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リヴァイ 「太陽風 ―The wind from the sun ―」
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太陽風 ―The wind from the sun ―
リヴァイ視点の物語です
ネタバレは、別マガ最新号、単行本の付属DVDになります
リヴァハン風味があるかもしれないです
ご了承いただける方、ご覧ください
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壁の上に立つと、温かい爽やかな風が頬を撫でる
誰もが恐れる壁の向こうに、何故か温かい懐かしい何かを感じる
何故なのかはわからない
ただ漠然と、向こうに行きたいと切望する
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カラネス区の、調査兵団臨時本部
今回の遠征では、トロスト区からの入口を使うことができなくなったために、東のカラネス区からの出立になった
さすがにトロスト区の調査兵団本部をそのまま使うことはできず、臨時で本部を移設させていた
今回の遠征でも、多大な犠牲をはらった
しかも、得られる物が殆どない有様
八方塞がりのこの状況下において、やはりいつも通り思考を前へ前へと飛ばすのは、こいつの末恐ろしい所だった
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「おい、エルヴィン・・・」
俺は低い声でつぶやくように、執務机にかじりつく大きな背中の男に声をかける
聞こえなかったのか、返事もしなけりゃ、振り向きもしない
ちっ・・・いつもの様に舌打ちがついて出た
「リヴァイ、舌打ちとは・・・いったい何だ」
エルヴィンは振り向いて怪訝そうな表情を見せた
「てめえを呼んでるのに返事がねえから舌打ちしただけだ」
「そうか、すまない。思考に没頭しすぎていたかな」
そう言うと、エルヴィンは首を左右にコキコキ、と鳴らした
「今から、行ってくる。何か伝えることは、あるか」
俺は奴の目をじっと見つめた
その厳しいまでの光を放つブルーの瞳は、一瞬淡い光がたゆたうように、揺れた
奴はゆっくり瞬きをし、また目を開く
「・・・必ずやこの死を無駄にしないと・・・」
奴はそこまで言って、言を止めた
「・・・なんだ?中途半端だな」
俺は、首を傾げた
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「・・・リヴァイ、すまない。言葉が見つからない」
エルヴィンは首を左右に振り、また瞼を閉じて呟く様に言った
「・・・そうか。わかった」
俺は踵を返し、団長室を後にしようとした
「リヴァイ」
背中から、呼び止める声
「なんだ」
一応奴のほうに体ごと振り向いてやる
奴は、普段人前では絶対に見せないような、なんとも言えない悲しげな表情を見せていた
「・・・すまない」
力なくつぶやく奴に向かって吐き捨てるように言う
「・・・謝られても、死んだ奴はもう戻ってはこない。そんな顔すんな気色悪ぃ」
「・・・気色悪いか・・はは」
自嘲気味に笑う奴に、静かに言う
「そんな顔してる暇があったら、俺たちの処遇を何とかする作戦を練ってろ。他のことはすべて俺たちがやる」
「・・・ああ、わかった。頼んだぞ、リヴァイ」
その言葉を背に、団長室を後にした
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日常のやる事など、何時もさして変わり映えしなかった
壁外にいれば、走る、飛ぶ、削ぐ、その繰り返し
壁内にいれば、作戦を練る、部下を鍛える、掃除をする、紅茶を飲む…
調査兵団に入ってもう何年もたつ
慣れて当然の日常だ
だが、今から行う事、これだけは…
何度やろうとも、慣れる事など出来なかった
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オルオの実家
哀しみに暮れる、両親
まだ訳が分かっていないのか、兵長兵長、と俺の手を握ってくるちびども
「息子の、最期は…」
父親が涙声で、俺に尋ねる
オルオに良く似た母親は、嗚咽が止まらず、机に突っ伏していた
「オルオは、突如現れた巨人と交戦し、勇敢に戦い、命を落としました」
そう言って差し出す、自由の翼の紋章
オルオの胸ポケットにつけられていた刺繍ワッペン
父親は、それを受け取り、握りしめた
「息子は、オルオは、貴方を尊敬しとりました…」
「…はい」
「…実家に帰ると、掃除だ掃除だと息巻いて、部屋中ひっくり返しとりました…はは」
父親は、悲しげな顔を無理に笑わせた
そんな表情で、話をした
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「貴方は、紅茶がお好きなんですよね…息子はコーヒー派だったのに、貴方の班になってから、突然紅茶にはまり出しやしてね…」
「…」
俺は、頷いた
「話し方も、不自然に格好をつけましてね…スカーフなんか巻いて、似合わねえのに…はは」
「…オルオは、勇敢で優しい兵士でした。ムードメーカーで、いつも班のメンバーを笑わせてくれていました」
じっと父親の目を見ながら、話す
「リヴァイ兵長殿…」
母親が、涙を溢れさせながら俺の名を呼んだ
「…はい」
「息子の死を、無駄になさらないで下さい…」
俺の手を握る、震える母親の手
もう片方の手は、ちびが握りしめて離さない
「…息子さんの死は、決して無駄にはしません。必ずや俺が…巨人を駆逐してみせます」
俺のその言葉に、両親が泣き崩れた
俺は目を閉じた…何かに耐える様にしっかりと…
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オルオ、グンタ、エルド、ペトラ
皆俺を信じてついてきてくれた、かけがえの無い部下…いや、同志
全員を、一度に無くしてしまった
亡くなった兵士の家族との対面の後は、必ずと言っていいほど壁外が見渡せるこの場所に来た
壁の外に手を伸ばす
温かい風が、その腕を包むように吹く
手を握りしめてみるが、この手は何も掴めなかった
ちっ…
癖になってしまった舌打ちをし、がっくりと座り込む
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こんな姿の俺が、人類最強?
笑わせる
4000人の兵士に匹敵する力?
バカらしい
なあ、一体何処が、人類最強だ?
自分の班の人間すら守れない奴の何処が…
拳を握りしめて、壁の床に叩きつけようとする
その手は、床に打ち付けられる手前で止められた
「…駄目だよリヴァイ。手を怪我しちゃう」
俺の手を止めたのは、泣き笑いの様な顔をした、ハンジだった
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「行ってきたの?あの子達の実家」
ハンジは俺の手を離すと、隣にゆっくり腰を下ろした
足を壁の外にぶらつかせる
「ああ、お前も行ってきたんだろ、ハンジ」
隣に座る眼鏡の顔をちらりと伺う
明らかな涙の跡が見てとれた
「リヴァイ泣きそうな顔してるよ?」
にたっと気持ちの悪い笑いかたをするハンジ
「お前の方だろうが」
「…そりゃあね…泣くなと言うのが、無理さ」
いひひ、と変な笑い方をするハンジ
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「気色わりぃ笑い方だなあ、おい…」
眉をひそめる俺に、少々頬を膨らませるクソ眼鏡
「ひどいな、女にいう台詞?」
「…笑わずに泣けって言ってるんだよ、馬鹿が」
俺のその言葉に、はっと目を見開くハンジ
「リヴァイ、なら一緒に泣こうよ」
そう言った後、ハンジの目からこぼれ落ちる涙
それを、指で掬ってやる
「リヴァイ、君も泣きなよ…ね?」
ハンジは俺の頬に手で触れた
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「俺は涙が枯れちまった」
ハンジは、俺の言葉に首を横に振ると、静かに言った
「そんなわけない、泣かなきゃ駄目だよ、つぶれちゃうよ…どうしても泣かないなら…こうだ!」
ハンジはそう言うや否や、俺の体を床に押し倒し、馬乗りになって脇の下やらあちこちをこそばしまくる
「おい、クソメガネ!!止めろ馬鹿…!」
「さあ笑ってでもいいから泣けー!泣くまで止めないぞー」
「この、変態が!」
結局、こそばされすぎて涙が出るまで、解放されなかった…
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ひとしきり泣いた後、壁を降りた
…俺は、泣かされただけだが
ふざけた方法でな
そのふざけた方法の実行者であるハンジは、自ら頬を1発両手で叩き、伸びをした
泣いている暇も、思い出に浸る時間も無いからだ
こうしている間にも、タイムリミットは迫っている
足早に調査兵団臨時本部に戻る
エレンを伴い、今夜中に旧調査兵団本部に戻らなければならないからだ
「ねえ、リヴァイ。そういえば、脚は大丈夫?」
突然思い出したかの様に、俺の脚に手を触れるハンジ
「ああ、平気だ」
「珍しいね、怪我をするなんて…リヴァイがね…」
ハンジがふう、と息をついた
「俺を何だと思ってるんだ、クソメガネ。怪我くらいするさ」
吐き捨てる様に言った
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この脚の怪我の事に触れられると、無性に苛立つ
部下を庇ったと言えば聞こえはいいが、へまをやらかしたのは事実
部下のせいにするつもりなど、更々ない
まああいつは、多分後悔の念に苛まれているんだろうがな…
どうやら、ハンジも言ったように、俺は怪我をしてはならない人間らしい
いつも人類最強でいなければならないらしい
俺は普通の人間だ
怪我をするし、失敗もする
人類最強と祭り上げられるのにも嫌気がさす
だが、地下街にいた時代から、何故か知らない間に仲間たちからリーダーだと祭り上げられていたな…
俺にはそんなカリスマ性など皆無なのにな
調査兵団で、カリスマ性がある奴といえば、あいつしかいねえだろう
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「いや、リヴァイだって怪我くらいするよね。何だかほっとするよ、君も人間らしいところがあるんだってね」
俺の心の声が聞こえたのかはわからねえが、何故かハンジはいつも、言葉を発しなくても、俺の言いたい事を分かってくれた
「当たり前だ。お前みたいな変人よりよほど人間らしいさ、俺は」
そう言いながら、ちらりとハンジの顔を見る
俺より10㎝も背が高い
全く、どいつもでかく育ちすぎだろ?
まあいい…ハンジはとにかく明るく努めようとしているかの様に、にんまりと笑っていた
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「ちゃんと病院に行ったの?リヴァイ」
多少歩む速度を緩めながら、気遣うように話しかけてくるハンジ
「救護班には見てもらったぞ」
ハンジの顔に視線を向けると、心底心配そうな表情をこちらに向けていた
「きちんと病院に行かなきゃ。トロスト区のさ…リヴァイの脚は、一人の為の脚じゃないんだからね」
そう言いながら、俺の頭を撫でるハンジ
背が俺より高いから、撫でやすいらしい
「…わかってる。その内行く」
はあ、とため息混じりに呟いた
「明日、戻るよね?トロスト区に。その時にでも付き合ってあげるよ。でないと絶対に病院には行かないと思うしね、リヴァイは」
俺の手を頭に乗せながら、顔を覗き込んでくるハンジに、眉をひそめる
「くそ迷惑な話だな、そりゃ…」
「決定ね!?」
どうやら勝手に人の予定を決めちまいやがったらしい
まあ、行かなきゃならない事は事実だし、ここはこいつの意見を素直に呑んでおく事にした
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臨時調査兵団本部に到着するや否や、ハンジは待っていた副官と共に、エルヴィンの部屋へ行った
多分奴は何か作戦を考え付いたんだろう
俺は、怪我をして休んでいるエレンの元へ足を運んだ
コンコンと二回ノックをし、扉を開けると、部屋の簡素なベッドにエレンは横たわっていた
ベッドサイドの椅子にはミカサが座っていたが、来訪者が俺だとわかると、俺の方を振り返り立ち上がった
「兵長…」
ミカサはスッと頭を下げた
「エレンは、寝ているのか」
ベッドに歩み寄りながら、呟く様に言う
「はい、兵長…あの…」
ミカサは、こちらを伺うかの様な表情を見せて、小さな声で言葉を発した
「…よく寝ているな」
ミカサの視線を右に感じながら、エレンの顔色を伺う
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巨人化して、女型巨人と戦い、体のあちこちを損傷していたエレン
かなり傷は回復したものの、まだ体力自体が回復していない様子だった
「はい、兵長」
元々俺には必要最低限の話しかしねえ奴だが、今日に限っては何かを言いたげに、横から視線を送ってきていた
「何か言いたい事でもあるのか?ミカサ」
ちらりと視線をミカサに移動させる
…今にも泣きそうな表情をしていた
今までに見たことが無い表情だった
まあそんなに付き合いが長いわけでも、直属の部下な訳でもないが…
「兵長…すみませんでした…脚が…私の、せいで…」
ミカサは俯き、絞り出すような声でそう言った
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「…謝らなくていい。それよりお前は前を見てろ」
俺は、ミカサを横目で見ながら、なるだけ小さな声で言った
「前…」
そう言って、エレンに目をやるミカサ
「そうだ、お前が俺の代わりにエレンを見張れ。俺はこの調子では、こいつが暴走した時に役に立たねえだろう。お前にその役を託す」
そう言い残し、部屋を出るべく扉に向かう
「兵長、いいんですか?今日、旧調査兵団本部にエレンを連れていく予定だと…」
その俺の後ろ姿に、ミカサがそう言葉を発した
「気が変わった。一人でいく。エレンを頼んだぞ?」
顔だけミカサの方を振り返り、そう声をかけた
「…ありがとうございます…」
ミカサは、小さな声でそう言い、また頭を下げた
俺は片手を上げて、部屋を後にした
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カラネス区からトロスト区を抜け、一路馬で旧調査兵団本部へ
何のために行くのか…それは、あいつらの部屋の遺品整理だ
本来なら家族にやってもらうべき所だろうが、このご時世だ
後は距離的にもかなり遠い
持ち帰れそうな物だけを見繕って、渡すつもりだ
俺自らやる必要はない、と回りの奴等には散々言われた
だがこれだけは、どうしてもやってやりたかった
俺を信じて戦ってくれた奴等の、大事な思い出を、俺の手で掬ってやりたかった
俺が選んだ、俺の班
もう奴等はいない
―俺は、また独りになった
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今度はリヴァハン書くのか
期待
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>>22
よろしくお願いしますm(__)m
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旧調査兵団本部に到着した
一陣の風が吹き抜け、思わず身体を縮こませる
寒い季節でも、寒い気候でもないはずなのに、何故か寒気がした
見張りの兵が1名、建物の玄関口で俺に向かって敬礼をしていた
リヴァイ「御苦労」
そう声を掛けて、内部に足を踏み入れた
暫く留守にしていた根城は、賑やかだったのがまるで夢の出来事だった様に、しんと静まり返っていた
まずはエルドの部屋だ
エルドには婚約者がいた
今日初めて会ったが、何故か彼女は涙一つ溢さず、じっと俺や家族の話に聞き入っていた
自分の婚約者がいつかは死ぬ…と漠然と認識していたのかもしれない
俺に恨み一つ溢す事はなかった
机に飾ってあった、彼女と、エルドが写った写真…
二人とも、はにかんだように笑っている
似合いのカップルだと思う
その写真をそっと皮袋にしまった
後は、手記のような物も机に置いてあったので、同じ袋にしまった
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グンタの部屋
グンタは班の中でも一番面倒見がよく、エレンも一番懐いていた様に思う
彼の両親は、穏やかな人柄だった
俺が挨拶に行くや否や、下にも置かない丁重な扱いで部屋に通され、彼の働きぶりや、戦いぶりを聞きたがった
思い付く事は全て、時間を掛けて話したと思う
グンタの机には、読みかけていた本なのか、開いた状態で置いてあった
その本と、横に置いてあったメモ帳とペンを皮袋にいれた
オルオの部屋には、白いスカーフが数枚干してあった
…俺の真似、だったらしいな
思わず吹き出しかける
奴にはそういう、人を楽しませる能力があった様に思う
すでにいないにも関わらず、こうして俺を笑わそうとしているんだからな…
俺が勧めた紅茶の茶葉もあった
それらを革袋にいれた
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ペトラの部屋
ペトラの父親は、俺に泣きながら、怒りをぶつけてきた
どうしようもなく、辛い苦しい思いをぶつける所といえば、俺しかないだろう
甘んじて受けた
ペトラが父親に宛てた手紙、あれを父親が俺に聞かせるとは、ペトラも夢にも思っていなかっただろうな
空の上で、顔を真っ赤にして怒っていそうだ
ペトラの俺への気持ち
気が付かないはずはなかった
分かりやすかった
だが、その気持ちに答えることは出来なかった
こうなるなら、答えてやった方が良かったのか…?
俺には分からない、何が正解だったのかなんてな…
机を見ると、日記帳と、一通の手紙が置いてあった
手紙の宛名は…俺の名だ
日記帳を革袋になおし、手紙を読んでみた
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ペトラの手紙
『リヴァイ兵士長様
この手紙をあなたが読んで下さっているという事は、私はすでにこの世にいないか、大怪我をおったか…そんな状況でしょうね
兵長は、もし私たちが死んだら、両親に会いに行かれますよね
私の両親は、もしかしたらあなたに辛く当たるかもしれません
何度も何度も、調査兵団をやめて戻ってこいと言われ続けていたんです
でも私は、兵長のそばで、お役に立ちたかった
兵長すみません
両親がもしあなたに怒りをぶつけるような事をしていたら、本当にごめんなさい
兵長がこの先ずっと健在で、皆の希望の光でいられる様、何処かで祈っています
私は兵長のお側にいられて、リヴァイ班に入れてもらえて、本当に幸せでした
兵長、ありがとうございました
ペトラ・ラル』
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ペトラは、自分がいなくなった後の事をここまで考えていた
両親の事と、俺の事を気に掛けて
自分の事は二の次か…
ペトラらしい
何処かで祈っていますってあったよな
ペトラ、お前は何処で祈ってくれてる?
お前からは俺は見えてるか?
