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Gotham Chalice season2

1 : ◆JOKERxX7Qc :2015/09/26(土) 23:15:14 K5xhYG1o0
 





 怪物との戦いを避けよ。

 さもなくば、自分もまた怪物となる。

 お前が深淵を見つめる時、

 深淵もまた、お前を見つめているのだ。

        ――フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ






【wiki】ttp://www63.atwiki.jp/gotham/


2 : ◆JOKERxX7Qc :2015/09/26(土) 23:22:54 K5xhYG1o0
【ルール】
1.舞台は何者かの手により電脳世界に再現された『ゴッサムシティ@バットマン』です。
  地形はゴッサムそのものですが、施設等は他世界のものが混合している可能性があります。
2.毎日正午、サガラによる定時通達が行われます。主に脱落者の人数、討伐令の発令等を行う予定となっています。
3.令呪を所持している限り、サーヴァントが消滅してもマスターは電脳死しません。ただし、元の世界に戻る事も出来ません。
4.NPCは聖杯に拉致された平行世界の人間です。マスターの知り合いもいる可能性があります。
  ただし、記憶改竄により異能の行使等は不可能となっており、一般人同然の状態となっています。
  なお、この事実はサーヴァント側のみが知るルールであり、マスターは当初このルールを把握していません。
5.NPCは死亡しても消滅しません。なお、NPCを過度に殺傷した主従には討伐令が下る恐れがあります。
6.マスターには予め役職とそれに準じた日常が用意されています。記憶の有無に関しては各々にお任せします。
7.近距離の念話程度であれば、全員が可能なものとします。
  なお、遠距離の念話を行う場合には、マスターが魔術の素養かそれに準ずる技能を持っている必要があります。
8.季節は「冬」を想定しています。12月21日(クリスマスの五日前)からのスタートです。

【ウォッチャーとフェムシンムについて】
1.ウォッチャー(ヘルヘイム)は既にゴッサム全域に発生していきます。
  その為、ウォッチャーは聖杯戦争の動向を全て把握している事になります。
2.ウォッチャーの役目は、聖杯戦争の観察と正午に行われる定時連絡です。
  討伐令を下すのも彼の使命ですが、ウォッチャー自体が直々に罰を下すという事はありません。
3.ウォッチャーはフェムシンムを召喚、自身の使い魔として行動させています。
  討伐令が下された場合、彼等も基本的には対象の主従の殺害に向かう事になるでしょう。
  なお、ウォッチャーは彼等に指令を与える事は出来ても、行動を縛る事は出来ません。
4.フェムシンム全員が必ずしも聖杯戦争の完遂を目標としている訳ではありません。

【予約ルール】
予約期間は5日+延長で2日。

【時刻】
深夜(0〜6)
午前(6〜12)
午後(12〜18)
夜間(18〜24)
※「午前」をスタートとします。

【状態表テンプレ】

【地区名/○日目 時間帯】(例:【BAY SIDE-南/1日目 夜】)

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本:
 1.
 2.
[備考]

【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[思考・状況]
基本:
 1.
 2.
[備考]

【その他】
今後、>>1の独断で参加者の追加、ルールの追加,変更がある可能性もあります。


3 : ◆JOKERxX7Qc :2015/09/26(土) 23:59:23 K5xhYG1o0
投下します。展開の都合上ディック組は予め予約から外させてもらいます。ご了承ください。


4 : 矢本小季は忍者である ◆JOKERxX7Qc :2015/09/27(日) 00:02:10 .9rx5.7Q0
【0】


 見知らぬ部屋のベッドの上で、少女は目覚める。
 天井をじっと見つめても、此処がどこだか見当もつかない。
 そもそも、自分がどうしてこんな場所にいるのかさえ不明瞭だ。
 眠りに就く前の記憶さえ、曖昧なままになっている始末である。

 この部屋でじっとしているべきではない。
 早く此処から脱出しなければ、恐ろしい事が起こるのではないか。
 直感的にそう判断した少女は、小奇麗なままのベッドから降りようとする。

 そうして上半身を起こして、初めて気付いた。
 少女の視線の先にあったのは、一丁の拳銃と空の薬莢。
 そしてその傍では、全く見覚えのない風袋の男が斃れていた。
 男が目覚める気配はない。ただ徒に血で床を汚すばかりである。

 その時、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。
 何者かが自分がいる部屋に入り込もうとしているのだ。
 窓さえ見当たらないこの空間から、どうやって逃げればいい。

 男を撃ち殺したであろう拳銃を手に取り、ドアに向ける。
 拳銃にはまだ数発弾丸が残っており、いつでも発砲できる状態だ。
 来訪者への対処法は、今はこれしか思い浮かばなかった。

 足音がこちらに迫って来る。
 拳銃を握る手に汗が滲み出る。

 足音の大きさに比例して、心臓の鼓動も大きくなってくる。
 息の詰まる様な状況に、手にした拳銃の標準がブレ始める。

 やがて、足音が止まる。一瞬の静寂が流れ、ドアが開け放たれる。
 少女の眼に飛び込んできたのは、こちらに襲い掛かる化物の姿で――。


5 : 矢本小季は忍者である ◆JOKERxX7Qc :2015/09/27(日) 00:03:04 .9rx5.7Q0

【1】


 ヤモヤモ、という慌てふためいた声で、ヤモト・コキは覚醒する。
 視界に最初に映ったのは、声色と同様に慌てた様子のランサーの姿。
 直前の悪夢の様な、化物の姿など影も形も見当たらない。

「大丈夫だったヤモヤモ?凄くうなされてたけど」

 額に付着する冷や汗を手で拭いながら、大丈夫と答える。
 何てことは無い。単に過去を脚色した悪夢を見ていただけだ。

 過去とは、自分が記憶を取り戻した直後の出来事。
 あの夢と同様に、自分はベッドの上で目覚め、そして死体と遭遇したのだ。
 当時は悪夢とは違って部屋に窓があったので、拳銃を握る事は無かったのだが。

 世間一般では、ヤモトは<令嬢>総帥の息子殺しの罪で追われる罪人だ。
 だが、彼女は自分がその青年を殺した記憶など全くないのである。
 眠りから覚めた頃には死んでいたのだから、そもそも殺しようがない。
 眠りながら人を殺す、なんて技術がヤモトにあれば、話は別なのだが。

 が、真犯人が捕まらない限りは、ヤモトは追われる身のままだ。
 逃亡生活には慣れているが、やはり罪人扱いされるのは不愉快であった。

 当然ながら、真っ当な宿にさえ泊まれない以上、野宿を強いられる羽目になる。
 ヤモトが眠りに就いた場所は、そう背の高くない雑居ビルの屋上である。
 夜風が身に染みるが、ここならば追手が来る事はまずないだろう。
 常人の三倍の身体能力を誇るヤモトだからこそ辿り着ける、絶好の隠れ場所と言えた。

 主の無事を知り一安心するランサーに改めて目を向けてみる。
 彼女は何処から持ってきたのか、両腕に衣服を抱えていた。

「ランサーさん、それは?」
「あ、そうそう。これをヤモヤモにあげないといけないんだった」

 そう言ってランサーは、抱えていた衣服の一式をヤモトに渡してきた。
 今のヤモトが着ている様な薄汚れたものではなく、新品同然の代物だ。
 新たな衣装の登場に、ヤモトは困惑交じりの視線をランサーに向ける。

「ヤモヤモの服はちょっと目立つから、衣替えすればちょっとは気付かれないかなー、って」

 ランサーの言う通り、今のヤモトの格好は多くの者に知れ渡っている。
 別段派手という訳でもないが、しかしこの服を着ているのはゴッサムでもヤモトくらいだ。
 そんな服を着て出歩くというのは、自分の名前を叫びながら走り回るようなものである。
 服を変えて少しでも特徴を隠すという手段は、たしかに有用と言えた。

「でもランサー=サン、こんな物どこから……」
「ふふーん、トップシークレットだよ〜」

 そう言って、ランサーは口元に人差し指を当ててみた。
 彼女は秘密にしているが、恐らくこの服は盗品なのだろう。
 そうでなければ、一文無しのランサーがこんな服など調達できる訳がない。


6 : 矢本小季は忍者である ◆JOKERxX7Qc :2015/09/27(日) 00:06:49 .9rx5.7Q0

 瞬間、ヤモトの胸中に生まれるのは罪悪感であった。
 ランサーは主君を護る為だけに、わざわざ窃盗まで行っているのだ。
 自分より背丈が低く、表情にも子供らしさが残る少女だというのに。
 ヤモトは、そんな彼女に助けられてばかりいるではないか。

 身の内に秘めたニンジャの力、それを振るう事を躊躇い。
 小さなサーヴァント一人に頼りきって、自分は何もしないでいる。

「……ごめん、わざわざこんな事」
「いいよいいよ〜、マスターを護るのがサーヴァントの務めなんだから」
「それでも、ごめん」

 頭を垂れて、ヤモトはそう呟いた。
 何もしてない自分が情けなくて、目の前の少女に見せる顔が無い。
 当のランサーは、そんなヤモトの様子を察したのか、

「……優しいね、ヤモヤモは」

 ヤモトが頭を少し上げ、地に注がれた視線をランサーに向けてみると。
 やはりと言うべきか、彼女は朗らかな笑みを浮かべたままだった。
 見ていて胸が痛くなる程優しい、小さな少女の笑顔。

「でもいいんだよ。ヤモヤモがそう言ってくれるだけで、私は十分幸せだから」

 それに、ヤモヤモが戦うべきじゃないってのはホントだしね。
 続けざまのランサーのその一言は、理にかなったものである。

 ランサーから見ても、ヤモト・コキは超常の存在だ。
 何しろ彼女は、ニンジャソウルという神秘そのものを身の内に抱えているのである。
 それは即ち、ヤモトがサーヴァントに匹敵する神秘を有している事に他ならない。

 ヤモトがニンジャとして戦えば、サーヴァントに傷を与える事さえ可能だろう。
 彼女に宿ったニンジャソウルとは、それほど驚異的な存在なのだ。
 まさにヤモト・コキという存在そのものが、現存する宝具同然とも言っていい。

 だが、強大な力はそれに見合ったデメリットが伴う。
 宝具同然の能力を行使して、何の残り香も残さない訳が無い。
 表面化したニンジャソウル、それを嗅ぎ付けるサーヴァントがいないとどうして言えようか?

 つまり、ヤモトがニンジャとしての力を振るえば振るう程。
 他のサーヴァントをおびき寄せ、襲撃されるリスクが付いてくるのだ。

 だからこそ、ヤモトは戦うべきではない。
 そんな事くらい、他でもないヤモト自身がよく分かっているのだ。
 だが、頭で理解するのと感情で納得するのは別の話である。


7 : 矢本小季は忍者である ◆JOKERxX7Qc :2015/09/27(日) 00:08:45 .9rx5.7Q0

 腰に携えた日本刀の柄に、無意識の内に触れていた。
 ウバステと呼ばれるそれは、大切な人から譲り受けた一振りの刀。
 見てくれはただの日本刀でも、ヤモトにとっては大切な宝の一つ。

 もしかしたら、聖杯戦争など夢物語でしかないのかもしれない。
 次に目が覚めた時には、ネオサイタマに戻ってきているのではないか。
 眠りに落ちる寸前まで、ヤモトはそんな憶測に縋りついていた。

 しかし、そんな都合の良い幻想は、意識の覚醒と共に打ち砕かれる。
 目覚めたヤモトの周囲を取り囲んでいたのは、ゴッサムの淀んだ空気であった。
 息を吸って、吐いて、やはり夢ではないのだと認識する。
 自分は指名手配犯で、同時に聖杯戦争のプレイヤーの一人なのだ。

 これからは、ランサーと共に聖杯戦争を生き延びなければならない。
 親友も師匠もいない世界を、相棒と共に駆け抜ける他ないのだ。
 手伝う女も男ももういない。この場でヤモトを受け入れてくれるのはランサーだけ。

 ヤモト自身、出来る事なら戦わずにゴッサムから抜け出したいと考えている。
 だがその道中、止むおえず他の主従と戦う場面にも遭遇するだろう。
 そしてその時こそが、ランサーが全力で力を振るう時なのだろう。

 ランサーは、ニンジャの力を使うべきではないと話していた。
 だが、もし彼女一人の力でどうする事も出来ないのであれば――。

 ウバステがまた、ヤモトの身体と一緒に小さく震えた。




【UPTOWN BAY SIDE/一日目 午前】

【ヤモト・コキ@ニンジャスレイヤー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]ウバステ
[道具]着替え
[所持金]極貧
[思考・状況]
基本:生き延びる。
 1.可能な限り戦いを避ける。
 2.ランサーを闘わせたくないが……。
[備考]
※<令嬢>の社長の息子を殺した罪で追われています。が、本人に殺害した覚えはありません。
※ニンジャソウルを宿している為、攻撃に神秘が付加されています。
 ただし、ニンジャの力を行使すると他のサーヴァントに補足される危険性があります。
※着替えの詳細は次の書き手に一任します。

【乃樹園子@鷲尾須美は勇者である】
[状態]健康
[装備]無銘・槍
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:ヤモヤモ(ヤモト)を元の世界に帰す。
 1.ヤモヤモに従う。
 2.できればヤモヤモを戦わせたくない。
[備考]
※特筆事項無し


8 : ◆JOKERxX7Qc :2015/09/27(日) 00:09:12 .9rx5.7Q0
投下終了となります。


9 : 名無しさん :2015/09/27(日) 01:16:16 j9g8lWlw0
投下乙です。
崖っぷちの状況ながらちゃんとお互い気遣い合う女子二人の空気が好き
影を抱えるヤモッチャンに献身的なそのっちは可愛らしいけど、いつか無茶して消耗しそうなのが何とも怖いなぁ
どこか儚い空気の主従だけど頑張ってほしい


10 : <削除> :<削除>
<削除>


11 : ◆F7nVYlVwnw :2015/09/28(月) 23:28:32 z2x.KjT60
投下お疲れ様です。
現状立場的に一番劣勢なヤモっちゃん、主従仲が良好なのが救いですが、NPCにもマスターにも狙われて、今後が心配ですね。

それとディック組を予約させていただきます。


12 : ◆F7nVYlVwnw :2015/09/28(月) 23:32:01 z2x.KjT60
すいません、元◆DoJlM7PQTIです。元のトリップを失念してしまいました


13 : ◆F7nVYlVwnw :2015/10/01(木) 22:31:18 tVOsvB4A0
投下します


14 : Difference ◆F7nVYlVwnw :2015/10/01(木) 22:35:01 tVOsvB4A0
公務員の朝は早い。
朝靄漂う街中を、ディック・グレイソンは警察署に向けて歩いていた。
白い息を吐きながら、見慣れた筈の街の景色に眼を向ける。

(基本的な街の作りはそこまで変わっていないっていうのに)

警察署へと向かう通りの街並みも、そこに立ち並ぶ店々も、本来のゴッサムとは寸分も変わらない。
だがよく見知った筈のこの街は、様々な異物を内包していた。

ユグドラシル・コーポレーションの広告が視界に映る。
ウェイン・エンタープライズと双璧を成す企業。
そんな企業が存在する事を
ディックは知らない。

それだけではない。
犬養舜二という日本人を首魁とした自警集団、グラスホッパー。
街で曲が流れない時がないほどの人気を博す歌姫シェリル・ノーム。
橋を破壊するという大事件や<<令嬢>>の御曹司殺害事件から重要参考人として逮捕命令が出された少女、ヤモト・コキ。
日本よりやってきた法界の麒麟児、御剣怜侍。
アメリカの市長選に日本人による異例の出馬表明をはたした広川剛志。
彼の耳に入ってくるのは元のゴッサムでは聞き覚えのなかった名前や名称ばかり。
それは逆に言えば参加者達が聖杯戦争を戦う為に必要だとされ、このゴッサムシティに無理矢理捩じ込まれた舞台装置なのではないかとディックは考えていた。
(だが、こうも多いとどれから手をつけるべきかわからないな)

異物の規模が大きすぎた。

目立つものだけでもユグドラシルコーポレーションと346プロという日本の大企業、そして警察ですら無視できない規模に広がったグラスホッパーに広川の持つ財政界のコネクション。
その全てを洗いだし、マスターの目星をつけるのは一介の警察官である彼だけでは当然手が足りない。

(おまけに、騒がしいのは表だけじゃない)

街頭のテレビから巷を騒がす連続殺人と、その被害を止めることが出来ない警察への糾弾が流れる。
連続殺人ばかりではない、高層ホテルで起きた破壊事件、港で起きた火事と殺人事件、路地裏で起きた不自然な爆破事故。
犯罪が横行するこの街で起きたあまりにも不可解な事件にもディックは聖杯戦争の臭いを嗅ぎとっていた。
だが、悲しいかな。彼は公僕であり、公務に忠実であることが求められる。勝手な捜査などが許されるわけではない。
加えてゴッサム市警にも自分以外に聖杯戦争の参加者が紛れている可能性を考慮すると目立つ行動はできなかった。
出来た事といえばアニーに頼んで情報収集をしてもらうことと、夜な夜なナイトウィングの装束を纏い自警の真似事をしていたくらいだ。

(ブルース、君だったらこんな時にどうするんだろうね)

友人であり、家族であり、相棒でもあった男の事を思い出す。
遠目に見えてきたゴッサム市警本部ビルの屋上へと視線を向ける。
夜空に蝙蝠のマークを映し出すシグナルは、単なるサーチライトへと置き換わっていた。
この街は紛れもなくゴッサムであったが、そこに彼の知るゴッサムの痕跡は殆どなかった。


15 : Difference ◆F7nVYlVwnw :2015/10/01(木) 22:35:54 tVOsvB4A0
ティム・ドレイクは友人だった。だが、彼はレッドロビンではない。
バーバラ・ゴードンは五体満足の姿だった。勿論、オラクルでも、バットガールでもある筈がない。
ジム・ゴードンとハービー・ブロックスは彼の上司であり、ディックの知る本人と同様に正常な正義感と倫理観を持つ人物であったが、バットマンの事は知らなかった。
ウェインエンタープライズはある。ブルースの邸宅もある。だが、ブルース・ウェインと彼の息子であるダミアン・ウェイン、そして執事であるアルフレッドの所在は確認できなかった。

世間を騒がす裏社会の悪党どもの中にジョーカーもトゥー・フェイスもキャットウーマンもリドラーもベインもスケアクロウの名も聞かない。
ヴィラン達の中でペンギンだけは唯一存在が確認できたが、彼の知るペンギンとは異なる姿ーー悪く言えばより醜悪な容姿でーーをしており、加えて悲しい過去をバネに市長選へと出馬するという別人になっていた。
試しにディックの知るペンギンが経営していたアイスバーグラウンジへと足を運んだが、そこは別の人間がオーナーを務めていた。

ディックはまるで世界の中に自分だけが取り残されたような錯覚を覚える。
これではバットマンがいたゴッサムを知る自分の方がまるで異物のようだ。
そんなディックにとって、この頃巷を騒がす一つの噂は様々な意味で衝撃だった。
闇夜に紛れ悪党を始末する、コートにマスク姿の怪人と赤いマスクにジャケットを羽織った怪人の噂。
グラスホッパーの名に隠れがちではあるが、悪党に対して一片たりとも慈悲を見せない冷酷な処刑者達として、その存在は囁かれていた。

コートにマスク姿で悪党を始末して回る怪人という言葉にクエスチョンと呼ばれていた一人のヴィジランテ(自警団)の姿を思い出す。
そしてもう一人、赤いマスクにジャケット姿の怪人という存在はディックにとって一人の人物を強く連想させた。
その怪人の中身が知り合いである確証はなく、そもそもその怪人がディックの想定しているそれと異なるものかもしれない。
だが、ディックはその怪人が彼の知る人物であるという可能性を捨てきれなかった。
この別物のゴッサムで、本来のゴッサムの記憶を共有できるかもしれない存在を無意識下で求めてしまっていた。

元の世界のディックの知り合いでブルースとダミアン、アルフレッド以外に、一人だけ所在が掴めない男がいた。
二人目のロビン。
ヴィランでありヴィジランテでもある危険人物、レッドフード。
その正体はジェイソン・トッドという一人の青年。
悪党に慈悲を見せない私刑者、そして赤い覆面。
それはまさにディックの知るジェイソン、いや、レッドフードの特徴と同じだった。

(ジェイソン、君もここにいるのか……?)

虚空を見上げる。
もし、ジェイソンがディックの知るジェイソン本人であってくれたなら。
今の自分を見て何を思うだろうか。
バットマンのいないこの街で何を考えているのだろうか。
そして、彼には聖杯に託す明確な望みがあるのだろうか。
道化の笑い声が記憶の底から甦る。
少なくとも、ジェイソンが聖杯に縋るに足る願いがあることを、ディックは知っている。

凍えそうな程に冷たい風が頬を撫で、思考の海に浸かっていたディックを強制的に現実へと引き戻す。


16 : Difference ◆F7nVYlVwnw :2015/10/01(木) 22:36:37 tVOsvB4A0

(アニー、聞こえているかい?)

(はい、聞こえています)

念話でアニーへと話しかける。
初めて出会ってから"準備"と称してアーチャーはどこかへと雲隠れし、連絡がつかない。
念話での会話も試みたが、どのような術を使ったのか相手先がアニーに変えられており基本的なやりとりは全てアニーと行うようになっていた。
一抹の不信感が生じ、アニーにその事を打ち明けたが、普段は冷静なアニーが珍しく語気を強めて自身への背信を否定した事で一先ずは信用する事を決めた。

(もうそろそろで勤務に入る、何かあればいつも通りに)
(承知しました)

念話を切る。
アニーは優秀だった。
バーバラやアルフレッド、ティムといったサポーターを失ったディックがナイトウイングとして活動できているのは彼女の助力のお陰だ。
今は専ら警察官のディックが気軽に赴けない施設や地域での調査を受け持ってもらっている。
例えば、今日ならばハイスクールの周辺だ。
学生の中に仮にマスターがいたとして、警察官である彼が職務中に学生達のひしめくハイスクールに足を運ぶ訳にもいかない。
表のロールによる制約で生じた穴を、アニーは見事に埋めてくれていた。

「……今日は随分と冷えるな」

そう言って身震いを1つする。
数多の仲間に支えられてきた男は、孤独な背中を丸めてゴッサム市警本部ビルに向けて足を進めていく。
その姿はどこか不安げで、弱々しかった。


17 : Difference ◆F7nVYlVwnw :2015/10/01(木) 22:37:45 tVOsvB4A0
【MIDTOWN FORT CLINTON /1日目 午前】

【ディック・グレイソン@バットマン】
[状態]精神的披露(小)
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]5千円程度
[思考・状況]
基本:街の治安を守る
1.昼は警官としての職務をこなし、夜はナイトウィングとして自警活動を行う
2.赤いマスクの怪人に強い興味
3.元のゴッサムシティには存在しなかった企業・団体等を調査して聖杯戦争の参加者を割り出す
4.街や知人にバットマンに関する記憶、痕跡が一切ない状況に困惑と動揺
[備考]
※ロールシャッハの噂(コートとマスクの怪人)から彼がクエスチョン@DCコミックスである可能性を考慮しています
※レッドフードの噂(赤いマスクの怪人)から彼がジェイソン・トッドである可能性を考察しています
※令呪は右手の甲に存在します

【MIDTOWN COBRA PT/1日目 午前】

【ジョン・『プルートー』・スミス@カンピオーネ!】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本:ディックのやりたい事に協力する
1.アニーの状態でハイスクールに他の主従の痕跡がないか調査する


18 : ◆F7nVYlVwnw :2015/10/01(木) 22:38:33 tVOsvB4A0
以上で投下を終了いたします


19 : 名無しさん :2015/10/02(金) 09:54:18 tR1DyqZQ0
投下乙です。
あからさまな町の異変を嗅ぎ取れるのはやはり元のゴッサムを知っているからこそ
ユグドラシルタワーを初めとして明らかに本来あるはずのないものが沢山混じってるしね
アニーがハイスクール付近を調査してるとなるともしかしたら何人かの主従は引っ掛かりそうかな…?


20 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/08(木) 23:41:21 niFGM.PY0
投下乙です。
街の歪さに気付けるのはゴッサムシティ在住ならではの強み。
バットマンのいないゴッサムに馴染めず、弱々しい背中を見せるのも無理はないと言うべきか。
レッドフードの存在には勘付いてるようですが、彼はおろかバッツやジョーカーまで来ている事に気付く日は来るのだろうか。
一つ指摘なのですが、ゴッサム市警本部ビルはCOLUNBIA PTに置かれているので、そこだけ修正をお願いします。

wikiに地図の拡大版のリンクを貼っておいたので、参考にしてくれると幸いです。


21 : 名無しさん :2015/10/12(月) 14:16:44 cu57yQuo0
ひとまず全員出揃ったし、次がルーラーの通達かな


22 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/15(木) 02:12:16 w7AVpGvY0
第一回定時通達 予約します


23 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/21(水) 00:07:22 sZ4mELk.0
予約延長します


24 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/23(金) 00:01:06 qI.VC3lY0
投下の前にスレ主権限で色々と変更を。

①参加者に◆yy7mpGr1KA氏の「久宇舞弥&デストロイヤー(加藤鳴海)」を追加します。
②自案のセイバー(グリムジョー)の対魔力のランクをCからBに引き上げます。
③予約期限を五日+二日から延長なしの七日間に変更します。

それでは、定時通達の投下を開始します。


25 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/23(金) 00:02:33 qI.VC3lY0
【1】


 59分を指していた時計の短針が、12時を指す長針に重なった。
 時刻は丁度12時00分、午前と午後の境界線に到達したのである。

 特に祝福すべき事ではない、毎日の様に繰り返された光景の一つ。
 ゴッサムシティの住人達が、これまで何千回も通り過ぎた瞬間。
 だが、聖杯戦争の参加者に限れば、この瞬間は特別な意味合いを内包していた。
 正確に言えば、今この時点より、特別な時間へと変異するのである。

 12時を回った途端、聖杯戦争のマスター達の耳に入り込むのは、男の陽気な声だった。
 この街に住むほんの数人を除けば、彼の声など初めて耳にするだろう。
 当然ながら、その男が何者なのかなど、彼等には皆目見当もつきはしない。

 そして、男の存在を知るほんの一握りでさえ。
 彼がこれより伝えるのが、聖杯戦争の途中経過である事など、知る由もないのであった。


26 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/23(金) 00:03:36 qI.VC3lY0
【2】


 ハロォ――――――ゥ、ゴッサムシティィッ!
 聖杯目当てに遥々やって来たマスターとサーヴァントの諸君!OK、DJサガラの生配信へようこそ!

 マスター諸君、まずはおめでとうと言っておこうか!
 なにせお前達は、聖杯に選ばれた勇敢な戦士なんだからな!
 だが油断は禁物だぜ、聖杯戦争の本番はここからさ!

 さて、めでたく聖杯戦争の切符を掴んだお前達に、俺からのプレゼント!
 このDJサガラがリークしたホットなニュースを、お前達だけにお届けするぜ!

 まずは、惜しくも12時までに敗退したサーヴァント達の紹介だ!
 セイバー、アーチャー、キャスター……今日に至るまでに三組の主従が早くも脱・落!
 喧嘩早い連中に目を付けられたのが運の尽き、早くも命を散らす羽目になったワケだ。
 これで残された主従は"23組"!

 OK!、次の話題に行こうか!この街を賑わす連続殺人鬼の話だ。
 聞いて驚くな、そいつの正体は――ななななんとォ、サーヴァントなのさ!
 どうやら、聖杯戦争のセオリーを無視して好き勝手遊んでる奴がいるみたいだぜ。

 分かっていると思うが、大量虐殺は重大なルゥール違反だッ!
 今回は警告に留めておくが、この通達の後も未だに殺戮を繰り返すようなら……。
 おっと、ここから先は次の通達までのお楽しみだな。

 さあて、いよいよ聖杯戦争の本格的スタートだ!
 全ての敵を倒し聖杯に辿り着くのは誰なのか、俺でさえ予測がつかねえ!
 OK諸君!もし生き延びれたのなら、24時間後にまた逢おう!


27 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/23(金) 00:04:49 qI.VC3lY0
【3】


 グラスホッパーが街の平穏を護る自警団である事は、周知の事実である。
 大半の市民の瞳には、彼等が"街から悪を取り除くヒーロー"として映っているだろう。
 だが、そんなものは上っ面のものに過ぎない。清純な彼等のイメージは偽りのものだ。

 未知の武装"戦極ドライバー"を用いて、悪党を容赦なく叩き潰す武者の軍勢。
 それこそが、煌びやかなヴェールに隠された自警団の真の姿。
 暴力を用いるという点では、彼等はマフィア達と大差ないのである。

 が、この事実はまだ、眉唾物の噂としてしか流れていない。
 それもそうだろう――果実の鎧を纏った戦士が襲われたなど、一体誰が信じるものか。
 例えどれだけ真摯に話そうが、恐らく十人中十人が薄笑いを浮かべ、こう言うだろう。
 「アーカム精神病棟にでも行きたくなったのか」、と。

 ゴッサムのニューヒーローは、360度どこから見ても潔白そのものだ。
 そういうイメージのお陰もあって、グラスホッパーの正体は未だ公にされていない。
 少なくとも今はまだ、彼等はただの自警団として在り続けるだろう。

 さて、そんなグラスホッパーに籍を置く、鎧武者の軍勢。
 通称"黒影トルーパー"と呼ばれる彼等には、悪党狩りの他にもう一つ仕事があった。
 つい最近からこの街で目撃されている、謎の怪物達の撃退である。

 丁度ドライバーが支給される様になった頃だっただろうか。
 前触れなく現れた異形達は、街に隠れ潜みながら無辜の民を襲い始めた。
 "インベス"と呼ばれるそられにより、既に幾人もの人間が血を流しているのだ。

 合計何匹いるかさえ定かではない、獰猛な殺人鬼達。
 街を脅かす彼等の存在が公表されれば、ゴッサムはパニックに陥るだろう。
 だからこそ、怪物と戦えるだけの力を持つグラスホッパーが立ち上がったのだ。

 無力も同然な人間と違い、インベスの爪は鎧越しでもダメージを受けてしまう。
 それ故に、インベスを相手にしようものなら相応の戦闘力が求められる。
 そして、その為の戦闘経験を積めば積む程、団員の練度は上昇していく。

 事実、黒影トルーパー部隊は目覚ましい成長を遂げている。
 最初は集団でなければ勝負にさえならなかったインベスも、今では単独撃破が可能だ。
 インベスが集団で襲い掛かってこない限り、敗北はまずないと言えるだろう。


28 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/23(金) 00:05:44 qI.VC3lY0

 だからこそ、彼等は油断していた。
 たかがインベス如き、赤子の手をひねる様に潰せると。
 誰もがそう慢心し、迫り来る脅威に気付けずにいた。

 アップタウン地区に強力なインベスが現れた、という報告。
 トルーパー部隊は何の疑問も抱かずに、所定の路地裏に向かって行った。
 集められたのはたかが数人、だがその数人だけでも、撃破は容易いだろう。
 どれだけ強力であろうと、所詮インベスはインベスに過ぎないのだから。
 胸中を余裕で満たしながら、彼等は狩りを始めようとする。

 それが、それがいけなかったのだ。
 団員達を待ち受けていたのは、怪物に殺されたであろう一般団員の死体。
 そして、その傍らで佇んでいるのは、現存の怪物達とは明らかに異なる生命体。
 見てくれこそインベスに似ているが、その挙動はどう見てもインベスのそれではない。
 そして何より、その生命体の手には、一振りの両刃剣が握られていたのだ。

 武器を持とうが所詮インベスに過ぎない、という団員の声。
 その一声で迷いと怖気を振り払ったのだろう、彼等は一斉に敵へ突撃する。
 彼等の主からしてみれば、それは愚行以外の何物でもないと知らずに。

 結果から言えば、挑んだ黒影トルーパー悉く惨殺された。
 ドライバーは破壊され、四肢は切断され、内臓は抉られ。
 ものの数分で、路地裏は血生臭い地獄へと変貌を遂げていた。

 犠牲者達は困惑しただろう、これまでの戦法が通用しないのだと。
 犠牲者達は恐怖しただろう、どうして敵は怯む様子さえ見せないのかと。
 犠牲者達は絶望しただろう、何故こんな相手に挑んでしまったのかと。

 黒影トルーパーを殺戮した、未知の怪物。
 それは決して、インベスなどという下劣な化物ではない。
 インベスとは理性を失い、本能が望むまま暴れる畜生なのだ。
 "意思を持ち"、"武器を使い"、"言葉を話す"。そんなものが畜生である訳がない。

 とどのつまり、グラスホッパーは言葉を選び間違えたのだ。
 強力なインベスなどと言わず、正体不明の化物が出てきたとさえ言えば。
 犬養の隣にいるキャスターが、それの正体を察する事も出来ただろう。

 フェムシンムの生き残りが一人――【デェムシュ】。
 少なくとも数人の団員が犠牲になる前に、彼の存在に気付けたのかもしれない。


29 : 第一回定時通達 ◆JOKERxX7Qc :2015/10/23(金) 00:09:01 qI.VC3lY0
【3】


 サガラがその地点にやって来て、まず最初に感じたのは血の臭いだった。
 人間の中に詰め込まれた鮮血と臓物、それらが放つ悪臭が鼻腔を擽っている。
 理由は勿論、その悪臭の元が道端に散らばっているからだ。

 地獄の様相を見せる場所の中から、サガラは破損したドライバーを視認する。
 どうやら、襲い掛かって来たグラスホッパーを返り討ちにしたようだ。
 それにしたってこれはやりすぎではないかと、思わず苦笑してしまう。

「フォムファガウファン、リグレン」
「ここではリン……人間の言葉で喋りな」

 サガラに気付いたデェムシュが発したのは、フェムシンムの言語である。
 既に滅びた文明、そのほんの僅かな生き残りのみが扱えるものだ。
 彼の声色には、サガラに対する嫌悪感がありありと浮かんでいた。

「何ノ用だ、蛇メ」
「分からないか?あんまり派手にやるなって忠告しに来たのさ」

 瞬間、デェムシュの怒気が更に強まった。
 表情からは勿論、剣を強く握る手からも、その怒りを推し量る事が出来る。
 やはりどうしようもない暴れ馬だなと、サガラは内心溜息をついた。

「ほザけッ!俺ガ何をした!?」
「分からないか?殺しは控えろと言ったんだ」
「たかが猿を屠ッた程度デ、何故罰せらレねばならン!」
「そりゃ決まってる。そいつが"ルール"だからさ」

 ヘルヘイムの宝具の一つ、「森羅の歌劇団(ヘルヘイム・シアター)」。
 この宝具は、ヘルヘイムが侵略、もとい記憶した文明を再現する能力を持つ。
 これを用いる事で、サガラはデェムシュを始めとしたフェムシンムを甦らせたのだ。

 が、この宝具には、一度蘇らせた者はコントロール出来ないという欠点がある。
 一度再現したが最後、その者の行動を縛るものは何一つ存在しないのだ。
 デェムシュが悪びれもせずに人間を殺すのも、そういった事情がある為だ。

「自分で召喚した奴に討伐令、なんて間抜けな真似はオレだって御免だからな。
 下手な手を打ってレデュエに嗤われたくないなら、もう少し身の程を弁えとくんだな」

 討伐令の存在そのものは、デェムシュにも予め通達してある。
 彼とてインベスの様な畜生ではない、その単語の意味する事くらい理解している。
 サガラに向けられていた殺意と怒気が、僅かにだが和らいだ。

「ま、いずれお前にも暴れれるチャンスが来る。その時まで辛抱するこった」

 それだけ言って、サガラは踵を返して去って行く。
 元より、デェムシュに通達したかったのはNPCの殺傷に対する警告だけだ。
 事が済んだのであれば、こんな血生臭い場所にいつまでも留まる必要は無い。

 背後から、「アファビリェ」などという呟きが聞こえてくる。
 自分との会話で多少は怒りが抑えられたが、それでもその感情が霧消した訳ではない。
 この男は、王の怒りに触れてもなお暴れ回る程に気性が荒いのだ。
 仮にこの後、彼が他のサーヴァントを襲おうが、「やっぱりな」という感想しか出てこない。

 だが構わない。暴走による盤面の変動、それもまた一興だ。
 デェムシュだけではない。恐らくはレデュエもまた暗躍を始める頃合いだろう。
 彼等フェムシンム、そしてサーヴァント達により、ゴッサムは徐々に歪になっていくのだ。

 ゴッサムに聖杯戦争という異物が混ざり合い、真っ白な犯罪都市はその色を変えていく。
 それを一言で例えるのであれば、"混沌"がまさしく相応しいだろう。
 そしてその混沌こそが――喜劇を望む聖杯に御誂え向きの舞台に他ならないのだ。


30 : 第一回定時通達-The Times They Are a-Changin- ◆JOKERxX7Qc :2015/10/23(金) 00:10:04 qI.VC3lY0
◆ ◆ ◆



 衆愚よ、集うがいい。

 迫り上がる水嵩に気づくのだ。

 気付けないなら、やがて骨まで浸み込む。

 "自分を信じて対決する"と言うのなら、救う価値もあるだろう。

 泳ぎ始めた方がいい。さもなくば、石のように沈むだけ。

 時代は変わる――賭けてもいい。



【残り 23/23組】
※アップタウン地区にデェムシュ@仮面ライダー鎧武が出没しています。


31 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/23(金) 00:11:41 qI.VC3lY0
投下終了となります。

そして早速ですが
ジョーカー
バーサーカー(ン・ダグバ・ゼバ)
久宇舞弥&デストロイヤー(加藤鳴海)
予約します。


32 : 名無しさん :2015/10/23(金) 00:44:12 0jlDFngE0
放送乙ですー
フェムシンムまで現れちゃうとはどうなんだ、これw


33 : ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/23(金) 03:10:55 1imqoA6.0
投下乙です。
ついに来た通達は、荘厳さとか無いサガラのハイテンション実況。まあ、DJモードだから仕方ない。
そして暴れ馬デェムシュ登場。そして当然のように開幕虐殺。まあ、デェムシュだから仕方ない。
外部勢力がますます力を増す中、マスター間の勢力図もより混迷を極めそうで楽しみになってきます。

最後に、シェリル・ノーム&ランサー(ウルキオラ・シファー)で予約します。


34 : 名無しさん :2015/10/30(金) 00:40:59 e5qGZsok0
デェムシュはやっぱりセイバークラスなのかね


35 : ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 00:56:30 bexIa.ZQ0
投下します。


36 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 00:57:10 bexIa.ZQ0



 感知した魔力を追尾した先で発見したのは、一体の白いサーヴァントであった。

 聳え立つビル群の陰に立ち、右手に握った刀を振るう。
 極彩色の小さな果実が、汁を飛び散らせながら崩れて消えゆくのを見つめる。
 そのまま、十数秒に及んでじっと佇む。
 おもむろに、白いサーヴァントがその肢体を揺らす。
 身体の向きを少し動かし、ゆっくりと顔を上方へと向ける。
 双眸がぎょろりと蠢く。

 視線が、交錯する。

 白いサーヴァントの姿は、一瞬のうちに消失している。
 決して起こってはならない事態。観察など即刻中止。咄嗟に飛び退く。
 奴は見つからない。補足出来ない。何処へ行った。
 一瞬、魔力を感知する。二秒前よりも近くに。
 すかさず奴のいるはずの方向へと向き直る。
 辛うじて、白いサーヴァントの姿が小さく視界に映る。
 奴の姿に重なるように現れた、幾つかの黒い光球を捉える。
 迫る。
 疾過ぎる。
 もう躱せない。
 黒一色に塗り尽くされる。

 ぼん。
 ぼん、ぼん。



◇ ◆ ◇



 サーヴァントによって野に放たれた使い魔――観察するかのように動きを止めていたか様子から、そう考えても問題無いだろう――をランサーが発見したのは、幾つかの要因が合わさってのことだった。
 十刃随一とまではいかずとも、高精度には変わりない『探査回路』の能力を持っていたこと。
 人間を怪物へと変容させる果実の存在を知り、より意識的に周囲への魔力感知を張り巡らせていたこと。
 ……ランサーには自覚の無いことだが、シェリル・ノームの護衛に徹していたために奇しくも強大な魔力量を持つ他の外敵とすれ違わずに済んでいたこと。
 これらの要因が生んだ結果、ランサーは使い魔自体が発する魔力の感知及び居所を補足し、間を置かず『響転』で接近、数発の『虚弾』による撃墜を済ませた。
 それでも、あの僅かな時間でこちらの情報の一つ二つは発信源の人物に伝播した可能性も否定し切れない。鬱陶しい話である。

 朝方にシェリルと合流した後、ランサーは正体不明の果実に関わる一件についての事後報告を済ませていた。
 果実を貪った人間は言葉の通じない理性無き怪物に成り下がる、ランサーからその情報を聞かされたシェリルは、何を思ったのか暫くの間黙りこくった。その後シェリルがランサーに告げたのは、今後その果実を発見した場合は誰かに口にされるよりも前に処分せよ、という指示であった。
 そのシェリルはと言えば、今は付近に建つスタジオハウスの屋内だ。日課のボイストレーニングを終えた後、その場で音楽情報誌の取材を受けるという話だと聞かされている。
 当分シェリルがその場から移動する見込みが無いことから、また彼女の下を離れ感知した微弱な魔力の下へと向かった。そう離れていない場所にて例の果実を発見、シェリルの指示通りに切り伏せた。


37 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 00:57:53 bexIa.ZQ0

 例の果実とは別の魔力を感じ取ったのは、丁度そのタイミングであった。明確にこちらを注視する気配。何らかの目的で、こちらを観察している。
 必ずしも害意を以て使い魔を使役していると断言出来ない以上、使い魔を無視する選択肢もあった。
 それでも排除を選んだのは、使い魔の主が敵対者であるリスクを考えてのことだ。協調出来る相手がいるわけでもない状態で、ランサーの戦力、ただでさえ目立つシェリルがマスターであるという情報を一方的に握られるのは、不都合としか言えない。
 故に。

「失せろ、雑兵が」

 振り向きざまに、また『虚弾』を撃ち出す。一直線に向かった遠く先の地点で、魔力の気配が一塊分消滅するのを感じ取る。
 近付いていた微かな魔力の持ち主は、先刻ランサーに潰された使い魔に替わる補充要員としてこちら側に移動した別の使い魔だったのだろう。どうせこのような手合いがすぐに来るだろうと予想していたため別段驚きはしない、ただ迎撃するのみ。
 姑息な手段は通用させない。これでランサーへの接触を諦めるなら、所詮その程度の関係というだけの話。攻めてくるなら、戦う。味方を求めるなら、恐れず勝手に来ればいい。

 ランサーにとっては無軌道に暴れ回る怪物よりも、大方キャスターだろうサーヴァントの知略に基づいて放たれた使い魔の方が脅威である。しかし、これはランサーの視点での話だ。
 思い返すのは、先刻シェリルと交わした短い念話。果実を排除するべきと主張する彼女の声色は、確かに不快感を帯びていたように思う。なればこそ、シェリルはやはりサーヴァントの生み出す使い魔よりも怪物を作り出す果実の方が脅威であると語る予感がした。
 理性を失い、音色を嗜むための感性すら既に消し去られただろう元人間。シェリルがそれに対して何を思ったかを考えれば、悲哀に分類されるものだろうと想像するのは難しくなかった。
 存在そのものが死の具現とでも言うべき虚であるランサー自身は、死と悲哀を結びつけるような感性を持たない。それでも、人間の感情の一つとして存在するという知識は持っている。
 ただ、知識としてだけ。

「……哀しい、か」

 シェリルは、人間は、豊かな彩りを見せる「心」を持っている。発話で、歌で、感情を表現する能力を持っている。いずれもランサーには未だ欠落したままのものだ。
 ならば、それが如何なる物であったとしても、触れてみるべきなのだろうか。シェリルと何かを共有するのは、もしかしたらランサーにとっては有意義となり得ることかもしれないのだ。たとえ、何の情動も得られないとしても。

 取材が終わったら次は会場を移し、夜のライブに向けたリハーサルという話だ。シェリル・ノームの本領が発揮される時間の始まりである。
 今はただ、その声を聞き届けるのみ。そのためにも、速やかにシェリルと合流するのみ。



◇ ◆ ◇


38 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 00:58:34 bexIa.ZQ0



 懐かしい。
 自らを取り巻く環境について、シェリルは二つの理由でそんな感想を抱いていた。

 一つは、ゴッサムシティという都市そのものに対して。選ばれた者達に許される華々しく甘美な感覚と、打ち捨てられた者達の追いやられる掃き溜め特有の苦痛が、ゴッサムという一つの枠組みの内側に存在している。人間社会が持つ光と闇の双方向のベクトル、その先の全てが詰め込まれたと言える街。
 ストリートチルドレンに始まり銀河の妖精に至るまで、遠い宇宙のギャラクシー船団で過ごしたシェリルの半生がまるで一纏めにされて再現されているようだった。

 もう一つは、シェリルが多くの時間を共に過ごす面々に対して。思い出すのはフロンティア船団を訪れたばかりの頃。グレイスとブレラと、シェリル。シェリルの人生の最後の転機を迎える直前の時間は、この三者の関係で成立していた。その関係にも似た状況の中に、今のシェリルの身は置かれている。
 シェリル・ノームに該当するのは、当然シェリル自身。
 ブレラ・スターンの場合は、ランサー。くすりとも笑わない無愛想なボディーガード。ランサーの振る舞いにブレラを想起したのは、彼と出会った翌日のことだった。
 そしてグレイス・オコナーの場合は、左側の座席でハンドルを握っている妙齢の女性だ。彼女は、シェリルの所属する芸能事務所の代表にして専属マネージャーという役割を宛がわれたNPCである。大手の事務所を離れ、たった二人だけで独立開業した零細事務所が目覚ましい活躍を見せるのは彼女によるシェリルへのサポートあってのもの、らしい。
 そしてゴッサムシティでは数少ない、非公表とされているシェリルの寿命の短さを把握している人物でもあった。

「――……リル、シェリル。聞いてるの?」
「何?」
「リハーサル入りまで時間を空けてあるから、ちゃんと休むようにって話よ。あと、本番の前も。寝られる時は寝ておきなさい。ただでさえ朝のフリータイムに外出を許可したんだから」
「いいわよ。今眠くないもの」

 繰り返すが、彼女はシェリルと苦楽を共にしたグレイス・オコナーとは全くの別人だ。聖杯によって用意された、グレイス・オコナーの代替品である。

「まったく。体調管理もプロの仕事だったのに」
「わかってるわよ」
「…………本当は、夜中の外出だって反対なのよ。いくらこの街のことを見聞きしたいからって、治安の悪い環境の中に出すのは私だって気が気じゃないんだから」
「……気を付けるわ、グレイス」

 たとえ、同じフルネームを持っていようとも。
 同じ顔を向けられ、同じ声でこちらに語りかけてこようとも。
 彼女のそれに限りなく近い、気遣いの込められた眼差しを注がれようとも。
 『この』グレイスは、シェリルの知るグレイス・オコナーではない。何処か別の宇宙から連れられた他人であり、機械の詰まっていない生まれたままの肉体の持ち主だ。
 シェリルの知るブレラ・スターンが、愛する妹を護り爆炎の中に消えたように。シェリルを愛したグレイス・オコナーは、歌のための晴れ舞台を託して斃れた。シェリルと共に生きた彼女達は、もう、どの銀河を探しても見つけられない。

「少しでも長く歌いたいなら、危ない真似はしないで頂戴」

 グレイスがNPCでしかないから、伝えるわけにはいかなかった。
 ただ無意味に呆けてグレイスの忠告を聞き流していたのではなく、サガラを名乗る男からの通達の方に意識を集中させていたのだという事実も。ビル群の上を駆けながら、周囲の敵味方の有無に注意を向けているランサーの存在も。
 ランサーから、サガラから知らされた、そこかしこに蠢く脅威の存在も。
 こうして沈黙する度、三人の関係は全くの別物なのだと、また気付かされる。
 彼女に真に愛されるべき『シェリル』が自分では無い事実に、胸の内がちくりと痛む。


39 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 01:00:13 bexIa.ZQ0

「あら、また346の曲。精力的ね」

 シェリルの面持ちに気を遣ったのだろう、グレイスがまた別の話題を振る。情報収集は大事だからとシェリルが好んで車内に流している、ラジオ放送の話であるようだ。
 ――……IKA、Memories。反応が遅れつつも辛うじて聞き逃さずに済んだ幾つかの単語から察するに、とあるアーティストの曲が今からオンエアされるらしい。しかし集中力を散らしていたせいで、曲名は聞けたがアーティスト名を聞き損ねた。
 艶めかしいDJの司会で送られる音楽番組、初めて触れるアーティストの曲。貴重な楽しみを阻害される大元の原因となったサガラに対して、この時シェリルは最も強い憤りを感じたのかもしれない。

「聴いたこと無い曲ね。新人?」

 仕方が無いので、このアーティストが何者であるかはグレイスに尋ねる。グレイスが口にした346が何を指すかについては、既に知っている。
 346プロダクション。シェリルにとって、ゴッサムシティで初めて知ることとなった名であった。米国ではなく、確か日本という東洋の島国における大手の芸能プロダクションだ。近頃になって米国内に支社を設け、事業展開を始めたという話だったはずである……この場合は、設定と述べる方が適切なのだろうか。
 イントロも終わり、ヴァースが流れ始める。重なるように、グレイスの解説が続く。

「少し前に346が始めた企画の一環で組んだユニットだそうよ。日本の本社で進めている企画らしいからこっちじゃそこまで頻繁に触れる機会も無いし、実際この曲も私は初めて聴くけど」
「ふうん。でも、どうしてわざわざアメリカのラジオで流れるのかしら?」
「宣伝ってことでしょう。346のアメリカ進出の理由の一つが、アイドル事業の国外展開って聞いているわ。まずは日本でプロジェクトが実行中だとこうしてアピールして、それからこっちで人材発掘ってところじゃない?」

 アイドル。本来の意味でのidolから発展し、日本という国で独自に確立した概念だ。
 歌唱力は勿論だが、ビジュアルや愛嬌も含めたアーティストのキャラクター性そのものを主力とする、歌手の亜流となる活動スタイルという認識……で良かったはずだ。米国では皆無と言うほどではないにしても、日本と比較すれば定着しているとは言い難い売り出し方であり、それ故に346は開拓の余地を狙ったというところらしい。
 だからと言って、歌の方をおろそかにしているなどということは無い。今ラジオから流れている二人組の歌声も、新人にしては中々悪くない歌唱力のように思える。宣伝の一歩目としては上々になるのだろう。
 電波を介してシェリルが出会った彼女達は、今どのような活動をしているのだろうか。ハンドバッグから取り出したスマートフォンのブラウザ検索機能を立ち上げつつ、グレイスに尋ねる。

「グレイス。その企画って何ていう名前?」
「確か、シンデレラプロジェクトよ」
「……ふふっ」

 聞いた途端、思わず含み笑いが漏れた。
 面白い話もあるものね、と僅かに心を弾ませながら、346の公式サイトから目当てのページを見つけ、人差し指でタッチする。
 米国向けに英語翻訳された、プロジェクトのコンセプトの説明文が表示される。PROJECT MEMBERSの文字列をタッチすると、画面いっぱいに少女達がずらりと並んだ。
 UZUKI SHIMAMURA。ANASTASIA。RIINA TADA。MIKU MAEKAWA。KIRARI MOROBOSHI。
 十人十色の愛らしさを見せる、十四人の少女達。その殆どが、シェリルよりも年下に見える。一人一人の顔写真をタッチすれば、ありありと綴られた各々のアイドル活動に懸けた思いの丈を読める。
 シンデレラの寓話に則れば、夢へと駆け出したばかりの彼女達は皆、舞踏会に辿り着く前の段階だ。そして御伽話と違い、芸の道は血の滲むような苦痛に対しても能動的にならねばらない。
 それ故に、彼女達の中の誰かがいつか煌びやかな花の舞台の上に立つ日が来たら、その姿はとても絢爛なのだろう、なんてことを考え、また気分が高揚する。
 一流を見よと刷り込まれながら腕を磨き、今は自身が一流となったと自負するシェリルであるが、こうしてまだ芽吹いたばかりの才能に目を向けるのも今は良いものだと思っている。


40 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 01:00:55 bexIa.ZQ0

「珍しいわね。あなたが新人に興味を持つなんて」
「だって、素敵な話じゃない」

 聖杯に再現されたゴッサムシティの外側で生きるとされる彼女達が、果たして実際にシェリルと同じ地平の上、海の向こう側に存在しているのか観測する術は無い。もしかしたら、文字と画像だけの存在なのかもしれない。
 それでも、少なくともシンデレラプロジェクトはきっと本当に何処かの銀河の、何処かの星で紡がれている物語なのだろうと信じていた。人に笑顔を与える、歌を楽しむ心の表現が、只の作り物で終わるわけがない。そう信じられるし、信じたい。
 だから、アイドルに興味を示す自らの言動も無意味ではない。もし叶うならば、彼女達とも実際に出会い、心を通わせてみたかった。そう願う感情も、また。

「女の子がシンデレラになるのって、惹かれない?」

 少女達の掴むかもしれない未来に思いを馳せ、シェリルは自らの感情を吐き出した。遠慮もせず、躊躇もせず、取り繕わず、グレイス・オコナーへと向けて。
 星を掴むシンデレラの物語に魅せられた人間の一人としての、正直な想いを。

「……まあ、少女趣味は誰にでもあるものね。そういう意味では、キャッチーなコンセプトと言えるでしょうね」

 意見を聞き終えたグレイスは、ただの好奇心ゆえの発言と受け止めてふふふと笑っていた。
 シェリルもまた、グレイスと同じように小さく笑った。っ、と、グレイスの言葉に小さく息を呑んだ一瞬など、最初から存在していなかったかのように。

 それきり会話は打ち切られ、二人はまたラジオから流れる音に耳を傾けた。暖房の良く効いた空気を、少女達の歌声だけが振るわせる。
 奏でられる音楽が心地良いものであるとする感覚は、何者であっても、隣り合うのが誰でも分かち合えるものだ。その素晴らしさを知っているから、シェリルは歌を捨てられない。
 ゆったりと、シェリルとグレイスはMemoriesを共有する。ハロー、グッバイ。そんなフレーズのすぐ後に曲のオンエアが終わってからも、余韻に浸るための時間が続いた。
 シェリルがまたいつものように重苦しい声で咳き込む瞬間まで、続いた。

「やっぱり少しだけ寝ておくわ。浅い眠りにしかならないでしょうけど」

 再び、シェリルは笑う。意識して形作った笑顔だった。





◇ ◆ ◇


41 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 01:01:18 bexIa.ZQ0





『間違ってたらごめんなさい。でも、そんなシェリルさんが凄いって思ったんです』
『いつも強くて輝いているシェリルさんが、本当はさびしくて、かなしくて、ひとりぼっちで』
『でも、それに負けないように精一杯歌ってたんだって』





 それは、今はもう夢の中でしか会えない彼女との記憶。
 遠い日の記憶。





◇ ◆ ◇


42 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 01:02:27 bexIa.ZQ0



 会場入りするより五分ほど前、「この機会だから話しておくわ」という前置きを挟んだグレイスが眠たげに眼を擦るシェリルに語った話だ。
 昨日、事務所ごと346プロダクションに移籍しないかとの提案がグレイスに来たという。その相手というのが、本社から視察のためにはるばるゴッサムシティを訪れていた346プロの常務取締役であった。彼女は346プロの会長の親族で、ラストネームも美城というらしい。
 24日に開催予定である大型ライブの会場の下見に行った際、偶然別の用事で美城もグレイスと同じ場所に来ていたそうだ。そして同業者同士の世間話へと流れ込む中で、スカウトの話になったとのことだ。
 そもそも今の美城の管轄はアイドル部門であり、仮に346プロに入ったからと言って彼女と直接仕事上の関わりを持つわけではない。それにも関わらず「アーティスト部門なら346ではむしろアイドル部門より歴史が長い」と理由付けをしてまでシェリル達に食いついたのは、先月末に鑑賞したシェリルのバースデイライブに感銘を受けたためだという。
 城の中、階段を昇った先の頂上に映える完成された輝き、別世界のような物語性。強かで煌びやかな在り方を見せるシェリル・ノームのような人間こそ、最高級の王冠(クローネ)を被るに相応しい。
 そう語る美城の口調には、場を繋ぐための些細な冗談では終わらせられないような熱が籠っていたという。イメージに合致する組織からの十分なバックアップ体制を敷けるのは大いに利点となるはずだ、とグレイスに向けたアピールも含まれていた。

「一応聞くけど、興味ある?」
「やめとくわ。今更移籍とかする気も起きないし。第一、セルフプロデュースで売りたかったから独立したのに」

 正式なオファーでもない以上、よくある出来事としてグレイスも自らの胸の内に留めたままにする気でいたようだ。実際に話をしたのは、シェリルが先程346プロに興味を示していたからというだけの理由でしかないと言っていた。
 勿論、受ける理由が無かった。そんなものは、長期的にも短期的にも全く将来性の無いプランでしかない。
 こんな話を聞く度に、シェリルは抱かずにいられない。評価されたことへの誇らしさと、そのことに対するそっと胸を刺すような痛みを。
 人々は、自らの注目する『シェリル』の本質を知らない。

「そうそう。美城さんも言っていたわ。あなたが儚げなイメージの曲を出したのが少し意外だったって」

 シェリルの眼前には、橙色の淡い照明に照らされたホールが映し出されている。
 右に左にせわしなく動き回るスタッフ達、等間隔で並べられるのは純白のクロスを敷かれたテーブル。もうすぐ、シェフ渾身の色とりどりのディナーが上に乗せられることになる。
 今夜のライブは、既にCDも発売済みである新曲をシェリルの生の歌声で披露する初めての場だ。折角ならドームに何万人も呼び込んでみたいところだったが、諸々の都合によりパーティー用のホールを借りてのディナーショー形式となった。
 感傷的なイメージを与える曲調であるため、落ち着いた時間を提供できるという意味では合致した環境と言えなくも無いのかもしれない。プログラムの中に激しいパフォーマンスが含まれていないというのも、この身体には有情な方と言えるだろうか……もしかしたら、グレイスが今回のライブプランを了承したのはこの点にあるのかもしれない。
 それでも、抽選で選ばれた百人前後だけしか今夜の観客になれないのは惜しいと思った。この先何度でもライブを開催できる保証があるならば、今回縁の無かった者達がいることも気に病んだりしない。
 しかし、今はもう状況が違うというのに。
 観客に選ばれた者達は、今頃シェリルのライブを心待ちにしてくれていることだろう。今回の新曲が、遠からずシェリル・ノームの遺作として扱われることになると知らず。そして、その歌がシェリルではなく『シェリル』の歌だとも知らずに。

「私も、最後くらいもっと明るい歌を発表してほしかったと思うけど。言っても仕方無いわね」

 シェリルが全ての記憶を取り戻してから、まだ一週間も経過していない。それにも関わらず、シェリルの音楽活動の過去だけは米国のゴッサムに確立されていた。トップアーティストとしての実績も、今日までに開催したとされる数々のライブも。そして、今回の新曲も。
 作詞作曲に編曲、収録に宣伝、全て合わせればCDを一枚発売するという工程は一朝一夕で済むものでは無いのだ。シェリルが新曲をゴッサムシティに送り出せたのは、曲が既に完成形となって予め提示されていたからに過ぎない。
 歌い方は、気付けばいつの間にか身体に染み着いている。それでも、シェリルが完全に自らの意識に基づいて生み出した歌とは言えないだろう。
 これは『シェリル』に編み出された歌なのだから。


43 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 01:03:19 bexIa.ZQ0

 誰も知らない。知ることが出来ない。
 ゴッサムシティで人気を博す『シェリル・ノーム』の正体は、ただの偶像。
 シェリル・ノームの最後の歌は、『シェリル・ノーム』という役割の具現化。
 それでも、『シェリル・ノーム』を只の偽物だとは言わない。

「シェリル、機材のセッティングが終わったそうよ」
「そう。じゃ行ってくるわね、グレイス」

 わたしは温もりなんてもう何もいらない。わたしはわたしを暖められるから。
 シェリルに与えられた『シェリルの歌』は、当然シェリルの歌ったことの無い物だ。自分の口から誰かにサヨナラを言うための、泣いたりしないと強かに振る舞う歌。泣きたいけど泣かない、弱さを隠す強かさを演じるひとの歌。
 皮肉だと思った。『シェリル』の姿が、痛ましい強がりが、そう在りたいと願う自らのイメージに重なっていたから。
 共感を超えて、同期とでも言うべき感覚。
 『シェリル』もまたシェリルの持つ、シェリルの演じる顔の一つだと理解してしまったから。

 しかし、否、だからこそ。シェリルと『シェリル』は同一ではない。シェリルの内側には、『シェリル』の知らない経験が蓄積されている。
 少女と肩を並べながらデュエットソングを歌う感覚。一人の異性への、命を燃やすほどの本気の恋。その果てに少しだけ肥大化した、人恋しさという名の感情。
 これらを思い出した今、もう『シェリル』と同じようには歌えない。あらゆる感情に、『シェリル』以上の重みを込めて放たざるを得ないのだ。
 だから、これから『シェリルの歌』を、今此処に居るシェリル・ノームの歌へと昇華する。人々の中の『シェリル』のイメージを、より情報量の多いシェリル・ノームへと塗り変える。敢えて『シェリル』の歌を歌うことが、シェリルなりの渾身の意趣返しだ。

(そういえば、ランサーにこの曲を聞かせるのも初めてよね。今はまだリハーサルだけど、あなたもしっかりと聞いていきなさい)
『……』

 ギャラクシー船団だとかプロジェクト・フェアリーだとかV型感染症だとか、そんな小難しいバックボーンを説明する機会は無い。
 しかし構わない。歌はもっと単純な楽しみであっても良いのだ。
 明確でも、なんとなくでも良い。聞いて、何かを感じ取ってくれれば十分。

(ランサー?)

 ああ、早く歌わなきゃ。
 今はこの無感動を絵に描いた男の胸にも届くように歌って、夜になったら来てくれた沢山のオーディエンスの前で歌って、明日、明後日、そしてクリスマスイブの夜を迎えられたならば、

『また魔力を感知した』

 ランサーは、ただ事実だけを告げた。
 シェリルの足が、止まる。

『場所はまだ遠いが、例の使い魔や怪物よりは大きい気配だ。より強力な使い魔か……恐らくはサーヴァントだ』

 淡々と、シェリルに現実を突き付ける。
 聖杯戦争のセオリーとして向き合うべき、他の勢力が接近していると。歌のための未来を阻害し、この僅かな生命をも脅かす仇敵であるかもしれない何者かが、すぐ近くにいると。
 突然足を止めたシェリルを怪訝に思うスタッフ達の声が、美海から通り抜けていく。
 時間にすれば精々数秒ほど。しかし、実感としては随分と長く思い詰めたような気がした。


44 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 01:04:08 bexIa.ZQ0

『どうする? 向こうも既にこちらに気付いているかもしれないが』
(ランサー、会ってきて。もし通達にあったような外道だったら倒してしまってもいい。そうでなかったら……あなたに任せるわ。出来れば穏便に越したことはないけど。大丈夫よ、私に何かあったら令呪で即刻呼び戻すから)

 ランサーの声を遮ってでも、早急に方針を伝える。
 念話であっても、その声は強かだ。

『そうか。ならば、ある程度はこちらの裁量でやらせてもらう』
(ええ。あと一つ、絶対帰ってきなさい。こんないい女に待ちぼうけさせるなんて、男の恥でしかない真似は許さないわよ)
『……』

 最後の指示にはろくに答えないまま、ランサーはシェリルの下から消えた。
 念話での指示で良かったと思う。攻めの姿勢を見せられたのも良し。
 映画なんかだとお決まりのパターンである死への伏線を敢えて口にしたのも含めて、勝気な振る舞いを通せたのは成功だった。

「……私の歌の感想、あなたの口からまだちゃんと聞けてないのよ」

 もしも自らの声で伝えていたら、それはきっと震えていた。
 そんな弱みを、メロディに乗せない言葉で表現してしまうのは少しだけ癪だった。

「ごめんなさい、ちょっとした精神統一よ。すぐステージに上がるわ。リハーサルだからって聞き逃がさないでよね!」

 声を張り上げるという行動が疲れるものだとは承知している。この身体には、毒だ、
 ビートライダーズの少年達と違い、快活なだけではいられない。シンデレラプロジェクトの少女達と違い、未来はそう永くない。
 それでも、止められないのだから仕方が無い。こういう疲れなら構わない。
 歌う時、シェリルは彼ら彼女らと同じく自分に正直になれる。シェリルを聴いてくれる人がいたら、安心出来る。
 だから舞台に立って、歌っているだけ。
 こうして出会う人々に、声を届けているだけ。

 私は今も強く輝けているでしょうかと、シェリルは今も問うている。
 ランサーへ、数多の聴衆へ、そしてゴッサムシティへ。

 早乙女アルトとランカ・リーが何処にもいない、この世界へ。
 どうか私の声を聴いてと、シェリルは今も願っている。



◇ ◆ ◇


45 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 01:04:45 bexIa.ZQ0



 率直に言えば、シェリル・ノームはサーヴァントを従えるマスターとして決して優秀ではない。魔術師としての素養が皆無であるために、ランサーが自らの真価を発揮するのに伴う魔力消費にシェリルは対応しきれまい。
 しかしそれだけならば、ゴッサムシティを舞台とする聖杯戦争では他者に大きく後れを取る要素であるとランサーは考えない。シェリル・ノームが意図せずしてマスターとなったように、同じく魔術師では無い者がマスターとなった事例がある可能性もあるためだ。
 シェリルの抱える一番の欠点は、病。ただ快活に見せかけているだけで、実際は常人より衰弱している肉体だ。
 ただ日常生活を営むだけならば大きな問題は無い……実際はそれだけでも問題があるのだろうが、一応は無いものとしておく。
 しかし、ランサーに魔力を提供すればどうなるか。魔力の消費は、より簡単に言えば体力的な負担の発生だ。そして他の者より脆い肉体の持ち主であるシェリルには、その負担が重大な意味を持つ。それ故に、ランサーの戦闘行為はシェリルの生命維持という一点においてリスキーだ。
 例の怪物や使い魔のような雑魚相手ならば、己の身体能力と、付け加えるとしても精々『響転』と『虚弾』だけで十分。ランサー自身の魔力だけ事足りる。
 しかし中級上級のサーヴァントを相手にするならば話は別だ。『虚閃』の多用、『黒翼大魔』の解放、場合によっては『第二階層』や『超速再生』の必要も生じるだろう。
 そのためのエネルギー源であることをシェリル一人に強いれば、彼女が文字通りに瀕死となるのは想像に難くない。言い換えれば、シェリルの生命に配慮するならばランサーは極力全力を出さずに戦わざるを得ない。

「何だろうな、この思考は」

 己の耽る思考に、ふとランサーは奇異さを覚えた。
 ランサーが聖杯戦争の舞台上に少しでも長く留まるためには、改めて優秀なマスターを持つのが最も手っ取り早い。幸いと言うべきかランサーには単独行動スキルが付与されており、仮にシェリルが命を落としたとしてもランサーは即刻消滅に至るわけではないのだから。
 降りかかる火の粉を払うというお題目の下、シェリルをさっさと衰弱死させてしまうこともまた選択肢の一つなのだ。
 この発想にランサーが至ったのは、たった今。こうして改めて考え直さなければ、ランサーはこの発想に至れなくなった。
 間違いなく、シェリルのせいだ。

 シェリル・ノームという人間に、彼女の歌に興味を持った。それは事実だ、認めよう。
 不可思議なのは、ランサーの中でのシェリルの優先順位の高さだ。
 考える、シェリルの何に引き付けられるのだ。歌が上手いだけの、特別な力の無い人間に、何故。
 もっと明瞭な。言葉に出来る理由があるはずだ。
 シェリル・ノームは、ゴッサムに生きる七桁を超える人間の中の一人に過ぎない。死すら珍しくないこの街では、斃れゆく者達の中の一人であることすら――

「ひとり……なのか、あの女は」

 甦るのは、かつてランサーと触れ合ったあの少女の言葉。
 独りで死ぬのが恐ろしいかと問うたランサーに、誰かと「心」を一つにしているから怖くないと少女は答えた。
 シェリルは今、あの少女と同じ言葉を口にしている。
 しかし、二人の間には差異がある。
 あの少女は少年に、仲間達に護られた。他者と力を合わせ、目前に迫る死の可能性に打ち勝った。
 シェリルはどうだ。身体を蝕む病を治す術は無く、聖杯を掴み取れる見込みも無い。終へと向かうシェリルの運命は変わらず、最早何者にも救われることが無い。
 そうか、と確信する。
 シェリル・ノームは、あの少女が辿り着くかもしれなかった別の可能性。少年に護られず命を落とす少女、それは即ち、シェリル。
 だから、ランサーは興味を持ったのだ。彼女の最期の声を聴くまでの間に、何がのこされるのか知りたいと。


46 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 01:05:44 bexIa.ZQ0

 ランサーは、一際強く大地を蹴った。
 行き着く先に待つ者が敵か味方かは未知だ。それでも、敵でなければ理想的だろうと思う。魔力を行使する必要が無ければ、それに越したことは無い。
 勿論、ランサーは敵意を向ける者が相手であっても怯えるつもりなど毛頭ない。十刃の第四として、己の槍を振るうのみ。
 ただそのためにシェリルが死の危機に瀕するのは、些か不都合だ。ランサー自身が消滅させられるのも同様。恐ろしくなど無い、しかし癪だ。
 しかし、この思考にも結局意味は無い。まだ見ぬ彼奴に出会う瞬間まで運命は分からない。
 故に、ランサーはただ懸けるしか出来ない。
 巡り会う者に立ち向かうしか出来ないし、立ち向かわねばならない。
 シェリルの下に、帰らねばならない。

 この数日間で、シェリルの喉で奏でられる歌声を何度も聞いた。
 街角に流れる電子音声で、シェリルの新たな曲を何度か聞いた。
 シェリルの喉で奏でられるシェリルの新たな曲は、まだ一度も聞いていない。

 何もこわくない、忘れはしない。
 そんなことを謳う彼女に、聞かねばならない。今夜の舞台で、聖杯戦争という名の舞台で確かめねばならない。

 女よ。
 シェリル・ノームよ。

「お前は本当に――――本当に、こわくないのか」

 問わなければ、ならない。


47 : ロンリー・ロール ◆T9Gw6qZZpg :2015/10/30(金) 01:06:12 bexIa.ZQ0



【UPTOWN BAY SIDE/一日目 午後】

【シェリル・ノーム@劇場版マクロスF 恋離飛翼〜サヨナラノツバサ〜 】
[状態]余命僅か、今のところ病状は比較的落ち着いている
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]豊潤
[思考・状況]
基本:命の限り、歌い続ける。
 1.夜間(18時)からのライブに準備。今はリハーサル中。
 2.何かを楽しむ人々への興味(ビートライダーズ、シンデレラプロジェクト等)。
 3.24日まで身体が保ってくれたら嬉しい。
[備考]
※21日の夜間(18時頃)にディナーショー形式のライブを開催します。開催場所はUPTOWN BAY SIDEに建設されたイベント用ホールです。
※22日以降の予定は後続の書き手さんにお任せします。少なくとも24日には大型ライブの開催予定があります。

【ウルキオラ・シファー@BLEACH】
[状態]健康
[装備]斬魄刀
[道具]なし
[思考・状況]
基本:「心」をもう一度知る。
 0.魔力の発信源へと向かう。
 1.シェリル・ノームを守る。
 2.白い怪物(インベス)と極彩色の果実(ヘルヘイムの果実)、キャスター(メディア)の使い魔を警戒。
[備考]
※インベスとヘルヘイムの果実、メディアの使い魔を視認しました。
※サーヴァント若しくはそれに類する大きさの魔力を付近に感知しました。正体は後続の書き手さんにお任せします。


[全体備考]
※【UPTOWN WEST VILLAGE】と【UPTOWN BAY SIDE】の間の範囲で活動していたメディアの使い魔の数体が、ウルキオラ・シファーに撃破されました。


48 : 名無しさん :2015/10/30(金) 01:07:18 bexIa.ZQ0
投下を終了します。
問題点ほか何かありましたらよろしくお願いします。


49 : 名無しさん :2015/10/30(金) 21:44:45 nBQgHbgA0
投下乙です。
シェリルの濃厚で丁寧な描写がいいなぁ…
アイドルやビートライダーズのような未来も無く、病に蝕まれて余命幾許も無い中で
それでも自分の在り方を貫いてシェリルとして歌い続けんとする姿は儚くも美しい
彼女の孤独を認識して興味を抱きつつあるウルキオラとの今後の関係も気になる


50 : ◆JOKERxX7Qc :2015/10/31(土) 00:34:41 CXHEg7TI0
投下乙です。感想はちょっと後程。
期限を過ぎてしまったので予約を一旦破棄します。


51 : 名無しさん :2015/10/31(土) 12:22:00 4EXq7Rzw0
舞台がインベスの徘徊する街だけにLythts of my wishを思い出した


52 : ◆1k3rE2vUCM :2015/11/16(月) 23:20:29 iHUYEmmk0
ランサー(ウルキオラ・シファー)
ヤモト・コキ&ランサー(乃木園子)
デェムシュ
予約します


53 : ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:07:45 FtWM4tAs0
投下します


54 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:10:38 FtWM4tAs0

気に食わない。
苛立たしい。
虫酸が走る。

真紅の外殻に身を包んだ騎士は、摩天楼の屋上から衆愚の街を見下ろしていた。
あの時と全く変わらぬ―――否、あの時よりも目障りな文明が視界に広がっている。
ゴッサムシティの規模はあの沢芽市をもゆうに上回っている。
都市としての機能においても、人口においても、経済においても。
間違いなく大都市の部類に入るだろう。
ウェイン社を筆頭とする大企業が街の発展に貢献しているのだから。
陰で弱者が貧困に喘ぎ、数々の悪党が蠢くという闇を抱えながら、街は成長を続けている。

しかし、真紅の騎士はそんな人間の文明に感心など抱かない。
所詮は自分たちより劣る猿共が作り出したモノ。
人間達の社会の営みなど、彼にとっては『ままごと』にも等しい。

聳え立つビル群も、彼の目には猿共の墓標にしか映らない。
街を行き交う人々も、彼の目には鬱陶しい蟻の群れにしか見えない。
かつて力に溺れ、文明を滅ぼした彼は社会なぞに興味を持たない。

猿共の争いの場へと強制的に呼び寄せられ、下等な猿共の都市に放り出され、剰えあの蛇の従者として使役される。
彼にとってこれ以上に苛立たしいことがあるだろうか。

真紅の騎士は思う。
確かに自分はあの蛇の使い魔として召還された。
されど、魂まで蛇に売り飛ばすつもりなど毛頭無い。
幸いあの蛇には自分を支配する能力はないらしい。
奴はあくまで聖杯戦争の監視者であって、聖杯戦争の支配者ではない。
故に、我々の行動に制約を与えることはできない―――と。


55 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:11:06 FtWM4tAs0


(蛇と言エど所詮ハ傍観者、我らフェムシンムを支配デキヌ存在)



ふん、と真紅の騎士は内心で『蛇』を嘲笑う。
禁断の果実を与えられる超越者を気取っているつもりなのかもしれないが、所詮は自分では何もできぬ腰抜けだ。
果実に関わらず、我らフェムシンムは元より選ばれた存在なのだ。
森の支配を乗り越えられたのも、己の実力によるものだ。
傲慢な真紅の騎士は内心でそう思いつつ、剣を握りしめる右手の力を強める。



(ダカらこそ、腹立たシイ…!)



そんな蛇の使い魔として召喚されている現状が、何よりも苛立たしい。
己は強者だ。フェムシンムは万物の頂点に立つ存在だ。
それが、今はあの蛇の使い走りだ。
自分は盤上で踊らされるだけの駒か。
所詮は蛇に良いように利用されるだけの尖兵か。
くだらない。気に喰わない、不愉快だ。

まずは、この苛立ちを晴らさねばならない。
そう思った真紅の騎士が感じ取ったのは、一つの『魔力の気配』だった。


◆◆◆◆


56 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:11:42 FtWM4tAs0


ヤモト・コキはランサーから渡された着替えを身に纏い、街へと出歩いていた。
用意されたのは質素ながら暖かな冬服一式だ。
毛糸の帽子、厚着のセーター、シンプルなジーンズ。
それらの衣服と同時に、ヤモトは変装用の伊達眼鏡まで渡されていた。
服装だけでなく、人相の特徴も変えるべきだとランサーは考えたのだろう。
従者の気遣いに感謝を覚えつつ、彼女は慣れぬ伊達眼鏡を掛けて街を往く。

白い吐息を吐き、ヤモトは市街地の歩道を歩きながら周囲の様子を伺う。
街を行き交う人々がヤモトを見て驚愕する様子は無い。
彼女が指名手配犯であると気付いていないのか、あるいは空似か何かとしか思っていないのか。
ともかく、ヤモトに対する反応をする者は今の時点では見受けられなかった。
彼女自身、可能な限り目立たぬ様に振る舞っている――――つもりだ。
ただ街を歩くだけでも緊張が解けない。気が抜けない。
以前とまるで変わらない逃亡生活だ。
そんな日々にさえ慣れてしまったのが、どこか悲しく感じる。


空に浮かぶ太陽を、ヤモトはゆっくりと見上げる。
呆れ返るほどの晴天、快晴。
地上は爽やかな日差しに照らされている。
煩わしささえ感じてしまう光を、自然と片腕で遮ってしまう。


(ネオサイタマとは、大違い)


空を見上げ、ヤモトはふとそんなことを思う。
近未来都市ネオサイタマ。
聖杯戦争に召喚される前、ヤモトが暮らしていた街。
キョートから引っ越し、ハイスクールに通い、ニンジャとなり。
紆余曲折の末に逃亡生活を繰り広げていた舞台。
あの街の空は黒い雲に覆われ、酸性雨が降り注ぐことも珍しくはなかった。

だが、この街は違う。
あのマッポーの世界のように空は闇に覆われていない。
死の雨が日常のように降り注ぐことはない。
そして、ニンジャもこの街には存在していない。

とはいえ社会の裏に巣食う闇は、どちらもそうは変わらないらしい。
この街にはマフィア等の犯罪者が蔓延り、幅を利かせている。
マフィアの構成員一人の殺害でここまで執拗に追われているのだ。
その上警察からもマフィアからも追われ、手配書すらも発行されている。
その現状を鑑みれば、両者が結託していることは確実と言えるだろう。
犯罪者と法の番人が手を結ぶ――――洒落にもならない話だ。

彼らからの逃亡生活を続けて、どれほどの日数が経ったのかも解らない。
マスターとしての記憶を取り戻す前から逃げ続けていたことだけは理解している。
一週間か。一ヶ月か。あるいは、もっと長いのか。
ヤモトには解らない。思い出そうとしても、記憶が曖昧なままだ。


57 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:12:17 FtWM4tAs0

(…このまま、どこへ行こうかな)


己の現状を振り返った後、ヤモトは心中で不安げに呟く。
どこかへ逃げ込む宛てなど無い。
ゴッサムシティという社会そのものが自分の敵なのだから。
自分はこの『街』に追われている身だ。
絶望的な状況下で、自分は生きなければならない。
敵は有力なマフィア、国家権力たる警察――――そしてサーヴァントとそのマスター。
通達によれば、自分達以外にも20以上の主従が存在するという。
更にルールを外れて暴れ回るサーヴァントが現れたという話も出てきた。
ある意味、ネオサイタマでの逃亡生活以上に過酷な境遇だ。
此処から先、逃げる場所はあるのだろうか。
不安が胸の内に込み上げる。

されど、ヤモト・コキはニンジャである。

その気になれば理不尽な暴力に立ち向かえる力がある。
マフィアや警察程度のモータルならば一網打尽に出来るカラテがある。
にも関わらず、何故彼女は戦わないのか。
それはランサーから『普通の女の子として振る舞うべき』という提案を受けたから。

逃亡犯という最悪の役割を宛てがわれたヤモト。
それに対し、警察やマフィアなどの権力を持つ者の役割を宛てがわれたマスターが存在するかもしれない。
その相手からヤモトがマスターであると露呈した場合、一方的に攻撃される危険性がある。
更にニンジャとしての力は神秘が籠っており、他の主従から魔力の如く察知されるかもしれない。
故にヤモトはニンジャとしての力を行使せず、一般人として振る舞った方が過剰な警戒をされにくい。
ランサーのそれらの提案を聞き入れ、ヤモトは『ただの少女』として振る舞うことを決めた。

しかし、その分の負担を背負うのは誰か。
間違い無くランサーだ。
彼女はヤモトの為に衣服や飲食品などのモノを盗んでいた。
更に戦いにおいても一身に引き受ける意志を示していた。
小さな少女の姿をしたサーヴァントに、様々な面でヤモトは頼り切っている。
その事実にヤモトは申し訳なさと罪悪感を感じる。



《ねえ、ヤモヤモ》



思考の最中、唐突に頭の中で念話の声が響く。
今まさに思っていた人物、ランサー――――乃木園子だ。
霊体化した状態で語り掛けてきているのだろう。


58 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:12:51 FtWM4tAs0

《…どうしたの?》
《今すぐ南へ逃げた方が良さそうだね〜。
 ヤモヤモがいる所より北の方角から、魔力の気配が感じられたんだ》


ランサーが感じ取った魔力の気配。
恐らく、サーヴァントの存在が現れたということだろう。
その報告を聞き、心中で僅かに動揺したヤモトは問う。


《それって、サーヴァントだよね》
《多分ね〜。それも二つ、魔力そのものも割と大きめかな。
 サーヴァント同士が接触しているんだと思うよ〜》


普段通りの調子でランサーはそう答える。
ヤモトはニンジャとしての力を使わず、一般人として振る舞う方針だ。
その為には極力戦闘を避ける必要がある。
ランサーはそのことを考慮して、魔力の気配から少しでも離れることを進言したのだろう。


《ランサー=サンは…どうするの?》
《ちょっと様子を見に行くかな〜。他のサーヴァントのことも知っておきたいしね〜》
《…大丈夫、ランサー=サン?》
《だいじょぶだいじょぶ、出来るだけ上手くやるつもりだしさ〜。
 それに、もしもの時は戦うことだって出来るしね》


そう答えるランサーの表情は見えない。
恐らく、彼女は―――――戦う覚悟をしているのだろう。
マスターであるヤモトを逃がし、一人で聖杯戦争という戦場に身を投じるつもりなのだ。
ヤモトはギュッと拳を握りしめ、微かながら苦い表情を浮かべる。
無力に振る舞うことが得策であるということは、ヤモトも解っている。
だが、このままランサーに任せきりでいいのだろうか。
相棒が戦い続けている中で、一人で隠れ潜んでいるだけでいいのだろうか。
ヤモトが普通の少女として振る舞う中で、ランサー一人が傷を負い、苦しむのだ。


《その…》
《じゃあ、行ってくるよ〜。ヤモヤモは出来るだけこの地区から離れてね。
 あ、それと…後で私も魔力を探ってヤモヤモのこと追い掛けるから安心してね〜》


そう告げたランサーとの念話が途切れるのを感じ取れた。
あ、と何かを言おうとしたが、ヤモトの言葉は出ず。
少女は一人、その場に立ち尽くす。
ランサーは一人で行ってしまった。
二体のサーヴァントの気配を追って、たった一人でそちらへと向かった。


――――自分に出来ることとは、一体なんなのだろうか。


ふと、ヤモトはそんなことを思う。
戦う術を持つ自分なら、ランサーの手助けくらい出来るのではないのか。
シ・ニンジャの憑依者としての力を行使すれば。
ランサーを―――――あの子を助けることくらい出来るのではないのか。
不器用な少女は、それしか思い浮かばなかった。
戦うことを運命づけられたヤモトは、戦い以外の助力の方法を浮かべることが出来ない。


(…アタイが着いていった所で、足手纏いになるだけだ)


そう自分に言い聞かせて、ヤモトは街を進む。
相手はサーヴァント。文字通り、超級の存在。
そんな相手に太刀打ち出来るかも解らない。
それに、ランサーはヤモトに「戦わない方がいい」と言っていた。
彼女からの忠告を破りたくはないし、今は彼女を信じるしか無い。
どこか陰を背負った顔を俯かせ、南へと向かっていく。
少女の往くべき道は、未だ見つからない。


◆◆◆◆


59 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:13:46 FtWM4tAs0


ランサーのサーヴァント、ウルキオラ・シファー。
虚無の如き白は、摩天楼を跳躍していた。
彼が探っているのは『魔力』。
強大で、はっきりと浮かび上がっている魔力の気配。
魔力感知の能力である『探査回路』によってそれを探り当てたのだ。


恐らく相手も彼の存在に気付いているのだろう。
魔力の気配は引かれ合う様に、次第にウルキオラの方へと接近してきている。


マスターであるシェリル・ノームからもウルキオラ自身の裁量で判断する許可は得ている。
通達で告げられた様な外道であれば、倒しても構わない。
そうでなければ、ウルキオラの判断に任せると。

魔力の気配は一直線にこちらへと突撃してきている。
その動きに迷いは感じられない。
それどころか、まるで他のサーヴァントの存在を待ちわびていたかの様だ。
気配の主は躊躇も迷いも無く、迫り来る。
ウルキオラ・シファーを目指し、直進してきている。

ウルキオラは思考する。
相手が好戦的な参加者である可能性は高いだろうと。
先に述べた通り、魔力の動きに余りにも迷いが無い。
こちらへと猛進していると言っても差し支え無いレベルだ。
自分の様に他の参加者との接触を目的としている相手ならまだいい。
しかし、恐らく違うだろう。
そうだとすれば慎重さに欠けているとしか言い様が無い。
自分が一定の距離まで近付いた途端、相手――魔力の気配の主――は即座にこちらへと方向転換して接近を始めたのだから。
相手がこちらの存在に気付いた瞬間、何の躊躇いも無く一直線に接近を試みてきたのだ。
その動きは―――――獲物を見つけ、それを追い立てんとする獣のようだと思わざるを得ない。


(恐らくは、好戦的な相手か)


故にウルキオラは己の中でそう見切りをつける。
恐らく、この先に待ち構えているのは戦闘。
もしも『敵』が強者ならば、少なからず魔力を浪費することになるだろう。
先ほどまでの雑魚ならばまだしも、三騎士級のサーヴァントが相手となれば力を抑えた状態で渡り合うのは難しいだろう。
場合によっては『虚閃』等の使用、そして宝具の解放が必要となることが予想される。
自分には単独行動スキルが存在する。魔力のないマスターと言えど、ある程度の魔力運用は自家発電で可能だ。
しかし、それもどこまで保つか。魔力切れによる消滅は避ける必要がある。
宝具などの使い所は慎重に見極めるべきだろう。

しかし、危機と判断した場合には――迷わず使うつもりだ。
それを使わなければ生き残れないと判断した際には、己の裁量でそれを解放する。
勝てばいい。魔力が底を尽きるよりも先に、勝てば無問題なのだから。
ウルキオラはそう思考する。




――――――絶対帰ってきなさい。




彼はマスターからそう命じられたのだ。
あの時は何も答えなかったが、ウルキオラは彼女の『命令』を聞き届けていた。
例え敵と相対したとしてもウルキオラは生きて帰らねばならない。


60 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:14:16 FtWM4tAs0

迫り来る魔力の塊へと接近し続けた果てに。
ウルキオラは、高層ビルの屋上に取り付けられたヘリポートへと降り立つ。
二つの眼でゆっくりと周囲を観測し、彼は『それ』の存在を確認する。
先程から察知していた魔力の主を、視界に捉える。


「…サーヴァントか」


ウルキオラは静かに呟く。
仁王立ちする彼の視線の先に降り立った存在。
それは、異形の剣士だった。
奇怪な風貌をした、紅い化物だった。


真紅色の肉体。
甲冑を纏った騎士を思わせる風貌。
鋭い刃を持つ両手剣。
殺意を宿した金色の瞳。
その姿は彼がヒトとは全く異なる異質の存在であることを物語る。


(否――――違う)


前方に立つ異形の存在の魔力を感じ取り、ウルキオラは己の考えを改める。
あの騎士は、あの怪物や使い魔どもよりも遥かに強大な魔力を備えている。
それ故にサーヴァントと認識していた。

だが―――――違う。何かが異様だ。

魔力の感覚が、身に纏う雰囲気が、サーヴァントの物とはどこか異なっている。
確かにサーヴァントのような魔力を感知できる。
しかし、本質的には別の存在であると彼の思考は認識している。
この感覚には、覚えがある。
あの路地で見つけた『植物の怪物』だ。


「寧ろ…あの怪物に近いか」


その魔力は怪物の比にもならぬほど大きい。
しかし、余りにも近しい。
目の前の騎士が纏う魔力は、あの怪物と近しいのだ。
ウルキオラはそれを察知し、心中で思う。
この真紅の怪物は、一体何者だ。



「猿ノ従者か…丁度イイ、憂さ晴ラシの相手を探シテいた所ダ…!」



真紅の騎士――――フェムシンムが一人、デェムシュ。
彼は声を荒らげながら、睨む様にウルキオラを見据えた。
二十数メートル前後の距離を開け、二人の『人外』が睨み合う。


61 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:14:50 FtWM4tAs0

「……やはり、な」


デェムシュの言葉を聞き、ウルキオラは悟ったよう呟く。
ウルキオラは既に理解していた。
鋭い魔力の気配、そして殺意に満ちた瞳から、彼は感じ取っていた。
この怪物は、初めから言葉を通わせるつもりは無いということを。
人間の様な『心』など持ち合わせぬ、化物に過ぎないということを。
つまり、初めから己の敵として相対してきている――――――




ドッ、とデェムシュの足下のヘリポートの台座に亀裂が入る。
勢いよく床を蹴り、その場から瞬時に駆け出したのだ。
その一瞬で、デェムシュはウルキオラとの間合いを詰める。




「―――――!」



目を見開き――――――瞬時に斬魄刀を防御体勢で構える。
瞬間、叩き込まれたのは凄まじい衝撃。
両手剣による一撃が斬魄刀を襲ったのだ。
ウルキオラは衝撃によって後方へと吹き飛ばされ、ヘリポートから足を踏み外しそうになる。
しかし何とか体勢を立て直し、かろうじて着地に成功した。


「叩き潰ス――――ッ!!!」


間髪入れず、デェムシュが跳躍。
屈強な両足を躍動させ、荒々しく跳んだのだ。
そのまま両手で剣を握り締めたデェムシュが、落下と同時に幹竹割りを叩き込まんとする。


だが、デェムシュの刃がウルキオラを捉えることは無かった。
ウルキオラの姿が突然その場から『消えた』のだから。


響転(ソニード)。
破面が備える高速移動の技術。
ウルキオラは響転によってデェムシュの一撃を回避し、彼の背後へと回り込んだのだ。
余りのスピード故に、相手は『姿を消した』と錯覚する程だ。


「散れ――――――」


驚愕するデェムシュ。冷淡な瞳を浮かべるウルキオラ。
背後から振るわれた斬魄刀が、デェムシュの首を跳ね飛ばさんとした。



――――甲高い金属音。
――――激しく散る火花。


62 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:15:20 FtWM4tAs0


「……何?」
「小賢シイ……!!」


斬魄刀の刃が、デェムシュの首を跳ね飛ばすことは無かった。
予想外の事態に、ウルキオラの口から言葉が漏れる。
デェムシュは咄嗟に背負う様な形で背後へ剣を構え、死角からの一撃を防いだ。
背後から放たれた不意の斬撃を容易く凌いでみせたのだ。
そのままデェムシュは後方へと強引に身体ごと腕を押し出し、斬魄刀の刃を弾く。

斬魄刀ごと弾かれ、後方へと下がるウルキオラ。
瞬時に振り返ったデェムシュが剣を構え、接近。


――――縦一閃の斬撃。


咄嗟に構えた斬魄刀で弾く。
閃光のような火花が散り、ウルキオラの身体が僅かに仰け反る。
デェムシュの獰猛な獣の如し強靭なパワーが容赦なく襲い来る。


――――振り上げによる斬撃。


即座に構え直した斬魄刀によってかろうじてこれを防御。
圧倒的な腕力による斬撃が、刀を握るウルキオラの両腕に衝撃として伝わる。


――――横薙ぎの斬撃。


瞬時に振るった斬魄刀で相殺。
ウルキオラは剣を弾いた反動で一瞬怯む。
その隙を狙い、間髪入れずデェムシュは再び剣を構え。


――――微塵に切り裂かんとする連撃。


ウルキオラの胴体に、斬撃による傷が生まれる。
直後、反射的に盾にした斬魄刀によってこれらを防ぐ。
防御を突破した幾つかの斬撃は、ウルキオラの腕や胴体などの一部を更に切り裂く。
『鋼皮』によって強度を増した肌さえも傷付けていく。
ウルキオラの内心に、僅かな焦りが浮かぶ。
無感情な仮面の下で、目の前の敵に対する微かな焦燥を抱く。


暴風の様に荒々しく、雷の如く激しく剣を幾度と無く振るう。
ウルキオラは斬魄刀を盾にし、刃の嵐を何とか耐えていた。


63 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:15:52 FtWM4tAs0

状況は―――明らかに劣勢だ。
余りにも苛烈な猛攻とパワーの前に、ウルキオラは次第に押されていく。
近接戦闘能力においては高位の三騎士に匹敵、もしくはそれ以上。
敵の攻撃を凌ぎ続ける中で、相手の凄まじい力量をウルキオラは理解したのだ。

生前ならば超級の再生能力で強引に粘ることも出来ただろうが、今の彼のはサーヴァント。
再生能力の過度な行使はマスターへの極度の負担に繋がる為、乱発は出来ない。
冷静な鉄仮面の表情の下で僅かな焦りを感じ、ウルキオラはデェムシュを見据える。

ウルキオラは既にヘリポートの端へと追い込まれている。
『響転』による高速移動を行う隙はない。
『虚弾』等を放つ余裕も無い。
敵の攻撃が余りにも激しすぎる。
このままでは防戦で追い込まれるばかり。
ここから、どうする―――――――


瞬間、獣の咆哮にも似た雄叫びが轟く。
直後に強靭な力を籠めた斬撃が放たれ、斬魄刀の防御を弾き飛ばす。
文字通り、全力の一撃―――――ウルキオラはその攻撃の前に怯まされ。
そのまま間髪入れず、ウルキオラの腹部に衝撃が叩き込まれた。
剣による攻撃で作り出した隙を狙い、デェムシュが左拳による打撃を放ったのだ。


デェムシュの剣への対処に手一杯だったウルキオラが、それに対処出来る筈も無く。
彼の細身の肉体はボールのように吹き飛ばされる。
宙を舞う身体を受け止める仕切りなど、この場には存在しない。
衝撃によって放り出されたウルキオラを止めるモノなど、此処には一つとて無い。
そのままウルキオラの身体は宙へと飛ばされ、ヘリポートの床を越え。



―――――そして、高層ビルより転落する。



地上百数メートルに到達する空中に、槍兵の身体は放り出されたのだ。
直後、無力な人形の様に宙を墜ちていくウルキオラは目にする。
ヘリポートより勢いよく飛び立った『真紅の瘴気』の存在を。


64 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:21:18 FtWM4tAs0

空中で魔力の足場を生み出し体勢を立て直そうとしていたウルキオラ。
そんな彼の身に『真紅の瘴気』が容赦無く襲い掛かる。
目を見開き咄嗟に防御しようとした彼の身体を、瘴気が擦れ違う様に突撃し傷付けた。
ウルキオラの身体に焔の刃で焼き切ったかの様な異様な傷が生まれ、再び体勢を崩す。

空中を蠢く瘴気は再びウルキオラの方へと転換、そして突撃。
宙でバランスを失ったウルキオラの肉体を、擦れ違い様に傷付ける。
そして再び、方向転換。
ウルキオラに回避の隙も、体勢を立て直す隙も与えない。
幾度と無く突撃が繰り返され、その度にウルキオラはダメージを叩き込まれる。


そして―――――何度目の突撃か。
ウルキオラの眼前に再び迫った真紅の瘴気に、質量が生まれる。
直後に瘴気は『デェムシュ』の姿を形作った。
ウルキオラを激しく襲った真紅の瘴気は、デェムシュが自らの肉体を変化させた姿だったのだ。



「オオオオオオオオォォォォォ――――――――ッ!!!!!」



咆哮と共に放たれる―――――縦の一閃。
振り上げられた斬撃はウルキオラの肉体を無惨に切り裂き、叩き上げる。
白い肉体は真上へと吹き飛ぶ。
壊れた人形の様に宙を舞う。
黒い鮮血の様な液体が、空に飛び散る。



「英霊と言エど、所詮は猿共ノ狗かッ!!!」



空中を緩やかに落下しながら、デェムシュは空を見上げて嘲笑う。
先の腹いせに英霊に手出しをしてみたが、所詮はこの程度か。
下らん。やはり猿共の従者、弱者の僕も弱者に過ぎぬということか。
この程度の塵共ならば、自分一人で全員叩き潰すことさえ訳も無いだろう。
デェムシュはそう高を括っていた。
だが―――――。



上空を舞うウルキオラの瞳が、真下のデェムシュを捉えていた。
その表情から戦意は失われていない。
身体中の傷もゆっくりと塞がっていき、再び臨戦態勢へと戻り。




「鎖せ――――――」




瞬間、周囲の空気が変貌した。
灰色の渦巻く様な虚無の魔力が、ウルキオラの肉体を、斬魄刀を取り巻く。


目を見開くデェムシュ。
冷淡に見下ろすウルキオラ。


英霊の半身―――――奇跡の具現。
それこそが宝具(ノウブル・ファンタズム)。
サーヴァントが備える最強の切り札
ウルキオラは、己の宝具を解き放つ。





「――――――――『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』」





漆黒の濁流が、空に散った。



◆◆◆◆


65 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:22:12 FtWM4tAs0


姿無き英霊が街を飛ぶ。
ビルの屋上から屋上へと、跳躍を繰り返す。
霊体化したサーヴァントは決して存在を視認されることは無い。
それは霊の如く、『見えない』にも関わらず。
その場所に確かに存在しているのだ。


(二つの気配は…くっついてるみたいに一緒に存在してる。
 動きも激しいし、魔力の波紋も顕著だね。うん、戦闘中って感じかな〜)


魔力の痕跡を追いながら、少女は心中で呟く。
あどけない顔の裏側で冷静に魔力の状況を分析していた。

普段は能天気でおっとりとしている。
しかしその実、優れた判断力と洞察力を持つ。
それ故に彼女は三人の『勇者』のリーダーに任命されたこともあった。

二つの魔力の気配はこちらに接近してくる様子は無い。
少女はサーヴァントの平均的な魔力探知距離ギリギリの位置から様子を探っている。
余り近付きすぎると、逆にこちらの存在を気付かれてしまうかもしれないのだ。

彼女自身、実力には自信がある。
とはいえサーヴァントとの戦闘に関しては未知数な部分が多い。
下手に戦場に突っ込んで、混戦に持ち込まれるのは出来れば避けたい。
故に今はこうして『観察』を行っていた。


(―――さて、ひとまず様子見かな)


遠く離れたビルの屋上から、少女は街を見据える。
ランサーのサーヴァント、乃木園子は街を吹き荒ぶ二つの風を一瞬だけ捉えた。


◆◆◆◆


66 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:22:41 FtWM4tAs0



目も眩む程の摩天楼が立ち並ぶ大都市。
コンクリートの建造物群に囲まれた空中に、魔力の波紋が広がる。
凄まじい衝撃によって、周囲の建造物の窓硝子が次々と砕け散る。

地上から空を見上げた人間は。
高層ビルの窓から外を覗いた人間は。
それを直に目にしただろう。
『真紅の風』と『灰色の風』が、空中を吹き抜ける様を。
灰色の風は、空中を疾走する様に駆け抜けていた。
真紅の風は、幾度と無く高層ビルの壁を蹴りながら滑空していた。

ただの人間にはそれが何なのか、解りさえしない。
異常な現象が発生しているとしか思えない。
風と風が幾度と無く衝突し、凄まじい疾さで空を駆け巡っている様にしか見えない。
スーパーナチュラルか、未確認彦物体か――――はたまた、アメリカン・コミックの世界からスーパーヒーローが飛び出してきたか。
人々はその正体を何と認識するのか。

理解の範疇を越えた事象に呆然としているか。
何らかの奇怪な幻覚であると必死に思い込むか。
あるいは、ただただ驚愕しているかもしれない。

それを捉えることは叶わぬだろう。
それを理解することは出来ぬだろう。




――――――彼らが目にしているのは、まさに異能の戦いなのだから。



.


67 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:23:13 FtWM4tAs0

無数の高層ビルの狭間を、二つの『影』が飛び交う。
漆黒の翼を広げ、光の槍を携える悪魔―――――ウルキオラ・シファー。
真紅の外殻に身を包んだ剣士―――――デェムシュ。

ウルキオラは翼によって飛翔し、『虚弾』や槍によってデェムシュを攻め立てる。
対するデェムシュはビルの壁を蹴り、幾度と無く跳躍しながら滑空を続ける。
時には『真紅の瘴気』と化し、ウルキオラを激しく攻撃してくる。

二人の肉体には少なからず傷が付いている。
抉られ、切り裂かれた痕跡が各々の身体に刻まれていた。

ウルキオラは単独行動スキルの恩恵で、魔力の行使には多少の余裕がある。
それまでの能力の行使も最小限に留めていた。
故にここで宝具を行使しても、マスターへの負担は少なからず抑えられる。
そう判断しての真名解放だった。
出来ることならば温存しておきたかったが、そうも言っていられない。
この場を切り抜ける為にも、マスターの元へ帰還する為にも、彼は勝たねばならないのだから。

『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』。
ウルキオラの破面としての力を解放し、能力を向上させる宝具。

この宝具の解放により、劣勢だったウルキオラはデェムシュに拮抗することが出来ていた。
一方的に押されていた勝負を、互角に近い状況まで持ち込むことが出来たのだ。
それでも――――――戦力で言えば、デェムシュの方がやや上回っているか。


そして、二人は高層ビルの屋上へとほぼ同時に降り立つ。


ウルキオラの肉体に付けられた傷はデェムシュのそれよりも多い。
再生能力によって幾度と無く傷を塞いできたものの、ダメージは確実に蓄積している。
果たしていつまで保つのか。
長期戦になれば成る程、マスターに負荷を掛けることになるのだ。
故に、狙うべきは短期決戦。


68 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:23:42 FtWM4tAs0


――――『響転』。



屋上に着地した、その刹那。
圧倒的な機動力の走法で、ウルキオラはデェムシュの眼前へと接近。
間髪入れず光の槍(フルゴール)による一撃を放つ。
デェムシュは咄嗟に剣を構え、凄まじい反射速度でこれを防御。
火花が散る。金属音が響く。

デェムシュは刃を防いだ剣を振るって槍を弾き、その隙を狙った二撃目の斬撃を放つ。
瞬時に跳躍して回避したウルキオラは、空中で己の指先に魔力を収束させる。
無数の魔力弾――――『虚弾』が、デェムシュ目掛けて放たれる。



「こザかしい――――ッ!!!」



凄まじいスピードで迫る無数の弾丸を、デェムシュは剣一本で凌ぐ。
弾く。逸らす。弾く。掻き消す。逸らす。掻き消す。弾く。弾く。
超人的な反射神経を駆使して、デェムシュは虚弾による攻撃を凌いでいく。
圧倒的な弾速で迫り来る虚弾に、卓越した身体能力と反射速度で対処しているのだ。
故に、虚弾は一発たりともデェムシュに命中していない。
次々と放たれる弾丸は、激しい剣撃によって次々と防がれる。



直後、デェムシュが突如バランスを崩した。
瞬間―――――足下の床が崩れ落ち、デェムシュは真下の階へと転落する。



ウルキオラは『虚弾』を放ち、デェムシュを攻撃しつつ彼の足下の床を破壊したのだ。
威力を抑えている為、ビルそのものを破壊してしまう程の破壊力は無い。
それでもコンクリートの床を貫く程度なら十分すぎる威力だ。

足下の床が倒壊したことでバランスを崩し、下層へと転落したデェムシュ。
そんな彼を追撃せんと、ウルキオラが空中より瞬時に接近。
翼を広げ、隼の如き速度で降下する―――――!



「散れ」



瞬間、黒い鮮血が散る。
絶叫の様な咆哮が轟く。
ウルキオラが突き出した光の槍がデェムシュの右胸を穿ったのだ。


69 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:24:14 FtWM4tAs0

鮮血が溢れ出し、もがくデェムシュ。
ウルキオラの腕の力は強まり、その度に刃が胸に食らい付く。
このまま――――命もろとも抉り取る。



「グ―――――――オオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!!!!!!」



しかし、仕留めることは出来なかった。
轟く咆哮と共に、デェムシュは己の左手から太陽の如し『火球』を放ったのだ。
至近距離からの高火力攻撃に驚愕し、ウルキオラは咄嗟に槍を引いて空中へと飛び上がる。
一瞬の反応もまた、彼の凄まじい敏捷性が為せる技だ。

そして、空中で迫り来る火球を身体を反らして回避。
この程度の直線的な攻撃を躱すのは、ウルキオラにとって訳も無い。
再びデェムシュに攻撃せんと槍を構えた直後。
明後日の方角へと飛んでいった火球の軌道が、変化した。


(追尾弾か)


回避した筈の火球が方向を変え、再びウルキオラに迫ったのだ。
即座に火球の方へと意識を向けたウルキオラは、再び指先に魔力を収束させる。
そのまま虚弾を複数発放つも、それらは全て火球の熱によって掻き消される。

舌打ちと同時に、再び寸前の所で火球を回避。
そして、当然の如く火球は方向転換。
標的に命中するまで、決して止まることは無い。

それを理解したウルキオラは――――自らの指先に魔力を集わせる。
しかし、先程の虚弾とは違う。
それよりも強大で禍々しい魔力が収束していく。
迫る火球を見据え、ウルキオラはゆっくりと腕を構える。



「―――――舐めるな」



閃光が、一直線に飛んだ。
破壊の力が火球目掛けて解き放たれる。

『虚閃』。破面が備える能力の一つ。
指先に収束させた魔力を光線として放つ技。
火球と衝突した虚閃は激しい魔力の波紋を周囲に発生させ。
―――――そして、相殺した。



火球を打ち消したウルキオラは、ゆっくりとビルの屋上へと降り立つ。
先程デェムシュが落下した床の穴へと視線を向ける。


『真紅の瘴気』が、飛び出した。


ウルキオラがそれに対応するよりも先に、瘴気と化したデェムシュは明後日の方向へと飛んでいく。
そのまま摩天楼の影に消える様に、その場から忽然と姿を消した。


70 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:24:52 FtWM4tAs0

(…去ったか)


ウルキオラは、去っていくデェムシュを見て心中で呟く。
胸に刺傷を受けて自らの身に危険を感じたのか。
あるいは、消耗を避ける為に撤退を選んだのか。
理由は解らない。今解ることは、勝負は「お預け」になったということだ。

ウルキオラはその場で『黒翼大魔』を解除し、元の姿に戻る。
解除と同時に―――――――――片足が、崩れ落ちる。
その場で膝を突いたのだ。

戦闘による魔力消費は決して少なくない。
消耗に関しても、身体中に負傷による傷痕が生まれていた。
再生能力によって塞ぐことは出来るが、急速な再生の行使は魔力の浪費に繋がる。
故に全身の傷は少しずつ、ゆっくりと塞いでいる。

傷を治癒することは出来てもダメージは着実に蓄積するものだ。
デェムシュの攻撃によるダメージは確実にウルキオラに消耗を与えていた。
ウルキオラは可能な限り短期の決戦を狙うつもりだったが、予想以上の強敵だったが故に消耗を強いられてしまった。


(あの怪物…)


相手は奇怪な存在だったと、ウルキオラは回想する。
サーヴァントに近しい雰囲気でありながらも、あの植物の怪物を思わせる魔力を漂わせていた。
少なくとも、通常のサーヴァントとは異なる存在であることは明白だ。
何らかの特殊な部類のサーヴァントなのか。
使い魔の類いか、それとも―――――もっと異質な何かなのか。
敵の正体は判然としないが、好戦的な存在である確かだ。
警戒を怠るべきではないだろう。

聖杯戦争はまだ序盤もいい所だ。
しかし第一段階とはいえ、宝具を解放してしまった。
使い魔等の類いで他のサーヴァントに目撃された可能性は否定出来ない。

そして、彼が思い浮かべたのは――――シェリル・ノーム。
彼女の魔力に関しても不安がある。
単独行動スキルによって可能な限りの節約は行ったが、彼女は先の戦闘による魔力消費に耐えられたのか。
幸い魔力パスは繋がったままだ。まだ枯渇はしていない。
だが、彼女への負担を掛けた可能性は否定できない――――――


71 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:25:15 FtWM4tAs0


(…また、か)


そんな中で、ウルキオラは再び己がマスターの身を案じていることに気付く。
やはり己は――――彼女に興味を抱いているのか。
孤独で戦い続ける彼女に。
一人で歌い続ける彼女に。

もう一度『心』に触れる為に、サーヴァントとしてウルキオラは召還された。
そんな彼は己のマスター、シェリル・ノームに興味を抱いた。
彼女は歌によって己の感情を表現していた。
病にその身を蝕まれ、余命幾許も無い中であっても、彼女は気丈であり続けた。
命尽き果てる時まで歌うことを選んでいたのだ。

そんな彼女の行く末を見届けることを。
孤独な歌姫が歌に命を燃やし、その過程で何を得るのか知ることを。
そして、彼女の本当の『答え』を問うことを、ウルキオラは望んでいた。
それで己が欲するものを得ることが出来るのならば――――尚更だ。

思考の後、ウルキオラ『探査回路』を発動する。
先の戦闘で、他のサーヴァント等に存在を気付かれたかもしれない。
故に彼は周囲に意識を張り巡らせる。


―――――その時、彼は魔力の気配を感じた。


それは明らかな『サーヴァント』の気配。
姿は見えない。だが、気配は微かに感じ取れる。
恐らくは霊体化した状態か。

追撃も考えたが、これ以上の戦闘はマスターへの多大な負担になりかねない。
消耗したまま敵を攻撃し、返り討ち――――そんなことになればお笑い種だ。
今は監視の目から逃れつつ、身を休めるべきだろう。

その場から跳躍し、ウルキオラは霊体化する。
熾烈な死闘を乗り越えた破面は戦場を後にした。


◆◆◆◆


72 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:25:50 FtWM4tAs0



気配が一つ、消えた。


魔力の軌跡は残っていた為、消滅した訳ではない。
恐らくは負傷し、『戦場』から逃れたのだろう。
片方が勝利し、撤退まで追い込んだのか。
園子は思考を続ける。

少なくとも、戦闘は一先ず終結を迎えたらしい。
傍から感じ取った限りでも――――熾烈な魔力のぶつかり合いだということは解った。
強大な魔力と魔力が衝突し、都市を駆け抜けていたのだから。
恐らくはどちらも上級のサーヴァント。
直接の交戦だったことを考えると、三騎士同士の衝突か。


(残ってる片方は、どうなってるのかな)


園子は戦場に残ったもう一つの魔力の気配を感じ取りつつ、思考する。
戦闘を終えた後であれば、恐らく残っている片方も何かしら消耗しているだろう。


つまるところ、襲撃の機会。
消耗したサーヴァント一騎を攻撃する、絶好の機会である。


園子の目的は、ヤモトをこの聖杯戦争から生かして返すこと。
そして彼女が友人と平穏に過ごせる日常を勝ち取ることだ。
聖杯の力さえあれば、それを手にすることも可能だろう。

ヤモトの手は極力汚させたくない。
既に英霊となった自分とは違い、あの娘にはまだ未来がある。
後腐れ無く日常へと戻ってほしいのだ。
その為には自分が戦う必要がある。
彼女の代わりに、敵と戦う責務がある。

人ですら無くなり、友達とも会えなくなる。
そんな悲しい想いをヤモトに背負わせたくない。
その為にも、勝たなければならない。
園子は心中で再び決意を固め、意識を魔力の気配の方へと戻す。

やがてもう一つの魔力の気配もまた、戦場から離れていく。
こちらの方角を避け、急いで逃げかの様な動きだ。
もしかすれば、園子の存在を察知して撒こうとしているのかもしれない。
可能性はあるだろう。隠密行動の真似事をしているとはいえ、所詮は霊体化しただけのサーヴァント。
同じサーヴァントであれば、その存在に気付く可能性も大いに有り得る。

恐らく、相手は消耗している――――だが、確実とは言えない。
自身の探知能力は卓越しているとは言えない。
それ故に相手の魔力から消耗の具合を察知することは出来ない。
そして、探知能力ギリギリの地点から園子は魔力を探っている。
その為視認で詳しく状況を探ることも今は出来ない。
つまるところ、相手の状態を推測することは出来ても確信することは出来ないのだ。


(さて、どうしようかな〜?)


