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理髪師「王子様の耳はロバの耳!」
-
<城>
国王「おぬしがこの国一番と呼ばれている理髪師か」
理髪師「この国で一番かは定かではありませんが、そう呼ばれることもございます」
国王「うむ……謙虚でよろしい」
国王「おぬしには、我が息子の散髪をしてもらいたい」
理髪師「かしこまりました」
国王「こちらへ来てくれたまえ」
"
"
-
国王「ところで……」
理髪師「はい」
国王「これからおぬしが何を見ようとも、決して他言してはならぬ」
国王「もしこの約束を破れば……どうなるかは分かっておるな?」
理髪師「……もちろんです」
国王「よろしい。むろん、報酬はそれに見合うだけ払う」
理髪師「……」
理髪師(王子はもう10歳を超えているはずだが、表舞台に出たことはほとんどない)
理髪師(まさか、とんでもない化け物だったりするんじゃ……)
-
理髪師「お初にお目にかかります、王子」
王子「やぁ」ボサッ
理髪師(うわっ、ボサボサだ。完全に耳が隠れるほど、髪が伸びちゃってるじゃないか)
理髪師(だが……切りがいがある!)シャキーン
理髪師「それでは王子、これより散髪を開始いたします」
王子「よろしく頼むよ」
-
理髪師「……」チョキチョキ
理髪師「……」チョキチョキチョキ
理髪師「……」チョキチョキチョキチョキ
理髪師(少し警戒していたが、なんてことはない……普通の髪の毛じゃないか)
理髪師(このままいけば、問題なく散髪が終わりそうだ――)
理髪師「!?」ギョッ
-
理髪師(なんだ!? なんだこの耳は……!?)
理髪師「お、王子……! この耳は……!?」
王子「あーあ、やっぱり驚くよね」
理髪師「犬……? いや猫……? いや、ロバ……ですか」
王子「そのとおり、ボクの耳はロバの耳なんだ」
理髪師「ロバの耳……!」
理髪師(なるほど……こういうことだったのか)
"
"
-
王子「分かってるよね?」
王子「もしボクの耳のことを誰かにバラしたら……“しけー”だからな」
理髪師「も、もちろんバラしませんとも!」
理髪師(いわれるまでもなく、こんなのバラしたら大変なことになる……)
理髪師(だ、だけど……)
-
理髪師「か、可愛い……」
理髪師「あの、ちょっとだけ触ってもいいですか?」サワッ
王子「あっ!」ピョコッピョコッ
理髪師「結構敏感なんですね」サワサワ
王子「やめろよ〜!」ピョコピョコピョコ
理髪師「し、失礼しました! つい……」
王子「ふん……まぁいいよ。髪を切ってくれたんだし、触るぐらい許してやるよ」
-
理髪師「――お疲れ様でした、終了です」
王子「あ〜、さっぱりした! どうもありがとう!」
理髪師「では今後は、一ヶ月に一度ぐらいのペースで来ますので」
王子「うん、頼んだよ」ピョコッ
理髪師(可愛い……)
-
それからというもの――
理髪師「王子様、ご機嫌うるわしゅう」
王子「今日もよろしく頼むよ」
〜
理髪師「こんな髪型はいかがです?」
王子「うん、かっこいい! ボク、本の中に出てくる王子みたいだ!」ピョコッ
理髪師(可愛い……!)
〜
王子「近頃、帝国がこの国にちょっかいかけてきてるんだってさ」
王子「ボク、心配だよ……」
理髪師「大丈夫ですよ。きっと陛下たちがなんとかして下さいます」
〜
王子「お前が来てくれるようになってから、毎日が楽しくなったよ。ありがとね!」
理髪師「身に余る光栄でございます」
理髪師は王子の散髪をし続けた。
-
半年後――
<理髪師の家>
理髪師「……」ウズウズ
理髪師(ああ、しゃべりたい)
理髪師(誰かにしゃべりたい)
理髪師(それに王子も、ずっと引きこもったままじゃ辛いだろう)
理髪師(しかし……しゃべったら私の命はない)
理髪師(だけどしゃべりたい……ええい、もどかしい!)
