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ミケ「ああ、ずっと先で待っている」
-
ハンジ「お誕生日おめでとーう!! エルヴィン!」バターンッ!
エルヴィン「……少し早いがありがとう、ハンジ」
リヴァイ「ノックぐらいしろ、クソメガネ」
ミケ「すまん、エルヴィン。ノックして開けろとは言ったんだが」
エルヴィン「いいさ。みんなお揃いでどうした?」
ハンジ「誕生日だってのにみっちり仕事を入れてる仕事中毒に休暇のプレゼントだよ」
エルヴィン「誕生日は明日だが?」
ミケ「明日が休暇だ。明日は書類だけだろう? しかも俺達が代行できる物のはずだ」
"
"
-
エルヴィン「しかし休暇届けなど出していないしな……」
リヴァイ「ミケが手配している」
ミケ「ふふん」スンッ
エルヴィン「いつからお前は俺の秘書になったんだ、ミケ」
ミケ「今回限りな」
ハンジ「そんなわけだから明日はお休みだよ。間違っても執務室に来ないようにね」
エルヴィン「ハンジに言われるとはな」
ハンジ「ぬ」
リヴァイ「お前なら間違いなく研究室に来るな」
ハンジ「残念! 休みの日は資料室だね!」
ミケ「結局休んでないな」
ハンジ「うるさい男共だ。エルヴィン、今日はそこそこに切り上げるんだよ?」
-
リヴァイ「そのまま普段のお前にぶつけたい言葉だな」
ミケ「さもありなん」
エルヴィン「徹夜も程々にな、ハンジ」
ハンジ「エルヴィンに言ってるのになんで私に返ってくるのさ!!」
リヴァイ「自分の胸に手をあててクソ程考えろ」
ミケ「ゆっくり休めハンジ」
エルヴィン「身体を労ってやれ」
ハンジ「わかったわかった!! 私の事はもういいから! とにかく明日は休みだからね、エルヴィン!」
エルヴィン「ははは、わかったよ。ありがとう、みんな」
ハンジ「どういたしましてー」
リヴァイ「……」
ミケ「ふっ」
――そうして俺は半ば強制的に休みを取らされることとなった。
プレゼントが物ではなく時間だとは思いもしなかったな。
-
――次の日――
エルヴィン「……やってるか?」ヒョイッ
ハンジ「あっ! エルヴィン!!」
ミケ「来るなと言っていただろう」
リヴァイ「お前はハンジか」
ハンジ「リヴァイ、うるさい」
エルヴィン「いや、なんとなく手持ち無沙汰でな……」
ミケ「本格的に仕事人間だな」
リヴァイ「趣味もねぇのか」
ハンジ「リヴァイに言われたくないでしょう」
-
リヴァイ「俺はあるぞ」
ミケ「なんだ?」
リヴァイ「紅茶と掃除」
ミケ「掃除趣味なのか」
ハンジ「エルヴィン、リヴァイ以下だよ、大丈夫?」
リヴァイ「お前には言われたくねぇだろうよ。巨人が趣味なくせに」
ハンジ「そういや最近街に新しくお菓子屋さんが出来たらしいよ。行ってみたら? エルヴィン脳使うし栄養補給にさ」
リヴァイ「……」
エルヴィン「街、な」
ミケ「兵団内に留まれば仕事をしだしそうだしな。それがいいんじゃないか?」
ハンジ「さぁさぁさぁ! 行った行った!」グイグイ
"
"
-
エルヴィン「おいおい」
ミケ「じゃあな、エルヴィン」
ハンジ「あ、夜は飲むよ。だから戻ってきてね。ミケが良いお酒用意してるってさ。じゃあねー」
パタンッ
ハンジ「全く、仕事人間はこれだから」
リヴァイ「だからお前には言われたくないだろうな」
ミケ「困った連中だな」
ハンジ「私は研究や巨人の話以外で徹夜なんかしてないからね。兵士なんだからちゃんと休んでるよ」
リヴァイ「風呂は?」
ハンジ「は、入ってるよ……たまに」ギクッ