思考の最中も、相手は着々と離れていく。
このまま相手を追跡するか、あるいは―――――。


◆◆◆◆


73 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:26:19 FtWM4tAs0


「オノれ……猿ノ僕如きが、よくモ……ッ!」


薄暗い地下水道に、真紅の影が浮かび上がる。
先程まで都市部でウルキオラと交戦していたデェムシュだ。

手傷を負ったデェムシュは火球でウルキオラの足を止めた後、瘴気へと変貌してその場から逃走したのだ。
その後は『霊体化』を行い、人目の付かぬ地下水道へと逃げ込んだ。
ウォッチャーによって召還されたフェムシンム達はサーヴァントと同様の肉体構造を持つ。
魔力で構成された肉体。それらの中心となる霊核。
異なる点を述べるならば、ウォッチャーからのバックアップによって無限に等しい魔力が供給されているということ。
仮初めの肉体によって再現された使い魔――――という点では、極めてサーヴァントに近しい。
故に彼らは霊体化を行うことも出来る。使い魔でありながら、一種の霊的存在であるのだ。

忌々しげに左胸の刺傷に触れ、デェムシュは苛立つ様に呻き声を漏らす。
左胸を貫かれた際、僅かとはいえ霊核が損傷したのだ。
少しでも反応が遅れていれば、幾らフェムシンムと言えど消滅の危機に瀕していたかもしれない。
そのことが、どうしようもなく苛立たしい。

今は傷を癒す必要がある。
だが、いつか必ず、あの白いサーヴァントはこの手で殺す。
そう心に誓い、デェムシュは再び霊体化を行って姿を消した。


74 : Raging Spirit ◆1k3rE2vUCM :2015/11/17(火) 22:27:49 FtWM4tAs0

【UPTOWN BAY SIDE/一日目 午後】

【ヤモト・コキ@ニンジャスレイヤー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]ウバステ、着替えの衣服
[道具]
[所持金]極貧
[思考・状況]
基本:生き延びる。
 1.BAY SIDEから離れて南下する。
 2.可能な限り戦いを避ける。
 3.ランサーを闘わせたくないが……。
[備考]
※<令嬢>の社長の息子を殺した罪で追われています。が、本人に殺害した覚えはありません。
※ニンジャソウルを宿している為、攻撃に神秘が付加されています。
 ただし、ニンジャの力を行使すると他のサーヴァントに補足される危険性があります。

【ランサー(乃木園子)@鷲尾須美は勇者である】
[状態]健康、霊体化
[装備]無銘・槍
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:ヤモヤモ(ヤモト)を元の世界に帰す。
 1.魔力の気配(ウルキオラ)を追う?
 2.ヤモヤモに従う。出来る限り早めに彼女と合流したい。
 3.できればヤモヤモを戦わせたくない。
[備考]
※ランサー(ウルキオラ・シファー)、デェムシュの戦闘を感知しました。
どこまで視認できたかは不明です。

【ランサー(ウルキオラ・シファー)@BLEACH】
[状態]霊体化、単独行動、魔力消費(大)、疲労(中)、全身にダメージ(大)、再生中
[装備]斬魄刀
[道具]なし
[思考・状況]
基本:「心」をもう一度知る。
 1.この場から離れ、体力を回復する。魔力の持ち主(園子)を撒く。
 2.監視の不在を確認した後、シェリルの下へと帰還する。
 3.真紅の怪物(デェムシュ)に多大な警戒。
 4.白い怪物(インベス)と極彩色の果実(ヘルヘイムの果実)、キャスター(メディア)の使い魔を警戒。
[備考]
※インベスとヘルヘイムの果実、メディアの使い魔を視認しました。

【デェムシュ@仮面ライダー鎧武】
[状態]霊体化、疲労(小)、左胸に刺傷(大)、霊核損傷(微)、全身にダメージ(小)
[装備]両手剣(シュイム)
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:破壊と殺戮。
 1.今は傷を癒す。苛立ちを晴らしたい。
 2.ランサー(ウルキオラ)はいずれ殺す。
 3.蛇(サガラ)に嫌悪感。
[備考]
※サーヴァント同様に霊核と魔力の肉体を持つ存在であり、霊体化が可能です。
※ウォッチャーからのバックアップによって魔力切れの概念は存在しませんが、
魔力による負傷の治癒は他のサーヴァントと同様時間を掛ける必要があります。


75 : 名無しさん :2015/11/17(火) 22:28:02 FtWM4tAs0
投下終了です


76 : 名無しさん :2015/11/18(水) 21:54:20 v9YsPaB60
投下乙です。

もう本当に、ウルキオラとデェムシュがとにかく強いんだと分かる圧巻のバトル。
単純なパワーだけで十刃に本気の苦戦を強いるデェムシュの恐ろしさ、
追い詰められたウルキオラの反撃の狼煙となる宝具解放の静から動への描き方、
互いに一戦目だというのに高揚させられるシーンばかりで凄い。

そしてサーヴァントに守られる側の女子達も、ただか弱いだけじゃないから
ヒロインだけでなく主役の一人としても美味しいのなあって思う。
本当なら手を組むのだって別に難しくないはずなのに実際は難しいというのが哀しい。


77 : ◆JOKERxX7Qc :2015/12/04(金) 04:01:03 xeLJB7D60
投下乙でございます。

>ローリン・ロール
余命幾許もない中、それでも独り歌い続けるシェリル。
そして、そんな彼女の心に興味と疑問を抱くウルキオラ。
聖杯ではなく歌と心を求めた二人の関係には、儚くも美しさを感じます。
「絶対に帰ってきなさい」と命じられたウルキオラは、果たしてその使命を遂げられるのか。

>Raging Spirit
帰刃状態のウルキオラとも渡り合うデェムシュの強さに驚愕。
本人の気性の荒さも相まって、主催側にも関わらず参加者の脅威になりそう。
一方、闘わせたくないと願うヤモトの意と反して、ヤモトの為に聖杯を狙う園子様。
お互いを思っているのにすれ違う二人の関係には、哀しみを覚えずにはいられない。

ジョーカー
バーサーカー(ン・ダグバ・ゼバ)
ハナ・N・フォンテーンスタンド
サガラ

予約します。


78 : ◆JOKERxX7Qc :2015/12/06(日) 16:41:54 dFTAWCJE0
パロロワ毒吐き別館にて、年末恒例のパロロワ語りが開かれています。
ゴッサム聖杯語りは12/7、つまり明日となっていますので、どうぞよろしくお願いします。
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1403710206/l50


79 : <削除> :<削除>
<削除>


80 : ◆JOKERxX7Qc :2015/12/11(金) 23:49:42 Adb7D1mA0
投下します。


81 : ◆JOKERxX7Qc :2015/12/11(金) 23:50:51 Adb7D1mA0
【1】


 ハナ・N・フォンテーンスタンドは、ただの女子中学生だ。
 弾丸を避けたり、鎧武者に変身したり、歌と踊りで客を魅了したりだとか。
 そういった特異な能力や才覚もない、平凡な少女である。
 一人でよさこいを始める位の行動力はあるが、それも常人の域でしかない。

 だから当然、怪異に対する対応も、それ相応になってしまう。
 端的に言ってしまえば、ハナには何もする事が出来なかった。
 今もベッドの上に横たわり、貴重な時間を貪り続けている。

 正午になった途端、サガラと名乗る男からの通告が始まった。
 教えられたのは三つ、聖杯戦争が本格的に幕を開けた事、生き残りが23組である事。
 そして最後は、"無差別殺人を働くサーヴァントがいる"という警告。

 深く考えるまでもない。自身のサーヴァント――漆黒のキャスターの仕業だ。
 彼は主の身など案じることなく、現在進行形で殺戮を繰り返している。
 今回は警告だけで済んだが、このままでは罰則も免れないだろう。

 今日は学校が休みで良かったと、休日という概念に深く感謝する。
 通達を聴いた直後の自分は、この世の終わりの様な表情を浮かべていたに違いない。
 鏡で見たら直視できなくなるくらい、それはもう酷い表情をしていただろう。

 キャスターと会話を交わして数時間、ハナはまだ迷い続けている。
 このまま彼を放置しておけば、死体は次々に増えていくのは明白だ。
 無辜の民の虐殺を黙って見届けれる程、ハナは薄情な人間ではない。
 事実、彼女は今すぐにでも殺戮を止めてほしいと祈っている。

 無理にでもキャスターを止める手段が、無いと言う訳では無い。
 ハナが持つ絶対命令権――令呪を使えば、キャスターの身動きを封じる事が可能だろう。
 あくまで彼はサーヴァントであり、ハナの僕という範疇を抜け出せないのだから。

 しかし、ハナの脳裏に浮かぶ二つの疑念が、令呪の使用を躊躇わせていた。
 まず第一に、彼女は自分のサーヴァントが恐ろしくて仕方がない。
 意気揚々と殺戮を行う狂人など、ただの少女からすれば恐怖の対象にしか映らないだろう。
 そんな男を令呪で拘束すればどうなるか――想像するだけで怖気が走る。

 そして、もう一つの理由。それはキャスターの宝具の事だ。
 彼の宝具「死の濁流(アンコクトン)」は、他者の生命を媒介に増殖する代物である。
 人を殺せば殺す程にその総量は増加し、宝具は強力かつ凶悪になっていくのだ。
 だが逆に言えば、生命を奪わねば「死の濁流」の量は増えないという事でもある。
 宝具頼りの戦法をとるキャスターが、肝心の宝具の強化手段を失ったとしたら。
 聖杯戦争の勝利が夢物語に終わるのは、火を見るより明らかであった。

 他の参加者がそうであったように、ハナにも願いがある。
 親友と一緒に、また"よさこい"を踊りたい、という願いが。
 その願望を成就させるには、聖杯の力がどうしても必要なのだ。
 キャスターを令呪で縛るという事は、つまり聖杯の獲得権を放棄するのと同義。
 それ故に、少女は令呪の使用を渋ったままでいる。

 今この家にいるのは、ハナ独りだけだ。
 休日だというのに両親がいないのは、彼等が共に働きに出ているからである。
 所謂"休日出勤"というやつで、今頃あくせくと仕事をしているのだろう。

 聖杯戦争の話を、両親に打ち明ける気にはなれなかった。
 共に暮らしている彼等に迷惑をかけたくないし、何より彼等はNPCである。
 姿形は同じでも、そこにいるのは元の世界にいる両親とは別人でしかない。
 どんなに似通った性格と声だろうが、それは舞台を彩る操り人形に過ぎないのだ。

 もしかしたら、聖杯戦争なんてものは質の悪い夢でしかなくて。
 また眠りに就けば、元いた場所に帰りついているかもしれない。
 なんて、それこそ夢物語でしかない事は、ハナ自身が重々承知している。
 この衆愚の街は偽物だが、今此処で起こる怪異は、紛れもない本物なのだ。

「…………なる」

 無意識に、日本で最初に出来た親友の名を呼んだ。
 煌めく思い出を共に作った、掛け替えのない仲間の姿を思い浮かべながら。
 そんな事をしたところで、返事が返ってくる筈もないというのに。


82 : ◆JOKERxX7Qc :2015/12/11(金) 23:52:03 Adb7D1mA0

【2】


 ジョーカーは現在、ミッドタウンを車に乗って移動している。
 予め少佐が彼に貸し与えた、何処にでもあるような中古車である。
 これに乗っているのは、運転席に座るジョーカーと、少佐のサーヴァント一騎。
 後部座席に座る彼は、何気なしに窓の外を見つめていた。

 車の速度に合わせ、バーサーカーの視線の先の景色は、目まぐるしく変わっていく。
 民家が立っているかと思えば、すぐにビルの入り口が映し出され、
 スーツの男性が歩いていると認識した直後に、その姿は消えている。

 かつて"ザギバスゲゲル"を行った地より、遥かに騒々しい街だ。
 もしこの場で自身の力を行使すれば、あの時以上の惨事になるのは間違いない。
 耳に流れ込む轟音と悲鳴は、きっと桁違いのものとなるだろう。

「なあボーイ、俺みたく笑った事はあるか?」

 ハンドルを操作するジョーカーが、不意にそんな事を聞いてきた。
 問われたバーサーカーは、ふと自分の半生を振り返ってみる。
 言われてみれば、自分はジョーカーの様に笑った経験がない。
 身を捩らせながら破顔する――そんな笑い方とは無縁の生涯だった。

「ないよ」
「HA HA HA HA !! だよなぁ、そうじゃなきゃしかめ面浮かべる訳もねえぜ!」

 ジョーカーはバーサーカーの笑顔を、しかめ面だと酷評する。
 彼が言うには、笑い方が下手糞な自覚がまるで無いのだという。
 バーサーカーからすれば、意味不明な理屈だと言う他ない。
 愉しいから笑顔になる、その笑顔に得手不得手などあるものか。

「ボーイ、お前はママのミルクみてぇに真っ白なのさ。幼稚園でヒーローごっこしてるガキと同じだ。
 お前が人殺して笑ってるのも、ガキが玩具振り回して笑うのも……何て事はねぇ、似た様なもんさ」

 ジョーカー曰く、自分は狂った振りをしたガキなのだという。
 無理くり作った笑顔は滑稽だと、彼は盛大に破顔してみせていた。
 正直に言ってしまえば、バーサーカーはあの時点でジョーカーを殺すつもりでいた。
 バーサーカーは純粋だが、他者からの侮蔑に鈍感な訳でもない。

「だがなぁ、お前はガキじゃねえ、三万人殺しのサーヴァント様じゃないか。
 実を言うと俺は悲しいのさ……お前程の"やり手"が退屈そうな面してやがるのがよ」

 バーサーカーのマスターもまた、同じ様に失望の念を露わにしていた。
 どうしてその莫大な力を、"たかが"虐殺如きしか使わなかったのだと。
 似た様な言葉をぶつけてきたからこそ、バーサーカーはジョーカーに興味を抱いた。

「教養ってのは大事だ……そいつがなきゃ"モンティ・パイソン"も楽しめねぇ。
 だからオレが教えてやるのさ!お前の真っ新なキャンパスに落書きしてやる!
 本物の狂気を、お前がバーベキューにした人間の正体ってもんを教えてやろうじゃないかッ!」

 "本物の狂気を教えてやる"というのも、少佐の発言と合致している。
 口調から絶対的な自信が滲み出ている事さえ、少佐と同様であった。
 化物(グロンギ)の価値観に挑むこの男は、やはりただの人間とは一線を画している。

「僕を笑わせてくれるなら、考えてあげるよ」

 だから、狂人への期待を含めて、そう言い返した。

「そりゃお前、屠殺屋に豚を殺れるかって聞く様なもんだぜ」

 対するジョーカーは、愉快気にそう言ってみせた。
 前を向いてて表情は見えないが、きっと彼も笑っていただろう。

 これから何処に向かうかなど、バーサーカーには知る由も無い。
 だが、次の行先を決めようとするのは、この狂った道化なのだ。
 彼がエスコートするのであれば、きっと退屈とは無縁な筈だろう。

 いや、もしかしたら。もし自分を笑顔にする相手に出会えたのなら。
 それこそジョーカーが言った様に、"腹を抱えて笑う"きっかけが掴めるかもしれない。
 少佐が話す"戦争"も楽しみだが、それは最後のとっておきだ。
 今しばらくは、彼のジョークに期待を寄せておくとしよう。

 自分がリントに関心を抱くなんて、昔なら思いもよらないだろう。
 あのバルバでさえも、「そんな馬鹿な」と動揺するに違いない。
 そんな事を考えて、バーサーカーは少しだけ、口角を釣り上げた。


83 : Grim&Gritty ◆JOKERxX7Qc :2015/12/11(金) 23:53:32 Adb7D1mA0
【3】


 何の前触れもなく、それはハナの部屋に出現した。
 民族衣装で身体を覆ったその男は、気付けば彼女の領域に入り込んでいたのだ。
 玄関でチャイムを鳴らす事もなく、一切の告知も無しに、である。

 見知らぬ男が不法侵入してきたら、普通は怯えを見せるものだ。
 ハナも例外ではなく、彼の存在を視認した瞬間、心臓が大きく跳ね上がった。
 横になっていた身体が弾かれた様に起き上がり、瞬く間にベッドの隅に移動する。
 ほんの僅かでも相手との距離を空けようとする、半ば本能的な動作であった。

「なに、発破をかけに来ただけさ」

 男から発せられた声に、ハナは聞き覚えがあった。
 ほんの十数分前に聞いた、あの定時通達のものと同じ声である。
 キャスターの悪行を知らせた張本人が、今まさにハナの目の前にいるのだ。
 たしか名前は、サガラと名乗っていたか。

「……は、発破ってどういう事、デスか」
「発破は発破だろ。やる気のないお前さんが心配になってな」

 「やる気のない」という一言は、ハナがサガラに悪印象を抱くには十分だった。
 自分の境遇を知りもしない癖に、目の前の男は"怠けている"などと言ってみせたのだ。

「やる気がない、なんて……!私の何が分かるって――」
「分かるさ。俺は"監視者"だからな。この街の全てを知っている」

 「勿論、お前のサーヴァントが今までに誰を何人殺したのかもな」。
 その言葉を皮切りに、サガラは犠牲者の名前を一人ずつ述べ始めた。
 名前だけではない。彼等がどんな職に就き、どんな家庭を築いていたのかさえ。
 無残にもキャスターに奪われた多くの命。その存在意義を、男は淡々と並べていく。

 ある浮浪者は、暗黒物質を飲まされ身体を破裂させられた。
 ある自警団は、出会い頭に四肢を捥がれ、頭部を砕かれた。
 ある中学生は、素手の握力を以って首を捻じ切られていた。
 それら全て、ハナが呼びだした英霊が起こした事件にして"事実"であった。

「酷い死に様といえば……そうだな、ファルとかいう娘が印象的だったな。
 ルナとエアって名前の親友がいる、お前と同世代くらいの女の子さ。
 アンコクトンを身体に埋め込まれたソイツは、最期まで親友の名前を呼びながら――――」
「や――やめてッ!やめて下さいッ!」

 サガラの言葉を拒絶したハナの顔色は、死人の如き蒼白であった。
 ただの中学二年生の少女が、人の凄惨な最期を聞き流すなど土台無理な話だ。
 涙の溜まったハナの瞳を見たサガラは、小さく鼻で笑って、


84 : Grim&Gritty ◆JOKERxX7Qc :2015/12/11(金) 23:54:47 Adb7D1mA0
「自分のサーヴァントのせいで危機に陥りそう。そりゃ気の毒な話さ。
 だけどな、こいつは半ばお前が招いた結果でもあるんだぜ?」
「……私の、私のせいなんかじゃ」

 否定の言葉は、サガラの「違うな」という一声で遮られた。
 彼の声色は、定時放送の時とは打って変わって、厳格なものへと様変わりしていた。

「令呪で止めるなり言い包めるなり、キャスターを止める方法ならいくらでもあった筈だ。
 だがお前はそれをしなかった。選ぶのを恐れて、一人部屋に籠ってるだけだった。違うか?」
「それ、は」
「お前が選ばなかったから今がある。お前にびた一文責任が無いと思ったら大間違いさ」

 激しく動揺した今のハナでは、サガラへの反論が思い浮かばない。
 頭を垂れながら、親に叱られた子供の様に震え上がるばかりであった。

「……まさかと思うが、ここから逃げたいなんて泣き言言うつもりじゃないだろうな?」

 無駄だから止めておきな、と。サガラは真顔でハナに現実を突きつける。
 どう見方を変えようが、所詮ここは聖杯戦争の為に用意された大舞台。
 その舞台に上がったら最後、後は死ぬまで演目を演じなければならない。

「諦めな。シャブティに祈りを込めた時点で――お前はもう、運命を選んじまったんだからな」

 その言葉を最後に、サガラの姿は消失した。
 彼が出現する前までの、ハナと静寂だけが残る空間が形作られる。
 ただ独り残された彼女は、視線を下に向けたきり動こうとしない。

「そんな事、言われたって……!」

 こんな戦い、望んでなんかいなかった。
 みんなの元に帰りたい、そう願っただけだというのに。

 いつしか、ハナの瞳から大粒の涙が零れだしていた。
 一度それに気付いてしまったら、後はもう止めようがない。
 少女は部屋の中、掠れた声を上げたながら泣き始めた。

 これがハナの、ゴッサムで二度目に流した涙であった。
 これから先、あと何回こうして泣く事態に陥るのだろうか。
 独り落涙する中、彼女はふとそんな事を考えてしまい。
 その想像が、余計に自分を涙ぐませる羽目となってしまった。


85 : Grim&Gritty ◆JOKERxX7Qc :2015/12/11(金) 23:56:40 Adb7D1mA0
【4】


 王と道化師を乗せた車は、今もなお走り続ける。
 車に揺られながら、ふと王は道化師に問いかけた。

「これからどうするの?」
「まずは自己紹介だな。この街の奴等、オレはおろかバッツさえ知らねえときたもんだ。
 いけねえなァ……あのコウモリ男を忘れちまうなんざ、ゴッサム市民の名が泣いちまうぜ」

 だから一発、お目覚めのジョークが必要なのさ。
 そう言ってみせたジョーカーは、アクセルを強く踏み込んだ。
 タイヤに悲鳴を上げさせながら、車体は道路を走り抜ける。
 今しがた行先を決めた、そう言わんばかりの動かし方だった。

「バッツって誰?」
「オレのサイドキックでね、そうさな……お前と同じ、このゴッサムの王様みたいなもんさ」

 そう言って、ジョーカーは右手を後部座席に見せつけた。
 手袋が隠しているものの、彼の手の甲には確かに令呪が刻まれている。

「令呪で呼び戻さないの?」
「馬鹿言っちゃ困る。"宮廷道化師"如きが王様に命令できるかよ」
「……"宮廷道化師"?」
「道化師は王様に知らせを教えてやるだけさ。
 "王様、祝賀会で大事故が!""廃液を啜った兵がイカれてしまった!"
 "聖歌隊の喉が爛れて、イエス様に歌を捧げれません!"……ってな!」

 言うなれば、ジョーカーの令呪は知らせ――つまりは招待券だ。
 自身が手掛けたコメディに、バットマンを招待する為の特別チケット。
 念じながら命令さえすれば、あの闇の騎士をショウの特等席にご案内だ。

 だから、まだこれは使わない。使うべきではない。
 そもそも、まだショウの準備すら碌に出来ていないのだ。
 飛び切りのジョークを披露するなら、御誂え向きの舞台が必要になる。
 一目見ただけで噴き出しそうな、冗談みたいに滑稽なステージが。

 そうこう言っている内に、車が道の脇に停車した。
 ジョーカーが真横を向けば、そこには古ぼけた喫茶店が立っているのが見えた。

「着いたぜバーサーカー、さァて初公演といこうじゃないか」
「僕はどうすればいいかな?」
「何もしなくていい、お前のご主人様から"下手に暴れさせるな"って言われたからな
 おっと、ご主人様に迷惑はかけられねえな。お前は霊体化してな」

 車のボンネットを開き、内部を物色するジョーカー。
 少し物を漁った後、彼が取り出したのはガスボンベであった。
 ホースで噴射機と繋がっているそれは、彼の所有品の一つである。

「それよかな、お前はまず学ばなきゃ駄目だ。
 質の良いジョークを飛ばすには、まず笑い方を知らなきゃな」
「君の笑い方を?」
「いいや違うな。お客様の笑い方さ」

 そう、これはジョーカーの自己紹介であり、同時にバーサーカーの教育でもある。
 笑顔の何たるかを知らないでいる赤子に、人間の最大級の笑みを教えてやらねばならない。
 となると、最初のジョークに使うのはこのガスボンベ、正確にはボンベに入ったガスを使うべきだろう。
 この魔法のガスをひとたび浴びれば、どんな仏頂面も笑顔に早変わりだ。

「……おっと、ついでにコイツも忘れちゃならねえ」

 ふと思い出したジョーカーは、懐から一枚のカードを取り出した。
 ジョークが自己紹介なら、これは名刺と言うべきものだ。
 これがあれば、誰だって事件の犯人を"ジョーカー"と呼ばざるを得なくなる。

 もしかしたら、この場にはロビンの様なバットマンの取り巻きがいるかもしれない。
 仮にそうだとしたのなら、これから相棒にぶつけるジョークに幅が出るというものだ。
 彼等が愛しのバットマンに出会い、彼の境遇を知ったのだとしたら。
 それを考えただけで、ジョークのネタが止め処なく生まれてきてしまいそうだ。

「楽しいか、バッツ?俺は……もう一度イカれちまいそうさァ」

 顔には狂笑を張り付けたまま、天にも昇る心地を保って。
 ジョーカーは、此度の舞台――喫茶店に足を踏み入れた。


86 : Grim&Gritty ◆JOKERxX7Qc :2015/12/11(金) 23:57:14 Adb7D1mA0
【5】


 ミッドタウンのフォートクリントン地区に建つ、小さな喫茶店。
 そこで昼食をとっていたある女は、憂鬱そうな表情で物思いに耽っていた。
 彼女を悩ませるのは、最近一緒に暮らすようになった娘の事である。

 このゴッサムに来てからというもの、娘の満面の笑みを見た事が無い。
 引っ越す前までの彼女は、過剰なくらいに明るく、感情豊かな娘だったというのに。
 ゴッサムで暮らし始めた日から、その笑顔に常に影がかかっているように見えるのだ。

(……そうよね、やっぱり辛いに決まってるわよね)

 親の前ではいつもと変わらぬ姿を見せているが、母である彼女には丸わかりだ。
 その笑顔は所詮、両親に心配を掛けさせまいと無理くり作ったものに過ぎない事くらい。
 笑顔の仮面の裏側では、今も表情を曇らせたままでいるのだろう。

 恐らくその原因は、離れ離れになった親友達に端を発しているのだろう。
 せっかく出来た仲間達と別れる悲しみは、女とて理解できる。
 それが掛け替えのない存在であれば、心の叫びも段違いだ。

(そんなの、分かってた筈なんだけどね)

 自分が夫と寄りを戻し、三人とも同じ屋根の下で暮らす。
 女には当初、それが子供の幸福に繋がるものだと思い込んでいた。
 だがどうやら、そんな考えは独りよがりなものに過ぎなかったらしい。

 娘が大切にしているものを、母親が否定するものか。
 例えそれが子供の我が儘でも、聞いてやるのが親というものだ。
 子の幸福を願うのは、親として当然の事なのだから。

 仕事が終わったら、娘と一度話をしよう。
 そしてその上で、彼女自身にこれからの選択をさせてあげよう。
 娘の悩みがどれだけ突拍子のない事でも、受け入れる覚悟だって出来ている。
 実の子を親が信じずして、誰が彼女を信じてやれるというのだ。

 そうと決まれば、まずは目の前の仕事を片づけるとしよう。
 昼食も食べ終えているし、もうこの喫茶店に用は無い。
 とっとと代金を支払って、仕事場に赴くとしよう。

 そう考えて、女は席を立とうとして。
 あまりにも異様なそれを、初めて視認した。

 彼女の視線の先、入口のドアの付近に、白塗りの道化師がいた。
 紫のスーツに緑色の髪も携えた、如何にも怪しげな男。
 店内にいる誰もが、狂人か何かだと眼を顰めそうな外見である。

 何が目的なのか、道化師は胸部にガスボンベを二つ装備していた。
 そしてそのボンベには、彼が手に持った噴射機を繋ぐ為のチューブが取り付けられている。
 塗装業者なのだろうか、それにしては格好があまりに奇抜すぎる。
 それに、どうして道具を取り付けたまま店に訪れようとするのか。

「あの、御一人様……でしょうか」
「オレの隣に守護霊でも見えるのかい、アンタ?」

 対応に来た店員が、困惑した様子で道化師に話しかける。
 無理も無い、こうも狂人めいた格好の相手など、本来ならばしたくもない筈だ。
 そもそもあの外見だ。コーヒーを飲みにきたのかさえ怪しい。


87 : Grim&Gritty ◆JOKERxX7Qc :2015/12/12(土) 00:00:46 ItJU.E460

「しかし酷い店だな、対応の悪い店員に雑な配置、壁は染みだらけときた」
「何ですかその言い方、何か不満でも……」
「不満だって!?まさか!気に入ったぜ……それこそイカれちまいそうなくらいにな!」

 店員は更に困惑した様子で、道化師を見つめている。
 一方、道化師の方はニタニタと笑みを浮かべているではないか。
 娘のそれとは大違いの、人を不気味がらせる笑い方だった。

「俺はいたく感動しちまってな……こんなイカした店に出会ったのはきっと運命ってヤツさ。
 せっかくだから、俺も何か礼をしてやらねェとな……そう思った訳さ」

 店内にいる誰もが、道化師に注目していた。
 あの風貌にこの言い分、人々が彼に気を取られない訳が無い。
 一体全体、この男は何をしにこの喫茶店にやってきたのか。

「だからよ、店員――――」

 ぎらついた両の瞳を、更に大きく見開いて。
 手に持った噴射機の銃口を、店員に向けて。
 元より歪んだ口角を、一段激しく歪ませて。

「オレ特製の"スペシャルデリバリー"はいかがかな?」

 そう言った直後、噴射機からガスが噴き出した。
 ガスはまず店員に直撃し、彼が大きくむせ返る。
 そして間髪入れずに、道化師は噴射機の方向を移動させる。
 ガスが店内いっぱいにまき散らされ、ものの数秒の内に空間を包み込んだ。

 女も含めて、店でくつろぐ全員が咳き込んでいた。
 こんな狭い店内でガスをまき散らすなど、誰に想像できるものか。
 あの道化師は、一体どんな意図の元こんな真似をしたのだ。

 女が道化師を恨めしく見つめ、抗議しよう奮い立った、その時。
 何の前触れもなく、店員が引き攣った笑い声をあげ始めた。
 まるで何かに操作されたかの様に、彼は下手糞に笑い続ける。
 呼吸をする間もなく、聞くに堪えない程掠れた笑い声。

「こいつが中々いい効き目でな!親が死のうが国が滅ぼうが笑顔になれちまう!
 世紀の大発明さ!そうは思わないか――愉しくて言葉も出ねえか、そりゃ嬉しいな!」

 何事かと思った直後、笑い声が二つに増えた。
 見ると、前方の席にいた客まで笑い始めているではないか。
 それだけに留まらない、三つ、四つと笑い声は増えていった。
 何もおかしい事など起こってない筈なのに、人々は次々と破顔していく。

「バーサーカー!こいつらをよォォォく見るんだッ!
 口まで裂けそうなこの笑い方を!こいつが本物の笑顔ってやつさッ!
 見てるこっちまで笑えてくるだろ!?笑え、笑ってやるんだッ! HA HA HA HA HA !!」

 爆笑の渦に包まれながら、道化師が虚空に向けて叫ぶ。
 それと同時に、彼の隣にいた店員が力なく倒れ伏した。
 彼は顔に笑顔を張り付けたまま、ピクリとも動こうとしない。

 その内、女の口角が勝手に吊り上がった。
 何もおかしくない、むしろ恐怖さえ湧き上がってくる状況だというのに。
 何故だか笑いが止まらない。呼吸する事さえ忘れて笑ってしまう。

「HA HA HA HA HA !! 滑り出しは上々、こいつはいいショウになりそうじゃないかッ!」

 こんなに息が苦しいのに。一刻も早く空気を肺に取り入れねばならないのに。
 それでも笑い続けてしまうのは、あのガスの仕業に違いない。
 人々が次々に倒れていく様を視界に入れながら、女はそう分析する。
 あの道化師は、死を届けにこの喫茶店にやって来たのである。

 意識が遠のいていく。人生の記憶が走馬灯の様に流れていく。
 死を確信した女が、絶命の恐怖と共に思い描いたのは。
 せめてもう一度この眼で見たかった、実の娘の心からの笑顔だった。


88 : Grim&Gritty ◆JOKERxX7Qc :2015/12/12(土) 00:01:48 ItJU.E460
【6】


 数回程着信音が鳴った後、留守番電話サービスに繋がった。
 最初から電源を切っているのか、忙殺されて電話に気付けないのか。
 どちらにせよ、母とは連絡がつかない状況にある。

 父親にも電話してみたが、結果は同じだった。
 二人とも、まだハナと関わる時間はないという事である。
 仕事の真っ最中なのだから、当然の話ではあるのだが。

 例え偽りのものであっても、両親の温かみのある声が聞きたかった。
 サガラによって芯まで冷やされた心に、熱を取り入れたくて仕方がない。
 孤独というこの環境は、今の彼女には恐怖でしかなかった。

 スマートフォンの連絡先の欄には、家族以外にも十数人の名が登録されている。
 ゴッサムの住人になる際、いつの間にか出来ていた友人達のものだ。
 その中には、自分とは齢の離れた、中学校を卒業した者達の名さえあった。

 「チーム鎧武」と呼ばれる、ハナが出入りしてるダンスチームのメンバーだ。
 留学生としてゴッサムを訪れた日本人を中心としたこのチームに、自分は所属している。
 リーダーである角井裕也を始めとして、彼等はハナに快く接してくれた。
 自分を妹分の様に可愛がってくれるメンバーに、好意が無いかと言われると嘘になる。

 最近入ったばかりなので、ダンスの舞台にはまだ立たせてもらえていない。
 そもそも、自分がやりたいのはダンスではなく"よさこい"である。
 だが、それを居心地の良い場所である事に変わりはなかった。

 彼等に出会えば、この恐怖も多少は和らぐのだろうか。
 何にせよ今は、共に笑い合ってくれる人が隣にいてくれた方が良い。
 例えそれが、聖杯戦争により作られた関係に過ぎなくても。
 今のハナにとっては、この上ない癒しになり得るものだった。

『諦めな。シャブティに祈りを込めた時点で――お前はもう、運命を選んじまったんだからな』

 サガラが去り際に言った一言が、ハナの脳裏に蘇ってきた。
 自覚くらいしている。こんなの一時凌ぎの逃げにしかならない事くらい。
 そう、自分でさえ分かり切っている事だというのに。
 選択する事を躊躇ったまま、また逃避しようとしている。

「……ダメな子、ですよね。私」 

 ハナ・N・フォンテーンスタンドは、ただの女子中学生だ。
 弾丸を避けたり、鎧武者に変身したり、歌と踊りで客を魅了したりだとか。
 そういった特異な能力や才覚もない、平凡な少女である。
 一人でよさこいを始める位の行動力はあるが、それも常人の域でしかない。

 だから、恐怖を前にしたら、何も出来ずに蹲ってしまう。
 聖杯戦争という未知に対し、少女はあまりにも弱かった。
 当然だ。今の彼女は、ただの子供でしか無かったのだから。


89 : Grim&Gritty ◆JOKERxX7Qc :2015/12/12(土) 00:02:10 ItJU.E460
【7】


 ジョーカーが去った頃には、既に店内から命は消えていた。
 そこにあるのは、血の一滴も流さず息絶えた、人間の遺体だけだ。
 彼等は一様に頬を釣り上げ、まるで無理やり笑わされたかの様。
 そう、店内の者は一人残らず"笑い死に"していたのだ。

 一時間もしない内に、この惨劇は警察の耳に入ってくるだろう。
 そして彼等が駆けつけた頃には、マスコミは事件の報道を始める筈だ。
 不可解な死体の謎に戦慄しながら、犠牲者の名前を読み上げるのだ。

 "ジェニファー・N・フォンテーンスタンド"も、その内の一人だった。
 お昼時の休憩でカフェに立ち寄ったのが、彼女の運の尽きだ。
 尤も、白昼堂々道化師が殺しに来るなど、果たして誰に予測できるものか。

「遂にアイツも動き出したか」

 屍骸に囲まれながらそう呟くのは、サガラであった。
 ヘルヘイムの一部である彼は、ゴッサムの何処にでも出現できる。
 ジョーカーの犯罪も、それによるハナの母の死も、彼は既に把握済みだった。

 ジョーカーはまず間違いなく、今後も凶行を繰り返すだろう。
 彼は聖杯の事などそっちのけで、ひたすらに悲劇を振り撒く気でいる。
 聖杯戦争の管理者であるサガラは、本来ならばそれを咎めなければならない立場だ。

 しかし、サガラはジョーカーの殺人を見て見ぬ振りするつもりでいる。
 この殺人事件は彼単独で行われた行為、つまりはサーヴァントと無縁の犯罪だ。
 神秘の秘匿とは無関係なのだから、目ざとく指摘する必要はない――そう考えたのだ。

 サガラのこの言い分は、客観的に見れば詭弁と言う他ない。
 だがそんな事くらい、当のサガラ自身が一番よく分かっている。
 彼の真意は別にあり、これはその本音を隠す為の建前に過ぎないのだから。

 サガラの思惑は至って単純だ。
 "見過ごしていた方が面白くなりそうだから"――それだけである。
 たったそれだけ、下らない理由で、見張りは己の眼を偽る。

「いよいよ面白くなってきたな。"王の中の王"もご満悦だろうさ」

 笑顔のまま机に突っ伏すジェニファーを見据え、サガラが小さく笑う。
 そうして、彼女の足元に落ちていたカードを手に取った。 
 これこそ犯人の置き土産であり、同時に彼の存在を象徴するものであった。

 53枚のトランプのその中で唯一無二の存在――ジョーカー。
 現場に残されたそれに描かれたのは、全てを嘲笑する道化師の笑み。

「見届けさせてもらうぜ――お前達の運命をな」


90 : Grim&Gritty ◆JOKERxX7Qc :2015/12/12(土) 00:02:59 ItJU.E460
【一日目・午後 /MIDTOWN FORT CLINTON】


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[状態]健康、ちょっと上機嫌
[装備]特筆事項なし
[道具]特筆事項なし
[思考・状況]
基本:もっと、もっと笑顔になりたい。
 1.ジョーカーに期待。
 2.少佐の話す"戦争"への興味。
[備考]
※しばらくジョーカーと行動を共にするつもりです。

【ジョーカー@バットマン】
[状態]健康、愉快
[令呪]残り三画
[装備]拳銃(ジョーカー特製)、造花(硫酸入り)、笑気ガス、等
[道具]携帯電話
[所持金]不明
[思考・状況]
基本:聖杯戦争にとびきり悪趣味なジョークを叩き付ける。
 1.?????
 2.バーサーカー(ダグバ)を"腹の底から"笑わせてやる。
 3.バッツに捧げるジョークの下準備も忘れない。
[備考]
※車の中に色々積んでいます。



【MIDTOWN REDHOOK(ハナの自宅)】

【ハナ・N・フォンテーンスタンド@ハナヤマタ(アニメ版)】
[状態]精神不安定
[令呪]残り3画
[装備]私服
[道具]特筆事項無し
[所持金]三千円程
[思考・状況]
基本:???
 1.どうすればいいのか分からない。
 2.また皆とよさこいがしたい。
 3.キャスター(デスドレイン)を止めたいが……。
[備考]
※キャスター(デスドレイン)の凶行を認知しています。


91 : ◆JOKERxX7Qc :2015/12/12(土) 00:03:13 ItJU.E460
投下終了となります。


92 : 名無しさん :2015/12/12(土) 01:08:50 wYM1R0pM0
投下乙です。
ある意味ゴッサムの象徴とも言えるジョーカー、やっぱりおっかねぇ…
饒舌な台詞回しも相俟って兎に角強烈すぎる
聖杯を狙う訳でも生き残ろうとする訳でもなく、悪趣味なジョークを追求して虐殺を行う様はただただイカレてる
これで更にダグバの教育まで行ってるから最早危険な香りしかしない
対するハナは未だに覚悟も決まらず選択も出来ず、動き出す状況を見送るだけの現状
サガラの発破や母親の死で彼女は動けるのだろうか


93 : 名無しさん :2015/12/12(土) 01:15:33 LmhzqwGE0
投下乙です。この王と道化師、止まらねえ
……あれ、ダグバってジョーカーのサーヴァントだったっけ?


94 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/21(月) 14:34:34 56RUBcSM0
ハナ・N・フォンテーンスタンド
デスドレイン

予約します


95 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:11:56 4/NKZmlY0
投下します


96 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:16:02 4/NKZmlY0

ゴッサムシティ。
そこは様々な犯罪者、悪党が跳梁跋扈する衆愚の街。
そんな悪党達にも、大きな変化が起きている。
街の勢力図が劇的に急速に変化したのである。

グラスホッパー、自警団のようなこの組織は今では警察以上の力を持っており、ヴィラン達の最大の脅威と言える。

裏社会で急速な勢いで規模を拡大する、志々雄真実が率いる組織。この組織に潰され吸収された大規模な組織は少なくない。

ゴッサムで息を顰め不気味な存在感を発する。テロリスト最後の大隊。
そして個人で犯罪組織を潰しまわるレッドフードの存在も無視できない。

昨日は栄華を極めていた悪党が、明日には全てを奪われ、屍になる。
それが今のゴッサムである。

このめまぐるしい変化に対応出来ないものはどうなるだろうか?
淘汰される。
それは動植物でも、善良な一般市民でも、悪党でも変わらない。
それが自然の摂理。


West chelsea hillエリアにある、とあるバー「デンシャミチ」

店の壁面には「法律が通用しない」「スラムダンク」「バカ」など威圧的な文言が、スプレーによって書かれ、荒廃的なアトモスフィアを漂わせている。
階段を下りて店内に入ると、そこは酷い有様だった。
店の中も壁の塗装は剥がれ、辺りには酒瓶や壊れた机の破片が散乱している。
碌に清掃されていないせいか、床は埃まみれだ。

一昔前までデンシャミチはそれなりに繁盛していたバーだった。
だが、突如ヨコハマロープウェイクランが辺りを仕切りはじめ、ミカジメ料を請求してきたのだ。
周辺の他の店舗はその要求を苦渋の決断で飲んだが、デンシャミチのマスターはその要求を拒否する。
それが命取りだった。
それから、ヨコハマロープウェイクランによる執拗な営業妨害行為が始まった。
結果、デンシャミチのマスターは多額の借金を背負わされ、セプクして死んだ。

そんな曰くつきの店にスキンヘッドの個人男性10名が集まっていた。
彼らはヨコハマロープウェイクランのメンバーだ。
残った店は今現在ヨコハマロープウェイクランが隠れ家として使用している。
しかし、メンバーの顔を見てみると、うかない表情をしている。

「これからどうするんっすか?」

メンバーの一人がリーダーらしき男に弱弱しく尋ねると。

「ウッセゾコラー!」
「グワーッ!」

帰って来た答えはリーダーによる鉄拳だった。

ヨコハマロープウェイクランのリーダー。名前はスミスと言う。
スミスは重大な局面に立たされていた。


97 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:19:09 4/NKZmlY0

ヨコハマロープウェイクランの主な収入源は、違法薬物メン・タイによるものだった。
スミスが独自に発掘したルートでメン・タイを仕入れ、売り上げの5割をバックについているマフィアに収めることで、メン・タイを売りさばくことができていた。

実際5割は厳しいが、これ以上下げるとルートを根こそぎ奪われ、クランごと潰されかねない。そういった意味では絶妙なラインだった。
そして上納金を納め、強者の庇護を得ることで、ゴッサムシティでの活動を、ある程度は保障されていた。
スミス達ヨコハマロープウェイクランは、ゴッサムシティに適応していたと言っていいだろう。

だが、環境は激変する。
突如自分のバックについていたマフィアが、志々雄真実が率いる組織に潰された。
抗争しているという噂も聞くこともなく、あっという間に壊滅させられた。
正確な情報を知った時はバックのマフィアが潰された後だった。

自分たちのバックについていたマフィアは規模で言えば、ゴッサムシティにおいて十指に入るといっていいだろう。
それほどの組織を瞬く間に壊滅させたということは、よほど入念に計画された奇襲だったのか、あるいはそれほど力の差が有ったということか。
後者だとしたら、今までその存在を隠し、潜伏できたことに驚きを隠せない。

スミスはすぐさま志々雄真実が率いる組織に接触し、上納金を納めることで庇護と行動の自由を保障してもらおうと考えていた。
今回も前と同じように上手くいくと信じていたが、それはオハギめいて甘い考えであったことを痛感することになる。
スミスの組織は庇護を受けるどころか、メン・タイの仕入れルートを組織に強奪された。
抗うことは不可能だった。
以前のバックの組織を瞬く間に壊滅させた、組織に刃向うことは蟻が象に挑むことと同意義だ。
その結果、最大のシノギを失ったスミス達ヨコハマロープウェイクランは瞬く間に衰退する。
周辺の店からミカジメ料を取っているが、これはバックに組織がいたから出来ること。
後ろ盾がないことが発覚すれば、ミカジメ料も取れなくなるだろう。
まさにジリー・プアー(徐々に不利)。
このままではクランのメンバーは野たれ死ぬ。
しかし代わりのシノギが一向に見つからない。

(((ブッタファック!どうしてこうなった!?)))

スミスは心の中で毒突く。
自分は細心の注意を払い、裏社会で生き抜いてきたのに、こんな理不尽にすべてを奪われるのか!
こんなことが許されるのか!?

スミスが頭を抱え項垂れ、メンバーも表情も沈んでいる。
場には重苦しいアトモスフィアが漂う。
まるでマッポーの世の住人のようだ。

KRAAASH!!

その重苦しいアトモスフィアは突如鳴り響く轟音ともにかき消された。
スミスの横を何かが恐ろしい勢いで通り過ぎた。

「アバーッ!」

後ろを振り向いてみると、スミスの後ろにいたメンバーの一人がトマトめいて潰している!

「ワッザ!?」

メンバーを潰したものは入口の扉だった。
入口の扉がメンバーの一人を潰したのだ
何をしたのか分からないが、扉が人の頭を砕くほど勢いよく動くものなのか?
しかも入口の扉は、他のマフィアに襲撃されていいように、鉄扉だ。

扉の方向に改めて視線を向けると二人の人間が立っていた。
二人とも長大な槍を手に持ち、黒色の鎧武者のような出で立ち。
日本好きのコスプレマニアックス共か?
いや違う!その姿はあからさまにアーマードライダーなのだ!
彼らは通称、黒影トルーパーと呼ばれていた。

ゴッサムシティには明らかに不釣り合いなその姿を見た瞬間に、スミスはある噂を思い出した。
果実の鎧を纏った奴らに、マフィアやギャングが壊滅させられた。
それを聞いた時は、麻薬中毒者のほうがマシなウソをつくと思っていたが、
だが今目の前に居るのがその果実の鎧を纏った武者であり、噂は本当だったのだ!


98 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:22:19 4/NKZmlY0

「ドーモ、ヨコハマロープウェイクラウンのクズの皆さん。グラスホッパーです」

黒のアーマードライダーは侮蔑の感情を最大限に込めた声であいさつをした。

「「「「ザッケンナコラー!!」」」」

そのアイサツを聞いた瞬間、クランのメンバーは店内に隠してあったマシンガンを瞬時に取り出す。
この店はヨコハマロープウェイクランの隠れ家でもあり、武器庫でもあった。
ある者はメンバーが殺された怒りのために、ある者は侮辱された怒りのために、
8人は躊躇なく引き金を引いた。
しかしスミスだけは武器を取らなかった。
この相手に刃向うことは命に関わると、ヤクザセンスが素早く判断したのだ。
そのことを伝えようとしたが、声に出す前にメンバーが引き金を引き銃弾がばら撒かれる。
8人による集中砲火。普通の人間なら鎧を着ていても数十秒後にはネギトロになってしまうだろう。
だが黒影トルーパーは普通ではないのだ!

二人の黒影トルーパーは持っていた黒色の槍を素早く風車めいて回し始める。
それは残像によってまるで黒の円形の盾だ!
メンバーが放った数百発の弾丸は鎧に触れることすらない!
なんたるアーマードライダーに変身することで備わった身体能力と、槍を手足のように操る器用さか!

「「「アバーッ!」」」

それどこらか跳ね返された銃弾が脳天に当たり、三人死亡!
スミスは跳弾で死んだメンバーを見た瞬間、素早く床に身を伏せた。
他のメンバーは跳弾で死んだその様子を間近で見ながらも、メンバーは銃撃をやめない。
ここで止めれば黒影トルーパーにやられることは目に見えている。
相手に当たるよう祈るように引き金を引き続けるが、無情にも銃弾は当たらない。

数十秒がメンバーによる銃撃は止んだ。アウト・オブ・アモーだ!
その瞬間、二人の黒影トルーパーは一瞬でメンバーに近づき槍を横に振り払う!

「「「「「「アバーッ!」」」」」」

横並びに立っていたメンバーの首は一斉に跳ね飛ばされた、ナムアミダブツ!
跳ね飛ばされた首はバンクショットめいて壁に当たり、近くにあった大きめなゴミ箱に吸い込まれた。ポイント倍点!

床に身を伏せていたスミスは銃撃音が止んだので、ゆっくりと目を開け、頭を上げる。
そこには、血まみれの黒影トルーパー達が、スミスを侮蔑の目で見下ろしている。
そして、辺りを見渡すと首なしの死体が五体転がっていた。

「アイエエエ!」

スミスは恐怖のあまり失禁!

「ゆ……許してください」

すぐさまドゲザしながら、懇願する。
その様子を満足そうに見ながら、アーマードライダーは告げた。

「お前達のクランにミカジメ料を取られた被害者から、依頼がありました。
これ以上ミカジメ料を取らないようにしてほしいと、だからクランを皆殺しにすることにしました」
「ワッザ?皆殺しナンデ?」
「お前達ヤクザのクズは生きていても、ゴッサムの害にしかならない。よってグラスホッパーとして街の為にクズは排除しなければならない」
「許してください!財産はすべて慈善団体に寄付します!罪を償う為にボンズになります!」

スミスは大粒の涙を零しながら、黒影トルーパーの足元に縋り付き懇願する。
それを冷ややかに見ながら、もう片方の足でスミスの顎を蹴り上げた。

「グワーッ!」

顎を蹴り上げられたスミスはそのまま気絶。

「クズはどこまでいってもクズだ、死ね」

黒影トルーパーは槍を振り上げ、今にもスミスをケバブめいた死体を作らんとしている。

「ヘヘヘヘ、楽しいことやってンじゃねえか、オレも混ぜてくれよ」

槍を振り下ろすのを止め、声がした方向を振り向く。
その声を聞いた瞬間、まるで死神に心臓を掴まれたようなゾッとする感覚を味わった。

その男は拘束着を思わせるようなシノビ装束を身に纏い、拘束具を思わせるようなメンポをつけている。
逆立った黒い髪、病的に白い肌だった。
何よりその邪悪なアトモスフィアがニューロンに深く刻みつけさせられた。

「ドーモ、キャスターです」

黒の殺戮者、デスドレインのエントリーだ!


99 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:26:02 4/NKZmlY0

時は少し遡る。
デスドレインは、シェリルやヤモトの情報を得る為に、ダウンタウンに足を運んでいた。
ヤモトの情報は、このような治安が悪い地域に住んでいるヤクザやヤンクのほうが知っているかもしれない。
そんな単純な理由だった。

てきとうなヤクザやヤンクにインタビューしようと探していると周りを見渡していると、
黒影トルーパーに変身する、グラスホッパー団員を偶然で発見する。
一瞬で鎧のようなものを身に纏ったのはジツなのか?
興味を示したデスドレインは二人の後を追い、このツキジめいた惨状に出くわしたのだった

二人の黒影トルーパーはデスドレインを見た瞬間決断的に襲い掛かる!
二人はデスドレインを見た瞬間、電撃的速度で判断を下した。
こいつは今すぐ殺さなければならないと!
この邪悪な存在はこの世界に生きてはいけない。何よりここで殺さないと自分が死ぬ!

二人は殺戮バッファロー電車めいた速さでデスドレインに向って突進する。突きを繰り出すつもりだ。
常人を遥かに超える脚力で生み出したスピードに、常人を遥かに超えた腕力で繰り出し突きをのせる。
その威力は、通常の突きより何倍にも膨れ上がる!

「グワーッ!」

だが二つの槍がデスドレインの身体を貫くことは無かった。
一人目の黒影トルーパーの攻撃はアンコクトンの防壁によって防がれ、
もう一人は攻撃を当てる前に、間欠泉めいて噴き出したアンコクトンによって天井に磔さている。
どうにかして拘束から脱出しようにも、身体が数センチたりとも動かない。

「そんなバカな……」

一方もう一人の黒影トルーパーは驚愕の声をあげる。この一撃で傷一つ負わすことができないとは予想もしていなかった。

「ヘヘヘヘ、何ボケッとしてンだ。足元見ろよ」

デスドレインはアーマードライダーの驚きの声がひどく間抜けに聞こえたのか、笑いながら、足元を指差す。

そこにはバイオイカの触手めいた物体が絡みついている。アンコクトンだ!
冷静な状態ならば回避できたかもしれない。
だが、攻撃を防御されたことに動揺し、コンマ数秒の隙を作ってしまった。ウカツ!
ニンジャとの戦闘はほんのわずかな隙が命取りになるのだ!

「一人いれば十分か」

デスドレインはそう独り言のように呟くと、アーマードライダーをアンコクトンの触手によって、逆さ吊りの状態で天井まで吊し上げ、

「グワーッ!」

地面に向って思いっきり叩きつけた。

「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」

デスドレインは攻撃をやめることはなく、ししおどしめいて叩きつける。
部屋の中は叩きつける衝撃音と叫び声が、一定の間隔で響き渡り、何回目かの叩きつけで叫び声は聞こえなくなった。
地面には変身が解け、グラスホッパーの制服を着た青年の死体が横たわるのみだ。

デスドレインは死んだことを確認した後、拘束していたもう一人を吊し上げた状態で、自分の目の前に運んだ。

「クズは殺すンだろ?俺は相当のクズだぜ、ほら頑張れよ」

デスドレインは無防備に近づく、黒影トルーパーは拳を振りかざす。
だがデスドレインは自分に拳が当たる数センチ手前にアーマードライダーを固定させる。
結果、拳は当たらず虚しく空を切るだけだ。

「へへへ、残念!」

デスドレインは手を叩きながら、挑発めいて嗤う。
一しきりアーマードライダーの姿を見て笑った後、唐突にスミスのほうにアンコクトンを伸ばし、気絶から意識を覚醒させたのち、自分のほうに引きずり込んだ。


100 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:27:49 4/NKZmlY0

「おい、ヤクザ、質問に答えろって……スミス=サンじゃねえか!?」

顔を見た瞬間、驚きの表情を作る。
まさか自分と多少縁のある人物がこんな処にいるとは。

「ワッザ!?何で俺の名前を?」
「ヒャハハ!まあいいや、質問に答えてくれよスミス=サン。シェリル・ノームはどこに居る?」

デスドレインはスミスの疑問を無視して、問いを投げかける。
スミスも目の前が何故自分の名前を知っているかなど、疑問は尽きないが、今の問いに答えることに集中する。
出まかせは通用しない。
この問いに正しく答えないと、自分は死ぬかもしれない。そんな予感があった。
ニューロンから必死に答えを検索する。
人生において一番ニューロンを酷使したかもしれない。

「確か今日の18時頃にライブを開催するって聞きました。場所はUPTOWN BAY SIDEに建設されたイベント用ホール。そこに行けば居る筈です」

その答えを聞いたデスドレインはスミスに対して、アクションをおこさない。
その様子をみて、答えに納得したと解釈した。
スミスは心の中で胸をなで下ろす。
問いを聞いてからに答える瞬間まで、生きた心地がしなかった。

「じゃあ次の質問だ。ヤモト・コキの居場所はどこだ?」
(((ワッザ?まだ続くのか)))

スミスはわが耳を疑った。あの地獄めいた時間が続くのか。
神に祈りたくなる人の心境を今初めて理解できた。
だが、嘆いても始まらない。
またニューロンを酷使し、答えを検索する。

「わかりません……」

ヤモトの情報がまるで思い出せない。
スミスはこの言葉を発した瞬間。ソーマト・リコールが見えた。
自分はここで死ぬのだ。
今まで散々悪事を働いてきた罰だ。インガオホー。
生まれ変わったらボンズになろう。

「あっそ」

デスドレインは、スミスをアンコクトンから解放する。

「ワッザ?」

余りにも予想外の出来事にスミスは数秒呆けてしまう。自分は助かったのか?

「じゃあ、今すぐ探してこいよ、スミス=サン、とりあえず連絡できるIRC通信機をよこせ」

IRC通信機?携帯電話のことか?
取り敢えず言う通りにしておこう。
スミスはクランの死体の懐から携帯電話を抜き取り、デスドレインに渡す。

「ヤモトの情報がわかったら連絡しろ、そうだな、明日までに情報を提供できなかったら、どうなるか分かるよな?」

デスドレインはスミスにせせら笑いを見せた。
スミスは悟った。自分はまだ助かってはいない。
呆然としているスミスの脇をアンコクトンが通り過ぎる。

「ほら、駆け足!」

デスドレインは手拍子で、スミスを囃し立てる。

「アイエエエ!」

スミスは叫び声をあげながらメキシコライオンに追われる小動物めいて入口に走り、デンチャミチから脱出した。

「へへへへ、相変わらずからかうとオモシレえなアイツ。見たかよあの情けねえ面!」

スミスが遁走する姿を笑いながら見送り、黒影トルーパーに同意を求めるが反応は無い。

「へへへ、さて、次はお前にインタビューだ」

デスドレインは背筋が凍るような邪悪な笑みを黒影トルーパーに向けた。

「アイエエエ……」

この黒影トルーパーはデスドレインのストレス解消の一環として、文字に起こすのも躊躇われるようなインタビューを受け、絶命した。
その様子は余りにも悲惨であったがゆえに書き記すことはしない。

【GOTHAM CHALICE】


101 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:30:41 4/NKZmlY0

【GOTHAM CHALICE】

サガラが去った部屋で、ハナはスマートフォンをじっと見つめていた。
画面に映っているのは、チーム鎧武のメンバーの一人、高司舞の名前。
彼女は自分のことを特に気にかけてくれていた。
例え自分が今置かれている与太話のような状況を話しても、親身に相談にのってくれるはずだ。
あとは画面をタップするだけで電話がつながる。
だが、ハナは電話をすることなく、スマートフォンをベッドの上に放り、うつ伏せになって枕に顔を埋める。

もし、電話してしまえば聖杯戦争に巻き込んでしまうような気がしていた。
彼女達は自分から見れば、偽物のNPCにすぎない。
だが彼女たちはこの街で懸命に生きている。そんな彼女たちを巻き込んではいけない。
そうNPCは生きているのだ。
NPCはどのような職に就き、どのような家庭を築き、何を思っていたのかを。
そして彼らの想いを、夢を、希望を、人生を自分が断ったのだ。
彼らの命を絶つ権利は誰にも無いはずなのに。
その事実がハナを大いに苦しめる。

直接の原因は自分のサーヴァント、デスドレインがやったことだ。
しかし、あのサガラと名乗った男の言う通り、令呪を使うなり、言い包めるなりすれば防げたかもしれない犠牲。

―――これ以上の犠牲を出してはならない―――

サガラから話を聞かなければ、ハナは部屋の中に籠り震えていただけかもしれない。
だが知ってしまった。NPCは舞台装置ではない、この街で生きる人間なのだと。
それを知りながら、デスドレインを止めないのは殺人と同じだ!

何より、このまま放置すれば、自分の大切な人達が殺されるかもしれない。
母親と父親がNPCとして街にいるのだ。
なる達がNPCとしてこの街で生活している可能性はゼロではない。
もし、デスドレインがなる達を殺してしまったら、自分の心は壊れてしまうだろう。

そして、死ぬのが怖かった。
サガラはこれ以上殺戮を繰り返せば、罰則を下すと暗に言っていた。
どのような罰則なのかは分からないが、決して軽いものではないだろう。
聖杯戦争を生き抜くうえで、この上なく不利を被る。
そして、その不利が原因で死ぬ。

確かに自分の願いを叶える為にこの戦いは負けられない。
それ以上に死にたくない。死ぬのが怖くてたまらない
サガラが話したデスドレインの凶行の話を聞き、自分がサーヴァントと対した場合、どのように死ぬのか、ありありとイメージが浮かんでしまう。
それは、今まで遠く離れていた死が急速に近づいてきたようだった。

だが頭に過るのはデスドレインというサーヴァントの特性。
デスドレインはNPCを殺戮すればするほど強くなる。
逆に、デスドレインの殺戮を止めれば弱体化に繋がることになる。

だがNPCがデスドレインに殺されるのを見たくない。
ハナはNPCを殺さず、聖杯戦争に生き残る方法を必死に考えた。
ハナは天才でもないし、稀代の策士でもない、只の普通の女の子だ。
そんな妙案を思いつかないかもしれない。
だが、普通の女の子だからといってデスドレインの殺戮を見過ごしていいわけではない!

自分が持つ知識と発想を総動員して考える。
何分、何十分、何時間経っただろう。
ハナは時間の経過を忘れ、思考に没頭する。
そしてある結論に至った。


102 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:33:54 4/NKZmlY0

―――最強じゃなくていい――――

最強の者が必ず勝つとは限らないのが聖杯戦争である。
最も敵を倒したものが勝者ではない。最後に生き残ったものが勝者なのだ。
参加者の中で最も弱くても、戦いで疲弊しきった強者を倒し、最後の一人になればいいのだ。
例えデスドレインが最弱でも、最弱ですら倒せるぐらいに相手が弱るのを待てばよいのだ。

熟考の末、デスドレインがNPCを殺戮しなくても勝てる可能性を見出した。
それは砂浜の中から米粒を見つけ出す以上に困難なことかもしれない。
それでも、良心の呵責に苦しみ続けるより、何倍もマシだった。

だがデスドレインをどうやって止める?

令呪で『これ以上NPCを殺すな』と命令するか。
もしそうなったらデスドレインは怒り狂うだろう。
その形相を想像しただけで身の毛がよだつ。
下手したら逆上して殺されるかもしれない。

ならば自分の言葉でデスドレインを説き伏せ、殺戮を辞めさせるしかない。
今後の方針はおぼろげながら決まった。
あとは行動するのみ。
だが、ハナの身体は一向に動かない。
家を出て、デスドレインを探すなり、念話で呼びかけるなり、行動をしようとするが体の震えが止まらない。
良心の呵責、迫りくる死の危険。それらを重ねても、ハナの心の天秤はデスドレインへの恐怖に傾いていた。

怖い。どうしようもなく怖い。
あの狂人と対峙し、会話する。
それを想像しただけで体が震え、心臓が止まりそうだ。
怖いのは超人的力や、宝具を有しているからではない。
デスドレインの性根が何よりも恐ろしいのだ。
平然と楽しみながら、人を殺せるあのドブのようなどす黒い心。
念話で対話した時、声を聞くだけで、自分の心がどす黒いドブに染め上げられてしまうような錯覚に陥っていた。

(((動かないと、動かないと何も始まらないデス)))

己の恐怖に怯える心と身体を叱咤し、立ち上がろうとするが、よろけて床に倒れ込んでしまう。
その時、ベッドの下にある物が落ちているのを見つける。
それは自分にとってなじみ深いものだった。
ハナは腕を懸命に伸ばし、爪先がその物に振れた。
あとは爪を使い、物を手繰り寄せる。

「やっぱり」

物についていた埃を手で払う。
ピンクで彩られた鳴子。
それは大切なメンバーとお揃いのもの鳴子だった。

―――カッカッ
木製の物がぶつかった際に奏でられる、小気味良い澄んだ音が部屋の中に響き渡る。

―――カッカッ、カッカッ

ハナは二回、三回と鳴子を鳴らす。
この慣れ親しんだ音を聞くと、心が落ち着く。

「パーッとパーッと晴れやかに 咲かせましょう 花のように」

ハナは鳴子を手に踊り歌いだす。
皆と一から作り上げ、自分が皆と踊るはずだった舞を。
そして、脳裏にはよさこい部での日々が鮮明に思い浮かぶ。
共に汗を流し、衝突し、些細なことで笑い合った至福の時を。
辛いこともあった、苦しいこともあった。
今思えば、それすらも楽しかった。


103 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:36:35 4/NKZmlY0

「したいデス……皆とよさこいしたいデス……」

ハナは踊りを止めて、泣き崩れた。
ハナの心にある想いがフツフツと止めどなく湧き上がる。
したい!皆と再びよそこいがしたい!

ハナは暫く泣いた。
そして、顔をあげる。
その目には涙は浮かんでいない。

いつの間にか、ハナの身体の震えは治まっていた。
その目はサガラと対話していた時の怯えた目ではなかった。
決断的な意志が備わった目だった。

ハナは熟考の末、勝ち筋を見出した。
しかし、願いの為に、他人を蹴落とす覚悟はできていない。
だが、皆とよさこいをしたい、
その想いが、この戦いに生き残るために行動する覚悟を備えさせた。
あの絶対的な恐怖の対象であるデスドレインに対峙しようと決意するほどに。

この衆愚の街に来て、流さられるままでいた少女が、初めて自らの意志で行動することを決意した。
これはサガラが予想していたことなのか。
それは分からない。
ただ、ハナ・N・フォンテーンスタンドはこの聖杯戦争の舞台に今初めて登ったのだ。

「ただいま!」

それはサガラと同じように何の前触れもなく唐突に訪れる。
自分のサーヴァントが勢いよく扉を開けて入室してきた。
漆黒のキャスターのエントリーだ!

「キャキャキャスター!?」

突然の来訪。しかも実体化したままでだ。
この世の悪意をすべて詰め込んだような何という邪悪なアトモスフィア!
実体化するのとしないとでは、ここまで感じるアトモスフィアが違うのか!?

これが数十分前のハナであれば、姿を見た瞬間気絶していたかもしれない。
今すぐにこの場から立ち去りたい衝動に駆られる。
だが、鳴子を握りしめ、懸命に堪える。
このサーヴァントを説き伏せて、殺戮を止めることができるのか?
だが、止めなければ罰則を受けて、自分が生き残る可能性が低くなる。
そして、この街で懸命に生きるNPCの命が無残に刈り取られてしまう。
デスドレインを呼びつける手段がないなか、相手自らやってきた。
これは神がくれたチャンスかもしれない。
やるしかない!

(((なる、ヤヤさん、多美さん、万智さん、サリーちゃん、ママ、パパ、ワタシに勇気をください)))


「どうしたんですか?何か用ですか……」
「お前に渡すものが、有るンだよ」

ハナが恐怖に耐え、声を震わせながら質問を投げかける。
そんなハナの様子をつゆ知らず、楽しげだ。懐からあるものを取り出し投げ渡す。
戦極ドライバーだ。
デスドレインは黒影トルーパーからドライバーを奪い取っていたのだ

「それを腹に当てろ」

デスドレインは自分に何をさせたいのかは分からないが、とりあえず指示通りに行動する。
だが、特にこれといって何も起こらない。

「あ?貸せ!」

デスドレインはハナからドライバーを奪い取ると、腹に当てる。
ハナと同じように何も起こらない。

「ンだよ!ぶっ壊れってるじゃねえか!」

デスドレインはドライバーを思いっきり床に叩きつける。
激しい衝撃音を発し、ドライバーには様々な個所に亀裂が生じていた。


104 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:38:24 4/NKZmlY0

デスドレインはドライバーを奪い、インタビューして戦極ドライバーの使い方を聞いていた。
それはハナに使わせるためだ。

デスドレインにはある懸念があった。
ハナを教育し一緒に殺戮を楽しむにせよ、何もしないにせよ。圧倒的に弱いのだ。
クローンヤクザ一人すら倒せないほどに。
自分が殺戮を楽しんでいる時に、ハナが殺され強制的に座に戻されることがあれば、不完全燃焼もいいところだ。
そこで目をつけたのは戦極ドライバーである。
黒影トルーパーと戦った限りでは、少なくともサンシタニンジャ程度の実力はあった。
サンシタ程度でも、他のマスターや、そこら辺のマフィアに殺されることはないだろう。

計画は失敗に終わったが、すぐに次のアイディアを閃いていた。
他の奴らから奪い取る。もしくは作った奴にハナ専用のものを作らせることだ。
確か、グラスホッパーとか言っていた。
暇つぶしがてら、殺すついでにドライバーを奪っていき、作った奴を見つけ出す。

シェリル・ノームの居場所を聞いたデスドレインは、襲うのはライブ最中という計画していた。
どうせサヨナラ&ファックするなら、そっちのほうが派手でオモシロそうだからだ。
ライブは18時開始で、その間どう時間を潰すか考えていたところ。
その間に黒影トルーパー狩りで暇を潰すのは悪くは無いかも知れない。
どこに居るものかと考えていると。

「キャキャスター!話があります」

ハナの大声で、デスドレインの思考は中断された。

「ア?何だよ?」
「これ以上……人を殺すのを止めてください……」
「なんで」

ニヤけた笑顔を見せていた、デスドレインの顔が真顔になる。
ハナに向けられるのはほんの僅かな敵意。
その僅かな敵意でさえ、向けられた一般人は恐怖のあまり失神しているだろう。
だがハナを恐怖のあまり零れそうな涙をこらえ、言葉を紡ぐ。

「キャスターも聞きましたよね?……12時の放送を……」

デスドレインは特に返事をしないので、話を続ける。

「ワタシの処にサガラという人が来ました……これ以上NPCを殺したら……令呪をはく奪して、キャスターを賞金首にするって……」

無論、サガラはハナにそのようなことは言っていない、デスドレインを止めるために話を盛ったのだ。
だが、偶然にも賞金首、つまり討伐令を出され、他の参加者に狙われる立場になることは正しかった。

「いくらキャスターでも他の参加者に集中的に狙われて、全員を倒せますか?……
キャスターだって、聖杯で叶えたい願いがあるんですよね?……願いの為に、ここは活動を控えませんか?……」

デスドレインはハナの話をただ黙って聞いていた。相槌もせず反論もせず、ただ黙って聞いていた。
その反応はハナにとって不気味でしかたなかった。

「そうだよな!そうだよな!」

デスドレインは突如大声で叫ぶ。その突然の大声にハナは体をビクッと震わせた。

「囲んで棒で叩かれちゃオレ死んじまうよォ!そんなことにも気づかなかったなんて、何てイディオットなんだ!」

膝をつき頭を抱え涙声で泣き叫ぶ。まるでブッタに今までの行動を懺悔するかのように。

「オレ……オレ……もうこれ以上NPCを殺さない……」
「キャスター……」

デスドレインはハナの手を握りしめ、その目を見つめる。
ハナはデスドレインの豹変ぶりに戸惑いを隠せなかった。
だが、その目には邪悪なアトモスフィアがまるで感じられない。
本当に説得できたのかもしれない。
勇気をもってキャスターと対話することを選んで本当に良かった。
ハナの胸は安堵と喜びの気持ちで満ちていた。
だが。


105 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:39:41 4/NKZmlY0

「ンなわけねえだろ〜!ハ〜ナ〜!」
「え」

デスドレインは舌を出し、ゲラゲラと嘲笑する。
そのアトモスフィアはこれまで以上に邪悪だった。

「何でやめなきゃいけなンだよ!好きなだけ殺して、好きなだけファックする!こんなオモシロいこと止められねえよ!」

「でも罰則が……」
『ででも罰則が……』

デスドレインはおどけて真似をした。

「そんなこと知らねえー!そんなことのためにオレが我慢しなきゃいけねンだ?
俺は自由!そう自由だ!オレの自由は誰にも邪魔させねえ」
「キャスターは聖杯が欲しくないんですか!」

ハナは思わず声を張り上げる。
このままでは罰則をうけ、圧倒的に不利になると知っているはずだ。
何故殺戮をとめようとしない?
デスドレインの思考が全く理解できない。

「そりゃは欲しいけどよ。その為に殺しを我慢するだなんて、無理無理無理!」

ハナの心は絶望の色に染め上げられる。
ハナがデスドレインへの説得は『聖杯を獲得するためにはNPC殺しを止めた方がいい』というものだった。
戦略のうえでNPCを殺しているなら、ハナの言うことを聞いて止めていたかもしれない。
だが、デスドレインは戦略のうえでなく、自分の楽しみのために殺している。
仮にデスドレインの宝具が「死の濁流(アンコクトン)」でなくてもNPCを殺すのを止めないだろう。
確かにデスドレインは聖杯を欲している。
だがそれ以上に、殺戮を楽しみたかったのだ!
これではハナの説得はデスドレインには何も意味を持たない。
この狂人を言葉で止めるなど土台無理な話だった。

ならば令呪を使って止めるしかない。
『NPCを殺すな』『ワタシに危害を加えるな』
この二つを命令すれば、自分の身の安全を守りつつ、デスドレインを止めることができる。
しかし序盤に令呪を二つ使っていいものなのか、躊躇していた。

「やりたいことを好きなだけやるのが、楽しいだろう。人生楽しまなきゃ損だぜ。そう思うよなハナ〜」

デスドレインはハナに楽しげに語りかける。
デスドレインは今この生活を、この瞬間を最大限に楽しんでいる。
楽しんでいることは吐き気を催すほどの邪悪なものだが、純粋に楽しんでいる。
時間は限られている、ならばやりたいことをやって、楽しむべきと思っていた。
だが、この地獄のような状況でやりたいこと、楽しみたい事など一つも見つからない。
それなのにデスドレインはどうだ?
あんなにも楽しそうだ。
ハナにはデスドレインがどす黒く輝いて見えていた。

――何でアイツだけが楽しんでいる!許さない!―――

ハナの心にはデスドレインへの嫉妬と憎悪が芽生えていた。
令呪を使えばデスドレインの楽しみが奪うことができる!
デスドレインへの憎悪、そして令呪以外に止める術がないという事実。
令呪使用を踏み切ろうとした瞬間。
意気揚々と話していたデスドレインは真顔になり、驚くほど冷淡な声でハナに告げた。

「令呪を使って、オレを縛ろうなんて考えるなよ。オレは誰かに命令されたり、縛られるのがこの世で一番嫌いなンだよ
もし令呪なんて使ってみろ。殺すから」
「アイエエエ……」

デスドレインはハナに初めて殺気と呼ばれるものを向ける。
それを受けた瞬間、ハナはしめやかに失禁し、その場にへたり込んだ。

生き残るために、皆とよさこいを踊り、両親と暮らす未来を得る為に纏った勇気という名の鎧は粉々に打ち砕かれる。
そのむき出しの心はニンジャの暴威によって蹂躙された。
このサーヴァントに逆らうことはできない。
例え令呪で縛ったとしても、思わぬ方法で自分を惨たらしく殺すに違いない!
アイツを止めるには自害させるしかない!
だがその瞬間自分は終わる。

ハナは有る感覚を抱いていた。
自分はデスドレインという名のブレーキが壊れた暴走霊柩車に載せられて、谷底に向ってアクセル全開で向かっている最中。
そんな感覚を。
もうどうしようもできない。
このサーヴァントを召喚してしまった瞬間に自分の未来は閉ざされていたのだ。
今この瞬間、ハナの心の中に占める感情はデスドレインへの恐怖のみである。
よさこいへの想いも、NPCが死ぬことへの良心の呵責もすべて消え失せていた。


106 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:43:11 4/NKZmlY0

『臨時ニュースです。ミッドタウンのフォートクリントン地区で殺人事件がおこりました
被害者は全員窒息死、犠牲者は全員笑っていたそうです』

ハナがへたれこんだ先にテレビのリモコンがあったのだろう。
テレビの電源がつきテレビからニュースが流れる。
そのニュースに反応したのはデスドレインだった。

ただの殺人事件なら、見向きもしなかっただろう。
大量殺人でも、多少興味を持つ程度だろう。
だがそのニュースはデスドレインの興味を大いに惹いた。

「ヒャハハハハハハハ!全員笑い死にだと!?何の冗談だよ!」

デスドレインのバカ笑いが部屋中に響き渡る。
人が笑い死ぬ。それは恐ろしく異常な状況だった。
デスドレインも多くの人間を殺戮してきたが、笑い死にという死因で殺せたことは一度たりともない。
デスドレインは腹を抱えながら笑い続ける。

「ヒッヒッヒッ……こんなに笑ったのは久しぶりだぜ」

こいつだ!仲間にするならこいつだ!
ある意味かつての仲間だったラインペイジに匹敵にするほどの異常性。
こんな殺し方をする人間が正常なわけがない。
こいつとなら面白おかしくこの街で暴れそうだ。

一方ハナはデスドレインが馬鹿笑いしている様子を黙って見ていた。
何か殺人事件がおこったらしい。
そんなことどうでもいい。
何も考えたくない。
ハナの心は自暴自棄に陥っていた。
もう何もする気がおきない。
ただ眠りたい。
このまま眠り、一生目が覚めなければどれだけ楽だろうか。
失禁して濡れた下着が纏わりつく不快感を気にも留めず、ベッドに向った。

『ジェニファー・N・フォンテーンスタンド』

この音を聞いた瞬間、ハナの動きは止まった。
今何と言った?母の名前が聞こえた気がした。
気のせいだ。さっさと寝よう。

だが、自分の意志とは裏腹にテレビに向って足を運んでいた。
テレビに食いつかんばかりに近づき、テレビから流れる映像を凝視する。

『この事件の犠牲者は20名。ジェニファー・N・フォンテーンスタンドさん……』

ニュースのキャスターが感情を込めず淡々と母の名前を読み上げる。
そして、ジェニファー・N・フォンテーンスタンドの名前は視覚情報として、ハナの目に否が応にも飛び込んでくる。

嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!
だが、自分の中にいるもう一人の自分のようなものが冷静に告げる。
ニュースと報道されたのだから、誤報ということはまず無い

―――ママは死んだ――――

この街にいる母はNPCである。極端なことを言えば母の姿をした人形だ。
悲しむことなど何一つない。
無いはずなのに。母との思い出が次々思い浮かぶ。
母の愛情が、母の温もりが。
その瞳から涙があふれた。
それをきっかけに関を切ったように泣き始めた。

「ママ!ママ!」

喉が張り裂けんばかりに大声で母の名前を叫ぶ。
もしこの場に人がいたら、この声を聞いただけで、ハナの海より深い悲しみが伝わり、胸が締め付けられるような思いだろう。

「え?何?もしかしてお前のママ死んだの?」

だがデスドレインはそんな悲痛な叫びを聞いても何も感じず、泣き叫ぶハナをデスドレインはせせら笑いながら見ている。

「笑いながら死ねるなんて良かったじゃねえか!サンズ・リバーでママも笑ってるぜ!」

部屋にはハナの悲痛な叫びと、デスドレインの邪悪な笑い声がいつまでも響き渡っていた。


107 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:45:02 4/NKZmlY0


【MIDTOWN REDHOOK(ハナの自宅)】

【ハナ・N・フォンテーンスタンド@ハナヤマタ(アニメ版)】
[状態]精神不安定(極大)
[令呪]残り3画
[装備]私服
[道具]特筆事項無し
[所持金]三千円程
[思考・状況]
基本:???
 1.ママ!ママ!
 2.キャスター(デスドレイン)が怖い!怖い!
 
[備考]
※キャスター(デスドレイン)の凶行を認知しています。
※キャスター(デスドレイン)に対して絶対的な恐怖を抱きました。
強いきっかけが無い限り、デスドレインに令呪を使うことはありません

【キャスター(デスドレイン)@ニンジャスレイヤー】
[状態]魔力消費(極小)、首に刺傷(ほぼ完治)アンコクトン増殖中
[装備]メンポ、ニンジャ装束
[道具]ヘルヘイムの果実、ヤモト・コキの指名手配書、血塗れの新聞紙(12/20発行) 壊れた戦極ベルト、携帯電話
[思考・状況]
基本:自由!
1.自由を謳歌しつつ、魂喰いと補食によって己の力を蓄える。
2.ライブ会場に乗り込んでシェリル・ノームをサヨナラ&ファックがしたい。
3.笑い死にさせた奴(ジョーカー)を仲間にしたい
4. 一緒に愉しめる仲間が欲しい。いっそハナを教育してみるのも悪くないかもしれない。
5 戦極ベルトを強奪、または作らせて、ハナに与える
6 この果実を何かに使ってみたい。
7 ガスマスクの男(クロエネン)はいつか殺す。
[備考]
※NPCの魂喰いと殺戮を繰り返し、魔力とアンコクトンを増幅させています。
※ヘルへイムの果実の存在を認識しています。
※アサシン(クロエネン)を視認しました。
※黒影トルーパーの存在を知りました。ベルトで変身することは認識しています。
※ジョーカーに強い興味を持っています。
※18時頃にUPTOWN BAY SIDEに建設されたイベント用ホールでシェリルがライブをするのを知りました。
※スミスの連絡先を知りました。


108 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:46:09 4/NKZmlY0

【GOTHAM CHALICE】

そこはハナが住んでいる家から、二キロメートル離れたとある喫茶店。
とある二人が車でそこに向っていた。

「何で休日に野郎とドライブしなきゃならねえ」

白髪の中年の男が嫌味を言う。

「デスネー」

嫌味を言われた若い男は、テキトウに相槌を打つ。

「全く、最近殺人事件が多すぎるだろ、このままじゃカロウシするぞ」
「デスネー」
「こんだけ殺人現場を巡っていると、ネギトロ喰いたくなるよな」
「デスネー」

彼らはゴッサムシティで働く刑事である。
中年の男はシンゴ・アモ。若い男はタバタ・ヤスキリ。
本来は休日であったが、殺人事件がおこったということで急遽駆り出されていた。

喫茶店についた二人は入口の扉を開け、現場に向かう。
目に飛び込んできたのはツキジめいた光景だった。
臓物や血液が辺り一面に飛散していた。
「一週間の飯はネギトロ丼だな」
「デスネー」
「どう考えても、強盗殺人ではねえな」
「デスネー」

二人は現場を見分する
この惨状では何人死んだか知らないが、全員原型を保っていないだろう。
いや、一人だけ原型を留めている死体があった。
それは金髪の女性であり、その胸は豊満だ。
その女性の衣服は乱れている。

何か手がかりがないか、現場検証を再開する。
するとシンゴは上半身が無く下半身のみの死体が目についた
服装や体つきからして男性だろう。

何気なく財布を抜き取って中味を確認する。
特に金銭やカードが抜き取られているわけではない。
やはり、犯人は強盗の類ではないだろう。
引き続き財布を調べていると、写真が目に留まった。
写っていたのは、大人の女性と少女と大人の男性だった。
おそらく家族写真だろう。全員満面の笑みをうかべている。

「ブッタは寝ているのかね」

家族の写真を財布に入れているぐらいだ、家族のことを愛していたのだろう。
そんな男性がこんな無残に殺される道理がどこにあるのか。
残された家族はどうなるのか。
同じ家庭を持つ身として胸が痛んだ。
免許証があるので、名前を確認する。
汚れか何かで名前は見えないがミドルネームとラストネームは読める

「N・フォンテーンスタンドか」

それは正午を過ぎたころだった。
ハナの家に向っていたデスドレインは偶然自分好みの女性を見つけた。
その女性は喫茶店に入って行った。
黒影トルーパーをインタビューして、ある程度イラつきは解消できたが、まだ完全には治まってはいなかった。
自分の性欲とイラつきを解消するために喫茶店に向かう。
店に入り、目当ての女性以外を殺害。その後女性をサヨナラ&ファック。

それが事の顛末だ。
その女性はハナの父親が経営している英会話教室のスタッフだった。
ハナの父親とその女性は昼食をとるために店に入り、そこで命を絶たれた。

ハナは自分のサーヴァントに父親を殺された。
それは自分のサーヴァントを制御できなかった事が原因ともいえるだろう。
これはハナのインガオホーと言えるかもしれない。

だが待ってほしい。
ハナが呼んだサーヴァント、デスドレイン。
この無軌道異常サーヴァントを制御することは、この聖杯戦争に呼ばれたどのマスターでも無理だろう。
父親の死をハナのインガオホーと言うにはあまりにも酷かもしれない。

【イット・メイ・ビー・シビア・トゥ・セイ・インガオホー】 終り

備考
※この事件はいずれニュースで放送されるかもしれません。


109 : ◆7DVSWG.5BE :2015/12/28(月) 11:48:14 4/NKZmlY0
以上で投下終了です。
矛盾点、修正点があればご指摘お願いします。

タイトルは【イット・メイ・ビー・シビア・トゥ・セイ・インガオホー】です
長すぎて入りきりませんでした。


110 : 名無しさん :2015/12/28(月) 15:11:20 EKUgZcAsO
投下乙です

類は友を呼ぶで、デスドレインがジョーカーに興味
黒影への変身を目論む組が、他にも出るかな?


111 : 名無しさん :2015/12/28(月) 17:44:49 K3nOz4QI0
投下乙です!
一絞りの勇気は狂った悪意によって一瞬で踏みにじられる…
前回のカーチャンの死に続いて、心を折られるわ父親も殺されるわハナのメンタルがゴリゴリ削られる出来事ばかり
最早デスドレインを引いた時点で彼女の運命は決まったも同然だったのだろうか…
戦極ドライバー奪取やスミス=サン利用した情報収集とデスドの猟奇性の中に垣間見える強かさも不気味だ


112 : ◆JOKERxX7Qc :2015/12/31(木) 04:14:47 39NNqYkU0
投下乙です。
相変わらずデスドレインはマスターガン無視で聖杯戦争をエンジョイ中。
さりげなくライブの情報も掴んでるし、シェリル組の危機が現実味を帯びてきたか。。
一方、母親が死んだ矢先に父親までデスドに殺されるハナ、不憫としか言いようがない。
不幸のどん底にある彼女が再び笑顔になれる日はくるのだろうか……。

久宇舞弥&デストロイヤー(加藤鳴海) 予約します。


113 : ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:31:24 nXQhzsac0
新年あけましておめでとうございます。
ゲリラ投下します。


114 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:32:46 nXQhzsac0


冷えたハンドルをキュッと回す。
暖かな水が雨の様に降り注ぎ、少女の切り揃えられた髪を濡らす。
シャワーから出る温水は髪や身体に染み付いた汗を洗い落としていく。
少女にとってようやく訪れた、微かな安寧の時間だった。

ふう、と一息を付きながら少女はシャワーの熱にその身を委ねる。
温水は少女の艶やかな肢体を伝い、タイルの敷き詰められた床へと流れ落ちていく。
降り注ぐ熱を浴びながら、少女はぼんやりと宙を見つめていた。

少女―――『前川みく』は。
自宅のシャワールームで、今日の出来事に思いを馳せていた。


(………疲れた)


みくは、心中でぽつりと呟く。
たった数時間でこんなに疲れたのは、何時ぶりだろうか。
一日の半分にも満たない時間の出来事だったというのに。

気を紛らわせる為に図書館へと勉強しに行って。
途中で呉島先輩と喫茶店で話して、決心して。
帰り道に、得体の知れない怪物に襲われて。
緑色の鎧を纏った不思議な人に助けられて。
アーチャーがやってきて、黒い髪の女の子のサーヴァントがやってきて。
サーヴァント同士の戦いを目の当たりにして。
今度は蝙蝠みたいな黒いサーヴァントが現れて。
アーチャーとその場から逃げて、ようやく家に着いて――――。

『死ぬかもしれない』なんて思ったのは、あれが初めてだった。
凶爪を振るうあの怪物から必死に逃げた時の記憶が脳裏に蘇る。
追い掛けて、追い掛けて、とにかく追い掛けて。
あの怪物は、自分を追い詰めていたのだ。

聖杯戦争という現実から、ずっと目を逸らし続けてきた。
普通の学生らしい生活を送って、気を紛らわせていた。
ただ普通に暮らしていれば、危機が及ぶことなんて無い。
誰にも知られなければ、自分は狙われない。そう思っていた。

しかし、そんな筈が無かった。
向けられた殺意。容赦無く振るわれる凶器。理不尽な暴力。
あの怪物は、自分を殺そうとしていた。
自分の命を、奪おうとしていたのだ。

ゾクリと背筋が凍る。
悪寒に襲われ、身体が震え出す。
いつの間にか己の身体を抱きしめていた自分に気付く。



怖い。
なんて、怖いんだろう。



今まで意識することなんて無かった死のビジョンが、頭の中に鮮明に浮かび上がる。
自分は既に戦場に立たされていることを否応無しに思い知らされる。
殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され。
そうやって、皆が殺し合う。
逃げ場なんて無い。自分が立たされているのは死の闘技場だ。
生き残りと願いを懸けた戦いの地に放り出されている。


115 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:34:10 nXQhzsac0

アーチャーが自分を助けに来てくれて。
それと同時にあの黒い髪の女の子が現れて。
二人は武器を使って、とにかく戦ってて。
何が起こっていたのかよく解らない。
でも、一つだけ確信出来ることはある。
あれが、サーヴァント同士の戦いだということを。
あの戦いこそが、聖杯戦争であるということを。

自分は何も知らない。
戦場も、死線も、殺意も、何も知らない。
普通の家庭で生まれ育ち、キラキラと輝くアイドルに憧れて。
そんな人間だ。どこにでもいる、普通の女のコだ。
だからこそ、何も知らない。
何も知らなかったのに、知ってしまった。


戦いの何たるかを。
死という恐怖の何たるかを。


また、現実逃避をしたくなった。
しかしその場凌ぎの行動に意味が無いことなど、とうに理解していた。
自分はマスターだ。殺し合いの参加者だ。
今更現実から目を逸らした所で、意味なんて無い。
見て見ぬ振りをした所で、現実は自ずとやってくるのだから。




《 ハロォ――――――ゥ、ゴッサムシティィッ! 》




そう、現実は容赦なくやってくるのだ。
時刻は正午。
運命を唆す蛇による通達が始まる。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


116 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:34:32 nXQhzsac0



みくはシャワーを浴び終える。
身体をタオルで拭き、着替えを身に纏い、ぼんやりとした表情で鏡の前に立つ。
ドライヤーで髪を乾かすみくは、先程の通達の内容を頭の中で咀嚼していた。


(3組がいなくなって、残りは23組…)


初日までに3組の主従が脱落している。
つまり、既に殺し合いは始まっているのだ。
自分が現実から目を遠ざけている間に、とうに誰かが死んでいるのだ。
――――胸の内に、不安と恐怖が再び込み上げる。
泣こうが叫ぼうが戦いは止まらない。
とっくに火蓋は切って落とされている。
残り22組の参加者が、自分達の『敵』として存在するのだ。


(……連続、殺人鬼)


そして、もう一つの情報。
ルール違反を犯しているというサーヴァントの存在。
聖杯戦争というセオリーを無視し、殺人を繰り返しているという。
この街で殺人事件なんて珍しくない。
毎日の様に何人もの死者がニュースで伝えられているこの街では、日常のようなものだ。
だけど、そんな街さえも震撼させる連続殺人鬼の噂は耳にしていた。
ニュースでも幾度と無く報じられていた。
『人間を破裂させて殺す』という、殺人鬼のことを。



――――訳が解らない。理解出来ない。
――――気持ち悪い。考えたくない。



みくは知らず知らずのうちに、殺人鬼に関する思考を打ち切っていた。
残虐な方法で何人も平気で殺すような奴のことなんて、考えたくない。
怖くて、気持ち悪い。まるで解らない。
ごく普通の感性を持つみくには理解が出来なかった。
死への忌避感を持つみくは、理解したくなかった。
何の呵責も無く人を殺し続ける殺人鬼のことなんて知りたくなかった。

―――――殺人鬼。他者に理不尽な死を齎す異常者。
死への恐怖、殺人への恐怖が再び蘇る。
脳内で駆け回る死のイメージを、必死に堪えていた。

再び襲い掛かる、死という概念への恐怖。
どうしようもない孤独感、不安感がその身を蝕む。
どうしたら、いいのだろうか。
自分は、どうすれば。




《マスター》




唐突にみくの脳内に響いたのは、自分を呼びかける声。
思わず身体をビクッと震わせて素っ頓狂な声を上げてしまう。
それがアーチャーの声であることに気付いたのは、ほんの数秒後。


「ア、アーチャー?」
《…何をそんなに驚く》
《あっ、えっと、ごめんなさい…!ぼーっとしてたから、つい…》


やや呆れたようなアーチャーの言葉に、みくは慌てた様子で答える。
アーチャーの姿は見えない。
確認できるのは念話による声のみだ。
シャワーの時は一人にしてほしいと頼み、洗面所の外で待機させていたのだ。
のんびりとシャワーを浴びていた為、痺れを切らしたのかもしれない。


《ちょ、ちょっと待ってて!今髪乾かすから!》


117 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:35:29 nXQhzsac0

数分後。
髪を乾かし終えたみくは自室の扉を開く。
ゆっくりとベッドに腰を下ろし、小さく溜め息を吐く。
静寂に包まれた自室をゆっくりと眺める。
見慣れてしまった、自分の空間。
聖杯戦争のマスターとなった自分に与えられた世界。
孤独の空間。そこに寮の様な暖かさは一欠片も存在しない。
みくを除けば、家の中に人の姿は誰もいない。
この家にはみくしか居ないのだから。


《理解したか、マスター》


そう、『彼女』を除けば。
みくが召還した従者は、姿は無くとも確かに存在していた。
アーチャーのサーヴァント、ジャスティス。
彼女は霊体化した状態で念話を行い、みくに語りかけた。


《私は貴様に戦士としての覚悟を強いるつもりは無い。
 だが…聖杯戦争は既に始まっている。お前が現実から目を逸らした所で、敵は待ってはくれない。
 先の件で、そのことを理解したか》


先の件――――異形の怪物、そして他の主従との対面。
みくにとって、あれが初めての『聖杯戦争』だった。
目を逸らしていれば、一先ず巻き込まれることなんて無い。
そんな思い込みが、幻想が打ち砕かれた瞬間だった。
アーチャーの言い放つ言葉に対し、無言でみくは頷く。


《……理解したのなら、構わない。以降は単独での行動は控えて貰う。
 敵は22組。何時、何処に敵が潜んでいるかは解らない》


釘を刺す様に言うアーチャーに、みくは再び頷く。
実際、彼女の言う通りだった。
数時間前にみくはアーチャーを自宅に待機させ、一人で外へと赴いた。
聖杯戦争という現実を忘れ、学生として振る舞うことで気を晴らす為だ。
結果としてみくは怪物に襲われ、自力での逃走を余儀なくされた。
あの場で鎧の戦士が駆け付けてくれたことでアーチャー到着までの時間は稼がれた。

だが、もしあの戦士がいなかったら。
みくは怪物の一振りの攻撃で命を落としていただろう。

あの場にアーチャーがいれば、未然に危機を防げていたかもしれない。
先の件は、アーチャーを遠ざけた自分の我侭によって間接的に引き起こされたのだ。
みくは自分を責めるように内心でそう考え、視線を僅かに落とす。



《故に、警戒しろ。死にたくなければな》



――――怖い。


アーチャーの一言で、ぞくりと恐怖が胸を走る。
死ぬのが、怖い。
聖杯戦争が、怖い。
怪物に追われ、サーヴァントの戦いを目の当たりにした時、それらの恐怖が再び蒸し返されたのだ。

この現実から逃げ出したい。
何もかも放り出して、元いた場所に帰りたい。
しかし、シャワールームでの思考でみくは既に理解している。
自分はマスターであり、聖杯戦争の参加者なのだということを。
恐怖に怯えて震え続けた所で、どうにもならない。


118 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:36:10 nXQhzsac0


みくは思う。
何度も自問自答した感情を繰り返す。
自分はどうすればいいのだろう。
何をすればいいのだろう。
自分は弱い。戦うことなんてもっての他。
その上何も出来ない、ちっぽけな人間だ。

叶えられないと、まだ決まっていなかった筈なのに。
『叶えられないかもしれない』という焦燥によって、奇跡に縋ってしまった。
自分は、弱い人間だ。

みくは、思う。
自分は、どうしたら―――――




――――本当に欲しいものがあるなら自分で動いて勝ち取らないと何も手に入らないし何も守れない。
――――覚悟を決めて動かない限り、何も変わらないでずっと弱い自分が残るだけなんだ。




脳裏を過ったのは、少し前に言われた言葉だった。
呉島光実。ハイスクールの先輩であり、チーム鎧武のメンバー。
あの時、彼の一言によってみくは勇気を与えられたのだ。
悪夢の様な犯罪都市で、光実は輝いていた。
外界という恐怖を振り払い、彼はダンスという自分の道を選んだ。
何も出来ず、恐怖から逃避するだけのみくにとって、彼の姿は酷く眩しく見えた。


(呉島先輩は、飛び越えたんだ)


呉島光実は、境界を飛び越えたのだ。
何があるか解らない外界へと飛び出し、自分だけの世界を見つけたのだ。
そんな彼が羨ましくて、そんな彼に憧れを抱いた。


119 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:36:46 nXQhzsac0

ギュッとみくは拳を握り締める。
シンデレラプロジェクトのオーディションを受けた時のことを、思い出す。
普通の女の子から抜け出したくて。
テレビで何度も見た、キラキラ輝くアイドルになりたくて。
そんな想いを抱いて、みくはアイドルの道を選んだのだ。
勇気を振り絞り、普通の日常という境界を飛び越えたのだ。


今のみくは死の恐怖、戦いへの恐怖に怯え続けていた。
先の件でそれらを改めて認識し、彼女はただ震え戦いていた。
しかし、それでは何も始まらない。
現実は決して待ってはくれない。
ならば、どうするか。


(アイドルになる事とも、踊る事とも、違う。それでも、みくは―――――)


聖杯戦争であっても、動かなければならない。
自分で動かなければ、何も手に入らない。
覚悟を決めなければ、何も変わらない。
弱い自分が取り残されるだけ。


だからこそ、前川みくは。
ジャスティスと話し合おうと決心していたのだ。



「ア、アーチャー!」



みくは勇気を振り絞り、声を上げる。
アーチャーからの答えは何も返ってこない。
その場でみくが何を言おうとしているのか、黙って聞き届けようとしているらしい。

ごくりと、唾を飲み込む。
緊張する心中を抑え、すぅと深呼吸をする。
心の準備を整えたみくは、決心を固めた表情で顔を上げた。



「―――――――前川みく!15歳、高校一年生!趣味は猫カフェ巡り!
 346プロダクション所属のっ、新人アイドルにゃ!!」



そして、彼女は口を開く。
精一杯の自己紹介が飛び出した。


120 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:37:25 nXQhzsac0
みくが対話の一歩として行ったのは、名乗ることだった。
声を張り上げたみくに、アーチャーは沈黙する。


《……何?》
「すっごくキラキラしてて、綺麗で、可愛くって…そんな女の子になりたくって!
 そう思ったから、みくはアイドルになろうと思ったのにゃ!
 でも、他の同期の子達みたいに輝けなくって…それで、すっごく焦っちゃって…。
 だから…みくは、あの変な人形を手にしたんだと思う!此処に来たんだと思うにゃ!」


呆気に取られた様なアーチャーに対し、みくはそう伝え続ける。
心の底から絞り出した言葉を、ただ想いのままに吐き出す。


《何が言いたいのだ、マスター》
「え、えっと…その!アーチャーに、みくのことを知ってほしかったにゃ!」


みくが絞り出した言葉に、アーチャーは何も答えない。
唖然としているのか、呆れているのか、あるいはみくの話に耳を傾けようとしているのか。
みくには解らない。姿の見えないサーヴァントが何を思っているのかは解らない。
それでもみくは、真っ直ぐに言葉を紡ぐ。



「みくは、何も言えなくて…ずっと怯えてばかりで…
 此処までずっと、アーチャーとちゃんとお話出来なかったから…!
 だから、マスターとしてみくのことを知ってもらいたいの!
 そして…アーチャーのことも、ちゃんと知りたいにゃ!」



その言葉に含まれていたのは、目を逸らし続けてきた自分への反省。
そして、己の従者と改めて向き合う決意。
マスターとしての心構えも、聖杯戦争で取るべき戦略も、何もかも解らない。
自分にとっての最前の選択さえも、解らない。
それでも彼女は、勇気を振り絞って対話に望んだ。
自らが今為すべきこと―――――サーヴァントとの対話に臨んだのだ。


沈黙が再び場を支配する。
一筋の汗を頬から垂らし、みくは虚空を見つめる。
アーチャーは、何と言うのだろう。
彼女はみくの覚悟を期待はしていないと言っていた。
彼女にとって前川みくという存在は、無力でか弱いだけの少女なのかもしれない。

きっと、彼女にとっても自分の存在は迷惑なのだろう。足手纏いなのだろう。
だからこそ、せめてちゃんと向き合っておきたい。
彼女と面と向き合って、自分のやれることを模索したい。
お互いにちゃんと心を通わせたい。
みくはそう思った。

自分の望む答えは返ってこないかもしれない。
それどころか機嫌を悪くしてしまうかもしれない。
それでも、このままでは駄目だ。
ごくりと唾を飲み、みくは従者の答えを待つ。


幾許もの沈黙の後。
みくの目の前に、アーチャー―――ジャスティスが姿を現す。
霊体化を解いた弓兵が、みくを見下ろしてゆっくりと言葉を紡いだ。


「…いいだろう」


ジャスティスが、そう静かに告げた直後。



「だが、期待はするなよ。私は……貴様とは、違うのだから」



僅かな愁いを帯びた瞳で、そう言った。
みくはただ無言でこくりと頷く。
少女は決意を固めた表情で、己の従者と向き合った。


◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


121 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:38:06 nXQhzsac0



己のことを他者に語るのは、初めてだった。
ジャスティスは、マスターに己の来歴について語った。
召還による影響か、記憶の一部が欠落している。

ヒトとしての自分がどう生まれたのか。
どのようにして育ったのか。
自分が何故兵器として生まれ変わったのか。
まるでピースが抜け落ちたパズルの様に、記憶は曖昧となっている。

それ故に全てを語ることは出来ない。
だが、それでも大本の来歴は覚えていた。

元々はヒトだったこと。
親しい人間が二人居たこと。
自分が生態兵器『ギア』の完成型壱号として生まれ変わったこと。
自分がギアの存在意義を提唱し、人類へと叛逆したこと。
手始めに日本国を滅ぼし、その後100年に渡る聖戦の火蓋を切ったこと。
そして、最後は己の同類/かつての友人に殺されたこと。
死の間際に『再び友人達と語り合いたい』という願いを抱いたことを。
ジャスティスは己が記憶する過去を、少女に語ったのだ。

彼女は死後も人々から絶望の象徴として畏れられ、語り継がれた。
最強のギアを畏怖する人類の想念は、彼女をある種の『偶像』へと昇華させた。
――――――破壊神。全人類の叛逆者。絶対悪。
彼女は人類史における悪の偶像として押し上げられたのだ。

ジャスティス自身、己が悪であるということを否定するつもりは無い。
彼女は実際に数え切れぬ程の人間を殺戮し、数え切れぬ程の破壊を繰り返したのだから。
畏れられようと、憎まれようと仕方が無い。己はそれだけのことを行ったのだ。
だからこそ、聖杯の力でヒトとしてのほんの僅かな幸福を求めることも―――――己のエゴに過ぎない。
破壊神が死の間際に抱いた、最後の我侭に過ぎない。


そんな彼女のマスターとして宛てがわれたのは、ヒトの中で輝く『偶像』としての幸福を求める少女だった。
ほんの小さな因果。されど、それが二人を引き寄せた縁であるのかもしれない。
忌まわしき『偶像』として語り継がれる破壊神は、輝かしい『偶像』を目指す少女に召還されたのだ。


思わぬ縁を持つとはいえ、何故矮小な人間の小娘に自分の来歴を語る気になったのだろうか。
自らの心の中に生まれた気まぐれに過ぎないのかもしれない。
あるいは、これがヒトとしての本来の自分の性格なのかもしれない。
もしくは、勇気を振り絞って自身と向き合ったマスターにある種の好感を抱いたのか。



(…ああ、そうか)



思考を繰り返し、ジャスティスは己の中で一つの答えを導き出す。
何故己は矮小なヒトに少しでも気を許したのか。
その答えは至極簡単なものだった。

マスターが、ただのヒトだったからだ。
破壊神が求める『ごく普通の幸福』を持つ、普遍的なヒトだったからだ。

戦いも、殺戮も、破壊も、彼女は何も知らない。
親しい者達と当たり前のように語り合える。
ごく普通の幸せを、当然のように謳歌出来る。
それ故に憧れたのだ。普通のヒトである前川みくに、好意を抱いたのだ。


そんなマスターは、自分の過去を知りどう思うのか。
ただの少女である前川みくは、英霊の――――破壊神の辿った生き様を知り、何を思うのか。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


122 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:38:49 nXQhzsac0


前川みくは何も言わず、己の素性を語ったジャスティスを見上げていた。
自分の想像を超えた来歴に、みくは言葉を出せなかった。


―――――曰く、アーチャーは『破壊神』なのだという。


彼女は己を生物兵器だと語っていた。
人間であったにも関わらず、兵器として改造された存在なのだ。
そんなアーチャーは兵器の存在意義を提唱して、人類に叛逆した。
アーチャーは日本を滅ぼし、無数の生物兵器を率いて全世界を攻撃した。
百年に及ぶ戦争の果てに、アーチャーは―――――かつての友人に殺された。

みくにとって、全く知らない世界だ。
安穏とした世界で生きてきた彼女にとって、未知と言ってもいい生き様だ。

正直に言って、少しだけ怖いと思った。
目の前に立つ己のサーヴァントが破壊者であることを知ってしまったのだから。
アーチャーは―――ジャスティスは、人類の敵なのだ。
文字通り、世界を破壊せんとした存在なのだ。
サーヴァントとして召還された今でも、災厄を齎すかもしれない。
破壊と殺戮を行うのかもしれない。


(…ううん、それでも、みくは)


それでも、みくはアーチャーから目を逸らすことを嫌った。
どんな現実があろうと、前へ進む為に真っ直ぐ向き合いたい。

それにアーチャーは、マスターであるみくを護ってくれた。
あの怪物に襲われた時だって、必死に急いで駆け付けてくれた。
みくが泣きじゃくった時も、ああして優しく頭を撫でてくれた。
そんなアーチャーを、みくは憎むことなど出来なかった。
彼女の中のヒトとしての感情を、薄々と感じ取っていたのだ。


アーチャーは、破壊神。
アーチャーは、人類への叛逆者。
アーチャーは、絶対悪。
確かにそうなのかもしれない。否、その通りなのだろう。


「アーチャーは怖い人だっていうことは、解ったにゃ。
 でも、みくにアーチャーを責める権利は無いってことも…解ってる」


そう、みくは部外者なのだ。
ジャスティスによる殺戮も、破壊も、全くの別世界で起こった出来事なのだ。
彼女が破壊神であろうと、絶対悪であろうと、みくはそれを責めない。
みくは当事者ではないのだから。
彼女の破壊によって蹂躙された『犠牲者』ではないのだから、責める権利等持たない。
故にそのことについて、みくは深く追求をしない。


「それに……大事なのは、今のアーチャーだと思うの!」


みくにとって重要なのは―――――今だ。
サーヴァントとして召還され、自分を護ってくれている『今の』アーチャーだ。


「みくは、みくを守ってくれる今のアーチャーを信じたいの。
 だからみくは…アーチャーを嫌ったりなんかしないにゃ!」


123 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:39:16 nXQhzsac0
みくははっきりとそう告げた。
恐怖が抜け切ったか、と聞かれれば嘘になる。
ほんの少しでも怖い気持ちはある。
アーチャーという存在を畏れる想いは、少しでもある。
でも、みくはアーチャーを信じることを選んだ。
自分を護ってくれる存在と、真っ直ぐに向き合う道を選んだ。


――――――きっと、呉島先輩でもこうしていたのだろう。


何かが怖くても、怯えているだけじゃ駄目だ。
覚悟を決めて向き合わないと、前へ進まないと、弱い自分が残るだけ。
だからこそみくは勇気を振り絞ったのだ。


「…………」


みくの宣言を耳にし、アーチャーは静かに目を閉じる。
彼女が何を思っているのか、何を考えているのか。
今のみくには解らない。


だけど、一瞬だけ。
彼女がほんの一瞬だけ、ふっと笑みを浮かべた様にも見えた。
それが偶然そう見えただけなのか、本当に笑んでいたのか。
みくには、解らなかった。


「……礼を、言う」


アーチャーはただ一言、そう告げる。
それ自体は、ほんの短い言葉。
しかし、アーチャーにとっての感謝の意であることは確かだった。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


124 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:39:57 nXQhzsac0


棚の奥から引っ張り出したのは大柄なトランク。
トランクの留め具を開き、傍に用意されたモノを空っぽの中身に詰め込み始める。
綺麗に畳まれた数着の着替え。
必要最低限の日用品の数々。
そして、みくの魂とも言える猫耳のカチューシャ。
みくは持てるだけのものをトランクにしまっていく。

対話を終えた後、みくはアーチャーの提案により最低限の荷物を纏めていた。
万が一の時に自宅であるアパートから離れる為だ。

鎧の戦士と黒髪のサーヴァント。
漆黒の蝙蝠のライダー。
みくは少なくとも二つの主従から存在を捕捉されてしまった。
更に鎧の戦士はみくの素性を知っていた。
彼女のことを『前川さん』と呼んでいたのが何よりの証拠だった。
鎧の戦士は正体を隠したみくの知人か、あるいは何らかの方法でみくの名を知っている。
下手をすれば、前川みくの情報から自宅を割り当ててくる可能性もあるのだ。

彼らだけではない。
他の主従からも、先の戦闘を捕捉された可能性はある。
キャスターの使い魔。隠密活動に長けるアサシン。
それらが在れば、戦場の監視等幾らでも行えるだろう。
もしも本当に監視されていた場合、どのような情報を掴まれているかも解らない。

とはいえアーチャーはみくの体調を配慮していた。
自宅を捨て、各地を転々とする日常はただの少女であるみくにとって相応の疲労を強いる筈だ。
それに、先の戦闘からまだ数時間程度しか経過していない。
もし隠密性に長けるサーヴァントが実際に先の戦闘を監視していたとしよう。
その場合、下手にみくを外出させれば逆に彼女に危機を及ぼすかもしれない。
故に今はまだ移動はしない。
もしもの場合は、アーチャーが力を振るってみくを護る手筈だ。


(…あの鎧の人は)


荷物を纏める最中、みくはある人物のことを考えていた。
あの怪物から自分を護ってくれた戦士のことだ。
みくが一先ず自宅から離れなかった理由の一つに、鎧の戦士のこともあった。
恐らく彼は、自宅への襲撃を仕掛けては来ないだろうと考えたのだ。

噂に聞いたことが在る。
チーム鎧武の縄張りに蔓延る悪党を一掃し、学生が足を踏み入れられる切っ掛けを作ったヒーローを。
もしかしたら、あの鎧の人がそのヒーローなのだろうか。

一つ確かなことは、彼がみくを守ってくれたということだ。
彼が何者なのかは解らない。
ただみくには、自分を守ってくれた彼が悪い人であるようには思えなかった。
彼は敵対するマスターでありながら、一度ならず二度もみくを助けてくれたのだ。
それに、何故自分の名を呼んだのだろうか。何故知っていたのだろうか。
いつか彼の真意を問いたい――――――みくはそう考えていた。


125 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:40:26 nXQhzsac0

対するアーチャーも、あの蝙蝠のライダーに思う所があった。
奴は敵だ。奴は破壊神ジャスティスの敵として立ちはだかった。
だが、同時に奴は守護者であることも宣言していた。
あくまでこの街を護る為に戦うと彼は言っていたのだ。

奴は無辜の存在であるマスターを狙いはしなかった。
あの路地裏での戦闘の際、自身のマスターである前川みくを奇襲すれば奴は労せずアーチャーを仕留められただろう。
実力の差は歴然としている。戦車と直接戦うよりも、戦車の動力源を潰す方が遥かに楽だ。
しかし、奴はそうしなかった。
態々奇襲を仕掛けたり等せず、堂々とアーチャーの前に姿を現した。
つまり奴は、マスターである前川みくを攻撃する意思がなかったということだ。
そんな相手が、態々自宅での無防備なマスターを襲撃に来るかと聞かれれば疑問が残る。
故に警戒に留めた。今は前川みくの休息を優先したのだ。


とはいえ、完全に安心出来るかと言えば否だ。
いずれも急速な危機ではないと言えど、彼らが敵対主従であることは確かである。
それに隠密性に長けるサーヴァントや使い魔が本当に存在していた場合、敵にこの場所が筒抜けになっている可能性がある。
あくまで可能性に過ぎないとは言え、警戒を怠ってはいけない。


《私は…外部の見回りを行う。可能な限り貴様の自宅からは離れない。
 危機が訪れた場合は、迷わず令呪を使え。すぐに駆け付ける》


霊体化したアーチャーはそう告げる。
暫くは自宅周辺の監視と警戒を行うのだ。
みくはそれを了承した。
魔術や戦闘に関する素養を持たないみくは、その点に関してアーチャーに頼らざるを得ないのだから。


《それとマスター》
《…何?》
《最初にも言ったが、改めて言わせて貰う》


きょとんとした表情を浮かべるみく。
そんな彼女に、アーチャーは淡々戸津げる。



《手を下すのは…他者を殺すのは、私だ。
 人を殺すのは、兵器である私の役目だ。
 お前ではない。それだけは忘れるな》



アーチャーはただ静かに、そう告げる。
その後アーチャーの声は途絶えた。
恐らく、霊体化したままこの場を離れたのだろう。


―――人を殺すのは、兵器である自分の役目。


きっとアーチャーは、自分がそういう存在だと自認しているのだろう。
ヒトを殺してきた怪物であることを、受け入れているのだろう。
それでも、彼女はヒトとしての幸せを望んでいる。
自分を守ってくれた彼女はただの兵器なんかじゃない。
だからこそ、みくは思う。


(…そんな悲しいこと、言わないでほしいにゃ)


126 : Heart to Heart ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 11:41:32 nXQhzsac0

【UPTOWN SOUTH POINT(前川みくの自宅)/1日目 午後】
【前川みく@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的疲労(小)
[令呪]残り三画
[装備]私服、眼鏡
[道具]トランク(最低限の着替えと日用品、猫耳カチューシャ入り)
[所持金]五千程度
[思考・状況]
基本:何が出来るのか解らない。でも、現実から目を背けたくない。
1. 今は自宅で休む。もしもの時には荷物を持って自宅から離れる。
2. ジャスティスを信じたい。
3. あの人(龍玄)とまた会いたい。
4. 死への無意識の恐怖
[備考]
※呉島光実がマスターだと気づいていません
※アーマードライダー龍玄の姿を確認しました。光実とは気付いていません
※アーチャー(暁美ほむら)、ライダー(バットマン)のステータスを確認しました。
※ジャスティスの生前、願いについて知りました。
※会場内においては346プロダクション所属ではなく、普通の留学生ということになっています。

【アーチャー(ジャスティス)@GUILTY GEARシリーズ】
[状態]魔力消費(小)、霊体化
[装備]自身に備わる兵装の数々
[道具]
[思考・状況]
基本:聖杯を勝ち取る
1. マスターを守る。暫く自宅周辺の警備を行う。
2. 敵によるマスター襲撃や監視には極力警戒
3. マスターの負担軽減の為、なるべくなら本気を出さない
4. マスターへの複雑な心境
[備考]
※前川みくの負担を考慮して、本気を出せない状況下にあります
※バットマン、インベスの存在を認識しました
※暁美ほむらに宝具『叛逆の王』は機能しません。
※前川みくの来歴、願いについて知りました。


127 : 名無しさん :2016/01/01(金) 11:41:55 nXQhzsac0
投下終了です


128 : ◆1k3rE2vUCM :2016/01/01(金) 13:36:26 nXQhzsac0
ディック・グレイソン
ノーマン・スタンスフィールド&アサシン(鯨)
犬養舜二&キャスター(戦極凌馬)
予約します


129 : 名無しさん :2016/01/01(金) 17:03:20 3djroaaY0
投下乙です
そして明けましておめでとうございます
まさかの年明け早々のゲリラ投下とは!

みくにゃんが勇気を持って対話したことで少しだけ歩み寄れた二人
二人の行く末が気になります
バッツとミッチは狙わなさそうだが、メディアがみくにゃんをロックオンしているんだよな……


130 : 名無しさん :2016/01/01(金) 17:23:38 EXlXmJzw0
年明けのゲリラ投下乙です!
おお、これは実に素敵なコンビですね。これから二人の絆がどんどん深まっていくといいけど、そんな都合よくもいかなそう……


131 : ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:04:26 MQFxyYCA0
投下します


132 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:05:47 MQFxyYCA0


彼らに伝えられたのは、凶報だった。
UPTOWNに派遣したウォーターメロンの部隊が壊滅したとのことだった。
部隊との連絡がつかず、他の団員が現場へと赴いた所、人としての原型を留めていない団員の凄惨な死体が発見されたという。
おまけに戦闘による被害か、ロックシードやドライバーも破壊されていた。
改良したウォーターメロンロックシードをこの短時間で失ってしまったのだ。
尤も、キャスターは「所詮は量産向けにデチューンしたものに過ぎない」として然程その損失を気にしてはいなかったが。


「ウォーターメロンの部隊を壊滅に追いやるインベス、か。
 特別に強力なインベスがいるとは聞いていたが、まさかそれほどの力を備えているとはな。
 …あるいは、イレギュラーかもしれないがね」


拠点の一つであるホテルの一室にて。
犬養から凶報を聞いたキャスターは、静かにそう呟く。


「イレギュラー…インベスではなく、サーヴァントだったという場合かい?」
「それも有り得る。先の通達で伝えられた『殺人鬼のサーヴァント』である可能性もある。
 尤も、私はそうではないと考えているがね。最近の猟奇殺人事件のことは君も覚えているだろう?」


犬養はそう言われ、昨今のゴッサムを騒がせる殺人事件のことを思い出す。
数々の市民が惨殺された連続殺人事件だ。
発見された死体は皆等しく損壊が激しく、中には人の原形を保っていないものもあったという。
グラスホッパーのメンバーも何人かが犠牲になっている為、調査の対象となっていた。
曰く、現場の共通点として『黒いコールタール状の物体』が残されていたとのことだ。
犬養はこの犯人が通達で伝えられたサーヴァントであると考えていた。

ウォーターメロンの部隊が殺害された件に関しても、殺人鬼のサーヴァントをインベスと誤認した可能性を考えていた。
だが、報告によれば現場からはコールタール状の物体は一切発見されなかった。
それどころか団員達の遺体には刃物の様な物で斬られた痕跡があったという。
手口の残忍さこそ例の殺人鬼と近いものの、負傷の痕は異なっている。
思考を行い、犬養はキャスターの意見の通りこの件に殺人鬼は関与していないと考えた。


「だが、犯人がサーヴァントである可能性は高いと僕は考えている。
 ウォーターメロン部隊の壊滅後、同様の存在と見られるインベスによる被害が全く報告されていないからだ」


同時に犬養はそう付け加える。
インベスに理性は無い。彼らは野生動物の様に行動する。
この件がインベスの仕業だとすれば、強力なインベスが未だに野放しにされているということになる。
だというのに、現場の近辺でインベスによる被害は報告されていないのだ。
本能のままに暴れるインベスが忽然と姿を消す等、普通ならば有り得ないことだ。
だが、霊体化を行えるサーヴァントならば姿を眩ましたとしても不思議ではない。


133 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:06:32 MQFxyYCA0

「確かにサーヴァントならばウォーターメロン部隊が敵わないのも頷ける。
 だが……私には、もう一つ心当たりがある」


そう呟きつつ、キャスターはもう一つの可能性を語る。
先の通達で、この聖杯戦争にDJサガラが一枚絡んでいることが発覚した。
一時は自分達と手を組んでいた存在であり、同時にヘルヘイムの使者だった男。
否――――使者というよりは、ヘルヘイムそのものと言うべき存在か。
ヘルヘイムの植物が街に生息している時点で存在を予想はしていたが、まさか聖杯戦争の進行役となっているとは思ってもみなかった。
奴はあらゆる組織が尻尾さえ掴めていない殺人鬼のサーヴァントの情報を掴んでいた。
つまりこの会場はヘルヘイムの監視下にあり、奴はこの街を支配していると言っても過言ではないと言うことだ。

もしも『ヘルヘイムの森』と同時に――――オーバーロードインベスも存在するとしたら。
それらが特別強力なインベスとして報告されたとすれば。


「オーバーロードインベス…」
「あくまで可能性の話だがね。現段階では断定は出来ない。
 それにしても、件のキャスター、殺人鬼のサーヴァント…そして今回の『強力なインベス』。
 いやはや、問題が山積みで困った物だね」


やれやれと困った様な素振りでキャスターは言う。
実際、現状の問題は決して少なくない。
果実を容易く強奪してみせた魔術師のキャスター。
神出鬼没の殺人鬼のサーヴァント。
正体不明のインベス、あるいはサーヴァント。
数々の問題を抱えているが、現時点ではどうしようもない件ばかりだ。
魔術師のキャスターに大して行える対策はドライバーに転用防止機能を付加することのみであり、後は他主従との同盟に賭けるしかない。
神出鬼没の殺人鬼や正体不明の敵に関しては尻尾もつかめておらず、今は団員の調査報告を待つしかない。
あるいは倉庫の果実を餌に使った時の様に、何らかの策を使って誘き寄せるか――――いずれにせよ確実な手段は無い。


僅かな沈黙が空間を支配した直後。
ふと、犬養は携帯電話に入ったメールに目を通す。
短い時間の閲覧の後、犬養はキャスターの方へと目を向ける。


「もう少しゆっくり話し合いをしたい所だが、申し訳ない。
 これから少しばかり予定が入っているんだ」
「予定?」
「シェリル・ノームのライブ会場に赴くのさ。
 団員達の視察もあるけど、客人としても招かれているからね」


一息を吐き、犬養はそう告げる。
犬養を待つのは何も聖杯戦争での戦いだけではない。
自警団のリーダーとしての活動や接待も必要となる時が在るのだ。


134 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:07:19 MQFxyYCA0

「そういえば…君は彼女のライブに警備員として団員を貸したんだったかな。
 この調子だとグラスホッパーで警備会社でも作れるんじゃあないかな?」
「この街は治安が悪いからね。時にはこういった仕事を引き受けるのも悪くはないのさ」


シェリル・ノームのライブの企画側は警備員としてグラスホッパーを起用したのだ。
本職の警備会社ではなく、アマチュアの自警団を採用する。
通常ならば極めて異例の事態だろうが、この街に於いては事情が違う。
グラスホッパーは犯罪の抑止力として確固たる存在感を示していた。
彼らの活動である程度犯罪が抑止されているのは事実であり、それ故に市民からの人気も厚かった。
グラスホッパーに仕事が依頼されたのも、市民からの支持と犯罪取締の実績という『信頼』を備えているからこそだ。
純粋な利益を求める警備会社が軽視される程に、彼らは人気と信頼を集めていたのだ。


「それにしても、君が人気歌手のライブに出発とはね。随分と意外な展開だよ」
「向こうもグラスホッパーの能力を正当に評価しているからこそのお誘いさ。断るつもりはないよ。
 尤も、のんびりとしているのは確かに性に合わなくもないけどね」


抽選で選ばれた者しか入れないライブに犬養が『来賓』として招待されたのも、そんなグラスホッパーのリーダーだからこそだ。
団員を正当な報酬の下に警備員として起用し、リーダーである犬養を客人として席に招く。
これらは企画側がグラスホッパーという組織を評価している証でもあった。
ゴッサムが誇る歌姫の警備員として、客人として相応しいと判断したからこその事だった。
そして犬養にとっては来賓としての訪問であると同時に、現地の団員の視察としての役目も兼ねている。


「グラスホッパーの名と影響力はこの社会に確実に広まっている。
 それは他の主従に対するアピールにも繋がる。
 場合によっては、同盟を望む参加者と接触する機会を得られるだろう」


顔を上げ、犬養はそう言う。
この聖杯戦争の難点は『開始時点で敵に関する情報が一切解らない』という所だ。
敵はどのような人間なのか。敵はどのようなサーヴァントなのか。どの地域に存在しているのか。
解ることは自分達も含めて23組の参加者が存在する、ということのみ。
広大なゴッサム・シティの中から手探りで参加者を探り当てなければならないのだ。
それ故に序盤は必然的に情報収集に徹さざるを得なくなる。

そういう点において、グラスホッパーを率いる犬養はある程度優位な立場に立てていると言える。
町中をパトロールする数多くの団員の存在はそれだけで情報収集の手足となる。
ドライバーという異能の武装を用いて積極的に活動することで他の主従に対する存在のアピールにもなる。
そうして参加者を引き寄せ、交渉の機会を得ることが出来るかもしれない。
ドライバーを奪われ利用される危険性も考慮していたが、イニシャライズ機能等の対策によって一定の安全性は確保出来ている。
対キャスターの為の同盟を結びたい犬養達にとって、他主従との接触は必要不可欠な物だ。
周囲に自分達の存在を示すことは一定の価値がある。

とはいえ存在をアピールすることはリスクにも繋がる。
敵マスターが犬養の情報を捕捉し、ライブ会場に襲撃を仕掛ける可能性も否定は出来ない。
少なくとも自分達が果実を掻き集めていることは件のキャスターには知られている。
リーダーである犬養をマスターと断定し、何らかの罠を張るかもしれない。
ドライバーに関しても、現時点で行える対策はイニシャライズ機能とキルプロセスのみ。
以前に警戒した様に、ドライバーを奪われた際に万が一魔術等の手段によって解析される危険性もあるのだ。
可能ならば今すぐにでも彼らと対抗出来る主従と組みたい所だが、交渉の余地がある相手を未だ捕捉出来ていないのが現状だ。

他には、隠密性に長けるアサシンの襲撃。
誰にも気付かれず、強かにマスターを攻撃する暗殺者に狙われれば非常に厄介だ。
故に最大限の警戒は行うべきだろうと犬養は考える。


135 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:07:44 MQFxyYCA0

「キャスター、専用のドライバーの製造は?」
「まだ少々時間が掛かる。君の出発までには間に合わないが…」
「では戦極ドライバーはあるかい?」
「ふむ…一応スペアの物なら用意出来るよ。特別な存在である君にこれを使わせるのは少々気が引けるがね…。
 現在製作中のドライバーの性能には劣るが、Aランクのロックシードさえ用いれば一定の戦力は期待出来る」


そう言ってキャスターはドライバーとロックシードを近くのテーブルの上へと置く。
量産型戦極ドライバー。グラスホッパーの団員に支給したものと同様のドライバーだ。
それ故にイニシャライズ機能とキルプロセスも取り付けられている。
今後完成させる予定のゲネシスドライバーと比べれば性能は格段に落ちる。
しかし、それでもAランクのロックシードを用いれば黒影など比較にならない戦闘力を発揮出来る。

キャスターが用意したロックシードは、オレンジ。
かつて彼と敵対していた青年が用いたロックシードだ。

急ごしらえとはいえ、これで犬養も戦闘力を保有することができる。
あくまでライブ会場の警護に過ぎない以上余程のことが無ければ戦闘にはならないと思われるが、
やはりイレギュラーの存在を考慮すれば一定の武装は持たせるべきだと考えるのが妥当だ。


「言っておくがマスター、未だ問題は山積みだ。
 その戦極ドライバーもあくまで君に相応しくない急ごしらえの武装に過ぎない。
 窮地に陥った際には迷わず私を呼べ。場合によっては令呪の使用も構わない。
 とにかく自分の命を最優先にしてくれ。私とて、君に死なれては困るからね」


キャスターの忠告に、犬養は静かに頷く。
イレギュラーは何時発生するか解らない。
ゴッサム・シティは聖杯戦争の会場であり、戦場そのものなのだ。
例え一時の外出と言えど、決して警戒を怠るつもりは無い。


付けっぱなしのラジオから、ニュースの報道が流れる。
夕方のトップニュースはFORT CLINTONの喫茶店で巻き起こった凄惨な事件だった。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


136 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:08:31 MQFxyYCA0

突然の出動要請も、この街ではそう珍しいものではない。
此処は数々の犯罪者が跳梁し、無数の犯罪組織が跋扈する犯罪都市。
華やかな装飾の裏で退廃と堕落が支配する悪意の街。
白昼堂々事件が発生し、現場に駆り出されることも日常のようなものだ。

この街は記憶を失っている。
本来いるはずのヒーローやヴィランは存在しない。
それでも、ゴッサム・シティの本質は変わりはしない。
どれだけ変わり果てようと、此処は汚職と悪徳に支配されている衆愚の街なのだ。

最近では『コールタールの殺人鬼』の件もあり、特に出動が多かった。
先の通達によれば、聖杯戦争によるセオリーを無視して暴れ回っているサーヴァントがいるという。
恐らく、件の殺人鬼こそがそのサーヴァントなのだろう。
警察にさえ解明できぬ怪奇現象による殺人など、それこそ魔術や超能力が無ければ行えない。
そして、この街にそんなものは存在しない。
あるとすれば―――――サーヴァント等の超常的な存在が引き起こしているものだ。

殺人鬼に関する情報を咀嚼していたディックは、出動要請が出た現場へと辿り着く。



「お疲れ様です、警部補」
「ああ、来てくれたかディック」


MIDTOWN FORT CLINTON―――――喫茶店。
それが凄惨な事件の現場だった。

現場に到着したディック・グレイソンは上司に当たる警部補に一礼をする。
初老の警部補はディックへの礼を返し、再び現場へと目を向ける。

彼の名はジェームズ・ゴードン。
ゴッサム・シティにおける数少ない『潔白の警官』。
そして、闇の騎士――――バットマンと接触していた貴重な存在。

尤も、それは元いた世界での話だ。
この世界では『バットマン』というヒーローは存在しない。
ティム・ドレイクも、バーバラ・ゴードンも、ハービー・ブロックスも、バットマンのことを知らなかった。
無論、ゴードン警部補も同様だ。
バットマンを知るディックにとって、まるでバットマンが存在しない未来を辿ったパラレルワールドに放り込まれた様な感覚だった。
この街が記憶を失っている中で、自分だけが真の姿を知ってしまっているような感情に陥っていた。


137 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:09:06 MQFxyYCA0

「私も様々な事件を目にしてきたが…今回の奴は飛び抜けてイカレている。
 何せ喫茶店にいる人間が全員『笑い死に』しているんだからな…」


顔を顰めながら、ゴードン警部補はそう呟く。
現場に残されているのは複数人の死体。
老若男女問わず、喫茶店の中で糸の切れた人形の様に転がっている。
それらは等しく『笑顔』で事切れていた。

死屍累々の店内。散乱した食事やコップ。
床に残された引っ掻き傷。地面でのたうち回ったと見られる死体。
人々が必死にもがいた痕跡。
まさしく狂気の犯行と言わざるを得ない、壮絶な事件現場だった。



ゾクリと、ディックの内心で胸騒ぎが起こる。



その感情はグロテスクな事件現場への嫌悪感や恐怖から来るモノではない。
こんな犯行に『見覚えがあった』からだ。
この狂った凶行に既視感を覚えていたのだ。
まるで見知った悪党の犯行を再び目の当たりにした様な感覚に囚われた。
彼の疑念は、続くゴードンの言葉によって次第に膨れ上がっていく。


「事件直前の目撃情報は一つ…『白い顔の男』が喫茶店に入る現場を見たという証言だけ」
「白い顔の男…?」
「ああ、まるでピエロのような気味の悪い白面の男だったそうだ。
 容疑者としてそいつに目星をつけているが、付近でそれらしき男は未だに見つからず…だ」


ゴードンは渋い表情を浮かべ、検証が行われている現場の惨状を見渡す。
容疑者らしき男の目撃情報はあるが、その行方は解らず。
現場に残された証拠は『一枚のカード』のみ。
証拠品袋に収められたカードをディックに見せた。

ディックが心中で驚愕したのは、その時だ。
ゴードンが見せた証拠品、一枚のカードを目の当たりにしたのだ。
それは誰もが知っているトランプのカード。
あらゆる序列を引っくり返す最強/最凶の手札。
そして、『あの男』の犯行を意味する証拠品。



(『JOKER』の、カード)



JOKER――――――道化師。


138 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:09:43 MQFxyYCA0
奴の名は風の噂にも聞かなかった。
裏社会で犯罪界の道化王子とさえ称される奴のことを、誰も知らなかった。
故にディックはバットマン同様、この世界に奴は存在しないのだと考えていた。


だが、この悪趣味な手口は。
現場に残されたJOKERのカードは。
間違い無く、あの道化師のものだ。
こんなことをするのは、奴だけだ。


(――――――ジョーカー)


最悪のヴィラン、ジョーカー。
ゴッサム・シティに救う犯罪者の中でも、とびきりの異常者だ。

ディックは半ばジョーカーの存在を確信していた。
本来のゴッサム・シティを知る男だからこそ、本物のヴィランを知るヒーローだからこそ、確信していた。

『喫茶店にいた人間を一人残らず笑気ガスで笑い死なせる』。
『現場にJOKERのカードを残す』。

余りにも無意味で馬鹿馬鹿しく、そして悪趣味で挑発的な犯行。
自分の狂気と存在を誇示するかの様な凶行。
ヤク中だろうと相当のバカだろうと、こんな犯行は行わない。
やるとしたならば、余程の狂人だけ。
そう、ジョーカーだけだ。
白い面の男の目撃情報も、その確信を確固たるものとしていた。



(どうして、この期に及んでジョーカーが…?)



何故今になって奴が現れたのか。
今まで影も形も無かったゴッサムのヴィランが突如出現したのだ。
奴程の存在ならば、警察へのタレコミや裏社会の噂などで情報が流れていてもおかしくはない。
あるいは、ナイトウィングとしての活動で情報を掴むことだって有り得た。
だと言うのに、これまでに奴と思わしき犯罪者の情報は一切見受けられなかったのだ。


そこに存在していなかった筈の男が、突如現れた。
そして『本来のゴッサム・シティでの役割と同じロールを行った』。
ヴィランの存在しないゴッサムに奴は現れ、まるでこの街に失われたピースを補うかの様に犯行を行った。


それはある意味で、自身と近かった。
本来ならばこの街に『ナイトウィング』は存在していなかっただろう。
しかし、本来のゴッサムを知る自分がマスターとして架空のゴッサムに召還されたのだ。
その結果、この偽りのゴッサムにもヒーロー『ナイトウィング』が生まれた。


(ジョーカーが、マスターだとすれば――――)


偽りのゴッサムにジョーカーが存在していなかったとすれば。
偽りのゴッサムに『本来のゴッサムを知るジョーカー』が召還されたとすれば。
――――――偽りのゴッサムにも、狂気の道化師『ジョーカー』が生まれるだろう。


ディックは己の中で半ば確信にも近い推測を立てる。
ジョーカーは、この聖杯戦争のマスターとして召還されているのではないかと。


139 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:10:17 MQFxyYCA0

(奴はこうしてJOKERのカードを現場に残した。
 まるで自身の存在を示し、他者を挑発するかのように。
 ………そう、誰を挑発する為に?)