俺は、お前の言う希望の光にはなれそうにはないし、柄でもないが、人類のために最善を尽くすことは約束する
心の中で誓い、手紙を兵服の内ポケットにしまった
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班員それぞれの思い出の品を手に、自分の部屋へ行ったが、結局寝る気にもなれず、そのまま外へ出た
月明かりが、木々に囲まれた城を照らす
馬屋に行き、愛馬の様子を伺う
俺が側に寄ると、頬に顔を近づけてきた
その鬣を優しく撫でてやる
「お前、まだ走れるか…?トロスト区に帰りたいんだ」
返事なのかどうなのかは定かじゃねえが、ヒヒン…と小さく鳴いて、ぺろりと俺の指を舐めた
「行くか…」
愛馬の手綱を取り、馬屋から出る
美しい黒鹿毛の愛馬
いつも寄り添ってくれている相棒
…そうか、俺は少なくとも独りではない
こいつがいる限り…
人間ではなくても、種族は違えど、絆で結ばれている事に変わりはない、そう思った
旧調査兵団本部を後にし、一路トロスト区の調査兵団本部へ、夜通し走る強行軍…
俺よりも馬の方が大変だろうな
馬上で時折たてがみを撫でてやりながら、ふとそんなことを考えていた
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切ないな…
乗馬してたけど馬の人の心情を読む能力は異常
支援
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>>30
切ない…
やっぱりお馬さんって人馬一体になれるっていう話を聞くほど、意思疏通できるんだね
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結局途中二度ほど馬の脚を休ませ、トロスト区の調査兵団本部に着いたのは明け方だった
部屋に戻り、着替えを済ますとすぐに眠気が襲ってきた
ベッドに横になろうとして脚を動かした瞬間、脚に違和感…痛みを感じた
「…っつ…」
今までは気が張っていたからだろうか、急に脚が痛み出した
「…ちっ、クソメガネにそれ見たことか…とか言われそうだな…ざまぁねえ…」
はぁ、とため息をついて、ベッドに体を横たえた
睡魔が体を支配するのに、時間は掛からなかった
翌朝―
がらんとした兵舎の食堂で、朝食を食べながら一人思考に耽る
女型捕獲の失敗により、エルヴィン以下幹部の王都召還と、エレンの引き渡しが決定した
召還されるのは団長のエルヴィンと、エレンの見張り役であった俺と、エレン
エレンは一度王都へ引き渡されれば、もう二度とこちらには戻ってこれないだろう
あいつらが命を賭して守ろうとしたエレンを、易々と奴等に引き渡すなどできない
かといって、俺にはどうしたらそれを阻止できるかまで、想像が働かなかった…奴に任せるしかないな…
-
午前中は久々にゆっくりできた
馬で哨戒にでも出ようとしたが、思った以上に脚が痛んだから、やめにした
病院に行こうかと思ったが、クソメガネと約束しちまったしな
昼過ぎには調査兵団本隊もここに戻ってくるはずだ
それまではしばし休息をとることにした
また、忙しくなりそうだしな
部屋の掃除に熱を入れている間に、外が騒がしくなってきた
窓の外に目をやると、馬や馬車が続々と調査兵団本部の敷地内に入ってきていた
本隊が戻ってきたらしい
そういえば、エレンは体力も回復しただろうか
気にはなったが、ミカサがついている事だし、大丈夫だろう
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しばらく掃除をしていると、いきなり扉がバターン!!とけたたましい音をさせながら開いた
俺の部屋の扉をこんな開け方をする奴は、あいつしかいねえ
「リヴァイお待たせ!!待たせたね!?」
いつもぼさぼさの髪を、さらに乱して部屋に入ってきたのは、勿論ハンジだった
「…おいクソメガネ。てめえはノックをしようとか思わねえのかよ…いきなり入ってきやがって…」
思わず毒づいた
「ああ、ごめーんついうっかり!!ノックしなきゃならないようなやましい事してたかもしれないのに、ごめんねえ?」
と、いたずらっ子の様な表情で嘯くハンジのでこを指で弾く
「ノックするのは常識だ、奇行種」
ふん、と鼻息を鳴らした
「やましい事は?!」
目を輝かす変態をぎろりとにらみつける
「してねえ!!脚が痛んでるから早く病院に連れていけ」
「ああ。脚が痛いからやましい事が出来ないって事だね?リヴァイ」
「何でそうなるんだ…馬鹿が!」
結局いつも訳のわからん言葉の応酬を繰り返すのが、この奇行種と、俺だった
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部屋を出ると、ハンジの副官モブリットが書類の束を抱えて立っていた
「リヴァイ兵長、脚の具合はいかがですか?」
心底心配そうに聞いてくるモブリット
ハンジの副官にしておくには勿体ないほど、良く気が利き、良く動く、副官の鑑のような奴だ
ただ一点だけ…気になる事と言えば、この副官は、ハンジにどうやら本気で惚れているらしい
物好きだとは思うが…応援する気持ちには何故かなれなかった
「心配掛けているみてえだな。大丈夫だ。念のために見せてくる。ハンジを借りてもいいか?」
「借りるって何だよ〜私は物じゃないよ!?」
ハンジの非難の声は聞こえない振りをしたのか、モブリットはにっこりと笑みを浮かべた
「どうぞご自由に。逆に兵長に迷惑を掛けるかもしれませんが…」
「まあ、そうかもしれねえな…」
ちらっとハンジを見て言った
「私は一体なんなんだよ!?」
ハンジの問いにすかさず言い返す
「奇行種」
「いつも暴走気味の分隊長」
ほぼ同じタイミングの突っ込み
この辺りはさすが、ハンジの副官を長く勤めあげている反応だなと感心する
-
「脚、やっぱり痛むんだろ?リヴァイ」
本部を出て病院に向かう道すがら、たまに不自然な挙動をする俺に気がついたのか、心配そうに尋ねてきたハンジ
「ああ、昨日まではそんなに気にはならなかったんだがな…今日になって急に痛み出した」
ほら見たことか、と言われるだろうと予想したが、ハンジは眉をひそめて歩みを止めた
「やっぱり若くないから、直ぐには痛み感じないんじゃない…?」
「…喧嘩打ってるのか?クソメガネ…」
剣呑な眼差しをハンジに向けた
ハンジはブンブンと首を横に振る
「いや、気に障ったらごめん。これでも心配で夜も寝られなかったんだよ?」
そう言って、俺の顔を覗くハンジ
「ちっ…つやつやした顔しやがって…寝られなかった奴の顔じゃねえよ」
顔を背けて、舌打ちをした
「んーばれたか!!でも心配はしてたよ?」
「ありがた迷惑だ」
気のない返事をする俺に、唇を尖らすハンジ
「君はほんと、素直じゃないよ、リヴァイ」
…そこは否定できないかもしれねえな
勿論口には出さないが
-
「病院、混んでるねぇ…」
トロスト区の区立病院
南側領土の中ではトップクラスの医療機関である
兵士も多数入院しており、たまに見舞いにも行く事があった
申し込むと、名前のせいか順番無視でいきなり呼ばれそうになり、丁重に辞退した
「リヴァイは変なところで律儀だねえ。さっさと見てもらったら良かったのに」
待ち合い室の簡素な椅子にだらんと身体を預けながら、眼鏡を額の上にずらして目を擦るハンジ
「こんな所で特別待遇なんか使いたくねえよ」
はぁっとため息をつく
「人類最強のリヴァイ兵士長は、人類の希望の光なんだよ?少しくらい特権使っても罰は当たらないよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、俺の顔を覗くクソメガネを、じろりと睨む
「そんなものになった覚えはないんだがな…迷惑な二つ名だ」
「仕方がないよ、時代が英雄を欲しているんだからね。ま、私は実力に見合った二つ名だと思うけどね?」
ハンジはポンポン、と俺の頭を叩き、そう言うのだった
-
順番を待つ間、他愛もない話をしていたが、その内睡魔に勝てなくなったハンジがうたた寝を始めた…俺の肩に頭を乗せて…
「…」
ちらりと横目で顔を拝む
呑気に口を半開きにして、かなりのアホ面だ
額の眼鏡をそっと外してやり、奴の兵服の前ポケットに入れた
昨日はよく寝たとは言っていたものの、あれからエルヴィンと話し合いをしたりで、ゆっくりは休めていないだろう
気も張っていたに違いない
俺がそうだったようにな…
だから今はぎりぎりまで休ませてやる事にした
ちっ…呑気な寝顔を見ていると、こっちまで眠たくなってきた…
だが俺まで寝てしまうと、誰がこいつの涎を拭いてくれるんだ!?
…だめだ、やっぱり起きておく事にした
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しばらくそのまま、なるべく動かないようにじっとしていると、何だか横合いから視線を感じた
チラッと視線を移動させると、チビがじーっと俺を凝視していた…顔を紅潮させて
「…何か用か、チビ」
なるべく優しい声を出す努力だけはしたつもりだったが、チビはびくっと体を震わせた
怖かったのか…
まあ二つ名と、このいかにも不機嫌そうなこの顔では無理もねえ
チビはしばらく硬直していたが、やがて口から言葉がついて出た
「リ、リヴァイ兵士長…さん」
チビは俺に手を伸ばし、握手を求めてきた
「…」
無言で握ってやると、チビの目から涙がこぼれ落ちた
「…どうした、チビ」
俺の問いに、チビは目に涙を貯めながらも、しっかり俺を見据えて口を開く
「僕の…父さんが、壁外調査で…怪我をして、動けなくなって…」
「そうか」
どうやらチビの父親は調査兵らしい
「いつも、言っていたから…兵長がいるから大丈夫だって…」
「…そうか」
-
涙をこぼすチビの頭をがしがしと撫でてやる
「リヴァイ兵士長さん、父さんの分まで…」
「ああ、わかってる。巨人は俺が残らず倒してやるから安心しろよ、チビ」
その言葉にチビは頷いて、見事な敬礼をして去っていった
ハンジ「へえ、リヴァイは小さい子には優しいんだねえ、流石は人類の希望だね」
いつの間に起きたのか、俺の肩に頭を預けながら、ハンジはからかうような口調で言った
「盗み聞きすんな…クソメガネ」
「完全に憧れられてる感じだったよね?ほんとの君は潔癖性で、いつも不機嫌で、口癖がクソ、なのにね?」
ふふふ、と笑うハンジの頭を、自分の肩から振り落とすべく体を捩る
「うるせえ、ほっとけ」
「…でも、たまにしんどくなるよね?そう言う期待なんか背負わされるとさ…リヴァイは大丈夫?」
眼鏡をかけ直して、俺の顔を観察する様にじっと見つめるハンジに、思わず顔を背ける
「なんてこたぁねえよ」
少々無理をして言ってみた
-
本文と関係なさそうだけどチビの気持ちが伝わってきてウルッときてしまった
いつも更新乙です
続き楽しみ
-
>>41
ウルッときてくれて、嬉しい
また頑張れます
-
順番が回ってきて診察室に入ると、後ろからハンジが声をあげた
ハンジ「やあ!!先生元気!?あのさあ、巨人の筋肉と骨についてだけどさあ…」
医師「ハンジさん、その話は後程…今日は兵士長の診察ですよ」
咎めるような口調の、若い医師
なかなか整った造作の顔をした、穏やかそうな男だ
ハンジ「そうだった!!リヴァイの足がもげたりしたら大変だから、早く見て一瞬でなおしてよね!?先生」
医師に近寄り、顔を覗きながらそう言ったハンジ
リヴァイ「…もげるわけねえだろうが…」
俺は独りごちた
医師「兵士長、ベッドに横になってください…あ、ハンジさんは外に出ていて下さい」
ハンジ「えー!!診察見たい!!」
医師「兵士長には下着姿になっていただきますので」
ハンジ「脱がせるのは得意なんだ!!」
リヴァイ「さっさと出ていけ!!クソメガネ!!」
結局俺の無事な方の脚で蹴られて、部屋を出ていったハンジだった
-
うわあ、名前入れてしまってた…
読みづらかったらすみません…
-
診察室のベッドに横たわり、スラックスを脱いだ常態で診察を受ける
「骨には異常はないですね…ただ、足首を捻挫しています」
医師は丁寧に脚を触診しながら、たんたんと話した
「捻挫か…動くのは大丈夫か?立体機動は…?」
「足首の靭帯を損傷しているのですよ。捻挫とはそう言う怪我です。無理に動いたのではありませんか?捻挫が酷くなって、靭帯が断裂しかかっています。全治3週間といった所でしょうか…」
医師は俺を起き上がらせながら、諭すような口調でそう言った
「3週間…?」
俺は眉をひそめた
「安静に動かさずに…の場合です。下手をすれば、捻挫は癖になったり、骨が変形したりしますから、今は安静に動かさないように…」
「そんなに長い間戦力外なのか…」
ため息が出た
「立体機動などもっての他ですよ。禁止です。捻挫を甘く見ないで下さいね、兵士長」
「ああ、わかった。ありがとう」
俺は頷くしかなかった
結局俺は松葉杖を持たされて、診察室から出た
-
おもしろい! ハンジさんとリヴァイのやり取りがずごくグッとくる
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>>46
ありがとう、嬉しい!!
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診察室から出るなり、眼鏡の奇行種が駆け寄ってきた
「リヴァイ、どうだった?ていうか、松葉杖!?」
俺が脇に挟んでいる杖をみて驚くハンジ
「ああ、絶対安静にしろだとよ。しばらくは足を使うなと無茶を言われたぞ…」
はあ、とため息をつく俺に、心配そうな顔を向けるハンジ
「先生がそう言うなら、そうしなきゃだめだよ。あの人、若いけど運動機能専門の医者で、優秀なんだからね」
ハンジは俺に諭すように言った
「知り合いだったんだな」
俺は何故か、聞かなくてもいい様な些細な事を聞いてしまった
ハンジは一瞬目を見開いたが、ふわりと微笑を浮かべた
「ああ、幼馴染みだよ。結婚の約束をしたんだ」
優しい声色で、静かに言葉を紡ぐハンジ
俺は、らしくない程動揺した、何故だかわからねえが…
だがそれを表に出すほどガキじゃねえ
「そうか、お前みたいな変態でも嫁に行ける予定が出来て、良かったじゃねえか」
目を伏せ、静かに呟くように言った
-
俺が目を開けると、目の前にハンジの顔があった
鼻と鼻が触れ合う程の距離
「おい、ハンジ…」
思わず後ずさる
「リヴァイ、私は嫁に行く予定は無いよ?先生との結婚の約束は、小さい頃の話だもん」
そう言ってあはは、と笑う奇行種を思わず張り倒したくなったが、病院だったし杖をついているし、諦めた
「紛らわしい言い方しやがって…」
チッと舌打ちをした俺
「もしかして、妬いてくれた?」
ハンジはにんまりと笑いながら、そう言った
「妬くわけねえだろうが!!嫁でも何でもさっさと行けよクソメガネ!!」
俺はついにキレた、だが…
「リヴァイが貰ってくれるなら喜んで、行くよ!?」
目を輝かせて、何かを期待するかの様な表情を俺に向けるハンジの前髪を、さらりとかき分けてやる
おもむろにハンジの顔に自分の顔を近づける
ハンジはぎゅっと目を閉じた
「…誰がお前を嫁になんかするかよ」
思いきり額を指で弾いてやった
-
病院を出る頃には、夕焼け空になっていた
「遅くなっちまったな、すまないハンジ」
「いいよ、気分転換にもなったしね!?それより、ちゃんと杖ついて歩かなきゃだめだろ?」
咎めるような口調のハンジ
杖をつくのが結構面倒くせえ…
「慣れねえからな、つい歩いちまう」
ため息混じりに言った
「ちゃんと治さなきゃいけないんだから、先生の言うこと聞きなよ?リヴァイ。ほんとに治らなくなったらどうするんだよ?」
眼鏡の向こう側の瞳は、柔らかな光を宿している様に見えた
心底心配してくれている事は、よくわかっていた
「治らなかったら、俺は用無しだな…調査兵団にも、人類にも」
冗談混じりで呟いた言葉のつもりだったが、ハンジが予想外な行動に出た
杖を取り上げて放り投げ、あろう事か、俺を抱き上げようとした
「おい、まてハンジ!?やめろ!!」
あわてて身を捩るが、腕をとられてしまった
「下らないこと言ってるからだよ!!私に抱っこされるか、杖をつくか、さあ選んで?リヴァイ」
「杖…杖をちゃんと使う…」
地面に放り投げられた杖を拾いながら、呟くように言った
「次にまた馬鹿な事言ったら、抱っこだからね!?しかもお姫さま抱っこ…むふふ」
怪しげな笑みを浮かべるハンジを見て、こいつは本気でやりそうだと、ゾッとした
-
夕焼けに染まる街をゆっくり歩く
杖を使っているから、さっさと歩けねえ
杖を使っていても、足が痛む…どうやら無理をしてこじらせたようだ
骨はなんともなっていねえのがまだ救いか…
たまに走る痛みに、自然に顔が歪む
すると、それを見咎めたハンジが、俺の顔を覗く
「ほら、やっぱり杖つかなきゃだめだろ?かなり痛むの?大丈夫?」
心配そうな表情で、俺に顔を寄せる
「大丈夫だ、たまに痛むがな」
「顔色も良くないねえ…今日は早く帰って寝なきゃね」
ハンジがそう言った瞬間、グゥーと腹の音が鳴った…俺じゃねえ、奴の腹の虫だ
「…ハンジ、腹の虫がうるせえな…お前と一緒だ」
「…リヴァイ、早く帰らせてあげたいけど、お腹が空いちゃった!!私昼も食べてないんだ!」
そうか、俺の病院のために本部に着いてすぐに俺の部屋に来たんだったな
「わかった、なんか食いに行くか」
俺のその言葉に、ガッツポーズをするハンジ
「やったあ!!行こ行こ!!」
俺の回りをくるくると、スキップで何周もしながら、喜びを表現していた…
-
このハンジさん可愛いな
下品じゃないし変に女してないし
子犬みたいに無邪気で奔放
続き楽しみにしてます
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>>52
ありがとう!!続きも頑張ります!