-
ミケ「頭は洗っているのか?」
ハンジ「……髪って乾くのに時間がかかるよね」
リヴァイミケ「「洗え」」
ハンジ「なんだよ、二人して!」
リヴァイ「汚いのは迷惑だ」
ミケ「俺は鼻がいいんでな」
ハンジ「ぐぬっ」
ミケ「さ、始めるか」
リヴァイ「そうだな」
ハンジ「くそぅ」
-
―――
――
―
――街――
エルヴィン「追い出されて出てきたのはいいものの、何をするか……」
ガヤガヤガヤ……
エルヴィン「あの辺りが賑やかだな」
エルヴィン「お菓子屋か……最近出来たとか言っていたな。行ってみるか」
-
ワイワイガヤガヤ……
エルヴィン「まぁ、予想通りだが並んでいるな」
エルヴィン「……たまにはいいか。みんなに買って帰ろう」
「楽しみだね」
「美味しいって評判だよ」
エルヴィン「……」
エルヴィン(こうしているととても平和に見えるな)
エルヴィン(いや、壁の中はそれなりに平和なのか……)
-
――『いやだぁぁ!! やめろぉぉ!!』
――『早く、逃げ……っ!!』
――『このくそ巨人がぁぁ!!』
エルヴィン「……」
店員「お待たせしました! いくつですか?」
エルヴィン「! ああ、四つ……いや、六つくれ」
店員「かしこまりました!」
エルヴィン(……花屋にも寄るか)
-
―――
――
―
――兵団共同墓地――
エルヴィン「……」
エルヴィン「……俺は君達のお陰でまだ生きている」
エルヴィン「今、ここに立ち、年をひとつ取れたのも君達のお陰だ」
エルヴィン「……」
エルヴィン「……調査兵団は変わらずだがまだ存続できている」
エルヴィン「あなた達が死を賭して行ってきたことを決して……無駄には……」
エルヴィン「……」
エルヴィン「花と……二袋では足りないかも知れないが差し入れだ」トサッ
エルヴィン「また、来るよ」
サワサワサワ……
-
―――
――
―
――エルヴィン執務室――
エルヴィン「進んでいるか?」ガチャッ
ハンジ「ちょっ、エルヴィン早くない? まだ昼過ぎだよ」
エルヴィン「なんだかすることが無くてな」
リヴァイ「重症だな」
ミケ「街には行かなかったのか?」
エルヴィン「行ったよ。お菓子屋とやらにも行ってきた。休憩しないか?」スッ
-
ハンジ「おぉ!! マジで!?」
エルヴィン「みんなに買ってきた。リヴァイ、紅茶を淹れてくれないか? 棚に高級茶葉がある」
リヴァイ「了解した」
ミケ「お菓子を買っただけか? ただのおつかいになってるぞ」
ハンジ「どこにも行かなかったのかい?」
エルヴィン「ああ……共同墓地に行ってきた」
ハンジ「……」
ミケ「……そうか」
リヴァイ「誕生日に物好きだな」カチャッ
ハンジ「お、早いね」スッ
-
リヴァイ「触るな。まだ蒸らしてる最中だ」
ハンジ「はーい」
エルヴィン「まあ、このお菓子を差し入れにな」
ミケ「よく口にできる物でもないから喜んでいるかもな」
リヴァイ「……」
エルヴィン「だといいが」
リヴァイ「……できたぞ」カチャッ
ハンジ「いっただきまーす! あ、美味い! 紅茶も美味い、さすがリヴァイ」
リヴァイ「溢すなよ」
ミケ「良い香りだな。お菓子も美味しい」スンッ
-
エルヴィン「紅茶はリヴァイに淹れてもらうに限るな」
リヴァイ「……」ズズズズ
ハンジ「ついでだから乾杯でもしとく? エルヴィンおめでとう乾杯」
ミケ「紅茶でか」
リヴァイ「夜飲むんだろ?」
ハンジ「それはそれだよ。一足先に祝っちゃおうぜ」
ミケ「全く」
ハンジ「それじゃみんな口つけちゃったけどカンパーイ!」カチャンッ!
