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【ガルパン】オレンジペコ「大洗へ転校してきました」
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──生徒会長室
みほ「西住です」コンコン
河嶋「入れ」
みほ「失礼します。……皆さん、こんにちは」ガチャ
会長「やぁ西住ちゃん」
小山「こんにちは、西住さん」
河嶋「そこの椅子へ座れ、西住」
オレンジペコ「こんにちは」スック
みほ「あ……」
オレンジペコ「御無沙汰しています、西住さん」
みほ「本当に……」
オレンジペコ「はい」
みほ「本当に、来たんですね……」
オレンジペコ「はい。大洗へ転校してきました」
"
"
-
みほ「聖グロリアーナ女学院から……」
オレンジペコ「西住さん、改めて御挨拶します。わたくしは…」
会長「まあまあ。堅苦しいのはもういーんじゃない?」
小山「そうですね。さ、二人とも座って」
会長「こーゆーことになったんだからさ。もう、ざっくばらんにいこうじゃないの」
みほ「……」
会長「呼び方もさ、もう“ペコ”だけでいい?」
オレンジペコ「わたくしは構いません。生徒会の皆さんや西住さんのよろしいように」
みほ「じゃあ、えーと……ペコさん」
ペコ「はい」
みほ「もう、引越しとか授業とかは…」
ペコ「引越しやいろいろな手続は先週済ませて、昨日から授業に出ています」
みほ「そう、ですか……」
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ペコ「西住さん、どうかしましたか?」
みほ「いえ……。ただ、ペコさんが来るって何日か前に聞いて、すごく驚いて…」
河嶋「戦車道のライバル校である聖グロリアーナからの転校だからな」
みほ「ライバルなんて。あの強豪校と私たちとじゃ全然、比べものに…」
ペコ「それは御謙遜です。全国大会優勝校のかたが言うことではありません」
小山「でも歴史、実績、装備とかの充実度……どれもこことは比較にならないから」
ペコ「グロリアーナの方では大洗をライバルと思っています」
みほ「とにかく、私……今、ペコさんが本当に来たんだなぁって、もっと驚いて…」
ペコ「そんなに驚かないでください」
みほ「しかも、たった2か月しかここにいないって本当ですか?」
ペコ「はい。本当です」
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みほ「あの……私なんかでもその理由を訊いていいですか?」
会長「親の仕事の都合だよ。お父さんが会計士なんだってさ」
小山「英語もできる会計士さんなんて、すごいわね」
会長「外国語でもそーゆー仕事をできる人ってあんまりいないらしいねえ」
小山「国際的な公認会計士。いろいろな会社から引っ張りだこらしいですね」
ペコ「父はいつもグロリアーナの学園艦の中だけで仕事をしていますけど」
河嶋「お前の家族は全員、英語がペラペラなのか?」
ペコ「父と母はイギリスに住んでいたことがあります。でも、わたくしは旅行で使える程度です」
みほ「ほぇ〜」
会長「何て声出すんだい西住ちゃん」
みほ「だって私なんてもう、お話についていけなくて……」
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ペコ「わたくしは普段、両親と一緒にグロリアーナの学園艦にある家に住んでいます」
河嶋「寮住まいではなく家族で学園艦にいる。西住のチームでも秋山がそうだな」
ペコ「父が2か月間だけ大洗の学園艦にある会社の、決算のお仕事を手伝うことになったんです」
みほ「はあ」
ペコ「でもそれなら単身赴任すればいいのに、母とわたくしも連れていくと言い張って…」
みほ「そうかぁ。だからここへ来ることになったんですね」
ペコ「今はその会社が用意してくれたマンションに住んで、元の家はそのままにしてあります」
みほ「2か月しかここにいないって、そういう理由だったんですか」
ペコ「父はすごく強引な性格のくせに、極端な寂しがりやなんです」
小山「いいお父さんね、家族思いで。お母さんやペコちゃんのことをすごく心配したのよ」
会長「家族が離れて暮らすなんてとんでもない、って考えたんじゃないかな」
ペコ「そうでしょうか。自分が家族と一緒にいたいだけという気がしますけど」
