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( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです- 1 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:23:19 ID:V/DExwpo0
-
入り口のドアが、ギイと耳障りな音を立てた。
酒場の店主、ショーン=バーボンは磨いていたグラスから視線を外し、そちらに目をやる。
客と思しきフードを目深に被った男が様子を伺うように立っていた。
(´・ω・`) 「いらっしゃい」
( :::::::::) 「……すまない、準備中だったかお?」
(´・ω・`) 「いや。ウチには準備するほど上等な物は無いんでね。残念ながら営業中だ」
( ^ω^)「それは良かったお」
男がフードを外し、席に座る。
少々覇気にかける、人の良さそうな顔をしていた。
歳の頃二十四、五といったところか。
よく見ると外套の腰まわりに歪な膨らみがあった。
恐らく、剣。しかも二本だ。対になるよう両脇に差している。
剣士にしては少々頼りない身体にも見えるが、窺ってみれば動作に隙は無い。
仮にここでショーンが殴りかかったとして、難なくかわし組み伏せられるだろう。
この男にはそういった、独特の雰囲気があった。
- 2 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:24:01 ID:V/DExwpo0
-
( ^ω^)「ひとまず、酒を一つ。出来れば大五郎をもらえるかお」
(´・ω・`) 「出来ればもなにも、大五郎以外の酒が置いてある店があるなら、俺が飲みに行きたいね」
( ^ω^)「それはそうかもしれんお」
ショーンはグラスに砕いた氷を転がし、ボトルから大五郎(焼酎の銘柄)を注いだ。
透明の液体が透明のグラスに満ちていく。
ピキキ、と氷の軋む音が、無音の店内に小さく響いた。
(´・ω・`) 「はいよ。ロックで構わないな」
( ^ω^)「お。ありがとうだお」
男はグラスを片手に軽く一回し、グラスと氷の奏でる音を楽しんでから舐めるように口に含む。
ショーン自身飲むから分ることだが、大五郎は決して上質な酒ではない。
アルコールの角が強く、ロックでやるには風味が弱いのだ。
何も考えずただ酔うために飲むならば悪いものではないが、嗜むには余りに物足りなく感じてしまう。
それを、この男はまるで上質な甘露を味わうか様に一口一口を舌で転がしながら飲んでいる。
客に対して無礼ではあるが、ショーンは目の前の男の味覚を疑った。
- 3 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:25:28 ID:V/DExwpo0
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(´・ω・`) 「そんなにその酒が美味いかね」
( ^ω^)「……まあ、決して味のいいもんではないおね」
(´・ω・`) 「そう思ってるようには見えん飲み方だが」
( ^ω^)「ちょっと訳ありなんだお」
大して美味くないものを美味そうに飲む訳とやらに興味が沸くが
本人に話す意思が無いことを悟り、あえて追求はしなかった。
代わりに期限の切れ掛かっているミックスナッツの缶を開け、皿にあけて男に差し出す。
(´・ω・`) 「サービスだ」
( ^ω^)「いいのかお?」
(´・ω・`) 「アンタの飲み方にケチつけた侘びってところだな」
( *^ω^)「おっおー。それじゃあまあありがたく」
男はナッツを幾つか一片につまみ、口に放り込んだ。
一噛みした途端に、その上機嫌だった顔がみるみる内に翳っていく。
- 4 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:26:21 ID:V/DExwpo0
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( 'ω`) 「なんか妙に湿気てるお……」 モグモグ
ショーンは缶を手に取り期限を確認しなおした。
未開封基準の賞味期限は一週間前の日付が記されている。
前々から期限が近い近いと思っていたが、とっくに過ぎていたらしい。
(´・ω・`) 「ああ、すまない。昨日開けたばっかりなんだが、蓋が緩かったのかもしれん」」
( 'ω`)「おーん…まあタダだし我慢するお…」
(´・ω・`) (ま、酒も飲んでるし死にはしないだろ)
男は相変わらず渋い顔をしながらもナッツを食べ続けた。
下手をすれば黴が生えているかも知れないが、味覚が狂っているんだろうとショーンは勝手に結論付ける。
あるいは単に腹が減っているのだろうか。
( ^ω^)「ところで――――」
ナッツとグラスの酒が残り僅かになったところで男は椅子に座りなおした。
口の回りをマントの裾で拭い、ショーンを真正面から見据える。
( ^ω^)「『ショボン』さんに聞きたいことがあるんだお」
(´・ω・`) 「……」
( ^ω^)「…お?シベリアのフィレンクトに紹介してもらったんだけど……」
( ^ω^)「VIPシティの『ショボン』って、マスターのことじゃないのかお?」
- 5 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:27:05 ID:V/DExwpo0
-
(´・ω・`) 「いいや、それであってるよ」
ショーンはカウンターを出て、店の外へ。
扉にぶら下ている「営業」のパネルを裏返し、戻って内から鍵を掛けた。
(´・ω・`) 「ったく、そっちの用ならさっさと言い出して欲しいね」
( ^ω^)「酒も呑みたかったんだお」
(´・ω・`) 「…フィレンクトに聞いたなら分ってるとは思うが、俺は高いぞ」
( ^ω^)「金ならあるお」
男が懐に手を入れ、小袋を取り出しカウンターに置いた。
音からして金貨が複数詰まっているようだ。
ショーンが中を確認すると、入っていたのは少なくともはした金ですむ金額ではなかった。
( ^ω^)「足りないかお?」
(´・ω・`) 「逆に聞こう。この金額でも足りないかも知れない、アンタが調べて欲しい情報ってのはなんだ」
( ^ω^)「…………『魔女』について」
(´・ω・`) !!
- 6 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:27:22 ID:72KXx/sY0
- しえん
- 7 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:27:58 ID:V/DExwpo0
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( ^ω^)「無理かお?出来れば早く、今どこにいるのかだけでも知りたいんだお」
(´・ω・`) 「……明後日の夕方、その三倍の金を持ってまたこの店に来い」
( ^ω^)「やってくれるのかお?」
(´・ω・`) 「あくまで出来うる範囲で調べて見るだけだから、どれほど引き出せるか分らんが」
( ^ω^)「おっおー!十分だお!どの情報屋に頼んでもダメだったから諦めてたんだお」
(´・ω・`) 「正直なところ、俺も手を出したくは無いんだがな…」
(´-ω-`)
(´・ω・`) 「まあ、乗りかかった船だ。あまり期待はせんでくれ」
( ^ω^)「ありがとうだお!」
(´・ω・`) 「そうだ、名前を聞いてなかったな」
( ^ω^) 「お、そういえばそうだったおね」
( ^ω^)「僕はブーン=N=ホライゾン。流れの剣士だお!」
* * *
- 8 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:28:46 ID:V/DExwpo0
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世界が夕日に暮れなずむ時刻、この街ははにわかに活気付く。
大陸一の繁華街を有する第二主要都市、VIPシティ。
様々な交易流通の要として発展したこの街は、今では国内唯一「堂々と飲酒の出来る場所」でもある。
シティ北部の繁華街の外れ、朱色の陽光が立ち並ぶ建造物で遮られた薄暗い細道があった。
朽ちてそのまま捨てられた看板が寂しげに傾いている。
ξ゚⊿゚)ξ 「……迷っちゃった」
ツン=ディレートリは、暗がりですら輝いて見えるその金色の頭をポリポリと掻いた。
胡散臭い老人から買い取った地図を何度も見直すが、自分がどこにいるのかすら把握できない。
こんなことになるならば金をケチらず案内人を雇えばよかったと後悔のため息をつく。
ξ゚⊿゚)ξ「せめて宿でもあれば……」
急ぎの用ではないから、無理に目的地を目指す必要は無いが、せめて宿には入りたい。
この街に来るまでの三日間、野宿続きでまともに風呂を浴びていないのだ。
こまめに身体は拭いていたが、流石に匂いが気になるし、着ている服も砂埃だらけ。
乙女を気取るつもりは無いものの、やはりいい気分ではない。
ξ゚⊿゚)ξ「今多分ココ(東)らへんだから、こっちの方(西)へ向かってみましょう」
そう呟いて、ツンは北東へ歩き始める。
彼女は重度の方向音痴だった。
- 9 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:29:33 ID:V/DExwpo0
-
ツンが廃屋と思しき棟々の間を道なりに進んでいると、どこからか、とても近い距離から声が聞こえた。
行幸だ。せめて人に尋られればこれ以上彷徨う必要も無い。
声を頼りに、建物の隙間に身体をねじ込む。ここを抜ければすぐそこに誰かがいるはずだ。
それにしても何をしているんだろう、やけに声が荒い。
喧嘩かな。道を尋ねる前に宥めないとダメかな。
そんな思考を巡らながら隙間を抜けた彼女の目の前に現れたのは……
彡ヾ゚只゚ミ 「なあ、いいじゃねえか、ちょっと付き合うだけだって!」
从;'ー'从 「ふぇぇ、そんなこといわれてもぉ」
( `.liil´)「面倒だぜい、さっさとつれてこうぜい」
< #"_ヾ> 「ほら来いよ!」
从;'ー'从 「ふぇ!いたたっ!いたたたたっ!」
軟派とも強姦未遂とも付かない、実に漢気を試される状況だった。
箒を抱えた一人の少女に三人の男が言い寄っている、もとい拉致しようとしている。
ツンが無理やり顔を出している隙間を除けば行き止まりの完全な袋小路。
傭兵崩れか何かの屈強な体格の男三人に囲まれてしまってはか弱い少女が逃げることは難しいだろう。
流石にこれを見逃すほどツンは腰抜けではない。
- 10 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:30:19 ID:V/DExwpo0
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ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっとあんたたち、そのコ嫌がってるでしょ。やめなさい」
彡ヾ゚只゚ミ 「ああ?なんだてめ…」
リーダー格と思われる長髪の男がツンの声に振り返る。
ツンは身体がつっかえて頭しか出せていなかったが、精一杯威圧感のある表情を作った。
ちなみに引っかかっているのは胸であって腹ではない。断じて腹ではないのだ。
彡;ヾ゚只゚ミ 「なんなんだてめえは!?」
ξ゚⊿゚)ξ「何で改めて言い直したのよ。いいから、そんなかっこ悪い真似やめなさいよ」
( ;`.liil´)「お前も十分かっこ悪いぜい…」
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
ツンは憤慨した。
男に嬲られようとしていた少女を助けに出てきた自分のどこがかっこ悪いというのか。
確かに隙間から頭しか出ていないけれど。確かに腹が引っかかって出れないけれど。
< #"_ヾ> 「この変なのはほっといていこうぜ。関わんねえほうがいい」
ツンは最早怒り心頭だ。
百歩譲ってツンにも手を出そうとするならばまだしも、変な奴扱いした上に放置しようとは。
仮にも男ならば隙間に挟まった婦女子の一人、助け出すのが道理だろう。
- 11 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:30:59 ID:V/DExwpo0
-
ξ#゚⊿゚)ξ 「ツンツンツー―ン、もう許さない」
彡ヾ゚只゚ミ 「あ?いきなり出てきて何言って」
ξ# ⊿ )ξ 「“空は力、気は凶器――――”」
< #"_ヾ> 「!?まずい離れろ!!」
ξ# ⊿ )ξ 「“爆ぜて弾けろ―――インパクト”!!!」
男達が慌てて身を庇うのと同時、彼女の周囲の木壁が破裂し、吹き飛んだ。
辛うじて守りの姿勢を取ったものの、男達は衝撃波の直撃を受ける。
飛び散った木片が凶器となって肌を破り肉に突き刺さり、うっすらを血がにじみ出ていた。
件の少女は、男達が壁となったお陰で無事なようだ。
<;#"_ヾ> 「てめえ魔法使いか!」
ξ#゚⊿゚)ξ 「覚悟なさい。今の私はけっこーツンツンよ」
- 12 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:32:06 ID:V/DExwpo0
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大柄の体躯は飾りではなかったのか、男達はいくらかふらつきながらもすぐに立ち上がった。
少女は頭を抱えて丸まっている。それでいい。すぐに終わる。
( #`.liil´)「魔法使いなんざぁ魔法使わせなければなんでもねえぜえ!!」
ξ#゚⊿゚)ξ「やってみろ。木偶」
坊主の男が拳を振り上げ、打ち下ろす。
空気がうなるほどのその一撃を、ツンは身体を回転し軽々といなした。
と、同時に男の腕とわき腹から血飛沫が上がる。
ツンの手にはいつの間にかナイフが握られていた。
かわしざまに腰からナイフを抜き、腕とわき腹を切りつけたのだ。
( ;`.liil´)「ひぎぃ!」
坊主の戦意喪失を確信したツンは残りの二人へ向き直る。
魔法すら使わず一人を倒して見せたツンの強さに僅かにたじろいだ二人だが
すぐに気を持ち直しツンを挟むよう陣形を取った。
ツンの隙を窺うよう、ジリジリと距離を測る。
ξ゚⊿゚)ξ (ブーツは……チィッ、後一回か……)
ナイフを逆手に構え、ツンも精神を研ぎ澄ました。
顔に火傷の痕がある男は小剣を、長髪の男は折りたたみのナイフを持っている。
小さなミスが致命傷に繋がりかねない。
- 13 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:32:49 ID:V/DExwpo0
-
彡ヾ゚只゚ミ !!
先に動いたのはツンの左に位置を取っていた長髪の男。
リーチを活かした遠間から胴を狙った突き。鋭く、疾い。
しかし、ツンはこれを読んでいた。
ツンのブーツが輝き、放たれた高速の右回し蹴りが男の手からナイフを弾き飛ばす。
驚きの顔を浮かべる暇も与えず、回転を活かした左踵の追撃が男のこめかみを打ちぬいた。
長髪の男は意識を失い壁にもたれるようにして倒れる。
これで残り一人。
< #"_ヾ> !
後ろから迫る気配を察知し、ツンは前方へ飛びのいた。
僅かに遅れて白刃が空を横に裂く。
反応が一瞬でも遅ければ首を削られていた。
ツンの背筋に冷たい汗が走る。
ξ゚⊿゚)ξ (こいつ、他の二人に比べたら)
体勢を立て直す所へ、男は間合いの広い踏み込みで突きを繰り出した。
咽を目掛けて迫った小剣を、ツンは辛うじてナイフで軌道を変えかわす。
互いに体勢を崩したところで牽制のナイフを一振り。
一歩踏み込めば間合いの距離で再び対峙する。
呼吸が乱れた。背後からの初撃が思いの外集中に響いている。
- 14 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:33:35 ID:V/DExwpo0
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ξ゚⊿゚)ξ (こんな雑魚に手間取ってられないわ)
再び目の前の敵に意識を集中。
気を乱さなければ勝てない相手ではない。
火傷の男もじりじりと回りながらツンの隙を窺っている。
大方痺れを切らせて魔法を使うのを待っているのだろうと推測。
ツンが最も早く発動できる魔法は約二秒の閃光魔法。
この間合いでは少々苦しい上に直接的な破壊力は皆無だ。
いくらツンが方向音痴の馬鹿娘でも、ここで魔法を使う選択は無い。
ξ゚⊿゚)ξ(こないなら、こっちから…!)
ツンが先手を打つため僅かに重心を下げたその時。
从;'ー'从 「危な〜い!!」
少女の叫びに反応すら出来ぬうちに、ツンは背後から二の腕を掴まれる。
首で振り返ると、
彡ヾ゚只゙ミ 「捕まえたぞクソアマァ!!」
伸したと思い込んでいた長髪の男が、血走った目で笑みを浮かべていた。
- 15 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:34:22 ID:V/DExwpo0
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ξ;゚⊿゚)ξ「ぬかった!」
彡ヾ゚只゙ミ「暴れても無駄ァ!力比べになりゃあ手前なんかに負けやしねえよ!」
< #"_ヾ> 「遅えよ。本気でやられるかと思ったぜ」
( ;`.liil´)「このおんなあ、俺の手と腹を斬りやがったんだぜえ。痛いぜえ」
ξ;゚⊿゚)ξ(っっべー!これマジでやっべー!)
彡ヾ゚只゙ミ 「どうするよ、こいつ」
ξ;゚⊿゚)ξ(こんなことになるならブーツに魔法仕込みなおしておけばよかった!)
< #"_ヾ> 「よく見ると上玉だ。コイツも連れて行こう」
( ;`.liil´)「でもやってる最中に魔法使われたらどうすんだぜい?」
< #"_ヾ> 「そんなもん…こうすりゃいいんだよ」
火傷の男が身動きの取れないツンの腹に拳を叩き込む。
ツンの口から唾液と胃液の混ざった液体が噴出した。
- 16 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:35:04 ID:V/DExwpo0
-
ξ ⊿゚)ξ 「…っの野郎」
< #"_ヾ> 「集中を乱しちまえば魔法なんか使えねえ。ちょろいもんだろ」
< #"_ヾ> 「ただ、手癖も足癖も悪いみてえだからな」
( ;`.liil´)「縛るか?ロープなんかないぜえ?」
彡ヾ゚只゙ミ「そんなもん必要ねえ」
長髪の男はツンを地面に伏せさせる。
足で背中を押さえつけ、ゆっくりとツンの腕を捻り始めた。
彡ヾ゚只゙ミ 「折っちまえばいいんだよ」
男達はツンに大して容赦しなかった。
ゆっくりと痛みと恐怖を与えながら腕を捻る。
ツンが攻撃を行ったことが、彼らの嗜虐性を増長させていた。
地面に押し付けられたツンの視界に、少女の怯える姿が映る。
ごめんね助けられなくて、と痛みの中で謝った。
あと数ミリも捻れれば、ツンの腕はぽっきりと折れるだろう。
- 17 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:35:46 ID:V/DExwpo0
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「そこまでだ悪漢共!!!」
.
- 18 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:36:28 ID:V/DExwpo0
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その声は、ツンが諦め、なけなしの抵抗をやめた瞬間に響いた。
男達の動きが止まり、腕にかかっていた力も緩む。
ツンは唯一顔の見える少女の目線で、声の主が道の先にいるのだと悟った。
(:::::::) 「何かいかがわしい気配を感じてきてみりゃあ、なんだこの状況は!!」
(:::::::) 「これを見て黙って見過ごしたら男が廃るってもんだぜ!!」
彡;ヾ゚只゙ミ 「ああああもう!!何なんだてめえは!っていうかなんなんだよ今日は!!」
長髪の男がツンの腕を放し激昂する。
腕は折れてはいないが引き伸ばされた痛みでしびれている。
背中に足が乗ったままのため反撃には出れないが、一先ず状況はマシになった。
ツンはここからどうするか思案しながらも。声の主を顔を見ようと顔を動かし向き直る
その男は、お世辞にも体格がいいとはいえなかった。
フード付きのマントを被り、具体的な顔形は見えないが、悪漢共と比べるとあまりに頼りない。
ただし、僅かに期待が出来るとするならば、その腰にある歪な膨らみだ。
ツンの予想では何かしらの武器。両脇にあることを考えると、二刀使いの双剣かもしれない。
並み以上の使い手ならば、手負いのこの三人程度楽勝のはず、と希望交じりの推測を立てる。
(:::::::) 「俺の名を聞いたか?」
(:::::::) 「いいだろう、答えてやるぜ!!」
男は大仰なしぐさでマントを脱ぎ去った。
腰にはやはり対の剣を差している。
- 19 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:37:23 ID:V/DExwpo0
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('A`) 「俺の名は、メランコリーズ=ロンリードック!!」
('A`) 「いずれこの世に名を馳せる大m……」
从*'ー'从 「山田さん!!!」
突然、少女が声を上げた。
三人の男も、ツンも少女に一瞬意識を向ける。
山田さんというからには人名だろうが、はて誰のことか。
男達の様子からしてこいつらの誰かではないし、双剣の男はランジェリーだかなんだかと長い名前だし。
というツンの疑問は、山田本人に解消された。
(;'A`) 「ちょっと!ワタナベちゃん本名で呼ばないでよ!!」
(;'A`) 「っていうか被害者ナベちゃんかい!!」
どうやらこのランジェリー山田と少女は既知の仲らしい。
ワタナベちゃんというのは話の流れからして少女のことだろう。
从*'ー'从 「そんなことどうでもいいから助けて山田さん!」
(;'A`) 「助けたらロンリードックって呼んでくれる?!ねえ!!」
- 20 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:37:44 ID:MFZrarJ20
- もうタイトルだけで爆笑した件
- 21 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:38:30 ID:V/DExwpo0
-
< #"_ヾ> 「畜生、次から次へと面倒な」
火傷の男が小剣を素振りしながら山田へ近寄る。
その足運びは山田を完全に舐めているものだった。
確かに彼は貧相な体つきで、腰の二刀も格好つけの飾りにしか見えない。
これならまだツンの方が強そうだ。
('A`) 「ん?大丈夫だ、こいつらくらいなら俺で十分だ」
< #"_ヾ> 「ゴチャゴチャ何言ってやがる。痛い目見たくなかったらさっさと……」
('A`) 「“我、孤独を求む者―――”」
< #"_ヾ> !?
山田の返答は魔法の詠唱だった。
('A`) 「“拒み、抗い、絶し、そして―――”」
< #"_ヾ> 「てめえ!!」
火傷の男はにわかに慌てだす。
ツン同様、腰の剣で山田を剣士だと思いこんでいたのだろう。
威嚇の姿勢から切り替え、腰を落とし小剣での一撃を振りかぶった。
- 22 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:39:28 ID:V/DExwpo0
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だが遅い。
否。山田の魔法式展開が速すぎるというべきか。
魔法を扱うことの出来るツンには分る。火傷の男の攻撃は間に合わない。
('A`) 「“汝を、否定する”」
< #"_ヾ> 「うおおおおおお!!」
淡々と唱えられた呪文が終わったその瞬間、山田の周囲の空気が陽炎のように揺らいだ。
火傷の男はその揺らぎに弾かれ、軽々と宙空を舞う。
元居た場所まで吹き飛ばされた男は地面に激突しピクリとも動かなかった。
上級の防御魔法だ。地味だが、強い。
恐らく弾かれた時点で意識は無かっただろう。
( ;`.liil´)「ぐ、ぐぬぬだぜえ」
彡;ヾ゚只゙ミ 「お、おい!早く行け!魔法使われる前ならいけるって!」
無理だ。ツンは口の端を上げた。
山田の展開している防御魔法は魔法力を注ぐ限り持続するタイプのものだ。
燃費は非常に悪いが、その分このような局地戦では絶対的な効力を誇る。
- 23 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:40:11 ID:V/DExwpo0
-
('A`) 「本来ならリンチなんてのは趣味じゃねえし、テメエらみたいな小悪党見逃してやるんだが」
( ;`.liil´)
彡;ヾ゚只゙ミ
('A`) 「レデーに手を出すとは言語道断。ぶちのめす」
その後は実に単純な展開だった。
自棄になり飛び掛った二人を山田がばいーんと弾き飛ばして気絶させ、それで終わりである。
('A`) 「けっ。これだからちょっと筋肉つけた野郎は、すぐ力に頼る」
魔法を解いた山田はツンに歩み寄り手を差し伸べた。
ツンは無事なほうの腕でその手をとり、立ち上がる。
('A`) 「腕、大丈夫か?生憎治療魔法は専門外なんだが」
ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫よ、ちょっと痛むだけで大したこと無いわ」
('A`) 「そうか、ならよかった」
从*'ー'从 「ありがと〜やまださ〜ん!!」
(;'A`) 「だからね!!」
* * *
- 24 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:40:59 ID:V/DExwpo0
-
その後、ワタナベの案内でツンと山田はVIP中心街の料理屋へ。
代金は礼も兼ねてツンが持つことになった。
ξ゚⊿゚)ξ 「へえ、それで知り合ったの」
从*'ー'从 「そうなんですよぉ〜」
丸いテーブルを三人で囲み、会話しながら食事を取る。
初対面ながら、出会い方にインパクトがあったため、話は弾んだ。
話を聞いて分ったのは、ワタナベが大陸の外れ、サゲの村に生まれた見習い魔法使いだと言うこと。
山田が人を探しながら流れの傭兵をやっている魔法使いだということ。
そして、二人が一週間ほど前、VIPから西の草咲シティで知り合ったということ。
从'ー'从 「今日みたいに絡まれているところを山田さんがたすけてくれたんです〜
ξ゚⊿゚)ξ「ほへー」
ξ゚⊿゚)ξ「ところで山田はさ、下の名前はなんていうの?」
从'ー'从 「たかお、ですよね〜?」
(;'A`) 「だから俺の名前は……もう……いいです……」
- 25 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:42:07 ID:V/DExwpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ「で、ドクオ、一つ聞きたいんだけど」
(;'A`) 「ドクオ?!ドクオって誰?!」
ξ゚⊿゚)ξ 「ロンリードッグたかお、略してドグオ。言いにくいから直してドクオ」
(;'A`) 「ええ…なんで助けた初対面のねーちゃんに雑な渾名つけられてんの……」
从'ー'从 「ドクオさんかぁ〜。いいやすい〜。なんか馴染む〜」
(;'A`) 「なんか独身男性みたいでやだな……」
山田ことドクオは軟骨唐揚げを苦虫のように噛み潰す。
ツンとワタナベはおススメといわれたオムライスを食べていたが、
ドクオは大五郎の水割りと鶏軟骨のから揚げを突いているだけだ。
小食なイメージをもたれやすい魔法使いだが、かなり体力を消耗するため大食いの者が多いのが実際だ。
ツンからすると上級魔法を使っておいて食事をまともに取らないというのは頭がおかしい。
ξ゚⊿゚)ξ 「でね、アンタの探し人って誰なの?」
('A`) 「え?」
ξ゚⊿゚)ξ 「知り合ったのもなんかの縁だし、特徴でも聞いておけばもしかしたら手伝えるかも知れないじゃない?」
('A`) 「んーっとなー」
- 26 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:43:22 ID:V/DExwpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ 「言いにくいの?もしかして女?」
('A`) 「…まあ、女と言えば女だな」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「ストーキング?」
('A`) 「よし。表に出ろふっ飛ばしてやる」
从*'ー'从 「どんな人なんですか〜?」
(;'A`) 「そんな興味もたれても……うーん、別に言ってもいいかな」
ξ゚⊿゚)ξ 「?別にいいわよ。言いなさいよ」
(;'A`) 「あ、いやそうでなくてね、いっか、別に」
ξ゚⊿゚)ξ 「?」
('A`) 「多分こう言えば一発で分ると思うんだけど、『魔女』」
ξ゚⊿゚)ξ 「「え?」」 从'ー'从
('A`) 「『魔女』を探してるんだ、俺たち」
- 27 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:44:17 ID:V/DExwpo0
-
オムライスの最後の一口を運んでいたツンのスプーンが止まる。
同じく、ワタナベも硬直し、ドクオの正気を窺うような目になった。
『魔女』。
本来は魔法を使う女性(およびその中でも特に能力の高いもの)を指していた言葉だが、
今はただ一人の女を表すための固有名詞と化している。
現代最強最悪にして、気まぐれで気侭で気難しい魔法使い。
「なんとなく」で地図から消した街の数は現時点で4つ。
一つにかかった時間は数時間にも満たなかったという。
人は言う。アレは魔女という名の、人の形をした天災だと。
ξ゚⊿゚)ξ 「……『魔女』がこの街にいるの?」
从;'ー'从 「ふぇぇ?!」
('A`) 「いや、そんなに怖がらなくていい。ここにはあくまで情報屋目的で来ただけだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「何でそんな物騒なもん探してんのよ」
('A`) 「ちょっとした因縁持ちでな」
- 28 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:45:03 ID:V/DExwpo0
-
ドクオは残っていたグラスを一気に呷り席を立った。
('A`) 「行こう。混んできたし、宿も探さなけりゃならない」
その言葉の通り、店の入り口には人の列が出来始めていた。
ツンとしては特別美味いとは思わなかったが、まあ人気店なのだろう。
手早く会計を済まし、店を出る。
大きな通り沿いのため街灯や立ち並ぶ店の明かりで明るいが、日はもう沈んでいた。
話をするのもいいが、宿を見つけなければならない。
が、
从'ー'从 「多分ここらの宿は埋まっちゃってるはずだから〜良かったらウチに来ませんか〜?」
というワタナベのありがたい提案にツンは乗ることにした。
ドクオは初めこそ遠慮していたが、「お礼をしたい」というワタナベの押しに負け同行を決める。
うら若い乙女の部屋に男をとめるのはいかがとも思うが、まあこの男の人柄なら大丈夫だろう。
(*'A`) 「お礼って…ナニをしてくれるって言うんです?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ふざけたこと言ってると未使用のまま切り落とすわよ」
(;'A`) 「みみみみみ未使用ちゃうわ!使いまくりじゃ!!」
こうして、ツンのVIP滞在一日目は、無事に幕を閉じることとなる。
- 29 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:45:46 ID:V/DExwpo0
-
おわりっす
思ったより短かったので二話は明日にでも投下するッす
私怨とかありがたいっす
- 30 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 22:50:25 ID:lDDykhU60
- 乙乙
好きな文体とテーマだ
- 31 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 23:11:33 ID:3ZbuNRqMO
- 面白いじゃないか。
過去作とかある?
- 32 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 23:20:44 ID:jodAWRuc0
- おつ
これは期待
- 33 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 01:24:37 ID:3FRvZ7xM0
- タイトルからどんなギャグだと思ったらwwww
乙。これは期待
- 34 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 09:27:02 ID:4uh8lCl20
- 乙
- 35 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:35:15 ID:APnc/dbM0
-
小鳥のさえずりでツン=ディレートリは目を覚ました。
上半身をベッドから起こし頭をポリポリとかく。
金色の髪が陽光の中でキラキラと揺れた。
ξ゚⊿゚)ξ 「ナベちゃーん?」
隣で寝ていたはずの家主、ワタナベの姿が無い。
ついでにもう一人の旅客、ロンリードッグことドクオも腰に差していた剣が無造作に置いてあるだけだ。
八畳ほどの部屋の中、存在を確認できるのはツンのみだった。
ξ゚⊿゚)ξ 「…買い物にでも行ったのかしら」
カーテンを開けてみると、日はまだ低い。
季節から考えてまだ早朝といえるだろう。
窓から見える町並みは、朝食のための買い物で出歩く主婦達の姿が見える。
ξ-⊿-)ξ 「うーっ、おしっこおしっこ」
ワタナベたちは買い物に行ったのだと結論付けトイレへ向かう。
久々の水道設備が整った宿だ。
ワタナベには少々申し訳ないが思う存分水洗トイレを堪能させて頂こ…………。
( ^ω^ )
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^ )「お、おはよう」
ξ゚⊿゚)ξ パタン
- 36 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:35:56 ID:APnc/dbM0
-
扉を開けたツンの目に飛び込んできたのは、便座に座り、大またを開いて用を足す男だった。
とても引きつった笑顔で挨拶をされたが返礼もせず扉をしめた。
挨拶よりも先に股間を隠して欲しかったというのが乙女としての本音だ。
じゃなくて。
ξ;゚⊿゚)ξ (誰?ナベちゃんの恋人かなんか?)
一人暮らしだと聞いていたので完全に油断していたが、そういう存在が居てもおかしくはない。
いや、他の客が泊まって寝てる間に恋人招くか?
トイレのドアノブを握ったまま、ツンは寝ぼけた頭を回転させる。
そのうちに水の流れる音がして、男が中から出てきた。とても気まずそうな顔だ。
トイレの真っ最中に扉を開けられた上、股間を凝視され、挨拶もスルーされたのだから当然ともいえる。
( ;^ω^)「ど、どうぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ「ど、どうも」
トイレに入り扉を閉めたが、便座に座る気にはなれずしばし棒立ちする。
結局彼は誰なのだろうか?空き巣がちょっと用を足していたとか?
疑問は絶えないが、ひとまず今やるべきことは一つだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「“不浄を憂う森林の精よ―――我に清らかなる空気を―――リフレッシュ”!!」
ツンは空気清浄化魔法を唱えた。
- 37 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:36:55 ID:APnc/dbM0
-
用を足し終えトイレを出ると、先ほどの男が気まずそうにソファーに座っている。
気の良さそうな男で体つきは普通。
特別悪人には見えず、ツンは少しばかり警戒を緩めた。
ξ゚⊿゚)ξ 「あの、えっと……」
( ^ω^)「一応はじめましてだお」
ξ゚⊿゚)ξ 「あ、うん。はじめまして」
( ^ω^)「僕はブーン=N=ホライゾン。君はツンちゃんだおね」
ξ゚⊿゚)ξ 「そう、だけど」
ツンは男、ブーンと少々距離をおいたまま椅子に座る。
ブーンという名には不思議と聞き覚えがあった。
昨日渡辺たちと会話している中でだったか、それ以前だったか、うろ覚えではあるが確かに聞いたことがある。
( ^ω^)「僕は、まあドッグの相棒みたいなもんですお」
ξ゚⊿゚)ξ「ドッグ?」
( ^ω^)「ああ、君のいうドクオのことだお」
- 38 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:37:59 ID:APnc/dbM0
-
なるほど、ドクオの相棒か、と一旦は納得。
それならばここに居る理由も合点がいく。
ツンの名前を知っていたのも恐らくワタナベかドクオに紹介されたのだろう。
初対面が寝顔だったかもしれないというのはやや不満ではあるが。
ξ゚⊿゚)ξ「そうだ、一ついいかしら」
( ^ω^)「お?」
ξ‐⊿‐)ξ「トイレ、入ってる時は鍵を掛けたほうが、いいと思う」
( ^ω^)
ξ;‐⊿‐)ξ
( ^ω^)「僕からもひとついいかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ん?」
( ^ω^)「年頃の娘が、不意にとは言え男の股間を凝視するもんじゃないお」
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^)
ワタナベちゃん早く帰って来て。
二人は切にそう思った。
- 39 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:39:05 ID:APnc/dbM0
-
ワタナベが帰宅したのはそれから10分ほど経ってのことだった。
沈黙に耐えかねたツンが顔を洗い、ブーンがドクオの剣の手入れを始めた矢先だ。
タオルで顔を拭いながら確認するとワタナベ一人だけでドクオの姿は無い。
从'ー'从 「ただいま〜」
ξ゚⊿゚)ξ 「「おかえり(だお)」( ^ω^ )
从'ー'从 「あれれ〜?ブーンさんになっちゃったんですか〜?」
( ^ω^)「うんお。ドッグはちょっとやすむってお」
ξ゚⊿゚)ξ 「?」
从'ー'从 「そっか〜じゃ、とりあえずご飯すませちゃいましょうか〜」
ワタナベが手に持っていたバスケットをテーブルに置いた。
中にはミルクの缶と焼き立てらしいクロワッサンが入っている。
ワタナベに勧められるまま、ツンはクロワッサンに噛みつく。
ふわりと柔らかい生地。香ばしいバターの香りが鼻をくすぐった。
噛めば噛むほど嫌味のない優しい甘みが口内を満たし、ツンは幸福に包まれる。
ワタナベがミルクを注いだグラスを差し出してくれた頃には、既に一つを食べ終えてしまう。
それほどに美味いクロワッサンだった。
- 40 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:39:56 ID:APnc/dbM0
-
ξ*゚⊿゚)ξ 「もう一ついい?」
从'ー'从 「どうぞ〜。おいしいですよね〜」
( *^ω^)「ハムッハフッ。うふぇえお。ふぉれぼぉこのパン屋だお?」
从'ー'从 「通りを西に行ったところにあるイトールパン工房って言うお店ですよ」
ξ*゚⊿゚)ξ(あとで買いに行こう)
三人でテーブルを囲み黙々とパンを食べる。
バスケットの中には四人分ほどのクロワッサンがあったが、少しした頃には全て食べきられていた。
( *^ω^) 「げふー」
主に、ブーンが食ったわけだが。
それにこの男、クロワッサンを食い漁ったばかりではない。
从'ー'从 「はい、ブーンさん大五郎ですよ〜」
( *^ω^)「ありがとうだお〜」
朝っぱらから大五郎(焼酎の銘柄のこと。この場合はカップタイプを指す)だ。
まさか日ものぼりきらないうちから
( *^ω^)「ふぃ〜生き返る〜」
こんな有様だとは、少々人格を疑う。
ツンは禁酒委員会とその支持団体を忌み嫌っているが、酒乱も同じくらい嫌いだ。
- 41 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:39:59 ID:lanh90I.0
- うおお支援
好きだ
- 42 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:40:37 ID:APnc/dbM0
-
( ^ω^)「お、なにかいいたそうだおね」
ξ゚⊿゚)ξ「…別に。朝から酒を飲むなんて、って思っただけ」
( ^ω^)「おー、ちょっとわけありなんだお」
朝から酒を飲まなければいけない訳という奴を問い詰めてみたかったが
酔っ払いの戯言に付き合うのも馬鹿らしいとため息一つでこの話題を終わりにした。
と、ここで改めてツンはもう一人の男を思い出す。
ξ゚⊿゚)ξ 「そういえば、ドクオの分は取っておかなくて良かったの?」
( ^ω^)「?…あ、そうか」
ξ゚⊿゚)ξ「?」
从'ー'从 「ツンさんはしらないですもんね〜」
ξ゚⊿゚)ξ 「??」
( ^ω^) 「えーっと、「なに言ってんだコイツ」って思わないで聞いて欲しいんだけお」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
( ^ω^)「ドクオは僕なんだお」
ξ゚⊿゚)ξ
なに言ってんだコイツ。
- 43 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:41:40 ID:APnc/dbM0
-
从;'ー'从 「ブーンさんそれじゃ分んないですよ〜」
( ;^ω^)「おー、いっつもドクオに任せてたから上手く説明できないお…」
从'ー'从 「ドクオさんに代わってもらったらどうです〜?」
( ^ω^)「そうだおね、ちょっと待って欲しいお」
一体なんだって言うんだ。
ツンは疑惑に満ちた目でブーンを窺う。
ブーンは目を瞑り、何か考え事でもするように動かない。
余りに動かないものだから、服に付いた先ほどのクロワッサンの食べかすが目に付いた。
元から綺麗なシャツではなかったが、こんなにカスをつけてみすぼらしいとため息をつきかけたところでツンは気付く。
それを確かめるため、椅子に座ったまま上半身を倒しブーンの下半身を覗いた。
やはりだ。このブーンという男、服だけでなくベルトやブーツなども、ドクオと同じものを身に付けている。
そこから導き出される答えは……
ξ;゚⊿゚)ξ「ゲイカップルの……ペアルック?」
('A`) 「誰がゲイカップルじゃ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「イタッ」
ドクオに頭を叩かれた。
そう、ついさっきまでブーンが座っていた場所に座っているドクオに、ツンは鋭い突込みを受けたのだ。
- 44 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:42:44 ID:APnc/dbM0
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「???」
('A`) 「せっかくわざわざ変わってやったのに、肝心の瞬間を見てねえんだから」
ξ;゚⊿゚)ξ
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すわ!
|i i| }! }} //|
|l、{ ツン j} /,,ィ//| 『私はブーンの前で話を聞いていたと
ξi|:!ヾ、_ノ/ u {:}/ξ、 思ったらいつのまにかドクオの前だった』
ξ|リ u' } ,ノ _,!ヘξ |
_,ξfト、_{ル{,ィ'eラ ,ξ人 な… 何を言ってるのか わからないと思うけど
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ 私も何が起きたかわからなかった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ 催眠術だとか魔法だとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃ 断じてないの
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ…
(;'A`) 「ちゃんと説明してやるからその雑な顔やめろ」
- 45 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:44:12 ID:APnc/dbM0
-
('A`) 「俺とブーンは本来まったく別の個人だったんだが、魔法によって融合させられている」
ξ゚⊿゚)ξ 「キメラってこと?それにしては…」
('A`) 「そう、一般的な融合とはかなり違う。存在の同一化、ってとこだな」
('A`) 「細かいことは俺達にもわからないんだが」
('A`) 「一つの身体で、「('A`)優位の状態」と「( ^ω^)優位の状態」がある、というと分りやすいかな」
ξ゚⊿゚)ξ 「今は、そのドクオ優位の状態ってこと?」
('A`) 「そう。ちなみに俺は魔法を使える変わりに、力が弱くて格闘戦は無理なんだけど」
( ^ω^)「僕優位に切り替えれば、力が強くなって剣を扱うことが出来るんだお」
目の前のドクオが、一瞬でブーンに変貌する。
僅かな煙を伴うだけで音も光も無い。
正直、かなり心臓に悪かった。
ξ゚⊿゚)ξ 「…へえ、結構便利じゃない」
('A`) 「いやいや、元は二人なんだから不便のほうが多いよ。それに、」
ドクオに戻り、大五郎を一口。
ああ、とおっさん臭い息をもらした。
- 46 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:46:16 ID:APnc/dbM0
-
('A`) 「あくまで、優位の状態であって、完全な「俺」ではないんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「……!そっか。魔法の素養が異なるブーンが混ざってるって事は」
('A`) 「そ、俺本来の魔法の性能が引き出せないんだよ。魔法力が劣化しちゃってるからな」
( 'ω`)「それ言ったら僕もだお。体が弱くなっちゃって、ちょっと無理するとすぐ筋肉痛だお」
从'ー'从 「なんかころころ変わっておもしろ〜い」
ツンはワタナベほど気楽には見られない。
目の前でポコポコ姿を変えらるこの状態はどうにも慣れないのだ。
それに、こんな意味不明な融合の仕方、上級の魔法使いでも出来るかどうか。
ξ゚⊿゚)ξ 「そんなでたらめな魔法、誰にかけられたのよ」
そう言いつつも、ツンの中で予想は出来ていた。
不受理にしか見えない奇想天外な魔法を扱えるものはそう多くは無く、
そのうちの筆頭を昨日ドクオ本人の口から聞いたばかりだ。
('A`) 「んまあ、昨日も言ったばっかりだけど」
('A`) 「『魔女』、だよ」
やっぱりね。
心の中でため息のような悲嘆のような呟きを零し、ツンはミルクに口をつける。
少しぬるくなったミルクはほんのりとした甘みを残して咽の奥に消えていった。
* * *
- 47 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:47:05 ID:APnc/dbM0
-
ワタナベの家を出たツンはドクオ達と別れ目的の場所へと向かっていた。
道に迷わないように地図に分りやすいルートを書き込んでもらったので今日こそは大丈夫だろう。
ツンの目的地は、VIPシティの中心地にある大手酒造会社、『大五郎酒造』の本社。
酒類根絶法が敷かれて以降、唯一飲用のアルコールを販売している会社である。
さらには根絶法による取締りを担当する「禁酒委員会」の弾圧に対抗するために
私設の軍隊を保有しており、反体制の自治組織の印象も世間一般には多い。
VIPシティが繁華街としてとして有名なのは、こうした大五郎酒造の庇護の下、
酒を安心して飲めるからというのが大きな理由の一つだ。
※尚、酒類根絶法とそれにまつわるエトセトラは、長くなるためまた後々解説を加えるが
実際のところでは
「酒飲んじゃダメな法律がある」
「その法律を推進する国家権力がいる」
「それに反抗して軍まで作った大五郎マジパネェッス」
程の認識でなんら問題ない。
ξ゚⊿゚)ξ 「さてと、ついたわね」
ツンは、目の前の建物を見上げた。
一見すれば教会のようにも見える建物だが、掲げられた「大五郎」の看板を見れば馬鹿でも違うと分る。
更に、地面や壁を構成する大理石。
建物そのものもかなり大きく、教会よりも城と言った方が言いえているかもしれない。
- 48 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:48:32 ID:APnc/dbM0
-
ξ゚⊿゚)ξ 「さーてと、志願兵はどこに行けばいいのかしら」
ツンの目的は、大五郎酒造の私設軍に入り力をつけること。
そして、いずれは……
一呼吸置いて、ツンは扉を押し開ける。
滑車付きのため見た目の割りに開きやすい扉だった。
中は広々としたホールになっている。
壁や床の材質はやはり大理石。
そこに深紅のじゅうたんが引かれ、その先に受付と思しきカウンターがあった。
『从'ー'从「近くまで行けば馬鹿みたいに大きい建物があるんで〜すぐ分ると思います〜」』
ワタナベの言葉は嘘ではなかった。
むしろ足りないくらいだとさえ思う。
玄関広間ですらこの無駄な広さ。
ここはなんだ。城か。王さま気取りか。
嫉妬由来の理不尽な怒りに燃えるツンを差し置いて、受付に二人の女が現れる。
ミセ*゚ー゚)リ 「お早うございます」
(゚、゚トソン 「本日のご用件は何でございましょう」
これが噂に聞く受付譲というやつか。
なんか上品なかっこして気に食わないから思いっきりいびってやろう。
そんな猫の額ほどの心をもって、ツンはカウンターに歩み寄った。
* * *
- 49 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:49:38 ID:APnc/dbM0
-
日が傾きかけていた。
大きなショウウィンドウから差し込む日の光はとても穏やかでうたた寝を誘う。
('、`*川 「今日はひまねえ」
イトールパン工房の女主人、伊藤ペニサスは精算台に肘を付いてため息をついた。
近くに大型の量販店が開いて以降、どうも客足が芳しくない。
製品の質は変わらない、むしろ向上すらしているのに売り上げが伸びないとなると、
色々と考えなければいけない時期かも知れない。憂鬱な思考に頭も瞼も重い。
一組、馴染みの老夫婦が食パンを一斤買っていったが、再び店内は無人になる。
ため息をつくと幸せが逃げるというが、ため息の止まらないこと自体が不幸ではないのか。
無料で配っているパンの耳を齧る。
美味い。
ほんのりと焦げた香ばしい風味に、上質な小麦と天然の酵母が織り成す自然な甘み。
相変わらずウチの旦那はいい仕事するわあ、と妙に嫌味臭い独り言がもれた。
('、`*川 「あら、いらっしゃい」
((( ^ω^)
新たな客は少々丸みお帯びた顔の、どうにも覇気に欠ける男だった。
地なのかパンを目の前にした喜びなのか分らないが、妙にニコヤカな表情をしている。
('、`*川 (旅の、剣客か)
男のマントの隙間から見えた業物の剣。ここいらの物でなく、大陸の端からの渡来品のようだ。
そん所そこらの物好きが手を出したにしては、拵えが玄人好み。
- 50 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:50:23 ID:APnc/dbM0
-
男は購入用のトレーにぽんぽんとパンを載せていく。
どうも一般的な量では無い。
クロワッサンからジャム入り菓子パン、バケットにブールも。
比較的多種類のパンを扱っているイトールパンではあるが、ここまで幅広く買う客は始めてだ。
( *^ω^)「うふふ……」
('、`*川 「毎度。随分買うのね」
( *^ω^)「おっおー。ちょっとお世話になった女の子にお礼も兼ねてだお」
('、`*川 「あらあら、ウチはプレゼント包装の類はやって無いんだけど」
( *^ω^)「そんなんいらんお。パンは美味ければそれだけで素敵だお」
これだけホクホクとした表情で言われると嬉しいものだ。
売り上げとしてもかなり貢献してくれているし、意外といい男かもしれない。
会計を済ませ、専用の紙袋にパンを詰めていく。
何しろ量が量なので時間がかかる。
忙しい時間ならゴミ袋に放り込んで渡していたかも知れない。
('、`*川 (ほんと、暇でよかったわ〜)
自分で言って虚しくなったが、気にしない。
人生何事もプラス思考だ。
- 51 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:51:07 ID:APnc/dbM0
-
( ^ω^)「お?」
男が間抜けな声を上げる。
丁度最後の一つを袋に詰めたところだったので、ペニサスも顔を上げた。
男の言わんとすることは分る。外がなんだか騒がしいのだ。
('、`*川 「何かしらね?」
( ^ω^)「この街は揉めごと多そうだおねー」
('、`*川 「大五郎のお陰で、血の気の多い馬鹿が集まってくるからね」
( ^ω^)「おー、そんな迷惑な奴らとは関わり合いになりたくないおー」
男がそういった瞬間、店の前を一人の女が走り抜けて行く。
一瞬だったのでよく見えなかったが、まだ若く、美しい金色の髪を二つに縛っていたようだ。
その後ろを屈強な男達が追って行く。あれは、大五郎酒造の憲兵の制服だ。
怒り狂った雄牛のように、荒々しい足音が周囲に響いた。
('、`*川 「あらあら、なんか大変そう」
のんきに呟いたペニサスとは対照的に、男は外に目を向けたまま固まっている。
どうやら、本人の望みと違い、関わりのある人間だったらしい。
- 52 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:52:16 ID:APnc/dbM0
-
( ;^ω^)「ああん!もう!」
男が跳ねるように店を出てゆく。
買ったパンをどうするのか、と訪ねる間もない。
顔の割りに俊敏な、犬を思わせる動きだった。
走り去った女と男達を追って、視界の外へ。
店の中に残ったのは、今通り過ぎた嵐の余韻と、男が置いていったパンの山だけだ。
工房] ゚∋゚) ヒョコッ
店の奥の工房からペニサスの旦那が現れる。
騒がしさが気になって出てきたようだ。
工房] ゚∋゚)?
('、`*川 「なんでもないわ。パン結構減ったからサボってる暇ないわよ」
工房] ´、三 ピャッ
ペニサスよりも頭二つ大きい身体の癖に妙に俊敏に、旦那は奥へ戻っていった。
再び店内はペニサス一人。
('、`*川 「今日も平和ねえ」
その呟きを聞くものはおらず、ただただ日の光の中に融けていった。
* * *
- 53 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:53:22 ID:APnc/dbM0
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「ぬぬぬぬかったー!!」
ツンがVIPシティに来てから二度目の揉め事だった。
頻度で言うと一日一回。愚痴を漏らしたくもなるが今回は自業自得なのでぐっと我慢する。
そしてまたもや袋小路の行き止まり。
なんだこの街は。そんなにピンチを演出したいのか。クソが。
もうちょっと街づくりを考え直せ。時代はバリアフリーだぞ。クソが。
思いつく悪態すら少々頭が悪かったが、追い込まれて余裕が無いからだと弁明したい。
相手は五人。しかも昨日のごろつきよりも強い。
( 0言0)「観念しろそこの女!!」
リーダーの一人が息荒くツンに近づく。
手に持った小ぶりの斧が怪しく光る。投げても使える汎用性の高いものだ。
( 0言0)「天下の大五郎本社で魔法ぶっ放したんだ!覚悟は出来てるんだろうな!!」
そう。少々止む終えない(もといクソしょーもない)理由でツンちゃん大爆発in大五郎本社してしまったのだ。
それで大五郎に雇われている末端の傭兵に追われているというわけである。
大人しく逃げればよかったのだが、ついつい二人ほどぶっ飛ばしてしまったのでより厄介なことに。
非常にご立腹の様子の傭兵さん達は、さすが天下の大五郎に雇われているだけあって相当に強い。
二人伸す事が出来たのはあくまで奇襲だったから。
そして奇襲だったからこそ残りの彼らは余計に怒髪天。
ああ、何故この世の中はこんなにも上手く行かないのか。
- 54 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:54:26 ID:APnc/dbM0
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「やるっきゃないか!」
試しに魔法式の展開をこっそりと始めてみる。
魔法に詠唱はつき物だと思われているが、あくまで集中を高めるためのものであり絶対ではない。
詠唱ありの場合に比べると精度も速さもいまいちになるので出来れば使いたくなかったが
昨日格闘で不覚を取ったばかりなのでちょっと無理やり魔法を使ってみる。
しかし、これも上手くはいかない。
( =(l)ェ(l)) 「魔法を使う気だみゃー!!」
という仲間への注意喚起と共に投げナイフが放たれた。
ナイフ自体はかわすことが出来たが、お陰で展開途中だった魔法式は瓦解してしまう。
残りツンが頼りに出来るのは腰の後ろに差したコンバットナイフと、ブーツのみ。
ブーツには風の魔法がかけてあり、回数限定ではあるものの何の予備動作もなしに発動できる。
夕べ仕込みなおしたが、逃げる過程で二度使ってしまったので後二回。
数秒に満たない発動時間では五人を倒すことは無理だ。
魔力をケチらずにもっと上等な魔法を仕込んでおけばよかったと後悔する。
ξ;゚⊿゚)ξ (これ完全に詰んだわ)
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ (ツンちゃんだけにツンだわ)
くだらないことを考える余裕は辛うじて残っていた。
- 55 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:55:15 ID:APnc/dbM0
-
ナイフを構え威嚇してみたが、憲兵たちはジリジリと歩み寄ってくる。
一対一ならば何とかなりそうな相手ではあるが、向こうに数の利がありすぎる。
それに加え統率の取れた憲兵だ。連携に大きな穴は無いだろう。
ツンの背中が壁につく。完全な行き止まりだ。
対して憲兵達は互いにある程度間を取ってツンを追い詰めてきている。
一気に飛び越えて逃げることも、瞬時に倒すことも不可能な間隔。
ξ;゚⊿゚)ξ 「くっそー」
( ^ω^)「ピンチだおねえ」
ξ;゚⊿゚)ξ「うっさいわね!他人事だと思って!!」
ξ;゚⊿゚)ξ
( 0言0)
( ^ω^)「おいすー」
ξ;゚⊿゚)ξ 「きゃっ!」
( ;0言0)「な、なんだてめえ!!」
( ^ω^)「おー、この子の知り合いみたいなもんかおー」
- 56 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:55:55 ID:APnc/dbM0
-
ツンの隣に、いつの間にかブーンがいた。
気配も姿も声をかけられる瞬間まで気付かなかった。
憲兵達もそれは同じようで、先ほどまでの余裕が無くなり動揺が見て取れる。
( 0言0)「くっそ、仲間の魔法使いか!」
( ^ω^)「おーん?ブーンは魔法なんか使えないお」
ξ;゚⊿゚)ξ「あんた、いつの間に……」
( ^ω^)「ちょっと気配を消して来ただけだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「んなアホな!」
( 0言0)「チッ。何だか良くわからねえが人数はこっちが有利だ、やっちまうぞ!」
( ;^ω^)「えっ?ちょまっ!僕は話し合いを……!」
正に問答無用。まったくもって戦う意思を見せていないブーンに対し斧が振り上げられる。
峰打ちのつもりのようだが、当たれば無事には済むまない。
勢い良く振り下ろされた斧の先から、ブーンが消えた。
ツンも、斧の男もその他の憲兵達もその動きを目で追う事は叶わない。
男の斜め背後に現れたブーンの右手には片刃の剣が握られている。
- 57 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:57:18 ID:APnc/dbM0
-
声も無く斧の男が倒れた。
切り傷の類は見当たらない。打った音すら聞こえなかったが峰打ちだったようだ。
(;=(l)ェ(l))「みゃー!!」
予備動作無く素早く放たれるナイフ。
ブーンはそれを難なく左手で掴み
( ^ω^)「返すお」
鋭く投げ返した。
ナイフは柄から飛んで行き、猫目の男の眉間にぶち当たる。
これまた、声も無く失神。
たった数秒の間に、返し技のみで二人を倒してしまった。
( ^ω^)「僕の名はブーン=N=ホライゾン。この子に何か非礼があったなら謝罪するお」
( ^ω^)「だからこれ以上荒事はやめて欲しいお」
ツンは、ブーンの名前に何故聞き覚えがあったのかを思い出した。
双刀使いの剣客ホライゾン。通称「オルトロス」。
速く剛くそして容赦なく。その強さは最早人間ではなく、魔犬の如く。
魔女の討伐に狩りだされ死んだ、と伝えられていたが、それは少々違ったということか。
余りにかけ離れた印象だったのでまったく気付かなかったが、間違いない。
この目の前にいる男こそ、噂に聞く百戦錬磨の傭兵だったのだ。
- 58 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:59:12 ID:APnc/dbM0
-
きょうはここまでっす
なんか酒類なんたら法のあたりが有川浩先生の「図書館戦争」のあれこれに似ていることに今更気付いたんですが
物語上で役割は似てないんで大丈夫だと思うっす(震え声)
過去作は無いわけでないんだけど態々言うほどのもんでもねーので秘密ッす
- 59 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:01:16 ID:APnc/dbM0
-
忘れてた
RESTさんがまとめてくれたみたいっす
ありがとうございます
REST 〜ブーン系小説まとめ〜
http://boonrest.web.fc2.com/genkou/daigoro/0.htm
- 60 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:03:54 ID:erFOWEZw0
- 乙です
キャラのとぼけた感じとかちょっとした所作の描写とか好きだ
次も期待
- 61 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:26:21 ID:IggVjQoQ0
- 投下お疲れ様です
面白いです! これからも楽しみにしています!
まとめたRESTなんですが、今のまとめ方のように一度の投下で一話、二話と区切っていって問題ないでしょうか?
それと、もし誤字脱字があればこちらも修正しますのでお気にせずに言ってくださいね
- 62 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:33:11 ID:APnc/dbM0
- >>61
話数こそ書いてませんが区切りを考えて書いているので、今の形でまとまめて頂けるとありがたいです
丁寧にありがとうございます!
- 63 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 09:01:22 ID:ct0SyNWw0
- 乙乙
ツン可愛いよツン
- 64 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 18:14:38 ID:7xcGP1eg0
- ツンのキャラがいい
- 65 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:02:21 ID:1MvCTUhA0
-
開店前の酒場は薄暗い。
天気に関わらず雨戸を閉めているため日の光が入らないのだ。
店主ショーン=バーボンはグラスに大五郎(焼酎の銘柄。度数25)を注ぎ、そっと口に流し込む。
正に酔うためだけの酒という味。
酒類根絶法なんてものが敷かれる前はもっと多種多様な酒を楽しむことが出来たというのに。
なんと虚しい時代だろうか。
想えば懐かしい。
グラスに満ちた琥珀色のバーボン。
歳を重ねた老人を思わせる奥深い樽の匂い。
そっと唇を濡らすように呷り、口の中を香りで満たす。
それだけで世間のあらゆる苦悩がじんわりと体から溶け出していくようだった。
大五郎を悪しき酒とは言わない。
この酒にはこの酒なりの良さと楽しみ方がある。
問題は、これ以外の選択を許されない今の環境だ。
酒類根絶法を推進し飲酒を取り締まる禁酒委員会は勿論のこと、
自社以外の酒類を認めず、新たな酒を生み出そうともしない大五郎酒造もショーンにとっては憎らしい。
そんなことを口にすれば、副業程度の営みとはいえど酒場などやっていけないわけだが。
(´・ω・`) 「……入る時は、ノックをして欲しいと何度言ったら分る」
ショーンはグラスをカウンターに置き、天井をにらみつける。
そこには、薄暗闇の中、天井に四足で張り付く人影があった。
- 66 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:03:54 ID:1MvCTUhA0
-
( ゚д゚ ) 「それはおかしな話だ。拙者は間違いなく屋根をノックした」
( ゚д゚ ) 「お前の小言を聞きたくないがために四度もだ。お陰で手が痛くてたまらん」
人影、男がくるりと猫のような身のこなしで床に降り立つ。
鳴りやすい床にも関わらず、軋みも衝撃音も無い。
まるで綿が落ちたかの様に静かな着地だった。
(´・ω・`) 「まず根本的な問題から提起しよう。この店の屋根に入り口は無い」
( ゚д゚ ) 「その問題に答えよう。拙者にとって、屋根であろうと壁であろうと入り口足り得ない場所など無い」
(´・ω・`) 「……」
( ゚д゚ ) 「否。あえて言おう。入り口だけは、拙者にとって入り口足り得ない唯一のものだ」
この男の名は、ミルナ=スコッチ。ショーンの仕事仲間の「忍者」である。
どこかの谷にある名も無い村の出身で、腕は確かだがどうにも癖が強い。
少なくとも「常識を持った人間」として応対することが不可能だと学習している。
特に多いのは、妙な場所からの侵入。
この男と室内で待ち合わせをしようものなら確実に入り口を一つ増やされてしまう。
その上「同じ入り口は二度と使わない」というポリシーを持つので、会った分だけ増えるのだ。
雨漏りが酷かったので業者を雇い屋根を補修したばかりなのだが、失敗だった。
- 67 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:04:58 ID:1MvCTUhA0
-
( ゚д゚ ) 「それよりも、ビジネスの話をしよう。急ぎだと聞いている」
(´・ω・`) 「なにか分ったのか?」
( ゚д゚ ) 「非常に申し訳ないが、この目で確かめるまではたどり着けていない」
(´・ω・`) 「そうか……」
( ゚д゚ ) 「ただし、目撃情報は手に入れた。二日前のものだが、最も鮮度が高い」
(´・ω・`) 「それは?」
( ゚д゚ ) 「サロンシティ。噂では、禁酒委員会の先遣支部に出入りしているとか」
(´・ω・`) 「サロン……禁酒委員会が最近手を出し始めた街か……」
(´・ω・`) 「……分った。とりあえずはこれで十分だろう。これは報酬だ」
( ゚д゚ ) 「あり難い。では拙者は別の仕事へ参る」
ミルナは手を合わせ小さく礼をして、天井に向かって飛び上がった。
ショーンが見上げた時には既にその姿は無い。
(´・ω・`) (屋根、また直さないとな)
もうすぐ雨季が来る。
ため息を吐きながらショーンは残りの大五郎を呷った。
* * *
- 68 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:05:45 ID:1MvCTUhA0
-
( ^ω^) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
* * *
( ^ω^)「……」
ξ#゚⊿゚)ξ「……」
* * *
( ^ω^)「……」
ξ#゚⊿゚)ξ「……ッ!!」
( ;^ω^)そ
ξ#゚⊿゚)ξ「遅い!!『少々お待ちください』って言っておきながら一時間も待たせるってどうなの!?」
( ;^ω^)「いやぁ、むしろ非礼を詫びに来ておいてその態度がどうなんだお…」
ξ#゚⊿゚)ξ 「それとこれとは別の話よ!」
ツンとブーンの二人は、前日のツンちゃん大爆発事件の謝罪のため大五郎本社へと来ていた。
再びの揉め事を覚悟していたブーンだったが、受付で名を名乗るとあっさりと応接室へ通され、今に至る。
剣を握る必要が無かったのはありがたいが、どうにも嫌な予感がするというのが、ブーンの内心だった。
- 69 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:06:40 ID:1MvCTUhA0
-
( ^ω^)「何でこんなあっさり通されたんだお……?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そりゃ、アンタが『オルトロス』だからでしょ」
ブーンは界隈で畏れられる凄腕の傭兵だ。
双刀を扱うことから双頭とかけられ、神話上の魔物「オルトロス」という異名がついている。
偽称している可能性もあるが、彼の強さをその目で見たツンとしては疑う気はしない。
まあ、この顔( ^ω^)で「魔犬(オルトロス)」とか言われても冗談か嫌味に見えるが。
恐らくこの異名をつけた人間は本人を見たことが無いのだろう。
ツンなら「ストロングぽっちゃり」とか「ニコヤカ殺人マシーン」とか、そんな名前にしていたと思う。
( ^ω^)「おーん、別に雇われに来たわけじゃないし、こまっちゃうお」
ξ#゚⊿゚)ξ「……えい!」
( ;゚ω゚)「おいたー!何すんだおいきなり!!」
ξ゚⊿゚)ξ「私一人だと門前払いだったのに、アンタいるだけであっさり通されて、改めてムカついた」
( 'ω`)「おーん、なんという理不尽」
ξ゚⊿゚)ξ「にしても、いくら多忙とはいえ遅すぎね。ツンちゃんまた大爆発しそう」
( ^ω^)「ちゃんと反省してんのかコラ」
- 70 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:07:49 ID:1MvCTUhA0
-
ブーンがやや本気を出したのでツンは唇を尖らせつつも大人しく黙る。
手持ち無沙汰になりツンは応接室の中で視線を巡らせた。
ツンとブーンの座るフッカフカのソファーと、膝の高さのテーブルを挟んで一人がけのソファーが二つ。
壁は漆塗りの光沢ある木貼りで、そこに意匠を凝らしたランプが等間隔に並んでいる。
床には臙脂色の絨毯。これがまたふわふわとしていて気持ちがいい。
天井はガラス張り。
向こう側は白い壁が斜めに被さっていて、反射した太陽光が柔らかな印象に変わり室内を照らしている。
通されてから何度も見てはいるものの、ついつい見てしまう。
高級ではあるが、派手では無い。
待たされている状況さえなければ非常に居心地がいい場所だ。
あまりにも待ちかねてツンが手の皺を数え始めた頃、応接室の扉が開いた。
部屋に通されてから実に一時間半は経っている。
_、_
( ,_ノ` )y-~ 「待たせてすまなかった。社長の渋沢だ」
この高級感漂う会社の社長にしては、どこかやさぐれた男だった。
手に持ったタバコは街中で売っているような安物で、もうフィルター近くまで吸っている。
渋沢は傍らについてきた秘書らしき女の持つ灰皿にタバコを押し付け、手を差し出した。
ブーンは立ち上がりその手を握る。
ツンは立ちはしたものの、渋沢の目にブーンしか映っていない事を確認して少し臍を曲げた。
- 71 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:09:49 ID:1MvCTUhA0
-
( ^ω^)「ブーン=N=ホライゾンですお」
ξ゚⊿゚)ξ「ツン=ディレートリ」
_、_
( ,_ノ` )y 「まあ、かけてくれ。気楽にしていい」
言葉に従いソファに腰を下ろす。
渋沢もブーンの向かいに腰をかけると秘書を下がらせた。
( ^ω^)「昨日はこの子が迷惑かけて申し訳ありませんでしたお」
何より先にブーンが頭を下げる。
ツンもむっすりとしたまま、小さく頭を下げた。
それを見て渋沢は快活な笑い声を上げる。
_、_
( ,_ノ` )y 「まさか、オルトロスのつむじをこんなにあっさり見られるとはな」
_、_
( ,_ノ` )y 「その件についちゃ、むしろこっちが謝らせてくれ」
そう言うと渋沢がテーブルに頭をつけた。
ブーンよりも深く頭を下げている。
これに、ブーンは勿論、ツンも面食らう。
( ;^ω^)「ちょっと、頭を上げてくださいお!」
ξ;゚⊿゚)ξ「そ、そうよ、私がかんしゃく起こしたのが悪かったんだし……」
_、_
( ,_ノ` )y 「いいや、そうもいかねえ」
- 72 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:11:05 ID:1MvCTUhA0
- _、_
( ,_ノ` )y 「話を聞いてみりゃ、私設兵に志願してくれたそのお嬢さんを
ウチの社員が実力も見ずに追い返そうとしたって言うじゃねえか」
_、_
( ,_ノ` )y 「若かろうが女だろうが、戦士には一端の誇りってもんがある」
_、_
( ,_ノ` )y 「それを貶すようなことしたんじゃ、魔法の一発くらい、かまされて当然だ」
ξ゚⊿゚)ξ´、
_、_
( ,_ノ` )y 「ツンさんって言ったな、ウチの下っ端が本当に失礼な真似をした」
再びの深い謝礼。これには怒髪ツンツク天だったツンも逆に気おされてしまう。
この街を牛耳っていると言っても過言ではない男がこうも頭を下げるとは、不意打ちだ。
渋沢が顔を上げ、その生気の滾る目でツンを見据えた。
その眼力に、少し照れて俯いてしまう。
_、_
( ,_ノ` )y 「どうもウチの奴らは、会社がちょっとでかくなったくらいで偉くなったと勘違いしちまっててな」
社長であるとか、キッチリとした地位にあるとは思えない砕けた態度。
ツンの中にあった成金社長のイメージが塗り替えられていく。
元は魔法を繰り戦場を駆ける兵士だったとは聞いていたが、ここまで痛快な人物だとは思いもしなかった。
_、_
( ,_ノ` )y 「と、客に聞かせる愚痴でもねえな。そっちの用件を聞こう」
( ;^ω^)「おー、えっと」
ブーンの目的は謝罪である。ここまで相手に言われては目的など無いも同然だ。
- 73 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:11:55 ID:1MvCTUhA0
-
ξ゚⊿゚)ξ「え、えっと!私は雇ってもらえるの?」
_、_
( ,_ノ` )y 「ん?ああ。ウチで雇った傭兵を二人伸したって話は聞いてる。実力は申し分ねえな」
ξ*゚⊿゚)ξ「いや〜、あれだまし討ちだったし〜」
_、_
( ,_ノ` )y 「男の武器が腕力だってんなら、女の武器は色香だろう。それを使えるのも実力だ」
断定的な物言いが心地いい。
社長としての資格があるかは置いておいて、彼の元に兵が集まる理由は分る気がする。
まあ、ツンが使ったのは色香と言うより、単に降参する振りしただけなんだけれど。
ξ*゚⊿゚)ξ「じゃあ!」
_、_
( ,_ノ` )y 「だがな」
身を乗り出したツンを渋沢が手で制す。
_、_
( ,_ノ` )y 「今ウチが集めてるのは、根絶法支持団体から商品や客を守る前線の兵士」
_、_
( ,_ノ` )y 「この街の警備とは段違いに危険な仕事だ」
_、_
( ,_ノ` )y 「そんなところにアンタみたいな若者を投入するのは、流石に気が引けてな」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
- 74 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:12:58 ID:1MvCTUhA0
-
ξ゚⊿゚)ξ「……構わないわ。むしろ前線の方がありがたいもの」
_、_
( ,_ノ` )y 「……」
( ;^ω^)(僕何しに来たんだっけ……?)
_、_
( ,_ノ` )y 「…誰を殺された?」
ξ゚⊿゚)ξ !
_、_
( ,_ノ` )y 「ウチには根絶法関連で家族や友人を失った奴が山ほどいる。アンタも同じ口だろう」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ‐⊿‐)ξ「……父と、母を」
_、_
( ,_ノ` )y 「そうか」
( ;^ω^)(やばいめっちゃおしっこいきたい)
_、_
( ,_ノ` )y 「……ウチは、酒で儲けちゃいるが、禁酒委員会との小競り合いで出費もでかい」
ξ゚⊿゚)ξ「……?」
_、_
( ,_ノ` )y 「無駄な出費をする気はねえってことだ。雇われるからには死ぬような真似はするなよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「!!」
- 75 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:13:56 ID:1MvCTUhA0
- _、_
( ,_ノ` )y 「ウチの団長には話をつけておく。この後、南口の屯所に行ってくれ」
_、_
( ,_ノ` )y 「そこで正式にアンタをウチの兵として雇おう」
ξ*゚⊿゚)ξ「ありがとう。光栄だわ」
二人は軽く握手を交わす。
渋沢の手は大きく、堅い。
長く剣を握った人間の手独特の感触をしており、彼が社長である前に一人の戦士であることを物語っていた。
_、_
( ,_ノ` )y 「で、だ」
渋沢はツンの手を離すと、ブーンに向き直る。
企みを湛えた煌々とした目だった。
_、_
( ,_ノ` )y 「ホライゾンさん。アンタを正式にウチで雇いたい」
( ^ω^) 「断りますお」
即答だった。むしろちょっと食い気味なくらいだ。
彼らの事情を知るツンとしては、やむを得ないとも思うが。
_、_
( ,_ノ` )y 「一般の傭兵に出している四倍は出そう」
しかし渋沢も食い下がる。
- 76 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:14:36 ID:1MvCTUhA0
-
おそらく彼が欲しいのは戦闘力は勿論、その「オルトロス」の名前だ。
世に名を広げた戦士を擁したとなれば敵も味方も士気は変わる。
それゆえ、逆に敵方に雇われて欲しくないと言う思惑もあるのだろう。
( ^ω^)「お金の問題ではないんですお。今ちょっと厄介ごとを抱えていて」
_、_
( ,_ノ` )y 「なんなら、その厄介ごとの処理もこちらで引き受ける」
( ^ω^)「ありがたいですけお、やっぱり断りますお」
そういってブーンが立ち上がる。
膝に乗せていた剣とマントを装着し帰り支度を始めた。
妙にそっけない。もしや何か大五郎との因縁があったのだろうか。
ツンが見上げたブーンの横顔はどこか余裕が失われているようだった。
( ^ω^)「大五郎の愛飲者としても協力したいところですけれお、今の僕にその余裕はないんですお」
_、_
( ,_ノ` )y 「……そうか。わかった」
( ^ω^)「あと、一ついいですかお?」
_、_
( ,_ノ` )y 「ん?」
( ;^ω^)「トイレ、どこですかお…っ?」
ツンは、ちょっとだけずっこけた。
* * *
- 77 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:15:48 ID:1MvCTUhA0
-
大五郎酒造出た後、件の情報屋へ向かう道中ブーンはふと足を止めた。
口をつけていた大五郎のカップに蓋をはめなおして懐にしまい、腰の刀に手を添える。
('A`) 『どうしたブーン』
頭の中に声が響く。
一つの身体に強制的に同居させられている相棒、魔法使いのロンリードッグのものだった。
最近ドクオという略称を得たので彼もそれを使おうと画策している。
( ^ω^)(つけられている、気がする)
ブーンの視線の先にあるのはただの町並み。
花売りや配達中の郵便局員、のんだくれて道端で寝ている男などこの街ならば何のおかしさも無い光景だ。
しかしブーンはその中に、不穏な気配が混じっていることに気付いていた。
('A`) 『……大五郎酒造の奴か?雇えないならやっちまえ的な』
( ^ω^)(違う気がするお。押し殺してはいるけど、敵意をビンビン感じる)
('A`) 『お前恨み買いまくってるしな』
( ^ω^)(おーん、否定できないお……)
('A`) 『とりあえず人気の無い場所に移ろうぜ。ここじゃ人を巻き込むかもしれない』
- 78 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:16:31 ID:1MvCTUhA0
-
( ^ω^)(やるのかお?)
('A`) 『様子見だな。襲ってきたら返り討ち。こっちを監視するだけが目的なら……』
ブーンは素早く路地裏に身を滑らせた。
謎の気配はいまだブーンを追ってきている。
むしろ、周りの人気が減っていくほどその存在は手に取るほど分りやすくなっていった。
そしてついに、一人の女がブーン達の前に姿を現す。
/ ゚、。 / 「ブーン=N=ホライゾン殿ですね」
( ^ω^)「そうだお。君は……?」
中性的な顔立ちだった。匂いが分らなければ男と勘違いしていたかもしれない。
(;'A`) 『え?!こいつ女の子なの!』
白いシャツにサスペンダーをかけ、ふくらみを帯びたズボン。
頭には帽子を被り、手にはステッキ。姿だけならば十分男に見える。
ただ、男物の香水で誤魔化してはいるが、体臭が女のものであることをブーンの鼻はかぎ分けていた。
/ ゚、。 / 「僕は、故あって名を名乗るわけにはいきませんが」
(*'A`) 『ぼ、僕っ娘』
( ^ω^)(ドッグちょっとだまっててお)
- 79 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:17:19 ID:1MvCTUhA0
-
( ^ω^)「僕に何の用ですお?」
/ ゚、。 / 「一つ、お尋ねしたいのですが」
女は距離をとったまま近づこうとしない。
ブーンの間合いのギリギリ外。
戦うとなれば少々厄介な相手かも知れぬと、ブーンも悟られぬよう警戒を高めた。
/ ゚、。 / 「大五郎とは、どういったご関係で?」
( ^ω^)「別に何でもないお?お酒は好きだけお」
/ ゚、。 / 「……質問の仕方を変えましょう。大五郎酒造にはどういった御用で?」
( ^ω^)「知り合いの女の子の付き添いだお」
何の問題なく返答。
女はその答えが気に食わないのか、若干顔を歪ませてブーンを睨んでいた。
/ 、 / 「……失礼ですが」
/ ゚、。#/ 「始末させていただきます」
女の右手が上がる。
と同時に、ブーン達の周囲に複数の人影が現れた。
- 80 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:19:13 ID:1MvCTUhA0
-
/ ゚、。 / 「上司には、手を出さぬよう言いつけられていたのですが…」
( ^ω^)「……」
/ 、 / 「…もう無理だし……街中が酒臭いだし……オルトロスはなんかこっちを舐めきってるだし」
('A`) 『おいなんかブツブツ言ってんぞ。ちょっと危ない子かな』
/ 、 / 「……大体……昼間から酒を飲む奴と……しゃべるだけで……頭痛いだし……」
/ ゚、。#/ 「あーもう面倒だし!!皆やっちゃうだし!!」
(;'A`) 『結局なんで襲い掛かってくるのかは教えてくれないのか』
ドクオの嘆息を他所に取り囲んでいた人影がブーンに飛び掛る。
皆、どこにでもいそうな町民の格好をしていたが、体格の違いが見て分る。
手には剣(サーベル)。動きは軍人を髣髴とさせる。
('A`) 『……んーもしかしてこいつら』
真っ先に突っ込んできた男の顔面に刀の峰を打ち込むと同時に、ドクオが気付いた声を上げた。
続けざまに背後からの斬撃を左の刀で受け止め弾き、振り返り様に胴を右で薙ぐ。
更につづけて横から、剣を振り上げての飛び掛りを身を引いてかわし、無防備な顔面に蹴りを入れた。
('A`) 『大五郎とは余りに雰囲気が違うし、禁酒委員会じゃねーか?』
- 81 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:20:26 ID:1MvCTUhA0
-
( ^ω^)「禁酒委員会?」
/ ゚、。 / 「!?」
つい声に漏らしてしまったが、女の反応を見る限り図星らしい。
大五郎支配の街で剣を抜くとは、中々豪胆(バカ)な奴らである。
/ ゚、。;/ 「しししししらないだし!禁酒委員会なんかじゃないだし!」
('A`) 『いやーあの子和むわー。あの訛りいーわー』
( ^ω^)(その子に今殺されそうなんだけどNE!)
('A`) 『おいおい、冗談にしても嫌味すぎるぞ』
的は女を含め残り五人。
一人は魔法使いらしくなにやら魔法式を展開している。
なるほど、この他の剣士たちは時間稼ぎで、本命は奴の放つ魔法と言うわけだ。
敵、正面からの勢いの乗った突き。
ブーン、これを振り上げた左の刀であっさりと弾き、間を置かずに開いた胴を右で強打。
('A`) 『お前のどこが殺されそうなんだよ』
次。
敵、むかって左からの肩口を狙った袈裟切り。
ブーン、体勢がやや崩れていたため初撃をまず安全にかわす。
相手が追撃に出よう足した出鼻、右の刀で剣を握る手首を打ち、左の刀で首を叩く。
- 82 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:21:48 ID:1MvCTUhA0
-
足元に気絶した禁酒委員が溜まったので踏んづけて移動。
女と魔術師を除いた最後の一人が切り込んできたが、既に戦意を感じない。
上段からの甘い振り降しには目もくれず、脇をすり抜け背中を打った。
これで、あとは魔法使いを何とかすれば。
が、魔法はもう最終段階。それに加え女が傍で杖に仕込んでいた剣を構えている。
( ;゚_凵゚) 「“……陰の蒼火、陽の紅炎――――”」
(;'A`) 『火炎系の上級、爆発伴うタイプだな。街中でぶっ放すもんじゃねえ』
( ^ω^)(あの子が邪魔で間に合わないお。ドッグ、何とかできる?)
(;'A`) 「あたぼうよ!」
ドクオが返答した時点で、身体は既にドクオに切り替わっていた。
対する敵の魔術師は少々驚いたが、構わず魔法式の仕上げに入る。
(;'A`) 「“煉獄に蠢く八つ足の魔に、畏み申し上げる―――”」
( ;゚_凵゚) 「“今ここに交わりて怨敵を討て!!デュアル=ギガ=フレイ!!!”」
女が魔法使いの傍から飛びのくように離れた。
男の手元、中空に現れた巨大な魔方陣。
それが激しく明滅し、陣から紫炎が堰を切ったように噴出す。
あたかも大蛇のようにうねるその炎は、螺旋を描きながらドクオへ――――。。
(;'A`) 「“魔を縛れ。魔を食らえ。我何者より魔を畏れん―――――”」
( ;^ω^)『ちょっとドッグいそいで!!!』
- 83 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:23:09 ID:1MvCTUhA0
-
(;'A`) 「“汝を―――刻縛する”!!」
いざドクオを飲み込まんとする寸前、ドクオの手のひらが激しく輝き、炎がぴたりと停止した。
炎は魔方陣から噴出した大蛇の如き形状のまま、白い靄のような何かに絡みつかれて動けずにいる。
さながら蜘蛛の糸に絡め取られた虫の様でもあった。
( ;゚_凵゚)「バカな!この魔法をこんな短時間で!?」
/ ゚、。;/ 「な、何してるんだし!早くぶっ飛ばすんだし!」
( ;゚_凵゚)「k、こんな高度な魔法、初見で破れるわけ……っ」
(;'A`) 「“悪しきは悪しきにより滅し、善により善として輪廻せよ―――”」
/ ゚、。;/ 「なんなんだしあいつ!また変な呪文を!」
(;'A`) 「“我境界を糺すもの。食らいしは乱れの調べ―――汝を掌握する”!!」
絡みついた靄が縮み、それに伴い炎をみるみる圧縮してゆき。
元は周囲の家屋さえ飲み込みかねなかった巨大な炎が、ついに手のひらほどの大きさになってしまう。
敵の魔法使いは、その様をただただ呆然と見ていた。
( ;゚_凵゚)「そんな…、バカな!上級魔法をこうも簡単に押さえ込まれるなんて」
/ ゚、。;/ 「な、なんであんなにちっちゃくなっちゃったんだしっ?!」
ドクオはその炎の塊を自分の手に持ったままの刀の先へと引き寄せる。
束縛の魔法と圧縮の魔法を重ねがけされたそれは、限りなく黒に近い紫に白の斑が張り付いていた。
糖蜜を絡めたブドウの粒のようにも見え無くもない。
- 84 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:24:15 ID:1MvCTUhA0
-
ドクオは、それを空へと打ち上げた。
街のはるか上空まで飛び上がったことを確認し、パチリと指を鳴らす。
('A`) 「趣味の悪い花火だ」
腹に響く重い爆発音を放って魔法が炸裂した。
急激に燃え広がる紫の炎が強い光を放つ。
衝撃波と火の粉がいくらか散ったが距離が離れているため地上まで到達するほどではない。
/ ゚、。;/ 「お、おい、早くもう一発撃つんだし!」
( ;゚_凵゚)「今からじゃ同じのは全然間に合わない!それに下手な魔法なんて……」
どうせもう一度撃っても防がれる、と言いたいように見えた。
魔法使いのほうは格の差を見せ付けられ完全に戦意喪失している。
/ ゚、。;/ 「クッ!」
女が自ら剣を持って切りかかる。
俊敏な動きで、今打ち倒したどの男よりも素早かった。
(;'A`) 「ブーン、あとは――」
( ^ω^)「任せろお」
ブーンへと切り替わり、女の一撃を刀でいなす。
的確な咽元への刺突だったが、動揺しているせいか踏み込みが甘い。
ブーンにとっては難でもなかった。
- 85 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:25:37 ID:1MvCTUhA0
-
/ ゚、。;/ 「このっ!」
女が一度剣を引いた。
ブーンはそのタイミングに合わせて間合いを詰める。
女が慌てて下がろうとするところを足を掛けて転ばせた。
悪あがきに振るわれた仕込み杖をタイミングを合わせて弾く。
小気味のいい音を立てて剣が折れ、飛んでいった先端はブーンの背後の地面に突き刺さった。
/ ゚、。;/ 「くっ―――」
( ^ω^)「早く逃げろお」
/ ゚、。;/ 「え?」
( ^ω^)「さっきの爆発できっと大五郎の兵士が来るお」
( ^ω^)「禁酒委員会のお嬢さんが捕まったらナニされちゃうか分ったもんじゃないお」
/ ゚、。;/ 「ぼ、僕はお嬢さんなんかじゃないんだし!!」
( ^ω^)「いいからはよ。仲間連れてさっさといけお。僕もにげるお」
/ ゚、。 / 「あっ!ちょ、待て!」
女の制止を聞かず、ブーンは走り出した。
まだまだ遠いが、人が走ってくる音が聞こえている。
兵士が着くのは間も無くのことだろう。これ以上の揉め事はごめんだ。
* * *
- 86 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:26:44 ID:1MvCTUhA0
-
ξ゚⊿゚)ξ 「それは難儀だったわねえ」
ワタナベの部屋のダイニング。
ツンは木苺のジャムが入ったパンを齧りながら、そう、簡潔な感想を述べた。
心地のいい甘酸っぱさが口の中に広がる。
ミルクの香る柔らかなパンと相まり、絶妙なバランスの味だ。美味い。
( ^ω^)「ツンについていったせいで、大五郎と組んでると勘違いされてんだお……」
ξ゚⊿゚)ξ「あらら。大変ね」
( ^ω^)「おーん。何この子、助け甲斐が無い」
从'ー'从 「ツンさんてれてるんですよ〜。さっきはちゃ〜んと感謝してましたもん〜」
ξ゚⊿゚)ξ 「なべちゃん、余計なこと言わない」
ブーン(とドクオ)には危ないところを既に二回救われ、さらには付き添いのような真似もさせた。
それも、まだ知り合って三日目だと言うのに。
二人とも(一人だけど)とんでもないお人好しで、感謝しないと言う選択肢が無かった。
ちなみに、ツンが今食べているパンも昨日ブーンが大量に買ってきたもののあまりだ。
ただ、ちょっと正面切って感謝するのが恥ずかしいだけなのだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「それは置いといて、『魔女』の情報は入ったの?」
( ^ω^)「おっおー。それについては問題ないお」
- 87 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:27:25 ID:1MvCTUhA0
-
( ^ω^) 「まあ、目撃情報のレベルではあったんだけお、何のあてもないよりはマシだお」
从'ー'从 「ちなみにどこにいるんですか〜?」
( ^ω^)「お?興味あるかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「興味って言うか、台風がどこにあるかは知りたいわよね」
从'ー'从 「そんなかんじです〜」
( ^ω^)「おっおー、それはそうかもしれんお」
ξ゚⊿゚)ξ「で?」
( ^ω^)「サロンシティで見かけたって情報があるらしいお」
ξ゚⊿゚)ξ「サロン、シティ?」
( ^ω^)「うんお。禁酒委員会の先遣支部に出入りしてるとかなんとか」
从'ー'从 「え〜なんかぶっそ〜」
ξ;゚⊿゚)ξ「禁酒、委員会……」
( ^ω^)「お?どうしたんだおツン」
ξ;゚⊿゚)ξ「今日決められた私の配属先、サロンシティなんだけど」
- 88 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:28:28 ID:1MvCTUhA0
-
三話おわりー
次はもう出来てるので明日くらいにでも
- 89 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:28:44 ID:empFFGeo0
- 乙乙おっおっ
- 90 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 00:55:33 ID:p9IOm/cAO
- 面白いな、( ^ω^)、('A`)ちょっと無双過ぎ
- 91 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 01:14:22 ID:6L0cw1xA0
- 腹パニスト?
- 92 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 01:41:31 ID:1MvCTUhA0
- >>91
ちがいますよー
腹パニスト面白いですよね
- 93 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 10:14:50 ID:nQOlmnqQ0
- 情景描写が綺麗でセンス感じるわ
ぶどう食いてぇ
乙!
- 94 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 16:12:00 ID:GLJi9NQY0
- おもろいおもろい
続き期待してる!
- 95 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 17:11:13 ID:QLeKkf3Y0
- 乙
ドクオもブーンもつええ
- 96 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:46:37 ID:1MvCTUhA0
-
禁酒委員会。そして酒類根絶法。
その名の通り、飲酒を規制する組織と法令である。
元は「事故事件の要因に飲酒行為があった場合厳罰に処する」というものだったが、
現在では改正や過大解釈により飲酒そのものを取り締まる方へと変貌した。
これにより、多くの酒造会社や飲食店は倒産や業務転換を余儀なくされた。
しかし、全ての人々が大人しくその法令に従ったわけではない。
現在にも残る大五郎酒造はじめ、各地域の酒蔵などが団結し反発活動を行った。
ツンの祖父も、そんな反発に関わった杜氏の一人だった。
この国の建国にまで遡る歴史のある酒蔵を潰すわけには行かないと、同志を募り酒蔵連盟を創設。
現在の大五郎など比にならない、巨大な反根絶法団体となった。
酒類根絶法は先にも言ったように「飲酒を行った上で事件を起こした場合」にのみ適応されるものだった。
禁酒委員会は飲酒過失未遂という、「飲酒したものが僅かにでも過失を犯す可能性がある」場合に取り締まる
過大解釈甚だしい犯罪を作り上げているが、これには抜け道があった。
言ってしまえば「飲酒したとしても事件事故を起こすことが無い」と言う状況を立件できれば捕まることは無いのだ。
酒蔵連盟は固有の施設を造り、その室内で起きた事故事件について一切の責任を負う、と言う形で禁酒委員会の介入を防いだ。
具体的に介入することが出来なければ、証拠を立件できず、現行犯での取り締まりも出来ないのだ。
この手法は、瞬く間に全国の酒蔵会社や飲食店に広まった。
以前のように自由な飲酒は出来なくなったが、飲めないよりはマシと、施設には人が集まる。
一定以上の経済効果を生むほどには、繁華街が賑わった。
が、それも長くは続かない。
- 97 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:48:58 ID:1MvCTUhA0
-
始まりは、地方の小さな酒屋。
客同士が些細なことから喧嘩になり、店主が止む終えず警邏の兵に通報した。
しかし、警邏の兵は現れなかった。
「施設内での事件事故には一切の責任を負う」と明言していることが仇になったのだ
そして、言い合いの声が外に響くことになった時に現れたのは警邏兵ではなく、禁酒委員会の兵。
結果、その場にいた客も店主も全員が逮捕。店にあった酒類は全て押収された。
同様の事態が全国で頻発し始める。
たった一人でも捕まれば、その人間が飲んだ店は犯罪に加担したとして逮捕される。
一切の責任を持たねば酒を振舞うことが出来ず、それゆえに一人捕まれば店も道連れ。
裏で禁酒委員会が絡んでいるのは誰の目にも明らかだった。
これへの対処も迅速に行われる。
民間の警備会社、あるいは傭兵を雇うことによる自治力の強化。
これにより民間人レベルでの揉め事は内々に処理することが可能になった。
だが。これがある意味さらなる悲劇の発端だった。
再び繁華街が賑わいを取り戻し始めた頃、プラスシティの老舗酒蔵が襲撃を受けた。
襲撃犯は、表向きは根絶法を支持する有志団体を名乗っていた。
無論禁酒委員会が関わっていないと考える人間はいなかったが、その証拠は無い。
そこから度々、むしろ過激に酒造会社や酒を取り扱う飲食店への襲撃が続いた。
逮捕が目的である禁酒委員会の兵とは違い、無慈悲な蹂躙。
例え傭兵を雇っていても、店や客が無傷とは行かない。
その上、現れるのは警邏兵ではなく禁酒委員会。
助けられると同時に、飲酒の過失を問われ捕まるという最悪の連鎖が起きた。
- 98 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:49:44 ID:1MvCTUhA0
-
※長い地の文を読みたくない人用産業
・酒類根絶法は「飲酒時の犯罪」に適応されるものだったが過大解釈され飲んだだけでアウトに。
・禁酒委員会のほかに非公式の「根絶法支持団体」が色々いて、各地で酒屋襲う。
・酒店は傭兵雇ったりして対抗してたがなんやかんやいたちごっこで対立激化
- 99 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:50:38 ID:1MvCTUhA0
-
ツンの両親は、祖父の酒蔵の酒を扱う、小さな居酒屋を営んでいた。
母は腕利きの魔法使い、父は元傭兵。
さらには地元商店街で雇った腕の立つ傭兵が定期的に巡回してくれている。
それまでであれば、何の問題も無い、十分な警備力を持っていた。
ツンの記憶にあるのは店の壁が魔法で吹き飛び、寄りかかっていた巡回の傭兵が血飛沫と共に吹き飛んだところまで。
そこからは母に怒鳴るように言いつけられ、店から飛び出して親戚の家まで逃げた。
だから、父と母が殺された瞬間には立ち会っていない。
( ,,^Д^) 「なんで、アンタの両親は逃げなかったんだにゃ?店はダメでも、逃げることは出来たろ」
一度大五郎酒造に出向いたあと、他の傭兵と共に荷馬車に乗せられサロンシティへ向かう最中のことだ。
十人ほどが乗り込んでいる中、一人妙に馴れ馴れしい男と話すうちにいつの間にか身の上を語っていた。
若い女がいたことが珍しかったのだろう。質問攻めが鬱陶しく、面倒になって話した。
ξ゚⊿゚)ξ「その店、私が生まれた時に始めたのよ。傭兵から足を洗ってね」
( ,,^Д^) 「なるほどにゃあ。家族の絆みたいなもんだったわけだ」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ、そうね」
男の名は、タカラといった。
無精髭を蓄え、黙っていれば厳つく頑固そうなのだが、喋りだすと一気に威厳が無くなる。
それなりに長く傭兵をやっているらしく腕っ節には自信がありそうだった。
まあツンを含め、ここにいる人間で腕っ節に自身の無い奴なんか居ないのだけれど。
- 100 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:51:32 ID:1MvCTUhA0
-
タカラとくだらない話をしながら、ツンはVIPで分かれた傭兵、ブーンのことを思い出す。
彼らの目的地もツンと同じサロンシティ。
たしか、とりあえずワタナベに紹介してもらった魔法使いを訪ねると言っていた。
一度大五郎に寄ったツンよりも先に街を出ていたはずだが、何で向かったのだろうか。
もしも徒歩なら、まあ馬車に適うわけがない。
普通に歩けば一日はかかるので、人追いの彼らならば馬か何かを借りるだろうが。
( ,,^Д^) 「禁酒党、出るかにゃー」
ξ゚⊿゚)ξ 「出ないほうが楽だけどね」
禁酒党というのは、酒類根絶法支持の民間の活動団体だ。
民間の中では最も大きく、かつ最も凶暴な組織で、酒類を輸送中の馬車が居ると必ずと言っていいほど現れる。
今日も傭兵を乗せた馬車三台のほかに、輸送用の馬車が二台、縦に列を作り走っている。
表向きはみな同じのため見分けはつかないだろうが、逆にかんげれば傭兵たちがいきなり強襲を受けると言う可能性もある。
だだっ広く隠れるものも無い荒野の道では、奇襲と呼べるようなことは無いだろうが。
ちなみにツンが居るのは一番前の馬車だ。
( ,,^Д^) 「おみゃーさん、どんな魔法使えるんだにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ「あのねえ、いくら今味方とは言え、自分の使える魔法ほいほい言うわけ……」
次の瞬間、轟音と共に馬車が大きく揺れ、ツンの身体にかかる重力が変わった。
倒れている。そう気付いたときには、向かいに座っていた傭兵がツンの上に落ちてくるところだった。
- 101 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:52:22 ID:1MvCTUhA0
-
転倒した衝撃が身体を突き抜ける。
辛うじて意識は保った。
自分に被さる人を押しのけながら、外へ脱出。
爆発音が複数重なり、それに続くように馬車の転倒するけたたましい音も聞こえた。
嫌な予感を感じて、ツンは急いで馬車から離れた。
馬車からタカラを含め他の傭兵達が這い出したところで、白い何かが飛来し、馬車が粉々に砕け散る。
タカラと数名は無事だったが、中に残っていた残りのものは、馬車と共に吹き飛んだ。
鮮血が乾いた大地に霧を作る。
「敵襲!!西からだ!!」
周囲を見ると、他の馬車も同様に破壊されていた。
いや、一台だけ無事に残っている。
繋がれた二頭の馬は倒れ、車輪が外れて傾いてはいるが、荷台はなんとも無い。
あれは、荷物を積んでいたほうの一台。ならば――――!
