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黒鉄「長門烈……?」烈「桜一刀流?」
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集英社の剣道漫画『クロガネ』
小学館の剣道漫画『しっぷうどとう』
講談社の剣道漫画『放課後ソードクラブ』
3作品を混ぜこんだSSです。
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桜花高校剣道部
隠居「うし、締めに切り返しをして、今日の稽古はしまいだ!」
懸かり稽古を体力の限界まで繰り返し、這々の体であったが、皆、隠居先生の声に、反射的に背筋を伸ばし、「はいッ!」と腹の底から声を絞る。
インターハイから三ヶ月。
神谷さんや朝霧さんが抜けた後、三年生が抜けた道場は広く思えたが、しかし、人数は減っても、桜花高校剣道部の稽古に入れ込む熱は夏と比べても遜色ない。
むしろ、近頃の稽古は、夏以上に気合いが入っているように感じられた。
最初は頼もしかった三年生が抜けてしまったという不安を払拭するために、がむしゃらに稽古に励んでいた。最近は、抜けた三年生に追いつけ追い抜けで、前向きに剣を振るえていると思う。
三年生がいなくなって初めての稽古日、シドウは相変わらず涼しい顔をしていたけれど、アオハルは人の少なくなった道場を感慨深げに見ていたのを今でも覚えている。
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アオハルは粗野に見えるけれど、あれで情に厚いところがあるから、意外なことではなかった。だけど、アオハルは照れくさいのか、あのときのことを指摘されるたびに怒ってみせる。
何はともあれ、新生剣道部は順調と言えた。
さゆり「どうしたヒロト、ぼーっとして。どこか痛めたか?」
つばめ「え、黒鉄くん、大丈夫!?」
稽古後、少しぼんやりとしながら道場を見ていると、それがいけなかったのか、気遣わしげに道場の端からつばめさんがすっ飛んで来る。
ヒロト「だ、大丈夫、なんともないよ!」
僕は慌ててそれを押し留めて、だめ押しに細く頼りない腕で力瘤を作ってみせた。
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が。
士道「いや、ヒロトは平気な顔で無茶をすることがあるからな……。本当になんともないか?」
つばめさんの声を聞いて、歩み寄って来たシドウがいかにも神妙そうな顔をして言った。
博人「だから、大丈夫だって! 心配性過ぎる!」
青春「まあ、ヒロトがそーゆーんなら大丈夫だろ。んなことより、帰りにラーメン食って帰ろうぜ?」
防具を片しながらアオハルが提案するのと同時に、それに待ったをかける人物がいた。
なんだなんだと声の方を向くと、隠居先生が「話があるから、まだ帰んな」と道場の外で煙草をふかしながら、空いた手を上下させて、立ち上がろうとするアオハルに「座れ」とジェスチャーを送っていた。
青春「なんだぁ?」
士道「お前が何かやらかしたんじゃないのか?」
青春「あ? なんでそうなんだよ!? だったら、オヤジも俺だけ残すだろーが!」
士道「連帯責任というやつかもしれん。俺やヒロトまで巻き込まないでほしいな。いいから、お前はとりあえず俺に謝れ」
青春「んの野郎、今日こそてめぇをぶっ飛ばしてやる!」
士道「やれるものならやってみろ、脳筋バカ」
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いつものことながら、一触即発、二人の間に剣呑な空気が流れる。
しかし、剣道部員にはすでに馴染みの光景となっていて……。
由利「稽古の後なのに元気だなぁ」
筧「あいつらちったぁ大人しくできないのか。なんだよ、静かにしてたら死ぬ病気なの?」
猿渡「いやいや、厳しい稽古後も一年生が元気なんて頼もしいじゃないか」
などと、二年生が呑気に話をしている。
確かに、体力がない僕とは違って、稽古の後に騒げるシドウとアオハルは格段に頼もしい。
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さゆり「うちの弟子も心だけはタフなんだがなぁ」
博人「いや、心だってそんなに強くないよ」
さゆり「そんなことはねぇよ。毎日部活で四時間稽古して、夢の中でも八時間稽古するなんて、なまなかな精神力でやれるもんじゃない。ヒロトの心は強い」
博人「それは身贔屓が過ぎるよ」
さゆり「いや、客観的な事実だ」
博人「うーん。さゆりが可愛がってくれるのは嬉しいけど、うちの師匠は弟子に甘いところがあるからなぁ。話半分に聞いておくよ。……でも、ありがとう」
さゆり「うん?」