小山「お父さんはペコちゃんが大好きなのよ。将来お嫁に行く時、大変なことになりそうね」
ペコ「実はわたくしもそれが今から心配です。父は子離れができない親かもしれませんから」
"
"
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みほ「じゃあもう普通に登校してるから、その制服……」
ペコ「はい。皆さんと同じ、この大洗女子学園の制服です」
みほ「……」
ペコ「西住さん。また、どうかしましたか?」
みほ「いえ……。ただ、聖グロリアーナの制服やジャケットを着たのしか見たことないから……」
ペコ「見慣れなくて変でしょうか」
会長「よく似合ってると思うよ。可愛いよねー」
ペコ「ありがとうございます。わたくし、この制服が好きなので着られて嬉しいです」
みほ「そうですか? こんなの……。聖グロリアーナの制服の方が可愛いと思いますけど」
会長「あれ? 西住ちゃん?」
河嶋「西住。貴様、我が校の制服について不満があるのか?」
みほ「あっ。い、いえ、そんなことは」
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小山「でも確かに聖グロリアーナの制服はセンスが良くて可愛いわね」
会長「我が校の制服が一部の生徒に不評ってことは、私も認めるよ」
小山「その生徒たちの言い分も理解できますね。このリボンなんて真っ黒ですから」
みほ「リボンが真っ黒で服は白と緑。色合いが何だか中途半端っていうか……」
小山「胸にある十字マークもよく考えれば意味不明ね。由来って何なのかな」
会長「そー言われてみりゃそーだね。我が校は別にキリスト教系じゃないもんね」
みほ「ここは茨城の県立だから“北関東系”なのに、変ですよねぇ?」
河嶋「西住。やっぱり貴様、この制服に文句があるんだな?」
みほ「あっ!? いっ、いいえ! そんなことは!」
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小山「まあ制服のことなんてどうでもいいとして」
河嶋「お前たち二人とも、いい加減にこの辺で今日の本題だ」
会長「放課後のこの時間、私らはどうして二人をここへ呼んだのか」
河嶋「その理由を、分かっているな?」
みほ「はい……」
小山「私たち生徒会と西住さん、そしてペコちゃんとで、ゆっくり話をするためなの」
河嶋「それがどんな話か、分かっているだろう」
みほ「はい……戦車道のことですよね」
会長「うん」
-
小山「西住さん。ペコちゃんはこの大洗でも戦車道をやりたいって言ってるの」
ペコ「皆さんさえよろしければ、是非」
河嶋「だがさっきも言ったとおり、お前はライバル校である強豪、聖グロリアーナからの転校生だ」
会長「でもこの学園艦にたった2か月しかいない」
小山「その後はまた、元の学校へ帰っちゃう」
会長「それなのに、どうしても戦車道をやろうとしてる」
河嶋「こうしたことが他人からどう受け止められるか。お前は、自分で分かっているな?」
ペコ「はい。もちろんです」
河嶋「西住もだ。分かっているな?」
みほ「はい……。それは、戦車道について…」
河嶋「他校をスパイしようと企んでいるのではないか、と受け止められるんだ」
-
小山「もちろん私たちは、ペコちゃんのことをそう決めつけてるんじゃないのよ?」
ペコ「はい」
会長「でもさ、スパイじゃないかって疑われる条件がそろい過ぎてるんだよねえ」
ペコ「はい。分かっています」
河嶋「無論、ここへ来たのは親の都合だろう。だがそれにかこつけて…」
会長「我が校の内情を調べようと考えてる可能性は、誰にも否定できない」
ペコ「はい。わたくし自身が分かっています」
小山「疑うようなことばっかり言って、ごめんね」
ペコ「謝らないでください。もしわたくしが逆の立場だったらそう考えます」
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会長「逆の立場? そんなのあるわけないよ」
ペコ「は? どうしてでしょうか」
小山「大洗の生徒が聖グロリアーナへ転校するなんてあり得ないの」
河嶋「あそこは超お嬢様学校だからな。入試の難度も我が校よりはるかに高い」
会長「転入だって当然、すごく難しい。私らがそっちへ行くなんてできないんだよ」
小山「“もし逆の立場だったら”っていう仮定の話に意味はないの」