ツンは急いで荷馬車に駆け寄る。
行者の男は気絶していた。それなりに体格がよく一人で助け出すのは骨が折れる。
ξ;゚⊿゚)ξ「タカラ!手伝って!!」
( ;,^Д^) 「にゃ?!」
- 102 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:54:19 ID:1MvCTUhA0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「“戦乙女の純潔を―――”」
タカラの返事を聞きもせずツンは詠唱を開始。
予想が正しければさっき馬車を破壊した白光は、馬車の「積み荷」を狙っている。
早く行者を助けなければ、馬車ごと吹き飛ばされてしまう。
( ;,^Д^) 「こ、コイツを助けるんだにゃ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「……“守る道理に、大義なし―――”」
タカラに顎で答え、魔法式を完成させた。
と、同時に、西の方角、さほど離れた距離ではない場所から確かに魔法の気配を察知する。
ξ;゚⊿゚)ξ「“ただ!愛のみぞあれ―――”!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「“―――プロテクション”!!!」
タカラの悲鳴。西から飛来した白光をツンの展開した魔法の障壁が辛うじて防ぐ。
急ごしらえの障壁のため完全に防ぎきることが出来ず、衝撃波がツンの軽い身体を吹き飛ばした。
しかし防ぐことは出来た。これだけの威力の魔法、そうそう連続で放てるわけが―――無いことも無いらしい。
二発。今度は二発、白光が飛んでくる。
行者を引っ張り揚げていたタカラを、ツンは力任せに引き寄せる。
( ;,^Д^) 「どっひぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ギリギリだ。
余波に吹き飛ばされはしたものの直撃は避けルことが出来た。
周囲に、破壊された商品の、アルコールの匂いが立ち込める。
- 103 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:55:23 ID:1MvCTUhA0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「いてて…ぅんにゃろぉ……!!」
支給された分厚い大五郎酒造のチームジャケットのお陰で擦り傷程度しかないがかなり危険だった。
ツンは、ツンツンに尖る怒りのまま、ブーツの魔法を開放。
ブーツが輝き、周囲の空気が渦巻く。二つに結んだ髪がキラキラと舞った。
( ;,^Д^) 「ちょ、一人で行くのは危険……」
タカラの忠告を快く無視。
ブーツには過去数度の反省から、新しくより強力な風の魔法を仕込んである。
常人では及び得ない速度で跳躍し、魔法の発動主が居ると思わる地点へ向かった。
敵が居ると予測した地点に人影。所属のはっきりしない、軍仕様らしきジャケットを着ている。
傍らには周囲に溶け込む土色の布が丸めてあった。
アレで隠れて、魔法による狙撃を行ったのか。
向こうは、ツンに気付いている。
先ほどと同じ炸裂魔法を放ってきたが、ツンは最小限の動きであっさりとかわした。
ξ#゚⊿゚)ξ 「キッチリ、お返しさせてもらうわよ!!!」
ツンは腰の小剣を抜き、首を目掛け男に切りかかる。
男は武器も持たず右腕で首を庇った。
荒野に、乾いた金属音が響く。
* * *
- 104 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:56:04 ID:1MvCTUhA0
-
サロンシティ。大国チャンネルの東、大陸の中心に当たる位置に存在する農業の盛んな街だ。
土地面積は国内最大。近郊には国内最大の湖、オーマ湖を有し、生産力は群を抜いている。
この街ひとつで国の食料を賄っているといっても過言ではない。
農業に従事するものが多く、市民性は非常に素朴。
過去の開拓時代の屯田兵(普段は田畑を耕し、非常時に戦う兵士)の子孫が多いため
その潜在的な戦力は最も高いのでは、と冗談交じりに語られることも多い。
この街の東の外れ、禁酒委員会先遣支部。
掘っ立て小屋を継ぎ合わせたような粗末な建物ではあるが、その規模は大きくかなり目だつ。
もともとサロンシティに農場以上の建物が少ないため、余計だ。
/ ゚、。 / 「失礼するだ……失礼します」
_
( ゚∀゚) 「入れ」
久しぶりの軍服は、チクチクと肌に刺さるよな感触がして気持ち悪かった。
禁酒委員会所属特設酒類根絶軍特殊情報課一級曹、鈴木ダイオードは課長室の扉を開く。
中は外観に準じた酷く簡素な造りで、テーブルと椅子以外に家財らしきものは無い。
_
( ゚∀゚) 「なんで呼び出されたかは、分るな?」
/ ゚、。;/ 「はい」
その、唯一の椅子に腰を下ろす男、ジョルジュ=ナガオカ中尉。
ダイオードの直接の上司であり、群を抜いて優秀な諜報員でもある。
彼女が駆使する戦闘術、潜入術のほとんどは彼から教えられ学んだものだ。
それ故、目の前に立たれると頭が上がらない。
失態があるならばなおさらだ。
親しみは感じているが、例えば、歳の離れた恐い兄と言ったところだろうか。
- 105 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:57:32 ID:1MvCTUhA0
- _
( ゚∀゚) 「報告は聞いている。潜入任務中に、無許可での戦闘」
そう。ダイオードはこの日の前日に、独断で戦闘行為を行い、その上返り討ちにあったのだ。
勝手な戦闘だけで懲罰物の上に、何の成果も上げられなかった。
これが他の街であればまだマシだったかもしれないが、生憎にも現場はVIPシティ。
敵(表立って戦闘を行うわけではないが)の枢軸に潜入中のこととあっては何の言い訳も無い。
何より戦闘に至った理由が「むしゃくしゃしてやった」。どこの現代の若者だ。
結果的にはオルトロスと大五郎に協力関係はないと判明したし、どこをどう取っても失態だ。
/ ゚、。;/ 「もうしわけ……っ、ありません」
ジョルジュが、ため息を一つ。
ダイオードの背中を嫌に冷たい汗が駆け下りる。
_
( ゚∀゚) 「お前には、期待していたんだがな」
/ ゚、。;/ 「……」
_
( ゚∀゚) 「もし、オルトロスが情けをかけてくれなかったら、VIPシティへの潜入の継続は」
/ ゚、。;/ 「……」
_
( ゚∀゚) 「かなり厳しくなっていただろう」
- 106 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:58:23 ID:1MvCTUhA0
- _
( ゚∀゚) 「俺があの街で基盤を築くのにどれだけの労力を費やしたか分っているのか?」
/ ゚、。;/ 「弁解の、余地もありません」
大五郎にとって、禁酒委員会は懐を見せられない天敵だ。
実質大五郎が実権を握っているVIPの中で、潜入の基盤を築くのは並みのことではない。
普段からそれは意識していたはずなのに。
ダイオードは自らの行動を強く恥じた。
うまく行けば問題ないなどという根拠の無い結果論が、全ての間違いだった。
ジョルジュの視線が、身体に突き刺さるようだ。
/ ゚、。;/
_
( ゚∀゚)
/ ゚、。;/
_
( ゚∀゚)
_
( ゚∀゚) 「オードちゃん超可愛い!!!!!」
/ ゚、。;/ そ
- 107 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:59:04 ID:1MvCTUhA0
-
/ ゚、。;/ 「あ、あのっ長岡中尉」
_
( ゚∀゚) 「なんだ鈴木一級曹」
/ ゚、。;/ 「い、いえ、本当に申し訳ありません」
_
( ゚∀゚) 「……まあ、済んだことは仕方ない。幸いこのことは俺しか知らんからな」
/ ゚、。;/ 「処罰は?」
_
( ゚∀゚) 「俺も、酒嫌いのお前が昨日まであの街に潜入していた気苦労は分っているつもりだし」
_
( ゚∀゚) 「その間、有益な情報を幾つも得たことを評価しないわけじゃない」
/ ゚、。;/ 「……」
_
( ゚∀゚) 「が、まったく処罰をしないというのも、他に示しが付かんし、そうだな……」
/ ゚、。;/
_
( ゚∀゚) 「そのチッパイを思う存分ペロペロしたい!!!!」
/ ゚、。;/そ
- 108 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:00:04 ID:1MvCTUhA0
-
/ ゚、。;/ 「ちゅ、中尉?」
_
( ゚∀゚) 「そうだな。三ヶ月間、30%の減俸と兵舎の便所掃除なんてどうだ」
/ ゚、。;/ 「あの……」
_
( ゚∀゚) 「なんだ不満か?」
/ ゚、。;/ 「い、いえ!誠心誠意勤めさせていただきます!」
_
( ゚∀゚) 「と、そうだ、お前もしばらくこの街いることになるから、早めに伝えておくが」
/ ゚、。;/ 「はい」
_
( ゚∀゚) 「オルトロスがこの街に来たらしい」
/ ゚、。;/そ´、「!!!」
_
( ゚∀゚) 「ビックリした顔もかわいい!!!!」
/ ゚、。;/ (何なんだし、これ……)
- 109 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:01:43 ID:1MvCTUhA0
- _
( ゚∀゚) 「ま、一度見逃したお前を追って来たとは思えんが、一応気を付けておけ」
/ ゚、。 / 「はい、ご忠告ありがとうございます」
偶然か、はたまたダイオードに何らかの目的が生じたのか。
つけられるような下手を打ったつもりは無いが、一度負けた相手である限りは分らない。
何だか、嫌な予感がする。
自分が関わるかは不明だが、なにか良くないことが起こりそうな漠然とした不安。
/ ゚、。;/
_
( ゚∀゚) 「ん?ああ、用件は済んだ。下がっていいぞ」
/ ゚、。;/ 「はい……」
ジョルジュに敬礼をして部屋を後にする。
彼は上司としても兵士としても優秀なのだが、ちょっとおかしなところがあって少々苦手だ。
「ひゃぁっはー!!!!!オードちゃんの残り香だー!!!」
/ ゚、。 /
訂正。かなりおかしいところがあって、非常に苦手だ。
* * *
- 110 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:02:28 ID:1MvCTUhA0
-
見知らぬ天井だった。
木造の太い梁と、そこにこべりつく雲の巣が目に付く。
何かが変だと思ったら、天井板が無いのだ。
梁の向こうには屋根と、そこに開いた光の漏れる穴が見える。
(ロ,^Д^) 「お。気がついたにゃ」
見えるけど見えていないような、どこかぼんやりとした視界にタカラの顔が映った。
頬に湿布を貼っている。怪我をしたのだろうか。だとしたらどこで……。
ξ゚⊿゙)ξ「!!」
(ロ;^Д^) 「ちょ、そんないきなり起き上がったら」
ξ゚⊿゙)ξ「っ」
頭と全身に鈍く重く、染み付くような痛みを感じた。
自分が気絶していたことは分る。それが恐らくあの襲撃者に負けた結果だと言うことも
ξ゚⊿゙)ξ「何が、どうなったの?」
(ロ,^Д^) 「ちゃんと説明するから、とりあえず横になるにゃー」
タカラが優しくツンの身体を倒す。
その間も、背中の骨が軋み痛みを走らせた。
- 111 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:03:23 ID:1MvCTUhA0
-
ツンは横になって息一つ。動かなければ大分楽だ。
藁と獣の独特な匂いがする。
見た目からしても、ここはどこかの馬小屋か何からしい。
ξ゚⊿゙)ξ「アイツは、倒したの?」
ツンの問いにタカラは首を振った。
やはりか、と短い息を吐く。
( ロ,^Д^) 「おにゃーさんが一人で突っ込んだ後、俺と他の何人かで援護にいったんだにゃ」
( ロ,^Д^) 「俺たちが追いついたときにはもうおにゃーさんが負けてて、敵は逃げようとしていたにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ロ,^Д^) 「もちろん俺たちも捕まえようとしたんだがにゃー。恐ろしく強くて負けちまったにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「そう、か」
少しづつ意識の明晰を取り戻す。
確かに、あの男は恐ろしく強かった。
魔法も含めあらゆる面でツンの数段上だ。
特に、あの右手。
何か金属のようなもので覆われており、無造作に殴られただけで剣のガードごと吹き飛ばされた。
思い出しただけで、手に痺れが蘇ってくる。
- 112 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:04:05 ID:1MvCTUhA0
-
( ロ,^Д^) 「あの男が逃げたと思ったら別の奴らが攻めてきて、何とか逃げてきたのにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ここは?」
( ロ,^Д^) 「サロンの外れにある農場の小屋にゃ。事情を話して匿ってもらってるにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「よく、あの荒野の真ん中から逃げ切れたわね」
( ロ,^Д^) 「何頭か無事な馬がいなかったらアウトだったにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「……何人、生き残ってるの?」
( ロ,^Д^) 「全員で八人。けが人はおにゃーさん含めて三人だにゃ。他の二人はそこに寝てる」
首が痛むため姿は確認できなかったが確かに気配を感じる。
( ロ,^Д^) 「傭兵の三人は周囲を見張ってくれてるにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「アンタは何してんの?」
( ロ,^Д^) 「にゃー、ここまで治療と看病をした俺に向かって酷い言い方だにゃー」
ツンの体の至る所に応急治療の包帯が巻かれていた。
傷口が滲みる感覚からして軟膏か何かも塗られているようだ。
……ん?胸にも包帯が巻いてある……?
- 113 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:04:48 ID:1MvCTUhA0
-
ξ゚⊿゚)ξ「包帯、アンタが巻いてくれたのよね?」
( ロ,^Д^) 「だにゃー」
ξ゚⊿゚)ξ「見たの?」
( ロ,^Д^)
ξ゚⊿゚)ξ
( ロ,^Д^)
ξ゚⊿゚)ξ
( ロ,^Д^) 「スレンダー(笑)って俺はいいと思うにゃー」
ξ゚⊿゚)ξ「今、体が、自由なら、アンタを、八つ裂きにしているわ」
何だというのだ。ここ最近とんと運が無い。
暴漢に襲われるわ(自分から)、男の股間を直視してしまうわ(初)、傭兵に追われるわ(自業自得)、
今度は会ったばかりの男に胸を見られるわ(スレンダー(笑))、散々だ。
もう、ツンちゃん憤り通り越して泣きそうである。
- 114 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:05:35 ID:1MvCTUhA0
-
( ロ,^Д^) 「じょ、冗談だにゃー。おにゃーさんはこの農場の娘さんがやってくれたんだにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「“世の中には、言っていい冗談と、悪い冗談があるって知ってる―――?”」
( ロ,^Д^) 「ま、待ってにゃ!!何でさりげなく魔法の詠唱してんだにゃ!!」
展開途中の魔法式を霧散させる。
同性に見られたのならばまだ気分はマシだ。
それ以前に治療のためならば、異性でも我慢は出来る。
だが、スレンダー(笑)発言は絶対に許さない。
絶対にだ。
ξ゚⊿゚)ξ「……って、助かったの八人って言ったわよね」
( ロ,^Д^) 「だにゃー」
ξ゚⊿゚)ξ「ここにあんた含めて四人、外に見張りで三人……あと一人は?」
( ロ,^Д^) 「ああ、あの時助けた行者が、治療魔法使いを呼びに言ってくれたんだにゃー」
ξ゚⊿゚)ξ「治療魔法使い?」
( ロ,^Д^) 「だにゃー。何でも、サロンには腕のいい魔法使いがいるらしいにゃ」
- 115 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:05:45 ID:CrEeWi1I0
- wktk
- 116 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:06:27 ID:1MvCTUhA0
-
ξ゚⊿゚)ξ「でも、大丈夫なの?行者さん一人で行かせて」
( ロ,^Д^) 「サロンは広いから移動には馬が要るけど、何頭も連れていたら誰に目をつけられるかわからんにゃ」
なるほど。
魔法使いの居場所は行者しか知らず、馬は一頭に収めるのが得策。
帰りに魔法使いを乗せてくると考えれば、一人で行くのも止むなしか。
( ロ,^Д^) 「心配せんでも、仮にも大五郎の雇われ行者。そう簡単にやられたりはしないにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「……そうね」
昼の襲撃で、どうにも気が立っているのをツンは感じていた。
目の前でたくさんの人が死んだ。
仲間といっても今日知り合ったばかりで、タカラ以外とはまともに言葉を交わすことも無かったが。
それでも、気分は最悪だ。
舞い上がる血の霧が、目に焼きついている。
師と仰ぐ人に魔法や戦闘の技術こそ教われど、ツンが人死にを目の当たりにするのは初めて。
他人だからと溜飲を下げるには、ツンはまだ経験が足りない。
( ロ,^Д^) 「気分が悪いなら、もう少し寝るといいにゃ」
表情から内心を悟ったのか、タカラは自身のジャケットをツンにかけた。
タカラの体温が移りほんのりと暖かい。
- 117 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:07:13 ID:1MvCTUhA0
-
目の動く範囲で小屋を見渡した。
小屋、と言うには大きい。厩舎か何かの端と考えるのが妥当か。
時々遠くから馬のいななきがするだけで、近くには感じないことを考えると、今は使用していないのかもしれない。
日が傾きかけているのか、小屋の中を照らす陽光がほんのり黄色を帯び始めていた。
夕方ほどか。ツンが伸されてから三時間、と言うところだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「行者さんが行ってから、どれくらい?」
( ロ,^Д^) 「そろそろ一時間って所かにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「……そう」
( ロ,^Д^) 「傷、痛むのかにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ「いや、単に気になっただけ」
傷が痛まないわけではないが、それをタカラに言ってもどうにもならない。
そもそも制止を無視して単身襲い掛かったのだ。
この怪我は、自業自得ともいえる。
そうしてしばらく、ただぼんやりと身体を休めていると、地面越しに馬の蹄の音が聞こえた。
タカラが傍らから弓をとり、矢を一本弦にかける。
ツンも身体強化の魔法式を展開。
魔法によってマリオネットのように身体を操作する魔法のため、怪我を無視して動くことが出来る。
- 118 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:07:58 ID:1MvCTUhA0
-
ぎい。
入り口が開く音。
そして。
( "ゞ) 「わ、わたしです。先生を連れてきました。弓を下ろしてください」
恐らく行者の声。
タカラを見ると、まだ警戒を残した顔で弓を下ろした。
一応は本人らしい。
从 ゚∀从 「怪我人は何処だ?」
( ロ,^Д^) 「アンタが先生かにゃ?」
从 ゚∀从 「おう」
( ロ,^Д^) 「後ろの奴は誰にゃ」
ツンが直接見ているわけではないが、行者と魔法使いの他にも誰かいるようだ。
確かに、足音が一つ多かった気がする。
タカラは敵性組織の人間を連れてきたのではと警戒しているらしかった。
从 ゚∀从 「コイツは私の客人でね。腕が立つんで護衛についてきてもらった」
「そういうわけだお。怪しいと思うなら、武器はこの人に預けるお」
- 119 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:10:16 ID:1MvCTUhA0
-
聞き覚えのある声だった。
柔和な喋り口に、独特の語尾。
つくづく、変な縁がある男だ。
( ロ,^Д^) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ「タカラ、大丈夫。多分そいつ私の知り合いだわ」
( ロ,^Д^) 「……わかったにゃ。非礼はちゃんと詫びるから早く治してやって欲しいにゃ」
从 ゚∀从「気にしなさんな。あんたらの立場も一応分ってるつもりだ」
三つの足音が近づいてくる。
タカラはいまだどこかに緊張感を残してはいるが、先ほどのような敵意は発していない。
魔法使いと思しき男がツンの顔を覗き込んだ。
中性的な顔立ちに、長い銀色の髪。どこか神秘的な印象を覚える。
从 ゚∀从「あらら、このかわいこちゃんが一番重症だな」
「まったく、君はいつでも何処でもトラブルに巻き込まれてるおね?」
ξ゚⊿゚)ξ「アンタも、良く私のいるところに来るわよね。ストーカー?」
( ^ω^)「おっおー。元気そうで安心したお」
ツンを覗き込んだブーン=N=ホライゾンは優しく微笑む。
相変わらず無駄に安心感ある顔してるわ、とツンは心の中で苦笑いした。
- 120 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:10:57 ID:1MvCTUhA0
- 今日はここまでー
本当は戦闘のシーンも入れたかったんですが、ちょいと長くなりそうなので一旦切っちゃいます
次は近日中、書くのが遅いので週末になるやも
ではまたー
- 121 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:25:26 ID:Q/mGEjrY0
- 乙ー
- 122 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:25:35 ID:QLeKkf3Y0
- 乙乙
ジョルジュが恐ろしいwww
- 123 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 23:59:17 ID:CrEeWi1I0
- おつん
- 124 :名も無きAAのようです:2012/09/11(火) 00:12:30 ID:uHX7sEmc0
- だしだし、ダイオードだしと、死神と手をつないでの人なかほりがするだし
だし!
- 125 :名も無きAAのようです:2012/09/11(火) 00:13:04 ID:gf6/d.2MO
- 次が、今週末なんて早いほうだよ!
- 126 :名も無きAAのようです:2012/09/11(火) 17:58:07 ID:t59xjdt20
- スレタイにつられたら中身が存外に素晴らしかったでござる
続きwktk
- 127 :名も無きAAのようです:2012/09/13(木) 02:00:22 ID:cvpYnFZgO
- 読まず嫌いしてたけど面白いな
図書館(酒ver.)+ファンタジー+( ^ω^)が綺麗にブレンドされてるじゃないか
次もwktk
- 128 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:13:30 ID:R/sng.QA0
-
从 ゚∀从 「『治療魔法は結果的に貴方の寿命を短縮してしまう可能性があります』」
从 ゚∀从 「『治療魔法は一時的に身体に負担がかかるため強い痛みを伴う場合があります』」
从 ゚∀从 「『治療魔法は必ずしも完全に傷、病を修復できるものではありません』」
从 ゚∀从 「『以上のことに同意する場合のみ、貴方に治療魔法を施します』」
ξ゚⊿゚)ξ「同意するわ」
从 ゚∀从 「リッヒッヒ、迷いねえな。好きだぜ、そういうの」
と言ったやり取りを経て、ツンは銀髪の男により治療魔法を施された。
事前の注意の通り、電流を受けたような痛みを伴い、かなり辛い。
一応麻酔魔法も使っているとは言われたが、正に気休め程度だった。
ツンの治療を追え、男は残りの二人の治療にかかる。
屈強な傭兵の彼らも耐えがたかったのか、小さな呻きを漏らす。
从 ゚∀从 「おーし、これで全員だな」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう、えっと……」
从 ゚∀从 「ハインリッヒ=イーグル=ヲッカだ」
- 129 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:14:38 ID:R/sng.QA0
-
ξ゚⊿゚)ξ 「……イーグル?イーグルってもしかして」
从 ゚∀从 「リィーッヒッヒ、何でもねえ、何処にでもいる魔法使いだよ」
訝しがって見るツンに、ハインリッヒは肩をすくめて見せる。
イーグルと言えば、魔法使いの間ではそれなりに有名な名だが、本人はあまり触れられたくないらしい。
助けられた恩もあるし、ひとまず踏み込まないでいるとしよう。
( ,,^Д^) 「治療費はいくらにゃ?」
从 ゚∀从 「生憎、俺の治療費は傭兵風情が払えるもんでもねえ。ツケにしといてやるよ」
( ,,^Д^) 「ありがたいにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「で、これからどうするの?」
怪我は癒えた。後はこの後の行動。
奇襲を受けあやふやにはなっているが、そもそもツンたちはサロンへ配属される予定だったのだ。
何とか大五郎の支店を目指したいところだが、じきに日も沈む。微妙なところだ
从 ゚∀从 「日が暮れてくると、このあたりは危ないぜ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなの?」
从 ゚∀从 「最近、よく狼が出るんだよ」
- 130 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:15:19 ID:R/sng.QA0
-
( ;"ゞ) 「お、お、狼?!」
行者が素っ頓狂な声を上げた。
気持ちは分る。そんな危ない道を、彼は一人でハインリッヒの家へ向かったのだ。
今頃、童話よろしく馬とともにおおかみさんに丸呑みされていたかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ 「私たちも回復したし、禁酒党あたりがちょっかいかけてこない限りは大丈夫だと思うけど」
なんといっても、こっちにはオルトロスが付いているし、とブーンに視線をやる。
ブーンは大きな鼻くそを取るのに夢中だった。
いや、やっぱりコイツいてもダメかもしれない。
从 ゚∀从 「言っとくが完治じゃねえぞ。あくまで動くのに不自由ない程度まで再生させただけだ」
ξ゚⊿゚)ξ「……んー、確かになんか強張るけど」
从 ゚∀从 「それに、ただの狼じゃねえんだよなぁ」
ハインリッヒがボリボリと頭を掻いた。
同じ目線に立って分ったが、彼の銀髪、恐らく余りまめには洗っていないようだ。
せっかくの綺麗な色なのに脂が滲んでぼさぼさしている。
从 ゚∀从 「どうにも、おかしいんだよ、その狼」
( ,,^Д^) 「と言うと?」
- 131 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:16:24 ID:R/sng.QA0
-
从 ゚∀从 「近隣の住民総出で屠った一頭の死体を、見せてもらったんだが」
ハインリッヒが頭を掻いていた指の匂いを嗅ぐ。
くさっと言う表情をした。
真剣な話してるんじゃないのかコイツは。
治療魔法の副作用とは別の疲労感がツンを襲う。
ξ゚⊿゚)ξ(コイツものすごく殴りたい)
( ,,^Д^) (俺も)
从 ゚∀从 「多分、キメラなんだよ。あまりにも不条理な混ざり方してて何とか判別できたけど」
ξ゚⊿゚)ξ「不条理キメラ……」
ツンの頭に、いとも簡単に浮かんだ予想。
そういえば目撃情報があると言っていた。
( ^ω^)「……」
ブーンの顔を窺うように見ると、凛々しい顔で見返された。
ツンの視線に対する答えとしての顔なのか、鼻くそが取れてすっきりしているのか分らない。
恐らくどちらもなのだろう。
- 132 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:17:16 ID:R/sng.QA0
-
从 ゚∀从 「ここらの農場が小屋を空にしてるのもそのせいだ。家畜食い荒らされちゃ話にならないからな」
ξ゚⊿゚)ξ「……じゃあ、少なくともここに残るのは得策じゃないのね」
从 ゚∀从 「ああ。今のところ郊外でしか目撃されてない。あんたらの支社がある辺りまで行けば……」
ハインリッヒの言葉の途中、ブーンが当然外に目を向けた。
傭兵たちはその急激な変化に、それぞれの得物に手を掛ける。
開けた窓から外を窺うブーン。今までツンに見せなかった険しい顔をしている。
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーン?」
( ^ω^)「なんだか、嫌な臭いがするお」
タカラは弓を手に、ブーンの傍へ。
外には見張りの傭兵達がいたはずだ。異変があれば真っ先に彼らが真っ先に気付くはず。
( ,,^Д^) 「例のキメラかにゃ?」
( ^ω^)「確信は無いけど、恐らく」
( ;"ゞ) 「で、でも、外の見張りの人たちは何も」
( ^ω^)「ちょっと気を引き締めていかないと不味いおね。僕が判別できるギリギリでこちらを窺ってる」
なんていうか臭いでそこまで判別できるほうが恐いのだけれど、あえてそれは言わない。
ツンもジャケットを着なおし、装備を確認する。
- 133 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:18:18 ID:R/sng.QA0
-
まずはベルトに提げた小剣。
今日、VIPを出立する前に奮発して買った新装備だが、既に歪んで刃が欠けている。
あの襲撃者の男のせいだ。人殺しに関わるとロクなことが無い。
次に腰の裏のコンバットナイフ。
こちらも、ワタナベを助けようとしたときに攻撃を受けたため少々刃毀れがある。
切っ先に問題は無いのでこっちを使うほうがいいかも知れないが、獣相手にはリーチが心もとない。
最後に、魔法を仕込むことの出来る特注のブーツ。
上級の魔法に切り替えたため、回数は最高で三回。
今は既に二回使ってしまったので、後一回だ。出来れば補充したい。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、キメラの様子はどうなの?」
( ^ω^)「こっちが気付いたことに気付いたみたいだお。少しずつ近づいてきてる」
ブーンが答えた時点で、ツンの目にもその姿が見えた。
隠れるつもりは無いのか、農場の柵の向こうでこちらを窺うようにうろうろとしている。
数は10。遠目からは、ただの狼にしか見えないが。
だが、なんだろうか。
ツンは首の後ろに粘つくような嫌な感じを覚える。
とってもよろしくない気配だ。
( ^ω^)「……おかしいお」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
( ^ω^)「僕の感じた気配は、あいつらじゃないお」
- 134 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:19:09 ID:R/sng.QA0
-
ξ゚⊿゚)ξ 「それ、どうゆう―――――」
ツンの言葉は、小屋を揺らす衝撃音で遮られた。
上から落ちる木屑と埃。
そして、何か重いものが蠢く、軋む音。
ξ;゚⊿゚)ξ 「?!」
周りを見張っていた三人の傭兵が、音を確かめようと上を見ながら小屋から離れる。
ツンは見た。
彼らの顔に驚きと恐怖が浮かんだ瞬間と、その彼らの体が何かに引っ張られ上空へ消えた瞬間を。
ξ;゚⊿゚)ξ「な、何が」
屋根からは相変わらず木を鳴らす不快な音。
それに何か堅いものを擦り合わせて砕く音が加わった。
( ^ω^)「ドクオ!」
('A`) 「分ってる!!」
ブーンがドクオに切り替わる。
ドクオは間も無く、魔法式の展開を始めた。
タカラ他傭兵は驚いていたが、説明をしている余裕はなさそうだ。
- 135 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:20:17 ID:R/sng.QA0
-
('A`) 「“穿ち、砕き、貫き、屠る。我、孤独に溺れた者―――”」
相変わらず惚れ惚れするほど早い魔法式展開。
ツンが簡略化した中級魔法を使うのと大差ない時間で、完全版の上級魔法をくみ上げていく。
ドクオが何をしようとしているか理解したツンは、自身も魔法の展開に入った。
ξ゚⊿゚)ξ「“吹き荒れて薙げ。巻き上げて刻め―――”」
('A`) 「“引鉄は軽く、撃鉄は重く――――我、汝らを殲滅す”!!!」
ドクオの周囲に、複数の『空気の歪み』が現れる。
光を乱反射し、目に見えるほどはっきりと球形を模る陽炎のような魔法の塊。
数は数え切れない。
その無数の玉が天井を、そしてその向こうにいる何かを弾かれるように強襲した。
大槌を叩きつけたような衝撃音がこだまする。
砕け散る梁と屋根。
大小さまざまの木片がツンたちへ降りかかった。
( ;,^Д^) 「どっひぇ〜〜」
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ“無色の斧でぶちのめせ―――ストーム”!!!!」
ツンの掌に魔法陣が現われ、周囲の空気が渦を巻く。
人が舞い上がるかと思うほどの風が発生、木片を残っていた屋根ごと吹く飛ばした。
露になった小屋の上空、夕前の気持ちのいい空が、場違いな貌でツンたちを見下ろしている。
- 136 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:21:10 ID:R/sng.QA0
-
ドクオの魔法が発動を終え、周囲に静けさが戻った。
遠くにバラバラと木片の落ちる音が遅れて聞こえる。
('A`) 「ナイスアシスト」
ξ;゚⊿゚)ξ「あんたマジぶっ飛ばすぞ」
( ;,^Д^) 「や、やったのかにゃ」
('A`) 「……いや」
ドクオの視線の先に、それはいた。
この僅かな間に、柵の近くまで引いている。
先ほどの狼たちがその周囲を取り巻いていた。
(;'A`) 「これは、ブーンに」
( ^ω^)「バトンタッチだおね」
それは、馬よりも大きかった。
全身を覆う針金のような黒い毛。
獣独特の力強さを感じる太く頑強な四肢。
大まかに言えば、巨大な狼。
首から上に、ぶっとい蛇が生えてさえいなければ。
- 137 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:22:41 ID:R/sng.QA0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「なん、なのよ。あの化け物は!」
( ^ω^)「キメラだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「それくらいわかるわー!!」
胴体との比率で言えば、本来あるべき首よりは細いが、十分に大蛇の部類。
重心を取るため乙の字を描くように首(蛇腹?)を擡げ、口からチロチロと舌を出していた。
何度見ても、でかい狼からでかい蛇が生えている。
なんだこれ。
ほんとなんだこれ。
ξ;゚⊿゚)ξ「正直この現実についていけない。ツンちゃん大爆発しそう」
( ^ω^)「あいつらに向けて大爆発してお」
ξ;゚⊿゚)ξ「無理。ツンちゃん長いものには巻かれるタイプだから」
( ^ω^)「まかれる前に食われるお」
ξ;゚⊿゚)ξ「逃げ場が無いわね」
( ;,^Д^) 「お前らの余裕が羨ましいにゃ」
名誉のために言っておくが、ツンは別に余裕なわけでは無い。
恐い時ほどおどける、陽気な黒人タイプなだけだ。
- 138 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:23:25 ID:R/sng.QA0
-
( ^ω^)「来るお」
蛇頭のキメラは動かず、周りの狼の一匹が小屋の一同へ向かい駆け出してくる
ブーンが窓枠に足をかけ、左右の剣を抜いた。
飛び掛った狼と同時に窓枠を蹴り、空中でその毛むくじゃらの腹を縦に切り裂く。
斬られた狼は受身も取らず、小屋の壁に激突し動かなくなった。
先の割れた舌をでろりと出し、死んでいる。
( ;,^Д^) 「すげ…」
( ^ω^)「みんなは小屋の中にいてお。僕がやる」
ξ;゚⊿゚)ξ「はあ!?あんた正気?」
タカラはじめ、他の傭兵も概ねツンに同意の顔をしていた。
この男がいくら強いといってもあのキメラ達、特にあの蛇頭を一人で倒せるのだろうか。
ξ;゚⊿゚)ξ「だあ!私もいく!」
ツンも窓を乗り越え、ブーンを追った。
右にショートソードを、左にナイフを持ちブーンの構えの真似をしてみる。
真似と言ってもブーンは構えという構えをせず、腕を垂らしているのだが。
- 139 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:24:49 ID:R/sng.QA0
-
( ^ω^)「あぶないお?小屋の中に居たほうがいいお」
ξ;゚⊿゚)ξ「こういうのは、一番強い奴のそばにいた方が安全てのがセオリーなのよ」
強がりを言ってみる。
本当のところはちょっと心配だからついてきたのだが、
ブーンより確実に弱いツンがそれを言ってもちょっとかっこ悪い気がしたので言わない。
( ^ω^)「おー、正直守る余裕は無いお」
ξ;゚⊿゚)ξ「そこはがんばりなさいよ」
ツンの手に汗が滲む。
キメラたちから放たれる強烈な気配。
これが獣特有の純粋な殺意というものか。
もしくは、上質な食物を目の前にして目を滾らせ涎を飲むような、抑え難き食欲というべきか。
( ^ω^)「しってるかお?キメラって魔法混じりだから、本能的に魔法使いを食べたがるんだってお」
ξ;゚⊿゚)ξ「あんたもキメラでしょ?私の魅力にメロメロ?」
( ^ω^)「貧乳はないわ」
ξ;゚⊿゚)ξ「後で金玉毟る」
( ^ω^)「ドッグのために一つは残してね」
- 140 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:26:30 ID:R/sng.QA0
-
狼が二頭、群れから外れツンとブーンに襲い掛かる。
並列し左右からの息のあった挟撃。
ブーンはツンを庇うように立ちはだかった。
ξ゚⊿゚)ξ「“鎌を研げ、食い散らせ―――”」
ツンはその背中を信用し魔法の展開を始めた。
なるべく殺傷能力の高い、人間には使わないやつだ。
( ^ω^)「!」
ブーンは自ら前へ。
右手から来る狼に右の剣を投擲。
眉間に受けた狼は勢いのまま足をもつれさせ牧草の上を滑って止まる。即死だ。
左からの狼は高い跳躍でブーンの首筋を狙う。
大きく開かれたその上あごに、残った左の剣を突き刺し、捻る。
脳を破壊され、鋭い牙も虚しく死体となった。
刃に刺さったままの狼の死骸を、ブーンは振り回して外す。
彼の実力を認めたのか、残りの七頭がじわじわと取り囲むように間合いを詰めてきていた。
完成した魔法式の保持に集中しながらも、ツンは後方を確認。
タカラは弓を構え、狙いをつけている。
支援は望める。他の傭兵達も剣を手に、小屋空出ていた。戦意はあるらしい。
- 141 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:27:30 ID:R/sng.QA0
-
( ^ω^)「ツン、二頭だけ任せるお」
そう言ってブーンは右の方向へ。投擲した剣目指して走り出した。
彼の動きに反応した狼達も一斉に動く。
周囲を囲んでいた狼の内二頭がツンへ。
残りの五頭がブーンへ走り出す。
ξ;゚⊿゚)ξ 「“――ウィンドエッジ”!!」
周りの空気がツンの持つ小剣の切っ先に絡みつき、目で見て分るほどのうねりを起こした。
それを袈裟切りにする様に投擲。
放たれた風が目に見えぬ刃となって、一頭の肩口を切り裂く。
鮮血を吹きながらもいくらか走った狼は、程なくして倒れた。
残りの一頭はそれに怯むことなく突進。
魔法の展開は間に合わないと判断し、ツンは大人しくその飛び掛りを転んで回避した。
追撃に備え向き直ると、狼がふらついていた。
後ろ足の左腿から矢が生えてることに気付く。
タカラにチラリと目をやる。
彼は新しい矢を矢筒から引き抜くと、素早く放ち、今度は首を打ち抜いた。
ものすごい腕だ。
にゃーにゃー煩い見掛け倒しだと思ってごめんね。
動きの鈍った狼の頭にナイフをつきたてながら、ツンは心の中で謝る。
- 142 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:28:12 ID:R/sng.QA0
-
ブーンを見ると、丁度狼の胴を二刀で縦に切断するところだった。
周りの死体が増えている。残っているのは蛇頭を除きあと一頭だ。
もう、どっちが化け物か分らない。
その残りの一頭も、頭をこそぎ取って瞬殺。
言いようの無い血の匂いが立ち込めている。
ツンは腕で鼻と口を抑えた。
ブーンは懐からスキットル(酒類を入れる携帯用のボトル)を取り出して中身を呷っている。
一仕事終えた一服をするような、場違いすぎる気楽さだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「あぶっ」
蛇頭が、消えた。
正確には見失うほどのスピードでブーンに向けて伸びたのだ。
その音速の噛みつきをブーンは伏せてかわす。
スキットルを懐へ仕舞い剣を持ち直した。
犬のように伏せたブーンへ、キメラが一歩一歩近づく。
重苦しい足音には似つかない軽やかな足取り。
そして、ブーンの足で六歩ほどの距離で止まり、舌をチロチロと覘かせる。
- 143 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:29:17 ID:R/sng.QA0
-
今度はブーンの姿が消える。
以前ツンの前で見せた「気配を消す」というふざけたやつだ。
一秒と待たず、ブーンの姿はキメラの目の前に。
脇に構えた刀で蛇部分の根元を真一文字に、切り裂けない。
重い、打撃音。
刃がキメラに届くか否かの刹那、丸太のような前足がブーンの身体を弾き飛ばしたのだ。
さしものブーンも不意打ちだったのか歯を食いしばり四足で着地する。
そこへ、キメラの追撃。
細剣の刺突を思わせる、首を伸ばしての噛み付き。
ブーンは一撃を横に転がって回避、二撃目を上に跳んでかわし、三撃目を交差した剣で受けた。
突き飛ばされて、間合いは更に開く。
ξ;゚⊿゚)ξ(え、援護しなきゃ)
武器を収め魔法式の展開を始めるが、焦りでうまく行かない。
キメラは再び悠々とした足取りでブーンへ。
対するブーンは息切れこそまだないものの、いつもの余裕は感じない。
再び間合いに差し掛かる距離へ。
ブーンの視線が一瞬だけツンへと向いた。
援護を求めるような目では無かった。
どちらかというと位置を確認して、庇おうとしているようなそんな感じだ。
- 144 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:30:54 ID:R/sng.QA0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「あんの、馬鹿!舐めんじゃないわよ!」
手足にこびりつく恐怖を、叫んで散らす。
こうなったらツンちゃん大爆発だ。
ツンちゃんは自分より弱い奴にしかいきがれないそこらの三下とは訳が違うのだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「“大地薙ぎ、灘を断つ―――”」
自分を奮い立たせ、魔法式の展開を開始。
時間がかかるがツンの使える最も強力な魔法を組み上げる。
ξ;゚⊿゚)ξ「“天突く刃は、勇士の証―――”」
キメラが動く。
ブーンへ再びの鋭い噛みつき。
空を裂く音がうねりブーンがいた地面が芝生ほど抉れる。
それを既に回避していたブーンは戻る首と同じ速さで懐へ。
カウンター気味に振り上げられた前足をかわし、左前足、腹、右後ろ足と切りつけながら駆け抜けた。
斬りつける度に聞こえた鈍い打撃のような音。
剛毛と分厚い筋肉が邪魔で深くまで斬りつけることが出来ないのだ。
- 145 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:32:17 ID:R/sng.QA0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「“邪より生まれし聖(ヒジリ)の剣よ―――”」
キメラはブーンを追い、向き直ろうとするがブーンはそれよりも早く首の後ろへ跳躍。
がら空きの背中に体重を込めて剣を突き刺した。
刃が根元まで身体に埋まるが、キメラの動きに鈍りは無い。
激しく暴れ、ブーンを振り落とす。
剣は半端に突き刺さったままブーンの手から離れた。
着地したブーンへ、後ろ足での起立状態から前足でプレス。
地面が窪むほどの一撃だがブーンは紙一重で見切りそのまま首を切る。
キメラは首を急激に縮め肉を圧縮することで、ダメージを皮一枚に抑える。
ξ;゚⊿゚)ξ「“曇天導き、今我が元へ参らん―――”!!
間合いを取るのは得策ではないと判断したブーンは絡みつくように戦う。
一撃一撃は深くは入らないものの、着実な積み重ね。
長い首を持て余し上手く反撃の出来ないキメラは徐々に苛立ち始めている。
ブーンは即死級の攻撃を捌きながら、決定打を入れるチャンスを探していた。
ならば、そのチャンスをツンちゃんが与えて、いや、自らぶちかましてやろうと言うものだ。
- 146 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:33:25 ID:R/sng.QA0
- アメノムラクモ
ξ;゚⊿゚)ξ「“来い!――――天叢雲”!!!」
( ^ω^)「?!」
展開した魔法式を発動。手を天に翳す。
空が呼応するように雲を蓄え始め、周囲がにわかに暗くなった。
どす黒い雲が蠢き、八本の筋となって地に垂れ下がる。
ツンの元に集結した黒雲は両刃剣の形となって彼女の手に。
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!タカラ!援護よろしく!!!」
返事を聞かずツンはキメラへ向かって弧を描くように駆け出した。
魔法で生み出した灰色の剣、天叢雲。
風と水、二つの属性をあわせた高密度の魔力の刃はあらゆる物を切り裂く。
師から教わったツン最強の魔法だが、威力抜群な分消耗が激しいのでだらだらとは使えない。
現に剣は恐ろしい勢いでツンの魔力を吸い取り続けている。
キメラが強い魔法の気配につられ、ツンを向く。
首が一瞬、僅かに縮む。ブーンが戦うのを見て気付いたが、これがあの噛みつきの予備動作だ。
同時にブーンが力任せにキメラの足を叩き斬った。
骨の砕ける音がしてキメラの体勢が崩れた。
伸びた首の一撃はツンを逸れて後方へ。
そのまま斬ってやろうかとも思ったがすぐに縮んでしまう。
- 147 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:34:17 ID:R/sng.QA0
-
キメラはブーンを前足で遠ざけ、再びツンへ咬撃を放とうとしたが、その目に矢が突き刺さる。
背後からの射撃。タカラだ。驚くべき精度である。
ξ#゚⊿゚)ξ「お前ら!!!」
怯んで目標を見失っているキメラにツンは飛び掛る。
剣を振り上げ、狙いを定め、魔力を一気に開放し―――。
ξ#゚⊿゚)ξ「よくやった!!!」
首を、一気に切断した。
天叢雲は、ブーンの斬撃を何度も耐えたその首をバターのような気安さで切り落とす。
切断面は美しく、そのまま生物教本に載せられるほどだ。
ツンはその場場を飛びのく。同時に、血が切断面から噴出。
周囲に赤い雨を降らせた。
仕上げに地面に落ちてもなお這って動こうとした頭に天叢雲を突きたて、トドメを刺す。
残された胴も、しばらく血を噴出しながら堪えた後に、寝るように倒れた。
キメラの死亡を確信して、ツンは剣を消しす。
安心と疲労で力が抜け、腰が砕けた。
( ^ω^)「おっと」
- 148 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:34:58 ID:R/sng.QA0
-
ふらつくツンをブーンが抱きとめた。
ちょっと恥ずかしい構図になっているが、疲れているので反抗はしないことにする。
ブーンの腕は力強く身体を預けていて安心だ。血なまぐさいけれど。
( ^ω^)「すごい魔法だったおね」
ξ゚⊿゚)ξ「私の師匠のオリジナルでね、火力は文句無いんだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「私はまだ使いこなせないみたいね……って」
ブーンは小屋へ戻るため、ツンをそのまま抱き上げる。
突然のことにツンはバランスを取るため慌ててブーンの首にしがみついた。
ξ;*゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょ、ちょ、ちょちょっちょちょ!」
( ^ω^)「魔力使い切ってフラフラだお?小屋まで運ぶお」
ξ;*゚⊿゚)ξ「お、お、お、お、おう!苦しゅうない!」
( ^ω^)「なんだそれ」
抱き上げられるなんていつ以来だろうか。
ついでに言えば、異性に抱き上げられるのは初めてだ。
ブーンの外套は獣と血の匂いが付いていて、とてもロマンチックとは言いがたいけれど。
- 149 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:36:06 ID:R/sng.QA0
-
( ;,^Д^) 「大丈夫かにゃ?!」
小屋からはタカラと傭兵達が駆け寄ってきた。
額には粘土の高そうな汗を滲ませている。
仲間との格闘中の敵を狙撃するのは緊張したのだろう。
( ^ω^)「僕はかすり傷だお」
ξ;゚⊿゚)ξ「私も、魔力が尽きただけ」
( ;,^Д^) 「良かったにゃ〜〜」
見た目の厳つさの割りにお人良しだな、と苦笑い。
タカラの顔は本当にツンたちを心配していた顔だ。
他の傭兵二人は、状況が読めないのか、自分が何も出来なかったからか、やや険しい顔をしている。
( ,,^Д^) 「しっかし、恐ろしい奴だったにゃ」
( ^ω^)「うんお。まさか僕の刀で通らないとは」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あんた剣一本刺しっぱなしじゃない?」
( ^ω^)「後で取るから平気だお」
( ,,^Д^) 「しかし、死んでも立ってるとか、不気味なやつだにゃあ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね……」
- 150 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:37:11 ID:R/sng.QA0
-
ξ゚⊿゚)ξ「……え?」
ツンはブーンに抱かれたままキメラのほうを振り返った。
タカラの言葉通り、キメラの身体は四足で確り立ている
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、さっきあのキメラ倒れたわよね?」
( ^ω^)「おん?そのはず……だお?」
ブーンも気がついた。
キメラの巨躯は、何度見返しても立っている。
ξ;゚⊿゚)ξ「わたし、なんか嫌な予感がする」
( ^ω^)「奇遇だね。僕もだお」
( ,,^Д^) 「?どうしたんだにゃ?」
ずるり。
地面に広がっていたキメラの血が意思を持ったように動き出す。
体の元に徐々に集まり、その身体を這い上がって傷口から体内へと戻っていくのだ。
( ;,^Д^) 「はにゃぁ!?」
( ;^ω^)「まずい!みんな下がるお!!」
- 151 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:38:05 ID:R/sng.QA0
-
ブーンの忠告は間に合わなかった。
キメラの首の切断面から噴出した血がまっすぐにツンたちに襲い掛かる。
ブーンはツンを抱えたままかわし、タカラは間一髪耳たぶを抉られるだけで済んだ。
しかし、他の傭兵二人は間に合わない。
血液の鞭が眉間を貫き、絶命していまう。
( ;,^Д^) 「あば、あばばばば」
( ;^ω^)「次が来る!下がるお!!」
ブーンの怒号で三人は退避。
言葉通り、矢のように鋭い血の鞭がツンたちのいた空間を切り裂く。
キメラはのしのしと、ゆっくりとした歩みでこちらへ迫る。
首が無く、体から生えた血の触手を揺らめかせるその姿はどこをどう見ても異常。
相対的に蛇頭が可愛く見えるほど、心の底から嫌悪感がわいてくる。
ξ;゚⊿゚)ξ「あいつ、死んでなかったってこと?!」
( ;^ω^)「みたいだおね」
- 152 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:39:00 ID:R/sng.QA0
-
三人で小屋まで逃げ戻った。
キメラの歩みは遅いため距離は出来たが、恐怖感は薄れない。
( ;"ゞ) 「何なんですかアレェ!!」
( ;,^Д^)「こっちが聞きたいにゃ!」
从;゚∀从 「おいおい!あれほどバケモンだなんて聞いてねえぞ」
キメラの血は、周囲に転がっていた蛇頭や狼の死骸、傭兵の身体を包み込み本体の元へ連れて行く。
そして、本体はその死骸達を赤黒い触手で吊り上げると、
ぱっくん。
そんな音が聞こえそうな音で体内に取り込んだ。
ツンが斬った首の切断面の中心にあった食道と思しき穴が口の如く大きく開き、
次々と死体を飲み込んでいく。
全部の肉を体内に押し込んだ頃には、腹が地面につきそうなほど膨らんでいた。
ξ; ⊿ )ξ「うげぇ……」
( ;^ω^)「ちょっと!抱かれたまま吐かないでお!」
そんなこと言っても無理だ。
キメラは腹をぐねぐねと動かし、死体を体内ですり潰している。
- 153 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:40:02 ID:R/sng.QA0
-
( ^ω^)「ツンを頼むお」
( ;,^Д^) 「あんた、まさか!」
( ^ω^)「ほっといたら、アレの被害が街に及ぶお。何とか食い止めないと」
ツンを小屋の壁に凭れさせ、ブーンは再び剣を抜いてキメラへ向かっていく。
確かにその気になれば魔法も使えるブーンなら時間稼ぎは出来るかも知れない。
しかし、首を落としても死なない化け物相手に、どう戦うと言うのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「私も、戦う」
( ^ω^)「魔力空っぽの君なんか邪魔なだけだお。端っこでゲロはいてなさい」
ゲロの部分は余計だけど、正論だった。
魔力が空っぽの状態は身体的にも良好な状態ではない。
普段どおりに剣を振るえるかどうかも怪しいのだ。
魔力を回復する方法はあるが、今のツンはそれに必要な魔法具を持っていない。
ブーツと一緒に師匠から盗んでくればよかったと、唇を噛む。
- 154 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:40:44 ID:R/sng.QA0
-
( ;,^Д^) 「俺も行くにゃ、行者さん、先生とツンつれて逃げるにゃ」
( ;"ゞ) 「は、はい!」
( ;,^Д^) 「出来れば、援軍を回せるよう頼んでくれにゃ」
それだけ言い渡して、タカラもキメラへ向かっていく。
矢筒の矢は五本。接近戦用の小剣を持ってはいるがどうにも心もとない。
ブーンとキメラは既に対峙していた。
互いに間合いを計るように、動かない。
キメラの触手だけがありもしない食料を探して中空をうねうねと彷徨っている。
と、突然キメラの首の断面が盛り上がり始めた。
肉を突き破るように、そこから蛇の頭が生えてくる。
しかも、三本。
一本一本は元よりも細いが、見た目の凶悪さは増した。
口から垂れた涎が、芝生に落ちて焦げるような音を発する。
毒だ。見た目からしてかなりやばい。
ξ;゚⊿゚)ξ「やっぱり、私も戦わなきゃ」
( ;"ゞ) 「でもあんた、もうフラフラなんだろ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「囮になるくらいなら出来るわ」
- 155 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:41:25 ID:R/sng.QA0
-
从 ゚∀从 「そんなに、戦いたいのか」
ξ;゚⊿゚)ξ「トーゼン。ツンちゃん目の前の揉め事に飛び込まずにいられない系女子だから」
从 ゚∀从 「リッヒッヒ、いかれてやがる」
ハインリッヒはそう言ってツンに小瓶を手渡した。
透明のビンの中にミント色の液体が入っている。
ξ;゚⊿゚)ξ「これは?」
从 ゚∀从 「魔力回復薬。タリズマンと違って急激な補充は出来ないが、回復を数倍以上早める薬だ」
ξ;゚⊿゚)ξ「私が使っても平気なの?」
从 ゚∀从 「タリズマンと違って人を選らばねえ。すぐには無理でも、数分で多少は戻るはずだ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……ありがとう、先生」
从 ゚∀从 「リッヒッヒ。俺は女に甘いんだ」
ツンは中身を呷る。
ぬるいのに冷たい不思議な感覚が咽を駆け下り、全身にしみこんでいくようだ。
確かに、魔力の回復量が上がっていくのを感じる。
- 156 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:42:35 ID:R/sng.QA0
-
ξ゚⊿゚)ξ「っしゃぁ!!」
勢いよく立ち上がる。
怪我のこともあってやはり万全とは言いがたいが、囮として逃げ回るくらいは出来そうだ。
盾代わりに小剣を抜いて、ブーン達の下へ走る。
从 ゚∀从「さて、と」
( ;"ゞ) 「先生は戦わないんですか?」
从 ゚∀从 「俺はあくまでサポート」
ブーンは既に激しい戦闘を始めていた。
前足、三本の頭に加え傷口から生える血の触手。
戦っているというよりも何とか凌いでいるというのが的確か。
正直、ツンちゃん囮も無理かも知れない。
ツンの魔力はまだそれほど回復しておらず、弱めの中級一発で空に逆戻りだ。
下手は打てない。
タカラがブーンを援護し、キメラの死角を探して矢を放つ。
流石の命中精度だったが効いているようには見えなかった。
- 157 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:43:26 ID:R/sng.QA0
-
ブーンが鞭のように振るわれた首の一本に吹き飛ばされ、ツンの近くへ着地した。
追って来ようとしたキメラの頭の一つをタカラの矢が貫いて妨害する。
ブーンがチラッとツンの顔を見た。
「来たのかよ?はぁーぁ」というため息交じりの呆れがきこえてきそうな顔だ。
ぶん殴りたくなるのをぐっと堪える。
ξ゚⊿゚)ξ「魔力はある程度回復した、援護する」
( ^ω^)「どれくらい出来るお?」
ξ゚⊿゚)ξ「中級一回くらいならすぐに。上級はまだ無理」
( ^ω^)「……」
思案するブーンとツンの元へ、血の矢が飛来した。
ブーンがツンを抱いて後方へ回避。難を逃れる。
( ^ω^)「強化魔法使えるかお?出来れば僕自身の身体能力を増強する奴」
ξ゚⊿゚)ξ「出来る」
( ^ω^)「時間はいくらかかる?」
ξ゚⊿゚)ξ「15秒」
( ^ω^)「分った。的にならないよう、離れてるお」
- 158 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:44:42 ID:R/sng.QA0
-
今度はキメラ本体が恐るべき脚力で二人の下へ。
ツンとブーンは二手に分かれてそれを回避。
追撃の触手をそれぞれに武器で払う落とす。
( ^ω^)「こっちだお!!」
ブーンがキメラへ切り込んだ。
触手の鞭と毒に濡れる牙に阻まれるが、右手の剣一本でその全てを捌く。
キメラの身体は丈夫で、ブーンが時々入れる斬撃も浅い傷を作るだけ。
むしろ半端な傷を作るほど、そこから新しい触手が伸び始める。
いたちごっこどころか、悪化の一途だ。
ξ゚⊿゚)ξ「“旋風(ツムジ)を描く、竜を巻く―――”」
キメラがブーンに側面でタックル。
腕を交差して受けたブーンだが、体格の違いが明確に表れ突き飛ばされる。
よろけた所へ触手四本の追撃。
ブーンはこれをまとめて、力任せに斬り上げ弾く。
金切り音が響き触手の先端が宙を舞った。
ξ゚⊿゚)ξ「“その身に宿せ、風の鼓動―――”」
ブーンに飛び掛ろうとするキメラの後ろ足をタカラの矢が射抜く。
- 159 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:45:46 ID:R/sng.QA0
-
この隙を利用してブーンは地を這うように接近。
打ち下ろすように放たれた触手をかいくぐり、胸元へ。
ξ゚⊿゚)ξ「行くわよ!“ビートアップ”!!」
瞬間、ブーンの身体が灰色の光を纏った。
体の隅々まで強化の魔法が行き渡り、血肉が活性化する。
ブーンは飛び上がりながらの斬り上げ。
刃はこれまでが比にならないほど肉を抉り、ブーンの身体はキメラを軽く飛び越した。
( ^ω^)「―――!!」
ξ゚⊿゚)ξ「効果は5分!!」
( ^ω^)「重畳、だお」
ブーンの体が空中で猫のように反転。
その姿を追って上を向いた真ん中の蛇頭を、縦に切り裂きながら降りる。
血を噴出す首に怯むことなく左右の首の噛み付き。
この一瞬にブーンは気配を消し、すり抜ける。
ほんの僅かな時間とは言えブーンを見失った蛇頭の右の方をこれまた力ずくで跳ね飛ばした。
ξ;゚⊿゚)ξ「やっぱりアイツ、化け物だわ」
- 160 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:46:29 ID:R/sng.QA0
-
ツンがかけた強化魔法は、本人の身体能力によって効果が大きく変わる。
元の膂力が高ければ高いほど高い性能を発揮するのだ。
ブーンの能力向上はツンが見た中では最も触れ幅が大きい。
無論まだまだ半人前のツンがその全てを把握できているわけでは無いのだが。
( ^ω^)「これなら……あとは」
ブーンはキメラの毛を鷲づかみ、そこを支点に素早く背中へ。
背中に深く突き刺さった剣を、刃の方へ踏み、傾ける。
傷口が広がったところに手を掛け、引き抜きがてら飛びのいた。
一瞬送れて、キメラの触手の全てが背中の上を貫く。
言うまでもないがブーンにはかすりもしなかった。
キメラ後方に下りたブーンは間を作らず尻尾を右で斬り撥ねる。
更に左に逆手に持った剣を肛門に突き刺した。
刃の向きは下。そのまま引き下げ、下腹まで引き裂く。
ξ;゚⊿゚)ξ「うわぁ」
お尻がキュッとした。
痛い。あれ絶対痛い。
辛いんだぞ、痔は。特に薬塗る時の姿勢が虚しくてなんともいえないのだ。
- 161 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:47:12 ID:R/sng.QA0
-
蛇首の残った一頭が、吼えた。
音こそ無いが、怒りに近い殺気を烈風の如く放つ。
ブーンの強さに少し余裕の出ていたツンはそれに戦慄し、お尻以外も引き締める。
なおも咆哮は続いた。
呼応するように、切り裂かれた肉の断面がボコボコと泡のように盛り上がる。
異変を察知したブーンも、一旦その場から距離を取った。
ξ;゚⊿゚)ξ「うっそぉ」
( ;,^Д^) 「まだ生えるのかにゃ」
( ^ω^)「……」
いる場所は違えどそれぞれ感想は同じだった。
キメラの全身の傷口という傷口から、再び蛇が生える。
尻尾の付け根及び肛門からそこそこ太いのが四本。
落とした頭から太いのが二本。
全身にある小さい傷から普通サイズのが一本ずつ。
縦に割れた真ん中の蛇から、細長いのが無数に。
化け物ここに極まれりといったところ。
ツンちゃん、大爆発を通り越して大失禁しそうである。
- 162 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:47:52 ID:R/sng.QA0
-
体の、浅い傷から生えているものはそのまま一匹の蛇となって地面に落ちる。
ぼとぼとぼとぼとぼと。
血にまみれた無数の蛇がいたるところから産み落とされた。
最早数えきらないほど生えた無数の頭が、ツンたち三人をそれぞれに睨みつける。
正に死角なし。あるとすれば精々腹の下だが、そこからもにゅるり。
そういえばブーン腹も切ってたなー、とツンは汗を垂らした。
ξ;゚⊿゚)ξ「どうしろってのよ、こんなの」
キメラが動く。元は真ん中の一本だった数多の蛇が、一斉に魔法式の展開を始めた。
一つ一つは下級程度のものだが、数が半端ではない。
その上、その幾つもの魔法を右の頭が別の魔法で連結させ単一の魔法へと昇華させている。
ツンは見たことが無い魔法式だが、上級の威力を軽く超えるのは間違いないだろう。
( ;^ω^)「くっ」
ブーンが気配を消して切り込んだが、流石に残りの目全てを誤魔化すことができず、弾き返される。
再度挑もうとするが、だめだ。もう間に合わない。
キメラの上空に、多くの青い光の粒が湧いた。
シャボン玉のように大小様々な球形のそれらが一つに集まり膨らんでいく。
- 163 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:48:33 ID:R/sng.QA0
-
瞬く間にキメラ本体よりも大きくなった青い魔法の玉。
その形が一瞬不規則に歪んだかと思うと――――。
( ;^ω^)「!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「“戦乙女の」
( ;,^Д^) 「はにゃぁ?!」
はじけた。
くぐもった破裂音と同時に、青い光弾が周囲に飛び散る。
隙間無く、絶え間なく、空を唸らせる光弾は、周囲のあらゆるものを穿ち抉り破砕した。
ツンは、かわすことも防ぐことも出来ず、出来損ないの魔法障壁と共に身体を打ち抜かれる。
一撃一撃が肉を潰し骨を軋ませる。口の中に血が満ちる。
痛みが遅い。足はとうに地面を離れていた。
意識が遠くなった瞬間、魔法の雨が止んだ。
かすむ視界の中で誰かがツンを庇っているように見えたがそれが誰かは分らない。
柔らかな牧草を蓄えた地面が、ツンの身体を受け止める。
優しい緑の香りが、鼻をくすぐる。
無理だ。勝てない。
- 164 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:49:13 ID:R/sng.QA0
-
大人しく行者達と一緒にみんなで逃げればよかったのだ。
逃げ切れるかは分らないけれど、少なくとも立ち向かうよりは無事に済む可能性があった。
ツンは、弱音を溢れさせる。
口の中が血なまぐさい。体から力が抜けていく。
頭がショートを起こして自分がどこを向いているか分らなかった。
赤みを帯びる空を見ているのだと気付いたのは十数秒ぼうっとしてからだった。
キメラは何をしているのだろうか。
頭部に食らった一撃のせいで耳が良く聞こえない。
もしかしたら今正にツンの身体を食おうと近づく最中やも知れない。
ここで、死ぬのか。
ツンが師匠の下を脱走し、復讐相手を探し始めてからまだ二週間も経っていない。
無念だ。実に無念だ。
せめて何か、一矢を報いたい。
ツンは身体を捻ってキメラがいると思しき方を見た。
そして、キメラと戦い続けるブーンを見て、唖然とした。
キメラの巨躯に絡みつき、蛇を切り落とし、噛みつきを交わし、肉をこそぎ、魔法を弾く。
よく見るとブーンの左足は折れていた。
片足と、時折左手を使って跳ね回っているのだ。
呆れた。心底呆れた。
だが、少しだけ元気が出た。
- 165 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:50:39 ID:R/sng.QA0
-
ツンは体勢を変え、肘と膝で四つんばいに。
景気のいい血反吐を地面にぶちまける。
右肩口に強烈な痛みを感じて倒れた。顔面が自分の血に埋もれる。
土と血を拭いながら立ち上がった。
足が震える。感覚がはっきりせずよく分らないが、少なくとも折れてはいないらしい。
ブーンとキメラの元へ、フラフラと歩み寄る。
正直勝つビジョンが見えないが、まあ何とかなるはずだ。
無鉄砲こそ、ツンちゃんクオリティ。
蛇が一匹這い寄ってくるのが見えた。
体から落ちた奴だ。確実にツンを狙っている。
飛び掛ってきたその蛇を、誰かの剣が切り落とした。
ξ;;⊿゚)ξ「生きてたんだ」
(#,^Д;;)「おにゃーさん、何する気だにゃ?」
- 166 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:51:39 ID:R/sng.QA0
-
ξ;;⊿゚)ξ「なんか」
(#,^Д;;) 「若さ溢れる無鉄砲さに乾杯」
タカラがツンに肩を貸す。
見ると彼も体中から血を滲ませ、口元には吐血した跡もある。
いくらツンが小柄とはいえ、相当な負担になるはずだ。
ξ;;⊿゚)ξ「とりあえず、アイツのトコにいきましょ」
(#,^Д;;) 「アイツ何なんだにゃ?」
ξ;;⊿゚)ξ「キメラ」
(#,^Д;;) 「蛇のほうじゃないにゃ」
ξ;;⊿゚)ξ「どっちにしろ、キメラ」
タカラの顔がぽかんとする。
気持ちは分る。ツンもそうだった。
ブーンがツンたちに気付いた。
何か考えがあるような顔を見せて、キメラの後ろに回り込んだ。
両手の剣を振り上げる。
遠目にも筋肉が怒張するのが分った。
- 167 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:52:19 ID:R/sng.QA0
-
(;;;;゙ω^)「杉浦双刀流―――二刃一瘡」
後ろ足の腱に、二刀を音速で叩き込む。
寸分違わず同じ位置に、同じ方向から、ややタイミングをずらして。
一太刀目で骨まで達した傷を、更に切り裂くことで、太い足を切断して見せたのだ。
何で片足でそれが出来るのか、と言うのは、最早野暮だ。
キメラ足止めを食らい、動けなくなった隙に、ブーンはツンたちの元へ。
器用に三肢を使って駆け寄る。
ブーンも足だけでなく体のいたるところに怪我をしているようだった。
最も間近でアレを受けたのだから当然だが、上半身の被弾が少ないところを見ると上手く捌いたらしい。
(;;;:゙ω^)「すぐに回復されるから、黙って聞いてほしいお」
開口一番、ブーンが言う。
ツンとタカラはやや間を置いて頷いた。
荒い息を整え、ブーンが口の中の血を吐き出す。
そして、二人をまっすぐ見据えた。
(;;;:゙ω^)「あいつを倒す方法が、分ったお」
- 168 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 21:53:20 ID:R/sng.QA0
-
今日はここまで。
毎回ツンちゃんをどう苦しませるかを楽しみに書いています
完全に書き溜めが尽きたので次は日曜以降になるかと
ではでは
- 169 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 22:09:59 ID:8ehxNSBk0
- 乙
ツンちゃん可愛いよツンちゃん
魔法式の展開が俺の厨二ソウルを激しく揺さぶっているぜ
- 170 :名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 23:01:11 ID:aDkHme320
- 俺の中でヴィップワースと樹海と大五郎が争っている。乙。
- 171 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 01:08:49 ID:NlbQVJckO
- ω・)乙。すごい面白い。ミセリ・ヴィップに匹敵する。
- 172 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 16:59:26 ID:sJZzOAsUO
- 昨日投下あってたんだ
話が進むにつれ面白くなっていってるな
- 173 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 23:17:23 ID:fIBzYPgM0
- おもしろいぞー!
- 174 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:42:42 ID:uUx1ZvuU0
-
サロンシティは元の名を栄英地方と呼ばれる、チャンネル国とは異なる独自の文化を持つ土地だった
もっとも特徴的な文化として上げられるのは、モナー教という自然崇拝宗教の存在だろう。
大地と空の神、モナー。
異教では悪魔として数えられる有力な神の一柱で、労働と豊作の象徴として崇拝されている。
チャンネル国に吸収された今も、モナー教の潜在的な信者は多い。
その教えはとてもシンプルで、簡単に訳せば。
「働く時は懸命に働きなさい。休む時は大いに休みなさい」
「大地と空には常に感謝しなさい」
「分相応なものを求めなさい。身に過ぎたものを得たならば分け合いなさい」
と言う三つ。実におおらかな、戒律などあってないようなものだ。
そして、この教えの三つ目、「身に過ぎたもの」には、酒類も含まれる。
モナー教の徒にとって、酒は身に余る過ぎたもの。
口に出来るのは年二回の祭事の時だけなのだ。
サロンシティには信者、と呼べないまでもモナー教の教えを実践するものが多い。
故に、禁酒委員会との相性は決して悪くは無く、むしろいいとも言える。
禁酒委員会は、年二回の祭事の飲酒さえ認めれば、何の苦労なく禁酒化に成功できるのだから。
だからこそ、禁酒委員会はここサロンの地にあえて支部をつくろうとはしなかった。
そもそも飲酒する者の方が少ないのだから常駐する必要性が低いのである。
禁酒委員会の支部が置かれたのは、大五郎のサロン進出を阻むためだった。
- 175 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:44:10 ID:uUx1ZvuU0
-
大五郎は飲酒文化の薄いサロンを新しい市場として開拓し、営利拡大を狙っていた。
その本格的な進出を防ぐために禁酒委員会はいち早くサロンに支部を設置。
早い段階から厳しい取締りを行っている。
大五郎サロン進出の情報はごく一部のものしか知らず、
一般の目には禁酒委員会が先に手を出したように見えただろう。
しかしそれでいい。結果的に大五郎の支社は街の端(しかもVIP側と真逆の)土地に追いやられた。
例え世間の嫌われ者になろうとも、サロンに根付いた非アルコール文化を守った。
それだけで十分なのである。
(//‰ ゚) 「相変わらず、つまらンところダ」
その男は部屋に入るなりそう言った。失礼にも程がある。
男の名は、ヨコホリ。所謂、裏の仕事人だ。
暗殺、テロ、強盗、密輸と金次第で何でも行う、性根からして腐った男である。
本来ならこんな男に仕事を預けたくは無いが、悔しいことに腕はいい。
この男が今まで受けた仕事の成功率はほぼ100%。
単に強いだけでなく卑劣かつ卑怯で卑屈、この上なく慎重な男なのだ。
_
( ゚∀゚) 「仕事は?」
禁酒委(中略)中尉、ジョルジュ=ナガオカは簡潔な報告を求める。
ヨコホリはやれやれと肩をすくめた。
- 176 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:45:33 ID:uUx1ZvuU0
-
(//‰ ゚) 「アンタみたいな糞真面目な男と話してルと息が詰まル」
_
( ゚∀゚) 「さっさと報告を。仕事が出来ないならお前に用は無い」
(//‰ ゚) 「そう凄まれちゃまったく堪らンなあ」
場所は、ナガオカが下宿にしている街のアパートの一室。
農の街とはいえそれ以外の仕事でここに移住する者も多いため、賃貸物件は以外に充実している。
(//‰ ゚) 「いつも通り、積荷は破壊。紛らわしい馬車だったンで移送中の傭兵もやっちまった」
_
( ゚∀゚) 「毎度だが言わせて貰う。無闇に人を殺めるな」
(//‰ ゚) 「そうおっかねえ顔を死なさンな。俺は馬車を壊そうとしただけだ」
_
( ゚∀゚) 「……」
(//‰ ゚) 「生き残った奴らもいたぜ。その後知らない奴らに襲われてたけどな」
_
( ゚∀゚) 「……俺が依頼した奴らじゃないな。まったく、また勝手な暴徒が増えたのか」
(//‰ ゚) 「……俺が言うのもなンだが、少しは気楽に生きたほうがいい。胃に穴が開く」
ご丁寧な忠告には、短い嘆息で返した。
咽に引っかかる声でヨコホリが笑う。
- 177 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:46:59 ID:uUx1ZvuU0
-
(//‰ ゚) 「アンタも、汚れ仕事を部下に押し付けたらどうだ?アンタの上司みたいにな」
_
( ゚∀゚) 「馬鹿が。汚れ仕事こそ上司が引き受けるべきだ」
(//‰ ゚) 「グッグッグッ。それで会うたびに嫌な顔されル俺の身にもなって欲しいもンだぜ」
禁酒委員会は、非公式団体やプロのテロ代行屋に情報を流し、
酒類根絶法の「違法な」執行を常々行っている。
ナガオカは近隣地区における「代行執行」の依頼を管理するものでもあった。
単に敵性勢力大五郎の情報が集まりやすい立場であるという理由が一つ。
そして、可愛い部下達にこんな汚れ仕事を追わせたくないという、甘さが一つ。
中には、こんな仕事任せたら己の正義との齟齬にブチ切れそうな奴もいるだし。
(//‰ ゚) 「ンじゃ、俺は帰ルぜ」
_
( ゚∀゚) 「報酬は後で郵送する」
(//‰ ゚) 「また仕事があったら安くしておくぜェ、中尉」
_
( ゚∀゚) 「…失せろ」
胃がキリキリと痛む。
ヨコホリが去るや否や胃薬を飲み込んだ。
- 178 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:47:49 ID:uUx1ZvuU0
-
「……随分苦労してそうね、じょーるたん☆」
ナガオカしかいない部屋に、若い女の声が響いた。
一瞬肩をビクッとさせたが、すぐに状況を理解し頭を抱え、鉛より重い息を口から垂らす。
「なんだったら、アタシが癒してあげようか?」
_
( ゚∀゚) 「何で、アンタがここにいるんだ」
「んー?貴方の上司に呼び出されて支部に行ったのにじょるたんいないんだもん」
_
( ゚∀゚) 「俺は今日はもう仕事終わったんだよ」
「なーんだ。そうだったんだ」
おもむろに、再び胃薬のビンを取る。
服用数を無視してそのまま口に流し込んだ。
夕飯がいらないくらい胃が胃を消化している。このままだと死ぬ。
_
( ゚∀゚) 「いい加減姿を見せたらどうだ?そんなんだからいまいち上に信用されないんだ」
「いやーん☆ アタシ今全裸だけどいいの?」
_
( ゚∀゚) 「……くそったれ」
心の声がついつい零れる。
- 179 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:48:52 ID:uUx1ZvuU0
- _
( ゚∀゚) 「結局アンタは何しにきたんだ」
「じょるたんの可愛い眉毛を見に来た」
_
( ゚∀゚) 「あのなあ……」
「あわよくば剃り落としに来た」
_
( ゚∀゚) 「剃るな」
「冗談はさておきー、取っておきー」
_
( ゚∀゚) 「取っておくな。捨てろ」
「アタシさー、最近ちょくちょく貴方の上司に呼び出されるでしょ?」
_
( ゚∀゚) 「ああ」
「待ってる間に作ったキメラに逃げられちゃった」
_
( ゚∀゚) 「」
「見かけたら処分しといて☆めちゃんこ強いけどじょるたんなら倒せるはずだから★」
_
( ゚∀゚) 「」
「じゃ、用は済んだから、じゃーねぃ☆」
_
( ゚∀゚) 「」
- 180 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:50:09 ID:uUx1ZvuU0
-
見えない声の主の、ほんの少しだけあった気配が消えた。
胃薬のビンを手に取る。
空だったことを思い出してゴミ箱に投げ入れた。
前日の内にゴミ箱を空にしていたため、予想よりも大きな音が立つ。
ナガオカの部屋は二階だ。
一階には大家が住んでいる。
ドンっと床が下から叩かれた。
大家さん、ご立腹である。
次に会った時、恐らくネチネチと説教をされるのだろう。
_
( ゚∀゚)
_
( ゚∀゚) 「おっぱいが揉みたい!!!!!!!!!!」
「うるせえぞ!!!」
_
( ゚∀゚) (支部に行ったらオードちゃんにセクハラしよう)
ナガオカは壁にかけていたジャケットを羽織る。
厄介ごとを早めに片付けなければ。
柔らかなベッドとの逢瀬は、しばらく先延ばしだ。
まずは、厄介な火種を早めに処分しなければ。
* * *
- 181 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:51:39 ID:uUx1ZvuU0
-
ξ;;⊿゚)ξ 「私が囮になる」
状況を簡潔におさらいしよう。
ツンたちは斬っても斬っても死なないキメラと戦い満身創痍。
おさらい終わり。
「倒す方法が分った」と言ったブーンが説明したことは、酷く単純だった。
要は、火で焼けばいい。
ブーン(もとい、その中で観察を続けていたドクオ)曰く、あのキメラの再生能力の肝は、細胞。
細胞の一つ一つに微弱ながら意識があり、それぞれが魔力で互いを統率しあっている姿が、
あの大狼の体からえのき茸のように蛇を生やしたものなのだという。
いくら切り裂いても、切れた場所の細胞が死ぬだけで他の細胞は無事。
そうして死んだ細胞の再生を兼ねて生きた細胞が更なる細胞を生み出しあい、進化しているのだ。
逆に言えば、同時に全ての細胞を破壊し尽くせば殺すことが出来る。
想定できる方法が、火で焼くか、雷を落とすことだった。
タカラは魔法が使えない。
ツンは、風と精々水系列の魔法しか使えないので却下。
となると、唯一魔法を使えるのが、ブーンと入れ替わりに表れる、ドクオ。
- 182 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:52:24 ID:uUx1ZvuU0
-
ならドクオにやらせればいいといっても、そう簡単にはいかない。
キメラは魔法に反応するため、暢気に詠唱していては襲われて終わり。
かといってタカラもツンも、正攻法でまともにキメラとやり合える体力は残っていない。
ドクオは、ほぼ援護なしと同じ状況で魔法式の展開を行わなければいけなくなる。
しかも、ドクオ自身あまり組んだことの無い、上級の魔法式をだ。
倒す方法は分ったが、うまく行くかは分らない。
という類の話をキメラの攻撃に晒されながら何とか終えての、
ξ;;⊿゚)ξ 「私が囮になる」
発言だ。
ツンは元から囮になるつもりで戻ってきたのだ。
彼女が立候補するのは当然のこと。
問題は、ただ逃げ回っているだけではドクオに攻撃が及ぶかもしれない、という点。
(;;゙A`) 「そもそもお前、動けんのか」
ξ;;⊿゚)ξ「方法はある。むしろそれしかない」
(;;゙A`) 「ちっ、分った」
- 183 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:54:34 ID:uUx1ZvuU0
-
三人を目掛けて青い光弾が飛来、地面を抉る。
それぞれに飛びかわした三人はキメラを囲むように散らばった。
少しでも意識を拡散させなければ。
ξ;;⊿゚)ξ「ドクオ!ブーンに代わって!」
(;;;;゙ω^)「なんだお!?」
ξ;;⊿゚)ξ「一つだけ魔法を使いたい。時間を稼いで、30秒もあればいい」
(;;;;゙ω^)「何十分でも稼いでやんお!!」
左足が骨折しているブーンは、左手も使いながらキメラに駆け寄る。
キメラ側もこちらの戦力の鍵がブーンだと理解しているのか、ツンとタカラには目もくれない。
頭の分だけ放てる魔法と、直接の噛みつきでブーンを迎撃する。
ブーンはこれを大きく回避。
追撃も半ば大仰な動きでかわしていく。
ξ;;⊿゚)ξ「“紡げ、動け、この身あるまま繰(く)り人形―――”」
分離した蛇がツン目掛けて這い寄ってくる。
援護は望めない、自分で何とかしなければ。
魔法式への集中を維持しながら小剣を抜く。
足に噛み付こうとした蛇の頭を突き刺した。
- 184 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:54:48 ID:Ak4.ZVBU0
- 支援支援
- 185 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:55:24 ID:uUx1ZvuU0
-
ξ;;⊿゚)ξ「“ただ、天の意思のままに―――”」
更に二匹、蛇の接近。
にじり下がりながら魔法式を展開、発動まで後一歩に漕ぎ着ける。
しかし、そこへ二匹の蛇が飛び掛った。
ξ;;⊿゚)ξ「“―――マリオット”!!!」
空中の蛇が、細切れになる。
ツンがその手に持った小剣で切り裂いたのだ。
更に空いていた手でナイフを抜き、キメラに切り込む。
ツンが発動したのは、外的な魔法の力によって動作速度を向上させるものだ。
纏った風の魔法が強化外骨格となって、身体を意思どおりに動かすことが出来る。
ブーンにかけたものと違い、対象の身体能力によるムラが無く、たとえ瀕死でも動くことが可能なのが利点だ。
故に今のツンには最適な魔法。
無論傷の痛みが無くなるわけではないので、
ξ;;⊿゙)ξ 「ひぃぎぃぃぃぃ!!」
滅茶苦茶痛い。
脳髄が魔法の行使を拒絶するくらい痛い。
- 186 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:57:14 ID:uUx1ZvuU0
-
ξ;;⊿゙)ξ「ブーン!後は任せて!」
(;;;;゙ω^)「分った!これ貸すお」
ブーンの傍へ来てツンが蛇を切り落とすと、ブーンが自分の剣を一本投げてよこした。
小剣を捨て、右手でそれを受け取る。
通常の剣よりも少々短い刃渡りと、反りのある片刃。
たしか、小太刀と呼ばれる剣だ。
ツンが持つ武器としては少々重いが、魔法の効果があれば扱える。
(;;゙A`) 「頼んだぞツン!!」
ξ;;⊿゚)ξ「…ッアヒルさんボートにッ乗ったつもりで任せッな!」
ツンとしては的確なたとえだったが、ドクオは少し渋い顔をした。
しかし、すぐに魔法式を組み上げ始める。
流石の早さだ。ツンが意識をキメラに戻すまでの一瞬で基礎の展開はほぼ終了していた。
ツンはキメラの攻撃を弾き、反撃に出る。
ブーンの動きを思い出し、真似ての立ち回り。
普段ならば絶対に不可能だが、魔法の力を借りればなんとか再現できる。
全身の軋む痛みに意識を奪われそうになりながらも、ツンはキメラの身体を刻み続けた。
- 187 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 18:59:31 ID:uUx1ZvuU0
-
(;;゙A`) 「“地より湧き立つ血色の業火―――”」
キメラから生えた蛇が、囲みこむように一斉にツンを襲う。
下がってかわすが、追撃は止まらない。
追ってきた何本かを切り落とすも、残りの頭がツンを捉える。
(;;゙A`) 「“天より舞い降る蒼き灼炎―――”」
ギリギリで身体を捩り、毒牙が皮膚に突き刺さるのを避けた。
引きちぎられた服の切れ端が、音を立てて溶ける。
間合いを取るのは不利だ。しかし切り込むと長い頭に囲まれる。
真似できると思っていたが、とんでもない。
ブーンは、こんな死ぬしかないような状況で平然と戦っていたと言うのか。
魔法のお陰で動きに支障は無いが、足が震え、背中を冷や汗が濡らす。
これだから、ツンは精々アヒルさんボートなのだ。
(;;゙A`) 「“煉獄に蠢く八つ足の魔に、畏み申し上げる―――”」
ドクオが、ここまで組んでいた魔法式とは別の魔法式の展開を始めた。
二重魔法。複合魔法の分類の一つで、一人の人間が同時に複数の魔法式を組み上げる場合を言う。
右手でチャーハン作りながら左手でピラフ作るようなもんだ。
ツンちゃん的には、基地外行為に分類している。
- 188 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:00:58 ID:uUx1ZvuU0
-
二重魔法の利点は言わずもがな、同時及び連続して魔法を発動することによる、魔法の強化だ。
単純な魔法が別の魔法で底上げされることで本来の倍以上の性能を発揮することは珍しくない。
実際に使われるのは、下級同士の組み合わせが関の山だが。
そして、不利な点もまた言わずもがな。展開にかかる時間。
使いこなす者になれば二つを別々に組んだ合計の時間よりも短くはなるそうだが、
それは時と場合を度外視した効率面での話し。
今のように、速さの求められる状況では、あまり使われえることは無い。
(;;゙A`) 「“二極を一に。頭尾繋がる大蛇の如く―――”」
魔法の発動が先か、ツンが毒牙一発で屠られるのが先か。
ツンちゃんには後者の未来しか見えない。
直接の噛みつきを必死でかわしていたツンに、死角から魔法が放たれる。
青い魔法の礫は螺旋回転しながらツンのわき腹に食い込む。
重い痛み。一番下のあばらが折れた。
視界が一瞬真っ黒に染まり、前が見えなくなる。
辛うじて残った蜘蛛の糸の意識が、ツンをその場から飛びのかせた。
音で、その場に追撃があったことを知覚し、肝を冷やした。
- 189 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:03:11 ID:uUx1ZvuU0
-
(;;゙A`) 「“魔を縛れ。魔を食らえ”」
ドクオが魔法を組み上げる速度は二つ同時とは思えないほど早かった。
完全に周りの情報をシャットアウトして魔法を展開している。恐るべき集中力。
同時に、完全にツンを信頼してくれたと言うことでもある。
わざわざ時間を食うことをしている点にはいくらか文句があるが、まあ許してやろうというものだ。
ツンが離れた間を、タカラが懸命に埋めていた。
抉れた土を牧草ごとキメラに投げつけ、意識が向いたら逃げる、の繰り返し。
キメラが本気で殺しにかかったら彼も一瞬で死ぬだろうが、キメラは意識散漫でその様子が無いのが幸いだ。
ツンも口の中の血を唾と共に吐き出してキメラに切りかかる。
ありがたいことに、脳が過度の痛みを拒絶してか、首から下の感覚は無くなっていた。
(;;゙A`) 「“喰らい合い、熔かし合い、表裏の如く一体となれ―――”」
キメラの標的が魔法を準備するドクオに向いたのを察知し、その意識を引くため、一番太い蛇に刀を叩きつける。
細いものであれば斬ることが出来たのだが、やはり肉の密度が違った。
小さな傷を作るに終わり、そこから逃げ出す方へ直ぐに意識を切り替える
- 190 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:04:40 ID:uUx1ZvuU0
-
(;;゙A`) 「“我何者よりも魔を恐れ”」
が、何度も退避を許すほどキメラは愚かではなかった。
数十の蛇頭が全身から伸び、ツンの上下前後左右を完全に囲んでいる。
逃げ場は無い。切り払える数でもない。
多くの中の一匹が口を開き、掠れた雄たけびを上げた。
それを切っ掛けに、全ての牙がツンを襲う。
(#,^Д;;) 「おおおおおおお!!」
それを、間一髪。絶叫しながらのタカラが救い出す。
蛇の群れに果敢にタックルし、ツンを掻っ攫い、そのまま駆け抜けた。
蛇の牙は容赦なくタカラの体を傷つけ、毒を打ち込む。
庇われたツンは、結んだ髪の片方の先を少し溶かされただけだった。
(;;゙A`) 「“我何者よりも力に焦がれし者―――”」
キメラからやや距離が取れた位置でタカラがツンを抱えたまま倒れる。
体が痛みを思い出し、ツンは歯を食いしばった。
すかさず、キメラが二人に飛び掛る。
武器は前足。あの巨躯に踏み潰されればひとたまりも無い。
どうやらツンちゃん、デッドエンドらしい。
- 191 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:05:36 ID:uUx1ZvuU0
-
魔法の効果も切れ、ただ痛みの塊となったツンは静かに目を閉じる。
タカラが毒に呻く声がどこか心地がいい。
(;;゙A`) 「“汝を―――刻縛し”!」
そんなツンの諦めを、ドクオの魔法が否定した。
一瞬で現れた魔法の糸が、蜘蛛の巣の如くキメラを束縛し、地面に縛り付ける。
その距離、ツンたちから目と鼻の先。正に紙一重。
タカラが荒い息で這い、ツンを引き摺ってキメラから距離を取る。
キメラは糸の結界を破ろうと暴れるが、結界は弾力があり、一筋縄ではいかない。
(;;゙A`) 「“汝を、―――焼排す”!!!」
さらに、ドクオの手の先に生み出された赤青斑に絡み合う炎の玉。
見た目は拳ほどだが、莫大な熱量の塊だ。
ドクオはその魔法の火炎弾を、キメラへ放つ。
同時にキメラを押さえ込んでいた結界が、それを受け入れるようにぽっかりと口を開けた。
そして。
- 192 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:06:18 ID:uUx1ZvuU0
-
すさまじい閃光が周囲に広がり、轟音が大地を揺らした。
爆心地の直ぐ傍にいたツンとタカラはその振動で体が軋む。
しかし、肝心の熱はまったく感じない。
薄目を開けて見ると、そこには巨大な紫色の玉があった。
爆発の圧力で球形に広がった結界の中で、紫の炎が轟々と燃え続けている。
さながら、即席の焼却炉と言ったところ。
酸素が無くとも炎が絶えないのは、魔法由来のものだからだろうか。
ξ;;⊿゚)ξ(綺麗。おっきい紫のメロンみたい)
ツンの顔を明るい紫の光が照らす。
時折、キメラの絶叫と思しき音が聞こえたが、直ぐに炎の唸りにかき消された。
ドクオは辛い顔をして結界の魔法を制御している。
もし今結界が消えれば、溢れた爆炎がツンやタカラ、ドクオをも飲み込みかねない。
魔法は一分ほど続き、徐々に収まっていった。
炎が消えるにつれてキメラの姿も現れる。
それはもう、黒い炭の塊で、キメラと呼べる状態ではなかったが。
(;;゙A`) 「頼むから、死んでてくれよ……」
ドクオが呟いた。
「やったか?」と言わなかった点については評価したい。
- 193 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:08:10 ID:uUx1ZvuU0
-
ドクオが魔法を解き、キメラを包んでいた結界が消えた。
燻っていた炎が再び盛ったが、燃やすものも無くすぐに収まる。
キメラだけでなく、地面も黒く焦げていた。
牧草が焼け、地面が少し抉れている。
(;;゙A`) 「ツン、大丈夫か?」
ξ;;⊿゚)ξ 「大丈夫じゃないけど、タカラがもっと大丈夫じゃない」
タカラは既に呻きも無くなっていた。
蛇に噛まれた傷口を中心に、赤黒く肌がただれている。
一箇所や二箇所の話では無い。全身のいたるところがその状態だった。
(;;゙A`) 「糞、とりあえず出来ることだけでもしないと、」
ドクオは清浄化の魔法をタカラにかける。
少なくとも傷口の毒は除去された。あとは既に体内に回った毒を何とかしなければ。
ドクオもツンも、解毒の魔法は使えない
ξ;;⊿゚)ξ 「せめてあの先生がいれば……」
从 ゚∀从 「呼んだ?」
ξ;;⊿゚)ξ
(;;゙A`)
* * *
- 194 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:09:01 ID:uUx1ZvuU0
-
結論から言って、キメラは無事死んでいた。
問題はその後である。
从 ゚∀从 『いやー、大五郎の支部に行く途中、禁酒委と行き当たってさあ』
从 ゚∀从 『事情が事情だから協力要請しちゃった』
そんな感じで、ツンたちは禁酒委員会に保護されていた。
立場上対立関係ではあるものの、酒を持っていないツンたちは逮捕されることも無く丁重に扱われている。
権威的なイメージこそあるが、禁酒委はあくまで民衆の為を謳う組織なのである。
ブーンは酒の入ったスキットルを持っていたため、少々もめたようだが、とりあえず逮捕はされていない。
ハインリッヒが強力を要請した禁酒委の中尉殿は、それなりに話が分るらしかった。
まあそれ以前に、キメラについて何か知っている風だったのが気になるが。
/ ゚、。 / 「……」
保護、とはいっても無論自由に禁酒委の支部内をうろつけるわけではない。
狭い部屋(恐らく、一時的な拘留施設)に入れられ、見張りの兵士がついている。
ツンの部屋にいるのは、ツンと同じ歳くらいの青年。
顔立ちが整っていて性別は分らない。
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ」
/ ゚、。 / 「なんだし」
声が高い。女だ。
- 195 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:10:22 ID:uUx1ZvuU0
-
ξ゚⊿゚)ξ「何で、警邏じゃなくて禁酒委員会なの?」
/ ゚、。 / 「サロンは元々自警団しかなかったんだし。だからウチが警邏も兼ねてるんだし」
なるほど、禁酒委がサロンで実権を握っているのはそういう側面もあるわけだ。
実際は越権行為なのかも知れないが、現地の人間にとって守ってくれるなら誰でも構わないのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「仮にも、大五郎に雇われてる私たちを保護していいの?」
/ ゚、。 / 「上司の命令だし。あんたたちは今酒を運んでいたわけでもないし、一般人と変わらないだし」
運んでた酒がなくなったのはあんたたちの仕組んだ襲撃のせいだろ、と言いかけてやめた。
下っ端らしい彼女がそれらについての情報をどれほど把握しているか分らないし、
どちらにせよ、しらばっくれてはぐらかすだけだろう。
ツンの腹に溜まるイライラは、既に臨界点に近かった。
禁酒委に助けを求めたハインリッヒの判断は間違いではない。
あの状況では、結果がどうなるか分らない以上、助けを求める相手にこだわってる場合ではなかった。
だから、この状況が気に食わないのはツンの責任。
両親の仇に助けられている、というのがこの上なく腹立たしい。
直接的な実行犯は禁酒委ではないだろうが、ツンはその関連を信じて止まない。
- 196 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:11:02 ID:uUx1ZvuU0
-
/ ゚、。 / 「ところで、オルトロスと大五郎はどんな関係だし」
ξ゚⊿゚)ξ「ん、ああ」
そういえば、ブーンはVIPで禁酒委に襲われたといっていた。
禁酒委としても彼がどんな立場にいるのか把握しかねているのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「大五郎はアイツを雇おうとしたけど、きっぱり断られたのよ」
/ ゚、。 / 「じゃあ何で一緒にいたんだし」
ξ゚⊿゚)ξ「ただのグーゼン。私とアイツが知り合ったのも、グーゼンだったし」
/ ゚、。 / 「むーぅん?」
明らかに疑っている顔だ。
ツンは一切嘘をついていないがまあ信じないのも分る。
ξ゚⊿゚)ξ「そこらへんのことは、アンタの上司がブーンから直接聞き出してるでしょ」
わざとらしく面倒くさそうな態度を表に出して、言い捨てた。
見張りの顔が険しいものになる。
- 197 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:12:24 ID:uUx1ZvuU0
-
/ ゚、。 / 「……助けられた立場の癖に、生意気だし」
ぼそりと、しかし聞こえることが前提の音量で呟いた。
ツンの耳がピクリと動く。
明らかな挑発だが、ここで堪えられるくらいなら、ツンちゃんいちいち満身創痍になったりしない。
ξ゚⊿゚)ξ「どっかの誰かさんたちが偉そうに踏み込んできた時には、もう全部終わってたんだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「それを偉そうに助けたとか、ハイエナみたいな考え方ね」
/ ゚、。 / 「酒なんかの近くにいると結果論しか考えられなくなるんだし?」
/ ゚、。 / 「ウチが協力を引き受けなかったら、あの魔法使いが戻るのももっと遅れてたんだし?」
ξ゚⊿゚)ξ「別にそのまま先生だけ残ってあんた達帰っても良かったのよ?」
ξ゚⊿゚)ξ「あ!それじゃ助けてやった優越感に浸ってドヤ顔できないもんね。ありがとう禁酒委さん!」
/ ゚、。 /
ξ゚⊿゚)ξ
/ ゚、。 / (僕、)
ξ゚⊿゚)ξ(コイツ)
嫌い(だし)。
二人の息は微妙なところで合っていた。
- 198 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:13:05 ID:uUx1ZvuU0
-
ツンとダイオードが、猫とカラスよろしくいがみ合っている隣の部屋でブーンとジョルジュは向き合っていた。
ブーンは後ろで手を拘束され、椅子に座らされている。
ツンとタカラはともかく、ブーンは一応飲酒していたので保護ではなく身柄拘束という体になっている。
_
( ゚∀゚) 「あのキメラを処分してくれたあんたを拘束するのは気が引けるんだが」
( ^ω^)「かまわんお。酒飲んでるのは事実だし」
この場においては圧倒的にジョルジュ優勢なのだが、ブーンの態度は実に堂々としていた。
気分としては完全に推し負けている。
オルトロス。
国内外問わず大きな戦争があれば必ずといっていいほど名前が挙がる。
ここ十年では、最も有名な傭兵といって過言ではないだろう。
_
( ゚∀゚) 「改めて自己紹介しよう。禁酒委(中略)警備課課長、ジョルジュ=ナガオカ中尉だ」
( ^ω^)「ブーン=N=ホライゾンだお」
_
( ゚∀゚) 「早速なんだが、サロンに来た理由は?」
( ^ω^)「ちょっとした観光だお」
_
( ゚∀゚) 「単刀直入に言おう。ウチの上司がアンタが大五郎と組んだんじゃないかとおろおろしてる」
( ^ω^)「僕は誰にも雇われてないし、雇われる気もないお」
- 199 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:14:09 ID:uUx1ZvuU0
- _
( ゚∀゚) 「……」
( ^ω^)「……」
しばしのにらみ合い。
ブーンは相変わらずの柔和な顔で、ナガオカの穿つような視線もまったく通じない。
暖簾に腕押しとは、正にこのこと。
嘘を吐いているようには見えないがどうにもつかみどころが無い。
これ以上話を聞こうとしても無駄か、と短く息を吐く。
_
( ゚∀゚) 「とりあえず持っていたスキットルは没収。今日一日は拘留する」
( ^ω^)「おーん、悪いことしてないおに」
_
( ゚∀゚) 「酒入りのスキットルを見つけたからにはただで返すわけにはいかなくてな」
( ^ω^)「出来れば一口飲ませて欲しいお」
_
( ゚∀゚) 「ダメに決まってるだろうが……」
( 'ω`) 「おーん……」
あのキメラをほぼ独力で押さえ込んだと聞いているが、どうにも覇気が無い。
言葉に表し難い威圧感のようなものこそ感じるもののこれならばジョルジュでも倒せそうだ。
- 200 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:15:13 ID:uUx1ZvuU0
- _
( ゚∀゚) 「キメラをたおした恩赦で、罰は無いことにする。明日には開放するから我慢してくれ」
( ^ω^)「……おーん、じゃあ、こちらからも一ついいかお?」
_
( ゚∀゚) 「機密以外のことならな」
( ^ω^)「ここに魔女が出入りしてるってのは本当かお?」
相変わらずの間抜けなニヤケ面。
しかしその奥の眼光は鋭く、嘘を見逃す気は無いと分る。
ジョルジュは無意識に唾を飲んだ。
やっぱ、コイツに勝つのは難しいかもしれない。
_
( ゚∀゚) 「俺はここに来て一ヶ月になるが、魔女の姿を見たことは無いな」
( ^ω^)「……」
_
( ゚∀゚) 「……」
( ^ω^)「そうかお。わかったお」
信じたのか、単に見逃したのかブーンの気配が元に戻る。
ジョルジュは嘘は言ってい無い。
魔女が支部に来る時は、常に姿を消しているので、「姿を見たこと」は無いのだ。
- 201 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:16:09 ID:uUx1ZvuU0
- _
( ゚∀゚) 「連れて行け」
部下に命じてブーンを留置部屋へ連行させる。
一人になって部屋で、椅子に凭れ天井を仰ぐ。
油の満ちたランプが二つ。煌々と光を放っていた。
胃がキリリと痛む。
今回は偶々オルトロスがキメラを発見し倒してくれたから良かったものの、
もし発見が遅れていたらどんな被害が及んだか分らない。
_
( ゚∀゚) 「上も、厄介なのに手を出したもんだ……」
『魔女』。巷ではそう呼ばれている。
魔法で常に姿を消しているものの話してみれば少々奔放なだけでそこらの女と大差は無い。
その大差ない気まぐれと我侭で、天地をひっくり返す魔法を使うから厄介なのだが。
上は、長く地下での小競り合いを続けていた大五郎酒造を潰すため、魔女に手を出した。
その力を利用できると勘違いしているのだ。
ジョルジュに言わせれば、いつ暴れだすか分らない猛獣を、絹糸一本で拘束しているようなもの。
今回のキメラの件もその危うさが露呈した事件ではないか。
もう一度、魂を道連れにするほどのため息を一つ。
しばらくの間、胃薬を手放すことは出来無そうだ。
- 202 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:16:46 ID:0/E0Od/c0
- 命削ってんのなジョルジュさん
- 203 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:19:27 ID:uUx1ZvuU0
-
六話おわりー
次は今週中に来れればいいかなと
ではではー
- 204 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:20:35 ID:0/E0Od/c0
- 乙
ドクオさん素敵
- 205 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:24:19 ID:Ak4.ZVBU0
- 乙乙
ツンが勇ましくてかわいいな
- 206 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 19:56:56 ID:A7lpuWvk0
- おつ
ドッグにも喋らせてあげて!
