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お気に入り作品・バトルロワイアル

1 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/02(火) 01:43:19 Mrkv9Thg0

【魔法少女まどか☆マギカ】 5/5
○鹿目まどか/○暁美ほむら/○美樹さやか/○佐倉杏子/○巴マミ

【魔法少女リリカルなのはA’s】 4/4
○高町なのは/○フェイト・T・ハラオウン/○ヴィータ/○八神はやて

【ONE PIECE】 4/4
○モンキー・D・ルフィ/○ロロノア・ゾロ/○サンジ/○ギルド・テゾーロ

【岳-みんなのやま-】 3/3
○島崎三歩/○椎名久美/○阿久津敏夫

【鋼の錬金術師】3/3
○エドワード・エルリック/○アルフォンス・エルリック/○キング・ブラッドレイ

【バトル・ロワイアル(漫画版)】 3/3
○七原秋也/○桐山和雄/○川田章吾

【ベルセルク】 3/3
○ガッツ/○グリフィス/○ゾッド

【アイドルマスター】 2/2
○天海春香/○プロデューサー(赤羽根P)

【アイドルマスター シンデレラガールズ】 2/2
○島村卯月/○プロデューサー(武内P)

【アニメキャラ・バトルロワイアル】 2/2
○セイバー/○シグナム

【アベンジャーズ】2/2
○スティーブ・ロジャース/○トニー・スターク

【ヤマノススメ】 2/2
○雪村あおい/○倉上ひなた

【アニメキャラ・バトルロワイアル 2nd】 1/1
○ロイ・マスタング


36/36



※当ロワは非リレーとなります。


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2 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/02(火) 01:44:43 Mrkv9Thg0
オープニング投下します。


3 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/02(火) 01:46:09 Mrkv9Thg0
「目が覚めたかしら」

 声が、聞こえた。
 抑揚のない女性の声。
 人々は視線を向けた。
 誰もが誰も、それぞれの感情を瞳に映して、声の方をみる。
 そこには女性が立っていた。
 電灯の一つとついていない暗闇の部屋で、唯一光を浴びる者が彼女だった。
 年齢は30ほどか。美人といってもいいだろう整った顔立ちは、だが疲労に染まっていた。
 女性は力のない瞳で人々を見渡しながら、言葉を続けた。


「私はプレシア・テスタロッサ。この殺し合いを取り仕切る者よ」



 人々の中のほんの数人が、息をのむ。
 プレシアと名乗った女性は意にも介さず、続けた。


「今からあなた達には殺し合いをしてもらうわ。ここにいる39名の中で生きて帰れるのは、たった一人だけ。
 生き延びたければ、殺しなさい。自分以外の全てを」


 ざわざわと、困惑が広がる。
 人々は口々に思い思いの言葉を叫んだ。
 言葉は次々に溢れだし、遂にはとめどないものとなる。
 音が渦となり、もはや収集はつけられないほどに膨れ上がるが、プレシアは涼しい顔をしていた。
 ただ、パチリと指を鳴らしただけだった。
 狂騒に包まれた人々はプレシアの所作に気付くことはない。
 人々は気付かない。
 ピピピと、小さな電子音が彼等の中で鳴り始めた事に。
 電子音は人々の声にかき消されてしまっている。
 唯一、その発信源に立つ人間だけが気付く事ができた。
 一人だけが知る電子音は静かに静かに鳴り続ける。
 そうして数秒。
 次いで発生した出来事には、皆気が付くことができた。
 ボン、という軽い音と共に、何かが生暖かい飛沫が人々を濡らしたのだ。
 ふと、電気が灯される。
 そこにあったのは凄惨な光景であった。
 あるべきはずの首を無くし、断面から大量の鮮血を撒き散らす者がいた。
 甲高い悲鳴が何重にも織りなって、湧き上がる。
 死体を避けるように円形のスペースが出来上がる。
 その中心で、死体は自らの鮮血の中に倒れ伏した。


「あ……あああああああああああああああああああああ!!!」


 誰も近付こうとしないそれに、唯一駆け寄る少年がいた。
 ウェーブがかった長髪を揺らしながら、首を無くした死体を強く抱き締める。
 視線の先には、本来ならば胴体に繋がっていなければならない筈の生首があった。
 それは、年端もいかない少女のもの。
 よくよくみると死体の服装もどこかの学校の制服である。
 まだ学生でしかない若い命が無惨に、いとも容易く散っていた。


4 : 始まりの惨劇 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/02(火) 01:46:44 Mrkv9Thg0
 


「典子さん……典子さん!! 嘘だ、嘘だあ、ああ、あああああああああああああああ!!!」


 知り合いだったのだろう、少年は少女のものであろうか名前を叫び、慟哭する。
 悲惨な光景に、悲痛な少年の叫びに、人々は言葉を失った。
 ある者は恐怖を、ある者は同情を、ある者は虚無を、ある者は憤怒を。
 それぞれの感情を宿しながら、人々は惨状を見る。


「分かってくれたかしら? その首輪がある限り、あなた達に脱出の術はない。
 あなた達が生き延びるには、この殺し合いに勝利するしかないわ」


 対するプレシアの表情は微塵も変わる事がなかった。
 鮮血を撒き散らして死亡した少女も、悲しみに押し潰される少年すらも視界には入っていない。
 ただ淡々と言葉を続けていく。
 殺し合い―――バトルロワイアルの説明を。


「時間制限はなし。あなた達の装備品は最低限のものを除いて、回収させてもらっているわ。
 支給品としてランダムに配布するから、精々うまく活用してちょうだい」


 人々の数人が己の装備をみる。
 確かに本来もっていた筈の得物は既になく、彼等の表情が曇った。



「次に禁止エリアの説明ね。この殺し合いの会場……は、縦をAからJ、横を1から10までのマス目で区切ってあるわ。
 時間ごとに一つの区域が禁止エリアとなり、一定時間以上入ったら首輪が作動する仕組みになるから注意しなさい。
 あと海からの脱出は考えないことね。試してみても良いけど、無駄に命を散らすこととなるわよ。
 時間制限は無し。食料も充分に支給するから、全力で殺し合いをしてちょうだい」
 


 一息に説明をし、人々を見渡す。
 敵意に満ちた視線を一身に受けながら、涼しい顔で立ち尽くす。


「どうして……」

 唐突に声があがった。
 金色の鮮やかな髪を腰まで垂らした少女。
 少女は悲しげに眉を寄せて、プレシアを見詰めた。


「どうしてこんな酷いことをするの、母さん……」


 抑えきれないように少女は言葉を紡ぐ。
 プレシアは、微動だにしなかった。
 冷たい表情と視線で、ただ己を母さんと呼んだ少女を見下ろす。
 そして、直ぐに視線を外した。
 まるで何もなかったかのように、少女の存在を無視する。


「説明は以上よ。さぁ、殺しあいなさい。己の全てを賭けて」



 再度、人々を見渡して、プレシアは高らかに宣言する。



「殺し合い―――バトルロワイアルを、始めるわ」



 バトル・ロワイアルの開催を、告げる。 



【お気に入り作品・バトルロワイアル  開始】
【主催者:プレシア・テスタロッサ@リリカルなのは】

【中川典子@バトル・ロワイアル(漫画版)   死亡】
【残り 36名】


5 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/02(火) 01:48:42 Mrkv9Thg0
投下終了です。
当ロワは非リレーとなります。
またモチベーション維持のため、某ロワを見習って指名制を踏襲したいと思います。

>>6
参加者名簿の中から、次話で登場させたいキャラを一人指名してください。


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6 : 名無しさん :2016/08/02(火) 06:37:52 kNtaf9Ts0
ゾロ


7 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/04(木) 22:19:58 NTwyVfeA0
ロロノア・ゾロ、雪村あおい、投下します。


8 : 海賊狩りと女子高生 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/04(木) 22:21:20 NTwyVfeA0
「殺し合いね。面白ぇじゃねえか」

 口元に不敵な笑みを浮かべつつ、ロロノア・ゾロは暗い森の中で一人呟いた。
 突然として開始された殺し合い。首元には天竜人が奴隷につけるそれのような首輪がある。
 死が直ぐそこにある状況を前に、それでも彼は笑みを浮かべる。
 思い浮かべるものは、先の場でのこと。
 彼の『覇気』は捉えていた。
 あの場にいた人々。
 暗闇にあり良くは見えなかったが、相当な実力者が一人、二人と揃っていた。
 そして、壇上で語っていた女性もまた実力者。
 自分を更なる高みへ連れていってくれる者がいると思うと、血がうずくのを抑えきれなかった。


「とはいえ、まずは刀だな」


 ロロノア・ゾロは世にも珍しい三刀流の剣士として知られている。
 その名を聞けば、屈強な海賊ですら縮みあがるほどの実力があり、かの『新世界』にすら名を轟かせる。
 だが、今現在ゾロの腰には一本の刀すら掛かっていない。
 先の場でプレシアが言ったとおりに全て没収されてしまったのだ。


「おれの刀に手ぇかけたんだ。覚えてろよ」


 木々の合間から見える夜天に向けて言葉を零し、歩き出す。
 行くあてはない。ゾロの仲間たちもこの場にいるが、特に心配はしていなかった。
 サンジ。麦わら海賊団を支えるコックにして、戦闘力もゾロやルフィに次ぐ実力者。
 モンキー・D・ルフィは言わずもがな。
 かのドンキホーテ・ドフラミンゴすらも打ち倒し、五億の懸賞金と共に『新世界』に君臨した『最悪の世代』の一人だ。
 あの二人がそう簡単にくたばる訳がないのは、ゾロが誰よりも知っていた。
 鬱蒼と生い茂る森林。
 満点の星空と満月が地面を照らすが、木々に阻まれて視界は悪い。
 そんな中をゾロは平然とした足取りで、あてもなく進んでいく。
 歩き始めて数分。
 彼の『覇気』は自分以外の人物を察知した。
 森林の只中、動かずに留まり続ける存在があった。

「さぁて、どんな奴が出てくるか」

 猛獣のような獰猛な笑みを浮かべて、彼は気配の方向へと進む。
 刀の無い状態ですら修行の一環だといわんばかりに堂々と近付いていく。
 気配の先には直ぐに辿り着いた。

「うっ……うぅっ……」

 森林の最中、木の根の間に収まる様に座っている少女がいた。
 少女はゾロの接近にすら気づかず、恐怖に涙を流して縮こまっている。
 肩透かしを食らったゾロは失望を溜め息と共に吐き捨てた。

(話しかけても面倒になりそうだ……気付いてねぇようだし離れるか)

 自分の強面は、ある程度自覚している。
 ここで、恐怖に呑まれている少女へ声を掛けたところでパニックになるか、余計に怖がらせるだけだ。
 見知らぬ少女を助ける義理がある訳でもなし。
 何も言わずに立ち去るのが吉であろう。
 ゾロは踵を返して、その場から離れ始めた。


9 : 海賊狩りと女子高生 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/04(木) 22:22:38 NTwyVfeA0


「ううっ……怖いよぉ、ひなたぁ……」


 だが、と彼の足が止まる。
 背中に突き刺さる少女の泣き声が、これ以上進むことに歯止めを掛ける。
 海賊という悪行を生業にしているとはいえ、ゾロは冷血漢という訳ではない。
 女子どもは斬らないし、堅気に手を出す事はしない、曰く義侠心を持っている。
 その心が、少女を捨て置くことを良しとしなかった。

「……チッ」

 悩まし気に頭を掻きながら、舌打ちと共に振り返る。
 少女の元へと近付き、その正面へと立ち塞がった。

「おい」

 ぶっきらぼうに声を掛ける。
 それでようやく少女も気付いたのか、泣くのを止めて視線をあげた。
 そこに立つのは目付きの悪い隻眼、短髪緑髪の金色ピアス男。
 突然の声掛けに驚いた表情は、見る見るうちに恐怖へと移り替わっていく。
 あまりに予想通りの反応がゾロを待っていた。


「きゃ―――」
「叫ぶな」


 少女が絶叫を迸らせるより早く、ゾロはその口を塞いだ。
 顔を近付き、声を潜めて、少女へ語り掛ける。

「おまえを斬りにきた訳じゃねえ。死にたくなきゃ黙ってついてこい」

 少女はこくこくと凄まじい勢いで首を縦に振る。
 脅し文句といい、傍から見ると完全に脅迫に掛かったヤクザなのだが、ゾロは気付かない。
 ここに彼の仲間であるコックがいれば、レディの扱いがなってねえとそのまま喧嘩に発展しそうな程に酷い対応である。

「手ぇ離すぞ。叫ぶなよ」

 再度の肯首。
 刃向えば殺されるとまで少女は思っている様であった。
 手を離すが、叫ぶこともなく従順にゾロに従った。


「おまえ名は?」
「ゆ、雪村あおい、です……」
「おれはロロノア・ゾロだ。おまえを安全な所まで連れてく。勝手な真似するんじゃねえぞ」
「は、はい!」


 言いながら歩き始めるゾロ。
 少女―――雪村あおいも黙ってそれについていく。
 逃げ出したい気持ちで一杯ではあるが、下手をして逆鱗に触れるのも怖い。
 今はゾロが隙をつくるのを伺いつつ、従うしかなかった。


10 : 海賊狩りと女子高生 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/04(木) 22:23:06 NTwyVfeA0


「おい、お前」
「は、はい!」
「刀、もってねえか?」
「か、刀……」


 唐突に投げかけられた物騒な問いに、あおいの顔が青ざめる。
 彼女の認識としては、刀=人殺しの道具だ。
 ゾロが三刀流の剣士だということを知らない彼女には、何故そんな物騒な質問をいきなりしてきたのか分からない。

(か、刀があったらどうするんだろう……ま、まさか……奪われた末に、殺される!?)

 生来のネガティブな思考に異常な現状が相乗され、最悪の未来を想像してしまうあおい。
 実を云うと彼女のデイバックには刀が―――しかも彼の愛刀の内の一本が入っているのだが、こうなっては言いだす事はできない。
 首を何回も横に振り、必死に刀が無いアピールをするしかなかった。

「な、ないです! そ、そんなもの微塵も少しも持ってません!」
「そうか。もし見かけたら教えてくれ」

 ゾロも人を疑う性質でない。
 落胆する様子もなく、すんなりとあおいの言葉を信じ、前を向き直る。

(し、信じてもらえたのかな? よ、良かったあ……)

 ほっと肩をなでおろしながら、あおいは思考する。
 危機が去った訳ではない。
 何とかこのヤクザっぽい人から逃げ出さねば、いつどんな事をされるのか分かったものじゃない。
 立ち向かったところで勝ち目はないし、逃げ出したところで見つかってしまえば終わりだ。

(何とか機嫌を損ねないようにして、隙を見て逃げ出さなきゃ……!)

 雪村あおいは決意を漲らせながら、ゾロの後ろを付いていく。
 海賊狩りと女子高生。
 凸凹な二人が夜の森林を進んでいく。



【深夜/F2・森林】
【ロロノア・ゾロ@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3(刀類はなし)
[思考・状況]
0:強いやつと戦う。堅気は斬らない。
1:刀を探す
2:あおいを安全な場所まで送る
3:ルフィ達と合流する


【雪村あおい@ヤマノススメ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、秋水@ONE PIECE
[思考・状況]
0:怖い。死にたくない。
1:ゾロが怖い。ゾロから逃げ出したい
2:ひなたと会いたい


11 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/04(木) 22:23:54 NTwyVfeA0
投下終了です。

>>12
次話で登場させたいキャラを選択してください。


12 : 名無しさん :2016/08/04(木) 23:23:29 xOU/9j360
投下乙です
ゾロ、その対応は勘違いされても仕方ないw
サンジが見たら怒りそうだ

スティーブ・ロジャースを指定します


13 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/06(土) 01:29:53 ZasX66Oc0
スティーブ・ロジャース、グリフィスで投下します。


14 : 男は光へと手を伸ばす ◆YJZKlXxwjg :2016/08/06(土) 01:32:01 ZasX66Oc0
 スティーブ・ロジャースは険しい表情を浮かべて、一枚の紙を睨んでいた。
 自身を含めて36の名が連ねられた用紙。『参加者名簿』と記されたそれを脳に刻み込むかのように繰り返し目を通す。
 思い出されるのは、先の場にてプレシア・テスタロッサと名乗った女性が語ったことであった。
 36名もの人物からなる殺し合い。人々を縛る爆薬入りの首輪。
 生殺与奪の権利を奪われた状態で殺し合いが強制される状況。
 恐怖で縛り、脅し、強制的に人々に殺し合いをさせる状況。
 憤りがこみ上げるのを抑える事ができなかった。
 湧き上がる感情を表すかのように、拳が強く強く握られる。
 彼の選択に迷いはない。
 『ヒーロー』としての使命感からでは決してない。
 彼がそうしたいと思うから。
 スティーブ・ロジャースとして、そうしたいと思うから、彼はその信念に従って動く。
 相手がどれほど強大な存在であろうと、どれだけ劣勢な状況であろうと、彼は変わらない。
 その力でもって弱きを助け、強きを挫く。

(殺し合いを止めなくては……!)

 デイバックを漁るも武器はなかった。
 彼の象徴たる盾もなく、拳銃の一つとして入ってはいない。
 それでも彼の眼光は些かも揺らぎはしない。
 武器があろうとなかろうと、相棒たる盾があろうとなかろうと成すべき事に変わりはないからだ。
 殺し合いを止める。
 その一点に彼の意識は集約される。
 あったのは小型のサバイバルナイフが一本。
 それをベルトの間に挟んで、スティーブは走り始める。
 筋肉という鎧に包まれた強靭な肉体が、人間離れした速度でもって進んでいく。

(トニーもこの場にいる、か)

 五感を全開に研ぎ澄まし参加者の気配を探りながら、スティーブは思考する。
 名簿にあった盟友の名。トニー・スターク。
 とある出来事により離れ離れで活動する事になったが、まさかその矢先にこんな事件に巻き込まれるとは思わなかった。
 スティーブはトニーを信頼している。
 彼ならば必ずこの首輪を何とかしてくれる筈だし、殺し合いを止めるために奔走してくれる筈だ。

(……だが、彼が僕を信頼してくれるかどうか……)

 だが、一抹の不安はある。
 スティーブとトニーの関係はかつてのように単純なものではない。
 トニーがスティーブに対して恨みの感情を有している事も大いに有り得る。
 悪意はなく、それが良かれと思っての選択であったとしても、スティーブがトニーを傷付けたのは確かな事実であった。
 彼が、かつてのようにスティーブを受け入れてくれるとは限らない。

(考えても仕方のないことだ……今は皆を助けることに集中しよう)

 頭を振り、嫌な考えを振り切る。
 思考を集中させ、前に向き直る。
 すると前方の森林が途切れ、明るくなっている事に気付く。

(森林地帯を抜けたか。確かこの先は……)

 先にあったのは海辺の断崖だった。
 引いては寄せる波が岸壁にぶつかり合い旋律を奏でる。
 満月と星空に照らされる水平線を見るが、ただ延々と海原が続くだけであった。
 崖下では岩と波がぶつかり合い、不規則な海流を作っている。
 スティーブの身体能力ならば飛び降りる事も数キロを泳ぐ事も可能だろうが、その先に脱出への道が開けているかは分からない。
 ともかく首輪がある以上、安易な行動をとる事はできなかった。

(孤島か。集団を閉じ込めるにはまたとない場所だな)

 海岸線に沿いながら、歩みを進める。
 開けた場所ではあるが右手は海で左手は森林。
 前後の海岸線に人が隠れられるスペースはなく、狙撃や奇襲などはそれにくい立地である。
 とはいえ警戒を緩める事はなく、スティーブは足を動かしていく。
 視界の果てには暗闇に浮かぶように灯台がある。
 光も灯っていないそれは星空の中で切り取られたように影を見せていた。
 波音だけが続く海岸線を歩き続けると、半時間とせずに灯台へと辿り着く。


15 : 男は光へと手を伸ばす ◆YJZKlXxwjg :2016/08/06(土) 01:32:36 ZasX66Oc0

(ここも人の気配はない、か)

 灯台には隣接する形で小屋が建っており、入口はそこにしかなかった。
 扉を潜ると廊下といくつか部屋があった。
 キッチンや冷蔵庫、ソファなどが並んだ生活感のある部屋。
 その先には簡易のベッドが一つ設けられた仮眠室。更に先をいくと灯台へと続く扉と螺旋階段がある。
 周囲に耳を傾けるも、やはり波音が遠くから聞こえるだけであった。
 呼吸音、足音、衣擦れの音……人の活動を感じさせるものはない。

(……いや、これは……)

 だが、小屋に入ると同時にスティーブの鋭敏な五感が告げていた。
 歴戦の兵士としての嗅覚と表しても良いかもしれない。
 スティーブは直ぐさま理解し、警戒を更に高めた。

(ここで……何らかの争いがあったようだな)

 目に見える痕跡はない。
 家具は新品同然であるし、床や壁も綺麗そのものだ。
 だが、決して拭い切れない死臭が、そこにこびりついている。
 常人ならば気付かぬほど小さなものだが、確かにそれは部屋に充満していた。

(僕達よりも先にここで殺し合いをさせられた者達がいるのか……!?)

