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穂乃果「龍狩りだよっ!」Part18
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【SS】穂乃果「龍狩りだよっ!」
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【SS】穂乃果「龍狩りだよっ!」 Part2
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【SS】穂乃果「龍狩りだよっ!」 Part8
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【SS】穂乃果「龍狩りだよっ!」 Part8※(実質9)
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【SS】穂乃果「龍狩りだよっ!」 Part10
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穂乃果「龍狩りだよっ!」※(実質11)
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穂乃果「龍狩りだよっ!」 Part12
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穂乃果「龍狩りだよっ!」 Part13
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穂乃果「龍狩りだよっ!」 Part14
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穂乃果「龍狩りだよっ!」 Part15
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穂乃果「龍狩りだよっ!」 Part16
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穂乃果「龍狩りだよっ!」Part17
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…
大廊下の果て、玉座へと続く大扉へと穂乃果が両腕を掛ける。
威厳溢れる外見相応に重みのある扉だ。息を吐きながらゆっくりと引き開ける。
中へ。
絵里「穂乃果、無警戒に入ると危ないわよ?」
穂乃果「大丈夫だよ絵里ちゃん。不意打ちとかはされないと思う。自分の半分だしね!」
海未「油断は禁物ですよ」
二人から窘められるが、穂乃果はあくまで落ち着いている。
自室かというほどにためらいなく部屋へと踏み込み、穂乃果はぐるりと視線を巡らせる。
穂乃果「ん?真っ暗だ…」
かさね「何も見えないね。やっぱり何かの罠かな?」
希「うーん、そういう雰囲気とはちゃうけど…」
少しずつ六人の目が慣れ、やがて部屋の全容が目に明らかになる。
何故視界が効かないのか、それは壁や床の全てが黒に染まっているからだ。
この空中要塞における謁見の間であるにも関わらず、まともな装飾や調度品の一切が置かれていない。加えて窓もない。
爪先で床を擦れば、ザリ…とざらついた感覚。
この黒は塗装ではなく、建材の色でもない。炎熱に煤けているのだ。
ツバサ「気を付けて」
穂乃果「わっ…?」
ツバサが警句を発すると同時、部屋の両脇に列された燭台に火が灯る。
誰が灯した様子でもなく、少し驚かされる。
電気のそれとは異なる、不定にゆらめく不明瞭な光源。
照らし出された一室は暗い穴倉の中のようで、一行の緊張を嫌が応にも煽る。
炎熱の主は部屋の最奥に。
焦げた玉座に座して笑み、頬杖は不敵。
片腕を差し伸べて綽々、六人を迎えるのは龍皇アークトゥルス。
龍皇≪ようこそ、龍皇の間へ。穂乃果≫
穂乃果「うん、来たよ…私」
-
挨拶を交わし…
二人の穂乃果が互いを見据える。
魔術師としての魔力を高めてくれるローブを纏った穂乃果に対し、龍皇は黒を基調とした重々しい印象の衣服で身を包んでいる。
それは穂乃果が自分ではまず選ばない種類の衣服で、外見はそっくりそのまま穂乃果と同じにも関わらず、明確に別の存在なのだと海未たちは改めて理解させられる。
服装を除けば、外見的な差異は左腕の義手の有無、龍皇の両腕は健在だという点のみ。
だが見間違える心配はない。両者が醸す雰囲気、魔力はまるで別種のもの。
龍皇のマナは暗く重苦しく、反して穂乃果の発する魔力は曙光めいて暖かく朗らかだ。
龍皇が呼吸に胸を上下させるたび、威圧的なプレッシャーが海未や絵里たちへと波のように襲いかかる。
鳩尾を秒ごと、緩やかにボディブローで叩かれるような悪寒。
負荷を掛けてくるのは炎熱だけではない。龍皇が放ち、部屋に滞留する高密度のマナもまた人体には害。
チープな言い方をするならばスリップダメージ。体力をゆっくりと、しかし永続で削られ続けているような、そんな感覚だ。
龍皇≪ふふ、この部屋に入って来られるだけで凄いよ。半分はそれぞれの実力と、もう半分は絵里ちゃんのおかげかな≫
絵里「この場に選ばれたことを心から嬉しく思うわ。この氷の力でみんなを守り抜いてみせる。私の中のランスロットもそれを望んでいるから」
龍皇≪まつろわぬ龍、耀龍ランスロット。運命がどう転んでも私に楯突いてくる忌々しいやつ。いいスパイスだけどね≫
希「おーっと、エリチにだけ負担は掛けさせんよ。ウチだってこの場に立てるだけの力を手に入れたつもり。運命の傍観者でいるのはもうおしまいや!」
龍皇≪穂乃果の仲間たちの中で一番最初に私の存在に勘付いたのは希ちゃんだったっけ。その勘の良さとラッキーも今日限りだよ≫
希(ううっ、めっちゃ脅してくるんやけど…)
絵里「安心してね、希。絶対に私が守るから…」
希「エリチ…」
海未「は、破廉恥な雰囲気を醸すのはやめてください!敵前ですよ!」
-
絵里の冷気に全員が護られていることで難を逃れてこそいるが、龍皇の体からは常に高熱が発されている。
それは部屋の全体が焼き焦がすほどの熱で、意識してしまえば呼吸さえ息苦しい。
と、
ツバサ「ま、とりあえず食らいなさい」ズドン!
海未「ズドン…?」
かさね「ば、爆破した!?」
希「は、はあ〜!?この子ひどっ!いきなり爆破って!しかも顔面!」
ツバサが指を弾き鳴らすと同時、アークトゥルスの顔面に爆華が咲いている!
手櫛で髪を梳いて平然、爆破の残響に目を細め…
龍皇は素手でそれを受けていた。顔面に傷はなく、手にも火傷の跡はなし。
けれど衝撃に痺れはしたようで、顔をしかめて掌をひらひらと振っている。
龍皇≪流石ツバサさん。容赦ないなぁ≫
ツバサ「あらら、余裕綽々って感じ?でもまあ、屈服させてあげるから覚悟なさい。可能なら生け捕りよ!」
かさね「ん、生け捕り?」
ツバサ「顔と体は穂乃果さん、顔と体は穂乃果さん…」
かさね「うっわ」
龍皇≪……まあ、ツバサさんはともかく。かさねちゃん、どう?念願の大舞台。ラスボス戦に立ち会える感想は≫
かさね「いやあ、まさにタナからモチ……なんちゃって。生憎だけど、今は斜に構えるのはやめとくよ。今度こそ、仲間を守るから!」
龍皇≪ふうん。殊勝だなぁ≫
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一人一人、敵対者の顔を確かめるように話しかけていくアークトゥルス。
穂乃果と分離して一月以上が経つというのに、細々とした仕草や表情の作り方は未だに生き写し…というより穂乃果そのもの。
高坂穂乃果の姿が気に入った、そう言っていたのはきっと本音なのだろう。
禍々しく膨れ上がった魔力で判別は付くが、逆に言えばそれ以外で見分けろと言われれば難しい。
それは長年の幼馴染、寝ても覚めても穂乃果を愛しみ追い続けてきた海未の目にも同じ。
海未「穂乃果が二人…頭では理解していても、やはり慣れる光景ではありませんね」
龍皇≪ねえ海未ちゃん。海未ちゃんはこの顔を斬れるのかな?≫
海未「少しやり辛いのは確かです。が、心配ご無用…両断して差し上げますよ」
龍皇≪いいね、その厨二っぽい目付き。それでこそ海未ちゃんだ≫
アークトゥルスが穂乃果の半身だというのなら、龍皇にとっても海未は長年の既知。
すらりと村正を抜いてみせた海未を目に、浮かべる笑みはどこか満足げだ。
龍皇の視線が一同を舐め、そして再び穂乃果へと戻る。
龍皇≪ねえ穂乃果、一緒に見てきたよね。この世界、人間の醜さを。
人を傷付ける野盗たち。人の命を弄ぶ闘技場。旅人を騙して死地へ追いやる海運王に、自分が助かるために大勢を殺す龍皇教団。他にもそんなのばっかり。
もちろん十二卿龍や魔物たちも悪意に満ちてる。必死になって守るほどの価値がこの世界にあるの?≫
アークトゥルスは問いかける。
その語調は底意地の悪い問いではなく、純然な疑問を抱いているような。
瞳には好戦の炎を宿しつつも、穿って見ればどこか厭世的な雰囲気を漂わせている…そんな気もする。
この龍に宿る破壊の意思は、穂乃果へと宿るずっと前から長い歳月を生きてきた中で、育ち培われ、ついに膨れ上がった世界への絶望なのかもしれない。
だとすれば、龍皇は単なる魔物ではない。天災の類でもない。
この世界が育んできた歪みそのものと言えるだろう。
そんな存在、宿してしまった自らの半身へ、穂乃果は一歩たりと退かずに杖を突きつける。
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穂乃果「この世界は間違ってるよ。だけどアークトゥルス、あなたはもっと間違ってる」
龍皇≪その言い回し、なんだか懐かしい。いつだっけ…かなり前にもそんなことを言った気がする。天秤に掛けた考え方は嫌いじゃないよ≫
穂乃果「悲しいことがたくさん起きる、辛い世界だと思うよ。
だけどこんな世界にも同じくらい幸せもたくさんあって、私が見た他のどんな世界もきっと同じ、幸せと悲しさの入り混じった灰色なんだよ」
龍皇の力で垣間見たパラレルワールド、無数に存在する世界線とこの世界を見比べて、それでもなお、今いるここは決して悪いものじゃないと穂乃果は考える。
善と悪、幸不幸の白黒が折り重なった灰色の中で、一生懸命もがき生きていくのが人生。そんなそれぞれの人生が無数に積み重なって形成されているのが世界で、それはとても尊くて、たった一つの強固な意志に無に帰されてしまっていいものではない。
穂乃果「酷い世界だから壊しちゃえなんてのは間違ってる。だから断言するよ、高坂穂乃果はあなたの存在を否定する!」
龍皇≪これ以上交わす言葉もなさそうかな。それじゃあ開戦と行こうか!!!≫
龍皇が叫ぶと同時、漆黒の部屋に翠緑の光が満ちる!
床や壁面に確と、エメラルドの輝きが筋走っているのだ。
それは視界を確保してくれるほどの光量ではないが薄暗がりの中に存在感を示し、そして龍皇の座す椅子へ!
海未「あれは、魔術都市で見た」
かさね「メインコアの光だよ!龍皇、メインコアの力まで自分に足すつもりなんだ!」
ツバサ「させるか…!」
龍皇≪もう遅い。力は満ちたよ!!≫
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黒衣の穂乃果が両手を掲げ、ただそれだけで室温が異常上昇!
堅固な素材で築かれているはずの謁見の間、その全体が紅蓮に赤熱して溶け落ちていく!
たちまちのうちに足場は溶解、例えるなら石鍋でぐらぐらと煮える激辛の麻婆豆腐めいた状態へ!
穂乃果「こ、これ!ヤバいよっ!?」
絵里≪安心して!足場は確保するわ!≫
龍皇の魔力が高まる一瞬、絵里は既にランスロットの力を発動させている。
氷鎧に爪角、尾と翼、海未たちを散々苦しめた亜龍体への変貌!
聖槍アルタキエラの刀身は氷刃に補強されていて、大矛と化したそれを水平に構え、素早くチャントを諳んじる。
絵里≪波濤天星……『聖零の世界(ラグナレイ)』≫
それは氷結のマナが世界を覆う空間魔術!
西の街では疫龍を落とし、コイズミの里を蹂躙し、魔術都市でも猛威を振るった絵里の十八番。
大都市の一角を凍らせ機能停止させることさえ可能なその魔力を放って、しかし凍らせて確保できたのは六人の周囲の足場だけ。
耀龍ランスロットと絵里の魔力をしても、アークトゥルスの力は比較対象にならないほどに強大なのだ。
しかし絵里は慌てていない、おおよその戦力差は事前に把握済み。
ならば今はできるだけのことを成すまで!
-
絵里≪『氷牙絶哮』!!≫
アルタキエラの鋒から放たれる猛吹雪のブレス!
蒼白の光が龍皇めがけて床を薙ぎ、ブレスは炎熱に無効化されるが一筋の足場が形成されている。
すかさずそこを駆ける二人、足取りに迷いはなし!