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トロスト区にいたら、大抵いつもいく酒場兼料理屋に足を運んだ
ここはバーカウンターも普通のテーブル席もあるが、個室もある
俺たちは、いつものように個室に通された
差し向かいで席につく
「とりあえず適当に頼んじゃお!!早く食べたい!!」
ハンジは矢継ぎ早に注文していく
…どれだけ食うのか、心配になるほどの量の注文だ…
「そんなに頼んで、食べきれるのかよ…」
呆れた表情で言う俺に、にっこり笑うハンジ
「大丈夫だよ、余裕余裕!!私の胃袋を舐めないでよね!?」
ぽん、と腹を叩いて言うハンジ
「食うのはかまわねえが、デブになって腹が出るぞ?」
俺は眉をひそめた
「リヴァイ、少しポッチャリな方が、いいと思わない!?やっぱり抱くなら柔らかい方がさあ…」
ハンジはふふっと笑みを浮かべてそう言った
艶やかと言っていい笑みだった
-
「まあ、かちかちよりはな…」
ボソッと呟くように言った
「だろ!?だからたくさん食べてふっくらしよう!!」
ハンジはきらきらと瞳を輝かせた
「お前はふっくらしちゃいけねえだろうが。体が立体機動に耐えられなくなるぞ!?」
「ええっ!?私もふわふわになりたいのに…」
頬を膨らますハンジに、首を横に振る俺
「お前にふわふわ、は似合わねえよ」
「てことは、今の私が好きって事かな!?リヴァイ!?」
ずいっと顔を近付けるハンジの額を、指で押し返す
「勘違いすんな」
「…ちぇっ…リヴァイのいじわる!!」
そう言ってぷうっと膨らむハンジの頬は、十分ふわふわだと思った
-
「ねえねえリヴァイ、聞いた?」
ハンジは、酒の入ったグラスを片手に、もう片方の手はテーブルに肘をつき、頬に手を当てて支えていた
気だるげな表情で、俺に柔らかい口調で話し掛けてくる
…かなり酒が回っているらしい
「何の話だ?」
「…とうとう、お達しが来たみたいだね。正式な、お呼び出し」
なるほど、王都召還の話か…
正式な日取りまではまだ聞いてはいなかったが…
「何か決まったのか?」
俺は極力小声で話した
「五日後らしいよ…?でね、エルヴィンは何か考えたらしい…どえらい事をね…」
ハンジは俺の耳に顔を寄せ、小声で言った
「…そうか」
まあ、奴の事だ、多少の犠牲は省みないような作戦を、また考え出しやがったんだろう
犠牲を恐れていては、何も変えられない
その信念自体には俺も賛同している
ただ、あまりの犠牲の多さに閉口してしまう事も多々あるのも事実
俺は、きっと有事の長には適さない性格なんだろう、多分、ハンジも同じ…
だからこそ、お互い同じように負った心の傷を、こうして側にいる事で癒し合っているのかもしれねえな…
-
「…明日からまた忙しくなりそうだな」
独り言の様に呟く俺の頬に手を伸ばすハンジ
「そうだね…この疲れきった顔がますます老け顔になっちゃいそうで、心配しちゃうよ?私は…」
そう言いながら、頬を優しく指でなぞった
一瞬、その甘い刺激が電気のように身体に走り、背中が震えた
「ますますって何だ…?俺はもともと老けてねえ」
そんな情況を覆い隠すべく、俺は殊更大袈裟に首を振り、奴の指を払いのける
そして元々不機嫌そうな声に、より一層不機嫌を上乗せして、言葉を発した
そんな俺を、まるで小動物を愛でる様な、柔らかで優しげな表情で見つめるハンジは、振り払われた指でまた頬に触れてくる
「リヴァイ、ほんと老けたねえ…?」
そう言って、ふふっと笑って微笑んだ
「うるせえ、クソメガネ…てめえに言われたくねえよ」
吐き捨てるように、そう言った
-
「ま、老け顔ってのは冗談だけどさ、元気がなさそうな顔してるから、本気で心配してるんだよ」
ハンジは俺の頬や額を指で触れながら、顔に憂色を浮かべていた
「俺はいつも通りだ、お前に心配されるほど参っちゃいねえ。そんな顔すんな、クソメガネ」
俺の言葉に頭を振るハンジ
「私は君の心配はしてはいけない?私たちはお互い以外に、対等に心配しあえる相手がいないのに…」
こいつはいつもこう言う
対等に接する事が出来るのが、お互い以外にいないと
要するに、友だちがいねえって事だ
「ハンジ、お前にはまだ、お前をいの一番に心配してくれている奴がいるだろうが。俺とは違ってな」
俺のその言葉に、しばらく視線を上に向けて何かを考えていたが、やがて前を向いた
「ああ、モブリットの事だね。でもあの子は対等な立場じゃないよ」
ハンジは首を傾げて困ったような表情を見せた
「…あいつの気持ちを知っている癖に、随分な言い方だと思わねえか?ハンジ」
俺はそんなハンジに、鋭い視線を向けた
-
ハンジは目を見開いて、しばらく俺を見ていたが、やがて口元に笑みを浮かべて微笑んだ
「そっか、リヴァイはやきもちを焼いているんだね?」
酒気を帯びて、普段より随分な甘い声色が俺の耳をくすぐる
「誰がやいてるんだよ、誰が。なんでそんな話になるのかわからねえ…てめえ酔いすぎだ、ハンジ」
「私がモブリットに取られそうだから、やいてるんだ、違う?」
ふふっと艶やかな笑みを浮かべてそう言ったハンジの頭を、俺は平手ではたいた
「夢でも見てろ。馬鹿が」
「顔が赤くなってるよ〜?可愛いなあリヴァイは」
からかう様なあいつの口調
こいつとの会話で優位に立てない時が、最近多い気がする…
「赤くなったのは酒のせいだ。勘違いすんな自意識過剰女め」
「えー、やきもちくらいやいてよ?ふふっ」
これ以上の反論は諦めて、酒をあおることにした
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駄々っ子をあやす様な優しいハンジさんだなぁ
包容力あって魅力的
支援
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>>60
ありがとう!!頑張ります!!
-
「でもさ、ここだけの話…もう打つ手なんて無いと思ったんだけど…」
ハンジが小声で話始める
「やっぱり出るところから、出てくるんだね、希望って…」
ハンジはそう言うと、遠くを見つめる様に視線を移動させた
壁の上で見せた、あの哀しげな表情とは一変…その瞳には、たゆたうような、静かだが、熱い焔がたぎっている様に見えた
「前に、進むしかねえからな…」
俺はその、奴が見せる意志のはっきりした瞳を、食い入るように見つめた
その言葉に、どこか甘い視線を俺に向けるハンジ
「私はその、リヴァイの静かなのに何処か燃えているみたいな、瞳が好きだよ」
ハンジの手が、誘うように俺の頬を撫でる
テーブルで隔てられた俺たちの距離
お互いに顔を寄せ合い、そっと唇を重ねた
-
「…ちっ…酒くせえ…」
唇を離した後の俺の第一声に、ハンジが頬を膨らます
「久々のキスなのに、なんて感想なんだよ…?」
「酒くせえものは酒くせえ…」
「デリカシーなさすぎだよ、リヴァイは…」
そう言いながら、また唇を重ねてくるハンジ
それは一瞬だけ触れ合っただけで離された
「ごちそうさま」
艶やかと言える笑みを浮かべて、ふふっと笑うハンジに、俺は眉をひそめる
「ごちそうさまっておい…」
「人類最強の唇、ごちそうさま?」
「…言ってろ、クソメガネ」
結局男なんてものは、女に口で勝てるようには出来ていねえんだろうな…
-
酒場を出て、しばし酔いを冷ます様に人通りの少なくなった街を歩く
俺は、慣れない松葉杖をついて…
…奴はしつこく、肩を貸してあげるだの、おんぶしてあげるだの、挙げ句の果てには抱っこしてあげる、などとふざけた事を抜かしてやがったがな
「ねえリヴァイ…私たちってさ…どうなるのかなあ…」
俺の歩みに合わせる様に、ゆっくり歩きながら言葉を発するハンジ
ちらりと視線を向けると、ハンジもこっちを見ていたらしく、目があった
「なるようにしかならねえ。どうなるかなんて、考えてもでてこねえよ」
呟くように言う俺に、くすりと笑みを溢すハンジ
「そうだよねえ、今は自分が信じているものに、すがるしか無いもんね。心配する暇があったら、行動に移さなきゃね」
「…ああ、そうだ」
俺たちが信じている頭の持ち主は、きっと今も極限まで思考をフル回転させているだろう
「じゃ、英気を養うためにも今夜は…」
「…添い寝はしねえ」
「…ほんっと、リヴァイって雰囲気読まないよね?」
そう言って、ハンジは首をすくめた
-
兵舎まで戻ると、門番をしていた兵士から敬礼と共に声が掛かる
「お帰りなさい、兵長、分隊長。脚の具合はどうでしたか?」
杖をつく俺の脚と、顔を交互に見て、心配そうな顔をする兵士
まだ配属された新兵のこの兵士は、生存率の低い初壁外遠征を無事突破した
今期の新兵は皆運がいいのか、無事に帰ってきた奴が多かった
「ジャン、御苦労。脚は大丈夫だ、念のため杖を使っているだけだからな」
「そうですか!!良かったです!!」
訓練兵を優秀な成績で卒業したこいつ…ジャンは、今や人類の希望と、調査兵団の希望を一身に担うエレンと同期で、よく言い争いをしていた
ま、喧嘩するほど仲が良いともいうし、気にも留めていないが
「ジャン、エレンの様子は知ってるかい?」
ジャンの顔を覗き込むように尋ねるハンジ
「ハンジ分隊長…エレンっすか…元気みたいっすよ。ミカサに飯を食わして貰ってやがったですし…」
ジャンは不機嫌そうに顔をしかめてそう言った
-
こいつはミカサの事が気になっているらしい
…俺にはその趣味は理解できねえが
何せミカサは事ある毎に、俺に敵意剥き出しにしてきやがる
ただ、先日の女型との戦いの後からは、その態度に些か変化が現れはじめたが…
ジャンとエレンの確執?を知ってか知らずか、ハンジはジャンの肩をポンポンと叩く
「食べられるなら、回復してきてる証拠だね!!良かった良かった!!」
「まあ、良かったっすよ…」
ジャンははぁ、とため息をついた
「ジャン、土産だ。食って機嫌直せ。じゃあな」
俺は唐突に、奴の手に街で入手した食べ物を握らせ、兵舎に入った
「兵長!!チョコレートじゃないっすか!!ありがとうございます!!」
背後から掛かる少々興奮気味の声に、手を振って応えてやった
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ジャン良かったな
チョコを簡単にジャンにあげるリヴァイ優しい
この作品に出てくるキャラは細やかな心の動きがさりげなく書かれてて楽しい
支援
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>>62
ジャンはあまり書いたことがないが、いつか主役で書いてみたい
心の動きの描写か…そこ誉められるのは凄く嬉しい、ありがとう
-
兵舎内の廊下をゆったりと歩く
「今日は私がリヴァイの部屋まで送ってあげるからね?」
有無を言わさぬその物言いに、俺はちらりと目を向けただけで、何も言葉も発しなかった
「しかし、ジャンはなかなか可愛い所があるねえ、チョコレート一欠であれほど喜ぶなんて、ねえ」
ハンジはにんまりと笑った
「チョコレートは高級品だ、滅多に食えねえだろうからな…」
俺はポケットからチョコレートが入った袋を取り出した
十数個のチョコレートが、個別に包装されていた
-
「その高級品のチョコレートを、惜し気もなく部下にあげるリヴァイが素敵だよ、うん」
ハンジはそう言うと、俺に手を差し出した
「ねえ、1個頂戴?」
「なんでてめえにやらなきゃいけねえんだ、クソメガネ」
俺は自分の口にチョコレートを一欠放り込み、またポケットにしまいこんだ
「自分だけずるいよ!!私にも頂戴ってば!!」
ハンジはそう言うと、俺のポケットから素早くチョコレートを奪った
「てめえ…返しやがれ!!」
「フフ、いやだね!!」
ハンジはチョコレートの袋を手に持ったまま、身を翻した
いつもの俺ならば、その動きについていけただろう
しかしいかんせん、松葉杖に加えて脚に痛みがある
「ちっ…」
舌打ちをするより他なかった
-
「ちっ…」
俺は足を擦りながら、顔をしかめた
「ご、ごめん、リヴァイ…大丈夫?」
ハンジが俺に歩みより、申し訳なさそうな、心配そうな顔で俺の顔を覗いた
その瞬間…
「返してもらうぞ?」
素早くハンジの手から、チョコレートを奪還した…
奪還作戦成功だ
「ちょっとぉ!?心配させておいてそれはないだろ!?リヴァイ!!デリカシー無さすぎだ!!」
ハンジは顔を真っ赤にして怒り出した
「もともとお前が俺のチョコレートをパクったんだろうが…」
眉をひそめる俺に、詰め寄るクソメガネ
「チョコレートくれない、どけちなリヴァイが悪い!!」
「…ちっ…うるせえなあ…」
俺は耳を塞いだ
「ジャンにはあげて、何で私にはくれないんだよ!?」
ハンジは不服そうに口を尖らせた
-
「…愛情の裏返しじゃないかな?リヴァイには昔からそういう所がある」
俺たちの背後から唐突に掛けられる言葉
良く通る、どことなく色気のある声
「エルヴィン!?やっぱり愛情の裏返しかな!?」
そう言いながら、目をきらきらさせるクソメガネの頭を叩く俺
「んな訳ねえだろうが…馬鹿が」
「ははは、仲が良くて結構だな」
奴は愉しげに笑った
-
「怪我は、どうだった?リヴァイ」
奴が少し眉をひそめてそう言った
「しばらくはこれが相棒だ…立体機動装置じゃなくてな」
俺は松葉杖をこんこんとさせた
エルヴィンは、ため息をついた
「…ハンジ、リヴァイが無理をしないように監視しておいてくれ」
「うん、了解!!任せて、エルヴィン!!」
「おいエルヴィン…監視って…」
俺の言を遮るかの様に、エルヴィンが口を開く
「リヴァイ、明後日にはまた、旧調査兵団本部に戻ってくれ。エレンとそこで待機だ…そこに憲兵が迎えに来る」
エルヴィンが、静かにそう言った
「…ああ、了解した」
俺は、奴に視線を向けながら頷いた
…相変わらず、何を考えているのかは全く読めない
だが、何か企んでやがるのだけは理解した
「そこで、沙汰を待てばいいんだな、エルヴィン」
「…察しが良くて助かるよ、じゃあな」
奴は俺の肩をぽんと叩き、去って行った
その大きな背中の自由の翼に目を向けながら…
いつになったら、本当の意味で自由に飛べるようになるんだろうな…とふと思った
-
スレタイ完全に荒らしだろ
-
一時的にバグったんかな?
前からこうだった訳じゃないはず
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>>74
すみません、何かおかしかったのでしょうか
>>75
ご心配ありがとうございます
-
バグっている様ですね…
皆さんすみません…
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荒木荘スレが消えた・・・
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っしゃ!復活した!!
まさかこのスレに吸収されるとは・・・
-
なんだかご迷惑をかけてすみませんでした
-
部屋に入ると、真っ暗な中に一筋だけ、窓の外から光が差していた
カーテンの隙間から溢れる、月明かり
その明かりを頼りに、ベッドサイドのランプに明かりを灯す
「あー、疲れたねえ!!おやすみなさーい…」
一日動き回った服のまま、俺のベッドにタイブするハンジ
…ちっ、汚え…
「おい、ハンジ…汚え格好のまま、人のベッドの上に乗るな」
咎める様な口調で言ったが、聞いちゃいねえ
そのまますうすうと、寝息をたて始める…いや、寝た振りだ
「おい、寝た振りすんな」
俺はハンジの兵服の襟を掴んで、上半身を起き上がらせる
-
すると、ハンジは目を開けた
「寝たふりばれちゃったか」
「当たり前だ、早くのけよ、汚え」
俺は咎める様な口調で言った
「じゃあ、着替えてくるから待ってて?」
いたずらっぽい表情を顔に浮かべながら、襟を掴む俺の手を握るハンジ
「…さっさと部屋に帰って寝ろ」
「添い寝は…?」
「却下だ…俺は脚が痛え。絶対安静なんだ、知ってるだろうが」
その言葉に、ハンジがハッとした表情をした
「そうだった…ごめんね、リヴァイ。薬飲んで、湿布貼らなきゃ!!」
そう言うと、俺をベッドに座らせて、いそいそと俺の足の包帯を外し始めた
…普通に気の効く、良い奴なんだよな
-
「あー、かなり腫れてるねえ…これは痛そうだ…」
ハンジはそう言いながら、眉をひそめた
「動かさなけりゃ、そんなに痛まねえ」
俺のその言葉に、頭を振るハンジ
「いや、我慢しなくていいんだよ?リヴァイ。私にはちゃんと本当の事を言ってよね?他の人には強がらなくちゃいけないだろうけど…」
ハンジはその顔に憂色を浮かべながら、患部にそっと湿布を貼り、また包帯を巻き直した
「…まあ、少し痛えな。動かさなくても…」
ぼそっと言葉を発した俺の顔を見上げて、柔らかな笑みを浮かべた
「素直でよろしい」
そう言って、俺の頬に手を伸ばし、何度も撫でる
「…実は少しじゃなくて、かなり痛え」
そう言うと、今度は頬をつねった
「こうしてたら、ほっぺの痛みにかき消されて、足の痛みがましになるかな?」
「…その前に、顔が歪む」
眉を引き絞る俺に、艶やかな笑みを浮かべるハンジは、ふふっと笑ってまた頬を撫でた
-
優しくて明るくて、病気になったらハンジさんに看病してもらいたいな
支援
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>>84
レスありがとう!!