理髪師(仕方ない。せめて、地面に穴を掘って、そこに叫ぶとするか……)
-
ザクッザクッザクッ……
理髪師「……これでよし、と」
理髪師「王子様の耳はロバの耳!」
理髪師「王子様の耳はロバの耳〜!」
理髪師「王子様の耳はロバの耳〜!!」
理髪師「王子様の耳はロバの耳〜!!!」
理髪師「ハサミで髪の毛を切ったら、王子様の耳はロバの耳〜!!!」
-
理髪師「あ〜、スッキリした!」
理髪師「やっぱり人間、秘密なんて持つもんじゃないな!」
理髪師「これからも、王子の秘密をしゃべりたくなったら、どんどんここで叫ぼう!」
-
ところが――
草木「クスクスクス……」ザワザワ…
草木「面白い話を聞いたぞ……」ザワザワ…
草木「これは叫ばずにはいられない!」ザワザワ…
草木「王子様の耳はロバの耳〜!」
草木「王子様の耳はロバの耳〜!」
草木「王子様の耳はロバの耳〜!」
草木「ハサミで髪の毛を切ったら、王子様の耳はロバの耳〜!」
-
ザワザワ…… ガヤガヤ……
「ねえねえ、王子様の耳はロバの耳なんですって!」
「オレも聞いた!」
「だから、めったに姿を現さないのかもしれないな」
「でもちょっと見てみたいわね、ロバの耳!」
「もし本当だとしたら、ビックリだよな」
-
<城>
王子「――どういうことだよ、これは!」
理髪師「いえっ、これは違うんです! 私ではありませんっ!」
王子「でも髪の毛切ったらロバの耳って……お前しかいないじゃないか!」
理髪師「いえっ、それはきっと……なにかの間違いで……」
王子「もういい! 言い訳すんな!」
王子「お前なんかしけーにしてやる!」
理髪師「ひいいっ!」
-
王子「――なぁんてね」
王子「いつかはバレることだし、かえってスッキリしたよ」
理髪師「へ」
王子「やっぱり人間、秘密なんて持つもんじゃないよね」
王子「それにさ、いつもボクの髪を切ってくれてるお前をしけーにするはずないじゃん」
王子「これからもよろしくね」ピョコッ
理髪師「王子様……」
理髪師(いかん……可愛すぎる!)ハァハァハァ…
王子「おい……目つきが怖いんだけど」
理髪師「失礼しました!」
-
これをきっかけに、王子は市民の前に姿を現すようになった。
王子「どうも……王子です」ピョコッ
キャーキャー! ワーワー!
「可愛い〜!」
「いちいち耳がピョコピョコ動くのが可愛すぎる!」
「まずいな……新しい世界に目覚めてしまいそうだ」
-
国王「あれだけいっておいたのに約束を破ってしまいおって……」
理髪師「も、申し訳ありません……!」
国王「だが、結果としておぬしのおかげで息子が明るくなったのは事実」
国王「今回の件は不問に処そう」
理髪師「ははーっ! ありがとうございます!」
-
さて、理髪師と王子は分かり合うことができたのだが――
<城>
大臣「陛下、帝国からトップ同士の会談を要求する書状が届きました!」
大臣「どうやらこちらの返事を待たず、兵を率いて出向いてくる模様です!」
国王「ついに来たか……!」
国王「あの帝国の皇帝についてはほとんど何も知らんが、かなりの野心家と聞く」
国王「おそらく帝国はまともに話し合いをするつもりなどなかろうが……」
国王「なんとか、武力衝突は避ける方向に話を持っていかねばな……」
-
王子「なんだかこのところ、パパやママや大臣たちが騒がしいんだ」
王子「帝国がこの国を欲しがってるって噂もあるし……」
王子「この国はどうなっちゃうのかな……」
理髪師「大丈夫、王子様が気にすることじゃありませんよ」チョキチョキ
王子「うん……」
理髪師「……」チョキチョキ
理髪師(帝国の武力は強大だ……。我が国とは大人と子供ぐらいの差があると聞く)
理髪師(もし、あの帝国がこの国を狙っているという噂が本当であれば……)
理髪師(この国は滅ぶ……!)チョキチョキ
-
一週間後――
<城>
国王(帝国のトップか……いったいどんな皇帝なのか……)
敵将軍「女帝陛下、こちらです」ザッ
女帝「狭苦しい城ね〜、こんなの半日もあれば落とせちゃうわ」ヒョコッ
国王「なんだね、君は? 皇帝のご息女かね?」
女帝「あら、失礼しちゃうわ。私こそが帝国の皇帝よ」
国王「な……!?」
国王(バカな……まだ子供じゃないか!)
