■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■
川д川サマー・アダルセンスのようです- 1 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 00:49:03 ID:lYQHPejo0
- ※初投下になります。いまいちな部分も多いかもしれません
※生ぬるい目で見ていただけると幸いです
※不定期な投下になるかと思われます
※貞子可愛いよ貞子
よろしくお願いします
- 2 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 00:50:30 ID:lYQHPejo0
- 205X年。
地球温暖化だの、異常気象だの、なんやかんやで騒がれたらしいのも数十年前。
今は、その数十年前の予測が的中してしまった時代だ。
海面上昇で失われた国土と財産は、あまりにも多かった。
年間の平均気温が数度上がっただけでこのざまだ。
季節からは、春、秋、冬が消えた。
つまり、青春の夏が延々と続く時代。
そんな夏に、私は犯されたのかもしれない。
- 3 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 00:52:19 ID:cfaLSCf.0
- よろしい、ならば支援だ
- 4 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 00:54:59 ID:lYQHPejo0
- そんなわけで、暑い。
白い屋上に照りつける夏の陽射しが、私の白い肌を焼く。
川д川「ふぅ」
だらっ、と垂れ下がった黒髪。
口からは脱力感にあふれた音が漏れ出すのみ。
暇だ。
片手に持った製水機からは、海水をろ過するごぼごぼという音がする。
校舎のすぐ下にある、浅い水面には、白い雲がぷかぷかと浮かんでいるだけだ。
そんな雲を、水上バスが切り裂いて進んでくる。
- 5 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 00:55:49 ID:lYQHPejo0
-
ここは、とある高等学校の屋上。
校舎の足元まで達した海は、確実に、コンクリートを削っている。
波の音と、青い空以外は特になんにもない、この7m×150mの広さのここが、私「たち」の生きやすい場所。
- 6 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 00:56:44 ID:lYQHPejo0
-
川д川サマー・アダルセンスのようです
- 7 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 00:57:50 ID:lYQHPejo0
-
1:非日常でありがちな日常
「教室」って空間の生活は、本当に退屈で陰鬱で、嫌な場所だ。
でも私は、別にいじめられてたりするわけじゃない。
ただ何となく、漠然とした理由で、普段誰もいないこの屋上に来てしまう。
いつもこうだ。
だから、今日も授業をサボってしまった。
屋上の扉を開くと同時に私を包むのは、熱い空気。
その空気を胸いっぱいに吸い込んで、突き抜けるような青空が視界に広がる。
そして、まっすぐ13歩。
そのあと、フェンスに向かって3歩だけ歩いて、私の膝くらいまでしかないフェンスによりかかる。
もはや習慣と化してしまったこの行動に、軽い眩暈と吐き気を覚えながら、今日も私は空を見上げる。
- 8 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 00:59:21 ID:lYQHPejo0
- 川д川「なんで空って青いんだったっけ…」
意味ありげに、空っぽな言葉をつぶやく。
誰もいない、一人ぼっちの屋上で過ごすのはこれで何回目だろう。
不意に、ピー、っと電子音。
川д川「あ、お水出来た」
製水機の蓋を開け、口をつける。
時代と環境に伴って、技術は進歩する。
まさに、海水から真水を作るこの機械はいい例だろう。
ペットボトルに似たフォルム。
海水をろ過するときの、心地いい音。
水上バスだってそうだ。
昔は観光目的のものも多かったようだが、今は専ら移動用。
水没してはいないものの、海が迫ったこの学校に来るのでさえ、水上バスがなくては困る。
時代の流れってすごいなぁ、と思考を膨らませる。
これが私の、屋上での生活。
- 9 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:01:08 ID:lYQHPejo0
- 製水機の中の水が空になった。
普段なら、私はこのまま寝てしまう。
そして、制服に染み込んだ汗と潮の香りを気にしながら帰路につくだけなのだ。
でも、今日はちょっと違っていた。
普段は沈黙を保ったままの屋上のドア。
それが、今にもぶっ壊れそうな勢いで、バタンと開いた。
- 10 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:02:50 ID:lYQHPejo0
- 乱暴に開かれた扉は、蝶番がきぃきぃと鳴いている。
直後、扉の前に黒髪が舞う。
川 ゚ -゚)「何をしている」
私にとって珍しい訪問客は、ボストンバッグを小脇に抱え、ドスの利いた声でそう言った。
ケンカを売るような口調で話しかけられ、私もそれに答えるように声を出す。
川д川「別に、何も」
バカみたいな返事しか思いつかなかった自分が悔しい。
そこまで強い印象はないが、ここは私の聖域だ。
もうちょっとだけうまく、言い返してやれば良かった。
- 11 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:04:43 ID:lYQHPejo0
- 扉の前の侵略者は、まったく移動しないで言葉を紡ぐ。
川 ゚ -゚)「先生から、保健室に君の様子を見に行って、元気なようなら連れてこい、
と言われたものでな」
川д川「保健室?」
川 ゚ -゚)「あぁ。ほら、君は…色白の上に体が弱そうなんだよ。
だから、保健室に行ったんじゃないかと勘違いしたみたいで」
川д川「でも貴女は、私が誰で、どこにいるのかを知ってるでしょう?」
彼女のことを、私はよく知っている。
私のクラスの委員長。姓は素直、名はクール。
その名の通り、いつもクールにふるまい、それでいてその言葉は素直すぎる。
しかし、学校の中でも結構奇行が目立つらしく、名が売れている人間の一人である。
そして、そんな私も。
川 ゚ -゚)「知っているともさ。
いつも授業を抜け出しては屋上に行く女の子、貞子。
君のことを知らない学生なんて、多分この学校には一人もいないと思うぞ」
ちょっとばかり名の売れた、くだらない人間の一人なのである。
- 12 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:06:12 ID:lYQHPejo0
- 彼女の第一声から、彼女が私をどう思っているかは大体推測できる。
きっと私のことを、邪魔だ、と思っている。
別に、私は授業をサボりたいからここにきているわけじゃない。
授業を受けなければならないという責務感より、もっと強い感情に引っ張られた結果、ここに落ち着いているだけなのに。彼女はきっと不真面目な人間は嫌いなのだ。
しかし、個人の観念で、勝手に私を評価するなんて自分勝手だ、とは思わない。
彼女には彼女なりのそう思うにいたった理由もあるだろうし、評価するな、なんてそれこそ私の方が自分勝手だ。
だから、私は文句を言わない。
- 13 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:07:51 ID:lYQHPejo0
- それに、普段は私一人だけがいるここに、二人の人間がいる事実が少しだけうれしかった。
この漠然とした、「なんとなく」が埋まったような気がして。
川д川「そこまで知ってるんならなんで来たんですか?
みんな気味悪がって屋上には近づかないのに」
川 ゚ -゚)「皆が気味悪がってるのは、君を、じゃないだろう」
川д川「変わらないです。
特にいじめられているわけじゃないけど、
教室だなんて、あんな居心地の悪い空間に私を縛り付けて」
川;゚ -゚)「…それをあてつけとでも思っているのか?」
川ー川「冗談ですよ」
私には、ささやかな趣味がある。
それは、他人の困ったような顔を見ることだ。
ちょっと相手が返答に困るような、意味の分からない冗談を言う。
シャーペンの芯を見つけやすいところに隠す。
他人の机に「こんにちは」と宛名不詳で書く。
そのいたずらに気づいた時、相手が一瞬だけ見せるヒヤッとした顔を見るとたまらない。
こちらまで、ヒヤッとした快感に包まれる。
そんな趣味。
- 14 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:11:16 ID:lYQHPejo0
-
時間はゆったりと流れた。
心なしか、音も、雲も、波も。
全てがスローになったかのような感覚。
- 15 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:12:37 ID:lYQHPejo0
- 川;д川「帰らないんですか?」
川 ゚ -゚)「あぁ。思った以上にいいところだな、ここは。
君と同じように住み着いてしまいそうだ」
彼女がやってきて30分間。
ボストンバッグを置いて、私のすぐ隣に座って。
私と彼女は、ぼんやりと空を見ていた。無言で。
私は、彼女のことが気になりながらも、空を見るだけで声はかけなかった。
これも、なんとなく。
- 16 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:14:32 ID:lYQHPejo0
- 突然、彼女が上半身を起こした。
どうなっているのか、傍らのバッグから、氷入りのグラスとペットボトル入りのオレンジジュースを取り出す。
数は一つ。ペットボトルにはラベルがない。
彼女は、それを慎重にごぽごぽとグラスに注いだ。
そのまま私の前に持ってきて、ことっ、と置く。
川 ゚ -゚)「こんな暑いところにいたら喉も乾くだろう。飲め」
川;д川「あ、ありがとうございます」
えらく押し付けがましい勧め方だな、なんて思いながらジュースに口をつける。
川*д川!
おいしかった。本当に。
これまで飲んだどんな液体よりも、すっとした飲み心地。
口の中にじわっと広がる酸っぱさと、喉が潤う感覚。
そのジュースを飲みきると同時に、私の中ですとんと何かが落ちた。
それと同時に、疑問が浮かぶ。
彼女がどうしてジュースを用意していたのか。
単純でいて、そうじゃない気がする疑問。
- 17 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 01:15:24 ID:Asf/xjPU0
- 暖かくなり始めた鹿児島から支援
- 18 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:15:45 ID:lYQHPejo0
- こんな時は、感想を言っておけば自然と会話が繋がるものだ。
川*д川「これ…凄くおいしい、です」
川 ゚ -゚)「お、そうか?」
川д川「はい。どこで買ったんです?」
川 ゚ -゚)「いや、手作りなんだ」
川д川「手作り、ですか」
川 ゚ -゚)「あぁ。ちょっと親が趣味で果樹園経営をやっているものでな。
こんなご時世だからか、オレンジとかの柑橘系ばっかりできるらしい。
よく余ったオレンジを渡されるから、ジュースにして持ってきているわけだ」
川д川「趣味…」
川 ゚ー゚)「自分の親ながらおかしい趣味だとは思うんだがな」
川д川「いえ、何かしら趣味を持つのはいいことだと思います」
川 ゚ -゚)「そうか?」
しばしの沈黙。
- 19 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:17:16 ID:lYQHPejo0
- フェンスにもたれ掛かったままの姿勢で、私はグラスを傾ける。
からん。
すごくいい音で氷が揺れる。
川д川 ?
違和感。
川;д川「そういえば、氷がグラスに入ったまんまで鞄に入ってましたけど…」
川 ゚ -゚)「企業秘密だ」
川;д川「企業秘密!?」
これも奇行の一つだろうか。
彼女には、謎がいっぱいだ。
- 20 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:19:59 ID:lYQHPejo0
- 楽しい時間が過ぎるのは早いものだ。
これまで寝て過ごしていたこの数時間が、ひどくもったいないものに感じられる。
とはいえ、特に何をしたわけでもない。
クールさんと一緒にいただけ。
西に傾いた太陽は、燃えるその姿を地平線いっぱいに広がる水平線に隠し始めている。
川д川「私を先生の所に連れて行かなくてよかったんですか?」
川 ゚ -゚) …
川д川 ?
川 ゚ -゚)「すまん。ありゃ嘘だ」
川д川「…へ?」
彼女の口調の変化に、我ながら素っ頓狂な声を上げた。
自分に素直な彼女の嘘。
素直な嘘、という表現があるならそんな感じだ。
違和感と既視感。
- 21 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:22:14 ID:lYQHPejo0
- 川 ゚ -゚)「いやな、前々から君が気になっていたんだよ。私は。
授業中は君を観察できるように、常に君より後ろの席をマークしていたし」
川;д川「え…へ?」
それじゃまるで、意地汚いストーカーみたいじゃないか。
そんな言葉を飲み込む。
彼女の言葉についていけない。
そう感じるとともに、少しまた違和感。
川 ゚ -゚)「君を見ていたかったんだ。
でも君はいつも、授業中に抜け出して行ってしまう。
ここに。我慢していたが限界が来た。
それで今日、ここにやってきたというわけだ」
川;д川「なぜ、私なんかを見たいんです?」
校舎に波が当たる音がした。
まだ夕方だが、今日は満潮になるのが早かったらしい。
ちゃぷん、ちゃぷん。
波が揺れている。
- 22 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:23:25 ID:lYQHPejo0
- 川 ゚ -゚)「んー…なんだろうな」
そう言って彼女は頭をかく。
潮くさい風が私たちを包んだ。
川 ゚ -゚)「強いて言うなら、なんとなくだ。自分でもよくわからん」
その言葉を聞いた瞬間、私の手の中で氷が音を立てた。
ほとんど溶けてしまった氷。
残った氷も、今私がグラスを揺らしたせいで溶けてしまったらしかった。
最後に私の耳に残った、からん、という音。
- 23 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:24:34 ID:lYQHPejo0
- 川д川「また…来てくれますか?この屋上に」
おそるおそる私は尋ねる。
川 ゚ -゚)「もちろんさ。君がここに入り浸っている気分がわかった気がする。
もちろん、君を見たいためでもあるが」
川д川「そう、ですか」
今は、素直にうれしい。
- 24 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:25:50 ID:lYQHPejo0
- 太陽が本格的にオレンジ色に輝きだした。
どれだけ地球が変わってしまっても、この輝きだけは失せない。
潮が満ちかかった海面。
オレンジ色に染まった水平線。
川 ゚ -゚)「それじゃあお先に。水上バスが出てしまう」
ボストンバッグを抱えなおし、彼女は立つ。
川д川「もうそんな時間ですか」
川 ゚ -゚)「あぁ。今日は楽しかったよ。本当にありがとう」
川д川「こちらこそ、ジュースご馳走様でした。また飲みたいです」
川 ゚ -゚)「心配せずとも、明日またもってくるさ。
楽しみに待っているといい。じゃあな」
そう言い残して、扉へ向かう彼女。
屋上へやってきた時とはずいぶん違うように見える彼女は、毅然とした足取りで歩を進めている。
- 25 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 01:27:00 ID:DQ7hnuOA0
- しえ
- 26 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:27:28 ID:lYQHPejo0
- が、突然立ち止まった。
あと4歩で扉につくというのに。
川 ゚ -゚)「そういえば、だ」
川д川「なんですか?急がなきゃ、間に合いませんよ」
川 ゚ -゚)「私たちは同じクラスメイトであるし、
今日にいたってはそこそこ長い時間を共有した。そうだな?」
川д川「まぁ…そうですね」
川 ゚ー゚)「であるなら、だ。敬語を使うのはやめないか?
私たちはもう、少なくとも他人ではない関係に昇華している気がするが。貞子」
彼女が見せた、気持ちのいい笑顔。
川д川…
川ー川「そうしようか。クールちゃん」
私も、いい笑顔で返さなきゃいけないような気がして。
- 27 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:28:53 ID:lYQHPejo0
-
水上バスに乗って17分。
私の家はそこにある。
一階部分は浸水してしまった、二階建てのビルのような家。
つまり、学校より海抜が低いところにあるわけだ。
今は、独り暮らし。
案外この暮らしが気に入っている。
川д川「よいしょっと」
二階の窓が玄関。
そのまま、6畳のリビング、2畳のキッチンへとつながる。
まぁ、どちらも元は物置部屋だったのだが。
- 28 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:30:08 ID:lYQHPejo0
- 数十年も昔から変わっていないのは、テレビ。
靴を脱いだ私は、服を着替えずに床に横になる。
リモコンを手にとって、ニュースにチャンネルを合わせる。
これが普段の私。
でも、今日は珍しくバラエティ。
明日からの屋上での生活が、もうちょっと楽しくなることを願って。
1:非日常でありがちな日常 了
- 29 : ◆csB32AjwmU:2013/02/07(木) 01:32:28 ID:lYQHPejo0
- 一話目投下終了です。ありがとうございました。
次の投下がいつになるかわかりませんので、見通しが立ち次第このスレに報告させて頂きます
- 30 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 01:33:59 ID:GSkpymZo0
- だーこかぁいいよ乙
- 31 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 01:47:01 ID:DQ7hnuOA0
- おつー
- 32 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 02:01:33 ID:kqTzXMJ60
- これは期待
続きが楽しみだ
- 33 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 12:47:21 ID:UlzFvDNM0
- 乙
久々にリアルタイムで追いかけたいと思った現行だ
青春ものって貴重だし頑張ってくれ
- 34 :名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 15:48:31 ID:VIfmCMTY0
- いちおつ
>>17
ちょっと青森の俺と代われ
- 35 : ◆csB32AjwmU:2013/02/08(金) 22:02:06 ID:GPh/MLV20
- 思いのほかさくさく進んでいるもので
上手く行けば明日くらいには投下できそうです
少なからずこの連休中には投下します
- 36 :名も無きAAのようです:2013/02/08(金) 22:48:57 ID:HZaKrjhQ0
- いいことだけどはりきりすぎてへばらないようにな
待ってるぞ
- 37 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 00:43:29 ID:rGc.Lg2w0
- 夏色一色といった感じの風景に、私は何度目かのため息をつく。
今日はけた違いに暑い日だ。
昨日のクールちゃんとの会話は、夢ではなかったらしい。
学校に到着すると同時に、彼女から凄い笑顔で微笑みかけられた。
片手に製水機。
耳にはイヤホン。
顔を覆う髪の毛は、今日もだらっとしている。
よし、絶好調。
- 38 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 00:44:19 ID:rGc.Lg2w0
-
川д川サマー・アダルセンスのようです
(;;゚;;) (゚- ゚ 川 )))))
- 39 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 00:45:51 ID:rGc.Lg2w0
-
2:辛くとも乗り越えていくべき事象
私も一応の学生であるので、登校する。
当たり前のことに思えるだろうが、習慣になってしまった行為に疑いを持つ人はどれくらいいるだろう。
さも当然のように自分の教室に向かい、自分の席に近づき、椅子を引いて、座る。
一連の行為は「あたりまえ」。
ヘドを吐きたくなるような空気を微かに吸い込み、生命を維持する。
幸いにも、私の席は3階。
階ごとに6教室ある。
そのうちの、階段に一番近い教室の、窓際の、前から4番目。
空がよく見える。
- 40 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 00:46:34 ID:rGc.Lg2w0
-
川 ゚ -゚)「やぁ。元気そうだな」
背後から声がした。
案の定、クーちゃん。
川д川「うん。割と元気だよ」
昨日のジュースのお礼を、あらためて口にした。
クールちゃんは、黙って頷いただけ。
何故かはわからないが、心地よかった。
水上バスが、窓の外で水をかき分けて進んでいく。
- 41 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 00:48:15 ID:rGc.Lg2w0
-
教室。
昔がどうだったのかは知らないが、無機質な空間だ。
クリーム色の冷たい壁、白いタイルでおおわれた床。
机は強化プラスチック製で、心が休まる要素がない。気がする。
そんな冷たい空間に、大体40人前後の少年少女がすし詰めにされているのだから、いろいろと狂っているように思う。
今日も私は、そんな所から逃げ出すように席を立った。
片手には製水機。
今は、授業中。
(-@∀@)「どうしました?貞子さん」
当然、先生からのお咎めを受ける。
- 42 :名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 00:49:13 ID:zZheeWo20
- まってた!!
- 43 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 00:52:21 ID:rGc.Lg2w0
- 川;д川「いえ、ちょっと…」
お腹を押さえて、意味深な返事。
これまで数千回繰り返した行動。
もし、劇団で「お腹を押さえて”いかにも”な演技をする役」なんかがあれば、私はいち早く抜擢されるだろう。
(;-@∀@)「あ、そうですか…。保健室へ行きなさい」
(-@∀@)「じゃあタブレットの…」
具合なんて微塵も悪くないが、勝手に勘違いしてくれる。
そのまま授業を再開する先生。
大人ってめんどくさい。
- 44 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 00:54:42 ID:rGc.Lg2w0
-
川д川 カツンカツン
屋上への階段を上る。
教室を出ていく時に、クールちゃんと目があった。
私の見た角度からは、クールちゃんの瞳に空が映りこんでいた。
川д川 カツンカツン
屋上につながる扉は、6ケタの鍵で閉ざされている。
今日も私は、553374にダイヤルを合わせようとした。
しかし、すでに数字はぴったりと合っている。
普段はあり得ないことに首をかしげ、真夏の空気を胸に満たすべく、屋上への一歩を踏み出した。
- 45 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 00:56:44 ID:rGc.Lg2w0
-
川д川っ ガチャッ
爪'ー`)
ガチャッ、とドアを開けた、刹那。
熱い空気が肺を満たす前に、なんだか怖い人と目があった。
扉を開いた、そのすぐ向こう。
丁度13歩歩いた、普段の私の定位置に、金髪の男の人がいた。
川;д川
爪'ー`)
どうしよう。
これまで先客がいたことなんて、ない。
- 46 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 00:59:55 ID:rGc.Lg2w0
- 爪'ー`)「何ビビってんだ。お前貞子だろ?こっち来いよ」
川;д川「あう、あ、はい」
一歩ずつ、一歩ずつ足を上げる。
こんなに一歩が重かったのはいつぶりだろう。
まあ少なくとも、不安そうな顔でびくびくしていた私を、移動するように促してくれた。
悪い人ではなさそうだ。
いや、逆か?
- 47 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:02:37 ID:rGc.Lg2w0
- 川;д川(すごい…)
何が凄いかというのは、彼の髪の毛。
私が彼に一歩ずつ近付くにつれて、彼の金髪が輝くのだ。
私は、普段屋上にいるので、学校の人と関わりあうことは決して多いとは言えない。
だから、というのもおかしいが、彼のような「ヤンキー」と呼ばれる部類の人を目にすること自体初めてだ。
私は今、髪の毛の色が私と違う人を見て感動している。
- 48 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:04:12 ID:rGc.Lg2w0
- 川;д川
爪 'ー)
結局私は、いつも13歩のところを14歩歩いて、彼のすぐお隣に座らされた。
近くで見ると、なおさら怖い。
指輪のようなピアスを耳につけている。
ひどいよ…こんなのって…ないよ…
爪 'ー)
金髪は相変わらず綺麗なのに。
口には出さず、自分の内側でぼそっと思う。
私が金髪にしたらどうなるだろう。
…なんだか、凄いことになりそうなので途中で考えるのをやめた。
- 49 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:05:41 ID:rGc.Lg2w0
-
彼の横顔は思っていたよりも端正で、何を考えているのかわからない。
「ヤンキー」って、もっとうるさいものだと思っていた。
勝手な思い込みはよくないというが、その通りのようだ。
しかし、静かすぎる。
- 50 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:07:22 ID:rGc.Lg2w0
- 爪 'ー)「おい」
川;д川そ「ふぁ、ふぁいっ!」ビクッ
爪 'ー)「いつもこんな感じか?」
川;д川「こんな感じ…?というと?」
爪 'ー)「いつもこんな感じでのんびりしてんのか?」
川;д川「まぁ…そうですけど」
爪 'ー)「ん〜…」
よくわからない会話だ。
手の中で、製水機がごぼごぼと音を立てた。
- 51 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:08:55 ID:rGc.Lg2w0
- 爪 'ー)「お前さ」
川;д川「はい?」
爪 'ー)「生きてることに疑問、感じたことあるか?」
川;д川「突然何を…」
爪'ー`)「いや、真面目に聞いてるんだ。
人の印象を見た目で決めないでくれ」
金髪がフワッと膨らみ、彼の目がこちらを直視する。
その眼には、空が映りこんでいた。
。
思っていた以上に、その眼には真剣が込められていた。
苦手だな。それが第一印象。
川д川「ないです、ね」
爪'ー`)「…そうか」
残念そうな顔。
川д川「でも、生き方には疑問を持ったことがあります」
爪'ー`)「へぇ…」
川д川「まぁこの屋上にいるんですし、
そんなこと予想ついてたでしょう?」
爪'ー`)「まぁ、一応な」
川д川「なんでここに来たんです?」
風が吹いた。生ぬるい。
太陽はそろそろ頭上を通り過ぎるころだ。
- 52 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:10:41 ID:rGc.Lg2w0
- 爪'ー`)「理由か…」
彼は、微かに顔を空に向ける。
この世をくだらないと割り切ったような目で。
爪'ー`)「それだよ」
そういって彼は、私の持っている製水機を指差した。
それと同時に、ピーッという電子音。
川д川「これ…ですか?」
目線の高さまで持ち上げて、水を振る。
ちゃぽちゃぽという心地よい音だ。
爪'ー`)「それ開発したの、うちのジジイなんだよ」
川;д川 !?
製水機は、ハンドサイズから超大型のものまで、実に多くの種類が普及し、生きていくにはもはや欠かせないものである。
それの開発者が、彼のご親族…?