-
「さ、後はお薬だね…ちょっと待ってて」
ハンジはそう言うと、水差しの水をコップに入れて、持ってきて、俺に手渡した
そして、薬を親指と人差し指で摘まんで、そのまま口に入れようとするハンジ
「はい、お薬飲ませてあげるから、あーんして、あーん」
…折角、良く気が付く奴だと心の中で誉めたのに、やっぱりいらんことしいだ、ハンジは
「自分で飲めるから、貸せ、クソメガネ」
ハンジが手に持つ薬を奪おうと手を伸ばすが、奴は立っているため、届かない
「たまにはあーんくらいさせてよ?」
その一連の行動を、さも楽しそうな顔でやろうとしやがるのが、腹立たしい
-
ちっ…仕方がねえ
口を開けてやると、ハンジの指が、俺の口に直接薬を入れた
指が薬を離したその時…ペロリとその指を舐めてやった
「!?」
一瞬驚いた様に目を見開き、その後まるで酔った様な赤い、恍惚とした表情を浮かべるハンジは、その顔を俺に近づける
「添い寝、したくなっちゃったかな?」
誘うような声色で、囁くハンジ
俺は勿論首を横に振る
「絶対安静だと言っただろうが」
「…そっか…残念」
ハンジは心底残念そうにそう言うと、俺の唇に、自分のそれを殊更ゆっくり這わせて、密着させた
-
それが離れると、ハンジはふぅ、と息を吐いた
「何だろう…今日のリヴァイの唇は美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまう…」
困ったように首を傾げるハンジを一瞥する
「…味なんてしねえよ、発情期の変態め」
「発情期って言っても、誰彼構わずじゃないよ?リヴァイにだけさ…嬉しい?」
「…ありがた迷惑だ」
そう言い放った俺に、ハンジは肩を竦めた
「リヴァイの発情期を待っていたら、私はお婆さんになりそうだね…」
そう言うと、俺の頭をよしよしと撫でて、部屋の扉に向かった
そして、扉の前に立つとこっちを振り返る
「お婆さんになる前に、早いところ添い寝をよろしく!!」
そう言って、返事も待たずに部屋を出ていった
「…ちっ、クソメガネめ…」
勝手に煽って、勝手にキスして、勝手に帰って行きやがった
まあ、天真爛漫なあいつらしいと言えば、らしいんだがな…
-
ハンジが去り、一人きりの部屋
痛み止めの薬のせいか、急激に眠気が襲ってきた
「着替えないとな…」
俺は頭を振り、小さな声で独りごちた
部屋の角にある小さなタンスから、着替えを取り出す…その間にも脚の痛みを感じて、つい舌打ちをする
「…ちっ」
全く…煩わしい
こんな怪我、どうってことねえと思って軽く見ていたのが運のつきか…
まあ、骨に異常が無かったのが奇跡的なくらいだとは思う
女型の裏拳を脚で止めたんだからな…
このくらいで済んで、運が良かったのかもしれねえ
だが、正直動けない兵など無用の長物なんだ
はぁ…着替えながらついため息をついた
大人しく寝て、安静にしておくしかねえか
一刻も早く治して、立体機動出来るようにしなけりゃな…
-
次の日の朝
起きて着替えていると、突然扉がバンッと音をたてて開いた
「おっはよー!!リヴァイ!!よく眠れたかい!?」
朝から何故かハイテンションなハンジ
つかつかと俺に歩み寄り、頬に手を添える
「ん、顔色良し!!」
そう言って、にんまり笑った
「…クソメガネ…ノックくらいしろよ、なあお前学習能力あるはずだよな…?普段は頭が切れる奴だ、なのになぜノックをしないか…それは…」
俺の愚痴を人差し指で止めたハンジは…
「めんどくさいから!!」
「てめえハンジ!!」
握りこぶしを作って拳骨をしようとした俺から、ひらりと身を躱す
「ふふっ、リヴァイは今日も元気だね!!さあ、足の具合を見せて?」
ハンジは、新しい包帯と、湿布を片手に、艶やかな笑顔で言った
-
「んー昨日と変わらないね、まだ腫れてる…」
ハンジはそう言いながら、手際よく湿布を貼り、包帯を巻く
「なあ、昨日から気になってるんだが…」
「…ん、なあに?」
ハンジは視線を足に向けながら相づちを打った
「いつも一緒の副官が見あたらねえが」
俺のその言葉に、ハンジは顔をあげる
「モブリットは技巧班と、作戦につかう装置の作製現場に立ち会ってるよ」
「てめえは行かなくていいのかよ?」
「だって、エルヴィンに頼まれちゃっただろ?無理しないように監視してくれって。だからいいんだ」
俺はため息をついた
こいつは本当に能天気だ
「モブリットに全部仕事を押し付けるなよ…」
「いや、昨日あれからちゃんと製図書いたんだよ。全部押し付けてはいないよ」
ハンジは抗議するような口調で言った
「…そうか、すまない」
やる事はやってやがるんだな…
奴がそうまでして、俺の世話を焼きたがる理由が、未だによくわからなかった
-
「着々と奴の企みは進んでいる様だな」
包帯を巻いて貰いながら、俺はつい含みのある言い方をしてしまう
今回の王都召還が意味する事…
調査兵団の解体
エルヴィンの進退問題
エレンの処遇
これらをひっくり返すのに、全く犠牲無し…では済まないだろう
それくらいは俺の頭でもわかる
仕方がないとは言え、やはり気になる
しかし、一度信じた道、一度信じた奴の進む道
もう後戻りは出来ない
死んでいった仲間の為にも、例えこの手を血で染めようと
歩みは止められない
-
「リヴァイ、何を考えてるのかな?」
いつの間にか包帯を巻き終わったらしいハンジが、俺の顔を下から覗きこんだ
「…質問をしたと思うんだが」
俺は静かに言葉を発する
「…あ、ああ、企みね。うん、リヴァイにはエルヴィンが直接話すと思うよ。今はまだ、ぎりぎりまで練るらしいから…」
言いにくそうなハンジに、俺は頷いた
「そうか、まあ何とかなりそうならいいんだ」
そう言った俺の横に、ハンジはひょいっと体を踊らせて座ると、腕を組んできた
「大丈夫、リヴァイは私が守ってあげるからね?」
その言葉に、俺は大層不機嫌になる
「お前に守られるほど役立たずじゃねえよ!!」
「でもさあ、リヴァイ。松葉杖だし、立体機動だってできないのに…せめてそんな時くらい守らせてよね?」
ハンジが慈愛のこもった眼差しを俺に向けた
「…好きにしろよ」
ため息混じりに呟く俺に、ハンジはそっと頬を寄せた
-
「…ちっ。おい、眼鏡が当たって痛え。離れろ」
奴が頬を寄せる事で、俺の顔に眼鏡のフレームが押し付けられている状況だ
「あっごめん!!じゃあ外すね?」
「…そうじゃねぇ、頬擦りすんなと言ってるんだ、クソメガネ」
慌てて眼鏡を外そうとする奴に、見当違いを指摘した
「愛しい馴染み君に頬擦りしたい私の気持ちくらい、尊重してくれよ…リヴァイ」
つんつんと頬をつつくハンジに、どう反応したものか思案に暮れる
下手なことを言うと突っ込まれたり、行動がエスカレートするからな…
「リヴァイ、何を考えてるの?神妙な顔付きでさ…」
返答が無い俺に痺れを切らしたのか、奴が心配そうに顔を覗き込んできた
-
「…愛しい馴染み君て、何だ」
奴の眼鏡をそっと外しながら静かに言葉を発した
「え?リヴァイにとって私は愛しい馴染みちゃんじゃないの?」
ハンジは俺の顔を覗きながら、不服そうに口を尖らせた
「俺を君…などと言うのもごめんだし、お前をちゃん、なんて言うのはもっとごめんだ」
汚ねぇ眼鏡を拭いてやりながら、奴の顔を見る
割りと大振りな顔のパーツ
特に目はいつもくるくるとよく動き、好奇心の塊である奴の象徴らしい
今はその底無しの好奇心が、俺に向いているのか、視線を離そうとしない
「じゃあ、何?愛しい君?愛しいあなた?愛しい馴染み?私はそのどれでもいいんだよ?」
ふっと浮かべる打算計算の無い笑顔
その笑顔が愛しいと口には出せない
少しは気の効いたセリフでも言えればいいが、それも出来そうに無い
「リヴァイ?怒ってるのかな」
心配そうに瞳を曇らせる奴の、ぼさぼさ髪の後ろ頭に手を伸ばし、ぐっと引き寄せる
「怒ってねえよ」
お互いの吐息が混じる程の距離でそう呟いて、奴の唇に、自分のそれを押し付けた
-
しばらく、奴の意外にも柔らかい唇と、意外にも滑らかな頬の感触を味わう
頬に触れていた指を首筋に這わすと、奴が微かに震えたのがわかった
そのまま、奴が纏っている兵服…という名の鎧を脱がせに掛かろうと、胸のベルトに手を掛けると、その手を奴が握り締めた
「リ…ヴァイ…何で…このタイミングで発情しちゃうかな…?昨日いくらでも、時間はあったのに…」
喘ぐような、熱い吐息混じりの声が、俺の耳の奥をくすぐる
「…さあな…わからねえ」
俺はぼそっと呟くように言葉を発した
「リヴァイはタイミングが悪すぎだよ…?今日は忙しいのに…」
ハンジはそう言いながら、俺の頬を撫でた
「お前が…煽るからじゃねえか…」
「待て待て!!今日は煽ってないよ!?勝手にキスして、欲情しただけだろ…?」
ハンジは口を尖らせた
-
「頬擦りをした…だろうが」
「そんなの煽った内に入らないよ?煽るって言うのはさあ…」
ハンジはそう言うと、俺の顎に手を掛けながら、自ら兵服のベルトを外そうとして…俺に止められる
「今やる気がねえなら、無駄に煽るな…馬鹿が」
「…もう、ほんとタイミング悪すぎだよ…相性良くないのかなあ…私とリヴァイ」
困ったように首を傾げるハンジに、俺は眉をひそめる
「相性が良くてたまるかよ…クソメガネ」
「えーっ!?私と相性が良いのがそんなに嫌なのお!?」
ハンジはまた、唇を尖らせたのだった
-
「今日はエレンの様子を見に行くだろ、それから事務処理だろ、で、夜には旧調査兵団本部に行かなきゃ…ほんと忙しいよ」
ハンジは眉をひそめた
「確かにバタバタだな」
「その足では馬には乗れないから、馬車だ。余計に時間が掛かるよ」
「…馬くらい乗れるが…」
ぼそっと言う俺に、ハンジがぎろっと睨みをきかす
「絶対に、駄目だ!!いいかい!?立体機動禁止!!馬に乗るのも禁止!!踊るのも禁止!!わかったかい!?」
「…踊らねえ…」
ハンジは俺の突っ込みを無視して、肩にコツンと自分の頭を乗せる
「でもまあ、添い寝くらいなら、許可するよ?リヴァイ」
艶やかな声色で囁くハンジ
「それはてめえのご都合主義じゃねえか…」
「リヴァイもそろそろ限界なんじゃないかなあって、私なりに気を使ってるんだけどね?」
「そんな気は、使わなくて結構だ」
つん、とそっぽを向いた俺にハンジは…
「またまた、素直じゃないんだから〜リヴァイは。わかってるわかってる」
そう言って、頬に唇を寄せるのだった
-
今日初めて読んだけど良かった!
二人のキャラがすごく良い
-
>>99
読んでいただきありがとう!!
またよろしくお願いします
-
「エレーン、元気だったかい?」
調査兵団の一室に、エレンはいた
ハンジと供にその部屋にいくと、嬉しそうに顔を綻ばせるエレンが立ち上がって出迎えた
「兵長、ハンジさん!こんにちは!」
大きな瞳を輝かせているこの、あどけない少年が、人類存亡の鍵を握っている・・・巨人の力を持つエレン
何とも気の毒な役回りだと思う
わけもわからぬままに、当事者にさせられて、わけのわからぬままに、祭り上げられた
だがそんな大変な役回りを担う少年は、徐々にそういった状況に慣れて行った
そんな中、信頼していた仲間を次々と失った
しかも、目の前で
体も心も憔悴しきって、数日前にはこのまま廃人になってしまうのではと心配をしたものだが、すこし元気になっていたようで、安心した
-
「兵長、足の具合はどうなんですか?」
心配そうに俺に話しかけてくるエレン
「大丈夫だ。こんな杖つかえとは言われているがな」
松葉づえをこんこんとさせて、答えた
「兵長・・・俺のせいで・・・」
「言うな、エレン」
俺は最後まで言わせることはなかった
誰もせいでもない
結果は誰にもわからない
俺にだって、わからなかった
何が最善なのか、そんなことは、きっと誰にも一生わからないだろう
それでいいんだ、それが、人間なのだから
-
「エレン、体の具合は良さそうだね、よかったよ」
ハンジがエレンの頬を優しく撫でながらそう言った
エレンはくすぐったそうに目をつぶった
「はい、ハンジさん、ご心配おかけしました」
エレンのあどけない顔が、ハンジにも何か影響を及ぼしただろうか・・・
ハンジの顔も限りなく優しげなものだった
まるで・・・母のような?