海未「貴女と並び立つのは些か不本意ですが…」
ツバサ「あら、二刀流。じゃあ二人合わせて四本。戦力四倍ね!」
海未「ああもう、この方は賢いのか馬鹿なのか…!」
菊一文字と村正、七星剣と天羽々斬。
性格はまるで違えど、二人の剣士は共に間違いなく天才。
喉首、脇腹、肩口、大腿。
無駄なく洗練された動きで四の剣閃が放たれる。
ずるりと!アークトゥルスは溶解した玉座の足元から一本の宝剣を抜き取って握る。
燃え溶ける石床の残滓を滴らせながらも、その剣は形状と存在感、そして斬れ味を保っている。
龍皇≪だあっ!!!≫
海未「なッッ…!?」
ツバサ「うっそ!?」
龍皇は下から上への振り上げ、ただの一振りで四本の剣を同時に打ち払ってみせた。
閃斬、交差の刹那、これしかないというタイミング。
海未とツバサでさえ目を疑う見切りを可能としたのはその片目、幽とゆらめく『焔眼』だ。
海未「っ、厄介な…一筋縄ではいきませんね」
龍皇≪デュランダル。いい剣でしょ?私の魔力を帯びても折れない剣ってのはけっこう珍しいんだよ。
元々使ってた剣は昔に熾天使に掠め取られたっきり、結局見つからなかったけど…≫
ツバサ「ふうん。お喋りしてると舌を噛むわよ!!」
-
海未とツバサが仕掛けていく剣舞を、龍皇は一本の剣で見事に捌ききっている。
『焔眼』はマナの流動を見切り、悪意を看破し、動体視力を遥か高みへと昇らせる龍皇の力。
だがその力は半分に分けられている。穂乃果もまた片目に焔を灯し、龍皇の姿を見据えている。
穂乃果は杖を背に、魔術ではなく前へと駆け出した!
龍皇≪へえ、魔術師が近接?いい度胸だね!≫
穂乃果(近付いて…)
前へ、前へ、懸命に駆ける穂乃果。
その速度が突然加速する!!
龍皇≪…!?≫
穂乃果「近付いて、振りかぶって…!」
踵に炎を燃やし、アフターバーナーめいて加速している。
それはわかる、だがそれ以上の加速だ。龍皇の反応がわずかに遅れ、応じようと身を捻る一瞬、視界に入ったのはしてやったりと笑む希の顔だ。
希「穂乃果ちゃんに貼っつけたのは『式符・昇!』まんべんなく能力を高めてくれる、とびっきりの高級符や!」
穂乃果「まずは思いっきりぶん殴る!!!」
義手の鉄腕を大きく振りかぶり、一直線に突き出すつもりでいる!
海未とツバサを払いのけ、間一髪、カウンターのタイミングで宝剣デュランダルを横薙ぎに…!
響き渡る射撃音!!!
龍皇≪剣の軌道が…対物ライフル!!?≫
かさね「まずは一発、やっちゃえ穂乃果!」
穂乃果「だあああああっ!!!!!」
龍皇≪がッ!ふ!!≫
ついに拳は振り抜かれた!!
重々しい打擲音を残し、龍皇の体がふわりと宙を浮く。そしてそのまま勢いよく後方の壁へ!
穂乃果「よしっ!!!」
-
来たか!
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無論、戦局を左右する一撃などではない。
大地を砕く鉄腕での殴打。だが相手は龍皇、この程度で大怪我を負ってくれる相手ではない。
ただ、間違いなく戦えるという自信を得られた。
六人の力を合わせてねじ込んだ一撃。自分たちの牙は破壊の権化、龍皇アークトゥルスに間違いなく届きえるのだと!
そして龍皇は立ち上がる。
少し面白げに頬をさすり、穂乃果を見つめ、そして右手に黒い炎を灯してみせる。
龍皇≪……この黒い炎、これは万物を焼き尽くす、いわば『破壊の炎』なんだ≫
穂乃果「ううん、悪そうなマナ…」
と、次は左手に白い炎を。
その炎に最も馴染み深いのはかさね。目を凝らし、そして龍皇を睨みつける。
かさね「私の恩師の、山田先生の炎だよね」
龍皇≪ご名答。魔術都市の空で熾天使の力を取り込ませてもらったんだ。
この炎、前は心を砕く効果があったみたいだけど、私が取り込んだら性質が少し変わってね≫
そういうと龍皇は白炎を床に投げる。
炎はゆらぎ、うねり…やがて動かなくなる。固形化しているのだと絵里は理解する。
絵里「固まる炎…?」
龍皇≪少しニュアンスが違うかな。これはいわば『創生の炎』。熾天使の力を得た私は、破壊だけでなく創造も可能になったって…わけ!!≫
-
業火!!!
龍皇が両手を広げ、放たれた灼熱が溶解した一室をさらに溶かしていく。
目も眩むほどの灼熱に、部屋がドロドロに溶け落ちて、空。
上空に突き抜けるほどの青空が現れる。
絵里が氷の力を全開にすることで六人を守っていた。
壁床が溶けて失せ、一同の前に現れたのはゼニスフロントの最上層部のその姿。
空中要塞の屋根に当たる部分に建造されたその光景を目に、全員が絶句し、まともな言葉を発せずにいた。
希「な、なんやこれ、こんな広い場所…いやそれより!」
絵里「ここは、一体…?どうして見覚えが…」
かさね「ふーん、なるほど…」
ツバサ「何もかもがまるで別世界。だけどこれは」
海未「どうしてでしょう。初めて見る場所なのに、何故だか…とても馴染み深いような」
面前には広がっていたのはゼニスフロントの規模とはまるで見合わない広大な空間。
龍皇の強大なマナはきっと空間さえを歪めているのだろう。
元の何倍だろうと数えるのが馬鹿らしいほどに空間が拡張されている。
空があり、海があり、天を衝く摩天楼が立ち並び、縦横無尽に線路が敷き詰められていて…
一度も見たことはないのに、不思議と馴染みのある景色。
かさねと穂乃果は知っている。数々のパラレルワールドを知る二人は、面前の都市の名前を知っている。
穂乃果「あれって、音ノ木坂!?なんで、どうして東京がここに!!」
龍皇≪私が創造したんだよ。この創生の炎で≫
穂乃果「造った!?これを、ゼロから…!?」
白炎を掲げ、龍皇は六人を睥睨し、そして高らかに宣言する。
龍皇≪私たちの決着にこれほど相応しい場所もない。そしてここが新たな世界。“炎世東京”!!!≫
穂乃果「えんぜ、東京…」
二人のマナが煌々と燃える。
それは太陽のように光を放ち、東京の街を烈しく照らす。
激闘が始まる。
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今日はここで切るよ
火曜か水曜に続き更新できると思う
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なんかここまでくると本当に乙って感じだ
楽しみにしてる
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乙
ドラゴン、最終決戦、東京に転移
ぐぉ!あ、頭が!!
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>>16 最後がスクフェスになるわけか
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戦闘機にやられる展開は西木野王が犠牲になってくれたから…
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乙です
ツバサが下心出しまくってて草
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全員廚二
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>>4
(^8^)デーデーッデーッ
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>>21
ことりさん!出番終わってますよ!
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>>21
ことりさん!出番終わってますよ!
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>>17
ワロタ
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同じエンディングになるのだけは避けたい
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ちょっと帰宅遅くなったから更新は明日にするよ
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待っとくから
今日は風呂入って暖かいお布団の中でいい夢見な
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楽しみにしてる
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今は龍皇の面前、戦いの最中。
それを忘れてしまうほどの衝撃と驚愕に、海未は大きく息を飲んだ。
海未「王都や西の街、それに魔術都市ともまるで異なる景色…一体どこなのですか、これは」
絵里「技術体系そのものが別って感じね。なんだか、理解が追いつかない…」
先端の技術水準を誇る魔術都市には高層ビルのような建物が数多く存在した。高速道路もあった。
だが何より海未たちを困惑させるのは、彼女らの世界を礎として支えるマナ技術の姿がまるで見えない街並みだ。
六人が今いるのは、謁見の間が焼けて溶け落ちた跡、東京を見下ろす高台。
眼前に広がる東京の光景全てが異質を訴えていて、その動揺は宙空へと躍り上った龍皇への反応を遅らせる!
龍皇≪驚いたまま死ね。『火龍哮(ほのファイア)』!!≫
海未「っ、しまった!警戒を怠って…ブレスが来ます!」
希「あ、そこのネーミングは穂乃果ちゃんスタイルのままなんやね」
穂乃果「みんな!飛び降りようっ!」
-
六人は続けて跳躍。直後、高台を溶解させる龍皇の炎。
膨れ上がった火球は東京の街へとダイブしていく面々の上空を赤く焦がし、追って直落してくるアークトゥルス。
その背には赫赫と燃え盛る炎の翼が顕じている。生物的な翼ではなく、空気を伝い燃焼する炎翼。そのゆらめく外見はさながらオーロラめいている!
希「うっわ、飛べるんや…穂乃果ちゃんはあれできんの?」
穂乃果「やってみる!はーっ!翼出ろ!翼ぁ!!」
かさね「……出せないっぽいね。下位互換か…」
穂乃果「くうっ…!」
ツバサ(翼、翼…穂乃果さんから呼び捨てにされたみたいでドキドキするわね)
高高度から落ちながらのやり取り、当然ながら黙ってそれを見ていてくれる龍皇ではない。
六人全員を射程に収め、龍皇は口中に炎を溜める。
龍皇≪もう一発…『火龍哮』!!!≫
穂乃果「させない!」
すうう…と大きく息を吸い、肺で空気をマナと練り合わせる。
胸の中に高熱が生じる感覚、異物感に促されるままに、腹の底までの空気を思い切り吐き出す!
穂乃果「『火龍哮(ほのファイア)』ッッ!!!うげええっ!!?」
かさね「ぎゃあっ!ちょっと掛かったよ!?」
-
降る劫火、迎え撃つ猛火!
同質のマナから生み出された二つの火球は混ざり合い、灼熱の乱流が東京の空を焦がす。
落下しながら吐き出すという慣れない行動は穂乃果の三半規管をぐらぐらと揺らし、我慢できずに炎とゲロを盛大にぶちまける。その飛沫に顔をしかめるかさね。
ともあれ、辛うじて相殺に成功。だが間髪入れずもう一射!
龍皇≪これはどうかな?『火龍刃(ほのバーナー)』!!≫
海未「次が来ます!穂乃果、今のをもう一発!」
穂乃果「げふっ、連発はちょっと無理…」
かさね「仕方ない、私がやるよ!」
翼があるのは龍皇だけではない、かさねもその背に堕天使の黒翼を有している。
落ちて行く五人を尻目に空中でブレーキを掛け、迫る鋭炎へ毅然と立ち向かう。
発動するのは『歪曲(ディストーション)』、聖力を応用して繰り出すかさねの十八番技だ。
車のハンドルを切り回すように両腕を交差させ、力場をかき混ぜて空間を捻じ曲げる。
細く鋭く、直線軌道で迫る龍皇のブレスを捉えて遠方へと受け流す!
超圧縮された炎線は穂乃果たちから軌道を逸れ、一直線に東京湾アクアライン、そして人工島を真っ二つに線断する。
炎の通過から数秒遅れ、海が水蒸気爆発を!海上パーキングエリアから盛大な爆炎が上がる!
穂乃果「うっ!海ほたるが吹っ飛んだぁ!?」
希「め、めちゃくちゃや!ナリは穂乃果ちゃんやけど、完全に怪獣やん…」
絵里「着地よ、みんな気を付けて!」
-
警句と同時、絵里は操氷の魔力を地上へと放つ。
薄氷と細雪が幾重もの層を形成、穂乃果たちの落下を柔らかく減速させるべくクッションを形成する。
最後の一層は希の影が幕を張り、柔軟かつ柔和に一行をキャッチ。全員が無傷での着地に成功する。
絵里「流石ね、希!」
希「エリチこそ!みんな無事やね?」
海未「見事なコンビネーションでした!しかし、ここは…?」
穂乃果「ここ、渋谷のスクランブル交差点だ!」
聳える巨大建造物、見下ろしてくる巨大なモニターに、カラフルかつ多種多様な広告群。映し出されるファッションモデルが纏う衣服は奇抜で美麗で、穂乃果たちのローブや鎧姿とはあまりにも別種。
それら全てが目新しく驚くべき物だったが、それよりも何よりも穂乃果たちを当惑させるのは周囲の目、目、目。
浴びせられる無数の視線!
