは定かではないが、クロエの脳裏に一つの武器が浮かんだ。
あれならば上手く事が運べば可能だろう。
一発限りの博打。脳裏に浮かんだ武装に、自らの命運を託す決断をクロエは下した。
「投影、開始(トレース・オン)」
骨子の解析は既に完了済み。
全神経を集中させ、魔力を研ぎ澄まし、瞬時に投影作業を完了させる。
この殺し合いにおいてクロエ・フォン・アインツベルンが120%のポテンシャルを発揮した瞬間だった。
─────投影、完了(トレース・オフ)
少女のモノローグの刹那。
嫋やかな足に、武骨な黄金の義足が出現し、外骨格の様に装着される。
その正体は神が造りし古代兵器(アーティファクト)。
彼女の同盟相手だった男が身に着けていた武装だった。
-
「走刃脚(ブレードランナー)………!」
担い手が死してなお、刃は朽ち果てることなく。
不治(アンリペア)の効果はないものの、再び生者に牙を剥く。
脚部が走刃脚に覆われると同時に、クロエは、上体を反らし、振りかぶった。
背後で翼が振るわれる音と気配を感じたが、構うことはない。
この一撃で、全てが決まるのだから────!!
「ハァッ!!」
斜めに傾ぎ、無防備に腹部を晒した少女に、龍破壊の剣士がその手の大剣を振り下ろす。
例えクラスカードの力で英霊の力を得ているといっても、両断は免れない威力の斬撃。
だが、クロエに不安はなかった。
やはりカードによって呼び出される使い魔は、障害ではあるが脅威ではない。
何故なら、彼らが行えるのは機械的な迎撃。駆け引きについては参加者に遠く及ばない。
無防備に見える腹部に向かい斬撃を放った剣士を見て、少女は確信する。
ひらり。
そんな、間の抜けた音を立てて。
クロエ・フォン・アインツベルンの胴を切り伏せるはずだった一刀が、空を切った。
運動エネルギーごと逸らされてしまった剣が、大地へと突き刺さる。
そして、その致命的な一瞬を、クロエが見逃すはずもなく。
キ イ イ イ イと、特徴的な風切り音を大気に奏で。
振りかぶっていた足を、勢いよく振り下ろした。
────フルムーンサルト!!!
攻撃に失敗し、無防備な姿を晒していた龍破壊の剣士がその一撃を躱せるハズもなく。
放たれた空気の刃によって、上半身と下半身を甲冑ごと切り裂かれ、大地に伏せる。
あのエルフの剣士よりもずっと強かった分、戦闘破壊耐性はなかったらしい。
その事実に安堵しつつ、クロエは止まらない。
アイススケートの選手の様に体をスピンさせて、空気の刃の放出を続行する。
「まだよ……!」
回転(アクセル)に合わせ、走刃脚から空気の刃が弧を描くように延びる。
本来の担い手の常人のリップにすら、この大技を瞬時に放つのは難しかっただろう。
人を超えた肉体性能のサーヴァントに近しいクロエだから放てる無法の刃。
それは寸分の狂いもなく、背後に迫っていた黒翼の津波と激突した。
────ガアアアァアアアアンッ!
