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悟沢空子「ハッピーかい、慕?」
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耕介「麻雀牌売ったわ」悟空「でぇじょうぶだドラゴンボールがある」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1415523656/
の後日の話で、立-Ritz-の話。
"
"
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アニメ咲-Saki-全国編公開を前に訪れた、
主人公声優交代オーディションという突然の危機を乗り越えた小林立と仲間たち。
アニメ全国編も無事終了し、再び平穏が戻ったかに見えたある日のこと――。
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―東京 小林立の仕事場―
ガタッ ドンドンドンッ
あぐり「……なんや騒々しい」
紗「お客様……? 今開けますー」
バタンッ
鳥山「……うう……」
紗「あ、あなたは!」
立「鳥山先生!? どうしたんですか!?」
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鳥山「やられた……不覚だった……」フラッ
紗「だ、大丈夫ですか!?」
あぐり「おいボロボロやんけアンタ!」
鳥山「早く……島根へ……」
立「?」
鳥山「慕ちゃんが……危ない……!」
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―島根 白築家―
ピンポーン
慕「はーい」
ガチャッ
??「……よお、久しぶりだな」
慕「あっ、その声は……! 悟空さん!」
タッタッタッ
慕「よかった……。また会えた!」
悟空?「……おう、そうだな」ククク
慕(…………あれ? 何か雰囲気が……?)
"
"
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慕(見覚えのある髪型とオレンジの道着……。確かにあのとき聞いた声……)
慕(なのに、何か違う感じがする……)
慕(……そういえばおもちがある……? 悟空さんじゃない……?)
悟空?「…………」ククク
慕「……えっと、今日はどうしたんですか?」
悟空?「おう、ちょっとおめぇの顔を見たくなってな。……それから」
慕「?」
悟空?「おもしれぇモン見せてやるよ。おい助手」
マンション横山「は、はいっ!」
グルグル ギュッ
慕「……? 自分の体を……椅子に縛り付けて……?」
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マンション「縛り終わりました、悟沢さん」
慕「ござわさん……?」
悟空?「おう、ご苦労」
慕「あの……? 何を……?」
悟空?「敵の技だから印象はよくねえが……。まあ、舞空術や太陽拳だって最初は敵だったヤツの技だしな」
慕「?」
悟空?「なんつったっけな……。そうそう、ギニューってヤツの技だ」
慕「??」
悟空?「チェンジ!!」
カッ
-
―島根へ向かう車中―
ブロロロロ…
あぐり(運転手)「で? どういうことやねんオッサン?」
鳥山「……以前、わしと立ちゃんが世界を分割したことは……、知っとると思うけど」
立「…………はい」
鳥山「あのとき分かれた、わしの世界と立ちゃんの世界を……」
鳥山「……無理矢理に、また融合させた奴がおる」
立「!」
鳥山「おまけに、わしらが居るこの世界まで一緒にして……」
あぐり「なんやと……?」
紗「そんなことが……できるんですか……?」
-
鳥山「…………君たちも知っとるはず」
紗「?」
鳥山「ひとつの世界を生み出し司る、"創造神"――『漫画家』と呼ばれる存在ならできる」
紗「!」
鳥山「……わしらと同業者だよ」
紗「そんな……」
鳥山「……またひとつ、新しい世界が創られたんだ」
-
紗「……それにしても、私たちのいる世界まで一緒にするなんて……」
あぐり「ありえんわ、そんなん」
鳥山「……うむ、普通は無い事だね。昔のギャグ漫画なら割とあったけど……、ギャグ以外じゃなかなかね」
立「どうしてそんなこと……」
紗「一体……何者……?」
鳥山「――『HIDEKI大和田』。その筋では有名人だ」
紗「有名人……?」
鳥山「アウトローだよ」
立「!」
-
あぐり「アウトローて……」
鳥山「一言で言えば……なんでもあり。多少の矛盾や弊害が出ようとも勢いで押し切るタイプだ」
紗「!」
鳥山「そいつの立ち上げた世界である以上……、どんなデタラメでも起こりうると覚悟せんといかん……」
紗「そんな……」
鳥山「……それくらい躊躇なくやってのける相手だよ」
レオナルド「キューン……」(ありえん)
-
あぐり「そんなんで……やっていけとんのか、そいつ……?」
鳥山「……もちろん、だから敵も味方も多いって話だよ」
鳥山「最近じゃ、世界中の国家元首や著名人・政治家たちを同時に敵に回し続けとるって噂だ」
立「国家元首……」
鳥山「それでいて、某国の副総理的な人が絶賛してた事もあるとか無いとか」
紗「副……総理……」
鳥山「シャドルーとかいう裏社会の秘密結社とも繋がりがあるらしい……」
あぐり「秘密結社て……」
鳥山「あくまで噂レベルの話だけどね……」
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あぐり「せやから言うて、なんで慕ちゃんが襲われなあかんねん?」
紗「そうです……。慕ちゃんと悟空さんは友達じゃないですか……」
あぐり「おう。あのときゆびきりして仲良しになったんやろ?」
紗「その慕ちゃんを襲うなんて……。それも鳥山先生の許可も無くなんて考えられない……」
鳥山「…………」
鳥山「今、慕ちゃんの家にいるのは……悟空じゃない……」
あぐり「!」
鳥山「……途中ですり替えられたんだ。まんまと出し抜かれたよ」
紗「すり替え……?」
鳥山「……君たちも会った事あるじゃろ。悟沢空子さんだ」
立「!!」
-
―島根 白築家―
慕(…………えっ)
慕(私が……私の目の前に立っている……?)