- 207 :名も無きAAのようです:2012/09/17(月) 12:19:49 ID:K.HYh98EO
- 宝酒造乙
- 208 :名も無きAAのようです:2012/09/17(月) 19:16:37 ID:K.HYh98EO
- アサヒビール系だった死にたい
- 209 :名も無きAAのようです:2012/09/17(月) 21:54:48 ID:rapMqZPo0
- タイトルはひどいが面白いな
ツンかわいいよツン
- 210 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 01:12:14 ID:rzQV7s/c0
- 俺とお前とー
- 211 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 01:12:46 ID:kqUYF/qE0
- むーかしの
- 212 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 01:13:31 ID:kqUYF/qE0
- ためごろうー
- 213 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 12:38:02 ID:1kcOV9Ck0
- THE 王道って感じで好きな作風
- 214 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:15:53 ID:bIEcoEpo0
-
遠くから鶏の鳴き声が聞こえた。
薄っすらと目を明けると、カーテン越しに日の光が溢れている。
ツンは起き上がり欠伸を一つ。
ベッドから起きると、着替えをしようと壁にかけてあった服を手に取る。
部屋干ししていたスラックスはまだ微妙に乾いていない。
カーテンを空け、カーテンレールに干しなおす。
直ぐに出るため気休めだが、日に当てると当てないとでは違うだろう。
それにしても、そろそろ着替えを買いに行かないと。
下着姿のまま、水道を捻り水を飲む。
少々カルキ臭いが冷たくて気持ちがいい。
蛇キメラとの戦闘から三日。
身体の調子はいまいち戻りきってはいないが、大分マシにはなった。
タカラは一命は取り留めたものの、まだハインリッヒのところで療養している。
ブーン達もこの街にしばらく滞在するといっていた。
魔女の目撃情報にくわえ、あのキメラが魔女の手によるものだと確信していて、
ここで魔女を探すつもりらしい。
一応、ツンも仕事の合間に手伝うつもりだ。
- 215 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:16:41 ID:bIEcoEpo0
-
禁酒委に保護された後、ツンは無事大五郎に引き渡された。
タカラは前述のようにハインリッヒのところへ運ばれ、ツンは専用の宿舎に。
支社があるといってもまだ準備段階に近いため、人は少なかった。
というのも、ツンたちと共に運ばれた荷物が、まず最初の商品だったらしいのだ。
故に例の襲撃で全て潰されたせいで休業中。
大五郎も品物に限りがあるため予定外の補給は簡単にはできない。
噂によると、ツンたちの襲撃があった日、他の地域でも大きな暴動があり、
輸出用のストックが薄くなっているのだそうだ。
そもそもまだ市場を開拓できていないサロンよりも他を優先するのは、まあ仕方がないだろう。
更に悪い噂では、サロン進出を見合わせるかも知れないというのだ。
迅速に動いた禁酒委に抗おうと計画を強行したものの、度々の襲撃で完全な赤字状態。
そもそも禁酒委がいないから手を出そうとしていたにで、今の状態は割に合わんということらしい。
よって、ツンちゃんはお仕事しながらも、糞お暇状態。
警備の巡回という名目でうろつきまわっているだけである。
社員も傭兵も商品も補充されないことを考えると、諦めようというのは本当なのかもしれない。
そもそも飲酒文化が希薄なサロンに展開しようとしたことが間違いだと思うが。
ツンは、直接話した印象で大五郎酒造社長、渋沢を尊敬しているもののちょっと幻滅だ。
魔法と戦闘の才能はあっても、商才はないのかもしれない。
- 216 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:17:32 ID:bIEcoEpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ「たっかーらくーぅっん、あーそーぼっ」
そんなわけで。指定されたルートを外れ、ツンはハインリッヒの家に来ていた。
手には近所の直売所で買ったミルクとバター、木苺ジャムとパンをバスケットに入れて持っている。
从 ゚∀从 「あのな、普通に入って来いよ」
ξ゚⊿゚)ξ「変化のない田舎の日常に変化を求めてみたの」
出迎えてくれたハインリッヒと共に、中へ。
ハインリッヒの家は、それなりに大きな二階建てだ。
二階にハインリッヒの個人的な生活スペースがあって、一階は丸々診療スペースになっている。
从 ゚∀从 「つっても、俺は往診がメインだから、ここで治療することは少ないんだけどな」
というのは初めてここを訪れたときにハインリッヒが言っていた言葉。
確かに、それらしい設備はあるものの、使用感はない。
ξ゚⊿゚)ξ「これ、お土産」
从 ゚∀从「ああ、もって行ってやれよ。なまものは食っちまってくれよな」
ξ゚⊿゚)ξ「違う、重いから持って」
从 ゚∀从「お前も中々人を小ばかにしてるよな」
失礼な。ツンちゃんは甘えられる人にはついつい甘えちゃう系女子なだけである。
- 217 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:18:13 ID:bIEcoEpo0
-
診療所の奥、入院患者用の狭い病室にタカラはいる。
ベッドで枕を背もたれに上半身を起こし、本を読んでいた。
( ,,^Д^) 「お、今日も来たのかにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「暇だから遊びに来ちゃった」
( ,,^Д^) 「いや働けにゃ」
从 ゚∀从「まったくだ」
ハインリッヒが、ベッドサイドのテーブルに、土産の入ったバスケットを置く。
ツンはその中からビン入りのミルクを取り出し、タカラに渡した。
籠に下級の氷結魔法をかけているので、ひんやりと冷たい。
( ,,^Д^) 「いっつもわるいにゃ〜」
ξ゚⊿゚)ξ「さっさ復帰してよね。知らない人ばっかりで居心地悪いの」
( ,,^Д^) 「俺は平気だって言ってるのにリッヒがダメだって言うんだにゃ」
タカラの体の傷はもうほぼふさがって直っているが、毒でただれた痕はまだ残っている。
赤くざらついた皮膚を見ると、ツンは少し胸が痛む。
これは、ツンを庇うために負ったものだ。
- 218 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:18:55 ID:bIEcoEpo0
-
从 ゚∀从 「あのなあ、あのキメラの毒舐めんじゃねーぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「舐めないわよ。死んじゃうじゃない」
从 ゚∀从 「……」
ξ゚⊿゚)ξ「イタッ」
ハインリッヒに頭を小突かれ軽口を紡ぐ。
ちょっとした愛嬌じゃないか。何も叩かなくても。
从 ゚∀从「除毒には成功したが、体の至るところの細胞が破壊されてんだ」
从 ゚∀从「死ななかったのが奇跡なくれーなんだぞ。あと三日はは安静にしてもらうぜ」
( ,,^Д^) 「にゃあ、しかたないにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなやばい毒だったんだ」
从 ゚∀从「ああ、本体の見た目と同じく複数の毒のブレンドだ。魔法じゃなかったらまず無理だったな」
気持が少し重くなる。
もしあそこでハインリッヒが来てくれなかったら、タカラが死んでいたかもしれないというのは初めて聞いた。
あまりにも普通にしているから、特別なものではないと思っていたのに。
- 219 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:19:42 ID:bIEcoEpo0
-
从 ゚∀从 「お前もあんまり無茶すんなよ。あくまで部分部分を繋ぎなおしただけなんだから」
ξ゚⊿゚)ξ「分ってますって」
こちらは耳にたこが出来るほど注意された。
戦闘を終えたツンはあまりに短期間に怪我を重ねたため、治療魔法をただかけるのは非常に危険だった。
なので、最低限の内出血や骨折を繕い、もれた髄液などを除去するだけにとどまっている。
今、ツンが動いていられるのは、ハインリッヒの施した保護と麻酔の魔法のお陰だ。
服をめくれば、打撲の痕がボコボコある。
ξ゚⊿゚)ξ「あの時は先生だってノリノリだったくせに」
从 ゚∀从「まさか、そんな鉄砲玉みたいな体の使い方すると思わなかったんだよ」
从 ゚∀从「ったく、乳は小さくても一応女だろうが。もう少し身体を労われ」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちっちゃくないわ!邪魔だからさらしで抑えてるだけじゃ!」
从 ゚∀从「あのな、俺は軽く触っただけで身体の状態が分るんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ
从 ゚∀从「虚しい嘘、つくなよ」
ξ∩⊿∩)ξ「哀れまないで!馬鹿にしてもいいから哀れむのはやめて!!」
- 220 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:20:23 ID:bIEcoEpo0
-
タカラの見舞いを終え、ツンは再び巡回に戻っていた。
ブラブラと適当に道を歩き、見かけた人に挨拶をして、また適当に歩く。
仕事に出るようになったのは昨日からだが、ツンは既に飽きていた。
この前のキメラ襲撃が嘘のようにサロンは平和だった。
人々は畑で農作業に励み、牛が牧草を食む。
柵に身体をあずけてその様子を見守っていると、自然に欠伸が出た。
長閑だ。長閑過ぎる。
腰に剣を差しているのがアホらしいくらいだ。
( ^ω^)「仕事サボって何やってんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「仕事中よ」
いつの間にかブーンが横にいたが、特別驚くこともなかった。
彼は今ハインリッヒの家に部屋を借りている。
今日はもう出かけたと聞いていたので歩いていれば出くわすこともあるだろうと予想していた。。
( ^ω^)「草むしりするおじさんのお尻を見るのが仕事なのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「どっしりしたいいお尻してるわよね」
( ^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「アンタは?」
( ^ω^)「僕はキメラ探しってところだお」
- 221 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:21:12 ID:bIEcoEpo0
-
あの、満身創痍で何とか倒したキメラが魔女由来のものだとブーンは考えているらしかった。
禁酒委の中尉と何か話したのかは知らないが、魔女がこの街にいるという確信を得たらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「魔女、見つかりそう?」
( ^ω^)「うーん。いっそこの街消すぐらい大暴れしてくれれば見つかるかも」
ξ゚⊿゚)ξ「割と冗談になってないわ、それ」
ブーンは昨日いっぱい情報屋の言っていた目撃情報の発進主を探していたが、一向に見つかる気配が無い。
それどころか尋ねた人全てが初耳と言った顔で驚き怯えるので、聞き込みは断念した。
しかし、あのキメラがいたことを考えると、デマだったとは考えにくい。
キメラが目撃されるようになった時期も、魔女の目撃情報があった時期に一致している。
デマに偶然が重なったとも取れるが、それにしては出来すぎだ。
そこでブーン(実際は相棒のドクオ)が導き出した推測は、内部からのリーク。
魔女と手を組み何か企む禁酒委上層部(または一部の過激派?)に気付いた内部の人間が
情報を流したと考えるのが自然なのだとか。
そう考えれば、「この街に魔女がいる」という情報の信憑性も増す。
ツンからすると、他にあてが無いから、こじつけているようにも思えるのだけれど。
ξ゚⊿゚)ξ「とりあえずいるならいるでさっさと捕まえてよね。物騒だし」
( ^ω^)「おーん、善処するお」
- 222 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:22:04 ID:bIEcoEpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ「あ、そうだ。今ドクオ起きてる?」
( ^ω^)「お?ちょっと待ってお」
ツンにはよく分らないのだが、ブーンとドクオは、その時優位な人格では無いほうも
別に意識を失っているわけではないらしい。
意識の奥に引っ込んだり出てきたりはあるものの、基本的には見聞きしたものを共有しているそうだ。
ドクオは魔法関連の考え事をするため、体をブーンに任せて引きこもることが多い。
気まぐれに表れることもあるが、大抵はブーンも分らない意識の深層で理屈をこねている。
('A`) 「おはよ。どうした?」
ξ゚⊿゚)ξ「おは。あのさ、いつでもいいからさ、私に魔法教えてよ」
('A`) 「んー?別にいいけど、お前師匠いるんだろ?そっちに習えよ」
ξ゚⊿゚)ξ「いやー、なんていうか、私途中で師匠のところ飛び出してきたからさ」
('A`) 「ならなおさらだ。俺とお前じゃ展開法の系統が違うし、ちゃんと師匠のトコで修めた方がいいぜ」
ξ゚⊿゚)ξ「それがですねえ」
- 223 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:23:29 ID:bIEcoEpo0
-
('A`) 「なんか問題あんのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「師匠と喧嘩して、色んな魔法具とか壊したり盗んだりして飛び出してきちゃったから」
('A`) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ「師匠ぶちキレ、みたいな?見つかったら天叢雲でみじん切り、みたいな?」
('A`) 「……」
ドクオの、長ーいため息。
頭をボリボリと掻いて、面倒臭そうに考え込んだ。
('A`) 「お前、ホント人を小ばかにしてるよな」
ξ゚⊿゚)ξ「考えて出した結論それかよ」
ドクオも中々失礼な奴である。
ツンはツンなりに真面目に生きている。ちょっとバカだって言われるけど。
('A`) 「……分った。基礎的な部分なら大丈夫だろ」
ξ゚⊿゚)ξ「やった。ありがと」
ドクオは再びため息。いかにも厄介ごとだ、という顔をしていた。
- 224 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:24:17 ID:bIEcoEpo0
-
後日魔法の教練を受ける約束を取り付け、ツンは巡回に戻った。
ドクオは再びブーンに身体を預け、新しい魔法の構成だかを始めたらしい。
力として魔法を扱えればいいだけのツンにとっては、魔法の研究など変態のやることだ。
拾った木の枝を振り回しながら農道を行く。
地面の石をゴルフの要領で打とうとして腰が痛くなったので、その後は大人しく歩いた。
一口に農の街サロンシティとは言っても全てが全て農地というわけでは無い。
中心街は比較的都会の雰囲気を持ち、そこから偏狭に行くにつれての農地へと変わっていく。
農地も、隣接するオーマ湖に近い場所には水を多く必要とする野菜等の作物が。
荒野側の比較的乾いた土地には、果物や乾燥に強い作物が生産されている。
ツンは荒野側の農地区画をぐるりと周り、例のキメラに襲われた場所へ。
現場はロープが張られ当時のままになっている。
魔法や咬撃によって抉れた地面と、焦げたキメラの血の痕。
あの時、残っていたキメラの体の破片は禁酒委員会が総出で焼き尽くした。
よって、再生できるほどの細胞はもう残っておらず、キメラだった物の炭が残っているばかりだ。
ξ゚⊿゚)ξ(あの毒、採取できたら色々便利だったろうなあ)
主に、暗殺とか。
そんな物騒な考えを引っ込め、ツンは中心地へと踵を返した。
- 225 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:24:57 ID:bIEcoEpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ「あら?」
それは、支店へ報告へ帰るために禁酒委員会の支部の近くまで来た時のことだ。
何で禁酒委員会の傍を見て回らなくちゃならないのか甚だ疑問だったが、敵情視察の一言で片付けられた。
この組織と係わり合いを持ちたくないというツンの望みは、そんなあやふやな理由で却下。
そもそもまともに業務展開できていないのに視察も糞も無いと思う。
なので支部が近づくにつれ少しづつイライラしていツンだったが、丁度いはけ口を見つけた。
禁酒委サロン支部の裏手で、ゴミ出し作業をしている兵士がいる。
この間ツンの見張りについた、あの女だ。
ξ゚⊿゚)ξ「手伝いましょうか?一級曹」
/ ゚、。;/ 「僕の仕事だし、手を出さなくていいだし」
女、鈴木ダイオード一級曹は振り返らずにせっせと作業を続けている。
大方ツンを部下の誰かだと思っているのだろう。
仮にも兵士ならば背後にもっと気を配るべきだ。
ξ゚⊿゚)ξ「あなたソコソコ上の階級でしょ?何でそんな下っ端の仕事してるの?」
/ ゚、。;/ 「懲罰だから仕方ないんだし……」
_,
ξ゚ー゚)ξ 「へえ、懲罰なんだぁ」
ツンは、思いっきり嫌な笑みを浮かべた。
- 226 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:25:58 ID:bIEcoEpo0
-
/ ゚、。;/ 「って!何でお前がここにいるんだし?!」
_,
ξ^ー^)ξ「ねえねえ、なんで懲罰なの?何やったの?」
/ ゚、。;/ 「ぐぬぬぬぬ」
_,
ξ^ー^)ξ「いいじゃない、大人しく白状しなさいよ」
/ ゚、。;/ 「機密だし!機密だからいえないし!」
_,
ξ^ー^)ξ「あ、もしかして、VIPでブーン襲って返り討ちにあった僕っ子ってアンタのこと?」
/ ゚、。;/ そ
_,
ξ^ー^)ξ
/ ゚、。;/ ´、
. _,
ξ;^ー^)ξ(わかり易すぎて不憫になってきた)
しかしツンは手を緩めたりはしない。
強敵と認めるからこそ決して容赦はしないのだ。
もといなんか気に入らないので弱みに付け込んでいびり倒すつもり満々である。
頭のついでに性格も悪いとかいうな。
- 227 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:26:31 ID:RuTO8SQA0
- 筆速いな嬉しい支援
- 228 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:27:20 ID:bIEcoEpo0
-
/ ゚、。;/ 「むむむむ、大五郎なんかに肩入れする奴はいやな奴ばっかりだし!!」
_,
ξ゚ー゚)ξ「貴方が一級曹なんて、禁酒委員って間抜けの集団なのね」
/ ゚、。;/ 「……ぺちゃパイ」
_,
ξ゚ー゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「あ?あんた人のこと言えんの?」
/ ゚、。 / 「僕は任務に邪魔だからさらしで抑えてるだけだし」
この二人、胸の大きさも同じならば言い訳も同じである。
世に言う同族嫌悪というものか。
ξ゚⊿゚)ξ「……斜め顔」
/ ゚、。 /「……髪の毛ペペロンチーノ」
ξ゚⊿゚)ξ
/ ゚、。 /
二人の間に火花が散る。
とてもしょうもない諍いの火蓋が切って落とされた。
- 229 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:28:40 ID:bIEcoEpo0
-
ξ#゚⊿゚)ξ「……ツンツーン、もう我慢できない。ぶちのめす」
/ ゚、。#/「人を小ばかにしやがってだし!切り刻んでやるだし!だしだしだしっ!!」
ツンはナイフを、ダイオードは腰のサーベルを抜いた。
リーチとしては不利だが、ツンには魔法のブーツがある。
ダイオードが何か手の内を隠している可能性もあるが、そんなもの使わせる前に勝てばいい。
先に動いたのはダイオード。
脇に構えたサーベルを横なぎに振るう。
ツンは上半身を引いて回避。
戻すバネでナイフを突き出すがダイオード゙はそれを戻した剣で受ける。
拮抗した力がが行き場を失い、刃がこすれあってカチカチと音を立てた。
ツンは空いている左の拳を小さな動きでダイオードの腹へ。
ダイオードの左手がそそれを防ぎ、再び硬直状態に陥る。
同時に武器を弾きあい、二人は間合いを取った。
ξ゚⊿゚)ξ(流石は一級曹、そこらの雑魚とは話が違うみたいね)
/ ゚、。 / (女の身で大五郎の傭兵やってるだけはあるだし、コイツ)
- 230 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:29:56 ID:bIEcoEpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ(もったいないけど……)
ツンはブーツの魔法を発動。
足を基点に風が全身に絡みつき、その身を軽くする。
/ ゚、。 / (魔法具?!そんな上等なものを……?!)
ダイオードが僅かにたじろいだ一瞬に、ツンは地を蹴る。
高い位置からの胴回し回転蹴り。
魔法により速さを増したその蹴りは、ダイオードの反応を置き去りに振り下ろされた。
/ ゚、。;/ 「!!」
ξ゚⊿゚)ξ「?!」
ツンはその瞬間何が起きたのかまったく分らなかった。
足がダイオードの肩口に食い込むその寸前、体が突然吹き飛ばされたのだけは確実だ。
痛みというほどではないものの腹に何かを受けた感覚がある。
ただ単に、体が慣性や重力から切り離されたように、突然明後日の方向へ飛んだ。
片手を突いて着地。同時にダイオードへ目を向ける。
_
( ゚∀゚) 「……」
そこには、胃の辺りを手で押さえた、禁酒委中尉が立っていた。
- 231 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:31:10 ID:bIEcoEpo0
-
/ ゚、。;/ 「ちゅ、中尉!」
ダイオードもあっけに取られていたらしく、彼の存在を知覚すると慌てて敬礼した。
中尉、ナガオカは振り返り様にダイオードへ上段回し蹴り。
ブーツの足がダイオードに当たると、打撃音も無くダイオードの体が吹き飛んだ。
その小柄な体がゴミ溜めの中に突っ込む。
恐らく、ツンもあんな感じで蹴られたのだろう。
_
( ゚∀゚) 「ダイオード一級曹。状況の説明を」
/ ゚、。;/ 「けぺっ!ぺっ!は、はい!」
ゴミから這い出したダイオードは口の中から何かを吐き出し、敬礼する。
頭にはジャガイモの皮がくっついている。
_
( ゚∀゚) 「聞こえなかったか?大五郎の傭兵と私闘に及んでいた理由を説明しろといっている」
/ ゚、。;/ 「え、えっと、そのです、ね」
聞きつつも大体の状況は飲み込めているのか、ジョルジュは顔をしかめ腹をさすっている。
視線を落として、目に見えそうなほど湿度たっぷりのため息を吐いた。
なんだろうこの人。明日くらいには死にそう。
- 232 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:32:34 ID:bIEcoEpo0
- _
( ゚∀゚) 「お前のことだ、どうせ安い挑発に乗ったんだろう」
/ ゚、。;/ 「そ、それはこの女が……」
_
( ゚∀゚) 「うるせえおっぱい揉むぞ」
/ ゚、。;/そ
ダイオードがだんまりになると、ジョルジュはツンに向き直る。
敵意を感じはしないが、不機嫌なのは間違いなさそうだった。
_
( ゚∀゚) 「そっちも、ウチと無駄に喧嘩するのは得策じゃないはずだが?」
ξ゚⊿゚)ξ「……そうね。悪かったわ」
ブーンとは別の、威圧感を感じる。
この男も強い。いざ戦うとなったらツンなど簡単にあしらわれてしまうだろう。
ツンは大人しくナイフを鞘に戻した。
_
( ゚∀゚) 「話が早くて助かる」
ξ゚⊿゚)ξ「アンタも、禁酒委の割りには感じがいいわ」
_
( ゚∀゚) 「苦労してるんでね」
肩をすくめて苦笑いを浮かべる。
その全身からあふれ出る悲壮感のせいで笑うことは出来なかった。
- 233 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:33:24 ID:bIEcoEpo0
-
半べそかきながら再びゴミの片づけを始めたダイオードを尻目に、ツンは仕事に戻る。
色々と余計な道草を食っていたため、中心街へ差し掛かる頃には日が暮れ始めていた。
すれ違う人々に会釈をして歩く。
まだツンの顔を見知る者は少なく、訝しげな顔で見られることも多いが、我慢だ。
中心街だけで言えば、サロンもVIPと大きな差は無いように見えた。
少し建物の密度は低いが料理屋もあれば娯楽を提供する店もある。
ただ決定的に違うのは、酒を取り扱う店が無いということだろう。
アルコールに馴染みの無い文化とは言え、酒を扱う店が皆無だったわけではないと思うが、
そういった店は既につぶれたか業務転換したのかもしれない。
ツン自身はそれほど酒をやらないとはいえまったく無いというのも少し寂しく思う。
ちなみに、年二回の祭事の際の酒は、老舗のワイン蔵が販売しているそうだ。
何でも、もともと輸出をメインに行っていた酒造のため、禁酒委員会もあえて手を出さなかったのだとか。
大五郎を潰せれば他に多少の酒蔵が残っても構わない、ということなのかもしれない。
農作業を終えた人々か、中心街には人が増え始めていた。
街灯には火が点され橙色の光が、夕日に負けじと輝いている。
ゆらゆらと揺れる炎は、見ていてどこか安心した。
同時に、急いで支社に戻らねば真っ暗になってしまうという焦りも沸く。
ツンにあてがわれた部屋は支社と中心地の間に位置する。
街灯が少ない地域なので、月の出ない夜は本当に真っ暗になってしまうのだ。
- 234 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:34:06 ID:bIEcoEpo0
-
料理屋から流れ出てくるかぐわしい匂いに涎を溢れさせながら、ツンは街を抜けてゆく。
ハインリッヒの家でパンを食べてからロクに何も食べていない。
誘惑に負け、丁度通りがかった屋台で牛串を一本購入して齧る。
焼きたてのため熱々だ。
焦げ目のついた表面はカリッと歯ごたえがあり、肉を噛むほど旨みが口の中に広がる。
また、タレの味も丁度いい。
しょうゆをベースにした甘辛に、大蒜生姜の薬味が利いていて肉の味にマッチしていた。
牛串をもぎゅもぎゅと租借しながら足を速める。
もう直ぐ市街地を抜け、支社のある地域に入るというところで、ツンは地面に何かが落ちているのを見つけた。
ロープのようなひょろ長い何か。丁度高い塀の作った影で、はっきりと見えない。
ξ゚⊿゚)ξ「なんだこれ」
ツンは眉を顰めた。
ロープではない。どちらかというと蛇のようだ。
しかし、どうやらただの蛇ではない。
一言でいうと、毛の生えた蛇(っぽいもの)。
基本的な骨格は蛇そのものだ。手足の無いながひょろいフォルムで、頭の形も似ている。
全身を覆う毛は黒よりの灰色で、触ってみると意外に柔らかい。
ξ゚⊿゚)ξ「これ、キメラとかじゃないよね」
はじめて見る生き物ではあるが、キメラ特有の異常さや禍々しさは感じられない。
新種の蛇か何かだろうか。
- 235 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:35:18 ID:bIEcoEpo0
-
指先で突いて揺らしてみる。
全体が長いのでひっくり返ることは無く、ゆらゆらと動くだけだ。
摘まんでそーっと持ち上げる。
毛の柔らかさの奥に肉の弾力を感じた。
地面に半分垂れた上体で顔を除いてみると、目は閉じている。
ξ゚⊿゚)ξ「……生きてはいる」
僅かにだが脈動がある。
ふと思いついて、片手の牛串を蛇?の鼻先に近づけた。
蛇?の鼻がひくりと動き、口の隙間から下がチロチロと出る。
目を開けた。
予想していたような爬虫類の切れ長の瞳孔ではなく、どちらかというと犬のようなくりっとした目をしている。
正直ちょっと可愛い。
弱弱しさも相まって、ツンの母性本能が強く擽られた。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと待っててね」
串に刺さった最後の肉を、食いちぎり指で摘まんで与える。
蛇?は先ほどと同じように匂いを嗅いでから、かぷり、とそれを食べた。
丸呑みし、次を催促するようにツンを見る。
- 236 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:36:19 ID:bIEcoEpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ「もっとほしい?」
結局残りの肉は全て蛇?の腹に収まった。
気のせいか、元気になっている。
毛艶もよくなったように見えるし、もしかしたら腹が減っていただけなのかもしれない。
蛇?は感謝を表しているのか、単にマーキングしているのか、ツンの足に擦りついた。
動き自体は蛇なのだが、やっていることはやはり犬のようだ。
ξ゚⊿゚)ξ「元気になったならお帰り」
ツンは蛇?を置いて再び歩き出はじめた。
子供の頃、野良の動物に餌をやるなといわれていたのをちょっとだけ思い出す。
いいよね、ちょっとくらい。死にかけをちょっと助けてあげるくらいは、母もきっと怒りはしないだろう。
が、ツンはこの後、この餌付けを早速後悔した。
しばらく歩いて、ツンは振り返ると蛇?が後ろをついてきている。
立ち止まったツンの顔を見上げ、「どした?」とでも言うように首を捻った。
それからしばらく、支店の近くまで戻っても蛇?はついて来た。
何度か巻こうとしたが、平然と追いつかれてしまう。
先ほどまでぐったりしていたとは思えないほどの元気である
ξ゚⊿゚)ξ「……はぁ」
ツンは蛇?を抱き上げる。
蛇は別段悪い気もしないのかツンの胸に頭を摺り寄せた。
- 237 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:37:00 ID:bIEcoEpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ「お母さんごめんなさい。ツンが悪い子でした」
ついてきてしまった以上しかたがない。
家に連れて帰ろう。
部屋、ペット大丈夫だったかな。
素直に言うとツンは動物を飼うという行為に尋常ならざる憧れを持っている。
両親と暮らしていた時は家が飲食店のためペットは厳禁。
死別し親戚を渡り歩いている間は、ペットを飼いたいなどと言える立場には無かった。
その上、どうにも動物に好かれない体質のため、こうも懐かれてしまうと愛着が沸いて仕方が無い。
こいつ飼う。今はちゃんと自分でお金も稼いでいるし、ツンちゃん飼い主デビューである。
明日ハインリッヒのところに連れて行って病気とか寄生虫とか診てもらわなければ。
ξ゚⊿゚)ξ「そうと決まれば名前決めないとね」
ツンの腕に絡み付いて蛇?が首をかしげる。
いつまでも蛇?では可哀相だ。
なにかピッタリな名前を考えてあげよう。
ξ゚⊿゚)ξ「決めた。ニョロちゃん。あなたニョロちゃんね」
蛇が露骨に嫌そうな顔をする。
ツンは、色々な意味で安直な性格だった。
- 238 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:38:00 ID:bIEcoEpo0
-
なんとかニョロという名前を承服させ、ツンは支社へ戻ってきた。
昼前に出立して夕暮れ時に帰還。
広い街ではあるが、少々時間をかけすぎだ。
支社の前では支店長のセント=ジョーンズが掃き掃除をしていた。
曰く、商品も何も無いのでろくな仕事が無いので毎日掃除しているのだそうだ。
確かに、支店は毎日ピカピカだ。もとより新品みたいなものなのだけれど。
(’e’) 「お帰り〜」
ξ゚⊿゚)ξ「ただいま、ジョーンズさん。今日はどうだった?」
(’e’) 「今日も特に何も変わらないよ〜」
間延びした喋り方が特徴の男で、気は穏やか。
元は別の街で敏腕を振るっていた営業マンだったらしいが、見る影も無い。
実際に精力溢れる営業マンだったならば、ここの支店長をさせるのは少々かわいそうだとも思う。
(’e’) 「ツンちゃんもお疲れ〜。報告書書いてお帰り〜」
ξ゚⊿゚)ξ「はーい」
本当にこんな状態でお金貰っていいのか、と考えなくも無いが
いざとなったら命を懸けなければいけないのだから普段はこれくらいで丁度いいのかもしれない。
- 239 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:38:55 ID:bIEcoEpo0
-
ツンが支店の扉に手を掛けると、首に巻いていたニョロが急に慌て始めた。
シャツの襟に噛み付きぐいぐいと引っ張る。
支店から遠ざけようとしているようにも見える。
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたのよ、ニョロ」
ニョロの焦りは尋常ではない。
必死にツンの襟を引っ張り何かを訴えている。
ξ゚⊿゚)ξ「なんなのよ、も――――
ツンがニョロを引き剥がそうとその胴を掴んだ瞬間、支店の屋根が爆ぜた。
空気の弾ける破裂音。木片と衝撃波がツンを襲う。
ξ;゚⊿゚)ξ「うおお!」
乙女にあるまじき声を上げてツンはその場を飛びのいた。
複数の魔法の気配が更に三つ。かなりの遠距離だが間違いなく支店を狙っている。
ξ;゚⊿゚)ξ「ジョーンズさん!」
(’e’) 「うわあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ツンはジョーンズに飛びつき庇う。
飛来した白い魔法弾は、一瞬の内に支店を木っ端へと変えた。
- 240 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:40:00 ID:bIEcoEpo0
-
降り注ぐ大小さまざまな鋭い木片。
それが止むと、ツンはジョーンズに被さるのを止め、立ち上がる。
支店は柱を中途半端に残し、ほぼ全壊。
周囲には支店の瓦礫が散らばり、見るも無残な光景だった。
音を聞きつけた近隣の住民が野次馬に現れる。
また攻撃が来ると危険だが、いくら探っても魔法の気配は無い。
ξ;゚⊿゚)ξ「ジョーンズさん大丈夫?」
(’e’) 「ツンちゃんに恋しそう〜」
ξ;゚⊿゚)ξ「しないで」
(’e’) 「失恋して辛い」
ジョーンズの無事を確認して、魔法の軌跡を辿る。
ほとんど消えていたが、北東の方向、オーマ湖の方角までは割り出した。
ξ゚⊿゚)ξ(あの魔法、間違いなくこの前の……)
目にしたのは一瞬だけだったが確実に馬車のときと同一の襲撃犯だ。
この破壊力と連続性、そうそう誰にでも生み出せるものではない
- 241 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:41:22 ID:bIEcoEpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ「ジョーンズさん、皆呼び戻して!私は一足先に行ってるから」
ジョーンズの返事も待たず、ブーツの魔法を開放。
家屋を全て飛び越えて一直線に湖を目指す。
距離はかなり遠い。以前の馬車と違い動かない店舗ならば距離があっても問題ないということだろう。
迎撃の魔法弾が二発飛来。
その射線上に人がいないことを確認し、ツンは飛んでかわす。
魔法弾はツンを通り越した後、上空へ飛翔。
追尾するように切り替えした。
ξ;゚⊿゚)ξ「追尾式?!」
追われていることに気付いたツンは、ナイフを抜き、魔法弾へ投擲。
ナイフを受けた一つが音と衝撃波を撒き散らして弾けた。
残り一つはしつこくツンを追ってくる。
何とか逃げ回ってはいるが、魔法弾の速度はツンよりもはるかに速いため、上手くかわさなければ追いつかれる。
それに、このまま飛び回られてはどこに被害が及ぶか分らない。
首に巻いたままのニョロが、ツンの襟を引っ張る。
それにつられて視線を横に流すと、地面に縦長の木の板が落ちていた。
柵か何かが外れたものだろうか。
ツンは素早くそれを拾う。
背後まで迫っていた魔法弾を、身を捻り間一髪で回避。
- 242 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:42:26 ID:bIEcoEpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ「だらぁ!」
再び切り返し追ってきた魔法弾を迎え撃つように、板を放り投げた。
白い魔弾は盾の如く立ちふさがった板に衝突し、破裂する。
飛び散った木片がツンの頬に傷を作ったが、直撃は避けられただけマシだ。
しかし、かなり手間を取った。
魔法の気配を完全に見失ってしまう。
とりあえずたどり着いた湖畔の砂浜。
支店からの距離は大体1kmほどだろうか。
振り返ってみると、支店まで障害物らしいものが丁度無い位置だった。
状況を確認する視力と精密な狙撃能力さえあれば確かに狙撃は出来そうだ。
あくまで特殊な技量を持った人間ならではの話で、並大抵の人間には不可能だろうが。
周囲を見渡すも、襲撃犯らしき姿は無い。
ξ゚⊿゚)ξ「……糞ッ」
地団駄を踏む。またもしてやられて逃げられた。
人は死ななかったからいいものの、拠点を瓦礫にされて何の抵抗も無しでは面目丸つぶれ。
元々少ない仕事が更に減ってしまう。
ニョロが不安気にツンの顔を見た。
ツンはその頭を撫で、嘆息する。
- 243 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:43:32 ID:bIEcoEpo0
-
ξ゚⊿゚)ξ「ん?」
視線を落としたその先の砂浜に何か書かれているのを発見した。
既に薄暗くなっているためよく見えず、顔を近づけ確認した。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
『また会おう。かわいいお嬢さん』
木の枝か何か、尖ったもので手早く掻かれた砂の文字。
ツンは、無言でその挑発文を消す。
足で何度も砂を乱す度、少しづつ抑えていた怒りがわき上がって来た。
ξ#゚⊿゚)ξ「ツーンツーンツーーーン」
しつこく、しつこく、足を地面に打ちつける。
何が可愛いお嬢さん、だ。
女の子としては嬉しくても、傭兵としてはこれ以上の侮蔑の言葉は無い。
脳内に襲撃犯のドヤ顔が浮かんできて、更に腹立たしい。
完ッ全にツンを小ばかにしている。
ξ#゚⊿゚)ξ「くっそ!次こそはぶちのめしてやるクソボンクラーー!!」
静かな湖畔にツンの叫びがこだました。
後日、近隣の住人から「猛獣らしき咆哮がが聞こえた」と通報があるが、それはまた別の話である。
- 244 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:44:31 ID:bIEcoEpo0
-
今日はここまでー
ちょっと繋ぎな回ですた
話題にでたのでどうでもいい補足を一つ
物語中の大五郎酒造は過去にあった「アサピービール」という会社から独立したというどうでもいい設定があります
現実では大五郎はアサヒビールの商品で大五郎って酒造メーカーは無いです。紛らわしいですね
ちなみに宝酒造のお酒だと「私の天が変なんです」でおなじみの松竹梅・天をはじめ松竹梅が有名ですが、
芋焼酎の一刻者も美味しいので成人の方は試してみてね(ステマ)
- 245 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:47:07 ID:uUB10SFs0
- 乙
- 246 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 22:48:44 ID:jA2VHpWo0
- 乙!
このツンはおバカ可愛いのう
ジョーンズの台詞で笑ってしまった
- 247 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:13:29 ID:r9LfasAI0
- ニョロちゃんかわいい
おつ
- 248 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:27:33 ID:66qh.SXg0
- ニョロたんかわゆすなぁ
乙
- 249 :名も無きAAのようです:2012/09/19(水) 00:13:29 ID:L0IFD5GQ0
- 乙
ジョルジュカッコイイよジョルジュ
- 250 :名も無きAAのようです:2012/09/19(水) 01:00:49 ID:dGKyc6s60
- 乙
↑
これはおつじゃなくてにょろちゃんなんだからね
乙ニョロ
- 251 :名も無きAAのようです:2012/09/19(水) 05:36:54 ID:ju1JwHwA0
- 乙
ジョルジュ生㌔
- 252 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 14:00:58 ID:nUAUm4TY0
- おツーンツーンツーン
- 253 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:58:57 ID:hLi.iGrY0
-
从 ゚∀从 「そりゃあ大変だったな」
ハインリッヒがブドウジュースの入ったグラスを呷る。
濃くも美しいアメジストのような輝きを帯びた液体を口の中へ吸い込ませていった。
部屋中に甘く華やかな香りが満ちて、ツンは鼻がムズムズとする。
ξ゚⊿゚)ξ「そうなのよ。午前中から傭兵も社員も総出で瓦礫の片付け」
从 ゚∀从「おいおい、傷ぶり返してねーだろうな」
ξ゚⊿゚)ξ「それは大丈夫。大物は他の人たちがやってくれたし」
ツンも自分に差し出されたジュースを飲んだ。
凝縮されたブドウの芳醇な香りが口腔に満ち、とろけるような甘みが舌を攫う。
濃厚な甘みが味覚を支配したところを微炭酸の刺激が爽やかに洗い流し、くどさが残らない。
久々に幸せなため息を吐いた。
ブドウ独特の渋みが無いのは何故だろうか。
ついつい何度もグラスに口をつける。
从 ゚∀从「うまいか?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、すっごく。これどうしたの?」
从 ゚∀从「何度か世話したブドウ農家に貰ったんだ。丁寧な仕事してるだろ?」
- 254 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:59:38 ID:hLi.iGrY0
-
リッヒッヒ、と嬉しそうに笑い、ハインリッヒも再び杯を傾ける。
流石は魔法使い全体でも少数の治療魔法使いだけあって、人々からの信頼も厚い。
先日ツンたちが禁酒委に捕まった際にも自由に動けていたのはそういう背景もあるのだろう。
彼を敵に回すということはサロンシティの住民全てを敵に回すことと同義なのだ。
从 ゚∀从「で、今日はどうした?タカラなら治療の副作用でぐっすり寝てるぜ」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、それもあるんだけど」
ツンはマントの中をゴソゴソとまさぐり、ニョロを捕まえた。
眠っていたらしく引っ張り出すと寝ぼけた目でツンの顔を睨む。
从 ゚∀从「……なんだそりゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「昨日懐かれてね、飼うことにしたんだけれど」
从 ゚∀从「初めて見るな。キメラか?」
ξ゚⊿゚)ξ「そこらへんも含めて、病気とか寄生虫とか診てもらえない?」
ξ゚⊿゚)ξ「私、魔法索敵は得意なんだけど、魔法式の解読とか苦手なのよね」
从 ゚∀从「……ま、やってみてもいいが」
- 255 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:00:21 ID:RYCKUfzw0
-
从 ゚∀从「この前のキメラの件もあるし、やばそうな奴だったら処分するからな」
ξ゚⊿゚)ξ「こんなに可愛いのに?」
从;゚∀从「そんな目で見てもダメだ」
ξ゚⊿゚)ξ「えー」
从;゚∀从「お前もあのキメラにボッコボコにされただろうが」
そういいつつもハインは診療室の扉を開ける。
顎でツンに中へ入るよう指示した。
ツンは素直に従い、ニョロを抱いたまま診療室へ入る。
やや不安げなニョロの頭を何度か撫でて落ち着かせた。
从 ゚∀从 「よしよし、恐くないからな」
ハインはツンに抱かせたままニョロの頭を撫でた。
敵意を感じなかったからか、最初は怯えていたニョロも、ハインの手に自ら頭をこすりつける。
なんとも人懐っこい。
- 256 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:01:58 ID:RYCKUfzw0
-
从 ゚∀从「さて、ちゃんと抱いててやってくれよ」
ハインリッヒが掲げた右手の五指が淡く光る。
触れた生き物の身体構造や状態を調べる魔法だ。
体温や身長体重は愚か、スリーサイズや排卵周期まで分ってしまうという恐ろしい魔法である。
ツンはその特性を指して「セクハラモーパイクロー」と名付けている。
ハインリッヒがモーパイクローでニョロの身体に触れる。
ツンは自分の状態まで見られては困るので、ニョロの身体をやや自分から離す。
从 ‐∀从 「寄生虫や厄介な病気は持ってないな。健康そのものだ」
从 ‐∀从 「ダニに刺された痕があるのにダニがいないな。洗ったか?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、土ぼこりまみれだったし」
从 ‐∀从 「今後もまめに洗ってやれ。こいつ、多分自分で身体を洗ったり出来ねーぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「……ってことは?」
从 ‐∀从「ああ、キメラだ」
ツンは少しぎくりとする。
- 257 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:02:44 ID:RYCKUfzw0
-
ξ゚⊿゚)ξ「ヤバイの?」
从 ‐∀从「そこまではなんとも……多分、蛇と鼬だな」
ハインリッヒに触れられたままニョロがツンを振り返る。
舌ををこまめに出して周囲の環境を計っているようだった。
从 ‐∀从「意図的に攻撃性を強化されたりはしてないな……どちらかというとペット用の矯正だ」
キメラを合成する上での目的は主に二つある。
一つは道具や知育産物としての利便性を求めた合成。
商品性能を上げるための配分、性格の矯正をするのが主だ。
他にも家畜の生産力向上など品種改良の延長で行われる場合が多い。
もう一つは、愛玩動物としての合成。
複数の動物を合成し新たな種を作り出し商品とするのだ。
一部の上流層の趣味として需要があるが、倫理的な観点で厳しく制限されている。
从 ‐∀从「成体を掛け合わせたんじゃなくて、卵の状態で掛け合わせたんだな。混ざり方が自然だ」
成体同士を掛け合わせた場合は、よほどのことで無い限り元の姿を切って張ったような状態になるが、
卵(卵子)状態で合成すると、元の両方の特性が綺麗に混ざった状態で生まれる。
生命の神秘というか、例え魔法で無理やりに合成されても確りと生き物として自然な形となるのだ。
- 258 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:03:33 ID:RYCKUfzw0
-
从 ゚∀从「んー」
診断を終えハインリッヒは手を解すようにプラプラと振った。
特に重大な問題は無かったようだが、どこかすっきりしない顔をしている。
从 ゚∀从「とんでもねえ魔法使いがやったことは間違いねえが、危険性は低そうだ」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ飼って大丈夫?」
从 ゚∀从「まあ、な」
ξ゚⊿゚)ξ「やったね」
言葉がわかるのか、単にツンの喜びを読み取ったのか、ニョロがツンの頬に頭を擦り付けた。
柔らかな毛がくすぐったい。今朝洗ってやった時の石鹸の香りがほんのりと匂う。
ハインリッヒが何かひっかかる顔で頭をかいていたがツンは気付かなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「この子の餌って何あげればいい?」
从 ゚∀从「消化器系は蛇が優位だから生肉でいいだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「……そこらへんに牛も豚も鶏もいっぱいいるわよね」
从 ゚∀从「やめろ」
- 259 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:04:30 ID:RYCKUfzw0
-
从 ゚∀从「ほっとくと鼠や虫も食うぞ。厄介なもの貰わないようちゃんと躾しとけ」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。わかった」
ツンはズボンのポケットから紙幣を取り出しハインリッヒに差し出す。
ハインリッヒはそれを見ると苦笑いを浮かべ、いらないというように手を振った。
額が足りないのかともう一枚紙幣を足すが余計に困った顔になる。
从 ゚∀从「リッヒッヒ、食うに困ってもいねえのに金なんざいらねえよ」
一度出したものを引っ込めることも出来ず、ツンは金を差し出した状態で動けなくなる。
すると、ニョロが紙幣を食べ物と勘違いし、噛み付いた。
ツンは慌てて引き離し、紙幣を元の場所に戻す。確かに、食の躾は必要かも。
从 ゚∀从「で、そいつなんて名前にするんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ニョロ」
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ「何よ」
从 ゚∀从「……おまえ、ネーミングセンス無いのな」
余計なお世話だ。
* * *
- 260 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:05:19 ID:RYCKUfzw0
-
朝早くにハインリッヒの家を出たドクオは禁酒委員会サロン支部の傍の農場に身を潜めていた。
積み重なった藁に身体を隠し、索敵の魔法で施設内を探る。
今のところ目的の人物は見つかっていない。
( ^ω^)『どうだお?』
意識の深層から、相棒のブーンが声をかけてくる。
五感を共有している彼らだがその他の感覚については別だ。
ドクオ優位の時にどれだけドクオが魔法の気配を感じてもブーンがそれを感じ取ることは出来ない。
('A`) (ダメだな。一切らしい気配を感じない)
( ^ω^)『おーん』
ドクオは腰から小瓶を取り出し、中身を呷る。
口内を熱くするその液体は、焼酎大五郎。
先日禁酒委に没収されてしまい、VIPで購入していたストックはもう残り僅かだ。
('A`) (魔女もそうだが、酒もどうにかしないとな)
( ^ω^)『しばらくは入荷無いって、この前ツンが言ってたお』
('A`) (せめて、蒸留酒なら代用できるんだけどな)
( ^ω^)『だおねぇ』
- 261 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:07:05 ID:RYCKUfzw0
-
二人がことあるごとに酒を飲むのは、単に酒好きだからではない。
少々厄介な、やんごとない理由があるのだ。
( ^ω^)『どうする?一旦帰るかお?お腹すいたお?』
そういえばハインリッヒの家を出る前にリンゴを一つ齧っただけだ。
時刻は昼も過ぎ、もう直ぐ夕方というところ。
小食なドクオも少々空腹を感じる。
('A`) (いや、俺はもう少し平気)
外套裏のポケットから干し芋を取り出し、藁が口に入らないように気をつけて齧る。
量は少ないが栄養は豊富だ。
何より糖が補給できるので頭をフル稼働する魔法の行使には丁度いい。
( 'ω`)『おーん、ドクオに体預けるといっつもお腹ぺこぺこだお……』
('A`) (うんなこと言ってもな、もし食事に戻ってる間に魔女が来たらどうすんだ)
( ^ω^)『おーん、なんか、今日は来ないような気がするんだお』
('A`) (根拠は?)
( ^ω^)『勘』
- 262 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:09:16 ID:RYCKUfzw0
-
('A`) (……お前の勘は、妙に当たるからな……)
( ^ω^)『だお』
('A`) (わかった。魔女に反応する探知トラップをかけて帰ろう。俺もずっと魔法使って疲れた)
( ^ω^)『晩御飯は僕が食べるお!』
('A`) (好きにしろ)
既に発動している探知の魔法に、魔法式を上書きする。
高度で繊細な技術ではあるが、一々魔法式を展開しなおすよりは楽だ。
支部をすっぽりとドーム状に覆っている魔法の膜が、少しづつ縮み、ピッタリと建物に張り付いた。
魔女の魔力情報を組み込んである特別製だ。
魔女が膜に触れるか、膜の内側に一瞬でも存在すれば膜がぶれる仕組み。
これで、相手が支部を訪れれば一目瞭然である。
ついでに迷彩の魔法も追加してあるためドクオに比肩する程度の魔法使いでなければこれは見抜けない。
サロン支部にドクオに並ぶほどの魔法使いがいないことは今日探りを入れてわかっている。
少なくとも魔女意外に解除される確率は低いはずだ。
- 263 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:09:56 ID:RYCKUfzw0
-
( ^ω^)『魔女には気付かれちゃうんじゃないかお?』
('A`) (多分な。でもあの女なら、わざと引っかかると思う)
( ^ω^)『確かに』
二ヶ月前、魔女の被害に喘ぐ企業の依頼で、二人の他に二十人以上の傭兵が雇われた。
ドクオがブーンと知り合ったのはその時だ。
そして、二人がそれぞれの個人でいられた最後の時でもある。
その討伐の結果は悲惨なものだった。
討伐隊は魔女の腕一振りで一掃されほぼ全滅。
一撃に耐えたドクオとブーンの二人で力を合わせ奮闘するも、倒すことは出来ず。
その時の魔女は、まるでおもちゃで遊ぶ子供の様に楽しげだった。
久々に遊びがいのある物を手に入れたという風に、嬲り痛めつけ、時には二人の傷を治療した。
最後の最後に二人を融合させた時も、粘土遊びをする子供の気軽さだったと記憶してる。
あの性格ならば、罠には自分からかかるはずだ。
そういう余裕というか頭のいかれた行動を平然とする女だった。
( ^ω^)『じゃあ帰るお。あまり長居して、また酒を没収されてもたまらんお』
('A`) (だな。…………ん)
- 264 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:11:34 ID:RYCKUfzw0
-
藁の山から這い出す途中で、ドクオが動きを止めた。
支部の入り口に視線を向け、目を凝らす。
( ^ω^)『どうしたんだお?』
('A`) (一瞬だけど、トラップが反応した)
( ^ω^)『魔女かお?』
('A`) (多分違うな。魔女だったら問答無用で発動するはずだ)
トラップが発動せず、中途半端に反応を示したということは、魔法がトラップに触れたということ。
何でもかんでも魔法であれば反応するというわけではない。
誰かが、トラップの存在に気付き、探りを入れてきたのだ。
('A`) (……禁酒委の連中に、アレに気付けるレベルの奴はいなかったはず……)
( ^ω^)『大丈夫かお、ドッグ』
('A`) (わからん。わからんが早めにここを離れよう)
不穏な気配がする。
ドクオは飛行魔法を発動し、急いでその場から立ち去った。
* * *
- 265 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:12:04 ID:aHwdctbM0
- ブーンの容量で食ったら裏でドクオが吐きそうになったりすんのかな
- 266 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:12:28 ID:mZTioTrM0
- 毎回楽しみにしてるぜー
- 267 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:12:39 ID:RYCKUfzw0
-
ミルナ=スコッチは忍の血を引く特殊な傭兵である。
彼に潜入できない家屋は無く、彼に盗めない情報は無い。
( ゚д゚ ) (……ここを見張っていた魔法が変異したな。去ったか)
現在の彼の仕事は『魔女』の居場所に関する情報収集と、禁酒委員会の動向調査。
その両方を果たすのに丁度いい、かつ最適なサロン支部の屋根裏で、ミルナは息を潜める。
世間的にはあまり有名ではないが、サロン支部は対大五郎の情報拠点もかねている。
近隣都市の中では比較的VIPに近くそれでいて人が少ない。
人が少ないということは周囲の状況把握が容易いということで、
外に漏れては困る情報のやり取りに頻繁に使われているのだ。
故に、ミルナにとっては最高の狩場。
ミルナがいるのは、支部長室の屋根裏だ。
禁酒委員会サロン支部支部長、デミタス=モリオカ。
元はラウンジシティにある禁酒委員会本部の役員だったが、サロン支部建設の際に異動になった。
禁酒委員会が首謀している酒店襲撃は、全て彼の思惑によるといっても過言ではない。
一切証拠を残さないその手腕は、単純な腕力などよりも怖ろしい。
( ゚д゚ ) (それにしても面白い組み合わせだ)
- 268 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:13:21 ID:RYCKUfzw0
-
支部長室のソファに座るのは、部屋の主デミタス=モリオカ。
そしてその向かいに座るのが。
(’e’) 「ですから〜支社の開店を禁酒委員会で認めていただきたいのです〜」
大五郎酒造サロンシティ支店長、セント=ジョーンズ。
間延びした口調の反面、仕事の早い男で大五郎酒造の社長渋沢の右腕と呼ばれていた。
部屋の隅に部下のナガオカ中尉こそ立っているが、実質禁酒委と大五郎の幹部同士のタイマン対談というわけだ。
話の内容はサロンシティ大五郎支店の営業について。
(´・_ゝ・`) 「ですから、私どもは別にあなた方の営業を認めていないわけではなのですよ」
(´・_ゝ・`) 「奨励もしませんがね」
話はこんな具合に平行線のまま。
二人の間にあるテーブルには紅茶のカップが一つ、デミタスの前にだけ置かれている。
表面上は丁寧な応対も、薄皮一枚で敵意むき出しだ。
(’e’) 「ご存知かと思いますが〜昨日私どもの店が破壊されてしまいました〜」
(´・_ゝ・`) 「窺っていますよ。私がもう少し暇だったなら、お見舞いの品を持ってお伺いしたのですが」
心無い言葉に、笑みを堪えるのが辛かった。
- 269 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:14:39 ID:RYCKUfzw0
-
(’e’) 「今朝方、根絶方の支持団体を名乗る男からの警告文が来ました〜」
(´・_ゝ・`) 「ほう、それは随分と大胆な奴ですな」
(’e’) 「営業をとりやめなめなければ次は私の頭を弾き飛ばすそうです〜」
(´・_ゝ・`) 「それは実に愉快な…んん、失礼。物騒な話だ」
(’e’) 「禁酒委員会でウチの営業を認めていただければ〜こういった悪戯も減るのではないかと思いまして〜」
デミタスが口元を隠すように顔に手を添えた。
笑っている。隠してはいるが、隠し通す気は欠片も無いようだ。
(´・_ゝ・`) 「それは無理だ。仮にもアルコール根絶を目指す我々が公式に認めることなど出来ませんよ」
デミタスの口元には未だ笑みが残っている。
性根の悪さが顔に滲み出ていた。
(’e’) 「しかし〜」
ジョーンズが食い下がろうとした丁度その時、部屋の扉がノックされた。
壁際で微動だにしなかったナガオカがドアをあけ、外にいた兵士となにやら会話をしている。
よく聞こえないが、誰か別の客人があったようだ。
- 270 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:15:24 ID:RYCKUfzw0
-
扉を戻すと、ナガオカはデミタスに耳打ちをする。
デミタスの眉がピクリと動いた。
(´・_ゝ・`) 「ジョーンズさん、申し訳ないがこの話はまた後日に出来ませんかね」
(’e’) 「……」
(´・_ゝ・`) 「少し大事な来客でしてね、私ももう少しお伺いしたいのは山々なんですが」
(’e’) 「そういうことならば仕方がありません〜。またうかがわせて頂きます〜」
ジョーンズはそそくさと席を立ち、部屋を後にした。
潔いというかなんと言うか。何をしに来たのかいまいち真意がはっきりしない。
(´・_ゝ・`) 「彼らを部屋へ」
廊下に立っていた兵士が敬礼をして応接室のほうへ歩いていった。
静かになった部屋の中、デミタス口から笑い声が漏れ始めた。
傍らのナガオカは訝しそうな目をしている。
(´・_ゝ・`) 「聞いたかジョルジュ?あの男、支店を吹き飛ばされたのを「悪戯」と言い切りやがった」
その言葉を吐いてもなお、デミタスの笑いは収まらない。よほどツボに入ったのか。
ジョルジュは相変わらず反応に困った様子だ。
- 271 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:16:52 ID:RYCKUfzw0
-
(´・_ゝ・`) 「くく、ただの昼行灯かと思えば、中々面白い奴じゃないか」
デミタスは上機嫌に葉巻の先を切り落とし、マッチで火をつけた。
紫煙がゆらりと宙を漂う。
胸焼けするような匂いが、天井裏にも届いた。
再びのノックから少し遅れて扉が開き、マント姿の人物が二人招きいれられた。
フードを目深に被り、顔は見えない。
背格好からして男だろうか。
(´・_ゝ・`) 「よく来てくれたな、とその前に。ナガオカ」
_
( ゚∀゚) 「はい」
(´・_ゝ・`) 「屋根裏の鼠には、そろそろ帰ってもらおうか」
_
( ゚∀゚) 「そうですね」
返答と同時にジョルジュが天井へ飛び上がった。
素早く振りぬかれた蹴りが天井板ごとミルナを蹴り抜く。
紙一重で回避したミルナは、そのまま天井裏を這い、脱出を目指した。
泳がされていたとは、実に胸糞が悪い。
_
( ゚∀゚) 「侵入者を捕らえろ!屋根から逃げる気だ!」
- 272 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:17:48 ID:RYCKUfzw0
-
ジョルジュの怒号が飛ぶ。
ミルナはあらかじめ作っておいた脱出用の出口穴を蹴りぬき、外へ飛び出した。
周りは既に禁酒委員会の兵で囲まれている。
( ゚д゚ ) 「迂闊!」
反省。即座に思考を切り替え比較的兵士の少ないほうへ屋根を走る。
飛んできた矢をかわす。それから続けて数本の矢を側腹から射られるが全て外れた。
( ゚д゚ ) 「火遁、火颪!」
手平を顔の前へ。そこにたいまつ程度の炎が灯る。
ミルナはそれに、肺いっぱいに吸い込んだ空気を吹きかけた。
飛ばされた炎が無数の火の粉となり行く手を阻む兵士を襲う。
兵士達が怯んだ隙に、何人かをすり抜けた。
直ぐに刺又(※棒の先がY字に分かれた捕獲具)を持った兵士に襲い掛かられるが、全員を軽くあしらう。
( ゚д゚ ) 「土遁、壷砕き」
地面に手をつくと、地面にフジツボのような突起が無数に迫り出した。
追ってきた兵士がそれに躓き転ぶ。
兵士はその先にもあった突起に手を突いて声にならない悲鳴を上げた。
- 273 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:18:50 ID:RYCKUfzw0
-
( ゚д゚ ) 「風遁、眼殺し!」
強い風が舞い起こり、砂塵を舞い上げる。
しょうもない目潰しではあるが、大人数をお手軽に無力化するには最適な方法だ。
しつこく吹き荒れる砂あらしの中を一人の兵士が剣を片手に突っ切ってくる。
顔を認証。鈴木ダイオード一級曹だ。
男勝りの女兵士で、癇癪持ち。
適当な技ではあしらえないと、ミルナは腰のベルトに手を触れる。
バックルに仕込んであった鋼鉄のワイヤを引き出し、ダイオードに対して横なぎに振るった。
ダイオードはとっさに剣で受けたが、そこを支点にワイヤーがダイオードにまきつく。
数回絡まってしまえば、対象がすぐさま振りほどくことは難しい。
( ゚д゚ ) 「雷遁、爪弾き!」
ワイヤー越しに電流を流す。
致死の量にははるかに足りないが、一時的に麻痺させるには十分だ。
/ ゚、、;/ 「あう!」
( ゚д゚ ) (眼福!)
電流により膝から崩れ落ちたダイオードからワイヤーを回収し、逃走を再開する。
- 274 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:20:16 ID:RYCKUfzw0
-
砂嵐の効果で、追ってくる兵士は減っていた。
単純な足でミルナは遅れを取るつもりは無い。
地を強く踏み込み、自身の出せる最大の速度で逃げた。
馬を出されても追いつかれる気は無い。
中心地までにげこめばあとは変装でどうとでもなる。
しかし、それほど禁酒委員会も甘くないようだ。
( ゚д゚ ) 「拙者に追いつくとは、さすがだな」
_
( ゚∀゚) 「色んな仕事に追われてるんでね、追いかける仕事は気合が入るんだ」
ミルナも観念し、背中に格納していた武器を取り出す。
┴型の棍棒、トンファーと呼ばれる攻防一体打撃武器である
両手それぞれ、短い持ち手を持ち、長い辺を拳の外側に。
回転させて打っても良し、そのまま突いても良し、持ち替えて叩いても掛けても良し。
この多彩な型がお気に入りの理由である。
( ゚д゚ ) 「こうして構えたものの、できればお前とは戦いたくない」
_
( ゚∀゚) 「大した情報を盗まれたとは思えないが、このまま帰して舐められても困るんでな」
( ゚д゚ ) 「お前とデミタスを舐められるような奴がいるなら友になりたいところだ」
- 275 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:20:56 ID:RYCKUfzw0
-
ジョルジュの体が、浮く。
予備動作無しの足先の力だけでの跳躍、既に腰がミルナの目線まで上がっている。
そこから放たれた鞭のような蹴り。
丸太と丸太を打ち合わせたような轟音が鼓膜を振るわせた。
鞭の素早さと槌の重さの一撃は、守りで構えたトンファーごとミルナをなぎ払う。
あまりの衝撃に息が止まった。
ジョルジュの指に、銀装飾の指輪が光る。
魔道具だ。恐らく身体強化系の魔法が使えるものだろう。
正直泣き出したいほど本気モード。一介の情報屋に使う代物ではない。
( ゚д゚ ) 「拙者相手にそこまで本気か」
_
( ゚∀゚) 「これ使わないと、お前に追いつけないしな」
( ゚д゚ ) 「クソ真面目が」
もともとの時点でミルナがジョルジュに勝っているのは足の速さだけ。
仮に魔法なしだったとしてもそもそも戦って勝てる相手ではないのだ。
_
( ゚∀゚) 「最近むしゃくしゃしてるんだ。10発は蹴らせろ」
( ゚д゚ ) 「八つ当たりとはまた心のせま」
軽口すら挟めず、ミルナの体が宙を舞った。
* * *
- 276 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:21:41 ID:RYCKUfzw0
-
从 ゚∀从 「よかったら夕飯も食っていけよ」
ツンが中心街に寄って夕食を済ませていこう、と考えていたところでハインリッヒがそう言った。
ドクオが帰って来ていくらか世間話をして腹が減っていたところだ。
ありがたく言葉に甘えることにする。
ξ゚⊿゚)ξ「何から何まで悪いわね」
从 ゚∀从 「リッヒッヒ、なーに、どうせ作るなら一人増えるぐらい関係ねえよ」
そういってハインリッヒはキッチンへと消えた。
ここ数日通っているが、奥さんや恋人がいる様子は無い。
歳は30手前くらいらしいのでいてもおかしくは無いと思うのだが。
( ^ω^)「おなかすいたおー」
ブーンの腹の虫が大声で鳴く。
そういいつつも、既にハインリッヒが茶請けに出した漬物をぼりぼり食べているのだけれど。
話を聞くと、ブーン達は今日一日魔女を見つけるため禁酒委を張ってていたらしい。
成果らしい成果はなかったようだ。
('A`) 「なんかきなくせえ感じがする、ツンも気をつけろよ」
というのはその時のドクオの言葉。
気をつけるも何も、昨日お店吹っ飛ばされたばっかりなんだけれど。
- 277 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:22:31 ID:RYCKUfzw0
-
しばらくブーンと話しているうちに香ばしい香りが鼻をくすぐり始め、ハインリッヒが皿を手にダイニングに現われた。
大皿に山のように盛られたスパゲッティ。
ハインリッヒはそれをツン達の座るテーブルにドン、と置く。
ξ゚⊿゚)ξ「ナニ、コレ」
从 ゚∀从「きのことベーコンのペペロンチーノ」
ξ゚⊿゚)ξ「何人前?」
ツンの問いにハインリッヒは少々首を傾げ、
从 ゚∀从「三人前?」
と答えた。
大皿の大きさは直径で50センチほど。
ツンの肘から先が悠々と収まる。
そしてそこに盛り付けられた高さ30センチにもなるペペロンチーノ。
分厚く切られたベーコンから肉汁が染み出し、それがキノコやパスタに絡んでとてもおいしそうだ。
とてもおいしそうだけれども。
( *^ω^)「コポォwwwおいしそうでござるおwww」
ブーンは大歓喜だが、ツンは見ているだけでお腹一杯になってくる。
- 278 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:23:36 ID:aHwdctbM0
- ミルナあんまり硬派な男じゃないのなwwww
飯が旨そうな話は良い作品
- 279 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:24:04 ID:RYCKUfzw0
-
从 ゚∀从「ほれ、自分が食いたい分だけ取って食え」
皿と取り分け様のフォークを受け取り、言われるまま自分の分を皿によそう。
少なめに取ってみたが、それでも多い。
普通に店で食うのの1.5倍ほどの量になってしまった。
( ^ω^)「お?ツンはそれしか食べないのかお?」
お前頭おかしいんじゃねえの?と言いたい顔をされる。
コレを少ないとお前の胃袋がおかしい。
匂いに釣られてニョロがマントの中から顔を出す。
ツンがベーコンを取って与えようとすると、ハインリッヒに止められる。
从 ゚∀从「ベーコンは塩分が多い、こっちを食わせろ」
差し出されたのは茶色の粘土のようなスティックだ。
旅の際に携行する栄養食に似ている。
先端を折ってニョロに差し出した。
ニョロは数回匂いを嗅ぐと、一口で飲み込む。
首に巻きついている尻尾の先がピコピコと動く。美味しいらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「さて、じゃあ頂きます」
ニョロに餌を与え終わり、自分もフォークを取る。
- 280 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:24:45 ID:RYCKUfzw0
-
ハインのペペロンチーノは美味だった。
男の料理らしい大雑把な味ではあるものの素材の味が良いせいか食べていてまったく飽きない。
( ゚ω゚)「ハムッハフッ」
ツンとハインリッヒの取った後、残ったパスタは全てブーンに与えられた。
ブーンはそれを気が狂ったように貪っている。
腹が減っているとは言っていたが、コレには流石のツンちゃんもドン引き。
ξ゚⊿゚)ξ「こんなの毎日居候させてたら、食料無くなっちゃうんじゃない?」
ξ゚⊿゚)ξ「お金取らないのによくやってられるわよね」
从 ゚∀从「貰うところからは貰ってるさ。それに食料は結構農家から貰ってるんで困らんのさ」
( ^ω^)「ステキな街だお」
从 ゚∀从「住んでみるか?お前みたいなのは労働力で喜ばれるぞ」
( ^ω^)「いずれはそれもいいかもしれんお」
ξ゚⊿゚)ξ「コイツに住み込みさせたら食料根こそぎ無くなりそう」
( ^ω^)「そんなことないお」
少なく見積もっても六人前以上あったパスタを平らげておいてよく言ったものだ。
外目には腹が膨らんで見えないのが不思議である。
- 281 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:25:25 ID:RYCKUfzw0
-
ξ゚⊿゚)ξ「そろそろ帰んなきゃ、外が暗いし」
食事を終えしばらくし、ハインリッヒがタカラに食事を届けて戻ってくるなりツンはそう言って席を立った。
外は既に暗く、家の明かりが漏れているだけで周囲に光は無い。
この時点で既に出歩くのは嫌なのだが、帰らないわけにもいくまい
从 ゚∀从「男だったら泊まってけと気兼ねなく言えるんだが」
ξ゚⊿゚)ξ「気にせず甘えたいところだけどね、今日は遠慮しておく」
ハインリッヒやブーンに襲われるような心配は無さそうだが、家に帰って着替えがしたい。
午前中に肉体労働をしていたため、体の各所が蒸れているのだ。
( ^ω^)「送ってくかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「んー、市街地までいければ大丈夫だと思う。それに」
動き始めたツンに反応してニョロが懐から顔を出した。
また寝ていたらしく、少し寝ぼけている。
ξ゚⊿゚)ξ「この子もいるし」
ブーンとハインリッヒは怪訝な顔をしたが、ニョロの危険察知能力はかなりのものだ。
昨日もニョロが彼がいなければツンは大怪我をしていた。
- 282 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:26:19 ID:RYCKUfzw0
-
やや不安げな二人の付き添いの申し出をキッパリと断り、ツンはハインリッヒの家を出た。
なだらかで気付きにくいが、ハインリッヒの家は少し高台にある。
お陰で街明かりが良く見えた。距離にして二キロ。
借りたランタンもあるためそれほど難は無く済みそうだ。
空を見上げる。
月は出ておらずうす曇で星も見えない。
街明かりが消えてしまう前に急がなければ。
農道をゆっくりと進む。
昼間なら気にならない地面の凹凸が妙に足に引っかかるため視線は自然と下に。
幸いにも放牧用の柵が道の両脇を囲んでいるため大きく道をそれることは無い。
ξ;゚⊿゚)ξ(やっぱりブーンについてきてもらえばよかった……)
後悔既に遅し。
ハインリッヒの家に戻るには少し進みすぎた。
助けてもらってばっかりだからと、辺に強がりをした自分に呆れが出る。
ξ;゚⊿゚)ξ(急がないと)
『('A`) 「なんかきなくせえ感じがする、ツンも気をつけろよ」』
ξ;゚⊿゚)ξ(……なんでこんな時に思い出すのかしら)
少しづつ胸に不安が滲んできた。
ツンちゃん元々暗闇得意ではないのだ。怪談とか聞くと明かりを消して寝られなくなっちゃうのだ。
- 283 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:27:32 ID:RYCKUfzw0
-
首に巻きついて眠っていたニョロを握り締め(すごく鬱陶しそうな顔をされながら)歩を進める。
時折夜更かしをしている馬だか牛だかの嘶きに肩をびくつかせながらもなんとか残り一キロまでたどり着いた。
街明かりがポツポツと小さくなっている気がする。
時間も時間だ。農の街だけあって朝が早いため、その分明かりが消えるのも早い。
額に汗が滲む。
歩いて疲れたからとかではない。
暗闇に比例して不安が膨らんでいく。
ピクリ、と手の中でニョロが動いた。
ランタンの赤い光の中に顔を出し、周囲を窺っている。
雑談していた時にハインリッヒに聞いたのだが、蛇には熱で周囲を感知する機能があるらしい。
ξ;゚⊿゚)ξ「どうしたの、ニョロ?」
ニョロは未だに落ち着かない。
何か感じているのにその元が分らないような焦りを感じる。
ツンも共に周囲の魔法の気配を探ってみる。
ドクオのように探査魔法でも使えればいいのだが、生憎ツンはアナログでやるしかない。
ニョロと同じく何も見つけられず、無駄に神経をすり減らしていく。
そして、もう気のせいだと切り替え、歩みを進めようとした瞬間、ランタンが弾けた。
間違いなく何者からかの襲撃。
ツンは反射的に腰に手をやる。しまった。ナイフは昨日壊してしまったのだ。
- 284 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:28:18 ID:RYCKUfzw0
-
長閑な気風のサロンには武器を扱う店が少ない。
そして少ない店にあるのは粗悪とは行かないまでも金を無駄にするのと同義の代物しかなかった。
「農作業用のナイフならすごくいいのいっぱいあるよ〜」とジョーンズの言葉に大人しく従って買っておけばよかったと後悔する。
小剣は歪んで欠けてほとんど使い物にならないから部屋に置きっぱなし。
今、ツンの武器らしい武器はブーツくらいしかない。
それも、めんどくさがったせいで魔法が一つしか装填されていないのだけれど。
ξ;゚⊿゚)ξ「ニョロ、どこに敵がいるか分る?」
ニョロの姿もロクに見えないのだが、巻きついているため感触で何となく意思が伝わる。
やはり分らないようだ。
ξ;゚⊿゚)ξ(いくら上級の魔法使いでも、魔法自体の気配を消すのは無理……)
ξ;゚⊿゚)ξ(なら、さっきのは何かしらの武器の攻撃……)
周囲をまさぐってみる。
ランタンの破片はあるが投擲された武器らしいものは無い。
ξ;゚⊿゚)ξ(そもそも敵の目的は?何故わざわざランタンを破壊したの?偶然?)
ツン自身の命を狙っているのなら、ランタンではなく持っているツンを狙えばいい。
いくら光があって目標にしやすいとはいえ、小さなランタンを打ち抜くよりはその後ろにいるツンを狙うほうが楽なはずだ。
- 285 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:29:30 ID:RYCKUfzw0
-
ξ;゚⊿゚)ξ(そもそもどこにいる?ランタンを壊したってことはもう狙撃は無い?)
ξ;゚⊿゚)ξ(いや、暗視魔法の可能性もある。じわじわ嬲りに来るかも)
その場に伏せ全身の感覚を総動員し、周囲の気配を探る。
ブーンのように臭いが分ればいいのだが、残念ながらツンは軽度の鼻炎持ちだ。
ツンの警戒を他所に、見えない襲撃者は追撃をしてこない。
悪戯かも知れない。
だが何か、とても良くない予感がひしひしと来る。
ξ;゚⊿゚)ξ「!」
立ち上がろうとした瞬間、背後に気配を感じた。
即座に伏せたままの足払い。
何に当たるということも無かったが、気配が濃くなる。
「ひゅぅ、やるなぁ」
暗闇から聞こえたひょうきんな声。
ツンの高まっている緊張とは対照的な緩い口調に、少し間が抜ける。
「暗視魔法も使えないから大したこと無いのかと思ったら、案外切れるんだな」
ξ;゚⊿゚)ξ
「何で分ったの?気配を読んだとか?俺はそういうの苦手だから尊敬するな」
- 286 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:30:50 ID:RYCKUfzw0
-
相手は既に気配を隠すが無いようだ。
呼吸の音も身じろぎの衣擦れも僅かとは言えちゃんと聞こえる。
ニョロも、完全に動きを止め、相手を捕捉していた。
「そうそう、本題に入るけど。君、オルトロスの何?」
ξ;゚⊿゚)ξ
何となく予想がついた。
理由は不明だが、彼らの尋ね人はブーンらしい。
ツンは何故かその関係者として目をつけられた、と。
「恋人?」
ξ;゚⊿゚)ξ「たまたま知り合った、精々友達よ」
「フーン。おk、友人以上なら十分だな」
ほんの少しの魔法を感じた後、再び相手(声から察するに男)の気配が消えた。
咄嗟に腕を前に構え、防御の姿勢を取る。
足音も、衣擦れの音も無い。
動いたのか、まだそこにいるのか、それすら判断がつかず。
ニョロが後ろに反応したことに気付いた時には、ツンは背中を打たれていた。
- 287 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:30:59 ID:6PsZt7FA0
- 来てたか支援!
- 288 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:32:10 ID:RYCKUfzw0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「くっ、こんのぉっ!!」
前のめりに倒れながら、後ろを踵で蹴り上げる。
足は虚しくも空振り。
体勢を立て直そうとしたところでわき腹を強打された。
ξ;゚⊿゚)ξ(くそっ!こんなことなら暗視魔法真面目に習えばよかった)
相手の男は恐らく暗視魔法を使っている。
魔法なのだから集中すれば探れるかも知れないが、効果が体内にとどまるタイプはそれも難しい。
五里霧中に暗中模索。薄っすらと感じる気配に向けて手足を振るうも、空振りに終わる。
「頑張るな。活きのいい女は好きだ」
耳元で囁かれ、全身が鳥肌立つ。
放った裏拳はいとも容易く受け止められた。
相手は皮の手袋をしていたが、その感触が妙に冷たい。
「おー、恐い」
ξ;゚⊿゚)ξ「何の用があって私に!」
「とりあえず黙ってついてきてくれれば何の問題もないよ」
捕まれた右手が捻られ、体が宙に浮いた。
受身もロクに取れず、背中を地面に打ち付ける。
- 289 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:33:18 ID:RYCKUfzw0
-
呼吸が止まって、目の前がちかちかとした。
口の中に酸味と、夕食のパスタの味が帰ってくる。
「大人しくしてくれないなら、大人しくなってくれるまで痛めつけるけど」
ξ;゚⊿゚)ξ「ツーン!!」
「おっと」
足を蹴り上げる。
つま先に何かがかすったが、手ごたえは無い。
そのまま肩で身体を支え、浮かせた下半身を捻って足を振り回す。
この追撃も相手には当たらない。
勢いで立ち上がり、裏拳を振り回す。やはり不発。
足に鋭い衝撃。
骨がビリビリと痺れ、膝の力が抜ける。
まだ治療中の怪我に響き耐え切れず片膝を突いた。
「どう?そろそろキツいでしょ?」
相変わらずの軽い口調。
ただ軽いだけで感情が乗っていないのが不気味だ。
- 290 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:34:27 ID:RYCKUfzw0
-
気配が感じられ無いのは恐らく魔法的なもの。
音はともかく、ニョロが探知できないとなると技術ではどうしようも無いはずだ。
だが、それがわかってもどうやってそれを破るか。
恐らく長々と詠唱をしていては直ぐに捕まるだろう。
「そろそろ諦めてくれた?」
ξ;゚⊿゚)ξ「理由を、話せっていってんのよ!」
声の方向へ我武者羅なハイキック。
当たらないかと思いきや、何かを捉えた。
いや、受け止められた、というべきか。
「軽いなあ。当たらないからって適当にやっちゃダメだぞ」
手を捕まれた時と同じく、体が宙に浮き地面に叩きつけられる。
側面から落ちたため、衝撃が肝臓に直撃、なんともいえない痛みが半身をしびれさせた。
大した力は感じ無いのに、まるで魔法のように身体を弄ばれる。
「アンタには、餌になってほしいんだ」
「おっかない犬を誘い出す餌にね」
痛みが引いてきたかと思うや否や、胸倉を掴まれ引き上げられた。
頬を幾度も打たれた。重い衝撃と張り裂けるような痛みで頭がクラクラとする。
- 291 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:35:20 ID:RYCKUfzw0
-
「着いてきてくれる?そうすればもう殴らないからさ」
一時的に男の手が止まった。
ツンの顔はきっと酷く腫れているのだろう。
頬がジンジンと痛む。
ξ ⊿ )ξ「……」
「ん?」
ξ ⊿゚)ξ「……今よ、ニョロ」
ツンの言葉を切っ掛けに服に潜んでいたニョロが男に飛び掛る。
どこでもいい、噛み付いて時間を稼いでくれれば十分だ。
「!」
男の手が離れた。
ニョロの奇襲は上手く行ったようだ。
ξ ⊿゚)ξ「ニョロ逃げなさい!」
そう叫んでツンも走り出す。
道はまったくといっていいほど見えないが、大まかな方向を間違えなければ何とかなる。
とりあえずヤバイ。ブーンを狙うってことは絶対穏やかな奴らじゃない。
殴られたし。顔も足もお腹もめっちゃ痛いし。
何とかやり過ごさなければ不味い事態に発展するのは間違いないだろう。
- 292 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:36:23 ID:RYCKUfzw0
-
必死で走っていると道沿いの柵にぶつかった。
下腹部を強打し、息が詰まる。
足から力が抜けその場に蹲った。
ξ ⊿ )ξ(何か、何か方法は……)
周囲は真っ暗闇。
ツンは周りを見ることすら出来ず、相手は暗視魔法でこちらがばっちり見えている。
オマケに相手は何らかの魔法で気配を消しておりツンには相手がどこにいるか見当もつかない。
不利なのは明らか。だからといって完全にお手上げではない。
相手は状況の有利にかまけて油断している。
まだ何かしらの付け入る隙はあるはずだ。
ξ ⊿ )ξ(考えろ考えろ考えろ)
自分の使える魔法を羅列していく。
攻撃系の風魔法?ダメだ。この暗闇では当たる確率が低い。
一度油断して反撃を受けた相手はそうそう簡単に喰らってはくれないだろう。
ブーツの魔法で一気に逃げる?
これもダメ。着地地点も分らず飛んだり駆けたりするなんてただの自殺行為だ。
ξ ⊿ )ξ(あとは……あとは……
ξ ⊿゚)ξ(……!)
- 293 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:37:36 ID:RYCKUfzw0
-
「いやぁ、物騒なペット飼ってるんだな」
男が飄々と追ってくる。声からしてあと十歩ほど。
ニョロがどうなったかは分らないが、とりあえずいまだに食いついているということは無さそうだ。
ツンは男に背を向けたまま蹲り魔法式を展開する。
決まれば、反撃の隙を作れるはずだ。
「変な抵抗しないでくれよな。穏便に……」
ξ ⊿゚)ξ「……“輝け―――フラッシュ”!!」
「?!」
男に対し突き出した右の手の平が急激に発光した。
閃光魔法。その名の通り強烈な光を生み出すだけの魔法だ。
例え通常であっても暗闇の中でこの光を直視すれば、しばらく目が使い物にならなくなる。
僅かな光をかき集めることで暗中において視覚を確保できる暗視魔法を使っているならば、
その効果は、最早攻撃の域に達するだろう。
魔法の光の残滓の中、ツンは薄めで男を確認する。
狙い通り、男は目を押さえて狼狽していた。
ツンは自身の目を腕で庇ったため、まったく影響は無い。
光で視界を保てる内に、ブーツの魔法を発動。
魔法で増強された渾身の蹴りを男の頭に叩き込もうと足を振り上げた。
- 294 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:38:57 ID:RYCKUfzw0
-
しかし突然、ツン胸元に強烈な衝撃が走る。
魔法の気配だ。何者かに魔法で狙撃された。
吹き飛ばされ背中をしたたかに打ちつけたツンの意識は一気に明確さを失っていく。
「まったく、遊びすぎだぞアニジャ」
「悪いな。助かったよオトジャ」
「目は見えるか?」
「咄嗟に手で庇って助かった。しばらくすれば大丈夫だろ」
足音が一つ近づいてくる。
迂闊だった。男に気を取られ仲間の可能性を失念していた。
魔法式の展開もせずに魔法の効果を纏った時点で気付くべきだったのだ。
ツンちゃんそろそろドジっこアホキャラ卒業しないと、本当に命がヤバイ。
「女。これ以上の反撃は一切許さない。大人しくしていれば、人間としては扱おう」
ξ ⊿゚)ξ、「ぺっ」
「……」
何か硬いもので頭を殴られる。
ツンの意識は、そこで一旦終わりを迎えた。
- 295 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:39:48 ID:RYCKUfzw0
-
今日は以上ですー
合間の支援ありがたや
次回ですがちょっとラノベ祭りとの並行書き溜めを画策しており次回は少し遅めになるやも
出来る限りというか、まず間違いなくこっち優先で書くんでもしかしたらそんなでもないかも
ではではまたー
- 296 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:43:42 ID:aHwdctbM0
- 乙!
ツンちゃん鼻炎持ちとかニッチなとこ突いてくるな
- 297 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:44:26 ID:9L.8ZezE0
- おツンツーン
祭りもこっちも楽しみに待ってるよ
- 298 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:48:46 ID:CSGmotDA0
- おツンツンツーン
夜中なのに腹減ったぞどうしてくれる
- 299 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 01:00:30 ID:rtBU9iOIO
- おツンツンツンツーン
次回も楽しみだ
- 300 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 01:18:15 ID:e0jGikyU0
- おツンツンツンツンツーン
ベーコン食いたくなったぞどうしてくれる
- 301 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 01:24:56 ID:0IR5Njzg0
- おツ(ry
流石兄弟クルー?
- 302 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 02:36:07 ID:6RnQAgZI0
- ハイン男だったのかよ…なんとなく女だと思ってたからちとショック
- 303 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 03:40:26 ID:UpORTYWk0
- 更新早いなぁ
乙!
- 304 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 03:50:24 ID:RAtxccec0
- おつ
ラノベ祭のほうも楽しみにしてるよ
- 305 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 07:29:52 ID:Uc9Uzw1A0
- おつ
武闘派だな流石兄弟
- 306 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 12:07:22 ID:JdViH/Uk0
- 乙
ハインが男って最近のブーン系じゃ珍しいな
- 307 :名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 00:09:13 ID:4HeJDXrkO
- おつー
- 308 :名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 21:00:47 ID:4HeJDXrkO
- おっつー
今回も面白かった
- 309 :名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 22:57:03 ID:pEKmH/AU0
- スコッチさん誕生日おめでとう!
乙
- 310 :名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 23:47:47 ID:Lo0WV0R.O
- タイトルからギャグ作品かなと思ってたら
なかなか面白い組み合わせだな 期待
- 311 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 08:38:10 ID:7/kWVNk2O
- 戦闘描写がスムーズだから頭の中でブーンとツンの暴れ回る姿がアニメのように想像できるぜ
俺もこれぐらい上手くなりたい
- 312 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:02:09 ID:X8G0OTqg0
-
『友人の命が惜しければ正午にオーマ湖畔、朽ちた小屋に。』
封筒にはシンプルな脅し文句の書かれた紙と、一束の髪の毛が入っていた。
髪は光を受けて鮮やかに輝く金色。しかしそのところどころに黒ずんだ赤が見て取れる。
間違いなくツンのものだとハインリッヒが言った。
彼は過去の何度かの治療でツンの身体情報を記憶している。
その言葉ば残念ながら信用できた。
从 ゚∀从「どうするんだ」
( ^ω^)「どうするもこうするも、行くに決まってるお」
腰のベルトに刀を差し、ブーンは装備を整える。
残り少ない大五郎のスキットルを一口呷ってから尻のポケットに入れた。
相手の目的は分らないが、狙いは確実にブーンだ。
巻き込まれたツンを放って置くことは出来ない。
从 ゚∀从「罠かもしれねえぞ」
( ^ω^)「……夕飯までには帰ってくるお。上手いもん準備して待っててくれお」
それだけ答えて、ブーンは家を出た。
太陽は既に頭上高く昇っている。
- 313 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:03:04 ID:X8G0OTqg0
-
封筒に気付いたのは、朝食を終えてしばらくしてからのことだった。
ポストに差し込まれたそれには切手も消印も無く、開いてみると前述のものが中に入っていたのだ。
指定の場所へ急ぐ途中も、ブーンは相手が何者か思考を巡らせる。
国内外問わず傭兵をやってきたブーンを憎む者、疎む者は多い。
今までもこうして理由も告げられず命を狙われることはしょっちゅうだった。
魔女討伐失敗以来、死んだという噂が立っていたお陰もあり狙われなくなっていたのだが、
ここ数日目立つことをしたためどこかから情報が流れたのだろう。
私怨だとしたら、少々億劫だが、ツンを人質に取ったのは許せるものではない。
適度にぶん殴ってやらないと気がすまない。
('A`) 『また一人でやる気か』
( ^ω^)(この件については僕の個人的な問題だお。ドッグを巻き込む気も無いお)
('A`) 『……分った。近くまで魔法で送ってやる。代われ』
( ^ω^)(お)
('A`) 「ったく。あの馬鹿が心配なのはお前だけじゃねーんだよ」
* * *
- 314 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:04:04 ID:X8G0OTqg0
-
(´<_` )「起きろ」
身体を揺すられて目を覚ました。
体の背中と頭と足が痛む。ここ最近、どこも痛まずに起きる朝の方が少ない気がする。
(´<_` )「食え」
ツンはほぼ無理やり口に詰め込まれた干し肉を齧る。
堅い肉の食感が顎に響いて痛い。
私、何でこんなところにいるんだっけ?
たしか、ハインリッヒの家で夕飯を食べて、夜道を帰ろうとして誰かに襲われて……
ξ゚⊿゚)ξ「!」
(´<_` )「暴れても無駄だ」
男の言葉通り、動こうとしても動けない。
足首と手首を縛られている。
手については後ろで縛られているため肩が痛かった。
芋虫のように這い蹲りながら目の前に立つ男を睨む。
この男がツンを襲った二人の内の一人であることは間違いない。
声からすると、多分後から出てきた方だ。
- 315 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:04:52 ID:X8G0OTqg0
-
(´<_` )「もう少し賢くなれ。大人しくしていれば悪いようにはしない」
ξ゚⊿゚)ξ「もう現時点で悪いようにされてんのよ」
男がため息を一つ。
しゃがんでツンの顔を覗き込んだ。
そのままマジマジと凝視され、色々と不安になる。
ξ゚⊿゚)ξ「何よ。惚れた?」
(´<_` )「傷は大したこと無いな。痕は残らんだろう」
渾身の強がりをスルーされ、ツンは内心でぐぬぬと唸る。
男はツンから離れると、皮袋から干し肉の塊を取り出しナイフで厚めに切り取った。
それをまた、ツンの口に押し込む。
ξ゚)‐゚)ξ「もうひゅひょひちいひゃきゅきってひょ」
(´<_` )「物を噛んでいる間は喋るな。女だろうが」
ξ゚〜゚)ξ「だんひょさべひゅ」
干し肉は硬いが、不思議なことに美味かった。
自分の意思で食べられればもっと楽しめただろう。
- 316 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:06:07 ID:X8G0OTqg0
-
(´<_` )「もう少し殊勝にしたらどうだ。仮にも囚われの身だぞ」
ξ゚〜゚)ξ
柔らかくなった干し肉を飲み下し男の顔をまじまじと見た。
高い鼻に、気難しそうな口元。
目じりの垂れた目にはどこか気苦労のようなものを感じる。
言葉こそ冷たく突き放すようだが、端々から感じる人間味が男の印象を柔らかくしていた。
なんだかんだで傷の心配をしてくれ、食事も与えてくれたから、というのもある。
無論心を許したとかではない。殴られたし、縛られてるし、すっごい馬鹿にする目で見下してくるし。
ξ゚⊿゚)ξ「だってアンタあんまり恐くないんだもん」
(´<_` )
男が呆れと侮蔑と、その他色々な感情の表出した顔をする。
出会いがこんなことでなければ、結構仲良くなれたタイプかもしれない。
(´<_` )「こんな図太い女は初めて見た」
ξ゚⊿゚)ξ「そうかしら」
(´<_` )「自覚が無いところとかな」
やっぱりこいつ嫌い。
- 317 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:07:32 ID:X8G0OTqg0
-
(´<_` )「とにかく、無駄な抵抗はするな。用が済んだら開放する」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
(´<_` )「あと、もう一人、俺の相棒に変なことは言わない方がいい」
もう一人、というと先に絡んできた方だろうか。
今でも表情の無い声が耳に残っている。
語りかけられるだけで不安になってくる無機質な言葉を思い出して、胸に不愉快が沸いた。
(´<_` )「アイツは女を痛めつけるのが好きでな。抵抗しなければ手を出さないようには言っているが」
男は干し肉を削り、自分で噛む。ツンに与えたものより薄く切っている。
(´<_` )「あんたが口実を与えれば分らん。何をされても文句は言うなよ」
ξ゚⊿゚)ξ「わかった」
ここは素直に返事。もう一人がやばそうなのは既に感づいている。
よく考えたら目の前の奴に殴られたのは一発だけで、それで綺麗に意識を奪われた。
逆に言えば、もう一人は気絶しないよう丁寧に(?)ツンを痛めつけていたということだ。
ξ゚⊿゚)ξ「あんた結構いい奴なの?」
(´<_` )「意味のわからねえ女だ」
- 318 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:08:21 ID:X8G0OTqg0
-
それ以降言葉らしい言葉も無くツンは横たわり、男は木箱に座って干し肉を齧っていた。
暇になったツンは周囲を見渡してみる。
打ち捨てられた物置小屋、といったところだろうか。
中にあるものはどれもこれも埃まみれで何に使う道具か定かではなかった。
網や棹のようなものを見るに、漁の道具だろうか。
二人組みとはいえツンを担いで長距離を移動したとは考えにくいから、恐らく湖の近辺。
例のもう一人は外にいるのだろうか。
ツンが目覚めてから声すら聞いていない。
男を見た。干し肉を咥えたまま杖の手入れをしている。
自然な歪みを帯びた木の棒。
知らない人が見ればそこいらの木を折って作ったいたって普通の杖に見えるだろう。
だが、ツンは資料で見たことがある。
アレは魔道具だ。
そもそも超のつく貴重品の魔道具の中でもトップクラスの、魔法式の展開を補助する代物である。
もしかしたらコイツ、とんでもない魔法使いなのかもしれない。
実際に喰らった魔法一発では判断できないが、持っている道具の質は確実に上等だ。
ツンがこうして捕まっていると言うことは、ブーン達がおびき出されていると言うこと。
大丈夫なのだろうか。
ブーン達がそう簡単に負ける気はしないが、相手のやばさも中々である。
- 319 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:09:23 ID:X8G0OTqg0
-
(´<_` )「来たな」
心配を他所に男が杖を持って立ち上がる。
来たと言うからにはブーンなのだろうが、ツンにはまったく分らなかった。
男が扉を開けた。その先には男の相棒と思しきもう一人の男。
そしてさらに向こうに、険しい顔のブーンが。
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!」
叫ぶと、ブーンがこちらを向く。
安心したような、複雑な顔をされた。
多分顔が腫れているせいだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「ごめん!」
(´<_` )「じゃあな、バカなお姫様」
男がそう言って扉を閉めた。
再び外の世界と隔絶される。
程なくして、剣のかち合う金属音が聞こえた。
一体どんな様相になっているのか、囚われのツンには分らなかった。
* * *
- 320 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:10:38 ID:X8G0OTqg0
-
湖の畔にたどり着いて、一先ずツンが無事でよかったと安心した。
そして、自分を呼び出した相手を知っての驚く。
( ^ω^)「サスガ兄弟……」
('A`) 『知ってるのか?』
( ^ω^)(傭兵だお。基本的に外国でしか仕事しないから、チャンネルじゃあまり知られてないけど)
('A`) 『傭兵ってことは……』
ドクオの予想は概ね正しいだろう。
誰かに雇われ、その依頼を果たすためブーンを狙っているのだ。
私怨よりははるかに気が楽になった。同時に、無関係のツンを巻き込んだことに怒りを覚える。
( ´_ゝ`)「よお、オルトロス。ちょっと小さくなった?」
( ^ω^)「ツンを開放しろお」
( ´_ゝ`)「おいおい。せめて挨拶くらい返せよ」
( ^ω^)「……」
ブーンから見て手前、剣を片手に軽口を叩くのがサスガ兄弟の長男、アニジャ=サスガ。
もう一人、小屋から現われたのが
(´<_` )「安心しろ。後に残るような怪我はない。用が済んだらすぐ開放するさ」
次男の、オトジャ=サスガ。
- 321 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:12:59 ID:X8G0OTqg0
-
用、というのが何を指しているのかは考えるに難くない。
アニジャは抜き身のククリ刀を右手に、オトジャは長い杖を両手で携えている。
やる気満々だ。
( ^ω^)(ドッグ、あの杖って)
('A`) 『直接見てみないとなんとも言えんが、かなり良い魔道具だな』
ブーンは抜くまで行かずとも、腰の刀に手を添える。
その動作を見てアニジャはゆっくりと口の端を上げた。
笑っているつもりなのか、ただ顔が歪んだようにしか見えない。
(´<_` )「ちょっとした理由で、お前を殺さなきゃいけなくなった」
( ´_ゝ`)「そういう訳なんだ。死んでくれ」
高まる緊張感。直ぐ傍の湖のさざめきが煩いくらい耳につく。
足場は小石や木屑の混じる砂浜。多少湿気ているので意外にしっかりとしていた。
アニジャが前のめりに倒れる。
地面に付く寸前で足を前に出し、それを蹴り足にブーンに飛び込む。
(;'A`) 『速ッ』
ドクオの驚きを無視し、ブーンはアニジャの一太刀目を仰け反ってかわした。
敵方から見て左から右へ、鈍色の分厚い刃が空を裂く。
ブーンはそのまま手を突き、後転。距離を作ると素早く二刀を抜いた。
- 322 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:13:58 ID:X8G0OTqg0
-
アニジャのククリ刀はリーチはブーンの小太刀と大差ないものの、幅広で肉厚。
全身の力を持って振り切られれば、容易く武器を折られてしまう。
アニジャの追撃。
空中で胴を回転させ遠心力をつけてからの大振りの袈裟切り。
同時にオトジャが魔法で援護。
圧縮された水の玉を数個生み出し、ブーンを狙う。
ブーンはこの両方を大きく飛びのいて回避した。
体勢を崩しつつも直ぐに迎撃の姿勢を整える。
オトジャの攻撃が腹を掠めていたため血が滲んだ。
アニジャがゆったりとブーンへ歩み寄る。
自身の身体を抱くように腕を体の前で交差。
ククリを持った右腕に力が篭っているのが分る。
先手を打つため、ブーンは自らアニジャへ飛び込んだ。
アニジャの持つ刃の側へ歪んだ独特なくの字の短刀、ククリ。
鉈の重みで断ち切る性質とナイフの切れ味を併せ持った異国の剣だ。
あの姿勢から繰り出される一撃は、ククリの形状も相まって強力ではある。
だがブーンならば刀の反りを活かしていなせないものではない。
そして後は、がら空きの腹をもう一方の刀で切る。それで終わりだ。
ブーンが踏み込む。
両者十分の間合い。それぞれの武器が動いたのは同時だった。
- 323 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:14:59 ID:X8G0OTqg0
-
アニジャの放つ音速の斬撃にブーンは左の刀を合わせる。
身体を下げると同時に、左腕でククリ刀をカチ上げた。
手に激しい衝撃の痺れ。刃を食いしばって耐える。
右手の軌道を上に剃らされ、開いたアニジャの胴。
守りの無い肋骨の隙間から肺を目掛けて右の刀を突き出す。
( ^ω^)「ッ」
重い金属音が静かな湖畔に響いた。
ブーンの刀の切っ先は小さな魔法障壁に阻まれている。
舌打ちをする暇も無く、アニジャのククリが弾き上げた高さから振り下ろされる。
再びの金属音。
体重の乗っていない手打ちのため左の刀で十分受けることが出来た。
気が逸れたところ、アニジャの左手がブーンの襟首を掴む。
直ぐに右手を返し、振り上げて腕を落とそうとしたが、その前にブーンの体が地面から離れる。
空中で足と頭が逆になるが、身を捻って確りと着地した。
( ^ω^)「……」
自分の体が浮いたような不思議な感覚に若干の戸惑いを覚える。
そこにオトジャの魔法攻撃。
水で作られたギロチンがブーンへ落とされるのを転がってかわす。
- 324 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:15:50 ID:X8G0OTqg0
-
( ^ω^)(……思ってたよりも不味いかもしれないお)
(;'A`) 『せめて一対一に出来りゃあな』
アニジャの攻撃は大振りで隙だらけだが、オトジャの援護が上手くその隙を消している。
そして反撃を恐れる必要のないアニジャの攻撃は一撃一撃が武器破壊級の威力。
二体一の時点で不利は覚悟していたが、想像以上の戦いにくさだ。
( ´_ゝ`)「あれ?こんなもんなのか?」
ゆらりゆらりとアニジャが向きかえる。
横目でオトジャを確認。次の魔法を準備しているようだった。
何にせよ、ただ受けに回っては不利が嵩む。
ブーンは刀を握りなおしアニジャに斬りかかった。
まずは左、肩口への振り下ろす斬撃。
アニジャは下がりながらこれをククリで横に払う。
ブーンは連ねて右手の刀をアニジャの腹目掛けて切り上げた。
刃が服を裂き肉に食い込む寸前で防壁に防がれる。
アニジャの首を狙った反撃を寸前で避け、間髪おかず放たれた前蹴りをあえて受けその勢いで後退。
着地の瞬間に合わせ飛んできた水の魔法弾を刀の柄尻で打ち砕く。
- 325 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:17:25 ID:X8G0OTqg0
-
( ^ω^)(ドッグ、あの魔法障壁って自動?)
