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男「吾輩はニートである」
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吾輩はニートである。職はまだない。というか探す気もない。現在、午前5時。日本中の若者を熱狂させた大人気ソーシャルゲーム、『白猫のファンタジー』。そのランキングクエストの最終日がスタートして、はや5時間。
新しいランキングクエストがスタートして、すぐに飛びつくプレイヤーはバカだ、と思う。まるで就職活動の開始日(3月1日)を今か今かと緊張して待ち、大した志望動機もないたくさんのエントリーシートを抱える「シューカツセー」みたいではないか。奴らは闘い方を間違えている。結局は、最後の追い込みこそが大事なのだ。え? 大企業の募集は夏までで打ち切り? そんなこと、知ったこっちゃない。なんたって俺は、ニートだ。
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とにかく、俺はこの、ランキングクエスト最終日、それでいて勤勉なワーカーや学生たちが入り込む余地のないこの時間に、みごとゴボウ抜きを果たし上位ランカーになってみせよう、という計画を立てたわけである。
だが、まだ慌てるような時間じゃない……のも事実。まだ朝の5時だ。部屋の中にいても肌寒い。おまけに腹も減ってきた。近くの「SARSEN」で「あげあしクン」でも買ってくるか。
そう、まだ慌てるような時間じゃない。
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いざコンビニの前まで来て目に入ったのは、うんこずわりをするいかにも、といった感じの金髪の女ヤンキーであった。パンツ見えてますよ。いや、見せているのか。
見た目はどう見ても不良なのに、こんな時間にたった一人でコンビニの前でうんこずわりしている。普通、不良って深夜に集団でたむろする者ではないのか? まぁいい、俺には関係のないことだ。
軽快な入店音が、嘲笑うように俺を迎え入れる。
「あ、『あげあしクン』ひとつ」
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「あげあしクン」を買って外へ出る。まだ、ヤンキー女はそこにいた。うんこずわりでパンツを見せ、動き始めた街をぼんやりと見つめている。そういえばこの女、制服を着ているではないか。このあときわめて一般的に勤勉な学生にでもなるつもりなのだろうか。あるいは――。
誰かを、何かを待っているのだろうか。
「オッサン」
少女が口を開いた。俺ではない、俺を呼んだのではないはずだ。だが無慈悲にも、少女の眼は紛れもなく俺を捉えていた。
「タバコ買ってきて」
「確かに俺はタバコを買う権利を有している。だが俺は喫煙家でもなければ、未成年であろう君に渡すつもりもない」
少女は、失望したのか、それとも初めからそんな眼だったのか、虚ろな視線を俺から外すと、
「あっそ」
と、力なく答えた。
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俺はその声を覚えていた。あれは――俺が「シューカツ」において、50連敗した時の、すべてを諦めた母親の声と同じだった。
トラウマが蘇った気がした。たかがヤンキー女子高生に、俺の闇をえぐられた気がしてならなかった。
勤勉なサラリーマンが入店したのだろう、軽快な入店音が俺を嘲笑うように鳴り響いた。俺はその場から動けずにいた。この少女を、放っておいたらいけない気がした。だから俺は柄にもなく、こんなことを口走ってしまったのだ。
「何か食いたいものはないか。おごってやるぞ」
少女は再び虚ろな眼を俺に向けた。そして小さく、
「あげあしクン」、と答えた。
もう一度言おう、吾輩はニートである。
「シューカツ」という人生の難関に敗れたのは何年前だろうか。
吾輩は、ニートである。
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今日はここまで
SS要素は極端に少ないがここに投下させてもらった
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支援
充分SSと思うがな。というより、なんでもありがSS
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いい空気感
支援
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はむ、はむと小さく一口ずつ「あげあしクン」を口にするヤンキー女。いつも丸呑みしてしまう俺と違って、こんな奴でも女の子らしさがあるのだろうか。
大通りの交差点を、タクシーが横切った。この人の勤務は、始まりだろうか、終わりだろうか。街が、動き出す。
「オッサンさぁ、」
「何だ」
「今日仕事じゃないの」
絶望的に相性の悪い相手がある。こちらの弱点を瞬時に見抜き、完膚なきまでに叩きのめし、それでカタルシスを得ようという人間だ。この女も、そういうタチなのだろうか、少し身構えた。
「な、なんでそんなことを訊く」
「だって上着はパーカーで下は……パジャマだもん。もう6時になるのに家に帰って準備するでもないから、今日は休みなのかな、と」
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6時? 6時だと!? 俺は確かに、午前5時に城を出たはずだ。それが近所のコンビニまで行って、「あげあしクン」を買い、ヤンキー女と会話する、それだけで1時間が経ってしまったというのか!
「そ、そうだよ、今日は休みだ」
自分の声が震えているのに気が付いた。
「そ、そういうお前はこんな時間にこんな格好で、学校には行かないのか」
ヤンキー女は、んー、と思案してから、俺を見据えてニッと笑った。
「普段はサボってるけどね。今日はおもしろいオッサンと出会えたから行ってみようかな」
「……意味が分からん」
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「分かんないでいいよ――んしょ」
ヤンキー女はうんこずわりをやめ、スカートを少しはたくと、俺を見て笑った。昇り始めた太陽のせいだろうか、少女の眼に、光が灯っている気がした。
「『あげあしクン』ごちそうさま、オッサン」
「俺はオッサンなんて歳じゃあ――あ!」
現在、午前6時。出勤前の勤勉なワーカーが、登校前の勤勉な学生が、少しの間でもログインしてランクを伸ばしているかもしれない! こんな女に構っている場合じゃない、今すぐにでも城に帰還し、奪われたランクを取り返さなくては!
俺は横断歩道へと直進した。
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「ちょ、ちょっとどこ行くの?」
少女よ、君が知る由もない血塗られた激戦地さ――そんなことを考えていたからなのだ、赤信号に気が付かなかったのは。
パパー、と軽快なクラクションが俺を嘲笑うように鳴り響いた。右を見れば、大型トラック。
ああ、そういうことか。ほら、よくあるじゃないか。何のとりえもないニートがトラックに轢かれて死んで、異世界に転生してチート能力で云々……。
生まれてこの方あまりいいことがなかった俺だが、ついにこの時がやってきたというのか。そうだ、そうに違いない!
さぁ、大型トラックよ! 俺を轢くがいい! さよならくそったれの世界! こんにちは最高のハーレム異世界! そこで俺は真の幸せを得るだろう!