ジョーカーがこのような犯行に至ったのは、挑発の為だろう。
そうでなければ、こんな無計画な犯行を行う筈が無い。
では、誰を挑発するというのか。
社会か。警察か。あるいは―――――宿敵か。
『彼』のサイドキックだったディックには、理解出来る。


ジョーカーが今まで誰を挑発してきたのかを。
ジョーカーが今まで誰を好敵手として見続けてきたのかを。
奴の犯行は、常に『彼』を挑発する為のものだった。



(まさか、ブルース……)



もし、奴が本当に『バットマン』を挑発しているのだとすれば。
それはつまり、この街にブルース・ウェインが――――バットマンが存在すると言うことになるのではないか。
この街には、赤い覆面の男―――レッドフード/ジェイソンらしき男が居る。
この街には、悪趣味な道化師―――ジョーカーが存在する。
この街には、闇の騎士の元相棒――――僕“ディック・グレイソン”が存在する。
欠けていた幾つものピースが、僅かだが存在している。
ならば、バットマンが存在していたとしても可笑しくは無いのではないか。
聖杯戦争の参加者として、この街に現れていたとしても不思議ではないのではないか。


そして、もし噂に聞く『赤い覆面の男』がジェイソンだとすれば。
今回の事件を耳にして動き出すかもしれない。
ジョーカーを誰よりも憎む彼ならば、ジョーカーの犯行を見逃す筈が無い。
そうなれば、いずれ彼とも出会うことになるだろう。


もしもジェイソンと対面した場合――――自分は、どうする。
彼がマスターだった場合、自分は何をすればいいのか。



「ディック?」
「……すみません、少し考え事をしていて」


ゴードンに話し掛けられ、ディックは意識を彼の方へと向けた。
考え込んでいたせいか、少しばかり周囲を憚らず立ち尽くしてしまっていたらしい。
ディックはゴードンに謝罪をしつつ、彼と共に現場検証へと加わる。
赤い覆面の男。ジョーカー。そして、闇の騎士。
幾つもの疑念や推測を頭の中で纏めながら、ディックは職務の遂行に当たった。



規制線の外側では何人もの野次馬が事件現場を見物していた。
彼らの隙間を擦り抜けるようにその場を去っていく『男』にディックが気付いていたかは、定かではない。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


140 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:10:50 MQFxyYCA0


サーヴァントによる連続殺人事件。
喫茶店での目的不明の笑い殺し事件。
全く、この街はイカレている。
野次馬を横柄に退けながら男はその場を後にする。


(ま、こんな街だからこそビジネスもやり易いというのもあるがな)


麻薬捜査官、ノーマン・スタンスフィールドはちらりと事件現場の喫茶店を振り返りながら思う。
傍には霊体化したアサシンを伴わせている。

この街での暮らしは快適な面もある。
汚職や犯罪が横行するゴッサムでは私服を蓄え易く、悪事もある程度堂々と行える。
中でも裏社会との癒着を行い易いというのは特に大きい。
聖杯戦争においても裏社会や犯罪組織の人間を人手や情報源として利用することが出来るのだから。
尤も、こんな箱庭の街で生涯を終えるつもりなど毛頭無い。
それ故に彼は勝たねばならない。あらゆる手段を使って生き残らねばならない。


(それにしても、笑い死にの事件に殺人鬼のサーヴァントね。
 物騒な話ばかりだ。デトロイトでも此処まで治安は悪くないだろうさ)


取り出した煙草に火をつけ、ノーマンは思考する。
つい先程起こったばかりの笑い死にの事件に関する情報は掴めてない。
しかし、殺人鬼のサーヴァントに関しては心当たりがある。
麻薬捜査局の中でも有名になる程の飛び切りの猟奇犯罪の噂を聞いていた。
何でも人間が破裂死していたとか、超人的な力で引き千切られれていたとか。
そんな異様な話を何度も聞いていた。
そして現場には黒いコールタールのようなものが必ず残されていると言う話も。

十中八九、その犯人が殺人鬼のサーヴァントなのだろう。
余りにも堂々とした犯行故にすぐに目星は付けられた。
セオリーを抜け出してまで犯行を繰り返す辺り、犯人は余程の狂人らしい。
汚職に手を染めているスタンにはそれがどれほど厄介なのか理解出来る。
悪人であったとしても、外道であったとしても、交渉の余地があれば何らかの形で利用出来る。
だが、それすらも出来ない「きちがい」が相手ならば話は別だ。
損得勘定の解らない相手にはどれだけ利益をちらつかせても意味が無い。
ハナからそんな物を求めておらず、ただ刹那的に動くだけなのだから。
場合によっては予想も出来ぬ動きによって状況をとことん掻き回す可能性さえある。
つまるところ、どうしようもない存在と言うことだ。


(他の連中がとっとと始末してくれたら嬉しいんだがな)


出来ることならば、そんな相手は早い内に死んでほしい。
しかしスタンのサーヴァント―――アサシンは決して強力な存在ではない。
直接戦闘力が低く、隠密性も決して高くないアサシンを下手に動かすのは避けたい。
奴を動かす時は、標的を確実に仕留められると判断した時のみだ。


141 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:11:19 MQFxyYCA0

(殺人鬼のサーヴァントはまあ今はいいとしよう。
 もう一つの問題は…あのバッタのガキだ)


そう言って思い浮かべたのは、グラスホッパーのリーダー―――犬養。
午前中にマフィアの生き残りと接触した後、スタンは自身の裏社会の人脈を用いた情報収集を行った。
得られた情報よれば、今日の午後18時に犬養はBAY SIDEのコンサート用ホールに赴くらしい。
現場にはグラスホッパーの団員の姿も既に見られると言う。
大方、警備員紛いの仕事でも任されたのだろう。


(以前に推測した通り、あのガキが果実の鎧とやらを団員に手配しているのは確実だろう。
 それに裏社会との繋がりを武器にする以上、奴らの様な自警団は潰しておいて損じゃない)


スタンは犬養らグラスホッパーの存在を危険視していた。
奴らの登場で犯罪組織が潰されているのは事実だ。
現にスタンとの繋がりを持つ組織も壊滅させられている。
あのような理想主義者の群れが勢いを付けることは、裏社会との癒着を武器にするスタンにとっては痛手だった。
それに、鯨と共に推測した様に犬養は聖杯戦争のマスターである可能性は高い。

奴の情報はこちらが一方的に得ている。
上手く仕掛ければ、犬養を抹殺することも不可能では無いだろう。
とはいえ、奴を仕留められると言う確証はない。
会場に赴く犬養を追い込み、サーヴァントによって暗殺出来る機会を掴む必要があるのだから。
アサシンは非常にピーキーな性能だ。失敗すれば少なくない痛手を被るだろう。
しかし、犬養さえ抹殺出来れば非常に大きな益となる。



(さて――――どうする?)


142 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:14:08 MQFxyYCA0

【MIDTOWN FORT CLINTON(ジョーカーが襲撃した喫茶店付近)/1日目 午後】

【ディック・グレイソン@バットマン】
[状態]精神的披露(小)
[令呪]残り3画
[装備]警官としての装備
[道具]なし
[所持金]5千円程度
[思考・状況]
基本:街の治安を守る
1.ジョーカーの存在を半ば確信。彼の行方を追う
2.昼は警官としての職務をこなし、夜はナイトウィングとして自警活動を行う
3.赤いマスクの怪人に強い興味。ジョーカーを追えば彼とも自ずと出会うことになるかもしれない
4.元のゴッサムシティには存在しなかった企業・団体等を調査して聖杯戦争の参加者を割り出す
5.街や知人にバットマンに関する記憶、痕跡が一切ない状況に困惑と動揺
[備考]
※ロールシャッハの噂(コートとマスクの怪人)から彼がクエスチョン@DCコミックスである可能性を考慮しています
※レッドフードの噂(赤いマスクの怪人)から彼がジェイソン・トッドである可能性を考察しています
※令呪は右手の甲に存在します
※ジョーカーがマスターとしてこの街に存在すると半ば確信しています
※ジョーカーの活動から、バットマンも存在している可能性を考慮しています


【ノーマン・スタンスフィールド@レオン】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]S&W M629(6/6)
[道具]拳銃の予備弾薬、カプセル状の麻薬複数
[所持金]現金数万程度、クレジットカード
[思考・状況]
基本:生還。聖杯の力で人生を取り戻す。
1.さて、どうするか…
2.グラスホッパー、特に犬養舜二に関する情報を掻き集める。
3.麻薬捜査官としての立場、裏社会との繋がりは最大限利用する。
4.「果実の鎧」「サーヴァントの殺人鬼」に極力警戒。
[備考]
※自身と繋がりを持つマフィアが何者かによって壊滅しています。
※BAY SIDEでのライブに犬養が赴くことを知っています。

【アサシン(鯨)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]健康、霊体化中
[装備]眼帯
[道具]『罪と罰』
[思考・状況]
基本:マスターの『依頼』を完遂する。
1.マスターの指示が入り次第、暗殺を行う。
[備考]
※生前の記憶からグラスホッパーについて知っています。


143 : Justice League ◆1k3rE2vUCM :2016/01/04(月) 01:14:34 MQFxyYCA0

【MID TOWN COLGATE/1日目 午後】
【キャスター(戦極凌馬)@仮面ライダー鎧武】
[状態]健康
[装備]ゲネシスドライバー
[道具]レモンエナジーアームズ、携帯電話
[所持金]マスターの犬養に依存
[思考・状況]
基本:聖杯が欲しい
0 キャスターには早々に退場してもらおう
1 ゲネシスドライバーの制作を急ぐ
2 マスターには死んで貰っては困る。今は戦極ドライバーで妥協するが、いずれは専用にチューンアップしたゲネシスドライバーを装備して貰う
[備考]
※キルプロセスの開発を終えています。召喚された時以降に制作した戦極ドライバーにもキルプロセスは仕込んでいますが、生前開発したものについては仕込まれていません
※犬養専用のゲネシスドライバーを制作しようとしています。性能はもしかしたら、斬月・真よりも上になるかもしれません
※ゴッサムシティに生前関わり合いの深かった人物四人(呉島兄弟、シド、湊)がいる事を認識しております。誰が聖杯戦争参加者なのかは解っていません
※召喚されて以降に開発した戦極・ゲネシスドライバー双方は、イニシャライズ機能がついており、転用が不可能になっています。もしかしたらキャスタークラスなら、逆に解析して転用が出来るようになるかも知れません
※主だったグラスホッパー団員達には既に戦極ドライバーが行き渡っています
※トノサマンモチーフのアーマードライダーが作れなくて残念そうです
※ウォーターメロンロックシード(改良型)を製作しました

【犬養舜二@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]スーツ、量産型戦極ドライバー
[道具]携帯電話、オレンジロックシード
[所持金]大量に有していると思われる
[思考・状況]
基本:聖杯戦争と言う試練を乗り越える
1 UPTOWN BAY SIDEのコンサート用ホールへ赴く。
2 敵主従や犯罪者、強力なインベスの襲撃には極力警戒
3 解っていたが、凌馬は油断できない
4 あと、趣味が悪いのかも知れない
5 魔術を操るキャスターに対抗できるマスターと同盟を組みたい
6 殺人鬼のサーヴァントに警戒
[備考]
※凌馬からゲネシスドライバーを制作して貰う予定です。これについては、異論はないです
※原作に登場したエナジーロックシードから選ばれるかもしれません。何が選ばれるかは、後続の書き手様に一任します
※もしかしたら、自分達が聖杯戦争参加者であると睨まれているのが解っているかもしれません
※凌馬が提起した、凌馬と生前かかわりのあった四人を警戒する予定です
※キルプロセスについての知識を得ました
※倉庫を襲ったキャスター(メディア)の手口を女性的だと考えています
※現在グラスホッパーの主力ロックシードはマツボックリです。
時間経過に従ってオレンジ、バナナ、ブドウ等といったクラスAのロックシードに更新する予定です
またパインやマンゴー、ウォーターメロン等のロックシードも少数配備する予定です
※UPTOWN BAY SIDEでのシェリルのライブに警備員としてグラスホッパーの団員を派遣しています。
 犬養もまた来賓として招かれてます。


144 : 名無しさん :2016/01/04(月) 01:14:51 MQFxyYCA0
投下終了です


145 : 名無しさん :2016/01/04(月) 21:19:23 RAMtRj..0
投下乙です
犬飼もライブ会場に向かうか、これはライブ会場が戦場になりそうだ
そして、仮にノーマンが犬飼を暗殺するにしても、鯨じゃアーマードライダーにすらやられそう
本当にピーキーすぎるな鯨


146 : 名無しさん :2016/01/05(火) 01:45:12 KQpbdH12O
投下乙です

バットマンがマスターじゃなくてサーヴァントとして参戦してると知ったら驚くだろうな


147 : 名無しさん :2016/01/05(火) 07:33:42 nk1jMyzo0
投下乙です
ふと気になったんですがゲネシスコアとエナジーロックシードだけでも完成させられないんでしょうか?
ジンバーアームズを使えれば準ゲネシスぐらいのスペックは確保できると思うんですが


148 : ◆1k3rE2vUCM :2016/01/05(火) 09:43:45 YWt5k0nQ0
皆様感想ありがとうございます。

>>147
確かにそれもそうですね。プロフェッサーにはもうちょっと頑張って貰いましょう。
wiki収録時にゲネシスコア、エナジーロックシードを追加させて頂きます。


149 : ◆JOKERxX7Qc :2016/01/08(金) 01:44:42 27xBGMEo0
投下乙です。感想は後程。
かなりの時間遅刻してしまいましたが、投下を開始します。


150 : ◆JOKERxX7Qc :2016/01/08(金) 01:47:03 27xBGMEo0
【0】



『なあ、マスター。アンタ笑った事ってあるのか?』


『いいえ。そういった機能は当の昔に死んでしまったので』


『死んだって事はないだろ。現にマスターは生きてるじゃねえか』


『……それは思い違いです、デストロイヤー。
 私は既に人としての中身が死んでいる。ただ外側の器だけが残って、昔馴染みの機能を維持しているだけ』


『……だから、その切嗣って男の為に戦ってたのか』


『ええ、私は切嗣に拾われた道具。なら彼が自由に使い捨てればそれでいい。



『……道具は笑いません。だから、笑う必要なんて無いんです』


151 : ◆JOKERxX7Qc :2016/01/08(金) 01:48:49 27xBGMEo0
【1】


「23組、ですか」

 「サガラ」と名乗る聖杯戦争の監督役による、場違いな程陽気な定時通達。
 彼が提示したのは、自分の他に22組の主従がいる事と、無差別殺人を犯すサーヴァントの存在。
 冬木の聖杯戦争とはあまりにも異なるというのが、久宇舞弥の感想だった。

 冬木で行われた聖杯戦争は、7組で殺し合いを行うものと決められている。
 万物の願望器たる聖杯を完成させる為には、サーヴァント7騎分の魂で事足りるからだ。
 だがゴッサムの聖杯戦争では、その三倍以上のサーヴァントが召喚されているときた。
 この事から、此度の戦いで得られる聖杯は、冬木のそれとは異なる事が窺える。

 そして、無差別殺人を犯しながら、未だ討伐令が敷かれないサーヴァント。
 舞弥が関わっていた聖杯戦争でも、似た様な凶行を行った主従は存在していた。
 当時の監督役は、対象を速やかに排除する様参加者に呼びかけていたものだ。
 秘匿されるべき魔術を無用な殺人に用いるなど言語道断。それは魔術師のルールである。
 だが今回はどうだ?英霊が暴れ回っているというのに、監督役は軽い警告だけに留めているではないか。

(魔術の秘匿を知らない、という事でしょうか)

 聖杯戦争に関わる者なのだから、当然主催者も魔術と関わりを持つ者だと認識していた。
 だが今回の一件を見るに、その考察はどうやら見当違いと見ていいだろう。
 そうでなければ、魔術の秘匿という常識を知らない筈が無いのだから。

(冬木の聖杯戦争とは違いすぎる……)

 アメリカのゴッサムシティという舞台も、電脳世界などというSFめいた空間も。
 加藤鳴海という日本人のサーヴァントを召喚できた点も、時代設定が2015年である事も。
 舞弥が知る本来の聖杯戦争とは、あまりにも相違点が多すぎる。
 サーヴァントのシステムと聖杯という骨組だけを使った、別物としか言いようが無かった。

『ナルミ、今後の方針ですが……』
『他の参加者との接触と危険人物の排除、だろ』

 通達が終わってからというものの、デストロイヤーは酷く不機嫌だった。
 どうやら、放置された連続殺人鬼の存在への怒りが、彼をそうさせているらしい。
 サガラの場違いな口調とテンションも、感情を逆撫でされた要因なのだろう。

『……あの野郎、人が大勢殺されてるってのに楽しそうにしやがって』

 デストロイヤーの心境が理解できないという訳では無い。
 事実、サガラに対して思う事がないと言うと嘘になってしまう。
 あの陽気な言い口は、願いを賭けて挑む参加者達を愚弄しているとしか言いようがない。
 あるいは、そんな参加者達は苛立つ様に愉悦を覚えているのか。

『気持ちは分かりますが、だからと言って感情的になるのは危険です、ナルミ』
『それ位分かってるんだけどよ……クソ、やっぱり気に入らねえぜ』

 何にせよ、監督役一人如きに苛立つのは非効率的である。
 提示された情報のみを切り出し、行動の糧とするのが賢明だろう。
 話し方はどうあれ、情報の内容は確かなのだから。

『引き続き調査を行いましょう。まだ調査すべき個所は残ってますし』
『……そんな焦らなくったっていいんじゃないか?お昼なんだしよ』

 そんな悠長な事を言っている場合ではないと言いかけ、しかし口を閉ざす。
 通達が行われるまでの午前の間、外部への連絡手段の模索していたが、成果はゼロに等しい。
 念の為にと目ぼしい番号に電話をかけたが、やはり応答は一つも来なかった。

 現状、こちらが持つ手がかりは皆無である。
 かといって事を急いていると、それこそ"感情的"と思われかねない。

『……そうですね。一先ず休憩としましょう』


152 : ◆JOKERxX7Qc :2016/01/08(金) 01:50:51 27xBGMEo0
【2】


『ランチじゃなくて良かったのか?』
『あくまで休憩ですので』

 シャルモンと言えば、ゴッサムでも名の知れた洋菓子屋だ。
 日本人の店主が切り盛りするこの店は、まだ開店から数年程度にも関わらず、
 ゴッサムの洋菓子屋の中でも指折りの名店として、大層話題になっている。

 クープ・デ・モンドでの優勝経験もあるパティシエ、凰蓮・ピエール・アルフォンゾ。
 本物にこだわる彼は、フランス国籍を取得しようと、わざわざフランスの落下傘部隊に入隊したとか。
 そのこだわり様は、彼が生み出すケーキにも如何なく発揮されている。

 舞弥がその店に立ち寄ったのは、ほんの偶然であった。
 人気店であるシャルモンに空きの席が出来ていたのもまた、中々ない偶然である。
 そして、この二つの偶然の重なりは、舞弥からすればこの上ない幸運でもあった。

 外見からは想像もつかないが、この人形めいた女は大の甘党である。
 また、無数に存在する甘味の中でも、彼女は洋菓子を好物としていた。
 そんな舞弥が、上質なケーキを提供するシャルモンに悪感情を示す訳がない。

『……もうちょっと嬉しそうな顔してもいいんじゃないか?』
『わざわざ表情に出す必要もないでしょう』
『そりゃそうだけどよ……』

 しかしながら、そんな幸運に恵まれながらも、舞弥の表情にはまるで変化がない。
 ケーキランチを頼んだ後も、彼女はタブレットを用いて街の調査を行っていた。
 携帯しておくと便利だろうという判断から、本格的な聖杯戦争の開幕以前から購入していたものだ。
 20世紀の人間である舞弥には、タブレットなど高等魔術と同然な未知の道具である。
 それを使いこなせれたのは、彼女に"ゴッサム住人だった頃"の記憶があったからだろう。

 舞弥が起動させているタブレットには、約一年前に書き起こされたという設定の記事が表示されている。
 書かれているのは、"最後の大隊"なるテロ組織が起こした、英米同時バイオテロ事件の事だ。
 何の前触れもなく、クリスマス当日に発生したとされるこの事件は、両国に数万単位の犠牲を齎した。
 世界を震撼させたこのテロは、元凶たるテロ組織の壊滅を以て決着がついたとされている。

 しかし、"最後の大隊"が完全に滅びたかと言われると、そういう訳ではない。
 記事によれば、首謀者を含む残党が未だ捕まっていないのだという。
 おまけに、首謀者の情報も"少佐"という渾名以外に一つとして出回っていない始末だとか。

(異様、としか言いようがない)

 数万もの犠牲を出したテロ組織の首謀者、その情報がほとんど知れ渡っていないという事実。
 果たして、情報過多もいいところなこの二十一世紀に、そんな事が在り得るのだろうか。
 もしや、この聖杯戦争の役割として、"少佐"の地位を宛がわれた参加者がいるのではないか。
 そして、その"少佐"が率いる"最後の大隊"もまた、このゴッサムに隠れ潜んでいるのではないか。

 妄想と切り捨てられても文句の言い様がない、個人の想像の範疇を越えない予測。
 しかしながら、自分の意思で妄想と断ずるには、まだ躊躇があった。

 そんな内に、注文していたケーキが運ばれてきた。
 ルバーブのタルトと、ブルーベリーチーズケーキのセットである。
 なるほど、外見から漂う上品さは、名店に恥じぬものだ。

 だが、重要なのは見た目の美しさではなく味の方だ。
 どれだけ整った形にしても、味覚に訴えるものが無ければ意味がない。
 フォークでチーズケーキを分断し、一口サイズにしたものを口に運ぶ。


153 : ◆JOKERxX7Qc :2016/01/08(金) 01:52:22 27xBGMEo0

「……美味しい」

 気付けば、感嘆の言葉が口から零れていた。
 ブルーベリーとクリームチーズ、この二つが奇跡的な調和を見せている。
 ブルーベリーチーズケーキ自体は何度か食べる機会があったものの、
 シャルモンのそれは、過去のそれらを遥かに上回る濃厚さと後味の良さであった。

 こんな美味しいケーキは、もしや生まれて初めて口にするのではないか。
 むしろ、今まで出会ったケーキは偽物で、これこそが本物のケーキと呼べる代物ではないのか。
 そう錯覚を起こしそうになる程度には、シャルモンのケーキは絶品であった。

『なんだ、そんな声も出せるんだな』

 そんなデストロイヤーの、安心した様な声が聞こえてきた。
 どうして彼がそんな口調になるのか、舞弥には理解が及ばない。
 自分はただ、ケーキを食べただけだというのに。

『……何か問題でも?』
『問題なんかじゃねえよ、美味しいもん美味しいって言うのは当たり前だろ?』
『言っている事の意味が分からないのですが』

 そう辛辣に言い返されたデストロイヤーは、

『そんな風に美味しいって思えるなら、マスターは道具なんかじゃねえって事だ』
『……道具でなければ何だと言うのですか?』
『そりゃ人間に決まってるだろ』

 この期に及んで、どうしてこのサーヴァントは自分を人間と認定するのか。
 それをしたところで、別に自身の能力に影響が出る訳でもないだろうに。
 舞弥のその疑問を見透かしたかの様に、デストロイヤーは言葉を紡ぐ。

『俺はさ、マスターに笑ってほしいんだ。
 もし世界を平和にしても、諦めたような顔したままなんて――そりゃあんまりだろ?』

 "人間なら、きっと笑えるさ。俺が保障する"。
 そう言われて、舞弥は少しばかり戸惑った。
 何しろ、"笑ってほしい"などと願われた経験が一度もないのだ。
 あろうことか、"生きてほしい"に加え"笑ってほしい"とも懇願されてしまった。
 生きる、それだけならまだ可能だが、笑顔を作れなんて無茶な話としか思えない。
 何しろ、切嗣に拾われるそれ以前から、自分の精神は砕け散っているのだから。
 激しい歓喜も、深い絶望も感じられない今のこの身には、笑顔さえ不可能な芸当だ。

『……そう、ですね。善処しておきます』

 ただ、青年のその祈りは、無下にすべきではないのは確かで。
 だから一言、そうお茶を濁すのが精いっぱいだった。


154 : ◆JOKERxX7Qc :2016/01/08(金) 01:53:36 27xBGMEo0

【3】

 その後、ルバーブのタルトに手をつけようとした時であった。
 相席してもよろしいでしょうか、と若い店員に尋ねられた。
 拒む理由もないので、舞弥は二つ返事でそれを承認する。

 数十秒経った後に現れたのは、帽子を深く被った痩せ形の男だった。
 向かいの席に座ったその男は、舞弥に初めましての挨拶をするやいなや、

「……この街はひでえもんだ、そう思わないか?」

 と、ゴッサムシティを蔑む質問を投げかけてきた。
 男の態度に若干の困惑を示しながらも、舞弥は返答を送る。

「治安の事でしたら、同意しますが――」
「そうじゃない。治安なんてソドムやメキシコよりまだマシだぜ」

 何を馬鹿な事を、と言いたげな口調で、男は笑う。
 この時点で、舞弥は目の前の男に警戒心を抱いていた。
 切嗣の道具として傍らにいつづけた故に、察知能力には自信がある。
 その"察知能力"が告げているのだ。前方にいる男性は、恐らくただの一般人ではない、と。

「ああ酷い、酷いもんさ。誰も彼も揃って平和ぼけさ。
 知ってるかい?ほんの少し前、カフェの人間が皆殺しにされたんだとさ」

 直後、何がおかしいのか、男はくつくつと笑いだした。
 更なる危機を察した舞弥の手が、懐のグロック17へと延びていく。
 平穏だった舞弥の周囲の空気が、急激に張り詰めていく。

『……この気配、気を付けろ。サーヴァントだ』

 デストロイヤーの一言に、舞弥は息を呑んだ。
 この街にいる23騎のサーヴァント、その内の一騎が近くにいる。
 舞弥達に気付いてないのか、あるいは既に舞弥達に狙いを定めているのか。
 そして、そのサーヴァントのマスターは何処で何をしているのか。

「実はな、俺は犯人がどんな面してるのか知ってるのさ。
 そいつは……可哀想な奴でよ。事故に巻き込まれて、薬品を頭から被っちまったんだ」

 テーブルに置かれたナプキンで、男は顔を拭き始めた。
 顔に押し当てられたそれは、顔に塗られた肌色の塗料を払拭していく。
 狂人を見つめるかの様な舞弥の瞳は、やがて驚愕の色に変貌する。
 信じられない事に――男の肌は、見る見る内に"白く"染まっていくではないか。

「だからそいつの肌は、スノーマンみてェに真っ白になっちまった。
 これじゃあもうクリスマスにしか働きに行けねえや……男はそう言って、どうしたと思う?」

 帽子を取って、席から立ち上がる。
 男の緑色の毛髪に気付いた客や店員が、表情を驚愕の色に染め上げる。
 白い肌に緑の髪、おまけに貼りつけた狂気の笑みを見れば、誰もが恐怖せずにはいられない。



「楽しそうに笑ってたぜ――こんな風になァ」


 "ジョーカー"の笑みは、真っ直ぐ舞弥に向けられていた。


155 : ◆JOKERxX7Qc :2016/01/08(金) 01:55:34 27xBGMEo0
【COLGATE HEIGHTS /1日目 午後】

【久宇舞弥@Fate/zero】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]サバイバルナイフ、グロック17
[道具]キャリコM950短機関銃、スタングレネード二つ、発煙筒二つ、手榴弾、タブレット
[所持金]不明(少なくはない)
[思考・状況]
基本:聖杯戦争の調査。
 1.他の聖杯戦争参加者と接触する。
 2.危険人物の迅速な排除。
[備考]

【デストロイヤー(加藤鳴海)@からくりサーカス】
[状態]健康
[装備]特筆事項なし
[道具]『怒りと悲しみを覆う笑顔の仮面』
[思考・状況]
基本:舞弥の力になりたい。
 1.今は舞弥の支持に従う。
 2.舞弥にも笑顔になってほしい。
[備考]

【バーサーカー(ン・ダグバ・ゼバ)@仮面ライダークウガ】
[状態]健康、ちょっと上機嫌
[装備]特筆事項なし
[道具]特筆事項なし
[思考・状況]
基本:もっと、もっと笑顔になりたい。
 1.ジョーカーに期待。
 2.少佐の話す"戦争"への興味。
[備考]
※しばらくジョーカーと行動を共にするつもりです。

【ジョーカー@バットマン】
[状態]健康、愉快
[令呪]残り三画
[装備]拳銃(ジョーカー特製)、造花(硫酸入り)、笑気ガス、等
[道具]携帯電話
[所持金]不明
[思考・状況]
基本:聖杯戦争にとびきり悪趣味なジョークを叩き付ける。
 1.?????
 2.バーサーカー(ダグバ)を"腹の底から"笑わせてやる。
 3.バッツに捧げるジョークの下準備も忘れない。
[備考]
※車の中に色々積んでいます。


156 : ◆JOKERxX7Qc :2016/01/08(金) 01:59:15 27xBGMEo0
投下終了となります。タイトルは「Coppélia」でお願いします。
本来の期限を逸脱してしまい、申しわけありませんでした。


157 : 名無しさん :2016/01/08(金) 15:20:02 jS9mpZZo0
投下乙です。
人としての笑顔を捨てた舞弥、笑顔を守るために戦う鳴海、
狂気の笑顔で凶行を繰り返すジョーカー、更なる笑顔を求めるダグバ。
それぞれが何らかの形で『笑顔』に関わってるという構図が印象的。
相変わらず不気味な動きを見せるジョーカーが何をしでかすのか気になるところ


158 : 名無しさん :2016/01/09(土) 00:10:46 /IAjH3pg0
投下乙です
舞弥組は中立でも結構まともな立ち位置のようで何より
舞弥が他の女性鱒より年長だからこその部分と、人として欠損している部分が
ただケーキ食べてるだけの話でも垣間見えて楽しい


160 : 名無しさん :2016/01/09(土) 10:34:32 9wA7nXXk0
投下乙です
会話からもわかるけど、鳴海と舞弥、いいコンビだな
その前に現れたジョーカー、同じ道化でも人々の笑顔のため悪魔と化した下手くそな道化とは似ても似つかぬこの男がどう出るやら…


161 : ◆1k3rE2vUCM :2016/01/30(土) 14:34:23 bNENr7HM0
レヴィ&セイバー(グリムジョー・ジャガージャック)
志々雄真実&ランサー(エスデス)
エンリコ・プッチ
予約します


162 : ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:32:42 dOU9mXCc0
投下します


163 : ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:34:28 dOU9mXCc0



「全ての人間にとって究極の『目標』とは何なのか……解るかな?」



ブラックゲート刑務所、教誨室にて。
テーブルを挟んで座る神父が、目の前の囚人に問いかける。
全ての人間にとっての目標―――哲学的とも言える問いの前に、囚人は何も返せず口籠る。
暫しの沈黙の後、神父は再び口を開いた。


「それは『天国へと行くこと』だよ。
 人生とはいわば終着駅の決められた冒険…誰もがいつかは最後に死を迎える。
 だからこそ人は『天国』を求める……救いを求めるのだ」


黙々と、しかし穏やかに神父は語る。
罪を重ねた咎人たる囚人はその言葉に耳を傾け続ける。
まるで父や師から諭されているかのような心地良さを感じていた。
囚人は目の前の神父の言葉に安らぎを覚えていたのだ。


「しかし、私は数々の罪を犯してきました。
 犯罪組織に属していた私はこの社会の秩序を何度も踏み躙った。
 そんな私に救いは齎されるのでしょうか…?」


囚人は此処に至るまでに多くの罪を犯してきた事を追憶する。
彼は元々マフィアの構成員だった男だ。
時には脅迫し、時には人を殺し、時にはクスリを売り…そうやって数々の犯罪を犯してきた。
そんな過去を悔やんでいた。恥じていた。
ある体験を機に、彼は犯罪から足を洗う事を決意したのだ。
しかし、足を洗ったとて犯した罪は決して消えない。
それ故に神父に問う。自分に救いは与えられるのだろうか、と。


「安心しなさい。例え君が、己の愚かさに苦しんだとしても。
 罪と向き合い、悔い改めれば……慈悲深き父は赦して下さる。
 父は善悪を問わず、全ての者に『救い』の機会を与えて下さるのだ」


対する神父は、柔和に諭す様に『救いの言葉』を述べた。
罪を悔い改めれば、神はそれに応えてくれる。
慈悲に満ちた言葉を、目の前の囚人に語る。


164 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:35:10 dOU9mXCc0

「しかし――――生者は兎も角、死んだ者は誰もが『天国』へ行けるのか?
 ましてや自分の様な悪人は、本当に『天国』へ行けるのか?罪を犯した者は誰もがそう思うだろう」


直後、神父の言葉に僅かな熱が帯び始める。
その変化に気付くこともなく、囚人は話を聞き続ける。


「されど、悪人だからこそ『天国』へ行ける機会があると言える。
 墜ちているからこそ、満たされる事を強く望む。
 愚か者だからこそ、より幸福を強く欲する」


罪人だからこそ、天国をより強く望むことが出来る。
善良なる者は、初めから満たされている。
渇望せずとも既に天国へ行く資格を得ているのだ。
本当に天国を心の底から望むのは、罪を背負った者。
地獄へ堕ちるかもしれない悪人こそが、天国という幸福を強く望むのだ。


「そうやって父は罪人に心を入れ替える機会を与えて下さるのだ。
 罪を悔やむからこそ、『天国』にふさわしい人間となれるよう努力することが出来る」


だからこそ悪人は努力する事が出来る。
地の底から這い上がり、天国へ行く為に己を戒め改心することが出来る。
そうして悪人は過去の罪を洗い流し、善人へと転じることが出来るのだ。

そう語る神父の言葉に、囚人は感銘を受けていた。
犯罪から足を洗い、心を入れ替えようと誓った囚人にとって、神父の言葉は救いそのものだった。


「神父様…」
「君も自らを省みて、そして努力すればいい。
 さすれば君は自ずと『天国』へ行くに相応しい人間となる」


穏やかな微笑を浮かべながら、神父はそう言った。

神父様は自分のような悪人にも救いの言葉を述べて下さる。
悪人であろうと天国へと行くことは出来る。
ならば、善行を摘もう。しっかりと心を入れ替えよう。
もう二度と、あんな体験は御免だ。

囚人は己の心にそう誓い、神父に礼の言葉を述べようと――――――――――――






「――――――『ホワイトスネイク』」





瞬間、囚人の身体が崩れ落ちた。
神父が唱えた奇妙な言葉が耳に入る前に、彼の意識は闇に沈む。


◆◆◆◆


165 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:36:05 dOU9mXCc0


(聖杯戦争の参加者として立ち回り…尚かつ神父としての職務もこなす…
 些か面倒なのは確かだが、仕方無いことでもあるか…)


教誨の時間は唐突に終わりを告げる。
この時間も所詮は『ロール上の職務』に過ぎない。
故に囚人への感傷を覚えることなど無い。
神父は崩れ落ちた囚人を無感情に見下ろし、片手に持ったDISCを自身の頭へと『挿入』する。


(さて…まずは一人目)


神父――――エンリコ・プッチは、心中でそう呟く。
彼のスタンド『ホワイトスネイク』は記憶とスタンドをDISCに変えて奪う能力を持つ。
それによってプッチは囚人の記憶の一部を奪い、彼が体験した出来事を読んでいたのだ。

記憶を抜かれた囚人は気を失い、物言わぬ人形の如く地面に横たわっている。
刑務所内で一定以上の権限を持つプッチは教誨を受けに来る囚人の情報、犯罪歴を大まかに把握していた。
その中でも『めぼしい件』に関わった者に目をつけ、こうしてホワイトスネイクで情報を引き出すという魂胆だ。
囚人のプライバシーやリラックスの為といった名目で教誨の部屋に監視カメラは取り付けられていない。
更にプッチは職員達からの信頼が厚く、そのことも教誨室に監視の目が付けられない要因の一つとなっている。
だからこそ遠慮無くスタンドを使い、囚人を気絶させることが出来る。

職員や囚人からの信頼の厚い教誨師――――思えば、本来の世界で務めていたG.D.st刑務所での役割に似ている。
刑務所内を殆ど顔パスのみで通れるという点においても元の世界と同様だ。
この世界で与えられる役割とは、元の世界での役職や権力が少なからず反映されているのだろう。
プッチはそんなことを思った後、目をつけた情報について今一度纏めることにした。

余りにも暴力的な侵略を繰り返す『新興勢力のマフィア』。
優れた実績とリーダーのカリスマ性によって着々と勢いを伸ばしている自警団『グラスホッパー』。
過激な私刑行為を繰り返し、警察からも敵視されている『二人の覆面男』。
夜間に姿を現し、犯罪者を取り締まるという『ブルーラインのコスチュームを身に纏ったヒーロー』。
この街で指名手配されている少女『ヤモト・コキ』。

プッチが怪しいと感じている件は主にこの5つ。
このゴッサム・シティは仮想空間だ。
ロールに従い、己の『役割』をこなすNPCによって構成される偽りの街。
そんな中で彼らは余りにも異質な行動を取っている。
ゴッサムが犯罪都市である事を加味しても、彼らの存在は非現実的とさえ感じられる。

マフィアやゴロツキが山ほどいる犯罪都市で自警団と私刑人が活躍―――そんな連中、普通ならばすぐに潰されるのがオチだ。
暴力によって勢力を拡大させる新興勢力のマフィア―――噂を耳にしているが、その動きは余りにも急速すぎる。
橋を破壊してでも警察から逃げ続けているという指名手配犯――――10代後半程度にしか見えない少女にそれだけの事が出来るのか。
その上彼らはいずれも最近になって活動が更に活発になり、噂も広がっていたのだ。

その点からプッチは推測する。
自分がマスターとしての記憶を取り戻し、聖杯戦争で勝つ為の行動を取り始めたように。
彼らの中でもマスターとして覚醒し、より精力的に動き始めた者がいるのではないか。
確証は無いが、手探りで他の参加者を探さざるを得ない現状において数少ない手掛かりだった。


166 : ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:36:45 dOU9mXCc0

(『包帯のサムライ』……そして『軍服の女』………)


直後、プッチは驚愕する。
彼がDISCで読んでいたのは足下で横たわる囚人が逮捕される少し前の記憶だ。
先も述べた様に、此処最近になって台頭してきているマフィアの『新興勢力』がある。
この囚人は彼らと敵対し、潰された組織の一員である。
彼は新興組織の強襲から奇跡的に生還したものの、その後逮捕されこの刑務所に収監された。


囚人は記憶していた。
たった二人で事務所に乗り込み、ギャングを蹂躙していく苛烈な男女の姿を。
超人的な動きで銃弾の雨を防いでいく『女』の姿を!


彼がその光景を見ていたはごく僅かな時間だった。
この囚人は一目散に現場から逃げ延び、奇跡的に命を拾ったらしい。
その時の凄まじい恐怖によってこの囚人は犯罪から足を洗うことを決意し、心を入れ替えようとしていたようだ。
プッチへの絶大な信頼もそれに起因するものらしい。


(こうして記憶を介して見るのは初めてだが、やはり知覚できる!
 この女が『サーヴァント』であると理解することができるッ!)


記憶とは過去の経験を保持したデータというべきものだ。
それを自らの脳内で『読む』と言うことは、他人の経験を感覚的に知ることに等しい。
だからこそ彼はその記憶の中の人物について感じ取ることが出来る。
あの『軍服の女』がセリュー・ユビキタスの同類であると認識している。
スタンドという異能力を持ち、通常の人間よりも魔力に敏感なプッチだからこそ理解出来た。

やはりそうだったか、とプッチは心中で思う。
これならば急速な勢力の拡大も頷ける。
件の『新興勢力』は頭領がマスターであり、自らのサーヴァントを用いて敵対組織の縄張りを侵略しているのだ。
人知を超えた存在であるサーヴァントを侵略の兵器として使えばどうなるのか。
その答えは簡単――――――『敵無し』だ。
どれだけ武装したマフィアであろうと、サーヴァントの前には赤子にも等しいのだから。


(敵の情報は得られた…これだけでも収穫と言えるだろう)


プッチは『ホワイトスネイク』を操り、自身の頭部から囚人の記憶DISCを引き抜く。
スタンドは記憶DISCに少しの間触れた後、気絶している囚人の頭部に再びそれを挿入した。

本を読んで内容を頭に叩き込むのと同じ様に、既に囚人の記憶の内容は自分の頭の中に入れている。
最早記憶DISCは必要無い。されどこのまま彼を処分すれば職員から何かしら怪しまれるだろう。
故に囚人にDISCを再び挿入し、彼を目覚めさせることにしたのだ。

DISCに『命令』を書き込むことで気絶する直前の記憶に細工をしている。
それによって囚人は「プッチに何かをされた」ということを思い出せず、その認識すら覚えることはない。
じきに目を覚まし、せいぜい「少し意識が曖昧だ」といった認識を抱く程度で教誨室を去ることだろう。

尤も、前述の通り少しでも違和感を覚える可能性は高い。
それ故に記憶を読む囚人は限定するつもりだ。
先程も述べた様に、めぼしい経歴を持つ囚人のみを狙う―――――それが神父の魂胆だ。


(それにしても…既に数組の主従が脱落しているらしいな。
 今はこうして役職をこなせているが、いつそれが崩れるかも解らない。
 それに、この街にはルール違反を犯しているサーヴァントの殺人鬼も存在するらしい…
 恐らく例の『コールタールのようなモノで人を殺す殺人犯』だろうが…警戒せねば…)


神父は気を引き締める様に心中で呟く。
彼は未だ気付かない。否、気付く筈が無い。
囚人の記憶を介して知覚したサーヴァントが、己の従者――――セリュー・ユビキタスのかつての上官であると言うことに。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


167 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:37:34 dOU9mXCc0


武器を揃え、蹂躙を繰り返し、敵を支配し。
幕末の乱士は異邦の地で戦火を広げていく。
地獄に堕ちて尚、彼の野心は留まることを知らない。
力によって敵を討ち滅ぼし、踏み躙り、征服する。
彼は彼のままに――――志々雄真実として、振る舞う。

強き者が勝ち残り、弱き者が死ぬ。
勝ち残った者は富と権力を勝ち取る。
敗残した者は地の底で這いつくばる。
戦いすら放棄した者は、泥を餌に死体の如し生き様を晒すのみ。
この街は、この戦争は、まさに彼が望んだ弱肉強食の縮図そのものだ。

事務所の一角、頭領の部屋にて。
椅子にどっしりと腰掛け、時代錯誤な煙管を口に銜えながら志々雄は思慮する。
組織の運営や管理は主に側近である佐渡島方治に担わせている。
頭領である志々雄の主な役目は侵略の指揮、そして聖杯戦争の対策だ。
正午の通達曰く、既にセイバー・アーチャー・キャスターの三つの陣営が脱落しているという。


(アーチャーと言やあ、あの餓鬼共々俺達に負けた雑魚か)


志々雄は記憶の片隅より過去の出来事を思い返す。
彼は以前、犯罪組織を潰して回っているという若きマスターと戦った。
多少の武術の心得はあったようだが、所詮は弱者に過ぎなかった。
そのサーヴァントであるアーチャーもまた、志々雄の従者たるランサーの凄惨な暴力の前に蹂躙された。
彼らに対して思う所など一欠片も無い。
せいぜい「そういえば以前にそんな弱者共がいた」といった程度の認識だった。


(まあ、あんな雑魚共のことはどうでもいいがな。
 気になるのはセイバーとキャスターとやらも脱落したということだ)


志々雄はすぐにそちらの件へと思考を切り替える。
アーチャーは自分達が殺した。しかし、セイバーとキャスターとやらの存在は捕捉していない。
志々雄達の把握していない所で、既に別の戦いも始まっていたと言うことだ。
あの通達を伝えたサガラとかいう男曰く、『喧嘩早い連中に目を付けられたのが運の尽き』。
自分達以外にも早々に戦闘を仕掛けた主従が他にも居るのだろう。


168 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:38:16 dOU9mXCc0

(あの少佐が言ってやがった『果実を纏う』とかいう野郎…
 それに、此処最近になって俺の縄張りを嗅ぎ回ってる『赤覆面』とやらも気になる)


怪しい事案は幾つか存在するが、中でも志々雄の興味を引くことがある。
一つは同盟者であるネオナチの少佐から聞いた『果実を纏う戦士』という存在。
UPTOWNで存在が確認され、彼の活躍で一部地域の治安が改善されたという。
果実を纏って戦うという荒唐無稽な情報からして、その者が単なる街の住民であるとは思えない。
聖杯戦争に関わる者である可能性は極めて高いと言える。

もう一つ、赤い覆面の私刑人。
最近に姿を現し、志々雄の縄張りで暗躍しているという。
奴には部下も何度か殺されている。
自分達の組織に明確な敵対意識を持っているのは間違い無いと志々雄は考える。
たった一人でマフィアを敵に回し、今も尚戦い続けている男――――その度胸と実力には興味がある。
志々雄は思う。面白い、一度この目でそいつを見定めてみたい、と。


(それに、蝗“バッタ”共か…)


そして、彼が特に警戒する事案。
それはグラスホッパーという自警団の存在。
ある時から突然姿を現し、優れた統率と行動力によって急速に勢力を伸ばしているという連中。
ただのガキ共の警察ゴッコかと思えば、今やその勢いはマフィアさえ畏れる程だという。
現に彼らの活躍で勢力を衰えさせているマフィアも存在しているという。
志々雄はある意味でグラスホッパーと自分達が似通っているとも思っていた。
どちらも『ある時を境に姿を現し、この街の勢力図を急激に塗り替えていった新興勢力』なのだから。
正義と悪。その立場は真逆だが、自分と似通ったモノを感じずにはいられない。
自分と同じ様に、マスターが組織を統率している可能性も有り得る。
故に志々雄は警戒する。この街で最も勢いのある『正義の集団』を。



「――――終わったぞ、志々雄」



直後、室内に唐突な声が響く。
次の瞬間、志々雄の目の前に霊体の如く『軍服の女』が姿を現した。
ランサーのサーヴァント、エスデス。
志々雄の従者にして、このマフィア組織における鬼札とも呼べる存在。
その衣服は浴びてから間も無い返り血によって汚れていた。


169 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:38:47 dOU9mXCc0


「で、どうだった」
「暇潰しにはなったさ。簡単に壊れてしまったがな。
 しかし、奴の口から大した情報は引き出せなかった」
「そうかい、やっぱり『ハズレ』という訳か」


今朝、組織の周辺をこそこそと嗅ぎ回っていた男を志々雄の部下が捕らえていたのだ。
男はその後ランサーの下へと回され、口にするのもおぞましい凄惨な拷問を受けた。
彼女の返り血はその時に出来たものである。

尤も、拷問によって引き出せた情報はいずれも大したものではなかった。
精々捕らえた男が敵対する弱小マフィアの構成員であり、逆転の機会を狙って志々雄の組織の周辺を嗅ぎ回っていたという程度だ。
既にその組織は志々雄の侵略によって壊滅寸前にまで追い詰められている。
そんな連中に嗅ぎ回られた所で何になる。
圧倒的な勢力の前では小手先の搦め手など無意味だ。

志々雄が求めていたのは敵主従の情報だ。
自身と同じ聖杯戦争のプレイヤーに関する情報を彼は欲していた。
それ故に自身の周辺で調べ回っていた男を拷問して吐かせたのだが、『ハズレ』だったようだ。
尤も、所詮は低い可能性にほんの少しだけ賭けてみたのみ。
元よりあの男に対し、情報源としての期待はあまりしていなかった。


直後、ランサーが何かを感じ取った素振りを見せた。
意識を集中させる様に虚空を見つめる。
暫しの間、沈黙を貫き。
そして、不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。


「奴はハズレだったが……喜べ。どうやらすぐにでも情報は掴めそうだ。
 否、情報と言うよりも追い求めていたそのものというべきか」
「つまりそれは――――『同類』って訳か?」


ランサーの発言に対し、志々雄は何かを察した様に呟く。
流石は察しが早いとランサーは嬉しげに微笑し、霊体化を行い始める。
どうやら態々情報を集めるまでもなく、『敵』が近付いてきたのだという。
これも同じサーヴァントの気配を察知する能力によるものか。
ククッと傲岸な笑みを浮かべながら、志々雄は消えゆく従者に言葉を掛ける。



「ランサー、『同類』はお前が好きにやれ。俺が許可する。
 その代わり、そいつの片割れは俺が探す」
「了解だ、我が主」



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


170 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:39:14 dOU9mXCc0

頭領から命じられたのは、CHINA BASIN周辺の偵察だった。
『不審な行動をしている者、あるいは身体に奇妙な紋様が入っている者を探せ』とのことだ。
今朝になって敵対組織のネズミが捕らえられたのを皮切りに、本格的な炙り出しに入ったのだろう。
しかし、奇妙な紋様が入っている者とは一体何なのだろうか。
新手のタトゥーギャングでも現れたのか――――兎に角、そんな連中を探し出せというのが指令だった。
手を出す必要は無い。発見次第すぐに連絡を寄越し、追跡をしろという命令だった。

外で見回りをしていたチャカもまた、そんな命令が下された『下っ端』の一人だった。
任される仕事と言えばこういった使い走りが殆どだったが、今の彼はそれに対する不平を漏らさない。
志々雄真実という男のカリスマの前に、彼の野心はへし折られたのだから。
最早彼の捨て駒として使われることにさえ疑問を抱かない。
今のチャカは、無様な負け犬に過ぎなかった。


「…何だ、こりゃ」


閑静な街中を歩く中で、ふと視線を横に向けた。
その先にあったもの。
それは路地の奥底で茂る、奇妙な植物だった。

視界に映ったモノに、チャカは自然と惹かれていた。
夢遊病者の様にふらふらと路地裏へと足を踏み入れる。
引き寄せられるかの様に、奥へ、奥へと進んでいく。
奇怪な植物が繁殖する路地の奥底で、彼は立ち止まる。


「すげえ……美味そうだ」


彼の足下に在ったもの。
それは植物から成っている錠前の様な果実だった。
目をぎらつかせながら、チャカはその場で膝を突く。
果実をもぎ取り、己の手に取る。

チャカは涎を垂らし、食い入る様に果実を見つめていた。
まるでクスリを前にした薬物中毒者の様にもぎ取った果実に見蕩れていた。



食いたい。食いたい。食いたい。
この果実を食いたい。
なんて美味そうなんだ。
食っちまいたい。
食っちまえ。
食っちまえ。
食っちまえ。
食っちまえ――――――――――



牙を抜かれた哀れなチンピラが、禁断の果実へと一心不乱に食らい付く。


◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


171 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:39:43 dOU9mXCc0


最早見慣れてしまった街並を退屈げに眺めながら、女は歩道を歩く。
大都市の外れに位置するこの地域は比較的治安が悪い。
表向きは普通の街並であっても、その裏では犯罪者が蠢いている。
此処は溝に浸かりきったかのように穢れている。
悪という異臭が漂い、犯罪者という蟲共が蜜を啜る為に這い回っている。


殺し屋の女、レヴェッカ・リー――――レヴィもまた、そんな連中の一員といえる存在だった。
彼女もまた、数々の犯罪を犯してきた一端の悪党だ。


まともな青春を送った過去も、真っ当な世界で暮らしてきた記憶も、彼女には在りはしない。
幼い日から彼女の世界は死人で埋もれた地獄だった。
そんな地獄の中で生きる為に此処まで来た彼女に、まともな道徳心などある筈が無い。
彼女は悪党だ。力こそ、銃こそが全てと信じる悪人だ。
故に彼女はこの街に嫌悪を覚えることは無い。
元より生まれ育った世界と、此処は何ら変わりはしないのだから。
此処は死人の歩く街だ。死臭が充満した地獄だ。
そこに人が居る限り、悪党が居る限り、仮装であろうと現実であろうと世界の本質は変わらないのだ。


(結局、大した収穫も無しかよ)


チッと舌打ちをしながら、レヴィは手元の手配書を睨む様に見つめる。
件の賞金首、『ヤモト・コキ』に関する有力な情報は未だに得られていない。
近辺の酒場等を通じて情報収集を行ったものの、結果は振るわずだ。
レヴィは殺し屋としての実力こそ優れているものの、あくまで自由契約の身に過ぎない。
人脈という点においては組織的な犯罪者に大きく劣る。

思えば、フリーランスの殺し屋という役職は少々不便だとレヴィは思う。
ダッチのようにビジネスを取り仕切り、外部との顔も利く上司は居ない。
ベニーのような情報収集に長けるハッカーも居ない。
認めてやるのも癪だが、ロックのような交渉に長ける使い走りもいない。
ラグーン商会の有り難みが此処に来て解るとは思うもしなかった

だが、与えられた役割は役割だ。
気に食わないが、不平に愚痴を零した所で状況が変わる訳でもない。
今はプロの殺し屋として仕事を果たす。それだけだ。
それに、あのヤモトとやり合うこと自体を楽しみにしている節はある。
子供でありながらマフィアや警察から逃げ続け、剰え橋さえも崩落させたという異常現象を引き起こした相手だ。
そんな相手と殺し合える。トゥーハンドとして血が滾るのは当然だった。


172 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:40:12 dOU9mXCc0

(橋をブチ落とすなんてふざけた芸当やらかした時点で、ヤモトってガキがマスターの可能性は高いだろうが…
 後はアテ無』。現時点で参加者だって確定してんのは、あのサガラとかいう野郎が言ってた殺人鬼くらいか)


擦り寄ってきた物乞いの浮浪者を睨みつけて追い払い、レヴィは思考を続ける。
サーヴァント探しに関しては殆ど相棒に依存している。
自分はこうしてシラミ潰しの情報収集をするくらいしかアテがない。
面倒なモンだとレヴィは内心悪態をつく。
この聖杯戦争、敵に関する情報が全くと言っていい程与えられていないのだ。
ヤモトのように依頼の標的ならばまだマシだが、奴でさえあくまで『敵の一人と思わしき相手』にすぎない。
奴以外にも、素性も居場所も解らない20組前後の主従が未だこの街で息を潜めているのだ。


(…少なくとも、ヤモトって野郎を殺るのは確定だ。
 折角のダックハントだからな…マスターだろうがそうじゃなかろうが関係ねえ)


レヴィの中で、一先ずヤモトを仕留めることは確定事項となっていた。
マスターである可能性が高いと言うのもあるが、先も述べた様に異常な存在である彼女と殺り合うこと自体を望んでいるからだ。
それにハントの成功報酬として相当な額が用意されているとも聞く。
この街での生活資金として頂いて損は無いだろう。

その為にも、連中よりも先にヤモトを探し出す必要が在る。
やはりDOWNTOWNでの情報収集には限界があるか。
自分のテリトリーから離れるのは少々面倒だが、北へと行く必要が在るかもしれない。



《なあ、相棒――――》
《レヴィ》



レヴィの念話での呼びかけを遮る様に、セイバーの念話の声が頭に響いてきた。
少々苛立ちを覚えつつ眉を顰めたが、黙って彼の言葉を聞くことにした。



《居たぜ、お仲間がよ。どうやら向こうさんも俺に気付きやがったらしい》


173 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:41:17 dOU9mXCc0

直後、レヴィの口元に笑みが浮かぶ。
セイバーはレヴィの周辺で『探査回路』を駆使し、魔力の気配を探っていた。
ここまで一向に収穫は無かったが、ようやくお仲間を見つけられたらしい。


《だがレヴィ、お前は来るな》
《あ?》
《悪いが、サーヴァント同士の戦闘になる可能性が高ェんだよ。
 お前の気性は気に入ってるが、下手に首突っ込まれて死なれても困るんでな》


セイバー曰く、マスターらしき気配は探れてないとのことだ。
こちらに気付いているのはあくまでサーヴァントの気配のみ。
恐らく姿を現してくるのはサーヴァントだけだろう。
サーヴァント同士の戦闘になる可能性が高い中で、下手にマスターを連れて行くことを嫌った。

セイバーにとってはマスターであるレヴィに対する配慮という意味もある。
しかし、同時に彼女が『足手纏い』になる可能性も考えてのことでもあった。
トゥーハンドの異名を取るレヴィの戦闘力は人間としては卓越している。
それでも『ただの銃』では霊体であるサーヴァントを殺せない。
身体能力においてもサーヴァントは人間を上回っている。
つまるところ、ただの人間ではサーヴァントに勝ち目など無い。
サーヴァント同士の戦いにおいて、武装した程度の人間が出る幕など無いのだ。


「…ったく、つまらねェな」


念話を切られ、レヴィは悪態を零す。
ようやくブラッド・パーティーに殴り込めるかと思っていれば、結局は一時待機だ。
セイバーの話から、サーヴァントに喧嘩を売った所で勝ち目は無いと言うのは解っている。
初めから勝ち目の無い相手と殺り合おうなんて考える程、レヴィは愚かではない。
しかし、それでもやはり不服だった。
血塗れた戦いに自分の生き甲斐を見出す殺し屋にとって、戦いで出る幕が無いと言うのは不満という他無かった。
せめてマスターが見つかれば、殺し合いの一つや二つ出来るのだろうが―――――



「……あ?」



思考の最中、廃れた路地に悲鳴が響くのを耳に捉えた。
直後、逃げ惑うチンピラや浮浪者がレヴィの眼前を横切る。
連中の様子を見るに、ただの喧嘩――――という訳ではなさそうだ。


174 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:42:24 dOU9mXCc0

(…路地裏か?)


不審に思ったレヴィは息を潜めつつ、ゆっくりと路地裏を覗き込む。
壁に大量に張り付いていたのは血痕だった。
目視した限りでは、まだ生まれてから間もない痕と見える。

レヴィは更に、路地裏の奥へと目を向ける。
瞬間、彼女は目を見開いた。
未知の存在を前に、驚愕の表情を浮かべた。


彼女が目にしたモノ。
それは大口径のリボルバー拳銃を片手に握った、『化物』だった。


化物の足下に転がっているのは、全身を引き裂かれた上に銃で撃ち抜かれた死体。
恐らく、そこいらの浮浪者か何かだろう。
街に突如現れた怪物が人々を襲う――――まるでB級映画の世界だ。
レヴィの頬から汗が流れ落ちる。

蒼い蟲のような外殻に身を包んだ異形は、ゆっくりと顔を上げる。
そして―――――レヴィの方へと視線を向けた。
気配を察知したのか。
そのまま化物はガンマンさながらに銃を構え、レヴィの隠れ潜んでいる方を睨む様に見つめた。



(………ガンマン気取りかよ、糞袋野郎)



相手は既にこちらの存在気付いているらしい。
それを察知したレヴィは内心で悪態をつきつつ、腰に収めた愛銃―――ソード・カトラスに手を掛けた。
あの化物がセイバーの言っていた『使い魔らしき化物』なのだろうか。
兎も角、存在に気付かれた以上今はあの化物に対処するしかないだろう。
もし勝ち目が無ければ、癪だが逃げるしかない。
尤も、逃げることが出来ればの話だが。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


175 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:42:57 dOU9mXCc0

この街は溝に満ちている。
野心というものを捨て去った死人共が地を這い、地獄を謳歌している。
そんな世界に、セイバー――――グリムジョー・ジャガージャックは苛立ちを覚えずにはいられなかった。

マスターは死人であることを受け入れた。
地の底で這いつくばり、地獄の住民となることを許容した。
グリムジョーにはそれが理解出来なかった。

豹の如く荒々しい眼差しを持ちながら、何故高みへと昇ろうとしない。
お前は諦めを許容したこの街の死人とは違う。
地の底から這い上がる力と意思を持つ、強い女ではないのか。

グリムジョーはレヴィへの苛立ちを覚えると同時に、彼女を気に入っていた。
彼女が持つ獣の様な瞳に可能性を感じていた。
あの女は強い者だ。決して地の底で這いつくばるようなタマではない、と。
聖杯を勝ち取り、天下を取る―――――それだけの野心を抱えるに相応しい器があの女には在る筈だ。
故にグリムジョーはある種の願いを抱く。
己のマスター、レヴェッカ・リーが『這い上がる意思』を手にすることを望んだ。
レヴィにとっての聖杯を単なる通過点に終わらせるには、余りにも惜しいと感じたのだ。


グリムジョーは、ゆっくりと廃ビルの屋上へと降り立つ。
腰に差していた刀を抜き、視線の先に立つ相手を見据える。


「――――御機嫌よう、我が同類よ」


視線の先で仁王立ちしていたのは、白い軍服姿の女だった。
その口元には不敵な笑みが浮かび、真っ直ぐにグリムジョーを見据えている。
妖艶な女でありながら、その身から放たれる殺気は本物だった。
百戦錬磨の猛者と呼ぶに相応しい程の気迫を纏い、女は待ち構えていたのだ。


間違い無く強者だ。
目の前の女の気迫を感じ取り、グリムジョーの口の端も自然に吊り上がる。
ようやく、退屈が凌げそうだ。


「クソッタレな街で、イライラしていた所だ」
「この街に苛立っていただと?それは驚きだな」


グリムジョーが吐き捨てた言葉に、女は微笑しつつ呟く。
彼はこの街を死人の救う地獄と認識していた。
成長を諦めた蟲共が地を這い、塵を喰らいながら生きている無様な世界だと感じていた。
しかし、女はこの街に異なるモノを感じていた。



「弱き者が地を這い、強き者が君臨する――――――最高の街ではないか」



弱肉強食。
強い者だけが勝ち残り、支配出来る――――戦乱の街。
ランサーのサーヴァント、エスデスはそう言い放ち、己のレイピアを抜いた。


176 : DOWNTOWN TIMES ◆1k3rE2vUCM :2016/01/31(日) 15:44:23 dOU9mXCc0

【DOWNTOWN UPPER WEST HILL(ブラックゲート刑務所)/1日目 午後】
【エンリコ・プッチ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]黒みがかった紫色の法衣
[道具]ホワイト・スネイク
[所持金]数万円程度の所持金
[思考・状況]
基本:天国の達成
1. 引き続き刑務所で情報を集める
2. 志々雄真実とそのサーヴァントに警戒
3. セリューとどう付き合おうか
[備考]
※この世界での役割は、教会の神父であると同時に、BLACKGATE PRISONの教誨師です
※DOWNTOWNのBLACKGATE PRISONへと向かう準備をしています。この時セリューは連れて行きません
※クリスマス・イヴ、クリスマスに盛大なミサを行う予定が入っています
※ジョンガリ・Aに対しては参加者なのではと言う警戒心を抱いています
※志々雄真実とランサー(エスデス)の外見を知りました。
※教誨を受けに来た囚人の情報や犯罪歴を把握し、めぼしい者の記憶を『ホワイトスネイク』で読んでいます。


【DOWNTOWN CENTRAL HEIGHTS/1日目 午後】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]不機嫌
[令呪]残り三画
[装備]ソードカトラス二丁
[道具]特筆事項なし
[所持金]生活に困らない程度
[思考・状況]
基本:とっとと帰る。聖杯なんざクソ喰らえだ。
 0.目の前の化物に対処。
 1.当面は優勝を狙う。
 2.面倒だが、情報収集の為に北上することも考える。
 3.ジョンガリの野郎がムカつく。
[備考]
※同業者のジョンガリとは顔見知りです。
※インベス化したチャカを発見しました。
外見はカミキリインベスに酷似していますが、大口径のリボルバー拳銃で武装しています。

【セイバー(グリムジョー・ジャガージャック)@BLEACH】
[状態]健康
[装備]斬魄刀
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:立ち塞がる敵を一人残らず叩き潰す。
 1.目の前のサーヴァント(エスデス)と戦う。
 2.この街が気に喰わない。レヴィには這い上がってほしい。

【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]健康
[装備]レイピア
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を愉しむ。
 1.目の前のサーヴァント(グリムジョー)と戦う。
 2.志々雄の国盗りに協力してやる。
[備考]
※志々雄の組織による征服行為に参加しています。


【DOWNTOWN CHINA BASIN(マフィアの事務所)/1日目 午後】
【志々雄真実@るろうに剣心】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]無限刃
[道具]特筆事項無し
[所持金]豊富
[思考・状況]
基本:聖杯を盗り、国をも盗る。
 1.マフィアの規模を拡大していく。
 2.自身の部下を駆使し、情報を集める。
 3.「果実を纏う戦士」への興味。
[備考]
※組織の資金の五分の三を銃火器の購入に費やしています。
※ミッドタウンにあるチャカ達の拠点を征服しました。
 また、これ以外にも幾つものマフィアを制圧しています。

※CHINA BASINを中心に志々雄の部下複数名が偵察を行っています。
不審な動きをしている者、マスターと思わしき者を優先的に捜索しています。
既に何らかの情報を掴んでいるかもしれません。


177 : 名無しさん :2016/01/31(日) 15:44:41 dOU9mXCc0
投下終了です


178 : 名無しさん :2016/02/01(月) 12:51:34 5zHuZgb.0
投下乙です
プッチはロールとスタンドを使って効率的に情報を集めているのは流石といったところ
レッドフードの存在に気づいた志々雄、今後どう動くか気になる


179 : 名無しさん :2016/02/01(月) 22:59:35 3LYENX7c0
投下乙です
ついに人間対インベスが実現かー
それも、元がレヴィと戦いたいとかなんかそんな感じのこと言ってたような気がするチャカ
こんな奴でも明らかな脅威だけど、実力で倒せたらGJJJも見直すかな


180 : ◆WRYYYsmO4Y :2016/02/05(金) 02:15:34 FfrxVTQA0
投下乙でございます。

・Heart to Heart
 死の恐怖を経て、聖杯戦争と向き合う決心をしたみくにゃん。
 人々に愛される、あるいは恐怖される偶像という共通点には唸らされました。
 少しだけども距離の縮まった二人、彼等の行く末に注目せざるを得ません。
 そしてみくにゃんの中で美化されてるミッチ、彼女が彼の本性に気付く日は来るのかどうか。

・Justice League
 シェリルのライブに犬養とスタンが絡む事に。
 やって来るであろうデスドも相まって、会場が修羅場と化す予感。
 一方、ディックがジョーカーとバッツの存在に気付いてしまったようで。
 バッツの現状を知る事は、彼にとって幸福なのか不幸なのか……。

・DOWNTOWN TIMES
 強制的に情報を手に入れられるホワイトスネイクはやはり便利。
 プッチ以外にも言える事だけども、ロールを上手く活用していますね。
 そしてエスデスはグリムジョーと、レヴィはチャカもといインベスとの戦闘に突入。
 志々雄もレヴィを狩りに動く様子で、この戦闘は如何なる結末を迎えるのやら。

広川剛志&アーチャー(エシディシ)
オズワルド・コブルポッド&セイバー(後藤)
予約します。


181 : ◆JOKERxX7Qc :2016/02/05(金) 02:17:30 FfrxVTQA0
トリ間違ってました


182 : ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:48:18 GcT/ZFAs0
投下します


183 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:48:47 GcT/ZFAs0
【1】


 寺原は激怒した。必ず、かの残虐非道の小娘を除かねばならぬと決意した。
 寺原は<令嬢>の長である。薬を売り、女と遊んで暮して来た。
 けれども実の息子に対しては、人一倍に敏感であった。

「嗚呼、息子よ……愛しい我が息子よ……!」

 <令嬢>オフィスの社長室。そこで寺原は、独り涙を流していた。
 特注の椅子に腰かける彼の視線は、机の左部に置かれた写真立てへ向けられている。
 その写真立てには、悪辣な笑みを浮かべる柄の悪い青年の姿が収められていた。
 この教養とは無縁そうな青年こそが、今は亡き寺原の息子である。

 この寺原という男は、傍から見れば異常に見える程の子煩悩である。
 その溺愛ぶりときたら、自分の息子の犯罪を平気で揉み消すくらいだ。
 ゴッサムにおいてもその愛情は相変わらずで、寺原自分の息子を好き勝手遊ばせていたのだった。

 そんな息子が、久しぶりに日本の女で遊んでみたいと言い出した。
 此処で言う「遊ぶ」とは、死ぬまで玩具として凌辱するという意味である。
 そんな息子の下賤な願望でさえ、寺原は二つ返事で承諾してしまった。
 あろうことか、この男は<令嬢>の権力を利用し、日本から女を調達してきたのだ。

 誘拐してきた少女には、息子の快楽の犠牲になってもらうとしよう。
 これも全ては息子の笑顔の為。その為ならどんな犠牲も惜しくない。
 一切の罪悪感を覚えぬままに、寺原は女一人を息子にプレゼントしたのであった。

「何故だ……私より先に逝った……!?よりにもよってあんな女如きに……ッ!」

 が、それがいけなかった。
 結果として帰ってきたのは、息子の笑顔ではなく死に顔であった。
 情報によれば、彼は少女の逆襲に遭い、頭を撃ち抜かれて射殺されたのだという。

 息子の凶報を聞いた途端、寺原は絶望の何たるかを身を以て知った。
 大切なものが奪われ、自分の心にぽっかりと穴が開いた様な感覚。
 これまで多くの他者に与えてきた絶望とは、こういうものだったのか。

 ひとしきり絶望を堪能した後、込み上げてくるのは怒りであった。
 一体どうして、自分の息子が理不尽な死を遂げねばならないのか。
 我が息子程素晴らしい人間が、どうして命を奪われなければならないのか。


184 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:50:08 GcT/ZFAs0

「許さん……!絶対に許さんぞ……!逃げれると思うな売女め……ッ!」

 そう、全てはあの女が――ヤモト・コキが悪いのだ。
 彼女が下手な抵抗さえしなければ、息子は死なずに済んだというのに。
 平気で人殺しをする女と知ってさえいえれば、最初から攫わなかっただろうに!

 だが、彼女の命が潰えるのも、最早時間の問題だろう。
 汚職警官を利用し、指名手配犯に仕立て上げる事で逃げ場を失くし。
 大量の報酬で釣り上げた殺し屋達で、確実にヤモトを仕留めるのだ。
 言うなれば、今のヤモトは狩りの標的にされたバンビも同然である。

 それに、ハントに参加している殺し屋の中には、あのトゥーハンドがいると聞くではないか。
 気性が"豹"の様に荒く激しいらしいが、ゴッサムの殺し屋でも上位の実力だと聞いている。
 そんな女まで参加しているのだ、ヤモトの死は確定したようなものだろう。

 だが、そうしてヤモトの復讐を果たしたとしても。
 溺愛していた息子はもう、二度と自分に笑いかけてはくれないのだ。
 その残酷な事実が、寺原の瞳から大粒の涙を零させるのであった。

 そんな中、机の右部に置かれた内線が着信音を鳴らし始めた。
 寺原は慌ててスーツの袖で涙を拭うと、受話器を手に取った。
 内線からは、<令嬢>の幹部――比与子の声が聞こえてきた。

「……私だ」
「社長、シュレック氏が到着していますが、如何なさいますか?」

 比与子の言葉通り、寺原にはマックス・シュレック氏との対談の約束があった。
 腕時計に目を向けると、なるほど対談の時間がすぐそこまで迫ってきているではないか。
 息子の死を思い出し激情に駆られていたせいで、時間の流れを忘却してしまっていたのだろう。

 マックス・シュレックと言えば、ゴッサムでも有数の名士である。
 最近では原子力発電所を建てると躍起になっており、行政を悩ませているのだとか。
 更にこの男、己の野望を果たす為、寺原の様な悪党をも利用する魂胆でいるのだ。

 恐ろしい野心家だと身動ぎする反面、これはチャンスだと寺原は考えている。
 もし彼が原発を通じてゴッサムの生命線を握れば、<令嬢>にもそれ相応の恩恵が来るだろう。
 何しろ、シュレック氏の計画性交の一端を担ったのだ、お零れが無い方がおかしい。

 もうしばらく息子の死を嘆いていたいが、だからと言って事業を捨て置く訳にもいかない。
 今は厳格な<令嬢>の社長として、シュレック氏との会合に臨むとしよう。

(そういえば、ヤツも同伴しているのだろうか)

 「ヤツ」というのは、市長選に立候補した醜悪な怪人の事だ。
 オズワルド・コブルポット、だったか。あの風袋の下劣さは我慢ならないものがある。
 出来る事なら、シュレック氏一人で来ていてほしいものなのだが。


185 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:50:37 GcT/ZFAs0

【2】


「いや済まなかった!五分前に来るべきなんだろうが、何分忙しくてな!
 本当は十分前に来たかったのは本当だ、だがオレとシュレックも大事な用事が――」
「……急ぎの用ではないのですから、そう心配せずとも結構です、オズワルド氏」

 寺原の希望に反して、応接室にやって来たシュレック氏には、一人の男が同伴していた。
 ボールの様な体格に、西洋の魔女の様に尖がった鼻、そしてヒレの付いた異形の手。
 誰の目から見ても分かる通り、もう一人の来訪者――オズワルド・コブルポットは奇形であった。

 シュレック氏とコブルポットは現在、寺原と向かい合う形で座っている。
 礼儀正しく椅子に腰かけるシュレック氏からは、別段面白い点は見当たらない。
 だが一方、その隣の奇形からは、大人がベビーカーに乗っている様な違和感を覚えてしまった。
 思わず顔が綻びそうになる寺原だったが、どうにか持ちこたえる事に成功する。
 ここで噴き出してしまっては、今後の交渉に悪影響を及ぼすのは間違いない。

(……シュレック氏も趣味が悪い。何故よりもよってこんな気色悪い男を)

 寺原は、シュレック氏の思惑を図りかねていた。
 一体全体、どういう目的を持った上で、こんな奇形を市長にしようと考えたのか。
 市長の座に就かせるのであれば、彼以上の適任などごまんといただろうに。

 品性と知性をまるで感じされない態度も鼻につく。
 息子も品が無い方ではあったが、しかし此処まで酷くは無かっただろう。
 こんな下品な男が市長になってしまえば最後、ゴッサムはどうなってしまうのか。
 きっと今以上に下品で下劣な、下水道めいた下賤な街に再誕するに違いない。

(悲劇の主人公などと祀りおって。政界を見世物小屋と勘違いしてるのか?)

 赤ん坊の頃に下水道に捨てられ、その後ペンギンに育てられた哀しき男。
 今一度日の光を浴びる事を夢見た彼は、ゴッサムの市長選に挑むのだった。
 なるほど、美談として語るには中々よく出来た部類だろう。
 主演があまりに醜いという問題点を除けば、それなりの喝采は得られるかもしれない。

 そう、こんなにも醜い鳥人間に同情するなど、土台無理な話なのだ。
 民衆も上っ面では応援しているが、その感覚は檻の中のペンギンを見る様なものだ。
 言ってしまえば、彼等は奇形サーカス団に訪れる客と何ら変わりないのである。

(まったく馬鹿げた話だ。ゴッサムの冬の時代、という訳か)

 進出する街を間違えたかと思いつつ、寺原はシュレック氏に視線を移した。
 マナーなど無縁なコブルポットに比べ、彼はしっかり礼節を弁えている。
 流石はゴッサムの上流階級、むしろ彼こそが市長に相応しいのでは――――。


186 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:51:32 GcT/ZFAs0

(……ん?)

 そこでようやく、寺原はシュレック氏の異変に気付いた。
 彼はシュレック氏と何度か顔を合わせているから、彼の事はある程度把握している。
 社交性の高い、なるほど街の名士と呼ぶに相応しい男であった。

 だが、寺原の目の前にいるシュレック氏は、そのイメージとは真逆であった。
 彼の視界に映るのは、社交的な業界人などではなく、鉄仮面を被った人形である。
 その表情に、人間が持つべき温かみをまるで感じさせないのだ。

(揃いも揃って、気味が悪い)

 例えるならそれは、質の悪いロボットが人間の真似をしているかのようで。
 全くの別人が、シュレック氏に擬態しているのではないかと疑いたくなる位で。
 その無感情な顔面は、果たして何が原因で形作られたのだろうか――?

「シュレック氏、つかぬ事をお聞きしますが……ここ数日で何かあったのですか?」

 思わずそう聞いた瞬間、寺原は己の愚行を後悔した。
 シュレック氏の無感情な瞳が、こちらを凝視していたからである。
 今まで向けられていたものとは違う、異様な威圧感を感じさせる視線であった。

 聞いてはいけない事を聞いてしまったのだと、直感的に理解した。
 そうでなければ、ここまで精神を圧迫させる事はまずない筈だ。

「何か、とは」

 シュレック氏のその一言に、寺原の心臓が鷲掴みにされた。
 彼の表情はみるみる内に青ざめていき、額には冷や汗が滲み出る。
 裏社会の人間として数々の修羅場を潜ってきた寺原だが、ここまでの威圧感は初めて体感するものだ。
 ただの人間が、人を窒息死させるようなプレッシャーを放てるものなのか?

 やはり今のシュレック氏は何かがおかしい。だがその何かを詮索するのが恐ろしい。
 もし深入りしようとしたら最後、自分は息子と同じ場所に逝ってしまうのではないか。
 今の寺原には、そんな戯言同然の憶測でさえ、現実味を帯びて見えていた。


187 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:52:26 GcT/ZFAs0

(なんだ、この男、は――――!?)

 シュレック氏の質問に、どう答えればいいのか分からない。
 一体全体、どう答えればこのプレッシャーから解放されるのだ。
 顔面蒼白でそう考える寺原の耳に響いたのは、野太い笑い声だった。
 シュレック氏の視線が、笑い声の大元たるコブルポットに向けられる。
 それと同時に、寺原にかかっていた威圧感が、一瞬の内に消失した。

「シュレックの表情が暗いって話だろ、いやいや心配しなくていい!
 家族が長期旅行に行っててな!親バカのこいつはナイーブになってるのさ!」

 そう話した後、コブルポットは豪快に笑ってみせた。
 品性を感じさせない、次期市長候補とは思えない下品な笑いである。
 だがこの横槍のお陰で、空間の緊迫感が解かれたのも事実であった。

「彼の言う通り、独り身は中々に堪えるものでね。顔が暗いと言われれば、恐らくそのせいだろう」
「独りってのはウソだろ、オレがちゃんと家にいるんだからな!」

 再び下品に笑うコブルポットを尻目に、寺原はシュレック氏に目を向けた。
 あのビードロが詰まった様な瞳を、暗いの一言で片づけてしまっていいものか。
 だからと言って、彼のプライベートに踏み入るのはもう御免である。
 もう一度あの目に見つめられたら、精神がどうにかなってしまいそうだ。

「それより、今日はシュレックと話があったんだろう?
 オレとオタクらの明るい未来の話をしようじゃないか!」

 場を仕切るべきなのは、お前では無いだろうに。
 そんな苛立ちを押し殺しながら、寺原は愛想笑いで対応する。
 そう、コブルポットの言う通り、今日は大事なカネの話をする予定なのだ。

 シュレック氏の能面めいた顔に、未だ居心地の悪さを感じながら。
 寺原は<令嬢>の未来の為、彼等との対談に臨むのであった。


188 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:53:16 GcT/ZFAs0
【3】


 "五刀"のセイバー――後藤がマックス・シュレックに擬態している。それが、広川の出した推論であった。

 シュレック邸にてコブルポットは、シュレック氏の死を仄めかす様な発言をしていた。
 それだけではない。あの時の彼の言いぶりは、家の住人全員が死亡しているかの様だった。
 恐らくシュレック邸の住人は、既に後藤の餌として美味しく頂かれたのだろう。

 だが、そうなると気にかかるのがシュレック氏だ。
 他の役人に連絡を取った結果、マックス氏以外の家族や使用人は長期旅行に出かけたという事が分かった。
 突然の失踪の理由としては少々苦しいが、一応の納得は得られる部類だろう。
 だが一方で、家族が長期旅行に出た以降も、シュレック氏の姿を見たという者がいるのだ。

『寄生生物は姿を自由に変えられる。それこそ私そっくりに化けれるだろうな』
『なるほど、手足を刃物に変えたのはその応用という訳か』
『彼の場合は少々特殊なケースだが……まあ、概ねその見解で間違ってない』

 寄生生物は、己の姿を自在に変える事が出来る。
 意思を持つ筋肉とも評されたそれは、刃だろうが盾だろうが、何にだってなれてしまう。
 それを少し応用してしまえば、他者に成り代わるなど造作もない事である。
 事実、後藤は全くの別人に姿を変えた経験さえあるのだ。

 シュレック氏本人が死亡した以上、第三者がシュレック氏を演じる他ない。
 そしてそんな芸当が出来るのは、コブルポットのサーヴァントである後藤だけだろう。
 やはり、マックス・シュレックと後藤の間にあるのは、等号と見て間違いない。

(騒ぎにしたくないのはあちらも同じ、か)

 シュレック邸の攻防から自宅に逃げ帰って以降、広川の元を訪れた者はいなかった。
 警察が事情聴取をしに来る事も無ければ、ニュースにもそれらしき事件は出てこない。
 どうやらコブルポットは、シュレック邸の一件を他者に伝えていないようだ。

 あの場においてきたマルクも、今ではもう亡き者となっているだろう。
 彼は行方不明者として数えられ、その遺体が発見される事も無い。
 その亡骸はきっと、人喰いの怪物の食料となってしまうのだから。


189 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:54:33 GcT/ZFAs0

(……しかし、まさか彼が立ち塞がるとはな)

 田村玲子が実験的に造りだした驚異の生命体、後藤。
 本来一人につき一体寄生する寄生生物を、五体同時に寄生させた怪物。
 紛れも無い最強の寄生生物が、よもや敵として現れるとは。

 冷静になる機会を得て、今一度考えずにはいられない。
 自分というただの人間は、あの恐るべき生命に立ち向かえるのか?

『……どうした、不安そうだな』
『かつての仲間が召喚されているとなると、流石にな』

 早くも他のマスターと遭遇し、おまけのその男が連れているサーヴァントが知り合いで。
 それに加え、聖杯戦争のルールを無視して暴れ回る狂人までいる始末。
 こんな序盤中の序盤の内に、想像を超える事態が幾つも発生するとは。
 溜息の一つでもつきたくなる、とはこの事だ。

『ヒロカワ、前にも言っただろう?俺は――俺達"闇の一族"は最強だと』
『そうは言ってもなアーチャー、今回ばかりは相手が相手だ』

 それを聞いたアーチャーは、何がおかしいのか小さく笑ってみせた。
 子供の戯言を聴いているかの様な、嫌みの無い笑い方である。

『お前はやがて、霊長の長として俺達の前に立つのだ。
 長たる者が、たかだか寄生生物"如き"に怯えてどうする?』

 それを聞いて、広川は己のサーヴァントの強大さを再認識した。
 太古の昔に生まれ出た吸血種、それこそがこの灼熱のアーチャーである。
 偽りとはいえ原初の一たるこの男を傍に置いて、自分は何を怯えていたというのだ。

『……そうだな。少し、臆病になりすぎていたのかもしれない』

 そう、先の通達が確かなら、後藤達を含めた22組の主従がこの街にいるのだ。
 こんな早い段階で弱気になっていては、とてもじゃないが聖杯に辿り着けないだろう。
 人類という種を保護、引いては人理の存続の為にも、自分は絶対に勝ち残らなければならないのだ。


190 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:54:54 GcT/ZFAs0

『胸を張れ、ヒロカワ。でなければ、お前を見込んだ俺諸共カーズに笑われてしまうぞ?』
『カーズ、とは君の上司か何かか?』
『そんなものじゃあない。この身を捧げるに相応しい親友、とでも言うべきだな』
『……友人、か』

 この恐るべき吸血種にも、親友と呼べる者がいるのか。
 己が持つ絶大な力と頭脳を、惜しげなく捧げたいと思わせる者がいるのか。
 その"カーズ"への深い興味と共に、広川がアーチャーに見たのは、"心"の存在であった。

 たしかに寄生生物は強力な生命体だったが、彼等には慈悲が欠如していた。
 道端で死んでいる犬を可哀想と思わず、死したそれを肉塊と認識するのが彼等である。
 だが広川の相棒たるアーチャーは、死んだ犬を肉塊と見なす事はきっとないだろう。
 柱の男は寄生生物との最大の違いは、その"心"の有無ではないか――今ならそう考えられる。

 やはり彼等こそ、生態系の頂点を取るに相応しい。そう思わずにはいられない。
 人類より、寄生生物より遥かに優れた彼等であれば、地球の生命を正しく導ける筈だ。

 誰かが言っていた。地球(みんな)の未来を守らねば、と。
 もしかしたらその声は、柱の男を待ち望んでいたのかもしれない。



【MIDTOWN COLUMBIA PT/1日目 午後】

【アーチャー(エシディシ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]
[道具]
[思考・状況]
基本:聖杯戦争に勝ち抜き、宇宙を漂う同胞と、座にいる部下を呼び戻す。
 1. 一筋縄ではいかない奴らが揃っているな、やはり……・
 2. 太陽、やはり憎い奴だ。
[備考]
※ペンギン組がマスターであると認識しました。
※夜まで待機の姿勢でいます。
※三騎士クラスの相手には、自らの十八番である全身の細胞を用いた消化は厳しいかもと思っております。
※後藤に対して強い怒りを抱いてます。

【広川剛志@寄生獣】
[状態]右肩に銃による負傷
[令呪]残り二画
[装備]スーツ
[道具]ベレッタM92
[所持金]現金数万円、クレジットカード
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れ、アーチャーの望みを叶えると同時に、生命の調整を行なう。
 1. アーチャーが本領を発揮出来る夜まで待機する。
 2. ペンギンを何とかして葬る。
[備考]
※ペンギン組をマスターであると認識しました。
※ペンギンによって右肩を撃たれました。但し、ペンギンの物よりはダメージは軽微です。


191 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:55:25 GcT/ZFAs0

【MIDTOWN WEST SIDE(<令嬢>本拠地)/1日目 午後】

【セイバー(後藤)@寄生獣】
[状態]健康、マックス・シュレックに擬態
[装備]マックス・シュレックのスーツ
[道具]
[思考・状況]
基本:戦う。
 1. もう少し作戦とやらを練って戦うか……。
 2. 聖杯戦争……退屈はしなさそうだ。
[備考]
※広川組がマスターであると認識しました
※もう少し慎重に戦ってみようかと考えています
※エシディシの身体に迂闊に触れると危険だと解りました。もしかしたら、太陽が弱点なのでは、と言う事を薄ら気づき始めているかもしれません
※現在、マックス・シュレックに成り代わっています。

【オズワルド・コブルポット@逆転裁判シリーズ】
[状態]左肩に銃による負傷、広川に対する強い殺意
[令呪]残り三画
[装備]黒い紳士服
[道具]武器を仕込んだ傘
[所持金]シュレック邸にある大量の資金。
[思考・状況]
基本:祝われなかったクリスマスに、聖杯をぶちまける。
 1. 広川と言う男を絶対に殺してみせる。
 2. 聖杯戦争を勝ち残る。
[備考]
※広川組をマスターであると認識しました。彼に対して強い殺意を抱いております。
※シュレック邸の住民を、家主のマックス・シュレック含めて皆殺しにしています。
※奇形サーカスの仲間を率いています。ペンギンも一緒にいるかは不明です。


192 : Doppelgänger ◆JOKERxX7Qc :2016/02/10(水) 21:55:35 GcT/ZFAs0
投下終了となります。


193 : 名無しさん :2016/02/10(水) 23:38:31 8K/uK3h20
投下乙です。
寺原のようなNPCが参加者に影響を及ぼすほどの大きな役割を持ってるのは新鮮で面白いなぁ
しかし(見た目も態度も醜悪だし仕方ないけど)ペンギンを内心でとことん扱き下ろしてて吹く
最強の寄生生物に怖じ気付きそうになる広川を鼓舞するエシディシはやはり頼もしいな


194 : ◆JOKERxX7Qc :2016/02/12(金) 01:34:43 4tFFyg/Y0
感想ありがとうございます。
拙作に一部修正を加えた上で、wikiに収録した事を報告させてもらいます。


195 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/17(水) 21:29:16 70cIAoDc0
バーサーカー(セリュー・ユビキタス)
ジョンガリ・A&アサシン(カール・ルプレクト・クロエネン)
予約します


196 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:30:20 ifAGrPZs0
投下します


197 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:32:18 ifAGrPZs0


バスの座席に腰掛けながら、ジョンガリ・Aは思考する。
収穫は乏しかったが、何も得られない訳ではなかった。
あのサガラとかいう男の通達以降も情報収集を続けたのだ。
ヤモトという賞金首の情報は殆ど得られなかった。
赤い覆面男については僅かな目撃情報のみ。

グラスホッパーに関しては、『果実を纏う』等という奇怪な噂が流れていた。
普通の者ならば「アーカム・アサイラムにでも収容されたくなったのか」等と笑い飛ばす情報だろう。
しかし件のグラスホッパーはある時から急速に勢力を伸ばしている。
異常とすら言える程のフットワークで悪を駆逐し、大衆の支持を得ている。
そんな彼らが普通の自警団だとは思えない。
果実を纏うという噂ですら、警戒すべき情報だろう。

そしてコールタールの殺人鬼は未だに逃亡中。
殺人鬼という特性故か、目撃情報は殆ど無い。
しかしサガラという男によればこの街には殺人鬼のサーヴァントが居るという。
あの人間を破裂させる等という超常的な犯行からして、恐らく例の殺人鬼こそがサーヴァントだろう。
サーヴァントならばあれだけの犯行は可能であるだろうし、民間人に目撃される筈も無い。
断定は出来ないが、可能性は限りなく高いあろう。
そう判断したのだ。

情報を脳内で纏める中で、バスが停車する。
目的の停留所に着いた様だ。
ジョンガリは白杖と『袋』を手に、バスから降りていく。

手持ちの袋に入っている物。
それは紅い花だった。


◆◆◆◆


198 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:33:02 ifAGrPZs0


バスを降りた彼が訪れたのは教会だった。
正確には教会が運営するの共同墓地と言うべきか。

手提げ袋を左手に下げ、右手で白杖を握りながら墓地をゆっくりと歩いていく。
用がある墓は既に『記憶』している。
ジョンガリは既にこの墓地の地形を、墓石の場所を覚えているのだ。
端から見れば「視えているのではないか」とさえ疑われる程の滑らかな動きで、彼は歩く。
目的の場所へ。己が弔うべき男の眠る墓へ。


「……DIO様」


ジョンガリが立ち止まり、その墓の前で立ち尽くした。
ぽつりとその名を呟き、彼は墓を見下ろす。
目は見えていない。だが、そこに墓石があることは認識出来る。
墓の位置を既に記憶しているのだから。

最愛の父と再会したかの様な表情で、ジョンガリは墓のある位置をじっと見下ろす。
彼はこうして、度々墓参りに訪れる。
殺し屋に身を落としたジョンガリにとって、唯一の習慣とも言える行動だ。
ある程度の情報収集を終えた彼は、こうして墓参りに赴いたのだ。

本来の世界ならば、『この墓で眠る男』は墓に葬られてすらいない。
死体は跡形も無く消滅し、墓すらも立てられていないのだから。
ジョンガリが知る『DIO』という男は、最早死を弔うことすら出来ない。
それ故に、せめてこの墓に埋められた『彼』はこうして弔いたいという想いがあったのかもしれない。
少なくともゴッサム・シティで命を落としたDIOは墓に丁重に葬られ、弔われているのだから。

袋から取り出した紅い花を、ゆっくりと墓に手向ける。
せめてあの世では安らかに。
そう祈りを込めて、彼は『この世界』での男の冥福を願う。
数多くの人間を仕留めてきた盲目の狙撃手にとっての、唯一と言ってもいい『感傷』。
ジョンガリが胸を痛め、死を悼む程の価値が、この男にはあった。


その時だった。
感傷に浸っていたジョンガリの表情が、動いた。
他者の気配を感じ取り、すぐに警戒の体勢に入ったのだ。


足音が少しずつ、耳に入ってくる。
ざく、ざく、ざくと此方に近付いてくる。
敵襲――――と言うには、余りにも不用心すぎる。
動きもゆったりとし過ぎている。
まるで気さくに歩み寄ってくるかの様だ。
そこでジョンガリは、足音の主の正体にある程度の見切りをつける。


「……教会の人間か?」


ジョンガリはそう問いかける。
己の方へと歩み寄ってくる、他者へと声をかけたのだ。
直後に返ってきたのは、少女の快活な返答だった。



「はい!正義の見回りに来ました、セリューと申します!」



ビシッと敬礼をしながら、少女は答える。
セリュー・ユビキタス。
この教会の神父に留守を頼まれた『狂戦士』の英霊だった。
堂々と真名を晒しているが、当人は気にしていない。
何故ならば既に教会の修道士や子供達にもその名をバラしているのだから。


◆◆◆◆


199 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:33:34 ifAGrPZs0


ジョンガリは再び、『男』の墓を見下ろす。
その傍に立つセリューはジョンガリを見つめていた。
先程セリューは教会の周囲の見回りを行い、墓場のジョンガリを偶然発見した。
ジョンガリが気になったセリューは彼に近付き、そして気付かれたのだ。
そんな邂逅をきっかけに、今へと至る。

セリューは本来ならば聖書を読み、神の教えを頭に叩き込まねばならない。
プッチ神父にそう言い付けられたのだ。
しかし元々聖書の教えを余り重要視していなかったセリューにそれが長続きする筈も無かった。
ざっと内容を読んだ後、『教会の見回り』を名目に勉強を打ち止めにしたのだ。

二人はこうして出会うことになった。
ジョンガリは盲目だ。それ故にサーヴァントのステータスを視認することが出来ない。
彼にはステータスを「目」で「視る」という感覚を掴めないのだ。
それ故にセリューがサーヴァントであることにも気付かない。
セリューもまた、ジョンガリがマスターであることに気付いていない。
『墓参りに来た民間人』程度の認識だ。
お互いが敵であるという認識が無いまま、奇妙な邂逅を果たしてしまったのだ。


「ご家族の方ですか?」
「家族ではない。知り合い……否、恩人と呼ぶべきか」


セリューは当初、ジョンガリは親族の墓参りに来たのだと思っていた。
しかし彼は否定した。
この墓に葬られているのは家族ではない、と。
曰く、『恩人』なのだという。
ジョンガリは続けて、言葉を紡ぎ出す。


「彼は……DIOは、何も無い俺に人生を与えてくれた男だった」


ディオ・ブランドー。
それが十数年前に故人となり、墓石に刻まれた男の名だった。
元々は貧困層の出身だったが、家族が亡くなった後に知り合いの貴族の家へと引き取られた。
義兄弟であるジョナサン・ジョースターと共に文武両道の青年として育ち、大学では優秀な成績を収めていたという。
しかし自宅である屋敷の大火事に巻き込まれ、ジョナサンや義父と共に命を落とした。
火事の原因は解らず。放火の疑いも出たが、結局真相が解らぬまま事件は迷宮に葬られた。
このゴッサムにおいて、ディオの顛末は『そういうこと』になっている。

ゴッサム・シティの住民としてのジョンガリは、過去にディオ・ブランドーと『出会っている』。
何の縁で彼と会ったのか。一体どのような関わりがあったのか。
それらを思い出すことが出来ない。
この街での自分とDIOがどのような接触を果たしていたのか、霧が掛かった様に思い出せない。
NPCとしてどのような生活を送ってきたかは覚えていても、聖杯戦争と直接関係のない数十年前の記憶は流石に曖昧となるのだろうか。
兎に角ジョンガリにはこの世界でのディオとのファーストコンタクトを追憶出来ない。
それでも、かつて出会った彼がディオであるという確信だけは持っていた。


200 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:34:27 ifAGrPZs0


「俺の価値を見出し、導いてくれた、師の様な存在だった」


ジョンガリは、懐かしむようにそう呟く。
この街にいたディオは、彼の知る『DIO』とは似て非なる存在だ。
その声も、身に纏う気配も同じ。しかし、自分の知る『悪の救世主』ではない。
それでもジョンガリはディオの墓への手向けを絶やさなかった。
DIOの忠実な僕であるが故に、ジョンガリはゴッサムにおいても弔いを行い続けた。
例えこの街のディオが自分の知る主ではなかろうと、関係無い。
この墓に葬られている者がディオ・ブランドー――――DIOであることに変わりは無いのだから。


「師、ですか…」
「…どうかしたか?」
「いえ、ちょっと私も思い出しちゃいまして…昔いた恩師のこと。
 その人も、私よりも先に亡くなられて…」


悲しみを思い出す様な声色で、セリューはそう呟く。
過去を懐かしみ、そして寂しげな表情を浮かべ。
彼女は何も言わず、少しだけ過去の感傷に浸る。

セリューの脳裏に浮かぶのは、屈強な体格を持つ強面の戦士。
厳しい鍛錬の中で己を見守ってくれた、大切な師。
オーガ隊長。
セリューの所属していた帝都警備隊の隊長であり、彼女にとって恩師と言える存在。
家族を凶賊に殺され、悪を殲滅すると誓って警備隊に入ったセリューはオーガの下で鍛錬を積み重ねた。
隊長がいたからこそ戦う術を得られた。
隊長の紹介があったからこそ悪を断罪する為の力を得られた。
そんな彼さえも、悪党の凶行によって殺されてしまった。
以来、セリューはより一層悪を憎む様になったのだ。

それ故にセリューはジョンガリへの共感を覚えていた。
経緯は違えど、同じように恩師を失ってしまった者として。
師に取り残されてしまった者として。


「…えっと、すみません。何だか私まで湿っぽくなっちゃって」
「気にするな。そういった過去があるのなら、お互い様だ」


セリューの気遣う様な言葉に対し、ジョンガリは答える。
実際、二人の過去は何処か似通っていたのだから。
ジョンガリもそのことを思ったのか、セリューにそう言ったのだ。

セリューは恩師から戦う術を授かった。
恩師を失った彼女はその意思を継ぎ、悪の殲滅を誓った。
ジョンガリは主君から生きる意味を授かった。
主君を失った彼は空虚な抜け殻となり、復讐者と成り果てた。
二人の過去には近いものがあった。
どちらも過去に恩人を失い、そして恩人の死によって少なからず影響を受けていた。

異なる点があるとすれば、二人の善悪。
ジョンガリは邪悪の化身に仕えた『悪』だった。
セリューは国家権力に属する『正義』だった。
二人は各々の立場の違いに気付かぬまま、こうして会話を続けている。


201 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:34:55 ifAGrPZs0


「彼が死んでから数十年、俺は今もこうして存在している。
 時折、虚しくなることもあった。
 生きているのか、死んでいるのかさえ解らなくなる程に」


ジョンガリはぽつりとそう呟く。
仕えるべき存在を失い、呆然と彷徨う抜け殻。
それが今のジョンガリ・Aだ。
DIOが命を落としてからの数十年間、彼の心には空虚な穴が開いていた。
何の為に自分は此処に居るのか。
何故未だにこうして彷徨っているのか。
時折、解らなくなることがあった。
虚無感。喪失感。彼の胸を支配するのは常にそれだった。

セリューは彼の事情を知らない。
DIOという男が邪悪の化身であるということも。
ジョンガリが彼に仕える悪の僕であるということも。
だが、彼が大切な恩師を失ったということだけは解る。
そしてその者を失い、心に空虚を抱えているということも―――彼の言動から感じ取れた。


セリューの目には、ジョンガリがどうしようもなく孤独に映った。
独りぼっちの彼が、酷く寂しげに見えた。


自分には『正義を貫く』という心の支えとも言える目標があった。
それ故にオーガ隊長やDr.スタイリッシュ、ボルスといった恩人や仲間達が命を落としてからも奮い立つことが出来た。
彼らの仇討ちの為。彼らの遺志を継ぐ為。
そういった想いが、セリューの肉体を動かしてきた。

だが、ジョンガリには何があるのだろうか。
彼に生きる為の心の支えは、あるのだろうか。
そう思ったセリューが、彼に何か言おうとした直前。


「……少し話し過ぎた。すまなかったな」


バツが悪そうにジョンガリが呟く、背を向けたのだ。
彼はそのまま墓から離れる様に歩き出した。
どうやら、もう帰路に着くらしい。
それに気付き、ハッとしたようにセリューはジョンガリに声を掛ける。


「あ、帰り道には気を付けて下さいね!近頃、『殺人鬼』が出るって――――」
「解っている。御気遣い感謝する」


手を振りながらそう声を掛けるセリューに対し、ジョンガリは短く答える。
そのままジョンガリは背を向け、墓地を歩き去っていった。


◆◆◆◆


202 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:35:37 ifAGrPZs0


ちらりと後方を振り返る。
目は見えない。感覚的に教会との距離を感じ取っているのだ。
セリューと別れ、教会内の墓地を後にしてからそれなりに歩いた。
恐らく既に教会から二百歩以上は遠ざかっているか。
それを確認した後、ジョンガリは白杖を右手に再び歩き始める。
帰路に着くべく、バスの停留所を目指す。

まさか墓地で長話をすることになるとは思わなかった。
いつも通りに墓参りに赴き、花を手向けてすぐにその場を去る―――その程度で終わるつもりだった。
だが、セリューという女との遭遇によって思わぬ長話をしてしまった。
無論、殺し屋という素性については隠している。
ディオ・ブランドーについても、あくまで「ゴッサム・シティのディオ」に則して話をした。
ある意味で、偽りの仮面を被りながら自分語りを行った様なものだ。

それでも、彼女に対して語った『DIO』への敬愛は本物だった。
初対面の者にそれを語るのは初めてだった。

セリューという少女の快活な気質に釣られ、少しばかり口数を増やしてしまったのかもしれない。
らしくないことをした、とジョンガリは自嘲気味に思う。
嘘偽りの仮面を被っていながらも、自分の感情を誰かに吐露したくなったのか。
空虚な人生を、哀れな忠犬としての生き様を誰かに同情してほしかったのか。
我ながら馬鹿馬鹿しいとさえ思ってしまう。

所詮自分は一人だと言うのに。
主君を失ったあの時から、自分は孤独だ。
生者にも死者にも、何者にもなれず彷徨い続ける腑抜けに過ぎない。


聖杯を手にし、主君を復活させるその時まで。
ジョンガリ・Aの世界は止まったままなのだ。


瞬間。
空気の動きが、ほんの僅かに変わった。
気流を読むのに長けるジョンガリが、微小な『動き』を察知したのだ。
魔力パスで繋がっているからこそ、その気配をごく僅かながら感じ取れたのだ。
直後に、自身の脳内に声が響いた。


《……アサシンか》


203 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:36:00 ifAGrPZs0

ジョンガリは念話で静かに答える。
自らのサーヴァント、アサシンが念話を飛ばしてきたのだ。
アサシンは魔力パスによってジョンガリの位置を把握し、接近を行った。
ジョンガリの視界にはアサシンの姿は映っていない。
気配遮断スキルを維持し、身を潜めながら念話を行っているのだろう。


《首尾はどうだ》


ジョンガリは己の従者に問いかける。
アサシンには此処まで町の偵察を行わせていた。
帰還してきたということは、ある程度の情報収集を終えてきたと言うことだろう。
あるいは収穫を見込めず、そのまま戻ってきたのか。
どちらにせよ、アサシンの答えによってそれは解る。
そしてジョンガリの問いの後、アサシンが念話を行った。


《…そうか》


アサシンは偵察によって得た情報を己の主に伝達した。
それを聞き、ジョンガリは呟く様にそう答える。
彼が得た情報の一つ――――通達でも言われていた『殺人鬼のサーヴァント』。
アサシンはそのサーヴァントと交戦したというのだ。
クラスはキャスター。本人がそう名乗っていたのだという。
そして自身の肉体や他者の死体から黒いコールタールのような物体を絞り出し、それを自在に操る能力を備えていたとのこと。
更に首を貫いた程度では殺し切れない程の再生能力も備えていたというのだ。
厄介な敵の情報を知ることが出来たのは大きい。
ジョンガリはアサシンの情報を咀嚼し、そう考える。


《他に情報はあるか》


ジョンガリはそう問いかけ、従者の答えを待つ。
さて、此処からどう動くか。
虎視眈々と勝利を狙う狙撃手は思考する。


◆◆◆◆


204 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:36:40 ifAGrPZs0


自室に戻ったセリュー。
彼女は部屋に待機させていた自らの相棒―コロへと視線を向ける。

彼女は暫し前の記憶を思い返す。
正午の時、あのDJサガラという男が『通達』を行った。
戦いを茶化す様な物言いが気に喰わなかったものの、貴重な情報である以上聞き逃すわけにはいかない。
その際にセリューは聞き捨てならない情報を耳にしたのだ。


『この街を賑わす連続殺人鬼の話だ。
 聞いて驚くな、そいつの正体は――ななななんとォ、サーヴァントなのさ!
 どうやら、聖杯戦争のセオリーを無視して好き勝手遊んでる奴がいるみたいだぜ。』


あの男はそう言っていた。
聖杯戦争の枠を外れ、悪逆の限りを尽くしている殺人鬼のサーヴァントがいるというのだ。
この街を騒がせる殺人鬼の噂は、何度か耳にしてきた。
被害者の肉体を徹底的に破壊するという残忍な犯行からして、恐らくは快楽殺人者の類い。
そいつが例の『サーヴァント』であるということは、薄々感付いていた。
こんな異様な犯行を繰り返し、未だに尻尾を掴まれずに逃亡を続ける等、普通の人間に出来る筈も無いのだから。

セリューは殺人鬼を追いたかった。
プッチ神父から留守を頼まれたが故に動くことが出来なかった。
しかし、やはり納得出来ない。このまま放ってはおけない。
先程のジョンガリとの会話で決心がついた。

この街は腐っている。悪党の巣窟だ。
だが、それでも此処には無辜の人々が暮らしているのだ。
ジョンガリのように、恩師を失い静かに生き続けている者が居る。
孤児達やシスター達の様に、正しい心を持つ者が平穏に生活している。
此処は悪党の巣窟であっても、悪人の街ではない。
守るべき者も、この街には大勢存在しているのだ。

それ故に彼女は決意した。
極悪非道の下衆―――『殺人鬼』の討伐を。


205 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:37:06 ifAGrPZs0

『我々が不在の間に、心無い者が教会にやってきたらどうするつもりなのだ?』
マスターであるプッチ神父はそう言っていた。
この言い付けがあったからこそ、セリューは教会から動くことが出来なかった。
確かに子供達を守る為には戦う術のある自分達の存在が不可欠だ。
自分達は教会の者達を守護する役割を背負っている。


ならば逆に考えろ。
こちらから赴いて“心無い者”共を断罪すれば問題無いのでは?


自分達には悪人共から教会を守る使命がある。
逆に言えば、悪人共が蔓延っているから教会を守らなくてはいけないのだ。
ならば態々悪人を待って迎え撃つよりも、自分から赴いて始末した方が余程手っ取り早い。
そうすれば悠長に待機し続ける必要など無くなる。
何せこの街には『殺人鬼』がいるのだ。
そんな奴をおちおち放っておくわけにはいかない。
恐らく教会に害を与える可能性として最も高いのはその快楽殺人鬼だろう。
見境無しの殺人を各地で繰り返していると言うのだから。
最優先の抹殺対象として、尚更放っておけない。
セリューはそう考えたのだ。

決意を固めたセリューは拳をグッと握りしめる。
「己がすべきことを成す」ということを決心する。
そして自らの相棒にして宝具であるコロを抱え、駆け出した。


「行こう、コロ!」


今の彼女は、狂戦士(バーサーカー)のサーヴァントだ。
ただでさえ箍が外れていた正義感は、更に歯止めが効かなくなっている。
それ故に彼女は迷わない。
守る為に殺しに赴くことを。
正義の味方は、討伐の旅へと出る。


206 : Dead Man’s reQuiem ◆1k3rE2vUCM :2016/02/19(金) 11:38:30 ifAGrPZs0

【SOUTH CHANNEL ISLAND/1日目 午後】
【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]健康
[装備]コロ
[道具]トンファーガン、十王の裁き、頭の中の爆弾、身体中に仕込まれた武器の数々
[所持金]
[思考・状況]
基本:悪は死ね
1. 悪は殺す
2. 正義を成す
3. 殺人鬼のサーヴァント(デスドレイン)を探す
[備考]
※教会から外出しました。どこへ向かうのかは不明です。
※教会の住人にはセリューは、親を殺され銃撃を腕に受けたせいで義手になった女性と認識されています
※聖書の教えを読みましたが、多少内容を記憶したのみで殆ど咀嚼していません
※ジョンガリ・Aと知り合いました。マスターであることには気付いていません

【ジョンガリ・A@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]盲目
[令呪]残り3画
[装備]白杖に偽装した狙撃銃
[道具]なし
[所持金]一万程
[思考・状況]
基本:聖杯による主君の復活を。
1.アサシンから得た情報を踏まえ、どう動くか考える。
2.『黒いタールの殺人鬼』『赤覆面』『グラスホッパー』『ヤモト・コキ』に関する情報を得たい。
3.グラスホッパーの『果実を纏う』という噂が気になる。
[備考]
※職業はフリーランスの殺し屋です。裏社会に精通するマスターで顔見知りの相手がいる可能性もあります。
※セリューと知り合いました。サーヴァントであることには気付いていません。
※盲目のためにサーヴァントのステータスを視認することが出来ません。
※クロエネンが偵察で得た情報を聞きました。少なくともキャスター(デスドレイン)のことは聞いています。
他にも情報を得ているかは後続のリレーにお任せします。

【アサシン(カール・ルプレクト・クロエネン)@ヘルボーイ(映画版)】
[状態]魔力消費(微小)、気配遮断中
[装備]ガスマスク
[道具]トンファー型ブレード×2
[思考・状況]
基本:聖杯による主君の復活を。
1.ジョンガリの指示を仰ぐ。
2.敵を捕捉した際には暗殺も視野に入れる。
3.ニンジャのサーヴァント(デスドレイン)に警戒。
[備考]
※キャスター(デスドレイン)の外見・宝具『死の濁流』を視認しました。
※念話によってマスターとの意思疎通が行えます。
※ジョンガリに偵察で得た情報を伝えました。
少なくともキャスター(デスドレイン)のことは伝えましたが、他にも情報を得ているかは後続のリレーにお任せします。
※気配遮断スキル発動中はセリューの『正義都市探知機』には引っ掛かりません。
※一定の距離が離れているため、セリューの気配は感じ取っていません。


207 : 名無しさん :2016/02/19(金) 11:38:53 ifAGrPZs0
投下終了です


208 : 名無しさん :2016/02/20(土) 12:02:30 wMPl1ISk0
デェムシュvsダグバとか見てみたい
両者ともに好戦的だし


209 : 名無しさん :2016/02/21(日) 03:09:01 cyXweKgM0
投下乙です
プッチ!早くあいつを何とかしろ!
ある意味予想通りのセリューの独断専行
この事実を知ったらプッチは卒倒しそう


210 : ◆F7nVYlVwnw :2016/02/24(水) 00:04:38 Gj5hlOgM0
投下お疲れ様です。
プッチ神父のムーブはまっとうに立ち回ろうとしてるのに、単純な善意と正義感でその全てをぶち壊しにするセリュー…
これを知ったらプッチ神父はまた頭抱えそうですね
そして人知れずライバルに痛手を喰わせられるかもしれないジョンガリ、まさか鯖だとは夢にも思ってないんだろうなぁ

御剣・ランサー(ジェイド)とレッドフード&アサシン(チップ)を予約します


211 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:00:31 8uJb7EbM0
ゲリラ投下します。


212 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:03:08 8uJb7EbM0

日誌 ロールシャッハ記 20XX年 12月21日

例の犯罪組織の使い走りを取り逃がした。
赤い覆面を被った男の足下で物言わぬ亡骸となっていた。

俺以外のヒーローが活動しているという噂は悪党共から聞いていた。
直に会ったのはこれが初めてだ。
第三者の介入で奴から情報を引き出すことも叶わなかった。
不覚を取った。だが、次こそは逃がさない。

赤い覆面の男は第三者の呼びかけに応えず、一目散に逃げ出した。
聖杯を破壊する為に動いているのならば、不戦を訴える言葉を無視する筈がない。
十中八九、聖杯を狙っている連中だろう。
所詮は聖杯に踊らされるクズに過ぎなかったか。
ヒーロー気取りの虫螻が。

精々そのマスクで醜悪な本性を隠しているといい。
奇跡という欲に目が眩んだ貴様の醜い面は、いずれ白日の下に晒されることになる。

割り込んできた第三者はこの狂った殺し合いに反抗する意思を持っていた。
『主人』の方はまだ若い娘だった。
万が一の場合を考慮し、名は伏せておく。

元の世界においてはアイドルだったという。
己の肌を晒け出し、尻を振って大衆を喜ばせる恥知らずな淫売共のことだ。
穢らわしいセックス・シンボルに夢を見るとは、女というものはつくづく救い難い。
協力はする。だが信頼するつもりは決して無い。
淫らな雌豚に背中を預け切る程、俺は墜ちてはいない。

時刻は正午を過ぎていた。
支配者気取りの“見張り”は戯けた態度で闘争を煽る。
道化の様な語り口で人々を戦場へと駆り立て、奴はそれを見下ろす。
さぞや楽しんでいることだろう。
穢れた街で右往左往する俺達の姿を余興に、“見張り”は罪というクスリに酔い痴れる。

罪に与えられる見返りは罰だけだ。
ならば俺は、俺が定めた罰を叩き付ける。


◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


213 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:05:12 8uJb7EbM0


身を潜めるのに適した、薄暗い廃ビルの内部にて。
二階へと続く階段に男は腰掛け、黙々とノートに何かを書き連ねていた。
何らかの暗号か、或いは恐ろしく乱雑な文字か。
真っ当な感性を持つ者には解読さえ困難な文章を書き殴っていく。
これが日記の下書きであると認識出来る者は、果たしてどれだけ居るのだろうか。
黙々と、淡々と、覆面の男は日記に今日の出来事を記していく。
時に毒づく様に、時に蔑む様な荒い言葉が羅列される。


「あの、ロールシャッハさん?」
「黙っていろ。じきに終わる」


傍でその様子を見ていた少女、多田李衣菜が声を掛ける。
一体何をしているのだろうか。
というより、何を書いているのだろうか。
興味を抱いた為に問い掛けようとしたが、覆面の男「ロールシャッハ」は李衣菜の言葉を切り捨てる。
黙々とデスクワークをこなすかの様に、ロールシャッハは日記を書き続けていた。


―――何なんだろう、この人は。


幾許か前、李衣菜は聖杯戦争の戦場へと踏み出した。
二組の参加者が睨み合っている場面を目撃し、バスターを介入させることを選んだのだ。
結果として得られたのは、志を同じくする参加者との共闘。
ロールシャッハという人物との協力関係を結ぶことが出来たのだ。

しかし、李衣菜のロールシャッハという人物に対する印象は、はっきり言って良くなかった。
初対面の時からして、あんな脅迫じみた尋問をされたのだから。
その上余りにも太々しくて、図々しいくらいにマイペース。
おまけに、何を考えているのかもよく解らなくて――――


「李衣菜」
「え、あ、はいっ!」
「何かあった時には此処に連絡しろ」


突然声を掛けられ、李衣菜は驚いて声を上擦らせる。
そんな彼女の態度を気に留めることも無く、ロールシャッハはノートの切れ端を差し出した。
切れ端に記されていたのは、携帯電話の連絡先―――と思われるもの。
李衣菜は渡されたノートの切れ端を受け取り、まじまじと番号らしきものを眺めていた。
異様に乱雑で読みづらいが、辛うじて読み取ることは出来る。
少なくともロールシャッハは日記に文字を書き殴る時とは違い、幾らか『他人にも読める様に』書いたつもりだったらしい。
それでも遠目で見た時には奇怪な文字の羅列としか思えない程の乱筆だ。


214 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:05:43 8uJb7EbM0

僅かに眉を顰めて番号を見つめていた李衣菜だったが、そう言えばと思い出す。
連絡先を教えて貰ったのだ。
協力者として、自分も連絡先を教えるべきだ。
そう考え、李衣菜もメモに連絡先を記そうとしたが。


「えっと、私も連絡先を…って、言いたい所なんですけど…」
「どうした」
「…紙、貰えませんか」
「………………」


若干恥ずかしそうに問い掛ける李衣菜。
ロールシャッハは無言でノートの一部を千切り、切れ端を李衣菜に渡した。


「李衣菜とやら、一つ質問がある」
「は、はい…」
「お前の従者…バスターだったか。奴は『戦わずして脱出する方法を探している』と言っていたな」


李衣菜から連絡先を受け取ったロールシャッハ。
直後に彼は李衣菜に問い掛ける。


「もしその手段が無ければ、お前達はどうする」


李衣菜の表情が、一瞬だけ固まった。
汗を流し、ごくりと唾を飲む。


戦わずして、つまり誰も殺すこと無く聖杯戦争から脱出する。
口に出して宣誓するのは容易い。
だが、どうやって脱出する?
具体的なビジョンなんてものは、これっぽっちも無い。
漠然とした希望。計画性の無い行動。
それ故に、李衣菜は答えることが出来ない。

もしも、脱出する為の手段が無かったら。
その可能性は理解していたし、そもそも誰も殺さずに脱出できるのかさえ解っていなかった。
だというのに、李衣菜の心には緊張と不安が込み上げていた。
今はこうして、脱出の為の手段を探している。


だが。
もしも、『探した上で見つからなかったら』?


215 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:06:12 8uJb7EbM0

李衣菜は無言のまま、その場で俯く。
脱出の方法があるのか、ということ自体は当初も疑問に思っていた。
初めから期待をしていなければ、当然そう思う。
デスゲームというものは普通は勝ち残った者しか生き残れないのだから。

だが、探した上で見つからなかったら、その時はどうするのか。
「初めからそんなものありはしない」という諦観とは違う。
可能性を模索し、その上で打開策が見つからなかったとしたら。
正真正銘、打つ手が無くなるだろう。
殺さずに抜け出せるかもしれない、という淡い希望さえも掌から零れ落ちてしまうのだから。
それこそが、本当の絶望というものだ。
無言で考え込む李衣菜を見つめ、ロールシャッハが言葉を続けた。



「さあ、答えてみろ。全てを諦めるか?
 それとも―――――生きる為に殺すのか?」



李衣菜は、思う。
もし。
もしも、そうなった時には。
今度こそ。
本当に、誰かを―――――?