(;'A`) 『それは無い。おっそろしくばっちりのタイミングでもう一人が発動してるだけだ』
( ^ω^)(よかった、まだ希望が持てるお)
目の前、アニジャ。再び胴回し回転切り。
右へ転がってかわすと、振り下ろされたククリが足元の砂を舞わせる。
アニジャは地面突き刺さったククリをブーンに対し振るう。
砂が掻き上げられブーンに降りかかるが、ブーンはマントを外してこれを払い落とした。
この隙を狙い、アニジャは大きく踏み込んでの切り下ろし。
斬撃はマントを切り裂いたがブーンには当たっていない。
マントが目隠しとなってアニジャの視界が狭まった一瞬にブーンはアニジャの背後へ。
( ^ω^)「…二刃一瘡」
力を溜め、左右の時間差同箇所連撃を放った。
甲高い音と共に、魔法障壁が切り裂かれる。
アニジャは身を捩って回避していたが、刀の切っ先がそのわき腹を捉え、鮮血が弧を描いた。
(;'A`) 『通った!』
(´<_` )「おいおい、魔法障壁を力づくで斬るなよ」
オトジャの呆れは誰にも聞こえない。
- 326 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:18:35 ID:X8G0OTqg0
-
この好機を逃すほどブーンは甘くない。
素早くアニジャの影に回りこみ、オトジャの死角へ入る。
アニジャは苦し紛れにククリを振るうが、ブーンはそれを目一杯弾いた。
ククリが手を離れ、宙を舞い、アニジャの背後の浜に落ちて突き刺さる。
( ´_ゝ`)「っ」
( ^ω^)「杉浦双刀流」
ブーンは再び全身に力を溜め、アニジャの懐へ踏み込む。
その行く手を阻むように障壁が現われた。
今までのようにピンポイントではなく、アニジャの胴全体を守る幅広いものだ。
( ^ω^)「二刃一瘡」
放たれる亜音速の連撃。
金斬り音を上げ、障壁を両断する。
切っ先は惜しくもアニジャには届かない。
さらに追い込みをかけようとしたブーンの頭上に大量の水弾が現われた。
それが氷柱のように尖り、地を穿つ雨となって降り注ぐ。
ともすればアニジャまで巻き込む広範囲の攻撃にブーンはやむを得ず後退。
蒸せるような水の臭いが満ちると同時に、地面の砂浜に無数の穴が開いた。
ブーンの身体にも数発掠り、額と肩口から血が滴る。
- 327 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:19:59 ID:X8G0OTqg0
-
アニジャはその隙に素早くククリを回収し、その刃の状態を確かめた。
残念なことに、使用には足るようだ。
(´<_` )「“魚を断つ”」
オトジャが杖を振るい、周囲の巻き上げた湖の水を刃に変えブーンに向かって放った。
ブーンはこれを見切って回避。一直線へオトジャへと走り出す。
(´<_` )「アニジャ、約束だ。俺も本気で行くぞ」
( ´_ゝ`)「まあ、こいつ相手じゃ仕方ないか」
オトジャは一瞬の内に魔法式を組み上げ、発動。
水の礫が空中に複数出来上がり、ブーンに向かって放たれた。
唸りを上げるそれらは少しずつ射線が散っていたため、あえて避けず被弾する物だけを柄で弾く。
刀が手から抜けそうになるほどの衝撃と水しぶきが襲い掛かるが気にしない。
実質のダメージをほぼゼロに留め、ブーンはオトジャへの進行を進めた。
しかしここで横手からアニジャのククリの投擲。
弾くには重いと判断して足を止めやり過ごす。
回転を帯びたククリはブーンの眼前を素通りし、地面に数度跳ねて止まった。
- 328 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:20:54 ID:X8G0OTqg0
-
続いてアニジャ自身がブーンに詰め寄る。その手には砂。
相手の目的を読み、あえて切り込まず顔を背け横に飛ぶ。
投げつけられた砂が身体にパタパタと当たった。
反撃のため向き直ったブーンへ、アニジャはさらに地面を蹴り上げての目潰し。
やや虚を突かれる形となったブーンは咄嗟に左腕で目を庇い、右の刀を牽制に振るった。
アニジャはこの剣閃を見切り、服一枚を切らせて回避。
攻撃させまいとすぐさまブーンの両の腕を掴む。
ブーンが抵抗しようと力を入れた瞬間、意志とは関係なくブーンの足から力が抜けその場に片膝を付く。
呆気に取られたブーンの顔面へアニジャのニーキック。
鼻を潰される寸前、ブーンは勢い良く頭を下げ歯を食いしばり、額でそれを迎え打った。
大槌で木杭を打つような鈍い打撃音。
ブーンの鼻の奥にツンとした感触が突き刺さる。
脳が揺れ、いくらかダメージを受けたが、鼻に喰らうよりはマシと割り切った。
反面、アニジャは苦悶の表情。
膝の皿を割るまでは行かなくとも痛みわけといえる程度のダメージは与えたはずだ。
追撃のためアニジャを押し返そうとした瞬間、今度は急に体が重力から切り離され、気付くとブーンは空中で回転していた。
自分の状況を理解した時には既に遅く、半端な受身のまま肩口から地面に激突する。
寸前までブーン優勢だった状況が、一気にアニジャへと傾いた。
- 329 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:22:21 ID:X8G0OTqg0
-
(;'A`) 『気をつけろブーン!たぶんこれ合気って奴だ!』
ドクオの忠告とほぼ同時、眩暈を起こすブーンの顔面へアニジャのストッピング。
反射的に転がって避け、そのまま距離を稼いだ。
まだ焦点の定まらない目で睨みつけると、アニジャはその手にブーンの刀を一振り持っている。
はっとしてブーンが自分の手を見ると、右の剣が無い。
投げられたときに受身を取ろうとして手から離れてしまったようだ。
( ´_ゝ`)「一本じゃ、障壁も斬れないだろ?」
握り心地を確かめるようにアニジャは刀をくるりと回す。
ブーンは左の刀を右に持ち替え、構えた。
眩暈の回復を待ちたいところだったが、そうはさせてくれない。
(´<_` )「“竜を穿つ”」
斜め後ろからオトジャの魔法攻撃。
湖から立ち上った水の渦が、空中でねじれ、さながら槍の様にブーンに襲い掛かる。
ブーンは間一髪でこれを回避。
魔法のぶち当たった地面に大穴が開き、衝撃で大量の砂と水を撒き散らした。
- 330 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:23:37 ID:X8G0OTqg0
-
降り注ぐ砂と水の飛沫の中をアニジャはブーン目指して突っ切る。
腕を交差して顔を庇い、間合いに入った瞬間踏み込みと同時に横薙ぎに切り裂いた。
ブーンはこれを伏せてかわしつつ、アニジャの懐へ。
脇構えから立ち上がる勢いで股間を一直線に切り上げた。
斬撃は魔法障壁に容易く阻まれその表面を滑るが、ここまでは読みどおりだ。
ブーンは障壁の外から左の掌底をアニジャの肋骨へ叩き込む。
アニジャ自身の迎撃もオトジャのサポートも間に合わず、骨の折れる軽快な音が響いた。
( ´_ゝ`)「……ッ」
苦痛に顔を歪めながら、アニジャは打ち終わりのブーンの腕を掴む。
これまでの例に倣ってブーンの体が宙へ投げ出された。
辛うじて四つんばいで受身を取ったその瞬間、水の鞭がわき腹へ。
( ^ω^)「ッ」
飛んで避けようとしたものの間に合わず皮膚が裂け、衝撃が内臓を揺らす。
自然と口から空気が漏れた。
息を整える間も無くアニジャのつま先がブーンの顎へ。
食い込んだブーツの先端がブーンの顔を上体ごと打ち上げた。
吹き飛びかけた意識を奥歯で食い止める。
しかし、アニジャはさらに軸足を変えての逆回し蹴り。
薄れかかった意識では、頭を狙ったこの一撃をかわすことは困難だった。
- 331 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:24:18 ID:X8G0OTqg0
-
( ´_ゝ`)(決まった)(´<_` )
兄弟揃っての確信。
アニジャは止めを刺すつもりで足を振り切る。
( ´_ゝ`)「ッ?」
あるはずの感触が無い。
まず間違いなくブーンの頭を打ちぬいたはずの蹴りは、何に触れることも無く空ぶりに終わる。
若干の戸惑いを孕んで、勢い余ったアニジャは体勢を崩した。
そこには、頭を伏せた、ブーンより一回り小柄な男。
( A`) 「“震えは波動。我無慈悲に徹せぬ者―――”」
( ´_ゝ`)「?!」
( A`) 「“汝を、……えっと、吹っ飛ばす”!!!」
差し出されたドクオの手のひらで空気が炸裂。
痺れにも近い微振動の波がアニジャの身体を吹き飛ばした。
(´<_` )「“貝を砕く”」
( A`) 「“汝を―――払拭す”!」
援護で放たれた水弾を、簡略発動した防御呪文で相殺する。
- 332 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:25:17 ID:X8G0OTqg0
-
( ^ω^)『ドッグ』
('A`) (うるせえな。お前が死んだら俺だって困るんだよ)
( ^ω^)『……』
(;'A`) (おー、全身痛くてクラクラする。お前もうちょっと体大切にしろよな)
種は簡単。蹴りの当たる寸前にドクオが入れ替わり、体格差を活かして回避したのだ。
その後は簡略化した魔法で二人をあしらえば一先ずは危機を脱する。
(´<_` )「“地を巻く蜷局(トグロ)。空堕とす毒―――”」
('A`) 「“我、孤独を求む者。―――”」
アニジャの頭上に巻き上げられた水の塊が、表現し難い濁りを湛える。
中に残っていた小石や木屑が音も無く融解した。
強力な魔法毒だ。浴びれば死ぬ。
(´<_` )「“雷神を穿つ”」
('A`) 「“拒み、抗い、絶し、そして―――”」
- 333 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:26:32 ID:X8G0OTqg0
-
魔法の発動は僅かにオトジャが先行した。
一本の帯となった溶解毒の塊が螺旋を描いてドクオを囲む。
そこから当たれば必死の毒矢を四方八方から放った。
('A`) 「“―――汝を、否定する”」
地から湧き立った陽炎の鎧がドクオの身体を包んだ。
毒が当たった部分が焼けるような音を立て相殺、減った分の魔力は直ぐに供給する。
毒の土砂降りが止んだ時には、溶けて変形した地面の真ん中に、ドクオだけが無事に立っていた。
この魔法による傷じゃ皆無。魔力は大量に消費するハメにはなったが、まだ戦える。
( ´_ゝ`)「チッ」
(´<_` )「アニジャダメだ!近づくな!」
オトジャの忠告を無視してアニジャがドクオに切りかかった。
ブーンの刀を両手で持ち、間合いに入った瞬間伸びのある片手突きを放つ。
陽炎の鎧は、刀を受けて僅かに窪み、その力を全て跳ね返した。
刃がひしゃげ、アニジャの手が上へと弾かれる。
ドクオはそこへ手のひらを翳す。
(´<_` )「“八つ足を断つ”!」
- 334 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:27:41 ID:X8G0OTqg0
-
複数の水刃がドクオを斬りつけるも、全て防御魔法に防がれる。
ドクオの翳した手に応じて、魔力の鎧がアニジャの身体を撫でた。
( _ゝ )「ッッ!」
アニジャの口から零れた血が、宙に軌跡を描く。
馬車に跳ねられたかの様に突き飛ばされ、砂の上を転がった。
自分の意思で地面に爪を立て止まったが直ぐには動けない。
(´<_` )「なんなんだアイツは。杖を使った俺の展開に追いつくか普通」
( ´_ゝ )「痛っってえ。凄腕の魔法使いと融合してるってのはガチだったか」
(;'A`) 「ふ、ふふふこのロンリードッグ様の恐ろしさ思い知ったか」
(;'A`) (……ブーンすまん、体返す。あちこち痛くて魔法の維持が辛い)
( ^ω^)『問題ないお。ここまでサンキューだお』
ドクオは一仕事追えブーンに入れ替わる。
ブーンは刀の握りを確かめ、オトジャへと走り出す
アニジャはそれを邪魔しようとするも魔法のダメージが大きく立ち上がるのが精一杯だ。
(´<_` )「“鮫を裂く”」
オトジャの手に水の剣。
受けに回らず自ら斬りかかりブーンと三合ほど打ち合う。
- 335 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:29:13 ID:X8G0OTqg0
-
(;'A`) 『コイツ剣も使えんのかよ』
半ば呆れ気味のドクオの声を頭の中に聞きながらブーンは刀を振るう。
オトジャは右に剣を、左に杖を持ってそれを上手く弾く。
長い手足を利用した懐の広さを活かし、ブーンの得意の位置へ切り込ませない。
アニジャが能動的な攻めのスタイルならば、オトジャは受動的な守りの型。
下手を打てば間違いなく返し技が来る気配があるため、ブーンも無理には攻め込めない。
( ^ω^)(……おーん、僕このタイプ苦手なんだお)
ブーンの流派も後の先を取る戦法が主体のため、焦らし合いのような形になる。
万全な状態で二刀が揃っていれば押し切ることも出来るだろうが節々にダメージの残る今は辛い。
とは言え時間をかけ過ぎればアニジャが立ち直ってしまう。
半ば無理やりになっても攻めるしかないと覚悟を決めた。
( ^ω^)「杉浦双刀流変式一刀の型」
若干広い間合いを取ってからの、切りかかり。
右に持った刀を身体を開いて振り上げ、左下に向けて振り下ろす。
微妙にリーチが足りず、オトジャは少し仰け反ってそれをかわした。
しかし、これがブーンの狙い通り。
- 336 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:30:08 ID:mObF/l/I0
- ドクオよくやった。
- 337 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:30:23 ID:X8G0OTqg0
-
( ^ω^)「―――渡り燕」
既に振りかぶっていた左手が、下から刺突するように動く。
そこへ振り切った右の刀。
左右の手が交差した瞬間、刀が持ち替えられそのまま左の突きとなってオトジャの身体へ放たれる。
(´<_` )「!」
オトジャは剣で突きの軌道を逸らしながら後退して避ける。
が、完全な回避とはならず脇腹が血を零した。
オトジャは怯まずブーンの刀を弾き、さらに後退。
杖を突き出し魔法式を展開する。
(´<_` )「“竜女を攫う”」
二人の間に現われた水泡が爆ぜて濃い霧になる。
視界を奪われたブーンは止むを得ず退避。
しかし霧はブーンに絡みつきどこまでも離れない。
( ^ω^)「?!」
(;'A`) 『不味いぞブーン、これ段階魔法の一段目だ!』
( ^ω^)(僕魔法良くわかんない!)
- 338 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:31:17 ID:X8G0OTqg0
-
(;'A`) 『追加の魔法式でドンドン強化される!早く術者を打たないと』
( ^ω^)「無理!」
霧で周囲がロクに見えない上、オトジャは杖によってドクオ以上の展開速度。
厄介以上の何者でもない。
頭を切り替え水煙を突っ切ってオトジャへ。
水の臭いでハッキリは分らないが、大体の位置を鼻で感知する。
全力の突進であれば、僅かにだが霧を振り切ることが出来た。
見えたオトジャに全力の踏み込み下段からの斬り上げ。
オトジャも素早く反応し、体重をかけた両手の振り下ろしでそれを受け止める。
オトジャの持つ水の剣が揺らいだ。
正面切手の打ち合いならばブーンの剣の方が重い。
しかし、それはサスガ兄弟にとって問題ではなかった。
( ´_ゝ`)「“竜女を誑かす”」
魔法の霧が突然粘度をもちブーンの身体に纏わり付く。
目鼻口耳、そして全身の皮膚に水粒が浮き立ち、ブーンの感覚を急激に低下させた。
- 339 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:32:53 ID:X8G0OTqg0
-
( ;^ω^)「むぅ!」
(;'A`) 『おいおい!今度はそっちが魔法かよ』
知らぬ間にブーン達の近くまでたどり着いていたアニジャが今度は杖を持っている。
ダメージがかなり残っていて杖で身体を支えているものの意識ははっきりしていた。
続けざまに魔法の展開を開始。オトジャと同程度には速い。
( ;^ω^)「くッ!」
(´<_` )「おいおい、どこ行く気だ」
守りに徹していたオトジャが一転攻勢に出る。
アニジャの一撃必殺に対しこちらは連撃の嵐。
一つ一つは大した重みでは無いが反撃の隙も間合いを取る隙も得られない。
( ´_ゝ`)「“竜女を剥ぐ”」
アニジャの手に水で出来た短剣が生み出される。
その短剣が振られた瞬間、ブーンの胸元の水かにわかに毛羽立ち、皮膚を真一文字に切り裂いた。
焦って急所の首を左手で庇うと、代わりに手の皮膚がぱっくりと割れる。
傷は浅いが、アニジャが短剣を振るうたび、ほぼ防御不能の斬撃がブーンを切り刻む。
- 340 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:34:04 ID:X8G0OTqg0
-
(;'A`) 『こいつら二人で一つの段階魔法を…ッ!』
( ;^ω^)(ぐっ!)
魔法攻撃を根本から打ち消すにはドクオに切り替わって魔法を使う他無い。
だが、ブーンはこの間も痛みに耐えながらオトジャの攻撃を凌いでいる。
今ドクオになれば、魔法を展開する間もなく刃を突き立てられて終わりだ。
ブーン自身で打開作を探すのが賢明。
( ;^ω^)「杉浦双刀流、返し一刀の型、回し篭手」
オトジャの連撃の内の一太刀が軽いと見抜き、ブーンはそれを刀で受ける。
刃が引かれるまでの刹那の時間に、手首を倒し、回転した刃の腹で水の剣を弾く。
手を突き出した勢いも加味されたその一打は、刃を通しオトジャの手を痺れさせた。
剣が水でなければもっと大きな効果が出たのだが、贅沢は言っていられない。
(´<_` )「?!」
何が起きたのか分らないという顔のオトジャの腹に蹴りを叩き込みブーンはすぐさまアニジャへ。
アニジャは展開途中の魔法式を一時保存し、数歩下がって距離を取り砂を蹴り上げた。
何度かの魔法の展開によって湿った砂は固まりになり、ほんの一瞬ブーンの進行を阻む。
その隙にダガーがブーンの目を狙って振るわれた。
ブーンは咄嗟に頭を下げ、毛羽立った水は額を切るに留まる。
- 341 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:35:41 ID:X8G0OTqg0
-
それだけの間にアニジャはオトジャに杖を投げ渡す。
オトジャは杖を受け取り、アニジャが途中まで組み上げた魔法式を再展開。
すぐさま発動へ漕ぎ着ける。
(;'A`) 『昔持ち物取られていじめられたの思い出す』
( ;^ω^)(笑えないお)
切り替えしてオトジャへ向かおうとしたその裏の太ももをアニジャに一直線に斬られる。
杖は他人に渡ってもあのダガーを持つ限り行使権はアニジャにあるようだ。
(´<_` )「“竜女を侵す”」
アニジャの手からダガー消えた。
纏わりつく水が、傷口から身体へ浸入。
肉と皮の間を無理やりに引き剥がされ、体のいたるところに水疱が出来上がる。
えも言われぬ耐え難い痛み。
意識が散漫とする。
(;'A`) 『不味いぞブーン!』
( ;^ω^)(それは、僕が一番分ってるお)
ダメもとでオトジャへ切りかかった。
全身に出来た膨らみのせいで全身の皮膚が張り、傷口が広げられる。
唇を噛み気合で痛みを押さえ込んだ。
- 342 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:37:59 ID:X8G0OTqg0
-
オトジャも後退し距離を稼ぎ、間合いに入った瞬間杖を投げる。
杖を追っても間に合わないことは既に明白のため、あえて無視してブーンは刃を走らせた。
かち合う白刃と水刃。
衝撃で互いの体表の水と血が、細かい飛沫となって散る。
オトジャは跳ね返された反動を利用して下がりながらの回転切り。
ブーンは刀を盾にして踏み込み、威力を殺す。
そのまま水の剣に自身の刃を滑らせ、オトジャの手を狙った。
( ´_ゝ`)「“堕ちた竜女は魔性を孕む”」
ブーンの刀がオトジャの腕を切り落とす寸前、段階魔法の最終式が発動する。
体中にあった水疱内の水が一瞬で揮発。
水蒸気の爆弾となって炸裂する。
( ω )「!」
ブーンの全身、正に至る所が血飛沫を上げた。
皮膚が破け、肉がほどけ、痛みの信号は脳の処理を越え全身から駆け上る。
ブーンの視界を暗闇が覆う。
自然に両膝が折れ、倒れるギリギリのところで耐えたが、最早戦闘不能は誰の目にも明らかだった。
- 343 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:39:20 ID:X8G0OTqg0
-
(;'A`) 『ブーン!!』
( ω )(だめだお、今、入れ替わったら、ドッグじゃ、失神しちゃう、お)
入れ替わろうとするドクオをブーンは拒絶。
身体を重そうに立て直し、刀を構える。
( ´_ゝ`)「……人間じゃねえな、コリャ」
(´<_` )「規格外ってのはこういう奴を言う」
兄弟がブーンに対し使ったのは、拷問用の魔法を戦闘向けに改良したものだ。
実際の破壊力は他の魔法に劣れど、痛みを与えるという一転においては絶大な効力を持つ。
今まで、どれだけタフネスを誇った男もこれを最後まで受ければ、悲鳴を上げて戦意を喪失した。
綺麗に一通り受けて耐えたのはブーンが初めてである。
気合で痛みを押さえ込むとか、そのレベルで耐えられるものではない。
炸裂の際、肉の浅い部位なら骨が覘く程度には抉れているのだから。
( ´_ゝ`)「相手に敬意を覚えるってのはこういう感じなのかね」
(´<_` )「これは敬意というよりも、畏怖だよアニジャ」
ブーンを挟むように立つ兄弟がそれぞれ杖と剣を構える。
アニジャは上級の攻撃魔法を展開、オトジャは水の剣を大きく振りかぶる。
トドメの一撃だ。ブーンにかわす余力は無い。
- 344 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:43:48 ID:X8G0OTqg0
-
“戦乙女が戦神を、守る理由に欺瞞なし。ただ、愛のみぞあれ―――”
ξ#゚⊿゚)ξ「“―――プロテクション”!!!」
小屋の扉が開き、ツンが飛び出した。
それに気を取られ、兄弟の攻撃が一瞬遅れた虚を突いて防御魔法が発動。
ブーンを囲って現われた半透明の魔法障壁が水の剣と水魔法を同時に防ぐ。
ξ#゚⊿゚)ξ「ダラァ!!」
続いてツンはオトジャに埃まみれ網を投げ、アニジャに油虫の死骸が大量に詰まった篭を投げつける。
兄弟に大きな隙を作ることに成功し、そのままブーツの魔法を開放。
手近にいたオトジャに飛び掛り、絡みつく網を斬ろうとしていたところを思いっきり蹴り飛ばす。
改心の一撃。
体重差も感じさせずオトジャの体が地面を転がった。
網のせいで受身が取れないのか、軽い事故の勢いである。
ξ#゚⊿゚)ξ「これは私の分!!」
ξ#゚⊿゚)ξ「そして、これが……ッ!」
ツンは空中で反転。下りると同時にアニジャへ標的を移す。
アニジャの放つ水弾を高く飛翔して全て回避。
空中で三度の回転、そこから処刑台を思わせるギロチンかかと落とし。
- 345 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:44:20 ID:cqFOitF20
- 兄弟つええ……
- 346 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:45:06 ID:X8G0OTqg0
-
大振りのためアニジャは簡単に回避したが、衝撃で舞い上がる砂に怯みを見せる。
そこへ、多少無理な姿勢からのドロップキック。
あまりに唐突なツンの連撃を読みきれず、アニジャはそれを腕で受けた。
ここでブーツの魔法が切れる。しかし直ぐに次を発動する。
四つんばいの着地からすぐさま蛙の如くフライングニー。
アニジャはこれを両手を重ねて受けるが、魔法により威力を増した蹴りを完全には抑えられない。
蹴った膝を伸ばしアニジャの腹を蹴って数歩分の間合いを取った。
そして、首を刈る後ろ回し蹴り。寸前で腕が差し込まれたのも構わず、足を振りぬく。
アニジャの身体は宙を舞い、水切りの石のように地面を跳ねた。
ξ#゚⊿゚)ξ「これが!これも!私の分だぁああああ!!」
魔法準備万全のやや奇襲状態ではあるが、ブーンの苦戦した相手を一蹴。
ツンちゃん怒髪ツンツクツン。中々のブチ切れ絶好調である。
しかし、これで簡単に負けるサスガ兄弟でもない。
オトジャもアニジャも絶妙に威力を殺していたのか、ダメージの影こそあれ直ぐに立ち直る。
ξ#゚⊿゚)ξ「ブーン!大丈夫!?もうちょっと頑張って!」
どうあっても人質が似合わない女だな。
ブーンは刀を握りなおし、小さな苦い笑みを浮かべた。
- 347 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:45:18 ID:mObF/l/I0
- ツンファイトや!
- 348 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:45:58 ID:.kKkdrsM0
- ツンちゃんきたああああ!!
- 349 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:46:09 ID:X8G0OTqg0
-
今日はここまでッス
ハインリッヒは構想の時点で男イメージだったのでそのまま20後半の男性です
結果的にツンが乙女ゲー主人公並みの逆ハー状態になっていることに気付きましたが後悔はしていません
次は出来れば今週には来たいなー、と
- 350 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:47:21 ID:c5eB4vMQ0
- ツンちゃんKAKKEEEEEEEE!!
乙乙!
- 351 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:47:29 ID:MiOMN5T.0
- すげーおもしろい
乙
- 352 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:47:34 ID:KSMX1JuUO
- 乙乙
- 353 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:49:16 ID:YfIZ9bGM0
- おツンツーン!
燃える展開だぜ
- 354 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:58:37 ID:gD4iegKY0
- ツンちゃんも男みたいで女を感じないなwww
- 355 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 00:00:19 ID:jYXzLz2k0
- やっばい面白いかっけえええええええ
兄弟つええええええ!!乙!!!
- 356 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 00:05:08 ID:.D2zB6CQ0
- このツンのバトルヒロインっぷりはすげぇカッコイイ
ブーンが助けに来たのに途中から逆に何時ツンがブーンを助けに入るのか
ワクワクしながら読み進めてしまった
- 357 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 00:32:09 ID:ARyehKE20
- 乙
もう…みんな素敵///
- 358 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 01:17:34 ID:2wtZbY8U0
- ツンちゃん素敵やで!!
- 359 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 01:35:02 ID:lVXgKB4oO
- ツンちゃんかっこええ
- 360 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 01:35:54 ID:6znAZHrUO
- ω・)乙。ブーン微妙な強さだな。
- 361 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 13:04:08 ID:p46PROIg0
- おもしれー
- 362 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 13:58:01 ID:2Y6qSEacO
- 乙ンツンツーン
さぁどう動くか
- 363 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:20:14 ID:6eaapvLo0
- 乙!
ドックンつえー
- 364 :名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 18:24:15 ID:VMlOqNj6O
- おツンツーン
コンビ同士のバトルは燃えるぜ
呪文は術者の個性というか趣味が反映されるのか?語句から自分で考える感じかな
- 365 :名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 22:01:07 ID:PomgCuKc0
- 乙
流石が強すぎるのかブーンが弱ってるのかわからんな
- 366 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 20:38:19 ID:8ueo1fbM0
- わくわく
- 367 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 21:27:22 ID:pabT/L2.0
- てかてか
- 368 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 21:56:06 ID:CiNGJvak0
- 帰りが遅くなったのでほんのり延期
22:30までには始めますね
- 369 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:04:36 ID:pabT/L2.0
- 把握した
- 370 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:29:46 ID:CiNGJvak0
- _
( ゚∀゚) 「失礼します」
ジョルジュは支部長室へ入り、敬礼を一つ。
部屋の主、デミタス=モリオカは返事はせず、顎で椅子に座るように促した。
それを目で断り、椅子の傍まで歩き、立ち止まる。
_
( ゚∀゚) 「今密偵から連絡があって、オルトロスとサスガ兄弟の戦闘が始まったようです」
(´・_ゝ・`) 「そうか」
回転椅子に凭れ、デミタスは机に置かれていたマグカップを手に取る。
燃料を補給するような無機質さで、コーヒーを飲んだ。
それなりにいい豆を使っているのだが、香りを嗜んだりという様子は一切無い。
(´・_ゝ・`) 「お前は、どっちが勝つと思う?」
_
( ゚∀゚) 「自分には計りかねますが」
(´・_ゝ・`) 「何も具体的な論拠を示せってわけじゃないんだ。勘でいい。答えろ」
_
( ゚∀゚) 「……双方の過去の実績を信じるならば、僅差でオルトロスかと」
(´・_ゝ・`) 「だろうな」
ジョルジュは眉をひそめる。
オルトロスの排除を決めたのはデミタスよりも上の人間だが、人選はデミタスが行った。
勝てない可能性が高いと分って何故彼らに依頼したのだろうか。
- 371 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:30:28 ID:CiNGJvak0
-
(´・_ゝ・`) 「そう訝しがる顔をするな」
再びコーヒーを一口。
この男嗜好の少ない男ではあるが、コーヒーだけは異常に好む。
客人を招くときこそ臭いを気にして紅茶に変えるもののそれ以外はほとんどコーヒーだ。
(´・_ゝ・`) 「お前も、何となく気付いているんだろ」
_
( ゚∀゚) 「……」
(´・_ゝ・`) 「あのオルトロスは、俺たちが噂に聞いたオルトロスとは違う」
_
( ゚∀゚) 「偽者、であると?」
確かにジョルジュも感じていた。
噂に聞くオルトロスは魔犬と称するのも生ぬるい、死神のような存在だ。
魔女のキメラを倒した実績を否定するわけでは無いが、事前の話よりも弱く感じたのが正直な所。
(´・_ゝ・`) 「本物が、何らかの理由で弱体化していると考えるのが妥当だと俺は思っている」
_
( ゚∀゚) 「……魔女」
(´・_ゝ・`) 「ああ、そうだ」
オルトロスが魔女を追っているという情報は既に入っていた。
魔女との間にある何らかの因縁により弱体化しているのだとすれば、オルトロスの覇気の無さも頷ける
- 372 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:31:16 ID:CiNGJvak0
-
(´・_ゝ・`) 「「魔法使いと入れ替わった」ってあたりも関係あると思うけど、ま、そりゃおいといて」
(´・_ゝ・`) 「もし、今オルトロスが噂ほどの存在でないのなら、サスガ兄弟なら十分に殺せるだろう」
_
( ゚∀゚) 「……」
だったら、オルトロスそのものをほっといてもいいのではないか。
そもそも彼と大五郎の間に雇用関係が無いことは既に明らかになっている。
ジョルジュはこのオルトロス抹殺の指令が来た時点で首をかしげていた。
確かにオルトロス自体は一個人に留まらない脅威ではあるが、その矛先が禁酒委に向いているわけではない。
むしろ、下手なちょっかいを出すべきでは無いのではないか。
その矛先がこちらに向かないよう、上手く誘導することこそが、禁酒委のやり方ではないのか、と。
だから、脅威である人間が脅威で無いから倒せると判断し、刺客を当てる、というのは疑問が残る。
(´・_ゝ・`) 「これは、アラマキ委員長の言葉だが」
デミタスが持ち上げていたマグカップを唇に当てる。
焙煎豆特有の深い香りがジョルジュの鼻にも届いた。
(´・_ゝ・`) 「オルトロスは、禁酒委員会に必ず仇を成すんだそうだ」
_
( ゚∀゚) 「例の、委員長の勘ですか」
(´・_ゝ・`) 「あの爺さんの勘は侮れないから厄介なんだよなあ」
そうは言っても、勘で一人の人間を殺すというのもぶっ飛んだ話である。
- 373 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:32:00 ID:CiNGJvak0
-
(´・_ゝ・`) 「ま、なんだ。俺もあの犬が今の禁酒委にとってあんまり好ましい奴では無いと思うよ」
_
( ゚∀゚) 「親大五郎派なのは確かですからね」
もう捨ててしまったが、オルトロスは大五郎の焼酎が入ったスキットルを所持していた。
それになにやら大五郎の傭兵と個人的な親交もあるらしい。
確かにいざというとき障害になる可能性もある。
だからこそ、ジョルジュもオルトロス抹殺を不満ながらも容認した。
(´・_ゝ・`) 「ま、サスガ兄弟も楽勝では無いなりにも、意地を見せてくれることを期待しよう」
_
( ゚∀゚) 「もし、サスガ兄弟が勝ったならば例の条件を飲むのですか?」
(´・_ゝ・`) 「ああ、魔女の居場所を教えるってやつ?まあ別にいいだろ」
_
( ゚∀゚) 「魔女本人がなんと言うか」
(´・_ゝ・`) 「あの変態なら、自分を殺そうとしている奴がいるなんて知ったら喜びそうだけどな」
否定は出来ない。
魔女との交渉は主にデミタスが行ってきたが、ジョルジュにも何度かその機会があった。
姿も見たことの無い化け物は、普通に狂っている。
- 374 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:33:16 ID:CiNGJvak0
-
(´・_ゝ・`) 「今後の報告、俺に通すのは勝敗だけでいい。どうせ何か手を出せるわけでもねえし」
その言葉を最後に、ジョルジュは支部長室を出た。
廊下に控えていた部下に引き続き偵察の指示を出し、自分は部屋に戻る。
コーヒーの臭いは嫌いではないが苦手だ。
胃がむかむかとしてしまう。
デミタスと話すだけで多少なりとも胃が荒れるので、コーヒーだけのせいではないのだが。
引き出しを開け、胃薬を口に放り込む。
水無しで飲み下し息をついた。
「そんなに薬飲むと身体に悪いよ?優しさ足りてる?」
_
( ゚∀゚) 「」
薬のビンを床に落とした。
あらあら、という声がして、ビンが浮き上がり、ジョルジュの手に戻る。
言葉にならない呪詛を奥歯で噛み殺しながら、ジョルジュは頭を抑えた。
_
( ゚∀゚) 「いつからいた」
「けっこー前」
_
( ゚∀゚) 「聞いてたのか」
「ばっちし!」
- 375 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:34:04 ID:CiNGJvak0
- _
( ゚∀゚) 「オルトロスが嗅ぎまわってるからしばらく来るなって言っただろうが……」
「それはそっちの都合でしょ。私は別にブーンに見つかっても困んないもーん。もんもーん」
まるで幼子のような言い回し。声も、甲高いとは言わずとも少女のような幼さがある。
どこか会うたびに幼さを増しているような印象さえあった。
資料によると半世紀は生きているはずなのだが、この女には時間の流れも関係ないのだろうか。
「それにしても、アニジャたちも私のこと探してたんだー。いがーい」
_
( ゚∀゚) 「どうせアンタがなんかやったんだろ」
「んー?おぼえてないや☆」
この女の被害者は非常に多い。
気まぐれに消された街の住人はもちろん、暇つぶしに作ったキメラを放逐したり、気に入った物を強奪したり。
大半が怨みながらもその理不尽な魔法の力に報復を諦めているため、実際に追い回すものは少ないが。
「まあいいや☆わたしもちょっと見学してくるね☆」
_
( ゚∀゚) 「おい、余計なことはするなよ」
「やだなージョルたん、わたしが余計なことしたことなんてあった?」
余計なことしかしないから困ってるんだろうが。
口に出さなかった悪態を読んだのか、魔女はふふふと笑って部屋を出て行った。
* * *
- 376 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:35:13 ID:CiNGJvak0
-
ξ゚⊿゚)ξ「“痛いの〜〜〜痛いの〜〜〜、飛んでけ〜〜〜〜”!!」
ツンの魔法発動にあわせ、ブーンの傷口という傷口を淡い水色のベールが包んでいく。
それがピッタリと張り付くと、傷口から滾々と溢れていた出血がぴたりと止まった。
( ^ω^) 「おっおー、ちょっと痛くなくなったお」
ξ゚⊿゚)ξ「応急処置の魔法だから、傷を治したわけじゃないわ。そこは気をつけてね」
ハインリッヒに教わった、止血と痛覚緩和の魔法である。
ブーンが負っている傷はえげつないものばかりだが、致命傷というものは無いため、
血を止めて痛みを抑えれば多少は戦えるはずだ。
なんか骨っぽいのが覘いてる部分もあるけれど、そこは見なかったことにして。
( ´_ゝ`) 「“水竜を駆る”」
湖から立ち上った水が蛇の体をなし、そこにアニジャが飛び乗る。
そのままブーンとツン目掛け突進を仕掛けた。
二人はその場から飛び退き、それを回避。
アニジャは更なる追撃を仕掛けることも無く、水に乗ってオトジャの元にたどり着いた。
合流をあっさり許してしまったことに、ツンは舌を打つ。
- 377 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:36:01 ID:CiNGJvak0
-
オトジャは身体に絡み付いていた網を完全に取り去り、首をくりくりと回す。
どこかに痛みを感じているのか若干動きが鈍いが、十分に動けそうだ。
その傍に、魔法を解除したアニジャが下りる。
アニジャの方は着地の際に顔を歪めたり、右腕が力なく垂れているのを見るに、オトジャよりは重症だろう。
( ´_ゝ`)「オトジャ、身体はどうだ」
(´<_` )「左の鎖骨が折れてるな。あとは全身に打撲。痛いが、動けないほどでもない。そっちは」
( ´_ゝ`)「右腕は使い物にならない。あとは肋骨が内臓に食い込んで、キツイ」
(´<_` )「なら、俺が前だ」
( ´_ゝ`)「すまん」
(´<_` )「問題ない」
オトジャが水の剣を右手に構えて前へ。
アニジャは早速魔法の展開を始めている。
ブーンは刀を持つ手に唾を吐いて、柄を握り直す。
その両の目は意識がハッキリしており、彼がまだ戦えることを表していた。
- 378 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:37:13 ID:CiNGJvak0
-
( ^ω^)「これで十分だお。ツンは早く逃げるお」
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
( ^ω^)「巻き込んじゃってすまないお。もっと危険な目に合う前に早く……」
ξ#゚⊿゚)ξ「どっせぇい!!」
ブーンの話をガン無視し、ツンは飛来した水の魔法弾を蹴り砕いた。
足がビリビリと痺れるが、仕込んである鉛のお陰もあって骨が折れるほどではない。
ξ゚⊿゚)ξ「あのね、私は自分が殴られたからお返しにあいつらをギッタンギッタンにしたいだけ」
ξ゚⊿゚)ξ「別にあんた助けたいわけじゃないんだから大人しくぶちのめすの手伝いなさいよ」
オトジャが前に出ていたツンに切りかかる。
ブーンは左手でツンの首根っこを掴んで引き寄せ小太刀で水剣の振り下ろしを受けた。
そのまま剣を弾き、互いに後退。
入れ替わりにその頭上を越えて水の鞭がブーンを襲う。
ツンはそれを回し蹴りで払い落とした。
- 379 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:38:10 ID:CiNGJvak0
-
ブーンが言いたいことは分っていた。
単純なツンの実力ではこの場にいても邪魔にしかならないだろう。
出頭で兄弟を吹っ飛ばせたのは奇襲と魔法の重ねがけが活きていたからに過ぎないのは自分でも分る。
だが、舐めてもらっては困る。
ツンちゃん、ただの足枷で終わるつもりは毛頭無い。
足枷だって、思いっきり振り回せば武器になるのだ(多分)。
ブーツの魔法はあと一回しかないし、強化魔法は解けてしまったけれど。
身体を縛っていた縄を切るのに魔力使いすぎて魔力もかなり少ないけど。
そこは愛と勇気と希望でカバー。
ξ゚⊿゚)ξ「文句ある?」
( ^ω^)「あるけど、言ってる場合じゃないおね」
ブーンが飛び出しオトジャへ切り下ろし。
オトジャは後退しながら剣でそれを右へ払い、返す刃で胴を狙う。
ブーンは左腰の鞘をベルトから外し、その薙ぎを受けた。
鞘は鉄張りの木製で、体重の乗っていなかった刃は途中で止まる。
この好機をにブーンは弾かれた刀を力任せに斬り戻した。
しかし、この一撃も金属音と共に障壁に阻まれる。
- 380 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:38:58 ID:CiNGJvak0
-
一瞬の膠着を打破するため放たれたオトジャの前蹴りを、ブーンは膝で受ける。
者の体が弾かれ距離が出来たところ、ツンがオトジャに突っ込んだ。
剣ギリギリの間合いで手を突き出し、衝撃魔法を発動。
ξ#゚⊿゚)ξ「“インパクト”!!」
振動の塊がツンの掌から放射上に放たれ、オトジャを襲う。
しかし、間に割って入るように飛び込んだ水の弾がそれを相殺した。
激しい水しぶきがツンとオトジャを濡らす。
腕と剣で身体を庇ったオトジャは、水しぶきが止んだ直後、ツンに対し剣を真一文字に振るった。
ツンはそれを後転して回避。
すぐさま入れ替わりにブーンがオトジャの開いた胴へ突きを放つ。
オトジャはこれを無視し、カウンター気味にブーンの頭へ剣を振った。
小太刀は障壁に、水の剣は鞘に阻まれる。
ブーンはすぐさま障壁を外しての、連突き。
オトジャは鞘を払いながら後退しこれをかわす。
ξ゚⊿゚)ξ「“その身に宿せ風の鼓動―――”」
( ´_ゝ`)「“八つ足を断つ”」
後方に回り強化魔法を展開していたツンへ、兄者が八つの水刃を放つ。
ブーンは間に割って入りながら内の六本を斬り砕くが、残りの二本はやや弧を描く軌道のため届かない。
- 381 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:39:45 ID:CiNGJvak0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「!」
魔法式を瓦解させないよう意識を集中させ、ツンは飛び上がり二本の刃の間で身を捻る。
それぞれに僅かに肌を裂いたが、直撃を避け、着地した。
ξ#゚⊿゚)ξ「“ビートアップ”!」
身体強化魔法を自分に対し発動。
風が身体に染み込んで行き、全身の血肉が剛さを増す。
本来であればブーンに掛けたいところではあったが、全身に傷のある今は負担が大きいので断念した。
ツンを援護し、隙の出来ていたブーンは、オトジャの連撃にやや推され気味だった。
オトジャは的確に急所を狙うことで片手で剣を振るう力の足りなさを補っている。
ブーンは一度崩された体勢を上手く立て直させてもらえず、上手く攻勢に出られない。
ツンは強化され膂力の増した身体で地面を蹴り、飛び上がった。
ブーンの頭上を越え、オトジャへ。
力の篭った落下蹴りを放つ。
(´<_` )「!」
オトジャは反撃すrのは危険と判断し右へ飛んでそれをかわす。
ブーンはその隙を見逃さず追尾、先ほどから一転、有利な状況を得る。
( ´_ゝ`)「“怪魚を断つ”」
が、上空から振り下ろされた水のギロチンを察知し、すぐさまその場から身を避けた。
- 382 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:40:41 ID:CiNGJvak0
-
巨大な首刈り刃が地面に深い筋を作る。
ブーンは直ぐに体勢を整え、オトジャへ。
ξ゚⊿゚)ξ「“叩くは撃鉄、走るは螺旋”」
ツンは着地したその場で魔法式の展開をはじめていた。
できる限り速くて威力の高いものを選ぶ。
オトジャの目がツンへ向く。しかし、ブーンが間髪おかず切り込んだため、妨害には回れない。
アニジャが魔法式を展開し、一瞬で発動へ繋ぐ。
僅かだが、ツンが遅い。
ξ゚⊿゚)ξ「“脳天をぶち抜け―――”」
( ´_ゝ`)「“貝を砕く”」
数個の水弾がツンへ。
展開式を維持したまま回避しようと横へステップを踏んだが、一発がわき腹を強打する。
口から唾液が吹き出すと共に、魔法式が霧散。注いでいた魔力も共に消えた。
歯を食いしばりアニジャを睨みつけ、そちらへと標的を代える。
その距離全力で詰めれば十歩ほど。一度魔法をかわせば十分たどり着ける。
砂を蹴り、直進。
オトジャがブーンの剣をいなし、牽制を放ってからツンを追う。
ブーンも牽制を軽くかわしそれに続いた。
- 383 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:41:55 ID:CiNGJvak0
-
( ´_ゝ`)「“番を別つ”」
アニジャへの進路を断つように、水の壁が現われた。
一見簡単に破れそうだったが、高い密度に加え振動を帯びているため、触れるのすら危険だ。
足が止まった一瞬に、オトジャが背後から切りかかった。
ツンは振り返りの勢いのまま横っ飛び。
獲物を逃した剣は壁に触れ、水同士とは思えない堅い音を響かせる。
隙の出来たオトジャの背中へ、ブーンが横なぎの刀を放った。
しかし、アニジャが追加した魔法式により壁の魔法が変化。
壁から生えた刃がブーンの斬撃を防ぎ、オトジャを守る。
( ´_ゝ`)「“海神(ワダツミ)を纏う”」
水の壁がさらに変化。幅の広い帯状になり、アニジャに巻きついた。
壁から開放されたブーンとオトジャは同時に剣を振るう
刃が鍔元でかち合い、オトジャがやや押され気味に。
ツンは標的を切り替えオトジャへ踏み込みの突き蹴り。
オトジャに回避する余裕は無い。
そこへアニジャの元から水の帯が割り込み、ツンの蹴りを弾く。
足がビリビリと痺れた。ブーツの底のゴムが削れて、散る。
帯はそのまま刃のようにツンの胴を凪ぐ。
ツンは大きく仰け反ってそれをかわした。
空気の痺れる甲高い音が目の前を過ぎ去り、ツンの背中が冷たい汗で濡れる。
- 384 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:42:43 ID:CiNGJvak0
-
ツンは仰け反った姿勢から後ろに手を突き、跳ねるように後転。
帯は再びアニジャに巻き戻る。
オトジャの体がブーンに力任せに弾かれ、後ずさる。
ブーンはそのまま踏み込みで切りかかろうとするが、そこへ水の帯。
間一髪刀で受けたブーンだが、衝撃に逆らえず押し返された。
帯が伸びきっている隙を突いてツンはアニジャへ。
がら空きの身体に蹴りを叩き込もうと一瞬で間合いを詰めるが、帯が伸びきったまま横なぎに振るわれる。
あと一歩で届くというところで身体を弾き飛ばされた。
広い面で打たれたため、身体を真っ二つにされるということは無かったがガードで持ち上げた腕から血が出ていた。
見ると、シャツが裂け、触れた面が広く擦り切れている。
ξ゚⊿゚)ξ「“痛いの飛んでけ〜〜”」
突き下ろし追撃をかわし直ぐに応急処置。
本来全身に効果を及ぼす魔法を、出来る限り範囲を限定することで素早く展開する。
止血が済んだのを確認することも無く再びアニジャへ。
ブーンが体勢を立て直し、オトジャに切り込む。
上体を目一杯前のめりにしての斬り払いで胴を狙う。
オトジャはこれを見切って大きく下がった。
ブーンは振り切った刀をそのまま予備動作に繋げる。
遅れていた下半身を素早い足捌きで追いつかせ、伸びのある刺突。
高速の連撃にオトジャは身を引きながら、切っ先を下に向けた剣を合わせる。
- 385 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:43:44 ID:CiNGJvak0
-
切っ先がいくらかオトジャの腹に食い込んだところで、小太刀はブーンから見て右手へ流された。
必然的に腹が切り裂かれるが、身体を引いたせいもあってさほど深くは無い。
流した勢いでオトジャは腕を大きく回転。
小太刀を払いながら、円を描くように剣を振り上げる。
頭を丸出しにしたブーンへ、やや窮屈な姿勢ながらも振り下ろした。
完全に力を乗せられているわけではないが、少なくとも鞘で受け止められるものではない。
ブーンは素早く左手の鞘を手放し、オトジャの手首を掴んだ。
低い姿勢で長身のオトジャと力比べは不利と判断し、指先の力で引っかくように横に逸らす。
同時に右足を軸に左足を右後方へ引き、振り返る要領でやや仰け反りがちに身体を回転。
攻撃をかわしつつオトジャの体勢を崩し、引き戻した刀でオトジャの足を撫でた。
幾度にも渡る打ち合いで刃毀れの増えていた刀だったが、難なく皮を分け肉を断つ。
ブーンはオトジャに背を向けた姿勢から即座にその場を飛び退いた。
アニジャの放った帯が地面を穿ったがブーンには掠りもしない。
舌打ちがアニジャの口から漏れる。
ツンの相手に手間取っていたためオトジャへの援護が遅れたのだ。
- 386 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:44:32 ID:CiNGJvak0
-
ξ゚⊿゚)ξ「へっへーんだ!」
アニジャの足止めに目的を切り替えたツンは跳ね飛ばされても跳ね飛ばされても攻撃を止めなかった。
お陰で全身がボロボロだが、オトジャにも深手を負わせられたので結果オーライ。
少なくとも、これでオトジャの戦力は大きく低下したはずだ。
ブーンを信じてよかったってもんである。
(´<_` )「すまんアニジャ」
( ´_ゝ`)「すまんオトジャ」
オトジャは左手で傷口を掴み、止血しながらアニジャの元まで下がる。
ブーンはそれを追わず、見送った。
表情こそ変わっていないが息が非常に荒い。
全身の傷は応急処置魔法の効果も虚しく、再び血を流している。
あの様子では痛みも戻ってきているはずだ。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン大丈夫!?」
( ;^ω^)∩
汗と血にまみれた左手での返事。
大丈夫と答えたいようだ。
聞いといてなんだが、ツンには全然大丈夫じゃないように見える。
- 387 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:45:48 ID:CiNGJvak0
-
これ以上ブーンに無理をさせるわけには行かない。
出血の量が尋常では無く、今動けているのがおかしいくらいなのだから。
ツンが頑張るしかない。
ブーンが兄弟と戦わざる終えない理由を作ったのはツンなのだから。
アニジャの扱う水の帯はドクオの防御魔法と同じく、継続に多量の魔力を使うと予想できる。
上手く無駄遣いさせれば、直ぐにすっからかんに出来るはずだ。
兄弟が手負いの今、魔力を奪いきることはツンの思いつく限り最も堅実な勝利法だった
オトジャは水の剣を消し、アニジャの肩に手を掛けた。
バランスを崩して支えにした、という風ではない。
なにやら嫌な気配を感じ、ツンは弾けるように飛び出す。
ブーンも同じく動いた。
怪我を感じさせない体運びだが、全身から血が噴出している。
オトジャと自分を守るようにアニジャは帯を全開に伸ばして巨大な剣を振るうように、二人をなぎ払った。
ブーンは少しでもツンの接近を助けようと、帯を受け止める。
刀すら切断されそうな高速の振動が、激しい金斬り音を生む。
ツンはこの隙を決して逃すまいと一気に加速。
強化された脚力が速度を生み、ツンは瞬く間に間合いを詰めた。
オトジャがツンを迎撃すべく前に出る。
アニジャは帯でブーンを弾き飛ばした後、手元へと引き戻し、新たな魔法式の展開に入った。
- 388 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:46:55 ID:CiNGJvak0
-
( ´_ゝ`)「“海神を刻む―――”」
ξ#゚⊿゚)ξ「んなろ!」
オトジャごと蹴り飛ばそうと全力のドロップキック。
バリスタから放たれた巨矢の如く、ツンの身体は風を切る。
オトジャは腕を右腕を盾にを迎え撃つ。
当身のように腰を入れ、ツンの両足と衝突した。
辛うじて痛みわけ。
ツンは自分の意思でオトジャの身体を足場に、後ろへ飛ぶ。
手を突いて着地したが、予想外の角度でぶち当たったため足首に鈍い痛み。
一方オトジャは衝撃を殺しきれず後ろへよろけた。
足の傷が響き踏ん張りが利かないところをアニジャが受け止める。
( ´_ゝ`)「“―――命を謳え”」
帯が輪となり兄弟を包んだ。
体勢を立て直し進撃していたブーンも嫌な気配を察知し、立ち止まり距離を計る。
ツンも同様。初めて見る魔法式にたじろぎ後退した。
額に新たな汗が滲む。
( ´_ゝ`)「“―――折れど波打つ無尽の剣”」
- 389 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:47:50 ID:CiNGJvak0
-
水の帯が、音も無く分断された。
全部で七つとなった帯の断片は震えながら球となり、そこからさらに、細身の剣へと変形する。
限界まで圧縮された水の剣がアニジャたちの周囲をくるくると無機質に回った。
乱反射する光を微振動でさらに閉じ込めた藍色の刀身。
周囲の水分が全て吸い尽くし、空気がからからに乾燥している。
ξ;゚⊿゚)ξ(なんでまだこんな魔法を……?!)
明らかにおかしい。
先天的に魔力の保有量が多い人間というのは確かにいるが、それでも限度がある。
アニジャはこの剣を生み出した時点で卒倒してもおかしくないほど魔力を消費しているはずだ。
そこで、つい先ほどの、アニジャに手を掛けるオトジャの姿を思い出す。
ξ;゚⊿゚)ξ(……まさか、あれで魔力を委譲したって言うの?!んなバカな!!)
ツンが驚く暇も無く、剣の内二本が別々の軌道でツンを襲う。
一本は刺突の要領で直進。もう一本はツンの動きを窺うよう、くるくる回りながら弧を描く。
寸前でかわすような真似をすれば直ぐに串刺しにされる。
ツンはブーンとは逆へ走り出す。
直進した剣をかわし、遅れてきたもう一本を高く飛んで回避。
一本目が直ぐに切り返して空中にいるところを狙ってきたが、空中で身を捩って何とかかわした。
僅かに剣の触れていたブーツのつま先(鉛仕込)が切れて落ちる。
着地までの一瞬に唾を飲んだ。
- 390 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:48:48 ID:CiNGJvak0
-
鉛をプリンのように切り裂いたところを見るに、ツンの障壁では時間稼ぎ程度にしかならないだろう。
天叢雲程ではないかもしれないが人を切るには十分すぎる切れ味だ。
( ;´_ゝ`)
これまで苦痛意外に表情の無かったアニジャの顔に苦悶が見える。
やはり相当な集中と魔力を必要としているらしい。
オトジャが再び魔力を分け与えているようだが、焼け石に水だろう。
ツンは剣を何とかかわしながらもアニジャたちへ近づく。
このまま魔力切れを待とうとしても、その前にツンがフレッシュミートソースになる可能性が高い。
ならば、ぶん殴って止める他無いじゃないか。
ブーンも考えは同じようだが、こちらは三本の剣あてがわれやり過ごすので精一杯という様子。
残りの二本は守りのためか兄弟の周囲を未だ回っている。
切り傷ばかりが増え、一向に前に進めないツンに対し、ブーンは少しづつ接近している。
怖ろしい集中力だ。
一見回避不能な攻撃を皮一枚でかわしきっている。
( ;´_ゝ`)「チッ」
流石に危険を感じたか、兄弟の下に留まっていた一本がブーンへと飛んでゆく。
ブーンが、チラリとツンを見た。
この状況下ではありえない余所見。しかしだからこそツンはその意図を読んだ。
- 391 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:49:42 ID:CiNGJvak0
-
新たに一本が加わり、四本となったブーンを襲う剣。
前後左右を囲む逃げ場の限られる布陣と取り、一気に獲物を突きかかる。
ブーンは姿勢を下げ、前から来る剣に飛び込んだ。
身を右に捻るも、横からの剣が追尾があるため避けきれない。
前からの剣がブーンの胸を、右の剣がわき腹を切り裂いた。
ブーンの体が傾く。
しかし、倒れない。
支える足が地面を叩き、傷口から血が溢れた。
そのまま、ブーンは突進。血の軌跡が糸のようになびく。
それと同時、ツンもまた強引に剣をかわす。
ブーツの風魔法を発動。
左太ももの付け根と、右の肩と髪束をさっくりと裂かれるが刃を食いしばって切り抜ける。
( #^ω^)「おおおおおおおお!」
ξ#゚⊿゚)ξ「ツゥゥゥゥゥゥン!!!」
ややずれた前後から同時の挟み打ち。
空ぶった水の剣達が慣性を振りほどき、切っ先をツンとブーンそれぞれの背中へ向ける。
しかし、その延長線上に術者本人がいるためセーフティがかかり、アニジャの思うような速度が出ない。
- 392 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:50:41 ID:CiNGJvak0
-
手元に残した剣をどちらに使うかという一瞬の迷い。
アニジャはブーンに標的を定め剣を真一文字に振るう。
同時、ツンに対しオトジャが立ちはだかる。
剣は無いが素手でツンを掴みにかかった。
ブーンとツン、両者の体が宙へと高く飛び立ち、それぞれに放たれた攻撃をかわす。
射線上に術者のいなくなった残りの剣が上昇加速して二人の身体を狙った。
刹那のアイコンタクト。
ブーンは上体を下へ。
ツンはその背中に足を掛け、ブーツの魔法を全力でブーンに叩き込む。
ツンはさらに飛翔。
ブーンは蹴られた勢いで急落下。
寸前まで二人の居た空間で、藍色の剣がけたたましく交差した。
( ´_ゝ`)「!」
(´<_` )「!」
ブーンの刀が降り立つと同時にオトジャを肩から縦に切り裂く。
勢いそのまま、ブーンの体が回転。
一度振り下ろされた刃は地面を擦って跳ね上がり、アニジャのわき腹を斜めに撫でた。
噴き出る二人の血飛沫。
その場から飛んで離れたブーンを追うことも無く、兄弟は立ち尽くす。
- 393 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:51:58 ID:CiNGJvak0
-
ツンの着地と同時にアニジャの体が傾いた。
既に意識がないのか、耐える素振りもなく膝から折れ、地面へ。
オトジャはそれを支えようと手を出したが、身体はその逆、後ろへと引き込まれていく。
砂が人間を抱きとめる音が時間差で二つ響いた。
砂に細い血の川が延びていく。
そこからもう、二人は動かない。
術者を失った水の剣たちは、空中で魔法から開放され、無数の飛沫となって降り注ぐ。
一時の雨となったそれは、四人体にこびりつく血を洗い流していった。
ツンは着地の衝撃で痺れる足を引き摺りサスガ兄弟へ近づく。
死んではいないようだが、意識は無い。
少なくとも、すぐさま意識を取り戻して襲い掛かってくるようなことは無さそうだ。
ブーンが歩み寄る。ツンと目が合うと右手を上げた
( ^ω^)「ナイスアシスト」
ξ゚⊿゚)ξ「別に、あんたのためにやったんじゃないわよ」
ツンはそういいながらもブーンの右手に、右手を振りかぶる
ぶつかり合う、二人の掌。
勝利を喜ぶ軽快な音が、湖畔の静けさを振り払うように響き渡った。
- 394 : ◆x5CUS.ihMk:2012/10/04(木) 22:52:55 ID:CiNGJvak0
-
今日は以上ー。ちょっと短め
二対二の戦闘にかなり苦戦したのでちょっと予定より遅くなっちゃいました
詠唱は「絶対こうでなくてはいけない」ってものではないので、それぞれ好みによって変わります
一応メインになるAAにはそれぞれコンセプトがあったり
なお、修正やその他なんやかんやの際の証明ために一応酉作りました
普段の投下ではつけないと思うのでご了承ください
次は、今回遅めになったのも視野にいれて一週間以内を目指して書いていきます
- 395 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:55:10 ID:.iCvueMw0
- ツンちゃんの雄叫びはツーンなのかww
- 396 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:57:11 ID:n2ydncfQ0
- おつ、流石兄弟の魔力って尋常じゃない量だよな
それでいて剣も使えるんだからすごい
- 397 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 22:58:23 ID:03PBKpOw0
- おツンツーン
戦闘の描写が想像しやすくていいね
詠唱は結構自由なのね
- 398 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 23:00:14 ID:716mqk.Q0
- おつんつん
- 399 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 23:04:41 ID:AEDat1NY0
- 乙です
二対二のバトルってホント難しいよね
流石兄弟に劣らぬブーンとツンのコンビネーションに痺れました!
- 400 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 23:06:21 ID:8ZJh60ls0
- おつ
今回も辛勝だな。
流石兄弟は水魔法しか使ってなかったけど、やっぱ得意な属性みたいなのがあんのかね
- 401 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 23:07:32 ID:pabT/L2.0
- 乙
ツンちゃんやるじゃないか!
毎回ボロボロになるブーンがそろそろ心配だ
- 402 :名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 23:19:33 ID:eRjG8g.o0
- ハインはやくきてえええ
- 403 :名も無きAAのようです:2012/10/05(金) 00:00:59 ID:XWVKmJPk0
- 乙!
兄弟の戦い方と詠唱かっこいい
- 404 :名も無きAAのようです:2012/10/05(金) 00:26:01 ID:N5/rWPIwO
- ω・)死神とか言われてるわりに優しいよねブーン。とどめもささないし。
- 405 :名も無きAAのようです:2012/10/07(日) 19:50:05 ID:fBwB0Cfc0
- 戦闘描写すげえな
死闘だった
- 406 :名も無きAAのようです:2012/10/08(月) 21:37:11 ID:nYyECveg0
- 狼と蛇のキメラと戦ってた頃のイメージで描いてみた絵
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_160.jpg
ブーン、ドクオ、ツンのイメージ
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_161.jpg
もし面倒でなければ作者の方のイメージを教えてください
「○○(作品名)のあのキャラみたいな服装」といった感じで・・・
あとツンの髪の毛とか、2枚目の絵のツンの絵で言うと右のぐるぐる巻いてるのをいつも書いているんですが
このお話を読んでいると左の方かな・・・と、感じましたなんとなく
その他、読者の方も「俺はこんなイメージだ」っていうのがありましたら教えてください
- 407 :名も無きAAのようです:2012/10/08(月) 22:26:14 ID:oUq3zehI0
- >>406
これを見て書いている奴は結構な感激をしています
どれくらい喜んでいるかというと出来てもいないのに次話を今から投下してやろうかと血迷うくらいには感激しています
髪型や顔の造形、容姿はそれぞれ読む方がAAに持っているイメージで全然構いません
(それゆえに具体的な容姿の描写は控えてます。分りにくくてごめんぬ)
ちなみに書いてる奴自身のイメージだとツンの髪は巻き巻きではなく、ちょっと巻きが入ったくらいのツインテール
ブーンはやや天パ(くせっ毛)の短髪、ドクオはさらさらペッタリな感じです
ブーン達の服装は、「シャツ、マント、ブーツ、ベルト、ジャケット、パンツ、あとそれぞれの武器」くらいで大体のイメージしています
具体的に他作品で例えると諌山創先生の漫画作、『進撃の巨人』の世界観における服装が近いと思います
特にツンはこの作品の調査兵団の服装のイメージにかなり近いです
くれぐれも読売巨人軍のユニフォームではありません。今とても余計なことを書きました
こんな感じです。ちょっと足りなかったらごめんぬ
ついでといってはなんですが連休のお陰で次話はけっこうできているので、一週間といわず近日中に投下できるやも
- 408 :名も無きAAのようです:2012/10/08(月) 22:32:50 ID:nYyECveg0
- >>407
返答ありがとうございます
次話を楽しみに待ってます
- 409 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 16:17:34 ID:YxedqAjs0
- メイン三人+αのイメージ(アナログかつ罫線入りごめんなさい)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_166.jpg
>>406を見たら創作意欲が湧いたのでやった
今はスマホで投稿したことを後悔している
今度罫線無いちゃんとした紙に描くので許して……
ところでブーンとドクオは体格が結構違うようですが
入れ代わったとき服のサイズはどうなるんでしょうか
- 410 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 18:02:31 ID:gHe91rsIO
- いいなーなんだかファンタジーRPGをやりたくなっちゃうなー
- 411 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 22:07:28 ID:vv/gHxMs0
- >>409
一枚の絵で人を喜ばせることが出来る。そう、iPhoneならね(違うスマホならば申し訳ない)
罫線を心の目で消す程度造作も無いのでなんら問題ありません
ですが新たに書いていただけるならそれはとても楽しみでありがたいことであります
ブーン達の服は、基本ブーンに合わせたサイズになっています
故にドクオにとっては少々大きめ(特に胴回り)となるので、ベルトの閉めなおしで対応
ズボンはブーツインすることで裾を押さえ、袖は特にまくったりせずやや長めのままです
マントは服の合わないドクオの姿を隠す役目もかっているわけですね
尚この後、軽い校正を終えてから投下予定
早ければ2230、遅くとも2300までには開始
- 412 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 22:45:07 ID:qav2QgJE0
- wktk
- 413 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 22:59:10 ID:vv/gHxMs0
-
从 ゚∀从「まーた派手に散らかしたもんだ……」
それぞれに満身創痍の四人をみたハインリッヒは、腰に手をあてこれ見よがしにため息を吐く。
ツンたちの身を案じて急いで来てくれたのか、額には汗が浮いていた。
从 ゚∀从「まだ往診が残ってるんだ、ちょっと急いで処置するから覚悟しろ」
ξ ⊿ )ξ「ぎょええええええええ」
ハインリッヒは素早く、的確に、そして少々荒っぽく治療を行う。
麻酔無しでやられたものだから、ツンは絞め殺される鶏のような声を上げた。
ただでさえ治りきっていない身体にさらに傷を増やした罰も含まれているらしい。
ブーンも同様、傷口の消毒と縫合。
肉が抉れてしまっているところは治し切れないとかで、止血と魔法による保護に留まる。
そして失った血の回復を少しでも早めるために何やらよく分らない液体を口に詰め込まれていた。
( ^ω^)「そっちの二人も頼むお」
ξ゚⊿゚)ξ「……まあ、生きてるみたいだし、死なせるのはなんか後味悪いわよね」
从 ゚∀从「元からそのつもりだよ」
ハインリッヒは倒れているサスガ兄弟に手早く止血魔法をかける。
かなりの出血があるものの、まだ生きているようだ。しぶとい。
- 414 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:00:01 ID:vv/gHxMs0
-
ハインは本格的な治療を始める前に、見たことの無い魔法を兄弟にかけた。
それぞれの額に真一文字に先が入る。
拘束魔法に似ているが、少々違うようだ。
从 ゚∀从「“命司りし精霊達よ、禁忌に触れる我が傲慢を赦されよ”」
紡がれた魔法の糸が瞬く間に兄弟の切り傷を塞いでいく。
傷が完全に塞がると、次に内臓や骨の再生の魔法に切り替えた。
これが、本当に死ぬんじゃないかってくらい痛いのだ。
( ゚_ゝ゚)そ「!!」
手始めにかけたアニジャが飛び起きて、素早い動きでその場を飛び退く。
ブーンが動こうとしたのをハインリッヒが手で制した。
アニジャは自分の腹を見て、状況をぼんやりと理解したらしい。
( ´_ゝ`)「俺達は、負けたのか」
( ^ω^)「お」
( ´_ゝ`)「……随分甘くなったなオルトロス。昔のお前なら容赦なく……」
从 ゚∀从「“椅子倒しますねー”」
キリッとした顔でブーンを睨んでいたアニジャの頭が唐突に地面に打ち付けられる。
あまりに突然のことにブーンとツンは口をだらしなく開いた。
- 415 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:01:03 ID:.UKSajjs0
- きたきたきたきたああああああ!!!
- 416 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:01:28 ID:vv/gHxMs0
-
( ;´_ゝ`)「な、なんだ、これ」
从 ゚∀从「“はーい、もう少しなんで我慢してくださいねー”」
次は頭が急に持ち上がり、アニジャがハインリッヒへ引き寄せられていく。
まるで縄か何かで縛り無理やりに手繰り寄せているようだ。
从 ゚∀从「“痛かったら右手上げてくださいねー”」
( ;´_ゝ`)「うげっ」
アニジャは地面に仰向けに叩きつけられ、そのまま金縛りにかかったように動けなくなる。
ハインリッヒが額に刻んだ線が淡く輝いていた。
おそらく幾つかのキーワードを切っ掛けに発動する拘束魔法なのだろう。
見ている分には面白いくらいだが、実際やられたらたまったもんじゃないだろうな、とツンは戦慄する。
从 ゚∀从「行儀の悪い患者用の拘束魔法だ。しばらく大人しくしててもらうぞ」
( ゚_ゝ゚)「ぐえええええええええええ!」
中断していた骨の再生を再開。
アニジャは白目を剥いて叫んでいるがハインリッヒは一切手加減をしない。
この様子だと、やはり麻酔魔法は併用していないようだ。
- 417 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:02:35 ID:vv/gHxMs0
-
( ゚_ゝ゚)「うごおおおおおおおおおお」
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^)
( ゚_ゝ゚)「うげあああああああああああ」
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^)
( ゚_ゝ゚)「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
ξ゚⊿゚)ξ「私達が蹴ったり切ったりしても、こんな声出さなかったわよね」
( ^ω^)「うんお」
( ゚_ゝ゚)「」
从 ゚∀从「よーし終わりだ」
ξ゚⊿゚)ξ「私、もう怪我したくない」
( ^ω^)「ぼくもだお」
- 418 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:03:19 ID:vv/gHxMs0
-
オトジャもほぼ同様のプロセスで治療を施された。
途中から悲鳴を聞くに堪えなくなったツンとブーンは耳に指を突っ込んでいた。
いっそ放置して死なせたほうが幸せだったんじゃないかと疑いたくなるほど、オトジャはのた打ち回っている。
やっと治療を終えた頃には兄弟は精も根も尽き果てたという様子でぐったりとしている。
治って直ぐ再びの戦闘を警戒していたツンだが、その心配は無さそうだ。
从 ゚∀从「“はーい、じゃあおわりでーす”」
兄弟の額から印が消える。
体の拘束を解かれた二人は、立ち上がりはせず地面に座りなおす。
(´<_` )「何故助けた?」
オトジャの質問に敵意の類は感じられない。
ただ純粋に疑問を持ったのだろう。
ツンも大よそ同じ気持だった。
ブーンは殺す気になれば殺してお終いにすることも出来たはずだ。
それをわざと浅い傷で抑え、その命を守った。
ツンも無駄な殺生は絶対に拒むが、相手が自分の命を狙った殺し屋であれば少々話は変わってくる。
- 419 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:04:25 ID:vv/gHxMs0
-
( ^ω^)「お?殺さずに済むならそれがいいお」
兄弟がさも意外なことを聞いた、という顔をする。
互いに顔を見合わせ、次に口を開いたのはアニジャだった。
( ´_ゝ`)「お前本当にオルトロスか?」
( ^ω^)「そうだお」
( ´_ゝ`)「それにしちゃああまりにも」
('A`) 「待てよ。先にこっちの質問に答えろ」
アニジャの言葉を遮るようにドクオが入れ変わって現われる。
穏やかだったブーンに対し、こちらは敵意丸出しだ。
貧弱な体つきのせいで威圧感こそ無いが、強気な態度にアニジャも黙る。
('A`) 「雇い主は?」
( ´_ゝ`)「……禁酒委員会だ」
ξ゚⊿゚)ξ「!」
- 420 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:05:40 ID:vv/gHxMs0
-
(´<_` )「アニジャ」
( ´_ゝ`)「どうせ俺達は依頼に失敗した。義理立てする必要も無いだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「……それ、上に訴えたら禁酒委員会のことどうにかできないかしら」
('A`) 「無理だよ。傭兵の証言は客観的に有効な証拠も無きゃ受け入れられない」
( ´_ゝ`)「そゆこと。俺らを雇った証拠なんかとっくに隠滅してると思うぜ」
ξ゚⊿゚)ξ「チッ」
傭兵が雇い主を守るため(あるいは雇い主との契約によって)虚偽の証言をすることは少なくない。
よって傭兵の証言のみでは有効な証言としては成り立たないのだ。
嫌疑をかけられた本人、この場合で言う禁酒委員会が否定すれば、それで終わりになってしまう。
よって、サスガ兄弟が証言しただけでは証拠が無いのと同然なのである。
もし禁酒委に侵入しその現場を目撃するなりする第三者がいれば、嫌疑は深くなり捜査が始まることもあるのだが。
( ^ω^)「っと、じゃあ僕からも一つ聞いていいかお?」
ブーンが再び出てくる。
やはり見慣れないのか、サスガ兄弟は一々驚いていた。
- 421 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:06:48 ID:vv/gHxMs0
-
( ^ω^)「僕の知る限り、あんた達は「戦争専門」だったはずだお」
( ´_ゝ`)「ああ、そう意識したことはないけどな」
( ^ω^)「なぜ、今回に限って、チャンネル国内での抹殺依頼なんか受けたんだお?」
( ´_ゝ`)「……魔女に用があったんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「!」
( ^ω^)「……」
( ´_ゝ`)「お前を殺せば、報酬とは別に情報をくれるって言われてな、それでオーケーした」
ブーンは予想がついていたのか、それ以上は何も聞かなかった。
兄弟は立ち上がって尻を叩く。
話はお終い、ということだろうか。
( ^ω^)「僕らも、魔女を探してるお」
立ち去ろうとしていた兄弟の足が止まる。
少し驚いたような顔を一瞬見せて、直ぐに背を向けた。
(´<_` )「“海鳥を駆る”」
砂浜を濡らしていた水が集まり、鳥の形を成す。
兄弟が背に乗るのを待つように、地に足をついて羽を下ろした。
- 422 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:07:52 ID:vv/gHxMs0
-
( ^ω^)「何か情報を得たら、交換しようお」
( ´_ゝ`)「……へいへい。情けをかけられた恩があっちゃ、断れねーな」
そう言い捨てて兄弟は水の鳥に跨る。
オトジャが前、アニジャが後ろ。
二人の位置が定まった瞬間、水の鳥が大きく羽ばたく。
ふわりとその巨体が浮き上がった。
あっという間に空高く飛び上がった二人は、あっさりと遠くの空へ消えてゆく。
あの方角は、VIPの方だ。
ξ゚⊿゚)ξ「ったく、なんだかなー」
( ^ω^)「何がだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「べっつにー」
魔女を追っている、という点で何か通じるところがあるのかも知れないが、それにしてもあっさり赦し過ぎである。
色んな場所をボッコボコにされたツンちゃんとしてはちょっと不に落ちない。
殺せとは言わないから、せめて額に「肉」と刺青を刺すぐらいの報復はしたかった。
- 423 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:09:21 ID:vv/gHxMs0
-
('A`) 「ま、ツンの気持も分るけどよ」
再びドクオ。ずり落ちそうなズボンのベルトを締め直し、頭を書く。
彼もどちらかと言えば巻き込まれた立場のためツンの思考を理解したようだ。
同時にブーンと通じているため、ブーンの考えに反する気は無いらしい。
从 ゚∀从「そうだ、ツン。お前のペットの蛇、ウチにいるからな」
ξ゚⊿゚)ξ「え?!」
从 ゚∀从「往診に出たとき拾ったんだ。弱ってたから簡単な治療と飯与えて寝かせてる」
ξ゚⊿゚)ξ「そっか…」
ツンはそっと胸を撫で下ろした。
支社なりツンの部屋なりに逃げ込んでくれていればいいと思っていたが、ハインリッヒの家へ逃げるとは中々賢い。
恐らく何度も尋ねていて覚えたからだろうが、あそこにいるならば安心だ。
('A`) 「なんだったら送っていくぞ?魔法力余ってるし」
ξ゚⊿゚)ξ「ずっとブーンにまかせっきりだったしね」
(;'A`) 「ちゃんと活躍したわ!魔法でこうぱぱーっと活躍したわ!」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。まあそれはいいからよろしく」
(;'A`) 「そんなこと言ってると送ってやんないぞ、もう…」
- 424 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:10:06 ID:vv/gHxMs0
-
从 ゚∀从「じゃ、俺は往診があるから行くぜ。鍵は植木鉢に隠してある。勝手に入れ」
白衣をひらめかせハインリッヒは農家へ続く道を去っていく。
礼の言葉を掛けると片手を上げて返事をした。
懐からなにやら取り出して飲んでいるのは、以前ツンも貰った魔力回復薬だろうか。
('A`) 「じゃ、行くぜ」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
ツンがハインを見送っている間にもドクオは魔法式を展開。
飛行移動の魔法を組み上げる。
しかし、中ほどまで展開が進んだとき、作業が急に止まった。
どこかに間違いがあったとかではないようだ。
ツンがドクオの顔を見ると、顔が青い。
元々顔色が優れているほうではないが、それにしても酷い色だ。
生気を感じないほどで、目がみるみる虚ろになってゆく。
ツンが心配し眉をひそめるのと同時、展開途中の魔法式が霧散。
体から力が抜け、その体が傾く。
慌てて支えたツンの腕に力なくしがみつき、何とか耐えた。
息の乱れすらない。今にも死ぬ、と言った様相だ。
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ?えっ?ちょっとドクオ?」
戸惑うツン。もしや兄弟との戦闘で何か甚大なダメージが残っていたのだろうか。
- 425 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:11:30 ID:vv/gHxMs0
-
(; A ) 「くっそ……、もう少しもつと、思ったんだけどな……」
悪態をつきながらも、怖ろしい速さでドクオの身体は力を失ってゆく。
支えるために触れた首元は生きた人間とは思えないほど冷たく、ツンは戦慄した。
尋常ではない。今すぐ死ぬといわれても疑いなく信じてしまうほど、ドクオの身体は命を失っていく。
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっとドクオ!ドクオ!」
返事は無かった。
辛うじて浅い呼吸が残っているが、あまりに弱弱しくいつ止まってもおかしくない。
ξ;゚⊿゚)ξ「なんなのよ、もう!」
体勢を変え、ドクオを背負う。
男としてはかなり小柄で軽いドクオではあるが、戦闘の疲労が残る今のツンにはなかなか重い
歯を食いしばり、ハインリッヒを追った。
まだそれほど遠くには行っていないはずだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「リィーッヒ!!ちょっと待ってリィーッヒ!!」
一難さってまた一難。
静かな町を、ツンは大声張り上げて走っていった。
* * *
- 426 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:12:13 ID:vv/gHxMs0
-
チャンネル国が首都、ラウンジシティ。
国の中枢機関が集められたこの街に禁酒委員会の本部はある。
木の骨組みに石造り。敷地は大きいが派手さは無い
VIPの大五郎本社とは対照的に、その佇まいは地味ながら洗練されており、国家機能の一翼の担う自負が見て取れた。
門の上部に刻まれた黒鉄のエンブレムは、剛い正義の意思を表している。
その内部、唯一の三階に禁酒委員会委員長、アラマキ=スカルチノフの執務室はあった。
外観同様、無駄なものは一切無く、樫を組んだ机が一つ。
一時的に資料を保存するための本棚が一つ。
窓には木作りの枠に暗殺を防ぐため防護魔法が掛けられたガラスがはめ込まれている。
ハハ ロ -ロ)ハ 「ハロー、ミスタアラマキ。失礼しマス」
補佐官ハロー=ケィフォーは執務室に入ると小さく敬礼を行う。
部屋の主、アラマキは机に落としていた視線を一瞬チラリと上げ、直ぐにまた戻した。
ハローは安い絨毯を踏みアラマキの前へ。
新たな書類を机の片隅に置く。
ハハ ロ -ロ)ハ 「少し、休まれてはいかがデスか?」
/ ,' 3 「お前の仕事は、ワシの身体を気遣うことか?」
ハハ ロ -ロ)ハ 「あらゆる面で、貴方のサポートをすることデス、ミスター」
- 427 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:12:59 ID:vv/gHxMs0
-
その返答にアラマキは渋々と万年筆をペン立てに差し、顔を上げた。
穏やかそうに垂れた眼と、深く刻まれた顔中の皺。
髪と眉には白が混じっており、ともすればただの温厚な老いぼれにしか見えない。
現在来ている軍服仕立てのジャケットよりも、落ち着いた礼服の方が似合いそうだ。
しかし、覇気と言うのだろうか。
彼の全身から漲る生命力のようなものが彼の老いを感じさせない。
それは執念というべきか、怨念というべきか、一介の補佐官に過ぎないハローに分ることではないが。
/ ,' 3 「ワシの補佐についたものは、大抵ほど無くやめてゆくのだが、お前はしぶとい」
ハハ ロ -ロ)ハ 「老人介護にしては、破格の給料デスので」
/ ,' 3 「ふん。つくづく、あの男が連れてきた女だな」
あの男というのは、現在サロン支部で支部長を務めているデミタス=モリオカのことだ。
ハローはデミタスの紹介でアラマキの補佐官の役についた。
そのせいもあってか、アラマキはハローに対しまったくといっていいほど弱みを見せない。
アラマキはデミタスを信用しているが信頼はしていない。
それはデミタスの側も同じこと。
故に二人は適切に距離を置き、禁酒委員会はこのNo1とNo2の反目により、絶妙な組織バランスを保っている。
デミタスがハローをアラマキに預けたのは人質、のような意味合いもあった。
互いを監視する楔というわけだ。
そのほかにデミタスは「あの爺さん、俺の手駒が近くにいれば意地になって働くだろ」とも言っている。
ハローとしては、そちらが本心な気もしていたが。
- 428 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:13:46 ID:vv/gHxMs0
-
ハハ ロ -ロ)ハ 「ティーを持って来させマショウか?」
/ ,' 3 「いらん」
アラマキは席を立ち、窓へ近づく。
ラウンジは昔ながらの町並みを維持し、二階建て以上の建物が少ない。
三階のこの部屋からは広い範囲を見渡すことが出来る。
逆に言えば絶好の暗殺ポイントが複数ある、ということではなるのだが。
少なくともガラスに仕込まれた魔法は大規模な魔法でもない限りは破ることは出来ない。
この部屋ごと吹き飛ばされれば別だが、それを言ってしまえばどこにいても同じだ。
ハハ ロ -ロ)ハ 「あまり窓際に立たれては」
/ ,' 3 「ワシの命を狙うものなどおらん」
どういう意味を含めて言ったのか。
街を眺めるその横顔から読むことは出来ない。
/ ,' 3 「目の前の通りのあそこは随分長く改修しているようだが」
ハハ ロ -ロ)ハ 「一月程でショウか。確か古い修道院ですね」
/ ,' 3 「……静かだ」
ハハ ロ -ロ)ハ 「穏やかな街デスよ、ここは本当に」
- 429 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:14:32 ID:vv/gHxMs0
-
アラマキは窓から離れると、机の上の書類を手に取りハローに差し出した。
それを受け取り、パラパラと内容の確認をしていく。
多くが種類根絶法に関わる刑罰を求めるものだ。
大部分を委員会の役員達で分割してはいるが最終的な決定権はアラマキが持っている。
故に根絶法が執行される限り、アラマキに完全な休日はない。
/ ,' 3 「今後、モリオカと連絡を取る予定は?」
ハハ ロ -ロ)ハ 「夕暮れ前には向こうからの密使が来る予定デスが」
/ ,' 3 「恐らく、オルトロスの抹殺は失敗している。モリオカは、あの犬を侮りすぎだ」
アラマキの目は真剣そのものだ。
デミタスは、オルトロスの弱体化を指摘し、その抹殺を引き受けた。
舐めているといえば舐めているが、ハローとしては妥当な判断だとも思う。
/ ,' 3 「念を押しておけ。アレは危険だと」
少々空回りにも思えるアラマキの警戒心。
話半分に聞きうけ、ハローは執務室を後にした。
サロンからの密使がオルトロス抹殺失敗の報せをもって訪れたのは、その一時間後のことだった。
* * *
- 430 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:14:50 ID:gHe91rsIO
- 支援だ
- 431 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:15:19 ID:vv/gHxMs0
-
从'ー'从「これでよ〜し」
ワタナベは昔からちょっと抜けた女の子だった。
学校へ行くたびに忘れ物をし、忘れ物をしなかったと思えば転んで服を破く。
小さな頃はそれでも良かった。可愛いね、で大人たちは済ませてくれた。
しかしワタナベももう十六歳。法律上は結婚が許される年齢になった。
今までの自分を変え新しい自分になる。
もう「ふぇぇ」なんて言ってられる歳では無いのだ。
ワタナベはバケットにありったけの荷物を詰め込んで箒に引っ掛けた。
忘れ物が無いかを30回ほど反復確認し、自身も箒に跨る。
箒の柄にサドルとハンドルを取り付けた飛行移動専用の箒。
生身であったりただの箒を使うよりは飛行魔法の安定性が増す。
从'ー'从「いってきま〜す」
('、`*川 「気をつけてねワタナベちゃん。知らない人について行っちゃだめよ」
从'ー'从 「は〜い」
( ゚∋゚)ノシ
箒ごとワタナベの体が浮き上がる。
周囲の空気が乱れ砂埃が舞い上がった。
箒は方位磁針のようにゆっくりと方向を調整。
目的の方向を向いた瞬間、爆発と大差ない轟音を上げ発進した。
- 432 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:16:10 ID:vv/gHxMs0
-
凄まじい衝撃がイトールパン工房を揺らす。
店主のペニサスは顔を軽く庇い、ワタナベの軌跡を目で追った。
ロングのスカートがはためくが気にする様子は無い。
('、`*川 「あんた、仕事に戻るよ」
( ゚∋゚)bそ
見送りを済まし、仕事へと戻ったイトー夫妻を尻目にワタナベの乗った箒はグングン加速していった。
束ねた髪が風圧と慣性により後ろへ大きく靡く。
手と太ももに力を込め箒を押さえ込み、軌道を修正。
ワタナベの出しうる最高の速度で目的地を目指す。
目的地は農の街、サロン。
知り合いの魔法使い(及び剣士)から届いた手紙の依頼に答えるためだ。
依頼品の詰まったバケットはハンドル部分までずり下がってきていた。
これがワタナベの命の恩人を救うことになる。
彼、山田孝雄かつメランコリーズ=ロンリードック(笑)もといドクオとはつい最近出逢った。
お遣いに出た草咲シティで悪漢に絡まれているところを颯爽と助けてくれたのだ。
あの時のことは恐らく一生忘れない。
白馬にこそ乗っていなかったが、あの時のドクオは紛れも無く王子様だった。
奥手のワタナベは普段アピールが出来ないから、こういう非常時にこそ活躍しなければ。
从*'ー'从 「待っててね〜山田さ〜ん!」
その日少女は風になる。
- 433 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:17:01 ID:vv/gHxMs0
-
サロンの中央街からやや外れた農地の真ん中にワタナベは着地した。
馬や普通の飛行魔法で来るよりもはるかに速い到着である。
空気抵抗を軽減する魔法がかかった上で、ワタナベの顔は酷い有様だ。
バケットを肘にかけ、箒を担ぎ、ハインリッヒの家へ走る。
空いている手で荒いながらも髪を整えた。
憧れの人に会える。たとえ音の壁に打ちのめされた後でもワタナベの足取りは軽やかだ。
从*'ー'从「ごめんくださ〜い」
玄関脇に箒を放り投げ、扉を開ける。
直ぐ目の前のリビングには、不安そうな顔のツンが。
突然入ってきたワタナベを見て少なからず驚いたようだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「ナベちゃん?!」
从*'ー'从「ドクオさんいますか〜?」
ξ;゚⊿゚)ξ「うん、処置室に…」
从*'ー'从「え?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと色々あった後に突然ぶっ倒れて……」
从;'ー'从「ふぇぇ!ホントですか!?」
- 434 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:17:53 ID:vv/gHxMs0
-
ワタナベは処置室へ飛び込む。
ハインリッヒが懸命な延命をしているが状況が悪いのは一目でわかった。
从;゚∀从「ワタナベ!グッドタイミングだ!大五郎を寄越せ!」
从;'ー'从「ふぇぇ?!」
半ば奪い取るように大五郎を受け取ったハインは手早く開封。
気絶しているドクオの口に漏斗を深く差し込み、中身を流し込む。
とくとくと注がれる焼酎が渦を巻いて消えてゆく。
カップ一杯があっという間に空になった。
新しい大五郎を取り出したワタナベを、ハインリッヒが手で制する。
ξ;゚⊿゚)ξ「あの、一体どうゆうこと?」
ツンが扉から顔を出しておずおずと尋ねる。
从 ゚∀从「ああ、んー……」
( A`) 「リッヒ大丈夫だ。そこらへんは俺が話す」
从*'ー'从「ドクオさん!」
* * *
- 435 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:18:56 ID:vv/gHxMs0
-
ξ゚⊿゚)ξ「つまり、ブーンとドクオの他に大五郎が融合していて、定期的に摂取しないといけないのね」
('A`) 「おう」
ハインリッヒの家のリビングでツンとドクオ、ワタナベがテーブルを囲んでいる。
一段落ついたと安心したハインリッヒは残っている仕事へと出て、ここにはいない。
治療の終わっっているタカラも何故か「助手」と称して連れ去られた。
ツンは首に巻きつくニョロを撫でながらツンは背もたれに寄りかかる。
ドクオの話は相変わらず重要な情報を切り抜いた簡素な説明だった。
魔女の気まぐれか、ドクオとブーンの他に焼酎の大五郎が共に融合している。
この大五郎、見た目や身体能力等にはまったく影響を及ぼさないのだが日常生活を送る内に消費。
そして大五郎が無くなると、ブーン達は死ぬ。
ξ゚⊿゚)ξ「もうちょっと早く教えてくれても良かったじゃない」
('A`) 「俺はともかく、ブーンにとっちゃ数少ない弱点だからな。そうホイホイ話せることでもねえよ」
厄介なことに、大五郎がどの程度の勢いで消費されるかはドクオ達にも分らないのだそうだ。
知れず知れずの内に減り、ほとんど予兆の無いまま発作が起きる。
魔女がドクオ達に残した言葉を信じるならば、発作を起こして1時間以内に大五郎を摂取しなければ終わり。
他の酒類でもある程度代用は利くが、やはり最終的に必要なのは大五郎。
- 436 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:19:44 ID:vv/gHxMs0
-
ξ゚⊿゚)ξ「剣士と魔法使いと焼酎って、もう訳分らないってレベルじゃないわよ」
('A`) 「同感だ。是非魔女に言ってやってくれ」
ドクオは椅子に凭れ、テーブルの上にあった大五郎を一口。
一応ストレスが大きいほど消費が早いそうだ。
今回はブーン達が予想した以上の強敵が相手だったこと起因して発作にまで至ったらしい。
('A`) 「今晩くらいまでは持つと思ったんだけどな。今朝の内に速達出しといて貰って良かったよ」
从*'ー'从 「えへへ〜大至急って書いてあったんで大至急来ちゃいました〜」
('A`) 「偉い偉い」
从*'ー'从 「お手紙貰えばどこにだって飛んでいきますよ〜」
冷静に考えると、ドクオ達はこの根絶法の時代では常に死と隣りあわせだ。
もしワタナベが間に合わなければ死んでいたわけだから、とんだ綱渡りである。
下手にうろつくよりも、VIPシティに住んだほうが良いと思ってしまうのは、ツンがあくまで他者だからだろうか。
('A`) 「ま、これでしばらくの大五郎は確保できたし、安泰だ」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなこと言ってるとまた厄介なのに襲われるわよ」
(;'A`) 「やめてよそういうの!」
* * *
- 437 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:21:02 ID:vv/gHxMs0
-
( ,,^Д^) (このところ、なんか蚊帳の外だにゃあ……)
ハインリッヒに連れ出されたタカラは、数件の往診に付き合った後、彼の指示で湖畔の砂浜へと来ていた。
ブーン達が戦闘を行った際に残した武器の回収が、彼に命じられた仕事だ。
とぼとぼと歩き回り、落ちていた小太刀を拾う。
歪みと刃こぼれが酷いがブーンのものに間違い無い。
( ,,^Д^)(命張ったり精密射撃で頑張ったりしてるんだけどにゃあ……)
真っ二つになった鞘も見つける。
差し込もうとしたが刃が歪んでいるせいもあって上手く刺さらない。
仕方ないので持たされた麻袋できつく包む。
( ,,^Д^) (やっぱりこの訛りかにゃ?この訛りがいかんのかにゃ?)
もう一つ、あまり見ない形状の短剣も発見する。
くの字に湾曲した形状で先端がやや幅広になっていた。
肉厚で持ってみると他の短剣類よりは確実に重い。
ブーンやツンが扱っていたものでは無いはずだから、恐らく敵対した傭兵のものだろう。
回収しなかったのだからいらないのだろうと判断し、腰の後ろのベルトに差す。
( ,,^Д^) (それともこの髭?この髭が悪いのかにゃ?でもこの髭は俺のアイデンティティだにゃ)
タカラ=イッコモン32歳。職業傭兵。得意武器弓矢。視力2.5。
活躍の機会を得られない彼は肩を一段低くして任されたお使いを遂行して行った。
- 438 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:22:04 ID:vv/gHxMs0
-
一通り武器を集め終わりタカラは背伸びをする。
長いこと下を見て歩いていたので首筋が凝ってしまった。
そろそろ戻ってもいいだろうか、と周囲を見渡すと、波打ち際に一人の少女が立っているのを見つける。
いつの間にいたのか分らない。
タカラに背を向け、湖をぼうっと眺めている。
長い黒髪に、白い腕。全体的に華奢で後姿を見る限りはかなり幼い印象。
濃い灰色のローブを纏っているため、余計に小柄に見えた。
タカラは集めた武器の袋を腰の袋にくくりつけ、少女に歩み寄る。
( ,,^Д^) 「お嬢さん何してんだにゃ?一人で湖遊びは危ないにゃ」
声を掛けると、少女が振り向き、少々驚いた顔をする。
その後自身の身体を軽く見渡して納得したようにため息をついた。
o川*゚ー゚)o 「あちゃー、ステルス解けちゃってる」
( ,,^Д^) 「?」
o川*゚ー゚)o 「ま、いっか☆ おじさん、ブーンの友達?」
( ,,^Д^) 「にゃ?友達って程でもないけど、お嬢ちゃんはブーンの知り合いかにゃ?」
o川*゚ー゚)o 「うん、まーね☆」
知り合いなんかよりもっともっと深い仲だけどね、と小さく続いた言葉はタカラの耳には届かない。
- 439 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:23:11 ID:vv/gHxMs0
-
タカラを見上げる少女の顔はとても可愛らしかった。
大きな目に形のいい鼻。唇は薄く、頬が淡い桜に染まっている。
一言で言って美少女。自分の娘が世界一可愛いと思っているタカラも少々揺らぐほどだ。
o川*゚ー゚)o 「おじさん何してたの?ゴミ拾い?えらーい☆」
( ,,^Д^) 「ま、まあそんなところかにゃ。お嬢ちゃんは何してたんだにゃ?」
o川*゚ー゚)o 「わたしー?わたしはねー」
少女が湖を振り返った。長い髪がキラキラと空を舞う。
タカラも釣られてそちらへ目を向けるが特に面白いものがある訳ではない。
周囲を囲む防風林に、遠い対岸に見える巨大な霊峰イチ山。
水面は穏やかで、低い波が日光を不規則に反射して眩しい。
が、その水面に僅かに変化が起きた。
タカラたちのいる波うち際から数百メートルほど離れた先。
それまでの波の揺れとは異なる、大地そのものが揺れているような水の震えがおきる。
タカラがその異変に目を凝らすと、少しずつ、水面が泡立ち出した。
泡立ちそのものは、素潜りした人間の呼気が現われたものに見えるが、規模が違う。
大きな気泡が次々と弾けた。まるで何か巨大な生物が浮上してきているように。
o川*゚ー゚)o 「わたしはねー、ペットの様子を見に来たの!」
- 440 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:24:06 ID:vv/gHxMs0
-
少女が何を言ったのか、タカラには良く聞こえなかった。
激しい音と主に湖に立ち上る、巨大な水柱。
タカラはその中に毛むくじゃらの獣の頭を見る。
( ;,^Д^) 「にゃ、にゃんですとおおお?!」
o川*゚ー゚)o 「ふふふ」
タカラはそれをなんと称するべきか、自身の語彙を高速で検索。
まずは巨大な犬(狼?)の頭。頬まで裂けた口からは黄ばんだ牙が覗く。
そこから胴へかけて身体を覆う黒い剛毛と、図太い前足。
そして下半身は犬の上半身とは全く異なっていた。。
後ろ足も毛もなく、ただ図太い胴が真っ直ぐに続く。
徐々に先細りし、最後は双葉のように分かれた幅広いヒレになっている。
言うならば、鯨の下半身に、巨犬の上半身を生やした化け物。
どう見てもまともでは無い生命体。
最近も似たようなものと戦ったから直ぐに思考が結びつく。
合成獣、キメラだ。
キメラは久方ぶりの空気を愉しむような気楽さで、何度も水面を跳ねた。
重い衝撃音が幾度と無く響き、その巨体が徐々にタカラたちへ近づいてくる。
それまでが比にならないほど高い波が足を濡らす。
- 441 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:24:47 ID:vv/gHxMs0
-
( ;,^Д^) 「クソッ」
タカラは素早く弓を構え、矢をつがえる。
弦を引き絞り目に狙いを定め、放った。
しかし、矢は舞い上がった水しぶきに飲まれキメラへは届かない。
タカラはもう一本矢を取ろうとして諦め、弓を身体に掛ける。
そして棒立ちの少女の手を取った。
( ;,^Д^) 「お嬢さん逃げるにゃ!」
o川*゚ー゚)o 「?なんでぇ?」
( ;,^Д^) 「なんでって、このまま襲われたら死んじまうにゃ!」
タカラが本気で引っ張っても少女の身体はびくともしなかった。
手こずるうちに、キメラは岸まで接近し、大きく跳ねて砂浜に着地。
砂交じりの水しぶきがタカラと少女を襲う。
( ;,^Д^) 「にゃぁ〜もうだめにゃぁ〜!!」
キメラに背を向け、少女を庇うように抱きしめたタカラは死を覚悟した。
もっと子供に会えば良かったとか、後悔とか走馬灯のようなものが頭を過ぎっていく。
- 442 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:25:54 ID:vv/gHxMs0
-
目を堅く閉じて30秒。
タカラはまず自分が生きていることに驚いた。
耳元で空気が震えるような音がする。
少女を抱きしめていた腕を解きながら後ろを振り返る。
( ,,^Д^) 「」
巨大な目と、視線が噛みあう。
どこまでも黒い瞳に自分の顔が移った。
耳元で聞こえていたのは、キメラの鼻息。
( ;,^Д^) 「…?!…?!」
硬直するタカラをよそに少女の手がキメラの鼻を撫でた。
小さな少女の手を大きく広げても三分の一にすら満たない巨大な、それをさすられる度、キメラの目が心地よさ気に歪む。
時折ブフウ、とため息のような息まで吐いた。
少女のローブがめくれ、中にはいていた短いスカートもひらひらとなびく。
( ;,^Д^) 「こ、これは一体……」
o川*゚ー゚)o 「可愛いでしょ?」
怯えるタカラに対し、少女は涼しい笑み。
- 443 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:26:45 ID:vv/gHxMs0
-
o川*゚ー゚)o 「名前は決めてないの。鯨と大山犬に彼と私の血を混ぜて作ったお気に入り」
o川*゚ー゚)o 「おっきすぎてまだ調整中だから、あんまり遊ばせてあげれないんだけどね」
フラフラと後ずさり、尻餅をついた。
キメラを撫でる少女の姿は母親のような慈愛に満ちている。
年端も行かない少女が醸し出すには、あまりに違和を持った雰囲気。
( ;,^Д^) 「お、おま、もしかして!」
o川*゚ー゚)o 「安心して。貴方は私を庇った優しい人だから、今ここでご飯にするのはやめてあげる」
振り返った少女の顔は、大人の女の妖艶なそれだった。
造形が変わったわけではない。
雰囲気と称するにもおこがましい、脳に直接響く強烈な気配が印象を変えて見せている。
o川*゚ー゚)σ 「もし、忘れなかったらブーンに行っておいて」
少女の指がタカラの額に当てられる。
そこでタカラは気付いた。アレだけの水しぶきがあったにも関わらず、少女は一切濡れていない。
o川*゚ー゚)σ「機が熟したら、逢いましょうって」
( ;,^Д^) 「魔j……ッ」
タカラの意識は、彼方へと吹き飛んだ。
- 444 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:27:26 ID:vv/gHxMs0
-
今日はここまでー
またちょっと地味な一話になってしまったので次話はまた急ぎたいですね
とはいいつつ、そろそろ魔法やらへの疑問を補完する回をやろうかと思っています
ではではー
- 445 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:28:32 ID:b0B9tsLc0
- 乙
魔女登場かな?
- 446 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:29:56 ID:CB9Lat6I0
- 剣と魔法と大五郎が思った以上にそのまんまだったww
魔女ふざけすぎww
- 447 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:36:14 ID:HcBcMlYg0
- おツンツーン!
タカラ娘いたのか……
ドクオは接近戦になっちゃうと活躍しにくいよね
最初にイトールパン屋が出たときもなんとなく思ったけど今回とっても魔女たkげふんげふん
- 448 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 00:59:32 ID:q2hPnAgQ0
- 大五郎も合成されてるのかよwww
- 449 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 01:38:02 ID:ARuDaXA20
- おツンツーン
嘘予告から読み始めてやっと追いついた
今まで読んでなかったの後悔した
リッヒ先生の治療がえぐくて素敵です
皆キャラ立ってていいな
- 450 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:12:47 ID:YLx6ESZ.0
- 剣と魔法と大五郎だったな・・・
- 451 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 06:50:37 ID:NAu9zDL60
- おつ
ナベちゃん結構ハイスペックなのね
- 452 :名も無きAAのようです:2012/10/13(土) 10:30:30 ID:G0YjMhHEO
- スレタイまんますぎて逆に感動した
乙
- 453 :名も無きAAのようです:2012/10/14(日) 11:59:59 ID:uitGTUxkO
- 大五郎しかのめない世界なんてやだなー
- 454 :名も無きAAのようです:2012/10/15(月) 10:47:21 ID:UFaG6xVg0
- 俺とお前と大五郎だったな…
- 455 :名も無きAAのようです:2012/10/15(月) 11:19:07 ID:kjWEnjGoO
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_,rーく´\ \,--、. (/ /
. ,-く ヽ.\ ヽ Y´ / '" ´ ! ` ー-、
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`ゝ、 ノ ノ ヽ |
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. , ⌒ ´ \ '" ´ ! 〈 ̄ `-Lλ_レレ
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曰
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||五||
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- 456 :名も無きAAのようです:2012/10/15(月) 12:55:33 ID:okbUtzHI0
- >>455
凄くよく分からない気分になった
- 457 :名も無きAAのようです:2012/10/16(火) 23:42:04 ID:iu8Jp8aQ0
- >>456
>>454をAAで表したんだろ
- 458 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 07:59:51 ID:0mJxeuEkO
- >>457
いや 多分 そういう意味の『わからない』じゃないだろ
- 459 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 08:23:28 ID:5vXbJIb60
- >>458
何がわからないのかわからないよ
- 460 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 09:54:05 ID:0mJxeuEkO
- >>459
名状し難い 自分でも理解できない っていう気分に陥ったということではないだろうか
ということを言ったんだが
なんで俺がこんなに説明しているんだろう
- 461 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 10:11:25 ID:5vXbJIb60
- つまり分からないってことでいいんだな?