ペコ「……」
みほ「その点、この大洗は私でも簡単に転入できちゃうくらいの学校」
ペコ「……」
みほ「何だかもう、どんなレベルの生徒でもホイホイ入れちゃうみたいな…」
河嶋「おい西住」
みほ「はぃ?」
河嶋「貴様は我が校について、制服以外にもいろいろ文句がありそうだな。ああ?」
みほ「あっ!? ちっ違います! 今のは何でもありません!」
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小山「とにかく、私たち大洗がそっちへスパイを送り込むなんて不可能」
会長「私らにできるのはせいぜい、試合の前にちょろっと相手校へ行って偵察する程度」
小山「でも聖グロリアーナは、こちらの様子を中長期的に探ることができる」
河嶋「転校生というかたちで、だ」
ペコ「……」
小山「ペコちゃん」
ペコ「はい」
小山「ペコちゃんの方から何か言いたいことはある?」
ペコ「はい。わたくしは、わたくしのことを信じてもらうしかないと思っています」
会長「……」
-
ペコ「スパイなどということをするつもりは、わたくしには全くありません」
小山「……」
ペコ「グロリアーナの人たちから、スパイするよう指示されてもいません」
河嶋「……」
ペコ「わたくしは戦車道が好きなだけ。学校が変わっても戦車道を続けたいと思っているだけです」
みほ「……」
ペコ「もちろん大洗で戦車道をさせてもらえれば、ここの事情をいろいろ知ることになります」
会長「そうだね。かなり詳しく、ね」
ペコ「でもわたくしはグロリアーナへ戻った後、ここのことを喋ったりしません。絶対に」
小山「絶対?」
ペコ「はい、誓って申し上げます。わたくしはスパイのような行為を絶対にしないと約束します」
河嶋「……フッ」
ペコ「何ですか?」
河嶋「これも、自分で分かっていると思うが…」
ペコ「何でしょう」
-
河嶋「こんな立場になったら、十人中十人がそう言うだろうな」
ペコ「……」
河嶋「いや、百人中百人、千人中千人といってもいい。誰もがそう言うだろうな」
ペコ「はい、それも分かっています。でも信じてもらうしかありません」
河嶋「……」
ペコ「わたくしの申し上げたいことはこれだけです。生徒会の皆さん、西住さん」
会長「……決意は、固いようだね」
ペコ「もちろんです」
河嶋「西住」
みほ「はい」
小山「大洗女子学園戦車隊の代表者、西住みほ隊長」
みほ「はい……」
会長「隊長の西住ちゃんは、どう思う?」
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みほ「私は…」
会長「うん」
みほ「ペコさんが転校してくるって聞いた時、こう思いました」
小山「……」
みほ「ペコさんはここでも戦車道をやりたいって言うだろうなぁ、って」
河嶋「……」
みほ「でもそうしたら、生徒会の皆さんや私との間で、絶対こういうお話になるって思いました」
会長「うん。そのとおりになったね」
みほ「そして、私なりにいろいろ考えました」
ペコ「……」
みほ「私なりに考えをまとめて、今、ここへ来ました」
小山「どう考えたの?」
みほ「私は戦車隊の代表として、言います」
ペコ「……」
みほ「私たちは、ペコさんを仲間として歓迎します」
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ペコ「……西住さん……」
みほ「確かにペコさんは、スパイなのかもって疑われちゃう条件がそろい過ぎてます」
ペコ「……」
みほ「でもスパイだとか、そうじゃないとか……私たちにとってそんなこと、どうでもいいと思います」
会長「そうだね。そのとおりだね」
みほ「私たちには、知られて困るようなことなんて何もありませんから」
小山「こんな急ごしらえの戦車隊なんだもの。強豪校と格差があるのは分かりきってる」
みほ「装備や設備は、貧弱だし…」
河嶋「スパイが見たら間違いなくガッカリするな。自分はこんな物をスパイしに来たのか、と」
みほ「練習だって、どの学校もやってるような内容ばかりです」
会長「私らは特別なことなんて何もできないからねえ。基本を繰り返すのみだ」
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みほ「だからペコさんには是非、仲間になってほしいと思います」
小山「新しい戦力になってほしい、ということね」