穂乃果「ひ、人がいる!?」
海未「こ、ここは龍皇が造った街で、そこに人がいて…では彼らは敵でしょうか!?」
ツバサ「……いいえ、敵意はなさそうね。いきなり現れた私たちにビックリしてる?けど、それにしても様子が変…」
と、ツバサが言葉を言い終えないタイミング。
交差点を取り巻く群衆たちから黄色い歓声が上がる!
「きゃああああっ!!!」「ツバサさんよ!?」「絵里様!!」「穂乃果ちゃ〜ん!!」
これには百戦錬磨、冷静なツバサも思わずたじろぐ!!
-
ツバサ「ど、どういう状況なのかしら。敵意でも好奇でもない、まるで私たちのことを知っているような…」
穂乃果「悪い気はしないけどね、えへへ」
龍皇≪ご満悦かな?≫
炎翼の煌めきを蕩揺させ、交差点の中央へと降り立つアークトゥルス。
直後、踵に着火し爆速で穂乃果へと迫る。閃く宝剣デュランダル、かさねが大鎌でそれを受ける。
振り上げた勢いで一振りを払い、しかし龍皇はすかさず刃を返して二撃目へ移行…海未が肘を蹴り飛ばしてそれを防いだ。
単なる蹴りではない。抜け目なく靴先の仕込み刃を突出させている。
龍皇≪へえ…≫
海未(刺さった手応えはありました。この程度の傷はすぐに癒えてしまうようですが…一時の隙を生むには上々!)
人型である以上、関節を損傷させれば必然的に動きが止まる。
見逃さず、刃を寝かせ、体重を乗せた平突きを放つ!
海未「ぜッッ!」
龍皇≪おっと、やるじゃない…かっ!!!≫
海未「ぐうっ!?」
がぱりと口を開ける龍皇、小規模なブレスが海未を叩く。
とっさに発動させた打ち消しの魔力で炎熱は遮断するも、ブレスの勢いに数メートルの距離を吹き飛ばされる。
希「海未ちゃんっ!」
海未「平気です!龍皇から目を逸らさずに!」
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だが、龍皇は仕掛けてこない。
伸びをして一呼吸、両手をゆるりと開き、穂乃果の顔に似合わないニヒルな嘲笑を浮かべる。
龍皇≪こうして鎌に刃にと振り回して立ち回り、観衆は驚いた様子もなし。ここが現代日本ならありえない≫
穂乃果「ほんとだ、歓声を上げてる人ばっかり!」
龍皇≪全部が全部作り物。せっかくだからね、オーディエンスを用意してあげたんだ。吹っ飛ばそうがなんだろうが、気にせずどうぞ≫
かさね「穂乃果、さっき上空から見ててわかったけど、この東京かなり地形が適当だよ。有名なランドマークを近距離にごちゃっと詰め込みましたみたいな」
穂乃果「むむ、かさねちゃんよく東京の景色を覚えてるね。私は秋葉らへん以外は適当にしか覚えてないなー」
かさね「その大雑把さに龍皇も引っ張られたのかな…」
龍皇≪さあ、休憩終わりっ!!≫
龍皇は思いきりよく大上段、陽光に煌めくデュランダル。
両刃の片手剣へと龍皇の炎が収束し、“これはまずい”と本能的に察知、左右に分かれる六人。
直後、振り下ろされる炎剣の一撃。
龍皇≪『龍炎斬(ほのバースト)』!≫
アスファルトへと叩きつけられた刃を着火点に、道路を噛み砕いて炸裂する龍炎!
回避したパーティーのちょうど真ん中を引き裂き、通過した熱波は距離を進むごとに火勢を増していく。
道路両端のビルを削り、109と書かれたファッションビルを飲み込み、豪快に焼き尽くす!!
-
穂乃果「今度はマルキューが!?人もたくさん巻き込まれてるよ!」
絵里「巻き込まれて倒れた方々、血を流したりはせずに炎になって消えてるわね。どうやら人じゃないのは確かみたい。この状況でも怯える様子もないようだし…」
海未「それでもやはり、戦闘に巻き込んでしまうのは気になります。一体どうして私たちに喝采を…?」
かさね「人を作って神気取り?」
龍皇≪気にしてる暇はないよ、そろそろギアを上げてくから≫
ビルの炎上、倒壊に大量の粉塵が一帯を包む。
細々としたガラス片や黒煙混じり、目に染みる塵芥が交差点を灰色に染め、アークトゥルスはその只中で酷薄に笑む。
龍皇≪“龍皇”。この名の意味がわかるかな?あまねく龍種を統べる王。十二卿龍さえ我が足元にさえ及ばず≫
希「……みんな、気ぃ付けて。龍皇の周りにすっごい不吉なマナが集まってるよ」
龍皇≪十二卿龍は不滅の存在。敗死すればその魂は再生の時を待ち、虚空を彷徨い続ける。その魂に私が呼びかければ…≫
ツバサ(空気が澱んで、殺意を帯びていく?いや違う、これは)
龍皇≪我が身に宿れ、万死招く砂塵の大魔。『塵龍パロミデス』≫
舞う粉塵にアークトゥルスのマナが最大効率で伝播、結晶し粒子を成し、塵の全てが龍皇の意識下に収まっている。
それは砂漠であんじゅの部隊を壊滅させた蹂躙の力。龍皇は穂乃果の顔で口元を歪め、邪笑に片腕を振るう。
龍皇≪喰い荒らせ。『暴塵(デスペラード)』≫
-
ツバサ「全員!物陰に隠れて!!」
固まり粒状になった粉塵に悪意をたっぷりと混ぜ、塵龍のブレスが大口径のショットガンめいて放たれた。
ビル群とアスファルトが蜂の巣に、標識や看板の数々が暴威に薙ぎ倒される。首都高速が撃ち崩されて崩落し、舞い上がる粉塵がさらなる散弾と化して威力が増していく。
それは明確な害意を宿した天災。
人も車もミキサーにかけられたように噛み砕かれて、穂乃果やかさねの見知った東京の街並みが惨憺の戦場へと急変していく!
穂乃果たちは百貨店の影を駆け抜け、駆けて駆け、すぐ背後で食い破られていく建物に慄然と顔を見合わせる。
海未「ーーッ!なんという威力です!」
希「アカンアカン!あんな大きなビルでも盾になってないやん!」
海未「あの塵嵐も魔力を礎とする技ですよね?それなら青の魔力、打ち消しの力で!」
ツバサ「無理ね、あれは大別すればテレキネシスに近い。魔力を打ち消したところで、慣性でそのままぶつかってくるから大怪我は免れないわ」
海未「くっ、確かに悪手ですね…」
かさね「『歪曲』で、防げるレベルでもないなぁ…」
穂乃果「こ、このまままっすぐ行くと隠れにくい大通りに出ちゃうよ!」
絵里「構わないわ!そのまま直進!」
六人の足取りは並木道へ、目に美しい緑の木々も破壊から身を守る盾には不向き。
追う龍皇は炎翼を仄めかせ、小刻みにブーストを吹かすような挙動で追走を掛けてきている。
-
龍皇≪逃げ道を間違えたか?そのまま削れてしまえ!!≫
猛る塵弾の嵐!
が、絵里は動じていない。
一行の後尾で立ち止まって振り向き、アイスブルーの瞳に怜悧を宿し、颯とチャントを諳んじる。
絵里「封気、連なる淵底。茉莉花の王に永遠なる安寧と祝福を。『白晶宮(シェルミット)』」
とん、と靴先を鳴らす絵里。呼応、見る間に聳える氷の城郭!!
その規模は四車線と歩道を隙間なく埋め、両サイドに立ち並ぶビル群よりも高く厚い。
龍皇の『暴塵』が氷城の向かいを削り食い込むが、しかし堅牢な護壁はその通過を許さない。
且つ、『白晶宮』は周囲の水分を取り込み上へ横へ、半永久的にその規模を増大させていく!
絵里「これは魔術で一番の足止め特化。龍皇は飛べるけど、少しは時間を稼げるはずよ。今のうちに距離を離しましょう!」
希「ヒュー!さっすがエリチや!」
海未「こうして普通に肩を並べていますが、やはり四騎士とは凄いものなのですね…!」
穂乃果(わぁ、目がキラキラしてる。海未ちゃん肩書き系好きだもんなぁ)
ツバサ「ねえ、私も四騎士よ。ほらほら、敬意を持って接しなさい」
海未「貴女は…まあ、別に」
かさね「仲良いね」
少し余裕を取り戻したからこその軽口の応酬。
塵弾が氷を削る音は止んでいて、上を越えるか迂回するかを選択したのだろうと窺える。
ふと、惹かれるように横へと目を向ける穂乃果。
穂乃果「ん…?」
-
逃走の道すがら、ごく短い英語が穂乃果の目に止まる。
それは一枚の告知ポスター。穂乃果がよく知っている、しかし今の穂乃果にはまるで実感のないフレーズ。
体感した並行世界の多くで目にした言葉。
穂乃果「“Love Live”…」
決死の逃げ道の最中にも関わらず、その文字列は穂乃果の心に訓示めいた熱を残す。
そこに隙が生まれていた。
氷壁を飛び越えた龍皇が遥か上空、狙いをロクに定めないままに放った塵弾が穂乃果の脇腹を抉る!
海未「穂乃果っ!?」
穂乃果「っぐ…大丈夫!」
炎の魔力はそれほど治癒に向かないが、穂乃果ほどの魔力があれば自己治癒くらいは十分に可能だ。
『癒しの炎』で傷口を塞ぎ、心配げな仲間たちに親指を立ててみせる。
かさね「エクスヒールいる?」
穂乃果「ううん、大丈夫そう。ありがと!」
かさね「気を取られたら危ないよ、今のはまぐれ当たりっぽいけど」
穂乃果「いやーごめんごめん。あれ…」
かさね「あれ…って、ラブライブ?どうしたの、不思議そうな顔して。私よりキミの方がよく知ってるはずでしょ。スクールアイドルの祭典!」
穂乃果「アイドル…スクールアイドルかぁ。そうだよね、うん!」
かさね「…?」
海未「二人とも急いで!龍皇が来るまでもう時間がありません!」
海未に呼びかけられ、二人は再び前へと進む。
果てのない逃走…
結局この道にゴールはなく、当然ながらどこかで龍皇を迎え撃つ必要がある。
見出すべきは勝機、ひたすらにタチの悪い塵龍パロミデスの大破壊の隙。
-
ツバサ「結局のとこ、アレは範囲と規模が問題なのよ」
絵里「同じサイズで迎撃する必要があるようね」
最初に気持ちを落ち着けたのは、やはり経験豊富な四騎士の二人だ。
ツバサと絵里は手短に会話を交わし、それで素早く互いの役割を理解する。
ふとツバサが顔を上げ、前方にある目立つ鉄塔を指差して尋ねる。
ツバサ「ねえ、アレは何?」
かさね「あれはスカイツリー。電波塔だよ」
ツバサ「……メイスってとこね。それよりは…赤い方の名前は?」
かさね「そっちは東京タワー。実際よりやたら立地が近いけど…」
ツバサ「ふぅん。絵里、いける?」
絵里「ええ、もちろん。お誂え向きね」
希「む、むむ…そこで阿吽の呼吸感を出されるとちょっと嫉妬したくなるわぁ…」
-
龍皇≪…おっと、妙だ≫
粉塵を束ねて周囲に纏い、高空から悠然と降りつつ、龍皇は洞察に長けた焔眼を怪訝に細める。
穂乃果、海未、かさねの三人がそれぞれに武器を構えて待ち構えている。が、それだけではない。
龍皇(東條希も隠れてるね、『式符・消』だったか。それにペタペタと満遍なく張り巡らされたマナの反応、なにかしらの式符で罠を張っているようだが)
龍皇(それに絢瀬絵里と綺羅ツバサの姿もない。遠いな、マナが離れて行くのが見える…)
何の策かは知らないが、分断されてくれたのなら好都合。
どちらを先に潰すべきか、龍皇は逡巡を巡らせ、独白に思考を練る。
そんな龍皇の口調は穂乃果の模倣から離れつつある。
傾向が現れたのは塵龍の力を行使し始めた辺りからで、それはパロミデスの影響というよりは当人の問題。
十二卿龍たちを統べる破壊の権化としての本性を、よりはっきりとした形で取り戻しつつあるのだ。
感性の鋭い希は、その変化を鋭敏に感じ取っている。
穂乃果の人格に影響を受けた温かみの残滓、それは戦いの中で一分一秒ごとに失われていっていて、それがゼロになる瞬間が真の覚醒な時なのかもしれない。
希「早めに終わらせんと…」
龍皇≪それが可能だとでも?≫
希「!?」
-
『式符・消』で姿を眩まし、穂乃果たちから少し離れた街路樹の影、虎視眈々と不意打ちを狙う希。
しかし隠匿術は看破され、真後ろに龍皇が立っている。
塵風が渦を巻き、希を殺害するべくその破壊力を…!