- 462 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 10:15:39 ID:0mJxeuEkO
- >>461
わからないんだろう
AAの意味がわからないという意味ではないと思うが
本人がさっさと答えてくれるか作者が投下してくれないとよくわからないスレになっちまう
- 463 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 11:47:57 ID:6pmCOc/EO
- あんなさむいAAでよくそんなに話せるな
- 464 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 12:23:44 ID:0mJxeuEkO
- AAの話というより『わからない』って単語の意味を説明するために俺がバカみたいに右往左往してるだけの話なんだけどな
とりあえず作者の次の投下待ってんぞ
- 465 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 13:02:06 ID:zzRkGBD20
- つまり大五郎は大五郎だってことじゃねぇか、何をそんな難しく考えてんだ
- 466 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 13:28:40 ID:44hvR.2Q0
- じゃあ流れ切って質問
飛行魔法はワタナベが詠唱した描写がないだけで彼女自身の物なのか
それとも箒がそういう便利アイテムなのかどっちでしょうか
あと箒のイメージはこんな感じであってますか
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_237.jpg
- 467 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 17:10:46 ID:umqWQeEY0
- >>466
MOTHERっぽくて好きな絵柄だわ
- 468 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 22:13:29 ID:8xwaET6M0
- >>466
OH、箒のイメージはその感じです
ハンドルは②のほうのママチャリ風がしっくり来るでしょうか
ワタナベさんの飛行魔法は彼女自身が箒を対象に発動しています。箒はただの箒で詠唱は描写上の省略です
箒を使用するのは、人体をそのまま浮かすよりも別の何かを浮かせてそれに乗るほうがコントロールがたやすいから、です
故に軽くて乗りやすくて身近で用意できるものであれば箒でなくても問題ないのです。デッキブラシとかね
尚、私生活の都合上質問等に対する反応は大体この時間になってしまうので、よろしくね
次の投下は少々直しが嵩んでいるので、もう数日かかってしまうかと。済まぬ
- 469 :名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 22:33:55 ID:6pmCOc/EO
- もう数日でよめるなんていいニュースだ
- 470 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 16:26:21 ID:k8bYV7QY0
- ファンタジーバトルしてて大好きだ!
のんびり続き待ってます!
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_252.jpg
あと、質問なんですがドクオの名前は
「ロンリードッグ」なのか「ロンリードック」なのかどちらでしょうか?
読み返したら二種あったんですが、ドクオなのでドック?
- 471 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 17:15:32 ID:F4YosrFc0
- >>470
うひょう!なんだか色々と絵を描いてもらえて幸せです
ロンリードッ“グ”が正です。ドックになっている部分は混同によるミスですお恥ずかしい
『悲哀を知った孤高の猛犬』というとてもカッコいい覚え方がありますが、今後使う機会はほとんどないので忘れても平気です
誤字等は自分で見返していてちらほらと見つけたのでなるべく早いうちに修正したいと思います
尚、特に用事が入らなければ今夜には投下できる模様
- 472 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 17:58:47 ID:y2rkjNkIO
- ひゃっほう待ってる
- 473 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 18:35:16 ID:T44JhI6w0
- うひょひょい
- 474 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:19:33 ID:F4YosrFc0
-
('A`) 「第いっかーい、チキチキ!ロンリードッグ先生の魔法教室〜〜〜!」
从*'ー'从 「わ〜い!」
ξ゚⊿゚)ξ
場所はハインリッヒの家の裏手。
リビングと同程度の空き地に、木箱が三つと、どこから持ってきたのか黒板が一枚置かれている。
その場にいるのは、チョークを持ったドクオと箒を担いだ渡辺、そしてツンの三名。
タカラは昨日のお使いの途中で突然ぶっ倒れたため病室で寝かされていた。
ハインリッヒはいつもの往診。
ツンも本来ならば仕事のなのだが、連日のダメージが響き体がうまく動かないため、休みを貰っている。
支店長であるジョーンズにはどうせ仕事が無いからと笑顔で快諾された。
そして、同じく安静を命じられたドクオが言い出したのが、この「魔法教室」なのだ。
確かにツンは魔法を教えてくれとドクオに頼んでいたし、望むところではあるのだが。
ξ゚⊿゚)ξ 「なんかこう、森にはぐれキメラを狩りに行くとか、そういうのじゃないの」
('A`) 「仕方ないだろ。リッヒに安静にしろって言われているし」
それはそうだが。
- 475 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:20:35 ID:F4YosrFc0
-
('A`) 「何より、魔法は理論です。机上の空論を机上から飛び出させる夢のツールです」
('A`) 「逆に言えば、机上での勉強なくして優れた魔法使いにはなれない!」
从*'ー'从 「はーい」
ξ゚⊿゚)ξ
師匠と同じことを言っている。
ツンはそういう理論を習うのが苦痛だったこともあって飛び出してきたのだ。
現時点で既に頭が痛い。
('A`) 「ナベちゃんは魔法塾でどこまで行った?」
从'ー'从 「基本式までは習いました〜」
('A`) 「よし、んじゃ一応最初から行くか。ツン、書記頼む」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、なんでよ」
('A`) 「お前はなまじ分ってると思っている分、そっちにいるよりこっちの方がちゃんと理解できる」
やる気のない返事をして立ち上がった。
チョークを受け取り、いつでもいい、という風に肩をすくめて見せる。
- 476 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:20:44 ID:hvYIwpnQ0
- 来た来た支援!
- 477 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:21:35 ID:F4YosrFc0
-
('A`) 「はじめに魔法を使うのに必要な魔力について話をしようか」
生きている生命全ては魔力をもって生まれてくる。
魔力は生命体の生命力のバランスを調整する役目を持って生み出される、というのが現在の一般的な見解だ。
故に、魔力が著しく低下すると、死亡に至らずとも身体に異常をきたす。
魔法使いが一般人よりも平均して五年以上寿命が短いというデータもあり、
魔力の消耗が身体に決定的な負担をかけていることは間違いない。
(尚、このデータの中に戦死者は含まれない)
('A`) 「だから、大抵の魔法使いは魔力が空になるような無茶は滅多にしない」
ドクオが何か含みのある顔でツンを見た。
ぷいっと目をそらす。
黒板に適当な図を書いて、渡辺に分りやすいように説明を纏める。
从'ー'从 「ドクオせんせ〜い、私、魔力の固有振動がよくわからないんです〜」
('A`) 「いい質問ですね、ワタナベ君。あと俺のことはロンリードッグ先生と呼ぶように」
魔力は、生命体ごとにまったく異なった性質を持つ。
観察した際にその性質の違いが振動の強弱として現われることから、それを「魔力の固有振動数」という。
振動数は同種間であっても同じになることはほとんど無い。
※メタ的な説明をすれば、一言に魔力といっても骨髄の型ほどパターンがあるのである。
しかし多様な魔力も、一般にはその大元の性質を差して5〜6程度の分類に分けられる。
これが使用できる魔法の種類を分けるのだ。
- 478 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:22:27 ID:F4YosrFc0
-
('A`) 「んまあ、「魔力には個性があって、魔法の適性を左右する」程度が分ってれば十分」
('A`) 「固有振動数ごとの法則跳躍魔法利用とか、空間魔力との共鳴作用による振動数の変換とか……」
从;'ー'从 「???」
ξ;゚⊿゚)ξ「????」
(;'A`) 「そういう踏み込んだ知識を学ぶのは研究者を志してからでも遅くないから忘れろ」
あからさまにチンプンカンプンな顔をしたワタナベとツンを見てドクオは言葉を切り上げた。
実際、研究者として日々魔法の研究をしている者と、ツンのように前線で戦闘利用している者は
道具を発明する人間と、それを使い作業する人間ほど違う。
魔法に対する意識そのものからして全くの別物なのだ。
从*'ー'从 「ドクオさんは自分で魔法考案したりしてますよね〜」
('A`) 「ああ。最近じゃ少数派だが、昔は大抵の魔法使いは自力で魔法を考案してつかってたんだぜ」
('A`) 「誰かの考えた魔法を知識として共有して使う風潮が根付いたのは魔法の歴史からいえばつい最近だ」
ドクオはそういうが、実際問題として魔法式の研究と実践利用を両立するのは並みのことではない。
魔法が理論とはいえ魔法式の展開は技術がモノを言うので、実用に足るレベルになるにはトレーニングは必須。
過去に魔法使いが選ばれた一部の者しかなれなかったのは、そういった側面があったからなのである。
- 479 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:22:30 ID:HaJDNwssO
- 補足回か
支援
- 480 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:23:46 ID:F4YosrFc0
-
('A`) 「っと、そういう話はまた後にしよう。長くなるし」
('A`) 「えーっと、魔力の適正の話だったな」
先に触れた魔力の性質には、それぞれ適切な魔法が存在する。
それぞれの適性は便宜上の表記としてA>B>C>D>E>F(全く使えない)の段階で表記することが多い。
ツンであれば最も優位なのが風魔法がB 次いで水C、治療魔法D、その他E以下と言った具合だ。
ξ゚⊿゚)ξ 「そういえばドクオの適正ってどうなの?無属性と火は見たけど」
('A`) 「辛うじて火がC。他は全部D。今はブーンが混ざってるから全体的にマイナス補正かかってる」
ξ;゚⊿゚)ξ 「は?それであの威力なの?」
('A`) 「上級に強化式を組み込んでやっとアレだからな。妥当だろ」
ξ;゚⊿゚)ξ(強化式組み込んでおいてあの速さなのがおかしいんだけど)
無論適性はあくまで適性であり、最終的な魔法の効力を決めるのは本人の努力だ。
魔法使いとしての錬度が低ければ高い適性も無駄となる。
故に適性が高い=魔法が強いとは絶対では無い。
ちなみに無属性というのは魔力そのものを物理的なエネルギーに変換し扱う魔法を差す。
ドクオが良く使う防御魔法や、ツンの障壁魔法などがそれだ。
他の魔法と異なり魔力の性質がほぼ関係ないため魔法使い本人の技量が効力に反映するのが特徴である。
- 481 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:24:32 ID:F4YosrFc0
-
('A`) 「魔法は基本的に単一の魔力でのみ実行できる」
似た特性を持った魔力同士であっても、混ざり合えば振動の違いが反発を生み著しく劣化する。
場合によっては使い手自身の魔力が乱れ、その場で卒倒する危険すらあるのだ。
そのため、複数人で同一の魔法を展開する場合は、まず魔力の性質を統一する魔法を使う必要がある。
('A`) 「何より、魔力は自分自身のものでないと扱えないからな。他人に与えるって言うのはほぼ不可能だ」
ξ゚⊿゚)ξ「でも、あいつらやってたわよ」
あいつらとは、先日剣を交えたサスガ兄弟のこと。
一つの魔法式の展開を途中で引き渡したり、魔力を委譲したり、普通ではありえない行為だ。
魔法式は別種の魔力が混じった時点で瓦解してしまうし、他人の魔力を受け取るなど自傷と同義である。
('A`) 「アレは、全体で見ても珍しい特異体質だろうな。双子だからって誰でも出来るわけじゃねえ」
ξ゚⊿゚)ξ 「剣も使えるし、魔法も強かったし、ドクオよりもすごいわね」
(;'A`) 「アレは向こうがおかしいの!俺は一般にしては全然すごいほうなの!」
从*'ー'从 「ドクオさんはすごいですよ〜かっこいいですよ〜」
(;'A`) 「ありがとうナベちゃん。だからせめて君だけでもロンリードッグって呼んで……」
* * *
- 482 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:25:25 ID:F4YosrFc0
-
VIPシティ中央北寄りの住宅街。
中層の住民が集まる区画であり、VIPシティの経済運営を支える人々が住む区画でもある。
石造りや木造の家が立ち並び、近所の公園から子供達の笑い声が響いてく穏やかな町だ。
大五郎の憲兵の見回りが多い地区でもあり、治安はかなり良い。
比較的近隣に位置する繁華街区画も、この区画に近いほど荒くれが少ない傾向にあった。
一言で繁華街の街、といっても地区により住民性は違い、微妙なバランスで共生が行われている。
住宅街の片隅にある、さほど大きくない木造の家。
小さな庭に、これまた小さなブランコがある、傍目にはどこにでもある一般家庭に見える。
そこに忍び寄る、怪しい二人の人影。
コソコソと周囲を見渡し、扉の施錠を魔法で解除し、扉を開ける。
男達が中へ侵入すると小さく床鳴りの音がした。
先を歩いていた方がビクリと肩を震わせ、足を止める。
緊張により早くなった呼吸。
いくら息を潜めても心音が響き渡りそうなほど、心臓が激しく鼓動している。
ごくり、と唾を飲み込んで、また一歩進む。
後ろに従う相棒も慎重な足取りで床を歩き、二人は廊下を進行。
そして、家の最奥。扉に子供らしいプレートのかかった部屋の前で二人は立ち止まった。
互いの意思を確かめるように一瞬視線を合わせ、先を歩いていた方がドアノブに手を掛けた。
金具が擦れ打ち合う小さな音が響く
無音を志す二人にとっては、心臓が驚きで止まる程の大きな音だ。
- 483 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:26:24 ID:F4YosrFc0
-
額から溢れ頬を伝う汗をそのままに、扉をゆっくりと開いた。
片目の覗く隙間をあけ、中を窺う。
問題ないことを確認して後ろの相棒に手で合図。
相棒は念の為に無詠唱で魔法式を展開、罠に備えた。
必要最低限の隙間から、まるで水を思わせる動きで中へ。
衣擦れすらなく滑り込むと音も無く扉を元に戻した。
警戒したトラップの類を感知できなかったため魔法式を霧散させる。
扉の正面に窓。桃色のカーテンが両脇に。
左手には机と椅子。机の上の簡易ラックには絵本が建てられている。
小さな箪笥の脇の壁には、画用紙に描かれた子供らしい自由な絵が張られていた。
窓の傍に、簡素なシングルベッドが置かれ、そこに小さなふくらみがある。
二人は未だ周囲に気を配りながら、そろりとベッドへと近づいた。
そこに横たわっていたのは、幼い少女。
カーテンと同色の布団を首まで被り、スヤスヤと眠っている。
整った顔立ちは幼さこそあれ、美しいと称するに十分だった。
覗きこむ二人はしばし黙ってその顔を眺めていたが、片方がゆっくり手を伸ばす。
男の手がゆっくりと少女の顔へ。
長い指がその薄紅差す頬に触れた。
( ;´_ゝ`)「!?」
その瞬間、男、アニジャの手が何かに弾かれた。
指先が裂け、血が滴っている。
- 484 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:27:31 ID:F4YosrFc0
-
( ;´_ゝ`)「ステルスマジック!?父者め、こんな魔法まで開発してたのか?」
(´<_`; )「時に落ち着けアニジャ、単なるダメージトラップだ。見たところ発動を通知するタイプじゃない」
( ;´_ゝ`)「そうか、逆に言えばここに母者も父者はいないってことか……」
(´<_`; )「ああ、少なくとも今すぐ母者が飛び込んで来るってことは無い」
取り乱したアニジャを、もう一人、オトジャが宥める。
二人が再び息を潜めベッドの少女へ視線を落とす。
瞼がムニムニと動き、眠りから覚めているようだ。
( ´_ゝ`)「イモジャ、イモジャ」
l从-∀-ノ!リ人 「……むにゅ、おっきい兄者の声がするのじゃ……」
(´<_` )「イモジャ」
l从-∀-ノ!リ人 「むにゅ?かっこいい兄者の声もするのじゃ……」
( ;´_ゝ`)「イモジャ?!それはどういう意味?!イモジャ?!」
(´<_`; )「時に落ち着け!落ち着け兄者!」
l从=∀・ノ!リ人 「にゅー?」
- 485 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:28:14 ID:F4YosrFc0
-
アニジャの声に反応し、少女、イモジャの瞼が開く。
イモジャは少々意識のはっきりしない目で取り乱す兄達を見ていたが徐々に明晰を取り戻した。
l从・∀・*ノ!リ人 「アニ兄者にオト兄者なのじゃ!!」
二人の存在を知覚し、花が咲いたように表情が明るく変化する。
オトジャはイモジャが完全に起きたのを確認すると首の後ろを支えその身を起こした。
アニジャは傍にあったクッションを枕と共に背中に差し込む。
ベッドの頭側に寄りかかって座ったイモジャは改めてその笑顔を兄達に向ける。
l从・∀・*ノ!リ人 「おひさしぶりなのじゃ!」
( *´_ゝ`)「ああ、久しぶり、イモジャ」
(´<_` )「ところで、母者たちは?」
l从・∀・*ノ!リ人 「母者と父者はちょっと前から遠いお仕事に出てるのじゃ!」
それを聞いて兄弟は胸を撫で下ろす。
数年前に勘当同然で家を出て以降、両親に遭遇するのは心から恐れている。
目を合わせた瞬間に脳髄をぶちまけられる可能性があるのだ。
自分達が親不孝の放蕩息子であることは自覚しているため、両親を恨む気は無いが
単純な命の危機として避けて通っている。
「お仕事」の内容には思い当たる節、というか確実な予想がついている。
むしろ、それがあったため命の危険を冒してでもこの家に帰ってきたのだ。
- 486 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:29:39 ID:F4YosrFc0
-
l从・∀・*ノ!リ人 「姉者はお夕飯の買い物に行っているのじゃ!」
( *´_ゝ`)「そかそか、ならしばらくは帰らないな」
l从・∀・*ノ!リ人 「呼び出し魔法あるのじゃ!母者たちも呼ぶのじゃ!」
(´<_` )「時に落ち着けイモジャ。お仕事や買い物で忙しいみんなを呼んだら迷惑だろ?」
l从・∀・。ノ!リ人 「でも……せっかく家族が揃ったのじゃ……みんなで一緒にご飯したいのじゃ……」
( *´_ゝ`)「かわいいなぁイモジャは〜そうだなぁ〜もう呼んでいいんじゃないかな〜」
(´<_`; )「陥落が早すぎるぞアニジャ!完全に最期の晩餐になるぞ!」
( ;´_ゝ`)「しかしオトジャ、俺はイモジャを悲しませたくない!」
(´<_`; )「しかしだな……」
「なら大人しく母者に謝って、ウチに戻ってきたら?」
( ´_ゝ`)「「!!」」(´<_` )
突然会話に割って入った女の声。
アニジャ達がその主がいると思しき後ろを咄嗟に振り返る。
姿を確認する前からアニジャは腰の小剣に手を掛け、オトジャは魔法式を展開を始めた。
- 487 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:30:25 ID:F4YosrFc0
-
しかし、ふり向ききると同時に二人同時に首を鷲づかみにされる。
凄まじい力で握り締められ、体が持ち上げられた。
( _ゝ )「ふ、ぐ、買い物に行っていたんじゃなかったのか、姉者」
( <_ ) 「また、一段と怪力になったな」
∬´_ゝ`) 「ありがと」
声の主、アネジャは二人の首を放す。
剛力から開放された兄弟はその場に尻餅をつき、呼吸を整える。
首にははっきりと手の痕がついていた。
∬´_ゝ`) 「イモジャに何かあったと思ってきたら、やっぱりあんた達だったのね」
( ´_ゝ`)「通知までステルスか。父者はどこへ行きたいんだ」
(´<_` )「姉者、見逃せ。俺達はまだやるべきことを成していない」
∬´_ゝ`) 「……」
大きく、これ見よがしのため息を一つ。
アネジャは顔立ちこそ兄弟に似ているが、その曲線の美しい体系と柔らかな髪で確りと女らしく見える。
状況がこうでなければ、恋人の一人も作り家を出ていてもおかしくは無い。
- 488 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:31:35 ID:F4YosrFc0
-
∬´_ゝ`) 「前々から言っているでしょ。イモジャのことは、あんた達のせいじゃない」
兄弟は押し黙る。
二人を睨むように、あるいは哀れむような痛みを孕んだ目で、アネジャは見下ろした。
イモジャはどうしていいのか分らず、オロオロと三人の間で視線を泳がせている。
∬´_ゝ`) 「魔女のことは父者たちに任せて、戻ってきてもいいじゃない」
∬´_ゝ`) 「本当に反省しているなら、ここに帰って来てくれることの方が、イモジャの為になるわ」
姿勢を低くし、そっぽを向く兄弟の頬にアネジャは優しく手を触れる。
子供を撫でるようなその優しい手つきに二人は視線を上げた。
慈母の如きアネジャの微笑みに、つい心を誘惑されてしまう。
∬#´_ゝ`) 「……だっしゃぁぁぁぁ!!!」
しかし突然、慈母の手が大熊のそれに変わり、シンバルを叩くように兄弟の頭をかち合わせた。
重い衝撃音。突然の衝撃に成す術ない二人は、大きなダメージを受ける。
∬#´_ゝ`) 「何ちょっと揺らいでんのよこのクソガキ共が!男なら意地貫きなさい!」
( ´_ゝ )「ぐ、流石だな、姉者」
( <_` )「割と本気で死ぬぞ、今の」
- 489 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:32:45 ID:F4YosrFc0
-
∬´_ゝ`) 「いい、二人ともよく聞きなさい」
再び立ち上がり、姉者は指を二人の眉間に突き立てる。
その眼差しは力強く、図らずも両親の面影が見て取れた。
∬´_ゝ`) 「母者も父者も私も確かにブチ切れよ。母者に至っては生の南瓜を握り潰すくらい怒ってる」
兄弟は大きな南瓜がまるで鶉の卵の如く握りつぶされる様を想像して背筋を寒くする。
母に見つかれば自分達の頭がそうなってもおかしくない。
∬´_ゝ`) 「でもそれは、単にあんたらがフラフラしてるからよ」
∬´_ゝ`) 「母者のデコピンで脳漿ぶちまけられたくなかったら、あんたらの言う「成すこと」をキッチリ成して、胸張って帰ってきな」
言い終わって、ポカンとしている兄弟の頭を同時に叩く。
骨間の軟骨が潰れるほどの重い衝撃にふらつく二人。
アネジャは腰に手を当て、鼻から熱のある息を吐いた。
∬´_ゝ`) 「じゃ、私は夕飯の買い出しに行ってくるから、あんた達は出てくなり死ぬなり好きにしな」
( ´_ゝ`)「流石は俺達の姉者」
(´<_` )「姉者の子供になる奴に心から同情するよ」
∬´_ゝ`) 「私たちよりはマシよ」
(´<_` )「言えてるな」
( ´_ゝ`)「姉者のデコピンは痛いだけで済むもんな」
- 490 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:33:42 ID:F4YosrFc0
-
∬´_ゝ`) 「あと、さっきの罠魔法の通知、父者にも届いてるはずだから早めに逃げなさいよ」
その背筋の寒くなる情報を置いてアネジャは家を出て行った。
言っていた通り買い物に行くのだろう。
その姿を見送った兄弟は顔を見合わせる。
殺される云々は辛うじて冗談だとしても、母親達に捕まれば行動を制限されるのは間違いない。
そうなれば早めに立ち去るのが懸命だ。
しかし。
l从・∀・。ノ!リ人 「もう行っちゃうのじゃ?」
彼らにとっては何者以上に愛おしい妹が眼を潤ませて見上げてくる。
オトジャは辛うじて自分を律しているが、アニジャはほぼイモジャの下僕に近い。
アニジャが余計な約束を口走らないうちに、オトジャは優しく妹の頭を撫でた。
(´<_` )「イモジャ、俺達は行かなきゃならないところがあるんだ」
( ´_ゝ`)「オトジャ」
l从・∀・。ノ!リ人 「……」
(´<_` )「イモジャの手と足を、必ず取り返してくる」
- 491 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:34:55 ID:F4YosrFc0
-
ベッドに腰掛けるイモジャの身体には手と足が無い。
腕は肩から。足は太ももの付け根からして存在していないのだ。
生まれつきではない。奪われたのだ。
この世で最も忌々しい、あの女に。
l从 ∀ 。ノ!リ人 「みんなで一緒にご飯を食べられないのは、イモジャのせいなのじゃ?」
( ´_ゝ`)「それは違う。絶対に違う」
(´<_` )「イモジャ、手と足が戻ったら、一緒にご飯を食べよう」
l从 ∀ 。ノ!リ人 「……くなのじゃ」
( ´_ゝ`)「ん?」
l从・∀・。ノ!リ人 「約束なのじゃ。絶対一緒にご飯食べるのじゃ」
(´<_` )「もちろんだ」
( ´_ゝ`)「俺達もイモジャとご飯食べたいしな」
l从・∀・。ノ!リ人 「指きりげんまんなのじゃ!嘘ついたら父者の髪を千本毟って飲ますのじゃ!」
( ´_ゝ`)「流石だなイモジャ」
(´<_` )「父者の髪の毛が千本もあるといいな」
* * *
- 492 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:36:37 ID:F4YosrFc0
-
('A`) 「魔法使いの一段階目は、魔力のコントロールが重要だ。これが出来ないと干渉そのものが無理だからな」
適性が高い魔力を持つ者ほど魔力操作を身に付けるのが早く、逆に適性が全く無い者は一切出来ない傾向にある。
どれかしらの適性がB以上であれば比較的楽に操作を身に付けられるというのが一般的な見解だ。
('A`) 「はい、じゃあ魔力に触れた後は魔法式の展開について」
ツンは一度黒板を綺麗にし、再びチョークを取る。
魔法とはつまり、魔力を持って世界に干渉し、一時的に法則を捻じ曲げることである。
世界を構成する法則は強固に結ばれているため、ただ魔力で干渉しようとしても全く触れることは出来ない。
それゆえに魔法ごとに干渉する手順があり、その手順を「魔法式」。
手順に従い魔力を注いで法則へ干渉することを「魔法式の展開(組み上げ)」と言う。
魔法式には大体にして三つの段階があり基本、応用、発展に分かれている。
基本はその名の通り魔法式を組み上げる基盤になる式。
干渉する法則を指定するための式で、これが無ければそもそも干渉が出来ない。
応用式は干渉に成功した後、具体的な現象へと書き換えるための式である。
法則は自動で修正される性質があるため、展開が遅いと魔法そのものが失敗になる。
ここを適当に行っても一切魔法は発動しないため、研究者達はこの応用式を見つけることに執心しているのだ。
発展式はその名の通り、さらなる魔法の発展をもたらすものだ。
この段階での干渉は適性がB以上必要なものが多いため、専門魔法と呼ばれることも多い。
主に干渉した物の性質までを変化させる魔法だが、それゆえに魔法式は非常に複雑。
場合によっては、「錬金術」と呼ばれる技術でもある。
(具体例:水を毒に変える。鉄を金に変える。キメラを生み出す、など)
- 493 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:37:38 ID:F4YosrFc0
-
('A`) 「んで、まあ大抵の見習い魔法使いはこの魔法式を身に付けていくあたりで挫折するわけだ」
从'ー'从 ぷしゅー
ξ゚⊿゚)ξ「ドッグ、ナベちゃんは挫折通り越してパンクしてるわ」
(;'A`) 「え?!早いよナベちゃん!まだ概要だぜ?!」
从'ー'从 「空が飛べればもうそれでいい。魔法死ね」
ξ゚⊿゚)ξ「ドッグ、ナベちゃんが魔法への希望と共にアイデンティティも投げ捨てたわ」
(;'A`) 「えっと、じゃあ、ちょっと魔法に出来ることを確認して、夢を取り戻そうか」
魔法は本来人間には再現不可能な事象を引き起こすことが出来る。
まだまだ研究の余地は多く、万能とは言え無いがやはりその有用性は非常に高い。
現在のこの国及び世界の発展は魔法と共にあるといっても過言では無いほどに。
('A`) 「ちなみに、大五郎の社長シブザワは剣が使えること上に魔法の開発までしてる。もうバケモンだ」
ξ;゚⊿゚)ξ「たった一人で剣と魔法と大五郎……しかも社長……」
('A`) 「何か俺達の影がかすむよな」
* * *
- 494 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:38:30 ID:F4YosrFc0
-
VIPシティの中央に位置する大五郎酒造本社。その裏手には、大五郎持ちの広場がある。
この広場は休日になると市民に開放され、公共の運動場として活用されているが、その実体は大五郎の私兵団の訓練場だ。
憲兵としての見回りの他に、私兵たちはこの訓練場で日々技を磨いている。
そしてこの日、その中心には人の輪が出来ていた。
輪を作るのは大五郎の私兵たち。
訓練でかいた汗をタオルで拭いながら輪の中央を眺めていた。
人の壁によって作られたリングの中にいるのは、まだ若い兵士と、大五郎社長シブザワ本人。
兵士のほうは殺傷力を殺すため布が巻かれた手斧を。
シブザワは右手に訓練用の木剣を持っている。
二人を囲むギャラリーからは「殺せ」「死ね」「給料上げろ」「トソンちゃんを嫁に寄越せ」等の罵詈雑言が飛び交っていた。
_、_
( ,_ノ` )y 「どうした?こねえのか」
ノノヒ`旦´) 「でえええい」
兵士が斧を振り上げシブザワに切りかかる。
しかし、シブザワは軽くこれを回避。
相手を見失った兵士の背後に回り、がら空きの背中を木剣でチョンチョンと小突いた。
兵士は慌てて振り返ってシブザワを確認し、がっくりと肩を落とす。
_、_
( ,_ノ` )y「てんでなってねえ。次はどいつだ?」
( #0言0)「俺だ!日ごろの鬱憤ブチかましてやらあああああああ!」
- 495 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:39:20 ID:F4YosrFc0
-
ギャラリーから急に飛び出したのは、憲兵隊で分隊長を任されている猛者だった。
最近流れの傭兵にあっさりと負けたことこそあったが、決してただの雑魚ではない。
先の兵士と同じく布を巻いた斧を振りかぶり突進。
シブザワの肩を砕くように斧を打ち下ろした。
シブザワはこれに自ら飛び込み、紙一重を見切ってかわす。
同時に斧を持つ手首とわき腹をすり抜けながら華麗に打った。
ギャラリーから「一本!」と声が上がる。
_、_
( ,_ノ` )y 「次!こんなんじゃ俺の肩こりが取れねーぞ!」
あからさまな挑発に兵士達はヒートアップ。
そして仲間に揉まれる様にして一人の男がシブザワの前に送り出される。
(;-_-) 「ちょっと、俺はこういうの苦手なんだって……」
男の中はヒッキー。若くして憲兵隊の小隊長を任されるようになったホープである。
本人は乗り気でないようだがいずれは私兵団の中枢を担うことになるやも知れない、優秀な人物。
_、_
( ,_ノ` )y 「誰かコイツに武器を貸してやれ」
シブザワの眼が変わる。
その顔から一切の油断が消え、猛獣の如き気配を纏った。
対するヒッキーは投げつけられた剣を拾い、右手で前に突き出す構え。
空いている左手は握って腰の裏に折りたたむ。
- 496 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:40:17 ID:F4YosrFc0
-
誰かが兜を叩き、ゴングを鳴らした。
先に動いたのはシブザワ。小さな予備動作で剣を振りかぶり、横なぎに胴を狙う。
対するヒッキーはやや下がりながらそれを剣先で上に逸らす。
剣の軌道が上へ跳ねたところで剣を素早く引き、重心を下へ、刺突の姿勢。
しかし、その目の前にはシブザワの左手の人差し指が。
嫌な気配を感じ、反射的に突くのをやめ体勢が崩れるのも構わず横に飛びのいた。
次の瞬間。シブザワの指先から火の粉が飛び出し、地面に落ちて爆発した。
少々土がえぐれ、土がうっすら焦げている。
(;-_-) 「社長に言いたかないけどあんたバカか!訓練でこんな魔法つかうなんッ?!」
抗議の声を上げるヒッキーへさらにもう一発の火の粉。
先ほどと同程度の爆発が襲うが、これも難なく回避する。
_、_
( ,_ノ` )y 「なに言ってんだ。最初から実践訓練だって言っといたろ。魔法使って何が悪いんだよ」
(;-_-) 「……」
_、_
( ,_ノ` )y 「安心しろ。威力は最低だ。派手だが、死にはしない」
「卑怯者ー!」「死ねー!」「さっさと引退しろー!」「ミセリちゃんの耳たぶを噛ませろ!」等の罵詈雑言が再び耳を叩く。
シブザワは左手の指先を騒音の方向へ向け、火の粉を数発ばら撒いた。
悲鳴と共に観客の輪が少々歪む。
- 497 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:41:19 ID:F4YosrFc0
-
(;-_-) 「まともな人間いないのかここは!」
ギャラリーに意識が向いていたシブザワへヒッキーが間合いを詰める。
シブザワが咄嗟に指先を向け、魔法を放った。
これを読んでいたヒッキーは身を捻り魔法を回避。
そのまま踏み込み突きでシブザワの咽を狙う。
_、_
( ,_ノ` )y 「おっと」
斜めに身を引き、仰け反ってこの突きをかわす。
ヒッキーの剣は伸びきった状態からシブザワを追撃。
腕を鞭のようにしならせ横なぎにする。
木剣同士がかち合い、硬い音が響いた。
斬撃を受け止めたシブザワは、真っ向からヒッキーの剣を弾く。
ヒッキーは無理にその場で堪えようとせず、自分ごと後退。
シブザワはそこへ火の粉の魔法を三発、射線をやや散らせて撃った。
(;-_-) 「ぬわ!」
みっとも無く跳躍し、ヒッキーはこれを回避。
しかしシブザワは魔法を放つ手を止めず、次々と火の粉を撃ち出して行く。
- 498 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:42:00 ID:F4YosrFc0
- _、_
( ,_ノ` )y= 「ほーれ、当たっても労災は出ないぞー」
(;-_-) 「むっちゃくちゃだこのおっさん!!!」
ヒッキーは何とか体勢を立て直し、丸いリングに沿うように全力疾走。
僅かに遅れてヒッキーの背後を通りすぎる火の魔法がギャラリーの兵士を次々と焦がしていく。
正に阿鼻叫喚。笑いと悲鳴と怒号が激しく沸き起こる。
シブザワが使っているのは、火の魔法の中でもごくごく初歩の、精々マッチ程度の効果しかない魔法だ。
それを「火の魔法を強化する魔法」によって強化し、「魔法式を保存する魔法」によって連発を可能にしている。
(※通常、魔法式は魔法が発動した時点で瓦解するため、継続はともかく連発は出来ない)
後者の魔法式を保存する魔法はシブザワのオリジナルで、一部の魔道具を除いて同じことを出来る魔法使いはいない。
「もう全員でやっちまえ!!」「死ね!」「遺産寄越せ!」「シブザワさんにぶちのめされたい!」
シブザワの暴挙に堪忍袋の緒が切れた兵士達が雄たけびを上げ一斉に襲い掛かった。
その数、少なく見積もっても30は下らない。
愉快そうな笑顔を浮かべたシブザワは、左手の魔法に保存していた追加の魔法式を加え火力を増強する。
_、_
( ,_ノ` )y 「上等だ!全員根性叩きなおしてやらぁ!!」
- 499 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:43:16 ID:F4YosrFc0
-
上がる火柱と悲鳴。
何かの焦げる臭いが訓練場に満ちていく。
騒動の最中、渦中から抜け出したヒッキーは呆れながらその光景を眺める。
シブザワは確かに強かった。
ここにいる兵士はヒッキーを除き精々分隊長クラスではあるが、それでも圧倒的過ぎる。
武器も魔法も一切受けず、逆に的確な反撃を叩き込んでいく姿は、一企業の社長といわれても説得力が無い。
段々、大人が子供をあしらっているようにすら見えてきた。
(゚、゚トソン 「社長はまたやっているのですか」
いつの間にか隣に立っていた受付譲が腰に手を当てため息を吐いた。
トソン=トソン、二人いる受付譲の片割れで、内外から人気の高い美女である。
(-_-) 「またですよ。ちょっとストレス溜まる度にぶっ飛ばされてたら兵士いなくなりますって」
(゚、゚トソン 「ここにいる馬鹿共は殺しても死にませんし、いい訓練になるでしょう」
(-_-) 「いい訓練、ねぇ」
シブザワの周囲には、失神した兵士達が積み重なっている。
訓練は訓練でも、精々死なずに負ける訓練くらいにしかなっていない気がするが。
- 500 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:44:45 ID:F4YosrFc0
-
(-_-) 「もしかして来客ですか?」
(゚、゚トソン 「ええ。待っていただいてますし、早めに終わっていただきましょう」
(-_-) 「とは言え、全員ぶちのめすのにはもう少し……」
(゚、゚トソン 「“ゆらり揺らめきふらつき焼きつき燃え尽き月撞き笑う夜”」
(;-_-) 「って、え?」
(゚、゚トソン 「“覇気撒き邪気裂き火気吐いて、アチチチアーチチ―――アーチフレイム”」
トソンの目の前に浮かび上がる、赤い魔方陣。
それがぐねりと歪み、弓の形へと変形した。
白いトソンの手が紅蓮のそれを取ると、自動でそこに同色の矢が装填される。
(;-_-) 「何を……ッ?!」
(゚、゚トソン 「急ぎですので、古風に矢文を」
(;-_-) 「それなんか違」
ヒッキーの言葉を無視し、トソンは弦を引いて、矢を放った。
- 501 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:45:27 ID:F4YosrFc0
-
紅の矢が弦を離れると同時、瞬きする間も無く弓が矢に吸収され、矢の輝きが一層増した。
矢は赤い軌跡を残し音の速さでシブザワ達を強襲。
寸前で反応したシブザワが放った魔法と、空中でぶつかり合う。
膨大な熱エネルギーが魔法同士の接触点を中心に拡散。
気絶していた兵士たちの体が枯葉の如く舞い上がり、吹き飛んだ。
ヒッキーも飛んでくる焦土や熱風から身体を守るため腕を盾にする。
_、_
( ,_ノ` )y-~ 「どうした?客か?」
熱風が収まると、シブザワが何事も無かったような顔で兵士を一人担いで歩み寄ってきた。
途中でその兵士を放り投げ、懐から取り出したタバコに魔法で火をつける。
(゚、゚トソン 「はい。甥っ子のお二人がいらっしゃってます」
_、_
( ,_ノ` )y-~ 「アニジャとオトジャか?珍しいな」
(゚、゚トソン 「二人ともお待ちです。お急ぎになりますよう」
_、_
( ,_ノ` )y-~ 「ああ。お前ら訓練所ちゃんと整備しておけよ」
(゚、゚トソン 「それと、例の件ですがそろそろ……」
なにやら小難しい話をしながらシブザワはトソンと共に訓練場を去ってゆく。
残されたのは抉れた地面と兵士達の死屍累々。
「俺達は本当に戦力として必要なのか?」という彼らの疑問に答えるものは、誰もいなかった。
* * *
- 502 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:46:22 ID:F4YosrFc0
-
(;'A`) 「さて、じゃあ魔法式は後にして、魔道具についてちょっと話そうか」
魔道具とはその名の通り魔法の効力を持つ道具のことだ。
霊石「タリズマン」を用いて作るため一般にタリズマンと呼ぶことも多い。
('A`) 「タリズマンの中でも最もオーソドックスなのは、月のタリズマンだな」
月のタリズマン。主に魔法使いに好まれる、魔力を一時的に備蓄できる魔道具だ。
質のいいものであれば並みの人間数人分の魔力を溜め込めるため、
常に魔力の枯渇に怯えている魔法使いにとってはこれ以上無い味方となる。
('A`) 「他には、魔法そのものを保存できる星のタリズマン」
ツンのブーツなどがこれにあたる。
展開した魔法と、その発動に必要な魔力を込めておけばいつでも使えるというものだ。
使えばその分消費してしまうが、使う時点で展開を必要としないため瞬発力が高い。
タリズマンごとに容量や属性が異なるためどんなものでも可能というわけでは無い、というのも特徴の一つ。
ツンのように剣も魔法も使うものに好まれる傾向にある。
从'ー'从 「盗んだ箒で飛びだしたい」
ξ゚⊿゚)ξ 「ドッグ、ナベちゃんが非行に走りそう」
(;'A`) 「飛行だけにってか!?あと二つ、あと二つやったら実践に移るから!」
- 503 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:47:10 ID:F4YosrFc0
-
(;'A`) 「えっと次は大地のタリズマンだな」
大地のタリズマンは魔力を貯蓄する能力は低いが、その代わりに高い魔法式の保存能力を持つ
一度魔法式を記憶させれば、適合する魔力を注ぐだけで魔法が発動するという優れものだ。
保存できる魔法式には限度があるため、上級となると途中までしか保存できないが、それでも展開は大幅に短縮される。
('A`) 「この前サスガ兄弟が使っていたのもタイプとしては大地にあたる」
件の杖は複数のタリズマンが組み込まれ、あらゆる魔法の魔法式を途中まで保存している。
故に術者が行うべきは最終的な応用式以降の締めのみでいいため、展開の速さは倍以上のにもなるのだ。
('A`) 「んで、最も貴重とされる太陽のタリズマン。コイツは俺も現物を見たことがねえ」
太陽のタリズマンは自ら魔力を生み出し放出する唯一の無機物だ。
月の様に溜め込んだり、大地や星のように魔力を保存することは出来ないが、半永久的に魔力を生み出す。
故に、魔法式を記憶させた大地のタリズマンと組み合わせれば事実上無限に効果を発揮するという代物である。
('A`) 「ちなみに俺は月のタリズマンを持っている。これな」
ドクオはモゾモゾと胸元を弄りペンダントを取り出した。
皮の紐の先に括り付けられたそれは、掌に収まる程度の木片のような石。
タリズマンは、古代の霊木が朽ちずに化石になったものだ。
ドクオの持っているものは比較的無加工のタリズマンそのものの形状である。
(;'A`) 「魔道具は使い方を誤ると危険なのでその性質をしっかり覚えておくこと」
(;'A`) 「それじゃ、実践練習に出ようか。ナベちゃんが非行に飛び立つ前に」
* * *
- 504 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:47:52 ID:F4YosrFc0
-
実践練習を始めて数時間。
日が傾き、ハインリッヒも往診を終えて帰ってきた。
彼が目にしたのは、裏の空き地で泥まみれになっているドクオ(と入れ替わったブーン)とツン。
そして狂ったように上空を箒で旋回するワタナベの姿だった。
从#゚∀从 「お前ら。俺は安静にしてろって言ったはずだが?」
( ;^ω^)「……あれ?ドーッグ!何でお前引っ込んでんだお!」
从#゚∀从 「そんな泥だらけ傷だらけになって何してたんだ?え?」
( ;^ω^)「はいツンさん!ちゃんと言い訳して!リッヒ先生に申し開きして!」
_,
ξ゚ ‐゚)ξ「だって、ドクオが展開が雑とかイメージが未熟とか口うるさく言うからついカッとなって……」
从#゚∀从 「要は喧嘩だな。よし、ツン、ブーンそこに座れ」
( ;^ω^)「ドーッグ!!ふざくんなドーーーーーーック」
その後、ワタナベも地上に合流し、各自の傷の治療が開始された。
新しい傷は精々擦り傷だけだったが、ツンとブーンはまだ治りきっていない傷がごまんとある。
どちらかといえばその傷の治療がメインで、夕暮れの農地に二人の悲鳴がこだました。
ξ ⊿ )ξ「うぎぎ……」
( ω )「おのれ……ドッグ……分離したら覚えてろお」
从;'ー'从 「はわわ〜いつ見てもハード〜」
- 505 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:48:43 ID:F4YosrFc0
-
从 ゚∀从 「さてと、飯の準備するが、ツンはどうする?」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん、この前がこの前だしなぁ……」
从*'ー'从「どうせなら泊まって行けばいいじゃないですか〜」
ワタナベは前日からハインリッヒの家に宿泊していた。
もともと知り合いだったこともあり抵抗は無いらしいとはいえ、ツンとしてはやっぱり少し心配。
故に一緒に泊まってもいいが、気になるのは着替えだ。
从 ゚∀从「なんだったらウチの患者用の服貸すぞ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがたいけど、そんなに泊めたいの?何を狙っているの?」
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ
从 ‐∀从 「ふっ」
ξ#゚⊿゚)ξ「今どこ見て笑った貴様」
結局ワタナベの熱望もありツンもお邪魔することにした。
とは言え先日から患者として病室に入れられているので、あまり特別な感覚は無い。
- 506 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:49:40 ID:F4YosrFc0
-
ハインリッヒとワタナベが台所に立ち夕飯を待つ間、ツンはシャワーを借りて汗と汚れを流した。
今日出来たばかりの擦り傷に水が沁みる。
ハインリッヒは必要以上に治療魔法を施すことを嫌うところがあり、小さな傷は消毒と止血までしかされていない
体の、特に手足のあちこちが痛むが文句を言わず我慢した。
中身を治療されるときの痛みに比べれば、はるかにマシである。
ξ゚⊿゚)ξ「あら、タカラ起きてたんだ」
( ,,^Д^) 「おにゃーさんたちが裏で魔法ぶちかましてた時にはもう起きてたにゃ」
シャワーを終え、パジャマのような入院着に着替えてリビングに戻るとブーンの他にタカラがいた。
その首にはニョロが巻きつき眠っている
魔法を習う間、危ないので預かってもらっていたのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「体、大丈夫なの?」
( ,,^Д^) 「まーにゃ。コイツに妙に懐かれていること以外は何の問題も無いにゃ」
タカラが優しい手つきでニョロを解き、ツンに手渡す。
寝ぼけ眼のニョロは、袖から素早くツンの服の中にもぐりこみ首に巻きついて再び眠りだした。
くすぐったさに身を捩ると共に、ちょっとした違和感に気付く。
ニョロが、少し大きくなっている気がする。
- 507 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:50:35 ID:F4YosrFc0
-
嫌がるニョロを引っぺがし、両手で伸ばす。
やはり出会った頃よりも長く太くなっていた。
これまで気付かなかったのがおかしいほどの成長である。
ξ゚⊿゚)ξ「キメラだからかな…」
とりあえず適当に結論付けてニョロを首に巻きなおす。
蛇は本来変温動物で冷たいはずなのだが、ニョロは毛皮のせいかほんのりと暖かい。
ニョロがズレ落ちないのを確認して、ツンもテーブルに付いた。
( ,,>Д<) 「ニャックシッ」
( ^ω^)「お?風邪かお?」
( ,,^Д^) 「かもしれないにゃー」
ξ゚⊿゚)ξ「無理ないわよ、あんた昨日びしょびしょだったもん」
( ^ω^)「湖に入ったのかお?」
( ,,^Д^) 「うーん、なんか倒れる前の記憶がものすごくあやふやなんだにゃー」
そういいながらタカラは懐から取り出したハンカチで鼻をかむ。
控えめな音ではあったが、中々の鼻水が出たようだ。
- 508 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:51:27 ID:F4YosrFc0
-
ξ゚⊿゚)ξ「しっかしなんでぶっ倒れたのかしらね」
( ^ω^)「一応完治してたんだお?」
( ,,^Д^) 「そのはずだったんだけどにゃー」
タカラが頭をポリポリと掻いた。
どこか普段よりも呆けて見えるのは気のせいだろうか。
いや、鼻から鼻水垂れてるから気のせいではないのだろうけれど。
あーだこーだと話していると、台所から油が弾ける音が聞こえた。
少し時間を置いて野菜、恐らく玉葱を炒める匂い。
香ばしくてほんのり甘い。嗅いでいるだけで口の中がじんわりと湿り気を増す。
ツンが軽く唾を飲み込むと、ブーン腹が妙にでかい音を立てた。
自然に視線がそちらへ。
ブーンはやや恥ずかしそうに頭を掻く。
ξ゚⊿゚)ξ「あんた今日は何もしてないじゃない」
( ^ω^)「おーん、ドッグが見境無しに魔法使うと僕がおなか減るんだお……」
魔力の消費はそのまま体力の消費にも繋がるため、食事量は自然と多くなる。
ドクオは体質なのかなんなのかあまり物を食べないが、そこのバランスをブーンが上手く保っているのかもしれない。
まあ、単にドッグと融合しているからブーンが大飯食らいという訳でもないのだろうが。
- 509 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:52:35 ID:F4YosrFc0
-
从 ゚∀从 「出来たぞー」
三人で夕食への期待を膨らませているとハインリッヒとワタナベがそれぞれ一つずつ皿を持ってやってきた
相変わらずの大きな皿、そしてそこに盛り付けられた黄色い……
ξ゚⊿゚)ξ「……なにこれ。枕?」
( ,,^Д^) 「」
(*^ω^)=3
从 ゚∀从 「見て分らないか?オムライスだよ」
香りを抱いて立ち上る湯気。
半熟のオムレツはトロリと黄身を滴らせ、室内灯の明かりを優しく反射している。
そして、山を思わせるそのサイズ。
見ているだけで涎が溢れる程美味そうではあるが、見ているだけで腹が膨れそうだ。
大きさが横30cm超、縦20cm超の巨大な半球型。しかも二つ。
そこへ、ワタナベがさらに両手鍋を一つ持ってきた。
鍋敷きをテーブルの真ん中に引き、その上に鍋を置く。
中身は湯気立てる、粘度を持った焦げ色の液体。
杓子でかき混ぜると、絡み合う野菜とビーフの奥深い香りがふわりと鼻を襲った。
从 ゚∀从 「今日最後に回った家でもらってきたビーフシチューだ。それしかないから仲良くな」
取り分けたとろとろ卵のオムライスに、ビーフシチューを優しく回しかける。
ブーンの目は既に獣のそれと同じになっていた。
- 510 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:53:19 ID:F4YosrFc0
-
从*'ー'从 「それじゃ、いっただっきま〜す」
スプーンの先端でオムライスをよそい、シチューのルゥを絡めて口に運ぶ。
招き入れた瞬間に舌先を蕩けさせる優しい甘み。
租借し、混ぜ合わせ、咽の奥へ。
野菜と肉の旨みが染み出したスープをが程よく引き立てるスパイスの按配が絶妙だ。
じっくり煮込んだからこその、舌根を撫でるほんのりと苦い後味が癖になる。
そして重要なのは、ビーフシチューの邪魔せず自身の旨みを活かすオムライスの存在だ。
単品であれば少々物足りなかったであろうケチャップライスは、程よい酸味を湛え、シチューに新しい味の展開を与える。
半熟の卵による旨みを損なわないまろやかさが全てを包括し、口の中に余分な雑味を目立たせない。
美味い。
一口目を飲み下して、自然に口角が上がった。
以前にVIPシティで食べたオムライスの数倍美味しい。
(*゚゚ω゚゚)「フガッフグモッグムム!」
ブーンは片方の大皿を一人で抱え込みオムライスを食べていた。
辛うじてスプーンを使っているが、直接顔を突っ込み始めそうな勢いだ。
从*'ー'从 「相変わらずリッヒ先生のごはんおいしー」
从 ゚∀从 「リッヒッヒ、シチューを作ったばあさんに感謝しな」
- 511 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:54:13 ID:F4YosrFc0
-
( ,,^Д^) 「そういえばにゃー、リッヒは近くに親戚とかいるのかにゃ?」
オムライスを半分ほど食べ勧めた頃、タカラが思い出したようにハインリッヒに尋ねた。
ハインリッヒは口に残っていたライスを特に焦った様子も無く飲み下す。
从 ゚∀从「いんや。ここらへんに親戚はいないが」
( ,,^Д^) 「そうかにゃ。いや、独り身の割りに大きなテーブルだからちょっと気になってにゃ」
从 ゚∀从「……」
ξ゚⊿゚)ξ「そういえば、病室以外の部屋も多いわよね」
( ^ω^)): 「はふぃふぁに、ひゃふみゃにひへはほほいほ(確かに、客間にしては多いお)」
从 ゚∀从「んー」
ハインリッヒがスプーンを置いて頭を掻いた。
何か答えにくいことがあるのか、少々悩んでいるようでもある。
それを見かねたワタナベが、横から口を挟んだ。
从'ー'从 「昔は他の家族が住んでた家に引っ越してきたんですよね〜」
从 ゚∀从「ああ、まあそんなとこだな」
- 512 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:55:02 ID:F4YosrFc0
-
ひとまず納得して食事に戻ったが、まだ腑に落ちない部分がある。
元々済んでいた家族というのも医者か治療魔法使いだったのだろうか。
引っ越してきてから治療室や病室を改修したにしては年代の差が感じられないし間取りも自然だ。
とりあえず本人が踏み込まれたくない気配を露骨に出しているので聞きはしない
もしかしたら、単に奥さんに逃げられた、とかかもしれないし。
食事を終え、タカラとハインリッヒで食器を片付ける。
ツンは貰った餌をニョロに与えていた。
(*^ω^)=3 「いいもんくったお〜うまかったお〜」
从'ー'从 「ツンさんは明日はお仕事なんですか〜?」
ξ゚⊿゚)ξ「んーん、私もタカラも明日もお休みもらってる」
( ^ω^)「働かなくていいのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「私もそう思ったんだけど、そもそも仕事が無いって言われたらねえ」
現在大五郎サロン支店は品台代わりのテーブルと売り子(ジョーンズ)用の椅子が一つ置いてあるだけだ。
そこで肴用に入荷したナッツやドライフルーツを細々と販売している。
酒を売っているわけではないので襲われる心配が少なく、他の傭兵もほとんどをVIPや別の街に送ってしまったらしい。
ツン達がここに残っているのは怪我のことを聞いたジョーンズが配慮してくれたお陰である。
- 513 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:55:58 ID:F4YosrFc0
-
ξ゚⊿゚)ξ「ただ、明後日にはまたVIPから商品が来るから、それまでは出れるようになっておいてって」
店舗も無いのにどうするのか、と思わなくも無いが何かしらの考えがあるのだろう。
ツンたちの仕事は途中まで馬車を迎えに出ての護衛だ。
サロン支店への妨害は激しいらしく、VIPと連絡を取り合うのも困難な現状。
明後日の入荷も激しい妨害が予想される、とのこと。
( ^ω^)「やっと大五郎の傭兵らしい仕事が出来るおね」
ξ゚⊿゚)ξ「ま、別に大五郎で働くのが本懐ではないんだけどね」
ツンの目的は、両親を殺した襲撃者を見つけ出し敵を討つこと。
大五郎に属したのは少しでも情報を仕入れやすい場所にいたかったから。
現に、ジョーンズには敵対襲撃者の情報を見せてもらえるように頼んである。
もう何年も前のことのため生きているかすらもわからないが調べないことには始まらない。
ξ゚⊿゚)ξ「明日何も無ければ、身体も十分元に戻りそうだし、バリバリやるわよ」
ツンは自分の手首をくりくりと回す。
ハインリッヒの治療は凶悪ではあるが優秀で、もうほとんど痛みは無い。
肉そのものを再生しているブーンはまだ少々かかりそうだが、ツンはほぼ全快しているのと同じだ。
ハインリッヒに言わせればこの治療の為にツンの寿命が数年は縮んだらしいのだけれど。
( ^ω^)「何も無いといいおね」
ξ゚⊿゚)ξ「無いでしょ、もうコリゴリよ。化け物見たいな奴らと戦うのは」
* * *
- 514 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:56:40 ID:F4YosrFc0
- _
( ゚∀゚) 「と、言うわけで。『犬』の抹殺を頼みたいんだが、できるか」
o川*゚ー゚)o 「えー?」
サロンの中心街に白髪の多い初老の男が経営する小さな料理屋がある。
裏路地にひっそりと佇むように営業しているため客足は少ないが味は一級品。
静かな雰囲気も相まって、ジョルジュはこの店が気に入っていた。
トーストにベーコンとマッシュポテト、チーズにレタスを挟んだサンドイッチを租借。
シンプルな料理であるからこそ、素材そのものの美味さが引き立つ。
客の少なさに対しメニューの多い店ではあるが、ジョルジュの定番はこのトーストサンドだ。
o川*゚ 3゚)o 「なんていうかー、私が直接干渉するのやだなー」
_
( ゚∀゚) 「……」
o川*゚ー゚)o 「んー、まあいっか☆好きに殺っていいんだよね?」
_
( ゚∀゚) 「街への被害は控えてくれ。それだけだ」
o川*゚ー゚)o 「うんとねー、それは多分ダイジョブ☆」
ニコニコと上機嫌に目の前の女はオレンジジュースを啜る。
女というにはあまりに幼い容貌ではあるが、中身はジョルジュよりもはるかに年上の化け物である。
- 515 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:57:40 ID:F4YosrFc0
-
魔女。
そう呼ばれ出す以前の名もあったはずだが、ジョルジュは記憶していない。
今まで頑なに姿を見せなかったのだが今日になって急に不可視化解いてジョルジュの前に現れた。
想像していた容姿とあまりにも違ったため最初は面食らったが、口調その他の要素で本物と判断している。
_
( ゚∀゚) 「報酬は?あんたにまともに依頼するのはこれが初めてだ。何が要る?」
o川*゚ー゚)o 「んー、多分ジョルたんには無理かなー☆だから要らない☆」
気まぐれな魔女が何故自分達に協力してくれているのか、ジョルジュは知らない。
一度尋ねた時には「気に入ったから」とだけ答えられた。
ある意味魔女らしいといえばそうなのだが、故に不安の種でもある。
同じような気まぐれで「気に入らない」とされたときに、禁酒委に対してどんな影響を及ぼすか、それを危惧しているのだ。
_
( ゚∀゚) 「そうも行かん。一対一の人間として俺には報酬を支払う義務がある」
o川*゚ー゚)o 「ふふ、さっすがジョルたん。私を対等な人間としてみてくれる人なんて、最近中々いないよ」
内心では化け物と称していることは秘密である。
秘密にしたところでバレていない確証は無いが。
o川*゚ー゚)o 「うんとねー。私が欲しいのはねー」
魔女がグラスを取って一回し。
大きめに砕かれた氷が、冷たく透き通った音色を響かせる。
o川*゚ー゚)o 「私を殺してくれる人」
- 516 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:58:58 ID:F4YosrFc0
-
ジョルジュは反射的に目をそらした。
魔女の目は光を一切反射しない暗さを見せ、そのままでは魅入られてしまうような恐怖があったのだ。
自然に背中に汗を流す。
砕けた口調のせいで失念しかけるが、目の前にいる女はウィンクの気軽さで人を殺せる存在なのだ。
o川*゚ー゚)o 「ね☆無理でしょ☆」
一転、淀みの無い満面の笑み。
周囲には世の暗さもまだ知らない年頃の少女に見えるだろう。
それでもジョルジュの背筋を流れる汗が引くことは無かったが。
_
( ゚∀゚) 「……わかった。一応なにか考えておいてくれ。俺に準備できるものならば、善処しよう」
o川*゚ー゚)o 「ふふっ、ジョルたんたら真面目〜」
_
( ゚∀゚) 「決行はいつにするつもりだ?我々もある程度の補助はするつもりだ」
ここで言う補助とは、人避けの類のことである。
禁酒委員会付きの軍が自ら直接戦闘に出ることはほとんど無い。
o川*゚ー゚)o 「そぅだなあー、あの子の調整ももう終わったし、明日!」
まるで遊ぶ日取りを決めるような安易さで魔女は笑う。
ジョルジュは自身の胃に一抹の不安を押し込めて、冷めたトーストに噛み付いた。
- 517 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:00:13 ID:F4YosrFc0
-
今日はここまで。補完回としての役割が強い回ですた
支援や乙や絵には毎度気力いただいてます。ありがとね
特に他スレで見かけると不意打ちな分吐くくらいは喜びます。嘘ですちょっとえづくくらいです
次回は多分戦います。書くのが楽しみです。
投下は上手く時間が取れれば来週頭
下手を打てばまた一週間前後くらいかかるかな、というところ
- 518 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:10:02 ID:glcjGc420
- 乙
枕と見間違えるオムライス食いてえ…
- 519 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:23:44 ID:ZJ/oW2hU0
- 乙!
俺の妹者になんてことを…
魔女許さん
- 520 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:28:37 ID:tioCmXMA0
- 乙
凄え……魔法の仕組み細けえ……
そしてえげつねえな魔女
- 521 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:35:58 ID:HaJDNwssO
- 乙
トソンって誰だっけと思ったら前に受け付け嬢として出てたんだな
- 522 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 23:18:39 ID:2A1qzO/Q0
- おつ
魔女くらいになるとすべての適性がAとかになるんかな?
質問なんだけど魔法の属性っていくつあるの?ネタバレになるなら答えなくていいわ
- 523 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 23:28:18 ID:T44JhI6w0
- 乙!
トソンの詠唱お洒落やな……
何度でも口ずさみたくなる
- 524 :名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 23:28:55 ID:9aoiE8og0
- おつ
腹減ったぜ…
- 525 :名も無きAAのようです:2012/10/21(日) 03:34:08 ID:8S3UjLc6O
- なんて時間に見ちまったんだ…
ちょっとペヤング作ってくる
乙乙
- 526 :名も無きAAのようです:2012/10/21(日) 18:10:20 ID:oiEuSnz20
- おつ
魔女に勝てる気がしねえwww
- 527 :名も無きAAのようです:2012/10/21(日) 18:37:58 ID:OD8Gv3k.0
- >>522
魔法の属性は大きく分けて“火、水、風、地、雷、冷”の6つですね
場合(学派)によってはここに“雷”や“冷”を他の属性に含め、代わりに治療魔法などの“生”を含める場合があります
※“生”属性が長らく魔法とは別の物と考えられていたため。故に正確には7属性というのが近年の主流になりつつある
なお、ごちゃーっと書いてはいますが魔法使い達がとんでもねえことをやっているって点を何となく感じてもらえれば
「魔法っていろいろできるんだー。すげー」くらいの認識でまったく問題ないです
- 528 :名も無きAAのようです:2012/10/21(日) 23:17:47 ID:Ld36MCGk0
- ほうほうなるほど、属性考えながらもう一回読み返してみるか
- 529 :名も無きAAのようです:2012/10/22(月) 00:18:05 ID:MaWhOHms0
- キャラの掛け合いとかおいしそうなご飯とか丁寧な戦闘描写とか大好きです
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_286.jpg
上から時計回りに魔女、ハイン、タカラ、ドクオ、ブーン、ダイオード、ジョルジュ、真ん中ツン
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_287.jpg
ワタナベさん
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_288.jpg
個人的に結構好きなキャラのイトールパン屋夫婦
タカラの髪をAAのイメージから青っぽくしたはいいものの
この世界に奇抜な髪色の人はいないような気がします
このキャラのイメージが違うというのがあれば言って下さい
- 530 :名も無きAAのようです:2012/10/22(月) 00:20:31 ID:tN0s/yaU0
- やだ素敵
- 531 :名も無きAAのようです:2012/10/22(月) 01:14:27 ID:15NbT70k0
- >>529
わお。ステキです
ワタナベさんとイトー夫妻は割と活躍する気がしなくも無いような予定があるので、嬉しいですね
なんていうんでしょう。髪色は確かに地味色で考えてはいますが、絵として描かれている分にはあまり気にならないんですよね
設定とは別にイメージの色がついてもなんら構わないので
そういった意味ではタカラの水色はなんら問題ないと断言できます
(AAに髪の無いキャラはあんまり髪型とか考えていない、という理由もあるけれど)
- 532 :名も無きAAのようです:2012/10/22(月) 22:34:26 ID:lnUhnuRUO
- 改めて乙
- 533 : ◆x5CUS.ihMk:2012/10/24(水) 22:44:05 ID:uf1.fQDg0
- 投下準備中 2300〜開始予定
- 534 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 22:47:11 ID:0I5Awels0
- きたあああああ!!!
待ってます
- 535 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:02:50 ID:uf1.fQDg0
-
そこは暗くて寒くて、寂しかった。
息をすることも出来ずただじっと目を瞑っている。
ぼんやりとした明かり。
油のように粘り着くヘドロに抱かれ眠っている。
そこは暗くて寒くて、寂しかった。
温度を感じるのは自分だけで、それが怖くてずっと目を閉じている。
じっとりとした闇。
鉛のように重い水が、身体をゆっくりと押しつぶす。
そこは暗くて寒くて、ただひたすらに寂しさばかりがあった。
* * *
- 536 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:03:32 ID:uf1.fQDg0
-
从'ー'从「こっちですよ〜」
先を行く渡辺が手を振った。
箒を片手に女の子らしい、可愛らしい姿。
幼少から師の下で戦士としての修行をしながら育ってきたツンにとっては出来ない仕草である。
从'ー'从 「ここです〜」
ツンタカラブーンの三人はワタナベの案内でサロンにある刃物店を訪れていた。
ジョーンズが紹介してくれた店で、家庭向けの調理包丁から狩猟採集用のマチェットまで扱っている。
中々質の良い物が多く、ツンが振り回すに丁度いいナイフも複数あった。
( ,,^Д^) 「そのククリは嫌なのかにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「私、もうちょっと扱いやすいのが好きなのよね」
ツンの腰には、サスガ兄弟が残していったククリが差さっている。
適当な皮を鞘代わりにして護身用に持ってきたが、これが結構重い。
実際のリーチはそれほどではないものの、中ほどで曲がったその刃はそれなりに長いのだ。
破壊力と強度を増すために肉厚になっていることもあり、ツンの腕には少々余る。
ξ゚⊿゚)ξ「うーん、どれもいいなあ」
壁に金具で陳列されているナイフを一つ一つ眺める。
それぞれ固定されているため手にとることは出来ないが、質は良いように見えた。
問題は少々高めのお値段だが、それなりの予算はあるのでいけるはずだ。
- 537 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:04:29 ID:uf1.fQDg0
-
ツンがナイフ相手にうんうん唸っている間、タカラは狩猟用の弓矢を見回っていた。
静養している間、ちょっとしたリハビリで矢を何本か切り出していたのだが、気付いたら減っていたので工面しにきたのだ。
ついでに、予備の弦も見繕う。
明日の仕事に支障が出ないよう、二人とも準備を怠らない。
一方ブーンは。
〔´^ヮ^〕 「うーん、これだけの業物だと、ウチで打ち直すのはちょっと責任持てないねえ」
( ^ω^)「そうかお……ここらへんで他に鍛冶屋はいるかお?」
〔´^ヮ^〕 「言うのはなんだけれど、ここらの鍛治でウチの親父に適う奴はいないんじゃないかなあ」
( ^ω^)「おーん」
店番の青年に小太刀を見せ、修復の相談をしていた。
二刀には刃こぼれがいくつか目立ち、片方は遠目にも分るほど歪んでいる。
〔´^ヮ^〕 「ちょっと親父に見せてきてみるよ。よかったら、店にある物みててくれよな」
そういって青年は二刀を持ち裏へと引っ込んでいった。
手持ち無沙汰になったブーンはツンの隣に並び野外用の汎用ナイフを眺めだす。
ツンは数種類の中でも少々異彩を放っていた比較的刃渡りの長いクリップポイント型のナイフに注目した。
鋭い反りの刃先と、背から切っ先にかけてやや抉れるようにして逃げがあるのが特徴。
以前使っていたのと同じタイプで、切ったり突いたりするのに向いている。
ナイフは刃先からしのぎに架けての仕上げにもムラが無く、丁寧な仕事が成されているのが分った。
- 538 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:05:48 ID:uf1.fQDg0
-
ξ゚⊿゚)ξ「これ、どうかしら」
( ^ω^)「お?」
隣で山刀を見ていたブーンに目利きを頼む。
ブーンはナイフに鼻先を近づけ品定めを始めた。
最後に刃先を爪に軽く食い込ませ、顔を離す。
( ^ω^)「いいと思うお。造りも確りしてるし、切れ味も上々。少なくとも、値段はぼったくりではないおね」
ξ゚⊿゚)ξ「そっか。これ手にとって見られないのかな」
ツンがカウンターを見たところで、先ほどの青年ともう一人頑固そうな初老の男が現われた。
この男が青年の言っていた親父だろうか。額に巻かれた手ぬぐいがとても職人らしい。
親父のほうがブーンを手招きすると、青年がツンへ近づいてきた。
〔´^ヮ^〕「決まりました?」
ξ゚⊿゚)ξ「これ、手にとってもいいですか?」
〔´^ヮ^〕「お、意外と目利きですね。構いませんよ」
やや余計なことを口走り、青年はナイフを固定していた金具を外した。
手渡されたそれは間近で見てもやはり質がいい。
握りの具合が手に馴染まないことを除けば、文句なしの一品だ。
- 539 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:06:49 ID:uf1.fQDg0
-
〔´^ヮ^〕「サービスでグリップの調整もしますよ」
この言葉も後押しになりツンは財布を開いた。
料金を支払い、青年はカウンターで道具を取り出しグリップの調整に入る。
何度かツンの手を取って見比べると、「少し待ってくださいね」と言って作業を始めた。
( ^ω^)「買ったのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。そっちは?」
( ^ω^)「歪みの修正と研ぎなら明日までに使えるようにしてくれるって」
ξ゚⊿゚)ξ「明日?随分早いのね」
( ^ω^)「代用にマチェットを買って、修繕費もちょっと盛るって条件で引き受けてもらったお」
ξ゚⊿゚)ξ「金の力ってすごいわ」
ブーンはあっさりと山刀を選び精算を済ませた。
刃渡りが長く、幅が比較的狭い直刀に近いものだ。
特に握りを調整してもらうことも無く、鞘に収め腰の後ろにベルトで固定した。
ξ゚⊿゚)ξ「一つでいいの?」
( ^ω^)「どうせ予備だお。余らせても作った人に申し訳ないし、一刀で十分だお」
- 540 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:09:04 ID:uf1.fQDg0
-
〔´^ヮ^〕「ありがとうございやしたー」
タカラも矢を数本と鏃を幾つか購入。
ナイフのグリップの仕上げも終わり三人は店を出た。
ξ゚⊿゚)ξ「ナベちゃん、何してるの?」
从'ー'从 「この熊手、乗りやすそう……軽いし、造りもしっかりしてる……」
ξ゚⊿゚)ξ「はーい、いくよー」
店先に立てかけられた熊手を真剣な目で品定めしていたワタナベを保護し、一向は次の目的地へ。
中心街に軒を構える老舗の靴屋で、こちらはハインリッヒに紹介してもらった。
先日の戦闘で削られたツンのブーツの修繕または買い替えが目的だ。
( ^ω^)「ブーツ自体を買い換えても魔道具としては使えるのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。タリズマンを仕込みなおせば、靴自体は割りと何でも」
全体的に痛んできていたこともあり、思い切って買い換えることに決定した。
いっそ奮発してオーダーメイドでも良かったのだが、仕事が近いこともあって既製品を購入。
つま先と踵に保護用の鉛を仕込むよう依頼し、一旦は店を出る。
サイズ等の調整もあり、早くても午後になるそうだ。
- 541 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:09:55 ID:uf1.fQDg0
-
( ^ω^)「……?」
それを待つ間どこかで食事でもしようかと相談している最中に、ブーンが突然明後日の方向を向いた。
視線に釣られ三人も同じ方向を見る。
彼の目は、ここからは見ることの出来ないオーマ湖の方角を向いている。
从'ー'从「どうしたんですか〜」
( ^ω^)「……魔女の、気配がしたお」
ぼそりとした返答に、ツンは耳を疑った。
ツンには一切その気配は分らなかったが、やはり呪いを受けている立場だと違うのだろうか。
首元でぐっすり眠っていたニョロも目を覚まし、襟元から顔を出して周囲を見渡し始めた。
心なしか不安な表情。何か危険な存在がいるのは本当なのかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ「どうすんの?」
ブーン達が魔女を追っているのは重々承知だ。
しかし、今は体調も万全ではない上に、武器も一本のみ。
直接対峙したことが無くとも魔女がそんな半端な状態で相手できるほど甘くは無いことは予想がつく。
( ^ω^)「とりあえず、ここに来て初めての手がかりだし、行ってはみるお」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、じゃアタシもいくわ」
( ^ω^)「お?」
- 542 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:11:49 ID:uf1.fQDg0
-
ツンの言葉にブーンは面食らった顔をした。
何言ってんだコイツ、と言わんばかりである。
ξ゚⊿゚)ξ「いざとなったら援護も出来るし、ブーツ使って逃げられるし」
从'ー'从「そ、それなら〜私もいきます〜」
( ^ω^)「……」
从'ー'从「私、これでも飛ぶのは誰にも負けたこと無いんですよ〜」
逃げる前提ではあるが、ブーン一人よりも複数人の方がマシだろう。
他人のこととはいえ、「勝手にやってろ」で放り出せるほど浅い付き合いでもない。
何より、ツンはこういうときに首を突っ込まずにはいられない性分なのだ。
それにツンとワタナベがいればブーンも下手な無茶はすまい。
あえて足手まといになることで彼を制御しようという考えもあった。
足手まといになる前提なのが少々虚しくはあるが。
ξ゚⊿゚)ξ「タカラはどうする?」
ずっと黙っていたタカラに尋ねた。
彼は腕利きの弓使いではあるが、同時に家族を持つ父親でもある。
給料が貰えるならまだしもロクな見返りの望めない事案に自ら踏み込むかは分らない。
- 543 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:12:29 ID:uf1.fQDg0
-
( ,, Д ) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ「タカラ?」
( ^ω^)「!ツン、離れて!」
タカラの顔を覗き込もうとした瞬間、ブーンに襟首を掴まれ、後ろに引き戻された。
ブーンはツンを後ろに庇うと、ワタナベにも警戒を促し、腰の裏のマチェットに手を添える。
一体何が起こったのか分らないツンとワタナベは、戸惑う目でブーンとタカラを交互に見やった。
( ,, Д ) 「『ダメよー、ブーン。こんなところで剣なんか抜いたら騒ぎになっちゃう』」
( ^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ
タカラが突然オカマになった。
否、高い声色に女のような喋り方になった。
あまりにも違和感のある言葉に、ツンは寒気を覚えた。
タカラは虚ろな目でどこも見ておらず、操り人形のように無機質に口を動かす。
( ,, Д ) 「『久しぶりね、ブーン。とはいってもおじさん越しだけど』」
( ^ω^)「……タカラに何をしたんだお、キュート」
- 544 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:13:11 ID:uf1.fQDg0
-
ブーンは未だに山刀から手を離さない。
タカラがただ操られているのか、それとも入れ替わった何者なのかを判断しあぐねているようだ。
一応ツンもナイフに手を伸ばしたが、相手がタカラなので切りかかる気にはなれない。
( ,, Д ) 「『別に何もしてないよーん☆たまたま会ったから操られてもらってるだけ』」
( ^ω^)「……」
( ,, Д ) 「『だからぁ、このおじさんのこと切っても私はなんとも無いから好きにして良いよーん☆』」
小さな舌打ちの後、ブーンはやっと武器から手を離す。
彼も少しとは言え親交の出来たタカラに武器を突きつける気は無いらしい。
( ,, Д ) 「『さっすがブーン☆話が早いね☆』」
( ^ω^)「……なんの用だお」
( ,, Д ) 「『んー?ちょっとダチ公にブーンのこと〆て欲しいって言われてさー。ちょっと湖に来いやゴルァ的な?』」
( ^ω^)「……」
( ,, Д ) 「『ちなみに、来なかったらこの街の人たちがどうなっても知らないぞー!』」
ややイラッとした。
年端の行かない子供にからかわれているような不愉快さがある。
- 545 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:14:14 ID:uf1.fQDg0
-
( ^ω^)「わかった。湖に行けばいいんだおね」
( ,, Д ) 「『そうそう☆じゃ、ちゃんと言ったからねー☆バイバーイ☆』」
( ,, Д ) 「『なお、このメッセージが終了次第、このおじさんは爆発しない!☆』」
( ,,^Д^) 「……にゃ?どうしたんだにゃ皆。そんな顔して」
タカラの意識が元に戻った。居眠りから覚めたような顔で、どこかぼんやりしている。
本人に事情を説明すると、やはり自覚は無かったらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「あくまで正攻法で考えるなら、あの手の乗っ取りは直接本人に干渉しないと出来ないんだけど」
先日タカラが意識不明で倒れた原因が魔女にあるとすると納得がいく。
前後の記憶が無いのも、何らかの操作を受けたからと言う可能性がある。
ξ゚⊿゚)ξ「何か湖に仕込があるって考えるのが妥当よね」
( ^ω^)「だおね。君達はリッヒの家に……」
ξ゚⊿゚)ξ从'ー'从
( ^ω^)「って言ってもダメそうだおね。ついてきてもいいから、危なくなったらすぐ逃げるんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「「は〜い」」从'ー'从
* * *
- 546 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:15:20 ID:uf1.fQDg0
-
暗く淀んだ水の中にその人は立っていた。
あまりに小さくて少し口を開けば一飲みに出来てしまいそう。
手がそっと鼻を撫でる。
動きのない停止した水の中、むず痒いような心地よいような不思議な感触だった。
o川*゚ー゚)o 「調整は上手くいったみたいね」
その人の口が動いた。
水の中なのに透き通った声が鼓膜を揺らす。
優しい。
愛しい。
鼻を押し付ける。
小さな身体で優しく抱きしめてくれた。
o川*゚ー゚)o 「いい子」
鼻先から伝わる体温が、体の芯に優しい熱を点す。
鼓動がはっきりと聞こえ、ここが丸ごと母の胎内になったようだ。
寂しくない。あれほど逃げ出してしまいたかったのに、今はこんなにも。
o川*゚ー゚)o 「これから貴方のお兄ちゃんが来るわ」
- 547 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:15:44 ID:45FrKyYkO
- 早すぎワロタ
支援
- 548 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:16:47 ID:uf1.fQDg0
-
o川*゚ー゚)o 「今までお利口にしていた分、遊んでもらいなさい」
彼女が上を見上げる。
その目に溢れた何かに、心がざわついた。
憎いような。
悔しいような。
自然と上下の牙がこすれ合う意味不明の感情。
o川*゚ー゚)o 「来たみたいね」
上を見上げたまま彼女が言った。
確かに聞える、強い鼓動。
少し前にも感じた毛先の震える生命力。
未だ出会ったことのない、遊び相手。
o川*゚ー゚)o 「お行き。思いっ切り、じゃれ付いてきなさい」
尾びれを一振り。
生まれた激しい水流に乗って明るいほうへ。
初めて本気で使う自分の力は想っていたよりも強かった。
水面が割れる。
見上げた空はあまりにまぶしくて、呼吸することすら忘れていた。
* * *
- 549 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:18:00 ID:uf1.fQDg0
-
ξ゚⊿゚)ξ「なんか、すごい嫌な感じがする」
ツンが静かな湖にそう呟きを落とした瞬間にそれは現われた。
水しぶきを上げ空中に飛び出し、華麗に身を捻り再び水の中へ。
砂浜からははるかに遠い場所にも関わらず、はっきりと見て取れるほどの巨躯だった。
( ,,^Д^) 「そうだにゃ、俺はここでアイツを見て……」
タカラが素早く矢を取り、弓につがえる。
しかし、潜水されてしまい狙いが定まらない。
その間にも、現われたそれは、水中をこちらへ向かって来ていた。
穏やかだった湖面がにわかに乱れ、規則性の無い波がぶつかり合って飛沫を上げる。
ξ;゚⊿゚)ξ「魔女がいるんじゃなかったの?!」
( ;^ω^)「そういえば本人が相手にするとは一言も言ってなかったお!」
とりあえず危険な砂浜から避難。
湖畔に茂る防風林まで、転びそうな勢いで退避する。
一層高い水しぶき。
ついに浅瀬に乗り上げたそれは図太い前足をばたつかせ、一気に岸へと乗り上げた。
距離を取ったにも関わらず、湖の水が高波となって四人を濡らす。
- 550 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:19:00 ID:uf1.fQDg0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「で、でかい」
从;'ー'从 「ワンちゃん?お魚さん?」
( ,,^Д^) 「」チーン
( ^ω^)「……各自、身の安全は自己責任で」
それは、犬の頭を持っていた。
藻のように黒ずんだ長い体毛を纏った前半身に、黒く光沢のある海獣の下半身。
その大きさは、以前の蛇のキメラの更に三倍にも達するほど。
伏せるようにしているため、それほど高さは感じないものの、威圧感は相当のものである。
ツンとワタナベは素早く魔法式を展開。
風の攻撃魔法と飛行魔法をそれぞれに組み上げる。
( ,,^Д^) 「ブーン、使うにゃ!」
それと同時、タカラは腰に差していた近接用の小剣を鞘ごとブーンに投げ渡した。
ブーンは空中で剣を引き抜き、やや弧を描く軌道でキメラへ接近。
迎え撃とうと前足を振りかぶったキメラの目の下に、タカラの放った矢が突き刺さる。
( ^ω^)「おおおおお!!」
矢を受け、一瞬ブーンを見失ったことにより、キメラが迎撃に放った前足の引掻きは僅かに直撃を逸れる。
地に着くほど頭を低く伏せ迎撃をやり過ごしたブーンは、がら空きの脇に滑り込み、手に持つ剣を切りつけた。
- 551 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:19:52 ID:uf1.fQDg0
-
刀身が痺れ弦を鳴らしたような金属音。
片刃と両刃の異なる双剣は、皮膚に届くことすら出来ずに毛に絡まり止っていた。
ブーンは無理に粘らず素早く退避。
キメラが上体を持ち上げ、のしかかるように前足を叩きつけたのを辛うじてかわす。
从'ー'从 「“スカイウォーク”!」
飛行魔法を発動したワタナベがツンを箒の後ろに乗せ、空へ飛び上がる。
ツンは展開を続けながらも指で行き先を指示。
二人は上半身を地面に叩きつけたキメラの丁度真上に来ていた。
ξ゚⊿゚)ξ「“ギロチン”!!」
空気を圧縮し作り出した風の断頭刃。
それを投げつけるような動作でキメラに向かって放つ。
狙いは完璧。重みを持った風の剛刀はキメラの図太い首を
ξ;゚⊿゚)ξ「バッカじゃないの?!」
切り落とすことが出来ず、突風を巻き起こしながら砕け散った。
元より火力には難のある風魔法とはいえ、今ツンが放った魔法は皮鎧を着た人間程度ならば容易く両断する代物。
それをまともに受けて傷一つ負わないというのは、頭がおかしい。いや、毛がおかしい。
- 552 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:21:03 ID:uf1.fQDg0
-
意識を上に向けたキメラが、ツン達に目を留めた。
ワタナベはそれなりの高度を維持しており、いくらキメラが巨大と言っても攻撃は恐らく届かない。
ここからならツンの魔法で一方的に援護が可能なはずだ。
上を緩やかに旋回するワタナベに気を取られ、下への警戒がお留守になっていたキメラ。
その胴元へ、ブーンが切り込む。
タカラは弓を引いたものの、ブーンの奇襲を考慮して、まだ矢は射らない。
ブーンが剣を振りかぶり、下半身の毛の無い皮膚を切り裂こうとした瞬間、キメラの身体が引き絞った弓のような音を上げた。
下半身が縮み、前足が地面を離れ、半立ちの状態。
嫌な予感を感じ取ったブーンは、下半身を渾身の力で切りつけたが弾力のある皮膚はまともに刃を通さない。
( ;^ω^)「ナベちゃ――――」
ブーンの叫びとどちらが早いか、キメラの巨躯が空中へ跳ね上がる。
その反動で地面に響く衝撃と共に砂と水が大きく飛散。
ξ;゚⊿゚)ξ「?!」从;'O'从
二人の眼前に突如現われた巨大な犬の顔。そして、開かれた口。
間違いなく食われる。
ツンの感覚が時間をせきとめ、まるでコマ送りのようにその瞬間が迫る。
しかし、僅かに先行したワタナベの舵切り。
まるで岩を削りだして作ったかの様な牙が、箒の僅か一寸ほど先でカチ鳴らされた。
ツンは、引き伸ばされた感覚の中、キメラと目が合う。
飼い主にじゃれ付く子犬のような純粋な輝きにツンが抱いたのは、形容し難い悪寒。
- 553 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:22:51 ID:uf1.fQDg0
-
从;'ー'从 「ふぇぇ〜〜!」
ワタナベは回避した勢いでさらに上空へ。
その高さ軽く見積もっても30m強。
流石のキメラもここまでは来れまいが、ツンの魔法も有効な射程ではない。
一方のキメラは身体を器用に反転し、落下。
湖の水が巨大な球体状に集まり、クッションの役割となってその巨躯を受け止める。
激しい水しぶきが周囲を濡らした。
役目を終えた水はそのまま砂浜に染み込んでいく。
ξ;゚⊿゚)ξ(今のは……)
( ^ω^)(魔法も使うのかお……)
今の大跳躍で全身を湖から脱したキメラは、再度首を擡げ、ワタナベ達を見上げる。
しかし、彼女らが既に届かぬ高さにいることを確認すると、興味を失って目線を戻した。
鼻をひくつかせ、体を重たげに捻りブーンを見る。
完全に標的を切り替えたのか、前足を使い、ゆっくりと向きを変えた。
図太い足が砂を掻く。身をくねらせ、瞬く間に加速。
その身を矢のように、ブーンに向かって発射した。
回避が間に合わないと判断し、ブーンは真っ向から立ち向かう。
( ;,^Д^) 「あぶにゃあ!」
タカラの矢がキメラの首に当たるも勢いは止まらない。
キメラは勢いのまま身を仰け反り、牙を湛える顎を開き、ブーンに叩きつけた。
- 554 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:23:58 ID:uf1.fQDg0
-
从;'ー'从「ブーンさん!」
ワタナベが急激に高度を落とし、救出へ向かう。
しかし、高さを保っていたため落下の速度を含めても全く間に合わない。
( ^ω^)「!」
上方から迫る巨大な顎。
ブーンは大きく腕を振りかぶり左へ飛びのいた。
正に間一髪、噛みつきを回避する。
牙と牙がぶつかり合う硬い音。
飛んだ勢いで転がり距離を取ってからブーンは起き上がった。
キメラが素早く身を起こし、再びブーンを目で追うが、何故か追撃は無い。
その場で頭を振り、咳込み始めた。
ξ;゚⊿゚)ξ「?」
ワタナベとツンはブーンの無事を確認し再び高度を上げる。
キメラに何があったのかはわからないが、これはチャンスだ。
ツンはワタナベに高度を上げすぎないよう手で指示し、自身は魔法の展開に入る。
地上の二人も同様、キメラへ攻撃の態勢に移った。
タカラは通常よりも鏃の大きい熊狩り用の矢を弓につがえ狙いを定める。
ブーンは左手に持っていた小剣を右手に持ち替え、居合いのような構えで突進。
右手に持っていたマチェットがいつの間にか無くなっている。
- 555 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:24:59 ID:uf1.fQDg0
-
突進していたブーンの目の前に、キメラの口から何かが吐き出された。
ブーンの持っていたマチェットだ。
切っ先に血がついており、全体が唾液にまみれている。
先ほどの噛みつきをかわし際に喉に向かって投擲していたのだ。
口内は多少弱かったらしく、いくらかダメージはあったらしい。
ブーンは地面に落ちた山刀を手に取らず、そのままキメラへ。
迎撃の、前足を跳躍してかわし、首もとの毛を掴んで背中へ登る。
剣を逆手に持ち替え、首を狙おうとしたがすぐにキメラが暴れだした。
しばし毛を握って耐えたブーンだが、耐え切れずに振り落とされる
ξ#゚⊿゚)ξ「“エア=エストック”!」
(#,,^Д^) 「にゃあ!」
着地で体勢を崩したブーンにキメラが這いより前足で殴りつけた。
それを阻むように、タカラの矢が目元を、ツンの放った魔法の剣が肩口に突き刺さる。
二人の救った極僅かな隙に、ブーンは回避。
丸まった爪の先が左肩を掠め突き飛ばされはしたが、何とか命の危険は避ける。
( ;^ω^)「おー痛い。こりゃまたリッヒに虐められるお」
左肩が上手く回らない。
もう少し様子を見なければ分らないが、このまま使えなくなる可能性もある。
- 556 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:26:03 ID:uf1.fQDg0
-
キメラは顔を振り回し顔に刺さった矢を抜く。
刺さってはいても浅いらしく、大して血が出ているようにも見えない。
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン、大丈夫?!」
ワタナベに下ろしてもらい、ツンが地上へ。
ブーンが一人で引きつけるには敵が厄介すぎる。
繊細な動きは今のところ見せてはいないが、図体が大きすぎて回避が回避にならないのだ。
( ^ω^)「生きてはいるお」
ξ;゚⊿゚)ξ「私も下でやるわ。ナベちゃんの魔力も温存したいし」
|木|ー'从ノシ
ツンがチラリと視線を向けた先、ワタナベが防風林の中から顔を出した。
このまま一人で飛んでいても無駄に魔力を消耗する。
基本的に非戦闘員である彼女に囮をさせるわけにも行かず、それならば降りて隠れて温存してもらったほうがいい。
一応、怖くなったら逃げて良いとは伝えたが、恐らくワタナベは逃げないだろう。
ξ;゚⊿゚)ξ「あーあ。何でこう戦ってばかりなのかしら」
( ^ω^)「ナベちゃんと逃げてもいいお。割とマジで」
ξ;゚⊿゚)ξ「こんなのあんた一人に任せてられるかっての」
逃げないのは、ツンも同じなのだけれど。
- 557 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:26:55 ID:uf1.fQDg0
-
キメラの雄たけび。
怒りよりも歓喜のようで邪悪さを感じさせない。
鼓膜が痺れるそれを終えると、キメラは耳をパタパタさせながらブーン達を睨みつける。
すぐに上体を伏せ狙いをつけていた。
尾ひれが、ツンたちの気持とは裏腹に楽しげに左右に揺れている。
( ^ω^)「来るお」
ξ゚⊿゚)ξ「分ってるっての」
キメラが動く。
二人は、左右に分かれ走り出した。
キメラは迷わずブーンの方へ。
ツンは途中で足を止め、キメラの背中へ向かって駆け出す。
キメラは、上体を持ち上げてからの胴体全部を使っての叩きつけ。
重い音が響き、ツンの視点からはブーンが潰されたようにも見えた。
しかし、ブーンは顎と前足の間の僅かな隙間を見切ってすり抜け、腕を駆け上っていた。
そしてたどり着いた背中に小剣を無理やりに突き刺す。
なんとか刺さりはしたものの、より深く食い込ませる前にキメラが起き上がってしまった。
再び振り落とされないよう、剣を残したまま自ら飛び降り距離を取る。
そして、ドクオと入れ替わった。
('A`) 「ツン!タカラ!十五秒!」
ξ;゚⊿゚)ξ「当たり前のように言うんじゃないわよ!」
- 558 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:28:47 ID:uf1.fQDg0
-
ツンは文句を言いながらもブーツの魔法を発動。
地を蹴って飛び上がり、ドクオに注目していたキメラの背中へ。
渾身の力を持って、突き刺さったままの剣の柄尻を踏みつけた。
中ほどまで食い込む刀身。
やっと痛みを感じたのかキメラが叫びを上げながら上半身を振るう。
ツンは素早くその背を蹴って安全な距離まで離脱した。
キメラは不快そうに喉を鳴らしながらツンに向き直る。
('A`) 「“穿ち、砕き、貫き、屠る。我、孤独に溺れた者―――”」
自身からキメラの意識が離れたことを確認したドクオは、魔法の展開を開始。
巨体が暴れる巻き添えを食らわぬよう、やや距離を取る。
キメラは背中に走った痛みの原因がツンだと判断したのか、ツンに向かって咆哮をぶつける。
衝撃波に近い轟音に、ツンは思わず耳を押さえた。
鼓膜どころか頭が痺れ、足が無意識にふらついてしまう。
(;'A`) 「ッ!」
ドクオもこの巻き添えを食らい、一時展開を中断する。
距離を取っていたタカラだけが何とか無事に動くことが出来た。
タカラは眉間に皺を寄せながらも、弓を引き鏃をキメラの口へ向ける。
集中が乱れ上手く照準を合わせられないまま、苦し紛れに矢を放った。
- 559 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:30:55 ID:uf1.fQDg0
-
矢は見事キメラの歯茎に突き刺さる。
やはり浅いが、場所が場所だったために咆哮を唸りに変えてキメラが怯んだ。
口を閉じた拍子に矢は抜けてしまったものの口を閉じさせれば十分である。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ったく、うっっっさいのよ!」
ナイフを抜き、ツンはキメラへ。
苛立ちのようなものを見せ始めたその目の前へあえて身を躍らせる。
キメラがツンに気付き、反射的に前足を振るった。
雑に放たれたその一撃を食らうわけも無く、ツンは素早く後方へ回避。
入れ替わりに矢が眉間に突き刺さり、キメラは顔を引っ込める。
('A`) 「“引鉄は軽く、撃鉄は重く――――”!!!」
ドクオの周囲に、陽炎のように揺らめく魔力が出現。
それが無数の礫となって、周囲に飛び散った。
('A`) 「ツン離れろ!」
ドクオの指示を聞いたツンは、逡巡するまでも無く、更に後方へ飛びのいた。
キメラは更にツンを追おうとしたが、ドクオの魔法の内数個が回り込み行く手を阻む。
警戒し首を引いたその巨躯を囲むように陽炎の塊が揺らめいている。
('A`) 「“―――我、汝らを殲滅す”!!」
魔力の塊が弾けた。軌跡を残し、キメラを強襲。
多少の時間差を作りながらも、ほぼ一斉にキメラの身体を打ち抜いていく。
- 560 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:31:44 ID:uf1.fQDg0
-
キメラは攻撃を受けながらも頭を伏せ、前足で抱えて守る。
利いているのかいないのか。
人間やまともな動物であれば即死していそうな重い音が響いているが、体が大きすぎて効果が分らない。
ここまでまともに通った攻撃がほとんど無いので望みは少々薄いが。
('A`) 「“散りし兵、骸となれど”」
魔法を打ち切る前から、ドクオが新たな魔法式を展開する。
無属性ではあるようだが、ツンは見たことの無い魔法だ。
巻き込まれても損なので、いざ攻撃を受けた時のために障壁の魔法を組む。
最後の魔法弾がキメラの前足にぶち当たり、少し間を置いてキメラが顔を上げた。
ダメージが無かったとは思いたくないが、少なくとも大ダメージということにはなっていないらしい。
キメラの頭は魔法の発生源であるドクオへ。
頭にきているのか、目が少し血走っている。
(;'A`) 「“猛りし魂、剣を握る”」
ξ;゚⊿゚)ξ(間に合わない!)
