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ξ゚⊿゚)ξ幽霊裁判が開廷するようです
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ゆるやか投下
過去の話は
Boon Romanさん http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/gh_judge.html
RESTさん http://boonrest.web.fc2.com/genkou/yuurei/0.htm
前スレ http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1348843676/
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『……ミルナ、やっぱやめない?』
『……なんで?』
『初めての相手が私なんかじゃ、なんか勿体ないよ』
『ペニサスは嫌なのか』
『嫌じゃないけど』
『……俺も嫌じゃない』
『……後で文句ゆーなよな』
好奇心とか、期待とか、不安とか。
どきどきして、汗が吹き出して、手が震えて仕方がなかった。
見慣れた筈のペニサスの顔が、いつもと違って見えた。
舌を絡ませるキスというものがよく分からなくて、話に聞くような気持ち良さも感じられなかった。
ただ互いの息が熱くて、ペニサスの呼気が自分の唇を湿らせるのが堪らなくて。
どうしようもないほど溜まっていった熱は、父に邪魔され、放出されないままに終わった。
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持て余した欲の遣り場に悩んだ。
もう一度ペニサスが家に来たって、あのときと同じ空気になれないことは分かっている。
そうする内に、「彼女」が来た。
『……ずいぶん溜まった顔してんのね?』
ペニサスのときのような焦りや興奮はなかったけれど、気持ちが良くて、心地よくて、熱くて──
勉強が手につかなくなった。
彼女が、夢が恋しくなった。
眠るのが待ち遠しくなった。
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('、`;川『ねえ、ミルナ……』
( ゚д゚ )『何だよ』
('、`;川『あの、』
( ゚д゚ )『……用がないなら帰ってくれないか。勉強しないといけないし──
また親父と鉢合わせたら面倒なことになるだろ』
('、`;川『……顔色、良くないよ』
( ゚д゚ )『……』
('、`;川『みんな心配してるよ。テストとかも、調子悪いんだろ?』
( ゚д゚ )『根詰めてるから、ちょっと疲れてるだけだ』
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('、`;川『じゃ、じゃあさ、息抜きにどっか行こう? 何か奢るよ! だから──』
( ゚д゚ )『俺に構わなくていいから』
('、`;川『だって、し、心配で、』
そんなに言うなら、お前が相手をしてくれるのか。
そう口にしそうになって、絶句した。
戸惑うままに、ペニサスを部屋から追い出す。
ああ。
自分はもう駄目だ。
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読んでる支援
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どうしていいか分からなくて、結局、夢に逃げた。
また彼女が来てくれますように。そうすれば嫌なことも忘れられる。受験も父も、ペニサスも。
祈りながら、ベッドに潜る。
〈……ミルナ〉
( -д- )(……また……)
あの声がした──ような気がした。
温かい声。
時折聞こえるこの声は何だろう。
そんな思考も、「彼女」が現れると、どこかへ追いやられてしまった。
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支援
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case5:誘惑罪/中編
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ξ;゚⊿゚)ξ「何でこうなるわけ?」
──裁判の翌日。昼。
ファミリーレストラン。
ステーキを前にしたツンは右手で頭を掻き、
左手のフォークで付け合わせのコーンをつついていた。
('、`*川「私、間違ってた?
あの──ひこ、ひこ、」
( ^ω^)「被告人」
('、`*川「ひこくにんは犯人じゃない、ってゆってあげるのが私達のやることでしょ?
あれじゃ駄目だった?」
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ξ;゚⊿゚)ξ「いえ……。……ペニサスさんは嘘ついてないんでしょう?」
('、`*川「うん。嘘ついちゃいけないって聞いてたし」
ξ;゚⊿゚)ξ「勿論よ。嘘つかずに、見たままのことを話してくれればいいの。
ペニサスさんの証言は弁護側の証人として大変素晴らしいものだわ」
( ^ω^)「お陰様でツンさんも弁護が捗って……。無罪判決まであと一歩ですおね」
ξ;゚⊿゚)ξ「ええ、見事に……」
('、`;川「じゃあ何でそんなに困ってんのさ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっとこっちの事情が」
川;д川『──さ、貞子といいます……山村貞子……。
毎日ふらふらしてるだけの、ふ、浮遊霊です』
川;д川『……あ、あの! 私、何もしてません!
お願いです、信じてください!』
──山村貞子。それが被告人の名前らしい。
自称浮遊霊。
おどおどしていて、とても犯罪者には見えなかった。
そこが怪しいといえば怪しくもあるが。
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支援
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(*゚ー゚)『被告人はこれまで、分かっているだけでも13人もの男性の夢に潜り込み、
夢の中で性交を行い、それを繰り返してきた。
事件は本県だけに留まらず、隣県、そのまた隣……と、複数の県に渡っている』
(*゚ー゚)『いずれにしても東日本に留まっていますがね』
淡々と起訴状を読み上げるしぃの顔が蘇る。
恥じらいは微塵もなかった。
一番古い被害は10年ほど前、S県でのことだという。内藤も掲示板で見たので知っている。
「昔そういう夢を見たし壁に焦げ跡もあったが、一度拒んだらそれっきり」──そんな感じの書き込みだった。
これだけでは信憑性に欠けるが、おばけ課の方でしっかり調査済みである。
しかしあくまでも、明らかになっている被害の中では一番古い、という話だ。
裏を取れたのが13件のみなのであって、掲示板での報告者はそれよりも多い。
まだ分かっていないだけで、もしかしたらもっと前から事件は起きていたのかもしれない。
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(*゚ー゚)『死霊と生霊での性交となるため、
生霊のエネルギーは死霊の方へ吸い取られ……
その影響は、疲労や体調不良などとして肉体に現れることになる』
(,,゚Д゚)『稀に、そういう影響を受けない体質だったりエネルギーが有り余ってたりって人もいるんだけどねえ。
そんな人でも……まあ、すごく気持ちいいのかしらね、
多くは夢に耽って、執着して、日常生活に支障を来しちゃうのよ』
嘆かわしい、としぃが漏らす。
貞子は口こそ閉じてはいたが、首を横に振ることで公訴事実を否定していた。
(*゚ー゚)『そうして大半の被害者は、夢を見なくなってからも未だに正常な生活を送れず──
1人は階段から転落、また1人は将来を嘆き首を括り、命を落とした』
検察側には、被害の大きさを示す証拠がいくつもあった。
しかし貞子を犯人だとする根拠は少ない。
そもそもが夢の中での話なわけだから、期待など出来ないのだ。
あるのは、例の掲示板を主とした被害者たちによる報告だけ。
では、何故それだけで貞子に捜査の手が及んだか。
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きっかけは一年以上前に首を吊った男。
彼の遺書に、霊の存在を匂わせる文章があった。
それ自体は他県で起きた事件だ。
たまたまおばけ法が施行されている地域だったため、
警察が男の身辺を調べる内に掲示板の書き込みを発見し、「夢」が関わっていることを突き止めた。
最近になって、ここヴィップ町に犯人とおぼしき女が現れだしたという話があり、こちらの警察が捜査を引き受ける。
そうして、ついに遺書や掲示板の情報と一致する姿の女、貞子を見付けたのだ。
これがたまたまミルナの家の近くだったものだから、捜査を続けていく段階で、
どうやら彼も被害者の1人だぞ──ということが判明したらしい。
ミルナは掲示板の存在すら知らなかったそうなので、この偶然が無ければ誰もミルナに見向きもしなかっただろう。
しかし、まあ。
被害状況を詳しく見てみると、この犯人、ここ半年の間だけでも二股三股どころでは済まない。
モララーまで一度狙われたくらいだから、年齢も関係ない。つまりは節操がない。すごい。
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(*゚ー゚)『罪名及び罰条。
誘惑罪、おばけ法第109条──』
( ^ω^)(……誘惑罪、ねえ)
しぃの言葉を思い返しつつ、内藤は分厚く重たい本を開いた。
六法全書ならぬおばけ法全書。ツンが持っているのを借りたものである。
びっしり並んだ細かい文字。
おばけ法ならではとも言える罪名がちらほらと。
ξ゚⊿゚)ξ「大切な本だから汚さないでね」
( ^ω^)「このページの隅っこに染みがありますけど」
ξ゚⊿゚)ξ「前にピザ食べながら読んでたときにソース垂らした」
( ^ω^)「あんたって人は」
「誘惑罪」の文字を見付ける。
文章を指でなぞりながら、心の中で読み上げた。
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第109条、誘惑罪。
生者の色情を煽り姦淫し、一方的に生者に何らかの不利益を生じさせることを禁ずる。
ξ゚⊿゚)ξ「……強姦だったらまた違う罪になるけど、
今回は犯人が強制したわけじゃなく、被害者側が自分の意思で誘いに乗ってるからね」
内藤が何の項目を見ているのか察したのだろう、
切り分けたステーキを持ち上げながらツンが補足するように言った。
肉を一口で収め、皿に盛られたご飯をフォークで掬う。
ツンが口の中のものを飲み込んだ頃合いに、内藤は訊ねた。
( ^ω^)「合意の上でも罪になるんですかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「誘惑に乗っかった結果、被害者は何らかの害……不利益を被ってるでしょう?
その不利益について、被害者は事前に説明なんか受けてないから、
完全に合意だとは言えないわ」
( ^ω^)「あ、そっか……」
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ξ゚⊿゚)ξ「あと、自分の意思でとは言ったけど、本当に100パーセント被害者の意思だったかは疑問ね。
その気になるよう、犯人がコントロールした可能性もあるから。
……そこは証明が難しいし、今回の争点とは関係ないけどね」
内藤は本をツンに返し、卓上の粉チーズの瓶を手に取った。
ナポリタンにたっぷりチーズをかけ、いただきますと呟いてからフォークを握る。
正直、裁判の話で食欲は少々失せていたが。
内藤の隣でアイスティーをちびちび飲んでいたペニサスが、
困惑の目をツンに、感心の目を内藤に向けた。
('、`*川「よくわかんない……。内藤、私より頭いーんだな」
ξ゚⊿゚)ξ「気にしないで。必要最低限のことだけ分かってくれてればいいから」
('、`*川「……べんごしさんは、ひこくにんが犯人じゃないって本当に信じてんの?」
ξ;゚∀゚)ξ「え? やだわ急に何を、信じてるに決まってるじゃないの! ほほほ!」
くるうじゃなくても分かる。これは嘘だ。
法廷でペニサスが「ミルナの上に乗っていた女と
被告人の見た目が全然違う」と証言してからずっと、ツンの様子がおかしい。
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その証言のおかげで、貞子を犯人とする根拠に乏しいという流れになったのだが、
弁護人である彼女は喜ぶどころか焦っていた。
「納得いかない、検察側も証人を用意するから2、3日猶予をくれ」としぃが閉廷を申し出たときには
ツンの方が安堵していたくらいだ。
まず間違いなく、貞子が事件に無関係なわけがない。
弁護人自ら態度で教えてくれている。
だからといって有罪かどうかまでは読めない辺り、厄介というか何というか。
ともかく内藤から情報が漏れるのを恐れて秘密にしたくせに、
彼女の方がよっぽど隠すのが下手だと思った。
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ξ゚⊿゚)ξ「──さてと。ペニサスさん。
あなたが見たっていう女について、もう一度詳しく教えてくれる?
見た目の特徴とか」
ステーキを平らげたツンが、ナイフとフォークをメモ帳とペンに持ち替える。
ペニサスはストローの袋を弄ぶ手を止めた。
('、`*川「んっとね、髪は肩ぐらいまでで、顔も隠れてなかったし……ちょっと古そうな服着てて、
ひこくにんより背が低そうだった。てゆーか全体的に、被告人より小さいと思う」
全体的に、と言いながら自身の胸や肩を触るペニサス。
昨夜の裁判でも説明していた。
そのときにしぃとオサムが確認したが、貞子が変装している様子はなかったそうだ。
【+ 】ゞ゚)『顔を見せてみろ』
川д゚;川『これでいいですか……?』
左側だけだったが、前髪を上げてみせても
ペニサスの反応は──検察からすると──芳しくなかった。
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('、`;川『見覚えある……っちゃあるような、いや、やっぱり無いような……?』
(#゚ー゚)『はっきりしろ! どっちだ!』
('、`;川『わ、私が見たのとは違う人じゃないかなあ』
一般的に、浮遊霊はその気になれば自分の姿を変えられるが
ベースまで変えることは、よほど強い霊でない限りは不可能だという。
たとえば都村トソンを例に挙げよう。
彼女は自身が死んだときのイメージが強いあまり、その瞬間の姿を保ってしまっている。
しかし頑張りさえすれば、体にこびりつく血痕を消し、欠損した右手の小指を生前のように戻すことが出来るのだとか。
実際にそれを行っていた例には、砂尾ヒートが挙げられる。
が、何れにせよ彼女達は、顔つきや体型まで変えて
まったくの別人になることは出来ない。らしい。
だから、ペニサスが見た女と貞子は別人であることがほぼ確定する。
さらに。
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(;*゚−゚)『見たのは間違いなく5月下旬でしたか?』
('、`*川『うん。二十……──26……や、27日。27日だ』
(;*゚−゚)『5月27日の昼?』
('、`*川『昼。2時過ぎくらい。
怖かったから家帰ってすぐテレビつけたんだけど、
そのときの番組も覚えてるし間違いない。はず。多分……』
──ミルナは日記をつけていた。
この数ヶ月はほとんど日付と適当な一文を書くだけになっていたらしいが、
例の夢を見た日には、日付の横に×印を付けるようにしていたという。
几帳面というより、夢を楽しみにしていたが故に、「女」が来る間隔に規則性を見出したかったのだろう。
その日記を元に作成したリストと、ペニサスの証言にある日付を比べると、
どうも一致しているようだった。
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ペニサスの言う女が犯人だとすると、貞子は犯人ではなくなる。
しかしそれでは夢の中の女とも容姿が異なってくるわけだが──
【+ 】ゞ゚)『夢の中なら、ある程度は自由に姿を変えられるよな。
魂そのものではなく意識を通して接触するわけだから』
川 ゚ 々゚)『うん』
(;*゚ー゚)『それを言い出したらどうにもならないじゃないか!』
こういうことになるそうで。
おばけという奴は便利なんだか不便なんだか分からない。
そんな内藤の呟きに、オサムは「それは人間も同じだろう」と返していた。
ともかくおばけは可能と不可能の区別が複雑で、そのため前提条件が曖昧になりがちだ。
ここが、人間の裁判よりもやりづらいところか。
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('、`*川「あとは、あんまり覚えてない」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう、新しく思い出すことがあったら教えてね。
──さあ、これからどうしましょうか」
メモ帳を閉じ、ツンはボールペンの後部を口元に当てた。
どうしようと言われても。
( ^ω^)「僕はもう何もしませんお?」
ξ゚З゚)ξ「あら残念。
っつっても実は、内藤君にはもう用がない……ってか、なくなっちゃったのよ。
でも居ないよりは居てくれる方がいいなあ。また2日後会いたいんだけど駄目かしら」
( ^ω^)「……ふうん。そうですかお。へえ。用無し」
次の審理は2日後。
ばっくれてやろうか──という心中の呟きは、決して実行されることもない、
いわば、せめてもの抵抗であった。
*****
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ツン達と別れ、内藤はバス停への道程を歩いていた。
さっさと帰って、冷たい麦茶でも飲みながら夏休みの宿題に取りかかりたい。
9割は既に終わっている。
残るは読書感想文。本は読んだので、適当に感想を書くだけだ。
( ^ω^)(でも、次のバスまで結構時間あったお)
コンビニで涼みながら時間を潰そうか。
考え、ふと、左側へ顔を向けた。
車一台通るのがやっとであろう道。
じりじりと陽光を受けるアスファルト。
住宅街へ続いている。
少し行けば、ミルナの家がある。
( ^ω^)「……」
あまり考えもせず、そちらへ進んだ。
何か──手がかりになるようなものでも期待したのかもしれない。
そういったものを見付けて、ツンに報告したかった。かも、しれない。
.
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まあ簡単に事は進まないわけで。
結果として、手がかりになるものは見付からなかった。
が、
(*゚ー゚)「……何だ、スパイか?」
思いもよらない人物は、見付けてしまった。
例の公園。
ベンチに座って足を組み、しぃがミネラルウォーターを飲んでいた。
ジーンズに水色のTシャツ。
やけに爽やかな格好だった。
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(*゚ー゚)「それとも君も河内ミルナに用があるのかな」
( ^ω^)「……何となく寄っただけですけど。
その言い方からして、しぃさんはミルナさんに用があるみたいですお」
訝しげに辺りを見渡したしぃだったが、ツンの不在を確認したのか、
砂場で遊ぶ子供達へ視線を落ち着けた。
(*゚ー゚)「彼に証人として法廷に出てもらう。
その交渉に来た」
( ^ω^)「結果は?」
(*゚ー゚)「さあね。今ギコが行ってる」
( ^ω^)「しぃさんは行かないんですかお」
急に空気が軋んだ。
迂闊な質問をしたかと内藤は口を押さえる。
しぃは無言でミネラルウォーターを飲み、至極丁寧に蓋を閉めた。
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(*゚ー゚)「前回の──凛々島リリの件を知っていながら、その質問をするんだね。君は」
( ^ω^)「すみませんお、何のことだか」
(#゚ー゚)「僕が余計な真似をした話だ!」
子供達の声が止む。
内藤は優しい笑みを浮かべ、子供や保護者に頭を下げた。
公園内が再び賑やかになる。
( ^ω^)「しぃさん、もう少し小さい声で。
……余計な真似っていうと──リリちゃんに変な嘘ついたことですかお」
(#゚ー゚)「ああ、それだよ。
君の敬愛する弁護士殿に、僕のミスだと言い切られた件だ」
呪術師、アサピーの裁判。
凛々島リリに事情を訊くため、しぃはカンオケ神社の職員だと身分を偽った。
その結果、リリまで嘘をつくことになってしまったのだ。
( ^ω^)「たしかに僕の侮蔑する弁護士様が、ばっさり切り捨ててましたおね」
(#゚ー゚)「僕なんかでは、公正な証言は得られないのさ。
だから今回はギコに任せる」
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ふと、しぃの首元に細い手が絡んだ。
半透明の腕が回される。
大きな口だけが顔に付いた、子供のようなおばけがしぃにしがみついていた。
見れば、似たようなものが人間の子供達に混じって遊んでいる(誰も気付いていないが)。
この公園に住んでいる妖怪か何からしい。
悪いものではなさそうだが、まとわりつかれては邪魔だろう。
しかし、しぃは気にした様子もなくペットボトルを握り直しながら、足を組み替えていた。
( ^ω^)「しぃさん、それ邪魔じゃありませんかお?」
(*゚ー゚)「何が?」
( ^ω^)「……肩の。ほら」
手を伸ばし、内藤は「それ」を軽く叩いた。
きい、と甲高い声をあげながら、そいつは滑り台の影へと逃げていく。
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(*゚ー゚)「何かいたのか。道理で襟元が冷えると思った」
( ^ω^)「見えてないんですかお?」
(*゚ー゚)「僕には君達ほどの力は無いよ」
意外な答えで、少し、言葉に詰まった。
しぃは再び内藤から目を外し、ミネラルウォーターを口に含んだ。
( ^ω^)「霊感がないってことですかお?」
(*゚ー゚)「全く無いわけじゃない。気配を感じることは多々ある。
ただ、どこに居るかとか、どんな奴かとか、具体的なところまでは分からないね」
( ^ω^)「それで検事さんやるの、大変じゃありませんかお」
(*゚ー゚)「ギコがいれば問題ない。
ギコは『強い』し僕と血縁関係にあるから、
あいつの傍にいれば、その影響で僕にも霊が見えるようになるんだ」
今はギコがいないので、先程の奴らにも気が付かなかったわけだ。
事件の捜査はギコと一緒に行うだろうし、
前に聞いた通り、幽霊裁判の法廷は特殊な結界が張られ、霊感の有無も関係なくなる。
彼女が検事としてやっていくのも、決して無理なことではない。
とはいえ。
検事になるには、それなりの資格が必要だったはず。
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( ^ω^)「霊感のある人しか、弁護士や検事になれないって聞きましたけど……。
というか、どうして検事になろうなんて──」
(*゚ー゚)「僕の家は昔、おばけ法の制定に携わっていた。
……と言うと大袈裟かな。手伝いをしていたってだけなんだが」
( ^ω^)「……それは。……はあ。すごい、んですかお」
(*゚ー゚)「手伝いの手伝いの手伝いの手伝い、って程度のもんさ。
大したことはしていないが──それでも関わったことには変わりない」
( ^ω^)「そのコネがあったんですね」
(;*゚ー゚)「いや。……いや。そういう……ことだな。うん。たしかに。
猫田家の人間だから、霊力が弱くても試験を受けさせてもらえた。
言っとくが、試験そのものは自力で突破したぞ」
どうして検事になれたか、という理由は分かった。
どうして検事になろうとしたか、は、まだ答えていない。
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内藤が目で促すと、しぃは頷いて口を開いた。
(*゚ー゚)「……僕の父が検事だった」
( ^ω^)「幽霊裁判の?」
(*゚ー゚)「ああ。すごい人だ。ほぼ毎回勝ってた。
でも決してズルをしてたんじゃない」
(*゚ー゚)「丁寧に、慎重に捜査をして、真剣に話を聞いて……そうして起訴する。
真実を見極められる人だったんだね。
何がなんでも冤罪を避けたかったのもあるんだろう。
彼は優しいから、万が一そんなことになればひどく自分を責めていたと思う」
全てが過去形だ。
今は検事をやっていないか──あるいは。
何にせよ、その父に憧れてしぃは検事になった。
実直で、有能で、心優しい父親。
だが、父が理想なのだとすると、どうも彼女は理想に遠い気がする。
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( ^ω^)「……しぃさんは、今回の被告人をどう思いますかお?」
(*゚ー゚)「質問の意味を図りかねる」
( ^ω^)「有罪だと思いますかお」
(*゚ー゚)「当たり前だろう、だから起訴したんだ」
( ^ω^)「まあ、そりゃそうですおね……。
でも──間違ってるかも、とか、少しは思わないんですかお?」
(*゚ー゚)「思わないな」
( ^ω^)「もし間違ってたら?」
(*゚ー゚)「そういったことは考えない」
それは。なかなか。
しかし、都村トソン、ドクオ、アサピーは冤罪だったし──
砂尾ヒートだって、有罪ではあったが、検察側の主張する事実とは食い違っていたわけで。
この4つの裁判しか知らない内藤にとって、しぃのこれまでの行いは無茶が過ぎた。
その分、負けたときの反動が大きい。
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もう少し思慮深くいけないものか、とさえ思える。
盲目的に、犯人だ有罪だと騒ぎ立てるのではなく、
せめて心の片隅にでも「もしかしたら」を置いておけば、幾許かの余裕も出来よう。
( ^ω^)(……『躍起になってる』ってやつだおね)
霊感が弱いというのを思い返して、納得した。
試験に受かるだけの知識はあっても、ギコから離れてしまえば途端に意味がなくなる。
それにまだまだ高校生。
彼女の足元はとても危うい。
だから必死になる。きっと。
( ^ω^)「しぃさんって、無実だったときの被告人がどんな思いをするかとか、
そういうの考えないんですかお?」
(*゚ー゚)「僕は自分が納得したときにしか起訴しないんでね」
多分、彼女と父親の大きな違いはここにある。
父親は冤罪を嫌ったと言っていた。
だからこそ捜査を丁寧に行っていた筈なのだ。
一方のしぃは、容疑者が犯人である証拠ばかりを追い求める。
だからこそ重要なものを見落としてしまう。
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( ^ω^)「でもトソンさん達は実際に無罪だったわけだし、前なんか随分へこんでたし──
ええと、なんていうか……あー、」
( ^ω^)「よくまあ毎回、そう自信満々でいられるもんだなあって」
狙ったわけでもないが、嫌みたらしい言い方になってしまった。
フォローの言葉も浮かばず、口を閉ざして頭を掻く。
(*゚ー゚)「君は僕が嫌いかい?」
( ^ω^)「ではないですけど」
(*゚ー゚)「腹が立つ?」
( ^ω^)「……でもないですお。多分」
腹が立つとまでは言わずとも──快くはなかった。
それは恐らく、どちらかといえば内藤がツンの方に傾いているからだろう。
しぃのやり方はしぃ本人にとって良くない、と忠告したい気持ちもたしかにあるが、
いくらか非難してやりたいという感情的な面も覗いている。
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ブーンは本当に中学生かいな…
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( ^ω^)「ただ、事実を決めつけて被告人を攻撃するのを見てると、
敵とか味方とか言うつもりはないですけど
今のところ僕にとって、しぃさんは『いい人』ではありませんお」
意外にもリリの件以降は怒っていなかったしぃが、ここで反応を示した。
ぴりぴりとした空気が漂う。
参った。やってしまった。
(*゚ー゚)「……いい人? いい人って何だ? 犯罪者に甘くすることが善行か? 僕は──」
(*,゚Д゚)「だーれだ」
突如、視界が真っ暗になった。
目元に温もり。大きな手。
普段なら苛つくところだが、今ばかりは助かったという気持ちが湧く。
( ^ω^)「ギコさん」
(;,゚Д゚)「あいたたたっ、正解正解、抓らないで抓らないで」
手の甲を抓りながら答え、後ろへ振り返った。
ベンチの背凭れを挟んで内藤の後ろに立ち、にっこり微笑む埴谷ギコ。
男の格好だ。
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(,,゚Д゚)「うちの子、あんまり苛めないでね」
( ^ω^)「苛めて……ましたかお、今」
(,,゚Д゚)「ちょっとね」
しぃが立ち上がる。
ペットボトルの中で、ミネラルウォーターがちゃぷちゃぷ揺れた。
彼女の目が一瞬だけ、例の妖怪達に向けられる。
ギコがいると見えるようになるというのは本当らしい。
(*゚ー゚)「河内ミルナは?」
(,,-Д-)「駄目ね。法廷にまでは出たくないって感じ」
(*゚ー゚)「そうか。……なら、とりあえずもう1人の方に行こう」
内藤の前を通る間際、しぃは内藤の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
ふ、と鼻で笑う。
まるで子供に対するような──実際子供だし、しぃより年下である──、
馬鹿にされた空気を感じ取り、内藤はしぃを睨んだ。
-
(*゚ー゚)「僕を悪者だと思うなら、そう思いたまえ。
君の言う『いい人』になるよりマシだ」
またね、とギコが言い、去っていくしぃを追った。
それを見送り、内藤は撫でられた頭に触れる。
きっと、他人には分からぬ意志くらい、しぃにもあろう。
むきになり、一方的に決めつけて攻撃したのは内藤の方だ。
言い様のない羞恥心が胸中を巡り、居心地の悪い熱を頭に送り込んだ。
なんて幼い。
( ^ω^)(あー。ああ。調子乗ってた)
恥ずかしさでその場から立ち去りたい気持ちと、
恥ずかしさで動くのも億劫な気持ちが同居する。
内藤もやはり、子供だった。
-
ベンチの上でうだうだやっていると、肩を叩かれた。
振り向く。
( ゚д゚ )「……あ。やっぱり、昨日の子だろう」
*****
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( ゚д゚ )「あの御札、俺が貼ったわけじゃなくて。実はうんざりしてたんだ」
あれよあれよという間にミルナが自動販売機でジュースを買ってくれた上、
内藤の隣に座って話し出したので、公園から立ち去る機会を失ってしまった。
( ゚д゚ )「いきなり入ってきて剥がし出したときは何かと思ったけど……
でも、君のおかげで少しすっきりした。
部屋が明るくなった気がして、何か、久々に散歩したいような気持ちにもなれたんだ」
ありがとう、とミルナがお辞儀する。
どういたしまして、と一応返して、内藤はジュースを飲んだ。
ミルナが着ている半袖のシャツ。
その左腕の袖の下から、ちらりと、痣というか傷跡のようなものが覗いた。
やはり見間違いではなかったか。
-
( ゚д゚ )「君は出連さんの知り合いなのか?」
( ^ω^)「──どうして」
( ゚д゚ )「君がうちに来た理由を親父から聞いたけど、俺は君を助けた覚えはないよ。
返ってきたハンカチは、おととい出連さんと会ったときに持っていってたやつだったし」
顔色が悪く少し窶れ気味だが、口調はしっかりしている。
夢に取り憑かれていた割には日記に印まで残すような人間だし、
他の被害者よりはまだ軽症で済んでいるかもしれない。
( ^ω^)「……怒ってますかお?」
( ゚д゚ )「別に。さっきも言ったけど、お札の件は感謝してる。
君が来なければ、ずっとあのままだったろうし」
( ^ω^)「自分で剥がそうとは思わなかったんですかお」
( ゚д゚ )「うん。……親父が勝手に貼ったんだ。
馬鹿らしくて、何か、いちいち剥がしてやるのも癪だった。
勝手にしろって気分だったんだな、もう」
( ^ω^)「……お父さんとずいぶん仲が悪いみたいですお」
ミルナに嫌われている、と父親が言っていた。
父親はミルナを気にかけているように見えるので、
どうも、息子が一方的に嫌っているらしかった。
彼はベンチの背もたれに寄り掛かり、目を伏せる。
-
( -д- )「昔っから嫌い……の筈だ。
小さい頃の記憶なんてほとんど無いんだけどな」
どうして、と口にしかけて思い留まる。
掘り下げようとする癖が出来てしまったようだ。
待ってみてもミルナは続きを話さない。
沈黙が気まずい。
( ^ω^)「僕には、真面目で優しい人に見えましたお」
何気なく口にすると、ミルナは小さく笑った。
嘲笑の類。
( ゚д゚ )「他人相手ならそうなんだろう。
でも家族に対しては最悪だ」
吐き捨てるように言って、まだ何か続けようとしたミルナだったが、
内藤に顔を向けると悩むような目つきをしてみせた。
言いたいことがある。しかし内藤に聞かせるべきではない、そんな話なのだろう。
-
( ^ω^)「話したくないなら聞かないし、話せるなら聞きますお」
そうか。
囁くように一言落として、ミルナが俯く。
またもや沈黙。
話は続けられることなく、ミルナが腰を上げることで打ち切られた。
( ゚д゚ )「悪いな、帰るよ。出連さんによろしく」
( ^ω^)「はいお。……ジュース、ありがとうございましたお」
ミルナの背を見送り、ジュースの缶を両手で握る。
冷えていく手のひら。頭はまだ冷えきらない。
成果は何も無し。どころか、しぃに余計なことを言っただけ。
ジュースを半分ほど飲み下し、内藤は缶を持ったまま公園を後にした。
*****
-
ミルナは、自分に呆れていた。
( ゚д゚ )(俺は不幸自慢でもするつもりだったのか)
自室の窓の傍に腰を下ろし、公園で会った少年を思い浮かべる。
ミルナの父を優しいと評した彼の言葉に、反発心が湧いた。
それで──自分の過去を話してしまいたい気持ちになったのだ。
少年からすれば、聞かされたところで困るような話である。
思い留まって良かった。
(;-д- )(身内の恥でもあるよなあ……)
-
──ミルナには、7歳より前の記憶が無い。
嫌な記憶を頭の底に封じて自分を守っているのだろうと、
いつぞや、カウンセラーが言っていた。
それが具体的に何なのかは知らないが、原因は父親だろうと考えている。
ミルナが明確に継続した記憶を持つようになったのは、
この町に父親と2人で越してきた前後からだ。
それ以前のことは非常に曖昧で、どんな家でどんな暮らしをして、どんな友達がいたのかも分からない。
-
辛うじて覚えているのは、母に向かって怒鳴る父。
それで泣かされている母。
自分はいつも隣の部屋で、母の泣く声を聞いていた──気がする。
その挙げ句に父は母を捨てた。
どのような流れで離婚したのかは知らないが、父を嫌うには充分な光景である。
ミルナに対してだけは常に気を遣うような態度でいるのが、また腹立たしい。
その気遣いを、なぜ母に見せてやらなかったのか。
最近のペニサスへ向ける父の態度も嫌だ。
母を虐げるときの声に似ていて、頭が痛くなる。
ミルナが止めようとするとますます怒るのだから堪らない。
そうしてミルナも苛立って、心が荒れて──
夢が。
恋しくなる。
-
( ゚д゚ )(……裁判って、本気でやるのかな……。
捕まった人──霊か。霊って、本当に、あの夢の人なのかな。
ここ最近は夢に出てこないけど、やっぱり……)
膝を抱えて考え込む。
夢を思い出すと、腹の辺りに熱が滲んだ。
あの夢は気持ちがいい。
熱くて。溶けそうで。
舌が絡むだけで体中の力が抜けそうになる。ペニサスのときとは随分違った。
しかし──それにしても。
夢の女性とは違う、あの声の主は誰なのだろうか。
-
ミルナを現実へ引き戻そうとする声。
何故だか懐かしい。
ミルナ。ミルナ。あんな風に名前を呼んでくれる誰かを、自分は知っている筈なのだ。
まるで心配するような声の──
(;゚д゚ )「──!!」
顔を上げる。
そのまま硬直し、一瞬過ぎった思考の欠片を必死に追う。
そうして「それ」に気付いたとき、ミルナは思わずポケットに手を伸ばしていた。
立ち上がり、室内をうろついて、机の前で足を止める。
悩みに悩んだ末、彼はポケットから出した携帯電話で父の番号へ掛けた。
-
呼び出し音。
汗がこめかみを伝った。
間もなく、音が途切れる。
『──ミルナか』
( ゚д゚ )「……親父」
『どうした。珍しいな』
昼休みなのかどうか知らないが、父はすんなり応対した。
本題を切り出そうとして、口籠もる。
ミルナは自らを奮い立たせるために右手で拳を作ると、思い切って訊ねた。
( ゚д゚ )「母さんは今どこにいるんだ」
父は答えない。
電話越しに、彼の戸惑いが伝わってくる。
-
( ゚д゚ )「──この世には、いるのか」
『……』
3秒。5秒。
『いいや』
拳に力がこもる。
爪が手のひらに食い込んだ。
なぜ黙っていたのか。なぜ死んだのか。
問い詰めたかった。
けれどもう、父と話したくなかった。
通話を切り、携帯電話をベッドに投げつける。
机に手をついたミルナは、唇を噛み締めて項垂れた。
(;゚д゚ )「……、……くそっ……」
-
──ミルナは母親の顔すら覚えていない。
それでも母は好きだった。
嫌な思い出以外に、唯一、心が安らぐ記憶がある。
何歳の頃だろうか。
熱を出したとき、ずっとミルナに声をかけ、看病してくれた女性がいた。
その人の顔も思い出せないが、それは母の筈だ。
『……ミルナ……』
ミルナを心配する声は、優しかった。
温かかった。
ああ、どうして気付かなかったのだろう。
(;-д- )(『夢』を見るときの……俺を引き止める声と同じだ……)
-
母は今もずっと、ミルナを心配してくれていたのだ。
あんな夢に取り込まれてはいけないと、ずっと警告してくれていた。
なのに自分はそんなことも知らずに、夢に溺れて。
(;゚д゚ )「母さん……」
ミルナは机の上、一枚の紙を手に取った。
埴谷ギコ。少し前に家を訪ねてきた刑事の名刺。
そこに書かれた電話番号を確認しながら、再び携帯電話を使うためにベッドへ歩み寄った。
*****
-
#####
──おとうさん。
(*ぅ-゚)『おとうさん、どこ行くの……』
(*゚∀゚)『あ……しぃ。まだ起きてたのか?
父さんはちょっと仕事行くとこだよ』
(*゚ -゚)『今日もおとうさんが勝つの?』
(*゚∀゚)『どうかな。そうだといいけど……何にせよ今夜の裁判が終わったら、休みもらえるから。
明後日、遊園地行こうな!』
(*゚ -゚)『遊園地? ほんと?』
(*゚∀゚)『ほんと! ……さ、ギコ君と一緒に寝ておいで。
ギコ君にあんまりわがまま言っちゃいけないぞ』
(*-ー-)『うん』
(*゚∀゚)『おやすみ、しぃ』
(*-〜-)『おやすみなさい……』
-
(,,゚Д゚)『しぃ。どうした? こっちで寝るのか?』
(*-〜-)『うんー』
(;,゚Д゚)『もうほとんど寝てるな……あーこらこら、ちゃんと布団入れって。ほら』
(*゚ー゚)『……ぎこ』
(,,゚Д゚)『何だ? 絵本か?』
(*゚ー゚)『おとうさんがね、あさって、遊園地行こうって』
(*,゚Д゚)『お、良かったな』
(*゚ー゚)『……おかあさんも一緒に行くよね』
(,,゚Д゚)『……うん。きっと行ってくれるよ』
(*-ー-)『ふふ……ギコも行こうね』
.
-
──しぃ。
しぃ。
(;,゚Д゚)『しぃ!』
(*ぅ-゚)『んー?』
(;,゚Д゚)『しぃ、着替え……あー、いや、上に何か羽織ればいい。
とにかく起きろ!』
(*゚ -゚)『なんで? どこか行くの? 遊園地?』
(;,゚Д゚)『……叔父さんが──つーさんが、』
#####
-
(*- -)
(*- ゚)「……」
蛍光灯の明かりがまぶしい。
時間が空いたので昼寝をしていたのを思い出した。
夢の内容に舌打ちする。
昨夜と一昨夜、そして今日。
見たのは全て同じ夢だった。
-
ふんふん
-
(*゚−゚)(内藤君とあんな話をしたからだな)
2日前の昼、あの変な少年と交わした会話が脳裏を掠めていく。
いくつかの言葉は胸中に留まり、ざらつく感情を沸き上がらせる。
彼も随分と毒されたものだ。
ツンや怪異に振り回されるのを嫌うようなスタンスでありながら、
すっかり幽霊裁判──ひいては裁判に関わる人間──に深入りしようとしている。
それにしても彼は子供らしいんだか、らしくないんだか。
ツンを奇人扱いして馬鹿にする割に彼も充分、いや、ツンと同等の変人である。
(,,゚Д゚)「しーぃ。起きた?」
ぼうっと霞んだ視界と意識に、見慣れた顔が入り込んできた。
化粧をしている。
-
(*゚−゚)「……何だ。ギコか」
(,,゚Д゚)「ギコちゃんよーう。
ほら起きなさい。そろそろ時間よ。ミルナくん迎えに行かなきゃ」
(*゚−゚)「うん……」
身を起こす。
革張りのソファが、ぎしりと鳴いた。
寝起きの頭をゆっくり働かせながら辺りを見渡した。
机。スチール製の戸棚。本棚。
実家の離れに作った、事務所代わりの部屋だ。
最近、あまり母屋の方で過ごしていない。
背凭れに引っ掛けていた学ランを取り、羽織る。
しぃはボタンを留めながら、姿見の前でひらひらした服を確認しているギコを見た。
-
内藤がしぃより年下なの忘れてたは
-
(*゚ー゚)「……お前は本当に、昔と比べるとキャラが変わったな」
(,,゚Д゚)「何よう、急に。
あんたに言われたくないわ」
(*゚ー゚)「それもそうだ」
机に乗っている資料を鞄に詰める。
ギコが振り向き、にっこり笑った。
(,,゚Д゚)「行きましょうか」
(*゚ー゚)「ああ」
踏み込みで革靴を履く。
どこで買ったのか、女物とは思えぬサイズのサンダルをギコの方へ向けて置いた。
(*゚ー゚)「何だこのヒール……歩きづらくないのか」
(*,゚Д゚)「可愛いからいいの」
そういうものかと思いつつ、事務所を出る。
女性的なお洒落はよく分からない。
-
現在午後7時。まだ僅かに明るかった。
正門より裏門の方が近い。そちらへ向かおうとすると──
(#゚;;-゚)「しぃさん……」
(*゚−゚)
背後から声をかけられた。
右手で強張った顔に触れる。
ギコが、しぃと声の主の間に立った。
(,,゚Д゚)「こんばんは、叔母様」
(#゚;;-゚)「こんばんは……あの、もう行かれるの?」
(,,゚Д゚)「ええ」
(*゚ー゚)「どうかなさいましたか? 母さん」
ギコの隣に立ったとき、しぃの顔には既に笑みが浮かんでいた。
ツン達に向けるような冷ややかなものではなく──素直で優しげな。
着物を着た女性、しぃの母は、ほっと安堵するように笑った。
重箱を抱えている。
-
(#゚;;-゚)「最近、離れでご飯とか済ませてるでしょう?
たまにはお母さんが作ったものを食べてほしくて……」
媚びるような声。
顔や手にちらほら残る、古い傷跡。
──相変わらず醜い人だなと思った。
(*゚ー゚)「ありがとうございます。
ですが今は食べられませんし、いつ帰ってこられるかも分からないので──」
(,,゚Д゚)「そんなに遅くならないわよ。
……叔母様、帰ってきたら、あたしとしぃで頂きますね。
それまで事務所の冷蔵庫に入れておきます」
ギコが和やかに微笑み、丁寧に重箱を受け取った。
蓋をずらして中身を見ながら、あら美味しそう、と明るい声で言う。
母は頬に手を当てた。
そこに残る一番大きな傷跡を指先でなぞる。
気付いているのか知らないが、彼女の癖だ。
-
(#゚;;-゚)「……しぃさん、今夜もその格好で行くの?」
(*゚ー゚)「はい」
(#゚;;-゚)「暑いでしょう? それに──男の格好だなんて。
あなたはもっと女の子らしい服の方が似合うのに」
笑いだしてしまいそうだった。
手を当て、咳をする。そうすることで口を押さえた。
(#゚;;-゚)「大丈夫? 夏風邪かしら……」
(* ー )「平気です」
母と目が合った。
彼女は、眉を顰めていた。
-
また一層、父に似てきたと思っているのだろう。
それでいい。
もっともっと、父に近付いてやる。
こんな女になるより、ずっといい。
case5:続く
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今回は以上です。ブーンは精神年齢14歳から24歳まで行き来してますが所詮14歳です
読んでいただきありがとうございました
Romanさんお世話になってます
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乙
しぃ歪んでんな……
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乙乙乙!みんなの過去も気になるな
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おつ
続き気になる
-
乙
でぃの辺りでぞくぞくした
それにしてもギコが出てくるときの安心感はぱない
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乙
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乙!続き楽しみ
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来てた!乙です!
ギコの服とか靴の入手経路が気になる…。
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伏線回収が楽しみ
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>>74
そらもうあれよ
-
楽しみー
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5話目後編、昨夜VIPで投下してきました
こっちのスレにも投下しようかと思ったけど
量が多くてやってられるかバカヤローってなったので、ログで許してください
http://www.logsoku.com/r/news4vip/1379062671/
携帯用
http://m.logsoku.com/r/news4vip/1379062671/1-10
質問・指摘などありましたらよろしくお願いします
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乙
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乙!今回も面白かった
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投下乙でした
相変わらずの二転三転する展開にはらはらした!
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ログ速読んできた!
毎回楽しみにしてます乙!
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ああもうしまった、前スレ番外編に誤字が
993で、「荒巻」と書くべきところが「オサム」になってました
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番外編も面白かったよ乙
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ギリギリ掴めるだけあるなら十分だな
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番外編、アサピーが憎たらしいけど最後の一言で憎めないな
面白かった
乙
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荒巻&清水ええキャラやなあ
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しぃ最高!
しぃ最高!!
しぃ最高!!!
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ログ読んだよ!
やっぱり話の持ってき方上手いなあ!
読みながらぞくぞくしたよ!乙!
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今日か明日に6話目前編投下します
こっちで投下するかVIPで投下するかは未定
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乙
お待ちしてます
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待ってるぜい
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とりあえず今からVIPで投下
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風呂入ってたら落ちてたからこっちで
乙
今回も面白かった
続きが気になる
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乙
ドクオとブーンはどうなってしまうのやら(´・ω・`)
-
乙です!
いつもながら面白くて続きが気になります。
カーチャン…
-
昨夜VIPで6話目前編投下したった
ログ速貼ろうかと思ったけど、ログ速だとガラケーから見たときに微妙に違いがあるので、こっちにも投下していきます
加筆修正とかは無いので、昨日投下したやつと全く同じ
-
自分は恐らく、運が悪いのだろうと思う。
幽霊が見える体質に生まれたのも。
それを受け入れてくれない人間にばかり囲まれて育ったのも。
幽霊裁判なんてものに関わってしまったのも。
出連ツンに出会ったのも。
-
──その日、内藤ホライゾンは、逮捕された。
.
-
case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/前編
.
-
(´<_`;)「……ううーむ」
流石家、居間。
流石弟者が、兄のノートパソコンを前に唸っている。
画面の中では初老の男性がホワイトボードに何か書き込んでいた。
弟者は手元のノートにペンを走らせ、首を捻ると映像を巻き戻した。
内藤と一緒に漫画雑誌を読んでいた流石兄者が顔を上げる。
( ´_ゝ`)「何のDVDだ? それ」
( ^ω^)「教材ですお。『税について』、っていう」
( ´_ゝ`)「ああ、夏休みの課題か。面倒臭いタイプのやつだ」
( ^ω^)「読書感想文か、税に関する小論文、好きな方を選択するっていう。
僕は読書感想文にしたんですけど」
(´<_`;)「俺は本読むの遅いから……それよりは、
一時間ちょっとの映像見て小論文書いた方が早く済むかと思ってたんだが。
やっぱ難しい」
兄者がにやにやしながら弟者の後ろに回る。
兄貴風を吹かせたがるところのある彼にとって、これはチャンスらしかった。
-
( ´_ゝ`)「要点押さえて、後は適当なこと書いてりゃ何とかなるんだ。中学生の課題レベルなら尚更」
(´<_`;)「その要点をまとめるのが難しいんだよ。メモってる内に話がどんどん進んでく」
( ´_ゝ`)「お前は真面目すぎるからなあ。ほとんど全部書いてるじゃないか。無駄が多い」
弟者も鬱陶しそうではあるが、聞く気はあるようなので内藤からパスを出してみる。
( ^ω^)「取捨選択ってどうしたらいいんですかお?」
( ´_ゝ`)「まあ、『人に話して聞かせる』のが下手なやつ相手じゃ効かんが、
幸い、このおっさんは話すことに慣れてるな。これなら割合簡単だ」
兄者が画面を指差し、固まる。
そのまま数秒経過したかと思うと、突然「ここだ」と初老の男性をつついた。
( ´_ゝ`)「たとえば、今。重要な言葉は、声の大きさやスピードで強調してくれただろ。
これを優先的にメモ。補足情報も、単語か二語三語の大雑把な感じで充分。
メモすることに気をとられちゃ本末転倒だ。まずは話をちゃんと聞いて理解しないとな」
( ´_ゝ`)「大抵は、後でメモを見返したときに自然と話の流れを思い出せるもんだ。
お前は頭だって悪くないしな。
内容をまとめるのはそれからでいい」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者が偉そうに語ってるのじゃー」
弟者の向かいで夏休みの宿題をやっていた流石妹者が呟く。
彼女は彼女で、計算ドリルに苦戦しているようだ。人生においては計算高いくせに。
-
( ^ω^)「割と、大したアドバイスしてませんおね」
(;´_ゝ`)「うるせえなあ!
口頭だけで授業進める教師とかたまにいるから、大事なことなんだぞ!」
l从・∀・ノ!リ人「ねえねえおっきい兄者、今度は妹者のお手伝いしてー」
(*´_ゝ`)「御意!」
何だかんだいって、面倒見はいい。
本当に仲のいい家族だ。
そこに混じってしまっていることを、内藤は少し申し訳なく思う。
兄者の助言はいくらか役立ったようで、先程よりはスムーズに弟者のペンが進む。
要点をまとめた後は、国語が得意な内藤が手伝うことになった。
教師に好感を持たれる文章の書き方なら心得ている。これもある意味、「演技」の範囲だ。
そんな賑やかな居間に、さらに加わる者が1人。
-
∬´_ゝ`)「──母者たちのところに行きましょうか」
流石姉者。
彼女は、電話の子機を置くなりそう言った。
あと一週間で夏休みが明けようという頃だった。
*****
-
住み慣れた町から遠く離れた、2つ隣のN県、ニューソク市。
人で賑わう海に、内藤と流石家一行はいた。
l从-∀-*ノ!リ人「気持ちよいのう」
(*´_ゝ`)「妹者ー、こっち向いて! ピース! ピース!」
水着姿の妹者が、浮き輪を使ってぷかぷかと海に浮いている。
それを撮影するシスコンのやかましい声に、内藤はゲームから顔を上げた。
( ^ω^)「兄者さん、この暑いのに元気いっぱいだお」
(´<_` )「去年は海もプールも行かなかったからな。
2年ぶりに見る妹者の水着姿にテンション上がってるんだろう」
内藤の隣で寝転がりながら弟者が答える。
( ^ω^)「相変わらず痛々しい人だお」
(´<_` )「同感」
-
∬*´_ゝ`)「弟者、ブーン君! ラムネあったから買ってきたよ」
( ^ω^)「おー。ありがとうございますお、姉者さん」
(´<_`;)「……姉者!? 妹者達と遊んでたんじゃないのか!?」
∬;´_ゝ`)「えっ、の、喉かわいたから飲み物買いに……。
妹者達から離れて5分も経ってないけど」
(´<_`;)「1人で行動するなって言ったろ! 姉者は変なのに目をつけられやすいんだから!」
( ^ω^)(お前も『痛々しい人』と『変なの』の一員だお、弟者……)
ラムネの瓶を5本ほど抱えた姉者は、納得いかなそうな顔で、ごめんなさいと弟者に謝罪した。
たしかに彼女の体つきはそれだけで目立つ代物なので、1人にならないに越したことはないだろうが。
l从・∀・*ノ!リ人「あ、ラムネー!」
∬´_ゝ`)「兄者もおいでー」
内藤達のいるレジャーシートの方へ、妹者と兄者が駆けてくる。
上手くラムネが開けられないと妹者が言うので、弟者が代わりに開けてやっていた。
-
( ´_ゝ`)「お前ら泳がんのか、中坊2人」
( ^ω^)「僕は荷物番でいいですお」
(´<_` )「俺も。泳ぐより走る方が好きだ」
海に来てからずっと、内藤も弟者もシートの上から動かなかった。
弟者はつい先日、陸上の全国大会を終えたばかりである。
まだしばらくはゆっくり休みたいようだった。
内藤は内藤で、海は──特に夏場の海は苦手としていた。
この時期の海は、あまりに異形が多すぎる。
(;´_ゝ`)「中学生ってのは、こう、遊ぶのが仕事じゃないかね。
せっかく遠くの海にまで来てんだぞ。はっちゃけろよー」
∬´_ゝ`)「あんた、中学生のときは家でおとなしくしてる方が好きだったでしょ」
そうだ。
せっかくヴィップ町を出て、こんな慣れない土地にまで来たのだ。
たまには幽霊など忘れて、ゆっくり羽を伸ばしたい──
( ^ω^)(──のに)
('A`)「ま、今の海に入ったら、内藤少年なんかすぐさま取り憑かれちまうかもなあ」
何故こいつがいるのだろう。
-
痩せぎすの浮遊霊、ドクオは、内藤のラムネに顔を寄せた。
しばらくそのまま動きを止める。
いいかげん邪魔臭くなって内藤が手を動かした途端、満足げに離れた。
嫌な予感を覚えつつ、瓶の中身を口に流し込む。
味がしない。というか薄い。
ラムネの冷たさも炭酸水の口触りもあるが、まるで水で薄めたような味だ。
弟者の分のラムネを一口わけてもらう。甘い。内藤のものとは大違いだった。
( ^ω^)(こいつ飲みやがった……)
(*'∀`)「美味えー! ラムネなんか久々に飲んだなあ、おい!」
( ^ω^)≡≡≡凸))'A`)ノ ギャー
⊂彡
∬;´_ゝ`)「あっ、ラムネ開けるやつ投げちゃ駄目よブーン君、ちゃんと捨てないと」
(;´_ゝ`)(今ラムネ開けるやつが空中で跳ね返った……?)
l从・∀・ノ!リ人「ブーンにしか見えない何かが居るのかのう……。のう、ちっちゃい兄者」ヒソヒソ
(´<_`;)「!?」ビクッ
-
──もちろん内藤が連れてきたわけではない。
昨夜、自室で着替え等を鞄に詰めているところへ
たまたま通りかかった(と本人は言うが、いつも通り憑依のお願いに来ただけだ)ドクオが訊ねてきた。
('A`)『よう内藤少年。旅行の準備か?』
( ^ω^)『そんなようなものですお。弟者達の御両親のところに。
ドクオさんはどうぞこの町で警備のお仕事頑張ってください』
('A`)『俺みたいな一介の浮遊霊の手にゃ負えなさそうだってことで、
もっと立派な幽霊妖怪に警護頼むんだとよ。
だったら最初からそうしろって話だよな』
( ^ω^)『そうなんですかお。
ドクオさんはどうぞこの町で警備のお仕事頑張ってください』
('A`)『話聞けよ……そんな警戒しなくても、ついて行こうなんて思ってねえよ。
どこ行くんだ』
( ^ω^)『N県ですお。ニューソク市の温泉宿とか何とか』
途端、ドクオが「一緒に行く」と言い出した。嘘つきめ。
いくら断っても、彼は幽霊であるので、勝手に付いてこられてはどうしようもない。
結局、朝一の特急に乗ってから今に至るまで、ドクオは内藤の傍に浮いていた。
ただ、いつものような「取り憑かせろ」という類の言葉を一度も発しないのが気になった。
-
( ´_ゝ`)「──とにかくさ、弟者とでも……妹者でも姉者でも俺でもいいけど、
海で楽しそうに遊んでるとこ、いっぺんくらいは見せてくれよ」
( ^ω^)「僕は今も楽しいですお」
( ´_ゝ`)「写真撮りたいんだ。
その写真、おばさん達に送ってやりたくないか?」
すっかりラムネを飲み干した兄者が、カメラを構えて言う。
「おばさん達」は内藤の両親のことだろう。
内藤は瓶を無意味に揺らし、小首を傾げた。
( ^ω^)「別に」
∬´_ゝ`)「お盆に会えなかったし、写真でも顔見せといた方がいいわよ、きっと。
おばさんだってブーン君に会いたがってたらしいんだから」
( ^ω^)「……まあ、お盆に祖父ちゃんちに行ったときは、入れ違いみたいになっちゃいましたしね」
しばし考える。
内藤は瓶を持った手で弟者と肩を組み、満面の笑みを兄者に向けながら、空いた手でピースサインを作った。
「冷たっ瓶冷たっ」(´<_`;)(*^ω^)v
-
(*^ω^)v「兄者さん」
(;´_ゝ`)「え、何?」
(*^ω^)v「ほらこれ楽しそうな顔」
(;´_ゝ`)「あ、ああ、うん?」
ぱしゃり、一枚。
弟者から離れ、内藤はゲームを再開させた。
兄者は腑に落ちない様子である。
(;´_ゝ`)「何だかなあ。
楽しそうにっつっても、あれだぞ、いつも通りに遊んでりゃいいだけで」
( ^ω^)「僕の両親は、僕が普通の子供みたいに振る舞うと喜びましたお。
だからそれでいいですお」
l从・∀・ノ!リ人「……ブーン、親が嫌いなのじゃ?」
( ^ω^)「好きだし感謝もしてるお、人並みに」
親を嫌ってはいないし、親の方も内藤を嫌っていない。
勿論、たまには顔くらい見たいとは思う。
ただ、会ったとしても、一般的な親子らしいやり取りは出来ない──だろう。多分。
そうするには、あまりに内藤が異端だし、親も不器用すぎた。
決して不幸ではない。
恵まれている方なのだ。先日の山村貞子と河内ミルナのことを思えば、そう感じられる。
-
('A`)「お前も苦労してんだなあ」
しみじみとドクオが呟く。
やけに感情が込められている気がした。
なんとなく居心地が悪くて、内藤は立ち上がった。
ちょっと散歩してくる、と弟者達に告げ、適当に歩き出す。
──内藤の隣に浮かんでいたドクオが、ふと声をあげた。
('A`)「妙だな」
( ^ω^) テクテク
('A`)「霊が山程いるが……誰ひとり悪さをしてねえぞ」
( ^ω^)(……ああ、やっぱりたくさんいたのかお)
はっきりくっきり見えてしまう内藤には、余程おかしな見た目でない限り
視覚だけでは幽霊と人間の区別がつかない。
なので、辺りで遊んだり歩いたりしている人々の、どれが生きていてどれが死んでいるかが分からなかった。
ドクオが唸る。
-
('A`)「こりゃあ──もしかすると、この町にも『おばけ法』が施行されてんのかもしれねえな。
それも、かなり厳しく」
そりゃいいですお。
心の中で呟く。
隣のドクオから前方へと視線を動かし──ぎょっとした。
すぐ目の前にまで女性が迫っていることに気付かなかった。
慌てて身をよじる。バランスを崩す。
('A`)「あ、おい、そいつ霊だから、意識さえしなきゃ摺り抜け──」
言うのが遅い。
左足が地面を離れ、右足でも踏ん張りきれず、内藤は前のめりに倒れた。
咄嗟に突き出した右手から地面に着地する。
体重が右手にかかる。
──嫌な音がした。
*****
-
純和風といった日本家屋。
庭に向かう障子は開け放され、網戸越しに室内が見える。
ちりちり、風鈴が鳴った。
部屋には男と女が1人ずつ。
座椅子に腰掛けた男は新聞を読み、
そのすぐ後ろにぴったりくっついている女は、男の首筋に顔を寄せていた。
淫靡な雰囲気はない。
どちらも、単なる日常のひとときといった様子で、互いに互いを構っている気配がないのだ。
( ^ν^)「最近事件がねえな」
男が言う。
新聞を傍らに置き、飯台に手を伸ばした。
そこにある紙パック入りの豆乳を取る。
ζ(゚、゚*ζ「この間、憑依罪で霊界送りにしたばかりでしょう」
女が男の首から口を離し、答えた。
先程まで唇が触れていた男の首には、2つ、小さな傷がついていた。
そこから僅かに垂れる、赤い液体。
-
( ^ν^)「あんな雑魚じゃなくて。
もっとこう、センセーショナルな事件があってもいいんじゃねえか?」
ζ(゚、゚*ζ「センセーショナル?」
( ^ν^)「連続殺人事件とか、国家機密漏洩とか──
そんで諦め悪く粘ってくるような奴なら最高だ。
それぶっ潰したら絶対気持ちいい……」
パックに刺さったストローをくわえ、男は下品に笑う。
女は呆れた顔をして、再び首に歯を立てた。
ζ(゚、゚*ζ「嫌な人だなあ。
そんなに言うなら、自分で凶悪犯罪起こして他人に罪なすりつけたらどうです」
( ^ν^)「はは。最終手段だな。──おい、吸いすぎだ。いいかげん離れろ気持ち悪ィ」
ζ(゚、゚*ζ「今日も人格に見合った最低なお味でした。
……そんなに暇なら、明日、お祭り行きません?」
*****
-
@@@
@#_、_@
( ノ`)「おかえり」
l从・∀・*ノ!リ人「母者ー!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「おっとっと……妹者、前に見たときよりまた大きくなったね」
海から戻った一行を、えらく大柄な女性が出迎えてくれた。
妹者が女性に飛びつく。
彼女こそが、弟者達の母である流石母者だ。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「荷物は部屋に運んであるからね」
∬´_ゝ`)「ごめんね母者、手伝わずに海に行って……」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「いいんだよ、あんたらは客なんだから」
宿泊施設が軒を連ねる、丹生素温泉街。
その中でとびきり大きな旅館が母者の職場であり、
また、今回内藤達が寝泊まりする宿となっていた。
夏休みが終わる前に、小旅行ということでうちの旅館に泊まりに来ないか──
と、先日、母者から誘われたのだ。
-
l从・∀・*ノ!リ人「父者はいないのじゃー?」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「お仕事があるからね」
母者の夫、流石父者は別の仕事で1人アパートに住んでいる。
後で会いに行きましょうね、と姉者が妹者の頭を撫でた。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「それにしても……」
母者の鋭い眼光が、内藤を射抜いた。
会釈する内藤。その右手首から手のひらにかけて、包帯が巻かれている。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「せっかくの旅行なのに、さっそく怪我かい」
( ´_ゝ`)「何もないところで転んで、手ついたときに捻挫したんだと。あと切り傷」
( ^ω^)「お恥ずかしい」
体重が変な風に掛かったことで、手首を捻挫してしまった。
骨が折れなかったのが幸い、と言いたいところだが、
手をついた場所にガラス片があり、手のひらに深い裂傷も負っていた。
-
∬;´_ゝ`)「ブーン君、しばらく重いものとか持っちゃ駄目よ。お医者様が言ってたし」
( ^ω^)「はいお。というか、何か持とうとすると凄く痛むんで無理ですお」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「気を付けな。……さあ、部屋に行った行った。そうだ、温泉にでも入っておいで。
ホライゾンは捻挫したてだから駄目だけどね」
( ^ω^)「えー」
(*´_ゝ`)「はっはっは、残念だなブーン! お前の分も俺が堪能してきてやる」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「あんた、ちゃんと勉強してんのかい、兄者。遊んでばっかじゃいけないよ。
弟者の方は──ずいぶん日焼けしたもんだ。大会でいい記録出せたんだって?
見に行けなくて悪かったね」
(´<_`*)「ん……うん」
母者が弟者の頭を撫でる。
弟者は少し嬉しそうにしたが、照れ臭いのか、兄者や姉者と共に部屋へと向かった。
妹者も名残惜しげにしつつ、後を追う。
-
内藤は母者へもう一度会釈した。
そして、先程からやけに静かなドクオへ振り返る。
(;'A`)「うおお……眩し……何だこれ……」
ドクオは、母者を直視出来ないようだった。
顔の前で手を広げているが、それでもなお眩しそうだ。
( ^ω^)(健在かお。非霊媒体質……)
──昔からこうだ。
母者は、霊の類を寄せつけない。
持ち前の前向きでしっかりした気性がそうさせるのか、
はたまた、こういう体質だからそういう性格になるのか。
何にせよ、死者などにとって母者は眩しくて仕方ないようなのだ。
その代わり、福の神と言おうか──そういった存在に好かれやすい。
このことを知るのは、内藤だけだ。
-
母者がこの旅館で雇われた理由の大本はそこにある。
ここの館長と女将は、昔から母者が懇意にしていた人間なのだという。
何でも、数年前から営業が傾き出して、従業員に不幸が続き、怪奇現象の報告が相次いだとか。
雇っても雇っても従業員は離れていき、ついに女将まで倒れてしまう。
話を聞いた母者が不憫に思った矢先、今年の始めに
父者のニューソク市への単身赴任が決まった。
その赴任先がまた、この丹生素温泉街に近いの何の。
父者が生活に慣れるまで、という名目で付いていったついでに
臨時の従業員として旅館で働いてみたところ、嘘のように事態は回復していったらしい。
「母者さんが離れたら、また悪くなってしまいそうな気がする」──そう言って、
館長達は必死に母者を引き止めた。
そして現在へ。
恐らく、立地か何かが原因で起こっていた霊障が、彼女のおかげで収まったのだ。
偶然というには不自然すぎる。
この旅館、あるいは土地の神様が、縁を作って母者を呼び出したのだろうと内藤は睨んでいる。
-
@@@
@#_、_@
( ノ`)「──相変わらず、見えるのかい」
ドクオへ目を向けていた内藤に、母者が問い掛けた。
視線を戻して頷く。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「どこら辺だい?」
ドクオを指差そうと振り返ったときには、もう消えていた。逃げたか。
代わりに──見て見ぬふりをしていた方へ、人差し指を向ける。
<_フ;゚ー゚)フ「デミタス様ー!」
/ ゚、。;/「入れませんデミタス様ー!」
<_フ;>ー<)フ「あっ眩しいっ眩しいっ」
/ >、< ;/「デミタス様ー!」
( ^ω^)σ(何あれ……)
丸っこい何かと、平べったい何か。
例えるなら人魂と一反木綿。
旅館の外壁にぶつかっては弾き返され、母者に近付いては退散している。
誰かの名を呼び続けているので、飼い主というか何というか、主人が旅館の中にいるのだろう。
-
母者は内藤が指差す先を見て、表情を変えずに「そうか」と呟いた。
居候させる際、両親は、母者と父者にだけ内藤の体質を全て知らせていた。
母者達が信じているのかいないのか、訊いたことはない。
とにかく否定だけはしないでくれた。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ここも古いとこだから、何かいるかもしれないけど……。我慢出来るかい?」
( ^ω^)「大丈夫ですお」
どのみち、母者がいれば関係ない。
頭を撫でられる。
実の親からもあまりされたことがない。
内藤は演技でも何でもなく、年相応のはにかむような笑顔を浮かべた。
-
──その一方で。
(;'A`)「ったく、あんなのがいたんじゃ、あの旅館にゃ入れねえな……──お」
ドクオは内藤達から離れ、辺りを回っていた。
出来立ての温泉まんじゅうが並んだ屋台。
ほかほかと湯気をたてるそれに吸い寄せられる。
(*'A`)「美味そう……。いいよな、一個くらい……」
屋台に立つ売り子は、当然ドクオに気付いていない。
周囲を見渡し、誰も自分を気に留めていないのを確認してから
ドクオは一つのまんじゅうに狙いを定めた。
──そのとき。
J( 'ー`)し「一つくださいな」
老婦が1人、売り子に声をかけた。
どこかの旅館のものだろう、浴衣を身につけている。
-
( ´W`)「一年ぶりだねえ。今年も来たんだ」
J( 'ー`)し「ええ」
売り子の言葉に、まんじゅうを受け取りながら婦人が頷く。
やんわりとした笑顔。仕草や声が穏やかだった。
しばし雑談し、彼女は踵を返した。
去っていく背中を、ドクオは身じろぎもせずに見送る。
('A`)「……カーチャン」
彼の顔に、驚きはなかった。
*****
-
l从・ε・ノ!リ人「つまらんのじゃ」
客室。
座卓の上に、海鮮料理を主とした品々が並んでいる。
温泉から上がってすぐに用意された夕食だった。
妹者は、口を尖らせながら海老の殻を剥いていた。
(*´_ゝ`)「どうした妹者ーこんな豪勢なご飯なのに、ずいぶん不満そうだなあ。
姉者、お酒おかわりおかわりおかわり」
日本酒ですっかり出来上がった兄者が姉者にまとわりつき、げらげら笑う。
∬;´_ゝ`)「あんた飲みすぎよ」
(*´_ゝ`)「弟者ーブーンーお前らも飲むかー」
(´<_`;)「酒くさっ! あっち行け!」
∬;´_ゝ`)「こら兄者! 駄目に決まってるでしょ!」
(*´_ゝ`)「いいじゃんちょっとぐらい、なあ?」
(´<_` )「母者にチクるぞ」
( ´_ゝ`)「すみませんでした」
-
( ^ω^)「で、何が不服なんだお、妹者ちゃん」
訊ね、内藤は五目飯を口に運んだ。
捻挫と裂傷のせいで利き手である右手を使えない──指を曲げるだけでも手のひらが痛む──ので、
左手でスプーンやフォークを使うしかなかった。
たまに妹者が汁椀を口元まで持ち上げてくれるのが、気恥ずかしくもあり申し訳なくもあり。
野菜と魚介の旨み、ほのかな甘みが舌に優しい。
刺身や煮物、鯛の吸い物も美味いが、この五目飯が一番内藤の好みに合った。
l从・ε・ノ!リ人「母者と一緒にご飯食べたかったのじゃ。
それに、たまには寝る前にお話ししたかったのに……」
──今夜と明日は別の旅館にも手伝いに行かなきゃいけないんだ、ごめんよ。
夕食の前、母者は申し訳なさそうに言っていた。
女将の知り合いが経営している近くの旅館が、急きょ人手不足になったらしいのだ。
∬´_ゝ`)「忙しいんだもの、しょうがないでしょ。明後日からは一緒にいてくれるかもよ」
l从・ε・ノ!リ人「んー……」
∬´_ゝ`)「あ、そうそう、明日と明後日は近くでお祭があるんですって」
l从・∀・*ノ!リ人「お祭!?」
-
(*´_ゝ`)「ああ、丹生素祭な。
でっかい山車が、ここいらをぐるーっと回るんだ」
∬´_ゝ`)「すぐそこの通りに出店も並ぶみたいだし、好きなもの食べておいで」
妹者に小遣いを渡し、微笑む姉者。
ふと腕時計を見た彼女は、荷物をまとめて立ち上がった。
∬;´_ゝ`)「もう行かないと……。
それじゃあ兄者、みんなのことしっかり見て……」
(*´_ゝ`)「うぇーい」
∬;´_ゝ`)「……弟者。みんなをよろしくね」
(´<_` )「ああ。1人で平気か? 駅まで付いていこうか」
∬´_ゝ`)「大丈夫。それに、一旦父者のとこにも寄ってくし」
-
∬´_ゝ`)「ブーン君、お大事にね。
妹者はみんなにわがまま言ったら駄目よ」
l从・ε・ノ!リ人「姉者までいなくなったら、妹者の華やかさをもってしても
この部屋のむさ苦しさは打ち消せんのじゃ」
( ^ω^)「お気をつけて」
内藤達はしばらく滞在する予定だが、
姉者は学校での仕事があるため、1人だけヴィップ町に帰らなければならない。
部屋の入口にある踏み込みでスリッパを履き、姉者はひらひらと手を振った。
∬´_ゝ`)「じゃあね。ごゆっくり」
(*´_ゝ`)「盆明けに帰りそびれた幽霊に会わないようになー」
∬´_ゝ`)
姉者の周りだけ、時間が止まった。
──この酔っ払いめ。
-
∬;_ゝ;)「……やだやだやだ誰か一緒に来てえ! 一緒におうち帰ってぇえええ!!」
姉者が飛び込んでくる。
物凄いスライディングだった。
(´<_`#)「兄者!」
(*´_ゝ`)「天ぷらさくさくしてて美味えー」
l从・∀・ノ!リ人「よしよし姉者、帰るのやめてここにいればいいのじゃ。そして夜は妹者と寝るのじゃ」
∬;_ゝ;)「それは駄目ぇええお仕事あるからぁああ」
( ^ω^)(──そういや、ドクオさん来ないお)
幽霊といえば、先程からドクオを見ない。
母者のおかげで入れないのかもしれない。
せっかく、少しくらいなら料理を分けてやろうと思ったのだが。
ドクオのために寄せておいた天ぷらや煮魚を兄者に押しつけ、内藤は腰を上げた。
-
( ^ω^)「ごちそうさまでした。──姉者さん、そこまで一緒に行くお」
∬;_ゝ;)「お願いしますぅううう……」
(´<_` )「俺も行く」
( ^ω^)「弟者はご飯食べててくれお。僕はもうお腹いっぱいだから」
(´<_` )「……じゃあ任せた」
l从・∀・ノ!リ人「行ってらっしゃーい」
(*´_ゝ`)「お気をつけー」
腕にしがみついてくる姉者を宥めながら、内藤はスリッパを履いて部屋を出た。
廊下を進んでいると、幾人もの宿泊客とすれ違った。
客室の前を通りかかる度に賑やかな声がする。
母者のおかげか、やはり、一目でそれと分かるような化け物はいなかった。
( ^ω^)「お盆もとっくに終わってるのに、お客さん多いですお」
∬´_ゝ`)「お盆休み取れなかった人が今になって休暇もらえたり……
あとはお祭りがあるから、それ目当てで来てる人が多いんじゃないかしら」
少しは落ち着いてきたらしい姉者が、内藤から離れないままに答える。
一階のロビーに差し掛かったところで、自動販売機を発見した。
-
∬´_ゝ`)「送ってくれるお礼に、何か買ってあげる。どれがいい?」
( ^ω^)「……じゃあコーラ」
近くの公衆電話コーナーで話している男性がいたので、何となく2人とも声を抑えた。
断ろうと思ったが、部屋に財布を置いてきていたし、冷たいものが飲みたかったため
素直に甘えることにする。
姉者がジュースを購入し、プルタブを引いてから内藤に手渡す。
礼を言って左手で受け取り、一口。
きんと冷えたジュースが喉を通っていく感触が伝わってきた。
∬´_ゝ`)「美味しい?」
( ^ω^)" コクリ
そのとき、階段を下りてきた男が内藤にぶつかった。
缶の縁に歯が辺り、口に含んでいた分を吹き出してしまう。
転びこそしなかったが、着ていたシャツをジュースで汚してしまった。
しかも男の体が右手に思い切りぶつかる形だったので、
突然走った激痛に、内藤は目を白黒させた。
(;^ω^)「〜〜──っ!」
(#`・ω・´)「ってえな、邪魔だ!」
男は携帯電話を耳に当てていた。
どうやら通話に集中していたせいで内藤に気付かなかったようだ。
-
∬;´_ゝ`)「ブーン君! ……こら、待ちなさい!」
男は呼び止める姉者に舌打ちだけで返事をし、玄関へ向かうと旅館を出ていった。
憤る姉者を宥め、内藤は首を振る。
(;^ω^)「いいですお姉者さん。……ハンカチか何か貸してくれませんかお」
∬#´_ゝ`)「何なの、あの人ったら! ──手、大丈夫?」
(;^ω^)「少ししたら収まりますお……多分」
背後の長椅子に内藤を座らせて、姉者は鞄を探った。
怒りに染まっていた顔が、徐々に困ったものへと色を変える。
∬;´_ゝ`)「……やだ、部屋にハンカチ忘れてきちゃったみたい」
そこへ、落ち着き払った男の声が掛かった。
公衆電話を使用していた男だった。
(´・_ゝ・`)「私のを使ってください」
すらりとした、小綺麗で品の良さそうな中年男性だ。
フレームの細い眼鏡が似合っている。
青いハンカチが差し出された。
皺がなく、これまた清潔感を感じさせた。
-
∬;´_ゝ`)「すみません、ありがとうございます!」
(´・_ゝ・`)「酷い人もいたものですね」
(*^ω^)「ここに立ってた僕が悪いんですお。──助かりました、ありがとうございますお」
(´・_ゝ・`)「やあ、できた子だな」
感心したように言う男に、内藤は照れた仕草で微笑む。
自然に演技をしていた。
感謝の気持ちが嘘なわけではないけれど、やはり、可愛げのある方が不利益はない。
姉者がハンカチで内藤の服を拭ってくれる。
洗って返しますと申し出たが、
(´・_ゝ・`)「いいんです。丁度、近くのコインランドリーに行こうと思ってたところだ」
彼はそう言い、用の済んだハンカチを持って立ち去っていった。
その背を見送る姉者が、ほうと息をつく。
∬*´_ゝ`)「……素敵な人ねえ」
( ^ω^)「実に大人らしい大人ですおね」
最近は大人げない大人と関わるのが多かったので、どことなく新鮮な心持ちであった。
*****
-
ξ>д<)ξ「へっくちゅん!」
(;,゚Д゚)「きたなっ! ちょっとー、くしゃみするときは口を押さえなさいよ。料理に唾飛ぶわよ」
ξ゚Λ゚)ξ「へーい」
ヴィップ町の繁華街の一角、居酒屋。
狭い個室の中で、出連ツンと埴谷ギコが向かい合っていた。
(,,゚Д゚)「あ……何かあたしも……」ムズムズ
(,,>m<)「ぶゎーっくしょーい!! あ゙ーっ!!」
ξ゚⊿゚)ξ「綺麗に揃えた両手で可愛らしく口押さえてするくしゃみじゃないわよそれ」
焼き鳥をくわえ、ツンは隣に置いていたファイルを持ち上げた。
挟まれた書類には、三森ミセリの病室に出没した「真犯人」──らしき男に関する、
捜査状況が記されていた。
ギコが持ってきたものだ。
-
(,,゚Д゚)「ほんとは、こんな捜査途中の書類見せちゃいけないのよ。
バレたら大目玉だわ」
ξ*゚ v゚)ξ「だあいじょうぶ、常に人手が足りてないおばけ課だもの。
ヴィップ警随一の霊感持ちをクビにしたりしないわ。多分」
(;,-Д-)「そうだといいけどねえ」
ξ^⊿^)ξ「まあまあ、気にしない気にしなーい。それよりほら、お礼に何かしてあげようか」
(,,゚Д゚)「なら、次の裁判ではしぃに優しくしてやってちょうだい」
ξ゚⊿゚)ξ「あの子が目上の人間に対する態度を弁えたらね」
焼き鳥を咀嚼し、ビールを呷るツン。
珍しく、薄紅色の半袖カーディガンにベージュのスキニーパンツといった明るい服装。
今日は弁護士としての仕事がなかったのだ。
ちびちびとサラダやソフトドリンクを口にしているギコは、仕事帰りなので男の格好である。
-
ξ゚ -゚)ξ「──……不可解な死」
何枚目かの書類を読んだとき、ツンはぽつりと呟いた。
全国各地で発生した不審死の件数は例年と変わりない。
しかし、ここ数年に限って見てみると、その内のいくつかに共通点があった。
(,,゚Д゚)「何年か前から、霊能力者の突然死が増えてるのよねえ。有名無名問わず」
ξ゚⊿゚)ξ「霊能力者って──霊媒師とか占い師とか?」
(,,゚Д゚)「それもあるけど、多くは、一般人だけど『見えちゃう』人ね。
……ま、それは周囲から聞いた話だから事実かどうかは分からないけど」
ξ゚⊿゚)ξ「なるほど」
書類をめくる。
ページの右側に写真が載っていた。
白い紙の上で物差しと並べられた、2本ほどのやや太く長い毛。
ξ゚⊿゚)ξ「これが、例の『化け猫』の毛?」
(,,゚Д゚)「そう。それでね、さっき言った、霊能力者たちの不審死の件あるでしょ?