- 53 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:11:59 ID:rGc.Lg2w0
- 爪'ー`)「まぁそういう事さ。家は結構裕福なんだ」
爪'ー`)「俺は狐ヶ崎フォックス。しがないヤンキーだ」
「ヤンキー」という単語を自己紹介に使う人間が、ここにいる。
それは、必死な自己主張のようで。
必死な、彼の叫びのようで。
川д川
私は、彼の印象を決めつけたことを、ものすごく後悔した。
- 54 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:14:10 ID:rGc.Lg2w0
- 川д川「…ごめんなさい」
爪'ー`)「おいおい、謝るなよ。俺はお前に会いに来たんだ」
川д川「え?」
爪'ー`)「俺だってな、こんなしょうもないことで悩みたくはねぇよ。
でも考えなきゃ、なんとなく怖いんだ。
それで、静かに考えられるところはどこだろうって思ってな。
思いついたのがここだ。
貞子って、どんな奴だろう。そんな風に考えながら来たんだぜ?」
製水機が、手から落ちた。
ちゃぷん、と水が揺れる。
爪'ー`)「生きている意味がわかんねぇ。
こんな格好して、何考えてんだっていう奴もあるだろう。
でも、俺は生きにくくてしょうがないんだ。
頼むよ。話だけでも聞いてくれ」
影が短くなった。
太陽は私たちを真上から照らし、制服が汗ばみ始める。
彼はきっと、私自身に会いたかったわけじゃない。
私に、彼の作った私の「像」に、助けてほしかったんだ。
- 55 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:15:23 ID:rGc.Lg2w0
-
今日も、時間はゆっくりだった。
水上バスのモーター音が、いつも以上にやかましい。
太陽はなかなか傾かず、フォックス君も、伝えたい以上のことは何も言わない。
生きることに疑問。
生き方に疑問。
私がこれまで、考えもしなかった領域。
私が生き方に悩んだ時も苦しかった。が、彼はきっと私以上に苦しいのだろう。
- 56 :名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 01:16:36 ID:WAYsP/kg0
- だーこかぁいいよ支援
- 57 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:17:14 ID:rGc.Lg2w0
- 日が、ほんの少しだけ傾いた。
チャイムが鳴る。
それとほぼ同時に、
川 ゚ -゚)っ「すぁっだーこちゅわぁーん!!」バタンッ
川;д川そ !?
爪'ー`) ?
空気をぶち壊す、来訪者。
- 58 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:18:33 ID:rGc.Lg2w0
- 川 ゚ -゚)
川;д川
爪'ー`)
川;ぅд川っ アタフタ
川 ゚ -゚)「貴様、何者だ」
爪'ー`)「狐ヶ崎フォックス。しがないヤンキーさ」
川 ゚ -゚)
川;д川 ハラハラ
川 ゚ -゚)
川 ゚ー゚) =3 プッ
爪'ー`) ?
川 ゚ー゚)「ヤンキーか。私は好きだぞ。そういう奴は」
爪'ー`)「そうかい?気に入られたようで良かったよ」
川;д川 =3
クールちゃんは、いつ見てもハラハラさせられる。
まぁ、この人の前でふんぞり返っていられるフォックス君もフォックス君なのだが。
クールちゃんは、不真面目な人が嫌いというわけじゃないようだ。
- 59 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:20:30 ID:rGc.Lg2w0
- クールちゃんは、単にお昼ご飯を食べに来たようだった。
いそいそと弁当箱を取り出し、数口で完食。
フォックス君は、相変わらず。
爪'ー`)「生きてることに疑問、感じたことあるか?」
川 ゚ -゚)「ないな。強いて言うなら、私は貞子を見るために生きている。
と言っておこうか」
川;д川「なにそれこわい!」
にぎやかになりつつある屋上に、今日も声は響く。
- 60 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:22:33 ID:rGc.Lg2w0
- 昼休みなんて、私が過ごす一生のわずか、一瞬にすら値するのか怪しい。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
今日もクールちゃんは、ジュースを持ってきてくれていた。
当のご本人は、「ちょっと、ちょっとだけだから」と言って帰ろうとしない。
川 ゚ -゚)「今日の餞別だ」コトッ
川*д川「ありがとう!」
爪'ー`)「なにそれ。いいなー」
川 ゚ -゚)「お前の分なんてないぞ」
爪'ー`)「ゲッ、マジで?」
川 ゚ -゚)「当たり前だろう。
もし用意してあったら、用意が良すぎやしないか?私」
川*д川「ぷっはぁ、おいしかった!ありがとうクールちゃん!」
川 ゚ -゚)「何、お安い御用だ。また明日も持って来よう」
クールちゃんに返したグラスの中で、オレンジ色を微かに残した氷が、小気味のいい音で、からんと鳴いた。
- 61 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:24:58 ID:rGc.Lg2w0
- 強い西日と、ゆっくりと沈んでいく太陽。
相変わらず、ここから見える夕日は絶景だ。
爪 'ー)「こんなに綺麗なんだな。夕日って」
川*д川「そうでしょう?今までこの景色、独り占めしてたんですけど」
自分をほめられたようでうれしい。
私の中の「なんとなく」が、ゆっくりと溶けていく。
爪 'ー)「なぁ、貞子」
川*д川「なんですか?フォックスさん」
夕日にあたって火照る頬を抱え、ため息をつきながら返事をする。
爪 'ー)「俺、またここに来てもいいかな」
川д川「もちろんですよ。私はいつだって大歓迎です」
爪 'ー)「ま、今日は俺が出迎えたけどさ」
川;д川「…あ」
爪'ー`)「フッ、まぁいいのさ。…水上バスも、じきに無くなっちまうな」
川д川「あれ?もうそんな時間ですっけ?」
爪'ー`)「そんな時間だ。じゃあお先に」
そう言って、彼はゆっくりと立ち上がる。
- 62 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:26:48 ID:rGc.Lg2w0
- 私は歓声を上げた。
彼の金髪は、夕日のオレンジ色と混ざり合って、今まさにゴールドだった。
一本一本が純金のように綺麗で、かつ人を飲み込むような美しさ。
これを見ることが出来る私は、きっとものすごく幸せ者なんだろう。
爪爪 ')ノシ「じゃ、またな」
扉に向かいながら、ふらふらと歩く彼の後姿、汗の香り。
輝く金髪は、ふんわりと、そこだけ時間がゆっくり進んでいるような感覚で揺れていた。
- 63 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:28:23 ID:rGc.Lg2w0
- 今日は、いまいちよくわからないまま一日が終わった気がする。
生きてることへの疑問。
クールちゃんのくれた、おいしいオレンジジュース。
相変わらず企業秘密の、氷入りグラス。
フォックス君の、美しい髪の毛。
今日は、よくわからない。
家についた私は、すぐにキッチンへ移動する。
川д川「冷蔵庫冷蔵庫…」
ありあわせの野菜炒めで、今日会ったことを飲み込んでしまおう。
そんな気分。
至極当たり前のことに疑問を持つ人間が、私の身の周りに生まれたことを楽しみながら。
私の屋上での日々は、少しずつ、しかし確実に乗り越えていくべき日常になり始めている。
2:辛くとも乗り越えていくべき事象 了
- 64 : ◆csB32AjwmU:2013/02/10(日) 01:31:47 ID:rGc.Lg2w0
- 第二話目投下終了です。ありがとうございました。
次は上手く行けば明後日、ダメなら来週中にでも投下したいと考えてます。
あと少しで女性が男性に何故かチョコレートを投げつける日ですね。
私の身の回りでも、すでに知り合いが何人か被害にあっています。
皆様お気を付けください。
- 65 :名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 01:36:41 ID:ksXRaY1A0
- 乙、何故か毎年俺だけには当たらないからきっとそういう能力を持ってるんだろうと確信してる
- 66 :名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 01:43:15 ID:zZheeWo20
- 相変わらずきれいな話だった!おつ
そんなおそろしい事件が起きる季節になったか…
- 67 :名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 12:04:35 ID:ibKlZ4O60
- 乙
普通のことでも楽しく感じるのが青春だよなあ
- 68 :名も無きAAのようです:2013/02/12(火) 18:49:58 ID:BmEwVvo60
- 良い雰囲気の作品だな
乙
- 69 :名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 20:54:07 ID:sBG7dp.g0
- 乙、楽しみ
- 70 : ◆csB32AjwmU:2013/02/15(金) 21:33:18 ID:2.HaeuoE0
- どうもお久しぶりです
上手く進めば今日、もしくは明日投下します
- 71 :名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 23:33:27 ID:j.Ntz6i20
- 待ってる
- 72 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:15:52 ID:6.0KuWbY0
- 朝日が顔を出す前というのは、思っている以上に涼しくて、快適なものだ。
川ぅД川「ふあ〜ぁ」
そう、大口を開けて、折り畳み式ベッドの上であくびをするにはもってこいの時間。
まだ熱くない空気が肺を満たし、私の頭から眠気をシャットアウトする。
ベッドの上で、まだ開ききらない瞼を擦りながら立ち上がる。
もう一度、大きな伸びをして窓を開ける。
川ぅд川「やっぱりいいなぁ、朝は」ゴシゴシ
爽やかな、まだ薄暗い虚空に言葉を投げかけ、今日も私「たち」の一日は始まる。
- 73 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:17:56 ID:6.0KuWbY0
-
爪爪 ')y-~
川д川サマー・アダルセンスのようです
(゚〜゚ 川 モッシャモッシャ
- 74 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:20:05 ID:6.0KuWbY0
-
3.きる おあ あらいぶ
川д川「今日はお休みか…」
そんなことを口にしながら、体は自然と学校へ向かう水上バスに乗っている。
学校自体は休みでも、校舎は開いているのだ。
普段は堅苦しい制服で行かねばならぬ場所だが、休日は私服登校が認められる。
私は、ちょっとしたパーカーを羽織り、ジーンズを履いただけの恰好。
周りからは「センスない」と一蹴される服装だが、私が気に入っているので問題ない。
それにしても、ここ最近の日常の変化はどうだ。
クールちゃんの理不尽な屋上侵入から、まだ3日しかたっていない。
一昨日には、悩めるヤンキーのフォックス君が、屋上に住み着くことを宣言していったばかり。
日常というものがこうだった、という印象はない。
しかし、3日前の私には考えられないような生活を今送っていることを思うと、きっとこれは非日常とかいうものなのだろう。
- 75 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:22:59 ID:6.0KuWbY0
-
水上バスから眺める外の景色は、本当に青い。
建物がところどころ水面から顔を出し、青い風景にデコレーションをしている。
冷房が効いた水上バス。
一転して、海面がじりじりと焼かれている外。
夏は、いい。
- 76 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:25:37 ID:6.0KuWbY0
- 川д川「ありがとうございました」
バスの降り際、運転手さんに軽く会釈する。
ちらっと私の方を見て微笑み、帽子を少し上げて会釈を返してくれた。
学校前のイカダに降りると同時に、ぶわっと熱い風が私を包む。
校舎に向けて歩を進める前に、イカダから海の中をのぞいてみる。
大小様々な魚が、暗い海の中を自由に泳ぎ回っている。
川д川…
私はその様子を、少しだけ悲しくなりながら見た。
屋上に行かなくちゃ。
今日も私は、引力に引かれるように、パーカーのフードを揺らしながら屋上に向かうのだ。
- 77 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:28:38 ID:6.0KuWbY0
- 川д川 カツン
階段を登る。
平日とはうってかわって、静かすぎる校舎。
川д川 カツーン
足音が良く響く。
誰もいないであろう空間。
私、という存在が、ありのままに感じられる空間。
胸がちくりと痛んだ。
私を、屋上に引きつけようとする引力は、先ほどよりも力を増して、私の足を速めさせる。
- 78 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:31:19 ID:6.0KuWbY0
-
川д川っ キィッ…
力なく、扉を少し開ける。
その隙間から覗いた日は、まだ水平線から顔を出して間もない。
川д川っ ギィッ!
強めに扉を押してみた。
蝶番の悲鳴と、
「ひょえっ!?」
川;д川!?
何かの悲鳴。
驚いた拍子に、勢いよくドアを開けてしまう。
。
(;'A`)
フェンスを越えた、屋上と空の境目に彼はいた。
ここからでも分かるほどの大汗をかき、休みの日だというのに、制服を纏っている。
足元には、封筒ほどの大きさの、白い何か。
川;д川(自殺!?)
彼の様子を一目見て、脊椎反射で思考がまとまる。
- 79 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:34:21 ID:6.0KuWbY0
- しかし、そこまで。
体の方は反射しなかった。
川;д川
(;'A`)
私は、彼を黙って見つめる。
彼は、私を黙って見つめる。
さんざんぐだぐだ考えた挙句、私の口を突いたのは。
川;д川「あの…自殺、ですか…?」
何とも滑稽な、奇妙な質問だった。
水上バスが走り去る音が、やけにはっきりと聞こえた。
- 80 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:36:56 ID:6.0KuWbY0
- (;'A`)
彼は黙ったまま。
当然だ。
川;д川
内心、私はさっきよりも焦る。
彼は彼でぷっつりと押し黙ってしまったし、会話の糸口が見当たらないのだ。
川;д川「あの…落ちたら多分痛いと思うし…」
川;д川「とりあえずフェンスの内側に…」
私が声をかける結果となってしまった。
どうしてくれる。
- 81 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:39:18 ID:6.0KuWbY0
- 彼は、低いフェンスを軽々と乗り越え、こちら側へと帰ってくる。
その途端、彼は膝から崩れ落ちた。
力が抜けたかのように。
川;д川「大丈夫ですか!?」
焦って彼に駆け寄るが、彼はゆっくりと立ち上がる。
(;'A`)「や、大丈夫。ありがとう」
私の差し出した手を振り払い、私を嘗め回すように見てくる。
('A`)「あのさ」
川;д川「はい?どこか…」
('A`)「いや、君が貞子さん?」
川;д川「え?まぁ、はい」
('A`)
突然彼が黙る。
もうやだ。
- 82 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:42:29 ID:6.0KuWbY0
- 川;д川「あの…何か用でしょうか?」
('A`)「用って程じゃないんだけど、さ」
それだけ言って、彼は私を黙って眺めるのだ。
川;д川
私は、そんな時に「やめて下さい」なんて言える人間じゃない。
でも、さすがにじろじろ見てくる彼に嫌気がさして、一言だけ。
川;д川「あの、大変恐縮なのですが…
あまり見ないで頂けますか?」
彼の表情が一瞬にして凍りつく。
当たり前か。
ここまで考えて初めて、
川д川(あ、私地雷踏んだ)
と、状況を理解する。
- 83 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:44:45 ID:6.0KuWbY0
- ('A`)「…お前、やっぱすげぇな」
川д川「え?」
今、私のことを凄いといったのか。
('A`)「だってさ、数年前に死んだ奴がいるこの屋上で、
平然と過ごしていられるんだもんな」
川д川
彼の言葉は、私の心にずっ、と入り込んでくる。
川д川「あなた…誰ですか?」
('A`)「別に?ただの高校二年生☆だけど」
川д川「きめぇ」
('A`)
川;д川「あ、すみません!フェンス乗り越えようとしないで!」
- 84 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:46:37 ID:6.0KuWbY0
- 彼の言葉が事実を言っているだけに、私の心は飲み込まれる。
平静さを欠いているのが実感できてしまう。
('A`)「…まぁいいや」
ふぅ、と息を吐く彼。
彼の横顔は、どこか吹っ切れたようにも見える。
川;д川「あの…どうしてここに?」
これまで3人に問うてきた質問を、彼にも。
('A`)「理由?」
そこで彼は、馬鹿にしたような目でこちらを一瞥した。
そして、黙る。
そうか、この人自殺しようとしてたんだった。
- 85 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 00:49:25 ID:xZp0G3Lc0
- 風景の描写が好きだ
支援
- 86 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:51:10 ID:6.0KuWbY0
- 川;д川「あの…なんでまた」
野暮な質問だな、と自分でも思う。
パーカー姿の私は、彼のすぐ隣に陣取り、話を聞く体制に移る。
彼は、虚空を見つめたままだ。
真夏の太陽が、朝の心地よさを奪い始める。
('A`)「死にたかったからだよ」
川;д川そ
まさか、こんな答えがド直球に返ってくるとは。
('A`)「死にたかった。自殺衝動。理由は特にない。何となく」
川;д川「何となく死にたいだなんて」
私の理解を超える。
('A`)「殺人衝動とかあるんだし、
自殺衝動があってもおかしくはないだろ?
他人を巻き込まない分とってもリーズナブル!」
なんというか、常識が通じない。
そんな感覚を漂わせる、異質な男の子。
でも、ここで一つ、疑問が浮かんだ。
川д川「あれ?じゃあなんであんなに汗を―」
(;'A`)
川д川(あ、今日私エスパーかもしれない)
- 87 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:53:18 ID:6.0KuWbY0
- 休みの日のどろっとした時間は、どろっとした雰囲気を作る。
生暖かい午前中の空気は、彼女たちの気まずい雰囲気を表しているかのようだった。
(;'A`)「いや…さ、別に勇気が出なかったとかじゃないんだよ?
精一杯頑張ったんだよ?」
川д川「死ぬのを頑張るってなんですかそれ」
(;'A`)「違う!お空飛ぼうとしたんだよ!」
先ほどからぶつぶつとつぶやく鬱多ドクオ。
同学年であることがわかり、ドクオのつぶやきに対して淡々とツッコミを入れ始める貞子。
二人の会話は、自然に。しかし、内容は現実離れしていて。
ゆったりと時間が流れ始めた。
- 88 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:54:28 ID:6.0KuWbY0
-
時間のせいかはわからない。
しかし、その時。
ギィッ…
o|::;)|
扉の隙間から覗きこむ誰か。
それに彼女たちが気付くことはなかった。
- 89 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 00:57:03 ID:6.0KuWbY0
- いつもより10本ほど早い水上バスに乗って、自宅の窓を乗り越える。
川д川「ふぅ…」
外は、未だかなり明るい。
昼はここまで熱くなるのか、と自宅の環境の劣悪さを再確認する。
川д川「に、してもドクオ君…なんだったんだろう」
蒸れたパーカーの内側。
ジーンズまで汗でぐちゃぐちゃだ。
シャワーを浴びたいが、もう少し汗をかいていたくもある。
川д川「自殺衝動が本当だとして…なんで最初に悲鳴を上げたの?ドクオ君は」
ゆらり。
眺めていた窓の外で、かげろうが立った。
浴室に向かう。
3.きる おあ あらいぶ 了
- 90 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 00:58:38 ID:Tocg73C60
- 本当に好きだわ
今回もよかった、乙!
- 91 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 01:01:45 ID:xZp0G3Lc0
- 乙乙
- 92 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 01:02:42 ID:6.0KuWbY0
- 第三話目投下終了です。ありがとうございました。
とりあえず今回まででふせk…ゴホンゴホン
大体のキャラは出尽くしました
と、ここら辺でキャラまとめでもしようかと
- 93 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 01:11:18 ID:EPoCCvf20
- 乙
ただの高校生たちの青春物語ではなさそうだな
- 94 : ◆csB32AjwmU:2013/02/17(日) 18:41:33 ID:6.0KuWbY0
- 簡単な人物まとめ
川д川→屋上系少女
川 ゚ -゚)→オレンジジュース系委員長
爪'ー`)→哲学系お金持ちヤンキー
('A`)→自殺衝動所持者
(-@∀@)→メガネ!メガネメガネ!
| o| |→愛すべきドア先輩
以上+数人のキャストでお送りいたします
- 95 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 18:58:02 ID:65NfR8Hw0
- 簡単すぎてワロタwww
次も楽しみにしてる!
- 96 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 23:19:33 ID:8Blg/lts0
- 乙乙
- 97 :名も無きAAのようです:2013/02/18(月) 22:34:05 ID:oE7h2aH60
- 乙
現行で一番好きだ
- 98 : ◆csB32AjwmU:2013/02/20(水) 22:12:12 ID:Osz6B2WM0
- どうも。しばらくぶりです
今週末に投下出来そうです
詳しい日時はまた後々お知らせします
- 99 :名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:23:04 ID:FiBvktGw0
- たのしみにしてる!
- 100 :名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 23:46:03 ID:gr8irybA0
- ひゃっほう!
- 101 : ◆csB32AjwmU:2013/02/21(木) 22:00:41 ID:N/BwQ5OA0
- 明日の22時ごろ投下します(小声)
- 102 :名も無きAAのようです:2013/02/21(木) 22:02:07 ID:Imtl.vxI0
- (期待)
- 103 :名も無きAAのようです:2013/02/21(木) 22:40:17 ID:jrsNvO4U0
- 待ってる
- 104 :名も無きAAのようです:2013/02/21(木) 22:40:59 ID:hYoWwPzg0
- たのしみにしてる!
- 105 :名も無きAAのようです:2013/02/22(金) 01:53:09 ID:iYP0B8Zg0
- 楽しみ!
- 106 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:02:59 ID:0SpvL/Vk0
-
川*д川「はふぅ…」
空には満天の星。
夏の夜は、そこはかとなく暖かい。
青かった空は海の底のように黒いカーテンへと姿を変え、ところどころに輝く星たちをたたえている。
川*д川「お星さま綺麗だなぁ…」
漂う潮の香り。
静かな波の音。
すぐ隣に置いてある製水機。
私以外に呼吸するものを感じない、そんな素敵な空間。
- 107 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:03:57 ID:0SpvL/Vk0
-
爪 'ー)y-~~
(A` ) …
川д川サマー・アダルセンスのようです
(;;゚;;)
(゚- ゚ 川
.
- 108 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:05:41 ID:0SpvL/Vk0
-
4.いつみきとてか
ギィッ
川 ゚ -゚)「おぉ、早いな貞子。もう来てたのか」
扉の軋む音と共に、電池式ランタンを持ったクーちゃんがやってきた。
川*д川「違うよ〜。今日は帰らずにずっとここにいるの」
川 ゚ー゚)「ほう、なかなかやるじゃないか。
警備員さんの目をどうやってかわしたんだ?」
川*д川「秘密秘密!」
川 ゚ -゚)「む、今日の貞子は何となく意地悪だな」
私とクールちゃんが、屋上で出会って二週間と数日。
今日は、夜の屋上を見たいというクールちゃんたっての希望で、暗い屋上に集っている。
流星群見たさに。
ざざぁ、ざざぁ。
背もたれしているフェンスの下で、校舎を削る波の音が響く。
川 ゚ -゚)「さて、今日は普段とは違ってだな…」
突然、隣でクールちゃんがごそごそやりだした。
ランタンの明かりが、優しく辺り一帯を照らしだしている。
- 109 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:08:14 ID:0SpvL/Vk0
- からん、と心地いい音がした。
いつもより音が弱い。
氷の量が少ないのだろう。
川 ゚ -゚)「いつもはオレンジジュースだけなんだがな…」ゴトッ
グラスの隣に、オレンジジュースがいっぱい入っているペットボトル。
さらにその隣には、ペットボトルに入った白い液体。
川д川「何それ?」
川 ゚ -゚)「『カルピス』というらしい。例の狐ヶ崎に分けてもらったものだ」
川;д川「フォックス君からかぁ…高いんだろうなぁ…」
そう言っている間も、クールちゃんはてきぱきとジュースの用意をする。
氷の入ったグラスに、オレンジジュースが半分くらい注がれた。
川д川(あれ?いつもより少ない…)
飲ませてもらっている身分で失礼だな、と思いながらその作業を見ている私。
と、不意にクールちゃんが『カルピス』のボトルを、グラスの上で傾けた。
- 110 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:11:35 ID:0SpvL/Vk0
- 川;д川「え?」
川 ゚ -゚)「いや、狐ヶ崎がこうするとおいしいと言っていたものでな。
実験だ実験」
グラスの中で踊るオレンジと白。
溶けあって、混ざり合って。
何とも言えない暖色系の色へと変化する。
川 ゚ -゚)「ほら、飲んでみてくれ」カラン
いつもより少しくぐもった音を立てるグラス。
両手で受け取ったそれには、いつもと違う感触が宿っている。
川;д川「い、いただきます…」
初めて口にするものだから、やっぱり怖い。
グラスの端っこにちょこっとだけ口をつけて、少しだけグラスを傾ける。
川*д川「っ!?」
声にならない声を上げてしまった。
オレンジジュースの爽やかさ。
それにまとわりつくような甘さが、口の中で溶ける。
川 ゚ー゚)「その反応を見たところ、かなり美味しかったみたいだな」
川*д川「う、うん!これ美味しい!美味しすぎる!」
舌が、これまで味わったことのないジューシィな甘さに惚れ込んだようだ。
- 111 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:14:35 ID:0SpvL/Vk0
- 川*д川「ふぅ…」
グラスを空にして、ほっと息を吐く。
それと同時に、冷たい感覚が全身を駆け抜けた。
夜の海から潮の香りが立ち上り、私を包む。
グラスの片付けをしながら、クールちゃんが笑う。
川 ゚ー゚)「あはは、相当満足したようだな。よかったよかった」
川*д川「いつもありがとうクールちゃん」
ふと、空を見上げる。
屋上には、ランタンの暖かい明かりが広がっている。
不意に前方の扉が、ギイッと軋んだ。
- 112 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:17:52 ID:0SpvL/Vk0
- (-_-)
物静かそうな男の人だった。
片手に大きめの本を抱え、俯いたまま、やる気の感じられない目をこちらに向ける。
うちの高校の制服を着ているが、見覚えのない人だ。
でも、どこかで会ったことのあるような。
川д川
川 ゚ -゚)
川д川(クールちゃんあの人知ってる?)コソコソ
川 ゚ -゚)(いや…二学年の人間は全員把握しているんだが…知らんな)コソコソ
川;д川(そ、そう。ありがとう)コソコソ
クールちゃんって何者なんだ。
相変わらずこの人には謎が多すぎる。
- 113 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:19:39 ID:0SpvL/Vk0
- 川;д川
川 ゚ -゚)
(-_-)
依然、彼は動こうとしない。
相変わらず仏頂面のクールちゃん。
生暖かい夜風が私の頬を撫でる。
きっと彼も生ぬるい風にあたって、本が湿気っちゃうとか考えてるんじゃないだろうか。
ここで私は、少しだけ思考を止める。
川д川(あれ?)