悟沢「…………フフフ」
慕(いつの間にか、椅子に縛られてる……。動けない!)ガタゴト
小野学「……うまくいったようだな」
マンション「あっ、か、監督!」
悟沢「おう、計画通りさ」
マンション「い、一体何をしたんですか……?」
小野「ボディチェンジってヤツだ。詳しいこたぁドラゴンボールを見ろ」
マンション「!」
慕(私の体が勝手に動いてる……! 私と離れたところで……)
-
マンション「じゃあ……、この慕ちゃんは……」
悟沢「ああ、アタシだよ」
マンション「……そんな……声まで変わって……」
悟沢「おうさ、アニメじゃそういう技になってるからね」
マンション「なんてこった……悟沢さん声の慕ちゃんなんて……」
悟沢「ヒッヒ! やっぱり若い娘の肉体はいいね!」
小野「……じゃあ始めちまうか。こんなもんは先にやったもん勝ちだ」
マンション「な、何を……?」
小野「アニメ化だよ、シノハユの」
マンション「!」
-
小野「こいつを使って、今から動画を撮影する……」
小野「それをアニメ予告編とでも称して配信し……、アニメシノハユの第一印象を世間に植えつける……」
小野「そうすりゃ、世間的に白築慕の声は悟沢空子で決定だ」
マンション「!」
小野「そのまま本編まで通ればそれもよし。後で変更されたとしても……、変えたという事実は物議を醸す……」
小野「いずれにせよ、話題作りには十分だ」
マンション「……それって、炎上っていうんじゃ……」
小野「注目の的と言ってもらおうか。人の目が集まりゃいいんだよ」
マンション(……なんか……。オレとんでもないことに手を貸してる気が……?)
-
ガタッ ゴトゴトッ
マンション「えっ、ビデオカメラに集音マイク……」
小野「撮影機材だよ。アニメ作るっつってんだろ」
マンション「えっとあの、アニメの作り方ってそんなんでしたっけ……?」
小野「普通は本人になんか出演してもらえるワケねえだろう、常識的に考えて」
マンション「……はあ」
小野「だから必死に似顔絵を描いて映像を作り、似た声の声優を見繕って吹き替え音声を入れてんだよ」
小野「……だが当然、金も手間もかかる」
小野「本人の演技と声が使えりゃ、それに越したこたあねえ」
小野「まして予算もとれねえゲリラ予告編だ、なるたけ安上がりで済ますに限るんだよ」
マンション(……いやそういうことじゃなく……)
-
小野「いいから手伝え。始めるぞ」
マンション「えっ?」
小野「お前しかスタッフ居ねえだろうが。照明板くらい持ちやがれ」
マンション「オレがですかぁ!?」
小野「そのために連れて来たんじゃねえか。早くしろ」
マンション「は、はいぃ!」
小野「始めるぞ」
悟沢「オーライ、いつでもいいわ」クックック
-
―車中―
紗「声が……乗っ取られる……?」
鳥山「うん。やつらの狙いはそれだよ」
紗「そんなこと……。一体、なんのために……」
鳥山「もちろん、慕ちゃんを悟沢さんの声にしてアニメを作るつもりじゃろう」
立「!」
あぐり「なんやと……?」
紗「そんな……」
-
紗「そんなことをして……どうしようと……」
鳥山「……当然、シノハユのアニメ化に影響を与えたいんだろうね」
立「!」
鳥山「慕ちゃんの声が悟沢さんだとなったら話題になる……。トントン拍子に話も進むじゃろ」
鳥山「本決まりの声優さんも、揉めることもオーディションやらも無く……。満場一致で悟沢さんになるだろうね」
紗「そんな……」
鳥山「いい意味かはわからんが、注目も集まる……。話題作りになるといえばなるかもね」
立「!!」
-
あぐり「……そない言うてもおかしいやろ、オッサン」
鳥山「ん?」
あぐり「吹き替えのキャストを代えるだけやろ? そない回りくどい事せんと、企画会議で言うたらええやんけ」
紗「そうですよ、あくまで声優さんがやるのは吹き替え……」
鳥山「そんな生優しいもんじゃない……。以前咲ちゃんの声優を代えようとしたときとはわけが違う」
紗「?」
鳥山「彼らは……、慕ちゃん本人の声そのものを変えようとしているんだ」