5年前、G県のラウン寺の僧侶さんが謎の死を遂げたんだけど──」
(,,゚Д゚)「その人の遺体や寺の近くにも、同じ猫のものと思われる毛が落ちてたの」
ξ゚⊿゚)ξ「……ふむ」
-
(,,゚Д゚)「だから、霊能力者たちの死の──全てじゃないにしろ、いくつかには──
同一人物、というか同一猫が関わってる可能性があるんじゃないかしら」
(,,゚Д゚)「……トソンさんね、言ってたの。遭遇した男の目が猫に似てたって。
ドクオさんも、病室から逃走した男の動きは、まるで猫みたいだったって言ってたし」
ξ゚⊿゚)ξ「ふん、ふん、ふん……」
それはやはり、この毛の持ち主──化け猫なのだろうか。
ツンは皺の寄る眉間を指先でほぐしながら、書類を読み込む。
ギコの言葉と同程度の情報しか見当たらなかった。
警察も今のところ、これ以上の手掛かりには至っていないのだろう。
焼き鳥の串をくわえたまま揺らしていると、行儀が悪い、とギコに串を奪われた。
ξ゚⊿゚)ξ「この化け猫が各地を渡り歩いて、その土地で出会った霊能力者に憑依なり何なりをして、
ミセリさんのときのように生気を奪い取って殺した──ってこと?」
(,,゚Д゚)「そういう読みではあるわね。
ただ、生気を奪うというより、魂を食べたのかも」
ξ゚⊿゚)ξ「魂を? 根拠は?」
(,,゚Д゚)「これは各地の、おばけ課が置かれてる警察からしか手に入らなかった情報だから、
他の地域でどうだったかは分からないんだけど……」
-
(,,゚Д゚)「亡くなった人たちの霊が、見付からなかったっていうのよ。
まさかみんながみんな、死んですぐに成仏したとも思えないし……
そうなると、犯人の手によって、何らかの形で魂ごと消された疑いが出てくるでしょ」
ξ゚⊿゚)ξ「それで『食べられた』ってわけね」
(,,゚Д゚)「化け猫って呼び名が定着した以上、どうしてもそういうイメージがね」
ξ゚⊿゚)ξ「妖怪さんは人間食べるの好きだしねえ」
──そしてそいつは未だ、ミセリを諦めていない。
トソンとドクオ。二度もミセリの病室で「化け猫」に遭遇している。
もうミセリから目を離してはいけない。
ξ゚⊿゚)ξ「魔除けの結界とかは使わないの?」
(,,゚Д゚)「張ってるわよお、勿論。
ただ、この前は……警備にあたってた警官が席を外す際に、ちょっと結界を弱めていったんですって。
何かあったときに、ドクオさんがすぐに病室の様子を見られるようにね」
ξ゚⊿゚)ξ「で、その隙に、と」
(;,-Д-)「迂闊だった。ドクオさんが真面目に仕事してくれてて良かったわ。正直ちょっと意外」
ξ゚⊿゚)ξ「あのひと態度と口は悪いけど、悪い人ではないんでしょうね」
内藤が語るに、ドクオという男は体を貸せ体を貸せと喧しいらしいが──
それだけだ。これといった害は無い。と聞く。
いつぞやも、具合を悪くしたツンの言付けをしっかり守ってくれたし。
-
ファイルを手放し、今度は鍋の中身を皿によそった。
店に入ってからというもの、ツンばかりが飲み食いしている。
ギコは家に帰って、猫田しぃと夕飯を食べるらしい。
(;,゚Д゚)「あんた食べすぎよ。2人分の鍋ほとんど1人でやっつけてんじゃないの」
ξ゚З゚)ξ「ギコが食べないんだもの」
(;,゚Д゚)「だから鍋は注文しなくていいって言ったのに……。
……あ、そういや聞いた? 姉者達、母者さんが働いてる旅館に招待されたんですって」
ξ゚⊿゚)ξ「N県ですっけ。内藤君も?」
(*,゚Д゚)「そうよお。
いいわねえ、今ごろ豪華で美味しいご飯食べてんでしょうねえ」
ξ゚⊿゚)ξ「呪うか……」
(,,゚Д゚)「あんた妙なところで心狭いわよね」
*****
-
深夜1時を回った頃だった。
( ^ω^)「……」
呼ばれたような気がして、目が覚めた。
弟者は隣の布団で寝ている。
襖を挟んだ隣の部屋からは、兄者のいびきと妹者の寝言が聞こえる。
気のせいだろう、と、内藤は寝返りを打った。
そのとき、こつり、窓が鳴った。
「──少年」
ドクオの声だった。
窓に近付き、カーテンをめくる。
真夜中の闇の中でも、窓の外に浮かぶドクオの姿がくっきりと見えた。
('A`)「起こして悪いな。……ちょっと、庭に出てきてくれ」
-
──旅館の庭園。
その片隅に置かれたベンチに、内藤とドクオは腰掛けた。
( ^ω^)「──旅館に入れたんですかお」
('A`)「館内にまでは入れなかったが、庭には何とか来れた」
母者は、今は別の旅館に行っている筈だ。
それでも気配の名残だけで霊を館内に寄せ付けないというのだから、すごい。
ぼんやりと旅館を眺める。
縁側と庭はガラス戸で仕切られている。
ガラス戸の向こうに並ぶ障子。その全てが暗い。
しんと静まり返っていて、宿泊客の誰もが眠っているのだろうと思えた。
目に入る限りでの光は、庭に置かれた外灯の薄明かりだけだし、
耳に入る限りでの音は、虫の鳴き声と時おり遠くを走る車の音だけだった。
内藤が座るベンチのすぐ横にも外灯があったが、球が切れているのか、明かりがついていない。
そのせいで、一層暗く感じた。
自分がいる場所だけ、遠く隔離されているような気分になる。
しばらく、沈黙が続いた。
内藤から欠伸が漏れる。
-
( ^ω^)「……どうして僕を呼んだんですかお」
ドクオの返事は、内藤の問いから約10秒後に。
('A`)「──体を貸してくれ」
がっかりしたのは確かだった。
いつもと違うどこかしんみりとした環境で、
いつもと違う真剣な面持ちのドクオから発されたのが、いつも通りの言葉で。
結局それか、という思いが湧く。
こんな遠くの地にまで来て、それでも放っておいてくれないのか。
部屋に戻ろうと、腰を上げる。
しかし、温度のない手に左の手首を掴まれた。
('A`)「頼む」
ドクオの顔に、必死さが浮かんでいた。
それに反して彼の手にはあまり力が入っていなくて、
きっと、その気になれば内藤が振り払うことも出来たのだ。
けれども内藤はそうしなかった。
-
( ^ω^)「……何かありましたかお?」
('A`)「……カーチャンがいたんだ」
ベンチに座り直す。
ドクオの手が離れた。
( ^ω^)「ドクオさんのお母さん?」
('A`)「ああ。ここじゃないが、よその旅館に泊まってるみたいだ」
色々と訊きたいことはある。
その中で真っ先に、内藤が気になったものがあった。
( ^ω^)「ドクオさん、生前の記憶は無かったんじゃありませんかお」
6月にドクオが起訴された裁判で、
彼は、自身の苗字も命日も覚えていないと言った。
なのに母を見ただけで分かったというのだろうか。
ドクオが俯く。
やがて、ぽつりと答えた。
-
('A`)「本当は全部覚えてるんだ。……名前も歳も」
( ^ω^)「どうして裁判のときに嘘ついたんですかお」
('A`)「正直に言ったら、警察や検事は俺の素性を調べるだろ。
……知られたくないことぐらいあるよ、俺だって」
低めた声。
これ以上は訊いてはいけないだろうと、内藤はうっすら理解していた。
ならば訊いてもいい範囲はどこだろう、と思考を巡らす。
それを察したのか、ドクオは言った。
('A`)「……鬱田ドクオ。死んだのは20年くらい前の12月で、当時は28歳だった。
生まれたのも育ったのも死んだのも、N県のプラス町……このニューソク市の隣の町だ」
( ^ω^)「それが、何でヴィップ町にいたんですかお」
('A`)「逃げてたんだ。
故郷から離れたい気持ちでいっぱいで──それで、
仕事で行ったことのあったヴィップ町に逃げた」
('A`)「でも時が経つにつれて……戻らないといけないって気になった。
カーチャンに会わないといけないって」
両手で顔を覆い、ドクオは続ける。
( A )「細かい事情は話せない。話したくねえ。
とにかく俺はカーチャンに会いたくて──」
-
( A )「けど『ドクオ』として会う勇気はなかったんだ。
全くの他人として、カーチャンと話がしたかった……」
それで内藤にしつこく絡んでいたわけだ。
理由も知らされずに憑依されそうになったら、それは当然こちらだって抵抗するというのに。
( ^ω^)「事情を話せば、僕じゃなくても、協力してくれる人はいた筈ですお」
('A`)「……話したくなかった」
( ^ω^)「話さなきゃ、手伝ってくれるものも手伝ってくれなくなりますお」
('A`)「だろうな。それは分かってる。……でもやっぱり、無理だ」
ドクオが立ち上がった。
内藤の前に移動する。
そうして、彼は、深々と頭を下げた。
-
(;'A`)「虫のいい話だと思うだろ。それでも──体を貸してほしい。
明日……少しの間だけでいいんだ。お願いだ。内藤少年」
内藤はベンチの背もたれに寄り掛かった。
夜風が頬や首元を撫でる。
慣れない土地で、少し、空気に呑まれたのかもしれない。
( ^ω^)「……仕方ありませんお」
*****
-
l从・∀・*ノ!リ人「兄者兄者、かき氷イチゴ味にしたのじゃ!」
(*´_ゝ`)「赤い浴衣に赤いかき氷が最高に似合ってるぞ妹者! 姉者に写メ送ってやるか」
l从・∀・*ノ!リ人「デジカメでも撮ってほしいのじゃ!
妹者の可愛さを記録するには、なるべくいい画質でないといかん」
翌日、夜。
内藤達は、丹生素祭の会場に来ていた。
並ぶ屋台に提灯、ソースの香りに甘い匂い、老若男女の様々な声。
何度か人にぶつかってしまったほど混雑している。
内藤など既に若干うんざりしているのだが、
妹者は、レンタルしてきた赤い花柄の浴衣を着て大はしゃぎだった。
( ^ω^)「思った以上に人がいるお」
(´<_` )「だなあ」
隣を歩きながら、弟者が串に刺さったステーキを頬張る。
内藤が携帯電話のカメラを向けると、それを横目に見て、弟者は空いた手で控えめにピースサインをしてみせた。
その自然な仕草に笑いつつ、撮影する。
-
(´<_` )「姉者にでも送るのか?」
( ^ω^)「それは兄者さんがやるだろうから。僕は、モララーとかヒッキーに」
(´<_` )「モララーの奴、あからさまに羨ましがりそうだな
──俺の写真送るくらいなら、とびきり美味そうなもん買って、
メールで自慢してやろうじゃないか」
2人は顔を見合わせて笑う。
内藤もそれに乗った。
姉者から、祭の軍資金にと昨夜の内に小遣い(弟者の分も含めて)をもらっている。
お姉さんぶらせてよと微笑まれてしまうと、断れなかった。
めぼしい屋台を探す。
そのせいで意識が散漫になったのだろうか、眼前に現れた人間に、真正面からまともにぶつかってしまった。
( ^ω^)「あっ」
内藤は弟者が支えてくれたが、相手の方はそのまま尻餅をついた。
買ったばかりのたこ焼きを弟者に持たせ、内藤は屈み込み、
申し訳なさそうな顔と声を作る。
-
(;^ω^)「ごめんなさいお! ちゃんと前見てなくて! 怪我はありませんかお!?」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫です、私も余所見してて……、ごめんなさい」
20代半ば──ツンや姉者と似た年代の女性が、手を振り微笑む。
内藤が助け起こすと、彼女は服に付いた砂埃を払った。
ζ(゚ー゚*ζ「お互い気を付けて歩きましょうね」
屋台の電飾の明かりで、その顔がはっきり見えた。
言葉を発した拍子に、口の端に牙のような──犬歯が覗いた気がする。
女性は内藤にも怪我がないか確認すると、はっとしたように辺りを見渡し、
進行方向へ小走りで去っていった。
ζ(゚、゚;ζ「置いてかないでニュッさん!」
すぐに、その背は人混みに紛れる。
内藤は息をつき、前方に向き直った。
携帯電話を開く。午後8時の5分前。
残念、時間だ。
背伸びをして兄者を探す。
彼は背が高いので、雑踏の中にいても見付けやすい。大して離れていない場所にいた。
あれなら弟者もすぐに分かるだろう。
ゆっくりと振り返る。
-
( ^ω^)「……弟者。僕、なんだか気分が優れないお」
額に手を当て、辛そうに言った。
無論、仮病である。
( ^ω^)「先に旅館に戻ってるから、弟者は兄者さん達と──」
(´<_`*) ボケー
( ^ω^)「……弟者?」
(´<_`*)「……かわいい……」
かわいいって。何が。
惚ける弟者の視線を辿ると、先程の女性が消えていった方向を見ていた。
(´<_`*)「今のひと綺麗だったなあ、ブーン」
( ^ω^)「……まあ、割と」
(´<_`*)「優しげだし……ああいう人いいなあ」
( ^ω^)(年上好きか……)
-
(´<_`*)「あ、さっき何か言ってたか?」
( ^ω^)「え? ──ああ、僕ちょっと疲れたから、先に旅館に帰っとくお。
だから弟者は妹者ちゃん達と一緒にいるといいお」
(´<_`*)「ああ、分かった……気を付けてな」
( ^ω^)「……兄者さん、あっちにいるから」
ふらふら、弟者が歩いていく。
逆に内藤の方が弟者を心配してしまったが、無事に兄者と合流出来たようなので、
溜め息を吐き出して踵を返した。
カラフルな出店の切れ間を見付ける。
ちょうど屋台の後ろの店舗と、ビルに挟まれた路地にもなっていた。
そこから道路へ出られるようだ。ちらりとコンビニの看板が見える。
そちらへ抜ける。
そのとき、後ろから声が掛かった。
('A`)「少年」
( ^ω^)「あ……どうでしたかお、ドクオさん」
-
('A`)「見て回ったが、カーチャンはここには来てないみたいだ。
多分、旅館にいるんじゃねえかな……。そろそろ山車が回る頃だし」
祭のメインである山車は、先程この会場を通り、温泉街へ向かっていった。
何でも──温泉街の宿や店舗から、温泉の湯水、あるいは普通のお湯を少しずつ集めていって
それらが入った樽を丹生素の土地神に捧げる、というのが
この祭の本筋なのだという。
故に、山車目当てに旅館に残る者も多い。
( ^ω^)「お母さんが泊まってる旅館は分かってるんですかお?」
('A`)「ああ。昨日見かけたとき、宿の名前が入った浴衣を着てた」
( ^ω^)「じゃあ、行きますかお」
('A`)「……うん」
ドクオを連れて、道筋を思い浮かべながら歩く。
そうして間もなく、温泉街の入口へ到着した。
近道を通ってきたので、山車が来るのはもう少し後だろう。遠くでお囃子が聞こえる。
ここにある古めかしい旅館などは、板塀に赤い提灯を等間隔に飾っていて、どこか幻想的ですらあった。
-
内藤は宿泊している旅館へ駆けた。足は速い。
急いで部屋に戻り、自分の鞄からペンを取り出した。
適当な紙を探す。床の間にメモ帳を発見したので、それを取った。
( ^ω^)(……ええと)
都村トソンの裁判を思い出す。
合意の上で憑依させる場合、それを示す書類を残さねばならない。
( ^ω^)(私、は、本日……20時15分から、……21時まで、体を貸し、ます、……と)
必要なのは日付と時間、霊と人間の直筆の名前、それと実印。
慣れない左手で書いたので、ひどく乱れた字になってしまった。
さすがに印鑑は持ってきていない。
内藤はペンとメモ用紙を持って、部屋を出た。
1階に下りて、帳場に立つ従業員に声をかける。
( ^ω^)「朱肉ありませんかお?」
借りた朱肉に親指を付け、メモ用紙に拇印を捺した。
これでもいいだろう。
旅館を出て、待機していたドクオを呼んだ。
板塀の陰に隠れる。
-
( ^ω^)「ドクオさん、ペン持てますかお?」
('A`)「意識すれば」
ドクオの筋張った手がペンを持つのを確認して、内藤は塀にメモ用紙を押し当てた。
そこに、一文字一文字、丁寧に名前が書かれていく。
書き終えたドクオが息をつくと、ペンがぽとりと落ちた。気が抜けたのだろう。
('A`)「……こんな正規の手続きを通して憑依出来るなんて思わなかった。
最悪の場合は、誰かにむりやり憑依するしかねえだろうと……」
拾い上げたペンを差し出すドクオ。
内藤がそれを受け取るや否や、左手を握りしめられた。
( A )「ありがとう……ありがとう、少年……」
( ^ω^)「……いいから、憑依するならするで、早くしてくださいお。
お母さんと話す時間がなくなりますお」
('A`)「ああ。……じゃあ、ちょっと失礼して」
ドクオが内藤の後ろに回る。
直後、体の中に生暖かさが染み入り、内藤の意識は黒く塗りつぶされた。
-
──どれほど経った頃か。
ほんの一瞬。視界が開け、赤い提灯が目に入った、気がする。
時間が分からない。
背中に温もり。
また、暗転。
*****
-
──感覚としては、眠った直後に目が覚めたようでいて、
それなのに長い夢を見ていたかのような余韻があった。
( ‐ω^)「……」
とにかく内藤は目を覚ましたし、
「ドクオさんは無事に母親と話せただろうか」──そんな思考が浮かぶほど
頭もはっきりしていた。
だから、視界に入る天井が真っ白なタイルで、
自分がベッドに寝かされているのに気付いたときは驚いた。
( ^ω^)「──」
何かを言おうとした。
けれど──怠い。
体中に疲労を覚え、口を動かすのすら億劫だった。
ζ(゚、゚*ζ「起きました?」
ベッドの脇から女性が覗き込んできた。
ほんのりと懐かしさを覚える。
-
( ^ω^)「……さっきの……」
祭りで内藤とぶつかった人だ。
彼女は書類か何かを見ながら、内藤に質問した。
ζ(゚、゚*ζ「お名前は分かります? ご自身の」
( ^ω^)「内藤、ホライゾン……」
ζ(゚、゚*ζ「年齢と、通っている学校は?」
( ^ω^)「A県のヴィップ中学の2年生──14歳ですお」
ζ(゚、゚*ζ「ニューソク市には何をしに?」
( ^ω^)「旅行……友達のお母さんが旅館で働いてて、そこに泊まりに」
vζ(゚、゚*ζ「指は何本に見えます?」
( ^ω^)「2本」
ζ(゚、゚*ζ「大丈夫そうですね」
何とか上半身を起こす。
辛いところはあるかと女性が訊ねてきたので、全身の倦怠感を伝えた。
-
ζ(゚、゚*ζ「まあ疲れましたよね……。
──この紙と小瓶に見覚えは?」
言って、彼女はメモ用紙が入った袋を右手に、茶色い小瓶が入った袋を左手に掲げた。
紙は内藤とドクオの契約書だ。
内藤は頷きもせず、彼女から用紙が入っている方の袋を奪った。
何も知らない人からすれば、意味の分からない文面だろう。
女性は小首を傾げる。
ζ(゚、゚*ζ「──おばけ法をご存知で?」
( ^ω^)「……え……」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、自己紹介が遅れまして。
私、警察の者です! おばけ課。知ってます?」
女性が、黒い手帳を差し出した。
ドラマなどで見る警察手帳に似ていた。というか。警察手帳だ。
照屋デレ。彼女の名前らしい。
-
最初からここで投下すればいいじゃねえか
-
( ^ω^)「……知ってますお」
ζ(゚ー゚*ζ「あら珍しい。
それで、こちらの瓶は?」
( ^ω^)「さあ。僕の持ち物ではありませんお」
ζ(゚ー゚*ζ「あなたのズボンのポケットに入ってたんですが……」
何故そんなものが?
訝る内藤の顔を観察してから、照屋デレは小瓶をしまった。
契約書を寄越せと言われたので、無言で返す。
( ^ω^)「ここ、どこですかお。僕はどうして警察の人と一緒にいるんですかお。
──ドクオさんは?」
いっぺんに質問する内藤に、デレは一つずつ、ゆっくりと答えた。
ζ(゚ー゚*ζ「ここはニューソク病院です。
あなたが事件現場に倒れていたので、とりあえずこちらに運んだんですよ」
( ^ω^)「事件現場?」
ζ(゚、゚*ζ「ええ。お祭会場で、死体が見付かりました。殺人と思われます」
現在地、ニューソク病院。昨日の昼に、手の怪我を診てもらった病院だった。
ここにいる理由、倒れていたから。まあ倒れていたら病院に運ばれてもおかしくはない。
はあ、と頷き、再考して、内藤は首を傾げた。
祭の会場が殺人現場だというのなら、なぜ自分はそんな場所に倒れていたのだろう。
-
ζ(゚、゚*ζ「それから、鬱田ドクオさんについてですが──」
( ^ν^)「おう。起きたか」
ドアが開き、1人の男が入室した。
見た目、30歳になるかならないかといったところ。
グレーのワイシャツを着て、首元にループタイを通している。
右手と左手には豆乳の紙パックを一つずつ持っていた。
男が、デレの隣の椅子にどっかと座る。
そして左手の方、未開封の豆乳を内藤へ投げて寄越した。
喉が渇いている。飲んでもいいのだろうか。内藤が悩んでいると、男が口を開いた。
( ^ν^)「何歳だっけ?」
ζ(゚、゚*ζ「14歳です」
( ^ν^)「じゅうよん。なら起訴出来るな」
内藤の頭の中で、今までのデレの発言と、たった今の男の言葉が混ざり合う。
そうして生まれるのは、これから自分の身に降りかかるであろう難儀の予感。
逃げなくてはならないと思った。
しかし逃げてしまっては、ますます厄介なことになるとも直感していた。
(;^ω^)「……何なんですかお……」
( ^ν^)「あ?」
-
(;^ω^)「何が起きてるんですかお!
気付いたらこんなところにいて──僕、もう──何が何だか──」
存外、内藤は落ち着いている。
それでも「混乱しきった演技」をした。
何か考えがあったわけではない。
ただ、彼にとって、自分の身を守る方法といえばこれしかなかったのだ。
顔を覆って俯く。
内藤の背に、デレのものであろう手が触れて、優しく撫でた。
ζ(゚、゚*ζ「君には、さっき話した殺人事件に、犯人側として関わった疑いが掛かってます」
( ω )「……犯人側」
( ^ν^)「容疑者ってこったな」
予感した通りの答え。
見当がついていたとは言っても、実際にそれを突きつけられると
頭が真っ白になってしまった。
力が抜けて、両手が顔から離れる。
内藤がゆっくりと顔を上げると、いつの間にか、デレが片手に細長い紙を持っていた。
散りばめられた文字。御札だ。
-
ζ(゚、゚*ζ「改めまして。
鬱田ドクオさんなら、こちらにいますよ」
軽く紙を振る。
すると、その中からドクオが現れた。
札から伸びた白い光の糸が、首元や両手、腰の辺りに緩く巻きついている。
まるで──いや、明らかに、拘束されているようだった。
ドクオの顔は茫然自失といった感じで、どこを見ているかも分からない。
定まらない視線が、内藤を捉えて停止した。
(;'A`)「……少年……」
デレが咳払いをする。
困惑と動揺が満ちる室内には場違いな微笑を浮かべ、彼女は言った。
ζ(゚ー゚*ζ「鬱田ドクオさん。内藤ホライゾン君。あなた方は、逮捕されました。
どうぞ取り調べにご協力ください」
(;'A`)「……すまねえ、少年」
ドクオは、何を謝っているのだろうか。
分からない。
-
ζ(゚ー゚*ζ「内藤君。内藤君? 大丈夫ですか?」
( ^ω^)「僕達は……何の罪で捕まるんですかお」
ドクオが逮捕されたからには、幽霊裁判が行われる筈だ。
生きている人間でも、まれに幽霊裁判にかけられることがあるとツンが言っていたから、
内藤もそれに加わらなければならないのだろう。
笑みを深くするデレ。
彼女の唇の動きが、やけにゆっくりに見えた。
ζ(゚ー゚*ζ「『道連れの罪』。主犯はドクオさん。内藤君は、その共犯者です」
ドクオが力なく首を振る。
ループタイの男は豆乳を飲みながらドクオを睨んだ。
道連れ。
その言葉の意味は分かっても、罪の内容までは理解出来ない。
( ^ν^)「実の母親を殺すとは業が深いな、鬱田ドクオ。
ろくな死に方しねえぞ──って、もう死んでるか」
-
(#'A`)「この野郎……!!」
くつくつ笑う男に向かって、ドクオが吼える。
瞬間、光の糸の拘束がきつくなった。
(;'A`)「ぐっ、」
ζ(゚、゚*ζ「騒いだら駄目ですよう。
手錠符を忘れちゃって、強めの拘束札しか手元になかったんで……。
乱暴な言動をとったら、身動きとれなくなりますからね。苦しいでしょう」
「──あんなことを言われたら、怒るに決まってるじゃないですか」
ζ(゚ー゚*ζ「あっ」
咎める声。
一瞬、デレの顔に嬉々とした色が広がった。
ぴょんと跳ねるように立ち上がり、一礼する。
(;´・_ゝ・`)「どうも。
……駄目ですよニュッさん、まだ彼がやったと決まったわけではないんですから」
-
( ^ν^)「何だ、早かったですね、随分と」
(´・_ゝ・`)「近くの旅館に泊まっていたもので」
( ^ν^)「温泉好きめ」
黒いスーツ姿の中年男性。
目測40代ほど。顔にはフレームの細い眼鏡。
背が高く、優しげな──
( ^ω^)「あ」
(;´・_ゝ・`)「──って、あ、あれ? 君が内藤ホライゾン君?
これはまた、妙な縁だな」
ζ(゚ー゚*ζ「お知り合いで?」
(´・_ゝ・`)「同じ旅館に泊まっていまして、少し話したんです」
昨夜、自動販売機の前でハンカチを貸してくれた男性だった。
あらまあ、と驚くデレ。
そこへ更に新たな人物──人間ではないが──が加わった。
-
<_フ*゚ー゚)フ「俺らもいるぞ!」
/*゚、。 /「私らもいるぞ!」
( ^ω^)(で、今度はこっちかお……)
男性の後ろから飛び出す人魂と一反木綿。
彼らもまた、昨日、旅館の前で見たもの達で間違いない。
奇妙な再会をしてばかりだ。
ζ(゚ー゚*ζ「エクストさんにダイオードさん! 今日もお元気で」
<_フ*゚ー゚)フ「デミタス様いるところに我ら有りー」
( ^ν^)「相変わらず腹立つ程うっせえな」
/#゚、。 /「ええい黙れこの横暴検事! ばーかばーか」
(;´・_ゝ・`)「こらっ、おとなしくしてなさい」
<_フ*゚ー゚)フ/*゚、。 /「デミタス様が言うならばー」
2体のおばけは男性の後ろへ引っ込んだ。
右肩から人魂、左肩から一反木綿が顔を覗かせる。
ドクオと内藤が怪訝な目を向けると、
男性はしなやかな動作で懐から何かを取り出してみせた。
小さな紙──名刺。
-
(´・_ゝ・`)「私は盛岡デミタスといいます。
──おばけ法の弁護士です。
今回は鬱田ドクオさんと、内藤ホライゾン君の弁護を任されてやって来ました」
そうして内藤は思うのだ。
同じ弁護士なのに、どうしてツンの胡散臭さが彼には無いのだろうかと。
.
-
ξ>д<)ξ「へえーっぶちゅっ! ぶゎっしゃしゃしゃっ!」
(;,゚Д゚)「んまー信じらんない! きったない! 鼻水ぶちまけすぎよ!」
case6:続く
-
乙
ツンちゃん空気っすなぁ
-
ここまで
次回(中編)は近い内に
読んでくれた方、Romanさん、ありがとうございます
>>159
VIPで投下するのは色々面倒がある(猿とか)けどそこが楽しいし「リアルタイムで読まれる」感じが堪らない
そしてこっちはこっちで投下自体の面倒はないし、DAT落ちがないので「後から読んでもらえる・後からでも感想や質問レスがつく」ってのがありがたい
どっちの投下も好きなんです
-
あ、目次
case5/後編 >>78
case6/前編 >>98
-
乙です!
相変わらずどきどきわくわくさせられる!
流石家のみんなと内藤とのやりとり和む
母者に頭撫でられてはにかんでる内藤がよかった
あと生きた本好きだったからニュっとデレがまた出てきたのが嬉しかった!
続き楽しみにしています
-
またログ速だろうと思って昨日読んでしまってたよ
-
乙!
このブーンの幸薄さといったら泣けてくるわ……
ドクオ共々気持ちよく無罪放免といけばいいんだけどな
何にしろ続き楽しみにしてるよ
-
乙!ニュッデレ見て鳥肌立ったわ
-
いつもまとめで見てるよ!
-
面白かった
両方で投下してくれると助かるな
-
面白かった乙
-
明日か明後日に6話目中編投下します
規制とかされなければ多分VIPで
-
>>180
楽しみにしてる!!
-
VIPで投下するならこっちにスレ立てんなよ、うぜぇな
-
>>182
嫌なら見るなよwww
-
両方投下してくれてるんだから問題ないだろ!
-
>>182
偉そうなこと言ってる割にちゃんと
sageてるのは評価に値するぞ!!
-
人少ないしなー
-
ドックン回いいゾ〜次回も期待
-
今日中に推敲終わらなそうなので、明日! 明日投下する
別に今から投下したらリーガルハイ開始までに投下終わらなそうとかそんな理由はないわけでもないけどないです
-
>>188
いつまででも待ってる
-
待ってる
-
リーガルハイ面白いよな
でもこっちの裁判ものも好きだよ
待ってる
-
vipに来てるね
-
>>192
ありがたや
-
VIP読んできた、後編早よっ!
-
vip投下乙!
ドクオの過去話読んでて胃のあたりが重くなったわ…
ここからどうひっくり返るかが気になる
-
<(' _'<人ノ「この家は祟られています」
──その女が来たのは、夫が死んで間もない頃であった。
<(' _'<人ノ「身内……旦那様に不幸がおありだったでしょう」
J(;'ー`)し「は、はあ……あの、どちら様です?」
着物姿のその女は若く見えたが、どこか儚げで神秘的な雰囲気を湛えていた。
身なりも小綺麗で、彼女の周りだけ空気が澄んでいるような錯覚をおぼえる。
前述の第一声を除けば怪しいところなどなかった。
女は、高崎美和と名乗った。
<(' _'<人ノ「西南の庭に、白い花がありませんか」
J(;'ー`)し「白? ……スイセンかしら……」
<(' _'<人ノ「そのすぐ傍に、この家へ災いをもたらす呪具が埋まっています。
……突然こんなことを言って、おかしな女だとお思いでしょう。
けれど、どうか、騙されたと思って一度、花の傍を掘り返してみてくださいませ」
-
有無をいわせぬ何かがあった。
試しに言われた通りにしてみると、「それ」は発見された。
<(' _'<人ノ「やはり、夢で見た通りですね……。
……まだ祟りは終わっていません。このままでは、あなたや──息子さんも」
女は、鬱田家に起こった不幸を、大きなことから小さなことまで言い当ててみせた。
J(;'ー`)し「あ──ああっ、あ、あのう、ど、どうしたら……私、私、」
<(' _'<人ノ「落ち着いて。……大丈夫。私が、守りますから……」
抱き締められる。
自分の息子よりいくらか年下であろう彼女の腕は、胸は、暖かくて、慈母のようで。
神様だと、思った。
*****
-
<(' _'<人ノ「鬱田さん。こんなお金、どこから」
J(;'ー`)し「息子に頼みました。……お願いです、受け取ってください」
<(' _'<人ノ「いけません。たしかに、ありがたいことですけれど……
無理をなさらない程度でいいと、言ったじゃありませんか」
J(;'ー`)し「お願いします! ……お願いします……お願いします、助けてください……。
たった一人の息子なんです、いい子なんです、あの子だけは、あの子だけは幸福に……」
「神様」には、自分のように縋る者が多くいた。
彼女は「心付け」は少額でいいと言ったが、中には大金を贈る者もいる。
そうなると、相手の顔を立てるためにも、「神様」はそちらを優先せざるを得なくなる。
──彼女にいち早く救ってもらうには、こちらも、多くの心付けを用意する必要があった。
.
-
幾度も縋った。幾度も守ってもらった。
全て終われば幸福になる。
今一瞬の苦しみさえ堪えればいい。
──不幸の底はまだ見えない。
息子が仕事で上手くいっていないようだった。
家の中で、時おり暴れるようになった。
「神様」から頂いた品々を破壊し、暴言を吐いた。
どうしてこんなことに。
こんな子ではなかったのに。
どうして。
<(' _'<人ノ「……息子さんには悪霊が憑いているようです」
ああ、なんてことだ。
助けてください。「神様」。
お金をもっと用意しますから。どうか。どうか。
-
大晦日の夜。
息子と、これまで以上に激しい喧嘩をした。
(#'A`)「カーチャン騙されてんだよ!! 何が神様だ! 何が悪霊だ、祟りだ!!」
J(#;ー;)し「どうしてそんな酷いことを言うの!? あの方は、あんたのことだって守ってくれるって言ったのに!」
(#'A`)「なんで俺よりあんな女の方を信じんだよ!!
何かに取り憑かれてるっていうなら、カーチャンの方だろ!!」
乾いた音がした。
頬が痺れた。
しまった、というような顔をして、息子が手を見下ろす。
──叩かれた。
そんな子じゃないのに。
親孝行をしてくれる、とてもいい子だったのに。
悪霊のせいだ。
-
J(#;ー;)し「──消えろ!! 消えろ消えろ消えろ!!
お前なんか消えちまえ!!」
霊に向けて言ったつもりだった。
息子の顔から表情がなくなる。
こちらを見る瞳は、どこか遠くを見るようであった。
彼は踵を返し、2階の自室へ戻っていった。
-
──何時間か経過して。
年越しまで2時間あまりとなり、頭が冷えたので、階下から息子を呼んだ。
返事がない。
何度も呼んだのに出てこない。
部屋を見に行くと、息子がぶら下がっていた。
糞尿の臭いがした。
息子の体が小さく揺れる度、ぎし、ぎし、とロープを掛けられた天井が軋んだ。
縄に絞められた首元が赤黒く変色している。
息子の体を下ろそうとしたが、一人では無理だった。
早く下ろさないと死んでしまう。
もう死んでいる。早くしないと死んでしまう。もうとっくに死んでいる。早く。
救急車を呼ぼう。今なら間に合う。そんなわけがない。間に合う。生きている。死んでいる。死んでいる。
分からない。救急車さえ呼べば分かる。
階下におりる。
居間の電話に手を伸ばす。
-
テレビから賑やかな声。
大晦日のバラエティ番組。
急に映像が変わった。緊急ニュースらしかった。
『──たった今、詐欺容疑で、高崎美和容疑者を逮捕──』
受話器を握り締めたまま、じっとテレビを見つめることしか出来なかった。
-
case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/中編
.
-
( ^ν^)「流石姉者……A県ヴィップ町の小学校教師」
グレーのワイシャツ。ループタイの先端をいじりながら、
検事、鵜束ニュッは供述書とメモ書きを見比べた。
内藤は携帯電話をしまう。
「しばらく帰れないかも」と姉者に連絡したところだった。
( ^ω^)「姉者さんのことまで調べる必要がありますかお」
( ^ν^)「さあな。調べてから必要な情報に気付くかもしれねえ」
2人は、スチール製の机を挟んで向かい合っている。
机の上にはファイルやメモ用紙、何かの書類と電気スタンド。
ここは──警察署の中にある、取調室である。
刑事からの取り調べだと思って来たのに、いつの間にやらニュッが相手になっていた。
本来なら検察庁で話すべきらしいが、行く手間が省けたと思えば得だ。
ζ(゚ー゚*ζ
開かれたドアの傍に、照屋デレが立っている。
白いブラウスに、襟元に結ばれたスカーフ。
濃紺のスカートからは黒いストッキングに包まれた脚が伸びる。
刑事という言葉から受ける厳つい感じは、全く感じられない。寧ろ華やかさが取調室の空気を和らげている。
そのとき、内藤の腹が鳴った。
ここに呼ばれてから、もう3時間にはなる。
-
( ^ω^)「お腹すきましたお」
ζ(゚ー゚*ζ「もうお昼ですもんねえ。そこのコンビニで何か買ってきましょうか?
お代は警察で出しますよ」
( ^ω^)「片手で持てるものが食べたいですお。あと飲み物は冷たい焙じ茶で」
( ^ν^)「警察パシろうとしてんじゃねえぞガキ」
( ^ω^)「言い出したのは向こうですお」
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさんは欲しいものあります?」
( ^ν^)「犯行の自供」
ζ(゚ー゚*ζ「コンビニにはないですねえ」
その後デレが取調室を出ていき、内藤とニュッの2人きりになってしまった。
はっきり言って、居心地は良くない。最悪だ。
手持ち無沙汰に右手を軽く摩る。手首は腫れていて、手のひらの傷もまだ痛む。
裂傷の辺りを強く押すと、包帯に小さく血が滲んだ。ぴりぴりと広がる痛み。
昨夜は随分と遅くに旅館に帰されたし、ろくに眠れなかったし、今朝は早くからデレが迎えに来た。
寝不足で頭がぼうっとする。
時おり傷を刺激することで、ぼやける意識を叱咤していた。
豆乳を飲みながら、ニュッが書類をめくる。
-
( ^ν^)「ヴィップ町っていうと……金物屋か」
( ^ω^)「金物屋?」
( ^ν^)「ナベとカマがいる」
内藤は吹き出したのを誤魔化すように咳払いして、
それから、疑問を口にした。
( ^ω^)「ギコさん達のこと知ってるんですかお」
( ^ν^)「ヴィップ町は一部じゃ有名だぞ。
猫田家の娘が齢17で男の格好なんざして検事やってるし
田舎のくせに『嘘発見器』なんて贅沢なもん持ってやがる」
嘘発見器──くるうか。
「監視官」という正式な役職名よりも卑近な呼び方。
オサムに聞かれたら怒られそうだ。
「猫田家の娘」、まあまず間違いなくしぃだろう。
そういえば彼女の家はおばけ法の制定に関わっていたと聞いている。
-
( ^ν^)「あと、『弁護士殺し』」
少し前の検事──しぃの父だろう──があまりに優秀で、
そのため弁護士が自信と評判をなくして別の町に移る。
仕方なく他所の町から新たな弁護士を呼ぶ。また弁護士が逃げる。それの繰り返しだったとか。
やがて付いた呼び名が「弁護士殺しの町」。物騒だ。
思えば、ドクオや──先日の被告人も、ツンを「無能」と罵った。
彼女の実績だけではなく、あの町全体の空気から、そんな評価に至っていたのだろう。
よくまあ、そういった町で弁護士になろうと思ったものだ。
( ^ν^)「で、お前こそどうしてカマ刑事の名前知ってんだ」
( ^ω^)「──姉者さんの同級生で、たまたま交流があって。
おばけ法のことも彼……彼女……彼から聞きました」
( ^ν^)「鬱田ドクオの話と食い違いがあるな」
( ^ω^)「……。ドクオさんが以前、ヴィップ町の事件で起訴されて、
その裁判に弁護側の証人……の、付き添いで参加したのが諸々のきっかけでしたお」
( ^ν^)「最初から事実だけ喋ってりゃいいんだよ」
知っているなら訊くなと言いたい。
ニュッの視線が内藤を射通した。
不躾な目だったので、満面の笑みを浮かべてやる。舌打ちが返ってきた。
-
机に両手をつき、ニュッが身を乗り出させる。
( ^ν^)「……ほんっと、ムカつく顔してんなあ……」
至近距離。睨まれる。
相手の腹を抉って荒々しく暴こうとするような、嫌な目だった。
恐い、と思った。
その感情を、内藤は隠さなければならない。
隙を見せたくない。
( ^ω^)「よく、愛嬌のある顔だって言われますけど」
( ^ν^)「だからムカつく。
へらへら薄っぺらい愛想振りまいて、
オニーサンオネーサンからさぞ可愛がられてんだろうよ」
生憎、まともなオニーサンもオネーサンも身の回りに少ないのだが。
しかしたしかに可愛がられることは多い。それを狙っての振る舞いなのだから当然と言えばそうだ。
( ^ν^)「てめえみたいなガキに人生分からせてやるのが楽しいんだ」
囁いて、ニュッは座り直した。
足音が近付いてくる。
がさがさ、ビニールが擦れる音も。
-
ζ(゚ー゚*ζ「ただいま戻りました!」
部屋に入るなり、デレが敬礼をしてみせる。
内藤もニュッも反応せずにいると、つまらなそうに右手を下げ、
左手のビニール袋を揺らしながら机に寄ってきた。
ζ(゚ー゚*ζ「内藤君には菓子パンとおにぎりとホットスナック各種とー、冷たい焙じ茶とー、デザートにプリン!
好きなものをどうぞ!
短気なニュッさんには煮干しを買ってきました。あと豆乳。以上」
( ^ν^)「死ね」
ζ(゚ー゚*ζ「ボケとかじゃなく本当に煮干ししか買ってませんので我慢してくださいね」
( ^ν^)「死ねカス」
ζ(゚ー゚*ζ「さあ昼休憩! これ食べたら今日の取り調べは終わりに……はっ!?」
礼を言って内藤がビニール袋を受け取った瞬間。
デレが硬直し、
ζ(゚¬゚*;ζ ダラッ
涎を垂れ流した。
すごい量だった。犬かと思った。軽く引いた。
-
ζ(゚¬゚*;ζ「あ、あのう、ち、血の匂いがするんですけど……」
( ^ω^)「え、……ああ、はい」
これですかお、と右手を挙げる。
血の染みは先程と変わりなく、出血量も僅かである。匂いがするほどだろうか。
ζ(゚¬゚*;ζ「きず、傷、開いちゃったんですね、な、なめ、舐めて、よかろうか」
よくなかろうが。
ζ(゚¬゚*;ζ「お、おいしそ……ち……若い血、わかいこのち、おいしそう……」
椅子ごと後退する内藤に迫り、右手を取って恍惚とするデレ。
どうしよう。気持ち悪い。
デレがうっすら口を開く。尖った歯が両端から覗く。
包帯の染みに舌先が触れそうになって、
ζ("ー";ζ「ぎゃんっ!」
ニュッが投げた豆乳のパックが、デレの側頭部に命中した。
-
( ^ν^)「おばけ法第206条」
ζ(゚ー゚;ζ「……吸血罪……吸ってもいない内から酷いですよ! ほんのちょっとしたジョークなのに!」
( ^ν^)「完全なるガチだったじゃねえか」
突如として繰り広げられたやり取りに、どういった反応を示せば良いのか分からず
内藤は無言でアメリカンドッグに噛みついた。
咀嚼。嚥下。
( ^ω^)「吸血鬼」
とりあえず、まずはその言葉だけ。
涙目のデレがニュッと顔を見合わせ、それから内藤に振り返る。
ζ(゚ー゚*ζ「あは。やっぱ分かっちゃいます? 別に隠してたわけでもないんですけどね」
あんな牙を剥き出しにしながら血だの吸血だの言われたら、そりゃあ分かる。
デレが、えへんと胸を張った。
-
ζ(-ー-*ζ「お察しの通り、私は吸血鬼です! 昔、吸血罪で捕まったんですが
霊界から釈放された後に警察に雇われたんですよ。やっぱ優秀ですからね私」
( ^ν^)「馬鹿が。野放しにしてらんねえから監視するために雇っただけだ。
面倒見させられる方の身にもなれ」
吸血罪とはまた、適用される対象がえらく限られていそうな。
デレは、したり顔でニュッの後ろに回り、ループタイを緩めた。
ワイシャツのボタンを2つ3つ外していく。
襟を引っ張り、露になった首へ口を近付けた。
吸血鬼の食事シーンなど、そうそう生で見られるものではない。当たり前だが。
内藤は2人を真っ直ぐ見ながらアメリカンドッグにケチャップを足した。赤い。
首を噛まれている男、首を噛んでいる女、アメリカンドッグを食いつつそれを眺める中学生。場所は取調室。
「何だこの光景」。ニュッの独り言に胸中で同意し、内藤は無言のまま食事を続けた。
少しして、デレがニュッから離れた。
口元から赤い液体が一筋垂れる。
ζ(゚、゚*ζ「相変わらず、まっっっずいですよ。生活習慣改善してください」
( ^ν^)「文句言うなら飲むな。野垂れ死ね」
-
( ^ω^)「痛くありませんかお」
( ^ν^)「痛みはねえが気持ち悪い」
ζ(゚、゚*ζ「私、この人のしか飲んじゃいけないって決められてるんですよー。
なのに唯一の供給元が口に合わないんです。最低です。
飲まなきゃ死んじゃうんで仕方なく飲みますけど」
( ^ν^)「おかげで血が足りねえ」
豆乳を飲みながら、青白い顔でニュッがデレを睨む。
負けじと睨み返した彼女は内藤の傍に寄ってくると、声を潜めた。
ζ(゚、゚*ζ「あのひと常に血が足りてないもんだから、まだ若いのに勃起不z──」
(#^ν^)「それは別に貧血のせいじゃねえよ死ねヒル!!」
ζ(゚、゚#ζ「ヒル!? あんな気持ち悪い生き物と一緒にしないでもらえます!?」
この人たち、法廷でマトモに仕事出来るんだろうか。
何故か内藤の方が心配になってしまった。
*****
-
ζ(゚ー゚*ζ「お見苦しいものをお見せして」
警察署内、エレベーター。
5階のボタンを押して、デレは照れ笑いをしてみせた。
結局あの後、内藤がデザートを食べ終わるまで、デレとニュッの口汚い罵り合いが続いたのである。
( ^ω^)「仲悪いんですかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「生理的に嫌いなタイプの人なんですよねー、向こうも同意見みたいだけど」
( ^ω^)「……嫌いな人の血、よく飲めますおね」
ζ(゚ー゚*ζ「嫌いな方がいいんですよ。
ほら、好みの人だと、うっかり吸いすぎて殺しちゃうかもしれないじゃないですか」
あっけらかんと言い放たれる。そういうものか。
デレは壁につけられた大きな鏡を見ると、スカーフを結び直し、髪を手櫛で整えた。
( ^ω^)「……吸血鬼だ、って、あんなにあっさり僕にバラして良かったんですかお。
清々しいほどあっさりしてましたけど」
ζ(゚ー゚*ζ「ここら辺に住んでるおばけや霊能力者さんは、大抵知ってます。私の正体。
効果あるんですよー結構。
吸血鬼って何か『ただ者じゃない』って感じあるでしょう」
鏡越しに、デレは内藤を見た。
目が合う。
-
デレの瞳と口の端の牙が光ったような気がした。
ぞわり、怖気が走る。
言い様のない不安。ここが密室であることが、さらにそれを煽る。
ζ(゚ー゚*ζ「だから内藤君もあんまり私達のこと馬鹿にしちゃ駄目ですよ」
──あの検事にして、この刑事ありだ。
結局どちらも「威圧」を武器にしている。
内藤は目を逸らした。
ぽん、と電子音。
エレベーターが目的の階に着いたようだ。
デレがいそいそと降りる。内藤も続いた。
検察の取り調べが終わったとはいえ、今度は弁護側との話がある。
まだまだ旅館に帰れそうにない。
ある部屋の前に立っていた警官が、デレに気付くや敬礼する。
デレが手で指示を出すと、警官はその場を去っていった。
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは盛岡先生! 内藤君をお連れしました」
部屋──「会議室C」のプレートがあった──の扉を開け、デレは元気に言い放った。
会議室と呼ぶには少々手狭な部屋の中央に、長机が一つ置かれている。
そこに、男が1人と幽霊が1人、それと2体のおばけがいた。
眼鏡をかけた方の男が会釈する。
-
(´・_ゝ・`)「こんにちは。ホライゾン君、体調はどうかな」
( ^ω^)「右手がまだ痛いけど……疲労以外は大丈夫ですお」
盛岡デミタスは微笑み、机を挟んだ向かいを手で示した。
パイプ椅子がある。一礼の後に入室し、内藤はそこに腰掛けた。
('A`)「……」
( ^ω^)「……ドクオさんの方は大丈夫ですかお」
('A`)「おう」
隣の椅子に、ドクオが座っていた。
背もたれに札が貼られており、昨晩同様、そこから伸びる光に拘束されている。
──「拘束札」。作用はその名の通り。
逮捕されたおばけを閉じ込めておくためのものだ。
ちなみに逮捕する際に使われるのは「手錠符」。手首にぐるりと巻くことで手錠の役割を果たすという。
拘束札は凶悪犯や、暴れて手に負えないような者に使われるそうだ。
ヴィップ町での裁判で、ギコが使っていたのを見たことがある。
一応、検事と弁護士も所持する権利はあるらしい。ツンも持っているのだろうか。
-
( ^ω^)「札の中、快適ですかお」
('A`)「さあな」
ζ(゚ー゚*ζ「拘束札の中に入ってる間は、幽霊さん達の意識はなくなるんですよ。
こうやって外に出してるときは目が覚めますけど」
場を和ますための冗談のつもりで質問したが、真面目に返された。
チョイスを間違った模様である。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん回収しときますね。いいですか?」
(´・_ゝ・`)「ええ」
('A`)「……けっ」
デレが椅子の後ろに回り、拘束札を剥がす。
彼女の指が札の字をなぞると、光の糸が増え、ドクオを札の中に押し込めた。
それを、ポケットから出した木箱にしまう。
(´・_ゝ・`)「それじゃあ……疲れてるところ悪いけど、今度は私とお話ししよう」
( ^ω^)「はい」
──本来なら留置場の面会室で行われるような話し合いだ。
だが幸い(?)、内藤が「おばけ法」関係の容疑者であることや、逃亡の意思が見られないこと、年齢、
その他諸々の理由から留置場には入れられずに済んでいる。
-
ζ(゚ー゚*ζ「盛岡先生、相変わらず血を吸いたくなるほどダンディーな佇まいです……眼鏡もお似合いでセクシー……」
うっとりと呟くデレに、デミタスは返事に困ったのか苦笑いだけを浮かべた。
こういうタイプが彼女の「好みの人」か。
内藤が冷やかし半分でそのことを指摘すると、デレは拳を振り上げて熱弁した。
ζ(゚ー゚*ζ「そりゃ勿論!
盛岡先生はおばけ法にも人間の六法にも精通している、二足のわらじ弁護士ですよ」
<_フ*゚ー゚)フ「エリートだエリート!」
/*゚、。 /「デミタス様は日本一ー」
今まで黙って動き回っていたおばけ共が、急に話に加わってきた。
人魂はエクスト、一反木綿はダイオードという名前らしい。
彼らはデミタスの「しもべ」を自称している。
( ^ω^)「そういうの有りなんですかお?」
(´・_ゝ・`)「まあ私の場合、おばけ法では刑事裁判だけ、
それ以外は民事訴訟だけ受け持つことで何とか両立出来てるんだけどね」
-
ζ(゚ー゚*ζ「大企業の不当解雇訴訟! これまた大企業の薬害訴訟! 果ては地元の名士に潰された中小企業の訴訟!
強大な敵を相手に、弱い庶民の味方をして……しかも勝つ!
優しく手強い、人権派弁護士! それが盛岡先生です」
内藤は法に詳しくないが、要するにそれは人間の民事訴訟に強いだけではないか。
どちらかというとおばけ法の刑事裁判に強くないと困るのだが。
<_フ*゚ー゚)フ「ヒューヒュー」
/*゚、。 /「我らがデミタス様ー」
ζ(´ー`*ζ「私も弁護されたーい。原告になって盛岡先生に助けてほしーい。
被告はもちろんニュッさんです。パワハラで訴えるんです」
おばけ2体と吸血鬼がデミタスの周りを回る。
デミタスは空笑いと共に、「そのときが来たら依頼に来てください」と返した。
その表情にまた身をくねらせ、デレは扉の把っ手を掴む。
ζ(゚ー゚*ζ「ごゆっくり。内藤君、私は部屋の外で待ってますね。
もちろん室内の会話を聞いたりしませんから、どうぞ自由に好きなだけ」
扉が閉められる。
それを見届けてから、デミタスは内藤の向かいに座った。
(´・_ゝ・`)「お腹は空いてないかい」
( ^ω^)「さっき、取り調べのときに色々いただきましたお」
-
(´・_ゝ・`)「そっか。──取り調べ、大変だったろう。
ニュッさんは少し乱暴なところがあるから、恐かったり、嫌なことがあったりするかもしれない。
……少しの辛抱だよ」
( ^ω^)「……はい」
応えたつもりはなかった。
取り調べで話せることも大して持っていない──事件に関わった覚えすらないので、
実感が依然として薄い。
デミタスは眼鏡を押し上げ、机上に書類を並べた。
(´・_ゝ・`)「ドクオさんは犯行を否認している。
『憑依してすぐに、気を失った』と」
──事件現場で、被害者と内藤が倒れているのが発見された。
被害者は既に息絶えていたという。
通報を受けて駆けつけたデレが、内藤に憑依したままのドクオを引きずり出し、
ポケットにあった「契約書」を見せて確認をとる。
ドクオは契約者であることを認めた上、被害者──自身の母の死体を見るや否や
逃げ出そうとしたため、デレが確保した。
そして内藤が目覚めるまでの間に大雑把な事情聴取をし、
容疑者として正式に逮捕した──というのが、ニュッから聞かされた一連の流れであった。
-
( ^ω^)「──信じてますかお」
(´・_ゝ・`)「勿論。そもそも君達がこんなに早く捕まったことがおかしいんだ。
事件現場に居合わせただけだろう。
警察側が軽率だった。……いや、警察じゃなくて検察かもしれないけど」
ふと、呆れたような顔で溜め息。
ゆるゆると首を振る。
(;´・_ゝ・`)「ニュッさんは少しゲーム感覚で裁判に臨む傾向がある。
特に話題性が高い事件を好むというか。
今回は『母親殺し』と『14歳の共犯者』という図が彼を煽ったんだろうね」
<_フ#゚ー゚)フ「あの検事はなー。嫌いだ。デミタス様に酷いこと言う」
/#゚、。 /「あいつが事件起こして、無関係の奴に罪かぶせて起訴してるんだ」
(´・_ゝ・`)「ダイオード、そういうことを言うものではないよ。根も葉もない噂だ」
/#゚、。 /「火のないところに!」
<_フ#゚ー゚)フ「煙は立たず!」
エクスト達がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。内藤は片耳を指で塞いだ。うるさい。
デミタスが宥めることで、ようやく落ち着いた。
-
(´・_ゝ・`)「噂はともかくとして、彼の自己満足で不当な判決を出させるわけにはいかない。
私は断固戦い、君達を守ろう」
優しげな顔付きだが、やけに頼もしい。
内藤は頷き、机上の書類を見下ろした。
難しく、読めない言葉が多い。
ニュッの顔を思い浮かべる。
しぃとはまた違う自信に溢れていた。と思う。
自信というか──楽しんでいる。
( ^ω^)「……盛岡、……さん」
(´・_ゝ・`)「ん?」
( ^ω^)「もし僕が……有罪になったら、どうなるんですかお?」
気になっていたことだった。
ニュッには訊きたくなかった。
内藤が見てきた幽霊裁判で、霊に下された刑は、「幽霊だからこそ」のものであった。
しかし、生きている人間である内藤に同じ刑が言い渡されるのも考えにくい。
-
(´・_ゝ・`)「君には執行猶予がつく筈だよ」
( ^ω^)「執行猶予……」
(´・_ゝ・`)「一定期間、見張りをつけられる。日常生活に支障はない。
悪いことをせず……幽霊裁判などにも関わらずに無事に期間が過ぎれば、
お咎めは無いよ」
( ^ω^)「執行猶予がつかない場合はあるんですかお?」
(´・_ゝ・`)「あるにはある。でも人間に実刑判決が下されても、
刑が執行されるのは死後だ」
(´・_ゝ・`)「生きている間は、やはり見張りがつく。何年、何十年でもね。
そして死んだらすぐに、見張りが魂を捕まえて霊界に連れて行き、刑に処す」
たとえば数年前。悪霊を用いて詐欺行為を働いた女がいた。
犯行の中で何度も、悪霊に人間を取り殺させていたそうだ。
その女は捕まり、表向きの──人間の──裁判では単なる詐欺として起訴されたが、
幽霊裁判ではそこに呪詛罪やら何やらが加えられ、
死後、消滅処分となることが決定したという。
-
(´・_ゝ・`)「結局その人は刑務所に入れられて間もなく、心臓発作か何かで死んでしまったから
すぐに刑が執行されたんだけどね。……バチが当たったんだろう」
( ^ω^)「やっぱり悪いことはするもんじゃありませんおー……」
そうだね、とデミタスが首肯する。
会話が途切れた。
デミタスが難しい顔をしている。
どうかしたかと問うと、彼は顎を摩り、答えた。
(´・_ゝ・`)「私は君達の無実を信じるよ。
ただ、そうなると──」
(´・_ゝ・`)「……誰かが、君達へ罪を被せようとしたことになるね」
*****
-
(´<_`;)「ブーン! どこ行ってたんだ!」
夕方。
旅館の前に立っていた弟者が、内藤を見付けるなり駆け寄ってきた。
(´<_`;)「昨日は夜中に帰ってきたと思ったらいきなり寝るし、
今朝起きたときにはもう居ないし……何かあったのか?」
( ^ω^)「……えっと」
ζ(゚ー゚*ζ「流石弟者君ですね」
(´<_`*;)「えっ、あっ? あっ」
内藤の後ろから、デレが声をかける。
弟者は一瞬怪訝な顔をし、祭会場で会った女性だと気付いたのか、すぐに頬を染めた。
ζ(゚ー゚*ζ「内藤君を待ってたんですか? お優しいですね」
(´<_`*;)「いや、そんな。そろそろ帰るってメールが来たから。昨日から何か様子変だったし。だから」
デレが弟者の耳に顔を近付ける。
弟者は体を硬直させ、頬だけでなく耳や首まで真っ赤にさせた。
その様子にくすりと笑い、彼女は、吐息を吹き込むように囁いた。
-
ζ(゚ー゚*ζ「──内藤君は幽霊裁判にかけられることになりました。
……彼の親御さん達にありのままを説明するわけにもいきませんので、
もしものときは、あなたの方から誤魔化してあげてくださいね」
(´<_`;)「──は……?」
さっと青ざめる。
弟者はデレから距離をとると、内藤の後ろに回った。もはや定位置。
( ^ω^)「……刑事さんなんだお、この人。ギコさんと同じ」
ζ(゚、゚*ζ「昨夜の殺人事件ご存知ですか? お祭会場の近くの」
(´<_`;)「あ──ああ、はい。おかげで今夜の祭が中止だそうで」
ζ(゚、゚*ζ「その裁判です。内藤君が関与しているようなので」
(´<_`;)「関与って、ただの証人とかじゃなくて?」
ζ(゚、゚*ζ「まあ被告人ですね」
絶句する弟者。
長考し、たっぷり沈黙して──ようやく彼が口にした問いは、予想外のものだった。
(´<_`;)「……傍聴って、出来ますか」
*****
-
内藤とドクオが逮捕されたのだと、幼馴染みのオカマは電話口で言った。
冗談かと思ったが、どうも、そういうわけでもないらしい。
『──どうすんの、あんた』
ξ゚⊿゚)ξ「どうって……」
『弁護』
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、まあ……今に本人が泣きついてくるでしょ」
ξ゚ω゚)ξ「『美しくセクシャルボディなツンさん! 助けてくださいお! おーんおーん!』」
『えっ何それ物真似なの……? 軽くびっくりするくらい声似てるんだけど……』
自慢の金色の癖毛を指先で弄びながら、ゆったりとソファに身を預ける。
あの生意気な少年が電話越しに頭を下げるまで、あと何分だろうか。
楽しみだ。ギコとの電話などさっさと切ってしまおう。
そのとき、オカマの悩ましげな溜め息が聞こえた。
-
『……まあ、向こうで優秀な弁護士がついたから、良かったわよね』
ξ゚⊿゚)ξ
『無罪になるといいわね』
ξ゚⊿゚)ξ「あの浮気者ニヤケ野郎……」
『え?』
ξ゚⊿゚)ξ「そこは私に依頼して絆深める流れじゃねえの……?
え? 私に頼らないわけ? 私の重大な秘密を共有してるくせに?」
『重大な秘密って何?』
ξ゚⊿゚)ξ「あのガキめ……。
……アサピーの依頼料っていくらだっけ?」
『何のプライド傷付けられたのか知らないけどすぐ呪おうとすんのやめなさいよ』
*****
-
──翌日、8月27日。午後10時。
N地方裁判所、202号法廷。
ここが今回の舞台であった。
まさか、こんな「ちゃんとした」場所でやるとは思わなかった。
(´・_ゝ・`)「昼は普通に人間の裁判に使われ、
夜は幽霊裁判に使われているんだ。もちろん秘密裏にね」
弁護側の席できょろきょろする内藤とドクオに、
黒い背広のボタンを留め直しながらデミタスが説明する。
普段着でいいと言われたので内藤はTシャツにチノパンなのだが、
もう少しちゃんとした服装にすれば良かったかもしれない。
( ^ω^)「僕、初めて裁判所に入りましたお……。
ヴィップだとそこら辺の廃墟でしかやってませんでしたお」
(´・_ゝ・`)「それはそれで楽だからね。
その日の気分で変えられるし、ヴィップ町の神様には性が合ってるんだろう」
('A`)「オサム様、かっちりしてるの嫌いそうだもんな」
ドクオの口調はいつもと変わりなさそうだったが、
表情は硬く、視線も落ち着いていない。
自分はどうだろうか。内藤は頬を指先で軽く揉んだ。
-
しかしまあ、こっちの方が、いかにも裁判らしい(当たり前だが)。
テレビドラマで見るような、しっかりした造りの弁護人席、検察席、証言台。
注目すべきは傍聴席だ。
「おいマジで子供だぞ親殺し!」「殺しやったのはおっさんの方だろ?」
「頑張れ弁護士ー」「犯罪者の味方すんな!」
「地獄に落ちろ性悪検事!」「デレちゃんおっぱい揉ませてー」
満員御礼。
欠損した血まみれ幽霊や、人より獣に近い化け物など、
たくさんの傍聴人がスポーツ観戦でもしているかのように野次を飛ばしている。
::( <_ ;):: タスケテ シヌ コワイ タスケテ シヌ コワイ タスケテ
その中で1人震えている弟者が、とても哀れだった。
('A`)「気絶して退廷させられかねないな、あれ……」
( ^ω^)「ですおね……」
(´・_ゝ・`)「?」
それにしても賑やかな傍聴人たちだ。
彼らにとっては、それこそスポーツ観戦のような娯楽じみたものなのだろう。
賑やかといえば、「しもべ」──エクストとダイオードがいない。
デミタスが気にしていないようなので、何か理由があるのだろう。
-
( ^ν^)「毎回毎回うるせえ……うぜえ」
ζ(゚ー゚*ζ「楽しいから好きですよ、この雰囲気」
検察席では鵜束ニュッと照屋デレが正反対の感想を言い合っている。
服装は昨日と変わりない。ニュッはグレーのワイシャツにループタイ、デレはブラウスにスカーフ。
そこへ、扉の開く音がした。
爪'ー`)y−┛
白い和服姿の者が1人、入ってきた。
狩衣と言ったか。歴史の教科書で見た服に似ている。
左手に持った煙管を悠然と吹かしながら、そいつは裁判官の席に座った。
──どこからどう見ても、子供だ。
小学5、6年がいいところ。
座高の問題か、肩から下は机に隠れてしまっている。
少年とも少女ともとれる顔付きで、性別がはっきりしない。
-
( ^ω^)「……まさか……」
(´・_ゝ・`)「あちらが裁判長。ここら一帯では最も力のある神様だよ。
ニューソクには裁判官の神様が3人……3柱ほどいるけど、今回はあの方だけみたいだ」
(;'A`)「ガキじゃねえか」
(;´・_ゝ・`)「ドクオさん、口を慎んで……幼いのは外見だけですから」
開廷はまだかと傍聴席がざわついている。
「裁判長」が煙管をくるりと回すと、それは木槌へ変わった。机──より数センチ上の空間を二度叩く。
オサムのものに似ているが、デザインが微妙に違う。
法廷が静まり返り、「裁判長」はうんうんと頷いた。
爪'ー`)「──今回の裁判官を務めさせていただく、吉津根神社のフォックスだ」
声も中性的である。
また、子供らしいとも、大人っぽいとも言えない声で。全てがあやふや。
フォックスというらしい神様は法廷内を見回し、内藤逹を視界に収めると、固まった。
そして。
爪;ー;)
( ^ω^)「え」
泣いた。
-
爪;ー;)「齢14の身でありながら、こんな場所へ……。
恐ろしいだろう、心細いだろう。
しかし逃げずに出廷した勇気、何て素晴らしいんだ……人間ごときのくせに」
爪;ー;)「ああっ、すまない! 人間でもこんなに懸命に生きているのかと思うと涙が……」
('A`)「情緒不安定じゃねえか」
(;´・_ゝ・`)「やめてくださいドクオさんあのひと神様なんです」
爪;ー;)「矮小な人間のちっぽけな人生においても、罪は罪。卑小な浮遊霊でも悪は悪。
罪悪は償うべきであり、また、これが誤解であるなら解くべきである」
爪;ー;)「今回は弁護人たっての希望で、2人分の審理を同時に行う。
それでは、鬱田ドクオと内藤ホライゾンの裁判を始めよう」
(;'A`)「……何かすっげえ偉そうだぞ」
(;´・_ゝ・`)「ドクオさん! フォックス様は感傷的すぎて一歩間違うと祟り神になりかねない方なんです、
言葉には気を付けてください!」
( ^ω^)「何でそんな爆弾抱えた人を裁判官に……」
-
フォックスが涙を拭う。デミタスが汗を拭う。
繊細な神の目が、デミタスの隣に座っている内藤逹を見据えた。
指示を受け、2人は証言台へと立つ。内藤だけ、俯いた。
爪'ー`)「霊の方から先に、自分の名前と生年月日、享年、死因を」
('A`)「……鬱田ドクオ。1967年、昭和42年11月27日に生まれました。
死んだのは28歳で平成7年の12月31日」
死んでから17年近くが経過している。
彼は17年もの間、この世を彷徨っていたのだ。
人に言えぬような記憶と未練を抱えて。
('A`)「死因は、……」
そこから無言が続いた。
被告人、とフォックスが続きを促す。
( A )「……覚えてません」
( ^ν^)「ダウト」
ニュッが、さも楽しそうに呟いた。
フォックスはそれ以上は訊かなかった。
-
爪'ー`)「それでは次は人間の。名前と生年月日、年齢と本籍地、住所、それから職業」
来た。
俯いたまま深呼吸を一つ。
内藤は昼間、デミタスに言われたことを思い出しながら、顔を上げた。
(;^ω^)「……な、内藤ホライゾン、ですお……。
へ、平成10年の4月18日に生まれて、今14歳で、中学2年生で……」
(´・_ゝ・`)『──「子供らしく」することが大事だ。
悪い印象を与えてはいけない』
「か弱く、いじらしく」。
そうするように、デミタスは言っていた。
-
(´・_ゝ・`)『嫌なら、素のままでもいいけど。
ただ、君は、歳の割に小賢しいところがあるようだから、
そういった点から悪い印象を抱かれるかもしれない』
( ^ω^)『法廷で嘘つくんですかお』
(´・_ゝ・`)『嘘をつくんじゃなくて、態度を柔らかくするだけだ。これも作戦の内だよ。
このまえ私に見せたような、「殊勝な少年」らしくしているのが一番いいと思う』
(´・_ゝ・`)『再三言うけれど、やりたくなければいいんだ。
君にも負担はあるだろうし』
被告人の態度が重要なのだと彼は言う。
心証が悪ければ信用もされにくい。
無実を訴えたいなら、それに見合った振る舞いをするべきだと。
内藤の得意分野ではあった。
全てを曝け出せばみんな分かってくれる、なんて甘いものではないことも、分かっている。
-
──おどおどしながら、実家の住所と、流石家の住所を順に告げる。
本籍地と現住所が離れていることをフォックスに突っ込まれた。
(;^ω^)「今は、諸事情で親戚の家に居候してるんですお……」
爪;ー;)「──おお! その歳で親と離れて暮らさねばならないとは……寂しいだろう。
それとも両親の方が、子供を育てるに値しない者たちだったのか……」
かちんと来たが、表には出さず、「まともな方達ですお」とだけ返す。
フォックスは目元を袖で擦りながら頷いていたが、果たしてちゃんと理解したのか否か。
ドクオが肘で内藤をつつき、小声で囁きかける。
(;'A`)「少年、そのキャラでいくのか」
( ^ω^)「戦法ですお」
爪ぅー`)「鬱田ドクオ、内藤ホライゾン」
(;'A`)「──はい」
(;^ω^)「あ……はっ、はいっ」
-
爪'ー`)「そう怯えるな。さて、お前達は道連れの罪、そしてその共犯で起訴されている。
これから検事の話をよく聞くように。
それでは席に戻って。──検事、起訴状の朗読を」
ニュッが書類を片手に立ち上がる。
彼の目は、デミタスの隣へ戻る内藤を見ていた。
演技には気付いている筈だが、まだ何も言ってこない。
検察側から内藤の性格を指摘されることだけが気掛かりである。
まあ、そうされたところで、「監視官」がいないこの法廷では
その気になればいくらでも言い訳できる。
( ^ν^)「──公訴事実」
まずは鬱田ドクオの方、と前置き。
( ^ν^)「今年、平成24年8月25の午後8時すぎ。被告人は内藤ホライゾンに合意のもと憑依し、
N県ニューソク市、丹生素にて被害者……自身の母でもある鬱田カーに、
薬物を混入したジュースを飲ませて毒殺したものである」
-
( ^ν^)「被害者は毎年、祭の時期になると丹生素温泉街へ観光に来ていた。
当然被告人はそれを知っており、計画を立てることは容易である──」
ドクオが眉根を寄せる。
母が殺され、自分が疑われているのだ。その上、毒殺ときた。
内藤には思いも及ばぬ気持ちを、持て余しているに違いない。
いくらか、間があいた。
書類をめくり、2ページ目に移る。
( ^ν^)「続いて、今度は内藤ホライゾンの方の公訴事実。
つっても、さっきとほとんど変わんねえんですけども」
( ^ν^)「同日、鬱田ドクオから殺害計画を聞かされた上で
憑依の申し出を受け、同人に自身の体を貸し……
計画に協力した。と」
-
( ^ν^)「──罪名、及び罰条。
道連れの罪、おばけ法第162条第1項及び第2項。
故意的犯罪協力の罪、第231条」
ドクオの罪状が道連れ。
道連れ罪には項目が二つあり、一つは「復讐などとはまた違う、特殊な理由で生者を殺害する」もので、
もう一つは「自己の利益のために、他者に犯罪行為の協力を要請する」もの。
前者が母親殺し、後者が内藤への憑依の依頼に当たるとして、両方を起訴されている。
内藤の方は故意的犯罪協力──要するに、犯行の計画を知った上で協力した罪、らしい。
昼にデミタスから教えてもらった。
勿論どちらも覚えはない。
これはあくまで起訴状なので、文句をつけるのは後だ。
-
( ^ν^)「以上っす」
爪;ー;)「うむ。──被告人。
以上のことを踏まえて訊くが、検察の公訴事実を認めるか?」
('A`)「いいえ」
(;^ω^)「み、認めませんお」
ニュッが、くつくつ笑っている。
いちいち癇に障る男だ。しぃも嫌味ではあるが、彼女の方がまだマシである。
('A`)「……カーチャンを殺す動機がねえ。
たとえあったとしても──内藤少年を巻き込んだりしねえ」
(;^ω^)「僕、ドクオさんから憑依したい理由を聞いてませんお……。
ドクオさんがそんなことを考えてるようにも見えなかったし……だから体を貸したんですお」
-
爪;ー;)「弁護人、意見は」
(´・_ゝ・`)「被告人と同様です。私からは、被告人の無罪を主張させていただきます。
本件の争点は、被害者を殺害したのが被告人であるか否か、になるかと」
爪ぅー;)「まあ、たしかに子供の方は、そう大それたことをしそうにないな……」
ああ、見事に騙されている。
それでいいのか神様。
正面から向けられる検事の生温い視線が何となく嫌で、内藤は顔を逸らし、傍聴席を見据えた。
弟者が俯いている。すわ気絶したかと危惧したが
びくびくしながら顔を上げたため、ほっと胸を撫で下ろした。
しかしまたすぐに俯いてしまう。
──何かしている?