その瞬間。
「危ないっ!」
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女だ。女の声だ。それに呼応して、俺の異世界へのトンネルは停止する。
「ごらぁ! あぶねーだろうがどこ見てんだ!」
いかにも、という風貌のトラック運転手。
「す、すみませんでした……」
「……ったく。気を付けろよ」
運転手はそう吐き捨てると、重低音を響かせながら朝方の街を走り抜けた。
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「まったく、びっくりしたよ」
「お前のせいで、死に損ねた」
「……死ぬ気だったの?」
ふとした一言で、少女の声色が深刻になった。俺は慌てて否定する。
「ち、違う違う! お前は知らないだろうが、大型トラックに轢かれて死ぬと異世界でチートになれるというジンクスがだな――」
「なにそれ」
興味なさそうに吐き捨てた少女は、俺の真正面に立ちなぜか「気を付け」をして、俺に言った。
「ま、死ななくて良かったよ。私毎日この時間帯にここにいるからさ。また会おうね、オッサン」
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……こんな女でも、俺の命を助けてくれた――助けやがった?――恩人だ。名前ぐらい訊いておいてもいいだろう。
「お前、名前は」
「私? なに、ナンパ?」
ケタケタと笑う女。よく見ると、端正な顔立ちをしている。昇り始めた太陽と金髪が、なぜだかよく似合っていた。
「みらい。私の名前は、みらいだよ」
「みらい――」
いい名だ、と素直に思った。俺が最後に「みらい」について考えたのは、いつだったか。
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「なに?」
「いや――何でもない。今日はいろいろ、その――ありがとう」
「うっす」
適当な挨拶をして別れた「みらい」の唇の端に、「あげあしクン」の油がてかっていた。それは、官能的にすら見えた。
帰り道、どこかから声が聞こえた。
「あの女、余計なことをしたな。本当は死にたかったんじゃないのか?」
うるせぇよ。
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今日はここまで
詳しいプロットがあるわけじゃないけど、楽しい話ではないことは確かです
支援してくれる人ありがとう
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いいですわぞ〜
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「俺が……この俺が……331位――?」
現在、午前6時30分。急いでソシャゲへログインしてみると、ランキング参加者の中で自分は、331位だった。
「うがあああああああああああああああああああああああああ!! やはり先を越されたか! うおおおおおおお!!」
小さな部屋で絶叫する俺。玄関先で、厳格な男の声が聞こえた。
「朝から騒ぐな! 母さん、行ってくる」
「ええ……いってらっしゃい」
父だった。
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「あんまり朝から騒ぐもんじゃないわよ。まだ寝てる人も多いんだし――」
俺がニートになってすぐのころは、無遠慮に俺の城へ侵入してきた母も、もう扉越しに小さくつぶやくだけだ。俺はこうして、どんどんいろんなものから疎遠になり、待つのは、独身、童貞、孤独死――。
ハン、何が異世界だ。笑わせる。俺からすれば、貴様らの「普通」の世界こそが、異世界そのものだ。
「るっせえなぁ!」
俺は城から飛び出し、そしてコンビニへ向かった。
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俺はすがるようにみらいの姿を探したが、コンビニ入口にも、店内にもその姿はなかった。あいつ、宣言通りに学校に行ったのだろうか。そういやあの制服、どこかで見たことのあるような気がした。気のせいかも知れなかったが。
俺は仕方なく、1人近くの公園のベンチで座っていた。改めて見渡すと、俺が子供の頃にあった遊具がいくつか消えている。ジャングルジムに、回転型コーヒーカップ。最近はブランコも危険だなどと言われていると、ネットで見た。
気づかないうちに、しかし確実に、俺の外で世界は進行している。
俺がいなくても、世界は廻っている。
俺はなぜ、生きているのだろう。
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「ハッ、ハッ」
犬が呼吸する音に視線を上げると、首輪をつけた柴犬と目が合った。俺を警戒せず、むしろすり寄ってくる。飼い主とはぐれたのだろうか。
「迷子かぁ〜? お〜?」
喉元を撫でてやると、「クゥ〜ン」とうれしそうに鳴く。俺も動物になりたい、と少し思った。
人間だって、動物か。
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「ハッハッ」
公園の入口を見据え、利口に座っている柴犬。飼い主を待っているのだろうか。俺の親は――俺の帰りを、待ってくれているのだろうか。
「ま、いいか……今は一緒にいてくれや」
突然、強烈な眠気に襲われた。俺がここで遊んでいた頃は、「眠るときが一番幸せ」と口にした父を少しバカにしていたのを思い出す。
その通りだよ、親父。眠るときは、何も考えなくていい。
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『Q32:あなたの好きな色はなんですか?』
『ポイント! 答える色は何でもいい。重要なのは、その理由を論理的に説明できること!』
「好きな色、ねぇ……」
小学生の頃、卒業文集に自分の好きな色を載せていた。「黒」や「白」と答えるクラスメイトを、心底バカにしたものだ。黒や白には個性がない。自己主張の激しい、赤や黄色こそが素晴らしいと信じていた。小学校の縮図は簡単で、少し人より勉強ができ、愛想がよく、大きな声が出せて、足が速いだけでヒーローだった。俺はそこが、その時期が、人生の最高潮などと気づきもしないで、『赤』『黄色』と書いたものだ。
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中学でいじめられた。理由など憶えていない。高校ではいじめられなかったが、友人の作り方など分からなくなっていた。大学で学友たちが酒や女の話をするのについていけなかった。かといってオタクどもの薄笑いに混ざる気もしなかった。
俺は「黒」と「白」という色が好きになった。「黒」はこれ以上何にも染まらない絶対の色だ。「白」は未だ何にも染まっていない究極の色だ。
「好きな色は黒です……なぜなら黒はこれ以上何にも染まらない絶対の――いや、これじゃあ業務命令に従わないやつだと思われる!」
「好きな色は白です……なぜなら白は未だ何にも染まっていない究極の――これじゃあ主体性がないように思われる!」
「……好きな色は赤です。なぜなら赤は闘争心を掻き立てる色だからです。私も御社で燃える赤色のように尽力し、競争社会に打ち勝ち利益を上げていきたいです……」
「企業の求める答えなんて、大方こんなもんだろ……」
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「……では次の質問です。あなたの好きな色はなんですか?」
来た。
「好きな色は黒です!」
バカ! 赤だろ!
「あの、えっと……」
「理由を聞かせてもらえますか?」
「えっと、黒はその、何にも染まらない絶対の――」
「はい?」
「す、すみません……わかりません……」
「そうですか。では次の質問です。あなたは10年後、この会社で何をしていると思いますか?」
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10年後? この会社で? まだ入社するかどうかも決まっていないのに? そんなこと、分かるわけがないだろう。
「あ――ええっと、私は10年後も、この場所で業務を行っていると思います」
だってここしか知らねえもん。
「海外へ出てみたいとは思いませんか?」
思うか、ドアホ。
「はい。海外に手を伸ばすより先に、日本の――ここをしっかりと確立していくことも大事だと思います。木を見て森を見ず――は逆か」
「分かりました。合否の結果は追ってご連絡させていただきます。本日はありがとうございました」
ああ……終わった。
後日、薄い茶封筒が届いた。
「『……お祈りしています』か。本当にしてんのか? こんなの、用意された印刷物だろ! 敬虔な信徒が聞いてあきれるぜ」
俺は白い紙を丸めてゴミ箱に捨て、手帳に二重線を入れる。面接までこぎつけた、数少ない企業だった。
「大丈夫、大丈夫――次があるさ」
白い紙、白、白――そうだ、あいつのパンツの色は――。
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ひどい、夢だった。
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また書き溜めて夜に来ます
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眼を開けると、もの悲しい夕暮れの景色が広がっていた。どうやら公園のベンチでそのまま眠っていたらしい。今何時だ……?