紗「えっ!?」
鳥山「放っておいたら……本当に慕ちゃん自身があの声になってしまうぞ……」
紗「!!」
-
紗「なんてことを……、大変!」
あぐり「……おう、えらいこっちゃで……!」
立「…………」
鳥山「立ちゃん?」
立「…………話題になるのなら、私はかまいませんけど」
紗「!?」
あぐり「……おい」
鳥山「…………そうかい?」
立「…………はい」
-
立「注目を集めてもっと売れてくれるなら……。いいことじゃないですか」
あぐり「おい立」
立「植田さんの時にも言いましたけど。強い力を持ったキャストになってくれるなら、それに越したことはありません」
立「アニメ化の無かった話を作ってくれるなら、私は願ったりですし」
立「別に、焦って行かなくてもいいんじゃないですか?」
紗「お姉さま……」
あぐり「お前……」
立「……私の目的のためなら……どんなことだって……」
鳥山「…………ふむ」
立「…………」
-
鳥山「無理せんでええぞい、立ちゃん」
立「!」ピクッ
鳥山「…………」
立「…………私は別に」
鳥山「…………」
立「…………」
鳥山「……今の言葉、本心じゃないよね?」
立「!」
-
立「なぜ……そう思うのでしょう……」
鳥山「ふっふっふ」
あぐり「?」
鳥山「わしももう、漫画家稼業も長い……。それくらいは見ればわかるよ」
立「…………」
鳥山「なあ立ちゃん」
立「…………」
鳥山「立ちゃんが漫画を描くのは……、親父さんを見つけるため、じゃろ?」
立「!」
-
鳥山「でも、今日まで未だ手掛かりすら掴めず……」
立「…………」
鳥山「咲-Saki-本編も、もう全国決勝が目の前……。来年十周年だよね? あっちの時間で」
立「…………はい」
鳥山「それだけ経つのに、親父さんは一向に見つからない……。情報の欠片も出てこない」
立「…………」
鳥山「シノハユは、そんなお前さんの最後の切り札……」
紗「!」
鳥山「あからさまに自分と同じ……。親御さんを失くして追いかける運命を背負った子を主人公にして……」
-
鳥山「お前さんは慕ちゃんに、自分自身を映したんだ……」
鳥山「父と母とは違いを入れたが……。失った肉親を追いかける姿を」
鳥山「……そして、いつかきっと出会える未来を」
立「…………」
鳥山「……すべては、親父さんに見つけてもらうため」
立「…………」
鳥山「……そうだよね?」
-
立「…………それがどうしたんですか」
鳥山「ん?」
立「いいじゃないですか……! 私がどんな理由で漫画を描いたって……!」
鳥山「……もちろん、それ自体を否定はせんよ。理由は人それぞれだからね」
立「だったら……。放っておいてください……!」
鳥山「……でもね立ちゃん」
立「…………」
鳥山「だからこそ。君は慕ちゃんに、特別な思いを込めたんじゃないのかな……?」
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鳥山「わしと立ちゃんが、慕ちゃんと初めて会ったときのこと……。覚えとるけ?」
立「……ええ。世界を分割したときですね」
鳥山「うん。悟空と慕ちゃん、松実さん夫婦、わしらが顔を合わせたあのとき……」
鳥山「他のみんなには声色を変えて話しとったが……、わしにはわかった」
立「…………」
鳥山「慕ちゃんの声は……、立ちゃんの声だよね?」
立「!」ドキッ
-
鳥山「悟沢さんの実力は……わしもわかっとる。わしこそ一番わかっとるよ」
立「…………」
鳥山「でも……。いくらそれで人気が出たとして……」
立「…………」
鳥山「そこまで自分と同じ気持ちを込めて生み出した、あの子の声が……」
立「…………」
鳥山「あの子が母親と出会えたとき、おかーさんと呼ぶその声が……」
立「…………」
鳥山「『オッスオラ慕!』で、いいのかな?」
立「…………」
鳥山「……君は慕ちゃんに、そう言わせていいのかい?」
立「…………」
紗「鳥山先生……」
-
立「…………」
立「…………」
立「…………」