ハンジ「――ってあっつぅ!!」
-
リヴァイ「馬鹿が、勢いつけすぎだ。割れるだろうが」
ハンジ「心配そっち!? 火傷を心配してよ!」
リヴァイ「お前は奇行種だからすぐ治る」
ハンジ「治らねぇよ!」
ミケ「いや、わからんぞ」
ハンジ「ミケまでこのやろう!」
エルヴィン「ははっ」
ハンジ「! エルヴィンまで笑いやがって! もう!!」
エルヴィン「ふふっ……」
――なんだかんだと長い付き合いで仲良くやっているようだ。
思わず綻んでしまった。
-
―――
――
―
――壁外――
ミケ「エルヴィン、まずそうだ……巨人が何体か近づいて来ている」スンッスンッ
リヴァイ「……雨も降りそうだ」
エルヴィン「……そうか……撤退だな」
ミケ「!! あれは……かなり遠いが黒い煙弾」
リヴァイ「!!」
「団長!!」
エルヴィン「どうした」
-
「右翼側より奇行種が二体。通常種が五体。一班は全滅。今、二班が応戦中です!」
ミケ「なっ!? 多すぎる……」
リヴァイ「……」
エルヴィン「……」ガチャッ
「! 団長……?」
エルヴィン「……」パシュッ! シュウゥゥ!!
「!? 煙……弾……撤退の……?」
エルヴィン「総員撤退だ。壁内へ戻る」
「団長!? 二班への応援は!?」
エルヴィン「……撤退だ」
「団――っ!!」
リヴァイ「エルヴィン」
-
エルヴィン「なんだ」
リヴァイ「……」ジッ
エルヴィン「……」
「……」ゴクリッ
リヴァイ「……」
エルヴィン「……すぐ戻れ」
リヴァイ「了解した」
「!! 兵長、ご案内します!!」
リヴァイ「途中までだ。お前は戻れ」
「ですが!」
リヴァイ「命令だ」
「……はい」
-
リヴァイ「馬で向かう、行くぞ」
「はっ!!」
エルヴィン「……」
ミケ「良かったのか?」
エルヴィン「二班が引き付けてくれていれば我々は逃げられるだろうな」
ミケ「……」
エルヴィン「リヴァイは無茶をしないだろう」
ミケ「そうだな」
エルヴィン「リヴァイには嫌な役を押し付けてしまったな」
ミケ「エルヴィン、あいつが選んだ。わかっているだろう?」
エルヴィン「ああ、わかっている。行こう、ミケ」
ミケ「……ああ」
-
―――
――
―
リヴァイ「エルヴィン」
エルヴィン「戻ったか」
リヴァイ「報告より更に数体増えていた。……二班は全滅だ」
エルヴィン「わかった。巨人共は?」
リヴァイ「少し離れた場所から樹に隠れて確認した所為か気づかれなかった。こちらには来ていない」
エルヴィン「そうか……よく踏みとどまったな。今のうちに戻るぞ」
リヴァイ「……ああ」
ミケ「……」
-
―――
――
―
――エルヴィン執務室――
エルヴィン「……」
コンコンッ
エルヴィン「入れ」
ガチャッ
ハンジ「やっほー! エルヴィン!」
エルヴィン「ハンジ。それにミケ、リヴァイもどうした?」
-
ミケ「こんな夜中まで仕事か」
エルヴィン「壁外調査後だからな」
リヴァイ「無駄に徹夜しないだけましだがな」
ハンジ「エルヴィン、今日は何の日?」
エルヴィン「今日?」
リヴァイ「忘れてやがるぞ」
ミケ「仕事のし過ぎだな」
ハンジ「もう、あなたの誕生日じゃないか!」
エルヴィン「誕生日……」
ハンジ「ほら、ワイン。ミケが手に入れたんだ。飲もうよ」
エルヴィン「……しかし」
ミケ「今日は終わりだ」
-
リヴァイ「ほら、つまみだ」トサッ
エルヴィン「!」
ハンジ「お、あのお菓子じゃん」
リヴァイ「みんな美味いと言っていたからな。人も並んでいなかった」
ハンジ「いいね! 私これ好きだよ!」
リヴァイ「お前が先に手を付けるんじゃねぇよ」
ミケ「落ち着け、ハンジ。まだ乾杯もしてないだろう?」
エルヴィン「乾杯、か」
ミケ「……」
ハンジ「……じゃあ毎日が誰かの誕生日だし、これはどっかの誰かさんのお祝いの乾杯だ!」
エルヴィン「!」
リヴァイ「……いいんじゃないか?」