博人「名実ともに、心身ともに強くなって、いつか誰に憚ることなく自慢できる弟子になってみせるよ、師匠」
さゆり「おう、期待してるぜ、バカ弟子」
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ああ、そう言えば、彼女に協力してもらえば事が丸くおさまるじゃないか。
きょとんとした様子のつばめさんに近づくと、今から内緒話をしますよって手を口元に当て、彼女の耳元に向かって話しかける。
つばめ「わひゃあっ!」///
博人「うわわ!」
いきなり話しかけたわけでもなかったはずだけれど、あまりにもつばめさんが驚くものだから、僕もびっくりして思わず飛び上がってしまった。
博人「つ、つばめさん? どうかした?」
つばめ「え、あ、いや……、その、黒鉄くんが耳元で囁いたりするものだから」///
博人「ん?」
つばめ「いや、なんでもないです、大丈夫」
博人「そう? それならいいんだけど……。いや、つばめさんにあの二人の仲裁をしてほしくて。頼めるかな?」
アオハルは、つばめさんの言うことはよく聞く。彼のウィークポイントと言ってもいい。
つばめ「あ、うん、そういうことなら任せて!」
彼女の協力を得られたなら、二人の争いをおさめたも同然だった。
間もなく、アオハルはつばめさんに従って騒ぐのをやめ、シドウもそれに合わせて眉間の皺を伸ばした。
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ミス。
6と7の間、一つとばしてしまいました。
筧さんが博人に、士道と青春の喧嘩をおさめるように言います。
それに困った博人がどうしようかと視線をさまよわせていると、ふとつばめさんと目が合いました。
そこで、ぴんときて……
と、そんな感じの話が入っていましたので補完。
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一件落着したので、つばめさんにお礼を言っていると、一服終えた隠居先生がのしのしと道場に入って来て、僕たちを手招きする。
由利「集合ッ!」
神宮さんの後、新部長となった由利さんが短く号令をかける。
「はいッ!」とそれに従い、部員一同、駆け足で隠居先生のもとに集まった。
隠居「おう、実はおまえらに……、特に一年坊主どもにだが、話したいことがあって集まってもらった」
胴着の合わせの隙間に手を差し入れ、ぼりぼりと鎖骨辺りを掻きながら、隠居先生が気怠そうに言った。
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青春「……またロクでもない話じゃねぇだろうな」
アオハルが怪訝な表情を隠そうともせずに呟いたが、誰もそれを咎めなかったということは、少なからず他の部員も同じ思いでいるのだろう。
隠居「おい、江花ァ……、お前は後で残れ。で、本題だが、来月、神奈川で大会がある。そいつに出ようと思うんだが、団体戦が五人ではなく、先鋒、中堅、大将からなる三人での試合でな」
つばめ「つまり、大会に出られるのは部から三人だけということですか?」
筧「レギュラー三人とか、狭き門じゃねぇか」
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隠居「いや、それがそうでもない。一校から三チームまで出していいという話だから、最大で九人出ることができる」
由利「うちの男子部員は二年生が四人、一年生が三人だから、二チームは作れますね」
隠居「いや、白鳥姉が引退して、女子部員が白鳥妹と鍵宮、蜂水の三人。男女合わせて十人、三チーム作ることができる」
博人「え、男女合わせて?」
隠居「そうだ。珍しいが、男女混合チームでの試合というのもある。まあ、だいたいは男女の力に差がない小学生の試合でよくある形式なんだが。しかし、近年、剣道人口の減少により、男女混合にでもしないと試合に参加できない学校も増えてきてな……。団体戦も五人集まらないところが増えてきているから、ならば三人でやろうというわけだ」
士道「しかし、男女混合ともなるとオーダーを組むのも難しいな」
青春「まあ、どこかの誰かと組まなくてもいいかと思うとせいせいするがな」
士道「それはこちらの台詞だ」
博人「まあまあ、二人とも落ち着いて」
青春「ま、ヒロトとなら組んでもいいぜ! なっ!」
士道「俺もだ。クロガネなら信用できる。……いや、別のチームとして競うのも面白そうだな」
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博人「いや、えっと……」
さゆり「モテモテだな、ヒロト」
博人「茶化さないでよ。やだよ、そんなの」
隠居「おめぇら、なに当たり前にレギュラーになれると思ってんだ。俺の話を聞いてたか? 十人部員がいて、出られるのは九人だと言っている。一人は補欠だ、バカ」