龍皇≪…、攻撃が勝手に別の方向に?そうか、これは≫
希「それは『式符・囮』の効果や。意図に関わらず、敵対者の攻撃は全て『囮』の札へと向かうんよ。ついでにオマケや、『乱黒刃(ジーラ)』!!」
希は自身の周囲に黒影の刃を張り巡らせていた。
蜘蛛の巣めいて拡がった影がぬらりと立ち上がり、四方八方から覆い囲むように龍皇へと殺到する!
だが龍皇はそれを物ともしない。魔力の波動で影を跳ね除け、塵弾を渦巻かせて一帯を破壊にかかる。
龍皇≪囮の式符ね、確かに厄介だよ。だが視界全てを損壊させれば何ら問題はない!!≫
希「うっぐ、やっぱメチャクチャや…!」
穂乃果「希ちゃんこっち!」
かさね「だったら遠距離から削ってやる!」
海未「行きますよ!ラブアロッッ!!」
穂乃果が『鴉火』を、海未が矢でかさねはライフル。プラス後退した希が『式符・炸』を投げつけて隙を狙う。
だがそれも無駄!アークトゥルスの暴虐の魔力は全てを掻き散らしてしまう!
-
穂乃果「〜っ、何あれ!ズルいよ!デタラメじゃん!」
海未「あんじゅの部隊を潰した龍、元々の実力も凄まじい物だったのでしょう。
ですがそれ以上に、あの大雑把な戦闘法とアークトゥルスの豊富なマナは相性が良すぎる!」
希「モノマネの癖にご本人様より上手いのはアカンやろ!!」
かさね「言ってる場合じゃないって!!」
龍皇≪ははは!気分が良い!このまま圧殺して、……?≫
轟く爆音、金属の軋み。
東京全域に聞こえ渡るのではないかと思わせる大音響が穂乃果たちの耳を捉え、それはもちろん龍皇にも同様。
意のままに暴乱させていた塵嵐を留め、警戒に耳目を傾けている。
異変は誰の目にも即座に明らかだった。
333メートルの巨塔、東京タワーが赤から青へと染め変えられ、傾き、こちらへ迫ってきている。
上空、現れたのは亜龍態の絵里。
その手に提げているのは聖槍アルタキエラではなく、蒼氷に覆われ凍てついた東京タワー!!
絵里とツバサは穂乃果たちと離れ、東京タワーへと一直線に向かっていた。
スカイツリーと迷ったが、タワーを選択したのはより槍に近い形状だから。
巨身の龍態へと変じて咆哮に鉄塔を凍らせ、ツバサが発破の術式で根元をへし折る。
あとは絵里の膂力任せ、耀龍ランスロットの魔力で腕力を強引に高め、氷で両腕を強靭な龍腕へと補強している。
両腕と鉄塔を凍着させてグリップし、自身の体長と比較にもならない巨塔を天高く捧げ持っている!
-
絵里≪待たせたわね、みんな。これで龍皇を叩きのめす!≫
龍皇≪なかなか面白い真似をする≫
応じ、龍皇は再びデュランダルへと炎を纏わせる。
ただし先よりも圧倒的に強くマナを注ぎ、作り出すのは極大の炎剣。一度目の『龍炎斬(ほのバースト)』の比ではない!
龍皇≪来なよ!!ランスロット!!≫
絵里≪串刺しにしてあげる。東京タワーの先端で!!≫
炎剣と氷槍、ただし直径は百メートルオーバー。
そんな恐るべき規模の打ち合いが都市の直上で繰り広げられる!
かさね「と、特撮じゃないんだからさ…」
かさねの呆れも無理はない。
刃同士がぶつかり合うキン、キンという音とはまるで別種。ゴ、ズド、グシャリという重音が空から降ってくるのだ。振動と破片と共に。
中継ヘリが飛んでいる。
一機ではなく複数、この“炎世東京”にもテレビ局は各局機能しているらしい。
穂乃果たちが佇む街頭、目に留まったビジョンには絵里の横顔が映し出されている。
群衆たちの中にはワンセグで映像を見ている者もいて、スマートフォンの画面には掌大の絵里、そして龍皇の戦姿が投影されている。戦いが中継されているのだ。
恐怖を持たない人々から見れば、それはある種のショーに見えるのかもしれない。
かさねの口にした特撮という表現も、見る側の感覚からすればあながち誤りではないのかもしれない。
だがそれは絵里には関係のないこと。戦いは加速する!
-
絵里≪はああああああっ!!!≫
裂帛の気勢、全力の攻勢は絵里と龍皇を対等にさえ見せる。それは一時の昂りに過ぎないのだが、だからこそ全てを賭す!
打ち合いは数合続き、やがてタワーの氷が剥げ、デュランダルの火勢が弱まり始める。
龍皇(マナを注いで火を増すか?いや、隙が生じる)
絵里≪今っ!!≫
絵里の集中は龍皇が思考した間を見逃さない。
強靭に補強された龍腕、肩を大きく引き、まるでそれがピルムであるかのように東京タワーを投擲。
シャープかつ頑強に尖った切っ先が、凄まじい速度で龍皇へと飛ぶ。
それはまるで射出されたロケットを思わせる高速、まともな生物の反射神経では感知さえ叶わない決殺の一投!
龍皇≪狙いは良かったよ、私に“焔眼”さえ無ければね≫
神速の反射、龍皇は残火の灯るデュランダルの剣腹でタワーの切っ先を受けた。
斜めに逸らし、流し、それで回避は成功。
ツバサ「まだよ!!」
龍皇≪!?≫
絵里が投じたタワーの上、骨組みを足場にツバサが疾駆している!!
絵里がタワーを投じるその一瞬、希が『式符・影』を使い、ツバサを塔の上へとワープさせていたのだ。
そしてツバサは双剣を広げ、軽やかに楽しげに刃へとマナを走らせる。
-
ツバサ『天魔回刃』
その言葉をトリガーに、二剣に奔る魔力が刀身を延ばし、七星剣と天羽々斬が大刃へと変化する。
そのサイズはタワーの槍とは比するべくもない。だが、ツバサの魔力が変じた形状、それはさながら黄金の翼。
高空の風を裂き、速度を生み、瞬時に迫り、龍皇へと強斬を浴びせる!!
ツバサ「スーパー翼斬り…DX!!!」
ツバサと龍皇、双方に以前地下で戦った時の記憶が蘇る。
まるでその時の再現。斜め交差に斬り裂き、斬線が龍皇の胸にクロスを描く。
否、デラックスはその一歩先を行く。爆ぜる!!!
龍皇≪相変わらずダサ…っぐああっ!!!≫
穂乃果「やった!!入った!!」
海未「龍皇が吹き飛んでいきます!」
ツバサ「かなり飛んだわね…先に追うわ」
下にいる面々に一声を投げ、ツバサは落下していくタワーから跳躍する。
『天魔回刃』の翼を広げたまま、吹き飛んだ龍皇のところまで滑空していく。
千代田区方向へ、着地したのは水と緑に溢れる皇居そば。
実際の東京よりは随分と圧縮されたサイズだが、飛翔したツバサに他の五人が追いつくまでは少しの時間を要する距離。
堀よりは外側、木々が生い茂る中へと落ちた龍皇はツバサが迫るのを待ち構えていた。
絵里との交戦とツバサに吹き飛ばされたことで拵えた粉塵を失った龍皇は、塵龍の能力を継続して使うことを放棄する。
ツバサ「初見殺しよね、それ。粉塵を蓄えさせたら終わり。けど少ないうちは初動で潰してしまえばいい」
龍皇≪まあね、けど構わない。他の龍を使うだけだからね。『銀龍ラモラック』!!≫
-
アークトゥルスは穂乃果の顔で悪笑を浮かべ、黒衣を靡かせ地を叩く。
瞬間、草木に土の全てが硬質な銀の輝きに覆われていく。
ツバサ(対応は…保留。一旦距離を置いた方がいいわね)
そう判じ、ツバサは素早く後ずさる。
銀龍ラモラックの能力、それは触れた場所から拡散する銀化。
草木からさらに外へ、アスファルトと車と信号機、一帯の全てへと銀化が波及し、見る間に空間が輝きに覆い尽くされる。そしてその効果は通行人にまで及ぶ!
龍皇≪ラモラックの銀化、まともに受ければ固まってそのまま窒息死だ≫
ツバサ「ううん、この手のはイマイチ相性が…ひゃっ!?」
龍皇≪…?≫
頓狂な声を残し、ツバサの姿がするりと“落ち”消えた。
少しの困惑を抱くも、焔眼はすぐさまその原因を見抜く。
希の影がツバサの足元に孔を穿ち、彼女の魔力で形成されたスカアハの影空間へと一時的に退避させたのだ。
と、かさねが上空から大鎌を振り落とす!
かさね「せあっ!!」
龍皇≪っと、なるほど?黒翼と陰翅と、羽付きの二人が最初に追い付いたわけだ≫
かさね「私は会話する気ないよ」
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かさねは右手に鎌、左手に対物ライフルを構えるスタンスだ。
両方ともが大物の武器、傍目には酷く動き辛そうな構えだが、長年の研鑽の上に成り立っている。世界を敵に回すことさえ厭わぬ執念は伊達ではない。
首を狙って鎌を横薙ぎに旋回、反転したところで左の銃を撃ち放つ。
その二撃を躱されるも、極大口径の強烈な反動を利用して回転し、さらにもう一斬!
龍皇はデュランダルでそれを受けて数歩を退がる。片腕を薙ぐ、銀の津波がかさねへと襲いかかる。
だがかさねは高空へと飛翔し、楽々とそれを回避してみせた。
龍皇≪へえ、元気だね≫
かさね「飛べるから。通じないよ、それ」
龍皇≪まるでコウモリ、パタパタとされたんじゃ厄介だ。だからこっちに来てもらうよ…『龍皇の招集(ハーヴェスト)』≫
龍皇の腕にマナが圧縮され、手元に収束した炎が超燃焼。そこに生み出される吸引力は凄まじい。
かさねは翼ではためく事を許されず、吸引され…
かさね「それは前にもう受けた!」
『歪曲』で空間を捻じ曲げ、強引に軌道を変える。
片手を地面に触れさせ、再びの『歪曲』を発動。地面はグシャグシャに、まるでミキサーにかけたように微塵!
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>>30
>ツバサ(翼、翼…穂乃果さんから呼び捨てにされたみたいでドキドキするわね)
どんな時でもほのキチなツバサすき
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龍皇≪…!≫
足元を崩され、龍皇が体勢を崩す。
そして生じる地面に多数のヒビ、隆起が入れば大量の影が生まれる。そこに潜むのは影の女王!
希「ウチの領域へようこそ。『紫縛(アーダ)』!」
影が纏わり付いて拘束、しかし龍皇は吼える。マナの力だけで強引に振りほどく!!