 自分達以外にもこのような殺し合いをさせられた者がいる。
 あくまで予想でしかないが、もしそうだとしたらあのプレシアという女性は一体何なのか。
 何が目的でこんな殺し合いをするのか。何が目的でこんな殺し合いを繰り返しているのか。
 再び憤りが浮かぶのを抑えられなかった。

「くそっ……!」

 吐き捨て、灯台へと続く扉を潜る。
 螺旋階段にも人の気配はない。
 スティーブは先へと進んでいく。
 そして、展望台へと辿り着いたその時だった。


「あ……」


 彼はこの場に於いて初めて他の参加者と出会う事になった。
 男は、こんな殺し合いの場だというのに一切と警戒する様子もなく佇んでいた。
 展望台の柵に腰掛け、 ウェーブがかった艶やかな白髪を風に揺らし、自然体の様子で虚空を見ている。
 錯覚だろうか、男を取り囲むように星々とはまた別の輝きが五つ揺らいでみえる。
 その五つの輝きは光の尾を引きながら、くるくると男の周囲を飛びかう。
 まるで宗教画のような荘厳なその光景に、スティーブをもってして吸い込まれるような感覚を覚えた。 

『ありがとう……』

 不意に女性の声が聞こえた。
 スティーブが驚愕に目を見開いていると、更に信じられないような光景が続いた。
 五つの輝きが、人の形を成したのだ。
 制服を着た東洋系の少女たち。彼女等は手を取り合い、暖かい涙を流しながら互いに笑い合っていた。
 にっこりと、嬉しげな笑みを浮かべて、そして輝きが徐々に収まっていき、遂には消えていく。
 場に残されたのはスティーブと白髪の美青年だけであった。


16 : 男は光へと手を伸ばす ◆YJZKlXxwjg :2016/08/06(土) 01:33:14 ZasX66Oc0

「君は……」

 スティーブは困惑していた。
 目の前で繰り広げられた信じられない出来事もそうだし、何より青年自身に戸惑っていた。
 まるで神話の世界から現界したかのような存在感。スティーブですら畏敬を感じてしまう程だ。

「ここではかつて殺し合いがあったようだ。俺達と同じ様な殺し合いが」

 虚空を見詰めたまま、青年は静かに語りだした。
 言葉の一つ一つが心の奥深くへと染み渡り、言い知れぬ安堵感をもたらす。
 ずっとこの声に耳を傾けていたくなる。まるで一流のクラシックを聴いているかのような感覚であった。

「彼女達はこの灯台で疑心暗鬼の末に殺しあった。元は親友同士だったのにだ」

 男の言葉に合点がいった。
 スティーブが感じた殺し合いの匂いとは、その少女達の事なのだろう。

「私は殺し合いを止める。あなたはどうする?」

 その時初めて男の視線がスティーブを捉えた。
 吸い込まれるような透き通った、穢れの欠片もないような瞳。
 スティーブは殆ど無意識に口を動かしていた。

「僕も……そうだ。殺し合いを止めたい」
「ならば、力を貸していただきたい。この殺し合いを止めるための力を」

 男がスティーブへと手を伸ばす。
 スティーブもまた、男のその手を拒まなかった。
 たった一言、二言を交わしただけの男に、強い信頼を覚える自分がいたのだ。

「僕で、よければ」
「百人力だよ、キャプテン」

 殺し合いの打開という共通の目的と正義を掲げ、二人の男が手を取り合う。
 それは人間と神との邂逅のようなものであった。
 キャプテン・アメリカとして飽くまで人の身として様々な困難に立ち向かってきた男と、絶対者として人知を越えた流れを導き絶望の世界に光明を灯した男。

「私はグリフィス。あなたは?」
「僕はスティーブ・ロジャース。よろしく頼む」

 ここに二人の男が手を取り合った―――。



【深夜/C10・灯台】
【スティーブ・ロジャース@アベンジャーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、サバイバルナイフ@漫画版バトル・ロワイアル
[思考・状況]
0:殺し合いを止める
1:グリフィスと行動をする
2:トニーと合流したいが……。


【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:????
1:殺し合いをとめる。
2:スティーブと行動する。


17 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/06(土) 01:35:00 ZasX66Oc0
投下終了です。


>>18
次話の登場キャラの指定お願いします。


18 : 名無しさん :2016/08/06(土) 07:39:14 4oo/P4kk0
桐山


19 : 名無しさん :2016/08/06(土) 21:35:38 PFBXTwjY0
投下乙です

キャップはシビルウォー後からの参戦か。社長と和解できるのだろうか
グリフィスは対主催者…だけど不安しかない


20 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/09(火) 20:33:55 f.z.I/cU0
桐山和雄、ロイ・マスタング、モンキー・D・ルフィ、投下します。


21 : 『怪物』 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/09(火) 20:34:49 f.z.I/cU0
 桐山和雄は『天才』である。
 あらゆる分野に対して有り余る才能を有しており、ほんの一目見ただけで対象の技巧を全て模倣できる。
 学業、音楽、芸術、武術……人が創り出した文化の全てが彼の手中にあるといっても過言ではない。
 つい最近、彼の才能が最大限に活かされた出来事があった。
 それの名は、『プログラム』。
 全国からランダムに選ばれた中学三年生のクラスを、隔離されたエリアにて生存者が一人になるまで殺し合わせる催しだ。
 彼は己が圧倒的な才能でもってその戦いに君臨し、席巻した。
 そう、彼の才能は殺し合いの場において存分に発揮されたのだ。
 彼が殺し合いに乗る理由は単純かつ明快なものだった。
 『コインの裏側がでたから』―――ただそれだけの理由で彼は冷徹な殺人鬼へと身を置いた。
 常人離れした身体能力と躊躇の無い行動、機械の如く精密な思考。
 何よりも一度見た技術を模倣できる才覚。
 個で彼に叶うものは存在しなかった。
 拳法の達人であった青年が戦いの最中で成長し、己が極地に辿り着いて尚も、それすら桐山は一目で模倣した。
 おおよそ死神の如く、彼は他に死を振舞居ていった。
 その様子に感情らしきものは存在せず、意志や感情を持たぬ機械のような様相であった。
 だが、その才覚をもってして、彼は道の半ばで死亡する事となる。
 強い団結の心をもった三人の人間に、受け継がれていった意志の前に―――散った。

 その、筈だった。

 気付いた時には、彼はプレシア・テスタロッサと名乗った女性の前にいた。
 彼女の語った大筋は、彼の知る『プログラム』と大差はないものだった。
 二度目の殺し合いが始まらんとする場に於いて、やはり桐山の感情は揺らがない。
 光の灯らぬ瞳で、全てをただ眺めている。
 話の最中で一人の少女が死亡した。
 彼女は先の殺し合いの場にて、彼に敗北を与えるきっかけとなった少女だった。
 そんな少女の死を目の当たりにして、やはり桐山の感情は揺らがない。
 光の灯らぬ瞳で、全てをただ眺めている。
 少女の死に慟哭する者がいた。
 その少年は先の殺し合いの場にて、彼に死を与えた張本人であった。
 そんな少年を見て、やはり桐山の感情は揺らがない。
 光の灯らぬ瞳で、全てをただ眺めている。

「殺し合い―――バトルロワイアルを、始めるわ」


 二度目の殺し合いが開催される。
 最後まで、桐山和雄の感情は揺らがない。
 光の灯らぬ瞳で、全てを眺め、そして彼は再びの殺し合いに降り立った。



 殺し合いの場において、桐山が最初に行ったことは現状の確認だった。
 木々の陰に身を隠し、デイバックの中身を漁る。
 出てきたものは、何の因果か桐山がかつての殺し合いで愛用していたものと同型の機関銃。
 武器としては大当たりの部類だ。
 次に会場の地図を見る。
 地図にも桐山は見覚えがあった。
 これもまた、かつての殺し合いの場であったものと同様だったのだ。
 あの周囲6キロほどの小さな島。今回の殺し合いでもまた、会場として利用されている。
 桐山が今立つ場は、南の山の山頂であった。鬱蒼と生い茂る木々に会場を見下ろす事は叶わないが、隠れるにはうってつけだろう。
 次いで食料と水を確認し、最後に参加者名簿を見た。
 桐山の知る名は二つ。七原秋也と川田章吾の二名のみ。
 二つの名前を無感情に見つめた後、機関銃以外のアイテムをデイバックへと詰め直す。
 そうして装備を整えた後に、桐山は最後の準備へ取りかかった。
 ポケットを探り、回収を逃れたらしい五百円玉を取り出す。
 躊躇いなく桐山はそれを宙空へと弾いた。
 キラキラと光の尾を引きながら落下するそれを、視線で追っていく。
 答えがでたのは一瞬。
 その『結果』を桐山は己の両目で確認し、歩き出す。
 『結果』を知った時も、やはり彼の表情が変わる事はなかった。
 そして、歩き始めて数分が経過した所で、彼は聞いたのだ。
 山中に鳴り響く爆発音と、何かを砕くような強大な音を。
 音のした方角を見やり、行き先を変える桐山。
 彼は爆発音の方角へと進んでいった。


22 : 『怪物』 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/09(火) 20:35:35 f.z.I/cU0






 ―――時は、少しばかり遡る。



「あー、びっくりした。何だよ、おまえ」
「……そうイうおマエも、フザけたシんたいノうりょクをしテイる」


 
 桐山がいる場所からそう離れてはいない森林に、二人の参加者が相対していた。
 一人は赤色のシャツにハーフジーンズを身に纏った麦わら帽子の青年。
 一人は、一言でいうなら異形であった。
 身に纏った黒色の鎧に灰色の肌。
 右腕全体は金属の鱗に覆われ、身体の所々にも金属の鱗が覆っている。
 瞳は鮮血の如く赤く、口には捕食動物を思わせる牙がある。
 異常な容姿の存在に、だが麦わら帽子の男は一切の怯みもない。
 始まりは、一度の爆発であった。
 取り敢えず冒険だ! と森林を駆けていた麦わら帽子に、灼熱の火焔が襲い掛かったのだ。
 麦わら帽子の青年とて、様々な修羅場を潜り抜けてきた猛者である。
 空気中に走った火花を不審に思い、その化け物じみた身体能力でもって回避。
 そして、異形と相対するにあたった。


「おまえ、スゲー身体してんなあ。ロボットみてぇ――――って、まさかロボットーーーー!!?」
「ロぼでは、なイ」


 命を奪われ掛けた直後だというのに、青年はどこまでもマイペースを貫いた。
 男の夢を目の当たりにして、瞳を爛々に輝かせる。
 対する異形は、心中で困惑していた。
 殺し合いの最中に連れてこられた、また別の殺し合い。
 手に入れた力でもって、螺旋王を殺害し、吸収し、変革を巻き起こそうと決意した矢先に、これであった。
 勿論、目指すべき所は変わらない。変えられる筈もない。
 かつてロイ・マスタングと呼ばれていた『人間』は、もういない。
 ここにいるのは悪魔の力を入手し、悪魔の所業に身を焦がす『怪物』だけ。
 止まれない、もう止まれないのだ。


「消エろっ!」


 咆哮と共に右手を掲げる。
 パチリと指と指とを弾き合わせ、火花を形成。
 同時に金属の鱗を操作し手に刻み込ませた錬成陣でもって酸素を操作する。
 直後として、火花は巨大な爆発となって青年を襲う。
 火焔が異形の視界を埋め尽くし、全てを飲み込む。
 物であろうと、人であろうと、一切の区別なく火焔が襲った。


「にししっ、おまえ面白い身体してるけど、やるってんなら容赦しねえぞ」


 だが、青年の身体能力は至近の爆発にすら容易く対応せしめる。
 青年の声が聞こえたのは、異形の真横。
 知覚すら困難なほどの速度でもって、青年はそこへと移動したのだ。

「ッ!?」

 異形が僅かに狼狽を見せた。
 さしもの異形たる存在であってしても、その身体能力は異常の一言だった。
 単純な身体能力であれば、彼が遭遇したどんな人物よりも上等。
 異形の右腕が蠢き、形状を変えて回転式機関砲(ガトリングガン)へと変化する。
 外見だけでない、内装までも機関砲そのもの。人一人に向けるには強大過ぎる火力が麦わら帽子の青年へと放たれる。
 音速を越えて放たれる鉛玉を、青年は避けようともしなかった。
 鉛玉の全てがその全身に吸い込まれていき、青年は衝撃に身体を揺らがせて、無様なダンスを踊る。
 機関砲の直撃。
 原型すら留めず青年は死体と化す―――事はない。


23 : 『怪物』 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/09(火) 20:36:06 f.z.I/cU0
 


「ん〜〜〜〜〜〜〜、きっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」



 弾丸は全て、弾き返された。
 ゴムのように伸びた青年の身体でもって勢いを殺され、ゴムのように縮んだ青年の身体でもって同様の勢いでもって返される。
 弾丸が異形の身体に振り撒かれ、金属の鱗と擦れて、火花と不快音を散らす。
 異形もダメージは負わないものの、眼前に広がった異常な光景に動きを止めた。
 その一瞬。
 青年は凄まじい脚力で地面を蹴り抜き、異形の懐へと潜り込む。
 いつのまにか青年の身体がピンク色に紅潮し、蒸気機関のように煙をあげていた。




「お返しだ! ゴムゴムの〜〜〜〜〜〜〜〜」
「チィっ!!」




 反応が、遅れた。
 連続で続く異常な出来事が、青年の特異すぎる力が、異形の反応を遅らせる。
 左腕の形状を刃状に変化させ振るおうとするが、それよりも早く青年の一撃が直撃する。


「――――JETバズーカ〜〜〜〜〜!!!」


 後方へと投げ出された青年の両腕。
 やはりゴムのように伸び、その伸縮力でもって巻き戻ってきた掌底が、神速でもって異形の腹部へとめり込む。
 衝撃は凄まじいの一言。
 金属の鱗と強靭な肉体で保護されている筈の内臓が、衝撃に悲鳴を上げる。


「ごッハあ――――!!!」


 吐血を撒き散らしながら暗闇の森林へと吹き飛ばされ、消えていく異形。
 誇張でなく異形は空を舞った。
 森林を突き破り、空中に身を躍らせて、数十メートルを吹き飛ばされてようやく地面と再開をした。


「グはァ!!」


 鈍痛に全身が包まれる。
 身体に力が入らず、立ち上がる事すらできなかった。
 凄まじい、本当に凄まじい一撃。
 今回の殺し合いに召集される寸前まで戦闘していた男も相当な打撃を放ったが、麦わら帽子はその男すらも超えているように思えた。

「ク、はハ……」

 だが、痛みの最中にあって、異形は笑った。
 異形は知る事ができたからだ。
 この殺し合いの場にいる強大な敵の存在を、その実力を垣間見る事ができた。


「スさまじイ、力だ……だガ、こレコそが、私に、進化ヲ、アタえる……」


 己を覆う銀色の鱗が蠢いているのが分かる。
 異形は―――ロイ・マスタングは、知っている。
 この金属片は『進化』をするのだと。
 痛みを感じるほど、苦戦を強いられるほど、己を高みへと連れていってくれるのだと。

「モッとだ……もット、ワタしに、力を――――!!」

 地面へ転がったままに、力を求める悪魔が笑い続ける。
 金属の鱗が鈍く光を放ち続けていた。

【深夜/E6・森林】
【ロイ・マスタング@アニメキャラ・バトルロワイアル2nd】
[状態]:腹部にダメージ大(修復中)
[装備]:なし、(DG細胞内にガトリングガン@サイボーグくろちゃん、リボルバーナックル@リリカルなのはStrikerS
   ロイの発火布の手袋@鋼の錬金術師)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:優勝して願うか、ありとあらゆる力を手に入れて現実へ帰還。その力を持って世界に大変革を齎して、新世界の神になる。
1:参加者は、発見しだい半殺しにして取り込む。そして力を吸い尽くし次第捨てていく。
2:どんどん力を吸って、自らを螺旋王に対抗しうるだけの力を持つ生物へ『自己進化』させる。
3:もう迷わない。迷いたくない。


24 : 『怪物』 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/09(火) 20:36:31 f.z.I/cU0




「いや〜、何だったんだ、あいつ」


 グルグルと腕を回しながら、異形が吹き飛んでいった方角を見詰める麦わら帽子の青年。
 青年の名はモンキー・D・ルフィ。かの新世界で名を轟かせる大海賊の一人であった。
 その実力たるや一級品。
 『偉大なる航路』にて数々の島を旅し、その最中で様々な事件を解決し、力を付けていった。
 更に『新世界』に向けての2年の修行を経て、ドレスローザにおけるドンキホーテ・ドフラミンゴとの激突。
 もはや『新世界』の荒くれ者達ですら一目置く存在となった麦わらのルフィ。
 この場に於いても『デビルガンダム細胞』で強化されたロイ・マスタングを相手にして、無傷で撃退せしめた。

「それにしても面白い身体してたなあ、アイツ。ここにはあんな奴が一杯いんのか?」

 ルフィは笑っていた。
 突然に連れてこられた殺し合いの場で、中川典子の凄惨な死を垣間見て、己の首に爆薬を巻き付けられ、それでも笑う。

「にしし、何かワクワクしてきたぞ! よっしゃ、冒険だあ!!」

 彼はかつて言った。
 この海で一番自由な者が海賊王だと。
 青年はそれを体現するかのように、この殺し合いの場に於いても『自由』であった。
 麦わら帽子を深く被り直し、モンキー・D・ルフィが生き生きとした様子で走り出す。



【深夜/D6・森林】
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:ルフィの麦わら帽子@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:島を冒険する
1:肉!飯!
2:ゾロとサンジを探す









 異形と人外の激突。
 桐山和雄は、二人の激戦を影から見守っていた。
 彼の常識からは掛け離れた存在達の戦闘を、それでも桐山は冷静に見ていた。
 冷静に見た結果、彼は一つの結論に至る。
 今の自分では到底奴らには敵わない、と―――。

 ルフィが走り去り、無人となった戦闘の場に近付いていく桐山。
 デイバックから懐中電灯を取り出し、他の参加者から発見され易くなるのを承知で、地面を照らす。
 そうしてから数分、彼はある物を拾い上げた。
 懐中電灯で照らし、それをまじまじと観察する。
 次いで彼は上着を脱ぎ棄て、肌を外気へとさらけ出した。
 右手を胸板の上に置き、何を思ったのか強く強く爪を立てる。
 皮膚が破れ、肉が抉れ、血が滴る。
 数センチほどの傷を自ら作り上げ、彼はつい先刻拾い上げたそれを傷に捻じり込んだ。
 躊躇う様子はない。
 ドクン、と何かが呼応するのを感じつつ、彼は再び服を着て、学ランを肩に羽織った。
 そうして何事もなかったかのように場を後にする。
 彼の表情は終始変わる事はなかった。



 ―――結論から言ってしまおう。
 桐山和雄が行ったコイントスの結果は『裏』であり、彼が拾い、傷に埋め込んだものは『DG細胞の欠片』である。
 そう、今回のゲームに於いても彼は『殺し合いに乗り、優勝を目指す』こととなった。
 そして、彼は目の当たりにする。
 彼の才能をもってしても敵わないであろう、二人の人外を。
 それらの存在を前にして、それでも桐山は思考する。
 どうすれば、アイツ等を殺せるだけの力を得られるのかを。
 思考の結果、到る。
 あの異形を形成していた『何か』を体内に取り込んでみる事を。
 具体的な理屈などは必要ない。
 そこに可能性があるならば、彼はそれを実行する。
 何故なら―――『コインで裏がでた』から。
 たったそれだけのふざけたような理由で、彼は動く事ができる。
 自分を長年慕っていた参謀を殺害する事も、十数人のクラスメイトを殺害する事も。
 常識外にある超常の存在を受け入れる事も、得体のしれない物質を体内に取り込む事も。
 ただ『コインで裏がでた』からという理由だけで、彼は実行に移す事ができるのだ。
 自分の身体が『DG細胞』に浸食されている感覚を味わいながら、自身が人外へと変化していく様を感じながら、それでも彼は揺らがない。
 ただ『優勝を目指す』ためだけに、機械のように動き続ける―――。



【深夜/D6・森林】
【桐山和雄@バトル・ロワイアル(漫画版)】
[状態]:胸部に引っかき傷(修復中)、DG細胞浸食中
[装備]:イングラムM10サブマシンガン@バトル・ロワイアル(漫画版)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
0:殺し合いに乗り、優勝を目指す
1:他の参加者を探し、殺害する


25 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/09(火) 20:37:36 f.z.I/cU0
投下終了です。

>>26
次話で登場させたいキャラを指定してください。


26 : 名無しさん :2016/08/09(火) 22:53:15 6UZeZf4Q0
投下乙です
狂人しかいねぇ…。桐山にDG細胞は恐すぎる
この大佐にニーサン達が会ったらどうなるやら…

フェイト・T・ハラオウンを指定します


27 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/13(土) 19:42:05 qEePaQVw0
フェイト・T・ハラオウン、島村卯月投下します。


28 : 勇気を出して ◆YJZKlXxwjg :2016/08/13(土) 19:43:17 qEePaQVw0
 薄暗い砂浜の上、満点の星空に見下ろされながら、フェイト・T・ハラオウンは茫然と立ち尽くしていた。
 首元を触れれば冷ややかな感触が指を伝わる。
 人に死をばらまく、人を殺しあいの場に縛る、狂気の首輪。
 その感触にフェイトは胸が締め付けられるような思いを感じた。

「……夢じゃ、なかったんだ……」

 あの日、あの時。
 虚数空間へと消えていった母親の姿。
 当時と全く変わらぬ姿と声色で彼女はフェイトの前に立ち、そして絶望を告げた。
 何もかもが分からない事だらけであった。
 何故プレシア・テスタロッサが生存しているのか、何故プレシア・テスタロッサはこんな事件を引き起こしたのか。
 何故、どうしてと疑問符が頭の中を駆けずり回る。
 どうしようもない無力感と悲しみが胸中に湧き上がるのを堪え切れなかった。

「……母さん……」

 割り切れたと、思っていた。
 友達ができ、仲間ができ、家族ができて、ゆっくりとだけど前に進めたから。
 自分と母親としかいなかった世界はいつの間にか大きく広がっていて、一人じゃないんだと教えてくれたから。
 だから、大丈夫……そう思っていた。
 でも、実際に母親と再会して、その冷徹な瞳を見て、言葉を失った。
 身体が震えて、上手く言葉が出なくて、そんな中であんな惨劇がおきてしまった。
 ようやく絞り出せた言葉も、母には届かない。
 返事もなく、彼女は始めてしまった。こんな残虐な殺し合いを―――。

「止め、なくちゃ……」

 鈍い思考でそれだけは感じた。
 こんな所業、許される訳がない。
 絶対に止めなくてはいけない。それが、例え仮初であったとしても娘である自分の役割だ。
 相棒のデバイスはなく、常に共にいた使い魔もいない。
 無人の森林で孤独に立ち尽くしながら、フェイト・T・ハラオウンは漠然とそう思考する。
 唐突な母親との再会、母親が示した鬼畜の所業。
 それらを目の当たりにして、それでも足を止めないでいられたのは、やはり彼女が成長しているからなのか。

「止めるんだ……母さんを……」

 あの時は止められなかった。
 伸ばした手は届かず、母を救うことはできなかった。
 だから今度こそ、今度こそは、止める。
 ショックに打ちひしがれた身体を、引き摺るようにして進み始める。
 母を止めなくてはという義務感にも似た思いを胸に、彼女は歩いていく。

「あ……」

 森林の最中で彼女は他の参加者の姿を発見した。
 周囲に視線を飛ばし警戒しながら、森林の中をゆっくりと進んでいる少女。
 フェイトは迷わなかった。
 殺し合いを止めるのだと、少女の前に躍り出る。
 名前を呼んで、話を聞いて。
 彼女の親友がかつて言っていたように。
 自分を深い深い暗闇から引きずりあげてくれた時のように。
 フェイトは少女との対話を求めた。


29 : 勇気を出して ◆YJZKlXxwjg :2016/08/13(土) 19:43:46 qEePaQVw0

「―――近付かないでっ!!」

 だが、一歩を踏み出すよりも早く、甲高い拒絶に満ちた声が響き渡った。
 ビクリとフェイトは身体を震わせて、その場に静止する。喉元に刃物を突き付けられたようであった。
 腕を震わせ、声を震わせ、今にも泣きだしそうな表情で、それでも眼を血走らせて。
 少女はフェイトを拒絶する。