「りーなさんっ」



ハッとしたように、李衣菜は振り返る。
そこにいたのは、いつの間にか姿を現していた長身の少女。
バスターのサーヴァント――――バスターマシン7号こと、ノノ。
霊体化していた状態から、魔力による実体を形成したのだろう。
彼女は李衣菜に歩み寄り、その肩に手を置いた。



「私には難しいことは解りません。でも、これだけは言っておきます。
 りーなさんには、私が着いてます」



バスターは静かに微笑みつつ、李衣菜に優しくそう言う。
自らの相棒の言葉に、李衣菜の緊張と不安は自然と和らぐ。
そして、にこりと笑みを浮かべて―――バスターは言った。


「――――――ロックに行こう、ですよ!」


216 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:07:58 8uJb7EbM0

「バスター……」


李衣菜は、ぽつりと呟く。
私が着いている。
ロックに行こう。
その言葉を聞いた途端、李衣菜の中で憑き物が落ちた様な感覚がした。
安堵したような、大切なことを思い出したような。
そんな気持ちが、胸の内に込み上げてくる。

何をうじうじと不安になっていたんだろうと思う。
自分には、最初からバスターが着いている。
とてつもなく能天気だけど、真っ直ぐで、計画性も無くて。
だけど、そんなバスターは自分の手を引いてくれた。
真っ直ぐな瞳で、前を向き続けることを教えてくれた。
だったら――――最後まで諦めず、絶望に屈さず、走るべきじゃないか。

少しでも迷いかけた自分がカッコ悪いな、なんて李衣菜は思う。
初めから諦めていた方が、絶望なんかせずに済むだろう。
それでも、やらずに後悔するより、やって後悔する方がよっぽどマシだ。
挑戦すらせずに目の前の壁に屈することなんて、全然ロックじゃない。
最後まで諦めずに立ち向かい続けることこそが、ロックというものだ。
それ故に李衣菜は、改めて決心がついた。


「答えは出たか」
「…はい!」


すぅ、と李衣菜は深呼吸をした。
未熟で、抽象的で。
それでも、彼女の確固たる想いを示した言葉。
口に出すのは容易くても、実際に成し遂げることは難しい。
だからこそ、自分は最後まで希望に向かうことを諦めたくない。
そして李衣菜は、己の誓いを吐き出した。


「最後まで走り続けます!私達は、自分を曲げない!
 生きている限りは、諦めたりなんかしないっ!!」


真っ直ぐに、目の前に立つロールシャッハを見据える。
李衣菜は己の感情を吐き出した。
己の中の有りの侭の想いを。
相棒と約束した、未来の選択を。

例えこの先にあるのは絶望だとしても。
それでも、踞って怯えるだけじゃ駄目だ。
最後まで諦めない。
諦めない人にこそ、本当の力が宿るのだから。
そう、教わったじゃないか。
李衣菜は相棒と己自身を信じて、進むべき道を確かに誓ったのだ。


217 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:08:51 8uJb7EbM0

宣誓を言葉にした李衣菜は、ただ黙ってロールシャッハを見据える。
対するロールシャッハも――――無言で、彼女を見据えていた。
沈黙がその場を支配する。
幾許もの静寂が、空間を包む。

汗が一滴、頬から流れ落ちる。
まるで自分を試すかの様な沈黙。
この緊張感が苦手だと、李衣菜は思う。
だけど、目を逸らしたくはなかった。
このまま相手の気迫に押されたら、何かに負けてしまう様な気がしたからだ。
そうして暫しの間、沈黙が続いた後。


「諦めない、ね」


静寂を破ったのは、李衣菜でもロールシャッハでもない。
ましてや、バスターでもない。
その声はロールシャッハの後方から響いたのだ。
直後、階段の踊り場に姿を現したのは銀色の暗殺者。
ロールシャッハのサーヴァント、アサシンだった。


「アテの無い未来に希望を賭けるとはな。理想主義者めいてる」


アサシンはゆっくりと階段を下り、ロールシャッハの傍に立つ。
彼が口にしたのは、シニカルな一言。
聖杯戦争を戦わずして脱出する。
まるで夢物語の様なハッピーエンドだ。
そんな理想に対し、アサシンは淡々と冷笑的に吐き捨てる様な言葉を吐き捨てる。
嫌味にも似た言葉に、バスターが眉を顰めた。


「理想主義者で結構ですッ!
 何よりも悲しいのは、自分が望む理想からも目を逸らしてしまうことなのですから!」


真っ直ぐと視線を向け、反論を吐き出した。
バスターの表情に浮かんでいたのは、僅かな怒り。
アサシンの言葉を自分のマスターへの侮蔑と捉えたのだろう。
幾ら同盟相手と言えど、相棒とも言えるマスターへの冷笑は赦せない。
それ故にバスターは内心憤る。アサシンの言葉に反論する。
そんなバスターの言葉を聞くアサシンの表情は、顔を覆うメンポで伺えず。


「…そうかい」


ただ一言、アサシンはそう答えるだけだった。
淡々と素っ気ない言葉―――――されど、微かな嫉妬のようなものが籠った声色だ。
それにバスターらが気付いていたかは、定かではない。

李衣菜とバスターの答えを聞いたロールシャッハは、「Hm…」と静かに呟く。
そして、唐突にその場から立ち上がった。
李衣菜の横を通り過ぎ、ふらりと歩き出したのだ。


218 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:11:55 8uJb7EbM0

「あの、どこに行くんですか…?」
「情報収集だ」


李衣菜の問い掛けに対し、ロールシャッハはきっぱりとそう答える。
さっきの李衣菜の言葉への反応は何も無しに。
ぽかんとした表情を浮かべる李衣菜に、続けて彼は口を開く。


「着いてこなくていい」


余りにも素っ気なく、簡潔に。
ロールシャッハは、李衣菜を突き放すように言った。


「着いてこなくていい、って―――」
「俺は必要な時にお前へ連絡をする。お前も必要な時に俺へ連絡をする。
 それだけだ。俺は馴れ合いやお守りの為にお前と組んだ訳じゃない」


唖然とする李衣菜を気に留めることも無く、ロールシャッハは背を向けて歩く。
彼は初めから李衣菜と行動を共にするつもりが無かったのだ。
あくまで有事の際の協力関係―――――常に行動を共にする気など毛頭無い。

ロールシャッハ自身、集団行動を好まないと言うこともある。
だが何よりも、自分の在り方が社会的な道徳から大きく外れているという自覚があった。
元の世界においても、この世界においても、ロールシャッハは周囲からこう呼ばれている。
サイコパス、あるいはパラノイアと。
そのことに関して気にしているつもりは無い。
だが、多田李衣菜という少女が日向の世界の人間であることは既に理解している。
それ故に邪魔であると感じたのだ。
余計な倫理や道徳心とやらで自分の行動を妨げられては面倒だ。
ロールシャッハはそう考えたのだ。

李衣菜の答えなど気にすることも無く、ロールシャッハは歩き出す。
それに続き、アサシンもロールシャッハを追って歩き始めた。
ちょっと、と李衣菜が声を掛けようとするもそれに応えることは無く。
ロールシャッハは廃ビルを後にすべく歩き、アサシンもまた李衣菜の横を通り過ぎる。



「…悪かったな、嬢ちゃん」



李衣菜の横を通り過ぎたアサシンが、ぽつりと呟く。
余りにも小さな声で呟かれた言葉を、李衣菜は僅かながら耳にした。
よく聞こえなかった。だけど、今謝られたような。そうじゃないような――――。
そう思っている間に、アサシンは既にロールシャッハと共に背を向けて歩き出していた。

今の一言は、何だったんだろう。
きょとんとした表情に、李衣菜がアサシンを見つめていた。


◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


219 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:14:27 8uJb7EbM0




《なあ、マスター。あいつらのこと、どう思う》
《自分の理想を曲げない在り方は評価している》


歩道を歩き、ロールシャッハとアサシンは念話による会話を行っていた。
アサシンの姿はその場には存在しない。
気配遮断スキルによって身を潜めつつ、周囲の様子を伺がっているのだ。

多田李衣菜、そしてバスター。
彼女らは決して諦めず、己の理想を貫くという道を選んだ。
その点に関して、ロールシャッハは一定の評価をしていた。
妥協というものを否定し、最後まで前を進み続けることを選んだのだから。
少なくとも、自分から降りた癖にくよくよと後悔ばかりしていた一時期のドライバーグに比べれば遥かに前向きだ。
ロールシャッハはそう思っていた。


《だが、お前の言った通り…理想主義者そのものだ。
 今後奴らがこの戦いで生き抜けるかと聞かれれば、こう答えざるを得ない》


同時に、彼は念話でそう言葉続ける。
少しの間を置いた後、再び呟いた。


《無理だろうな、と》


無慈悲に切り捨てる様に、言った。
彼女らの妥協しない姿勢は評価している。
だが、二人が掲げているのは余りにも素朴で純粋すぎる理想だ。
子供じみた平和論、理想論。そんなもので人間同士の騒動を解決出来るか。
答えは否だ。人間は欲深く、醜い存在だ。
平和を望むのが人間だと言うのならば、平和を脅かす争いを望むのも人間なのだ。
小綺麗な理想論で世界が救われると言うのならば、冷戦などそもそも起こる筈も無いだろう。
結局の所、人間は争いを捨てられない。この世はドブも同然だ。
そんな人間の愚かさの縮図のようなこの街で、人間の欲望を具現化したようなこの戦争で。
無垢な理想を振り翳すあの二人が生き残れるか、と聞かれれば――――口を紡がざるを得ない。


《だろうな。…ああ、解るさ》


ロールシャッハの返答に、アサシンは悟っていたかの様に呟く。
―――――アテの無い未来に希望を賭けるとはな。理想主義者めいてる
先程、アサシンが彼女らに吐き捨てた言葉だ。
真っ直ぐ前を向き続けることが出来る二人に、少しでも嫉妬してしまったのかもしれない。
自分にはそう有り続けることが出来ないから、冷笑的な言葉を投げ掛けてしまったのかもしれない。
我ながら大人気ないモンだな、とアサシンは追憶する。
意地の悪い一言を少しでも悔いたからこそ、アサシンは李衣菜に謝辞の言葉を述べたのだ。


220 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:16:21 8uJb7EbM0


(自分が望む理想からも目を逸らす、ね…)


アサシンの脳裏に、あのバスターの言葉が過る。
最も悲しいことは、自分が望む理想からも目を逸らすこと。
どこまでも純粋なあの少女だからこそ、そんな言葉を口に出すことが出来るのだろう。


(とっくに俺は、目を逸らしちまってるよ)


利己的な自分にあの様な生き方は出来ないと、アサシンは自嘲する。
アサシン――――シルバーカラスの願い。
それは「生前に吸い損ねた煙草を吸いたい」という他愛の無いものだった。
些細な未練を果たしたくて、聖杯の導きに応じたのだ。
だというのに、この地にはヤモト・コキも存在していた。
己の敵として。ロールシャッハが裁くべき『悪』として。

生前にシルバーカラスは最後のワガママとして、ヤモトにインストラクションを授けた。
親鳥が子に空の飛び方を教える様に、カラテの振るい方をあの少女に教えたのだ。

率直に言えば、ヤモト・コキには生きてほしい。
それがアサシンが望む最大の理想というべきものだ。
だが、無理な話だろう。
彼はロールシャッハのサーヴァントであり、彼女の敵なのだから。
いつか、この手で殺す時が来るかもしれない。
自らの手で未来を託した少女を――――自らの手で絶つ時が訪れるかもしれない。
それが、どうしようもなく虚しい。


《行くぞ》


そんなアサシンの心境を知ることも無く、ロールシャッハは念話で言う。
気配遮断スキルを維持したまま、アサシンが己のマスターに追従する。
衆愚の街を、二人の男が往く。


◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


221 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:19:49 8uJb7EbM0


廃ビルを抜け出し、街へと躍り出た李衣菜。
彼女は見慣れぬ周囲の景色を見渡す。
思えば、ロールシャッハを追い掛けてこんな見知らぬ地域にまで来てしまったのだ。
ぽかんとしたように街並を眺めていた李衣菜だったが、ふと霊体化したバスターに念話を飛ばす。


《…ねえ、バスター》
《どうしました、りーなさん?》
《その、ロールシャッハさんのこと、どう思う?》


街の歩道を歩きながら、そんな問いを投げ掛けた。
少しの間を置き、バスターは李衣菜に返答する。


《…あまり良い印象ではない、というのが本音です》
《だよねー…》


やっぱり、と言わんばかりに李衣菜は呟く。
あまり良い印象ではない、というのは李衣菜も同じ感想だった。
短い時間の間で、ロールシャッハという人物の異常性に何度も触れてきたのだから。
初対面時の脅迫紛いの尋問に始まり、そこから常に太々しい態度を貫いていた。
廃ビルに足を踏み入れることになったのも、ロールシャッハが「日記を書きたい」と言ったからだ。
それに、「脱出の手段が無ければどうする」という問いを投げかけられた時もそうだ。
李衣菜の返答に対し、ロールシャッハは何の反応も返さずにその場を歩き去ってしまったのだ。
どこか暴力的で、他人への配慮や遠慮というものが一切感じられない彼の態度に、李衣菜達は少なからず悪印象を抱いていた。


《ですが、私達に協力をしてくれる方達であることも確かです。
 彼らが本当に信用出来るかどうかは、これから見極めればいいのです!》


直儀にバスターから返ってきたのは力強い一言だ。
それを頭の中で聞き、李衣菜は静かに頷く。
ロールシャッハへの印象は決していいものではない。
だが、この殺し合いにおいて貴重な「協力者」であることも確かだった。
本当に信用出来るかは、まだ解らない。
しかし、それはこれから見極めていけばいい。
少なくとも今は味方同士であるのだから。


222 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:20:28 8uJb7EbM0

(脱出する為の方法、かぁ…)


李衣菜は思う。
ロールシャッハは聖杯の破壊を目的とし、自分達は聖杯戦争からの脱出を目的としている。
聖杯戦争には乗らないと言う立場同士で協力関係を結ぶことが出来た。
だが、聖杯戦争から脱出すると言っても――――その手段は思いついていない。
無論ながら、バスターも脱出する為の方法など知る筈が無い。
せめて、この聖杯戦争について教えてくれる人がいればいいのだが。


(……あ)


李衣菜はふと、ある人物のことを思い出した。
『DJサガラ』と言ってたか。
先程の通達で、聖杯戦争についての情報を伝えていた人物だ。
彼は一体何処にいるのだろうか。
李衣菜はそんなことを考えたのだ。
聖杯戦争について詳しく把握しているであろう彼と話が出来れば、少なくともヒントくらいは得られるのでは。
あわよくば、棄権の手段も知っている――――かもしれない。
可能性は低いが、少なくとも賭ける価値はあると思った。


尤も、DJサガラが何処にいるのか。
そんなことは李衣菜には解らないし、バスターにも解らなかった。
結局の所、手探りで探すしかないのかもしれない。


どうしようかなぁ、と李衣菜は考え込みながら歩道を歩く。
なんとなしに、向かい側の歩道へと目を向けてみた。
がっしりした体格のチンピラ風の若者が肩を揺らしながら歩いていた。
派手な装飾で着飾り、煙草を銜えながら部下を引き連れている。
あれがギャングというものなのだろうか。

ロックなアクセサリーだなあ――――と、李衣菜は呑気なことを考えてしまう。
比較的治安の安定して地域で暮らしていた李衣菜は、彼らのような存在を余り見たことがない。
それ故に気になったのか、ギャングらをまじまじと見つめる。

部下の一人がそれに気付き、李衣菜を睨んだ。
ビクリと心臓を掴まれる様な緊張感に襲われる。
すぐに明後日の方向を向き、見て見ぬふりをした。
部下の一人は怪訝な表情を見せたものの、すぐに李衣菜を無視した。

正直言って、今のは怖かった。
あんな堂々としたチンピラは自宅の周辺では見かけなかった。
思えば、そこそこ治安が安定した地域に住んでいたんだなあと李衣菜は思う。
それでも、日本に比べれば十分荒れている部類なのだが。

ちらりと、路地の方へと視線を向けた。
ぎらりとした目の小汚い浮浪者が、李衣菜を見つめている。
口元から涎を垂らし、懐に何かを忍ばせている。
李衣菜の背筋にぞくりと悪寒が走った。
獲物を見つけたハイエナのように、浮浪者はこちらの様子を伺っているのだ。

李衣菜はそそくさと早歩きをし、その場から離れる。
あの路地から逃げる様に。
様子を伺っていた浮浪者から逃れる様に。


223 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:21:16 8uJb7EbM0

それなりの距離を進んだ後、恐る恐る後ろを振り返った。
浮浪者は追い掛けてきていない。
諦めてくれたのだろうか。それとも、自分の思い違いだったのか。
李衣菜には解らないが、少なくとも身の安全は確保出来た。
ふぅ、と安心した様に一息つく。


《りーなさん、もしもの時は私が何とかします!》
《あ、うん!ありがとう、バスター》


直後に脳内に響いたのはバスターの声。
李衣菜は反射的に答え、礼を述べる。
もしもの時―――といえば、暴漢や犯罪者に襲われた時のことだろう。
ゴッサム・シティの治安は極めて悪い、との評判らしい。
何だかんだで事件に巻き込まれたことのなかった李衣菜にとって、少々実感の薄い事実だった。
それなりに安定した生活を送れて、ごく普通に学校へと通える。
それが李衣菜の日常だった。彼女はラッキーだったと言えるのかもしれない。
治安に恵まれた地域に住み、犯罪の被害に遭うことも無くここまで生活出来ていたのだから。

それ故に李衣菜は、危機意識が薄かった。
彼女はロールシャッハを追い、後先考えず治安の悪いダウンタウンに足を踏み入れてしまったのだ。
この地域は特に犯罪者が多く、犯罪組織の活動も盛んとされている。
そんな場所にのこのこと訪れる女子高校生など、いわば狼の縄張りに踏み込む羊のようなものだ。


(…私、緊張感足りてないのかなぁ…)


李衣菜は頬を掻きながらそんなことを思う。
自分はどうも、緊張感と言うものが足りていないらしい。
というより、物珍しい非日常というものが気になってしまうのかもしれない。
親友である前川みくからも何度か言われたことがあった。
「李衣菜チャンは危なっかしい」とか「危ないことに首を突っ込むのはロックじゃなくて無謀にゃ!」とか。
言われてみれば、確かにそうだ。
ロールシャッハ達の争いに割り込んだこと、そしてこの街の形相を目の当たりにしたことで、それを身を以て理解した。
それ故に、少しは気をつけた方が良いのかもしれないと考える。
取り敢えず、早くこの辺りから離れよう。
李衣菜はそう思い、そそくさと歩く。

ふと、視線を横へと向ける。
李衣菜の足がぴたりと止まる。
彼女の目に入ったのは、壁に貼られた指名手配書の張り紙だった。
ヤモト・コキ。手配書によれば現在も逃亡中の殺人犯、らしい。
その首には多額の懸賞金が掛けられていた。


(私と同じくらいの女の子じゃん)


手配書の写真を見て李衣菜は思う。
なんでこんな女の子が人殺しなんてしたんだろう。
それも、異常なまでの懸賞金の額だ。
そういえばロールシャッハさんもこの子のことを話していた様な。
そんなことを考えつつ、李衣菜は再びその場から歩き出した。


224 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:22:20 8uJb7EbM0

【DOWNTOWN CHELSEA HILL/1日目 午後】

【多田李衣菜@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的疲労(小)
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]4千円程度
[思考・状況]
基本:帰りたい。
1.とりあえず今は帰宅。バスの停留所でも探そうかな…
2.ノノ、ロールシャッハ達と協力して脱出の方法を探す。
3.ロールシャッハへの恐怖心と苦手意識。同様にアサシン(シルバーカラス)にも僅かな恐怖。
4.DJサガラを探したいが、アテは無い。
5.ヤモト・コキが少し気になる。
[備考]
※アサシン(チップ=ザナフ、シルバーカラス)の外見、パラメーターを確認しました
※令呪は右手の甲に存在します
※ロールシャッハと連絡先を交換しました。
他にも何かしらの情報を共有しているかもしれません。

【バスター(ノノ)@トップをねらえ2!】
[状態]健康、霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本:マスターが帰りたいらしいので、手伝う
1.りーなさんは私が全力で守ります!
2.ロールシャッハ達と協力して脱出の方法を探す。
3.ロールシャッハへの不信感。彼が信用出来るのか見極めたい。
4.DJサガラを探したいが、アテは無い。
[備考]
※アサシン(チップ=ザナフ、シルバーカラス)の外見を確認しました


◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


225 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:23:38 8uJb7EbM0


酒場の扉が、開かれた。
瞬間、場が一気に静まり返る。
招かざる来客の存在に気付いた悪党達が、沈黙する。
彼らの反応を気にも留めず、『覆面の男』は堂々と店内へと足を踏み入れる。


「御機嫌よう、バオ。情報収集をしに来た」
「……御機嫌よう、ロールシャッハ」


チェルシーヒルの酒場「イエローフラッグ」の店主であるバオは露骨に不機嫌そうに挨拶を交わす。
最悪の客がまたやってきた、と内心で思う。
この酒場は何故か悪党の溜まり場となっている。
軽犯罪で食い繋ぐケチな小物から裏社会に名を馳せる大悪党まで様々だ。
彼らは時に騒ぎや喧嘩を起こすものの、まだ話の通じる連中が殆どだ。

だが、この男はそのいずれとも違う。
規範や理屈というものを平然と蹴り飛ばす、本物の狂人だ。
自分の目的の為ならどんな手段だって使うする。
悪徳が秩序と化している街において、ある意味で最悪の『悪党』だ。

それ故に、店に居座っていた客達は一斉に沈黙する。
先程までやかましいくらいに騒いでいた悪党達は、一気に物言わぬ抜け殻の様に黙り込む。
今日はヤモト・コキとやらのハントが話題となり、普段よりも客が増えていた。
そのせいで、つい先程まで店内は普段以上に騒がしくなっていたのだ。
もう少し静かに出来ねえのか、とバオは思っていたが――――幾ら何でも、静かになり過ぎだろう。
奇妙な緊張感に支配された酒場で、ロールシャッハは口を開いた。


「ヤモト・コキという賞金首の小娘。
 ネオナチ共が身を潜めているという犯罪組織。
 包帯姿の東洋人が牛耳っているマフィア。
 現場にコールタールのようなものを残すと言う例の殺人鬼。
 これらに関する情報を集めている。知っている者が居るならば教えろ」


悪党共を見渡しながら、ロールシャッハが言う。
返事は、返ってこない。
誰も答えようとはしない。
依然として変わらず、緊張にも似た沈黙が場を支配する。

ある者はロールシャッハから目を逸らし、知らぬ存ぜぬといった態度で酒を飲んでいる。
ある者は冷や汗を流しながら、無言でロールシャッハを見つめている。
ある者は身体を震えさせ、顔を俯かせている。

この場にいる者の大半は、ロールシャッハが求める情報を持ち合わせていない。
それ故に誰もが黙り込む。
だが、悪党達はそれ以上に「ロールシャッハと関わりたくない」という想いが強かった。
悪党殺しのパライノアと面倒事になりたくない、という者が大半を占めていた。
だからこそ酒場は奇妙な緊張感に包まれている。
下手なことをすれば、ロールシャッハに何をされるのか解ったものではないからだ。


226 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:24:05 8uJb7EbM0

「Hum……」


沈黙する酒場を見渡し、ぽつりと呟くロールシャッハ。
その態度はどこか呆れ果て、彼らを蔑んでいるかの様だ。

頼むから、早く帰ってくれ。
この場に居るロールシャッハ以外の者達は皆、そう思っていた。
ロールシャッハが来れば、ろくでもないことが起きる。
ゴッサム・シティに住む悪党は誰もがそう理解していた。
しかし、そんな彼らの想いにロールシャッハが応える筈も無く。

そのまま彼は、ゆったりとした足取りで。
店内の隅の席へと歩み寄る。
ロールシャッハに横切られた客達の反応は様々だ。
ビクリと身体を震わせて怯えるか、異臭に表情を歪ませるか、あるいは睨みつけるか。
そんな彼らの反応をよそに、ロールシャッハは隅のテーブル席に座る男に声を掛ける。


「ヤン・ヴァレンタインだな」


ロールシャッハは、低い声でそう呟く。
彼の視線が見下ろす先に座っていたのは、チーマー風の若者だった。
ヤンと呼ばれた若者は、唖然とした様にロールシャッハを見上げる。


「ロ…ロールシャッハさんよ、俺に何の用?
 俺らさ、か、顔馴染みだろォ?この店で、何度も会って」
「お前がネオナチ共の使い走りであることは、既に調査済みだ」


え、とヤンは驚愕の表情を浮かべる。
ヤンはこれまでもイエローフラッグで何度かロールシャッハを見ていた。
ロールシャッハに目をつけられてはいなかった。
大した取り柄の無い、ただの小悪党として見られていたのだから。
ネオナチの下っ端と言う素性は知られていなかった筈だ。

だが、ロールシャッハは今。
自分のことを「ネオナチ共の使い走り」と言っていた。
どこでその情報を手に入れたんだ。
何故知られているんだ。
ヤンの疑心や焦燥を余所に、ロールシャッハがヤンの右手を掴む。
そのまま、人差し指を握り。



「口を噤んでいればやり過ごせるとでも思っていたか、薄汚いウジ虫め」
 


ロールシャッハが心底忌々しげにそう呟いた直後。
ごきり、と鈍い音が響いた。




「あ、ぎゃあああああああああああああああぁぁぁ――――――――ッ!!!!!!!!?」




ヤンの絶叫が店内に響き渡る。
彼の人差し指が、あらぬ方向にへし折られていたのだ。
周囲に居座っていた客達の何人かが席を立ち、後ずさり始めた。
始まった。ロールシャッハによる『尋問』が。
店内の悪党達は、顔を青ざめさせる。



「今から俺の質問に答えて貰う。まず右手の人差し指から折った。
 嘘を吐いた場合、次は中指をへし折る」



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


227 : ◆1k3rE2vUCM :2016/02/28(日) 16:25:32 8uJb7EbM0



十数分後。
キィ、と酒屋の扉が開く音が小さく響く。
店内から姿を現したのは、覆面姿の男だった。


《用事は済んだか、マスター》
《ああ》


どこかで身を潜めている自らのサーヴァントと、念話による短いやり取りを交わす。
沈黙した店内を背に、男はその場を立ち去った。




【DOWNTOWN CHELSEA HILL/1日目 午後】
【ロールシャッハ@ウォッチメン】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]ワイヤーガン
[道具]ベイクドビーンズの缶詰、角砂糖
[所持金]5千円程度
[思考・状況]
基本:誰が何と言おうと、聖杯を破壊する。悪党は殺す
1.多田李衣菜らとの共闘。ただしあくまで自分の目的を優先。
2.ネオナチの組織を潰す。
3.赤い覆面の男(レッドフード)に警戒。
4.ヤモト・コキについては見つけ次第罰する。
[備考]
※アサシン(チップ=ザナフ)バスター(ノノ)の外見、パラメーターを確認しました
※多田李衣菜と連絡先を交換しました。
 他にも何かしらの情報を共有しているかもしれません。
※NPCのヤン・ヴァレンタインに尋問を行いました。
ネオナチの組織に関して何かしらの情報を掴んだようです。

【アサシン(シルバーカラス)@ニンジャスレイヤー】
[状態]健康、気配遮断
[装備]ウバステ
[道具]なし
[思考・状況]
基本:マスターに従う
1.多田李衣菜達と共闘。
2.赤い覆面の男(レッドフード)に警戒。
3.多田李衣菜、バスターへの複雑な心境。
4.ヤモト・コキについては……
[備考]
※アサシン(チップ=ザナフ)バスター(ノノ)の外見を確認しました


228 : 名無しさん :2016/02/28(日) 16:26:49 8uJb7EbM0
投下終了です。
タイトルは「Black Rock Theater」で。


229 : 名無しさん :2016/02/28(日) 23:35:17 .W3KzaYQ0

あーいいっすねこの無法の街の雰囲気
他のNPCが世界観やキャラクターの魅力やかっこよさを引き出すのは聖杯ものならではだと思います


230 : ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:01:52 ybS1Ti9Q0
投下お疲れ様です

シャッハさん、相変わらず物言いも言動も容赦ない
シャッハさんに詰められても自分を曲げないと言っただりーは実にロックだし、最後の最後まで妥協しなかったシャッハさんもその点は認めてくれたんじゃないかなーと思いました。

少々遅れてしまいましたが、御剣組とレッドフード組投下します。


231 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:06:29 ybS1Ti9Q0
午前の仕事をこなし、一息つく。
監督役の通達で明らかになった3騎の脱落者。
キャスターに関しては早朝にランサーと話した通り麻薬を打っていた女性の事であろう。
セイバーとアーチャーに関してもそれらしき事件の調書は発見できた。

一つ目はミッドタウンで起きた爆発事故。
周囲に被害がないにもかかわらず、焼死した人の群れ。
ところどころに破壊された後もあった事から爆発事故として処理をされたそうだが、事故として片づけるにはあまりに不可解な状況はこれがサーヴァントの仕業であると推察できる。
二つ目はアップタウン港湾地帯で起きた殺人事件。
見つかったのは首を切断された少年と広範囲にわたって破損したコンテナ、そして何かが焼け焦げたような跡。
他にも複数の事件はあったが、大規模な破壊の跡や不可思議な痕跡のある事件としてはこの二つが際立っていた。

(どちらの事件にも炎、あるいは高熱を帯びた何かが関わっているように思えるが、どう思うランサー)
『同一のサーヴァントによる事件、そう考えてらっしゃると?』
(可能性としてはありえる。犯行は別日、現場もそこまで遠くはない)
『ふむ、それにしては港の事件の青年の遺体、こちらが気になりますね』

ランサーの声に促され調書に再度目を通す。
首を切断された殺害された青年と、表向きは爆発事故の犠牲になったとされる焼死体達。

(何故この青年だけ焼死していないのか、そういう事かな)
『ご名答、恐らく爆発事故の方はセイバーかアーチャー、どちらかのマスターも含めて焼死したのでしょう。他に死体はありませんから』
(なのにこの青年は焼死ではなく首を切断されて死んでいる。それが気になると)
『無論、広範囲の人間を焼死させるのに比べて人一人を殺害するのに焼死に使う魔力の無駄と考え消費を抑えた、といった見方もできますので断定は出来ませんがね
加えて、こちらの港の事件の調書を見るに二か所で戦闘が行われたらしき形跡もあります。ともすれば、こちらの下手人はサーヴァントではない可能性も考慮すべきかと』
(……それは厄介だな)

本来は魔術師なる人種によって行われるという聖杯戦争。
オカルトめいたものを信じるのは非常に癪ではあるが、現にその存在を目撃し、かつ巻き込まれている現状、そういったものが存在すると認めざるをえない。
問題はそんな超常めいた力を用いる人種を相手に一般人でしかない私が相対したところで打つ手がないという事だ。

(結局わかった事といえば何かを発火させる能力を持った主従がいる、という事くらいか)
『本格的に事が始まる前に尻尾を掴ませる主従というものの方が少ないですからね。
彼らが発見され事により脱落したのか、それとも返り討ちにされたのかはわかりませんが、詰めが甘かったかあるいは運が悪かったのでしょう』

ランサーの嘆息交じりの声を聴きながら調書をしまう。
……港の事件の被害者はまだ若い少年だった。
そして、爆発事故の中で唯一の少女の遺体、確証はない、確証はないのだが彼女がマスターであるという疑念はぬぐいきれなかった。
想像したくもないが、私よりも若い命が既にこの地で命を散らしたと考えると、やりきれない思いが胸にこみ上げる。


232 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:07:32 ybS1Ti9Q0

『思いつめた顔をしていますよ』

ランサーの言葉にハッと我に返る。
どうやら顔に出てしまっていたらしい。

(改めて、この戦争が度し難い、そう思っただけだ)
『ならばその思いはこれを開催したものを暴いた時に、真実に辿り着き黒幕に出会った時にぶつけるまでとっておきなさい』
(……そうだな、そうすべきなのだろう)

最後に、自分がいま関わっている調書を確認しなおし、しまってから席を立ち、部屋を出る。
マローニというマフィアの関与したこの案件もほぼチェックに手がかかった状態となった。
物理的な妨害に遭うこと数回、聖杯戦争とは関係のない事柄で命を狙われるとは思いもよらなかったが、ランサーの手を借りることなく、よくここまで漕ぎ着ける事ができたというものだ。

「やあ、ミツルギ。これからランチかい?」

不意に声がかけられた方向を見ると、見知った顔、この場所での同僚の一人がいた。
ハーヴェイ・デント氏。
私が来るまでは冥と人気を二分していたゴッサムを代表する検事だ。
古くからこの街で辣腕を振るう人当たりのいい好人物であり、この検事局の先輩格でも最も信頼できる人物ならば、私もこの男を挙げるだろう。

「ええ、そのつもりです。デント検事」
「そうか、私もちょうどランチに行こうと思っていたところだが……」

チン、と軽い金属音と共に、デント氏が片手に持っていたコインを弾く。
宙を舞い落下するコインは吸い込まれる様にデント氏の手の甲へと落ち、軽く乾いた音を響かせながら、空いた手のひらとでサンドされる。
手のひらをデント氏がゆっくりと開く、手の甲に置かれたコインは傷のついた表を示していた。

「ふむ、今日はランチをご一緒しない方が良さそうだ」

些か残念そうな口振りでデント氏はコインをしまう。
迷った時にはコイントスで決めるという彼の一風変わった癖だ。
それを裁判の時にもパフォーマンスめいて行う点については閉口をするが、まあ、裁判長や弁護側に鞭を振るうよりかは幾分マシかもしれない。
私も冥も彼からは気に入られている。
どうやらこの街で私達の様な、所謂何があっても悪党に屈さない人種は貴重な存在らしい。
この街の警察は腐敗している。が、検事とてそれは同様だ。
金、薬、女、ありとあらゆる汚職の種は検事局にも蔓延っている。
そして、それでも骨抜きにされないのであれば暴力の行使。
この様な環境ではまともな検事など育たなくて当然だ。
現にデント氏もかつての公判で硫酸入りのカプセルを投げつけられ、危うく顔の左半分が焼けただれるところだったのだという。
警察にいる友人とやらの助けもあったとはいえ、それでも毅然と模範的な検事であることを貫いている様は、例えNPCであったとしても同業として敬意を覚える。

「それは残念です。よろしければまた次の機会に」
「ああ、そうするよ。今度はメイも誘って皆で私の家で夕食でもとろう。ギルダも君達が来ると言えばいつもより腕を振るってくれるだろうからね」

手を振り、別れを告げるデント氏を見送ってから外へ出る。
今日の昼食は手頃な値段の軽食で済ませる事にした。


233 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:08:18 ybS1Ti9Q0

気分を変えて普段は入らない様な店に入る。
店の中に入るとマライア・キャリーのクリスマスソングが耳に飛び込んできた。
12月も下旬という時期に設定されたこの架空の町ではどこでもクリスマス一色だ。
カウンターに座ってクラムチャウダーとクラブハウスサンド、食後に紅茶を注文する。
窓から見えるどんよりとした雲に覆われた街並みは、まるで今見えない恐怖に襲われつづけ不安に怯えるゴッサム市民の心情を表しているかに思えた。
チリン、と店の扉に備え付けられた、来客を知らせるベルが鳴る。
隣に人の座る気配を感じ、横目でチラリと見やると、前髪に白いメッシュの入った青年が座っていた。
彼もまた、クラムチャウダーとクラブハウスサンドを注文する。飲み物は私と違いホットのコーヒーを頼んでいたが。

「はい、クラムチャウダーとクラブハウスサンド」

店員が食事を持ってきた、が、そこで目が止まる。
たっぷりのレタスとローストしたチキンとトマトを挟み込み、ピンで止められたクラブハウスサンド、それはいい。
だが、問題はクラムチャウダーだ。
赤い、とにかく赤い色をしている。
クラムチャウダーといえば牛乳がベースの白いスープの筈、確かに貝の身は入ってるが、これは別物ではないだろうか。
しかし、さっきの店員は間違いなく"クラムチャウダー"と口にしていた。ならば同名の料理という可能性もある。

『どうかしましたか、料理になにか?』
(う、うム、いや、なんでもない)

不審げな調子のランサーの念話での問いに生返事で返す。
この町の一般的な知識に関しては、聖杯戦争の参加者として呼び出された際にどういう原理か頭に刷り込まれたが、たった一杯のスープ料理の知識までは生憎とフォローはされていない。
ここは物を知らない人間と思われようが、店員に確認をすべきだろうか……。

「そいつはマンハッタン風のクラムチャウダーさ、牛乳の代わりにトマトとコンソメで煮込んである」

不意に小声で声をかけられた。
私の困惑を見透かしたかのような言葉にギョッとして声が聞こえた方向を見る。
声の主は先程の青年。口許には笑みが浮かんでいた。

「失礼、ミスター。どうもそいつを見て難しい顔をしてるから、もしかしてと思ってね。もしも別の事でお悩みだったんなら謝るよ」
「ム、これはすまない。ご教授感謝する」

バツが悪い。
ランサーの鼻で笑う音が聞こえた。
念話でもしなければ聞こえないものをわざわざ聞かせてくるあたり、我がサーヴァントながらなかなかいい性格をしている。
店員が私の席の後ろを通る、私に話しかけてきた青年の注文も来たらしい。
気を取り直して食事に向きなおる。
クラブハウスサンドを一口。
しっとりしたパンにしみ込んだソースとマヨネーズ、そして肉のうま味と野菜の瑞々しさが口の中に広がる。
シャキシャキしたレタスの触感も楽しみながら嚥下し、件のマンハッタン風というクラムチャウダーにスプーンを持った手を伸ばし、掬い上げる。
出来立てでほかほかと湯気をたてるそれを、恐る恐る口に運ぶ。

「……ほう」

今まで口にしてきたクラムチャウダーとは別物の味である。
が、いい意味で予想を裏切る味だった。
コンソメの上品な味わいをさっぱりとしたトマトの酸味がまとめたスープ。
そのスープによって煮込まれた二枚貝は噛みしめる度に魚介のうま味をプラスする。
サンドを一口、スープを一口のローテーションが出来上がっていく。
気付けばすべてが胃袋に収まっていた。
初めて入った店ではあったが、どうやら当たりを引いたらしい。
もっとも、今飲んでいる紅茶に関してだけは、自宅で淹れたものに比べて断然劣るものではあるが。


234 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:09:13 ybS1Ti9Q0

「初めてのチャウダーは口に合ったかい、ミスター」

紅茶を飲み、一息ついているところに先ほどの青年が再び話しかけてきた。
どうやらあちらも食事は終わったらしい。

「ああ、こういったものもあるのかと新しい発見をさせてもらった。
まだこちらに来てからは日が浅い身でね、食文化についてはさっぱりなところがあったから助かったよ」
「ハハ、検事先生にも知らない事があるって事か」

親切にも教えてくれた人間との会話を無下にあしらうのも悪いと思い返答する。
が、彼の発言を聞き自身の顔が強張ったのを感じた。

「失礼、私は君に自分が何者であるかを名乗ったか、あるいはどこかで出会った事があるだろうか」
「いや、初対面だし、名乗ってもらってもいないな」
「……では、何故私が"検事であること"を知っているのか、答えていただきたいものだが」

視線が鋭くなり、緊張が高まっていく。
会ってすぐの人間に自身が検事であるなどと言われた経験は滅多にない。
そして、私の態度が変わったというのに、青年はその笑みを変える様子はない。

(ランサー)
『特にサーヴァントの反応は感じられません、が油断は禁物かと。隠密に長けたサーヴァントもいますので』
(アサシン、暗殺者のサーヴァントか。いつでも実体化できる準備をしてくれ)
『承知しました』

ランサーの声にも緊張の音が籠っていた。
考える事は一緒らしい。

「すまんねミスター、変に警戒させちまったようだが、その気はなかったんだ。ただね、あんたはあんたが思っている以上に"有名人"なのさ」

青年がおどけた調子で両手を掲げ、手のひらを見せる。
それは私たちに危害を加えないという証明なのだろう。

「"ハーヴェイ・デント""メイ・カルマ"に続いてやってきた法曹界の正義の剣<<ソード・オブ・ジャスティス>>、"レイジ・ミツルギ"大層な名前で呼ばれたもんだな、あんたも」

正義の剣<<ソード・オブ・ジャスティス>>、私の御剣という苗字にあやかって一部のマスコミがつけているあだ名のようなものだ。
紙面で書かれた時は冥を含む検事局の面々にからかわれたものだが。


235 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:10:39 ybS1Ti9Q0

「とりあえず、新聞に取り上げられるような男がだ、そんな目立つ服装で街中を歩いてりゃわかる奴にはわかっちまうって訳さ。
気をつけた方がいいぜ、あんたらを鬱陶しがってるゴロツキどもなんて山ほどいるんだからな」

くくっ、とひきつった笑い声を上げながら、青年はそう続けた。

「……忠告はありがたく受け取っておこう。それで何か用件でもあるのではないかね」
「まさか、俺はただ昼飯を食いに来たら見たことある有名人がいたから、興味半分であんたの横に座っただけさ。
ああ、"法曹界の正義の剣<<ソード・オブ・ジャスティス>>はマンハッタン風のクラムチャウダーを知らなかった"って教えてやれば、
カストリ雑誌の記者どもあたりが喜んでくれるだろうから予定外の収穫はあったがね」
「冗談でもやめてもらおう」

そんな記事を書かれたら冥に何と言われるか分かったものではない。鞭の2,3発も覚悟せねばならないだろう。

「ま、という訳で別にやりあう気なんてないのさ、ミスター。気を悪くしたって言うならすまなかったな、謝るぜ」
「ム、いや、こちらも少々過敏になり過ぎていたようだ。すまなかった」

青年の砕けた物言いにつられた事もあり、一旦警戒心を和らげる。
とはいえ万が一もありうる故にランサーには警戒態勢を維持してもらう。

「あんたから見て、この街はどう思うミスター。まあガキの時分から住んでる俺にしたってここがいいところとは口が裂けても言えんがね」

唐突な青年の質問。
その言葉から青年が地元の人間であるという事が読み取れた。
どう返すべきかと思考を巡らす。

「ここまで犯罪が横行している街、というのは初めて見たな」
「ははっ! きっぱりと言ってくれるじゃないか」

青年が口を開けて笑う。
少なくとも私の返答は彼にとってお気に召すものだったらしい。

「だがそうさミスター、この街は犯罪だらけ、警察も検事も裁判官も揃ってグルなくそったれの街なのさ。どんな悪事だってこの街の闇が隠しちまう」
「しかし、そんな中でも法と秩序の元、その闇を晴らそうと努力している人間達もいる」
「そいつらだって、切欠さえありゃ転げ落ちるんもんさ、ミスター。清廉潔白な検事様だって些細な事で道を踏み外しちまえば忽ち悪党<<ヴィラン>>、街の闇の仲間入り。
あんたの知り合いにはそんな経験をした奴はいなかったのかい?」

青年の言葉を受けて返答に詰まる。
厳徒海慈。宝月巴。
警察局局長や検事局主席の検事であったが些細な不運から犯罪に手を染めてしまった二人。
決して短くはない検事生活の中で、そんな人間を何度も私は見てきている。
そして私自身、あの事件がなければ何かの間違いでそうなっていた可能性も否定はできない。
我が師であり、父を殺したあの人のように、何かの間違いで罪を犯していた可能性もだ。


236 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:11:18 ybS1Ti9Q0

「沈黙は肯定って事だぜ、ミスター」
「そうだな、誰だって道を踏み外す可能性はある」

深く息を吸って、吐く。
改めて挑戦的な笑みを浮かべる青年のその目へと、視線を合わせる。

「だとしても、私は彼らの持つ善性を信じていいものだと思う。私たち検事や警察は真実を追求し、その裏に潜む何かを突き止め、明るみに出す事こそが存在意義だ。
少なくとも私は、"真実を追求すること"を諦めようなどとは思わない。例え誰が相手でも、どんな困難が待ち受けていようとも、だ」

視線と視線がぶつかりあい、沈黙が生まれる。

『臨時ニュースです』

沈黙を破ったのは店のテレビから流れたニュース速報だった
ミッドタウンのフォートクリントン地区で起きた大量殺人事件、しかも全員が笑った姿で窒息するという怪死事件だ。

(ランサー)
『わかりません、が。この異常性は疑ってかかるべきかと』
「すまない、悪いが私はこのあたりで……」

ランサーの言葉に内心で相槌を打ち、警察側から要請があった時の為に検事局へ戻る為に、青年に一言告げようとして、私は言葉を止める。
青年は今の放送を呆然とした表情で聞き入っていた。
まさか、一つの疑念が私の中で膨れ上がっていく。

「君は、あの事件についてなにか心当たりがあるのかね」

その言葉で青年はハッと我に返った様子だった。

「そう見えるかい」
「そうとしか見えなかったら尋ねている」

青年は笑みを浮かべて答えるが、その顔には明らかに余裕がなくなっていた。
疑念が確信に変わる。
この男はあの事件に対してなんらかの事柄を知っている……!


237 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:12:34 ybS1Ti9Q0

「俺が言えるのは忠告だけだ、ミスター。俺の予想が正しいなら、あんたはこの事件に関わるべきじゃない。
あんたみたいなのは食い物にされるだけ、ああいう手合いは俺みたいのに任せて、あんたは行儀のいいマフィアどもで相手にしてな」
「待て!」

そう言って去ろうとする青年を止めようとした時、急に背後か強い力で肩を引き寄せ動きを止められる。
何事かと後ろを見るとランサーの姿、その眼鏡の奥から険しい視線が青年を睨んでいる。
つられて青年へと視線を戻すと私と彼とを分断するように、白髪の青年が立っていた。
サーヴァント、そう認識してパラメーターを確認する。アサシン、暗殺者のクラスのサーヴァントの情報が視覚を通して流れてくる。

「メイって姉ちゃんとどっちかだとは思っていたが、あんたがマスターだったとはね、ミスター」
「君も、マスターだったのか」

その問いには答えず、青年は困惑する店員に金を払い、店を後にする。
バイクのエンジン音が響くのと同時に彼のサーヴァントがその姿をかき消す。
つまりはここから離れたという事なのだろう。
ここにいては怪しまれると思い、私も代金を払ってその店を後にする。

「……まんまと逃げられたな」
『そのようですね』

検事局への道を歩きながら思考する。
彼の発言に一つ引っ掛かる事があったのだ。
彼は、私か冥、どちらかがマスターだとあたりをつけていた。
何故私と冥の二人だったのか。
検事であるならば有名どころといえるのは私と冥以外にもデント氏がいる。
何故、青年の中で彼は除外されていたのか。
思考する。
私と冥、デント氏との違い。
一番の違いは活躍の期間だろう。
デント氏は古くからこのゴッサムで活躍している検事だ、それに対して冥と私は時期こそ違えどここで活躍している時期は明らかに短い。
そして、思い返せば、彼はこの街が地元のような発言をしていた。
だが、ここは存在しない架空の街の筈だ。現に私のしるアメリカにはゴッサムシティなどという街は存在しない。
架空の電脳世界において地元のようにふるまう人間と、そこで古くから活躍していたが故にマスターの候補から外されたデント氏。
一つの可能性が頭をよぎる。

(ランサー、一つ確認したい事がある)
『なんでしょうか?』
(私はこのゴッサムという街を架空の街だと認識していた。私の世界にはないものだからな。
だが、その前提はもしかしたら間違っていたのかもしれない。だから君に確認したいのだ。
"ゴッサムシティ"という街はいずれかの世界に確かな街として存在しえるのか?)
『……結論から言うとそれはYESです。聖杯から与えられた知識の中には、この舞台がアメリカ合衆国の中に確かに存在する街をモチーフにしているとありました』

やはりか。
ならば、あの青年が私と冥をマスターの候補と考えた理由にも検討がつく。

(ランサー、あの青年とは恐らく早急に再度接触をすべきだと私は考える)
『ほう、その理由は?』
(彼が本来のゴッサムシティから呼び出された住人だからだ)

ほう、とランサーが興味深げな声を漏らし、言外に続きを促す。

(私と冥が疑われ、デント氏がマスターの嫌疑から外された理由、それは私と彼女が彼の知るゴッサムにとって明らかな異物であるからだ。
それはそうだろう。自分の知る街に自分の知らない人間がいたのであれば、その部外者がマスターである可能性は高い。
そして、先ほどの事件、おそらくあれを起こしたのもゴッサムシティから来た人間か、あの街由来のサーヴァントだ。でなければ彼の反応に説明がつかない。
ゴッサムシティを知る彼ならば、何か有力な情報を持っている可能性がある。だからこそ、彼とは今一度接触をすべきなのだ)
『なるほど、しかしどうするのです? あてなどないでしょう』
(あてならあるさ)

彼が向かったのは間違いなく怪死事件の現場だ。
彼が捨て置けない何かがあの事件の関係者にはある。
ならば、あの事件を調査すれば自然と彼に会える可能性は高くなる筈。
足早に検事局へと向かう。
一筋の光明が見えた気がした。


238 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:13:02 ybS1Ti9Q0

【MIDTOWN COLOMBIA PT/1日目 午後】

【御剣怜侍@逆転裁判シリーズ】
[状態]健康、平常
[令呪]残り三画
[装備]ブラックコート、黒いウェストコート、ワインレッドのスーツ。
[道具]検事バッジ
[所持金]現金が数万程と、クレジットカード
[思考・状況]
基本:やはり聖杯戦争は許し難い。何としてでも止めねば
1. 仕事を放棄してはいられないので、検事としての本分も果たすつもり
2. 青年(レッドフード)と接触し、詳しい話を聞きたい
3.ランサーとは共に行動する事を徹底させる
[備考]
※検事としての権限を利用し、警察の捜査資料を調べ上げました
※内部から身体を破裂させて対象を殺す殺人鬼(デスドレイン)をサーヴァントではないかと疑っています
※ヤモト・コキが聖杯戦争の参加者であると認識しています。同盟も組めるかもと思っていますが、立場の問題上厳しい事も自覚しています
※キャスターと思しきサーヴァントとそのマスターを殺した存在(レッドフード&チップ・ザナフ)をサーヴァントと認識しました
※脱落したサーヴァントとの戦闘らしき事件の調書から炎、あるいは熱に関する能力を持ったサーヴァントがいる可能性を認識しました。
※アサシン(チップ・ザナフ)の
※素顔のレッドフードに接触しました、レッドフードが本来のゴッサム住民である可能性に気が付きました。

【ランサー(ジェイド・カーティス)@テイルズオブジアビス】
[状態]健康
[装備]マルクト帝国の士官服
[道具]フォニックランス
[所持金]御剣に依存
[思考・状況]
基本:御剣に従う
1. 他サーヴァントの情報をもっと集められないか
2. 殺人鬼(デスドレイン)が犯行現場に残した黒いタールの残留を調べたい
[備考]
※殺人鬼(デスドレイン)がサーヴァントであると疑っています。犯行現場に残したアンコクトンの残骸を調べれば、確証に変わります
※ヤモト・コキが聖杯戦争の参加者である可能性は非常に高いと認識しています
※キャスターとそのマスターを殺した存在(レッドフード&チップ・ザナフ)が間違いなく聖杯戦争の関係者であると考えています
※脱落したサーヴァントとの戦闘らしき事件の調書から炎、あるいは熱に関する能力を持ったサーヴァントがいる可能性を認識しました。
※アサシン(チップ・ザナフ)と素顔のレッドフードに接触しました、レッドフードが本来のゴッサム住民である可能性に気が付きました。


239 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:14:09 ybS1Ti9Q0

何でだ。

バイクを走らせながら疑問がぐるぐると脳裏を駆け巡る。
ここで悪党狩りをやって幾日か、あの目立ちたがりの糞野郎は今まで何も痕跡を見せなかった。
それがどうして今になって思い出したかのように現れやがった。

『おい、本当にあの事件の奴がお前の仇なのか?』
(あんな悪趣味な真似するイカレ野郎、他にいる訳がねえだろ)

あのニュースの時に、アサシンには殺したいと願ってる奴がこのゴッサムにいることを伝えた。
サーヴァントとして呼ばれたのか、マスターとして呼ばれたのかはわからない。
だが、どっちだろうと関係なんてない。
奴は、必ずここで殺す。
サーヴァントだったら改めて聖杯を狙う。
マスターだったなら万々歳だ。

『そういやあの検事はどうするんだ』
(ありゃ見るからにお人よしだ、今は敵対する理由はねえさ)

ミツルギとかいう検事は間違いなくこの街じゃあ早死にするタイプの男だった。
多分あれはディックと気が合うタイプだな、俺はあそこまでお利巧さんじゃないから付き合うのは少々疲れそうなタイプだ。
わざわざ敵を増やす真似はしたくねえし、今のところ分かってる敵は二組。
おまけに覆面男とバスターとかいう乱入者ともいい関係とは言えねえし、そこら中敵だらけじゃ動きづらいにも程がある。

気を取り直してバイクのグリップを強くにぎる。

なあ、ブルーシィ。
ここには俺がいて、あいつがいる。
本当にあんたはここにいないのか?
いないと思わせておいて、いざって時に俺を邪魔するのは御免だぜ、あんたはそういう奴だからな。

そういや、ティムやディックはどうしてるのかね。
こっちに来てからは会ってなかったが、まあNPCだったとしても会わない方がいいだろう
……本物のあいつらには、こんなくそったれな所に来ていて欲しくはないしな。


240 : LAW/OUTLAW ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:14:44 ybS1Ti9Q0

【MIDTOWN COLOMBIA PT/1日目 午後】

【レッドフード@バットマン】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]オートマチックの拳銃
[道具]拳銃の予備弾薬、その他幾つかの武装
[所持金]5千円程度
[思考・状況]
基本:聖杯にジョーカー殺害を願う。悪党は殺す
1.ジョーカーと思わしき人間が行った事件現場に向かい、ジョーカーの痕跡を調べる
2.白い覆面の男(ロールシャッハ)、バスターに警戒。
3.新興の犯罪組織(志々雄)を潰す。
4.ミツルギ達に対しては今のところ敵対はしない
[備考]
※アサシン(シルバーカラス)バスター(ノノ)の外見、パラメーターを確認しました
※御剣をマスターと認識しました。ランサーの外見、パラメーターを確認しました

【チップ=ザナフ@GUILTY GEARシリーズ】
[状態]健康
[装備]ウバステ
[道具]なし
[思考・状況]
基本:マスターに従う
1.ジョーカーと思わしき人間が行った事件現場に向かい、ジョーカーの痕跡を調べる
2.フードの男(シルバーカラス)、バスターに警戒。
[備考]
※アサシン(シルバーカラス)バスター(ノノ)の外見を確認しました
※御剣をマスターと認識しました。ランサーの外見、パラメーターを確認しました


241 : ◆F7nVYlVwnw :2016/02/29(月) 01:16:05 ybS1Ti9Q0
以上で投下終了いたします


242 : 名無しさん :2016/02/29(月) 02:14:58 WiWiSVqM0
投下乙です。
ディックもそうだったけど、やっぱりゴッサムを知る参加者は異物や違和感にすぐ気付けるのか強い
ジョーカーの存在を察知して走るジェイソンだけど、図らずもディックと接近してるからどうなるか楽しみ
御剣とジェイドはお互い知的なだけに考察や推理が安定してるなぁ
クラムチャウダーの話をきっかけに始まる軽食屋での会話の雰囲気が好き


243 : 名無しさん :2016/02/29(月) 06:21:24 i6DiMr/I0
聖杯戦争のはずなのにやたら飯がうまそうで困る


244 : 名無しさん :2016/03/06(日) 00:41:55 XcS.v0VE0
今更ながら投下乙です

Black Rock Theater

ロールシャッハのアイドル評が辛辣すぎる……
ダリィもロールシャッハを目の前にして、自分の意見をきちんと言える胆力はすごい
そしてNPCになってもヤンの扱いはひどい

LAW/OUTLAW
ついにジョーカーの存在に気づいてしまったレッドフード
これからの行動が気になるところ
あと、「まあ、裁判長や弁護側に鞭を振るうよりかは幾分マシかもしれない。」のセリフで笑ってしまった
そりゃそうだ


245 : ◆7DVSWG.5BE :2016/03/19(土) 22:32:01 yyhn0gc.0
ヤモト・コキ&ランサー
多田李衣菜&バスター
予約します


246 : ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:00:26 0DG3BW3c0
ゲリラ投下します


247 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:01:57 0DG3BW3c0


時刻は正午を過ぎた。
この衆愚の街で彷徨う参加者達に、通達が行われた。
既に数組の主従が脱落しているという情報。
残っている主従の数。
街に潜む殺人鬼の存在。
幾つかの情報が得られた。
しかし『彼』にとって、最も重大な情報は別の所にあった。


「サガラ……」


ユグドラシル支部の工房内部にて、貴虎がぽつりと呟く。
DJサガラ。その名を忘れる筈が無い。
ユグドラシルに雇われていたインベスゲームの仕掛人。
同時にヘルヘイムと深い関わりを持つと思われる男。
あの道化の様に食えない男の名を通達で聞くことになるとは思いもしなかった。

サガラという男の情報は貴虎の知る範囲でキャスターにも伝えている。
この街を侵食するヘルヘイムの植物同様、注意を払う必要があるとも言及した。


(何故奴がこの聖杯戦争に……そもそも奴は一体何者なんだ……?)


貴虎は以前、サガラがフェムシンムの王と会話を交わす場面を目の当たりにしたことがある。
彼は知恵の実について言及し、王から『カギ』を受け取っていた。
あの時の行動、口振りからして、彼がヘルヘイムと密接に関わっているということは明白だった。
しかし、サガラという男が何者なのか――――という疑問の答えには未だ辿り着いていない。
今の貴虎に解るのは、サガラが普通の人間ではなくヘルヘイムの関係者であるということのみ。
彼がヘルヘイムの化身そのものであることなど、知る由も無かった。


「マスター、使い魔達が幾つか気になるモノを捕捉しました」


思考する貴虎にキャスターが声をかけてくる。
ゴッサムにはキャスターが放った複数の使い魔が存在している。
彼らはこの街の現状を絶え間なく監視し続けているのだ。
キャスターの呼びかけに応え、貴虎は水晶玉から映像を転送したタブレット端末へと目を向ける。

使い魔の視界を介した映像が端末のモニターへと映る。
そこに映っていたのは、路地裏へと足を踏み入れる複数人のアーマードライダー。
アームズを用いた集団―――彼らがグラスホッパーの団員であることは一目で分かる。
そして、彼らが身に纏っていたのはウォーターメロンアームズだ。
貴虎も一度だけ用いたことがある。スイカアームズのプロトタイプとして製造された武装だ。
圧倒的な火力を備える代わりに安定性を犠牲にした、あの「じゃじゃ馬」が実戦に投入されているとは。
ある程度性能を落とした上で量産化しているのか、あるいはアレを操れる程に団員の練度が高いのか…
彼らの武装に付いて思考していた矢先。



「オーバーロード…!?」


248 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:02:32 0DG3BW3c0

次の瞬間、貴虎は驚愕と共に目を見開く。
アーマードライダー達の前に立ちはだかったのは、真紅の騎士だ。
その風貌はサーヴァントとも異なる『異形』だった。
むしろインベスに近しいと言ってもいい。
貴虎はその姿を忘れる筈が無かった。
かつて森で対峙し、一度は交戦した『ヘルヘイムの侵略を乗り越えし者』。
オーバーロードインベス。その一角が、この街に存在しているというのだ。

そして、直後にモニターに映ったのは惨劇だった。
オーバーロードの圧倒的な力の前に、アーマードライダー達が次々と惨殺されていく。
恐怖に戦く者。必死に逃げ出す者。勇敢に立ち向かう者。
理不尽な程の暴力の前に、誰もが捩じ伏せられていく。
赤。赤。赤。夥しい程の鮮血が、路地を染め上げていく。
貴虎ですら表情を顰める程の残虐な殺戮が、繰り広げられていた。

貴虎は表情を顰めたまま映像を一時停止する。
モニターに映る『血溜まりの中心に立つ真紅の騎士』を睨むように見つめる。


「この紅い怪物が、例のオーバーロードと?」
「…ああ。私がかつて交戦した個体『デェムシュ』だ」


キャスターの問い掛けに貴虎は応える。
オーバーロードインベス、デェムシュ。
かつてオーバーロードの王からその名を聞いた。
彼もまたサーヴァントとして召還されたのか、という考えも浮かんだ。
しかし、ステータスが一切読み取れないという点からして通常のサーヴァントとは異なる。
キャスターによる目測でも、サーヴァントとは何かが異なっているという感想が出た。

ヘルヘイムの植物が再現され、サガラが通達役として姿を現し、剰えオーバーロードが会場に出現している。
余りにもおかしい。ヘルヘイムという存在が関与しすぎている。
これではまるで、彼らによって聖杯戦争が開かれているのではないかと考えてしまう程だ。
しかし、ヘルヘイムはあくまで世界を侵略する概念のようなもの。
これほどまで大掛かりで周到な催しを行うことが有り得るというのか。


「キャスター、聖杯戦争というのは前例が存在するのか?」
「ええ、聖杯を巡る儀式は過去にも行われています。
 ですが、通常召還されるサーヴァントは七騎。
 二十を超えるサーヴァントが集ったという話は前例がありません。
 ましてや、ヘルヘイムという侵略者が監督役を務めるなど有り得ないことでしょう」


貴虎の質問を聞き、すぐにキャスターが答える。
聖杯戦争とは通常ならば七つのクラスに七騎のサーヴァントが割り当てられるもの。
此処まで大規模なサーヴァントの召還が行われたと言う前例は存在しないのだ。
ヘルヘイムという存在が関与したことも過去に例が無い。
彼女はかつて聖杯戦争を体験したことがあるからこそ、そう断言出来た。

尤も、彼女の中に『以前サーヴァントとして過ごした記憶』は存在しない。
英霊はサーヴァントとして召還され、聖杯戦争を体験しても、座へ還ることでそれらの記憶が失われる。
かつての体験は記録として座の中に残されるのだ。
それ故に今のキャスターが持ち合わせているのは、英霊の座で得た過去の記録という『情報』のみ。


249 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:03:01 0DG3BW3c0

キャスターの答えを咀嚼し、貴虎は思案を続ける。
サーヴァントから見てもこの聖杯戦争が異常であるということは理解出来た。


(ヘルヘイムに、オーバーロード……そしてサガラ……
 何故奴らがこの戦争に関わっている?聖杯は何をしようとしている?)


ヘルヘイムと聖杯戦争を結びつけるものとは何なのか。
思考の最中で、貴虎はあることを思う。

神に等しい力を持つ願望器が存在する。
それを求めて闘争が繰り広げられる。
聖杯を取り、主に捧げる役割を持つ英霊が召還される。


まるで、『知恵の実』を巡る戦いだ。


フェムシンムの王・ロシュオと対話したからこそ貴虎は知っていた。
知恵の実もまた、万物を超越する力を持っている。
ヘルヘイムによる侵略の過程で、実を得るに相応しい者を定める闘争がある。
勝者に実を捧げる役割を持つ巫女が存在している。
『聖杯戦争』と『知恵の実を巡る戦い』は、類似しているのだ。

聖杯戦争とは、これまでとは異なる形で『知恵の実』を巡る闘争なのではないか。
少々乱暴だが、そんな推測が貴虎の脳裏に過る。
しかし、本来の聖杯戦争はヘルヘイムとの関連性を持たない。
サガラという男が進行役を務めたことも、聖杯戦争の開催地で森による侵食が発生したという事実も存在していないのだ。
かつて聖杯戦争を経験したというキャスターの話でそれを知ることが出来た。

ならば、何故ヘルヘイムが此処に在る。
森が、オーバーロードが、そしてサガラが、何故この聖杯戦争に存在している。
ヘルヘイムという侵略者が、聖杯すらも取り込んだとでも言うのか。
あるいは、奇跡の願望器を巡る儀式を再現するだけの力を備えているというのか。
そもそも何故ヘルヘイムが聖杯戦争に関わっている。
森とは世界への侵食と知恵の実によって、進化と滅亡を促す侵略者ではないのか。



(或いは、黒幕がいる……か)



ヘルヘイムそのものは時空を超える侵略種に過ぎない。
侵食によって世界に脅威を齎す、悪意無き天災だ。
だが、ヘルヘイムを制御出来る者は確かに存在する。
オーバーロードの長・ロシュオは知恵の実に選ばれ、森を支配する力を得た王だ。
彼の様な支配者としての力があれば、森を制御することは可能だろう。
そしてキャスターの言及によれば、聖杯はあらゆる時代と地域を問わず英霊を記録する力を持つ。
つまり、過去の英雄であろうと、未来の英雄であろうと――――聖杯の力を以てすれば、全て管理することが出来る。
宇宙の全ての記憶を保存するアカシックレコードのように。
最早それは時間軸の超越と言ってもいいだろう。


もしも何処かの時間軸でヘルヘイムの『王』となった者が聖杯を手にしたとならば。
聖杯戦争を開き、会場にヘルヘイムの植物を出現させることも、使い魔としてオーバーロードを召還することも可能なのではないか。
世界を超えるヘルヘイム、時間を超える聖杯。
それらの力があれば時空を超越することさえ不可能ではないだろう。


250 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:03:51 0DG3BW3c0

シドや湊燿子といった「自分の記憶とは異なる同一人物」は平行世界の人間なのかもしれない。
キャスターの話によれば、会場内の人間は全て『生きた魂』を備えているという。
この街で暮らす住民達は聖杯やヘルヘイムの力で作られた人形等ではない。
紛れもなく『生きた人間』なのだ。
黒幕は会場に『街』としての機能を持たせる為に、参加者に縁のある平行世界の人間を住民として放り込んだのではないか。
ヘルヘイムと聖杯によって時空を超越する力を持つ者ならば、そのような神の御業に等しい行為も不可能ではないかもしれない。
住民達が本来の記憶を失っていることに関しても、恐らくはマスターと同じだろう。
ゴッサムで生活していた記憶を植え付けられた上で、予選時のマスターのように本来の記憶を封じ込まれている。

尤も、何故聖杯戦争を開いたのか、何故このような大掛かりな舞台を用意する必要があったのかは未だ見当も付かない。
そもそもこの推測自体が『聖杯とヘルヘイムの双方を掌握した黒幕が存在する』という前提に基づくものだ。
故に今はまだ断定は出来ない。可能性として考慮するのみだ。
これらの考察をキャスターと共有した後、キャスターが再び口を開く。


「マスター、他にも気になるモノがあるのですが…宜しいですか?」
「ああ」


引き続き端末のモニターへと目を向ける。
今度は別の使い魔による映像だ。
使い魔は街を飛翔し、『白いサーヴァント』の存在を捕捉していた。
しかし間もなく、白いサーヴァントは使い魔の方へと視線を向けていた。
咄嗟に逃げようとする使い魔の前に、一瞬のスピードで転移し。
そして、何らかの魔術によって使い魔を攻撃した。
直後に映像が途切れている。あのサーヴァントにやられたのだろう。


「クラスは…ランサーか」
「今のランサーは使い魔の存在を的確に認識し、攻撃を仕掛けてきました。
 恐らく、強力な魔力探知能力を持つサーヴァントかと」


映像によってランサーのステータスを視認した貴虎に、キャスターが黙々と伝える。
あのランサーは己を監視していた使い魔の存在に即座に気付き、攻撃を仕掛けてきたのだ。
大魔術師であるキャスターが放った使い魔には多少なりとも魔力隠蔽工作が施されている。
勘の鋭いサーヴァントならば注意を凝らせば存在に気付けるかもしれないが、基本的にはある程度の距離を取っていれば気配を悟られることは無い。
しかし、ランサーは逸早く使い魔の気配を察知し、対処を行ってきた。
あれ程までに素早い察知と反応が行えるとなれば、優れた魔力探知能力を備えている可能性が高い。


「高い魔力探知能力に加え、三騎士の対魔力…君にとって厄介な相手という訳か。
 隠密行動を取った所で察知される可能性が高く、魔術による対処も困難…」


白亜のアーチャー主従の確保を視野に入れていたキャスター達にとって、あのランサーの存在は少々厄介だ。
ランサーは白亜のアーチャー達と同じUPTOWNの区域で行動しており、使い魔の存在にも気付いている。
彼がどれほどの魔力探知能力を備えているかは不明だが、使い魔を認識したことで周囲への警戒を強めている可能性が高い。
下手をすれば、アーチャーに襲撃を仕掛ける際にキャスターらの存在を察知するかもしれないのだ。
本当にそれだけの探知能力を持つかは未知数であるものの、警戒するに越したことは無い。

貴虎は白亜のアーチャーらへの襲撃に慎重な姿勢だ。
マスターの拉致とサーヴァントの鹵獲が他の主従に露呈すれば、危機に陥るのは必死だ。
敵サーヴァントを意のままに支配する魔術師――――そんな存在が知られれば、警戒されない筈が無いのだ。
それ故に貴虎は可能な限り秘密裏に鹵獲を遂行することを望んでいた。
しかし現状のUPTOWNには魔力探知に優れたランサー、不確定要素とも言えるオーバーロードが存在している。
更に白亜のアーチャーを二度も追跡した蝙蝠男が何らかの偵察を行っている可能性も否定出来ない。
今は行動するべきではないか―――貴虎はそう考えていた。


251 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:04:17 0DG3BW3c0

「あの白亜のアーチャー達の様子はどうだ?」
「拠点と思わしきアパートに潜伏中です。
 そこから動く気配は今の所見られません」


キャスターがそう言うと、モニターに別の使い魔が見た光景が映し出される。
とあるビルの屋上から一軒のアパートを見張っている。
どうやら此処がアーチャーのマスターの自宅らしい。

白亜のアーチャーのマスターは荒事に慣れていない一般人と思われる。
先の件で疲労が蓄積し、自宅で休息を取っているといった所か。
各地を転々とし続けるよりは体力を温存し易く、尚かつアーチャーも拠点防衛ならば幾分かマスターを守り易いだろう。
先程の蝙蝠男のような追跡者に居場所を割り当てられれば痛手になる可能性もある。
しかし無力なマスターを守る為ならば、屋内の拠点で迎撃戦の体勢を取る方が効率的と言える。
戦う術の無い少女を外部で行動させれば、サーヴァントの守護があると言えども分断や奇襲によって危機に陥る可能性があるのだから。
恐らく彼女らは、暫くあの拠点に留まり続けるだろう。

手出しをしづらい状況ではあるものの、逆に行動を監視し易いとも言える。
使い魔には一定の距離を取らせ、慎重に見張らせ続けている。
気配を隠す施しを行っているとは言え、油断は禁物だ。


今の貴虎は、消極的な方針を掲げていた。
それ故に『積極的に動く者』が現れる可能性を見落としかけていたのだ。
白亜のサーヴァントらに対し、自ら進んで接触を試みようとする者が現れる可能性を。



「…マスター」



キャスターが、貴虎に声を掛ける。
彼女が視線を向けていたのは工房内の水晶玉だ。
モニターを一時停止しつつ、貴虎は彼女が見る水晶玉へと目を向ける。

使い魔の視界には、街の光景が映し出されている。
街の中を歩く、一人の青年の姿を映し出している。
彼は右肩に下げた鞄だけではなく、左手に『猫のキーホルダー』が付いたもう一つの鞄を携えていた。
青年は白亜のアーチャー主従の拠点がある方角へと、少しずつ移動していた。



「光実……」



貴虎の口から、ぽつりとその名が溢れる。
水晶玉に映る青年――――それは呉島貴虎の弟、光実だった。

先程の映像で見た光景が脳裏を過る。
白亜のアーチャー主従を守るように蝙蝠男を攻撃した光実の姿。
光実はまるで二人を守るように蝙蝠男に妨害を仕掛けたのだ。

兄としての欲目だと思っていた「少女を守った」という行動が、本当だったのか。
あるいは、その少女らでさえ利用する魂胆なのか。真実は解らない。
今の貴虎達に解るのは、光実が白亜のアーチャー主従へと接近しているということだけだ。


(もしも光実が、あの少女らへと接触を試みようとしているのならば――――)


白亜のアーチャーを狙う自分達にとって、障害となる可能性が出てくる。
今襲撃に向かったとして、他の主従に露呈しないという保障は無い。
むしろ光実らに自分達の暗躍を知られる危険性がある。
対白亜のアーチャーの装備も完全に整っているとは言い難い。
しかし、本当に光実があの少女と接触し、協力関係を結ぶことに成功したとすれば。
アーチャーを鹵獲し、少女を保護する機会は失われるだろう。


水晶玉を睨むように見据えつつ、貴虎達は思考する。
決断を迫られている。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


252 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:04:43 0DG3BW3c0
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



通達を終え、幾らかの時間が経過した。
DJサガラが聖杯戦争に関わっている。
ヘルヘイムの植物が侵食していただけでも予想外だったというのに。
今度はあの何を考えているのかも解らない男が姿を現した。
此処に来て、呉島光実にとって予期せぬ自体が続いている。

DJサガラとは一体何者なのか。
何故奴がこの殺し合いの進行役になっているのか。
そもそも、何故ヘルヘイムがこの街に存在しているのか。

幾らかの人が行き交う街を歩き、光実は思う。
オーバーロードの力に心を折られた彼は、聖杯による逆転を狙った。
ヘルヘイムの力さえも凌ぐであろう奇跡の願望器さえあれば、高司舞を守れる。
そう思っていたのに――――何故だ。
何故ヘルヘイムが、サガラが、この街に居る。
まるで元の世界での因縁に追い掛け回されているかのようだ。
暗い影が世界を蝕んで迫ってくるかのようだ。

サガラがあのヘルヘイムと何らかの関わりがあることは感付いている。
あの男は普通の人間ではない。
ならば、何者なのか。
その答えは見つからない。


《どこへ行くつもり?》


唐突に、アーチャーの念話の声が響いた。
光実は右肩に自身の鞄をぶら下げ、左手にはもう一つの鞄を握っている。
あの路地裏で前川みくが落とした鞄だ。
少し前、無礼な行為であることは承知の上で光実はみくの荷物を確認した。
鞄に入っていた学生証から彼女の住所を割り当てた後、こうして街を歩いている。
アーチャーは光実が何処へ向かっているのか、予想はついていた。
その上で光実に問い掛けたのだ。


《前川さんに会いに行く》


予想通りの答えが、返ってきた。


253 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:05:19 0DG3BW3c0

《もしかして、彼女と組むの?》
《ああ》


光実が出した結論は、前川みくとの共闘だった。
彼女のサーヴァントは圧倒的な力を備えていた。
実際に戦闘を目の当たりにし、そのステータスを目視したからこそ解る。
恐らくだが、奴は実力をセーブした上であれだけの強さを誇っている。
宝具らしきものを使っていた形跡がまるで無く、武装を出し渋っていたと思われるのがその証拠だ。


(少なくとも、こいつみたいな『雑魚』よりも遥かに強い)


自分の傍に居るであろうアーチャーに対して内心毒づきつつ、光実は思考する。
アーチャーは、はっきり言って弱い。
確かに不意打ちにおいては優れているし、弱いおかげで魔力を馬鹿食いされることもない。
しかし、対サーヴァントの決め手となる強みに欠けるのも事実だ。
彼女のみを使って聖杯戦争を勝ち抜くことは難しいだろうと結論付けていた。
もっと戦力になる存在が必要となる。
その為に、前川みくを利用する。

最強に近い白亜のアーチャーを前衛に据え、自分達は後衛や不意打ちに徹する。
都合が悪くなった際にはアーチャーを差し向け、宝具を駆使して前川みくに手を下す。
それが呉島光実の魂胆だった。


《前川さんは利用対象としては使い易い存在だよ。
 きっと僕のことなら信用してくれるだろうしね》


前川みくが光実という人間に興味を抱いていることには明白だろう。
同時に、あの時の一件で彼女の悩みの解決に貢献したと思われる。
恐らく光実は、みくから信用もされている。
全員が敵同士という状況下における『同盟相手』としては幾分かやりやすいというものだ。

そして光実はみくに自らの正体を明かすつもりだった。
マスターとしての正体のみならず、自らがアーマードライダー龍玄であることを。
龍玄としての素顔を晒すリスクは少なくない。
自ら被っていた仮面を脱ぎ捨て、正体を晒すのと同義なのだから。
だが、彼女にとってアーマードライダー龍玄は『命の恩人』でもある。
相手が恩人であると知れば、少なくとも赤の他人よりは信頼を勝ち取り易くなるだろう。
白亜のアーチャーがトドメを刺そうとした時に止めに入ったことからして、彼女は龍玄を恩人として見ている。


《で、貴方も前川さんになら気を許せると?》


アーチャーがぽつりと、嫌味の様な一言を呟いてきた。


254 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:05:48 0DG3BW3c0
光実の眉間に僅かな皺が寄る。
顔を僅かに俯け、表情を悟られぬようにする。


――――黙っていろ、お前は従者に過ぎないだろうが。


まるで自分の心を読むかのように指摘してくるアーチャーに、光実は不快感を覚えていた。
この女は自分の立場が解っていないのか。
どちらが上なのか、理解させてやるべきか。
そんな考えが頭に浮かんできたものの、光実はすぐに冷静さを取り戻す。
此処で下手に憤り、関係を悪化させれば後々の連携に響くかもしれない。
故に光実は内心の不快感を抑え込み、言葉を紡ぐ。


《…彼女も、いつかは乗り越えなくちゃならない壁だよ。
 聖杯を手にする為なら、前川さんだって踏み台にしてみせるさ。
 それに君は不意打ちや騙し討ちのような『卑怯な手段』は大得意だろう、アーチャー。
 君の手を借りれば彼女よりも先手を打つのは容易いさ》


当てつけの様な言葉をさり気なく織り交ぜつつ、光実がアーチャーにそう言う。
光実の言う通り、アーチャーならばみくにも容易に手を下せるだろう。
彼女は弱小の英霊ではあるものの、不意打ちや暗殺の能力においては優れている。
前川みくの不意を突き、彼女を人質にすることや抹殺することは容易い。
アーチャーの宝具の持続時間は短いものの、相手が近距離に居るならば十分に先手を取れるだろう。


《そうね、私なら前川さんや敵のアーチャーよりも先に手を下せる。
 貴方の指示があれば、いつでもね》


貴方の指示があれば。
手を下すのは光実次第だ、と言わんばかりにアーチャーは紡ぐ。
光実は彼女の言葉に返事をしなかった。


高司舞を守る為に聖杯を手にしなければならない。
その為には二十組を超える主従を踏み台にしなければならない。
彼らの屍を乗り越えなければならないのだ。


―――それくらい、解っている。


それ以外に手段が無いのだから。
自分は、それを受け入れるしか出来ない。
たった数十人の命と引き換えに全てを超える力を得られるのなら、安いものだ。
自分は戦う。己の願いを叶える為に。
舞さんを守る為に。
その為なら自分の価値を認めてくれる人間だろうと、実の兄だろうと踏み台にしてみせる。
勝つ為に全てを利用し、踏み躙るだけだ。
呉島光実は、自分にそう言い聞かせた。



◆◆◆◆


255 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:06:28 0DG3BW3c0
◆◆◆◆



この男は本当に大丈夫なのか。
アーチャー「暁美ほむら」は率直にそう思っていた。


(放っておけない癖にね…)


この数日、呉島光実という人間を観察して思ったことがある。
光実は誰よりも傲慢で、誰よりも飢えているということだ。
少なくともほむらは彼をそういう人間だと認識していた。

彼は自分の領域を侵す者、自分の障害になる者に対しては酷く冷淡だ。
そのような相手に対してはどこまでも卑劣になれる。
同時に、彼は他者からの承認に飢えていた。
自分にとって都合の良い存在を何よりも求めていた。
自分以外は信用していない、目的の為なら誰だって利用してみせる―――そんなことを口にしていながら、光実はチーム鎧武というコミュニティに固執している。
聖杯戦争を行う上で足枷にしかならない関係を、彼は態々守り続けているのだ。

そして光実は、自分を認めてくれた前川みくに好感を抱いている。
否――――きっと光実にとって、前川みくという個人が特別なのではない。
『自分の価値を否定せずに認めてくれる都合の良い存在』が特別なのだ。
呉島という名に囚われず、光実という人間を受け入れてくれるチーム鎧武と同じだ。


(ダンスチームも、前川さんも、貴方にとっては同じ様なモノなのでしょうね。
 自分を認めてくれるのなら、きっと貴方は誰だって構わない)


前川みくという少女の価値は、所詮その程度だろう。
結局の所、光実が個人として好意を抱いているのは高司舞だけ。
それでも、その程度の価値でも、光実にとっては大きな意味がある。
だから彼は前川みくを、自分を理解してくれる者を気にかけるのだ。
彼女がマスターであることを知って、その想いが更に大きくなったのだろう。

仮に本当に前川みくに利用価値が無くなったとして。
光実は彼女を切り捨てられるのか。
自分の価値を認めてくれる者を、躊躇無く始末出来るのか。

高司舞への固執だけならまだいい。
自分もある個人の為に戦っているのだ。その感情は理解出来なくもない。
だが、光実はそこから更にチーム鎧武や前川みくのような存在へと執着を広げている。
本人にその意識があるのかは解らないが、少なからず影響を与えられているのは確かだろう。

自分もかつて、まだ無垢だった頃。
仲間を守る為に奔走したことがあった。
鹿目まどか以外の魔法少女を頼ることも視野に入れていた。
だが、無意味だった。無価値だった。
他人を余す事無く守ろうとするなど、無謀でしかないのだ。
全てを守ることなど不可能だ。
本当に守るべき者があるならば―――それだけを優先し、行動すべきなのだ。
故にほむらは、まどか一人だけを守る決意をした。
他の魔法少女は、利用対象。あるいは、まどかを悲しませない為の存在に過ぎなくなった。

呉島光実は、未だに心では理解しきれていないのだろう。
過酷な運命から愛する者を守りたいなら、悪魔になるしかないということに。
全てを踏み台にしてでも、先へ進まなければいけないということに。
その為ならチーム鎧武だろうと、前川みくだろうと、踏み躙らなければならない。


(失望させないで欲しいわね、呉島光実。
 もし貴方が使えないと解ったら、私は私のやり方をするだけよ)


見立て通りの飢えた子供なのか。
それとも、自分の予想を上回る本物の悪魔なのか。
暁美ほむらは淡々と光実を見極める。


256 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:07:37 0DG3BW3c0

【MIDTOWN COLUMBIA PT/1日目 午後】
【呉島貴虎@仮面ライダー鎧武】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]黒のスーツ、魔力避けのアミュレット
[道具]黒いコート、戦極ドライバー、各種ロックシード
[所持金]現金十五万程、クレジットカード(ゴールド)
[思考・状況]
基本:慎重に立ち回りながら聖杯戦争を勝ち抜く
0 光実を殺さずに済むのなら……
1 光実らが接触するよりも先に白亜のサーヴァント主従に対する行動を起こす?
2 グラスホッパーと武装勢力(志々雄真実の一派)の争いを静観し、マスターやサーヴァントの情報を手に入れる
3 自分がマスターであることとキャスターがユグドラシルに潜んでいることを極力知られないようにする。特にグラスホッパーの監視には注意を払う。
4 準備が十分に整ったら打って出る。その際は斬月に変身して正体を隠す。
5 ランサー(ウルキオラ)、オーバーロードに警戒。
6 できるだけ市民(NPC)に無用な犠牲を出したくはないが……
7 凌馬がサーヴァントとして存在するならば決着を着けなければならない。
8 今後自宅に帰るべきか、帰らないべきか……
[備考]
※所持ロックシードの内訳は以下の通りです
メロン、ヒマワリ×4、マツボックリ
※キャスター(メディア)の魔術によって肉体及び斬月の機能を強化できます。
強化魔術が働いている間はサーヴァントにダメージを与えることができます
※ユグドラシル・コーポレーションの情報網から聖杯戦争に関係する情報を集めています
※グラスホッパーの内部にマスター、サーヴァントがいると考えています。
またそのサーヴァントは戦極凌馬ではないかと考えていますが確証までは掴んでいません
※武装勢力の頭領(志々雄真実)がマスターであることを把握しました
※呉島光実、前川みくがマスターであることを把握しました
※ヘルヘイムの森及びインベスの存在を認知しています。これについては聖杯が意図的にヘルヘイムを再現したのではないかと考察しています
※魔力避けのアミュレットはDランクの対魔力に相当する効果を得られます
※現在前川みく、アーチャー(ジャスティス)を襲撃する計画を練っています。
ただし何らかの理由で秘密裏に実行することが困難だと判断した場合襲撃は見送られます
※ライダー(バットマン)、アーチャー(暁美ほむら)、アーチャー(ジャスティス)のステータスと一部スキルを確認しました
※オーバーロードインベス(デェムシュ)、キャスター(デスドレイン)、ランサー(ウルキオラ)の存在を認識しました。
※聖杯戦争と知恵の実を巡る戦いに類似点があると考えています。
また、聖杯と知恵の実の双方を掌握している黒幕がいる可能性を考慮しています。

【キャスター(メディア)@Fate/stay night】
[状態]健康
[装備]ローブ
[道具]ヘルヘイムの果実(大量)、杖、ルールブレイカー、量産型戦極ドライバー
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れ、受肉を果たし故郷に帰る
1 今は貴虎の采配に従う
2 光実らが接触するよりも先に白亜のサーヴァント主従に対する行動を起こす?
3 白亜のサーヴァント主従を鹵獲するための準備を整えつつ監視を怠らないようにする
4 陣地の構築や監視網の形成、ヘルヘイムの果実の解析、魔力炉の製作を進める
5 ランサー(ウルキオラ)、オーバーロードに警戒
6 状況次第では貴虎を見限る………?
7 仕事が多いので潤いが欲しい


257 : Scramble ◆1k3rE2vUCM :2016/03/22(火) 17:08:20 0DG3BW3c0
[備考]
※ユグドラシル・コーポレーションの地下区画に陣地を形成しています。
今はまだ工房の段階ですが時間経過で神殿にランクアップします。
また工房には多量の魔力がプールされています
※陣地の存在を隠蔽する魔術が何重にも敷かれています。
よほど感知能力に優れたサーヴァントでない限り発見は困難でしょう
※現在ヘルヘイムの果実の解析を行っています。
解析に成功すれば果実が内包する魔力を無害な形で直接抽出できるようになります。
またさらに次の段階としてヘルヘイムの果実を材料とした魔力炉の製作を行う予定です。
※ユグドラシル・コーポレーションの支社長をはじめとした役員、及び地下区画に出入りする可能性のある社員、職員に暗示をかけ支配下に置いています
※使い魔による監視網を構築中です。
現在はユグドラシル・コーポレーションを中心としたゴッサムシティ全体の半分程度ですが時間経過で監視網は広がります
※グラスホッパー、武装勢力(志々雄真実の一派)、呉島光実、前川みく以外のマスター、サーヴァントに関わる情報を持っているかは後の書き手さんにお任せします
※魔力避けのアミュレットを貴虎に渡しました。 時間をかければより高品質な魔術礼装を作成できます。
※アーチャー(ジャスティス)対策のために精神防御に特化した魔術礼装の製作に着手しました。夜間の時間帯には完成する予定です。
※グラスホッパー所有のヘルヘイムの果実を保管する倉庫を襲撃し、大量のヘルヘイムの果実と戦極ドライバー一基を奪取しました。
※ウェインタワーの上にいたサーヴァント(ジェダ・ドーマ)を視認しました。
※オーバーロードインベス(デェムシュ)、キャスター(デスドレイン)、ランサー(ウルキオラ)の存在を認識しました。
※聖杯戦争とヘルヘイムの関連性に関する貴虎の考察を聞きました。




【UPTOWN SOUTH PT/1日目 午後】
【呉島光実@仮面ライダー鎧武】
[状態]肉体的ダメージ(小)、精神的疲労(小)
[令呪]残り三画
[装備]私服
[道具]鞄、ゲネシスドライバー、戦極ドライバー、各種ロックシード、前川みくの鞄
[所持金]現金十万程、クレジットカード(ゴールド)
[思考・状況]
基本:無駄な戦闘は避けつつ聖杯を狙う
1 前川みくと再び接触する。
2 アーチャーが弱すぎて頭が痛い
3 兄さんはマスターなのか?
4 赤髪のアーチャー(ジャスティス)、黒のライダー(バットマン)、ヘルヘイムの植物に警戒
5 勝利の為に全てを踏み台にする…?
[備考]
※所持ロックシードの内訳は以下の通りです
ブドウ、キウイ、メロンエナジー、ローズアタッカー、ヒマワリ
※前川みくがマスターだと気づきました
※アーチャー(ジャスティス)、ライダー(バットマン)のステータスを確認しました。
※ヘルヘイムの植物の存在に気づきました
※呉島貴虎がマスターではないかと疑っていますが確証は掴めていません。もしマスターであった場合殺すのは最後にするべきと考えています
※聖杯は時間の操作や平行世界への干渉も可能だと考えています
※前川みくの荷物から彼女の住所を知りました。

【アーチャー(暁美ほむら)@劇場版魔法少女まどか☆マギカ〜叛逆の物語〜】
[状態]魔力消費(微)、肉体的ダメージ(小)
[装備]魔法少女の服、双眼鏡、弓矢
[道具]
[思考・状況]
基本:今のところは光実の采配に従う
1 光実が前川みくを本当に利用出来るのか気になる。
2 場合によっては自分の判断で動く。
3 赤髪のアーチャー(ジャスティス)、ライダー(バットマン)、ヘルヘイムの植物に警戒
4 引き続き周辺を警戒する
[備考]
※呉島貴虎がマスターではないかと疑っていますが確証は掴めていません
※前川みく&アーチャー(ジャスティス)、ライダー(バットマン)の存在を確認しました
※光実の知る範囲でヘルヘイムについて知りました。


258 : 名無しさん :2016/03/22(火) 17:08:33 0DG3BW3c0
投下終了です


259 : 名無しさん :2016/03/23(水) 18:49:07 tOS97P8Y0
投下乙です。
光実とほむらの仲は殺伐としているな
お互い隙があれば、躊躇なく切り捨てそう

メディアもウルキオラを発見したが、高い耐魔力に高い感知能力。
まさにメディアの天敵


260 : ◆JOKERxX7Qc :2016/03/24(木) 02:36:39 I8wYGCeU0
皆様、投下乙でございます。

・Dead Man’s reQuiem
 知らぬ間にサーヴァントと接触していたジョンガリ。
 盲目故にステータスが確認できないのは中々に辛いハンデになりそう。
 そしてセリュー……この独断専行ぶりはまさしくバーサーカー。
 この有様だと、プッチの慎重な立ち回りも意味を成さなくなるかもしれない。

・Black Rock Theater
 アイドルを淫売呼ばわりするシャッハさん、やはりブレない。
 一方のシルバーカラスは、彼なりに苦悩しているのが伝わってきます。
 彼の言う通り、だりーな達は生き残れるとは思えない甘い二人。
 けれども彼女らは、このゴッサムでも数少ない光ではないかと思えるのです。
 
・LAW/OUTLAW
 情報が入ってくる検事というロールはやはり便利ですな。
 そして、ジョーカーの影を見つけてしまったレッドフード。
 彼にとって、宿敵の参戦は願っても無い幸運なのですが、生憎彼の相棒は……。
 余談ですが、マンハッタン風クラムチャウダーの存在をこのSSで知りました。

・Scramble
 キャスターの情報収集のお陰で、デェムシュの存在にも気付けた貴虎。
 ヘルヘイムに関する考察まで行えて、周りが敵だらけだった頃とは大違いだ……。
 その一方、弟のミッチはサーヴァントとぎくしゃくしている様子。
 ほむらの言う通り、彼は本当にみくを切り捨てれるのだろうか。


261 : ◆7DVSWG.5BE :2016/03/26(土) 08:18:17 yV9JbcfM0
予約ですが、間に合いそうにありませんので一旦破棄します。
キャラを拘束してしまい、申し訳ございません


262 : ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:29:20 AAgUEeqo0
ゲリラ投下します


263 : ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:33:13 AAgUEeqo0

SOUTH CHANNEL ISLAND地区にある、SOUTH CHANNEL PARK。
学校が終わったのか、小学生低学年ぐらいの年齢の子供たちが白い息を吐きながら、駆け回り、保護者達も談笑しながら、様子を見守っている。
この犯罪者や悪党が我が物顔で歩くゴッサムシティにおいて、日が出ているといえど外で遊べるということは、この区域は比較的に安全だといえるだろう。
季節は12月冬、木枯らしが吹き地面にある落ち葉が舞う。
天気は快晴だが、木枯らしが吹いていることもあり、体感温度は実際の気温より寒く感じるだろう。
その寒さをまるで意を介さない様に、遊び回る子供たちの無邪気な笑い声が公園に響き渡る。

そんな子供たちの様子を近くのベンチで眺めている少女がひとり。
少女の名前はヤモト・コキ。
聖杯戦争の参加者だ。

ヤモトは自分のサーヴァントであるランサーの助言に従い、BAY SIDEから離れて南下していく。
ランサーが自分の魔力を探り合流する手はずになっていたので、特に行先を決めず南下し続ける。
だが一向にランサーはまだ現れない。
このまま移動し続けるのもマズイと考え、目についたこの公園でランサーを待つことにした。

しかし、本当に楽しそうだ。
子供たちはブランコを一心不乱に漕いでいる。
ヤモトには何がそんなに楽しいのか、分からない。
だが、子供たちには楽しいのだろう。
ブランコで風を切る感覚が。
高速で変わっていく風景が。
何より、皆で一緒に遊ぶことが。

その様子を見ていたヤモトは自然と笑みを浮かべていた。

(((ヤモヤモ〜待った〜?)))

脳内に直接聞こえてくるこの声は念話。
ランサーが帰ってきたのだ。
ヤモトは子供たちを観察するのを止め、念話に集中する。

(((ランサー=サン、怪我とかしてない?)))
(((大丈夫だよ。というより戦ってないしね)))

UPTOWN BAY SIDEで二つの強大な魔力を追跡し、激しい戦闘をしただろう一騎のサーヴァントの気配を察知する。
恐らくそのサーヴァントは戦闘により消耗している。
そして、そのサーヴァントは逃げるように移動し始めた。

園子には二つの選択肢があった。
消耗したサーヴァントに追撃を図るか。
追撃をせずにヤモトの元に帰るか。

どちらの選択も一長一短。
現時点で持っている情報で正解を導き出すには、判断材料が少なすぎる。

(さて、どうしようかな〜?)

園子は決断する
足を止め、ヤモトが居る方向に移動し始めた。

園子はサーヴァントを追跡せず、撤退を選んだ。
相手は多少なり消耗しており、戦っても勝機は十分にある。
自分の願いの為に戦うのなら、追撃を図っていたかもしれない。
だが、この命は自分一人のものではない。ヤモトと一蓮托生。
自分が消えれば、ヤモトが元の世界に帰る確率は限りなく0になる。

追撃を図って、返り討ちにあうなんてことが有れば、目も当てられない。
リスクは限りなく抑えるべきだ。
追撃はしなくとも、追跡をしてサーヴァントの所在を探ることも考えたが、探知能力もさほど卓越していない自分ではまかれる可能性が高い。
そんなことで時間を消費するなら、ヤモトの元へ早く戻った方が良い。

(((ごめんね〜臆病風に吹かれて逃げてきちゃった)))
(((ううん。いいよ、そんなこと。それよりランサー=サンが怪我しなくてよかった……)))
(((ありがとう。ヤモヤモ)))

ヤモトは胸をなで下ろす。
公園で待っている間、嫌な想像ばかりが頭を駆け巡る。
自分の為に戦い、傷だらけで姿を現すランサー。
想像しただけで、胸が締め付けられる。
英霊といえど、姿かたちは自分より年下のあどけない少女なのだ。
そんな姿は見たくは無い。
結果として、傷一つなく帰ってきてくれて、本当に良かった。

ヤモトは怪我によって戦力が低下するなどそういった理由ではなく、ただ純粋に自分の身を案じてくれた。
園子にはそれが、とても嬉しかった。
英霊になっても、生前の三ノ輪銀や鷲尾須美同じように心配してくるパートナーがいる。
それはとても幸せなことかもしれない。
本当に良いマスターに巡り合えた。
生前にもし出会うことがあれば、良い友達になれたのかもしれない。

(((ヤモヤモ、これからどうする?)))

ヤモトは園子の問いに答えるために思考する。
目的は生き残ること。
そのためには、懸賞金目当てに狙ってくる、マフィアやヤクザや汚職警官への対処。
身の安全を確保する、セーフティースペースも見つけたいところ。
やることは多い。
だが、ヤモトには早急にしなければならないことがあった。


264 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:36:34 AAgUEeqo0

(((とりあえず、食糧確保かな)))

ヤモト・コキは空腹だった。
とりあえず今は我慢できるが、このまま何も食べなければ、行動に重要な支障をきたすだろう。
ヤモトは人間を越えた存在ニンジャである。
しかし、ニンジャといえど食事をとらなければ死んでしまうのだ。

(((ごめんね〜ヤモヤモ〜)))

園子は自分が犯した失態に気付き、ヤモトに謝罪する。
実体化していたら、ヤモトに泣きながら抱き着き謝っていただろう。

サーヴァントは基本的に食事を必要としない。
もし食事摂取をするとするなら、魔力の回復を図る時のみだろう。
サーヴァントになったことで、人間の時の感覚を忘れてしまい、マスターの空腹具合を全く考慮していなかった。

(((今すぐ、盗ってくるから待ってね。ヤモヤモ!)))
(((待って、ランサー=サン)))

今にも実体化して、弾丸のような勢いで跳びだそうとする、ランサーの気配の察知したヤモトは声をかけ、静止させる。

(((食料はそこらへんのゴミを漁って、見つけるから)))

園子は食料を盗むつもりだったのだろう。
これ以上、犯罪行為を重ねさせるわけにはいけない。
短い付き合いだが分かる、生前は盗みなど犯罪行為とは無縁の生活だと思われる。
少なからず良心が痛んでいるはずだ。

それに、ハッキングにより預金残高を全額抜き取られた時はゴミを漁り、飢えを凌いだので、こういったことは馴れている。

(((ダメだよヤモヤモ!そんな女子力下がることしちゃ!)))
「え?」
(((ごみ漁りなんて、女の子がしちゃダメ!ヤモヤモはかわいいんだから、そんなことしちゃダメだよ)))

思わず、念話ではなく、声が出てしまった。
女子力?女子力とは何か?
言葉の意味はわからないが、園子がゴミ漁りをすることを反対しているのはわかる。
だが、ここで押し切られるわけにはいかない。

(((大丈夫、ネオサイタマでもゴミを漁って、食糧を集めたこともあったし)))
(((ダメだよ。私が食料を盗ってくるから)))
(((それこそダメ。ランサー=サンが盗みをすることはない)))

園子はヤモトのことを想って。ヤモトも園子を想うがゆえに、お互いの主張を譲らない。
どうすれば、自分の主張を押し通せるか。
お互い思考を始め、二人の間には沈黙が包み込む。

ヤモトがどうやって園子を説得しようと、考えていると視界にスーツを着た長身の男性サラリーマンを捉える。
公園には不釣り合いだな。それが第一印象だった。
サラリーマンのことを頭の片隅に追いやり、思考を再開する。
だが、その男はこちらに近づいてくる。
その男をよく見てみると、目元の皺に、三白眼といえるような鋭い目つき。
明らかに、一般人では無い。
自分を狙いに来たマフィアか、ヤクザか?
慣れない念話で集中力が途切れ、警戒を怠ってしまった。
自分のウカツを内心で戒める。

すぐさまこの場から離れることも考えたが、マフィアやヤクザならこんな堂々と接近してこないはず。
ヤモトはベンチから立ち上がり、どんな状況でも対処できるように、コートの中にあるウバステに手を添える。
男はヤモトに近づき、二メートル手前で停止した。

「初めまして、私はこういうものです」

男はあいさつをした後、30度の角度のお辞儀を維持したまま、手に持っている何かをヤモトの前に差し出した。
これを受け取れということだろうか?
ヤモトは恐る恐る、男が手に持っているものを受け取る。

手に取ってみて分かったが、名刺のようだ。
名刺に書かれている内容を目に通す

―――346プロダクション、シンデレラプロジェクト担当、プロデューサー

「アイドルに興味ありませんか?」
「え?」

あまりにも予想外の出来事にヤモトは完全に動きを止めてしまった。

346プロ?シンデレラプロジェクト?
書かれている言葉もわからないが、目の前にいるプロデューサーという男は何のためにアタイに声をかけた?
ヤモトの脳内は疑問符で埋め尽くされる。

一方園子は今ヤモトが置かれている状況をある程度理解できていた。

―――アイドル―――

確か、西暦の時代における女の子がなりたい職業の一つ。
観客の前で、歌って踊るのが主な仕事。
ヤモトはそんなアイドルにならないかとスカウトされているのだ。


265 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:39:00 AAgUEeqo0

(まあ、ヤモヤモはカワイイからね〜)

園子はヤモトに目を付けた、プロデューサーの慧眼を内心で褒め称える。
ヤモトがフリル着きのカワイイ服を着ながら踊る姿を想像していると。

(ピッカーン、思いついた)

あるアイディアを思いつく。

(((ねえ、ヤモヤモ。私の提案を聞いてくれたら、食糧を盗まないよ)))
(((え?ランサー=サン!?何?どうしたの?)))

混乱している最中に、念話が飛んできたことで動揺しているのが、声を聞いてすぐにわかる

(((落ち着いて、さっきの話だけど、私の提案を聞いてくれたら、食糧を盗まないよ)))
(((提案?それはどういう内容?)))
(((ふっふっふっ。それはね〜。あの人に『話を聞くから、何か奢って』と言うこと))
(((え?)))
(((これだったら、ヤモヤモの要求を通しつつ、食事を食べられるよ。う〜ん、我ながら妙案!)))
(((そんな奥ゆかしくないこと、できないよ……)))

見ず知らず人間に食料を要求する。
それはヤモトの価値観ではとても恥ずかしく、物凄いシツレイにあたる行為であった。

(((じゃあ、不良少女になって、そこらへんから食料をありったけ盗んでこようかな〜)))

園子はおどけた口調で、ヤモトに語りかける。

(((ちょっと考えさせて)))

そう言うと、念話を打ち切り、ヤモトは考えに没頭しようするが。

「あの、大丈夫ですか」

プロデューサーの一言で中断される。
念話で会話をしているヤモトの姿は、プロデューサーから見れば、名刺を受取ってからまるでリアクションをとらないように見え、心配して声をかけたのだ。

「あ、はい、大丈夫です」

――――グゥー

突如鳴り響く、謎の音。
ヤモトはこの音をすぐに判別できた。
自分の腹が鳴った音。
ヤモトは音を止める為に、腹を抑える。
だが、ヤモトの意思とは裏腹に腹の音は止まらない。
十数秒ぐらいは鳴っていただろう。
ヤモトの顔は恥ずかしさのあまり、みるみるうちに赤く染まる。

腹の音を聞かれた!
いや、もしかして聞こえたのは自分だけで、プロデューサーには聞こえていないかもしれない。
ヤモトは一縷の望みを託し、プロデューサーに視線を向ける。

プロデューサーを見ると、右手を首の後ろに沿えながら、あらぬ方向に視線を向けていた。
ヤモトはすぐに察した。
この人は、自分を気遣って聞こえていない体を取っているだけ。
腹の音を完全に聞かれている。

ヤモトの顔はさらに紅潮し、恥ずかしさのあまり、唇を噛みしめ下を向いた。
そして、数秒経ったのち、顔を上げる。

「話を聞くから、何か奢ってください」

ヤモトが発する声にはヤバレカバレな何かを感じ取れた。

◆◆◆◆

――いらっしゃいませ、好きな席へどうぞ

店に入店したヤモトはプロデューサーの後に着いていき、入口からテーブル席に腰を下ろす。
店内を見渡して見ると、フローリングの床、木材で作られたテーブル。床とテーブルの色に合わせた壁の塗装。
照明も店内をギンギンに照らすのではなく、光量を抑え、どこか温かみを感じる。
流れるBGMも何の音楽かわからないが、気分を落ち着かせてくれる。
ヤモトはこの店内の落ち着いた雰囲気を気にいった。
ネオサイタマでは感じられない雰囲気だ。
高級料理店以外の飲食店はもっと騒がしく、猥雑としている。

「あの……今更ですが、別にご馳走してもらわなくても大丈夫です」

ヤモトは目線を外しながら、申し訳なさそうにプロデューサーにつげる。
あの時は腹の音を鳴らすという、恥ずかしい行為をしてしまったことによる、ヤバレカバレであんな発言をしてしまったが。
時間が経つにつれ、とんでもないことを言ってしまったと後悔していた。
今は恥ずかしさのあまり、プロデューサーと目線を合わせることもできない。

「いえ、貴女はこうして貴重な時間を割いてくれるのです。これぐらいのことは当然です」
「ですが……」
「それに、空腹では私の話も集中して聞けないと思いますので、これも自分の為です」

そう言って、プロデューサーはヤモトの前にメニュー表をそっと渡す。
ヤモトは顔を隠すようにメニュー表を目の前に置く。

この人はアタイが余計な心配をしないように、あえて自分の為と言ったのだろう。
ヤモトはプロデューサーの奥ゆかしさに心打たれていた。
この街に来て、園子以外で初めて受ける優しさなのかもしれない。


266 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:41:11 AAgUEeqo0

「ではお言葉に甘えて……」

ここで、プロデューサーの提案を断ることは逆にシツレイに値する。
ヤモトは注文する品をプロデューサーに指し示した。

暫くしてから、ヤモトとプロデューサーが注文した品が届く。
ヤモトはオレンジジュースとハンバーガー。
プロデューサーはコーヒーのブラックと同じくハンバーガー。

焼けた牛肉の香ばしい匂いがヤモトの鼻腔を擽る。
食欲を刺激され、自然と口内では唾液の分泌量が増す。
勢いよくかじりつくと、ヤモトの表情が一気に変わる。

牛肉のジューシーな味、トマトの酸味、レタスとパンの歯ごたえが見事な味の調和を生み出す。
思わず舌鼓を打つ
そこからはヤモトは無心でハンバーガーにかぶりつく。
極度の空腹ということもあったが、純粋にこのハンバーガーが美味しかった。

そんなヤモトの様子を眺めながら、ハンバーガーを口にする。
そこまで空腹ではなかったが、一人だけ食事をとるという姿を見られるというのは案外気恥ずかしいものだ。
ヤモトのことを考慮して、自らもハンバーガーを注文していた。

ヤモトは瞬く間にハンバーガーを平らげ、プロデューサーもそれに合わせるように、食べかけのものをテーブルに置く。

「よろしければ、もう一つ注文しましょうか?」
「いや一つで充分です」

本音を言えば、もう二三個ぐらいは食べたいところだが、これ以上プロデューサーの好意に甘えるわけにはいかない。
ヤモトはプロデューサーの提案を丁重に断る。

「では、シンデレラプロジェクトについて説明したいと思います」

ヤモトが食事を終了し、話を聞ける態勢になったことを見計らい、プロデューサーはバックから資料を取り出そうとするが、ヤモトの一言で手は止まる。

「あの……アイドルって何をするんですか?」

ここでヤモトがいたネオサイタマにおいてのアイドル事情について説明する。
ネオサイタマにおいて、アイドルとはネコネコカワイイを代表とするオイランロイドのことを指す。
そして、オイランロイドとは女性形介助ロボット製品のことである。

ネコネコカワイイが登場する以前は人間のアイドルも存在していた。
だが、オイランロイドの登場によって、ネオサイタマの音楽シーンは瞬く間に席巻された。
彼女等に代表されるオイランドロイドの出現によって、数十万人単位の女子が夢を諦め、オイラン専門学校への転校を余儀なくされたという。

ヤモトにとってはアイドル=ネコネコカワイイであり、人間がアイドル活動するというイメージが全くわかないのだ。

「そうですか……」

プロデューサーの右手は自然と首の後ろに回っていた。
ヤモトの質問は完全に予想外だった。
まさかアイドルについて全く知らないとは。

「では、そこから説明させていただきます」

プロデューサーは気を取り直して、アイドルについて説明を始める。
アイドルとは何か?どのようなことをするのか?魅力とは?
そういったことを懇切丁寧に説明する。
プロデューサーの説明の甲斐あってか、大まかなことを理解できた。
だが、ヤモトは何かピンとくるものがない、イメージがわかないという顔をしている。

イメージできないなら、映像を見てもらうのが良いかも知れない
プロデューサーはバックからタブレットを取り出す。

「これが、最近行われたライブの映像です」

タブレットを操作し、映像が流した。
そこには煌びやかな衣装に身を纏い、スポットライトの光りを浴びる少女が十数人、ステージの上に立っていた。
曲が始まって数秒経ったのち、ヤモトは映像に目が釘つけとなる。

曲の良し悪しもわからない、ダンスの動きだってニンジャからすれば児戯めいたものだ。
だが、目が離せない。
彼女たちの動きや歌声が、観客の心を揺さぶり、魅了する
その熱気は画面越しでも伝わってくる。
そして、見ている自分も何かパワーを貰うような不思議な感覚。
こんなことはニンジャだとしても不可能だ。
ヤモトは曲が終わるまで、無心で見続けた。

映像が終わり、プロデューサーはヤモトの目を見据え、語りかける。

「どうでしたか?」
「上手く言葉にできないですが……アイドルは凄いと思いました……」
「あなたもこの少女達のようになれる可能性を秘めています。アイドルになってみませんか?」
「すみませんが、アタイはアイドルになれません」

ヤモトは映像を見て、アイドルに大いに興味を持ち始めていた。
もし、ネオサイタマでネコネコカワイイが席巻せず、人間のアイドルがいたとして、同じように勧誘されたら、万が一の確率でアイドルになっていたかもしれない。
だが、今の状況では万が一すらあり得ない。


267 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:43:07 AAgUEeqo0

「そうですか……わかりました。もしアイドルに興味がでたのなら、名刺に書かれている連絡先に電話してください」

プロデューサーは再度説得を試みることはしなかった。
映像を見ているヤモトを見る限りでは、アイドルにある程度の興味をもってくれていた。
だが、アイドルになるということは楽なことではない。
大衆の目に晒されるアイドルになることは、抵抗があるだろう。
それを、勇気を持って乗り越えることが必要だ。
無理矢理説得して、アイドルになっても大成はしない。
プロデューサーは席を立ち、会計を済まそうとするが、ヤモトの一声で止まる。

「あの……誘いを断っておきながら、お願いするのは失礼だと思いますが、
今、映像で歌っていた娘達に会うことはできますか?」

ヤモトはプロデューサーの目を真っ直ぐに見据えていた。

ニンジャとは文明を支配し、利用し、破壊するものである。
時の権力者を圧倒的な暴力で屈服させ、文明を支配していた。
文明の発展は、芸術や娯楽の発展ともいえる。
能や歌舞伎など多くの伝統芸能が生まれたが、それらは人間が生み出したものであり、ニンジャが生み出したものではない。
それは、ニンジャは文明を生み出すものではないから。
もし、ニンジャが人間と同じように歌い、絵を描いたとしても人の心は動かないだろう。
それはニンジャには芸術で人の心を動かすことができないから。
人の心を動かすものを創造できないから。

ヤモトのようにニンジャソウルが憑依したニンジャにも同じことが言える。
ニンジャソウルが憑依する前に、小説家だったものはニンジャソウルが憑依したことにより、創作能力が失われ、実際体験したこと以外書けなくなってしまったというニンジャもいた。

そんなニンジャだからこそ。ヤモトは無意識にアイドルに惹かれたのかもしれない。
ライブという芸術を創り出し、人の心を魅了する彼女たちに。

プロデューサーはヤモトの目には意志が籠っているのを感じた。
ただ、ミーハー気分でアイドルたちに会いたいわけはない。
ヤモトにとって必要なことなのだろう。
だとしたら、その想いに応えてあげたい。
それに、この出会いがアイドルたちに良い作用をもたらすかもしれない。

「わかりました。これからアイドルたちが居る事務所に帰りますが、一緒に来ますか?」
「はい」

ヤモトは二つ返事で了承した。

(((ごめんね。ランサー=サン、勝手に決めちゃって)))
(((全然平気だよ。それに、ヤモヤモがしたいことなんでしょ)))
(((うん。あの映像を見て、あの人たちに会いたいと思った。でもマフィアや賞金稼ぎに見つかるかも)))
(((人って案外他人のことを意識しないもんだよ。それなりに変装しているし、賞金首のヤモヤモだなんてわからいよ)))
(((そうかな)))
(((そうそう)))

園子のヤモトがアイドルたちに会いたいと言った時、少しだけ嬉しかった。
ヤモトは指名手配犯と言う役割を与えられ、ギャングやマフィアに追われる日々。
逃走生活の中で、ヤモトは自分のやりたいことを見つける暇すらなかった。
そんなヤモトが初めて、やりたいことを見つけ、行動したのだ。
園子は願う。
この出会いがヤモトにとって良い体験であることを。


268 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:44:24 AAgUEeqo0

◆◆◆◆

「着きましたよ」

ヤモトはプロデューサーの声によって目が覚める。
つい、ウトウトしてしまった。
無意識のうちに疲れがたまっているということか。
ヤモトはプロデューサーの好意により、タクシーに乗せてもらった。
最初はヤモトも断ったが、一人で乗っても二人乗っても値段は同じと説得され、好意に甘えることにした。

「わあ」

タクシーを降りて、ヤモトは目の前の建物を見上げる。
アイドル事務所の懐事情はわからないが、普通のテナントビルぐらいだと思ったが、予想より遥かに大きく、豪華だった。
しかも、建物のテナント全部が346プロダクション関係のものらしい。
内装も見た目と同じように豪華な作りであった。
天井には巨大なシャンデリアが設置され、上に上がる階段には、レッドカーペットが敷かれている。

「あの一つ、聞きたいことがあるのですが?
「はい、何でしょう」
「どうしてアタイをアイドルに誘ったんですか」

ヤモトはプロデューサーとアイドルの元へ向かう為にエレベーターに乗っている最中にふと疑問を投げかける。
あの画面に映っていたアイドルのような、魅力があるとは思えない。
なのに、何故自分を選んだのか?
強いて言うなら、ニンジャであることか?

「笑顔です」
「笑顔?」

これは予想外の答えだった。
笑顔なんて、この街に来てから、碌に見せていない気がする。

「公園で遊んでいる子供たちを眺めていた時に、見せた笑顔。その笑顔に可能性を感じたからです」

一瞬からかっているのかと思ったが、プロデューサーの目は真剣だったので、本当なのだろう。
しかし自分の笑顔にそんな価値があるものなのか?
ヤモトにはプロデューサーの考えが理解できなかった。

エレベーターを出て、廊下をしばらく進むとプロデューサーは足をとめた。
どうやらアイドルが居る部屋に着いたようだ。
中を覗いてみると大きな鏡の前で、曲に合わせてステップを刻む、ピンク色のジャージを身に纏った少女と、そのダンスを見定めるように見ている女性が一人。
踊っている少女が、あの映像で歌っていた少女の一人なのか。
すぐに部屋に入るかと思ったが、プロデューサーは扉の前に立ったままで、入室しない。

「申し訳ございませんが、少々待っていただきますか」

理由はわからないが、頼み込んできた立場だ。断る理由が無い。
プロデューサーとヤモトは暫く少女のダンスを眺めることになる。
数分後に少女は踊りをやめ、女性の話を聞いた後、置いてあるペットボトル飲料を飲み始める。

「失礼します」

プロデューサーは一声かけ一礼した後、入室する。
あの少女が休憩するのを待っていたのか。
ヤモト同じように失礼しますと声をかけ一礼した後、入室した。

「あ!お疲れ様ですプロデューサーさん!」

座って休憩をしていた少女立ち上がり、満面の笑みをプロデューサーに向ける。
疲れているはずなのに、その全く影響を感じさせない笑顔だった。

「お疲れ様です。今お時間よろしいでしょうか?」

少女は女性に視線を向けると、女性は指でOKサインを作る。

「はい、大丈夫です」
「実はこちらの……そういえばお名前を聞いていませんでした」

ヤモトもプロデューサーに言われるまで、名乗っていないことに気付き、ヤモトは少女にむかって、両手をつけ、アイサツをおこなった。
一瞬本名を名乗ろうとしたが、指名手配の身であることを思い出し、咄嗟に偽名を名乗る。

「ドーモ、はじめまして、……アサリ・アンコです」
「初めまして!島村卯月です。」

卯月はプロデューサーに向けたのと同じぐらいの、満面の笑みをヤモトに向けた。
ネオサイタマ時代では見たことないような、良い笑顔だ。
プロデューサーの言う可能性がある笑顔とは、この少女のような笑顔のことだろう。

「アサリさんが、先日のライブの参加者の誰かに会って話がしたいということで、お連れしました。よろしいですか?」

プロデューサーは改めて、卯月に用件を伝える。
アイドル養成所の娘だろうか?
きっと何か悩みがあるのだろう。
自分でよければ、力になりたい。

「はい、大丈夫です」
「それでは、事務所にご案内します」

プロデューサーは落ち着いたところで話せるよう、卯月とヤモトを応接室に案内しようとするが、ヤモトは制止した。

「たいしてお時間をとらせませんので、ここで大丈夫です」
「……わかりました。では私は事務所に戻りますので、後はお二人で」

卯月とヤモトの二人を邪魔してしまうかもしれない。
そう考えたプロデューサーは、トレーニングルームから出て行った。


269 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:47:22 AAgUEeqo0

「えっと、座りましょうか」
「そうですね」

卯月はダンスの練習で疲れているに、立ち話をさせるのもシツレイだ。
ヤモトは卯月に座るように促し、卯月もそれに応じる。
卯月は足を崩し、ヤモトは正座でお互い正対した。

「えっと、一つ質問してもよろしいですか」
「はい、何でしょう」

緊張気味に喋るヤモトに対して、緊張を和らげようとしているのか、卯月は笑顔を作る

「ライブの映像見ました。凄かったです」
「はい!ありがとうございます」
「それでどうやったら、あんなに観客を魅了することができるんですか?」

ヤモトは本題をぶつけた。
もう少し、世間話をしてからするべきかと考えたが、生憎喋りが上手というわけではない。
単刀直入に疑問をぶつけることにした。

「え、それはえ〜っとですね……」

卯月はヤモトの質問を聞いて、頭を悩ましている。
自分はただ精一杯歌うだけ。
観客をどのように魅了するかなど考えたことが無かった。
暫く考えた後、間違っているかもしれませんが、と前置きを置いて語り始める。

「きっと、幸せだったからだと思います。私は夢にまで見たアイドルになれました。
そして、あんな凄い会場で、凛ちゃんや未央ちゃん。大好きな皆とライブができて幸でした。
もしかして、他の皆もそう思っていたのかもしれないです。
そんな想いが観客の皆さんに伝わったのかもしれません」

―――幸せだからです

ヤモトはそれを聞いた時、なぜか胸がチクリと痛んだ。
何だ、この痛みは、
そして彼女を見ていると、何か言葉にできない不快感が湧いてくる。

「シマムラ=サンはアイドルやっていて、楽しいですか?」

ヤモトの声色には無意識に僅かな敵意が含まれていた。
だが、卯月はそれに勘づくことなく、今まで最高の笑顔を見せて答えた。

「はい!楽しいです。同じ夢を持つ仲間と一緒に、好きなことができる。
こんな楽しいことはありません」

―――こんな楽しいことはありません

また胸がチクリと痛む。
何故自分はこの少女達に惹かれたのか、
なぜ一目見ただけで、会いたがったのか、やっとわかった。
彼女たちは自分が追い求め、決して得ることができない理想。
その理想と言う光に、夜の街灯に集まる羽虫のように吸い寄せられただけだ。

大切な仲間や友達と一緒に好きなことができる。
それはオリガミ部のみんなとの日々、そのものだ。
もし、ニンジャソウルが憑依していなかった場合に、進めたかもしれない可能性。
だが、実際はニンジャになったことで、その可能性は途絶えた。

そして胸に渦巻く卯月に対する不快感。
これは嫉妬だ。
自分が歩む可能性があった未来を、満喫しているのが妬ましいのだ。

島村卯月は良い娘だ。
少し話しただけで、それは十分に伝わる。
あんな素晴らしい笑顔を作れる娘が、嫌な娘なわけがない。
そんな娘に嫉妬いう悪意を向けている。
なんて醜悪な性根だ。
ヤモトは内心で自嘲した。

「ありがとうございました。もう充分です」

ダメだ、この場に居続けると卯月にあたってしまう。
ヤモトは驚くほど冷淡な声で礼を述べた後、足早にその場を立ち去り。一目散にトイレに向い、個室に飛び込んだ。

(((どうしたの!?ヤモヤモ!?)))

卯月の返答を聞いた瞬間に、みるみるうちにヤモトの表情に影が落ち、足早にトイレに向った。
卯月の話がトラウマのようなものに触れてしまったのか?
園子にはヤモトの心中に何が起きたのかわからなかった。

「何で……、何で……、あの人だけあんなに幸せなの……ズルいよ……
好きでニンジャになったわけじゃない……好きでこんな街にきたわけじゃないのに……
アタイだって……アサリ=サンと……オリガミ部の皆と一緒に……」

感情に身を任せて泣き叫ぶことはしなかった。
胸にかかえていた想いを、すべて吐き出すように呟く。
途中で止めどなく涙が溢れそうになるが、必死に堪えていた。
泣いてしまったら、ダメだ。
何のためにカギにインストラクションを授かった。
こんなところでメソメソ泣くためにじゃない。
ヤモトは唇を噛みしめ、手を力の限り握りしめる。
だが、その姿にはニンジャが発する力強さ、強靭さは感じられない。
只のか弱き少女だった。


270 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:49:13 AAgUEeqo0

「今はいっぱい泣こうヤモヤモ。無理しなくてもいいんだよ」

園子は独白を聞いた後実体化し、ヤモトの頭を胸に抱き寄せる。
ヤモトの心中に何が起こったのかわからない。
悩みを解決する術も知らない。
ただ、相当無理をしていたのだろう。
できることは胸を貸すぐらいだ。

その声を聞いたと同時にヤモトは涙を流し、園子の胸を濡らした。
トイレにはヤモトのすすり泣く声が響き渡る。

ヤモト・コキの日常は、ニンジャになったことにより激変した。
シックスゲイツの一人、ソニックブームとの戦い
ソウカイヤからの刺客に命を狙われる逃亡生活。
師であるカギ・タナカとの別れ。
そして聖杯戦争に巻き込まれ、ギャングやマフィアに狙われる逃亡生活。
これまでの日々は理不尽と苦難の連続だった。

――――何故アタイだけこんな理不尽にあう?ただ普通に暮らしたかっただけなのに

逃亡生活において、この想いが浮かばなかったことはない。
それでも、必死に心の奥底に押し込み、歯を食いしばっていた。
そうしなければ心が挫けてしまう。動けなくなってしまう。
だが、押し込むたびに、歯を食いしばるたびに、ヤモト心の防波堤は削れていく。

そして島村卯月の出会い。
彼女の存在がヤモトの心の防波堤を決壊させた。
奥底から出てくるのは、今まで押しとどめていた弱音や泣き言。
それが涙となり、今溢れだした。

トイレの個室に入ってから、数分経っただろうか。
ヤモトはおもむろに園子の胸から頭を離す。

「もう大丈夫だから」
「とりあえず、ここから出よう」

ヤモトは静かに頷き、トイレから出てエレベーターに向かう。
園子は霊体化し、後をついていく
大丈夫と言っていたが、言葉とは裏腹に目には陰りがみえ、ニンジャ特有の力強さみたいなものが薄れているように感じた。
相当堪えている。
この場に居続ければ、嫌の事を思い出し、ますます傷ついてしまうかもしれない。
早くこの場から離れた方がいい。

そしてこれからどうするか。
今のヤモトの状態は拙い。
こんな精神状態でこれからの生活に耐えられるのか?
それより、今ギャングやマフィア、聖杯戦争の参加者に襲われたら対処できないかもしれない。
生き残るためには、何とか立ち直ってもらわなければ。

エレベーターは何時の間に一階にたどり着き、ヤモトは正面入り口に向かう。
その足取りは何処となく頼りない。

その時だった。
園子の感覚に訴えかける魔力の気配。
これはサーヴァントの気配。
よりによってこんな時に、最悪のタイミングだ。
園子は瞬時に思考を巡らす。
逃走、迎撃、対話、どの行動が最適解だ。

相手のサーヴァントも気づいたようで、その場で立ち止まっている。
止まってから数十秒後、相手はこちらに向かってゆっくりと近づいてきた。
園子は相手の行動の意味を推理する。

近づいてくるということは、相手の行動は戦闘かそれ以外の目的があるということだろう。
戦闘なら、逃げる隙を与えない様にすぐに接近してくるはずだ。
それなのに時間を与えるように、徒歩と同じスピードで近づいてくる。
ということはそれ以外の目的、交渉か対話が目的。
そして、ゆっくり近づいてくるのは、自分たちに考える時間を与えているのか?

そう考えると、相手は交戦の意思はない可能性が高い。
だが絶対とは言い切れない。

(((ヤモヤモ聞いて、サーヴァントが近くにいてこっちに近づいてきている。
私の推測だけど、相手には戦う意志はないみたい。でも絶対とは言い切れない。どうする?)))
(((ランサー=サンに任せる……)))
(((じゃあ、このまま真っ直ぐ進むよ。何が起きてもいいように準備をしておいてね)))

ヤモトは戦闘ができるように気を張り巡らせるが、やはりどこか緩い。
ここに来る前までは、もっと鋭く刀のような雰囲気があったが、まるで感じられない。
ヤモトがこの状態なら、逃げるのが最適かもしれない。
だが、園子は相手に対話の意思があることに一縷の望みを託す。
理想は協力関係、もしくは同盟関係を結ぶこと。


271 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:50:50 AAgUEeqo0

ヤモトは強い。
今はショックを受け本来の力が出せないが、きっと立ち直ってくれる。
だが相手はそれを待ってくれない。
本来なら対応できるマフィア達の襲撃に、事態に対応できない可能性がある。
警察やマフィアとのコネクションを持っているマスターがいれば、サーヴァントと戦っている間に、ヤモトに手下をぶつけてくることもあるだろう。
その時サーヴァントがもう一騎いれば、どれだけ頼りなることか。

ここで同盟を結べれば、今後はかなり有利になる。
それに、好戦的ではないサーヴァントと会う機会はこれが唯一かもしれない。
逃走を選ばず、交渉を選ぶ価値は充分に有る。

ヤモトは足取りを緩めず歩き、346プロのビルからを出た直後だった。
自分の顔をまるで思いがけない人物に出会ったような、驚きの表情を見せている女性が目に留まる。
いや、あのあどけなさが残る顔は女性と言うより、少女といったほうがいいだろう。
年齢は同じぐらいか

(((ヤモヤモ、あれがマスターだよ)))

まさか、あの少女がマスターなのか?
ヤモトも聞いた瞬間、その少女と同じように驚き表情を見せていた。

◆◆◆◆

「はぁ」

ダウンタウンにある、とあるバス停留所。
木のベンチは所々削られており、ベンチを囲んでいるガラスの壁は落書きだらけだ。
この様子を見ただけで、荒れていることがすぐに分る。
李衣菜はベンチに腰を掛けると、無意識にため息が出てしまう。
それ同時に体が一気に重くなったような錯覚に陥った。

――――疲れた

明らかにガラが悪い人種がたむろっている、この地域から離脱したい。
その思いから、李衣菜の歩調は意図的に速まった。
だが、五分十分の早歩きしたぐらいで、疲れるようなやわな鍛え方はしていない。
だとすれば精神的疲れか。
そうなると原因は一つ。
ロールシャッハだ。

思わず鼻をふさぎたくなるような悪臭を漂わせ、奇怪な仮面を被る男。
外見も強烈な印象を与えるが、中身はもっと強烈だった。

何せあった初対面で指を折られかけたのだから。
結局それは未遂に終わったが、もし自分の返答がロールシャッハの気に障る答えであれば、躊躇なく折っていただろう。
今考えただけでも身の毛がよだつ。

もし、今まであった人の中で一番怖かったランキングがあるとすれば、ぶっちぎりで一位だ。
そして、今後一位が変わることもないだろう。
そんなロールシャッハの下から離れたせいか、気分が晴れやかだ。
まるで、怖い教師から説教を受けて、開放された後のように。
それだけ、緊張していたのだろう。

(((これからどうしますか、りーなさん?)))

バスターはこれからの行動について、尋ねる。
今後の目的はDJサガラを探すこと。
そのために行動すべきだが。

(((とりあえず、帰って休む)))
(((そうですね。色々ありましたから)))

バスターも李衣菜の心労を察してか、休息をとることに同意した。

ベンチに腰を掛けてから、バスのルート表を確認する。
終点はMIDTOWN BRIDGEを抜けた。 MOSS ST前
どうやらMIDTOWNから自宅までは、また乗り換えなければならなそうだ。

そうしているうちにバスが到着し、李衣菜はバスに乗りこむ。
運転手に200円を前払いし、一番後ろの席に座り込んだ。
しかし、不思議なものだ。
今所有している金銭は明らかに日本円じゃなく、ここにきて初めて見るようなものばかり。
それなのに、どれを渡せば何円ぐらいになるのか瞬時にわかる。
それに、このゴッサムシティの常識なども自然と思い出せる。

例えばバスの下車の仕方。
降りる際には車内に張り巡らされている、黄色い紐を引っ張るのが下車の合図になる。
日本だと押しボタンで下車を知らせるので、もしこのことを知らなかったら、目的地にはたどり着けなかっただろう。
日本に居た時は全く知らなかったのに、今では常識のように知っている。

これもこの街に自分を招いた者が、気を利かせてくれたのか?
その点はありがたい。
もしこの知識が無ければ、この街での生活は困難だっただろう。

目的地まで手持無沙汰なので、李衣菜は何気なく窓から街の景色を眺める。
割れた窓ガラスがそのまま放置されている、荒廃した建物。
力なくうなだれるホームレスのような住人。
屈強な黒人同士が殴り合い、それを囃し立てる若者たち
日本ではまずお目に掛かれない光景だ。
この地域は想像以上に危険な場所なのかもしれない
今後はダウンタウンにはよほどのことが無い限り、足を踏み入れないようにしよう。
李衣菜は眺めながら、そう決意した。


272 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:53:11 AAgUEeqo0

「う〜ん」

終点のMOSS ST前は出発した地点から比較的に近く、20分程度で着いた。
李衣菜は伸びの運動をして体を解す。
正直日本のバスに慣れていたせいか、乗り心地の良さは感じられなかった。
一通り身体を解した後、懐のスマートフォンを取り出して、ネットを立ち上げた。
生活に必要な常識は植え付けてもらったが、何も見ずにバス停がどこに分かるほど、地理に明るくなってはいない。
検索すると、すぐに出てきた。
このバス停から500Mぐらい先のバス停から、自宅があるCOLUMBIA PT 地区のMICHAEL STに向かうバスが出ているのが分かった。
スマートフォンを懐にしまい、バス停に向かい歩きはじめる。

李衣菜は歩き始めて、すぐに雰囲気の違いに気付いた。
このミドルタウンはダウンタウンに居た時に感じた、物騒な空気が薄い気がする。
それにストリートを歩く人の格好も整っている。
橋を隔てただけで、こうも違うものなのか。
そして、人々の怪訝そうにこちらを見る不快な視線を感じる。
まるで場違いな人間を見るかのように。
何故そんな視線を向けるの?
少し考えれば、何故なのかはすぐにわかった。
学校に行っていないからだ。
ロールシャッハを追跡したせいで、学校をサボっていたことをすっかり忘れていた。
自分ぐらいの年頃の人は、普通なら学校で授業を受けているか、部活に勤しんでいるはず。
それなのに、こんなところに居れば不審な目で見られるはずだ。

やはりいい気分ではない。
李衣菜は視線を嫌ってか、足早にバス停を目指す。
その時、視界に思いがけないものが飛び込んできた。

「なんで?」

驚きのあまりに思わず声をあげてしまう
とあるビルの上にある広告看板。
ただの広告看板なら驚かない、問題はその内容だった。

――――CINDERELA PROJECT新曲「Star!!」12月24日発売

何故346プロジェクトがこの街にいる?
すぐさまスマートフォンを取り出して、調べ始めた。
調べたことで、いくつか分かったことがある。

米国内に支社を設け、事業展開を始めたということ
その支社がゴッサムシティにあるということ
シンデレラプロジェクトの面々がゴッサムシティでライブをするということ。

皆がここに居る。
皆がいることを知って、奇妙な安堵感を感じていた。
平行世界の人間とはいえ、夢に向かって一緒に努力してきた仲間達が、みく以外にもこの世界に存在しているのは嬉しい。

もしかしたら、346プロのビルに行けば、皆を会えるかもしれない。
そんな淡い期待が湧いてくる。
だが会ってどうする?
皆はシンデレラプロジェクトに参加していないこの世界の自分のことなど知らないだろう。
精々、ファンの一人としか認知されない。
それでもいい。
平行世界の人間といえど、頑張っている皆に一声エールを送りたい。
それは無駄なことかもしれない。
それでも、少しだけでも皆の力になれば幸いだ。

(((バスター、家に行く前にちょっと寄り道していい?)))
(((はい、いいですけど、どこに行くんですか?)))
(((元居た世界の職場)))
(((元の職場?)))
(((何故か、この街に職場があるみたいだから、ちょっと見学しにね)))

李衣菜は進路を変更して、346プロのビルに向かうバスに乗り込んだ。
無駄足になるかもしれない。
だが、会える可能性がわずかでもあれば、行ってみたい。
それに、DJサガラの手がかりが案外有るかもしれない。
どうせ手当たり次第に探すしかないのだ。
とりあえず色んな場所に足を運ぶのも悪くは無い。
正直疲れているが、346事務所に足を運んでから休んでも充分だ。

(((りーなさん。そういえばアイドルってどんな仕事なんですか)))

ノノはふと湧いた疑問を投げかける。
李衣菜がアイドルであることは聞いていたが、アイドルが何をするものなのか知らなかった。
マスターがどんな仕事をしていたのか、大いに興味が有った。
李衣菜質問を受け、手に顎を添えながら考え込む。
アイドルの仕事は様々だ、曲を発表することはもちろん。
バラエティ番組に出演したりなど、様々なことをするのが今のアイドルだ。
明確にこれをやればアイドルというものは何のかもしれない。
なので、自分が考える理想のアイドルを伝えることにした。


273 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:54:32 AAgUEeqo0

(((最高にロックで、皆を幸せにできる仕事かな)))
(((皆を幸せにできる仕事なんて凄いです!)))