黒翼と大気の刃の衝突の瞬間。金属音の様な、遠雷の様な轟音が響き渡る。
放たれた走刃脚の一撃は、黒翼の約半分を切り裂いていた。
だがそれを考慮しても尚、クロエにとって危機を脱したとはいいがたい状況だ。
迫る漆黒の怒涛は、威力を半減させながらも彼女を呑込むに十分な威力を保っている。
回避は難しい。走刃脚の迎撃も間に合わない。投影も同じ。
彼女単体では打つ手がない。詰みの状況だった。
「そう、私だけじゃね………!」
-
だから彼女は最後のカードを切った。
戦闘開始前に胴体から背中にかけてサラシの様に巻き付けていた、その防具を掴む。
リップ=トリスタンに支給されていた、『ひらりマント』を。
しゅるりと胴体から外して、殺到する殺意の奔流に下からかち上げる様にぶつける。
ひらり、という間の抜けた音が耳朶に響くと同時に、黒一色の津波が矛先を変える。
「なッ────!?」
上空で驚愕の表情を浮かべる、水銀燈の方向へと。
必殺と見ていた攻撃が破られ、跳ね返されている。
回避困難な黒の天蓋が、放った己自身を飲みこもうと迫る。
水銀燈がそんな想定外の不条理を飲み干すまでに、一秒の時間を要し。
その後には既に回避不能な位置まで、黒翼は迫っていた。
「クッ───!!!」
悔し気な声を上げて、迎撃の為に黒翼を振るうも、時すでに遅く。
双翼だけでなく戦乙女の剣を動員しても、一瞬の内に出せる出力ではまだ不足で。
迎撃できなかった分の黒翼と雷が、一凛の黒薔薇を容赦なく吹き飛ばした。
◆ ◆ ◆
「────勝った」
倒れ伏し、動く気配のない水銀燈の姿を確認し。
クロエ・フォン・アインツベルンは勝利を確信した。
人形は本当にただの人形になったかのように、ピクリとも動かない。
だが念のため、確実にとどめを刺す。
その手にまた夫婦剣を生成し、柄をぎゅっと握りしめる。
「これで二人目……そう、二人目よ」
人形を二人目にカウントしていいかは疑問が残るが。
それでも、首輪を嵌められていることから参加者と見ていいだろう。
後はこれを壊せば。また一歩、優勝へと近づく。
こうやって着実にゲームに貢献していけば、乃亜だって優遇したくなるはず。
神である彼の恩恵を受けられれば、シャルティアや悟飯の様な怪物にだってきっと勝てる。
だから、これでいいのだ。
そう自分に言い聞かせながら、干将莫邪を握りしめる。
「……………痛っ」
……振り下ろせない。
ひらりマントで僅かに跳ね返しきれなかった攻撃のダメージのせいか?
否、まだ自分の心に惑いがあることを、クロエは感じ取っていた。
もうこの手は血に染まっているのに、まだ迷いがあるのか?
聞いて───
脳裏に浮かぶのは坊主頭の少年の最期。
自分が勘違いで殺してしまった男の子の顔。
それが、クロエの心に躊躇を生んでいるのだった。
-
「……………………何で…来てくれ、ないのよ……っ!」
掠れた声で発された問いかけは、果たして誰に向けた物だったか。
魂を分けた片割れに対してか。勇者と名乗った少年に対してか。
それとも、自分を不要だと棄てた両親か。
それは彼女自身すら分からなかった。
だが誰もが呟きに応えることは無く、声は虚しく虚空に溶けて消える。
────イリヤは、生き………
誰にも届くことのない嘆きの後には。
少年の死の記憶を塗りつぶす様に、美遊・エーデルフェルトの最期が蘇ってくる。
嫌だ。あんな風に死ぬのは嫌だ。
だって私はまだ、何も為せていない。一度だって、褒めてもらってない。
生きてていいよって、誰かに言って貰いたかった。
───嬉しいわ。やっとリングを回せる側になったのね。
───それでいいのよ、お姉さん。殺すことが、生きるって事なのだから。
ぼうっとした頭に最後に浮かぶのは、同行者の少女の言葉だった。
彼女の言葉は、今の鬱屈とした心境には麻薬の様に心地よかった。
最悪の狂人の言葉である事は分かっているけれど。
それでも今は彼女の言葉に縋って、堕ちたかった。
「そうよ………これでいいの」
吐いた声色は昏く、冷たく。
さっきまであった筈の迷いは何処かに消え失せて。