私が他人の感情を考えたことってなかったな、とふと気づく。
少なくとも、この屋上では。
ちょっとだけ、成長した気分。
でも立ったままはきついだろうし、そろそろ座る事を提案してみようか。
(-_-)「あのさ」
川;д川そ「ふぁあいっ!?」ビクッ
そんな満足感と心遣いも、知らない人との初コンタクトで吹っ飛ばされる。
- 114 :名も無きAAのようです:2013/02/22(金) 22:22:46 ID:cLOIlXvEO
- 支援
- 115 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:23:06 ID:0SpvL/Vk0
- (-_-)「あんまり気を遣わないでくれるかな?
さっきからひしひしと視線が痛いんだけど」
川;д川「あ、ごめんなさい…」
彼は私の心を読んだかのように、的確に言葉を放ってきた。
余計な心遣いと親切の境目を教えてもらいたい。
川 ゚ -゚)「…そちらは暗すぎやしないか?」
突然、口を閉じていたクールちゃんが言葉を発した。
(-_-)
彼は無言で応じる。
川 ゚ -゚)「本を持っているということは読みたいんだろう?
こちらに来てランタンの明かりの下で読めばいいじゃないか」
(-_-)
何を言い出すんだ、この人は。
でも、その言葉には賛成。
- 116 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:26:23 ID:0SpvL/Vk0
-
川д川「そうして下さい。こちらに来てお話ししましょうよ」
(-_-)「…仕方ないな」
そう言って、彼はそっと歩き出した。
こちらに向かって、一歩ずつ。
足音がしない。
丁寧な足運びなのだろうか。
暖かいランタンの明かりに照らされ、彼の白い肌が浮かび上がる。
本当に綺麗な白。
夜空のせいか、余計にはっきり見える。
- 117 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:28:32 ID:0SpvL/Vk0
- (-_-)
私の横に腰掛け、神経質そうな姿勢で本を読み始めた彼。
フェンスにももたれ掛からない。
川д川
相変わらず私はだらっとした髪の毛をたらし、空を見上げる。
真っ暗な、空っぽな空。
そこに製水機をかざす。
容器の中の水が揺れ、星が囚われる。
屋上でだらける私たち。
空にまたたくお星様たち。
どちらもそこにあるだけなのに、どこか違う。
決定的な何かが。
川 ゚ -゚)「…始まったな」カチッ
クールちゃんがランタンの明かりを消した。
光る雨が落ちてきた。
- 118 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:30:42 ID:0SpvL/Vk0
-
今日は、ふたご座流星群が見ることが出来る日。
流れ星。
パッと現れ、夢のように消える。
フォックス君なら、「人生に似てるな」なんて言いそうな景色。
流星群には当たりとはずれがあるんだよ、とクールちゃん。
当たりの時は、空を光が覆うほどの星が見える。
はずれの時でも、流れ星は拝めるが。
ふたご座流星群は、その当たりはずれが少ないらしい。
熱心に語るクールちゃんの話もうろ覚え。
私は、光り輝く空に目を奪われてしまっていた。
- 119 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:31:49 ID:0SpvL/Vk0
-
川*д川
(゚- ゚*川
.
- 120 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:32:50 ID:0SpvL/Vk0
-
川*д川「綺麗…」
川*゚ -゚)「そうだな…」
乾いた紙が擦れる音がする。
ピーッと機械音。
辺り一帯は、白。
光がまぶしい。
- 121 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:34:21 ID:0SpvL/Vk0
- 川*д川「はふぅ、満足…」
川*゚ -゚)「ほぉ…」
光の雨は、10分ほどで消えてしまった。
一瞬、視界が不明瞭になる。
強い光が目に入った後になるあれだ。
川*д川彡「どうでした?」
振り返って、あの男の人に声をかける。
(-_-) ペラッ
川д川
(-_-) ペラッ
川д川?
(-_-)
川;д川「まさか…ずっと本読んでたんですか?」
顔を上げることもなく、本に視線を落とし、黙ったままの彼に問う。
- 122 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:35:41 ID:0SpvL/Vk0
- (-_-)「そうだけど」ペラッ
川;д川「あんなに綺麗だったのに…」
(-_-)「いいだろ別に。月明かりと変わんないよ」
川д川「…月明かり?」
ふと、空を見た。
ほとんど欠けてしまった月は、不安そうに夜空にぶら下がっている。
川д川「普段からここで本を読んでるんですか?」
(-_-)「夜だけね」
川д川「道理で月明かりと変わらない、と」
(-_-)
黙り込んでしまった。
何を考えているのかわからないその横顔は、陶磁器のように白い。
川 ゚ -゚)「なぁ…貞子」
川д川「何?」
クールちゃんが不安そうな顔で私の方を見てきた。
川 ゚ -゚)「それ、独り言か?」
川д川「何が?」
川 ゚ -゚)「…いや、いいんだ」
川д川?
- 123 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:38:41 ID:0SpvL/Vk0
- 月は、その姿を海面に映し、新たな夜空を生み出す。
見渡す限りの空。
白い尾を引いて、水平線上の空を進む水上バスには、クールちゃんが乗っているはずだ。
色白だった彼の名前も聞いた。
古守ヒッキ―先輩。
静かな空の下、本を読むことが趣味らしい。
お邪魔してしまったなと、少し申し訳なくなった。
4.いつみきとてか 了
- 124 : ◆csB32AjwmU:2013/02/22(金) 22:42:33 ID:0SpvL/Vk0
- 第四話目投下終了です。ありがとうございました。
(-_-)→深夜屋上読書系男子
次回はいつになるかわかりませんが、またこのスレで報告します。
- 125 :名も無きAAのようです:2013/02/22(金) 22:56:31 ID:VW.TbB.I0
- 地の文が澄んでる感じがしてて良いと思える
乙!
次も期待
- 126 :名も無きAAのようです:2013/02/23(土) 02:27:58 ID:eu.VPV2g0
- 乙
- 127 :名も無きAAのようです:2013/02/23(土) 03:03:40 ID:S/p1jqgM0
- 乙、いつみてもきれいな話だ
次回も期待してる
つhttp://imepic.jp/20130223/107690
- 128 : ◆csB32AjwmU:2013/02/23(土) 12:27:11 ID:bQCnP5rI0
- >>127
うわああああああ!うわあああああ!
ありがとうございます!ありがとうございます!
- 129 : ◆csB32AjwmU:2013/03/02(土) 23:57:36 ID:BXWCiZtw0
- 明日の!21時位に!投下できればな!なんて!思ってます!
- 130 :名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 01:42:11 ID:BcL8Lrgo0
- よっしゃ!
- 131 :名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 11:41:25 ID:pZau9ZSY0
- きた!
- 132 :名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 13:43:35 ID:3NcCzdow0
- 見れないときに限って……でも楽しみにしてるぞ
- 133 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:07:15 ID:bbUHxy060
- バシャバシャという水の音。
同じ高校生の笑い声も聞こえる。
なぜだろう。
普段なら難なく聞き流すはずの音ですら、耳が必要なものとして離さない。
分からない。
今は、クリスマスとかいうイベントの時期。
高校生にもなってサンタさんを信じてる人はいるのだろうか。
まぁ、ほぼ100%存在しないだろうけれど。
川 ゚ー゚)+
少なからず今、目の前でビキニをひけらかし、ドヤ顔しているクールちゃんは間違いなく存在しているのであって。
- 134 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:08:17 ID:bbUHxy060
-
爪'ー`) ジュッ
(;'A`)そ モウダメカ…
川д川サマー・アダルセンスのようです
(((;;゚;;)))
(((゚- ゚;川))
(-_-) ペラッ
.
- 135 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:09:22 ID:bbUHxy060
-
5.三途の川を渡る日
十数年前までは、この時期にはこの国でも「雪」とやらが降っていたらしい。
しかし、暑い。
雪だなんて都市伝説だ、と言いたくなるくらい暑い。
海で遊ぶ人間も多いわけだ。
川;д川「なんでそんな恰好を…」パタパタ
川 ゚ -゚)「貞子!お前は昨日のニュースを見なかったのか!」
川;д川「昨日は早く寝ちゃってて…」パタパタ
川д川「ニュースがどうかしたの?」パタパタ
腰に手を当て、胸を張る恰好をしたクールちゃん。
オレンジ色に、白いストライプが入ったビキニ水着は、どう考えても学校の屋上にふさわしい恰好ではない。
うん。どう考えてもふさわしくない。
川*゚ -゚)「いいか!今日は!この時期!過去20年で!最も!暑い日らしいんだ!」
川;д川「あぁ、道理で…」パタパタ
手で団扇を作り、体のいたるところを扇ぎながら声を漏らす。
制服の下は、すでに汗でびちょびちょだ。
暑さのせいか、クールちゃんのキャラが壊れかけている気がする。
川*゚ -゚)「とにかくだ!今日は!泳ぐんだよ!」
川д川「あぁそう。泳ぐ…」パタパタ
川;д川そ「泳ぐ!?」
- 136 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:12:50 ID:bbUHxy060
- 昼休みの時間帯は、校舎の足元の砂浜が現れる時間でもある。
普段は10センチほど水没している校舎だが、自然とは不思議なもので、昼間にはすっかり全体を露わにしているのだ。
生徒の中には、その砂浜で泳ぐ者もいるわけで。
砂は、白い波に洗われてあちらこちらに流れている。
少しだけ柔らかい、砂浜独特の砂の感触。
川д川「どうして…?」
どうして、今その感触を足裏で感じている自分がいるのか。
川*゚ -゚)「夏だ!海だ!砂浜だ!」
どうして、隣にいる友人はこんなにもテンションが高いのか。
川*゚ -゚)「どうだ?貞子。私が持ってきた水着の感想は」
川д川「いや…サイズはちょうどいいし可愛いけどさ…」
そしてどうして、この友人は私にも水着を用意していたのか。
さも当然、というような顔で鞄から水着を取り出してビキニを着せようとしてくるから、仕方なくその上からパーカーとショートパンツを着させてもらったが。
どうしてピンクに黒いストライプの柄しか用意してなかったんだろう。
屋上で着替えさせる神経も理解できない。
相変わらず、彼女のことはよくわからない。
- 137 :名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 21:17:05 ID:BcL8Lrgo0
- 支援せざるをえない
- 138 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:17:10 ID:bbUHxy060
- 普段は、下から吹き上げてくる潮風。
それを今、目の前で受け止める。
すぅっと、一つ深呼吸。
胸いっぱいに海の香りがする。
川*゚ -゚)ノシ「貞子ー!」
浮き輪につかまって、まるで子供のようにはしゃいで沖に出て行ったクールちゃん。
今では、海辺で遊ぶ他の生徒達の合間から、やっとその姿が見える位、沖に行ってしまっている。
川д川ノシ「はぁーい!」
クールちゃんの呼び掛けに応じて、私も手を振りかえす。
そんな私は、砂浜に腰掛けて、足先を水につけるのが限界。
なんせ私は、カナヅチなのだから。
川д川「ふぅ…」チャプ
足先が少しだけ、ひんやりとする。
ついこの間まで、私は屋上で一人だったはずなのに。
苦手な水辺で、友達と遊ぶくらいにまで発展した日常。
昔の私からすれば、とんでもない非日常だと感じるような生活。
息を吸って、吐いてみた。
あぁ、眩暈がする。
- 139 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:19:11 ID:bbUHxy060
- ('A`)「あれ?何してるの?」
川д川「…あ、ドクオ君。お久しぶり」
ヒョロっとした、もやし体系のドクオ君。
水着姿だと余計それが目立つ。
青い海パンを腰に纏い、細くて白い体を日の光にさらけ出している彼。
彼との初めての出会いから、早くも二週間が経過している。
彼の見た目は全く変わっていない。
自殺衝動、とか言っただろうか。
そのことについて、誰からか話を聞いた。
衝動とはいうものの、ショックなことがあったり、気分の上下で死にたくなる、という程度だそうだ。
しかし、毎回死にたがるものの、実際には死ぬほどの勇気はないとかで。
彼も、そういう意味ではちょっとした有名人らしい。
('A`)「貞子さんは泳がないの?」トスッ
いかにも軽そうな音を立てて、ドクオ君が私の隣に腰掛けた。
私は、足先で水をちゃぷちゃぷ揺らしながら答える。
川д川「カナヅチなんですよ」
(;'A`)「うへぇ…こんなご時世に泳げないのは致命的じゃないかな?」
川д川「別にいいじゃないですか」
(;'A`)「や、誰も悪いとは言ってないけどさ…」
なんとなく、彼と話すのは気まずい。
何故かはわからないが、何となく。
でも、話せないというほどでもない。
そっけない返事をしていると思いつつも、それ以外に言葉が浮かんでこないのだ。
(;'A`)
不安そうな顔をしている。
きっと、私を怒らせたのではないか、とでも思っているのではないだろうか。
気を遣いすぎるのは、良くない。
波の音が、いつもよりはっきりと聞こえる。
- 140 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:21:24 ID:bbUHxy060
- 太陽は真上に昇り、必然的に私たちの影は短くなる。
砂浜に映った2つの影。
私もドクオ君も、口を開かない。
ドクオ君が私の顔色をうかがっているのであろうことはわかる。
しかし、私が彼に言葉を投げかけない理由がわからない。
聞きたいことはたくさんある。
最近の自殺衝動の件はどうなのか、とか、なんでドクオ君も泳がないのか、とか。
('A`)
そして、急に無表情。
どうもこの人は表情筋が弱いみたいだ。
川д川「泳がないんですか?」
仕方なく、質問をする。
彼の無表情な顔は、それだけで死人のように蒼白だ。
海の青とは対照的な、白い蒼。
この前見た、夜空の中で映えそうな顔。
('A`)「泳ぎたいんだけどな…」
口をあまり動かさずに、ぐちぐちと話す彼。
まるで泳げないかのように絞り出されるその言葉は、理解できない。
- 141 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:26:45 ID:bbUHxy060
- 川д川「泳げない理由でも…?」
聞きたい。
('A`)「…うん。まぁな」
川д川「…見た感じ、教えてもらえるような理由じゃなさそうですね」
('A`)「言えなくもないが、出来れば言いたくない」
川д川「そうですか」
そんな彼に対しても相変わらず、私はそっけない。
- 142 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:28:51 ID:bbUHxy060
-
川 ゚ -゚)
沖では、クールちゃんが波に揺られている。
オレンジ色の浮き輪に腰をはめて、足と腕をだらしなく海に垂らして、ぷかぷかと。
そんな景色を眺めながら、私とドクオ君は割と長く話し続けている。
('A`)「…海ってさ、なんかこう…あれだ。凄いよな」
川д川「どの辺がですか?」
('A`)「今そこかしこで遊んでる奴らも含めて、何でも受け入れてるところとか」
川д川「…受け入れてる?」
('A`)「うん。見方によっちゃ、単にそこにあるってだけなんだろうけどさ。
海にはなんか包容力?そんなのがある気がするんだよ」
- 143 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:30:36 ID:bbUHxy060
-
川д川「包容力ですか」
ちょっとだけ、引っ掛かった。
何が引っ掛かったのはわからない。
でも、何となく。
('A`)「ゴミも、遊びも、時間も…
すべてを包み込んで飲み込むような、そんな包容力…」
独り言のようにぶつぶつとつぶやき始めたドクオ君。
潮風が、耳元で唸り声を上げた。
波も、それに合わせて静かに揺れる。
クールちゃんも、揺れてる。
そんな時、チャイムが鳴った。
昼休み終了だ。
川;д川「うわ」
よく考えたらまずい。
この時間にここにいたら、きっと先生から声をかけられてしまう。
しかも、脱いだ制服は屋上だ。
クールちゃんのカバンの中にしまってあるので、急いで行かなければ大惨事になる。
- 144 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:32:33 ID:bbUHxy060
- ('A`)「急いでんの?」
やけに呑気なドクオ君。
川;д川「えぇ、ちょっと…」
川;д川「ドクオ君は更衣室に戻らなくていいんですか?」
('A`)「じきに戻るさ。気にすんな」
川;д川「いや、気にするも何も…」
そう言って、静かにドクオ君の後ろを指差す。
砂浜に足跡を残しながらゆっくりとこちらに近づいてくる人影。
(-@∀@)「昼休み終了のお知らせ」
('A`;)彡(男子には優しくない、女子には疎まれてる!
面倒くさい教師No.1に輝いたアサピーじゃねぇか!)
ミ(;'A`)(貞子さんは…)
- 145 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:34:12 ID:bbUHxy060
-
┌┐
│ | /7
< \ L」 /_/
\_> />
</
こ つ ぜ ん
[二二l l二二]
(;'A`)(流石!もういない!)
- 146 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:36:55 ID:bbUHxy060
- 川;д川「あぶなかっ…た…はぁ」
アサピー先生は、なんとなく嫌いだ。
何故かはわからないが、絡まれると面倒くさい。
慣れない服装で階段を駆け上がったせいか、体力も精神力もごっそり削られた気がする。
誰もいない屋上に、そっと身を投げた。
大の字になって、空を見上げてみるはいいが、呼吸が相変わらず落ち着かない。
微かに漂う、タバコのにおい。
川д川「タバコ?」
上半身を起こして、辺りを見回す。
そして、とある人物と目があった。
爪'ー`)y-~「よぉ。元気してたか?」
川д川「あぁ、フォックスさんか」
爪;'ー`)y-~「露骨に嫌そうな顔してんなよ…」
屋上は、煙でいっぱいになっている。
むせるほどではないが、やっぱり臭う。
川;д川「っていうかフォックスさん、タバコ吸うんですか?」
爪'ー`)y-~「ん、まぁな」
相変わらず、彼の髪は綺麗な金色で、太陽の光できらきらと輝いている。
でも、タバコの煙のせいか、少しだけ曇って見える。
川д川「やだなぁ、タバコ」ボソツ
爪'ー`)y- ジュッ
- 147 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:38:40 ID:bbUHxy060
- 川д川「今日はどうしたんですか?」
爪'ー`)「や、タバコ吸いに来ただけだよ。ちょっと疲れたもんでね」
川д川「タバコって吸ったら疲れが取れるんですか?」
爪'ー`)「どうかな。なんとなく疲れたら吸いたくなるんだよな」
川д川「へー、そんなもんなんですか」
爪'ー`)「まぁ、このご時世にタバコなんて嗜好品、めったに吸えるもんじゃないしな」
川д川「そうですね。私だって生まれて初めて見ましたもん」
やっぱりフォックス君はお金持ちなんだなぁ、と思い知らされる。
今日は製水機を持ってきていない。
だから、あれが彼の視界に入ることもない。
そんなことを考えた自分が、ちょっとだけみじめに見えた。
- 148 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:40:21 ID:bbUHxy060
- 川 ゚ -゚)っ「お、フォックスか」ギィッ
爪'ー`)「いつぞやの委員長さんかい」
川д川「あ、お帰りクールちゃん」
潮の香りが広がる。
クールちゃんは派手な水着を脱いでいて、髪の毛が乾ききっていない。
フォックス君とクールちゃんの二度目のコンタクト。
でも、私はもう緊張しない。
あの日を思い出す。
一か月も経っていない、最近の話。
クールちゃんが、カバンから私の制服とオレンジジュースを取り出す。
グラスが2つ。
フォックス君が嬉しそうな顔になる。
クールちゃんが、少し微笑む。
その笑顔を見ていたら、こんな楽しい日々がずっと続くような気がして―
- 149 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:44:19 ID:bbUHxy060
-
パタン
.
- 150 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:45:30 ID:bbUHxy060
-
川;д川「ふぃ、暑かったなぁ」
自宅へ帰還。
空はすっかり暗くなり、辺りの海を黒く染め上げている。
満月。
暖かい光が、その海を照らしている。
川д川「ニュースニュース、っと」ピッ
リモコンをいじって、テレビをつけた。
画面の中で、アナウンサーがせわしなく口を動かしている。
どうも、何か事件があったみたいだ。
- 151 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:47:13 ID:bbUHxy060
- 川д川「あれ?」
中継のようだが、画面に映っているのは、確かに私の学校だ。
アナウンサーの声が、部分的に聞こえた。
「…高等学校で事故があり、この学校の生徒である鬱多ドクオさんが溺死体として発見されました。警察では…」
あれ?聞き間違えたかな?
きっと疲れているんだ。
早く寝てしまおう。
寝てしまいたい。
川;д;川
頬を抓っても、痛い。
夢じゃない。
いつの間にか涙を流していることに気づいたのは、ニュースを見て間もなく。
あぁ。
窓の外では、相変わらず月が海を照らし続けている。
5.三途の川を渡る日 了
- 152 :名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 21:48:08 ID:YSEZOhSY0
- なんだと…
乙
- 153 :名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 21:50:35 ID:EkFSQC4w0
- 不穏なタイトルだと思ったら…
- 154 : ◆csB32AjwmU:2013/03/03(日) 21:54:17 ID:bbUHxy060
- 第五話目投下終了です。ありがとうございました。
なんと、な、なんとBoon Romanさんがまとめてくださいまして!
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/sumad.html
ありがとうございます!
- 155 :名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 22:33:24 ID:pZau9ZSY0
- ドクオ……?
面白くなりそう乙
- 156 :名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 00:23:16 ID:.9stmaw20
- 乙!
毎回読むたびに今が夏なんじゃないかと錯覚させられる
- 157 :名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 12:42:15 ID:A0U64yMg0
- ついに物語が動き出したけど
いまだにどこに向かうのかは見当つかないな
乙
- 158 : ◆csB32AjwmU:2013/03/10(日) 23:38:16 ID:0TUl5tdg0
- 第六話、ゲリラ投下です。
- 159 : ◆csB32AjwmU:2013/03/10(日) 23:39:10 ID:0TUl5tdg0
-
翌朝。
学校からは、「臨時休校」の知らせが入った。
そりゃそうだ。
普段なら大喜びする。
でも、今回ばかりはそうはいかない。
クールちゃん、フォックス君、ドクオ君。
夜中のヒッキ―先輩。
今となっては、かけがえのない人たち。
そう、自分の四肢のように。
でも、欠けてしまった。
四肢の一つが。
歩けるかな?
痛い。
本当に、先に進めない予感がして。
- 160 : ◆csB32AjwmU:2013/03/10(日) 23:41:27 ID:0TUl5tdg0
-
爪'ー`) y-~ シュボッ…
川д川サマー・アダルセンスのようです
(;;゚;;)
ε=(´- `;川
(-_-) パラッ
.
- 161 : ◆csB32AjwmU:2013/03/10(日) 23:44:33 ID:0TUl5tdg0
-
6.ん、から始まる
二部屋しかない狭い部屋の中で、1日何もしなかった。
つまりは、布団に丸まって1日中泣いていただけなのだけれど。
忍び泣きしているだけで過ぎた時間は、普段の屋上でのそれよりもっと早かった。
朝が来て、太陽が昇って、また沈んで。
暗くなってから丸1日寝ていたことに気付いた。
川ぅд;川「明日…いや、今日…学校えぐっ、行かなきゃ…」
必死に涙をぬぐいながら、汗と涙でぐちょぐちょになった寝床から抜け出した。
でも、いざ学校に行ったら正気を保てる気がしなかった。
私とドクオ君が亡くなる当日に会話していた、というのが、私の中でどろどろとした何かになっていた。
彼と話すとき、私の反応がそっけなかったこと。
彼と話すとき、無言の状態が続いたこと。
彼との会話で起こったことすべてが、私を縛る。
自己嫌悪に陥っては泣き、彼を失った悲しみで泣き、そして、そんな自分が情けなくなっては、泣く。
1Lくらい涙が出たんじゃないだろうか。
そのくらい、床も、寝床も、湿っている。
- 162 : ◆csB32AjwmU:2013/03/10(日) 23:47:43 ID:0TUl5tdg0
-
人は二度死ぬらしい。
命を絶った時と、人から忘れられた時の、2回。
散り際まで美しく、という精神が、どこぞの国には存在するとか。
でも、私は思う。
一度目の死でも、美しくても、それは形の変わらない、どす黒い「死」に変わりはない。
1年前のあの日、あの屋上から空へ飛び立った、彼女と同じように。
もう、この世にドクオ君はいないのだ。
だから、ぐずぐずしていたってしょうがない。
そう思う。
そうやって落ち着いた時、彼との会話がフラッシュバックする。
('A`)『別に?ただの高校二年生☆だけど』
('A`)『死にたかったからだよ』
('A`)『海にはなんか包容力?そんなのがある気がするんだよ』
.