「お願い……近付かないで、くださいっ……」

 その手には出刃包丁が握られていた。
 震える手でそれを握り、切っ先をフェイトへ向ける。
 くりくりとした大きな瞳と整った顔立ちも、今は恐怖に支配され歪んでいた。
 ドクン、と鼓動が鳴るのを感じる。
 これが母の行った所魚のせいだと思うと、胸が張り裂けそうだった。

「ち、近付く、なら……さ、刺します……!」

 揺れる切っ先を掲げて、少女は言う。
 言葉が浮かばない。
 怯え、震え、刃を向ける少女に、フェイトは言い様の無い悲しみを感じた。

「話を、聞いてください……私は決してあなたに危害を加えるつもりは……」

 それでも、止まっていた一歩を踏み出した。
 話をしなければ何も始まらない。
 だから、その瞳を正面から見詰めて、一歩を。

「―――いやぁっ!!」

 返ってきたのは、ある意味で予想通りの反応だった。
 爆発する恐怖に感情を抑えきれなくなった少女が包丁を投擲する。
 もはやフェイトを狙ってすらいない。
 ただ怖くて怖くて身体が動き、めったやたらに投げてしまっただけだ。
 包丁はフェイトからてんで離れた地面へと突き刺さる。
 刃は外れた筈なのに、まるで体を突き刺された感覚を覚えた。
 少女の強い拒絶の感情に、フェイトは動く事ができなくなった。
 そんなフェイトを置いて、少女は暗闇の森林の中に走り去っていった。
 母が行ったゲームのせいで恐怖に押し潰される少女を目の当たりにし、茫然と立ち尽くす事しかできない。
 虚しさと悲しさが、フェイトの心に重く渦巻いていた。



【深夜/D5・森林】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA’s】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:………。
1:母をとめる


30 : 勇気を出して ◆YJZKlXxwjg :2016/08/13(土) 19:44:13 qEePaQVw0



「プロデューサーさん……プロデューサーさん……」


 島村卯月は双眸から珠のような涙を零しながら、暗闇の森林を走り続けていた。
 口から止めどなく溢れるのは、自分にシンデレラのような華やか舞台を与えてくれた人の名前だった。
 寡黙で、犯罪者に間違われる程に目付きが悪くて、だけど本当は優しく、頼もしく、いつも卯月を支えていた存在。
 参加者名簿を見た卯月は、プロデューサーの名が見た。
 中川典子の死を間近で見て恐怖に動けなくなっていた卯月であったが、プロデューサーの名に勇気を振り絞った。
 プロデューサーさんと会いたい……その一心で歩き始めた卯月だったが、なけなしの勇気は一瞬で壊される。
 予期せぬ参加者との遭遇に、思わず中川典子の凄惨な死体が脳裏を過ぎった。
 他を殺さねば生き残れぬ殺し合い。私もあんな風に殺されてしまうのか。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない。
 あんな姿で死ぬのなんて嫌だった。
 せっかくアイドルとして活動ができるようになったのに、こんな私でも何か答えが見つかったような気がしたのに。
 それなのに、こんな所で死ぬのは嫌だった。
 恐怖に、理性が殺される。
 気付けば我を忘れて、逃げ出していた。

「助けて、プロデューサーさん……!」

 縋るような声が零れていく。
 そこにステージの上で人々を魅了した笑顔はない。
 偶像ではない、ただ一人の少女がそこにいた。



【深夜/D6・森林】
【島村卯月@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
0:プロデューサーさん……。


31 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/13(土) 19:48:41 qEePaQVw0
投下終了です。
前回の『怪物』にて参加者の現在地に間違いがあったので、修正します。
【ロイの現在地:D6→G2】
【ルフィ・桐山の現在地:E6→H2】  となります。
また【高坂穂乃果@ラブライブ!】を参加者に追加します。


>>32
次話で登場させたいキャラを指名してください。


32 : 名無しさん :2016/08/13(土) 19:55:11 T07TOhA.0
穂乃果


33 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/16(火) 23:58:18 t1Bv7bNI0
高坂穂乃果投下します。


34 : スクールアイドルをプロデュース! ◆YJZKlXxwjg :2016/08/16(火) 23:59:29 t1Bv7bNI0
 その日、彼女たちは伝説となった。
 人々を魅了し、歓喜させ、感動させる存在に9人の少女達はなった。
 ただの女子高生でしかなかった彼女らが、光に憧れる側だった彼女らが、いつしか憧れを受ける側になっていた。。
 なぜ、そうなれたのかは彼女達自身にも分からない。
 悩み、つまづき、それでもがむしゃらに、自分たちが進もうと思った道に進み続けて、気づけばそうなっていた。
 集大成の場で、彼女達は歌い、踊った。
 最後の歌を、最大のステージで、最高の力でもって。
 その数分間のパフォーマンスは人々を惹き付け、スクールアイドルという存在を確固たるものとした。
 ラブライブと呼ばれるスクールアイドルの全国大会は、恒例として日本でも有数のドームを使用する事となり、スクールアイドル自体の数も激増した。
 廃校を阻止するために集まり、目標どおりに見事廃校を阻止し、そして伝説となった少女たち。
 その物語のようなサクセスストーリーは、後にスクールアイドルを志した女子高生達全てに影響を与えたといっても過言ではない。
 グループの名は『μ’s』。
 一年にも満たない活動の中で、伝説を築き上げた少女達が、そこにいた―――。







 高坂穂乃果は恐怖に震えながら、そこにいた。
 殺し合いの会場。参加者達に支給された地図上でH8と区分けされた住宅街の一隅。
 とある民家の中に穂乃果はいた。
 リビングのテーブル下で膝を抱え、縮こまるようにして身を隠す。
 彼女の脳裏では先の光景が繰り返し、繰り返し再生されていた。
 暗闇の中で何かを話す女性、徐々に高まっていく喧騒、何かが破裂するような軽い音、飛び散る飛沫、灯される電気、視界を染める赤、赤、赤―――、

「ううう……うええええ……」

 涙は次から次に止めどなく溢れ出てくる。
 怖かった。ただひたすらに、何もかもが怖い。
 夜の暗闇が、首に触れる冷たい感触が、痛いほどの静寂が、全てが今の穂乃果の過敏な神経に突き刺さる。
 それでも声を出してしまえば誰かに見つかってしまう。
 穂乃果は制服の裾を口に押し当てて、泣き声を押し殺しながら涙を零す。
 そこにステージの上で輝く彼女の姿はなく、ただただ恐怖に押し潰された女子高生がいるだけだった。
 数分か、数十分か。
 泣き続けて、どれほどの時間が経っただろうか。
 不意に、穂乃果は音を聞いた。
 ガタリという、何かが開くような音。

(だ、だれか、来た……!)

 穂乃果はその時ばかりは泣く事も忘れて、びくりと身体を震わせて更に身を縮こませた。
 段々と近付いてくる足音。穂乃果は息を止めて音がする方向を凝視する。
 ひたひた、ひたひたと、足音はゆっくりとだが着実に近付いてくる。


35 : スクールアイドルをプロデュース! ◆YJZKlXxwjg :2016/08/16(火) 23:59:56 t1Bv7bNI0

(見つかりませんように、見つかりませんように……!)

 祈りも虚しく、穂乃果が隠れるテーブルの直ぐ近くで足音が止まった。
 穂乃果から見えるのは黒い影のみ。
 心臓が、口から飛び出してしまいそうな程にすさまじい勢いで早鐘を鳴らす。
 穂乃果の気配に気付いたのか、影が徐々に近付いてくる。

(ひっ―――)

 そして、遂に穂乃果はその存在との対面を果たす。
 絶叫が迸ることはなかった。
 それよりも何よりも先に、驚愕が穂乃果を包んだからだ。

『やぁ、初めまして』

 言葉を失った穂乃果とは対照的に、それは流暢な日本語で語り掛けてきた。
 何というか本当におかしい程に流暢な日本語だった―――そんな筈はないのに、だ。
 何故なら、それは猫ほどの大きさの動物だったから。
 真っ白な毛並みとアルビノのような真っ赤な瞳。
 四足で歩きながら、それは穂乃果の隠れるテーブルの下へと入ってくる。

『まさかこんな所で魔法少女候補と出会えるなんてね。驚いたよ』

 まるで当然のように喋る獣に、穂乃果は自分の頭がおかしくなってしまったのかと思っていた。
 今いるここは夢の中なんじゃないかと本気で考え、自身のほっぺを強く強く抓る。
 悲しい程に痛かった。
 つまり、これは夢の中ではないという事なのだろうか。

『大丈夫かい? いきなり頬を抓るなんて。人間の行動は時折理解しがたいものがあるよ』

 茫然自失の穂乃果を置いて、それは話し続けていた。

『君の名前を聞いていいかな?』
「ほ、穂乃果……高坂、穂乃果……」
『ぼくはキュゥべえ。よろしくね、穂乃果』
「よ、よろしく……」

 獣の問いに思わず答えが零れていた。
 人語を離す謎の生物。高坂穂乃果の頭は疑問符で埋め尽くされている。
 全てを理解し、場を進めるのは謎の獣の方だった。


『さていきなりだけど、高坂穂乃果―――』



 獣―――キュゥべえは笑顔のようなものを浮かべて、口を開いた。



『―――僕と契約して、魔法少女になってよ』



 何千何万とそれを話してきたかのように、流れるような声色で告げる。
 何もかもが分からない中で、更に訳の分からない問いを投げかけられて。
 高坂穂乃果はただ目を見開いているだけだった。


【深夜/H8・森林】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:な、なにこれ……


36 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/17(水) 00:01:51 39hQ0VNE0
投下終了です。
それと【ドンキホーテ・ドフラミンゴ@ONE PIECE】を参加者に追加します。

>>37
次話に登場させたいキャラを指定してください。


37 : 名無しさん :2016/08/17(水) 00:32:31 EjZnUJHw0
乙です!
仲間が参加させられていたらまた違ったのだろうか……
穂乃果の一般人らしい描写とQBの不穏さが光る話でした
いかにも因果値が高そうな穂乃果の明日はどっちだ?
島崎三歩を指定します


38 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/18(木) 00:04:44 j7kAd99.0
倉上ひなた、島﨑三歩投下します。


39 : みんなの山 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/18(木) 00:05:17 j7kAd99.0
 倉上ひなたは混乱の極みの中にいた。
 ただ平穏な女子高生生活を満喫していた最中で唐突に連れてこられた殺し合い。
 眼の前で人が死に、殺し合いを強要されてここにいる。

(……夢、かなぁ)

 あまりに現実味のない出来事の数々にひなたの感情はどこか麻痺していた。
 ぼんやりと、どこかふわふわした思考で、ひなたはそこにいた。
 暗闇の森林。鬱蒼と生い茂る木々に隠され、足元すら見えにくい。
 地面は斜めに傾いていて、月夜を眺めればそこに小さな山があるのが分かった。
 デイバックをごそごそと漁ると、そこには彼女のヘッドライトがあった。
 富士山登山の時に持っていたそれである。

(山……あおいもいるかな)

 最初の場で電灯が灯った時、彼女の親友の姿を見た気がする。
 彼女もこの夢の中にいるのだろうか。
 思い出されるのはあおいと行った山の数々。
 何となく山を登れば彼女に会えるような気がして、ひなたは足先を山の頂上へと向けた。
 幸い、彼女がいるのは登山道の途中のようであった。
 ヘッドライトをつけ、小さな歩幅で山道を登っていく。
 息がきれ、身体が熱くなっていくのを感じた。
 こんな夢の中であっても、山はいつもと同じ様相でひなたを受け入れてくれる。
 頂上に着くのに対して時間は掛からなかった。
 歩き始めて一時間とせずにひなたは山頂にある展望台へと辿り着く。
 展望台から見える景色は黒一色で、だけど上を見上げれば吸い込まれそうな程の星空が覆っていた。

「わぁ、きれー……」

 思わず呟いていた。
 そこには本当に夢のような光景が広がっていて、ひなたは少しの間だけ現実を忘れた。

「本当だね。いい星空だ」

 ふと声が聞こえた。
 直ぐ隣から男の人の声が。
 驚き、横を向くとそこには大柄な男性が一人立っていた。
 男はひなたと同様に空を見上げて、朗らかに笑っていた。


40 : みんなの山 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/18(木) 00:05:35 j7kAd99.0

「やっ、おれ島崎三歩。よろしく」

 まるで太陽のように暖かな微笑みだった。
 殺し合いを強要されている場にはそぐわぬその笑顔は、だけどどこまでも明るく輝いて見えた。

「ここから見てたよ。良いクライミングだったね」

 ちょいちょいと下を指さしながら、三歩は言った。
 ヘッドライトの灯を見ていたのだろうか。
 登る事に集中していたひなたは、その視線に気付くことができなかった。

「えーっと君は……」
「……ひなた、です。倉上ひなた」
「そう、ひなたちゃんは良く山に登るの?」
「は、はい……」
「良いねぇ。山ガールってやつだ」

 こうして話していると、まるで本当に夜登山に来ていたみたいだった。
 山の中で、ただ山のことを語る。
 殺し合いの最中での会話とは、とても思えなかった。

「あの、私……友達を、雪村あおいって子を探してて、それで……」
「その子を探してってことは、その子も山に登るんだ」
「はい……」

 三歩が醸し出す暖かな雰囲気に、気付けばあおいの事を話していた。
 夢のように思えていた空間も、時間が経つにつれ現実感をおびていった。
 殺し合いを強要されたこの場で、自分は親友と再会できるのか。
 不安が込み上げてきて、声が震える。
 もしあおいと二度と会えないのだとしたら……そう、考えるだけで怖くて仕方なかった。

「だいじょーぶっしょ! 山が好きで、こんな時でも山にいると思える二人なんでしょ? なら大丈夫、必ず会えるって!」

 三歩はそんなひなたの不安を一蹴する。
 山が好きだからと、まるで根拠のない理屈を掲げて。
 だけど、それは今のひなたにはどんな言葉よりも力を貰えるような気がした。

「会いに行こうよ、その山が好きなあおいちゃんにさ!」

 満面の笑顔で、三歩は告げた。
 差し出される手は固く、岩のようにごつごつしていて、だけどとても温かかった。
 その温もりに、ひなたも何時ものような明るい笑顔を浮かべる。
 山の頂で、二人の山好きが笑い合っていた。


【深夜/C7・北の山山頂展望台】
【倉上ひなた@ヤマノススメ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:あおいと会いたい。
1:島崎さん……

【島崎三歩@岳-みんなのやま-】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
1:ひなたとあおいを再会させる


41 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/18(木) 00:06:10 j7kAd99.0
投下終了です。

>>42
次話で登場させたいキャラを指定してください。


42 : 名無しさん :2016/08/18(木) 00:29:04 w3hPFtP20
投下乙です
楽しそうだなあこの2人、原典は評判でしか聞いてないけど興味が湧いてくる内容でした
特に丘勢はこのロワで良い方向への未来を掴めるかが気になりますね
セイバーを指定します


43 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/20(土) 20:13:48 dYF2sIqM0
セイバー投下します。


44 : 『全て遠き理想郷』 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/20(土) 20:14:24 dYF2sIqM0
 セイバーは全てを覚えていた。
 先の殺し合いで願望成就のために行った鬼畜の所業を。
 罪もない人々を殺してまわり、遂には願いを叶える事もなく死んでいった騎士の姿を。
 誇りも、高潔さも、何もない騎士の姿を。
 全てを捨てて臨み、それでも尚無惨に死んでいった愚かな騎士の姿を。
 いや、もはや騎士とはいえぬか―――ただの血塗られた罪人の姿を、アルトリア・ペンドラゴンは覚えていた。
 目を開く。
 そこに真っ直ぐに己を貫き通したトリーズナーの姿はなく、ただ真っ暗な深淵が広がるだけであった。
 身体をみやる。
 あれだけ満身創痍だった身体は傷の一つとしてなく、限界まで蓄積されていた疲労も残されていない。
 確かめるように両手を握る。五体は満足。身体も気力に満ちている。
 ただ疑問が残る。
 果たして何が起きたのか。
 殺し合いに参加し、宿敵ともいえる男との死闘を経て、自分は何故このような所にいるのか。

「おはよう、目が覚めたかしら」

 困惑しながら、何とか状況を把握しようと周囲を探るセイバーに、声が掛かった。
 同時に天井より光が降り注ぎ、声のした場所を明るく照らす。
 暗闇に慣れていたセイバーの瞳に許容を越えた光量が射し込まれる。
 セイバーは思わず顔をしかめて、目を細める。
 光を背後に立つ者がいた。

「あなたは……」
「私はプレシア・テスタロッサ。あなたの願望を叶える者よ」

 プレシアと名乗った女性の言葉に、セイバーは警戒を強めた。
 英霊である自分を召喚し、願いを餌にちらつかせる行為。
 願望成就という一念で自分が行った所業を知っているだけに、その言葉がどれだけの力を有しているかは嫌という程に理解していた。

「何を、やらせるつもりですか」
「あら、話が早いわ。さすがは『始まりのバトルロワイアル』の参加者ね」

 勿論、無償で願望の成就などさせてはもらえないのだろう。
 そんなことは知っている。
 聖杯戦争しかり、先の殺し合いしかり。物事を成すには対価を払わねばならない。

「何、とても簡単なことよ。今まであなたがしてきたことを、同じようにすればいいの」

 プレシアは笑う。
 妖艶に、陰惨に。
 口角を引き上げて、笑う。


「―――あなた以外の全てを、殺してちょうだい」


 そして、告げた。
 悪魔の言葉を、修羅に堕ちた騎士王へと。
 告げた。


45 : 『全て遠き理想郷』 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/20(土) 20:14:49 dYF2sIqM0


「私以外の、全てとは?」
「同じよ。あなたが参加していた『殺し合い』。それと同様の事を私達は開催するわ。
 その中であなたは優勝を目指せばいい。そして、優勝の暁にはあなたの願いを叶えてあげる」


 セイバーは何も語らなかった。
 全てが同じことだった。
 願いのため、他を殺す。
 あの殺し合いを経た今、騎士王に迷いなどある訳もなく。
 セイバーは魔女の言葉を鉄仮面でもって受け入れた。



「了解してくれたみたいね。さて『ジョーカー』として動いてもらうあなたに、私達から少し手助けをしてあげる。
 参加者にはランダムに支給品が配られる予定だけど、あなたに関しては装備の選定を許可するわ」


 セイバーの眼前に光のモニターが浮かび上がる。
 セイバーは迷うことなく、二つの宝具を選択した。
 それは彼女を支えてきた、騎士王を騎士王たらしめる伝説の武具。
 『約束された勝利の剣』、『全て遠き理想郷』。
 剣と鞘を両手に血塗られた騎士王が立つ。
 凛々しく、猛々しく―――だが、その内側にはどす黒い感情が流れていて。
 
 
「さぁ行きなさい、騎士王。あなたの国を救う為に、全てを薙ぎ払うのよ」


 足元が淡く光る。
 バチリという音が響いた瞬間、セイバーの意識は黒く染められた。
 そして、眼が覚めた時には既に見知らぬ池の中心に立ち尽くしていた。
 静寂の中、悠々と池に立つ聖女の姿は神秘的ですらあって、


「もはや迷いません。全てを、ただ叩き斬るのみ―――」


 ただ、その瞳はまるで氷のように冷え切っていた。


【深夜/F5・池】
【セイバー@アニメキャラ・バトルロワイアル】
[状態]:健康
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、アヴァロン@Fate/stay night
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
0:参加者を殺す
1:絶対に生き残り、願いを叶えて選定の儀式をやり直す。


46 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/20(土) 20:15:31 dYF2sIqM0
投下終了です。

>>47
次話に登場させたいキャラを指定してください


47 : 名無しさん :2016/08/20(土) 21:54:43 0kzF3TUU0
投下乙です!
うん実にアニロワ1のセイバーですね
彼女のどうしようもなさは、主催者に多大な貢献をすると確信できるものでした
どのように倒されるか、あるいは成仏できるのか気になるキャラになりました

ドンキホーテ・ドフラミンゴを指定します


48 : 名無しさん :2016/08/20(土) 22:20:05 XOPWo6jI0
王族キラーのカズマさん呼んで来なきゃ(使命感)


49 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 02:40:17 KwakgZZ60
赤羽根P、ドンキホーテ・ドフラミンゴ投下します。


50 : マリオネットの心 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 02:40:58 KwakgZZ60
 中肉中背。眼鏡を掛けたどうにも平凡な様相の男が暗闇の住宅街を走っていた。
 765プロに所属するプロデューサーである男は、焦燥のままに先へと進んでいく。
 思考はぐちゃぐちゃに混乱している。
 何がどうしてこんな事になったのか、何をどうすれば良いのかも、分からない。
 ただ彼が考えられる、絶対無二に成し遂げなければならない事が一つある。
 それは、

(春香……春香、春香!)

 先の惨劇の一瞬、垣間見た。
 自分の担当アイドルが、恐怖と驚愕に表情を歪めていたその姿を。
 その首に備え付けられた灰色の金属輪を。
 見た。見てしまった。
 彼は、守らねばならない。
 自分のパートナーである天海春香を。
 アイドルとして大成の片鱗を見せ、何万という人々を笑顔にさせることができる太陽のような少女を。
 守らねばならない。
 何がなんでも、何に代えても、守らなければいけないと、プロデューサーは思考していた。
 走り続け、走り続け、どれだけの時間が経過したのか。
 彼は遂に他の参加者を発見する事になる。
 森林の中で無表情に立ち尽くす、信じられない程にひょろ長い大男。
 身長は成人の平均身長ほどはあるプロデューサーの2倍は優にある。
 ど派手な羽毛のコートと、顔を覆う巨大なサングラスが印象的だ。
 大男は何をすれでもなく、ただ夜空を見上げていた。

「フッフッフッ、面白い催しじゃねえか」

 不意に男が声をあげた。
 木々の陰から様子を伺っていたプロデューサーは、息を呑み、身体をこわばらせた。
 自分の存在に気付き、声をかけてきたのか。
 じとりと、掌に汗が滲む。

「こんな首輪を付けて、人間どもを殺し合わせる。まるで神か何かの振る舞いだ。
 フッフッフッフ、良い趣味をしてやがる」

 だが、プロデューサーの心配は杞憂だった。
 男は誰に語るでもなく更に言葉を重ねた。
 安堵しながらも、プロデューサーは男の存在感に意識をもってかれていた。
 この非道な殺し合いを面白い催しと言い捨てた男。
 凄まじい存在感であった。
 その巨躯から来るものだけではない、生物としての圧倒的な『格の差』をプロデューサーは感じていたのだ。
 プロデューサーの手中には拳銃が一丁握られていた。
 デイバックに入っていたものだ。
 それは人を殺すための凶器であったが、春香を守る、死ぬわけにはいかないという一心でプロデューサーは拳銃を握っていた。
 だが、拳銃を持っているにも関わらず、男が自分に気付いていないにも関わらず、とても優位に立てているとは思えない。
 それ程の威圧感を、プロデューサーは男から感じていた。


「さぁ、どうするか。あの女の言いなりになるのは気に入らねえが―――」


 男は楽し気に笑い声をあげていた。
 自分の選択を心底から楽しんでいるようだった。
 根底にあるのが揺るぎなき自信。
 どんな選択をしようと、自分は生き残る。
 そう、信じ切っているかのようだ。


「――――――全部、殺しちまうか」


 そして、言った。
 男の言葉に、プロデューサーの心臓が跳ねあがった。
 殺す。ころす。コロス。
 意味が分かれど、理解はできず。
 プロデューサーは息を止めて、男の言葉を聞いていた。


51 : マリオネットの心 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 02:41:20 KwakgZZ60


「それが良い。麦わらもいることだ。手間をかけてる暇はねえな。さっさと終わらせちまおう」


 たった一瞬。
 ほんの僅かの迷いで、男は決断したのだ。
 自分以外の全てを殺す事を。
 男なら可能なのだろう。
 他者を全滅させる事も。
 だが、例えそれだけの力を持っていたとして、容易にその決断ができるものなのか。
 男が人の姿をしているが、とても人とは思えなかった。
 悪鬼や魑魅魍魎の類。プロデューサーは怪物を見るかのように、男を覗き見ていた。
 ギュッと手中の拳銃を握る。
 男は自分の存在に気付いていない。
 手には引き金を引くだけで人を殺せる道具がある。
 奴は言った。
 全部、殺すと。
 天海春香も含めた全部を、殺すと。
 言った。言ったのだ。

(守るんだ、守らなくちゃ……!)