河嶋「強豪校からの転校生だからな。即戦力になってもらわなければ困る」
会長「今のメンバーにもいい刺激になるんじゃない?」
ペコ「……あの、皆さん……」
小山「どうしたの?」
ペコ「あの……何だか、さっきから……」
河嶋「何だ」
ペコ「皆さん、その前と言ってることが違うのでは……」
みほ「言ってることが違う?」
ペコ「だってわたくしは、スパイと疑われて……」
会長「ペコちゃん」
ペコ「はい…?」
-
会長「大洗へようこそ」
ペコ「……あ……」
小山・河嶋「「大洗へようこそ」」
ペコ「……皆さん……」
みほ「ペコさん」
ペコ「はい…」
みほ「大洗へようこそ」
ペコ「……皆さん、本当は……」
小山「何?」
ペコ「……本当は、わたくしのことを、疑ったりなんか……」
みほ「ペコさん。私たち大洗女子学園戦車隊は、ペコさんを歓迎します」
ペコ「ありがとう、ございます……。西住さん、生徒会の皆さん……」
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小山「桃ちゃん」
河嶋「そう呼ぶなと何度言ったら分かるんだ、柚子」
小山「最初からこうなると思ってたんでしょ? ふふふ」
河嶋「当たり前だ。柚子だってそうだろう」
小山「もちろんよ。でも桃ちゃん、さっきはあんなに怖い態度で…」
河嶋「それも当たり前だ。我々には我々の立場があるからな」
ペコ「生徒会の皆さんは、本当は…」
会長「うん。ごめんねペコちゃん」
小山「全部、形だけなの」
河嶋「だが決して演技をしていたのではない。真剣に行なうべき必要な手続だったのだ」
会長「生徒会の私らは立場上、ペコちゃんに身の潔白を誓ってもらわなくちゃならなかったんだよ」
ペコ「わたくしは……スパイじゃないって自分自身で、はっきり言う必要があったんですね」
河嶋「我々はお前をスパイと決めつけてもいないし、その疑いがあるとは一言も口にしていない」
会長「“疑われる条件がそろってる”“スパイの可能性は誰にも否定できない”って言っただけ」
小山「でもそういう理由で、確認作業はしておかなくちゃならなかったの」
-
ペコ「はい。わたくし本人が、絶対に違うって宣言する必要があっただけなんですね」
会長「こっちの都合で不愉快な思いをさせちゃったね」
ペコ「そんなことありません。全く気にしていません」
河嶋「ところで、さっきのはやり直しだ」
ペコ「やり直し…? さっきの、って何でしょう」
河嶋「分からないのか? お前はたった今から、ここにいる西住をどう呼ぶべきなんだ?」
ペコ「あ……」
みほ「…」ニコ
ペコ「そうですね。失礼しました、西住隊長」
みほ「はい」
ペコ「歓迎してくださってありがとうございます、西住隊長。これからよろしくお願いします」
みほ「こっちこそよろしくお願いします、ペコさん。仲間になってくれてありがとう」
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小山「一件落着ね」
みほ「ペコさん」
ペコ「はい」
みほ「さっきも言いましたけど、私たちには隠すようなものなんて何もありません」
ペコ「……」
みほ「だから、普通に過ごしてください。普通に練習へ参加してください」
ペコ「はい」
みほ「それに、聖グロリアーナへ帰ってからここのことを喋っても、全然構わないと思います」
ペコ「え? でも…」
会長「さっき話したとおりだよ」
河嶋「お前は帰ってからこう報告することになる。“大洗は装備も設備も貧弱で…”」
小山「“特別な練習なんて何もしていませんでした”」
会長「どーせこんな報告になっちゃうんだ。私らは全然構わないよ」
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みほ「そして、その反対のことも気にしないで、普通に過ごしてください」
ペコ「反対のこと?」
みほ「私たちに聖グロリアーナのことを教えようとしなくてもいい、って意味です」
ペコ「……」
みほ「多分ペコさんは、こう考えるんじゃないかと思うんです」
ペコ「何でしょう」
みほ「“大洗のことを知ったんだから、グロリアーナのことも教えた方がいいのかな”って」
ペコ「それが、フェアなやり方……騎士道精神って…」
みほ「はい、そう考えるんじゃないかと思います。でもそんなのは気にしないでください」
ペコ「……」