干将莫邪を握る掌に力が籠る。
淡々と人ではなく、機械になったかのように人形の死刑執行を遂行する。
両断の意志を刃に乗せて、振り下ろす────、
「───…ッ!?な、なに……っ!!」
刃を、振り降ろしたのとほとんど同時。
夫婦剣が人形のボディを切断するコンマ数秒前に。
視界に、勢いよく蛍の様な物が飛び込んできた。
反射的に目を瞑って、ぶんぶんと頭と腕を振り回して追い払う。
こんな時に何だと言うんだ───そう思いながら、今度こそ刃を振り下ろそうとした。
そうして、気づく。
「……?ど、何処───!?」
さっきまで倒れ伏していた筈の、人形の姿が無い。
飛び込んできた蛍の様な光体に意識を割いた一瞬で消え失せていた。
ぞわり。背筋に悪寒が走る。第六感が警鐘を鳴らす。
視界の端に人形の背中に生えていた黒い翼の羽が見えたのは、直後の事だった。
それに伴い背後で感じる気配と殺気。直感的に、確信する。
(これ、間に合わな───)
-
嵌められた。人形の言葉で言うなら、「お手付き」の三度目だ。
今から振り返っても間に合わない。
良くて相打ち。どう足掻いても自分が生き残る芽はない。
「う、」
しかし、それでも。
それでも、諦める事なんてできなかった。
例え間に合わなくても、この勝負は自分の負けだと理解していても。
それでも投影した剣を振るい、獣のような咆哮を上げて。
「ああぁああぁああああああああッッッ!!!!!!」
───聖杯の寵児は、再び罪を重ねる。
◆ ◆ ◆
勝った。クロエ・フォン・アインツベルンの背後で、水銀燈は勝利を確信した。
乾坤一擲の挟撃まで対応され、あまつさえ跳ね返されるのは予想外だったが。
予め用意しておいた保険が活きた。
その手に握るシャンバラの感触を確かめながら、強くその事実を噛み締める。
万が一あの挟撃を受け、爆発する弓矢の様な反撃を受けた場合は。
メイメイに伝えられた帝具がある場所に吹き飛ばされる様、位置取りを行っていたのだ。
「化かし合いは、私の勝ちね」
転移の瞬間、メイメイに飛び込ませ、隙を作る。
その作った隙に食い込む様に、シャンバラを発動し少女の背後に躍り出て。
標的の突然の消失(ロスト)に狼狽する敵手を眺めながら、黒翼の照準を定めた。
これでこの戦いの決着は着く。手ごわい相手だったが、これで終わりだ。
そう考えて、翼を振り下ろそうとした刹那。
少しだけ、この状況が滑稽に思えた。
力を与えられた代償に健やかに生れ損ない、直ぐ其処の死が定められた少女と。
悠久の時を姉妹達と闘い合い、傷つけ合い、絶望する為に生まれてきた人形。
独りと一体が、命も無いのに殺しあう。
それが何だかおかしかった………しかし、それでも殺さなければならない。
自分には、果たさなければならない事があるのだから。
生きるという事は、戦う事なのだから───
────水銀燈、大好きよ。
────私もよ。
溢れ出したのは、その時のこと。
現在の水銀燈にとって、存在しない記憶が。
胸の奥から、内包されたローザミスティカから。
まるでクロエ・フォン・アインルベルンと言う少女を、水銀燈が傷つける事を厭うた様に。
「え………?」
-
幻覚ではない。夢でもない。
ローザミスティカは確かにこの映像は、現実に起きた事だと突き付けてくる。
───私たち、もうじき美しいものになるの。
───痛みも悲しみも愛も、そんな物は軽々と見下ろして。
───全く違う地平を飛ぶ、綺麗な羽を授かるのよ。
水銀燈が得たローザミスティカは、彼女がいた時間軸には存在しない特殊な物だ。
真紅の物であり雪華綺晶の物でもあったそれを、予期せぬ形で得てしまった。
アリスゲームで敗北を受け入れなかった相手から得たローザミスティカは。
手に入れた者にとって、劇薬にしかなりえないのに。
その副作用がたった今、水銀燈にとって決定的なタイミングで表れてしまった。
───絆とか言ってたわね。ドールとマスターを繋ぐ糸……
───笑っちゃうわ。この私がそんな物に縛られる様になるなんて。
───でも、悪くはなかったでしょう?