 彼女を守るには、こいつを止めなくてはいけない。
 どんなことをしてでも、それがプロデューサーとしての自分の役割だから。

(やれっ、やるんだ!!)

 気付けば身体が動いていた。
 まるで自分の身体じゃないように、勝手に。
 男の前に躍り出て、拳銃を両手で構える。
 身体の震えは嘘のように止まっていた。
 銃口はぴたりと男の胸板を狙いつけ、そして。


 パン、と渇いた音が響き渡った。








「うえっ……おええっ……」


 数分後、プロデューサーは木に寄りかかりながら腹の中の物を盛大にぶちまけていた。
 嘔気が止まらない。
 人を殺してしまったという事実に、彼の世界はひっくり返っていた。

「やるしか、なかったんだ……やるしか……」

 手中には拳銃がまだ握られたままだった。
 引き金は思いの外に軽かった。
 人を殺した感触というものはない。
 だが、網膜には全てが焼き付けられている。
 笑みを張り付かせたまま、ゆっくりと倒れ伏す男の姿。
 ぴくりとも動かなくなった男の姿。
 自分が殺した、男の姿―――、


「うげぇっ……」


 思い出して、また吐いて。
 だが、プロデューサーの瞳には火が灯っていた。
 人を殺してしまった自分に後戻りはできない。

「やるんだ……殺し合いに乗ってしまった奴等を殺す……そうすれば、春香は……」

 プロデューサーの選択は、危険人物の排除。
 先の男のような殺し合いに乗った者を殺していけば、春香に危害が及ぶ可能性が低くなる。
 間接的に、天海春香を守る。
 それがプロデューサーの行き着いた答えだった。

「安心しろ、春香……おれが、おれが、また君をあの光り輝くステージに……」

 彼は気付いているだろうか。
 例え会場内に危険人物がいなくなったとしても、首輪の解除法や会場からの脱出法を確立しない限り、ゲームは終わらないということに。
 気付いていないとして、その問題と直面した時に彼はどのような選択をするのだろうか。
 天海春香を生かすために、何を答えとして動くのだろうか。
 ただ一つの明確な事実は、彼は既に一人の人間を殺害してしまったということ。
 その手中の拳銃が怪しく輝いていた―――。



【深夜/H6・住宅街】
【プロデューサー(赤羽根P)@アイドルマスター】
[状態]:健康
[装備]:ホークアイの拳銃@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
0:春香を守る。
1:殺し合いに乗った危険人物を殺していく
2:春香と合流する


52 : マリオネットの心 ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 02:41:40 KwakgZZ60







「フッフッフッ、上出来だ」

 森林を行く彼を、空中から見下ろす者がいた。
 男はさも当然のように空に浮き、全てを見下ろす。
 その姿は先程プロデューサーが殺した男と酷似……いや、全てが全て同じ様相だった。


「『第二候補(セカンドプラン)』の火種は灯した。あとは『第一(メイン)』と『第三(サード)』だが……」


 宙空で誰に向けるでもなく言葉を零す。
 それきり言い残して、男は空をふわふわと浮きながら動き始める。
 男の名はドンキホーテ・ドフラミンゴ。
 王下七武海の一角にて、ドレスローザが国王『だった』男。
 男は野望の渦中でとある海賊同盟と激突し、無惨に敗れ去った。
 その男が何故この場にいるのか、そして―――何故プロデューサーに対してあのような行為に及んだのか。
 全てはドフラミンゴの掌の上だった。
 プロデューサーが相対していたドフラミンゴは彼の能力・イトイトの実で創り出した『偽物』だった。
 『偽物』にさも危険人物であるかのように振舞わせ、プロデューサーの危機感を煽り―――彼を『操り』、偽物を『撃たせた』。
 そう、あの一瞬プロデューサーを動かしていたのはドフラミンゴだったのだ。
 イトイトの実の能力で、まるで操り人形のように彼を操作し、自らの『偽物』を撃たせた。
 理由は不明。
 だが、全ては彼の思うがままに進んでいった。

「……まぁいい、ゆっくりと楽しませてもらうじゃねえか! フッフッフッ!」

 笑い声を上げながら夜天を進んでいくドンキホーテ・ドフラミンゴ。
 この殺し合いの場に於いても、サングラスの奥に宿る野望の輝きは一切と陰りはなかった。 


【深夜/H6・空中】
【ドンキホーテ・ドフラミンゴ@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:???


53 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 02:42:25 KwakgZZ60
投下終了です。

>>54
次話に登場させたいキャラを指定してください


54 : 名無しさん :2016/08/21(日) 02:48:25 tSf/7MIg0
投下乙です
おお……ドフラミンゴやるなあ
赤羽根Pにまったく明るい未来が見えないや
ドフラミンゴのたちの悪さが光る話でした
それぞれの心理描写、特にドフラの得体の知れなさが面白かったです

サンジを指定させていただきます


55 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 19:18:23 KwakgZZ60
鹿目まどか、サンジ、キング・ブラットレイ投下します。


56 : 崖下の戦い ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 19:19:51 KwakgZZ60
 少女が一人泣いていた。
 恐怖に押し潰され、身を縮こまらせて、泣いていた。
 少女の名は鹿目まどか。
 どこにでもいるただの女子中学生で―――だが、途方もない程の可能性を秘めた少女であった。
 そう、彼女は全てを変革し得る『力』を秘めている。
 文字通り世界を書き換えてしまう程の『力』を。
 しかしながら、今現在彼女の『力』を解放できる魔獣は近くにおらず、彼女はただの女子中学生でしかない。
 今の状況で危険人物と遭遇してしまえば、百に限りなく近い確率で死が待っているだろう。
 あらゆる可能性を秘めた少女は、今まさに命の瀬戸際に立たされていて。
 そうして、出会ってしまう。
 彼女に危険をもたらす、その存在に。

「ふむ、小娘が一人、か」

 木々の間から、不意に声が聞こえた。
 木陰に隠れ、声を押し殺して泣いていたまどかの直ぐ傍で。
 ひっ、とまどかが息を呑む。
 そこまでの接近に全然気付くことができなかった。
 その男はまるで影のように、いつの間にかそこにいた。
 小さな悲鳴を上げて声の方から離れるまどか。
 視界が広がり、声の主を捉える。
 初老の男。
 黒髪のオールバックと口髭。
 左目には眼帯が付けられていた。
 表情は険しく、視線は鋭い。
 まるで猛禽類を思わせる視線は、睨むだけでまどかを恐怖に貶める。
 何よりその両手に装備されたサーベル。
 人を殺すための道具が、月光に照らされて怪しく光っていた。

「や、やだ……いやだよ……」

 涙を流し、現状を否定するように首を左右に何度も振る。
 初老の男はもはや何も語らず、迷いもせずに一歩を踏み出してきた。
 サーベルが振るわれる。
 まどかには知覚できない程の鋭さで、一閃。
 頬に灼熱が走ったのを、まどかは感じた。次いで熱い液体が頬を伝う。
 斬られた、とはまどかには分からない。
 己の身体を斬られる感覚など、まどかは経験したことがない。
 ただ頬が燃えるように熱く、痛かった。
 訳が分からなかった。
 この感覚がなんなのか、何でこんなことになっているのか。
 分からない。
 ただ怖い。怖い。怖い。

「っ、いやああああああああああああああああああ!!!」

 気付けば、絶叫が喉奥から振り絞られていた。
 身体は後ろへ。恐怖で上手く動かない中で、地べたに這いずるように男と距離をとる。
 男はやはり無言。
 逃げるまどかをゆっくりと、ゆっくりと追っていく。
 まるで嬲るかのようにまどかへと歩みを進める。
 甚振るかのような追いかけっこは、やがて終わった。
 まどかの前に壁のように立ち塞がる崖が現れたからだ。


57 : 崖下の戦い ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 19:20:31 KwakgZZ60

「ひぅ……」

 眼の前が暗くなるのを、まどかは感じた。
 絶望が頭をもたげる。
 逃げられない、逃げられない、逃げられない。
 逃げ道はなくなり、これ以上距離を離すことはできない。
 男は悠然と歩み寄ってくる。
 必死に四肢を動かしてきたというのに、距離はまるで離れていない。
 サーベルを両手に構えて、今にも飛び掛からん様子で男はいた。

(誰か、誰か、助けて――――!!)

 瞳をぎゅっと閉じ、助けを求める少女。
 奇跡というのはそう簡単に起こるものではない。
 だからこそ、人はそれを奇跡と呼ぶ。
 
 が―――この瞬間、幸運の女神は少女に味方する。
 



「な・に・を・してんだ、テメェはぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」



 怒髪冠を衝く勢いで、直上の崖から飛び降りてくるものがいた。
 黒色のスーツに、鮮やかな金髪。
 男は十数メートルはおろうかという崖から躊躇いなく身を投げ出し―――そして、地面に激突する寸前で進行方向を変えた。
 まるで空中にある見えない足場を蹴ったかのようだった。
 着地の寸前で金髪の男は初老の男の方へと向きを変え、そのまま直進していく。
 奇天烈な動作に、さしもの初老の男も虚をつかれる。
 反応が遅れ、態勢を整えきれない。
 金髪が繰り出したのは強烈な蹴撃。
 初老の男は大きく身を翻して、蹴りを回避。
 だが、態勢を崩した今反撃には移れない。
 地面を強く蹴りを男との距離を離した。
 初老を外した蹴りは勢いそのままに、後方にあった木々へと突き刺さる。
 木々はまるでガラス細工か何かのようにへし折れ、地面へと倒れ伏した。

「こんな殺し合いだけでも胸糞わりぃってのに、てめぇみてぇなクソ野郎がいるとはな」

 木々が巻き上げる土埃をバックに、金髪が歩み寄る。
 ポケットから煙草を取り出し、口にくわえ、火を灯す。
 慣れた手つきで一連の動作をこなし、初老の男へ射竦めるよう眼光をあてる。

「子どもたぁいえ、レディに手をあげるとは何ごとだよ、テメェはっ!!」

 年端も行かない少女に―――レディに凶刃を向けた下手人に、怒りが爆発する。
 突風のような踏み込みと共に、上段への蹴りを一発。
 初老の男は流れるようなスウェーバックで回避。
 対する金髪はタンと地面を蹴り、宙に浮き、初撃の勢いをもって身体を回転させる。

「―――『粗砕(コンカッセ)』!!」

 繰り出されるは横軸回転からの踵落し。
 胴を狙って繰り出されたそれを、男は刃でもって迎え撃つ。
 金髪の蹴りはどれも高速。常人であれば反応すら困難な速度であるが、初老の男は易々と対応する。
 技の動作を見切り、男の蹴り足を刃で両断しようと動く。
 見事なまでのカウンター。既に動作に入っている金髪には対応できる筈がない。
 脚と刃がぶつかり合う。蹴りの勢いがそのままに刃の力となって。
 金髪の足が宙を舞う―――


「ッ!!」


 ―――事はない。


58 : 崖下の戦い ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 19:21:28 KwakgZZ60
 初老の男が驚愕を宿す。
 刃は男の脚に当たれど、肉には食い込まず。
 まるで鋼と激突したかのように、刃が弾かれる。
 それは『覇気』と呼ばれる技術。肉体を硬化させ、刃や銃弾ですら弾く鎧とさせる。
 その力により初老の男の目論見は見事はずれることとなる。
 ギギと、刃と脚とが鍔迫り合いのような均衡を生む。
 単純な剛力に関しては、金髪の方が遥かに上であった。
 初老の男は刃ごと押し込まれ、後方の森林へと吹き飛ばされた。

「ぐおっ!」

 勢いを殺しきれず、木々に激突する。
 苦悶を漏らした男に、金髪は畳みかける。
 再び地面を蹴り、宙を蹴り、初老の男へと迫った。

「これで終わりだ、クソちょび髭が!」

 咆哮と共に蹴りを放つ―――寸前で見た。
 男が何かを投げる動作をしたところを。
 同時に気付く。
 男の左手にあったサーベルが消えていることに。
 歴戦の戦士は、一瞬で全てを察知した。


「クソ野郎がああああああああああああああああああ!!」


 距離を詰めるまでの一瞬。
 男はサーベルを投擲したのだ。
 もちろん金髪の男に向けてではない。
 先程から傍観者と化している少女へと、寸分違わずに刃を投げた。
 金髪は宙を蹴り、まどかがいる方向へと向き直る。
 視界に映るは、宙を飛ぶサーベルとそれを呆然と見やるまどかの姿。
 まどかへ迫る凶刃を何とかするべく、金髪は宙を疾走する。
 だが、寸前まで攻撃態勢にあった金髪には、遠すぎた。
 引き伸ばされた時の中、サーベルはゆっくりとまどかへと近付いていき、そして

「ッ、ああああああああああああ!!」

 刃が、突き刺さる。
 その太腿へ、真っ直ぐに。

「クソっ!!」

 倒れるまどかを抱えて、傷の具合を見る。
 太腿にはサーベルが中腹まで突き刺さっていた。
 動脈など大きな血管は傷付けていないのか、今は目に見えるような大出血はない。
 だが、大けがには変わりはない。
 自己への不甲斐なさと、下手人への怒りが爆発する。
 蹴り殺す。
 激情に塗れて初老の男を見やった金髪は、やはり一手遅れていた。


59 : 崖下の戦い ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 19:21:55 KwakgZZ60
 
「敵前で隙をさらすか、馬鹿者」

 既に男は寸前まで迫っていた。
 右手に納まる刃が、空気を切り裂き、金髪へと突き進む。
 反射的に、金髪は地面を全力で蹴り抜いていた。
 同時に刃が来るであろう胴体に『覇気』の鎧をつくる。

「甘いっ!」

 刃は、『覇気』ごと、金髪を斬った。
 そのような『技術』があると知った初老に隙は無く、金属すら両断する気概で刃を振るった。
 サーベルが肉に食い込む感覚に顔を歪めながら、それでも金髪は脚を動かした。
 宙を蹴り抜き、真上へ。
 それが金髪の逃走経路だった。
 刃は当たれど、動きを止めるには至らず。
 金髪は崖の上まで逃げ切った。








「これが彼の世界の住人か……面白い」

 残された初老の男は誰に告げるでもなく一人零した。
 苛烈な蹴撃を受けた手はいまだ痺れ、まともに剣を振るうことも叶わない。
 凄まじいまでの身体能力。男の世界では考えられぬほどのものだ。

「まるで怪物。……ふふ、『あの日』以来だな。こうも血沸き、肉躍るのは」

 男は笑う。
 強大な敵を前にして、彼の人生で数えるほどもない『苦戦』を強いられ、それでも……いや、だからこそ、笑う。

「そして、奴が……か。人は見た眼に寄らぬものだ」

 男の名はキング・ブラットレイ。
 仮初の王になり続けた、人ならざる者。
 人間達が蔓延る殺し合いの場に、彼は君臨した―――。



【深夜/E7・森林】
【キング・ブラットレイ@鋼の錬金術師】
[状態]:左手にダメージ(小)
[装備]:ブラットレイのサーベル@鋼の錬金術師×1
[道具]:基本支給品、ブラットレイのサーベル×3@鋼の錬金術師
[思考・状況]
0:????
1:参加者と戦う
2:参加者を探す


60 : 崖下の戦い ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 19:22:19 KwakgZZ60






「クソっ、何やってんだ、おれは……!」

 金髪の男・サンジは悔しみを吐いた。
 少女を守るために参戦したにも関わらず、守れず、傷付け、挙句隙をつかれて敗退した己。
 胸中に不甲斐なさが込み上げる。

「すまねぇ……」

 腕の中で意識を失う少女へと謝罪を零すサンジ。
 己も決して軽くはない傷を負いながら、ただまどかの身体だけを心配していた。
 白い太腿に刺さったサーベルが痛々しいが、この場で抜くことはできない。
 大出血の危険があることはサンジでも知っていた。
 まずは治療のできる設備を。そして、出来れば彼の船医のような医者を。
 優しくまどかを抱きかかえながら、サンジは山の中を歩いていく。



【深夜/E7・森林】
【サンジ@ONE PIECE】
[状態]:胴に斬傷(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:まどかを治療する
1:診療所へ向かう
2:医者を見つける
3:ルフィとマリモ? あとだあと! 1にレディ、2も3もなく1にレディだ!


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:太腿に貫通傷(サーベルが刺さったまま)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:気絶中
1:怖い。死にたくない。


61 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/21(日) 19:22:54 KwakgZZ60
投下終了です。

>>62
次話に登場させたいキャラを指定してください。


62 : 名無しさん :2016/08/21(日) 19:36:27 xtRMPM9E0
プロデューサー(武内P)


63 : 名無しさん :2016/08/21(日) 21:32:08 tSf/7MIg0
投下乙です
ここでも強いな大総統
経験では及ばないサンジも戦闘拓者としての一面を見せ負けていないと感じさせるものでした
まどかは助かるだろうか? 生死がどうなるにせよ何かを魅せてほしいものです


64 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/22(月) 00:13:19 2guvGZ2c0
感想ありがとうございます。
拙いSSですが、感想をいただけると嬉しくなります。
今後も頑張って書いていきたいと思います。

参加者に【キャスカ@ベルセルク】を追加します。


65 : 名無しさん :2016/08/22(月) 22:20:46 XDfrxrJY0
キャスカか
グリフィスが大人しい分、ここではどういう結末を向かえるかな


66 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/23(火) 18:21:48 cmEI2eSs0
武内P投下します


67 : はるかさんとの出会い ◆YJZKlXxwjg :2016/08/23(火) 18:22:45 cmEI2eSs0
 346プロ所属のプロデューサーである男は、混乱する頭で必死に考えていた。
 自分はこれからどうすれば良いのかを。
 今自分がいるものは事件と言っても良いだろう。
 何十人もの人々を拉致し、一人の少女を殺害し、残った者達で殺し合わせる。
 狂っている、と思わず考えてしまう。
 なぜこんな狂気の催しが行えるのか、プロデューサーには到底理解できなかった。
 何時の間にか持っていたデイバックから一枚の紙を取り出す。
 そこには数十人分の名前が連なっている。
 知った名前は2つ。天海春香と島村卯月。
 天海春香はこの数年で一気に台頭してきた765プロ所属のアイドルだ。
 天真爛漫な明るさと天然キャラ、聞いているだけで元気の沸く歌声、どんな役でもこなす演技力。
 何より、笑顔。見ているだけで元気を貰えるような、太陽のような笑顔が、印象的だった。
 もう一人は島村卯月。プロデューサーが担当しているアイドルの一人だ。
 優しい歌声と努力を惜しまないひたむき姿勢。
 何より、笑顔。その輝きは天海春香と比べてすら、決して陰るものではない。
 彼女にしかできない彼女だけの笑顔。まさにパワーオブスマイルに相応しいアイドルだと、プロデューサーは考えていた。

(ますは島村さんと合流しなくては……!)

 アイドルとして活躍しているとはいえ、彼女はまだ女子高生。
 このような異様な事件に巻き込まれて、平常心でいられる訳がない。
 それに考えたくはないが……万が一、殺し合いに乗った者がいたとしたら……。
 すぐにでも側に立ち、彼女を支えなければならない。
 頬を強く叩き、己を奮い立たせる。
 プロデューサー自身も恐怖はある。だが、進まねばならないのだ。
 彼女の力にならなくてはいけないのだから。
 プロデューサーはデイバックの中に手を伸ばした。
 プレシアは支給品を配布すると言っていた。
 何か役に立ちそうな道具はないか、そう考えての行動だったが―――、


(―――――――!!?)


 ふと、モニュッと何か柔らかい物に振れた。
 とてもとても生暖かく、とてもとても柔らかい何か。
 まるで赤ん坊の肌のような肌心地の良さだった。
 だが、それも予想だにしない状況で味わうと混乱しか生まず。
 プロデューサーもまたデイバックの中にあった不可思議な感触に、絶句した。


「―――――――ッッ!!!」


 次いで、バクリと何か柔らかい物に、バックへ突っ込んでいた手が包まれた。
 とてもとても生暖かく、とてもとても柔らかで、とてもとてもヌメヌメしていて。
 感情をあまり露わにしないプロデューサーでさえも、思わず顔を歪めた。
 ともすれば驚愕の声をあげてしまいそうだった。


68 : はるかさんとの出会い ◆YJZKlXxwjg :2016/08/23(火) 18:23:17 cmEI2eSs0


(う、動いて……!)