キメラが身体を縮め、バネが跳ねるようにドクオに飛び掛った。
ドクオの魔法も、ツンの魔法もギリギリで間に合わない。
タカラは弓を構え矢を放ったが、キメラを止められるわけも無く。
巨体がドクオの華奢な身体に襲い掛かる。
- 561 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:32:25 ID:uf1.fQDg0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ドクオ!」
爆発のような重い音。
勢い余ってキメラは着地した場所から数メートル滑って止まった。
悠々と身を擡げ振り返る。
( A`) 「……“我、鎮魂を奏でる者―――”!!」
キメラに纏わり付いていた魔力の残滓が一点に集まり一個の塊となる。
炎のように揺らめくそれはキメラの身体に纏わりつくと、染み込んで消えた。
そして。
(#'A`) 「“汝を―――葬送す!”」
プツン、という張り詰めた糸が限界を迎えて切れたかのような、小さな音がした。
その発生源は、キメラの巨大な胴。
ツンもタカラも、音の意味が分らず、息を呑んでキメラをキメラを注視する
一見何の変哲も無かったが、突如身をくねらせ口と鼻から血を吹き出した。
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ!」
(#'A`) 「ロンリードッグ様を舐めるなってんだ!」
すり潰されて死んだかと思われたドクオが居たのは上空。
スカートをひらめかせ旋回するワタナベの箒の後ろだった。
ほんの刹那の間に彼女が箒でドクオを救出したのだ。
あまりに高速で攫われたため若干鞭打ち気味のドクオでは合ったが、魔法を行使できる程度には無事である。
- 562 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:33:32 ID:uf1.fQDg0
-
('A`) 「ナベちゃんありがとう、もう下ろしてくれて大丈夫だ」
キメラがのた打ち回り、地面に倒れた。
それと同時にドクオとワタナベも箒から降りる。
ツンはナイフを手に持ったまま、そこへ。
タカラは弓をキメラに向け警戒しながら寄って来た。
ξ;゚⊿゚)ξ「死んだかと思ったわよ」
('A`) 「俺もな。ナベちゃんが来るのが見えなかったら、全部をブーンに押し付けて引きこもるつもりだった」
从;'ー'从「ふぇ〜間に合ってよかった〜」
( ,,^Д^) 「アレは何をしたんだにゃ?」
('A`) 「魔力をちょーっと変換して体内に浸透させて、内部で更に変換して内臓を破壊した」
('A`) 「体内に残った魔力はそのままあのキメラの魔力と混ざって、生命力を低下させて再生を阻害する」
ξ;゚⊿゚)ξ「エグイ……」
ドクオはいとも簡単そうに言ったが、異常に難度の高い魔法である。
魔力を持つ生き物は防衛本能として他の魔力を受け入れないようになっているため、浸透させるのがまず困難。
なまじ上手く浸透させても、次の段階を発動させる前にキメラの魔力と混ざればちょっと体調を崩させて終わりだ。
とにかく生半可な調整では成り立たず、ちょーっとで片付けられる魔法ではない。
- 563 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:34:13 ID:uf1.fQDg0
-
('A`) 「本当は、魔女を仕留めるつもりで考えてた奴だから、あんまり見せたくなかったんだが」
ドクオが周囲の防風林を見渡す。
丁度この砂浜を挟むように広がっているが、鬱蒼としていて奥までは見えない。
この中で魔女が見ているのだろうか。
('A`) 「あの調子じゃ、外部からの攻撃はまともに通らないだろうしな」
ため息。
目線は、だらりと地面に横たわっているキメラへ。
口と鼻から滾々と血が溢れている。
かなり酷い具合に破壊したのが腹を捌かなくとも分った
そして、異なる魔力が混ざったため恐らく生命機能は著しく落ちている。
蛇キメラのような再生能力があった場合を考慮してのダメ押しだろう。
これで死んでいなければそれはもう生き物ではない。
ξ゚⊿゚)ξ「本当に、敬服するわ、アンタには」
从*'ー'从「すごいです〜」
( ,,^Д^) 「ホントに、かなわんにゃあ」
ドクオは照れているのか複雑そうな表情で頭を掻く。
どこと無く不満げに見えた気もするが、とりあえず倒せたことには変わらない。
勝利を喜び、ツンはナイフを鞘に納めた。
* * *
- 564 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:36:03 ID:uf1.fQDg0
- _
( ゚∀゚) 「……報告にもあったがとんでもない魔法使いだな」
湖畔を囲む林のとある木の上で、ジョルジュは双眼鏡を片手に呟いた。
自称メランコリーズ=ロンリードッグ。本名山田孝雄。
聞いたことの無い名のため、精々軍の上級魔法使い程だと思っていたのだが、格が違う。
魔法の力が強いというよりもセンスが異常だ、と称するべきか。
o川*゚ー゚)o 「でしょー。ドッグって結構凄いんだよ☆」
なんてったって私に殺されなかったんだから、と魔女は小さく続けた。
好敵手を讃えるような、ただの好意だけではない感情を孕んでいたように聞える。
横に並ぶ顔をチラリと見やると、、コロコロに太った鼠を見つけた蝮のような目をしていた。
_
( ゚∀゚) 「どうするんだ。あっさり負けたみたいだが」
魔女本人が戦わないと聞いた時点で不安はあった。
かなりの兵を動員して人払いをしているのに、何の成果も無いというのは問題だ。
せめて明日の襲撃を妨害されない程度にはダメージを与えたい。
o川*゚ー゚)o 「んふふー?」
_
( ゚∀゚) 「アンタが直接戦えばすぐだろうが」
o川*゚ 3゚)o 「それじゃつまんないじゃん」
_
( ゚∀゚) 「……あのな、アンタは遊びのつもりでも、こっちは真剣に頼んでるんだよ」
自然と眉間に皺が寄った。
実際の火力はともかくとして、この女は武器としては欠陥が多すぎる。
- 565 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:37:30 ID:uf1.fQDg0
-
o川*゚ー゚)o 「まあ、私もちょっとビックリかな。あの子がここまでやられちゃうなんて」
_
( ゚∀゚) 「次の手は考えてるのか?」
o川*゚ー゚)o 「なーんにも☆」
_
( ゚∀゚) 「……」
やはり失敗だった。
いくら他に手が浮かばないからと言ってこの女を頼りにするのが間違いだったのだ。
ジョルジュは支部へ帰ろうと木を飛び降りる。
o川*゚ー゚)o 「どこいくの?」
_
( ゚∀゚) 「報告だ」
一度魔女を見上げ、スカートの中が見えそうになりすぐに視線を伏せる。
魔女は枝の上にしゃがみこんでそんなジョルジュを笑った。
o川*゚ー゚)o 「もうちょっと見てけばいいのに」
_
( ゚∀゚) 「見るも何も、どう見たってあんたのキメラの負k……」
耳を劈く咆哮が、ジョルジュの言葉を遮った。
驚き一瞬硬直したが、すぐさま双眼鏡を目に当てる。
やや歪むその視線の先で、死んだはずのキメラが元気良く雄たけびを上げていた。
* * *
- 566 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:38:20 ID:uf1.fQDg0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「タカラ!!」
ツンがナイフを収めてから、ほんの一瞬の出来事であった。
死んだと思っていたキメラが突如動き出し、ツンたちに襲い掛かる。
唯一動けたのは警戒心を残していたタカラ。
彼は咄嗟に三人を突き飛ばし、自分だけがキメラの前足になぎ払われた。
口から空気と唾液の漏れる音を残してタカラの身体はボールのように地面を転がる。
(;'A`) 「なんで…ッ」
ξ;゚⊿゚)ξ「バカッ!」
从;'―'从 「ふぇ?!」
不意のことに完全に足が止まってしまったドクオとワタナベの襟首を掴み、ツンは魔法を発動してその場を飛びのく。
連続で放たれた逆の前足が、ドクオの寸前を丸い爪が通り過ぎた。
着地と同時にドクオはブーンと入れ替わり、ツンの手を離れる。
ツンはそのままワタナベを抱き上げ、雑木林に逃げ込んだ。
( ^ω^)(ドッグ、どういうことだお)
(;'A`) 『わからねえ、あの魔法ならいくら生命力が強くても仕留められたはずだ』
( ^ω^)(……曲がりなりにも、キュートの作ったキメラってことかお)
(;'A`) 『クッソ!』
ドクオの悪態を聞きながらも、ブーンはキメラに立ちはだかる。
チラリとタカラに目をやると、うずくまったまま動かない。
- 567 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:39:46 ID:uf1.fQDg0
-
巨大な体から放たれる咆哮。
内蔵まで痺れさせる轟音を耳に指を突っ込んでやり過ごす。
キメラが内臓を著しく損傷していることは口から飛び散る血を見れば明白。
それでもこれだけの馬力を残しているというのは、本来では考えられない。
ξ;゚⊿゚)ξ「タカラ!」
ワタナベを安全な場所まで避難させツンはタカラに駆け寄る。
仰向けに寝そべる胸に耳を当てると確りとした心音が聞えた。
意識は無いが、生きている。
怪我の度合いも分らないがとりあえず安全圏へ運ばなければならない。
ξ;゚⊿゚)ξ「ニョロ手伝ってくれる?」
怯えて堅くなっていたニョロを首から解き、タカラの首から顎に巻く。
動脈をせき止めない程度に締め付け、頸部を固定した。
あとは出来る限り衝撃が響かないようにゆっくりと引き摺って林へ運ぶ。
ξ;゚⊿゚)ξ「ナベちゃん!」
从;'ー'从 「は、はい〜」
ξ;゚⊿゚)ξ「急いでリッヒを呼んできて。私じゃどうしようも出来ない」
从;'ー'从 「わ、分りました〜」
ワタナベが焦りながら箒に跨り、飛び立った。
木に何度もぶつかりピンボールのように跳ねながら何とか街の方へと飛んでゆく。
- 568 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:40:40 ID:uf1.fQDg0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「さて、私は……」
ツンがブーンの加勢に出ようと歩き出した瞬間、ツンの足にニョロが巻きついた。
頭を擡げ、心配げな面持ちでツンを見上げる。
危ないから行くな、と言いたいようだ。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ」
ニョロを抱き上げ、タカラの傍に下ろす。
まだ不安な顔をしていたので、頭を撫でてやった。
その背後で、再びキメラの咆哮。
ニョロが怯えたように首を引っ込めた。
今はブーンが一人で相手している。時間を食っている暇は無い。
ξ゚⊿゚)ξ「ニョロ、そこで大人しくしていてね」
魔法式を展開しながら雑木林を飛び出した。
そこには、キメラと素手で格闘するブーンの姿。
キメラは全くダメージが無いわけではないのか、先ほどまでよりもやや動きが鈍いように見える。
ξ#゚⊿゚)ξ「“ビートアップ”!」
ブーンの無事を確認し、ツンは展開していた身体強化の魔法を彼に。
そしてすぐさま別の魔法式展開へ入る。
- 569 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:41:28 ID:uf1.fQDg0
-
魔法を受けたブーンは、すぐさまその効果を理解し、飛び上がった。
目標はキメラの顔。
状態を後ろへ仰け反らせ、硬く握った拳を両脇に構える。
( #^ω^)「杉浦双刀流、無刀の型―――!」
キメラは突如膂力を増したブーンに戸惑いを見せ、動きが止まった。
しかし、反射的にか口を開き迎え打とうとする。
( #^ω^)「鐘砕き!」
正に鐘を打ったかのような重い金属音が響き渡る。
上体ごと放たれたブーンの両の拳が、キメラの牙を打ち抜いた。
左右から打ち込められた衝撃は牙の内部で反響し合い、内側から牙を破壊する。
砕け散るとまでは行かなかったが、キメラの左の犬歯に大きな皹が入った。
ブーンはやや反動を受けながらも着地。
拳からは血が滴っている。
ξ#゚⊿゚)ξ「“弾けて爆ぜて吹っ飛ばす―――”!」
歯を割られた痛みに口を開けて鳴き声を上げながら後退するキメラ。
ツンは、手元に生み出された魔法弾を狙いを、その赤黒い口内に定める。
ξ#゚⊿゚)ξ「“ぶち抜け―――シュート=インパクト”!!」
反動を伴い放たれた魔法弾は一直線に目標を襲い。
丁度閉じかけたキメラの口にすっぽりと収まった。
- 570 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:43:29 ID:uf1.fQDg0
-
閉じきったキメラの口内で、魔法弾が炸裂する。
衝撃魔法にとって閉鎖空間は真骨頂を発揮する絶好の場だ。
逃げ場を失った振動の波は脳にまで達し、キメラは目から血を吹きながら倒れる。
ドクオの「外がダメなら内から」理論は正しい。
高度な魔法の技術は無いが、ツンでも出来る方法はある。
問題は、今の攻撃でキメラにトドメを刺せたか、ということ。
( ^ω^)(やったのかお?)
(;'A`) 『常識で考えれば、今ので死ぬなり気絶するなりしてくれるはずなんだが』
流石に一度痛い目を見ているため(主にタカラが)、ツンもブーンも警戒を持ってキメラへ近づく。
呼吸は無かった。しかしそれは先ほども似たようなものだ。
死んでいたところで、このキメラが再び生き返らない確証は無い。
ξ;゚⊿゚)ξ「今の内、天叢雲で解体しましょうか?」
('A`) 「待て、あれ使わせて魔力空にされたんじゃ困る」
入れ替わったドクオが、魔法式の展開を始めた。
以前も見せた、糸のような魔力を張り巡らせる結界型の拘束魔法だ。
落ち着いた展開は素早く済み、キメラの巨体を白い斑が覆い尽くす。
- 571 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:44:48 ID:uf1.fQDg0
-
(;'A`) 「これで、仮に生きてても何とか抑えこめるだろ」
ξ;゚⊿゚)ξ「死んでてくれれば、安心なんだけどね」
(;'A`) 「念の為に、燃やすか……」
ドクオが結界を維持したまま、炎の魔法を展開する。
これも蛇のキメラにトドメを刺した上級の魔法だ。
体躯が大きいため、念入りに強化の式を組み込んでいる。
しかし。
(;'A`) 「ぬおおお!?」
キメラはやはり死んではいなかった。
突如暴れだし、結界を掻き毟る。
流石のドクオも新たな魔法の組み上げは諦め、結界の維持に集中。
その間にツンは衝撃魔法の準備に入った。
(;'A`) 「クッソ!なんか変だ!」
徐々にだが、結界が弱まっている。
ツンの目にはキメラに破壊されているというよりも、結界そのものが消えていっているように見えた。
ついに、前足の爪が結界を引き裂く。
ツンは迎え撃つように裂け目に魔法弾を打ち込み、ドクオの手を引いてその場を退散した。
- 572 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:45:42 ID:uf1.fQDg0
-
(;'A`) 「もしかして、あんにゃろ……ッ」
ξ;゚⊿゚)ξ「何々、なんなのよ!」
(;'A`) 「確信はねえが……」
ドクオの言葉を遮るように、結界が完全に破られる音が響く。
最早ボロ屑となった結界の残滓からキメラが悠々と脱出する
そのままツンたちに襲い掛かるかと思いきや、その場に留まって身体を震わせている。
ξ;゚⊿゚)ξ「何やってんの、あれ」
(;'A`) 「まさか……いや、だとするとあの魔法で死ななかったのにも納得がいく……」
その隙にもう一発魔法をぶち込もうかと展開を始めたツンをドクオが手で制した。
ドクオは真剣な目でキメラを見ている。
先ほど言いかけていた何かを確かめているのだろうか。
(;'A`) 「…………やっぱりだ」
キメラの周囲にあった結界の残滓が解れて消えていく。
否、非常に細かい魔法力の粒となって揮発し、キメラの身体に吸い込まれているのだ。
それだけではない、湖が、木々が震え、その微量な魔力が引き出され、キメラの身体に集まって消える。
(;'A`) 「あのキメラ、他者の魔力を吸収してやがる……ッ!」
- 573 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:47:08 ID:uf1.fQDg0
- ここまで。キメラ戦は対人間とは違うめんどくささがあって考えるのが楽しいッス
次回は、今週末か来週頭までに何とか
- 574 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:49:02 ID:0I5Awels0
- おっつん!面白かったー!
力技も魔法も無理となるとどうやって倒すのかwktk
- 575 :名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 23:55:04 ID:oktoxTPs0
- 毎回毎回強敵過ぎる…
乙
- 576 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 00:00:04 ID:D/EhU.BcO
- 乙
楽しみに待ってるよ 素晴らしい投下スピード
- 577 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 00:02:32 ID:jWwN3F.g0
- 乙!相変わらず戦闘描写すごい
- 578 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 01:00:49 ID:fNsA8ZVg0
- おつ、キメラ強え
- 579 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 02:05:26 ID:TdG9W1CA0
- 乙
対化物戦って面白いなやっぱり
- 580 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 03:51:52 ID:IqKqJW420
- 杉浦双刀流という厨二単語にゾワゾワして凄く良いw
乙
- 581 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 04:08:16 ID:Ow6gs8cQ0
- ツンちゃんの口の悪さが爽快で気持ちいいわ
やったか?はやっぱりフラグだなwww
次も楽しみだ、乙
- 582 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 10:30:37 ID:Q/9hSlMs0
- 最近の現行で一番のお気に入りなんです
- 583 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 19:16:13 ID:/Pn16GSk0
- うはー強ええなww
がんばれブーンたち
- 584 :名も無きAAのようです:2012/10/28(日) 14:17:51 ID:DHGFqGwAO
- 今日かな明日かな
wktkwktk
- 585 :名も無きAAのようです:2012/10/28(日) 20:44:48 ID:oCJTFGrQO
- 咀嚼が租借になってるとこが3つある
- 586 : ◆x5CUS.ihMk:2012/10/28(日) 23:38:19 ID:t67MW/wY0
- >>585
Oh、これは恥ずかしい誤字……
これだけでなく思っているより見逃しがあったりするので気になったところは気軽につっこんでくれると助かります
尚、次の投下は上手くいけば明日の2200以降に
- 587 :名も無きAAのようです:2012/10/28(日) 23:59:20 ID:0PXjr7Fk0
- うひょひょい楽しみ
- 588 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 00:41:02 ID:.JJC/0o60
- わーい待ってる
- 589 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 03:56:10 ID:jVbfrxCIO
- 楽しみ
- 590 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 13:10:56 ID:4sJoTMr60
- 俺とお前と~
- 591 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 14:24:07 ID:W4OYM4oAO
- 愛しさと切なさと~
- 592 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 14:27:31 ID:TT/fcjf2C
- 待ってるぜ
- 593 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:08:35 ID:Y6VdpEXw0
- よっしゃ待ってる
- 594 : ◆x5CUS.ihMk:2012/10/29(月) 22:09:15 ID:HxMP0asE0
-
周囲にある全てが、自分の味方をしているようだった。
木々も。
湖も。
大地も。
そして、立ち向かってくる人間達ですらも。
何も怖くない。
恐れる必要など無い。
喉を開き、空に吠える。
楽しい。
実に楽しい。
力を振るうことが。
自分が強いと実感することが。
小さな彼らの足掻きを振り払うのが。
心の底から楽しい。
次はもっと色んなことを試してみよう。
すばしっこく逃げ回る彼らを捕まえるのは中々難しいから。
教えてもらった色んなことをやってみよう。
壊さないよう。
逃がさないよう。
次はもっと確実に。
次はもっと丁寧に。
大事な遊び相手はあと二つ。
* * *
- 595 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:10:39 ID:HxMP0asE0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「どういうことなのよ?!」
魔力を吸収している、ドクオは確かにそう言った。
他者の魔力を受け入れることは、自殺行為。
それは魔法を習う者ならば子供でも知っている常識である。
サスガ兄弟のような双子でも珍しい例外はあれど、これに反する生物は存在しない。
が。
(;'A`) 「タリズマンか、別の何かであのキメラに合うように魔力を変換してるんだ」
(;'A`) 「だから、俺が魔力を注いでも生命力が鈍ったりせず、そのまま吸収して復活した」
静かだったはずの湖畔。
異形の巨躯が雄たけびを上げ、木々も水面も、恐れ戦くように身を震わせる。
魔女の作り出した海獣のキメラ。
その予想を上回る能力に、ドクオは額から汗を流す。
(;'A`) 「あの時ほどじゃないにしろ、アホみたいな再生能力もあるんだろう。血ももう止まったみたいだ」
以前戦った蛇頭のキメラは切ってもすぐ生えるというものだったが、今度のキメラは多少再生に時間がかかるようだ。
正し、時間がかかるだけで死んだ状態からも復活してくる。
どう殺すべきか、それが問題だ。
ひとしきり吠えて気が済んだのかキメラが二人を見据える。
その目は爛々と輝いており、やる気満々といったところ。
ツンはもう逃げ出したい気持で一杯だった。
- 596 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:12:59 ID:HxMP0asE0
-
(;'A`) 「とりあえず、また火の魔法を試してみよう」
ξ;゚⊿゚)ξ「それ以外に、方法はなさそうね」
ツンとドクオは二手に分かれた。
ドクオにはブーンにかけた強化魔法の効果が残っているらしく、足取りは軽い。
どちらに仕掛けるか悩んでいた様子のキメラだったが、ツンに標的を定め視線を向けた。
ツンとしてはおしっこちびりそうなくらい体がすくむが、都合がいいと言えば都合がいい。
少なくともツンに意識を向けていてくれればドクオが魔法に集中できる。
('A`) 「“地より湧き立つ血色の業火―――”
ナイフを引き抜き、自らキメラへ間合いを詰める。
近づきたくは無いが遠間からの突進は楽にかわせる物ではない。
キメラも身をくねらせツンへ。
間合いに届いたと判断するや、上半身を振り上げてのボディプレス。
ツンは急ブレーキをかけ、後ろへ飛んで回避。
ブーンのように小さな隙間をすり抜けるような真似は出来ない。
衝撃で舞い上がった砂が煙幕の役目となり降りかかるのをマントで防御し、すぐにキメラの横に回る。
('A`) 「“天より舞い降る蒼き灼炎―――”」
死角に入ったつもりだったが、キメラは振り向き様に前足を振るう。
やや雑な狙い。しかし掠っただけで致命傷に成りかねず、ツンは大きく距離を取って回避した。
すぐさま姿勢をツンに向き直したキメラは顔を上に上げ喉を鳴らす。
雄たけびを警戒して手を耳の高さに上げたツンだったが、咆哮とは違うらしい。
- 597 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:13:26 ID:L0nm69/s0
- 来たー!支援!
- 598 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:13:47 ID:rF/Piw3s0
- 来たか、支援
- 599 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:14:14 ID:HxMP0asE0
-
('A`) 「“二極を一に。頭尾繋がる大蛇の如く―――”」
痰を吐く前の音、と表せば分りやすいだろうか。
空気と粘質の何かが混ざる不快な耳障りに、ツンは思わず耳を塞いだ。
同時に、激しく嫌な予感。
掠れた音と共にキメラの口から濁った液体が噴出された。
ツンは横へ跳ねてそれをかわす。
砂地へ落ちたそれは、焦げるような音を立てて砂を溶かした。
ξ;゚⊿゚)ξ (毒、って言うより胃酸か)
キメラは酸を連射。
ツンは足を使ってそれをやり過ごす。
最初は雑だった狙いが徐々に的確になり、最後の一発はマントを掠めた。
('A`) 「“喰らい合い、熔かし合い、表裏の如く一体となれ―――”」
キメラはツンに肉薄。
前足を真上から叩きつける。
キメラの攻撃は体格の大きさもあってか鈍く見切りやすい。
予備動作も大きいためその気になれば無傷で回避することは難しくは無いのだ。
しかし。
- 600 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:15:40 ID:HxMP0asE0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「くっそぉ!」
掠るだけでも致命傷に至りそうな重みを持った一撃は、かわすのが精一杯。
反撃の隙は無く、このままでは追い込まれてしまう。
一撃、二撃とかわす間に、ツンの体勢は少しづつ崩れていく。
顎で直接噛みつきに来たのをかわし、ツンは大きく間合いを取った。
突進を恐れているため出来れば距離を取りたくは無かったが、それ以前にやられては敵わない。
押しつぶされたりしたらドロドロのバブルツンちゃんになってしまう。
(;'A`) 「“我、何者よりも力に焦がれし者―――”」
尾鰭をバタバタと振り回し、キメラは飛び掛りの体勢。
ツンは障壁魔法を展開しながら横へ走ってやり過ごそうとする。
が。
キメラの目が怪しく輝いたのと同時にツンの身体に水が絡みついた。
魔法によってコントロールされた密度の高い水は、鎖のようにツンの身体を縛り付ける。
ξ;゚⊿゚)ξ 「しまった!魔法使えるんだった……ッ!」
ツンに魔法を自力で振りほどくだけの力は無い。
動けなくなったところでキメラが動き出した。
アウト。完全なアウト。もはやゲッツー。
数秒と待たずバブルツンちゃんの完成だ。
- 601 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:17:32 ID:HxMP0asE0
-
(;'A`) 「“―――汝を、焼排す!!”」
キメラの体が地を離れようとしたその瞬間、ドクオの放った魔法弾がその横腹を直撃した。
轟音と共に拡散する熱波と衝撃。
紫色の閃光がキメラの身体を飲み込み、巨大な火柱が立ち昇る。
魔法の炎熱は、ツンの眼前まで迫った。
水による拘束はすぐに解け、手で顔を庇いながら距離を取る。
激しい熱波はマントの上からでも肌を焼いた。
ドクオは火柱を眺めながら真剣な顔をしている。
ツンは駆け寄ってそのこめかみをデコピンで打ち抜いた。
(;'A`) 「パードゥン?!」
ξ#゚⊿゚)ξ「私まで焼く気か!」
(;'A`) 「でも、あのまま撃たなかったらツンさんフレッシュミートソースじゃないですか」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなんだけどね。サンキュードッグ」
(;'A`) 「おう。次は叩かずに言ってくれ」
二人で警戒を残したままキメラを見る。
効力が切れ、小さくなってゆく火柱。
その中心には未だ燻る黒焦げの巨躯が横たわっていた。
- 602 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:19:04 ID:HxMP0asE0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「死んだかしら」
(;'A`) 「これで死ななかったら正直泣きたい」
ξ;゚⊿゚)ξ「……あ」
ドクオの期待を華麗に裏切り、水柱が湖から立ち上る。
それは弧を描き、未だ火の燻るキメラの身体を包み込んだ。
残っていた火は一瞬で消え、水の中で毛が水草のように揺れる。
毛は燃え切らず、元のままとは言わずともかなりの長さを残したままだった。
(;'A`) 「嘘だろ……死んですらいないのかよ……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「で、でもかなり効きはしたみたいよ」
直撃を受けた腹の周辺は毛も焼け飛び、元は赤かったと思しき体内が黒く炭化している。
毛の無かった下半身も、皮膚が爛れ脂肪を融かし肉がむき出しになっていた。
普通ならば確実に死んでいる。
惜しむらくは奴が至ってアブノーマルな、魔女の作ったキメラだという現実。
(;'A`) 「火力は、まだ上げられないわけじゃない」
ξ;゚⊿゚)ξ「なら、やるしかないでしょ」
(;'A`) 「待て。俺の嫌な予感が当たっているとすると」
ξ;゚⊿゚)ξ「アンタの嫌な予感の的中率高いからその言い方やめて」
- 603 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:20:38 ID:HxMP0asE0
-
キメラは水の球に抱かれ、傷の修復に入っていた。
顔はツンとドクオの二人を未だ睨みつけている。
炎を受けた側の目は白く濁っており、その顔は通常よりも怖ろしい。
ξ;゚⊿゚)ξ 「どうする?天叢雲で切っても死んでくれなそうだけど」
(;'A`) 「……俺も一番の魔法は残っちゃいるが」
水の中では再生能力が増すのか、黒ずんでいた傷口が少しづつ肉の色を取り戻している。
本来ならば回復される前に次の手を仕掛けたいどころだが、生憎次の手が無い。
下手に魔力を浪費するよりは策を練った方がいい、というのが二人共通の判断だった。
(;'A`) 「ちょっと良いことと、かなり悪いことが分った。どっちから聞きたい?」
ξ;゚⊿゚)ξ「アンタが話易い方から」
(;'A`) 「じゃあ、悪いほうからな」
ドクオがずり下がったパンツを持ち上げ、ベルトを締めなおした。
目は相変わらずキメラを見ている。
(;'A`) 「まず、あのキメラは、前の蛇みたいに焼き尽くしても殺せない」
ξ;゚⊿゚)ξ「……やっぱり?」
(;'A`) 「おう」
- 604 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:23:14 ID:HxMP0asE0
-
(;'A`) 「蛇キメラは、細胞一個一個が自立し補助しあっていたから一気に焼き尽くせば殺すことができた」
(;'A`) 「だがアイツは核となる何かによって生命機能の殆どがコントロールされている」
(;'A`) 「焼いても同時に再生できるから、核を壊すか体から取り出さなきゃ反永久的に死なないぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ「良い方は?」
(;'A`) 「倒し方分った。核破壊すれば死ぬ」
ξ;゚⊿゚)ξ「具体例は?」
(;'A`) 「……無い」
ξ;゚⊿゚)ξ「こんな状況じゃなければ、アンタを湖に沈めてたわ」
キメラの再生はまだ半ほど。
しかし、覗いていた内臓は既に修復が終わり肉で包まれている。
相手がその気になればすぐに襲い掛かってくる可能性も十分にあった。
(;'A`) 「核を中心にする機構はゴーレムに似ているが、ゴーレムに使う手は使えない」
ゴーレムに使う手、というのは魔力を強制的に注入して魔力を不純にすることで動きを止める、というものだ。
これは既に通用しないことが分っている。
同様の理由で魔力切れを待つ、という方法も望みは薄いだろう。
- 605 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:24:43 ID:HxMP0asE0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「やっぱり、天叢雲で掻っ捌くしかないんじゃない?」
(;'A`) 「でも、核の場所が分らないんじゃ無駄骨になっちまう」
ξ;゚⊿゚)ξ「どうやって探す?」
(;'A`) 「……とりあえず解体する?」
ξ;゚⊿゚)ξ「それが出来ないから困ってるんでしょうが!」
ツンが思わず声を荒らげた瞬間。キメラが動きを見せた。
キメラを包んでいた水の一部が分離し、二本の矢となって二人を襲う
ツンは右手に、ドクオはブーンと入れ替わり左に。
相談の時間は終わりだ。
さらに放たれた水の矢を二人は走ることでやり過ごす。
傷を負わせたことで魔法を多用するようになったのは、少々誤算。
先ほどまでの攻撃に感じていた油断のようなものが無くなっている。
どてっぱらを抉られて流石に頭にきているのか、それともツンたちが全力を尽くすに値すると認めたのか。
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ」
絶え間無く襲う水の矢の一本が、ついにツンの太ももに。
肉を掠めるように突き刺さり、貫通。皮膚と脂肪を抉りとって飛び去る。
痛みで足が止まった。反射的に不自然な体勢を取ってしまう。
キメラはその隙を見逃さず、ブーンに向けていた分の魔法もツンへ。
数え切れぬ矢の嵐が、ツンを襲う。
- 606 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:27:03 ID:HxMP0asE0
-
ξ;゚⊿゚)ξ (完全にツンだーーーー!!!)
ブーツの魔法も間に合わない。
何より回避に移れる体勢ではないのだ。
ツンは少しでも当たる面積を減らそうと、崩れた姿勢のまま後ろへ倒れこむ。
( ;^ω^)「!」
ξ ⊿ )ξ「ッ!」
小さな身体は、すぐに魔法の群れに飲み込まれた。
空気を打ち抜く擦過音。
そして、水の矢が砕かれる、鈍い打撃音。
ξ; ⊿゚)ξ「??」
猛攻は、顔を庇った腕とわき腹、足を僅かに掠めるだけに終わる。
直撃は一つも無く、ツンはきょとんとした顔で砂地に尻餅を着いていた。
その眼前に居たのは。
ξ;゚⊿゚)ξ「ニョロ?!」
塒を撒き、宙に浮いたニョロの姿。
障壁の魔法を纏い、まるで盾のようにツンを守っていた。
魔法が止むと、ニョロは急に重力を取り戻し、ツンの足元に落ちる。
すぐさまツンに這いより、傷を労わるように頬ずりをした。
- 607 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:29:01 ID:HxMP0asE0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「なななんで?!」
いきなり魔法を使ったこと。そしてタカラのところに置いてきたはずなのに目の前に突然現われたこと。
疑問が山ほど頭を埋め尽くす。
一方、自身への攻撃が止んだ隙にキメラへ間合いを詰めていたブーンは、その瞬間をしっかりと目に留めていた。
( #,^Д^) 「ツン!一回下がるにゃ!体勢を立て直せ!」
雑木林から飛び出したタカラが、塒を巻いたニョロをフリスビーのように投げたのだ。
そしてニョロはツンを守るように魔法障壁を発動。攻撃を防ぎきった。
タカラは先ほどなぎ払われたのが嘘のようにピンピンとしている。
ハインリッヒが来て、治療したという様子ではない。
彼の復活を喜んだか。キメラが水の中で口を開いた。
あふれ出した気泡が外へはじけると共に水が球形から崩れ、砂浜に溢れ流れる。
塞がったばかりといった淡い色をしているが、傷は完全に修復されていた。
再生の正確さは蛇キメラより高いらしい。
(#,,^Д^) 「ッ!」
タカラの狙撃がキメラの目の下へ。
硬い音と共に突き刺さるが、キメラは怯んだ様子を見せず水の矢を三本、撃ち返す。
ξ;゚⊿゚)ξ「危ないッ」
ツンの心配をよそにタカラは最小限の動きでその攻撃を回避。
最後の一本を、かわしながらも掴んで受け止めた。
- 608 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:29:20 ID:FO59Pw1c0
- ニョロちゃん良い子!良い子!
- 609 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:30:23 ID:HxMP0asE0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「はぁ!?」
あの水魔法は、見た目こそ矢だが威力は投げやりのそれに近い。
それを素手で受け止めた。
タカラにそんなポテンシャルが合っただろうか。
( ^ω^)「杉浦双刀流、変式抜刀の型―――」
キメラもツンもタカラに意識が剥いていたその隙に、ブーンが背中へ。
目的は上体を起こしたキメラの背中に突き刺さったままの小剣。
横から全身の力で飛び上がり、柄を両手で握り締める。
( #^ω^)「螺旋錠破!」
キメラが異変に気付くまでの一瞬。
ブーンは剣に掴まった状態から背中を足場に屈伸。
一気に背中を蹴ると小剣を軸に、捩れるように回転した。
握り締められた剣はブーンの体と共に捻られ肉を抉る。
キメラの悲鳴。
回転を終えたブーンはその勢いのまま剣を引き抜き、着地し、やや体勢を崩した。
キメラは痛みを振り解くように身体をブルブルと震わせる。
ブーンは不十分な体勢から転がって距離をとった。
数本集まれば刀を防ぐ剛毛は、武器の役目すら果たす。
掠ったマントと肩口が破れ、僅かだが血が滲んだ。
- 610 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:33:22 ID:HxMP0asE0
-
キメラは魔法を発動。
上空に現われた水の剣が十本、ブーンに切っ先を向けている。
( ;^ω^)「!!」
回避が間に合うかはギリギリだ。
半ば這い蹲る形でブーンは逃げたが、剣は動き出さず切っ先の方向転換のみで追尾。
援護のためにタカラが受け止めた水の矢をキメラに打ち返す。
横っ面、鼻先の毛の薄い場所でそれを受けたキメラは、一時タカラを睨みつけたがすぐにブーンに視線を戻した。
そして、剣の魔法が発動。
驚異的な速度でブーンを突き刺しにかかる。
(;'A`) 『いやああああああああああ!』
( ;^ω^)「!!」
援護によって得た数瞬の内に幾分かマシな体勢を取ったブーンは、魔法の剣に立ち向かった。
一本目を小剣で横に流しながら左に体勢を移動。倒した体で二本目もかわす。
次いで軸足を左に回転。右半身を前に滑らせ三本目を回避し、戻しながら切り上げた剣で四本目を弾いて逸らす。
頭部、腹部を狙った五本目と六本目。右足で地を蹴り空中に身を浮かせ背と腹を掠らせてやり過ごした。
跳んだ勢いで胴を回転し、その慣性で振り切った剣で七本目を斜めに叩き落す。
地面に肘と膝で着地。伏せ、八本目を回避。転がって移動し、九本目に地面を切らせる。
最後の十本目は、仰向けの状態で薙いだ剣で軌道を逸らして難を逃れた。
- 611 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:35:37 ID:HwAA8SxM0
- ブーンすげえ
- 612 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:36:15 ID:HxMP0asE0
-
(;'A`) 『お前ばかぁぁ?!なんでわざわざこんな危険な……』
( ^ω^)(ドッグ、核を探知して!)
(;'A`) 『ファ?!』
そこは既にキメラの目の前。
ブーンは足で反動をつけ、バネのように起き上がる。
間一発、頭を狙った前足のスタンプをかわした。
そして、ブーンを見失ったキメラの懐に踏み込み、キメラに抱きつくようにタックル。
ドクオに一旦主導権を預ける。
戸惑ったものの、すぐにブーンの意図を読んだドクオはキメラの体に意識を集中。
ハインリッヒのように体内をくまなく見ることは出来ないが、強い魔力の発生源を辿ることは出来る。
上半身にその根源を感じたところで、身体を揺すられ振りほどかれた。
離れた瞬間ブーンに入れ替わり、懐を飛び出す。
毛に撫でられ何箇所か新たな傷を負ったが大したものではない。
ξ#゚⊿゚)ξ「“シュート=インパクト”!!」
(#,,^Д^) 「にゃあ!!」
ブーンの脱出を風の弾丸と矢が援護する。
的確に顔面を狙ったその攻撃をキメラは水の盾で防いだ。
- 613 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:38:09 ID:HxMP0asE0
-
( ;^ω^)「ツン!タカラ!核は上半身!」
ξ;゚⊿゚)ξ「もっと細かくわかんないの?」
( ;^ω^)「これ以上はハインリッヒじゃないと!」
キメラを守っていた水の盾が形状を変化した。
鎌のような湾曲した刃となってキメラの周囲をくるくると回り飛び回る。
三方を囲む形の三人。
そのうちの誰を狙いを定めるか悩んでいるようだ。
魔法を警戒して動けないツンとブーンに反し、タカラは弓を引く。
彼の持っていた最後の矢。
それを自身を見たキメラの目へ放った。
矢がキメラへ届く前に魔法の刃によって粉微塵にされた。
水の鎌はそのまま全てがタカラへ。
タカラはすぐに後退し、雑木林に逃げ込んだ。
上手い判断だ。
ツンにしろブーンにしろ複数の刃をかわすのは辛い。
ならば遮蔽物である防風林を背負ったタカラが囮を買って出るのは上等である。
( ^ω^)「おっおおおお!」
ξ#゚⊿゚)ξ「でやああああ!」
挟み打つように駆け出す二人。
キメラの意識は散漫し、反応が遅い。
- 614 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:40:40 ID:HxMP0asE0
-
ツンとブーンの目的は、図らずも統一されていた。
動きを封じる。
この勝負を決する決め手となるのは核の場所だ。
それを探り出す時間を捻出しなければいけない。
キメラは魔法を打ち終え、どちらに狙いを定めるというわけでもなく、身体を捻りあげた。
この挙動の意味は分らずとも、不穏な気配を感じ取った二人は不測の事態に備えるべく、やや速度を落とした。
ξ;゚⊿゚)ξ「?!」
( ^ω^)「!?」
二人が間合いに入った瞬間、キメラの体が、腹を軸に回転した。
速く。重く。そして、後退以外に避けようが無い。
既に深く踏み込んでしまっていたツンは、慌てて下がる。
前足をかわすが、その後に続いた尾鰭を受け吹き飛んだ。
ξ ⊿)ξ「ッ!」
体が宙に浮き、背中から地面に。
砂地だったため、比較的柔らかい衝撃。
痺れる身体を無理やりに起こした。
衝撃で痺れてはいるが、痛みはあまり無い。
身体を見ると、魔法障壁の残滓が纏わりついていた。
ニョロが首を伸ばしてツンの顔を覗き込む。
どうやら、再び彼に助けられてしまったようだ。
- 615 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:43:11 ID:HxMP0asE0
-
一方のブーンは持ち前の直感で攻撃を察知した。
かわせないと判断し、身体を丸め曲げた腕と足で盾を作り身体を浮かす。
受けたのは前足の肉球。
とはいっても愛玩動物のそれのように柔らかくは無く、感触で言えば圧縮に圧縮を重ねた藁束のようだった。
骨の軋む衝撃に内臓が震える。
吹き飛んだ身体は地面で一度跳ね、転がった。
すぐに起き上がる。
ダメージはゼロではないがいくらか軽減には成功したようだ。
受身もなく食らっていれば、恐らく体が糸の切れた操り人形状態になっただろう。
しかし、巨体が生んだ衝撃は大きく、ブーンもツンも体が思うように動かない。
足が言うことを聞かず、立ち尽くすばかりだ。
ξ;゚⊿゚)ξ(まずい!)
( ^ω^)(今、攻撃を受けたら……!)
(;'A`) 『ふぇぇぇぇ!』
タカラが小石をキメラに投擲。
首元に当たるが、キメラは気にする様子も無くブーンに狙いを向けた。
ツンであればまだ何とかかわすことも出来たが、今のブーンは生まれたての小鹿も同然のプルプルである。
攻撃をかわすだけの感覚はまだ戻っていない。
- 616 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:45:25 ID:HxMP0asE0
-
キメラの周囲に、水の礫が複数生み出された。
魔法弾。一個一個が人間の頭部よりも大きい。
いくらブーンが化け物染みた耐久力を持っていてもこれをまともに食らっては不味い。
ξ;゚⊿゚)ξ「“戦乙女の純潔を―――”」
ブーンは意地でも数発はかわすだろう。
問題はその後だ。
ブーンがかわしきれない残りの数発を防ぐための魔法を組み上げる。
ニョロもツンに倣って魔法式の展開を始めた。
その展開はとても穏やかで集中していなければ感じ取れないほど。
( ;^ω^)「!」
魔法弾が発射。
ブーンはわざと膝を折って身体を右に倒し二発を同時にかわした。
そこから逆に上体を振ってもう一度回避する。
しかし、その次が目の前の地面に炸裂。
衝撃音と共に舞い上がる砂と水しぶきがブーンの視界を覆い尽くした。
(#,,^Д^) 「ッ!」
( ;^ω^)「おっ?!」
さらなる水の剛弾が砂飛沫ごとブーンを打ち砕こうとした瞬間、タカラが横から飛び掛った。
ブーンを抱えタカラが地面を転がる。
これによって数発の魔法弾の回避に成功した。
- 617 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:46:36 ID:HxMP0asE0
-
照準を定めなおしたキメラが、残りの魔法弾を二人へ放つ。
タカラは身を起こしたが、回避には間に合わない。
ξ;゚⊿゚)ξ「“プロテクション”!!」
ツンとニョロ、二重に発動した障壁が激しい攻撃を凌ぐ。
タカラは障壁が時間を稼ぐうちに、ブーンに肩を貸し、立たせた。
( ,,^Д^) 「ブーン、気付いてるかにゃ?」
( ;^ω^)「お?」
( ,,^Д^) 「あのキメラ、ちょっとづつ戦い方が上手くなってるにゃ」
それはブーンも気付いていた。
キメラの懐に入るのが少しづつではあるが難しくなっている。
単騎で切り込めていたところが、誰かを囮にせねばなら無くなり、今度は二人同時に阻まれた。
このまま長引けば、さらに厄介になる。
( ,,^Д^) 「アイツも再生能力があるんだにゃ?」
( ^ω^)「だお。詳しい説明は省くけど、魔法の心臓的なものを壊さない限りは死なないらしいお」
( ,,^Д^) 「にゃるほど…」
- 618 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:48:35 ID:HxMP0asE0
-
魔法の嵐が止んだ。
ブーンはタカラの身体を離れる。
先ほどよりは動けるが、万全とは行かない。
ツンはキメラの火傷痕をナイフで突き刺し、気をひきつけた。
素早く引き抜き距離を取る。
( ,,^Д^) 「動けるかにゃ?」
( ^ω^)「僕が戦うにはちょっと苦しいかもしれんお」
( ,,^Д^) 「分った。剣を返してくれにゃ。俺が前に出るから、ドクオに援護を」
( ^ω^)「そっちは大丈夫なのかお?」
( ,,^Д^) 「にゃ?ちょっとクラクラしたけどなんてこと無いにゃ」
軽く答えて、タカラはキメラへ。
手にはブーンから受け取った小剣を持つ。
その足取りは確かに軽やかで怪我の気配は感じられない。
( ^ω^)(……僕が受身を取ってもこれだけのダメージを受けたのに?)
('A`) 『運が良かったんじゃねーか?とにかく、ある程度回復するまで俺が引き受けるぜ』
( ^ω^)(……)
- 619 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:50:09 ID:HxMP0asE0
-
ツンはキメラの意識をなるべく引くよう、その視界の中心に自身の身を置く。
キメラは死角にいたり、距離の離れた場所にいる相手に対し魔法を行使する傾向があった。
ならばこの身を囮に体による攻撃を誘えば、少なくとも絶対不可避な状況は極力避けられる。
ξ;゚⊿゚)ξ「ニョロ、お願い!」
そして、首に巻きついたニョロの援護。
彼は障壁魔法のみならず、ツンが使うのと同種の魔法をいくつか扱うことが出来た。
キメラが放つ前足のフックをかわすと同時、ニョロが衝撃魔法を放つ。
振動の魔法弾が鼻先で弾け、キメラが顔を引っ込めた。
(#,,^Д^) 「にゃあ!!」
タカラがキメラの前足に飛び掛り、逆手に持った剣を力を込めて突き刺した。
切っ先が食い込むが浅く、体ごと振り払われる。
('A`) 「“汝を焼除する”!」
反撃に移ろうとしたキメラの横っ面にドクオの放った火炎弾が炸裂する。
くぐもった音と共に紅い炎が上がりキメラの顔に絡みついた。
キメラは下半身に体重を預け、両の前足をばたつかせ火をかき消す。
ξ;゚⊿゚)ξ「ニョロ!」
ツンの指示に従いニョロが障壁魔法を展開。
腹ほどの高さ、台のように現われたそれを足場にツンは宙へ駆け上がる。
狙いは火にあくせくしているキメラの脳天。得物は逆手に構えたナイフ。
- 620 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:51:21 ID:HxMP0asE0
-
ξ#゚⊿゚)ξ「だっっらあああああ!」
全力の振り下ろし。
鋭利な切っ先は皮膚を突き破り、骨に達した。
ナイフが悲鳴を上げるのも気にせず、体重を乗せさらに食い込ませる。
キメラが目を剥いて頭を振った。
ツンはしがみつくことはせず、あっさりと振り落とされる。
十分だ。楔は打った。
(#'A`) 「“汝を焼穿す!」
暴れるキメラの胸を、ドクオの放った炎の槍が貫いた。
螺旋回転を帯びた高熱の魔槍は、キメラの毛皮を焼きながら抉り血肉を穿つ。
キメラは雄たけびをあげながら水塊を構成し握り潰すようにそれを相殺。
胸元には血すら流れ落ちない黒い穴が開いた。
(;'A`) 「タカラ!そのあたりに核があるような無いような!」
( ,,^Д^) 「合点にゃ!」
距離を取って魔法の二次被害を避けていたタカラが胸元に切り込む。
キメラはダメージに意識を朦朧とさせ迎撃は無い。
- 621 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:52:31 ID:HxMP0asE0
-
タカラが手刀を、渾身の踏み込みと共に胸元の傷口にねじ込む。
焼かれた組織を手で掻き毟り、肉の中を探った。
指先が何か硬いものに触れる。
ξ#゚⊿゚)ξ「“シュート=インパクト”」
反撃の様子を見せたキメラを引き止めるべく、ツンは頭部に残したナイフに衝撃魔法を放った。
それにあわせるようにニョロが障壁魔法を発動。
頭に当たった衝撃魔法を半球状の障壁が覆い尽くす。
キメラの体が叫びと共に跳ね上がった。
突き刺さったナイフを楔に、振動の波がキメラの脳にダメージを与えたのだ。
(#,,^Д^) 「くっそにゃぁ!」
キメラの体が力を失い崩れきる寸前、タカラがそこから這い出した。
血にまみれた右腕には、何かを握っている。
ξ;゚⊿゚)ξ「タカラ!」
( ;,^Д^) 「ドクオ、これかにゃ?」
(;'A`) 「見せてくれ」
キメラから離れたからはその手に持った何かをドクオに差し出した。
白く、砕けた石の形状のそれにドクオは目を凝らす。
- 622 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:54:46 ID:HxMP0asE0
-
(;'A`) 「……」
( ;,^Д^) 「……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ど、どうなのよ」
(;'A`) 「核じゃない。砕けた骨の破片だ」
( ;,^Д^) 「…ッ!」
言葉にならない悪態と共に、タカラはそれを投げ捨てた。
その背後で、倒れていたキメラがゆっくりと身を起こす。
ξ;゚⊿゚)ξ「どうするの?」
(;'A`) 「どうするもこうするも、魔力尽きるまであてずっぽう続けるしかねーだろ……」
( ;,^Д^) 「させてくれると、いいけどにゃあ」
キメラは再び水を纏った。
今度は全体ではなく、ダメージを受けた場所にのみ水が張り付き傷を修復していく。
そして。
ξ;゚⊿゚)ξ「……なによそれ」
- 623 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:55:34 ID:HxMP0asE0
-
キメラの下半身に纏わりついた水が胴の左右に集まった。
それがどこかで見たことのある形状に変化し、地面から胴を持ち上げる。
単純かつ明解に表現すると、鯨の胴に、水の足が生えた。
(;'A`) 「おいおいおい」
このキメラと渡り合うことが出来ていたのは、相手が戦うという行為において未熟だったことが一点。
そして、下半身が海獣であることによる機動力の低さが一点。
突進こそ驚異的な速度ではあったが、間合いの調整についてはブーン達にイニシアチブがあった。
もし、キメラがあの足によって自在に動き回れるようになったとなると。
( ;,^Д^) 「来るにゃ!」
キメラが地を蹴った。
重苦しい音とは対照的に軽やかに、高く高く体が舞い上がる。
ワタナベの箒に飛び掛った時よりも高い。
着地と共に地響き。
走って逃げていたドクオたちの足が取られるほど地面が揺さぶられた。
姿勢を崩したドクオにキメラが飛び掛る。
速い。今までにはあった攻撃と攻撃の間が殆ど無くなっていた。
(;'A`) 「ひゃんッ!」
無防備なドクオの身体を、図太い前足がなぎ払う。
- 624 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:56:56 ID:HxMP0asE0
-
ドクオの頭がポーンともぎ取られるかと思われた寸前、その顔がブーンに変わる。
ブーンは身を倒し間一髪で前足を回避。
攻撃の余波が顔の皮膚を痺れさせた。
安心する暇も無く、キメラは再び同じ足での追撃。
ブーンは横座りに近いその姿勢から腕と足の力で転がり回避。
間合いの離れた標的にキメラは後ろ足で前進しながら前足を振り上げる。
飛込みの叩き付け。
格段に速度と威力を増したそれを紙一重でやり過ごし、ブーンは胴の下へ潜りこむ。
( ^ω^)「鐘砕き!」
力を溜めた渾身の双拳突き。
重い音が響いたが、キメラに怯んだ様子は無い。
キメラは後ろ足立ちで後退。
拳を痺れさせているブーンが視界に入るや否や両前足を叩きつける。
これを難なく回避するも、ブーンの表情は暗い。
(;'A`) 『やっぱり強化魔法も無しに無刀は無理だ、ブーン!』
( ;^ω^)「ああもう!なんとかなんねーのかおドッグ!」
- 625 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 22:58:45 ID:HxMP0asE0
-
苛立ちの声を上げるブーン。
キメラは彼を睨みつけたまま前足を振り上げる。
ξ#゚⊿゚)ξ「“エア=エストック”!」
ツンが風の剣を生み出し放つ。
ブーンを追撃しようとしていたキメラは、前足の爪でそれを弾いた。
ξ#゚⊿゚)ξ「ニョロ!」
僅かに遅れてニョロも同じ魔法を発動。
ツンの魔法を弾いたのとは逆の足を狙う。
しかし、キメラはその場を飛び退いてあっさりとかわして見せた。
悪い予感は的中。キメラの機動力はこれまでの比では無くなっている。
( ;,^Д^) (攻撃が当たらない)
(;'A`) 『当たっても通らない』
( ;^ω^)(いざ通っても死なない)
ξ;゚⊿゚)ξ「どうしろってのよ!こんなの!」
三人(四人)の額に粘度の高い汗が滲む。
それを嘲笑うかのように、キメラはグルグルと喉を鳴らした。
- 626 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 23:00:04 ID:HxMP0asE0
- 今日はこんなところまで。勝てるんかコイツ
人間の証明読みながらやってたらゆっくり投下になってしまったッス
次回は週末に来れたら良いかなと
- 627 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 23:07:49 ID:MnD8fLPo0
- なん…だと…
乙
- 628 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 23:10:51 ID:L0nm69/s0
- 乙!どうすんのこいつ……
ニョロちゃん可愛いよニョロちゃん
- 629 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 23:14:32 ID:n6NRgKoQ0
- 不死身過ぎわろた
乙!
- 630 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 23:53:38 ID:3Pj28KhM0
- ふぇぇ…強いよぉ……乙
- 631 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 23:56:02 ID:qtQ3uugs0
- 相変わらずの戦闘描写乙!
しかしドクオの悲鳴が女々しいのが地味に気になるw
- 632 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 00:16:10 ID:IhRLFhCcO
- ω・`)スレイヤーズを彷彿させる毎回ギリギリの戦いw
- 633 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 00:40:16 ID:ZRZSStYEO
- 乙乙
どうやって勝つんだこの犬キメラに
- 634 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 00:46:08 ID:S0.gmwAc0
- (お、Jか?)
- 635 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 01:14:35 ID:pfRTJvzA0
- サンキュードッグ
- 636 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 01:19:57 ID:iDCZ84zQ0
- 乙
戦闘描写すごいな
コツとかあったら教えてほしいなんて
- 637 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 10:39:04 ID:hAJjCxK60
- 乙
バブルツンちゃんエンドか……
- 638 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 10:39:06 ID:z5VYp3tIC
- 乙
- 639 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 12:03:44 ID:WocIjN3Q0
- まさかコアって…
- 640 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 16:14:04 ID:TbPxg8mA0
- タk
- 641 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 17:37:57 ID:f9X2okJUO
- それ以上いけない
予想は脳内にとどめて
- 642 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 21:33:09 ID:0.OC/mAw0
- ドクオ肉弾戦は本当ダメだなww
くっついててこれなら、魔法が解けたらこの二人無双できそうだな
- 643 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 21:58:29 ID:P/8ts9s.0
- >>642
こんなに規格外の二人を弄んでくっつけたのが魔女なんだぜ……
- 644 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 22:28:37 ID:eM2TVDsM0
- >>639
金玉なのか?
しかし、上半身に有るって言ってたし…
キメラだから、上半身に金玉が付いててもおかしくは無いよな?
- 645 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 22:54:28 ID:aw16.qEw0
- >>640
トr
- 646 :名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 22:56:25 ID:r6qolL96O
- つんよりにょろのほうが魔法うまかったりして
- 647 :名も無きAAのようです:2012/10/31(水) 08:34:03 ID:EUW9L4bQO
- >>645
バtt
- 648 :名も無きAAのようです:2012/10/31(水) 20:33:47 ID:StTEWeZ20
- タ・ト・バ!
- 649 :名も無きAAのようです:2012/10/31(水) 20:53:34 ID:1zzjajlYO
- 逃げればええねん
- 650 :名も無きAAのようです:2012/10/31(水) 22:38:55 ID:5aA5nlqY0
- >>644
金玉が2つ以上の可能性が…?
- 651 :名も無きAAのようです:2012/11/01(木) 13:35:55 ID:UQHKxv2g0
- >>639->>650
___
/ \
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/: /ヽ /ヽ \
|:: ) / |
_,rーく´\ \,--、. (/ /
. ,-く ヽ.\ ヽ Y´ / '" ´ ! ` ー-、
{ -! l _」_ノ‐′/ ヽ | ∧
. ヽ ゙ー'´ ヽ / ヽ i |/ハ
`ゝ、 ノ ノ ヽ |
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|:: ) / | ノ ~.レ-r┐、
\::. (/ / ノ__ | .| |
. , ⌒ ´ \ '" ´ ! 〈 ̄ `-Lλ_レレ
/ __ ヽ |  ̄`ー‐---‐‐´
. 〃 ,. --ミ ヽ i |/ハ /
ji/  ̄` ヽ
曰
| |
ノ__丶
||大||
||五||
||郎||
- 652 : ◆x5CUS.ihMk:2012/11/05(月) 22:56:01 ID:KFxNNXFA0
- こんな時間だけれども15話逝きますよ
- 653 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 22:57:13 ID:KFxNNXFA0
-
ドォン、と腹に響く音がした。これで何度目だろうか。
獣の、例えば犬や狼の吠え声をさらに野太くしたような咆哮まで聞こえてくる。
それだけでなく、これまでには黒い何かが飛んでいったり紫の火柱が上がったりしていた。
何かヤバイことが起きている。
漠然とではあるが、確信を持ってそう思った。
/ ゚、。;/ (中尉、どこ行っちゃったんだし……)
スズキ=ダイオード一級曹は汗を拭った。
周囲には多くの部下や同輩がいるため表向きは気丈にしているが、やはり不安は募る。
仲間達も口や態度に出さないが、どこか浮き足立っているように見えた。
ナガオカ中尉が詳しい理由を説明せずに湖の周囲に規制線を張ったのはほんの数十分前である。
キメラが発見され危険だから、と一応は説明を受けたがいまいち腑に落ちない。
禁酒委員会直属である彼らにとって害獣駆除は確かに管轄外ではあるが、ことサロンにおいては別だ。
出張って以降、禁酒委はサロンシティ内でのあらゆるトラブルの解決に尽力し、管轄を越えた信頼を得ている。
ならば今回も我々が出張ってキメラの討伐を行うべきではないのだろうか。
不審な点は他にもある。
ダイオードたちは事前に付近の地域での待機が命じられてから、ジョルジュの指示で規制に入った。
ただの規制線ならば、支部から直接この湖への道へ向かえばよかったはずだ。
この妙な動きは、何のためなのか。
不明瞭ゆえに湧き立つ不安がダイオードの両の眉を引きあわせていく。
- 654 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 22:57:56 ID:KFxNNXFA0
-
ダイオードはナガオカを尊敬している。
怖い上官ではあるし、時々気が違っちゃっているような発言こそあれ優秀な人だ。
他にも突然抱きついてきたり、暇さえあれば胃薬を服用しているなど変なところも多いけれど。
何より昔からダイオードを贔屓にしてくれた。
禁酒委直属師団への異動を願い出た際も、上が渋っている中、ナガオカが直々に引き抜いてくれたと聞いている。
セクハラは本気で困ってはいるが、彼に対する信頼は厚い。
/ ゚、。;/ (でもやっぱり、ここ最近は変だし……だし……)
数週前あたりからだろうか。
まだ潜入任務の最中であったダイオードはたまに顔を合わす程度ではあったが、その頃から少し変だったような気がする。
元々胃痛持ちのとはいえ最近妙に薬の量が多い
ダイオードもナガオカの胃の突貫に一役買っている自覚はあるので中々聞けないが、何か厄介ごとを抱え込んでいる様子。
気のせいであればいいのだが、今回の件といい、前回の謎のキメラの件といい、気が気ではない。
世間でまことしやかに囁かれている、禁酒委の暴動主謀説などもあいまり、なんだかダイオードまで胃が痛くなりそうだ。
/ ゚、。;/ (中尉のために買っておいた胃薬あるんだし。ちょっと飲むんだし)
ポケットには、先日ナガオカの為に買った胃薬があった。
面倒をかけてしまった詫びと賄賂代わりに何かをプレゼントしようと思って買ったのがこれだ。
酒はもちろんコーヒータバコ、嗜好品の類は全くしない男のため、他に思い浮かばなかった。
一応、普段ナガオカが飲んでいるのと同種の、一段階値段の高い噛んで飲めて素早く効くタイプだ。
我ながら気の利いたチョイスだ、とダイオードはやや満足げな顔をした。
どう見ても胃痛とは無縁の能天気である。
- 655 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 22:58:40 ID:KFxNNXFA0
-
何となく胃痛が引いた気がしたので薬のビンを開封せずポケットに戻した。
そもそもダイオードは頭があまりよろしくないので難しいことを考えるのは苦手なのだ。
今はいらぬ心配よりも真面目に任務をこなし、終わってからさりげなくナガオカに尋ねればよい。
問題は、彼女がさりげなく話を聞きだすような真似が出来るか、だが。
普段であれば任務中であっても人が来なければ比較的穏やかな雰囲気のサロン支部の面子。
ダイオードと同じく妙な緊張を感じているのか会話も少なく、皆身体を強張らせている。
軽鎧を装備しフェイスガードのついたヘルメットを被っている彼らがだんまりと並んでいるのは中々の威圧感だ。
今のところ近隣住民が現われ無いのが幸いだ。
こんな様子では、見た人は何事かと不安になってしまう。
既にダイオード達が不安で一杯ではあるのだが。
〈 -[iiii]〉「……ん?」
〈 =[iiii]〉「どうした?
〈 -[iiii]〉「あれ、何でしょう」
下っ端の兵が上空、街中の方面を指差した。
晴れて清清しい青空に何か黒い点が見える。
- 656 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 22:59:25 ID:KFxNNXFA0
-
兵士達が目を凝らす間も無くそれはドンドン接近してきていた。
先ほど湖のほうから飛んでいった何かだ。
良く見ると、箒に跨った少女である。
/ ゚、。#/ 「止まれーッ!ここから先は立ち入り禁止だ!」
ダイオードは両手を顔に当て、少女に向かって叫んだ
聞えないのか、少女の速度は緩まず通過しようとしている。
/ ゚、。#/ 「聞えないのか!とまッ…」
从;'ー'从 「 お と ど け も の で す 〜 〜 ! 」
ダイオードの言葉を完全にスルーし、何かを叫びながら少女が上空を通り抜けていく。
彼女の起こした風がふわりと髪をなびかせた。
目でその姿を追うと、箒の後ろには白い何かを乗せている。
/ ゚、。;/ (お、お届け物?)
そのまま、彼女は湖を囲う防風林の向こうへと消える。
残された兵士達は、どうして良いのか分らず互いに顔を見合わせた。
* * *
- 657 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:00:28 ID:KFxNNXFA0
-
从 ゚∀从 「ハーッハッハッハイーンリッヒ!」
その男は、無駄に特徴的な高笑いと同時に空からやってきた。
白衣をはためかせ地面に着地。
衝撃で足を痺れさせ、その場に尻餅を着いた。
ξ;゚⊿゚)ξ「リッヒ?!何やってんの?!」
从 ゚∀从 「お前らがピンチだって言うから飛んできてやったんだろ」
( ;,^Д^) 「にゃあああ!」
新しいおもちゃを見つけた猫のように目を爛々と光らせたキメラがハインリッヒに飛び掛る。
それをタカラが飛びついて庇った。
ツンは援護のためニョロに攻撃魔法を展開させ、自分はキメラの目の前へ走る。
ξ;゚⊿゚)ξ「バーカ!」
目一杯の声量で叫んだ。
意味は通じていないだろうが、声が聞えたことでキメラの意識がツンへ逸れる。
その間にタカラがハインリッヒを抱えて逃げた。
後ろ足を手に入れたキメラの行動範囲に限界は無いと考えていい。
できる限り遠くへと距離をかせぐ。
从 ゚∀从 「あれ、タカラお前死にかけじゃなかったのか?」
( ;,^Д^) 「不思議とピンピンしてるにゃ!」
- 658 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:02:13 ID:KFxNNXFA0
-
(;'A`) 「リーッヒ!割愛するが、アイツ魔法の核をどうにかしねえと倒せねえんだ!『診察』でみつけらんねぇか?!」
从 ゚∀从 「……」
ハインリッヒは前足でツンをコロコロして弄ぶキメラを見て、頬を掻いた。
上空のワタナベも含め、ここにいる人間で彼が戦っている姿を見たものは居ない。
少し前ならまだしも、ブーンすら苦戦する今のキメラにハインリッヒが接近できるのだろうか。
从 ゚∀从 「出来るか出来ないかで言ったら出来る」
('A`) 「!」
( ,,^Д^) 「!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、いいから早くしてッ!」
ハインリッヒが現われてからツンは一人でキメラの相手をしていた。
ニョロの援護が無ければ二回くらいバブルツンちゃんになっている。
从 ゚∀从 「俺はお前らみたいに飛んだり跳ねたりは出来ねえ。援護は頼むぞ」
ある程度の事情はワタナベから伝わっていたのかハインリッヒは協力的だった。
彼を上手くキメラに接触させることが出来れば核の場所が分る。
- 659 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:02:57 ID:KFxNNXFA0
-
('A`) 「リッヒ!診察にはどれくらいかかる?!」
从 ゚∀从 「やってみてだが、最短20……10秒は欲しい」
('A`) 「よし」
ドクオがブーンに。
ツンにじゃれるのに夢中なキメラへ駆け寄った。
その間にハインリッヒはワタナベと共に上空へ。
タカラは距離を取りながら弧を描くように走る。
キメラは周辺に散らばった人間それぞれを舐めるように見た。
その隙にツンは後退。
ブーンはキメラと視線を交えると、進路を変え後ろへ回り込む。
その後もキメラは視線を右往左往。
どれを狙うか悩んでいるように見えた。
ツンは直感で悟る。これは不味いと。
ξ;゚⊿゚)ξ「魔法が来る、気をつけて!」
ツンの叫びは間も無く現実となった。
キメラの目が輝くと同時に湖の水が渦を巻いて立ち昇る。
一目見て分る、尋常ではない水量。
空を飛ぶワタナベよりも高く立ち上ったそれは、頭上を覆うように分厚く広がってゆく。
- 660 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:04:32 ID:KFxNNXFA0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「クッソ!ナベちゃんこっちきて!!」
広範囲魔法と判断したツンは、ワタナベを呼び走り出した。
目標はタカラ。
この場で防御魔法を扱えるのはツンとドクオしかおらず、他の三人はどちらかが庇わねば直撃は免れない。
ドクオの防御魔法は基本的に一人向きであるし、ここはツンが買って出るのが妥当だ。
ξ;゚⊿゚)ξ「ニョロもお願い」
キメラの魔法は着々と進行している。
本来であればこれだけ悠長な魔法式の展開、ぶん殴って妨害するのがセオリーなのだが、今回はそうも行かない。
ニョロにも障壁魔法を展開させ、降りてきたワタナベと共にタカラたちの下へたどり着いた。
ξ;゚⊿゚)ξ「“ただ、愛のみぞあれ―――”」
(;'A`) 「“拒み、抗い、絶し、そして―――”」
周囲がにわかに明るさを失う。
先ほどまで青かった天上は水の幕に覆われ、乱反射の光を湛える緑に変わっていた。
地面には水を貫いて届いた光の線が斑に映し出されている。
ξ;゚⊿゚)ξ「“―――プロテクション”!!」
(;'A`) 「“汝を、否定する”」
三つの魔法の発動は、ほぼ同時であった。
- 661 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:05:22 ID:KFxNNXFA0
-
ツンとニョロが同時に発動した障壁が半球ドーム状に四人を包む。
そこへ上空から降り注いだ雨と称するには強すぎる水の弾丸。
けたたましい音と共に砂が跳ね上がり、その威力の高さが一目で分った。
範囲は周囲の防風林も含むこの砂浜一面。
もしツンが間に合わなかったら、逃げる場所が無かっただろう。
痺れる衝撃と共に障壁が削られていく。
二重のうち、外側に作り出したツンの障壁はすぐに穴だらけだ。
抜けて通った数発が内側のニョロの障壁を削り取る。
ξ;゚⊿゚)ξ「…ッ、ニョロもう少し耐えて」
ツンは一旦障壁を破棄。次の魔法障壁の展開に入る。
交互に張れば、少なくとも裸の状態で食らう時間は無くせるはず、という判断。
しかし、目に映った光景にツンの全身の毛穴が冷たい汗を噴出した。
从;'ー'从 「ふぇッ」
( ;,^Д^) 「なんてこっにゃ!」
降りしきり地面を穿つ弾雨の中、キメラが悠々と歩み寄ってくる。
立ち上る水煙の中、目を爛々と輝かせゆらりゆらりと。
顔をぶち抜く水弾に怯む様子も無く、緩慢な動きで近づきながら赤黒い舌をベロリと這わせた。
- 662 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:06:25 ID:KFxNNXFA0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「……“プロテクション”!」
キメラの巨体は確実な速度で迫っている。
障壁をさらに内側に張り、あわせて三枚目。
ニョロが穴だらけになった魔法を破棄し、次の展開に入った。
爆ぜる水でよくは見えないが、魔法はまだまだ続く気配。
キメラを相手する余裕は微塵も無い。
そして。
( ;,^Д^) 「ぐぅ……」
从;゚∀从 「不味いな、こりゃ」
目の前で悠々と障壁を見下すキメラ。
障壁の中からでは何の対処も出来ない。
しかし、障壁が無ければ人間たる彼らの身体は数秒と持たない。
完全な、詰み。
王将に止めを指すべく、キメラがその前足をゆっくりと引き上げた。
- 663 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:08:02 ID:KFxNNXFA0
-
( A ) 「“掃き、払い、拭い、そして―――”」
黒い爪が、既にボロボロに障壁を引き裂くかと思われたその瞬間。
雨の中から、ドクオが飛び出した。
全身に纏った防御魔法の揺らぎが彼を魔法攻撃から完全に守っている。
(#'A`) 「“汝を、排斥す”!!」
追加の魔法式を得た陽炎の衣の一部がぐにゃりと歪み、巨大な腕のような形状に変化。
ドクオの右腕の動きに合わせて、キメラの横っ面をフルスイングで殴り飛ばした。
振動と斥力の塊であるそれは、巨躯をものともせずキメラを揺らがせる。
(#'A`) 「もう、いっちょおおおおお!!!」
ドクオは振りぬいた拳を、裏拳の要領で振るう。
魔法の手もそれに倣い、体勢を崩しているキメラの顎を轟音と共にカチ上げた。
雨の中、図太い前足が僅かに地面を離れる。
(#'A`) 「どっせえええええええええい!!」
裏拳から振り上げた拳を、さらに振るった。
骨やら脳やらなんか大事なものが潰れる独特な高音と共に、跳ね上がっていたキメラの顔面が弾ける。
ゆっくりとキメラの体が横へ。
後ろ足を構成していた水が瓦解するのをきっかけに、巨体が倒れた。
完全にK.O。
倒れたキメラは舌をだらしなく伸ばし、すぐさま再起する様子は無かった。
- 664 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:09:03 ID:KFxNNXFA0
-
(#'A`) 「余裕ぶっこいてるからだバーカ!」
制御者を失ったためか、上空を覆っていた水が形を失い一気に落下した。
魔法の効力は無いためただの水だが、量が量のため中々の衝撃。
青空に戻ったことを確認して、ツンとニョロは障壁を消した。
(;'A`) 「リッヒ、頼む」
从;゚∀从 「わかった」
ハインリッヒはモーパイクローを発動してキメラに触れた。
集中するように目を閉じる。
いつキメラが復活するか分らないため、ツンたちは警戒を残してそれを見守った。
ξ゚⊿゚)ξ「念のためあと二、三発ぶちかましたほうが良かったんじゃない?」
(;'A`) 「いや、ごめん。三発目入れた時点で肩外れちゃって」
ξ゚⊿゚)ξ
優しいツンちゃんはドクオをその場に組み伏せ、肩を嵌めなおしてあげた。
ドクオは絞め殺される鶏のような悲鳴を上げたが気にせずギリギリと引っ張りぐいっと押し込む。
骨の噛みあう感触を確認して、手を離した。これでキメラが生き返っても大丈夫だ。
それと同時、診断を続けていたハインリッヒが跳ねるように下がった。
一瞬で意識を切り替えたツンはワタナベを庇っうように腕を開く。
- 665 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:10:07 ID:KFxNNXFA0
-
(;'A`) 「え?」
ハインリッヒが離れてすぐに、キメラの前足が宙を薙いだ。
狙いを定めた訳ではなく適当に振るわれたため誰に当たることも無い。
キメラは数度身体をばたつかせゆったりと起き上がった。
肩を抑えながら起き上がったドクオとキメラの目が合う。
一瞬の思案。
キメラはドクオに向かって吠え声を上げた。
( ;^ω^)「のおおおおおおおおおおおおおう!!」
ブーンに入れ替わり、耳に指を突っ込みながら下がる。
ツンはタカラと共にワタナベとハインリッヒを庇い雑木林へ逃げた。
中に入りたかったが、先ほどの範囲魔法の影響で大半の木が倒れてしまっているため難しい。
ある程度距離を取り、あとは二人の自力に任せる。
ξ゚⊿゚)ξ「リッヒ、核は?」
从 ゚∀从 「胸元の傷口の少し上の奥、丁度心臓の裏辺りだ」
ξ゚⊿゚)ξ「分った。あとは、安全な場所に隠れてて」
从 ゚∀从「これ、持ってけ。ドクオにもな」
ハインリッヒがツンに手渡したのは澄んだ青い液体が入った小さな試験管二本。
以前も飲んだ魔力の回復を促進する薬だ。
- 666 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:10:20 ID:5ojkhNl.0
- きてたー!
- 667 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:11:41 ID:KFxNNXFA0
-
ツンはハインリッヒに礼を残し一直線にキメラへと走った。
貰った試験管の片方をキャップを口で外し、中身を半分ほど呷る。
残りは首に巻きつくニョロに与えた。
キメラはツンとタカラの姿を確認すると、再び水の足を作り出した。
傍にいたブーンが阻止しようと前足に両の拳を突き立てるが効果は無く、逆に軽く払われてしまう。
受身を取り、すぐさま体勢を立て直したブーンにキメラが素早く襲い掛かった。
連続で繰り出される前足をギリギリでかわし、腹の下に潜りこむ。
ξ#゚⊿゚)ξ「“フラッシュ=ボム”」
そこへツンが放った光の魔法弾。
キメラの眼前にたどり着くと同時に、激しい閃光を撒き散らし炸裂した。
直視したキメラは視力を失った様子で適当に前足を振るう。
鼻で大体の居場所を把握しているのか全くの当てずっぽうではないようだが、無論これは誰にも当たらない。
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンこれ、ドクオに飲ませて!」
( ^ω^)「お?」
この隙にツンはブーンに薬を投げ渡す。
受け取ったブーンは腹の下を抜け出しツンと合流。ドクオに入れ替わる。
- 668 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:12:23 ID:KFxNNXFA0
-
この間にタカラは目の異常に戸惑うキメラの胸に小剣を突き刺した
先ほど魔法で抉った傷跡があるため、他の場所よりは脆いがそれでも浅い。
反撃を受ける前に素早く引き抜いて間合いを取る。
ξ;゚⊿゚)ξ「核は胸の奥、丁度心臓の裏辺りだって」
(;'A`) 「予想通りっちゃ予想通りだな。問題は、どうやってぶち抜くか」
ハインリッヒが探り当てたかくの場所は前後上下左右から見ても厄介な場所にあった。
骨や筋肉で守られた体の中心。
生物にとって何より重要な心臓の傍なのだから当然ではあるのだが。
先ほどのドクオの火炎魔法でもそこまで深くは抉れなかった。
そもそも一度痛手を負わされた魔法をそう簡単に食らってくれるかが分らない。
ξ;゚⊿゚)ξ「天叢雲を使うにはもう少し魔力がたまらないと」
(;'A`) 「どっちにしろ、アレは副作用が怖すぎる。ひとまずは俺の魔法で……」
言いかけたドクオの頭をツンが無理やり手で押し下げる。
キメラの後ろ足から伸びた水の鞭が、首のあたりを高速で撫でた。
視力が回復してきているようだ。
ドクオとツンは手当たり次第に水の鞭を振り回すキメラから距離を取る。
魔法式の展開をしながら回復薬を飲み下すドクオに対し、ツンはニョロに魔法を任せた。
できればナイフを回収したいが、未だにキメラの脳天に中途半端に刺さったままだ。
- 669 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:13:13 ID:KFxNNXFA0
-
( ,,^Д^) 「!」
視力を取り戻したキメラが、目の前のタカラに襲いかかる。
前足の振り下ろしを寸前でかわすが、連続して放たれた横なぎに対処しきれず剣でガードしながら突き飛ばされた。
(;'A`) 「“―――我、憤怒の槍を取る者”」
ξ;゚⊿゚)ξ「クッソ!」
タカラのことは心配ではあるが、今はキメラの討伐が優先だ。
転がるタカラに意識が向いている隙に、ツンはキメラの横腹に走り出す。
(;'A`) 「“汝を、焼穿す”!!」
ドクオの放った魔法の炎槍は紅い軌跡を残しキメラへ。
やや弧を描き、前足の付け根の裏から胸元までを穿つような軌道を取る。
これが刺されば、ニョロが展開している衝撃魔法でさらに内部を破壊し、核に届くかもしれない。
が。
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!」
キメラが振り返りざま、前足で槍を払い落とした。
螺旋を描く突撃槍は側面からの干渉には滅法弱く、いとも簡単に砕かれる。
良く見ると前足には水が纏わりついており、本来の爪に代わって鋭い鉤になっていた。
- 670 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:14:29 ID:KFxNNXFA0
-
予定を変更し、ツンは足を止めニョロにキメラの顔を狙うよう指示。
ニョロは忠実にキメラの眉間を狙って魔法弾を放ったが、水の壁がそれを防ぐ。
(;'A`) 「くそ、当てさせてもくれないのかよ!」
( ;^ω^)『一度使った手は、もう食らってくれそうにないおね』
(;'A`) 「ツン、予定変更だ!一回殺す!殺してからばらす!あの剣よろしく!」
ξ;゚⊿゚)ξ「簡単に言わないでよね!」
ニョロに魔法式を展開させ、ツン自身は前足をかわすと同時に大きく後退。
着地と同時に水弾が三つ襲い掛かり、寸前でニョロの障壁魔法がツンを守る。
しかし安心する暇も無くキメラ本体が一足で踊りかかった。
前足の叩き付けを掠められながらも胴の下に潜り込んで逃げた。
掠めた左の肩が痺れるように痛む。
右手で庇うと、浅くだがすりむけて血が出ていた。
(#,,^Д^) 「おおおおお!」
腹の下のツンをしつこく追撃いようとキメラが身を捻ったと同時、タカラが叫びを上げながら腹に飛びつく。
剣の切っ先が鯨のわき腹に食い込み、染み出すように血が零れた。
- 671 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:15:31 ID:KFxNNXFA0
-
タカラの作ってくれた隙を活かして、ツンはキメラから離れる。
ドクオはタリズマンから魔力を補給し、魔法式の展開を始めていた。
一瞬のアイコンタクト。
ツンも天叢雲の展開を開始した。
キメラの再生は殺すたび早くなっていた。
ドクオが魔法でキメラを殺し、間髪置かずに掻っ捌く必要がある。
タイミングが重要だ。
ドクオが早すぎてもキメラに復活されてしまうし、ツンが早すぎれば斬る前に魔力が切れてしまう。
不安定な魔法に頼らねばならないこの状況、不本意極まりない。
(;'A`) 「“喰らい合い、熔かし合い、表裏の如く一体となれ―――”」
ξ;゚⊿゚)ξ「“邪より生まれし聖(ヒジリ)の剣よ―――”」
( ;,^Д^) 「ぐぅ!」
キメラの猛攻をタカラは辛うじて防いでいた。
剣を盾にし、身を転がし、時にはわざと攻撃を食らいながら必死にキメラの意識をひきつける。
キメラもキメラでいくら叩いても喰らいつくタカラを夢中で攻撃しているようだった。
(;'A`) 「“我、何者よりも力に焦がれし者―――”」
ドクオがチラリとツンを見た。
速すぎる。ツンはまだ時間が足りない。
- 672 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:17:14 ID:KFxNNXFA0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「“曇天導き、今我が元へ参らん―――”」
急いではいるが、天叢雲はそもそも繊細な展開がいる魔法だ。
その上タカラが打ちのめされているのを目にしている分、展開に集中できず上手く行かない。
焦る魔法使い二人をよそに、キメラは大きく前足を振り上げた。
思いの外頑丈な目の前のおもちゃを少し強く叩いてみようと、筋肉が怒張する。
( ;,^Д^) (これまでかにゃ)
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!」
キメラの渾身の一撃が振り下ろされようとしたその瞬間。
拳大の石ころが上空から落下し、キメラの頭に刺さっていたナイフに直撃した。
怯むキメラ、前足を引っ込め視線を上へ。
从;'ー'从 「ひぃ!こっち向いた!」
そこにいたのは他にもいくつか石を抱えたワタナベの姿。
キメラと目が合うと全力で残りの石を全て投げつけた
残念ながら怯む様子は無い。
( ;,^Д^) 「ダメにゃ!逃げるにゃナベちゃん!」
タカラの叫びは既に遅くキメラの周囲に無数の水剣が現われた。
切っ先は全てワタナベを向き、狙いは完璧だった。
- 673 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:19:23 ID:KFxNNXFA0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ドクオ!」
(;'A`) 「!」
あと一歩で発動に漕ぎ着け、ツンは走り出した。
(#'A`) 「“汝を、焼排す”」
ドクオの放った火炎弾が空を裂きツンを追い抜いてゆく。
爆炎の範囲を狭めた局所仕様のそれは、キメラの即頭部を狙った。
ξ#゚⊿゚)ξ「“来い!―――天の……”」
その瞬間、キメラがツンを振り向いた。
口の端が釣りあがり、笑っている。
(;'A`) 「!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「!?」
結論から言えば、読まれていた。
どこまでかは分らないが、少なくともキメラの視界の外でツンたちが魔法を準備し、その命を狙っていたことは。
ワタナベを狙っていたと思い込んでいた水の剣が急激に反転。
火炎弾の魔法を相殺し、ツンとドクオに襲い掛かる。
- 674 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:20:06 ID:KFxNNXFA0
-
ニョロが掠れた叫びを上げ、障壁を発動。
直撃こそ免れたが、抜けた一振りが脇腹を深めに切り裂き、天叢雲は発動途中で瓦解してしまう。
ドクオはブーンと入れ替わり、回避。
しかし彼もまた全てをかわしきる事は出来ず、肩口と太ももに大きな切り傷を作った。
作戦は失敗。
わき腹を押さえ膝をついたツンを見てキメラは愉快そうな咆哮を上げた。
ξ; ⊿゚)ξ (くそ……!クソ……ッ!)
( ;^ω^)(くッ!)
ブーンは傷の痛みを無視し、キメラに突撃した。
散々の責め苦で動きの鈍ったタカラや、精神的にも揺さぶられているツンを狙われるのは不味い。
走り寄ってくるブーンを見下し、キメラは後ろ足の付け根から伸びた水の鞭で地面を薙ぐ。
水浸しの地面に線が走り、ブーンは足を止めた。
ブーンへの牽制を数撃続けた後に、キメラは高く飛び上がり湖へ戻る。
目的が分らず、追いあぐねるブーンを余所に美しい姿勢で湖に飛び込んだ。
控えめな音と共に高い水柱。
それ以降、水面に姿を見せない。
- 675 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:20:58 ID:KFxNNXFA0
-
( ;^ω^)「逃げ、た?」
(;'A`) (……いや、違う。ブーン代われ!)
(;'A`) 「リーッヒ!軽くでいい!ツンとタカラの治療を!」
ドクオの声に応じ、雑木林の残骸からハインリッヒがひょっこりと顔を出した。
安全だと思ったのか、小走りでツンの元へ。
自身で止血は施したようだが、傷が大きく動きに支障があるようだ。
( ;^ω^)『ドッグ、アイツは何する気なんだお?』
(;'A`) (……湖ってのは、山や周囲の森林から流れ着いた栄養が大量に溜まってる)
(;'A`) (栄養だけじゃねえ。動植物の魔力の残滓も、大量にな)
( ;^ω^)『ってことは、』
(;'A`) (そう。湖は、あのキメラにとっては巨大な魔力貯蔵庫なんだよ)
湖の水が立ち上がった。
今までの比ではない。水で丘を作るつもりなのかと思うほどの量が渦を巻いて柱になる。
それが徐々に人のような形状を取った。
その場にいた全員の顎が自然と落ちた。
もうどうしろと。死ねと。
- 676 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:21:48 ID:KFxNNXFA0
-
水の巨人が湖に手を差し込み持ち上げた。
そこには同じく水で作られた細身の槍が。
巨人はそれを、おもむろに振りかぶる。
(;'A`) 「逃げろ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「!!」
ドクオの指示に従い、全員が走る。
巨人が槍を放ったのはそのすぐ後だった。
爆音が響く。
目にも留まらぬ速さで地を穿ったそれは、止まることなく雑木林まで突き抜けた。
衝撃によって立ち上る水と砂の壁。
それが止むと、ぱっくりと割れた地面が現われる。
( ,, Д ) 。^ ^。
一番間近で槍の威力を体験したタカラは絶句した。ちょっと泣いていた。
これ無理だろと。
一国挙げて戦争しても勝てない奴だろ、と。
* * *
- 677 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:22:34 ID:KFxNNXFA0
- _
( ゚∀゚) 「」
o川*゚ー゚)o 「驚いた?ねえジョルたん驚いた?」
_
( ゚∀゚) 「……ああ」
o川*゚ー゚)o 「眉毛は?驚いた拍子にずれたり飛んでったり剃り落とされたりしてない?してない?」
_
( ゚∀゚) 「……見ればわかるだろ」
o川*゚ー゚)o 「つまんなーい。もっとアクティブになろうよー。せっかくだから眉毛でアイスラッガーできるようにする?」
_
( ゚∀゚) 「頼むから少し黙っててくれ」
o川*゚ー゚)o 「今なら送料取り付け工費全部キューネット負担だよー。安いよー」
服の裾を引っ張る魔女を無視し、双眼鏡を覗くジョルジュ。
オルトロス、ブーンの仲間は全員無事なようだが、どうしようもない諦観を漂わせている。
少し気は早いが、勝負あった、と言っても問題ないだろう。
それにしても、とジョルジュは汗を流す。
キメラが勝った場合、恐らく放置してゆくであろう魔女の代わりに駆除を考えていたのだが。
これは、ジョルジュや禁酒委員会付き部隊の精鋭を集めても勝てる気がしない。
どうしよう、と胃が痛くなった。
- 678 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:23:41 ID:KFxNNXFA0
- _
( ゚∀゚) 「最初から、この力を使っていれば、楽だったんじゃないのか?」
o川*゚ー゚)o 「んー?まあ、あの子まだ自分が何できるかもよく分らなかったろうし。それに」
_
( ゚∀゚) 「それに?」
o川*゚ー゚)o 「私が、遊べって言ったからね」
_
( ゚∀゚) 「……」
o川*゚ー゚)o 「あー!ふざけてると思ったでしょ!ちゃんと理由あるんだから!」
_
( ゚∀゚) 「……なんだ」
o川*゚ー゚)o 「あの子、生まれたてだから細かいこと分らないのよね」
o川*゚ー゚)o 「「近隣の街に被害が出ないように」なんて言っても分らないし、仮に分ってもそのせいで上手く戦えなくなっちゃう」
_
( ゚∀゚) 「……」
o川*゚ー゚)o 「だから、遊べって言ったの。それならおもちゃ意外には意識が向かないでしょ?」
不満はあるが、現状では一応その通りになっているため口には出さなかった。
ジョルジュも内心ではブーンを抹殺出来るか否かよりも、街に被害が及ばずに済むかを心配している。
o川*゚ー゚)o 「ところでジョルたんは、どっちが勝つと思う?」
_
( ゚∀゚) 「どう見てもキメラだが、アンタはオルトロスが勝つと?」
- 679 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:24:25 ID:KFxNNXFA0
-
o川*゚ー゚)o 「……あの子は、今まで私が作った中でも傑作の内に入ると思う」
o川*゚ー゚)o 「それこそ、水辺だったらちょっとした国と戦争してもいい勝負するはずよ」
だろうな、と胸中で同意した。
湖ではキメラの生み出した水の巨人が再び槍を放る。
地面を抉り水の余波が壁のように立ち上った。
子供がパチンコで蛙を狙うような、そんな余裕と嗜虐性。
本気を出せばあの槍ならずとも、もっと大規模な魔法で一気に捻り潰すことも可能なはずだ。
それこそ、サロンシティをあの一頭で壊滅させることも。
「遊べ」ではなく「殺せ」だったならば、ブーンの仲間全員が無事のままではいられなかっただろう。
o川*゚ー゚)o 「でも、あの子がいくら強くてもあくまで生き物だから死なないわけじゃないし、隙だってある」
_
( ゚∀゚) 「とは言え、簡単につける隙ではないと思うがな」
うふふ。と魔女が笑う。
そして自慢を湛えた顔でジョルジュを見上げた。
o川*゚ー゚)o 「それくらいやってくれなきゃ、困るわ」
_
( ゚∀゚) 「……やってもらわれると、俺は困るんだがな」
o川*゚ー゚)o 「うふふ☆ま、手を出したくない者同士、大人しく見物しましょ☆」
* * *
- 680 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:25:47 ID:KFxNNXFA0
-
もう何度、水の槍をかわしただろうか。
大量の水は地面を緩くし普段とは異なる疲労感が足を襲う。
絶え間なく濡れ続けた身体は体温を奪われ、次第に身体も硬くなっていた。
再びの投擲。
余波が大きく、最小限の回避では直撃と大差ない。
必然的に運動量は増え、体力を失うばかりだ。
魔法による攻撃を試みるも距離が遠すぎてまともな有効範囲ではなく、そもそも展開をさせてもらえない。
ξ#゚⊿゚)ξ「……」
しかし、まだツンは諦めていなかった。
どちらかというと、奪われる体温を取り戻す勢いで燃え上がっていた。
キメラに受けた、不意の反撃。
その時に見せた不愉快極まりない犬の笑顔。
思い出すだけで腹が立つ。
舌をデロデロ出したあのアホ面に、ドヤッっと見下された時点でなけなしのプライドに唾が付いた。
そもそも戦い方が気に入らない。
前足でツンたちをコロコロするわ魔法でビシバシ打ちのめすわ、人間をなんだと思っているのか。
今の魔法攻撃も、逃げ惑うツンたちの姿を見て愉しんでいるように見える。
いっそ一発で食われたほうがマシだ。
人間はおもちゃじゃないのだから。食べ物でもないけれど。
- 681 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:26:49 ID:KFxNNXFA0
-
( ;^ω^)「……」
一方ブーンは冷静に魔法をかわしながら、ドクオと共に方法を模索していた。
腕には恐怖で動けなくなったワタナベを抱きかかえ、濡れて劣悪な地面を走る。
飛んでいるワタナベを狙った流れ弾が街へ被弾するのを恐れ、彼女には地面に居てもらっていた。
この場から逃げることも考えたが、それこそ街をどうされるか分らない。
何とかして、キメラに止めを刺さなければ。
( ;^ω^)(ドッグ、例の必殺魔法、何とか使えないのかお?)
(;'A`) (使えなくは無いけど、今のこの身体じゃ展開に数分かかるし、安定性が保障できねえ)
( ;^ω^)(ぐむむ…!)
安定性については、この窮地に置いては無理を利かす他無い。
問題は展開にかかる時間だ。
ブーンらが話している魔法は、ドクオが使える中でも最も強力な魔法。
そしてその精密さもまた他の魔法の比ではない。
敵に意識を裂きながら組み上げることは不可能と言い切れる。
やるとすれば、足を止めて魔法を展開。
キメラが気まぐれにドクオを狙わないことを期待しなければならない。
もし途中で狙われれば、かわすことは出来ても展開は続けることは出来ないのだ。
- 682 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:27:31 ID:KFxNNXFA0
-
そして、他に手があるとすれば。
从;'―'从 「……」
腕の中で服にしがみつき震えるワタナベの飛行魔法。
彼女ならばドクオに展開をさせながら水の槍を回避することが出来る。
( ;^ω^) (でも……)
可能であることと実行できるかは別の話だ。
槍が矢来するたびに体を強張らせるワタナベにやらせることは避けたい。
重い音と共に、水の槍が放たれた。
標的だったタカラはぬかるむ地面に足を取られ回避が遅れる。
咄嗟にハインリッヒが腕を引いたため、直撃こそ免れたが、余波の水しぶきに吹き飛ばされた。
( ;^ω^)「……ッ!」
限界が来ている。
キメラもそれを悟ったか、巨人が手に作り出す槍を二本に増やした。
それを、連続で投擲。
標的は、最も前に出ていたツン。
ツンはニョロに身体強化魔法を発動させこの二撃を何とか回避する。
ξ#゚⊿゚)ξ「ドクオ!何か手があるんでしょ!手伝ってやるから言いなさい!」
(;'A`) 『おーおー、簡単に言ってくださる……』
( ;^ω^)「なんでこの期に及んで元気になってんだお、アイツ」
- 683 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:29:15 ID:KFxNNXFA0
-
从;'ー'从 「……ブーンさん、私も、手伝います」
( ;^ω^)「ナベちゃん、でも……」
从;'ー'从 「私だって魔法使いです。いつまでも助けられてるわけには行かないんです」
( ;^ω^)「……」
(;'A`) 『ごめん俺今この瞬間までスーパーな魔法使いか天馬を駆る騎士が助けに来るの期待してた』
( ;^ω^)(ドッグ)
(;'A`) 『おう、レデー二人にここまで言わせたんだ』
ブーンがそっとワタナベを下ろす。
それと同時にドクオへ入れ替わった。
(;'A`) 「やるっきゃねえな」
从;'ー'从 「ドクオさん!」
(;'A`) 「ナベちゃんは俺を乗せて低空飛行。水の槍を回避してくれ」
从;*'ー'从「はい!」
ワタナベが素早く飛行魔法を展開。
そこへ水の槍が飛来したが、ブーンに入れ替わり、彼女を抱いてかわす。
- 684 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:29:56 ID:KFxNNXFA0
-
( ;^ω^)「ツン、タカラ!これからナベちゃんが飛行してドクオをサポートする!」
ξ#゚⊿゚)ξ「オッケー!私らは……」
言葉の途中で再び攻撃。
ブーン達の気配が変わったことを感知したのか、頻度が増している。
ξ#゚⊿゚)ξ「ナベちゃんの負担が少なくなるよう、引き付ければいいのね!」
( ;^ω^)「お、おう!」
ギリギリで回避したツンは跳ね返った水槍の断片を受け額から血を流すが、闘志は萎えていない。
すぐさま飛んできた追撃を再び転がってかわす。
从;'ー'从「ふぅぅぅ……行けます!乗ってください!」
(;'A`) 「3分だ!それだけ稼いでくれれば俺が何とかする!」
( ;,^Д^) 「最近の女の子は逞しいにゃあ」
从;゚∀从 「リッヒッヒ…男前だねえ」
ワタナベの箒がドクオを乗せて低空飛行を始める。
狙ってきた水槍を華麗なターンで回避し、ドクオの指示に従って湖の浅瀬の上に躍り出た。
- 685 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:30:09 ID:Xk249OxI0
- ツンちゃんへの共感がヤバイ
笑われるってクソ腹立つなあ引き込まれるわ
- 686 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:30:38 ID:KFxNNXFA0
-
そこからタカラ、ハインリッヒも含め、全員で魔法の槍を引き付けかわした。
二撃、三撃と次々放たれる水の槍は地を穿つに終わる。
引き換えに流れた血は、タカラの左肩、ハインリッヒのわき腹、ツンの右手の甲の、いずれも擦り傷程度。
この時点で、約一分。
息を吹き返すように活力を取り戻した彼らに、キメラは水から飛び出して雄たけびを上げた。
呼応するように水の巨人が両手を掲げる。
手の先に水が集まり、それが無数の小さな槍に変わった。
小さな、と言っても巨人の体格との比較であり、一つ一つは悠に人間の二倍以上の長さがある。
それが、一息では数えられないほど、巨人の周囲に浮いていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……馬鹿じゃないの?!」
从;'ー'从 「……ッ!」
放たれる広範囲の無差別攻撃。
ツンは自分に当たるものだけを見切ってギリギリでかわす。
ワタナベも、巧みに箒を操り弾雨を切り抜けていた。
耳元を過る、痺れのような空気の擦過音。
ワタナベは体験したことの無かった恐怖を必死で噛み殺す。
背中に感じるドクオの体温だけが、今の彼女の心を支えていた。
- 687 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:31:25 ID:KFxNNXFA0
-
驚異的な掃射はタカラとハインリッヒの二人を捉えた。
致命傷は避けたが太ももとわき腹を抉られ、どちらも機動力を失っている。
( ;,^Д^) 「クソがッ」
从;゚∀从 「俺にしちゃ、やったほうかな」
ツンは二人を振り返えり、その流れでワタナベの背中のドクオを見た。
最早ツンの感知力では何をしようとしているかすら分らない程難解な魔法式を組んでいる。
本当にあと一分やそこらで発動に間に合うのかと不安になるほどだ。
キメラは、二人命中させたことを誇るように一度飛び跳ね、自から巨人の中を泳いで昇る。
巨人の丁度胸の真ん中、それが人間ならば心臓のある位置に収まった。
そして、巨人は両の腕を広げる。
濁った水で構成された図太いそれが根元から幾重にも別れ、烏賊の足を思わせる触手となった。
それぞれの先端は人間の手の形を無し、左右に迂回しながらツンたちへ。
槍程の速度こそ無いが、追尾性を臭わせる動きで迫る。
先端の手が人間ではありえない様な不気味な動きをし、もし掴まったらどうなるのか、恐怖を煽られた。
ξ;゚⊿゚)ξ(後ろ?だめ、追尾されたら逃げ場が無い、なら……!)
ξ#゚⊿゚)ξ「ニョロ、もう一回強化魔法!ナベちゃん!懐に入り込んでかわすわよ!」
从;'ー'从 「は、はい!」
- 688 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:32:28 ID:KFxNNXFA0
-
ツンは、自身に強化魔法の効果が残っていることを確認し、ブーツの魔法を発動した。
足に纏わり付く風の鎧を足の裏に収束させる。
丁度、長距離を跳んだあとの着地で衝撃を緩和させる要領だ。
もっとも、今回は衝撃を減らすことが第一の目的では無いが。
ξ#゚⊿゚)ξ「ツゥゥゥゥゥゥウウウウウウン!!」
ツンは地面を弾き、湖へ向かって走り出す。
爆音と共に水が高く飛沫を上げた。
水面を叩き付けた足は水の抵抗によって弾かれ、僅かな時間そこに残り、それを繰り返して水面を走る。
強化された身体能力に加え、ブーツの魔法で脚力をさらに倍ドン。
さらに魔法の余波を全部足の裏に集中することで、水への抵抗を増し、やや足を取られながらも走ることが出来るのだ。
そこへ追加の強化魔法をニョロが発動。
全身の痛みを引き換えにツンの走りは確実性を増す。
並走するようにワタナベ。二人の周囲は既に水の手に囲まれていた。
ツンの髪を掴もうとした内の一本をニョロが空弾の魔法で打ち払う。
- 689 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:33:10 ID:KFxNNXFA0
-
ξ#゚⊿゚)ξ「ナベちゃん、巨人の目の前で90度旋回、避けて!」
从;'ー'从 「はい!」
ξ#゚⊿゚)ξ「ニョロ、障壁用意!」
僅かに先行したワタナベはツンの指示通り巨人の懐で直角に軌道を変え、手の群れを置き去りにする。
そのまま手を避けるように迂回しながら岸へと飛行した
対するツンはそのまま巨人に直進。
ツンのこの水上走行は、軟骨を叩き潰す覚悟と強大なエネルギーの上に成り立っている。
故に、曲がろうとして余計な方向に力が逃げれば足を取られ沈んでしまう。
元より走り出した時点でツンの目的は単なる回避では無かった。
全身全霊を込め、水面を蹴り砕き跳躍。
陸地で飛ぶのとは比較にならない低さの上昇を得る。
ξ#゚⊿゚)ξ「ニョロ!」
浮いたツンの目の前。
ナイス、と叫びたくなるような位置に障壁が現われた。
ツンはそれに足を乗せ、勢いを損ねない程度に屈伸し、力を溜める。
- 690 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:34:02 ID:KFxNNXFA0
-
ξ#゚⊿゚)ξ「ツゥゥゥゥゥゥゥン!!」
太ももの筋肉の悲鳴を無視し、全力を込めて障壁を蹴った。
亀裂の入る障壁。
弾け飛ぶツンの体。
ツンは交差した両腕を盾に、巨人の胸、キメラの真正面へと飛び込んだ。
驚愕するキメラの表情に会心の笑みを返す。
ブーツの魔法の残りを全力で噴射し、キメラの脳天、刺さったナイフに掴みかかった。
頭に取り付かれたキメラは魔法の制御も忘れ暴れる。
巨人の本体こそ維持されているが、無数の手は目に見えて機敏さを失っていた。
十秒に満たぬ攻防に負け、ツンはナイフごとキメラの身体を離れる。
魔法の効果を失ったツンは、抵抗すら叶わず尾鰭で巨人の外へ弾かれた。
宙へ投げ出され、ニョロの発動した魔法で勢いを殺しはするものの止まることも出来ず落下していく。
ξ#⊿゚)ξ「あとは、任せたわよ、ドクオ!」
けたたましい水音と共に、ツンは水の中へと消えた。
- 691 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:35:34 ID:KFxNNXFA0
-
(;'A`) 「たっく、相変わらず規格外な女だよ」
ツンに完全に意識を持て行かれていたキメラは、逃げた渡辺を探す。
見つけたのは彼女では無く、岸からさほど離れていない水上に一人立つドクオの姿だった。
濡れたマントで身体を包み隠し、空中に直立不動。
周囲に不規則に並んだ複数の魔法陣を浮かべキメラを睨んでいる
赤、藍、緑、紫、黄、青、銀、の七色に分かれたそれらが独特のリズムでドクオの周囲を動いていた。
キメラは初めて感じる不吉な気配に、ドクオを睨みつける。
停止していた手の群れが、元の手の形状に戻り槍を振り上げた。
('A ) 「てめえに人間の言葉が分るかは知らねえが」
赤い魔方陣がくるりとドクオの正面に。ドクオの左目が同色に輝いた。
次の瞬間、キメラの放り投げた槍が届く間も無く真っ白の蒸気と化す。
さらに魔方陣が緑に入れ替わり、巻き起こされた突風が蒸気を全て吹き飛ばした。
('A ) 「今の俺は神様にも喧嘩売れるぜ。覚悟しな」
水の中でキメラが吠えた。
巨人が腕を振り上げ、再び槍を投げつける。
しかし、ドクオはそれを腕の一振りで巨大な魔力の腕を生み出し打ち砕いた。
('A ) 「遊んでる時間がねえ。一気に殺す」
ドクオが動く。
- 692 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:36:18 ID:KFxNNXFA0
-
高速で飛翔し、キメラへ。
同時に紅蓮の魔法弾を生成し放つ。
キメラは巨人の拳でそれを迎え撃った。
魔法弾は殴りつける拳を貫通し、そのままキメラに直撃する。
予想外の被弾にキメラが驚く間も無く、炸裂。
水を蒸気に変えながら灼熱の熱風が弾け、巨人の上半身が爆散した。
キメラが水から弾き出され、巨人がただの水へと戻る。
水をかき集め落下の勢いを軽減しようとするその顔は、魔法の影響で半分が吹き飛んでいた。
( ^ω^)『水の中に逃げられると厄介だお!』
('A ) 「任せろ!逃がしやしねえよ!」
( ^ω^)『ドッグ、武器を手にして態度が大きくなったいじめられっ子みたい』
(;'A ) 「うっせ!水差すな!」
ドクオはさらに速度を増し、落下するキメラを追った。
一息で追いつき、魔力で作り出した陽炎の腕でキメラを捕まえる。
そして高速飛行の勢いでその巨躯を一回転振り回し、
(#'A ) 「らぁ!」
真上に向かって放り投げた。
- 693 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:37:17 ID:KFxNNXFA0
-
( ;^ω^)『ドッグ、時間が足りなくなる』
(#'A ) 「核ごと、ぶち抜く!」
ドクオの右の瞳に赤と緑の輝きが灯る。
真上に向かって突き出した手の周囲に炎と風が纏わりつき、巨大な剣となって発射された。
キメラは空中で身を捻り、さらには水の盾を生み出してドクオの攻撃の軌道を逸らす。
そこから一転、落ちる力を利用して攻勢に出た。
巨体に絡みつく硬化した水の鎧。そこに自ら螺旋回転を加える
その威力の高さは、食らって見ずとも想像が付いた。
(#'A ) 「流石に、しぶといな…だが!」
かわしては、湖に戻られ厄介になる。
そう判断したドクオは銀と黄の魔方陣を前方に重ねた。
速度を増して突撃するキメラ巨体に対し、ドクオの生み出したのはこれまた巨大な陽炎の盾。
その周囲に青い電流の閃きが纏わり付く。
(#'A ) 「おおおお!!」
にわかに雲の増した曇天の下、ドクオとキメラが衝突した。
硬い物が砕ける響きが衝撃波となって湖に巨大な波紋を生み出す。
- 694 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:38:26 ID:KFxNNXFA0
-
(#'A ) 「らぁ!」
キメラの衝突を受け止めた障壁が、激しい稲妻を放った。
爆ぜる雷鳴と共に閃光の瞬きがキメラを飲み込み天へ突き抜ける。
キメラの目がぐるりと白を剥いた。
口から唾液を漏らし身を捩る。
水の鎧が四散し、焦げた本体が剥き出しに。
(#'A ) 「決める!」
キメラは咆哮と共に再び水を纏い、それをさらに巨大な翼に変形させ、力強く羽ばたく。
ドクオの左目が黄と赤の光を宿す。
同色の魔方陣二つと右手の人差し指を前へ突き出し、キメラに狙いをつけた。
(#'A ) 「“汝、灰燼すら残らず”」
ドクオの指先から、上空へ、青白い閃光が突き抜けた。
魔法で飛翔しかわそうとしたキメラを、問答無用で撃ち貫く。
キメラが断末魔の悲鳴を上げた。
その身の中心にはぽっかりと焦げた穴が開き向こうの曇り空が見えている。
臓器も骨も筋肉も関係なく、被弾した場所に残るものは―――
あった。
- 695 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:39:45 ID:KFxNNXFA0
-
魔法によって穿たれた穴の中心に、人差し指と親指で作った輪ほどの大きさの何か。
ドクオにはすぐに分った。核だ。
核の周囲には段違いに強力な球状の障壁。
障壁は魔法に耐え切れず風化するように瓦解したが、核自体は無傷だった。
(;'A ) 「くっそしぶとい!!」
核は魔力の管ですぐさまキメラの身体を繋ぎとめ、強く発光する。
呼応してキメラの意識が蘇り、声にならない叫びを上げた。
崩れかけた水の翼を作り直し大きく空へ羽ばたく。
(#'A ) (あの障壁は最後のセーフティ……次で決められる!!)