由利「……ですよね」
筧「ここのところ、一年にやられっぱなしだったから、ここらで一発先輩の意地ってやつを見せてやるぜ」
猿渡「三年生が抜けて初めての試合でもあるし、部としても来年のIHに向けていい形でスタートをきっていきたいところだね」
木野子「 」コクコク
アオハル「となると、女子ともレギュラー争いをしなきゃなんねぇってことか? ……つばめさんと争うとか気が進まねぇんだが」
士道「女子だと侮っていると足元を掬われるぞ。身内の欲目なしに言っても、うちの女子は強い」
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博人「それでも、誰が強いとか弱いなんて関係ない。初心者の僕が弱くて、いつだって挑戦者の立場なのは当たり前なんだ。いちいちそんなことで尻込みしていたら前には進めない。……僕は自分にできる力を最大限発揮できるように努めるだけだ」
つばめ「そうだね。相手が男の子であろうと、いつもと違わない。いつだって全力でやってきたんだから、今回も同じように全力で挑むだけだよ」
さゆり(ヒロトの技術、体力はまだ一流には程遠い。……が、あいつは天性の目と決して鋼のごとき心を持っている。人生はまだ長いから焦ってあれこれと詰め込む必要はないが、師としてはここらで実践経験を積ませたいところ。ここはヒロトのレギュラー獲得のために一肌脱いでやるか。さしあたっては、今夜の稽古を実践向けにシフトさせるかな)
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隠居「これから一週間、お前らの稽古を見てレギュラーを決める。……と、来週末の練習試合の成績を考慮に入れた決定になる」
博人「練習試合?」
青春「練習試合ってーと、また白零か?」
隠居「いや、違う」
青春「じゃあ、練兵とか」
隠居「ちげぇよ。相手は神奈川の佐倉神城っつー高校だ」
博人「神奈川ですか? すると、東京から神奈川まで遠征に行くということでしょうか?」
隠居「いや、向こうさんから持ちかけてきた話だから、わざわざ東京まで来てくれるらしい」
つばめ「でも、こう言ってはなんですが、なぜわざわざうちなんかと?」
青春「あっちの監督とオヤジが知り合いとか」
隠居「まあ、あちらの監督さんは女子剣道界ではかなり有名な方だから名前は知っているが、直接の面識はねぇな。どうもあちらさんの方に事情があるようでな」
つばめ「事情、ですか?」
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隠居「おう。なんでもこの夏で三年が抜けて、部員が三人になっちまったらしい。うち一人は試合中の事故で怪我をして、選手生命を断たれたそうだから、試合に出ることができる部員という意味では実質二人。そして、その二人の内訳が、男子一人、女子一人だ。稽古といえば、専ら二人で打ち合うばかりらしい」
士道「なるほど、練習試合をしたくなる気持ちも分かる。たしかに二人で稽古というのも限界があるだろう」
青春「しかし、相手が欲しいだけなら、県内の高校を適当に当たればいいじゃねーか。なんでわざわざ東京まで?」
隠居「さぁな。そこら辺は聞いちゃいねぇが、おそらく県内の高校はIHの予選で当たるところだから、手の内は見せたくねぇんじゃねぇか?」
青春「なるほど」
隠居「ま、なんにせよ、向こうさんの状況に同情しちまったもんだから、練習試合を受けたわけだ。それに、こちらとしても得られるもんはあるだろうしな」
顎髭を撫でながら、隠居先生が不適に口元を緩める。
意味深な言葉に興味を惹かれる。
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つばめ「得られるものですか?」
僕の意を汲んだわけではないだろうけれど、同じく隠居先生の言葉に興味を惹かれたらしい。
つばめさんが隠居先生に問うた。
隠居「あちらの監督さんが自信満々に言い切ったんだ。この練習試合を受けて絶対に後悔はさせませんってな。口元は笑っちゃいたが、ほとんど挑みかかるような雰囲気で言われちゃあ、これは期待せざるを得ないだろ。それにあちらの監督さんは女子剣道界において注目の新進気鋭の選手でもある、その彼女が言い切るんだから相当なものに違いない」
青春「ま、どんな相手だろうと俺様の敵じゃねぇな。ちゃっちゃと実力を示して、レギュラーになって、つばめさんに俺の勇姿を……!」
博人「なんだか週末が待ち遠しいですね」
士道「……週末が待ち遠しい、か」
くすり、と士道の口元に控えめな笑みが滲む。
博人「あ、えっと、僕、何かおかしなことを言ったかな?」
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士道「いや、クロガネらしいと思ってな。俺もだ。俺も週末が待ち遠しいよ」