 まるでテレビでよくある『箱の中身当てゲーム』のようだった。
 何かも分からない物の感触に、プロデューサーは我慢できずに右手を引き抜いた。


「―――かっかー♪」


 同時に、視界が黒色に染まる。
 先程まで手に会った感触が、一瞬で顔面にあった。
 顔が塞がれ、息ができない。


「ッッッ!!?!?!?」


 ここ数年であったかどうか分からない程の驚愕に包まれる。
 顔を塞がれていなければ、確実に叫び声をあげていただろう。
 彼に担当されてるアイドルからすれば、もの凄くレアな光景だったろう。
 あの堅物Pが全力で慌てふためき、もだえているのだ。貴重なワンシーンと言えるだろう。
 だが、当の本人からすれば笑いごとではなく、彼は必死に顔に引っ付くそれを剥がした。




「……は?」


 そして、彼は見た。
 不思議な、不思議な存在を。
 二頭身の身体と、どこか見た事のあるような―――そう、それはライバルアイドルの天海春香にどこか似ている―――生き物だった。


「―――はるかっか!」


 全力の笑顔を零す珍生物に、彼の思考は停止する。
 そして、その隙を見逃す珍生物ではなく……プロデューサーの手を振りほどき、呆ける彼へとダイブする。
 べちょりという嫌な音と共に、彼の視界は再び黒く染まった。






「はるかさん……ですか。この子は一体……」


 数分後、珍生物―――はるかさんの魔の手から逃れたプロデューサーは一人息を吐いていた。
 少し離れた所では、はるかさんが蝶々と戯れている。
 どうやら興味の対象が移ってくれたようだった。
 デイバックの同梱されていた紙には、珍生物についてが仔細に書かれていた。


 『ぷちどるの一人、はるかさん。
  元気いっぱいな性格で、気に入った人には甘噛みしてくるぞ!
  苦手なものは日光! あと水場と夜間の餌やりは注意! 大変な目にあうかも……』


 仔細……といえば、仔細だが、根本的な疑問の解決には至っていない。
 初っ端のぷちどるという単語からして意味不明だ。
 思わず首をいじりながら、はるかさんを見やるプロデューサー。
 プロデューサーの視線に気付いたのか、はるかさんは笑顔を浮かべて近付いてくる。

「ヴぁーい!」

 再び顔面へと甘噛みをかますために飛び掛かるはるかさんを、プロデューサーは両手で受け止める。
 謎の生物とはいえ、こんな状況で放置していく訳にはいかない。
 溜め息を吐きながら、プロデューサーははるかさんを小脇に抱えて歩き出す。
 彼は気付かない。
 とんでもない出来事があったが故に、殺し合いに対する焦燥や恐怖が幾分か軽減されている事に。
 そのおかげで、冷静な思考が取り戻せている事に。その一因となったのが、脇に抱える珍生物のおかげだという事に。
 気付かないままに、進んでいく。
 彼の瞳は真っ直ぐに前を見詰めていた。


【深夜/C4・森林】
【プロデューサー(武内P)@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:はるかさん@アイドルマスター(ぷちます!)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
0:まずは島村さんと合流します
1:はるかさんは、どうしましょう…


69 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/23(火) 18:23:55 cmEI2eSs0
投下終了です。

>>70
次話に登場させたいキャラを指定してください


70 : 名無しさん :2016/08/23(火) 19:23:36 TreITpXo0
ギルド・テゾーロ


71 : 名無しさん :2016/08/24(水) 00:37:18 uG3dzZiE0
>>68
投下乙です
こんなんありなんかーい!と思ってしまいましたw
絵を想像するとPが可愛くて仕方ありません
メロンより活躍することを祈ってます


72 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/28(日) 14:54:22 ogDyVpPQ0
ギルド・テゾーロ、天海春香投下します


73 : 自分REST@RT ◆YJZKlXxwjg :2016/08/28(日) 14:55:51 ogDyVpPQ0
 おれは負けた。
 麦わら帽子を被ったあの男に。
 正面から、完膚なきまでに、負けた。
 何故かは分からない。
 奴は何度となく傷を負い、立つことすら難しい程のダメージを受けていた。
 なのに、奴は立ち上がった。
 おれは支配されない、と。
 お前をぶっ飛ばす、と。
 何度も、何度も。
 どれほど痛めつけようと、どれほど苦しめようと。 
 立ち上がった。
 立ち上がり、おれを睨んだ。
 陰ることのない炎を瞳に宿して、絶対者を睨み続けた。
 その男の姿に、だぶる光景があった。
 大切なものを守ろうと、天竜人に刃向う男。
 絶対者を睨み、吼える男。
 過去の自分と、奴とが重なってみえた。

 そして、最後の激突。
 おれの渾身を喰らい、一度は撥ね付けられ、それでも奴は折れない。
 黄金の輝きを掻き分けて現れた麦わら帽子。
 再び、脳裏によぎる光景。
 涙を流しながら、微笑む女。
 首に鎖を繋がれながら、天竜人に引かれながら、泣きながら、微笑んでいた女。
 ステラ。
 一瞬、彼女の声が、聞こえた。
 震える声で、それでも一言に全ての想いを乗せて、紡いだ最後の言葉。
 彼女は言った。
 私は、心から幸せだった、と―――。

 言葉を最後に意識が途切れる。
 気付いた時におれがいたのは、潮の匂いにまみれた軍艦でも、かび臭い監獄でもなかった。
 謎の空間。名乗り出たプレシアという女
 語られた殺し合い。爆発する首輪。首をなくした死体……。
 混沌の中で再び意識が途切れて、おれは古ぼけた木造建築物の中にいた。
 砂金の一粒すらない、まるで黄金とは無縁の場。
 船の全てを監視していた黄金のネットワークとは隔絶され、あるのは身一つ。
 首には、どこか覚えのある感触があった。
 金属の首輪。あの時と同じだ。
 天竜人の奴隷として支配されていたあの時と。
 艱難辛苦の記憶を思い出させる感触に、だが、おれも感情は揺れ動かなかった。
 何故、あの男はおれを打ち破れたのか。
 何故、おれはかつての自分とあの男とを重ねて見たのか。
 何故、おれは最後に彼女の言葉を思い出したのか。
 停止した思考で、それらの問いを繰り返し続ける。
 何を起こす気にもなれず、ただ問いの答えを求め続けた。
 答えは、でない。
 どれだけ考えようと、どれだけ思おうと、答えは見つからない。
 ポケットに手をいれる。
 ふと、何かに触れた。
 それは純金の指輪だった。
 唯一残されたそれは、おれがいつも付ける事のなかった左手薬指のものだった。
 全てが没収された中、それだけは奴の目を掻い潜ったらしい。
 指輪を手中でいじりながら、おれは考え続ける。
 出る筈のない問いを、ただ繰り返す。

 不意に、ガラリという音が聞こえた。
 音のした方を見ると、見知らぬ女が立っている。
 小柄な女だ。カリーナやバカラと比べると貧相な少女だった。
 女は扉を開けると同時に、おれの存在に気付いて固まった。
 恐怖と緊張。
 『覇気』など使わずとも、女の精神状態がありありと伝わってきた。
 おれは女から視線を外した。
 興味もなければ、義務もない。
 羽虫のような存在など、気にかける必要もなかった。
 思考を再開する。
 何度も、何度も。
 あの時の光景を、思い浮かべる。

「あ、あのー……」

 女は、何故かそこに居続けた。
 びくびくと警戒しながら、おれに声をかける。
 何故、女がおれに気をかけるのかは分からない。
 分からないし、心底どうでも良いことだった。
 おれは、思考に没頭する。


74 : 自分REST@RT ◆YJZKlXxwjg :2016/08/28(日) 14:56:34 ogDyVpPQ0

「あの、私、天海春香っていいます。その……良かったら、あなたの名前を教えていただければなあって……」

 あの絶対の船の中での敗北。
 挫けることのなかった麦わら帽子。
 何故、奴は立ち上がった。何故、立ち上がることができた。

「あはは……そんな、こんな状況で、聞くことじゃあないですよね……ごめんなさい……」
 
 絶望の中で、幾度と膝を付き、何故奴は折れなかった。
 何故、おれは奴の心を折ることができなかった。
 黄金に支配された都市で、絶対の存在であったはずなのに。

「えっと……その……大丈夫ですか? な、何だか、悲しそうな顔をしてるように、見えて……」

 おれがしてきた事は一体なんだったのか。
 『ゴルゴルの実』を食い、力を手に入れ、ありあまる程の金を手にして。
 権力者に膝をつかせ、金の力に苦しむ者どもを嘲り。
 結果、全てを失った。

「……あの、お節介かもしれないですけど……私の仲間も、いつか、そんな顔をしてる時があって……」

 何故だ。
 何故、おれが負けた。
 全てを黄金が支配した世界で、何故負けた。
 おれは何かを間違っていたのか。

「……だから、ほっとけないというか……こんな状況ですし、その……迷惑かも、しれないですけど……」 

 女狐を仲間に加えたこと?
 あいつ等を罠に嵌めようとしたこと?
 それよりも、もっと前から―――?

「……あの、その………」

 分からない。分からないことだらけだった。
 正しいと思った道を進んでいた筈だった。
 金が全てを支配するなら、おれが金を支配すれば良いと思っただけだった。
 そう思い、そう生き、それだけの力を得て。
 尚、負けた。
 かつてのおれと同じ目をした男に、負けた。

「……あぅ………」

 何故だ。
 何故なのだ。
 分からない。分からなかった。
 全てが間違っていたとして、おれはどうすれば良かったのだ。
 どうすれば、奴に勝てた。
 どうすれば、彼女を救えた。
 どうすれば、彼女と共に人生を歩めた。
 どうすれば、どうすれば、どうすれば。

「……うう……」

 おれは―――どうすれば、良い。
 全てを間違っていたとして、おれはこれからどうすれば良い。
 おれには何もない。
 ステラも、仲間も、金も、権力も、何もかもおれの手からすり抜けていった。
 おれには何も……何も残ってはいなかった。


75 : 自分REST@RT ◆YJZKlXxwjg :2016/08/28(日) 14:57:23 ogDyVpPQ0

「……あのー……」

 ああ、最後に、一つだけ残っていた。
 左手薬指の、それ。
 まるで彼女が残してくれたかのような、黄金の指輪。
 お告げのようだった。
 最後に残ったそれで、全てを終わらせよう。
 簡単だ。
 これまで何千、何万と繰り返してきた。
 ただ違うのは、今から奪う命が他者のものではなく、自分のものだということだけ。

「……うぅぅー……」

 もし、死んだとして、彼女と再会できるのか。
 ……いや、金の力に取りつかれた『怪物』は、地獄に落ちるのだろう。
 死んだとして、彼女のような高潔な存在と同じ所に行ける訳がない。
 
「……むぅ〜、なら……」

 さぁ、いこう。
 神になれず、全てを失った道化の幕を下ろそう。
 手中の指輪をこめかみに当てる。
 あとは指輪の形状を、剣のようにすればいいだけ。
 それで、終わりだ。
 全てが終わる。

「……ステラ」

 最後に、最愛の名を紡ぎ。
 そして、おれは能力を発動した。
 そうして、全ての感覚が途切れる。







「――――輝いた〜、ステージに立てば〜♪」







 寸前で、聞いた。


 その声を。


 その唄を。


 思わず、目を開けた。


 そこには女が立っていた。


 両目を閉じ、胸に両手をあて、微笑みながら唄う女が。


 立っている。



「最高の、気分があ〜じわえる〜♪」


 光景が、よぎる。


 ガキの頃。


 フェンスの向こう側から見たエンターテイメントショー。


 煌びやかなステージ。


 全てが輝いて見えたあのステージ。


 原初の思い。


 始まりの光景。


 おれは、それを目の前の女に、見た。


76 : 自分REST@RT ◆YJZKlXxwjg :2016/08/28(日) 14:58:28 ogDyVpPQ0


「すべてが報われる瞬間〜♪ い〜つまでも続け〜♪ 夢なら覚めないでいて〜♪」



 歌が、終わる。


 演出も、音響も、照明もない―――だが、どこまでも輝いて見えた―――ステージが、終わる。



「あ、ようやく見てくれましたね! どうでした、私の歌?」



 女が、微笑みかける。



「……おまえは、一体……」



 気付けば、口から漏れていた問い。



「私、ですか? 私は、その……改めて自分で言うのも恥ずかしいですけど……」



 女ははにかみながら、口を開く。




「―――アイドルですよ、アイドル!」 


 
 アイドル。


 
 少し恥ずかし気に、でも満面の笑顔でそう言った女は、何故だかとてもとても、



 輝いて、見えた。



「アイドル……」
「そう、アイドルですっ」



 思い出す。


 あの日の光景。


 おれの憧れ。


 おれの願い。


 おれの―――『夢』。


77 : 自分REST@RT ◆YJZKlXxwjg :2016/08/28(日) 14:59:13 ogDyVpPQ0



「くっくく……」


 
 そうだ。


 そうだった。


 金を失い、仲間を失い、愛するべき者も失い―――だが、それでも。



 それだけは、輝いていた。



 鈍く、暗く、それでも、それでもだ。



 それは、輝いていた。



 『夢』が、あった。



 あったんだ。



「くっ……ハハハハハハハハハハ!!」
「!!?」



 笑い声をあげていた。
 おかしくて、おかしくて、仕方がなかった。
 全てを失い、自らの命まで断とうとして、そして辿り着いたのだ。
 最初の光景に、最初の憧憬に、戻ってきた。
 長い、なんて長い回り道だったのか。
 そうだ。
 おれには『夢』があった。



『ステージで歌いたい。でっかいショーのステージで!』



 世の中の地獄を知ったつもりになっていたガキが、これから待つ地獄を知らないガキが、愛する者の前で語った『夢』。
 おれは叶えちゃいない。
 おれの『ショー』を見せてはいない。
 『ゴールド・ステラ・ショー』は、おれのためのショーだった。
 おれに屈する奴等の間抜けな顔を、金を失い転落していく奴等の顔を楽しむための、おれのためのショーだった。


「あ、あの……大丈夫ですか?」


 女が、心配そうに覗きこむ。
 おれに『夢』を思い出させた女。
 なぜ、こいつがあんなにも輝いて見えたのかは分からない。


78 : 自分REST@RT ◆YJZKlXxwjg :2016/08/28(日) 14:59:41 ogDyVpPQ0


「テゾーロ……ギルド・テゾーロだ」
「へっ? あ、えっと、私は春香です! 天海春香!」
「ショーの礼だ。おまえを守ってやる」
「え、え……?」



 だからこそ、惜しいと思った。
 こんな下らない殺し合いなどで、こいつを死なせるのは惜しいと。
 ただ、それだけだ。
 おれに『夢』を思い出させた女を、こんなところであんな狂った権力者共の思うようにさせたくはなかった。


「行くぞ」
「は、はい……」


 短く言葉を残し、おれは歩き始める。
 少ししてハルカが追い付いてくる。
 困惑した様子だがおれの言葉を信じたようだった。
 疑問の答えがでた訳じゃない。
 それでも、おれは前を向く。
 『夢』を目指して、そして隣の輝きを守るために、進んでいく―――。




【深夜/G7・分校】
【ギルド・テゾーロ@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:テゾーロの指輪×1@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:『夢』を叶える
1:ハルカを死なせない

【天海春香@アイドルマスター】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:死にたくない
1:テゾーロさん、大丈夫かなあ……。
2:プロデューサーと合流する


79 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/28(日) 15:00:18 ogDyVpPQ0
投下終了です。

>>80
次話に登場させたいキャラを指定してください。


80 : 名無しさん :2016/08/28(日) 15:19:06 8ItswkTA0
トニー・スタークで


81 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/29(月) 01:59:09 u0XKeA9.0
トニー・スターク、シグナム、高町なのは投下します。


82 : 魔改造騎士リリカル☆シグナム ◆YJZKlXxwjg :2016/08/29(月) 02:00:46 u0XKeA9.0
『あなたは、それでも彼女を救いたいの?』

 それは悪魔の問い掛けだった。
 私にできるのは首を縦に振ることだけ。
 遥か前に、道は決まっているからだ。
 家族を生き返らせるために、全てを捨てる。
 騎士としての誇りも、絆も、未来も、ただ我が主のために。

『了解したわ。存分に振るいなさい、力を』

 黒衣の魔女も、淡々と受けた。
 いや、その口元には笑みがある。
 愉悦と好奇に満ちた笑みが。
 沸き上がる殺意を抑える。
 こいつを殺してしまえば、全てが台無しとなる。
 唯一の望みを自らの手で断ってしまうことになるのだ。

『あらゆる次元を越えて蒐集した力―――あなたに分けてあげる』

 視界が漆黒に染まる。
 恐怖も未練もなかった。
 ただ、今度こそは、と。
 今度こそは救って見せると、純粋な決意だけが残っていた。

 そして―――、







「これはまた……厄介なことに巻き込まれたな」

 暗闇の海岸線。
 トニー・スタークは溜め息を吐きながら、空を見上げていた。
 目を覚ませばあった、この殺し合いの場。
 最新のセキュリティーに警護されていた筈のアベンジャーズ基地から、いつのまにやらこの辛気臭い海岸線だ。
 セキュリティーの管轄はトニー自身が行った。
 絶対とは言わずとも、そう簡単に破れる警護でなかった筈だが―――。

「まぁ、もう驚かないさ。この世は不思議で満ちている。ちょいと彼女に会いに来る神もいれば、スパイダーボーイだっている。
 ありえないなんてことはありえない。全く理不尽な世界になったものだ。タコ坊主に会社が乗っ取られそうになっていた頃が懐かしいよ」

 ちょいちょいと、自身の首輪を触りながらトニーは零す。
 数年前より世界は異常に満ち満ちている。
 今さら臆するトニーではなく、その灰色の脳は既に状況打開のためにフル稼働を始めていた。

(まず何とかしなくてはいけないのは、この首輪だな……素直な娘だと良いが)

 今現在参加者を縛っているのは、プレシアが用意した『首輪』だ。
 これに命を握られてるからこそ、人々は反逆の拳を挙げられないでいる。
 だが、トニーは首輪に関して、そう重くは捉えていない。
  
「さて、プレシア女史。あなたは挑んだ訳だ。機械工学という分野で、この天才に」

 答えは彼自身の言葉が全てだった。
 天才。
 そう、トニー・スタークは自他ともに認める程に『天才』だった。
 機械工学……いや学ぼうと思えば如何な分野でおいてすら、彼は人類トップクラスと昇り詰めることが可能なのだろう。
 だからこそ、トニーは確信していた。
 自分ならば、この首輪を解除することができると。

「1日か2日か、いや数時間か。君の技術がどこまで僕に通用するか、見ているといい」
 
 姿もなきプレシアに宣戦布告を残し、歩き始める。
 如何な天才とはいえ、いきなり首輪を解除できる訳がない。
 まずはじっくりと観察をさせていただいてから、その中身を探っていくこととしよう。
 そのためにも、

(サンプルをゲットしたいところだが……)

 実験台が、必要である。
 だが、それには誰かの犠牲が不可欠となる。
 トニーも己の正義のために暴走する生来があるが、最低限の分別は有している。
 サンプル欲しさに殺人を犯すことはないし、それを望みはしない。
 いざとなれば殺人も厭わないが、相手が悪人であろうとそれは最後の手段である。
 何か他の手があるなら、その可能性を追求してからだ。


83 : 魔改造騎士リリカル☆シグナム ◆YJZKlXxwjg :2016/08/29(月) 02:01:57 u0XKeA9.0

「……まずは自分の彼女を眺めるか」

 自分の首にあるそれを観察するしかない、その結論づけてトニーは歩き始める。
 取り敢えずは見てみない事には何も始まらない。
 鏡が支給されていれば良かったが、残念ながらそんな類のものはなかった。
 地図を確認し、住宅街にあたりをつける。
 そちらに向けて進んでいくトニーであったが、


「ん?」



 彼は見た。
 遥か彼方の水平線と、星々に埋め尽くされた夜天。
 その最中で、何かが空に浮かんでいた。
 鳥か、雲か。
 トニーはぼんやりと考えながら、それを見る。


(いや―――)


 そして、気付く。
 それのシルエットが徐々に大きくなっていることに。
 それが飛行しながらこちらへ接近していることに。
 それは、鳥でも雲でもない。
 人の形をした『何か』だという事に、トニーは気付く。


「やあ、マドモアゼル。良い夜だね」


 空の彼方。豆粒ほどの大きさのそれは見る見るうちに大きくなり、トニーの前に現れた。
 凄まじい飛行速度だった。例えアイアンスーツがあったとして、逃げ切れたかは疑問である。
 間近まで迫られ、トニーは知った。
 何らかの方法で飛行してきた『それ』は、妙齢の女性だった。
 整った顔立ちに、きりりと吊り上がった意思の強そうな瞳。
 月光を逆光として受けながら、『それ』がとてつもない美人だという事が分かった。

「ああ、惜しいな。ここが僕の地元なら三ツ星ホテルを貸し切りにでもしたのに。君みたいな美人と遭遇するには、ここは余りに寂しすぎる。
 とはいえ、僕たちは文化人だ。例えどんなに酷い環境だろうと『話す』というコミュニケーション能力を持っている。
 どうだろう? ここはそう殺気だたずに冷静にお話しでもしてみないかい? 君が望むならベッドの中ででも良いが――――おっと失礼。相応しくない言動だったな。謝るよ」


 兎にも角にも、口八丁手八丁。
 いつもの軽口をいつものように並べる。
 アイアンスーツはおろか、武器の一つとして今は無し。
 戦闘になったとして、相手が超常の力を有していれば勝ち目は薄い。
 冷静に、冷静に。
 まずは場をコントロールしなければ。
 女は、沈黙のままにトニーを見下ろすだけだった。
 手には一本の剣。
 時代錯誤の武器であったが、身に着けている甲冑と相成り、非情に女性に似合って見えた。
 おそらかうどんなドレスで着飾るよりも、女には今の恰好が合うのであろう。

(と、そんなことを考えている場合じゃないな。ラッキーな事に仕掛けてはこないが……)

 女を視界に留めたままに、周囲を見る。
 左は崖、右は森。
 崖下は海になっているが、無事に着水できるかは不明だ。
 途中で岩肌に激突すれば終わりだし、着水したところで助かるかどうかは分からない。
 森に逃げ込んだとして、追跡の手を躱せるかも分からない。
 あれだけの速度で飛行できるのだ、そう簡単に逃げ切れるとは思えないが。
 ならば、立ち向かうか。素手で、平然と空を飛ぶ女性に?
 ナンセンスの塊だ。

(八方ふさがりか……どうする……?)