そんな表情だ
「リヴァイ、今日の夜だっけ?旧調査兵団本部に行くのって」
「ああ・・・そうだな。明日は掃除もしておきたいしな」
「また、掃除・・・?リヴァイは掃除好きだねぇ」
ハンジは肩をすくめた
「当たり前だ、きたねぇ所で生活できるお前の方が不思議だ、俺は」
ハンジのぼさぼさ頭をさらに混ぜながら、俺は言った
-
「あの・・・兵長、ハンジさん・・・これから、どうなるんですかね・・・俺・・・」
エレンが突然不安そうな顔をした
ハンジがそんなエレンを気遣うかのように、顔をのぞきながら背中を撫でる
「エレンは心配しなくて大丈夫だよ。きっと、大丈夫だからね?私たちを信じて?」
信じる・・・今のエレンに、この仲間を信じる・・・という事にどれだけの価値を見いだせるか・・・
エレンは仲間を信じた結果、仲間を失ってしまった、その現実を目の当たりにしたからだ
案の定、表情を曇らせたエレン
「・・・俺は、もう、間違いたくないです・・・ハンジさん、兵長」
「・・・エレン、お前は間違っちゃいねえんだ。間違いなんて、ないんだ。迷うな」
俺は、エレンにそうとしか言えなかった
なぜなら、俺自身どれが正解なのかがわからねぇんだから
-
それから部屋に戻り、大量にたまった書類の束と、日中いっぱい格闘する
ハンジも手伝ってくれた・・・たまにじゃれてきて邪魔してきやがったが・・・
「はぁ、やっと終わったね!疲れただろ、リヴァイ」
机に突っ伏しながら、俺に視線だけ向けるハンジ
「ああ、疲れた・・・夜には移動だ、すこし休んでおくかな」
俺はそう言って、ベットに寝転んだ
「私もー」
ハンジが俺の横に、滑り込む
「・・・おい、狭い」
「添い寝添い寝!」
「・・・勝手にしやがれ」
反論する元気もなく、睡魔に身をゆだねることにした
奴は俺の背中にぴったりと自分の体を寄せて、やがて俺より早く、すーすーと寝息を立て始めた
「・・・呑気な奴・・・」
ぼそっと呟いて、目を閉じた
-
地下室のエレンの部屋
地下室ではあっても、人間らしい生活はさせてやりたかった
だから、必要なものはすべて、ここに運び込ませていたし、ベッドもふかふかの敷きマットにしてやっていた
人間兵器…などと言われてはいても、こいつはまだ15歳なんだから
「エレン、今日はゆっくり休め。わかったな」
エレンをベッドに押し込んで、俺はそばの椅子にどっかり腰を下ろす
「兵長、はい」
エレンの大きなその瞳は、今にも泣きだしそうに、うるんでいた
炊事場、娯楽室、いろいろな場所を見るたびに、ペトラやオルオ達を思い出していたのだろう
「さっさと目をつぶれ」
「はい、兵長」
目を閉じたエレンの瞳から、一筋涙が零れ落ちた
俺は、その涙をハンカチでぬぐってやることしか、できなかった
-
あどけないエレンの寝顔
まだたった15歳だ
その背に背負うにはあまりに大きい役割と、代償
こいつに耐えられるんだろうか
だが、俺は決めていた
その重圧を少しでも和らげるのが、俺の役目の一つでもある
だからこそ、厳しい事も言おう
後ろを振り返ることは、許されない
常に前を見据えて進み続ける
それをこの、少年にも・・・
常に望み続けるしか、道はなかった
-
すーすーと寝息をたて始めたエレンの顔を、じっと眺める
ここ…旧調査兵団本部に戻った時、俺はエレンを真っ先に地下室に連れていくつもりだった
エレンには、奴らの思い出がつまった部屋や食堂などを見るのが辛いだろうと思ったからだ
だがエレンは、自ら全員の部屋や、炊事場、奴らとの思い出の場所を全て、回りたがった
その場所毎に、こんなことがあった、あんな事もあったと、思い出を語っていた
その結果…こうして涙を流したわけだが、エレンは俺が思っている以上に強い奴なのかもしれねえと、内心舌を巻いた
悲しみを乗り越えて、それを前に進む力に換える
俺がそれを修得するのに、どれだけの月日がかかっただろう
それをエレンは、すでに知らず知らずのうちに、出来るようになっていた
あまりにも辛い現実が、エレンにそれを修得させたのかも、しれねえな…
-
翌朝…
結局地下室にエレンを一人きりにさせるのに気が引けたため、俺はソファで一夜を過ごした
体を起こし、負傷した脚をあまり地につけないように、湿布と包帯を取りに行こうとした
その時ー
「兵長、おはようございます」
まだ眠たそうに目を擦りながら、エレンが目を覚ました
「よう、エレン。起こしちまったか」
「いいえ、目が覚めただけです。あっそれより…兵長杖なしで動かないで下さいよ!!」
エレンは慌ててベッドから飛び起き、テーブルに置いていた湿布と包帯を取りに行った
「すまない、エレン」
俺はソファに腰を下ろした
エレンが駆け寄ってきて、足の包帯を取るべく跪く
「痛そうですね…まだ腫れています」
エレンは顔をしかめながら、湿布を張り替えて、また包帯を巻き直してくれた
「大丈夫だ。じきに治るさ」
「だと…いいんですが…」
くちごもるエレンに、俺は頷く
「お前は今日の掃除の事を考えてろ、エレン」
俺の冗談に、エレンは見事な敬礼で応えた
…俺の冗談は通じにくいらしいな
-
なんかこの話は古典絵画みたいな雰囲気がする。
静かで、暗いトーンの中に光と陰が豊かに表現されている、西日の差す室内画みたいな雰囲気を感じる。
うまく言えないけどそんな感じがする。
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>>110
凄く素敵で高尚な物に例えてくれてありがとう
リヴァイ自身があまり顔に感情を出さないからかな…
寝る前に凄く嬉しいコメント、ありがとう
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朝食を済ませ、エレンは地下室を、俺は上の部屋の掃除を始める
この拠点はしばらくは使うことはなくなるだろうが、世話になった分綺麗にしてやらないとな
そう、俺は結構律儀なんだ
心の中で何故かそんなことを呟きながら、お手製のはたきでタンスの上のほこりを叩く
「・・・とどかねぇ」
思わず愚痴がこぼれた
仕方なく立てつけの悪い椅子を持ってきて、その上にあがってはたく
「ちっ、ぐらぐらしやがる」
眉を顰めながら、俺はつぶやいた
その時
「兵長!だめじゃないですか!また無理をして!」
そう背後から声がかかった
「・・・エレン」
俺は椅子に乗ったまま、顔だけ声の方向に向けた
「松葉づえ使わないといけないんでしょう?兵長だめです、ほら!」
エレンは歩み寄って、俺に両手を広げた
-
「・・・なんだ、それは」
「足をつかない様に、手を貸そうと思っただけですよ、兵長」
「・・・お前にだっこされるほど不自由してねぇよ」
おれは思わず吹き出しそうになるのを、懸命にこらえた
「だ、だっこ?いえそんなつもりじゃ・・・」
いきなり顔を赤らめるエレンの肩につかまり、負傷している足をつかない様にすたっと地面に降りる俺
「ま、今日は背の届かないところのほこり取りは我慢するかな」
そう言って、エレンの肩をぽんと叩いた
「兵長、むしろ動かないでじっとしていてくださいよ・・・ハンジさんに叱られますよ?」
「まあ、無茶はしねぇ。そのかわりエレン、しっかり掃除しろよ?」
俺のその言葉にエレンは
「はいっお任せ下さい兵長!」
そう言って、見事な敬礼を施すのだった
-
そんな感じで掃除を終え、夜になった
明日の朝には、憲兵団の支部に移送される運びになる
今日の夜、エルヴィンがここに来る予定になっていた
俺たちは、がらんとした食堂で奴らが来るのを待っていた
「エレン、体調は平気か」
「はい、大丈夫です、兵長」
他愛もない会話をしながら、奴らの来るのを待つ
そうしている間に、こんこんと扉がノックされる音が聞こえた
「待たせたな、リヴァイ、エレン」
やっときやがった
「エルヴィンおせえなてめえ。くそでも長引いたのか?」
俺は席につく奴に毒づいた
「・・・ああ、ちょっと今日は調子がな」
真剣な表情はそのままに、俺のぼけに返答する金髪のたぬき
「・・・兵長・・・」
エレンが笑いそうになるのを必死にこらえながらつぶやいた
「さて、クソの話はおいておいて・・・作戦について説明しよう」
-
そこからの話は、まさに青天の霹靂だった
女型の正体をつきとめた
そこまではよし
それを今度こそ捕獲するという・・・
しかも、街中で
勿論町にも憲兵団にも知らせず秘密裏に
どれほどの犠牲がでるだろう
憲兵団にも知らせないのならば、住民の避難すら、ままならないだろう
俺は、背筋が凍るような気がした
それしか、方法はないのか、そう思った
だが・・・
「これ以上の案は、私がいくらしぼろうともでなかった。リヴァイ、理解してくれ」
そう言われてしまうと、納得するしかない
俺には考え付かないんだからな
やつは知っていた
俺が犠牲を払いながら自分が助かる道を選ぶことを潔しとしない事を
だが、俺はともかくエレンは守らなければならない
奴を守るために死んでいった部下たちのためにも
死守せねばならない
たとえどんな犠牲を払おうとも
鬼だ悪魔だと、ののしられようとも・・・
-
作戦を考えたのはアルミン・アルレルトだった
エルヴィンほどの男が、一目おいている存在の、新兵だ
あどけないその表情、その顔からは想像もつかないような、突飛な作戦を考え付く
すでにその才覚で、エレンを窮地から救い、その力でトロスト区奪還作戦を立てた
俺は密かに、エルヴィンの後釜はこの少年だろうと思っていた
俺の後釜は・・・
俺を敵視している、ミカサ・アッカーマンだろう
あの身体能力は本物だ
時代は常に流れている
そう、俺がいなくなっても、調査兵団は、世界は、まわっていくんだ
ふとそう思った
-
エレンを地下室に寝かしつけ、俺はまた、ソファで横になる
明後日は、犠牲が少ないように、なんとかならないかと答えの出ない思案をしながら・・・
そういえば、ハンジはどうしているだろうか
作戦の重要な部分を請け負っているらしいが・・・
奴も相当疲れている
奴は疲れを顔や態度に出さないからな
まあ、副官が癒しているかもしれねぇがな
そんなことを考えながら、今日も夢に身をまかせる
-
翌朝
今日、ここ旧調査兵団本部から、ストヘス区方面へ向かう
そこから翌日の王都召還に向けて、ストヘス区手前の駐屯兵団支部で拘束されるらしい
・・・めんどくせえ
昨夜エルヴィン達が話やがった例の作戦実行は、明日
俺たちが王都移送の際に通り抜けるストヘス区にて決行される
エレンの力を使って…巨人の力を使って行う作戦
エレンは緊張の面持ちを隠せなかった
なぜなら、女型の正体は、エレンがよく知る人物だったからだ
俺はそいつのことはよく知らねぇ
ただ、憲兵団に所属できるほどのエリートで、相当の実力をもった奴だという事だけはわかる
・・・俺の部下のグンタが、一瞬で殺られたくらいだからな
オルオも、ペトラも、エルドも、ほかの兵士たちも、女型にたくさん殺られた
-
・・・だがな、何故か腑に落ちねえ
女型の目的が何か・・・
エレンを連れ去る事だ
それはわかる
ならばもっと、スマートなやり方があるとおもわねえか?
わざわざ、壁外へ出てやることか?
・・・そうか、壁内ではエレンのそばに俺が付いているからか・・・
だから、うかつに近寄れないってわけか?
それか、正体がばれるのをおそれてこそこそしてやがるのか
どのみち、わからねえことだらけなのは日常茶飯事
とにかく明日は、人的被害が最小限になるようにと、祈るしかねぇ
・・・俺はこの足だ、たたかえねえし役に立たねえ
ただエレンを励ましてやるくらいしか、できることはなさそうだな
・・・その励ますとやらが俺が一番苦手とする分野なわけだが
-
考えても答えがでてこねぇ思考を繰り返しながら、エレンを伴ってまた掃除をして時間をつぶす
とはいえ、俺は動くなといわれて、ずっと椅子に座ったままなんだが
身体がなまっちまいそうだ・・・
正直、少し立体起動装置が恋しいと思っちまう
ま、しかたねぇな、自分でまいた、種だ
・・・だが、足の方はかなり良くなってきているらしく、ほとんど痛みは感じなくなった
少し、足を床につけて歩いてみたのだが、痛みもほとんど感じなかった
まあ、立体起動は普通に歩く何十倍もの圧力に、足が耐えなければならねえ
その立体起動に耐えうるかというと、それは否だろう
ここで無茶をして動かせば、また奴に怒られるだろう
奴・・・奴は何をしているかな
たぶん作戦に使う機材の準備に大わらわだろう
-
放っておけば不眠不休で働き続けるハンジ
自分の体を削って、その目的に邁進する意志力
その目は何時も、遠くを見据えている
・・・そう、エルヴィンと同じだ
俺は、その目をすることが、できない
まだ、奴らに並んでいるとは、言えない気がした
奴らと肩を並べる唯一の方法が、たたかう事
それすら今は、ままならない
・・・そうだ、俺は・・・
俺は信頼に足る同志がほしかった
だからこそ、こうして戦ってきた
戦えない俺など、用済みなんだ
だから・・・必要とあれば、たとえ無理をしてでも戦う
そう思い立ち、立体起動装置の点検をすることにした
-
旧調査兵団本部より、明日の王都召還に向けて、俺たちの身柄の移送が始まった
エレン・・・は俺とは違う馬車に乗せられて、移動した
馬車に乗っているエレン・・・実は、エレンじゃねぇ
内密だが、実は身代わりを立てた
エレンだと思われて移送しているのは、実はジャン・キルシュタイン
そう、俺がチョコをやった、新兵だ
エレンと顔と背格好が似ていることから抜擢された、身代わりだ
憲兵のやつらはろくに顔を確かめやしねぇ
かつらをかぶっているとはいえ、顔つきは全然違うんだがな・・・
ま、それほど今の憲兵団組織はお粗末なものだという事だ
ジャンは俺に、エレンに似てるはずがないと詰め寄ってきたが、どう考えてもジャン以外に適任はいないと説得した
さあ、この身代わり作戦が吉と出るか、凶と出るか・・・
全ては明日、雌雄が決する
-
ちなみにエレンは、仲間たちと共に一足先にストヘス区手前に潜伏している
作戦を実行に移すために・・・
たぶん、ハンジ達も一緒だろう
今の俺にできることは、おとなしく馬車に揺られる事だけだ
今は、我慢の時だ
俺の立体起動装置は、部下に預けてきた
もしかしたら、使う必要が、あるかもしれねぇからな
翌朝、ついに王都召還当日
「リヴァイ、こっちの馬車に乗れ。エレンは向こうだ」
そう指示してやがるのは、憲兵団師団長ナイル・ドーク
どうやらエルヴィンと同期らしく、また、ライバルだったらしい
何のライバルかまでは、俺はしらねぇがな
エルヴィンに比べたらかなり疲れて老けた様に見えるが、これが普通で、エルヴィンが異常なのかもしれねぇ
そんなどうでもいい事を考えながら、馬車に乗せられた
師団長を先頭に、馬車はストヘス区内に侵入した
-
馬車がしばらくストヘス区内を進む
計画がうまくいけば、この辺ですでに女型を拘束できているはずだが・・・どうやらまだらしい
作戦は3段階のパターンで組まれていた
第一段階では、エレンをおとりに女型をおびきよせ、捕まえる
第二段階では、第一段階が失敗し、女型に巨人化を許してしまった場合、エレンが巨人化したたかわせ、捕獲する
第三段階は・・・ハンジ達が用意しているだろう、捕獲用機材、これに頼ることになる
第一段階で済んでくれれば、町への被害は最小限で押さえられるだろう
しかし、そんなに事がうまく運ぶ事を、あんなに慎重な女型が許すはずもないと、俺は思っていた
案の定、その作戦はどうやら失敗したようだった
わりと近くでどーおおおおんという大きな衝撃音が轟く
2度だ・・・
女型の巨人化と、エレンの巨人化・・・とみて間違いねぇだろう
俺は、おとなしくしているつもりは毛頭なかった
馬車に同乗して監視している奴を振り払い、馬車から飛び出す
すると、エルヴィンもすでに馬車の外に出ていた
そして・・・ナイルと憲兵団に銃口を向けられていた
-
奴らの問答を聞いていると、だんだんむかっ腹が立ってきた
街中で巨人が暴れているのは事実
エルヴィンに気を取られている間に、救援活動の一つ指示したらどうだ
・・・やっぱり奴らはバカだ
俺はそう思った
だから、口に出してこう言ってやった
「おい薄らひげ、てめえの脳みそはそのうすらひげみてえにぺらぺらか?今なにをすべきか、考えればわかるはずだがな」
俺に薄らひげと呼ばれたナイルは、俺の方に恨めし気な目を向けて、舌打ちをした
「銃を下ろせ!エルヴィンに手錠を、そして憲兵団は全員町人の救援活動にあたれ!」
やっと、まともに動きやがった
お前らが動くのが遅いせいで、犠牲者が増えたに違いねぇ
・・・とはいえ、もともと俺たちが遂行しようとしている作戦自体に問題があるんだが・・・
そして、後方の馬車からエレン・・・の身代わりのジャンが飛び出してきた
やつはかつらをはずしながら、俺とエルヴィンのところに駆け寄ってくる
「団長、俺も参戦してきます!」
エルヴィンは頷き、装備を整える様に指示した
「兵長、いってきます!」
そういうジャンに、俺は視線を向ける
「くれぐれも無理はするなよ?」
「はい、兵長!」
ジャンはばしっと敬礼をして、駈け出して行った
-
ジャンの強い、意志をもった瞳、それを見た時、俺にも何か出来ることがあると悟った
出来る事・・・無理をしてもやらなければならない事
俺が、奴らと肩を並べるためにやれる事
それは今こそ必要なんだ
たとえ足が動かなくなっても、今、必要だと確信した
その時、エルヴィンが俺の方に視線を向けていることに気が付いた
そのブルーの瞳は熱いあおい焔が揺蕩う様に揺れていた
「リヴァイ・・・お前は動くな。おれは無駄死にが嫌いだ」
「ああ、嫌いだ。無駄死にするのも、されるのもな」
俺はそう言い残して、その場を離れた
装備を持っている班に渡していた、俺の立体起動装置と兵服
それに素早く着替える
「兵長、兵長は立体起動は・・・」
心配そうに俺に声を掛ける部下に、松葉づえを渡す
「大丈夫だ。無理はしない。それよりこれを預かっててくれ」
そう言い残し、戦いの痕跡をたどって町を立体起動で飛び回った
-
俺は脚を気にせずいつも通り立体起動をする
戦いの爪痕を見ていると、その戦いが想像を絶する激しい物だというのがわかる
知性巨人同士の戦いだからな・・・
町を飛び回りながらふと建物と建物の間に、人がいるのが見えた
…一般人だ
俺ははやる気持ちをとりあえず押さえて、その人影のところに降り立った
そこにいたのは、小さな子どもだった
小さくまるまって、震えていた
俺は子どもが苦手だ
この表情で、いつも泣かれてしまう
だがこの際苦手だの得意だのと選り好みはできねえ
声を掛けた
「おい、大丈夫か?」
子どもはびくっと背をふるわせた
恐る恐るといった態で、こちらを振り向いたのは男の子だった
4、5歳くらいか?よくわからねえ
「兵士さん?」
男の子は俺のことを怖がるそぶりは見せず、そう言った
顔にはたくさんのチリと埃、そして擦り傷、涙の跡・・・
それを引き起こした原因は俺たち・・・胸が、痛んだ
-
「おいちび、ほかに怪我はねぇか?」
俺はそのちびの頬についた埃をはらってやりながら、そう言った
「兵士さん・・・はい、大丈夫です」
なかなか、聡明そうな子ども
身なりもいい、きっと貴族なんだろう
「ここは危ない。逃げるからしっかりつかまっていろ。手を離すな。足は体に絡ませろ、いいな」
俺はそう言って、ちびを背におぶってそう言った
「は、はい。わかりました」
ちびはそう言うと、俺にしっかりとしがみついた
それを確認した俺は、早速立体起動で建物の上に舞い上がり、避難所になっている北側を目指した
その途中で調査兵達が避難誘導していたのをみつけて、そこに降り立つ
俺が来たのに気が付いた部下が、喜び勇んで駆け寄ってきた
「兵長!ご無事でしたか・・・しかしその装備・・・」
「俺の足は大丈夫だ。戦うわけじゃねえからな。人命救助くらい、できる。一人見つけてきた。頼んだぞ」
そう言って背中のちびを下ろした
ちびは俺の正面に立ってお辞儀をした
「ありがとうございました!あと、あなたは、リヴァイ兵長だったんですね。僕、調査兵団に入りたいんです」
「・・・ちび、がんばれよ」
俺はそう言って、ちびの頭をなでてやった
なんだ、病院での出来事といい、俺は最近子どもに人気が・・・あるわけねえ
年の割にはしっかりとした口調のちびに分かれを告げ、一路戦いの激しい南
-
南側は一層戦いの痕跡が激しかった
壊された建物は数知れず、巻き添えになった町人、兵士も多数
頭を抱えるしかできなかった
だが、反省は後からできる、今は・・・
必死に戦っているエレンを見つけて、せめて見守ってやる事・・・
すると、最南端の壁際に、女型がいるのが見えた
エレンもいる
女型は、その体を壁の上へと持ち上げようとしていた
それを、エレンが必死に食らいついて止めていた
俺は考えた・・・だが、どうしてもここからその壁までの距離を考えて、その動きを阻止することが俺にはできないことはわかった
とりあえず前進する事に徹した
どうやらハンジとミカサが女型の方に行ったようだが、ハンジは女型の位置まで体を飛ばすことができなかった
ミカサが・・・エレンの力を借りて、空高く舞い上がる
そして、そのスナップブレードが確かに、アニの両手を切り裂いたのがわかった
女型は、地面に崩れる様に落ちた
勝ったか・・・そう思った
-
その瞬間、エレンの挙動がおかしくなる
地面に落ちた女型に覆いかぶさって、その肉をくらう、エレン
しかも、その女型からなにやら異常な靄のようなものが噴出しているのがわかった
それは結晶のように固まっていくように見えた
まずい、エレンは暴走している
それだけじゃねえ、何かがおかしい
俺は、急いでアンカーを飛ばした
そして、その二体の巨人の姿を見た時、一瞬の躊躇もなく、エレンの腕を削ぎ、女型から引き離した
その数瞬後、女型の本体は・・・そのもやのような中から生まれた水晶の様なものに、自らを覆ってしまっていた
エレンは・・・無事だったようだ
ミカサに身体を預け、眠っている様だった
「エレン・・・よかった」
エレンの体を抱きしめるミカサに歩み寄る
「怪我はないか?」
「エレンは大丈夫です、兵長」
「ミカサ、お前もだ」
「・・・大丈夫です、兵長」
ミカサは一瞬目を見開いたが、頷いた
「なら、いい」
俺はふう、と息をついた
-
「ミカサ、お前はよくやった」
俺はそれだけ言って、ミカサの背をぽんと叩いてやった
ミカサはまた、目を見開いていたがしばらくしてその頬が赤く染まったように思った
まあ、どうでもいい
それより、女型だ
奴は自らを強固な水晶体で覆ってしまった
奴の近くに行くと、ジャンがその水晶にスナップブレードを何度も打ち付けてうめいていた
「なんっだよ・・・逃げんなよ・・!出てきやがれ!!隠れんじゃ・・・ねえよ!!」
何度も何度も、ブレードを水晶に打ち付けるジャン
その水晶は欠けるどころか傷一つ、ついていなかった
俺は、ジャンに歩み寄って、その手をつかんだ
「もうやめておけ。無駄だ。手を、痛めるぞ」
俺は静かにそう言った
「兵長、ですが!ですが!!!」
悔しげなジャンの背をポンポンと叩き、首を振る
「それよりやらなきゃならないことが、あるだろう。おい、ハンジ」
俺は後ろに呆然と立ち尽くしていたハンジに声をかけた
「あ、ああ、そうだね。そうだ。おいみんな、水晶ごと女型・・・アニを拘束してくれ。地下に運ぶぞ?急げ」
ハンジはそう言うと、部下と共にその水晶体を拘束すべく行動を開始した
-
その後エルヴィンは、ストヘス区長や憲兵団との申し開きに時間を費やされた
俺はその間に、アニが拘束されている地下室へ足を運んだ
その地下室に入ると、紐で拘束された水晶に囲まれたアニ・レオンハートの姿があった
場違いかもしれないが、その姿はまるで眠り姫の様に美しいと思った
「リヴァイ・・・きたね」
そう言うのはハンジだった
さきほどの呆然としていた顔とは違い、しっかりとした意志を感じるいつものハンジ
「兵長・・・お疲れ様です」
そう頭を下げるのは、副官のモブリット
「ああ、二人とも、ご苦労。ちっ、隠れちまいやがったか・・・」
おれは水晶にあゆみよって、こんこんと叩いた
こんなところに入って、お前はどうしたいんだ
このままここで一生暮らすのか?