希「ちょっ、嘘やろぉ!!?」
龍皇≪スカアハは優秀だよ。だけど私と真正面からやり合うには、少しばかりパワー不足かもね≫
ピンと張りつめた紐を引かれたような格好、希は龍皇の方へと反動で引き寄せられ、意趣返しだとばかり、全身が六芒星の輝きに縛られる。
龍皇が宿した茫龍ケイの『六芒拘束』だ。加え、さらに魔力が高まりを見せ…
かさね「あれはヤバい!」
龍皇≪六極(マスターズ)≫
希「がっ、は…!?」
炎に水、雷に、その他諸々。
主要六系統の魔術、その最大規模の一撃を同時に浴びせる“茫龍ケイ”の必殺撃。
幻覚
瞬時にかさねが黒翼を滑らせ、拘束された希を術から庇う。が、二人揃って手傷を負ってしまう。
火傷、凍傷、裂傷、感電…多系統の術を一度に浴びたダメージは相当に深い。
それでも低空を滑空しながら龍皇の傍らから逃れ、希は悔しさに唇を噛みしめる。
希「くっ、ここまで力量差があるとは思わんかった…!」
かさね「仕方ないよ、アレが化け物すぎるだけ。痛ったた…ここは一回引いて、他のみんなに任せよう」
離れる二人を守るように、残る面子が龍皇を取り囲む。
段階を踏み、形勢を整え、仕掛けるならここだ。
穂乃果、海未、絵里、ツバサが視線を交錯させる。
-
龍皇(さて、どう出る。さっきの交戦ではっきりと自覚した、私は綺羅ツバサに対してどうも苦手意識がある)
龍皇は冷静に戦況を分析する。
傷はない。超常のマナ生命体である龍皇アークトゥルスは多少の傷を負おうとすぐに癒える。
生体を形成しているマナの一部が治癒に回され、欠損した肉や骨を素早く補うのだ。
だが、龍皇は決して神ではない。再生にも範囲と限度はある。
それは決して容易な事ではないが、短時間に全身を損壊させることができれば致命撃と成り得るだろう。
もしくはそのマナの全てを削り切るか。しかし熾天使の一角とメインコアのマナを取り込んだ今、枯渇するまで攻撃を続けるのはまるで現実的でない。
いずれにせよ、龍皇を殺すのは神殺しにも匹敵するほどの労。神ではないが、限りなく近い存在だ。
現に、ツバサが浴びせた爆斬はその痕跡を残していない。
龍皇はそれを自覚した上で、相対する四者の顔を見比べている。
絵里「さて、何を考えているのかしら」
海未「迂闊に攻め掛かるのは避けたいですね…」
穂乃果「なら!ここは穂乃果たちが先に攻めるよ!」
ツバサ「続くわ、穂乃果さん!」
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穂乃果とツバサは基本、二人ともがアグレッシブだ。
性格のままに前がかり、ツバサを前に、穂乃果も後衛ながらに前へ。龍皇の懐へと果敢に飛び込んでいく。
ツバサ「穂乃果さん、自由に踊って。私が併せるわ!」
穂乃果「ありがとう、ツバサさんっ!」
踏み込み、杖先から火球を接射する。
龍皇は掌で受け、ツバサが合間を埋めるように一斬、遅れてもう一斬。二刀幻斬を浴びせる。
それを刃で受けた龍皇、その顔面めがけて穂乃果が大口を開く。そして『火龍刃(ほのバーナー)』を吹き出す!
穂乃果「うがえっ!!(食らえ!!)」
龍皇≪っ、チ…!≫
首を傾けて避ける龍皇。しかし穿炎は掠め、穂乃果と同じ顔をしたその頰を抉り飛ばしている。
まだだ!ツバサが頭突きを思いきりぶちかまし、龍皇は額に痛みを受けて一歩たじろぐ。
そこに振り抜かれる穂乃果の左手鉄甲、鋼の一撃が龍皇の下顎をストレートに撃ち抜く!!
ツバサ「『爆炎槍(スティンガー)』」
穂乃果「『鴉火』!!」
堅固な迷宮をもブチ抜く指向性爆破が龍皇の身体を打ち据え、後方へふわりと浮いたところに穂乃果の得意術、空を舞う黒烏の火弾がホーミング弾めいた挙動で無数に着弾していく!!
龍皇はすぐさま受け身を取り、体勢を立て直し、膝は屈さず。
しかし少しの驚きと興味深げな視線を二人へ向け、賞賛の色を声に滲ませる。
龍皇≪息のあったステップ、コンビネーション。なかなか悪くない…≫
ツバサ「フフ、いつまで余裕ぶっていられるか、見物ね」
穂乃果「す、すごい…ツバサさんのフォローのおかげです!」
ツバサ「あら、貴女のセンスに引っ張ってもらったのは私よ?」
穂乃果「え、えへへ…うん、これならイケるかもだよ、ツバサさん!」
龍皇≪流石はμ'sとA-RISEのセンター。即興コンビでも完璧か≫
μ's、A-RISE。
穂乃果に取っては懐かしい、ツバサにとっては耳慣れない言葉が龍皇の口から発せられる。
見計らったかのように、電気屋の店頭に並べられたテレビ群が歌と映像を流している。
穂乃果とツバサ、それぞれのアイドル姿に、脚光を浴びながら歌って踊る姿も。
穂乃果「μ's…」
ツバサ「アライズ…?理由はわからないけど、フフ…心が躍る響きね」
二つのグループ名は穂乃果とツバサ、それぞれの魂に着火する。
穂乃果は炎樹の杖を、ツバサは双剣を。
互いの触媒を横並びに、高揚する心のままに魔力を高め、競い合わせる。
穂乃果「連携行きますっ!!」
ツバサ「いいわね、乗った!」
-
今日はここで切るよ、次の更新は土日の予定
多分あと更新二回で完結できると思う
-
ついに完結が見えたか…乙です
-
東京タワーに突き刺そうとする辺りDODイズムを感じた
-
乙!
あと2回なんて…そんな…
-
乙
-
パロミやっぱ強かったんだな
-
最初から読んでるけど紅とか電波彼女に近い文章だね
にこの義手とか完全に星噛絶奈と同じだし
もうすぐ終わってしまうのが残念
-
紅ってあれか
主人公の肘になんかはいってるやつ?
-
>>59
それそれ肘から角が生えるやつ
-
キリのいいとこまで書き終えられなかったから更新までもう何日かもらうね
一応水曜ぐらいを目処で
-
ゆっくり待つよ
-
穂乃果(楽しい…私、今、楽しいって感じてる!)
東京の街並みを派手に損壊しながら、人智を遥か超越した敵との激戦。
その上相手は自分と生き写しの炎の化身、破壊の権化、龍族の首魁。
連ねてみればますます意味のわからない、積み重ねてきた諸々が溢れて弾けるような戦況。しかし穂乃果の心は死闘の中に浮き立っている。呼吸とステップはふわふわと、それはまるで羽のよう。
“戦い”というものにこれほど純粋な楽しさを見出したのはこれが初めて。
相手を上手に殺せたという後ろ暗い悦びではなく、爽やかで、清々しささえ覚える純粋な発揮の場。
それは穂乃果がどこかで味わったことのある感覚で、目に映る首都の街並みはすぐに感情と記憶を結びつけてくれる。
穂乃果(そうだ、この感じ!μ'sのみんなで踊ってた時みたいな!)
ツバサ(フフ、楽しそうに笑っちゃって。出会ってこの方、その笑顔にすっかり魅了されちゃった。こっちまで楽しくなってくる!)
穂乃果「ツバサさん!いっくよー!」
ツバサ「調子出てきたわね穂乃果さん!承知!」
-
龍皇≪そう易々と、させるかッ!!!≫
龍皇が咆哮、その全身から紅炎を千々散華と解き放つ。
その龍炎を穂乃果は知っている。それは真姫の母、桜龍モルドレッドが駆る美麗な桜吹雪の炎。
塵龍の例に漏れず、龍皇のマナで放てば本家よりもさらに悪質な猛撃へと昇華する。
さらにアークトゥルスの足元からは翡翠の炎が根を張り蔦を広げ、アスファルトを砕きビルを這い、視界一面の街が灼熱の業火に包まれる!
穂乃果「ぎゃあああヤバいよ!!距離離そう、ツバサさん!」
ツバサ「やれやれ、簡単じゃないわね」
杖に双剣をそれぞれ引き、猛る龍皇に背を向けて駆ける。
新聞社に金融ビル、目に留まる全ての建物が燃えて崩れていく。
首都高速と交差する神田橋、揺蕩う水面は深紅を映し、熱が蜃気楼を生み、全てが揺らぐ世界はまるで一枚の絵画。
危機的な状況には間違いない。しかしその中を笑顔すら浮かべ、穂乃果は駆け抜けていく。
足を絡めようとしてくる炎蔦をぴょんと飛び越え、振り向けばすぐ背後に迫るアークトゥルス。悪辣な笑いが二人を捉える。
龍皇≪遅い!!≫
穂乃果「ビルが崩れてくる!?」
-
隆起、屹立した炎の大樹が両側のビルを根元から砕く。
基礎を発破されて重機の一撃を受けたかのように、ビルは傾いで二人の頭上へと倒れてくる。
純粋な大質量攻撃はいつどんな場所、どんな世界でも有効な攻撃手段。
いかに穂乃果とツバサであれ、潰されてしまえば死は免れない。
進むには倒れてくるビル影を越えるまでが間に合わず、退こうにも背後は全てが炎の中。
「チ…」と舌打ちを一つ、穂乃果を守るように歩みでたツバサは瞼を結び、落ちてくるビルを仰ぎ、そして開眼!
ツバサ「『爆眼(ブラストアイズ)』!!!」
エメラルドグリーンの瞳が黄金、彼女のマナ色を宿して煌めく。
業火に巻かれて倒れてくるビルへと双眸を向け、焦点を合わせ、瞬間生じる爆華!
爆破!!爆破爆破爆破爆破、爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破!!!!!
龍皇≪怪物め…≫
穂乃果「な、何それどうやってるの!凄いよツバサさん!!」
それはツバサが数個有する切り札の一つ、視線を合わせるだけでの連続爆撃。瞳へと焦点を合わせた箇所へ、およそ秒間3発ほどの間隔での連続爆破を生じさせる凄まじい技術だ。
連鎖する爆破が倒れてきたビルを噛み砕き、微塵に爆砕!!
爆風の余波に前髪をふわりと浮かせ、ツバサは穂乃果へと微笑んでみせる。
-
ツバサ「すっごく遠くを見るときに目を細めたりしない?あれをもっと深く強くやる感じね」
穂乃果「はえ〜…」
そう言って瞳を閉じ、龍皇へと向けて再び開眼。
数発の爆破を浴びせて瞼を閉じる。
ツバサ「…っ、よし。隙が生まれた!」
穂乃果「うん、今なら行けるよ!」
龍皇≪侮るなと言っている…『鳴龍アレミラ』!!≫
アークトゥルスは穂乃果の顔で大口を開く。発せられるのは炎でなく異音。鳴龍アレミラの音波のブレス!
金属を擦り合わせる音に酷似した、キュイイイイイという高音、そこにベースギターの低音を織り交ぜたような不協和音、数キロ範囲の窓ガラスにヒビを入れ、粉々にしてしまうほどの大音響。
ひたすらに不快、ノイズとしか表しようのない殺音が空間を震わせ、穂乃果は自分とツバサの体をすかさず『癒しの炎』で覆って保護する。
絶え間ない治癒の魔力は鼓膜が破かれるのを防いでくれる。
だがそれでも超音の威力は凄まじく、二人は思わず耳を抑えて動きを止めてしまう。
-
穂乃果「何これえええ!!!?」
ツバサ「め、鳴龍アレミラ…絵里と英玲奈が討伐した十二卿龍の能力ね。癒しの炎ありがとう」
穂乃果「うん、なんとか防げてるけど…うるささで頭が壊れそうだよ〜!!」
ツバサ「ああもう、この手の絡め手は苦手なのよね…!」
穂乃果「うぐぐ…前はどうやって倒したの?」
ツバサ「確か絵里は氷で耳を塞いで、英玲奈は特製の耳栓を用意したって…念のために借りてくるんだった」
声が聞こえる状態ではとてもない、やり取りは口パクで。
状況を打開するためには魔術を放ちたいところだが、この騒音の中では集中できるはずもなく、集中できなければロクに魔術を放つことができない。
鳴龍アレミラの強さは十二卿龍の中で決して高位ではない。だがどうやら、その能力はこの二人に対するメタとして十全に機能しているらしい。
打開策が見当たらず、ダメージと苛立ちだけが募っていく。
-
そんな二人の様を、龍皇は音を放ちながらじっくりと観察している。
アークトゥルスは破壊の権化、しかし暴虐に駆られた忘我の怪物ではない。
冷静に思考し、冷酷に破壊を行い、至極当然とばかりに死を蔓延らせる。ある種、システマチックとさえ言える面がある。
自らは、龍皇とは一体どういう存在なのか、幾度となく考えている。
もしかすると自分はこの世界のシステムの一部で、世界の意思に従い人類を間引く、ある意味では管理するための存在なのかもしれないと、そんなことを考えたことがある。
そうだとすれば熾天使とはある意味で似通った存在で、何者にも縛られない絶対者であるはずの自分と結局は何かに動かされている存在なのかもしれないと、そんなことを考えている。
だとすれば、つまらない生だ。
世界の意思を神と言い換えるなら、自分は決して神ではなく、単なる神の代行者。
自由意志を持てず、欲しい物を得られず、憧れを抱き…
龍皇(それはともかく、綺羅ツバサの『爆眼』。あれは厄介な能力だが…ならば何故最初から使わない?)