審理が進行し、内藤は弟者の観察をやめた。
爪'ー`)「次は検察側の冒頭陳述を」
冒頭陳述。
簡単に言えば、犯行時に起こっていたであろう「事実」の説明。
まずは説明だけをして、後で、裏づけとなる証拠を出していく。これもまたデミタスに教えてもらった。
ヴィップ町では起訴状朗読以降は、これといった段階も無しに審理が進められていた。
というより、起訴状の中に冒頭陳述が含まれるようなやり方だったのだろう。
場所が違うだけで、こうも進め方が変わるものなのか──ちょっとしたカルチャーショックだ。
再びニュッの出番。デレも腰を上げている。
-
( ^ν^)「えー……まず、鬱田ドクオ。
N県プラス町の出身であるが、死後はA県ヴィップ町へ移っていた。
そこで内藤ホライゾンとの交流を持つ」
ζ(゚ー゚*ζ「そして先日、内藤君がニューソク市へ行くことを知り、
8月24日、内藤君と共に丹生素温泉街の旅館『ろまん』を訪れました」
それからニュッは、ドクオが温泉街を徘徊している最中に、
母親を発見したことを続けた。
( ^ν^)「かねてより、老いて一人きりの母の苦労を偲んでいた鬱田ドクオは
『楽にしてやりたい』という思いから、殺害を決意。
内藤ホライゾンに計画を話し、共感を得る」
もし本当に、その殺害計画とやらを聞かされたとしても──
内藤は協力などしない。したくない。
結局のところ、実行に移すのは内藤の「体」ではないか。
そんなの、自分の手を汚すだけだ。
-
( ^ν^)「それから内藤ホライゾンについても説明を」
内藤がA県の流石家に居候していることから始まって、
母者が旅館「ろまん」の従業員であり、その母者に呼ばれて内藤達が旅館に来たのだと
事の成り行きが一通り説明されていく。
フォックスがまた泣いている。
内藤だけでなく、流石家の面々にも勝手な同情をしているのだろう。
内藤に並外れた霊感があって、それによりドクオと顔見知りだったことや
幽霊裁判とも関係が深いことが情報に加わる。
( ^ν^)「以上の経験から、内藤ホライゾンは憑依の契約手順を知っていた」
( ^ν^)「……そして翌日の8月25日、土曜日。午後8時過ぎ。
前もって決めていた時間に、内藤ホライゾンは旅館『ろまん』を後にした」
ζ(゚ー゚*ζ「正確には一度外から戻ってきて、すぐにまた旅館を出たとのことです。
その際に帳場で朱肉を借りたそうなので、このときに契約書を作成したものと思われます」
こちらを向くフォックスに、内藤は視線を合わさずに頷いた。
たしかに朱肉は借りた。
-
( ^ν^)「諸々の準備を済ませ、鬱田ドクオは内藤ホライゾンに憑依し、被害者に接触」
ζ(゚ー゚*ζ「午後9時前後、被害者が宿泊している旅館『れすと』の女将が、
被害者の部屋の前で女性の声を聞いています。
いわく、『本当にあなたがドクオなの!』──と」
あまりに大きく、仰天したような声だったので
女将もはっきり覚えていたのだそうだ。
このことから、内藤に憑依したドクオが母の部屋を訪れていた筈だというのが検察の主張。
ドクオ本人は、そんな覚えはないと呟いているが。
( ^ν^)「そうして被害者を、当日開かれていた丹生素祭の会場へ連れ出した。
会場は人が多いが、路地の方へ入ってしまえば人気はなくなる。
そこへ誘い込み、あらかじめ用意していた薬物を飲ませて殺害」
──被害者が事切れた頃、霊に体を貸した上に無茶をさせられた内藤の肉体は限界に達し、
ドクオもろとも失神したのだとニュッが続ける。
-
( ^ν^)「祭の終了時間が迫った頃、屋台の片付けをしていた男が、路地で倒れる被告人と被害者を発見する。
午後9時56分、通報を受けてN県警の警官──と自分が、被害者の遺体と、
その傍で気絶している内藤ホライゾンを確認した」
ζ(゚ー゚*ζ「あっ、警官は私です! ニュッさんと一緒にお祭に行ってましたので」
( ^ν^)「余計なこと言うなよ照屋」
「いっぱしにデートしてんじゃねえぞ!」
野次──よりは冷やかしに近いか──が傍聴席から飛ばされると、一斉にブーイングが起こった。
しかしニュッとデレが同時に睨みつけたことにより、これまた一斉に沈黙する。
(´<_`;) エ? デート? デート?
弟者が別の方向で狼狽えているが、そんなことはひとまずどうでもいい。
ニュッが舌打ち。苛立ち混じりに再開させる。
( ^ν^)「……起こしてみると鬱田ドクオが憑依したままであったため、まず同人を引き離した。
事情を訊いていた最中に逃げ出そうとしたため、逮捕」
-
( ^ν^)「その後ニューソク病院で目を覚ました内藤ホライゾンが、
憑依の契約書は自分で書いたものだと証言したため、当人も逮捕、起訴した」
爪;ー;)「……なぜ逃げようとした?」
(;'A`)「カーチャンが死んでて、すぐ傍に俺らがいて警察が目の前にいたら、
頭が真っ白になって、嫌な予感がして堪んなくなって……──恐くなったんです」
( ^ν^)「どうだか」
(#'A`)「……あ?」
爪;ー;)「ふむ……」
ζ(゚ー゚*ζ「以上が簡単な経緯ですね。次に、犯行の計画性について──」
<_フ*゚ー゚)フ「デミタス様ー!!」
/*゚、。 /「持ってきましたー!!」
──突然、丸っこいのと平べったいのが飛び込んできた。
デレが目を丸くしている。
ついでに弟者が全身で跳ね上がっているのも、内藤は横目で見ていた。彼の心臓には悪すぎるだろう。
-
<_フ*゚ー゚)フ「やりました! 褒めてー」
/*゚、。 /「褒めてー」
(;´・_ゝ・`)「しーっ!」
爪;ー;)「何だ、弁護人のいつもの助手達か……どうした?」
(;´・_ゝ・`)「すみません、必要な証言があって、それを調達してもらってまして……
2人共ありがとう、外で休んでおいで」
ダイオードから紙を数枚受け取って、デミタスが彼らの頭を撫でる。
傍聴したいと騒いでいたが、うるさくするから駄目だと叱られ、しょんぼりしながら退廷していった。
まるで子供のようだ。
デミタスがフォックス達に謝罪する。
いいんですよ盛岡先生は見てて楽しいですからげへへ。だらしなく笑って言うデレの尻をファイルでぶっ叩き、
ニュッは咳払いしてから話を進めた。
( ^ν^)「丹生素温泉街近くでは、毎年恒例の祭がある。丹生素祭。温泉街の地神を祀るもの。
N県の者なら誰でも知っているし、全国でもそれなりに知られている祭だ」
ζ(゚ー゚;ζ「尻いてえ……あ、えっと、お祭の時期には観光客がどっと増えます。
被害者も、毎年この時期になると丹生素温泉街の旅館に宿泊していくそうです。
温泉街の饅頭売りやお土産屋さんの証言もあります」
-
( ^ν^)「20年ものあいだ欠かしておらず──被告人、鬱田ドクオが死亡したのは17年前。
死亡までの3年、鬱田ドクオも被害者と連れ立って旅行に来ていたとか」
ζ(゚ー゚*ζ「ですので、被害者が祭の時期に丹生素へ赴くことを、被告人は知っていたわけです」
交互に話す2人の息は、なかなか合っている。
取調室での貶し合いはどこへやら。
( ^ν^)「故に鬱田ドクオは、内藤ホライゾンが丹生素へ行くのを知り、利用することにした。
犯行には計画性が窺える」
( ^ν^)「──以上が、立証予定の事実です」
書類を手放し、ニュッが乱暴に座る。
デレもゆっくりと腰を下ろした。
爪ぅー;)「賑やかな祭の裏で、想像するだに恐ろしいことが起きていたのだな……。
では、続いて弁護側の冒頭陳述を」
(´・_ゝ・`)「はっ」
エクスト達の持ってきた紙を眺めていたデミタスが、立ち上がる。
不安げに見つめる内藤に、デミタスは微笑みを返した。
-
(´・_ゝ・`)「──先程も申し上げました通り、検察側の言う『事実』は存在しないものと見ております」
(´・_ゝ・`)「まず、内藤ホライゾン君は、自ら犯行に協力するような人物ではありません。
級友や教師からは、『虫も殺さぬような』、温厚で心優しい少年であると言われています。
実は私も事件前に旅館で彼と会っていたのですが、同じ感想を抱きました」
言いながら、先程の紙を内藤の方に滑らせてきた。
──担任教師や、友人のモララー、ヒッキーの名前等が書かれている。
その下に、内藤の人柄について語ったのであろう言葉の羅列。
さらにその下にはA県ヴィップ警察の印。
エクストとダイオードが調達してきたというのは、これか。
ヴィップ警察に協力してもらったのなら──ギコにも、今回の件は知られたかもしれない。
しかしこの証言は、内藤の「演技」をしている姿しか知らない者の言葉だ。
デミタスも、既にそれは把握している。
-
爪'ー`)「被告人と弁護人は知り合いだったのか」
( ^ν^)「出来すぎてるよなあ……あんたらグルになって計画してたんじゃねえの?」
(#´・_ゝ・`)「なっ……! 検察官、その言い草は、」
ζ(゚、゚#ζ「異議!! 侮辱的発言ですよニュッさん!
盛岡先生は温泉旅行がお好きなんです! ニュッさんも知ってるでしょ! 旅館で会ってもおかしくありませんよ!
この前は熱海に行ってらっしゃいました!」
(;´・_ゝ・`)「え……あ、あなたに話した覚えないんですけど熱海……」
( ^ν^)「裁判長ーここにストーカーがいますー」
ζ(゚、゚#ζ「たまたま聞いただけですっ」
爪'ー`)「温泉が好きかあ。私も好きだな。よく行くのか?」
(;´・_ゝ・`)「は、はあ……むかし民事訴訟で旅行会社の弁護をして以来、
たまに宿泊チケットなどを頂いて……あの、話戻していいですか」
(;'A`)「……幽霊裁判ってのは逐一脱線しねえと気が済まねえのか」
ドクオの呆れ果てた声に同意する。
まともに進行していたかと思えばこれだ。
-
(;´・_ゝ・`)「えー……また、昔から霊感のせいで幽霊の類から迷惑をかけられてばかりいて、
常に霊を警戒し、近付かぬように心掛けていました」
(´・_ゝ・`)「幽霊裁判に関わるようになったのは、あくまで周囲に巻き込まれたからです。
巻き込まれた上で、『自分に出来ることがあるならば』と最小限の協力をしていただけで……」
( ^ν^)「その『自分に出来ることがあるならば』っつうご立派な精神で鬱田ドクオの手伝いをしたのでは?」
(´・_ゝ・`)「ええ、それは勿論。
ご立派な精神。そうですね。ホライゾン君は優しく真面目で、
いいことはいい、悪いことは悪いと判断出来るだけの良識は持っている。
そんな彼が、殺人などという犯罪行為に手を貸す筈がありません」
-
(´・_ゝ・`)「『母親に会いたい』──そんな気持ちに応え、手伝っただけなんです。それ以外には何もない。
そうだろう、ホライゾン君」
(;^ω^)「……は、はいお。
人を殺すなんて聞かされてたら、絶対に協力しませんでしたお……そんな、恐いこと……」
──むずむずする。
自分が大層な真人間であるかのような扱いで。
裁判とは、弁護とは、こういうものなのか。
綺麗な面を作り上げる。きっとこれが「普通」なのだろうけれど。
違和感について考え、不意に気付いた。
ヴィップ町ではくるうの存在があるから、弁護人はむやみに依頼人の人物像を書き換えられないのだ。
それは検察側からは非常に有利なことだろう。だからニュッは言った。「贅沢なもん」。
内藤も、くるうがここに居てくれれば、と今は思う。
彼女がいれば、内藤の「何も知らない」という主張が正しいのだと明らかになるのに。
-
(´・_ゝ・`)「そして彼は慎重であるが故、ドクオさんの様子をよく観察し、
悪さをしないかどうか見極めてから了承したんです」
はっ、とニュッが鼻で笑っている。
今度は、デミタスの言葉に全面的に同意したい。
ドクオの様子に絆されて、内藤は憑依の許可を出したのだから。
(´・_ゝ・`)「また、鬱田ドクオさん。
彼にも母親を殺害しようなどという意思はなかった。……あるわけがない」
もしも殺意があったのなら、殺しようなどいくらでも選べた、というのがデミタスの見解だった。
他人の体で殺さずとも、母親自身に憑依して自殺するとか、呪い殺すとか、安全かつ確実な方法がある。
なのに何故わざわざ無関係の内藤に憑依し、毒殺などと特殊な手に出る必要があるのか。
そこでニュッが問う。では、彼は何故、内藤の体を借りたのかと。
-
(´・_ゝ・`)「……母親と直に話したかったからです。
『鬱田ドクオ』としてでなく、全く別の人間として。ですよね?」
('A`)「……おう」
(´・_ゝ・`)「母の近況が知りたい。今、どんな暮らしをして、どんな楽しみを持っていて、どんな悩みがあって……。
困ったことはないか。いいことはあったか。幸せに暮らせているか。
……そういったことを、『他人として』話すことで知りたかった」
( ^ν^)「なら見に行きゃいいだけの話だろう。
自分の家に、気兼ねなく好きなだけ行けばいい」
(´・_ゝ・`)「それが出来なかった!
──彼は、自分の家にとても嫌な思い出がある。死後、A県にいたのも同様の理由によるものでした。
だから家には近寄りたくなかったんです」
爪;ー;)「嫌な思い出とは何だ?」
(;´・_ゝ・`)「それは……」
デミタスがドクオを見遣る。
ドクオは首を振り、何かを拒否した。
(;´・_ゝ・`)「……被告人が黙秘したいとのことですので、私の口からは」
そこを黙ってしまっては、説得力が薄くなるだろう。
裁判長も物足りないようだったが、深追いはせずに引っ込んだ。
-
(´‐_ゝ‐`)「──しかし残念ながら、それは叶わなかった。
別の霊か、あるいは人間か……。
何者かによって被害者は殺害され、2人はその罪を被らされた」
( ^ν^)「おいおい。異議。発想が飛躍してやしねえか」
(´・_ゝ・`)「そんなことはありません。
彼らが殺したのではないとしたら、確実に別の犯人がいることになるでしょう。
ドクオさんも、憑依した直後に意識を失った、と言っています。何者かの手が加わった可能性がある」
( ^ν^)「その『別の犯人』とやらの存在を匂わす証拠は?」
(´・_ゝ・`)「それはありませんが……そこは私が立証することではない」
(´・_ゝ・`)「先程の通り、今回の争点は『被告人が殺人を犯したか否か』であり、
それに基づいた私の主張は、被告人に殺人の意思など有り得ない、
故に被告人が被害者を殺害した事実もない──ということだけです」
それだけを立証することが、デミタスの仕事である。
ニュッがつまらなそうに腕を組み、天井を仰ぎ見た。
-
デミタスが着席する。
それと入れ替わるように、今度はニュッとデレが。
爪;ー;)「うむ……どちらも有り得る話だ、そしてどちらも悲しい……。
次は証拠品の提出だな。まずは検察から」
ζ(゚ー゚*ζ「待ってました!」
( ^ν^)「初めに、現場の状況を示す証拠を」
法廷内には大小様々なモニターがあちこちに設置されていた。
今回使用されるのは、検察席や弁護人席の背後の壁面に取り付けられた大型ディスプレイと、
傍聴席に向けられている、これまた大きなもの、
そしてフォックスの席にある小さなモニターのみだという。
-
ニュッの言葉を合図に、モニターに写真が映し出された。
殺害現場を撮影したもので、建物と建物に挟まれた袋小路に、人型に置かれたロープがある。
( ^ν^)「これが発見された当時の被害者の体勢と位置」
ζ(゚ー゚*ζ「うつ伏せに倒れていました。服装は宿泊している旅館『れすと』の浴衣とサンダル。
右腕に軽い打撲傷がありました。傷の状態から、死後に付いたものらしいので
絶命した後、倒れ込んだ際に打ちつけたのでしょう」
ζ(゚ー゚*ζ「それから、遺体の傍にジュースが落ちていました。祭の屋台で売られていたものです。
コップに被害者の指紋、ストローの口から被害者の唾液を検出」
続いて、ストロー付きの蓋が嵌め込まれた紙コップの写真。
それと茶色い小瓶。一昨日、デレに見せられたのと同じだ。
ζ(゚ー゚*ζ「検死によれば、被害者の体と、現場に落ちていたジュースから薬物が検出されたそうなんです。
そして被告人が持っていた小瓶の内側からも、同様の薬物反応が見られました」
( ^ν^)「これが凶器の薬品が入れられていた小瓶。
内藤ホライゾンのズボンのポケットに入っていた。本人の指紋もある」
ここで無反応というのも、うまくない。
内藤は、困惑を詰め込んだ顔をした。
瓶に見覚えも、触った覚えもない。
-
ζ(゚ー゚*ζ「『ニチャン20』。漢方などで強心剤を作るのにも使われるんですが、
即効性のある強力なもので、用法用量に気を付けなければならない劇薬です。
この小瓶の3分の1ほどもあれば致死量となります。水溶性も高いですね」
( ^ν^)「……鬱田ドクオは生前、製薬会社に勤めていた」
(;'A`)「!」
内藤には初めて聞かされる事実だった。
製薬会社。何となく、イメージに合わない。
( ^ν^)「薬品の知識は持ち得ていたし、24日から25日夜までのアリバイは皆無に等しい。
たとえば……自身の会社から薬品を持ち出す時間なら、充分なほどあった」
ζ(゚ー゚*ζ「職員にさえ憑依しちゃえば、後はもう簡単ですよねえ。
何なら憑依せずとも、薬品を操って小瓶に移すことだって……」
(;'A`)「待てよ! 製薬会社っつったって──俺は営業の下っ端だったんだ!
薬のことなんざ大して知らねえよ!」
殺害に使われた薬品も知らない、とドクオが叫ぶ。
しかし、「知識がない」ことを確実に証明する術はない。
検察側は取り合わず、別の証拠へと進む。
-
斎藤か支援
-
それから、契約書に使ったメモ用紙と内藤が愛用しているペンが憑依の証拠として提出された。
それらは被告人2人も認めているし、当然ながら内藤の指紋も残っていた。
反論の余地はないので沈黙する。
次は、旅館「れすと」の外観、廊下、客室の写真が続けざまに。
客室は様々な角度から撮られており、部屋の隅の座布団や旅行鞄などが確認出来た。
卓袱台の上に湯呑み茶碗が一つ。
茶碗が置かれている場所と向かい合う位置に、座椅子があった。
それが、何となく気になる。
( ^ν^)「これは被害者が宿泊していた旅館の部屋。
卓袱台の湯呑みには一杯分のお茶があった。
湯呑みと急須に被害者の指紋が付着していたため、自分で淹れたものと考えられる」
ζ(゚ー゚*ζ「そのまま放置されていたことから、
急きょ外出することになった、というのが分かりますね。
つまり被告人に誘われ、祭会場へ赴いた、と」
-
(´・_ゝ・`)「──すみません。
先程から、被告人が被害者のもとを訪れた、と仰っていますが」
ようやく、デミタスが異議を申し立てた。
片手にDVDらしきディスクを持っている。
(´・_ゝ・`)「『れすと』の入口に設置されている監視カメラの映像はご覧になりましたか?」
( ^ν^)「……勿論」
(´・_ゝ・`)「私も観ました。が。
映像には、ホライゾン君の姿はありませんでした」
ならば内藤が被害者の部屋に行ける筈がない──
デミタスのその主張に、ニュッは、にやにや笑い出した。
フォックスが咎めるが、笑みは絶やさずにニュッがさらに反論する。
( ^ν^)「こっちも訊きたいな。ちゃんと映像確認したか?
『被害者が旅館を出る姿』はあったのかよ?」
(;´・_ゝ・`)「……う、」
-
( ^ν^)「ナメんなよおっさん。その程度で騙くらかすつもりかよ。
──事件当日、午後5時半。
外出から帰ってきて入館したのを最後に、カメラには被害者の姿は映っていない」
爪'ー`)「……? それ以降、被害者は外に出ていないのか?
しかし事件が起こったのは祭の会場では……」
ζ(゚ー゚*ζ「被害者が泊まっていた部屋は、一階でした。
部屋の窓の外には、裏庭があります。裏庭には滅多に人が通りません」
写真が変わる。
部屋の入口の反対側の壁、床から1メートルほどの高さのところに窓があった。
窓は開いていて、そこから、いくつか樹が植えられた裏庭が見える。
( ^ν^)「被告人は裏庭へ回って被害者に声をかけ、
さらに、被害者を窓から外へと出させた。
霊なら下見も容易だったろう」
ζ(゚ー゚*ζ「被害者は旅館のサンダル……部屋に常備されているものを履いていました。
本人の靴は旅館玄関の下駄箱に預けられていましたからね」
また、被害者が着ていた浴衣の襟元の内側に
葉っぱが一枚くっついていたらしい。
「れすと」の裏庭に植えられている樹と同種のものだという。
-
ζ(゚ー゚*ζ「それと、9時過ぎ頃に外を歩いている被害者を見たという証言もあります。
玄関以外の場所から外に出たのは間違いありません。
生憎、内藤君と一緒に歩いていたかどうかの確認はとれませんでしたが……」
モニターの映像が変わる。
数枚の紙。証言がどうたらこうたらと書かれている。
ζ(゚ー゚*ζ「こちらが、その目撃者である饅頭屋さんの証言に関する書類。
それからそれから、その少し前に『本当にあなたがドクオなの!』という声を聞いた女将さんの証言」
ζ(゚ー゚*ζ「最後に、旅館『ろまん』の従業員が、帳場で内藤君と話したという証言も」
ニュッの顔色を窺ってから、「以上です」とデレが告げた。
2人が殊更ゆっくりと着席する。
フォックスから促され、続いてデミタスが腰を持ち上げた。
(;´・_ゝ・`)「ええと……では、始めます」
ζ(´ー`*ζ「困ってる盛岡先生も素敵です」
(;'A`)「……大丈夫かよ」
( ^ω^)「さあ……」
-
(´・_ゝ・`)「順に行きましょう。──ホライゾン君の人となりから。
少し前にも述べましたが、彼は心優しく、温厚な子供です」
(´・_ゝ・`)「昨年、そして今年に渡ってホライゾン君の担任を務めている教諭と、
同様に昨年から仲のいいクラスメート……ホライゾン君をよく知る方々からの証言です。
A県のヴィップ警に協力してもらい、その証言の記録も残しています」
(´・_ゝ・`)「さらに、本年度一学期終了時に送付された通知表。
担任からの通信欄にも、ホライゾン君がいかに精神面で優れた子だったかが記されています。
保護者の通信欄には、『気を遣いすぎる傾向がある』『芯は真っ直ぐ』との記述も」
保護者側の欄は、姉者が書いたものだった。
実の両親も流石家の両親も離れて暮らしている今、内藤の「保護者」は一番年長の姉者なのである。
母者に見せるために、持ってきておいた甲斐があった。
人柄についてはニュッが真っ先に反論してくるだろうと内藤もデミタスも身構えていたのだが、
やはり今も、彼は腕を組んで黙っていた。
一昨日夜のやり取り、そして取り調べのときに、内藤の演技については承知していた筈だ。
-
(´・_ゝ・`)「……また、ドクオさんはホライゾン君と出会った頃、
ホライゾン君に『体を貸してくれ』と頼み、断られていました。
これは2ヵ月前にヴィップ町で行われた裁判の法廷記録にあります」
ドクオが裁判にかけられたものの、実際は濡れ女子の犯行だったと判明した事件のことだろう。
そういえばあのとき、内藤はドクオに付きまとわれていたと証言したのだった。
(´・_ゝ・`)「その後も何度か憑依の依頼をされましたが、
ホライゾン君は確固たる意思で断り続けました。
そのときは憑依の目的を聞かされておらず、『自分の体で悪さをするだろう』と思い込んでいたからです」
爪;ー;)「今時珍しい子供だ。霊に付きまとわれても敢然と立ち向かえるとは……。
──そういえば、鬱田ドクオは以前にも起訴されたことがあったのか」
( ^ν^)「起訴されるくらいには、挙動の怪しい奴だったわけだ」
(#´・_ゝ・`)「裁判の結果、無実であることが証明されています!
このときは不幸な偶然によって逮捕されたに過ぎません。
そしてそれは、本件においても同様です!」
怒鳴るデミタスに、デレがうっとりと見とれる。
そんな彼女の頭をファイルで引っ叩くニュッの顔には、依然として嫌らしい笑みが貼りついている。
-
(´・_ゝ・`)「多少強引なところはありましたが、ドクオさんは一度たりとも
無許可でホライゾン君に憑依することはありませんでした。
これはドクオさんの実直さの表れでしょう」
(´・_ゝ・`)「それに──ヴィップ町のとある事件において、ドクオさんは、
警備の仕事を任されていました。
先日など、警備の対象に近付いた不審人物を追い払ったとのことです」
これもまた初耳だった。警備のことは知っていたが、彼がそこまで仕事していたとは。
見つめる内藤に、ドクオは小声で手短に事の経緯を説明した。
いわく、三森ミセリの病室に見たことのない男の霊がいて、それを追いかけたと。猫のような身のこなしだったという。
旅行の前にドクオが言っていた『手に負えなくなった』とは、それのこと。
気になるが、今は気にする状況ではない。しかし気になる。
(´・_ゝ・`)「ドクオさんは警察からも信用してもらえる方でした。
そんな彼が、母親を殺そうなどと考えるでしょうか?」
-
(´・_ゝ・`)「死ぬ直前の3年間、ドクオさんが被害者と共に旅行に来ていたのは事実です。
それほど良好な親子仲にあって、なぜ17年経った今、殺害しようという考えに至るのか。
有り得ない、と思うのは私だけでしょうか?」
ニュッは反論しない。
不気味だ。何を考えている?
デミタスも訝しんでいるのか、ニュッを胡乱げな目付きで見ていたが、
小首を傾げつつドクオへと手を向けた。
(´・_ゝ・`)「……ドクオさん、なぜ地元であるN県でなくA県のヴィップ町にいたのか、
そしてホライゾン君に執拗に憑依の依頼をしたのか、理由を話してください。
『嫌な思い出』は黙っていて結構です」
ドクオは緩く頷いてから、証言台へ移動した。
表情が暗く、先程までの威勢がない。
いつまでも口を開かないドクオに焦れたようで、フォックスが一度、木槌を打った。
('A`)「……どうしても地元には居たくなかった。
あそこにいると嫌な気持ちになって堪らなくて、自分には良くないと感じてた」
-
訥々と、ドクオは語る。
('A`)「それで生前、仕事──製薬会社の営業で、ヴィップ町に行ったことがあったんで、
何となくそこに流れて……意外と居心地が良くて、それで留まってました」
('A`)「でも年月が経つにつれて……カーチャンに会わないといけないと思った。
もう死んでるかどうかも分かんなくて、
もし生きてるなら、まともに生活出来てるのかとか、色々気になって……」
カーチャンを放り出すような死に方を俺はしちまったから──と
消え入りそうな声で呟き、続けた。
('A`)「そう考え出した頃に、内藤少年と会った。
滅多に見ないほど霊感が強いんだ」
('A`)「カーチャンに会うための体が欲しかったのも確かだし、何なら内藤少年じゃなくても良かったけど、
……この体に憑依したら心地よく動けるだろうって、身勝手な理由もありました」
(´・_ゝ・`)「霊にも、合う体と合わない体があります。
どうせなら快適に憑依出来る方がいいと思うのは、当然のことです」
そこはフォックスも得心しているようで、「だろうな」と頷いていた。
もしかして、霊感が強いと体質も憑かれやすくなるのだろうか。
なんて迷惑な話だ。
-
('A`)「それで、N県に行くって聞いて、これは何かの縁だろうと。
もしこれで断られたら、すっぱり諦めようと思って──」
(´・_ゝ・`)「そして最後の頼みを、ホライゾン君に聞き入れてもらえた」
ドクオが頷く。
「結構です」。デミタスが微笑み、言う。
空気が重苦しい。それはドクオから発せられている。
フォックスは袖で涙を押さえながら訊ねた。
爪ぅー;)「『嫌な思い出』とやらは、どうしても話せないのか?」
重い空気が、今度は張り詰める。
証言台に手をつき、ドクオは首を振った。
(;'A`)「……黙秘します」
-
そう答えた、瞬間だった。
ニュッが勢い良く立ち上がる。
( ^ν^)「弁護人が動機の面で否認するっていうなら、
こっちも動機から攻めさせてもらおうか」
ζ(゚、゚*ζ「あ、ここでやっちゃいます? ほんと性格悪いったら」
空気が断ち切られた。途端に、全員の意識が検察側へ向けられる。
わけが分からず検察席を見遣るドクオ、内藤。
デミタスだけは、頭を押さえていた。
(;´‐_ゝ‐`)「……やっぱ見逃してないよなあ……」
爪'ー`)「検察官、何か反論が?」
( ^ν^)「さっき『言い忘れていた』ことがありまして」
わざとらしい。
何を言うのかは知らないが──タイミングを図っていたのだ。
検察官に有利な、そしてこちらには不利な話の。
デレが、ニュッに紙の束を手渡した。
( ^ν^)「……『良好な親子仲』とは、よく言えたもんだな、弁護人」
-
( ^ν^)「──被告人、鬱田ドクオは17年前の12月31日に死亡した。
死因は首吊り。自殺だ」
(;'A`)「……!!」
( ^ω^)(……首吊り自殺……?)
ニュッが右手のみでデレに指示を出す。
デレが手元の装置を動かすと、新たな写真がモニターに現れた。
それは、一通の便箋だった。
ドクオが愕然としている。一体、何なのだ。
( ^ν^)「これは鬱田ドクオが死亡したときに部屋から見つけられ、母親が大事に保管していた手紙。
──遺書とも言う」
(;'A`)「やめろ! ──やめてくれ!!」
存外に読みやすく整った、細かな字で綴られた手紙。
ドクオが証言台から飛び出そうとするのを、木槌の音が咎めた。
-
( ^ν^)「一行目。『カーチャン、俺にはもう無理だ。先に逃げる。ごめん。』……」
爪;ー;)「……自害とは……。なんて悲しい……虚しいことだ。人間というのは何故こんなにも虚弱なんだ」
( ^ν^)「鬱田ドクオの母親、鬱田カー。
被害者は17年前まで、ある霊媒詐欺に引っ掛かっていた」
予想外の言葉に面食らう。
(;^ω^)「さ、詐欺、ですかお」
( ^ν^)「事の始まりは夫の過労死。
夫が死んで間もなく、とある霊媒師の女が鬱田家を訪れた。
そいつは突然、『夫は呪いにかけられて死んだのだ』と告げる」
( ^ν^)「霊媒師に言われるまま庭を掘り返してみると、おどろおどろしい人形と札が現れた。
──この写真はそれの再現らしい」
弁護側の証拠品が映されていたモニターの映像が、変わった。
人の形に切られた赤い紙と、よく分からない文字が書かれた木製の札の写真。
画質はどこか粗く、少し年代が感じられた。
-
──霊媒師は、これが呪いの正体だと言って、目の前で燃やしてみせる。
「呪詛返しをした。今、この呪具を使用した者のもとに呪いが戻った」という言葉と共に。
それから間もなくして。
夫の同僚が突然倒れ、そのまま亡くなった、との一報が入った。
そのときにはもう、ドクオの母はすっかり霊媒師を信用しきっていた。
ζ(゚、゚*ζ「実はこれ、この霊媒師の常套手段だそうで。
死人が出た家庭に赴いて、こっそり呪具を埋めて、
その後、さも霊視をしてみせたように振る舞って掘り起こして……
で、信用させるっていう」
(;´・_ゝ・`)「17年前に発覚して、被害報告が相次いだ事件ですね……。
ニューソク市やプラス町を始め、N県各地で起きていたとか。
グループ犯という噂も聞きましたが」
ζ(゚、゚*ζ「関係者らしい方達も見付けることは出来たんですが、
それも結局はみんな騙されてて、知らず知らず手伝わされてただけだったんですよ」
爪'ー`)「ああ……犯人が獄中で死亡した、あれか」
聞き覚えがあった。
もしかして、昨日の昼、デミタスに聞かされた事件のことではないか。
-
ζ(゚、゚*ζ「ちなみに事件発覚時、おばけ課の刑事が各家庭から押収した呪具を
プロの呪術師の方に見てもらったらしいんですが……」
( ^ν^)「てんでデタラメで効果なんか欠片も期待できない、『呪いもどき』だった。らしい。
……が、当時騙されてた奴らにそんな見極めが出来るはずもない。
あっさり霊媒師に騙された」
ニュッもデレも、伝聞調だった。
17年以上前の事件ともなれば──デレは分からないが──ニュッなど、まだ子供だったろうから仕方ない。
ζ(゚、゚*ζ「霊媒師はこう続けます。『夫は仕事で各方面から恨まれていた。呪詛は一つだけではない。
夫本人だけでなく、一族まるごと祟られている。
このまま放っておけば、やがてあなたや息子にも不幸が訪れる』と、こんな具合です」
爪;ー;)「愚かだ……愚かだが哀れだ」
ドクオはすっかり黙り込み、俯いている。
両手は体の横にだらりと垂れて、拳だけが力強く握り締められていた。
-
ζ(゚、゚*ζ「たちの悪いことに、この霊媒師、霊能力は本当にあったんですよ」
──霊媒師はその辺の悪霊を使役し、でっち上げた「呪術者」を祟る。
表向きは呪詛返しだが、実際はストレートな呪いだ。
そうして相手は、怪我や病気に見舞われ──最悪の場合には命まで奪われた。
そうすることで、詐欺被害者はますます騙される。
爪;ー;)「霊力があれば霊を操れる、というものでもない……。
そういった力は天性のものだ。
使い方を誤り、無関係の者を殺すなど──あまりに重すぎる罪……」
爪;ー;)「……ああ、そうだ、私の神社で面倒を見ている霊も、その事件の関係者だったか。彼も哀れなものだ」
( ^ν^)「や、俺の担当じゃねえから細かくは分かんねえです」
ζ(゚ー゚*ζ「裁判長の仰る通りですよ。
一体だけ逮捕出来た『悪霊』は裁判長のもとに預けられてるそうです」
その霊にも、呪いがかけられていたらしい。
いわく──「詐欺行為に関する情報を話せば消滅する」というような。
既に事件は解決しているので無意味な呪いなのだが、あまりに根深く、
それを除去しないことには霊自体の浄化も行えない。
悪霊とはいえ、そいつも霊媒師に騙され利用されているだけだったので、消滅処分にも出来ない。
現在、フォックスの吉津根神社にて呪詛の浄化をしているのだが
なかなか上手くいっていないらしい。
-
ζ(゚、゚*ζ「本題に戻りましょう。
……ドクオさんのお母さん、どんどん霊媒師に貢いだそうです。
時には借金までして」
#####
(;'A`)『カーチャン、いい加減やめろよ! 頼むから頭冷やしてくれよ……』
J( 'ー`)し『大丈夫、大丈夫だよドクオ、もうちょっとだから……。
ここでやめたら、守ってもらえなくなるから……』
(;'A`)『善意で守ってくれる奴が金なんか要求すんのかよ、なあ、カーチャン──』
J( 'ー`)し『お清めの準備は、いっぱいお金がかかるんだって……。
……大丈夫、呪いが無くなれば、うちにもお金が入ってくるようになるから』
#####
(; A )「……っ」
-
また映像が切り換わる。
今度は、日記帳のようだった。同じデザインの分厚いノートが何冊も積まれている。
表紙に「○年1/1〜12/31」という印字があるので、一冊につき一年分なのだろう。
ドクオの母親の日記だとデレが説明した。
母と詐欺師の行いがしっかり書き留められていたそうだ。
( ^ν^)「鬱田家は困窮していった。
鬱田ドクオがいくら働いて生活費を稼いでも、母親は泣いて縋って、
息子から金をもらって霊媒師に金を渡す。残った金で母の借金を返しつつ生活するのは難しかったろう」
ζ(゚、゚*ζ「ドクオさん、荒れたらしいですねえ。日記に書いてありましたよ。
まあ当然ですよね。いくら詐欺だ何だと諭しても、お母さんは聞く耳持ちませんから」
#####
(#'A`)『何で俺の金をあんなやつに渡さなきゃいけねえんだ!!』
J( ;-;)し『どうして分かってくれないの!』
(#'A`)『分かってないのはどっちだよ!
……っもう知らねえ、一人でやってろ! 俺は出てくからな!!』
#####
-
( ^ν^)「もう母親を置いて家を出ようとまで考えたし、口にもしたが……
どうしてもそう出来ない理由があった」
デミタスは苦虫を噛み潰したような顔で聞いている。
内藤が傍聴席を見てみると、傍聴人は、呆れた顔をする者とドクオに哀れみの目を向ける者とに分かれていた。
弟者は、やはり顔を上げたり下げたりしている。
「理由」とは何か、とフォックスが問う。
( ^ν^)「鬱田ドクオは一度、世話になっている上司から旅行の宿泊券を頂戴した。
──丹生素温泉街の旅館のチケットだった。
それを使って、母親と一緒に旅館に泊まった」
ζ(゚、゚*ζ「温泉に行っているときだけは、お母さん、まともになってくれたんですよね。
ね、ドクオさん」
( A )「……うるせえ……」
映像が、ドクオの遺書の写真へと戻る。
そこには、こんな文があった。
「旅行は楽しかった。
カーチャンと普通の話が出来るから。
これからも、年に一度、温泉に行ってください。その間だけでも、全部忘れてください。」──
-
#####
J(*'ー`)し『こんなところ、昔、あんたがちっちゃい頃に来て以来だよ。
トーチャンったらお酒飲み過ぎちゃって、次の日二日酔いで……』
('A`)『覚えてる。せっかく美味そうな朝飯出たのに、トーチャン食えなかったんだよな。
……カーチャン、明日、近くで丹生素祭あるんだよ。行ってみようぜ』
J(*'ー`)し『ええ? ……そうだねえ。たまには、お祭もいいかもねえ……』
#####
( ^ν^)「普段はどうしようもない母親だが、たまに、昔の母親に戻る。
だから見捨てられなかった。
何度も旅行に行けば、やがて、完全に元に戻るんじゃないか……そう考えたんだろう」
ζ(゚、゚*ζ「毎年、ズレたお盆休みの時期に、お母さんと旅行に行っていましたね。
……でも、3年目に、もう限界が来た。仕方ありませんね。誰だって疲れます」
-
#####
──大きな仕事が舞い込んだ。
上手くいけば、他の社員を置いて、出世への近道に踏み込めそうだった。
しかし、先輩や同期に妨害され、失敗した。
仕方ない。無理矢理納得した。
心配事が多すぎて、他人とのコミュニケーションを上手く取ってこれなかったのだ。
他人からの信頼。そういったものが、あまりに薄すぎた。嫌われていた。
重大な責任問題に発展した。ドクオが罪を被らされた。事実を訴えても証拠がない。
とうとう、目をかけてくれていた上司からも愛想を尽かされた。
クビを匂わせることを言われて。
今後のビジョンが脳裏を過ぎった。
全てが無くなる光景しか見えなかった。
-
なんとか母の借金だけは完済していたが、彼女がこのまま変わらなければ意味がない。
繰り返されてしまう。
繰り返されても、もう、当座を凌ぐほどの金も気力もない。
年の終わりに、母を説得しようとした。
口論になって──母を叩いてしまって。
消えろと言われた。
何かが、切れた。
#####
-
──17年前、大晦日。
ドクオは首を吊った。
( ^ν^)「『俺は悪霊や呪いのせいで死ぬんじゃない。
カーチャンのせいでもない。
誰かのせいだっていうなら、あの胡散臭い霊媒師のせいだ。
あいつが来なければ、俺が死ぬわけなかった。』──手紙は以上」
ζ(゚、゚*ζ「……ドクオさんが亡くなった直後、霊媒詐欺が明るみに出ました。
新聞やテレビで次々と各家庭の被害状況が報道されました。
その頃のお母さんの日記は、ドクオさんへの懺悔で溢れています」
せめてあと少し、死なずに待っていれば──ニュッのとどめの一言に、ドクオは崩れ落ちた。
質量のない手で床を殴り、叫ぶ。
(;A;)「……っ、ああああああ!! うう──あああああああああ!!」
デミタスが席を立ち、証言台の前で蹲るドクオのもとへしゃがみ込んだ。
見ていられず、内藤は机に目を落とす。
ドクオの慟哭が法廷内に響き渡っていた。
-
( ^ν^)「母親は心を入れ替えた。自分ひとり食ってくだけなら、パートで事足りる。
それでもいくつも仕事を掛け持ちして、がむしゃらに働いた。
年に一度、息子と行った温泉街に行くのを支えにして」
ζ(゚、゚*ζ「……熱さえ引いてしまえば、こんなに真面目な方だったんです。
だからドクオさんはどうしても見捨てられなかった」
ζ(゚、゚*ζ「きっと、独り残していってしまったことが気掛かりだったでしょう。
お母さんは、この17年間、ずっと苦しんでいました。
毎年温泉旅行に来てはいましたが、あまり楽しそうではなかったと旅館の女将さんが言っています」
( ^ν^)「息子なら、母親がどんな性根の持ち主で、どれだけ引きずるか想像がつくだろう」
ζ(゚、゚*ζ「だから、いっそ、お母さんを楽にしてあげようと思った。──ですね?」
ドクオの泣き声が治まっていく。
そして彼は、首を横に振った。デレの言葉を否定した。
-
(;A;)「本当にただ話したかっただけだ! 話して……色々……俺のことを恨んでないかとか、そういう、ことを……」
( ^ν^)「ここまで来て、まだしらを切んのか」
(;A;)「……何だよ、何なんだよ!! 人の傷えぐって──カーチャンのこと貶めて!!
今度はデマぬかして……いい加減にしろよ! 何がしてえんだお前ら!!」
( ^ν^)「10年近く前、母親がまた借金の返済に追われるようになったのも知ってたんだろ?」
虚を突かれたように、ドクオが固まった。
力ない声で、どういうことだと問う。
ζ(゚、゚*ζ「よくある話です。連帯保証人。
知人に泣きつかれて保証人になって……その知人に逃げられたんです」
( ^ν^)「それで、馬鹿正直に必死こいて返済してたわけだ。……本当に知らねえのか」
-
痛いほどの静寂が続いた。
体感では5分以上にも思えた。
それが、破られる。
ドクオの笑い声だった。
壊れたように笑い、壊れたように涙を流している。
(;A;)「何だよ──何だよそれ! まだ懲りてなかったのか! また騙されたのか!!
俺が死んだの何だったんだよ……なんで……くそっ、……畜生、馬鹿だ、カーチャン、馬鹿だ……」
ζ(゚、゚*ζ「……あなたへの償いもあったんですよ、ドクオさん。
あなたを傷付けてしまった分──他人を傷付けないようにと、
頼みは断らないようにと、心掛けていたんです」
(;´・_ゝ・`)「──検察官の主張は分かりました。……どうかその辺にしておいてあげてください。
ドクオさんには、あまりに辛い話です。
それに、……私は、それが殺害の動機になるとは思えません」
フォックスの涙も止まらない。
彼の手元に、小さな池が出来そうだ。
-
爪;ー;)「……鬱田ドクオの事情は分かった。
内藤ホライゾンも、この話を聞かされれば協力したくもなるだろう。
心の優しい子供なら、尚更だ」
まずい。
フォックスの中で、ドクオが主犯であることが確定し始めている。
デミタスが口を開──きかけたところで。
ニュッが、「そのことですが」と割り込んだ。
( ^ν^)「これも言い忘れていた。内藤ホライゾンの本性について」
──ここで出してくるのか。
内藤は目を伏せ、深く息を吸い込み、溜めて、吐き出した。
さあ、言い訳の準備を、
( ^ν^)「最近、世間様じゃ取り調べの可視化がどうとか騒がれてるもんで。
ちょっくら試しに、内藤ホライゾンの取り調べでレコーダーとか使ってみました」
準備をしようと思ったが、ああ、やばい、これは。ちょっと。参った。
-
デレが黒いICレコーダーを取り出し、検察席のマイクに近付けた。
スイッチを入れる。
──『お腹すきましたお』
『もうお昼ですもんねえ。そこのコンビニで何か買ってきましょうか? お代は警察で出しますよ』
『片手で持てるものが食べたいですお。あと飲み物は冷たい焙じ茶で』
『警察パシろうとしてんじゃねえぞガキ』
『言い出したのは向こうですお』
聞き間違えようもなく、内藤とデレ、ニュッの声だ。
「早送り」とニュッが指示を出し、デレがレコーダーをいじる。
一旦音声が途切れ、間もなく再生された。
──『で、お前こそどうしてカマ刑事の名前知ってんだ』
『姉者さんの同級生らしくて、たまたま交流があって。おばけ法のことも彼……彼女……彼から聞きました』
『鬱田ドクオの話と食い違いがあるな』
『……。ドクオさんが以前、ヴィップ町の事件で起訴されて、
その裁判に弁護側の証人……の、付き添いで参加したのが諸々のきっかけでしたお』
『最初から事実だけ喋ってりゃいいんだよ』
デレがにっこりと笑んで、レコーダーをしまった。
デミタスが冷や汗を垂らしながら内藤に振り返る。
ごめんなさい。手でジェスチャーを送っておく。
-
ζ(゚ー゚*ζ「内藤君は一昨日の夜、病院で目覚めた直後、年相応に怯えたような素振りを見せましたが……
翌日にはもう、この通りでした」
( ^ν^)「さらに内藤ホライゾンと親しい、
おばけ法専門弁護士、ヴィップ町の出連ツンに確認の連絡をとったところ──」
( ^ω^)「え?」
( ^ν^)「彼女にとって内藤ホライゾンというのは
『どちらかといえば功利的、年上の自分にも敬意が見られないが、
演技が上手いため、日常生活では皆から好かれて平穏に暮らしている。
一方で、寄ってくる霊を殴って追い返す逞しさもある。』、と」
──今。
聞き流せない名前があったが。
-
(; A )「……っあのアマ、何つー証言してやがる……!!」
( ^ω^)(まあ……事実ではあるお……)
バラされたものはしょうがない。
もうちょっと表現の仕方を柔らかくしてくれれば、と思わなくもないけれど。
ニュッの右手が、内藤を指差した。
(#^ν^)「図太い、厚かましい、暴力的、利己的、嘘つき!
──これのどこが『心優しい少年』だ?
教師と級友の証言は上辺だけを見たものであり、このガキ……少年の本質ではない!」
爪;'ー`)「──なんとまあ」
傍聴席からブーイングがあがる。もちろん、内藤に対してのものである。
弟者が呆然と辺りを振り返っていた。
木槌が打ち鳴らされる。
静寂は訪れたが、内藤に向けられる多くの視線は敵意を孕んでいる。
ニュッは右手の書類で顔を隠し、肩を揺らした。
笑っている。
少しして、彼は書類を下ろした。
-
( ^ν^)「話を進めましょうかね。何故、内藤ホライゾンが鬱田ドクオに協力したか。
……それもまた、『親』が原因だ」
爪'ー`)「親……そういえばこの少年は、実の親と離れて暮らしていたな」
( ^ν^)「内藤ホライゾンは親から見放された子供である」
きっぱりと、ニュッはその一言を落とした。
内藤の頭が、ゆるりと揺さぶられる。
( ^ν^)「生まれついての霊感により、幼少の頃は周りから疎まれ、虐げられてきた。
親からも信用してもらえず……ついには部屋に閉じ篭るようになった」
ζ(゚、゚*ζ「そして手を焼いたご両親は、わざわざ遠縁の親戚──流石家へ、息子を押しつけたんです」
これは、内藤自身が取り調べのときに話したことだ。
けれど。こんな言い方はしていない。見捨てられたなどとは。
違う。両親は内藤を捨てたのではない。
ただ少し、少しだけ、折り合いがつかなくて。苛めっ子から遠ざける必要があって。
だから離れただけで。決して、自分は、決して、親に、
嫌われた、わけでは。なくて。
-
( ^ν^)「親からの仕送りはあるものの、会うのは稀で、連絡も頻繁には来ない。
こうなりゃ、誰だって『見捨てられた』と感じるだろう」
ζ(゚、゚*ζ「内藤君は、ドクオさんの話を聞き、思うところがあった筈です」
( ^ν^)「『自分を蔑ろにした親への仕返し』──鬱田ドクオの目的とは全く違うが、
それに協力することで、内藤ホライゾンは自身の親へ対する不満を間接的に解消しようとした」
(;´・_ゝ・`)「かっ……勝手な憶測だ! 無闇に彼らを傷付ける発言はやめてくれ!」
( ^ν^)「じゃあ本人に確認をとろう。
内藤ホライゾン。親に対して、そういった不満はなかったか?」
怒りたかった。
内藤と両親のことを勝手に決めつけられたことに、怒りたかった。
怒りの表情は、
──どうしたら、良かったのだったか。
演技としてなら、浮かべられる。
でもそれが、いま通用するのか。
もし下手に顔を作って、それがバレたら、もう誰も内藤のことを信用しない。
そしたら裁判が終わる。
すぐに判決が出る。
内藤もドクオも、有罪になってしまう。
-
ずいぶん長いこと考え込んでいたようだった。
ホライゾン君、と急かすデミタスの声と、ニュッの書類を置く音が同時に耳へ入ってきた。
( ^ν^)「……何も俺は、彼を一方的に非難したいんじゃない。
14という年齢なら、もっと親に甘えたいし、その存在自体を必要とする筈だ。
なのに親から嫌われたら? すぐ傍で友人の家族仲の良さを見せつけられたら?
──歪んだ願望が顔を出してもおかしくない」
何でもいいから言わなくては。
内藤の焦りと反対に、口が動かない。
そこへ、怒鳴り声が響いた。
傍聴席からだった。
(´<_`#)「ブーンの両親はブーンを見捨てたんじゃない!!
ブーンのために、仕方なくうちに預けたんだ!!」
弟者だ。
まだ恐怖に慣れきっていないのか言葉尻が情けなく震えていたが、
内藤が言いたいことも、怒りも、代弁してくれた。
木槌が鳴る。弟者は怯みつつも、フォックスを睨みつけた。
-
爪;ー;)「傍聴人……友として素晴らしい行為だ。だが、お前の証言は求めていない。
次にまた勝手な発言をしたら、退廷させるぞ」
(´<_`#)「外野のブーイングは散々やらせといて──」
( ^ω^)「弟者! ……いいお、大丈夫だお」
何が「大丈夫」なのか、自分でも分からなくて、勝手に口元が笑った。
常に笑っているような顔なので、大して変化はなかっただろうけれど。
ニュッが興味深げに弟者を眺め、木槌を振り上げたフォックスを制止した。
( ^ν^)「いや、……少しばかり、証言してもらいましょうか。
そこで一言答えてくれればいい」
(´<_`#)「証言?」
( ^ν^)「流石弟者だっけか。内藤ホライゾンの親戚であり友人の。
お前から見て、内藤ホライゾンの両親はどんな人間だった?」
(´<_`;)「……っ」
途端、弟者は複雑な表情を浮かべた。
内藤と弟者は、幼い頃から交流がある。
彼は内藤の親もよく知っている。
-
( ^ω^)「正直に答えてくれていいお、弟者」
(´<_`;)「……。……ま、真面目で……ちょっと堅い人達で」
( ^ν^)「幽霊、妖怪、おばけ。そういうのを信じるタイプだったか?」
( <_ ;)「……いいえ……」
弟者が力なく腰を落とす。
彼が言うことは事実である。
だから、仕方のないことなのだ。そう。仕方のない。
爪;ー;)「……鬱田ドクオ、内藤ホライゾン……どちらにも深く重たい動機があった……。
これだから人間というものは、その存在に不相応に複雑なんだ。
──情状酌量の余地は充分にあるな」
フォックスがうんうん頷きながら呟く。
情状酌量。実際に犯行に及んだ者からしたら、救いのある響きであろう。
だが身に覚えのないことで起訴されて、身に覚えのないことで酌量されても困る。
内藤はデミタスを見た。
デミタスが異議を唱えようとする、と同時。またニュッに邪魔された。
-
( ^ν^)「最後にこれだけ。
……被害者の日記は、つい先日まで続けられていた」
爪;ー;)「うん? まだ何かあるのか?」
( ^ν^)「今回の旅行にも日記帳を持参している。本人の旅行鞄から発見された。
──照屋」
ζ(゚ー゚*ζ「はい! ──『2月15日、火曜日。
知人の紹介により、弁護士さんを紹介された。
腕利きの弁護士さんとのこと。期待のしすぎは良くないと思いつつ会わせてもらう。』……」
未だドクオの傍にいたデミタスが、一気に青ざめた。
下がってもいない眼鏡のブリッジを押し上げる。
-
ζ(゚ー゚*ζ「『とても優しく、親しみを覚える方で、まるで懺悔するかのように全て話してしまった。
先生は大変でしたねと私を慰め、改めて相談に乗ってくれた。
すると、借金返済において過払いがある可能性が高いとの返事。』」
ζ(゚ー゚*ζ「『時間はかかるが、調査の結果次第で返還請求が出来るかもしれないらしい。
家に帰り、仏壇に報告。もしお金が戻ってくるのなら、ドクオへの贖罪となる使い方を考えなければ。』」
ζ(゚ー゚*ζ「『もっと早く盛岡先生に相談していたら……。』──とのことです」
──盛岡。
内藤とドクオの目は、同時にデミタスへと向けられた。
デミタスは辛そうに顔を歪め、頭を下げる。
よくは分からないのだが、嫌な空気が流れた。
(;´ _ゝ `)「……申し訳ありません、ドクオさん……。
私は、仕事の中でお母様のことを知っていました」
(;'A`)「あ……ああ?」
なぜ今まで黙っていたのだろう。
黙っていることで、何かメリットはあったのだろうか?
ドクオも、戸惑った顔でデミタスを見遣っている。
-
(;'A`)「……日記の内容からしたら、あんたはカーチャンを助けてくれたんだろう。
何を謝ってんだよ」
( ^ν^)「助けていたからこそ、だ」
(;'A`)「はあ?」
ζ(゚ー゚*ζ「この日以降、多少ではありますが、日記には前向きな表現が増えていきました。
借金に関しても解決の方向で話が進んでいたようです。
というか、もう解決間近だったんですね」
( ^ν^)「つまり、被害者には、身に迫る悩みはもうほとんど無くなっていた。
金の悩みが解消されるってのは、人間には多大な影響を与える」
ζ(゚ー゚*ζ「借金が無くなれば、息子さんや……逃げた知人のこともゆっくり考えることが出来るし……
そうすることで、胸の中の凝りも幾分か楽になることでしょう」
-
( ^ν^)「ならば、『生きる意欲』が、これ以前よりはずっと高まっていた筈」
爪;ー;)「……おお……!」
( ^ν^)「このことを知っていたからこそ、弁護人は黙っていた」
(;´‐_ゝ‐`)「……本当に、申し訳ありません……」
ζ(゚ー゚*ζ「いいんですよ盛岡先生、あなたは弁護士です。
弁護には、『黙っている』ことも大事なことですもんね」
頭が回らない。
だから何だというのだろう。
早く説明が欲しくて、内藤はニュッやデレ、デミタスへと忙しなく目線を動かした。
-
( ^ν^)「生きるための希望があったんだ。
……これからやっと本格的に明るくなるはずだった被害者の人生を、未来を、
被告人は不当に──身勝手に奪ったことになる」
( ^ν^)「加害者の心情より、被害者の心情こそを重んじるべきで──
情状酌量なんて生温いこと言っちゃいけねえんですよ、裁判長」
ニュッの声は、とても冷たく、そして楽しげだった。
考える。理解する。
内藤達はこの瞬間、さらに突き落とされたのだ。
自分が今、どんな顔をしているか。想像もつかない。
爪;ー;)「……検察官、弁護人、被告人。まだ何か言うことはあるか?」
ぐすぐすと鼻を啜りながらフォックスが問う。
デミタスもニュッも、口を閉ざしていた。
冷たい沈黙が数秒。
そうして木槌は鳴らされた。
-
爪;ー;)「それでは、本日の審理はこれで終了としよう。
現時点での次回公判予定は29日、午後10時にまたこの法廷で。
証人尋問から始めるので、各自、然るべき用意をしておくように」
くるり。回転した木槌は、煙管へ戻る。
それを燻らせながら、フォックスは来たときと同様、ゆっくりと法廷を出ていった。
傍聴席が今まで以上に騒がしくなり、多くのおばけ達も法廷を後にする。
──「きっとチャンスはもう、明後日の審理一度きりだ」。
席に戻ってきたデミタスは、小さな声でそう告げた。
-
現実逃避かもしれない。
目の前の事態から少し、意識を逸らしたかったのかもしれない。
ともかく急に、気になった。
殺されたというドクオの母──被害者の霊魂は、どこに行ったのだろう?
case6:続く
-
乙!今から読む!!
-
ここまで
読んでいただきありがとうございました!
まとめさんも毎度ありがとうございます!
旅館の名前に合いそうとか思って勝手に使ってすみませんでした
case5 後編>>78
case6 前編>>98/中編>>196
-
今回情報多くてごちゃごちゃしてるので、事件について主要なとこだけまとめ
17年前に発覚した詐欺事件について
・<(' _'<人ノ 詐欺犯。有罪。死んでる。魂は消滅処分済み
・犯行に利用されてた悪霊を一体逮捕。フォックスの神社で預かってる
今回の事件(2012年8月25日)について
J( 'ー`)し 被害者
・体内と、近くに落ちてたジュースから同じ薬物検出
→毒殺された
・午後9時前後に旅館で「あなたがドクオなの」発言
・午後9時過ぎに外を歩いているのを目撃されてる
→9時〜9時56分(通報)までの間に殺害
・宿泊部屋に手付かずのお茶が一杯
・午後5時半以降、旅館入口の監視カメラには姿なし
・浴衣に、旅館裏庭にある樹と同じ葉っぱがついてた
→犯人に誘われ、部屋の窓から外に出ていた
・右腕に打撲の跡(死後に付いた)
・昔、詐欺に引っ掛かっていた。ドクオ死後に目を覚ます
・親切心で知り合いの連帯保証人になる→数年にわたり借金返済
・借金についてデミタスに相談、解決間近だった
-
('A`) 道連れ罪
・8月24日夜〜25日夜までアリバイなし
・午後8時15分頃、内藤に憑依
・午後10時前、憑依したまま事件現場で倒れているのを発見される
→(本人の主張)憑依直後に気を失った。デレに起こされるまで意識なし
・カーチャン死んでるのとデレが警察なの知って咄嗟に逃げる。即捕まる
・生前は製薬会社勤め。営業の平社員
・孝行息子
・霊媒詐欺について母親と喧嘩
・面倒見切れず、精神的疲労ピークで自殺
・死後もなお母親を心配してた
→(弁護側)ここまで親を愛してるのに殺すわけないじゃないっすか
→(検察側)愛してるからこそ、楽にしてやりたくて殺した
-
( ^ω^) 故意的犯罪協力罪
・ドクオに体貸した
→(弁護側)「母と話したい」というドクオのために貸した
→(検察側)殺害計画を聞いた上で貸した
・優しい。温厚。優等生
→(弁護側)殺人に協力するような子じゃない。よって犯行に無関係
→(検察側)演技じゃん。クソガキじゃん
・持ってた小瓶から、凶器の薬物検出
( ^ν^)
・インポ
結論
(弁護側)動機ないよ。真犯人は別にいるよ。2人は濡れ衣だよ
(検察側)証拠も動機もあるしこいつら犯人だよ。超身勝手だよ
-
要点まとめてもまだごちゃごちゃしてる気がする
あと何か抜けがありそうな気もする
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乙です
-
乙
最後wwww
-
インポwww
乙でした、次もwktkして待ってる
-
インポ関係ねぇwww
乙です!
ドクオの過去が悲惨で泣けた…。
-
乙!
救われてほしい、ドクオもブーンも
-
ツンちゃんカモーーーーーンヘルプブーン!!
-
この作品読むとしぃやニュッ君が大嫌いになるわあ
-
もともとニュッ君なんてマイナスイメージの方が強いキャラだろ
-
大抵ニュッくんモブやん?
-
しぃは嫌いになれんなあ
-
あな本とかのニュッ君のほうが珍しいんだよな
-
しぃは今後背景が語られそう
-
VIPで見掛けて初めて読んだけどおもしろいですねぇ
頑張ってください!
-
しぃは前の5話後編の覚醒で好きになった
インポのニュッくんも好きだ
-
ここから逆転負け喰らって悔しがりながらもツンデレの一面を見せるニュッ君が早く見たい
-
身に覚えのない罪
情緒不安定な裁判官
隙の無い立証
陰謀めいたものを感じる
-
くるうがいれば即解決するのに
ツンの活躍(いい意味でも悪い意味でも)に期待
乙
-
ツン早く来てくれ!
ニュッ君デレちゃんはこれからいいとこ見せてくれるって信じてる
-
木曜か金曜に6話後編投下しま
こっちかVIPかは未定
http://imepic.jp/20131105/772860
http://imepic.jp/20131105/773170
-
うっほい待ってるぜ
-
絵もうまいが字も綺麗だな
楽しみに待ってる
-
鍛えろ!抗え!にクソ吹いてしまった
楽しみに待ってる
-
お洒落だな
-
あ
ツンとかデレとか、髪型なり服の形状なり何なりが想像してたのと違ったら、無視してください
自分ですら登場人物のイメージがちょいちょい変わるので
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やっぱサラサラ血液のが美味いのか
-
>>334
ものすごくイメージ通りです!
ツボに入ってるしぃ可愛い!デレも可愛い!
ギコもかわ……………………うん。
-
ギコクソワロタwwwww
-
ヴィップ警察のアイドルはギコさんか...
-
クッソワロタwwwww
本編も漫画も楽しみすぎる
-
ニュッはほんと痛い目に合ってくれないかな
うざすぎて吐きそう
-
(;^-^) <ケンモウクン…
( ===)
( ⌒) ) ヽ人_从人__从_从人__从__从_从人人__人从
< >
< なかなか締まりのいい原住民じゃないか!! >
< >
Y⌒YW⌒Y⌒W⌒⌒YWYY⌒WW⌒Y⌒Y⌒Y
ヽ人_从人
< あッ > ヽ人_从人
Y⌒YWY < あッ >
i! i! Y⌒YWY
ヽ人_从人 i!l| (;´ん i!
< あん > ,i! ( つ(ν^ ) i!
Y⌒YWY l| ゝ と /i!l|
i!(^ (ノ__,,,ノ i!
-
ごめんなさい誤爆です
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インポじゃなかったんすかニュッさん
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最低な誤爆だ
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ペニバンプレイか・・・
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AAとペニバンが不意打ちすぎてワロタ
今日は時間がとれなさそうなので、投下は明日やります
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ペニバン着けてお待ちしてます
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待ってるぜー
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わくてか!!
-
わくてか
-
すみません、本当すみません、割と重大なミスがあって修正中なので今日も投下出来そうにありません
投下するする詐欺でごめんなさい。>>347はペニバンしまってください
明日こそ投下する
ほんとに。ほんとに。明日。ほんとに。まじで
-
しかたねーな明日な。マジで
-
(^ω^) マジだお!
-
約束だぞ!約束だかんな!
-
そして三年の時がながれた
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〜FIN〜
-
〜再開〜
-
〜そして伝説へ〜
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これからVIPで投下しま
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http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1383994571/
-
>>360
ありがたいです
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乙でした
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乙!
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おつ!
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乙!!
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乙です!
次回も楽しみにしてます!