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みほ「ペコさんは、私が黒森峰からの転校生ってことを知ってると思います」
ペコ「はい」
みほ「でも私はこの大洗で、黒森峰について喋ったことはそんなにありません」
ペコ「そうなんですか?」
みほ「私は黒森峰で副隊長でした。だからあの学校のことをほとんど全て把握してました」
ペコ「それは、装備、設備、練習内容…」
みほ「選手たちの顔ぶれ、その能力や癖、長所や短所……戦力に関するほとんど全てです」
ペコ「でもここへは、そういう情報を伝えなかった…?」
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会長「だって、さ」
ペコ「はい」
会長「私らは西住ちゃんにそんな情報や知識を話してもらっても、なーんも分からないからねえ」
小山「戦車道について全くの素人なんだもの、私たちは」
会長「そーゆーものは西住隊長の、頭の中だけにあればいいんだよ」
小山「もしそれを使う機会があっても、隊長だけが役立ててくれればいいの」
河嶋「我々にその情報や知識が必要な場合だけ、西住がそれらを伝える。これで十分だ」
ペコ「……」
みほ「だからペコさんも、それと同じでいいと思います」
ペコ「はい」
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みほ「私たちも、聖グロリアーナのことを詳しく教えて?なんて言いません」
ペコ「……」
みほ「もちろん普段お喋りしてる中で、学校の様子を訊いたりするかもしれませんけど」
ペコ「はい。そういうときに話せばいいだけですね」
みほ「そして、ペコさんが自分から何か喋ることも、私たちにとって構いません」
ペコ「はい。わたくしは普通にしていればいいんですね」
みほ「普通の転校生。普通のお喋り。ペコさんにはここで、普通に過ごしてほしいと思います」
ペコ「分かりました、西住隊長」
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会長「いやーそれにしてもさ、ペコちゃん」
ペコ「何でしょう」
会長「1年生なのにしっかりしてるねえ。何を言われても落ち着いて、堂々としてて」
小山「上級生4人に囲まれてるのに」
河嶋「今の状況は、我々によるお前への査問だったな」
ペコ「わたくしはただ、先輩の皆さんへ失礼のないようにお話をしていただけです」
会長「えーと、確か……ペコちゃんは西住ちゃんと違って、元副隊長じゃなかったよね?」
ペコ「違います。そう間違われることが何度もありましたけど」
河嶋「それは、常にあの隊長のそばにいたからか」
小山「ダージリンさんね。すごい美人で、高校生戦車道界の有名人」
ペコ「いつもあのかたへ付き従っていました。でもわたくしはただの、隊長車の装填手でした」
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会長「西住ちゃん。1年生が隊長車に乗ってたってことは…」
みほ「はい。ダージリンさんはペコさんを、未来の幹部候補って考えたんだと思います」
小山「優秀な下級生だからそばに置いておきたいのね」
会長「こんなにしっかりした子だもんね。将来有望って思ったんだね」
みほ「自分がやってる指揮とかを早くから見せておこうと考えたんでしょう」
ペコ「いえ。それはおそらく、違う理由ではないかと…」
小山「違う理由?」
ペコ「わたくししか、ダージリン様の相手をする人がいなかったからでは……」
会長「ん? 何それ?」
小山「どういうこと?」
みほ「ペコさん、それって…」
ペコ「西住隊長は御存じですか」
みほ「うん……。噂だけど」
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会長「噂?」
小山「どんな噂?」
みほ「ダージリンさんは格言とか諺とか、昔の偉い人が言った名セリフとかが大好きで…」
河嶋「ふむ」
みほ「人と話す時にそういうのをいちいち言ってくる、っていう噂です」
会長「……何だかよく分からない話だね」
小山「いちいち格言とかを喋る、って……話す時の癖? でもそんな癖って…」
会長「でもその噂と、ペコちゃんしか話し相手がいないことと、どーゆー関係があんの?」