立「…………そこまでご存知なら、誤魔化す理由もありません」
鳥山「…………」
立「……仰る通りです、鳥山先生」
紗「!」
立「あぐり! 急いで!」
あぐり「おうよ!」
ズギャギャッ ブロロロロ……
-
―島根 白築家―
小野「始めるぞ。シーン1カット1、なくなった麻雀牌を探す慕」
マンション「あ、アクション!」
カチン
悟沢「ね……、ねえ! オラのマージャンペェがねえぞ! タマもチンもねえ……」
小野「カット!」
悟沢「……何だい?」
小野「後半のアドリブは不要だ」
悟沢「ははっ、ついやっちまった。わりぃわりぃ」
マンション「これはひどい」
-
小野「シーン3カット4、叔父に牌を売られたことを聞かされる慕」
マンション「えっ、叔父にって……耕介さんいませんけど……」
小野「おら着替えろ。お前がおじさん役だ」
マンション「えぇーー!?」
小野「早くしろ。カンペくらい用意してやる」
マンション「い、いいんですかそんなんでぇ!?」
-
小野「アクション!」
カチン
マンション「ま、麻雀牌だけどさ……。売ったわ」
悟沢「おう。つまりこの、鳥さんのペェを七つ集めりゃおかーさんが戻ってくるってわけだな……!」
マンション「そうさ、今こそアドベンチャーだ慕!」
悟沢「オラ、ワクワクしてきたぞ!」
小野「…………チッ、大根演技だな」
マンション(酷いストーリー捏造……)
-
小野「じゃあ次だ。麻雀大会のシーンいくぞ」
マンション「で、でも対戦相手が……」
小野「顔さえ映さなきゃ代役でいいんだよ。スタントマンと同じだ」
マンション「えぇー……」
小野「脇役なんざ後からどうとでもできる……。おい、エキストラ!」
エキストラ「はーい」
ゾロゾロ
マンション(ど、どこから出てきた……)
-
小野「シーン16カット23、麻雀大会で勝ち進む慕」
悟沢「うっひょー! こりゃいい配ペェだな!」
タンッ
悟沢「よーし張ったぞ! テンペェ即リーだ!」
タンッ
悟沢「ロン! 立直一発ペェ發イーペェコー!」
エキストラ「うわー」
エキストラ「やられたー」
マンション(……悪夢だなこれ……)
-
バタンッ
立「そこまでです!」
悟沢「!」
小野「!」
マンション「あ……立先生……」
立「マンションさんに……小野監督……。あなた達も関わってたんですか……」
小野「…………」
立「……どういうことですか、これは」
小野「……上の指示だ。原作者さんよ」
-
小野「アニメに関しては俺が全権を任されている……。口出し無用だ」
立「まだシノハユのアニメ話なんてどこにも出ていないはずですが」
小野「いいじゃねえか。どうせ主人公の声は悟沢さんでいいんだろ?」
立「いいえ、お断りします」
小野「…………ほう?」ギロッ
マンション「ヒィィ……」
小野「全国編のときにゃ咲の声でいいっつったじゃねえか。どういう心境の変化だ?」
立「シノハユにまでそう言った覚えはありません! あなたこそ、どうして勝手にこんなことを!」
小野「…………上の指示だっつったろ」
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小野「お前さんがシノハユの原作者だろうと……。俺がどういうつもりだろうと……」
立「…………」
小野「もっと上からのお達しだ」
あぐり「もっと上……やと……?」
小野「今この世界の支配者……マスターはアンタじゃねえ」
立「!」
紗「……それって……」
立「…………大和田…………!」
小野「おうよ」
-
小野「話つけたきゃ、そっちとやってくれ」
立「それなら、その大和田さんを出してください! どこにいるんですか!?」
小野「知らんな。一緒に居たわけじゃねえ」
あぐり「……この期に及んで嘘つく気やないやろな」
小野「知らんつってんだろ」
立「くっ……」
鳥山「…………いや、そこにおるよ。その物陰に」
紗「!」
小野「……何?」
鳥山「おるんじゃろ、大和田ちゃん。出てきなさい」
-
スッ
大和田「…………」
立「え……? 下着姿の女性……?」