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んああ!読めなかったぁ…乙…
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今回VIPでやった分ここに貼るのは大変そうだ
今回は手を抜いても許される気がする
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読み切った後に落ちていたからここで乙
斜め上を行く展開で面白かったよ
今後、一応やり手っぽいニュッとの再戦(?)があるなら、読んでみたいと思った
次回の投下も楽しみにしてます
-
苦しい。
身動きがとれない。
べたべたと札の貼られた瓶に詰められて、はや──何年だろう。
霊にとって時間の感覚など縁遠いものだが、神社の本殿に置かれっぱなしでは、もはや昼夜の区別すら出来ない。
苦しい。
自分への処置が、「保護」という括りに入るのは分かっている。
あの妙な神様が、自分を浄化しようとしてくれているのも分かっている。
しかしそれは一向に成果を見せない。
依然として自分には呪詛が絡みついている。
かつての「事件」について何か話そうとすれば、ぎちぎちと全身が潰れそうになる。
苦しい。
外に出たい。
何で、こんなところに居なければならないのだ。
自分はただ、「あの人」のために言われたことをやったまでだ。
あの人のためなのに。
瓶の中、黒い靄は、何百回目とも分からぬ絶望に震えた。
*****
-
( ´_ゝ`)「本当に1人で大丈夫か?」
l从・∀・ノ!リ人「夏休み、もうすぐ終わりじゃろう。学校始まる前に帰ってくるんじゃぞ」
( ^ω^)「分かってるお」
一日目公判が終わり、6時間強経って。早朝。
内藤と流石家一行は駅にいた。
兄者と妹者、そして弟者はこれから始発の電車でヴィップ町へと帰る。内藤を残して。
( ´_ゝ`)「デジカメ貸そうか、結構いいやつだぞ」
( ^ω^)「……いいですお、写真なら携帯のカメラで充分だお」
( ´_ゝ`)「そうか?」
l从・∀・ノ!リ人「1人で危ないところに行っちゃ駄目じゃぞ、ブーン」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「私がいるからね。余程の事態にゃなりゃしないよ」
一緒に見送りに来ていた母者が、内藤の頭をぽんぽんと叩く。
「頼もしい限りで」。兄者がけらけら笑った。
-
l从・∀・ノ!リ人「……母者、またね」
妹者が母者に抱き着き、どこか寂しそうな声で言った。
そんな妹者を母者が抱き上げる。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「忘れ物はないだろうね」
( ´_ゝ`)「勿論」
l从・∀・ノ!リ人「リリちゃん達にあげるお土産も買ったし、ばっちしなのじゃ」
(´<_` )「……」
それらを眺める内藤へ、弟者がそっと近寄ってきた。
目の下に隈がある。
裁判から旅館へ帰った後、内藤は疲労と心労ですぐに寝たのだが、弟者は眠れなかったようだ。
何か言いたげで、しかし口を噤んで押し黙っている。
内藤がここへ残る本当の理由を知っているのは、弟者だけだ。
兄者達へは、ほんの数日の観光だとしか説明していない。
-
( ^ω^)「大丈夫だお。……何とかなるお」
小声で言うと、弟者は俯いてしまった。
(´<_` )「……やっぱり俺も残る……」
( ^ω^)「気持ちはありがたいけど、遠慮しとくお」
一応まだ8月中ということもあって、内藤達が泊まっていた部屋は次の予定客のために空けなければならない。
幸い、一人客向けの小さな部屋が空いていたのでそちらに移らせてもらうことになったが、
それだって、そう何日も泊まってはいられないだろう。金銭的な問題もある。
今後の見通しが全く立っていない。そのときになったら、そのときだ。
とにかくこんなあやふやで危うい状況に、弟者を巻き込むわけにはいかない。
内藤は優しい笑みを弟者に見せた。
それが心からの笑顔でないことなど、弟者にはすぐに見破られてしまう。
(´<_` )「何かあったらすぐに言えよ」
( ^ω^)「そうするお」
きっと内藤は、弟者達へは助けを求めない。
そもそも求められたところで、彼らの方が困ってしまうだろう。
ホームへ電車が入ってくる。
弟者達は鞄を抱え、電車に乗り込んだ。
-
母者が近付いてきて、内藤の背を叩く。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「何かあったのかい」
( ^ω^)「……いえ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「今は私もあんたの母親みたいなもんだからね。困ったことがあったらすぐ言うんだよ」
母親というものにどこまで甘えていいのか。
それすら、内藤はよく分からなかった。
-
case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/後編
-
(*^ν^)「あ゙〜〜〜〜〜気持ちいい」
昼。警察署、取調室。
椅子の背凭れに全力で寄り掛かりながら、ニュッは恍惚とした顔で言った。
子供のように椅子をくるくる回している。
(*^ν^)「デレちゃーん俺また勝ちそー」
ζ(゚ー゚*ζ「はいはいよしよし偉い偉い」
デレが棒読みで言いつつニュッの頭を撫で、最後に額をばちばちと乱暴に叩いた。
ニュッは怒るでもなくそれを受けて、ひゃひゃひゃ、といかにも悪役くさい笑い声を漏らす。
( ^ω^)(人のこと呼んどいて、放置かお)
2人を眺めながら、内藤は人知れず溜め息をついた。
ζ(゚ー゚*ζ「気持ち悪い人ですねえーところでお腹すきました」
返答は待たずに襟を引っ張ると、デレはニュッの首に噛みついた。
ニュッは何も言わず、吸いやすいように首を傾けている。
随分とご機嫌のようだ。
-
(*^ν^)「明日の審理、30分もせずに終わるな」
ζ(゚ー゚*ζ「圧倒的に私達が有利ですもんね。内藤君には気の毒ですが」
「気の毒なら手加減してくださいお」、内藤が言う。
「そういうわけにもいきませんよ」、デレが言う。
ζ(゚ー゚*ζ「私達はね、何も冤罪おっ被せようとか、
ありもしない話を捏造して重刑に処そうとか思ってんじゃないですよ?
証拠証言から考え得る『犯行の事実』を訴えてるだけなんです」
そこで区切り、彼女は再び血を吸う作業に戻った。
機嫌に伴い良くなっていたニュッの顔色が、青白くなっていく。
吸いすぎだ、と顔を押しやられ、デレの食事は終了した。まずい血、と感想を一言。
ζ(゚ー゚*ζ「ですので、内藤君も素直に罪を認めて、それ相応の態度でいてくれれば私達だって……」
最初から話している通り、内藤はドクオに憑依の許可を出しただけで、
その理由も、憑依後の行為も関知していない。
どうせ言っても無駄なのだろうけれど。
( ^ω^)「冤罪おっ被せられて、ありもしない話を捏造されたら、これが相応の態度だと思いますお」
-
ζ(゚、゚*ζ「……ニュッさあん」
( ^ν^)「粘ってくれた方が楽しみ甲斐がある」
背凭れから背中を離し、ニュッは昨夜同様の冷たい笑みを浮かべた。
デレが首を振り、ニュッから離れる。
内藤をここへ呼んだのは彼の筈だ。恐らく本題は別にある。
案の定、ニュッは一冊の本を内藤の前に差し出してきた。
公判のときに写真で見た、ドクオの母が持っていたという日記帳と同じものだった。
表紙の印字は『平成24年1/1〜12/31』。
今年の日記帳だ。なかなか上等なもののようである。
( ^ν^)「見覚えは」
( ^ω^)「裁判のときにしか見てませんお」
表紙をめくる。
1月1日から2月の途中までは、日々の出来事を簡潔に、短文でのみ記していた。
それが、2月15日──デミタスと出会った日からは、彼との相談内容をメインに、
長文での詳細な描写が増えてきている。
流し読みでも、事の経緯をある程度は把握できた。
-
検察側の主張通り、文面からも、彼女の中で光が生まれていたことが読み取れる。
今月に入ってから、借金の面はほぼ解決しかけていた。
ただ、その借金の方の相談や何やらにとられる時間が大きかったらしく、
旅館の予約を取り忘れた、と嘆く文も見られた。
「今回は日帰りで我慢しようか」、との一文。実際は宿泊出来たようだが。
そして8月10日──
( ^ω^)「……あれ?」
そこで、日記は途切れていた。
というよりも。
ζ(゚、゚*ζ「8月11日から、ページが破り取られてるんですよ」
この日記帳は1ページにつき5日分の記入欄がある。
8月11日から月末にかけてのページに、乱暴に破かれた跡があった。
-
( ^ν^)「被害者以外の指紋は付いてねえが、本人が破いたとも考えられねえし、
まあ犯人がやったと見て間違いないだろう」
ζ(゚、゚*ζ「というわけで内藤君、何か知りません?」
( ^ω^)「知るわけないじゃないかお。
……これ、法廷では言わないんですかお?」
ζ(゚、゚*ζ「裁判所に提出する書類には明記しましたけど……審理では省きました。
今のままだと何の証拠にもなりませんもん」
( ^ν^)「たとえば──11日以降25日以前に、被告人と被害者が接触したことが書かれていたとして。
それを警察に見られれば、犯行の計画性を疑われてしまう。
だから該当するページを処分した、という推理も出来なくはないが」
ζ(゚、゚*ζ「さすがにそれは他の判断材料が皆無なので、根拠に乏しいって却下されて終わっちゃいます」
( ^ν^)「何が書かれていたかの特定も不可能だしな」
ニュッとデレが、じっと内藤を見つめる。
内藤は首を横に振った。知らないと言っているではないか。
それから、いくつか公訴事実の確認が行われた。
もちろん認めない。30分ほど経過し、何の情報も得られないと分かるや、ニュッは腰を上げた。
-
( ^ν^)「……まあいい、判決出りゃ諦めるだろ。
照屋、そいつ帰せ。明日泣かす。ぜってえ泣かす」
ζ(゚ー゚*ζ「はあーい。……っと、その前に。ニュッさん、証拠は一旦預からせてもらいますねえ。
先ほど電話がありまして、急きょ提出しなきゃいけなくなりましたから」
( ^ν^)「あ? ああ」
証拠諸々を抱え、デレが退室する。
また2人きりになってしまった。
ニュッは腕を組み、机の前を行き来している。
( ^ω^)「……あの」
返事はなかったが、立ち止まったので、無視するつもりはなさそうだった。
( ^ω^)「被害者の……ドクオさんのお母さんって、亡くなったんですおね」
( ^ν^)「おい。おいおい。勘弁してくれ。そこまでアホなのか? ここ数日ずっと寝ぼけてたか?」
笑い混じりにニュッが言う。
内藤は喉元まで出かかった嫌味を飲み込み、質問を優先させた。
( ^ω^)「その人の魂って、いないんですかお?」
( ^ν^)「あ?」
-
( ^ω^)「被害者本人が幽霊になって、どこかにいるとしたら……。
その人に直接、何があったか訊けば早いですおね」
( ^ν^)「……あー。簡単に見付かりゃ、そりゃあな。
だが残念なことに、事件現場にも自宅にも、どこにもいなかった」
よくあることだとニュッは言う。
( ^ν^)「あっさり成仏してたり、
鬱田ドクオみたいに何かしらの意思を持って遠くへ離れたり」
( ^ν^)「厄介なのは、死後のショックで一時的な記憶喪失に陥って、
とりあえず現場から離れて放浪して……
ずうーっと離れた、縁もゆかりもねえ土地に行きやがるパターン。
まず見付からねえし、見付かっても記憶があやふやだから意味がねえ」
そんな面倒な「迷子探し」をするくらいなら、
さっさと証拠を集めて立件した方が、犯人を逃さずに済む。
それがニュッなりのやり方らしい。
被害者から内藤達の犯行を否定してもらうのは不可能なのか。
内藤は嘆息した。
互いに黙り込む。
もう一つ、訊きたいことがあった。
-
( ^ω^)「……検事さんって、いつから霊が見えるようになりましたかお」
予想外の質問だったらしい。
ニュッはぽかんとして、それから、首を傾げた。
( ^ν^)「たぶん生まれつきだ。俺の場合は年々強くなってった」
( ^ω^)「嫌になったことありませんかお。……見えなくなればいいって、思いませんでしたかお」
内藤の日々の苦悩を、彼は理解するのだろうか。
彼は内藤が今まで出会った中でも最大級の「嫌な大人」だが、
その分、単純な興味があった。
( ^ν^)「別に。俺は常人には見えないものを見ることが『出来る』。
つまりそこら辺の有象無象よりは優れてる部分だ」
ループタイの紐を指先で弄びながら、彼は付け足す。
( ^ν^)「性根が腐ってる分、それぐらいはあってもいいだろ」
自覚はあったのか。
内藤は曖昧に頷いた。霊感など、自分は欠点だと思っていた。
彼とは思考が反対なのだ。そりゃあ合わない。
そこへ、デレが戻ってきた。
-
ζ(´ー`*ζ「はいはいはい、それじゃあ内藤くん会議室行きましょう。盛岡先生が待ってますからあ」
左手を掴まれ、立ち上がる。
取調室を出る間際、内藤はニュッに会釈した。
*****
(´・_ゝ・`)「──ドクオさんに無理矢理憑依されたことにすれば、君は無罪になる」
その一言の意味を理解するのに、しばらくかかった。
会議室C、中央。
内藤の向かいに座るデミタスは、ひどく言いにくそうに、そんな提案を切り出した。
-
(´・_ゝ・`)「このままだと無罪判決は難しい。
明日の公判で決着がついてしまうだろうし、
たとえ控訴したとしても、いたずらに裁判が長引くのは君のためにならない」
( ^ω^)「──……絶対に無罪にするって、盛岡さんが言いましたお」
(;´・_ゝ・`)「それは無責任な発言だったと思う。反省してるよ。
でも、言い訳にしか聞こえないだろうけれど、
ニュッさんが短時間であそこまで証拠や証言を揃えてくるとは思わなかったんだ」
(;´・_ゝ・`)「いくら優秀だからって、あれほどまで……」
<_プー゚)フ「やっぱあいつが犯人か!?」
/ ゚、。 /「異議あり! 逆転! 真犯人逮捕! デミタス様大勝利!」
(;´・_ゝ・`)「こら、やめなさいって」
エクストとダイオードがニュッの悪口を言いながら、内藤の頭を撫でたり腕に巻きついたりする。
こうも嫌われるとは、少し可哀想でもある。
デミタスは眼鏡を外し、レンズを拭った。
眉間に皺が寄っている。見にくくて目を凝らしているだけなのか、単なる顰めっ面なのか。
-
(´・_ゝ・`)「……ホライゾン君。よく考えてほしい。君は生きている人間で、14歳で……
人生はまだまだ長いし、やるべきこともたくさんあるだろう」
眼鏡をかけ直して諭す声は、ただ優しいだけではなかった。
(´・_ゝ・`)「裁判というものは、体力も精神も、時間も消費する。
あがいて失敗してしまったときのことを考えれば、
妥協点を見付けておくのが一番ダメージも少なくて済むんだ」
( ^ω^)「だって、……その妥協点を選んだら、ドクオさんはどうなるんですかお」
(´・_ゝ・`)「ドクオさんの過去が過去だし、いくら何でも極刑になんかなりゃしない……筈だ。
フォックス様はあの通り繊細な方だから、上手く説得すれば刑も軽くなる」
( ^ω^)「ドクオさんは何て?」
(´・_ゝ・`)「提案はしてみたけど、当然断られた。あくまで無罪判決しか認めないと。
でも──最後には、『内藤少年の答えを聞いてから考える』って。
彼は君を巻き込んでしまったことを申し訳なく思っている」
<_プー゚)フ「可哀想だなー」
/ ゚、。 /「なー」
最終的な決断は内藤に委ねられている。
このまま2人で無罪を主張し続けるか、
全ての罪をドクオ1人に負わせるか。
-
何だか胃が痛むような気がして、内藤は腹を摩った。
自分が繊細な性をしているなどとは思っていないが、
さすがにこれは荷が思い。
出来ればさっさと裁判を終わらせたい。
たとえ2人揃って有罪判決を受けたとしても、以前のデミタスの言葉を信じるなら、
内藤には執行猶予がつく。どのみち、内藤に掛かる負担自体は軽い。
だがドクオはどうなる?
それに──内藤が知っていようがいまいが、殺人に手を貸したのだという結論には変わりない。
嫌だ。
しかしデミタスにだって「弁護士」としての責務がある。
ここで内藤がごねれば、彼の経歴に傷が付くことだって充分に有り得るのだ。
(´・_ゝ・`)「……ホライゾンくん、君が決めたいように決めていいんだよ。
私のことは気にしないでくれ。私は、依頼人の意思に従う」
( ^ω^)「……ドクオさんの、意思は」
(´・_ゝ・`)「さっきも言ったけど、彼も、君の答え次第だと発言しているよ」
-
内藤の答え次第。
終わらせたい。帰りたい。
出来れば無罪判決がいいけれど、でも、どうせ執行猶予が過ぎればお咎めなしで済む。
長い時間、あの検事達に責められ続けるのは嫌だ。
でもドクオが。
けれども、ああ、自分は、でも。
頭を抱える。
──内藤だって、ドクオの無実を心から信じているわけではない。
いくら何でも人を殺すような人だとは思っていないけれど、
かといって、絶対にやらない、とも思っていない。
彼との付き合いなんてここ2、3ヵ月のものだし、
口を開けば取り憑かせろ体を貸せとうるさくて、あまりいい印象も無い。
-
内藤が疑り深いとか、偏見があるというわけではないのだ。
信頼関係を築くのにはあまりに不十分すぎただけで。
だから。
ドクオも無罪判決を受けるべきだとは、まだ、言えない。
真実が分からないから。
本当に罪を犯していたのなら刑を受けるべきだ。
逆に、冤罪だというなら釈放されるべきである。
今の段階で、どう結論を出せというのだ。
頭が痛い。腹も痛い。何なら右手の傷も痛い。
──あのとき、憑依の許可を出さなければ良かった。
どんなにしおらしく頼まれても、いつものように断っておけば良かった。
やはり、幽霊に関わると碌なことがない。
(´・_ゝ・`)「……難しい選択だろう。まだ明日の夜まで時間はあるから、じっくり考えてほしい。
すまない、私の力が足りなかったばかりに」
( ^ω^)「……いえ」
──ツンならどうするだろうかと。
ふと、思った。
*****
-
日が暮れ始めた頃、名前を呼ばれ、母者は振り返った。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ああ、久しぶりだね。元気だったかい」
旅館の入口を掃いていた箒を置き、相手に近寄る。
懐かしい顔だった。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ん? 私は見ての通り元気だよ。病気なんかするタマじゃない。
……ええ? そりゃあ……構わないけど。どうしてそんなこと」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「──……そうかい。なら、仕方ないね」
*****
-
あくる日、8月29日。午後10時。
N地方裁判所、202号法廷。
爪'ー`)y−┛「今日は、お友達は来ていないのか?」
狩衣姿の年齢性別不詳の神様、フォックスが、裁判官席から弁護席の内藤へ声をかけてきた。
お友達──弟者のことだろう。
今夜も傍聴席はおばけでいっぱいだった。
犬顔の小男、血まみれの子供、真っ黒い帽子を深く被った女など、未だぞろぞろと傍聴席へ入ってきている。
もしかしたら人間も混じっているのかもしれないが、区別がつかない。
内藤はフォックスへ対し、小首を傾げてみせただけで、明確な返事はしなかった。
そうする元気がなかったとも言う。
爪'ー`)y−┛「来てないのか。あの年頃にしては珍しく勉強熱心だと感心していたんだが」
( ^ω^)「?」
もう一度、首を傾げる。
今度は単純にフォックスの言葉を理解しきれなかっただけだ。
傍聴席へ続く扉が閉められる。フォックスは顔を上げた。
-
爪'ー`)y−┛「おっと、もう予定してた時間だな。そろそろ開廷しようか」
くるり。煙管が回転し、木槌へ変わる。
ざわついていた傍聴席が俄に静まり返った。
( ^ν^)「照屋、書類」
ζ(゚ー゚*ζ「はいどうぞ」
検察席にはニュッとデレ、そしてさらにその隣に、男が座っていた。
見覚えのある顔だったが、いまいち思い出せない。
(´・_ゝ・`)「……ドクオさん、ホライゾン君、本当にいいんですね」
デミタスが確認をとる。緊張した面持ちだ。
エクストとダイオードは今回も外で待機させられている。
('A`)「何を今更」
( ^ω^)「……とりあえず、成り行きに任せますお」
結局、内藤は当初の主張を通すようにとデミタスに頼んだ。
熟考の末に結論を出したというわけでもなく、
これ以上考えたところで腹を括れないから、それなら考えないでおこうと決めただけだった。
ドクオは「お前ならそう言うだろうと思った」と言っていた。
心底ほっとした顔だったので、実際は半信半疑だったのだろうが。
-
読み返してて思ったけどモララーとヒッキーはもうでないのかな
-
爪'ー`)「公判2日目だ。
では初めに、証人尋問から。──証人は検察側だけのようだが、
弁護側証人はいないということでいいのか?」
(´・_ゝ・`)「……はい」
内藤達の無罪を証明してくれる証人は、見付からなかったそうだ。
これも仕方ないことである。
幽霊裁判など誰彼構わず呼べるものではないし、
準備する時間も足りない。
呼んだところで──こちらが「犯罪に手を出す性格ではない・動機がない」という主張である以上、
証人がそれを証言したって、ニュッもフォックスも「説得力に欠ける」と切り捨てて終わるだろう。
こちらに残された手は、検察側の証拠や証言を崩すことだけ。
( ^ν^)「──証人、証言台へ」
男が、証言台の前に立つ。
背が高く、筋肉も人よりついているように見えたが
姿勢が悪いためか、どことなくだらしない印象を受けた。
爪'ー`)「証人は……人間か。名前と年齢を」
(`・ω・´)「砂金シャキン。32歳」
-
爪'ー`)「生年月日、職業、それと住所」
(`・ω・´)「昭和54年11月29日。今はソクホウ警備会社に勤めてます。N県の──」
( ^ω^)「──あ」
思い出した。
数日前、旅館の自動販売機の前で内藤とぶつかった男だ。
世間は狭い。
(´・_ゝ・`)「どうかしたかい?」
( ^ω^)「あの人、旅館で見た人ですお。
盛岡さんがハンカチ貸してくれたときの……」
(´・_ゝ・`)「旅館で? ……ああ、あの。君にぶつかった人だね」
('A`)「でけえ奴だな」
爪'ー`)「それでは検察官、尋問を」
( ^ν^)「はい」
ニュッが書類を片手に起立する。
これから、とどめを刺しに来る。内藤は身構えた。
-
( ^ν^)「ええと……事件の前後、被告人内藤ホライゾンと同じ旅館『ろまん』に宿泊していたとか」
(`・ω・´)「はあ」
( ^ν^)「目的は?」
(`・ω・´)「仕事で。
丹生素祭の雑踏警備ってことで、うちの警備会社も呼ばれてて。
それで、一時的な滞在先として『ろまん』に」
砂金シャキンは、淀みなく答えていく。
どこかぶっきらぼうで、面倒がっている節があった。
( ^ν^)「警備員は全員どこかしらの旅館やホテルに泊まってたか?」
(`・ω・´)「いや。大半の奴は現地集合だった。
ただ、俺とか、他にも2、3人は『他の仕事』があったから
特別に部屋を貸してもらってた。素泊まりだったから、料理とかは付かなかったが」
( ^ν^)「他の仕事というと」
(`・ω・´)「ここ何年か、祭のときに泥棒が出るっていうんで、その対策を警察から任されてました」
-
( ^ν^)「それ以外にも、特別に任された仕事があったらしいが」
(`・ω・´)「ええと、おばけ課? から、
祭に乗じて悪さをする霊がたまにいるから、警備のときに目を光らせておいてくれ……とは
言われました。俺だけだったみたいだけど」
( ^ν^)「……証人には霊感があるわけだ」
(`・ω・´)「まあ……高校生ぐらいのときから──霊感っつうか、
変なのが見えるようにはなりました。
大抵ぼんやりしてるし、いつもってわけでもないから全然大したことないけど」
こんなにしっかり見えるのは滅多にない──と、シャキンは傍聴席を一瞥した。
幽霊裁判の法廷は特殊な結界を使うため、霊感に関係なく霊が見えるようになる。
ζ(゚ー゚*ζ「私が捕捉を。
前回、17年前の詐欺事件の話をしましたね」
爪'ー`)「被告人の母が騙されていたというやつだな」
ζ(゚ー゚*ζ「証人の親御さんは、詐欺グループの一員でした。
とは言ってもリーダーの高崎美和に騙され、手伝わされていただけですが」
(;'A`)「──」
ドクオが口を動かしたが、何も言わずに閉じた。
思うところがあるだろう。
-
ζ(゚ー゚*ζ「詐欺グループは当時、セミナー……と言いましょうか、
信者を集めたちょっとした会合を定期的に行っていました。
証人、シャキンさんも親に連れられ無理矢理参加させられていたそうです」
(`・ω・´)「……本当は嫌だったんだけどな」
ζ(゚ー゚*ζ「リーダー、高崎美和と頻繁に接触していたシャキンさんは、
彼女の影響を受けて多少ながら霊感を手にしました」
が、間もなくニューソク市でおばけ法が導入され、
霊媒師──詐欺師は逮捕された。
ζ(゚ー゚*ζ「その事件以降、年々優秀な検事や刑事が増えていき、
ここ数年なんかは超有能な私やちょっと有能なニュッさんの登場で、おばけ犯罪の検挙率が爆上げでしたね」
爪'ー`)「ばくあげ……うむ、まあ、たしかに」
ζ(゚ー゚*ζ「だもんで、今まで好き勝手やってた幽霊妖怪さんが大人しくならざるを得なくて……。
丹生素祭みたいな、人が増えてごちゃごちゃするようなイベントがあると、
それをいいことにはっちゃける幽霊さん達が増えてきちゃったんですよね」
爪'ー`)「昨年なんかは、憑依罪の裁判が多かったしなあ」
-
ζ(゚ー゚*ζ「詐欺グループは当時、セミナー……と言いましょうか、
信者を集めたちょっとした会合を定期的に行っていました。
証人、シャキンさんも親に連れられ無理矢理参加させられていたそうです」
(`・ω・´)「……本当は嫌だったんだけどな」
ζ(゚ー゚*ζ「リーダー、高崎美和と頻繁に接触していたシャキンさんは、
彼女の影響を受けて多少ながら霊感を手にしました」
が、間もなくニューソク市でおばけ法が導入され、
霊媒師──詐欺師は逮捕された。
ζ(゚ー゚*ζ「その事件以降、年々優秀な検事や刑事が増えていき、
ここ数年なんかは超有能な私やちょっと有能なニュッさんの登場で、おばけ犯罪の検挙率が爆上げでしたね」
爪'ー`)「ばくあげ……うむ、まあ、たしかに」
ζ(゚ー゚*ζ「だもんで、今まで好き勝手やってた幽霊妖怪さんが大人しくならざるを得なくて……。
丹生素祭みたいな、人が増えてごちゃごちゃするようなイベントがあると、
それをいいことにはっちゃける幽霊さん達が増えてきちゃったんですよね」
爪'ー`)「昨年なんかは、憑依罪の裁判が多かったしなあ」
-
ζ(゚ー゚*ζ「なので今回、シャキンさんがソクホウ警備会社にいるという噂を耳にしたおばけ課職員が、
彼に交渉したんだそうです」
17年前の事件発覚時、シャキンの両親もおばけ課の警官から取り調べを受けており、
そのときのシャキンに関しての情報が資料に残っていたのだとか。
それを知っていた職員が思い立ち、彼に警備の協力を仰いだ。
「幽霊を監視出来る人間が警備についた」という話が巷(の霊達)に流れるだけでも
充分に犯罪の防止になるらしく、今年は小さな揉め事が一つ二つあった程度で済んだという。
無論、この殺人事件を除いて、だが。
( ^ν^)「尋問を再開しよう。──何故『ろまん』に? すぐ傍には宿泊施設がいくつもある筈だが」
(`・ω・´)「最近は『ろまん』に霊が寄り付かなくなったらしくて、
警備内容とかの情報が漏れないよう、そこに泊まれと警察から手配されてました。
人気の旅館なんで、仕事とはいえ得した気分だった」
霊が云々というのは、母者の影響だろう。
彼女が旅館で働き出したのは今年の初め頃からだ。
-
ζ(゚ー゚*ζ「丹生素温泉街の霊達も一様に、最近の『ろまん』は近寄り難いと言っていますね。
ある従業員の体質によるものだそうですが、
あの旅館一帯は天然の結界みたいになってて、私もちょっと居辛かったですね」
(´・_ゝ・`)「……たしかにエクスト達も、全く入れなかったようです」
傍聴席から同意する声が飛ぶ。
しかし、「居辛かった」程度で済むとは、デレが凄いのか吸血鬼というものが特別なのか。
( ^ν^)「宿泊したのは8月24日から25日の夜までとのことだが、
25日の午前1時頃には何を?」
(`・ω・´)「夜勤が続いた頃で、夜になってもなかなか寝付けなくて、
気分転換に庭に出ました。
あそこの庭は数カ所にベンチがあって、その内の一つに座って、ぼうっとしてました」
(;'A`)「……あんとき、あいつもいたのかよ」
内藤は記憶を巡らせた。
あのとき、庭は暗かった。
他に人がいたとして──物音さえ立てられなければ、気付かなくても仕方なかったかもしれない。
-
( ^ν^)「そこで何を見た?」
(`・ω・´)「子供と、あと霊が一体……庭に出てきて、外灯の近くのベンチに座って、話を始めました。
どちらも被告人だった」
( ^ν^)「間違いなく?」
(`・ω・´)「間違いない。それで、気になって話を盗み聞きしてました」
( ^ν^)「そのとき被告人はどんな話を?」
(`・ω・´)「霊の方が、子供に、『体を貸してほしい』……みたいなことを。
『母親が別の旅館にいるから、会いたい』、とか」
フォックスが視線を寄越してくる。
内藤とドクオは同時に頷いた。
庭で諸々を取り決めたのは事実だし、そこだけならば初めから認めている。
( ^ν^)「殺害の計画などは……」
(`・ω・´)「それは、どうだか。
途中で声を小さくしてたから、さっぱり」
-
シャキンは、一瞬黙した。
顔をこちらへ向けて、そして、
(`・ω・´)「ただ、あの──母親が詐欺にあってたとか、
楽にしてやりたいとか、そういう話は聞こえました。
まさか『詐欺』があの事件のことだとは思わなかったけど」
そう言った。
あまりに突然で、内藤もドクオも反応出来なかった。
( ^ν^)「『楽にしてやりたい』。記憶違いの可能性は?」
(`・ω・´)「ない。たしかに聞きました」
( ^ν^)「それから、証人は祭の夜には何をしていた?」
(`・ω・´)「普通に、警備の仕事を。
最初は祭の会場にいて、山車が出た後は温泉街に。
生憎、そのときは被害者も被告人も見ちゃいないな」
( ^ν^)「結構。──以上です」
ニュッが着席する。
そこでようやく頭が動き出した。
口を開く。「違う」。その一言だけが出て、二の句がつげない。
-
ζ(゚ー゚*ζ「ほら。内藤君、ドクオさんから全部聞いてたんじゃありませんか」
(;'A`)「嘘だ! そんな話なんかしてねえよ!
有り得ねえ、何で……──検事に雇われでもしてんのかよ!? おい!!」
ζ(゚、゚*ζ「心外ですねえ、そこまで堕ちちゃいませんよ」
(;'A`)「なら何で見も知らねえ野郎が俺らに不利な証言でっち上げんだよ!?」
爪;ー;)「被告人! 気持ちは分かるが、審理の邪魔になるようなら退廷させるぞ」
(;'A`)「……っ、……なんで……!」
デミタスの、内藤達を見る瞳に揺らぎが生じた。
内藤は無言で首を振る。
違う。あの証言は真実ではない。だから──そんな目をしないでほしい。
爪;ー;)「……仕方ない、まだ5分程度しか経っていないが……
被告人が落ち着くよう、10分ほど休憩を入れようか。異論は?」
( ^ν^)「然るべく」
(;´・_ゝ・`)「……ありません」
木槌で宙を一度打ち、木槌を煙管に変えると、
フォックスは一服し始めた。
-
(;'A`)「──何なんだよあいつ! 絶対おかしいって!!」
法廷前。
ドクオが、長椅子に座るデミタスに食って掛かっている。
対するデミタスも困惑顔だ。
(;´・_ゝ・`)「私に言われましても……」
(;'A`)「あいつが真犯人なんじゃねえのか? そうだ、だから俺らに罪を着せようと──」
( ^ω^)「あの人がドクオさんのお母さん殺して、何になるんですかお」
(;'A`)「そりゃあ……分かんねえけどよ……」
(;´・_ゝ・`)「金銭などが奪われた痕跡はありませんでしたし、
あの証人と被害者の間にも、詐欺事件の被害者同士である以上の関係はありませんよ。
書類を見る限り、ですが」
ドクオが頭を掻き毟る。
何でお前は落ち着いてんだ、と内藤にまで怒りの矛先が向けられた。
別に落ち着いているわけでもない。頭の中はぐちゃぐちゃだ。
やはりここまで慌てている以上、ドクオが罪を犯したとも思えない。
考えが一向にまとまらない。
-
デミタスが、荒れるドクオの肩をしっかりと掴んだ。
じっと瞳を合わせる。
(;´・_ゝ・`)「とにかく、検察側が嘘をついているならいずれボロが出ます。
こちらは落ち着いて対処しましょう」
ゆっくりとだが、ドクオの顔に冷静さが戻った。
溜め息をつき、デミタスの手を振り払う。
('A`)「……あんたがそう言うなら任せるけどよ」
(´・_ゝ・`)「──何か飲みますか? そこの自販機で買ってきますよ」
('A`)「いらねえ。味しか分かんねえし、喉越しもないのにリフレッシュなんざ出来ねえよ」
(´・_ゝ・`)「ホライゾン君は」
( ^ω^)「じゃあ、何かすっきり出来そうなのを適当に……」
デミタスは、自動販売機の方へ歩いていった。
背もたれに寄り掛かり、内藤は息を吐き出す。
シャキンの目的が分からない。やはり、ニュッにでも指示を受けたか。
あんな風に堂々と嘘をつかれて、満足に否定出来ないというのは、なんと恐ろしいことだろう。
-
くるうがいてくれたら。
それと──
( ^ω^)「……ツンさんがいればなあ」
あの人が、もし、ドクオの「記憶」を追えたなら。
('A`)「……何でそこであの弁護士の名前が出んだ」
ドクオが訝しげに言う。
声に出てましたかお、と問うと、頷かれた。少し恥ずかしい。
('A`)「そんなに頼りになるかあ?
たとえば監視官ならまだ納得できるが……
あいつがここにいて、何が出来るってんだよ」
( ^ω^)「……何だかんだいって、あの人、真実には辿り着きますから」
('A`)「ふうん……盛岡弁護士の方が、まだ頼れると思うが」
ドクオは納得していないようだ。
内藤も納得いかない。
正直、今のところデミタスが有利になったことがないのに、馴染みのあるツンより信頼するとは。
( ^ω^)(……あ、そっか)
そういえば、ドクオの母はデミタスに救われていたのだ。
そりゃあ信用したくもなるか。
-
そうこうしている内にデミタスが戻ってきて、2人は会話を打ち切った。
(´・_ゝ・`)「……エクスト達、どこ行ったんだろう」
内藤に缶を手渡しながら、彼が首を捻る。
そこで初めて、彼の「しもべ」達の姿がないのに気付いた。
*****
それから10分──正確には8分──後、審理は再開された。
先程と同じく、シャキンは証言台へ。
爪'ー`)「弁護人、反対尋問を」
(´・_ゝ・`)「はい」
デミタスが立ち上がる。
彼は2呼吸ほどおいて、慎重に口を開いた。
(´・_ゝ・`)「……証人、あなたが庭に出たのは間違いなく深夜1時頃でしたか」
(`・ω・´)「まあ大体そんな頃。細かくは分かんないが」
シャキンの返答には迷いがない。
とても嘘をついているようには見えなかった。
-
(´・_ゝ・`)「外灯はどれほどあったか覚えていますか?」
(`・ω・´)「さあなあ……まあ暗かったから、大した数はないだろ」
(´・_ゝ・`)「……それほど暗かったのに、庭に出てきたのが被告人だと分かったんですか?」
(`・ω・´)「さっきも言ったけど、庭には外灯があった。
それで大体分かったし、何より語尾が特徴的だしな」
(´・_ゝ・`)「あなたは先程、自身の霊感について
『はっきり見えるわけではない』というようなことを仰いましたが、
何故それで、ホライゾン君と一緒にいた霊がドクオさんだったと断言出来るのでしょうか?」
(`・ω・´)「暗いとこでも姿がくっきり浮かんでて、霊だと直感したんだ。
『ろまん』で幽霊見ると思わなかったから、驚いて目を凝らした」
(`・ω・´)「普通にしてればぼやけるけど、集中すれば、
幽霊でも多少は輪郭がはっきりして見えるんだ」
(´・_ゝ・`)「そうですか……」
デミタスが眼鏡を押し上げる。
つるの辺りを指先で叩き、次の質問をぶつけた。
-
(´・_ゝ・`)「『ろまん』には霊が入れないんですよね。
なのに何故、ドクオさんがいたのだと思いますか」
(;`・ω・´)「いや、そりゃ……俺には……」
ようやく、シャキンが言葉に詰まった。
ニュッの方も難しい顔で腕を組んでいる。
そこに勝機を見たのかデミタスが言葉を続けようとした、
が。
( ^ω^)「母者さん──霊を寄せ付けない体質の人が、
その日の夜と次の日は、別の旅館に行ってたんですお」
(;'A`)「ばっ、おい! 少年! わざわざ言わなくたっていいじゃねえか!」
(;´・_ゝ・`)「……だそうです」
(;`・ω・´)「お、おお……?」
物凄く変な空気が流れた。
お前が言うのかよ、とニュッとデレの目が突っ込んでいる気がした。
いずれ調べられれば分かることなのだから、先に言っておくべきだと思って発言しただけだ。
-
デミタスが顎を摩る。
しばらく間をおいて、再度質問。
(´・_ゝ・`)「ドクオさんが自身の過去を語ったそうですが、
本当に、間違いありませんか?」
(`・ω・´)「ない」
(´・_ゝ・`)「検察官から聞かされ──無意識に記憶を書き換えた可能性は」
それはニュッが怒るだろう。
そう思ったし、実際ニュッから反論があったのだが、
予想に反して声は穏やかだった。
( ^ν^)「……あー。あーあーあー。しまった。いやー参った。
証人、大事な話をすっぽかしちまったなあ。悪かった」
訂正しよう。
声は非常にわざとらしかった。
内藤と同様の「嫌な予感」を覚えたのだろう、デミタスが冷や汗を垂らしている。
ループタイの留め具をいじりながら、彼は腰を上げた。
-
( ^ν^)「証人。重要な証拠があったな」
(`・ω・´)「ああ、訊かれないから必要なくなったのかと思っちまった」
爪'ー`)「重要な証拠?」
( ^ν^)「──庭に置かれた防犯カメラの映像」
ほい来た、とデレがどこからかDVDが入ったケースを取り出し、手元の機械を操作した。
法廷内のモニターに電源が入れられる。
(`・ω・´)「さっきも言ったけど、『泥棒』の方の対策も任されてたんだ」
( ^ν^)「対策というと、たとえば?」
(`・ω・´)「色々やりましたたが、とりあえずは防犯カメラの増設。
出入口、エレベーター付近、あとは──庭にも」
(;´・_ゝ・`)「に、庭、ですか」
-
(`・ω・´)「庭に出入りできるルートは2つ。
旅館の縁側と、あとは塀。さすがに塀をよじ登ろうとする奴はいないかもしれないが、
塀の一角に裏口がある。普段は鍵が掛かっているけど、手慣れてる奴なら開けられなくもない。
泥棒が入るとしたらそこからだ」
(`・ω・´)「だから防犯カメラを設置しました。あくまで威嚇だから、ほとんどはダミーだけど」
モニターに、旅館の庭を簡略化した見取り図が表示された。
見取り図の各所に青い丸が付けられている。
しかし一つだけ、赤い丸がまじっていた。
ζ(゚ー゚*ζ「青い丸がダミーのカメラで、赤い丸が本物のカメラ。でしたね?」
(`・ω・´)「はあ。
旅館から庭に出るにしても、庭から旅館に入るにしても、必ず通る場所がある。
そこに隠す感じで、本物のカメラを置いてました。念のために」
デレがDVDをセットする。
モニターが一瞬暗くなり、すぐに画面は変わった。
-
【(`・ω・´)】
シャキンがカメラを覗き込むところから、映像は始まった。
調子を確認しているのかカメラに触れて、満足げに頷くと、その場を離れた。
カメラの死角に移る。
(`・ω・´)「カメラの出番は祭が始まる頃だったんだが、
眠れなくて庭に出たついでに動作のテストをしようと思って、電源を入れたんだ」
庭の樹にでも仕掛けられていたのだろう、
あまり高くない位置から庭の一角が撮られている。
暗い。右下に「01:08am 2012/08/25」との表記。
まさに内藤達が庭で会話した時間帯だ。
白黒で音声はなく、画質もそれほど良くない。
徐々にノイズが入るようになり、それが激しくなっていった。
ぶつぶつと画面が真っ暗になっては元通りに映る、というのが繰り返される。
非常に見づらい。
(;´・_ゝ・`)「カメラの調子が良くないようですが……」
(`・ω・´)「……こういうの、たまにあるんだ。監視カメラとかだと、夜中によくこうなる」
ζ(゚ー゚*ζ「ありますよねえ、幽霊が近くにいるとこうなるの」
-
少しして、カメラの前を人が横切った。
【(ω^ )】
内藤である。
画質はいまいちでも、顔の判別はついた。
内藤は映像の片隅、ベンチに座った。
ベンチのすぐ傍の外灯が、淡く顔を照らしている。
モニターを見ながら内藤は眉を顰めた。何かがおかしい。何がかは分からない。
映像の中の内藤は、宙を見ながら口を動かしている。
こうやって端から見ると、なんて怪しいのだろう。
ベンチから立ち上がる。
左手に目をやり、ベンチに座り直した。
また、何か話している。
-
ζ(゚ー゚*ζ「唇の動きを解析してもらったので、いくらかは言葉の内容が分かりますよ。
さすがに全部は無理っていうか、ほんの一部しか分かりませんが……」
ζ(゚ー゚*ζ「『薬』とか『祭の間に』とか、……『殺す』とか……」
(;'A`)「馬鹿言うな! 有り得ねえって……何が起きてんだよ、くそっ!!
いい加減にしろよ!!」
爪;ー;)「被告人!」
木槌が鳴らされる。傍聴席がざわめく。
シャキンはドクオの方を見ようともしない。
(;'A`)「……少年、服は……カメラの中で着てる服、あのときに着てたのと同じやつか?
これがあのときの映像な筈がねえ」
( ^ω^)「白黒だし、画質悪いし暗いし、……よく分かりませんお……。
僕、ほとんど無地のTシャツばっかり持ってきてましたし」
(;'A`)「もっとお洒落に気ィ遣えよ畜生!」
ドクオは映像が偽物だと言うが、内藤は、そう断言できなかった。
庭に行ったのは一度きりだ。それ以外に行った覚えはない。
映像の中、内藤が立ち上がる。
-
──直後、映像が切れた。
真っ黒な画面のまま、完全に沈黙する。
(`・ω・´)「事件の後で気付いたんだが、勝手に電源が落ちてた。
それで翌日に、警備に関わってたおばけ課の警官から事件の詳細を聞いて──」
( ^ν^)「あのとき聞いた会話が事件に関係あったのではないかと思い、
このデータを警察に持ってきた、と。
協力感謝する」
爪;ー;)「ああ……これが『動かぬ証拠』というやつか」
(;´・_ゝ・`)「こんな粗い映像の解析なんて、どれほどの信憑性があると言うんです!
彼らが計画を立てていたなど、これしきのことで分かるわけが──」
( ^ν^)「『計画を立てていなかった』証拠は?」
(;´・_ゝ・`)「……っ」
デミタスは腰を落とし、頭を抱えた。
何とかしろ、などと、言えなかった。
デミタスには何の武器もない。
素手で敵に立ち向かえというのは、あまりに酷だ。
-
作者が絶倫すぎる
-
(;'A`)「おい、偽証を崩すんじゃなかったのかよ!?」
ドクオの言葉に、デミタスは顔を上げた。
──その目には、疑念が詰め込まれていた。
ドクオが愕然とする。内藤は唇を噛む。
デミタスは何も言わなかったが、言いたいことは嫌というほど分かった。
彼はもう、検察側が振り撒く証拠と証言に、毒された。
フォックスに指示され、シャキンがニュッの隣へ戻る。
爪;ー;)「被告人はどちらも、主張に変わりはないか?」
(;'A`)「……庭で憑依の話をしたのは本当だが、殺す計画なんか立てちゃいねえ!!
あんな証言、嘘ばっかりだ!!」
( ^ω^)「僕も……ドクオさんと同意見ですお」
こんな言葉、どれだけ響くというのだろう。
手応えなど一つもない。
裁判は、最終段階へと進む。
-
爪;ー;)「検察官は最後に……何だったか。ええと、論告求刑を」
とうに出番は終わったとばかりに、デレはニュッには構わずデミタスを見据えている。
恍惚と同情を混ぜ込んだような表情だ。
彼女だって、デミタスを──内藤達を追い込む手助けをしていただろうに。
ニュッは書類を置き、真っ直ぐにこちらへ視線を向けてきた。
( ^ν^)「今一度確認するが──
鬱田ドクオは母に対し、『楽にしてやる』という押し付けがましい動機で殺意を抱き……
弱冠14歳の内藤ホライゾンに殺害の協力をさせた」
( ^ν^)「内藤ホライゾンもまた、自身の両親への恨みを無関係の被害者で発散しようとし、
事の重大さを考えもせずに鬱田ドクオに体を貸した」
違う。
違うのに。
( ^ν^)「一方で被害者は借金という悩みを解消しつつあり、
鬱田ドクオの『楽にする』という目的は初めから成立し得ないものであったにも拘わらず、
被害者は無意味に殺害され、手に入れる筈であった未来を失った」
( ^ν^)「被告人2人の行いは極めて身勝手かつ無益である。
そして今に至るまで罪を否認し続けているのは、
反省の意思に欠けていると言わざるを得ない」
-
フォックスが頷いている。
内藤は、両手を見下ろした。
──やってしまったのだろうか。
ドクオが、内藤の手を使って。
被害者のジュースに、薬を。
内藤の手で人を。殺してしまったのだろうか。
たとえシャキンが、ニュッに言われて嘘の証言をしていたとしても。
内藤の体が人を殺したという事実はあるのだろう。
( ^ν^)「2人の生い立ちを考慮するとしても──
鬱田ドクオは消滅処分、内藤ホライゾンは死後、霊界での10年の懲役とするのが妥当である」
(;'A`)「……はあ!?」
爪;ー;)「あまりに重い罰だ……しかし被害者の無念を思えば適切でもある」
消滅処分。
霊にとっての「死刑」に相当する罰だ。
ドクオが喚く。
フォックスは、止めることはしなかった。
真剣に聞いてはいるが、犯罪者の断末魔程度にしか思っていないようだった。
それを感じ取ったのか、ドクオの顔に絶望が浮かんだ。
振り切れた怒りが、悲しみを掻き立てる。
-
(#;A;)「……気付けばカーチャンが死んでて──しかも殺されてて、わけ分かんねえ内に勝手に犯人にされて!
いい加減にしろよ! さっさとカーチャン殺した奴つかまえろよ!!」
(#;A;)「何が裁判だ!! こんな茶番やってる暇あるなら、早く犯人見付けろよ!!
こうしてる内に犯人が逃げるんだ! ふざけんな! ──ふざけんな畜生!!」
血反吐を吐くような叫びだった。
そこでようやく、フォックスの表情に変化があった。
相変わらず涙を流しているが、戸惑いもたしかに混じっている。
──こんなにも無実を訴えるのなら、そうなのではないか。
そんな、心情の波が表れていた。
ニュッもそれに気付いたのだろう。それでも焦りはない。
繊細な神様、フォックス。
ある種、単純でもあったのだ。
もっと感情をぶつければ良かった。
それこそが、この裁判での要だった。
けれど──そこに気付くのが遅すぎた。
爪;ー;)「……それでは弁護人。弁論を」
-
デミタスが話す、最後のチャンスであった。
ゆらりと立ち上がる。
彼は、ニュッでもフォックスでもなく、内藤とドクオへ顔を向けた。
(;´・_ゝ・`)「……私は……あなた達が無実だというのを信じて弁護していたんだ……。
けれど、──弁護士として失格だと罵られても構わない、
今になって私は、あなた達を疑っている」
(;A;)「……盛岡弁護士……」
(;´・_ゝ・`)「……初めに罪を認めてくれれたなら、酌量減軽に手を貸せた。
でも今は、……無理だ、もう……無理なんだ」
遅かった。遅すぎた。
今更、言葉だけで「無実」を訴えても、どうにもならない。
ドクオの慟哭も、最後の壁には届かない。
ここでまだ濡れ衣だ何だと叫んだって、
ニュッが再び「反省していない」と言ってしまえばフォックスは引き戻される。
今さら罪を認めて「償いますからどうか酌量を」などと懇願すれば、
これまでのこちらの態度が全て嘘だと見なされて、結局、反省していなかったことにされる。
進退窮まった。
-
デミタスも、内藤もドクオも口を開かない。
フォックスが木槌を打つ。
傍聴席から野次が飛んだ。
さっさと有罪にしろ。嘘つきめ。親殺し。
フォックスが咎めたことで声は止んだが、内藤の頭の中では、それらが響き続けていた。
やがて、その野次は徐々に、記憶にこびりついている大人や子供の声へと変わっていった。
『ほんとに幽霊見えるなら証拠出せよ!』
『ほんとのことなら証明出来るだろ!』
──信じてもらえない。
『あの子、ご両親が忙しくて構ってもらえないから……それで嘘つくの』
『どっちにしろ、気味が悪いわ』
大声の揶揄。
小声の囁き。
『……ホライゾン、どうしてそんな、……変なことばかり言うの』
誰も内藤を信じてくれない。
誰も。
-
信じてくれたのは。
ありのままの、内藤の全てを──素の言葉も、霊感も、全てを見た上で信じてくれたのは。
幽霊裁判に関わった者だけだ。
弟者だって、妹者だって、幽霊裁判がなければ内藤の霊感のことなど知り得なかったし、
仮に知ったとしても疑っていただろう。
裁判があってこそ。
あの変わった弁護士や検事達が内藤を信じてくれたからこそ、弟者達は受け入れた。
──心地良かったのだ。
嘘も隠し事もせずに済む空間が、心地良かった。
好奇心やツン達のせいにしていたけれど、実際は、自分があの空間を求めていた。
駄目だ逃げろと理性が騒いでも、本心では、悪くないなと思っていた。
なのに──そこでもまた、信じてもらえなくなった。
「本当」の内藤の居場所が、なくなっていく。
-
この裁判が終わったら、これからどうしよう。
もう。
嘘をついて、隠し事をして、生きていくしか、
「──異議」
( ω )
幻聴だろうかと、耳を摩った。
ドクオが、信じられないものを見るような顔をして、傍聴席を凝視している。
法廷の時が止まったかのようだった。
静寂。沈黙。
内藤はゆるゆると顔を上げ、ドクオの視線を追った。
-
──黒いブラウス。白いリボン。黒いスラックス。白い肌。黒いパンプス。
金色の髪。
ξ゚⊿゚)ξ「弁護側の反証が、まだ終わってません」
出連ツンが、傍聴席の真ん中に立っていた。
-
こっちでもやるんだ、まあここにはここの良さがあるって言ってたし
それにしてもタフ過ぎる
-
黒い帽子を抱えている。
開廷前、少し遅れて法廷に入ってきた女が被っていたものだった。
ツンは内藤と目が合うと、にこりと笑んで、傍聴席の間を歩いてきた。
柵を越え、証言台の後ろを過ぎ、弁護席の前へと立つ。
( ^ω^)「……ツンさん」
ξ゚ー゚)ξ「今の私、最高に格好いいんじゃない?
出るタイミング窺ってた甲斐あるわ」
( ^ν^)「──誰だ」
ようやく、ニュッが問いを絞り出した。
我に返ったか、フォックスが木槌で空を叩く。
爪'ー`)「部外者……というわけでもなさそうだが」
ξ-⊿-)ξ「申し遅れました。おばけ法番号30225番。
A県ヴィップ町で主に活動しております、弁護士の出連ツンです」
「お見知りおきを」。ツンが一礼する。
ツンだ。本物だ。
-
爪'ー`)「おお……先日の公判でも名前が出ていたな」
ξ゚⊿゚)ξ「ただ今より、鬱田ドクオ、内藤ホライゾン両名の担当弁護人を
盛岡デミタス氏から私へ変更していただきたく」
フォックスを見つめたまま、ツンは鞄から取り出した紙を弁護席の机へ叩きつけた。
デミタスが目を白黒させている。
(;´・_ゝ・`)「は……ええ!?」
ζ(゚、゚*ζ「あれ、盛岡先生ご存知なかったんですか?」
( ^ν^)「あ? お前何か知ってんのか」
ζ(゚、゚*ζ「昨日のお昼頃、ヴィップ警の埴谷さんから連絡あったんです。
『こっちから弁護士を寄越すから、迅速な現状把握のために証拠各種を見せてやってくれないか』って。
……昨日、証拠提出するから預からせてってニュッさんに言いましたでしょ」
(#^ν^)「先に言え! そういうのは!
裁判長あたりに提出すんのかと思っただろうが!!」
ζ(゚、゚;ζ「にゅ、ニュッさんもあっさり頷くもんだから、知ってるものかと思って……。
彼女も今になるまで来ないし、結局やめたのかと」
-
ξ゚⊿゚)ξ「盛岡先生、署名と印をお願いしてよろしいかしら」
ここ、とツンは紙の一部分をなぞった。
弁護人を交代する手続きのために必要らしい。
思考が追いつかない。
しかし、彼女がここにいることを、「有り得ない」とも思っていない。
彼女なら──来てくれてもおかしくないだろうと。
(;'A`)「きゅ、急に出てきて何言ってんだあんた!
マジで弁護するつもりか!? 今から!?」
(;´・_ゝ・`)「こ──これは私の仕事です! 途中で依頼人を放ることは出来ません!」
ξ゚⊿゚)ξ「今まさに放り投げようとしたじゃありませんか。
ここで交代しなかったら依頼人を守りきれずに終わりますよ。
それとも2人がどうなろうと知ったこっちゃない?」
(;´・_ゝ・`)「そういうわけでは……! ……私はあなたを知らない!
見知らぬ人に、自分の依頼人の命を預けられますか!」
ξ゚⊿゚)ξ「あなたは私を知らないでしょうが、彼らは私を知ってます。
ドクオさん、内藤君、どうする? あなたたちの希望が第一優先事項なんだけど」
-
(;'A`)「どうって……てめえ、この間も裁判負けたばっかりらしいじゃねえか無能弁護士」
( ^ω^)「……僕は、ツンさんに任せたいですお」
(;'A`)「少年! ……、……くそっ」
ドクオが額を押さえる。
その手の下から、ツンを睨みつけた。
(;'A`)「……条件がある」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
(;'A`)「裁判終わったら、てめえ、俺の質問に答えろ。一個。嘘つかずに。
……約束してくれるなら、弁護させてやってもいい」
ξ;゚⊿゚)ξ「えええええっ? その上から目線おかしくない?
今って藁にも縋るとこじゃないの? 何で私からそっちにお願いする感じなの?」
(;'A`)「ヴィップ町で散々あんたの評判聞いてる身からしたら、信用ならねえんだよどうしても。
……約束しろ」
内藤はツンの腕をつついた。
分かりました分かりました答えます分かりました後でね。
ツンは面倒臭そうに言って、何度も頷いた。
-
(;'A`)「なら、頼んだ。……てめえ、こんな登場しといて負けたら承知しねえぞ!」
ξ゚ー゚)ξ「お任せあれ」
(;´・_ゝ・`)「……仕方ないな」
デミタスが署名と捺印を済ませる。
ツンは満足げに微笑み、フォックスの方を向いた。
すると、小槌から白い煙が伸び始めた。
ツンの書類が煙に乗せられて、フォックスのもとへ届けられる。
爪;ー;)「顔見知りを救うため、わざわざA県から……
出連ツン。お前の申し出、承諾しよう」
ξ゚ー゚)ξ「ありがとうございます。
──鵜束検事、先日のお電話ぶりですね?」
ζ(゚ー゚*ζ「結構美人ですよニュッさん」
( ^ν^)「頭悪そうなツラだな」
ξ#゚∀゚)ξ「おほほほほ検事ってどこの町でも腹立つわねド畜生!!」
空気が、すっかりツンのものへ変わっていた。
あんなに暗かった内藤の気持ちに、うっすらと光が射し込む。
なんだかとても、笑いたくて堪らなかった。
-
ツンは机の上に鞄をどっかと乗せると、中から色々なものを取り出して並べていった。
その内の一つ、何やら見覚えのあるノートを持ち上げると、
ぱらぱらとめくっていき、あるページで手を止めた。
ξ゚⊿゚)ξ「申し訳ありませんが、証人の反対尋問まで戻らせてもらえます?」
爪;ー;)「私は構わんが。検察官はどうだ」
( ^ν^)「……事があっさり進みすぎて、退屈してたとこだ」
すっかり無関係といった構えだったシャキンが
デレに肩を叩かれて我に返り、証言台へ移動した。
デミタスは迷ってから、座った。
内藤とドクオも彼女の登場につられて立ち上がっていたのに気付き、腰を下ろす。
傍聴席がざわめいていたが、ツンがシャキンの近くへ歩み寄っていくと、自然と私語は収まっていった。
ξ゚⊿゚)ξ「ええと……。証人が宿泊したのは『ろまん』の方。ですね?」
(`・ω・´)「……ああ」
ξ゚⊿゚)ξ「『れすと』へは立ち寄ってます?」
シャキンは僅かに口籠もり、少しして、認めた。
-
(`・ω・´)「……『ろまん』以外の旅館にも、泥棒対策をとっておいた。
俺は『れすと』も担当に入ってたから、何度か寄ってる」
ξ゚⊿゚)ξ「お祭の日には?」
(`・ω・´)「……。山車が温泉街に入った頃に、『れすと』の様子を見に」
ξ゚⊿゚)ξ「様子、というと」
(`・ω・´)「怪しい奴がいないかとか──カメラのチェックとか。
つっても、カメラはダミーだが」
ξ゚⊿゚)ξ「何時頃か分かります?」
(`・ω・´)「8時──半、くらい」
なるほど、とツンが呟いて、先程のノートをめくった。
弁護席へ振り返る。
ξ゚⊿゚)ξ「旅館『れすと』ですが……入口に設置してある監視カメラの件が、
少しばかり話題になったそうで」
(;´・_ゝ・`)「はあ……カメラには入館する被害者の姿がありましたが、
それ以降には被害者の姿が映っていませんでした。
なので、部屋の窓から外に出たのだろうと」
-
ξ゚⊿゚)ξ「それ以外に気付いたことは?
盛岡先生だけでなく、他の方も何かあればどうぞ」
(´・_ゝ・`)「被告人の姿は一度も映っていません」
ξ゚⊿゚)ξ「これも大事なことです。……他には?」
( ^ν^)「……証人が映っている」
ξ゚∀゚)ξ「はいビンゴ!」
ツンは、一枚のディスクを掲げた。
デミタスに色々訊きながら機械の準備をする。
諸々の用意を済ませると、モニターに変化があった。
どうやら、件の監視カメラの記録らしかった。
画質は少々粗いが、通りかかる人の顔は認識出来る。
右下の時刻は、事件当日の、午後6時半を示していた。
ツンがリモコンを取り、早送りさせる。
-
ξ゚⊿゚)ξ「お祭の日とあって、すごいわねえ。人の出入りが激しいったら」
彼女の言う通り、外出する者、逆に外から戻る者がなかなか絶えない。
祭の関係者だろうか、法被を着た男女も時折やって来ては、従業員と話して引き返していく。
早送りが止まる。
時刻は、午後8時37分。
ξ゚ー゚)ξ「こんだけ人がいても、体が大きいおかげですぐに見分けられますね、シャキンさん」
【( `・ω)】
靴からスリッパへ履き替えている男──その顔は、シャキンによく似ていた。
ξ゚⊿゚)ξ「彼は、この30分ほど後に『れすと』を後にしています」
(;`・ω・´)「……だから何だってんだよ!? さっき言った通りじゃねえか!」
ξ゚⊿゚)ξ「勿論ぜーんぜんおかしくないです」
「ただ、気になることが一つ」。
ツンは勿体ぶるように続けた。
ξ゚⊿゚)ξ「……この映像は、元々『れすと』にあったカメラのものです。
一方、証人の──ソクホウ警備会社が用意した、というカメラの映像は残っていません」
-
(;'A`)「? ダミーだって言ってただろ。残ってなくて当たり前じゃねえのか」
ξ゚⊿゚)ξ「そこがおかしいの。ねえ、鵜束検事?
検事も分かりますよね? え? 分かんない? もしかして分からないの? え?」
ζ(゚ー゚;ζ「ニュッさん小学生並みの煽り喰らってますよ!」
ニュッは思い切り舌打ちをしてから、答えた。
( ^ν^)「……『ろまん』ではダミーの中に本物のカメラを混ぜていたのに、
『れすと』ではそれがない」
ξ゚ー゚)ξ「その通り」
(;`・ω・´)「て、……手違いだったんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「……まあ、そういうことにしましょう。
何にせよ、シャキンさんが旅館に入ってから30分の間、
彼の『館内での行動』を示す証拠は一つもないんです」
-
(;`・ω・´)「……何だ、俺が怪しいってのか!?
冗談じゃねえよ、動機も何もねえし──毒殺に使われたとかいう薬も知らねえ!!」
( ^ν^)「おい……無罪判決のために、無関係の人間に罪着せる気かよ」
(;´・_ゝ・`)「出連さん、本当に大丈夫なんですか……?」
ツンは返事をしないまま、話を進めた。
──シャキンに、疑いの目を向けようとしている?
ξ゚⊿゚)ξ「それではここでちょっと話題を変えましょう。
私がとある『実験』をした映像があるので、そちらを」
証拠品の中から別のディスクを取り出すツン。
心なしか生き生きしている。
ξ゚⊿゚)ξ「裁判長、流石母者さんをご存知でしょうか。旅館『ろまん』の従業員。
皆様も話していた、例の、超除霊体質の方です。
いい神様とかには好かれるんですけどね」
爪ぅー;)「ああ、先程の話題にも……」
-
ξ゚⊿゚)ξ「彼女が建物の中にいる限り、その建物及び敷地内は、ちょっとした結界みたいになります。
結界の力が及ぶ範囲は『半径何メートル』なんてはっきりしたものではなく、
あくまで『建物・敷地の中』という区切りなんです」
姉者の幼馴染み──姉者には不憫なことだが──であるためか、
ツンは母者の体質と、その効果を熟知しているらしい。
「ろまん」で例えるなら、結界が及ぶのは塀で囲まれた部分だけ。
そのため館内は勿論、庭も結界の範囲内になる──とツンは説明する。
ξ゚⊿゚)ξ「彼女は住み込みで働いています。
一日二日、旅館から出たとしても、彼女の気配の名残で結界は維持される。
けれど多少弱まりはするので、庭の結界が薄れてしまう」
( ^ν^)「だからこそ、事件前夜に鬱田ドクオは庭に入れたんだろ」
その「事件前夜」とやらに彼女がどこにいたのかが問題なのだ、と、ツンはにやりと笑った。
ディスクを入れ替える。
ξ゚⊿゚)ξ「──流石母者は8月24日の午後8時から、26日午前10時まで、
『れすと』で臨時従業員をしていたんです」
ζ(゚、゚;ζ「え……!」
-
ニュッは顔色を変えず、ツンを睨んでいた。
そのまま、横にいるデレの名を呼ぶ。声にはたっぷり苛立ちが込められている。
( ^ν^)「照屋」
ζ(゚ー゚;ζ「ひゃあー……ごめんなさい、あの人に近付くと眩しくて堪んなくって、
あんまり近寄りたくないからちゃんと調べてませんでした……。
私基本的に被告人や被害者の過去とか洗い出してましたし、旅館は別の刑事に任せてましたし、あの、はい」
言い終わるや否やデレが飛び上がったので、たぶん足を踏まれたのだろう。
ツンは弁護席の机に寄り掛かり、リモコンを手に取った。
ξ゚⊿゚)ξ「では『れすと』の中に彼女がいる場合、結界はどこまで及ぶのでしょう?
──実験しました」
(-@∀@)『ハーイ、よい子のみんなコンバンハー。アサピーでーす』
いきなり、妙なテンションの眼鏡が大写しになった。
アサピー。
以前、呪詛罪で起訴された呪術師だ。
彼は霊というより、人間の恨みの念から生まれた「おばけ」である。
-
(;'A`)「誰だよこれ」
( ^ω^)「ツンさんの……えー、お友達?」
『そういうのいいから。ほら早く行きなさい』
(-@∀@)『痛ッ、もう、センセイったら。優しくしてクダサイよ』
所々上がったり下がったりする妙なイントネーションで文句を言いつつ、アサピーが退く。
ツンの声だけがしたかと思えば映像が揺れたので、
彼女がカメラを持って撮影したのだろう。
アサピーの周りに、何本か樹が見えた。
その向こうに少し開けた空間があり、さらに向こうに建物。
窓が並んでいる。
(´・_ゝ・`)「……『れすと』の裏庭ですか?」
ξ゚ー゚)ξ「当たりです、盛岡弁護士。
母者さんに頼んで、彼女が旅館内にいる状態で撮影しました」
-
( ^ν^)「なら、こいつが立っているのは裏庭の傍の林か。
……そこは『旅館の敷地』と見なされてねえわけだ」
爪'ー`)「この男は?」
ξ゚⊿゚)ξ「こいつはただのおばけです。知り合いの。
確実に映像にうつすために、実体化してもらってます」
(-@∀@)『それじゃァ行ってキマース』
アサピーが鼻歌を歌いながらカメラに背を向ける。
そのまま旅館へ向かっていき、
(;-@∀@)『どヮッひゃい!!!!!』
林と裏庭の境界線で、まるで見えない壁にぶつかったかのようにすっ転んだ。
(;-@∀@)『アー、ここカラですねェ……いたた……』
『入れそうにないかしら』
(;-@∀@)『壁あるみたいですモン……。むりやり突っ込むことは出来そうデスが、
ンなことしたらどうなっちゃうか分かったもんじゃ……』
『どうなっちゃうの?』
(;-@∀@)『あッ無理無理無理!! やめて! センセイこれ無理!! 熱い!!』
-
『もっと行けない?』
(;-@∀@)『押さないで! ダメ! ダメダメダメバカバカバカァッ!!
僕死にますッテこれホントむりアアアアアアアアア!!』
ツンのものらしき足がアサピーを押しやり、
彼の右腕が林の外に出た。
途端、アサピーの指先が溶けたように消える。
ニュッとデミタスがドン引きした顔をしている。
内藤も同じ表情だっただろう。
モニターの向こうでツンが足をどけ、アサピーは悲鳴をあげながら腕を引いた。
(;-@∀@)『僕の指ィ! どうすんですかァ!』
『あんたなら治せるでしょ』
(-@∀@)『ア、たしかに一時間もあれば治りますねェ……。
……モウッ、これ、普通の霊だったらすぐにお陀仏デスヨ』
そんなアサピーの言葉で、面白心霊映像は締め括られた。
実際に指が治ったのかどうか訊きたかったが、内藤は耐えた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ご覧のように、裏庭に霊は入れません。ほんとヤバいです母者さん」
爪;ー;)「そのようだ。……確認の仕方が容赦ないが」
ξ゚⊿゚)ξ「よって、検察側の、
『裏庭から窓を通して被害者に接触した』という推論は通らなくなります」
はたとニュッが我に返った。
彼のテンポはとっくの昔に崩されている。
少しくらい、いい気味だと思ってもバチは当たるまい。
(;^ν^)「馬鹿言え! この映像の信憑性がねえ!」
ξ゚⊿゚)ξ「今から母者さんに手伝ってもらって、一緒に実験します?
そこの刑事さん使って」
ζ(゚ー゚;ζ「わー! 嫌です嫌です恐いです!」
-
(;´・_ゝ・`)「……しかしそれなら、被害者はどうして窓から外に出たんでしょう?
ドクオさんがホライゾン君の体で呼び掛けることは不可能なのに」
リモコンで手のひらを打ちながら、ツンは「ですよねえ」と同じる。
視線はシャキンに向けられていて、
当のシャキンは、証言台に目を落としていた。
( ^ν^)「……簡単な話じゃねえか。
一旦憑依を解いた。
それで内藤ホライゾンが鬱田ドクオのふりをして話し掛けたんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「と仮定しましょうか。
……ところでこの窓、室内からだと、床から1メートルほどのところにありますよね?
室内の写真、あれ出せます?」
デレが母者の脅威に身震いしながら、一昨日の審理で使った証拠の中から客室の写真を引っ張り出した。
書画カメラに写真を乗せ、モニターに映す。
ありふれた和室。湯呑み茶碗が乗った卓袱台、座椅子、そして窓。
窓の位置は床から大体1メートル。
内藤が初見で抱いた感想と同じだ。
-
ζ(゚、゚*ζ「90センチメートルですね、正確には。いわゆる腰高窓。
まあ、部屋の位置からして、座ったまま風景を楽しむ──といった場所ではないので
和室にはちょっと高めです」
ξ゚⊿゚)ξ「外からだと、もっと高くなりますよね」
ζ(゚、゚*ζ「ええ、床下の高さがありますから、勿論」
ξ゚ -゚)ξ「……被害者の年齢っていくつでしたっけ?
ドクオさんが17年前に28で亡くなってるから、生きていれば今年で45歳……。
そのお母さんとなると、大体──」
('A`)「……今年で69歳になる筈だ」
ξ゚⊿゚)ξ「69。そんな方が、90センチも高いところの窓によじ登って
1メートル以上低い地面に下りるっていうのは、ちょっと難しいですよね」
(´・_ゝ・`)「たしかに……写真を見る限り、何かを踏み台にしたわけでもなさそうですしね」
事件発覚後までに誰も部屋に入っていない以上、
踏み台を使ったのなら、それが窓辺に置かれたままになっている筈だ。
フォックスが同意し、シャキンの顔色が悪くなっていく。
-
( ^ν^)「……登るのはどうだか分からんが、下りるのは、外から手伝われれば出来なくはないだろう」
ξ゚⊿゚)ξ「『手伝う』。……それは、内藤君には出来ません」
ツンが机越しに、右手を挙げるよう内藤に囁いた。
言われるままに包帯が巻かれている右手を挙げる。ニュッの眉間に皺が寄った。
ξ゚⊿゚)ξ「彼は右手を怪我していました。
傷の深さについてはニューソク病院のお医者様から証言をもらってます。
内藤君本人も、少し力を入れるだけで痛む、と友人……弟者君に話していたそうです。
これではとても、人ひとりを支えられるものではありません」
まさか左手だけで人間を受け止めたわけがありませんし──
と、ツンが口の端を持ち上げる。
( ^ν^)「……外側に足場を作った」
ξ゚ー゚)ξ「窓から下りるのに人の手助けがいらなくなるレベルの高さまで?
そもそもそんな足場を作るのすら、右手が使えない内藤君には困難では?」
(;'A`)「ま、待て待て、結局何だ? カーチャンは1人で外に出たのか? 出てねえのか?」
-
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、まず『踏み台を使わずに登る』ことに関して、自然な手段は何か考えましょうか?」
ニュッは既に分かっているのだろう、口を噤んでそっぽを向いた。
ツンが、内藤の顔を覗き込む。
解答を促されている。考えて、内藤は自信なさげに答えた。
( ^ω^)「……部屋の中から、人に手伝ってもらう?」
ξ*゚⊿゚)ξ「当たり当たり。えらいわ」
爪;ー;)「被害者以外の人間が部屋にいたのか!」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなりますね。
監視カメラ、手の怪我、諸々を考えれば、
それは内藤君でも、ましてやドクオさんでもありません」
(;´・_ゝ・`)「……まさか」
目こそ向けられずとも、全員の脳裏にシャキンが浮かんだ筈だ。
彼を示す証拠があるわけではない。だが、先程から彼の態度が怪しすぎた。
(;`・ω・´)「何だよ……何なんだよこれは! おかしいだろ、何で俺がっ!」
爪;ー;)「たしかに証人が疑われる道理はない。
弁護人、どうも証人を怪しんでいる節があるが、何か根拠はあるのか?」
ツンは腕を組み、頷いた。
それは、もはや彼が──犯人かどうかはともかく──犯行に関わりがあると認めたようなものだ。
シャキンが物凄い形相で食って掛かったが、木槌の音で引っ込まされた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「順序立てて説明します。
『被害者が窓から外に出た』、これ自体がおかしい。
そんなことしなくても、普通に玄関から外に出させればいい」
ξ゚⊿゚)ξ「直接部屋に行ったにしろ、窓から声をかけたにしろ……
玄関から出ろと言えば充分でしょう。
わざわざ窓から出すメリットがない。逆に被害者本人から怪しまれかねないし」
(´・_ゝ・`)「ですが、実際に被害者は窓から出たんですよね」
ξ゚⊿゚)ξ「ということはつまり、被害者は窓から出ざるを得ない状況にあった。
……玄関に行けない理由があった」
ζ(゚、゚;ζ「どういう──」
( ^ν^)「……被害者は動ける状態じゃなかった」
ぽつり、ニュッが言った。
ツンは無言だったが、笑顔で頷いていたので正解なのだろう。
爪;ー;)「ううむ……?」
-
ξ゚⊿゚)ξ「この室内の写真、少し別のところも見てみましょう。
……卓袱台、気になりません? 卓袱台というより、お茶」
それは内藤も気になったところだった。
( ^ω^)「座椅子がある側じゃなくて、その向かい側に湯呑みが置かれてますお」
卓上の湯呑み茶碗は、被害者が自分のために淹れたものだというのが検察側の見解。
そうなると、被害者は座椅子があるのとは反対の場所にいたことになる。
別に必ず座椅子を使わなければいけないという決まりもないし、
単に、被害者がそれを好まなかっただけという可能性もある。
しかし、それにしたって、自分が座る場所に座布団くらい敷かないだろうか。
写真のまま受け取るならば、被害者は部屋の隅にある座布団すら使っていないのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「まあ、このお茶が被害者のものだとしましょう。部屋に『犯人』が来ていたとしましょう。
それなのに、被害者は──」
( ^ν^)「『客が来てるのに茶の一つも出してやらなかったのはおかしい』とか言う気じゃねえだろうな」
ξ;゚⊿゚)ξ「ぉっ、ちゃ……をぅ……」
言う気だったらしい。
ここに来て、ツンの調子が狂わされた。
-
( ^ν^)「いきなり知らねえ奴が来て、自分の息子名乗って──
んな状況で、悠長に茶淹れるか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「い、淹れないとも限らないでしょう!?