ペコ「誰もが最初は、ダージリン様がお話しする格言や名言を感心して聞いているんです」
会長「うん」
ペコ「でも、あまりに回数が多いので…」
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小山「なるほど。だんだんウンザリしてきちゃうのね」
河嶋「格言や名言についての知識をひけらかしたいだけ、と思われても仕方ないな」
ペコ「陰でこう言われているのを聞きました」
小山「どういうふうに?」
ペコ「“きっとあのかたは、格言を5分に1回喋らなくてはならない御病気なのよ”って」
会長「ひどい言われようだね」
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ペコ「そのうちにほとんどの人が必要なこと以外、会話しなくなって…」
小山「ひょっとして、ダージリンさんって嫌われてるの?」
ペコ「そんなことはありません。全員の絶対的な信頼を集めています」
会長「でもまあ“尊敬される”ってのと“好かれる”ってのは違うから」
河嶋「で、そのうちお前だけが話し相手になってしまった、と」
会長「きっとすごいドヤ顔で格言を連発するんだろうね」
河嶋「いちいちしたり顔でもっとらしいことを言われれば、誰でも鬱陶しく感じるのは当然です」
小山「でもペコちゃんはこんなにしっかりしてて落ち着いてる子だから」
会長「そーゆー話し方を何とも思わないんだろうね」
河嶋「だからあの隊長へいつも付き従っている、ということになったのでしょう」
ペコ「それは、少し違って……。むしろわたくしは、そうできるのはすごいと思っているんです」
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会長「すごい?」
ペコ「あのかたは、当意即妙、場や状況に応じた格言をすぐ披露できるんです」
河嶋「ふむ。それはおそらく、頭の中に格言や名言の膨大なストックがあって…」
会長「適切なものを瞬時に探し出して口にできるんだね」
ペコ「わたくしは是非、ああいうことができるようになりたいと思っているんです」
小山「きっとダージリンさんはすごく博識で、頭の回転が速いのね」
ペコ「わたくしはそれに憧れています。でもまだまだ、場にふさわしい言葉を探すのが苦手で…」
小山「でも、それは確かにすごいことかもしれないけど…」
会長「連発されるのはちょっとねえ」
小山「まあ、一つの特技ではありますけど……特技っていうのかな、こういうの」
河嶋「かなり特殊な能力、というか趣味だな」
みほ「あ。そういえば」
河嶋「どうした、西住?」
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みほ「ペコさん。今、“場にふさわしい言葉を探すのが苦手”って言ったけど…」
ペコ「はい。それが何か?」
みほ「全国大会が終わった後の、私たちの優勝祝賀会」
小山「優勝祝賀会?」
河嶋「ホテルの宴会場を借りて行なった、あれか。各チームが隠し芸を披露した」
会長「それがどうかした?」
みほ「ペコさん、祝電をくれたよね」
ペコ「ああっ!? 西住隊長っ///」
会長「どしたの? 急に赤くなって」
ペコ「それを言わないでくださいっ///」
河嶋「ああ、思い出した。隊長の代理でお前が祝電を送ってきたんだったな」
小山「私も思い出した。だってそれをみんなに向かって読んだのは私だったもの」
ペコ「皆さん、お願いですから思い出さないでくださいっ///」
会長「だから、どーして赤くなったりすんのさ」
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みほ「生徒会の皆さん、あの祝電の内容を憶えてます?」
会長「どんなのだっけ?」
河嶋「西住は憶えているのか?」
みほ「はい、確かこうでした。“おめでとうございます。わたくしからはこの言葉を贈ります”」
ペコ「ああっ言わないでっ///」
みほ「“夫婦とは互いに見つめ合うものではなく、一つの星を見つめ合うものである”」
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会長「あー……確かにそんなのだったねえ」
小山「私、読みながら“あれ? 何か違う祝電が紛れ込んじゃってる?”と思いました」
河嶋「贈る言葉を完全に間違ってるな」
ペコ「皆さんやめくださいっ///」