あぐり「黒レースの上下とガーターベルトに……フルフェイスメット!?」
紗(へ、変態だー!!)ガビーン
あぐり(なんやこの痴女様は………)
立「この人が……アウトロー……?」
鳥山「うむ……気を付けるんだ。体つきこそピチピチギャルじゃが……」
紗(表現が古い……)
鳥山「常時かぶっとるあのフルフェイスで、素顔を見た者はおらん」
大和田「…………」
-
立「……あなたが……この世界を……」
大和田「…………」
あぐり「…………」
紗「…………」
鳥山「…………」
小野「…………」
大和田「こんちゃかわー」(棒読み)
紗「!?」
立「」ビキッ
-
大和田「……よく私にお気づきで。さすが鳥山先生」
鳥山「ふっふっふ、ピチピチギャルの居場所ならすぐわかるぞい」
あぐり「ただのポンコツ昭和ロボやなかったんか……」
鳥山「サインほしいか?」
あぐり「いらんわ」
レオナルド「キューン」(いらん)
紗「大丈夫でーす」
鳥山「!」ガーン
立「……いや、今そんな場合じゃないですから」
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立「答えてください。何のつもりでこんなことを……」
大和田「…………さあてね」
立「…………」
大和田「…………」
立「では……何をしにここへ……」
大和田「…………別に。ただの火事場見物物見遊山よ」
立「…………」
大和田「…………」
立「議論する気なし、ですか……」
大和田「…………」
-
立「……とにかく、シノハユ原作者としてこの状況は看過できません。撤回してください」
小野「……だとよ」
大和田「…………」
立「…………」
大和田「……それを決めるのは、私じゃないわね」
悟沢「……ああ」
紗「悟沢さんまで……」
悟沢「……本人の胸に聞いたらいいじゃねぇかい」
紗「本人……?」
-
悟沢「おい、そいつの縛りを解いてやりな」
慕「!」
マンション「えっ……。いいんですか?」
悟沢「ああ。体はアタシのもんだ、丁重にな」
マンション「あ、はい……」
パラッ
マンション「……はい、解けました」
慕「……ありがとうございます……」
-
立「……悟沢さん……。何をするつもりですか……?」
悟沢「あたしらが声を演(や)るのに大切なことは……。なにより、そいつのことを気に入るかどうか」
立「?」
悟沢「結局今日は、それを確かめに来たのさ……。なあ、慕」
慕「……はい?」
悟沢「お前の人生は……ハッピーかい?」
慕「…………?」
-
悟沢「ハッピーじゃねえなら、無理するこたあねえ。丸ごとアタシが代わってやるよ」
悟沢「この体と声をこのままアタシに渡して、裏で大人しくしてるがいいさ」
慕「!」
悟沢「……答えな、慕」
慕「……はい……?」
悟沢「お前の生きる目的は……。どうしても成し遂げたいことは何だい?」
慕「……それは……。勿論、おかーさんを探すこと……」
悟沢「おう、そうさね。…………それなら」
慕「?」
悟沢「それを成すには生半可な気持ちじゃ無理ってことも、知ってるかい?」
慕「!」
-
悟沢「お前が進もうとしている道は過酷だよ」
慕「…………」
悟沢「何年かかるかもわからない。心も体もボロボロになって、いい結果になるかもわからない」
慕「…………」
悟沢「自分が自分でなくなるような事すら起きるかもしれないね。声どころか、心も記憶も……」
紗(……それって、ナナさんのこと……)
悟沢「それでも気持ちを強く持って……、自分の意思を貫いて」
悟沢「ひとりで戦っていく覚悟はあるのかい?」
慕「…………」
-
慕「…………ひとりじゃないよ」
悟沢「?」
慕「確かに、おかーさんがいなくなったときは……。最初はひとりぼっちだと思ったけど……」
慕「私には、そこから出会った友達がいる!」
慕「閑無ちゃん……はやりちゃん……杏果ちゃん……悠彗ちゃん……」
慕「おじさんに質屋さん、玲奈ちゃん、陽葵ちゃん……全国大会で打ったみんな……」
慕「それに、鳥さんが……。ここに鳥さんがいる!」
スッ
紗(…………一索?)