ゆっくり話したいからちょっとお茶でも、って」
ζ(゚、゚*ζ「どっちも有り得るでしょうねえ。被害者が実際にどんな行動に出るかは、私達には分かりません」
ξ;゚З゚)ξ「ぐううう」
(;´・_ゝ・`)「出連さん」
ツンが唸るだけの生き物と化した。
所詮ツンだった。寧ろここまでスムーズに来られたのが奇跡と言えよう。
そのまま2分ほど経過する。
もしかしてみんな結構優しいのではないかと内藤が血迷ってきた辺りで、ツンの鳴き声が止んだ。
-
ξ゚⊿゚)ξ「もういい。順番なんて知らん。お前ら一旦思考リセットしろ。
被害者は祭会場ではなく、部屋で殺されたんです」
( ^ω^)「あんたは何だってそう重要な話をそんな糞テンションで」
突拍子がなさすぎた。
そのため、事件の根本を揺るがす発言の割に、誰もがぽかんと固まっていた。
(;´・_ゝ・`)「ええと……」
ξ゚⊿゚)ξ「凶器となった薬品、『ニチャン20』。
致死量は、あの小瓶の3分の1ですってね」
ああ、普通に進行したせいでデミタスが突っ込む機会を失った。
ξ゚⊿゚)ξ「それなら、小瓶一杯に詰めれば、3回は使えるわけです。
用心して一回につき瓶半分を使えば、2回」
何の話をしているのだ。
まさか2人も3人も殺したわけではあるまい。
この場のほとんどの人間(と神様とおばけ)は首を捻っていたが、
ニュッだけは、ツンのトンデモ推理についていけているようだった。
-
( ^ν^)「……お前が言いたいことは分かる。
部屋で茶に薬を混ぜて飲ませて殺し、そのあと死体を祭会場に運んだってんだろ。
で、会場ではジュースに薬を混ぜた、って具合だ」
ξ゚∀゚)ξσ「そうそう」
ニュッの額に青筋が浮かぶ。
──呆れを通り越して怒りを覚えているのは、一目瞭然であった。
爪'ー`)「それは……また……よく分からない話だな」
(;'A`)「弁護士、俺でも分かるぞ。あんた疲れてんだ」
ξ゚З゚)ξ「不可能な話じゃないのよ?」
(;'A`)「不可能だろうが!!
部屋で死んだ? 死んだ人間をどうやって会場まで運ぶんだよ!
第一、9時過ぎに歩いてるカーチャンの目撃証言あるんだぞ!!」
ξ゚З゚)ξ「ミステリ小説の読みすぎじゃない?
これ幽霊裁判よ?
死体を動かすのに、特別なトリックが必要だと思う?」
その発言で。
ニュッとデミタスは、はっと何かに気付く素振りを見せた。
-
(;^ν^)「──憑依」
ζ(゚、゚;ζ「憑依? ……あ、そっか」
今度はデレとフォックスも納得したようだ。
分からないのが悔しい。内藤はツンを見上げた。
ξ゚⊿゚)ξ「……まず、『犯人』が被害者の部屋を訪れた。
ドクオさんを騙り、信用させる」
ζ(゚、゚*ζ「そこで『あなたがドクオなの』って被害者の声を女将さんが聞いたんですね」
ξ゚⊿゚)ξ「被害者は自分の分と『犯人』の分のお茶を淹れた。
『犯人』は隙を見てお茶に薬を混ぜ、被害者に飲ませて殺害する」
(;^ν^)「だから、茶ァ出すかどうかなんて──」
ξ#゚⊿゚)ξ「ええい、とにかく最後まで聞け!!」
-
ξ゚⊿゚)ξ「被害者が使った湯呑みは、洗うなり捨てるなり、何らかの処理を施し──
彼女が部屋に一人きりだったことを印象づけるため、
『犯人』に出された方のお茶には手をつけず、そのままにしておいた」
(;'A`)「……死体はどうすんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「抱え上げて窓から外に出せばいい。
恐らくは、そのとき死体の右腕に打撲の跡がつき、裏庭の葉っぱが浴衣に引っ付いた」
先にニュッが言っていた、被害者は動ける状態でなかった、というのはそういうことか。
既に死んでいたから、玄関まで行かせることなど出来なかったのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「『犯人』は普通に旅館を出て裏庭に回り……結界の外まで死体を運んだ」
ξ゚⊿゚)ξ「お祭の山車のおかげで、多くの人は旅館の入口側に固まっていましたし、
その正反対に当たる裏庭には人の目はなかったでしょうから
容易だったと思います」
ξ゚⊿゚)ξ「『犯人』が死体を運ぶのは、結界の外まででいいから大した距離じゃない。
あとは待機していた共犯者──幽霊に取り憑かせ、
会場まで歩かせれば事足ります」
──共犯者。
真犯人にもまた、協力者がいたのだ。
それも、幽霊の。
-
ξ゚⊿゚)ξ「会場でジュースを買い、残っている薬を混ぜて、飲む。
あとは物影で倒れて、共犯者である霊は被害者の体から離れればいい」
ξ゚ー゚)ξ「これなら、窓がどうとか湯呑みがどうとかって不自然なところも、
まるっと説明つきません?」
傍聴席がどよめいている。
それを静めるのも忘れ、フォックスはツンの推理を何度も噛み砕いていた。
爪;ー;)「死んだ人間を窓の高さまで抱え上げたり、運べたりする者となると……
それなりに力のある者でないとな」
(;`・ω・´)「──!!」
シャキンの手が、証言台を殴りつける。
(;`・ω・´)「何べん言わせる気だ!? ……俺ァ証人だぞ!
警察様に貢献してやろうと思って証拠持ってったのに、どうして疑われなきゃなんねえんだ!!」
(;^ν^)「証人、落ち着け。──おい弁護士。結局、その推理には証拠がねえだろ。
現時点じゃ、あんたの主張はただの妄想だ」
-
ならば「内藤達が犯人である筈がない」ことを示す証拠を出す、とツンは宣言した。
ただ、その証拠は、彼女の手にはないという。
ξ゚⊿゚)ξ「……犯人にはまだやることがありました。
内藤君たちに罪を着せるための準備です」
そこで、彼女はシャキンが持ってきたという証拠品──「ろまん」の庭の映像を
もう一度流すように指示を出した。
デレが慌ただしく準備をする。
少しして、それは始まった。
カメラをチェックするシャキン。横切る内藤。
ベンチを照らす外灯。
ここがおかしいのだと、ツンが指を差す。
ξ゚⊿゚)ξ「この時間、このベンチの傍の外灯は球が切れていたらしいんですよ」
(;^ω^)「!」
思わず、身を乗り出させていた。
記憶の箱を引っくり返す。ドクオに呼ばれて庭に出て、ベンチに座って──
そうだ。あのとき、ベンチ脇の外灯はついていなかった。
-
(;`・ω・´)「なっ……」
ξ゚⊿゚)ξ「24日の夜に切れて、25日の昼に取り替えたと、『ろまん』の女将さんが言っていました」
(#^ν^)「……照屋ァ!!」
ζ(゚、゚;ζ「だっ、だ、だから、あの旅館すごく居づらかったんですってば!
庭の捜査は私以外の人に任せてまして……あのう……、……ごめんなさい……」
ξ゚⊿゚)ξ「よって──これは作られた映像であるわけです。
作り方は簡単ですね」
ツンは「作り方」を語った。
まずカメラの日時設定を25日深夜1時頃にする。
内藤に霊を憑依させ、その状態で、玄関以外の場所から内藤を旅館に入れて、庭へ来させる。
あとは、憑依させた霊に、犯行を匂わす発言などの一人芝居をさせる。──完成。
本当に簡単だ。
ξ゚⊿゚)ξ「こんなの、内藤君にもドクオさんにも不利な映像です。
彼らが犯人だというなら、わざわざ作るわけがない」
(;^ν^)「……くっそ……」
-
ξ゚⊿゚)ξ「そして、この映像を作ることが出来る人物は限られてきます」
ツンは右手を掲げる。
人差し指を立てた。
ξ゚⊿゚)ξ「条件1。カメラの存在を知っていて、かつ、カメラに細工も出来る」
次に、中指。
ξ゚⊿゚)ξ「条件2。玄関以外の場所から、協力者を旅館の敷地内に侵入させられる」
こつり、こつり。
ツンは靴底を鳴らしながら、証言台へと近付いていく。
最後に薬指を。
ξ゚⊿゚)ξ「条件3。幽霊と協力する程度には、霊感を有している……」
(;`・ω・´)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「結界の名残がありますので、憑依されてる内藤君は館内には入れません。外から庭に直接入らないといけない。
かといって、塀を越えるなんて、内藤君の右手では出来ません。
霊がよっぽど忍耐強いなら分かりませんが、だとしても、誰かに見られるリスクが高い」
-
ξ゚⊿゚)ξ「となれば、塀の、庭に通じる裏口から出入りしなければならない。
裏口には鍵がかけられている」
──シャキンは、警備の仕事を任されていた。
裏口の鍵など、その気になればすぐに手に入っただろう。
そのような趣旨の指摘をして。
とどめの一撃を、ぶつけた。
ξ゚⊿゚)ξ「『カメラのテスト』として撮ったのに……
どうして、電源が落ちているのに気付いたのが、祭の後だったんです?
どうして、『本番』の前に確認しなかったんです」
(;`゚ω゚´)「──!!」
シャキンが崩れ落ちた。
目を見開き、あらぬ方向を見て、硬直している。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……撮影を一通り終わらせたらまた裏口から内藤君を出させ、
被害者の死体同様、祭会場まで歩かせる。
被害者の傍に内藤君の体を転がし、内藤君の指紋をつけた小瓶をポケットに入れて、憑依を解く。
内藤君の中にドクオさんを戻して──完了です」
(;`゚ω゚´)「あ──ああ……畜生……畜生……──」
呻き、床に突っ伏すシャキン。
数秒の間の後、ニュッに指示を出され、デレが証言台に駆け寄った。
ζ(゚、゚;ζ「証言、……出来そうにありませんね……。後で事情を聞かせていただきます」
シャキンを立ち上がらせ、法廷の外へ連れていく。
デレが戻ってくるまでの数分間、法廷は異様なほど静まり返っていた。
なので、内藤は、現状をいまいち理解しきれなかった。
ニュッは頭痛を堪えるような顔付きで押し黙っているし、
フォックスははらはらと涙を落としながら首を緩く振っているし、
ドクオはシャキンが出ていった扉を睨み続けているし。
今、自分はどの立場にいるのだろう。
-
ζ(゚、゚*ζ「──ひとまず警察の方に預けてきました」
デレが法廷に戻り、そう告げたことで、再び時間は回り始めた。
まずはデミタスから。
(;´・_ゝ・`)「……彼が、真犯人だったということでしょうか」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなりますね」
あっけらかんとツンが頷いた。
フォックスの涙が勢いを増す。
爪;ー;)「ああっ、なんと恐ろしいことを!!
すまない、被告人……私はあと少しで、お前達に誤った判決を下すところだった!!」
自分が恥ずかしい──そう言って、フォックスは顔を両手で覆った。
内藤の体から、力が抜ける。
たった今、判決が出されたようなものだった。
──無罪だと。
しかしドクオは、すっきりした様子もなく俯いた。
存外あっさりと、真犯人は明らかになった。
それと同時に──自身の母親を殺めた男の姿を目の当たりにしたのだ。素直に喜べやしないだろう。
一件落着ムードが流れる法廷だったが、それを、机を叩く音がぶち壊した。
──発生源は、やはり、検察官。
-
( ^ν^)「動機。凶器の入手先。共犯者」
主語のみだったが、言いたいことは存分に表れていた
それらの説明がついていない、と。
これからシャキンを取り調べれば自ずと分かるだろうとフォックスが言う。
だが、ニュッは終わらせる気はないらしかった。
( ^ν^)「他にも細かいところの説明がなされてねえ。
これで勝ってるつもりじゃねえだろうな。
……てめえの主張が合ってたとして──その事件の最中、
鬱田ドクオはどこにいたんだ。内藤ホライゾンの中にはいなかったんだろ」
ξ;゚⊿゚)ξ「しつけえ……。……ここで、もう一つ実験しましょうか。リアルタイムで」
ツンが検察席へ歩み寄る。3歩、4歩。
机を挟み、ニュッと対峙する。
そして彼女はループタイの留め具に指をひっかけると、そのまま、ぐいと引き寄せた。
2人の顔が近付く。
内藤からはツンの表情は見えなかったが、
ξ゚⊿゚)ξ「……ムカつく顔してんのねえ……」
苛立ちを孕んだ声は、届いた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとの間だけ、体、使わせてもらうわよ」
(;^ν^)「……は? ──おい! 何、」
ぐるり、ニュッの体を傍聴席に向けさせて、
ツンはポケットから出した紙切れを彼の背中に叩きつけた。
ぴったり押し当てたまま、紙を破く。
早業すぎて、すぐ傍にいたデレも反応出来ていなかった。
反応出来たとしても、彼女がニュッのために何か行動するとも思えないけれど。
(; ν )「うごっ、」
ニュッの体が、痙攣するように跳ねた。
かと思えば、すぐにがくりと項垂れる。
2秒、3秒。
彼は、勢いよく顔を上げた。
(;^ν^)「──はっ!? あ!? ……ああっ!? ああ!!」
あちこち見渡して奇声を発するニュッ。
少し、いや、かなり恐かった。
検察官、というフォックスの呼び掛けにも応じない。
-
不審者と化したニュッは、ツンを見るや、額をぶつける勢いで詰め寄った。
(#^ν^)「おい! さっきの発言取り消せよ!」
声はニュッの声だ。だが、語調が違った。
溌剌としているような。
今までの彼のイメージからは、微妙にズレているような。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん?」
(#^ν^)「っつうか何でデレ刑事がいんだ? ここ法廷じゃんか!」
ツンはにやにやしている。
ツン以外の者は冷や冷やしている。
わけが分からない。
(;^ν^)「……あっ! デミタス様!!」
(;´・_ゝ・`)「え? え? え?」
(;^ν^)「聞いてくださいデミタス様、さっきこの女が、っびゃんっ!!」
いきなりこちらへ駆け出そうとしたニュッが、当然のように机にぶつかり、引っくり返った。
怒濤の混沌。
誰か助けてほしい。恐い。
-
( ;ν;)「いってえええー……何だよお、何か変だぞ、わけ分かんねえ……」メソメソ
ζ(゚、゚;ζ(うわー気持ち悪)
( ;ν;)「あ……? あれ……? 人間の手だ……もしかして俺、あれ、あ、うわ、これ検事? やだー」
(;´・_ゝ・`)「……エクスト!?」
ようやくデミタスがその名を叫んだことで、
内藤は今の事態を把握出来た。
とりあえず彼がいきなりぶっ壊れたわけではないらしいので、安堵する。
ニュッの中に、ニュッではないものがいるのだ。
よりにもよって彼と正反対の性質のものが。
ξ゚ー゚)ξ「この辺でいいかしら」
ツンが新たな紙を取り出し、再びニュッの背中に押しつけた。
紙は細長い。──何かの札だ。
めそめそ泣いていたニュッの全身から力が抜ける。
そのまま倒れかけたのを、デレの腕が防いだ。
-
ツンが内藤達のもとへ戻ってくる。いつの間にか、持っている札が2枚に増えていた。
拘束札に似ていた。似ていたというか、そのもののようだ。
検察席の方では、目覚めたニュッがデレから事の流れを聞き出していた。
聞かない方がいいと思うが、まあいいか。
それを尻目に、ツンは重ねた拘束札を真ん中から引き裂いた。
<_フ;゚ー゚)フ「ぷわっ!」
/ ゚、。;/「あうっ」
べちゃり、エクストとダイオードが突然現れて、床に落ちた。
拘束を完全に解くには、札を破く必要があるのだとか。また一つ、いらない知識が増えた。
<_フ;゚ー゚)フ「なん……もう、ばーか!」
/ ゚、。;/「ばーか!」
顔を見合わせる2体。ツンに暴言を一発かましてから、デミタスに飛びついた。
何がなんだか。
(;'A`)「……わっけ分かんねえ」
ドクオの呟きは、事態を受け入れきれない切実な混乱に満ちていた。
-
<_フ;゚ー゚)フ「デミタス様、何なんですかこの女!!」
/ ゚、。;/「……弁護士? 嘘だあ!」
(;´・_ゝ・`)「何故2人を拘束札に……」
ξ゚⊿゚)ξ「開廷前、彼らと雑談していたら
何故だか急に怒った顔で迫ってきたので……咄嗟に拘束札を使って、身を守りました」
棒読みなのは突っ込むところだろうか。
<_フ#゚ー゚)フ「お前がデミタス様の悪口言うからじゃんかー!!」
/#゚、。 /「拘束札は無闇に使っちゃ駄目なんだぞー!!
無害な霊に使ったら罰金だぞー!!」
ξ;⊿;)ξ「私はただ、個人的な盛岡先生の評価を口にしただけで……
それなのにいきなり危害を加えてくるんですもの、恐ろしくて思わず」オヨヨ
( ^ω^)(絶対わざとだ……)
-
(;´・_ゝ・`)「ああ、それはうちのが悪い。申し訳ありません」
/#゚、。 /「危害なんか加えてないもん!」
ξ゚⊿゚)ξ「まあとにかく。人為的に、霊を他人に憑依させたり取り出したり、っていうのは
出来ないことではありません。方法も様々。
対象の人物や霊にかかる負担は大きいですが」ケロリ
<_フ#゚ー゚)フ「おい、嘘泣きか! さっきの嘘泣きか!」
爪;ー;)「この弁護人はやることがめちゃくちゃだなあ……」
何故だか内藤の方が申し訳ない気持ちになってしまった。
こんな人でごめんなさいと謝りたい。
──そこへ、ニュッが話に加わってきた。
とりあえずいらぬ恥をかかされたことは理解したらしく、どことなく元気がない。
傍聴人たちがにやにやしながらニュッを見ている。若干気の毒だ。
( ^ν^)「『犯人』もまた、内藤ホライゾンから鬱田ドクオを引っこ抜き、
最後にまた祭会場で鬱田ドクオを捩じ込んだ──って話だよな、今」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
-
( ^ν^)「あの証人にそこまでの力があるようには見えねえ」
ξ゚⊿゚)ξ「そこなんですよ。……ちょっと話を戻しましょうか。
『ろまん』の庭の映像なんですが、
あれはどうも、シャキンさんが1人で計画したものではないと思うんです」
ξ゚⊿゚)ξ「既に言った通り、内藤君が座っていたベンチには明かりがなかった。
けれど工作を行った際には明かりがあった。
……視覚的に大きな違いです。いくら何でも、シャキンさんだってその場で気付くでしょう」
ζ(゚、゚*ζ「それでも敢行してますね」
ξ゚⊿゚)ξ「つまり──シャキンさんは、内藤君とドクオさんの実際の会話を、
見ても聞いてもいなかった」
彼女が話す度、何かする度、頭の中が掻き回される。
結論が早く欲しい。
ξ゚⊿゚)ξ「『別の誰か』が会話を見ていて、
シャキンさんに、工作するように言いつけたんです」
ξ゚⊿゚)ξ「犯行のほとんどはシャキンさんが実行したのでしょうが、
内藤君からドクオさんを取り出したり、後で戻したり、
諸々の準備を済ませたのは、その『別の誰か』なのではないでしょうか」
それを聞いて。
肩を揺らした人物がいた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「その人は当然、庭で内藤君と会話するドクオさんを見ることが出来た。
……当時『ろまん』には、霊感持ちの人間は誰がいたでしょう?
内藤君。シャキンさん。それと……」
ξ゚⊿゚)ξ「──盛岡弁護士」
(´・_ゝ・`)
「何を言うんです」。
デミタスが口元を笑みの形に歪める。
目は、笑っていなかった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「実績のある方にしては、今回の裁判、妙にずたぼろですね?
外灯の件だって、少し調べればすぐ分かることだったのに」
(´・_ゝ・`)「……私の実力不足ですよ」
ζ(゚、゚;ζ「え……え、え……」
ξ゚⊿゚)ξ「……人為的に憑依させる、取り除く。その方法は様々ありますが──
私がやった、拘束札を使う方法は比較的簡単でしょう。コツはありますけど」
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオさんは、警察にこう話しました。
『内藤君に取り憑いた。けれどすぐに意識がなくなって、気付けば被害者の傍にいた』。
──さて、拘束札に閉じ込められた霊は、どうなりますかね?」
ζ(゚ー゚*ζ『拘束札の中に入ってる間は、幽霊さん達の意識はなくなるんですよ。
こうやって外に出してるときは目が覚めますけど』
(;'A`)「──……あ……」
-
ξ゚⊿゚)ξ「拘束札の所持、使用を認められているのは、おばけ課の職員、おばけ法の検察官、それから」
( ^ω^)「弁護士……」
無意識に言葉を続け、肌が粟立った。
ニュッが固まっている。
フォックスは──涙も流さず、じっと弁護人席を見据えていた。
デミタスが困ったような顔で答える。
(´・_ゝ・`)「出連さん、冗談が過ぎます」
ξ゚⊿゚)ξ「この計画には、おばけが2体は必要です。
被害者に憑依させるのに一体。
内藤君に憑依させるのに一体……」
エクストとダイオードが、ぎくりと身を竦め、デミタスの後ろに隠れた。
──震えている。
(´・_ゝ・`)「私だけでなく、2人まで馬鹿にする気ですか?」
ツンは微笑むだけだ。
彼女も、目には一切、笑みを湛えていない。
-
ξ゚ー゚)ξ「弁護士って大変な仕事ですよね。
特にあなたは人間の民事裁判なんかもよくしてらっしゃる」
ξ゚ー゚)ξ「裁判に臨むからには、訴訟に関係のある資料を集め、
相応の知識を蓄えて、備えておかなければいけません」
(´・_ゝ・`)「……そうですね」
ξ゚⊿゚)ξ「──薬害訴訟の時なんか、大変だったでしょう?
難しい薬品名や、その効果、副作用なんかも調べなきゃいけなかったでしょう」
──薬害訴訟。
ζ(゚、゚;ζ「!」
デレが瞠目した。
それはそうだろう。いつぞや、デミタスの輝かしい経歴を披露したのは彼女だった。
その中に、たしかに薬害訴訟なるものが、あった。
ζ(゚、゚;ζ「あ、あの訴訟……たしか、強心剤の副作用の……」
ξ゚⊿゚)ξ「『ニチャン20』も、強心剤に使用されることがあるんですよね?」
-
<_フ;゚ー゚)フ「う──うるせえっ、うるせえっ!!
だからってデミタス様が薬用意したってのかよ!?」
喚くエクストをデミタスが押し止める。
まだ続きはありますか、とツンに問うた。
とんでもない疑いをかけられている者にしては、随分と落ち着いた態度だ。
ξ゚⊿゚)ξ「……被害者が今年宿泊した旅館は『れすと』になっていますが……。
彼女の日記を見てみると、お祭の2週間前に、予約を取り忘れたとの記述がありました」
昨日、内藤もそれを確認している。
その直後辺りで、日記が破かれていた筈。
ξ゚⊿゚)ξ「丹生素祭は有名なお祭ですから、その時期になるまで予約を忘れていたとなると、
たとえキャンセル待ちのサービスがあったとしても部屋をとるのは難しいと思います」
ξ゚⊿゚)ξ「それで女将さんに確認をとってみましたら──今回、馴染みの旅行会社からの口添えがあり、
被害者にお部屋を提供したとの答えをいただきました」
(;'A`)「……何で、そんな会社がカーチャンのために」
そのとき、驚きを声に滲ませながら発言したのは、ニュッだった。
-
(;^ν^)「旅行会社の訴訟……」
ζ(゚、゚;ζ「あっ……盛岡先生の!」
──訴訟で関わりを持った旅行会社から、度々宿泊券を譲り受けるようになったのだとは、
彼本人の談だ。
デミタスは目を伏せ、苦笑している。
この場に相応しい表情には見えなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「色んな企業に恩を売っとくのは、素晴らしいことです。
上手くいけば、必要なときに必要なものが手に入る……」
(;^ω^)「じゃあ、日記のページが破かれてたのって──」
ξ゚⊿゚)ξ「不利なことが書いてあったんでしょうね。
部屋の予約をとるのに協力してくれた人の名前、とか。
だからシャキンさんに、殺害のついでに該当ページの前後を破くように言いつけた」
ξ゚⊿゚)ξ「本当は日記そのものを処分したかったでしょう。
けれど──ドクオさんが釈放される可能性をなるべく潰すためには、
『被害者に希望があった』ことを示す証拠が必要だった」
ドクオに罪を被せても、無罪になっては意味がない。
仮に有罪となっても、刑が軽くなり、すぐに霊界から出られてしまっては
ドクオが真実を暴こうと躍起になりかねない。
出来る限りの重刑を与えなければならなかった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「それには、奇しくも、今年2月……盛岡弁護士と出会ってから最近までの日記が相応しかった」
日記を丸ごと残したら、直近2週間の内容から自分も事件に関わっていたことが知られる。
日記を丸ごと消したら、ドクオを重刑に処することが出来なくなる。
だから、ページを破るしかなかった。
爪'ー`)「……盛岡弁護人」
(´・_ゝ・`)「まあ、事実がどうあれ……出連さんからすれば、
『共犯者』と『薬の入手先』は、これで説明がつくのかもしれませんね。
でも肝心の『動機』がありませんよ」
/ ゚、。;/「そうだそうだ、そんなことしてデミタス様に何の得があるんだよ!」
(;'A`)「この人は、カーチャンを殺すどころか助けてたんだぞ。
動機なんざどこにもないだろ」
庇うように言ったドクオへ、ツンは一瞬、瞳を揺らした。
──ツンの目だ、と思った。
真実を明かすとき、誰かを傷付けてしまうことを憂える、彼女の。
ξ゚⊿゚)ξ「……『何故、17年経って、今更殺す必要があったのか』。
盛岡先生は2日前の審理で仰ったそうですね」
ドクオから目を逸らし、彼女は答える。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……今まで、なぜ何も起こらなかったのか、よりも──
つい最近になって、被害者の周りで何があったか、ということが重要です」
つい最近で、被害者にとって最も大きな出来事は何だったか?
──デミタスとの出会いだ。
ξ゚⊿゚)ξ「逆に言えば、盛岡弁護士もまた、被害者との出会いに大きな意味を感じていた。
──彼にとって、何らかの障害となるものとして」
ツンは、口を噤んだ。
ここで彼女に黙られては、話が進まない。
(;^ν^)「……黙るな、弁護人」
彼女は喋らなければならない。
それが、彼女の責任である。
ツンの口角が小さく震えた。
笑おうとしたのかもしれなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「……17年前……詐欺師、高崎美和が逮捕されました」
その名が出るとは思わなかったのだろう。
ドクオを始めとして、この場にいるほとんどの者が戸惑いを感じた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「霊を使役し、人を祟り殺し、悪霊にさえ呪いをかける──
並大抵の人間に出来ることではありませんし、
そんな人にしては、あっさり捕まったものです」
とんとん拍子に有罪判決が出て、刑務所に入れられてすぐに急死。そして消滅処分。
たしかに、出来すぎた話ではある。
ξ゚⊿゚)ξ「その上、術者の魂そのものが消えたにも拘わらず
20年近く経った今でも悪霊を縛り続ける呪いだなんて……。
そこまでの実力がある人なら、霊媒詐欺なんてケチ臭いことしなくても
いくらでもお金儲け出来たでしょう」
(;^ν^)「何が言いたい」
ξ゚⊿゚)ξ「悪霊に『呪い』をかけた人間は、まだ生きている」
ツンが目を閉じる。
次に瞼を持ち上げたとき、彼女の顔は、覚悟を感じさせるほどに凛としていた。
ξ゚⊿゚)ξ「刑事さん、言ってたわよね。
ニューソク市でおばけ法が導入されたのも大体17年前だって」
ζ(゚、゚;ζ「は、はあ……証人尋問のときに言いました」
-
ξ゚⊿゚)ξ「おばけ法という観点から見ると、あの霊媒詐欺は詐欺のみならず呪詛や殺人のオンパレードだった。
──おばけ法の導入により、本格的な捜査が始まってしまったら、大変なことになる」
(;^ν^)「……それで、生け贄として高崎美和に全て被せた奴がいると」
その者こそが詐欺計画の大本であり、
霊を使役したり、悪霊に呪詛をかけたりしていたのもそいつであると、ツンはきっぱり言い切った。
ζ(゚、゚;ζ「た、たしかにあれはグループ犯でしたが──でも、他の方たちもみんな高崎美和に騙されてて、」
ξ゚⊿゚)ξ「グループの全員捕まったの?」
ζ(゚、゚;ζ「……いえ、何人かがまだ」
ξ゚⊿゚)ξ「繰り返すようですが、多くの霊を使役するなんて、
ちょっと霊感が強い程度で出来るもんじゃありません。
天性の何かがなければ」
ツンは、静かに歩き出した。
デミタスの前に立つ。
内藤とドクオは、僅かに距離をとった。
-
(´・_ゝ・`)「……私はエクストとダイオードを『使って』なんかいませんよ。
2人は、自ら私の役に立とうとしてくれるだけです」
ξ゚⊿゚)ξ「それが異常なんです。彼らは盲目的すぎる。
──そうなるだけの経緯がある筈ですが……教えてくださいます?」
デミタスは視線を逸らし、息をついた。
エクストとダイオードは、デミタスの背中で丸まっている。
返答はない。
ツンが、話を続けた。
ξ゚⊿゚)ξ「……高崎美和は人の心を掴むのが上手かった。
『人に好かれる』のが、元来得意だったんでしょう」
ξ゚⊿゚)ξ「対して──『おばけに好かれる』のが得意な人もいます。
特に理由がなくても好かれて……おばけが自らしもべになったり、
裁判で碌に自分を守ってくれていないのに庇いたくなったり……」
(;'A`)「……」
ニュッが、横目でデレを見た。
──そういえば彼女だって人外のもので、そしてデミタスに心酔している。
-
爪'ー`)「……うちで預かっている、詐欺事件に関わっていた悪霊だが……」
不意に、フォックスが口を開いた。
爪'ー`)「事件については、一切口を割らない。
呪いもあるのだろうが、しかしそれ以上に……私には、誰かを庇っているように見えた。
殊に、呪詛を仕掛けた者について質問したときにその傾向が強まったと記憶している」
デミタスは、声を出さずに笑った。
困った子供を諭すような瞳で、ツンを見る。
(´・_ゝ・`)「それで……私が全ての黒幕だって? ……参ったな。
他の根拠が全く無いでしょうに」
ξ゚⊿゚)ξ「……ええ、根拠はないです。
──今は」
ちらりと、ツンが壁掛け時計を見遣る。
そのときだった。
*****
-
暗闇の中に、白衣がぼんやり浮かんでいた。
(-@∀@)「ザルですねェーセキュリティーも何もあったもんじゃない」
白衣の男、アサピーは、瓶を翳してみせた。
やたらと札が貼られた瓶の中では、どす黒い靄が絶えず蠢いている。
(-@∀@)「ヤアヤアヤア、こりゃこりゃ、大層な呪詛だ。
十何年も経って、まァだこれほど残ってるとはね」
一枚一枚、丁寧に札を剥がしていく。
最後の札を剥がして蓋を開けると、瓶の中身が溢れ出した。
その靄の一部を抓む。
(-@∀@)「呪詛返しもまだまだ有効でしょうな。
──そら、行ってオイデ。
何年も閉じ込められて、苦しかったデショウ」
靄は、その場でぐるぐる渦を作っている。
アサピーは首を傾げた。
-
(-@∀@)「ナンです、そんな生温いことを。悪霊の名が泣きマスよ。
あのネェ、ここでいっぺんやり返しとかないと、あなたジョーブツも何も出来ずにますます苦しいだけデスヨ。
──うん。ウン、ウン。そうそう。
だから行きなさいッテ。すっきりしたらジョーブツしなさいな」
何らかの交渉は上手く行ったらしい。
アサピーの手が靄を引くと、靄は色の濃いものと薄いものに分かれ、
それぞれ別々の方向へ散っていった。
宙に浮かびながらそれを見届けたアサピーは、一仕事終えたとばかりに伸びをする。
(-@∀@)「……センセイとはいえ、僕に仕事の依頼だなンて、高ァくつきますよう」
うふふ──不気味に笑って、彼は白衣を翻した。
地面へと降り立つ。
近くの電話ボックスへ入ると、白衣のポケットからテレホンカードを取り出した。
カードを差し込む。それから、淀みない動きで番号を押していった。
*****
-
──突然と言うよりほかない。
誰もが、固まっていた。
突然、法廷に黒い靄が飛び込んできたのだ。
これまでにも何度か見てきた──「呪詛」に似たそれは、獣のような形をとって。
デミタスへ噛みつき、消えた。
5秒もかからぬ出来事だった。
<_フ;゚ー゚)フ「デミタス様!」
/ ゚、。;/「デミタス様!」
(;´ _ゝ `)「っぐ、ううう……!!」
噛まれた右腕を押さえ、蹲ったデミタスが呻く。
右腕から垂れた血が、床を汚していく。
彼も、何が起きたか分かっていない。
いや、分かっていたとしても、今この場で「それ」が行われたことへの疑問があるだろう。
-
エクストとダイオードがデミタスの周りを飛び回る。
裁判官の席から飛び出してきたフォックスが、木槌から例の白い煙をだしてデミタスの腕を包んだが、
一見それらしい効果は感じられなかった。
爪'ー`)「……根深い呪詛だな。私がすぐにどうこう出来るものではない」
(;'A`)「じゅ、じゅそ……?」
(;^ν^)「何……」
ニュッとドクオは呆然とし、デレは血の匂いに涎を垂らす。
そして内藤は、落ち着いているふりをしつつ法廷内を見渡した。
傍聴人が騒然としている。
そこへ電子音が鳴った。
ツンの携帯電話の着信音だった。彼女はデミタスを見下ろしながら、携帯電話を耳に当てる。
ξ゚⊿゚)ξ「もしもし。──ああそう、ちょっと待って」
直後、検察席からも音楽が。
今度はデレの携帯電話のようだ。
ζ(゚ー゚;ζ「あ、私です……。……はい?
はあ、フォックス様ならここに……え? はあ!?
──消えた!?」
彼女達は、同時に通話を切った。
悠然と電話をしまうツン。焦るデレ。表情は対照的だ。
先に口を開いたのは、デレ。
-
ζ(゚ー゚;ζ「さ、裁判長! 吉津根神社の方から伝言が……。
件の霊媒師に手伝わされてたっていう悪霊が、
ちょっと目を離した隙に……あの、い、いなくなったって」
(;^ν^)「はあ!?」
爪'ー`)「……だろうなあ」
馴染みのある気配だった──とフォックスが言う。
何が、とまでは言わなかったが、聞かずとも分かる。
今しがた入ってきた、あの靄のことだろう。
ξ-⊿-)ξ「すみません皆さん……さらに大変な事実が」
( ^ω^)(あー、わざとらしい)
ξ゚⊿゚)ξ「たった今、私の知り合いの呪術師が、たまたまその吉津根神社の前にいたそうですが……
いきなり、恐ろしい霊が呪詛をまとって襲いかかってきたというので
咄嗟に呪詛返しをしたそうで」
アサピーか。
「たまたま」を強調しているが、ツンと打ち合わせしていたとしか考えられない。
-
ξ゚⊿゚)ξ「呪詛は犬のような姿をして消えていったと──
恐らくは、『祟り』を生み出した者のもとへ向かっただろうと」
爪'ー`)「そうか。……そうか」
ζ(゚、゚;ζ「……、そんな……」
エクストとダイオードが、力なく床へ落ちていく。
役に立てなくてごめんなさい──
2体は、底へ沈むような声で呟いた。
ξ゚⊿゚)ξ「盛岡弁護士。お怪我、大丈夫ですか? 死にゃあしないでしょうが、痛いでしょう」
(;´ _ゝ `)「──出連ツン……!!」
唸る。眼鏡が落ちる。
デミタスは床に頭を垂れるような体勢のまま、
これまで一度たりとも見せたことのない形相で、ツンを睨みつけた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……高崎美和を表のリーダーとした詐欺グループは、
時折セミナーを開いていた。皆さんも聞いていた通りです」
ξ゚⊿゚)ξ「あなたはそこで被害者と会ったことがあったんでしょう。
──17年経って再会したとき、向こうは覚えていなかったけれど、
あなたは恐ろしくて堪らなくなった」
──もし思い出されてしまったら、自分の人生が終わる。
仕留めなければ、安寧は訪れない。
ξ゚⊿゚)ξ「殺すタイミングを窺った。自分の手は汚したくない。
あなたは昔から、自ら手を下すことはしなかったようだしね。
……かといって昔のように霊を使って祟り殺せば、今のご時世、警察に見付かりかねない」
そこで丹生素祭に狙いを定めた。
人間とおばけが大量に集まる祭の中でなら、いくらでも警察の目を誤魔化せるだろうと。
-
ξ゚⊿゚)ξ「そして詐欺事件で関わりのあったシャキンさんにも協力させた……。
脅した、という可能性もありますけどね。
それだけの力はありますから」
(;^ν^)「待て、──それで、何であんな回りくどい殺し方をしたんだ。
弁護人も前回言ってたが、もっと簡単な殺し方があった筈だ」
ξ゚⊿゚)ξ「殺し方は、何通りか用意してたんだと思いますよ。
霊を取り憑かせて自殺、悪霊を使っての呪殺、もしものときの毒殺……」
ξ゚⊿゚)ξ「けれど彼は、庭で内藤君達の会話を聞いてしまった。
……焦ったでしょうね。まさか、標的の息子が来ているだなんて」
ξ゚⊿゚)ξ「下手に自殺や呪殺という手に出たら、警察は誤魔化せても、
ドクオさんが怪しんで嗅ぎ回るかもしれない。
だからいっそ──」
ζ(゚、゚;ζ「ドクオさんと内藤君を利用して、厄介な要素を全て始末しようとしたわけですか」
-
ξ゚⊿゚)ξ「母者さんが『れすと』にいなければ、もうちょっと単純な事件になってたでしょうけどね」
母者がいなければ──普通にエクストかダイオードを内藤に憑依させ、
シャキンのようにドクオのふりをして被害者に接触し、毒を飲ませるなり何なりしていただろう。
シャキンには目撃者になってもらえばいい。
しかし母者がいたため、殺害そのものに霊を関わらせることが出来なくなった。
だから、本来必要なかった工作活動をせざるを得なくなり──粗が出た。
それは内藤にとっては幸いだったろうが、それ以外には、何の益もないことだった。
デレが検察席を出る。
デミタスの傍で立ち止まり、這いつくばる彼を見下ろした。
困惑と無念を綯い交ぜにした瞳が──徐々に、熱を無くしていく。
やがて、そこには何の感情も見当たらなくなった。
にこりと微笑む。
ζ(゚ー゚*ζ「あんなに素敵だった盛岡先生、まさかニュッさん以上に嫌いな人になるなんて思いませんでした」
そして彼女は、片手でデミタスを立ち上がらせた。
シャキン同様、ひとまず退廷させるのだろう。
デミタスは抵抗しなかった。自身の眼鏡を踏みつけ、口元だけで笑いながらデレと共に歩いていく。
それをエクストとダイオードが追った。
-
('A`)「──なあ」
その背に呼び掛ける声があった。
デレが立ち止まる。デミタスも足を止め、振り返った。
('A`)「カーチャンの魂、どこ行ったんだ」
眼鏡をかけていないせいか、視界を澄まそうとするデミタスの目付きは悪い。
それだけで随分と印象が変わる。
その目でドクオを見つめ、へらり、笑みを深めた。
(´・_ゝ・`)「死亡の前後の記憶が抜けてたのか、自分が死んだことに気付いてないようで……
旅館の結界から弾き出されたんだろう、温泉街をふらふらしてたよ。
私に気付くと近寄ってきて──」
(´・_ゝ・`)「ドクオに会えた、ドクオが来てくれたと嬉しそうに話していたから」
幸せそうな内に、「しもべ」達に食わせてやった。
そう言って、ドクオから視線を外すと、彼はデレに引っ張られていった。
法廷の外へ連れ出され、扉が閉まる。
ドクオは無言のまま、椅子に腰を落とした。
-
静寂がそこにあった。
未だ近くにいたフォックスがドクオの手を取り、優しく握り締め、ゆっくり離すと裁判官の席へ戻っていった。
木槌を打つ。
ごくごく小さな音が鳴る。
爪'ー`)「……照屋刑事が戻るのを待とうか」
( ^ν^)「いや、しばらく戻んねえですよ。あれ。キレてるから」
発散するまで帰ってこないだろうとニュッは言う。
どんな発散の仕方なのか考えると恐ろしいが、
検察官である彼が放置するのなら、まあ違法行為ではなかろう。
そもそも、デミタスに、ではなく騙されていた自分に怒っているらしいので
他者へ危害を加えることもないとか何とか。そうであることを願おう。
そうか、とフォックスが頷く。
ツンが控えめに手を挙げた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「最後にどうしても、内藤君の名誉のために解いておきたい誤解があります」
爪'ー`)「誤解?」
ξ゚⊿゚)ξ「内藤君が親に見捨てられた、という検察側の主張です」
ツンは机上のファイルケースを開いた。
そこから、何通かの封筒を取り出す。
( ^ν^)「……手紙か?」
ξ゚⊿゚)ξ「内藤君の居候先、流石家長男……流石兄者君に宛てられた手紙です」
おおよそここで出るような名前でなかったため、驚いた。
なぜ今、兄者が。
クエスチョンマークを飛ばす内藤だったが、次いで出された名前に、さらにぎょっとした。
ξ゚⊿゚)ξ「差出人は、内藤君のご両親」
( ^ω^)「……僕の……」
ξ゚⊿゚)ξ「一部、読みます」
複数の手紙の内、一通を開いて、
ツンは朗々と読み上げる。
-
ξ゚⊿゚)ξ「──『兄者君、いつも手紙と写真をありがとう。
大学も忙しいだろうに、まめにホライゾンの写真を届けてくれて、感謝しています。
友達と仲良く遊ぶホライゾンの顔は、うちにいるときには見られないものばかりです。
毎月、楽しみにしています。』……」
今度は、別の手紙を。
ξ゚⊿゚)ξ「『申し出はありがたいけれど、気恥ずかしいので、私達の手紙はホライゾンには見せないでいてください。
あの子も、こんな手紙を読むのは照れくさい年頃でしょう。
ただ、出来たらあの子がうちに戻ってくるときにまとめて、いや、一通だけでも渡してほしいのです。
ずるいかもしれないけれど、帰ってくるときには、ちゃんと私達の思いを知ってほしい。』……」
畳んだ便箋を丁寧に封筒に収め、ツンはそれを内藤に手渡した。
ご両親の意思を無視してごめんなさい、と小声で内藤に告げる。
目の前のものを信じられなかった。
力の入らない手で便箋を取り出し、広げる。
母の字と、父の字があった。
ξ゚⊿゚)ξ「兄者君は、内藤君の写真を定期的にご両親に送っていました。
ご両親もそれを喜んでいます」
兄者が写真を送っているのは知っていた。
言っては何だが──彼のお節介だと思っていたのに。
手紙には、去年ヴィップ中学校で行われた体育祭の写真への感想があった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ご両親は内藤君を疎んでなどいません。
ただ、想い合っている親子でも、どうしても互いに噛み合えぬものはあるでしょう。
それが彼らの場合は『霊感』で、また、日々の生活を送る上で無視出来る事情でもなかった」
ξ゚⊿゚)ξ「だから、彼らは内藤君を流石家に預けた。
信頼出来る人達が──内藤君を愛してくれる人達がいる家に」
フォックスの目から、涙が零れた。
これまでとはどこか違う、ほろほろと優しく落ちる涙だった。
ξ゚⊿゚)ξ「これで、愛情がなかった筈がありません。
内藤君は聡い子です。全ては無理でも、いくらかは、両親の愛を感じていたでしょう」
ξ゚⊿゚)ξ「連絡する頻度が少ない? それでも彼らの間で、手紙やメールのやり取りは皆無ではありませんでした。
内藤君が定期テストで学年上位に入ったときにはご褒美もあったそうです。
図書券だったって兄者君は言ってたけど、合ってる?」
( ^ω^)「……それと、小さい子向けのお菓子の詰め合わせも。
あの人達、中学生男子が何をもらえば喜ぶか、よく分かってなくて」
ξ゚⊿゚)ξ「もらったとき、どう思った?」
( ^ω^)「……嬉しかった」
ツンは微笑み、踵を返して検察席へ向かっていった。
ドクオが肘で内藤をつつく。
無表情ではあったが、「良かったじゃねえか」と囁いてくれた。
-
検察席の前で、ツンが立ち止まる。
二度目の対峙だ。
ξ゚⊿゚)ξ「不思議ね、検事さん。
私、あなたから連絡があったとき、たしかに内藤君が演技上手なこととか、色々話したわ」
ξ゚⊿゚)ξ「でもその後に──『人の気持ちがよく分かる子で、心根は優しい子』だとも言った筈なんだけど。
法廷では削ってくれたみたいね」
( ^ν^)「……聞き取れなかったんだろうなあ」
ξ゚⊿゚)ξ「……。他人のやり方にいちいち口出す気はないし、今まであなたがどうやってきたのかは知らないけどね。
真犯人にいいように利用されて、偽の証拠鵜呑みにして、人の証言いじくって、いたいけな少年責め立てて……
反省くらいは、してくれるわよね?」
( ^ν^)「……言われなくても、今回の失態は何らかの処分の対象だろうよ。
死にてえくらいの赤っ恥だよ、くそが」
フォックスが、弁護人席へ戻るようにツンに言う。
ニュッに舌を出して、ツンは内藤の隣へ戻ってきた。肩に手を乗せられる。温かい。
爪;ー;)「判決を出そう」
そうして、木槌は振り上げられた。
*****
-
ξ゚⊿゚)ξ「おめでとう。……と素直に言える結末でもないわね」
裁判所近く、24時間営業のファミリーレストラン。
ツンはアイスティーを飲みながら、目を伏せた。
無罪判決のお祝い、という名目で連れ込まれたのだが、
夜食というにはあまりに重すぎる量の飯を貪るツンを見るに、ただ腹が減っていただけなのだろう。
昨日の昼から今夜に至るまで頭と体を酷使していたというので、そりゃあ腹も空こう。
( ^ω^)「……ですおね」
内藤の注文はスープバーだけ。
わかめと玉子のスープを飲みつつ頷いた。
横目で、半端に浮遊しているドクオを見遣る。
('A`)「まあ……カーチャン殺されて、嫌な過去バラされて、味方だと思った弁護士が糞野郎で……
俺からしちゃ、最低な話だったな」
ツンのステーキをちょくちょく摘まみながら(量は減らないが味は極度に薄まる)、
ドクオは他人事のように言った。
一時、彼を疑ってしまったことを申し訳なく思う。
-
裁判所を出るとき、彼の顔がどこか清々しさを感じさせるものになっていたのが不思議で、
そのことを訊ねてみる。
('A`)「もう何か、吹っ切れた。っつうか、色々驚きすぎて……なんだろうな、うん、諦めた。
最後の最後には、カーチャン、喜んだまま消えたみたいだし。
……たとえ偽者の『俺』に会った喜びでもな。いいんだ。嬉しかったなら」
ξ゚⊿゚)ξ「……ドクオさん、食べたいのある? 注文するわよ」
('A`)「気ィ遣うなよ弁護士」
ξ゚З゚)ξ「私のご飯食べられても困るのよ」
注文を追加して、ツンは一旦食事を中断した。
無糖のアイスティーを飲み干し、ぷは、と息をつく。
ξ゚⊿゚)ξ「内藤君、ここに来て2日で事件に巻き込まれて、旅行らしいことあんまり出来なかったでしょ。
……朝一でG県行ってみない? 日帰りプチ観光。お金は私が色々出してあげる」
唐突な提案だった。
G県、というと──ここN県の隣の県だ。
-
('A`)「ただG県に行くだけってんなら、ニューソク駅から電車で行ける筈だぞ、たしか」
( ^ω^)「何か用でもあるんですかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ミセリさんの、『真犯人』に関して、ちょっとね。
ラウン寺ってとこに寄ってみたいの」
今度の話題は、三森ミセリの事件。
そういえば彼女の病室に出た男を、ドクオが発見したのだっけか。
ミセリの事件での「真犯人」が、そのラウン寺とやらに痕跡を残していたのだとツンが説明する。
だから、何か手掛かりはないか、少しだけ調べてみたいのだと。
納得し、せっかくなので同行することにした。
頷く内藤にツンが笑う。手伝いが出来るのならしたかった。せめてもの礼だ。
だが、
('A`)「あんたが行って何になるんだ?」
こちらは、納得できないようだった。
ひどく怪訝な顔で首を傾げている。
-
('A`)「おばけ課の連中がもう調べたんだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ「周辺の霊達に聞き込みとか……」
('A`)「それもおばけ課がやったんだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「嘘ついてた霊がいるかもしれないじゃない?」
('A`)「だったらあんたにも嘘つくんじゃねえの?」
ξ;゚⊿゚)ξ「おっ、ぐうっ……」
たとえ霊が嘘をつこうと、ツンには真実を辿る力がある。
もちろん相性はあるので全て分かるわけでもないが、可能性はなるべく押さえておきたいのだろう。
ツンとドクオが睨み合う。
('A`)「……約束、覚えてるよな?」
ξ;゚ v゚)ξ「……」
('A`)「前から少し気になってたが、今回の件で確信した。
──あんた、どうも『全部』知ってる節がある」
ツンは目を泳がせた。
それは怪しすぎるだろう。
-
('A`)「少年も言ってた。『ツンさんがいればなあ』だとよ。
えらく信頼されてるもんだ。監視官よりもだぜ」
ξ;゚ v゚)ξ
('A`)
('A`)「……あんた、何か妙な力あんじゃねえのか?
盛岡弁護士みたいに、ただの霊感以上のものが」
ツンが笑った。これ以上の「苦笑い」もないだろう。
内藤が助けてやるべきなのかもしれないが、彼女とドクオの約束だ。口は挟まない。
ツンは熟考し、熟慮し、たっぷり数分かけて、結論を出した。
ξ;-⊿-)ξ「……あなたの生前の誠実さを信用して話すわ。
ぜっっったいに、誰にも言わないでね?」
-
──そうして、彼女は自身に備わっている「追体験」について、洗い浚い話した。
ドクオはといえば、とても信じられないといった顔付きで聞いていたが、
かといって嘘だと一蹴することもなかった。
('A`)「ええと……じゃあ今回は、あの人魂と一反木綿の記憶から真実を知ったわけか?
開廷前に話したっつってたし」
ξ゚⊿゚)ξ「いえ、大体は自分で推理してたり勘だったりするんだけどね。
ただ、あの2人のおかげで確信したっていうか」
(;'A`)「……おい、俺のは見るなよ。霊にもプライバシーってもんがだな」
ξ゚З゚)ξ「ドクオさんは私に対する警戒心が半端ないせいで全然見えないから大丈夫よ。
それはそれでちょっと寂しいけど」
ほっと息をつきつつ、ドクオが頭を掻く。
訊いてはいけないことを訊いてしまったと反省しているようだった。
そう思ってくれるだけ、やはり悪い人ではなかろう。
-
('A`)「……まあ、分かった。あんたは俺を信じてくれたし、俺も信じる。
誰にも言わねえ。言ったところで、俺に得があるわけでもないし。
──G県の捜査、手伝ってやるよ。詫びと礼だ」
ツンの顔が心なしか嬉しそうだった。
──自分の秘密を信じてもらえる、その上で秘密を守ってもらえることの嬉しさは、
内藤にもよく分かる。
殊にツンのそれは仕事に差し支えがあるものなので、ひとしおだろう。
注文した料理が届く。
それをドクオの前に置き、彼女は内藤に微笑みかけた。
ξ゚ー゚)ξ「……内藤君、帰ったら兄者君と弟者君にお礼言っときなさいね」
( ^ω^)「弟者?」
兄者には、あの手紙の礼を言うべきだろう。
しかしなぜ弟者にも?
ツンは、鞄から取り出したノートを内藤の方へ滑らせた。
法廷でも初めに開いていたものだ。
やはり、どこかで見た気がする。
-
ページを開き──納得した。
夏休みの課題、「税について」。
そのメモ書きがあった。
弟者のノートだ。
ページをめくっていく。
幾分か震え、乱れた字が大量に書かれているページが現れた。
「8:15 とりつく」「右うでにキズ」「ニチャン20」「さぎ」──
今回の裁判で出た言葉が、たくさん並んでいた。
それらのメモ書きは4ページに及んでいた。
ほとんど単語ばかりで、これだけでは何のことだかさっぱりだ。
だが、その次のページに、全ての情報をまとめたものがあった。
ξ゚⊿゚)ξ「法廷で、傍聴しながらメモをとって……
旅館へ帰ってから、徹夜で情報を整理して、分かりやすくまとめたんですって」
ξ゚⊿゚)ξ「それでヴィップ町に帰ってきてから……弟者君はギコに連絡とって、私に会いに来たわ」
-
#####
(´<_` )『あんたに頭を下げたくはないけど。
でも、あんたに頼るべきだとは思う』
ξ゚ -゚)ξ『珍しいわね、あなたが』
(´<_` )『……お願い、します。
ブーンを、助けてやってください』
#####
ξ゚⊿゚)ξ「これのおかげで、スムーズに状況の把握が出来たの。
検察側のどこを責めるべきかも分かった」
('A`)「おーおー、あの怖がり、おばけに囲まれて傍聴するだけでも大変だったろうに。
よくここまで頑張れたもんだ」
傍聴席で震えていた弟者を思い出す。
あのとき、彼は──内藤のために。
-
ξ゚⊿゚)ξ「『実験』のこともそうだわ。
私がお願いしたら、母者さん、事情を訊かずにすぐに了解してくれた」
ξ゚⊿゚)ξ「自分の娘や次男が嫌ってて、世間からも白い目で見られてる私の頼みを──
『内藤君のため』って聞いただけで、あっさり頷いてくれたのよ」
──ツンとドクオが、目を丸くした。
何故だろう。内藤は自分の顔に触れた。
涙が落ちていた。
演技以外で泣いたのは、いつぶりだろうか。
ツンが微笑む。何だか恥ずかしくて顔を手で隠した。
頭を撫でられる。位置からして、ドクオの手だろう。
ありがとう、という言葉を、何とか絞り出せた。
-
──自分は恐らく、運がいいのだろうと思う。
霊が見えることを知ってなお、それを受け入れてくれる友人がいるのも。
自分そのものを愛してくれる親と、それとはまた違う「家族」がいるのも。
幽霊裁判なんてものに関われたのも。
出連ツンに出会ったのも。
ヴィップ町に帰ったら、兄者に写真を撮り直してもらおう。
演技をしていない内藤の写真でも、両親はきっと喜んでくれるだろうと思った。
*****
-
──それから内藤は旅館へ帰り、泥のように眠った。
早朝、旅館を後にする際に、母者へ何度も深く礼をした。
彼女は何をそんなに感謝されているのか分からなかったようだが、気恥ずかしそうに頭を撫でてくれた。
で。
結局、G県ではこれといった情報を得られなかった。
ご当地料理が美味しかったし──ツンやドクオと騒ぐのが楽しかったといえば楽しかったので、
そういった収穫はあったけれど。
ヴィップ町に帰り、G県土産を弟者達に渡したところ、
何故G県、とたいへん怪訝な顔をされたのが少し面白かった。
-
(´<_`*)「──そ、それでさ、あの、で、デレさん、だっけ。
あの人、何か言ってなかったか?」
内藤が心からの礼を伝えると、
返事もそこそこに、もじもじしながら弟者が小声で訊ねてきた。
今回は弟者のおかげで助かったようなものだ。
感謝してもし足りない。
なので、真実を伝えてあげることにした。
( ^ω^)「あのひと妖怪だお。吸血鬼。いや、嘘じゃなくて。比喩でもなくて。ほんとに」
呆然とする弟者の肩を叩く。
「初恋は実らないもんだお」。
陳腐な慰めの言葉を吐く。
「妖怪はノーカンだし」。
呟く弟者は涙目だった。
case6:終わり
-
乙です
ツンさんかっけえええうえいあ
-
乙( ;∀;)イイハナシダナー
-
乙!
良かったぁ
そして弟者ドンマイ
-
投下しに来たら投下終わっててビビった
いや、この分量なんで正直ありがたいんですが、大変だったのではと申し訳なくもあり
今後もVIPで投下→創作で再投下って流れがあるかは分かりませんが(規制や気分による)、
色々と都合があるので、出来れば再投下も自分でやらせてください
でも今回はやっぱり助かった
>>360も誘導ありがとうございました。なんて親切
>>369
ニュッとデレは今後もう一回くらい出番あるかもしれない。ないかもしれない
-
とにかく、読んでくれた方も>>370もありがとうございました!
Romanさん、毎回ありがとうございます!
そして目次
case5 後編>>78
case6 前編>>98/中編>>196/後編>>370
-
乙!
ツンさんが有能に見えた
何らかの呪いか!?
-
乙!ほんと乙!
今回も伏線張りまくりですごい面白かった!幽霊ならではのトリックは唸らされてしまったし、 不器用な両親の贈り物と内藤の素直な反応に不覚にも涙してしまった…
とにかくすごい面白かった!
次回も楽しみにしてる!乙!
-
ケチつけんなら最初からVIPでやんな、カス
-
ツンさんの安心感ぱねぇ!投下乙でした!
カーチャンは結局最後まで騙されちゃったんだな…
-
VIPは見逃しがあるからこっちでも投下してくれると助かる(今回投下したのは>>1ではなかったようだけど)
何はともあれ乙乙
-
泣いた
よかったわ、おつ!
-
乙です!
一筋でいかない展開がほんとに面白い
ニュッデレも憎めない また出てほしいな
-
ここに投下する必要ある?
読み損ねたらまとめもあるんだし
-
ここに投下しないならここは必要ないから落とそう
まとめも案内所もあるんだし
-
面白いから必要
-
落とそうって……
ちょっと極端すぎやしませんかねえ
-
最近のブーン系ならVIP苦手ってやつもいるだろうし、別にいいんじゃね
-
まとめ…
-
作者と関係ないところでわーわー騒がれてもねぇ
-
VIPだと反応も多いし投下も楽しいだろ
そのうえで此方にも投下してくれるんだから俺はありがたく思う
-
いつ投下するとか知りたいし、まとめて一気に見たいときに使ってるし必要だなぁ
-
色々言い訳考えて長文打ってたけど、自分でわけ分からなくなったええい面倒くせえ
VIP・創作・まとめ それぞれに色々なメリットがあるんで、今のところはこのやり方を変える気はないです
(このスレ立てた時点ではVIP投下する予定なかったんで、初めからこうするつもりだったわけではないけども)
なので、VIPでやるならこっちいらないだろって人は、どちらかを見なかったことにしてくれるとありがたい
W投下が嫌だけど作品だけは読んでやる と思ってくれるのなら、それこそまとめさんでも読んでもらえますし
こういう雑な結論じゃ駄目だろうか
長文打つの苦手なの
あ、でも今のやり方で誰かに迷惑かかるようなら考える
-
あなたの作品なんだし
あなたのやり易いようにやってもらえればいいんやで
-
俺はVIP見ないし
まとめも遅かったりするから
助かってる
俺は、ね
-
好きなようにやればいいと思う
俺は今一番好きな現行だしどこでもいいからとにかく読めれば嬉しい
応援してます
-
文句言う奴は何処にでもいるんだし気にしなくていいんじゃね
-
W投下いいと思うー
-
>>533
どっちでも読めた方が嬉しいですよ。
いつもVIPでリアルタイムで読んだあと、こっちで読み返してるので!
大変だったら片方でも大丈夫ですが。
-
はい、迷惑です
うぜえええええええええええ作者様()うぜええええええええええええええええええええ
-
荒らしは読者にはカウントしないでしょう(*^^*)
-
俺もvipでおっかけて後からこっちでゆっくり読み返してる
作者にとって楽しい投下をしてくれればいいと思うんだ
-
佐藤いなくなったからどうしようもないな
-
VIPはブーン系本来の場所だから投下あると嬉しいし、リアルタイム遭遇できれば昔を思い出してさらに嬉しい
ここはリアルタイムを逃しても後から自分の好きな時にすぐ読めるから良い
読む方にしたら両方有るのはありがたい
でも、そういう意見があるからといって、無理してまで両方で投下する必要は必ずしもないわけで
つまり、作者のしたい様にするのが一番やね
なんにせよ大逆転劇面白かった 乙でした
-
vipでは読まないしこっちで投下してくれるのありがたい
ログ速で読むと、vipで盛り上がってるのが伝わって、なんとなく嬉しくなる
というわけで、投下する労力は大変かもしれないけど、一人の読者としてはダブル投下嬉しいです
なによりこの話面白いし
今回の話もどんでん返しで面白かった
両親の気持ちがわかって内藤よかったね、、、と泣けた
乙です
-
仕事じゃないんだ好きにしたらいいじゃないか。ただVIPだと一人で合いの手みたいに何十回もレスする気持ち悪いのがいるから、できたらこっちには投下して欲しいなぁ
-
合いの手が気持ち悪いて
-
あれは感想と猿避け兼ねてるんだよ
言わせんな恥ずかしい
-
流石にネタだよな
-
まあ好きにしたらいいんじゃないかと思います
-
ソーサクのみの人は猿とかわかんないだろーな
-
VIPで投下します(キリッ
クッサwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
-
>>552
!????!?wwwwwwwwwwwwwwwwww
-
こんな面白い作品が色んなところで読めるのは幸せ
やりたいようにやるのが一番
-
作者がやりたいようにやったらいいと思う
-
もういいだろこの話は
-
てかぶっちゃけなんでお前らそんな白熱してんのかわからんのだが…
読めればどっちでもよくね?
-
伏線回収が熱すぎて思わず叫んだ毎回くっそ面白い!
内藤の両親のとこは泣くし俺の感情が忙しかった
ツンちゃんかっこいいじゃないですか…アサピーもかっこよくて惚れた
面白くて大好きだ!おつ!
-
vipはすぐ落ちるから見られない事が多いし、まとめは遅かったり読みにくかったりで見なくなった
ここで投下してくれるのが一番嬉しいけど止めるならまとめで読む
鮮やかな大逆転勝利
ツンの活躍にスッキリ爽快
今回も面白かった乙
-
昔ながらのラドン達が沢山沸いてるなぁ
乙
-
支援がウザイならNGすればええんちゃう?
-
何十回もvipでレスしてごめんね、こっちと違って支援いるかなって…
作者の好きにしてって意見が多数派だし作者の思う通りでがんばって
-
>>562
君みたいな人がいないと最後まで投下できずに落ちるときもあるんだぜ
まあ、この作品は落ちることはないだろうから他の作品にもしてあげてほしい
-
しかし弟者がいいやつすぎて泣いた
-
猿避けにもなるし別にいいんじゃね
-
猿避けにもなるし別にいいんじゃね
-
V .丶 / /
V ヽ // /
V,. \ /// ./
V、 \ //// /
Vヘ .\ ///// /
V∧ \ _,、 -- 、 /////〈 ./
V∧ `ー ' ´ ` ー、 /
V/∧ ,. '^ ヘ /
V/∧/ '.:;V
〉.///, 〈
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猿 避 け に も な る し 別 に い い ん じ ゃ ね
─────────────────────────────────────────
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\//∧ イ
-
やめろwwwwww
-
>>567
なんでここにまで出張しきにてるんだよオトちゃんwww
-
>>567
DDRwww
-
今回の事件、かーちゃんの死体を憑依したことで動かした、っていうトリックが、
幽霊ものであるこの作品ならではで面白かった
-
>>567
くそ、コーヒー吹いたwww
-
皆DDRよんでんだなww
-
この作品、すげぇ読みやすい
ブーン系書いてみるかとか、一瞬思ってたけど、ちゃんとプロット練ったりして出直すわ
読みやすさってどうやって培うんだよ
-
人ってあったかいね
投下乙、ニュッざまあ
-
次回投下を楽しみにこのスレを開くと、毎回>>565-567の流れで笑ってしまう
-
今回デミタスが出たのがすげー嬉しかったわ
毎回楽しみにしてる
しえ http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4692741.jpg
-
かわいい!
-
>>577
ありがとうございます!! 背景は法廷だろうか。すごい
スーツにスカートにストッキングの組み合わせ最高
しぃの胸から腰ら辺の感じも物凄く好きです
-
絵が流れる前に、作者間に合ったな
左下の( ^ω^)がかわいくていいな
-
番外編をば
-
番外編:大晦日の話
(*゚ー゚)「もう大晦日だな」
(,,゚Д゚)「本編ではまだ8月末なんだけど……。
ところであんた今年もこの離れの部屋で年越すの?」
(*゚ー゚)「どうせ明日は母屋で親戚の集まりがあるし、今は人の少ないところでゆっくりしたい……」
(,,゚Д゚)「そりゃまあ同感だけどお。
寂しくなあい?」
(*゚ー゚)「別に」
(,,゚Д゚)「暇つぶすために色々ゲーム買ってきたけどやる?」
(*゚ー゚)「いらん。……トイレ行ってくる」
(,,゚Д゚)「そんなのいちいち言わなくていいし、言うなら『お花摘んでくる』って表現くらいしなさい」
(*゚ー゚)「巨木切り倒してくる」
(;,゚Д゚)(大便……? まさか大便なの……?)
-
〜トイレ〜
(*゚ー゚)(寒いなここ……母屋の外れの方にあるから仕方ないか……)
(*゚ー゚)「よいしょ」ヌギヌギ
(*゚ー゚) フー
(*゚ー゚)
::(;*゚ー゚)::「!?」ブルッ
(;*゚ー゚)(何だ!? 急にますます冷え込ん……いや、窓か? 窓が開いた!?)
(;*゚ー゚)(一体何が……!)クルッ
窓| "ゞ| (ー゚* )
.
-
窓| "ゞ|「あっ」
(゚ー゚*)
窓| "ゞ|「ごめんなさい」
(゚ー゚*)
窓| "ゞ|「間違えました」
(゚ー゚*)
窓| "ゞ|「失礼します」
窓‖≡≡ ピシャッ
(゚ー゚*)
(*゚ー゚)
(゚ー゚*)
(゚Д゚*;)「うわあああああああああああああギコォオオオオオギコォオオオオオ!!!!!」
*****
-
ξ-⊿-)ξ「大晦日ねえ」
( ^ω^)「本編だとまだ8月末なんですが……あれ、何かこのやり取りがデジャヴ……?」
('A`)「今年も残すところ6時間か。色々あったなあ」
( ^ω^)(何で僕、変なお姉さんと浮遊霊に囲まれてファミレスでアイス食べてるんだろう)
ξ゚⊿゚)ξ「内藤君、夜の予定は?
ないなら、うち来ない? いっそ泊まっていかない?
あ、やらしいこと期待しちゃ駄目よ?」
( ^ω^)「おぞましい……」
ξ゚⊿゚)ξ「アイス美味しい? お姉さんが払ってあげるからもっと食べていいのよ」
('A`)「こいつ……1人で年越すのが寂しいからって、中学生をアイスで釣ってまで……」
ξ;⊿;)ξ「だって寂しいんだもの」
('A`)「俺が泊まってやろうか?」
ξ゚⊿゚)ξ「結構です」
('A`)「そんな真顔で」
ξ゚⊿゚)ξ「絶対に嫌です」
('A`)「しかも敬語で」
-
ξ゚З゚)ξ「ちぇーっ、今年も1人かー」
< ピリリリリ
ξ゚З゚)ξ「ん、携帯……ギコからだわ」
ξ゚⊿゚)ξ「もしもし?」
ξ;゚⊿゚)ξ「……は? なに……待って、そっち怒鳴り声がうるさくてよく聞こえな……ええ?
変態? どしたの? ショボンさんがついにやらかしたの?」
('A`)「青ネギ……ついに……」
ξ;゚⊿゚)ξ「なん……もう、分かった行く行く、行くから!
カンオケ神社に行けばいいのね?」
*****
-
〜カンオケ神社・拝殿〜
(;"ゞ)「違うんです。間違えたんです」
( ^ω^)(見知らぬおっさんが、ギコさんとしぃさんとオサムさんに囲まれて正座している……)
(#゚゚Д゚゚)「現行犯だ! 有罪だ! 霊界にぶちこんで極刑を与えよ!!」
( ^ω^)(しぃさん……なんだろうか、あれは……)
('A`)「キレてんなー」
ξ;゚⊿゚)ξ「えーっと、何があったの?」
(;,゚Д゚)「あのおばけが、トイレ覗いたんですって」
( ^ω^)「うわあ」
('A`)「うわあ」
-
(;,゚Д゚)「それで逮捕して、一応ここに連れてきたんだけど」
(;"ゞ)「本当に間違えただけなんです……」
(#゚Д゚)「何をだ!!」
(;"ゞ)「覗く相手を間違えて……」
((#゚゚Д゚゚))「つまりうちのギコ狙いだったのか死ねコラァアアアアアア!!」
('A`)「余計キレた」
(;,゚Д゚)「しぃ、そういう言葉遣いやめなさいったら」
ξ;゚⊿゚)ξ「っていうか、え? マジでギコ狙いなの?」
( ^ω^)「おばけの趣味理解できませんわマジで」
【+ 】ゞ゚)「うちのくるうに近付かないでくれ」
川;゚ 々゚)(こわい)
-
(;"ゞ)「いえ、そっちの人を覗こうとか、そういうことじゃなくて!」
(#゚ー゚)「弁護士も来たことだし、今ここで裁判を始めましょう!! 覗き罪! 有罪! 終わり!」
【+ 】ゞ゚)「裁判になってないぞ」
(#゚ー゚)「大晦日の今日くらいは仕事も家のことも学校の課題も何も考えずに休もうと思ったのに!!
どうして年末の最後の最後にこんな面倒臭そうな変態に関わらねばならない!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、覗かれたことじゃなくて、そこに怒ってるのね」
( ^ω^)「この人もなかなかズレてますお」
('A`)「んで? 裁判するんスか?」
【+ 】ゞ゚)「俺は正直寝たい」
川 ゚ 々゚)「オサムは夜中から忙しくなるから今の内に休まないと駄目ー」
( ^ω^)「ああ、初詣」
-
(#゚ー゚)「大晦日の今日はナマハゲがパトロールのために各地を回ってる筈だ。
ナマハゲに引き渡して八つ裂きにしてもらおう」
ξ゚⊿゚)ξ「……ん、ナマハゲねえ。大晦日か……大晦日……」
(;"ゞ)「ひぎいっ!? ほ、本気で引き渡す気ですか!?」
ξ゚⊿゚)ξ「いえ、そうじゃなくて……」
(;,゚Д゚)「ともかく、いい加減しぃも落ち着きなさいって! はい深呼吸」
(#゚ー゚)=3 フー、フー
(,,゚Д゚)「一旦、彼の話を聞きましょう? ね?
案外ちょっとした行き違いかもしれないし」
(*゚ー゚)「……ふん。分かった」
(,,゚Д゚)「それじゃあ何から訊こうかしら。──人違いだったのよね? 誰に用があったの?」
(;"ゞ)「僕は幼い少年や少女の排泄時にしか出ないことにしてるんです」
(;,゚Д゚)「ヒエエエエ〜〜〜〜〜!!」
(;'A`)「あかんやつや〜〜〜〜〜」
川 ゚ 々゚)「死ねばいいのに」
( ^ω^)(くるうさんがあんなに冷たい目と声を……)
-
(*゚−゚)「裁判長これ消してください」
【+ 】ゞ゚)「やぶさかではない」
(;"ゞ)「えっ、消滅処分!? ただ子供達の排泄を見守ってるだけなのに!?」
( ^ω^)「『だけ』て」
(;'A`)「ガキかあ……若くて色っぽいお姉ちゃんなら分からないでもないんだが……」
スススッ
ξ゚⊿゚)ξ))( ^ω^))) ('A` )「冗談だよ。覗いたりしてないから距離とらないでよ。おじちゃん恐くないよ」
.