 だが、このまま立ち尽くしていても話は始まらない。
 女の意図は不明だが、様子を見るに穏便にすむとは思えなかった。
 その瞳は刃のような冷ややかさを含み、トニーを眺めていた。
 純然な殺意がある訳ではないが、普通の女性が映す色ではない。
 沈黙も不気味だ。
 何を考えているか、思考が読めない。
 まだウルトロンの方が人間らしい感情を備えていたように思える。

「そうだな、まずは君の名を教えてくれないか? 僕はトニー・スターク。テレビで観たことあるって? あぁ、そうだと思った。
 ただ初対面の人と出会った時、自ら名乗ることは大切なことだ。知名度に関わらずね。それが二人の距離を近づける第一歩となるからさ」

 返答はなし。
 ただ、女の方に少し変化があった。
 嘲るような笑みが、その端正な口元に浮かんだ。
 くっと、笑い声のような音も聞こえた気がする。


84 : 魔改造騎士リリカル☆シグナム ◆YJZKlXxwjg :2016/08/29(月) 02:02:29 u0XKeA9.0

「思い出した。かつて貴様のように軽口を好む男と出会ったよ」
「ほう、それは興味深いね! さぞや頭の回る良い男だったろう。軽口と皮肉屋は頭の良い人間の証らしいからね」

 ようやく女が見せてくれた反応に、トニーはわずかに安堵を感じた。
 表情は陰険だが、返事としてはそう悪くない。
 このまま上手いこと話を広げていけば、信頼関係が築けるかもしれない。
 と、トニーが浮かべた淡い希望は、


「そいつは死んだよ。私が、この手で、そいつの腹を斬り裂いてやった」
「――――――、」


 続けられた女の言葉に簡単に打ち砕かれた。
 笑みは嘲りから狂気を含んだそれに。
 その表情と声に、トニーですら戦慄を覚え、軽口を止めた。


「許しは請わない。私は最早ただの剣だ。全てを斬り裂くまで止まらん」


 ふと女の左手に、光が灯った。
 燃えている。女の手が、メラメラと。
 まるで女自身の手が炎と化したかのように。


「奴等は言った。全てを殺せば、主を生還させると。
 奴等は言った。そのために、次元を越えた力を授けようと
 私は願った。それで良いと。もう二度と敗北をせずにいられるのなら、私は何にでもなると」


 炎は徐々に広がっていき、遂には女を包み込む。
 だが、女は苦しむ様子もなく、悠然とそこにあった。
 炎を身に纏い、剣を構える女。
 その光景は幻想的で、美しいとさえトニーは感じた。


「怪物にも、悪魔にもなろう―――主のために!!」


 裂帛の気合いと共に、女は左手を掲げた。
 同時に女の左手から炎が噴出した。
 それはもはや爆発だった。
 どんな原理かすらも分からない。
 ただ前触れもなく、巨大な火焔がすさまじい勢いでトニーへと迫る。
 トニーの反応も迅速だった。
 女が左手を掲げた瞬間には、右手の森林側へと全力で走り始め、回避行動に移っていた。
 それでも、女の攻撃は範囲が広すぎた。
 炎の塊はトニーの周囲殆どを焼き尽くさんほどだった。

(避けきれない―――)

 配布されたデイバックを頭を守る様に掲げる。
 これほどの火焔の前では無駄だと分かっていながらも、トニーは足掻いた。
 諦める訳にはいかなかった。こんな所で死ぬわけにはいかなかった。
 成すべきことが、成さねばならぬことがあるのだ。
 だから、

(くっ、ペッパー―――!!)

 意識が途切れる直前、トニーの脳裏をよぎったのは愛する女性の姿。
 彼女の微笑みを思い浮かべながら、トニーは灼熱に包まれる感覚を覚えた。


85 : 魔改造騎士リリカル☆シグナム ◆YJZKlXxwjg :2016/08/29(月) 02:03:16 u0XKeA9.0





 海岸線は炎につつまれ、おおよそ人が生存するには叶わぬ空間と化していた。
 その光景を創り出した張本人―――シグナムは、微動だとせずにある一点を見詰めていた。
 燃え盛る炎の渦中にて、ただ唯一炎とは別種の輝きを放つ存在。
 光の線が幾何学模様を描き、炎と熱を遮断する壁として機能していた。

「まさかこんなに早くお前と再会するとはな―――高町なのは」

 シグナムにとって見覚えのある魔法陣だった。
 因縁といっても良い。
 今は遠きかつての戦い。対峙する黒と白、二色の幼き魔導師。
 その片割れ、高町なのは。
 彼女が、そこにいた。
 炎の中でシール魔法を形成し、軽薄そうな男を守護している。

「シグナム、さん……一体、その姿は……」

 その手に相棒たるデバイスはなく、それでも真っ向から自分を見据える。
 真っ直ぐな瞳。偽物のそれとは思えない。

「やはり、嘘偽りではないようだ」

 シグナムはここに至り、確信する。
 あの女が言った事に偽りはない。
 死した者を生き返らせる技術を、プレシアは有している。
 ならばこそ、もう迷いはなかった。

「シグナムさん! 話を、話を聞いてください!!」

 声掛けに応じず、シグナムは地面へと降り立った。
 燃え盛る炎の中を涼し気に、ゆっくりと歩み寄ってくる。
 遂には、なのはの間近にまで接近した。

「シ、シグナムさん……?」

 対峙するなのはは困惑していた。
 見知らぬ男にいきなり攻撃をしたかと思えば、こうして隙だらけに歩み寄ってくる。
 炎を身に纏った姿も、その虚ろな表情も、全てが彼女の知るシグナムとは掛け離れていた。
 シグナムの意図を読むことができない。
 まるで別人を前にしているかのようだった。

「悪魔の『力』は試した。次は怪物の『力』だ」

 ぽつりと零し、シグナムはレヴァンティンを鞘に納めた。
 戦いを止めてくれるのかと、淡い希望を抱くなのは。
 だが、次いでの言葉になのはは固まった。

「気張れよ、なのは。でなければ死ぬぞ」

 死。
 まるで躊躇いもなく紡がれた一言に、なのはの肌が総毛だった。
 シグナムは自分を殺すつもりなのだ、となのはは否応なく理解した。
 シールドに魔力を集中させ、シグナムの攻撃に備える。
 対するシグナムは拳を固め、大きく振り被る。
 それはなのはも見た事のない光景だった。
 騎士たるシグナムが剣ではなく、拳で攻撃をしようとしている。
 彼女にはどうにも似つかわしくない攻撃法に困惑しつつ、なのははシグナムの様子を見ていた。
 そして、予備動作通りにシグナムは拳を振るった。
 デバイスも何も使わずに、ただ拳一つでなのはのシールド魔法へと向かっていく。
 拳と盾とが、触れる。


86 : 魔改造騎士リリカル☆シグナム ◆YJZKlXxwjg :2016/08/29(月) 02:03:57 u0XKeA9.0


「――――え、」


 気付けば、シールドごとなのはの身体は吹き飛んでいた。
 踏ん張ることすらできずに、宙空に舞っていた。
 浮遊感に包まれながら、視界の端でシグナムを捉える。
 追撃の様子はなく、彼女は拳を振り切った体勢のままでいた。
 ただ、その姿は異様であった。
 透き通るほどの白色だったはずの肌が、爬虫類を思わせる緑色に染まっているのだ。

(何、が――――――)

 シグナムの一撃は、後方で気絶していたトニーごとなのはを崖側へと吹き飛ばしていた。
 十数メートルと空を飛び、崖を越え、荒れ狂う海へ。
 レイジングハートの無い今、なのはに空中制動は出来ない。
 ただ重力に引かれて、下へ下へと落ちていく。
 そうして、なのはとトニーの姿は海の中へと消えていった。







「これが怪物の『力』か」


 そして誰もいなくなった世界で、シグナムは己の身体を見つめていた。
 右手は炎に包まれ赤く、左手は筋が肥大し緑に。
 これが、シグナムの手に入れた力であった。
 プレシアから持ち掛けられた『ジョーカー』としての提案。
 優勝すれば、主・八神はやてを蘇生させるという悪魔の誘い。
 それに乗ったシグナムは、主催者側より『力』を携わった。
 悪魔と、怪物。
 片や『メラメラの実』という炎を自在に操る力を、片や『ハルク』という怪物の血液を注入し人間離れした膂力を。
 『ジョーカー』の特典として、シグナムは手に入れた。
 勿論、代償はあった。
 『ハルク』の力を手に入れるため、魔導の身体のあちこちをプレシアに弄られ『改造』された。
 その身体はもはや、かつてのシグナムとは別物で。
 彼女の心臓とも言えるリンカーコアは過程で限界を迎え、輝きを失った。
 代わりの核として用意されたのは、赤色の玉石。
 プレシアは言っていた。
 あなたはもうヴォルケンリッターの騎士ではない、と。
 『賢者の石』を核に動く―――『人造人間(ホムンクルス)』だと。
 喜々として、語っていた。

(……全て、些細なことだ)

 シグナムにはもはやどうでも良かった。
 騎士でなかろうと、どんな存在であろうと。
 願いを果たせれば、それで良い。
 かつての殺し合いのように、願いも果たせずに死ぬことだけは許せなかった。
 過ちを繰り返すのならば、悪魔にでも、怪物にでも、魔女にでも、神にでも、身を売ろう。
 

「今度こそ、救ってみせます。主よ」


 狂気の身体で、騎士だったものが紡ぐ、
 唯一残されたのは、忠誠のみ。
 悪魔のような、怪物のような、だがそれらのどれとも違う異様な存在が動きだす。
 全てを蹂躙するために、進んでいく―――。



【深夜/B4・崖】
【シグナム@アニメキャラ・バトルロワイアル】
[状態]:健康
[装備]:レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA’s、賢者の石@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
0:優勝して願いを叶える
1:主を救う

※『メラメラの実』の能力を手に入れました。
※『ハルク』の力を手に入れました。なお『ハルク』のように理性を失うことはありません。『シーハルク』のような感じです。
※身体の核に『賢者の石』が使用されています。


87 : 魔改造騎士リリカル☆シグナム ◆YJZKlXxwjg :2016/08/29(月) 02:04:24 u0XKeA9.0







「うぅっ……お、重……」

 そこから少しばかり離れた砂浜にて、なのははトニーを引き摺るようにして歩いていた。
 着水する寸前、プロテクションを張り衝撃を軽減。
 身体能力を魔力で強化し、あとは持ち前の負けん気で何とかトニーを引っ張って砂浜へと到着した。

「つ、疲れたぁ……」

 木の下まで移動し、倒れ込むなのは。
 魔力と肉体の両方を酷使しての救出劇に、既に疲労困憊であった。
 大の字で倒れながら荒く呼吸を繰り返し、心臓が落ち着くのを待つ。

(シグナムさん、一体どうしちゃったんだろう……)

 休憩しながら思考する。
 様子が変だったシグナム。
 自在に炎を操り、魔導師としても異常なほどの筋力を発揮した。
 何より、人を殺す事に一切のためらいを見せなかった冷徹な心。
 なのはには信じられなかった。
 はやてを救うために、苦悩し、懊悩しながらも戦っていた彼女と同一人物とは思えない。
 まるで別人のようにすら感じてしまった。

「訳が、分からないよ……」

 全てが混乱の中にありながら、幼き魔導師は空を見上げた。
 彼女の世界と変わらぬ夜天がそこにあり、だが取り巻く全ては一変していて。
 何をどうすればいいのか、なのはには何も浮かんではこなかった。


【深夜/C3・砂浜】
【トニー・スターク@アベンジャーズ】
[状態]:全身にごく軽度の火傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3(武器類はなし)
[思考・状況]
0:首輪を解除し、殺し合いをとめる
1:気絶中

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA’s】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:殺し合いを止める
1:シグナムさん……
2:おじさん(トニー)を守る
3:フェイトちゃんやはやてちゃんと合流する


88 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/29(月) 02:05:36 u0XKeA9.0
何だかはっちゃけ過ぎましたが、投下終了です。

>>89
次話に登場させたいキャラを指定してください。


89 : 名無しさん :2016/08/29(月) 02:23:36 KvTpJ43Y0
>>78
乙です
ギルド・テゾーロの魅力が詰まったいい話だと感じました
セイバーと対極な立場とも思えただけに、両者の接触が見てみたいとも思いました
辛抱強い春香も好印象、あの支給品と出会ったらどうなるやらw


90 : 名無しさん :2016/08/29(月) 02:43:55 KvTpJ43Y0
>>88
魔改造シリーズきたー
これは大佐と遭ってほしいキャラですね
トニーは良い大人らしく、なのはを支えてくれるのを期待してます
それと>>89は新作投下に気づかなかったこちらのミスです、ごめんなさい

もし宜しければ八神はやてを指定します


91 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/31(水) 23:49:21 eulMw77g0
阿久津敏夫、八神はやて投下します


92 : 不屈の心はこの胸に ◆YJZKlXxwjg :2016/08/31(水) 23:50:11 eulMw77g0
 阿久津敏夫は警察官である。
 かつて山岳遭難救助隊に所属し、北アルプスで遭難者の救助に携わっていた。
 山では命は容易く消えていく。
 ほんの少しのミス、油断が取り返しのつかない事態を招く事がある。
 それを良く知っているのは阿久津自身であった。
 阿久津は、その日とある救助に関わった。
 雪山で立ち往生してしまった登山者を救助するというもの。
 要救助者のいる場所はある程度分かっていた。
 あとは時間との勝負。救助者の体力が尽きるよりも先に、合流し、下山しなければならなかった。
 救助には遭対協も参加していた。
 遭難防止対策協会。民間の救助ボランティア。
 その技術・体力・判断力は凄まじく、救助の現場は彼等の協力がなければ成り立たないほどのものだ。
 この時、救助に参加していた遭対協は、阿久津が知る中では最も山に長けた人物だった。
 名は島﨑三歩。
 年がら年中山に、などというレベルではなく、一年中を山で過ごしているのだ。
 テントを張り、冬は雪のレンガでかまくらを創り、住所も持たず山で暮らしている。
 山のエキスパート。それが島崎三歩であった。
 三歩の協力もあり、要救助者は無事に発見できた。
 大きな怪我もなく、命に別状はなし。
 あとは合流し、共に下山するだけだった。
 阿久津はサポートのために一足早く、三歩のもとへと向かった。
 第一子ができた責任感、また三歩との特訓の成果を見せたくて、一人先行した。
 真っ暗な登山道。
 ヘッドライトで照らされた足元を見詰めて、ひたすらに上へ向かっていく。
 身体は軽く、疲労も少ない。
 ふと、声が聞こえた。
 遠くの方から、何かを叫ぶような声。
 顔を上げる。
 目の前に、何かが、あった。
 そして、気付けば病院のベッドにいた。
 20日もの間、昏睡状態にあったらしい。
 話によると巨大な落石が直撃したとのことだった。
 両脚は回復の見込みはなく、一生を車椅子で過ごすことになると、医師から告げられた。
 阿久津は、決して折れなかった。
 リハビリに全力を注ぎ、少しでも動けるよう努力を積み重ねた。
 ついには現場に復職し、街の交番に勤め始めた。
 山からは遠ざかってしまったけど、それでも後悔はない。
 家族のために、自分がやれることをやるだけだった。
 そうして新たな生活を迎えた最中で―――彼はこの殺し合いの場に連れてこられた。

「くそっ……何がどうなってるんだ!」

 車椅子の上で、阿久津は叫んだ。
 訳の分からない状況だった。
 何もかもが唐突に変わり過ぎていた。
 人が一人死に、殺し合わせる行為。
 異常だ。何もかも異常すぎる。

(落ち着け……こういう時こそ冷静に行動するんだ……!)

 彼をパニックから引き戻してのは、警官としての使命感だった。
 犯罪者を逮捕し、市民を守る。それが彼の仕事だ。
 山で遭難した時だって、そう。
 まずは冷静に、己の為すべきことをしっかりと考えなければならない。

(デイバック……プレシアから支給されたものか……)

 デイバックを漁ると数枚の紙と食糧が出てきた。
 一枚一枚目を通していく。それは『参加者名簿』と『会場の地図』だった。

(嘘だろ、久美さんに……三歩さん!?)

 連ねられた名に、阿久津は愕然とする。


93 : 不屈の心はこの胸に ◆YJZKlXxwjg :2016/08/31(水) 23:50:48 eulMw77g0
 椎名久美に島崎三歩。
 椎名久美は元同僚で、彼が事故で山を去った後も北アルプスで山岳救助の仕事を続けていた筈だ。
 警官を二名も巻き込み、殺し合わせるとは相応の異常性を感じる。
 そして、島崎三歩。
 この名は彼を何よりも驚かせた。
 事故から数カ月後、阿久津敏夫は聞いたからだ。
 島崎三歩は、山で死んだと。
 エベレストで、世界で一番高い山で、多くの人を救助し、遂に帰ってこなかったと。
 聞いていた。
 勿論、最初は阿久津も鼻で笑い飛ばした。
 間近で見てきて島崎三歩がどれだけ凄い人間なのかは、良く知っていた。
 だからこそ信じなかった。信じられなかった。
 三歩が山で死ぬなど、考えられなかった。
 だが、月日が経ち、何度目かの夏や冬を迎えても、彼は帰ってこなかった。
 その事実が、ゆっくりと阿久津に実感を持たせていった。
 島崎三歩は、山で死んだ。
 世界で一番高い山で―――、
 だが、その名が、ここにある。
 同姓同名の可能性はあるが、確かに名があるのだ。

(三歩さんは……生きてる、生きてるんだ!)

 歓喜が、阿久津を包む。
 何よりも安心感が込み上げてきた。
 勿論、ここは山ではない。
 救助の現場とは何もかもが違っている。
 だが、それでも。
 島崎三歩なら何とかしてくれると、そう思えてしまう。

(やるんだ! 俺も……俺だってやってやる!)

 阿久津の瞳に、火が灯る。
 やってやるという想いが、沸きあがってくる。
 デイバックへと手を伸ばす。
 プレシアは人々の装備をランダムに配布すると言っていた。
 何かしら武器になりそうなものもあるのかもしれない。

(ん……何だ、これ……?)

 固い、金属の質感をもった何かが手に当たる。
 取り出しても、それが何なのか分からなかった。
 だが、一個、二個と次いで出てくる物を見るにつれ、阿久津は否応なしに分かってしまった。

「これは……!!」

 それは、阿久津に見果てぬ夢を与えるものだった。
 それの名は―――、







「なんで……こんなことになってるんやろ……」

 八神はやては困惑の言葉を吐いた。
 アスファルトの道路のど真ん中。
 山道でないだけマシかもしれないが、車椅子の身にはあまりに応える現状だった。

(さっきの人がフェイトちゃんのお母さん……?
 離れ離れになってるとは聞いたけど……何で実の娘にこないなことを……)

 闇の書事件が解決して少しの時が経った。
 フェイトの過去を深く聞いた訳ではないが、先程の様子を見るに察するものがあった。
 今にも泣きだしそうな、驚愕と悲しみが入り混じった表情。
 見ているだけで、痛ましくなるそんな様子だった。

(皆、無事ならええけど……)

 この場には、なのはやフェイト、彼女の家族たるシグナムとヴィータもいるようだった。
 彼女達は歴戦の魔導師である。
 こんな殺し合いでどうこうなる訳はないだろうが……主催者が主催者だけに、一抹の不安は隠せない。
 少しでも早く合流したいというのが、はやての本音であった。


94 : 不屈の心はこの胸に ◆YJZKlXxwjg :2016/08/31(水) 23:51:19 eulMw77g0

「でも、この足じゃなあ……」

 だが、一つ大きな問題がある。
 今、はやての持ち物の中に彼女のデバイスたる『夜天の書』はない。
 つまりは、今の彼女は両脚に障害という、大きなハンデを背負った少女でしかない。
 移動手段は車椅子。
 戦闘は愚か、通常の活動にすら制限が掛かるほどだ。

「どないしよ……」
 
 思わずため息が込み上げる。
 こんなところを危険人物に見られれば、真っ先に襲われてしまう。
 対抗の手段などない。無惨に殺されるのが目に見えている。

(まずは何処かに隠れよ……運が良ければヴィータ達と出会えるかもしれへん)

 ともかく、じっとしていても始まらない。
 電動車いすを操作し、近くの民家へと近付いていく。
 だが、当然ながら民家の殆どが車椅子を想定した造りではなく、玄関に上がることすら困難だった。
 いくつかの家を回るが、ちょっとした段差が巨大なそそり立つ壁のようにすら感じた。
 バリアフリーの行き届いた自宅や病院とは、まるで違う。
 この時ばかりは、己の両脚を呪いたくなってしまった。

(ううっ、どうしよう……)

 次なる民家に向かいながらも、はやては大きくなる焦燥感を感じていた。
 身を隠すことすらできやしない現状。
 余りの不甲斐なさに思わず涙すら浮かびそうになる。

(ん? 風切り音……?)

 そんな最中だった。
 はやての耳に空気を切り裂くような音が届いた。
 それは魔導師が飛行している時のような音。
 思わず空を見上げた。
 ヴィータやシグナムが、なのはやフェイトが近くにいるのではないか。
 そんな希望がはやての内側で膨れ上がっていく。

(どこや、どこから……)

 風切り音は段々と近付いてきていた。
 右に左に空を見るが、飛行体は見えない。
 だが、音は着実に大きくなっている。

(違う、真上―――)

 回答に至ると同時に、それは来た。
 予想通りの真上から、はやての視界に乱入してくる影。
 それは、

「……ロ、ロボット……?」

 まさに、そうとしか形容のできないものだった。
 赤と金を基調にした金属の身体。
 胸部には丸く光、円状の物体。鎧の要所も淡く輝き、ぼんやりとその姿を闇夜に映す。
 それは両手のエネルギー噴出で姿勢を制御し、空中で静止していた。
 どくんどくんと、鼓動が高まるのを感じた。
 相手は異様。見た事のない存在だった。
 次に何をしてくるのかが、全く予見できない。
 もし、襲い掛かってくれば―――はやてに成す術はないだろう。

「あ、あなたは……」

 言葉が通じるかも分からないのに、はやては思わず問い掛けていた。
 それは、無言だった。
 ただはやてを見下ろしていて、



 ―――ドンガラガッシャーン!!