「なぁ犬よ……」
ふと横を見る。犬の姿が消えていた。あいつ、飼い主の元に向かったのだろうか。飼い主はさぞ喜んでいるだろう。
「よかったよかった……」
自分の声が落胆に沈んでいるのに気が付いた。俺ともあろうものが、柴犬風情と戯れたいと思っていたのだろうか。
「何がよかったの?」
ズッ、とストローをすする音。見上げると、それは。
「ちっすー、おっさん」
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「みらい……!」
「なにその泣きそうな顔。あとあんまり名前呼ばないでくれる? 恥ずかしいから」
「お前のパンツ白?」
「はぁ? ま、そだけど……もう一回見たいの? 見せてあげようか?」
スカートの裾をつかみ不敵に笑うみらい。寝ぼけていたからだろうか、とんでもないことを訊いてしまった。
「いや、いやいやいやいい! いいよ!」
「オッサンもなかなかに意味わかんないね」
ごく自然に、俺の隣に座るみらい。朝焼けと同じように、夕焼けにもその金髪はよく輝いていた。
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「はい、『あげあしクン』」
みらいはレジ袋からあげあしクンを取り出すと、俺に手渡した。
「俺のために?」
「いつものコンビニから帰ってたら、捨てられた子犬みたいな眼をしたオッサンに出くわしたからさ。あわててもう一個買いに行っちゃった。餌付けだよ餌付け。ワンワン」
捨てられた子犬――? そうだ。
「みらい、柴犬を見なかったか? そんなに大きくはないけど、茶色で黒目で――赤い首輪をつけた犬だ。もしかしたら、飼い主とはぐれたのかもしれない」
ズッ、ズッ、と音を詰まらせながらコーヒー牛乳の最期の一滴まで吸い込むみらい。その眼は若干引いているように思えた。
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「……あんたの犬なの?」
「いや違う、そういうわけじゃないけど……」
「だったらなんでそんなに必死になってんの?」
「――確かに」
「ま、気にしないでよ。きっと家に帰ったんだよ」
「そうかな」
にへ、と笑うみらい。こいつの笑顔に、何か――救われている、赦されている気がした。
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「あ、そうだ聴いてよ。さっきコンビニ行ったときにさぁ、レジの店員がすっごく片言で笑っちゃった。『アロガトゴザマシタ』って」
外国人の店員だろうか。他人の人生は、いつも特別に見える。ただのコンビニ店員、ただの外国人だ。でもその人も、壮絶な人生を送ってきただろう。
「外国の人かもしれないだろ。そういう言い方をするな」
「えー? だって肌の色普通だったよ」
「アジア系の人かも」
「あー、なる」
「なる?」
「なるほどってことだよ、オッサン」
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「名札見なかったのか」
「モトさん? ゲンさん? 元気の元、一文字」
「中国の人かもな」
元さん――あんたも異国の地で、辛い思いをしただろう。誠に勝手だが、なぜか親近感を感じてしまった。
「ああそういや、お前のその制服」
「ん?」
「どこかで見たことがあるんだが――どこの高校に通っているんだ?」
「コーコー? ハン、さぁね」
興味を失ったのか、みらいは急に立ち上がり、公園の出入り口の方へと歩いて行った。
「また会おうよ、オッサン」
「ああ……」
そう思うなら、質問にぐらい答えてくれてもいいじゃないか。
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確か公園に大きな時計があったはずだが、時刻を確認せずに帰ってきてしまった。たぶん、午後6時頃。朝方みらいと別れ、ちょうど半日だ。
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「お前のパンツ白?」
「はぁ? ま、そだけど……もう一回見たいの? 見せてあげようか?」
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俺は完全に、遊ばれている。何がみらいに救われているだ。あいつはただの不良だ。
「変な期待してんじゃねーよ、クソニート」
言われる前に言っとけ、の精神である。
「お前はあの愚かな娘と、幸せな未来を期待しているのだろう?」
また、だ。声が聴こえる。どす暗い、デスボイスにも似た重低音。
「うっせえ! お前は一体誰なんだよ! 俺に話しかけてくるんじゃねえ!」
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ガチャリ、と目の前の扉が開いた。気が付けば、家の前だった。気が付けば、妹だった。
「……ほんとに、騒ぐことしかできないの?」
落胆、失望、関わり合いになりたくもないという声で妹は罵声を浴びせた。この妹、制服を着ている。ついさっき見た、あの制服。
「それだあああああああああああああああああああああああああ!!」
「うっさい! だから黙れっての!」
引き込まれるように、家に入れられた。なおも俺は、高まる鼓動を抑えられない。
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「ど、どこだ!?」
「何が!」
「お前の通ってる高校!」
「あ、明日が丘……だけど?」
あすがおか。明日が丘高校、だな!
「そこに、金髪で長身で、美人な――モデルみたいな女はいないか? いや、いるはずだ!」
「はぁ!? き、キモイんですけど……」
「頼む! 教えてくれ!」
「何? ナンパでもするつもりなの?」
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「ど、どこだ!?」
「何が!」
「お前の通ってる高校!」
「あ、明日が丘……だけど?」
あすがおか。明日が丘高校、だな!
「そこに、金髪で長身で、美人な――モデルみたいな女はいないか? いや、いるはずだ!」
「はぁ!? き、キモイんですけど……」
「頼む! 教えてくれ!」
「何? ナンパでもするつもりなの?」
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ナンパ。そう言えばみらいに名前を訊いた時も、ナンパなのかと笑われた。俺はこんなにもがっついて、ただの不良のことを知って何がしたいのだろう。さっき自分で期待するなと言ったばかりじゃないか。
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「お前はあの愚かな娘と、幸せな未来を期待しているのだろう?」
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「あの声」を反芻する。本気なのだろうか。俺は本気で、あいつと――。
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「そんな、泣きそうな顔しないでよ。キモイって言ったのは謝るよ」
「え?」
「……で? その金髪の女の子を探してるんでしょ?」
「教えてくれるのか!」
妹は俺のがっつき具合に若干怯えながらも、心底明るい声で言った。
「でもざんねーん! うちの高校に金髪の子なんていませーん!」
「なんだと?」
「私の高校が超きびしー進学校だってこと、忘れちゃった? 金髪なんかにしようものなら、即掲示板に張り出されて停学処分だよ」
「いや、でもあの制服は確かに――」
「うぇ、あんたうちの生徒と会ったの? なにしてたの、まさか――」
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真っ先に社会的に終了するであろうあらぬ疑いをかけてきた妹。すでに社会的に終了していると言われればそれまでだが、さすがにそこまで落ちぶれてはいない。
「いやいやいや違う! 断じて違う! 俺の見間違いだったかもしれないしな! ……なに、たまたまどこかで見かけたような制服を着た女と出くわしただけだ」
「ふーん」
妹は半信半疑のようだった。まぁとにかく、危機は脱せたと言っていいだろう。にしても、あの制服は間違いなく妹と同じ――明日が丘のものだったはずだ。もしみらいがそこの生徒ではないとするなら、どこかから強奪してきたのだろうか。
妹に、「みらいという女子学生はいないか」と聞きそびれたのを後悔したが、そこまで知っているとなるとますますあらぬ疑いが濃くなってしまう。妹を頼りにするのはやめにした。
みらいはきっと明日の早朝もあのコンビニにいるだろう。大丈夫、素性は分からなくても、いつでも会える。
強烈な眠気が俺を襲った。俺はそそくさと自分の城に籠り、ベッドへダイブした。
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女子高生をJKというなら、男子高校生はDKなのだろうか。ドンキーコングじゃねえか。
クラスメイトたちはバカだと思う。女でもないのに、お昼になると友達同士で机を引っ付け合って食べている。その光景をたとえば教卓の上からでも眺めれば、クラスの関係性が一目瞭然だ。集合したシマの中で、リーダー格、腰ギンチャク、本当は混ざりたくないのに、ハブられたくないから仲間のふりをしている仔羊――。女子は派閥争いが醜いと聞くが、男子だって似たようなものだと思えてしまう。