会長「これは、誰がどう考えても…」
小山「結婚披露宴のスピーチなどで使われる言葉です」
河嶋「優勝祝賀会の祝電なのに、だ」
ペコ「皆さんもう許してくださいっ///」
みほ「“場にふさわしい言葉を探すのが苦手”って言ってたのは…」
会長「こーゆーことなんだね」
小山「でもこれって、苦手どころじゃありませんね」
河嶋「明らかな誤りだ。どうしてこうなった」
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ペコ「……そっ、それなら今っ」
みほ「え?」
ペコ「こ、ここでっ」
会長「何?」
ペコ「この場にふさわしい格言を披露してみせますっ」
会長「ほう?」
小山「どんなの?」
河嶋「言ってみろ。聞いてやってもいいぞ」
ペコ「じゃあ言いますっ。“涙を流すことを恥と思う必要はない”っ」(チャールズ・ディケンズ)
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会長「……何だい、それ?」
小山「それが、この場にふさわしい格言?」
会長「この場ってゆーよりも、この場で言ってる本人にふさわしい言葉なんじゃない?」
河嶋「こいつは今恥ずかしくて涙を流している、ということですね」
小山「でもそれを恥と思う必要はない、って自分に言い聞かせてるのか」
会長「ペコちゃん自身にこそふさわしい言葉だよねえ」
ペコ「ああっ///」
みほ「ペコさん、またやっちゃったね……」
ペコ「じゃ、じゃあ次っ」
河嶋「何だ、続けるのか?」
ペコ「“自分が最も賢いと思っている人間は大抵、大馬鹿である”っ」(チャールズ・カレブ・コルトン)
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小山「……どういう意味だろ。今度はこの場にいる私たちのことでも言ってるの?」
会長「私らへの皮肉のつもりなんだろか」
河嶋「会長。これが当てはまるのは我々ではなく、むしろ…」
会長「あ、そーだな河嶋。これってドヤ顔で格言を連発する…」
河嶋「どこかの学校の隊長のことでしょう」
小山「そうか。本当はペコちゃん、その人のことをこう考えてたのね」
ペコ「なっ何てことをっ。ちっ違いますっ」
小山「顔を真っ赤にしてムキになっちゃって、可愛いわね。ふふふ」
ペコ「こっこんな時に可愛いなんて言われても嬉しくありませんっ。じゃあ次です次っ」
会長「意外と負けず嫌いだねえ。勝負は勝つまでやるタイプか」
みほ「でもこのくらい芯が強くないと、未来の幹部候補にはならないと思います」
会長「それもそーだね」
ペコ「“勇気がなければ、ほかの全ての資質は意味をなさない”っ」(ウィンストン・チャーチル)
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会長「……これも、言ってる本人にふさわしい言葉なんじゃない?」
小山「そうですね。勇気がなければ…」
河嶋「的外れな格言を立て続けに言うことなどできない」
小山「確かに、資質以前に勇気が必要ね」
河嶋「その資質を持っている可能性は、極めて僅かのようだけどな」
ペコ「うぅ……」
会長「そのとおりだねえ。だって、さっきから何だかさ…」
ペコ「はい?」
会長「どっかで聞いたことのある格言ばっかりなんだよねえ」
ペコ「えっ」
小山「私もそう思いました。誰かから聞いたものばかりのような……」
ペコ「ええっ?」
-
河嶋「その“誰か”とは、聖グロリアーナの隊長だな」
会長「間違いないねえ」
小山「今ペコちゃんが言ったのは全部、ダージリンさんが以前口にした格言」
河嶋「こいつはその受け売りをしているだけだ」
ペコ「なっ何ですかっ!? どうして皆さん、それが分かるんですかっ!?」
会長「ありゃ? 本当だったの?」
小山「適当に言っただけだったのに」
河嶋「やはり推測が当たったか」
ペコ「ああっ!? ひっひどいっ! 皆さん今、わたくしを罠にかけたんですねっ!?」
会長「“罠”? 人聞きの悪いことを言うねえ」
小山「確かにほんの少し、嘘をついちゃったかもしれないけど」
会長「あの隊長がどこでどんな格言を口にしてたか、私らが知ってるわけないじゃん」
小山「ちょっと考えればすぐ分かるはずなのに、その“罠”へこんな簡単にかかるのって……」
河嶋「おい西住。こいつは本当に聖グロリアーナの、将来の幹部候補なのか?」