-
女帝「ああ、子供だからって甘く見ないでね」
女帝「弱冠12歳にして国のトップの大学を卒業し、軍略の天才でもあるの」
女帝「私の頭脳と帝国の軍事力で、成人するまでに全世界を我が物にしてやるわ!」
国王「なんと恐ろしいことを……!」
女帝「ところで、さっそく会談を行いたいんだけど、こっちからの要求はたった一つよ」
女帝「我が帝国に全ての領土を明け渡すか、それとも戦争するか、今この場で決めてちょうだい」
女帝「さ、どうする? 勝負する? 降伏する?」
国王「ぐ、ぐぐぐ……!」
-
王子「……!」
王子「どうしよう、このままじゃこの国が……!」
理髪師「……」
王子「もし帝国に領土を渡したら、この国の市民はきっと奴隷のような扱いになるに決まってる!」
理髪師「……王子」
王子「?」
理髪師「……私の読みが確かならば、この国を救えるのはあなただけです!」
王子「ボクが!? どうして!?」
理髪師「とにかく……あなたがあの女帝の前に出てみて下さい!」
王子「うん、分かった! ……やってみる!」
-
女帝「さぁ、早く決めなさいな」
敵将軍「女帝陛下は気が短い。早くせねば、待機させている軍を暴れさせるぞ」
国王「うぐ……ううう……」
王子「待って!」
国王「!? ……お前がなぜここに!?」
女帝「!!?」ビクッ
-
王子「あの……皇帝さん! 侵略なんて……世界征服なんてやめて下さい!」
女帝「……」
王子「お、お願いします!」ピョコッ
女帝「……」
王子「……?」
女帝「……」
王子「もしもし……?」
女帝「か……」
王子「?」
女帝「可愛すぎるぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
王子「!?」ビクッ
-
女帝「ねえねえ、さわっていい? なででいい?」
王子「ちょ、ちょっと……」
女帝「さわらせてぇぇぇぇぇ!」
王子「やめてっ!」ドンッ
女帝「はうっ!」ドサッ
敵将軍「女帝陛下に暴力を! ……貴様!」チャキッ
女帝「お黙り!」キッ
敵将軍「!」ビクッ
-
王子「あ、あの……」
女帝「なんですか!?」
王子「もし侵略をやめてくれたら……好きなだけさわっていいよ。ボクの耳」
女帝「やめます!」
王子「え?」
女帝「やめます!!!」
敵将軍「ちょっ! 女帝陛下!? なにをおっしゃってるのですか!?」
敵将軍「こんなあっさりと、帝国の天下統一の野望をやめるなど――」
女帝「あ?」ギロッ
将軍「ひいっ!」
-
女帝「ほら、あんたもご覧なさい! この子を!」
王子「ど、どうも……」ピョコピョコ
敵将軍「……!」ゴクッ…
敵将軍(こりゃあ……すげえ……)
敵将軍「ぜひとも養子に!」
王子「お断りします」
-
女帝「ある哲学者はいったわ」
女帝「ケモノ耳は最上である、特にロバは極上だ、と……」
王子「聞いたことないけど……」
女帝「と、に、か、く!」
女帝「不束者ですが、これからはよろしくお願いしますね」ペコッ
王子「は、はぁ……こちらこそ」ピョコッ
女帝「かーわーいーいー!」ギュッ
王子「わぁっ、抱きつかないで!」
理髪師(どうやら私の読みは当たっていたようだな……)ホッ…
-
それから数ヵ月後――
<城>
理髪師「今日は二つの国の正式な和解と同盟が成る記念すべき日です」
理髪師「お二人のヘアスタイルはこの私が、しっかりと整えさせていただきます」
王子「うん! かっこよく決めてよね!」ピョコッ
女帝「私の美しさと彼の可愛さを損なったら、承知しないから!」
理髪師「もちろんでございます」
おわり
-
以上で終わりです
【訂正】
>>27の一番下の「将軍」は正しくは「敵将軍」です
-
乙
ケモ耳オッサンだとギャグだが、子供ならそりゃ可愛いかろうな
-
乙
俺にも触らせろ
"
"
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