俺は教室の隅で本を読んでいた。
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「今日あなたを呼んだのはね、あなたが心配だったからなの」
「心配?」
新任の女教師だった。おそらくこいつも去年までは、「ダイガクセー」として青春を謳歌してきたのだろう。たった四年で、何が変わったのだろうか。
「ええ。ずーっと一人で本ばかり読んで……そんなんじゃクラスで孤立してしまうわ」
ははん。こいつ、委員長タイプか。自分が優秀なのを棚に上げて、他人に余計なおせっかいを振りまき、それでカタルシスを得ようという人間だ。くだらん。お前の思い描く「クラス像」など知ったことか。
「もうすでにしていますから。それに俺は、1人の方が気楽です」
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その時読んでいた本は確か、『エイジ』だった。主人公が通っている中学か、高校――そこで連続通り魔事件が発生し、その犯人が同級生ではないかという疑いがだんだんと濃くなっていくのだ。緊迫感をそこはかとなく漂わせるその小説が好きだった。狂気など、自分のすぐそばに転がっている。そして、いつどこで爆発するかなんて誰にもわからないのだ。
心外だ、という青い顔をした女教師を見ながら、そう思っていた。
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また、昔の夢だった。
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「最近昔の夢をよく見るな……」
いい気はしなかった。しかし、特に気にするでもなかった。ベッドの上の置き時計を確認すると、午前5時。
「ホント、寝てばっかだな……」
いや、いい。それがニートの生活だ。それらしくていいじゃないか。
とにかく、みらいに会いに行こう。
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「ちっすー」
ズッ、ズッ、とコーヒー牛乳をすするみらい。
「私に会いに来たんでしょ?」
「ち、違うぞ」
「そ」
改めてみらいの全身を眺める。絹のようにきめ細やかな金髪ロングヘア。顔は小さく、その中に大きな瞳と高い鼻、男を誘う形の整った唇が収まっている。
「……人形みたいだな」
「ん?」
「いや、なんでも……腹減ってんだ。『あげあしクン』でも買ってくる」
考えてみれば、昨日の今頃にあげあしクンを食ったきり、何も口にしていない。ちょっと贅沢するか、と思い財布を確認する。残り少ない。今日あたり、母親にまた頭を下げなければいけないだろう。
そんな生活を、もう3年も続けている。
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軽快な入店音が、嘲笑うように俺を迎え入れる。
「プレミアムうな重」を持ち、レジへ向かう。
「あ、これと『あげあしクン』を1つ」
「『あげあしクン』デスネ。アッタタメマスカ?」
不自然な抑揚に顔を上げると、スキンヘッドの、それでいて人の良さそうな男と眼があった。もしかして、と思い名札を確認する。「元」、一文字だ。
「あっため、お願いします。あの、ゲン、さん……?」
「エー。ゲン・サイ デス」
「ゲン・サイさん……ありがとう」
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なぜかほろりとしていると、他の定員が元さんを急かした。
「元さん! おしゃべりしてないで精算して!」
「ア。スミマセン」
後ろの店員に頭を下げる元さん。愛嬌がある。
「すみません、俺のせいで……」
「イエイエ。『あしあげクン』トアワセテ、804円ニナリマス」
「はい」
元さんに料金を支払い、温かな商品を受け取る。なかなかにいい気分だ。
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「元さん、それじゃあまた」
「イツデモ、アナタノ、ソバニイマスヨ」
ああ、そういうモットーなのか、このコンビニは。いいじゃないか。実にいい。
俺はコンビニを出た。
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乙
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コンビニの外では、みらいがうんこずわりで俺を待っていた――わけでもなさそうだ。虚ろな瞳で、動き始めた街を眺めている。
「私さぁ、」
「うん?」
「こうやって、早朝の街を見て、バカにしてやるのが好きなんだぁ」
「馬鹿にする?」
俺はみらいの隣に座り(車止めに腰かけた)、「あげあしクン」をほおばった。
「馬鹿にするってなんだよ」
「朝早くから働いている人たち――みんな代わりがきくのに、何で働いてんだ、バッカだなぁ、って」
おもわず目を丸くした。それは、俺が常日頃思っていたことと同じだった。
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「……働きたくないのか」
「そりゃあね。宝くじでも当たれば、一生遊んで暮らすさ。だけどそうもいかないしさ」
そう話すみらいの声は、どこか物憂げだった。
「そうだよな……みんな生活がかかっているんだから、働かなくちゃ仕方ないさ」
自分で言ってて泣けてくる。
「そう思うなら、」
耳を、疑った。
「なんで、働かないの?」
「……は?」
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俺はこいつに、自分が働いていないと一言も口にしていない。なのになんでこいつは、俺がニートだと知っているんだ!?
「お、おい……」
みらいは俺の疑問を遮り、語り始めた。
「いつかはさ、私も死んで、日本も滅んで、世界もおしまいになって、地球も、太陽も死んじゃうのに。生まれた瞬間から、死への旅が始まっているのに、何でそこまで頑張るんだろうなぁ、って」
生まれた瞬間から、死への旅。かなりポエティックだったが、確かに嘘ではなかった。俺たちは生まれたいと思って生まれたわけではなかったはずだ。気がついたら生まれ、いつかは死ぬことを知っている。俺の両親も、俺も、妹も。
だとしたら、俺たちは生きている間に何をすべきなのか。
社会の歯車になることが、正解なのだろうか。
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「……学校で、なんかいやなことでもあったのか」
「んー?」
空になったコーヒー牛乳のパックを俺に突き出すみらい。捨てろ、ということなのだろう。俺はしぶしぶ立ち上がる。
「学校なんて、嫌なことを瓶詰にしたようなもんだね。あれが社会の縮図だってんなら、社会は終わってる」
初対面の頃と印象が違っている。こいつ、結構悲観主義者なのだろうか。
備え付けのゴミ箱を開いた。無造作にタウンワークが丸めて捨ててあり、ゾッとした。パックがその中に落ちていく。
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「そう言えば、その制服……明日が丘のものだろ。でもお前は明日が丘の生徒じゃない。そうだな?」
「ん! よくわかったね」
かえって誇らしげに胸を張るみらい。決して誉められることじゃない。
「盗んできたのか」
俺の問いに、物怖じするでもなくみらいは笑った。
「あはは! どうしたと思う?」
「誰かから盗んだなら、今すぐ返しに行くんだ! お前はおふざけのつもりだろうが、盗まれた生徒が困っている! それに、お前自身の将来だってこの一件でおじゃんになるのかもしれないんだぞ!」
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「『お前自身の、将来』?」
みらいが、俺をキッと睨んだ。思わずひるんでしまう。今までに、見たことのない表情だ。
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ。オッサンは自分の将来どうするつもりなの?」
「そ、それは……」
みらいが硬い表情を解き、にんまり笑った。
「まぁよくよく考えなよ。ただ、あんまり時間はないよ」
「なんでそんなこと、お前が言うんだ」
みらいが交差点に向かって数歩歩きだした。そして、勢いをつけて振り返る。白いパンツが、少し覗いた。
「待ってるからさ!」
俺はしばらく、そこから動けなかった。
「待ってるって、なんだよ……」
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俺は、ここ数日起きた不可思議な出来事について考えてみた。突然コンビニに現れたみらいという名前の女子高生。その小娘は、明日が丘高校の制服を着ているのに、そこの生徒ではない。何故ならその高校では、金髪が禁止されているからだ。
それと、みらいについてもう一つ。俺はあいつに働いていないことを口にしていないはずだった。だが、あいつにはそれがばれている。
あの女、いったい何者なんだ?