- 163 : ◆csB32AjwmU:2013/03/10(日) 23:50:41 ID:0TUl5tdg0
-
込み上げてくる吐き気を必死になって押し殺し、それを涙に変える。
ぽた、ぽた。
寝床から溢れた涙と、新たに床に落ちる涙。
思い出すと、よりいっそう惨めになる。
彼は、シグナルを出していたのだ。
きっと、私のいる屋上という空間で、彼も少しずつ何かを吐き出していたのだ。
でも、私はそれをすべて、彼が言った「自殺衝動」に押し付けて。
川ぅд;川「…」
喉が潰れたみたいだ。
「ごめんなさい」
この、一言が言えない。
罪悪感に縛られているとは言わないが、自分を苦しめている物の一つでもある。
東側の窓から、太陽の光が差し込んできた。
世界が朝を迎えても、私は、まだ目覚めた気がしない。
- 164 : ◆csB32AjwmU:2013/03/10(日) 23:53:48 ID:0TUl5tdg0
-
「おはよう」
朝の挨拶の声。
とぼとぼと歩を進める私。
多分、髪の毛はいつも以上にだらっとしているはずだ。
目が開かない。
川ぅд川「あー…」
普段は、人が少ない時間帯に登校するのが習慣だった。
だのに、寝坊。
泣き疲れたせいか、体にはずっしりと疲労感が残っている。
まともに寝ていないことも原因だろうが。
川 ゚ -゚)「おはよう、貞子」
背後から、聞きなれた声が飛んでくる。
川ぅд川「あぁ、クールちゃん…おはよ」
川 ゚ -゚)「いやはや、驚いたな。まさかうちの学校で事故があるとは」
川ぅд川「…ん。そうだね」
そういえば、クールちゃんとドクオ君は面識がなかった。
学校自体も、どちらかと言えば騒然としている風だ。
川 ゚ -゚)「元気がないな。大丈夫か?」
川д川「んー…あまり大丈夫じゃないかな」
川;゚ -゚)「おぉ、そうか。あまり無理するなよ」
クールちゃんがわずかに表情を崩した。
それが何を意味するのか、判断力の鈍った私には理解できなかった。
- 165 : ◆csB32AjwmU:2013/03/10(日) 23:56:35 ID:0TUl5tdg0
- 階段をゆっくりと登り、教室へ。
中はがやがやと騒がしい。
川д川「ふぅ…」
窓際の席に落ち着いた私は、ほっと息を漏らした。
窓の外では、いつもと変わらない青空が広がっている。
何故か今日は、あまり屋上に行きたいという気分ではない。
まぁ、どう考えてもドクオ君のことが原因ではあるのだが。
肩を叩かれた。
振り返ると、クールちゃんの顔。
川 ゚ -゚)「…貞子、大丈夫か?」
川д川「んー、さっきよりかはマシかな」
川 ゚ -゚)「もしかして、例の事件のことを気にしているのか?」
川;д川「まぁ、うん」
川 ゚ -゚)「…貞子は優しいな。
でも、そのせいで貞子まで元気がなくなっては元も子もない。
自分は大切に、だ」
川д川「…わかったよ。クールちゃん、ありがとう」
そうとだけ答えて、改めて窓の外を見る。
動いている雲、陰る海と、明るい空。
世界は回っているのだな、と改めて実感させられた。
- 166 :名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 00:00:05 ID:HrR/O9EY0
- きたー!
- 167 : ◆csB32AjwmU:2013/03/11(月) 00:00:16 ID:RRTk1RKY0
-
思えば、私が屋上に行くようになったのは今日から大体一年くらい前だった気がする。
高校に入学してから一年が経とうとしていて、気持ちに余裕が出て来た時だ。
当時の私には、友人が数人。
でも、その中でも飛びぬけて仲が良かったのは、沢近ヘリカルちゃんだった。
二つ結びがとても似合う、小さな、妹のような子だった。
*(‘‘)*『貞子ちゃん!いっしょに泳ぎましょう!』
海が本当によく似合っていたので、彼女と泳ぎに行くことは多かった。
オレンジ色の水着と、大きな浮き輪を抱えた彼女に連れられて、何度も。
当時、私はたしなむ程度には泳げていたものだ。
*(*‘‘)*『楽しいですね!』
笑顔で語りかけてくる彼女と、見かけが暗い私。
知らない人が見たら滑稽な状況だっただろう。
そしてある日。
彼女は、屋上に行こうと言い出した。
屋上の扉に付いている鍵の番号を突き止めたらしく、ひどく興奮していた。
その数分後には、ぎぃっと音を立てて、あの屋上の扉を開いた私たちがいた。
正直、驚いた。
誰の侵入も許されていない屋上は、汚いだろうと思っていたのに。
ゴミ一つない、真っ白な屋上を見て、私はあそこに惚れ込んだ。
- 168 : ◆csB32AjwmU:2013/03/11(月) 00:04:20 ID:RRTk1RKY0
-
*(*‘‘)*『きっれーい!!』
彼女も、あそこに惚れ込んだようで。
友と、屋上と、海と、空。
あの日の光景は、一生忘れない。
そして、忘れられないものとなった。
翌日、彼女から「ある先輩に告白する」と打ち明けられた。
私は、心の底から彼女を応援した。
*(‘‘)*『ありがとう、貞子ちゃん。あなたは私の最高の友達です!』
「夜、星空の下の屋上で告白してきます。明日を楽しみにしてて下さい」
そう、言い残して。
その翌日、彼女は死体で見つかった。
どうも、海に飛び降りたらしい。
川;д;川
それを聞いて、いつの間にか泣いていた。
遺書も、血痕も見つからなかった。
自殺ということで落ち着いたのに、私はどこか納得できなかった。
ヘリカルちゃんの言い残した、『最高の友達』という単語が、耳にこびりついて。
ヘリカルちゃんが告白した先輩を探してみたりもした。
でも、見つからなかった。
海が怖くなった。
泳げなくなった。
- 169 : ◆csB32AjwmU:2013/03/11(月) 00:06:12 ID:RRTk1RKY0
-
あぁ、そういえばそれからだ。
私が屋上に入り浸るようになったのは。
この世にはもういない、彼女に縋り付くようにして。
一人ぼっちは寂しいでしょ、と理由をつけて。
でも、ドクオ君がいなくなってわかった。
寂しかったのは、私だ。
勝手に、勝手に、勝手に。
自分の汚さを知った。
同時に、クールちゃんに申し訳なくなった。
こんな私と仲良くしてもらって。
私なんて。
次に、フォックス君に。
そして何より、ドクオ君に。
私なんて。
川д川「しょうもないのになぁ…」
- 170 : ◆csB32AjwmU:2013/03/11(月) 00:07:35 ID:RRTk1RKY0
-
ふと気が付くと、私はやっぱり屋上の扉の前にいた。
川д川
なんで来てしまったのだ。
ここまでどうやって来たのか、記憶がない。
川д川
でも。
川д川っ
私はそれでも、ドアに手をかけた。
- 171 :名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 00:09:02 ID:kCH5Zr6s0
- ようやくリアルタイムで遭遇できたわ
- 172 : ◆csB32AjwmU:2013/03/11(月) 00:09:38 ID:RRTk1RKY0
-
ぶわっ、っと潮風がぶつかる。
川д川
屋上と、その奥にある空、海を見る。
頭上の太陽、海の優しい香り。
ドクオ君はなんで死んだのか。
溺死体?なんで。
泳げなくはないけど、泳げない。
なんで。
なんで。
なんで初めて彼に会った時に彼がいたところのフェンスが、少しだけ歪んでいるの?
川д川「…あぁ」
ゆっくりと、そこに近づいてく。
ぱさぱさ。
近付くにつれて、乾いた紙が擦れる音がする。
紙の音なんて、普段ならしない。
音源を探すと、屋上の白さに交じって、執拗に折りたたまれた白い紙を見つけた。
フェンスの足元に埋めてあって、普通なら見つけられないような位置に。
随分と汚い字で「いし ょ」と書いてあった。
川;д川 !?
流石に、驚きを隠せなかった。
- 173 :名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 00:12:09 ID:e4jKgE5k0
- しえん
- 174 : ◆csB32AjwmU:2013/03/11(月) 00:14:55 ID:RRTk1RKY0
-
急いでそれを開く。
「よるのおくじょうには ちかづくな」
川;д川「…それだけ?」
大きなひらがなで、メモのような走り書き。
何かしら重い文章を期待していた私は、ある意味度肝を抜かれた。
川;д川「夜の…屋上?」
もう、行ってしまった、
天体観測に。
死人に口なし。
彼は、何を伝えたかったのか。
というか、これは本当にドクオ君の遺書なのか。
川;д川
空っぽになっていた頭に、情報が流れ込む。
泣いている余裕はなかった。
彼は、いつも私に疑問を投げつけて去っていく。
しかも、どれも投げつけただけで答えのわからない、そこでおしまいのように感じられる疑問。
しりとりなら、「ん」で締めくくられたような。
今回の答えを見つけるには、行くしかない。
クールちゃんと、フォックス君と一緒に行こう。
もう一度、夜の屋上に。
6.ん、から始まる 了
- 175 : ◆csB32AjwmU:2013/03/11(月) 00:16:26 ID:RRTk1RKY0
- これで第六話投下終了です。ありがとうございました。
一レスの文量を少し多めにしたので、レス数は若干減ってしまいました
毎度毎度支援ありがとうございます!
- 176 :名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 00:17:57 ID:kCH5Zr6s0
- 乙
夏の学校に怪談は付き物だけど何があるやら
- 177 :名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 00:18:13 ID:e4jKgE5k0
- 乙!
続き気になるわー
- 178 :名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 00:35:56 ID:0TL6iWYo0
- おつ
- 179 :名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 00:37:10 ID:HrR/O9EY0
- 夜の屋上には一体何があるのか
ドキドキしてきた乙
- 180 :名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 17:08:16 ID:nlDueY.o0
- 乙!
- 181 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:21:07 ID:iFWuEzYI0
- 本日もゲリラ投下となります。
失礼
- 182 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:23:40 ID:iFWuEzYI0
-
潮の香り。
今日は、普段より涼しい。というか寒い。
月明かりはいつもと変わらず、冷ややかな光を水面に照りつけている。
今は、夜の7時。
騒がしさはどこへやら、今は一転、ひっそりと静まりかえっている。
川;д川「日もどっぷり暮れたね…」
製水機のボトルを片手に、私はつぶやいた。
川 ゚ -゚)「うむ。なかなか見事な月だな」
私とクールちゃんは、自分たちの教室で、どこか空しい夜空を見上げていた。
- 183 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:25:47 ID:iFWuEzYI0
-
爪'ー`) y-~ シュボッ…
川д川サマー・アダルセンスのようです
(;;゚;;)
(゚- ゚ 川 …
( -_-)…
.
- 184 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:27:01 ID:iFWuEzYI0
-
7.だから
背後から、スライド式のドアが開く音がした。
爪'ー`)っ「よぉ。待たせたな」
川 ゚ -゚)「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
川д川「わざわざありがとう。フォックス君」
ひっそりとした教室に響く声は、やけに大きく聞こえて。
静かなのはいいが、あまり目立つことはできない。
爪'ー`)「で?何だってんだ?急に呼び出したりして」
川д川「いえ、ちょっとですね…」
クールちゃんにはすでに、例の遺書のことは話してある。
2学年全員の筆跡を覚えているクールちゃんも、見覚えがないらしく、首をかしげていた。
まぁ、あそこまで乱れた字から筆跡判定しようとするのも無理があると思うが。
- 185 :名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 01:27:29 ID:/YZvo3OY0
- きたー!
- 186 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:28:11 ID:iFWuEzYI0
-
川д川「遺書が見つかったんです」
爪'ー`)「ほう、遺書」
爪;'ー`)「って、そりゃまた急だな。誰のなんだ?
まさか事件の…ドクオって奴のか?」
川д川「まだ誰の物かははっきり解っていないんです。
でも、それにはこう書かれてました」
川 ゚ -゚)「夜の屋上には近づくな、だそうだ」
クールちゃんが、私の言葉を引き取って続けた。
川 ゚ -゚)「要はそれが誰の遺書にしろ、『夜の屋上』には何があるのか。
それについて調べてみようというわけだ」
爪;'ー`)「わざわざ忠告してくれてるのに行くのか?
それこそ死んだ…ドクオ?とかの遺志に反してる気がするんだが」
川 ゚ -゚)「だから、これがドクオの遺書だと決まったわけではない。
それに、遺志を確かめずに遺書を風化させるのもまた、死者への冒涜じゃないか?」
爪;'ー`)「誰も冒涜とまでは言ってないけども…」
川д川
二人の会話を見ていて、改めて実感する。
クールちゃんもフォックス君も、ドクオ君とは直接触れていない人間だと。
二人のやりとりが、どこかぶっきらぼうだな、なんて。
- 187 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:29:02 ID:iFWuEzYI0
-
川 ゚ -゚)「とにかく行ってみよう。何より、退屈しのぎになるじゃないか」
爪;'ー`)「退屈しのぎっておま…なかなか勇気あるな」
川 ゚ -゚)「まぁ現在進行形で退屈だからな。
行こう、貞子」
川;д川「う、うん…」
私はクールちゃんの神経の図太さに驚きながらも、私たちは教室を後にした。
がらんどうの教室のドアは、微かに重かった気がした。
- 188 :名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 01:29:48 ID:/YZvo3OY0
- dkdk
- 189 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:30:07 ID:iFWuEzYI0
-
屋上に向かう階段。
深夜の学校は、足音が良く響く。
カツン、カツンと。
足音が3つ。
音が大きくならないように神経を配りながら、警備員さんに見つからないように、昇る。
そっと、そっと。
川;д川「…神経使いますね」
川;゚ -゚)「ん。まぁな」
爪;'ー`)「う〜ん…胃がいてぇ」
お腹をさすっているフォックス君を庇いながら、私はクールちゃんについて階段を突き進む。
まだ、私の中の罪悪感は薄れていない。
どちらかと言えば、増している。
例えるなら、少しずつ貯まる、砂時計の砂のように。
少しずつ、時間と共に増してくる。
- 190 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:31:56 ID:iFWuEzYI0
-
何かを意識していると、時間が早く過ぎるという。
それを体現するかのように、あっという間に、扉に辿り着く。
川;゚ -゚)「いつも開けている扉なんだがな…」
川;д川「なんだか、威圧感があるよね…」
爪;'ー`)「は、きそう…」
なんというか、嫌だ。
フォックス君の体の反応が良く表しているが、扉に凄まじい迫力を感じる。
ストレス。
川;д川
固まる、私たち。
川;゚ -゚)っ
クールちゃんが、必死にドアノブに手を伸ばして。
がちゃん。
重苦しい音を立てて、クールちゃんが扉を軋ませた。
- 191 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:32:53 ID:iFWuEzYI0
-
相変わらず、屋上の風景は変わっていなかった。
満天の星空と、明るく輝く月。
控えめに空を流れている天の川は、空にその姿を横たえている。
その夜空の下には、見覚えのある顔。
(-_-)「また、君たちか」
相変わらず分厚い本を片手に、澄ました顔で、そこにいた。
ヒッキ―先輩。
この前と変わらない、大きな、茶色い本。
神経質そうな姿勢に変わりはない。
川;д川「お邪魔します」
一言、それだけ言っておいた。
目の前のクールちゃんが固まる。
川;゚ -゚)「あぁ、先日の…」
(-_-)ノシ
ヒッキー先輩は、片手を振って応じただけ。
本から視線を外す気はないらしい。
爪'ー`)「敬語、ってことは先輩になるんですかね。
はじめまして。フォックスと言います」
容姿に似合わない、すごく丁寧な言葉遣いで挨拶をするフォックス君。
(-_-)ノシ
しかし、その挨拶にも片手で応じる彼。
彼がはっきりと答えてくれたのは、私にだけかもしれない。
- 192 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:34:14 ID:iFWuEzYI0
-
ヒッキ―先輩がいてくれたことで落ち着いたのか、探索はスムーズに始まった。
でも、いざ見つかったものは、大したものじゃなかった。
小さなクリップ。
ガムボール。
砕けた定規。
夜空の下に広がる屋上は、静かで、ただただ静かで。
時折、思い出したかのようにヒッキー先輩が本のページをめくる音がするだけだった。
川д川
その静けさのせいかは分からない。
クールちゃんとフォックス君が、必死になって屋上の安全確認をしている時。
私の興味は、ヒッキー先輩の本へと移っていた。
心の中では、ヘリカルちゃんとドクオ君に申し訳なさを覚えながら。
好奇心を抑えられなかった。
川д川「ヒッキー先輩が読んでらっしゃる本って、一体何の本なんですか?」
興味本位だった。
ヒッキー先輩の傍に体を寄せ、首をかしげて。
製水機から、ごぽごぽと深い音が響いた。
その時、わずかにヒッキー先輩の表情が曇ったのがうかがえた。
彼の眼が、夜の光を反射したかのように、冷たく光った気がした。
川;д川「あ、ご、ごめんなさい」
とっさに、口から謝罪の言葉が飛び出していた。
心のどこかで、彼を怖がったのだろう。
それと同時に、先輩の顔も、前と変わらぬ顔に戻った。
どこが冷たく見えたのかすらもわからぬほどに。
- 193 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:35:17 ID:iFWuEzYI0
-
(-_-)「これはさ、いわゆる伝記ってやつさ」
川д川「伝記、ですか」
(-_-)「うん。すごいよね。人の人生ってやつはさ。
他の人間は体験できなかったストーリー、それが凝縮されてるんだ」
川;д川「あまり本を読まないので偉そうなことは言えないですけど、それはなんとなく分かります」
(*-_-)「解ってくれるかい!?」
突然、真っ白なヒッキー先輩の肌に桃色が灯る。
本を取り落とし、身を乗り出して私の両手を彼の両手が包む。
暖かい。
川;*д川「ちょ、ちょっとヒッキー先輩!?」
予想だにしなかった行動に、体が反応する。
そもそも、男性に手を握られるなんて初めてだ。
体温が上がるのが分かる。
- 194 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:36:20 ID:iFWuEzYI0
-
吊り橋効果?
確かに、遺書に書かれていた分、いつもよりここが怖いのは確かだ。
耳が熱い。
熱い。
暑い。
ヒッキ―先輩は、キラキラした視線で私を見てくる。
よくわからない。
先ほどは怖かったり、今は子供のようにはじけたり。
でも、なんとなく、恐い。
ころころ変わる彼が。
少なくとも、そんな彼に手を握られてドキドキしている私が。
怖い。
- 195 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:37:28 ID:iFWuEzYI0
-
川;*д川「せ、先輩、手、放してもらっても、いいですか?」
(;-_-)「あ、ごめん」
彼の視線が外れる。
甘えかも知れない。
とにかく、手は離れた。
私はすかさず、ヒッキー先輩から身を引く。
(-_-)「…ごめんね」
小さな声で、彼がつぶやくのが聞こえた。
川;д川「…ちょっとびっくりしましたけど、大丈夫です。
気にしてないですよ」
とりあえず、返答。
汗が額を駆ける。
心臓の鼓動は落ち着かないし、相変わらず呼吸もせわしない。
何故か、脳裏にヘリカルちゃんの笑顔が浮かんだ。
同時に、ドクオ君の顔も。
熱くなった体に、涼しい風がぶつかって、吹き抜けた。
ヒッキー先輩から少しだけ離れたところに、私は体を投げ出した。
- 196 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:38:23 ID:iFWuEzYI0
-
しばらくして、クールちゃんが戻ってきた。
指には画鋲のようなものをつまんでいた。
潮風に当たっていながら錆びていない。
川;゚ -゚)「おかしいな…遺書はデマだったのか?」
さらっととんでもないことを言い出す。
爪;'ー`)「バッカ、なんだよその言い方は」
いつの間にか戻ってきたフォックス君も、片手には小さなガラス瓶を持っているだけだ。
どうやら、怖いものはなかったようで。
(-_-)「そういえば、何をしに来たんだ?」
川д川「いえ、ちょっと…」
そういえば、先輩には今回屋上に来た理由を言っていなかった。
別に言う義理もないが、深夜の屋上は先輩の物であるような気がして。
言わなきゃいけないだろうか。
あぁ、眩暈がする。
川 ゚ -゚)「いえ、ちょっと忘れ物を」
川;д川
衝撃。
今日一日、図太いことしかしてこなかったクールちゃんがフォローを入れた。
(-_-)「そうかい」
先輩もそれっきり興味をなくしたようで、黙って本に視線を落とした。
かさり。
乾いた紙が、生きているかのようにこすれあった。
クールちゃんとフォックス君の息遣いが聞こえる。
ヒッキ―先輩の肌は相変わらず白く、ぼんやりと光って見える。
月に照らされた私は、特に何を思うもなく、ただひたすらに、夜空の星を眺めていた。
- 197 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:40:20 ID:iFWuEzYI0
-
心臓が落ち着かないまま、私たち3人は屋上から教室へと逃げ帰った。
たどり着いた、教室。
私の机の上に、今日見つけたものを並べた。
川д川
どれも、あの屋上にあってもおかしくないものばかりだ。
ヘリカルちゃんが亡くなって、屋上に近づく人は格段に減ったけれど、それでも一人もいないわけではない。
窓から漏れてくる月の光。
川 ゚ -゚)
私たち3人はその光の中で、例の遺書のことについて話していた。
果たして、誰が書いたのか。
果たして、あれはなんなのか。
果たして、何を伝えたかったのか。
爪'ー`)
真相は、水に溶けてしまったのだろうか。
傍らの製水機が、ピーッと音を立てた。
翌朝のニュースで、ドクオ君の死因が、高いところから飛び降りたための内臓破裂だったということを知った。
7.だから 了
- 198 : ◆csB32AjwmU:2013/03/19(火) 01:42:52 ID:iFWuEzYI0
- 第七話目投下終了です。ありがとうございました。
最近暑くなってきましたね。
鼻と目がぐぢゅぐぢゅで前が見えないわ、息ができないわで死にかけてまして
次の投下がいつになるかはわかりませんが、予定が立ち次第このスレで連絡いたします
- 199 :名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 02:03:41 ID:oQ.ueg9Q0
- おつ
- 200 :名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 02:36:44 ID:fIFBserg0
- 支援しようと思ってたら出遅れたでござるの巻
乙
- 201 :名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 11:18:36 ID:bDWFtRNE0
- 今回もきれいな話だった
おつ
- 202 :名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 11:30:59 ID:/wGY.SsA0
- 乙
これからの展開が想像できないな……
- 203 :名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 21:52:17 ID:wYx5WlIs0
- 次は誰が……ってなるな。乙
- 204 : ◆csB32AjwmU:2013/03/23(土) 20:04:46 ID:4Tzcgn320
- どうもこんばんは
そろそろ投下の時期がやってきました
と言うわけで明日、21時頃投下できればな、と考えております
- 205 :名も無きAAのようです:2013/03/23(土) 22:39:01 ID:k1keG5ZU0
- 楽しみ
- 206 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:00:19 ID:NosCMAuk0
-
小さな定規のかけらが、私の手の中に。
プラスチック製のそれは、私の手のひらをちくちくと刺激して、私の意識をはっきりとさせる。
川д川「あぁ…」
夜風にあたりながら、窓の外の月を見る。
湿っぽい、潮の香り。
なぜだろうか。
遺書に従って屋上に行った日、つまりおとといから、奇妙な胸騒ぎが止まない。
髪の毛がべとつく。
シャワーを浴びたばかりなのに。
もう一回、シャワーを浴びてこようか。
- 207 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:01:02 ID:NosCMAuk0
-
爪'ー`) y-~~~
川д川サマー・アダルセンスのようです
□彡 ヒラリ
(;;゚;;)
川 ゚ -゚) !?
( -_-)っ
.