龍皇(答えは簡単、負荷が尋常でなく大きいから。私へ数発の爆破を浴びせた後に瞼を抑えたその仕草、見逃してはいないよ)
-
穂乃果「ツバサさん、なんだかきつそうだけど…」
ツバサ「大丈夫よ、ちょっとだけ疲れ目。目薬でも差したいとこね」
実際のところ、ツバサの視力は急速に低下している。
短時間に大量の魔力を注ぎ込まれた眼球、とりわけ眼筋と水晶体に多大な負荷が与えられた。
わずか4秒ほどの発動で、両目ともに1.0以上だったツバサの視力は半分ほどにまで低下してしまっている。
その甚大なデメリット故、会得して以来ほぼ禁じ手としてきた魔術なのだ。
しかし今は惜しめない。自分だけならともかく、ビルの倒壊から穂乃果を守る必要があった。龍皇を倒し得るのはきっと穂乃果だけなのだ。
龍皇(さあ、どう動く?いくら『癒しの炎』でバリアを張っても永遠に持つわけじゃない。
この超音波に晒されればいずれ血液が沸騰する。対策がないなら…体の内から燃えて死ね)
穂乃果(どうしよう、ずっとは持たないよ…!)
ツバサ(この音の中でも『爆眼』なら発動できる。あれは集中力がそれほどいらないから。目は潰れるかもしれないけれど…)
ツバサ「限界を超えてこそ四騎士よね!!」
穂乃果「ツバサさん!?やっぱり無理しようと!」
ツバサ「大丈夫よ穂乃果さん、貴女は私が助けてみせる!『爆…
颯爽、躍り込む二つの影!
海未「よく言いました!綺羅ツバサ!」
絵里「限界を超えてこそ四騎士。まったくその通りよね、ツバサ」
穂乃果「海未ちゃん!ぅ絵里ちゃん!」
-
乱入と同時、絵里が氷壁を築き上げる。
併せて海未が氷壁へと魔力遮断の青マナを広げ、そのコンビネーションは鳴龍のブレスを完全遮蔽してみせた!
海未「少し休んでいてください、二人とも」
そう言い残して氷壁の前へと飛び出し、選手交代とばかりアークトゥルスと対峙する海未と絵里。
龍皇≪ふうん、鎮静の魔力を持つ二人には鳴龍の音波は効き目が薄いようだ≫
絵里「そうね、前にその龍を倒したのは英玲奈と私だもの」
海未「私の青の魔力は絵里からきっかけを貰った力。侮らないことですね」
海未と絵里、二人は元から馬が合う。
刀を垂らして潔と毅然、ほんのり厨二風味に微笑む海未にテンションを引きずられ、絵里もまた眼差しをキリリと鋭利に尖らせている。
左手にアルタキエラを提げ、右手を顔の前で横向きに、口元を隠して格好良くピースサインを…
海未「行きますよ!絵里!」
絵里「あっ、決めてたのに…」
-
疾走する二人、迎え撃つ龍皇は泰然。
龍皇≪途中から姿が消えてたからね、何か仕込んでるのはわかってる≫
絵里「わかっていても防げるかしら?」
海未「青と青、同質の力が相乗するその威力、思い知らせて差し上げます」
海未と絵里は龍皇を後から追いつつ、随所へと水の魔力の起点となる魔力を仕込んできた。
菊一文字とアルタキエラ、互いの刃がシュリと冷たく擦れ合い、そこから世界へと凍結が拡散していく。連携!!
龍皇≪なるほど、壮観だ≫
蒼い。
地面からビルの壁面までが凍りついて空間が蒼白化。龍皇が燃やした街路樹を、ビルを、さらに包み燃える炎までをそのままの形状で凍らせている。
海未が編み出した純水を絵里が凍らせて密度を高め、凍界は白く広がり、そして徐々に青へと染まっていく。
本来ならば長時間をかけて圧縮されることで氷は白から青へと色を変える。だがランスロットの魔力は、それをわずか数秒で成してみせる。
やがて一面の氷原へと変じた東京は赤炎から青氷へと染め変えられ、アイスブルーの輝きは空間のそのものが芸術めいている。
無論、美しいだけの空間ではない。
常人が踏み入れば瞬時に肺腑までが凍壊するほどに研ぎ澄まされた冷気は海未が配した水分を固結させ、そして群生する青の利刃。
氷製の槍と刀が無尽、数え切れないほどに群生しているのだ。
『蒼界・無限槍刀陣』
-
絵里の空間魔術を遥か上回る凍気、濃縮された冬はさながらコキュートスの冷流。
炎熱の化身である龍皇の呼気さえ白く霞み…
──瞬撃。
龍皇≪!!?≫
海未「蒼氷の海に溺れなさい」
龍皇へと氷の刀槍が突き立てられている。胸と腹にそれぞれ一本、一体いつの間に!
龍皇が驚き考えるよりも速く、さらに二本、また二本、そして二本が突き立てられる!
消えては現れ、脈絡も何も一切を無視して刃を突き立てる海未と絵里。
アークトゥルスは見切ろうと試みるが、しかし焔眼の超洞察を以ってしても二人の攻撃を見切ることができない!
硬質に鍛え上げられた氷刃を身に受けながら、龍皇はまるで不可解かつ恐るべき連携、その正体へと思い至る。
海未は『転移』だ。これほど潤沢に青の魔力で満たされた空間ならば、海未の瞬間移動術に一切の縛りはない。
それだけなら対処の仕様もある。だがプラス、絵里の『万象凍結(オールフリーズ)』による時間停止。
時間を止めて刺しては立ち位置を変え、解除。海未が攻撃するのを見計らい、再度時間を止めて攻撃。その繰り返しで擬似的なワープ能力を得ているのだ。
時間を止め、空間を無視し、一般に最も優れた術式とされる時空間操作を操る二人がタッグを組めば無双。龍皇さえ対処は容易ではない!
-
龍皇≪こ、の…!≫
絵里≪口を開く間は与えない。いくら龍皇の力が強大でも、ターンを回さなければいいだけよ!≫
龍皇≪…!!≫
ブレスを吐こうと開きかけた顎へ、亜龍態と化した絵里が十本目の氷槍を突き立てる。
ちょうど海未も同じだけの本数を脇腹から肩へと貫通させていて、合わせて二十もの刃に貫かれた龍皇の姿はまるで青いヤマアラシのよう。
穂乃果の姿こそしているが、それはあくまでガワだけ。
アークトゥルスという存在は膨大なマナで形成された超自然生命体であり、百の刃に貫かれたとしてもそれほどのダメージを受けないだろう。
だが、海未と絵里が精製した蒼刃は訳が違う。
耀龍ランスロット、龍皇に匹敵せずも抗えるだけの力を有した十二卿龍の冷気は、アークトゥルスの内部で燃えるマナを冷やし減衰させるだけの威力がある。
そこに海未の鎮静のマナが合わさり、刺さった刃は容易には溶けず、龍皇の魔力を阻害して負荷をかける。
だがそれでも、アークトゥルスは悪笑を絶やさない。
龍皇(絶え間ない転移、時間停止、絶え間ない連撃。それは謂わば魔力の無呼吸連打。魔力回路へ掛かる負荷は尋常ではない。
相手が十二卿龍までなら倒しきれていただろう。だが、私を倒すには足りない。さて、あと何秒保つ?)
-
無尽蔵の体力は考察に余裕を生む。
余裕は冷静をもたらし、冷静を得た考察は見事に連携のわずかな欠点を看破している。
いや、欠点と呼ぶのは正しくないだろう。ほんの小さな綻び、これが普通の敵ならとうに完殺できている。
しかし相手は龍皇、この一戦に常識は通用しない。
海未と絵里、二人の連撃はほぼ同時に息切れを迎え、間髪入れずに続いていた攻撃に生じた二秒ほどのインターバル。
海未(これだけ攻撃しているのに、まるで揺らぎを見せない…!)
絵里(時間停止は消費が大きいわね…立て続けに使うのはここが限界…けど、海未も)
龍皇≪隙を見せたな?世界を否む雷轟、歪なる磁界の覇者よ。『磁龍ガレス』!≫
この氷界には海未のマナ遮断の力が織り込まれている。いかに龍炎であれ、溶かそうとすれば時間がかかるだろう。
ならば根こそぎ砕けばいい。掌に現れた黒の小球は破滅的な磁力塊。
龍皇はそれをふわり、サーブのトスをするかのように、無造作に宙空へと投げ上げた。
龍皇≪剥がれてしまえ、東京≫
-
鉄筋を礎とする東京の街で、その力は最大限の大破壊へと昇華する。
信号、標識、橋にビル、ピンポン球ほどの磁力塊は構造に鉄を含む全てを引き寄せ、持ち上げ、構造を無視して倒壊、吸引!
張り巡らせた蒼氷の陣は物理破壊に砕かれて消失し、神田の街の一角がアークトゥルスの頭上へと吸着、微塵に圧壊されていく!!
一面の光景は一変、空へ落ちていく街。
その中で海未は、心底うんざりとした表情を浮かべている。
海未「なんて出鱈目、大雑把な…これだから十二卿龍やら龍皇との戦いは嫌なのです!絵里の時もそうでしたが!」
絵里「どうして私がちょっと怒られたのかしら…とにかく海未、磁力の範囲から抜けないと!」
龍皇≪逃すと思う?一緒に潰れてしまえ!≫
二人の足場を標的に、龍皇は手掌を上に煽る。
水道管や諸々のパイプライン、地中に埋め込まれたそれが磁力に引かれ、砕け割れたアスファルトが一斉に持ち上げられる。
海未「!?っ、痛…!」
絵里「がはっ!しまっ…!」
凄まじい速度で競り上がった鉄パイプが槍のように海未の腹を刺し、アスファルト片が絵里の肩や膝を痛打した。
必然、二人の動きが止まる。
-
ユーフォ休憩?
-
このまま吸壊に巻き込まれれば、二人に待つのは勿論死だ。
だが重く轟く発砲が龍皇の掌を貫き、影の衣が海未と絵里を保護して移動させる。希とかさねが復帰してきたのだ。
希「まだまだ!マジカルのぞみんの真骨頂を見せとかんとね!」
絵里「あら、なんだかご機嫌ね?」
希「ふっふ、来る途中でめっちゃ良いもん見つけたんよ」
海未「助かりました…うぐ、お腹に刺さったパイプを抜かなくては…」
かさね「勝手に抜いたらダメだよ、治療しながら引っこ抜くから。ああもう…ヒーラー忙しすぎだよ!」
四人の様子は慌ただしい。だが、表情には未だ笑みが残っている。
不屈。
絶てども絶てども立ち上がってくる。
元々、侮ってはいない。この少女たちが簡単に立ち止まるはずがないと理解はしていた。
ずっと穂乃果の中にいた龍皇もまた、彼女たちと旅路を共にした存在なのだ。その煌めきは魂に焼き付いている。
だが相対してみると、これほどまでかと驚かされる。驚嘆している。
十二卿龍たちの力をふんだんに駆使し、本来ならばそれぞれ数度は殺せているはずな戦場の趨勢。
しかし目の前には現実として全員が生き残っていて、高い士気を保ち続けている。
-
μ'sが、A-RISEが選ばれた存在だからだろうか?
否、支倉かさねが奮闘している。
堕天してまで世界に食らいついてきた彼女の存在は運命へのアンチテーゼ。
この場にはいないがヒデコたちだってそう。
人類の数だけ存在する可能性、世界はそのゆりかごだ。
一人一人が主役になれる可能性を秘めていて、きっと誰だって特別に成り得る。
とりとめもなく、龍皇がそんな思考に頭を傾けたのは時間にしてほんのわずかな一瞬。まばたきを三度ほどの時間でしかない。
しかしその間は、瓦礫の中で好機を伺っていた二人には十分すぎる時間だった。
穂乃果「みんなが繋いでくれた。今度こそ行こう、ツバサさん!」
ツバサ「連携…これはつまり、初めての共同作業ね!」
穂乃果「い、今は突っ込まないよっ!」
そんな世界の中にも、より強い運命を有する者がいる。星々の中でも一際強く輝く、天命を帯びた存在。
高坂穂乃果。綺羅ツバサ。
触媒を手に並び立った二人の瞳には決然の煌めきが燃えていて、その輝きは龍皇に畏敬の念さえ抱かせる。
穂乃果「受諾せよ輝死!許認せよ天夭!亜濁の宙に赫曜と火脈を刻めえッ!」
ツバサ「受諾せよ輝死、許認せよ天夭。亜濁の宙に赫曜と火脈を刻め」
シンクロする二人の声。
ツバサが穂乃果に教えた上級魔術、『亜空灼火法(インプロージョン)』の同時詠唱!