それともまたいつか、出てくるのか?
俺たちが忘れたころに・・・
なんとなくそんな事を思いながら、水晶の中の眠り姫を眺めた
「綺麗だよね・・・この子が本当に女型なのか、信じられないんだけど・・・」
「・・・世界は残酷なんだろう、ここはそういう、世界だ」
俺はつぶやく様に言った
-
「そういえばリヴァイ・・・君は無理をしたね?立体起動、してたじゃないか」
水晶の眠り姫を前に、咎めるように俺に詰め寄るハンジ
「俺がいなきゃ、エレンが救えたか?俺は、必要とあらば必要な時に、力を振るう責任がある。たとえ足が動かなくなろうともな」
俺のその言葉に、ハンジが弾かれたように俺の身体にしがみつく
「君は無理をしてはいけないといっても、ちっとも言う事を聞かない・・・足が動かなくなったら、大変だろ・・・」
「あの時は、俺は動くときだと思った。それだけだ」
「・・・わかったよ。君が私の言う事を聞けないことも、あの時君がいなかったらどうなってたかわからないことも・・・」
ハンジは俺から離れると、項垂れるようにがっくり肩を落とした
「兵長、ハンジさん、少し休んできてください。あとは私たちが見ていますから」
「そうだな、少し休むか・・・どうせエルヴィンがたぬきの知恵をしぼって何とかするだろ・・・なんの、情報も得られないこの状況から、どうやって事を運ぶか見ものだ」
「リヴァイ・・・すっごい他人事だね・・・調査兵団解体かもしれないのにさ・・・」
ハンジは心配そうな表情で俺を見つめた
「それはないな、俺の予想では、それはない」
水晶の中の眠り姫を見ながら、そうつぶやいた
-
結局それから数時間睡眠と休憩の時間があったが、すぐにエルヴィンに呼び出される
ゆっくり休む暇など、俺たちに与えられるはずもなかった
当たり前だ、この情勢だからな
エルヴィンから語られたのは衝撃の事実だった
「ウォール・ローゼが突破された可能性がある」
俺たちと別行動を取っていた、ミケ分隊と、104期の調査兵たち
その動きのなかで、どうやらトラブルがあった様だった
ミケに指示された早馬が、エルヴィンにそのような情報をもたらした
俺たちは早速、ストヘス区から、ウォールローゼの内側、トロスト区とクロルバ区へ馬車で向かう事になった
馬車の中で、ハンジが事の詳細を説明した
「要するに・・・壁の中に超大型巨人が潜んでいる・・と?」
「ああ、そうなんだ・・・それを知ってるのが・・・この司祭様ね」
馬車に乗る全員が、一人様子の違う人物に目を向けた
こいつはウォール教のニック、胡散臭い奴だ
「あ、私の友達だよ、ねーニック」
ハンジは笑いながらそう言ったが、どう考えても相手はそう思っていない表情をしていた
それから事の詳細を事細かに説明していくハンジ
同乗しているのはアルミン、エレン、ミカサ、ハンジ、ニック、そして俺だ
俺をニックを除いた奴らがエルヴィンが作った、臨時の特別作戦班
遊撃的に立ち回るための部隊だった
-
トロスト区の調査兵団本部についた俺たちは、ひとまず休息をとる
ニックと同じ部屋だ
おっさんと同じ部屋、寝れるはずもねえ・・・ゆっくり睡眠をとることは俺はあきらめた
このおっさん、へんくつでなにもしゃべらねえが、初期よりはずいぶんしおらしくはなってきたかもしれねえ
今まで夢ばかり追ってきたこのおっさんにとって、壁が本当に破壊されて、人々が逃げ惑う姿、泣きじゃくる姿をみたのははじめてらしかった
ウォール教とやらの夢妄想を追いかける奴らに、現実をつきつけるのもいいかもしれねえな
そうしているうちに、また伝令が入る
どうやら、多数の巨人がトロスト区とクロルバ区の間で出現しているらしい
その処理のため、エルヴィン率いる調査兵団が、こちらに向かってきているらしかった
ただし・・・その陣容には少し変わった面々が加わっていたのだが・・・
憲兵団・・・こいつらも引き連れて、エルヴィンはトロスト区に向かってきているらしかった
どういう風の吹き回しか・・・ウォールシーナから隠れて出てこなかった奴らが、こんなところにまでお出ましか
ぜひとも顔を拝んでおきたいものだな、レアだしな
もう一つの知らせは・・・愕然とした
信じたくはなかったが・・・ミケがその出現した巨人たちから104期を逃すために、一人おとりとなって現場に残ったらしいこと
そして、その馬が無残に屋根に打ち付けられていたこと、ミケの消息が、不明なこと・・・
俺は、その伝令を、無表情を装って受け取った
-
ミケが、あのミケが
兵士たちへの衝撃があまりにも大きいため、しばらくは箝口令が敷かれているらしかった
ハンジは、どう思うだろう
また、昔の俺たちをしる馴染みが一人、消えたかもしれないなどと聞くと・・・
いや、今考えるのはよそう
それより今は、自体を収束させるための手を一つでも打っておくことだ
俺は、うつうつとしているニックを叩き起こし、エルヴィン達を迎えるべく、トロスト区の壁近くに臨時の野営所をつくるために部下たちを従えて向かった
今は人のいない家を借り、立体起動装置やガスボンベ、装備を整えていきつつ、休息がとれる寝袋なども用意させる
それらの指示を部下に出しながら、エルヴィンが来るのを待つ
・・・後ろにはニックがずっと控えていた
もう、逃げる気もねぇようだ
部下たちはエルヴィンが解放されたことを聞き、喜び勇んでいるのだろうか
いつもいじょうに行動が迅速でスムーズだった
エルヴィンのカリスマ性というのはこういうところからも伺える
そして、ついにエルヴィン率いる調査兵団+憲兵団が、トロスト区に到着した
-
「よおエルヴィン・・・どうやら首の皮一枚つながったようだな」
エルヴィンの姿を見つけて、俺はそう声を掛けた
「リヴァイ、ああしかもみろ、憲兵団を引きずりおろしてやったぞ」
エルヴィンは不敵な笑みを浮かべた
その豪奢な光を放つ金の髪は、いつもの様にしっかりとポマードで固められていた
全く、疲れの見えない顔だ
心底、恐ろしいとおもった
・・・不眠不休のはずだ、こいつは文字通り・・・
一部の隙すら、見つけることはできなかった
「どんな魔法を使ったのか、俺も見たかったがな」
おれはぼそっと呟いた
「まあ、いつもの博打だ、リヴァイ。今回もまあ、上手く行った方かな」
エルヴィンはそう言って、今度は視線を別の方向にやった
「ピクシスのじいさんだな」
おれはエルヴィンの視線の先に目をやった
「ああ、ピクシス司令にも挨拶してくる。リヴァイ、お前は絶対に動くなよ?」
「ああ、もう立体起動はしねえ。約束する。この胡散臭い奴の監視をしておくさ」
エルヴィンはその言葉に頷くと、ピクシスの爺さんの所へ歩み寄って行った
-
エルヴィンの後ろ姿を見送った後、俺は野営所に入り、その一角に腰を下ろしていた
すると、そこへ続々と憲兵たちが入ってきた
「お、リヴァイじゃないか。おいリヴァイ。巨人はどこだ?見当たらないじゃないか。折角きてやったというのに」
「まったく、調査兵団は大げさなんだ。なあ」
呑気な事を言っている奴に、俺は冷たい視線を投げかけた
「巨人か?それなら壁の外にいくらでもいる。これからは一緒に手を取り合って巨人を駆逐していこうじゃないか、なぁ?」
俺がそう言うと、とたんに顔の色を変えてうろたえる憲兵ども
「いや、俺たちははあ…壁内の仕事があるし・・・」
「壁の外に行く暇は・・・なぁ」
ちっ口だけ野郎ども
憲兵なんて腐ってやがる
大体成績上位のやつらのはずなんだ、戦う経験さえ積めば、調査兵より上を行く可能性だってある
だがこいつらは・・・
その技を磨くという事をとことん怠っている
その結果、駐屯兵団たちよりも立体起動や戦いにおいて下の実力しかない現状だった
そんな事を考えながら、しばらく目を伏せていると、また伝令が駆け込んできた
全員すぐに集まってくれ!緊急事態だ!!」
俺はその言葉に、すぐさま席を立ち野営所を出た
-
事態は急転直下の様相を呈した
壁の補修箇所を確認しに行っていたハンジ率いる特別作戦班が、104期の新兵たちと合流
その104期の中になんと巨人が含まれていた
ハンジ分隊とミカサ、アルミン達は超大型巨人、鎧の巨人と交戦
しかし、その戦いで、ハンジやモブリットなどの精鋭が負傷で動けなくなった
しかも、超大型と鎧の巨人はエレンともう一人の巨人になれる人間を壁の外に連れ去ったのだという
万事休す
ミカサとアルミンは動けるらしいが、ハンジが重体…らしかった
ミケに続いてあいつも、失うのか・・・
俺は、その衝撃を顔に出さない努力だけをしていた
しかもエレン・・・
どうする、俺はエルヴィンに視線をやった
金の髪を持つ獅子は、その情報に至極冷静に判断を下す
「今すぐその現場へ向かう。壁の上を通ってな。我々が壁を登った後、リフトをその現場に移動させろ。開閉扉のない部分から、エレン奪還のために壁外へ行く。急げ」
-
その鶴の一声と同時に、兵士たちがあわただしく動き始めた
ガスなどの補給を万全に整えながら、順に壁上に馬車や馬、兵士を上にあげていく
壁の上に上る前のエルヴィンに、俺は声を掛けた
「エルヴィン・・・無理はするなよ。戻ってこい」
ハンジにあの時言わなかった言葉
もはや昔の俺を知る唯一の人物になったかもしれないエルヴィンに、俺はそう声を掛けた
エルヴィンは一瞬驚いたような表情を俺に見せたが、次の瞬間には笑顔を見せた
「ああ、大丈夫だ、お前も、無理はするなよ?あとは、頼んだ」
「ああ、任せておけ」
そう言うと、エルヴィンは壁に上がり、クロルバ区方面に去って行った
-
俺は、自分がやるべき事を考えた
まずはニックを調査兵団本部の地下室に幽閉する
部下を数人見張りに立てる
そして、壁が壊されたといわれる部分についての詳細情報を得るために、駐屯兵たちに聞き込みをする
どうやら、壁の破損部分が見つからなかった・・という事だけが判明した
そして、トロスト区方面に、ハンジたち負傷兵が運ばれている事を聞き、すぐさま病院の手配もする
あとは、ハンジ達がくるのを待つだけだ
俺は、出迎えるべく壁付近にまた向かった
ハンジは意識不明だと聞いている
奴は、死ぬんだろうか
そんなことを考え、頭を振る
今はそれよりも考えなきゃならねえことがあるはずだ
そう、思いながら・・・だがやはり
俺の頭の中を占めてしまうのが、ハンジの安否だった
俺はこんな事で、やっと自分の奴への気持ちをはっきり理解した
・・・ちっ
くせになった舌打ちが、また出た
後悔など、先に立たない
わかってはいる・・・・だが・・・
俺が動けたら・・・どうしてもそう思ってしまった
-
子どもに人気が・・・あるわけねえ
リヴァイさんww
-
>>142
自分で突っ込み入れるリヴァイさん可愛いかなw
-
壁の下で待機していると、やがて周囲が慌ただしく動き始めた
…巨人との交戦で負傷した兵が到着したらしい
俺ははやる気持ちを抑えて、殊更ゆっくり、リフトから降ろされる負傷兵達の元へ行った
みな、怪我の程度は様々だったが、念のため全員トロスト区の病院へ運ぶことになっていた
その負傷兵の中に、奴の姿を発見した
奴は荷車に乗せられていた
俺は無言で奴に近付く
すると、荷車を引いていた兵士が口を開いた
「ハンジ分隊長は先程まで意識があった様ですが、今は…」
俺はそっと奴の頬に手を伸ばした
…温かい、微かな呼吸も確認出来た
生きていたか
俺はふぅ、と息を吐いた
-
ハンジは病室のベッドの中で寝息をたてていた
医者の見立てによると、脳震盪と、全身打撲らしい
命に別状はない
目を覚ますのも時間の問題だという
俺はほっと胸を撫で下ろした
だが、状況は悪化の一途を辿っている
ウォールローゼ内での巨人出現
エレンの壁外への連れ去り…
今回は憲兵団の一部に、駐屯兵の一部も加わったものの、ハンジや俺、ミケがいない遠征…
エルヴィン一人の肩に、今まで以上に重圧がのし掛かっている
せめて俺がまともに闘えたならば…
また事態は変わっただろうか
後悔先に立たず
俺はここ数日で何度このことわざを脳裏に浮かべただろう
だが差し当たって、ミケに続いてハンジまでも失うという事態は免れた
呑気に寝息をのハンジの頬にそっと手を伸ばし、俺はふぅと息をついた
-
呑気に寝息をたてる、です
-
そして、こうしている間にもエルヴィン達はごく少数の兵士と共に、小規模な長距離索敵陣形を展開してエレン奪還作戦に奮闘しているはずだ
今の奴には右腕、左腕となって動く幹部がいない
数時間前までは、ミケも、ハンジもいたというのに
・・・俺は負傷で無理だとしても、だ
なんと神はいじわるなんだろうな
奴によく動く駒一つ与えず壁外へ放り出した
・・・いや、俺はもともと神なんて信じちゃいねえ
じゃあ何を信じる?