博人「うん。頑張ろうね、シドウ!」
士道「ああ」
隠居「と、そんなわけで、話はこれでしめぇだ。明日からは一層気合いを入れて稽古に励むように。以上、解散。散れ」
隠居先生が、これで一区切りと手を打つので、「ありがとうございましたッ!」と一同頭を下げて解散となった。
青春「よっしゃ、ヒロトー、ラーメン行こうぜ!」
博人「うん。シドウも行こ?」
士道「ああ」
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洗濯をするために持って帰る胴着と袴、それから帰ってから素振りをするために竹刀袋を担いで、アオハルの後を追いかける。
シドウの他にもつばめさんが視界に入ったけれど、女の子をラーメン屋に誘うのも躊躇われたので、別れの挨拶だけして道場をあとにした。
さゆり「たんと食べて鋭気を養えよ、ヒロト。今夜は寝かさねぇぞ」
声をかけずとも、後ろをとことこと着いてくるさゆりが不敵に笑う。
博人「その台詞、夢の中のさゆりに言われたかったかな。二頭身のドラえもん体型に言われてもなぁ……」
しかし、いつものこととは言え、さゆりが稽古をつけてくれるのは有り難い。いつものことだからこそ、尚更有り難いのだとも思う。
僕が彼女の厚意に報いる手段は剣をおいて他にないだろう。
担いでいた竹刀袋の持ち手をぐっと握り締める。
一番は僕のために。
僕が楽しくて続けている剣道だけれど、しかし、いつか僕の頑張りで何かさゆりに恩返しできればと思った。
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佐倉神城高校剣道部
稽古が終わり、防具を片してしまうと、あとは道場に雑巾をかけて解散となる。
それが通例なのだが、その後、稀に三田監督から召集がかかることがある。
そして、まさに今日の稽古終わりに召集がかかっていて、そのことが少し気掛かりであった。
烈「阿南さん、なんの呼び出しだと思いますか?」
阿南「さぁなぁ。俺たち、後藤さんと違って優等生だから、怒られるってこたぁねぇと思うが」
雑巾をかけながら阿南さんに問うと、彼は腕組みをしながら適当な感じに答える。
と、そこに汚れたバケツの水を変えた素子が道場に戻って来て、ふふん、と人の悪そうな笑みを浮かべる。
素子「そういえば、ゴリラ、試験結果そろそろじゃない?」
ゴリラというのは後藤さんのことであるが、その後藤さんは警察官採用試験を受けることにしたらしい。
たしかに後藤さんにかぎって大学受験という柄でもあるまいとは思うが、あの人が公務員というのも何か違和感がある。
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三年生が引退して、現存する部員は、阿南さん、素子、俺の三人になったが、術科指導の試験を受ける都合で、引退後も後藤さんは頻繁に稽古に顔を出していた。
八木さんと蘇我さんは稽古にこそ参加しないが、気にかけてくれているようで、よく差し入れを持って来てくれている。
二人とも受験勉強が忙しいわりに顔を見せてくれるのは、有り難いし、やっぱり嬉しかった。
阿南「まぁ、後藤さんの場合、剣道の腕よりも人物に問題があるからなァ。あの人、面接で落ちるんじゃないか?」
烈「その前に一次の筆記で落ちるんじゃないッスか?」
素子「うわぁ、あり得そうなあたり笑えない」
笑えないと言いながらも、笑いでもしないと仕方がないような話であった。
この会話、後藤さんに聞かれてたら間違いなくロケットパンチものである。
ちなみに、ロケットパンチというのは、装着した小手を飛ばすという技である。
三田「気持ちは分かるけれど、後藤だって人生の一大事くらい頑張るわよ。きっと私たちの心配も笑い話にしてくれるから大丈夫よ」
と、後藤さんのことを好き勝手言っていると、着替えを終えたらしい三田監督が再び道場に入って来た。
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阿南「ま、後藤さんはやるときにはやる人ですから。なんとかするッスよね」
素子「うーん」
阿南さんが苦笑いしながら三田監督に追従する。
が、素子は納得がいかないのか、腕を組んで低く唸っていた。
三田「まあ、後藤の話はおいといて。とりあえず、話があるから、掃除道具を片づけてきなさい」
阿南「あいよー」
烈「うーす」
気の抜けた返事をしながら、ちゃっちゃと道具を片づけてしまう。
三田監督が言うように、後藤さんはアレな人だけれど、決めるところは外さない人だから、心配には及ばないだろう。
道具を戻すと、再び三田監督のもとに集まりる。
阿南「それで監督、話って?」
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