-
ξ;-⊿-)ξ「……それはともかく。えーっと、あなた、何ていうの?」
(;"ゞ)「で、デルタです」
(#゚ー゚)「デルタ? あ? 幼女のデルタゾーン覗いたろうってか?」
(;,゚Д゚)「人様の名前をド下ネタに持ってくんじゃないの女子高生!」
ξ;-⊿-)ξ「デルタさんね。……訊いたのはそこじゃなくて……。
あのね、真っ先にするべき自己紹介を忘れてるわ」
ξ;゚⊿゚)ξ「──加牟波理入道でしょう、あなた」
( ^ω^)「がんばり」
('A`)「にゅうどう?」
-
(,,゚Д゚)「あ──ああ、そうねえ、そっか、加牟波理入道……。『かんばり』とも言うけど」
川 ゚ 々゚) ?ハテナ
【+ 】ゞ゚)「厠を覗く妖怪だな」
('A`)「え? トイレ覗くのが習性なの?」
( ^ω^)「何のために?」
(;"ゞ)「な、何のためと言われましても……。
我々加牟波理入道はそうして生きていますので……」
(#゚ー゚)「加牟波理入道の可能性はたしかに僕も考えはしたが、証拠がない!
ただのド変態な浮遊霊である確率の方が高いだろう!」
ξ゚ -゚)ξ「しぃ検事はギコが傍にいないと幽霊とか見えないでしょ。
それなのにあなたにもデルタさんが見えたってことは、
デルタさんが自ら、あなたに見えるように姿を現したってことになるわ」
ξ゚ -゚)ξ「ただ覗きたいだけなら、そんな無意味で危険なことするかしら」
(;*゚ー゚)「そ、──それだけでは証拠には……」
-
ξ゚⊿゚)ξ「他の証拠ねえ……。
……デルタさん、息吐いてみて。ふーって」
(;"ゞ)「は、はあ」
( "ゞ) フーッ
( ^ω^)「お」
('A`)「息が鳥の形に……」
ξ゚ー゚)ξ「鳥山石燕の描いた加牟波理入道の姿は、口から鳥を吐いてるものだわ。
これは証明にならないかしら」
(;*゚ー゚)「ぐ、ぐぬぬ……」
-
ξ-∀-)ξ「さっきナマハゲって聞いて、大晦日に関係する神様や妖怪のことを考えたら、
加牟波理入道に思い至ったわけよ」
ξ゚∀゚)ξ「大晦日に、トイレで『がんばり入道ほととぎす』って呪文を唱えると
加牟波理入道が現れなくなったり黄金が手に入ったり、とにかく何かしら恩恵があるんですって」
( ^ω^)「が、がんばり入道ほととぎす……」
('A`)「一発ギャグっぽい響きがするんだが……」
川*゚ 々゚)「がんばりにゅーどーほととぎすがんばりにゅーどーほととぎす」キャッキャ
(,,゚Д゚)「逆にその呪文が不吉だっていう説もあるんだけどねえ」
川;゚ 々゚)そ 「!?」
( ^ω^)「どうしろと」
【+ 】ゞ゚)「信じたい方を信じればいいんじゃないか」
-
投下初遭遇だ!!
-
(#゚ー゚)「というか! まず! 加牟波理入道だから何だってんだ!!
トイレを覗くことに変わりないだろうが!! ド変態だろうが!!
しかも小児性愛者だ! 救いようがない!」
(;"ゞ)「違うんです! 違うんです!」
ξ゚⊿゚)ξ「どうして子供限定なの? そんな習性あったかしら?」
(;"ゞ)「そりゃあ、あのう、こ、子供って、夜中のトイレを怖がるじゃありませんか……」
(,,゚Д゚)「んー、そうねえ。大人になった今でもたまに怖いし」
( ^ω^)(姉者さん未だに1人で夜にトイレ行けないんだよなあ)
('A`)「言われてみると、俺もガキの頃は怖かったな。
トイレ行くの我慢して、けっきょく寝小便したこともあったっけか」
(;"ゞ)「そうなんです、可哀想なくらい怯えたり漏らしてしまったりする子供が結構いるんです……。
だから、『夜のトイレ』というものを怖がらないようになってほしくて」
【+ 】ゞ゚)「……お前が厠を覗くのと何の関係があるんだ?」
(;"ゞ)「子供って、特に幼いのは、まあ僕を見て怖がりますけど──
存外、受け入れるのも早かったりするんです。
こちらが友好的であれば、ですが」
-
しぃのこんな場面を見られるなんて
-
(;"ゞ)「それで、夜中にトイレに行くのは怖いことではないんだぞ、と……。
悪いものが来ても僕が追い返してやるからと。
こういう具合に言ってやると、トイレが平気になるって子供が多いもので」
( "ゞ)「……大抵は、大人になっていく内に僕のことを忘れたり、僕との会話を夢だと決めつけてしまうみたいですがね……。
それでも、子供達やその親御さんの役に立てるなら、無駄ではないかなって」
【+ 】ゞ゚)「ふむ……そうだったのか。感心なことだ」
( "ゞ)「今日はちょっと年末の賑やかさに当てられて、うっかり夜にならない内から──
それもトイレを怖がる年頃でもない方のところに出てしまいました。
大変ご迷惑をお掛けしまして、申し訳ございません」
( "ゞ)「決して、疚しい気持ちがあったわけではないんです……」
(;*゚ー゚)「……」
ξ´⊿`)ξ=3「いい人ねえ」
川*゚ 々゚)「格好いい……」
【+ 】ゞ゚)" ピクッ
川*゚ 々゚)「オサムほどじゃないけど」
【+ 】ゞ゚) アンシン
(;'A`)(今一瞬すさまじい殺気が)
-
(,,;Д;)「やだもうごめんなさいね逮捕なんかして! 早とちりだったわ!」
(;*゚−゚)
(,,;Д;)「しぃ、あんたも謝りなさい!」
(;*゚−゚)「……す、すまなかった。……ごめんなさい」
( "ゞ)「いえ、こちらが悪かったので……。
──もう、行ってもよろしいでしょうか。
大晦日は夜更かしする子供が多いので、準備しておきたいんですが」
(,,;Д;)「どうぞどうぞ!」
ξ゚⊿゚)ξ「いいですよね裁判長」
【+ 】ゞ゚)「構わん。行け」
( "ゞ)「ありがとうございます……失礼します」
( ^ω^)「……あ。すいませんお」
( "ゞ)「ん?」
( ^ω^)「何で口から鳥出すんですかお?」
( "ゞ)「ああ……あれやると、子供ウケいいんだ」
(;'A`)「意外と理由軽ーい」
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「──さて。
デルタさん帰ったし、私達も引き上げましょうか」
( ^ω^)「そうしますかおー」
('A`)「今年最後の日に、最高に下らねえ話に付き合わされちまったな……。
内藤少年の家で年越し蕎麦食うか」
( ^ω^)「何でナチュラルにうちに来るんですかお」
ξ゚⊿゚)ξ「……お邪魔していい……?」
( ^ω^)「駄目っていうか、弟者に追い出されて終わりでしょうが。
──それじゃあ皆さん、失礼しますお」
ξ゚ー゚)ξ「よいお年をー」
【+ 】ゞ゚)「俺も奥で一旦休むとする」
川*゚ 々゚)「くるうも一緒に寝るー」
【+ 】ゞ゚)「今夜からしばらく大忙しだな。毎年のことだが」
川 ゚ 々゚)「今年のお正月みたいにあるばいとの巫女の子達に鼻の下伸ばさないよね? ね? くるう以外の女に興味持つはずないよね? ねえ?」
【+ 】ゞ゚)「……うん」
-
(,,゚Д゚)「あたし達も帰りましょ」
(*゚−゚)「……」
(,,゚Д゚)「まーた拗ねる」
(*゚−゚)「大晦日にまで、あの人に負けてしまった」
(,,゚Д゚)「別に今回のは裁判でもないでしょ」
(*゚−゚)「自省はしている。
ただ今は単純に、勝ち負けとして悔しい」
(;,゚Д゚)「んもう、面倒くさいわねえ」
(,,゚Д゚)「──あ」
(*゚−゚)「どうした」
-
(,,゚Д゚)「じゃあ、買ってきたゲームでツンと勝負すれば? 離れの部屋で。
あいつ子供の頃からぼっちプレイで色んなゲーム極めてるから手強いだろうけど
年越すまでには、どれか一つで勝てるでしょ」
(*゚ー゚)「……そうだな、そうするか!」
(,,゚Д゚)「じゃあ早く追いかけて連れ帰りましょう」
(*゚ー゚)「ああ、覚悟しろ出連ツン!」
(*,゚Д゚)(今年の年越しは賑やかそうだわあ)
*****
-
( "ゞ)(そういえば……)
( "ゞ)(あの妙な語尾の少年から、幼児の気を感じたな……)
( "ゞ)(家族に幼い子供がいるんだろう。弟……いや、妹か?)
( "ゞ)(後で寄っていってみるか)
*****
-
l从・∀・*ノ!リ人「お蕎麦美味しかったのじゃ!」
( ^ω^)「ごちそうさま」
∬*´_ゝ`)「お粗末様ー。ブーン君、美味しかった?」
( ^ω^)「美味しかったですお」
( ^ω^)(半分はめちゃくちゃ味薄くなったけど)
(*'A`)「ごっそさーん」←原因
(*´_ゝ`)「夜はこれからだ! どの番組見るかなー」
l从・∀・*ノ!リ人「妹者は明日のお年玉が楽しみで堪らんのじゃ」
(*´_ゝ`)「即物的な妹者マジ可愛い」
(´<_` )「よいしょ……」
( ^ω^)「どこか行くのかお?」
(´<_` )「トイレ行ってくる」
∬*´_ゝ`)「行ってらっしゃーい」
.
-
ガチャ パタン
(´<_` )(トイレ寒いなあ)
::(´<_`;)::「っ!?」ブルッ
(´<_`;)(何だ!? 異常に寒……っ)
窓| "ゞ| (´<_` )
.
-
窓| "ゞ|「あっ」
(´<_` )
窓| "ゞ|「ごめんなさい」
(´<_` )
窓| "ゞ|「間違えました」
(´<_` )
窓| "ゞ|「失礼します」
窓‖≡≡ ピシャッ
(´<_` )
( ´_>`)
(´<_` )
数分後、トイレで気を失っている弟者が発見された。
漏らしたか否かは、敢えて語らぬこととする。
番外編:終わり
-
七話目は近い内に
前回が長くてごちゃごちゃした話だったので、次回は軽めの話(の筈)
それではよいお年を
-
乙!
-
乙
-
乙ー、来年もよろしくー
-
姉者が覗かれなくてよかったな弟者
-
乙!!
姉者が覗かれると思ったら弟者だったか
次回楽しみに待ってる
-
乙!
落ちwwwww
-
乙
ぼっちプレイ・・・泣けるな
-
おつ
年の瀬にいい贈り物
-
しぃさんのキレっぷりかわいい乙
あけましておめでとう
今年も投下楽しみにしてます
ttp://imepic.jp/20140101/637330 ζ(゚ー゚*ζ( ^ν^)※擬人化
-
>>617
ニュッくん、良い顔してるねぇ
-
一話目投下したの2012年なのにもう2014年かよ嘘だろあけましておめでとうございます
年内に完結出来るように頑張ります
十話前後で終わる予定なので、毎回書き溜め遅くて申し訳ないけど気長にお付き合いいただければ幸い
>>617
ありがとうございます!! いいお年玉もらえました
綺麗だなあ。デレがすごく色っぽい。特に髪が色っぽい
ニュッが絶妙に小憎らしい顔をしている
-
ニュッ君が捕まりそうな顔ですな
-
これは女児さらってる顔ですわ
-
番外編より本編のほうを更新してくれよ
-
番外編でも本編でも嬉しい
-
>>622
何様のつもりだよ
-
(´・ω・`)「このショボン様さ!」
-
ワロタw
-
頭おかしいんじゃないの…
-
全然関係ないけどニュッ君がEDってことデレが知ってるってつまりそういうことだよね
-
そうだな。泌尿器科からでるの見られちゃったんだろうな
-
今月はもう更新ないだろうな
-
更新please
-
近い内に投下とか言って一ヶ月以上経ってすいませんでした
今度こそ近い内に投下する
電池パック入れ換えたときに携帯のクッキーが消えてしまった(?)せいか忍法帖リセットされてたんで、こっちで
早ければ明日、遅くて明後日に七話目前編投下します
-
ktkr
待ってるよ
-
全裸待機
-
投下する
長め
-
(;-_L- )「お願いします、お願いします、どうか……
どうか娘を助けてください……」
思えば軽率だった。
(;-_L- )「俺を代わりに連れていってもいい、
何でもします、何でもしますから──
娘の命だけは……!」
神棚に向かって土下座する形で、祈り続ける。
言葉に偽りは無かった。
「何でもする」から、病に苦しむ娘を助けてほしい──その思いは真実に変わりない。
しかし、やはり、軽率と言うよりほかなかった。
-
(;-_L- )「何でもします……神様、神様!!」
がたがたと窓を叩く吹雪の音が、ますます焦れったさを煽る。
こんなに天候が荒れていなかったら、今すぐ病院に飛んでいくのに。
〈──本当に何でもしますか〉
頭に声が響いた。
低い、男の声だった。
瞠目する。幻聴かと耳を摩りながら顔を上げた。
室内には、自分以外に誰もいない。
固まっていると、また同じ言葉が響いた。
(;‘_L’)「……はい……」
事態を理解しきれぬまま、頷く。
まさか。本当に神様が。
そのまま何分待っても、返事は聞こえなかった。
やはり幻聴だったか。そう思い、脱力した。
ほんの数分前の自分が、ひどく愚かに思えた。
-
──瞬間、電話が鳴り響いた。
心臓が跳ね、嫌な汗が浮かぶ。
こんな真夜中の電話など──不吉な予感しか齎さない。
ディスプレイには、娘が入院している病院の名があった。
鼓動が激しくなり、汗も流れていくのに、体は冷えきっていく。
震える手で受話器をとり、右耳に当てた。
(;‘_L’)「……もしもし」
主治医の声がする。
予感とは裏腹に、やけに明るい声だった。
『持ち直しましたよ! 顔色も一気に良くなって……。
詳しい検査は後ほど行いますが、もう心配はいらないと思います』
死の淵に立った娘が無事に生還したことを、主治医は伝えた。
先程とは別の意味で、体から力が抜けた。
涙が浮かぶ。良かった。本当に、良かった。
そのとき。
-
〈──あなたの孫娘を嫁にもらう。約束ですよ〉
左耳に直接、低い声が捩じ込まれた。
振り返っても、やはり、誰もいなかった。
.
-
case7:異類婚姻詐欺/前編
.
-
( ^ω^)「払いますお」
ξ゚⊿゚)ξ「いらないってば」
( ^ω^)「払います」
ξ゚⊿゚)ξ「いらない」
( ^ω^)「払う」
ξ゚⊿゚)ξ「いらん」
('A`)「いつまでやってんだお前ら……」
N県からG県へ行き、A県ヴィップ町へ帰還して。
駅の真ん中で、内藤ホライゾンと出連ツンは延々と金について言い合っていた。
傍にふわふわと浮いている鬱田ドクオが、すっかり呆れ返っている。
始まりは、電車の中、ふと内藤が零した疑問であった。
-
( ^ω^)『そういえば、弁護士費用ってどうなってるんですかお』
あの──盛岡デミタスという弁護士からは、詳しく説明されなかった。
内藤が払う必要はない、としか。
ξ゚⊿゚)ξ『そりゃ、普通に依頼人からお金もらったり』
( ^ω^)『……おばけってお金持ってるんですかお?』
ξ゚⊿゚)ξ『持ってるのもいるわよー。
アサピーなんかどうやって稼いでんだか知らないけど小金持ちだし』
ξ゚⊿゚)ξ『現金しか受け付けないって弁護士もいるけど、私は「物」で払ってもらうこともあるわ。
長生きしてる妖怪なんかは高価な骨董品持ってたりするしね。
あとは……弁護費用に相当する額の宝くじを当てる程度の「運」をつけてもらうとか』
( ^ω^)『そういう支払いも出来ない場合は?』
ξ゚⊿゚)ξ『ドクオさんみたいな普通の浮遊霊は、支払い能力ないひと多いわねえ』
v('A`)v『生前も死後も貧乏まっしぐらドクオちゃんです』
( ^ω^)『笑えませんお』
('A`)『ごめん』
-
ξ゚⊿゚)ξ『こういう場合は、おばけ法務局からお金もらうの。雀の涙だけど。
えーっと、あれ。人間の裁判でも、国選弁護っつって、
国がお金払って弁護士つけさせる制度あるでしょ。あんな感じ』
( ^ω^)『じゃあ僕のもそうなるんですかお』
ξ゚⊿゚)ξ『なるなる』
それから電車が駅へ着くまでの間、考えれば考えるほど、
内藤の中で納得いかなくなってしまった。
費用は内藤ではなくおばけ法務局なる、よく分からぬ組織が払うらしい。
しかしツンに助けてもらったのは内藤だ。
それなのに当人である自分が、ツンに何か形のある礼をしないというのは。何だか。どうにも。
──そういうわけで、駅に降りてから「費用を払う」「いらない」の応酬が始まったのである。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「だから、お金は別の場所からもらうんだってば!
なのに更に内藤君からお金もらうなんて無理よ!」
( ^ω^)「じゃあ法務局だか何だかからは受け取らなきゃいいじゃないですかお」
ξ;゚⊿゚)ξ「いや、──中学生からお金もらえないわ。
雀の涙っつったけど、掛かる労力に対して、って意味であって、金額自体は安くないわよ」
( ^ω^)「分割で」
ξ;゚⊿゚)ξ「中学生に分割払いさせるのって心苦しいわ」
( ^ω^)「でも僕が依頼して、実際に助けてもらったんですから、せめてお金くらいは払わないと」
ξ;゚⊿゚)ξ「依頼したのは弟者君でしょ」
( ^ω^)「最終的に『お願いします』って言ったのは僕ですお」
ξ;゚⊿゚)ξ「でもねえ」
('A`)「おい少年、あんまり食い下がられると、自分で金払う気ゼロの俺がクズみたいに思えてくるんだが」
( ^ω^)「……要するに僕はツンさんにだけは借りを作りたくないんですお」
ξ;゚⊿゚)ξ「うわー、それか! それが本音か! 可愛くねえな!」
-
( ^ω^)「そろそろ頷かないと、僕ここで泣き喚きますお。
『お金払わせてください受け取ってくださいでなきゃ死んでしまう』と。
叫ぶように。涙だらだら流して。土下座しながら縋りついて」
ξ;゚⊿゚)ξ「駅の真ん中で!? やめてよ意味深な言動で私を社会的に殺そうとするの!!」
('A`)「社会的には既に死んでんじゃねえのか、丸出しの不審者オーラで」
ξ゚⊿゚)ξ「てめえ。私が月に何回職質受けるか知ってのその発言か」
内藤が無言で土下座の体勢に移りかけて、ようやくツンは頷いた。
それから彼女は瞼を下ろすと、溜め息をつき、何か考えているのか沈黙した。
少しして、目を開く。
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ」
唇を舐め、挑発的な笑みを浮かべた。
内藤の腕を引き、耳元で囁きを一つ。
ξ゚ー゚)ξ「体で払ってもらいましょうか」
.
-
翌日、内藤は、平屋建ての一軒家の前にいた。
道順が書かれたメモ用紙と家を見比べる。ここで合っている。はずだ。
( ^ω^)(ここに1人で住んでるのかお)
表札には「出連」の文字。
ツンの家である。
('A`)「ここ、何年か前に『おばけ屋敷』って呼ばれてた曰く付きの家だな。
今は綺麗だ。弁護士が幽霊ども追い出したんだろう」
( ^ω^)「へえー。……ところで、何でドクオさんがついてきてんですかお」
('A`)「内藤少年があの弁護士に、どんないかがわしいことされるか見届けてやろうかと」
貧相な脇腹をぶん殴り、内藤は玄関先に立った。
足元を見る。左方を指す矢印とぐしゃぐしゃな線が書かれた紙が貼られている。
矢印の先を目で追うと、一定の感覚で矢印が置かれているのが見えた。どこまで続いているのか。
-
( ^ω^)「何だお、これ」
('A`)「『おばけ法の話なら、家の裏手に回ってください』って指示が書かれた札だな。
普通の人間にゃ分からんだろうが、霊や妖怪が見りゃ分かる。
……少年、脇腹が超痛いんだが。ちょっとした冗談にあのパンチは重すぎじゃねえか」
とりあえず無視してインターホンを押してみる。
数秒の後、ドアが開かれた。
ξ゚⊿゚)ξ「いらっしゃい──あら、ドクオさんも来たのね。上がって」
家の中は少々古めかしさを感じるものの、普通だった。
廊下を進み、一番奥の部屋へ案内される。
-
( ^ω^)「……おー……」
磨りガラスが嵌め込まれた引き戸を開けると、事務所然としたつくりになっていた。
壁に並ぶ棚。事務机。
中央にはローテーブルと、それを挟む形で置かれた二人掛けのソファが2つ。
外の矢印を辿れば、この部屋の窓に行き着くのだという。
ξ゚ー゚)ξ「ようこそ、出連おばけ法事務所へ」
('A`)「意外とまともだな」
( ^ω^)「華やかな壁紙とそこに貼られたお札が何ともミスマッチで怪しさ満点ですが」
ソファに座れと指示を出されて、内藤はおとなしく腰を下ろした。
向かいにツンが座り、ドクオは物珍しげに棚を見ている。
-
ξ゚⊿゚)ξ「と、いうわけで。私も弁護士なので、罪を犯した幽霊さんの弁護の他に、
おばけ法限定で法律相談なんかも受けております」
( ^ω^)「はあ」
ξ゚⊿゚)ξ「1人でやってるので、かーなーり大変です」
( ^ω^)「でしょうね」
ξ゚⊿゚)ξ「お客様をお迎えする以上、毎日掃除して綺麗にしなきゃいけないし、
分かりやすく資料の整理もしなきゃいけません。
開けっぱなしの出しっぱなしが多い私にとって、それもまた一苦労です」
( ^ω^)「仕事をしつつそういったことまで気を回すのは大変でしょうお」
ξ゚⊿゚)ξ「なので、雑用を引き受けてくれる人がいると、とてもありがたいです」
話はもう見えている。
( ^ω^)「やりますお。
ただし、弁護士費用分の働きを完了するまでですが」
ξ゚ー゚)ξ「うん。ありがとう。
学校帰りにちょっと寄ってくだけでいいし、来たくない日は来なくていいわ。
ただし私から手伝いをお願いした場合はなるべく応えてちょうだい」
内藤が承諾する。
決まり、と手を叩いて、ツンは嬉しそうに笑った。
-
──こうして、内藤は、この事務所の臨時雑用係として雇われることとなった。
数ヵ月前の自分に聞かせたら卒倒しそうだな、なんて思いながら、小さく溜め息をつく。
口元の笑みが、いつも以上に深まっていることには気付かない。
('A`)「不審者と中坊の事務所……ますます評判下がりそうだな」
ξ^⊿^)ξ「ありがとうねードクオさんも働いてくれるだなんてー」
(;'A`)「はあ!? 俺ァ関係ねえだろ!?」
ξ^⊿^)ξ「貴様は恩人である私への感謝の姿勢が足りなすぎる」
ドクオがぎゃあぎゃあ文句を言う声に混じって、
こんこんという音が聞こえてきた。
ツンが窓を見る。内藤とドクオも続いた。
(゚、゚トソン「あ……こんにちは」
血まみれの女──都村トソンが、窓ガラスの向こうに立っていた。
ツンが腰を上げ、「入って」と告げる。
ガラスをすり抜けて入室するトソンへ会釈する内藤の肩を、ツンが叩いた。
ξ゚⊿゚)ξ「はい、早速お仕事。お茶淹れて」
.
-
(゚、゚トソン「大変でしたね、内藤さんと──ええと、鬱田さん」
トソンは内藤達の話を聞くと、そう言って、内藤が淹れた緑茶に口を寄せた。
量は減っていないが、味の方を堪能しているのだろう。
ええ、まあ。
無難な返答と共に内藤は首肯した。
ドクオとトソンは初対面のようで、互いにぎこちない。
三森ミセリの部屋を再訪した「猫」を発見したのがドクオなのだ、とツンが紹介すると、
トソンは目を丸くして何度も礼を言った。
(;'A`)「やめてくれ。追いかけたが結局見失っちまって、何の役にも立てなかったんだ」
(゚、゚トソン「それでも、あなたがいなければ……ミセリはそのときに、『猫』の手にかかっていたかもしれません。
本当に、ありがとうございました」
(;'A`)「ああ、もう、礼なんて言い慣れても言われ慣れてもねえんだよ……恥ずかしいな何か」
照れ臭くなったようで、ドクオは決まりの悪そうな顔をすると
窓を抜けて逃げていってしまった。
内藤の隣で、ツンがくすくす笑う。
-
ξ゚ー゚)ξ「行っちゃった。ドクオさんもなかなか可愛いとこあるわ」
(゚、゚トソン「後で改めてお礼を……」
ξ゚ー゚)ξ「ますます照れちゃうわよ、放っときなさい。
──トソンさん、最近は何してる?」
(゚、゚トソン「相変わらずふらふらしてますが、たまにミセリの様子を見に、病院へ」
ξ゚⊿゚)ξ「まめに通わなくても、ちゃんとした警備がついてるわよ」
(゚、゚トソン「ええ……。でも、放ってもいられませんから。
私なんかがいても力にはなれませんけどね」
誰かが目を離した隙に、また「猫」が侵入するのでは──と思うと、不安になってしまうとトソンは呟く。
ただ、それ以外にも理由があるという。
(゚、゚トソン「彼女が目を覚ますところを見たいっていうのも、あります」
7年も眠り続ける友人、ミセリ。
彼女の目覚めを、何よりも望んでいるのだ。
早く起きるといいわね、と、ツンは優しい目をして言った。
-
──それからツンは、埴谷ギコから聞き出したという「猫」の情報をかいつまんでトソンに伝え、
最後に昨日のG県での調査結果を内藤と共に話した。
とはいってもG県の方はこれといった収穫もないので、話すことなど大して無かったのだが。
ξ-⊿-)ξ「まあ……これじゃトソンさんにも申し訳ないから、
せめてお土産だけでも買っていかなきゃなと思いまして」
(゚、゚;トソン「は、はあ」
ξ゚⊿゚)ξ「準備してくるわ、ちょっと待ってて」
それから数分。
ツンが台所へ引っ込み、香ばしい匂いがこちらまで漂ってきた頃、
「土産」の乗った皿を持って彼女が戻ってきた。
-
ξ*゚⊿゚)ξ「お待たせー。いい具合に焼けたわ。
焼きまんじゅう。どうぞ!」
串に刺さった4つのまんじゅう。
たっぷり絡んだ甘い味噌ダレと、程よく付いた焦げ目が胃を刺激するような香りを放つ。
G県の名物だ。内藤も店頭で試食したが、実に美味かった。
ツンがトソンの前に皿を置く。
──そこで、予想外の反応があった。
やきまんじゅう。
反芻するように呟き、トソンが眉根を寄せる。
-
(゚、゚トソン「……ミセリ、昔……お盆明けに会うと、お土産に焼きまんじゅうくれました」
ξ゚⊿゚)ξ「え、」
(゚、゚トソン「お母様だったか、お父様だったか……御実家が他県にあるとかで、
お盆になるとそちらの方へお墓参りに行っていたみたいです。
それから帰ってきた日にはいつも、私に焼きまんじゅうを焼いて食べさせてくれて……」
どの県かは聞いていませんでした、と付け足す。
内藤とツンは顔を見合わせた。
──G県に縁のあった三森ミセリ。
G県の寺で起きたという住職の変死、そこに残されていた「猫」の痕跡。
果たして偶然だろうか?
-
支援
-
ξ゚⊿゚)ξ「……ミセリさんが、G県に……」
(゚、゚トソン「ええ。──あ、いただきます」
串を持ち上げ、トソンが焼きまんじゅうに齧りつく。
やはりまんじゅうは傍目には減らないのだが、トソンは口をもごもご動かした。
そして、首を傾げる。
(゚、゚トソン「……これ、あんこ入ってます?」
ξ゚⊿゚)ξ「入ってるわよ」
(゚、゚トソン「初めて食べました。ミセリは、あんこが入ってない方が好きだって言ってて」
ミセリが土産に買ってくる焼きまんじゅうには、餡は入っていなかったらしい。
内藤達が寄った店では、餡が入っているものと入っていないもの、2種類あった。
( ^ω^)「僕も入ってない方が好きですお」
ξ゚д゚)ξ「えー。入ってる方がいいじゃないの。ドクオさんだって餡入り派だったわよ」
( ^ω^)「甘すぎませんかお?」
ξ゚ -゚)ξ「そこがいいのに」
(゚、゚トソン「どっちも美味しいと思います。
……懐かしいなあ、ミセリにも食べさせてあげたい……。
あ、でも餡入りだったら嫌がられちゃうかな」
くすり、トソンが笑う。
けれど、その笑みはどこか寂しそうで、内藤もツンも目を逸らしてしまった。
*****
-
川 ゚ -゚)
細く白い指が、しなやかに動いて鍵盤を叩く。
伏し目がちな横顔。きゅっと結ばれた唇。
どこを取っても綺麗な人だ。
彼女が奏でる旋律を聴きながら、傍らの姿見で自分の顔を見てみる。
川*` ゥ´)「……ううーむ……」
思わず唸ると、姉の手が止まった。
ピアノから、こちらへと視線を移す。
川 ゚ -゚)「どこか間違えただろうか」
川*` ゥ´)「ええ? ……あ、いや。違う違う。
姉ちゃん見てたら、本当に私と血が繋がってんのか怪しくなって」
何を馬鹿な、と姉が小さく笑む。
その笑顔もまたとんでもなく綺麗で、ほうと溜め息が出た。
-
川*´ ゥ`)「姉ちゃんは綺麗だなあ。私なんかと大違いだ」
川 ゚ -゚)「私はお前の愛敬のある顔が好きだな」
今度は吹き出してしまう。
愛敬ときたか。ものは言い様というか何というか、まあ。
川*` ゥ´)「ないないないない。いいんだ。分かってるよ、私全然そういうの、もう、本当ないから」
自分はただでさえ「綺麗」とも「可愛い」とも言い難い顔だ。
姉と並ぶとますます差が際立つ。
幼い頃はこれでよく笑われたものだ。いや、今もか。
親戚やら友人やら何やらは、自分と姉を見て、大抵こう言う。
「あら、似てないのねえ」。
失礼な輩になると「お姉ちゃんにいいとこ全部持っていかれたのかしら」とまで。もう慣れた。
そもそも事実である。
姉は美人で、淑やかで、頭が良くてピアノの腕も素晴らしい。
対する自分は不細工──とまでは言いたくないが、まあ平均かそれ以下──だし、がさつだし、頭が悪けりゃ特技も無い。
1歳しか違わないのも、比較の餌食になり得る要因だった。姉の大人っぽさときたら。
-
川 ゚ -゚)σ「何むずかしい顔してるんだ。ピャー子は笑ってる方がいいぞ」
川*` ゥ´)「あ、こら、ほっぺ突っつかないでよ」
ここまで来ると、妬ましささえ通り越す。
姉は近くに居て最も遠い。憧れや庇護を一身に受けるべき存在だ。
恐らく、彼女を最も敬愛しているのは妹の自分であろう。
彼女には、何不自由なく、全てにおいて成功を収めて幸せに暮らしてほしい。
そのためならば、自分に出来ることは何だってしよう。
「──クー、ピャー子、お風呂沸いたよー」
母の声。
一番風呂は姉に譲り、部屋を出ると、廊下の奥へ向かった。
突き当たりに、3段ほどの短い階段がある。そこを下りたところに一枚のドア。
-
ドアの前で立ち止まる。
ふと浮かんだ悪戯心。音を立てぬように、ドアを細く開けた。
隙間から室内を覗く。
部屋の奥で、男が本──どこから引っ張り出したのか、中学時代の教科書──を読んでいる。
先と同様、慎重にドアを閉め、絞るように僅かに喉へ力を入れた。
川*` ゥ´)「──ロミスさん、ロミスさん」
血の繋がりを疑うほど類似する点の少ない自分と姉だが、
声真似だけは自信があった。
親ですら騙せるほどに似せられる。
「クールさん?」
そら、「化け物」も簡単に騙された。
-
川*` ゥ´)「ピャー子は風呂に行った。あなたと2人で話したいんだが、今は忙しいだろうか」
「いいえ。暇をしていたところです」
川*` ゥ´)「そうか、それじゃあ、ふっ、いま、どあをあけ、」
途中で吹き出した。
それを皮切りに、笑い声が勝手に迫り上がってきて、喋られなくなってしまった。
ドアの向こうの気配が揺らいだような気がした。気付かれたようだ。
今度は豪快にドアを開け、部屋に入る。
川*´ ゥ`)「あっはっはっは。姉ちゃんがわざわざお前と話すわけないだろ」
£°ゞ°)「意地の悪い」
男は困ったように笑うだけだった。
いつも通り。
悪戯しても嫌味をぶつけても、穏やかに笑うのみ。
我ながら憎たらしい行いを、手応え無しに受け入れられるのが、何となく居心地悪い。
少し苛立ちさえする。
-
壁の両側に備え付けられた棚のせいで、心持ち狭く感じる部屋。
立て掛けられていた折り畳みの椅子を広げて座り、携帯電話をいじる。
ちらりと、歴史の教科書に視線を戻す男を見遣った。
川*` ゥ´)「それ、私が中学のときのやつ。面白いの?」
£°ゞ°)「少し」
ページを繰る左手を注視する。
薬指に、薄紫色のヘアゴムが二重に巻き付けられている。
きつくはなさそうだが、簡単に落ちるほど緩くもない。
川*` ゥ´)「……さっき、姉ちゃんが来たと思って喜んだろ」
呟く。男はやはり、いつも通り笑った。
自分の左手に目を落として、溜め息。
姉ほど細くも長くもない指に触れる。
その薬指には、男と同じように薄紫色のヘアゴムが括られていた。
*****
-
──トソンの新証言以降、「猫」に関する新たな情報も、事件もなく。
2ヶ月ほどが過ぎた。
暦の上では11月上旬。
もう秋が終わるのではと思えるほど、外の空気は冷えている。
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうねえ、内藤君」
( ^ω^)「仕事ですので」
学校帰りに事務所へ寄った内藤は、いつも通り、事務所内の掃除をしていた。
書類との睨めっこに没頭していたツンが、思い出したように礼を言う。
内藤がここへ来るのは、週に2、3度といったところ。それ以下のときも、たまに。
雑用係とはいっても掃除と棚の整理が主な業務なので、長居もしない。
しかし、時折おばけが法律相談に来るところに居合わせることもある。
その度、おばけ法や幽霊裁判に関する細々した知識が増える。
それは別に──嫌ではない。何なら、少しばかり楽しいとさえ思う。
あくまで、楽しいのは知識が増えることだ。
ツンといるのが楽しいわけではない。
そればかりは認めてはいけない。何となく癪なので。
-
( ^ω^)「終わりましたお」
ξ゚⊿゚)ξ「ん、おつかれ。気を付けて帰ってね」
掃除機の中の紙パックを取り換え、内藤は鞄を持ち上げた。
4時半。今から帰れば流石弟者より先に家に着くだろう。
ツンの事務所でバイトまがいのことをしているのを弟者にだけは話しているが、やはり、いい顔はされない。
引き戸に手を伸ばす。
──こつり、背後で硬質の音が鳴った。
窓を叩く音。客だ。
ξ゚⊿゚)ξ「あら。どうぞ、開いてるわよ」
ツンが窓へ声をかける。
彼女が招き入れるアクションを起こさない限りは、
おばけが勝手に室内に入ることは出来ないようになっているのだという。
客人と認められたのなら、茶を用意しなければならないだろう。
振り返る。
-
(*゚ー゚)
( ^ω^)「あれっ」
セーラー服姿の少女。
窓を開けながら、検事、猫田しぃが会釈した。
ξ゚⊿゚)ξ「玄関から来ればいいのに」
(*゚ー゚)「中に上がる気はないし、話はすぐに済みますので」
言って、しぃが内藤を見る。
呆れ笑いか嘲笑か、とにかく彼女の口元が嫌味に歪んだ。
(*゚ー゚)「君、ついにこの事務所に出入りするほどになったか。
もう本格的にツンさんの助手だな」
( ^ω^)「期間限定ですお」
(*゚ー゚)「いい加減、その『嫌々やってます』ってふりをやめたらどうだ。
素直にこの出来損ない弁護士の役に立ちたいんですと言えばいい」
( ^ω^)「しぃさんこそナンチャッテ弁護士と喧嘩するのが楽しいと認めてはいかがですかお」
ξ゚⊿゚)ξ「お前ら口喧嘩したいのか私を貶めたいのかどっちだ。
……で、しぃ検事、私に何の用?」
-
しぃは頭を小さく揺らし、何かメモ用紙のようなものを差し出した。
内藤が受け取る。
見知らぬ名前と、簡略化された地図が書いてあった。
紙をツンの机に置く。
(*゚ー゚)「土曜日の昼時にでも、そこへ行ってください。
仕事がありますよ」
*****
-
来てたか支援
-
──「素直」。
表札にはそう記されていた。
ξ゚ -゚)ξ「ここね」
立派なお家、とツンが感嘆する。
門の向こうには2階建ての家がある。
真新しくもないが古くもない、小綺麗でやや大きな家。
敷地自体がなかなか広いようで、ゆとりのある庭が見えた。
( ^ω^)「ピアノの音が聴こえますお」
ξ゚⊿゚)ξ「そうねえ。いかにも良家って感じ」
右肩に引っ掛けた鞄を見遣り、内藤は溜め息を吐き出した。
こうして荷物持ちとして連れ回されることが、たまにある。
ツンは咳払いをし、薄手のコート(当然のように真っ黒)の前合わせを整えると
インターホンに指を押し当てた。
微かに聴こえていたピアノの音色が止まる。
ぷつ、とささやかなノイズがして、スピーカーから女の声が返ってきた。
-
『はい』
ξ゚⊿゚)ξ「あのう、出連という者なんですが……ヒールさんはいらっしゃいます?
彼女に呼ばれたんですけども」
少しお待ちを、との返答。
数秒後、玄関のドアが開かれ、若い女が門へ歩いてきた。
川 ゚ -゚)「弁護士さん……でしょうか」
高校生か大学生か。それくらいの年頃。
とびきりの美人だ。
きりりと引き締まった表情には隙がない。
ξ゚⊿゚)ξ「……ええ。あなたがヒールさん?」
川 ゚ -゚)「いや、私は姉で……」
「──おおーい」
玄関の方から、別の声が飛んだ。
全員でそちらを見る。
川*` ゥ´)「猫田が言ってた人だろ。こっち来て、奥に案内するから」
.
-
川*` ゥ´)「──ヒールは私だ。さっきの美人は私の姉ちゃんで、クール」
内藤とツンの前を歩きながら、素直ヒールは自己紹介した。
彼女の姉だという素直クールは、先程2階へ上がっていった。
ξ゚⊿゚)ξ「ヒールさんとクールさんね」
川*` ゥ´)「私はピャー子でいい。そっちのが呼ばれ慣れてる」
ξ゚⊿゚)ξ「ピャー子さん」
川*` ゥ´)「うん」
長い廊下を進む。
廊下の右手には掃き出し窓があり、そこから庭に下りられるようだった。
木が何本かあるが、今の時期は少し寒々しく見えた。
庭の中央にある小さな池に、枯れ葉が一枚揺られている。
( ^ω^)「池がありますお」
川*` ゥ´)「いつからあるのか分かんないような古い池だ」
ヒールが無愛想に答える。
それから間もなくして、彼女は足を止めた。内藤達も倣う。
-
数段低い場所にドア。
ヒールはノックをすると、3秒ほどしてからドアノブを捻った。
川*` ゥ´)「ロミス!」
ずかずかと入室するヒール。
内藤とツンは逡巡してから、同時に足を踏み入れた。
£°ゞ°)
部屋の奥に座っている男が、内藤達に会釈する。
見た目は30代半ばほど。
着物に半纏を羽織っている。
ξ゚⊿゚)ξ「彼は?」
川*` ゥ´)「ロミス。見た目は人間だけど、人間じゃないよ。……あんたに話があるのはこいつだ」
近くにあった箱から色褪せたクッションを2つ引っ張り出し、内藤達に一つずつ渡された。
とりあえずそれを使って、男と向かい合うように板敷きの床に腰を下ろす。
-
川*` ゥ´)「何か飲み物持ってくる。勝手に話しといて」
そう告げたヒールが部屋を出ていき、そこには内藤とツン、男──ロミスが残された。
ひとまずツンが名刺を渡し、内藤も軽く自己紹介をして、
さあ本題に入ろうか、というところで。
£°ゞ°)「いやはや、お美しい弁護士さんで」
ロミスは身を乗り出し、ツンの右手を両手で握った。
どことなくゆっくりな口調に、柔らかく微笑む口元。
超然とした雰囲気を湛えている。
ξ*゚⊿゚)ξ「やだ、そんないきなり……本当のことを」
£°ゞ°)「噂以上の麗人ですね。髪から顔から、指の先に至るまで美しい」
ξ*゚⊿゚)ξ「もうっ、正直な人ね。それで、私にお話って?」
£°ゞ°)「妻と離縁したいんです」
ξ゚⊿゚)ξ「結婚してんのかよ」
ツンが急に冷めた。
何を期待していたのだ。
-
ロミスの手から右手を引っこ抜き、ツンが真面目な顔になる。
ξ゚ -゚)ξ「婚姻の取り消しということかしら」
£°ゞ°)「はい」
( ^ω^)「こんいんって、あの婚姻ですかお」
ξ゚⊿゚)ξ「その婚姻」
ロミスはおばけだという。
しかし結婚しているらしい。おばけも結婚するものなのだろうか。
内藤は、ロミスの左手をちらりと見てみた。薬指に指輪はない。
代わりに、薄紫色の細い紐らしき何かが巻いてある。
-
( ^ω^)「指の、それは」
£°ゞ°)「妻が、夫婦は指輪をつけるものだろうと言って──
しかし言った当人である彼女が、指輪なんて用意するのは面倒だ、と……。
代わりになるものを探したら、髪をまとめるための紐が丁度2つあったようで」
ξ;゚⊿゚)ξ「髪結ぶゴム? 随分お手軽な指輪ね」
£°ゞ°)「海外の役者の真似をしたらしいです」
ロミスは苦笑して右手を重ねた。
──結婚ということは当然相手がいる。
だが、それらしき者がここにはいない。
何となく、内藤の頭にヒールとクールの顔が浮かんだ。
いやいや。まさか。そんな馬鹿な。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ちなみに相手は……」
ツンが問う。
ロミスの口と部屋のドアが、同時に開いた。
川*` ゥ´)「悪い、お茶っ葉切れてて、冷たいジュースしかないや」
ペットボトルとグラス、菓子袋を抱えたヒールが、
それらを内藤達の前に置いていく。
グラスにオレンジジュースを注ぐ彼女の左手、薬指。
そこに薄紫色のヘアゴムが括られているのを、内藤とツンは見てしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ「ぴゃ、ピャー子さんがお嫁さんなの?」
ヒールが返事をせずに立ち上がる。
ロミスは1人、にこにこと頷いた。
-
川*` ゥ´)「じゃ、あとはご自由に。猫田が来てから私も参加する」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ……どうも……。しぃ検事も来るのね……」
( ^ω^)「いただきますお」
ヒールが再び退室する。
ロミスはグラスを持ち上げ、ジュースを一口飲み込んだ。
彼が飲んだ分だけジュースが減っている。
ということは普通の幽霊ではなく、実体を持つ妖怪か何かであろう。
自分のぶんのジュースを口に含みながら、内藤はロミスを観察していった。
ツンがお菓子の包装を剥がし、「婚姻を取り消したい理由は」と質問する。
£°ゞ°)「……詐欺、と言うのでしょうか。それに遭いまして」
ξ゚⊿゚)ξ「はあ。詐欺。ピャー子さんから?」
£°ゞ°)「いえ。──彼女の祖父なんです。
彼に騙されていました。だからそれを訴えて……然るべき処理をして、
それから婚姻の取り消しをしたいなと」
決して軽くはない話をしている筈なのだが、
ロミスは柔和な態度を崩さない。
元来おっとりしているたちなのだろう。
-
£°ゞ°)「ただ、肝心の彼は数ヵ月前に亡くなっています。
魂も既にこの世には居らぬようです」
ξ;゚⊿゚)ξ「そ、それはまた面倒な……。お話、お聞かせ願えます?」
£°ゞ°)「はあ……。そもそも私は──」
ロミスは、この家に住み着く妖怪なのだそうだ。
正しく言えば、ロミスがいた土地に、彼らが家を建てて越してきた、ということらしいが。
素直家は両親と2人姉妹、母方の祖父母の6人家族。
家族仲は良く見えた。
基本的にロミスは素直家に干渉することなく、日々を過ごしていた。
数年前に祖母の死という悲しい出来事はあったが、それ以外は、平穏だった。
そうして、2年前の12月──
£°ゞ°)「母親は元々体が弱かったようで。
厳冬に負けて、ついに倒れました」
-
病にかかり、母親が入院してしまった。
そのまま年が明け、その冬で最も激しい吹雪に見舞われた日の真夜中。
素直家に、病院から電話が掛かってきた。
いわく、いよいよ母親の容態が危ういと。
彼女の父である祖父は狼狽した。妻に続いて、娘まで亡くしてしまうのかと。
しかし時間は深夜。それも外は大吹雪。
不安と焦燥に心乱れる祖父が病院へ車を走らせるのは危険だ。
手元が多少狂っただけで最悪の事態になり得る。
祖父は家に留まり、神棚に祈った。
娘を助けてください、自分が代わりになるから、神様──
£°ゞ°)「あの神棚は祖母……彼の妻の勧めで飾っていたようですが、
祖母が亡くなってからはあまり手入れがされておりませんでしたので、
あれには神は宿っていませんでした」
ξ゚⊿゚)ξ「祈ったところで無駄、と」
£°ゞ°)「ええ。
私は、どうなるものかと気になって様子を窺っていました。すると──」
-
──「何でもするから助けて」。
祖父は、そう言った。
£°ゞ°)「私は確認しました。本当に何でもするか、と。声のみを届かせて。
そうしたら、『はい』と頷きましたので」
ロミスは病院へ行き、母親の病の素を食らったという。
結果、母親はたちまち回復していった。
ξ゚⊿゚)ξ「……それで、あなたはどんな報酬を要求したの?」
£°ゞ°)「孫娘を嫁にもらいたい、と言いました」
ξ゚⊿゚)ξ「孫娘ってのはクールさんとピャー子さんよね。ピャー子さんをもらうと指定した?」
£°ゞ°)「それが……」
-
本当は、クールの方をもらいたかったらしい。
しかし観念した祖父が、家族に話を打ち明けたところ、
クールに「嫌だ」とあっさり断られてしまった。
まあ当然であろう。
するとヒールが──
£°ゞ°)「『なら自分が嫁ぐ』と……」
( ^ω^)「肝の据わった人ですお」
£°ゞ°)「クールさんを指定しなかった私が悪かったですし、ピャー子さんを拒むのも失礼ですし、
かといって『約束』を取り下げては私に何の得もありませんので、
私も納得することにして、祝言を挙げました」
ξ゚ -゚)ξ「祝言、ね。なら、確実に婚姻関係を結んだことになるわ」
£°ゞ°)「かなり省略したものですが」
ξ゚⊿゚)ξ「式を挙げたという事実が大事なのよ。
大概のおばけって結婚は口約束だけで済ませるのが多いから、そこの証明が難しくなりがちだもの」
-
祝言といっても、「夫婦になりましょう」「はい」というような確認を
素直一家とロミスの6人のみで行い、ものの数分で済ませたそうだ。
とにもかくにも、斯くしてロミスとヒールは「夫婦」となった。
ツンが、ふむ、と吐息のように唸る。
ξ゚ -゚)ξ「まんま『猿婿』ね」
( ^ω^)「さるむこ?」
ξ゚⊿゚)ξ「異類婚姻譚──人と人ならざるものが結婚する話の中でも
猿婿はメジャーな話よ。蛇のパターンもあるけど……」
-
ξ゚⊿゚)ξ「あるところに困ってるお爺さんがいて、『誰か何とかしてくれたら、欲しいものをやる』と呟くの。
それを聞いた猿がその悩みを解消してやって、
『約束だ。お前の娘を1人、嫁に寄越せ』とお爺さんに言うわけ」
ξ゚⊿゚)ξ「お爺さんには3人の娘がいてね。長女と次女は嫁に行くのを嫌がるんだけど、
末の娘が『分かりました、ならば私が行きましょう』と……こんな具合」
( ^ω^)「おー、たしかにロミスさん達に似てますお。……それからどうなるんですかお」
ξ゚⊿゚)ξ「ここからが、地域や語り手によって細かく差が出てくるんだけどね。
オチは大体同じ。
したたかな娘に騙されて、猿が死んで……めでたしめでたし」
( ^ω^)(それは『めでたし』なんだろうか)
そりゃあ、猿に嫁ぐのが嫌だった気持ちは分かるけれど。
猿は悪いことをしたわけでもないと思うのだが、殺してしまうほどだろうか。
内藤が猿に同情していると、背後のドアがノックされ、
「──入りますよ」
しぃの声がした。
*****
-
内藤は漫画雑誌に落としていた視線を、そっと持ち上げた。
彼の斜め前方で、4人の男女が話し合いをしている。
ξ゚⊿゚)ξ「ピャー子さんとしぃ検事が知り合いだったわけね」
(*゚ー゚)「知り合いといいますか……」
川*` ゥ´)「高校と学年が同じなだけで、クラスは違ったし、猫田は何かと目立つから私が一方的に知ってたけど
猫田は私のこと知らなかったと思う」
ξ*゚⊿゚)ξ「あらー、検事目立ってるの? 高慢高飛車な僕っ娘ってことで?」
川*` ゥ´)「成績優秀で品行方正でそこらの男より格好いいときがあるから女子にモテる」
ξ゚⊿゚)ξ チッ
(*゚ー゚)「何の舌打ちですか」
──現在、ロミスの隣にツン、ツンの向かいにしぃ、その隣にヒールが座っている。
何となく内藤は話に加われなかったので、少し距離をおいて
隅に積まれた古い漫画雑誌を読むことにしたのであった。
とはいえ気にはなるので、漫画よりもツン達の方へ向ける意識の方が強いのだが。
-
ロミスは相変わらず、ゆったりと笑っていた。
微笑みながらヒールを眺め、一方のヒールはぶすっとした顔で茶菓子を頬張る。
こうして外見だけ比べると、年齢は倍近くの差がある。
実年齢ならば更に差が開くだろう。
犯罪くさい。おばけに人間の常識は通用しないのだけれど。
ξ゚⊿゚)ξ「まず、ちょっと一連の流れを整理しましょう。
ロミスさんが数日前、ピャー子さんに離婚を切り出したのよね?」
£°ゞ°)「ええ」
──ロミスは、以前からおばけ法や幽霊裁判のことは知っていた。
そして先日、ヒールに「離縁」の話を持ちかけた際に色々とこじれてしまい、
ならば裁判いたしましょう、ということになったわけだ。
おばけ法なんてものを知らないヒールは当然混乱する。
裁判ってどういうことだよ、と問うヒールに、ロミスは言う。
「あなたと同じ学校に通う猫田しぃという人物に訊いてごらんなさい」──と。
-
ξ゚⊿゚)ξ「検事のことまで知ってたの?」
£°ゞ°)「時折、この部屋を通り掛かる幽霊や魍魎などと世間話をするのですが、
幽霊裁判のことはよく話題にあがります。
検事さんは可憐な方だとも聞いていまして」
ロミスが体ごとしぃへ向き直り、彼女の華奢な手を取った。
まただ。
£°ゞ°)「ずっと気になっていました。話通り、いやそれ以上に麗しく、」
(*゚ー゚)「世辞でも、僕は自分の容姿をそういった方向で褒められるのが好きではない」
£°ゞ°)「これは失礼を。しかしお世辞ではなく心からの思いです」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと待って、さっき私にも似たようなこと言ったわよね?」
川#` ゥ´)「お前なあ、女見たらすぐ口説こうとすんのやめろってば!
この間も女の幽霊に言い寄ってたろ! 私は幽霊見えなかったけど!」
( ^ω^)「脱線してますお」
各々言いたいことがあるようだったが、内藤の呟きで全員口を閉じた。
微妙な空気が流れる。話を戻したのはしぃだった。
-
(*゚ー゚)「先のような事情があり、彼女が先日、僕に声を掛けてきました。
『幽霊裁判って何』……開口一番これですからね、驚きましたよ」
事情を聞いたしぃはヒールに、「裁判を起こす前にもう一度話し合いをしてみよう」とロミスへ伝言を頼む。
出来れば弁護士もいた方がスムーズに事が運ぶ、というわけで、ツンのことも紹介した。
経緯はこのような感じらしい。
£°ゞ°)「本当ならば私から弁護士さんのもとに行くべきなのでしょうが、
何分、私はこの部屋から出られないものでして」
ξ゚⊿゚)ξ「出られないって、どうして?」
£°ゞ°)「見えない壁のようなものがあるんです。
私以外の方には何の影響も無いのですが」
川*` ゥ´)「……ここは元々物置で、結婚してからはロミスの部屋ってことになった。
祖父ちゃんが何かやったせいでロミスが出られなくなったんだろうけど、何をしたのかは分からない」
それは。
つまり、ロミスを閉じ込めたということではないか。
決して軽く流していい話ではない。
なのに、当のロミスはやはり笑顔。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「はあ、そりゃまた……。
……じゃあもう一つ気になる質問していい?
しぃ検事、ギコが一緒じゃないようだけど、ロミスさん見えてるの?」
その問いで、内藤は思い出した。
しぃは、内藤やツンに比べると、霊感というものがとても弱い。
彼女の親戚にして強い霊感を持つギコの傍にいなければ、おばけの姿を見ることも出来ない──
夏に、彼女本人から聞いた話だ。
(*゚ー゚)「彼には既に素直さんを通して説明してあるのでね」
£°ゞ°)「話し合いをするのに見えないと不便でしょうから、見せているんです」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、なるほどねえ」
霊感の無い者でも、怪奇現象が起きている中でなら幽霊の姿が見えることはある。
それは、おばけ側が「見せようと」してくれるからだ。
今はその原理でしぃにも視認出来るようにしているのだろう。
-
( ^ω^)「僕も質問いいですかお」
(*゚ー゚)「何かな」
( ^ω^)「もし裁判になるなら──
離婚の申し立てってことは、民事裁判? ですおね?
民事裁判に検事さんは関わるんですかお?」
民事は、あくまで人と人──幽霊裁判なので厳密には「人」ではないが──の争いであり、
弁護士が出ることはあっても、検察官の出番は無い。と、聞いたことがある。
(*゚ー゚)「基本的には僕らは関係ないね」
川;` ゥ´)「あれ、そうなの? じゃあ私どうなるのさ」
(*゚ー゚)「とはいっても、人間の民事裁判にしたって、検察官が関わるケースはある。条件はかなり限られるけど。
たとえば特定の裁判において……裁判に関わる当事者が死亡している場合は、検察官がその人の代理となる」
( ^ω^)「へえ」
-
ξ-⊿-)ξ「幽霊裁判ともなれば、検察官が関与できる範囲はもっと広くなるわ。
人の法ほど厳格な決まりがあるわけでもないし」
何より人手不足の面が大きい、とツンが補足する。
おばけ法の検事も弁護士も、資格を得るために受ける試験の内容は同じだし、知識も同じ。
それならば検事にも、もっと幅広く関わってほしい、ということか。
(*゚ー゚)「本件が裁判にもつれ込んだ場合、訴えを起こす『原告』がロミス氏、
訴えられる『被告』は素直さんと、彼女の祖父の2人になるわけだが──」
そういえば、元々ロミスと約束を交わしたのはヒールの祖父だ。
その祖父を訴えたい、というのが前提だった。
(*゚ー゚)「ご存知の通り、お祖父様は亡くなっている。成仏もしているらしい。
被告となるべき人物が存在しないということになるので、
僕がお祖父様の代わりを務めるしかないわけだ」
( ^ω^)「代わり、ですかお」
(*゚ー゚)「ま、話し合いの段階で済ませられるのならばそれに越したことはないがね」
腕を組み、しぃはふんぞり返る。
とにかくツンと相対するからには、優位に立たねば気が済まないらしい。
ξ゚ -゚)ξ「まあねえ」
-
支援
-
(*゚ー゚)「ロミス氏が最も望んでいるのは『婚姻の取り消し』。
ここで素直さんがそれに同意し、互いに譲歩した上でロミス氏に対する賠償を済ませれば
不要な労力をかけることなく、平和に事を終わらせられ──」
川*` ゥ´)「別れない」
しぃの言葉の終わりを待つことなく、ヒールは言い切った。
しぃは口をうっすら開いたまま黙り、溜め息をつく。
(;*-ー-)「……冷静に考えてみよう。君は人間だ。彼は妖怪だ。
上手くいくわけないだろう?
民話などに見られる異類婚姻譚の多くも最終的に夫婦関係が破綻するし」
ξ゚⊿゚)ξ「そりゃ物語の話でしょ」
川*` ゥ´)「こんいんたんがどうだか知らないけど、これは私とロミスの問題だ。
上手くいくいかないとか関係なく、私は離婚する気は一切ない」
ξ゚⊿゚)ξ「だ、そうだけど。ロミスさんは?」
£°ゞ°)「離縁したいです」
ξ゚⊿゚)ξ「ですって」
-
(;*゚ー゚)「……普通逆だろう!? 何で人間の君が妖怪なんかにお熱なんだ!?」
川;` ゥ´)「別にロミスが好きなわけじゃないよ。野放しにしてらんないからだ。
……ていうかさ、猫田はロミスの味方なの? 離婚に賛成なわけ?」
(;*゚ー゚)「いや、そうした方が双方にとって建設的なのではないかと思っただけで」
ξ^⊿^)ξ「しょうがないわよおー。検事さんは、裁判になって私に負けるのが恐いのよね?」
にやにや。
今のツンの顔を形容するなら、これ以外にない。
ヒールの説得を試みようとしていたしぃは、表情を消し、ツンを見る。
(*゚−゚)「……は?」
ξ-∀-)ξ「そんなに怯えないで。安心しなさいな。
初めから勝敗が分かってる戦いに勝っていい気になるほど、さもしい神経してないから」
ξ゚∀゚)ξ「ま、勝ちは勝ちであって、あなたが負けることそのものに変わりはないけどね。
いいのいいの! 次があるわよしぃ検事!
あら? そういえば数日前の『覗き罪』の裁判でも私が勝ったばっかりでしたっけ?」
ξ^∀^)ξ「負け続きになっちゃうわねえー、しーぃーちゃんっ。
そりゃあ裁判が嫌になってもおかしくないかあ。よちよち」
( ^ω^)(うわあこいつ)
-
£°ゞ°)「出連先生、その辺で……」
川;` ゥ´)「お、おい、猫田? ちょっと、」
(* − ) ブチン
しぃが床を叩き──というか殴り──立ち上がった。
忌々しげに、眼前の黒ずくめの女を指差す。
指されたツンは笑顔を僅かに薄めて、しぃの目を見上げた。
(#゚ー゚)「裁判だ!!
一生彼女のもとに縛りつけられその全てを捧げ尽くす覚悟をしておくといい!!」
ξ゚ー゚)ξ「はい、お互い頑張りましょ」
*****
-
( ^ω^)「怒らせましたおー」
ξ゚⊿゚)ξ「怒らせてやったわあ」
しぃが素直家を後にし、ヒールが席を外して。
残された内藤とロミス、ツンは、各自脱力した。
£°ゞ°)「どうしてあんなことを」
ξ゚⊿゚)ξ「ピャー子さんもロミスさんも説得しようとしたところで無駄だろうし、
さっさと裁判に持ってった方が楽よね。
……でも検事は、こういう話にはあまり乗り気じゃないと思うから、挑発するのが一番かなって」
──その後、ツンとロミスが問答をし、日が傾き始めた頃に内藤達も素直家を出た。
裁判をすることにはなったが、ロミスはこれまで通り素直家にいるしかない。
気まずくはないのだろうか。
彼の振る舞いを見ると、そういうこともなさそう、とも思えるが。
-
ξ゚⊿゚)ξ「妖怪と人間の女の子の夫婦で……その旦那の方が物置に閉じ込められてるって、
また妙な話よねえ」
( ^ω^)「ですおね。……裁判、やっぱりあの物置で開くんですかお?
ロミスさんが部屋から出られないってことは」
ξ-⊿-)ξ「別に本人がいなくても裁判は出来るんだけど、彼が裁判に出たいって言うなら、そうね。
やれやれ、どうなることやら」
( ^ω^)「……あ」
ξ-⊿゚)ξ「うん?」
( ^ω^)「そういえば、あれ、見たんですかお? ロミスさんの。『追体験』」
ξ゚⊿゚)ξ「あー。うん。少しだけ」
音声の無い、おぼろ気な風景しか見えなかったという。
「追体験」は完璧ではない。
五感のほとんどで感じることもあれば、視覚あるいは聴覚のみの情報しか得られないこともある。
今回は視覚のみだったそうだ。
それもはっきりしないので、情報はほぼゼロに等しい。
何か、ロミスに有利となるものがあれば良かったのに。
ξ゚⊿゚)ξ「ただ……」
( ^ω^)「?」
ξ゚⊿゚)ξ「随分……視点が低かったのよねえ」
*****
-
ひどくぼんやりとした存在だと思う。
川*` ゥ´)「あんた、本当に離婚したいの?」
£°ゞ°)"
ヒールの問いに、ロミスは小さく頷いた。
──いつも穏やかに微笑み、声を荒げることもなく、所作は全てしなやか。
時おり触れてくるときは、まるで小さく壊れやすいものを扱うように優しい。
人の表面だけを撫でていく。
深く入り込もうとしない。
女を前にすると口説きたがる悪い癖はあるが、言葉だけ。
対峙しても、長時間会話をしても、まるで小指の先だけをほんの一瞬合わせただけのようで──
「接触」している、といった感慨を湧かせない。
-
川*` ゥ´)「私だって、ほんとは、あんたなんかとは縁切りたいけどさ」
£°ゞ°)「なら、」
川*` ゥ´)「見くびんなよ。
離婚しちまったら、次にあんたが何するか──分かんないほど馬鹿じゃないからな」
£°ゞ°)「……」
川*` ゥ´)「……『指輪』、外さないの」
£°ゞ°)「今はまだ夫婦ですから」
分からない。
離婚する、と言うくせに、ヒールが話し掛ければいつも通りにゆったり答える。
彼の考えがさっぱり分からない。
何も掴めない。
本当にこの場に存在しているかさえ怪しく思える。
どうにもぼんやりしていて、ふとしたときに消えてしまいそうで。
そんな存在が、裁判などときっちり手順を踏んで縁を切ろうとしているのが不思議だった。
-
「ピャー子、ここにいるのか」
川*` ゥ´)「はあい」
不意にドアがノックされ、澄んだ声に名を呼ばれた。
返事をする。ドアが開いた。
川 ゚ -゚)「ご飯出来たってさ。おいで。あ、ロミスさんの分は今持ってくる」
姉が手招きしながら言った。
本当に、全てが美しい。
川*` ゥ´)「着替えたら行く。ロミスの飯も私が持ってくから、姉ちゃん先に食ってて」
川 ゚ -゚)「そうか? 早くおいで」
ドアが閉められる。
姉にはロミスの姿は見えていない。
ヒールは彼と縁を結んでいるため常に目視出来るのだが、
それ以外の家族は、わざわざロミスが姿を見せようとしない限りは無理らしい。
-
ヒールはロミスへ振り返った。
姉が閉じたドアをじっと見つめている。
──彼の考えが全く分からない、というのは事実。
だが、うっすらと理解出来る点が一つだけある。
彼は、ヒールの姉に執心している。
それが恋心なのか別の感情なのかまでは把握できないが、
とにかく、ヒールよりも姉の方を欲しがっているのだとは思う。
そもそも姉と自分を並べて比較したとき、姉を選ばぬ男などいないだろうとヒールは考えている。
川;` ゥ´)(頭いてえ)
額を手のひらで押さえる。
──姉のためにも、自分は離婚するわけにはいかないのだ。
*****
-
川*´々`)「オサムうー、オサムう」
【+ 】ゞ゚)「どうした?」
川*´々`)「呼んだだけー」
【+ 】ゞ゚)「そうか、呼ばれただけか」
一週間後の夜8時。素直家の物置、もといロミスの部屋。
カンオケ神社の神様オサムと、その恋人──という括りでいいのか──くるうが、
べたべたと戯れ合っている。
先ほど部屋に入った瞬間は内藤を睨みながら「臭う」と呟いていたくるうだが、
オサムにかかればものの5分でこうなる。
これから離婚を巡る裁判が始まるというのに、よくもまあ。
-
(*゚ー゚)「あまり固くならずに」
川;` ゥ´)「う、うん……」
部屋の中央に、長方形の卓袱台が一つ。
その一辺の前にしぃとヒールが座っている。
しぃが正座、ヒールは横座り。
しぃは毎度お馴染みの学ラン姿だ。
ξ;゚⊿゚)ξ「色んな裁判やってきたけど……こんなに検事と近いのは初めてだわ。
床に座って、ってのも」
£°ゞ°)「この部屋にあるものでは、これしか用意できなくて」
反対側の一辺に、ツンとロミス。
胡座をかくツンはいつもの黒いブラウスの上に、真っ黒な上着。もう、どこまでも黒い。
これまでは、ある程度の距離をもって対峙してきた弁護士と検事だが、
今回は一つの卓袱台を挟んだだけである。
卓袱台の上は2人の持ち寄った資料で一杯になっていた。
-
【+ 】ゞ゚)「俺はもう今後もこれでいいと思う」
川*゚ 々゚)「くるうもー」
所謂「お誕生日席」にオサムが胡座をかいて座り、その膝の上にくるうが腰掛けている。
それが原因かは知らぬが、先程からいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ鬱陶しい。
何が辛いって、彼らと向かい合う位置に内藤が座らされていることである。
興味本位で来るんじゃなかった。バカップルを正面に据える苦痛よ。
これまでヴィップ町で起訴されてきた被告人達のことを思うと、同情を禁じ得ない。
( ^ω^)「もう、ほんと、みんな近いですおね……」
ξ;゚⊿゚)ξ「しょうがないわね」
とにもかくにも、こんなに小ぢんまりとした法廷は初めてだった。
しぃのパートナーとも言える埴谷ギコは、今回は来ていない。
刑事である彼は民事裁判とほとんど関係ないからか。民事不介入。
まあ彼がいたらいたで、さらに窮屈になっていただろうけれど。
他にも、これまでとは違う点がある。
オサムから見て右手にツン達が、左手にしぃ達がいるのだ。
普段──刑事裁判──の法廷とは逆だ。何だか奇妙に映る。
-
こつん。
オサムの右手の木槌が、宙を軽く叩く。
【+ 】ゞ゚)「それじゃあ、開廷」
普段とは違う光景の中、普段通りの簡単な宣言と共に、
内藤にとって初めての、民事幽霊裁判が始まった。
*****
-
【+ 】ゞ゚)「原告の名は……ロミス。で、間違いはないな」
£°ゞ°)「ええ」
【+ 】ゞ゚)「被告は2人だな。
素直ヒールと、素直フィレンクト」
素直フィレンクトというのは、ヒールの祖父の名前である。
(*゚ー゚)「フィレンクト氏は心筋梗塞で死亡しており、既に成仏もしているようですので
今回は僕が彼の代わりを務めさせていただきます」
【+ 】ゞ゚)「うむ。……えー、本件は、原告と婚姻関係を結んでいる被告に対して、
原告から離婚の請求を……あー……まあいいか。
では、まず弁護人──じゃなくて、」
ξ゚⊿゚)ξ「原告代理人」
【+ 】ゞ゚)「原告代理人。訴状の陳述を」
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
訴状──原告側の訴えの内容を記した書面。
ツンがファイルを開き、まずはロミスの希望する「着地点」を簡潔に告げる。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ロミスさんが請求しているのは、第一に、素直ヒール……ピャー子さんとの婚姻の解消。離婚ですね」
ξ゚⊿゚)ξ「そして第二。ピャー子さんの祖父、素直フィレンクトが行った『異類婚姻詐欺』に対する賠償として──」
ツンは、一瞬の空白を生んだ。
続く言葉を既に知っているためか、ヒールが顔を顰める。
ξ゚⊿゚)ξ「──ピャー子さんの姉、素直クールとの婚姻を望んでいます」
£°ゞ°)
睨みつけるヒールに、ロミスは小首を傾げて微笑を返した。
「ヒールとは離婚し、クールと結婚したい」──これが、彼の望みだ。
.
-
川#` ゥ´)「ふっ……ざけんなよ!!
ただ姉ちゃんと結婚したいから私と別れたいだけだろ!」
【+ 】ゞ゚)「被告……ああ、2人いるからややこしいな。
素直ヒール、そちらの言い分は後で聞く」
ヒールは卓袱台を叩いて膝立ちになり、ロミスの胸倉を掴もうとでもしたのか、手を伸ばした。
しかしそれは木槌の音で遮られる。
甲高い音に驚いたのか、ヒールが肩を竦め、渋々座り直した。
【+ 】ゞ゚)「当然のことだが、異類婚姻だろうと同類婚姻だろうと
双方の合意があって初めて成立するわけだ。
その、姉の意思はどうなっている?」
ξ゚⊿゚)ξ「『祖父が本当にロミスさんを騙していたのなら私が償おう』──と。
同意はしてくれていますね」
川#` ゥ´)「それを狙ってんだ!
姉ちゃんが真面目なの知ってるから、姉ちゃんが断れないように
祖父ちゃんに騙されてたなんて言って!!」
【+ 】ゞ゚)「素直ヒール」
-
(*゚ー゚)「裁判長……彼女がこうして取り乱してしまうのも仕方のないことなんです。
原告側の主張があまりに荒唐無稽で死者を冒涜するもので──」
ξ#゚∀゚)ξ「しぃさあーん? お喋り好きなのは分かるけどお、今は私が話す番だからあ」
(*-ー-)「失礼」
川;゚ 々゚)「話進めようよ……」
( ^ω^)(くるうさんが進行した……)
ξ;゚⊿゚)ξ「……それじゃあ、ロミスさんに対s、あっ!」
川;゚ 々゚)「ひゃうっ」
(;*゚ー゚)「ちょっと! 僕のファイル落とさないでくださいよ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「しょ、しょうがないでしょ! ごめん!