 そして、不意にバランスを崩して地面へ落下した。


95 : 不屈の心はこの胸に ◆YJZKlXxwjg :2016/08/31(水) 23:51:43 eulMw77g0
 結構に派手な音が周囲に撒き散らされる。
 はやては目を丸くして、その光景を見ていた。

「いてて……」

 ロボットが声を上げた。
 同時にロボットの顔がスライドし、収納される。
 出てきたのは、どこにでも良そうな平凡な顔をした男の人だった。

「あはは、大丈夫だった? 巻き込まれてない?」

 男の人は引き攣った笑みを浮かべながら、寝転びながらはやてを見上げる。
 それはどうやら完全な機械という訳ではないようだった。
 機械のスーツ、みたいなものなのだろうか。
 アニメや映画でたまにみる、パワードスーツ的な何かなのだろう。

「いやぁ、これ僕の支給品なんだけどさ。上手く扱えなくて。
 さっき宙で止まってたのも、バランスとるのに必死でさ。結構難しいね、これ」

 面目ないといった様子で笑いながら、男の人は立ち上がろうとした。
 その動きに、はやては覚えがあった。
 上半身だけを使い、身を起こそうという動作。
 スーツのおかげか楽に上体を起こせているが、下半身は全く動いていない。
 これは、この動きは―――、

「……脚、動かないんですか?」

 言葉に男は一瞬目を見開いた。

「ははは、分かっちゃうか。一応ね、君と同じ車椅子仲間さ」

 ただ次の瞬間には笑顔を取り戻していて、何でもないという風に笑い飛ばした。

「上を飛んでたらさ、大変そうな君が見えてね。居ても立っても居られなくなっちゃったんだ。
 その結果、君を怖がらせちゃったけどね。ごめん、申し訳なかったよ」
「それは全然ええですけど……その、お兄さんの車椅子は……」
「これが車椅子代わりさ、まだ慣れないけどね。このスーツの持ち主に会うまでは借りてるつもりだよ」

 笑って言うが、その行為にどれだけの勇気が必要か。
 車椅子を手放すという行為にどれだけの覚悟が必要なのか、はやてには痛いほどに分かった。
 己の半身を捨て置くようなものだ。
 例えこれほどのパワードスーツを入手したとして、容易にできることではない。

「それに、これなら―――僕も皆を守れる」

 迷いのない、真っ直ぐな瞳。
 はやては男の本心を垣間見た気がした。
 強い、力強い、言葉だった。

「お兄さん、強いんですね」
「そうでもないよ。僕よりもっともっと強い人がいるからね。だから、頑張れるんだ」
「そう、なんですか……。ふふっ、私も頑張らんと」

 遭遇したのは、男と少女。
 互いに身体にハンデを持ち、だが不屈の心を胸に秘めている。
 一人は車椅子の上から、一人は地面に倒れながら。
 二人は互いに握手を交わす。 
 出会った彼等に何が待ち受けるのか、今はまだ分からない。
 だが今この瞬間、二人は強く前を向いて、そこにいた。


【深夜/H6・住宅街街路】
【阿久津敏夫@岳-みんなのやま-】
[状態]:健康
[装備]:アイアンマンスーツ・マーク46@アベンジャーズ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
0:皆を守り、殺し合いを止め、プレシアを逮捕する
1:はやてを守る
2:三歩さんや久美さんと合流する

【八神はやて@魔法少女リリカルなのはA’s】
[状態]:健康
[装備]:はやての車椅子@魔法少女リリカルなのはA’s
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:殺し合いを止める
1:お兄さんと行動する
2:ヴィータ達やなのはちゃん達と合流する


96 : ◆YJZKlXxwjg :2016/08/31(水) 23:52:18 eulMw77g0
投下終了です。

>>97
次話に登場させたいキャラを指定してください。


97 : 名無しさん :2016/09/01(木) 00:06:52 RDJ6Y/A.0
乙です
まさかの車椅子コンビ
阿久津さんの心理描写が丁寧で、彼の人柄だけでなく岳勢の背景も大体分かるという親切な話でした
はやてはどういう風に動いてくるか、マジックアイテム無しでもそこそこ活躍できそうな感じです

エドワード・エルリックを指定します


98 : 名無しさん :2016/09/03(土) 18:08:29 JDt73aIkO
投下乙です

登山家はこれで全員登場かな
位置付けは生死観のみ逸般人的なイメージだけど、その強さどこまで通じるか


99 : ◆YJZKlXxwjg :2016/09/06(火) 21:56:52 irVzihe60
エドワード・エルリック投下します。


100 : 考える者 ◆YJZKlXxwjg :2016/09/06(火) 22:03:01 irVzihe60
「くそっ、なにがどうなってんだ……!」

 暗闇の森林の中、言葉を吐き捨てエドワード・エルリックは乱暴に頭を掻きむしった。
 唐突に、本当に唐突に始まってしまった殺し合い。
 眼の前で死亡した人。
 止めることも、救うことも、動くことすらできなかった。
 少年の悲痛な慟哭が胸に突き刺さる。
 何も出来なかった自分に、苛立つ。

(殺し合い……奴はバトルロワイアルと言った……この首輪、それにこれだけの人間を拉致して殺し合わせる……?
 とても一人で出来ることじゃない……組織的な犯行か? この土地を確保するのだってタダじゃない。
 資金も労力も尋常じゃない程かかる筈だ……それでもこんなことをする理由はなんだ? 怨恨? それとも……)

 エドワード・エルリックは顎に手を当て、全力で思考を回していた。
 彼の最たる強みは、諦めない精神力にある。
 単純な戦闘力、錬成力では叶わぬ相手など山ほどいる。
 だが、土壇場での思考力。その一点に関しては、彼は誰よりも優れている。
 紅蓮の錬金術師と戦い、致命傷を負った時しかり。
 ホムンクルスの長兄たるプライドと決着を付けた時しかり。
 凄まじいまでの思考力でもって、状況の打開、敵の撃破に繋げていった。

(畜生っ……駄目だ、全然訳が分からねえ! そもそも皆はどうなった、『お父様』を追って地上に出て、その直後すげえ爆発が起きて―――)

 だが、元より判断材料の少ない今、彼が答えに辿り着ける道理はなかった。
 殺し合いに呼ばれる直前まであった極限なる状況も、焦燥に拍車をかける。
 『お父様』と呼ばれるホムンクルスの親玉との戦い。その激戦最中での、拉致・殺し合いへの参戦。
 早くあの場に戻らなければという焦りと、冷静になれという理性とがぶつかり合う。
 エドは、思考する。
 そんな最中であった。
 ドカンと、何かが爆発するような音が聞こえた。

(この音は……大佐の!)

 聞き覚えのある爆発音だった。
 エドと同じ国家錬金術師にて、『焔』の名を冠した男―――ロイ・マスタング。
 単純な戦闘力であればエドを遥かに越え、彼の秘儀たる錬成は重火器と比較しても遜色ない。
 その錬成による爆発音が、遠方から届いた。
 エドは走り出す。
 ロイの錬成は戦闘向きだ。その彼が錬成を使用するという事は、戦闘時にあると考えて良い。
 ロイがそう簡単にくたばるとは思っていないが、早々に合流しておいて損はない筈だ。
 夜の森林に時折足をとられながらも駆けていき、エドはようやく音の発信源へと辿り着く。

(誰もいない……だけど、この戦闘痕は……)

 鋼の義足を鳴らしながら周囲を探る。
 痛ましい破壊痕が森林を削り、木々は炭化し薙ぎ倒されていた。
 爆発の痕が何個も重なっている。
 これはロイ・マスタングが戦闘した痕なのだろう。

(人の気配はない……大佐はどうなった?)

 警戒を飛ばすも人の気配はない。
 ロイと誰が戦ったかも、戦っていた者達がどうなったのかも分からない。
 何とも嫌な予感がした。
 あの大佐をもってしても仕留めきれぬ相手。そんな難敵が存在するというのか。

「……思ってるよりも厄介かもしんねえな。この殺し合いってのは」

 デイバックの中にあった『参加者名簿』には、彼の知る名前が複数あった。
 弟たるアルフォンス・エルリックとロイ・マスタング。
 そして、キング・ブラットレイ。軍部を頂点から支配し、国を操っていたホムンクルス。
 先の戦いの中で、結局あの男がどうなったのか、エドは知らない。
 だが、その実力がとんでもないものだとは分かっていた。
 おそらく、あの男にも匹敵する存在が他にもいるのかもしれない。


101 : 考える者 ◆YJZKlXxwjg :2016/09/06(火) 22:03:36 irVzihe60

(あんな状況だったんだ。『ホムンクルス』達の仕業じゃないだろうけど……)

 エドが知る中で、このような馬鹿げた事を成せる組織といえば『ホムンクルス』の一味くらいだが、彼等とは直前まで戦闘を繰り広げていた。
 とても奴等が主催者とは思えなかった。
 だが、ならば誰がとなると、皆目見当もつかない。

「だぁー、何がどうなってんだ、これは」

 頭を掻きむしり、吐き捨てる。
 全てが訳の分からぬ中だが、それでも前には進まなければいかない。
 あのプレシア・テスタロッサとやらの思惑を読み、殺し合いを阻止しなければならない。
 彼に、殺し合いに乗るなどと言う選択は毛頭ない。
 例えどのような苦境にあろうと己が信念は曲げない。
 これまでの長い旅の中でそうだったように、彼は己を貫き通す。

(……待てよ)

 思考の中、思い出す。
 最初の場にてプレシアに語り掛けた少女がいたはずだ。
 腰までかかる金髪の少女。彼女はプレシアを母さんと呼んでいた。
 プレシアは何も反応を示さなかったが、赤の他人ということは無い筈だ。

(姓がテスタロッサの参加者はいないが……こいつ! 『フェイト・T・ハラオウン』には、唯一ミドルネームがある。
 ミドルネームの『T』―――おそらくはテスタロッサ……! この『フェイト』って奴は何か知ってるかもしれない……!)

 今はどんな情報でも欲しいところだ。
 まずはアル達と並行して『フェイト・T・ハラオウン』を探し、プレシアの情報を得る。
 手掛かりというには余りに小さな光だが、それでも充分だった。
 どんな調べものでも初めの手掛かりは些細なもの。
 そこからどう推理のプロセスを立てていくかは自分次第だ。

「行くしかねえな……首洗ってまってろよ、プレシア・テスタロッサ。こんな舐めた真似した代償はキッチリ払ってもらうぜ!」

 無人の夜空に宣戦布告を残し、エドワード・エルリックは歩き始める。
 音を鳴らす鋼の義手義足。様々な困難を乗り越えてきたその目に、迷いなし。
 『鋼の錬金術師』が、歩き出す。

「ん……なんだこりゃ」

 ふと、エドは足元に落ちていた何かに気が付いた。
 小さな銀色の金属片。それが地面に転がっていたのだ。

「見た事ない金属だな……ただの銀や鉄って訳じゃなさそうだし、大佐の戦ってた『誰か』の武器の破片か……?」

 錬金術師たる彼であっても、得体のしれぬ物体。
 興味はそそられるが、今は僅かな時間も惜しい状況。
 金属片をポケットに入れ、彼は再度歩き始める。
 殺し合いを打破する手掛かりを求めて、錬金術師が道なき道を行く。


【深夜/D6・森林】
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:殺し合いの打破。プレシアをぶちのめす
1:アル、ロイ、『フェイト・T・ハラオウン』を探す
2:キング・ブラットレイには要注意。


102 : ◆YJZKlXxwjg :2016/09/06(火) 22:04:34 irVzihe60
投下終了です。

>>103
次話のキャラを指定してください


103 : 名無しさん :2016/09/06(火) 22:15:15 dKe8xMIA0
投下乙です
うん、たしかに人の気配はするはずもないやねw
真面目に考察しているニーサンが哀れに思えてくる話でした
内容も至って真面目なのになんでこう笑いも込み上げてくるのでしょう
フェイトに注目するのはさすがって感じでした

アルフォンス・エルリックを指定します


104 : 名無しさん :2016/09/07(水) 11:00:49 ky8kWYa60
投下乙です
うん、考察は至って全うなんや、だがしかしこの状況がそもそも異常なわけでして…w
バトロワに常識は通用しねえ! となるか否や、頑張れ豆粒ニーサン


105 : ◆YJZKlXxwjg :2016/09/07(水) 16:35:53 RrCNeFHs0
巴マミ、アルフォンス・エルリック投下します。


106 : ココロの在りか ◆YJZKlXxwjg :2016/09/07(水) 16:37:04 RrCNeFHs0
 巴マミは絶望していた。
 知ってしまった真実。魔法少女の末にあるもの。
 人を守るためにと戦い続け、その結末にあるのは人を苦しめるモノ。
 まるで茶番のようだった。
 魂はこの宝玉に封じられ、何時かは死よりも辛い未来が待っている。
 だから、殺そうと思った。そうした方が苦しまずに済むと思ったから。
 弟子たる三人の魔法少女。
 自分を慕い、共に戦ってくれた少女達を、殺そうと画策した。
 魔女との戦闘の直後、驚愕の真実に愕然とする彼女達に銃口を向ける。
 そうして、引き金を引き絞ろうとした瞬間、眼の前が真っ暗になった。
 世界が暗転し、次にあったのは―――、







「これは……一体」

 暗闇の森林の中を、巨大な鎧姿の男が歩いていた。
 いや、この言葉は語弊があるか。
 彼は決して鎧姿、という訳ではなかった。
 その中身はなく、何と鎧そのものが動いているのだから。
 名は、アルフォンス・エルリック。
 鎧に人間の魂を定着させた存在が、彼であった。

「皆は……『お父様』は……?」

 彼は直前まで戦いの最中にあった。
 『ホムンクルス』の親玉たる『お父様』……『神』の力を手に入れたとされる存在との戦い。
 最後の記憶は、白色の極光。
 『お父様』が人間を産み出し、それに気を取られた直後に光が噴出した。
 世界を塗りつぶすほどの光。
 そして―――気付けば、このさっきの場にいた。
 登場するプレシア・テスタロッサ、少女の死、語られる殺し合い。
 急転する世界にアルの理解は追い付く事ができなかった。
 ただ混乱する中で、森林を見渡す。
 人の気配はなし。勿論、『お父様』や仲間の姿もそこにはなかった。

「何が……どうなっているんだ」

 静寂に包まれた世界は、まるでアル以外の誰も存在しないかのようで。
 アルはただ漠然と走り出すことしかできなかった。

「誰か……誰か、いないのか……!」

 誰でも良い、誰かと会いたかった。
 この現状を知る誰かと、話をしたかった。
 音を鳴らして走る鎧。彼が他の参加者と遭遇するのに、それほど時間は掛からなかった。

「あれは……」

 何時の間にか到達していた住宅街。
 点々と灯る街路の中に、人の姿があった。
 年齢はさほどアルとは変わらないだろう。
 アルには余り馴染みのない服に身を包んだ少女だった。
 ともかく声を掛けようと声を出そうとしたアルであったが、直後事態が大きく変わる。
 少女が、どこからともなく拳銃を取り出したのだ。
 凄腕の錬金術師であるアルであっても見破れぬ程の早さで形成されたそれを、少女は―――迷うことなく己の側頭部に当てた。
 アルは、反射的に動いていた。

「なっ、ダメだ――――!」

 両手を合わせ、地面に触れる。
 光が迸り、アスファルトが揺れ、形を変えた。
 触手のように伸びたそれが少女に巻き付き、拘束する。

「何をしてるんだよ、一体! いくらこんな状況だからって自殺なんて……!」

 駆け寄り、怒りの混じった声をあげるアルフォンス。
 対する少女は沈黙のままに、接近してきた謎の鎧を見上げるだけだった。

「っ、君は……」

 視線が合い、アルは思わず絶句した。
 絶望に満ち満ちた瞳は、とても同年代の少女が浮かべるようなものではなかったからだ。
 この惨劇に巻き込まれたからだけではない。
 もっと深い深い何かが少女を絶望させているのだ。

「……邪魔を、しないで下さい」

 ポツリと、音が零れる。
 直後、信じられないような光景がアルの眼前に広がった。
 少女の服装が一瞬で変化し、宙に複数のマスケット銃が浮かんだのだ。
 少女が何かした訳でもない。
 錬成反応すら見えなかった。
 まるで手品か何かのように、それらの変化があった。
 思わず身構えるアルであったが、宙の銃口が別の方向を向いている事に気付く。
 銃口は真下へ。
 少女自身へと、向けられている。


107 : ココロの在りか ◆YJZKlXxwjg :2016/09/07(水) 16:37:50 RrCNeFHs0

「くっ……!」

 宙のマスケット銃が火を噴いたのと、アルがその巨躯でもって少女を覆い隠したのは同時だった。
 ぎゃりぎゃり、と金属のぶつかり合う不快音が響き渡る。

「何で、止めるんですか……」

 声が響く。
 枯れたような声が。
 まるで怨嗟のように。

「何でって、当たり前だろ! そんな……自殺なんて!」

 その声をかき消すように、アルも叫ぶ。
 彼は諦めを嫌う。
 どんな状況であろうと、希望はある。
 それは己が肉体を失って尚も生きる彼だからこその、信念であった。

「何も知らないくせに……」

 アルの叫びに、少女の表情が変わる
 ギリと唇を噛み、眉間に皺を寄せる。
 憤怒が、少女の顔に浮かぶ。

「何も知らないくせにっ! 邪魔しないでっ!!」

 叫びと共に、またもやマスケット銃が浮かぶ。
 少女とアルの隙間の僅かな空間に、捻じり込むように出現した短筒のマスケット銃。

「あぶっ―――!」

 跳弾を恐れて距離を離すアルに、弾丸は放たれた。
 間近の発砲に回避などとれる訳もない。
 再び金属音が市街地に響き渡り、衝撃にアルの身体が宙を舞った。
 その隙に、宙のマスケット銃が再度撃ち込まれる。
 今度は少女の戒めを解くために。
 放たれた弾丸がアスファルトの拘束具を破壊し、少女を自由の身とした。
 
(くっ……何なんだ、あのマスケット銃は一体! あれも錬金術なのか!?)

 ダメージはないが、だからといって状況が好転しているとは思えなかった。
 琴線に触れた今、少女はあからさまなほどの敵意を見せている。
 相手の能力のタネが分からない今、不利はアルフォンスにあった。

「引いて、くれませんか……もう私のことは放っておいてください……」
「そんな事、出来る訳ないだろ! いくら初対面でも、そんな顔をした人をほっとける訳なんか……!」
「そう、ですか。優しいんですね……でも―――」

 少女が片手を掲げるだけで、マスケット銃が宙に発現される。
 何度見ても、とても錬金術とは思えない技だった。
 次々と撃ち込まれる弾丸は、とても避けきれるものではない。
 地面を壁のように錬成するが、驟雨のような弾丸に容易く破壊される。
 防御もしきれない。
 ならば、することは一つ。
 アルは弾丸の雨に身を晒した。そして、一歩ずつ少女に向かって進んでいく。

「何で……何で、君は死のうとするんだ!」
「あなたに話しても意味の無いことです。あなたに理解できる話じゃないもの」
「そんなの、話してみないと分からないだろ!」
「分かりますよ、そんなの。だって、誰も理解なんてできないから。同じ魔法少女だって、きっと鼻で笑い飛ばすわ―――かつての私達のように」

 響き渡る金属音をバックコーラスに、二人は激突する。
 ゆっくりと一歩ずつ近づいていくアルフォンスと、弾丸の雨で接近者を撃退せんとする少女。

「だから、それが違うって言ってるんだ! 誰かがいるかもしれないだろ、その問題を分かってくれる誰かが! だから――――」
「しつこいっ! そんな人ありえないって―――言ってるでしょう!!」

 激情と共に放たれた弾丸は一際に強力なものだった。
 一回りも、二回りも巨大な砲台から放たれた一撃。
 瞬後、爆炎が世界を照らす。
 煙が晴れた後に、それでもアルフォンスは立っていた。
 鎧の所々は破壊され、彼の血印を守る前当てすらも吹き飛び、それでも。


「―――ありないなんてことは、ありえない!」


 彼は辿り着く。少女の元へ。
 ボロボロの鎧で、それでも少女の両肩を掴み、その顔を見詰めて告げた。
 少女の目は見開かれていた。
 先の一撃を喰らって尚も接近してきたアルフォンスの姿に、そして―――その何も存在しない鎧の中身を見て。


108 : ココロの在りか ◆YJZKlXxwjg :2016/09/07(水) 16:38:42 RrCNeFHs0

「あなたは……一体……」
「これは僕たちの過ちの代償だ。人の理を踏み外してしまったからこそ、失った」

 アルは言った。
 かつて死んだ母親を蘇らせようとして、兄は脚を、自分は身体を失ったことを。
 そして、兄が己が腕を犠牲に、魂をこの鎧に定着させてくれたことを。
 告げた。

「そん、な……」

 魂だけの存在を前に、少女は絶句する。
 何故なら、彼女もまた似たような存在だったからだ。

「わ、私……私は……」

 少女は泣き崩れながら、語った。
 同類のような存在を前に、知らず口が動いていた。
 『願い』の代償に、魂を宝玉に封じ込められたこと。
 魔法少女として戦い、だが戦いの果てに魔女と化してしまうこと。
 それらを一息に吐きだし、少女は泣いた。
 まるで幼子のように大きな声で泣き喚き、その無骨な鎧に顔を埋めた。
 衝撃的な話に、アルフォンスもまた身体を震わしながら、少女を抱き締めることしかできなかった。
 魂を無くした二つのモノが、まるで傷を舐めあうように身を寄せていた。







「……落ち着いた?」
「ええ、ごめんなさい。みっともないところを見せて」
「ううん、そんなことないよ」

 鎧と少女が市街地に並び座っていた。
 全てを吐きだした少女は、どこかすっきりとした顔であった。

「ねえ、あなたの身体ってどんな感じなの?」
「不便だよ。役に立つことは多いけど、それでも色々イヤなこともある」
「そう、私も同じ。戦いには便利だけど、それだけよ」

 ぼんやりと空を見上げる二人。
 それきり無言のままに時が過ぎる。


109 : ココロの在りか ◆YJZKlXxwjg :2016/09/07(水) 16:39:04 RrCNeFHs0

「あのさ」
「なに?」
「僕と一緒に行動しないかい?」
「………でも」
「僕は兄さんと元の身体に戻るための旅を続けていたんだ。今はこんな事に巻き込まれちゃったけど、絶対に元の身体に戻る道はあると思う」

 アルの言葉には熱がこもっていた。
 絶対に戻るんだという決意が込められているように、少女には感じた。

「この殺し合いから抜け出して―――皆で元の身体に戻ろう」
「いいの……? 私なんて、あなたに酷いことしちゃたのに……」
「もちろんだよ。ほら、少し壊れちゃったけど全然へっちゃらだったしね」
「でも、私と同じような境遇の子が何人もいるの……私だけなんて、そんな……」
「なら、皆元の身体に戻れば良い。一人も二人も、十人も、百人だって、同じ筈だよ」

 力強い、言葉だった。
 決して諦めを知らない心に、少女の内に熱いものが込み上げてくる。


「私―――私は……」


 そして、少女は口を開いた。
 アルの言葉に押されるように、ゆっくりと紡ぐ。


「―――戻りたい、戻りたいよ! 魔法少女なんかじゃない、普通の女の子に、戻りたい!」


 本心を、彼女は、ようやく告げられたのだ。


「戻ろう、絶対に」
「ええ……」

 アルは強く強く頷いた。
 少女の瞳から再び溢れ出る涙は、今までの暗く冷たいそれとは違う。
 温かな希望に満ちた涙。

「僕はアルフォンス……アルフォンス・エルリック、よろしくね」
「巴マミよ。よろしくね、アル君」

 元の身体に戻れることが決まった訳ではない。
 だが、それでも、それは確かにそこにあった。
 『希望』という名の輝きが、二人の間に流れていた―――。
 

【深夜/H7・住宅地】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:半壊
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:殺し合いの打破。元の世界に戻り、マミと元の身体に戻る
1:マミと共に行動する。


【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:魔力消費(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:アルと行動し、元の身体に戻る
1:皆と合流する


110 : ◆YJZKlXxwjg :2016/09/07(水) 16:39:49 RrCNeFHs0
投下終了です。

>>111
次話のキャラを指定してください


111 : 名無しさん :2016/09/07(水) 20:13:44 Q4ExlhV.0
投下乙です
いいスタートは切れたけど、状態表的に痛々しいのがままならないですね
和解できたのはお互いの背景のところが大きいと解る話でした
アルはここでも天然ジゴロか。大佐に殺されないよう祈っておきます

ヴィータを指定します


112 : 名無しさん :2016/09/08(木) 15:24:52 Zge3l9wA0
投下乙です
魂が別にある入れ物の身体、そうかそうも絡めるかぁ。揺れる振り子メンタルなマミさんは絶望を希望に変えることができるのか?