- 208 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:02:18 ID:NosCMAuk0
-
8.至らずのぬかるみ
カタン。
川д川「はぁ…」
浴室から、部屋へと戻る。
バカみたいだ。
人が死ぬ。
普通に生活を送っている以上、そうそうない非日常。
そこにあった存在が、跡形なくなってしまう。
ここ一週間、ずっとそんなことを考えている。
悩んでいる自分も嫌になる。
でも、悩むのをやめたら、もっともやもやする。
ヘリカルちゃんの時は、こんなことなかった。
そう考えて、自己嫌悪。
あぁ、辛い。
月の光が、また私を憂鬱にする。
ヒッキ―先輩のことを思い出させるから。
- 209 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:06:10 ID:NosCMAuk0
-
あの夜、彼の手の温もりは確かだった。
温もり。
彼の目が見せた冷たさとは裏腹に、優しさを感じる手。
私の手が小さいと思わず実感するほど、大きな手。
その上についている、よくわからない表情の顔。
その時に浮かんだのは、恐怖と、胸の高鳴り。
私は、彼に恋をしているのだろうか。
自分のことなのに、いまいち分からない。
ドクオ君との間には、冷たい何か。
フォックス君との間には、暖かい何か。
不思議な感覚を覚えた。
ヒッキ―先輩との間には、そのどれでもない、いくつかの感情が入り混じる。
強いて言うなら、冷めたぬるさ。
川д川「あー」
声を出す。
言葉を、音に。
きっと、何の意味もない言葉を。
―そうだ、明日は、朝から屋上に行こう。
そう、小さく決心しながら。
- 210 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:08:32 ID:NosCMAuk0
-
果たして、私は屋上にいた。
久々に明るい屋上に立ったせいか、空がいつも以上に青く見える。
やけに大きく育った入道雲のかげに、小さな雲がたくさん浮かんでいる。
川д川「久しぶりかな、一人ぼっちの屋上も」
フェンスにもたれ掛かる。
輝く太陽の下、光が私を浮き彫りにする。
川д川
髪の毛を手に取って、日にかざす。
黒い髪が光を帯びて、何とも言えない白に。
けだるさと、快感。
このまま、心地よい夏へと溶けてしまいたい。
- 211 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:10:41 ID:NosCMAuk0
-
川д川「どうしてたんだっけ」
久しい、一人だけでの屋上生活。
少し昔の私を思い出す。
製水機片手に、ただただぼーっとして過ごす、そんな生活をしていた。
今思えば、何を考えるということもなかった気がする。
ヘリカルちゃんへの、何かの懺悔のつもりだったのだろうか。
彼女の告白を、何らかの形で止めればよかったのだろうか。
それとも、彼女の告白を見守っていればよかったのだろうか。
答えは、わからない。
今や、彼女の口から、回答を聞くことも出来ない。
ちっぽけな私。
突然、見えない何かに押しつぶされたような気がした。
あぁ、苦しい。
- 212 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:12:26 ID:NosCMAuk0
-
太陽の光を浴びているうちに、少しずつ、意識が混濁する。
川ぅд川「眠くはないんだけどなぁ」
片手で目をゴシゴシとこすり、頬を抓る。
眠くはない。
が、なんというか、思考にもやがかかっているような。
記憶を、深い霧が覆っているような。
初めての感覚だ。
自分の記憶が、深く、深く、深く、水の中に沈んでしまっている。
記憶を、辿る。
それに比例して雲の流れは速くなった。
- 213 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:14:32 ID:NosCMAuk0
-
空の雲も落ち着きを取り戻し、太陽がその姿を隠されたころ。
かたん。
o|_-)|
ドアが揺れて、その隙間から、私の悩みの種の一つが顔を出した。
川;*д川「せ、先輩!?」
思わず立ち上がる。
肩が震える。
首筋に溜まった汗が、背筋をかける。
体温が上がる。
川;*д川「何か、用ですか?」
浮かんだ疑問を、率直に言葉にする。
ちゃんと、意味のある、私にとっては重い言葉。
(-_-)「いや…」
口ごもった彼。
川;д川「あの…」
まさかここで口ごもられるとは思っていなかったので、わずかな焦りと共に答えを促す。
先輩の表情が、わずかに曇った。ようにみえた。
- 214 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:16:37 ID:NosCMAuk0
-
(-_-)「用って程じゃない。
昼間の屋上に顔を出したことがなかったから、ね」
川;д川「は、はぁ…」
思えば、彼は「夜の屋上」にいる人。
昼間のここに顔を出す理由なんてないような気がするが。
彼は、相変わらずドアの隙間から顔を覗かせたまま、口を開く。
(-_-)「まぁ、あまり気にしなくていいよ。
僕なんて、そんな気にするほどのことでもないでしょ」
川;д川「うーん…」
気になって仕方がない!
でも、そんなこと言えるわけがない。
私は、そのままヒッキ―先輩の方を見ながら、ゆっくり体重をフェンスに預ける。
かしゃん。
フェンスが音を立てる。
川д川
わからない。
物憂げに見た空には、入道雲が背伸びしている。
- 215 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:18:40 ID:NosCMAuk0
-
(-_-)「…あのさ」
川д川「はい?」
不意に、声をかけられた。
空の入道雲も形を崩し、ちりぢりになってしまっている。
以前のように、返答に焦りはない。
(-_-)「この前は、ごめん」
川д川「…は?」
(-_-)「いや、おとといの話。
あの…手を握ったことだよ」
川;д川「あぁ、あれですか。気にしてないので」
(-_-)「それでも、だよ。
申し訳ない」
私自身、先ほどまで彼のことを考えていたせいか、少しどきりとした。
同時に、首筋から汗が流れる。
彼は、私の目をまっすぐに見つめなおしてくる。
その表情は、許しを請う彼の心を表したかのように、切ない。
- 216 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:20:35 ID:NosCMAuk0
-
川;д川「べ、別に気にしてないんですから、そんな顔しないで下さい」
(;-_-)「そんな顔?」
彼は、焦ったように顔をぺたぺたと触っている。
その姿が、少し滑稽で。
川*д川「…ぷっ」
(;-_-)「なに?」
川*ー川「何でもないです」
(;-_-)「…いじわるだなぁ」
川*ー川「ありがとうございます」
久々の、いたずらっぽい笑顔。
首をかしげるヒッキ―先輩。
悩むのが、何処かばからしくなった。
- 217 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:22:29 ID:NosCMAuk0
-
川д川「先輩は帰らないんですか?」
(-_-)「まだ大丈夫だよ」
先輩は、読書を始めていた。
タイトルを盗み見たが、表紙には字が書かれていなかった。
すこし、残念だ。
大分、日は傾いてしまった。
真っ白な先輩の肌は、今日一日、日の下にいたせいか、赤みを帯びてしまっている。
私の肌は、どうなっているだろう。
やっぱり、赤くなっているんだろうか。
川д川「はふぅ…」
(-_-)「どうしたの?」
何でもないため息も、先輩には拾われてしまう。
やはり、先輩に感じるこの感覚は、恋とも似つかない、奇妙なぬくもりを覚える。
川д川「いえ、疲れを吐き出したんです」
(-_-)「一日中、屋上にいただけなのにかい?」
川д川「あ、そういう事言います?」
(;-_-)「あは、冗談冗談。日に当たってるだけでも疲れるもんね。
ごめん、わかったからそう強く睨まないでおくれよ」
疲れたのは、あなたが一日中隣にいたからです。
ばか。
- 218 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:24:50 ID:NosCMAuk0
-
死という非日常。
高校生にして、そしてその人生の数年間で、身近な2人の死に触れた。
同時に、私の中に溢れ出す後悔と、自責の念と、そのたびにため息をつく自分と向き合った。
僅かな時間で、私は。
私は。
きっと、成長できた。
そう、ドクオ君とヘリカルちゃんの顔を思い浮かべながら、呟く。
(-_-)
隣では、静かに本を読む先輩がいて。
私の下の海面を走る水上バスには、きっと、クールちゃんやフォックス君がいて。
白いさざ波の音に揺られて、私は今日もまた、ふぅ、とため息をついた。
そのままゆっくりと目を閉じて、居心地の良いぬかるみに浸るような、何とも言えない充実感と、未だに心に残る後悔の念を、しっかりと胸に刻み込みながら。
川*ー川「ありがとう」
と、天に向かって呟いた。
8.至らずのぬかるみ 了
- 219 : ◆csB32AjwmU:2013/03/24(日) 21:27:46 ID:NosCMAuk0
- 第八話投下終了です。ありがとうございました
なんというか、('A`)のダイジェストストーリーの用意もできております。
投下は最終話ができた後になると思いますが。
では、次回の投下もまた、このスレにて連絡いたします。
- 220 :名も無きAAのようです:2013/03/24(日) 22:15:18 ID:sVrIkgFAO
- 乙。
- 221 :名も無きAAのようです:2013/03/24(日) 22:48:30 ID:uQY5A.sY0
- 乙
この雰囲気凄くイイ
- 222 :名も無きAAのようです:2013/03/25(月) 07:15:53 ID:w3Tp.zVI0
- 乙
それはつまり完結させると受け取っていいんだな?
- 223 : ◆csB32AjwmU:2013/03/25(月) 21:35:07 ID:XRyEuKFQ0
- >>222
逃亡は考えてない、とだけ言っておきますね
- 224 :名も無きAAのようです:2013/03/26(火) 01:53:20 ID:viyvLJ7U0
- おつ
- 225 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 00:50:47 ID:xBpoB8mA0
- こんな時間ですが、第9話。投下します
- 226 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 00:52:29 ID:xBpoB8mA0
-
川д川「だぁー…」
小さな声で、大きなため息と共に声を吐き出した。
川 ゚ -゚)「お疲れ様」
傍らではクールちゃんが、久々のオレンジジュースをグラスに注いでくれている。
川*д川「ありがとう」
最近、感謝の言葉を口にすることが増えた気がする。
ヒッキ―先輩と会話をした、あの日から。
私の気分に合わせたかのように、心地のいい音で、氷がグラスの中で音を立てた。
- 227 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 00:53:56 ID:xBpoB8mA0
-
爪'ー`)…
川д川サマー・アダルセンスのようです
(((((;;゚;;) ミ□ ヒラ
((((川 ゚ -゚)
(*-_-)
.
- 228 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 00:55:42 ID:xBpoB8mA0
-
9.素晴らしきこの世界
川;д川「久々にまともに授業を受けた気がするよ…」
グラスを空にした私は、クールちゃんにグラスを渡して大きな伸びをした。
頭上には、大きな空が体を広げ、とても清々しい。
優しいオレンジ色が辺り一帯を包んでいる。
川 ゚ -゚)「まぁ、普段はここにいるしな。
なかなか体に堪えるだろう」
川;д川「うん、なかなか辛いものがあるね」
川 ゚ -゚)「授業は受けるのが当たり前なんだがな」
川;д川「うっ」
- 229 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 00:57:00 ID:xBpoB8mA0
-
私の心の中に、以前のような不快感はない。
しかし、ヘリカルちゃんとドクオ君の顔は消えない。
むしろ、以前よりはっきり思い出せる始末だ。
川д川「懐かしいな」
川 ゚ -゚)「ん?何がだ?」
川д川「いや、こっちの話」
二人への感謝の念は強い。
頭の中でだが、二人は私に微笑んでくれている気がする。
ただの思い込みかもしれないが、心が温かくなる。
そのせいか、夕日がいつもより、熱い。
- 230 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 00:58:32 ID:xBpoB8mA0
-
川д川「いいものだね、悩む事がないっていうのは」
川 ゚ -゚)「おや?なにかあったのか?」
川д川「いや、ほら。いろいろあったじゃない」
川 ゚ -゚)「む…?」
口ごもるクールちゃん。
静かな海の、穏やかな潮風が私たちに絡みつく。
それは、私の体の中に吹き込んでくるようなさわやかさを伴って、真夏の夕暮れを彩った。
川д川「ドクオ君のことだよ」
その風に乗せて、私の口はさらさらと動く。
対して、クールちゃんの表情が、明らかに固まっていく。
川;゚ -゚)「あぁ…貞子は…あの人と知り合いだったのか…」
川д川「あれ?知らなかったんだっけ?」
川;゚ -゚)「知るわけがないだろう。いや…すまなかった」
川д川?
きょとん、と首をかしげる。
クールちゃんが見せた、気まずそうな表情の意味を理解できなかったからだ。
- 231 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:00:45 ID:xBpoB8mA0
-
しばらく、無音の時間が流れた。
クールちゃんも私も、身じろぎひとつせず、ただただ空を眺めていた。
突然、がちゃりと音がした。
首だけ動かして、扉の方を見る。
爪'ー`)「よぉ」
久しいフォックス君の声が、屋上に響いた。
川 ゚ -゚)「おぉ、フォックスか」
爪'ー`)「よっす、クール、貞子」
軽く片手をあげて、クールちゃんに挨拶をするフォックス君。
私の方にも軽く手を振り、私たちに向かい合う形で腰を下ろす。
- 232 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:02:42 ID:xBpoB8mA0
-
爪'ー`)「なんだ?なんか二人とも暗いな」
川д川「へ?」
川 ゚ -゚)「や、暗いのは私くらいだろう。気にするな」
爪'ー`)「そうか?じゃあ気にしない」
そう言って、フォックス君は懐からタバコの箱を取り出す。
川 ゚ -゚)「おぉ、タバコか」
爪'ー`)「お、知ってるのか?」
川 ゚ -゚)「伝説程度にしか知らないが、まさか本当に流通しているとは…」
物珍しげにタバコの箱を眺めるクールちゃん。
その眼はキラキラと輝き、まるで新しい玩具を眺める子供のようだ。
川д川
以前、それの煙を吸ったことのある私としては、少し抵抗がある。
しかし、今日だけは、あの煙に身を任せたい気分だ。
私は、何も言わない。
- 233 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:04:59 ID:xBpoB8mA0
-
フォックス君がタバコに火をつけると、煙と独特の香りが辺りに広がる。
川д川「こほっ」
咳を一つ。
フォックス君はさっきから、煙を吸ったり吐いたりしている。
クールちゃんも、特別嫌そうな顔はしていない。
私には、それがわからない。
聞いた話だと、タバコは十数年前に価格規制を受けて、結果売れなくなったという単純な経緯で伝説化している。
規制を受けた理由の一つが、体に悪い、健康のためらしい。
どうして、毒物をこうも好けるのか。
私には、わからない。
- 234 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:07:07 ID:xBpoB8mA0
-
爪'ー`)「はふぅ、なんかすっきりしたな」
川*゚ -゚)「すっきりしたな」
なんなのだろうか、この二人。
私の中で、何かが静かに壊れ始める音を聞いた。
川д川「こほん」
もう一度、咳き込む。
煙のせいで、空が曇って見える。
夕日のオレンジ色が、さらにやわらかい色へと変化する。
それも、煙のせい。
クールちゃん、と呼びかける。
川 ゚ -゚)「どうした?」
川д川「もう一杯だけ、ジュースをくれないかな」
川 ゚ -゚)「かまわんよ」
少しだけ、クールちゃんの表情が曇った。
私がおかわりを求めたのが、初めてだからだろう。
でも、今日だけは。
今日だけは、彼女のジュースを、もう一杯飲みたい。
まるで、見えない何かが私を駆り立てるかのように。
喉が渇く。
- 235 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:09:06 ID:xBpoB8mA0
-
カラカラになった喉に、甘酸っぱい液体を流しこむ。
同時に、満たされる感覚。
相変わらず、このジュースは絶品だ。
川*д川「ぷはぁ」
両手で包んだグラスの中で、からん、と氷が揺れた。
僅かにオレンジ色が残るグラスの中で、私も揺れる。
川 ゚ -゚)「どうだ?」
川*д川「とっても美味しい」
爪*'ー`)「うめぇ」
フォックス君も、クールちゃんからグラスを受け取っていた。
中身はカルピス入りだが。
同じく、氷の揺れる音がする。
何故かはわからないが、自然と、本当に自然と、空に視線を向けていた。
- 236 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:11:56 ID:xBpoB8mA0
-
(-_-)「で?どうしたのさ」
夕日が姿を隠し、星たちが空を覆い尽くす頃。
私は、ヒッキ―先輩と向かい合っていた。
最近は、本当に夜の屋上に入り浸っている気がする。
相変わらず、先輩は本を読んでばかりだが。
川д川「いや、そのまま少し駄弁っておしまいでしたけど…」
(-_-)「なら、別にいいじゃないか。
君が気にすることなんてない」
川д川「気になりますよ。
だって、これまでこんなこと一度もなかったですし」
クールちゃんとフォックス君が、タバコを好んでいることがわからない。
ただ、それだけの悩み。
ヒッキ―先輩は、相変わらず本を読みながら、適当に答えているとも、いないとも取れる調子で声を上げる。
(-_-)「そもそも、趣味とか嗜好とかは、それぞれ個人の自由だろう?
君はどうして、そこまで悩むんだい?」
川д川「…えっと」
言葉が出てこない。
確かに、ヒッキ―先輩のおっしゃる通りではあるのだが。
私は、何処かで何かが引っ掛かった。
- 237 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:13:19 ID:xBpoB8mA0
-
川д川「えっ…と」
(-_-)「言えない、か」
川;д川
ヒッキー先輩が、本から顔を上げた。
何とも言えない表情だ。
正直、むかつく。
しかし、その表情を見て、私は胸が高鳴るのを感じた。
同時に、焦る。
川;д川「な、なんですか」
(-_-)「いや、別に」
そうとだけ言って、また本へと視線を動かした。
それだけなのが、さらに私の心を揺らし、焦らせる。
川;д川「もう!」
わからない。
私は、私がわからない。
まさか、これは。
この気持ちは。
そこまで考えて、やめておこう、と思った。
自覚してしまったら、余計面倒なことになりそうだ。
今は、ヒッキ―先輩の横顔を眺めているだけでいい。
ヒッキ―先輩が、懐からペンを取り出した。
さらさら、と本に何かを書き込んでいる。
川д川「あぁ」
また、ため息を吐いた。
静かに目を閉じると、打ち寄せる波の音が反響した。
- 238 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:15:00 ID:xBpoB8mA0
-
ヘリカルちゃん。
物静かで、私の親友だった人。
行動力があり、快活で、清々しさを辺りにふりまく女の子だった。
*(‘‘)*『貞子ちゃん』
ここはどこだ。
眩しい。
*(‘‘)*『あなたは、もうすぐ私に会うことになります』
ヘリカルちゃんに、もう一度?
*(‘‘)*『えぇ、もう一度、です』
*(‘‘)*『その時まで、ご自分を大切に。
本当に、大切に』
*(‘‘)*『場合によっては、私と会えないかもしれません。
でも、それもあなた次第。しっかりと真実を見据えてください』
ぐわんぐわん。
ヘリカルちゃんの声が響いて、私は耳をふさいだ。
何も音が聞こえなくなって、少しだけ安堵した。
- 239 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:16:20 ID:xBpoB8mA0
-
川;д川「…ふぇっ!?」
(-_-)「おはよう」
どうやら、寝ていたらしい。
久しくヘリカルちゃんの声を聴いた。
夜の闇が、先ほどよりも深くなっている。
月は半分ほど欠けたままだ。
その月も、大分傾いていて。
ヒッキ―先輩はこんな時間までいるのか、と逆に驚かされた。
川д川「ふぅ」
(-_-)
夜の生暖かい風。
川д川「帰りますね」
川*д川「お話を聞いてもらって、ありがとうございました」
どうやって帰ろうか、頭の中で考えを巡らせながら、私は立ち上がった。
ヒッキ―先輩は、何も言わなかった。
9.素晴らしきこの世界 了
- 240 : ◆csB32AjwmU:2013/04/04(木) 01:18:47 ID:xBpoB8mA0
- 第九話、投下終了です。ありがとうございました
投下時期が不安定になりつつありますが、あと少しですのでしばしお付き合い願います。
ではまた
- 241 :名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 01:44:06 ID:6MMKJTQ20
- 乙!
- 242 :名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 05:08:56 ID:cgpyf84MO
- 乙。貞子死ぬなよ
- 243 :名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 14:34:12 ID:PjYXNBTY0
- おつ!
- 244 :名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 17:49:11 ID:.c6zH11g0
- 乙
貞子ェ…
- 245 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 18:05:19 ID:Sp9KG3.w0
- ぐふ、最近忙しくて更新頻度遅れてしまい申し訳ないです
本日22時、10話投下します
- 246 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 20:06:14 ID:Sp9KG3.w0
- (Oh、訂正です)
(本日21時より投下します)
- 247 :名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 20:08:16 ID:MtEAwWfw0
- よっしゃ!
- 248 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:00:37 ID:Sp9KG3.w0
-
爪'ー`)「自分には素直じゃなきゃな」
フォックス君と、まだ涼しい屋上に立つ。
雲一つない空。
今日も暑くなりそうだ。
川д川「何かあったの?」
片手に持った製水機を揺らしつつ、私はキャップを空けて口をつける。
普段は静かに打ち寄せている波も、今日は機嫌が悪いのか、ざっぱんと音が大きい。
まだ日差しの弱い朝日を背景に、フォックス君が振り返り、言った。
爪'ー`)「お前、恋してるだろ」
川;*д川「ぶっ!ごほっ、げほげほっ!」
それは、ヘリカルちゃんの夢を見た、翌朝のことだった。
- 249 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:04:49 ID:Sp9KG3.w0
-
爪'ー`)
川д川サマー・アダルセンスのようです
(((((;;゚;;)
((((川 ゚ -゚)っ□彡 ヒラリ
(*-_-) ♪
.
- 250 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:07:54 ID:Sp9KG3.w0
-
10.気になるあの子
爪;'ー`)「ちょ、図星かよ」
川;*д川「え、いや、してないですって」
爪;'ー`)「じゃあなんで今咽たの…」
うっすら明るくなりつつある屋上で、朝の生ぬるい風が吹き抜けた。
フォックス君は、彼に初めて会った時と同じく、フェンスにもたれ掛かって。
この世を何もかもわかったような目で、私に向かって、何もかもわかったようなことを言ってのけた。
でも、実際はわかっていなかったみたいで。
彼も、やはり人の子というところだろうか。
- 251 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:12:02 ID:Sp9KG3.w0
-
咽てしまったので、自分の中でも「その感情」を意識していた部分があるのだろう。
恋、と世間一般では呼ばれている、例の感情。
多分、ヒッキ―先輩に手を握られた時から曖昧だった、あのもやもやとしたわだかまりは、きっと恋だったのだろう。
なんというか、恋ってもっと清々しいものかと思っていた。
本当に彼に恋をしたのが手を握られた時なら、何処となく漂っていた不安感と、ドクオ君の死に対する罪悪感、そして抱えきれないほどの疑問を胸に抱いたまま、彼に惚れた、という事になる。
怖かった。
恐らく、自分でも分かっていたのだ。
これだけのストレスが多い状況下で、恋をするという危険と、自分の身の程知らずさに怯えていたのだ。
あぁ、だから考えたくなかったのに。
面倒なことになった。
- 252 :名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 21:15:43 ID:KbQv5Lb20
- うおお来てた!
支援!
- 253 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:25:11 ID:Sp9KG3.w0
-
爪;'ー`)「だ、大丈夫か?」
川;*д川「へ?」
爪;'ー`)「お前、顔真っ赤だぞ?」
川;*д川「ふえっ!?」
慌てて顔を手で撫でる。
手が冷たい。
ではなく、顔が熱いのだ。
心はものすごくドライでクールなのに。
ぴちょん。
屋上の真っ白なタイルが、空から落ちてきた水滴で、少し灰色になった。
- 254 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:28:45 ID:Sp9KG3.w0
-
さぁ、と霧雨が降ってくる。
不快にならない程度の水滴と、元気な太陽を覆い隠す雲のおかげで、吹き渡る風はよりいっそう冷たさをはらんで。
私は静かにその風にあたり、一生懸命顔を扇いだ。
フォックス君は、こちらを見てにやにや笑っていた。
あぁ、もう。
.
- 255 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:31:01 ID:Sp9KG3.w0
-
爪'ー`)「そういえば、お前とちゃんと話したことなかったな」
川д川「そうですっけ」
少しだけ冷めた顔をさらに手で扇ぎながら、フォックス君に応答する。
彼はもたれ掛かっていたフェンスを軽く足で蹴って、その反動で立ち上がる。
それにしても、このフェンスは低すぎやしないか。
ちょっとだけ疑問が浮かんだが、もともとこの屋上は立ち入り禁止なわけで。
そりゃあ、フェンスも低くていいか、という結論に落ち着いた。
爪'ー`)「なあ、このフェンス低くね?」
川;д川「え?」
爪'ー`)「だってよぉ、この前ドクオって奴が死んでるのに、
学校はなんも対策しないのか?」
川;д川「いや、だってここ、本当は立ち入り禁止だし…」
爪;'ー`)「えぇ!まじで!?」
川;д川「だってカギ付いてるし…」
爪;'ー`)「俺が来るときカギなんてなかったんだけど!」
川;д川「え?それはおかしいよ」
爪;'ー`)「そもそも、鍵なんて見たことないぜ?」
川;д川「そんなはずは…」
- 256 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:34:28 ID:Sp9KG3.w0
-
急いで、扉の方へ。
勢いよく扉を開けてみるが、その裏側にカギなんてものはない。
あれ?