みほ「……」
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会長「でもこーしてみるとさ、あの隊長が格言を鬱陶しいくらいに連発できるのは…」
小山「やはり一種の優れた資質、才能なんでしょう」
河嶋「当意即妙な格言を即座に言えるんだからな」
会長「でも鬱陶しいことに変わりはないけどね。どんどん話し相手がいなくなっちゃったらしいし」
小山「何だかもう……こう言っては悪いですけど、すごくどうでもいいですね」
河嶋「所詮、他人の趣味だ」
みほ「じゃあお話も終わりましたし、そろそろ…」
会長「そだね。帰ろっか」
ペコ「えっ」
河嶋「柚子、我々の今日の仕事は?」
小山「もうお終い。この話合いが最後よ」
会長「じゃ戸締りしよう」
みほ「分かりました。じゃあ帰り仕度を…」
ペコ「みっ皆さんもう帰っちゃうんですかっ!? まだこの場にふさわしい格言が…!」
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河嶋「まだ続ける気か? いい加減にしろ」
会長「もうさっきのでいーじゃん」
小山「少なくとも、この場にいるペコちゃんにはふさわしい格言があったんだから」
ペコ「ま、まだですっ。もっとこの場にふさわしい格言を披露してみせますっ」
みほ「ペコさん、もう夕方だから…」
ペコ「そして皆さんを感心させてみせますっ」
会長「しょーがないねえ」
小山「それなら、あと一つだけね」
ペコ「はいっ。じゃあ言いますっ」
河嶋「聞いてやるから早くしろ」
ペコ「“終わり良ければ全て良し”っ」
-
会長・小山・河嶋・みほ「「「「……」」」」」
ペコ「どっどうですかっ。全員、感心して言葉も出ないでしょうっ」ドヤァ
会長「じゃあ帰ろっか」
ペコ「えっ」
小山「そうですね。帰りましょう」
河嶋「西住、キッチンを確認しろ」
みほ「はい。ガスの元栓とかですね」
ペコ「ど、どうして皆さん、そんなに無反応なんですかっ?」
会長「もういいじゃない」
小山「“終わり”みたいだから」
河嶋「“終わり”が“良”かったのかどうか、知ったことではないが」
みほ「でも本人が“良”かったのなら“全て良し”なんでしょう」
ペコ「ああっ。皆さんで勝手にまとめないでくださいっ」
-
会長「何言ってんのさ。今、この場をまとめたのはペコちゃんなのに」
みほ「最後にやっとふさわしい格言が出たってことで」
小山「最後にやっと、ね。でも最後って状況なんだから…」
河嶋「この言葉しかない。誰でも言えるな」
ペコ「ああっ。全員でそんな突き放したみたいなこと言わないでっ」
会長「そっちの戸締り見てくれる? ……この言葉、実はシェイクスピアだって知ってた?」
みほ「こっちは大丈夫です。……あ、そうなんですか? 格言とかじゃないとばかり思ってました」
小山「電灯を消します。……知らない人がいないくらい有名な言葉だものね。実は戯曲の題名なの」
河嶋「では会長、鍵をかけてください。……題名だけがやたらと有名な戯曲だな」
ペコ「ああっ。皆さん置いていかないでっ」
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ほほう
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>>1です。
1か所、訂正があります。
>>30
河嶋「いちいちしたり顔でもっとらしいことを言われれば、誰でも鬱陶しく感じるのは当然です」
を、
河嶋「いちいちしたり顔でもっともらしいことを言われれば、誰でも鬱陶しく感じるのは当然です」
に訂正します。
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未完ですが、完結させるのが不可能なので切りのいい箇所までを投下しました。
劇場版の公開が近いですし、枯れ木も山の賑わいということで。
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最後に、これを読んでくださった数少ないかたがたにお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
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