例の公園でボーっとしていたら、もう二時間が経っていた。現在、午前7時。城に戻るべきなのだろうが、ソシャゲをする気などさらさら起こらなかった。
そもそも、今日は何月何日の何曜日なんだ?
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ひとりの女の子が公園内に入ってきた。黒髪のおかっぱ頭。小学――3年生ぐらいだろうか? 重そうなランドセルを揺らし、公園内をしきりに見渡している。
どうかしたのだろうか? 声をかけるべきか迷った。だが、こんな俺が声をかけようものなら「事案」が発生し、出るとこ出てしまうのではという危惧もあった。――しかし――困惑した表情で公園を駆け回る少女を見て、黙っていられなかった。
これは好奇心じゃない。人徳だ!
俺は意を決して、少女に声をかけた。
「大丈夫? どうかしたのか?」
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きゃああ、と叫び防犯ブザーがけたたましく鳴り響く――そんな未来には、ならなかった。少女は極めて友好的に、俺の問いに答えてくれた。
「犬を――犬を探しているんです。何日か前から、帰ってこなくて」
「犬――って、もしかして柴犬?」
あの利口そうな柴犬。てっきり家に帰ったものだと思っていたが、まだはぐれていたのか。
「そうです! 見かけたことがあるんですか」
「ああ、昨日の今頃、ここで――」
「ほんとですか!」
少女の眼に、光が灯る。子供にとって犬は、大切な友人だ。無理もないだろう。
「あの……登校するまで、ほんの少しだけ……一緒に探してくれませんか」
……と、いうことは今日は平日か。少しの時間を使って、友人を探そうとしている。なんとけなげなことか。いいだろう。俺の生きる意味、「当面は」犬探しってことでいいじゃないか。
「ああ! 一緒に探そう!」
少し、自分の声がさわやかな気がした。
-
「名前は?」
砂場の後ろの草陰を掻き分けながら、俺は訊いた。犬の名前を訊いたのか、女の子の名前を訊いたのか、自分でもよく考えていなかった。
「『クロ』って犬です。私の名前は、かこです」
「クロ? あいつ茶色の柴犬だぞ」
俺は「クロ」という名前にせせら笑った。結果論だが、このとき俺は着眼点を完全に間違えていた。犬の名前などどうでもいい。注目すべきは、少女の名のほうだったのに。
「黒目がかわいいでしょう?」
かこという女の子は言った。その天真爛漫さ、自分の信じたものに絶対の信頼をおく不敵な笑み。俺はそれに少し気圧された。どこか、懐かしいものを感じた。
それが何かは、その時には何も分からなかった。
「やめておくんだな、そんな女に構ったところで、前には進めない」
「あの声」だ。しかしもう、スルースキルも身についていた。
にしても、テメーもいったい何者なんだよ。
-
「名前は?」
砂場の後ろの草陰を掻き分けながら、俺は訊いた。犬の名前を訊いたのか、女の子の名前を訊いたのか、自分でもよく考えていなかった。
「『クロ』って犬です。私の名前は、かこです」
「クロ? あいつ茶色の柴犬だぞ」
俺は「クロ」という名前にせせら笑った。結果論だが、このとき俺は着眼点を完全に間違えていた。犬の名前などどうでもいい。注目すべきは、少女の名のほうだったのに。
「黒目がかわいいでしょう?」
かこという女の子は言った。その天真爛漫さ、自分の信じたものに絶対の信頼をおく不敵な笑み。俺はそれに少し気圧された。どこか、懐かしいものを感じた。
それが何かは、その時には何も分からなかった。
「やめておくんだな、そんな女に構ったところで、前には進めない」
「あの声」だ。しかしもう、スルースキルも身についていた。
にしても、テメーもいったい何者なんだよ。
-
乙
-
若干ファンタジーなのかな?
乙
-
30分ほど公園を探し回ったが、見つからなかった。
「公園で見失った、間違いない?」
「はい! 何日か前に散歩中に、私がリードを離しちゃったんです、それで……」
悲しそうにうつむくかこ。しかし何日も公園内にいるわけでもないだろう。
「どこか違う場所に行ったのかも」
「結構活発だから、あっちの家の方に行ったのかもしれません」
かこが住宅街を指差した。捜索範囲をあそこまで広げるのは、正直一人では厳しい。
-
「犯人は必ず現場に戻る」
俺はひとりごちた。それは俺の望みでもあり、かこのためでもあった。
早く、見つけ出してやりたかった。
なぜこんなに躍起になっているのか、自分でもわからなかった。
「私、あっちのジャングルジムの方を探してみます。お兄さんはコーヒーカップの方をお願いします」
「ああ、ジャングルジム……ってかこちゃん、ジャングルジムはとうの昔に……」
俺の言葉を無視して、なにもないはずの場所へとランドセルを揺らすかこ。俺は背筋が寒くなっていくのを感じた。何事もなかったかのように、草陰を掻き分けた。
-
ちらりとかこを見やると、やはりかこの探す場所には何もない。見えてはいけないものが、見えているのだろうか。
それとも、見えるべきものが、見えていないのだろうか。
「かこちゃん、コーヒーカップって、どっちだっけ?」
薄ら笑いを浮かべながら尋ねた。少し怒った顔で、かこは答える。
「あっちですよ、ちゃんと探してください」
過去が指差す先。そこにも、何もなかった。なんだっけ、昔数学でやった、無集合����
「ふぁい」
気の抜けた、返事になった。
-
無集合じゃなくて空集合だった
携帯からだと文字化けすんのかな
��(ダッシュ)二本です
-
そうこうしているうちに、かこが叫んだ。
「あ! もう学校に行かなくちゃ! ……お兄さん、夕方もクロを探すの、手伝ってくれますか……?」
申し訳なさそうにつぶやくかこ。断る理由など、なかった。
「ああ」
「よかった! じゃあ4時に、ここに集合で!」
そう言い残すと、俺に目もくれずにかこは走り去った。そうだ、俺もこれくらいの年の頃は、集合時間だけ決めて、その一瞬に没頭していた。時間など、自分の手のひらの上で自由に転がせるものだと思っていた。
-
「よーい、どん」
俺はかこの赤いランドセルを見送りながら、そうつぶやいた。その掛け声があれば、どこまでも走り抜けることができる、そんな気がしていた。
「ゲンキナ、オンナノコデスネ」
声がして振り向くと、元さんだった。軽く会釈をして、公園をずんずんと進んでいく。
「元さん」
不思議と、親しげに話しかけてしまった。ぶしつけだったと後悔したが、元さんは気にも留めず聞き返した。
「ナンデス?」
-
「元さんには、あの女の子が見えましたか」
「エー」
「ここに、ジャングルジムはありますか」
「イイエ」
「回転型コーヒーカップは」
「イイエ」
「ですよね!」
俺は思わず元さんと握手をした。
-
「元さんには、あの女の子が見えましたか」
「エー」
「ここに、ジャングルジムはありますか」
「イイエ」
「回転型コーヒーカップは」
「イイエ」
「ですよね!」
俺は思わず元さんと握手をした。
-
「あの子、ジャングルジムとコーヒーカップが見えるような口ぶりだったので」
「ソンナコトモアルデショウ」
大して驚くでもなく、元さんはうなずいた。
「え?」
「ミエルモノ、ミエナイモノ、ミエタモノ、ミエナクナッタモノ――イロイロアリマス」
あまりにもしみじみ語るので、俺は口を挟むことができなかった。
「ボクニモ、ミエナイモノハアリマス」
「見えないもの?」
「アノー……キンパツノ、オンナノコ」
-
みらいだ、と直感した。しかしその名を出すのははばかられた気がした。元さんの次の言葉を待った。
「メガ、ワルインデス」
苦笑いを浮かべる元さん。片目をつぶる姿はチャーミングだ。ああ、そういうことか、と俺は納得する。色弱、という病気を聞いたことがある。特定の色が見えにくいという病気らしい。
きっと元さんは、金色が見づらいのだろう。元さんもやはり、苦労をした人だ。
-
「元さん、犬を探してほしいんです」
いつの間にか、切り出していた。
「イヌ?」
「柴犬です。さっきの女の子が、探していた。午後4時から、空いてますか?」
元さんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「スミマセン。ユーガタカラ、マタシフトデ……」
「ああ、それじゃあ仕方ない」
俺は自分が笑っているのに気が付いた。まるで、昔からの旧友と話しているような気分だった。
「デモ、イツデモ、ソバニイマスヨ」
「前もそう言ってくれましたね」
悪い気はしなかった。口が勝手に動いていた。
「元さん、連絡先、教えてくれませんか」
-
友人の作り方など、忘れていたはずだった。事務的な話し方しか、できないはずだった。なのに俺はごく自然に、元さんから連絡先を聞き出していた。
「エー。デンワバンゴウネ。090……」
快諾する元さん。とても清々しい気分だった。
なんか俺、いい感じじゃないか!