爪;'ー`)「な?ないだろ?」
川;д川「えぇ…」
おかしいな。
確か、6ケタの錠がついていたはずなのだけれど。
でも、思い返すと、今日も…そもそも最近あの錠に触っていない気がする。
最後に触れたのは…
川д川「フォックス君に会った日…?」
そうだ、彼に会った日、屋上に行くために錠を開けた。
553374。
番号は覚えている。
そもそも、あの日は確か、フォックス君の方が先に来ていたはずなのだ。
なのに、鍵が閉まっていることなんて。
もといた場所に戻り、フェンスにもたれ掛かると、フォックス君が話しかけてきた。
- 257 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:35:59 ID:Sp9KG3.w0
-
爪;'ー`)「ど、どうしたんだよ貞子。青い顔して」
川;д川「…フォックス君、あなたは初めてこの屋上に来た時、
どうやってここに入った?」
爪;'ー`)「えぇ?っと…確か、普通にドア開けて入ったはずだけど」
川;д川「カギは?」
爪;'ー`)「なかったはずだ」
下唇を噛んだ。
髪を触ってみると、降り続ける霧雨のせいか、髪の毛がべとっとした感覚になっている。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
色恋のこともだが、わけのわからないことが多すぎる。
フェンスの高さ、錠のこと。
私がそれらしい理由をつけて正当化してきたことが、どれもかりそめの真実であったと突きつけられた気分だ。
- 258 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:38:16 ID:Sp9KG3.w0
-
さあさあと降り続ける霧雨と、その大元の雲は、どうも意地悪なようだ。
白かった屋上を少し曇った灰色に変えて、相変わらず私の髪の毛を濡らし続けるのだから。
フォックス君の髪の毛も、さらさらとしたあの感覚を失って、少しけだるそうにフォックス君の額に張り付いている。
じとじとした空気になってきた。
夏の、突き抜けるような気持ち良さも、雨の日にはそれも半減する。
まだ、昼にもなっていないというのに。
制服が、少しだけ透けてくる。
爪;'ー`)「ちょ、おま」
川д川「なに?」
爪;'ー`)「穢れを知らぬ男子高校生がここにいるってのに、
その恰好はないだろ」
川д川「あぁ、私のことそんな目で見てたの?」
爪;'ー`)「その切り返し方は卑怯だろ…」
そんなことを言いながら、頭の中では思考が入り乱れていた。
カギだ。
どうして、あの錠がフォックス君の時はなく、私が入る時にはあったのか。
簡単だ。
誰かが、フォックス君が屋上に入って、私が屋上に来る前に錠をはめた。
錠が今ないのは、誰かが持ち去ったから。
持ち去った誰かと、錠をかけた誰かが同じなのかはわからないが、とにかくそういうことだ。
- 259 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:40:39 ID:Sp9KG3.w0
-
目の前には、金髪の頭を手でぐしゃぐしゃと掻きながら顔を伏せる、自称ヤンキー。
彼のことは少しだけわかる。
少なくとも、この前のクールちゃんよりは。
川д川「ねぇ、フォックス君」
爪'ー`)「ん?なんだ?」
私の問いかけに顔をあげる彼。
一つ息を吐いて、言う。
川д川「私とドクオ君、知り合いだったんだ」
爪;'ー`)「は?ドク…あぁ!あの死んじゃった人か!」
彼は少し驚いた表情を見せながらも、クールちゃんのようにわけのわからない応答をすることもない。
私は続ける。
- 260 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:43:12 ID:Sp9KG3.w0
-
川д川「でね、ドクオ君が死んだことを聞いて、凄く怖かった」
川д川「彼が亡くなったその日、彼に会っていたの」
爪;'ー`)「ほうほう…それで?」
川д川「彼が死んだのは、私のせいじゃないかって、ずっと自分を責めて…」
川д川「そんな時、あの遺書らしいものを見つけたの」
爪;'ー`)「あぁ、あの時のあれか」
川д川「あれだよ。それで、夜の屋上に行ったわけなんだけど」
爪;'ー`)「何もなかった、と」
川д川「うん。本当に何も。
彼が本当に死んだのか、そもそもこの世に存在してたのかすらわからないくらい」
そこまで話して、私は口を閉じた。
これ以上話すことは見つからなかったし、話そうとも思わなかった。
彼は静かに唸ると、私の目を見て言った。
- 261 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:45:52 ID:Sp9KG3.w0
-
爪;'ー`)「あのさ、クールには話したんだけど」
彼はポケットに手を差し入れた。
よく見ると、少しだけ膨らんでいる。
彼の手がポケットから抜けると、小さなガラス瓶がその手に握られていた。
気のせいかもしれないが、何処か見覚えのあるその瓶の中から、彼は小さな紙切れを抜き出した。
くしゃくしゃになった、小さな紙切れ。
爪;'ー`)「お前にも話そうと思ってたんだ」
爪;'ー`)「こいつが、お前の知ってるドクオって奴の遺書かも知れない」
川д川「え…?」
そっと、彼は神を私に差し出した。
かさ、と乾いた音を立てて紙を開く。
霧雨は容赦なく降り注いでいるが、気にせずに。
- 262 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:49:36 ID:Sp9KG3.w0
-
拝啓、これを見てくれた誰かへ。
まず第一に、これを拾ってくれた誰かへ。
この手紙を見つけたことは、誰にも言わないでほしい。
俺を知っている誰かだった場合、この瓶を拾ったやつはここで読むのをやめて、瓶を海に捨ててくれ。
恥ずかしい。
特にこのことに意味はないが、何となく嫌なんだ。
では、本題に。
俺は、じきに死にそうです。
気が付くとぼーっと海を見ていることが多くなりました。
これが落ちている場所で、俺は死んだということになります。
いつ死んでも問題ないように、一応肌身離さずこの瓶は身に付けていましたから。
ただ、気を付けて頂きたい点があります。
俺が死ぬのは、自殺なんかじゃあありません。
他殺です。
絶対に自殺なんかはしません。第一、そんな勇気がありません。
犯人に大体の見当はついていますが、はっきり断定はできないのでここでは言及致しません。
- 263 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:52:56 ID:Sp9KG3.w0
-
僕には、夢がありました。
正直、こんな時代にバカみたいな夢ですが、とある夢を抱いていたのです。
しかし、とある人物に出会ったことで、俺の人生はねじ曲がりました。
もともと私は彼のことを尊敬していたのですが、それでもその念を上回る気持ち悪さと嫌悪感を俺に与えてきました。
俺はずっと逃げだしたかったのです。
奴の与えてくる精神的ストレスは、じわじわと俺を蝕んで、次第に俺は塞いでいきました。
結果、今このように乱雑な字で文章を書いている俺がいるのです。
死ぬ予感、というのでしょうか。
それだけに突き動かされて、今筆を執っています。
一言だけ。
夜の屋上には、絶対に近寄るな。
字が震えているのをお許しください。
鬱多
- 264 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:55:17 ID:Sp9KG3.w0
-
川д川「え?」
紙を持つ手が震える。
鬱多、ドクオ君の姓だ。
本当に小さな瓶に、小さな紙片が入っていて、そこにびっしりと書かれた綺麗な字。
遺書?なのだろうか。
それにしては、伝えている内容が薄い気がする。
結局、言いたいことが「夜の屋上には近づくな」だ。
しかし、仮に彼の書いたものだとすれば、引っ掛かる点がある。
自殺はしない。
と、彼は言いきっている。
しかし、彼は現に死んでしまっているではないか。
となると、書かれている通り他殺か。
バカじゃないのか。
そんな証拠、あるわけもないのに。
川;д;川
- 265 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 21:58:43 ID:Sp9KG3.w0
-
爪;'ー`)「おま、大丈夫か?」
川;д;川「なんだか、とても悲しくなって…」
爪;'ー`)「…まぁ、知り合いの遺書だしな」
違う、そうじゃない。
何となくわかってしまったのだ。
彼の死は、私の心に深く関わっていると。
これが「予感」だろうか。
霧雨はドクオ君の遺書に積もり、紙をしなしなと頼りない感触に変えてしまっている。
考えるのであれば、不安材料は少ない方がいい。
不安材料の一つ、恋。
ヒッキ―先輩に恋をしてしまっているのは間違いない。
すでに実感として湧き上がってくるものがある。
告白、か。
- 266 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 22:01:58 ID:Sp9KG3.w0
-
川ぅд川「あぁ」
本当に、本当に面倒だ。
人生、心。
なんて面倒なのだろう。
不意に、夏の香り。
雨のせいか、夏独特の、ふわっとしたあの香りが私を包んで。
なるほど、勇気ってこれなのか、と湧き上がるものを感じる。
きっとこの時、私は夏に犯されてしまった。
爪'ー`)「大丈夫か?」
隣で心配そうに笑ってくれるのは、フォックス君の優しさだと解釈して。
川*д川「大丈夫だよ、ありがとね」
爪*'ー`)「っは、いい顔で笑えるじゃねぇか。
気にするほどもなかったかな」
未だ降り続ける霧雨は、厚い雲に覆われた空が、暫く止まないことを示している。
厄介事は先に片付けてしまおう。
ヘリカルちゃんの声が聞こえた気がした。
夜までに晴れたら、屋上に行って、ヒッキ―先輩に…
- 267 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 22:08:39 ID:Sp9KG3.w0
-
告白してみようか。
10.気になるあの子 了
- 268 : ◆csB32AjwmU:2013/04/19(金) 22:09:49 ID:Sp9KG3.w0
-
第10話、投下終了です。ありがとうございました。
ふぅ、なかなか時間が取れず、前回の投下から結構時間が空いてしまいましたが、いかがでしたでしょうか
次回、最終回。
果たして、どう話が転がるのか、お楽しみに
同時上映、番外編。
亡くなった「彼」のお話です。
此方も楽しみにしていただければと思います。
では、また次回。
投稿日時はこちらでお知らせします。
- 269 :名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 22:13:53 ID:PmQ0jKp20
- 乙です
期待!
- 270 :名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 23:46:56 ID:nyPME3sg0
- 最終回だと…!
楽しみだ、おつ!
- 271 :名も無きAAのようです:2013/04/20(土) 13:38:02 ID:jivoafRI0
- 乙
もう最終回か
待ってるぞ
- 272 :名も無きAAのようです:2013/05/24(金) 17:36:49 ID:f8UUIlFk0
- 夏ですね
- 273 :名も無きAAのようです:2013/05/25(土) 01:27:57 ID:PrMhm4yI0
- 追いついたと思ったら最終回か……
心から楽しみにしてるからな!
- 274 :こんにちは:2013/05/25(土) 01:40:50 ID:4jy90Jk20
- こんにちは
予約します
当日商品を出しました
4-7日到着します。
よろしくお願いします
http://www.bags-new.com
http://www.bag052.com
- 275 : ◆csB32AjwmU:2013/05/26(日) 13:01:44 ID:wA6C3qyY0
- どうもお久しぶりです
貞子ちゃんの誕生日には間に合わせたかったんですが…
一応本編最終回は8割出来てます
おまけの推敲を始めて、一から書き直しという大惨事が発生してしまいました
必ず投下しますのでしばしお待ちください
- 276 :名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 14:36:52 ID:H9.MTziA0
- 待ってるぞ!
- 277 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 21:02:34 ID:9BcQMSHY0
- 最終話、22時より投下します
- 278 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 21:03:52 ID:9BcQMSHY0
- すみません
- 279 :名も無きAAのようです:2013/06/09(日) 21:20:29 ID:K1t/f48k0
- きたか
- 280 :名も無きAAのようです:2013/06/09(日) 21:20:57 ID:J5A/Fug.0
- いよいよ最終話か
楽しみだけど切ないぜ
- 281 :名も無きAAのようです:2013/06/09(日) 21:40:58 ID:ZUhWV12o0
- きたー!
- 282 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 21:54:53 ID:9BcQMSHY0
- 少し急用が入ったので23時ごろから投下に変更します
申し訳ありません
- 283 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 22:59:54 ID:9BcQMSHY0
-
フォックス君と別れたすぐ後に、まるで私たちが屋内へ戻るのを待っていたかのように霧雨が勢いが増した。
教室からその雨を見ながら、神様を心の隅っこで呪った。
勇気、ととある人は言う。
決心、ととある人は言う。
でも、決心や勇気というものは、もともと持っているから出せたり、発揮できるものなのだ。
もともとそのどちらも持っていない人はどうすればいいのか。
なにかきっかけ、もしくは似たものを発見するしかないと思う。
私にとっての勇気。
それは、きっとヘリカルちゃんやドクオ君と繋がっていたという自分でもよくわからない感情。
眼下で雨による波紋を広げながら波打つ海は、透き通った青ではなくて、ぼんやりとした群青色をたたえていた。
どうしよう。
- 284 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:01:43 ID:9BcQMSHY0
-
爪 ')
川д川サマー・アダルセンスのようです
そ
(;;゚;;))))) ((((川;゚ -゚)っ□
(-_-*)
.
- 285 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:04:01 ID:9BcQMSHY0
-
11.でス
窓が小さな水滴で覆われて、外の景色が歪む。
同時に、私の心も。
小さく、とても小さくなった私の勇気の火は、降りしきる雨のせいで消えかかっている。
雲はとても厚いようで、太陽の光は一切届かない。
海が群青色なのはそのせいだ、と心の中でつぶやく。
水の中に沈められたような感覚で、先生の授業を聞き流すが、いまいちその効力は薄い。
騒がしい雨の音と、先生の声とが重なって、もともとざわめいていた心はさらに逆撫でされる。
川д川「……うるさいなぁ…」ボソッ
ぐずついた天気と同じような言葉が口から洩れた。
- 286 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:05:23 ID:9BcQMSHY0
-
雨。
夏空。
屋上。
恋。
幸せ。
なんだ。
なんなんだ。
こんなんじゃなかったはずだ。
私は屋上で静かな日々を望んでいたはずだ。
ヘリカルちゃんの死を忘れ、自分の弱さを忘れ、人とのかかわりを忘れて。
本当に静かな、快楽を求めていたはずだ。
川д川「憂鬱だぁ…」
相変わらず騒がしい先生の声。
何がルソーだ。今こっちはそれどころじゃないんだ。
- 287 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:06:47 ID:9BcQMSHY0
-
退屈しのぎにもならない授業をそのまま聞き流して、昼休みになった。
ずっと静かだったこの教室も、先生の監視下でなくなると同時に騒がしくなるのは、いつになっても変わらない。
川 ゚ -゚)「昼、一緒に食べようか」
クールちゃんが私に近寄ってきたのは至極自然な動作で、彼女が近づいてきたことに気付かないくらい、静かだった。
川д川「そうしましょうか」
冷たい雨が、窓を叩く。
そういえば、彼女とお昼の時間を共有することは初めてではないのに、昼食をとるのは初めてだと気付いた。
特に意味はないが、なんだか少し暖かくなる。
天井からは、空調が吐き出す冷たい空気と静かな騒音がもたらされている。
あぁ、なんだろう。
体が芯から冷えて、指先は冷たいはずなのに、指が熱いと感じるこの感覚。
たまに起こることだが、なんというか。
- 288 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:08:13 ID:9BcQMSHY0
-
ぱかりと開かれたクールちゃんのお弁当箱の中にタコさんウインナーを見つけて、私は小さな歓声を上げた。
川*д川「タコさん!」
川 ゚ -゚)「お、タコさん好きなのか?」
川*д川「うん!」
川 ゚ -゚)「高校生がなんと…可愛い趣味を持ったものだな」
川;*д川「べ、別にいいじゃない」
川 ゚ー゚)「いや、構わないのだがな」
少し意地悪そうな笑顔を浮かべたクールちゃんは、私のお弁当箱に躊躇なくタコさんウインナーを入れてくれる。
嬉しくて、ついため息を漏らした。
クールちゃんはふっ、と息を吐き出して、私の弁当箱から卵焼きを奪う。
私はそれを目で追いながら、クールちゃんの口の中に納まるまでの過程を見ていた。
川 ゚〜゚)「タコさんの対価、だ」モグモグ
昼食時のざわざわとした喧騒にまぎれて、クールちゃんはそう言った。
- 289 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:09:36 ID:9BcQMSHY0
-
しとしとというよりは、ざーざーという擬音が似合う空模様は変わる様子がなく、窓に叩きつける雨粒は次第に大きくなっている気がする。
季節的には、梅雨には早すぎる時期なので、梅雨入りしたというわけではないようだが、どうも頂けない。
夏は快晴。
これに限る。
このご時世に雨が降るというのは、本来喜ぶべきことなのだろうが、海水が真水に変えられるようになってからは特に必要もなくなった。
本当に、狐ヶ崎家さまさまだ。
教室は依然騒がしい。
川д川
フォックス君のように寡黙で、それでいて時々マシンガンのように喋って、ちょっと臆病で、ヤンキーな人なんて、このクラスにいるだろうか。
クールちゃんも彼の魅力には勝てないし、フォックス君もクールちゃんの魅力には勝てない。
きっとこれが個性なんだ、と思う。
個性が絡み合うからこその楽しさが人生にはあって、それを失う悲しみがあって、それでも生きていかなければならない宿命を背負っているのが、人間なのだと。
弁当箱を閉じて、クールちゃんの方を向いて座りなおす。
幸い昼休みの時間はまだ余っているようだった。
クールちゃんと駄弁る程度のことをする時間はありそうだ。
爪'ー`)「おっす貞子。これじゃもう屋上にはいないと思ったが、やっぱり教室かよ」
タイミングよく現れた2人目の友人が、私の夏を加速させる。
- 290 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:13:05 ID:9BcQMSHY0
-
爪'ー`)「そういえば、三人そろって屋内で話するのは初めてかもな」
まるで自分のクラスかのような足取りで教室の開いている椅子に腰を下ろすフォックス君。
川 ゚,-゚)「馬鹿を言え、証拠集めの日に集まっただろうが」
爪;'ー`)「あれカウントしちゃうの?」
川;д川「クールちゃん、ご飯粒ついてるよ」
川;゚ぅ゚)「あ、ありがとう貞子」
会話をあんな状態で続けられたんじゃこちらが恥ずかしいよ、と思いつつティッシュを差し出す。
クールちゃんはまた、ありがとう、と言って口元をぬぐった。
そのまま、拭ったティッシュを自分の机に置く。
爪'ー`)「ま、三人って思ったよりいいバランスなんだよなー。
三角関係とか、バミューダトライアングルとか」
川д川「そんな言葉に縁のある3組、やめてやります」
爪;'ー`)「やんの!?」
川д川「無理ですけど」
爪;'ー`)「あ、あぁ…そう」
ちょっとだけフォックス君の扱いもわかってきた。
日常に溺れた感覚というか、なんというか。
- 291 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:17:01 ID:9BcQMSHY0
-
黒々とした雨雲から放たれる雨粒が、少しだけ小さくなった。
同時に、雲の隙間からわずかに日差しが差し込む。
川 ゚ -゚)「じきに雨も止むかな」
そんなことをクールちゃんが言う。
川д川「今からもっと強くなったりしたりして」
川 ゚ -゚)「そうなったらお手上げだ。今日は傘を持ってきていない」
川д川「水上バスの駅まででしょ?あれくらい走れば…」
爪'ー`)「あれ結構濡れるぞ?」
川д川「え?そう?」
川;゚ -゚)「今日は濡れると困るな…」
カバンの中身に手を突っ込みながら彼女は言った。
取り出したのは、いつも通りオレンジジュース。
氷はないが、構わずクールちゃんはグラスにそのジュースを注いでいく。
川*д川
爪*'ー`)
小さなグラスに溜まったオレンジ色の暖かさは、外の天気に反して、私たちに小さな温もりを与えてくれる。
じんわりと胸の中心から広まったそれは、静かに私の内側を満たして、指先まで暖かくしてくれた。
- 292 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:20:21 ID:9BcQMSHY0
-
川 ゚ -゚)「よっ、と」
グラスの淵ギリギリでジュースを注ぐのをやめた彼女は、机の上を滑らせて私たちにジュースを配る。
爪*'ー`)「サンキュー」
コップの淵に口を突け、一口だけ啜るフォックス君を見て、私もまねる。
川*д川 !
甘かった。
これまで飲んだどのジュースよりも、どんな食べ物よりも、その身に沁みるように甘かった。
川 ゚ -゚)「知ってるか?飲み物も食べ物も、体温に近い方が甘く感じるんだ」
ジュースを口に含んで、クールちゃんの方を見た。
ストンと落ちた彼女の黒髪は、一切揺れることなく垂れ下がっている。
彼女が首を動かすと、それに合わせて髪も揺れた。
私の髪も、一緒に揺れていた。
次の瞬間、少しだけうるんだ彼女の目を見て、悟った。
私は彼女の事が大好きなのだと。
フォックス君の方を振り返ると、キラキラした金髪が私の目を隠す。
柑橘系の爽やかな芳香が香る。
きっと私は、彼のことも大好きなのだ。
クーラーが効きすぎかな、と思いながら、私はグラスの中身に目を落とした。
オレンジ色を少しだけ残したガラス製のそれは、やっぱりキラキラと輝いていて、太陽の光が漏れ出した空と、雨粒に濡れた窓ガラスに良く似ていた。
- 293 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:24:37 ID:9BcQMSHY0
-
私はアサピー先生の授業を聞くつもりもなく、にわか雨の上がった外の風景に目を移して時間が経つのを待っていた。
時計の針と規則的に打ち寄せては消える波を見比べているうちに、思った以上に早く時間が過ぎたらしく、はっとした時にはクールちゃんが私の横で構えていた。
川 ゚ー゚)「晴れて何よりだ」
川д川「そー…だねー…」
大きな伸びをしながら立ち上がり、クールちゃんの真正面に立つ。
欠伸とともに、口から情けなく響いたふわぁという声に、クールちゃんがくすっと笑う。
目から零れそうになる涙を拭って、私も笑う。
川 ゚ -゚)「屋上に行ってみようか」
暫く笑った後、クールちゃんが私に改まってそう言った。
川д川「どうしてまた?」
私は、彼女の態度がまた引っかかった。
川 ゚ー゚)「なんとなく、雨上りの屋上っていうのはロマンチックじゃないか?」
川д川「…そうかな」
- 294 :名も無きAAのようです:2013/06/09(日) 23:24:45 ID:WKtHndiU0
- 支援
- 295 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:27:09 ID:9BcQMSHY0
-
ロマンチストなクールちゃんとは違い、私は特に何も感じなかった。
今日みたいな日はヒッキ―先輩はどこで本を読んでいるのだろう、という考えが頭の中を過る。
川 ゚ー゚)「とにかく付き合ってくれ。夕方まででいいから」
川д川「…しょうがないなあ」
そう言いながらも、私は立ち上がる。
出来れば、ゆっくりと屋上で夜のことを考えたかった。
少しでも彼女に私の言いたいことが伝わったのだろうか、彼女は自分の席へ戻ってカバンを取ってきた。
川 ゚ -゚)「まだ余ってるから、な?」
川*ヮ川「そうこなくちゃ!」
放課後の教室は、やけに静かだった。
昼休みの時の喧騒は果たして、どこへ行ったのだろう。
こんな静かで魅力的な「教室」って空間でなら、楽しく過ごしてもいいかもしれない。
そんな考えが、空に浮かぶ灰色の雲のように頭の中を漂った。
- 296 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:29:17 ID:9BcQMSHY0
-
きぃ。
蝶番が軋む音がする。
川 ゚ -゚)「私がこの扉を開けたのも、貞子に会うためだったな」
川д川「そうだったっけ?」
屋上は雨水をたっぷりと湛え、鏡のようにてらてらと輝いていた。
普段の白い屋上もだが、雨水で飾られたその風景もまた美しいものだった。
太陽を反射させて、やけに眩しい気もするが。
そんな屋上の空気が、しっとりとした涼しさに包まれ、これまでなかった快感が私を襲う。
川*д川「なんか、気持ちいいね」
川*゚ -゚)「そうだな。まるで『秋』みたいだ」
川д川「あき…?」
川 ゚ -゚)「貞子も話を聞いたことくらいあるだろう。
本来夏の後にくる季節のことだ。
まぁ当然、今はもう失われてるわけなんだが」
川д川「…秋って、こんな感じで過ごしやすかったんですかね」
川 ゚ -゚)「どうだろうな。私も本で読んだことがあるくらいだから、
実際どうだったのかまではわからん」
- 297 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:32:32 ID:9BcQMSHY0
-
その後、いつもはもたれているフェンスに腰掛けて、私とクールちゃんはいつも通りの話を始めた。
曰く、日常って奴だ。
川 ゚ -゚)「そういえば、季節の話で思い出した」
川д川「何?」
川 ゚ -゚)「『青春』についてなんだがな。
青春ってのは、本来人生の春に当てられる時期らしい。
私たちの日常が青春だと表せるなら、それはきっと私たちの春だ」
川 ゚ -゚)「でも、この青春っていうのは、後に朱夏、白秋、玄冬と続くらしい」
川 ゚ -゚)「つまり朱夏は壮年期を示すそうだ」
川д川「…私個人としては、夏は青春の季節!ってイメージなんだけれど」
川 ゚ー゚)「全くだ。私も同じ意見だよ。
今は夏。私たちは青春を過ごして…」
川;д川「なんだかややこしくなってきたよ」
川 ゚ー゚)「ふっ、そうだな」
クールちゃんが突然鼻で笑ったのがどこか滑稽で、私は小さく咽た。
同時に、何か懐かしく感じた。
- 298 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:35:15 ID:9BcQMSHY0
-
暫く似たような話からくだらない友人の失敗談、私と彼女の薄っぺらい友人関係の話、噂と続いてから、恋の話になった。
無理やり私が話題を振った感も否めないが、そこは「あぁ、いいな」と言ってくれたクールちゃんの好意に甘える。
川д川「そういえば、相談があるんだけど」
川 ゚ -゚)「珍しいな。なんだ?」
最も気になっている、ヒッキ―先輩への告白のこと。
クールちゃんが興味深げに首をかしげ、私の顔を覗きこんでくる。
川д川「あのね…」
.