ドクオは再び赤と黄の力を身に宿す。
人差し指をピンと伸ばしキメラを狙いながら後を追った。
できる限り引き付けて、確実に撃ちこまなければならない。
(#'A ) (今だ!)
その時が来た。
キメラが魔法で反撃を放とうとしたその一瞬の隙。
全身全霊を掛け止めの魔法を発動する。
- 696 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:40:33 ID:KFxNNXFA0
-
プスン。
('A ) 「あ」
( ;^ω^)『おうふ』
- 697 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:42:02 ID:KFxNNXFA0
-
指先から飛び出したのは、屁のような情け無い音のみだった。
同時に体が重力に掴まり落下を開始。
魔法の発動時間が終わったのだ。武器を取って反撃に出た苛められっこは、再び力を失う。
(; A ) 「なんで!こう!おれは!」
あと一歩及ばないのか。
キメラの放った、水の剣がドクオを追う。
水に落ちる前にあれに貫かれて死ぬだろう。
ドクオの頭に走馬灯が過ぎった。
辛くも幸せだった過去の記憶。
自分を抱きしめる女性の優しい温もり。
実際はもっと福与かで柔らかかった気がしたが、記憶なんて案外いい加減な……
ξ# ⊿゚)ξ「“来い―――天叢雲”ッ!!」
目を開けた瞬間にドクオが見たのは、自分を抱きとめた少女の横顔だった。
普段は緩いカールを描いている髪はびしょ濡れで重く垂れ下がっている。
ξ# ⊿゚)ξ「ドクオ!剣の制御手伝って!」
ツンの目は真っ直ぐキメラを見ていた。
飛んできた水の剣を、手に持った灰色の剣で切り払う。
- 698 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:43:11 ID:KFxNNXFA0
-
ドクオは、ワタナベの箒の先端に立つツンに抱き抱えられていた。
ニョロが作ったモノか、柄の幅を広げるように障壁が張ってあり、そこに足を着いているのだ。
ξ# ⊿゚)ξ「このままじゃ追いつく前に魔力が切れちゃう!外圧で押さえ込むの手伝って!」
从;'ー'从「速度上げます!気をつけて!」
(;'A`) 「本当に、お前らは」
ドクオも障壁の上に立ち、ツンの手に手を重ね残り少ない魔力で外側から天叢雲を圧縮した。
漏れ出していた魔力が格段に少なくなり、剣の輝きと刃渡りが増す。
キメラが、反転し、三人に狙いを定めた。
むき出しの核と肉体を守るように再び水の鎧を纏う。
ξ# ⊿゚)ξ「ナベちゃん、ギリギリまで粘って!」
从;'ー'从「はい!」
ξ# ⊿゚)ξ「行くよドクオ!」
(;'A`) 「本当に頼もしいよお前は!」
- 699 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:44:50 ID:KFxNNXFA0
-
不思議な浮遊感に包まれ、箒は速度を増す。
ツンとドクオは天叢雲を出来る限り長くし、姿勢を下げた。
キメラも前傾姿勢を取り、迷い無く三人へ。
その中心で核の光が怪しくぼやける。
ξ# ⊿゚)ξ「ツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウン!!」
(;'A`) 「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」
从;'―'从 「ふぇぇぇえええええええええ!!」
巨躯と、か弱い三人の体が交差した。
何か、硬い物が破壊された文字で表せぬ残響。
折れた箒の木片が、ホウキギの枝が宙を舞う。
ツンの手から剣が消えていた。
箒を失った三人は、声も無く落下。
間も無く水しぶきが湖面を揺さぶる。
空中で振り返ったキメラは、それを悠々と見下した。
落ちた三人が浮かんでくる気配は無い。
キメラは勝利の雄たけびを上げるため、空に向かって口を開いた。
- 700 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:47:41 ID:KFxNNXFA0
-
しかし、声は出ない。
遠吠えの体勢のまま、キメラはぐらりと横にぶれる。
キメラの身体には、一筋の赤い線が走っていた。
口の端から首を通り胸から背へ抜けている
突撃の体勢のままであったなら、きっと綺麗な一直線だっただろう
その線から、ずるりとキメラの体がずれた。
血が漏れ出し、水の鎧の瓦解に巻き込まれ宙に散ってゆく。
キメラは、それでもまだ斬られたことを自覚していなかった。
核のコントロールによって一切の痛覚を失い、ただ魔力のみで身体を動かしていたのから。
それでも、唯一つだけ気付いたことがあった。
体の中にあった、とても大事なものが壊れてしまった。
胸の内で絶対的な支配を誇っていた核は真っ二つに割れていた。
綺麗な断面を見せ、血と共に肉体から零れ落ちる。
そのまま重力に従い、巨躯が核を追った。
既に支配の解けたはずの水がその身体を抱くように纏わり軌跡を描く。
水面が激しい水柱を上げたその時点で、彼は生き物ではなくなっていた。
- 701 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:48:34 ID:KFxNNXFA0
-
湖の中で、ツンはブーンに腕に抱かれていた。
魔力を使い果たし、指先すら動かない状態で、対面の姿勢。
首にから身体を伸ばしたニョロが、心配げにツンの鼻に鼻をこすり付ける。
傍にはワタナベも見えた。
手足をひらめかせ、上へ向かってもがいている。
勝敗はどうなったのか。
すれ違った際の衝撃で意識が飛び、肝心のその瞬間をはっきりとは覚えていない。
水中独特の、フィルターがかかったようなくぐもった聴覚に大きな揺らぎが届いた。
白い気泡を纏って、キメラが飛び込んできたのだ。
我武者羅に振り切った天叢雲は、核を切り捨てることは出来なかったのか。
焦りながら、ツンは鞘に戻していたナイフに手を伸ばそうと身体を強張らせた。
思うように体が動かず、中々手が届かない。
( ^ω^)。゚O
ξ ⊿゚)ξ。゚O
そうこうしている内にブーンに強く抱きしめられた。
口を開かなくとも、「もういい」という言葉が聞えるような優しさが伝わってくる。
キメラの身体は力なく沈んでゆく。
まるで石になったように硬く、巨躯は湖の底へ消えていった。
- 702 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:51:10 ID:KFxNNXFA0
-
今日はここまで。ちょっと思ったより遅くなったっす
ラノベ祭り用の書き溜めが未だ10k Byteに満たない現実に戦慄したので、次回はちょっと遅くなるやも
祭り用の書きために行き詰ったらいつもくらいのペースで来ます
- 703 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:51:27 ID:9xPpZHOg0
- ヤバいな、引きこまれてしまう
- 704 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:53:18 ID:dYjfkLiU0
- やっぱ戦闘シーン面白いな
乙
- 705 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:55:42 ID:Xk249OxI0
- あー超熱かった
かっけーわ、惚れるわツンちゃん
ほんとに乙でした
- 706 :名も無きAAのようです:2012/11/05(月) 23:56:02 ID:Tg2wzy120
- ツンが本当に男前だな
乙
- 707 :名も無きAAのようです:2012/11/06(火) 00:01:13 ID:oC1hNNiI0
- 息するのを忘れそうな戦闘シーンだ。
乙でした。
- 708 :名も無きAAのようです:2012/11/06(火) 00:06:48 ID:kkj801ok0
- 倒したあああああああ
乙!!
- 709 :名も無きAAのようです:2012/11/06(火) 00:11:39 ID:xX0zSP/Y0
- いい戦闘だった
乙!
- 710 :名も無きAAのようです:2012/11/06(火) 00:34:54 ID:szlWFdEk0
- いやー脳内アニメーションが捗るわ
本当に凄い。乙
ツンちゃんのメンタルの強さがヤバい。流石戦のブーンの次に凄い
- 711 :名も無きAAのようです:2012/11/06(火) 00:42:28 ID:2VDFIdB.0
- おツンツーン
ツンちゃん周りの男連中より男前だわ
個人的にナベちゃん好きだから活躍してくれて嬉しい
- 712 :名も無きAAのようです:2012/11/06(火) 01:01:01 ID:YocJMm8g0
- ドクオさん無敵状態みじけーっす…
- 713 :名も無きAAのようです:2012/11/06(火) 13:56:22 ID:l80Apilw0
- 今回かっこよすぎワロタ乙
- 714 :名も無きAAのようです:2012/11/06(火) 19:11:00 ID:gcADWZgoO
- ω・)結局おいしいとこはツンかwww
乙
- 715 :名も無きAAのようです:2012/11/07(水) 01:15:37 ID:iwfPZ/dQ0
- おつ
毎度戦闘がラスボス級だな
体酷使しすぎてツンちゃん長生きはできなそうだ
- 716 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 01:15:26 ID:2SV6Hst6O
- ふえええええでワロタ
シリアスとギャグのバランスがとてもいい
- 717 :名も無きAAのようです:2012/11/08(木) 20:41:57 ID:tdoBNY6gO
- 乙
巧いなぁ・・・惚れ惚れするわ
- 718 :名も無きAAのようです:2012/11/09(金) 07:06:15 ID:8qZB.GE60
- ブーンの例えひでえww
ゆっくり待ってるよ乙!
- 719 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:10:56 ID:yXBd/gh60
-
( ゚д゚ ) (…………拙者、忘れられているのだろうか)
ミルナ=スコッチは閉じ込められた三畳ほどの空間で膝を抱えて俯いていた。
禁酒委員会のサロン支部に潜入し、ナガオカ中尉にボッコボコにされたのが数日前。
それからずっと、このサロン支部の拘置室に囚われたままだ。
_
( ゚∀゚) 『少ししたら出してやる』
そう言って去っていって以降、ナガオカは声をかけにすらこない。
最近では食事を運んでくる兵士すら言動を面倒臭がって話しに付き合ってくれず、ミルナは心が折れそうだった。
本来であれば持ち前の術で逃げ出すのだが、そんなことをすれば禁酒委員会をまるっと敵に回してしまう。
禁酒委員会はミルナの飯の種である「情報」の宝庫であると同時に金払いのいい上客でもあるのだ。
今回、軽いリンチ(蹴りは重かった)とちょっとした拘留(のはず)で済んでいるのは、そういったミルナの利便性を加味しての温情。
敵に回すのとナガオカの言葉を信じて拘留が解けるのを待つのとを秤にかければ当然後者になる。
( ゚д゚ ) (ま、どちらにせよこれのせいで、脱獄は無理だがな)
ミルナは両の手首をガッチリと拘束している手錠に目を落とした。
かなり質の悪いタリズマンが埋め込まれており、それの効果でミルナの魔力を乱す厄介な代物だ。
体調がちょっと悪くなる程度ではあるが、魔法が根本にあるミルナの術を封じるには十分なのである。
( ゚д゚ ) (仕方ない。今日も一人でしりとりするか……)
( ゚д゚ ) (しりとり → リンゴ → 胡麻 → マンゴー → ゴミ → 三つ子 → ゴリラ → ラテン語 → ご…ご……)
ミルナがセルフで「ご」責めに没頭していると、拘置室の鍵の開く音がした。
- 720 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:11:47 ID:yXBd/gh60
- _
( ゚∀゚) 「……何してる」
( ゚д゚ ) 「しりとりだ」
膝に顔を埋めたまま、ミルナは答えた。
その間にも脳内ではしりとりは止まらない。
「ゴシップ」に対する上手い返しが思いつかず悩んでいた。
ここが「ご」攻めの限界か。
_
( ゚∀゚) 「悪かったな。最近忙しくて忘れていた」
( ゚д゚ )
_
( ゚∀゚) 「だから悪かったといっている。こっち見るな」
ナガオカは手錠に鍵を差込み捻った。
軽い音と共にそれが外れ、ミルナの手が自由になる。
同時に魔力の乱れも回復した。
( ゚д゚ ) 「全く、飯が美味かったのだけが唯一の救いだよ」
_
( ゚∀゚) 「給仕に言っておこう。喜ぶ」
( ゚д゚ ) 「……そういう問題では無いのだがな」
- 721 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:12:30 ID:yXBd/gh60
-
( ゚д゚ ) 「まあいい。装備を返してくれ。仕事が溜まっているんだ」
_
( ゚∀゚) 「ああ。おい」
ジョルジュの声に応じて兵士が麻袋を持ってきた。
それを受け取り中身を確認。
トンファーはもちろん、あらゆる仕込み武器の全てがキッチリと収まっている。
( ゚д゚ ) 「……?」
一つ一つの装備を丁寧に装着し直していると、地面から足音が伝わってきた。
急いでいるのかバタバタとあわただしい。
音から体格を予想。女性だ。
/ ゚、。;/ 「中尉!魔女の居場所が分りました!旧ジュウシマツ砦です!」
_
( ゚∀゚)
( ゚д゚ )
_
( ゚∀゚) 「m」
( ゚д゚ ) 「風遁、煙渦!」
ヤバイ、という顔を見せた長岡にミルナは息を吹きかけた。
息は白い煙となって狭い部屋を一瞬で埋め尽くしてゆく。
- 722 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:13:27 ID:yXBd/gh60
- _
( ゚∀゚) 「クソ!逃がすな!捕まえろ!」
ミルナは煙の中、上へと跳んだ。
四つんばいで天井にしがみつき、虫の様に這って廊下へ出る。
そこは煙幕の効果も薄く、警備中の兵士がミルナと顔をあわせあからさまに顔を引きつらせた。
( ゚д゚ ) 「風遁、煙渦!」
再び口から煙を吐き、ミルナはシャカシャカと天井を疾走。
手ごろな場所を見つけ、懐から引き抜いた刀で天板をくり貫く。
素早く身体を滑り込ませると同じように屋根を破り、外へ脱出した。
間髪おかず天井と屋根を蹴り抜いてナガオカが飛び出してきくる。
前回のように魔法具を発動してはいないがこの男はそれでも恐い。
_
( ∀゚) 「……ゴフッ」
予備動作無く放たれたナガオカの跳び蹴りを、屋根を飛び降りてかわした。
そのまま勝負を捨て一目散に走り出す。
ナガオカはそれを追わず、目を抑えた。
先までの煙幕には、催涙の効果もあるのだ。
吸い込めば呼吸を困難にし、目に入れば涙が止まらない。
正直ここまで追って来ただけ異常な根性ではあるが、ミルナの足に追いつくことは出来ないだろう。
(*゚д゚*) 「さらばだナガオカ君!先の情報は理不尽な拘束に対する対価として受け取ってゆくよ!」
余裕の高笑いを上げながら、ミルナはサロンの地を去っていった。
- 723 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:14:08 ID:yXBd/gh60
- _
( ゚∀゚) 「……ったく、無茶なことをしてくれる」
o川*゚ー゚)o 「どーぉ?うまくいった?」
サロン支部の屋根の上、姿を消した魔女がジョルジュの傍らに立った。
周囲の部下達はここに魔女がいることすら気付いていないだろう。
_
( ゚∀゚) 「ああ。だが、自分の住処を広めて何をする気だ?」
o川*゚ー゚)o 「んー?んふふ」
ミルナに漏らした情報は魔女本人から提供されたものだ。
伝達のミスで漏らしたような形を取ったが、全て狙った上での芝居である。
「必要以上に警戒されないように」という魔女からの要望が無ければ、こんな面倒なことはしなかったのだが。
o川*゚ー゚)o 「ま、狙いの子が来てくれるかは分らないんだけどね」
_
( ゚∀゚) 「……」
o川*゚ー゚)o 「じゃ、私は帰るね〜。ちょっと発散してこなくちゃ頭がおかしくなっちゃう」
それまで傍らにあった魔女の気配が、一瞬の内に消えた。
言葉の通りに帰ったのだろう。
- 724 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:15:19 ID:yXBd/gh60
-
/ ゚、、;/ 「げへぇ!ごほぉ!ちゅ、ちゅーい」
ナガオカのぶち抜いた屋根を、ダイオードがよじ登ってきた。
彼女も催涙の煙を真正面から受けたため、目が赤く充血し呼吸も乱れている。
/ ゚、、;/ 「一応数名を追跡に回しました。サロンを出たら引き返すよう…ボフォッ、言ってあります」
_
( ゚∀゚) 「それでいい。外に出張った兵は引き戻せ。あの煙を食らった兵は、念のため軍医にかかるよう伝えろ」
/ ゚、、;/ 「はい……」
_
( ゚∀゚) 「どうした?」
/ ゚、、;/ 「えっと、昨日の湖の……」
〈 =[iiii]〉「中尉ー!ちょっとよろしいですか!」
_
( ゚∀゚) 「わかった、今行く。すまんな特級曹、その話は後日」
そう言い残し、ナガオカは屋根を飛び降りる。
残されたダイオードは、ただただ不安げに、その背中を見つめていた。
* * *
- 725 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:16:38 ID:yXBd/gh60
-
目が覚めてすぐに気持のよい青空が見えた。
同時に、寝る前にカーテンを閉め忘れていたことも思い出す。
ξう⊿`)ξ。O
上半身を起こすとツンは眠たげに右手で目を擦りながら、左腕を上へ突き上げて伸びをした。
欠伸で吐き出された息にはまだまだ眠気が残っているようだ。
ベッドの上をズルズルと移動し、足を落として端っこに腰掛ける。
頭、首、肩、腕、腰、と上半身から順に身体を動かし調子を確かめた。
疲労とは少し違う独特の倦怠感があり、どうにも動かし難い。
骨や腱へのダメージこそ無かったものの、魔力を使い切った後遺症が出ている。
流石に調子は上々、とはいかないようだ。
しばらく身体を解すようにストレッチを繰り返していると、毛布の中からニョロが這い出してきた。
恋しむようにツンの腰に頭を擦りつけ、器用に身体を這い登る。
ツンは今のところ下着しか身に付けておらず、これが中々くすぐったい。
ξ゚⊿゚)ξ「おなかすいたの?」
ツンが尋ねると、ニョロは人間のようにに頷いた。
しかたないな、とため息を一つついて立ち上がり、戸棚に閉まってあった餌をニョロに与える。
待ってましたとばかりにがっつくニョロを眺めながら自分も保存食の干し芋を齧った。
- 726 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:17:44 ID:yXBd/gh60
-
昨日、湖で犬鯨のキメラと勝敗を決した後は、中々大変だった。
ツンは魔力切れで動けず。
ワタナベも魔力は残り少なく、箒も無かったため飛べず。
ブーンが板を浮力にして泳いで戻っていたと思ったら、突然の大五郎切れ。
タカラが小船を見つけて救助に来るのがあと少し遅かったら、少なくともブーンかツンのいずれかは死んでいたかもしれない。
まあその小船も岸にまではたどり着けず浸水して沈み、残りはタカラと大五郎を補給したブーンが泳いだのだけれど。
岸についてハインリッヒに外傷を調べて貰い、簡単な治療を受けて、タカラに背負われて家に帰った。
それから意地と根性となけなしの乙女心でニョロと共にシャワーを浴び、適当な下着を身に付けてベッドに横になったのだ。
今現在覚えていることを整理するとそんなところになる。
他の三人についてはとりあえずハインリッヒの家に戻る、と言っていたことだけは何とか記憶にあった。
ξ゚⊿゚)ξ「さて、そろそろ準備するか」
少々やる気無い下着をチョイスしていたが洗濯が面倒という理由でそのままにシャツを着てパンツを履いた。
上着代わりのマントを羽織ったところで、新しいブーツを受け取り忘れていたことを思い出す。
古い方は完全に水没してぐしょぐしょのため、今から履く気にはなれない。
ξ゚⊿゚)ξ(少し早めに出て、受け取ってから行こう)
その他諸々の装備を整え、身支度を終える。
少し恥ずかしいが靴は部屋履き用に買ったサンダルで行くしかない。
ξ゚⊿゚)ξ「ニョロ、行くよ」
ニョロを身体に巻きつけ、ツンは部屋を出た。
- 727 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:18:39 ID:yXBd/gh60
-
(’e’) 「ツンちゃんおはよ〜」
ξ゚⊿゚)ξ「お早う、ジョーンズさん」
( ,,^Д^) 「体の調子はどうだにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ「まあまあかな」
諸々の用を済まして支店跡地に着くと、既にタカラが来ていた。
彼も装備をキッチリ整え仕事に向けてぬかりは無いようだ。
(’e’) 「それじゃ〜、今回の任務を伝えるね〜」
ツンとタカラに与えられた任務は、以前に聞いていた通り輸送されてくる商品その他の護衛。
特に、待ち伏せしているゲリラ達の排除が主になる。
(’e’) 「VIPからも護衛隊は来ると思うから〜無理はしないでね〜。商品が無事なら十分だから〜」
気をつけて、と最後に付け足したジョーンズに見送られ、ツンはタカラと共に馬に跨った。
一先ずの目標はVIP〜サロン間に広がる荒野地帯の中央。
そこを拠点に賊の探索を行う。
( ,,^Д^) 「禁酒党、出ないといいにゃあ」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ、出るんだろうけどね」
* * *
- 728 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:19:20 ID:yXBd/gh60
-
結論から言えば、ツンの予想は大当たりだった。
( ,,^Д^) 「どうして俺らが狙われるんだにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ「多分タカラが大五郎のジャケット着ているからだと思う」
一頭の馬に二人で跨るツンたちに対し追ってくるのは十数名の賊。
それぞれに馬に跨り、手には騎馬戦に有利な長柄の武器を構えている。
( ,,^Д^) 「手綱から手が離せないにゃ。ツン何とかできるかにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ「あたぼうよ」
ツンは鞍にくくりつけてあったロープをとり、タカラと自分を束ねるように緩く巻いた。
ロープが外れないよう慎重に、しかし素早く身体を後ろに向きなおす。
それから、きつく縛りなおして、振り落とされないようにタカラに自分の身体を固定した。
ξ゚⊿゚)ξ「いい、ニョロ。貴方はとりあえず近づいて来た奴からぶっ飛ばして」
ニョロが、了承を身体で表し魔法の展開を始めた。
いつの間にか使えるようになっていたが、その組み上げはツンよりも滑らかである。
早速放たれた空弾の魔法が、接近し得物を振りかぶった賊の頭を打ち抜き落馬させる。
死んではいないだろうが、すぐに復活は無理だろう。
- 729 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:20:11 ID:yXBd/gh60
-
ξ゚⊿゚)ξ「よーし。いい子いい子」
その間に自分はナイフを引き抜き、障壁の魔法を展開。
敵の中に魔法使いらしい姿は見えないが、弓を構えている者はいる。
早速飛んできた矢をナイフで斬り弾き、お返しに大き目の障壁魔法を発動した。
横に長広い障壁は空間に固定されているため、衝突した数人を馬ごと戦闘不能にする。
( ,,^Д^) 「やるにゃあ」
ξ゚⊿゚)ξ「相手が弱すぎるだけよ」
再びニョロの放った空弾で敵が一人落馬した。
元は十人以上いた賊が、既に七人になっている。
指揮を取っているらしい薙刀を持った男が何か叫んでいたが、気にしない。
弱い。弱すぎる。
欠伸をかましながらでも余裕であしらえてしまいそうだ。
障壁魔法を発動。二度目にも関わらず、二人が衝突し轟沈した。
ξ゚⊿゚)ξ(もしかして、私が強くなったのかな)
目の前に槍を振り上げ雄たけびを上げる暴漢がいても全く怖くない。
二頭の化け物キメラはもちろん、人間のサスガ兄弟と比べとも全く脅威を感じなかった。
- 730 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:20:51 ID:yXBd/gh60
-
勝敗はあっさりと決まる。
横に並び決死の特攻をかけてきた最後の男に魔法弾をぶち当て、それで終わり。
正直物足りないと感じるほどの圧勝だ。
( ,,^Д^) 「お世辞抜きで強くなったんじゃないかにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん、どうだろ。相手が手応え無さ過ぎてよく分らない」
とは言え、街のごろつきに苦戦していたとは思えない立ち回り振りだと、自分でも思う。
ニョロのお陰もあるが、ここ最近の強敵続きが思わぬところでいい方に働いたらしい。
魔力の感知能力も格段に上がっている。
お陰で、いっそ気がつきたくなかったことにも気付いてしまった。
ξ゚⊿゚)ξ「……ったく。次から次へと、めんどくさい」
( ,,^Д^) 「どうしたにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ「例の、仮面のクソ蛆虫陰金不能○○野郎が近くに隠れてるわ」
( ,,^Д^) 「……女の子としてその言い方はどうかと思うにゃ」
クソ(中略)野郎とは過去に馬車と支店を襲撃し破壊した男のことだ。
非常に腹立たしい人間性ではあるが、その能力の高さは認めざるを得ない。
その存在感のある魔力の気配を、僅かにではあるがヒシヒシと感じる。
- 731 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:21:33 ID:yXBd/gh60
-
ξ゚⊿゚)ξ「私がひきつけるから、タカラは先へ行って馬車の進路を変更させて」
( ,,^Д^) 「大丈夫なのかにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ「囮なら私の方が向いてる。それに」
ツンは馬から飛び降り、ナイフを抜く。
つま先で数回地面を小突いてブーツの感触を確かめた。
上々。中々のフィット感だ。
ξ゚⊿゚)ξ「私、馬一人で乗れないの」
馬の尻を掌で叩き走らせる。
自分は気配を感じる方へ駆け出した。
数秒後、タカラの馬を目掛けて魔法が発射される。
タカラは器用に手綱を捌きそれをかわした。
地面が弾け粉塵が上がる。
ツンはブーツの魔法を発動し、魔法の発射地点へ。
再度放たれた追撃の空弾を、ニョロが発動した障壁で相殺する。
- 732 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:22:14 ID:yXBd/gh60
-
転がっていた朽木の影に伏せている男の姿が見えた。
ツンは一気に加速。
腕を突き出しタカラに狙いを定めていた男は、舌打ちをし矛先をツンへと変える。
ξ#゚⊿゚)ξ「“プロテクション”!」
質の悪い障壁であったがデコイにはなる。
空弾は中空で炸裂。
ツンはその余波を少しだけかわし、男に切りかかる。
硬質の物がぶつかり合う独特の残響。
逆手で振り下ろしたツンのナイフを男は右腕で受け止めていた。
(//‰ ゚) 「グッグ、また会ったなお嬢さン」
ξ゚⊿゚)ξ「口臭い。一生閉じてろ屑野郎」
(//‰ ゚) 「グッグッグ、気が強い女ってのはたまンねえな」
硬直状態から振り上げられた膝を、飛び退いてかわす。
間髪おかず突き出された右腕から魔法弾が発射された。
ニョロが障壁を発動。衝突した二つの魔法は二人の間に突風の渦が巻き起こす。
互いに堪えきれず後退し間合いを取った。
耳の端が少し裂けたが、特別外傷は無い。
- 733 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:22:57 ID:yXBd/gh60
-
(//‰ ゚) 「アンタと遊びてえのは山々なんだが、俺も仕事の最中なんだ。悪いが……」
男の言葉を無視し、ツンは再び前へ。
左足を前に踏み切り軸足にして、後ろ回し蹴りの要領で身体を回転させる。
そのまま、逆手のナイフを男の肝臓目掛けて振り切った。
男は余裕の表情で下がって回避。
腕をツンの頭に差出し魔法を発動する。
ツンは上体を右に傾けながら左手で男の手を上にそらした。
その勢いを利用し上半身の力のみでナイフを振り上げる。
これは残念ながら男の身体には届かない。
ニョロが首を伸ばし、衝撃魔法を放った。
空気を歪ませる魔法弾を男は右腕で握りつぶす。
ハンマーで鉄板を叩いたような耳の痺れる音が響き、男の着ていた服の袖が弾け飛んだ。
(//‰ ゚) 「グッグッグ。危ねえペット飼ってやがる。生身の腕だったら吹き飛ンでたぜ」
ξ;゚⊿゚)ξ「?!」
服が肩口まで破けただけで、男の右腕は平然と動いている。
いくら手甲をつけているとは言え、振動は中の骨肉を問題なく破壊できたはず。
ダメージが無いというのはあまりにおかしい。
- 734 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:23:47 ID:yXBd/gh60
-
(//‰ ゚) 「グッグ、不思議か?」
今度は男から仕掛けてきた。
鋼鉄に覆われた右腕の手刀を真っ直ぐに突き出す。
ツンは左肩を前に出し身を捻って回避。
体の捻れを引き戻す要領でナイフを振り上げようとする。
しかし、ツンの身体は地面を離れ中に浮いた。
シャツとマントが伸び首が締めつけられる。
男の右手が襟首を捕まえ、ツンが上へ放り投げたのだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!」
ツンは空中で体勢を整えたが後は落ちるしか出来ない。
下に見えた男は右腕を腰元で引き、目でツンを捉えていた。
このまま素直に落ちたらやられる。
ニョロの魔法は間に合わない。
ついでに空弾の魔法だから間に合っても起死回生には繋がらない。
ξ;゚⊿゚)ξ(南無三!)
飛び込むように前のめり。
逆手のナイフを構え、正面からぶつかり合う覚悟を固めた。
- 735 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:24:27 ID:yXBd/gh60
-
(//‰ ゚) 「シィィィィィィィッ!!!!」
落ちるツンを迎えるのは男の手刀。
残像を残す程の速度で放たれたそれに、ツンはナイフをあわせた。
刹那の交渉。
ナイフで手刀を左へ逸らしながら、反作用で自身は右に身を避ける。
鉄の指先がツンの胸元から左の肩口までを切り裂いた。
小指が肩の骨に引っかかり、体の芯に歪な感触が響く。
強引に足と手を突き出して着地。
血の軌跡を残しながら横へ転がって距離を取る。
男が追撃に放った魔法弾をニョロが相殺するが、余波で互いの体が弾かれた。
ツンはさらに転がるも、勢いを活かして膝立ちの体勢まで立て直す。
肩が痛んだ。
腱を掠めているらしく動かそうとすると腕全体が痺れるような感覚がある。
ξ;゚⊿゚)ξ「くっ」
(//‰ ゚) 「それ以上無理をするな。命をかけるほどの恩義があるわけでもないンだろう」
男は警戒は解かず、右手を前に突き出しツンを睨む。
左腕一本不調になったところで戦えないわけではないが、万全でない状態で勝てる相手とも思えない。
せめてこの場にブーンがいればと甘い考えが浮かんだが、舌打ち一つで振り切った。
- 736 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:25:13 ID:yXBd/gh60
-
ξ ⊿゚)ξ「さっき言ったこと、もう忘れた?」
(//‰ ゚) 「?」
ξ ⊿゚)ξ「口開くんじゃないって……」
身を落とし、足を前へ。
ξ#゚⊿゚)ξ「言ってんでしょうが!」
ブーツの魔法を発動し男に突進した。
ナイフを上体ごと大きく振りかぶり、男の身体をなぎ払う。
気圧されたのか、男は下がってかわし腕を突き出す。
素早い放たれた魔法を、ナイフを振り切った体勢からそのまま右の肩を落とすように転がってかわした。
追撃を察知し男から見て左へ、丸めた身体を引き伸ばしながらの跳躍後転。
地面に手をついた際の肩の痛みは奥歯で噛み殺す。
魔法弾が地面を穿ち、粉塵が舞った。
炸裂の殺傷範囲外へ何とか離脱したツンは、髪をなびかせる爆風を無視し、男に切り込む。
(//‰ ゚) 「たまンねぜ嬢ちゃン!いいぜ、気が済むまで刻ンでやらァ!」
ξ#゚⊿゚)ξ「っぜぇ!」
持ち直したナイフ首下へ真っ直ぐに突き出す。
男は身を引きながら刃を右手の指先で摘まんだ。
- 737 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:25:54 ID:yXBd/gh60
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!」
万力に挟まれたのかと錯覚するほどナイフは微動だにしない。
ナイフを抜こうとしたツンは中途半端な隙だらけの体勢を取ってしまう。
(//‰ ゚) 「シィッ!」
左に引っ張られた、と思った時には右のわき腹に男の左足が食い込んでいた。
せり上がる胃の内容物。
自然にナイフから手が離れ、ツンは地面に膝を付く。
再び蹴ろうと男が足を振り上げた。
それを防ぐためニョロは空弾の魔法を三つ同時に発動する。
(//‰ ゚) 「ッ」
一発は腕で守られたが、残りの二つはわき腹と鳩尾に食い込んだ。
男の体が浮き、後方へ数メートル下がらせる。
(//‰ ゚) 「おーいてェ。やっぱり危ねえなあその蛇は」
ξ;゚⊿゚)ξ(嘘でしょ……?)
男が食らった魔法弾は殺傷力こそ低めだが、鳩尾に受けて平然としていられる威力では無い。
それこそ未だツンの内臓を苦しめている男の蹴りのほうが弱いくらいである。
- 738 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:27:11 ID:yXBd/gh60
-
(//‰ ゚) 「立つのも辛いだろ?もう止めにするか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
(//‰ ゚) 「と、いっても。今から行った所で仕事は失敗だ。俺は腹癒せに嬢ちゃンともう少し遊びてえンだけどな」
腹をぽんぽんと叩きながら、男が歩いてくる。
ツンは焦った。
最初から楽勝の相手とは思っていないが、ここまで手も足も出ないとは。
多少なりとも出来たはずの成長は、この男に及ぶにはまだまだ足りなかったということか。
しかし。
ξ ⊿゚)ξ「そうね、アンタの仕事失敗させたお祝いに、もう少し遊んであげてもいいわ」
コイツに背を向けるのはなんだかとても嫌な感じがした。
この男が自分を殺す気だというのならば、殺されるまで戦ってやろう、とまで意思が固まっている。
ツンの強がりを聞いた男が頬を引きつらせて笑った。
嫌悪を感じるには十分。仮面で半分隠れているのが僅かな救いだ。
生まれたての小鹿の如く、震えながら立ち上がる。
誰がどう見てもツンが勝てる状況ではなかった。
- 739 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:28:00 ID:yXBd/gh60
-
(//‰ ゚) 「たまンねえ。たまンねえぜ嬢ちゃン。こんな小娘に勃つとは思わなかったぜ」
ツンは出来れば直視したくないが何か膨らんでいる気がする。
瞳孔が開いてるし、若干息が荒い。
早くもツンちゃん後悔の嵐である。
敵ならばともかく、よく分らない変態から逃げるのはツンルール的にありなんじゃなかろうか。
そんな言い訳を脳内で反芻しながらツンは後ずさる。
(//‰ ゚) 「久しぶりだぜこンなに興奮する奴は。最近は腑抜けた雑魚ばっかりだったからな」
男の気配が変わっていた。
単に気持悪くなっただけではなく、独特の粘度を持っている。
そう、例えば。数日の間に戦った、あの二頭のキメラのような人間とは一線を画すそれ。
ニョロが唸った。
苦しくない程度に首を締め付け警戒心を露にする。
とりあえず、この子が唯一の心の支えだ。
(//‰ ゚) 「さァ、覚悟はいいか」
そう呟くと、男は突然上半身の服を破り脱いだ。
元々袖口が破れていたそれは、あっさりと引き裂かれ、男の半裸体が露になる。
- 740 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:28:50 ID:yXBd/gh60
-
ξ;゚⊿゚)ξ(へ、変態だー!!)
男の身体は鍛え抜かれた戦士のそれだった。
無駄の無い筋肉が影を作り見事な凹凸が出来ている。
だが、問題はそこではない。
ツンは、男が鉄甲を着けているのだと思っていた。
現に男の右の腕は肩まで黒い金属に覆われている。
注目すべきは、その付け根。
本来であれば皮膚の上に被さるはずの甲が、皮膚の中に潜りこんでいた。
手甲から伸びていると思しき根のようなものが胴に広がるように伸びているのが薄っすらと見える。
まるで、宿木に取り付かれたようだ。
(//‰ ゚) 「グッグッグ、やっぱり引いたか?俺はこの通り、ちっとばっかし体が変なンだよ」
ちっとばっかしどころではない。
ジャケットの襟で良く見えなかった首筋にも根は伸びており、顔の仮面に繋がっている。
(//‰ ゚) 「昔ヘマをして腕が無くなっちまった時にコイツをつけてもらったンだ」
両手を広げ、男が一歩一歩近づいてくる。
ツンはたじろぎ、ふらつきながら後ずさった。
いっそキメラのように完全な化け物でいてくれれば吹っ切れるのだが、半端に人型をしているせいでなんだが酷く嫌悪感がある。
- 741 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:29:34 ID:yXBd/gh60
-
ξ;゚⊿゚)ξ
(//‰ ゚) 「俺がこれを他人に見せるのは、女を抱く時だけだ」
ξ;゚⊿゚)ξ
(//‰ ゚) 「逃げるなよ、嬢ちゃン」
何かもう色々違う。
主に生きている世界とか。
頭蓋骨をカチ割ったら、コバルトブルーの脳漿とか出てくる。絶対。
ξ;゚⊿゚)ξ「この、変態!」
相手の空気に飲まれかけていたツンだったが、戦意を喪失したわけではない。
下がりながらも、ニョロに魔法弾を放たせる。
螺旋を描く無色の砲弾は、男の顔面、鳩尾、股間に唸りを上げて食い込んだ。
今回は完全なノーガード。
急所を的確に捉えた完璧な攻撃だ。
これは流石に
(//‰ ゚) 「グッグッグ」
効いてなかった。
ツンちゃん涙目である。
- 742 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:30:15 ID:yXBd/gh60
-
ξ;゚⊿゚)ξ「なんで、こう!まともな敵がいないのよ!」
異常性というか、お近づきになりたくない度合いでいえば最高値をマークする相手だった。
VIPで襲われた三人組の暴漢がハムスターか何かに見えるほど。
ツンは武器を探す。
ナイフは男に奪われ捨てられて手元には無い。
ブーツを使うのも悪くは無いが、未だ蹴りのダメージが残る体では使いこなせないだろう。
ニョロに頼りすぎるのも良くない。
あくまでツンとのワンセット利用してこそ、戦力としての効果が発揮されるのだ。
単体で使わせては魔力を悪戯に消費させてしまうだけ。
残るは、師に教わったロクに使ったことの無い拳法くらいのものだ。
魔法弾が効かない相手に通用するとは思えない。
ξ;゚⊿゚)ξ「“鎌を研げ、食い散らせ―――”」
(//‰ ゚) 「カマイタチの魔法か。良い選択だが」
男が踏み込んだ。
右腕を引き絞り、手刀の構え。
ニョロがツンを庇うために張った障壁をいとも簡単に砕く。
- 743 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:30:57 ID:yXBd/gh60
-
ξ;゚⊿゚)ξ「“ウィンドエッジ”!」
急ぎの展開でやや荒いが、発動には問題ない。
巻き起こる風が三日月状の刃を模り、男に向かって放たれる。
(//‰ ゚) 「グッグッ」
男は腕でなぎ払い、魔法を物理的に粉砕した。
あの右腕は厄介だ。
強度も速度も並ではない。
距離を取ろうとするが、足が上手く動いてくれなかった。
間合いは、男の膂力であれば十分仕掛けられるほど狭まっている。
(//‰ ゚) 「ん?」
踏み込もうとした男が、何かに気付いたように動きを止めた。
同時にツンも、遠方から接近する魔力の気配を感じ取る。
(//‰ ゚) 「……めンどくせえのが来たな」
男が視線を向けたのはVIPの方角だ。
空を滑るように向かってくる二つの人影。
大きな板か何かに飛行魔法をかけ飛んできている。
- 744 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:31:33 ID:PbZmeAXg0
- ツン逃げてー!!!
- 745 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:31:37 ID:yXBd/gh60
-
(//‰ ゚) 「チッ」
男がおもむろに右手を向け、魔法弾を二つ放つ。
ツンの目には二人の人影に直撃したようにも見えたが炸裂音すら無い。
〈::゚−゚〉「……ッ!」
二人の乱入者はツンと男の間に割って入った。
男の方はこの二人を知っているのか、警戒するように跳んで下がる。
〈::゚−゚〉 「君は、大五郎の傭兵だな。無事か?」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、あ、なんとか」
声をかけて来たのは、男かと見紛うほど鍛え抜かれた身体にハルベルトを携えた年配の女性。
そして、彼女に付き添う小柄で無表情の青年だった。
〈::゚−゚〉「こんな少女に手を出すとは、落ちるところまで落ちたものだな」
(//‰ ゚) 「強気で頭のネジが二、三本飛んでる女が好きなンでね。そういう意味ではアンタも大好きだぜ」
〈::゚−゚〉「相変わらず、人を不快にさせるのが上手い男だ」
乱入の二人が乗っていたのは、板ではなく絨毯であった。
女が飛び降りると同時にくるくると丸まり、青年の背中に納まる。
- 746 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:32:17 ID:yXBd/gh60
-
(//‰ ゚) 「……さあて、面倒なのに睨まれちまったな」
〈::゚−゚〉「今日こそ殺す」
( ・−・ ) 「……」
ツンは、見た目だけで人の能力を見抜けるほど優れた目を持ってはいないが、この女性が強いのは分った。
青年の方も、物静かではあるが傍にいると妙な圧力を感じる。
とりあえず敵では無いようだが、一体何者なのか。
〈::゚−゚〉「……」
(//‰ ゚) 「……」
ハルベルトと腕を構えあっての沈黙。
男にとっては魔法の方が有効な間合いに見えたが使う様子は無い。
何か考えがあるのか、それとも。
ツンの頭に、先ほど二人に向けて男が放った二発の魔法弾のことを思い出す。
かわした様子も見られなかったため、単に外したのかと思っていたが、そこに何か肝があるのかもしれない。
〈::゚−゚〉「大五郎の。戦えるかい?」
男への警戒を全く解かず、女が背後に立つツンに尋ねる。
まだ鈍い痛みは残っているが格段に動けるようにはなっていた。
短く、「はい」と返す。
- 747 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:32:58 ID:yXBd/gh60
-
〈::゚−゚〉「私らが何者か、気になるところではあるだろうが、今は黙って協力して欲しい」
ξ゚⊿゚)ξ「もちろん。こっちが協力して欲しかったくらい」
〈::゚−゚〉「……武器が無いなら、私の腰の剣を使いな」
地面に落ちていたナイフと武器を持っていないツンを見て予想したのか。
とりあえずその言葉に従い女の腰の後ろ、横向きに括られている鞘から剣を引き抜く。
やや刃渡りの短い両刃剣。
それなりの幅と厚みがあり、ツンが片手で振り回すには少々余る。
文句は言っていられないので女の右後方に並び、両手で剣を構えた。
〈::゚−゚〉「いいかい?魔法は一切使わないくらいの気持で戦うんだ」
緊張感を保ったままの優しいアドバイス。
すぐに意味が理解できず、青年に目を泳がせると
v( ・−・ )v
表情を変えないままダブルピースされた。
彼が何か種を持っているらしい。
- 748 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:33:40 ID:yXBd/gh60
-
(//‰ ゚) 「ィシさんよ、アンタがやる気なのに悪いが俺は仕事以外で無駄な喧嘩はしたくねえンだ」
〈::゚−゚〉「知っているさ。だから毎度こちらから出向いてやっている」
(//‰ ゚) 「もうよ、アンタの声を聞いた時点で萎えちまった。俺は帰るぜ」
〈::゚−゚〉 「させん!」
下がろうとした男に対し、女が大きく踏み込んだ。
その巨大な得物の重さを感じさせない速度で左から右へなぎ払う。
男は後転でかわし腕を弾ませて洋々と距離を取った。
追おうとする女に向かい、魔法弾を三つ発動。
その瞬間、青年が両手を前に翳す。
直線と左右に弧を描く三つの軌道で迫るそれは、女の目前で蒸発するように消える。
一瞬のことではあったが、分った。
魔法弾の式に直接介入し、根本から魔法を瓦解させたのだ。
理論上は可能であるが、こんな短時間に行われるなど聞いたことが無い。
(//‰ ゚) 「相変わらず厄介な小僧だな」
男は直接女を狙わず、目の前の地面を魔法で穿った。
舞い上がる土煙と砂塵に、ツンたちは顔を庇う。
- 749 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:34:21 ID:yXBd/gh60
-
男は素早い身の運びで逃げていった。
女は振り返り青年に魔法での追跡を命じようとしたが、青年がそれを手で制す。
ツンは、額に脂汗を滲ませ膝を付いた。
逃げ出した男を見て緊張が解け全身の力が抜けたのだ。
元々万全ではなかったところに、気合ではどうにもならない内臓へのダメージ。
さらには経験したことの無いタイプの敵を対峙した精神的負担が、どっと足に来ている。
情けないと歯噛みしながら、女に抱き上げられた。
〈::゚−゚〉「大丈夫かい?」
ξ; ⊿゚)ξ「……ごめんなさい」
〈::゚−゚〉「いいさ。どうせ深追いする気は無かったんだ」
〈::゚−゚〉「何より、あの男相手に時間を稼いだだけ立派だよ」
青年が絨毯を広げ、ツンがその上に寝かされる。
柔らかな感触が背中を抱きとめ、中々に心地よい。
〈::゚−゚〉「さ、サロンまで送ってやろう。着くまで身体を安めな」
( ・−・ )b
* * *
- 750 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:35:38 ID:yXBd/gh60
-
石畳を歩く馬の蹄が、小気味のいい音を立てて街中を歩いてゆく。
ここは、大陸の果て、双葉国。
チャンネルより北、寒い気候に曝されているこの国は食料事情が芳しくない。
故に鉱物資源や軍事力の輸出によって国営を成り立たせている。
特に武器と傭兵は上質で、「双葉産」と銘打たれるだけで価値が上がるとされるほど。
食糧事情の関連で周辺国との関係は良好を保っている。
他国からしても双葉の技術や資源は魅力的なため、持ちつ持たれつと言ったところか。
高い軍事力を持ち合わせていながらもどこの国とも戦うことが出来ないことを揶揄して
「大陸一強く、大陸一脆弱な国」と皮肉られている。
その双葉国の中でも最も軍事産業が盛んな街、虹浦。
国内全土の傭兵が集まり拠点とする街だ。
そのため武器防具を扱う店や酒場が多く存在する。
さながら双葉のVIPシティ、と言ったところか。
絶えず揉め事の起きる血の気の多いごろつきのたまり場だ。
その中央に位置する人気の酒場、「年秋」。
店舗は小さいが気さくな店主と豊富な品揃えで連日盛況を誇っている。
ドアにつるされたベルが来店を告げる。
ガヤガヤとした店内が一瞬音を潜ませた。
店の中に居た男達の視線が現われた新たな客に釘付けとなる。
- 751 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:37:15 ID:yXBd/gh60
-
o川* ー )o
口の端に笑みを湛えた美女であった。
長い黒髪はさらりと美しく、覗く首筋は白磁の如く。
豊満な体のラインを主張する黒のドレスは、悩ましい凹凸をくっりきと浮き立たせている。
この虹浦、屈強な男ならば殺して溝に捨てるほどいるが、女となれば別である。
荒くれの多いこの街では商売女ですら迂闊に歩き回ることは稀。
それでいて容姿端麗となれば、視線を向けずにいられる男はいない。
ト゚ム_゚ ソン 「どうした姉ちゃん、こんな物騒なところに一人で?あぶねえぜ」
早速男が一人、優しいが怪しい口調で歩み寄る。
腰に手を当てるようなしぐさで手を伸ばし、女の臀部を鷲づかみにした。
ドレスに浮き出る皺。
指の間からはみ出す肉がその柔らかさと弾力を物語る。
嫌がるかと思いきや、女は男の熱い胸板に両手をそろえて寄り添った。
つま先を立て、その薄くも艶のある唇を男の耳に寄せる。
o川* ー )o 「もう、我慢できないの」
ト゚ム_゚ ソン 「ひ、ひひ、話が早い女は好きd
さらに臀部を弄ろうと手を動かしたその瞬間、男の額に真一文字の線が走る。
見ていた男達すら気付かぬ内に線は頭部を一周し、鍋の蓋のように分断した。
- 752 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:38:12 ID:yXBd/gh60
-
ぼとり、と床に男の上部5%ほどが落ちた。
男本人も、周囲のギャラリーも何が起きたか分らないという顔のまま固まる。
女がそっと避けると、男は白目を剥いて床に倒れた。
悲鳴も、ざわめきも起きなかった。
その代わりに店内に響き渡ったのは、武器を引き抜く金属の鳴き声。
この女は、売女でも阿婆擦れでもない。
もっと危険なものであると、瞬時に理解したのだ。
o川*゚ー゚)o 「ここを選んで本当に良かった」
女は自分に向けられた武器の群れを眺め、目を蕩けさせた。
恐れも緊張もそこには無い。
馳走を前にした餓えた子供のような、純粋な喜びを溢れさせている。
o川*゚ー゚)o 「本当は今すぐにでも会いたいの」
o川*゚ー゚)o 「でもだめ、今はまだ。やらなきゃいけないことが幾つもある、まだまだ、我慢しなきゃ」
o川*゚ー゚)o 「ねえ、だから。私のこと」
男達が纏わり着く恐怖を振り払うため、雄たけびを上げた。
o川*゚ー゚)o 「慰めてくれる?」
それから一時間。
虹浦は、魔女に消された五つ目の街となる。
- 753 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:39:32 ID:yXBd/gh60
- ・ここまで
・個人的な都合でかなり駆け足の投下で申し訳ない
・次はゆっくりまったりやりたいところ
・RESTさんの安否がかなり心配
・次はラノベ祭りが終わった頃に
- 754 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:44:49 ID:iwX.7lyk0
- 乙
- 755 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 00:53:24 ID:UBURKbnQ0
- 乙
キュートが怖い
- 756 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 05:21:30 ID:HEvLjC5A0
- 乙
ィシさんかっこええなぁ
- 757 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 09:50:13 ID:GfLWCI.s0
- 乙!
コバルトブルー噴いたww
- 758 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 15:24:49 ID:et5IW7Bc0
- 乙
ラノベ祭の方も期待してるぜ
- 759 :名も無きAAのようです:2012/11/17(土) 15:30:21 ID:UlXZmAUU0
- 乙
やっぱキュート危ない奴か…
- 760 :名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 04:35:13 ID:a42dY6xE0
- オートメイルのグッグ言ってる変態結構好きだわ
- 761 :名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 22:44:07 ID:gNohdLSMO
- 乙
ニョロは優秀だな
- 762 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 10:54:06 ID:/6pjF5ig0
- ラノベ良かったよ
- 763 :名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 00:04:32 ID:/aMejJcM0
- >>762
どれか分からんので教えてつかぁさい
- 764 :名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 21:11:20 ID:tq7DxDWw0
- やや間が空いた&もう少し空きそうなのでちょいと報告
・執筆に使っているPCがラノベ終わった瞬間故障
・書きたいけれどしばしお休みになってしまうやも
・金が無い
・ラノベで何を書いたか?参加作を全部読んで探してみよう!
・次回投下は予告スレを利用した上で
・長い目でよろしくお願いいたす
- 765 : ◆x5CUS.ihMk:2012/11/27(火) 21:14:31 ID:tq7DxDWw0
- 忘れてたので一応トリを出して置きまする
- 766 :名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 23:11:35 ID:sh7slROE0
- 気長に待ってる
- 767 :名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 08:32:03 ID:AYFGakOoO
- そいつは残念だが報告だけでもしてもらえばありがたい
ゆっくり待つことにする
- 768 :名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:13:15 ID:ObhY/NtQ0
- 気長に待っとくよー
- 769 :名も無きAAのようです:2012/12/13(木) 20:29:37 ID:I867h6gg0
- まってるで
- 770 :名も無きAAのようです:2012/12/16(日) 22:31:41 ID:8l3wY7BEC
- 待ってる
- 771 :名も無きAAのようです:2012/12/20(木) 00:04:47 ID:EJ/UZ5vcO
- 気付けば前話から一月経ったのか
- 772 :名も無きAAのようです:2012/12/20(木) 04:48:33 ID:Ve2/9YlM0
- まだそんなもんか。今までが早かっただけに随分間が空いたように感じるなぁ
この機会に読み直そうかね
- 773 :名も無きAAのようです:2012/12/23(日) 14:54:18 ID:LI6lgBLI0
- 待ってる
- 774 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 14:53:28 ID:YL.1m0K60
- まだかなまだかな
- 775 :名も無きAAのようです:2013/01/11(金) 14:30:45 ID:d61dKJp6O
- まだー?
まだー?
- 776 :名も無きAAのようです:2013/01/11(金) 20:50:00 ID:/HuSLAl.0
- 急かすなよ。
- 777 :名も無きAAのようです:2013/01/22(火) 02:39:35 ID:dzi4P9Ng0
- ごめんなさい…
- 778 :名も無きAAのようです:2013/01/27(日) 14:21:26 ID:g9lfMFEI0
- そろそろ報告だけでもほしいなぁ
- 779 :名も無きAAのようです:2013/01/27(日) 15:02:40 ID:jvnKS9QI0
- まぁ気長に待とうぜ
- 780 : ◆x5CUS.ihMk:2013/01/27(日) 21:19:29 ID:xVjwVBxQ0
-
・お久しぶりです
・PCの修繕もとい買い替えが無事に終わり色んなものをカキ易い環境が復活
・その他の事情もあり以前ほどのペースは苦しいかもしれませんがぼちぼち書いていく所存
・諸兄らの首がキリンより長くならないうちには投下に来る気概
- 781 :名も無きAAのようです:2013/01/27(日) 21:21:36 ID:Gk8VcAEs0
- 喜多ー!
- 782 :名も無きAAのようです:2013/01/27(日) 21:32:20 ID:q1pdrOpI0
- 色んなものをカく…?
- 783 :名も無きAAのようです:2013/01/27(日) 21:35:30 ID:BSlmeHQs0
- 背中とかかな?(純粋)
- 784 :名も無きAAのようです:2013/01/28(月) 22:27:06 ID:uK35IaCg0
- のんびり待ってるよー
- 785 :名も無きAAのようです:2013/01/29(火) 09:41:03 ID:BvfcF36g0
- 生存報告きてたー
待っとるでよー
- 786 :名も無きAAのようです:2013/02/01(金) 16:52:55 ID:5.MvSoeE0
- 待ってるよ!
- 787 :名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 16:24:18 ID:1sDI4HAc0
- もう俺の首はシロナガスクジラより長いよ
- 788 :名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 22:19:20 ID:Dt6ws9C20
- 待ってる!大好きだ!
- 789 :名も無きAAのようです:2013/02/22(金) 21:54:33 ID:7hjVUBHU0
- 絵を描きつつ待ってます
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_846.jpg
- 790 :名も無きAAのようです:2013/02/23(土) 17:51:09 ID:jrhBxu.60
- >>789
男前すなあ
- 791 :名も無きAAのようです:2013/03/01(金) 20:40:27 ID:1WUTanm2O
- まだー
- 792 :名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 00:17:05 ID:cMUvaZp.0
- 漫画が描けました
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_865.zip
- 793 :名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 00:26:53 ID:Yxr9.ArU0
- なにこれすごい
すごい続き読みたいんだけど
- 794 :名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 01:40:16 ID:q/.X7fewO
- 六つの銃弾懐かしいな
- 795 :名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 01:21:28 ID:k.dor3K60
- おーすごい
ハンターハンターぽい
好きな雰囲気だ。ぜひ続きを
- 796 :名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 01:22:26 ID:k.dor3K60
- >>792
安価付けとくか
- 797 : ◆x5CUS.ihMk:2013/03/17(日) 18:54:49 ID:w0wE4vm20
- >>792
キメラのデザインがしっかりして勢いもあっていて好きです
つづきはよ
予告スレにも書きましたが本日の21:00以降から投下しますよ
何らかの理由で延期になった際も連絡はしに来まっせ
- 798 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:02:49 ID:w0wE4vm20
-
そこはまさに、死の街と化していた。
地面に、壁にこびりつく固まった赤黒い血糊。
一歩進むたび靴底が細切れになった肉片を踏み潰す。
ブーンは無意識のうちに口元を抑えていた。
未だむせ返るほどの匂いがまとわりつき、不快感が拭えない。
('A`) 『……死体は割と慣れっこだけどよ。これはひでえな』
内からの聞こえたドクオの言葉にブーンは肯定を返した。
傭兵として戦場に生きたブーンにとって死体も血も慣れ親しんだものである。
しかし、原形すらとどめていない死体というのはそうそう見るものではない。
('A`) 『ブーン、行こう。ここにいても不快なだけだ」
( ^ω^)(そうだおね)
できうる限り屍を踏まぬようブーンは歩を進めた。
目的地は中心街の細く入り組んだ路地の奥。
ブーンたちにこの惨状をいち早く知らせてくれた知人の元を訪ねるのだ。
- 799 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:04:05 ID:w0wE4vm20
-
【+ 】ゞ゚) 「らっしゃあい。……なんだ、あんたか」
歩いて数分。
日中ですら暗いそこに、目的の場所はあった。
朽ち果てて廃材と化した看板に書いてあるはずの店名は、もはや判別がつかない。
そっと開いた扉も、ドアノブだけが取れてしまいそうなほどガタがきている。
収入はかなりいいはずだが、改築の意志はないのだろうか。
中もかなり老朽化が進んでいた。
小汚く、突くようなヤニの臭いがする。
相変わらずと思いつつも、鼻の利くブーンは顔をしかめずにはいられない。
( ^ω^)「なんだも何も、あんたが鳩をくれたから来たんだお」
【+ 】ゞ゚) 「それにしてもずいぶん早かった。明日になると思ってたが」
( ^ω^)「まあ、魔法で飛んできたからおね」
【+ 】ゞ゚) 「……まだあの魔法使いとくっついてんのか?物好きなもんだ」
大仰に肩を竦め、男はカウンターの向こうで椅子に寄りかかる。
この男がブーンの古くからの知人オサム=ブラッドリンカー。
フタバの街で武器店「棺桶死」を営む刀工である。
ブーンの腰に差す刀も彼が作ったもの。
顔色が悪かったり、顔の半分を面で覆っていたり、多少人格に問題があったりするが、腕は一級品だ。
国を問わず彼の作る剣を愛用する者は多い。
- 800 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:05:23 ID:w0wE4vm20
-
( ^ω^)「キュート、魔女が現れたっていうのは?」
【+ 】ゞ゚) 「ああ。表を見てきたなら、一目でわかるだろうが」
オサムは気だるげな動作でキセルに葉を詰め火をつける。
細い煙が静かに伸びて、溶けるように中空へ消えた。
【+ 】ゞ゚)y一~ 「何が目的だったんだか。わざわざ一人ひとり殺して回ってやがった」
( ^ω^)「それで、キュートは?」
【+ 】ゞ゚)y一~ 「わからん。俺があんたに鳩を飛ばした時点ではもうどっか行った後だったからな」
キセルに口をつけ、渋そうな顔で煙を啜る。
ため息と共に鼻から吹き出されたそれは、ほんの僅かに甘い香りがした。
【+ 】ゞ゚)y一~ 「お蔭でおれぁ商売あがったりだ。誰も寄ってきやしねえ」
( ^ω^)「国軍は?まさかこの状態でずっと放置されてたのかお?」
【+ 】ゞ゚)y一~ 「来たには来たが、さらっと調査して今は周辺まで引いてる」
【+ 】ゞ゚)y一~ 「魔女の目的が見えねえから、国も迂闊に手を出したくねえんだろ」
- 801 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:06:36 ID:w0wE4vm20
-
今までに魔女に壊滅させられた都市は、ほぼ確実に異常性を伴う土地に改造されている。
一つは絶えず毒の瘴気を生み続ける死の谷に。
一つは殺しても死なぬ獣の住み着く魔の山に。
一つは姿見えぬ者たちが跋扈する死霊の森に。
唯一何もなかったのが、魔女が最も初めに滅ぼしたソクの街くらいのものである。
ここ虹浦も何かしらの改造を行われたと警戒するのは至極当然だろう。
【+ 】ゞ゚)y一~ 「ま、おれが見る限りじゃ、特別やばいことにはなってねえとは思う」
「ただ」とオサムがつけたす。
椅子の背もたれに体重を預け、真上に向かって紫煙を吐いた。
継続して不味そうな顔をしている。
そんな顔してまで吸って話中断すんなよ、と思わなくもない。
【+ 】ゞ゚)y一~ 「死体を、かなり、持って帰ってたな」
( ^ω^)「死体を?」
【+ 】ゞ゚)y一~ 「気付かなかったか?血の割には屍の数が少なかっただろ」
確かに、虹裏にいた人間全員分の屍としては少ない、ような気もする。
実際のところくまなく見て歩いたわけでもなく、原形を留めていない死体が多いか少ないかはいまいち判断がつかない。
- 802 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:07:55 ID:w0wE4vm20
-
(;'A`) 『持ち去ったってのが本当だとなると、またなんか企んでそうだな……』
( ^ω^)(それも、とんでもなく厄介なことだおね)
死体の利用法といえば、精々肥料にするか獣の餌にするか、程度のものだろうが、それはあくまで通常の話。
当事者は魔女。
彼女ならば死体を使って新たなキメラを作るなど造作もないだろう。
だとすれば、今後また、非常に厄介なキメラが現れても何ら不思議では無い。
それこそ、蛇のキメラや、鯨のキメラを超えるような。
(;'A`) 『クラクラしちまうぜ、本当に』
( ^ω^)(……すまんお)
(;'A`) 『まあ、死ななかっただけマシ、かな』
( ^ω^)(今後あの時いっそ死んだ方がマシだったと思う時が来てしまうかも……)
(;'A`) 『お前何気にそうやってビビらせるのやめてくださる?!リアリティあるからほんと怖いんだけど!』
ブーンのいうことはあながち冗談でも無い。
ここ最近戦った相手も、ドクオ単体の話でいえばおしっこちびるくらいの難敵ばかりだった。
今後あれらを超える化け物が現れる可能性は十分にある。
- 803 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:09:25 ID:w0wE4vm20
-
( ^ω^)「さてと」
【+ 】ゞ゚) 「帰るのか?」
( ^ω^)「一応周辺を探っては見るけど、何もなさそうだったらちょっとクシンダに寄って帰るお」
もとよりそれほど期待を持って訪れたわけでは無かった。
魔女が虹浦を襲撃したのが前日の夕刻。
知らせを受けた時点で半日は経っており、着いたのは結局一日が過ぎてしまっている。
気まぐれに飛び回る彼女が、滅ぼした街にわざわざ居つく理由がない。
それでもここに駆け付けたのは、彼女が引き起こした惨状を、この目で確かめるため。
【+ 】ゞ゚) 「そういや、刀は大丈夫なのか?」
( ^ω^)「お?最近鍛冶屋で修繕してもらったばかりだけど」
【+ 】ゞ゚) 「見せてみろ。雑なな仕事だったらその鍛冶屋殺しに行く」
( ;^ω^)「いや、僕が見た限りでは丁寧な仕事だと思うけど……」
オサムが椅子から立ち上がり、素早くカウンターを飛び越える。
それまでの気だるさが嘘のように素早い動き。
ブーンの反射的な抵抗をあっさりかいくぐって腰の二刀を鞘ごと引き抜いた。
- 804 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:11:06 ID:w0wE4vm20
-
【+ 】ゞ゚) 「相変わらず鈍ってやがんなあ」
オサムは奪った刀を一振りづつ引き抜き、刀身に視線を這わせた。
刃渡りが短く抑えられた反りのある小太刀。
度重なる戦闘によって生じた歪みや刃こぼれは一見して見事に修復されている。
受け取った際に大根を試し切りしたが、切れ味にも全くと言っていいほど問題なかった。
【+ 】ゞ゚) 「ある程度まともな仕事はしてるみてえだな」
二振り目の刃に爪を食い込ませオサムが呟いた。
軽い舌打ちをして刀を鞘に戻す。
【+ 】ゞ゚) 「だが、刀そのものの傷みがひでえ。それは鍛冶屋の腕じゃなく、使い手の問題だ」
( ;^ω^)「おー……確かに最近無茶が多かったお……」
【+ 】ゞ゚) 「丁度いいのがあるが、買うか?」
( ;^ω^)「い、いや、間に合ってるからいいお!」
オサムの武器は質は問題ない、むしろ喉から肩口まで飛び出るほど魅力的だが、いかんせん値が張る。
払いきれない額ではないにしろ今の手持ちではかなり苦しい。
他にも出費の予定はあるし、現在傭兵を休業しているブーンが気軽に出せる額ではないのだ。
- 805 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:13:00 ID:w0wE4vm20
-
【+ 】ゞ゚) 「ま、今のお前程度ならそこらの鈍で十分だろうがな」
嫌味たっぷりの言葉と共に刀が返される。
ブーン自身も刀身を眺めてみるが、オサムのいう傷みは感じ取れない。
融合によって感覚が鈍っているからか、収入源が激減したオサムが刀を売るために放った詭弁なのか。
おそらく前者なのだろう。
この男、部屋も店も汚く粗雑な性格ではあるが、刀への誠実さに偽りはない。
【+ 】ゞ゚) 「俺も、しばらくここじゃ商売にならねえから、別の工房に移る。買うなら今の内なんだがなあ」
【+ 】ゞ゚) 「今なら大虐殺セールで大幅値引きなんだがなあ」
追記。
金への執着もまた半端ではない。
正直笑えないジョークを言い放ってカウンターの奥へ戻るオサム。
要件も済み、客でも無いブーンに興味を失ったのか再び気怠そう表情でキセルをふかし始めた。
( ^ω^)「これ、少ないけど、礼だお」
【+ 】ゞ゚)y一~ 「そこに置いといてくれ。またなんかあったら鳩を飛ばす」
( ^ω^)「お。よろしく頼むお」
漂い始めた紫煙の香りを後に、ブーンたちは武器屋「棺桶死」を後にした。
- 806 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:14:10 ID:w0wE4vm20
-
外は相変わらずの血の臭気。
棺桶死の中のヤニの臭いがマシに思えてしまうほど濃く、不快だ。
ブーンはマントの襟元を持ち上げ、口を抑えた。
日は、来た時よりもいくらか傾いていた。
透き通る紫に染まった空には、星が見え始めている。
もうすぐ夜だ。
早いところ宿のある近郊の町に移動しなくてはならない。
( ^ω^)(ドッグ、悪いけど)
('A`) 『ああ、少しくらいなら平気だろ』
( ^ω^) (頼むお)
手っ取り早く飛行魔法で移動する為、ドクオに入れ替わる準備をする。
他人から見れば一瞬で行われる二人の切り替えも、当人たちの中ではある程度のプロセスを経ているのだ。
まず何より大事なのが、共有する五感の強化。
普段も感覚を共有する二人だが、引っ込んでいる方は五感が通常よりも鈍る。
そのため、あまりに急に切り替えると周囲と自身の感覚で誤差が生じ著しい不快感を覚えてしまうのだ。
ブーンはともかく、ドクオには切り替え時のダメージが存外響く。
元々虚弱なことも含め、集中力が鍵の魔法使いにとっては、僅かではあるが大きな弊害なのである。
- 807 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:15:10 ID:w0wE4vm20
-
ふと、感覚を同期させている二人の目に、酒場の扉が見えた。
棺桶死からさほど遠くない、小さな店である。
特に何か理由があったわけでは無い。
ただ、ブーンの直感を強く揺さぶる何かがそこにあった。
( ^ω^) (なんだか、とっても嫌な予感)
キィィ、と軋みを立てて、扉が開く。
続いて湿った音が聞こえた。
ずぶ濡れになったモップを床に押し付けるような、不快な耳障り。
それが足音だと分かったのは、彼の姿が、扉の内から現れてのことだった。
`(li゚:g!li}
( ^ω^)
('A`)
( ^ω^)「こんばんわー」
`(li゚:g!li} 「pあ1@ごぃlrrrrrrrrっろお」
朗らかに挨拶してやり過ごそうとしたが駄目だった。
酒場から現れたそれは、口を限界まで開き、意味不明な雄たけびを上げながらブーンへと近づいてくる。
血肉を適当に繋ぎ合わせて人型にくみ上げたような、歪な造形。
人体の様で、まったく人体を成していない。
体表に皮膚は無く、粘度を持った血が膜となってテラテラと輝いてた。
- 808 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:16:33 ID:w0wE4vm20
-
「なにこれ」と口にした瞬間に、背後の棺桶死の扉から、鍵をかける軽やかな金属音が聞こえた。
慌てて振り返ってドアノブを掴むが、何度回しても開く気配はない。
おそらく中からオサムが抑えている。
そうでなければこの朽ちかけた扉、ブーンの力で開かないわけがない。
( ;^ω^)「ちょっと、なにこれ。ねえなにこれ」
「一つ、言い忘れてたことがある」
( ;^ω^) 「なんだお」
「魔女が、死体をどうやって持って帰ったかってことなんだが」
( ;^ω^)「はい」
「その場でアンデッドに作り替えて、引き連れて帰ったんだわ」
( ;^ω^)
「その時に乗り遅れたやつが、日が沈む頃になるとでてくんだよ。気をつけてな」
( ;^ω^)「心配ありがとう。死ね!」
ドアに罵声を浴びせるブーンの背後、魔女に作られたという彼が腕を振り上げた。
重鈍にして緩慢。
しかし、その異形の姿から放たれる威圧感は尋常ではない。
- 809 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:18:11 ID:w0wE4vm20
-
( ^ω^)「……ッ!」
腕が振り下ろされたその瞬間、ブーンの身体が爆発的に回転する。
右足を引き、体を後ろに振り向きながら抜刀の一閃。
力強く放たれた白刃の軌跡が、彼の赤黒い腕を垂容易く斬り払った。
僅かに回転しながら舞い上がる二本の腕。
それが地に落ちる頃には、ブーンは体を引き絞り、渾身の前蹴りで彼を吹き飛ばしていた。
( ^ω^)「……」
(;'A`) 『案外、弱いか?』
( ^ω^)(……少なくとも、このまま戦うようには作られて無いみたいだおね)
吹き飛び、現れた酒場の壁に激突した彼が相変わらずゆっくりと立ち上がる。
腕が無いためバランスが取れないのか、かなり苦戦しているように見えた。
切り落とされた腕は、ブーンの傍でびくびくと蠢いている。
(;'A`) 『見れば見るほど、雑な仕事だな』
本当に死体を運搬するため便宜上動く能力を持たせただけの存在らしい。
二本の腕は左右で筋肉の付き方が全く違い、よく見ると片方の指には足のものが使われていた。
- 810 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:19:26 ID:w0wE4vm20
-
彼が何とか立ち上がる。
均整の取れていない足で、ふらつきながら再びブーンへ。
目的はわからない。
攻撃なのか、それとも捕食でもするつもりなのか。
あるいは理由などなく、単に動く物へ寄ってきているだけなのか。
( ^ω^) 「……哀れな」
彼も元は屈強な傭兵であったはずだ。
それが今は、ただ立つことすらもままならない。
ブーンの胸に、鈍い痛みを伴う感情が湧き上がる。
('A`) 『どうする?このくらいだったらすぐに飛んで逃げられそうだけど』
( ^ω^) 「……」
ブーンは刀を握り直し自ら彼に歩み寄る。
静かな足運び。
息を殺し、体の力を極限まで抑え、気配を完全に殺す。
( ^ω^) 「せめて、安らかに」
ふわりと、ブーンの体が前へ。
強く踏み出された一歩は、砕くような音を立て地を蹴りぬいた。
- 811 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:21:20 ID:w0wE4vm20
-
( ^ω^) 「眠ってくれお」
刹那の交叉。
残り火のように差し込む陽光に煌めいた剣閃は、彼の首を過ぎ、ブーンの手に追いついた。
べったりと刃にこべりついた血をマントの裾で拭ったその瞬間、彼の首は重い音を立てて地に落ちる。
( ^ω^)「……ドクオ、いいかお?」
('A`) 『わーってるって』
刀を鞘に納めると同時に身体をドクオに切り替えた。
その眼は、落ちた頭を探して彷徨う彼に向けられ、複雑な感情を孕み歪む。
素早く組み上げられる炎の魔法式。
十数秒と待たずにドクオの目の前に赤い魔方陣が浮かび上がり、そこから溢れた炎が彼の体を包み込む。
静かな焼殺だった。
炎が渦巻く音だけが耳に触り、雄叫びも断末魔すらも聞こえない。
紅く煌めく光の中、徐々に体を炭に変え、彼はようやく屍となった。
- 812 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:23:32 ID:w0wE4vm20
-
('A`) 「……ここ何回かに比べりゃ、楽な相手だったな」
( ^ω^)『……お』
今焼き殺した彼は、戦闘力など持っていなかった。
武器さえあればそこらの町民でも十分に対処できる程度だろう。
それでも命を絶ったのは、ある種の偽善。
不完全な身体に作り替えられ、意志も持たずただ彷徨う彼をそのままにしておくのが、酷く辛い。
魔女が作ったというならば、なおさらブーンがケリをつけなければならないという、使命感のようなものもあった。
気分がすぐれない。
いっそこれまでのキメラのように強烈な害を持つ「敵」であればいくらか誤魔化しが効いたはずなのに。
('A`) 「……まあ、一体で済むわけ無いよな」
( ^ω^)『……お』
未だ火種の残る遺骸に視線を落とす二人の背後に、再び足音が聞こえた。
粘度を持った不快な音。
振り返ると、新たなアンデッドが走り寄ってくる。
各部の筋肉の配置が先ほどよりは真面だ。
故に機動力も少々高め。
皮膚は相変わらず無いが、いたるところから髪の毛と思しきものが雑然と生え、血に塗れて張り付いている。
- 813 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:25:37 ID:w0wE4vm20
-
相変わらず目的は明確ではないが、近づかれた後にいいことが起きる気がしない。
少なくとも軽いハグをして終わりという風にはいかないだろう。
ドクオはすぐさま意識を切り替え、向かってくるアンデッドを正面に捉える。
(;'A`) 「……やるせねえな、糞」
( ^ω^)『ドッグ、いったん僕に変わるお』
言うが早いか、ドクオがブーンへ。
覆いかぶさるように掴みかかってきたその脇をすり抜け、ブーツの底で膝裏を蹴り抜く。
よろけて倒れるアンデッド。
ブーンは刀の柄尻で、起き上がってきたその頭部を横に殴りぬいた。
首がもげ、吹き飛んだ頭部は建物の石壁にぶち当たり中身が四散する。
一度分解されたものを適当にくっつけなおしただけのため、かなり脆い。
( ^ω^)(とどめ、頼むお)
(;'A`) 『お前、情け持ってる割には容赦ないよね』
( ^ω^)(加減したところで、長引かせちゃうだけだお)
- 814 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:27:15 ID:w0wE4vm20
-
魔法で殺しきるため、再びドクオへ。
頭を失った体は、落とした眼鏡を探すような滑稽さで周囲に手を這わせている。
頭無いと何も見えないんですよーと言い出しかねない慌てっぷりを見て、ドクオは重いため息を吐いた。
(;'A`) 「もうほんと、ほんとアレだよ」
素早い魔法の展開。
一度行っているためどの程度の火力があれば十分かはつかめている。
アンデッドが落ちていた自身の奥歯を拾い上げた時には、既に展開は終わっていた。
しかし。
( ^ω^)『ドッグ、後ろ!』
夕刻の、日が傾いていた最中だからこそ出来た反能だった。
伸びるドクオの影に別の影がのっそりと重なったのだ。
(;'A`) 「!」
反射的に振り向き、手を翳すドクオ。
頭部から丸々足が一本生えたアンデッドに向かい、展開していた火炎魔法を発動する。
一瞬の内に立ち上がった火柱は異形のそれを、異形の焼死体へと変貌させた。
奇襲を仕掛けてきた一体を殺したところで安心している暇はない。
頭部を探していたアンデッドの手が、運悪くドクオの足に触れたのだ。
アンデッドはそのままとてつもない力で足首をつかみ、引き寄せる。
- 815 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:29:16 ID:w0wE4vm20
-
(;'A`) 「ッ!」
咄嗟に抵抗するもドクオでは無意味。
ブーンに入れ替わり、すぐさま刀で腕を切断する。
慌てて距離を取るも切り離された手は相変わらず足首を掴まえて離さない。
親指を付け根から切り落としてやっと、アンデッドから解放された。
( ^ω^)「……この、切っても切っても死なないいうのは例え弱くても厄介だおね」
ぐちょり、という足音と共に、建物の影から新たなアンデッド。
血の臭いが強すぎてブーンでもある程度近づかれないと上手く察知できない。
(;'A`) 『魔法の気配につられて、寄って来てやがるのか』
ドクオの推測は当たっているらしく、ぞろぞろとアンデッドが現れる。
広範囲に散らばり数の把握はできないが、なんかいっぱいいることだけはわかった。
( ^ω^)(ねえドッグ。これ全部一気に燃やしたりできる?)
('A`) 『正直に言っていい?』
( ^ω^)(お)
('A`) 『ちょっときつい』
( ^ω^) (ちょっとなら大丈夫だおね)
('A`) 『おう。任せろ』
- 816 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:30:41 ID:w0wE4vm20
-
直近にいた一体を思いっきり蹴り飛ばし、周囲から敵を遠ざける。
安全をある程度確保した上でブーンはドクオに体を預けた。
('A`) 「……」
眉間に不快感を表しながら。魔法式の展開を始める。
小太刀はいざというときの保険のため手に持ったままだ。
ドクオの手には少々重いが、展開が乱れるほどではない。
('A`) 「“地核蠢く灼火の蜥蜴―――」
のそりのそりとアンデッド達がドクオに向かってくる。
千鳥足の動きながら迷いがない。
中には動きの早いものもおり、ドクオは直感で自身の展開が間に合わないことを悟っていた。
( ^ω^)『ドッグ、右に!』
('A`) 「……ッ、“ゆらり揺れるは赤い舌―――”」
早速襲い掛かってきた一体を、ギリギリのところで回避する。
ドクオには敵の攻撃をどうかわせばいいかわからない。
闇雲に避けても、敵に数の理があるこの状況、つかまるのは時間の問題だ。
その問題をなんとか解決するのが、ブーンの指示。
- 817 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:32:15 ID:w0wE4vm20
-
( ^ω^)『下がって!』
('A`) 「ッ……と、“地鳴り一つで眠りを覚まし―――”
ドクオは魔法式の展開に集中し、ブーンの指示のみを辛うじて拾う。
なんとか回避が間に合うのは、相手が愚鈍なアンデッドだからだ。
これがもし頭を使って戦う人間の戦士であれば、ドクオの体には致命傷の一つや二つ簡単にできている。
('A`) 「“生を引き裂き臓腑を舐めよ―――”」
徐々に迫りくるアンデッド達の威圧感を肌に感じながらの魔法は、尋常でなく精神をすり減らす。
最近誰かしらのサポートの元魔法を使っていたため、久々の緊張感だ。
無意識のうちに、ドクオの口の端が持ち上がる。
('A`) 「“我、贄を捧ぐ者―――”」
完全に周囲を一周、アンデッドの群れに塞がれ、ドクオは逃げ場を失った。
犇めく血まみれの腕が、互いを邪魔しあいながら、しかし確実に近づいてくる。
魔法式の展開も最終段階。
僅かだが、アンデッドのほうが早い。
- 818 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:32:55 ID:w0wE4vm20
-
('A`) 「“汝を―――”」
一体の指先がドクオの肩に触れる。
反射的に避けようとして、逆のアンデッドにがっちりと腕を掴まれた。
('A`) 「“―――奉焼す!!”」
いくらか遅れてからの魔法の発動。
ドクオを中心に周囲数メートルに真紅の魔法陣が浮かび上がる。
陣から立ち上る火の粒子。
ボン、とくぐもった炸裂音と共にアンデッドの身体が火を噴いた。
炎というのも生ぬるい灼熱の波動が死肉達を包み、焼き飛ばしていく。
突風が耳元を過ぎ去るような豪音。
周囲のアンデッドが石炭の如く煌々と焼き尽くされる中、ドクオは熱さすら感じない。
紅蓮燃え盛る陣の中心で、ただアンデッド達が死ぬのを眺めていた。
猛火により敵を焼き殺す、結界型の上級魔法。
防御と攻撃が同時に行える強力なものだが、反面繊細な式を要するため尋常では無く気を遣う。
もし失敗していれば、ドクオもアンデッド達と仲良く火達磨になっていた。
('A`) (……)
静かに魔法を解除する
周囲に残るのは炭と化した彼らの体と、白い煙と共にたなびく独特の臭気。
ドクオはそっと口元を抑えた。
- 819 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:33:44 ID:XdQjtSsgO
- キタワァ支援
- 820 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:33:48 ID:w0wE4vm20
-
('A`) (……これで、おわりか?)
しばし、死体から上がる煙が落ち着くまで二人はその場を動かなかった。
その間燃えた彼らが復活することも、新手が現れることも無い。
魔女が目的を持って連れ帰ろうとしたことを考えれば、残っていた死体の数はそれほど多くは無かったのだろう。
少なくとも、この周囲の者たちは全て倒せた様子である。
('A`) (……行くか)
( ^ω^)『……そうだおね』
空は既に夜に飲まれかけている。
青の向こうに黒が透けて見える澄んだ濃紺。
東側の空には白い月が穴をあけたように浮かんでいる。
西の地平はまだ太陽が覘いているが、時間の問題だろう。
( ^ω^)『……どうか、安らかに』
('A`) (……)
組み上げられた飛行魔法。
二人は目的の土地をめざし、黄昏の空へと飛び立った。
* * *
- 821 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:34:53 ID:w0wE4vm20
-
ξ´⊿`)ξ
( ,,´Д`)
从 ゚∀从 「……いきなり人の家に上がり込んできたと思ったら、なんだその顔は」
ところは変わり、サロンの地はハインリッヒの診療所。
リビングのテーブルにツンとタカラの両名が突っ伏していた。
顔面には全くと言っていいほど覇気がない。
あまりに腑抜けた二人の姿にハインリッヒは腰に手を当て嘆息する。
いつもは大人しくしろと言っても暴れまわって怪我を増やしてくる脳筋たちがこれでは調子が狂う。
从 ゚∀从 「そんなに忙しかったのか?」
ξ´⊿`)ξ
( ,,´Д`)
从 ゚∀从 「……」
返事は無い。
気付かぬ内に死んだと言われても十分に信じられる。
- 822 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:35:45 ID:w0wE4vm20
-
ツンとタカラは本日も大五郎の傭兵として警備の仕事にあたっていた。
これまでとは違い商品を扱う中での警戒態勢。
高い緊張感を維持し、周囲に気を配りながら過ごす時間は、単純に敵と戦うよりも消耗を生む。
傭兵として歴の長いタカラはいくらかマシではあるが、ツンの方は慣れない緊張に心底疲弊していた。
从 ゚∀从 「どうすんだ。夕飯、食ってくのか」
ξ´⊿`)ξ゙ コクコク
半ば食いつくように首肯された。
どうやら初めから飯をたかるつもりで来たらしい。
何となくイラついたのでツンの頭をきつめに叩く。
ξ´⊿`)ξ 「ふぎっ」
从 ゚∀从 「……ったく、しかたねえ」
二人があの様子では手伝いは期待できない。
ワタナベは働いているパン屋の手伝いの為にVIPに帰ったし、ブーン達も昼前に鳩を受けて直ぐに出ていった。
とりあえずは、一人で準備するしかないだろう。
もう一度深く嘆息しながら、ハインリッヒはキッチンへ足を運んだ。
- 823 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:36:50 ID:w0wE4vm20
-
適当に材料を見つくろい、夕食を作り始めて1時間弱ほど。
从 ゚∀从 「できたぞ。早く起きろ」
ツンとタカラの目の前に、湯気の立つそれが差し出された。
ぐったりとしていた二人の鼻がひくひくと動き、薄眼が開く。
匂いの元を目視した瞬間に、ツンが勢いよく体を起こした。
ξ*゚⊿゚)ξ「ほ、ほあ〜」
(*,,^Д^) 「これなんだにゃ?」
从 ゚∀从 「ベーコンとポテトのグラタンだよ。出来合いのもんで作ったから、そんなに結構なもんではねえけど」
深めのグラタン皿に、なだらかな丘を描くマッシュポテトの山。
それを覆う、熱によって形を失い、香ばしく焼き上がったチーズの海。
間に挟まれたベーコンは濃厚な肉の旨みを染み出させ、やんわりと、しかし確実にその存在を訴えかけてくる。
ξ*゚⊿゚)ξ「すっごい、いい匂い」
从 ゚∀从 「火傷しねえように気を付けて食えよ」
(*,,^Д^) 「いただきますニャー!」
- 824 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:38:41 ID:w0wE4vm20
-
木製のスプーンをグラタンにそっと突き刺す。
柔らかな感触。
蕩けて伸びるチーズの隙間から新たな湯気がふわりと現れた。
香ばしさと優しい甘みが熱を帯びて鼻をくすぐる。
ξ*゚ ,゚)ξ 「ふーっ」
息を吹きかけ、冷ます。
しかし冷ましすぎてはいけない。
この料理においては、この熱さすらも調味料の一部なのだ。
ξ*´⊿`)ξ゙、´ 「あふ、ほふっ」
从 ゚∀从 「だから、熱いっていっただろうに」
ξ*´⊿`)ξ ウマ-
よほど疲れが溜まっていたのか腹が減っていたのか、二人は黙々とグラタンを食べ進めていく。
表情を見るに味に文句は無いようなので、ハインリッヒも食事を始めた。
- 825 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:39:58 ID:w0wE4vm20
-
ξ*゚⊿゚)ξ「ごちそうさまー」
(*,,^Д^) 「うまかったにゃー」
从 ゚∀从 「リッヒッヒ。今日は随分お疲れだったみたいだな」
ξ゚⊿゚)ξ 「そりゃもう。みんなピリピリしてて、たまんないわよ」
食後に出されたコーヒーを啜りながらツンは息をついた。
腹が膨らみ僅かに眠気がわいてくる。
ハインリッヒに答えた直後に大きな欠伸をひとつ、恥ずかしげもなく放つ。
( ,,^Д^) 「何度も失敗してるし、今度こそはって感じなんだろうにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ま、今日は特に襲撃もなくてよかったわ」
从 ゚∀从 「そういや、店吹っ飛ばされたんじゃなかったか?どうしてるんだ」
先日、サロン支店は襲撃によって木端のごとく吹き飛ばされた。
瓦礫こそは片付けられたが、基礎が残るだけで今も更地のままだ。
少なくともまともな営業ができる状態ではない。
ξ゚⊿゚)ξ 「なんか、営業しなくなった商店買い取ってそこに移転したのよ」
- 826 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:41:27 ID:w0wE4vm20
-
新たな支店は中心街のやや外れ。
古くからあった商店を改装して利用しているため、作りもしっかりしている。
実際、急いで立てた元の支店よりも立派だ。
この移転も、簡単に行われたわけでは無い。
セントを中心にごく一部の社員が交渉に走り、何とか取り付けたのだ。
禁酒委員会監視の中よくやったもんだと、ツンは思う。
漏えいを防ぐためだろう。
ツンをはじめ傭兵たちには移転の話は一切伝わっていなかった。
商品入荷にあたっても、簡易テントを支店跡地に張ると聞かされていただけ。
禁酒委員会は見事に出し抜かれた形である。
从 ゚∀从 「……それは、襲撃が激化しそうだな」
ξ゚⊿゚)ξ 「ね。市街地に近いから向こうも無茶はしてこないだろうって言ってはいるけどさ」
ツンの印象では、禁酒党の攻撃は時と場所を選んだりしない。
確信犯である彼らに根絶法以上の正義は無く、場合によっては無関係の人間も容赦なく犠牲にする。
実際にツンの両親が殺された時は周辺の民家も巻き込まれ破壊された。
禁酒党に対する対応も厳しくなっているとは聞くが、だからと言って黙って大人しくするとは思えない。
しかも今回は向こうの裏をかいての奇襲的な移転の後。
襲撃の行われにくい環境は、むしろ向こうの鬱憤を蓄積させ大爆発を誘引するのではないか。
ツンの胸には不安が募るばかりである。
- 827 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:42:44 ID:w0wE4vm20
-
( ,,^Д^) 「禁酒委側だって住人の反感買うのは嫌がってるだろうし、そんなに心配することないにゃ」
ツンの胸中を察したのかタカラが口を挟んだ。
確かに彼の言う通りではある。
禁酒委員会はあくまで国家の機関であり、その目的は市民の平安。
少なくとも彼らの主導する(と思われる)襲撃はしばらくは止むだろう。
( ,,^Д^) 「仮にあったとしても、俺たちが街を含めて守ればいいにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……そっか、そうだよね」
从 ゚∀从 「大五郎もかなりの人数投入してんだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん、今のところ60人くらいかな。VIPの本隊からも結構出張って来てる」
( ,,^Д^) 「明日にはさらに追加で派遣されてくるから、市街地だけで100は超えるんじゃないかにゃ」
从 ゚∀从 「随分じゃねえか。そんなにサロンで展開したいのかね」
ξ゚⊿゚)ξ 「ね、ちょっと不思議よね」
大五郎酒造がここまでサロン出店にこだわる理由を、ツンたちは知らされていない。
正確には「飲酒文化の無いサロンに展開することで、新たな販路の獲得」という理由は聞いている。
だが、どうにも割に合う気がしないのだ。
輸送費や人件費を考えれば、VIP並とは言わずともかなりの売り上げが無ければ成り立たない。
サロンにそれほどの潜在飲酒文化があるようには思えなかった。
- 828 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:43:42 ID:w0wE4vm20
-
ξ゚⊿゚)ξ 「ま、なんか考えはあるんだろうけどさ」
冷めてきたコーヒーを一口。
砂糖とミルクを多めに入れ甘くまろやかに仕上がったそれはツンの舌にも優しく馴染む。
ツンにとって、大五郎がどうなろうが禁酒委員会がどうしようが、どうでもいい。
あくまで家族を奪った仇敵を見つけるために、禁酒党系との接触の機会が多い大五郎に入っただけだ。
そのために仕事はこなしているがいざ目的の邪魔になれば脱退することも全く厭わない。
それでもなんだかもやもやするのは、二つの組織の小競り合いの最中に傷つく人がいるから。
巻き込まれる第三者も、それぞれに属する人間であっても、むやみやたらと命を落とされては気分が悪い。
家族や友人を失うことについてのなんやかんやは、ツンもそれなりにわかっているつもりだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「なんでこう、喧嘩で解決したがるのかしらね。大五郎も、禁酒委も」
从 ゚∀从
( ,,^Д^)
何の気なしに口にしたぼやきに、ハインリッヒとタカラの動きが止まった。
ツンに向けられた二人の視線には「お前が言うんかい」的な感情が込められている。
何か問題が起きたらとりあえずぶん殴って解決しようとしてしまう自覚はあるので、特に何か言い返したりはしなかった。
別に脳筋とかバカってわけでは無い。
ちょっと考えるのがめんどくさいだけだ。
- 829 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:45:03 ID:w0wE4vm20
-
ξ゚⊿゚)ξ 「そういえば」
二人の視線が憐れむようで不快だったので、ツンは率先して話題の変更を試みる。
( ,,^Д^) 「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「結局あの人たちのことはなんもわからないのよね」
( ,,^Д^) 「ああ、助けてくれたあの人らのことかにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん。セントさんなら知ってるのかと思ったんだけど」
ハルベルトを持った初老の女性と、魔法無効の術を扱う青年の二人組。
彼らについての情報は、大五郎の情報網の中にも無いらしく、その正体は掴めていない。
唯一分かっているのは彼らが名乗った「ィシ=ロックス」と「シーン=ショット」という名前だけ。
遭遇時の様子から察するに、鉄腕の男との間に浅からぬ因縁があるようだが。
( ,,^Д^) 「敵じゃないといいけどにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「それは無いと思う。そういう、嫌な感じのする人たちじゃなかったから」
( ,,^Д^) 「だといいにゃあ」
- 830 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:46:05 ID:w0wE4vm20
-
从 ゚∀从 「……そういえば、帰らなくていいのか」
何となく流れた沈黙の後。
ふと外に目を向けたハインリッヒが、主にツンに向かって訊ねる。
僅かに開いたカーテンから覗く外は既に夜。
月が出ているため、闇夜というわけでは無いが。
ξ゚⊿゚)ξ 「どうしよ。ちょっとゆっくりし過ぎたかも」
从 ゚∀从 「別に泊まってても構わないが、明日も仕事だろ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうなのよねえ……」
移転後の店舗は市街地の為、ハインリッヒの家よりも自分の部屋に帰った方が近い。
着替えのことも考えれば戻った方が得策である。
ξ゚⊿゚)ξ 「んんー、帰ろっかな」
( ,,^Д^) 「だにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「じゃあねリッヒ。ごちそう様、美味しかったわ」
从 ゚∀从 「おう、またな」
- 831 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:47:47 ID:w0wE4vm20
-
外は澄んだ空気が漂っていた。
空を見上げれば天蓋を丸くくり抜いた穴を思わせる月。
ξ゚⊿゚)ξ 「明るいな、昼間みたい」
起伏のあるなだらかな丘と、点在する酪農家の小屋。
全てが水の中に沈んだように静かで、寂しげな光に満ちている。
( ,,^Д^) 「これなら明りもいらないにゃあ」
タカラは一応準備していたランタンの火を吹き消す。
周囲の明るさに大差は無く、目を凝らさずとも足元が見えた。
歩き始めると、ツンの胸元がもぞもぞと動き、襟からニョロが顔を覗かせる。
ツンの緊張が伝播してしまったのか彼もかなり疲弊しており、仕事が終わったころからずっと眠っていたのだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「起こしちゃった?もう家に帰るから、ゆっくり寝ようね」
ツンが指で顎を撫でてやると目を細めて喜ぶ。
ハインリッヒの話では蛇とイタチらしいが、これほど人懐っこくなるものだろうか。
基本的にいい子なので問題は無いが。
ξ゚⊿゚)ξ 「……明日、襲撃無いといいね」
( ,,^Д^) 「あー、なんか襲撃ある日の前には高確率でそう言ってる気がするにゃ」
なんか不吉なことをぼやきながら、二人と一匹は夜道を帰って行った。
* * *
- 832 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:48:52 ID:w0wE4vm20
-
チャンネルとアヤルドの国境付近に打ち捨てられた古い砦がある。
旧ジュウシマツ砦。周囲は切り立つ岩山に囲まれ、正に難攻不落。
かつての戦時中は絶対の能力を誇ったこの砦も、役目を終えた今は誰も近寄らず風雨に晒され相当に劣化していた。
はずだった。
( ゚д゚ )(……まるで、つい最近建てられたようだな)
砦から少し離れた岩の影からミルナ=スコッチは顔を出す。
以前訪れたのは一年前、戦時中の記録文書が隠ぺいされているという情報を聞きつけ探索に訪れた。
月夜に浮かぶその姿は、かつての姿とはあまりに異なっている。
ただ単に修復したにしては、綺麗すぎた。
( ゚д゚ )(魔女かは置いておき、何者かが住み着いているのは間違いなさそうだな。さて……)
ミルナは両の手を組み、複雑な印を作った。
魔法使いたちが適当な文句を唱えるのと似た意味である。
体に染みつかせた魔法式の展開を、印を組むという動作をトリガーにすることで反射に近い形で行うのだ。
( ゚д゚ )「隠遁、蓑不隙!」
ミルナの体のいたるところから黒い粒子が立ち上り始めた。
ゆらゆらと、たき火から立ち上る熱の歪みと煤のようだ。
対探知魔法用のジャミング魔法。
音や姿など、生物本来の存在そのものを隠すことはできないが、その点は自身の技術でどうにでもなる。
魔女と相対する際に畏れるべきは、その異常に高い魔法の能力だ。
- 833 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:50:55 ID:w0wE4vm20
-
( ゚д゚ )(さて、せめて死にはせんように行こうか)
暗視の術が問題なく継続していることを確かめ、身を滑り出し、慎重に地を蹴った。
岩から岩、陰から蔭へ、素早く移動してゆく。
自身の体が放つあらゆる気配を殺し、着実に砦に近づいて行った。
( ゚д゚ ) (まずは、と)
正面の大門、その脇に作られた衛兵用の出入り口。
岩の影から様子をうかがうが、現時点で開いているということはない。
大門はミルナでは開けられないし、小さい衛兵用の入口もおそらく施錠がなされているだろう。
が、何の問題もない。
そもそもそれらの入口たる入口を使うつもりは最初からないのだから。
( ゚д゚ )(ほぼ完全に修復されている。壁を破るのは不可能か)
もともと戦のために建てられた砦。
ちょっとした魔法攻撃を受けたところで壁に穴が開くような脆いものではない。
とすれば、既にある内部へ通じる何かしらの穴を利用する必要がある。
( ゚д゚ )(……あそこか)
記憶した砦の見取り図を探り、ミルナははるか上方の壁を見上げた。
- 834 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:52:35 ID:w0wE4vm20
-
石を組み上げた頑強な壁に複数の穴が開いている。
籠城した際、内部から外部の敵を偵察し、狙撃するための狭間だ。
木の板で塞がれてこそいるが、他に比べれば強度の違いは明らか。
狙うとすれば、ここの他はあるまい。
ミルナは用意してきた荷物の中から、鉤手甲を取り出し、手早く装着した。
周囲の気配を探りながら、より一層呼吸を落ち着ける。
( ゚д゚ )(……)
静かに、しかし確かな速度を持ってミルナは砦に駆け寄った。
壁を登り始めてしまえば、もう隠れる場所は無い。
急がなくては、不要な危険を増やすことになる。
( ゚д゚ )(久々の、重労働よ)
さすがと讃えるべきか、ミルナの身のこなしは実に軽快であった。
ゴキブリのような素早さで瞬く間に壁を這い上り、狭間にたどり着く。
次ははめ込まれた板の対処。
幸いにして堅牢なつくりではないらしい。
石壁の隙間になるべくしっかりと鉤爪をひっかけ、もう片方の手で取り外した。
- 835 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:52:55 ID:th6ohC5k0
- 支援支援
- 836 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:54:05 ID:w0wE4vm20
-
( ゚д゚ )(ここまでは、上々)
十分な広さの穴ではないが、少し関節を外せば難なく中に侵入することができた。
砦の中は、不自然なまでに綺麗であった。
毎日誰かが掃除しているような清潔さ。
古城にありがちな黴や埃の不快な臭いが一切無い。
不気味だ。
ミルナの背中を汗が伝う。
異質な気配に満ちている。
複数の違和感が明確に知覚できないまま警戒心をなでるような、そんな空気。
( ゚д゚ )(……魔女でないにしろ、何かがいることは確定だな)
ミルナがいるのは、砦の二階にあたる廊下。
狭間を利用し偵察や攻撃を行うための空間であり、それなりの広さが確保されている。
言ってしまえば、非常に見通しがいい。
侵入者として、なおかつ住人の存在を確信した立場として、この廊下を素直に歩くのは非常に躊躇われる。
奇襲の心配こそないが、ミルナはこの場合、見つかった時点で負けなのだ。
仮に逃げおおせたとしても、情報が漏れたことを知覚した相手は長くここに留まろうとはしないだろう。
となれば、せっかくの情報も一気に価値を下げてしまう。
- 837 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:56:22 ID:w0wE4vm20
-
( ゚д゚ )(せめて、魔女のいる確信の一つでもあれば……)
今分かっているのは「何かがいる」ことと「その何かが砦を修復できる何らかの力を持っている」ということのみだ。
魔女である確率は高いが、それ以外である可能性も否定はできない。
禁酒委員会の情報網を信用するしない以前に、売る情報の真偽はできうる限り自分の目で確かめたかった。
( ゚д゚ )(ここで居住できるとすれば、兵舎、司令官室、他には、地下牢、位のものか……)
兵舎は一、二階、指令室は三階、地下牢はそのまま地下にある。
順当にいくならば、まずは二階。
慎重な足取り。
音の一つが失敗の原因になりうる。
幾何かの緊張を抱え、ミルナは砦内部の探索を開始した。
- 838 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:59:40 ID:w0wE4vm20
-
かつて、国境における攻防の重要な拠点であったジュウシマツ砦。
戦時中は兵士達が常駐し、彼らにとってはここが一つの家のようなものだった。
二階に供えられた兵舎は彼らが就寝時に利用していた空間である。
はずであったのだが。
( ゚д゚ ) (……さながら、キメラの実験場というところか)
狭い小部屋が無数に並んでいたはずの空間は、主要な柱を除きほとんど仕切りが存在していない。
代わりに積み重ねられた動物の死体らしき山がいくつかあった。
比較的新しく出た者なのか、獣や血の臭いは感じても、腐乱したような臭いはない。
恐る恐る、近づいて確認する。
死体のほとんどが、単一の動物では無かった。
継ぎ接ぎに複数の種族が混ざっていたり、本来一つであるはずの部位が複数生えていたりと、まともなものは一体もいない。
中には、人間らしい姿もあった。
比較的死体を見慣れているつもりのミルナも、これには口を手で覆う。
( ゚д゚ ) (キメラは、魔女の代名詞……)
( ゚д゚ ) (生体の拒絶反応か死んではいるが、キメラとしての完成度は異常に高い)
( ゚д゚ ) (……益々、魔女の真実味が増してきたな)
- 839 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:00:38 ID:w0wE4vm20
-
「たっだいまー!!」
底抜けに明るい声が砦に響く。
少女特有の、音色と称しても何ら違和のない軽やかさだ。
この声の主が魔女だというのだろうか。
「ただいま」という言葉から察するにここを拠点にしている人物であることは間違いないのだろうが。
( ゚д゚ )(こんなところを拠点にする少女か……。魔女は、姿を自在に変えるとは聞くが、やはり……)
壁に設置されていた松明が俄かに火を灯す。
それも、いっぺんに全部だ。
動揺を押し殺しながら、廊下の壁に張り付き聞き耳を立てる。
足音はまだ聞こえない。
( ゚д゚ )(……)
ひどく長い時間に感じられた。
既に脱出する為の狭間の板は外してある。
あとはせめて一目、相手の姿を確認できればそれでいい。
噂ですら金になる魔女の情報。
ミルナを信頼する情報屋ならば明確な証拠がなくとも十分な支払いをするだろう。
- 840 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:01:52 ID:w0wE4vm20
-
ついに、階段を上る足音が聞こえ始めた。
軽快に打楽器を鳴らすように小気味がいい。
直接見えずとも、少女が楽しげに駆け上ってくる姿が目に浮かぶようだ。
この状況下では、ひたすらに異質なだけなのだが。
足音がかなり近づいている。
ちらりと頭が見えた。
o川,*゚ー゚)o 「よっと!」
( ゚д゚ ) (ッ!)