-
10秒ルール守んないと連投みたいになっちまうのな
元さんのセリフ読みづらいのはすみません!
-
過去未来現在出てきたな
でもここからどうなるんだろう期待
-
「アノコモ、サソッテミタラドウデショウ」
「あの子?」
「アノ、キンパツノ」
みらいか。そうだな、あいつなら夕方この辺りをうろついているだろう。
「そうですね、人手は多いほうがいい」
安心しきった様子でにんまり笑う元さん。何も心配することはない、そう思った。
「嘘だ」
そうであるはずだった。
-
「またその話?」
案の定、夕刻みらいはすぐに見つかった。相変わらずコーヒー牛乳をすすっている。
「犬なんてさ、どーでもいーじゃん」
「そうはいかないんだ、かこっていう女の子の頼みでさ」
「かこ?」
みらいが怪訝に訊き返した。
「ああ、知り合いか?」
「あの子も来てたのか……」
「え?」
「なんでもなっしー! でも私も忙しいんだよ?」
-
「お前が? 忙しい?」
笑いをこらえながら訊くと、大真面目な返答が帰ってきた。
「私、塾に通おうと思ってるんだ。偏差値あげてー、良い大学? 的な?」
「本気で言ってるのか?」
「本気だよー!」
ふくれっ面のみらい。まじまじと見ると、その顔もどこかで見たような気がした。気のせいかもしれないが。
「残念だが、その髪じゃどこも入塾お断りだな」
「……この髪色、見覚えない?」
-
さらさらと、指で金箔をなびかせるように操るみらい。俺には、覚えはなかった。
「お前の髪なんて、知るか」
「……そう」
「おい、大丈夫か?」
「……大体さー、犬ぐらいすぐ見つけろっての!!」
みらいが、小石を蹴った。小石は公園を出て、向かいの塀に当たり、溝に落ちた。
-
「いやあ、実は朝かこちゃんと別れてから住宅街の方まで探しには行ったんだが、見つからなくて」
「じゃあ家に帰ったんじゃないの?」
「いや、でもかこちゃんとここで待ち合わせを……」
はあ、と大きなため息をつくみらい。
「オッサン犬飼ったことないの? 過去の経験から見当をつけなよ」
呆れ果てるみらいに、俺の記憶が呼び覚まされていく。そうだ、俺は昔、犬を飼っていた。黒い、ラブラドール・レトリバーだ。家族がつけた名前があったはずだが、自分はそいつを、
「クロ」、と呼んでいた。
-
「そういや、飼ってた。犬」
「ね? 思い出せばいろいろいいことあったっしょ?」
「ああ。そいつは……この公園の、今はないんだけど、ジャングルジムや回転型コーヒーカップの周りでじゃれるのが好きでなあ。よく追っかけまわしてたよ。そのうち俺たちだけのコースみたいなのが出来てさ、ジャングルジムの次は回転型コーヒーカップ、その次は家に帰って����」
強烈な、眠気が、襲った。
-
**
「幻覚に幻聴? 先生、俺がですか?」
「ええ。妹さんには見えないものが、あなたには見えている、聞こえている」
「それって、例えば?」
隣にいた妹に向き直る。
「おかっぱ頭の小学生、スキンヘッドの中国人、金発の女子高生」
すらすらとそらんじる妹の肩をつかみ、俺は訴えた。
「なーに言ってるんだ。お前もさっきコンビニ前でかこちゃんに会ったろ? 店内で『あげあしクン』を元さんに精算してもらって。服屋でみらいに会ったろ? そうだろ?」
妹の返事はか細く、それでいてしっかりと俺を奈落の底へ突き落とした。
「知らない、そんな人……」
-
「嘘だ」
「とにかく、薬を飲んでください。これで症状は緩和され、気分も落ち着くはずですから。食後に2錠ずつ。いいですね?」
「嘘だ……嘘だ……」
「はい。頑張ろうね、お兄ちゃん。今日のアイドルのライブショーも、お休みしようよ」
「嘘だああああああああああ!! うわあああああああああああああああああ!! ああ!! ああああああああああ!!!!!!」
「ちょっ、お兄ちゃん!?」
「誰か、誰か人を呼んできてくれ!!」
崩れ落ちる間際、カレンダーに目をやった。
2013年、12月24日。俺は祈るように、ライブのチケットを握りしめた。
その日俺は、ライブ会場の近くで、警備員に取り押さえられた。
「嘘じゃない、これが現実だ」
-
**
「すみません、遅くなりました〜」
ランドセルを揺らすかこちゃんの声で、目が覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。なにか夢を見ていた気がするが、忘れた。
「ほら、来たよ」
みらいに促され、姿勢を正す。大丈夫、見つかる気がした。
「すみません、今日掃除当番でした〜」
ぐったりするかこちゃんに、俺は笑いかけた。
「お疲れさま。今日はすごい助っ人を呼んできたぞ! ほら、このおねいさん。名前はみらい」
かこちゃんは、衝撃的な一言を放った。
「……誰のことです?」
-
「え……?」
おそるおそる右隣を見る。幻覚じゃない、たしかにみらいはそこにいる。
「ま、見えないよねー」
心外なことを言われたであろうみらいは、傷つくでもなくあっけらかんとしている。
「何言ってんだかこちゃん。ここにいるじゃないか、ほら、金髪の」
「お兄さん、疲れているんじゃないですか?」
-
「え……」
そういえば、元さんもみらいのことが見えないと言っていた。いや、「見えない」ではなく「見えづらい」ではなかったか? 元さんにはみらいが見えてはいた。それは間違いないはずだ。
間違いない……よな?