皆を幸せにできる。なんと素晴らしいことか。
ノノは李衣菜に惜しみない賞賛の声を送った。
李衣菜はアイドルに対する憧れとはまた違う、賞賛の声を送られたのが気恥ずかしかったのか、思わず頬を掻く。
これ以上アイドルについての話は恥ずかしいので、話題を変える。

(((バスターも仕事してたんだよね、確か軍隊で、地球帝国……)))
(((地球帝国宇宙軍太陽系直掩部隊直属です!!!宇宙の平和を守っていました!!)))
(((宇宙?地球じゃなくて)))
(((はい!宇宙です!)))

宇宙規模とはまたロックだ。
もしそうだとしたら、ノノが居た世界はSFマンガのような、とんでもない科学が発達した世界の住人と言うことだ。
そして、ノノの言うことは真実なのだろう。
どんでもない人物がサーヴァントになったものだと、改めて実感する。

「次はWEST SIDE CHAMBERS AVEです」

アナウンスを聞いた李衣菜は、張り巡らされている黄色のロープを即座に引っ張る。
危なかった。346プロのビルがある場所が大通りで助かった。
もし小さい通りだったら、アナウンスしてくれず、乗り過ごすところだった。
李衣菜はバスを降りて、346プロのビルに向かう。
さすがに大通りだけあって、店舗の数も多く建物も高い。
何より人が多い。
渋谷のスクランブル交差点ほどではないが、注意して歩かないと人にぶつかりそうだ。
街並みを観察しながら、歩いているとそれはすぐに見えた。
通りにある建物とは一線を画するあの城みたいな豪勢な作り、正面の屋上にある舞踏会にありそうな時計。間違いなく346の事務所だ。
はたしてシンデレラプロジェクトのメンバーに会えるのか?
不安と期待が入り混じる中、歩を進める。
だが。

((りーなさん!サーヴァントが居ます!目の前の建物の中です)))

バスターの緊迫感のある念話を聞いて、足が止まった。
建物の中ということは、まさか346の関係者がマスターなのか?まさかシンデレラプロジェクトのメンバーがマスターなのか?
李衣菜の脳内では様々な憶測が駆け巡り、嫌な想像がどんどんと膨れ上がる。

(((りーなさん落ち着いて、まず深呼吸をしましょう)))

李衣菜の様子がおかしいことに気づき、ノノは落ち着くように呼びかける。
その声は幼子をあやす母親のような優しげな声だった。
声を聞いて、落ち着いた李衣菜は指示通り深呼吸をおこなう。

スゥー、ハァー、スゥー、ハァー

二回ほど深呼吸をおこなったおかげか、頭が少しだけクリアになった気がする。

(((相手はその場から動いていません。交戦の意志は薄いようです。
このまま相手に接触して、ロールシャッハさんの時のように説得しますか?
それとも安全第一でこの場から離れますか?)))

ノノが提示した二つの選択。
撤退か、交渉か。
そんなの決まっている!

(((仲間は一人でも多い方が良い、進もうバスター!)))

李衣菜が選んだのは交渉。
自分達が進む道は困難なことは分かっている。
その困難なことを成し遂げる為には一人でも多くの力が必要だ。
ここで臆したら、仲間にできる機会は二度と来ないかもしれない。
それに、あのロールシャッハとも協力関係を結べた。
その事実と自信が李衣菜の決断を後押しした。
ここで臆したら、仲間にできる機会は二度と来ないかもしれない。

それに万が一、いや億が一、マスターがシンデレラプロジェクトのメンバーで、聖杯を戦って勝ち取ろうとしているならば私が止める!

だが、もし相手が聖杯を勝ち取るために参加者を殺そうとする人だったら?
そう考えると、身体が恐怖で震えてくる。

(((何かあったら、守ってよねバスター。信じているから)))

でも自分にはバスターという頼れる相棒がいる。

(((はい!任せてください!)))

ノノは力の限り声を張り上げて、返事をする。
その声を聞いたら震えも治まってきた。

李衣菜は346プロのビルに向い、歩きはじめる。
相手もこちらに近づいているようで、すぐに鉢合うとのことだ。
緊張で胸が高鳴る。
ある意味ライブ直前よりも緊張している。

(((りーなさん居ました。目の前の少女です)))

目線を前に向けると、毛糸の帽子を被り、メガネをかけ、厚着のセーター、シンプルなジーンズに身を纏った地味目な少女が驚愕の表情でこちらを見つめている。
まさかあの娘がマスター?ほぼ同年代だ
李衣菜も目の前の少女と同じように驚愕の表情をしていた。


274 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 21:55:58 AAgUEeqo0

◆◆◆◆

「どうぞ」
「ドーモ」

李衣菜は自動販売機で買って来たホットココアを手渡し、ヤモトは恐縮そうにしながら受け取った。
ベンチの上にある枯葉を手で払い、ヤモトが座るベンチの反対端に座る。
手に持っていたホットココアの缶を手でこねくり回し。寒さでかじかんだ手を温める
冬だと暖かい缶飲料はちょっとしたカイロになるのが良い。
ただ保温性は低く、すぐに冷たくなってしまうのが難点だが。

李衣菜はココアが発する温度のぬくもりを名残惜しながら、缶をあける口につける
味は想像通りの普通のココアだった。
アメリカでもさほど味は変わらないのか。

ふと、横目でヤモトを見ると、ココアをちびちびと飲んでいる。
表情を見る限り、甘いものが好きなのか、満足げな表情だ。
これで甘いのが苦手だったら、ココアを渡したこっちが正直気まずい。

346プロのビルで顔を合わせた二人は、お互いの顔を見つめたまま動けなかった。
ここで下手に動いたら、相手に警戒されてしまう。どう動く、どう切り出す。
数秒間見つめあった後に、先に切り出したのは李衣菜だった。

「とりあえず、場所を変えよっか」

交渉をするにしても、346前では人の往来が多く、落ち着いてしゃべれない。
何より聖杯戦争絡みの話を人には聞かれたくはない
ヤモトも意図を察したのか、静かに首を縦に振った。

「じゃあ、すぐそこの公園のベンチに先に座ってくれない。すぐに行くから」

李衣菜は後ろを向いて指を差す。
指の指す方角を見ると、確かに100メートル先ぐらいにベンチが見えた。

「わかった」

ヤモトは指定された公園に向かうと、その公園は閑散としていた。
春や秋なら346プロの社員が、休憩がてら訪れるかもしれないが今は冬だ。
冬の寒空の下で休憩するモノ好きはいない。
なるほど、ここなら人に話を聞かれる心配をしなくてすみそうだ。
ベンチに腰を落としてからすぐに、李衣菜はやってきた。


ヤモトが缶ココアを飲み終えたのを見計らってから、話を切り出す。

「えっと、まずは自己紹介から、あたしは多田李衣菜。で、こっちはサーヴァントのバスター」
「初めまして、バスターです!」

ノノは実体化し、満面の笑みをヤモトに向けた。

「ドーモ、タダ=サン。……アサリ・アンコです」

偽名を名乗ったのは打合せ通りのことだ。
もし、本名を名乗り、指名手配犯のヤモト・コキと知られたら、警戒され、即座に交渉を打ち切られてしまうかもしれない。
ならば、一旦は偽名を名乗り警戒させないほうがよいというのが、ランサーの提案だった。

「初めまして〜、アンアンのサーヴァントのランサーです。よろしくねバッちゃん。ダリー」
「バッちゃん?」
「ダリー?」
「うん。バスターだからバッちゃん。多田李衣菜だからダリー」

唐突にニックネームで呼ばれ、困惑している二人をしり目に、園子はニコニコと笑顔を向ける

「いきなり、あだ名で呼ぶなんて、中々ロックなサーヴァントだね」

李衣菜は困惑しつつも、まんざらでもない顔をしていた。
友人であり、最高にロックなアイドル木村夏樹。
その友人がつけてくれたあだ名。
こんなところで、そのあだ名を聞くとは思ってもいなかった。

「バッちゃんって私のことですか?」
「そうだよ〜でもおばあちゃんみたいで嫌?」
「そんなことありません!かわいいです!」
「ありがとう〜」

ヤモトはこの短いやり取りで、李衣菜とノノの緊張が解けていくのを感じ取った。
いきなりニックネームで呼んだことが、二人の警戒心を解したのだろう。
あの暢気というのか、人を和ませる雰囲気は自分には出せない。
それをすんなりできる園子の性格は感心させられる。

「ふたりは何でこっちにきたの?」

園子は交渉に入らず、質問をした。
少し言葉を交わしただけだが、バスターは交戦的ではなく、人懐っこい気質なのを感じ取った。
マスターの少女もそこまで人見知りをしなさそうなタイプに見える。
ここは雑談しながら、打ち解けたほうが良いと判断した。

「さっきの建物は私の世界にあった建物で、知り合いが居るかもって思って来ただけ」
「りーなさんはアイドルなのです。皆を幸せにする素晴らしい仕事なんですよ」

ノノはエッヘンと擬音がつきそうな程胸をはって、誇らしげに語り、李衣菜は恥ずかしいから辞めてくれと言わんばかりにノノを睨む。
園子はその様子を見ながら、フッフッフッとワザとらしい笑い声は出しながら、ノノに詰め寄った


275 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 22:00:40 AAgUEeqo0

「バッちゃん。アンアンもアイドルにスカウトされたんだよ〜」

それを聞いた瞬間、李衣菜はヤモトの方へ振り向き、勢い良く詰め寄る。

「ねえ、スカウトって誰にされたの!?」
「プロデューサーという人です」

ヤモトは李衣菜の勢いに気おされながらも、何とか返答する。

「ねえ、プロデューサーって、身長が高くて、こんな顔してなかった」

そう言うと、李衣菜は人差し指で両目の端を吊り上げ、強引に三白眼を作る。
もし、その特徴に該当するなら、思い当たる人物は一人しかいない。

「はい、確かにそんな感じです」
「やっぱり!あの人顔怖いよね」
「でも、誠実でとてもいい人でした……」

ワガママにも誠意をもって対応してくれ、自分を真剣に勧誘したプロデューサー。
あのような誠実な人物はネオサイタマには滅多にいないだろう。
そのプロデューサーの好意に対して、後ろ足で砂をかけてしまった。
後悔の念が胸中を渦巻く。

「誠実か……確かに」

強面で不器用で誰よりも一生懸命で誠実。
ヤモトの話を聞く限り、自分が知っているプロデューサーと何一つ変わって無さそうだ。
それが何だが嬉しかった。

「ねえ、他のアイドルに会っていない?」

プロデューサーが居るということは、シンデレラプロジェクトのアイドルが居る可能性は高い。

「えっと、シマムラ・ウヅキ=サンに会いました」
「え、卯月がいたの?元気そうにしてた!?」
「はい、笑顔が素敵な人でした……」

李衣菜はそっか〜と嬉しそうに相槌をうつ。
とりあえず卯月がいることはわかった。
そして、プロデューサーと同じように、自分が知る卯月と変わらないようだ。
一時期はあの笑顔が曇り、見ているこっちがツラかった。
でも、今は笑っている。
あの笑顔は人を元気にさせてくれる。
それが無性にうれしかった。

「りーなさん、そろそろ」
「あ、そうだった」

ノノが本題に入るように促す。
雰囲気が良いので、ついつい雑談が盛り上がってしまった。
目的は雑談することじゃない、脱出のために協力を仰ぐことだ
李衣菜は表情を引き締め、言葉を紡ぐ。

「信じられないかもしれないけど、私には聖杯にかける願いはない。この戦いに参加するつもりはない。
ただ、元の世界に帰りたいだけ。そしてバスターにも聖杯にかける願いはない」
「はい!ノノには他の人を殺してまで、叶えたい願いなんてありません!」

李衣菜はヤモトの目を見据え、力強く宣言する。
その瞳には強固な意志が宿っていた。
バスターも高らかに宣言する。
李衣菜と同じように、瞳には断固たる意志が宿っていた。

「アサリさんはどう?」

ヤモトはその問いに暫く間を置いてから、答える

「アタイはただ生き残りたいだけ」

李衣菜とバスターはヤモトの答えを聞いた後、園子に視線を向ける。
園子は息を浅く吸い込み、意志を伝える。

「詳しくはいえないけど、私の願いは聖杯を手に入れなきゃ叶えられない願いかも」

場の空気がひりつく。
この場において、園子一人が聖杯を取りに行く可能性があると宣言した。
それはこの場で戦いになる可能性があるということだ。
ひりついた空気に息苦しさを感じながら、言葉を紡ぐ。

「あたし達はこの戦いから脱出する術を探している。正直何から手を付けたらいいか、分からない状態だけど、必ず見つける!
そのためには一人でも多くの力が必要なの!だからお願い!力を貸してください!」

李衣菜は深々と頭を下げる。
これは交渉ではなく、懇願だった。
ただ思いのたけを偽りなくぶつける。
それしか人を説得する方法を知らない。

「聖杯を使って、元の世界に帰るじゃダメなの?」


276 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 22:02:09 AAgUEeqo0

聖杯を使わずにこの世界から脱出する。
その考えは、胸の奥底に押し込んでいたものだった。
だが、それは聖杯を勝ち取るより、困難な道だ。
聖杯は確かに存在する。だが脱出方法はあるとは限らない。

できれば戦わずに脱出したいとは思っていた。
だが、安易な希望を抱かない方が良い
脱出の方法がないと分かった時に、訪れるのは絶望だけだ。
それならば聖杯を勝ち取ることを、考えた方が絶望せずにすむ。
ヤモトはそう考えていた。
だが李衣菜はあえて茨の道を選んだ。
何故?

李衣菜は頭をあげ、おもむろに答えた。

「私にはやりたいことも有るし、会いたい人もいる。
でも人を殺したら、そんな最高にロックじゃないことをしちゃったら……もう歌えない……皆に……みくちゃんにあわせる顔がない……」

アイドルとは人を幸せにするものだ
殺人を犯したアイドルが人を幸せにできるか?
いや、できない!
そして人を殺した瞬間に、アイドルとしての多田李衣菜は死ぬ。
そんなのは自殺と同じだ。
これからの未来を生きる為に、聖杯を勝ち取って脱出する選択肢は李衣菜に存在しない

「アサリさん。もし殺し合うことなく、聖杯戦争から脱出する方法があればどうしますか?」

李衣菜の説得を黙って聞いていたバスターが徐に口を開く。
直前まで見せていた、人懐っこい明るい雰囲気は嘘のように消え、真剣な眼差しでヤモトを見据える。
その雰囲気に思わず、思わずのまれてしまう。
これが英霊か。

「もし、あればその方法をとる」
「でしたら、少しだけその可能性に賭けてくれませんか?
私達が絶対にその方法を見つけます!」

何から手をつけていいかわからないと言っていた。
何一つ手がかりがないのだろう。
なのに、あの自信はなんだ?
本当に見つけてしまうかもしれない
ヤモトはそんな思いを抱き始めていた。

(((ランサー=サン、どうする?)))
(((私はいいと思うけど、判断はヤモヤモに任せるよ〜)))
(((わかった)))

ヤモトは李衣菜の目の前に立ち、おもむろに手を差し出した

「よろしくおねがいします」

握手、それは友好の証し、そしてこの場の意味は李衣菜に力を貸すということ
ヤモトは生き残るために殺してきた。
だが、略奪や欲求を満たすために、殺してきたことはない。
生き残るためには、他のマスターの命、または願望や元の世界への生還への道を、断たなければならない。
しかたがないとはいえ、良心は少なからず痛む。
もし戦いから脱出できる方法があれば、それに越したことはない。
バスターの言う可能性に賭けてもよいのかもしれない。
それに、脱出の方法が見つからなければ、聖杯を使って脱出すればいいだけだ。

「うん!よろしく!」

李衣菜も差し出された手を握り返す。
その時見せた笑顔は今まで一番いい笑顔だった。

「これでノノ達はお仲間です!」
握手をしている二人の元に飛び込み、その両腕で二人を抱き寄せる。
ヤモトが協力してくれるのが嬉しかったのか、力が籠る。
その結果

「くるしい……バスター……」
「……」
「あわわわ、ごめんなさ〜い」

李衣菜とヤモトがバスターの両腕に、思いっきり締め付けられることになった。


277 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 22:03:30 AAgUEeqo0

◆◆◆◆

「協力ってどれぐらいかな」

李衣菜達に協力することを了承した園子だが、どの程度協力すればいいのか不明瞭だった。情報を交換する程度なのか、それとも常に一緒に行動する同盟関係なのか。

「一緒に行動したいです。ランサーさんとアサリさんが居れば心強いです!ですよね、りーなさん」
「うん」
李衣菜はヤモト達と一緒に行動することを了承した
サーヴァントが増えることは心強い。
サーヴァントが二騎いれば、どれだけ安心できるか。

「相談があるんだけどいいかな」
「何?」
「アンアンのロールがホームレスだから、住むところがないんだよね〜
だから、ダリーの家に泊めてもらっていいかな〜」

園子は申し訳なさそうに李衣菜に要求した。
ろくに休める環境が無い状況で、李衣菜達と協力関係を結べたのは好都合だった。
これで、了承してくれれば、ちゃんとした休息がとれ、今後の活動が一気に楽になる。
李衣菜利用しているようで、少しばかり気がひけるがこれもヤモトの為だ。

「だめだよ、ランサー=サン。これ以上迷惑はかけられない」
「別にいいよ。協力してもらったし、一人ぐらいなら泊まれるから」
「タダ=サン違うの」

ヤモトは深く深呼吸をする。
まるで自分の意志を固めるように。
そして、すべての真実を告げる

「アタイの本当の名前はヤモト・コキ。ロールはギャング殺しの犯罪者の指名手配犯。
信じてもらえないと思うけど、アタイはやってない。
このまま、タダ=サンと一緒に行動できない。
一緒に居ると、ギャングや賞金稼ぎの襲撃に巻き込んじゃう。
だから、ここで別れよう。
この世界から脱出する方法を見つけたら、連絡するから」

ヤモトは真実を告げるか、どうか悩んでいた。
李衣菜がアイドルと聞いた時、どす黒い何か胸中を渦巻く。
彼女はアイドル。
島村卯月のように、やりたいことを好きにやれて、好きなことを共にできる仲間や友人がいたはずだ。

ならばそれを滅茶苦茶にしてやりたい!
アタイが味わった苦しみを、少しでも体験させてやりたい!
一緒についていけば、巻き込むことができる!

それは嫉妬による八つ当たり。
普段のヤモトなら考えもつかない、幼稚な思考だった。
しかし、卯月というあまりにも眩しい光がヤモトを苛む。
卯月の人生と自分の人生のこの違いはなんだ。
あまりにも不平等すぎる!
その理不尽さが彼女を荒ませた。

だが、李衣菜の想いがヤモトの荒んだ心に突き刺さる
これからの未来を歩むために、妥協することなく、いばらの道を躊躇なく突き進もうとする意志。
その気高い精神に一種のソンケイを感じた。
そして、そんな気高き少女を自分勝手な理由で巻き込もうとしていた。

それはまるでニンジャだ。
スカウトに応じないから、カラテによって屈服させようとしたソニックブームのように
ソウカイヤに刃向ったから、始末しようとした追手のニンジャのように。
自分のエゴを理不尽な暴力によって、相手に一方的押し付ける。
そんな邪悪なニンジャに成り下がろうとしていたのだ。
これ以上邪悪にならないために、何より李衣菜を巻き込まないために、ヤモトは李衣菜と別行動することを選択した。

園子は一瞬驚いた顔を見せた後、笑みを見せながらヤモトを見つめる。
やっぱり、ヤモヤモは優しいな。
この逃亡生活で、心も体も疲弊しているはず。
そんな時にちゃんとした家で休める機会があれば、すぐに飛びつきたいだろう。
だが、ヤモトは相手の身を案じて断った。
仮に巻き込んだとしても、相手は聖杯戦争の参加者。
ライバルが減るだけで、損にはならないはずなのに。
聖杯戦争のマスターとしては甘いといえる選択だろう。
しかし園子は、そのヤモトの甘さといえる優しさに好感を抱いていた。

「連絡先だけ教えてください。手掛かりを見つけたら、連絡するから。」

ヤモトは笑顔を作りながら、李衣菜に尋ねた。
ロールとはいえ、目の前に指名手配犯が居るのだ。関わりたくないはず。
早く連絡先を聞いてこの場から立ち去ろう。
もしかすれば、警戒して連絡先を教えてくれないかもしれない。
その時は李衣菜を見つけ出して、伝えるだけだ。

李衣菜はさぞ驚いているだろうと思いきや、平然とした顔というより、納得いったというような顔をしていた。


278 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 22:04:52 AAgUEeqo0


「どこかで見た顔だな思っていたけど、手配書か」
「指名手配犯が目の前にいても、怖くないのですか?」

まるで喉に引っかかった骨がとれて、すっきりしたといわんばかりに、呑気にしている李衣菜にヤモトは思わず、問い詰める。
ロールとはいえ、指名手配犯がいるのだ。少しぐらい恐れを見せるはずだが。

「だって極悪な指名手配犯だったら、自分から指名手配犯と告白しないし、
巻き込んでしまうから、別れようとも言わないと思う。
それにプロデューサーがスカウトした人に悪い人はいないよ」

李衣菜はプロデューサーの人を見る目を信頼している。
でなければ、あんな素晴らしいメンバーを集められない。
そんなプロデューサーが犯罪をする悪い奴をスカウトするわけがない。
そしてこの世界のプロデューサーもそうに違いない。
李衣菜には何故だかわからないが確信めいたものがあった。
それに僅かに話しただけだが分かる。ヤモトは殺人をする人間ではない。
したとしても、正当防衛か何かだろう。

「はい、ヤモトさんは優しい人です。
得にならないのに、相手のことを思い遣って自分に不利益になることを伝える。
これはロックです!」
「確かにロックだ。わかってきたじゃんバスター」

ノノの意見に李衣菜は笑みを浮かべながら賛同する

「ヤモトさん。私たちはもう仲間なんだから遠慮することないよ。仲間が困っているのなら、助けるのが当たり前だし。
何よりこんなロックな仲間が傍にいれば、安心できる」

この衆愚の街で、いやこの聖杯戦争という殺し合いの舞台で、信頼できる人物を見つけることを難しい。
だが偶然にも信頼できる人物に出会うことができた。
この極限状態で、初めて会ったばかりの人間の身を案じられる人物に。
シンデレラプロジェクトのメンバーや前田みくのように……、とはいかないまでも少しばかり信頼して背中を預けてもいい。

一方ヤモトは李衣菜の予想外の反応に困惑していた。
このまま連絡先を教えてもらい、すぐにこの場から立ち去ると思っていたが。
ここは好意に甘えるか?それともこの場から離れるか?
胸中には葛藤が渦巻く。

「ごめん。やっぱりアタイはタダ=サンと一緒に行動できない」

ヤモトは深々とお辞儀し、李衣菜の申し出を断る。

「そんな遠慮すること無いよ」
「一緒にいるだけで、ヤクザやマフィアにアタイの仲間と勘違いされる。今こうして会話しているだけでもアブナイ。
そうなったら家にも帰れず、追われ続け、四六時中気を張り続けなきゃいけない逃亡生活だよ」

李衣菜の脳内にその日々の想像がよぎり、言葉を詰まらす。
そんな日々が訪れたとしたら、とてもじゃないが耐えられない。
ヤモトはそんな日々を送っていたのか。
正直驚きを禁じ得ない。
そしてヤモトの瞳、あれは意思を固めた人間のもの。
いくら言葉を投げかけても、ヤモトの意思は揺るがないだろう。

「わかった。それじゃ連絡先交換しよう」
「ごめん。携帯IRC通信機は持っていない」

ヤモトが携帯電話を持っていないので、李衣菜は連絡先と住所を口頭で、DJサガラに出会ったら、脱出方法などを聞いてくれとヤモトと園子に伝えた。

「何か分かったら、連絡する」
「よろしく」

園子は霊体化し、ヤモトは踵を返して、李衣菜の元から離れようと二三歩ほど歩き出した後、ふと振り返る。

「もし、アタイがマフィアから追われることが無くなったら、一緒に脱出する方法を探すのを手伝っていい?」

ヤモトはこの聖杯戦争に李衣菜のような、聖杯を欲していない参加者がいることを知らなかった。
この戦いに巻き込まれなければ、仲間と一緒にアイドルの活動をしていたはず。
だが、願いもないのに理不尽に戦いに巻き込まれ、その夢を断たれようとしている。
それはニンジャになり、そのせいでソウカイヤに狙われた自分の姿と重なった。
助けてあげたい。そんな想いがふつふつと湧いてくる。
今のままでは李衣菜を手助けできない。
だが、もしこの指名手配が解除されれば、李衣菜を手助けできる。

「もちろん!」

李衣菜はヤモトの問いにサムズアップで答えた。
それを見たヤモトは僅かに笑みを浮かべながら、一言告げて李衣菜達の元から立ち去った。

――――ありがとう――――


279 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 22:07:22 AAgUEeqo0

◆◆◆◆

「行っちゃったね」
「はい」

ヤモトの後ろ姿が視界から消えるまで、目で追い続ける。
そして、視界から消えたのち、バスターは霊体化し、李衣菜達は念話で会話しながら、自宅に向かうバス停に向って歩く。

(((ヤモトさんが一緒に来てくれなかったのは残念でした)))
(((しょうがないよ。相手にも事情があるし)))
(((休む家もないなんて、大変ですね……)))
(((そうだね)))
(((これもそれも指名手配犯のせいです!ヤモトさんみたいな優しい人がそんなことするわけありません!何かの間違いです!)))
(((私もそう思う。ねえバスター。ヤモトさんの指名手配を解く方法ないのかな)))
(((う〜ん。ちょっとノノには思いつきません)))
(((そっか)))

自分の身を案じて、別行動してくれた優しき少女の為に、何かできることはないか?
だが、李衣菜は思考を巡らすが、バスター同様に妙案は思いつかなかない。

ヤモトは殺人などしていない。
ただ指名手配犯というロールに無理矢理はめ込まれただけだ。
少しだけの出会いだったが、わかる。
だがあの男はそう思うだろうか?
李衣菜は携帯電話の電話帳を開き、ディスプレイに表示された文字を見つめる。

――――ロールシャッハ――――

どんなことがあっても、自分の正義を貫くと宣言したヒーロー。
あの男が多額の懸賞金をかけられた、ヤモトを見たらどう思うだろうか?
間違いなく、己の正義を成すために戦うだろう。
多額の懸賞金が懸けられている悪党を見逃すわけがない。
二人が戦うことになれば、どちらも無事には済まないかもしれない。
ヤモトとロールシャッハ。二人が出会わないことを切に願う。

【MIDTOWN WEST SIDE CHAMBERS AVE 346プロダクションビル付近 /1日目 午後】

【多田李衣菜@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的疲労(小)
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]3500円程度
[思考・状況]
基本:帰りたい。
1.とりあえず今は帰宅。バスの停留所に向かう
2.ノノ、ロールシャッハ、ヤモト達と協力して脱出の方法を探す。
3.ロールシャッハへの恐怖心と苦手意識。同様にアサシン(シルバーカラス)にも僅かな恐怖。
4.DJサガラを探したいが、アテは無い。
5.ヤモトとロールシャッハが出会ったらどうなる……。
6.ヤモトの境遇を何とかしたい 
[備考]
※アサシン(チップ=ザナフ、シルバーカラス)の外見、パラメーターを確認しました
※ランサー(乃木園子)の外見、パラメーターを確認しました
※令呪は右手の甲に存在します
※ロールシャッハと連絡先を交換しました。
 他にも何かしらの情報を共有しているかもしれません。
※ヤモトと園子に連絡先と住所を教えました

【バスター(ノノ)@トップをねらえ2!】
[状態]健康、霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本:マスターが帰りたいらしいので、手伝う
1.りーなさんは私が全力で守ります!
2.ロールシャッハとヤモト達と協力して脱出の方法を探す。
3.ロールシャッハへの不信感。彼が信用出来るのか見極めたい。
4.DJサガラを探したいが、アテは無い。
5.ヤモトさんは良い人です!指名手配犯なんて間違いです!何とかできないでしょうか。


[備考]
※アサシン(チップ=ザナフ、シルバーカラス)の外見を確認しました。
※ランサー(乃木園子)の外見を確認しました


280 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 22:09:24 AAgUEeqo0


(((ダリーもバッちゃんも良い人だったね〜)))
(((そうだね)))

李衣菜と別れたヤモトは人ごみに紛れながら、大通りを歩いていた。
ヤモトはニンジャ感覚を総動員し、周囲を警戒する
今の処、監視されている気配もない。
警戒を続けながら、念話での会話を続ける

(((正直言うと緊張していたんだよね〜厳つくて、ゴッついサーヴァントが出てくると思っていたから。
でもバッちゃんみたいな、人懐っこくてカワイイ子で安心したよ〜。だいぶん話しやすかった。)))
(((でもランサー=サンのアトモスフィアのおかげで、タダ=サンもバスター=サンも緊張が柔らでいたと思うよ)))
(((え、そうかな〜)))
(((あとゴメン、せっかく嘘をついてまでして、アタイを休ませようとしてくれたのに、勝手に断って)))
(((それはいいよ〜折角仲良くなれたのに、マフィアの襲撃に巻き込んじゃったら、仲悪くなって敵対しちゃうかもしれないし。
あとヤモヤモ何か雰囲気変わったね)))

園子は会話をしながら、ヤモトの雰囲気の違いに気づく。
力強さと、刀のような鋭さが戻っている
卯月と会話した直後とは別人のようだ。
それどころか、今までより力強さと鋭さが増しているような気がする。

(((そうかも、タダ=サンのおかげで大切なことに気付いた。そのせいかも)))

――――私にはやりたいことも有るし、会いたい人もいる

李衣菜の言葉がヤモトの脳内で何度も繰り返される。
アタイは何をしたい?誰に会いたい?
それを考えた時、一人の少女の姿が鮮明に描かれる

―――アサリ=サン

ニンジャになったことで、別れるしかなかった親友。
でも、いつか会える日が来るのを信じて、マッポーの世を生き続けてきた。
しかし、ネオサイタマとこのゴッサムシティでの過酷な逃亡生活。
ただ生き残ることだけを考えることしか許されない。
そんな生活がヤモトの想いすら、心の奥に押し込めた。

でも今は違う。
何故生きたいのか、はっきりと言える。
それは、アサリ=サンともう一度会う為に。

アタイは何てイディオットなんだ
こんな大切なことを今まで思い出せなかったなんて。
でも二度と見失わない。
これは叶わない願いじゃない!
絶対に叶えてみせる!

そして、なんて下らないことで嫉妬していたんだ。

アタイの理想をすべて持っている卯月は確かに羨ましい。
だが、それがどうした?
他人の幸せなんて関係ない。自分が幸せになればいい
昔が不幸でも関係ない。これから幸せになればいい!

ヤモトは李衣菜との対話を切掛けに、己の願望を再確認し、嫉妬に囚われる愚かさに気付いた。
その結果、邪念と疲弊で黒ずんでいたヤモトの精神は、以前以上の輝きを取り戻したのだ。

(((じゃあ、ダリーには感謝感謝だね〜)))
(((うん)))

園子はヤモトが向かう時、アイドルとの出会いがヤモトにとって良きことであることを願った。
卯月との出会いはヤモトを曇らせてしまった。
だが、もう一人のアイドル多田李衣菜との出会いが、ヤモトの心を覆っていた暗雲を取り除いてくれた。
この偶然の出会いに感謝しなければならない。

(((ところで、ヤモヤモ〜。マフィアに追われなくなったら、ダリーと一緒に手伝うって言っていたけど、何かアイディアがあるの?)))
(((うん、令嬢のボスを説得して指名手配を取り下げる)))

指名手配犯というロールにより、多額の賞金が懸けられ、マフィア、ギャング、賞金稼ぎ、警官、街のありとあらゆるものが命を狙ってくる。
ゴッサムシティにいるマスターの中で、最悪のロールと言っていいだろう。
常に緊張を強いられ、心身は疲弊していく。
そしてこの状態が続けば、心身を休められず、疲れは加速していく。
さらに時間が経ち、警察機構が捜査の手を強めれば、碌に行動できなくなるかもしれない。
そうなればこの戦いで生き残るのは難しいだろう。

となると、この指名手配犯というロールをどうにかするしかない。
その方法はこの指名手配犯を解くこと。自分を殺すように指示を出している人間に会い、指示を取り下げること。
そして、指示を出しているのは、恐らく<令嬢>総帥だろう。
仮に人を一人殺したぐらいで、ここまで手配書が発行され、あれほどの懸賞金を懸けられるのは、普通ではありえない。
これは個人の意向が大いに反映していることである。
そこまでして、自分を始末したい人間は、息子を殺された令嬢の総帥しかいない
総帥が指示をしなくなれば、指名手配が解かれる可能性は充分にある。


281 : The future of four girls? ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 22:10:32 AAgUEeqo0

(((確かに、このままいけばジリ貧感あるよね〜)))

園子もこのまま対策を取らなければ、ヤモトが疲弊していくだけなのはわかっていた。
そういった意味ではヤモトのアイディアには賛成である。

(((でも説得って、ただ言葉で済ませることじゃないよね)))

園子の声色は、いつもの暢気は鳴りを潜め、真剣みを帯びていた。
ヤモトは園子に返答せず、沈黙する。
この沈黙は肯定を意味する。

ただの言葉で復讐を止める者はいない。
意志を挫くには、復讐を続ければ自分の身が傷つくと、骨身に染みさせるしかない。
それは暴力。
ヤモトは指名手配を解かせるために、暴力の行使を考えていた。
拷問、あるいは命そのものを奪う。

(((追手のニンジャも殺してきた。こういうことには慣れているから)))
(((だめだよ暴力になれちゃ!そんな悲しいこと言わないで……汚れ仕事は私がするから……)))

園子の悲痛な声がヤモトの脳内で響きわたり、驚きのあまり思わず体をビクッと震わせた。

園子の願いは、ヤモトが元の生活に戻ること。友人と平穏な暮らしを過ごすこと。
そのためにはこれ以上ヤモトに手を汚させてはならない。
自分は英霊であり、死人だ。
例えこの地において、筆舌に尽くし難い残虐な方法でこの戦いに勝ち抜いても、一時期に心は痛めるが、座に帰ればすぐに記憶は消去される。
だが、ヤモトは生者だ。
例え仕方がないことでも、そのことが一生の重荷になってしまうかもしれない。
そんなことは断じてさせない!

(((あ……ゴメンね急に大声あげちゃって。え〜っと……とりあえず今後の方針は令嬢のボスを探すってことでいいかな〜)))
(((うん……)))
(((よし!令嬢のボスのとこに向って、レッツゴー!)))

場の空気を重くしたことを察した園子は、とりわけ明るい声色で喋り、ヤモトもその掛け声に応じて歩きはじめる。
ヤモトの姿は群衆に完全に溶け込んだ。

【MIDTOWN WEST SIDE CHAMBERS AVE 346プロダクションビル付近】

【ヤモト・コキ@ニンジャスレイヤー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]ウバステ、着替えの衣服
[道具]
[所持金]極貧
[思考・状況]
基本:生き延びる。
 1.令嬢のボスを説得して、指名手配を取り下げる。
 2.可能な限り戦いを避ける。
 3.ランサーを闘わせたくないが……。
4. 脱出の方法を探すタダ=サンを手伝いたい
[備考]
※<令嬢>の社長の息子を殺した罪で追われています。が、本人に殺害した覚えはありません。
※ニンジャソウルを宿している為、攻撃に神秘が付加されています。
 ただし、ニンジャの力を行使すると他のサーヴァントに補足される危険性があります。
※バスター(ノノ)の外見、パラメーターを確認しました。
※多田李衣菜の連絡先と住所を知りました


【ランサー(乃木園子)@鷲尾須美は勇者である】
[状態]健康、霊体化
[装備]無銘・槍
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:ヤモヤモ(ヤモト)を元の世界に帰す。
 1. できればヤモヤモを戦わせたくない。汚れ仕事は自分がする
 2. 令嬢のボスを説得して、指名手配を取り下げる。
 
[備考]
※ランサー(ウルキオラ・シファー)、デェムシュの戦闘を感知しました。
どこまで視認できたかは不明です。
※多田李衣菜の連絡先と住所を知りました


282 : ◆7DVSWG.5BE :2016/04/01(金) 22:14:01 AAgUEeqo0
以上で投下終了です。

あとwikiがエイプリルフール仕様になっています。
まだ見ていない方は是非見てみてください。
トップページを開いた瞬間笑ってしまいました。


283 : 名無しさん :2016/04/01(金) 22:27:13 RGSKyMxw0

wikiのエイプリルフールネタ今気づいた……手混みすぎだろw


284 : ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:04:23 ZW4UG..20
投下乙です!
ヤモッチャンもそのっちもお互いを強く心配しているからこそ微妙に噛み合わないのが悲しい…
日向の世界で生きる卯月との出会いで嫉妬が芽生えるヤモッチャンの姿がらしくて好き
友達とも離れ離れになって、ずっと過酷な世界で生きてた子だもんなぁ…
そんな彼女を再び持ち直させたのが同じく日向の世界で生きるだりーななのが面白い
だりーな組の快活で前向きな雰囲気が微笑ましいなぁ

そんなこんなで自分もゲリラ投下させて頂きます


285 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:06:12 ZW4UG..20



バケモノが、自らの左胸に触れる。
既に傷の多くは癒えている。
やはり魔力を集中させれば、幾分か再生を早める事が出来るか。
これならば、また『戦える』。
殺戮を続けられる。


バケモノは、憤っていた。
己に傷をつけた敵を、憎悪していた。
だからこそ、彼は動き出す。
この怒りを晴らす為に、再び駆け抜ける。


剥き出しの殺意が荒れ狂う。
風が、街に吹き荒んだ。




◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


286 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:07:30 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



「特殊部隊の出動?」



夕刻、ゴッサムシティ警察署の署長室にて。
椅子にどっしりと腰掛ける警察服の男が、眉を顰めながら呟く。
彼こそがゴッサムの警察を束ねる警察署長だ。

机を挟んで署長と向き合うのは、無精髭を生やしたスーツ姿の男。
彼の名はノーマン・スタンスフィールド――――麻薬捜査官である。
スタンは麻薬絡みの犯罪者を逮捕へと導いた優れた捜査能力に加え、裏の繋がりによって警察との『関係』を持つ。
それ故に彼は警察署においてもそれなりに顔が利く立場となっている。
スタンがこうして署長との対面に臨めたのも、そんな経緯があってこそだ。


「ええ。今夜18時に開かれるシェリル・ノームのライブ。
 そこにグラスホッパーの首領―――犬養が来賓として招かれる。
 バッタの王様が歌姫の見物と言う訳ですよ」


怪訝な表情を浮かべる署長に対し、スタンは饒舌に話す。
身振り手振りを交えながら語るその姿は何処か大袈裟にも見える。
トークショーの司会でも気取っているかのようだ。
相変わらず不気味な男だ―――署長は心中でスタンに毒づく。


「奴らの活動は署長も知る所でしょう。
 連中は急速に勢力を伸ばし、法を逸脱した私刑行為を繰り返している。
 奴らの行動力を省みればマフィアよりもタチが悪い。身勝手な暴力を行使する犯罪者の集団だ」


机に右手をつけ、スタンは語り続ける。
彼の言う通り、グラスホッパーという自警団は昨今になって勢いを付けている。
ケチな軽犯罪者の取締やボランティア活動から始まったというのに、今ではマフィアにも匹敵する程の組織だ。
警察以上に迅速な対応と行動力、そして確かな正義感によって大衆からの支持も厚い。
だが、結局の所は自警団――――自分達の意思で私刑を執行する暴力集団に過ぎない。
国家機関である警察にとって容認出来る存在ではない。

そして何より、彼らは余りにも『善人の味方』であることが問題だった。
このゴッサム・シティの社会は腐敗している。
犯罪組織が跋扈し、行政機関といった公的な組織でさえ彼らとの癒着を行っている。
ゴッサム市警に属する警官の多くもマフィアからの賄賂や汚職によって私腹を拵えているといった有様だ。
グラスホッパーによって犯罪者が一掃されれば、多くの公務員が『ビジネスパートナー』を失ってしまう。


「とはいえ、私はあくまで麻薬捜査官。
 私の権限が及ぶのは麻薬捜査に関する案件だけだ。
 あなた方警察の協力が無ければ、彼を逮捕することが出来ない」


だからこそ、警察の特殊部隊を出動させて欲しい。
そして彼らの一時的な指揮権を自分に寄越してほしい。
スタンの要求は、そういうことだった。


287 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:08:07 ZW4UG..20

スタンはシェリル・ノームのライブに乗じて犬養らグラスホッパーを逮捕しようと言うのだ。
闇取引で利益を上げる汚職捜査官からすれば、マフィアを根絶されるのは痛手だ。
有力マフィアから口封じの賄賂を受け取っている署長にとってもそうだった。
署長はマフィアの活動を黙認する代わりに、彼らから資金を受け取っている。
同じ汚職者として、署長もスタンの思惑は理解出来る。


「何を馬鹿な」


だが、署長はそう口にせざるを得ない。
自警団を潰す為に警察の特殊部隊を一介の麻薬捜査官に預けろというのか。
しかも僅か数時間後のライブの際に突入を仕掛ける?
余りにも早急で無茶苦茶な作戦だ。
ゴッサムが誇る人気歌手のライブを妨害するかの様な強引な捜査は、警察への不信感にも繋がるかもしれない。
その上相手はグラスホッパー――――市民からの人気も厚い『正義のヒーロー』共だ。
警察がグラスホッパーに手出し出来なかったのは其処が大きい。
大衆の支持を得ている犬養らを逮捕すれば、警察への非難は免れないだろうと予測されているからだ。
それ故に署長は消極的な姿勢を示す。



「確かにグラスホッパーには多数の容疑が掛かっているが、幾ら何でも早急すぎるのでは―――――」



次の瞬間。
署長の身体が、唐突に宙に浮いた。
否、何者かに首を掴まれ、持ち上げられたのだ。

署長が視線を横へ向けると、そこには片目に眼帯を付けた大男が立っていた。
彼が署長の首を掴み、締め上げていたのだ。
誰だ。いつから其処に。何故だ。どうして。
先程まで居なかった筈の男の介入に混乱する署長。
人間離れした握力で首を締め付けられ、何とか逃れようと必死に抵抗する。
しかし、離れない。
大男は微動だにしない。
署長の思考が、意識が、掻き乱される。


息が出来ない。
意識が朦朧とする。
苦しい。
嫌だ。
助けて。
死にたくない。


「かっ、が、は――――――ッ!?」
「奴らは今も尚、我々の利益を踏み荒らしている。
 そんな状況で『早急すぎる』と連中の活躍を眺めている場合ですかな?
 だからこそ署長、私の要求を聞き入れて頂きたいのですよ」


唐突に署長の首が手放される。
恰幅のいい身体がどすりと冷たい床に落下した。


288 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:08:33 ZW4UG..20
尻餅を突き、苦痛の涙を流しながら署長は何度も咳き込む。
死ぬかと思った――――そう言わんばかりに息を整えていた署長を、歩み寄ったスタンが見下ろす。


「奴らのせいで我々は肩身の狭い思いをしています。
 署長、貴方だってそうでしょう?」


「ひっ」と、恐怖に戦きながら署長はスタンを見上げる。
スタンの後ろには先程突然現れた大男が控えている。
大男は、先程の攻撃で言葉を介さずに署長へ意思を伝えたのだ。
『その気になればお前をいつでも殺せるぞ』、と。

スタンの言う通り、グラスホッパーの登場で汚職警官の立場は脅かされている。
取引先のマフィアを潰され、自らの稼ぎ場を次々と失っている。
悪徳に染まり切った警官達にとって、正義の自警団は目の上の瘤でしかないのだ。
署長からしても彼らは目障りな存在だった。
だが、手出しが出来なかった。


まさかこの男は、本気で連中を潰すつもりなのか。
スタンを見上げながら署長は思う。


「連中は酷く澄んだ清流です。汚れ切った川魚共を一掃する程のね。
 このままだと川魚は全滅だ。そう、我々は死んでしまうんだ!」


スタンはそう言いながら床に膝を突き、、アタッシュケースをどしりと置く。
そのままカチリと留め具を外し、中身を開いた。
ケースの中に敷き詰められていたのは、無数の札束。
それは数多の汚職によって蓄えてきた『私腹』。
己が稼いだ資金を、署長への交渉と口止めの為に用いてきたのだ。


「端金だが、これで自分達の立場も守れると考えれば悪くない報酬だろう?
 まあ、つまりだ、何が言いたいかと言えば――――――」


そしてスタンはゆっくりと署長に顔を近づける。
睨む様な視線で彼を見据え、苛立たしげに口を開いた。





「――――特殊部隊を出せ。今すぐにだ!」






◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


289 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:09:03 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



時刻は17時半。
設備を終えた会場に、来客が少しずつ訪れて始める。
座席に座った来客達は歓談に花を咲かせている。
じきに始まる催しに期待を寄せるように。
彼らは抽選によって選ばれた『幸運な者達』だった。

18時より始まるシェリル・ノームのライブは、生の歌声で新曲を披露する場としての役割も兼ねていた。
彼女はこのディナーショー形式のライブで、初めて人々の前で新曲を直接歌うのだ。
このライブを見聞き出来る者は限られている。
抽選によって選ばれた者か、あるいは企画側から直接招待された者しか観客になれないのだから。

だからこそ彼らは喜ぶ。
招かれた者達は、会話を交わす。
まさかシェリル・ノームの新曲を生で聴けるだなんて。
抽選に当たるとは思ってなかった。
シェリルの歌が楽しみだ。
そんな他愛も無い会話を繰り広げる。

一人、また一人と来客が会場へ足を踏み入れる中。
前方の席に腰掛けていた男性が、静かに会場を見渡していた。
思えば、このような華やかな催しに招待されるのは初めてだった。
彼は毎日のようにパトロールや執務に追われていた。
とはいえ、それが自警団のリーダーとしての役割だとも認識していた。
それ故に苦痛ではなかったし、寧ろそんな仕事に生き甲斐を見出していた節もあった。
社会を変える為に動く自分のリーダーとしての在り方は、猫田市においてもゴッサムにおいても変わらないらしい。

先程まで会場で警備員を務めている団員の視察も行っていた為、単なる息抜きという訳ではない。
しかし、それでも彼―――犬養は少々落ち着かない思いを抱いていた。
何せ人気歌手のライブの『客』として招かれているのだ。
仕事漬けに近い状態だった犬養にとって久しいとも言える息抜きの機会だった。
尤も、仕事から離れてのんびりと椅子に座っている現状に落ち着かない自分が居ることに犬養は気付いている。
やはり自分はこういう『息抜き』には慣れないのだなと、犬養は内心で自嘲する。


290 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:09:45 ZW4UG..20
思考の最中、犬養の視界に初老の男性の姿が映る。
犬養は座席から立ち上がり、男性へと一礼を行う。


「御機嫌よう、支配人殿」
「これはこれは…来ておられましたか。ミスター犬養」


初老の男性から手を差し出され、犬養は握手を交わす。
このイベント用ホールの支配人である男性が挨拶をしに来たのだ。


「本日は態々お越し頂き有り難うございます。
 我々の依頼を引き受けて下さったあなた方グラスホッパーには感謝しておりますよ」


支配人は柔和な笑みを浮かべながら言う。
彼こそがグラスホッパーによる会場の警備を提案し、依頼した人物である。
支配人は自警団でありながら自分達の依頼を快く引き受けてくれたグラスホッパーに感謝していた。
それ故にリーダーである犬養に対しても感謝の意を込めて『来客』としての席を設けたのだ。


「こちらこそ光栄の至りです。シェリル・ノーム氏のコンサートの『客』として招待して頂けるとは」


対する犬養も微笑みつつ礼を述べる。
グラスホッパーへの仕事の依頼、およびリーダーの招待。
クライアントが自分達の評価を高く買ってくれている証だ。
だからこそ犬養はこの招待に応じた。
警備に当たる団員の視察も交えつつ、客人として会場を訪れたのだ。



「今回の依頼の報酬の一つと思って頂ければ幸いです。
 ミスター犬養程の人物ならば客としては申し分無い」



そう言って支配人は、舞台上へと目を向ける。
今はまだ、そこには誰もいない。
だが、じきにあの舞台に『歌姫』が立つのだ。
その美貌と歌唱によって人々を魅了する時が迫っている。


人々の歓談が、更に耳に入ってくる。
それらの声は次第に大きく、そして騒がしくなっていく。
どうやら観客の大半が会場へと到着したらしい。
「それではごゆっくり」と一礼をしながら去る支配人に、犬養は会釈をした。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


291 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:10:07 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆





ブーン、ブン、ブブブン、ブーン、ブン。


ブブンブン、ブン、ブブン、ブン、ブーン。



「発進!」



走る、走る、走る。
死を運ぶモノが街を駆け抜ける。




◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


292 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:10:50 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



控え室の鏡の前に、一人の少女が座っていた。
鏡に映る自らの姿をぼんやりと眺めている。

化粧で飾られた顔。
桃色混じりの髪。
蒼い瞳。

出かける前。ふとした日常の中。ライブの直前。
何度も見つめ、呆れる程に見慣れた、己自身の容貌だ。
ゴッサムの歌姫と称された自らの姿を、シェリル・ノームは見つめていた。

奇妙な緊張が、胸の内に込み上げていた。
いつも通りだ。観客の前に姿を現し、歌い上げる。
最早自分にとっての日常と言ってもいい程にこなしてきたことだ。
だが、今日は違う。


ゴッサムの歌姫としてではなく。
本当のシェリル・ノームとして、ゴッサムの人々の前で歌う。


鏡に映るのは、自分自身。
しかし、それは『ゴッサムの歌姫』ではない。
自分の知らない過去を過ごし、自分の知らない経験を積み重ねてきた『もう一人のシェリル』ではない。
此処に居るのは、シェリル・ノームだ。
漠然と与えられた役割をこなす『偽りの歌姫』ではなく、本物の人間としてのシェリルなのだ。
それを自覚したシェリルは、最早以前のように歌うことは出来ない。
思い出した自らの経験を押し隠し、自分自身を偽ることなど、出来やしない。
だからこそ、これから彼女は全力で歌うのだ。

シェリルは、歌が好きだった。
自分の歌によって一つになる想いが好きだった。
会場の人々が齎す熱気。情熱。歓声。
それら全てと一つになるような一体感を、愛しく思っていた。
心を繋げ、熱として場を盛り上げる。
それを可能とする歌を愛していたからこそ、シェリルは決意を固める。
『己自身』の歌で人々の心を震わせることを、決心する。


(それにしても、結局お預けになっちゃったわね)


そして、シェリルはふとそんなことを思う。
彼女の脳裏に浮かぶのは、白い装束を身に纏う青年。
リハーサルを聴いてもらおうと思った矢先に出かけてしまった、一人の騎士。
ランサー。シェリルが召還したサーヴァントだ。
聖杯戦争のセオリーを考えれば仕方の無いことであると、シェリルは割り切る。
彼は魔力を探知し、マスターである自身を守る為に赴いたのだから。

しかし、同時に口惜しくも思っていた。
リハーサルとは言え、ランサーに自らの新曲を聴かせそびれてしまったのだから。


293 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:11:28 ZW4UG..20


――――良かった。


ランサーが自らの下へ帰ってきた時に思ったのは、そんな感情だった。
もしも彼が戻ってこなかったら。
歌の感想も聴けぬまま、居なくなってしまったら。
自らの中に込み上げ、そして押し隠していた恐怖が引いたのだ。
それでも尚、彼女の中の漠然とした恐れは消えていない。
誰も自分のことを知らない世界で孤独に佇むような感覚は、無くなっていない。
そのことを考えると、身体が震えそうになる。



『お前は、こわくないのか』



今から少しだけ前。
ランサーが帰還した際、そんな言葉を問われた。
こわくないのか――――たったそれだけの質問。
しかしそれは、彼女の恐怖を呼び起こすには十分。

今の彼女は、本当の自分を知る者がいない世界で孤独に佇む少女だ。
それでも彼女は有るがままに振る舞い、シェリル・ノームとして立ち続けていた。
だが、怖くないか――――と聞かれれば。
怖いに決まっている。
自分の真の姿を知る者は、自分を真に想ってくれる者は、此処には居ない。
此処に居るのは、『ゴッサム・シティのシェリル』を知る者のみだ。
今のシェリルは、偽りの歌姫を演じなければならない独りぼっちの少女だった。
そして命の刻限は着実に迫り、いつ己が朽ち果てるかも解らない。

タイムリミットが刻々と迫っている中で。
シェリル・ノームとして、歌い続けられるのか。
シェリル・ノームとして、何かを残せるのか。
漠然とした恐怖は、彼女の中で押し殺されていた。

まるで己の想いを見透かした様な一言に、シェリルは凍り付くことしか出来なかった。
故に彼女ははっきりとした答えを返せない。
自らの弱さを隠し、欺き。
何事も無い様に振る舞うことしか出来なかった。



『…私の歌を、聴いて頂戴』



だから、そんな曖昧な答えを出した。
答えになっていない答えで、彼を黙らせた。


294 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:12:00 ZW4UG..20
シェリルはあくまで気丈に振る舞う。
自らの弱さをおくびにも出さず、歌姫として立ち回る。
ただの言葉として紡ぐのは、好きではなかった。
情けない泣き言として、弱さを口に出したくはなかった。


例えどれだけ身体が震えたとしても。
孤独や不安に押し潰されそうになったとしても。
それでも、シェリル・ノームは歌う。
己の心は、想いは、歌で示す。
歌う時だけ、彼女は彼女で居られるのだから。



《マスター》


自らの脳内に、無機質な声が響く。
ランサーが念話を飛ばしてきたのだ。


《平気か》
《大丈夫よ。リハーサルの後に少し休ませてもらったから》


柄にも無い心配の言葉に対し、シェリルはそう答える。
彼女はランサーの魔力消費によって少しだけ体調を崩していた。
とはいえランサーの配慮によって可能な限り消耗は抑えられ、休息によって体力は取り戻せた。
例の『病』の症状が出ない限り、歌うことに支障はないだろう。
シェリルはそう判断していた。


《それと…ランサーも来て頂戴。霊体化したままでいい。
 とにかく私の歌を、貴方に聴かせたいから》


そしてシェリルは、今度こそランサーに自身の新曲を聴かせたかった。
リハーサルの時は聴かせられなかったからこそ、この本番でも全力を尽くしたいと思っていた。
彼が紡ぐ感想を、この耳で聞き届けたかった。
なればこそ、歌わない訳が無い。
己の全身全霊を込めた歌を紡ぐのだ。

ランサーは「そうか」と短く返事をするのみだった。
相変わらず素っ気ない返答ではあるが、そんな彼の姿にどこか可愛げを感じていた。
常に淡々としながらも、ランサーはシェリルの命に背くことはしない。
こんな反応ではあるものの、彼はきっと自分の歌を聞き届けてくれるだろう。
口元に僅かな笑みを浮かべ、そう思っていた。



「―――シェリル・ノームさん」



トントンとドアを叩く音と共に、スタッフの声が耳に入る。
どうやら時間が来たようだ。
静かに息を整えた後、シェリルは立ち上がった。



「ええ。今行くわ」




◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


295 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:12:43 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



通路を歩き、歌姫はステージへと向かう。
その姿は気丈であり、堂々としており。
『孤独な少女』とは思えぬ振る舞いで、己の舞台へと進んでいる。
そんな彼女の姿を、霊体化した虚無の英霊―――ランサーが見つめていた。


――――私の歌を、貴方に聴かせたいから。


先程、シェリルはそう言っていた。
彼女の歌は、何度も聴いている。
歌姫と呼ばれるシェリルの歌を聴かぬ日は無い。

円盤に籠められた音源として、電波によって届けられる虚像として、あるいは死者に手向ける鎮魂歌として。
彼女の歌は常にこの耳に捉え、認識している。
例え意識せずとも、この街では日常のように彼女の旋律が聴こえる。

ランサーは、何も感じなかった。
歌は情報として捉えることしか出来ず。
旋律は単なる音として認識することしか出来ず。
紡がれる詩もまた、彼にとっては文字の羅列に等しい。
空虚な男の内なる魂に、歌姫の声が響くことは無い。

それでも、ランサーは歌を無下にすることは無かった。
シェリルの歌を、否定することは無かった。
彼女にとっての心は、歌の中で生まれるのだから。
以前に彼女がそう言っていたからこそ、ランサーはシェリルの歌を聞き逃そうとはしなかった。



(本当に、こわくないのか――――)



交戦から帰還した後に、ランサーはシェリルにそう問うた。
尤も、彼女の答えはまだ聞けていない。
己の本心を明かすこと無く、彼女は質問をはぐらかしたのだから。
本当に、孤独であることを畏れていないのか。
ただ気丈に振る舞い、強がっているだけなのか。
彼女の答えは返ってこなかった。

否、あれこそが彼女にとっての答えだったのかもしれない。
言葉で紡ぐ必要などない。
心は歌で語る。
だからこそ、自分の歌を聞き届けて欲しい。
そういった意図が、あの一言には籠められていたのだろう。
彼女の心は歌に在り、歌が彼女の想いを語るというのだから。

これから紡がれる『新曲』が、ランサーの心に響くかは解らない。
変わらず虚無を抱き続けるか。
あるいは、再び心に触れることが出来るのか。
彼女の歌を聞き届けるまでは、解らない。
だからこそ、耳を傾けるしかない。
彼女の歌に心を見出す為に。
彼女の想いを歌から見出す為に。



――――私の歌を、聴いて頂戴。



答えは、『歌』に求めるのみだ。




◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


296 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:13:04 ZW4UG..20
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ブーン、ブブブン、ブーン、ブブーン、ブーン。


ブン、ブブン、ブブブン、ブンブーン、ブン。




「そろそろかァ!」




走る、走る、走る。
死を運ぶモノがけたたましく走る。
死が笑みを浮かべる。




◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


297 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:13:28 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



時刻は18時。
舞台上のスポットライトに、明かりが灯される。
始まりの時が来た。
食事や歓談を楽しんでいた客人達は、皆舞台へと視線を向ける。



かつ、かつ、かつ。
足音が、小さく響く。
舞台袖より、歌姫がゆっくりと姿を現す。
待ち焦がれていた者達の視線が釘付けになる。



犬養もまた、歌姫を見つめていた。
ラジオ等で何度歌曲を耳にしたことはある。
だが、こうして直に歌姫を見るのは初めてだった。
ゴッサム・シティが誇る歌姫。
彼女の生の歌唱とは、どれほどのものなのだろうか。
胸の内に期待を込め、犬養は舞台の上に立つ歌姫を見る。


桃色の髪を揺らしながら、歌姫が舞台の中央に立つ。
彼女の視界に広がるのは、テーブルの周囲に座る数百人の観客達。
彼らの視線は等しく歌姫に向けられている。
期待。感激。歓喜。人々の目から様々な感情が見て取れる。

皆、『シェリル・ノーム』の歌を愛しているからこそ。
あんな眼差しで見ているのだ。

しかし、『彼女』を見る者達は、誰も彼女を知らない。
彼らが見ているのは、ゴッサム・シティの歌姫『シェリル・ノーム』なのだ。
それは記憶を失った歌姫が演じてきた、偽りのロールに過ぎない。




なればこそ、彼女は己を示す為に歌う。
今の彼女は、『少女』と共に歌い、そして『少年』に恋い焦がれた、孤独な歌姫。
此処に居るのは、銀河の妖精――――――シェリル・ノームだ。




◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


298 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:13:50 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆





ブン、ブン、ブゥーーーーーン。




「アンコクトン・ジツ!」




走る、走る、走る。
そして死の濁流が、溢れ出す。





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299 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:14:39 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



舞台の上に立つ歌姫が、一礼をする。
先程まで食事をしていた者達は皆等しく、彼女の方へと目を向ける。
ディナーショーの目玉が、ついに始まるのだ。
歌姫のライブによる新曲の発表。
限られた者しか訪れることの出来ない催し。
それ故に彼らは歌姫の歌唱を見届ける。
この貴重な体験を目に焼き付けようと、たった一人の歌姫を真剣に見つめる。



『きみを失えば 光のすべてを世界は手放してしまうだろう』



鍵盤の音色と共に――――歌姫の声が響いた。
観客は聞き惚れるように静まり返る。
歌姫によって、会場が支配される。
同時に、彼らは驚愕する。



『それでも互いの役目 果たしたことが別れなら』



今までの歌姫とは何かが違うのだ。
儚げで、感傷的で、切ない歌声。
それは熱情的な歌姫のイメージとはまるで異なる。
そういった曲であることは、皆が知っていた。
だが、こうして生で直接聴くと――――こうも違うものなのか。



『これでいいよね――――――』



今までの彼女と異なったイメージ。
それ以上の何かが、この歌声には籠められていた。
まるで初めて聴いた曲のような。
まるで彼女の知らない側面を知ったような。
彼らにとっての未知が、其処には在った。


300 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:15:10 ZW4UG..20



『あの日 わたしは貝がらで
 打ち上げられ きみは砂で
 守るように抱きしめてくれた』



故に観衆達は、歌姫の奏でる歌を聞き届ける。
既存のイメージとは全く違う歌姫の姿を、無言で見つめる。
自分達の知らない歌姫の熱唱を、心に焼き付ける。




『わたしは泣かない 泣いたりしない』




誰もが知らない歌姫の姿が、そこにあった。
大衆が知る『シェリル・ノーム』とは違う姿が。
シェリル・ノームの魂の歌が、此処に響いていた。




『きみの背中を追いかけたりしない』




彼らは知らない。
知る由など在りはしない。
ゴッサムの歌姫『シェリル・ノーム』は偽りのロールプレイに過ぎないということを。
彼女の真の姿は、銀河の妖精シェリル・ノームであるということを。
この街を現実として捉える大衆には、それを言葉で理解することは出来ない。
だからこそ歌姫は、己の魂とも言える『歌』に籠めるのだ。



『見つめたりしない 悲しくはない』



自らの本当の姿を。
銀河の妖精としての意志を。
気丈に振る舞っていた『少女』としての己自身を。
『シェリル・ノーム』の歌に、シェリルとしての想いを込めることで。
彼女は、己の存在を証明する。


301 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:15:54 ZW4UG..20



『きみの香り 忘れはしない』



そんな彼女の歌に、観客達は聞き惚れていた。
これまでとは異なる彼女の姿に、見惚れていた。
普段のライブの扇情的な熱気とは異なる形での一体感だった。
歌姫が歌い、観客が聴く。
ゴッサムの歌姫ではなく、銀河の妖精としてのシェリル・ノームの歌に、皆が魅了される。

シェリルの中の情熱が、更に膨れ上がる。
此処に居るのは『シェリル・ノーム』ではない。
銀河の妖精であり、一人の少女と共に熱唱した歌手であり、そして少年に恋い焦がれた――――シェリルだ。
この歌によって、シェリルとしての真の姿を示したい。
それが彼女の望みだった。





『愛は泣かない 愛は眠らな―――――――』





次の瞬間。




轟音。
流音。
爆音。
哄笑。




淑やかな場には不釣り合いな不協和音が、響き渡った。
一瞬の間を置いた後、当事者達は『それ』を目の当たりにした。
その場に居た誰もが愕然とする。
歌姫でさえ、言葉を失う。


302 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:16:18 ZW4UG..20

入り口付近の壁に、大穴が開いていた。
壁を突き破って穴から溢れ出したのは、漆黒の濁流。
そして濁流と共に姿を現した大型トラックが、猛スピードで会場内へと突撃をする。
唐突な出来事を前に、何十人もの客が理不尽に巻き込まれる。


ある者はトラックに突き飛ばされ、ある者はタイヤに踏み潰され、ある者は足を押し潰され。
絶叫と悲鳴が会場内に響き渡る。
歌姫の歌唱の場が、一瞬で惨劇の舞台へと変貌する。


人間、テーブル、椅子、料理――――あらゆるモノを吹き飛ばしながら、トラックはそのまま舞台の傍の壁へと激突。
キュルキュルとタイヤを回転させ、停止した。
暴走する機獣の停止と共に、会場は再び静まり返る。



「アバッ…アババッ」



壁に激突したトラックの運転席で、運転手の男がエアバッグに包まれて黒い泡を吹いている。
血走った両目の焦点は合っていない。
口元から黒い泡と共に、コールタールのような液体をドクドクと溢れさせる。
そのまま運転手は、がくりと首を垂れさせる。
糸の切れた人形のように、活動を停止する。



「ブンブン、ブブブーン、ブン!到着しました、ってかァ!ヒャハハハハハハハ!」



そして――――――トラックの荷台の上。
心底愉しそうに手を叩いていたのは、黒尽くめの怪人。
戯けるように車のエンジン音を口で真似て、下品な笑い声を上げている。
そんな男の周囲で渦巻いていたのは――――漆黒のタールだった。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


303 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:16:46 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



日は沈み、世界は夜の闇に包まれる。
星と見間違える程の光が次々と灯され始める。
数多の自動車が公道を行き交い、人々が虫の群れのように歩道を歩く。
喧噪と雑音が街を包み込んでいる。

大都市であるゴッサム・シティは眠らない。
街は夜にこそ真の姿を曝け出す。
人々の営みの象徴たる猥雑な明かりが灯され。
その光の影で、夜の暗がりに紛れ込むように犯罪者が蠢く。
夜とは闇を晒すものだ。
空の闇を、人の闇を、全てを余す事無く暴き出す。

ビルの屋上から穢れ切った街を見下ろすのは、一人の少女。
茶髪のポニーテールを風に靡かせ、忌々しげに都市を見渡す。
その傍らに立つのは、小さな犬の様な生物。


彼女は、この街が憎かった。
悪に染まり切った薄汚い世界を、忌み嫌っていた。
だからこそ自分は此処に召還されたのだろうと少女は推測する。
罪に肩まで浸かった街を浄化出来るのは自分だけだ。
正義の遂行者である自分こそが、街の闇を駆逐出来る。
そう盲信していた。


少女が視界に捉えたのは、一台の車両だった。
機会の獣のような大型トラックが走行を行っている。
公道であるというのに、信号や車線を意にも介さず。
異様なまでの速度を一向に落とすことも無く。
時には他の車両を突き飛ばし、通行人を轢き。
暴走とも言える疾走を続けている。

少女は、トラックの上に立つ『ソレ』を睨んでいた。
漆黒の闇を体現する様な男が、荷台の上に立っている。
足下にタール状の物体を展開し、木の幹のようにトラックに根を張っている。
あいつが操っているのか。
そう判断した少女は、ギリリと歯軋りを行う。


あれは、自分と同じ――――サーヴァントだ。


あの男が例の『殺人鬼』なのかは解らない。
だが、あのように刹那的な暴走を行っている者がまともな英霊の筈が無い。
十中八九、断罪すべき悪だ。
彼女はそう結論づけた。



「行くよ」



自らの相棒にそう呼びかけ、少女は跳ぶ。
悪の断罪こそが己の使命。
外道には決して、容赦はしない。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


304 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:17:30 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆






「ここかァ!シェリル・ノームのライブ会場ってのはよォー!!」



漆黒の殺人鬼―――キャスターのサーヴァント、デスドレインが哄笑する。
無数のアンコクトンを撒き散らしながら、周囲を見渡す。


ハナの自宅を出た後、彼はライブ襲撃の準備を行った。
とにかく派手にやろう、というのが大前提だった。
派手にやらかしてやれば、きっとあの『笑い殺しの犯人』も自分に注目してくれるだろう。
そう思って考え、行き着いたのが「トラックによる突撃」だったのだ。
適当な大型トラックを捕まえ、運転手にアンコクトンを埋め込み、無理矢理従わせる。
そうして彼は公道を爆走し、狂気的な登場をやってのけた。
アンコクトンによって建物の入り口と壁を破壊し、トラックによる会場内への突撃を果たしたのだ。



「貴方、は―――――」
「おぉ、いたいた!ドーモ、シェリル・ノーム=サン!
 あなたをファックしに来ました、キャスターです!へへへへへへへへ!」



唖然とするシェリルに対し、キャスターが下品に嗤う。
そのまま馬鹿に丁寧なアイサツをして、目を細めながらシェリルを見据えた。
まるで『女』として彼女を品定めするように。
性に飢えた卑しい眼差しが、歌姫に向けられる。
シェリルの背筋に、ぞくりと悪寒が走る。
身体が震えて、その場で尻餅を突く。


トラックに巻き込まれなかった人々は、混乱に陥っていた。
突然の事態に慌てふためき、恐怖していた。
何がどうなっているのか。
何故こんなことが起こったのか。
あの黒い男は何なのか。
混乱と動揺が場を支配する。



「オイオイオイオイ、やけに静かだなァ」



眼を細めながら、キャスターは周囲を見渡す。
トラックの突撃によって横転したテーブル、散らばった食事が眼に入る。
無惨にも轢き殺された数多の人間の遺体も視界に映る。
そして、生きている人間達は―――――皆沈黙していた。
恐怖に震え、何一つ喋る事が出来なかった。


305 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:18:16 ZW4UG..20



「つまんねェな。ライブだろ。もっと盛り上がれよ、なァ?」



ニヤニヤと笑い、両目が三日月のように歪む。
キャスターが口を開く度に、人々はびくりと震え出す。
目の前に居る狂人が何をするのか。
これから何を起こすというのか。
そんな恐怖心が、彼らを黙らせている。
恐怖故に、狂人の些細な一挙一動に怯えている。

キャスターは、そんな彼らの様が―――――愉快で仕方無かった。
「これから自分達はどうなるのか」と恐怖に震える人々の顔が、堪らなく面白かった。
絶望に歪んだ顔を見下しながら徹底的に殺してやるのは、何よりも愉しい。
下衆な笑い声を口元から漏らしながら、キャスターは首をコキコキと鳴らした。



「で、どうすンの?お前ら」



そして、殺人鬼/キャスターが――――ドスの利いた低い声で呟いた。
先程までの気さくな声色とは真逆の、ジゴクめいた一言だった。

どうするのか。そう彼は問うた。
このまま沈黙を続けるのか。
果敢に立ち向かうのか。
それとも逃げ出すのか。
殺されるのか。

歌姫によって支配されていたであろう会場が、たった一人の殺人鬼によって全て引っくり返された。
誰もが殺人鬼に注目している。
誰もが殺人鬼に思考を奪われている。
誰もが殺人鬼を警戒している。
殺人鬼の支配する場を、誰も動くことが出来ない。
故に、沈黙が続く。



沈黙。


沈黙。


沈黙。


沈黙。


沈黙。


沈黙。


沈黙。


沈黙。


沈黙――――――――





「う――――うわあああああああああああああああっ!!!!!!!!!」


306 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:18:42 ZW4UG..20

そして。
緊張と恐怖に耐え切れなくなった数人の客が、逃げ出した。
悲鳴を上げて、その場から走り出す。
そんな彼らを見据えて――――キャスターが、嗤う。



「へへへへへへははははははは!逃げんなよォ!寂しいだろォ!!」



『死の濁流(アンコクトン)』。
無数の黒いコールタール状の物体を自在に操る宝具。
出入り口から逃げようとした者の前に、アンコクトンが立ち塞がる。
トラックによる走行時に入り口付近に撒き散らされたモノだ。
あれは、いわばトラップ。
表から逃げ出そうとした者を捉え、殺す為の―――――罠。


彼らを静止せんと、犬養が声を上げる。
だが、時は既に遅く。
絶叫が響き渡る。
絶望の悲鳴が轟く。


巨大な蛇のようにうねるアンコクトンは数人の客を飲み込む。
黒い触手が、飲み込まれた客の身体を這うように蠢く。
やめろ、嫌だ、助けて。
アンコクトンに包まれた者達が必死の懇願を繰り返す。


しかし、彼らの言葉は届かない。
許しを乞う相手は誰だ。
最低最悪の殺人鬼だ。
狂った悪鬼が、弱者の言葉などを聞き入れるか。
答えは――――――否。


アンコクトンの触手が客人に伸びる。
腕を引き千切り。
足を食い潰し。
大量の血をぶちまけさせ。
口内にアンコクトンを飲み込ませ。
絶望と恐怖に泣き喚かせる。



ものの数秒程度で。
彼らを、跡形も無く喰らい尽くした。


307 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:19:14 ZW4UG..20


馬鹿に狂った笑いが会場内に轟く。
キャスターがパンパンと何度も手を叩きながら、客達を見据える。
入り口付近で蠢くアンコクトンを見て、誰も動けなくなる。
この場に居る皆が、様々な表情を浮かべる。
絶望の表情。
唖然の表情。
混乱の表情。
焦燥の表情。
恐怖の表情。
華やかなライブは突如として悪夢の現場へと変貌する。
客人達は震え戦く。
彼らを見下ろして、殺人鬼が嘲笑う。



「食い放題だなァオイ!へへへへへへへ!しかも歌姫までいるんだ!
 最高じゃねえかよオイ!エェ!?はははははははは――――――――」




瞬間。
キャスターの身体がトラックの上から吹き飛ばされる。
彼の胴体に一閃の傷が生まれ、血を噴き出す。
突然の事態に、呆気に取られた様な表情を浮かべ。
そのままキャスターは、勢いよく側面の壁に叩き付けられた。


「グ、グワッ…」


壁からズルズルと落ち、床に落下するキャスター。
彼が視線を向けた先には、白い男が立っていた。
骨の様な頭部の飾り。
白尽くめの衣服。
空虚な碧の瞳。
漆黒に包まれた殺人鬼とは真逆だ。
まるで虚無の様な印象を抱かせる男を、キャスターは睨みつけた。



「……下衆が」



白い男―――ランサー、ウルキオラ・シファーがぽつりと呟く。
キャスターをトラックの上から吹き飛ばしたのは彼だった。
シェリルに危害が及ぶ前に瞬時に霊体化。
そのまま『響転』でトラック上のキャスターへと接近。
そして、刀の一撃で切り払う。
それがあの一瞬の顛末だ。
キャスターを吹き飛ばした後、ランサーは床へと降り立つ。


308 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:19:50 ZW4UG..20

ランサーが事前にキャスターの襲撃を察知出来なかった理由は三つ。
デェムシュとの戦闘で少なくない魔力を使い、帰還後は可能な限り消費を抑えていたこと。
会場内でシェリルの歌を聞き届ける為に霊体化をし、探査回路の精度が落ちていたこと。
そして「人気歌手のライブ会場」という極めて目立つ環境で敵が襲撃してくる可能性は低いだろうと見積もっていたこと。
結果としてランサーは遅れを取る事になった。
そのことを内心で悔やみつつ、彼は敵を見据える。


「ランサー…!」


突如姿を現した自らの従者に、シェリルが声を上げる。
彼女はランサーと殺人鬼を交互に見つめていた。
そして、よろよろと再び殺人鬼のキャスターが立ち上がり。
苛立ったようにランサーを見据えていた、その時。



「裏口から逃げて下さい!表は危険です!」



若い男の声が、会場に響く。
シェリルらは声の主へと目を向ける。
グラスホッパーのリーダー、犬養だ。
犬養の大声を聞き、混乱する民間人達が一瞬だけ止まる。


「皆さんの安全を確保します!その為に我々グラスホッパーの指示に従って下さい!」


その言葉と共に、現場に残っていたグラスホッパーの団員達が動き出す。
彼らが誘導したのは、会場の側面にある扉――――裏口に繋がる通路への入り口。
主にスタッフが使用することになる通り道。
通路に存在するのは主に控え室や機材室等だが、その奥には外部へと出入りする為の裏口が存在している。
グラスホッパーは会場の警備を任され、施設の構造を一通り理解していた。
それ故に裏口へ向かって迷わず誘導することが出来た。

表口は黒いコールタール状の物体が撒き散らされている。
そこから逃げ出そうとすれば、先程逃げようとして殺された客人達のようになるのがオチだ。
これだけの数の客人を決して広くはない通路に誘導することになれば、混乱に陥る可能性もある。
しかし、他に手段は無い。命の保障が無い表口からの脱出よりはマシだ。
だからこそ実行したのだ。


犬養の指示と共に、次々とスタッフ用の通路の入り口へと客人やスタッフ達が流れ込む。
まるで川の本流のように、人々は駆け出す。
とにかく外へと抜け出す為に
この地獄から逃れる為に!


309 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:20:38 ZW4UG..20



「テメェ、勝手に仕切ってんじゃねえ――――」



苛立ちながらアンコクトンを操ろうとしたキャスター。
しかし彼の前に、瞬時にランサーが立ちはだかる。
ランサーが振るった刃を間一髪で躱しつつ、即座に口から吐き出したアンコクトンを周囲に展開。
そのままアンコクトンによる黒い触手を次々とランサーへと向かわせた。
迫り来る暗黒物質を前に、ランサーは眉一つ動かさずに攻撃を弾いていく。

殺人鬼のサーヴァントは、ランサーが食い止めている。
彼らの戦闘を尻目に、犬養は団員達を指揮して避難誘導を行う。
そして、『歌姫』は。



「シェリル・ノームさん」



犬養は、ぽつりと呟いた。
視線の先にいたのは、未だに舞台の上に立つ歌姫。
「ランサー」という名を呼ぶ瞬間を耳にしたからこそ確信している。
彼女はあの白いサーヴァントのマスターであるということを。
シェリルは、精悍な顔で犬養を見つめる。



「……皆の命、頼んだわよ」



そして、唯一言。
犬養に向けて、歌姫はそう告げた。

客人達の命は、グラスホッパーに任せた――――そう言うことなのだろう。
その代わり、彼女はこの場に残り続ける。
犬養は彼女に再び呼びかけようとするも、思い留まる。
彼女が何を思い、何の為にこの場へと残るのかは解らない。

聖杯戦争のマスターとして戦いを見届けるのか。
あるいは、一人の歌手として此処に残るのか。
答えは解らない。
彼女を詳しく知らない犬養には、知る由も無い。


310 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:21:10 ZW4UG..20

少なくとも、今の犬養は彼女らと戦うつもりは無かった。
ジンバーアームズという武装を備えているとは言え、相手はサーヴァント。
自分一人ではまず勝ち目は無い。力不足といっていいだろう。
自身の従者であるキャスターを呼び寄せるつもりも、今の所は無かった。
キャスターは陣地でドライバーの製造を続けている。
貴重な令呪を使ってでも呼び出すのは、本当に自らが危機に陥った時のみだ。

そして、客人の命を任されたとなれば。
それを遂行するまでだ。
自分達はグラスホッパー――――市民を護る自警団だ。
この街が偽りの箱庭だとしても、それは決して変わらない。
ならば、自分もまたグラスホッパーのリーダーとして動くのみ。



「解りました」



故に犬養も同じように、唯の一言で返答する。
やがて彼女と相対することになったとしても。
今はただ、一人でも多くの人間を――――――



「アンコクトン・ジツ!イヤーッ!!」



犬養の行動よりも早く、『殺人鬼』が攻撃を放つ。
通路内に我先にと足を踏み入れようとしていた後列の客人数名が。
大蛇のように迫る『漆黒』に飲み込まれた。
ランサーの隙間を通り抜けるように放たれたアンコクトンが、彼らを襲ったのだ。
シェリルが驚愕し、声を上げてランサーを向かわせようとするも―――間に合う筈も無く。
絶叫が轟く。金切り声が響く。
ぐしゃり、ぐしゃりと咀嚼音を発しながら、漆黒が客人を『喰らう』。


キャスターの足下から伸びる大蛇の様なアンコクトンを、ランサーは斬魄刀で切断。
しかし切り落とされたアンコクトンはまるでスライムのように地面へと拡散し、其処から漆黒の触手を伸ばす。


狙うは、自身を抑えんとするランサーではなく。
その先、アンコクトンから奇跡的に逃れて通路へと入る客人達。
そして、彼らの殿を務める犬養らグラスホッパーの団員達。


「イヤーッ!!」


ランサーの斬撃をかろうじて回避しながら、キャスターは漆黒の触手を遠隔操作する。
無数の蔓の様に伸びる触手が、犬養らを捉えんとした―――――!




『――――オレンジ!』
『――――レモンエナジー!』




しかし、迫り来る触手は防がれる。
天上から突如出現した『二つの果実』が、犬養を取り巻き――――客人らに迫った触手を弾いたのだ。


311 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:21:50 ZW4UG..20
ア?とぽかんとした表情を浮かべるキャスター。
そんな彼の隙を突き、ランサーが至近距離から「虚弾」を連射。
肉体を撃ち抜かれたキャスターが体勢を崩す。


キャスターが食い止められている隙に、果実は犬養の周囲を取り巻く。
そして――――彼の頭部へと勢いよく落下。
犬養の頭部を覆った二つの果実が融合し、彼の肉体を装甲で覆った。




『オレンジアームズ!花道・オンステージ!』
『ジンバーレモン!ハハーッ!』



奇怪な音声と共に、『武装』は完了した。
武者風の黒い甲冑。
陣羽織を思わせる装い。
和を体現する武装が、犬養の身体に装着される。


これぞプロフェッサー凌馬が生み出した超科学武装。
戦極ドライバーとロックシードによって変身する、アーマードライダー。
まだ名も無き戦士が、此処に爆誕したのだ。


真紅の弓が構えられる。
果実の力で生み出される矢を放つ科学兵器、その名をソニックアロー。
地面で蠢くアンコクトンへと向けて、稲妻の如しスピードで矢が放たれる。


衝撃。爆音。そして、破壊。
矢の衝突と衝撃波によって、アンコクトンが四散する。


これが凌馬が生み出したドライバーの力。
科学兵器でありながら、サーヴァントによって生み出された魔術礼装。
相反する二つの特性を持つ武装には神秘が籠っている。
故にサーヴァントの宝具に対処する事も出来る。


アーマードライダーに変身した犬養の扇動と共に、最後尾の客人が通路へと入る。
ソニックアローを構える犬養もまた通路へと下がり、そのまま通路用の出入り口の扉が閉ざされる。
この場に佇む者は、聖杯戦争の参加者のみとなった。


戦場と化したホール。
それでもシェリルは変わらず、舞台の上に立ち続ける。
先程までと同じように。
舞台に立った歌姫として、其処に存在し続ける。


312 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:23:06 ZW4UG..20

剣を構えたまま後方へと下がったウルキオラが、舞台の近くの床へと降り立つ。
その身には幾つかの喰い千切られた様な傷が生まれている。
それらは超再生能力によって瞬時に塞がったものの、ダメージは確実に蓄積しているだろう。
対するキャスターは――――胴体の一閃を除いて、無傷だ。
否、その胴の傷でさえも黒い液体によって塞がりつつある。



「なンだよお前、さっきから邪魔すんなよ。殺すぞ」



首をコキコキとならし、心底面倒臭そうな物言いでキャスターは呟く。
キャスターの周囲には無数のアンコクトンが蠢き、彼を取り巻く。

キャスター、デスドレインは数々の人間を殺戮してきた殺人狂だ。
数多の罪無き者達を己の快楽の為に殺してきた。
そして同時に、彼の宝具『死の濁流(アンコクトン)』は生命を喰らう事によって増殖を繰り返す。
これが何を意味するのか。
彼が己の快楽のままに殺した数だけアンコクトンは強くなり、キャスターが強化されるということだ。
更にアンコクトンによる捕食で魂喰いも行っていたキャスターは魔力も潤沢。

対するランサーは、開放型宝具を使用した激戦を数時間前に体験していた。
その為に少なくない魔力を消費している。
シェリルの方針から魂喰いも行わず、自然回復によって魔力を蓄えていた。
戦闘直後よりはマシとはいえ、未だ潤沢とは言い切れない。
現状において、有利とは言い難かった。


《逃げろ、マスター。敵は『二人』いる》


ぽつりとランサーが念話で呟く。
今この場に居るのはシェリルとランサーを除けば、あのキャスターのみ。
にも拘らず、ランサーは『敵が二人』と言った。
つまり―――――別の敵が、此処に向かってきている。
あのキャスターの魔力の気配を探知してきたのか。
理由は解らないが、凄まじい速度で迫っている事は確かだった。


僅かな沈黙が、場を包む。
直後にシェリルが念話で答える。


《…いいえ、逃げないわ》


震える足を無理矢理立たせて、凛とした態度で言い切る。
マイクの前に立ったシェリルが見据えるのは、このライブを破壊したキャスター。

彼女にとって、歌は命だった。
歌こそが己の心の表現だった。
そして彼女は、歌う事を愛していた。
歌によって観客と心が一つになる瞬間を好んでいた。
だからこそ、シェリルはキャスターを『敵』として見据える。

大切なライブを踏み躙る者達から逃げるなど、有り得ない。
歌を愛する人々を虐殺した外道におめおめと尻尾を巻くことなど、願い下げだ。
あの殺人鬼はシェリルの心を、そして観客の心を穢したのだ。
故にシェリルははっきりと答える。
「逃げない」と。
彼女は此処に立ち続ける事を、宣言する。


313 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:23:36 ZW4UG..20


《…そうか》


ランサーは一言、答えた。
己がマスターの意思を汲み、それ以上は何も言わなかった。
彼自身、キャスターには不快感を抱いていたのだから。

己がマスターの『歌』を妨げたキャスターに。
ランサーは、微かな怒りの様なモノを抱いていた。
彼がそれに気付いていたかは、定かではない。
今の彼は、マスターと同じように――――『敵』を見据えるのみだ。



「ヒヒ……アンタは逃げねェの?勇敢だねぇ。それともラリってんのか?」



ニヤニヤと笑みを浮かべながら、キャスターがシェリルへと眼を向ける。
狂っている―――――ああ、その通りだろう。
シェリルは己の異常を自覚する。
命や奇跡を惜しむ事も無く、歌の為に此処に立ち続けているのだから。
それでも、構わない。
狂っていると罵られようと、構わない。
自分の魂は、歌にこそ籠められているのだから。
その生き様こそが、シェリル・ノームの在り方そのものなのだから。
故に彼女は歌い続ける。
たった一人の観客(ランサー)の為に、心を奏でる。



「令呪を以て命じるわ、ランサー」



漆黒のキャスターが、再び暗黒物質を吐き出す。
今度こそ、戦いが始まる。
そう感じたシェリルは、一つの『呪文』を唱える。
未だ万全ではない従者を奮い立たせる為に。
そして、歌を侮辱した敵を全力で倒す為に。
歌姫は、『祈り』の言葉を掛けた。




「『私の歌を、全力で護りなさい』」




右手に隠されていた『令呪』が、輝きを放つ。
直後に白亜の槍兵が、疾風の如く駆け抜ける。
そして己の従者を鼓舞するように、歌姫は再び『歌』を紡ぎ出した。



槍兵の眼は捉えていた。
あの殺人鬼が開けた壁の大穴から、もう一人の敵の姿を見据えていた。
暴風の如く戦場へと迫り来る『狂犬』の姿を。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


314 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:24:07 ZW4UG..20
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何なんだ、あいつは。
訳が解らない。
あんなのと関わるのは御免だ。
恐ろしい、恐ろしい。


一人の青年が地を這いつくばり、ガクガクと震えていた。
その身を包んでいるのは警察官を思わせる制服。
胸に刻まれている紋章には、蝗が描かれている。
彼はライブ会場外部の入り口付近で警備を行っていたグラスホッパーの団員だ。
会場内へと突撃したトラックから咄嗟に逃れ、辛うじて命拾いをした。


しかし、彼は目撃してしまった。
トラックの上に乗り、狂喜を浮かべる『悪魔』の姿を。
大量の黒い液体を撒き散らす『悪魔』の姿を!


青年は直感した。
アレは、『ヤバい』。
今まで取り締まってきた犯罪者共とは訳が違う。
本物の化物だ。
人間なんかに太刀打ち出来る筈が無い、正真正銘の怪物だ。
今までに感じたことの無い凄まじい殺気を前に、青年の心は完全に折られていた。

そして青年の近くには、一つの死体が転がっている。
胴体と頭部が潰された男の亡骸である。
先程のトラックの突撃に巻き込まれて即死した、グラスホッパーの同僚だ。
同僚の遺体。トラックを駆る悪魔。
二つの『死』を目の当たりにしたことで、青年は錯乱状態に陥っていた。


畜生、何でだ。
グラスホッパーに入れば悪を駆逐出来るんじゃなかったのか。
あんなの、聞いてない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
死にたくない。
早く、この場から逃げないと。
あの悪魔から、逃げなければ―――――


その場から立ち上がり、必死に逃げ出そうとした。
何処へ逃げればいいのか解らない。
ただ此処から離れられればいい。
依頼なんて、警備なんて知ったことではない。
死にたくない――――ここから逃げたい。
そう思って、駆け出した矢先だった。



「――――――え?」



無数の明かりが、青年を照らした。
呆然とした青年が立ち止まり、目の前に広がる光景を愕然と見つめる。



「投降しろ、グラスホッパーの団員」



無機質な声が、耳に入った。
青年の視界に映っていたのは、無数の警察車両。
車両に取り付けられた幾つものライトが青年を脅迫めいて照らし出している。
そして――――車両の前方に立つ数多の武装警官達が、青年に銃を向けていた。



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315 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:24:39 ZW4UG..20
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BAY SIDEのライブホールを、警察部隊が包囲していた。
物々しい警察車両が並び、無数の人員によって構成された特殊部隊が銃器を携える。
まるで立てこもった重罪人を追い詰めるかの様に。
彼らは、会場の入り口付近を取り囲んでいた。

グラスホッパーの団員である青年は、複数人の警官に取り押さえられる。
喚き散らしながら必死に抵抗するも、多勢に無勢だ。
たった一人の青年が、本職の警察官複数名に敵う筈が無い。
そのまま青年は抵抗虚しく、警察の車両へと連行された。


鼻歌が小さく響き渡る。
荘厳で、何処か大袈裟なメロディが静かに奏でられる。
交響曲第五番―――ベートーヴェンの「運命」。
そんな鼻歌を歌う男、スタンスフィールドが警察車両よりのらりくらりと姿を現す。


「ベルトと錠前はあったか?持っていたなら絶対に没収しろ」
「了解です、スタンスフィールド氏」


スタンの言葉を聞き入れた警官は、青年が連行された車両へと向かう。
「グラスホッパーの団員が果物の錠前と奇妙なベルトで変身した」、という情報は既に得ている。
彼らの襲撃を受けたマフィアの構成員からそれを知ったのだから。
故にスタンはその道具に対して最大限の警戒を払う。
とはいえ、もしも彼らが果実を纏って警官に危害でも加えたら――――それこそ『公務執行妨害』だ。
奴らを糾弾する手札として利用出来る。

それにしても、案外とあっさり要求を聞き入れてくれたものだ。
スタンは現場に集った特殊部隊の隊員達を見渡しながら思う。
口では早急だ何だと言っていた警察署長だったが、結局はこういった機会を求めていたのだろう。
特殊部隊出動の要求、賄賂、脅し―――それらは切っ掛けに過ぎない。
署長は求めていたのだろう。
グラスホッパーを潰せる機会を。
それを実行に移してくれる者が現れる機会を。

とはいえ署長はあくまで脅された立場だ。
その気になればスタンに責任を押し付けることも出来るだろう。
それでもスタンが特殊部隊を率いることを望んだのは、グラスホッパーを確実に潰す為だ。
リーダーの犬養は、件の果実の鎧やアサシンの証言からして、マスターである可能性が極めて高い。
敵対者であり、自分達の立場を脅かすであろう犬養を早急に潰すのは悪くない。
聖杯を手にすれば全てが元通りになる。その為に危険な橋を渡るのも時には必要だ。



「スタンスフィールド氏、あれは――――」



警官の一人がスタンに声を掛ける。
スタンは警察が指した方向を目を細めながら見つめる。


316 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:25:11 ZW4UG..20

扉や壁が突き破られた大穴の先。
床には無数のコールタールの様なものが撒き散らされている。
そしてその奥――――シェリル・ノームのライブが行われていたであろう会場で。
黒い怪物と白い男が相対していた。


(…まるで幻覚だな。ヤクのやりすぎかと自分を疑いたくなる)


交戦を始めた超人達を見て、スタンは内心でごちる。
彼らを目視したことで『ステータス』が見える。
あれがサーヴァントというものなのか。
まさかライブ会場にまで襲撃してくるとは。
スタンは舌打ちをしつつ、現状を把握する。
自身の従者を除いて、実際に目の当たりにするのは初めてだった。
生憎アサシンは連中と戦える程の力は備えていない。
故に直接戦闘は避けなければならない。
スタンはそう思った。


「チームAは此処で待機、チームBは施設周囲の警戒、チームCは裏口前で待ち伏せ!
 バケモノ共は無視しろ!市民の保護とグラスホッパーの拘束が最優先だ!」


スタンの指示と同時に、特殊部隊の警官達が動き出した。
訓練によって研磨された鋭い機動で、複数人の警官が路地を辿って施設の側面へと回り込む。
残る警官達は銃を構え、施設の包囲を続ける。


(予定は狂ったが、まあいい……今頃犬養も市民の保護に奔走しているだろうさ。
 奴が市民を逃がすとすれば、大方あのバケモノの追撃を受ける可能性の低い裏口からだろう)


不敵な笑みを浮かべ、スタンは思考を重ねる。
正面入り口付近にはあの大穴が開いている。
あそこから逃げれば容易いように思われるが、逆だ。
大穴の近辺には黒いコールタール状の液体が撒き散らされている。
目視した限り、あの黒いサーヴァントはコールタール状の液体を操る能力を備えている。
撒き散らされたコールタールを操れる可能性もゼロとは言い切れない。
そんなモノが拡散している大穴から逃がせば、市民に更なる被害が及ぶ可能性が出るだろう。
ならば奴はどうするか。スタッフ用の通路を使わせ、裏口から逃がすだろう。
そうなればこちらとて奴を『確保』しやすいというものだ。


そしてスタンは懐から携帯電話を取り出し、ビデオカメラ機能を起動した。
レンズが向く先は、大穴の向こう側であるライブ用ホール。
カメラが捉えるのは、黒い怪物と白い怪物の超常的な交戦。
そして彼らの後方で歌を奏でる、シェリル・ノームだ。
一つの『情報』として彼らの姿を撮影していた。


317 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:25:43 ZW4UG..20


(さて、これで犬養を捕まえられれば上々。尤も、最上なのは―――――)


犬養を此処で仕留めること。
この混乱に乗じて、彼の命を奪うこと。
傍で待機させている自殺屋―――アサシンには、それを遂行する力がある。
可能な限り、奴は此処で仕留めておきたい。
面倒な取り調べや拘置を介して隙を伺うよりも、此処で手っ取り早く命を絶つことを優先したかった。
とはいえ事を急いて仕損じては元も子もない。
アサシンを使うのは、奴を暗殺出来る可能性が高いと踏んだ時だ。
スタンは犬養を仕留める為に、淡々と思考を重ねていた。




――――その時だった。





「正義、執行」




凄まじい暴風が、吹き荒んだ。
『風』は待機していた警官を何名か吹き飛ばし、そしてスタンの真横を通り過ぎる。




「正義の名の下――――――」




呆気に取られたスタンは、一瞬ながら『風』の姿を見た。
否―――あれは、風ではない。
凄まじい瞬発力で駆け抜ける少女だった。
少女の顔は憤っていた。
そして、笑っていた。




「貴様ら悪を―――――――――――断罪するッ!!!!」




少女は絶叫の様な宣言と共に、駆け抜けた。
イベント用ホールの大穴へと突撃し、蠢き出した無数のコールタールを振り払い。
一直線に、サーヴァント同士の戦場へと突撃していく。


彼女の笑みの意味を、怒りの意味を、スタンはまだ知らない。
風のように駆け抜けた少女――――バーサーカー『セリュー・ユビキタス』の異常性を、知る由も無かった。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


318 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:26:17 ZW4UG..20
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



歌姫は己の命を燃やし、歌を奏でる。
虚無は心の在処を求め、歌を護る。
ヒーローは己が成すべき正義を、粛々と遂行する。
捜査官は狡猾に立ち回り、ヒーローを追い詰める。
殺し屋は己が主に従い、標的を仕留める機を伺う。
殺人鬼はただ己の欲望のままに、殺戮する。
狂人は正義への盲信に囚われ、断罪を執行する。
そして―――――



(見つけタぞ、奴の気配……!)



迫る。
第八の役者が。
真紅の風が、宴の場へと迫る。
怒気と憎悪を纏い、紅の騎士が摩天楼を跳躍する。

その名はフェムシンムが一人、デェムシュ。
彼の目的―――それは己に傷を与えたウルキオラへの復讐。
そして、殺戮による憂さ晴らし。
その為に彼はある程度傷を癒した後、飛び出したのだ。
あの白い槍兵の魔力が感じられる方角へ。
BAY SIDEのイベント用ホールへと、突撃を敢行したのだ。



日は落ちた。
されど衆愚の街は眠らない。
歌姫の舞台にて、死の狂宴が幕を開ける。



【UPTOWN BAY SIDE(イベント用ホール)/一日目 夜間】
【シェリル・ノーム@劇場版マクロスF 恋離飛翼〜サヨナラノツバサ〜】
[状態]余命僅か、今のところ病状は比較的落ち着いている
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]豊潤
[思考・状況]
基本:命の限り、歌い続ける。
 1.決して歌を絶やさない。
 2.何かを楽しむ人々への興味(ビートライダーズ、シンデレラプロジェクト等)。
 3.24日まで身体が保ってくれたら嬉しい。
[備考]
※21日の夜間(18時頃)にディナーショー形式のライブを開催します。開催場所はUPTOWN BAY SIDEに建設されたイベント用ホールです。
※22日以降の予定は後続の書き手さんにお任せします。少なくとも24日には大型ライブの開催予定があります。
※ランサー(ウルキオラ)から真紅の騎士(デェムシュ)の情報は聴いています。
※アーマードライダーを視認しました。

【ランサー(ウルキオラ・シファー)@BLEACH】
[状態]単独行動、魔力消費(中)、疲労(小)、令呪によるブースト、再生中
[令呪]『私の歌を全力で守りなさい』
[装備]斬魄刀
[道具]なし
[思考・状況]
基本:「心」をもう一度知る。
 1.シェリルの歌を守る。
 2.監視の不在を確認した後、シェリルの下へと帰還する。
 3.真紅の怪物(デェムシュ)に多大な警戒。
 4.白い怪物(インベス)と極彩色の果実(ヘルヘイムの果実)、キャスター(メディア)の使い魔を警戒。
[備考]
※インベスとヘルヘイムの果実、メディアの使い魔を視認しました。
※シェリルの『新曲』に何か思う所があったかは不明です。
※令呪によるブーストが掛かり、魔力とステータスに有利な補正が与えられている状態です。


319 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:26:50 ZW4UG..20

【キャスター(デスドレイン)@ニンジャスレイヤー】
[状態]アンコクトン増殖中、昂揚
[装備]メンポ、ニンジャ装束
[道具]ヘルヘイムの果実、ヤモト・コキの指名手配書、血塗れの新聞紙(12/20発行) 壊れた戦極ドライバー、携帯電話
[思考・状況]
基本:自由!
1.殺す。犯す。とにかく全部楽しむ。
2.自由を謳歌しつつ、魂喰いと補食によって己の力を蓄える。
3.イベント用ホールで非道の限りを尽くし、笑い死にさせた奴(ジョーカー)にアプローチする。
4. 一緒に愉しめる仲間が欲しい。いっそハナを教育してみるのも悪くないかもしれない。
5 戦極ドライバーを強奪、または作らせて、ハナに与える
6 この果実を何かに使ってみたい。
7 ガスマスクの男(クロエネン)はいつか殺す。
[備考]
※NPCの魂喰いと殺戮を繰り返し、魔力とアンコクトンを増幅させています。
※ヘルへイムの果実の存在を認識しています。
※アサシン(クロエネン)を視認しました。
※黒影トルーパーの存在を知りました。ベルトで変身することは認識しています。
※ジョーカーに強い興味を持っています。
※スミス(NPC)の連絡先を知りました。
※UPTOWN BAY SIDEで暴走するトラックの姿が目撃されたかもしれません。

【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]正義執行
[装備]コロ
[道具]トンファーガン、十王の裁き、頭の中の爆弾、身体中に仕込まれた武器の数々
[所持金]
[思考・状況]
基本:悪は死ね
1. 悪は殺す
2. 正義を成す
[備考]
※教会の住人にはセリューは、親を殺され銃撃を腕に受けたせいで義手になった女性と認識されています
※聖書の教えを読みましたが、多少内容を記憶したのみで殆ど咀嚼していません
※ジョンガリ・Aと知り合いました。マスターであることには気付いていません

【犬養舜二@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]健康、アーマードライダーに変身中
[令呪]残り三画
[装備]スーツ、戦極ドライバー+ゲネシスコア、オレンジロックシード、レモンエナジーロックシード
[道具]携帯電話
[所持金]大量に有していると思われる
[思考・状況]
基本:聖杯戦争と言う試練を乗り越える
1 現状の事態を収拾する。
2 敵主従や犯罪者、強力なインベスの襲撃には極力警戒
3 解っていたが、凌馬は油断できない
4 あと、趣味が悪いのかも知れない
5 魔術を操るキャスターに対抗できるマスターと同盟を組みたい
6 殺人鬼のサーヴァントに警戒
[備考]
※凌馬からゲネシスドライバーを制作して貰う予定です。これについては、異論はないです
※原作に登場したエナジーロックシードから選ばれるかもしれません。何が選ばれるかは、後続の書き手様に一任します
※もしかしたら、自分達が聖杯戦争参加者であると睨まれているのが解っているかもしれません
※凌馬が提起した、凌馬と生前かかわりのあった四人を警戒する予定です
※キルプロセスについての知識を得ました
※倉庫を襲ったキャスター(メディア)の手口を女性的だと考えています
※現在グラスホッパーの主力ロックシードはマツボックリです。
時間経過に従ってオレンジ、バナナ、ブドウ等といったクラスAのロックシードに更新する予定です
またパインやマンゴー、ウォーターメロン等のロックシードも少数配備する予定です
※UPTOWN BAY SIDEでのシェリルのライブに警備員としてグラスホッパーの団員を派遣しています。
 犬養もまた来賓として招かれてます。
※シェリルがマスターであることを知りました。
※アーマードライダーに変身しています。外見は黒基調の鎧武ジンバーレモンアームズです。


320 : Black Onslaught ◆1k3rE2vUCM :2016/04/02(土) 00:27:13 ZW4UG..20

【UPTOWN BAY SIDE(イベント用ホール前)/一日目 夜間】
【ノーマン・スタンスフィールド@レオン】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]S&W M629(6/6)
[道具]拳銃の予備弾薬、カプセル状の麻薬複数
[所持金]現金数万程度、クレジットカード
[思考・状況]
基本:生還。聖杯の力で人生を取り戻す。
1.混乱に乗じて犬養を殺害、あるいは逮捕する。
2.麻薬捜査官としての立場、裏社会との繋がりは最大限利用する。
3.「果実の鎧」「サーヴァントの殺人鬼」に極力警戒。
[備考]
※自身と繋がりを持つマフィアが何者かによって壊滅しています。
※ランサー(ウルキオラ)とキャスター(デスドレイン)の交戦、およびシェリル・ノームを撮影しました。

【アサシン(鯨)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]健康、霊体化中、気配遮断
[装備]眼帯
[道具]『罪と罰』
[思考・状況]
基本:マスターの『依頼』を完遂する。
1.マスターの指示を待ち、犬養を殺す。
[備考]
※生前の記憶からグラスホッパーについて知っています。


【UPTOWN BAY SIDE/一日目 夜間】
【デェムシュ@仮面ライダー鎧武】
[状態]左胸に刺傷(小)、全身にダメージ(微)
[装備]両手剣(シュイム)
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:破壊と殺戮。
1.魔力の気配を追跡し、皆殺しにする。
2.蛇(サガラ)に嫌悪感。
[備考]
※サーヴァント同様に霊核と魔力の肉体を持つ存在であり、霊体化が可能です。
※ウォッチャーからのバックアップによって魔力切れの概念は存在しませんが、
魔力による負傷の治癒は他のサーヴァントと同様時間を掛ける必要があります。


※警察の特殊部隊がBAY SIDEのイベント用ホールの施設を包囲しています。
現場で警備をしていたグラスホッパーの団員を何名か拘束しています。


321 : 名無しさん :2016/04/02(土) 00:28:20 ZW4UG..20
投下終了です。
セリューお姉さんに理不尽な扱いをされるプッチ神父が哀愁漂って好きです。


322 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/02(土) 00:30:43 d90HOrh20
ミュカレ&セイヴァー(ジェダ)で予約します


323 : 名無しさん :2016/04/02(土) 20:18:27 ZqIFYZzA0
投下乙です

>◆7DVSWG.5BE氏
しぶりんとは違い卯月の笑顔に悪感情を持つ憔悴メンタルのヤモト=サンにかなしみ
だからこそ、だりーな組とのふんわかした交流が出来たのは嬉しい話
お互い先行きに不安を覚えていた同士、こういう時間を作れるのはいいよね
しかし武P、ゴッサムに来てもやっぱりそのノリなのね

あと、劇中の今日が登校日とする描写がいくつかありますが、過去作だと確か休日だったと思います。

>◆1k3rE2vUCM氏
入れ替わり立ち代わりでこの人数全員に見せ場を用意する構成が上手い
シェリルの強さと弱さの両方の内面描写、簡潔な文章でしっかり描かれる接近するデスドレインのおどろおどろしさ、
いよいよ公安職&犯罪者の本領を発揮したスタンの手腕、もう来なくていいよ…と言いたくなるセリューさん&デェムシュのキレっぷり
色々ありますが、どのパートを読んでも引き込まれるから凄いです


324 : ◆7DVSWG.5BE :2016/04/03(日) 18:17:00 HK5U38ys0
皆さま感想ありがとうございます。
そして323氏、ご指摘ありがとうございます。
確かにそうですね
wiki収録されしだい、今日が登校日とする描写は修正させていただきます


325 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/06(水) 22:29:26 DhCis9lo0
>>322の予約にサガラを追加します


326 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/09(土) 23:18:00 yXzEX9cg0
申し訳ありません、期限を少しばかり超過してしまいます
一応、完成の目途は立っていますのでもうしばらくお待ちください
その間、私が予約している面子を別の方が予約していただいても構いません


327 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 18:56:27 v1HRToAo0
お待たせしました、投下します
期限から3日程遅れてしまって申し訳ありません


328 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 18:58:25 v1HRToAo0
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆




A.M.10:00。

MIDTOWN REDHOOK某所の裏路地。




◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆




高層ビル群の立ち並ぶゴッサムと同じ場所とは思えない、ところどころに汚れの残った場所が目立つ。
そんな汚れを覆い隠すように、蔦が、花が、木が、あちこちを這って小規模な森を形成していた。
アメリカ屈指の経済都市にはあるはずのない植物群が、裏路地に降り立ったジェダの目に入ってくる。
だが、その光景は根付いている場所が衆愚の街であるからか、あるいは膨大な魔力の気配があるにも拘わらずそこには生命が感じられないからか、
死後の楽園とされるエリュシオンの野とは雰囲気があまりにもかけ離れているように感じた。

「魔力の発生源は…果実か」

ジェダは近くに成っていた紫色の果実を手に取る。
これ以上ない神秘を宿した魔力が、ジェダの肌に染みる。そして感知した魔力を、ジェダは眉一つ動かさず冷静に分析する。
どうやらこの魔力には、人間に対して食欲――それもこの果実を食べるように促す性質があるようだ。
己がマスターのミュカレならまだしも、魔術の素養がない人間がこの魔力に当てられれば、
余程精神が強靭でない限り齧りついてしまうことだろう。
まるで、イヴに禁断の果実を食べるようそそのかしたヘビが果実そのものになったようだ。

だが、これほどの魔力を秘めた果実のことだ。
まだまだ調べる余地がある。ミュカレとこれらの果実について解析を進めれば、これを有効利用することも視野に入ってくるだろう。
少しでも多くのサンプルを持ち帰ろうと、ジェダは次々に森の果実をむしり取っては、自身の体内に埋め込んで収納していく。
血液のような赤い液体だけで構成されたジェダの身体は、そもそも臓器という概念がない。
だからヘルヘイムの実をそのままの形で体内に埋め込んでも食したことにはならず、特に影響はない。突き詰めて言えば霊核に当たる心臓も脳もない。
また、ジェダは生前から魂や魔力といったものを吸収することに関しては絶対の自信があった。
それゆえに正体不明の果実を躊躇なく己の体内に入れることができたし、
得体の知れない魔力を持つ果実を大量に持ち帰ろうとするのも、マスターであるミュカレならばこの程度のものは危険の内に入らないだろうという信頼があったからだ。

「■■■――」

ジェダが念話でミュカレに報告しようとしたその時、不意に路地裏のさらに奥の方から、人間の言語とは思えぬ叫びに近い呻き声を耳にした。
声がした方へ目を向けると、そこには燃えるように赤い獅子の顔に長い爪、赤黒い翼を持った異形が、ヘルヘイムの実をもぎ取って貪っていた。
それを知る人間の間では、ライオンインベスと呼ばれていた。かつてクラスAのロックシードより召喚されたものの暴走した、人間の手に余る怪物。
一時とはいえ葛葉鉱汰を苦しめた強敵だ。

ライオンインベスがジェダの存在に気付く。
ジェダを見据え、威嚇とも取れる鳴き声を上げた。
それはジェダの手に入れた果実を全て寄越せ、と言っているようにも取れた。


329 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 18:59:11 v1HRToAo0

「…なんと哀れなことか。この果実に浸食され、『森』の一部になるとは」

ジェダがライオンインベスを見て抱いた感情は、憐れみだった。
多くの魂を吸収してきたことにより、霊核(=魂)から発せられる魔力の質といった価値の識別には一際優れていたジェダであるからこそわかる。
ライオンインベスから感じた魔力は、手にしている果実――『禁忌の果実』と同質だったのだ。
加えて、使い魔のように外部から魔力を供給されている様子もない。
このことから導き出される結論は一つ。
ライオンインベスは本来はこの世に生まれ落ちた生命に過ぎず、この果実によって存在を根本から作り替えられたのだ。

「さぞ苦しいことだろう、駆り立てられる食欲から生まれる恒久的な飢えは。私と同化する祝福を以て君に安息をもたらそう」

理性の無いこの怪人は、争いしか生まない。
あの果実に無理矢理生かされているといっても過言ではない状態だ。
この哀れな怪人は、救済せねばならない。

「君はなんて幸せ者なんだ。『森』から解放されるだけでなく、魂の完全救済の手助けをできるのだよ」

ジェダは迫りくるライオンインベスを前に、静かに呟いた。
ライオンインベスはジェダに肉薄するとその鋭利な爪をジェダの胸元に突き立て強引に斜め下の方向へ引き裂く。
何故かジェダはそれを避けようともせず、ライオンインベスの爪をその身に受け入れた。
当然ジェダの胸につけられたのは傷で、そこからは大量の血が噴き出す。
だが、当のジェダは涼しげな余裕の表情を保っており、両手はポケットに手を入れていて敢えて攻撃を受けたようにも見える。

(…他者を傷つけることによって種を植え付け、生命を浸食していくのか)

ジェダは体内に何かが入り込み、そこから硬い蔦が樹状に広がっていく感覚から、集めた果実を実らせる植物の正体にある程度見当がついた。
怪物の攻撃により、自身の体内に入り込んだモノ(おそらく種子)。よくよく見れば、ジェダがここに降り立った時からも少しずつ緑の範囲を広げている『森』。
ジェダは、この植物がどうやって生息範囲を広げていくかを見極めるために敢えて攻撃を受け、『森』全体に視野を広げていた。

「実にいい知的刺激となったよ…。だが、君もそろそろ迎えが欲しいだろう?少々急な展開になってしまうことを許してくれたまえ」

ライオンインベスの攻撃を受けた一瞬だけで、この森で学べることは全て学んだ。
ならば目の前の怪物はジェダにとっては用済み…いや、フィナーレを迎えさせてやってもいい頃合いだった。

「■■■■■―――!?」

ライオンインベスの斬撃により噴き出したジェダの血が、突如鈍い紅に輝く針に変わり、ライオンインベスの硬い皮膚に突き刺さり、蜂の巣の如く穴が開いた。
当然その地に木霊するのは、痛みに悶えるライオンインベスの叫び声。
ジェダの血、もとい赤い液体は全てジェダの一部であり、その一滴一滴がジェダの思いのままに操れる。
先ほどのように噴き出した血飛沫を全て硬化、針に変えて攻撃に転用するという芸当も可能なのだ。
また、それは体内においても同様だ。
ジェダの肉体を蝕まんと広がっていた蔦は、体内の至る所に形成された刃にシュレッダーの如く種子ごと切り刻まれ、既に無力化されている。
無論、水を殴っても意味がないように、ジェダの身体は液体なので殆どの攻撃は無力化される。
仰向けに倒れ、足掻くライオンインベスを見下すジェダの身体には傷一つ残っていなかった。

「君の魂をその枷から解放して差し上げよう。死ぬことも許されずその肉体に縛り付けられているのは、君のあるべき姿ではない」

ジェダは地に這いつくばる異形に対して語った後に、自身の翼を変形させた鎌を冷徹な目で振り下ろした。
痛みで動けるはずもなかったライオンインベスはそのまま上半身と下半身を泣き別れにされ、亡き者となった。
そして、ライオンインベスだった骸の胸の辺りから、淡く光る光球のようなものが浮き出る。
ジェダが手を差し出すと、その手を取って導かれるようにその光球はジェダの手の平の上に乗った。

「我が肉体となって生きよ」

ジェダが胸元を広げると、その光球はブラックホールに吸い込まれるかのようにジェダの胸元に開いた大きな口へ飛び込んでいった。
魂喰いの上位互換に他ならぬ固有能力、魂同化によってジェダの保有する魔力量はさらに跳ね上がった。
ライオンインベスの骸は、魂が同化されたことに呼応したのかいつの間にか消えていた。


330 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:01:43 v1HRToAo0

「怪物に造り替える果実に、種子を媒介するだけの怪物…」

ジェダ以外に生きている者がいなくなった森で、彼は独り思案を深める。
この植物はこのまま生息地を広げていくが、その過程で果実と怪物を媒介とした種子により生命を塗り替え、文明を侵食していく存在なのだろう。
実際に動物を利用して種子を運ぶ植物は存在し、例えばアケビは果実の中身をハトなどに食べてもらい、種子が排泄物に混じって各地に撒かれることによって種子を散布する。
だが、アケビのそれとは違い、この果実は食した生物を種子を媒介する死体同然の怪物にしてしまうのだ。
この果実が成っている森にはあの怪物のような種が多くいることであろうが、そんな死者が跋扈している森などエリュシオンの野などではない。

「『ヘルヘイム』…私でなくとも学のある者ならばそう呼ぶだろうな」

ジェダの口から出た、ユグドラシルに地下にあるという死者の国の名。
それこそが、この植物の、このサーヴァントの真名であろうとおぼろげながらも確信していた。
ジェダは生前、魔界三大貴族の長として6000年程生きてきた過程で、この植物と似た性質を持つ存在を耳にしたことがある。
宇宙を巡り、様々な世界に接触・侵食し、その文明に進化と滅亡を促すという、かのヘルストーム星の生命体とはまた別なる外来の侵略者。
その際、侵略した文明にはイヴに当たる「始まりの女」が選定され、それを経由して必ず「黄金の果実」がアダムに当たる何者かに手渡されるという。
ジェダは魔界にいたため、人間界で実際に何があったのかは分からぬが、旧約聖書の創世神話で語られる知恵の樹の果実にギリシア神話のアムブロシアー、そして北欧神話における黄金の林檎…。
それらは全て、その侵略者の「黄金の果実」そのものではないかとする説もあった。
それが、人々の伝承と逸話を基に具現化されたサーヴァントとなってゴッサムに召喚されているとなると、筋が通ってくる。

魔力を秘めた果実に世界と生命への浸食という要素から、ジェダはその存在を特定することができた。
尤も、その正体が植物であり、サーヴァントとなってこの世界を侵食しているとは流石のジェダにも予想外だったが。

【マスター。少しばかり取り合えるかな?】
【何だ。今は居眠りをしている阿呆にミョルニルの鉄槌を下す衝動を抑えつつ授業をしている。手短に頼む】
【件の森のことだが…探索が完了した】
【…そうか。キャスターの陣地である可能性は?】
【限りなく小さい、と言っていいだろうね。周囲にはサーヴァントの気配はない。が――】
【何かあったのか】

周囲には果実の魔力しか感じず、一先ず安全であることを確認したジェダは、ミュカレに念話でこれまでの一部始終を報告する。
ちなみにだが、ミュカレは魔術の中でも召喚術を得意とする。
彼女の言うようにかのトールの使用していたミョルニルもオリジナルより劣化するもののその場に呼び寄せることが可能で、
それが常人の頭に直撃しようものなら当然即死である。

【ヘルヘイムの森…だと?なんと不吉な森である事か…。それがサーヴァントとなってこの世界を侵食しているというのか?】

それを聞いたミュカレは、彼女には珍しく酷く驚いた様子だった。

【そして、貴様が集めた果実は…】
【私の体内にそれなりの数を貯蔵している。かなりの魔力を内包している上に先に話した通りの性質を持っている。君ほどの魔術師ならば手に余る物でもないと思うが】
【それは実物を見ないことには分からん。貴様とも話したいことがある。一度大学にある我の個室へ戻ってこい】
【了解した―――む?】
【まだ何かあるのか?】

ジェダは念話の途中で、路地裏のライオンインベスのいた方向とは逆側から車のエンジン音が近づいてくるのが聞こえた。
優れた聴覚で向こうが気付く前に捕捉することができたが、この路地裏に何か用でもあるのだろうか。
エンジン音が止む。路地裏の出口には、車内を見えなくしている一台のバンが停車していた。

そして、その中からはアメリカという国には似つかわしくない槍を携えた足軽のような数人の鎧武者が出てきた。
サーヴァントの気配は感じない。恐らく、キャスターの生み出した何らかの道具で強化されたNPCだろう。
彼らがこの森に用があると判断したジェダは素早く霊体化する。


331 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:02:17 v1HRToAo0

「ここか。あの果実のある森っていうのは」
「いいか、犬養さんが言っていたように集めるんだぞ」
「わかってるって」

【犬養…だと?】
【犬養といえばあの忌々しいグラスホッパーのリーダーだ。一体そこで何が起こっているか我に中継して伝えろ】
【鎧武者だ】
【……何を言っている?】
【鎧武者の姿をした人間が私のいる森に入ってきている。彼らがその犬養の名を出したのだ】
【…サーヴァントの気配は?】
【ない。恐らくはNPCと思われる】
【となるとグラスホッパーの団員か】

霊体化し、そこに入ってきた鎧武者には気付かれぬままジェダはミュカレに現況を報告する。
鎧武者の様子を見ると、1人は周囲の警戒をしながら、残りは「ここって果実の数が結構少ないなぁ」と愚痴をこぼしながら果実の採取にあたっている。
少ないのはジェダが既に殆どの果実を取ってしまったからであるが。

ミュカレの言うとおり、鎧武者達は全員、グラスホッパーの団員だった。
彼らはこの路地裏にあるヘルヘイムの森に成っているヘルヘイムの実を持ち帰る任務を言い渡され、バンと一緒にこの地に赴いてきたのだ。
もちろん、回収された果実はグラスホッパーの貸倉庫へ送られる手筈だ。
団員達が任務にあたっていると、突然「あっ!」という声が森に響き渡る。
団員達を纏める立場にあるらしき者が「どうした?」と聞くと、声を上げた団員の手にはヘルヘイムの実から変化したと思われる錠前のような物体が握られていた。

「だから犬養さんが言ってただろ、新入り?このベルトを着けて果実に触ったら果実のまま運べないんだよ。それは俺が預かっとくから、今度は気を付けろよ?」
「す、すいません!」

新入りの団員は、先輩らしき団員にペコペコと頭を下げて謝っている。
他の団員は直接触れないよう注意しながら、果実に袋を被せた上で採取していた。
あの黒いベルトをしている者が果実に直接触れると錠前のようなアイテムに変わってしまうようだ。

【錠前だ】
【……だから何を言っている?】
【鎧武者が果実に直接触れた途端、果実が錠前に変わった。どうやら彼らのつけている特殊なベルトによる効果らしい】
【ベルトをつけることで果実が錠前に変わるだと?随分と奇妙な話だな】

「もうそろそろ全部集め終わる頃かな。見張りの方は大丈夫か?」
「今のところ怪物はいないな」
「楽なところに来れてラッキーだったな。早く集めてこんなとこからずらかろうぜ」

すぐ近くにジェダが待機していることも露知らず、団員達は談笑しながら各々の仕事に取り組んでいる。

【この鎧武者達はこのまま果実を集め終わったらすぐに撤収するつもりらしい。マスター、判断を仰ごう。私はどうすればいい?】

それを聞いて、ミュカレ側からの念話が一時黙る。
そして、

【できる限り情報を聞き出した後、ヴァルハラに送ってやれ。その際、ベルトとその錠前も一緒に奪って来い】
【承知した】

淡々と救済という名の処刑命令が、ミュカレから下った。


332 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:02:42 v1HRToAo0

【いつもの方法でいいかね?】
【そうしろ。その方がカモフラージュも容易だ】

合点したジェダは、すぐに行動に移した。
霊体化を解き、実体を団員に囲まれた形で浮き上がらせる。
突然、森の内部に血飛沫が沸き起こる。
やがてそれが人の形をして学ランのような恰好をした顔色の悪い怪人の姿が完全に現れるまで、団員たちは仮面の下で阿然としていた。