───そうね。悪くはなかったわ。
何故ローザミスティカを得た瞬間ではなく、遅れて記憶が流れ込んだかは定かでない。
真紅と雪華綺晶、何方の物かはっきりしないため処理が遅れたのかもしれない。
それとも、姉の凶行を止めようと姉妹が動いた結果なのかもしれない。
或いは、相対するクロエ・フォン・アインツベルンの聖杯としての機能なのかもしれない。
何れにせよ、齎された映像は水銀燈にとって致命の物だった。
その記憶は、今の水銀燈から戦う理由を奪ってしまうものだったから。
(まったく………)
また何だかおかしくなって、フッと笑う。
やはり、あのバカ真紅や駄々っ子末妹の力などアテにしたのが間違いだった。
五番目の妹や末っ子とは、何処まで行っても反りが悪いらしい。
あぁ、でも。そうか。そうなったのか。
あの娘(マスター)は笑って────
(未来なんて知るものじゃないわね、めぐ)
意識の端で、獣のような咆哮と共に剣を振りかざして少女が突っ込んでくる。
生きたいと言っていた少女。生きるために戦う少女。
自分の共犯者(パートナー)とは、何もかも正反対な少女。
でもその姿を見ていると、もしかしたら自分は。
────病める時も、健やかなるときも。
────ねぇ、お願い。私を壊して。
本当は、彼女に。
“生きたい”と。そう言って欲しかったのかもしれない。そう思った。
そして、その想いと共に。人形は自分を切り裂く凶刃を受け入れた。
◆ ◆ ◆
クロエ・フォン・アインツベルンには分からなかった。
目の前で上半身と下半身が泣き別れになり、仰向けに倒れ伏す人形の事が。
あれだけ、必死に戦っているように見えたのに。
あれだけ狡猾で、強かった相手が。間違いなくそのまま攻撃していれば勝っていたのに。
最後は自分の剣で切り裂かれるのを受け入れた様に見えたのだ。
さっき飛び込んできた使い魔と思しきホタルも、水銀燈と一緒に切り裂いてしまった。
-
「何で………?」
勝ったことはいい。
だがどうにも不可解で、納得はいかなかった。
釈然としない戸惑いの表情で、じっと人形を見つめる。
「ねぇ……貴方……クロエって子よね………?」
目を、見開いた。
事切れたと思っていた人形が口を聞いたのだから、無理も無いだろう。
咄嗟に剣を投影しようとして、やめる。
口こそきいたものの、人形が再び動く気配は無かったからだ。
ただ人形は穏やかな微笑を浮かべて、表情で返答を促してくる。
僅かな逡巡の後、無言でコクリと頷き、クロエは言葉にならぬ返事を返した。
それを見ると、人形はやっぱり…と短く呟いて。
「ニケがね、貴女のために走り回ってたわ」
そう告げた。
その言葉を聞いた時、頭を殴られた様な衝撃が走った。
「…っ!…あ………っ………そ、それ…が、なに?
今更ニケくんが何をどうしてようと、私には関係ない………っ!」
本当に、まだあの子は自分を救おうとしているのか。
でも、私はもう。人を殺してしまった。
もう手遅れなのだ。何もかも。
それに彼は弱かった。多分、私よりもずっとずっと弱い。
その彼が、何とかするなんて言ったところで、できる訳が無いのに。
何故私は期待していたのか。
「───そうね。ニケ、おばかさんだし弱いし。案外もう死んでるかもね」
クロエの思考を先読みしたように。
人形は、微笑を浮かべながら言葉を紡ぐ。
それはクロエの考えを肯定し、補強するものだった。
それなのに、それを聞いた時、胸が狂おしくかき乱された。
まるで自分の言葉を否定してほしかったかのように。
「でも」
顔を背けたクロエの表情をじっと見つめて。
水銀燈は微笑を浮かべたまま続けた。
「いつだって何かをやらかすのは、ああいうお馬鹿さんなのよね。
………ニケができるかどうか知らないし、私の知った事ではないけど」
語る水銀燈の瞳の奥に移るのは、明け方のニケと別れる前の時間。
魔神王が襲撃してくる直前に、話をした時の事だった。
その時水銀燈は尋ねたのだ。
見ず知らずのクロエの為にそこまで骨を折る事はあるのか、と。
尋ねられたニケは難しそうな顔をしながらも。
───いや、まぁ。俺も一応勇者なワケだし。
───女の子見捨てる奴が勇者名乗るのは不味いだろ?