あぐり(あんときのアレ……。ずっと持ってたんか……)
-
慕「私は……一人じゃない……!」
慕「支えてくれる友達が……。鳥さんが一緒に、ここにいるんだ!!」
慕「鳥さんたちと一緒なら……、怖いものなんてない!!」
立「慕……ちゃん……」
慕「決めたんだ! どんなことをしても、おかーさんを探し出すって!!」
慕「もう一度、大好きだよって言うために! たくさん友達ができたよって話すために!」
慕「私の声で……。おかーさんの知ってる、私自身の体と声で!」
慕「 そ れ が 私 の す べ て だ か ら ! 」
カッ
-
<font color="000000">
紗「――そのとき。慕ちゃんの背後に、大きな鳥の姿が浮かび上がったように見えました。
慕ちゃんをずっと見守っている、力強い友達が――」
</font>
-
バッシュゥゥーーン
ドォーン
慕「あ……体が……」
悟沢「…………ほう」
マンション「あっ、声が元通りに……?」
慕「元に……戻った!」
紗「慕ちゃん……!」
小野「ボディチェンジを自力で戻しただと……?」
鳥山「大和田ちゃんの支配を……撥ね退けた……」
大和田「…………」
悟沢「…………フフフッ」
-
悟沢「フッ……。アッハッハッハッハ!!」
マンション「ご、悟沢さん……?」
悟沢「……気に入ったよ慕。いい心の力を持っているじゃないか」
慕「…………」
悟沢「今のその気持ち……。忘れるんじゃないよ……」
慕「はい! もちろんです!」
悟沢「……いい返事だ。ハッピーだね、慕」
紗「悟沢さん……」
悟沢「ヒッヒ! 来た甲斐があったってもんだね!」
-
悟沢「おい、けぇるよ運転手。車出しとくれ」
マンション「あ、は、はい……」
小野「…………いいのか?」
悟沢「フン、しんぺぇすんな。今日はまだ顔合わせさね」
小野「…………」
悟沢「いつんなるか知らんが……。アニメ化なんざもっと先の話だろう?」
悟沢「吹き替えが要るときゃ、いつでも呼んどくれ! 特別サービス価格で演(や)ってやるよ!」カッカッカッ
立「悟沢さん……」
スタスタ
-
小野「…………」クルッ
スタスタ
立「……どこへ?」
小野「車が出るなら俺も乗るさ。置いていかれちゃかなわねえ」
立「……あなたは……一体何を考えて……?」
小野「…………」
小野「アニメ屋ってもんは、依頼があれば全力で受ける。それだけだ」
立「…………」
立「こんなことをしたって! 批判を呼ぶだけじゃないんですか!?」
小野「……俺の心配をしている場合じゃねえだろ、原作者さんよ」
立「?」
-
小野「予告編動画ひとつポシャったところで問題ねえ。まだどこにも出してなかった話だ」
立「…………」
小野「それより、手前の心配をしてやがれ」
立「?」
小野「アニメ化にゃ尺が足りねえよ。俺に絡む前にやることがあるだろうが」
立「…………」
小野「せいぜい、原作ストックを増やすこった。気合の入ったやつをな」
立「……気合……?」
小野「…………気の抜けたようなモンを俺によこすんじゃねえぞっつってんだ」
立「…………」
小野「……じゃあな」
スタスタ
-
紗「行っちゃった……」
慕「……えっと……、あの……?」
あぐり「おう、アンタは心配せんでええで。ちょっとあっちで休憩しよか」
慕「あ、はい……」
立(…………お願いね)チラッ
あぐり(……おう、今日のことは適当にごまかしとくわ)チラッ
……
鳥山「……さて、大和田ちゃん」
-
鳥山「君が集めた人たちはいなくなったわけだが……。どうするね?」
大和田「…………」
鳥山「…………」
大和田「……フン、プロットが崩れたわ」
立「…………」
大和田「私だけがいても意味は無いわ。退散させてもらうわね」
立「待ってください。その前に納得のいく説明を」
大和田「心配しなくても……。私の支配は、もうすぐ解けるわよ」
紗「?」
大和田「私は所詮、不定期連載……。長く居座るつもりは無いわ」