「か、怪物だ!!」
「いつの間に!?」

一人の団員が叫ぶとともに、他の団員もジェダに向けて槍を向ける。
しかし、その槍を握る手は皆震えていた。
突然自分達の周囲に怪物が出たことへの驚きもそうだが、それ以上に先ほどの姿を現す過程を見て、今まで見てきた怪物とは格が違うと肌で感じ、恐怖していたからだ。

「ぐがっ!?」

ジェダは、戦極ドライバーによって強化された常人でも到底見切れないスピードで、最も近くにいた団員の首を掴む。

「……ひぃっ!!」

他の団員は、仲間が殺されそうになっているのにも関わらず、足がすくんでその場から凍ったように動けなかった。
ジェダに攻撃すれば何をされるかが想像もできない上に、心を恐怖によって支配され、グラスホッパーに志願した勇気ごと折られてしまっていた。

――ドクン、ドクン、ドクン。

静まり返った森。ジェダを囲んで動けない団員。団員の一人の首を掴んだジェダ。そこには心臓の心拍音のような効果音が木霊していた。

――ドクン、ドクン、ドクン。

それを聞いて目の前の光景を目の当たりにした団員の恐怖は最高潮に達した。
その心拍音が鳴るごとに、首を掴まれた団員の身体がみるみる膨れ上がっていくではないか。

「ぐ…る……ぎ……ガああアアア……!!!」

顔は本来の5倍ほどにまで膨れ上がり、身に纏った黒影の装備のところどころからは生身が露出していた。
兜にあるゴーグルアイの部分が割れ、団員の眼球がそこから視神経に繋がった状態で飛び出た。
顎が外れて兜の下側から下あごが力なく垂れ下がっていた。
後頭部は膨れ上がった頭を抑えきれず、ヒビが入っていた。
首はカエルが鳴いた時のようにぷっくらと巨大なコブにしか見えなくなっていた。
胴体は風船のように丸くなり、皮肉にも本当にマツボックリになったようだった。
もちろん装備は既にヒビが割れて至る所に欠けた部分が発生していた。
手足は―――――。

もはや、団員の肉体は口にもできぬほど、人間の原型を留めていなかった。

「ダ……ズ……ゲ……デエェェェェェェアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
「爆ぜよ」

ジェダが冷淡に呟くと、団員の身体は文字通り破裂し、赤い液体がその勢いに任せて噴水のように湧き上がった。
それは団員の血も混ざっていたが、殆どはジェダの肉体を構成していた可変液体だった。
敵の身体に液体をありったけ送り込み、その身体を破裂させる技―――サングェ=パッサーレ。
ジェダは魂同化をする際、ミュカレの指示によりNPCはこの方法で殺害するようにしていた。

それは、ゴッサムで話題となっている、内部から破裂させたような形で人を殺めている殺人鬼が理由の一つだ。
ジェダは、この殺人鬼と同じ殺し方をその液体によって再現できる。相違点といえば黒いタール状の物質が残っているかいないかの違いだけだ。
このように殺すことで、全てを件の殺人鬼の仕業にカモフラージュすることができ、ミュカレとジェダの存在が明かされることを防止できるのだ。
果たして、数多くの死体の中に黒いタール状の物質が残されていない例外があることをどれだけの者が把握しているのであろうか。

「さて……君たちに少しばかり聞きたいことがあってね――」

散っていったNPCの魂と同化し終わり、ジェダは残りの団員たちの方へ向いて優しく語り掛ける。
しかしそれは団員の恐怖をさらに煽るだけであり、皆「正直に言えば見逃してもらえる」という一抹の希望に縋るしかなかった。
無論、そんな希望もむなしく全員が破裂させられてジェダと同化したのは言うまでもない。


333 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:03:15 v1HRToAo0
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆




A.M.11:45。

ゴッサム大学――ミュカレの研究室。




◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆




ゴッサム大学に限らず、大学の教員には必ず研究室が割り当てられる。
研究室とは、教授を始め大学院生のような学生が出入りをしてそれぞれの分野の調査・研究を行うための部屋で、
理系の研究室は試薬・実験器具が大きなスペースを占める一方、文系のそれでは書籍が大量に積まれている。
ミュカレの研究室に入り、そこに通うゴッサム大学の生徒もいるにはいるが、ミュカレは基本的にそういった学生は放置して自分の研究だけに没頭しているかのように振る舞っていた。
放任主義で生徒に研究その他諸々を丸投げするような大学教員はミュカレに限らず両手に余る程おり、学生を放置しても別段問題はなかった。
余談だが、あのサフィールもその一人だ。

また、ゴッサム大学のようにあらゆる学問の学部を設置し、なおかつ施設も最新鋭のレベルにまで整った大学となると、
専属教員には研究室とは別に個人のオフィスルームのような自身の研究に耽るための個人の研究室が、研究室とは別に与えられる。
ミュカレも、考古学という一学問の権威であり、そのために自室を持つことを許されるという好待遇を受けていた者の一人だった。

「この果実か…」

ミュカレはヘルヘイムの果実を手に取り、皮を剥く。
そこから出てきた錠前のような形をした果肉をただ見つめていた。

「濃密な神秘の宿る魔力が凝縮されている。噂に聞く怪物とやらもこの果実によって生み出されていたというわけか」
「ヘルヘイムの果実、と呼ぶのが妥当だろうね」

ヘルヘイムの果実を全て個室の隅にあった籠に入れ終わったジェダが、デスクに座るミュカレの方へ向く。
ミュカレも、ヘルヘイムの果実から発せられる魔力に気付いていた。
この果実への食欲を誘発させる、性質の悪いものだ。

ジェダの先見性もあってか、ミュカレはその果実を食すことなく冷静に分析することができている。
ミュカレは転生を繰り返し、マスターという立場にも拘わらず700年以上の時を生きてきた。
下手をすればこのゴッサムにキャスタークラスとして召喚されてもおかしくない実力と魔力を持っており、
そんな存在にとってヘルヘイムの果実の魔力は全く影響を及ぼさなかった。

「利用できなくもないが、安易に手を出すには少々危険が過ぎるな。魔力源に使おうにも魂喰いをすれば済むことだ」

だが、ヘルヘイムの果実が未だに得体の知れないものであるのは事実。
何の確証も得ずに手を出せばミュカレといえどどうなるかはわかったものではない。

また、解析を進めれば如何様にも利用できるとはいえ、使いどころに困ることもまた事実であった。
というのも、まず用途として第一に浮かぶのは魔力源としての運用だが、
魔力を抽出する以前にジェダの魂同化スキルによる魔力効率が良すぎて果実に頼らなくとも十二分の魔力を得られるのだ。
リスクを犯してまで果実から魔力を抽出するには、とてもではないがリターンの割が合っていない。


334 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:03:46 v1HRToAo0

「確かに、君も魔術師として優れているし、私としてもその場で魂を一人分救済すればそれだけで本来以上の力が出せる。
キャスターのように何らかの仕掛けを用意しているならばその運用も考えるだろうが」

ジェダの言うように、この果実に気付いている主従は現時点でも少なくはないだろう。
ともすれば、これを既に利用しようと動いているサーヴァントもいるかもしず、警戒に値するだろう。
一応、ミュカレ自身も召喚術によって呼び出した生物に果実を利用するというのも考えてはいるが、実用の前にはまず実験が必要だ。
ゴッサム大学で実験をするには目立ってしまうため、死んでも誰にも気付かれないスラム街辺りで行うべきか。
幸い、今日の授業は午前までで終わり、後は少しだけ学生や教員の相手をし終われば何をしようが自由であることが幸いだ。
ようやく大学の執務から抜けられると思うと、ミュカレの気も少し和らぐ。

「して、セイヴァー。そのベルトと錠前とやらは手に入れてきたのであろうな?」
「もちろんだとも。…ここに」

ジェダが胸――人間でいう心臓のある部位――に手を突っ込むと、そこからジェダの体液にまみれた戦利品をミュカレのデスクに置いた。
一つはベルト。黒いメタリックな質感で中央にはマツボックリのマークがプリントされた錠前がはめられている。
その左にはマツボックリを叩き斬ることを心待ちにしているかのように黄色い刀身の剣がちょこんとついている。
もう一つは錠前。マツボックリの錠前と同じ形をしており、唯一違う点は基部にプリントされているマークが果実になっていることくらいだ。

「このベルトと錠前からも魔力を感じる。恐らくはキャスターの造った道具だろう」
「…キャスターの製造したことには間違いはないな。となると、犬養のサーヴァントかその同盟にキャスターが少なくとも一人いるということになるのか」

ミュカレはまだジェダの体液で濡れているベルトに目をしかめながらそれを手に取る。
マツボックリの描かれた錠前を外して、裏側を見たりしてそのベルト――戦極ドライバーをその目でじっくりと確かめる。

「それを装着した上で、剣で錠前を開けば、鎧武者の姿になれるらしい。その姿になれば肉体面で大幅な強化が成されるようだ――本来のペルソナをさらなるペルソナで隠してしまうとは、理解に苦しむよ。
それはステレオタイプによる認識の画一化を助長し、そして民との力の差は埋められぬルサンチマンを呼びさらなる争いへと昇華される未来しかないというのに――」
「――成程、これは最初に装着した所有者にしか扱えない代物だ。ご丁寧に製造者の意思でいつでも使用不能にできるようになっている」

ジェダの講説的な語りは無視し、ミュカレは戦極ドライバーにプログラムされた安全装置をいとも容易く見抜く。
ミュカレは大戦時、アガルタの先史文明の遺産を予め知り尽くし、後に電光機関となる技術を第三帝国に提供した過去を持つ。
そのため、そういった科学方面にも非常に明るく、大戦当時は「ミュカレ博士」とも呼ばれていた。
また、ヘルヘイムの果実の養分を人体に安全に供給する戦極ドライバーは、人体のエネルギーを搾取して電力に変換する電光機関と性質が似ていたのもドライバーの理解に一役買っていた。

「ふむ、NPCが使用できるのならマスターもあるいは…とも思っていたが流石に簡単には行かせてくれないか」
「我を誰だと思っている。解析してこちらで作り替えればすぐにでも利用できる。イナゴ共と同じ道具を使うというのも癪だが…いつまでも大学に居座る奴等を放置しておくわけにはいかんからな」
「確かに…『死』こそがグラスホッパーにいる迷い子達の飢えを満たす極上のぶどう酒だ。彼らにも分け与えて差し上げなければ」

このベルトと錠前を有効活用できるようになれば、大学にいるグラスホッパーの団員を一掃する糸口に繋がるかもしれない。
そのためにも、早急にこのベルトの解析を進めなければ…そうミュカレが頭の中で思考を巡らした、その時だった。


335 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:04:26 v1HRToAo0







「やあ、初めまして。そしてようこそゴッサムシティへ、救世主達」

そのどこかの民族の服装をした中年の男が、あたかも初めからそこにいたかのようにミュカレの個室の入り口付近に立っていた。

「…グングニル!!」

侵入者を見たミュカレの反応は早かった。すぐに得意の召喚術を発動、男の背後に魔法陣を設置し、かのオーディンの所持していた槍が魔法陣から飛び出した。
その様はまるで英雄王ギルガメッシュの『王の財宝』から射出した宝具のようであった。
飛び出したグングニルの槍は男の心臓のある左胸を寸分の狂いもなく突き刺し、突如現れた男は瞬時に絶命する、はずだった。
…その男が普通の人間であれば、の話だが。

「ハハハ、いきなり手荒い歓迎だねぇ。こっちはそこのお嬢ちゃん…いや、"完全者"サマに耳よりな情報を教えに来てやっただけだっていうのに」

ミュカレの目には、確かにグングニルの槍は男の左胸を貫いているように見えるが、不思議なことに全く手ごたえがなかった。
男は戦う意思がないことを示すかのように両手を上げて一歩だけ、横に移動する。
ミュカレ達の目からは、グングニルの槍が男の身体をすり抜けたように見えた。
そして、ミュカレとジェダは悟る――この男には、実体がない。

「貴様、何者だ」
「俺か?俺は"監視者"だ。ゴッサム中で動いてる聖杯戦争の参加者を見張っている。もちろん、お前達もな」

ミュカレの問いかけに男――サガラは、答える。
現在は時間にして正午の少し前。聖杯戦争参加者全員に等しく伝達される定時通達よりも、少々早い参加者への接触だった。

「監視者だと…?その実体なき肉体に加えてあの果実と同じ魔力…よもやマスターではあるまい。貴様は――」
「私が思うに、あの森の一部だよ…いや、あの森の意思を別の存在に置き換えたモノ、とでもいった方がいいか」

ミュカレを遮り、ジェダがサガラの存在について考察した結論を述べる。
この男はゴッサム中の参加者を見張っている、と言った。
森で手にかけた鎧武者によると、森はゴッサムシティ各地で確認できるようだ。
今この瞬間もゴッサムを侵食している森…それら全てが目と耳になっているのであれば、それも不可能ではない。
また、ミュカレの言ったようにサガラからは先のライオンインベスから感じた魔力が確認できる。
だがこの男はライオンインベスとは違って理性があり、なおかつ「自分はそういう存在だ」と言わんばかりのアンデンティティを確立した態度。
まるでヘルヘイムの森から生み出されたかのような存在だ。

「創生神話の伝承が真であると仮定すれば…君は『森』が文明に干渉するための道具――つまり、ヘビに当たるわけだ。違うかね?」
「…まあ、否定はしないさ。仮にあんたのいた魔界に姿を現していたら、こんな姿を取っていたかな?」

そう言うとサガラは自身の姿を禍々しい翼の生えた魔人のような姿に変えて見せ、すぐ元に戻る。
接触した文明の文化に合わせてその姿を度々変えられるようだ。
サガラがジェダから聞かずとも魔界出身であることを見抜いているあたり、こちらの情報は向こうに筒抜けになっていると見た方がいいとミュカレは察した。

「…貴様がセイヴァーの言っていた、文明に進化と滅亡をもたらすという侵略者か?」
「おいおい、俺は監視者だって言っただろ?言い換えれば、お前さん達参加者がどこへ行くのか、何を選択するかを見届けるのが俺の役目なのさ」
「世界を今も侵食している輩が何を言う…」

ミュカレはこれ以上ない憎悪を込めた目線をサガラに向けるが、サガラは意に介した様子はなく、わざとらしく驚いた表情を浮かべながら後ずさるフリをしている。

「ゆめ忘れるな。人類はいずれ、肉体を排すことによって貴様らの手を借りずとも新たなる段階へ進むことになる」
「それがお前さんの選択だっていうなら一向に構わないぜ。むしろそのために聖杯を勝ち取って欲しいくらいだ。それもまた破滅であり、進化だからな」
「…その言い回しがつくづく癪に障るな、蛇め」

ミュカレは思う。このような蛇に進化の過程を牛耳られるなど、なんとこの世は不完全な世界であることか。
やはり全人類の魂を完全なる霊的世界へ昇華させることを残して、他に道は残されていない。
ミュカレは教団の悲願を成就するため、そして肉体の枷のみならずヘルヘイムの呪縛から人類を救うために願いを叶えると改めて意を固めるのであった。


336 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:04:50 v1HRToAo0

「さて、そろそろ本題に入らせてもらおうか。さっきも言ったようにミュカレちゃんだけに教えてあげられる耳寄り情報だ」
「ちゃん付けはよせ」
「お前さんが習得している転生の法のことだ。お前さんは元からNPCに転生する気はない。そうだな?」
「無論だ。NPCの肉体は人間同然とはいえ、聖杯の手が入っているのかその格はマスターより断然低い。我の転生の器には向かん」
「そう!だからお前さんは必然的に別のマスターの肉体に転生することになるだろうが…残念なことに、サーヴァントと契約している人間の肉体は乗っ取れないんだ」
「…なんだと?」

ミュカレが僅かに目を見開く。元より、ミュカレは転生のことは後回しにしていた。
例え肉体を失っても別人の体を奪い甦ることのできる秘跡『転生の法』により、いつミュカレの肉体が死してもマスターの肉体を奪えると考えていたからだ。
聖杯戦争に参加しているマスターの数は時を経るごとに減っていくことになるため、迂闊に死ねないことには変わりないが、
そうなったらなったで捕捉したマスターの肉体を奪えばいつでも復活できる。
これまでのロールの立場を利用できなくなるというデメリット以外はミュカレに何の損もなく、むしろマスターを消滅させてその主従を壊滅状態にできるメリットもある。
だが、それが思うようにできなくなると話が違ってくる。

「厄介なことをしてくれる…!」
「まあまあ、そんなに睨まないでくれ。不可抗力か聖杯によるものか、あるいは他の誰かがお前さんの使える力が気に入らなかったのか。
俺は別に構わないんだが、俺の知らないところでそういうルールが作られちまったんだ。そもそも、何度死んでも生き返られるなんて、フェアじゃないだろ?」
「フン…」
「とにかく、それがルールになっちまったからには従ってもらわないと困るな。難しいことじゃないさ。逆に言えばサーヴァントがいなくなったら何してもいいってことだからな」

忌々しげな目線を再びサガラへ向けるミュカレ。
確かにサガラの言うとおりだ。一組の主従にいるサーヴァントを仕留め、そのマスターを生け捕りにさえすれば済む話だ。
だが、それはベルトの解析、ヘルヘイムの果実の実験とすべきことの見えてきたミュカレに対する時間的な拘束具に他ならなかった。
午後からは自由に動けるとはいえ、わざわざ出向いて転生の器の確保のためにサーヴァント一人を滅ぼし、そのマスターを生け捕りにしておく必要性が出たのだ。

――手間をかけさせおって…。

ミュカレの苛立ちが噴火寸前の火山のように溜まっていく。
それを少しでも紛らわすかのように大きな溜め息を吐いた。

「言いたいことはそれだけか。貴様の顔はもう見たくない。とっとと失せろ」
「おっと、そろそろ時間だ。そうさせてもらうよ。聖杯戦争の参加者全員へのアナウンスに、お前さんとそう年の変わらないお嬢ちゃんを激励しに行かないとな。
――ああ、もちろん肉体年齢的な意味だ」

ミュカレの乗り移った肉体の持ち主の年齢も把握しているかのような台詞を吐くと、すぐにサガラの身体を構成した立体映像が崩れ、どこかへと消えていった。
そしてその数分後、聖杯戦争の参加者全員が聞くことになる通達が放送された。


337 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:05:24 v1HRToAo0
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆




P.M.12:15。

ゴッサム大学――ミュカレの研究室。




◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆




今時の若者が聞くラジオのようなノリでなされた通達を、眉間に皺を寄せながらミュカレは聞いていた。
まだサガラへの苛立ちは消え去っていないらしい。
既に3組の主従が脱落し、現在残っている主従はミュカレ達を含めると23組。
本格的な聖杯戦争の火蓋が切って落とされた。

「やはりあの連続殺人鬼はサーヴァントであったか。薄々そうだとは思っていたがな」

ミュカレにとっては魂喰いをする際にはその殺し方を模倣させてもらったありがたい相手だ。
おかげで今まで足取りを掴まれることなく魔力を確保できている。

「それよりも、ミュカレ…我々は君の新たな依代となるマスターを探す必要性が出てきたわけだが、今一度怪しい人物を私の口から話しておいた方がいいかね?」
「…話せ」

ミュカレがデスクの椅子に深く座りなおしてジェダに促すと、ジェダはそれまでに捕捉した人物を挙げていく。
怪しい人物といえば夜に活動しているというヒーローもそうだが、まず挙げるべきなのはやはりグラスホッパーの代表となっている犬養舜二という男だろう。
先ほど手に入れたベルトと錠前から察するに間違いなくキャスターが絡んでいるとみて間違いはない。
あのベルトを独自に改造すれば、グラスホッパーに所属している鎧武者の一人として紛れ込むことも不可能ではないかもしれない。

そしてヤモト・コキ。
現在も逃亡中の殺人を犯した少女。
多額の懸賞金をかけられた指名手配犯だ。
一体この聖杯戦争で何を思って指名手配犯になったのかは不明だが、このゴッサムで目立っている以上、マスターである可能性は十分ある。

「――その犬養という男やヤモト・コキから派生して数多の日本人名と思われる名前を発見した。
…尤も、その数が多すぎる上に逆に敵に捕捉される可能性もあったので深入りしていないことが難点だがね」

犬養舜二にヤモト・コキ。マスターの可能性が高いこの二者に通じることはまず「日本人あるいは日系」であることだ。
そこに着目したミュカレは、数日前からジェダに街の地理や様子を見させる傍らで、日本人を見つければ危険を冒さない範囲で詮索するように命じた。
その結果明らかになったのは、ここがアメリカとは思えぬほどの日本人の人口だ。
日本は世界的に見ても治安のいい国だと言われるが、その国の人間がなぜ衆愚の街と呼ばれるゴッサムにここまでいるのかを説明できないほどに、異常ともいえる日本人の数だった。
ここに挙げるだけでも、島村、高司、多田、中村、凰蓮、前田、湊、呉島、美城、御剣と日本人の姓に事欠かない。

「346プロ、だったかな?まるでシンデレラに登場する城のような建造物だったね。あそこにはそれなりの数の日本人がいたよ」

346プロジェクト。本来は日本にある芸能プロダクションらしいが、米国内に支社を設け、事業展開を始めたとのことだ。
そこに所属するアイドルのファンはゴッサム大学にもそれなりの数がおり、ファンサークルまで作られている始末だ。
ミュカレの肉体年齢に近いアイドルも所属しているが、当のミュカレはアイドルのような偶像になど微塵の興味も示しておらず、ましてやそんな偶像そのものになるなど死んでも御免だった。

「346プロか…幸い、ゴッサム大学のあるRED HOOKの隣り――WEST SIDEにある。取りあえず足を運んでみるならそこになるが…他にすべきこともある」

為すべきことは3つ。奪取したベルトの解析。ヘルヘイムの果実を使った召喚術の実験。転生の器の確保。
特に最後はサーヴァントの撃破が必須であるため、非常にリスクが高くなる。

「さて、どうしたものか…」


338 : そして完全の世界より―― ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:06:16 v1HRToAo0
【MID TOWN RED HOOK ゴッサム大学内、ミュカレの個人研究室/1日目 午後】


【ミュカレ@アカツキ電光戦記】
[状態]健康、平常
[令呪]残り三画
[装備]黒マント、カティが着ていた服
[道具]元帥杖(懐に忍ばせている)、ヘルヘイムの果実(それなり)、量産型戦極ドライバー、ロックシード(マツボックリ&果実系)
[所持金]現金十万程と、クレジットカード
[思考・状況]
基本:聖杯戦争、負けるつもりはない
1. ヘルヘイムの森の呪縛からも人類を解き放たねばならない
2. 煩わしい事だが、ゴッサム大学には足を運んでやる
3. サフィール教授には会いたくない
4. 手に入れたベルト(量産型戦極ドライバー)を改造して我にも使えるようにする
5. あの果実は召喚術の補助に利用できそうだが、魔力に関しては魂喰いで間に合っている
6. サーヴァントのいないマスターを転生の器として生け捕りにせねば
7. あの蛇(サガラ)の顔はもう見たくない
[備考]
※犬養舜二、ヤモト・コキが聖杯戦争の参加者だろうとあたりをつけています。
※所持している果実系のロックシードが何かは後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァントのいるマスターに転生できないことをサガラから教わりました。
※ヘルヘイムの森とサガラの正体をジェダから教わりました。
※グラスホッパーが団員を鎧武者に変身させていることを知りました。
※グラスホッパーには道具作成に優れたキャスターが噛んでいると見ています。

【セイヴァー(ジェダ・ドーマ)@ヴァンパイアセイヴァー】
[状態]健康
[装備]万全
[道具]万全
[所持金]私には何の価値もない代物だ
[思考・状況]
基本:全ての魂の救済
1. この街には良識の欠片もない
2. 果実に浸食されたインベスは何とも哀れだ
[備考]
※ヘルヘイムの森とサガラの正体に見当がついています。これをミュカレに教えました。
※ゴッサムに在住する日本人の姓をそこそこの数把握しています。
※魂喰いをする際は、NPCをサングェ=パッサーレで破裂させて殺害し、キャスター(デスドレイン)が殺したように見せかけています。
※ジェダが魂喰いをした際は、アンコクトンは残りません。
※グラスホッパー団員から情報を収集しました。他にもグラスホッパーについて何か知っているかもしれません。


339 : ◆ZjW0Ah9nuU :2016/04/12(火) 19:08:21 v1HRToAo0
以上で投下を終了します


340 : 名無しさん :2016/04/12(火) 23:59:16 tH0v5vBo0
投下乙です。
液状化に魂同化とジェダは戦闘においても魔力運用においても中々強い…
彼の台詞は何かと理屈っぽくて厭世的な言い回しが多くて印象的だ
そしてミュカレは魔術的な知識に加えて科学にも精通してるのが強いな
ヘルヘイムの正体や果実の仕組みにもすぐに気づけたのは主従共に長命で魔術に関する知識や叡知に優れてるからこそだろうなぁ
ぐっさんは本当に神出鬼没だw でも何だかんだで参加者の後押しや助言をしてくれるだけマシ…なのかもしれない


341 : ◆sIZM87PQDE :2016/04/20(水) 21:25:08 aXxLcncA0
前川みく&アーチャー、呉島光実&アーチャー、呉島貴虎&キャスターで予約します


342 : ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 18:56:02 9MURi.sM0
投下します


343 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 18:58:25 9MURi.sM0
――――事態は切迫している。

キャスターの優秀な監視網から得た情報があるからこそ、実弟・光実をよく知るからこそ、呉島貴虎はそう強く認識していた。
単に白亜のアーチャー陣営が同盟を組もうとしているというだけであればこうまで焦りを覚えることなどありはしない。
聖杯戦争ということなら有り得ない話ではないし、キャスターならば撹乱・分断の策などはいくらでも用意できる。
襲撃を一時見送らなければならなくなるにせよ、白亜のアーチャーへの対策も無駄になることはない。

「マスター、これは非常に不味い状況かと」

キャスターも現状の厄介さを十分に理解しているらしい。
それはそうだろう。今白亜のアーチャー陣営に接触しようとしているのは誰あろう呉島光実なのだから。
光実が白亜のアーチャーを取り込んで何をするか、想像できない貴虎とキャスターではない。

前提として光実は貴虎がマスターである可能性を疑っている。
キャスターの情報収集の成果からもそれは明らかであるし、そもそも貴虎自身予選の頃から光実をマスター候補と疑っていたのだから逆はあって当然だ。
そしてもう一つ。これが最も重要なことだが光実は貴虎の居場所を知っている。
貴虎は自らがマスターであること、どこに拠点を構えているかを誰にも知られぬよう立ちまわっているが唯一つ例外が在る。
その例外こそ呉島光実に他ならない。優秀な光実なら貴虎がユグドラシルタワー自体を拠点にしている可能性にも気づけるだろう。

今までは光実も地力に劣るサーヴァントを従えているために無理をできなかったのだろうが、もし白亜のアーチャー陣営を味方につけたのなら話は変わる。
マスターである少女を口八丁で丸め込むことぐらい光実なら当然可能だろう。
加えて、あの少女はアーマードライダー龍玄に恩がある。仮面の下の正体を明かせば少女は光実を信用する可能性が高い。
そうして自分たちの手を汚さずして白亜のアーチャーをユグドラシルタワーに差し向ければ光実は労せずして自分たちを落とすことができる。
これこそ貴虎とキャスターが最も危惧すべき最悪のシナリオだった。

(危険を承知で今、動くしかないというのか……)

幸いにも光実と少女の自宅はまだそれなり以上の距離があり、今ならまだ対処するだけの時間的余裕がある。
しかし、オーバーロード・デェムシュやキャスターの使い魔を感知してのけたランサーなど、今のUPTOWNには不安要素が多すぎる。
加えて、白亜のアーチャーへの対策として投入する予定である精神防御礼装もまだ完成に至っていない。
座して死を待つか、多大なリスクを抱えても電撃作戦を仕掛けるのか。究極の二択を迫られる。
まさか楽観的な予測に全てを賭けるわけにもいかない。


344 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 18:59:16 9MURi.sM0



「これは…!マスター、先のランサーとオーバーロードが交戦を開始しました!」
「何だと!?」

先ほど撃破されたことを鑑みて使い魔はかなり遠くからの監視に留めていた。
しかしつい今しがたビル群を高速で移動、遭遇を果たしたデェムシュとランサーを捕捉したのだった。
ハイレベルのサーヴァントとそれに伍する存在たるデェムシュの激突は両者一歩も譲らぬ激戦の様相を呈しており、どちらも使い魔の存在に気づいた様子はない。
つまり、今貴虎とキャスターが動き出したとしてもこの二騎に気取られる可能性は極めて低くなったということ。
懸案事項だった不確定要素が消滅とはいかないまでも大幅に減ったのだ。



「どうやら天運は我々に味方しているようだな」

ここに至り、ついに貴虎は決断した。
未だ準備は不完全だが、今ここで少女とアーチャーを鹵獲することを。
元よりユグドラシルの社内は完全に掌握しているためしばらく貴虎がいなくなったところで後からどうとでも記録は改竄できる。
加えて現場第一主義者である貴虎はよく社内の見回りを行っていたためよほど長時間社内を空けない限り怪しまれる可能性は低い。

「機は熟した…とは言い難いがこの機を逃すわけにはいかん。出るぞ、キャスター」
「はい。ですが礼装は今から急げば試作型が出来上がるという程度で完成度は予定よりも大幅に落ちますが……」
「構わん。それと、分断策が使えない以上プランを変更する必要があるな」
「どうされるのですか?」

キャスターの誰何に貴虎は今は偽装されている、令呪の宿った腕を示してみせた。

「この作戦は我々の今後を占う重要な一戦になる。貴重な切り札とて惜しまず投入するさ。
それから目標の自宅周辺の監視を強化してくれ。最善を果たすことは難しいが、だからこそここは次善を尽くす。
我々の動きを発見する者がいれば、可及的速やかにこれを捕捉する態勢を作るんだ。素性も能力もわからぬ主従に奇襲されることは極力避けたい」
「わかりました」

具体的な作戦行動を煮詰めることに関してはキャスターよりもヘルヘイム対策指揮を執っていた貴虎に一日の長がある。
「ある場所」に竜牙兵を一体向かわせるなど時間の許す限り作戦を煮詰め、出撃の準備を整えていった。







「マスター、準備が整いました」
「わかった」

竜牙兵の移動にも使われる搬入口から貴虎とキャスターは出発することにした。
飛翔の魔術と周囲への認識阻害を併用することによって空から一気に目標の自宅まで移動する算段だ。
貴虎は懐に仕舞っていたメロンロックシードを取り出し、起動した。

「変身」
『メロン』

貴虎は生身の姿を晒して移動するつもりなど毛頭ない。
ここから先は仮面を被り、正体を秘して動く。そのための変身。


345 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:00:15 9MURi.sM0

『ロックオン!』

ロックシードをベルトにセット。聞き慣れた電子音声が鳴る。
同時に、貴虎の真上にファスナーが開いたような丸い穴(クラック)が出現。さらにクラックから緑の果実が姿を現した。
貴虎は思う。この発明、戦極ドライバーは本来なら人間同士の戦争に用いられるべきものではなかった筈だと。
人類の未来を切り開く、夢を託したドライバーだった筈なのだ。
しかし聖杯戦争という盤上では戦極ドライバーは単なる人殺しの道具、強力な兵器に成り下がってしまった。
そして自身もまた戦争のためにこの力を使っている。我ながら度し難い限りだ。
それでも、この力で戦うのだ。為すべき事から逃げ出すという選択肢は呉島貴虎の中には最初から存在しない。

普段よりも力を込めて、カッティングブレードを倒す。
変身を完了させるための、最後のプロセスだ。



『ソイヤッ!メロンアームズ!天・下・御・免!!』

頭部から果実を身に纏い、呉島貴虎の姿は異形の戦士へと変わる。
アーマードライダー斬月・メロンアームズ。いざ、出陣。







――――空気が変わった。
アーチャー、暁美ほむらは嫌な予感から霊体化を解き仮初めの肉体を実体化させた。

「何してるんだよ、通りでいきなり姿を見せたら」
「その心配はいらないわ。気づかない?さっきから人の姿が全く見当たらなくなってる」

アーチャーの言葉にそんな馬鹿なと思いつつ辺りを見回すが――――確かに誰もいない。
つい先ほどまでは、まばらではあっても通行人の姿があった筈にも関わらず。
どういうことだと光実が思案しようとしていた時、建物や塀の影から無数の異形がカタカタという音とともに二人を取り囲んだ。

「こいつら、何だ……!?インベスとは違う……!」
「使い魔の類かしら。何にせよ、タイミングが悪いわね」

光実とアーチャーの前に立ちふさがったのは骨で形作られた兵隊のようだった。
形は様々で、四足歩行のものもあれば大剣や弓、二刀の短剣を持った個体もある。
サーヴァントの姿は見えないし検知もできないが、何者かの差金であることは間違いないだろう。
あと一キロほど歩けば前川みくと接触できたというのに、こんな時に敵襲とは。

「いつどこからサーヴァントが出るかわからない。注意しなさい」
「言われなくてもわかってる。変身!」
『ブドウ』

何であれ、ここで殺されてやるつもりなどは毛頭ない。
手慣れた手つきで即座に戦極ドライバーを装備し、ブドウロックシードを起動した。
ゲネシスドライバーは使わない。敵の狙いがこちらの手の内を探ることだとすれば、迂闊な使用は向こうの思う壺だ。

『ロックオン!』

ロックシードをセットし、クラックからブドウの果実が出現する。
すると使い魔たちが変身などさせぬとばかりに一斉に襲いかかってきた。

『ハイィ〜!ブドウアームズ!龍・砲!ハッハッハ!』

しかし、光実に飛びかかってきた使い魔を鋼の果実が回転しながら迎撃。使い魔は呆気無く砕け散った。
そして果実は全身を包む鎧となり、アーマードライダー龍玄への変身が完了した。
瞬時にブドウ龍砲を発砲、エネルギー弾が正面から躍りかかってきた使い魔を粉々に粉砕した。
アーチャーはといえば、両手に持った拳銃を巧みに操り光実をして感嘆するほどの体捌きで次々と使い魔を破壊していた。
戦闘開始だ。敵サーヴァントの奇襲に注意しつつ、しかし確実に使い魔を屠っていかなければならない。


346 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:01:07 9MURi.sM0







――――また一人、誰かが出掛けたか。
白亜のアーチャー、正義の名を冠する彼女はマスターたる前川みくの住むアパートからまた一人誰かが出て行くところを確認した。
別段、NPCの行動や嗜好に興味などはない。ただ、上手くは言えないが何かが妙だとは感じた。
警戒しすぎか……いや、マスターのことを思えばいくら警戒していても不足ということはない。
ちらりとみくの部屋を見やると窓ガラス越しに携帯電話を操作しているらしいマスターの様子が見えた。
警戒を呼びかけようかとも思ったが邪魔するのも気が引けるのでやめておくべきか。

そう考えていた時、ジャスティスのセンサーが魔力、いや魔術行使の気配を検知した。
ジャスティスには効果の及ばない類の術だがみくのアパートを含めた広範囲に渡って散布されている。
少し前まで霊体化していたこともあって、気づかないうちに魔術の効果が浸透していたのか。
何であれ、マスターであるみくがこの一帯に留まり続けるのは明らかに不味い!

(マスター、敵襲だ!すぐにそこから離れろ!)
(え、アーチャー、敵襲って……あ…な、に、これ……」
(マスター!?)

念話が途切れる。見れば、部屋の中にいるみくが携帯電話を手放し昏倒している様子が見受けられた。
レイラインが途絶したわけではないため、命に別状はなさそうだがあれでは当然逃げることもできない。
ジャスティスが抱えて逃げ出すこともまたできない。



「まさかこうも上手くいくだなんてね。仮にも聖杯に見初められたマスターなら魔術対策の一つや二つ打っていて当然と思っていたのだけど」
「………キャスター、か」



何故なら、上空にローブを被った如何にも大衆がイメージするところの魔女といった出で立ちのサーヴァントが現れたからだ。
アパートの住人たちが次々とここを離れていたのもこの女の魔術に依るものだったに違いない。
そしてみくがピンポイントで魔術によって意識を奪われたことから考えて、既に彼女がマスターであることは知られている。
さらに空を飛べるのなら、ジャスティスがみくを抱えて逃げようとしても容易く撃墜できる。
対魔力を備えるジャスティスはキャスターの魔術を弾けるがそれとて絶対というわけではないし、みくを狙われればどうしようもない。
ならば、可及的速やかに撃滅してここを離れるのみだ。

魔力放出。瞬きのうちに空中にいるキャスターとの距離をゼロにし横薙ぎにミカエルソードを振るい、その身体を切り裂いた。
だが、斃せていない。斬り伏せたはずのキャスターの姿は既にジャスティスの目の前にはなく、地上に移動していた。
空間転移。極めて高度な大魔術を準備もなく一瞬にして成したというのか。

「あら、怖いわね」
「大した術者のようだが、無謀だぞキャスター。お前では私に勝てない」

キャスターと同じく地上に降り立ったジャスティスの言は驕慢でも油断でもなく紛れも無い事実だ。
強大な魔術師のサーヴァントといえど対魔力スキルを有する三大騎士クラスのサーヴァントには勝てない。
さらに言えば魔術師は戦闘者ではない。正面対決というフィールドで、戦場で名を馳せた騎士クラスの資格を持つ英雄たちと戦えば当然、分は悪い。
ジャスティスとみくの素性を下調べしてきたにしては軽率に過ぎる行動と言わざるを得ない。


347 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:01:50 9MURi.sM0



――――ただし、それは正しく一対一の尋常な果たし合いだった場合の話である。



暗い路地から人影が一つ。その人影は鎧武者と形容するのが相応しい姿だった。
左手に大型の盾を、右手に刀剣を持った白い仮面の戦士。しかしそれ以上にジャスティスが注目したのは腰に付けたベルトだ。
先ほど遭遇したマスターである緑の戦士が身につけていたベルトと全く同じものを装備していた。

「まさかマスターが前衛を張るつもりか?私を相手に?」
「その気がなければここにはいない」

よく見てみれば白い戦士は全身と武装から魔力が感じられる。先の緑の戦士とは違い魔術的強化(エンチャント)を受けていることは明らかだ。
ジャスティスの宝具の一つ「叛逆の王(ギルティギア)」にも何らかの対策を施してきたのかもしれない。
だが、まだ足りない。あちらも同様の認識だったのだろう、白い戦士が令呪発動の命令(コマンド)を解放した。



「令呪を以って命じる。この一戦の間対魔力スキルを打ち破れ」
「承りました、マスター」


令呪のバックアップを受けたキャスターがジャスティスへ魔術攻撃を放つ。
四発放たれた魔力弾は全てがAランク相当の魔術。しかしジャスティスはミカエルソードで全てを防御した。
されど、「防御しなければならなかった」。今のキャスターにはジャスティスの対魔力をも無効にする概念のようなものが付加されている。

三騎士クラスがキャスターに対して有利となる要素を令呪によって打ち消す。敵ながら上手い使い方だと認めざるを得ない。
キャスターに反撃を行おうとしたジャスティスを遮るようにして白い戦士、アーマードライダー斬月が盾を構えて間合いを詰める。
元々の斬月自体の人間の域を超えたスピードにキャスターの強化が合わさった加速は最早サーヴァントと同じステージに在る。
振るわれたミカエルソードを大盾・メロンディフェンダーで受け止める。当然のようにジャスティスに押し込まれるが、逆に言えば押し込まれるに留めている。

「…なるほど、ただの自惚れで私と相対したわけでもないか」
「あまり人間を侮ってもらっては困る」

無論、ジャスティスは手加減などしていない。許される魔力消費の範疇内とはいえ全力で斬月を屠ろうと剣戟を見舞っている。
だが斬月はジャスティスの予想を上回る強者だった。アーマードライダーの力とキャスターの魔術支援によって辛うじてジャスティスと同じ領域で戦えるパワーと装甲。
加えて変身者である呉島貴虎自身の培った技量と戦術眼で、圧倒されながらもジャスティスの攻撃を受けきってみせている。
敵の攻撃を見切り、後の先を取ることに長けた貴虎だからこそ成し得る奇跡だ。

(だが、こいつは何故私に立ち向かえる?キャスターの仕込みがあるとしても私の宝具を完全に防げるとは思えん。
あるいは、あのライダーと同じ狂人の類なのか?)



何故、斬月はこうもジャスティスに肉薄し真っ向から近接戦闘を繰り広げることが可能なのか。
スペックや技術の話ではない。ジャスティスが疑問を抱いた通り、精神的な問題だ。
キャスターは自身に精神防御魔術を施すことによって「叛逆の王(ギルティギア)」の影響をある程度軽減している。
しかしマスターである斬月はそうはいかない。キャスターが用意した試作型の精神防御礼装の効力で多少は影響を抑えているがそれだけだ。
しかし事実として斬月は堂々とジャスティスに立ち向かっている。ジャスティスに対して怯み、竦んだ光実との違いは何なのか。


348 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:02:24 9MURi.sM0

無論、貴虎は「叛逆の王(ギルティギア)」を無効化しているわけではない。
絶えずジャスティスが放つ破壊神のプレッシャーに晒され、身体能力も削ぎ落とされている。
貴虎はただ、ひたすらに耐えているだけだ。ジャスティスの攻撃に、威圧感に。
ノブレス・オブリージュ。人々を守るために力を尽くす、呉島貴虎を形作る強固な信念。
地球がヘルヘイムの侵略に晒された時も、オーバーロードの王ロシュオの絶大な力を目の当たりにしても尚捨て去ることのなかった信念が貴虎に膝を屈させない。



「はあああああっ!!」

斬月の渾身の反撃を一歩も動かず受け止めるジャスティス。
無双セイバーとミカエルソードが火花を散らし、すぐにジャスティスが膂力のみで斬月を吹き飛ばした。
そのまま吶喊しようとした時、キャスターが現代人は元よりジャスティスにさえ聞き取ることのできない発音で呪文を紡いだ。

「………っ!」

目に見えない何かが重石になったようにジャスティスのあらゆる動作速度、パワーが一段階落ちた。
重圧の魔術によってキャスターがジャスティスの能力を削ぎ落としたのだった。
本来なら対魔力で無効化ないし大幅に減衰できるのだが、キャスターが令呪のバックアップを受けている今は直撃を免れない。
キャスターからすればジャスティスがこちらの力を削いでくることは百も承知。ジャスティスの宝具を防ぎきれないならこちらも相手の能力を落とせばいいのだ。

続けて放たれた攻撃魔術。どれもが当たりどころ次第で大きな痛手になる大魔術をジャスティスは高速移動で回避。
回避した先に、復帰した斬月が一気に迫り無双セイバーを振るった。
再び無双セイバーとミカエルソードがぶつかるが、今度は先ほどのようにジャスティスが斬月を圧倒することはできない。
無論未だパワーではジャスティスの方が上だが、単純な腕力のみで押し切ることはできない程度には両者の差は縮まっていた。

業を煮やしたジャスティスが法力を解放、バーストで斬月を吹き飛ばす。
さらに魔力放出で超加速し背後から斬月を切り伏せようとするも、マスターのそれとは思えぬ反応速度で防がれた。

「生憎だがそれは知っている」

ジャスティスとバットマンの戦闘を見知っていた斬月はバーストを使われる寸前にメロンディフェンダーを構え地面に踏ん張っていた。
解放された法力をメロンディフェンダーが一種の光学兵器と認識し、電磁シールドを展開して衝撃の過半を殺していたのだ。
これにより吹き飛ばされながらも転倒を免れ、続く魔力放出での強襲にも辛うじて反応することができた。
聖杯戦争とは情報戦でもある。互いの手札を知っているか否かの差が徐々にジャスティスを苛みはじめていた。

全力での一手を防がれ逆に不意を突かれる形になったジャスティスの僅かな隙を見逃さず振るった無双セイバーの斬撃がついに彼女のボディを捉えた。
とはいえ、重厚な装甲を誇るジャスティスだ。魔術による強化を受けた無双セイバーが命中して尚ごく僅かな傷しかつかない。
しかし、傷は傷だ。この聖杯戦争において無敵を誇ってきたジャスティスが初めて明確な、誰の目にも明らかな大きさの傷を負った。


349 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:02:58 9MURi.sM0



「…ようやく、一撃か」

斬月の仮面の下で貴虎は確かな手応えと、そして同時に改めてジャスティスの筆舌に尽くし難い強大さを認識していた。
目の前に立つアーチャーは紛れも無くトップクラスのサーヴァントだろう。全力さえ解放できれば今回の聖杯戦争でも最強ですらあるかもしれない。
だが決して無敵の存在ではない。傷を追わないわけでもなければ不死身でもない。

それでも、強大な存在であることには何ら変わりない。
事前の情報収集で見知った手札に対策として用意した魔術礼装、令呪一画を切ったブーストに敵の能力を削ぐ大魔術。
予選期間から溜めに溜めた莫大な魔力量に物を言わせた魔術による攻勢にユグドラシルの技術の粋を結集、さらに強化魔術をも重ねたアーマードライダー。
これだけの手を尽くしてようやく傷を一つ与えただけ。これが英霊か、これが聖杯戦争か。



ジャスティスもまた、敵の周到さと刻一刻と悪化する状況に危機感を募らせつつあった。
これまでのキャスターと白い戦士の対応を見る限り、最初のライダーとの戦いや怪物からみくを救った場面は間違いなく筒抜けになっている。
加えてキャスターの魔術の技量も白い戦士の粘りも相当なレベルにある。他者を容易く強化する魔術支援も相まって、白い戦士は緑の戦士とはまるで次元の違う強さだ。

とはいえ、十全な魔力供給さえ受けられれば。本来のスペックさえ発揮できれば間違いなく勝てる戦いのはずだ。
いや、勝てるという表現さえ適切ではないか。本来なら勝負すら成立させずに塵に帰せるほどのパワーが、火力がジャスティスにはある。
今のジャスティスはほとんど魔力供給を得られないばかりか、切り札の令呪による支援すら封殺されている有り様だ。
みくの詳しい容体が分からない今、迂闊に彼女から魔力を吸い上げるわけにもいかず、結果自らの保有魔力のみでの戦闘を余儀なくされている。

当然のことながら、戦闘が長引けば長引くほどジャスティスの魔力総量は目減りしていく。
つまり均衡・接戦の状況が続くほどに天秤はキャスター主従に傾いていくということだ。
最早リスクを踏まずに戦況を打開することはできないと考えるべきだろう。最強宝具は使えないまでも、いくつかの武装を限定解除して殲滅する他ない。
これまでジャスティスは徒手空拳かミカエルソードを使った近接戦闘しかしていない。この事実をこそ武器にする。
すなわち、相手は自分のクラスをセイバーと誤認している可能性が高い。その一点に賭ける。
万に一つ撃ち漏らしたとしても、隙さえ作ればアパートにいるみくを回収して離脱する目も出てくる。



決断するや魔力放出の加速で一気に距離を取り、TNT数t分の威力の爆発に相当する炸裂弾N.Bを連続で発射した。
これまでの戦い方から一転してアーチャーとしての攻撃にシフトしたのだ。敵がこちらのクラスを誤認していれば意表を突けるはずだ。
ジャスティスの期待とは裏腹にキャスターは動じた様子もなく聞き取れない発音で魔術を発動、盾とも結界とも取れる魔術障壁によって敵主従を狙ったN.Bの爆発は容易く防がれた。
コルキスの王女メディアが操る防御魔術の強度は世界最大級の英雄ヘラクレスの無敵の肉体にも匹敵する。
たかだかTNT数t分の威力ではとてもではないが突破することは叶わない。


350 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:03:48 9MURi.sM0

「侮らないでほしいわね、弓兵(アーチャー)。この程度なら防ぐなど造作もないわ」

キャスターのあまりに的確な対応に射撃兵装による攻撃は読まれていたことを悟った。
とはいえ、ジャスティスとてこうなることを一切予期していなかったわけではない。
使いたくはなかったが、今の魔力で使える最大最後の火力を解き放つしかない。

ジャスティスの頭部からキャスター目掛け強烈な閃光が放たれ、展開されていた魔術障壁と衝突した。
先ほどのN.Bとは段違いの威力を誇るレーザー攻撃、インペリアルレイの光が瞬く間にキャスターの障壁に罅を入れていく。
焦りを覚えたキャスターが懸命に魔力を込めるが防ぎきれない。

(不味い……!どこにそんな魔力が残っていたというの!?)

砕かれた盾。迫り来るインペリアルレイの光条。転移魔術も間に合わない。



「やらせるものか!!」

不意に、キャスターの視界が白い背中に覆われた。
メロンディフェンダーを構えた斬月がキャスターとインペリアルレイの間に割って入ったのだった。
強力なエネルギー攻撃を検知したメロンディフェンダーが電磁シールドを展開、インペリアルレイの残滓を受け止める。
僅かな拮抗の後、急速にレーザーの勢いが弱まり、やがて完全に途絶えた。
ジャスティスの放ったインペリアルレイは元々魔力供給の不足からカタログスペック通りの威力を出しきれてはいなかった。
加え、キャスターの魔術障壁を破った代償に大幅に威力の減衰したインペリアルレイでは防がれて当然だった。



(キャスター、私が隙を作る!奴に最大火力を叩き込め!)
(は、はい。わかりました)

貴虎は大技を破られた直後にあるジャスティスから感じられるプレッシャーが弱まり、動きも目に見えて鈍くなったのを鋭く察知した。
サーヴァントを存在させているのは魔力であり、魔力の著しい不足はすなわち存在そのものの劣化を引き起こすことは予選の頃にキャスターから聞かされていた。
マスターに開示されるサーヴァントのステータスとは十分な魔力を持ったピーク時のものであり、魔力が不足すれば際限なく劣化していくことも。
ならば、相手が多量の魔力を浪費した今こそが好機。反撃の時は至れりとばかりに斬月が戦極ドライバーのカッティングブレードを操作した。

『ソイヤッ!メロンスカッシュ!』

電子音声と同時、斬月が左手に保持していたメロンディフェンダーを渾身の力で投擲した。
無論、ただの投擲ではない。ロックシードのエネルギーを付与した、インベスの強固な外殻さえ破り爆散させる必殺技・メロウブラストだ。
さらにキャスターの強化魔術によって、メロンロックシードのエネルギーとメロンディフェンダー本体、そして投擲する斬月自身の膂力の全てが段違いに強化されている。
そして神秘が付与されている以上、龍玄のドラゴンショットとは違いサーヴァントを傷つけ殺傷することができる。

インペリアルレイを撃ち魔力を大量消費した直後故の僅かな硬直、そして動揺を突かれたジャスティスには回避する術がない。
せめて堅固な両腕の装甲でガードし魔力放出で弾き飛ばそうとするが――――思うように出力が上がらない。


351 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:04:29 9MURi.sM0

(魔力、切れ――――――――)

これまでどうにか内蔵魔力で戦ってきたジャスティスだったが、ここにきて決定的な魔力不足の状態に陥った。
魔力の切れ目はまさしく命の切れ目。ジャスティスほどの絶対的強者であろうとも、サーヴァントである限り決して逃れられない宿命だった。
著しい魔力不足の状態に立たされたことで基本ステータスそのものの低下をも引き起こしてしまっている。
しかし流石は破壊神、両腕に大きなダメージを負いながらもメロウブラストを弾いてのけた。
が、斬月からしてみれば必殺技が捌かれることなど当然予見していたことに過ぎず、故に次の一手を用意しないわけがない。



「……キャスター!」
「終わりよ、アーチャー」

宙空に浮かび上がったキャスターが描いた魔法陣から機関銃の如くしてAランク相当、あるいはそれ以上の魔力弾が掃射された。
大魔術の発動に数十秒以上の詠唱を必要とする現代魔術師が見れば卒倒しかねない光景であろう。
メロウブラストを防いだ直後では十全な回避・迎撃はままならず、総火力ならインペリアルレイにも比肩する暴力的な火力が次々とジャスティスの白亜のボディを抉り取っていく。
満身創痍になりながらも未だ膝を屈さぬのは最強のギアとしての戦闘続行能力が成せる業か。

『メロンスパーキング!』

まるでジャスティスの圧倒的タフネスを見越していたかのように、斬月が必殺技を起動。
空高く飛び上がり、ロックシードのエネルギーを脚部に集めた無刃キックを放つ。
翡翠の流星となった斬月のライダーキックに対し、咄嗟にバーストで押し返そうと試みるジャスティス。

「はああああああああああ!!」

一瞬の拮抗の後バーストは破られ、剣や鉤爪を生成できないほど損傷した両腕をクロスしガードしたが敢え無く破砕され白亜の胴体に無刃キックが直撃した。
必殺技の炸裂による爆発と共にジャスティスの巨体が吹き飛ばされ、ついに地に倒れ伏した。



「ぐぅっ……!」

必殺技を放った斬月も膝をつき、変身が解除され生身の貴虎の姿が表出した。目に見える外傷はないが、疲労から肩で荒く息をしている。
精神力で耐えぬいたとはいえ、「叛逆の王(ギルティギア)」によるプレッシャーに常時晒されていたために五分にも満たぬ戦闘の間にも急速にスタミナを消耗していたのだ。
加えてアーマーに何度か命中していたジャスティスの攻撃は容赦なく貴虎の肉体にダメージを蓄積させており、インペリアルレイを防いだ衝撃がそれをさらに後押しした。
疲労、ダメージの両方が限界に達しつつあった中での大技の連続使用は最強のアーマードライダーたる貴虎をしても負担が大きすぎた。
このため、無刃キックを撃った直後に装着者を負荷から守るためにシステムが強制的に変身を解いたのだ。

「マスター、ご無事ですか!?」
「…私なら大丈夫だ。それよりもアーチャーとマスターを捕縛しろ」

即座にキャスターが施した治癒魔術でいくらか回復した貴虎は健在をアピールし、キャスターに指示を出す。
無言で了承したキャスターは両腕を失ったジャスティスを魔術で拘束、油断なく接近していった。

「……しかし、対策を準備し圧倒的な優位を築いて二対一で仕掛けてもこれか」


352 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:05:19 9MURi.sM0

改めてよく作戦が成功したものだと思う。
貴虎とキャスターは魔術で意識を奪った前川みくには目もくれずジャスティスに攻撃を集中した。
情けや甘さでマスターを狙わなかったのではない。狙うことができなかったのだ、ジャスティスがあまりにも強すぎたために。
ほんの一瞬であっても片手間に相手をしようとすれば即こちらの喉笛を噛みちぎるほど鋭利な牙を持つ強敵だ。
斬月なりキャスターなりがみくを確保しようと動けば必ずその間隙を突いて突破してくる。そういう確信を抱かせるサーヴァントだった。
だからこそ、総力を挙げてジャスティスにダメージを与え十分に弱らせておく必要があったのだ。

それとて殺すつもりでかからなければ自分たちもどうなっていたことか。
魔力が枯渇したジャスティスに攻勢をかける際、貴虎は完全にジャスティスを殺す気で攻撃していた。
実際、ジャスティスが咄嗟にガードして衝撃を殺していなければ無刃キックが霊核を傷つける可能性もないわけではなかった。
というより、普通のサーヴァントが相手なら間違いなくオーバーキルな攻撃である。
剣を交える中で生半可な気持ちで攻撃して捕縛できるような相手ではないと悟ったのだ。
殺す気で全霊の火力を叩きつけ、結果的に捕縛できた。そういう気概でなければ勝敗は逆転していたかもしれない、と貴虎は確信していた。

「もっともそれだけの力を持つサーヴァントを支配下に置けることは聖杯への大きな一歩だろうがな」







ジャスティスは自らが敗北したという事実を厳粛に受け止めていた。
地に倒れた彼女を縛る鎖は万全ならともかく今の損傷度合いと消耗では破ることは不可能だ。
そして何故敗れたのか、という事についても既に答えを得ていた。つまりはマスターの差だ。

彼我の魔力保有量の差、諜報能力や事前準備といった条件による有利不利は確かにあっただろう。
しかし何よりも明暗を分けたのはマスターの能力と決意の差があったからだ。
サーヴァントはマスターの指揮によって最大限、ないしそれ以上の力を発揮することがあるという。
自分には関わりのない話だと思っていたが、なるほどこうして結果を突きつけられれば認めざるを得ない。

前川みくは先ほど、確かにジャスティスと一個の人間、生命体として向き合う決心をし、聖杯戦争にも向き合う覚悟を固めた。
今まで現実逃避じみた行動ばかりを繰り返してきた過去を思えばそれは誰の目にも明らかな前進だった。
だが言ってしまえばその程度の決意は聖杯戦争に臨むマスターならしていて当然という程度のことでしかなく、さらに言えば今までマスターとして何もしてこなかったという事実が消えるわけではない。

前川みくは何も積んでこなかった。何もしていなかった。ましてや特別な技能もない。
そんな小娘の決意一つが呉島貴虎の積み上げた覚悟に、研鑽に、準備に届くはずがない。
戦う前から、ジャスティスという圧倒的個の戦術的優位でさえ覆せないほどの戦略的敗北を喫していた。
ならばこそこの結果は必定ではあった。


353 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:05:58 9MURi.sM0



「無様ね、アーチャー」

勝ち誇った様子でキャスターがジャスティスを見下ろす。みくはキャスターの腕の中にあり、趨勢を見せつけるかのようでもあった。
もう何をしても状況一つ動かせない瀕死、消滅寸前の重体だ。ならばキャスターの態度は油断でも驕慢でもなく勝者の余裕と形容すべきものだ。
何ならとどめを刺されずとも半日も経てば魔力枯渇で消えるような状態だ。わざわざ無駄な手間をかけて殺しにきたか、と考える。

「言い訳や命乞いをするつもりはない。殺せ」
「早合点が過ぎるというものよ。貴女にはこれから存分に役立ってもらうのですからね」
「……何?」

不意に、悪寒を覚えた。何か取り返しのつかない事態になる予感がする。
ジャスティスの思考を裏付けるかのようにキャスターが一本の歪な形状のナイフを実体化させた。
格こそ高くはないが見間違えようもない。この短剣こそがキャスターの宝具だ。



「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)」



真名を解放。突き立てられた宝具。
マスターとサーヴァントを繋ぐ術式が、契約が根本から覆されていく苦痛がジャスティスを襲う。

「ぐ、がぁあああああ――――――――!!!」

悶えながら、ジャスティスはマスターとサーヴァントの契約権たる令呪がみくの手から消え、あろうことかキャスターに移る様を見た。
キャスターは契約の移行が済んだことを確認すると令呪を移植した左腕を掲げた。

「令呪を以って命じます。以後私と私のマスターに従いなさい、アーチャー。
重ねて第二の令呪を以って命じます。私と私のマスターに対し害をなす、ないし不利益を齎す言動、行動の一切を永久に禁じます。
害、不利益を齎すとは知ることを話さない、翻意を隠す、嘘をつくといった行動全てを含みます」

莫大な魔力がジャスティスに供給されると同時に、二画の令呪の強制が働いた。
一般的にサーヴァントの意に反する令呪行使は対魔力次第で効果が減少、場合によって無効化される、また曖昧で長期的な命令ほど効果が薄くなるとされている。
だがそういったセオリーが適用されるのは近現代の魔術師であり、例外というものは常に存在する。
根源と共に在った神代に生きた魔術師にしてキャスタークラスに該当する英霊でもトップクラスに位置する王女メディアにそのような原則は通用しない。
何故なら令呪の効力とは使用者の魔術の力量次第で増減するからだ。
キャスターが発した令呪ならランクBの対魔力を持つジャスティスにすら一切の反抗を許さない埒外の効果を発揮する。


354 : Blitz Action(前編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:06:40 9MURi.sM0

「…反則技だな、キャスター。サーヴァントがサーヴァントを使役しようというのか」
「あら、魔術師がサーヴァントを従えることに何の不都合があって?
このお嬢さんのような魔術回路も持たぬ人間がマスターであるよりよほど理に適っているでしょうに」
「ならば、何故マスターを生かす?」

ジャスティスはキャスターが未だみくを殺さぬことに疑念を覚えていた。
キャスターによって令呪に酷似した何かを移植されたせいなのか、サーヴァントと令呪の両方を失ったにも関わらず消滅する兆候が見られない。
いや、よくよくレイラインを感じ取ってみればみくとの魔力供給のラインは残っている。

何にせよ上手い手だ、と敵ながら感心するしかない。
みくを殺したなら、彼女の命が既に失われたなら令呪の束縛があろうと思いきり抵抗しようという気にもなれた。
何もできず殺されるのだとしても、奴らに痛手や出血を強いることはできる。
しかしこうして人質に取られてしまっては令呪に関係なく迂闊な真似をすることができない。
なまじみくが無事であるという事実がジャスティスを縛る第三の鎖になっている。



「それは私が答えよう。…が、今は場所が悪い。
すぐに引き上げるぞ、キャスター。光実に感づかれてはいないか?」
「今しがた足止めに差し向けた竜牙兵が殲滅されたところです。
それから擬似令呪の移植は滞り無く済みました。ですが何時聖杯に感づかれ干渉されないとも限りません。まだ予断の許されない状況かと」
「わかった、引き続き経過の観察に努めてくれ。
撤収するぞ、長くこの場に留まるわけにもいかないからな」

キャスターが恭しく頭を垂れ従うと、魔術によって四人の姿は余人から隠蔽された。
後には半壊したアパートやコンクリートを抉られた路地だけが残った。


355 : Blitz Action(後編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:07:39 9MURi.sM0


「ふっ……!」

手にした拳銃が竜牙兵の頭蓋を打ち砕いた。
アーチャー、暁美ほむらは両手に持った銃を巧みに操り最小限の動きと魔力消費で次々と竜牙兵を撃ち抜いていった。

「いい加減に…消えろ!!」
『ハイィ〜!ブドウスカッシュ!』

ブドウロックシードのエネルギーを纏った龍玄脚が大型の四足歩行の竜牙兵を蹴り砕いた。
その後互いに背中合わせになる形で合流すると、敵兵が残っていないか慎重に確認した。

「……終わったようね」
「ああ、だけどこれ、どう考えても足止めだよね?」

戦いの中で、二人は自分たちにこのような雑兵を差し向けてきた理由を悟っていた。
肝心のサーヴァントは一向に姿を見せず、アウトレンジから奇襲を仕掛けてくる様子もない。
おまけに先ほどから目的地である前川みくの住所がある方角からけたたましい轟音が数度響いている。
光実とみくが接触することを快く思わない者による妨害工作であると気づかない方がおかしい。
勿論敵の狙いに気づいた時点でローズアタッカーに乗って強行突破を図ることも考えた。
しかし敵陣後方に嫌がらせのように弓を持った竜牙兵が多数配置されていたため、突破を諦め地道に倒していく他なかった。

「急いで前川さんの家に行こう。こうして足止めをしてきたってことは逆に言えば相手は僕らが前川さんに接触すると不味いって自白してるようなもんだ。
あのアーチャーを利用できなくなるのは痛いし、上手くいけば敵を挟み撃ちにしつつ前川さんにもう一つ恩を売れるかもしれない」
「そうね。何より前川さんが心配だものね」

光実の心の奥底にある迷いを見透かしたかのような嫌味に一瞬頭に血が上りかけるが、挑発に乗ってはいけないと己を戒めた。
もっともアーチャーを見る目が鋭くなることは仕方ない。

「冗談よ。行くこと自体は反対はしない。
ストレートに考えれば敵のクラスはキャスター。時間をかけて魔力を集めるほど強くなるタイプだから放置は得策じゃない」
「キャスターって確か対魔力を持ってる三騎士には弱いクラスだったっけ?
普通に考えればあのアーチャーに仕掛けに行くのは自殺行為にしか思えないけど……」
「ええ、私もそこが引っかかっているのよ。
もしかしたらキャスターの性質を持った別クラスや、イレギュラークラスの可能性もないではないわ」

戦闘が前川みくの自宅方面で起こったということは、先ほどのような遭遇戦ではなく、敵がみくを狙って仕掛けた戦闘である可能性が高い。
言い換えれば敵には何らかの勝算があってみくの怪物的戦闘力を誇るアーチャーを敵に回したということだ。
手を拱いていては最悪みくを利用する機会が永遠に失われるかもしれない。それ以外の感情もあることを光実は決して認めはしないだろうが。

「とにかく真っ直ぐ前川さんの家に向かう。戦闘になるかもしれないから変身は解かずに行こう」

無造作にロックシードを放り投げ、バイク型のロックビークル・ローズアタッカーを呼び出した。
敵の魔術によるものか、周りにNPCの目がない今ならさほど目立つ心配はしなくても良いだろう。
龍玄が搭乗し、後ろにアーチャーが乗り込む形でエンジンを始動、アクセルを全開にして駆け抜けていった。


356 : Blitz Action(後編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:08:29 9MURi.sM0







貴虎とキャスターが立てた作戦は大まかに言ってNPCの人払い、竜牙兵を差し向けての光実の足止め工作、前川みくとジャスティスの捕縛だった。
念には念を入れて眠りの魔術によってみくの意識を奪い令呪による援護を封じたものの、出撃前の段階で元から一般人に過ぎない彼女に状況に応じた令呪使用などできまいと結論づけられてはいた。
武器を持ったところでいざ本物の鉄火場に出くわせば足が竦み恐怖で冷静さを失いろくに身動きが取れなくなる。それが一般人というものだ。
前川みくが葛葉紘汰のような一握りの、戦いに関する天性のセンスの持ち主でないことは事前情報で既に明らかだった。

さらに対魔力というキャスタークラスにとっての鬼門を令呪によって打ち破った。
そうしておいてキャスターを後衛に置き貴虎が前面に立つことで互いの性能を最大限度に引き出してジャスティスを無力化することに成功した。
想定していた通り、マスターの性能に不釣合いなステータスに常時発動している能力まで持っているジャスティスは大技を撃った直後に魔力切れを起こした。
どんなにスペックが高かろうと稼働率が低くては兵器としての価値はガタ落ちするのは避けられない。
補給、兵站の維持・確保ができていた者とできていなかった者の差がそのまま結果になって表れた。

そして光実の足止めに向かわせた竜牙兵は数を多く投入するだけでなく、配置や行動パターンの設定を工夫することで十分な役目を果たしてくれた。
具体的には近接用の装備を持ったものにはヒットアンドアウェイを行わせ、遠距離装備の個体には遮蔽物を利用して射撃を行わせるなどの指示だ。
光実のサーヴァントが非力なこと、彼らが手の内を出し渋ったことが重なって対ジャスティス戦に介入されることは防ぐことができた。
元々キャスターがゴッサムのどこかで暗躍していることそれ自体は知られても問題なかった。
呉島貴虎がマスターであることの尻尾を掴ませなければ上首尾だったのだ。



そしてユグドラシルタワーに帰投した今、貴虎とキャスターは今回の作戦の成果を確認し合っていた。

「アーチャーの状態はどうだ?かなりの損傷を与えてしまったが……」
「外装は取り繕いましたが、戦闘に投入するには今しばらくの時間が必要です」
「やはりすぐに撤収して正解だったな」

作戦が最大限に上手く行っていた場合、鹵獲したジャスティスをそのまま光実主従にぶつける案も用意していないわけではなかった。
サーヴァントのみを倒し光実を捕らえ、ゲネシスドライバーを取り戻す必要があったからだ。
しかし結果から言えばそこまで上手く事を運ぶことはできず、ジャスティスは両腕を失い貴虎は疲労困憊、余力があるのはキャスターのみという状況だった。
未だ正体不明の宝具ないしスキルを持つ光実のサーヴァントを警戒して即座に撤退したのだった。
もしかすると光実だけはジャスティスが敵勢力に鹵獲されたことに気づくかもしれないがこればかりは如何ともし難かった。


357 : Blitz Action(後編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:09:11 9MURi.sM0

「例の場所に向かわせた竜牙兵ですが、マスターの読み通り収穫を持って帰ってきました。これを」

そう言ってキャスターが貴虎に手渡したのは小玉スイカの錠前、ウォーターメロンロックシードだった。
無論、それは元々デェムシュと交戦し命を散らしたグラスホッパー団員が所持していたロックシードだ。

「上首尾だな。これはサーヴァントの手で造られたロックシードだが、強化を掛けることはできるか?」
「先に一度試しましたが、原理・構造は既に把握していましたので問題はありません。
それとこの錠前ですがサーヴァントの道具作成スキルによって生み出されたためでしょう、そのままでも僅かながら神秘を内包しています。
これがあれば本当の緊急事態、つまり貴方が敵の奇襲を受け私が駆けつけられない状況に在ってもサーヴァントへ対抗することができるでしょう」
「そうか。今はさすがに無理だが後で性能テストをしよう」

オーバーロード・デェムシュと交戦したグラスホッパーのウォーターメロン部隊は壊滅し、戦極ドライバーもロックシードも失われた。
しかし、運良く一基だけ破壊を免れ現場に落ちていたロックシードを差し向けた竜牙兵が持ち帰ることに成功していた。
ちょうど他のグラスホッパー団員が駆けつける直前のことであり、ギリギリのところで鉢合わせを回避できた。
あまりに凄惨な団員たちの死体と大規模な破壊の痕跡でカモフラージュされ、ロックシード一基の紛失は見逃されたまま犬養舜二に報告されていたのだった。
職業訓練を受けた警察官、捜査官ならともかく元々民間人に過ぎないグラスホッパー団員たちにそこまでの捜査能力はなかった。
こうした経緯によって、ウォーターメロンロックシードがかつて元の世界で運用した貴虎の手に戻ってきた。



「私は一度仕事に戻る。定時を迎え次第、アーチャーを交えて今後の方針の打ち合わせをする」
「アーチャーを?何故ですか?」
「情報の共有とすり合わせはしておいた方が良いだろう。
それに奴にはある程度マスターを守る気があるらしい。我々があの少女に手荒な真似をする気がないことを伝えれば、こちらの目的にも賛同が得られるかもしれない。
情報漏洩に関しても、制御が出来ているなら問題はあるまい」

アーチャーのクラスには単独行動のスキルがあり、マスターを失ってもある程度は現界が可能だ。
キャスターの宝具を知らなかったジャスティスからすれば、脆弱なマスターを切り捨てる選択肢もあったはずだ。
しかし実際にはマスターである少女を守ろうと動いていた。貴虎はここにジャスティスを自分たちに心服ないし積極的な協力を引き出す可能性を見出していた。
令呪による強制だけではなく、利を説き少女の安全を保証すれば納得ずくの協力を得られるかもしれない。
そうなれば聖杯戦争をさらに円滑に進められるというものだ。

「…わかりました」
「今回、我々は相当大きく動いた。監視網すらすり抜けてこちらの動きを察知した者がいないとも限らない。
そういった不穏分子の早期発見・対処、防衛態勢の強化、それにオーバーロードやサガラについても捨て置くことはできない。
毎度仕事を増やして本当にすまなく思うがよろしく頼む」
「……マスター、一つよろしいですか?」

これはいけない。余計なことを聞こうとしている、と自覚しながらキャスターは口を開いてしまっていた。
あちらが黙っているのだから自分もそうすればいい、とわかっていながら。


358 : Blitz Action(後編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:10:02 9MURi.sM0

「どうした?」
「先ほどは危ういところを助けていただき感謝しております。
ですが……その、何故あのような真似を?」

先ほどの戦闘。貴虎はあろうことかキャスターを庇ってジャスティスの砲撃を受け止めた。
サーヴァントとは基本的にはマスターの戦闘代行者であり、悪い言い方をすれば聖杯を得るための道具だ。
いくらアーマードライダーの鎧と盾があると言っても、マスターがサーヴァントの盾になるというのは道理に合わない。
少なくともキャスターはそう考えていた。

「何故も何もない。ああでもしなければ君が殺されていただろう?
私とて自殺願望があるわけではない。君が強化を施した力があればこそ飛び出すことができた。
できる力を持つ者ができることをする。そこにマスターもサーヴァントもあるまい」

果たして貴虎の返答は全くもってキャスターの予想通りだった。
しばらく付き合っていれば嫌でもわかる。呉島貴虎は何時如何なる時でも為すべきと思ったことを為す、責任感が服を着て歩いているような男だ。
キャスターを庇ったのも、ただそうすることが正しいと信じたが故の行動だった。
その結果自分の身がどうなるかなど顧みることもせずに。

「ああ、そういえば言い忘れていたが、君の宝具は殺傷力こそないようだがあれはあれで素晴らしいな。
サーヴァントとマスターの契約を移し替える手段とはあれのことだったか」
「…え、ええ。正確には私の宝具はあらゆる魔術を初期化し無効にする対魔術宝具です」
「本来は他に数多いるだろう練達した魔術師のマスターや、君以外の魔術を操るキャスターに対して有効な宝具というわけか」

貴虎は勝手に納得したらしく、ひとしきり頷くと仕事に戻っていった。
この短刀が自身に向けられる可能性など、欠片も考えてはいまい。
もっともそんな節穴なマスターだからこそ、キャスターも宝具を見せるという選択を採ることができたのだが。



だが、内心でマスターを嘲るキャスターでさえ気づいていない誤算が生じていた。
彼らは確かに可能な限り慎重を期して行動し、秘密裏かつ速やかにジャスティスを鹵獲し自陣の戦力にするという快挙を成した。
密かに自分たちを見張っていた者の存在も考慮に入れ、対策を練ろうともしている。
それでも決して予期し得ない、間が悪かったと形容する以外にない誤算は常に存在する。







『みくでーす。李衣菜ちゃん、元気にしてる?
みくは今日からしばらく猫カフェ巡りのプチ旅行に行ってくるにゃ!
あんまり危ないところに行ったりしちゃ駄目だよ。……え、アーチャー、敵襲って……あ…な、に、これ……』

                 ――――――――とある一件の留守番電話のメッセージより







目新しい破壊の痕跡に、多大なダメージを受けたと思われるアパートメント。
それが前川みくの自宅に到着した光実とアーチャーが目にした光景だった。
人払いが行われたのかゴーストタウンのように周囲に人の気配はなく、安心して状況を検分することができたのは幸いか。
アーチャーが外の見回りを担当している間、光実は失礼とは思ったがみくの部屋を物色することにした。
玄関のドアに鍵がかかっていたが、緊急時につきブドウ龍砲で破壊して強引に部屋の中に入った。


359 : Blitz Action(後編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:10:44 9MURi.sM0

(やけに綺麗だ……)

部屋の中が整理整頓されているから出てきた感想ではない。
他の部屋の多くは外からでもわかるほど壊されているにも関わらずこの部屋にはそうした形跡が見られない。
さらに言えば部屋の中は全く物が散乱している様子もなく、争った形跡はなさそうに見える。

「ん?」

目を引いたのはみくの自室と思われるある一室。
猫の人形が飾られた勉強用らしき机にクローゼット、ベッドがあるだけという簡素な部屋。
クローゼットを開けてみると旅行用のトランクがポツンと置かれていた。万一に備えて纏められた荷物だろうか。
その部屋にある、何とか人が通れそうな窓が開け放たれ、床にはスマートフォンが落ちている。


「電源は…入ってる。誰かに電話していたのか」

通話履歴を調べてみると、しばらく前に何人かの知り合いに電話をかけていたようだった。
その中にはクラスメイトの多田李衣菜の名前もあり、最後はどうやら彼女の携帯電話と自宅に電話していたらしい。
多田李衣菜とは全く会話したことがないではないが、例によって光実は学校では没交渉な態度を取っているため当然親しくはない。

『マスター、そっちはどう?』
『床に落ちてた前川さんのスマホを見つけた。それから関係あるかはわからないけど部屋の窓が開いていた』
『こっちは色々見て回ったけど、どうも追撃戦が行われたわけではなさそうよ。
破壊の痕跡が一定の範囲内に留まっていて、周りの道路や建物には全く及んでいない。
部屋の中に血痕や物が壊された形跡はなかった?』
『いや、そういうのは全くないね』

これらの痕跡が導く事実とは何か。
光実、アーチャーともにしばらく考えこみ、やがてアーチャーが推論を立てて光実に再度話しかけた。

『ここから見えるけど、前川さんの部屋は二階にある。
だとすれば彼女が窓を開けて脱出した、という線は考えにくいし…どちらかと言えばそこから攫われたと考える方が筋が合っている?』
『攫う?殺された、じゃなく?』
『殺すなら部屋にいるところを暗殺するなり部屋ごと、もしくはアパートごと吹き飛ばせば良い話よ。
仕掛けたのがキャスターだと仮定すれば前川さんを人質に取ってアーチャーを降伏させた、と考えることもできるわ。
正面切ってあいつと戦うのは無謀すぎるけど、マスターを抑えれば話は変わる』

アーチャーの仮説はなるほどこの状況を見る限り信憑性がありそうに思えた。
恐らく襲撃者は先ほどの光実らの戦闘を何らかの手段で目撃しており、光実の進路を妨害しつつ怪物的戦闘力を有するみくのアーチャーを利用しようと考えたのではないだろうか?

『そうだとすると、まだ前川さんが生きている可能性はある…のか?』
『なくはないでしょうけど、用済みになった後始末されたかもしれないわね。
キャスターならマスター権の強奪が出来ても不思議じゃない』
『マスター権の強奪…だって!?』
『ええ、令呪を移植するだけの魔術の力量があれば十分可能よ。
それにもし生きていたとしても、死んだ方がましな目に遭っているかもしれない。
生死はどうあれ、どちらにせよ彼女に利用価値が残っているとは思えない』


360 : Blitz Action(後編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:11:22 9MURi.sM0

まるで早く前川みくのことは忘れて切り替えろ、と言わんばかりの物言いだ。いや、実際そう言っているのだろう。
アーチャーの意見が正しいことは光実とて認めざるを得ない。納得のいかない気持ちを抱えている方がお門違いなのだろう。
だが、それでも一つだけ譲れないことがある。

『なら、早く襲撃者の正体を割り出そう。あのアーチャーを利用しているならとんでもない脅威だ。
それに僕がマスターであることも知られているわけだから、このままじゃ後手後手になる』
『多分に感情論が含まれている気がしなくもないけど、今回は大いに賛成よ。
さっき私は一度時間停止を使っているから、そのトリックが解明・対策されるのは死活問題になる。
それに相手のクラスがキャスターなら、時間が経つほどあちらの防備や陣地は強固になっていくからますます脅威になっていく』

アーチャーが賛同しようがすまいが、光実の意思は既に明白だった。
襲撃者は前川みくを害した。つまりは光実のコミュニティに土足で踏み込んできたのだ。
自らの領域を荒らされた怒りが今の光実を強く突き動かしている。

無論、襲撃者がみくのアーチャーを擁している可能性がある以上早仕掛けが有り得ないことは重々承知している。
だが、絶対に楽には死なせないという暗い情念が浮かんでくることは止めようがなかった。



【UPTOWN SOUTH PT/1日目 午後】
【呉島光実@仮面ライダー鎧武】
[状態]肉体的ダメージ(小)、精神的疲労(小)、怒り、仮面ライダー龍玄・ブドウアームズに変身中
[令呪]残り三画
[装備]戦極ドライバー、ブドウ龍砲
[道具]鞄、ゲネシスドライバー、各種ロックシード、前川みくの鞄、前川みくの携帯電話
[所持金]現金十万程、クレジットカード(ゴールド)
[思考・状況]
基本:無駄な戦闘は避けつつ聖杯を狙う
0 襲撃者は絶対に許さない。絶対にだ。
1 前川みくを襲撃した陣営の正体と居場所を割り出す
2 アーチャーが弱すぎて頭が痛い
3 兄さんはマスターなのか?
4 赤髪のアーチャー(ジャスティス)、黒のライダー(バットマン)、ヘルヘイムの植物に警戒
5 勝利の為に全てを踏み台にする…?
[備考]
※所持ロックシードの内訳は以下の通りです
ブドウ、キウイ、メロンエナジー、ローズアタッカー、ヒマワリ
※前川みくがマスターだと気づきました
※アーチャー(ジャスティス)、ライダー(バットマン)のステータスを確認しました。
※ヘルヘイムの植物の存在に気づきました
※呉島貴虎がマスターではないかと疑っていますが確証は掴めていません。もしマスターであった場合殺すのは最後にするべきと考えています
※聖杯は時間の操作や平行世界への干渉も可能だと考えています
※前川みくの荷物から彼女の住所を知りました
※前川みくを襲撃したサーヴァントのクラスをキャスターではないかと考えています。
またアーチャー(ジャスティス)を支配下に入れている可能性も考慮しています
※多田梨衣菜とはクラスメイトですが、マスターであるとは気づいていません


361 : Blitz Action(後編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:12:09 9MURi.sM0

【アーチャー(暁美ほむら)@劇場版魔法少女まどか☆マギカ〜叛逆の物語〜】
[状態]魔力消費(微)、肉体的ダメージ(小)
[装備]魔法少女の服、双眼鏡
[道具]
[思考・状況]
基本:今のところは光実の采配に従う
1 前川みくを襲撃した陣営はできるだけ早く落としたい。が、早仕掛けは慎む。
2 場合によっては自分の判断で動く。
3 赤髪のアーチャー(ジャスティス)、ライダー(バットマン)、ヘルヘイムの植物に警戒
4 引き続き周辺を警戒する
[備考]
※呉島貴虎がマスターではないかと疑っていますが確証は掴めていません
※前川みく&アーチャー(ジャスティス)、ライダー(バットマン)の存在を確認しました
※光実の知る範囲でヘルヘイムについて知りました。
※前川みくを襲撃したサーヴァントのクラスをキャスターではないかと考えています。
またアーチャー(ジャスティス)を支配下に入れている可能性も考慮しています



【MIDTOWN COLUMBIA PT/1日目 午後】
【呉島貴虎@仮面ライダー鎧武】
[状態]肉体的ダメージ(中)、疲労(大)
[令呪]残り二画
[装備]黒のスーツ、魔力避けのアミュレット、対精神干渉礼装(試作型)
[道具]黒いコート、戦極ドライバー、各種ロックシード
[所持金]現金十五万程、クレジットカード(ゴールド)
[思考・状況]
基本:慎重に立ち回りながら聖杯戦争を勝ち抜く
0 光実を殺さずに済むのなら……
1 仕事を終え次第、キャスター(メディア)、アーチャー(ジャスティス)を交えて今後の方針を話し合う
2 グラスホッパーと武装勢力(志々雄真実の一派)の争いを静観し、マスターやサーヴァントの情報を手に入れる
3 自分がマスターであることとキャスターがユグドラシルに潜んでいることを極力知られないようにする。特にグラスホッパーの監視には注意を払う。
4 準備が十分に整ったら打って出る。その際は斬月に変身して正体を隠す。
5 ランサー(ウルキオラ)、オーバーロードに警戒。
6 できるだけ市民(NPC)に無用な犠牲を出したくはないが……
7 凌馬がサーヴァントとして存在するならば決着を着けなければならない。
8 今後自宅に帰るべきか、帰らないべきか……
[備考]
※所持ロックシードの内訳は以下の通りです
メロン、ヒマワリ×4、マツボックリ 、ウォーターメロン(改良型)
※キャスター(メディア)の魔術によって肉体及び斬月の機能を強化できます。
強化魔術が働いている間はサーヴァントにダメージを与えることができます
※ユグドラシル・コーポレーションの情報網から聖杯戦争に関係する情報を集めています
※グラスホッパーの内部にマスター、サーヴァントがいると考えています。
またそのサーヴァントは戦極凌馬ではないかと考えていますが確証までは掴んでいません
※武装勢力の頭領(志々雄真実)がマスターであることを把握しました
※呉島光実、前川みくがマスターであることを把握しました
※ヘルヘイムの森及びインベスの存在を認知しています。これについては聖杯が意図的にヘルヘイムを再現したのではないかと考察しています
※魔力避けのアミュレットはDランクの対魔力に相当する効果を得られます
※対精神干渉礼装(試作型)はDランク相当の精神耐性系スキルに相当する効果を得られます
※令呪は普段はキャスター(メディア)の魔術によって隠蔽されています
※ライダー(バットマン)、アーチャー(暁美ほむら)、アーチャー(ジャスティス)のステータスと一部スキルを確認しました
※オーバーロードインベス(デェムシュ)、キャスター(デスドレイン)、ランサー(ウルキオラ)の存在を認識しました。
※聖杯戦争と知恵の実を巡る戦いに類似点があると考えています。
また、聖杯と知恵の実の双方を掌握している黒幕がいる可能性を考慮しています。
※アーチャー(ジャスティス)を支配下に置いたため以後「叛逆の王」の影響を受けません


362 : Blitz Action(後編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:12:52 9MURi.sM0

ウォーターメロンアームズ@鎧武外伝 仮面ライダー斬月…スイカアームズのパワーを通常サイズのアーマードライダーで発揮することを目的に試作されたアームズ。
そのコンセプトに違わずエナジーロックシードをも凌駕するパワーと装甲を持つが装着者への負担が大きく原作で使用した呉島貴虎でも短時間しか動かせなかった。
ただし聖杯戦争ではグラスホッパー団員に普及させるため意図的に出力が下げられており、その分安定性が増し装着者への負担は軽減された。
アームズウェポンはガトリング機銃が取り付けられた大型の盾・ウォーターメロンガトリング。
原作では必殺技でもない弾丸が数発命中しただけで新世代ライダーに匹敵するスペックを持つ仮面ライダーイドゥンを変身解除に追い込むほどの威力を持つ。
ただし発射の際の反動、使用者への負担は非常に大きいと思われる。こちらも聖杯戦争では普及に伴いいくらかのデチューンが図られている。


【キャスター(メディア)@Fate/stay night】
[状態]健康
[令呪] 残り一画
[装備]ローブ
[道具]ヘルヘイムの果実(大量)、杖、ルールブレイカー、量産型戦極ドライバー
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れ、受肉を果たし故郷に帰る
1 今は貴虎の采配に従う
2 アーチャー(ジャスティス)を鹵獲した現場を察知した陣営がないかチェックする
3 そろそろ工房の防備を強化し、神殿化させる
4 陣地の構築や監視網の形成、ヘルヘイムの果実の解析、魔力炉の製作を進める
5 ランサー(ウルキオラ)、オーバーロードに警戒
6 状況次第では貴虎を見限る………?
7 少女(前川みく)を着せ替え人形にして遊びたい
[備考]
※ユグドラシル・コーポレーションの地下区画に陣地を形成しています。
今はまだ工房の段階ですが時間経過で神殿にランクアップします。
また工房には多量の魔力がプールされています
※陣地の存在を隠蔽する魔術が何重にも敷かれています。
よほど感知能力に優れたサーヴァントでない限り発見は困難でしょう
※現在ヘルヘイムの果実の解析を行っています。
解析に成功すれば果実が内包する魔力を無害な形で直接抽出できるようになります。
またさらに次の段階としてヘルヘイムの果実を材料とした魔力炉の製作を行う予定です。
※ユグドラシル・コーポレーションの支社長をはじめとした役員、及び地下区画に出入りする可能性のある社員、職員に暗示をかけ支配下に置いています
※使い魔による監視網を構築中です。
現在はユグドラシル・コーポレーションを中心としたゴッサムシティ全体の半分程度ですが時間経過で監視網は広がります
※グラスホッパー、武装勢力(志々雄真実の一派)、呉島光実、前川みく以外のマスター、サーヴァントに関わる情報を持っているかは後の書き手さんにお任せします
※魔力避けのアミュレットを貴虎に渡しました。 時間をかければより高品質な魔術礼装を作成できます。
※アーチャー(ジャスティス)対策のために精神防御に特化した魔術礼装の製作に着手しました。現在貴虎に渡しているのは急ピッチで用意した試作品です。
また礼装の研究・制作そのものは継続する予定です。
※グラスホッパー所有のヘルヘイムの果実を保管する倉庫を襲撃し、大量のヘルヘイムの果実と戦極ドライバー一基を奪取しました。
※ウェインタワーの上にいたサーヴァント(ジェダ・ドーマ)を視認しました。
※オーバーロードインベス(デェムシュ)、キャスター(デスドレイン)、ランサー(ウルキオラ)の存在を認識しました。
※聖杯戦争とヘルヘイムの関連性に関する貴虎の考察を聞きました。
※アーチャー(ジャスティス)のマスター権を入手しました。
※アーチャー(ジャスティス)を支配下に置いたため、以後「叛逆の王」の影響を受けません


363 : Blitz Action(後編) ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:13:30 9MURi.sM0

【前川みく@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的疲労(小) 、昏睡状態
[令呪]なし(擬似令呪)
[装備]私服、眼鏡
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本:何が出来るのか解らない。でも、現実から目を背けたくない。
0 …………。
[備考]
※呉島光実がマスターだと気づいていません
※アーマードライダー龍玄の姿を確認しました。光実とは気付いていません
※アーチャー(暁美ほむら)、ライダー(バットマン)のステータスを確認しました。
※ジャスティスの生前、願いについて知りました。
※会場内においては346プロダクション所属ではなく、普通の留学生ということになっています。
※令呪及びアーチャー(ジャスティス)のマスター権をキャスター(メディア)に奪われました。
※現在キャスター(メディア)に埋め込まれた擬似令呪で消滅を免れていますが、この状態が持続するとは限りません
※多田梨衣菜の携帯電話に通話を試みましたが通じなかったようです。
また梨衣菜の自宅に留守番電話のメッセージを残しています

【アーチャー(ジャスティス)@GUILTY GEARシリーズ】
[状態]魔力充実、ダメージ(大)、両腕機能停止中、令呪による強制
[装備]自身に備わる兵装の数々
[道具]
[思考・状況]
基本:キャスター(メディア)及び呉島貴虎に従う(令呪による強制)
1 ダメージを修復しつつ待機
2 マスター……
[備考]
※マスターがキャスター(メディア)に変更されました。
ステータス値に変更はありませんが、全スキル・兵装・宝具が問題なく使用可能になりました
※令呪による強制が働いています
1 キャスター(メディア)及び彼女のマスター(呉島貴虎)に従う
2 キャスター(メディア)及び彼女のマスター(呉島貴虎)に害、不利益をなすことを永久に禁じる。
害、不利益を齎すとは知ることを話さない、翻意を隠す、嘘をつくといった行動全てを含む(上記1の令呪によってより強力に作用している)
※バットマン、インベスの存在を認識しました
※暁美ほむらに宝具『叛逆の王』は機能しません。
※前川みくの来歴、願いについて知りました。


364 : ◆sIZM87PQDE :2016/04/24(日) 19:14:45 9MURi.sM0
以上で投下を終了します
かなり設定に踏み込んだ描写もあるので、感想・ご指摘をいただければ幸いです


365 : 名無しさん :2016/04/24(日) 20:36:29 pwhZzENw0
乙です
やっぱりメディアさんは王道を往く……キャスタークラスですね。
どんな強大な相手だろうと事前準備と作戦次第で倒し得るということを実証した素晴らしい戦いでした。


366 : 名無しさん :2016/04/24(日) 20:38:03 CS68MWxw0
投下乙!
ニーサン主従やっぱすげえ
キャス子の諜報能力とサポート能力、ニーサンの戦術眼と戦闘力が圧倒的に噛み合ってる
使える手札を惜しみ無く注ぎ込んで作戦を成功させた実力は見事と言わざるを得ない
とことん対策を行って襲撃してきたニーサン主従に対して地力で粘り続けてきた正義の戦闘力も凄まじい…支配下に置かれてしまったことで更に手に負えなくなることが予想できるから恐ろしい
みくにゃんを巡って呉島兄弟の対立が本格化しそうだ
留守電に気付くであろう李衣菜チャンも果たしてどうなることか…


367 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/25(月) 00:34:37 mnNDLFPo0
投下乙です。
貴虎陣営のこれまでの戦略が遂に実を結び、最強のアーチャーをゲット。
体勢としては盤石の状態ですが、あとは残された不備を取り除けるのか否かでしょうか。
みくの救いのヒーローになり得る光実と李衣菜が今後対処できるのかというところ。
それと、拮抗する戦闘描写は書き手としても是非参考にさせてもらいたいところです。


レデュエを予約します。


368 : 名無しさん :2016/04/25(月) 05:50:45 h697adeU0
投下おつです!
これはニーサンたちの作戦勝ちというかこれまでの積立もあってこそですね
強大なギアに立ち向かうニーサンって構図がすごいあの人らしくて似合ってた
ジャスティスはかつて洗脳により聖戦を起こしたりソルを引きこもうとしただけに因果応報でもあるけど
果たして反旗を翻したギアがこのままですむかどうか。みっちの件も合わせて結構な爆弾にも見えて続きがますます楽しみです
アスタリスクもどうなるかなー


369 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 19:57:24 A9b4D1bs0
投下します。


370 : Shadow World ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 19:57:57 A9b4D1bs0


 大前提として述べよう。
 グラスホッパーは決して正義のヒーローではない。

 上記の一文に込めた意味は、一見するとゴッサムシティの治安維持に貢献している彼等の実態が私刑による暴行傷害、殺人または殺人未遂の常習犯であり、まさしく無法者であるという事実への非難……ではない。
 ここで特に強調するべきは彼等の行為自体ではなく、そのような行為に及ぶ彼等の精神性だ。
 何故、グラスホッパーの団員達は犯罪者に対して過剰なまでの暴力を行使するのか。
 それは勿論、抵抗の余地を無くすためには再起不能になるまで痛めつけるのが確実な方法だと説明することが出来るし、もしグラスホッパーの面々が外部の者に尋ねられたら恐らくこのような返答をすると思われる。

 しかし、他に要因を挙げることも可能だろう。
 社会を脅かすマフィア共をただ避け、怯え、非道から目を背けるしかなかった無力な一般市民。そんな彼等の前に突如として現れたのは、圧倒的なカリスマ性を持つ犬養舜二という男性。彼の口は雄弁に正義を紡ぎ、彼の手腕は瞬く間に大規模な組織を創造した。
 そんな彼の傘下に一度入れば、マフィアにも劣らぬ正義の戦隊の仲間入りだ。しかも中には銃火器を跳ね除ける装甲と、屑共を容易く捻り潰せるパワーを得られる特殊スーツが与えられる者までいるという。
 悪と対決するために必要な物が、何もかもお膳立てされている。
 そんな彼等は既存の犯罪組織と対決し、当然のように勝利を収める。少し前までは考えられなかった下剋上を成し遂げた“元”弱者、彼等の前に平伏すのは少し前まで自分達を我が物顔で虐げてきた憎たらしい“元”強者。
 いかなる処遇を受けたとしても文句を言う権利など無い敗者をどのように扱うか決めて良いのは、そう、他でもない勝者である自分達。

 このような状況に陥れば、無理も無い話だろう。ぞくりと背筋を震わせた身体に任せ、敵を好き勝手に蹂躙してしまうのも。
 こいつ等は悪だ。正義の力を振るって何が悪い。ああ、胴を蹴る度に絶頂感が心地良過ぎてたまらない。銃を人に向けて撃ちたがっている米国人は少なくないと言うが、そんな夢想より遥かに素晴らしい現実がここにある。これだから、正義のヒーローはやめられないんだ。
 ……と、このような自己陶酔と破壊衝動が綯交ぜになった快楽をグラスホッパーの団員が多少なりとも抱き、身を委ねているとしても不自然な話ではないだろう。
 尤も、殆どの団員はそのような気質に無自覚であるだろうし、仮に外部の者にそう指摘されても「純粋な正義のために戦っている私達を侮辱する気か」と怒るのが関の山に違いないが。

 一つ言えるのは、これがテレビの画面や漫画雑誌の紙面で活躍する模範的な正義のヒーローならば決して抱かないだろう感覚であることだ。想いと力を兼ね備えた、本物のヒーローならば。
 だから、グラスホッパーの面々は背徳感に簡単に溺れる。ある日突然与えられたのはヒーローに相応しい力“だけ”。元々燻っていた純朴な正義感があったとしても、そんなものは力の強大さの前に容易に消えてしまうのだ。
 グラスホッパーは自らを、理想のヒーローになったのだと認識しているだろう。
 しかし果たして、その認識をするに相応しい人物は実際何人いるものなのだろうか。



◇ ◆ ◇


371 : Shadow World ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 19:59:02 A9b4D1bs0



 その三人の兄弟が犬養舜二の提唱した自警団の結成に興味を示したのは、三日ほど前のことだった。
 街に蔓延る悪人達がいなくなるのだとしたら嬉しいし、せっかくだし話を聞いてみるだけ聞いてみるのも悪くないだろうと思っただけだ。そんな理由でグラスホッパーを訪れた兄弟は、他の者達と同じく入団テストを受けることになった。
 その結果は、長男次男三男揃って合格。運動神経自体は決して悪くなかったし、性格診断で弾かれるような露悪的な性質を持ち合わせていなかったためでもあった。
 三人仲良くグラスホッパー団員となった彼等は、自警活動の際のチーム分けでもやはり同じ班へと振り分けられた。血を分けたたった三人の家族が、これからもまた一緒でいられる。長男が何より喜んだのは、やはり弟達との幸福であった。
 ただ、厳密に言えば一つだけ三人で同一でないことがあった。グラスホッパー内の何者かが開発したとされる最新型の戦闘スーツの支給対象者に選ばれたのが、二人の弟達だけであったことだった。気質と運動能力であと一歩及ばなかった長男は、上層部の定めた選考基準を満たせなかった。
 当然ながら、グループの中でも二男と三男が実戦を行い、長男が連絡や物品調達などの補助を行うという役割分担がされることになる。長男の威厳などあったものではない。
 思えば、三人の関係が歪み始めたのはこの時だったのかもしれない。

「ウォーホー!!」
「グワーッハッハッハッハ!」

 強面の男が一人、地に倒れ伏していた。肌の露出した部分は至る所が痣で変色し、身に付けている小洒落たスーツは赤黒く塗りたくられていた。
 周りに寝転がっている男達も似たような有様であった。その場に居るほぼ全員が、ただの死体に成り下がっている。
 例外は、黒い鎧武者となった次男と三男と、その姿を怯えきった表情で見つめる長男と、どうやらまだ辛うじて息のあるスーツの青年の四人だけだった。
 兄弟達に命じられたのは、勢力争いに敗れいわゆる負け組となった日系マフィアグループの制圧だった。
 所在自体は既に他のメンバーによって突き止められているため、難なく現場に急行して悪党共の退治を試みた。退治という名の、一方的殺戮を。

「おいおいおい、まだそこに生き残りがいたぜ」
「……あ、あのさ。もう解決したんだし、何も殺さなくても」
「アアン、何? 兄ちゃんビビッてんの?」
「ひぃっ」

 残る一人を手に掛けようとするのを止めようとして、睨み返されて、萎縮する。
 十分も経たたずに大方の構成員を殺し尽くした二人の姿を見て、長男は何度目になるかも分からない疑念を抱いた。
 目に付く悪を悉く皆殺しにした弟達が、果たして本当に自分の知る弟達と同一人物なのだろうか。豊かではない生活でも無邪気に笑い合えたあの弟達がこんな冷酷な殺人者になったというのは、本当に現実なのか。

「しっかし、このアーマードライダーってやつは最高だなあ! 偉そうにしてたマフィア共もゴミ扱いだぜ!」
「見た目も和風でニンジャって感じがしてイカしてるしな」
「それそれ。俺達は正義のニンジャってことだな!」

 きっかけは、三件ほど前の任務で同じように力を振るった際、意図せずにマフィアを殺害してしまったことだった。その時ばかりは、人生で初めて犯してしまった殺人の罪に震えていたものだった。
 しかし幸か不幸か、誰一人として弟達を責めなかった。正義のためにはやむを得ない犠牲だと言って、グラスホッパーのお偉方は赦しを与えたのだ。
 その時だったのだろう、弟達の中で「何か」が外れてしまったのは。
 それから今日まで、二人は与えられた絶対的な力を振るい続けている。暴行と殺人をどれだけ重ねても、そのことにむしろ快感を覚えている有様だった。

「……兄ちゃんのそういう目さ、マジむかつくんだよね。ライダーにもなれなかった三下のくせにさ。あんまり俺をイラッとさせると、マジで殺すよ?」
「サブロやめろってー。兄ちゃん涙目なっちゃってるだろ」
「……」
「お、ごめんごめん。もうクソ兄貴なんかほっといて、最後の掃除と行くか」
「ヨロコンデー!」

 また弟達が罪を犯す。それを見ている長男の中で、度胸が奮い立つ気配も無い。長男には最早縋るくらいしか出来ることが無い。
 おお、ブッダよ。まだ寝ているのか。
 狂気に呑まれた弟達を、誰でもいいから止めてくれ。
 この際、街に蔓延るあの怪物でもいい。今の彼等の抑止力になるのなら。
 いや、待て。あの怪物に縋ると言うことは、自分は弟達の生命を。
 でも、今の弟達はもう既に。
 でも、自分は兄で。


372 : Shadow World ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 19:59:54 A9b4D1bs0

「それじゃあ、街を汚す犬畜生のマフィア=サン、サヨナラ!」

 そんな長男に構うことなく、次男は最後の生き残りに槍を振り下ろした。
 次男の纏った鎧に血飛沫が飛ぶ。その手は汚れていく。

「ギャハハハハハハハハ!!」
「グラスホッパー万歳!! 俺達は最強だあ!!」

 涙に濡れる長男の視界の中で立っていたのは、絶対的な破壊者。
 そう、絶対的な破壊者が、立ってい“た”。

「……アイエッ……!?」

 突然、空気を裂く音が聞こえて。
 次いで大きく爆ぜる音が響く、その瞬間までは。

「やあ」

 次男の身体は、一瞬の内に爆発四散した。長男が何らかの決断を下すのを待つこともなく。
 呆気に取られる長男の前、次男がいたはずの場所に立っていたのはあの怪物に近しい姿の翠の何か。
 しかし人ではない異形でありながら、今、奴は確かに人の言葉を発した。
 異様過ぎる、未知の存在。それと相対している二人のうち、行動を起こしたのは三男の方が早かった。

「……ザッケンナコラー!!」

 マツボックリスカッシュ。
 手加減など無用とばかりに、三男は必殺の一撃を放つ体勢を完了させた。
 跳躍。そして落下する勢いに任せて、黒く輝く槍を突き出す。穂先に纏われるのは、迸るエネルギー。
 だが、怪物を殺すことは出来ない。
 あと僅かで貫くはずだった槍ごと、三男の身体は蔦に絡め取られていた。
 そう、蔦なのだ。コンクリート造りの屋内からどこからともなく現れた幾本もの蔦が、三男に向けて伸びているのだ。
 一度動きを完全に封じられた三男は、あとはもうひたすらに痛めつけられるのみ。身体を何度も叩きつけられ、装甲を何十度も斧で切り崩され、辛うじて繰り出す槍の反撃は容易くいなされる。
 まるで、赤子と大人の喧嘩。

「鈍イよ」
「グワーッ!」

 一分と立たずに壁面に叩きつけられた三男の変身は解除され、力無く壁にもたれかかる。
 ぼろきれのような痛ましい姿を晒す三男という得物へと、ゆっくりと翠の怪物が歩み寄っていく。
 重く響く足音の中で、その声は聞こえた。

「アイエエエ……助けて、兄ちゃん……」

 長男に助けを求める三男の声は純粋な叫びか、それとも時間稼ぎのための戦略か。
 長男の乏しい想像力では真意を見通せない。しかし、逃げようのない決断を迫られたのだということは確信出来た。
 自らの意思を放棄し続けた後悔。変わり果てた弟。元に戻りかけている弟。
 他人様に迷惑を掛けず、兄弟仲良くしなさいと言ってくれた声。

「ワオオオオオーッ! ……WASSHOI!」

 破れかぶれだ。叫び声で、己を奮い立たせる。
 落ちていたバールのようなものを手に取り、長男は怪物の前に立ちはだかった。
 どんな姿でも、こいつは弟だ。家族だ。
 彼を守るために闇雲に振り回したバールのようなものは、生憎と怪物に届かなかった。手から滑り、あらぬ方向へ飛んで行った。
 しかし、長男は止まらない。


373 : Shadow World ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 20:00:28 A9b4D1bs0

「ニンポだ! ニンポを使うぞ!」

 無意味な脅し。出来っこない忍法の構え。
 そんな滑稽で無謀な真似をしでかすほど、長男は必死だった。
 周りに流されてばかりだった長男の中で唯一確かに燃える感情が、発狂寸前の身体を突き動かしていたのだ。

「ふん」
「アバーッ……」

 しかし、その行為は不発。
 鳩尾を抉られ、長男の身体が数十センチメートルは浮かび上がった。即死こそ免れたものの、コンクリートの上に落下した全身は痺れて動かない。掌も膝も、持ち上がらない。
 遠く離れた先に、虫の息となった三男の姿があった。
 結局、自分には彼を助けられないのか。これで二人揃って息絶えるのか。
 死にたくないのに。
 死なせたく、ないのに……!

「……生きたいのカい? 弟と一緒ニ」

 翠の怪物が長男の顔を覗き込んで来たのは、三男に向けて声を絞り出そうとした直前のことであった。

「なら条件がアる。今カら私ノ言うことニ従えるカな?」

 言っていることの意味は、すぐには理解出来なかった。
 もうすぐ二人の命を摘み取るはずだった怪物の方が、何かの提案をしている。信じられない事態だった。何の理由があってのことか皆目見当もつかない。
 それでも言えるのは、声色にまるで飴のような甘ったるさがあったことだった。

「言うことを聞けば、本当に見逃してもらえるんですか……?」

 それでも、長男の頭は全力での稼働を再開し、返答を紡ぐ。
 藁にも縋るような思いで、仇敵であるはずの怪物に尋ねる。希望に、飛びつく。
 人間ではない怪物の表情がにやにやと笑っているように見えたことなど、どうでも良かった。

「うん。考えてあげルよ」



◇ ◆ ◇


374 : Shadow World ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 20:01:01 A9b4D1bs0



 もしもし!?
 た、大変なんだ!
 マフィアの制圧に行ったら、えっと、弟達がいきなり現れた知らないアーマードライダーに襲われて!
 そいつは白い、多分メロンのライダーで、弓を武器に使ってて、ジロもそいつに、こ、殺されて!
 とにかくあいつは危険なんだ!
 だから早く……?
 ア、アイエエエ!? サブロ、サブロナンデ!?
 嘘だ! はな、し、がぁっ!?
 ……ち……が…………あぁ、ぁぃぃぇ、えぇ…………

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 ぐしゃん。

 つー。つー。つー。



◇ ◆ ◇


375 : Shadow World ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 20:02:04 A9b4D1bs0



「こうでなくてはネ」

 と、レデュエは一人ごちる。
 そんなことを漏らした事実は多少の窮屈さを感じていたことの表れで、多少の溜飲を下げられたことの証でもあった。

 使い魔として召喚されたこと自体にさほど文句は無い。主であるあの蛇は、余程の下手を打たない限り基本的には不干渉だ。自由度は高いと言える。
 不便と思うのは、電脳の空間として構築されたゴッサムシティがいっそ笑えるまでに既知の要素で溢れていることだった。
 街の真ん中には見慣れたユグドラシルタワー。闊歩するインベスの退治に駆り出されるのは、お馴染みのアーマードライダーの群れ。自分達の存在も含めて、まるで沢芽市の戦いの再現であった。
 ここでレデュエが気がかりなのは、自分達フェムシンムを知る者達も聖杯戦争に参戦している可能性が否定出来ないことだった。
 デェムシュの奴が例によって例の如く見境無しに暴れ回っているのは容易に想像がつくため、フェムシンムの存在を最後まで隠匿するのは不可能だろう。
 しかし、それは面白くない。
 あの世界の人間達がどの程度聖杯戦争に関与しているのか分からない内に、向こうだけが自分達に対策を立てるためのを整えるのは如何なものか。
 レデュエの愉しみは、生死を懸けたぎりぎりの綱渡りへの挑戦などではないのだ。

 そう考えたレデュエは、ひとまず目に付いた黒影の集団を襲撃。雑魚程度は難なく蹴散らし、残された二人の男のうち一人を使っての情報収集を試みた。ちゃんと、ご褒美をちらつかせた上で。
 彼の身に付けていた腕章と、街角で拾い読みした新聞記事の内容を照らし合わせれば、巷で人気のグラスホッパーと呼ばれる自警団の一員であることはすぐに理解出来た。元の世界でアーマードライダーのシステム開発に関与した人物が、この世界のグラスホッパーに技術提供をしているらしいことも容易に推測可能であった。
 ならばヘルヘイムに関わる一連の戦いを知る他の者達もたゴッサムにいるのかもしれない。それこそ、あのユグドラシルタワーの中で活動をしていても何らおかしくはないだろう。
 だから、まず彼に問うた。呉島光実や呉島貴虎、葛葉紘汰や駆紋戒斗といった名前に聞き覚えは無いかと。
 その結果、駄目で元々だろうという予想に反し、思いのほか興味深い返答を得られた。
 最前線での戦闘を任されていないその団員は、情報収集活動を仕事の一つとしていた。そのためだろうか、同僚である他の若い団員が語った「呉島光実について調査するよう上に命じられた」という話を聞いたそうだ。
 付け加えれば、呉島光実がゴッサムシティでは兄と同居しているということも判明したという。また既知の関係だろうとレデュエが推測していた葛葉紘汰と駆紋戒斗は、そもそもゴッサムシティに所在を確認出来なかったそうだ。
 少なくとも呉島の兄弟の生存は確認出来た。しかし、彼等がマスターかNPCであるかまではまだ断言出来ない。

 ならばと、レデュエは次いで一つの命令をしてみる。
 自分達を襲ったのはメロンを纏う弓使いのアーマードライダーであると仲間に伝えろ。
 ぽかんとした表情を浮かべた男だが、早くしろよと脅かしつければ彼はすぐに実行してくれた。
 飴と鞭。人間の言い回シは確かに言い得て妙ダと、必死の演技に没頭する彼の姿を見ながらレデュエは思う。
 そんな彼と交わした約束をレデュエが律儀に守るのかと言えば、まあ、改めて語るまでも無いことであって。
 こうして、死体は二つ増えた。一転して攻め返すなんて展開になることも無く、三兄弟はただの負け犬として終わりを迎える。馬鹿じゃないのという嘲笑が、締めの一句だった。

「さて、ト」

 死した人間のことなど頭の片隅よりさらに奥へと追いやり、次にレデュエが考えるのは今しがた吐いた“嘘”のことである。
 メロンと弓の白いライダー。それは即ち、ゲネシスドライバーとメロンエナジーのロックシードの組み合わせで変身したアーマードライダーを指している。
 グラスホッパーの団員の大半は思うことだろう。そんなライダーが本当に存在しているのだろうかと。
 しかし沢芽市の戦いを知る者ならば、すぐに察しが付くだろう。そのライダーの正体が、呉島光実あるいは呉島貴虎であるという可能性に。

 いつ誰がどのような荒事を行ってもおかしくない、聖杯戦争という環境。
 レデュエが事を起こす前から元々グラスホッパー側に存在していたらしい、呉島兄弟への嫌疑。
 アーマードライダーの脅威性を熟知している彼等の前に突如現れた、自分達以外のアーマードライダー。
 沢芽の戦火を生き抜いた者でなければ存在すら知り得ない、ゲネシスドライバーによって変身した戦士の姿。
 とある人物がかつて自らの真の姿を隠して非道を行うために使ったという逸話を持つ、偽りの仮面。


376 : Shadow World ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 20:03:04 A9b4D1bs0

 こうして脅威を並べられた犬養舜二は、果たしてどのように動くか。
 正体不明のアーマードライダー――戦闘能力の高さだけは容易に推測可能であり、そして実は正体すら例外ではない――までもが遂に自分達に牙を剥けたという現実を、組織のリーダーとして放置出来るのか。
 グラスホッパーでの戦いは勝ち目のあるものばかりだと高を括っている大多数の団員にとって、足元を掬われた気分となることだろう。こうして生じる不安を全く除去しないまま、正義の集団が恐怖心に負けた小市民の群れに戻ってしまうのを見過ごせるものか。
 こちら側を明確に標的としてロックオンした仇敵がいつどこで君達を本気で殺しにかかってくるかも分からないが、そんなのは気にせず確証が得られるまでは皆も慎重に事を進めて、成果が出る時をのんびりと待ち続けよう……などということを、現に死人が出た段階に至っても尚言い通せるものなのか。

 ……切迫しつつある状況で、多少の不明瞭さが否めないながらも尤もらしくはある状況証拠が目の前にあったとしても。

「次は、君達ダね」

 レデュエの夢想は続く。あくまで夢想である。
 例えばの話であるが、もしも誰かが何かを理由として呉島兄弟を標的とした時、二人は何を思うだろうか。
 狙われた片方は、訳の分からないことを言うなを白を切るのが正解だろう。しかし、正論が通用しない暴徒という連中はいつの時代も存在する、
 そんな者達の横暴に付き合わされて、自らの大切なテリトリーが破壊されようとする様を見て、何を思うだろうか。

 加えて言えば、こうして標的とされた兄あるいは弟が第三者に有無も言わされず暴虐に晒されようとする姿を、残された「もう一人のきょうだい」はどんな行動を取るのだろうか。
 私/僕には関係の無いことだ。達成しなければならない目的がある以上、彼に構っている暇も無ければ割いてやる一切の余力も無い。火傷をするなら勝手にしろ。死ぬなら、勝手に死ね。
 一見すると非情な思考。しかし、犠牲を背負ってでも自分を曲げないという覚悟があると解釈すれば、レデュエから見ても貴い意志であると言える。
 何より、どれほど些細であっても余計な行動を取るなど愚の骨頂。たとえ身内の死という未来であっても受け入れ、動じないこと。それが、戦争における一つの必勝法なのだから。
 情という名の弱点など私/僕には存在しないと最後まで言い張り通すのが、最善策ということになるのだろう。

 ……本当に自らの決断を悔いない自信があるのならば、だ。

「ふふ、どう転ガってくれるかナ」

 くすくすと零れる嗤い声。それを、レデュエは止めた。もうそろそろ頭を切り替えようと考えてのことである。
 撒いた種が一秒や一分で芽を出すことなど有り得ない。だからと言って、早く育てと鉢に付きっ切りで過ごするのは非効率的と言う他無い。
 つまり、暫くは他所にも目を向けてみるのが妥当である。
 レデュエが欲するのは、まず情報。あとは矛にも盾にもなる協力者。
 ここで、手元の選択肢を見直してみる。

 第一に、聳え立つユグドラシルタワー。
 マスターの候補者であるアーマードライダー達の根城と言うべき巨塔は、一度精査してみたいものである。とは言え、どのような迎撃の準備をしていないとも限らない建造物の中を単体で巡るというのは流石に骨が折れそうなのがネックか。
 第二に、MIDTOWNのどこかに潜んでいると思しき未知のサーヴァント。
 午前中のことだ。やや遠く離れた地点で、複数のサーヴァントが激突する気配を察知。何事かと思って駆けつけたが、その頃には戦闘が決していたのだった。
 確認したものと言えば、戦場となった屋敷から一目散の勢いで走り去る一台の乗用車くらいだった。接触対象の候補として目だけは付けてくためにその車、引いてはサーヴァントを追跡。互いの正確な位置を知られない距離感を保ったまま、現在に至っている。
 ほんの思い付きでの寄り道をしている間に完全に失尾してしまった……と考えるのも早計か。時間には余裕があるのだから、改めてじっくりと捜索するのも悪くないだろう。仲良くなれたらそれで良し、嫌われたらあしらえば良い。
 対談するとなれば、沢芽市の知識やたった今確保した壊れたドライバーくらいなら話の種に出来そうか。
 第三に、街を往く有象無象の観察。
 最早コミュニティに属せない身なりのレデュエは、ゴッサムの社会が織りなす人間模様について聡いと言えない。そして、その社会ではマフィアとグラスホッパーが仁義無き戦いを繰り広げている。
 どの道グラスホッパーの団員には改めて話を伺うつもりではあるが、今の内に聞き出せることは聞き出しておくべきだろうか。


377 : Shadow World ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 20:04:39 A9b4D1bs0

「ふむ」

 ややあって、風に乗るかのような軽やかな足取りで踏み出した。
 決定した次の方針が、良い成果を生んでくれることへの期待感故である。先刻の悪戯が時間を掛けて芽吹く時への楽しみも、含まれているのかもしれない。
 何であれ、誰かとのお喋りに勤しめるのは良いことだ。

「自分ノ殻に籠っているうちニ、『たいせつなひと』が殺サれてしまうかもしれないヨ」

 こういう独り言を、ただの独り言で終わらせるのはつまらないものである。



◇ ◆ ◇



 誤解の無いように説明しておくと、レデュエの最終目的は聖杯の獲得である。
 自らの目的を認識しているから、ただ無軌道に動いたりはしない。彼女もまた他のマスター達と同様に、自らの保身と戦略を念頭に置く意識をきちんと持っている。
 慎重さが勝因となる聖杯戦争という場で、しかし彼女は第三者が見れば異様とも言える行動を取った。
 彼女の吐いた“嘘”は、呉島光実、呉島貴虎、犬養舜二の三名がマスターであるという前提に基づかなければ成立しない。そして、実際の所レデュエは三名がマスターであることへの確証らしい確証など碌に持っていない。
 彼等の尻尾を掴んだわけでも無いのに、打算的とも評されるような行動をレデュエは選んだ。三名がマスターであるという仮定を重視したのだ。



 何故ならば――そう考えるのが“愉しい”から。



 先程の嘘を基に今後の展望を考えてみれば、少なくともレデュエ自身に矛先が向けられる可能性は未だ低い。それ以外の可能性に至る可能性が高いと言える。
 即ち、必要最低限の保身は達成されている。
 この厄介な条件が満たされた時点で、レデュエが自らの悪戯心を抑制する理由など無かった。
 実益はとても大切だが、それだけではつまらない。自分の趣味も満喫しなければ、甦ってまで時間を過ごす意味が無い。
 そのために、まず既知の人間達を標的とする。勿論、あのデェムシュのようにレデュエ自身で戦うようなことはまだしない。
 レデュエが手掛けるのは主に下準備。望む光景は、同胞同士の潰し合いと殺し合い。この泥沼の様相を見物するのが、レデュエの好む楽しみ方である。

 内面に人一倍の嗜虐性を持つフェムシンムのレデュエであるが、通常の状況であれば多少は真面目に聖杯戦争に取り組んでいたのかもしれない。
 それでも彼女が結局このやり方を選ぶこととなった要因は、既知の人間がいたことであった。
 かつて言葉巧みに破滅への道へと誘導し、しかしレデュエ自身が志半ばで命を散らしてしまったがためにその末路を見ることの叶わなかった、あの呉島光実の存在が示唆されてしまったから。
 彼がただの肉人形ではない、自らの意思で活動する聖杯戦争のマスターであったと仮定すれば。
 ああ、それはなんと素晴らしい話だろうか。最高級の玩具として、彼がレデュエの前に再び現れてくれたということではないか!
 予想が当たれば大喜び。外れたら外れたで、興が削がれるというだけのこと。
 その程度の軽々しい認識があったからこそ、レデュエは少し積極的に行動を起こした。本来は何もしないうちに勝手に踊って壊れてくれるのが理想的だが、今回ばかりは事情が特殊だったのだ。


378 : Shadow World ◆T9Gw6qZZpg :2016/04/29(金) 20:05:31 A9b4D1bs0

 自らの考える“喜劇”のために、犬養舜二と呉島貴虎を巻き添えにしようと考えたことにも大した理由は無い。
 犬養舜二は、グラスホッパーという圧倒的な勢力の群衆を率いる人間。その一言で否が応でも状況を動かしていく優秀な舞台装置として、彼は打って付けだった。
 呉島貴虎は、かつて呉島の兄弟が手を染めた身内殺しの再現に必須の人材。結局は互いへの愛情を捨てきれないからこそ、この状況で干渉し合わないのは実に無粋。愛する弟と感動的な対面をする方が、外野から見る分には面白い。その先の末路を想像するのは、もっと面白い。
 呉島光実は、自らのコミュニティの保持に固執する人間。それを切り崩すために、協力し得る人間には最大限の手を尽くしてもらう。それでもしも実は全員がマスターだったと発覚するならば、随分な幸運だろう。
 本命ではない“ただの余興”として、彼が壊れる様を見届けるのが楽しみだ。
 理由なんて、結局これで十分なのだ。

 呉島光実、呉島貴虎、犬養舜二。立場も目的も異なる三名ではあるが、共通点が少なくとも一つある。
 彼等は彼等なりに、聖杯戦争という儀式自体には真剣に取り組んでいるのである。
 だからこそ、もしも事の真相を知れば彼等は等しく憤るだろう。
 生真面目なマスター達が必死に積み上げる戦略を、不真面目な愉快犯の分際で無闇に引っ掻き回すのだ。

 ただの勝利だけではなく自らの悦楽のために、人々を欺き、煽り、焚き付ける。
 自分達の戦力の適切な配分を決定するための彼等の考察に、無遠慮に介入しては攪乱する。
 確たる証拠が無ければ狙われないだろうとの前提に、確たる証拠も無しに狙っても別に構わないだろうと反駁する。
 無垢な少女と出会い、結果的には真っ当なヒーローの道を歩みかけている少年の世界を、妨害して陥れては堕落していくようにお膳立てする。
 自らの心の脆さのために、人々が混迷し破滅を辿っていく滑稽な様を観客席から嘲笑する。
 全ては、そのための“冗談(ジョーク)”。

 身内でも恋人でも同志でもなく、ただの玩具として。
 生命を、ニンゲンを、呉島光実を愛好している。

 レデュエとは、そういう女である。



【MIDTOWN COLUMBIA PT/一日目 午後】

【レデュエ@仮面ライダー鎧武】
[状態]健康
[装備]戦斧、量産型戦極ドライバー(破損により機能停止)
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:極上の悦楽と、聖杯の獲得。
 1.各勢力の動向を確認。障害になると判断した者は排除する。
 2.ユグドラシルやグラスホッパーなど、元の世界での関わりが想定される組織を警戒。可能なら調査、及び対立状態の促進を。
 3.せっかくの機会なので、呉島光実には今度こそ完全に壊れてほしい。
[備考]
※サーヴァント同様に霊核と魔力の肉体を持つ存在であり、霊体化が可能です。
※ウォッチャーからのバックアップによって魔力切れの概念は存在しませんが、
 魔力による負傷の治癒は他のサーヴァントと同様時間を掛ける必要があります。
※呉島光実とその関係者がマスターである可能性に期待しています。
※付近に一体のサーヴァント(エシディシ)が退避していると考えています。これから接触するかは未定です。



[全体備考]
※MIDTOWNにて活動していた数名のグラスホッパー団員がレデュエの襲撃を受け、殺害されました。
※団員の一名が死に際に「斬月・真による団員の殺害」という情報(大嘘)を他の団員へ伝達しました。
 ある程度の時間が経てば、グラスホッパー内の上層部も知ることになるでしょう。


379 : 名無しさん :2016/04/29(金) 20:07:22 A9b4D1bs0
投下終了します。


380 : 名無しさん :2016/04/29(金) 20:32:40 UvkjJwR2O
投下乙です

「マスターかもしれない」という疑惑ではなく、「マスターだったら面白いな」という期待の下にちょっかいを出す
傍迷惑にも程があるw


381 : 名無しさん :2016/04/29(金) 21:30:14 CWr.HuUU0
投下乙です。
単純明解な暴力を振りかざして場を掻き乱すデェムシュと違って、自らの愉悦と勝利のために狡猾に立ち回るレデュエは不気味だな…
グラスホッパーの暴力性は原作でも描かれてたけど、実際バットマンみたく犯罪者と紙一重の領域にあるから単純な善悪で測りきれないのが恐ろしい
そして原作よろしく力に溺れて関係が崩壊した三兄弟がショッギョ・ムッジョな…


382 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/15(日) 00:49:07 bTo1bUjw0
アーチャー(ジョン・『プルートー』・スミス)
予約します。


383 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/17(火) 21:56:26 jfFZXvwE0
投下します。


384 : 弓兵、学び舎にて黒飛蝗の美醜を垣間見る ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/17(火) 21:57:28 jfFZXvwE0



 アメリカンフットボールのグラウンドの端よりもさらに外側で、ベンチに腰掛け缶コーヒー片手に十代の男女との会話に興じる赤髪の女性はアニー・チャールトン。
 眼鏡とスーツで固めた理知的な姿こそが、『無銘の冥王(ジョン・プルートー・スミス)』にして『弓兵(アーチャー)』であるサーヴァントの彼女が持つ人間本来の姿である。
 二十代の頃の姿で再現されたことを理由に、社会学の論文の執筆作業中である一介の大学院生を名乗り、彼女は聞き取り調査の名目でハイスクールの生徒達と接触している。そんな構図が成立している。
 この構図を少し俯瞰してみた時、新たに一つ言えることがある。
 アニー・チャールトンは今、危険な状況に立っている。

 例えば、アニーと言葉を交わす生徒達は数日前から自警団グラスホッパーに所属している新人団員である。より具体的に言えば、彼等は『科学者(キャスター)』のサーヴァントと共に聖杯戦争の制覇を目指す犬養舜二の配下である。
 人海戦術による情報収集力に長けたグラスホッパーの面々の前にサーヴァントが自らの姿を見せびらかすのは、それだけで自らの立場を危うくすることを意味している。
 例えば、アニー達の遥か後方に立ち、彼女達のいる方向を眺める骸骨めいた怪物。これは『魔術師(キャスター)』のサーヴァントが聖杯戦争での勝利の一手として街に放った数十に及ぶ竜牙兵の一体である。
 稀代の才覚を持つ魔術師にとって、使い魔の眼を介してサーヴァントの姿を観察し、その能力を丸裸にする程度は容易だ。やはり、見られる側であるアニーは一方的不利な状況である。

 幾人もの外敵の前に実体化した自らの姿を晒すという無謀な真似に及ぶアニーは、しかし、追い詰められてはいない。
 何故か。
 それは、団員も使い魔も含めて誰一人として、アニーがサーヴァントだと認識出来ていないためであった。

 アニーが持つスキルの一つ、「変身」。彼女が仮面と衣を纏い、ジョン・プルートー・スミスへの変化を為し、サーヴァントの本領を発揮するための能力である。
 そして、このスキルの別解釈の結果として、アニー・チャールトンとしての今の彼女はサーヴァントと見なされない。
 発生しているのは擬似的な気配遮断作用と、情報秘匿作用。
 マスターの瞳はクラス名やステータスを視認出来ず、他のサーヴァントも特有の異質な気配をまともに感じ取れない。ディック・グレイソンがアニーとスミスを結び付けられないのと同じく、誰も彼女が英霊を模した戦士であるなどとは露とも思わない。
 生前の彼女の方から自ら正体を明かした相手を除いた全ての人間達が、そうであったように。
 当然、アニーの方から自らの正体を説明することも無い。だから、言葉を交わす若者達はアニーの秘密には気付けない。
 団員達は、彼女をただの大学院生として扱うだけに留まっている。竜牙兵は“アニー達がいる方向”を眺めているだけでしかなく、決してアニーを見つめているわけではない。
 ギリシャの神話に名を残した魔術師と、大宇宙から齎された神秘の究明を志した科学者を相手に未だ優位にこそ立てずとも、ただ不利にも陥らない。
 これもまた、素性を一切明かさずとも米国の民から守護者として畏怖された『神殺し(カンピオーネ)』が誇る逸話、その一端の具現であるのかもしれない。

 こうした理由により、アニーはハイスクールでの情報収集活動の大方を無事に済ませることとなる。
 未知のサーヴァントが自らの監視下を堂々と徘徊していたという事態に二人のキャスターが気付くことは無く、よって彼女の存在を改めて注視する必要性も生じない。
 一人の女性がお喋りをしていた。どこにでもいそうな市民が、誰でもするような行動をしていた。そんな、何ら特筆するべき点の無いごくありふれた光景だけがあった。






385 : 弓兵、学び舎にて黒飛蝗の美醜を垣間見る ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/17(火) 21:58:25 jfFZXvwE0



 ユグドラシル・コーポレーションが数年前から着手している教育事業の一環として開設された私立のハイスクールでは、休日であっても生徒の姿を見かけることが出来る。
 理由としては校内の施設を休日でも解放していること、自主練習に勤しむスポーツクラブ所属の生徒が多いことの他、治安の悪辣さに配慮した学校理事側が校舎付近に建設した寮での生活を生徒に推奨していること等も挙げられる。
 米国人以外であってもゴッサムに居住する者の好例として、スクール内でも有名な呉島光実というユグドラシルの御曹司が挙げられるらしいが、こんなものはレアケースなのだ。
 しかし生徒の自主性を重んじるべきという建前もある以上、親元を離れての通学となりながらも寮生活を希望しない生徒に対しては、ゴッサムシティ内でも比較的治安の良いUPTOWNの区画内での居住を手配することとなっているとのことだ。一人暮らしにしろホームステイにしろ、安全な生活がユグドラシルによって確保されている。
 自分達の管轄下で大事が起きたら評判の悪化も避けられない以上、尽くせる手は尽くすという所だろう。だったら最初からこんな街で学校運営などしなければいいでしょうに、と言うのは流石に野暮か。

 ともかく、生徒達が休日でも学校を訪れやすくなる理由には事欠かないのだが、近頃は更に積極性を持たせる理由が生まれている。
 急成長を遂げる自警団グラスホッパーの面々が、治安維持と売名のために校内を練り歩いているのだ。
 入団試験をパスさえすれば良しということもあり、既に他のクラブに所属していながら兼部の感覚でグラスホッパーへの入団を希望する生徒も少なくないという。その甲斐あってか、単純な人数だけならアメフトクラブの部員数を追い越すのではないかという憶測まで飛び出すほどだ。
 そんな彼等は街のニューヒーローとしては今日も大層立派に働いているが、勉学を本文とする学生としてはあまり褒められたものではないらしい。

 アニーが聞き込みを行った生徒の三人目は、詩織という名前の日本人留学生であった。
 その詩織曰く、平日の講義を平気な顔でサボタージュしておきながら今日はいけしゃあしゃあと学校に来ている生徒もちらほら見かけるらしい。
 日本と違って米国では一般的な選択受講型のカリキュラムを導入しているスクールに一日中いて、その日に受けたどの講義でも欠席の生徒がいたから驚いた、だそうだ。
 二十四日から始まる冬季休業を待ちきれず……という理由では断じて無い。彼等が何をしていたのかと言えば、徒党を組んでの校外での警備活動だ。たまたま昼食のテーブルで隣り合った「島」という名前の男子生徒が得意げに語っていたのを、詩織は耳に挟んだという。

 貴方は興味が無いのかと尋ねてみたところ、詩織は「犬養って人は凄いけど、周りの人達はなんだか怖い」と語って拒否感を示していた。
 同じく留学生であり、詩織とはそれなりに口を利く間柄である「みくちゃん」という少女とも以前にそんな話をしたことがあるそうだ。自分のようにどちらかといえば大人しいタイプの子は、大体そのような態度になると思うという自己分析も付け加えられた。
 賢明な判断だろう。聖杯戦争との関連性が想定される点を差し引いても、碌な集団では無いのは明らかだ。
 グラスホッパーによるものと目される殺傷事件が後を絶たないと、ディックの身を置く市警でも悩みが尽きないという。そのことをアニーに語った時の沈痛さを隠しきれない面持ちと、それ故に醸し出される少年を脱却した男性特有の奥深さをアニーは今も脳にしっかりと焼き付けている。

 閑話休題。聖杯の都合で連れられて来たこの辺境の地で、下手に乱暴事に関わって魂を無駄に散らすこともあるまい。「それが良いでしょうね、シオリ」とだけ言っておいた。
 ここまで話したところで、友人との約束の時間があるということで詩織とは別れることになった。
 グラスホッパーの拡大の様相を少し知れただけでも、良しとしよう。
 それと、敷地内ですら風紀が乱れ始めているようなハイスクールの理事長という役割を割り振られたNPCには、少しだけ同情でもしておこう。



◇ ◆


386 : 弓兵、学び舎にて黒飛蝗の美醜を垣間見る ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/17(火) 22:00:18 jfFZXvwE0



 八人目と九人目の相手は、まさにそのグラスホッパーの団員であった。恋仲の男女であり、揃って入団したのだという。
 彼等と言葉を交わす中で、グラスホッパーへの好意的なニュアンスでの興味を匂わせてみた。堅物な印象を他人に与えると自覚しているようなアニーが、ふと態度に綻びのようなものを見せたらどうなるか。
 結果は予想通り。嬉々とした表情で犬養の理想の素晴らしさを切って貼ったような言葉で説かれた挙句、何かあった時のためにと連絡先まで教えられた。末端メンバーの連絡先だけで犬養との接触が叶うとは思っていないが、とりあえず貰っておき、あのディックがこのアニーのために購入した携帯電話に登録した。

 そして、そんな彼等を見てアニーは思う。軽い、と。
 民間団体という特徴と、犬養の持つ求心力が合わさった結果、人々はグラスホッパーに対して既存の公安機関よりも距離感を近いように感じているようだ。だから、彼等はグラスホッパーをクラブ活動の延長線上にあるも同然の認識をしている。
 数の力と戦略が功を奏し、ほとんど死者を出さずに成果を出し続けている新鋭組織グラスホッパー。その姿は人々の心から「この組織に関われば自分こそが犠牲者になるかもしれない」という恐怖感を薄めさせ、垂らされた蜜が羽虫を惹き付けるように人々を取り込む。
 それでも有力な兵士でない者ならば最前線に送り込まないということで、数を確立するという結果は出せるし、広告塔の役割くらいなら与えられる。アニーの話した男女はまさにその口、処理能力よりも人当たりの良さを買われたタイプなのだろう。勿論、二人に自覚は無い。
 ちょっと危険なアトラクション感覚で、ヒーロー活動に没頭する男女。大義と恋愛を両立する若者。
 実に馬鹿げている。
 十代の頃にアステカの魔神テスカトポリカから権能を奪って以来、人々を脅かす神々との闘争に明け暮れたがために異性との恋愛を楽しむ暇も無い青春を送ったアニー・チャールトンの例に倣えば、文句の一つも言いたくなる。が、ぐっと堪えた。
 ヒーローを名乗るなら、生活と生命を投げ打たねばならない覚悟をしなければならないのだ。全く、彼等はヒーローを何だと思っているのか。怒りのままに手に持った缶コーヒーの残りを浴びせなかっただけ、よく我慢したと自分を褒めたいくらいだ!