何が本当で何が嘘か、分からなくなってきた。
「ほら、私のことなんてどうでもいいからさ、犬、犬」
「え?」
「もう居場所、わかるんでしょ?」
私が、いなくても。
そう言ったみらいは、儚げだった。
まるで、どこかに消えてしまうみたいに。
-
今は無きジャングルジムもコーヒーカップも、かこちゃんが探した。だとしたら、もし、かこちゃんの「クロ」が、俺の愛犬と同じルートをたどったなら……。
「かこちゃん、多分クロはもう家に帰ったんだよ。裏庭の犬小屋、その影でかこちゃんを待ってる」
「本当ですか!?」
目を輝かせて大きな声を出したかこちゃん。お礼もそこそこに、自宅へと走り出した。
ランドセルが、揺れる。まるで、ゆりかごのように。
「いたら知らせてくれー!」
小さな背中に呼びかけたが、返事はなかった。
「聞こえなかったかな……」
「帰ってこないよ」
ぴしゃり、とみらいが言い放った。
「過去は、帰ってこない」
-
「悲しいこと言うなよな」
「……ね? だから何度も言ったじゃない。家に帰ってる、って」
「……報告がなきゃ、分からないさ」
「わかるよ。さーて、私も帰ろー」
迷いなく言い切り、眠たそうに大きく伸びをするみらい。公園を出ようとするその足取りを、俺は止めた。
「待て」
「んー? なにー?」
「こっちに来い」
「何よ」
にやつきながらこちらへ戻ってくる。
「……確かめたいことがある」
「なに?」
微笑、そして挑戦的な目つき。みらいは、俺の質問をもうわかっている。
「……お前は本当に、実在しているのか?」
-
「答えはNOだ」
はっとする。みらいの声じゃない。あの、謎のデスボイスだ。
「お前は幻覚を見ているんだ」
やはり、そうなのか……。
みらいが、俺の思考を遮った。
「あっはっは! してるに決まってんじゃん! ほれ、ほれほれ」
スカートの裾をつかみ、1回転。普通に考えれば、そこに存在している。
でも、よく出来た幻覚なのか?
「……だったら、」
-
「だったら、所属を教えろ。どこの高校に通ってる」
「えー」
「苗字は? 家はどこだ」
「きもいよ。ストーカーみたい」
「うぐっ……」
「細かいことはどうでもいいじゃん」
「細かいことじゃない!」
「……だったらさ」
みらいが俺に詰め寄った。ジャリジャリという砂の音は、嘘ではないはずだ。
-
「キスしよう」
-
ああ 本当に良く出来た夢を見てる感じするわ。
乙。
-
「……は?」
「だからさ、キスだよキス。触れたらわかるっしょ?」
「な、なんでキスなんだ」
「……怖いの?」
俺を挑発するように、みらいは笑った。
「怖く……ないさ」
「ほんとに?」
みらいの両手が、俺の頬に触れた。
「こっち向いて」
-
え、口でするのか? いやいやいやいや!!!
「ふふ、汗かいてる」
みらいの透き通るような白い手に、俺の汗が伝った。
「あんたいまいくつなの」
「25」
「25にもなって童貞なの」
「ど、童貞かどうかはわからんだろ!」
「そうだね」
「お前こそ、俺なんかとしていいのか? 彼氏とかいないのか」
「もしもいたら、嫉妬する?」
「そ、それは……」
俺の言葉を遮るように、未来のくちびるが俺の口をふさいだ。
-
長い長い、キスだったような気がする。10秒、いやそれ以上か。息が詰まるほど苦しく、このまま死んでしまうのではないかと思えるほどに、みらいの舌が俺の口内を蹂躙した。
どれぐらい時間がたったかなんて、どうでも良かった。永遠にこの時が続けばいい、そう思った。
みらいはその間ずっと眼を閉じていたが、その時がくるとごく自然にくちびるを離し、眼をあけた。
お互いの口から、唾液が垂れた。指で拭って見つめる。
確かに、確かに存在していた。
-
「こ、こんな恥ずかしいキスしたの初めてだからね!」
みらいが何か言っていたようだが、ぼうっとしていて聞き漏らした。
「え?」
「……とにかく、私の存在を疑ったニートには罰が必要だな」
「な、なんだよ、罰って」
「これ」
みらいは、自分のきめ細やかな金色の髪をすくって見つめた。
「私のヘアカラー、探して」
-
みらいの綺麗な金髪は、色が落ちてきてまだら模様になってきていた。
「ヘアカラー? べつにいいけど。コンビニに売ってるのか?」
「はぁ?」
みらいは、俺の返答を聞いて失望したと言わんばかりに口をあんぐりと開けた。
「え?」
「これ特注品だよ、忘れたの?」
「忘れたの?って……初耳なんだからわかるわけねえだろ」
「初耳? 本当に?」
「なんだよ」
「よく思い出してみてよ」
-
みらいってけものフレンズとかぶってるー!
と思ったらアプリ版でカコさんもいてすごーい!!
次から第二章です
不定期更新ですがよろしくね
-
イツデモ、アナタノ、ソバニイマスヨ
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俺は、自宅に帰ってきていた。みらいの言葉の意味を、ずっと考え続けていた。
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「これ特注品だよ、忘れたの?」
「忘れたの?って……初耳なんだからわかるわけねえだろ」
「初耳? 本当に?」
「なんだよ」
「よく思い出してみてよ」
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知らない。知るわけがない。俺がみらいと知り合ったのは数日前のことだ。赤の他人だった少女がつけていたカラースプレーなど、知っていたらそれこそストーカーだ。
いや、でも……。
-
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「私、塾に通おうと思ってるんだ。偏差値あげてー、良い大学? 的な?」
「本気で言ってるのか?」
「本気だよー!」
「残念だが、その髪じゃどこも入塾お断りだな」
「……この髪色、見覚えない?」
**
俺がみらいと知り合ったのは数日前。
それは、本当か?