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大和田「……それと、誤解がありそうだからもうひとつ」
立「?」
大和田「私は別に、あなた達の敵じゃないからね?」
立「…………」
鳥山「…………」
紗「…………」
大和田「……縁があったらまた会いましょう。良い縁であることを祈っているわ」
立「…………」
大和田「バイニー♪」
-
あぐり「……行ったか」
鳥山「おう、お疲れさん。慕ちゃんは?」
あぐり「問題なしや。今はベッドで寝とる」
鳥山「……そうか」
あぐり「目ぇ覚める前に全員いなくなっときゃ、変な夢やったで済むやろ」
紗「よかった……」
鳥山「しかし立ちゃん……。君も大変な連中を相手にしとるね」
立「…………大丈夫ですよ」
鳥山「ん?」
立「あの慕ちゃんを見ていたら……。弱音なんて吐いていられません」
鳥山「…………ほほう」
-
立「……慕ちゃんの言葉を聞いて、目が覚めた気がしました」
立「私は……、まだまだ足りなかった。気持ちの強さも、向き合い方も……」
立「何年も父さんのことが見えない状況に……ひとりで焦って追い詰められて……」
立「……気持ちのどこかで、諦めかけて心を閉じていたような気がします」
立「……慕ちゃんのように、仲間と支えあうなんて考えもしなかった」
立「私も……もっとがんばらなくちゃ。いつかその時、堂々と父さんに向き合えるように」
立「…………そう思わせてくれました」
紗「お姉さま……」
立「原作者が主人公に、気持ちで負けてるわけにはいきませんからね!」
あぐり「……ちょい待てやコラ」
立「?」
-
あぐり「ひとりで盛り上がりよって……。全然わかっとらんやんけ」
立「……えっ?」
あぐり「仲間と支えあうなんて考えもしなかったー言うんは聞き捨てならんで、オイ」
立「…………えっ」
あぐり「今までここにおったんは、支えあう仲間やなかったっちゅーんか? ん?」
紗「虎さん……」
あぐり「お前の漫画描いとるやつはな、もうここに二人おんねんぞ」
レオナルド「キューン」(うむ)
立「あぐり……」
-
あぐり「……お前がどう思うとるか知らんが、この際やから言うといたるわ」
立「?」
あぐり「お前に誘われてからこっち……。もう随分経つけどな」
立「…………」
あぐり「こっちかて嫌々やったら、ここまで付き合うてへんちゅうねん」
紗「……はい! 私もそうです!」
あぐり「……もうちょい、おのれの周りもちゃんと見とけや」
立「……二人とも……」
レオナルド「キューン」(三人だぞ)
立「……そうね、ごめんなさい」
あぐり「……おう」
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立「…………それから、ありがとう」ニコッ
あぐり「……おっ」
紗「わぁ……」
立「?」
あぐり「ええ笑顔やんけ。初めて見たわ、お前のそんな明るい顔」
紗「私もです……」
立「…………そう?」
紗「ずっとなんていうか……。気が張り詰めたというか、近寄り難い感じがしてたから……」
あぐり「おう、そうやな。いつか言うたらなアカン思うてたヤツや」
立「……何よそれ」
-
あぐり「ヘッ、言葉の通りや。慕ちゃんに負けたない言うなら、もうちょい普段から笑うとけや」
紗「私も……笑ったお顔の方がいいと思います……」ウフフッ
立「……な、なによもう……」
紗「あ、照れた顔もステキ……」
立「ちょっと紗! からかわないで!」
鳥山「ふぉっふぉっふぉっ。こりゃハッピーだね、立ちゃん」
立「もう! なんですか鳥山先生まで!」
アハハハハ ウフフフフ
紗(…………あれ?)
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紗(……なんか凄く丸く収まったっていうか……。実は最初から……?)