 閑話休題。そんな彼等であっても、情報の引き出しには使える。
 物は試しで尋ねてみる。警察やグラスホッパー以外に、自警活動をする人っているのかしら。いたとしたらグラスホッパーに協力してくれても良さそうなのに。
 それを聞いて、男女は語り出した。どうせ他の生徒もするような噂話だし良いだろうということである。
 挙げられたのは、闇夜を翔る黒と青の男。間違いなくナイトウイングのことを言っているのだろう。真っ当な意味でのヒーローとして名が売れ始めるディックを想い、他人事ながら鼻が高くなるような気分である。
 表情に出さず喜ぶアニーの前で、男の方が次に口走ったことを女が慌てて制する。「緑の……」とだけは、聞こえた。
 その途端に気まずそうな態度を取った彼等は、シフトがどうやらと理由を付けてそそくさとアニーの前から去って行った。追及したところで無駄だろうと考え、そのまま見送る。
 それにしても、いくら下っ端とは言えあの程度の心持ちでヒーローをやれるというのはどうしたものか。
 組織の末端へ下れば、外縁側へ行けば行くほど、純粋な士気だけではなく馴れ合いの側面が目立ってくる場合もある……というのも仕方が無いとは、分かっているが。
 体の中で、苛々とした感情が増大していく。それを押しつぶすように、アニーはすっかり温くなった缶コーヒーの残りを一気に飲み干した。



◇ ◆ ◇


387 : 弓兵、学び舎にて黒飛蝗の美醜を垣間見る ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/17(火) 22:01:43 jfFZXvwE0



 サーヴァントとして召喚された今のアニーには、生前に頼りにしていた協力者達が側にいない。
 その代替としての働きを持つのがディック・グレイソンであり、彼の所属する警察組織の情報網であるが、これを有効活用するためには起点となる情報が必要となる。
 その情報を集めるためにアニーが行っているのが、正体を特定される危険性の低さを利用した、直接の対話による情報収集である。
 そして今日行ったユグドラシル傘下のハイスクールでの聞き込み活動の結果、市民視点でのグラスホッパーの活動状況を知ることとなった
 勿論、組織の有力層にいる者達から聴取した内容ではない以上、さほど具体性のある収穫は無い。それでも、情報収集を責務の一つとする機関としてはそれなりに有力であるというのが分かっただけでも十分とするべきか。成果のお零れまで貰えたのは事実だが、それはそれとして憂えずにはいられない。

 歪ね。

 アニーの率直な感想だった。
 前線に立つ者が戦士の皮を被った暴徒に成り果て、かと思えば小市民の感覚がまだ抜けきらない半端者の存在の完全な排除に成功していない。
 犬養舜二の類稀なる統率力及び政治力。彼に惹かれた者達の頭数の、目を見張るほどの大きさ。これらの要素が何よりのグラスホッパーの大きな売りであり、逆に言えばそれ以外の部分ではどうにも欠点が目につく。
 果たして、この状態で彼等を街の同居人として信頼して良いものかどうか。
 例えば、帰り際にこうしてアニーが発見した未知の脅威に対応できるのかといった点が気がかりだ。

「キャスターの気配が無いと思ったら、これは」

 アニーの行う調査活動には、一介の魔術師として持つ技術の活用も含まれている。
 戦闘の痕跡があれば、残された物品から魔力の有無を探ることが出来る。そこから対策を練ることも可能だろう。
 キャスターが持つ陣地作成スキルによって形成された結界に対して、その存在自体を察知することも別段不可能ではない。生前からして、拠点を結界で囲う魔術師を協力者の一人としていたのだから。
 しかし、アニーが魔術師として行った捜索は空振りとなった。大きなアクションを起こすまでもなく明らかなことであった。この敷地内で刃を交えたサーヴァントはおらず、また拠点としているサーヴァントもいなかったようだ。
 ……というのは、どうやら勘違いだったか。

「ねえあなた、早くそれを」

 数時間前に通り過ぎた時には何も無かったはずの図書館裏に、植物が生えていた。地面に雑草や花が生えているのではない。壁面に、蔦が鬱蒼と生い茂っているのだ。
 中心にはおどろおどろしい色の果実が数個。驚いたことに、僅かに魔力が感じられる。
 その一つが、ジャージ姿の男子生徒の手の中に会った、果肉が見えているのは、アニーが発見した時点で彼が齧り付いてしまっていたという証だ。
 明らかにこれは拙い。
 吐き出しなさい、と警告しようとした。が、既に遅かったようだ。

「あ、あ、あああああぁぁぁぁaaaAAAA■■■■■■■■!!」

 少年の肉体が緑の輝きを放ち、ぐしゅりぐしゅりと変形していく。
 そのたった数秒で、人間は怪人となった。

「……ふぅ」

 人が人の尊厳を無くした姿を目の当たりにするのは、アニーの職業柄珍しいことでは無かった。
 しかし、何一つ感慨を抱かず受け流すことが出来るわけではない。
 しかし、彼女は生じた感情を一度隅に追いやり次の行動を思考する。彼女はそれが出来る戦士だから。
 産声代わりの咆哮を聞きながら、一歩退く。そして懐に手を伸ばす。
 それはジョン・プルートー・スミスではないアニー・チャールトンが敵に対抗するための手段。
 カンピオーネであるジョン・プルートー・スミスが協力者の先行を第一手に選ぶのは、決して横着によるものではない。権能にして宝具である『超変身』と『魔弾』、そのどちらもが発動にデメリットを伴うためだ。浅い考えで力を振るってしまえば、すぐに自らを窮地に追い込む羽目になる。
 だからこそ、まだ彼の出番では無い。
 あと少しのところまで迫る凶器、食らうより前に手を打たねばとアニーは動く。が、それは不必要となるようだった。


388 : 弓兵、学び舎にて黒飛蝗の美醜を垣間見る ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/17(火) 22:02:44 jfFZXvwE0

「早く逃げてください!」

 懐からそれを取り出すより前。
 大きく呼びかける声が聞こえた。怪物と共に目を向ける。
 二人の少年がこちらへと駆けてくるのが見えた。腕にはグラスホッパーの腕章。腹部には大きなバックル。手には……錠前?

「「変身!」」

 揃って錠前をバックルに装着し、側部のパーツを傾ける。
 途端、二人の団員は大きなマツボックリに包まれ、鎧武者へと変身した。そうとしか言いようが無い。
 唖然とするアニーと怪物の間に割って入った二人は、すぐさま手に持った槍を怪物に突き立てた。そのまま、得物と得物の応酬が始まる。
 言われた通りに一度引き下がり、その様を物陰から見つめながらアニーは考える。
 彼等の技量は、特段劣ったものでも無い。敵からの攻撃を全て受け流すほどではないものの、連携の体勢を崩されることなく反撃に臨む。
 人外の敵に対して臆することなく戦う姿を見るに、ある程度の場馴れをしているのだろう。
 ゴッサムにあの怪人が現れるのは、これが初めてではないということか。

「決めるぞ」
「はいっす!」

 一人は正面から、一人は上方から。
 眩い色を伴った二本の槍で、怪物を同時に串刺しにする。直後、怪物の身体は爆風となって砕ける。
 決着が着いたか。
 敵を排除してなお二人は周囲を見回しながら、まさかこの短時間で現れるなんて、といったようなことを語り合っていた。
 安全が確保できたとの判断だろう。やがて彼等は変身を解き、アニーの方へと歩み寄る。

「……多くは語りません。いいですか? このことは絶対に口外しないと約束してください」

 逃げていなかったことへの呆れを滲ませながら、彼等はアニーに警告を示す。興味本位で首を突っ込もうとする市民を突っ撥ねる意図が込められているのだろう。
 もし口外したらどうなるのか、彼等は語らない。

「わかりました。約束します」

 いつも鉄面皮ばかり浮かべてしまう性分が幸いした。恐怖で顔が固まっていたのだと解釈されたようだ。
 無力な民間人への対処を終えた彼等は、何者かとの連絡を取り始める。最後の後始末といったところか。
 あまり長居しては却って疑われる。普段より早めの歩調を心掛けながら、アニーは彼等の下を離れる。

「……あ、あのっ、先輩!!」
「あ? どうしたんだよそんな切羽詰まった顔して。わざわざ走って来たのか?」
「タロっ……タロが殺されたんですよ! なんか、白いアーマードライダーがって……!」
「バっ、お前……!?」

 また、新たな誰かの声と駆ける足音。心配そうな表情を出来るだけ心掛けながら、一度だけ振り向く。
 顔面を真っ青にしている団員は、先程の八人目の聞き込み相手だった。そのことにアニーが気付いた一秒後、先輩団員の目が向けられる。
 早く行けって言ってるだろ。
 瞳には、これでもかと苛立ちを含ませていた。特に怖いとも思わないが、仕方が無いので今度こそそそくさと立ち去ることとした。



◇ ◆ ◇ ◆


389 : 弓兵、学び舎にて黒飛蝗の美醜を垣間見る ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/17(火) 22:03:34 jfFZXvwE0


 アーマードライダーとは、あの鎧武者を指しているのだろうか。
 Riderであるかは疑わしいが、少なくともArmedではあると言えるだろう。用語自体が団員の間の共通認識であるらしいのを鑑みるに、共通装備として運用されていると思しきあの鎧こそがアーマードライダーであると考えるのが無難か。
 そして、アーマードライダーの力はグラスホッパーの専売特許ではない。
 まず団員を殺したという白いアーマードライダー。団員の一人が言いかけた緑の何者かも、もしやアーマードライダーのことか。機密事項を漏らすなという意味で、彼の恋人は口止めしたのかもしれない。

「厄介な話よ」

 ぼやきたくもなる。
 ナイトウイングも流石に苦戦を強いられるだろう、アーマードライダーの装甲が持つ耐久力と攻撃力に悩んでいるだけでは無い。その強大な力が、民間人上がりの自警団の手で独占同然の状態となっていることが悩ましい。
 彼等の纏う鎧が確かに優れた逸品だろう。しかし、中身は結局ごく普通の人間なのだ。
 人の死に慣れていないから、身内の死に狼狽する者がいる。その一方で、「英雄的体験に酔いしれているのか不必要なまでの暴力を行使する。
 時間を掛けた精神の熟成という過程を経ず、唐突にヒーローの資格を得た彼等に対してアニーが抱く不安。
 聖杯戦争の敵対者として戦う場合を想定した時の苦労は勿論ある。しかし、ヒーローとしての働きをどれほど期待して良いのかの疑念も含まれている。
 あの未知の植物と怪物への組織的な対策という点を加味すれば、現状での彼等は街の守護者としては十分に認めても良いだろう。
 しかし、英霊の写し身である超常の戦士達が蔓延るこの街で、彼等はどこまで戦い抜けるのか。
 悪魔の歪笑に怯えて心をへし折られるのが先か、はたまた鎧の性能に物を言わせた勝利を口実に、守護者気取りの支配者になるのが先か。

「ディックの邪魔だけは、しないでほしいものだけど」

 聖杯戦争での最終目標を未だ決められず、しかしゴッサムの守護という意思だけは揺るがないディック・グレイソン。
 そんな性格もまた立派な美点だと思うからこそ、アニーは彼に奉仕する。彼がどのような決断を下しても良いように、下準備だけは重ねている。
 そんな彼の前に、いつかグラスホッパーの存在は障害或いは足枷として現れるだろう。
 グラスホッパーが持つ守護者以外の厄介な側面が露わとなった時、彼はどのように立ち回ればいいのか。
 その方針の決定のためにも、まずは彼と会うべきだろう。
 彼と逢瀬し、彼と少しでも長くの時間を共有し、彼のパートナーとして彼の前で立派に働く。これこそがサーヴァントの果たすべき責務なのだ。

「……悪いわね」

 ハイスクールの敷地を出てから暫くの後、ディックへの連絡を試みようとした夕焼け時でのことだった。
 場所は人目に付かない物陰の路地。
 出くわしたのはまたも怪物。その姿は、山羊を思わせる。
 周囲には人っ子一人いやしない。今度こそ、助けは期待出来そうにない。

「今のあたしには、あなた一人を思いやってあげる余裕が無いの」

 どうやら、あの植物と果実は想像以上に繁殖範囲を広げつつあるらしい。
 その事実を苦々しく思いながら、アニーは構えるのは一丁のリボルバー銃。先程は終ぞ使い損ねた、生身のアニーでも使える武器である。
 闇エルフの手で作られたエオル鋼製の魔銃に、鉛玉は一発たりとも装填されていない。アニーが生身の状態でも『魔弾』を放つために存在する逸品なのだ。
 しかし、ここで撃つのは『魔弾』ではない。アニー自身の魔力で形成した、単なる魔力弾。魔術師としては中の上のアニーでも行使可能な攻撃手段。
 ……それは、まつろわぬ神はおろかその配下の獣にすら碌に通じなかった程度の威力しか持たない。
 聖杯戦争の場で例えれば、サーヴァントの身に宿る神秘性には殺傷力を減衰させされ、三騎士が持つ対魔力のスキルにもまた威力の減退を余儀なくされる程度のもの。
 身体能力では常人とさほど変わらない程度のアニーがこの戦い方を選んだところで、少なくともサーヴァントには勝ち目が無いのだ。
 その前提を踏まえて、アニーは怪物に銃口を向ける。しっかりと、狙いを定める。
 怪物の大角が、細い肢体を無残に破壊せんと迫り来る。

「でも、祈るくらいはしてあげるわ」

 BANG!
 銃声は、数度響いた。


390 : 弓兵、学び舎にて黒飛蝗の美醜を垣間見る ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/17(火) 22:04:03 jfFZXvwE0


◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 アニーの魔力弾は、怪物――インベスに通用するのか。
 この問への解答を示すためには、説明を幾つか付け足す必要がある。

 アニーの魔術師としての技量は、精々中の上といった程度である。
 しかし、神を殺しただけあって呪力だけなら超一級者すら凌駕する。

 アニーの魔力弾は、まつろわぬ神の使役する獣には通用しなかったという事実がある。
 その獣とは、幻想種の中でも最高位に位置するとされる神獣のことを指している。

 インベスとは、ヘルヘイムの森が生み出した『禁忌の果実』によって人間が変貌した怪物である。
 果実自体の神秘性のランクは低く、また上位種へと進化したわけでも無い個体のインベスを定義するならば魔獣かそれ以下か。

 これらの条件を踏まえた上で、先程の問を再考したならばどうなるか。
 超級の英霊である彼女が放った魔力弾は、怪物としては二流であるインベスに通用するのか。
 答えは、歴然。



 十二月二十一日の午後、とあるハイスクール内及びその周辺地区での出来事を列挙する。
 何十人もの人間が各々の思うように活動していた。人間社会として当然の様相であり、この中からどれか一つを取り上げるのはいっそ馬鹿馬鹿しい。
 インベスとアーマードライダーが交戦した。普通に考えれば異常事態ではあるが、聖杯戦争を知る者にとっては既にゴッサムの日常の一部である。
 とある地点で、何者かに撃破されたと思しきインベスの死骸が発見された。犯人は不明。これは流石に気になる事態だが、残念ながら究明は困難だ。
 街を行き交う市民も、異常に気付いて急行したグラスホッパー団員も、感知した魔力を追って現場に駆けつけた竜牙兵さえも、事を済ませた結果しか目撃出来なかった。初めに発生した喧騒に気を取られ、第二の事態への対応が一歩遅れたのだ。
 結局、誰も真相を目にしていない。

 偶然通りすがったアニー・チャールトンという名前の女性が、数発の銃弾でインベスを絶命させた。
 その決定的瞬間を目撃した者は、生憎とゴッサムシティには一人も存在しない。

 アニー・チャールトンの正体はアーチャーのサーヴァントであり、カンピオーネのジョン・プルートー・スミスである。
 この事実を知る者は、相変わらず、いない。


391 : 弓兵、学び舎にて黒飛蝗の美醜を垣間見る ◆T9Gw6qZZpg :2016/05/17(火) 22:05:00 jfFZXvwE0



【アーチャー(ジョン・『プルートー』・スミス)@カンピオーネ!】
[状態]健康、アニー・チャールトンの姿
[装備]闇エルフ製の魔銃
[道具]なし
[思考・状況]
基本:ディックのやりたい事に協力する。
1.一旦ディックと合流する。情報を共有し、次の行動を考える。
2.「白いアーマードライダー」「緑の……(アーマードライダー?)」とは何者だろうか。
[備考]
※「変身」スキルの副次的恩恵により、アニーの姿の時は擬似的な気配遮断効果・情報秘匿効果が発生します。
※ユグドラシル傘下のハイスクール内で調査活動を行いました。
※グラスホッパー団員の女子生徒から連絡先を入手しました。
※アーマードライダー、インベス、ヘルヘイムの森の存在を確認しました。
※12月20日以前における活動状況については後続の書き手さんにお任せします。


392 : 名無しさん :2016/05/17(火) 22:06:05 jfFZXvwE0
投下終了します。

今回は作中にてアニーの持つ変身スキル、アニーの武器である銃の追加とその性能について
原作での描写を参考とした解釈を取り入れましたが、もしも問題がある場合はご意見をお願いいたします。


393 : 名無しさん :2016/05/18(水) 15:23:09 /T8X1Uvo0
投下乙です。
バットマンやロールシャッハのように、ヒーローは何らかの訓練を経ていたり強靭な精神性を持っていたりすることが殆どだけど
そういう過程をすっ飛ばして「軍勢」と「武装」でいきなりヒーローになれるグラスホッパーはやっぱり団員も軽い感覚になるよなぁ
前回のジロサブロでも顕著だったけど、大衆の一人に過ぎない凡人が力を得て群れを成すことによって生じる歪みや増長は恐ろしい
ヒーローの如く神々と戦い続けてきたアニーが不快に思うのも納得である
それにしてもアニーはあのキャスターの厄介な監視網に引っかからないのが大きいな


394 : ◆JOKERxX7Qc :2016/05/31(火) 03:56:15 eKaD.7Og0
皆様、遅れてしまいましたが投下乙でございます。

・The future of four girls?
 島村さんを見て、もう帰ってこない日常を羨むヤモトの姿が何とも悲しい。
 けれども、偶然知り合ったりーなとの会話を通して立ち直れたようで一安心。
 殺伐としてる主従が多い中、りーなとノノはゴッサム聖杯の癒しだ……。
 それにしても、こんな街でライブなんかやって大丈夫なのか……?

・Black Onslaught
 ライブ会場で遂にデスドとウルキオラの戦闘が勃発!
 歌を護る為に戦うシェリル達と、そしてその歌を踏み躙るデスド、勝者となるのは果たしてどちらか。
 セリューやデェムシュまで乱入してくるようで、波乱は更に拡大する予感。
 そして黒飛蝗狩りに機動隊まで持ち出したスタン、標的にされた犬養達の運命や如何に。
 それぞれの思惑が入り混じる乱戦の始まりに、高揚せざるを得ません。

・そして完全の世界より――
 黒影トルーパーを体内から破裂させるジェダ、何ともエグい……。
 魔術のみならず科学方面にも精通しているのは、ミュカレならではの強みと言える。
 一目でサガラの正体を暴くジェダの存在も相まって、中々の強敵になりそう。
 ミュカレの言う通り、やっぱり日本人多いよなぁこの街……ww

・Blitz Action
 キャス子がジャスティスの籠絡に成功してしまうとは!
 賭け同然の勝負に見事勝利し、最強クラスのチームが誕生してしまった……。
 一方、前話の覚悟から一転、囚われの身になってしまったみくにゃん。
 最早お先真っ暗な彼女の運命は、ミッチやだりーながどう動くのかで決まりそう。

・Shadow World
 流石レデュエ、嫌がらせに余念がない……。
 この行為自体、彼女の本来の目的とは無関係なのがまた悪辣と言うべきか。
 そんな彼女の愉悦の為の犠牲となった三兄弟、彼等からはグラスホッパーの危うさが見えてきます。
 彼等が持つ正義の味方のイメージが剥がれ落ちるのも、そう遠くはないのかもしれない。

・弓兵、学び舎にて黒飛蝗の美醜を垣間見る
 カンピオーネとして数々の修羅場を潜り抜けてきたスミスことアニー。
 そんな彼女からしてみれば、半端な正義で戦うグラスホッパーは俗物に見えるのも当然か。
 そして、グラスホッパーはおろかキャスターの探査網さえ潜り抜ける情報隠遁は中々に便利。
 最高クラスの対魔力も相まって、キャス子の天敵になり得るかも……?
 
ヤモト・コキ&ランサー(乃木園子)、レデュエ 予約します。


395 : ◆JOKERxX7Qc :2016/05/31(火) 03:56:52 eKaD.7Og0
念の為ageときますね


396 : ◆JOKERxX7Qc :2016/06/07(火) 23:52:57 oFECBFeg0
申し訳ありません、予約を破棄します。


397 : ◆1k3rE2vUCM :2016/07/11(月) 12:53:13 KLY.9Dx.0
ディック・グレイソン&アーチャー(ジョン・『プルートー』・スミス)
レッドフード&アサシン(チップ=ザナフ)
ライダー(バットマン)
ロールシャッハ&アサシン(シルバーカラス)

予約します。


398 : ◆1k3rE2vUCM :2016/07/13(水) 11:29:31 OjZFoiog0
久宇舞弥&デストロイヤー(加藤鳴海)
ジョーカー
バーサーカー(ン・ダグバ・ゼバ)

追加予約します。


399 : ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:43:35 .Ayf6/4I0
投下します。


400 : ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:45:21 .Ayf6/4I0







奔走する喜劇の役者は、集い始める。
狂気の道化師という『引力』に惹き付けられて。






◆◆◆◆


401 : ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:46:15 .Ayf6/4I0


マフラーから轟くけたたましい咆哮。
荒々しく加速するエンジン。
駆け抜ける車体は自動車の行き交う公道を巧みに潜り抜ける。
ジェイソン・トッドはバイクを走らせ、街中を吹き荒ぶ風と化す。
ヘルメット越しに覗く眼は、鋭い眼差しで先を見据える。

ジェイソンにとって僥倖とも言える情報だった。
この街に、あの男が現れた。
場所はMIDTOWN FORT CLINTONの喫茶店。
そこで被害者が全員『笑い死に』するという凄惨な殺人事件が発生した。
街中での臨時ニュースで伝えられていた情報は、ただそれだけ。
それでもジェイソンにとって、犯人があの男であると確信するには十分だった。


計画性のない、「笑い死に」の殺人。
そんな悪趣味な真似をするのは、あの男しかいない。
犯罪界の道化王子。ヘドが出る程のクソッタレ野郎。
その名は、ジョーカー。


ジェイソンはこの街でレッドフードとして活動し、数々の犯罪者を粛清してきた。
その過程で彼は裏社会の情報を幾度と無く得てきた。
裏社会の情勢。粛清対象である犯罪者の情報。その者と繋がりのあるマフィア。
悪を制するためには悪についての知識が必要だ。
それを得るために情報屋を使ったこともあるし、時にはギャング相手に手荒な手段で引き出したこともある。
それ故にジェイソンは生半可なチンピラよりも余程多くの情報を持っているつもりだった。
だが、ジョーカーに関する噂を耳にしたことは一度もなかった。
あの目立ちたがり屋のピエロは、今日この日に至るまで一片たりとも痕跡を残すことは無かった。
だからジェイソンはこの街にはジョーカーが存在しないのだと思い込んでいた。
しかし、奴は現れた。

ジョーカーが聖杯戦争に関わっている可能性は極めて高い。
マスターかサーヴァント、そのいずれかで招かれたヤツが聖杯戦争の開幕と共に行動を開始した。
十中八九、そういった所だろう。
あの性根までイカレた男が何を考えているのか等、理解するつもりはない。
だが、奴がこの街に存在するというのならば、やることはただ一つ。
必ず、この手で殺す―――それだけだ。


耳に入り続ける風切り音とエンジンの轟音に、一瞬だけ音楽が混じる。
それは陽気で明るい曲調のクリスマス・ソング。
通り過ぎた何処かの店のスピーカーから流されていたのだろう。


聖夜の日は近い。
街は華やかな装飾に着飾られていく。
人々は街を蝕む病から目を逸らし、夢と宴に身を沈める。


◆◆◆◆


402 : ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:47:03 .Ayf6/4I0


たった一瞬で、空気が変わった。
たった一人の客の存在でシャルモンは沈黙した。
誰もが驚愕し、言葉を失っていた。
沈黙の舞台、主演を務めるのは白い面をにやつかせる狂気の道化師。
黙りこくった観客を嘲笑うように、椅子にふんぞり返る。

サーカスが始まった。
主演たるピエロが登場した。
なのに観客は誰も喜びやしない。
狂気の化粧に染め上げられた顔に、皆畏れ戦くのみだ。


「貴方は……何者、なのですか」
「オイオイ、揃いも揃って顔引き攣らせやがって。
 ここはシャルモンだろ?菓子でも食いながら楽しくやろうぜ」


警戒を強める舞弥の問い掛けを無視し、コートを着込んだ道化師(ジョーカー)は周囲の客を見渡しながら言う。
不敵な笑みを浮かべるジョーカーに対し、周囲の人間はぴくりとも笑わない。
店員も、来客も、皆一様に顔を引き攣らせるのみだ。
そんな彼らを見てジョーカーは愉快げに笑い、テーブルに置かれた冷水を乱暴に飲み干す。

ガタリと、再び椅子から立ち上がった。
ひっ、と近くにいた客が恐怖の声を上げる。
そんな彼らにもお構い無しに、ジョーカーは壁の張り紙を眺める。


「ほぉ、クリスマスキャンペーンで各種スイーツが割引か!
 そいつァいい!気前がいいってモンだぜ」


ニヤニヤと笑いながら独り言を呟き、ふらりとジョーカーは歩き出す。
店内の人間は皆、一様にジョーカーへと目を向け。
彼が近付く度に恐怖に顔を歪ませ、僅かに後ずさる。

かつ、かつ、かつ、かつ。
足音が響く。
そして、唐突にジョーカーは足を止めた。
席に座る細身の婦人の傍で立ち止まり。
彼女のテーブルの上に置かれたストロベリー・ケーキを見下ろす。


「なァそこのお客さん、折角だ―――――」


ジョーカーが懐から瓶を取り出し、ケーキに液体をぶち撒けた。
ジュー、ジュー、と焼け焦げるような奇怪な音が何度も響き。
婦人はただ、愕然とした顔でジョーカーを見上げる。


瞬間、ジョーカーが皿を掴みながら動いた。
まるでパイ投げのように、婦人の口へ強引にケーキを突っ込んだのだ。
店内に、絶叫が響いた。


403 : ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:47:55 .Ayf6/4I0


「俺からの『クリスマスキャンペーン』、スペシャルスイーツだ!
 たっぷりと味わいな! HA HA HA HA HA HA HA!!!」


大量の『硫酸』が掛けられたケーキを叩き込まれ、婦人は悶える。
口内を焼き尽くされるような痛みに苦しみ、何度も地面をのたうち回る。
そんな婦人の様子を、ジョーカーは見下ろして笑う。
けたけたと、気が狂ったように笑い続ける。
シャルモンの店内を包む沈黙は、戦慄へと変わる。
目の前で笑う男の異常性を、はっきりと認識する。
誰もが言葉を失い、誰もが恐怖し―――――動くことさえ出来なくなる。
この場を支配するのは、たった一人の道化師。
誰もが動くことが出来ない。
そう、思われていた。


カチャリ。
異音に気付いたジョーカーが、顔を動かす。
視線の先に立っていたのは、相席の相手―――久宇舞弥。


舞弥が銃を構え、ジョーカーへと銃口を向けたのだ。
だが、舞弥の動作の直後にジョーカーもまた動いた。
近くの席に座っていた細身の男性を強引に引っ張って立たせ、盾にしたのだ。
男性は突然の出来事に驚愕し、そして表情を引き攣らせながら恐怖に震える。

「仏頂面のお嬢さん、スイーツ屋で射的遊びでもするかい?
 全部撃ち抜いてやりゃあ死体のタルトが出来上がるだろうぜ」
「貴方の戯れ言に付き合うつもりはありません。……その男性を離しなさい」

舞弥は無感情な顔のまま、銃を構え続ける。
彼女は人としての感情が欠落している。
それ故に他者を傷付けることにも、殺害することにも躊躇は無い。
だが、それは『必要があれば』の話。
不要な殺人を犯すほど彼女は愚かではなく、無関係に巻き込まれた人質を簡単に見捨てる程非情でもない。
だから彼女は道化師へと警告を行った。
人質となれば、すぐには殺さない筈。
舞弥は当然のようにそう考えていた。


「いいぜ」


だが、飛び出たのは何の躊躇も無い一言。
そして、舞弥の顔に僅かながらも驚愕の表情が浮かぶ。

男性の左胸から、真紅の血が勢いよく吹き出たのだ。


404 : ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:48:38 .Ayf6/4I0
彼の背中を貫通し、胸を突き破って飛び出したもの。
それは槍のように先端が鋭く尖った『旗』。
ジョーカー特製の改造拳銃から華を放ち、男性の背中を撃ち抜いたのだ。
旗の先端から血液が滴る。
男性はただ唖然とした表情で自らの胸を見下ろす。
そんな男性を強引に蹴り飛ばし、ジョーカーはケタケタと笑い続ける。


「男の胸から旗が飛び出すマジックさ!皆様ァ、お楽しみ頂け―――――」


ジョーカーが戯けた台詞を吐いた、次の瞬間。
黒い影が、舞弥の傍より疾風の如く駆け抜けた。


「好き放題に、笑ってんじゃねえッ!!」


それは舞弥の従者たる戦士。
道化の面を被りし悪魔(デモン)が、憤怒の表情で狂気の道化師に迫る。
デストロイヤーのサーヴァント、加藤鳴海。
彼は、人々の笑顔を守るために戦ってきた男だ。
罪無き者を手にかける道化師の凶行を黙って見過ごすこと等、出来る筈が無かった。
瞬時に実体化した笑顔の守護者は、最悪の笑顔を浮かべる道化師を否定する。
構えられし右腕が、道化師めがけて迫る―――――!


だが、その腕は瞬時に弾かれる。
ジョーカーの目の前に突如として出現した『怪物』が、右腕を振るって払いのけたからだ。
それは、甲虫を連想させる白い装甲を身に纏いしもう一人の悪魔(デモン)。
バーサーカー、ン・ダグバ・ゼバはグロンギとしての戦闘形態へと変身していたのだ。
装甲の下で不敵な笑みを浮かべながら、道化の仮面を被る悪魔(デモン)を見据えていた。


「ハハハハハ―――!」


瞬間、放たれるは屈強な左腕。
砲弾の如しバーサーカーの拳が、デストロイヤーを捉えんと迫る。
圧倒的な筋力。驚異的な瞬発力。
並のサーヴァントならば、この一撃で戦闘不能に陥っても不思議ではない。

だが、それをデストロイヤーは凌いでみせた。
咄嗟に体勢を整えた右腕を構え、一直線に迫る左腕を巧みに受け流したのだ。
そして、『防御と同時に』放たれた左拳の突き――――崩拳がバーサーカーの腹部を捉える。
まるで鉄槌を叩き込んだかのような衝撃と轟音がバーサーカーの内側から響く。


405 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:49:46 .Ayf6/4I0

形意拳。
それは太極拳や八卦拳と同様の内家拳に属する中国拳法。
迅速な動作で敵を屠る理念を前提する攻撃的な武術と言える。
その特徴の一つとして、攻撃と防御を僅かな時間で両立する動作が挙げられる。
一瞬の防御行動と同時に、瞬時の攻撃を叩き込む。
まさに攻防一体。疾風迅雷の行動。
更にデストロイヤーは『気』を上乗せし、強力な破壊力を実現している。
並のサーヴァントならば一撃で沈められる、という点に於いてはデストロイヤーも同様なのだ。



しかし、その身が崩れたのはデストロイヤーの方だった。
カウンターと言わんばかりに放たれた右拳の打撃が、彼を吹き飛ばしたのだ。



バーサーカーは崩拳によって確かに体勢を崩した。
だが、即座に攻撃を続行した。
バーサーカーは極めて高ランクの耐久値と戦闘続行スキルを備える。
そのしぶとさは、究極の力を備えたリントの戦士―――クウガ―――とも互角の殴り合いを果たせるほどである。
それは気を上乗せした崩拳が直撃してもなお、即座に反撃出来る程のタフネスの照明となる。
先程の一撃で確かはダメージを与えられたが、その程度で沈むグロンギの王ではない。



「ッてえな……!」


壁に叩き付けられたデストロイヤーは、即座に復帰する。
彼もまた、先程のような『小手調べの攻撃』で沈むような戦士ではない。
勢いよく床を蹴り、そのまま瞬時にバーサーカーへと接近したのだ。


「ハハ、ハハハハ、ハ――――――」


バーサーカーが、右手をデストロイヤーに向ける。
閃光のような炎が迸った。
突如としてデストロイヤーの肉体が、発火したのだ。
機械の四肢と生身の肉体で構成されたデストロイヤーが、炎に包まれる。


406 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:50:43 .Ayf6/4I0

―――『究極の闇(キュグキョブンジャリ)』―――。
グロンギの長であるバーサーカーが備える宝具。
モーフィングパワーの応用により物質の原子を自在に操りプラズマ化させ、そして焼き尽くす。
余りにも無慈悲で残忍な、虐殺のための暴力。



「こんなモンで、俺を止められると思ったかよ」



だが、デストロイヤーは止まらない。
その身が炎に包まれようと、決して止まらない。

生命の水による治癒能力を備えるしろがねとしての体質。
『限界状況を超える悪魔の舞踏(デモンダンス・フォア・ザ・ハリー)』 によるダメージ半減。
『怒りと悲しみを覆う笑顔の仮面(ラフィング・クライング・アルルカン)』 による強力な自己暗示。
それらはデストロイヤーというサーヴァントに圧倒的な継戦能力を与えていた。
一撃の破壊力という点でも、驚異的なタフネスという点でも、バーサーカーとは近い。
例えその身が傷つこうと、その身に苦痛が迸ろうと。
その魂が朽ち果てぬ限り、デストロイヤーは戦場の花形(アルルカン)として戦い続ける。
デストロイヤーは疾走と共に全身の炎を振り切り、払いのける。
その勢いに乗せた一撃を、バーサーカーに放たんとした――――!



「ボーイ!戯れ合いはおしまいだぜ!」



しかし、バーサーカーとデストロイヤーの『10秒にも満たぬ戦闘』は唐突に終わりを告げる。
瞬時に攻撃の体勢を取ったバーサーカーが、動きを止める。
同時に攻撃を放たんとしたデストロイヤーもまた制止し、声の主へと顔を向けた。
そう―――――ジョーカーである。
彼の呼びかけによってバーサーカーが止まったのだ。


「アンタもサーカスの花形かい?
 だがな、観客のお嬢さんはピクリとも笑ってないぜ」


ジョーカーの視線は、デストロイヤーと舞弥へと向けられる。
彼が口にしたのは、道化の仮面を被った男とその主人に対する皮肉めいた言葉。
憤怒のままに敵を否定し、遊び心を持とうともしない道化師。
道化を見守る観客でありながら一欠片もの笑顔を見せない女。
そんな彼らを嘲笑い、ジョーカーは目を細める。


「ユーモアのねェコメディアンに用はねえよ。
 アンタはそこで指でも加えながら眺めてな」
「願い下げだ。テメェの方こそ失せやがれ」


407 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:51:23 .Ayf6/4I0

二人の道化師が、視線を交錯させた。
狂気の道化師は不敵に笑いつつも、仮面の道化師を睨む。
此処は己の舞台だ。お前のようなつまらない道化に出番をやるつもりはない。
そう主張するかのように。
対して、仮面の道化師はその素顔に怒りの表情を作る。
狂った理念のために周囲の人間を不幸に巻き込む狂人を、嫌悪する。
お前の好きにはさせないと、憤怒を募らせる。


暫しの間、睨み合いが続いた。
緊張で張り詰めた店内が、再び沈黙する。
そして――――――狂気の道化師が、唐突に口を開いた。



「この街は相変わらず寝ぼけてやがる。
 イカレたパリアッチのことは愚か、闇の騎士サマのことさえ覚えてねえと来た。
 ひでえモンだぜ。怪人もクリスティーヌもいねえオペラ座の怪人なんざ、楽しくもねえ――――」



コートを翻しながら店内を歩き、ジョーカーは高説を始める。
パリアッチ。闇の騎士。主役が不在の『オペラ座の怪人』。
この場に居る者達は、その言葉の意味を知る由も無い。
理解不能な狂人の言葉を、ただ呆気に取られたように聞くことしか出来ない。

舞弥は、拳銃をいつでも抜ける体勢を取る。
デストロイヤーもまた、その拳を構える。
ジョーカーによって制止されたバーサーカーも、彼らを牽制するように見据える。
客と店員らは、そんな彼らを眺めることしか出来ず。
舞台を支配する道化師(ジョーカー)だけが気まぐれに跳ね回る。

そんな中、ジョーカーは床に踞っていた一人の客を無理矢理立たせる。
それは硫酸漬けのケーキを食べさせられた婦人。
口内の痛みと熱で苦しみ悶えていたが、道化師の顔を見て再び顔を引き攣らせる。
ジョーカーが婦人に小声で何かを囁いた直後。
婦人は、一目散に走り出した。
そのまま彼女は出入り口の扉を開け、店外へと逃げ去っていった。

それを見ていた客人達に、ジョーカーは手を突き出して制止する。
お前達が逃げることは許さない、と言わんばかりに。
そして―――――直後に道化師が、身に纏っていたコートを脱ぎ捨てた。



「あの喫茶店だけじゃ足りねェ。
 だからもっと思い出させてやるのさ。
 この街にはとびっきりのコメディアンがいるってことをなァッ!」



凶悪な笑みと共に、ジョーカーは宣言する。
コートの下から出現したのは、胸部に装備されたガスボンベだった。
噴射口と接続されたチューブがだらしなく伸びており。
ニヤリと笑みを浮かべた道化師は、ゆっくりと手を動かす。


408 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:52:02 .Ayf6/4I0



「マスターッ!!」



危機を察知したデストロイヤーが、声を上げる。
舞弥もまた、ジョーカーの動作を見て察知した。
そのまま彼女は即座に銃を構え、ジョーカーの頭部目掛けて射撃。
しかしその弾丸は、割り込んだバーサーカーの腕の一振りで難なく防がれる。
続いてデストロイヤーが突撃。
『マンバ』の右腕でバーサーカーに拳撃を放つも、左腕のガードによって防がれる。
狂戦士が悪魔(デモン)に足止めされている隙を狙い、側面へと走りながら舞弥が拳銃の引き金を引く。
甲高い銃声と共に、弾丸が道化師へと迫る。
ジョーカーは咄嗟に避けようとするも、弾丸が左肩へと着弾。
僅かに仰け反りながら出血するも、負傷すらも厭わずジョーカーは止まらない。
咄嗟に身を屈めて地を這うように店内を走り、続いて放たれた数発の弾丸をテーブルや客人を盾にして凌ぐ。
そしてボンベから伸びる噴射機には、既にジョーカーの両手が添えられていた。


「よく覚えときな、仮面の兄ちゃん」


ジョーカーが、にやついた笑みを浮かべながらデストロイヤーへと話し掛ける。
最中、舞弥は周囲の客へと一瞬だけ目を向ける。
――――――間に合わない。助けられない。
即座にそう理解した舞弥の動きは早く。
彼女は瞬時に駆け出し、窓ガラスへと目掛けて走る。
デストロイヤーはバーサーカーを切り抜けようとするが、ジョーカーを止めるには間に合わず。





「『道化師(アルルカン)』は二人もいらねェ」





噴射機よりガスが店内を蝕むように放たれ。
店の中に居た者達は、死の笑顔へと誘われる。



◆◆◆◆


409 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:52:44 .Ayf6/4I0




「警部補!COLGATE HEIGHTSの菓子店『シャルモン』に、例の白い顔の男が姿を現したと…!」



MIDTOWN FORT CLINTONの喫茶店にて。
警察の一団らは喫茶店の怪死事件の現場検証と推理を続けていた。
そんな中で、その報せは唐突に訪れた。
現場に残り続けていたジェームズ・ゴードン警部補らは、驚愕の表情を浮かべる。


「何―――それは本当か!?」
「ええ、通報したのは店内から“命辛々逃げた”という女性です!
 彼女の弁によれば、白い顔をした男がシャルモンに立て篭っているとのこと!」


若い警官は、ゴードンに伝言を告げる。
通報者は店内から逃げたとされる女性。
彼女によれば、COLGATE HEIGHTSのシャルモンに白い面の男が現れたとのこと。
男は多数の客や店員と共に店内へと立て篭っているという。
目的も動機も不明だが、正気ではないのは確かだったらいし。
事件を受け、先に近くの警官達がパトロールカーを用いて現場へと向かった。
そして同様の容疑者の犯行として、喫茶店の警官らにも応援要請が掛かったのだ。

まさか、容疑者がこんなにも早く姿を現すとは思わなかった。
それどころか『次の犯行』を既に行っているという。
一体何が目的なのか。
未だ推理できていない目的があるのか。
あるいは、単に狂っているのか。
そのいずれが答えなのかは解らない。
だが、容疑者が姿を現したというのならば一刻も早く駆け付けるのみだ。



「君達は現場の検証を続けているんだ!
 我々は応援に向かうぞ―――――ディック!」



ゴードンは数名の警察官に喫茶店の検証続行を指示。
自らは複数名の警察官と共に現場へと急行する。
ディック・グレイソンもまた、ゴードンに呼び寄せられることとなった。
彼はゴードンに敬礼で返した後、懐から携帯電話を取り出す。

恐らく『念話』では届かない距離にいる筈だ。
そもそも彼が何処にいるのかも解らない。
だが、確実に連絡できる相手はいる。
それ故に彼は携帯電話による連絡という手段を選んだのだ。
暫しの通知音が響いた後、電話が繋がった。


「アニー、今どこにいる!?」


410 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:53:20 .Ayf6/4I0
『今はCOLUMBIA PTに。どうやら、急ぎの用事のようですね』
「ああ、敵が現れた。それも僕が知る限りで――――最悪の敵だ」


自らのサーヴァント、その従者であり相棒とも言える存在。
アニー・チャールストンに電話を行ったのだ。
アーチャー/ジョン・『プルートー』・スミスは普段姿を現さない。
彼への連絡は、専らアニーを介して行われるのだ。

ディックは伝えた。
『本来のゴッサム・シティ』でも名の知れた凶悪な犯罪者がこの街にいるということを。
その男がCOLGATE HEIGHTSのシャルモンに姿を現したということを。
この街を守る為にも、奴を止めなくてはならないということを。

ディックの連絡を、アニーは粛々と聞き入れる。
与えられた情報を咀嚼した後に、彼女は答えた。



《解りました。すぐに『スミス』をお呼びします》



そう答えた後に、電話が切られた。
アーチャーを呼ぶ為に何らかの準備をするのだろうか。
解らないが、兎に角彼女は『スミス』を呼び寄せるつもりだ。
ジョーカーがどれだけの戦力を備えているか解らない以上、サーヴァントも連れていく必要はある。


(ジョーカー……奴がこの街にいるのが確かだというのなら。
 それを止めるのが、『ナイトウィング』の役目だ)


この街にバットマンがいるのかは、定かではない。
もしかすれば、彼が存在しない可能性も否定は出来ない。
ならば、どうするのか。
そうなった時にこの街を守れるのは、自分だ。
ヒーローである自分が動かなければ、どうする。
己はディック・グレイソンであると同時に――――ナイトウィングなのだから。


パトロールカーへと乗り込んだディックの脳裏に、噂に聞いたある人物が過る。
赤い覆面を被り、犯罪者を私刑しているというヒーロー。
レッドフード――――かつての二代目ロビン、ジェイソン・トッドと思われる人物。
もしも彼がこの件に気付いていたとすれば。
もしも彼が何らかの形で情報を掴んでいたとすれば。
その場合、鉢合わせとなる可能性もあるのではないか。

恐らく彼は、ジョーカーを殺そうとするだろう。
だが、ディックはそれを許すつもりはなかった。
彼の怒りと憎悪は、理解している。
彼が多くの犯罪者を殺めていることも知っている。

それでもディックは、ジェイソンを止めたいと願う。
彼は自身の友人であり、弟分のような存在でもあるのだから。
そして、ディック・グレイソンは闇の騎士の『不殺の理念』を確かに受け継いでいるのだから。


◆◆◆◆


411 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:53:55 .Ayf6/4I0



バイクに跨がって街を駆け抜けるジェイソンの脳内に声が響き渡る。
彼の従者、アサシンことチップ=ザナフが念話を飛ばしてきたのだ。


《聞こえるか、マスター!》
《アサシンか、どうした!?》
《COLGATE HEIGHTSの方角に魔力の反応がある!例の喫茶店からそう遠くはない!
 もしかしたらお前の探してるジョーカーって野郎がいるかもしれねえ!》


その知らせに、ジェイソンは目を見開く。
彼は事件現場である喫茶店へ向かい、情報を掴むことを考えていた。
そうしてジョーカーの情報を集め、奴の居所を突き止めようとしていた。
だが、事件発生からそう遅くない時間に、そう遠くない場所で『魔力の反応』が発生した。
あの目立ちたがり屋の道化師のことだ。
犯行直後に再び行動し、何かをやらかしている可能性は高い。

もしも思い違いであったとしても、そこに聖杯戦争の敵がいるのならば始末するのみ。
後で再び喫茶店へと向かい、情報を集めればいい。
もし、ジョーカーが本当にいたならば。
そのまま殺すのみだ。


《なあ、マスターよ》
《何だ》
《ヤツを殺したら、聖杯はどうする?》


COLGATE HEIGHTSへと進路を変えた後、唐突にアサシンがそんなことを問い掛けてくる。
元々ジェイソンの願いは、ジョーカーを殺すことだった。
闇の騎士に妨害され続け、業を煮やしたジェイソンは聖杯に頼る道を選んだ。
だが、この街にジョーカーがいることが判明した。
もし奴がマスターならば、此処で殺せば聖杯は不要となる。
その場合、聖杯はどうするか。


412 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:54:47 .Ayf6/4I0


《……さあな。もしジョーカーを殺したとして、その後はどうするのか……
 正直な所、考えちゃあいない》


ジェイソンは、ただぽつりとそう答える。
実際、この地でジョーカーを殺したとして。
彼はその後どうするか、ということは考えていない。
何か別の願いに聖杯を使うか。
あるいは脱出の手段を探すか。
方針は定かではない。
だが、しかし。



《だが……奴がこのゴッサム・シティにいるというのなら必ず殺す。
 俺が味合わされた苦痛を、俺が抱いた憤怒を、奴に叩き付けてやる
 それが母と俺を殺した、あの道化師への復讐だ。そして――――――――》



確かなことは、一つ。
この偽りのゴッサム・シティにジョーカーがいるというのならば。
己が憎み続けた男が存在しているというのならば。
奴をこの手で、必ず殺す。
それだけは事実であり、彼の確固たる方針だった。
そして、それこそが復讐だった。



《奴を決して殺さない『バットマンの正義』への、復讐だ》



この街で出会った“法曹界の正義の剣”は、人間の善性を信じた。
師であり相棒であった“闇の騎士”は、不殺という己の掟を貫き続けた。


そんな行儀のいい理念で悪を潰せるものか。


レッドフードは、レッドフードのルールで連中を裁く。
赦しの機会を与える必要は無い。
哀みを感じてやる必要も無い。
救えぬ者を救ってやる必要は、無い。
だからレッドフードは奴を殺す。
それがレッドフード/ジェイソン・トッドの戦いであり、復讐だ。


◆◆◆◆


413 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:55:18 .Ayf6/4I0



とある高層ビルの屋上。
『闇の騎士』はそこに佇み、街を見下ろしていた。
漆黒を基調とした衣装に身を包むその姿は、余りにも異質で。
しかし、だからこそ彼は己が何者であるかを認識できる。
この街の守護者。世界一の探偵。闇の騎士。
そう―――――『バットマン』と。

あの『白亜のサーヴァント』に勝利する為には、より確実な手段が必要だ。
夜を待ち、自身の能力を強化した上で戦いを挑むか。
何らかの策や搦め手を駆使して追い詰めるか。
あるいは、他の主従との同盟か。
数々の手段を考えつつも、マスターの殺害という選択肢は選ばなかった。

サーヴァントは死者であり、倒しても問題は無い。
だが、マスターは生者だ。
例え敵対するサーヴァントの主と言えど、生ける者を殺害するのは己の理念に反する。
ましてやあのような少女を殺す等、犯してはならない。
恐らく彼女は、何らかの形で聖杯戦争に巻き込まれてしまった者か。
もしそうだとすれば、そういった者達を戦わずして脱出させる手段を探す必要がある。

ゴッサムの守護。
白亜のサーヴァントの攻略。
罪無きマスターを救う方法の模索。
行うべきことは幾つもある。
だが、最も優先すべきことが一つあった。

彼は街頭のラジオである情報を耳にした。
『喫茶店で多数の人間が笑い死にした』という、猟奇的な事件。
彼はすぐにその黒幕を理解した。
胸騒ぎがした。
その異常性に、彼は既知感があった。


あのような狂った犯行をする者には、憶えがある。
自らのマスターであり、最悪の敵。
――――――『ジョーカー』だ。


彼が既に犯行を行っているというのならば。
闇の騎士であるバットマンは、動かなければならない。
犯罪界の道化王子を止める為に、戦わなくてはならない。
このゴッサム・シティを護る為にも、奴を野放しにはしない為にも。


黒い翼を広げ、闇が飛んだ。



◆◆◆◆


414 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:56:22 .Ayf6/4I0



シャルモン・ゴッサムシティ支店の構造は沢芽市の本店によく似ている。
洒落た一軒家のような店舗が広い庭に囲まれるように建っている。
その広々とした空間は、都市に揉まれた人間にとっての癒しとして機能していた。

店舗の窓ガラスが、勢い良く割れた。
そこから飛び出したのは黒尽くめの装いをした女性。
久宇舞弥はすぐさま受け身を取り、店舗から距離を取った。
彼女は道化師の行動に危機感を抱いた。
彼が客人らに危害を加えようとしていることを直感した。
客人らの救出も考えたが、猶予はなかった。
だから自らの身の安全を優先し、飛び出したのだ。


「―――デストロイヤー」
「ああ……此処に居るぜ」


舞弥は、自らの従者の名を呼ぶ。
直後に彼女の傍へと仮面の男が降り立った。
デストロイヤーはダグバとの攻防で押し負け、ジョーカーの凶行を許してしまった。
救出するにも、一人では無理がある。
『長足クラウン号』を使うにしても、店内では狭すぎる上にバーサーカーの妨害に合う可能性の方が高い。
故に彼はマスターの安全の確保へと移った。
その仮面の下で、悔しさを滲ませながら。
そんなデストロイヤーの姿を一瞬だけ見つめながら、口を挟む。


「あの男は、客人を一人だけ逃がした。
 何の目的があるのかは解りませんが、彼女が通報する可能性は高いでしょう」


道化師は、硫酸入りのケーキを食べさせた婦人だけを店外へと逃がした。
あの狂った男が何故そんな行動を取ったのかは解らないが、推測は出来る。
己の犯行を知らせるためのメッセンジャーとして解き放ったのではないか。
道化師は『この街に己の存在を知らしめる』といった旨の発言をしていた。
それを踏まえれば、自身の行動を知らせる為の存在が必要となる。
あの婦人は、その役割を任されたのではないか。
尤も、これは推測に過ぎない。
もっと別の動機がある可能性もあるし、単なる気まぐれかもしれない。
だが、あの婦人が警察へと通報する可能性自体はそれなりに高いだろう。


「いずれ人々が騒ぎに気付き、警察や野次馬が現れるでしょう。
 そんな状況下で戦闘をすれば必然的に目立ってしまいます」
「だがよ、だからってアイツらを野放しに―――――」


腑に落ちぬ態度のデストロイヤーを、視線で制止する。
彼の言う通り、舞弥も道化師らを野放しにすることは危険だと思っている。
あの道化師への嫌悪感も抱いている。

今まで見てきた人間とは明らかに違う。
幼き頃より兵士として育てられた舞弥自身、醜い人間を幾度と無く目の当たりにしてきた。
自らの命や功績の為に他者を犠牲にする人間を何度も見てきた。
自らの欲望の為に人を人とも思わず陵辱を繰り返す男達を何度も見てきた。
世界の穢さを、脳裏に焼き付けられた。


415 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:57:02 .Ayf6/4I0

だが、あの笑う道化師は違う。
異常、狂人、怪物――――――そうとしか形容が出来ない。
アレは余りにも異質だった。
戦場で幾度と無く見てきた人間とは一線を画す、異常者だった。
舞弥はそんな道化師に嫌悪を感じた。
あの道化は危険だと、その身で感じた。

だが、かといって無謀な橋を渡るよりは策を練る方が得策だろう。
自分達はあの道化師に関する情報を何も持っていない。
下手に手出しすることは危険だ。
それに、騒ぎに気付いた人々が集まれば自身らの存在も注目されてしまう。
聖杯戦争とは情報戦であり、下手に存在を衆目に晒されるのは不味い。
魔術師殺し『衛宮切嗣』の部下として動き続けたからこそ、彼女はそう思えた。
彼の狡猾で慎重な戦術は、弟子であり部下でもある舞弥にも確かに受け継がれていた。


「……今は、退きます。いいですか、デストロイヤー」


故に彼女は、撤退を宣言する。
有無を言わさない言葉にデストロイヤーは苦虫を噛むような表情を浮かべる。
少しの沈黙の後、渋々とした態度で舞弥に追従した。
笑顔を失った女と笑顔を守る道化師は、狂気の道化師が支配する舞台から離れる。
正門からではなく、周囲から気付かれにくい近くの路地へと入り込むように。
彼女らは、足早に逃げ出す。


直後に、ボンと爆発するような音が耳に入った。
一瞬だけ振り返った舞弥が見たもの。
それは、店内から出火するシャルモンの店舗だった。



【MIDTOWN COLGATE HEIGHTS/1日目 午後】
【久宇舞弥@Fate/zero】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]サバイバルナイフ、グロック17
[道具]キャリコM950短機関銃、スタングレネード二つ、発煙筒二つ、手榴弾、タブレット
[所持金]不明(少なくはない)
[思考・状況]
基本:聖杯戦争の調査。
 1.警察や野次馬が現れる前に現場から離れる。
 2.他の聖杯戦争参加者と接触する。
 3.危険人物の迅速な排除。
[備考]
※バーサーカー(ン・ダグバ・ゼバ)のパラメーターを視認しました。

【デストロイヤー(加藤鳴海)@からくりサーカス】
[状態]魔力消費(小)、肉体にダメージ(小)
[装備]特筆事項なし
[道具]『怒りと悲しみを覆う笑顔の仮面』
[思考・状況]
基本:舞弥の力になりたい。
 1.今は舞弥の支持に従う。
 2.舞弥にも笑顔になってほしい。
 3.ジョーカーへの強い嫌悪と怒り。いつか必ず止める。
[備考]


416 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:58:00 .Ayf6/4I0



カチ、カチ、カチ。



「はぁッ――――はぁッ―――――」



口が焼けるような痛みが、漸く引いてきた。
彼女は、街中を逃げるように走り続ける。
あの恐ろしい道化師から逃げるように、人目も気にせず歩道を走る。

彼女は、道化師によって逃げさせられたシャルモンの客。
硫酸のケーキを食べさせられた哀れな婦人。
彼女は道化師に耳打ちされ、指示を出された。


『お前は外に出ろ』。
『そしてシャルモンの事件を警察に通報しろ』。
『後は警察に保護されるなり何なり勝手にしろ』。


婦人は言われるがままに外へと飛び出し、呂律の回らない舌で警察に通報したのだ。
何とか意味は通じた。時期に警察が現場に来ると言う。
その後、彼女は逃げ出した。
あの恐ろしい道化師のいる場所からすぐにでも離れるために。
一刻も早く、離れなければ。
このままだと、殺される。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない。



カチ、カチ、カチ、カチ。



体内に異物の感覚を、少しだけ感じる。
あのケーキを飲み込まされてしまったせいなのか。
わからない。何なのか、わからない。

直後、けたたましいサイレンの音が耳に入る。
ふと正面の公道の方へと目を向ければ、複数台のパトロールカーが走ってくるのが見えた。
通報を聞いて駆け付けた警察官達なのだろう。
まるで救世主を目の当たりにしたように、婦人は歓喜の表情を浮かべる。
警察に保護されれば安全だと、彼女は安心する。
だから彼女は、焼け焦げた舌で必死に声を上げた。



「たすけ――――――たすけて、くらさい――――――!!」




カチ、カチ、カチカチカチカチカチカチ。



彼女は気付いていない。
あの硫酸のケーキと同時に、ジョーカーに『小型の事件爆弾』を飲み込まされたことを。
彼女の身体にはネオナチ特製の炸裂爆弾が仕込まれていることを。
婦人を逃がしたのは、自分の存在を通報させるついでに余興として『爆弾人間』を解き放つため。
そんなことにも気付かず、彼女は警察へと両手を振り。



カチリ。
爆音と破裂音。
そして轟音。
婦人の身体が、爆ぜる。
彼女の肉体を破裂させた強烈な爆炎が、通行人らと一台のパトロールカーを飲み込んだ。






417 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:58:54 .Ayf6/4I0



「HA HA HA HA HA HA!!!!」




シャルモンが燃え盛る。
常に人々で賑わう菓子店が、灰燼へと帰す。
中に居た者達は笑顔のまま事切れており、そして炎に包まれる。
菓子を食べに訪れたことで笑い悶え、そして焼き殺されるなど―――――誰が予想したか。


炎に包まれた店を背に、踊るようなステップと共に道化師が飛び出す。
シャルモンを燃やした張本人は、笑う。
笑う。笑う。笑う笑う笑う笑う笑う。
けたけたけたけたと、狂ったように笑う。
遅れて、遠くから聞こえた『爆発の音色』に気分を良くしたかのように口笛を吹く。


道化師は『威力を弱めた笑気ガス』によって店内の人間を行動不能にした。
彼らは笑いながら死ぬことも出来ず、息苦しさに悶えることしか出来なかった。
そんな中で道化師はキッチンを漁り、食用油を店内にばらまいた。
そして、ライターを用いて着火。
店内に放火し、自らは外へと飛び出し。
悶えていた店員や客達は、『笑顔』で『焼き殺された』。


余りにも残忍かつ、非情な凶行。
だというのに―――――彼は、心底愉しそうに笑っていた。




「さあ、キャンドルに火は灯った!目前に迫るクリスマスを祝っちまおうぜ!
 Merry Christmas!!! HA HA HA HA,HA HA HA HA HA!!!!!」




たった一人の拍手喝采。
道化師は何度も手を叩き、シャルモンの庭を跳ね回る。
この火の手を見れば、じきに『野次馬』や『警察』もやってくるだろう。
それでいい。それが一番いい!
観客がいてこそのコメディアン!ヒーローに気付かれてこそのヴィラン!
独りぼっちのジョーカーなんてのはつまらない!

道化師は、ほくそ笑む。
この街には誰がいるのか、思い出させてやると嗤う。
寝ぼけた住民達に。奔走する参加者共に。
ゴッサム・シティに、最悪のジョークを叩き付けてやる。
自分が笑い死んでしまうのではないかと思ってしまう程に笑い転げ。
笑い、笑い、笑い、笑い。
笑い、笑い、笑い。
笑い、笑い。
笑い。
笑――――――――




「―――――ああ、メリークリスマスだ。クソッタレ野郎が」




唐突に、声が聞こえた。
忌々しげに、憎たらしげな一言が、耳に入った。
それは道化師にとっても聞き覚えのある声であり。
直後、道化師が吐血した。


418 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/16(土) 23:59:33 .Ayf6/4I0

道化師の脇腹は何かで貫かれていた。
そして、あるはずのなかった一筋の刃が脇腹より突き出ていることに気付く。
直後、ジョーカーの背後から突如下手人の姿が出現する。
銀色の髪を靡かせるアサシン――――チップ=ザナフ。
アサシンはブレードをジョーカーの背中から勢いよく引き抜いた。
その衝撃によって再び血を吐き、ジョーカーは脇腹を押さえながら膝を突く。


「後は任せるぜ、マスター。
 アンタのけじめは、アンタが好きに付けていい」


アサシンは、ジョーカーを見下ろしながら呟いた。
彼は気配遮断スキルと宝具『殻式迷彩』によって誰にも感付かれる事無く、道化師の背後を取った。
そして不可視の姿のまま右腕のブレードでジョーカーの腹部を貫き、手傷を負わせた。
彼の力量があれば、ジョーカーの首を掻き切ることも不可能ではなかった筈だ。
そんなアサシンが、何故敢えて急所を外したのか。
それが彼のマスターの意向だったからだ。

決着を付けるのは己自身であり、奴を簡単に死なせるつもりもない。
この身に詰まった怒りと憎しみを徹底的に叩き付け、苦痛を味合わせた上で死に至らしめる。
それがジョーカーによって運命を狂わされた男の方針であり、レッドフードによる報復だった。

他人を利用し、踏み躙る外道への怒りは、よく理解できる。
アサシン―――チップはかつて、己の心の弱さに付け込まれた。
彼は麻薬の売人として犯罪組織に所属していた。
自らも麻薬漬けとなってしまったチップは、組織に始末されそうになった。
そんな時に彼は忍者の師と出会い、救われた。
チップは彼の教えによって忍者としての鍛錬を積み重ね、技術を備えていった。
しかし―――――――組織の追手に、師は殺された。

大切な者の命を悪党の手で理不尽に奪われたアサシンは、己のマスターの感情を理解できる。
不条理に対する怒りとは、簡単に抑えられるものではない。
外道を野放しにしたまま過去を忘れて生きることなど、苦痛でしかない。
復讐とは、『怒り』と『過去』への決別の為にある。
故に彼はマスターの復讐を肯定した。

次の瞬間、膝を突くジョーカーの目の前に一人の男が立ちはだかる。
赤い覆面を被った男が、道化師を見据える。
覆面によってその表情は伺えず。
だが、怒りに震えた手は拳銃を握り締め。
道化師の頭部へと、銃口を向けた。


「久しぶりだな。会いたかったぜ、ジョーカー」
「……こちらこそ、『赤ずきん』くん」


レッドフード/ジェイソン・トッドが、道化師を見下ろす。
ジョーカーが、赤い覆面の男を見上げる。
不敵に笑う道化師の顔に、赤い覆面の男は拳銃を押し付ける。


419 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:00:24 e5BUeVOg0


「なあ、その物騒なモンを退けちゃくれないかい?」
「……俺が退かすとでも、思ったか」
「バッツが悲しむぜ」
「お前を殺せるのならそれで十分だ」


拳銃の銃身で、道化師の顔面を勢いよく殴りつけた。
口を切り、微かな血を吐きながら道化師は転倒する。
直後、再び銃声が轟いた。
ジョーカーの右足を、レッドフードの銃弾が撃ち抜いたのだ。
出血と共に足を押さえて悶えるジョーカー。
苦しむ道化師を、覆面に侮蔑の表情を秘めながらレッドフードは見下ろす。

優位に立っているのは、レッドフード。
ジョーカーの生殺与奪は彼の手に握られている。
だが、すぐに殺すつもりは無い。
此処でこの男を拘束し、隠れ家で情報を吐かせた後に徹底的に嬲る。
己が味わった苦痛と怒りを嫌という程に叩き込んでから、殺す。


瞬間、轟音と共に凄まじいプレッシャーが撒き散らされる。
バーサーカーが、再度の実体化を遂げたのだ。
狙うはジョーカーを痛めつけるレッドフード。
そのまま荒々しく突進と共に接近し、強烈な裏拳を放たんとした。



「スローだな」



しかし、その直前に一筋の風が割り込んだ。
バーサーカーの前に立ちはだかったのは、アサシン。
アサシンは地を這うような姿勢のまま駆け抜け、擦れ違い様にバーサーカーの脇腹にブレードの斬撃を叩き込んだ。
バーサーカーは咄嗟に対応しようとするも、敏捷性で勝るアサシンのが速い。
彼が振り返った瞬間に、アサシンがバーサーカーの顎へと肘鉄を叩き込んだ。


「ッ―――――」


顎への衝撃によって一瞬だけ怯んだバーサーカー。
一瞬。それはコンマ数秒程度の時に過ぎない。
驚異的な耐久力を持つバーサーカーを止められる時間は、ただそれだけ。
だが、そのごく短い隙を見逃すアサシンではない。



「らあああぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」



疾風迅雷。
そう形容するに相応しいスピードで、アサシンが駆け抜けた。


420 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:00:59 e5BUeVOg0
擦れ違い様の切り上げで、バーサーカーを空中へ打ち上げる。
空中に放り上げられた狂戦士はすぐさま体勢を整えようとするも、アサシンが即座に跳躍。
周囲の虚空を法力の制御によって壁のように蹴り、隼にも似た超高速の跳躍をしながらバーサーカーへと接近。
そして、二度目の一閃。
バーサーカーの身に斬撃が刻まれる。
アサシンは跳躍しながらの一閃の勢いのまま別の虚空を蹴り、再度の跳躍。
凄まじい速度で接近、再び一閃ッ!


四方八方からの跳躍と共に、無数の連撃を叩き込む。
バーサーカーは空中で成す術も無く、その身を幾度と無く切り刻まれ――――
そして、アサシンがバーサーカーの『真上』へと跳躍した。



「―――――『サヨナラ』だッ!!!」



そして放たれる、渾身の―――――斬撃ッ!!
振り下ろされた『気を纏った刃』がダグバを切り裂き、そのまま地面へと叩き付ける。
白い狂戦士の衝突と共に、地面には巨大な亀裂が生まれた。


斬星狼牙。
忍者であるアサシンが厳しい修行と数々の戦の果てに編み出した奥義の一つ。
周囲を飛び交い、擦れ違い様の斬撃を幾度と無く叩き込み。
そして、最後に気を籠めた斬撃でとどめを刺す。
必殺技――――――そう形容すべき、強力無比な技だった。
斬撃を終え、地面に着地したアサシンはバーサーカーを見据える。


並の者ならば、この技で再起不能に陥る。
だが、目の前の狂戦士はどうか。



「ハハ、ハ」



笑い声が、耳に入った。




「ハハ、ハハハハ、ハハハ―――――『これ』で終わり?」




ゆっくりと、バーサーカーが立ち上がった。
笑い声が、幾度と無く響く。
その身に傷を負っているというのに、まるで動じる事も無く。
強靭な四肢で、威風堂々とした態度のままその場から立ち上がった。


421 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:01:39 e5BUeVOg0


「………バケモンが」


アサシンは目を細め、毒づいた。
確かに攻撃を直撃させた。
だが、奴は立ち上がった。
それも怯むこともよろけることもなく、堂々と。
彼は即座に直感したのだ。
目の前にいるこの狂戦士は、紛う事無きバケモノであると。
そのプレッシャー、実力――――下手をすれば、あの『破壊神』に匹敵するのではないか。
そう思えてしまえる程の威圧感を、狂戦士は放っていた。



「ヒヒ、ヒ………うちのボーイの方が出来がいいみたいだぜ」
「そうか。だが、お前を此処で殺せば関係のない話だ」



そんな彼らの様子を見て、踞る道化師は軽口を叩く。
彼の身体は幾度と無く殴打され、傷付いていた。
道化師を見下ろし、レッドフードは肩を揺らす。
幾度と無く、この道化師を痛めつけた。
だと言うのに、まるで笑みを絶やさない。
自らの危機も楽しむかのように、余裕を貫いている。
それが、どうしようもなく苛立たしかった。

これ以上の暴力が無意味だというのなら。
最早、すぐにでも終わらせてやるだけの話だ。


「……俺を殺すのかい?」
「ああ」
「もう一度言うぜ、バッツが悲しむぞ」
「お前のジョークも『ネタ切れ』か」


カチャリと、再び拳銃を構える。
今度こそ、道化師の脳天へと照準を定める。
ジョーカーは不敵に笑う。
レッドフードは怒りの表情を覆面の下で浮かべる。


422 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:02:40 e5BUeVOg0


そして、引き金に指が掛かる。
たった一瞬。
コンマ数秒の動作で、道化師の命は奪われる。
それで、レッドフードの復讐は終わる。
自らと母の命を奪った男への復讐。
正義を貫き、この男を生かした師の掟への復讐。


怒りの表情に、自然と『笑み』が溢れていた。
無論、ジョーカーがそれに気付く筈も無い。
覆面の下に隠れた感情は、間違い無く『喜び』だった。
これが己の本性なのか。ラザラス・ピットに放り込まれたことで生まれた狂気なのか。
今の自分には、解らない。
でも、どうだって構わない。
ここで復讐を果たせるのなら。



「坊や、これだけは言っておくぜ」



覆面の下での笑みと同時に。
復讐者が、引き金を弾いた。
道化師もまた、笑っていた。



「俺とバッツのロマンスにガキはいらねェ」



瞬間。
復讐者の身体に、想像を絶する『熱』と『痛み』が迸った。





「が、アアアアアアアアアアアアアァァ―――――――――ッ!!!!?」





拳銃の照準が逸れ、銃弾は明後日の方向へと放たれる。
レッドフードの身体は、灼熱の炎に包まれていた。


423 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:04:11 e5BUeVOg0
堪らずのたうち回るその姿を尻目に、ジョーカーは咄嗟に後方へ転がって距離を取る。


「言ったろ、『その物騒なモンを退けてくれ!バッツが悲しむぜ!』って。
 銃を退けてくれないからお前をこんな目に遭わせちまった!
 きっとバッツも悲しんじまうだろうぜ!HAHAHAHAHAHA!!」


悶えるレッドフードを嘲るように、ジョーカーはけたたましく哄笑する。
レッドフードに手を下したのは、一定の距離が離れている筈のバーサーカーだった。
彼はただ腕を少し動かすだけで、その身を焼き付く舌のだ。
超自然発火能力――――原始を操作することでプラズマを発生させ、対象を自在に焼き尽くす攻撃。
彼の宝具として連ねられる、凶悪な力だ。


「テメェ―――――ッ!!!」


アサシンが驚愕と共に吼えた。
何が起こったのかは謎だが、バーサーカーらが手を下したのは間違い無い。
そう判断したのだ。

無数のクナイを、バーサーカー目掛けて放つ。
彼は迫り来る刃を詰まらなそうに見つめる。
そして、片手で容易く掴み取った。

だが、それは囮に過ぎない。
真の狙いは別に存在する。
そう、ジョーカーだ。
バーサーカーがクナイに気を取られている隙に、アサシンが一瞬で駆け抜けた。
漆黒の風となって彼の真横を通り過ぎ、道化師へと目掛けて走る。
アサシンは危機を目前にし、マスターの怨敵であるジョーカーの殺害を優先したのだ。
バーサーカーは即座にアサシンへと拳を叩き付けようとするも、敏捷性で勝るアサシンの方が速く。
彼の刃が、道化師への首へと目掛けて振るわれ。
そして、薙ぎ払わんとした―――――――





――――――キィン。




突如として割り込んだ黒い影。
甲高い金属音と共に、ブレードが防がれた。
目を見開くアサシン。
彼のブレードを左腕のアーマーで防いでいたのは。




「奴は、殺させない」



漆黒の、騎士だった。


424 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:04:52 e5BUeVOg0



「HA HA HA HA HA HA HA HA!!!
 バァァァァッツ!!やっぱりアンタがいなくっちゃなアアアアア!!!」




心底嬉しそうに、道化師が笑う。
アサシンの目の前に立ちはだかったのは漆黒の衣装を纏った男。
尖った耳のようなヘルメット。黒一色のマントとスーツ。
その容貌を見れば、誰もがこう形容するだろう。
蝙蝠の男(バットマン)、と。
ライダーのサーヴァントにして、このゴッサム・シティの英雄。
それが闇の騎士(ダークナイト)―――――『バットマン』だ。


「テメェ、退きやがれ」


鋭い視線で、蝙蝠の男(バットマン)を睨みつける。
しかしバットマンは決して退こうとはしない。


「断る。その男は殺させない」


一言、そう告げた。
己のマスターであり『宿敵』であるジョーカーを、彼は守ったのだ。
彼の根底にあるのは不殺の理念。
バットマンは悪に容赦はしない。
しかし、例えどれだけの外道であろうと、決して殺しはしない。
それが彼がヒーローとして胸に刻んだ信念だった。
否、妄執とでも言うべきか。


一線を越えること等、容易い。
悪を赦せない、憎い、殺してやる。
そう思った日は、幾度と無く存在した。
だからこそ彼は、己を律する。
己が『怪物』とならぬよう、殺人という札を封印する。
人を殺し、一線を越えてしまえば。
自分はきっと、本物の狂人になってしまう。
バットマンには、そんな自覚があった。
故に彼は―――――殺しを否定した。
それが例え、己が憎む宿敵であったとしても。


425 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:05:22 e5BUeVOg0


「あの男は、私のやり方で止める」
「テメェのやり方なんざ、知ったことか―――――――」


互いに視線を交錯させる。
黒き蝙蝠と黒き忍びが、睨み合う。
腕と刃をギリギリと鍔競り合わせながら、歯軋りをする。
どちらが先に押し負けるか。
その決着は―――――――



一瞬。
ほんの刹那の出来事だった。
アサシンの背後に、突如としてバーサーカーが『出現』したのだ。
空間転移。バーサーカー/ン・ダグバ・ゼバが備え、これまでに行使していなかった能力。
狂戦士のクラスとして召還されたことで燃費や性能において弱体化している。
それでも、乱入者によって虚を突かれたアサシンの隙を突くには十分であり。
そして。



「がはッ、が、ああ―――――!」



アサシンの胸から、右腕が突き出した。
彼は堪らず、口から血液を吐く。
腕を覆う純白の装甲は、吹き出た大量の血によって真紅に染まる。
バットマンはその光景を、ただ目を見開いて眺めることしか出来なかった。


「ハハ、ハハハハハハ――――――」


バーサーカーが、アサシンの胸から腕を引き抜く。
アサシンがライダーによって足止めされ、動きが止まった。
その一瞬の隙を突いたバーサーカーが、アサシンの背後から手刀による刺突を放った。
彼の身体を背中から胸に掛けて、鋭い槍の如し一撃で貫いたのだ。





426 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:06:14 e5BUeVOg0

耳障りな喧噪が聞こえてくる。
放火だの、殺し合ってるだの、やかましい声が耳に入る。
騒ぎを聞きつけ、集ってきた野次馬共か。
恐らく店の敷地の外から眺めているのだろう。
不愉快で、騒々しい。

地面を何度ものたうち回ったことで、全身から発した炎は掻き消えていた。
それでも身体中の火傷は消えることはない。
苦痛を通り越し、感覚そのものが消失しているようだった。
何とか、立ち上がろうとした。
だが、無理だった。

全身の火傷による消耗が大きく。
そして、俺の右足は銃弾によって撃ち抜かれていた。



「バッツが来たぜ、レッドフード。助けを呼ぶといい」



全身に手傷を負っているにも関わらず、ジョーカーはその笑みを絶やすことは無い。
傷付いているにも拘らず、この男はのらりくらりと立っていた。
その右手に、のたうち回っていた俺から奪った拳銃を握り締めながら。
銃口からは硝煙が発せられている。この銃で俺の右足は撃ち抜かれた。
ジョーカーの右足を撃ち抜いたのと、同じように。

視線を、動かした。
アサシンはバーサーカーによって胸を貫かれ、ゴミのように薙ぎ払われていた。
地面に崩れ落ちたアサシンはそのまま立ち上がることも出来ず。
歯軋りをしながらバーサーカーを見つめ、その身を光の粒子へと変えていく。
アサシンを構成する身体――――その魔力の霧散、ということは傍目から見ても理解できた。


そして、バーサーカーはあの男に襲い掛かった。
漆黒のコスチュームを身に纏うヒーローに。
俺の師であり、相棒であり、憎むべき相手。
闇の騎士――――バットマンに。


結局の所、レッドフードとしての戦いは最後まで邪魔をされ続けた。
俺が幾らジョーカーを殺そうとしても、奴は俺の前に立ちはだかってきた。
殺してはならない、私はお前を救いたい、そんなことを口にしながら奴は俺の壁となった。
俺が救いたいというのなら、ジョーカーを殺せ。
俺の救いは、奴の死でしか得られない。


427 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:06:50 e5BUeVOg0


なあ、ブルーシィ。
アンタはまた俺の邪魔をするのか。
己を律して、周囲を犠牲にしたって構わないのか?
己が狂わない為に、周囲を死に至らしめるのか?


きっと奴は、同じように答え続けるだろう。
『殺さない』と。
『絶対に一線は越えない』と。
はは、はははははは。
例えどれだけの矛盾にぶつかろうと、悪党に恐怖を振りまくことだけを答えとするのか。
アンタはやっぱり――――――とっくに狂ってる。


ブルーシィ。
俺も、狂っているさ。
怒りと憎しみがあべこべになって、イカレちまってるさ。
だがな。
アンタとは違う。
自己満足で掟を貫くだけのアンタとは、絶対に違う。
俺は、奴を殺せる。
奴を、殺せる。
殺せる。殺せる。殺せる。
そう、殺す。
殺してやる―――――――――――――――






「殺、す…………殺してやる………お前だけ、は………―――――」






ゴキリ。





【レッドフード@バットマン 死亡】
【アサシン(チップ=ザナフ)@GUILTY GEARシリーズ 消滅】






428 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:07:37 e5BUeVOg0



怨嗟の言葉を吐き出し切る前に、ジェイソンの意識が暗転した。
何が起こったのか、理解することも出来なかった。
ジョーカーに頭部を掴まれ、首をへし折られたことさえ認識することは無かった。
たった一瞬。1秒にも満たぬ動作だったからだ。
それが、ジェイソン・トッドが命の灯火を消すまでの時間。
首を捩じ曲げられたジェイソンは、糸の切れたマリオネットのように静止した。



「HA HA HA HA HA HA HA HA !!!!!!」



レッドフード―――ジェイソンの亡骸を蹴り飛ばし、ジョーカーは嘲笑う。
バーサーカーの一撃によって吹き飛ばされ、地面を転がるバットマンへと視線を向ける。
バットマンは体勢を整えて再び立ち上がらんとした。

だが、気付いてしまった。
ジェイソン・トッドの末路に。
かつてのサイドキックの最期に。

バットマンは目を見開き、ジェイソンの亡骸を見据えた。
物言わぬ屍と化した彼を、ただ無言で見つめていた。


―――――過去の悪夢がフラッシュバックする。


ジョーカーの罠に嵌り、小屋へと監禁された『ロビン』。
現場へと必死に駆け付け、彼を助けんとした己自身。
ついに小屋へと到着し、救出せんとした直後。
眩い閃光と共に、小屋が爆炎に包まれ―――――――――


「自分の掟を貫いた結果、『また』ロビンを失うことになっちまうなんてなァ!!」
「黙れ」


バットマンは、再びジェイソン・トッドを喪った。
一度目は、ジョーカーの卑劣な罠に掛かる形で。
二度目は、自らの行動によって『ジョーカーが勝利する猶予を与えた』ことで。
闇の騎士は、ただ道化師の言葉を撥ね除けることしか出来ない。


429 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:08:14 e5BUeVOg0


「HA HA HA HA HA HA HA HA HA――――――最ッ高のジョークだ!!」
「………黙れ!」
「バァァァッツ!!アンタは掟の為に過去のサイドキックを殺した!!バットマンは狂わない為の掟に狂わされちまったのさァァァァ!!!」


道化師は心底楽しそうに嘲笑う。
かつて宿敵の謀略によって喪われた相棒は、思わぬ形で蘇生を果たした。
彼は宿敵を殺さず野放しにしたままのバットマンを憎んだ。
何故奴を生かしている。
何故俺を殺した奴を赦している。
奴を生かせば更なる犠牲が出る。
彼は、ジェイソン・トッドは憤った。
それでも尚、バットマンは掟を貫き続けた。
不殺の誓いを決して破らず、ジョーカーの殺害という道を否定した。
同時に、ジェイソン・トッドを救うことを望んだ。
この聖杯戦争に於いても、バットマンは変わらずにそう在り続けた。
その結果、ジェイソンは――――――――――




「黙れ――――――――ッ!!!!!」




道化師の言葉を掻き消すように、闇の騎士が吼えた。
瞬時に地を蹴り、ジョーカーへと目掛けて駆け抜ける。
彼を捕まえるべく、止めるべく、その腕を構える。

だが、バットマンは突如として弾き飛ばされた。
彼の行動に即座に反応し、立ちはだかったバーサーカーが右腕を振るったのだ。
スペックで遥かに劣るバットマンが叶う筈も無く。
彼の肉体は、容易く吹き飛ばされる。



「ねえ、この男って」
「ああ、こいつが俺の『サイドキック』さ。
 まさか愛しの王様がこんなにも早く駆け付けてくれるなんてなァ」


バーサーカーがジョーカーに問い掛ける。
この男が君のサーヴァントなのかと、直感したのだ。
笑い顔を絶やさぬまま、ジョーカーはそれに答える。
まさかここまで早くバットマンが駆け付けてくれるとは思わなかった。
とはいえ、来たなら来たで万歳とでも言うべきだろう。
彼が来た御陰で、かつての相棒が目の前で命を落とすという『悲劇』を見せつけることができたのだから。
それだけでも、心底楽しかった。


430 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:08:56 e5BUeVOg0


「殺すべきかな?」
「いいや、まださ。俺とバッツのロマンスを終わらせるにはまだ早ェ。
 もっともっと楽しませてやんなきゃ気が済まねえのさ」


バーサーカーの提案を一蹴し、ジョーカーは語る。
この程度で終わらせる等、笑止。
主演の役者であるジョーカーにはもっと頑張ってもらわないと詰まらない。
自分もこれからまだまだジョークを叩き付けてやらねばならない。
故に、ここで決着はつけられない。
不敵な笑みを浮かべながら、ジョーカーがバットマンを見据えていた矢先。




何処からともなく、閃光が走った。
それは近くの建物の屋上からか。
雷のような残光と共に、一筋の流星が放たれ。
一直線に、バーサーカーへと目掛けて飛んでいく。

バーサーカーは、目を見開いた。
まるで星にも似た輝きが、己へと迫り来るのを見据えた。
異様な速さで迫り来るソレを、ただ眺めることしか出来なかった。


其の名は『魔弾の射手(アルテミス)』。


それはギリシャ神話に名を連ねる狩猟の神より簒奪した権能。
どこまでも獲物を追い立てる神速の光矢。
狙った獲物を必ず穿つ、究極とも言える飛び道具。
無銘の冥王――――「ジョン・『プルートー』・スミス」が弓兵として召還された所以。
流星の如く駆け抜けた魔弾を叩き付けられ、バーサーカーは眩い光に包まれた。







431 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:09:45 e5BUeVOg0



光が晴れた頃には、二人の影は姿を消していた。
狂気の道化師。白の狂戦士。
彼らの姿は綺麗さっぱり『いなくなっていた』。
恐らくは狂戦士が道化師を抱え、その場から逃走したのだろうが。
あの魔弾が直撃して尚、即座に撤退することが出来たのか。
生半可な耐久力の持ち主ではない、ということは悠に理解できる。
そもそもこの極僅かな時間で逃走することが可能なのか。
恐らく、それが白い狂戦士の能力なのだろう。

アーチャー/スミスは知らないことだが、バーサーカーは矢の攻撃を受けた直後に『空間転移』を行った。
それによって瞬時にジョーカーを回収し、そのまま再度の空間転移で逃亡したのだ。
幾らジョーカーと言えど、あれだけの負傷を負ったまま再び戦闘に縺れ込めば、ただでは済まなかっただろう。



《申し訳ない――――逃げられてしまった。
 随分と逃げ足の速い『こそ泥』だったようでね》



遅れて現場に駆け付けたディック・グレイソンは、念話でそう伝えられる。
近場から駆け付けた数名の警察官、そして通行人らは謎の爆発事故の犠牲となった。
更に爆発に巻き込まれたパトロールカーが吹き飛び、他の車両と衝突する等の形で二次災害が発生した。
そのことで現場を中心に交通網が混乱し、ディックら喫茶店の警官達の救援が遅れることになった。
更に犯人らは乱入者の出現によって逃亡してしまった為、現場到着も事後になってしまった。
尤も、アーチャーがサーヴァントの身体能力を活かして先んじて到着したことにより、犯人を知ることは出来た。


《アーチャー、この件の犯人は――――》
《ああ、恐らく君の言っていた男だ。
 あれはまさしく道化師だったよ。場違いなまでのね》


やはりか、とディックは思う。
喫茶店でほぼ確信していたことだったが、今回の件で確定したと言ってもいい。
この街にはジョーカーが存在している。
それも聖杯戦争の参加者として、だ。
アーチャーによれば、彼は『白い装甲を身に纏ったサーヴァント』と共にいたらしい。
サーヴァントは敵からジョーカーを守るような行動を取っていたという。
恐らく、アレがジョーカーのサーヴァント。
ジョーカーはマスターとしてこの地に呼び寄せられたのだ。

あの男が聖杯を手にすれば、どうなるのか。
最悪という他無い。
混沌を望む狂人の手に奇跡の願望器が渡ること等、絶対にあってはならない。
ジョーカーは必ず止めなければならない―――――ディックはそう決意する。


432 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:10:25 e5BUeVOg0
同時に、アーチャーが再び念話を飛ばしてきた。
ディックにあることを伝えたのだ。



《――――残っているのは、「彼」だけさ》



その言葉を聞き、ディックは敷地の外から燃え盛るシャルモンを見つめる。
店舗のすぐ側に、一つの影が立っているのが見えた。
あれは一体何者だ。
そう思った直後、彼は気付く。

その姿を見て、ディックは目を見開いた。
その容貌、衣装を忘れる筈もなかった。
この偽りの街で姿を見せなかった彼が、目の前にいる。

漆黒の衣装。
蝙蝠を思わせるデザイン。
闇の騎士とでも言うべき出で立ち。
それはまさしく、ディック・グレイソンのかつての相棒だった。



「ブルース、なのか」



ブルース・ウェイン。
ゴッサムの守護者――――バットマンだった。

バットマンがいることは、不思議ではない。
この街にはディック・グレイソンがおり、レッドフードがおり、そしてジョーカーがいる。
ならばバットマンがいても不思議ではない。
否、これだけの役者が揃っているのだ。彼がいない方がおかしい。
ディックはそんなバットマンを見つめ、接触しようとした。

だが彼はシャルモンの庭で、沈黙していた。
足下に転がる亡骸を、ただ無言で見つめていた。
それは赤い覆面を被った男であり。
バットマンと同じく、ディックと縁のある人物だった。



「ジェイソン…………?」



ディックはその名を、ぽつりと呟いた。
ジェイソン・トッド。
初代ロビン――――ディック・グレイソンの解雇後、バットマンが新たなロビンとして選んだ人物。
高い身体能力と格闘能力を駆使し、バットマンの相棒として遜色の無い活躍をしてきた青年。
そして、ジョーカーの罠に嵌って命を落とし。
その後『レッドフード』として犯罪者殺しへと身を落とした、かつての仲間。


433 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:11:11 e5BUeVOg0

ジェイソン・トッドを救いたいと思っていた。
人殺しの道を歩んだ彼を止めたいと思っていた。
ジェイソンもまたディックには心を開き、『昔の関係に戻りたい』と伝えたこともあった。
それでもレッドフードとして突き進み続けるジェイソンと、ディックは幾度と無く衝突した。


だが、そんなジェイソンは死んだ。
今此処で、眼前に、死体が転がっていた。
ディックはただ、唖然としたまま彼の遺体を見つめることしか出来なかった。
そんなディックを一瞬だけ見た後、闇の騎士は再び跳ぶ。
そのまま空中へと飛び去り、その姿を消した。


闇の騎士が去った直後、サイレンの音が耳に入る。
通報によって出動した消防隊が漸く到着したらしい。
炎上するシャルモンの消火に当たるべく、彼らは急ぎホースを握り締めた。
ゴードン警部補はそんな彼らを眺めた後、ちらりと上空へと顔を向ける。
あの蝙蝠男は何者だったのか。
白い面の男を追っていたのか。
グラスホッパーとも明らかに違う――――彼は何者なのか。
疑問を胸に抱きつつ、ゴードンはディックに顔を向ける。


「ディック。検察から連絡があったが……『あの男』がやけに喫茶店の事件に興味を示しているらしい」
「……あの、男?」


ジェイソンの死体を前にし、唖然と立ち尽くすディックにそう告げるゴードン。
それに対するディックの疑問の声に、彼は答える。
『喫茶店の怪死事件』に興味を持つとされる者の名を。



「ソード・オブ・ジャスティス、御剣怜侍さ」




◆◆◆◆


434 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:11:43 e5BUeVOg0


ヤン・バレンタインへの尋問で解ったことが一つ。
つい最近になり、ピエロのような男がナチ共の下を訪れたらしい。
その男は常に口を歪め、まるで世界を嘲笑うかのように戯けていたという。
下らぬヤク中の類いかと思った。
あの町内のラジオを耳にするまでは。

喫茶店での大量殺人事件。
被害者は全員笑い死に。
容疑者は直前に店内へと足を踏み入れた『白塗りの顔の男』。
現場に残されていたのは『JOKER』のカード。

胸騒ぎがした。
俺はすぐに現場へと向かった。
だが、その途中で俺の従者が敵の存在を告げた。
近くにサーヴァントの気配があると、伝えてきたのだ。

俺は一先ず、敵を優先することにした。
その結果、俺は奴を目撃した。
あのヤン・バレンタインが言及していた『ピエロのような男』を。

俺は燃え盛る菓子店の周囲集う野次馬共の脇で、一瞬だけ奴を目撃した。
奴は己の白い面に、赤い笑みを貼り付けていた。
あの瞬間、奴が狂人であることをすぐに理解した。
すぐさま攻撃しようとしたが、結局逃げられてしまった。
赤覆面の男の姿も見えたが、すでに事切れていた。
どうやらあの道化の手で殺されたらしい。

時期に警察が来るだろうと踏んだ。
それ故に俺はすぐさまその場から離れた。

僅かに見ただけでも理解できた。
あの道化は恐らく、愉快犯だ。
悪を楽しみ、悪に生き甲斐を見出す、救いようのない存在だ。
生かしておける筈の無い屑そのもの。

犯罪者の分際で世界を嘲る存在にでもなったつもりか。
あの下衆な道化よりも余程世界の本質を理解したコメディアンを俺は知っている。
その男に比べれば、奴など所詮は三流の外道に過ぎない。
そして、奴のような外道を摘むのがヒーローの役目だ。

舞台は聖夜の装飾に包まれた街。
着飾られた華美な照明の下、道化師は堂々と姿を現した。
よもや己が聖夜の主演とでも思い込んだか。
だが、それはとんだ妄想に過ぎない。
恥知らずの道化師は、暴力を以て舞台を引き摺り下ろされるだろう。
そんな道化師を見て、大衆は阿呆のように嘲笑う。

どれだけ目立とうとした所で、道化は道化に過ぎない。
哀れで愚かしいジョークだ。


そう、ジョークにしてやる。
お前の下らん凶行も、悪徳も。
このロールシャッハが、全て覆してやる。


435 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:12:33 e5BUeVOg0


【MIDTOWN COLGATE HEIGHTS/1日目 午後(夜間より少し前)】
【ディック・グレイソン@バットマン】
[状態]精神的疲労(小)、ジェイソンの死への衝撃と悲しみ
[令呪]残り3画
[装備]警官としての装備
[道具]なし
[所持金]5千円程度
[思考・状況]
基本:街の治安を守る
1.???
2.昼は警官としての職務をこなし、夜はナイトウィングとして自警活動を行う
3.ジョーカーを追う
4.喫茶店の事件に興味を示していると言う御剣怜侍が気になる。
5.元のゴッサムシティには存在しなかった企業・団体等を調査して聖杯戦争の参加者を割り出す
6.街や知人にバットマンに関する記憶、痕跡が一切ない状況に困惑と動揺
[備考]
※ロールシャッハの噂(コートとマスクの怪人)から彼がクエスチョン@DCコミックスである可能性を考慮しています
※令呪は右手の甲に存在します
※ジョーカーがマスターとしてこの街に存在すると半ば確信しています
※ジョーカーの活動から、バットマンも存在している可能性を考慮しています
※レッドフード(ジェイソン・トッド)の死を知りました。
※ライダー(バットマン)のパラメーターを視認しました。

【アーチャー(ジョン・『プルートー』・スミス)@カンピオーネ!】
[状態]魔力消費(小)、ジョン・『プルートー』・スミスの姿
[装備]闇エルフ製の魔銃
[道具]携帯電話
[思考・状況]
基本:ディックのやりたい事に協力する。
1.ディックと情報を共有し、次の行動を考える。
2.「白いアーマードライダー」「緑の……(アーマードライダー?)」とは何者だろうか。
[備考]
※「変身」スキルの副次的恩恵により、アニーの姿の時は擬似的な気配遮断効果・情報秘匿効果が発生します。
※ユグドラシル傘下のハイスクール内で調査活動を行いました。
※グラスホッパー団員の女子生徒から連絡先を入手しました。
※アーマードライダー、インベス、ヘルヘイムの森の存在を確認しました。
※12月20日以前における活動状況については後続の書き手さんにお任せします。

【ロールシャッハ@ウォッチメン】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]ワイヤーガン
[道具]ベイクドビーンズの缶詰、角砂糖
[所持金]5千円程度
[思考・状況]
基本:誰が何と言おうと、聖杯を破壊する。悪党は殺す
1.ジョーカーを追跡し、殺す。
2.多田李衣菜らとの共闘。ただしあくまで自分の目的を優先。
3.ネオナチの組織を潰す。
4.ヤモト・コキについては見つけ次第罰する。
[備考]
※アサシン(チップ=ザナフ)バスター(ノノ)の外見、パラメーターを確認しました
※多田李衣菜と連絡先を交換しました。
 他にも何かしらの情報を共有しているかもしれません。
※NPCのヤン・ヴァレンタインに尋問を行いました。
ネオナチの組織に関して何かしらの情報を掴んだようです。
※ジョーカーの姿を少しだけ視認しました。
※ライダー(バットマン)、バーサーカー(ン・ダグバ・ゼバ)のパラメーターを確認しました。


【アサシン(シルバーカラス)@ニンジャスレイヤー】
[状態]健康、気配遮断
[装備]ウバステ
[道具]なし
[思考・状況]
基本:マスターに従う
1.多田李衣菜達と共闘。
2.赤い覆面の男(レッドフード)に警戒。
3.多田李衣菜、バスターへの複雑な心境。
4.ヤモト・コキについては……
[備考]
※アサシン(チップ=ザナフ)バスター(ノノ)の外見を確認しました


436 : BLACK LAGOON ◆1k3rE2vUCM :2016/07/17(日) 00:13:22 e5BUeVOg0

【バーサーカー(ン・ダグバ・ゼバ)@仮面ライダークウガ】
[状態]魔力消費(大)、魔力回復中、肉体にダメージ(中)、ちょっと上機嫌
[装備]特筆事項なし
[道具]特筆事項なし
[思考・状況]
基本:もっと、もっと笑顔になりたい。
 1.ジョーカーに期待。
 2.少佐の話す"戦争"への興味。
[備考]
※しばらくジョーカーと行動を共にするつもりです。
※宝具『白き闇』に魔力炉としての機能があるため、マスターの魔力が少なくとも十分な能力を発揮できます。
また魔力炉によって通常のサーヴァントよりも効率よく魔力回復が行われます。
※空間転移は行使可能ですが、消費魔力が大きく乱発は出来ません。
※どこへ逃走したのかは不明です。

【ジョーカー@バットマン】
[状態]左肩と右足に銃創、全身に打撲、腹部に刺傷、愉快
[令呪]残り三画
[装備]拳銃(ジョーカー特製)、造花(硫酸入り)、笑気ガス、等
[道具]携帯電話
[所持金]不明
[思考・状況]
基本:聖杯戦争にとびきり悪趣味なジョークを叩き付ける。
 1.?????
 2.バーサーカー(ダグバ)を"腹の底から"笑わせてやる。
 3.バッツに捧げるジョークの下準備も忘れない。
[備考]
※車は既に破棄している模様です。
※デストロイヤー(加藤鳴海)のパラメーターを視認しました。
※どこへ逃走したのかは不明です。

【ライダー(バットマン)@バットマン】
[状態]魔力消費(極小)、疲労(小)、肉体的ダメージ(中)、苦悩
[装備]バットスーツ、疑似的な飛行(滑空に近い)を可能とするマント
[道具]バッタラン、殺生以外の様々な用途に用いる手榴弾、グラップルガン、爆破ジェル、ショックグローブ等
[思考・状況]
基本:ゴッサムシティを守る
1. ???
2. ジョーカーの野望を挫く
3. 赤髪のアーチャー(ジャスティス)に最大限の警戒
4. アーチャーのマスター(前川みく)への僅かな驚愕
5. あの鎧の戦士(龍玄)とアーチャー(暁美ほむら)に警戒
[備考]
※現在ジョーカーの位置を探しています
※並行してゴッサムに迫る危機も守ろうとしています
※アルフレッドの姿を、可能なら見てみたいと思っています
※ジャスティスと交戦しました
※宝具『衆愚の街、背徳の翼』は日没〜夜明けまでの夜間にのみ発動します。
自動発動のため夜間では常に宝具による能力補正が与えられます。



※MIDTOWN COLGATE HEIGHTSのシャルモンは放火によって全焼し、中にいたNPCの従業員や客は全員死亡しました。
またNPC(細身の婦人)に仕込まれた爆弾によってCOLGATE HEIGHTSで複数の通行人と数名の警察官が犠牲になりました。
※バットマンとジョーカー、ン・ダグバ・ゼバが多くの野次馬に目撃されました。
またバットマンは複数の警官にも目撃されました。


437 : 名無しさん :2016/07/17(日) 00:13:57 e5BUeVOg0
投下終了です


438 : 名無しさん :2016/07/17(日) 22:02:02 8Nts4HAU0
投下乙です
ジェイソン……最期までバットマンに邪魔をされた挙句ジョーカーによって殺されるのは、ある意味彼らしい退場と言えなくもないのが物悲しい
唯一の救いは、ディックを参加者と知らず逝ったことか


439 : ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:07:36 9yHUKl7Y0
ゲリラですが投下します


440 : 蛇の誘惑 ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:08:38 9yHUKl7Y0
ゴッサムシティの路地裏の一角に、一人の青年の死体が転がっていた。
それ自体はこの街において何ら珍しいことではない。
人の死が絡む事件・事故などは掃いて捨てるほど、という表現すら生ぬるいほどの数で存在している。

しかしこの青年には三つ特殊なところがあった。
一つ、黒い警官のような衣服を身に纏っていたこと。すなわちグラスホッパーの団員の一人であるということ。
二つ、死体の側に一見してただの玩具にも思えるバックルが転がっていたこと。
そして三つ、青年は巨大かつ鋭利な爪のような凶器で袈裟斬りにされ、身体を真っ二つにされて死んでいたことだ。

種明かしをするならば、彼は今日付けでアーマードライダーの一員として認められた若き団員だった。
自分が精鋭の証たる鎧武者の一員となれたことへの喜びを噛み締めながら帰路についていた。
彼は浮かれていた。故に気づかぬうちに路地裏を闊歩していた一体の上級インベスと鉢合わせをしてしまったのだ。

奇襲の一撃。ただそれのみで青年の肉体は容易く切り裂かれ即死した。
弛まぬ訓練の末に与えられたバックル、戦極ドライバーを一度も装着さえしないままに。
本来ならば、それだけの不慮の事故のような出来事で終わるはずだった。


「やれやれ、サーヴァントがサーヴァントを従えようなんざ無茶をやるもんだ。
最強に近いサーヴァントを十全の魔力で使われるとなれば、下手すりゃ他の連中が一気に食われることにもなりかねないな」


その男は何もない空間から何の前触れもなく現れた。
時代錯誤な東洋風の民族衣装を纏った男は青年の死体には目もくれず、暫し思案に耽った後主を失った戦極ドライバーを拾い上げた。


「こいつはテコ入れが必要かな」








御剣怜侍がそれに気づいたのは検事局に戻り午後の公務をこなしている時のことだった。
例の怪死事件について調べつつ、警察からの要請を待っている時に何気なく窓を見やった。

蔦があった。見慣れない植物の蔦が二階にあるこの部屋の窓に纏わりついていた。
不審に思い、窓を開けて階下の様子を見ると明らかに不自然な規模の植物が検事局の裏手に繁殖していた。
更には御剣の知識には存在しない極彩色の果実らしきものまで成っているではないか。


「……ランサー、姿を見せてくれ」
「言われるまでもありませんよ」


驚きの声を上げそうになるのを寸でのところで堪え、どうにか平静を保ち傍らのランサーに実体化を促した。
仮初めの肉体を具現化させたランサーの表情も険しいものになっている。


「…検事、あそこに成っている果実らしき物体から魔力を感じます。
申し訳ありません。サーヴァントとは実体を伴ってこそ真に外界を感知できるものですが、それでもこうまで近くにありながら気づかなかったとは」
「どう思う?」
「サーヴァントの攻撃と捉えるにはやり方が杜撰すぎます。というより攻撃的行動であるかすら怪しいものです。
あまりにも無作為すぎる。……やはり見ただけでは情報が足りませんね」
「調べてきてもらえないだろうか?」
「ええ、検事は極力平静を保って、普段通りに過ごしていて下さい。
そして敵襲があればすぐに令呪を使って私を呼んで下さい。良いですね?」


本音を言えば御剣自身も直接眼下にある不気味な植物を調べたい。
しかしあれの正体も分からないうちに迂闊に近寄るのは危険であるし、何より悪目立ちする。
昼食時に出会ったマスターに指摘された通り御剣怜侍という人間はこのゴッサムではひどく目立つ。
外で正体不明の植物を熱心に調べるなどという、傍から見れば奇妙極まりない行動を取るわけにはいかない。


人気がないことを確認し、二階から飛び降り地面に着地したランサーはまず周囲の様子を見渡した。
そして問題の植物が主に壁面を中心に伸びていることに気づく。
当然有り得ないことだ。御剣が昼食に出掛けた時点ではここに何の異常もなかったことは既に確認済みである。


「……む、これは」


よく見ると、近くにあった樹木や茂みの一部が枯れ落ちているようだった。
この検事局の敷地内にある植物は普段からよく手入れされていることはランサーも知っている。
枯れているのを見落としていた、というのはまず有り得ない。
この植物が周囲の他の植物を枯らしている可能性はかなり高いと言える。

外来種、という言葉がランサーの脳裏を過ぎる。
異なる環境からやって来た動植物が圧倒的な繁殖力等で元いた他の動植物を駆逐してしまう場合がある。
果実から魔力さえ感じるこの謎の植物はまさにそういう存在ではないだろうか。


441 : 蛇の誘惑 ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:10:54 9yHUKl7Y0

極彩色の果実を手に取り、質感を確かめる。
時間と状況さえ許せばこの果実について色々と研究したくはあるのだが――――――――




「おい、あんた!そこで何してる!?」


考え事に没頭していると、黒い服装で統一した三人の青年が詰め寄ってきた。
その統一された制服が最近巷を騒がせている自警団、グラスホッパーのものであることは御剣、ランサー共に知悉している。
鬼気迫る顔で近づいてきた集団のうちの一人がランサーから強引に果実を奪い取った。
すると果実は玩具のような錠前らしき物体に姿を変えてしまった。


「…はあ。食べてはなかったな。マジで肝が冷えたぞ。
いいか、この果実はとんでもなく有害なんだ。今度見かけても絶対に触ったり、ましてや食べたりするんじゃないぞ」
「失礼ですが、あなた方はグラスホッパーの方ですね?
どうやらあなた方はこの植物について詳しいようだ。お話を伺っても?」


ランサーは一瞬、彼らが何らかの異能を持ったマスターではないかと考えたがすぐにその考えを否定した。
マスターならばサーヴァントたる自分を明確に認識できるはずであり、こんなそこらの通行人に話しかけるような真似はすまい。
彼らが腰に着けた、よく見ると魔力を微弱ながら発しているバックルにこそ秘密があるのだろう。


「悪いがこっちにも守秘義務がある。生憎話してやれるようなことはない。
それに俺達は実働担当の下っ端だから、元々そんなに多くのことは知らないんだよ」
「ほう?つまり上には知っている方がいる、と」
「そりゃあ犬養さんなら詳しいことまで知ってるだろうけどな。
こっちに知らされないってことは犬養さんがそれで良いと判断したってことだ。
俺の大したことのない頭でも公表すりゃ大パニックになるのは簡単にわかるしな」
「パニック…ですか?」


集団のリーダー格と思しき男が漏らした言葉に不穏なものを感じ取った。
単に有害な植物が繁殖している、という程度でパニックという言葉を用いるのは些か不適切だ。
それにランサーから果実を奪い取った時の青年の顔はどう見てもただ事ではなかった。
ここは一つ、何かカマでもかけて情報を聞き出そうか。
ランサーがそう思案した時、上空から羽音らしき音が聞こえてきた。
同時に魔力を検知、上を見やると全身が黒い、蝙蝠を人型に落とし込んだような怪物が空を舞っていた。


「班長!あいつはこの前の……」
「くそっ、あの蝙蝠野郎ここらの果実を狙って来たのか!?
お前らやるぞ!今ここであの化け物を落とす!」
「しかしあいつが降りてこないことには……」
「心配するな、犬養さんから新型の錠前を受領したところだ。
俺が奴を叩き落とすから、お前らはいつでもかかれるようにしておけ!」
「「了解!」」


どうやらグラスホッパーの青年たちは怪物について知っているらしく、先んじて部下らしき二人が錠前のようなものを懐から取り出した。


「「マツボックリ」」


「「ロックオン!マツボックリアームズ!一撃、インザシャドウ!!」」


その光景はランサーをして絶句するインパクトがあった。
突然二人の真上からチャックのようなものが開いたかと思えば空から松毬らしき物体が出現。
松毬は二人に被さるように展開され、展開が終わったと同時に二人の姿は槍を携えた鎧武者に変わっていた。
まさしく変身と表現する他無い現象だ。


「これはこれは……」
「あんた、まだいたのか!?危険だから下がってろ!」
「ほう、やはりあの怪物は人間には害ある存在なのですね?」
「あれが優しいお友達に見えるんなら腕の良い眼科を紹介してやるよ!変身!」
「ブドウ」


442 : 蛇の誘惑 ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:11:36 9yHUKl7Y0


班長が取り出した錠前は松毬ではなく葡萄がプリントされていた。
先ほどの二人の部下と同じようにバックルに錠前をセットした。


「ロックオン!ブドウアームズ!龍・砲!ハッハッハ!」


今度は空から葡萄が飛び出し、班長の身体を包み込んだ。
展開されたアーマーは紫を基調とした色合いで、右手には銃が握られていた。


「そらたっぷり食らえ、蝙蝠野郎!」
「ブドウスカッシュ!」


掲げられた銃口から紫の光弾が機関銃の如き勢いで放たれ、回避しようとした怪物を連射力にものを言わせて捉え次々とエネルギーの弾丸を撃ち込んだ。
猛烈な火力を浴びせられた怪物はたまらず真下に墜落していった。


「今だ、かかれ!」
「「了解!」」
「マツボックリスカッシュ!」
「マツボックリスパーキング!」


この時を待ちわびていた二人の鎧武者がバックルを操作し、よろよろと立ち上がった怪物に躍りかかった。
一人がエネルギーを纏った槍を一閃し離脱、もう一人がジャンプし空中回転しながら怪物に槍を突き立て穿ちきった。
爆発。次の瞬間には怪物の姿は影も形もなくなっていた。
変身を解除した三人はランサーを囲むように立ち塞がった。


「あなた方は常日頃からこういった活動をしているのですか?」
「守秘義務があると言ったろ。あんたはお喋りな奴みたいだが、他言は無用で頼むぜ。
もしあんたが俺達の秘密をバラしたら……わかるだろ?」
「なるほど」


ランサーの目から見ても変身した彼らの動きと身体能力は人間の域を遥かに超えていた。
火力だけなら低級のサーヴァントを凌ぐのではないか、と思えるほどだ。
その武力を以ってすれば秘密を漏らした者を物理的に骨も残さず消すことも満更不可能ではないだろう。
もっともランサーにとって彼らが脅威になるかと言えばそれは全くの別問題なのだが。
恫喝、もとい警告はこれで十分と考えたのか彼らはそれ以上追及はせず立ち去っていった。








「……ということがあったのですよ」
「外から聞こえてきた爆音はそれだったのか。
しかし謎の植物と果実に怪物、それらの退治・隠蔽を図っていると思われるグラスホッパー。
彼らがこの現象に深く関与していると捉えて間違いはなさそうだな」
「正確にはグラスホッパーの奥にいるであろうマスター、そしてサーヴァントがですね」


検分を終えて戻ってきたランサーの報告は御剣にとっても衝撃の大きいものだった。
プライベートな空間ではなく検事局という職場にいるからこそ、何とか気を引き締め声を荒らげることはせずに済んでいる。
これが自宅なら如何な御剣でも大声の一つは出してしまっていたかもしれない。


「そうだとすれば、グラスホッパーのマスターはあの犬養舜二ということになるのだろうか。
前々から彼のカリスマやグラスホッパーを急成長させた手腕は単なるNPCのそれではないと思っていた」
「私も同じ見解ですよ、検事。彼の能力はキャスタークラスの傀儡にされた者では発揮し得ない。
そしてその背後にいるであろうサーヴァントがグラスホッパーの団員たちに変身を促し人智を超えた力を与えるバックルを配っているのでしょう」
「確かキャスターのクラスで召喚されたサーヴァントは道具作成というスキルを有すると聞いたが。
犬養舜二のサーヴァントはキャスターである可能性が高いように思うがどうだろう?」
「断定はできません。無論最も可能性が高いのはキャスタークラスですが、あのバックルを作成する能力が個人の逸話と深く結びついている可能性は十分考えられます。
その場合エクストラクラスや他の通常クラスでもあのバックルを作成できたとしてもおかしくはない。
これが一目で魔術的とわかるアイテムならキャスターだと自信を持って言えたのですがね、あれは恐らく科学の力によるものでしょう」


443 : 蛇の誘惑 ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:12:14 9yHUKl7Y0


法曹の世界に身を置く御剣にもグラスホッパーの活躍と、それに付随する過剰な暴力・殺人事件や黒い噂は漏れ聞こえてきていた。
彼らの目指すところ、理念は弱きを助け悪を挫くものであり、その点については賛同を示せなくもない。
少なくともこの街で堂々と犯罪行為を働くようなチンピラ、マフィア共に比べれば遥かにマシではあるのだろう。
だがグラスホッパーもまた法の範疇を逸脱して暴力を行使する集団であることには何ら変わりなく、御剣としては諸手を上げて彼らのやり方を歓迎する気にはなれない。


「一度要点をまとめよう。
まず植物の発生源を特定することはできなかった。
しかしグラスホッパーは植物や果実、そして果実を狙ってきたと思われる怪物に対処していた。
またグラスホッパーの団員たちが身に着けていたバックルには果実を錠前に変化させる機能があると思われる」
「そして犬養舜二のサーヴァントは例の植物について詳しく知る者である可能性が高い。
私見ですが果実を変化させた錠前をバックルに差し込んで変身したことから一つの可能性が導き出せます。
すなわちあのバックルは植物及び果実が齎す環境に適応し、果実を狙ってきた怪物に対処する力を付与するための道具でしょう。
そのような道具を作り出せる者があの植物と無関係であるはずがありませんからね」
「となると、犬養舜二と対話の場を設けることが出来ればこの謎について解明できるかもしれない……か。
ランサー、例の植物は本来のゴッサムシティにも存在していたものなのだろうか?」
「どうでしょう、先ほど接触したマスターは知らなかったように見えましたが……」
「ああ、そりゃ違うぜソードオブジャスティス。ヘルヘイムは本来のゴッサムには存在しねえよ」


突然掛けられた存在するはずのない第三者の声。
御剣とランサーが驚きとともに振り向くと二人しかいなかった室内に東洋風の民族衣装を纏った男が立っていた。


(馬鹿な……)


ランサーは常に警戒を怠らず、いつ何時敵襲があっても良いよう備えていた。
にも関わらず声を掛けられるまで全く目の前の男の存在に気づくことができなかった。
よもやアサシンのサーヴァントではないか?ランサーの警戒心が最大限度に達する。


「おっと構えるなよジェイド・カーティス。
俺はただお前らを応援しに来ただけさ」


両手を上げておどけた様子でランサーを制する男。
その声には聞き覚えがあった。正午に通達を行っていたサガラと名乗った男だ。
しかし応援?自分たちに対して応援と言ったのかこの男は?