ミルナはその姿を初めて見た。
最後の一段を、元気に両足揃えて飛びあがる姿はまさしく毒の無い少女そのもの。
さらさらと揺れる髪の毛は、まるで絹のようであった。
愛らしい。
松明の揺らぐ明りの中ですら、見惚れてしまいそうだ。
- 841 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:03:07 ID:w0wE4vm20
-
少女はどこかで買い物でもしてきたのか、茶色い紙袋を抱えていた。
袋は大きく膨らんでおり、彼女の腕は微妙に長さが足りずかなり苦しげに支えている。
o川*゚ー゚)o 「いやー、思ったより時間かかっちゃった。ベロちゃーん、ご飯買ってきたよー☆」
ドン、という鈍い音。扉が開いたそれだろう。
続いて地面を爪で叩く軽快なリズムが聞こえ、上へ続く階段から巨大な犬が現れた。
それも三頭。よく見ると尾が蛇になっており、彼らもまたキメラであることがわかる。
o川*゚ー゚)o 「お腹すいた?今日はソーセージだぞ☆」
犬たちは尻尾を振り回して少女に飛びついた。
食糧を求めているというより、少女に尋常でなく懐いていると見た方が的確だろう。
しりもちをついた少女の顔を長い舌でべろんべろんとなめまわし、そのまま喰らいかかりそうな勢い。
o川*゚ー゚)o 「ちょ、くすぐったいって!やめ!ギブギブ!」
拒絶しながらも笑顔の少女。
ここだけ見れば実にほのぼのとした日常のワンシーンなのかもしれない。
残念なことに周囲に異形の死体が転がった、ほのぼのとは程遠い場所なのであるが。
- 842 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:05:43 ID:w0wE4vm20
-
未だ興奮冷めやらぬ様子のまま、犬たちは少女から離れた。
落ち着きのない様子で三頭連なって少女の周りをぐるぐると回る。
o川*゚ー゚)o 「もー、ほら、上に行ってゆっくり食べよ」
少女は荷物を抱えたままよっこらしょと立ち上がった
その動作はあまりに少女的で、本当に魔女なのか自信が失せてくる。
状況としては間違いないような気もするが、もう少し監視して確かめたい願望がミルナの胸に湧き上がった。
( ゚д゚ ) (……だが、ダメだ)
さすがにここいらが引き時である。
ミルナの体から立ち上る術の粒子が少しづつ減少している。
時間の経過はもちろんのこと、探知魔法に曝されている証拠だ。
それに、あの犬の鼻も怖い。
体臭はできうる限り隠しているが、長居すればその分察知される危険は増える。
もしバレれば情報の価値云々以前に、ミルナが生きていられるかすらも怪しい。
( ゚д゚ )(……惜しいが、仕方あるまい)
頭を切り替え、ミルナは音もなく狭間に体を滑り込ませた。
跡を残さぬよう板をはめ直し、壁を飛び降りる。
( ゚д゚ )(何より、十分な収穫はあった)
着地は、羽毛のごとく静かに。
この情報を高く売るべく、懇意の情報屋の店へと彼は走り出した。
- 843 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:06:26 ID:w0wE4vm20
-
ここまでっす
久しぶりの投下、遅くなって申し訳ないっす
間が空いてちょっともたついていたんですが、絵とか漫画とかでなんか吹っ切れました
やったね
相変わらず間は開きそうですが、二週に一回くらいは投下してーなあというところ
- 844 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:36:09 ID:th6ohC5k0
- 乙でした
躍動感がいいな。グラタン食べたくなった
続き待ってます
- 845 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:40:17 ID:MW60ycNw0
- ミルナがいつ死ぬかいつ死ぬかと不安だ
- 846 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:43:03 ID:yi5sCrPAC
- きてたああああああああああ
- 847 :名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:41:25 ID:HDcjo7cUO
- 久々だけどやっぱおもしろいな、次は早めにお願い
- 848 :名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 07:10:35 ID:aEydOaMw0
- 乙ンツーン!
- 849 :名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 22:11:49 ID:L/IJmBFoO
- 乙
- 850 :名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 01:33:48 ID:AGCvP2g6O
- まとめはちゃんと機能してんのかな
- 851 :名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 02:15:07 ID:RuttCeWE0
- 乙
- 852 :名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 01:12:20 ID:UZT3agLw0
- きてたー!乙
ハインの飯のとこは深夜に読んじゃあいかんな…
- 853 :名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 11:24:52 ID:RbMS73IM0
- 乙。ミルナの身のこなしがゴキブリに例えられててワロタ
- 854 :名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 12:00:19 ID:LQ2jk39w0
- メタルギアミルナおもしれー
- 855 :名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 19:58:27 ID:BoXVGenM0
- 漫画が描けました2
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_904.zip
- 856 :名も無きAAのようです:2013/04/03(水) 00:05:16 ID:JeOYAliM0
- >>855
ハラショー……ッ!
- 857 :名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 03:50:40 ID:HSetGd6U0
- >>855
盛大に乙
やっぱ映像化がうれしい作品だなー
- 858 :名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 04:19:50 ID:icpcb/FY0
- >>855
前回の続きか
今回も出来が素晴らしい
- 859 :名も無きAAのようです:2013/04/18(木) 23:53:08 ID:kDnGlLDI0
- 漫画3
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_936.zip
予定より短くして早めに投下しときます 次回で最後になります
- 860 :名も無きAAのようです:2013/04/20(土) 19:13:40 ID:sQz/Bt/6O
- なん…だと
- 861 :名も無きAAのようです:2013/04/20(土) 19:30:22 ID:kQ66Vqi20
- えっ、最終回…?
- 862 :名も無きAAのようです:2013/04/21(日) 15:48:06 ID:b/Z9xuOY0
- マジかよ…
湖の戦い見たかった
それにしてもしてもツンちゃん胸無いな
- 863 :名も無きAAのようです:2013/04/21(日) 20:21:43 ID:JB062f0k0
- >>862
あ?
- 864 :名も無きAAのようです:2013/04/24(水) 20:21:25 ID:33JBCJHk0
- 隠遁簑不隙粒子ですねわかります
- 865 :名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 16:30:15 ID:xfgUxqtk0
- 一気に読んだ面白い
そして腹が減ったので今日の夕飯はグラタンに決定だ
- 866 :名も無きAAのようです:2013/05/05(日) 21:42:36 ID:YOo5F.is0
- 漫画4
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_953.zip
とりあえずはこれで終りということで 作者様、話の続きを待ってますぜ
- 867 :名も無きAAのようです:2013/05/05(日) 23:07:14 ID:8QVwhZUQ0
- >>866
おつかれ
最後にデレよった
- 868 :名も無きAAのようです:2013/05/08(水) 08:56:52 ID:MbiXSjic0
- 今までなんとなく読んでこなかったけど、すげえ後悔したよw
とても面白かった!続き待ってる!
- 869 : ◆x5CUS.ihMk:2013/05/12(日) 21:50:22 ID:ZVLJWc8I0
- >>866
乙です
毎度楽しみに読ませてもらってました
続き描いてくれてもいいのよ?
んでは久々だけど投下します
- 870 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 21:51:24 ID:ZVLJWc8I0
-
チチチ、チチチと、小鳥のさえずる声が聞こえた。
閉じられたカーテン越しにも分かるほど外は明るい。
薄地の布に遮られ、鋭さを失った陽光が部屋をぼんやりと照らし出している。
_
( ゚∀゚) 「動くな、じっとしていろ」
「そ、そんなこと言われても」
スズキ=ダイオード一級曹は困惑していた。
上官の指が自分の頬を這う。
その柔らかなむず痒さに、背中やら首筋やら後頭部やらがぴくぴくと反応する。
間近にあるジョルジュの表情は真剣そのもの。
緊張で唇が堅くなってしまった。
ジョルジュは少し手を止めたが、またすぐにダイオードの顔に触れ始める。
「あの、くっすぐったいです」
_
( ゚∀゚) 「我慢しろ。痛くはないだけありがたく思え」
「むむむ……」
遠まわしにやめてほしいと言ってみたが、ジョルジュは手を止めない、
言葉の通り確かに痛くは無かった。
ゆったりとダイオードの肌を滑る彼の手は気遣いに満ちている。
その分、気恥ずかしい。
普段はどちらかといえば蹴られて吹っ飛ばされることの方が多いので、こういった接し方には慣れないのだ。
- 871 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 21:53:03 ID:ZVLJWc8I0
-
「中尉」
_
( ゚∀゚) 「なんだ」
「何故こんなことができるんですか?」
_
( ゚∀゚) 「……ガキの時分、娼館の小間使いをしていたことがある」
「……」
_
( ゚∀゚) 「その頃にいろいろとやらされて、覚えた」
「初めて聞きました」
_
( ゚∀゚) 「初めて言ったからな。……目、瞑れ」
命令に脊髄で即応し、目を閉じた。
少し間をおいて、瞼の縁をなぞる硬い感触。
これまでのくすぐったさに目の傍を触れられる恐怖感が混じる。
_
( ゚∀゚) 「力を抜け」
「……そんなこと言われたって、人に顔触られるの慣れないんだし……」
_
( ゚∀゚) 「だから化粧くらい自分で覚えろと言っただろうが」
- 872 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 21:54:27 ID:ZVLJWc8I0
-
ため息をつきながら、ナガオカがダイオードから体を離す。
おずおずと片目を開けて様子を確認すると、次の作業の準備に移っているようだ。
違和感の残る瞼を数回動かす。
不快とは少し違うが、変に気になる感触がなかなか取れない。
「変な感じ……」
_
( ゚∀゚) 「しばらくすれば慣れる。次で終わりだ」
「あーい……」
ジョルジュが手に持っているのは、平たい円盤状のケース。
軽くひねって蓋を外すと、淡い紅色の蝋のようなものが詰まっていた。
「なんですか、それ」
_
( ゚∀゚) 「口紅だ。新色らしくてな、普通の紅よりは似合うと思ってこちらにした」
「……中尉、結構ノリノリですか?」
_
( ゚∀゚) 「余り強い色は、生娘には馴染まんからな」
質問はスルーされる。
否定はしないというのが答えなのだろうか
- 873 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 21:55:56 ID:ZVLJWc8I0
-
二人がいるのは、サロンの街中。
賑やかな表通りから少し奥まった路地に入った場所にある貸家である。
人気が少なく、かといって中心地から遠いわけでもないため、密かに何かを行うのには都合がいい。
実際周辺には春を売る類の店がいくつか点在している。
_
( ゚∀゚) 「任務の内容は覚えているな?」
ジョルジュの小指が、唇を這う。
紅が絡んでいるため少し粘りある感触。
相変わらず花弁を愛でるような優しい手つきで、ダイオードの唇が染められてゆく。
_
( ゚∀゚) 「一度VIPでやらかしてるお前に任せるのは、不安ではあるが」
不思議な感触だ。
男の無骨な指ゆえか、はたまた他人の指だからか。
擦れ合う皮膚の感触が波紋を作って体中に広がってゆく。
_
( ゚∀゚) 「今の俺の手駒で、適役がお前しかいない」
紅をさし終わり、ジョルジュが紙を差し出した。
ダイオードは受け取ったものの、それをどうしていいのかわからず、猿か何かのように角度を変えて眺める。
_
( ゚∀゚) 「……軽く咥えて、余分な紅を落とすんだよ」
ダイオードは「そんなの知ってたんだし」という顔で言われた通りに紙を咥えた。
僅かに張り付く感触。
離すと、縁に綺麗な唇の跡がついている。
- 874 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 21:57:32 ID:ZVLJWc8I0
- _
( ゚∀゚) 「鏡見てみるか?」
「なんか、怖いんですけど」
ナガオカに手鏡を差し出され、おずおずと受け取った。
生まれてこの方、化粧などしたことがない。
十代の半ばで軍に入ってからは髪も短く揃え、女らしさとは無縁に生きていたように思う。
それが任務の為とはいえ、化粧をし鬘をつけ、なんかふわふわひらひらとした服を着せられている。
男装するのが普通のダイオードにとって、女装した自分というものは未知であった。
「……」
_
( ゚∀゚) 「どうした」
「……」
_
( ゚∀゚) 「不満か」
「い、いえ。ちょっと驚いて、ます」
_
( ゚∀゚) 「……」
「……母に、似ていたもので」
_
( ゚∀゚) 「……そうか」
- 875 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 21:58:55 ID:ZVLJWc8I0
-
施された化粧は、比較的薄いものであった。
肌が息詰まるほどでは無く、見た目にも派手な印象はない。
それでも目元のラインや髪型のわずかな違いで普段のダイオードとは別人に仕上がっている。
普段男装している彼女故の印象を違いも作用しているのだろう。
_
( ゚∀゚) 「問題は?」
「ありません」
_
( ゚∀゚) 「口調に気を付けておけ。向こうにはお前を知っている者もいるからな」
ダイオードの頭によぎるのは、金髪の、同じ年頃の女傭兵。
気が強くなんか妙にかみついてきたりして、すごく不愉快な奴だった印象ばかりが残っていた。
たしかに、あいつにだけはバレたくない。なんかすっげえ不快な笑顔で嗤われる予感がある。
「大丈夫ですよ中尉。私だってもともと女なんですから」
_
( ゚∀゚) 「……」
わざとらしく鬘で長くなった髪の毛をさらりと掻き上げた。
ナガオカは真剣な面持ちを変えず、むしろより深刻な顔で何やら黙り込んでいる。
「中尉?」
_
( ゚∀゚) 「俺はとんだ芸術品を生み出してしまったようだ……」
「……」
* * *
- 876 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:00:17 ID:ZVLJWc8I0
-
ξ#゚⊿゚)ξ 「“爆ぜて弾けろ―――”」
前日の夜、ハインリッヒ宅からの帰路でタカラと二人が立てたフラグは、見事その任を全うした。
支店に対する直接的な攻撃こそないものの、サロンの各地で大五郎、根絶法側、双方の兵士が小競り合いを起こしている。
その規模は遠くから睨みあう程度の物から、
ξ#゚⊿゚)ξ 「“―――インパクト”!!」
魔法や武器を行使しての激しい戦闘までと幅広い。
ツンが魔法を放った相手は、その足から地面を奪われ、針葉樹の幹に背を打ち付けた。
跳ね返って地面に落ち、そのままうつ伏せに倒れ動かない。
(#´誉`)「オウラァ!」
魔法の反動でやや体勢に乱れが出た一瞬の隙を狙い、禁酒党の賊が鉈を振り上げる。
ツンは無理に反撃には移らず、距離を取るために左側方へ転がった。
男は空振りはせず、冷静にツンを追跡する。
膝をついた体勢で振り返り、ナイフを逆手に持って前へ。
その鈍く輝く刃越しに、ツンは男を睨みつける。
- 877 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:02:33 ID:ZVLJWc8I0
-
(#´誉`)「死ね!」
ツンは、振り下ろされる鉈の一撃にナイフを合わせるつもりでいた。
刃と刃を合わせるのでなく、柄を握る指を抉り落とすのだ。
しかし、その想定は味方の援護で無用となった。
高く振り上げられ、渾身の力が込められた男の腕。
青筋の浮き上がるそこに、軽快な音を立てて矢が突き刺ささる。
削りだしただけの木の矢は貫通することは無かったが、骨に引っかかった衝撃と痛みで、握られていた鉈が地面に落ちた。
(#´誉`)「?!」
苦痛と混乱に眉間をゆがめる男の左足に、さらにもう一本の矢が突き刺さる。
「あ」と間の抜けた声をあげて姿勢を崩し、膝をつく。
ツンはこの好機を逃さずに、立ち上がりながら前へ。
その顔面、鼻よりやや上の眉間に、飛びかかる様に体重の乗った膝を叩きつけた。
咄嗟のことに防御が間に合わなかった男は額を蹴り抜かれ、仰向けに体を跳ねると、そのままブリッジの姿勢で倒れる。
- 878 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:04:16 ID:ZVLJWc8I0
-
ξ゚⊿゚)ξ 「タk……」
倒れた男が意識を失っていることを確認したツンは、援護の矢を放ってくれた仲間、タカラ=イッコモンを振り返る。
彼は弓を手に持ったまま短刀を持った男と格闘していた。
格闘、と言っても刃物相手になす術なく、身を捩りながら回避するのに手いっぱいだ。
タカラも小剣を持ってはいるが、連続で振り回される攻撃に、武器を持ち帰る余裕がない。
きっと、ツンの援護に回ったが為にここまで追い込まれたのだろう。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ニョロ!」
ツンの首元から獣交じりの蛇キメラ、ニョロが首を伸ばす。
魔法式を展開し維持していた彼は、その空弾の魔法をタカラを狙う暴漢に向かって放つ。
目に見えるほど渦巻き突き進む風の弾丸が、丁度短刀を振り抜いてがら空きになったその脇腹に直撃した。
肉を潰す鈍い音と、骨の割れる小気味のいい音が同時。
呼吸を失い、男は打ち上げられた魚のように口の開閉を繰り返した。
事態の急変に意識を追いつかせたタカラ。
身体を萎えさせ蹲ろうとする暴漢の顎を、空いていた右の掌で殴り抜く。
脳を揺らされ頸椎をねじられた敵は、小刻みに痙攣しながら地面に突っ伏した。
( ,,^Д^) 「サンキュー、助かったにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「そっちこそ、ナイスアシスト」
- 879 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:06:11 ID:ZVLJWc8I0
-
周囲では未だ大五郎と禁酒党の兵同士が戦っていた。
人数の面でやや押されていた大五郎の小隊であったが、ツンとタカラが三人を倒したことでやや形勢を盛り返す。
ツンは一息つく間も無く、すぐさま味方の援護へ。
鍔迫り合いをしていたその隙だらけの脇腹に、跳躍からの蹴りをお見舞いする。
目をひん剥き、唾液を吐き出した彼は、一気に押し返され、首元への峰打ちで意識を奪われた。
ミ´・w・ン「助かった。ありがとう、えっと」
援護したこの仲間の名前は確かミンクス=フェイクファー。
ツンより年上ではあるが若く、未熟さの残る青年だった。
どこぞで剣を習っていたらしく全くの素人ではないが、やはり踏んだ場数の差が見て取れる。
といっても、ツンだってまだまだ実戦経験は少ないのだけれど。
ξ゚⊿゚)ξ 「礼を言うより、残りを」
ミ´・w・ン 「ああ、分かってる」
ツンとミンクスは同時に別の味方の援護に走った。
が、この時点でほとんどその必要はなくなっている。
残りの敵の体には、どこかしらにタカラの放った矢が突き刺さっていた。
- 880 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:07:34 ID:ZVLJWc8I0
-
ξ゚⊿゚)ξ 「一先ず、これで終わりね」
気絶させた敵の兵士を拘束し終えたのはそれから間もなくのこと。
数名に逃げられてしまったが、大五郎側も守りが優先のため深追いはしない。
まあ、ツンはタカラに首根っこを押さえられていなかったら確実に追いかけていたけれど。
ξ゚⊿゚)ξ 「タカラ、それ、大丈夫?」
捉えた禁酒党をどうするか相談している最中に、ツンはタカラの袖に切り裂かれた跡を見つけた。
麻の分厚いシャツがぱっくりと割れて、縁に血もついている。
恐らく先ほどの短刀の男にやられたのだろう。
( ,,^Д^) 「ああ、大した傷じゃないにゃ。もう血も止まってるし」
そう答えながらも、タカラはその傷を隠すように手で覆う。
ちょっとしたものであればツンの魔法でも対処できるが、タカラは頑としてそれを拒んだ。
二人がこそこそと言い合っている内に、小隊の行動は決まった。
ツンを含む隊の半分はこれまでの任務通り警邏を続ける。
タカラや、他の負傷者を含む残りの半分が拘束した禁酒党員を連れ、支店に帰還する、というもの。
ツンの個人的な感覚としては、他に並びの無い弓の名手であるタカラがメンツから外れるのは痛い。
怪我をしているから、無理に引き止めることはできないけれど。
人数の減った勢力にやや不安を感じながら、ツンたちは巡回を再開した。
- 881 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:09:06 ID:ZVLJWc8I0
-
ミ´・w・ン 「ディレートリだっけ?強いよね、君」
ξ゚⊿゚)ξ 「……別に、どこにでもいるわよ、これくらい」
ツンたちは支店防衛の一環として、サロン内を警邏する任務に就いていた。
指定の区域はオーマ湖周辺。
正直全くいい思い出の無い土地の為ちょっと気は滅入っているが、市街地で無い分戦闘になった際は動きやすい。
巡回を再開したツンたちの小隊は、さらに複数に散らばり、ある程度の距離を保って道を進む。
今大五郎が最も警戒しているのは直接の突撃部隊ではなく、魔法による長距離からの狙撃。
いくら周辺で店を守っていても、遠方から魔法で狙い撃ちされてはたまらない。
故に、狙撃に利用されそうな土地を重点的に警邏しているのだ。
ξ゚⊿゚)ξ(あの男は、絶対来る)
ツンが三度に渡りコケにされた、仮面の男。
どうやら大五郎の敵としては定番の方らしく、名前や特性も知ることが出来た。
ヨコホリ=エレキブラン。別名、サイボーグ。
魔女によって半身を奪われ、代わりにタリズマンを埋め込まれハーフゴーレムとなった元暗殺者だそうだ。
そこらへんの詳しい経緯は不明らしいが、ツンにとってはどうでもいい。
とにかくあの男、ヨコホリはとても厄介な強敵だということ。
そして、今のツンではあの男を倒すのが困難であるということ。
- 882 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:10:12 ID:ZVLJWc8I0
-
ξ゚⊿゚)ξ 「もっと、出てこないかな、禁酒党」
ミ´・w・ン 「昆虫採集してるんじゃないんだから」
実際の戦闘の中で試したいことはいくらでもあった。
師のもとで長く修行を重ねたツンは、単純な技術や能力においては十分に強者の部類に含まれる。
女であるとか、まだ少年期を抜けきっていない体躯の未熟さを含めても、その力は他の傭兵に勝るとも劣らない。
問題は、彼女には圧倒的に実戦経験が足りないということ。
妹弟子との組手はさんざんやってきたが、本気で敵意を向ける相手との戦闘は少ないのだ。
魔女の生み出したキメラなど、短期間の内に濃密な経験を積みはしたが、それでもやはり本当の強者には程遠い。
ミ´・w・ン 「ん?」
巡回のルートの折り返し地点、支店から最も遠いポイントでミンクスが足を止めた。
傍にいたツン以外の傭兵は既に支店の方に戻りだしている。
(゚ペメ彳 「どうした、若造」
ミ´・w・ン 「いや、ちょっとなんか居た気がして」
- 883 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:11:28 ID:ZVLJWc8I0
-
(゚ペメ彳 「……動物じゃないのか?」
ミ´・w・ン 「かも。ちょっとだけ見てくるから、先に戻ってってください」
ミンクスが指で示したのは、道から大きく外れた森。
オーマ湖を囲う林と一つながりになっており、獣たちが多く生息している。
賊が隠れるのには適した環境だが、同時に慣れない人間が潜むには少々危険が大きい。
(゚ペメ彳 「休憩のポイントで待機している。深追いはするなよ」
ミ´・w・ン 「了解。誰かついて来てくれると安心なんだけど……」
「誰か」限定しない言い方をしながらもミンクスの目はツンを向いていた。
他の傭兵たちは必要も無いという様子で、彼に乗るつもりは全くなさそうだ。
所詮は寄せ集め。
それぞれの利益の為ならば連携するが、基本的に「仲間」では無い。
ξ゚⊿゚)ξ 「わかった、私が行くわ」
ミ´・w・ン 「そう来なくっちゃ!」
剣を鞘ごとベルトから取り外し、ミンクスは木をかき分けながら森に侵入。
ツンもそのあとに続いた。
視界が一気に狭まるため、ニョロを首から出し周囲を探ってもらう。
- 884 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:12:36 ID:ZVLJWc8I0
-
数分、まだ10分に満ちない程度だろうか。
ミンクスは迷いなく木々の間をかいくぐり奥へと進んでゆく。
一応ツンがナイフで木に目印を刻んではいるが、あまり深くまで行くと戻れなくなるかもしれない。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ねえちょっと、本当にいるの?」
ミ´・w・ン 「うーん、たぶんこっちなんだけど」
ミンクスの歩みは衰えない。
彼が邪魔な枝葉を払い道を作ってくれているお蔭で歩きやすくはあるが、ツンがついて行くのか精一杯なほど。
山に慣れているという生易しさでは無い。
まるでこの森に何度も分け入ったことがあるかのような。
ξ;゚⊿゚)ξ (……)
ツンは目印をつけるためだけに持っていたナイフを、そっと逆手に持ち返る。
ホイホイとついてきたことを少しだけ後悔。
恐らくミンクスは、潜んでいるかもしれない敵を探しているわけでは無い。
もっと別の明確な理由を持って木々の間を進んでいる。
- 885 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:13:39 ID:ZVLJWc8I0
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「……そろそろ諦めて戻らない?」
ミ´・w・ン 「もう少しだから、付き合ってよ」
ミンクスの気配が露骨に変化した。
敵意とは異なるが、威圧を感じる独特の雰囲気。
先ほどまでの頼りなさが嘘の様で、ナイフを握る手に力が篭る。
ミ´・w・ン 「別に、君に害を加えるつもりじゃないんだ。そんな警戒しないで」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……」
ミ´・w・ン 「僕じゃ君には勝てないだろうし、襲い掛かったりしないでね」
口調は相変わらず。
それが一層不気味。
彼の言葉通り、ツンが本気で挑めば勝てない相手ではないだろう。
こちらにはニョロがいるし、何よりミンクスの剣はこの木々の中で扱うには長すぎる。
黙って進むミンクスの背中を見る。
警戒心はまるでない。
ナイフを突き立てる程度ならばいとも簡単にできそうだ。
その戦意の無さを信用し、ツンはソワソワと落ち着かないニョロを宥める。
とりあえず今蹴り倒すことだけは止めておこう。
ツンも流石にそろそろ、考えなしに手を出すのがよくないと学習しているのである。
- 886 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:14:36 ID:ZVLJWc8I0
-
奇妙な距離と緊張感を保ったまま、さらに数分。
ミンクスが前触れなく足を止めた。
あまりにも唐突だったため、ツンは咄嗟にナイフを前に構える。
ミ´・w・ン 「姐さん、連れてきましたよ!」
臨戦態勢を取るツンを完全にスルーし、ミンクスが声を張り上げる。
呼応するように、周囲の茂みから次々と男が現れた。
鉈、斧、スリングショット、ナイフ等々、それぞれに武器を手に持っている。
ξ;゚⊿゚)ξ (……罠!)
学習したつもりになって大人しくしていたらこのざまである。
姿勢を低く、飛び道具をいち早く警戒。
ニョロは待ってましたとばかりに範囲の広い風の魔法の展開を始めた。
ミ;´・w・ン 「ちょっと、害意は無いって!」
ξ゚⊿゚)ξ 「この状況で、その言葉をどう信じろっての!」
ミ;´・w・ン 「もう!なんで武器持ってんですかみんな!」
- 887 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:15:28 ID:ZVLJWc8I0
-
手を出す、と決めたからには速攻。
それがツンの信条である。
この状況でも未だ戦意を見せないミンクスは置いておき、まずはスリングショットを持った男に狙いを定める。
飛び道具持ちを優先して落とさなければ、逃走すらままならない。
ξ゚⊿゚)ξ 「いくよ、ニョロ!」
ツンはブーツの魔法を発動。
男との距離は4メートル弱。
向こうが射線上に遮蔽物の無い場所を選んだためか、一足で十分攻撃が可能だ。
低い姿勢から一歩。
足を軋ませ、筋肉を引き絞る。
魔法の力が溢れ出し、ツンの跳躍を補助、――――しない。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ほあ?!」
確実に発動したはずの魔法が、消えていた。
お蔭様で通常程度の跳躍しかできずに、ツンは出っ張った木の根に足をつく。
イメージと現実のギャップに対応できなかった身体がバランスを崩し、たたらを踏んだ。
- 888 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:16:53 ID:ZVLJWc8I0
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「??」
「相変わらず、威勢が良い奴だ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「―――あ」
〈::゚−゚〉 「数日ぶりだな、大五郎の」
( ・−・ )v
枝を踏む音と共に現れたのは、数日前にツンを助けた女、ィシ=ロックス。
傍らにはローブに身を包んだ青年、シーンもいる。
ブーツの魔法を消したのは、恐らく彼だ。
ミ´・w・ン 「姐さん、遅いですよ。すぐに出てきてくんなきゃ」
〈::゚−゚〉 「予定よりも早く連れてきたのはお前だろうが」
ξ;゚⊿゚)ξ 「えっと、つまり……?」
〈::゚−゚〉 「ああ、察しの通り……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ィシさんもぶっ飛ばせばいいの?」
〈::゚−゚〉「お前、もう少し落ち着こうな」
* * *
- 889 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:17:48 ID:ZVLJWc8I0
-
古びた店だ。
壁や柱の壁材は黒ずみ、年代を重ねた独特の色を醸し出している。
悪い雰囲気では無い。
人の少ないところも、好みだ。
文句をつけるとすれば、店主がカウンターの向こうで居眠りをこいていることか。
(´<_` ) 「ショボン、っていうのは、あんたか?」
少し大きめに声をかけた。
床板が軋む。
声をかけた店主は、いかにも眠たげに顔を上げた。
軽く伸び、数回体をねじってからやっと立つ。
(´・ω・`) 「いらっしゃい。ロック、ストレート、レモン割りならすぐにできるが」
(´<_` ) 「ショボン、っていうのは?」
オトジャ=サスガは同じ質問を繰り返す。
「ショボン」の名を聞いた瞬間、店主から寝ぼけた雰囲気が消え、顔が別人のそれに切り替わった。
(´・ω・`) 「誰にここを教わった?」
(´<_` ) 「大五郎の、シブザワ」
オトジャは懐から名刺を取り出す。
大五郎の社長、シブザワの直筆のサインと、「よろしく頼む」といった旨の言付けが書かれている。
(´‐ω‐`) 「……随分な大物だな」
- 890 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:18:52 ID:ZVLJWc8I0
-
小さいため息をひとつ。
店主は店を手早く締め、カウンターに戻った。
グラスに氷を転がし、大五郎(この場合焼酎の銘柄を指す。25度)のボトルを持ち上げる。
(´<_` ) 「俺は、酒はいらん」
(´・ω・`) 「俺が飲むんだ」
(´<_` ) 「……」
(´・ω・`) 「少し寝不足なんだ。気付けにいっぱいやらせてくれ」
流石は酒の街の住人といったところか。
とくとくと注がれる透明の液体は、氷に罅を入れながら満ちてゆく。
音色というには少々安い、氷がガラスを小突く音が、小さく広がって消えた。
アルコール独特の、冷たさを持った甘い匂いに鼻腔がくすぐられる
(´・ω・`) 「―――で」
一口、味わうというよりもスッと流すように酒を飲み下し、店主はグラスを置いた。
その眼からは一切の気だるさが消えている。
少し不安を覚えていたオトジャだったが、流石、叔父の紹介ははずれでは無いらしい。
- 891 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:19:57 ID:ZVLJWc8I0
-
(´・ω・`) 「うちに来たってことは、それなりに面倒な仕事だと思うが」
(´<_` ) 「……まどろっこしいのは無しだ。魔女の情報はあるか?」
(´‐ω‐`) ツゥ...
日と
(´・ω・`) 「最近は、魔女が流行なのか?」
店主がもう一度グラスに口をつけた。
口ぶりからするに、他にも魔女の情報にかかわろうとした人間がいたということだろう。
ちらりと、一人候補の顔が浮かんだが、今はそんなことはどうでもいい。
(´<_` ) 「あるのか、無いのか」
(´・ω・`) 「あるよ。夜明け前に叩き起こされて仕入れたとっておきに新鮮なのがな」
言葉の意図を読んで、オトジャは金の入った麻袋をカウンターに置いた。
ただの飲み屋の店主に渡すような金額では無い。
(´・ω・`) 「こりゃまあ、随分と」
(´<_` ) 「足りないとは言わせん」
(´・ω・`) 「……いいだろう。十分過ぎる金額だ」
- 892 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:20:51 ID:ZVLJWc8I0
-
(´・ω・`) 「と、こいつを受け取る前に」
袋に詰まった金が本物であるかを簡単に確認したのち、ショボンは手を放した。
腕を組んで、オトジャの顔をまっすぐに見据える。
(´・ω・`) 「あんたの名は?」
(´<_` ) 「……」
(´・ω・`) 「シブザワが俺に回すくらいだ。そこらの破落戸とは思わんが」
(´・ω・`) 「情報を売る相手の素性ぐらいは、控えておきたいんでね」
(´<_` ) 「一つ約束してもらえるか?」
(´・ω・`) 「内容によるな」
(´<_` ) 「俺がここに来た、ということを他の誰にも流さんでほしい」
(´・ω・`) 「お安い御用だ。そもそも、客の情報は漏らさんよ」
(´<_` ) 「……オトジャ=サスガだ。流れで傭兵をやっている」
- 893 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:21:35 ID:ZVLJWc8I0
-
ショボンの目が、値踏みするような非道徳的な光を携える。
情報屋だけあってサスガの名は知っているようだ。
国外で仕事をすることが主のオトジャ達は、チャンネル国内ではそれほど有名な名では無い。
知っているのはそれなりに情報に通じた人間だと言える。
(´・ω・`) 「兄がいるはずだが?」
(´<_` ) 「いるが、今は別件で動いている」
(´・ω・`) 「……まあ、それなら、シブザワとの繋がりも頷けるな」
ショボンが麻袋の口を縛り、カウンターの下に納めた。
金を受け取ったということは情報を売るということだろう。
身を屈めたまま何やら探っていたショボンは、袋の代わりに紙を巻かれた紙を一枚取り出してカウンターに広げた。
(´・ω・`) 「ジュウシマツ砦。知っているか?」
(´<_` ) 「聞いたことは」
(´・ω・`) 「もし乗り込むつもりなら気を付けろ。岩が切り立っていて自然の迷路のようになっているらしい」
(´<_` ) 「……わかった」
ショボンから詳しい道順の乗った地図を買い取り、店を出る。
魔女の居場所は把握した。
叔父の紹介した情報屋だ。ある程度信用できる。
- 894 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:22:29 ID:ZVLJWc8I0
-
( ´_ゝ`) 「どうだった?」
情報屋の店を出て、予定よりも少し早く着いた拠点の宿には既に兄がいた
彼も目的を無事終えたらしく、おんぼろのテーブルの上にはいくつものがらくたが置かれている。
(´<_` ) 「ここだそうだ」
地図を投げ渡し、自分はテーブルの上の物品に目を通す。
指輪、仮面に人形にぼろ布の塊。
一見すればゴミにしか見えないほど古ぼけて薄汚れているが、これらは立派な魔道具、タリズマンである。
(´<_` ) 「4、か。よく集まったな」
( ´_ゝ`) 「なに、どいつもこいつも喜んで引き渡してくれたよ」
しゃあしゃあと答える兄。
オトジャは魔道具の中の一つ、指輪型のそれを手に取りはめてみる。
小さいが、上質な代物だ。
かなり容量の大きい大地のタリズマン。
これ一つで家が建ってもおかしくない。
(´<_` ) 「……いつしかける?」
( ´_ゝ`) 「タリズマンの書き換え次第だな。二人掛かりでどれくらいかかるか」
- 895 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:24:10 ID:ZVLJWc8I0
-
(´<_` ) 「それと、オルトロスには、どうする」
( ´_ゝ`) 「どうするって、何が?」
(´<_` ) 「協力を仰ぐのか、ってことだ」
( ´_ゝ`) 「……」
(´<_` ) 「あいつも魔女を探していると言っていた。協力を得られれば、相当な……」
( ´_ゝ`) 「俺たちだけでやる。そう言ったはずだ、オトジャ」
兄は、オトジャの言葉を遮るように地図を投げ返した。
確かに、父や母の力を借りず、自分たちの手で妹の四肢を取り返すとは誓った。
しかし、魔女の能力は常識の域を脱している。
二人だけで本当に勝てるのか、そもそもまともな勝負になるのか、それが懸念であった。
( ´_ゝ`) 「そのために、こんな面倒をかけてタリズマンを集めているんだろ」
(´<_` ) 「……ああ」
二人が魔女を倒すために集めたタリズマンは全部で10。そこに元から持っていたタリズマン三つを合わせ計13個。
しかもその一つ一つが滅多に手に入らないとされる上級ランク。
兄弟程の実力者が扱いこなせば、ちょっとした軍とならわたり合えてしまう。
そのレベルの代物ばかりである。
- 896 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:25:36 ID:ZVLJWc8I0
-
( ´_ゝ`) 「なんにせよ、早めにこの街を離れよう」
(´<_` ) 「砦の近くに集落がある。規模は小さいが宿もあるそうだ」
( ´_ゝ`) 「そこを拠点にして動きを探りつつ、だな」
(´<_` ) 「ああ」
さらりと打ち合わせを終え、二人はすぐにタリズマンに込める魔法の準備を始めた。
魔法式の書き換えが必要なものは大地のタリズマン三つ。
さらに魔法そのものを込めなければいけない星のタリズマンが三つ。
魔力を備蓄する月のタリズマンが四つ。
タリズマンへの干渉、特に大地のタリズマンの書き換えは基本的な魔法の展開とは異なるため、非常に時間がかかる。
これら全ての準備を終えるとなると一日前後はかかるだろう。
( ´_ゝ`) 「とりあえず、大地の書き換えを最優先にしよう。星は最悪無くても何とかなる」
(´<_` ) 「わかった。前に話した通りの式を組み込むぞ」
( ´_ゝ`) 「無理はするなよ、明日の朝にはここを出る」
(´<_` ) 「ああ、分かってる」
* * *
- 897 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:27:12 ID:ZVLJWc8I0
-
〈::゚−゚〉 「これ以上時間を取っても悪い。単刀直入に言おう」
恐らく、自然に出来た洞穴だろう。
木の根が大きく張り出し、そこが入口になる様に地下に広い空間が出来ている。
入る時こそ少々窮屈だが、中は大人が数人が居ても十分な広さがあった。
天井で揺れるランタン。
山の中でマタギをしていた者が作ったのだろうか。
穴の内側は板と柱で補強されており、地下である暗さと圧迫感を除けば普通の小屋にも見える。
〈::゚−゚〉 「君を、私たちの仲間に迎えたい」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……」
ツンは、自らを真剣に見つめるィシの眼差しに少なからず戸惑った。
嘘や冗談の類では無いだろう。
濃い影を作るランタンの下、ィシは微動だにしない。
かつて飲酒文化を守るために戦った酒造連盟の系譜、「禁恨党」。
ィシは現在その首領として荒くれを取りまとめている。
禁恨党は言わば反反根絶法団体。
ただし彼らの場合、目的は飲酒文化の保護では無く、根絶法にまつわる暴動の被害者の救済。
及び、報復。
- 898 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:27:52 ID:ZVLJWc8I0
-
〈::゚−゚〉 「君のお爺さん、イラネ=ストレイトとは何度か顔を合わせた。娘の、ヒート=ディレートリともな」
〈::゚−゚〉 「だから、君の名前を聞いて、すぐにピンと来たよ」
〈::゚−゚〉 「よく見れば、顔も似ている」
ξ゚⊿゚)ξ「……よく、言われます」
〈::゚−゚〉 「……私の予想が正しければ、君は復讐のために大五郎に入った。違うか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうです」
ツンのことを、祖父のつながりで調べたのならば当然両親のことも知ったのだろう。
父母を殺された少女が武力を身に着け、反対の勢力に身を置く。
その状況を見れば、「復讐」の一言は簡単に浮かんでくる。
ツンは実に単純な思考回路の為、ィシの予想は見事に当たっていた。
〈::゚−゚〉 「だとすれば、大五郎よりも私たちの方が君の目的には合うと思う」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
そう、合う。
大五郎の目的は飽くまで酒を売ること。
軍備を整え、禁酒党と戦うのは目的を守るために過ぎない。
大五郎に身を置いていれば確かに禁酒党との接触の機会は増えるが、復讐というツンの目的からはやや遠いのだ。
対して禁恨党の目的はツンのそれとほぼ同じ。
- 899 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:29:05 ID:ZVLJWc8I0
-
〈::゚−゚〉 「ここにいるのは、君と似た境遇の者ばかりだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……一つ、聞いてもいいですか?」
〈::゚−゚〉 「ああ。構わない」
ξ゚⊿゚)ξ 「同じ境遇の人は、他にもいるのに、こんなことまでしてなぜ私を?」
この質問に、初めてィシが目線を外した。
露骨ではないが、動揺の気配をほのかに感じ取る。
〈::゚−゚〉 「君が、酒造連盟創設者の一人、イラネ氏の孫だからだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
〈::゚−゚〉 「そしてあの“サイボーグ”に少なからず認められた」
〈::゚−゚〉 「癪だが、あの男の戦士を見る目は確か。故に、戦力として君を迎え入れたい」
いまいち、腑に落ち切らない部分はあった。
納得はできる。
ただ、もっと別の理由がある気がしてならない。
- 900 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:30:22 ID:ZVLJWc8I0
-
〈::゚−゚〉 「……すぐに、とは言わん。さらに言えば、大五郎をやめる必要も無い」
悩む顔を見せたツンにィシは畳みかける。
揺らいでいるのを見抜いているのだ。
〈::゚−゚〉 「我々としても、大五郎の内部に仲間が居た方が都合がいいからな」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……」
ミ´・w・ン 「姐さん、そろそろ戻らないと流石に怪しまれる」
〈::゚−゚〉 「そうだな。今日はこんな形で呼び出してすまなかった」
ξ;゚⊿゚)ξ 「いや、別に」
ィシの指示に従ってツンとミンクスは洞穴を出た。
時間は、20分弱といったところか。
待っている仲間たちが何かを感づくころである。
ミ´・w・ン 「……遅くなったね、急ごうか」
禁恨党のメンツに見送られながら、来た道を戻る。
一度通った場所だけに、枝葉はよけられているが、足元は不安定。
思いのほか急ぐことは難しい。
ξ゚⊿゚)ξ 「ミンクスは」
ミ´・w・ン 「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「元から、禁恨党だったの?」
- 901 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:31:43 ID:ZVLJWc8I0
-
ミ´・w・ン 「そうだよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「じゃあ、大五郎にはスパイとして?」
ミ´・w・ン 「スパイ。……うーんスパイかぁ……」
ミンクスは振り返らない。
来た時と同じように、慣れた様子で残る枝葉を払いながらぐんぐんと進んでゆく。
ミ´・w・ン 「そうだねぇ。僕たちは、組織自体が小さいから、情報面に弱いんだよね」
ミ´・w・ン 「だから、こっそりと大五郎の情報をもらって、利用している」
ミ´・w・ン 「あくまで禁酒党とか、テロリストの撃退に協力しているだけだから、スパイって感じではないんだけどさ」
ξ゚⊿゚)ξ 「直接もらえばいいんじゃないの?敵じゃないんだし」
ミ´・w・ン 「そこがね、難しいところなんだよねぇ……」
ツンは勢力関係などにはほとんど興味がない。
故にミンクスの言う「難しいところ」の意味がよくわからなかった。
仲よくすればいいだけなのに、と思わなくはない。
ミ´・w・ン 「あ、茂みから出る前にナイフちょっと貸して」
ξ゚⊿゚)ξ 「……なんで?」
ミ´・w・ン 「遅くなった言い訳を作るんだよ」
- 902 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:33:22 ID:ZVLJWc8I0
-
渋々ツンがナイフを貸すと、ミンクスはおもむろに自分の服の二の腕あたりを切り裂く。
肌も浅く切れて血が滲んでいた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ちょっと、何やってんのよ」
ミ´・w・ン 「僕たちは茂みに入って、潜んでいた敵と遭遇。戦闘になった」
刃を持ってミンクスがナイフを返す。
ツンはマントの裾で僅かについていた血を拭い、鞘に戻した。
ミ´・w・ン 「敵は逃走。深追いは危険と判断し、僕らは一時撤退。どう?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……それだと、あの洞穴、大五郎に見つかっちゃうんじゃ」
ミ´・w・ン 「大丈夫、君を連れて行った時点であそこは捨てるよ。今頃はもう出てるんじゃないかな」
そこまで準備していたわけだ。
ぷっくりと血の粒を膨らませるミンクスの傷を見ながらツンはため息を吐いた。
ξ゚⊿゚)ξ 「その傷、応急処置してあげる」
ミ´・w・ン 「え?いいの。優しいなあ」
差し出された腕に、止血と痛みどめの魔法をかける。
薄い魔法のベールが周辺を包み込んで、傷口を保護。
元々浅い傷だったこともあってすぐに血が止まった。
- 903 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:35:07 ID:ZVLJWc8I0
-
(゚ペメ彳 「……敵がいたのか」
茂みから出ると、既に大五郎の仲間たちが集まっていた。
リーダーの男はミンクスの腕を見て、状況を察したらしく、そう尋ねる。
そこからはミンクスの提案通りの話。
逃げ込んだ禁酒党の賊と戦闘になり地理的な不利に押され、逃げられた。
一応の辻褄が通る報告に、一先ずは仲間の納得は得られたようだった。
(゚ペメ彳 「支店の本隊に報告し、対応はそのあとでいいだろう。どうせ今からでは追いつかん」
ミ´・w・ン 「そうですね。僕もそれでいいと思う」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
支店へ帰還は、特別問題が起きず無事に済む。
おかげで、ツンはずっと禁恨党に誘われたことについて考えていた。
殺された母と父のこと。
「自分の元にいる方が危険だから」とあえてツンを遠ざけ、結局顔を合わすことなく病死してしまった祖父。
そして、祖父とも知り合いだというィシ。
ィシ=ロックスのことは信用してもいいと思う。
根拠はないが、直感でそう感じていた。
彼女には、他の敵たちがすべからく纏っている嫌な気配が全くない。
ブーンやタカラ、ハインリッヒに近い匂いがして、それは恐らく間違いではないのだ。
- 904 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:36:16 ID:ZVLJWc8I0
-
だが。
復讐は、自らの手で行うと決めた。
大五郎に入ったのは、自身に足りない情報収集力を借り、足りない経験を効率よく積むため。
あくまで戦いは一人で行うつもりだ。
ィシの申し出は、正直言って非常にありがたい。
師やブーン達とは違い、そもそも目的の同じ者たち。
力を貸してもらうのではなく、ともに戦うことが出来る仲間というのは、実力不足を痛感するツンには貴重だ。
それでも素直に首を縦に振れないのは、気持ちの問題だった。
ツンは、両親を殺したテロリストを恨んでいる。
ぶちのめしたいとも思っている。
でもそれは、私刑にかけて罰を与えたいとかいう、そんなことではないのだ。
一人の人間として、けじめをつけたい。
あの日、何もできずに、破壊される我が家に背を向けて逃げ出した自分を赦せないまま生きてきた、これまでに。
たぶんきっと、他の誰かの力を借りて勝ったとしても、ツンは納得出来ない。
復讐するのはツンだ。そうでなければ、今まで生きてきた意味すらなくなってしまうような気がしていた。
ξ゚⊿゚)ξ(誰かと仲間になるなんて、考えたこと無かったや)
支店の裏、壁に寄りかかりながらツンは空を仰ぐ。
雲がゆったりと流れてゆく、穏やかな天気。
首に巻き付いて居るニョロが、静かに寝息を立てていた。
- 905 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:37:13 ID:ZVLJWc8I0
-
( ,,^Д^) 「どうしたんだにゃ。ぼーっとして」
ツンのことを探していたのだろうか。
タカラが店舗の影から顔を出した。
警備のローテーションで、現在彼らの班は支店の守りについている。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
( ,,^Д^) 「なんか、あったんだにゃ?」
弓を肩にかけたまま、タカラが隣に並ぶ。
体格がよく、まっすぐ立っていればツンより頭一つ背が高い。
( ,,^Д^) 「俺で良かったら聞くにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「うーん」
少し悩んで、タカラに禁恨党のことを話した。
信頼出来る人格者であるし、秘密を守る口の堅さもある。
ややちぐはぐな道筋にはなってしまったが、タカラは概ね理解してくれたらしかった。
- 906 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:37:56 ID:ZVLJWc8I0
-
( ,,^Д^) 「ツンはどうしたいんだにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……私は、自分の力でやりたいんだけど」
VIPでブーンたちと出会い、大五郎に入ってタカラと仲間になり、サロンではハインリッヒに何度も助けられた。
そうでなくとも、仲間の存在の重要さは十分にわかっているつもりだ。
仲間になりたいと思う心は確実にある。
( ,,^Д^) 「もう少し、様子を見てもいいんじゃないかにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「やっぱりそう思う?」
( ,,^Д^) 「だにゃ。向こうがせかしてるわけじゃないなら、ゆっくり考えた方がいいにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「即断即決が信条なんだけどな」
( ,,^Д^) 「これから四日間悩んで決める、と決めればいいにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ものは考えようだ」
何となくうまく言いくるめられたような気もしたが何となく気持ちは軽くなった。
結局先延ばしにしているだけなのだけれど、まあ、仕方がないということで。
復讐にまつわる事案だけは、今までのように勢いだけで決められることではないのだから。
- 907 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:39:52 ID:ZVLJWc8I0
-
ξ゚⊿゚)ξ 「……ん?」
さほど遠くないところから怒声が響いてきた。
この状況下からして。ただの喧嘩ではないだろう。
恐らくは、大五郎と根絶法側の小競り合い。
( ,,^Д^) 「また敵襲かにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「行こう。仕事仕事」
( ,,^Д^) 「ったく、矢が無くなっちまうにゃ」
ツンはナイフに手をかけ。
タカラは肩から弓を外し、矢を一本取る。
( ,,^Д^) 「いつまで続くのかにゃあ、こんなの」
ξ゚⊿゚)ξ 「どっちかが潰れるまででしょ」
( ,,^Д^) 「ま、パパ頑張って稼いじゃうにゃー」
予想通り、支店からさほど遠くないところで兵同士がもめていた。
街中だけあってまだ武器は抜いていないが、いつそうなってもおかしくは無い。
- 908 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:40:56 ID:ZVLJWc8I0
-
( ,,^Д^) 「……ツン、行くのやめた方がいいにゃ」
ξ゚⊿゚)ξ 「なんで?」
( ,,^Д^) 「君が行くと、絶対よくない方向に行く気がする」
ξ゚⊿゚)ξ 「……確かに」
火に風を送ったり、油をぶちまけたりするのは大得意である。
できるだけ穏便に済ますのが得策の状況においては、最も不向きだ。
しかし、ツンが向かうまでも無く、敵方の一人が剣を引き抜いた。
こうなっては、こちらも武器を抜くしかない。
( ,,^Д^) 「あーあー、もう、仕方ねえにゃあ」
ξ゚⊿゚)ξ 「速攻で決めるよ。援護よろしく」
周囲に被害は出せない。
ツンはブーツの魔法を発動し、力強く地を蹴った。
- 909 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:41:37 ID:ZVLJWc8I0
-
ここまで
次話は一応七割くらい出来てるんですけど、また間が空くかも
気長に待っててくだしい
- 910 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:43:19 ID:AC15ajW60
- おつ!
ィシさんきたー!
気長に待つのには慣れてるんだぜ!面白かったよ!
- 911 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:43:20 ID:aD1oDPQ6O
- おつん 続ききになるう
- 912 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 22:49:12 ID:zmcl/1as0
- 乙でした
それぞれの動向が気になる展開・・・
漫画の続き何れまたお見せ出来るよう頑張ります
- 913 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 23:07:41 ID:XZcCutWI0
- おつ
- 914 :名も無きAAのようです:2013/05/12(日) 23:14:43 ID:3YZH7Mhw0
- 乙ー
続き楽しみにしてる
- 915 :名も無きAAのようです:2013/05/13(月) 08:49:33 ID:42Ymn6XA0
- 内藤さんがいないwww
- 916 :名も無きAAのようです:2013/05/13(月) 20:54:42 ID:pgVw5FiE0
- ツンの母親はヒートか
直情的な性格は遺伝なんだな
- 917 :名も無きAAのようです:2013/05/14(火) 07:36:35 ID:AQVRnqHE0
- おつ!
初めて読んだ
おもしろすぎてぶっ通しで読んでたら朝になっていた
- 918 :名も無きAAのようです:2013/05/14(火) 22:27:45 ID:hACzW/ww0
- おツンツン
おめかししたダイオードが気になるぜ
- 919 :名も無きAAのようです:2013/05/14(火) 23:19:12 ID:RIho35IA0
- タリズマン13個って・・・
流石兄弟がブーン&ドクオの比じゃない程の強キャラになっとる
- 920 :名も無きAAのようです:2013/05/16(木) 18:48:35 ID:3HcerWBg0
- やっぱこのツン好きだわー
乙
- 921 :名も無きAAのようです:2013/05/18(土) 02:59:41 ID:Ii0FvVvE0
- 流石編はこれ負けるだろと何度も思ったからな
まあ他の戦いもそうなんだけど
- 922 :名も無きAAのようです:2013/05/18(土) 03:39:11 ID:7wTJkNZYO
- それでも魔女相手だと死なないかハラハラしてしまうという
- 923 :名も無きAAのようです:2013/05/19(日) 14:26:39 ID:65h.q6KY0
- お爺さんがイラネという点に作者のAA愛を感じる
乙
- 924 :名も無きAAのようです:2013/05/21(火) 16:17:16 ID:DNEr/hxEO
- 乙です。
タカラさんにキメラ戦前後から不穏なフラグが建ってて怖い
- 925 :名も無きAAのようです:2013/05/21(火) 17:12:05 ID:JGfOeVm20
- おつ
ツンちゃんも伸びしろ大きいみたいだけど、今の強キャラたちレベルまでいけるのかしら…
- 926 :名も無きAAのようです:2013/05/22(水) 22:35:44 ID:6nLp7HrkO
- ちょっとずつ読んでやっと追い付いた
乙!
- 927 :名も無きAAのようです:2013/06/10(月) 21:21:50 ID:VzX30M1cO
- 追い付いた!
- 928 : ◆x5CUS.ihMk:2013/06/12(水) 23:12:52 ID:w60qyAcI0
- * * *
夫の亡骸を引き取ったその日に、殺害された現場を見に行った。
元傭兵の夫婦が営んでいた、酒造から直接仕入れている酒が人気の小さな店。
目の当たりにしたのは跡形もなく吹き飛ばされたその無残な姿だった。
所々に飛び散った血の跡が生生しく残り、僅かに臭う。
そこに、その少女は立っていた。
金髪を頭の左右で縛りゆるく巻きが入っている。
夫から話を聞いていたので一目でわかった。
彼女は、店主夫婦の娘だ。
ワンピースの服の裾を、青筋が浮くほど握りしめ、直立不動で店の残骸を睨んでいた。
その時、最も初めに浮かんだのは「哀れ」という同情の念。
憎悪と憤怒に心を凍らせ、ただ暗い目で地面にこびりつく血糊を見下ろしている。
思えば、あの時点で彼女は復讐を誓っていたのかもしれない。
一度は一人の女に戻り、幸せを得始め、それを根こそぎ奪われたィシと同じように。
* * *
- 929 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:14:38 ID:w60qyAcI0
-
空は、雨期を目前に控えた濁った水色をしていた。
肌に感じる空気の生ぬるさに、ツンは胸元のボタンをひとつ外す。
ξ゚⊿゚)ξ 「タカラ、矢、何本残ってる?」
( ,,^Д^) 「三本」
ξ゚⊿゚)ξ 「ひぃーふー……足りないね」
( ,,^Д^) 「数えるまでも無いにゃ」
ツンとタカラの周囲には、八人の敵がいた。
全員が武装済み。
しかも今までのように武器を持っただけでなく、急所を守る軽鎧の類を身に着けている。
厄介なのは、大きな槍と手槍を持ったリーダー格。
タカラの矢もツンの魔法も独特の曲線を生かしてそらされてしまう。
直接前に出ては来ないものの、安心できない威圧感があった。
ξ;゚⊿゚)ξ (ちょっと、やばいなー)
ツンたちの傍には傷つき血を流す大五郎の仲間が三人。
巡回中に奇襲を受け、瞬く間にやられてしまった。
連日の戦闘による疲労の蓄積もあったが、敵の手腕がそれ以上に見事であった。
ツンとタカラが無事だったのは、運が良かったに過ぎない。
- 930 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:16:04 ID:w60qyAcI0
-
ξ;゚⊿゚)ξ (……ここまでが、きっと狙いだったんだ)
散発的な襲撃で大五郎に消耗を与え、気の弛んできた来たところを主力が叩く。
それも支店本体をでは無く、巡回中の末端をこそぎ落とすように。
ξ;゚⊿゚)ξ (長期化を見越して……?)
一気に潰すよりも、泥沼に追い込んだ方が、大五郎側の損失は大きい。
客の入りは悪くなり、経費は逆にかさむのだから。
サロンでの勝負よりも、手の出せないVIP本社に間接的にダメージを与えることを優先したのかもしれない。
ξ;゚⊿゚)ξ (……そんなんことよりも、この状況を何とかしないと)
囲んでいる八人は確実に手練れの部類だ。
仲間の三人に攻撃を加えた後、タカラとツンが戦闘体勢に移行すると、無理に押し攻めず下がって今の陣形を組んだ。
混戦の中でならまだしも、正面切ってやり合うには辛い。
襟元で、ニョロが大きく口を開け威嚇する。
敵は動じる様子も無く、一定の間合いを保ってツン達の隙を伺っていた
- 931 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:17:27 ID:yVqnMPWYC
- リアルタイムきたあ。
支援。
- 932 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:17:51 ID:WJDlmLOI0
- おお支援
- 933 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:18:22 ID:w60qyAcI0
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「タカラ、残りの矢全部外すなって言ったら、できる?」
( ,,^Д^) 「どうする気にゃ?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「切り込むから、援護して」
( ,,^Д^) 「……いつもの魔法で、ツンだけ逃げても良いにゃ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「できるわけないでしょそんなこと」
ツンがナイフを握り直すと、敵も動く。
警戒されていては一撃で打ち倒すようなことは難しいだろう。
危険は承知だが、逃走という選択肢を消せば、ツンが前に出てタカラに援護を任せるしかない。
それも、フリーになったタカラが直接狙われれば、叶わぬ策なのだけれど。
ξ;゚⊿゚)ξ (ニョロ、“ストーム”)
ニョロは、ツンが使った魔法をほぼそのままコピーし、扱うことが出来る。
この特性に気づいてからいくつか魔法を教え込んでおいた。
使用を命じたのは、その中でも対象範囲の広いものだ。
ニョロがスムーズに魔法式の展開を開始する。
魔法で強制的に隙を作って、最低一人、できれば三人は落としたい。
それが、策というには杜撰な狙い。
- 934 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:18:29 ID:yn0JdnKY0
- きったああああああ!!
しえん!!
- 935 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:20:52 ID:w60qyAcI0
-
ツンが闘志を高めたのを見抜いたか、敵が武器を構え包囲を狭める。
鈍く光を反射する両刃の剣。
リーチでは完全に不利だ。
ξ゚⊿゚)ξ (……やるしかないけど!)
魔法式の完成と同時に、ニョロが魔法を発動。
ツンの、ニョロの周辺の空気がうねり、さながら大蛇の尾のように四方八方へ放たれた。
埃を舞い上げ、目に見える暴威となった風に、敵達は体勢を崩す。
ξ#゚⊿゚)ξ 「!!」
ブーツの魔法を発動。
間髪置かず地面を蹴った。
狙いは、正面の剣を構えた男。
ξ#゚⊿゚)ξ 「だあ、らっ、しゃあッ!!」
魔法の効果は思いの他大きく、宙を駆けたツンの靴底はあっさりと敵の顔面を踏み抜いた。
鼻の潰れる確かな感触。
のけぞった敵の兵は、受け身も取らず後頭部から地面に倒れ、それでも勢い収まらずさらに転がってゆく。
これをのんびり見ている暇はない。
着地してすぐに、ツンは上へと飛び上がった。
先ほどまで首のあった位置を別の敵兵の白刃が薙ぎ払う。
- 936 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:21:34 ID:w60qyAcI0
-
少し離れた場所に着地。
傍にいた敵兵がすぐさま反応した。
僅かにバランスを崩すツンに、下方から剣を振るう。
ξ;゚⊿゚)ξ 「……ッ」
体を倒し辛うじて回避。
しかし追撃は止まらない。
男は一歩踏み込み、剣を振り上げた腕に力を籠め直す。
ξ;゚⊿゚)ξ 「あ」
回避が間に合わない。
ツンがそう判断し、思考が停止しかけた瞬間、ニョロが魔法を放つ。
唸りをあげる空気の弾丸は男の喉仏に深く食い込んだ。
唾液を吐き出し、被弾した場所を片手で庇いながら男が後退し、倒れた。
至近距離で受けたため、喉は確実に潰れただろう。
追撃の必要性が無いと判断して、ツンは新たな敵に意識を移した。
身を起こし体勢を立て直したツンの頭部を刃が一閃。
仲間を二人やられ、敵兵も少し浮き足立ったようだ。
狙いが甘い。
屈んでやり過ごし、懐へ。
剣を振り切り大きく隙の出来た脇腹にナイフを突き立てる。
引き締められた腹筋は思いのほか刃を受け入れず、半分ほどで止まった。
- 937 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:24:22 ID:w60qyAcI0
-
ξ#゚⊿゚)ξ 「ッ」
男の苦しげな呻き。
ツンは刺さった切っ先を無理やり横に流し、腹を切り裂いた。
内臓に達するほどでは無かったが、傷口は滾々と血を溢れさせている。
ξ゚⊿゚)ξ (これで、三人!)
いけるかもしれない。
ツンの中に希望が生まれる。
目線をタカラへ。
彼は小剣を手に持ち二人の敵兵と格闘していた。
やはりツンが特攻した後間合いを詰められたらしい。
少し離れた所に膝に矢を受けて動けない敵兵と、弓が転がっている。
ξ;゚⊿゚)ξ (不味い!)
タカラも格闘戦が弱いわけではなかった。
ある程度の敵ならば十分にあしらえるだけの力量は持っている。
しかし、今回の敵は強い。
少なくとも二対一でやり合うには難しい相手だ。
- 938 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:27:08 ID:w60qyAcI0
-
タカラに意識の向いていたツンに、背後から敵が切りかかる。
足音で察知。前へ転がって、大きく回避。
追撃に来た敵をニョロが空弾の魔法で迎え撃つ。
敵は躱そうとするも避けきれず、胸の軽鎧で無色の弾丸を受け止めた。
木に皮を張り付けた防具が鈍い音を立てたが、本人へのダメージは少ない。
それでも衝撃は大きく、隙は作った。
残り僅かになったブーツの魔法の効果を惜しまず、ツンは足に力をためる。
今はまずタカラの援護を優先しなければ。
ナイフを握りしめ、敵の片方に狙いを定めた。
だが。
ξ; ⊿ )ξ 「ぐぅっ!」
跳ぶ寸前のツンの横から、リーダー格の男が盾をを利用しての突進。
速く、静かで完全に虚を突かれた。
硬い盾の感触が体を押し、跳ね飛ばす。
受け身もそこそこにツンは地面を数度転がり、止まった。
不意の衝撃で気が動転し、痛みは熱のように身体の芯に滲む。
- 939 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:29:40 ID:w60qyAcI0
-
半ば脊髄反射で上半身を起こしたツンの耳に、甲高い金属音が聞こえた。
少し遅れて地面に小剣が落ちるのが見える。
タカラの武器だ。本人は追い込まれ、尻餅をついている。
ξ; ⊿)ξ (こんなところで、やられるわけには!)
不調を痛みで訴える体を根性で働かせ、ブーツの魔法を再度発動。
両手を地に突き、抉れるほど地面を蹴った。
鈍い音を立てて土が舞い上がる。
走り出しから一歩、地面に落ちた小剣を左手で回収。
タカラに止めを刺そうとしていた敵は、その気迫に押され、意識をツンに向けた。
ξ#゚⊿゚)ξ 「だっ!!」
残り数歩。
ツンは走りの勢いそのままに、ナイフを投げつける。
回転する刃は咄嗟に引き上げた敵の腕に当たり弾かれた。
間髪置かず血が噴き出す。
怯んで傷口を抑え、屈みこんだ額をツンはつま先で思いっきり蹴り上げた。
ブーツに仕込まれた鉛と骨がぶつかり合う、通りのいい音。
魔法で強化された脚力は、意識を吹き飛ばすのには十分である。
- 940 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:31:35 ID:w60qyAcI0
-
もう一人、タカラを襲っていた敵兵は状況に追いつき剣を構えツンヘ。
しかし、その足をタカラが咄嗟に払う。
姿勢を崩し地面に手をついた男の後頭部を、ナイフの柄尻で殴り抜いた。
低い呻きを上げ、ツンの足に縋りつくようにずり落ちて、男は地面に伏せる。
これで残り二人。
ツンは全身に複数の打撲。
タカラは腕に浅い防御創を追い、武器を手放している。
対して敵は最も厄介な盾の男と、魔法弾を鎧越しに受けただけの男。
不利は不利だが、相手側は多勢だったところを押し返され動揺があるはずだ。
かなりの窮地から、それなりの窮地程に状況は改善された。はず。
<ヽ`∀´> 「……下がってるニダ。お前じゃ、やられるだけニダ」
盾の男が前に出た。
これまで様子見を決め込んでいた時とは違う、明らかな殺気。
盾を前に槍を隠しにじり寄ってくる。
下手に襲い掛かれば、盾で攻撃を防がれた後、槍で一突きだろう。
ニョロは空弾の魔法をキープしているが、これで隙が作れるかどうか。
- 941 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:32:55 ID:w60qyAcI0
-
緊張が漂う。
剣を構え、正面から睨みつけた。
盾の怖さは単なる防御の長だけでない。
上半身が隠れるせいで相手の反撃への対処がどうしても後手になる。
相手の予備動作を見抜いて反応するツンの戦い方とは根本的に相性が悪い。
男が一歩。枝が踏まれて音を立てる。
ギリギリの間合い。
余り粘るとブーツの魔法の効果が切れる。
ξ#゚⊿゚)ξ 「……ッ!」
<ヽ`∀´> 「!」
考えるのをやめて、ツンは男に突撃した。
姿勢を低く、小剣を前に素早く迫る。
相手が盾を構えれば狭まった視界を利用して横へ回る。
槍で反撃してくれば、
<ヽ`∀´> 「ダァ!」
気合いと根性で躱す。
当たった時のことは当たってから考える。
- 942 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:34:45 ID:w60qyAcI0
-
男の突き出した槍の狙いは正確で、鋭い。
足首を横へ倒し無理やり身を捩じって回避。
細い矛先がツンの服と胸元の皮膚を切り裂いた。
痛みで脳が揺らいだ。
刺激的な信号が目の奥で弾け、思考が一瞬白に染まる。
何とか突き出しだ足でたたらを踏みながらがらも倒れることは防いた。
衝撃で血が零れ落ちる。
立ち上る血の臭いが、鼻に不快な濁りを与えた。
ξ#゚⊿)ξ (ッ!)
体勢は不十分。
対して敵は槍を横に薙ぐだけでツンに追撃を行える。
しかし、男は追撃に出ず盾を構えた。
刹那遅れてニョロが魔法を発動。
魔法弾が男を襲うも、盾によってあっさりと受け流され、数歩後退させるにとどまる。
男が追撃に来ていれば確実に仕留められていたはずだ。
ふらつきながら間合いを取り、ツンは歯噛みする。
必要だったとは言え、ニョロに魔法を使わせ過ぎた。
完全に警戒されてしまっている。
ツンが痛打を受ける危険性は減ったが、逆にこちらが有効打を与えるチャンスも減少した。
傷を負ったこの状態では、苦しい。
- 943 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:35:58 ID:w60qyAcI0
-
足取りの不安定なツンに、男は猛然と突撃した。
盾を掲げているため、下手な反撃は通用しない。
ツンは腕身体を庇い、後方へ飛ぶ。
冷たく硬い盾がツンの体を跳ね飛ばす。
打撃としての威力は軽減されたものの、体は再び地面を跳ね、木の幹にぶつかって停止した。
見開いた目の中で、意識の弾ける火花が飛んだ。
ξ; ⊿ )ξ 「……かはッ」
唾液が漏れる。
平衡感覚が失われ、自分が仰向けなのか伏せているのかも判断つかない。
ニョロが魔法を放ったのが分かった。
恐らく効果は無いだろう。
盾と魔法弾が擦れる音が聞こえた。
(#,,^Д^) 「ッ」
タカラが弓を拾い、矢を放つ。
男のがら空きの背中を狙ったのだが、後ろ手で振り上げられた盾にあっさりと防がれた。
恐らくタカラが狙っているのをわかっていながらあえて撃たせたのだ。
これで、矢は残り一。
タカラはすぐさま矢筒へ手を伸ばす。
しかしここでも男の方が一歩速い。
- 944 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:37:02 ID:w60qyAcI0
-
右手の槍がくるりと逆手に持ち返られる。
そのまま、振り返る勢いを利用しての投擲。
音も無く放たれた手槍は、弓を構えようとしていたタカラの左太ももに突き刺さった。
鋭い矛先は簡単に肉を分ける。
自重で下がる柄が、切っ先を持ち上げさせ、タカラの太腿が深く抉れた。
(;,^Д^) 「……ぐッ」
ξ;゚⊿)ξ (……強い……ッ!)
手も足も出ない。
仮に初めからこの男一人だったとしても、相当の苦戦、あるいは敗北だっただろう。
勢いに甘んじて逃げなかった二人の失策だ。
囲みを破った時点で逃走も可能だったのだから。
何とか四つん這いになれる程度の平衡感覚を取り戻したツンに、男が歩み寄る。
腰の裏から山刀を引き抜き、盾もすぐに構られる位置を保っていた。
これだけ勝敗の決した状況でも、微塵も油断が無い。
余裕ぶっこいてへらへらと寄ってきてくれれば、何とか一撃ぶち込むくらいは出来たかもしれないのに。
- 945 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:38:08 ID:w60qyAcI0
-
「はいよはいよー!!ちょっと待ってねーー!!」
万策尽きた状況にそぐわない能天気な声が、聞こえる。
木々を縫って突如現れた、大五郎のジャケットを着た若い男。
ミンクス=フェイクファーだ。
ミ;´・w・ン 「ちょっと、困るんだよね!」
剣を振りかぶって飛び込んだミンクスを、男は盾で受け止める。
ミンクスは粘らずにすぐさま後退。
ツンを庇うように立ちはだかる。
ミ;´・w・ン 「いんやー、間に合ってよかった。一回やってみたかったんだよね、こう、颯爽と助けに来るの」
ξ;゚⊿゚)ξ 「あんたが、敵う相手じゃないから、さっさと……ッ!」
ミ;´・w・ン 「大丈夫大丈夫。戦うのは僕じゃないし」
ξ;゚⊿゚)ξ 「は?」
<ヽ`∀´> 「……こうなる前に終わらせたかったニダね」
多数の雑踏が聞こえ、次々と武器を携えた荒くれたちが現れる。
見たことのある顔が数人いた。
これは、
〈::゚−゚〉 「無事、ではないな。ディレートリ」
禁恨党。
- 946 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:39:54 ID:w60qyAcI0
-
<ヽ`∀´> 「……」
〈::゚−゚〉 「手を出すな。真面にやり合えばこちらの損害も少なくは済まん」
男を囲む禁恨党のメンツ。
状況は先ほどまでの真逆だ。
<ヽ`∀´> 「正直、こんなに早く貴様が出てくるとは思わなかったニダ」
〈::゚−゚〉 「……」
<ヽ`∀´> 「様子見は飽きたカ?それとも、別な理由ニカ?」
〈::゚−゚〉 「なに、貴様のような大物の首を取る、いい機会だと思っただけさ」
<ヽ`∀´> 「……ウリに勝てるつもりカ?」
囲まれながらも男の闘志は一切萎えていない。
むしろさらに高まっているようにすら見えた。
〈::゚−゚〉 「貴様こそ、私たちを倒せるつもりか?」
<ヽ`∀´> 「一度は剣を置いたロートルが」
〈::゚−゚〉 「そのロートルに再び剣を持たせたのは、貴様らだ」
- 947 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:41:10 ID:w60qyAcI0
-
ィシの得物は相変わらずのハルベルト。
それを、両腕で突き出す形で構える。
切っ先が全くぶれていない。彼女が十分に扱うだけの力を持っている表れだ。
男が盾を引き寄せる。
まともに受ければ、長柄の斧刃はたやすく盾を割るだろう。
しかし男には受け流す十分な腕がある。
〈::゚−゚〉 「ッ!」
<ヽ`∀´> 「!!」
刃を横にし、ィシが突きを放つ。
構えからの自然な動きで、予備動作もほとんどない。
それでいて力強い踏み込みが生み出す矛先の破壊力は、喰らわずともわかる。
男は盾を斜めに、突きを右へ流す。
耳に痛い金切音。
斧刃は逸らされながらも、盾に張られた薄い鉄板を引き裂いた。
男は流した勢いを利用し、体を回転。
右手に持った山刀が振り向きざまにィシを薙ぐ。
ハルベルトの先端が足元へ引かれ、入れ替わりに振り上げられた柄が山刀とかち合った。
ィシの手と手の間。
鉄張りのそこに、刃が半分程めり込む。
受け止められなければ、首を切り裂いていた正確な一撃だ。
- 948 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:42:33 ID:w60qyAcI0
-
背を向けたままでの押し合いを不利と察した男は素早く山刀を引き、後退。
囲んでいた禁恨党の輪が歪みながら広がる。
ξ;゚⊿)ξ (すご……)
ツン達、二人と一匹でもあしらわれた相手と、ィシはほぼ互角。
呼吸の乱れは小さく、闘志の昂りが見て取れた。
<ヽ`∀´> 「……腕は鈍ってないニダね」
〈::゚−゚〉 「そっちは、狩りの真似事ばかりしていて、腑抜けたんじゃないか?」
<ヽ`∀´> 「ホルホル……」
男がさらに半歩下がる。
ィシはにじり寄る様に間合いを詰めた。
もう一人の敵は、盾の男の意図を読んで男の背後についた。
<ヽ`∀´> 「ハッ!」
踵を返し、男は駆けだした。
仲間の一人と、ツンが戦闘不能に追い込んだ数人もそれに従う。
囲んでいた均禁恨党の兵が二人、立ちはだかろうとするもあっさりと弾かれた。
- 949 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:43:48 ID:w60qyAcI0
-
〈::゚−゚〉 「チィッ!」
ィシが追う。
重量武器を持っているとは思えない身のこなしだが、足の速さでは相手に分があった。
素早く木々の合間に滑り込み、姿を隠す。
恐らく非常時の逃走経路も準備していたのだろう。
下手に追えば、逆に窮地に追い込まれる可能性もある。
〈::゚−゚〉 「いい、深追いはするな!」
ξ゚⊿)ξ 「……ィシ、さん」
〈::゚−゚〉 「すまなかった。襲撃のポイントを絞るのに手間取ってな」
ミ´・w・ン 「でもよかったよ。胴と首が繋がってるうちに間に合って。まあ……」
ツンを助け起こそうとしたミンクスの腕にべったりと血がこべりついた。
胸の傷は見た目以上に深く、血が止まる気配が無い。
ミ;´・w・ン 「結構やばいみたいだけど」
ξ ⊿)ξ 「……ッ」 グラッ
ミ;´・w・ン 「ちょっと!」
〈::゚−゚〉 「シーン!応急処置の魔法を!」
* * *
- 950 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:45:14 ID:w60qyAcI0
-
(´・_ゝ・`) 「それは、芳しくねえなあ」
ナガオカの報告を受けたデミタスは気だるげにコーヒーを啜った。
椅子の背もたれに体重を預け眉間には皺が寄っている。
_
( ゚∀゚) 「潜入中の部下の報告では、大五郎本社から更なる援軍もあるとか」
(´・_ゝ・`) 「それはまあ、いいんだよ。向こうが金と労力を使ってくれる分には、狙いから外れねえ」
_
( ゚∀゚) 「……」
(´・_ゝ・`) 「禁恨党、なあ。厄介なのが絡んできやがったもんだ」
概ねデミタスの言葉に同意だった。
仇敵、酒造連盟が遺した賊軍、禁恨党。
勢力自体は小さいが、少数ゆえの身軽さで根絶法支持団体の仕事を妨害している。
その彼らの目撃情報がサロン支部の圏内で複数報告されていた。
現に禁酒委員会が画策した襲撃の一部が禁恨党によって妨害されている。
首謀するデミタス達にとっては、策の進行を妨げる邪魔な存在だ。
(´・_ゝ・`) 「こっちの囮には目もくれず、本命ばっかり啄むように潰してきやがる」
大五郎は自ら掃討に乗り出すことはほぼなく、専守防衛に徹するのを基本としている。
あくまで酒を売る企業であり、顧客を保護する責務があるからだ。
故にたとえ取るに足らない小さな火種にも労力を割かねばならず、ナガオカたちはそれを利用して襲撃の計画を組んでいた。
対して禁恨党は禁酒党の襲撃を妨害、さらには禁酒党や類似する団体を壊滅させることを目的に活動している。
大五郎に向けた囮は通用せず、漏れているのか読まれているのか、的確に襲撃を抑えられてしまっているのが現状だ。
- 951 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:47:51 ID:w60qyAcI0
- _
( ゚∀゚) 「計画を変更しますか?敵戦力がサロンに集中しているなら、別の地域を奪還するチャンスでもあります」
(´・_ゝ・`) 「……いや。恐らくその程度は警戒されているだろ」
_
( ゚∀゚) 「……」
(´・_ゝ・`) 「現に、数はともかく、シブザワ直下の名の知れた駒は持ち場を動かされてはいねえ」
(´・_ゝ・`) 「下手に戦力を分ければどこかが押し切られる。今はあえて膠着を維持する方が得策だろ」
禁酒委員会の最大の弱点は、攻める際に堂々と自軍を動かせないことにあった。
外部支持団体である禁酒党を扇動し暴動を起こさせ、暴動の鎮圧という形を取らなければ介入の権限が無い。
介入できたとしても、大五郎側に過剰な防衛が無ければただいたずらに兵を動かすだけで終わる。
酒類根絶法と、禁酒委員会の行うその執行は、国の中枢でも全面的に支持されているものではない。
事実、根絶法支持団体の中には国軍によって討伐されたものもある。
世論を煽り正当性を保ってはいるが、だからこそあまりに強引な手を使うのは不味いのだ。
ナガオカが必要以上の殺生を禁じているのは、個人の思想のみならずそういったバランスを崩さないためでもある。
(´・_ゝ・`) 「今サロンにいる主力は?」
_
( ゚∀゚) 「禁酒党副領ニダー、と山幻旅団フォックス、あとは、ヨコホリですね」
山幻旅団は禁酒党に並ぶ根絶法支持団体である。
新興勢力でメンツは若いがその分勢いがあり、場合によっては禁酒党よりも役に立つ。
もともと、ただ各地で略奪をおこなう盗賊団であったが、安定した収入を得るため今は根絶法支持の立場を取っていた。
- 952 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:49:47 ID:w60qyAcI0
-
(´・_ゝ・`) 「……で、禁恨党にはヨコホリの天敵がいるんだろ?」
_
( ゚∀゚) 「ええ。故に奴の登用は見送っています」
(´・_ゝ・`) 「ふーむ。奴が居るってだけで相手の警戒を無駄に引き上げられるが……」
指で顎を擦るデミタス。
剃り残しの髭が音を鳴らす。
大五郎が警戒しているのは長距離からの狙撃。
サロンの市街地に陣取った新サロン支店を、余計な被害無く狙える人材はそう多くない。
ヨコホリはその上白兵戦もこなす貴重な戦力だ。
威嚇としても十分に効力があるため無意味ではないが、いざ彼が必要にになった時の枷が多い。
(´・_ゝ・`) 「……潰すか」
_
( ゚∀゚) 「……」
(´・_ゝ・`) 「禁恨党は、元々ヨコホリを狙ってたんだよな?」
_
( ゚∀゚) 「はい」
(´・_ゝ・`) 「なら、ヨコホリを餌にして、禁恨党を釣る」
- 953 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:50:58 ID:w60qyAcI0
- _
( ゚∀゚) 「肝心の針は?悟られぬように禁恨党を刺せる戦力となると、ニダーかフォックスのどちらかに」
_
( ゚∀゚) 「それ以上となると、シナーですが、奴までここに集めてしまうのは……」
(´・_ゝ・`) 「……おいおい、待てよ」
_
( ゚∀゚) 「はい」
(´・_ゝ・`) 「居るじゃねえか。そいつら以外に十分に働けるのが」
_
( ゚∀゚) 「……?」
(´・_ゝ・`) 「十分な戦力を持って、ヨコホリとの連携も多少は取れる」
_
( ゚∀゚)
(´・_ゝ・`) 「なあ、ナガオカ」
_
( ゚∀゚) 「はい」
(´・_ゝ・`) 「たまには、野蛮な仕事もいいと思わねえか?」
_
( ゚∀゚) 「……」
* * *
- 954 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:53:20 ID:w60qyAcI0
-
額に被さる冷たい感触でツンは目を覚ました。
手を伸ばして、それが濡れたタオルだと気づく。
イリ*゚ -゚)ン 「……目が、覚めましたか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ベルさん?」
タオルをどけてまず最初に目に入ったのは、支店で働くパートの女性だった。
名はベル=オークウッド。
一昨日から働き始めた新人ながら仕事の覚えが早く、ジョーンズが非常に誉めていたので憶えている。
イリ*゚ -゚)ン 「魔法で傷口を保護しただだけなそうなので、安静にしていろと」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ここ、支店だよね」
イリ*゚ -゚)ン 「はい。支店の休憩室です」
血を失ったせいか、意識がはっきりとしない。
少し硬く、狭いベッドに寝かされているらしい事だけわかる。
ベルに言われた通り上半身をいたずらに動かさないよう、頭で周囲を探った。
休憩室は、一時的な治療所として使われているため、複数ベッドが設置されている。
寝ているのは三人。
今日の襲撃でツン達より先に傷を受けた彼らだ。
反対側も見たが、タカラの姿が無い。
彼の傷も中々深かったはずだ。
急所で無くとも筋膜まで届いた傷は処置をしっかりとしなければいけないのに。
- 955 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:54:43 ID:w60qyAcI0
-
イリ*゚ -゚)ン 「どうしたんです?」
ξ゚⊿゚)ξ 「タカラ……あの、髭生やしてて、ニャーニャーうるさい傭兵は?」
イリ*゚ -゚)ン 「ああ、あの人なら、知り合いの魔法使いを呼んでくるって、少し前に」
ξ゚⊿゚)ξ 「……え?」
槍を受けた足で?
間近で見たわけでは無いが、どう考えても浅くは無かった。
魔法使い、恐らくハインリッヒのことだが、彼の家まで歩くのは辛いはずだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「怪我してたのに、あいつが自分で呼びに行ったの?」
イリ*゚ -゚)ン 「え?怪我なさってたんですか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「え?どっちか忘れたけど、足に槍を刺されたんだけど」
イリ*゚ -゚)ン 「……?とても、怪我をなさっていたようには見えませんでした」
ξ゚⊿゚)ξ 「……?」
見間違いではなかったはず。
となると、誰かにその場で治療を受けたのだろうか。
- 956 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:56:35 ID:KdhWRQCw0
- よっしゃキタ!
ツンちゃん戦うたび重傷だな
- 957 :名も無きAAのようです:2013/06/12(水) 23:58:39 ID:w60qyAcI0
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「……ッ」
思考を巡らせていると、起き上がってもいないのに眩暈にに襲われた。
意識を失うまではいかないものの、何とも言えない気持ち悪さが腹のあたりに蠢いている。
イリ*゚ -゚)ン 「大丈夫ですか?」
ξ;゚⊿ )ξ 「血が、足りない」
イリ*゚ -゚)ン 「あ、これ、店長が、飲めって言ってました」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……?」
イリ*゚ -゚)ン 「フルーツのシロップに塩を加え、ソーダ水で割った飲み物です」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……あ、結構おいしい」
イリ*゚ -゚)ン 「とりあえず水分を取って、ある程度体力が戻ったら、こちらも」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……」
ベルが鼻をつまみながら差し出したのはヘドロを煮詰めたような液体だった。
蓋がしてあるのにも関わらず、何とも形容しがたい脳の細胞が片っ端から死滅して往きそうな臭いが漏れ出している。
ξ;゚⊿゚)ξ 「…………なにこれ。ドブの泥?」
イリ*゚ -゚)ン 「この地方に伝わる滋養食を店長がアレンジした物らしいです」
- 958 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:00:33 ID:hL3rXPjs0
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「食べて、大丈夫なの?」
イリ*゚ -゚)ン 「熊の肝臓と睾丸を蒸して香草とすり潰し、蝮を丸ごと煮込んで取ったスープで溶いて……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……」
イリ*゚ -゚)ン 「ミツバチの子の干物の粉末とその親の集めた蜂蜜を加え、最後に生姜のシロップで味を調えたとか」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……美味しいの?」
イリ*゚ -゚)ン 「不味いです」
ξ;゚⊿゚)ξ 「どれくらい?」
イリ*゚ -゚)ン 「まず間違いなく吐きます」
ξ;゚⊿゚)ξ 「それって、意味ないんじゃ」
イリ*゚ -゚)ン 「はい。なので吐かないように頑張ってください」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……わぁ、私もう元気」
イリ*゚ -゚)ン 「ダメです。食べ物は大事にしなくては」
ξ;゚⊿゚)ξ 「せめて食べ物と認識できるものを持ってきて」
- 959 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:01:41 ID:hL3rXPjs0
-
結局、体の状態が改善するならと、ツンは鼻をつまんでその滋養食を飲み干した。
えづき、鼻水と涙を流しながら何とか胃に収める。
体の中から込み上げる吐き気が止まらない。
時間の経過と共にその臭いが増しているような気さえする。
ξ ⊿ )ξ
イリ*゚ -゚)ン 「いかがでしたか?」
ξ ⊿ )ξ 「……なんて、いったらいいか」
イリ*゚ っ゚)ン 「あ、すみません。臭いがキツイのでこちらを向かないでください」
ξ ⊿ )ξ
先に受け取ったドリンクで口の中を洗うも、生臭さが逆に誇張され地獄の心地であった。
絶えず胃がせり上がってくるが、内臓も血を失い元気が無いらしく吐き出すまでには至らない。
しばらくすると身体が諦めたのか、脳が麻痺したのか吐き気は無事に収まる。
ξ ⊿ )ξ 「むしろ、元気がなくなった気がする……」
イリ*゚ -゚)ン 「ハーブティを淹れましょうか。少しは口直しになるかもしれません」
ξ ⊿ )ξ 「ありがとう、お願いしていい?」
イリ*゚ っ゚)ン 「ごめんなさい。本当に辛いのでこちらを向いて口を開かないでください」
ξ ⊿ )ξ
- 960 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:02:47 ID:hL3rXPjs0
-
ベルの淹れたハーブティを三杯ほど飲んでやっと口の中の不快感が落ち着いた。
吐き出す息は相変わらず沼に落ちて死んだ獣の臭いをしていたが、気分が悪くなるほどでは無い。
イリ*゚ -゚)ン 「傷は痛みませんか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっと」
イリ*゚ -゚)ン 「痛みどめの軟膏も預かっています。酷いようでしたら、塗りますよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……次々出てくるね」
イリ*゚ -゚)ン 「支店長がそれだけ心配なさっているってことです」
ベルの手には小さな缶のケース。
先ほどとは違う、薬品特有の鼻に沁みる臭いがした。
傷は、痛む。
矛先で撫でられた傷は通常の切り傷と異なり、皮が削り取られ肉が捲れている。
魔法の処置でもそう簡単には塞がらず、塞がらなければ痛みは治まらない。
ξ゚⊿゚)ξ 「んー―……お願いしていい?」
ツンの服は新品らしい綿のシャツに代えられていた。
袖と肩が余るところを見るに男物らしい。
ベルはもともといくつか開けられていた正面のボタンをさらに外し、ツンの胸元を開いた。
- 961 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:03:41 ID:hL3rXPjs0
-
傷を覆う包帯にはうっすらと血が滲んでいる。
ツンが上半身を起こし、ベルが包帯を外した。
その下から現れる、テープで留められた赤黒い裂け目。
イリ*゚ -゚)ン 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「ベルさん、傷とか血とか平気?」
イリ*゚ -゚)ン 「はい、慣れてますから」
ξ゚⊿゚)ξ 「?」
イリ*゚ -゚)ン 「いえ。……父が獣医なもので」
脱脂綿を巻いた棒で軟膏を掬い取り、傷口に塗り込む。
染みはしないが傷に触れられた痛みで体が縮まった。
ツンの傷に施されている魔法の保護は傷の回復を補助し消毒するものであり、傷を強制的に塞ぐものではない。
故に多少の処置の邪魔にならないよう、優しく触れる程度ならば破れず受け入れるようにできている。
イリ*゚ -゚)ン 「少し、我慢してください」
ξ ⊿゚)ξ 「……ィッ」
- 962 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:05:25 ID:hL3rXPjs0
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ベルの手は、傷口に優しく薬を塗り込んでいく。
丁寧な手つきのお蔭で傷みはそれほどではない。
薄黄色の軟膏が傷の周囲にまんべんなく塗られた頃には、ベルの持つ箆が血で赤く汚れていた。
イリ*゚ -゚)ン 「……ディレートリさんは、なぜ、こんな仕事を?」
ツンに包帯をまき直しながら、ベルが訊ねた。
大人しく体を預けながら、ツンは少し思案する。
ξ゚⊿゚)ξ 「なんで?」
イリ*゚ -゚)ン 「私と同じ年頃の女性が、大五郎の傭兵なんて、驚きました」
ξ゚⊿゚)ξ 「……んー―……ちょっとね、色々」
イリ*゚ -゚)ン 「色々」
ξ゚⊿゚)ξ 「そう。いろいろ」
イリ*゚ -゚)ン 「……体、倒しますね」
大五郎に入った目的は、あまり他人に言いふらしたいことでは無かった。
特に、ベルのようにごく普通に生活し、荒事から遠い場所で生きてきた相手には。
ベルもツンの醸す雰囲気を察したのか、しつこく食い下がることは無かった。
再び横になるのを補助されながら、ベルの顔を見上げる。
- 963 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:06:41 ID:hL3rXPjs0
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うっすらとした化粧に、少しうねりのかかった長い髪。
見た目の女性らしさと裏腹に、性格はどこか男性的だ。
化粧で和らいではいるが目鼻立ちは精悍で、そこいらの町娘とは一線違う雰囲気を持っている。
ξ゚⊿゚)ξ (……どっかで見たことある気がするんだけどなあ)
ツンがサロンの地に来て、一週間以上は経っている。
間に空白の時間こそあれ、常に街中をうろついていたので、どこかで顔を合わせていてもおかしくない。
イリ*゚ -゚)ン 「なんです?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ねーねー、ベルさん。どっかであったことなかったっけ?」
イリ*゚ -゚)ン
イリ*゚ -゚)ン 「私の記憶にはありませんよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「そっかー。気のせいかな」
イリ*゚ -゚)ン 「どこかで、顔を合わせるくらいはしていたかもしれませんね」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうだよね。私もよく、街中歩いてたし、顔ぐらいは見てたのかも」
イリ*゚ -゚)ン 「ええ、きっとそうです。さあ、薬も塗り終わりましたし少しお休みになられては?」
- 964 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:08:12 ID:hL3rXPjs0
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薬がいくらか効いてきたのか、傷の痛みが和らいできていた
同時に眠気もいくらか湧いている。
先ほど飲んだ滋養食を消化するために腹に血が集まってきているのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ 「うん、少し、寝るね」
イリ*゚ -゚)ン 「なにかあったら声をかけてくだされば、すぐに来ますので」
ξ゚⊿゚)ξ 「わかった。ありがとう」
元々、連日の戦闘でかなりの疲労が溜まっていいた。
眠ると決め、目を瞑ったとたんに意識に靄がかかってゆく。
傷口は未だじくじくと熱を持って痛みを主張するが、軟膏が効き始め眠りを妨げるほどでは無い。
ξ-⊿-)ξ (あ、ィシさんにお礼言ってなかった)
ξ-⊿-)ξ (ま、いっか。明日、どうせ、勧誘の、返事……)
白に包まれる視界。
巡らせていた思考をそっと手放して、ツンは飲まれるように眠りに就いた。
* * *
- 965 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:08:54 ID:hL3rXPjs0
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静寂であった。
天に上る月の光も、全てを拒絶するこの砦の中には届かない。
暗闇であるはずの砦の内部を照らすのは、小さな光球だった。
魔法で生み出された拳大の蛍火。
青白い光は、透明でありながらぼやけた印象を生み出して、部屋の中を照らし出している。
o川*゚ー゚)o 「……」
( ω )o゚ 「……」
砦を再生する際に作った隠し部屋。
入口は存在せず、魔法で作り出すか壁を壊さなければ中には入られない。
o川*゚ー゚)o 「……」
( ω )o゚ 「……」
壁には巨大な水槽が埋め込まれていた。
その中には、褐色の溶液と、四人の人間。
どれもが子供の未成熟な体に大人の頭を備えた、不格好な体型をしている。
- 966 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:11:14 ID:hL3rXPjs0
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o川*゚ー゚)o 「……」
( ω )o゚ 「……」
o川*゚ー゚)o 「……」
( ω )o゚ 「……」
o川*゚ー゚)o 「……」
( ω )o゚ 「……」
o川*゚ー゚)o 「……」
( ω )o゚ 「……っ」
o川*゚ー゚)o 「……おはよう」
( ω )o゚ 「……」
o川*゚ー゚)o 「……あなたは、だあれ?」
( ω )o゚ 「……吾……輩は……」
o川*゚ー゚)o 「……」
( ω )o゚ 「……吾、輩は」
- 967 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:12:24 ID:hL3rXPjs0
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( Фω )o゚ 「……吾輩は……杉浦ロマネスク……流れの……剣士である」
.
- 968 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:21:27 ID:eTpbhPoE0
- おぅ・・・ここでロマネスクとは・・・
キツイ展開の匂いがプンプンするな
- 969 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:21:51 ID:hL3rXPjs0
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おわりんぐ
主人公は次くらいにでてきます
主人公成分が足りないという方のために三分で作ったAAを張っておくので
次回までの足しにしておいてください
次は今月中に
Ξ/⌒ヽ 〜∞
( ^ω^)⊃
/ ⊃日
(_⌒)
Ξ/_ノ ー´ ※飲酒ブーンは法律で禁止されています
- 970 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:25:11 ID:pprdAyVk0
- おつ!!
ロマネスク気になるけどタカラが心配だわ
次も楽しみにしてるよ!
- 971 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:25:24 ID:eTpbhPoE0
- 乙でした!
そろそろ次スレが必要ですな
- 972 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:27:31 ID:tMG8Nxs60
- 乙
リアル初遭遇
最初からずっと見てました
頑張ってください
- 973 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 00:32:36 ID:6b0xhxGc0
- 乙 ちょっと前から読み始めてちょうど追いついたところでリアルタイム遭遇した
- 974 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 01:03:50 ID:oikDXXCo0
- 乙!
続き待ってる。
- 975 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 02:41:41 ID:PYWqjrBI0
- おつ
- 976 :名も無きAAのようです:2013/06/13(木) 02:54:16 ID:o58646hIO
- ロマネスクきたか…確かブーンが使う剣術が杉浦流…
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