紗(…………)
紗(……『お前はハッピーかい?』……)
紗(……『気の抜けたようなモンをよこすんじゃねえぞ』……)
紗(…………)
紗(もしかしてもしかしてだけど……)
紗(二人とも……本当は慕ちゃんじゃなくてお姉さまに……?)
紗(…………)
紗(…………考えすぎかな)
あぐり「どした? 帰るで?」
紗「あ、はい! 今行きます!」
タッタッタッ
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竹書房
大和田「今帰ったわ」
高橋イッペイ(竹書房会長)「…………ご苦労」
辻野「…………」
高橋「……で、首尾はどうなった」
大和田「今回は顔見せだけよ。まだ何もしてないわ」
高橋「あぁん?」ギロッ
辻野「……なんだと?」
大和田「…………もらった原稿料分の仕事はしたわよ」
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高橋「お前の仕事は……。シノハユのアニメをうちの支配下に置くことじゃろう」
高橋「小林立を即潰すのはもはや下策……。ならば、アニメを制作著作竹書房にしてしまえと……」
高橋「お前が提案したから乗ってやった話のはずじゃろうが」
高橋「何もしとらんじゃあ済まさんぞ」
大和田「そんなに心配しなくてもいいわよ」
高橋「…………」
辻野(……腹が読めない女だ……)
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高橋「……これで終わらせるわけじゃあるめぇ。次のプランは?」
大和田「原稿料次第ね……。依頼がなくちゃ、私は動かないよ」
高橋「寝ぼけた事ぬかすな。原稿料ってなぁ金を出す価値があるから出すモンだ」
大和田「あら、言うじゃない」
高橋「先に計画を聞かせてもらおうか。見通しくらいあって言うとんじゃろうな?」
大和田「…………聞くかい?」
高橋「あたりめぇだ。無いとは言わさねえぞ」
大和田「大丈夫よ。今回で大体状況はわかったわ」
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大和田「本人が中々強い意志をお持ちのようだから……。それなら、周りから攻めていけばいい」
辻野「?」
大和田「シノハユのあの子……。慕ちゃんの最大の目的は、離れ離れになった肉親を探し出すこと」
辻野「…………」
大和田「誰かさんと一緒だね」
辻野「!」
高橋「?」
大和田「ねえ?」
辻野「…………」
高橋「?」
辻野(こいつ……何をどこまで知って……)
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大和田「その、慕ちゃんの母親……。今までずっと行方不明、方々手を尽くしても一切出てきてなかったけど」
大和田「……最近の話じゃ、少し様子が判明している」
辻野「!」
大和田「まだ不明な点も多いけど……。どうやら、無事に生きてはいるらしい」
高橋「…………」
大和田「勿論、簡単には会いに行けない状況……。でも、全く手掛かり無しってわけでもないわ」
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大和田「何をしているのかは不明だけど……。少人数で世界中を飛びまわってるみたいだ」
大和田「巷じゃ、裏社会で暗躍する闇の代打ち組織だなんて噂されているわね」
大和田「……そこで、ニーマンとかいうトップらしき女と仲良くやってるって話さ」
大和田「記憶を消されて囲われてるなんて疑惑もあるけれど……、何かを強要されてる様子は無い」
大和田「女同士、幸せそうなんじゃないかい?」
高橋「…………」
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高橋「……だからどうだっちゅうんじゃ」
大和田「……相手の様子が分かっているなら、こっちにもやりようがあるわ」
辻野「?」
大和田「そういうことなら、あちらと同じ状況を作ってやればいい」
高橋「?」
辻野「?」
大和田「今ここに、立-Ritz-世界の裏で暗躍する闇のホモ組織の設立を宣言する」
辻野「は?」
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辻野「おい、何を言って……?」
大和田「二度は言わないよ」
辻野「いや、全く意味が分からんぞ! どういうことだ!」
大和田「……ハァーッ……察しが悪いね……」
辻野「…………」
大和田「お前(辻野)、主人公の肉親。 ここ(竹書房)、その所属組織。 お前(高橋)、組織のトップ。 以上」
辻野「?」
高橋「?」
大和田「お前たち二人の組織だよ、ほら脱げ」
辻野「えっ」
高橋「えっ」
……
アッー!
カン
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※このSSは漫画『立-Ritz-』および関連作品等を基にした二次創作であり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
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