113 : ◆YJZKlXxwjg :2016/09/09(金) 16:07:26 Re0CsEaE0
ヴィータ、川田章吾投下します。


114 : ◆YJZKlXxwjg :2016/09/09(金) 16:07:48 Re0CsEaE0
 ヴィータは沈黙でもって『参加者名簿』を見詰めていた。
 そこに連ねられた名の数々。
 彼女が良く知る名前も、そこにはあった。
 高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、シグナム、そして八神はやて。
 なのはとフェイトは彼女の仲間だった。
 とある事件では敵対した仲が、その事件も終焉を迎え、今は同じ組織に身を置いている。
 シグナムは盟友だ。
 遥か長き時の旅を共に続け、様々な苦難を共にしてきた。
 はやては、家族だった。
 戦いしか知らなかった自分達に温もりを教え、居場所を与えてくれた存在。
 大切な、大切な、存在だ。

「ふざけやがって……!」

 ヴィータの内に込み上げてくるものは、怒りだった。
 仲間を、盟友を、家族を、こんな殺し合いなんかに巻き込んだのだ。
 プレシア・テスタロッサ。
 フェイトは奴のことを母親と呼んでいたが、そんな事はもう関係はなかった。
 何よりフェイト自身すらも、こんな殺し合いに参加させているのだ。
 許せる訳がない。

「ぜってーぶっ飛ばしてやる、プレシア……!」

 と、勢い込んで言葉を吐くヴィータであるが、さしあたっての問題は山積みだ。
 プレシアの言葉通り、ヴィータの装備は全て奪われていた。
 相棒たるデバイスは勿論として、予備のカートリッジすらもない。
 確かランダムに支給すると言っていたが……。

「……このバックの中か」

 手当たり次第にバックから中身を取り出す。
 お目当ての物は彼女のデバイスたるグラーフアイゼンだが……。

「これは……ハンマーではあるけどなぁ」

 出てきたのは巨大なメイスだった。
 一緒に出てきた説明書には、ピピンのメイスと書かれていた。

「……誰だよ、ピピンって」

 溜め息一つ。
 とはいえ全くの武器なしよりはマシとは言える。
 出来ればデバイスの一つでも欲しかったが、仕方のないところだろう。
 それにこのメイスもそれなりに業物ではあるようだった。
 よくよく見れば使いこなれているようで、そこかしこに戦闘で付いたらしき傷がある。
 魔導師を相手にするのでなければ、充分な武器といえるだろう。

「ま、やるしかねーか」

 まずははやて達と合流。
 次にウザったい首輪を解除、それでもって会場から脱出。
 ヴィータは強く前を向き、歩き始めた。






115 : 守護騎士と優勝者 ◆YJZKlXxwjg :2016/09/09(金) 16:08:36 Re0CsEaE0




 少し離れた森林で、そんなヴィータを隠れて見詰める男がいた。
 丸刈りの頭に鍛え抜かれた身体。
 ショットガンを小脇に抱えながら、男は手元と少女とを交互に見ていた。

(くそっ、何だこの『プログラムもどき』は―――)

 男は苛立った様子で、思考を回していた。
 男の名は川田章吾。
 彼が、曰く『バトルロワイアル』に参加するのは何とこれで三度目。
 だが、今回のそれは今までのものと比較しても尚、異常であった。

(今回の対象は中坊だけじゃねえのか!? 何で、あんなガキまでいやがる!?)

 本来、彼が参加させられた『バトルロワイアル』は中学三年生が対象のものであった。
 狂った政府が支配して行う、くそったれの殺し合い。
 大東亜共和国に住む中学生の誰もが恐れる『プログラム』―――それが川田の知る『バトルロワイアル』だった。
 だが、今回の『プログラム』は全てがおかしかった。
 最初の場にて集められていたのは、子どもから大人までの広い年齢層だった。
 始まりもこれまでの『プログラム』と違い、政府のくそったれ共は出てこなかった。
 謎の女が、何も説明をせずに強制的に始めたものだ。
 ルールや支給品、爆薬入りの首輪など大まかな部分は踏襲されているが、何かが根本的に違っている。

(それに参加者名簿には桐山の名前がありやがる……アイツは死んだ筈だ、前の『プログラム』で確かに!)

 何よりの疑問は、死亡した筈の桐山が参加していること。
 川田自身も、意識を失う直前まで大怪我を負っていた筈だ。
 死を覚悟し、全てをあの二人に託して、死んだ筈だったのだ。
 なのに、自分はここにいる。五体満足の傷痕の一つすらない状態で、ここに。

(訳が分からねえぞ……どうする、どう動く……!?)

 ふと頭によぎるのは、先程の場での出来事だ。
 見せしめとして殺された少女。彼女は川田の良く知る人物であった。
 中川典子。
 二度目の『プログラム』にて共に行動した人物の一人だった。
 優しく、前向きで、芯が通った良い子だった。
 あの『プログラム』では生き残ったのに……なのに、死んだ、殺された。
 無惨に、あの女によって、無意味に―――。

(そうだな……俺のやることは決まってたな)

 ぎりりと、川田は強く唇を噛む。
 二度目だろうと、三度目だろうと、彼は変わらない。
 こんな腐った事をしでかすクソ野郎共に、反逆する。
 変わらない、変わるものか。

(見てろよ、典子さんっ。俺が、いや俺達が喰らわてやるからよ。あのばあさんに―――最高のカウンターパンチってやつをな!)

 典子の笑顔を頭に思い浮かべながら、川田は決意した。
 主催者にカウンターパンチを喰らわしてやることを、静かに、だが強く強く決意する。

(さて、当面はあの嬢ちゃんのことだが―――)

 と、決意を新たに川田は森林を見る。
 先程から後を付けていた少女。彼女と接触するか、否か。
 見た目はただのガキ。真っ先に合流して守ってやるのが普通だが、現状はそう単純なものではない。
 殺し合いという状況下で人間が取る行動は、嫌という程に理解していた。
 保護するつもりで接近し、それで攻撃をされたのでは話にならない。
 川田も自衛のためなら殺人を厭わないつもりだが、あんな小さな少女を殺害などしたくない。
 迷いながら、川田は再び木々に隠れながら、少女を見る。

(っ、いねえ……!? どこに行きやがった……!)

 が、視線を戻した時には、少女の姿はどこにもなかった。
 ほんの数瞬の思考の間に、視界にも映らぬほどの遠くへ行ったのか。


116 : 守護騎士と優勝者 ◆YJZKlXxwjg :2016/09/09(金) 16:08:59 Re0CsEaE0
 川田は手元の機械を見やる。
 それは『参加者探知機』。以前の『プログラム』で自分が使用したものと同型のアイテムだった。
 探知機を見て、川田は鳥肌が立つのを感じた。
 他者を示す光点は、すぐ近くにあったからだ。

「っ……!!」
「動くな。少しでも動けばその頭をかち割るぞ」

 ショットガンを構えるより先に、氷のように冷たい言葉が川田を貫いた。
 視線だけを後ろに向けると、そこには先程まで少し離れた場所にいた少女が立っている。
 巨大なメイスを片手で悠々と持ち上げ、切っ先を川田へと向けていた。

「おいおい、待ってくれ。おれは殺し合いなんかにゃあ乗ってねえぜ」
「黙ってろ。判断するのはあたしだ」

 少女は、見た目にそぐわぬ言動と行動を見せていた。
 この殺し合いの中でも己を見失わず、冷静に事態を見極めている。
 自分に対しても問答無用に襲い掛かるのではなく、危険人物が否かを判断したうえで対処しようとしている。
 不思議な少女だった。
 見た目は幼いくせに、二度の『プログラム』を生き抜いた自分と同じくらいに冷静を保っている。

「へー、参加者の探知機ね。これで私をつけてたって訳か」

 参加者探知機を奪い取り、手中でいじる少女。
 その間にも隙らしき隙は見せない。
 人は見た眼に寄らないとは、まさにこの事なのだろう。
 川田の胸の内は決まった。
 にやりと笑い、川田は口を開いた。

「……なぁ、嬢ちゃん、俺と手を組まねえか?」
「はぁ? いきなり何言って―――」
「―――俺は今回と似たような目に、2度合っている」

 提案を切り捨てんとする少女へ、躊躇いもせずに川田は切り札を切った。
 『バトルロワイアル』の経験という、彼にしか持ちえない情報を落とす。

「何……?」
(喰いついた―――!)

 少女の目の色が変わる。
 現状で少女が何より欲しいのは情報だろう。
 だからこそ、後をつける自分に接触し、支給品やらを物色している。
 川田には、情報があった。
 彼だからこそ知る『バトルロワイアル』に関する情報が。

「俺と手を組んでくれれば、教えてやるよ。洗いざらい全部な」

 疑心の瞳で川田を見やる少女。
 川田は構わずに続ける。

「だから、俺に協力してくれ。このくそったれな殺し合いを開いた、くそったれな奴に―――最高のカウンターパンチを喰らわす協力をよ」

 次いでの言葉に、少女は目を見開いた。
 この瞬間だった。
 少女―――ヴィータが、川田章吾を信頼に足る人物だと判断したのは。
 そう告げて笑う川田の瞳が、どこまでも純粋で真っ直ぐなものだったから。

「……分かった、協力してやるよ」
「本当かっ!」

 だから、ヴィータは頷いた。
 川田の言葉に応えるように笑いながら、頷いた。
 
「だけど、情報は全部話せよ! 隠しっこはなしだ」
「ああ、分かってるよ」

 ベルカの騎士・ヴィータと、『プログラム』を2度優勝した男・川田章吾。
 ここに二人の戦士が出会い、手を取り合った。


【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA’s】
[状態]:健康
[装備]:ピピンのメイス@ベルセルク
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
0:はやて達と合流して、プレシアをぶっ飛ばす
1:おっさんと行動する

【川田章吾@バトル・ロワイアル(漫画版)】
[状態]:健康
[装備]:レミントンM31RS ショットガン @バトル・ロワイアル(漫画版)、参加者探知機@バトル・ロワイアル(漫画版)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
0:殺し合いの主催者にカウンターパンチを喰らわす
1:嬢ちゃんと行動
2:七原と合流する


117 : ◆YJZKlXxwjg :2016/09/09(金) 16:09:32 Re0CsEaE0
投下終了です。

>>118
次話のキャラを指定してください。


118 : 名無しさん :2016/09/09(金) 22:33:38 OTQXuDKE0
投下乙です
危ういヴィータを円満な形で仲間にできたのは結構な成果
前回同様、出会った2人の背景や性格が噛みあったからこその結成話で唸らせられました
綺麗で真っ直ぐな川田の活躍に期待します。ヴィータが川田の実年齢知る時も楽しみw
典子の死が無駄ではなかったのもサプライズかな

七原秋也を指定します


119 : 名無しさん :2016/09/10(土) 13:45:44 YvGCdFfsO
投下乙です
川田が七原ばりの熱血主人公しとる……


120 : ◆YJZKlXxwjg :2016/09/20(火) 17:24:44 Zn1EctNs0
七原秋也、佐倉杏子投下します。


121 : 絶対希望バースデー ◆YJZKlXxwjg :2016/09/20(火) 17:25:45 Zn1EctNs0
「ねぇ、秋也くん」

 彼女は言っていた。
 あの時、あの場所で。
 俺の腕を掴んで。

「絶対に諦めないで。何があっても秋也くんのままでいて」

 何故彼女がそんな事を言うのか、俺には分からなかった。
 何故彼女が今にも泣きだしそうで―――それでいて気丈な微笑みを浮かべているのか、俺には分からなかった。

「まっすぐに生きてやるぞーって、エネルギーで一杯の秋也くんのままで」

 彼女は強く、強く、微笑んでいた。
 喧騒の最中で、確かに。
 不思議に思う俺の前で、涙を両目に一杯に溜めて、それでも笑っていた。
 いつも俺に力をくれた笑顔だった。
 あの殺し合いの中で挫きそうになった俺に、何度も何度も力を与えてくれた。

「―――大好きだよっ、秋也くん」


 最後に、彼女は、そう言った。
 最後に、そう、言ったんだ―――、







「殺し合いねえ。さてどうするかなっと」

 腰まで届く赤色のポニーテール。
 長髪を揺らしながら、佐倉杏子は思案していた。
 爆薬入りの首輪、生還するには最後の一人にならなくてはいけないこと。
 正直、人殺しなんてしたくはない。
 杏子が他を逸する能力を有しているとはいえ、それを人に振るえるかどうかは別の話だ。
 だが、この現状。
 この世界がそう温かい世界でない事は、杏子も短い人生の中で嫌という程に知っていた。
 人間は弱く、醜い。誰もが誰もとは言わないが、そういう人間が多いのは事実だ。
 だからこそ、佐倉杏子は利己的に生きてきた。
 誰かが犠牲になったとしても、それでも良いと自分に言い聞かせて。
 己が生きる事を優先して、自身の力を使ってきた。

「……ま、仕方ない、か」

 デイバックから食料を取り出し、齧り付く。
 コンビニで売ってるような簡素なサンドイッチ。
 ばくばくと、凄まじい勢いで杏子はそれを平らげ、立ち上がった。
 手中に愛用としている長槍を形成し、歩き出す。
 彼女は既に覚悟を決めていた。
 生き残るために、他を殺す。
 何てことはない。
 あれだけの代償の果ての力だ。
 己の為に振るわないで、どうするというのだ。
 決意し、行動を開始し―――だが、ふと脳裏に浮かぶ少女がいた。
 短い青色の髪の少女。
 魔法少女になったばかりの、他のために力を振るう愚か者。
 なぜ彼女の姿が今浮かんだのか、杏子には分からない。
 分からないが、苛立ちを感じたことは確かだった。
 首を振り、その姿をかき消す。

「……さっさと終わらせちまおう」

 苛立ちを表情に残して、彼女は獲物を探し始める。
 魔法少女として鋭敏になった五感は、容易く他の参加者を突き止めた。


122 : 絶対希望バースデー ◆YJZKlXxwjg :2016/09/20(火) 17:26:19 Zn1EctNs0

(アイツ、確か―――)

 暗闇の森林で立ち尽くす、一人の少年。
 見覚えのある顔だった。
 最初の場で、泣き崩れていた男だ。
 大切な者を殺され、慟哭し、絶望していた男。
 不運というには、あまりに重い枷。
 拉致され、いきなり大切な者を殺害され、こんな殺し合いに巻き込まれ。
 不条理の極みをぶつけられた男が、眼前にいた。
 手にはアーミーナイフ。
 その表情には何も映ってはいなかった。
 両頬には涙の痕、疲れ果てた顔と何も映さぬ瞳。
 さすがの杏子にも感じるところはあった。
 だが、同情してばかりはいられない。
 次に奴の彼女のようになるのは自分かもしれないのだ。
 やるしかない、そうでなければ生き残れない。

(悪いな、恨むなよ)

 タン、と地面を蹴り、男の前に躍り出る。
 長槍を真っ直ぐに突き出し、矛先を喉元へと向けた。
 予想外に、男の反応は早かった。
 目を見開き、アーミーナイフを掲げて槍の軌道をずらす。
 同時に地面に倒れ込んで、凶刃から身を逃した。

「へぇ、中々やるじゃん」

 本気でなかったとはいえ、まさか回避されるとは思わなかった。
 ただの平和ボケした高校生、といった感じではない。
 多少は争いごとを知っているようだった。
 杏子は長槍を構えて、男を見やる。
 男は未だ尻餅をついた状態で、こちらに顔を向けていた。
 表情は影となり、伺うことはできない。

(ちっとはやるようだけど、それであたしから逃げられる訳じゃねえ)

 相手が腕に覚えがあろうと、こちらは超常の力を持つ魔法少女。
 ただの人を相手にして負ける道理はなかった。
 じり、と距離を詰め、長槍の射程へと身を置く。
 後は槍を突くか振るうだけで良い。
 それだけで、相手は死ぬだろう。

(恨むんなら、あたしに会った運のなさを恨みな!)

 槍を振るわんと、右腕に力を籠める。
 今度こそ男へ死を与えるべく、身体を動かし―――寸前で、動きを止めた。
 ピタリと、まるでビデオの停止ボタンを押したかのように。
 杏子の表情には不審があった。
 訝しげに眉をひそめ、眼前にいる男を見つめる。
 なぜ、杏子がそのような表情をしているのか
 答えは明確であった。
 男が―――笑っていたからだ。
 両目に涙をため、槍を突き立てられて、それでも、笑っている。

「なっ……!」

 男はさらに信じられない行動にでた。
 手中にあったナイフを、彼がもつ唯一の武器を捨てたのだ。
 佐倉杏子を前にして、明確な敵意を向ける彼女を前にして、彼は武器を手放した。
 まるで全てを受け入れるかのように、空の手を大きく横に広げる。

「俺は……」

 口を開く。
 震える声に、だがしかし万感の覚悟を込めて。

「―――俺は……殺さないっ」

 告げた。
 愛する者の死を眼前で見て尚も、愛する者を再び邪悪に殺されて尚も、
 彼は、告げた。
 己が全てを込めるかのように、その言葉を吐いた。


123 : 絶対希望バースデー ◆YJZKlXxwjg :2016/09/20(火) 17:27:00 Zn1EctNs0

「な、にを……何を言ってんだよ、てめぇは! こんな状況だぞ!? こんな犬っころみてーに首輪をつけられて! 
 殺し合いを強要されて! あんただって大切な人を殺されて! それでもてめーはっ……!!」

 杏子は吠えた。
 男が告げた覚悟が、どうしようもなく琴線に触れてしまった。
 命を握られ、大切なものを目の前で無惨に殺され、それでも綺麗事をのたまう男がどうしようもなくムカついた。
 大切なものを失い、失ったからこそ利己的に生きようと決めた彼女には、認められぬ存在であった。

「……そこに……」
「あぁ!?」
「そこに、正義はあるのかっ……!」
「っ……!!」

 杏子の叫びを、男は受け止める。
 男はもはやぶれる事はない。
 過去の戦いでの記憶、そして何より先の場にて最愛のものが告げた言葉に。
 彼は何よりも強固な『柱』を得た。
 心の中にまっすぐと立つ、折れることなき『柱』を。

「何なんだよ、てめぇは……! 何でそんなに……!」

 杏子には理解できない。
 愛する者を殺されて尚も、こんな事を言える男が。
 愛する者を殺されて尚も、前を向き続けられる男が
 どうしようもなく理解のできないものにしか見えなかった。
 自分には無理だった。
 美樹さやかも、あの巴マミだって、苦悩していた。
 それ程までに困難なのだ。
 絶望に直面して尚も、希望を追い求めるということは。
 それを、何故。
 ただの学生でしかない男が、こんなにも強く前を向いていられるのだ。

「あの時、典子さんが言ってくれたんだ……自分が死ぬことを分かっていて、怖くて仕方なかった筈なのにっ、言ってくれた……。
 『何があっても俺のままでいて』って。だから、俺は、負けない。典子さんが好きだっていってくれた俺のままでっ、俺は戦う! このクソッタレの殺し合いとっ!!」

 最期の言葉は、彼を強くした。
 とある『プログラム』を経て強くなった彼の精神(こころ)を、さらに、さらに―――。
 それは魔法少女たる佐倉杏子でさえ、言葉を窮するほどに。
 静寂が流れる。
 杏子は苦虫を噛み潰したような顔で、男を睨む。
 不意にその手が動いた。
 手中の長槍が男に向けて振るわれ―――彼の足下の地面を穿った。
 地面が爆ぜ、抉れるが、男に傷はなかった。


124 : 絶対希望バースデー ◆YJZKlXxwjg :2016/09/20(火) 17:27:21 Zn1EctNs0

「……お前、名は?」
「俺は、七原……七原秋也だ」
「秋也。正直、あたしはあんたを信じられない」
「っ……」
「こんな状況で、そんな綺麗事を言える奴なんてうさんくさいて仕方ねえ。
 この世に聖人君子なんていやしないんだ。どんな人間だろうと心に影の一つや二つはあるもんさ。
 今は良い子面してるあんただって、化けの皮が剥がれる時がくる」

 淡々と語る杏子に、男……七原秋也は何も言い返せない。
 人間の暗い部分を知る彼だからこそ、それを否定はできなかった。

「だけど、その大見得きった気概は褒めてやる。今回は見逃してやる、行けよ」

 それきり踵を返し、杏子はその場を去ろうとする。
 その背中に秋也は手を伸ばす。

「待ってくれ。俺と……俺と協力してくれないかっ。皆で力を合わせるんだ、そうすればっ」
「馴れ合いに関わるつもりはねー。あんたはあんたの信じる道を行けば良い。あたしはあたしで、やりたいようにやるだけさ」
「でもっ……!」

 と、言葉を続けようとした瞬間、刃が三度煌めいた。
 追いすがろうとする秋也の眼前に、長槍が突付けられる。
 秋也には反応も難しい程の速度だった。
 長槍の先からは、拒絶の意志がしっかりとある。

「見逃してやるって言ったんだ。あまりしつこいようなら―――殺すよ?」

 純然の殺意が乗せられた一言に、秋也は口を開けたまま固まった。
 だが、その瞳は心配げに揺れている。
 自身の身を案じるものではなく、おそらくは杏子の身を案じて。
 秋也は無言で杏子を見詰めていた。
 その瞳に表情を歪ませ、杏子は再び背中を向けた。

「……俺は、いつでも待ってるっ」

 最後の秋也の言葉に、杏子は答えなかった。
 何も言わずに、その場を離れていき、遂には闇に姿を消した。
 残されたのは強固な意志に、更なる『芯』を手に入れた男。
 男と少女の、それぞれの『バトルロワイアル』が進んでいく。

【深夜/D8・森林】
【七原秋也@バトル・ロワイアル(漫画版)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
0:皆で『バトルロワイアル』から生還する


【深夜/D8・森林】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
0:生きて帰る。手段は選ばない
1:七原に対して苛立ち


125 : ◆YJZKlXxwjg :2016/09/20(火) 17:28:12 Zn1EctNs0
投下終了です。

>>126
次話のキャラを指定してください。


126 : 名無しさん :2016/09/20(火) 21:34:17 .qlg1IZg0
美樹さやか


127 : 名無しさん :2016/09/21(水) 08:30:48 Jk6DcW7g0
投下乙です
変わらぬ七原に安堵。どちらもとてもらしい、それでいて苦いものが混じる選択でした
次に出遭うのは誰になるか特に気になる2人でもありました


128 : 管理人★ :2017/07/01(土) 21:55:56 ???0
本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。


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