───俺が勇者名乗れなくなったら、ククリの奴泣いちゃうだろうし。
-
ククリの為にも俺は勇者でいたいし。クロの奴も何とかしてやりてーよ。
勇者はそう語っていた。その言葉に、淀みは無かった。
上手く行けばパンツ見せろ位は要求する、と続けた事で色々台無しになったが。
それでもそう語る彼の横顔は、水銀燈の知る誰かに似ていた。
その時は誰に似ているのかピンと来なかったけれど。たった今わかった。
────誰も独りにしないこと。それが私のアリスゲーム。
馬鹿さ加減が、姉妹の中でもとびっきりのおばかさんに似ていたのだ。
お父様に逆らい、アリスゲームそのものを破綻させてしまう度を抜けた馬鹿。
出来るかどうかは知らない。でも叶うなら、水銀燈は彼がいいと思った。
あのお馬鹿さんが、目の前の辛気臭い少女も茶化して突っ込んで。
このゲームごと台無しにしてしまえば、それはとても痛快な事に思えたのだ。
「あの度を超えた馬鹿さ加減には……私は一口賭けても良い」
にっこりと。焦燥も敵意も憑き物が落ちた様な表情で。
かつて自分達は絶望する為に生まれてきたのだと語った人形は。
聖杯の寵児に福音を贈った。
「…………………」
だが、その言葉に聖杯の寵児は応えない。
相変わらず、彩と光の喪った瞳で水銀燈を見つめて、黙り込んでいる。
辛気臭い子ねぇ、水銀燈はそう思い。
それならもっと嫌がらせをしてやろうと、重ねて思った。
「これ、持っていきなさい」
「……え?」
水銀燈の胸の前で淡く輝く、二つの宝石。
ローザミスティカと言う名の、薔薇乙女の力の源であり、魂と言うべき宝珠。
この殺し合いで得た末妹のものと、自分自身のローザミスティカすら差し出す。
それが、薔薇乙女の長女が下した決断だった。
クロエの事情は良く知らないし、知るつもりもない。
けれどいま彼女が抱えている問題に対して、きっと効果的なアプローチとなる。
そんな予感があり、それ故に自らの魂を施す事に迷いは存在しなかった。
「いいの………?」
クロエが水銀燈の胸の前で浮かび上がった宝石と、水銀燈の顔を見比べて尋ねた。
お父様が手ずから作った宝石だ。当然ではあるが、少女の眼鏡に叶ったらしい。
だが今更了承の確認をする位なら襲い掛かって来るなと、水銀燈は呆れた視線を向ける。
クロエはそんな水銀燈の態度が不服だったのか、絞り出すような声で。
「違う…っ!こんなの、渡して………私は、きっとこれからも………っ!」
殺していくのに。
そう言って、俯いてしまった。
確かにローザミスティカの力を得れば、彼女は他の参加者の更なる脅威となるだろう。
だけど、そんなことはもう。
-
「───えぇ、構わないわ」
もうここで脱落する水銀燈にとって、どうでもいい事なのだった。
どうせこれで最後なのだ。それに元々自分は皆の為になんて考える柄ではない。
どれだけ後ろ指を指されようと、己のエゴを貫かせてもらう。
既に彼女はその決意を固めていた。
「貴方の共犯者になってあげる」
顔も知らない他の対主催よりも、目の前の少女に肩入れする。
この生きたいと希う少女を独りにしたくない。
何も持っていないというなら、何もかも差し上げる。
アリスゲームの結末を見た事で、水銀燈はそう思ったのだ。
「だから」
ローザミスティカが浮き上がり、クロエの胸に沈み込んで溶けていく。
薔薇乙女の魂を受け入れるに十分な聖杯の機能(そしつ)が彼女にはあった。
雪華綺晶のローザミスティカは先んじてクロエの体内に吸収され。
残る一つ。自分自身のローザミスティカすら水銀燈は迷うことなく。
「だから、泣かないで」
ぼろぼろと涙を流す、クロエ・フォン・アインツベルンに捧げた。