「本当だ。そしてその女は、お前の想像物に過ぎない。忘れるんだ。お前に支えとなる少女などいない。友人となる中国人もいなければ、人懐っこい少女もいない」
-
「だっから、お前はなんなんだよ!」
俺の叫びが部屋に響いた。返事は返ってこなかった。いや、
俺の心の中にだけ、返ってきたんだ。
「俺に名前なんざねえが、ある人は『神』と呼び、ある人は『闇』と呼び、ある人は『真実』と呼んだ」
-
「いったいどういうことなんだ?」
「俺はお前でもあり、お前は俺でもある。お前は怠惰でもあり、勤勉でもある。お前は邪悪でもあり、かえって正義そのものでもあるということだ」
「わけわかんねえよ」
「だろうな。お前のその幼稚な頭では、理解できまい。それとも、幼稚なふりをしているのか? かえって賢明だ」
俺は、存在Xと会話する気をなくしてしまった。構わないと言わんばかりに、Xはまくし立てる。
-
「じゃあおさらいといこうか? お前だってこの空白期間中に腐るほど調べたろ? ニートについて。さあ、日本のニートの総数はどれくらいだ?」
「約65万人……」
「そうだ、わかってるじゃねえか! 65人じゃねえ、65万人だぞ!? この国には腐るほど腐ったニートがいる!」
「……いいか? 就活ってのはきれいごとなんざ排除したらただの椅子取りゲームだ。外ヅラを綺麗にしたペテン師どもが、きれいな顔をして屍の上にある椅子に座りたがる。もし仮に、全国の65万人が一斉にやる気を出して競争を始めたならどうなる? 日本の企業の均衡は崩れ、売り手市場も買い手市場もなくなってしまう」
「つまり、お前が言いたいのは」
「そうだ! お前は社会に害をなす悪なんかじゃない! お前が働かないことで、他の誰かが職につけている! そうだろ? 俺は悪じゃない、正義だ! 怠惰じゃない、勤勉に日本社会を動かす歯車の一部だ!」
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「それは詭弁だろ。現実から逃げてるだけだ」
「現実ゥ? ハン、現実か。ニートのお前が現実を語るなんて偉くなったもんだな」
「みらいたちの、おかげだ」
「お前の空想上の友達、いや、恋人か? あんな妄想にすがっていても、現実は何も変わらんぞ」
「妄想なんかじゃない」
俺はみらいとの熱いキスを思い出した。あの永い永い時間。こぼれ落ちた唾液。
「みらいは実在している」
「ああそうかい。幸せな奴だ」
-
「じゃあお前はどうしろって言うんだよ」
フン、と鼻を鳴らしてもったいぶったX。そして、俺に甘く語りかける。
「恨めよ。さすれば与えられん」
「何言ってんだ」
「恨み、妬み、そして世界のすべてを破壊しろ。俺はそうした」
「お前だって厨二妄想で逃げてるじゃねえか」
「……噓だと思うか?」
「本気だと?」
「お前ならわかるはずだぜ、兄弟」
馬鹿らしい。俺はXを何か――諸悪の根源か何かのような、恐ろしい存在だと勘違いしていたようだ。ただの、逃げ腰の情けない男じゃないか。
「まぁ今はゆっくり休めよ。眠ることで世界の片鱗が見えるはずだぜ」
Xが何か言ったが、俺は取り合わなかった。眠る前にもう一度、みらいのヘアスプレーについて考えた。
-
**
これは誇張なんかじゃない。事実だ――。俺の目の前に、天使がいた。
天使は小さなホールに押し込められたキモオタ共と一線を画すように、天井から照らされる淡いオレンジ色のライトにふんわりと浮かび上がるように、きわめて幻想的に、それでいて存在感を崩すこともなく――。
とにかく、天使はそこにいたんだ。
-
動かない俺を見て、天使はきょとんと首を傾げた。自分のサインが欲しいのか疑問に思っているのだろう。あるいは、俺が別のアイドルと勘違いしたと思っているのかもしれない。
「あの……私ミクですけど、サイン、いりますか?」
「おい、後ろがつかえてんだ! 早くしろ!」
「時間なくなるだろ!」
「ぼ、ぼきもミクちゃんのサインほ、ほs、欲しいんだなあああ〜」
後ろの下衆どもが何かわめいている。俺と天使の時間を邪魔するなよ。俺は永遠のような時間を噛みしめていた。俺の口が、まるで別の人格を持っているかのように――いや違う、あれこそ俺の本心だったのだろう、とにかく俺は息継ぎもせずに話し続けた。
-
「――好きです。ずっとあなたを見てました。俺はこんなかわいい女が目当てなだけの愚かな人間とは違います。本当に、純粋に、そう、これは、笑うかもしれないけどいわゆる『純愛』だと思う――君以外の人は今後の人生に現れることは無いだろう。もちろん俺なんかに不釣り合いなのは分かってる、だけど例えば不道徳な人間が太陽に惹かれるように、俺は君に――」
その時、2人の警備員が俺を取り押さえた。俺はその場に倒れこんだが、重さなんて感じなかった。俺は無我夢中で話し続けた。群衆と警備員の悲鳴で俺の声はかき消されたが、天使には届いたはずだ。
-
「て、手紙を書いてきたんだ。君に読んでほしい。俺の運命の人は君だし、君の運命の人は俺なんだ。これは天文学的に、運命論的に決定づけられた大いなる宇宙の神秘でもあるんだ。俺に幻覚が見えるとか、幻聴が聴こえるとか、そんなことは嘘なんだ。もっと言えば、この世界で真実は君と俺の存在、それだけなんだ! 君を愛してる! だから――!」
「お兄さん、ちょっと外行こうか。今日1人で来た?」
警備員が何か言った。でも聞こえやしなかった。俺が最後に見たのは、怯えた天使の顔だった。
おい、やめろ、どうしてそんな顔をするんだよ――。俺は、君だけを――。
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あれは、2013年のクリスマス・イブのことだった。
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ああ。本当によかった。幻覚や幻聴に悩まされるのが怖かったが、医者曰く何も問題ないそうだ。晴れ晴れとした気持ちでここに来れて、本当に、本当によかった。
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掻き鳴らされるギター。目立つことはないが、確かに音を刻むベース。恐怖をなぎ払うように叩きつけられるドラム。そして、凛々しくも激しいボーカル。
俺はその興奮に、臨場感に酔いしれていた。
突然、楽しい時間が遠のいていく。自分もそこにいたはずなのに、その情景ごと宙に浮いて俺の元から去っていく。待ってくれ、と駆け出すけれど、どういうわけか足が動かない。いや、動いている。けれど恐ろしいほどに遅いのだ。待ってくれ、待ってくれ――これじゃあまるで、夢の中のようだ。
夢――?
-
目が覚めた。立て続けに、2つの夢を見ていた。普段なら、何も気に留めることはなかっただろう。けれど、その2つの夢は、「夢ではなかった」と確信するには充分すぎるほどに克明だった。
そう、あれは夢なんかじゃない。確かに俺が体験したことだ。でも、おかしい。
2つの夢は、それが起こった日付は、奇しくも同じだった。
2013年、12月24日。
俺はその日、どこにいて、何をしていた?
-
「なあ」
俺は無意識に、廊下を通りかかった妹に声をかけていた。
「ん?」
「2013年のクリスマスイヴ、俺がなにしてたか覚えてる?」
妹は呆れたような顔をしながら、笑った。
「そんなの知るわけないじゃん。と言いたいところだけど」
妹は、俺の中にある2つの選択肢に迷うことなく、答えを出した。
「その日、お兄ちゃんはライブに行くって言って一人で出掛けてたよ」
「ライブ……」
それは、2つ目の夢、だ。
だとすれば、
「なに? 私を試したの?」
「いや……」
俺が手紙を渡した女の子は、鮮明に覚えているあの情景は、
いったい、なんだ?
-
――
「……きっともうすぐ、彼は気づく」
「……恐い?」
「それ、どういう意味で? というか、『過去』は帰ってきちゃだめだよ」
「いいじゃない。過去なんて、いつの間にか未来になってるんだから」
「……そうね」
「身体は大丈夫?」
「もうそんなにもたないと思う。……元さんの方が心配だよ」
「あのひとこそ、過去を、未来を、変える力があるというのに。なぜ今を選んだんだろう」
「……さあね。償いのつもりか、それとも」
「いまの輝きに、気がついたのなら嬉しいな。時は静かに流れている。その中でも、楽しいことたくさんあるよ。きっと」
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ねぇ、続きは!?
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