- 299 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:38:01 ID:9BcQMSHY0
-
水上バスが水面を駆け抜けた音がする。
沢山の星と雲が空を覆い、私はその下で先輩を待っていた。
濡れたまま乾く気配がない屋上は湿っぽく、とても涼しい。
そんなステージで、私は一人、待つ。
凄く不安で、怖くて、それでいて愛おしい、暖かい感情を抱えて。
川;д川「はぁ…」
クールちゃんと別れてすでに1時間ほどが経ち、そろそろ一人の屋上が寂しくなってきた。
フェンス際に棒立ちしていると、私の体の周りを心地よい風が一周して駆け抜ける。
程よく湿ったそれに髪の毛が煽られて、視界が塞がった。
程なくして風も止み、髪がゆっくりと視界から揺れ動く。
(-_-)
ヒッキ―先輩が、いた。
- 300 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:39:14 ID:9BcQMSHY0
-
川;д川 !?
音なくこの屋上にやってきたと思われる先輩は、軽やかな足取りで私に歩み寄ってくる。
何処で濡れたのか、少しくしゃっとした黒髪から水滴が滴り落ちていた。
これまでに見たことがないほど、彼の立っている姿には気品があり、それでいていつもと変わらず小脇に本を抱えているあたり、彼らしい。
(-_-)「どうしたの?」
ヒッキ―先輩は私の目の前に立って、言った。
心の準備なんて微塵も出来ていないうちに彼が現れたことで、私は相当動揺し、それがはっきりと分かるくらい表情に出ているようだった。
川;*д川「べ、別に、なにも」
(-_-)「そう」
凛とした先輩の表情は、濡れた髪と相まって、とても色っぽかった。
引き締まったその表情からして、彼も何かを決心しているように見えた。
- 301 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:41:44 ID:9BcQMSHY0
-
川;*д川「先輩は今日も本を読みに?」
(-_-)「…うん」
そう言った先輩の言葉には力がない。
なぜだろう、そう思う間もなく先輩はこちらへとゆっくりと近づいてきた。
考える間もなかった、と言ってもいいかもしれない。
それでも、私の思いを伝える、という意志に変化はなかった。
ぽたり。
昼間の雨雲が残して行った千切れ雲だろうか。
雫が、またも屋上を少しずつ灰色に染め上げていく。
しかし、その雨も通り雨程度のもので、力がない。
すでに私の目の前にやってきた先輩は、細いペンと本を胸の前に取り出し、止まった。
少しの間、見つめあう。
奇妙な静けさが屋上に響いた。
私の頭の中は、静かな騒音ですでにぐちゃぐちゃだった。
なんというか、何も思いつかない。
一歩を踏み出してしまえばいいだけなのに。
目の前にいる。
いるのだ。
だからこそ。
一歩を踏み出すと、触れてしまう―
- 302 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:43:01 ID:9BcQMSHY0
-
「先輩」
.
- 303 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:43:53 ID:9BcQMSHY0
-
「なんだい?」
.
- 304 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:45:48 ID:9BcQMSHY0
-
川д川「先輩のことが」
(-_-)
先輩の表情が変わる。
少しだけ、笑う。
川д川「すき、です」
(-_-)
先輩は柔らかな笑みを湛える。
校舎を伝って吹き上げてきた風が、私の髪を持ち上げた。
先輩の髪もふわりと揺れて、小さな水滴が私たちの周りに舞う。
空から落ちてきた水滴も一緒になって、雲間から出てきた月の光に照らされ、キラキラと輝いた。
返事は聞こえない。
(-_-)「…君もか」
川;д川「え?」
つまらなそうな声とともに、先輩の表情が崩れる。
- 305 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:47:07 ID:9BcQMSHY0
-
突然、衝撃と共にとん、と音がした。
静かだった屋上に鳴ったその音は、酷く大きく聞こえて、私の体を傾かせるには十分な音だった。
途端に重力を感じて、膝がフェンスに引っかかる。
バランスを取ろうとした私は、そのせいでさらに姿勢を崩した。
がくんと傾いた世界を見て、私は思考を乱した。
首を傾けて先輩の方を見ると、泣きそうな顔で笑っていた。
声を上げて。
強く閉じた本の音がした。
パタン、と。
次の瞬間、風が私を包んだ。
雲の残る星空を見上げながら、ごおと鳴る風に体を預けて。
静かだった世界に、私の声が響き渡る。
思いもよらない展開で、あっけなく散る私の事を思う。
なぜだ、と思った。
脳裏を過ったのは、これまでの私の記憶と、愛する人の満足そうな笑み。
そうして、私は思い知った。
- 306 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:48:40 ID:9BcQMSHY0
-
私は、この愚かしい夏の囁きに耳を傾け
体を、人を捧げてしまったのだと。
踏み出した一歩が大きすぎたのかも知れないと。
.
- 307 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:50:45 ID:9BcQMSHY0
-
ばしゃん。
水の弾ける音がした。
(-_-)「…ふぅ」
これで三作目だ。
やっと完成した。
(-_-)「今度は長かったな…ヤマもないし」
少しだけ湿った屋上に体を投げ出して、星を見た。
輪郭を歪めると、自然と口が開いた。
相変わらず、空はいつもと変わらなかった。
次は、あの金髪の柄の悪そうな男にしよう。
楽しい脚本を体験出来そうだ。
夏という季節の下で蠢いていた者たちの話。
一つ笑い声をあげると、心地のよい満足感が腹の中を満たした。
きっと、この学校で、僕が止まることは、ない。
止めるものも、ない。
ゆっくりと本を開いて、完の一文字を書き込んだ。
一枚だけ破り去ったページの跡をなぞった。
11.でス 了
- 308 : ◆csB32AjwmU:2013/06/09(日) 23:55:25 ID:9BcQMSHY0
- サマー・アダルセンスのようですの投下は、以上ですべてになります。
これまで読んでいただいた方、支援してくださった方、本当にありがとうございました
あとは番外が残っておりますが、それはまた後日になります
- 309 :名も無きAAのようです:2013/06/10(月) 00:03:23 ID:psLEh3wY0
- 乙ぇ....
- 310 :名も無きAAのようです:2013/06/10(月) 00:18:13 ID:rv6qW5xs0
- うへー乙…
- 311 :名も無きAAのようです:2013/06/10(月) 10:54:41 ID:sUo1jIBQ0
- 残った謎は番外編で、ってことかな
予想はついてたけど実際に読むとやっぱりヘコむわ、乙
- 312 :名も無きAAのようです:2013/06/10(月) 19:06:47 ID:pXGXrMCQO
- ぐぬぬぬ乙でした
こいつぁ番外編が気になるところだぜ…
- 313 :名も無きAAのようです:2013/06/10(月) 19:06:50 ID:pXGXrMCQO
- ぐぬぬぬ乙でした
こいつぁ番外編が気になるところだぜ…
- 314 :名も無きAAのようです:2013/06/11(火) 03:13:45 ID:EdM3/ipsO
- 重複すみません
- 315 :名も無きAAのようです:2013/06/11(火) 10:37:51 ID:PRAo2c060
- 番外編気になるなあ…乙
- 316 :名も無きAAのようです:2013/06/11(火) 10:48:37 ID:P64fP5To0
- 水に落ちたくらいでしぬのかと疑問に思ってしまうのだが、そこは物語だししょうがないのか、、、
- 317 :名も無きAAのようです:2013/06/11(火) 17:23:50 ID:AGpTcaw20
- >>316 高いからじゃないの?(適当)
- 318 :名も無きAAのようです:2013/06/11(火) 18:06:36 ID:eFvXbLSYO
- 屋上からだからなぁ。四階以上の高さから水に落ちると、落ち方によってはコンクリートに当たった位の衝撃になるはず
- 319 :名も無きAAのようです:2013/06/11(火) 19:49:37 ID:CW1REgCo0
- 貞子はカナヅチだからね
- 320 :名も無きAAのようです:2013/06/11(火) 20:32:24 ID:iCQbmhpAO
- お腹から行ったんだろ
べちーんと
- 321 :名も無きAAのようです:2013/06/14(金) 17:25:04 ID:ueEzIY3Q0
- ☆ チン マチクタビレタ〜
マチクタビレタ〜
☆ チン 〃 ∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ ___\(\・∀・) < 番外編まだぁー?
\_/⊂ ⊂_ ) \__________
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |
| 愛媛みかん |/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
- 322 : ◆csB32AjwmU:2013/08/28(水) 22:04:33 ID:zollSV0k0
- ブルスコファー…
気が付いたらいつの間にか夏も終わりです
番外編ですがそろそろ投下できそうです
8月中には間に合わせたいと思いますのでご容赦ください
- 323 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 22:50:20 ID:HGTs5kTAO
- おお!待ってました!
楽しみ
- 324 :名も無きAAのようです:2013/08/29(木) 01:02:00 ID:G8OJwlo60
- 待ってた!
楽しみにしてる
- 325 :名も無きAAのようです:2013/08/29(木) 01:16:34 ID:r4RcvASw0
- しょうがないから投下するまでは待っててやるよ
- 326 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 00:29:36 ID:Mfwm7xKo0
- 八月に間に合わなかった気がしたがそんなことはなかったぜ!
さて、('A`)の番外編投下いたします
推敲しながらになるのでやや遅めかもしれません
- 327 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 00:31:29 ID:Mfwm7xKo0
-
('A`)
空を、眺める。
青い、限りなく蒼い、空だ。
首をわずかにずらして下を見てみると、限りなく広がる海がある。
俺はただ、フェンスによりかかって、空を見ているだけで平和な気分になれた。
そう、あいつに出会うまでは。
- 328 :名も無きAAのようです:2013/09/01(日) 00:33:01 ID:sUBloaU.0
- キター
支援!
- 329 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 00:33:28 ID:Mfwm7xKo0
-
('A`)
川д川サマー・アダルセンスのようです
.
- 330 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 00:37:06 ID:Mfwm7xKo0
-
番外.すでにもう許されないこと
あの日も、俺はただ窓枠に肘をのせて、欠伸をしながら外を見ていただけだった。
先公が怒鳴ろうと知ったことじゃない。
俺は、空に憧れていた。
かの、ライト兄弟のように。
人類が海に後退させられて、随分と月日が経つ。
なら、空だ。
人類の活路は、空に残されているはずだ。
海なんてまっぴらだ、俺は絶対に、空に生きてやる―
俺はそんな安直な、でも間違いと否定も出来ない希望を抱えて、毎日を生きていた。
- 331 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 00:42:31 ID:Mfwm7xKo0
-
俺は、しょっちゅう人にぶつかる。
広い廊下を歩いていようが、水上バスの細い通路を通っていようだろうがお構いなしに、だ。
特に高校に入学してから。
その日もいつものように、ぶつかった。
「あてて…」バササッ
その声が聞こえた時、俺は慣れたものだから、
(;'A`)「あ、すみません」
そう言って軽く会釈して、相手が落とした数冊の本を素早くかき集めて、相手に渡した。
このご時世には珍しい、というか扱い辛い革表紙の本が一冊と、新書がいくつか。
(;-_-)「あぁ、わざわざすみません」
律儀に頭を下げるその人の顔に見覚えはなかった。
どうやら学年が違うようだ。
(;'A`)「いえ、こちらからぶつかりにいったようなものですから」
ここでも俺は用意されたセリフを口にして、会話を早く終わらせようとする。
そんなものだ。
トラブルの時の会話は、短いに限る。
(;-_-)「有り難うございました」
お礼を一言言い残して、申し訳なさそうに顔を歪めて通り過ぎて行った彼。
これもいつも通り。
少しだけ、歪んだ表情から覗いた眼光が、冷たかった気もしたが。
この時はまだ、彼に出会ったことを日常の一部程度にしか考えていなかった。
- 332 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 00:48:11 ID:Mfwm7xKo0
-
彼とぶつかったその日、俺はどうしてか、背中に寒気が走ってどうしようもなくなった。
風邪ではない。
直感的に分かった。
しかもその寒気が、いつになっても止む気配を見せない。
放課後になったのは素晴らしいが、どうもこの寒気を持って家に帰るのは性分に合わなかった。
仕方なしに、だれもいなくなった教室の自分の席に座っていたのだが、寒気を吹き飛ばすような暖かい風を全身に受けたい、そんな気持ちになった。
そのためには、教室の窓を解放するだけでは物足りない。
屋上に行こうか。
少しだけ、躊躇われた。
この学校の屋上では、少し前に事件があったためだ。
しかし、その躊躇を感じている間にも、嫌な寒気は俺を蝕んでくる。
既に日は大分傾いていて、じきに警備員が回ってくるだろう。
屋上に向かっていることがバレれば、相当な「お叱り」を受けるはずだ。
見つからないためには、隠れる場所を探さねばならない。
決心は、固まりつつあった。
- 333 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 00:53:49 ID:Mfwm7xKo0
-
(;'A`)「やっと良さげな場所を見つけたぜ」
屋上に向かう階段の影にある掃除用具入れ。
流石の警備員も、ここまで様子を見ることはしないだろう。
慎重にその軽そうな扉を開け、箒以外なにも入っていない中の空間に体をねじ込む。
すこし、黴臭い。
既に夕刻を過ぎた校舎は、少し欠けた月の光と、ざざぁと音を立てる波に包まれて、何とも神秘的な雰囲気を醸し出していた。
黴臭さと波の音、月の光。
なんとなく滑稽だった。
背中の寒気は、少し引いている。
- 334 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 00:57:14 ID:Mfwm7xKo0
-
掃除用具入れに籠ってどれくらい経っただろうか。
波の音に紛れた足音を、俺は聞き逃さなかった。
かつん、かつん。
確かに、足音がこの階段の前を通り過ぎて行った。
少しだけ扉を開けて、様子をうかがう。
金属製の蝶番が擦れて、軋む。
人影はない。
入った時と同じように、慎重に扉を開いた。
俺の体が通る程度になったら、その隙間から体を押し出す。
黴の臭いのしない空気を胸いっぱいに吸い込むと、
廊下に足をつけ、もう一度辺りをうかがう。
誰もいない。
階段を登ろうと足をかけて、孤独を覚えた。
('A`)
階段に足をかけた俺。
その圧倒的な存在感だけがその場にあった。
ひょう、と音を立てて廊下を風が吹き抜ける。
その風にハッとして窓を見れば、施錠されていなかった。
警備員がここを通過したならば、そんな事があり得るわけはない。
では、誰が?
- 335 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:00:21 ID:Mfwm7xKo0
-
開いていた窓に近づき、施錠した。
吹き込んでいた風が止む。
静寂がうるさい。
階段の一番下の段に足をかけ、上方の踊り場を見つめる。
恐らく、警備員は上にはいないし、そもそも今日は来ていないのではないだろうか。
かつかつ、一段ごとにしっかり踏みしめて進む。
それなりに覚悟がいることだ。
足が少しだけ震えているのも仕方ない。
仕方ないことだ。
屋上への唯一の扉が見えてきた。
緑色に塗装されたその扉は、わずかに錆びついて、蝶番がきいきい鳴いている。
ノブに手をかけた。
右に回して、手前に引く。
がちゃん。
ノブの僅か下から、引っ掛かる感触。
ノブの陰に隠れて、錠がしてあった。
当然か。
少しいじると、かちゃんと音を立てて鍵が外れた。
まさかとは思ったが、番号を2、3個ずらしてあるだけだったとは。
('A`)「・・・ヌルイな」
背中に伝わる寒さとは真反対の声。
ドアノブを捻る手に力を込めながら、俺は思い切り扉を開け放った。
- 336 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:03:05 ID:Mfwm7xKo0
-
勢いよく吹き込んできた熱い風と、視界に見える白と星空のコントラスト。
今日は半月。
月明かりに照らされた屋上は、よく光を反射して、辺りが見えないなんてことはない。
(*'A`)「・・・はぁ」
暑い。
しかし、その暑さが俺の寒気を吹き飛ばしてくれた。
やはり、風はいい。
ゆっくりとフェンスに向かう。
次第に近づいてくる波の音が、俺の心にゆっくりと押し寄せる。
フェンスに手をつき、軽く身を乗り出す。
( 'A`)「おぉ・・・」
暗い海。
星が海に映り込み、視界いっぱいの満天の星空がそこにあった。
これだけの孤独。
まるで宇宙に投げ出されたかのような、そんな錯覚に陥る。
そんな時。
背後で、階下に続く扉が開かれた音がした。
- 337 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:06:32 ID:Mfwm7xKo0
-
('A`;)彡 !?
警備員かと思って体を捻ると、扉を開けたままで固まっている、見覚えのある顔が立っていた。
(;-_-)
革表紙の本を両手で大事そうに抱え、少し困った顔で俺の方をじっと見つめる彼。
月明かりのせいで、元々白い肌が青白く光っている。
静かに、向かい合う。
('A`;)「えっと・・・」
(;-_-)「・・・」
ちらちらと不自然な視線を送ってくる彼は、どうやら俺の立っている位置に座りたいらしかった。
('A`;)「あの…本、読みたいんですか?」
(;-_-)「あ、えぇ…」
('A`;)「あの…俺、ここから退くので…どうぞ」
3歩、今立っている場所から横にずれる。
(;-_-)「わざわざすみません」
そういう彼は、そそくさと俺のいた場所に座り込んだ。
月明かりを頼りにだろうか、革表紙の本を開くと、周りの様子が一切目に入らないといった様子で本に集中し始めた。
('A`)
心の中で、小さくため息をつく。
何だこいつ。
- 338 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:09:46 ID:Mfwm7xKo0
-
('A`)「本、よく読むんですか?」
(;-_-)「あっ、はい」
彼が現れて15分ほどした頃、俺は風を背中に感じながら、読書中の彼に声をかけていた。
沈黙が、面倒だった。
帰ればいいだけなのだが、帰るために水上バスを呼ぶのも少し面倒だったので、なんとなく彼に話しかけたまでだった。
(;-_-)「3年なんですけど、気を紛らわすために偶にここで本を読んでるんです」
(;'A`)「先輩…でしたか」
(;-_-)「あ、そんな態度はとらなくて結構ですよ」
(;'A`)「とは言いましても」
(;-_-)「いや、僕が嫌いなんです。やめて下さると助かります」
(;'A`)「そうですか?でしたら…」
こんな感じで始まった彼との初コンタクト。
厳密には初ではないが、しっかり話したのはこれが最初だったのでよしとする。
小森ヒッキ―先輩。
少し臆病そうな外見と振る舞いだったが、芯の通った話し方をする先輩だった。
吹き飛んだ寒気に変わり、わずかだが温もりを得られた気がする。
しかし、それでも、あのぞっとした感覚は忘れることが出来なかった。
- 339 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:11:58 ID:Mfwm7xKo0
-
それからしばらくして、俺はまた屋上に向かっていた。
次は朝だ。
休みの日を狙って、さっさと学校に忍び込んだ。
忍び込んだとはいっても、普通に生徒玄関から入りこんだのだが。
理由は、やはり空を見たいから。
俺の知っている場所で最も空に近いのは、学校の屋上くらいしかなかった。
比較的涼しい空気を肺に満たし、一気に吐き出した俺は、階段を一段飛ばしで駆けあがって行った。
.
- 340 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:15:14 ID:Mfwm7xKo0
-
(*'A`)「気持ちいぃー!」
自分以外誰一人いない屋上は、何とも爽やかな空気で満たされていた。
大きな入道雲が青空に浮かび、呑気に雨を降らせている。
だらしなく額にかかった俺の髪をなびかせてくれる程度の風は、何とも言えない満足感で俺の胸を満たす。
この前のようにフェンスに手をかけ、胸をはる。
ふぅ、と長く息を吐き出し、足元を見てみると、屋上の白い塗装に紛れ、真っ白な紙があった。
日焼けしていないところを見ると、どうも最近ここに置かれたもののようだ。
しかし、そのよれ具合からして、どうしても最近作られた物には思えない。
手に取ってみようか、と思ったが、やめた。
気味が悪かった。
思い切ってフェンスを越えてみる。
風が全身に当たる。
流石に3階ほどのこの校舎になると、風も強くて心地いい。
がちゃり。
背後で、扉が押し開けられる音がした。
('A`;)彡「ひょえっ!?」
変な声が出たのは、仕方ない。
- 341 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:19:27 ID:Mfwm7xKo0
-
川;д川
彼女と出会った、出会ってしまったシチュエーションは最悪。
俺は単に、風をもっと感じようとフェンスを越えていた、そのタイミングで。
川;д川「あの…落ちたら多分痛いと思うし…」
川;д川「とりあえずフェンスの内側に…」
どうも俺は、死にそうな顔をしていたらしい。
当然だ。
この学校には噂があった。
「屋上には、死んだ女の子とその友人の髪の長い子の幽霊が出る」
つい数か月前にこの屋上で死亡事故があってすぐの頃、急に広まったものだった。
聞いただけでは非常にバカらしい、今となっては誰も本当だとは信じない噂だったが、その噂に合致した姿の少女が現れたのだ。
泣いてもいいくらいだった。
しかし、どうやらその心配は杞憂だった。
どう見ても足のある少女は、俺の目には幽霊には見えなかった。
(;'A`)
少しだけ嫌な汗を浮かべたままフェンスを越えて戻ると、すとんと膝から力が抜け落ちた。
完全に無意識だったそれは、彼女を少しだけ心配させてしまったようだった。
川;д川「大丈夫ですか!?」
いざ近くで彼女を見てみれば、疑惑だったそれは安心へと変わった。
大分余裕をもって彼女の事を見ることが出来るようになる。
- 342 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:22:58 ID:Mfwm7xKo0
-
('A`)
そういえば、聞いたことがある。
最近授業をサボって屋上に行ってばかりいる、黒髪ロングの女生徒がいると。
もしや、噂の髪の長い子とはこいつの事ではないだろうか。
心配してくれる彼女に、やっとのことで思い出した名前か問うてみる。
('A`)「いや、君が貞子さん?」
川;д川「え?まぁ、はい」
('A`)
少し考えを巡らす。
噂と噂を重ねてみれば、貞子さんと亡くなった女生徒は友人だった、ということになる。
これが正しいなら、彼女は友人の死んだ場所へちょくちょく訪れているということになる。
きっと俺なら、そんな事は怖くてできない。
あんな噂が立つくらいなのだから、彼女がここへ来たのは、生半可な回数ではないのだろう。
川;д川
汗をかいている彼女の顔をじっと見つめる。
そんなに肝が据わっているようには見えない。
まるで、ガラスのような人だ。
見た目やあたってみた感じは一見堅い。
しかし、肝心なところで、脆い。
そんな印象を受ける。
川;д川「あの、大変恐縮なのですが…
あまり見ないで頂けますか?」
どうも、俺の観察眼は役立たずらしい。
- 343 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:25:19 ID:Mfwm7xKo0
-
観察眼が役立たないことが分かり、彼女の友人が亡くなったという事の確信を得たくなった。
揺すってみる。
('A`)「…お前、やっぱすげぇな」
川д川「え?」
('A`)「だってさ、数年前に死んだ奴がいるこの屋上で、
平然と過ごしていられるんだもんな」
彼女の表情が一変する。
ぐっと奥歯を噛みしめ、俺を食い殺さんばかりの勢いで俺を見据えている。
やばい、と思った。
川д川「あなた…誰ですか?」
('A`)「別に?ただの高校二年生☆だけど」
川д川「きめぇ」
('A`)
川;д川「あ、すみません!フェンス乗り越えようとしないで!」
場を和ませようとしたのは、あながち失敗ではなかったようだ。
- 344 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:35:32 ID:Mfwm7xKo0
-
少し空気が和やかになったところで、俺は確信した。
貞子さんの友人は、亡くなったのだと。
しかも先ほどの変貌を見る限り、亡くなった彼女とは「親友」だったのだろう。
('A`)「…まぁいいや」
考えすぎても仕方ない。
今はこの貞子さんが我を忘れるようなことがないようにしなければ。
そんな時、彼女がこう尋ねてきた。
川;д川「あの…どうしてここに?」
('A`)「理由?」
彼女の顔をちらりと見る。
本当に分かっていないようだった。
自分で俺のことを自殺しそうなヤツと決めつけていながらにして、これだ。
少しすると、彼女はハッと気づいたように俺を見て、口ごもりながらこう言った。
川;д川「あの…なんでまた」
じりじりと照り付け始めた太陽の下、彼女は俺の隣に寄ってきた。
暑い。
ぼーっと空を見上げる。
突き抜けるように青い。
なんとなく、だが。
('A`)「死にたかったからだよ」
隣で貞子さんが驚いたような顔をしている。
当然嘘なわけだが、彼女に近づくにはこの程度の大嘘をついていた方が何かと構ってもらえる気がした。
それはまるで、ガラスのコップに色の付いた水を満たすような。
('A`)「死にたかった。自殺衝動。理由は特にない。何となく」
しかし当然、細かい部分は曖昧にぼかしておく。
('A`)「殺人衝動とかあるんだし、
自殺衝動があってもおかしくはないだろ?