そして、彼女の泣き顔を目に焼き付け、微小を浮かべたまま。
誇り高きローゼンメイデンの第一ドールは、その瞼を閉じた。
-
◆ ◆ ◆
今しがた自分が殺した人形から渡された宝石。
それを体内に取り込んでから気づく。
傷が癒え、力が溢れてくる。だがそれ以上に重要なこと。
己の体内で、魔力が生成されている事に。
尤も、それはただ存在するだけで目減りしていく魔力を自己回復できる様になっただけで。
魔力が尽きれば即消滅するという体質自体はそのまま。
つまるところ人間未満の、魔力の塊である事に変わりはないのだった。
だから、これからもクロエ・フォン・アインツベルンはマーダーだ。
きっと、優勝して願いを叶えるか。誰かに倒されて泡のように消え失せるその時まで。
なのに。それなのに。
「どうして……私に、私なんかに………っ!」
どこまでも身勝手で、殺しあった仲で、助ける義理なんて何処にもないのに。
何故……勇者を自称する少年も。黒薔薇の人形も。
自分に優しくするのだろうか。自分には、その優しさを受け取る資格なんて無いのに。
どうして出会ったばかりの他人に、自分の命に等しい物を差し出せたのか。
クロエには全くもって分からなくて。どうしようもなく心が軋んだ。
「決まっているじゃない。お姉さん」
俯き、消え入りそうな声で紡いだ問いかけの応える者がいた。
クロエの同盟者であるグレーテルが、何時の間にやら隣に現れていた。
無邪気で美しい微笑を浮かべ、むせ返るような死臭を漂わせ。
生首を一つ、髪の毛を掴んだ状態で立っていた。
「貴方が、またリングを回せたからよ」
殺した分だけ、命を増やせる。
グレーテルの掲げる狂った論理は、この時に限っては的を射ているかもしれない。
殺し合いに勝利し、その戦果として物言わぬ人形に生命を与える宝石を手に入れた。
それは正しく、グレーテルの掲げる信仰そのもので。
殺人鬼の狂気から来る言葉だと切り捨てることはできなかった。
だから否定することなく黙ったまま、胸に手を当ててクロエは考える。
そんなクロエを尻目に、グレーテルは辺りに散らばった支給品の回収を始めた。
(胸の奥、熱い……)
聖杯としての機能。
過程を省略して、望む結果を導く権能。
その能力によって、ある一つの確信を得ていた。
この宝石は、本当に優勝を目指すなら取り込むべきではないと。
取り込んだままいれば、何時か決定的な事態を引き起こす、と。
それならば効率は半減するが、取り込まずとも所持するだけで魔力の回復効果は見込める。
体内に取り込むよりは、リスクを遥かに低減する事が可能だ。
だから、優勝を目指すなら取り出しておくべき。そこまで考えて。
「──やめた」
その結論に至った理由は、特にない。
強いて言えば、直ぐにどうこうなる物でもない。
慌てて取り出さずとも、その時が来る前に取り出してしまえば良い。
そう結論付け、クロエ・フォン・アインツベルンは、薔薇乙女の魂を手放さなかった。
使える物は使うという合理的な判断。そこに他意はない。
-
「お姉さん泣いてるの?悲しいのかしら」
支給品の回収が終わったのか。
揶揄うように笑って、グレーテルがクロエの顔を覗き込んできた。
その手に、五歳ほどの童子の生首を携えて。
問いかけに無言で首を横に振って答え、彼女が抱える生首に視線を移す。
生首は筆舌に尽くしがたい責め苦を味わったと言う様に、苦悶の表情で事切れていた。
自分が作り上げた“作品”が見られている事を感じ取った“厄種“は、得意げに。
「あぁ、これ?上手くできてるでしょう。一杯一杯“練習“できてとても楽しかったわ!