-
龍皇(これは…!)
明らかにまずい。発動を阻止すべく、選択肢を模索する龍皇。
しかし詠唱は迅速で、そのいずれもが間に合わない。
杖と双剣がアークトゥルスへと向き、そして収束、結合する魔力。
穂乃果「穂乃果はセンスにあんまり自信がないから、ネーミングはツバサさんに任せます…」
ツバサ「じゃあそうね、さしずめ…」
連携!!
『恒星の瞬き(ハイペリオン)!!!』
炎球で対象を包み込み、内側へと爆縮させて超高温空間を創造する亜空灼火法。
それが二つ、完全なタイミングで重ね合わされば生まれるのは、自光を発する星の煌めき。
その炎はごく瞬間的に、龍皇の炎さえ凌駕するエネルギーを生んでいる。内部へ燃える炎は周囲にその熱を漏らさず、外から窺えるのは輝きだけ。
その圧倒的な光量は空に浮かぶ偽りの都市を越え、眼下に広がる大陸の広範囲を白く明るく照らしてみせた。
その炎が顕現したのはほんの数秒、まるで生命が終わりへと駆け抜けていくような儚さで無へと帰した。
ツバサは穂乃果との連携に、太陽に因んだ術名を付けた。
現れた炎術は奇しくもどこか生き急いでいる印象の穂乃果を表しているようで、自身の命名にも関わらず、ツバサの心中に薄墨のような不安が去来する。
-
龍皇≪……今のは、洒落にならない威力だった…!≫
その一撃を受けてなお、龍皇は未だ健在だ。
熾天使を取り込み得た力、無から有を生み出す『創生の炎』を操り、周囲へと堅牢なシェルター創り出して耐えていた。
…それでも、驚愕を禁じ得ない。
全知に近しい龍皇がそのイメージの粋を引き出し編んだ絶対の防壁を、穂乃果とツバサの連携術は完膚なきまでに破壊している。
それはアークトゥルスが有する“絶対防御”の概念を崩すことであり、確固としたイメージを失えば今の防壁はもう生み出せない。
マナを使役するために想像が必要とされるのは龍皇も同じなのだ。
よくもやってくれたものだ。
纏う黒位も部分部分が焦げて破け、穂乃果の顔でとびきり凶悪な眼光を浮かべてみせる。
龍皇≪貴様ら、完膚なきまでに……なっ!?≫
穂乃果「まだだよ!!」
顔を上げた面前、穂乃果が迫っている。
ローブの裾がはためくのも構わずの大跳躍、上体を逸らして伸ばし、割れた地面を一飛びに越えて!
穂乃果「飛べるっ!!」
-
海未や絵里たち、そして連携していたツバサまでもが驚きに目を見張っている。
眩さと威力の残滓に、全員が動きを止めてしまう中で穂乃果だけは前へ出た!
あれだけの大連携を放った直後、常人なら、いや、ツバサでさえすぐには全力で動けない。
しかし穂乃果は龍皇の半身。
宿る潤沢な魔力は、連携直後を最大撃の好機へと変える。
魔力を溜め、体内で高め、ずっとずっと機会を窺っていた。この一撃を叩き込む隙を!
穂乃果(杖は右手。魔力を練って練って練り上げ、左の義手で炎を掴むんだ)
跳躍した空中、そのまま穂乃果はマナを編む。
形状は細く鋭く、バチバチと手元で爆ぜるマナ。
それは神速必到、凛を捉えたあの練習で体得した感覚。
鋼の豪腕をイメージに含め、実現可能な最大速度の一撃を投げ放つ!
穂乃果≪でええいっ!!『火雷噬嗑(ほのいかずち)』!!!≫
-
穂乃果が術を投げ放つ瞬間、アークトゥルスは後ろへ飛んだ。
発動は止められない。しかし距離を離せば対処もできる。迎撃も、カウンターさえ可能だ。
龍皇≪調子に乗ったな、高坂穂乃果…私の半身≫
敵であれ尊重している。敬意と、愛着さえ抱いている。
その前提の上で、穂乃果はこと戦闘においては自分の下位互換だと龍皇は断じている。
半分に力を割った。何故かはわからないが、フェアを気取りたかったのかもしれない。
その後に熾天使と、メインコアの力までを取り入れた。
対等な片方が大きな力を二つ手にし、もう片方は魔力の上積みなし。つまり下位互換、子供でもわかる理屈だ。
後ろへの跳躍でも炎翼はある程度の距離を稼いでくれた。あとは受け、撃ち落とす。
穂乃果は強くこちらを見据えたまま、二人の穂乃果の瞳が交錯。
そして左手の炎が投擲される!
龍皇≪…が、はっ……!?≫
既に着弾している…!?
-
穂乃果が編み出したオリジナルの新術『火雷噬嗑(ほのいかずち)』はその名の通り、炎でありながら雷を模している。
魔力を思い切り集めて圧縮し、さらに押しつぶして細く細く、普段のざっくりとした性格には見合わない繊細さで魔力を細く激しく練り合わせていく。
穂乃果(たぶん、お父さんの和菓子作りの手伝いをしてた時と似てるかも)
まるで別の属性を模した炎という発想は真姫の母、桜龍モルドレッドとの戦いで得たもの。
植物のような炎があるなら、他の形の炎があっても全然おかしくないよね!と考えていたのだ。
そして穂乃果は同化していたからこそ、きっと世界で一番、龍皇の弱みを理解している。
拡散型の『火龍哮(ほのファイア)』
一点収束型の『火龍刃(ほのバーナー)』
その中間の『龍殺炎(ほのブラスター)』
龍皇のブレスはいずれもがシンプルな炎のまま。きっとそれで充分だったのだ。
あまりに強大な力を有する龍皇にとって、創意工夫の必要などなかったのだ。
穂乃果(そして一番の弱点…龍皇の私は生まれてから一度も、ちゃんとしたダメージを受けたことがない)
穂乃果は旅路に痛みを重ねてきた。
火傷を負い、腕を食いちぎられ、刀傷を浴び、数えきれないほどの痛みを経験して、ようやく少しだけ…まだ慣れてはいない。
穂乃果(怪我の痛さってびっくりするほど怖くて、体が動かなくなるんだ。まだそれを知らないなら、きっとそれは弱点になる!)
だから穂乃果は炎を鋭く練った。
大きく燃え上がらせるよりも、龍皇が全身を包んでいる滅茶苦茶な量のマナを突き破ってちくりと一刺し。それだけに特化した形状を。
同時に、必ず当てるために速度を求めた。
穂乃果が知る限りの最速、凛を捉えられるだけのスピードを。なら形状は自然と決まる。
穂乃果(雷!)
そして投げ放った炎雷は龍皇を捉え、防護の内へ強く抉り込む。
膨大なマナが凝り固まった超常生命、その龍皇の核へ、悠久の時で初めてのダメージ、“痛み”を走らせる。
龍皇≪ぐっ、が…ああああッッ!!!!?≫
そして爆ぜる!!!
-
絵里「や、やった!?」
希「エリチ、それは言ったらアカンやつや」
海未「まだです!今の炸裂で龍皇が吹き飛んでいく!」
ツバサ「息はありそうね、しぶとい…」
かさね「あっちは…秋葉原方面だよ」
穂乃果「追いかけよう!」
吹き飛ぶ龍皇、追って六人は秋葉方面へと駆ける。
辿り着いたのは秋葉原、歩行者天国。
もはや穂乃果とかさねだけではない、他の四人も全員がその光景にはっきりとした既視感を覚えていて、穂乃果や龍皇の言う並行世界、そこでの自分たちにとって関わりの深い土地なのだろうと理解している。
また、海未、絵里、希の三人にとっては考えるまでもない。
街中に大きく“μ's”と、自分たちが愛らしい衣装に袖を通して写っているポスターが貼られているのだから。
ツバサ「ここにもμ's…人気者みたいね?」
海未「な、何故私が!?は、肌を露出しすぎです!スカート丈が短すぎます!破廉恥です私!!」
穂乃果「なんか懐かしい反応…海未ちゃんははアイドルなんだよ。学生の、スクールアイドル!」
海未「ひ、ひぃ…!」
希「うひゃあ、にこっちがキメッキメの顔してる…水を得た魚やん」
絵里「海未、ことりに真姫、凛、花陽。希とにこと、それに私…だけどおかしいわ。真ん中が空いてる。ここには穂乃果がいるはずでしょう?」
海未「あっ、本当です。これは一体…?」
穂乃果「私がいない、かぁ…うーん?」
かさね「μ's、やっぱりちょっと羨ましい…っと、龍皇まだ生きてるよ」
かさねが担ぐように鎌を構え、五人もそれに続く。
龍皇は道路の端、商業ビルに叩きつけられて地面へと落ちたようで、ふらつくその姿は明確にダメージを受けている。穂乃果の攻撃は通っている!
龍皇≪同じ、マナは…馴染むね。奥まで、命の芯までガツンとやられたみたいだよ、穂乃果≫
龍皇は呻くような声で、穂乃果へと向かって語りかける。
-
穂乃果の『火雷噬嗑』が直撃した位置だろう、右胸から肩、それに頬の辺りまで、穂乃果の外見が焼け崩れて内側の炎が漏れている。
炎の化身たる龍皇アークトゥルスの、本来の姿が見え隠れしているのだ。
だが龍皇は『創生の炎』で崩れた外側を覆い、穂乃果の外見を元通りに復活させた。
龍皇≪……うん、これでいい≫
海未(よほど気に入っているのですね、気持ちはわかりますが)
ツバサ(同じ顔だけど、意外とライバルなのかしら)
二人のそんな思考はさすがに冗談だが、明確に刻まれたダメージの痕が見られるからこそ生まれた少しの余裕。
もちろん油断はないままで、悪い兆候ではない。
そんな海未とツバサ、それに絵里、希、かさね。
穂乃果以外の五人にも龍皇は視線を向け、ふと柔和な表情を浮かべてみせた。
龍皇≪六人とも、強いよ。侮ってたつもりは全然ないけど≫
穂乃果「……ねえ、ここでやめにしようよ。きっと分かり合えるよ」
龍皇≪もちろん却下。わかってるくせに≫
軽くいたずらに微笑む、その表情は穂乃果に生き写しだ。
そして龍皇は俯き、大きく息を吐いた。
龍皇≪ないけど…でもやっぱり侮っていたみたいだ。“フェアに”。そんな考えはつまり、舐めてるって事だよね≫
顔を上げ…その表情には昏い冷酷が宿っている。
体の前で右掌を上に、眩い閃光を掌中に作り出してみせる。
絵里はすぐさま、その輝きの正体に思い至る。
龍皇≪高出力、低消費。十二卿龍の中でも相当質の良い炎だ≫
絵里「それは西木野王の炎!じゃあ…」
龍皇≪ガウェインは敗けたよ。真姫ちゃんたち、人間が頑張ったみたいだね≫
-
アークトゥルスが操るのは敗死した十二卿龍の炎だけ。
龍皇が暁龍の炎を手にしているのは何よりの勝利の証で、絵里たちはその表情を明るくする。
ただ一人、穂乃果だけが。その高いマナ感知能力を地上に向け、ショックを受けた表情を浮かべている。
その様子を目に、不安げに絵里は尋ねる。
絵里「穂乃果、どうしたの?その…暗い顔をして」
穂乃果「絵里、ちゃん…」
龍皇≪亜里沙ちゃんが死んだよ。アスモデウスと相打ちになってね≫
希「っ!?」
絵里「…………嘘、」
それがまるで理解できない言語であるかのように、絵里の表情がピタリと固まる。
それが嘘でないことは隣にいる穂乃果の顔が雄弁に物語っていて、絵里の思考が硬直し…
龍皇≪精神への揺さぶり、この程度の基本も使わないなんてどうかしてた。謝るよ、そしてまず一人≫
龍皇は一切の情け容赦なく、自失の絵里へとガウェインの灼閃を解き放つ。
速度、威力、いずれもが西木野王のそれを上回る龍皇のレーザーに絵里は反応できず、希がとっさに間へと割って入る。
希「エリチ!っ、それだけはさせん!!」
絵里「希…!」
-
広げた影衣を突き破り、希の胴へと火炎が孔を穿つ。
絵里の表情が絶望を深めるよりも速く、龍皇は片腕を引いて次撃の準備を整えている。
龍皇≪龍殺炎(ほのブラスター)≫
火力、範囲のバランスを殺傷に特化させた最強のブレスが負傷した希と、それを抱きかかえる絵里を飲み込んだ。
二人は無防備にブレスへと飲まれ、瓦礫と崩れた街並みの中に姿を消す。
穂乃果「絵里ちゃんっ!!希ちゃんっ!?」
海未「…!?一瞬で!」
龍皇≪絵里ちゃんのメンタルを崩して狙えば希ちゃんが無理をして庇う。負傷した希ちゃんを見捨てて逃げる絵里ちゃんじゃない。順番を間違えなければ二人の処理はすぐだ≫
かさね「こいつ、一気に危ない雰囲気になったよ!?」
ツバサ「切り替えて!!全滅するわよ!!」
龍皇≪もう油断はしない。手段も選ばない。一人一人、確実に消していく≫
海未「仕方ありません、集中です穂乃果!あの二人なら、きっとなんとか生きているはずです…!」
台詞とは裏腹、祈るような声の海未。
励ますように頷いてみせ、穂乃果は龍皇との対峙に集中する。
穂乃果「私がやらなきゃ。私の半身なんだから、責任を持って私が止める…!」
ツバサ「退いて体制を整えましょう、あっちの方向へ!」
ツバサが指した先、その方向にあるのは慣れ親しんだ校舎、音ノ木坂学院。
憂慮を振り切り、穂乃果は駆け出す!