それは・・・
エルヴィンの頭の中を信じるしか、ねえんだ
奴がはじき出した打算と計算、これを信じ、これに賭けるしか今のところ道はない
奴以上に頭の切れる奴が現れれば、また別の話だが・・・まだ現れそうにない
奴の上を行く様になるかもしれねぇ新兵は、奴と一緒に壁外遠征へ行った
エレンの同期の新兵達も全員壁外へ行った・・・エレンを取り戻すために
エレンがすべての鍵を握っていると言っても過言ではないこの状況
俺の部下が命を賭して守り抜いたエレン
必ず無事奪還して戻ってくる
・・・今はそう、信じるしか俺にはできなかった
-
「・・・ちっ」
動けない自分の不甲斐なさに、つい舌打ちが出た
その時
「うーん・・・」
ベッドの上のハンジが身じろぎをした
「・・・ハンジ?」
俺は顔を覗きこんだ
うっすらと目を開けるハンジ
俺は傷だらけの頬にそっと手で触れた
「リ・・・ヴァイ。エルヴィンは・・・戻ってきた・・・?
ハンジは目を覚ましてそうそう、そう口を開いた
俺は頭を振る
「いや、まだ戻っていない。お前は人の心配より自分の心配を・・・」
俺がそこまで言いかけた時、奴の瞳から大粒の涙があふれ出した
「リヴァイ・・・私、私があの時ちゃんと、もっと警戒していれば・・・エレンを奪われずに、済んだのに・・・。そしたら、エルヴィンを一人で外へ行かせなくても、済んだのに…」
ハンジはぽろぽろと涙をこぼしながら、嗚咽交じりにそう言った
俺は、奴の額や頬をそっと撫でながら言葉を発する
「お前のせいじゃねえ。お前はやれる事はすべてやっていた。エルヴィンだって一人じゃねぇ。悪運の強い104期もついてる。必ず作戦は成功するさ」
俺は根拠のないことを言った
それくらいしか、励ましてやれる言葉が見つからなかった
-
「ねえリヴァイ・・・」
頬を流れる涙をハンカチでぬぐってやっていると、ハンジが言葉を発した
「なんだ?」
「ミケも・・・いなくなっちゃった、かもしれないんだよね」
ハンジはそう言って、目を伏せた
「・・・お前知ってたのか」
「ああ、行方不明だって言うのは・・・ウトガルド城から助け出した104期から聞いたんだ・・・まだ、戻らない・・・よね?」
ハンジは懇願するような目を俺に向けた
が、俺はハンジが期待する返答を持ってはいなかった
「・・・戻らねえ」
小さな声で、呟く様にそう言った
ハンジははぁ、と息をついた
「ねえリヴァイ・・・本当に私たち、私たち以外いなくなっちゃうんじゃないのかな・・・エルヴィンだって・・・」
「縁起でもねえことを言うな。とにかく今は休め。俺たちは奴らがいない分倍以上働かなきゃならねえんだからな」
俺はハンジの瞼を無理やり閉じさせようと、奴の瞼を指で下げた
「わかったよ・・・もう少しだけ休むね」
ハンジはまたため息をついて、そのあと憂いを秘めた表情ながらも、笑顔を見せた
「・・・やる事やってくる。また、顔出すからおとなしくしてろ。クソメガネ」
「ああ、待ってるよ、リヴァイ。もう、一人にはしないで・・・」
「・・・俺は殺されても死なねえよ。心配するな。じゃあな」
弱音を吐くらしくないハンジの唇にそっと自分の唇で触れて、俺は病室を後にした
-
とりあえず、エルヴィン達の動向も気にかかるが、ウォールシーナ地下街に避難している住人の事も気にかかる
それに、ウォール教のニックの事、壁の中の巨人の事・・・
気にしなきゃならねえ事がたくさんだ
とてもじゃねぇが、俺一人で抱えきれる問題じゃねえ
トロスト区の駐屯兵団本部にいる、ピクシスのじいさんに相談に行くことにした
「おお、リヴァイ。珍しいのぉおぬしがこんなところまで」
爺さんは酒をあおりながら執務机に座っていた
横にいるアンカ・ラインベルガー参謀は、眉をひそめてその様子をうかがっていた
「爺さん、シーナ地下街にいる避難住人の様子はどうだ?一触即発といった感じか」
実は、ウォールローゼ崩壊後のシミュレーション通りだと、ウォールシーナないの食糧備蓄では、ローゼの避難民を養う事ができるのが一週間が限度だった
一週間で、壁をふさぐか、壁内の安全を確認しなければ、この避難民同士が、はたまたそれを警備する兵士たちとぶつかり合う可能性が出てくる
食糧を奪うため、生きるため
そう、壁が壊されてて一週間たてば、人類は巨人の脅威によって滅ぼされるのではなく、人間同士の争いで滅亡する
恐ろしいシミュレーション
そうならないためにも、壁内・・・いや、すでにウォールローゼ内は壁外になるのか・・・
その哨戒を急がねばならない
「今はまだおとなしい物だがのお・・・時間の問題じゃろうな。何せ警備をしている憲兵団が、避難民を快く思うておらんのが態度にでておる。そのうちぶつかり合う可能性大じゃ」
「・・・まあ向こうの連中からすれば、食いぶちを増やすなとしか思えねえだろうしな」
俺は頷いた
「リヴァイ、おぬしはとりあえず今まで通り思う様に動いてもらって構わん。わしはそうじゃの・・シーナの避難民のこと、これを重点的に片付けよう」
「じゃあ俺は、壁の哨戒、こっちを洗ってみる」
役割を決めて、早速退散した
-
夜のとばりが下りて数時間
作戦が成功していればもうエルヴィン達が帰ってきていてもおかしくない頃
だがまだ戻ってきたという報告は入ってこなかった
俺は壁の哨戒を残っている調査兵と駐屯兵達に指示し、その情報をまとめていた
奴・・・エルヴィンの執務室で
「・・・合点がいかねえ・・・」
なんど壁内を哨戒しても、新たに巨人が現れることはなかった
それどころか、壁が壊された形跡もないという
「・・・これは、どういう状況だ?」
思わず一人ごちた
「・・・わからねえ・・・俺の頭じゃ」
一人で考える事に限界を感じていた
壁が壊された形跡がない、だが実際ウトガルド城や、壁内には巨人が出現して、被害が出た
という事は・・・壁内に巨人が潜んでいたのか
アニ・レオンハートや、ライナー・ブラウン、ベルトルト・フーバー、そしてユミルにエレン
奴らと同じ様な巨人になれるやつがいたということか?
いや、それにしちゃおかしい
エレンたちは知性のある巨人だ
だが、今回壁内に現れた巨人はみな知性巨人ではなく、普通の巨人だった
よくわからねえ・・・いやまあ、ずっとこのよくわからねえ状況を積み重ねて現在のこの混沌とした状況がある
今更どうってことねえんだろうがな
ただ今回は・・・エルヴィンもハンジもミケもいねえ
そこが大きく違っていた
-
また、壁内哨戒を終えた兵士からの伝達・・・やはり巨人の姿確認できず
どうやら掃討した模様・・との事
そして、壁が壊された箇所も未だ確認できず
これは、どうしたものか・・・
その通り受け取ってよいのか
まだ今の段階では確信することはできなかった
もう少し哨戒を重ねるべきだろう
そう思った時だった
突然執務室をけたたましいノックが聞こえたと思ったら、兵士が雪崩れ込んできた
「おい、どうした?」
兵士ははぁはぁと肩で息をしていた
どうやら相当急いだようだ
「エレンの奪還に成功しました!ただ・・・」
その先を聞いて、光明が見えたその光が一瞬にして立ち消えたような、そんな感覚に陥った
とりあえずエレンや戻ってきた兵士の保護を優先的にと指示をし、俺は一路トロスト区の病院・・・ハンジが入院している場所と同じ病院へ向かった
-
夜だが明るい病室
医師が注射をほどこしたり、看護師が手当をしている
ベッドに横たわる人物に対して
そいつは身動き一つしなかった
立派な体は変わりがない
顔はいつもよりかなり老けて見えた
いつも整えられた髪も乱れていた
黄金の獅子と呼ぶにはあまりにも弱弱しいその姿
そしてその獅子のあるべきところに右腕が・・・なかった
「今夜が峠でしょう。やれることはすべてやりました。あとは団長の体力に期待するより他ありません・・・むしろこの怪我で馬にのってご帰還されるなど、それだけでも奇跡に近いです」
医師はそう言って表情を曇らせた
医師が出ていくと、俺は奴の顔を覗いた
「おいてめえ・・・右腕どこで落としてきた?ざまあねえな」
俺は吐き捨てるようにつぶやいた
「・・・おいエルヴィン、早く起きてこいよ。俺一人では到底対処しきれねぇほど仕事がありやがる」
聞こえていないのはわかっていた
だが、声をかけずにはいられなかった
本当に、いなくなっちまうのか、エルヴィンお前まで
俺は、目を伏せた
-
俺は後を看護師に任せ、病室を出た
すると、病室を出たところにハンジがいた
「リヴァイ・・・エルヴィンは?」
ハンジの問いに、俺は静かに答える
「大丈夫だ、寝ている。死んでねえよ。お前、全身打撲の重傷者のくせにうろうろするんじゃねえよ」
「だって、エルヴィンがここに担ぎ込まれたって聞いたし・・・リヴァイが来てるって、聞いたから・・・」
ハンジの今にも泣きそうな顔に、俺はやつの肩に腕をまわした
「大丈夫だが、様子を見てみるか?」
「ああ、うん。会いたい」
ハンジのその言葉に、俺はハンジを伴って、再度エルヴィンの病室に入った
病室のベッドに寝るエルヴィンの姿に絶句するハンジ
今にも崩れ落ちそうになる身体を、俺が支えた
「エルヴィン・・・なんてこと・・・だ」
ハンジの目から零れ落ちる涙
「おい、泣くな。縁起でもねえなお前・・・奴は生きてる」
おれの言葉に、ハンジは首を振った
「生きてる生きてるよ・・・でも・・・」
ハンジの涙はとどまることを知らなかった
-
エルヴィンの部屋を出ると、ハンジを病室まで送り届けた
「体はどうだ、ハンジ」
ハンジをベッドに誘いながら、俺はそう言った
「うん・・・痛みはね、かなりましになったよ。身体も衝撃に強くできてるのかなぁ」
「いや、お前年食ってるから、数日後から痛みがでるんじゃねえか?」
俺はそううそぶいてみた
「なんでだよ・・・君と変わらない年なのに・・・」
ハンジは頬を膨らませた
少しは元気をとりもどしてきたか
だが・・・
「エルヴィンまで・・・もし、もしあのまま目が覚めなかったら・・・ねえ・・・どうしよう」
不安そうな顔に逆戻りするハンジ
「大丈夫だ。奴は死にやしねえよ。死神だって食えねえさ。奴なんてな」
「・・・ああ、そうだよね・・・うん」
ハンジははかなげな笑みを浮かべた
「お前はとにかく休め。そして早く体を直してくれ。でなければ俺が一人でどれだけ仕事しなけりゃならねえんだ」
俺の言葉に、ハンジは俺の方に手を伸ばし、その手で俺の唇に触れる
「そうだよね、リヴァイ一人にやらせるわけに、いかないしね・・・うん。明日には治る様に頑張るから」
「そんな無茶をしろと言っているわけじゃねえ」
唇に触れるむずかゆい感触に背中が震えたが、なんとか言葉を発した
-
「私はね、リヴァイを一人にはしない、私も一人にはなりたくないから・・・」
ハンジはそう呟くとベッドに腰を掛けて、俺を隣に座らせた
「ああ、そうだ。だから無茶はするな。だが、早く戻ってくれ」
俺の切実な願いだった
「リヴァイ・・・私・・・もう一人には、なりたくないよ・・・」
そう言って、俺に崩れるかのように抱き着いてくるハンジ
その背中を抱いてやると、微かに震えているのがわかった
「一人じゃねぇだろうが、俺がいる。おい、泣くなハンジ」
ハンジの背中をぽんぽんと叩いてやる
少しは、落ち着くだろうか
「リヴァイ…不安なんだ、とっても。もしもの事ばかり考えてしまって・・・前が向けないんだ」
奴は俺の胸から顔を上げて、そう言った
その瞳にはまた涙がたまって、後から後から流れ落ちていた
「不安なのは俺もだ。もしもの事ばかり考えるのも、一緒だ。俺とお前は、一緒だ」
俺のその言葉に、ハンジは目を見開いた
そして、唐突に奴の唇が俺のそれに重ねられる
強く密着させてくる、その唇から
奴の不安、焦燥、愛、情熱
全ての事が流れてくる様に感じた
-
万感の想いが詰まっているであろう口づけを交わした後・・・
奴は俺が羽織っている黒い上着を脱がせる
そして、奴が俺のブラウスのボタンに手をかけた時、俺の手がそれを止めた
「まて、ここは病院だ。お前は全身打撲で重傷だ」
「もう、一人では寝られそうにないんだ、リヴァイ・・・」
懇願するような奴の言葉、そしてはかなげな奴の表情
正直奴がそれを求めるのなら、今ここで抱いてやってもいいなと思った
だが、やはりここでも理性が邪魔をする
「わかった。寝るまでそばにいてやる。抱いてほしいならさっさと体を直しやがれ」
俺はそう言うと、奴を無理やりベッドに押し付けて寝かせた
「リヴァイ・・・君は・・・」
ハンジの咎める様な声に、俺はふんと鼻を鳴らす
「タイミング悪ぃんだよ。バカが」
そう言いながらハンジの体に布団を掛けてやった
「タイミング・・・かぁ。私このままきっと枯れてしまう・・・リヴァイもね・・・」
「ちっ、減らず口叩く暇があるなら、枯れる前にさっさと体なおして脱ぎやがれ」
ふん、と俺はまた鼻を鳴らした
「リヴァイ・・・ああ、分かった。さっさと治すよ。でもできたら脱がせて欲しいな」
「ちっ、めんどくせえな」
俺は呟く様に言った
-
「リヴァイ、おやすみ」
ハンジはふわりと微笑みを浮かべて目を閉じた
「ああ、ゆっくり休め。今日はな」
俺はベッドサイドの椅子に腰を掛けて、奴の頭を撫でてやった
・・・すると奴はまた目を開ける
「ねえリヴァイ・・・そういえばおやすみのキスがないよ?」
「・・・何でそんなもんが必要なんだよ、ばかが」
俺はそう言いながらも、一瞬だけ奴の唇に自分のそれを落としてやる
-
「・・・ありがとう、リヴァイ」
そう言って微笑むハンジのその表情
憂いを秘めた、だがかぎりなく温かいその眼差し
俺はそれを見て思わず、横たわるハンジの体の上に突っ伏した
「早く、治せよ。クソメガネ」
いなくならなくて、良かった
心の底からそう思った
「リヴァイ・・・うん。心配かけてごめんね」
ハンジはそう言いながら、突っ伏す俺の頭を撫でる
「いや、いい。お前が・・・」
そこまで言って、言葉につまる
「お前が・・・なに?リヴァイ」
ハンジが耳ざとく聞き返してきやがった
「・・・お前が、生きてりゃ、それでいい」
俺の、しぼりだすような言葉にハンジは・・・
「リヴァイ・・・ありがとう」
そう言って、なおも優しく俺の頭を撫でるのだった
-
結局そのまましばらく突っ伏していると、いつしか俺の頭を撫でる手が止まった
身体を起こすと、奴がすーすーと寝息を立てているのが確認できた
「・・・寝たか」
俺はその穏やかな寝顔をしばらく目で堪能したあと、そっと額を撫でて立ち上がった
「行ってくる」
なおも緊迫する壁内情勢を把握すべく・・・
エルヴィンとハンジのいない穴を埋めるべく・・・
部屋を後にした
扉を開けると、そこに一人の人物が立っていた
傷だらけの顔、やけども負っているようだ
-
「モブリット、大丈夫か、お前」
ハンジの副官だった
「はい、兵長・・・すみません、俺は・・・」
モブリットは項垂れた
「・・・なんだ?どうした」
「俺は・・・分隊長をお守りすることが、できませんでした」
項垂れたまま力なくつぶやくモブリット
「・・・お前は十分よくやったと思う。あの状況で生きて帰ってこれただけ、奇跡に近い。お前も体を休めろ」
俺はモブリットの肩をぽんと叩いてそう言った
モブリットのハンジへの気持ちに感付いている俺
守れなかったと肩を落とす奴の気持ちを考えると、心中は複雑だ
「・・・兵長、分隊長は今はとても不安定です・・・どうか、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げてくるモブリットに、俺は視線を鋭くする
「よろしくとはなんだ、奴のそばにいつもいるのはお前だ。お前がなんとかしろ」
俺の言葉に、モブリットはまた悲しげな瞳を俺に向ける
「俺じゃ、無理なんです。兵長」
「・・・ハンジは大丈夫だ、多分な。俺は出てくる。あとは任せたぞ」
もう一度ぽんとモブリットの肩を叩き、俺は病院を後にした
夜の闇同様に、闇のつつまれたこの現状を打開するために
-
調査兵団本部に戻り、エルヴィンの執務室にまた居座る
さまざまな報告書が机の上に山積みになっていた
・・・さっき出る前には綺麗に片付けておいたはずなのに
団長の仕事量というのは半端ねぇらしい
さっさと書類を処理していると、扉がノックされた
「入ってくれ」
俺はそれだけ発して、また書類に目を通す
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、調査兵団の兵服ではなく、駐屯兵団の兵服をまとっていた、女性だった
「アンカ・ラインベルガー参謀」
俺は部屋に入ってきて敬礼を施す女性に、立ち上がり敬礼を返す
「リヴァイ兵士長、お疲れのところ申し訳ありませんが、こちらに目を通していだたいて、返答をいただきたいのですが」
そう言って手渡された一通の封書
「ああ、わかった」
本来ならエルヴィンがやるべきことなのだろうが…今は幹部が俺しかいねえ
俺はペーパーナイフで開封し、中に目を通す
「・・・なるほどな・・・」
駐屯兵団の方の哨戒でも、壁の異常、そして巨人の新たなる存在を確認することができなかったらしい
早いところウォールローゼ内の安全を確認し、安全宣言をだして避難民を戻したいところだが・・・
今の段階でそれはまだ早急すぎるだろう
-
「アンカ、どれくらい持ちそうだ?避難民の暴動まで」
「・・・私も地下街を目で見て確認してきたのですが・・・実際のところ数日が限度かと・・・いつ暴動が起こってもおかしくない状況です」
「・・・そうか」
もともと地下街にいたやつらともぶつかり合うだろうし、事態はもっと悪い方向に向かうかもしれねぇ
「今の段階では安全宣言はだせない。それはじいさんと同じ意見か」
「・・・はい。司令もそうおっしゃっていました」
「もう少し哨戒範囲を広げる。そう伝えてくれ。あとはじいさんの指示に従う」
俺の言葉にアンカは頷き、また敬礼を施して部屋を出て言った
-
「はあ・・・」
大きなため息が出た
こういう状況に慣れない、俺は人の上に立つような器じゃねえ
スナップブレードを振り回している方がどれだけ気が楽か・・・
俺の一言で、調査兵団の、人類の行方が左右するかもしれない、この立場
そうだ…エルヴィンはいつも、とてつもない物を背負っていやがったんだな
今更になって、それを痛感した
「エルヴィン・・・頼むから早く戻ってくれ」
俺は小さくつぶやいた
さすがに誰にも聞かせる事が出来ない俺の、甘え
言葉に出さずにはいられなかった
「・・だが、やるしかねえ。俺が、できる限りの事はな」
両手でぱんと頬を張って、俺はまた、前を見据える
-
とにかく俺の出頭の中を最大限利用して、最善の手を尽くした
トロスト区からクロルバ区までの壁の哨戒を何度か行い、やはり壁に修復すべき個所がない事を確認した
哨戒は、巨人によって全滅したとおもわれるラガコ村や、ウトガルド城、ダウパー村近辺を重点的に行っていたが、新たな巨人の発見には至らなかったため、エルミハ区近くのウォールローゼ北側内地にまで哨戒範囲を広げる事にした
正直いっていくら壁内とはいえ、広大な大地だ
完全にすべてを見回るのにはかなり日数を要するだろう
だが、食糧備蓄が底を尽きる後6日・・・これまでには必ず終えなければならない
駐屯兵団、調査兵団が協力してそれらの哨戒に当たった
兵士には交代でそれらの哨戒任務にあたってもらい、自分はもちろん不眠不休でそれらの情報をまとめる
そうこうしている間に、夜が明け、朝日が昇っていた
伝令の兵士が、また哨戒からの早馬をうけとって部屋に入ってきた
「リヴァイ兵長。残念なお知らせがあります」
「・・・何だ?」
兵士は項垂れた様子で口を開く
「やはり、ミケ分隊長の行方はわかりません・・・どうやら、分隊長が行方知れずになったあたりの地域で、獣の巨人とやらが出没していたらしく・・・もしやそれに出くわしたのではないかと・・・」
「獣の巨人・・・」
いくら哨戒してもその獣の巨人とやらは把握できなかった
という事は、すでに壁外へ逃げているのか、はたまた・・・知性巨人で、人間に化けていやがるのか・・・
「わかった。お前は休め」
「はい、兵長」
兵士は敬礼をし、部屋を出て行った
-
「獣の巨人・・・ミケ、お前はそいつに殺られたのか?」
俺は足をさすった
この足がまともになれば、その獣の巨人とやらのうなじを削ぐことはかなうだろうか
俺の力なら・・・叶うのだろうか
俺がやらずに、誰がやれる?