「応援、か。我々にはそんなことをされるような覚えが全くないのだが?
むしろ聖杯戦争の進行を妨害しようとしている我々に討伐令の一つでも出すのが正しい進行役の在り方ではないのか?」


御剣はサガラの僅かな言動からある程度の事実を察していた。
この男は御剣以外誰も知らないはずのランサーの真名を一目で言い当てた。
この事からサガラが聖杯戦争の進行役として相応しい何らかの特権を得ていることは容易に推察できる。
そして超常的な特権によってサーヴァントの真名を知ることができるのなら、参加者の動向を覗き見る手段を有している可能性は高い。
瞬時に出した仮説を確かめるために、敢えて自らのスタンスを明かしサガラの反応を確かめることにした。


「そんな野暮な真似はしないさ。大体全員が全員聖杯を獲るためだけに動くってのもそれはそれでつまらねえだろ?
お前らみたいな敢えて聖杯戦争そのものについて思考することをやめない、足掻き続ける奴がいたって良い。
どんなベクトルであれ、とことん足掻こうとする奴は応援してやりたくなるのさ」


そう言って、懐からある物を取り出し机の上に置いた。
それを見たランサーが目を見張った。つい先ほどこれと全く同じものを目にしたからだ。


「こいつは戦極ドライバー。これを装着し、お前らが錠前と読んだロックシードをセットすることで人間をアーマードライダーに変身させる。
元々は圧倒的繁殖力によって他の生態系を破壊する外来種、ヘルヘイムの森に対抗するために人類が作り出したシステムさ」
「森…ですか。やはり私が見た植物は氷山の一角に過ぎなかったということですね?」
「ああ、ヘルヘイムは既にこのゴッサムシティの至るところでその根を広げつつある。
おっと睨むなよ御剣怜侍。先に言っておくがヘルヘイムの森は参加者が人為的に発生させたものじゃあない。
会場と一体化したマスターなきサーヴァントとでも言えばわかりやすいか?
繁殖と侵略を止めようと思えばそれこそ聖杯にでも願うしかないぞ?」


444 : 蛇の誘惑 ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:12:54 9yHUKl7Y0


御剣が詰問していたのを見越したかのようにその勢いを削ぐ発言をするサガラ。


「この戦極ドライバーは俺からの贈り物さ。
他のマスターと対話・強調し聖杯戦争の真実を探り当てる。そいつは大いに結構だ。
だが事は聖杯戦争で舞台は悪名高きゴッサムシティ。
お前が掲げる正義を通したいのなら、この程度の力は持っていないと話にならんぞ?」
「聖杯戦争の真実ならば、是非そちらの口から語っていただきたいのだが?」
「はは、そりゃ流石にできない相談だ」
「なるほど、まあ答えてもらえるとは思っていなかったさ。
では質問を変えようか。何故このドライバーを私に?
特定の参加者を一方的に支援するのは聖杯戦争の公正な運営を妨げるのではないのか?
「依怙贔屓ってことか?そんなもんするに決まってる。
何せ俺はお前たちの選択と行く末を見届ける監視者(ウォッチャー)であって裁定者(ルーラー)じゃあないからな」


悪びれる様子もなく問題発言をするサガラ。
よもや聖杯戦争の運営役さえもが堂々と不正行為をするとは。
御剣の眉間には知らず普段以上に皺が寄っていた。


「では私から聞かせていただきましょう。
貴方が出した戦極ドライバー、その出元は貴方自身ではなくグラスホッパーなのではありませんか?」
「正解だ。俺にはこいつを一から作り出す技術はないからな、余ったやつを一台失敬してきた」
「ほう、ならば検事がそれを使用することは出来ないよう設計されていると思うのですが。
もし私がそのドライバーを作り出した者で、NPCに配布するなら無断使用は出来ないよう設計しておきますよ」
「それも正解だ。戦極ドライバーにはイニシャライズ機能があってな、最初に装着した人間にしか使えないよう作られてる。
だが…逆に言えば一度も装着されていない戦極ドライバーなら誰でも使えるってわけだ。
本来ならこれに加えてキルプロセスっていう設計者の意思でドライバーを破壊する安全装置があるんだがな。
あのキャスターに会った時点でドライバーがパーになるなんざつまらないから取り外しておいた」


あるグラスホッパー団員が「先に一度装着しておけ」と指示されていたにも関わらず、浮かれてそれを怠りインベスに不意打ちで殺される事故があった。
ゴッサム全てを監視するサガラは当然その状況を認識しており、これ幸いとばかりに放置されたドライバーを拝借した。
そしてキャスター、戦極凌馬が敷設した簡易工房のうちの一つにある道具を使ってキルプロセスをも取り外していた。

元々キルプロセスはドライバーの機能に干渉する恐れがあるため、中枢部には取り付けることができなかった。
このため予備知識があれば凌馬レベルの科学者でなくとも、然るべき道具を使えば取り外しは不可能ではなかったのだ。
そしてサガラは凌馬が戦極ドライバーへキルプロセスを取り付ける過程も監視者として当然目撃している。
後は簡単、目にした情報をもとに、どこにでも出入りできる自らの性質を活かして凌馬の用意した設備を借用して取り外せば良いだけの話だ。


「なるほど、どうやら貴方はこのドライバーを参加者に使わせるために随分と労力を払ったようだ。
であれば今、このタイミングになって渡そうとするのは――――――貴方にとって何らかの不都合な事態が発生したからではないのですか?」


ランサーの投げた問いにサガラはニッと笑い、「まあな」と肯定を示した。
同時に機材もなしに立体映像のようなものを室内に投影した。
映像では黒いスーツ姿で緑のポケットチーフを胸に飾った青年が戦極ドライバーを身に着けメロンがプリントされた錠前を掲げていた。
錠前をベルト中央部の窪みにセットし、ブレードでカットすると真上から現れたメロンが青年を包み込んだ。
そしてメロンを模した鎧が展開され、刀剣と盾を持った仮面の戦士へと変身を遂げた。

そこで場面は切り替わり、変身した戦士と白亜のボディの怪物めいたフォルムの存在が切り結んでいる様子が見えた。
マスターである御剣には白亜の怪物からステータスを読み取ることができた。つまりあれはサーヴァント。
素人である御剣の目には両者とも互角かそれに近い戦いを演じているように見えた。


「俺はワンサイドゲームってやつがどうにも好きじゃなくてな。
一人のマスターが二騎もサーヴァントを従えてるっていう状況はバランスが悪い。
だからついつい口が滑ったり力を渡してやったりしたくなるんだな、これが」


445 : 蛇の誘惑 ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:13:54 9yHUKl7Y0


はっきり名前や状況を口に出さないだけで、サガラが何を伝えたいのか二人には嫌というほどよくわかる。
要は立体映像にあったマスターらしき青年が一方的に優位に立っている状況が気に入らないのだ、この進行者は。
単純に排除したいのなら討伐令の一つも出せばいい。
そうしないのは青年が明確なルール違反を犯していないからか、あるいはこの情報を得た上で御剣がどう動くか楽しもうとしているか、はたまたその両方か。
いずれにせよ思考を読みづらい、厄介な存在である。


「俺からお前への“贈り物”はここまでだ。
さあ受け取れ。戦国の世界を生き抜く力を」
「なるほど、では――――――」


サガラの言に嘘はないのだろう。嘘をつくメリットがない。
進行役の発言に明確な嘘があるとなれば、そして複数の参加者にそれが知れれば主催者、引いては聖杯そのものの信用の失墜に繋がる。
またサガラは争いを扇動しようとしていることは明らかであり、であれば自らの言葉で参加者を動かせなくなるのは何としても避けたいはずだ。
ランサーから聞いた話と照らし合わせても、アーマードライダーとやらに変身する力を手に入れるメリットは極めて大きいことは疑いようもない。
故にこそ、御剣の返答は一つしかない。




「――――――この話、断固辞退させていただこう」




差し出されたドライバーを、再度サガラに押し付け断言した。


「おいおい、ランサーから聞かなかったのか?
平和主義も結構だが殺しに来る相手に無抵抗じゃ嬲り殺されることぐらい理解しているだろうに」
「無論、理解しているとも。力を手にする機会を放棄することで私はこの先多くの不利益を被るだろう。
それでも、検事である私が銃火器をも超えるような武力を持つわけにはいかないのだよ」


人智を超えた怪物と互角に渡り合えるような武器を携えたマスターを誰が信用できる?
ましてや自分のように魔術なる異能を何も持たない一般人のマスターからすれば恐怖の対象以外の何者でもあるまい。
元より神秘の存在たる英霊はともかくとしても、ただの人間が分不相応な力など持つべきではないのだ。


「臆病者と罵ってくれても構わんよ。
手に入れた力で人を殺めることへの抵抗感があるのも偽らざる本音だ」
「…いいや、それがお前の選択なら俺はもう何も言わないさ。
少なくともお前は考えなしの連中とは違って、それなりに考えた上で言ってることはわかるからな。
こいつはお前以外の、力を必要とする奴に渡すとするさ。
じゃあな。俺はいつでも、お前たちを見守ってるぜ」


そう言って、サガラは音もなく部屋から消え去った。
戦極ドライバーもまた、影も形もなくなっていた。
緊張が解け、ふうと一息ついて椅子に深くもたれかかった。


「……これで良かったのだろうか、ランサー」
「それは私が決められることではありませんよ。
検事は後悔しているのですか?」
「…無いと言えば嘘になるのだろう。何せ命がかかっている。
私とて死にたいわけではない、いざ自分が誰かに殺される段になればこの選択を後悔したとしてもおかしくはない。
いや、ただ殺されるならまだしも怪物に変貌する可能性さえある。……そうなのだろう、ランサー?」


ランサーが暫し、沈黙した。
それはランサーが話すべきかどうか、決めあぐねていた仮説だった。


446 : 蛇の誘惑 ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:15:07 9yHUKl7Y0


「……ええ。恐らくヘルヘイムの森、と称された植物から成る果実をそのまま食した人間は私が見たような怪物になるのでしょう。
グラスホッパーの団員の態度や怪物が人型を保っていたこと、錠前で変身したアーマードライダーが怪物を倒せる戦闘力を有していたことからほぼ間違いないかと。
サガラは説明しませんでしたが戦極ドライバーを用いることで果実を無毒化して怪物に抗う力に変えるのでしょうね」
「そして彼は我々がそこまで考え至ると踏んでいたから説明を省いた、ということか。
しかし、だとすれば由々しい問題だ。…まさかマスターやサーヴァント以外にまだ脅威が存在しているとは。
このままでは犠牲者が増える一方だ」
「グラスホッパーが隠蔽処理と怪物退治を行っている以上、そうすぐには大事に至らないでしょうが…やはりいずれ限界が来るでしょうね。
焦りは禁物ですが、我々が当初思っていたほど真相の究明に時間をかけられるわけではなさそうだ」
「そうだ、あまり悠長にしているわけにはいかない。
さしあたっては喫茶店の事件を辿って先ほどのマスターと接触し、本来のゴッサムシティにヘルヘイムなる植物が存在するのかを確かめたい」


グラスホッパーやサガラが「吊し上げ」に出した映像の戦極ドライバーを使っていた青年も気になるがまず手近なところから調べるべきだ。
特にあの青年はサガラの言が確かなら何らかの手段でサーヴァントを二体も支配下に置いていることになる。
迂闊に接近を図るのは自殺行為以外の何者でもない。

そしてもう一つ憂慮すべきなのはサガラのスタンスと特定の参加者への露骨な優遇だ。
あの男は均衡状態でのバトルロイヤルを楽しんでいる節がある。
つまり今後御剣たちが優位な状況になれば確実に何かしらの横槍を入れて妨害を仕掛けてくるということになる。
他のマスターと協力体制を築けたとしても気を抜くことは許されない。


(しかしあの青年……どこかで見たような気がするのだが………)


先ほど立体映像を見た時から、戦極ドライバーの使い手の青年に既視感を覚えていた。
とはいえ元の世界での知り合いではない、ということは断言できる。
気のせいかもしれないが、このゴッサムに来てから写真なり画像なりで顔を見たのかもしれない。
時間があれば調べてみてもいいかもしれない。


警察からの要請を待つ御剣に先に遭遇したマスター、レッドフードことジェイソン・トッドの訃報が届くまで、あと僅か。


447 : 蛇の誘惑 ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:15:45 9yHUKl7Y0



【MIDTOWN COLOMBIA PT/1日目 午後(夜間より少し前)】

【御剣怜侍@逆転裁判シリーズ】
[状態]健康、平常
[令呪]残り三画
[装備]ブラックコート、黒いウェストコート、ワインレッドのスーツ。
[道具]検事バッジ
[所持金]現金が数万程と、クレジットカード
[思考・状況]
基本:やはり聖杯戦争は許し難い。何としてでも止めねば
1. 仕事を放棄してはいられないので、検事としての本分も果たすつもり
2. 青年(レッドフード)と接触し、詳しい話を聞きたい
3.ランサーとは共に行動する事を徹底させる
4.ヘルヘイムの森、グラスホッパー、二体のサーヴァントを従えるマスター(呉島貴虎)を強く警戒する
[備考]
※検事としての権限を利用し、警察の捜査資料を調べ上げました
※内部から身体を破裂させて対象を殺す殺人鬼(デスドレイン)をサーヴァントではないかと疑っています
※ヤモト・コキが聖杯戦争の参加者であると認識しています。同盟も組めるかもと思っていますが、立場の問題上厳しい事も自覚しています
※キャスターと思しきサーヴァントとそのマスターを殺した存在(レッドフード&チップ・ザナフ)をサーヴァントと認識しました
※脱落したサーヴァントとの戦闘らしき事件の調書から炎、あるいは熱に関する能力を持ったサーヴァントがいる可能性を認識しました。
※素顔のレッドフードに接触しました、レッドフードが本来のゴッサム住民である可能性に気が付きました。
※ヘルヘイムの森と怪物(インベス)、アーマードライダーについて大まかな概要を知りました。
※犬養舜二をマスターだと認識しています。また彼のサーヴァントが戦極ドライバーを量産していると考えています。
※二体のサーヴァントを従えるマスター(呉島貴虎)に僅かな既視感を覚えています。
ただし長時間経過しても正体がわからなかった場合は既視感は気のせいだと判断します


【ランサー(ジェイド・カーティス)@テイルズオブジアビス】
[状態]健康
[装備]マルクト帝国の士官服
[道具]フォニックランス
[所持金]御剣に依存
[思考・状況]
基本:御剣に従う
1. 他サーヴァントの情報をもっと集められないか
2. 殺人鬼(デスドレイン)が犯行現場に残した黒いタールの残留を調べたい
3.ヘルヘイムの森、グラスホッパー、二体のサーヴァントを従えるマスター(呉島貴虎)を強く警戒する
[備考]
※殺人鬼(デスドレイン)がサーヴァントであると疑っています。犯行現場に残したアンコクトンの残骸を調べれば、確証に変わります
※ヤモト・コキが聖杯戦争の参加者である可能性は非常に高いと認識しています
※キャスターとそのマスターを殺した存在(レッドフード&チップ・ザナフ)が間違いなく聖杯戦争の関係者であると考えています
※脱落したサーヴァントとの戦闘らしき事件の調書から炎、あるいは熱に関する能力を持ったサーヴァントがいる可能性を認識しました。
※アサシン(チップ・ザナフ)と素顔のレッドフードに接触しました、レッドフードが本来のゴッサム住民である可能性に気が付きました。
※ヘルヘイムの森と怪物(インベス)、アーマードライダーについて大まかな概要を知りました。
※犬養舜二をマスターだと認識しています。また彼のサーヴァントが戦極ドライバーを量産していると考えています。


[全体備考]
※ウォッチャー(DJサガラ)が戦極ドライバーを進呈するために参加者のいずれかに接触しようとしています。


448 : ◆4jULo8RMS2 :2016/07/24(日) 15:16:52 9yHUKl7Y0
以上で投下を終了します
キルプロセスについて大分突っ込んだ描写をしていますので指摘等ありましたらよろしくお願いします


449 : 名無しさん :2016/07/24(日) 16:10:19 ZESm8mrE0
投下乙です。
サガラ、監視者ながらかなり堂々とテコ入れしてるけど実際こういう奴だからなぁ…w
一方的な試合を好まないサガラなら一主従に戦力が集中するのもそりゃ嫌がるわな
そしてドライバー受け取りを拒否した御剣もいいなぁ
グラスホッパーに対しての反応もだけど、やっぱりあくまで秩序や検事としての矜持を遵守する姿はかっこいい
キャス虎組の情報に加えてジェイソンの訃報やディックの存在と着々とフラグを重ねる彼らの今後はどうなることか


450 : ◆4jULo8RMS2 :2016/08/21(日) 17:23:39 F.rhQIZs0
ハナ・N・フォンテーンスタンド
ミュカレ&セイヴァー(ジェダ・ドーマ)
ヤモト・コキ&ランサー(乃木園子)
予約します


451 : ◆4jULo8RMS2 :2016/08/26(金) 06:18:30 FQd1uqdI0
延長します


452 : ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:45:24 QOSZH9Xs0
投下します


453 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:46:34 QOSZH9Xs0
陽がほとんど落ちたMIDTOWNのRED HOCKとWEST SIDEのちょうど堺にあたる通り道。
そこを幽鬼のような、この世の不幸を一身に集めたような形相をした小柄な少女が歩いていた。
足取りは全くもって定まっておらず、フラフラとしている。
実際彼女はこれといった目的地など一切考えていない。

少女、ハナ・N・フォンテーンスタンドは人生最大の絶望を抱えながら歩いていた。
サーヴァント、キャスターことデスドレインの常軌を逸した狂気によって心を折られただけではこうはならない。
この街における肉親である母親の死、ニュースで報道された訃報を受けて泣き叫んでいた彼女に世界は呵責なき追い打ちをかけた。
警察から父親が何者かに殺害された、という旨の電話が入ったのがつい先ほどのこと。
それ以外にも何か話していたような気はするが最早ハナの記憶には全く留められていない。

はっきりしているのは、今やこの世界でハナは一人ぼっちだという事実だけだった。
唯一、聖杯を手にしさえすれば全てを覆せるのであろうがそんなことは土台不可能だと思い知らされたばかり。
いつの間にか勝手に出かけたキャスターはこれからも好き放題に暴れた挙句そのうち勝手に満足して死ぬのだろう。
もう何もかもがどうでもよくなってしまった。
死ぬ覚悟をした、というわけではない。単にもう生きるに足る希望を全て見失ってしまったのだ。
端的に言って今のハナは自暴自棄の状態にあった。
それにも関わらず先ほど失禁した下半身の衣類はしっかりと履き替えて家を出たことに自分でも苦笑する。
もう何の意味もないことなのに、身体がオシャレを忘れていないのかもしれない。

そんな時、路地の片隅に見慣れない植物があることに気づいた。
それも雑草の類ではない。古びた建物などにたまに纏わりついているような蔦だ。
何故かその蔦が気になってしまう。どうせ他にすべきことも出来ることもないので少し足を伸ばして蔦を追うことにした。


「何デスか、これ」


蔦を追った先にあったのは不自然なまでに繁殖した植物だった。
何より目を惹いたのは見たこともないような毒々しい色合いの果実。
中学生故に学が十分あるとは言い難いハナにもこんな空気の淀んだ大都市で果実が実をつけるほど植物が育つわけがないことはすぐにわかった。
首を傾げてしばらく果実を見つめていると、何だか急速にお腹が減っていくのが感じられた。
そういえばご飯もロクに食べていなかったかもしれない。何か食べないと、という気になる。


「食べても良いデスよね」


平素のハナなら絶対にしない判断を以って成っている果実に手を伸ばし、そして掴んだ。
今、この瞬間のハナにとってはこの果実が今まで食べたどんなものより美味しそうに見えていた。
これまでの苦痛に満ちた出来事すら忘れ、満面の笑顔でそれを口にしようとして―――


「イヤーッ!」


―――突如振り落とされた手刀で果実を取り落とした。











ヤモト・コキとランサーはまずMIDTOWNで<令嬢>総帥の情報を探すことにした。
これまではUPTOWNを中心にして移動する生活を送っていたが、<令嬢>に関する情報は大して得られなかった。


454 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:47:23 QOSZH9Xs0
ならば<令嬢>の本拠地はゴッサムの中心であるMIDTOWNにあるのではないか。
ヤモトとランサーがそう結論付けるまでにさしたる時間はかからなかった。
追われる身で土地勘のないエリアを動き回るのは少々躊躇われるものがあったが、こちらから動かなければジリー・プアー(徐々に不利)だ。

多くの不安要素を抱えながらも、しかしヤモトの瞳には以前のような陰は差していなかった。
多田梨衣菜との出会いによって本当の望みを取り戻し、そして出来る限り早く指名手配を解いて梨衣菜の手助けをしたい、という新たな望みも生まれた。
記憶を取り戻してから、あるいはネオサイタマで逃亡生活を始めた頃からなのか。
ともかくヤモトは初めて目指すべき場所、明確な目的を見出したのだった。


(ヤモヤモ、元気になったのは良いけどあんまり急ぎすぎちゃ駄目だよ〜)
(わかってる。急いだヒキャクがカロウシしたって古事記にも書いてある)
(……前から思ってたけどヤモヤモの言葉遣いって大分独特だよね)
(えっ、アタイはランサー=サンやタダ=サンの方が変わってると思ってたけど)
(えっ)


念話をしながら歩いていると奇妙な光景に出くわした。
つい今しがたまでコンクリートばかりの街並みだった筈なのに、角を曲がると鬱蒼とした植物が広がっていた。
それどころか蔦が伸び放題な上に不気味な色の果実が実をつけている。


(ヤモヤモ、あれ)
(うん、アタイにもわかる。あれは良くないモノだって)


ランサーは魔力を探知して、ヤモトはニンジャセンスで目の前にある植物や果実の危険性を見抜いた。
誰が何の目的で繁殖させたものかはわからないが、感覚的にあれは厄災を齎すものだと理解できる。
何であれ近づくべきではない、と判断して踵を返そうとした時、一人の少女が虚ろな瞳で無防備に植物に近づいていった。
それどころか虚ろな目のまま笑顔を浮かべ、拾った果実を口にしようとしているではないか。
よく考えなくても道端に生えている毒々しい色の果実を食べるのは非常にアブナイ!


(ヤモヤモ!?)
「イヤーッ!」


ヤモトは決断的に少女に接近、狙いすました手刀で果実を地面に落とした。
ニンジャの身体能力では少しでも力加減を誤れば少女の腕をネギトロにしてしまいかねなかった。
しかし極限まで力を抜き、かつ精密・最速の動作で少女には傷一つつけなかったのだ。ワザマエ!


「アイエエエ!?」
「そんな怪しい果物食べちゃ駄目。いいね?」


突然の手刀に慌てふためく少女を努めて優しく諭す。
指名手配されている現状を思えばこの行動は悪手だったのかもしれない。
しかしヤモトはどうしても放っておくことができなかった。
それは魔力を持つ果実のせいでもあるだろう、しかし本当の理由は少女、ハナの目を見た瞬間に理解できた。


455 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:47:59 QOSZH9Xs0


(この子はさっきまでのアタイと同じだ)


彼女の目は理不尽に打ちのめされたもののそれだ。
治安の悪いこの街なら聖杯戦争とは関わりなく血なまぐさい出来事があっても不思議ではない。
その点についてはゴッサムもネオサイタマもさほど変わりはないらしい。

出来ることなら話をしたり、相談に乗ってあげたいと思う。
こんなことを思えるようになったのも梨衣菜と出会ったからだろうか?
しかし指名手配されている身分では誰かとゆっくり会話することさえままならない。
それどころかいつマフィアやヤクザに変装を見破られて少女にまで迷惑をかけてしまうかもわからない。


「もうこの植物には近づかない方がいい」


一言だけ忠告を残してその場を立ち去ることにした。
指名手配さえ解くことができれば、誰かとゆっくり触れ合うこともできるのだろうか。
そんなことを考えていた時、控えていたランサーが不意に実体化した。
目の前に人がいるにも関わらず、だ。


「ヤモヤモ、サーヴァントがすごい勢いでこっちに来てるよ。
これはちょっと逃げられそうにないかな〜」
「え!?」
「!?」


この時ヤモトとランサーがもう少し注意深ければ気づけただろう。
ハナがサーヴァントという言葉に、NPCでは有り得ないほど強く反応したことに。
しかし実際にはそうはならず、怪物然としたサーヴァントが空中から地上に降り立つ方が早かった。


「その程度の変装で我らの目を欺けると考えていたのなら、些か失望せざるを得ない」


牢獄の看守のような服装の、濃紺のサーヴァントはまっすぐにヤモトを指差した。


「ヤモヤモ、後ろっ!!」
「!!」


突如、ヤモトの背後に魔法陣が出現しそこから槍が高速でヤモトの頭部目掛けて射出された。
マスター狙いのアンブッシュを紙一重で躱したものの、変装用に身に着けていた帽子と伊達眼鏡が地面に落ちてしまった。
ヤモトは未だ未熟なニンジャであり、アンブッシュへの耐性は高くない。
今の攻撃もランサーの助言がなければ今頃ヤモトは爆発四散していたことであろう。


「ほう、躱してみせるか。その身のこなし…やはりマスターだったか、ヤモト・コキ」
「……ドーモ、ヤモト・コキです」


怪物のサーヴァントの背後から現れたのはマントを羽織り杖を持った一人の少女。
しかしヤモトもランサーも彼女が見た目通りの存在などではないことを一目で見抜いた。


「……最悪。こんなことって有り得るの?」


相手方のマスターを見たランサーの顔と言葉からは普段の呑気さが完全に消えていた。
保有する魔力量、技のキレ、隠しきれない威圧感、どれを取っても人間が有していて良いものではない。
それこそサーヴァント級。否、サーヴァントが英霊をクラスという器に落とし込んだ劣化コピーであることを踏まえれば凌いですらいるかもしれない。
恐らく、ランサーですら手加減して戦うことはまずできないであろうほどの存在だ。
今のヤモトとは最早比べるべくもない。

ランサーをして戦慄させる少女の名はミュカレ。幾度も転生を繰り返した完全者。
従者のクラスはセイヴァー。真名(な)をジェダ・ドーマ。


――――――殺戮者たちのエントリーだ。


456 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:48:33 QOSZH9Xs0











ミュカレは空いた午後の時間をまずは奪取したベルト・戦極ドライバーの解析に使った。
約五時間の格闘の末、製作者が見れば怒りで憤死しかねないほどの早さでイニシャライズ機能を解析・無効化してしまった。

何故異世界出身者であるミュカレがこうも容易くドライバーを解析できたのか。
それは聖杯がミュカレに授けた知識と予選での過ごし方に起因する。
マスターに授けられた現代知識によりさして問題なくゴッサムで過ごせたミュカレだがそれだけでは満足しなかった。
セイヴァーを召喚してからもこの世界の科学技術について時間の許す限り知識を吸収していたのだ。
他のマスターがミュカレの知らない科学技術を用いて思わぬ攻撃に出る可能性を予見してのことだ。

戦極ドライバーは先進的な技術が盛り込まれているものの概ね再現されたゴッサム・シティと同様の年代に作られた物だ。
この世界の科学に関する知識をも蓄えたミュカレにとっては僅か数時間で破れる程度のセキュリティに過ぎなかった。

戦極ドライバーの開発者、戦極凌馬は世紀の天才と称しても過言ではないほどの人物ではある。
しかし彼の生きた時間は僅か三十年にも満たない。
転生を繰り返しながら数百年も生き続け、知識を蓄え研鑽を続けたミュカレの経験値には遥かに及ばないと言わざるを得ないのである。

さらに言えば戦極凌馬は死者(サーヴァント)でありミュカレは生者(マスター)である、という差がある。
戦極凌馬は確かにゴッサムに現界してからも生前の発明の改良に努めている。
が、それでも英霊たる彼は既に完結した存在であり、そうであるが故に大きな成長・進歩は見込めようはずもない。
そしてミュカレはどんなに歪であれ今を生きる存在だ。故に彼女には先がある。進歩も成長もできる。
これは死者たる戦極には到底埋めがたい差であった。


「まさかこの短時間で解析してしまうとは…流石は我が主人、というところかな?」
「世辞などいらん。それにこのベルトは製作者にとっては所詮見せ札に過ぎぬ。
本当の切り札をNPCなどに大量に配る馬鹿はおらぬはず。
十中八九、より高性能の上位機種を隠し持っているのだろうさ」


認証機能を解除し、キルプロセスを取り外しても尚ミュカレは気を緩めることはしなかった。
恐らく存在するであろう戦極ドライバーの上位機種をも解析、理解しなければ製作者であるキャスターを上回ったことにはならないからだ。


「とはいえ存外に早くこれを使えるようになったのも確か。ふむ……。
セイヴァー、346プロへ出向くぞ。マスターなりサーヴァントなりを捕捉できれば試運転も出来よう。
無論このベルトだけではなく貴様の試運転も含むがな」
「なるほど、確かに私はまだ他のサーヴァントと戦ってはいなかったか。
無論この私が凡百の英霊に遅れを取るなど有り得ぬ話ではあるが、実際に私がサーヴァントを斃すところを見ていない君が疑問視するのも当然か」
「わかっているのなら結果を出すことだ」


457 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:49:26 QOSZH9Xs0


ミュカレは既に、変身せずしてアーマードライダーや所持するロックシードが生成するアームズのあらましをも解析していた。
手にあるのはイチゴのロックシード、アームズウェポンは投擲武器であるイチゴクナイ。
武器ならば既に元帥杖があるが小振りの投擲武装というのは中々に好都合ではあるか。
何より脆弱な肉体は純物理的なダメージに弱く、その弱点を鎧で補強できるというのが良い。
主従共に闘志をふつふつと滾らせながら獲物を探しに大学を出た。





(マスター、朗報だ。探し人を発見した)
(その迂遠な物言いはやめろ。何を見つけた?)
(例の指名手配犯のヤモト・コキだ。変装しているようだが私の目は誤魔化せない。
加えてサーヴァント反応もある。これは確定と言っていい)
(ほう、ならばそこまで我を連れて行け。折角の機会を逃す手もあるまい)
(了解した)


索敵そのものにはさほど時間はかからなかった。
先んじて空中に飛んだセイヴァーがRED HOCKとWEST SIDEの堺付近にいるマスターを発見した。
後は語るまでもない。空から一気にヤモトの元まで迫り対峙したのだ。









ハナ・N・フォンテーンスタンドは腰を抜かしただ事態の推移を見守ることしかできなかった。
彼女はこれまでずっと日常に没頭し、聖杯戦争から目を背け続けてきた。
当然ながら戦場に出たことなど一度たりともありはしない。
そもそも自分以外のマスターやサーヴァントに出会ったことさえこれが初めてだ。
故に、魔術師や英霊が放つ殺意、敵意に対してはどこまでも無防備だった。

そしてこの場にいるハナ以外のマスターもサーヴァントも、誰一人としてハナがマスターなどとは思いもしない。
ミュカレとジェダに至っては道端を歩いていたら進路上に小石が転がっていた、という程度の認識しかない。
外出用のコートを着て手袋をつけているために令呪が隠蔽されているのも理由ではあるのだが。


(れ、令呪。令呪でキャスターを……!)


キャスター、デスドレインがしたような脅しの領域ではない純度百パーセントの殺気。
修羅場への耐性など無きに等しいハナに生存本能を呼び起こさせるには十分すぎるほどの効果があった。
先ほどのデスドレインとのやり取りでタンクが空になっていなければ、またも失禁していたであろう。
恐怖に慄いたハナは震えながら令呪を使おうとする。


―――令呪を使って、オレを縛ろうなんて考えるなよ。オレは誰かに命令されたり、縛られるのがこの世で一番嫌いなンだよ
―――もし令呪なんて使ってみろ。殺すから

「あ、ああ…………」


デスドレインの顔が、言葉が何度もリフレインされる。
このままでは殺される。けれど令呪を使ってもきっと自分のサーヴァントに殺される。
何も出来やしない。命がかかったこの状況にあっても、今までと同じように。






ヤモトのニンジャセンスが過去最大の警鐘を鳴らしている。
目の前に初めて敵対的なサーヴァントがいるから、というのも勿論ある。
しかしある意味最大の問題はマスターだ。
ヤモトは過去にもソウカイヤのニンジャと何度も交戦してきたが、あのマスターはその全てを軽く凌駕している。
恐らく自分にインストラクションを授けたシルバーカラスですら分が悪い。
以前助太刀してくれたニンジャスレイヤーでも手こずるだろう。


458 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:50:01 QOSZH9Xs0


(アタイは何てイディオットなんだ……)


心のどこかでは慢心があったのかもしれない。
サーヴァント相手ならともかく、マスターの中に曲がりなりにもニンジャである自分を凌ぐ者などそうはいないと思っていた。
だが現実はどうだ。結局自分の役割(ロール)が原因になって圧倒的に格上な主従に捕捉されてしまったではないか。
こんなマスターに引き当てられてしまったランサーへの申し訳無さがこみ上げる。


(ヤモヤモ)
(何、ランサー=サン)
(ちょっとここは私に任せてくれないかな〜。
ほら、ここは俺に任せて先に行けってやつ)
(そんなの駄目!アタイも戦うよ)


そのランサーが提案してきたのは、あろうことか単独で相手主従と戦うという無謀としか思えないものだった。
当然、そんな命を捨てるような行動に賛同できるヤモトではない。
ランサーの宝具が守りに秀でていることは予め聞いているが、世の中に絶対などというものは絶対にないのだ。
あの主従を相手にしては怪我で済めば御の字だという確信めいた予感がヤモトにはある。


(大丈夫大丈夫、こういうのは慣れてるから。
それにあの子のことはヤモヤモにしかお願いできないかな〜って)


その言葉にハッとして背後にいる少女を見やる。
彼女はNRS(ニンジャリアリティショック)を受けたモータルめいて腰を抜かしており、明らかに一人で逃げられる状態にない。
この状態の彼女を放置してヤモトたちがイクサを始めれば確実に余波を受けてネギトロめいた死体に早変わりするだろう。
聖杯戦争に何も知らぬモータルを巻き込んでしまったことへの後悔が募る。

けれど、それとて究極的には無視してしまっても構わないはずの問題だ。
要するにランサーはバレバレの建前を使ってでもヤモトをこの場から逃がしたいのだ。
そしてヤモトがあの少女を放っておけないとわかった上で言っている。
実際サーヴァントはランサーが抑えるにしてもあのマスターにヤバレカバレで立ち向かうのはヤバイ。


(……ずるいよ、ランサー=サン)
(ごめんね〜後で何でも奢るから〜)


涙をこらえて踵を返し、少女を抱えて走った。


「ひゃっ!?」
「ごめん、少し黙ってて。舌を噛む」


ニンジャ身体能力を全開にしてただ、走る。
ランサーが考えあって一人で殿を引き受けたようにヤモトにも考えがある。
可能な限り早く、可能な限り離れてから令呪を使ってランサーを呼び戻す算段だ。
とはいえ半端な距離ではあの主従に再び捕捉されて振り出しに戻る結果に終わるのはわかりきっている。
空を飛べる相手のサーヴァントから完全に逃れるには相当の距離を稼がねばならないだろう。
その間にランサーが自分の身代わりになってどれだけ傷つくのか、考えるだけで胸が締めつけられる。


459 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:50:57 QOSZH9Xs0


(この人はどうして……)


いきなりお姫様抱っこのような態勢で抱えられたハナはわけがわからなかった。
間違いなくマスターである女性―――少なくとも中学生のハナにはそう見える―――は何故自分を助けるような真似をするのだろうか。
きっとそれはハナをマスターではなくNPCと誤認しているからなのだろうが、だとしてもわからない。
マスターとは聖杯を手に入れるために他の全てを蹴落とし勝利へと邁進するものではなかったのか?

何時しかハナを抱えた女性は建造物を巧みに飛び回り今はいくつものビル群を跳躍一つで次々と渡っていた。
あまりにも現実離れした身体能力。人間にこんな真似が出来るはずがない。
これはそう、まさしく――――――忍者の業だ。


「ヒッ……!?」


そこで思い出した。
自分のサーヴァントである、あまりにも悪辣で暴虐の化身としか呼べないニンジャの姿を。
一瞬、女性の姿にあのキャスター、デスドレインが重なる。
体格も性別もまるで違うはずなのに、二人が全く同質の存在であるように見えてしまう。
ハナの怯えを感じ取ったのか、女性がハナへと顔を向けた。


「アタイがコワイ……よね。
安全なところまで逃げたら降ろすから。……あと、巻き込んでごめん」


不思議なことに、女性は今にも泣きそうな顔をしていた。
何故そんな顔をするのかハナにはまるで見当がつかない。
けれど、彼女の泣き顔からはもうデスドレインの影は見えなくなっていた。











ランサーは戦闘態勢に入ったまま不気味なほど沈黙を保つ少女とサーヴァントを睨んでいた。
どちらもヤモトには近づかせないという至上命題がある以上、こちらから仕掛けることは有り得ない。


「セイヴァー、念話が可能な距離は本来1kmもないということだったな」


ふと、マントを羽織った少女が口を開いた。
まるで芝居を演じるように傍らのセイヴァーと呼ばれたサーヴァントが答える。


「ああ、あくまでも君は例外中の例外。
ヤモト・コキもかなりの魔力量も持ち主ではあるが見たところ彼女は本職の魔術師ではない。
今頃はもう念話の範囲外にいると考えて良いだろう」
「では令呪で余計な邪魔を入れられる恐れはなくなったというわけだな」


少女が懐から黒い奇妙なベルトらしき物体を取り出した。
腰に装着すると続けてイチゴの形状をした錠前を取り出した。


「では性能を試すとしよう」
「イチゴ」


起動したのか音声を鳴らした錠前をベルト中央部に嵌め込んだ。


「ロックオン!」
「えっ!?」


すると、空中にファスナーが開いたとしか形容しようがない現象が起きた。
ファスナーが開いた先からは巨大なイチゴが出現し少女に覆いかぶさろうとしていた。


(頭からイチゴを被って……一体何するつもり!?)


初めて見る現象にランサーも驚きを隠せない。
そして悠然とした佇まいでベルト中央にちょこんと付いた剣を倒した。


「イチゴアームズ!シュシュッとスパーク!」


舞い降りたイチゴを頭から被ると姿そのものが変わり、イチゴが鎧として展開された。
変身と呼ぶしかない現象を起こした少女は「…何と趣味の悪い音声か」と呟くと高々と左腕を掲げた。


460 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:51:34 QOSZH9Xs0

ランサーは知らないが、これこそ戦極ドライバーで変身するアーマードライダー。
アームズの下の素体は黒影トルーパーのものと同一にデザインされている。
言うなれば黒影トルーパー・イチゴアームズ。
ただでさえ魔術師の英霊に匹敵する魔導を振るうミュカレにアーマードライダーの力が付与された。


「我が従僕に令呪を以って命ず。速やかにランサーを撃滅せよ」


令呪。各マスターに与えられた三回限りの切り札をこんな序盤で使おうというのか。
セイヴァーの持つ魔力とプレッシャーが格段に増したことが伝わってくる。


「セイヴァー、これは貴様への投資だ。
我の魔力提供と令呪を受けて尚サーヴァント一騎討ち果たせぬようならば我がサーヴァントたる資格など無いと知れ。
我はヤモト・コキを追い、これを捕獲する。そこなランサーめの首級を以って自らの価値を示せ」
「承知した。その程度の蛮勇を振るってみせねばどのみち我々が勝ち抜くことなど無理な話だ」


指示を受けたセイヴァーがついに戦闘態勢に入った。
圧倒的不利を通り越して絶望的ですらある状況だが素直に通してやるわけにはいかない。


「悪いけど、行かせないよ!」
「いいや、通らせてもらうとも」


黒影の姿が掻き消えた。常人が見ればそうとしか言えない事象が起こった。
並のサーヴァントをすら置き去りにするほどの超絶的加速で妨害を試みたランサーをあっさりと出し抜いてヤモトが走り去った方向へと向かっていったのだ。
この超加速はアーマードライダーの標準的能力でもなければミュカレ自身が持つ技でもない。
イチゴアームズに備わった特殊な機構だ。


「ヤモヤモ……!」
「さあ、私と一つになりたまえ。槍兵よ」


翼を千切り、鎌にしたセイヴァーが強烈な攻撃を見舞った。
ランサーを守護する精霊が防御するも衝撃の重さは無視できるものではない。

力が出ない。自分の実力が本来より落とされていることをランサーは今更ながらに感じ取った。
相手の持つ何らかのスキルによってステータスを削がれているのか。
逆に相手は令呪の支援によって本来以上の力を発揮してくる。
これではヤモトを助けに向かうどころではない。


(ごめん、ヤモヤモ。何とか逃げ切って……!)


戦闘力の差は歴然。念話も通じない。
絶望的な戦いが始まった。


461 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:52:48 QOSZH9Xs0


【MID TOWN WEST SIDE /1日目 午後(夜間より少し前)】

【ランサー(乃木園子)@鷲尾須美は勇者である】
[状態]健康、対英雄スキルによる能力低下
[装備]無銘・槍
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:ヤモヤモ(ヤモト)を元の世界に帰す。
0 . セイヴァー(ジェダ・ドーマ)への対処
1. できればヤモヤモを戦わせたくない。汚れ仕事は自分がする
2. 令嬢のボスを説得して、指名手配を取り下げる。

[備考]
※ランサー(ウルキオラ・シファー)、デェムシュの戦闘を感知しました。
どこまで視認できたかは不明です。
※多田李衣菜の連絡先と住所を知りました
※ハナをNPCと誤認しています

【セイヴァー(ジェダ・ドーマ)@ヴァンパイアセイヴァー】
[状態]健康、令呪による能力増幅
[装備]万全
[道具]万全
[所持金]私には何の価値もない代物だ
[思考・状況]
基本:全ての魂の救済
0 . まずはこのランサー(乃木園子)を救済する
1. この街には良識の欠片もない
2. 果実に浸食されたインベスは何とも哀れだ
[備考]
※ヘルヘイムの森とサガラの正体に見当がついています。これをミュカレに教えました。
※ゴッサムに在住する日本人の姓をそこそこの数把握しています。
※魂喰いをする際は、NPCをサングェ=パッサーレで破裂させて殺害し、キャスター(デスドレイン)が殺したように見せかけています。
※ジェダが魂喰いをした際は、アンコクトンは残りません。
※グラスホッパー団員から情報を収集しました。他にもグラスホッパーについて何か知っているかもしれません。
※ハナをNPCと誤認しています

【ヤモト・コキ@ニンジャスレイヤー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]ウバステ、着替えの衣服
[道具]
[所持金]極貧
[思考・状況]
基本:生き延びる。
0 .この子(ハナ)を連れて安全な場所まで逃げる
1.令嬢のボスを説得して、指名手配を取り下げる。
2.可能な限り戦いを避ける。
3.ランサーを闘わせたくないが……。
4. 脱出の方法を探すタダ=サンを手伝いたい
[備考]
※<令嬢>の社長の息子を殺した罪で追われています。が、本人に殺害した覚えはありません。
※ニンジャソウルを宿している為、攻撃に神秘が付加されています。
ただし、ニンジャの力を行使すると他のサーヴァントに補足される危険性があります。
※バスター(ノノ)の外見、パラメーターを確認しました。
※多田李衣菜の連絡先と住所を知りました
※現在FORT CLINTON方面へ逃走しています。少なくともランサー(乃木園子)と念話ができる圏外までは離れました。
※ハナをNPCと誤認しています


462 : 捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:53:25 QOSZH9Xs0


【ハナ・N・フォンテーンスタンド@ハナヤマタ(アニメ版)】
[状態]精神不安定(大)、ヤモトに抱えられている
[令呪]残り3画
[装備]私服 、外出用のコートと手袋
[道具]特筆事項無し
[所持金]三千円程
[思考・状況]
基本:???
1.女性(ヤモト)への僅かな恐怖
2.キャスター(デスドレイン)が怖い!怖い!

[備考]
※キャスター(デスドレイン)の凶行を認知しています。
※キャスター(デスドレイン)に対して絶対的な恐怖を抱きました。
強いきっかけが無い限り、デスドレインに令呪を使うことはありません
※セイヴァー(ジェダ・ドーマ)とランサー(乃木園子)を視認しましたがステータスまで確認できたかは不明です


【ミュカレ@アカツキ電光戦記】
[状態]健康、黒影トルーパー・イチゴアームズに変身中、超加速能力発動
[令呪]残り二画
[装備]イチゴアームズの鎧、元帥杖、イチゴクナイ 、量産型戦極ドライバー、イチゴロックシード
[道具]ヘルヘイムの果実(それなり)、マツボックリロックシード
[所持金]現金十万程と、クレジットカード
[思考・状況]
基本:聖杯戦争、負けるつもりはない
0 .ヤモト・コキを追い捕獲。転生の器とする。ついでに目撃者のNPC(ハナ)も始末する。
1. ヘルヘイムの森の呪縛からも人類を解き放たねばならない
2. 煩わしい事だが、ゴッサム大学には足を運んでやる
3. サフィール教授には会いたくない
4. あの果実は召喚術の補助に利用できそうだが、魔力に関しては魂喰いで間に合っている
5. あの蛇(サガラ)の顔はもう見たくない
[備考]
※犬養舜二が聖杯戦争の参加者だろうとあたりをつけています。
※所持している果実系のロックシードはイチゴです。
※サーヴァントのいるマスターに転生できないことをサガラから教わりました。
※ヘルヘイムの森とサガラの正体をジェダから教わりました。
※グラスホッパーが団員を鎧武者に変身させていることを知りました。
※グラスホッパーには道具作成に優れたキャスターが噛んでいると見ています。
※ランサー(乃木園子)のステータスを視認しました。
※量産型戦極ドライバーのイニシャライズ機能を無効にし、キルプロセスを排除しました
※ハナをNPCと誤認しています
※セイヴァー(ジェダ・ドーマ)がランサー(乃木園子)を討ち取れなかった場合、サーヴァントの乗り換えを検討します


463 : ◆4jULo8RMS2 :2016/08/28(日) 14:54:28 QOSZH9Xs0
投下終了です
感想・指摘等よろしくお願いいたします


464 : 名無しさん :2016/08/28(日) 15:46:30 Bs.N15AI0
投下乙です!
忍者&勇者対完全者&救世主の戦闘、どんな結果に転ぶか楽しみですね
ただ、ジェダの対英雄のせいで敏捷以外がD以下に下げられる上に令呪もあるとなればそのっちには厳しい戦いになりそうですね
そしてミュカレはドイツでも暗躍しただけあって流石の技術力で戦極ドライバーで変身!
サーヴァントは完結した存在だけどミュカレは曲がりなりにも今を生きているって解釈がいいなあ
ヤモヤモも純魔術師+イチゴアームズで厳しいだろうけど頑張ってほしい
ハナは…うん、ご愁傷様


465 : 名無しさん :2016/08/28(日) 18:23:05 7CmUqQ/M0
投下乙です
魔術に長けてて、更に現代の知識も惜しみなく吸収するミュカレやっぱ強いなぁ
ジェダへの投資マックスでドライバーまで使ってるし、そのっち満開でもしないと手こずりそうだ
ハナはもう色んな意味でズタボロだ……


466 : 名無しさん :2016/08/30(火) 03:42:45 KnXT/4Xk0
投下乙です。
ハナがゴッサムで触れた初めての優しさが見に染みると思ったら、殺戮者達のエントリー!不幸すぎる
まだマスターと認知されていないのが唯一の救いか
そしてヤモトも格上の相手と出会ってしまった……
3部終盤のカラテなら何とかなったかもしれんが、今はニュービーに毛が生えた程度だからな


467 : ◆JOKERxX7Qc :2016/09/04(日) 00:05:20 qL88V/Zc0
生存報告がてら、皆様投下乙でございます。感想はもう少々お待ちください。


468 : ◆4jULo8RMS2 :2016/09/04(日) 15:30:19 oQQ8TEOU0
拙作「捨てるニンジャあれば拾うニンジャあり」にて矛盾点を見つけたため修正をしたく思います
イチゴアームズについて、高速移動能力があるものとして描写していましたがもう一度原作を調べ直すとそのような設定・描写はありませんでした
完全にジンバーチェリーアームズと混同していた私のミスです、申し訳ありません
明日中には該当部分を修正したものをwikiに収録させていただき、 ◆JOKERxX7Qc氏の判断を仰ぎたいと思います


469 : ◆4jULo8RMS2 :2016/09/05(月) 07:30:52 MNO5J6zU0
wikiに修正作を投下しました


470 : ◆JOKERxX7Qc :2016/09/08(木) 02:57:29 aFq3s5fU0
>>469
修正作を確認しました。特に問題はないかと。


471 : ◆sIZM87PQDE :2016/09/08(木) 15:32:34 jlLuxcCs0
志々雄真実&ランサー、レベッカ・リー&セイバーで予約します
念のため延長も同時に申請します


472 : ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:12:46 Eid/G69o0
投下します


473 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:15:56 Eid/G69o0
先に仕掛けたのはセイバーのサーヴァント、グリムジョーだった。
召喚されて以来ようやく出会えたサーヴァントを斬殺せんと、足を踏みしめていたコンクリートが陥没するほどの勢いで正面から迫った。

猛獣の牙の如き速さ、鋭さを以って繰り出された斬魄刀の一閃はしかし、女の細剣(レイピア)によってその軌道を逸らされた。
ランサーのサーヴァント、エスデス。彼女は死神すら退けんばかりの暴威を前にしても妖艶な笑みを浮かべたままセイバーの斬撃を容易く受け流す。

「どうした、温すぎるぞ」
「ハッ―――――」

瞬間、グリムジョーの姿が消失。
破面が誇る高速移動術、響転(ソニード)によってエスデスの背後を取る。

「―――――テメエがな!!」

速さとは時に何にも勝る武器になる。一瞬の対応が生死を分けるサーヴァント戦ならば尚の事。
勝利を確信した斬魄刀の剣閃が女を断ち切る。



「そうかな?」
「何っ!?」



―――――ことはなかった。
エスデスは咄嗟に背後にレイピアを突き出し必殺であったはずのグリムジョーの一撃を凌いでみせた。
そればかりかそのまま息をもつかせぬ連撃でグリムジョーを押し返した。

「まるで獣だな。調教しがいがある」
「テメエ……」
「そう睨むな。実際素晴らしいスピードだったぞ。
しかしフェイントも何もない単調な剣捌きに大人しく斬られてやるほど私は安い女ではない。
それが全力なら最優を誇るべき剣士(セイバー)の名が泣くぞ?」
「うるせえ、この霊基(うつわ)が窮屈なんだよ。俺にはな」



グリムジョーはかつて最強の頂きに上ろうと貪欲に強さを求め続けた。
その方向性は基本性能(スペック)や固有能力の向上に集約され、最終的に彼は十刃の中でも六位にまで昇りつめた。
だがグリムジョーが求めた強さの方向性は、端的に言って聖杯戦争のシステムとは相性が悪かった。

聖杯戦争に召喚されるサーヴァントは元になる英霊本体をクラスという器、ないしは側面に当てはめられる。
故にどんな大英雄であろうともその能力の全てを与えられたクラスで十全に発揮することは不可能に近い。
わかりやすく言えばクラスに当てはめるためにスペックの削減が行われるのだ。
グリムジョーもその例に漏れず、レヴィのマスター適性の低さも相まって生前と比べ大幅な弱体化を余儀なくされている。
その上常に魔力残量に気を遣って立ち回らなければならないサーヴァントの身の上は酷く苛立たしい。

相対するエスデスも同様の制約を受けているのだが、グリムジョーに比べればその度合は遥かに小さい。
元になった英霊の基本性能そのものがグリムジョーよりも低いためだ。
それにエスデスは元々帝国の将軍であり、与えられた条件、課せられた環境で任務を成し遂げるのは生前から何度もしてきたことだ。

また元々圧倒的力を持つ人外の虚(ホロウ)であるグリムジョーと違い純粋な人間であるエスデスは対人戦闘の技術においてグリムジョーに優越していた。
彼女が生きた世界、時代には超級危険種をはじめとした人間を遥かに超えるような存在やエスデスに膂力で勝る武人がいくらでもいた。
その中にあってエスデスが帝国最強の名を得たのは、剣技の研鑽を重ね帝具の運用に創意工夫を凝らし続けてきたからだ。
破面のような人智を超える力を持たない人間だからこそ磨かれるスキルがある。
互いのスペックがある程度均質化される聖杯戦争の舞台上においては、エスデスに些かのアドバンテージがあった。



グリムジョーがエスデスを指差すと、指先に魔力が集中しはじめた。
それを見たエスデスは遠距離攻撃を仕掛けてくると即断、自らも魔力を練る。
一瞬の間を開けてグリムジョーの指先から破滅の閃光、虚閃(セロ)が放たれる。
サーヴァント一体を消し炭に変えるに十分な閃光はしかし、空中に形成された一本の氷槍によって相殺された。


474 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:16:40 Eid/G69o0

全力でないにせよ虚閃を防がれたグリムジョーに焦りはない。
虚閃と氷槍の衝突によって互いの視覚が遮られた一瞬を好機と見做し、再度響転によって背後を取った。
探査回路(ペスキス)を持つグリムジョーにとって視界の悪さなどさして問題ではない。

「発想は悪くないが、やはり安直だ」
「チイ……!」

今度は振り向くことも、剣を背後に向けることさえもしなかった。
絶妙のタイミングでエスデスの背中に出現した氷の壁によって斬魄刀がしっかりと止められていたのだ。
グリムジョーほどの上級サーヴァントであっても攻撃の際に生じる隙は完全に消し去れるものではない。
ノーモーションで相手の斬撃を防いだエスデスは渾身の力でグリムジョーを袈裟斬りに切り捨てた。



(―――――硬い!?)
「生っちょろい剣だなおい!」

―――――そうなる筈だった。
だが、異様に堅固な皮膚に阻まれ刃がほとんど通らない。
攻撃の際に生じる隙は消せない―――それはエスデスに対しても当てはまる。
意表を突かれた一瞬の隙を見逃さず、再びグリムジョーが斬魄刀を振るう。
咄嗟にバックステップで直撃を避けたエスデスだが、完全には回避できず左腕から鮮血が流れ落ちる。
対するグリムジョーも胸からほんの僅かに出血していた。

「やるではないか。硬質な肉体とは壊し甲斐がある」
「馬鹿が、テメエ如きに二度目なんぞくれてやるかよ」
「ならば精々がっかりさせないでほしいものだ。ようやく身体が暖まってきたところなのでな」
「氷結系の使い手がほざきやがる」

聖杯戦争は未だ序盤。互いに手札をいくつも隠し持っていることを承知している。
軽口の応酬を交わしながらも、次にどの札を切るのか、どこまで切るのかを思案する。

(おいセイバー、お楽しみのとこ悪いがちょっと戻ってこい!)



ギアを一段階引き上げようとしていたグリムジョーにレヴィからの念話が届く。
何とタイミングの悪いことか。

(あ?サーヴァントでも来やがったのか?)
(違え。あれは……多分だがNPCだ)
(NPCが喧嘩吹っ掛けてきたぐらいなら何とかできんだろ)
(ただのNPCだったら助けなんか呼ばねえよ!
ちっくしょうまだ追ってきやがる、ここはカートゥーンの世界じゃねえんだぞ!)

今ひとつ状況がわからないが、レヴィがただならぬ事態に陥っているらしいことは間違いなさそうだ。
あの跳ねっ返りな女が大した理由もなくサーヴァントに助けを乞うはずはない。
となると火急の事態であることは間違いなく、すぐに引き返さねばならないのだが目の前にサーヴァントがいる以上そう上手くは行かない。
そう思っているとエスデスが些か不機嫌な様子で構えを解いた。

「その様子だとマスターに何かあったんじゃないか?奇遇なことにこちらもだ。
行くがいい。お互いマスターを失っての消滅は避けたいだろう?」
「チッ、おい女。俺に殺されるまで死ぬんじゃねえぞ」
「その台詞は自分自身によく言って聞かせておくことだな」

ちょうど同時、エスデスにも志々雄から念話で帰還命令が下っていた。
何でも例のグラスホッパーが堂々とアジトに乗り込んできたらしく、念のため戻ってこいとのことだ。
最悪の事態になれば令呪も使うと言われれば素直に戻るしかない。
志々雄にそこまで言わせるのならそれなりに危険な状況であることは疑いないからだ。

「グラスホッパーか…少しは楽しませてくれると良いのだがな」











「糞があっ!ちったあ痛がれよ!!」

時を僅かに遡る。
カミキリインベスに遭遇し、運悪く発見されたレヴィは交戦しつつ隙を伺って逃げる判断を下した。
拙い手つきで発射されたリボルバー弾を躱し、二丁のソード・カトラスから9mmパラベラム弾を次々と叩き込んでやった。

―――が、まるで堪える様子がない。
そもそも間違いなく皮膚に命中したはずの弾丸が突き刺さることすらなく、パラパラと力なく地面に落ちていくではないか。
冗談のような光景だった。少なくともレヴィの目にはこの怪物が何がしかの超能力を行使したようには見受けられなかった。
つまり、純粋に銃弾を全く受け付けないほど堅牢な肉体構造であるというわけだ。


475 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:17:14 Eid/G69o0

そんな相手にソード・カトラス二丁だけで生身の人間が立ち向かうなど無謀と呼ぶしかない。
レヴィは即座に踵を返して逃走に専念することにした。当然カミキリインベスが見送ってくれるはずもない。
怪物になって時間が経ったために使い方を忘れたのかカミキリインベスはリボルバーを放り捨てると奇声を発してレヴィを追跡しはじめた。

もし追ってくる怪物がセイバーが倒した個体と同類だとすれば、それは即ちサーヴァントの眷属ということになる。
サーヴァント本体でないとはいえ、サーヴァントから生まれ落ちた超常存在を相手に人間に過ぎない自分が太刀打ちなど出来るはずがない。
だからこうして逃げまわる羽目になったとしても仕方のないことだ。レヴィはそう結論づけた。

「だが目玉ぶち抜きゃ時間稼ぎぐらいにはなるだろ……!」

たまたま見つけたコンテナを遮蔽物に追ってくるインベスの様子を見つつ弾をリロードする。
如何に怪物と言えども眼球を撃ち抜かれれば即死させることはできずとも視界は奪えるはず。そうだと思いたい。
しかし機敏に動く人間大の目標の、さらに眼球部分を狙い撃つのはレヴィにとっても難易度の高いミッションだ。
だがやるしかない。腹を括って飛び出そうとした。

「……っ!?」

殺気。あるいは死の予感、とでも形容すべきだろうか。
肌がざわつくような寒気を覚えた時、インベスの目が怪しく光り妙に長い触覚がうねうねと動き出した。
理屈ではなく直感に従い咄嗟にその場に屈んだ。次の瞬間、伸びてきた触覚が高圧の水流カッターのように遮蔽物にしていたコンテナを断ち切った。

「おいおいおいおいおい、冗談じゃねえぞ……」

このまま留まっていても遮蔽物ごと切り捨てられて殺される。そう悟ったレヴィは超人的な脚力で再び逃走を開始した。
インベスは今も触覚を不気味に動かし、時折レヴィ目掛けて伸びる触覚で攻撃を仕掛けてくる。それも一本ではなく、複数本同時に斬りかかってくることもある。
常人ならとうに身体を真っ二つに裂かれて死んでいるところだが、レヴィは奇跡的に無傷で凌ぎ続けていた。

「こんの、糞化物がっ!!」

ソード・カトラスが火を吹き銃弾がインベスの両目へと進撃する。
だが、届かない。弾切れまで撃ち続けた9mmパラベラム弾の全てが俊敏に動く触覚によって迎撃され払い落とされたのだ。
急所への守りも完璧とはもう笑うしかない状況だ。意地でも笑わないが。



「そこまでだ怪物!!」
『マツボックリスパーキング!』

その時、ふざけた機械音声とともに上から人影らしきものがインベス目掛けて襲いかかっていった。
先端が発光している長柄の得物で落下エネルギーを乗せつつ一回、地面に着地して二回、三回とインベスを切りつけ派手に吹き飛ばした。

「……何じゃありゃあ?」

現実感のない出来事の連続に目を丸くするレヴィの目の前にいるのは槍を携えた鎧の騎士だった。尤もこの場にロックこと岡島緑郎がいれば「鎧武者だ!」というリアクションをしただろうが。

レヴィの窮地を救ったのはたまたまヘルヘイムの実の収穫しに来たグラスホッパーの団員だった。
戦極ドライバーによって変身した黒影トルーパーの力でカミキリインベスへ奇襲を仕掛けたのだ。
マツボックリアームズで繰り出せる最大火力を叩きつけられたカミキリインベスだが、覚束ない足取りながら再び立ち上がってみせた。

「ちっ、やっぱりこいつじゃ力不足か……だったら!」

黒影に変身している男は何度かインベスと交戦した経験があり、ずんぐりとした初級インベスならともかく成長し様々な特徴を持った上級インベスを相手にするにはマツボックリではやや不足であることを経験上知っていた。
ならばと授かったばかりの新型の錠前、バナナロックシードを起動した。



『バナナ』『ロックオン!』
「はぁっ!?バ、バナナ……バナナ!?」



レヴィの目に信じられないものが映った。
黒影の鎧が消えたかと思うと、空にファスナーが開きそこから巨大なバナナが降りてきたのだ。レヴィ自身何を言っているのかわからないがそうとしか表現しようがないのだ。
降りてきたバナナを頭から被った黒影は悠然とインベスへ歩みを進める。


476 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:18:00 Eid/G69o0

『バナナアームズ!ナイトオブスピアー!』

カッティングブレードを倒し、新たな鎧を装着した男はこれまで以上の万能感に酔った。
アーマードライダーへの変身が可能なロックシードとしては最低ランクのマツボックリからクラスAのバナナへと乗り換えたのだ。
引き出される力は段違いのものがあり、早速その力を試すために絶好の得物へと躍りかかった。

「そらそらそらぁっ!!」

馬上槍(ランス)型の専用アームズウェポン、バナスピアーで弱ったカミキリインベスへ次々と攻撃を叩き込んでいく。
薙ぎ払いで切りつけ、肩口に槍を深々と突き刺し、蹴りを入れながら引き抜いた。
銃弾を浴びてもビクともしなかった化け物があっさりと追いつめられていく有り様を見てレヴィは絶句した。

サーヴァントが同じことをしたというのならまだ理解はできる。
しかし変身した男は少なくともサーヴァントでは有り得ず、マスターなのかどうかもわからない。
そんな取るに足らない存在が人智を超えた力を有する怪物を、それ以上の力で蹂躙している。
自分はおろかあのバラライカであっても生身で同じ真似は到底不可能だろう。

追い詰められたインベスは生存本能からか残された力を振り絞り、何本もの触覚を操作し黒影を追い払おうとする。
インベスの最後の抵抗を見た黒影は仮面の下で傲岸な笑みを浮かべながらカッティングブレードを一回倒した。必殺技の起動だ。

「消し飛べ!」
『バナナスカッシュ!』

バナスピアーがバナナの形状をした黄色のエネルギーを纏い肥大化、迫り来る触覚へ横薙ぎの一閃を振るうとともにインベスの触覚を全て焼き切りこの世から消滅させた。
まだ黒影の攻撃は終わらない。一度身体を捻り一回転すると再びエネルギーを纏った槍でインベスの胴体を切り裂き真っ二つにした。
かつてチャカだったインベスは断末魔を上げながら爆散した。



「あいつ、マスターか?」

物陰から様子を窺っていたレヴィがまず考えたのは闖入者の鎧の戦士はマスターではないのか、ということだった。
NPCが超常的な能力を行使できるわけはないので、この推論はもっともではあった。
聖杯戦争のプレイヤーにはあれほどの力を振るう者がいるのか?理不尽といえば理不尽だが理解できなくはない。

「おい姉ちゃん、大丈夫……お、お前は!?」
「やべっ!」

名うての殺し屋であるレヴィはゴッサムでも広く知られており、裏社会から足を洗う形でグラスホッパーに入団した男も例外ではなかった。
レヴィから黒影に変身している男の顔は仮面に遮られて見えないが、殺気と、そしていくらかの劣情を向けられていることはわかった。

「ハッ、あの『二挺拳銃(トゥーハンド)』の首を持ち帰ったとなれば俺も犬養さんの親衛隊に抜擢されるかもしれねえなあ」
「あ?犬養、だと?てめえまさかグラスホッパーか?」
「そうさ!犬養さんはこの街で燻ってた俺にチャンスと力をくれたのさ!
ま、このベルトを開発したのはあの人がスカウトしたプロフェッサーなんだが、そんなことはどうでもいい。
今の俺は怪物どもとお前ら屑を一匹残らず退治する英雄(ヒーロー)ってわけだ!!」
「随分三下臭えヒーローがいたもんだな、おい」

黒影がバナスピアーを構えてじりじりと近づいてくる。一気に迫らないのは舐められているということか。
後退しつつ抜き打ちでソード・カトラスを連射。全てがヘッドショット狙い、全てが過たず頭部に命中した。
だが現実はどこまでも非情だ。何発もの銃弾を頭部にまともに受けたにも関わらず黒影の仮面には傷一つつかず、どころか怯みすらしない。

ならばと今度は鎧の隙間にあたるライドウェア部分を狙って銃撃。
そこならば鎧よりは脆いはず、というレヴィの読みそのものは正しかった。正しかったがそれは銃弾が黒影の肉体を貫いてくれることとイコールではない。
確かにライドウェアはアーマー部分に比べれば防御力は劣るが、劣るというだけで多少の攻撃なら通さない程度の耐久性はあるのだ。
9mmパラベラム弾はライドウェアに阻まれパラパラと力なく地面に落ちていった。
さしものレヴィも段々と心が絶望に侵食されていく。まるで打つ手が見出だせない。

「諦めろよ。そんな玩具で何ができる?」


477 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:18:33 Eid/G69o0

舌打ちして、全力疾走で黒影から離れる。
悔しいが奴の言う通り。ソード・カトラス程度の装備で太刀打ちできる相手ではない。
しかも怪物と違い理性があり、頭部も仮面で覆われているため目潰しも効きそうにない。
奴を倒そうと思えば最低でも対物銃(アンチマテリアルライフル)のような大口径の弾丸を発射できる重火器が必要になるだろう。

レヴィは自らの俊足と反射神経に強い自信を持っていた。
あれほど重厚な鎧を纏っているならそうそう追いつくことなど出来ないはず。そう考えての逃走だった。
だがレヴィの予想に反して黒影は長大な槍を持ちながらにしてオリンピック選手並の走力を発揮、引き離されずについてくるではないか。
一体どういう理屈であれほどの重装備を身に着けた男が自分に追随できるほど速く走れるのか。疑問は尽きないが現状打つ手がないことだけは確かだ。
こうなればもう出来ることは一つしかない。セイバーを呼ぶのだ。



(おいセイバー、お楽しみのとこ悪いが戻ってこい!)
(あ?サーヴァントでも来やがったのか?)
(違え。あれは……多分だがNPCだ)
(NPCが喧嘩吹っ掛けてきたぐらいなら何とかできんだろ)
(ただのNPCだったら助けなんか呼ばねえよ!
ちっくしょうまだ追ってきやがる、ここはカートゥーンの世界じゃねえんだぞ!)

ほぼ一方的に念話を切って再び逃走に専念する。
後はセイバーが早くマスターとサーヴァントを繋ぐレイラインとやらを辿って合流してくれることを祈るしかない。神に祈るよりはまだしも分の良い賭けだろう。
四度目の路地のコーナーを曲がりしばらく走った後一旦後ろを振り返った。だがそこに黒影はいなかった。

(何だ……?今ので撒けたなんてことはある筈がねえ。じゃあどこに行った?)

キョロキョロと周囲を警戒しながら少しづつ後退、全神経を集中する。
十秒、あるいは二十秒経った時か。ふとある事に気がついた。
最初に奴が怪物に襲いかかった時、あいつはどこから現れたのだったか――――――?



ふと、肩に強烈な悪寒が走った。本能に従い、その場から横っ飛びに転がった。
ほぼ同時につい今しがたレヴィがいた場所に轟音と共に極小規模のクレーターを作った黒影の姿があった。

「お、さすがは『二挺拳銃(トゥーハンド)』。中々良い勘してるじゃねえか」
「てめえ、どんな手品使いやがった?」

そう、最初に現れた時といい今といい黒影は明らかに上空、ないし建物の屋根や屋上から奇襲を仕掛けてきていた。
どうやって短時間にそんな真似を為し得たのか、レヴィの誰何も当然だった。
問われた黒影は得意気に上を指差して答えた。

「はは、種も仕掛けもない。俺はただ普通に建物に飛び乗って普通に飛び降りてきただけさ」
「笑えねえな。冗談はてめえの存在だけにしとけよ」

アーマードライダーのジャンプ力はアームズによる性能差こそあるが基本的に二十メートルを優に超える。
よって家屋や小規模のビル程度なら一飛びで飛び乗ることができるのだ。
レヴィはそこまでのことを知っているわけではないが、黒影の前では容易く逃げられないことも悟りつつあった。
だが諦めるわけにはいかない。それにセイバーさえ合流すればこんな奴など一捻りのはずだ。
来た道を引き返すようにして逃げ出し―――次の瞬間には黒影に抜き去られていた。



「――――――は?」

顔面に衝撃が走り、次の瞬間にはレヴィの身体が宙を舞いコンクリートの壁に激突した。
黒影にとっては左手で軽く殴っただけだが、アーマードライダーのパワーならそれだけで人間を吹き飛ばすに足るのだ。
もし勢いをつけて全力で殴っていれば今頃レヴィの頭はトマトのように潰れていたことは間違いない。

黒影は最初からレヴィを勝敗を競う相手とは認識していなかった。
彼からすればアーマードライダーではないレヴィは狩りの得物、あるいは好き勝手に弄り壊せる玩具でしかなかった。
レヴィが逃走してもすぐに追いつかなかったのもわざと手を抜いたからだ。変身した黒影は百メートルを五秒台で走り抜けるほどの走力がある。
つまり黒影に遭遇した時点で既にレヴィは詰んでいたのだ。

「はは、歴戦の殺し屋もこの俺にかかっちゃガキ同然だなあ」


478 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:19:19 Eid/G69o0

頭部を強打しぐったりと動かなくなったレヴィに、仮面の下で下卑た笑いを浮かべながらゆっくりと近づく黒影。さて、この社会のダニをどうしてくれようかと暫し思案に耽る。
このまま一度犯した上で殺すという欲求に身を任せてしまいたいところではあるが、今は任務中だ。仲間に見つかれば不味いことになるだろう。第一怪物が闊歩するこの街で無防備な姿を晒すのは避けるべきだ。
かといってこの女をみすみす手放すのも惜しい。何とかしてもっともらしい理由をつけられないものか。

「…いや、待てよ。外が駄目なら中だよな」

閃いた。この女をグラスホッパーの拠点に連行し、尋問と称すれば公然と好き勝手に出来るのではないか?
何しろ自分は果実の錠前を他の団員に先駆けて与えられたエースであり、この女を発見した功績もある。そのぐらいの裁量は与えられるはずだ。
社会に何の貢献もしない屑に情けをかける者も同僚にはまずいまい。何よりグラスホッパーの活動拠点ならこの街のどこよりも安全ときた。

「よし、そうと決まれば即行動だ」

左手でバナスピアーを広い右手でレヴィを担ぎ上げ、駐車していたバンの下まで向かう。
とはいえ一般市民に見つかると外聞が悪いので建物の屋根伝いに移動し、慎重に行くことにした。
この後やってくる展開に頬を緩ませる。ちょうどその時――――――



「おい、俺のマスターに何してやがる、ドクズが」



――――――有り得ない声が聞こえ、横腹に有り得ない衝撃が走った。











志々雄真実にその報告が齎されたのは従者のエスデスが姿を消してから約十五分後のことであった。
聖杯戦争のマスター捜索に振り分けた構成員とは別に、WEST CHELSEA HILLに配置していた見張り役からの連絡だった。
MID TOWN方面からグラスホッパーの団員が乗った黒塗りのバンが二台続けて橋を渡ってCHINA BASINの方向へ走っている、との事だ。
とうとう来るべき者が来たか。報告を受けた志々雄に驚きはなかった。

「おい方治、バッタ共がついにここを嗅ぎつけたらしいぞ」
「そのようですな。…全く浅はかな、誘き寄せられているとも知らずに」

志々雄率いるマフィアグループはサーヴァントの力までも動員して急速な勢力拡大を図っていた。
同時に銃火器の調達も急ピッチで進めており、短期間のうちに裏社会で最も強大かつ有名な組織になるに至った。
言い換えれば彼らの行動の痕跡はそこかしこに残されており、犯罪組織を撲滅して回っているグラスホッパーがいずれアジトを嗅ぎつけ征伐に乗り出すことは当然の帰結と言える。
何しろ志々雄一派の動きは裏社会に属する者としては非常に大々的であり、武器や物資の密輸などの情報を表の企業であるユグドラシル・コーポレーションでさえ察知できるほどである。

数々の勢力がグラスホッパーに潰されたという事実を勘案すれば彼らに見つからぬよう地下に潜るのも選択肢として有り得ただろうが、志々雄は敢えて違う選択をした。
逆に特定の地区にドッシリとアジトを構え、正面からグラスホッパーを迎え撃つ計画を方治に立てさせていた。いくら表向きの貿易会社としての顔を偽装したとていずれ実態を嗅ぎつけられるのは自明の理だ。
国盗りを推し進めるなら最終的にグラスホッパーと衝突することは避け得ない。故にどこかで彼らと自分たちの彼我の戦力差を推し量る必要があった。

「方治、すぐに兵隊を集めろ。偵察に出してた連中もすぐ戻れる奴はこっちに戻せ。
他の地区まで出向いた奴らにはそのまま他のマスターを探させる」
「はっ」

志々雄の暫定的な本拠地ということもあって、現在この事務所には三十人近くもの構成員が詰めている。
そこに偵察に出ている者もかき集めれば三十五人程度の兵力にはなる計算だ。
また装備に関しても潤沢であり、ベネリM3アサルトショットガンやM4カービンアサルトライフル、MP5サブマシンガンなどを幹部クラスはもちろん末端レベルにまで分配している。
無論これらを屋内で使えば跳弾のリスクが高いため、多くの兵隊は外に布陣させてグラスホッパーを迎撃することになる。


479 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:20:02 Eid/G69o0

普通なら往来の真ん中で銃撃戦など繰り広げようものなら警察が駆けつけてくる事態となるが、これに関しても予め手を打っていた。
このゴッサムは悪徳が蔓延る街。警察官らに高価な「貢物」を贈ることによってこのCHINA BASINは一種の治外法権(アンタッチャブル)のような状態となっており、よほどの事態が起こらない限り公権力の介入はない。
警察の方でも志々雄の快進撃は知るところとなっており、不可解なまでの圧倒的武力を万が一にでも振り向けられる可能性を恐れている、という面もあるのだが。
全ては他のサーヴァントや、サーヴァントの後押しを受けていると思われるグラスホッパーの襲撃に備えてのことだった。



「しかし聖杯戦争にサーヴァント、ですか……。未だに信じ難い話ですがこの目で見た以上は否定することも出来ない。
それにそのような超常現象が存在するとでも考えない限り果実を纏うなどという荒唐無稽な話に説明がつけられません。
ランサー殿が不在の今、最善を尽くしたとはいえどれほど奴等に抗し得るものか……」
「ま、ランサー抜きじゃあ分は良くねえだろうさ。サーヴァントを使えば普通の人間には敵なしってのは俺が体現してきたことだが今はバッタ共も間接的だがサーヴァントの力を利用している。
念のためランサーにはもう連絡してある。奴が戻ってくれば一網打尽だが…その前にこの時代の兵器が果実を纏う武者共にどれだけ通用するか見ておくとするか」

志々雄は組織の人員の中で方治に対してだけは聖杯戦争の存在を打ち明けていた。
現実主義な彼は当初は流石に志々雄の正気を疑っていたが、一度エスデスを伴った他組織への侵略行為を見せれば信じざるを得なかった。
そもそも国盗りの先には当然聖杯獲得という目的があり、であれば聖杯戦争を勝ち抜くに適した組織作りを推し進めるために組織運営を担う方治に知らせておくのは志々雄にとって極めて当然の行為だった。

「これまでに集まった果実の鎧武者についてわかっているのは生半可な威力の銃弾を一切受け付けない頑強さ、人の領域を上回る運動能力、そしてそれら力の源はベルトとベルトに差し込む錠前にある、ということです。
恐らくベルトの基幹部分を破壊すれば無力化できるはずであり、特に近接距離での散弾は大変有効だと思われますが実戦において人間大の目標のベルト部分だけを狙うことはやはり困難でしょう。
故に奴等のアーマーを突破する装備として今朝方少佐の組織から搬入された対物ライフル、旧式ながら大口径の対戦車ライフル並びにガトリングガンを投入致します」
「いいぜ。お前の好きに指揮してみろ。ランサーが戻るまでの余興と思って俺は見物人に徹するさ。
奴等は人を超えた力が手に入ったと思って驕っているからな。必ず正面突破に拘るはずだ」











グラスホッパーの実働部隊たる彼らに与えられた任務は最近急激に勢力を増している武装勢力の一掃だった。
彼らの首魁である全身に包帯を巻いた日本人の男が潜伏するアジトをついに突き止めたのだ。
今回も楽勝に社会の屑を一掃してやる。意気軒昂にそう語る他の団員と異なり指揮官の青年だけは些かの懸念を抱いていた。

今回掃討することになったマフィアグループは様々な武器を購入しており、中には本来民間では購入できないはずの違法な武器まで密輸入しているという情報が入っている。
となれば当然激しい抵抗が予想され、アーマードライダーといえども決して楽観できるような相手ではないと推測できる。
そのため青年は作戦前に何度も新型の果実型のロックシードの支給を上申したのだが、今回に限って何故か頑なに許可が下りなかったのだ。
せめてもの足掻きで予備のマツボックリロックシードを部下たちに持たせているが、これが役に立つ状況が来ないことを祈っている。

「よし、まだ距離があるがここで停めろ。
奴らRPGを持ち込んでるという情報もあるぐらいだからな、車で接近しすぎるのは不味い。
念のために俺達が離れたら一旦退避しておくんだ。……あまり言いたくないが、万が一戻ってこなかったら本部に引き返して任務は失敗したと報告しろ」
「わかりました」


480 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:20:37 Eid/G69o0

今回編成されたのはバンの運転手二人と戦闘要員七人からなる九人の部隊だ。
他の犯罪組織の制圧に向けられる人数は普段だと多くても五人程度なのでかなりの兵力ではある。
予め変身を済ませていた黒影トルーパー部隊は意気揚々と出撃していった。

鎧姿とは思えないほどの進撃速度でマフィアのアジトを目指すトルーパー部隊を、早速マフィアたちの手荒い歓迎が襲った。
アサルトライフルやサブマシンガンで武装した男たちが分厚い弾幕を張って近づかせまいとしてくるが、アーマードライダーにとってそんなものは障害にもならない。
そもそもまともに狙いをつけることが難しい戦場では当てること自体が手練のガンナーでもない限り難しく、人間の域を超える機動性を発揮するアーマードライダーには滅多なことでは命中させられたものではない。

「うわっ、く、来るな!!」
「下がれ、下がるんだよ!奴らに近寄られたら終わりだぞ!!」

「死んだマフィアだけが良いマフィアだ!」

当然の如く、戦況は最初から黒影による蹂躙という状況になった。
運良く当たった銃弾もほとんどはアーマーやライドウェアに弾かれるかアームズウェポン、影松に打ち払われていく。
退避しようとする男たちを嘲笑うかのように黒影が一瞬で接近し、高速の二連突きでほぼ同時に二人の心臓を貫いた。

「この野郎!!」

接近する黒影に対しアサルトショットガンを装備した男たちが散弾を連射し戦極ドライバーを破壊しようと試みる。
これにはさすがの黒影も多少警戒せざるを得ず、僅かながらトルーパー部隊の侵攻速度を鈍らせることに成功した。

「慌てるな!二人一組で互いをカバーしながらショットガン持ちを片付けろ!
連射できるといってもリロードの間を狙えば簡単に仕留められる!」
「はい!」

これまでグラスホッパーに壊滅させられてきた組織に比べれば志々雄一派のマフィアたちは練度の高さもあって善戦している方だが、それでも連携を取って堅実に攻め寄せるトルーパー部隊の前に少しずつ数を減らしていった。
しかしそうして稼いだ時間によって事務所屋上に設置された兵器の使用準備が完了していた。



「方治さん、準備出来ました!」
「よし、ただちに前衛への支援を開始せよ!」

事務所の屋上では十二・七ミリ口径のバレットM82や二十ミリ口径のラハティL-39といったアンチマテリアルライフル、対戦車ライフルの運び出しと組み立て作業が行われていた。
さらに口径こそ小さいが抜群の連射力を誇るM134ミニガンも投入されていた。
いち早く準備の整ったM82から次々と人体を真っ二つにするほどの威力を持った弾丸が発射されていく。
無論ほとんどは装着された狙撃用スコープを使って撃っても命中しなかったが、十数発撃たれたところでラッキーヒット的に一発の十二・七ミリ弾が黒影に着弾し、初めて強固なアーマーを割った。
無敵の鎧と信じて疑わなかった装甲を破壊されて浮き足立ち、棒立ちになった黒影に追い打ちをかけるようにラハティから放たれた二十ミリ弾が直撃、上半身と下半身が泣き別れになり内蔵を撒き散らしながら吹き飛んでいった。

「やった!一人倒したぞ!!」
「ざまあ見やがれバッタ共!」

「は、班長!」
「奴ら、対戦車ライフルなんて持ち出しやがったのか!?
まさかこの街で戦争でもする気なのか!?」

一人とはいえアーマードライダーが銃火器で倒されたことでグラスホッパー側には動揺が走り、マフィア側は大いに士気が高まった。
動きが硬直したトルーパー部隊に向けて一斉にマフィアが保有する限りの火力が向けられ、温存していたグレネードランチャーやロケット砲までもが投入された。
これまでの犯罪組織とは段どころか桁違いに強力な火器の攻勢の前にトルーパー部隊は徐々に損傷を増やしていった。


481 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:21:29 Eid/G69o0



「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいぃっ!!!」

屋上から掃射されたミニガンの弾幕が一人の黒影に命中、瞬く間に損傷し罅割れ防御力が低下していたアーマーを砕き散らし肉体の大切な器官を悉く蹂躙していった。
ミニガンは人体に当たれば痛みを感じる暇もなく死に至ることから「無痛ガン」などとあだ名されることもある兵器だが、なまじ強靭な鎧を纏っていた黒影はすぐには死ねず、耐え難い苦痛を味わう羽目になった。



「よし!一気に奴らを押し出せ!接近さえ許さなければ何も出来ん!」
「このまま終われば良いがな」

優勢な戦況の中、方治の隣で観察に徹していた志々雄だけは楽観していなかった。
確かに方治は短い期間でグラスホッパーの鎧武者の情報を集め、有効な武器を手配し成果を示したがそれだけでこうも上手くいくものか?
仮にもサーヴァントから超常の力を授かったのならばまだ何らかの切り札を残しているのではないか?
その予想に違わず、生き残った五人の黒影が一箇所に集中しはじめた。何かするつもりだと志々雄の直感が告げていた。



「調子に乗るな、ゴミ共が!!」
『マツボックリオーレ!』



集まった五人の黒影のうち三人が盾になるように前に出ると、カッティングブレードを二回倒し必殺技を起動する。
といってもそれは攻撃のために使われるわけではない。ロックシードのエネルギーを纏った影松を風車の要領で高速回転させ、マフィアたちのあらゆる攻撃を跳ね返していった。
インベスをも倒し得るエネルギーを載せた風車の盾は先ほどまでは効果があったM82やラハティの弾丸も、ミニガンの圧倒的弾幕すらもまるで受け付けない。

「今だ!あのビルのデカブツを黙らせるぞ!!」
「でも本当にこの使い方でやれるんですか!?」
「わからん!だがやらなければここで死ぬだけだ!」
『マツボックリスパーキング!』

三人の黒影に守られた残りの二人も最大火力になる必殺技を起動すると、影松を槍投げ選手のように投擲すべく志々雄たちがいる事務所の屋上に狙いを定めた。
指揮を執る青年自身もこのような形の必殺技など使ったことがないが、それ以外に生き延びる道はないと腹を括っていた。

「行けっ!!」

渾身の力で黒いオーラを纏った影松を投擲。あまりにも原始的すぎる遠距離攻撃に屋上にいた方治と構成員たちは咄嗟の判断が遅れてしまった。
小型ミサイルさながらの威力を持たされた影松は着弾と同時に派手な爆発を巻き起こし、備え付けられていた火器と射手を務めていた男たちを悉く吹き飛ばしていった。
無理な使い方をしたためか影松は砕け散ったが事務所屋上部分は半壊。生き残ったのは志々雄と咄嗟に志々雄が引っ掴んで下がらせた方治の二人だけだった。

「な、何という、ことだ……」
「やっぱり隠し玉を持っていやがったか。それにこの有り様じゃもう大勢は決まったな」

黒影トルーパーを倒せる火力を持っていた兵器群が破壊されたことによってマフィアたちは一気に浮き足立ち、攻撃の手を止めてしまった。
その隙を見てトルーパー部隊は態勢を立て直すため予備のマツボックリロックシードを取り出した。

「よし、今のうちに鎧を換装しろ!畳み掛けるぞ!」
『マツボックリアームズ!一撃!インザシャドウ!』

マツボックリアームズからマツボックリアームズへのアームズチェンジ。
普通に考えれば意味のない行為であるが、この局面に限れば覿面の効果があったと言えよう。
ダメージが蓄積し傷ついた鎧を捨てて新しいマツボックリアームズを纏うことによって装甲を実質的に修復、槍を手放した二人のトルーパーの手には再び影松が握られた。
対アーマードライダー用の切り札である重火器が潰え、多くの仲間の犠牲を払って削った装甲をあっさり修復されたことによってマフィアの士気は根こそぎへし折られた。
統制が乱れ動きの鈍ったマフィアたちに仲間の仇討ちに燃えるトルーパー部隊は容赦も呵責もない追撃を加えた。

「く、来るんじゃねえ!!」


482 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:22:15 Eid/G69o0

迫ってくる黒影にショットガンを向ける。生き残るために躊躇なく引き金を引き散弾を発射するも、同時に黒影の姿が消えた。
軽い跳躍で五メートル以上飛び上がった黒影は男の背後に着地、再度銃口を向けられる前に横薙ぎの一撃で肉体を真っ二つに切り裂いた。

「うぁああああああ!!や、やめて!やめて下さい!!」
「うるさい、屑めが」

またあるところでは銃を手放し黒影に片手で持ち上げられた男がプライドも何もかも放り捨てて命乞いをしていた。
受け入れられるはずもなく復讐に燃える黒影の影松が男の右腕、左腕、両足を順番に切り取っていき、最後に喉笛を貫き絶命させた。
このように戦場はもはや虐殺の様相を呈しており、生き残った志々雄と方治の目に大敗北という現実をこれでもかと示していた。

佐渡島方治は確かに短期間のうちにアーマードライダーの特性と弱点を掴み、効果的な武器を手配した。その采配の確かさはサーヴァントやマスターの手を借りずに黒影を二人葬った結果からも明らかだ。
だが、全てのアーマードライダーが持つロックシードのエネルギーを凝縮した必殺技の存在だけは掴めなかった。
ただでさえグラスホッパーは襲撃先のギャングやマフィアを皆殺しにすることが多く、目撃者が殆ど残らない上に人間相手に必殺技に頼ることはまずなかったためだ。
もっとも仮に情報があったとしても、現代兵器で必殺技に対処するのはほぼ不可能だったであろうが。



「ここまで、か」

悠然とした態度を崩さない志々雄がポツリと呟いた。
外に展開していたマフィアたちを一人残らず掃討し、全身返り血に濡れたトルーパー部隊が集結し、事務所屋上に佇む志々雄を睨んだ。
アーマードライダーにとって二十メートル程度の高低差などは存在していないも同義だ。すぐにでも詰め寄りマフィアの首魁たる志々雄を誅滅するだろう。
実際志々雄ほどの剣客でも黒影を三人以上同時に相手取れば防戦すらままならない。まして必殺技を複数同時に起動されれば生存など夢のまた夢だ。



「奴らの力を見極める時間は、な。
――――――なあランサー、お前から見てこいつらはどうだ?」



「そうだな、ちょっとした帝具使い並みの戦闘力はあるんじゃないか?
臣具を作らせたという当時の皇帝が見れば憤死しかねん性能だ」



この場にいるはずのない女の声に黒影たちは戸惑った。それが致命的だった。
宙空から降り注いだ四つの巨大な氷柱がトルーパー部隊を頭部から刺し貫き、たちどころに絶命せしめた。
残された最後の黒影である指揮官が事態に気づくには三秒ほどの時間を要した。

「………え、あ……え?」

あまりに現実離れした状況、あまりにも呆気ない部下の死に棒立ちになる最後の黒影。その黒影の前に軍服姿の女、エスデスが踊り出た。
サーヴァントが放つ特有の魔力と威圧感に黒影の総身が竦み上がる。だがこれまでにいくつかの実戦を潜り抜けてきた経験の賜物か、戦意を振り絞り影松を繰り出した。

「う、うおおおおおぉぉ!!」

生存本能がアドレナリンを分泌し、凄まじい気迫で何度も刺突を繰り出す。
こいつはここで殺さなければならない。そうしなければ死ぬのは自分だ!

「NPCにしてはマシだな。まあその程度だが。
まったく嘆かわしい。私の直属なら一から鍛え直しだ」

けれど、何度となく突き出した槍はエスデスに掠りすらもしない。
逆にエスデスが振るった細剣の連撃は全弾が黒影にクリーンヒット。あまりにも隔絶した技量差に黒影は自分が何をされたかすら理解できぬまま地を這うことになった。



「さて、どうする志々雄?とりあえずこの男だけは生かしておいたが。
私としては折角の強敵との逢瀬を邪魔されてムシャクシャしているので拷問をお薦めする」
「好きにしろよ。どのみちこいつらの情報は必要だからな」
「了解した。……しかしまた手酷くやられたな。方治などそこで放心しているじゃないか」
「ああ、俺とこいつ以外は全滅した。外を戦場に選んだおかげで武器庫は無事だがな。
これはバッタ共の力を侮っていた俺の失敗だ。警戒していたつもりだが考えが甘かったってことだ」


483 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:22:56 Eid/G69o0

今回の損害も志々雄にとってはギリギリで想定の範疇内ではあったが、武器の手配を取り仕切っていた方治にはダメージが大きすぎたようだ。主に精神面の。
たった七人の実働部隊に高価かつ貴重な銃火器を多数持たせた、比較的練度も高い三十人以上のマフィアたちが壊滅させられた。エスデス抜きで殺せたのは二人だけで今回はこちらが相手を誘い込んだ形の戦闘という事実を考慮すれば実際のキルレシオは二十対一かそれ以上というところか。
言うまでもなく現状でゴッサムシティに戦争を仕掛けたところでグラスホッパーの兵隊どもに鎮圧されるのが関の山だろう。
いや、エスデスや同盟者である少佐のサーヴァントがいる方面は間違いなく勝てるだろうがそれでもいくつもある戦線のうち二方面しか担当できないのではジリ貧だ。加えてグラスホッパー側のサーヴァントも未だ実力は未知数ときている。
仮にグラスホッパーには勝てても損害が大きすぎる。その後漁夫の利を狙った参加者どもに少佐共々すり潰されるのがオチだ。
本格的な侵攻に乗り出す前に何としてもグラスホッパーを叩き潰す必要が生じてきた。

「マスターは恐らく首魁の犬養だろうが、この場合バッタ共の力の源を潰さなきゃ意味はねえ。
これ以上強力な兵隊を量産される前にあっちのサーヴァントを消さねえとな」
「ふむ、この男がグラスホッパーのサーヴァントに繋がる情報を持っていれば良いのだがな……。このベルトのことも含めて聞くべきことが山積みだ。
そう言えば前々から同じようなベルトをつけた果実を纏う戦士が活動しているという話だったが、どう思う?」

グラスホッパーの男を引きずりながら問うエスデスだが、恐らく彼女の中で答えは出ているはずだ、と志々雄は考える。
これは単に主従間で認識の齟齬が無いかを確認する作業に過ぎない。

「あいつは恐らくバッタ共とは別口だ。先んじて性能の試験をやっていたと仮定しても奴らとは手口が違いすぎるし何より死人を出さずにどいつも半殺しなど有り得ねえ。
一番有り得るのは元の時代、あるいは世界からバッタ共に配られたのと同じベルトを持ち込んだマスターって線だろうな
バッタ共の持ってるベルトは帯が銀色だったが写真で見たあいつのベルトの帯は黄色だった。何か違いがあるんだろうさ」
「まあそうだろうな。どうする?同盟でも打診してみるか?」
「そりゃ無理な話だ。ああいうのは俺らが殺したあの小僧よりもなお甘い、抜刀斎と同じ手合いだ。
交渉の余地なんぞ最初(ハナ)からあるまいよ」

察するにUP TOWNで活動する果実の戦士はこの悪に塗れた世界で正義、あるいは人々を守るという信念を掲げた者だ。
弱肉強食を正義と信ずる志々雄真実とは決して相容れることのない存在だ。組むことなど有り得ない。

ともかく、今後に向けて課題は山積している。さすがにこの規模の抗争を揉み消すことは難しいので警察のガサ入れが入る前に無事な武器も別の拠点に移す必要があるし、そのための人手も招集しなければならない。
何よりもグラスホッパーにベルトを供給しているであろうサーヴァントの所在を早急に突き止めて叩いておきたい。少佐の組織とも連携を取って調査を急がせるか。
思考していた時、志々雄の携帯に部下からの電話が入った。その報告内容を聞いた志々雄の顔に喜悦の色が浮かぶ。

「おいランサー、CENTRAL HEIGHTSにいる部下から手から閃光を撃つ白い男を見たって報告が入ったぜ。
もしかするとさっきお前が一戦交えた奴じゃねえか?」
「ああ、恐らく間違いない。なら手早く尋問を済ませてしまおうか。
何、短時間で必要な情報だけを吐かせる術ぐらい心得ているとも」

部下から入った情報はエスデスが交戦したサーヴァントと合致するものだった。
既に彼女の興味はNPCへの拷問から強敵との再戦に移っており、グラスホッパーの青年の寿命はさらに縮むことになった。


484 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:23:40 Eid/G69o0











一体何が起こったのか。何の間違いがあってグラスホッパーきってのエースたる自分が地に這いつくばっているのか。
混乱した思考のままゆっくりと起き上がった黒影・バナナアームズを纏う男が見たのは白い装束に身を包む半裸の男だった。

「チッ、マジでNPCだと?こりゃ一体どういう状況だ?」

そんなことはむしろ自分が聞きたいほどだった。
まさかこの男が最新型の錠前から生成された鎧を纏うこの自分をいとも容易く吹き飛ばしたとでもいうのか?
そもそもここは大きな倉庫の屋根の上で、人間が何の前触れもなく通りすがれるような場所ではない。
こんなことは有り得ない。あって良いはずがない。

「何だお前。……邪魔するんじゃねえよっ!!」
『バナナスカッシュ!』

だから自分が震えているなんてことは決して有り得ないのだ。身体が竦んでいるのも何かの間違いに決っている。
今ここでこいつを消し炭にしてこの有り得ない悪寒を消し去ってやる。
サーヴァントが秘める暴威を感じながらも虚勢を張って否定する男は即座に必殺技を起動しエネルギーを纏い肥大化したバナスピアーを構える。

「何だそりゃ。変わった芸風だなおい」
「抜かせええっ!!」

全身全霊で、ただひたすらに突く。上級のインベスすら爆散させるほどの暴力が闖入者を物理的に消滅させる………はずだった。
必殺であるはずのバナスピアーの連続攻撃は、男が抜いた頼りなげな日本刀によっていとも簡単に止められ纏っていたエネルギーは雲散霧消した。

「この程度の攻撃すら斬魄刀を抜かなきゃ防げねえとはな。とことん窮屈な霊基(からだ)だ」
「ふ、ふざけるなあっ!!」
『バナナスパーキング!』

激昂した黒影は今度はカッティングブレードを三回倒し再度必殺技を起動した。
役に立たないバナスピアーを投げ捨て、空高く飛び上がる。脚部にロックシードのエネルギーを全集中させたライダーキックだ。
発揮されるであろう威力を探査回路(ペスキス)で正確に感じ取った男、グリムジョーはほんの僅かに機嫌を直した。

「NPCの癖にやれば出来るじゃねえか」

黄色の流星と化してグリムジョーを背後で気絶しているレヴィごと打ち砕かんとする黒影に向けて、静かに右手の指を向けた。



「俺に手抜きとはいえ虚閃(セロ)を使わせたんだ。誇っていいぜ」



閃光が放たれ、黒影を呑み込んだ。打ち負けた黒影は変身を解除され倉庫の屋根を転がった。地面に転落しなかったのは奇跡に近い。

「そんな…馬鹿な……」
「あ?まだ生きてたのか。さっさと死ねよ」
「……おい、ちょっと待てセイバー。こいつにゃ聞きたいことがある」

気絶していたレヴィが頭から血を流しつつもゆっくりと起き上がった。
そのまま変身が解けたグラスホッパー団員の下まで歩くと、勢い良く鳩尾を踏み抜いた。

「ぶ、げぇっ……!」
「楽に死にたきゃさっさと答えろよチェリーボーイ。
質問一、そのクソだせえベルトは誰に貰った?」

ぐりぐりと腹を踏むレヴィに反撃する力はもう男には残っていない。
もはやすっかり恐怖に支配された男は先ほどまでの威勢はどこへやら、機密情報をあっさり話した。


485 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:24:24 Eid/G69o0

「だ、だからさっきも言った通り犬養さんがスカウトしたっていうプロフェッサーだよ!名前は知らねえ!」
「あっそ、質問二、そのベルトと錠前は誰にでも使えんのか?」
「いや…無理だ。こいつは最初に身に着けた奴しか使えないと聞いた。そういうセキュリティなんだろうさ」
「じゃあ質問三。一度も使われてないベルトはどこで手に入る?」
「ぐ、グラスホッパーの拠点はアーマードライダーの訓練場も兼ねてるからそういう施設なら未使用のベルトもあるはずだ。それこそ同じ施設はゴッサム中にある」
「さっきお前槍とかデカいランスとか使ってたよな?じゃあ銃とかもあるのか?」
「ああ…新型の果実型の錠前には銃を扱うタイプもあるとは聞いたことがある。確か葡萄の錠前だったはずだ。
……も、もういいだろ!?俺を解放してくれよ!?」

いつの間にかベルトもロックシードもレヴィに奪い取られてしまった男は、全てをかなぐり捨てて懇願した。
返事は再度の鳩尾への踏みつけだった。激痛に耐え切れず男は失神した。



「一応空気読んで黙ってやってたがよ。どうするつもりだレヴィ?
つーかまず何があったんだよ?」
「どうもこうも、お前がぶっ殺した使い魔の仲間らしい奴に追われてたと思えば今のバッタがそいつをぶっ殺して、次はアタシを標的にしてたんだよ。
舐めた真似してくれやがったが、おかげで次の目標が決まった」
「何だそりゃ?」

グリムジョーが顔面から血を流したままの主を見る。
驚くべきことに、その瞳はもう死人のそれではなくなっていた。

「準備したらMID TOWNに行ってバッタ共の拠点を潰してついでにアタシが使えるベルトと錠前も頂戴するんだよ。案内はこいつにやらせる」
「ハッ…少しはマシな目になったじゃねえか」
「何だそりゃ。今までは死んでたって言いたいわけか?」
「ああ、酷いもんだったぜ。どういう風の吹き回しだ?」
「あ?こんなバッタ共や化け物に舐められたまま終われるかってんだ。
それにこいつの鎧にしろ武器にしろ普通の技術で出来たもんじゃなかった。もしオーパーツ級の銃が手に入るなら機会を逃す手はねえ」

とはいえ先に怪我の手当をしなければならないしいつの間にか手放していたソード・カトラスも回収しておかなければ。
頭を負傷した状態でそんなことを考えていたせいだろうか。
レヴィたちを遠くから見つめるマフィアの構成員の目に気づくことはついぞなかった。


486 : 進撃の黒飛蝗 ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:24:53 Eid/G69o0


【DOWNTOWN CENTRAL HEIGHTS/1日目 午後】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]顔面に腫れ、頭部から失血(未処置)、疲労(小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]量産型戦極ドライバー、バナナロックシード、マツボックリロックシード
[所持金]生活に困らない程度
[思考・状況]
基本:とっとと帰る。聖杯なんざクソ喰らえだ。
 1.当面は優勝を狙う。
 2.準備をしてから北上してバッタ共のアジトを潰す、ついでに使えるベルトと葡萄の錠前も頂いてヤモトも探す。
 3.ジョンガリの野郎がムカつく。
[備考]
※同業者のジョンガリとは顔見知りです。
※インベス化したチャカは黒影トルーパーによって葬られました。
※グラスホッパーの団員を捕えています。彼にグラスホッパーのアジトへの道案内をさせるつもりです。

【セイバー(グリムジョー・ジャガージャック)@BLEACH】
[状態]胸に切り傷、魔力消費(小)
[装備]斬魄刀
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:立ち塞がる敵を一人残らず叩き潰す。
 1.レヴィの方針に従いNPCの奴ら(グラスホッパー)のアジトを襲撃する。
 2.この街が気に喰わない。レヴィには這い上がってほしい。


【DOWNTOWN CHINA BASIN(マフィアの事務所)/1日目 午後】
【志々雄真実@るろうに剣心】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]無限刃
[道具]特筆事項無し
[所持金]豊富
[思考・状況]
基本:聖杯を盗り、国をも盗る。
 0.拠点を別の場所に移すか
 1.マフィアの規模を拡大していく。
 2.自身の部下を駆使し、情報を集める。
 3.「果実を纏う戦士」への興味と警戒。 戦士を生み出していると思われるサーヴァントは優先的に消す。
[備考]
※組織の資金の五分の三を銃火器の購入に費やしています。
※グラスホッパーの襲撃により調達した武器の一部を失いましたが武器庫は健在です。
※ミッドタウンにあるチャカ達の拠点を征服しました。
 また、これ以外にも幾つものマフィアを制圧しています。
※部下の佐渡島方治に聖杯戦争やマスター、サーヴァントの存在を打ち明けています。
※果実を纏う戦士(呉島光実)はグラスホッパーの所属ではない、元の時代または世界からベルト(戦極ドライバー)を持ち込んだマスターだと考察しています。また思想的に相容れない相手であると考えています。

※CHINA BASINを中心に志々雄の部下複数名が偵察を行っています。
不審な動きをしている者、マスターと思わしき者を優先的に捜索しています。
CENTRAL HEIGHTSにいるレヴィとセイバー(グリムジョー)の位置情報を掴みました。

【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]左腕に切り傷、魔力消費(小)
[装備]レイピア
[道具]特筆事項無し
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を愉しむ。
 1.グラスホッパー団員への拷問を手短に済ませてさっきのセイバー(グリムジョー)との再戦に臨む。
 2.志々雄の国盗りに協力してやる。
[備考]
※志々雄の組織による征服行為に参加しています。


487 : ◆sIZM87PQDE :2016/09/13(火) 21:25:27 Eid/G69o0
投下終了です


488 : 名無しさん :2016/09/13(火) 22:09:52 pe2qPj/20
投下乙です。
グリムジョーvsエスデスはひとまずお預けか
鯖としての制約下でも技量の高さでグリムジョーより優位に立つエスデス将軍は流石に帝国最強なだけあるな
しかしパワードスーツで武装した自警団と重火器揃えたマフィアの抗争、もはや魔術の欠片もない絵面だな…w
生身の人間がミニガンや対物ライフル駆使して黒影討ち取ったのは興奮したけど、やはり強さの差は覆しがたかったか
レヴィの戦闘でも顕著だったけど、鯖ならサクサク殺せる黒影や野良インベスでも常人には凄まじい脅威だからやっぱりプロフェッサーやヘルヘイムの存在は恐ろしい


489 : 名無しさん :2016/09/15(木) 10:47:13 GhtZqQmA0
投下乙です
デバイスかカレイドなステッキが無ければさしものトゥーハンドも仮面ライダーには勝てない。ハッキリ分かんだね


490 : 名無しさん :2016/09/15(木) 22:31:41 Up3dqz8M0
投下乙です!
未だかつてここまで激しいモブ同士の抗争があっただろうかw
方治もかなり知恵を絞って作戦を建てたのにそれをあっさり上から叩き潰す黒影は恐ろしい
それとwikiの参戦時期について気になったことが一つ
呉島貴虎の参戦時期は36話終了後ではなく36話途中、光実との決闘前では?


491 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/09/27(火) 00:49:27 1MywJzYk0
ジョンガリ・A&アサシン(カール・ルプレクト・クロエネン)
予約します。


492 : ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/03(月) 00:01:19 656jqgQ.0
投下します。


493 : 風は予告なく吹く ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/03(月) 00:03:02 656jqgQ.0



 取り立てて語ることの無い仕事だった。
 前もって受け取っていた情報に基づいて廃ビルの一室にて体制を整え、数百メートル先のホテルの入口から外へと踏み出したターゲットの眉間を撃ち抜いて、終わり。
 突然の凶行に慄いた人々が慌ただしく駆け寄るか逃げ回るのを尻目に、ジョンガリは手早く退却の準備を進める。
 聖杯戦争のマスターの資格と共に、ゴッサムの住人としての役割も課せられたジョンガリの今日の仕事はこうして容易く終わる。
 今回の依頼を受けたことについて、現状維持を理由とする説明は可能である。
 単純に最低限の金は必要なため。悪事こそ日常とするゴッサムという地に溶け込んで生活し、下手に悪目立ちしないため。生きた標的を訓練相手とすることで、狙撃の腕を少しでも鈍らせまいとするため。依頼内容自体は簡易な物であり、本領である聖杯戦争への対応を阻害するほどでもなかったため。
 しかし、状況の好転へと繋げられる理由は生憎と見当たらなかった。後に報酬を払う契約であるクライアント、凶弾に貫かれ既に命を落としたターゲット、その双方が聖杯戦争とは一切関係の無い人物であり、また今後の大きなバックアップ等も期待出来そうにない。

(手詰まりになるのもそう遠くないか)

 現実的な問題を言えば、ジョンガリとアサシンの一組だけで広大なゴッサムの戦争を勝ち抜くには限界がある。
 情報の入手量。継戦能力。戦力増強の余地。どの点を見ても、単体で行動を続けていてはいずれ頭打ちだ。
 ならば、他者と手を組むことが必要だ。
 戦力を質量ともに向上させられる。街を駆けずり回る人員を確保できる。いずれ敵対する相手でも、一時的にでも互いに持てる物を提供し合えれば事はスムーズに進められる。
 思考の中に過るのは、協力者の候補達の姿だ。聖杯戦争に関わるか否かは、一旦は脇に置くとする。

(誰と組むか、だな)

 大規模……を条件に挙げれば、「包帯男」が該当する。急激な組織の拡大を今も続ける彼の快進撃は、日陰に生きる者はおろか表の世界を生きる者ですら把握していたとしても何らおかしくはない。
 ろくに機能しない公安組織に代わる治安維持部隊のグラスホッパーもまた、今頃は彼の組織の拠点の一つを突き止め、「纏う果実」とやらを使って彼等と撃ち合っているのだろうか。
 接触は容易だろうが、悪目立ちするだけに手を組むならば身の危険を覚悟するべき相手となる。

 中規模または小規模……となると、未だ「包帯男」の息のかかっていない連中となる。市民でも名くらいは知る集団、裏の道を行くものでなければ実態を把握できない集団。枚挙に暇がないとは最早言えない程に頭数は減っているが、数は未だ残されている。
 特にその姿を知る者が少ないと言えば、あの醜く肥えたペンギン男……もとい、オズワルド・コブルポットがそれだ。とある有識者が市政に携わるために用意した傀儡としての側面は、全市民が察しているだろう。
 しかし、自らと同じ境遇の者達と結成したという犯罪組織の首領としての側面は、市民は愚か警察やグラスホッパーですらどこまで把握しているか不明瞭だ。尤も、当のジョンガリもまた噂に聞いた以上の実態を知らないのだが。
 彼等の組織が危機を逃れられるならば良いが、一方でいずれ組織自体が潰される可能性もあることを考えると、協力者としては大きな期待も持てなそうか。

 ジョンガリと同じく単体の戦力と言えば、フリーランスの暗殺者だ。行動力にはさほど期待できない一方で、接触が容易であるのが利点となる。
 ……と言っても、誰ともつるまないスタイルを選ぶジョンガリが組めそうな相手となると、何が面白いのかジョンガリと言葉を交わす機会のそれなりにあるレベッカ・リーが第一候補となってしまうのだが。
 この稼業を営む者に言うのは詮無きことだが、敵と見なせば即発砲となってもおかしくない相手に背中を任せるのは、やはり気が引ける。
 仮にあの女と手を組むならば、一定の距離を常に取っておきたいのが本音であった。


494 : 風は予告なく吹く ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/03(月) 00:03:36 656jqgQ.0

(何にしても、売れる物は手に入れておきたいか)

 いずれの相手と組むにしても、まずはこちらから提供できるメリットを見せないことには始まらない。
 狙撃手としての実力は当然として、他にはこれまでに得た情報であったり、またはジョンガリが兵力として挙げる確かな実績であったりと様々だ。
 そのためにも、ここで情報の精度を上げておくのが得策か。
 ジョンガリとアサシンの集めた情報の中でも、グラスホッパーに関する物を再度整理する。
 果実の形をした鎧で戦う。基本的には一般市民出身者で構成されている。そして、街に突然現れる奇妙な極彩色の果実に強く執心している。
 アサシンは偵察活動の中で目撃したという。その果実を食った者は瞬く間に怪物となり、理性無く暴れ始める。その姿を発見したグラスホッパーの団員達は、鎧を纏い怪物を迅速に討伐する。そして食われることの無かった果実を団員達は回収し、去っていく。
 グラスホッパーと果実の関わりは、これだけでも推定が可能だ。
 果実と怪物をグラスホッパーは狙っている。言い換えれば、果実の実る所にはグラスホッパーが現れ、怪物の蠢くところにはグラスホッパーが鎧を纏って現れる。
 となると、情報を求めるジョンガリの為すべきことは決まっている。

 ……依頼された仕事の遂行から一時間が経過し、現在は夜の六時を過ぎている。
 場所を改めたジョンガリの視線の先では、いくつもの果実が鮮やかな色を見せつけている。
 その色をジョンガリの目は識別出来ない。ただ、そこにあるというだけで十分だ。







 取り立てて語ることの無い仕事、のはずだった。
 また例の果実が出現したとの報を受けて自分達四人のチームで現場に急行し、また出現した例の化物を取り囲んで屠った時点で終わる話のはずだった。
 新型の戦闘スーツによって増大した筋力、堅固な装甲、数の優勢、どれを取っても失敗する要素など無かった。
 だから、いつものように化物の肉体が爆風と化するのを見届けて、やっぱこのスーツ凄いな、なんて自画自賛を潜ませた軽口を叩き合う。そんな自分達に一声かけるチームのリーダーとの間には、距離感らしい距離感も無い。
 そしてこれからも同じような流れが続き、そのうち街に巣食う害悪共を残らず駆逐する時を迎えられるのだろうなと想像しながら、揃ってスーツの装着状態を解除し、生身の姿へと戻った。
 化物を倒した時点で警戒態勢を取り続ける必要は最早無かったのだ。
 そんな判断が、間違いだったのだろうか。

「――お、ごっぉ」

 ぐちゅっ、と。突然、何かを抉るような音が聞こえた。続いて、小さく漏れるような声。
 二つが聞こえた方へと視線を移した時、見えたのはリーダーが訳の分からないといった表情を浮かべながら硬直している姿。
 その顔の下、首元にあったのは一つの小さな穴。
 穴から流れ出る液体は、赤黒い。口からごぽと吐き出される液体もまた同じく。
 頭が目の前の事態を理解するよりも早く、彼の身体は地面に身体を崩れ落ちた。
 何秒経過しても、動く気配は全くなくなっている。

「ねえ、ちょっと」

 何が起きたのかを理解したのだろう。
 撃たれた彼を除く二人のチームメンバーの団員の内、女の方が素早く前に出た。倒れたリーダーの生命を案じて駆け寄ったのだ。
 しかし、その右足が三歩目を踏み出そうとしたところでまた耳障りな音が響く。同時、彼女の右太腿から血液が噴き出した。
 悲鳴。また身体が地面にぶつかる音。両手で太腿を押さえつけ、激痛に泣き悶える彼女の姿。
 見間違えようも、聞き間違えようも無い事実がそこにある。
 誰かに、撃たれた。


495 : 風は予告なく吹く ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/03(月) 00:04:30 656jqgQ.0

「……二人を守れ! 救援も呼べ! 俺が前に出る!」

 硬直していた男の方の団員に向けて叫ぶ。混乱する頭の中で辛うじて出した判断だった。
 泣き出しそうになりながらも了解の返事をした男の団員は、震える手でドライバーに錠前をセットし、再びの変身を完了させる。
 すぐさま倒れた女の団員の方へ駆け寄り、身体を抱えて庇う体勢を取る。距離の問題もあって女の団員しか庇えないが、仕方が無い。そもそもリーダーの生命は……もう、とっくに尽きているとしか思えなかった。
 あとは彼が同胞への連絡をスムーズに行うのを祈るばかりだ。

「嵌めやがって、糞野郎……!」

 同じく変身を終えると共に、毒づく。
 遠距離からの銃撃によって自分達を襲ったのだろう何者かのやり口は、自分達への対抗手段としては腹正しいものであった。
 怪物という第三者との接触の場にて、恐らくは予め待機していた。
 交戦が終わったことで警戒心を弛緩させながら武装を解除し、生身を外気に晒した瞬間を狙い撃ち、即座に殺害した。
 残る三人の団員のうち一人に対しては脚を撃ち抜き、しかし生命を奪うことなく行動の余地だけを奪った。
 もう一人は撃たれた団員を庇うための防御態勢を取る以外の選択肢が無くなり、折角の優れた武装を宝の持ち腐れ同然にする羽目となった。
 事実上、戦えるのは自分一人だけとなっている。
 ……いかにも暗殺者の好みそうな、腹正しい程卑劣で、しかし腹正しいほど有効な戦法によって、アーマードライダーの絶対的な力を持つはずの自分達は容易く危機に陥らされている。
 しかし、幸いであったのは場所が人の寄り付かないトンネル内であったことだ。四方八方が見渡せる街中ならともかく、この場合は敵の位置の推測も容易。前方加工法のどちらかへとトンネルを抜けた先にいるのが間違いない。
 そして今回は、リーダーの撃たれた傷口の反対側に向かえば良い。駆ければいずれ敵は見つかる。

「はっ、効かねえって見りゃ分かるだろ」

 今度は自分を狙ったらしい。右肩に銃弾が一発当たり、しかし小気味良い音と共に跳弾する。
 アーマードライダーの装甲は、既存の現代兵器では到底破れない。大火力のバズーカ砲ならともかく、狙撃用のライフルの銃弾程度で破壊出来るわけが無い。
 それどころか、今の銃弾のおかげで敵のいる方向がある程度は推測しやすくなった。最初は得体の知れない敵かと思ったが、なんだ、単なる阿呆ではないか。
 槍の柄を握る手に力が籠もる。見つけ次第、徹底的に血祭りに上げてやらなければ気が済まなくなっている。早く俺の前に姿を見せろと、心が躍る。
 犠牲は出てしまったが、ようやく敵の死によって決着が付けられる。
 そのはずだった。

「あ、ああ、あああああああっ!?」
「は?」

 突然、後方から男の団員の叫びが聞こえた。
 何事かと振り返った先、東部のモニター画面越しに見えたのは、女の団員を抱くアーマードライダーの姿。女の額からは、赤がとろりと流れ出ている。
 直後、慟哭の声を上げながらアーマードライダーは自分とは反対方向へと駆け出した。
 ……どういうことだ。
 今自分が向かっていた方向から撃ったとしても、女の団員の額を撃ち抜けるはずが無い。男の団員は、女の団員の身体を抱える形で庇っていた。位置や角度を考えても、敵のいる方面から女の頭部は撃ち抜けないはずだった。
 当たり前だ。弾丸は、直線の一方向にしか進めないのだから。
 ならば、実は狙撃手が180度反対側にもう一人いたのか。もしくはたった一人の狙撃手が実はずっと近くにいるのか。それとも、弾丸が空中で軌道を変更したとでも言うのか。
 いや、それより狂乱するあの団員を早く止めなければ。今からでも落ち着いて力を合わせれば、敵を迅速に叩き潰せるに決まっているのだ。
 努めて冷静であろうとする頭で結論を出し、指示を出すため喉を鳴らそうとした、その時。
 向こう側に、アーマードライダーではない黒い影が一つ、すとんと降り立った。トンネルの出口付近の外壁に張り付いていたのが降りてきたかのように見えた。

「あっ」

 この口から間抜けな声が漏れるのも、仕方の無いことだ。
 その黒い何者かの右腕で銀色が煌めいた次の瞬間、アーマードライダーの首から上が無くなっていたのだから。
 いや、首から上は確かにあった。鮮やかに宙を舞い、赤い線を空中に引き、そしてコンクリートの地面にごとりに衝突する。ごろごろと転がり、やがて停止する。
 殺された黒いライダーの胴体が崩れ落ちるのと同時。殺した黒い何者かはそのガスマスク越しに足元へ視線を向けて、死した団員の頭部をサッカーボールのように軽く蹴飛ばした。いかにも邪魔そうに。


496 : 風は予告なく吹く ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/03(月) 00:05:07 656jqgQ.0

「……お前えええええっっ!!」

 感情が、一瞬で爆発する。
 離れていた距離など全力で駆けて埋めて、勢いに任せて黒いガスマスクの男に槍を突き出す。即刻息の根を止めてやる、その黒い激情のままに。
 しかし貫けない。左の腕にトンファーのように装備された銀のブレードが振り上げられ、突き出したこちらの穂先はあっさりと弾かれた。そしてがら空きとなったボディに、回し蹴りが叩き込まれる。
 無様に仰け反る自分の姿を、ガスマスクの男はただじっと見ていた。まるで退屈極まる見世物でも眺めるかのように。

「だったら、」

 すぐさま反対側に飛び退き、左手で目当ての物を掴み取った。
 それは、本来はリーダーに支給され、今は彼の懐から零れ落ちた一つの錠前。今の自分の装備となっているマツボックリ型の装甲よりも上位とされる力の源だ。
 今までの装備でガスマスクの男を倒せるか分からない。ならば、より強い装備を使うだけのことだ。

『ドリアン!』
「……ちょっと借ります」

 今に見せてやる。上級ロックシードの力を。

『ドリアンアームズ! ミスター・デンジャラス!』

 新たに纏われる、棘だらけの緑の装甲。両手に握るのは、両刃の鋸。
 危険性が増したと一目で分かるその姿を前にして、しかしガスマスクの男は大きな情動の一つも露わにしない。
 その素顔に浮かべる表情は、未だ読み取れない。

「おい、俺達を撃った奴の仲間かよ」

 男は、一言も応えない。

「……じゃあ力づくで聞き出してやる。そのムカつく仏頂面を剥ぎ落としてからな」

 己を振るわせるための挑発の文句と共に、大振りの鋸二つを向ける。応じるように、ガスマスクの男も両手のブレードを回転させて風を切り、そして構える。

「見せてやるよ。アーマードライダーの力を」

 直後、四の得物が激突した。






497 : 風は予告なく吹く ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/03(月) 00:06:15 656jqgQ.0



 ジョンガリは戦況を観察する。
 音を聴き、念話を聴き、風を感じ取りながら。

 奇妙な果実を食べた浮浪者が怪物と化し、その後に現れたグラスホッパーの武装部隊によって殲滅されるまでの一部始終を、気配遮断スキルを発揮しつつ身を潜めたアサシンが全て見ていた。その情報は、念話によってジョンガリに過不足無く伝達される。
 事を終えて油断した彼等を目標に据え、まずジョンガリが行動を起こした。
 手始めにリーダーと目される男を射殺。残る三人のうち一人は脚だけ撃ち、もう一人には庇わせ、最後の一人を隔離する。
 この過程の中で理解した事実は三つ。

 一つ。予想通りではあるが、彼等の黒い装甲の強度は高く、ジョンガリの持つライフルの弾丸で貫通することは叶わない。
 生身の時を狙うならともかく、一度あの装甲を纏われたらその時点でジョンガリ単独でグラスホッパーの団員を殺すことは不可能となる。厄介な話だ。
 尤も、彼等は決して四六時中あの装甲に身を包んでいるわけではない。街の住人の延長線上として生活する以上、いずれは素肌を晒さざるを得なくなる。ジョンガリからすれば、彼等を撃てるタイミングなど全く存在していないわけではないのだ。

 一つ。彼等の持つ装備は攻撃手段の汎用性には乏しくない。共通装備の槍は単なる刺突武器としてだけでなく、怪物を爆散させるほどの高エネルギーを纏わせることも可能だという。また装着プロセスに使用する錠前次第で装備も変わり、その錠前はドライバーを別にしても使用可能とする互換性がある。
 しかし、それだけだ。槍を装備した団員は槍しか持たず、遠距離を狙える装備を新たに調達することは出来ない。それが出来るなら、仲間を庇いながらでもこちらを攻撃しているはずだ。
 一種の錠前につき一種の武器。それは、一種のスタンドが持つのは一種の異能というスタンドの原則にも似通っている。

 一つ。スタンドビジョンはスタンド使いにしか見えないという原則は、聖杯戦争のために用意された肉人形同然の団員達にも適用される。
 魔術回路を持つアサシンは、マンハッタン・トランスファーの中継衛星の目視を可能していた。その時点で、スタンド使いでなくともマスター或いはサーヴァントであればスタンドビジョンをその目に映し出せるとの推測は可能であった。
 かなり強引な形ではあるが、魔術回路が精神エネルギーの代替物として機能してくれているのだ。
 ならば、マスターでもサーヴァントでもないゴッサムシティの大多数の市民達の場合はどうなるのか。
 その確認のため、ジョンガリを捕らえるために走り出した団員の視界内に、敢えて中継衛星を浮かばせてみた。もしもスタンドが見えているならば、中継衛星に目を向けるなり叩き落とすなりのアクションを起こすはず。
 結果、あの団員は何一つ反応を示さなかった。最初から彼の目にスタンドが見えていないのは明らかであった。そのせいで、ジョンガリが実は団員の向かっているのと全く反対側から弾丸を幾度も反射させて狙撃しているのだという事実にも気付けない。
 となれば、「スタンドが見えない者」はマスターではなく、「スタンドが見えている者」がマスターであるという判断基準を立てることも可能となるか。
 単なる部外者を私兵に変える装備品を造るサーヴァントの技術力は確かに驚異的だが、しかし齎されるのはあくまで外装でしかない。人の内に宿る精神エネルギーを本質とするスタンドの原則を、科学で超えることは叶わない。
 それが叶うのならば、空条承太郎とのコネクションを持つというあの財団がスタンド使いの人造をとっくに成功させているだろう。科学者のサーヴァントがこの地で成果を挙げるまでもなく、だ。

 もしもこの場に持ち出されているのがホワイトスネイクやスター・プラチナのような人間型スタンドであるならば、団員がスタンドの存在を悟ることすら叶わないまま一方的な殴打のラッシュを存分に叩き込まれる……くらいの話は実現され得るだろう。
 しかし、ジョンガリの持つマンハッタン・トランスファーというスタンド自体には一切の攻撃力が無い。スタンド使い特有の有利な条件は、グラスホッパーの持つ外装の強度に打ち消される。
 それでも、問題は無い。
 何故ならば、ジョンガリはスタンド使いであると同時に、サーヴァントを従える聖杯戦争のマスターだから。
 そして、ジョンガリとアサシンは、共に「暗殺者」なのだから。

 四人いた団員のうち二人はジョンガリに撃ち殺され、一人はアサシンによって斬首され命を落とした。
 さて、残るは上級と目される鎧を纏った戦士が一人。
 丁度良い機会だ。彼のお望み通り、アーマードライダーの性能を見せてもらうとしよう。






498 : 風は予告なく吹く ◆T9Gw6qZZpg :2016/10/03(月) 00:08:06 656jqgQ.0



 埒が明かない。
 得物のサイズならこちらが上だ。向上した腕力だって劣ってはいないはず。
 それなのにガスマスクの男を未だ仕留められていないのは、最小限の労力で斬撃のことごとくをいなされているためであった。
 始めに刃をぶつけ合った時、力関係は均衡していたと言える。そのことを察したのだろう、ガスマスクの男は攻撃を受け止めるのではなく受け流すように試み始めた。
 振り下ろされた鋸の刃にブレードをぶつけて軌道を逸らす。それを何度か繰り返し、隙を見てはブレードを突き出してこちらの装甲を裂こうとする。
 当然、受けてやる義理も無い。装甲の固さに物を言わせ、身体を逸らしてこちらも受け流す。
 たまにこちらからの攻めが決まれば、男の身体からどういうわけか血では無く砂が零れる。人間では有り得ない事態が起こることの真相を考えるほどの余裕までは無い。
 そんな攻防が、先程から一分以上も続いている。
 亡き仲間が既に救援を呼んでいる。到着までの時間は不明だが、いつかは来てくれるはずだ。そして、ガスマスクの男がそのことに気付いていないわけが無い。
 それにも関わらず一気に攻め込まない理由が何であるのか、今になって察しが付い