何か鍋食いたくなってきた!」
( ^ω^)「複数人でテーブル囲んでるからってあなた」
【+ 】ゞ゚)「くるう、痛くないか?」
ああ、騒がしい。
ツンがファイルを持ち上げた拍子にしぃのファイルが押し出され、くるうの膝に落ちた。
卓袱台の上がいっぱいいっぱいなので、仕方ない。
ツンは深呼吸して、顔を引き締めた。が、いまいち格好つかない。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……ロミスさんに対して行われた詐欺行為について、お話ししましょう。
そのために、まず、彼らが婚姻に至った経緯を」
それから彼女は、ロミスから聞いた通りの流れを説明した。
フィレンクトの娘を救い、彼の「何でもする」という言葉を信じ、対価として嫁を要求し──
#####
──14日後の正午に祝言を挙げに来る──
そう告げ、ロミスは引っ込んだ。
フィレンクトは起こったことを理解していないようだった。
(;‘_L’)『……』
ひたすら呆然とした後、夜明け頃に布団に潜っていた。
-
一週間して、母親が退院してきた。
快気祝いとして、一家5人で豪勢な夕飯を囲んでいた。
フィレンクトも楽しそうにしていたが、どうも、ロミスとの約束を無かったことにしている節が見られた。
途中、彼がトイレへ行くために廊下へ出たので
その隙を見計らい、ロミスは囁く。
──あと7日──
(;‘_L’)『っ……!?』
フィレンクトが振り返ったが、姿は見せないようにしていたため、
彼からすれば、さぞ不気味だったことだろう。
-
それから一日ごとに、あと6日、5日、4日──とフィレンクトへ告げていった。
とうとう残り2日、というところで、彼はようやく家族に事情を説明した。
皆、俄には信じられぬようだった。
当然ではある。
(;‘_L’)『……俺の妄想ならば一番いいんだが……』
川;゚ -゚)『お祖父ちゃん、心労が溜まってたんだろう。馬鹿言ってないで、ゆっくり休んでな』
(;‘_L’)『そう──か、そうだな……』
これはいけない、と、ロミスは手を打った。
──あと2日──
今度は、家族全員に聞こえるように言ったのだ。
あの瞬間の素直家一同の顔ときたら。真っ青、とはあれのことを言う。
怯えさせたいわけではなかったのだが、
彼らには、自分達がどんなものと関わってしまったのか理解させる必要があった。
きちんと覚悟させなければ、いざというときに揉められても困る。
-
そこからは大騒ぎだった。
なんて約束をしてくれたのだ、いや祖父が何でもすると言った気持ちも分かる──フィレンクトを責める責めないから始まり、
娘を化け物の嫁にするくらいなら自分が死んでいた方がマシだった、という母親の嘆きも加わって
一家を激しい恐慌が襲っていた。
それをひっそりと眺めながら、ロミスは素直家がどう出るかを待った。
川*` ゥ´)『まあ、約束したもんはしょうがないんじゃないの……』
1人、ヒールだけが落ち着いていたのが印象的だった。
とは言っても、やはり顔は青ざめていたのだが。
川*` ゥ´)『そんで、どっちが嫁ぐことになってんの?』
そこでようやく、ロミスは、クールを指定し忘れていたことに気付いた。
(;‘_L’)『それは……お前達の意思を尊重したいが。……クールは……』
川;゚ -゚)『い、嫌だ、私は嫌だぞ』
(;‘_L’)『だよな……』
川*` ゥ´)『──じゃあ私がいく』
そこでまた大騒ぎ。
あっさり決めるな、だの、深く考えていないんだろう、だの。
-
川;゚ -゚)『ピャー子!』
川*` ゥ´)『でも、姉ちゃん、嫌だろ。得体の知れないもんの嫁になるの』
川;゚ -゚)『……そりゃあ……で、でも、だからってお前が……』
クールは純然たる恐怖と、姉として妹を守らねばならない自尊心に揺れていた。
対するヒールは、姉のためならば自己は顧みないという信念にしがみついていた。
長年素直家を見てきたロミスには、それがよく分かった。どちらの意思が勝つのかも。
フィレンクトは涙を流し、ヒールに土下座するように謝り続けた。
-
2日後の正午、ロミスは素直家のチャイムを鳴らした。
出迎えたフィレンクト達は、彼の、人間と変わりない外見に少々肩透かしを喰らったようだった。
川*` ゥ´)『割とハンサムだね』
居間で待機していたヒールは、ふてぶてしく言った。
虚勢を張ろうとしていたのか、本当に動じていなかったのか、ロミスには読めなかった。
ヒールは制服姿だった。
ロミスも至って普通の着物だったし、別に本格的な婚礼を行うつもりもなかったので気にならなかった。
和紙に婚姻する旨と両者の名前を記し、拇印を捺して、2人は夫婦となる。
時間にして3分程度の式であった。
#####
-
ξ゚⊿゚)ξ「そのときの『婚姻届』がこちらです」
ツンは、件の和紙を取り出してみせた。
筆で書かれたらしい紋様の下に、ヒールの大雑把な文字での記名と、恐らく拇印。
その横には達筆な字(恐らくロミスの名)と拇印があった。
オサムがロミスとヒールに確認をとり、2人が頷く。
ξ゚⊿゚)ξ「ロミスさんに害が無いと分かると、ピャー子さんの姉も両親も、彼を受け入れるようになりました」
£°ゞ°)「ピャー子さん自身に怯える様子がなかったので、
それで安心したところもあったのでしょう」
ξ゚⊿゚)ξ「どのみち、彼を家族として迎えたことに変わりはありません。
しかし。祖父──フィレンクトさんは違いました。
彼はロミスさんに対し、『孫の夫』という扱いを一切行わなかったのです」
オサムや内藤が、室内を見渡す。
部屋の隅に、薄い敷き布団と毛布が畳まれている。ロミスはあれで寝ているのだろう。
こんなところに閉じ込められている時点で──扱いの悪さは感じ取れた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……話を、祝言の当日に戻しましょう。
祝言を終えてからは、素直一家とロミスさんで、様々なお話をしました。
今後の生活や、ロミスさんの人となりについてなど。
ご両親やお姉さんが『ロミスさんは無害だ』と認識したのも、このときでしょう」
ロミスの話し方や振る舞いは非常に悠然としていて、
たしかに、何かしら危険な思想を持っているようには見えない。
ξ゚⊿゚)ξ「そのまま夜を迎え……フィレンクトさんはロミスさんをこの部屋に案内すると、
酒を持ち出し、男同士で話そうじゃないかと言ってきたそうです」
-
#####
フィレンクトが取り出した酒は、細身のラベルが貼られた深い茶色の一升瓶に入っていた。
次いで朱塗りの盃を差し出され、それを受け取った。
(‘_L’)『……なかなか手に入らない銘酒なんですよ。どうぞ一杯』
とくとくと、無色透明の酒が盃に注がれる。
甘ったるい匂いが広がった。
頭の奥が痺れるような、──香りだけで酔いが回ったような心持ちになる。
喉が渇いているわけでもないが、目の前のそれを早く飲みたくて堪らなくなった。
£°ゞ°)『──いただきます』
盃を持ち上げる。中身を、一気に呷った。
冷たくも熱くもなく、ぬるいものだけれど、不快ではない。
寧ろ、すぐに体温と同化して、舌から全身に染み込むような錯覚をおぼえた。
芳醇、と言うより外ない。
甘い。しかし舌に纏わりつく程くどくはなく、すうっと引いていく。
馥郁たる香りが鼻に抜け、ほう、と息をつくと仄かな後味が口内を撫でた。
-
美味い。
飲み込んだことさえ自覚出来なかった。
気付けば盃が空になっていた。
(‘_L’)『さ、もう一杯』
ふわふわとした気分で、瓶を傾けるフィレンクトの手元へ盃を差し出した。
こんなに美味い酒は久しぶりだった。何年、あるいはそれ以上ぶりだ。
かつては、どこで飲んだのだったか。思い出せない。そんなこと、どうでもいい。
もう一杯。もう一杯──
#####
-
ξ゚⊿゚)ξ「で、ロミスさんは見事に酔い潰れました」
£°ゞ°)「昔からお酒が好きなもので……お恥ずかしい」
【+ 】ゞ゚)「……ふむ……」
オサムが喉を鳴らしたのが聞こえた。
それほど美味いのか、銘柄は覚えていないのか、と問うている。
しぃがオサムを横目に見ながら咳払いした。
【+ 】ゞ゚)「いや、俺は事実を細かく検証するために」
(*゚ー゚)「原告代理人、続きを」
ξ゚⊿゚)ξ「承知」
【+ 】ゞ゚)「……」
川 ゚ 々゚)「後でショボンに話して探してもらおうね」
-
ξ゚⊿゚)ξ「──ロミスさんが酔いから醒めたのは、夜明けの頃でした。
徹夜してロミスさんを見張っていたのでしょう、フィレンクトさんが傍らに座っていました」
ξ゚⊿゚)ξ「フィレンクトさんは一枚の紙を取り出し、こう言います。
『しっかりと約束してもらいましたよ』と」
( ^ω^)「また約束ですかお」
(*゚ー゚)「承知の上の婚約とはいえ、自身の孫を得体の知れない妖怪の嫁に出すわけですから。
フィレンクト氏が不安になるのも当然です。
そこで彼は、──まあ、何です。『夫婦生活の約束事』。そういったものを取り付けました」
ツンが片手を挙げ、しぃは口を閉じた。
そちらの説明はツンからしたいのだろう。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ひとつ。家族に危害を加えない。素直家にとって損失となる行いはしない」
【+ 】ゞ゚)「大事なことだな」
ξ゚⊿゚)ξ「ふたつ。ピャー子さんの同意無しに、彼女に手を出さない」
(*゚ー゚)「わざわざ言うことでもないんですがね、おばけと人間ではそこら辺の疎通がズレがちですから」
ξ゚⊿゚)ξ「みっつ。フィレンクトさんの意思には従ってもらう。
──これらの約束を破れば、すぐに婚姻は取り消し、
二度と素直家に足を踏み入れないこととする、……と」
ξ゚⊿゚)ξ「その誓約書にはロミスさんの署名と拇印の跡がありましたが、
ロミスさん本人には、そんなものに同意した記憶はありませんでした」
ツンが「婚姻届」とは別の紙を持ち出してくる。誓約書とやらのコピーだ。
そこにはやはり達筆な字と、彼のものであろう印があった。
ξ゚⊿゚)ξ「とはいえ彼も、誰かに危害を加えようとか、ピャー子さんの意思を無視して乱暴なことをしようとか
そういった行為は端からするつもりもありませんでしたので、
自分にとって不利益なものではないだろうと、『分かりました』と返答したそうです」
ξ゚⊿゚)ξ「フィレンクトさんは再度確認しました。本当に約束するかと。
ロミスさんも、再度頷きます。──これが間違いだったんです」
ツンの声が、僅かばかり低くなる。
-
ξ゚ -゚)ξ「……この誓約を利用して、フィレンクトさんはロミスさんを部屋に閉じ込め、
『使役』するようになりました」
オサムの筋張った手が、自身の顎を撫でた。
目を眇め、ツンはオサムに問う。
ξ゚⊿゚)ξ「ロミスさんはこの部屋から出ることができません。
……私には分からなかったんですけど、裁判長なら、どうやって彼を閉じ込めているのか、
その方法が分からないでしょうか」
【+ 】ゞ゚)「ああ、それなら──」
簡単な話だと言わんばかりに、オサムはあっさりと、部屋の四隅を指差してみせた。
【+ 】ゞ゚)「そこらに何か埋められてるな。何かは分からんが。
どうも、原告にだけ有効な結界のようだから他の者には作用しない筈だ。
埋められているものを取り除けばすぐに解除出来るんじゃないか」
( ^ω^)「取り除くったって……」
部屋の左右には棚が置かれ、その棚にぎっしりと箱や本、不要品が詰め込まれている。
床下を掘り返すとなると、まず棚をどかさねばならないので、なかなかの重労働になりそうだ。
-
川;` ゥ´)「あー、ロミスと結婚する日、
朝っぱらから父ちゃんと祖父ちゃんがこの部屋で何かやってたな……。
そのときに埋めたのか」
( ^ω^)「じゃあ、ピャー子さんのお父さんなら何を埋めたか分かるんでしょうかお」
川*` ゥ´)「いや、父ちゃんは棚とか運ぶの手伝わされただけで、途中、部屋から追い出されたらしい。
祖父ちゃんが何か埋めたんなら、多分そのとき……」
(*゚ー゚)「原告は気付かなかったんですか?」
£°ゞ°)「その日の朝は、玄関先に日本酒の瓶が置かれてまして……。
あ、夜に頂いたのとは違う、普通のお酒だったんですけれど」
ξ;゚⊿゚)ξ「──えっ、何、それ飲んでたわけ!?」
£°ゞ°)「フィレンクトさんが、ぜひ飲んでください、と虚空に向かって言いながら置いたものですから、
私へ渡すつもりだったのだろうと」
川;` ゥ´)「うわー会ったとき何か酒くせえと思ったんだよ! 酒飲んでたのかよお前!」
-
(;*-ー-)「……お酒で気を引いてる隙に、フィレンクト氏はここで作業をしたということですね」
ξ;゚⊿゚)ξ「何でそういう大事なことを先に言ってくれないのよロミスさん!」
£°ゞ°)「夜はともかく、朝に頂いたお酒は、単なる善意によるものだと思っていたので……」
( ^ω^)「まあ、実際は罠だったわけですけど」
ヒールに、ちくりと視線でつつかれた。
自分の祖父がロミスを騙したり罠に嵌めたりしたというのは、あまり認めたくないものではあるだろう。
顎に手をやり思考に耽ったツンは、ロミスの方へ顔を傾け、訊ねた。
ξ゚⊿゚)ξ「……どうする? 審理終わってから、床下掘りましょうか?」
彼は、申し訳なさそうに浅く頷いた。
£°ゞ°)「もし、それが許されるならば。……今夜でなくとも、お手隙のときに」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。いいわよね、検事」
(*゚ー゚)「お好きなように。素直さんは構わないと言っていました」
川*` ゥ´)「別に、いきなり悪さはしないだろ、あんたも」
ありがとうございます。ロミスが微笑み礼を言う。
いちいち笑うな気持ち悪い。ヒールが辛辣に返した。
-
ξ゚⊿゚)ξ「作業は後日やるとして。
このようにロミスさんは監禁状態にあり……
不本意に使役させられるようになりました」
#####
(‘_L’)『……ピャー子、またここに来てたのか。
ロミスさんはいるか』
川*` ゥ´)『そこにいるじゃん。……あ、祖父ちゃん達は見えないんだっけ。
ロミス、顔見せだげて』
£°ゞ°)『何か用でしょうか』
(‘_L’)『ああ、どうも。──申し訳ないんですが、……』
#####
ξ゚⊿゚)ξ「娘──ピャー子さんの母ですね。
彼女がまた体調を崩してしまったので何とかならないだろうか。初めはそんな頼みでした。
あのときと同じように、ロミスさんはピャー子さんのお母さんから病の素を取り払いました」
-
それ以降、何度か似たようなことが繰り返される。
「クールが怪我をしてしまったがピアノの演奏に差し支えがあるので治りを早くしてほしい」、
「良くない親戚が我が家に近付かないようにしてほしい」──
ロミスに可能な範囲内で、大小様々な頼みを。
ξ-⊿-)ξ「それに見合った対価などはほとんどありませんでした。
せいぜい、時おり安酒を与えられる程度で……」
誓約書の3項目、「フィレンクトの意思に従う」──この一文が全てであった。
彼の頼みを無下に断れば、この家から追い出されてしまう。
それは避けたかった。言いなりになるしかなかったのだ。
【+ 】ゞ゚)「素直ヒールは、その誓約書のことは知っていたのか」
川*` ゥ´)「全然。
祖父ちゃんがロミスに頼みごとしてたのは知ってたけど、ロミスも好きでやってるんだと思ってた」
【+ 】ゞ゚)「強制されているようには思わなかった、と」
川*` ゥ´)「……私、何も知らなかったんだ。本当に」
ヒールの瞳に、一瞬、揺らぎがあった。
しかしそれはすぐに消え、先のように睨むような目に変わる。
ほんの僅かな間に見えたその変化が、内藤はやけに気になった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「──ロミスさんを酩酊状態に陥らせ、
フィレンクトさんに都合のいいように契約を交わさせたのは間違いありません」
ξ-⊿-)ξ「その上こんな狭い部屋に監禁され、ご飯は運ばれてきたものを1人で食べ、
薄っぺらい布団で眠る日々……」
£°ゞ°)「……」
改めて聞くと、悲惨だ。
こんな扱いでもにこにこしているロミスの度量は如何ほどか。
いや、こうして訴訟を起こしたからには、やはり怒りもあったのかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ「こんな状態で、ロミスさんとピャー子さんが真っ当な夫婦関係を築けるでしょうか?
他の家族とのコミュニケーションがとれるでしょうか?
……そんなわけがありません。彼の扱いは、『便利な同居人』……いえ、奉公人でしかなかった」
ξ゚⊿゚)ξ「にも関わらず、『うちの孫娘をお前の嫁にしてやったんだから、言うことを聞け』なんて──」
ツンは、ヒールに物憂げな目を向けた。
失礼な言い方をするけれど、と前置きをして。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ピャー子さんを餌にして、その餌も満足に与えず彼を利用し続けた。
こんなの、詐欺じゃありませんか」
【+ 】ゞ゚)「……ふむ……」
川 ; 々;) アウー
ξ-⊿-)ξ「フィレンクトさんが心筋梗塞で亡くなったのは半年前。
ピャー子さん達の心情を慮り、6ヵ月もの間ここで機会を待ち続け、
そして今、心苦しくもようやく訴訟を起こした次第です」
オサムの胸中にある天秤が、ロミスへ傾いたようだ。
それを感じ取ったか、しぃが片眉を上げる。
それより。
ツンが口を開く度、ヒールの顔がほんの少し曇るのが、内藤の目を引いた。
祖父を責められているのだから当然かもしれないが、しかし、何だか。ただ傷付くのとも違う。
ξ゚⊿゚)ξ「以上のことから、被告には、謝罪と共に賠償、それと婚姻関係の解消を認めていただきたい」
言い終えて、一礼。
なんということだ。ツンが真面目に仕事をしている。
-
【+ 】ゞ゚)「……原告側の話は以上だな。次、被告」
しぃが頷き、ヒールが姿勢を正した。
さて、ここからどうなることやら。
先に謝罪を、という一言から、しぃの陳述は始まった。
(*゚ー゚)「ロミス氏を閉じ込め、不当に自由を奪っていたことは認めます」
ξ;゚⊿゚)ξ「──へ?」
(*゚ー゚)「僕が、フィレンクト氏に代わり謝罪しましょう。今まで大変申し訳なかった」
£°ゞ°)「……いえ、そう言っていただけるなら」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ……っと、え、認めてくれるの? そんなあっさり」
(*゚ー゚)「この事実はどこから見ても存在している。
──ただし、それ以外の事実については、こちらにも言い分がありますよ」
-
>なんということだ。ツンが真面目に仕事をしている。
おいwwwwwwww
-
(*゚ー゚)「まず、誓約書。……僕には、契約が交わされた瞬間のことは分かりませんので、
原告が本当に酩酊していたか、それともしていなかったのか、その判断はつきません。
しかし彼が酔いを醒ました後、フィレンクト氏は丁寧に確認の作業を行っている。
『本当に約束するか』『約束します』、このやり取りだ」
ξ゚⊿゚)ξ「だからロミスさんは騙されたようなもんで……」
(*゚ー゚)「仮に、仮に、仮に。
誓約書に署名し印をした際の原告が正気でなかったとしても!
その後の問答で、彼は契約の内容を受け入れた。それなら契約は結ばれたと同義でしょう」
しぃがA4サイズの紙を、身を乗り出させるツンの顔面に突きつけた。
誓約書。先ほどツンが出したコピーではなく、原本らしい。
-
(*゚ー゚)「思いもよらずこき使われた、というのが原告の主張でしたが。
第3項目、『素直フィレンクトの意思に従う』との文言を見て、
自分がフィレンクト氏の都合により利用される可能性を考えなかった、彼自身の不手際と言わざるを得ない」
ξ;゚⊿゚)ξ「ぬうう……」
(*゚ー゚)「極論、『フィレンクト氏の言うことを何でも聞く』ともとれる文章だ。
そこまで考えを回すこともせず、はい分かりましたと受け入れておきながら
フィレンクト氏に騙されたと主張するのは、あまりに無責任で被害者意識が強すぎる」
ξ;゚⊿゚)ξ「そ、──そうかもしれないけど、限度があるでしょ!
『死ね』と言われたとしても、その命令をロミスさんが聞く義務は無いわけだし!」
(*゚ー゚)「死ねと言われましたか? その命令を聞けと強制されましたか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「されてないけど。……いや話はそこじゃなくて!
ロミスさんへの扱いが不当だったって言ってんのよ!」
(*゚ー゚)「フィレンクト氏の『頼みごと』は、原告の可能な範囲でのことだったんでしょう?
無茶を言っていたわけではない。違いますか?」
£°ゞ°)「言われれば、たしかに……『それは出来ない』『気が進まない』と答えれば、彼も引き下がってくれました」
ξ;゚ -゚)ξ「……うう」
-
(*゚ー゚)「それは不当な扱いと言えるでしょうか。
孫の旦那に、祖父がちょっとしたお願いをするのは、どこの家庭でも見られることです」
(*-ー-)「……あなたは『使役』と大袈裟な表現をしましたが、
こき使うというほどでもなかった」
ξ;゚⊿゚)ξ「でもロミスさんは様々な自由を──」
(*-ー゚)「──素直さんとの『夫婦関係』。これも阻まれていたとは言い難い」
ちっちっと指を振るしぃ。
こういうわざとらしい仕草が、なかなか似合う。
-
(*゚ー゚)「素直さんは、しょっちゅうこの部屋に来て、原告との交流を図ってきました。
原告代理人は『1人で食事をさせられた』と言いましたが、
たまに、素直さんが一緒に食事をする場面もあったそうです」
川*` ゥ´)「夫に顔見せない妻ってのも、何か、変だろ。
それに、おばけと話をするのも、まあ……興味あったし」
川 ゚ 々゚)「……?」
不意に、くるうが小首を傾げた。
鼻をひくつかせ、さらに首を傾ける。
【+ 】ゞ゚)「どうかしたか?」
川 ゚ 々゚)「んー……気のせいかも」
何とも微妙な。
くるうの意見は非常に重要であるため、ツンもしぃも彼女を注視したが、
結局、くるうは首を横に振った。
自分の「におい」のせいで彼女の鼻が鈍くなってしまったのだろうかと、
内藤は少し申し訳なさを覚える。
とにかく話を進めるべく、しぃは口を再度開いた。
-
(*゚ー゚)「彼女以外の家族は必要なときしかここに来ませんから、2人きりになることも多かった。
──……僕には理解できない話ではありますが
2人が夫婦らしい雰囲気になり、夫婦らしい『事』に及ぼうという瞬間も、あったかもしれない」
しぃが意味ありげな溜めを作った。
ヒールは理解していないのか、しばしきょとんとしながらしぃを見つめ、
少ししてから、たちまち顔を赤く染めた。
川;*` ゥ´)「ばっ──なに言っ──んなことあるわけねえだろ!!」
(*゚ー゚)「例え話ですよ。例え。とにかくそんな雰囲気になったとしても、
あの誓約書の第2項、『本人の同意がない限りは手を出してはいけない』に則るならば
彼女が同意さえすれば、何ら問題なく、いくらでも仲を深められたんです」
川;*` ゥ´)「誰が同意するか!! 気持ち悪いこと言うなよ! ……もうっ!!」
(*-ー-)「まあ彼女がこの調子なので進展など無かったでしょうが、
片一方が拒否しているのに無理矢理ナニをソレしようとするのは
おばけだろうと人間だろうと許されないことですからね。誓約とは関係ない」
(*゚ー゚)「これでは、夫婦生活の自由を奪われていたとは、とても言えません」
ξ;゚⊿゚)ξ「ぐぐう……! おのれしぃ検事ぃい……」
( ^ω^)(ギコさんがいないからしぃさんのナニソレ発言を誰も突っ込んでくれない)
ツンがロミスを見る。
ロミスは、落ち着いてください、と卓袱台の下でツンの手をそっと撫でた。
恐らく内藤にしか見えなかっただろう。何だこいつは。
-
ツン可愛いよ
支援
-
ξ;゚⊿゚)ξ「……、……そもそもこうやって閉じ込めてる時点で、悪意はあったでしょう!?」
(*゚ー゚)「そのことですが。彼を閉じ込めたことは先のように認めます。
しかし、その理由を度外視して非難ばかりされるのも困る」
ξ;゚⊿゚)ξ「理由っつったって──」
(*゚ー゚)「原告からすれば、フィレンクト氏と正当な『約束』を交わした上で素直さんとの婚姻に至ったわけですが、
フィレンクト氏の立場からしたらどうでしょう?」
「よく考えてください」、と、しぃはオサムへ訴えかけるように言った。
(*゚ー゚)「これまで幽霊だの妖怪だのを見たこともない、至極普通の人生を歩んできた方です。
原告に対して恐怖や不信感を抱かない筈がありません」
(*゚ー゚)「そもそも彼は『神頼み』していたわけであって、
まさか得体の知れない妖怪に助けられるなどとは思っていませんでした。
まして、その妖怪に自分の孫を要求されるなど、露程も」
【+ 】ゞ゚)「そう──なのだろうか」
( ^ω^)「そうだと思いますお。予想外にも程があったんじゃないでしょうかお」
-
(*゚ー゚)「自分の大切な孫を妖怪にくれてやるなんて、一般人からすればおぞましくて堪らないでしょう。
だからその妖怪に好き勝手されないよう、部屋に閉じ込め、行動の制限を強いた」
(*゚ー゚)「……たしかにそれ自体は好ましくありませんが、
しかし、彼がそうせざるを得なかった気持ちもお分かりいただけるでしょう?」
【+ 】ゞ゚)「ううむ……自分の落ち度とはいえ、自分の大切な者が巻き込まれたとなれば……
たしかに、無条件では受け入れられない、か」
オサムが揺らぐ。
すかさず、異議、とツンが怒鳴った。
「至極普通の人生を歩んできた方」というしぃの言葉に言及する。
ξ;゚⊿゚)ξ「おばけに触れてこなかった一般人?
そんな人が、こんな結界張る方法をどこから調達してくんのよ!」
(*゚ー゚)「さてね。素直さん、フィレンクト氏から、オカルトに関わる話は聞いていましたか?」
川;` ゥ´)「さあ……そういう話を聞いた覚えはないよ。
ホラー特番とか一緒に見たことあるし、人並み程度の興味はあっただろうけど」
-
(*゚ー゚)「原告は」
£°ゞ°)「四六時中この家を見ていたわけでもないので断定は出来ませんが、
恐らく無かったかと……」
(*゚ー゚)「なるほど。僕もこの裁判に備え、フィレンクト氏の書斎や遺品を見せていただきました。
そういったものに関係するものは見当たりませんでしたね」
ξ;゚⊿゚)ξ「……じゃあ何で……」
(*゚ー゚)「誰かからの入れ知恵でしょう。誰なのか、までは特定出来ませんでしたが。
重要な要素だとは思いますけれど、手掛かりが見付からないので、いかんともしがたい。
──もしかしたらフィレンクト氏は、ここまで徹底的に閉じ込めるつもりはなかったのかもしれない」
ξ;゚⊿゚)ξ「んなもん分かんないでしょうよ!」
(*゚ー゚)「ええ分かりません、僕にもあなたにも、誰にも。
こればかりは何の証拠もありませんからね」
ツンは口をぱくぱくと動かしながら、さらなる反論の余地を探り、
徐々に口を閉じていった。
しぃが満足げに頷く。
-
(*゚ー゚)「……今度は『結果』の方を見ていただきましょう。
フィレンクト氏が原告をここに閉じ込めていなければ、果たしてどうなっていたと思います?」
ξ;゚⊿゚)ξ「は……?」
(*゚ー゚)「原告。あなた、ヴィップ町での生活は長くていらっしゃる」
£°ゞ°)「はあ。何年になりますか……100……までは流石に行かないでしょうが、それに近いくらいは」
( ^ω^)(マジかお)
£°ゞ°)「行動範囲は狭いですよ。生まれてからずっとこの地にいました。
たまに出掛けることはありましたが」
100年近くも生きているのか。
なら、もしかしたらフィレンクトより年上なのではなかろうか。
そうなると、ますます複雑だろう。フィレンクトの心境。
-
(*゚ー゚)「ところで原告代理人……アサピーという方、よくご存知ですよね。あなたのオトモダチです」
しぃが続けて口にした名に、ツンが虚をつかれた。
アサピー。
この町に住む、おばけでありながら呪術師をやっている男だ。
ツンとは旧知の仲のようで、前回、内藤がN県で裁判にかけられた際も、彼の手助けがあったおかげで助かった。
ξ゚⊿゚)ξ「……そいつの名前が、何でいま出てくるのよ」
(*゚ー゚)「彼もヴィップ町で数十年暮らしてきてますからねえ、ここらのおばけに関する噂も多く知っている。
そんな彼から聞いた話ですが──」
(*゚ー゚)「原告、ロミス。あなた随分と好色なことで有名でいらっしゃいますね」
ツンが固まった。
初耳です、といった顔で。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「……え……? た、たしかに、女の子は好きみたいだけど……。
……有名、なレベルなの……?」
(*゚ー゚)「最近はいくらかおとなしくなったものだが、十数年前までは……」
(*-ー-)「おばけ人間問わず、女と見れば口説いて手を出して。
昔、隣町の神社の宮司の娘に言い寄って、祓われかけたこともあるとか」
【+ 】ゞ゚)「あ、何かその話聞いたことあるぞ。あれお前か」
(*-ー-)「色情霊が原告に恐れをなして逃げ出したとか」
ξ;゚⊿゚)ξ「ど、ドスケベじゃねえか!!」
(*゚ー゚)「僕も、そこのツンさんでさえも馴れ馴れしく触られ容姿を褒められましたしね」
( ^ω^)「さっきテーブルの下でツンさんの手触ってましたお」
川*` ゥ´)「エロミス」
£°ゞ°)「いやあ……」
参りましたね、とロミスがはにかんで頭を掻く。
多分そのリアクションは今ここで出るべきものではないと思うのだが。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「何てこった……手出さないだけショボンさんの方がマシじゃないの……」
(*゚ー゚)「そんな男に自分の孫との『夫婦』という免罪符を渡して、
自由にさせていたら……どうなっていたことか」
ああ恐ろしい──しぃが首を振る。
ツンは苦虫を噛み潰したような顔で天井を仰いだ。
気持ちは分かる。非常によろしくない新事実だ。
(*゚ー゚)「誓約書によって、それを牽制することが出来た。
もう一度言いますが、我々は『結果』を見ていただきたい。
フィレンクト氏の考えや行いは、そこまで間違っていたでしょうか?」
(*-ー-)「閉じ込めた事実への謝罪はします。この部屋の結界を解くのも認めます。
しかし素直さんとの婚姻の解消には応じませんし、
『詐欺』の事実は存在しないものと考えています。以上」
ξ;゚⊿゚)ξ「っく……ぎぎぎ……。
……し、質問! 質問!」
【+ 】ゞ゚)「どうした」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ピャー子さん、ロミスさんはあなたに──こう、何かいやらしい目的で触れることはあった?」
川;*` ゥ´)「あって堪るか! ……話の流れで、ちょっと肩に触るとか……その程度はあったけど、
それ以外は特には……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ほら検事! たしかにロミスさんは少し前までは手の早い女好きだったかもしれないけど
ピャー子さんには、誠実に接していたわ!
そんな彼に対して、フィレンクトさんは過剰な抑えつけを──」
ナメきった顔で頬杖をつき、しぃは、空いた手でくるうを示した。
ツンの表情が凍る。「やばい」という言葉が、まるで彼女の背後に見えるよう。
-
(*゚ー゚)「誠実ねえ……。原告、この監視官のことはどう思います?」
£°ゞ°)「見た目もそうですが仕草などもとても可愛らしくて是非とも仲良くなりたいなと考えています」
【+ 】ゞ゚)
川*゚ 々゚) キャー
ξ;゚д゚)ξ「うおおおおおロミスさんそれ一番駄目え!」
オサムの中の天秤が、一気に逆転するのを見てしまった。気がする。
オサムはくるうの腰に腕を回し、心持ちロミスとの距離をとるかのように力を込めた。
この神様はこういうところで心が狭い。
川*` ゥ´)「お前ほんとさあ……」
(*゚ー゚)「これが誠実ですか? 裁判中とはいえ妻がいる前でこのようなことを言う男が?
弱みに付け込むように婚姻を結び、
挙げ句、妻の姉と結婚したいから離婚してくれと要求してきた男が?」
川*´々`)(可愛いって言われた)
【+ 】ゞ゚)「くるう。おい。くるう。何で嬉しそうなんだ。くるう」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「んだぁああっ! もう!
ピャー子さん! あなたロミスさんに対する当たりが強いわよね!
あなたは彼と結婚したくてしたの!?」
川;` ゥ´)「んなわけないだろうが!
こいつのことなんか知りもしなかったし、私が結婚するなんて考えたこともなかったし。
……ただ、姉ちゃんが犠牲になるよりマシだったから」
ぽうっと頬を染めていたくるうが、ふと、表情を消した。
次に浮かんだのは、怪訝な色。
ξ;゚⊿゚)ξ「じゃあ嫌々?」
川*` ゥ´)「そうだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「今でも?」
川*` ゥ´)「もちろん」
ξ;゚⊿゚)ξ「なら離婚に応じてくれてもいいじゃないの」
川#` ゥ´)「んなことしたら、こいつ姉ちゃんに手つけようとするだろ!」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「そりゃ──これからもうちょっと話し合いましょうよ。
何にせよ、このまま嫌々夫婦で居続けるのはあなたたち2人のためにならないわ。
私、あなたの心配もしてるのよ。本当に。異類婚って大変なんだから」
川#` ゥ´)「余計なお世話だ! こいつ野放しにしたら、誰に何するか分かったもんじゃない!」
ξ;゚⊿゚)ξ「……? それだけ警戒しといて、ロミスさんの部屋の結界を解くのには賛成なの?」
川#` ゥ´)「私が見張る」
ξ;゚⊿゚)ξ「夫婦なのは嫌なのよね? なのに、どうしてそこまでしてあなたが頑張るのよ」
川#` ゥ´)「嫌に決まってんだろこんな奴!
いっつもにやにやして女のことばっか考えてスケベで!
気持ち悪くて嫌いだよ、でもしょうがな──」
川 ゚ 々゚)「くさい」
先程とは違って。
きっぱりと、くるうは言い切った。
-
何度か確認するように鼻をひくつかせ、ぎゅっと顔を顰める。
_,
川 ゚ 々゚)「すごくくさい……」
川;` ゥ´)「は? 何?」
くるうの視線は、はっきりヒールに注がれている。
恐らく今、ヒール以外の全ての者の脳裏で、彼女の発言が反芻されていることだろう。
内藤もご多分に漏れず。
そうして浮かぶ仮定は、実に──むず痒い。
(*゚ー゚)「……素直さん、あなた、原告のことがそんなにお嫌いですか」
川*` ゥ´)「だから嫌いだってば」
川;゚ 々゚)「くさい! わあ、今、今すっごくくさかった!」
ヒールは肩を跳ねさせると、困惑顔で何度も視線を彷徨わせた。
ツンも、しぃも、内藤も、生暖かくヒールを見つめている。
-
川;゚ 々゚)「ずーっと、うっすらニオイはしてたの!
ブーンのニオイかと思ってたけど、今わかった、この子からも臭ってる!
この子ブーンに似てる!」
川;` ゥ´)「な、何だよ! ちゃ、ちゃんと風呂には入ってんぞ……?」
ヒールは身につけていたセーターの襟を鼻の前まで引っ張り、匂いを嗅いだ。
内藤にも「私臭う?」と確認してきたので、首を横に振った。
くるうの言うニオイはそういうことではない。
ξ゚⊿゚)ξ「……検事、説明してないわけ?
私が弟者君を法廷に呼んだときは、事前に説明しておけと言ってくれたくせに」
(;*-ー-)「いつの話を……。……素直さん、このまえ言ったじゃないか。
監視官は、人間の『嘘の臭い』が分かるんだってば」
川;` ゥ´)「臭いって──……え? あの、比喩、とかじゃないの?」
(;*゚ー゚)「人間が嘘をつくと、彼女にしか分からない悪臭が生じるんだ。
本当に臭いがするんだよ」
ヒールは先のツンのように、硬直した。
5秒。10秒。
何となくこちらが居た堪れなくなってくる。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……ピャー子さん、ロミスさんのこと好き?」
川*` ゥ´)「嫌い」
もはや反射というか。
硬直したまま、口だけを動かしてツンの問いを否定する。
するとまた、くるうが顔を顰めて。
_,
川 ゚ 々゚)「くさい」
──その言葉が発されたと同時に、ヒールの思考も追いついたらしい。
ぼっと音が聞こえそうな勢いで、ヒールの頬が一気に染まった。
-
川;*` ゥ´)「は、あ、あああああ!?
何だよ! 何だよ!!」
£°ゞ°)「……ピャー子さん」
ロミスが名を呼ぶ。
彼はどこか呆気にとられた表情をしていた。
今まではずっとにこにこしていたので、何だか新鮮だ。
ヒールがクッションを自身の顔に押しつけ、壁際へ逃げる。
髪の間から覗く耳まで赤い。
川;* ゥ )「やめろよ! こっち見んなよお前ら! 違う、違うんだよ、何かの間違いだろ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ぴゃ、ピャー子さん……」
( ^ω^)「そういうことだったんですかお」
£°ゞ°)「……すみませんピャー子さん、あなたの気持ちも知らずに」
川;*` ゥ´)「だから違うっつってんだろうがぁああああ!!」
ロミスにクッションを投げつけ、絶叫。
必死にロミスや内藤達を睨んでいるが、顔は赤いし涙目だし、なんというか、恐くなかった。
-
ツンデレかわいいな
-
川 ゚ 々゚)「だって『嫌い』って言うと臭うし……」
川;*` ゥ´)「私が何でこんなスケベに惚れなきゃなんないの!!
嫌いだ、嫌いだ!!」
川 ゚ 々゚)「くさい」
川;*` ゥ´)「あっ……あれだ、嫌いじゃなくて! 無関心! 無関心だ!
心底どうでもいいよこんな奴!!」
川 ゚ 々゚)「くさい」
ξ;゚⊿゚)ξ「ピャー子さんショベルカーでがんがん墓穴掘ってるわよ」
川;*` ゥ´)「あんた鼻の調子悪いんじゃないのか!?
何言ったって臭がるんだろ!?」
【+ 】ゞ゚)「なら試しに『好きだ』と言ってみればいいじゃないか」
川;*` ゥ´)「すっ、……す……す……、……何……す、──すす、す」
ぶるぶる震えている。ぶるっぶる震えている。
ついぞ、ヒールは「好き」とは言わなかった。
代わりに足元の布団の上から毛布を引っ張ると、
それを頭から被り、隅で丸まってしまった。
-
「もうやだ……もうやだあ……」
饅頭のようになった毛布の中から、くぐもった声が発せられる。
弱々しくて泣きそうで、大層恥ずかしかったのだろうなと思わされた。
(;*゚ー゚)「……素直さん」
「猫田助けてぇえ……」
(;*゚ー゚)「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「……」
£°ゞ°)「……」
【+ 】ゞ゚)「……」
川 ゚ 々゚)「……どうするの?」
ヒールを除く面々は、目を見交わした。
-
どうすると言われても。
どうもこうも、今夜はこれ以上の審理は望めそうにない。
case7:続く
-
乙
-
乙 ピャー子かわいい
-
乙!やっぱり面白いなあ
ヒール可愛い
-
今回ここまで
読んでいただきありがとうございました
Romanさんいつもありがとうございます
次回はなるべく早めに来たい意欲はあるけどいつになるかまだ分からない
目次
case5 後編>>78
case6 前編>>98/中編>>196/後編>>370
case7 前編>>637
-
乙
ピャー子に対してニヤニヤが止まらないw
-
ほのぼのな民事裁判だった
行く末が楽しみ
-
これロミス裁判勝ってもくるう口説いた(?)のが原因でそのままオサムにボッコされる可能性すらあるよね
ピャー子が予想外に可愛い
-
乙!
ロミスいいキャラだなw
ミセリの方の展開も気になるわ
-
ピャー子にニヤニヤできるのもひさびさだなあ
-
乙
ニヤニヤ(・∀・)
-
乙!
ピャー子がかわいいだと…
かわいいって言われて嬉しげなくるうもかわいい
-
乙!
久しぶりにのぞいたら来てて、今すっごい幸せ!
-
乙
面白かった
-
どうしてくれる電車の中でニヤニヤがマッハだぞ
乙
-
来てたのか乙
ほのぼの裁判いいなぁwwwww
-
乙!今日気づいた嬉しい
なんかもう皆可愛い
-
離婚裁判を取り上げたかと思ったらまさかの展開
-
にやにや
乙
-
何このピャー子可愛い
-
ピャー子かわいいよピャー子
-
おつ
ピャー子ここまで可愛い奴だなんて思いもしなかった
-
おつおつ
ピャー子かわええやん!
-
女が男にチ○コ渡したり女同士でチ○コ贈り合ったりする日に便乗
( ´_ゝ`)l从・∀・ノ!リ人
http://imepic.jp/20140214/665710
( ^ν^)ζ(゚ー゚*ζ
http://imepic.jp/20140214/665870
川*` ゥ´)£°ゞ°)川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ
http://imepic.jp/20140214/666040
>>334でも書いたけどキャラの髪型とかが想像と違っても気にしないでおいてください
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描いてる間は楽しいけど描き終わってから「どこかに似たようなネタあるんだろうな」と冷静になる現象
7話後編の書き溜めは割とさくさく進んでます
今月中に投下できるよう頑張ります
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あかんピャー子がかわいい
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妹者こわい
女こわい
ピャー子最高
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可愛くて涎出た
愛を下さい
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>>783
http://imepic.jp/20140214/757350
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ワロtオオオゥエエエエ
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今まで以上にどういう展開になるか楽しみだなあピャー子かわいい
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みんな可愛い
てか絵うめえええええええええええええ!!
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くそ可愛いなちくしょう!
俺にもチョコくれよ…!
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妹者ドSwww
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ありがとうございます!(白目)
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漫画も本編も番外編も全部楽しみにしてます!
何でギ子が一番女子力高いんだ…
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>>788
http://imepic.jp/20140215/011150
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ギコのお料理スキル高杉ワロタ
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ギコでもいいきがしてきた....
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ギ子さんの女子力やべぇ
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ギコさんを嫁に下さい!
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正気か
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ギコざんがこの作品の癒やしだぜ…
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ギコさんは最高です!
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絵も巧いし字も上手すなぁ
しぃたんも書いてくれないかなぁ(チラッチラッ
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>>800
http://imepic.jp/20140215/795190
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気になっちゃうしぃちゃん可愛い!!
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しぃさんの思春期男子力とギ子さんの恥じる乙女力
流石に前は遠慮して後ろか
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ワロタ
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痴ー女!痴ー女!
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この等身大ギコをブーンの前に置いてみたい
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気持ちはわからなくもない
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フィギュアのパンツ除くツンさん
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>>806
http://imepic.jp/20140216/283960
調子乗りすぎてたのでここらで打ち止め
書き溜めがんばります
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>>809
作者だったのかよ…
ぼちぼち頑張って下さい
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見下げ果てた目ワロタ
乙です
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顔www
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みんな可愛いよ
オサムとくるうがいなかった…
待ってるよ
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>>801
亀だがリク応えてくれてありがとう!
しぃたんかっわえぇーー!
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顔というか眼w
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>>792
ふぅ・・・。
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神よ、貴方は残酷だ
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クソワロタ
やっぱピャー子かわいい
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っべー ピャー子っべー
後半超たのしみにしてます
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しいちゃん見てるとヒカ碁読み返したくなるのはなぜだろう
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まだかな
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今月中って言われてんだろ早漏
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早くて火曜日に投下します
火曜に投下できなかった場合、次に投下の時間とれるのは金曜日になる。かもしれない
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おkおk
自分のペースでよろ
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よっしゃ楽しみにしてる
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今日は投下できなくなった
けど、代わりに明日の用事が消え去ったので、明日7話後編投下します
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期待
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まっとるよー
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後編にはエロはありますかね?
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わくわく
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全裸待機中!
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投下しま
長いので、途中休憩挟むかも
>>829
エロシーンらしいエロシーンは無いのでツンさんのラッキースケベをどうぞ
http://imepic.jp/20140226/420080
-
『痛い? 大丈夫?』
聞き覚えがある。
長女──クールの声だった。
『何でこんなとこに……』
体を優しく摩られる度、痛みが薄れていくように感じた。
〈……クールさん〉
弱々しい声で、手の主の名を呼ぶ。
急に名前を呼ばれたことで、彼女は驚いてしまったようだった。
〈クールさん。お礼に……何か、願い事があれば、叶えてさしあげます〉
何でもします。
その申し出に、彼女は、けほけほと咳をしてから答えた。
『来週、ピアノのコンクールがあるんだ。
元気になって、コンクールに出たいな』
咳を交えながらの返答。
そういえば昨晩から、クールが熱を出してしまったと家の中が騒がしかったような。
分かりましたと返し、彼女の手を離れた。
痛む体を無理矢理動かし、彼女の視界から消える。
小さな手の感触が、忘れられなかった。
-
case7:異類婚姻詐欺/後編
.
-
(-@∀@)「やだナア、センセイ、僕ァいつだってセンセイの味方デスヨ?
だからって、検事サンの質問に嘘で答えるわけにもいかないデショウ?」
──裁判の翌日、日曜日。出連おばけ法事務所。
内藤の作ったホットココア(インスタント)を飲みつつ
呪術師アサピーは、向かいに座るツンへ小首を傾げてみせた。
(-@∀@)「ありゃァ、ロミス殿に問題があったんです。僕は悪くナイ。
彼が色狂いだったのが悪い。違いマス?」
ξ;゚ -゚)ξ「……うー……」
(-@∀@)「僕は検事サンにアリノママをお話ししたダケでございますよう、エエ、エエ。
責められても困ります」
アサピーが事務所に来たのは10分ほど前。
よくもしぃに余計な話を、とツンが怒ったのも10分前。
アサピーはそれからずっと嬉しそうにしている。
図ったように裁判の翌日にここへ現れたことから考えるに、
こうしてツンに怒られる──構われる──のを期待していたに違いない。
-
そんなことより、と呟いて、アサピーはマグカップをテーブルに置くと
足を組み、膝の上で手も組んだ。
革のブーツが湿った光沢を生む。
(-@∀@)「イケませんよセンセイ、あンな助平に関わっては。
悪いヒトじゃァないんだが、ありゃ、手が早い。
僕ァもうセンセイが孕まされやしないかとシンパイでシンパイで」
ξ゚?听)ξ「あんた本当は楽しんでるでしょ?」
(-@∀@)「ヤア、センセイにはお見通しだ」
ξ゚?听)ξ「失せろ」
-
待ってたよ!
-
あれ、ツンの口が文字化けしてる?
ξ゚?听)ξ
-
文字化けしとる……ちょっとお待ちを
-
⊿が文字化けするのはよくあるけど目まで化けるとは…
-
ξ゚⊿゚)ξ
実体参照ならいけるだろうか
手直ししつつ投下するので投下間隔遅くなるかもしれません
-
そんなことより、と呟いて、アサピーはマグカップをテーブルに置くと
足を組み、膝の上で手も組んだ。
革のブーツが湿った光沢を生む。
(-@∀@)「イケませんよセンセイ、あンな助平に関わっては。
悪いヒトじゃァないんだが、ありゃ、手が早い。
僕ァもうセンセイが孕まされやしないかとシンパイでシンパイで」
ξ゚⊿゚)ξ「あんた本当は楽しんでるでしょ?」
(-@∀@)「ヤア、センセイにはお見通しだ」
ξ゚⊿゚)ξ「失せろ」
-
('A`)「変な奴に懐かれるよな、あの弁護士」
( ^ω^)「類友でしょうお」
('A`)「言っとくが少年も含まれてんだからな?」
( ^ω^)「なら当然ドクオさんも」
(゚、゚トソン「ここにいるみんな、ツンさんに助けられた方ばかりですしね。
恩人を嫌う人なんかいません」
( ^ω^)(あ、この部屋にいる人数の半分以上がおばけだ……)
ドクオとトソンの2人と共に棚の整理をしながら、ふと、
内藤はこの空間に何の違和感も抱かぬ己に嘆息した。
──ドクオ、トソン、アサピー。このおばけ達は、不定期にここへ来ているようだった。
ドクオは内藤のように掃除や整理整頓などの「ツンの手伝い」のため。
(とはいっても、月に2、3度来るか来ないかという程度)
トソンとアサピーは小用があったり、ただツンに会いに来るだけだったり。
本日は、たまたま全員のタイミングが合致してしまった。
-
('A`)「今日は随分と散らかってんなあ……」
ひどく面倒臭そうにドクオが言う。
周囲を一瞥し、内藤も同意した。
机の上や椅子、果ては床にまで、様々な本やコピー用紙が散乱しているのだ。
おかげで客人である筈のトソンまで片付けに加勢させられる始末。
( ^ω^)「昨日の裁判終わってから今日僕らが来るまでの数時間に、何してたんですかおツンさん」
コピー用紙の束を拾い上げる。
どこかのサイトを印刷したもののようだ。
いわゆる異類婚姻譚に区分されるような説話について解説されていた。
ξ゚⊿゚)ξ「ああ……異類婚姻とか調べてて。
それ、紙の方はパンチで穴あけて新品のファイルに綴じといて」
( ^ω^)「はいお」
-
('A`)「こっちのはG県関連の資料か?
ラウン寺のパンフレットまであるな。だいぶ古いみたいだが」
( ^ω^)「ラウン寺って、『猫』の痕跡があったお寺ですおね。
僕らも寄ったとこ」
ξ-⊿-)ξ「それはミセリさんの事件の……。
薄い冊子とかは机に上げといてちょうだい」
(゚、゚;トソン「同時進行で調べてるんですか? 駄目ですよ、ちゃんと休まないと!」
(-@∀@)「センセイは器用ですが不器用でもいらっしゃる。無茶は禁物」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたが今すぐいなくなってくれれば、いくらか心休まるんだけどね」
(-@∀@)「手厳しい」
けらけら笑うアサピー。実に楽しそうだ。
ツンが壁掛け時計を見上げる。
時計の針は、午後1時を示そうとしていた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「内藤君、お昼ご飯食べた?」
( ^ω^)「ここ来る前に家で食べてきましたお」
ξ゚⊿゚)ξ「そっか。私も軽く食べたし……。
そろそろ行きましょうか。ピャー子さんのお家」
*****
-
川*// ゥ//)「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……ピャー子さん」
内藤とツンをソファに座らせたヒールが、
ティーカップの乗ったソーサーを、ずいと差し出してきた。
内藤達が受け取るや否や、ヒールは真っ赤な顔を俯けたまま、無言で退室していく。
少ししてから戻ってきた彼女は、サイドテーブルを内藤達の前まで移動させると、
クッキーの入った皿をどんと置いた。
( ^ω^)「ありがとうございますお」
礼を言っただけなのに睨まれた。
理不尽。
結局、すぐにまた部屋を出ていってしまった。
残ったのは内藤とツンと、
川 ゚ -゚)「昨晩からあんな調子で……何かあったんですか?」
ヒールの姉、クール。
-
今日はクールと話がしたいという理由で来たのだった。
ツンとしてはヒールも同席してほしかったらしいが、あれではとても。
ξ;゚⊿゚)ξ「まあ、色々と……」
ティーカップを傾け、ツンが紅茶を一口飲む。
──クールは、ソファとは反対側に置かれたピアノの前に座っている。
ここはクールの自室ではなくピアノを弾くための部屋だというが、
基本的にはクールしか使わないため、ほとんど彼女の部屋と言って差し支えないだろう。
そう広くはないが、きちんと片付いていて、清潔感を覚える。
内藤とツンの視線が、ガラス戸の戸棚に留まった。
表彰状やメダル、楯が飾られている。
ドレス姿でピアノに向かう幼いクールの写真も並んでいた。
ξ゚⊿゚)ξ「見せてもらっても?」
川 ゚ -゚)「ええ」
カップをサイドテーブルに置いて、ツンが跳ねるように立ち上がる。
戸棚の前で足を止めて、すごい、と感嘆した。
-
ξ*゚⊿゚)ξ「賞をたくさんとってるのね。
写真も可愛い……昔から綺麗な顔してるんだわ」
はにかみ、ありがとうございますとクールが言う。
褒められ慣れているのだな、という印象を受けた。そこに嫌みな感じはない。
ξ゚⊿゚)ξ「プロとか目指してるの?」
川 ゚ -゚)「叶うなら……」
ξ゚⊿゚)ξ「音大には行くのかしら」
この姉妹は1歳違い。
ヒールがしぃと同じ高校2年生なので、クールは3年生だ。
川 ゚ -゚)「一応、受験はするつもりです」
ξ゚ー゚)ξ「成績優秀でこれだけ賞ももらってるんだから、大丈夫ね、きっと。
どこの大学?」
川 ゚ -゚)「第一志望は東京の……」
-
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、合格したら上京するんだ。
……だからロミスさんは、その前にケリをつけたいんだわ」
クールの顔が曇った。
目を伏せる姿が、絵に描いたように綺麗だ。
川 ゚ -゚)「裁判の結果は、どうなるんでしょうか」
ξ゚ -゚)ξ「想定外な展開があったから、何とも言えないわ。
今はピャー子さんの方が有利だと思うけど」
表情がほんの少し変化する。安堵とも不安ともつかない。
ξ゚ -゚)ξ「もしもロミスさんの完全勝訴となったら、あなたが彼のお嫁さんになるわけだけど。
本当に受け入れられる?」
川 ゚ -゚)「構わない。一度はピャー子が犠牲になってくれたんだから、私も……。
……こんな言い方、ロミスさんに失礼か」
-
ξ゚⊿゚)ξ「正直に言って、ロミスさんと結婚したいと思う?」
川 ゚ -゚)「……悪い人ではないんだろうけど。
でも、私は、結婚というのは好きな人とするものだと考えていて……
彼はまだ、そういう対象だとは考えられない」
ξ゚⊿゚)ξ「本心では結婚はしたくないのね」
彼が嫌いなわけじゃない、とクールは繰り返した。
そりゃあ、嫌いではないから結婚してもいいなんて単純な話にはならないだろう。
人として好き、と、恋心の好き、は全くの別物だ。
結婚に関して言えば、個人差はあれど、後者が重要になってくる。
ヒールが抱く感情がその「後者」に当てはまるのが厄介だった。
ヒールと別れ、クールと結婚したいロミス。
出来ればロミスとは結婚したくないクール。
ロミスと別れたくないし、クールを守りたいヒール。
( ^ω^)(めんどくさ……)
クッキーを齧る。
甘すぎず、さくさくと小気味良く砕ける歯ごたえ。
形が少し歪で、既製品とは違うようだが内藤の好みによく合った。
-
( ^ω^)「美味しいですお、このクッキー」
ξ*゚⊿゚)ξ「あら、ほんと? 一枚ちょうだい。……うまっ!」
川 ゚ -゚)「ピャー子が焼いたんです」
意外な事実。
聞けば、料理は得意な方なのだという。
川 ゚ -゚)「ピャー子の奴、嫌なことがあると料理で発散することが多くて。
それで上達したところもあるのかも」
ξ*゚⊿゚)ξ「いっそ私が嫁にもらいたいわ。ロミスさんも勿体ないことするわね」
美味い美味いと次々にクッキーを口に放るツン。
内藤の分がなくなりそうだったので、皿ごと奪った。尚も手を伸ばしてくる。
そんな2人の攻防に口を緩ませたクールは、膝の上の手を見下ろした。
-
川 ゚ -゚)「……彼が、元々ピャー子ではなく私を嫁にするつもりだったというのは、本当でしょうか」
ξ゚ -゚)ξ「ロミスさんはそう言ってるわ」
川 ゚ -゚)「ピャー子と夫婦になって──それでもまだ、私を選ぶというんでしょうか」
ξ゚⊿゚)ξ「……そうなるわね」
クールの眉間に皺が寄る。
スカートを握り締め、彼女は首を振った。
川 - -)「彼は、ピャー子のことをちゃんと見てくれなかったのか」
ξ゚⊿゚)ξ「どういうこと?」
落胆。あるいは怒り。
僅かに滲んだクールの苛立ちは、すぐに収まった。
代わりに諦念が浮かぶ。ほんの数秒間に流転した感情はどれも負の方向だった。
-
きたきたきたー!支援
-
川 ゚ -゚)「みんな、私とピャー子に優劣をつけたがる。それも大半が表面だけの話」
そうらしいわね、と相槌。
川 ゚ -゚)「……そもそも私が優れてるとか、ピャー子が劣ってるとかじゃなくて。
正反対なだけなんです、私達」
正反対というのはたしかに感じる。
所作や語調から、大人びていて、落ち着いているという印象を与えるクール。
対するヒールは自己主張が強く、つっけんどんに振る舞う節があった。
川 ゚ -゚)「私は昔からピアノを弾いたり本を読んだり、家の中にいるのが性に合ってたけど、
ピャー子は外で駆け回るのが好きだったし……」
川 ゚ -゚)「私は虫とか爬虫類なんて見るのも駄目だったのに、
ピャー子は平気で昆虫なんかを素手で捕まえる。
逆に犬猫が好きな私に対して、ピャー子は大きな犬が苦手で」
いいとか悪いとか、そういう話ではなく、
とにかく大抵のものが逆転しているのだとクールは言う。
-
川 ゚ -゚)「あいつは、いつも私を立てようとする。
母さんが風邪を引いたとき、私がお粥を焦がしてしまうとピャー子が作り直してくれて──
それを、私が作ったんだと嘘をついて母さんに食べさせた」
川 ゚ -゚)「私が父さんの大事にしてるアルバムを汚してしまったとき、
ピャー子は自分がやったんだと言って、私の代わりに叱られた」
川 ゚ -゚)「……そういうことが、何度もある」
内藤とツンは視線を交わした。
──くるうは、ヒールに向かって「くさい」と言った。
内藤のような、──嘘つきの臭いがすると。
けれど彼女と内藤は、それこそ正反対の「嘘つき」なのだ。
内藤は己を良く見せるため。
ヒールは己を落とすため。
優しさ、と言えるのだろうか。いや。
彼女はひたすらに姉を一番にしたがっていただけ。
それはクールを愛する自分自身のためとも言える。
-
川 ゚ -゚)「なのに私は自分のことしか考えてない。
……結婚の話を持ち掛けられたとき、本当は分かってたんだ、
ピャー子が私の代わりに嫁ぐだろうって」
川 ゚ -゚)「ピャー子のために私が名乗り出るべきだったのに。
私は……」
ξ゚⊿゚)ξ「……そうやって後悔するのは、あなたもピャー子さんのことを想ってるからでしょう」
俯いていたクールが、ツンの言葉に顔を上げた。
初対面では気丈な印象を受けたのだが、今のクールは怯える子供のようだった。
ヒールもクールも、第一印象とは随分と違う面がある。
きっと姉の方が気が弱い。
ξ゚⊿゚)ξ「あなたの、そういうところもロミスさんはちゃんと知ってたんじゃないかしら。
決して、ピャー子さんとあなたを比較して、あなたの方がいいと思ったわけじゃなくて」
クールが、唇をそっと噛んだ。
静寂。数秒。
ツンは紅茶を飲み干し、話題を変えた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ピャー子さんは、ロミスさんについて家族と何か話してなかった?
あの子の性格を考えると、ロミスさんの前での振る舞いだけじゃ
彼女の『妻』としての姿を判断出来ないわ」
たしかに、昨夜までの時点では真実が圧倒的に欠けていた。というか隠されていた。
どちらかといえば、被告側に有利な情報だけれど。
クールは考え込み、「あっ」と声をあげた。
川 ゚ -゚)「ロミスさんは、あの部屋から出られないんですよね」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ」
川 ゚ -゚)「そのことについて度々、祖父と喧嘩してました。
あんな狭い部屋に閉じ込めるのは酷いんじゃないかとピャー子が怒って、
それに対して祖父は、お前のためを思っているのに、と……」
ξ゚ -゚)ξ「……そう……」
-
川 ゚ -゚)「そういえば、祖父が心筋梗塞で死んだとき、
ロミスさんが祟ったのではないかと両親が疑ったことがあって。
彼には大変失礼な発想だとは思いましたが、疑ってしまう気持ちも分からないでもなかった」
川 ゚ -゚)「そしたらピャー子が怒ったんです。
証拠もないのに決めつけるなと」
ξ゚⊿゚)ξ「ほう」
川 ゚ -゚)「他には──そうだ、ロミスさんがゆで玉子が好きらしくて、
彼の部屋に食事を持っていくとき、よく、ゆで玉子を作っておかずに加えてました」
ξ゚⊿゚)ξ「ふむふむ」
川 ゚ -゚)「あとは、ああ、ロミスさんを煎餅布団で寝かせ続けて、体を悪くされても面倒だからって
新しい布団を買おうか迷っていたような」
ξ;゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)「それと夏場、ロミスさんが暑さに参っていたので──」
ξ;゚⊿゚)ξ「あの、この話まだ続きそう?」
川 ゚ -゚)「続きそう」
ξ;゚⊿゚)ξ「う、うーん……また後で聞くわ……」
( ^ω^)(べた惚れじゃないかお)
彼女のことだから、「心配して」という素振りは微塵も見せなかったであろう。
素直に振る舞っていれば、ロミスもヒールの気持ちにすぐ気付いただろうに。
-
胸焼けでもしたか、ツンがげんなりしたような顔付きで戸棚に向き直る。
表彰状を順繰りに眺めていったツンは、ふと目を止めた。
ξ゚⊿゚)ξ「初めて賞をとったの、6歳のとき?」
川 ゚ -゚)「はい、初めて出たコンクールで」
ξ*゚⊿゚)ξ「へえ! すごいじゃない」
川 ゚ -゚)「でも、結構大変でしたよ。
コンクールの数日前に風邪引いて高熱出して、寝込んじゃって。
その反動なのか、コンクール当日はやけに調子が良かったので結果オーライですけど」
ふと、思い出したようにクールは苦笑した。
川 ゚ -゚)「ただ、あれ以来、どうにもカラスが苦手で」
ξ゚⊿゚)ξ「カラス?」
-
川 ゚ -゚)「熱で寝込んでた日、庭でカラスがぎゃあぎゃあ騒いでたんです。
ただでさえ苦しくて心細いときにあんな鳴き声を聞かされて、すごく恐くて」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ……何か分かるわ、なんとなく不安になるわよね」
川 ゚ -゚)「あのとき、庭の様子を見に行こうとしたんですけど。
それから、どうしたんだっけ……」
思い出せないのが心地悪いようで、クールは腕を組み、すっかり考え込んでしまった。
まるでそれを挑発するように、外でカラスが一鳴きした。
*****
-
ξ;´⊿`)ξ ハァー
( ^ω^)「ロミスさん、そっち持ってくださいお」
£°ゞ°)「はい」
──ロミスの部屋。
昨夜の約束通り、この部屋の結界を解くために3人で一仕事する羽目になった。
まずは棚から荷物を全て下ろすことから始まったのだが、これが一苦労。
大小様々な物品が積まれているので、ごちゃごちゃにならないように分けながら作業しなければならない。
空になった棚を、内藤とロミスの2人がかりでずらす。
ようやく北側の2隅が露わになった。
埃が溜まっていたので、前以て借りておいた掃除機で吸い取る。
-
( ^ω^)「ツンさん」
ξ;´⊿`)ξ「うーい」
初めの作業でぐったりしていたツンが、よろつきながら部屋の隅に移動した。
内藤とロミスは待機。
床を撫でていたツンの手が、一枚の板に引っ掛かった。
ξ゚⊿゚)ξ「──ここ外れるわ」
床板を引っぺがす。
地面と床の間に数十センチメートルの空間があるようだ。
暗くてよく見えないらしいので、先ほど棚から見付けた懐中電灯を渡す。
-
ξ゚⊿゚)ξ「あ……奥に何かある。内藤君、棒とかない?」
( ^ω^)「えっと……」
£°ゞ°)「ピャー子さんが昔使っていた虫取り網なら」
ξ*゚⊿゚)ξ「それ貸して!」
懐中電灯と虫取り網を入れ替えると、
彼女は網を持った右手を狭い隙間に突っ込み、奥へと腕を伸ばした。
這いつくばってそういう動きをするので、まあ、ツンの上体が下がって、尻が浮く。
その尻をロミスが凝視する。
こいつ蹴飛ばしてやろうかと内藤が睨む。そんな状況が約20秒。
ξ*゚⊿゚)ξ「取れた!」
あわや内藤の右足がロミスに向かいかけたところで、がばとツンが体を起こした。
虫取り網の中に、布に包まれた何かが入っている。
£°ゞ°)「良かったです」
( ^ω^)(何がだお)
床の穴から離れたツンは網から「それ」を取り出し、布を外した。
内藤とロミスも傍に寄って覗き込む。
-
( ^ω^)「……これは」
ξ゚⊿゚)ξ「箸箱──に似てるけど」
漆器の、黒く細長い箱。
赤い紐が括りつけられている。
ツンは慎重な手つきで紐をほどき、蓋を外した。
何か「それっぽい」ものでも入っているのでは──と身構えたが、
そこにあったのは、およそ予想のつかぬ品であった。
( ^ω^)「針?」
銀色の縫い針。
白い糸が通されている。糸は長い。
ξ゚⊿゚)ξ「紙も入ってる」
箱の底に、折り畳まれた紙が敷かれていた。
ツンが紙を広げる。B5かそれくらいのサイズの和紙だ。
文字らしきものが書かれているのだが、全く読めない。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ロミスさん、読める?」
£°ゞ°)「いえ。私には何だか、ぼやけて見えます」
ξ゚⊿゚)ξ「そう……対象からの干渉はひたすら拒むみたいね。
……糸を通した針……」
ツンは、何か引っ掛かるところがあるようだった。
己の考えを内藤にもロミスにも知らせようとしない。
彼女にはそういう癖がある。自分の中でしっくり来るまでは黙っているような。
首を振り、彼女は今度は反対側の床板を剥がすと、同じように箱を回収した。
箱の形状も、中身も、全く同じ。
針と糸、紙。
それから続いて南側の棚をどかし、そちらの2隅からも箱を拾い上げ、ようやく作業は終了した。
いや、これから床板と棚を元に戻さなければならないのだけれど。考えたくはない。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ぜーんぶ、縫い針ね」
( ^ω^)「これが何でロミスさんを閉じ込められるんですかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん……」
──こつこつという音で、内藤達は部屋の入り口へ目をやった。
開け放したドアに寄り掛かり、ヒールが壁をノックしていた。
川*` ゥ´)「……終わったの」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、多分」
( ^ω^)「ピャー子さんの方も復活したようで」
£°ゞ°)「ピャー子さん」
川;*` ゥ´)「ええい喋るなっ! 気配消してろ! こっち見んな! お前なんか知らん!!」
( ^ω^)(全然復活してなかった)
部屋に入ってきたヒールは、ミネラルウォーターのペットボトルを
内藤とツンにそれぞれ放り投げた。
よく冷えている。先程までの作業により喉が渇いていたのでありがたい。
-
ロミスにもペットボトルが渡される(というか投げつけられる)。
傾けたり蓋を上に引っ張ったり、いくらか動作を経て、ようやく開け方が分かったらしかった。
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとね、ちょうど水が欲しかったの」
£°ゞ°)「ありがとうございます」
川;*` ゥ´)「喋るなってば! ……床の、あれ、やったの? 何か埋まってた?」
ξ゚⊿゚)ξ「縫い針」
ヒールは片眉を上げた。
それがどう作用したのかと問うたが、すぐに「やっぱりいい」と首を振った。
聞いたところで自分には理解できまいと判断したらしい。
-
川*` ゥ´)「で、あんたこれからどうすんの」
£°ゞ°)
川;*` ゥ´)「もぉおおおっ!! 喋るなっつったけど! 今は喋るとこだろ! 畜生!」
£°ゞ°)「どう、と言いますと」
川;*` ゥ´)「……部屋から出られるんでしょ。今日からどこで寝んのさ」
£°ゞ°)「許されるなら、この部屋で」
ロミスが笑む。
その返答に、ヒールの表情が怪訝なものになった。
-
£°ゞ°)「裁判の結果がどうあれ、私は元々この敷地内に住んでいた者です。
それに現段階ではあなたの夫ですから、尚更、この家を出ようというつもりはありません。
……屋根も布団もある場所で眠りにつけるのも魅力的ですし、出来るならば今は……」
川*` ゥ´)「……好きにすれば」
退室しようとしたのか、踵を返したヒールがドアを開けた。
が、ロミスがゆっくり立ち上がる音に気付き、振り返る。
久しぶりに外へ出たいと言って、彼はヒールの前へ歩み寄ると、手を伸ばした。
廊下側へ出た手をひらひら動かす。
£°ゞ°)「出られますね。ありがとうございました、出連先生」
ξ゚ー゚)ξ「ん……。どうぞ、ごゆっくり。
今日のところは我々も失礼させていただくわ。行きましょ、内藤君」
( ^ω^)「はい」
縫い針の収まった箱をツンの鞄にしまい、腰を上げる。
ロミスはツンに目礼すると、ヒールの左手を握った。
-
川;*` ゥ´)「なに、」
£°ゞ°)「一緒に庭を歩きませんか」
川;*` ゥ´)「す、……するかっ! 私はこれから猫田と話さなきゃなんないんだよ!」
ξ゚?听)ξ「え、検事来るの?」
川;*` ゥ´)「そろそろ来るって言ってた」
ξ-??-)ξ「じゃ、さっさと出ましょうか。
顔合わせたらまーた嫌味ぶつけられるわ」
ヒールが一歩退いたので、先にツンと内藤から部屋を出た。
続いてロミス。
数歩遅れてヒールが出て、ドアを閉めた。
-
川;*` ゥ´)「なに、」
£°ゞ°)「一緒に庭を歩きませんか」
川;*` ゥ´)「す、……するかっ! 私はこれから猫田と話さなきゃなんないんだよ!」
ξ゚⊿゚)ξ「え、検事来るの?」
川;*` ゥ´)「そろそろ来るって言ってた」
ξ-⊿-)ξ「じゃ、さっさと出ましょうか。
顔合わせたらまーた嫌味ぶつけられるわ」
ヒールが一歩退いたので、先にツンと内藤から部屋を出た。
続いてロミス。
数歩遅れてヒールが出て、ドアを閉めた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「──ロミスさんは、ピャー子さんと離婚したい気持ちは変わらないのね?」
廊下を進みながらツンが問う。
内藤は隣を歩くロミスを見上げた。
しばらく返事がなかった。
庭へ続く掃き出し窓の前で立ち止まり、ようやく「はい」と肯定する。
後ろを歩いていたヒールは顔を顰め、ロミスの脇腹を軽く殴ると
内藤達を追い越していってしまった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、もし裁判に負けて、彼女とこれまで通り夫婦で居続けるとしたら……
それは苦痛?」
その問いには、すぐに首を横に振った。
それを確認してから、彼女は続いてクールから引き出した情報を聞かせた。
ヒールがロミスのために何をしてきたか。
ロミスは黙っている。
反応を得るのを諦めたらしく、ツンは内藤の名を呼び、再び歩き出した。
£°ゞ°)「──だから困る」
背後でロミスが呟く。
2人が振り返ったとき、彼は窓を開け、庭へ下りるところだった。
*****
-
( ^ω^)「2人は離婚するべきでしょうかお」
帰路についていた内藤は、ツンへ訊ねた。
ツンは難しい顔をして首を捻る。
( ^ω^)「昨晩は離婚推奨してましたおね。ピャー子さんのことが心配だって」
ξ゚ -゚)ξ「異類婚って、どう考えても大変でしょ。色々と厄介事を背負い込むもの。
好きでもない相手との、仕方なしの結婚でたくさん我慢を強いられるなんて
どんなに後悔したって足りないわ」
ξ゚⊿゚)ξ「だからピャー子さんのためにも離婚するべきだろうと思ったし、
……ほんとは、『賠償』としてのクールさんとの結婚も、
ロミスさんともっと話し合うつもりだったんだけど」
( ^ω^)「ピャー子さんの本心が分かってしまったら事情が変わった、と」
-
ξ゚⊿゚)ξ「ピャー子さんのためにも別れるべき、って考えは無くなったわね。
好き同士なら異類でも同類でも私は構わないし。
……まあ『好き同士』ではなさそうだから、そこがまた問題なんだけど」
( ^ω^)「ロミスさんがピャー子さんを好きでない限りは、
ロミスさんの方が何かしらの我慢を強いられますもんね」
ξ゚⊿゚)ξ「だからやっぱり、諸々を一区切りつけるためにも離婚の方向で進めるべきかなって」
( ^ω^)「一旦落ち着けようってわけですかお。
──でも、さっきのロミスさんの、『だから困る』って発言はどういう意味だったのか……」
ξ;-⊿-)ξ「分かんないわよ……もうちょっと調査すれば分かるかもだけど」
こめかみに手を当て、ツンがうんうん唸る。
ヒールもロミスも、昨夜の告白(と言っていいのか)について何も語らなかった。
ロミスの方が一体どう考えているのか、見当もつかない。
決して不快ではなかったようだけれども。
現在、必要最低限の情報が足りていない気がする。
-
( ^ω^)「今の状態でもう一度裁判したら、どんな展開になりますかお」
ξ゚ -゚)ξ「んー……まずフィレンクトさんに対する訴えだけど、
『閉じ込められた』ことへの謝罪は為されたわ。
でも詐欺行為自体は認められてない」
ξ゚⊿゚)ξ「ピャー子さんの方はロミスさんに対して、充分……とも言えないけれど
それなりに尽くしてきてた事実があったわよね。
だからピャー子さん自身に問題があったとは言えない」
ヒールがロミスを嫌っていたのなら、それだけで、「夫婦関係の続行は困難」とすることが出来た。
しかしそれも既に覆されている。
彼女はロミスを憎からず思っていて、
しかも彼への愛情を──本人には届かずとも──行動で表していたというのだから。
祖父との喧嘩、気遣い等、ロミスの不便さを解消しようという働きかけもしていたし。
ξ゚⊿゚)ξ「だからロミスさんが離婚したいのなら、有効となり得るカードは
もうフィレンクトさんの『悪質な詐欺行為』しか残ってない」
ξ-⊿-)ξ「そこが認められれば離婚も可能。
ただ、昨夜の審理の通り、フィレンクトさんの行いは悪質とまでは言えない……」
──何かを見落としている気がするのだけれど、と、ツンは溜め息混じりに呟いた。
*****
-
裁判を行うにあたり、しぃは、学内での素直ヒールの評判を集めた。
口が悪い・態度が悪い・成績が悪い・およそ女らしくない、というのが大概の印象。
つまり評判は良くない。
そして往々にして、「それに比べてお姉さんは」、となる。
ヒールとクールは同じ高校で、学年が一つ違うだけ。
クールの方は学内では有名だ。妹とは正反対の評価で。
なので、ヒールを知る者は「あのクールの妹」という情報も必ず持っている。当然比較される。
そうするとますますヒールの評判が落ちるわけである。
(*゚ー゚)「君は原告に恋をしている、ということでいいんだね」
しぃが問うと、椅子の上で体育座りをしていたヒールは
腕の中のクッションに真っ赤な顔を埋め、椅子を回してしぃに背を向けた。
-
(*゚ー゚)(……『女らしくない』ってか)
ただの同級生から聞いただけの評判はあまりアテにならないな、としぃは溜め息をついた。
室内を観察する。
華やかな装飾はなく、少々雑然としていて、本棚には少年漫画や昆虫図鑑なんかが収まっている。
そんな部屋の中で、頬を染めて唸るヒール。
はて、女らしさというのは、何を見れば正しく判断できるのだろうか。
しぃには、ヒールは年相応の少女らしく見えるが、
それは普通に学園生活を送っているときの彼女からは気付けない部分でもある。
もう一度溜め息。
(*゚ー゚)「……分かった、別の質問に移ろう。
君はいつから、彼をそういう目で見るようになった?」
ヒールが、ローテーブルの前に座るしぃを見下ろす。
睨むような目付き。
それを受け流し、テーブルの上のクッキーを手に取った。
-
川;*` ゥ´)「……知るかよ……何か切っ掛けがあったわけでもないし……
別に好きじゃないけど……別に……ほんとに……」
(;*゚ー゚)「まだ否定するのか」
気付いたら好きになっていた、というやつ。
しぃは頬杖をつき、ふうん、と唸った。
人の色恋沙汰そのものには、さして興味がない。
(*゚ー゚)「離婚したくないのは、彼が好きだからということでいいのかな」
川;*` ゥ´)「それじゃなくて! 姉ちゃんのためだって言ってるだろ!