…ふと頭の中に浮かんだミカサ・アッカーマン
あいつならもしかしたら・・・だが、まだ無理だ
そして、俺はもう一つ、重大なことを今頭の中で考えていた
それは、誰が決めるのではなく、俺自身で決めようと思っていた人事
そう、リヴァイ班・・・俺の班
その人事を、ひそかに頭の中で練っていた
大体、人選は決まりつつあった
近々発表し、調査兵団の中でも反響を呼ぶことになるだろうその人事
エレンを守るため
エレンの力を効果的に使うため
エレンに自信を持たせるため
エレンのための、リヴァイ班
そう、もともとの俺の役目は、あいつを生かして手元に置くという事だ
脚の怪我のせいで、それがお役御免になっている様に見受けられるが、エルヴィンにまだよしとは言われちゃいねぇ
だから、当初の様に俺はエレンを守るために動く
エレンが聞けば、顔をゆがませる事間違いないこの理由
勿論これは、俺の胸の中だけに留めておくが・・・
-
そのまま夜までぶっ通しで仕事を続けて、やっと食事を口にしたのはパン一つ
それをくわえながら、足早に病院に向かう
エルヴィンの容体と、ハンジの容体を見るためだ
エルヴィンの意識が回復しているといいんだが
そう思いながら、まずはエルヴィンの病室を訪ねた
見張りの兵士に声をかけ、病室に入る
エルヴィンは相変わらずベッドに横になったまま目をつぶっていた
眠っている様だった
ついていた兵士が静かに声を発した
「兵長・・・実は少しずつですが、意識が戻りつつあるようです・・・。先ほど何か、しゃべられていました」
「・・・そうか、そりゃよかった。早いとこたたき起こして仕事をしてもらわなきゃならねえしな」
おれはそう毒づいた
「医師も、もう意識を取り戻すのは時間の問題だろうと。峠は、越えたようですよ」
兵士の言葉に内心ほっと胸をなで下ろした
「そうか・・・では引き続き頼む」
俺はそう言い残して、エルヴィンの部屋を後にした
-
エルヴィンはどうやら一命を取り留めたらしかった
ハンジが聞けば喜ぶだろう
「・・・ふぅ」
俺も思わず息をついた
ハンジの病室に行くと、モブリットがハンジの顔に薬を塗りつけているところだった
「リヴァイ」
ハンジの頬がふっと緩む
「兵長、ご苦労様です」
モブリットが薬を塗る手を止めて、会釈をした
「ハンジ、モブリット。エルヴィンの容体は知っているか?どうやら意識を取り戻しそうらしい」
俺の言葉に、ハンジが頷く
「ああ、さっき病室に行った時に聞いたよ。もう峠は越えてるから、意識が回復するのも時間の問題だって。良かったよね」
ハンジはふうと息をついた
「・・・では分隊長。荷物はまとめておきましたから。お好きな時に戻ってきてください。兵長、分隊長をよろしくお願いします」
モブリットはそう言うと、敬礼をして部屋を後にした
-
その後ろ姿を見送った後、俺は口を開く
「どういうことだ?荷物をまとめておくとか、お好きな時に戻る・・・とか」
「ああ、退院するんだ。もう動けるし、正直やらなきゃならないことがたくさんでさ、病院ではどうも動きにくいからね」
ハンジはそう言うと、ははっと笑った
「まあ、そうしてもらえると俺としてもありがたいが・・・正直一人でこなせる仕事量じゃねえんだ」
俺は肩をすくめた
「だろうね・・・ごめんリヴァイ。明日からは手伝うから・・・君、寝てないだろ?ひどい顔してるよ」
ハンジは俺に歩み寄って、手を頬に伸ばす
「ああ、寝てねぇ。寝る暇がなかった」
俺はつぶやく様に言った
-
「それはそうと、お前本当に体は大丈夫なんだろうな?無理を押してるなら俺は退院は認めねえからな」
俺はふんと鼻を鳴らしてそう言った
「医者が許可を出したんだよ?安心だろ?」
「・・・そうか、ならいい。だが、絶対に無理はするなよ?」
俺のその言葉に頷くハンジ
「うん、わかってるよリヴァイ。さあ、おうちへ帰ろう?」
そう言って笑顔で俺に手を差し出すハンジ
「ああ、そうだな」
俺はその手をしっかりと握った
-
調査兵団本部に戻り、ハンジの部屋へ
整理されて綺麗な部屋・・・モブリットが掃除をしておいたのだろう
ベッドも清潔に整えられており、ハンジの寝間着までも用意されていた
「・・・お前、副官に至れり尽くせるされているな」
俺は半分呆れてそう言った
「いつも、こうだけどね。かゆいところに手が届くというのかな・・・彼は」
「それくらい、自分でやれよハンジ」
俺は眉をひそめた
「うん、そうだよね、でも気が付いたらやってくれているから、それに甘えちゃっているのかもね」
いたずらっぽい笑みを浮かべるハンジに、俺は無性に腹が立った
「ベッドメイクくらいならよし、服の準備くらい自分でしろよ?」
俺の目は完全に据わっていると思う
「・・・下着は自分で出してるよ?というか、リヴァイ怒ってるの?もしかしてやきも・・・」
その先の言葉は言わせなかった
俺がその口を自分の口で塞いで・・・
口を離すと、奴のうるんだ瞳に俺が映っているのが見えた
「ああ、そうだ。やきもちだ。何が悪い?」
俺はそう言うと、ハンジを綺麗に整えられたベッドに押し倒した
俺の言葉に、艶やかな笑みを浮かべるハンジ
「ふふ・・・悪くないよ」
その挑戦的な言葉で、俺は理性をかなぐり捨てる事に決めた
-
俺の下で誘う様に手を伸ばすハンジ
その手は俺の頬に触れる
「・・・体は、痛くねぇのか?」
ほんの少しだけ残っていた理性の欠片が、俺にそう言わせた
「大丈夫だよ、リヴァイは心配性だなぁ」
ハンジはそう言って俺の頬を撫でた
「・・・俺がお前の心配をしちゃいけねえのかよ?唯一の、馴染み、なんだろうが」
俺の手が、奴の頬を撫でる
その手で耳に触れると、奴はびくっと体を震わせた
「ん・・・そうだね、唯一の馴染みだからね」
熱っぽい吐息をはぁと吐いて、今度は奴が俺の耳に触れる
「・・・くすぐってぇ」
「そう?私はちょっと違う感覚なんだけどな・・・」
そう言っていたずらっぽく笑う奴のその耳に、俺はふうと息を吹きかけて、だめ押しでぺろりとなめた
「あ・・・」
ハンジの口から自然にこぼれ出る、空気が漏れる様な、吐息交じりの声
その声のせいで俺の頭か体かどこかのスイッチが完全に入る
俺はハンジの唇を半ば強引に奪いながら、奴の服のボタンをはずす
今度は奴も止めない、俺も自分を止めることはもうできない
そうだ、今夜は止める必要はない
俺のためにも、奴のためにも・・・
この一時くらい、何もかも忘れて欲に忠実になるのも、悪くはないはずだ
-
「ねえ、リヴァイ・・・あのさ」
気だるげな声で俺にそう問いかけてくる、ハンジ
一通りお互いの欲を満たして、小さなベッドで二人並んで横になっていた
俺の隣で、体を俺の方に向けているハンジ
差し障りのない、とりとめのない話題ばかりつらつらと話し込んでいた
今の状況の話など一切しなかった
・・・それは朝、夜が明けたらみっちり話すつもりだが…今だけはお互い忘れていたかったのかもしれねえ
「なんだ、ハンジ」
俺はハンジの頬をそっと撫でながら、そう言った
「壁外へいつか、自由に行ける日が来るかな…来るよね?」
ハンジが目を輝かせながらそう言った
「ああ、そのために皆命を張って頑張っているんだからな。必ず来る」
「そしたらさ・・・行きたい所があるんだ」
「・・・どこだ?」
「南のずーっと果て。そこにね、氷の大陸があるって言われているんだ。知ってる?」
ハンジの目の輝きが、増した気がした
「いや、しらねぇな」
俺は首を振った
-
「氷の大陸にはね、空に、綺麗なカーテンがかかるらしいんだ。古い文献に載っていたんだよ。でね、そのカーテンは虹色で、すごーく大きいらしい!空に幾重にも広がるらしいよ!」
「虹色のカーテンか・・・それは見てみてぇな」
「だろ?でね、そのカーテンができる原理がさ・・・太陽なんだ」
奴は俺におとなしく頬を撫でられながら、言葉を紡いでいた
奴の口から発せられる魔法の言葉
それは俺の心を期待で躍らせるに十分な魔力を持っていた
「太陽が、作り出している・・ということか?」
「そうそう、さすがリヴァイ。詳しく言うとね・・・太陽から放出されている電気の粒子からなる、風、太陽風が作り出しているらしい」
「・・・途方もない話だなそりゃ」
「しかもさ、その太陽風って、ふつうに人体に直接かかっちゃったりなんかしたら、一瞬で死んじゃうらしいよ。それくらい、強い風らしい」
ハンジは真剣なまなざしで話を続けていた
俺はわからないながらも聞いてやっていた
「人が死ぬような風・・・か。毒みてえなもんかな・・・?」
「よく、わからないんだけどね・・・。でもその人体に悪影響を及ぼすような太陽風が、空に綺麗な虹色のカーテンを描き出すんだ。夢があるだろ?」
「まあな。本当に途方もなさ過ぎて想像もつかねぇがな」
「・・・だよね、巨人の存在何て小さくおもえちゃうだろ?あんな遠い空の話なんてしていたらさ」
ハンジは視線を遠くに移した
その視線の先に見るものは、いったい何なのか
俺は一緒にそれを見ることは叶うのか
-
「お前の行きたいところというのは、その虹のカーテンが見られる所か?」
「ああ、そうなんだよ。そういう不思議な自然の研究を、してみたいなって。いままで誰にも話したことはなかったんだ。また変人扱いされるだけだろうしね」
ハンジはそう言うと、ふっと笑みを浮かべた
「まあお前が変人なのは言われて当然だが、その虹のカーテンというのは俺も見てみてぇな」
「ほ、本当?!リヴァイならそう言ってくれると思っていたよ!うん、リヴァイ、一緒に見に行こう。約束だ」
ハンジはそう言うと、俺の小指と自分に小指を絡める
「・・・?」
「指切りげんまんうそついたら針千本のーます!指切った!」
ハンジは歌う様にそう言って、絡めた指を離した
「・・・何のまじないだ?」
「東洋のね、約束するときのおまじないらしいよ。破ったら針千本飲んでね、リヴァイ」
そう言ってハンジは艶やかに笑った
「お前も破ったら千本針飲めよ?ハンジ」
「・・・ああ、わかった!絶対行くから針千本は飲まないけどね」
ハンジはそう言うと、俺の頬を愛おしげに優しく撫でた
「・・・そろそろ寝るぞ。明日からは現実を見て、きりきり働かないといけねえんだからな。虹のカーテンがみてえなら、なおさらだ」
「ああ、わかってるよリヴァイ。頑張ろうね、一緒に」
お互いに頬を寄せ合い、また唇を重ねる
その限りなく温かく柔らかい感触を、頭に刻み込むようにことさらゆっくり味わった
-
太陽から吹く風・・・太陽風
限りなる大きな恵みをもたらす太陽
ハンジの夢は、その太陽の風がもたらす虹のカーテンを探し、それを研究するという途方もない事
まさに夢・・・だ
だがこの夢は、いつか必ず叶えられる
夢は夢で終わらせる必要は、ねぇんだからな
そのためにも俺は前進する事をあきらめない
針を千本飲むなんてもってのほかだしな
だがその前に俺はハンジと共に、まだまだ現実と戦わなければならない
一つ一つ乗り越えて、いつか太陽風が織りなす虹のオーロラを目の当たりにするまで
俺達は前を見据えて飛び続ける
自由の翼を背に、高く遠くまで
太陽に手が届く、その日まで
―完―
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乙!すごく、すごく良かった!
あなたの書く話大好きです
他2つも楽しみにしてるけど、また新しい話も楽しみにしてます
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>>177
読んでいただきありがとうございました
私の話を好きと言ってくださってありがとうございます!
次からは他の二つ(当分終わりそうにない話w)をがんばりつつ、新作についても考えていきますので、またよろしくお願いいたします
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>>117
他の作品ですが、別サイトのSSnoteにも書いておりますのでもしよろしければ…
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>>179
ありがとうございます!
モブハンもだったけど、リヴァイとハンジの会話の掛け合いが絶妙で
どの作品もすごくきゅんとします
早速読んできますね!
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>>180
ありがとうございます
同じ名前でやっておりますので…
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