お姉さんと違って狩りは出来なかったけど…やっぱり肉を引き裂く方が私は好きね」
薄い胸を張り、スカートを僅かにたくし上げて。
まるで新しく卸した靴を自慢する少女の様に、装着された義足を見せつけてきた。
彼女の手の中の少年が、遊び殺された事は想像に難くなかった。
「………そう」
クロエはグレーテルの事を狂った殺人鬼だと思っていた。否、今でも思っている。
でも、同時に今は少しだけ……彼女の境遇が理解できてしまった。
罪のない人を殺してしまった今なら分かる。こんなもの、正気ではやっていられない。
(この子はきっと───)
壊れずにはいられなかったのだろう。
狂わずにはいられなかったのだろう。
人の死を楽しめる様になるしか、生きていく術がなかったのだろう。
被害者から加害者になるしか、今日まで生きる事を許されなかったのだろう。
「キス……」
垣間見えてしまった、厄種の少女の本質から目を逸らすように。
生首からグレーテルの瞳に視線を戻して、ぼそりと呟く。
ローザミスティカから魔力を自己補完できるようになった以上、
もう粘膜接触による魔力供給はやる意味が希薄なのだが。
それでも、クロエは同行者の少女にそれを求めた。
「いいわよ。…ねぇお姉さん、知ってる?キスだけですっごく気持ちよくなる方法。
口の中にもそう言うツボがあるのよ。私は沢山沢山練習して知ってるから…
さっきは溺れてちゃんとできなかった分、今度は愉しみましょう?」
キスだけで相手を絶頂させたら勝ち。
先に絶頂を迎えた敗者は、明日の朝には冷たくなっている。
そんな悪意を煮詰めた夜を、彼女は何度も何度も何度も何度も越えてきたのだと言う。
「───大丈夫。嫌なこと、泣きたくなる事は…全部忘れさせてあげるから。クロ」
クロエの頬に手を当てて、慈しむように微笑を浮かべるファム・ファタール。
狡いと思った。
もう壊れきっているくせに。狂った人殺しのくせに。
こんな時だけ人の心を持っていた時の残り滓(レムナント)を見せてくるなんて。
そう感じながら、顔を近づけてくる少女の唇に、クロエは人差し指を一本立てる。
「…その前にその血生臭い服着替えなさい。あっちの方にブティックがあったから」
「まぁ!強請ってきたのはクロなのに酷い!