私があいつを好きかどうかは関係ないんだってば!」
恋愛感情が真に関係ないか否かはともかくとして。
彼女の、姉のためを思って離婚に応じない、という気持ちはたしかに大きい。
それは初めから訴えていたし、しぃもひしひしと感じている。
-
(*゚ー゚)「そもそも、君が原告との婚姻を結んだのもお姉さんを守るためだったね。
その時点では原告に特別な感情を抱いているわけでもなかった」
ヒールがこくこくと頷く。
(*゚ー゚)「どうしてそこまで迷いなく婚姻に踏み切った?
お姉さんに任せようという気は一切なかったのか?」
頷いていた首が止まった。
しぃはヒールの目を、ヒールはしぃの足元を見ていた。
川*` ゥ´)「……両親はさ、私より姉ちゃんの方が好きなんだと思うよ」
それは返答に困る。
黙して、話の続きを待つ。
-
川*` ゥ´)「や、なんか違うな。そうじゃなくて。
──姉ちゃんの方に『期待』してるんだな」
川*` ゥ´)「姉ちゃん綺麗だろ? 頭も良くてさ、何でも出来て……。
私は全然」
(*゚ー゚)「料理の腕は君の方が上だとお姉さんが言っていたけれど」
慰めるつもりはなかった。
ただ数日前にクールと話した際に、料理については聞いていたし、
実際こうしてヒールが作ったクッキーを食べると美味いとも思う。もう少し甘味が強い方がしぃの好みではあるが。
川*` ゥ´)「姉ちゃんだって料理上手いんだよ。
姉ちゃんは分量とかきっちり計って作るけど、
私は自分の感覚っていうか、目分量で作るからたまに失敗する」
たまたま「上手くいく」ことが多いだけで、料理の腕が高いわけではない、得意ではないとヒールは付け足す。
それが得意ということではないのか、としぃは思うのだけれど。
-
川*` ゥ´)「とにかく姉ちゃん凄いんだ。完璧なんだよ。
将来有望どころじゃないよ」
川*` ゥ´)「姉ちゃんなら、結婚相手だって選り取りみどりだろ。
だから父ちゃんも母ちゃんも期待してんだ。もちろん私も」
(*゚ー゚)「……だから化け物なんかには勿体ない?」
川*` ゥ´)「そう。……あの日──祖父ちゃんが私達にロミスのことを話したとき、
両親は私に何回も目配せしてた。本人達は無意識だろうけど。
『どうせならクールよりもピャー子に』、って思ってたんだろうね。腹のずうーっと底の方で」
川*` ゥ´)「もちろん傷付かないわけでもないけど、気持ちはよく分かった。
私だってそう思ってたもん。
姉ちゃんには苦労させたくないし、私が身代わりになれるんならなりたかった」
──ヒールは学校の成績は悪くとも、頭が悪いわけではない。
自分が望まれる役割を察知出来ているし、己もまたそれを望んでいる。
そうすることが自分の唯一の長所なのだ、と。
-
(*゚ー゚)「……こう言っちゃ何だが、君の姉は、君が自分より下にいると感じていると思うよ。
それこそ無意識に、腹のずっと奥底で」
川*` ゥ´)「……」
(*゚ー゚)「侮蔑だとか、悪意があるわけではなく。
客観的に見て、君に姉より劣っている部分が多いのは確かであって、
その事実を、君も姉も認識している」
川*` ゥ´)「……うん」
(*゚ー゚)「だから姉は、君に幾許かの憐れみを抱いているんだろう。
──より冷静に、客観的に物を捉えているのは姉の方だ。
彼女は、君の長所もしっかり把握しているからね。それ故に君が貶められると胸をいためる」
彼女達は、周りの人間に恵まれてこなかっただけだ。
互いに互いを良く見せる、という術を見失ったまま育ってしまった。
-
ふと、あることに思い至った。
(*゚ー゚)「原告は、面と向かって姉と君を比べるようなことはしたかい?」
川*` ゥ´)「……そういや、なかったかも」
やはり。
女好きのロミスは、どちらかを一方的に下げるようなことをしない。
それがヒールには好ましく映ったのだろう。
(*゚ー゚)「話を戻そう。──理由はどうあれ、君は原告と離婚する気はないんだね」
川*` ゥ´)「ん……」
-
(*゚ー゚)「君の望みであるなら、君の好きにすればいい。
ただ──それで家族に迷惑になるようなことはしないと、誓えるね」
川*` ゥ´)「……猫田、そればっかりだ。
その質問何回目だよ」
(*゚ー゚)「大事なことだ」
川*` ゥ´)「誓う」
(*゚ー゚)「その言葉を忘れないように」
しぃにとって重要なのは、この一点だった。
好きなら勝手に添い遂げていればいい。
ただしそのために周囲へ迷惑をかけるのだけは許されなかった。
それだけは──絶対に。
-
(*゚ー゚)「……そういえば、彼女達は来たかな。ツンさんと内藤君」
川*` ゥ´)「来たよ。姉ちゃんと話して、それからロミスの部屋行って、祖父ちゃんが埋めたやつ取ってた。
ロミス、もう外に出られるってさ」
(*゚ー゚)「裁判で僕が言ったように、彼は淫奔な男だ。
彼を自由にすることに何かしらの不安はないのかい?」
川*` ゥ´)「夜這いでも何でも、そういうことする奴なら、私達があいつの存在知る前にやってるだろ。
第一、──おばけ法? 法律があるなら守るって。
やらかしたら逮捕される危険だってあるんだから」
やはり頭は悪くない。
ロミスの現在の居場所を訊ねると、ヒールは椅子を下り、窓を指差した。
2人で窓の外を見下ろす。
庭がある。
しぃには誰の姿も見えない。
ただ、指先でつつかれるように、池の水が不規則に波紋を描いた。
-
川*` ゥ´)「風邪引くなよ」
呼び掛けるかのごとく、ヒールが言う。波紋が消えた。
ロミスが何か返したのか、ヒールは小さく鼻で笑った。
*****
-
ξ゚⊿゚)ξ「連日付き合ってもらっちゃって悪いわねえ」
( ^ω^)「僕も色々気になってるんで、構いませんお」
翌、月曜日。
今日も今日とて内藤はツンの助手──(仮)、と付けておく──として
学校帰りに彼女の調査に同行した。
角を曲がる。
鳥居と石柱が目に入った。
社名は勿論、「カンオケ神社」。
.
-
(´・ω・`)「──これは……ええと、何とか読める……かも」
参道の脇、手水舎の前。
禰宜、八ノ字ショボンは、ツンから渡された紙──あの縫い針と一緒に箱に入っていたもの──を見て、
文字を指でなぞった。
ξ゚⊿゚)ξ「本当?」
(´・ω・`)「苧、と……環……。
──『苧環』、かな。
苧環でもって封じ込めよう、というようなことが書いてありますね、要約すれば」
( ^ω^)「おだまき?」
(´・ω・`)「はい。花の名前でもありますが、元は『糸巻き』のことです。
オダマキといえば、古事記に有名な話がありましてね」
ツンに紙を返しつつ、ショボンは語る。
-
(´・ω・`)「ある娘のもとへ、正体不明の男が毎晩通ってくるんです。
男の正体を探るため、娘は糸のついた針を男の着物の裾にこっそり刺す。
こうすれば、男が帰る道筋を糸が教えてくれますからね」
(´・ω・`)「さて夜が明け、男が帰った後、糸が伸びる先を辿っていくと三輪山に続いていたため、
その男が三輪の神様であることが分かる……という話です」
( ^ω^)「糸のついた針──ですかお」
あの結界を作っていた針は、その伝説と関わりがあるのだろうか。
しかし、あれが何故ロミスにだけ効力を発揮したのか。
古事記に載っている神様とロミスに何の関係が?
ロミス本人が言うことには、彼は生まれてから100年も経っていない妖怪だ。何かしらの因縁があるとは思えない。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……ありがとう、ショボンさん」
(*´・ω・`)「いっ、いえいえ! 僕なんて大したお役にも立てず……」
( ^ω^)「あの、もしかしてロミスさんは神様なんですかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「それほど格の高い方なら、オサム様がすぐに気付くわよ。
特に何も言わなかったから、神様ということはない筈。
あんなシンプルな結界が効いてたくらいだし」
オサムといえば、彼は今どうしているだろうか。
ロミスのことを大層警戒していた。原因はもちろん彼の恋人に色目をつかったこと。
それとなくショボンに訊ねてみると、特に変わった様子はないという。
何だかんださっぱりしているというか、ただ単に変わっているというか。
-
ξ゚ -゚)ξ「ところでショボンさん。お酒あります?」
(´・ω・`)「お酒……お神酒でしょうか」
ξ゚ -゚)ξ「ええ」
(´・ω・`)「ありますよ。お持ちしましょうか」
ショボンが一度社殿に引っ込み、一升瓶を抱えて戻ってきた。
ちゃぷ、と中の酒が揺れる。
ξ゚⊿゚)ξ「このお酒、一般の方に配ることって……」
(´・ω・`)「お正月に参拝客へ振る舞ったり──
といってもこの御時世ですので、その場では飲ませずに、
小振りの瓶に入れてお持ち帰りいただくのですが」
(´・ω・`)「あとはお祓いなどの後にお出ししたり。
他には、ええと、二本縛りの日本酒をお供え物として頂いた場合は、
お清めしてから一本をお返ししたりもします」
「一本いただいてもよろしいかしら」。ツンが微笑む。
ショボンはでれでれしながら、どうぞどうぞと差し出した。
-
( ^ω^)「昼間から飲む気ですかお」
ξ;゚⊿゚)ξ「私が飲むわけじゃないわよ。
もう、んなこと言われたらお酒飲みたくなってくるわ」
(´・ω・`)「ふふ、飲んでいかれますか?」
ξ゚⊿゚)ξ「遠慮しときます……私酔ったら脱ぐ癖あるし。今の季節は風邪引くわ」
(;*´ ω `)「はぁッぐ……!!」ブシャァ
( ^ω^)「ああショボンさんが想像だけで鼻血を」
ξ゚⊿゚)ξ「体が火照っちゃって……」
(;*´ ω `)「ああっ……ひいい、ひいっ」ガクガク
( ^ω^)「ツンさん、ショボンさんで遊ばないでください」
ツンから一升瓶を手渡されたので、鞄にしまった。ずしりと重くなる。
ハンカチで鼻を押さえるショボンに、彼女は追加の質問をした。
-
ξ゚⊿゚)ξ「二本縛りでお供えしていく方って、結構いらっしゃいます?」
(;*´-ω-`)「そ、そうですね、多いです」
ξ゚⊿゚)ξ「たとえばどんな方が……」
ショボンが天を仰いだ。
鼻血を止めるためか、考え込んでいるのか、どちらだろう。
数拍おいて、彼は内藤にも馴染みのある名を口にした。
(;*´・ω・`)「えっと、猫田さんですね。
──しぃ君のお家の方です」
*****
-
(,,゚Д゚)「裁判どうなってる?」
(*゚ー゚)「何も問題は無い」
猫田家の母屋の隣、離れの部屋。
机に向かうしぃへ、ギコが気遣わしげに視線を寄越した。
(,,゚Д゚)「最近忙しくて、あんまり手伝えなくてごめんなさいね」
(*゚ー゚)「いいさ。お前は僕よりツンさんが大事なんだろう」
(;,゚Д゚)「拗ねないでよう」
くつくつと笑って、しぃは手元のファイルをめくった。
無論本気で拗ねてはいない。
最近のギコは、「猫」の事件に関する手掛かりを探すのに忙しいようだった。
どちらかといえばツンの方が熱心に調べているので、それの手伝いのようになってしまっているらしい。
ツンもギコも、休む暇はあるのだろうか。
-
(*゚ー゚)(僕には出来ないな)
彼女達のように、四六時中幽霊が見えるというのは、おばけ法に携わる以上は不可欠な能力だ。
しぃはギコがいなければ、まともに捜査することも不可能。
お互い、常に一緒に居るわけにはいかないし、その間しぃに出来ることは限られる。
(,,゚Д゚)「今日は非番だから、何か手伝えることあるなら言ってちょうだい」
(*゚ー゚)「休んでればいい。今は霊に会う用事もないし。──後で夕飯を食べにどこか行こう」
書類に目を通す。
今のままなら、裁判ではこちらが勝つ。
しかし相手が相手だし、何が飛び出てくるか分からない。
明らかになっていない部分があるのも気掛かりだった。
──素直フィレンクトは、結界等の知識をどこで得たのか。
審理中のツンからの指摘ははぐらかしたが、重要な点であるのは確かだ。
-
(*゚ー゚)「あ」
ひらり、写真が落ちる。
フィレンクトとヒールの写真である。
「孫思いの祖父」であることを示すための証拠品として借りたものだった。
ギコが拾い上げる。
(,,゚Д゚)「この人が素直さん?」
(*゚ー゚)「ああ」
(,,゚Д゚)「なかなか渋いお爺様……──あら?」
写真を持ったまま、ギコが首を傾げた。
受け取るために伸ばしたしぃの手の行き場がなくなってしまった。
-
(,,゚Д゚)「見覚えが……」
思わぬ発言に、腰を上げる。
記憶を辿るギコに詰め寄った。
(*゚ー゚)「何だって? 知り合いか?」
(;,゚Д゚)「そうじゃないけど……
でも、こうやって真正面から見たことはなかったから、もしかしたら違う人かも」
はっきりしない。ギコも困り顔だ。
焦燥感が湧いて、しぃはギコの腕を掴むと鋭い声で問うた。
(*゚ー゚)「どこで見たんだ」
写真を机に置いたギコが、後ろを指差す。
部屋の出入り口の方角。
まさか、と、しぃの脳裏が驚きにざわめいた。
(;,゚Д゚)「この家よ?
去年あたりから何回か、母屋を訪ねてるの見掛けたわ。
たぶん、叔母様に用があって来てたんじゃないかしら」
.
-
(;*゚ー゚)「……!」
疑問が一つ、解ける兆しを見せた。
ギコの腕を離し、踏み込みで靴を履いて外へ出る。
一瞬、動きが止まった。
母屋の玄関へ向かって歩く人物が2人。
女と少年。
その内の1人、黒ずくめの女と視線が絡む。
しぃは眉根を寄せた。
目的は恐らく同じ。
どんなルートで辿り着いたのか知らないが、目敏い人だ。
*****
-
ごめんなさい、途中ですが今日はここまで。体力が尽きた
明日の昼か夕方に残りを投下します
読んでいただきありがとうございました
Romanさん毎度ありがとうございます
冒頭でまごついてすみませんでした
ひとまず目次
case5 後編>>78
case6 前編>>98/中編>>196/後編>>370
case7 前編>>637/後編>>833
-
おおおおおおおこおお乙!
またしてもいいところで終わった
明日も楽しみにしてるよ
-
お疲れさまー!
楽しみに待ってる
-
おつ!
-
乙!どんな結末になるのか凄く楽しみ!
-
乙
俺がエロはありますかね?とか聞いたばっかりに…ツンさんごめんね
-
おつおつ
-
おつ!
どうなるんだろーう
-
乙
ツンさんのラッキースケベ吹いたwww
ショボンがラッキースケベになったら面白そうだな
-
乙
-
乙
来たか!と開いたらいきなりラッキースケベで吹いた
-
乙!
なにがどうしてあんなラッキースケベにww
続きが気になりすぎて困るな。待ってるぞ。
-
乙!
やっぱりガラケー駄目だな
文字化け酷いわ
-
おつ
-
乙
ξ゚?听)ξ「失せろ」が怖すぎる
-
のんびり続き投下しま
-
いいよ!こいよ!
-
ξ゚⊿゚)ξ「猫田家は元々、呉服屋だったの。
そっちの稼業は数十年前に畳んだらしいけど」
しぃの家へ向かう途中、ツンは言った。
猫田家とはどういう家なのか、という内藤の問いへの回答だった。
おばけ法の制定に猫田家が関わったのだとしぃからは聞いていたが、それ以外は何も。
ξ゚⊿゚)ξ「呉服屋は表向きっていうか、ううんと……
副業で拝み屋さんもやってたのよ。
大々的ではないけど知る人ぞ知るって感じで、そっちでの収入の方が凄かったみたい」
( ^ω^)「拝み屋さん……」
ξ゚⊿゚)ξ「要するに、おばけ関係の相談には何でも乗ってたってわけ」
内藤の脳裏に、N県の裁判で聞いた詐欺事件の話が浮かんだ。
それを感じ取ったのか、ツンが首を振る。
-
ξ゚⊿゚)ξ「N県の高崎美和や……あの人の詐欺グループとは全然違うわ。
猫田家は昔からオサム様とも仲良くやってきてたし、相談料も正当な額でクリーンなもんよ」
こつこつ、ツンの靴底が地面を打つ。
日が落ち始めている。
この時間帯から幽霊達の動きが活発になり始めるのだが、
しぃの家が近付くにつれ、浮遊霊の類を見る頻度が下がっていった。
ξ゚⊿゚)ξ「猫田家は女系の一族で、代々、女の人が『そういう』……霊的な力を持って生まれてくることが多かった。
もちろん例外はあるわよ、ギコみたいにね。
……んで、特にしぃ検事の母親がかなりの力を持つ人で」
( ^ω^)「しぃさんから聞きましたけど、お父さんにも霊能力はあったんですおね?
幽霊裁判の検事やってたからには」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。……そういう力のある者同士を掛け合わせればもっと凄い子が生まれるだろうって、
そんな単純な理由でくっつけさせられたみたいだけど」
( ^ω^)「でもしぃさんは──」
ξ-⊿-)ξ「そうね、彼女はあまり受け継がなかった。
霊力なんて必ず遺伝するものでもないから、別におかしな話ではないんだけど」
ツンが足を止め、内藤も立ち止まった。
目の前に立派な門がある。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……ここが検事の家」
ヒールの家もなかなかのものだったが、しぃの家は更に予想を越えた。
門をくぐる。
きん、と空気が澄み渡る音が聞こえるような錯覚。
日本家屋が目に入った。横に広い造り。
門から玄関へ石畳が敷かれている。
左へ顔を向けると広い石庭があり、その隅に小屋のようなものがあった。
ξ゚⊿゚)ξ「あれは検事の仕事場」
石畳の上を進む。
離れの小屋から、人が出てきた。
トレーナーにカーゴパンツ姿の少女。
(*゚ー゚)
しぃの動きが止まった。
かと思えば顰めっ面をして、早足で近付いてくる。
-
(*゚−゚)「何しに来たんですか」
ξ゚⊿゚)ξ「でぃさんにお会いしたいんだけど」
ツンが言うと、しぃは舌打ちして内藤達の先頭を歩き出した。
ついていけばいいのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「舌打ちなんてしたらギコに行儀悪いって怒られるわよーう」
(*゚ー゚)「あなたに行儀の悪さを言われたくはない」
*****
-
(#゚;;-゚)「──素直フィレンクトさん、ね」
猫田家、母屋の一室。
床の間を背にして座った女性は、しみじみとヒールの祖父の名を呟いた。
しぃの母、猫田でぃ。
ツンと内藤と向かい合う彼女は、フィレンクトを知っている、と頷いた。
内藤はどこを見ればいいか分からず、でぃが身につけている着物の柄を目で辿った。
でぃの顔や手には古い傷跡があって、じろじろ見ては失礼だろうと思ったからだ。
背後からぴりぴりとした空気を感じ、そっと振り返る。
内藤達の斜め後ろに座るしぃと目が合った。
-
(*゚ー゚)「……」
「何だ」としぃが声を出さずに口だけ動かす。
用があるわけでもない。小さく首を振り、前へ向き直った。
(#゚;;-゚)「何度かお会いしたことがあるわ。彼の奥様との縁で知り合って」
ξ゚⊿゚)ξ「フィレンクトさんの妻は、神棚の手入れをまめに行っていたそうですし……
信心深い方だったんですね」
(#゚;;-゚)「そうなの。奥様は生前、よく、この家に来てくださったものだわ。
フィレンクトさんは、あまりそういうのに興味がなかったようだけれど」
ξ゚⊿゚)ξ「ロミスさんの件があり、困ったフィレンクトさんはあなたに相談した」
(#゚;;-゚)「ええ、ええ、そういうことになるわね」
ξ゚⊿゚)ξ「……フィレンクトさんにお酒と、結界に必要な道具を渡したのもあなたですね」
でぃが右手を頬に当て、傷をなぞった。
癖のようだった。先程から、時折その仕草をしている。
-
(#゚;;-゚)「あまり良くないことだとは分かっていたけれど……
フィレンクトさんがあまりにも不安そうだったから。
でもね、私、『彼が無害だと確信出来たら結界を解いてあげなさい』とも言ったのよ」
(*゚ー゚)「……それは、無害だと信じきれないのなら閉じ込め続けろということではありませんか」
(#゚;;-゚)「そう……なるのかしら?」
(*゚ー゚)「たとえ無害であったとしても、閉じ込められたことに腹を立て悪霊になる可能性もあったのでは?」
ξ゚⊿゚)ξ「検事」
ツンが前を向いたまま、咎めるように後ろのしぃの名を呼ぶ。
しぃは押し黙った。
居心地が悪い。非常に悪い。
どこか間違ったところを突けば、一瞬で空気が破裂しそうな緊張感。
主にしぃから発せられている。
-
他人の御家庭の事情など知ったこっちゃないが、
母娘関係の悪さは内藤にも伝わってきた。
でぃが気に留めた様子がないので、しぃが一方的に嫌っているのかもしれない。
(#゚;;-゚)「ごめんなさい……私が浅薄なばかりに」
ξ゚⊿゚)ξ「いいんです。過ぎたことですし、ロミスさんも憎しみなど抱いていませんでしたから」
(#゚;;-゚)「なら、いいのだけれど。
──それにしても、どうして私がフィレンクトさんと会っていたと分かったの?
しぃさんが今まで知らなかったってことは、
フィレンクトさんのところには、私と通じていた証拠は無かったんでしょう?」
ξ゚⊿゚)ξ「色々調べていましたら、あなたに辿り着きました。
──ロミスさんが祝言の夜に飲んだ『とても美味しいお酒』は、お神酒だったんでしょう。
清められたお酒は、悪いものは遠ざけ、良いものを惹きつけますから」
-
ξ-⊿-)ξ「カンオケ神社で確認してみましたら、あなたがよくお酒を奉納していたとのことで、確信しました」
(#゚;;-゚)「それだけで?」
ξ゚⊿゚)ξ「いえ……そもそもは、あまりにも用意周到だったことに疑問を持ったんです。
ロミスさんが酒好きなこと、ロミスさんにだけ有効な結界……。
彼のことを知りすぎている」
でぃは微笑み、相槌を打つように首をゆるりと揺らして、体ごと後ろを向いた。
用箪笥からいくつか菓子類を取り出し、内藤の前に置く。
礼を言って、飴玉の入った瓶を開けた。
話に加われないし空気も重いし、こうやって意識を向けやすい物をもらえるのはありがたかった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「フィレンクトさんに知恵を授けた人は、素直家には赴いていない。
もし訪れていたのなら、ロミスさんが気付いただろうからです」
ξ゚⊿゚)ξ「なら、直接ロミスさんを見ることなく、的確な指示を出せる人物となれば──
並外れた霊視の力を持つ人か、あるいは……おばけを使った情報収集に長けた人」
口を閉じ、ツンは確認をとるようにでぃを見つめた。
からり、内藤の歯に飴がぶつかり音をたてた。
ξ゚⊿゚)ξ「そこまで考えが至ったところへ、神社でお神酒の話を聞いて──
あなたなら全て容易いだろうと」
でぃは嬉しそうに微笑み、緩やかな拍手をしてみせた。
正解だったらしい。
(#゚;;-゚)「あなたの鋭さは、好きよ。
そうね、私が仲良くしているあやかし達には、そのロミスって方をよく知る者もいたから、
対処の方法も分かったわけです」
(*゚ー゚)「──誓約書も……」
すぐさま、大きくはない声でしぃが加わった。
でぃの視線が内藤の後ろへ注がれる。
やはり母の方からは、娘への敵意などは感じられない。
-
(*゚ー゚)「誓約書の件も、あなたがフィレンクト氏に入れ知恵したんですか。
酔わせて誓約書に同意させろと」
(#゚;;-゚)「……助言しただけよ?
念書を作っておけば後々有利になるって。
それとは別に、ロミスさんはお酒が好きだろうってお話ししたけれど」
嘘はついていないのだろう。
誓約書と酒の話は別々にしておいて──
それを聞いたフィレンクトがどうするかは自分は知らないと。そういう。
しぃが立ち上がった。
内藤の脇を通り、障子を開ける。
-
(#゚;;-゚)「しぃさん。お夕飯、こっちで食べるわよね?」
(*゚−゚)「……ギコと外食する約束をしていますので」
振り返らずに答えて、しぃは部屋を後にした。
傷跡を撫で、でぃの唇から吐息が漏れる。
(#゚;;-゚)「最近、ますます可愛げが無くなってきちゃって」
空気はいくらか軽くなったが、依然として居心地は悪い。
ツンは礼を言って、失礼させていただきます、と腰を上げた。
ようやく帰れる。内藤は安堵した。
*****
-
#####
しぃが初めて母の「仕事」を見たのは、5歳の頃である。
(* ;;- )『──、──……』
部屋の真ん中に横たわる母は、衣類を乱し、細い喉を反らして呻いていた。
彼女の着物の裾が独りでに持ち上がっている。
障子の細い隙間からそれを眺めて、しぃは、母に声をかけるのを躊躇った。
読んでほしい本があって来たのだけれど、とてもそんな雰囲気ではない。
──不意に、視界に変化が生じた。
母の傍に、ぼんやりとした輪郭が浮かび上がってきたのだ。
-
(,,゚Д゚)『しぃ、』
囁き。後ろからギコに抱えあげられる。
その瞬間、ぼやけていた「それ」がはっきり見えた。
獣の頭に人間の体をした化け物が、母の上に乗っかっていた。
化け物の手が母の体をまさぐる。
鋭い爪が母の腕に傷を作り、彼女はひときわ高い嬌声をあげた。
しぃの手にある本を見下ろしたギコは、部屋から聞こえる声に気付くと
気まずそうな顔をして、しぃを抱えたまま部屋の前を離れた。
(,,゚Д゚)『本なら俺が読んでやるから』
ギコの部屋に連れていかれる。
しぃを膝に乗せて本を開く彼に、問い掛けた。
-
(*゚ -゚)『おかあさん、おばけに苛められてたの?』
ギコが答えに詰まる。
ああ、とか、うう、とか唸って、ようやく否定した。
(,,゚Д゚)『……あれが叔母様の仕事だから。
苛められてるわけじゃなくて……何て言うかな、仲良くなるためにしてることで』
しぃは首を傾げ、そう、と返した。
幼い彼女には何も分からなかった。
.
-
成長し、知識をつけていく内に、理解できるようになっていった。
母は、自身の体を差し出すことで妖怪を手懐けていたのだ。
彼女の顔や体にある傷は、化け物と交わる際に出来たものだった。
妖怪との交流の仕方や使役の契約方法は人それぞれで、
母に限って言えば、ああいった関わり方が彼女に合っていたというだけの話。
──母は、人間の男を愛せない。
異形の者に興奮する、そんな性を持っていた。
(*゚−゚)(……気持ちの悪い)
今は亡き父が、生前、彼女に蔑ろにされていたのも。
父が死んだとき、彼女がまるで無関心だったのも。
全ての理由はそれ。
建て前で結婚しただけであって、母は父を置いて妖怪との情事に溺れていた。
-
それを知ると、途端に、周囲の噂話に気が付くようになってしまった。
──「しぃさんは、本当に旦那様の娘だったのかしら」。
しぃは母と父の霊力を受け継がなかった。
そのせいか、しぃの父親は別にいるのではないかと疑う目が多かったのだ。
滑稽だったのが、ギコこそが彼らの子供であろうという話。
もちろんそんな事実はない。
幸い、母よりは父に顔が似ていたため、その噂が表立つことはなかったが。
鏡を見るたび安堵する。
自分にはちゃんと、父の血が流れている。
-
もっと男らしく。
もっと堂々と。
もっと、幽霊裁判での優秀な戦績を。
父に近付きたい。
彼の子供なのだと、証明したい。
散々嫌っていた男に似ていく娘を見て、母はずっと不快になっていればいい。
ざまあみろ。
#####
-
ξ゚⊿゚)ξ「検事」
( ^ω^)「あ、どうも」
庭で待っていると、ツン達が玄関から出てきた。
歩み寄る。
(*゚ー゚)「……申し訳ない、原告を閉じ込めた元凶は母だった」
ツンに頭を下げるのは癪だったが、申し訳なく思うのも事実なので
不承不承謝罪した。
-
ξ゚⊿゚)ξ「私に謝られてもね。
それに、でぃさんに悪意があったのかは分からないわ」
(*゚ー゚)「あの人は……たまに過度な手段を選ぶ。
妖怪達と関わりを持ちすぎて、基準が曖昧になっている節がある」
きっと母は反省などしていない。
そもそも、自分の行いが悪いかどうかも分かっていない。
昔からそうだ。
彼女は、他者を「傷付かせる」とか「悲しませる」とか、そういったことに鈍い。
妖怪の相手ばかりしているからだろう。
そのせいか、霊障について彼女に相談してきた客とトラブルになることもあった。
それでも優秀ではあるから、猫田家の信頼は失われずに済んでいるけれど。
-
(*゚ー゚)「フィレンクト氏は、あの人に操られたようなものだ」
だが。
まあ。
それはそれとして。
(*゚ー゚)「──なので、やはり、フィレンクト氏の詐欺行為は認められない」
ξ;゚⊿゚)ξ「はあっ?」
(*-ー-)「彼は僕の母に言われたことを実行しただけだ。
彼に悪意があったとは、とても……」
ξ;゚⊿゚)ξ「悪意が無いのに一年以上もロミスさん閉じ込め続けるって何よ!」
(*-ー-)「不安が拭いきれなかったからでしょう。
彼に純粋な悪意があった証明が出来れば話も変わってくるかもしれませんが。
ありますか、そんなの」
ξ;゚⊿゚)ξ「こ、このっ……クソガキ……! さっきまで殊勝な顔して!」
母に対する個人的な感情と、裁判はまた別の話。
-
妖怪に恋するヒールを見ていて、そりゃあ、思うことも無いではないが、
ヒールは純粋にロミスを想っているだけだし、家族に迷惑はかけないと言っている。
それならばヒールの手助けをしてやりたい。
何より自分は勝たねばならない。
(*゚ー゚)「それでは失礼して」
石畳の上を歩き、門をくぐって敷地外へ出た。
後ろからツンが駆け寄る足音がする。
ξ゚⊿゚)ξ「ギコとご飯食べに行くんじゃなかったの」
(*゚ー゚)「まだ時間がある」
-
( ^ω^)「どこ行くんですかお」
(*゚ー゚)「素直さんの家に。新たな事実が発覚したんだ、説明する義務がある」
ξ゚⊿゚)ξ「あーら、そう。私もロミスさんのとこ行くんだけど」
しぃが足を早めるとツンもスピードを上げ、わざとらしく並んできた。
足は止めずに、互いに顔は正面へ向けつつ、横目で睨み合う。
(*゚ー゚)「素直さんのお姉さんの気持ちを考えずに原告の味方などして」
ξ゚⊿゚)ξ「考えてるわよ。そう言うあなたこそロミスさんのこと考えてないじゃないの」
(*゚ー゚)「僕には、彼と素直さんは上手くやっているように見える」
ξ゚⊿゚)ξ「……でもロミスさんは離婚を望んでるわ」
(*゚ー゚)「素直さんは望んでいない」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
(*゚ー゚)「……」
ξ#゚⊿゚)ξ(#゚ー゚)「「ふんっ!!」」
同時にそっぽを向く。
仲がよろしくて結構、と内藤が非常に腹の立つ一言をぶつけてくださった。
*****
-
£°ゞ°)「そうですか、検事さんの……」
ロミスの部屋。
ツンから説明を受けたロミスは、合点がいったようだった。
腹が立つかと問うツンに、彼は首を振る。
£°ゞ°)「わざわざお話ししに来てくださって、感謝します」
ξ゚⊿゚)ξ「いえ、確認したいこともあったから」
£°ゞ°)「確認?」
-
ツンの口デルタ
-
ξ゚⊿゚)ξ「……ロミスさん、あなた、今とってる人型とは別の姿があるわよね」
出されたジュースを飲んでいた内藤は、ちらりとロミスを見た。
別の姿。
内藤はそんなもの知らない。
これまでの調査で、彼女がその結論に至る手掛かりがあったのだろうか。
ロミスが目を伏せる。
否定ではない、寧ろ逆の。
ξ゚⊿゚)ξ「そのこと、私にもピャー子さんにも教えてくれなかったのね」
£°ゞ°)「……女性にはあまり好かれないものですので。
それに人の姿の方が色々と勝手がいいですから、わざわざあちらの姿になることもなくて」
話す必要を感じなかったとロミスは言う。
£°ゞ°)「ここ十数年は、ずっとこの姿でしたし……私のことを知っている方でも、
『あちら』の状態の私を見た方は少ないでしょう」
ξ゚⊿゚)ξ「でぃさんのお知り合いは知ってたみたいだけどね」
一体何なのだと内藤が訊ねようとしたところで、ドアが開いた。
どうも、内藤が真相に近付こうとしても上手くいかない。
-
川*` ゥ´)「──盃って、これでいいの? 食器棚の奥にあったやつ洗ってきたけど」
赤い盃を手に持ったヒールがやって来る。
この家に来て真っ先に「盃はないか」とツンが言ったのだ。
今まで探してくれていたようだ。
しぃは彼女の部屋で待たされているらしい。
ξ゚ー゚)ξ「ありがとう。盃で何杯くらい飲んだら酔うのか、確かめたかったの」
ツンの目配せを受け、内藤は鞄から一升瓶を取り出した。
神社でもらってきたお神酒である。
瓶の蓋を開けた。
ごく普通の酒にしか思えなかったが、にわかにロミスが食いついた。
身を乗り出させ、鼻をひくつかせる。
£°ゞ°)「この匂い……」
ξ゚⊿゚)ξ「カンオケ神社のお神酒よ」
-
ツンとロミスって良く見たら似てる
-
£°ゞ°)「お神酒……ああ、そうか。
昔に飲んだ覚えがあったのは、立ち寄った神社で頂いたものか……」
ツンの手招きで、ヒールがしゃがみ込む。
盃に透明な酒が注がれた。内藤にはやはり、変わったところは見られない。
ヒールが盃を差し出すと、ロミスは待ちきれないと言わんばかりに手を伸ばし、それを受け取った。
一度唇を舐め、それから、盃を傾けて酒を口に流し込む。
喉が動く。はあ、と息をついた彼の顔は、満ち足りていた。
£°ゞ°)「──この味です」
ξ゚⊿゚)ξ「もっと飲む?」
£°ゞ°)「是非」
2杯。3杯。
そんなペースで飲んで大丈夫なのかと心配になるほど、ロミスは次々に酒を飲み下していった。
-
──そしてものの30分で。
ξ;゚⊿゚)ξ「……美味しい?」
£*´ ゞ`)~゚「おいしいれす……」
泥酔した。
.
-
£*´ ゞ`)「もっとくらさい、出連しぇ、うぃっく」
ξ;゚⊿゚)ξ「まだ半分もいってないんだけど……」
川;` ゥ´)「祖父ちゃんがたまに普通のお酒あげてたときは、一本空けても平気な顔してたよ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「お神酒だからかしら」
ロミスが盃を持ち上げようとするが、手に力が入らないらしく落としてしまった。
拾おうと手を伸ばしても、距離が上手く掴めないのか、指先が掠るだけ。
完全に酔い潰れている。
見兼ねたヒールが盃を拾い上げた。
ツンがそこに酒を注ぐ。
川*` ゥ´)「おら、口開けろ酔っ払い」
ロミスの隣に座って、彼の口元に盃を押し当てた。
こくりこくり、ゆっくりと酒を飲み下していく。
内藤は、ロミスの体が徐々にヒールの方に傾き、両手が彼女へ回されようとしているのを見た。
ヒールは気付いていない。
盃が空になる。
-
川*` ゥ´)「お前さあ、ここら辺にし──」
ヒールの言葉が途切れた。
ロミスがヒールを抱き締めながら、床に倒れ込んだからだった。
仰向けで倒されたヒールだったが、ロミスの右腕が支えていたので
床に頭を打ちつけることだけは避けられたのだけが幸いか。
川;` ゥ´)「は!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ロミスさん!?」
川;*` ゥ´)「なっ、ロミ、ロミス、こら、重い! どけ!」
£*´ ゞ`)「ぴゃーこさん……」
もごもごとヒールを呼び続けるロミス。
やがて言葉に変化が生じた。
いつもありがとうございます、と言っているのだと気付くのに時間がかかった。
ヒールは聞いていないようで、ロミスの胸を押したり脇腹を蹴ったり、必死に抵抗している。
-
わっふるわっふる
-
川;*` ゥ´)「うわああああ!! やめろやめろやめろ!
この野郎! おい、なあ、なあ、酒臭いよ、……や、やめて……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっとロミスさーん」
( ^ω^)「離婚裁判が別の裁判に変わりりますお」
段々ヒールの抵抗が弱っていったが、どかした方がいいだろう。
女子高生を押し倒す男の図は少々危険である。
ツンと内藤でロミスを引き剥がす。
やはり酒で力が入らないのか、あっさり離れた。
£*´ ゞ`)「ぴゃーこさん」
上半身を起こしたヒールが、ロミスの頭に何度も拳骨を落とす。
それにもめげずに内藤達の腕からするりと抜け出した彼は、
そのままヒールの膝にしがみつくようにして、おとなしくなった。
-
川;*` ゥ´)「なっ、なっ、なっ、何、何これ、何なの」
£*´ ゞ`)~゚ グー
ξ;゚⊿゚)ξ「……寝た?」
( ^ω^)「寝ましたお。
起こさないように、しばらくそのままでいたらどうですかお?」
川;*// ゥ//)「……、っ、……」
一瞬にして耳まで赤くなり、ぶわっと汗が浮かぶ。
そして彼女は、振りかぶった手でロミスの後頭部を引っ叩いた。
軽妙な音が響く。
それで起きたのか、ロミスが身じろぎした隙にヒールは勢いよく立ち上がった。
急に枕を失い、ロミスの側頭部が床へと落ちる。
叩かれ打ちつけ、何とも不運な頭である。
-
川;*` ゥ´)「猫田にチクってやるからな!! 馬鹿! 馬ぁあああ鹿!!」
ヒールが部屋を飛び出し、
川;*` ゥ´)「その酒二度とロミスに飲ませんな!!」
ちょっとだけ戻ってきて、即座に走り去っていった。
正直、見ていて面白かったのでもう少し続けてほしかった、と内藤が思ったのは彼の心の中の秘密。
頭を押さえてロミスが呻く。
四つん這いで近付いていったツンが、肩を叩いた。
ξ゚⊿゚)ξ「ロミスさん、ロミスさん」
( ^ω^)「ツンさん、近付いたらさっきのピャー子さんみたいになりますお」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなったらすぐに検事を呼んでちょうだい」
起き上がる。
ぼんやりした目でツンを見て、首を傾げた。
-
£*´ ゞ`)「……ぴゃーこさんは……」
ξ゚⊿゚)ξ「部屋に戻ったわよ」
£*´ ゞ`)「ぴゃーこさん……」
ツンに手を出す気配はなかった。
とろんとした顔で壁を眺めている。
また酒を要求する前に、と、内藤は瓶に栓をし、素早く鞄にしまった。
そこへ、ドアがノックされた。ツンが返事をする。
ヒールが戻ってきたのかと思ったが違った。
川;゚ -゚)「あの……ピャー子がロミスさんの悪口言いながら廊下を走っていったんですけど、
何かあったんですか?」
クールが顔を覗かせる。
言いながら、きょろきょろとあちこち見渡している。
彼女にはロミスが見えていないようだ。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、大丈夫大丈夫、お気になさらず」
川;゚ -゚)「はあ。……あの、お酒の匂いが」
ξ;゚⊿゚)ξ「それもお気になさらず!」
川;゚ -゚)「は、はいっ」
一礼の後、ドアが閉められた。
足音が遠ざかっていく。
そのとき、ロミスが呂律の回らない不明瞭な言葉を口にした。
ξ゚⊿゚)ξ「え? 何?」
£*´ ゞ`)「くーるさん、きれい」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ああ……そうね」
£*´ ゞ`)「けっこん……くーるさん……ぴゃーこさん……かお……けっこん……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ロミスさん、ゆっくりでいいから、順序立てて喋ってもらえる?」
俯き、沈黙。
寝たか、と内藤が判断しかけたのと同時に、まずは一言目が落ちた。
£*´ ゞ`)「かお、顔で、決めたわけじゃ、ないん、れす」
-
ξ゚⊿゚)ξ「……クールさんのこと?」
喉をひくりと震わせつつ、ロミスは大きく頷いた。
それから続いた彼の一語一語は縺れに縺れていて。
ツンが丁寧にほどいていってくれなければ、内藤は理解できなかっただろう。
いわく。
離婚の話になるより以前から、ヒールは、ロミスがクールを意識していることに気付いていた。
それを揶揄されたこともある。大抵「姉ちゃん綺麗だしな」と付け足して。
けれどクールが綺麗だから結婚したいと
いうわけではないのだ。
-
支援
-
£*´ ゞ`)「……くーるさんは……昔、私を助けてくれました……」
( ^ω^)「助けた?」
ξ゚⊿゚)ξ「何があったの?」
£*´ ゞ`)「……カラス……」
ξ;゚⊿゚)ξ「へ?」
£*´ ゞ`)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「……恩人だから好きになったの?」
£*´ ゞ`)「……やさしくて……あったかくて……忘れられなくて……
ずっと欲しくて……」
ロミスの体が揺れる。
小さな欠伸を一つ。眠気が限界に達しているようだ。
そうして彼はついに、ごろりと床へ転がった。
.
-
( ^ω^)「──どうすんですかお」
ξ゚⊿゚)ξ「どうしましょうかねえ、マジで」
帰路。
ツンはぐったりしていた。心労だろう。
ξ゚⊿゚)ξ「……あの様子見るとロミスさん、ピャー子さんに……」
( ^ω^)「ずいぶん懐いてましたお」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよねえ……」
泥酔したロミスは、ツンにも、「欲しい」というクールにも大したアクションは起こさなかった。
なのにヒールにだけは甘えるような仕草を。
-
( ^ω^)「もう、僕はよく分かりませんお」
ξ゚⊿゚)ξ「数ある少女漫画を読み漁り、幾人もの脳内彼氏とお付き合いしてきた私はもう粗方理解したけどね」
( ^ω^)「切ない話はやめてください」
ξ゚⊿゚)ξ「6番目の彼氏の孝雄くんは内外共にイケメンだったわ。
霊が見える私の体質を知っても、『僕は幽霊よりも君を失うことの方がこわい』と言って受け入れてくれて」
( ^ω^)「何故その話を続けた」
会話が止まる。
さて、裁判はどうなるのだろう。
話は随分こじれている。
関係者全員が納得できる決着など、つけられないようにも思う。
-
ξ゚⊿゚)ξ「──、」
不意に、ツンが立ち止まった。
鞄からファイルを取り出す。
( ^ω^)「ツンさん?」
街灯の傍でしゃがみ込み、焦ったような手つきでファイルをめくる。
ふと、手が止まった。
じっとファイルを見下ろしていたツンは、何かに気付いたのか、勢いをつけて顔を上げた。
立ち上がり、内藤の手を掴む。
ξ;゚⊿゚)ξ「内藤君! もう一回ロミスさんのとこに行くわよ!」
( ^ω^)「はい?」
この人は本当に突拍子もない。
内藤は手を引かれながら、深く嘆息した。
*****
-
──数日後の夜。素直家、ロミスの部屋。
先週と同様、狭い部屋の中で一つの卓袱台を7人──人間4人とその他3人──で囲んでいる。
ロミスはもう外出できる身だが、新たに法廷を決めるのも面倒だからとの理由で
再びここで裁判が行われることになった。
【+ 】ゞ゚)「えー……」
くるうを膝に乗せたオサムが、糸口を探るように呻いた。
心持ち卓袱台と距離があるのは、ロミスをくるうに近付けさせたくないためか。
【+ 】ゞ゚)「原告代理人の調査により、
原告を閉じ込めた結界と酒の入手先が明らかになったわけだが……」
川 ゚ 々゚)「しぃのお母さんだったんだね」
(*゚ー゚)「……申し訳なかった」
-
£°ゞ°)「検事さんのご母堂はお仕事をしただけでしょう」
川*` ゥ´)「私はこいつが誰のせいでどうなろうと知ったこっちゃないや」
川 ゚ 々゚)「くさい」
::川;*` ゥ´):: プルプル
( ^ω^)(この人は何でわざわざ藪をつつくんだろう)
【+ 】ゞ゚)「さらに先日の審理において、素直ヒールが原告に惚れていることも判明した」
川;*` ゥ´)「だァアーっしゃらあああ!!」
川;゚ 々゚) ビクッ
( ^ω^)(ついに否定することを諦めた……)
咳払い。ツンの方からだ。
皆が一斉にツンを見る。
-
ξ-⊿-)ξ「今夜は諸々の答え合わせをさせていただきます」
答え合わせ。
その意味は内藤にもよく分からない。
首を傾げるオサムへ、ツンが進行を促す。応えるように木槌が小さく振られた。
【+ 】ゞ゚)「というわけで、新たな事実がいくつか判明したな。
原告と被告、主張に変更は?」
恐らくオサムは、先にツンの意見を聞こうとしたのだろう。
が、彼女が動きを見せなかったため、間が生まれた。
それを取り繕うように、しぃが自分の用意した書類を持ち上げる。
(*゚ー゚)「細かい部分は変わりますが、結論は同じです。
フィレンクト氏は僕の母からの入れ知恵を受け、それを実行したまでであり、
原告に対して『詐欺』などという非人道的な行いはしていない」
(*-ー-)「また、素直さんも婚姻の取り消しに応じるつもりはありません。
彼女が原告に好意を抱いているのは勿論のことですが、
大事な姉に、望まぬ結婚を強要させるなどあってはならない」
-
(*゚ー゚)「もしも原告の主張、要求が全て受け入れられるようなことがあったら、
素直さんも彼女の姉も不幸になる」
川;*` ゥ´)" コクコク
(*゚ー゚)「逆に、婚姻関係を続行するならば、素直さんにもお姉さんにも不都合は何もありません。
これまでの原告と素直さんの仲が決して険悪ではなく──寧ろ良好であったことを考えれば、
原告にとっても、多大な損失になるとは言えない」
一気に言い切る。
くるうは途中で追いつけなくなったようだが、オサムの方はきちんと納得していた。
【+ 】ゞ゚)「それで、原告は」
今度はツンも反応した。
ゆるり、首を振る。
-
ξ-⊿-)ξ「こちらも変わりません。ロミスさんはフィレンクトさんに騙されていました」
(*゚ー゚)「また……。……あなたは、いたずらに故人を貶めようとしている」
ξ゚ -゚)ξ「ロミスさんを泥酔させた上で誓約書に名前を書かせようっていう作戦に乗ったわけでしょう?
悪意が認められなきゃおかしいじゃない」
(*゚ー゚)「僕の母は、誓約書の必要性を説き、『それとは別に』、原告の酒好きを知らせただけです。
泥酔して正体をなくしている内に名前を書かせろ、とは言っていない」
ξ゚ -゚)ξ「……」
しぃの声に苛立ちが混じった。
反論を続けようと口を開け、瞳を横に逸らし、瞼を下ろして、頭を掻いて、眉間の皺を深くする。
逡巡する動作をたっぷり見せたしぃは、それから瞼を持ち上げると
今度こそ言葉を吐き出した。
-
(*゚−゚)「──たしかにあの人は、はっきりと指示を出してはいなかったけれど
誰だって『酒を利用すればいい』と受け取るでしょう。それは僕も認めます」
(*゚−゚)「だが、やはり、それだけなんです。
酒が好きだとは聞いても──泥酔するかどうかなんて、分からなかった筈だ」
しぃの母はロミスに関して、本当に「酒が好きだろう」ということしか話していないという。
どれだけの量を飲んでどれほど酔っ払うのか、彼女もフィレンクトも知らなかった。
おばけ法に詳しく、当然くるうの存在も知っている母のことだ、
裁判に関わる証言で嘘はつくまい──と、しぃは言った。
疑わしいならば証人として呼ぶのも厭わない、とも。
-
(*゚ー゚)「……フィレンクト氏は、事実、酒を用いた。
ただそれは、酩酊させようということではなく
いわば駆け引きの道具として利用したかっただけではないでしょうか」
(*゚ー゚)「美味い酒で相手の気を緩ませたところで契約を結ぼうという、それだけの……」
ξ゚⊿゚)ξ「──たしかに、フィレンクトさんにとって
ロミスさんが酔い潰れてしまったのは想定外の事態だったんだと思うわ」
来た。
揺らぎのないツンの声に、しぃが警戒の色を覗かせる。
もはや見慣れた光景だった。
(*゚ー゚)「……それが何か?」
ξ゚⊿゚)ξ「これが誓約書、こっちが祝言での書面のコピー」
ツンは、2枚の紙を掲げた。
ロミスがフィレンクトとの誓約に同意した念書と、ヒールと婚姻を結んだ「婚姻届」。
どちらも前回の審理で登場したものだ。
それらをまとめて左手に持ち、その一部を右手の指でなぞる。
-
ξ゚⊿゚)ξ「どちらにもロミスさんの名前があります。この2つの筆跡、非常によく似ている」
川;` ゥ´)「そりゃ同一人物が書いたんだから」
ξ゚⊿゚)ξ「そう、同一人物だわ。でも、書いたときの状況が違いすぎる」
(;*゚ー゚)「……!」
ξ゚⊿゚)ξ「誓約書の方は──あまりにも、字がしっかりしすぎているのよ」
しぃは、自身のファイルからも2枚のコピーを引っ張り出し、食い入るように見つめた。
徐々に血の気が失せていく。
どういうことだとオサムが問う。
それに対して、ツンは月曜日の出来事を説明した。
カンオケ神社からもらった酒を、ここでロミスに飲ませた話だ。
-
ξ゚⊿゚)ξ「お神酒を何杯か飲んだロミスさんは、盃を持つことすらままならないほど泥酔しました。
ね、ピャー子さん」
川;` ゥ´)「あ……」
ξ゚⊿゚)ξ「もしもあの状態のロミスさんに名前を書くように言えば……」
コピーを置いて、次に、メモ用紙をオサムへ向けた。
ぐにゃぐにゃと、歪んだ線が書かれている。
書類の方の名前とは、似ても似つかない。
ξ゚⊿゚)ξ「こんな風に、まともな文字にはなりません」
【+ 】ゞ゚)「これは……読めんな」
あの日、帰路の途中で何かに気付いて素直家へ戻ったツンは、
酔い潰れて眠るロミスを叩き起こして名前を書かせたのだ。
何枚か書かせていたが、どれも似たようなものだった。
しっかりした状態での文字も、それはそれで達筆すぎて内藤には読めないけれど
酔っ払った彼の字は、もはや文字であることすら疑わしい代物である。
-
川 ゚ 々゚)「これじゃ、くるうの方が上手だねえ」
£°ゞ°)「お恥ずかしい」
(;*゚ー゚)「……そこまで酔うより前に、名前を書かせたんじゃないのか!」
ξ゚⊿゚)ξ「酔いが浅かったのなら、そもそもロミスさんが覚えてる筈でしょ」
(;*゚ー゚)「しかし──拇印が、」
ξ゚ -゚)ξ「相手が酔い潰れてるなら、それこそ簡単じゃないの。
手を借りて捺せばいいんだから」
-
川;` ゥ´)「……祖父ちゃんが、勝手にロミスの名前書いて──拇印捺させたってこと?」
呆然と、ヒールが呟く。
そういうことだろうな──オサムが自身の顎を摩りながら頷いた。
【+ 】ゞ゚)「原告は祝言の際に名前を書いていたし、
それに似せて書くことは素直フィレンクトにも可能だ」
(;*゚ー゚)「……だからこの前も言っただろう!
署名の瞬間がどうあれ、原告は目を覚ました後、誓約書の内容に同意した!」
ξ゚⊿゚)ξ「私は今、フィレンクトさんの行為の悪質さの話をしているの。
──検事の言うように、たしかに初めは、美味しいお酒を振る舞って
ロミスさんの警戒心を解こうとしたのかもしれない」
ξ゚⊿゚)ξ「けれど思いの外ロミスさんが酔っ払って……
名前を書かせることも出来ないと分かったフィレンクトさんは、
自分でロミスさんの名を書いた」
(;*゚ー゚)「っ、」
ξ゚ -゚)ξ「これは『悪いこと』じゃないの?」
しぃが黙りこくる。
ツンの攻撃は止まらなかった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……フィレンクトさんは、亡くなった後、すぐに『上』へ行ったわ。
私には真意は分からないけれど──逃げたと見ることも出来ると思う」
川;` ゥ´)「逃げた……?」
ξ゚⊿゚)ξ「ロミスさんを閉じ込めた方法も、誓約書のことも、
この家ではフィレンクトさんしか知らなかった。
それを分かった上で彼は自分の責任を放棄した」
( ^ω^)「責任って、何ですかお」
ξ゚⊿゚)ξ「しぃ検事のお母さんは、『無害だと分かったら結界を解いてやれ』と言った。
──もしもフィレンクトさんに、いずれ結界を解こうという意思があったのなら
ここに残って、しっかりロミスさんを監視するべきだったわ」
-
ξ゚⊿゚)ξ「けれど彼はそうしなかった。
解放してあげる気なんか一切なかった──のかも、しれない」
ツンの声は冷たい。
川;` ゥ´)「祖父ちゃんが……」
ヒールは青ざめている。
怒りや悲しみが混ざり合っているように感じられた。
怒りは、ツンに対してだ。
祖父を散々に言われて怒り、そしてそれに傷付いて。
当然の感情であり、気の毒でもあった。
唇を噛むヒールに、尚もツンは言葉をぶつけようとした。
ここらで止めた方がいいのでは。そう思い、内藤が手を動かしかけた──が。
£°ゞ°)「出連先生」
ツンを咎めたのは、ヒールを見つめていたロミスだった。
-
£°ゞ°)「どうか、そのくらいで」
ξ゚ -゚)ξ「……」
£°ゞ°)「フィレンクトさんは、ピャー子さんを心配するが故に私を警戒していたんです。
それに──彼は亡くなってからは、どこかぼんやりしていました。
恐らく自分が死んだことをはっきり認識するより先に、あの世へ行ってしまったんだろうと思います」
それは、フィレンクトを庇う言葉であると同時に、
ヒールを慰める言葉で。
ツンが目を眇める。
ξ゚⊿゚)ξ「初めにフィレンクトさんの行いを詐欺だと言ったのは、あなたよ」
£°ゞ°)「もういいんです。検事さんの言うことも尤もだ。
──たとえ酒がなくとも、あの誓約書を差し出されていれば、私はきっと署名したでしょうし」
【+ 】ゞ゚)「……ということは、原告」
オサムは何かを問い掛けようとした。
質問が出るより早く、ロミスが頷き微笑する。
そうして、彼は言った。
-
£°ゞ°)「フィレンクトさんへの訴えは取り下げます」
(;*゚ー゚)「は……」
何故、というような顔をするしぃ。
少し間抜けな表情だった。
内藤には察しがついた。
これ以上フィレンクトについて言及していくのは、
ヒールにとって、祖父の名誉が傷付けられていくのと同義。
果ては彼女を傷付けるのにも繋がり──
それが、ロミスには耐えられないのだ。
元はといえば彼が言い出したことなのだけれど。
内藤が分かるのだから、ツンなどとっくに承知の筈。
ツンはここまで展開を読んでいたに違いない。
先程の攻撃の数々は、事実を明らかにしながら、こうして流れを繋げるための。
-
ξ゚⊿゚)ξ「本当に、それでいいの?」
£°ゞ°)「はい」
ξ゚⊿゚)ξ「……あなたが言うなら」
オサムは頭を傾けたまま、固まっていた。
事態を順に整理しているのだろう。
【+ 】ゞ゚)「──待て、そうなると……ん? 何だ、その。
賠償として、素直クールとの婚姻を請求していたんだろう?
訴えを取り下げるなら、その賠償も受けられなくなるが」
£°ゞ°)「仕方がないことです」
川 ゚ 々゚)「離婚は?」
£°ゞ°)「そちらの訴えは、まだ続けていただきたい。
正々堂々とクールさんに結婚の申し出をするためにも、婚姻は解消するべきかと」
川;` ゥ´)「なっ……」
-
【+ 】ゞ゚)「素直ヒールへの離婚請求のみの裁判になってくるのか。
……となると、検事の出番がなくなるな」
( ^ω^)「そういやしぃさん、あくまでフィレンクトさんの『代理』でしたおね」
ξ゚⊿゚)ξ「どうする検事。帰る?」
(;*゚ー゚)「なっ、何だ、何だそれは! ふざけてるのか!?
原告! 『詐欺』というカードが無ければ、あなたの勝率は著しく低くなるんだぞ!?」
£°ゞ°)「出連先生に手間をかけさせることになりますが、離婚が認められるまで諦めずに頑張りたいです」
(;*゚ー゚)「そんな決意表明いらん!!」
川*` ゥ´)「……そんなに私のこと嫌いかよ」
小声でそう漏らしたヒールに、しぃの勢いが削がれた。
にわかに室内が静まり返る。
そんなことはありません、とロミスが言った。
彼はヒールを傷付けるのを嫌ったが、結局、離婚したいという意思表示は
ヒールの胸をいためるのに充分すぎる程である。
-
川*` ゥ´)「じゃあ、あれか、そこまで姉ちゃんが好きなんだ。身の程知らず」
揶揄するような笑顔で言葉を落とし、その笑みは5秒ともたずに消えた。
£°ゞ°)「……」
川;゚ 々゚) ドキドキ
返答はない。
くるうが固唾を飲んで2人を見守っている。
昼ドラとか好きそうだな、とどうでもいい方向に逸れかけた内藤の思考を、ツンの声が正した。
ξ゚⊿゚)ξ「それも、きっと違う」
川*` ゥ´)「──何で」
ξ゚⊿゚)ξ「酔っ払ったロミスさんから聞いた話だけど。
彼は昔、クールさんに助けられたことがあるらしいの」
ロミスがツンを見た。
あのとき自分が口走ったことまでは覚えていないらしい。
-
(;*゚ー゚)「助けた? クールさんは昔から面識があったのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「彼女はその日のことを忘れてる。11……いえ、12年前の話よ」
£°ゞ°)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「……ねえ、ロミスさん。私いまから思い切ったこと言うわ。
これは私の勝手な想像で根拠には乏しいから、
違うのなら、すぐに否定してほしいんだけれど」
ξ゚⊿゚)ξ「──あなたが本当に好きなのは、ピャー子さんなんじゃないの?」
.
-
#####
──月曜日。ロミスの部屋にて。
彼が、お神酒で酔い潰れた後。
£*´ ゞ`)『……やさしくて……あったかくて……忘れられなくて……
ずっと欲しくて……』
酩酊したロミスは、床に転がった。
仰向けになり、腹の上で両手を重ねる。
眠りに落ちかけながらも彼は小さく口を動かした。
£*´ ゞ`)『ほんとに、欲しかったんですよ、ほんとに……』
のたりのたりと紡がれていた言葉が、止まった。
ツンも内藤も、じっと続きを待つ。
-
£*´ ゞ`)「……だから、結婚、しないと……」
それを最後に、深い寝息をたて始めた。
内藤は布団の上から毛布を取り、ロミスへと掛けた。
拾い上げた盃を弄びながら、ツンは溜め息をつく。
ξ゚⊿゚)ξ『……のんびりした人なんだと思ってたけど、全然違ったわね。
頑固者が焦ってたんだわ』
( ^ω^)『……』
ξ゚⊿゚)ξ『この人は、心からクールさんと結婚したいわけじゃないと思う』
( ^ω^)『僕も、そう思いますお』
ξ゚⊿゚)ξ『当初の気持ちがどうあれ……今はもう、義務感というか──意地でしかないのよ』
内藤は、あることに気付いていた。恐らくツンも。
話している間──ロミスは左手の薬指を、右手の人差し指で撫で続けていた。
薬指を、というよりも。
そこにある、薄紫のヘアゴムを。
#####
-
なんと
支援
-
ξ゚⊿゚)ξ「『恩人と一緒になりたい』と長らく思っていて、
でも手違いでその人の妹と結婚した上、いつしかそっちに惹かれて……
自分自身が認めたくなかったのかもしれない」
「だから困る」と、日曜日、廊下でロミスは言った。
ヒールが彼のためにしていたことを知って、そう言ったのだ。
ツンの仮定が正しければ、あの発言の意味も分かる。
彼は、絆されていく己に焦っていた。
ξ゚⊿゚)ξ「違う?」
£°ゞ°)
ツンの言葉を、ロミスは否定しない。
オサムが返事を促した。それでもまだ彼は黙っている。
内藤はヒールへ視線を滑らせた。
どんな反応をするだろうかと。
予想と違わず、ヒールの顔は赤い。
予想と違って、表情は荒れていた。
羞恥や喜びで赤面しているのではない。
彼女は──怒っていた。
-
おおお…
-
川#` ゥ´)「──っ、何だよそれ!」
川;゚ 々゚)「ひゃわ」
川#` ゥ´)「それで──それでお前が裁判に勝ってたら、どうするつもりだったんだよ!
姉ちゃんのこと好きだって言ってくれた方がまだマシだ!!
姉ちゃんは何の意味もない結婚させられそうになってたのかよ!?
何で……、……なんで……」
(;*゚ー゚)「素直さん」
ξ゚⊿゚)ξ「ロミスさんは彼なりに、けじめをつけたかっただけよ」
川* ゥ )「……何で私なんだ……姉ちゃんの方が綺麗じゃんか……」
ξ゚ -゚)ξ「……」
難儀な性格をしている。
姉を差し置いて自分が選ばれるのに慣れていないのだろう。
怒りはすぐに鳴りを潜め、当惑のみが彼女を包んだ。
「ロミスさん」。ツンが、ロミスを呼ぶ。
ヒールの叱責を黙って受けていた彼は、瞳だけでツンの呼び掛けに応えた。
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一旦、次スレ立ててきます
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ξ゚⊿゚)ξ「12年前に、クールさんに助けられたとき──あなたは今と同じ姿だった?」
£°ゞ°)「……いいえ」
【+ 】ゞ゚)「?」
(*゚ー゚)「何です、その唐突な質問」
ξ゚⊿゚)ξ「検事はでぃさんから聞いてないのね」
唐突に母の名前が出て、しぃが眉を顰めた。
(*゚ー゚)「何を」
ξ゚⊿゚)ξ「ロミスさんの正体」
川 ゚ 々゚)「しょうたい?」
ツンが、内藤の隣にある鞄へ目をやった。
──話の流れと、その視線で、彼女が何を欲しているのか理解した。
内藤は鞄を開き、中から箱を取り出した。
細くて長い、黒塗りの。
-
( ^ω^)「これですかお」
ξ゚⊿゚)ξ「ん。ありがと」
それをオサムに見せつつ、ツンは、この部屋の床下から回収したものだと説明した。
これが結界を作っていたのだ、と。
向かいのしぃが箱を受け取り、中を確認する。
ξ゚⊿゚)ξ「オダマキ伝説というのがあります。裁判長はご存知ですね」
【+ 】ゞ゚)「うむ。三輪山伝説だな」
それから彼女は、ショボンがしていたのと同様の話を掻い摘まんで聞かせた。
男の着物に糸を通した針を刺し、男の住み処である山に辿り着く。
男は山の神様だった──という話。
-
ξ゚⊿゚)ξ「この話が変化したと思われる民話があります。
『蛇婿入り』。
着物に刺した針の糸を辿って男の正体を暴くところまでは同じ」
ξ゚⊿゚)ξ「しかしこの話では、男の正体が蛇であり
娘が蛇の子を孕まされたことが判明します。
娘の親が、娘に宿る蛇の子を堕胎させて、話は終わる」
( ^ω^)「それも異類婚姻譚になるんですかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。蛇婿入りにはいくつかパターンがあるわ。
それらでは、『ヒョウタンと針を使って蛇を殺す』という展開がよく見られる」
(*゚ー゚)「……」
しぃとオサムは先に結論に達した様子で、ロミスを一瞥した。
ただ、その結論自体は重要視していないのか、然程リアクションを見せない。
-
ξ゚⊿゚)ξ「先に話した『オダマキ伝説』に出てくる神様は、
現在奈良県の大神(おおみわ)神社で祀られている神様と同一であるとか。
──その神様は、蛇神だとも言われています」
川;゚ 々゚)「へび……」
にょろにょろ、とくるうが手を揺らした。
ロミスは薄く笑む。苦笑い。
ξ゚⊿゚)ξ「ただ蛇の正体を暴くための小道具であった筈の『針』が、
民話では、蛇を殺すための武器へと変化していってるんです」
ξ゚⊿゚)ξ「恐らくその武器としての性質を利用し、ロミスさんを閉じ込めるための結界を作った」
( ^ω^)「……それがロミスさんに効いたってことは──」
「そういう」ことだ。
ツンが首肯する。
ξ゚⊿゚)ξ「──ロミスさんは、元々、蛇のおばけだったんじゃありませんか」
.
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元の姿は女に好かれない、とロミスは語っていた。蛇となれば、そうかもしれない。
人の姿の方が勝手がいい、とも言っていた。蛇には手足がないし、やはり、そうかもしれない。
£°ゞ°)「……おっしゃる通りです」
観念したように、ロミスが肯定した。
かたり、何かの揺れる音がした。
ヒールが身じろぎした音。
僅かに顔を俯けていた彼女が目を見開いていることに、恐らく内藤だけが気付いた。
(*゚ー゚)「……神話や民話では、蛇は好色な生き物だと描かれることが多い……」
ξ゚⊿゚)ξ「お酒との関連もよく見られるわね。
酒で酔わされ倒されるヤマタノオロチ伝説は有名だし──
大神神社の神様は、お酒造りの神様でもある」
( ^ω^)「ははあ、なるほど」
【+ 】ゞ゚)「これでもかというほど原告は蛇の性を持っているな」
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£°ゞ°)「──私は池から生まれたんです。
生まれたときは蛇の姿でしたが、こうやって人の形をとれるようにもなりました」
(*゚ー゚)「……庭の池か」
あの池も、昔はもっと大きかったのだそうだ。
自然に、また人工的に縮小されていって、今や庭のアクセント程度に落ち着いてしまったが。
【+ 】ゞ゚)「蛇神は水神であることも多い。納得はいく」
川 ゚ 々゚) ヘェー
£°ゞ°)「私は、神と言えるほど立派なものでもないのですが」
(*゚ー゚)「で、……それが何なんですか?」
( ^ω^)「ほんと何なんですかお」
内藤としぃが、同時にツンへ目を向ける。
そのツンの瞳はロミスへ。
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ξ゚⊿゚)ξ「12年前、クールさんは、熱で寝込んでいたときに
庭でカラスが騒いでいたから様子を見に行こうとしたらしいの。
それ以降の記憶がないそうだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「そのとき、あなたも庭にいたのね?」
£°ゞ°)「はい。──あの日は池の水が汚れていて、その影響が私にもありました。
……人の姿をとっていられず、蛇になり、ぐったりと倒れて……」
──動けずにいるところをカラスに襲われた。
抵抗はしたが、あまり意味は為さず、一方的に攻撃されるだけだったという。
そこへクールが現れて、ロミスを助けた。
怪我をしたロミスを抱え上げ、体を撫でてくれたそうだ。
£°ゞ°)「その手が優しくて──温かかったんです」
( ^ω^)(……クールさんが?)
──少し気になる。
引っ掛かる、というか。
ツンが目を伏せる。
それは有り得ないと、彼女は首を振った。
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ξ゚⊿゚)ξ「……ロミスさん。
クールさんはね、蛇が苦手なの」
川 ゚ -゚)『私は虫とか爬虫類なんて見るのも駄目だったのに、ピャー子は』──
そうだ。
前回の審理の翌日。
クールはツンと会話した際、そう言っていたのだ。
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ξ゚⊿゚)ξ「カラスを追い払うのはともかく、果たして、蛇だったあなたを抱き上げるかしら」
ロミスはしばらくぽかんとしていた。
ツンが何を言っているのか分からないような、そんな顔。
£°ゞ°)「しかし──私がクールさんの名を呼んだとき、彼女は否定せずに、」
口が止まる。
同時に内藤も理解した。
ああ、そうか。
「彼女」は──そんなに幼い頃から。
ξ゚⊿゚)ξ「……ピャー子さん。あなた、庭で蛇を見たことは?」
川;` ゥ´)「……」
(;*゚ー゚)「──まさか」
ヒールは顔を上げた。
困惑しきったような表情で、呟く。
川;` ゥ´)「……夢か何かだと、思ってた」
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次スレ移動します
念のため目次置いてく
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