-
ミケ「そうだな、それでどうだ? “どっかの誰かさん”?」
エルヴィン「ああ、それでいいよ」フッ
ハンジ「エルヴィンはこのグラスね」
エルヴィン「これは……」
ハンジ「プレゼント。ではー、カンパーイ!」
カシャンッ
ハンジ「わ、これ美味しいね!」
リヴァイ「ああ、美味い」
エルヴィン「うむ、確かに」
ミケ「ふふん」
ハンジ「ミケ、すげぇ得意気だね」トポトポ
リヴァイ「わからんでもない。貸せ」トポトポ
ミケ「お前ら、少しは遠慮しろ。エルヴィンに買ってきたんだぞ」
-
ハンジ「みんなで飲んだ方が美味しいよ」グビグビ
リヴァイ「無くなる前に早く飲め」グビッ
ミケ「お前ら……」
エルヴィン「ははは。俺ももう少し飲みたいから注いでくれるか?」スッ
リヴァイ「チッ、仕方ねぇな」トポトポ
ハンジ「おぉ、人類最強様からのお酌だよ!」
リヴァイ「うるせぇ」
ミケ「我が物顔だな」ハァー
エルヴィン「……」フッ
――この、何度目かになる密かな飲み会で柄にもなく思ってしまった事があった。
またこうして四人でこの日に飲めたら、と。
リヴァイとハンジと……ミケと、四人で。そう、四人で。
-
――――
―――
――
―
――コンコンッ
エルヴィン「……入れ」バサッ
ガチャッ
エルヴィン「どうした? ついさっき帰ったばかりじゃないか、リヴァイ」
リヴァイ「……腕無くしたばっかで書類まみれか」
エルヴィン「お前やハンジ、コニー、ピクシス司令から聞いたさっきの報告以外にもあるからな。
それに先の事も考えねばならん。情報は大事だ」
リヴァイ「忙しねぇな」
-
エルヴィン「言っただろう? 寝飽きた」
リヴァイ「そうだったな」
エルヴィン「何か用か? ただ見舞いに来たというわけでもないだろう?」
リヴァイ「ああ、ちょっとした報告だ」
エルヴィン「まだあったか」パサッ
リヴァイ「……ミケだが」
エルヴィン「……」
リヴァイ「ミケが残ったといわれる104期を閉じ込めていた施設はボロボロになっていて馬が死んでいた」
エルヴィン「……」
リヴァイ「その近くに血の痕が……恐らく大量の。それから服の一部と肉片があった」
エルヴィン「そうか」
-
リヴァイ「……」
エルヴィン「報告はそれだけか? 何故さっき言わなかった」
リヴァイ「これだ」ゴトッ
エルヴィン「酒?」
リヴァイ「あの場だとじいさんに持っていかれるかもしれなかったからな」
エルヴィン「俺はまだ飲めないぞ」
リヴァイ「ミケからだ」
エルヴィン「――――」
リヴァイ「今年分をストックしてやがったみたいでな。ご丁寧に“エルヴィン用”と書いてあった」
エルヴィン「……」
リヴァイ「治ってからひとりで飲め」
-
エルヴィン「それは……随分寂しいな」
リヴァイ「暇があるなら付き合うがな。どうもそんな暇はしばらく無さそうだ」
エルヴィン「……今は飲んだくれるわけにはいかないからな」
リヴァイ「違いない」
エルヴィン「暇ができたら付き合え」
リヴァイ「……ハンジにも言っておこう」
エルヴィン「はっ、全部飲まれそうだ」
リヴァイ「止める……俺がな」
エルヴィン「……そうか」
リヴァイ「もう行く。ガキ共がおとなしく留守番しているか見に行かねぇと」
エルヴィン「リヴァイ」
-
リヴァイ「あ?」
エルヴィン「ありがとう」
リヴァイ「…………じゃあな」
パタンッ
エルヴィン「……」
エルヴィン「…………」
エルヴィン「…………………………ミケ」
――どうやら四人で飲むのはまだまだ先になりそうだ。
逝く場所は違うかもしれないが逝く道の、別たれるその前に一杯くらいはいいだろう?
一人にして悪いがそれまで待っていてくれ、ミケ。
終
-
ラストがスレタイに続くのか、切ないな
乙
"
"
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