………でも、そうね。着替えはしたい所だったし、案内してもらえる?」
-
梯子を外す様な発言に、少しむくれた顔をするが。
直ぐにまた無邪気な子供らしい笑顔に戻って、見つけた服屋に案内するよう促してくる。
素敵な黒のドレスがあるといいわね。
そう言ってスキップで歩くグレーテルの顔は本当に年相応の少女の様で。
つくづく狡いと思う。そして、それ以上に彼女を見ていると。
──あの度を超えた馬鹿さ加減には……私は一口賭けても良い。
無理よ。
そう思った。
イリヤやニケ君がどう思おうと…この世界は戦わなければいけない。
殺さなければ、生き残れない。
だって、生きるという事は戦う事だから。
戦って、相手の命を奪って生きるという事だから。
目の前の少女が、それを証明している。
颯爽と登場するヒーローは現れず。
被害者と加害者は曖昧で、状況は少しずつ深刻化し、気づけば出口は塞がっている。
この島は、ひょっとすればこの島の外すら。そんな泥の様な闇の底だ。
どれだけ煌めく理想を掲げた所で、それが決して覆せない現実。
あぁ、でも……そうであるのなら。
───誰もひとりにしないこと────
知りたくなかった
世界に希望などないのだと、思う事ができればよかった。
自分は絶望する為に生まれてきたのだと思えればよかった。
そうであれば手を汚す前に、潔く消え行く事も良しとできたかもしれない。
でも、クロエ・フォン・アインツベルンは知ってしまった。
知ってしまったからこそ。
届かぬ星を目指し、抜け出せない泥の底で今も足掻いている。
決して自分には抜け出せない地獄の中にいると知りながら。
それでも尚少女は、明日を夢見る事を諦められない。
【坂ノ上おじゃる丸@おじゃる丸 死亡】
【水銀燈@ローゼンメイデン 死亡】
-
【F-6/1日目/午前】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:魔力消費(中)、自暴自棄(極大)、 グレーテルに対する嫌悪感と共感(大)、罪悪感(極大)、ローザミスティカと同化。
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師、ローザミスティカ×2(水銀燈、雪華綺晶)@ローゼンメイデン。
[道具]:基本支給品、透明マント@ハリーポッターシリーズ、ランダム支給品0〜1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら、グレードアップえき(残り三回)@ドラえもん
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
0:…何で、私の為に。
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君…何やってるんだろ。
6:コイツ(グレーテル)マジで狂ってる。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。
※ローザミスティカを体内に取り込んだ事で全ての能力が上昇しました。
※ローザミスティカの力により時間経過で魔力の自己生成が可能になりました。
※ただし、魔力が枯渇すると消滅する体質はそのままです。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!、走刃脚@アンデットアンラック
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品3〜6(リップ、アーカード、魔神王、水銀燈の物も含む)、エボニー&アイボリー@Devil May Cry、アーカードの首輪。
ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵の首輪、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、
戦雷の聖剣@Dies irae、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!、魔神顕現デモンズエキス(2/5)@アカメが斬る! 、
バスター・ブレイダー@遊戯王デュエルモンスターズ、真紅眼の黒龍@遊戯王デュエルモンスターズ、ヤクルト@現実、首輪×6(ベッキー、ロキシー、おじゃる、水銀燈、しんのすけ、右天)
[思考・状況]基本方針:皆殺し
1:兄様と合流したい
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。やっと一人だけど、まだまだ遊びたいわ!
7:聖ルチーア学園に、誰かいれば良いけれど。
8:水に弱くなってる……?
[備考]
※海兵、おじゃる丸で遊びまくったので血塗れです。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。
【バスター・ブレイダー@遊戯王DM】
水銀燈に支給。
星7/地属性/戦士族/攻2600/守2300
このカードの攻撃力は、相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×500アップする。
一度使用すれば12時間使用不能となる
-
投下終了です
-
投下ありがとうございます!
お……おじゃる丸ッッ!!!
正直なとこ、何だかんだでなあなあと終盤位まで生き残るのかなと思っていたので、おじゃる丸脱落はとてもショックですね。
マヤちゃん曇らせたり、魔神王をブタ化させたり色々やらかしてるんですけど、何もこんな死に方しなくてもとなる。
そんな、生首になっちゃうなんて……。
大気圏突破に耐えうる電ボなら、こんなことには……。
>シャクも三日くらいなら返してもよいから
うーんこの……。
銀様、間違いなくおじゃるよりクロのが好感度高いのは、ちょっと草。
でも確かに、めぐに生きていて欲しかった銀様にとっては、生きる為に戦うクロの背を押してしまいたくなるのかもしれませんね。
しかもあの未来の結末を見てしまえば、モチベも落ちて止めを刺せなくなるのも、それはそう。
この時期のクロは銀様と同じで、自分が捨てられた娘だと思ってる訳ですしね。銀様と通じる点は多い。
銀様とクロのやり取りを自分の信仰に絡めて、正当化するグレーテル。完全に頭のおかしいカルト。
着実にクロ×グレーテルの百合度が深まってきていますね。
イリヤも対抗して、美柑とチューして欲しいかもしれない。
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