他人を巻き込まない分とってもリーズナブル!」
ちょっとずつ自分の中でもカタチが出来上がってくる。
どうも、くだらない物のようにしか感じられないが。
- 345 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:38:42 ID:Mfwm7xKo0
-
結局、俺は何もわからないまま帰ってきてしまった。
朝は割と清々しかったのに。
なんだか、嫌な気分だった。
帰りの水上バスから見えた雲。
一面に走ったうろこ雲は、綺麗に太陽を覆い隠していた。
.
- 346 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:45:03 ID:Mfwm7xKo0
-
(-_-)「そんな事が?」
('A`)「はい。なんだか妙な奴でした」
貞子さんから見たら自分の方が妙な奴だったであろう。
そんなことを考えながら、翌日の夜にヒッキ―先輩に話をした。
数回話をしたせいか、俺も先輩も、互いに緊張なしに会話できるようになっていた。
空に輝く星が見守る下で二人で話すことが当たり前になりつつある。
(-_-)「それで、どうして僕にその話を?」
('A`)「や、先輩は俺より一年長くこの学校に通っていらっしゃるわけじゃないですか。
もしかしたら例の事件のことについて詳しく知っているかもって」
(-_-)「あれねぇ…」
どうやら、知っていることは知っているようだ。
しかし、どうもよくわからない。
先輩は、月の様な人だと思う。
暖かいようで冷たい光を放ちながら、裏側は決して見せない。
(-_-)「あの事件で亡くなった子、僕の知り合いだったんだ」
(;'A`)「え?」
(-_-)「なんと言えば良いものか、偶然僕と接点があった子でね。
亡くなる数日前まで普通に話していたのだけれど」
ふぅ、と先輩は息を吐く。
(-_-)「いなくなっちゃったからね」
(;'A`)「なんか…すみません」
(-_-)「はは、いいんだ」
おかしい。
仮に先輩と亡くなった子が親しかったとして、それはかなり前の話だ。
しかも、俺が貞子さん、間違いなく亡くなった子の親友とお近づきになり、そのことで相談しているというのに。
その、事件と亡くなった子については一言も触れていない。
やっぱり、おかしい。
- 347 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:47:09 ID:Mfwm7xKo0
-
先輩の裏が読みにくいせいでもあるが、どうも先輩は俺に触れられたくない「何か」を隠し持っている気がしてならない。
恐らく、事件の事自体がそれにあてはまるのだろう。
先輩から目をそらし、空を見上げる。
夜も随分と深くなった。
今日は、待宵の月。
明日には立派な満月が空に昇るはずだ。
ぱたん。
('A`)「あれ?帰られるんですか?」
先輩が勢いよく本を閉じた。
荷物を持って、扉の方へ歩を進めている。
(-_-)「あぁ。今日はちょっと蒸すからね」
そう言って、大切そうに革表紙の本を頭上に掲げた。
その時、ぴゅう、と強い風が吹いた。
(;-_-)「 あ 」
先輩の手から、本が落ちる。
俺は何とか拾い上げようと、先輩の方へ駆けだす。
ばさり。
俺のわずかな努力むなしく、本は落下した。
音を立てて本が開く。
- 348 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 01:53:14 ID:Mfwm7xKo0
-
ぱら。
白紙。
ぱら。
白紙。
ぱら。
白紙。
ぱらぱらぱら。
白紙白紙白紙。
白い紙が風に揺れる。
文字が、書かれていない本。
ヒッキ―先輩が、本に飛び掛かった。
ばたん。
勢いよく閉じた勢いで、一枚の紙がふわりと飛び出す。
“*(‘‘)*”
一人の少女が、笑っていた。
無邪気な笑顔で。
この高校の制服を着ている。
写真に俺が近づくより先に、ヒッキ―先輩がそれを回収した。
(;-_-)
重たい視線が俺に向けられる。
暗かった辺りがその黒を増し、月の光が少しだけ弱くなった気がする。
あぁ、胃が痛い。
(;-_-)「見た、よね?」
(;'A`)「いや、まぁ・・・」
見ていない、とは言えない。
言っても信用はされまい。
先輩はそれだけを確認して、こう言い残して去っていった。
「明日、ここで待っているよ」
と。
- 349 :名も無きAAのようです:2013/09/01(日) 01:59:39 ID:xTLUyRdg0
- お、番外編来てるのか
あとで読ませてもらうんだぜ支援
- 350 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:03:30 ID:Mfwm7xKo0
-
家に着くと、やけに肩が重いことに気が付いた。
重いというより、痛い。
右手で肩を揉みほぐしながら、我が城へ入場する。
6畳の、がらんとした部屋。
隅の方にまとめておいた布団に倒れ込み、暫く何もしない。
ふぅ。
ヒッキー先輩が読んでいたのは、白紙の本。
その間に挟まっていた、少女の写真。
貞子さんのことを話しても、先輩が隠そうとすること。
事件のこと。
きっと、どれも関係があるものばかりだ。
(;'A`)「だーっ、仕方ねぇ」
昔から気になった事があると眠れなくなるたちだった。
一人暮らしを始めた今でもそれは健在で、これは絶対にコロンボのせいだと確信している。
パソコンを立ち上げてみる。
('A`)「うーん…事故 高校 女 でいいか」
キーワードを打ち込み、エンターキーを押す。
思いつきの単語の羅列だ。
それにもかかわらず、検索に引っかかったのは実に的確な、俺が通う高校の名前が載った新聞記事と、画像。
先に新聞から読んでみる。
内容は、主に死因と亡くなった彼女の生い立ちのことが書いてあるだけだった。
死因、溺死。
よく分からなかった。
淡々と書き連ねられた文章からは、書き手の整った感情しか感じられず、嫌悪感を覚えた。
(;'A`)「うーん…」
どうも、同じような事ばかり書いてある。
吐き気がする前に、画像を開いてみる。
(;'A`)「おっ?」
画面に映っていたのは。
“*(‘‘)*”
今日、先輩の本から零れたものと、同じ笑顔で笑っていた。
- 351 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:07:01 ID:Mfwm7xKo0
-
ざわざわ。
日中の教室というのは、やたらと騒がしい。
例えそれがどんな日であっても、人と人との会話の声で溢れている。
昨日の一件から、気分が悪くて仕方なかった。
おかげさまでせっかく作った魚介丼も喉を通らず、3時間眠るのがやっとだったほどだ。
昼休み、窓際の席から眺める外の景色は、真っ青だ。
開いた弁当はありあわせを詰め込んだだけなので、惨状が広がっている。
「あ、アイツまた外見てるよ」
そんな声が、教室のどこかから聞こえた。
うるさい。
俺が何をしようと勝手ではないか。
「あいつ、死にたいらしいぜ」
そんなわけがあるか。
大きな音がするように席を立つ。
確か今日は水着を持ってきていた。
海辺に逃げよう。
- 352 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:13:30 ID:Mfwm7xKo0
-
白い泡と砂を寄せたり返したりしている水が、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
足を浸してみると、温い。
とても海水浴というものをする人の気がしれなかった。
(;'A`)「しっかし、暑いな」
掌で影を作ってみるが、熱い空気は容赦なく俺にぶつかってくる。
(;'A`)「失敗したな・・・」
あの突き刺さるような喧騒から逃げ出したのはいいが、きゃーきゃー声を上げながら水を掛け合っている人たちの前を、真っ青な海パン装備の男が一人で歩くのは、あまりいい気分ではない。
早く昼休みが終わることを祈りながら、ぶらぶらと歩く。
白い砂浜に、目立つピンクを見つけた。
目立つ。
流石にピンクはない。
どんな人が来ているのか気になって近づく。
川;*д川
(;'A`)(げっ)
水着に負けないくらいピンク色に染まった貞子さんが、そこにいた。
近付いてしまったことを後悔する。
('A`)「あれ?何してるの?」
しかし、一人でいるのも嫌なので、至極平静を装って貞子さんに声をかける。
川д川「…あ、ドクオ君。お久しぶり」
こちらを向いた貞子さんは、少し上目遣いで俺の顔を覗きこむ。
太陽が、真っ白な貞子さんの肌を照らす。
あぁ、綺麗だ。
- 353 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:18:20 ID:Mfwm7xKo0
-
足先だけを水につけた彼女を見て、言う。
('A`)「貞子さんは泳がないの?」トスッ
川д川「カナヅチなんですよ」
(;'A`)「うへぇ…こんなご時世に泳げないのは致命的じゃないかな?」
川д川「別にいいじゃないですか」
(;'A`)「や、誰も悪いとは言ってないけどさ…」
貞子さんが、そっけない。
辛い。
昨日の女の子の笑顔が、フラッシュバックする。
多分、あの頃の女の子は幸せだったのだろう。
死ぬなんてこと、考えてすらなかったのだろう。
目の前にいる貞子さんは、その女の子を海に奪われた。
この、広がっている暗い海に。
川д川「泳がないんですか?」
そう、聞かれた。
急に怖くなった。
海に入りたくない。
('A`)「泳ぎたいんだけどな…」
川д川「泳げない理由でも…?」
言えない。
('A`)「…うん。まぁな」
川д川「…見た感じ、教えてもらえるような理由じゃなさそうですね」
('A`)「言えなくもないが、出来れば言いたくない」
川д川「そうですか」
そっけなく返す貞子さん。
でも、今の俺にはそのそっけなさが有難かった。
- 354 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:21:28 ID:Mfwm7xKo0
-
地球上の8割を覆う海原。
そこで、人が楽しみ、人が癒され、そして、死ぬ。
('A`)「…海ってさ、なんかこう…あれだ。凄いよな」
川д川「どの辺がですか?」
('A`)「今そこかしこで遊んでる奴らも含めて、何でも受け入れてるところとか」
川д川「…受け入れてる?」
('A`)「うん。見方によっちゃ、単にそこにあるってだけなんだろうけどさ。
海にはなんか包容力?そんなのがある気がするんだよ」
川д川「包容力ですか」
包容力。
いい表現の仕方だと、自分で言っておきながら思う。
('A`)「ゴミも、遊びも、時間も…
すべてを包み込んで飲み込むような、そんな包容力…」
人も、飲み込んでしまう、そんな。
チャイムが鳴る。
- 355 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:24:55 ID:Mfwm7xKo0
-
川;д川「うわ」
貞子さんが凄い速さで立ち上がった。
遊んでいた奴らも、忙しなく海から上がってくる。
('A`)「急いでんの?」
俺には、急いでここから上がる理由がない。
あぁ、帰りたい。
何処に?
.
- 356 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:28:00 ID:Mfwm7xKo0
-
川;д川「えぇ、ちょっと…」
川;д川「ドクオ君は更衣室に戻らなくていいんですか?」
('A`)「じきに戻るさ。気にすんな」
川;д川「いや、気にするも何も…」
すっ、と貞子さんが俺の後ろを指差す。
同時に、影が降ってきた。
(-@∀@)「昼休み終了のお知らせ」
そこには、冷たい、貼り付けたような笑顔でアサピー先生が立っていた。
振り返ると、貞子さんはもういない。
贔屓目で男女を見るこいつは、嫌いだ。
そのあと急いで逃げ出したのは、言うまでもない。
- 357 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:32:32 ID:Mfwm7xKo0
-
既に学校は暗くなり、隠れていた男子トイレから出てきた。
(;'A`)「う〜ん、この学校、警備員いるのか?」
足音がしない校舎を歩きながら考える。
ヒッキ―先輩との昨晩の約束は、どうも守れる気がしなかった。
恐怖心だけは、拭えない。
しかし、足は自然と屋上へ向かう。
階段を登るたびに、足を震えるのが自分ではっきり分かる。
怖いというより、過度の緊張から来るもののようだ。
ここまで来たんだ。
諦めろ。
そんな脅しにも似た叱咤激励を繰り返す。
やっと、屋上のドアノブを握った。
右に思い切り捻り、押した。
蝶番は、鳴かなかった。
- 358 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:39:22 ID:Mfwm7xKo0
-
(-_-)「やぁ。待ってたよ」
そう言ってフェンスに腰かけていた先輩は、俺の姿を見て立ち上がった。
冷たい。
先輩の眼光が、俺を的確に射ていた。
俺は、覚悟が定まらずにいた。
先輩と話す覚悟だ。
昼間に貞子さんに会って、あらためてヒッキ―先輩の怖さが増した。
あの、綺麗な貞子さんのことだ。
きっと、あの女の子が無くなった時、泣いたのだろう。
いや、泣いた。
彼女は絶対に、泣いた。
そう信じよう。
彼女とは、少ししか話していない。
結局のところ、話した少しのことも、よく分からない話題のまま終わってしまった。
先輩との話が終わったら、彼女と話そう。
話して、もっと、彼女の事について知ろう。
多分、今の俺ならできそうだ。
戸惑いも感じずに済む。
いつまでも、突き抜けるような青い空を胸に抱いて、行こう。
- 359 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:47:53 ID:Mfwm7xKo0
-
('A`)「どうも、先輩」
(-_-)「ん?」
('A`)「どうしました?」
(-_-)「なんだか、変わったね」
('A`)「あはは、昨日話したばっかりじゃないですか。やめて下さいよ」
内心、ギクッとした。
(-_-)「なんだか、うん。爽やかだ」
そう言いながら先輩は、扉の前で棒立ちしている俺の手を引く。
(-_-)「おいで。話したいことがあるんだ」
- 360 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 02:52:23 ID:Mfwm7xKo0
-
フェンス際に移動して先輩は、大切そうに革表紙の本を開いた。
そのまま、足元に置く。
風は、吹いていなかった。
自然と俺の目線も低くなり、ついにはしゃがんだ。
先輩は、昨日開いたページより、表紙に近いところを開いたようで、昨日見たものとは、まったく違う紙面がそこにはあった。
びっしりと、ピンクと水色の色の文字で埋まったそれは、先輩の印象とはかけ離れたものだった。
(;'A`)「こ、れは…」
(-_-)「これはね、交換日記だったんだ」
(;'A`)「だった?」
(-_-)「あぁ。話すと長くなるんだけれどね」
(-_-)「僕は、昨日君が見たあの写真の女の子と仲が良かった」
(-_-)「いつからだったか…そんなことも忘れてしまうくらい、ね。
そして、ある日、彼女が言ってきたんだ」
(-_-)「交換日記をしませんか、ってね」
(;'A`)「…はぁ」
(-_-)「嬉しかった。
僕の書いたつまらない日常の一コマでも、彼女は可愛らしい文字で反応してくれた。
それまでの僕から彼女への友情は、愛情へと変わっていたんだと思う」
(;'A`)
黙って聞いた方が賢明だと思えた。
先輩の静かな雰囲気が、俺の口を開かせないせいでもあったが。
- 361 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 03:02:09 ID:Mfwm7xKo0
-
(-_-)「それで、ね。
彼女、僕に告白してきてくれたんだ。
今日みたいに満月の、満天の星空の日に」
そう言って先輩は空を見上げる。
俺もつられて、空を見た。
(*'A`)「おぉ…」
大三角が、堂々と空に構え、今にも落ちてきそうなその星は、俺の肌を粟立たせた。
これまでに見たことがないほど、綺麗な空だった。
(-_-)「もちろん僕は承諾したよ」
(-_-)「彼女は、今もこの学校の生徒なんだ。
めったに来ないけれどね」
(;'A`)「…えっ?」
口が開いた。
「今もこの学校の生徒」と言ったか。
(-_-)「ん?なぁに?」
心なしか、先輩の眼光が強くなった気がした。
(;'∀`)「えっ、いや、はい」
(-_-)「なんだい?言ってみてよ」
ずっ、と先輩がすり寄ってくる。
(;'∀`)「なんでもないですって」
(-_-)「いいから言えよ」
どくん。
心臓がはねた。
- 362 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 03:04:11 ID:Mfwm7xKo0
-
(;'A`)
言わなきゃいけない。
そんな圧迫感に潰される。
(;'A`)「…彼女、亡くなってるんじゃないですか?」
(-_-)
先輩に変化はない。
(;'A`)
嫌な汗がどっと溢れ出す。
(;'A`)「…どうしたんですか」
(-_-)「…そうだね、知ってたんだね」
(;'A`)「昨日の絵を見て、調べたんです。
気になってることが多くて」
(-_-)「あぁ、そうなのね」
先輩は、そそくさと本をたたんだ。
とんっ、と踵を鳴らして立ち上がった先輩は、俺の目の前でフェンスに向き直った。
- 363 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 03:10:27 ID:Mfwm7xKo0
-
(-_-)「…彼女は、僕が殺したんだ」
(;'A`)「へ?」
(-_-)「比喩でもなんでもなく、ね。
彼女は、今もここで生きている」
そう言って、手元の本を軽くたたいた。
(-_-)「人というのは、死んでこそ、はっきりと人間らしくなると思うんだ」
俺が先輩の発現の真意を捉えられずに言うと、先輩は続けた。
(-_-)「その人が生きている間は、なんというか、わからないじゃないか。
どうなっても、その人が生きている間は、その人が何をするかはわからない。
でもさ、死んじゃったらさ、変わらないんだよ」
(-_-)「僕は、彼女が身近になって、僕を愛してくれて、手放したくないと思ったんだ。
離れてほしくないと思ったんだ」
(;'A`)「…」
先のセリフは、読めた。
しかも、先輩の言っていることも今の俺にははっきりとわかってしまった。
だからこそ、俺は止めなかったし、先輩が俺の方にじわじわと迫ってきていても、俺は何も出来なかった。
(-_-)「君は、知りすぎた、かな」
じり。
(;'A`)「ははは、ドラマの見過ぎじゃないっすか?」
じり。
(-_-)「そうだね。見すぎかも知れない」
じり。
(-_-)「でもね、もう引き返せないんだ」
じり。
(;'A`)「…そうですかね」
じり。
がしゃん。
冷たいフェンスが、背中に当たる。
- 364 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 03:24:50 ID:Mfwm7xKo0
-
(-_-)「よくやってるよね。
『お前は知りすぎた。消えろ』って」
そう言う先輩の目は、キラキラ輝いて、突き刺さるように俺の目を射る。
首だけを反らすと、俺の視界には満月が輝いている。
今にも降ってきそうな星たちに囲まれて、俺はヒッキ―先輩に迫られた。
分厚くて荘重な彼の「交換日記」は、その赤い革表紙をてらてらと月明かりに輝かせながら、俺にゆっくりと迫ってくる。
がんがん。
頭の中で警報が鳴る。
動かねば。
動かねば。
動かねば!
ずるり、揺らしただけで滑った体は、見事に先輩の攻撃を避けた。
- 365 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 03:41:29 ID:Mfwm7xKo0
-
(-_-)「ありゃ、避けちゃった」
(; A )「ふー」
(-_-)「死にそうじゃないか・・・」
(; A )「殺そうとしてるのは先輩じゃないっすか」
(-_-)「はは、それもそうだね」
そんな会話の間も、がすがすと本を叩きつける先輩の動作は変わらない。
「交換日記」も、だいぶぞんざいな扱いになったものだ。
誰だったか。
あの女の子は、浮かばれない。
きっと、そうだ。
(; A )「…くっ…そ」
ばん。
手で、受ける。
(-_-)「おぉ、頑張るねぇ」
(; A`)「死にたくはないし、先輩の彼女をぞんざいに扱うのは良くないっすからね」
(-_-)「よく心得てるね。
そろそろうっとおしいし、死んでよ」
先輩は苛立っているのか、それとも焦っているのか、突然に力を緩めた。
すっ、と俺の手が空を切る。
(; A`)「ぐっ…」
勢いで、俺は立ち上がってしまう。
相当強い力で押し上げてしまっていたようだ。
当然だが、ふらつく。
- 366 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 03:47:20 ID:Mfwm7xKo0
-
(-_-)「あ、ありがとね。
一番楽な位置に立ってくれて」
(; A`)「えっ?」
とん。
体に衝撃。
膝が折れる。
(; A`)「あっ?」
体が宙に浮いた。
- 367 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 04:07:27 ID:Mfwm7xKo0
-
白い校舎を除いて、一面真っ黒の空と海。
360度、星が輝く大パラノマに抱かれて、俺は風に包まれていた。
ぎゅっ、と空に手を伸ばして掴む。
星が、手の中に納まった。
暖かい。
ぱん。
背中に衝撃。
黒い世界に、赤が舞う。
それが自分の口から出たものだと分かると、急に胸が痛み始めた。
俺の事を受け止めてくれた海は、ぶつかった瞬間は岩に姿を変えて、俺を痛めつけた後、とぷん、と受け入れた。
水の中に入ると、水に濡れた砂が、次こそ俺を抱き止めてくれた。
うっすらとピンク色になっていく視界と、未だに体に残る浮遊感に体を震わせながら。
( A )「貞子」
そうとだけ呟いて、泡は消えた。
- 368 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 04:08:08 ID:Mfwm7xKo0
-
番外:すでにもう許されないこと
了
- 369 : ◆csB32AjwmU:2013/09/01(日) 04:11:14 ID:Mfwm7xKo0
- 思った以上に時間がかかってしまった…
以上でサマー・アダルセンス、投下終了になります。
数多くの支援や乙ありがとうございました。
質問等あれば受け付けまする
- 370 :名も無きAAのようです:2013/09/01(日) 04:18:37 ID:hEunAF7c0
- 本当によかった
第一話から追ってたけど完結してくれてありがとう
次回作も楽しみにしてるよ
- 371 :名も無きAAのようです:2013/09/01(日) 10:18:08 ID:F8YlcmSM0
- 完結乙です
好きだったからちょっと寂しいな
- 372 :名も無きAAのようです:2013/09/01(日) 22:00:18 ID:x4UPPD1M0
- 乙
一話から読んでたけどまさかこんなことになるなんてといったところだった(もちろんいい意味で)
- 373 :tokosinani:2013/09/04(水) 14:37:22 ID:vc6bmQzs0
- 乙
ちゃんと完結してよかったよ
次も何か投下してくれ
- 374 :名も無きAAのようです:2013/09/04(水) 16:05:36 ID:bop8rN5g0
- 一から読んできたがすごいきれいな文章でひきこまれた
最後まできれいなままで読後感すっきりだ
おつ。次回作も期待してる
- 375 :名も無きAAのようです:2013/09/04(水) 16:07:12 ID:tAdIin3.0
- 久しぶりにリアルタイムでおいかけた現行だった、乙
次回作の予定とかある?
- 376 : ◆csB32AjwmU:2013/09/06(金) 22:19:51 ID:J1pEJn4I0
- >>375
一応考えてます
いつになるとは明言できませんが、いつかは投下したいです(白目)
- 377 :名も無きAAのようです:2013/09/11(水) 03:32:34 ID:S83E5Kn.O
- 乙でする
引き込まれた
ヒッキーに罰というか報いが与えられてほしい気もするけど
そういう話じゃないんだろうなー
貞子…
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■