-
ここで切るね
次の更新が最終回で、間に合えば日曜に更新するよ
-
乙!
そんな、最終回なんて…
あと穂乃果の必殺技が文字化けしてるの私だけ?
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まあまだ終わっちゃいないがここまで希とかさね賑やかしと盾くらいにしかなってないね
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>>89
BB2Cで見てるけど、そっちで俺も化けたけどSafariで見たら化けなかった。専ブラは常用漢字しか対応してないのかな。前にもこんなことあった。
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更新おつ!
のんちゃんが見つけた 良いもの もこれから出てくるからきっと活躍してくれる!
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遅くまで乙です
例の中2ピースやらかす絵里ちゃん好き
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今回えらい文章に力入ってたな
すごく良かった
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ハイペリオンってヒュペリオンか
代行天使思い出した
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龍皇は底力のレベル低いのか
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攻撃力と防御力とMPはカンストしてるけどHPはそれほどでもない的な
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涙目になってそう
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まだエピローグまで書き終わってないから更新は火曜ぐらいになるよ
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とうとう終わるのか
待ってます
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あ、最終回の後に後日談としてエピローグかと思ったら一緒にするのね
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一気に読めるのは楽しみなのと寂しいのと
待ってる
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仕事が長引いてまだ帰れてないから今日は更新できなさそう
明日は確実に早めに帰れるから、7時ごろから最後まで一気に投下するよ、よろしくね
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最終回スペシャル!
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楽しみ
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>>103
ありがとう!
ほんと読んでる時嫌なこととか忘れて頭スッキリできて
それが普段の生活でもいい影響あった
ラスト楽しみにしてる
2ちゃんの方で質の高い龍狩りエレナ絵も見かけたよ
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マジで終わるんだなあ
本当に楽しみです
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震えてきた
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雨が降り始めた。
龍皇が操る多種多様な獄炎、穂乃果とツバサが息を合わせて放った星の炎。
双方が尽くす力が空を焦がし、灰色の火災雲が不穏に嘶いている。
大粒の雫がバラバラと地を叩き、戦塵に霞む視界をより深く遮っている。
降りしきる雨、自然の生む膨大な水の気。それは海未にとっての独壇場だ。
龍皇(虎視眈眈、特に海未ちゃん。隙を見せれば首を掻こうという視線でいる)
穂乃果たち四人はツバサの号令に従い、龍皇に背を向けて逃走すべく走り出している。
だが戦意の喪失は見られない。ちらりちらり、穿と振り返ってみせる視線には0.1秒の隙さえ逃すまいと気を張り詰めているのがわかる。
何より雨中に燈る赫赫、敵意を可視化する龍皇の焔眼は、四人の宿す強烈な意志をはっきりと捕捉している。
海未「よくも絵里と希を…『水アローシュート・驟雨』です!」
龍皇(空に打ち上げて…拡散型の攻撃。弓手の技としてはオーソドックスか)
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バァーン!とばかり射ち放った水分の鏃は、雨粒に混ざり、弾けて猛然と地を叩く。
文字通りの矢の雨…否、雨の矢は秋葉原の路上を間断なく削っていく。
が、動じる龍皇ではない。
手を上に翳し、発せられる炎熱だけで水矢の全てを掻き消してみせる。
蒸発、立ち込める水蒸気。さらに悪化する視界の中、アークトゥルスの後方へと海未が『転移』している。
手には村正、闇のマナを解放して刀身に宿し、放つは破壊力に特化した鈍斬、『破壊剣(ダスク)』。
海未(完全に背後を取りました!散りなさい龍皇!)
龍皇(見えているよ)
海未「はあっ!!……!?て、手応えがない」
闇の魔力に補強された刃は幅広に大化していて、龍皇の肩口を強かに捉えた…はずが、ぬるりと滑って刃は明後日の方向へ。
何が起きたのかを理解できないままに姿勢を崩している海未に、ツバサが慌てた様子で声を投げる。
ツバサ「そのぬめりは蟲龍なんちゃらの能力!そこを離れなさい!」
龍皇≪もう遅いよ≫
海未「これは、体に糸が絡みついて…!」
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海未が懐へと斬り込んでくると予見していた。
その上で蟲龍ベディヴィアの糸を細く薄く、自らの周囲へと縦横に張り巡らせていたのだ。
雨の降る環境下で、今しがた痛い目を見せられたばかりの『転移』を考慮しない者はいない。龍皇の思考力が特段優れているという話ではない。
脅威なのはやはりその焔眼。四人の精神状態を見事に看破している。
冷静に穂乃果を諭していたが、その実、絵里と希がブレスに飲まれたことに最も憤っているのは海未だ。
百戦錬磨で動揺を見込めないツバサは別枠として、海未はこのメンツの中で特に絵里と希の二人と関わりが深い。西木野王の下でそれなりの長期間を共に過ごした友人なのだ。
加え、亜里沙の死の宣告。自分を慕ってくれていた愛らしい少女が戦死したと聞いて、絵里ほどではないにせよ海未の心も乱れている。
そして目の前で絵里と希を吹き飛ばされたのだから、元々仲間思いの海未が激昂しないはずもない。となれば、読みは必然。
龍皇≪まあ、要は判断ミスだよ。海未ちゃん≫
海未「ーーっ!」
龍皇≪ベディヴィアの粘糸は刀で切れない。絡みつけばもがくほど食い込むだけ。同時に、この糸は最上の可燃物でもある。引火すればどうなるか、わかるよね?≫
海未(転移のインターバルはあと3秒、間に合わない!)
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自身の迂闊が招いた臨死。
尽くす術のなさと不甲斐なさに、海未は思わずキュッと瞼を結ぶ。
穂乃果「海未ちゃんっ!!」
ツバサ「大丈夫、もう行ってるわ」
かさね「ちょっと痛いけど我慢してね」
海未「かさ…!」
かさね「『歪曲(ディストーション)』」
海未「!!?」
黒翼鋭く滑り込んだかさねは海未と絡んだ糸、その周囲の空間を丸ごと捻って歪め、歪みが戻る勢いと同時に海未の体が宙高く跳ね飛ばされる。
直後、糸へと引火した炎が収束して大火が上がる!まさに間一髪、かさねに助けられた海未は雨に濡れた地面へと叩き付けられ、低く呻き声を漏らす。
海未「うぐ…ぐ、骨がグシャグシャに…!」
かさね「だいぶ手荒でごめんね!」
海未「い、いえ、助かりました…」
穂乃果「海未ちゃん、一気に治療するよ。ちょっと熱いかもだけど…!」
穂乃果の『癒しの炎』が強めの火力で海未を覆う。
いつもの穏やかな橙炎よりも強力に練ったマナは色濃く、はっきりとした熱を感じさせる炎が海未の全身を包んでいる。
その様子を脇目に見つつ、かさねはいつもの大鎌を十字大剣へと持ち替え、デュランダルの一撃を受ける。
-
龍皇≪仲間の骨をビスケットを砕くみたいにグシャグシャにして、ずいぶん思い切りの良い逃がし方をする≫
かさね「結果助かったんだからオッケーだよ。新参で情も薄いし、こういうのはかさねの役目だな…って!!」
大剣を逆袈裟、憂慮なく振り上げる。
翼による飛翔の勢いも合わせた下段からの跳ね上げはかさねの常套手段、さらに辿れば親友クリスティーナが得意としていた戦術だ。
元の斬れ味に速度を増した一撃は戦車をも断つだけの高威力、心底自信のある軌道。
しかしアークトゥルスの宝剣デュランダルはそれを片腕、力感も軽く、押さえつけるように容易に固定してしまう。
龍皇はそのまま口を開き、鋭斬のブレスでかさねの胸元を貫いて横に捌く!
龍皇≪火龍刃≫
かさね(穴開いたぁ!痛い痛い痛い!あーもう!)
それでも堕天使の生命力は並ではない。エクスヒールで自分を癒し、そのまま龍皇にべたりと張り付いた距離で果敢に挑みかかっていく。
だが気迫だけでは及ばない。デュランダルの炎熱がかさねの刃を叩き、エネルギーの奔流そのままに全身を焼かれて弾き飛ばされてしまう。
-
かさね「エクス…ヒール…っ!」
穂乃果「かさねちゃん!大丈夫!?」
かさね「支倉かさねの真骨頂はこんなもんじゃないはずだよ、頑張れかさね…まだまだいける!」
穂乃果「おお、なんかすごい気合いを感じる!」
海未「その気概、見習わなくてはいけませんね」
ツバサ「さて…このまま街中で戦闘を続けるのは危険よ。瓦礫が増えればまたパロミデスの能力のエサにされる」
海未「広所に出るべきですね。穂乃果、かさね、この界隈で拓けた場所は?」
穂乃果「音ノ木坂!音ノ木坂学院のグラウンドなら広くて戦いやすいよ!」
かさね「うん、しかないね。今向いてる方向に走ってけば着くよ。けど、問題は…」
穂乃果「むむ…行かせてくれるつもりはなさそう…」
四人の前へ、炎翼を燃焼に揺らがせながら龍皇が降り立つ。
ちょうど回り込まれた格好、背を向けた相手を易々と取り逃がしてくれるほど龍皇は優しくない。
-
睨み合う穂乃果と龍皇。
相貌は同じでもその表情はまるで異なり、抵抗者の強固な瞳と上位者の厳然とした眼差しは全くの別人にすら見える。
早撃ちを競うガンマンの如く、互いの一挙手一投足を見逃すまいと目を皿にしている。
互いの炎が互いにとっての致命撃たりえるのだ、相殺するためには一瞬の油断も許されない。
その脇では海未とかさねが刃を構え…
ツバサは一人、上を見上げて小さく口を開けている。
その呆けた様子は出会ってから初めて見る表情で、穂乃果は少し驚きながらツバサへと注意を促してみる。
穂乃果「ツバサさんツバサさん、よそ見したら危ないよ?」
ツバサ「……ねえ、質問いいかしら」
穂乃果「ん、なになに?」
ツバサ「あの建物…名前は?」
そう言ってツバサが指差したのは、駅そばに位置するガラス張りの大きなビル。
階段の上、正面入り口にはスクリーンが取り付けられていて、流れている映像はツバサたちA-RISEの勇姿。
その映像を見たからというわけでなく、ツバサは何かに導かれるように穂乃果へと問いかけていた。
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そんなツバサの様子が感慨深く、穂乃果は微笑みながら問いに答えを返す。
穂乃果「あれはね、UTX高校だよ!」
ツバサ「UTX…」
穂乃果「そう!この世界でツバサさんが通ってた学校で、私にとっても素敵なきっかけをくれた場所なんだ!」
ツバサ「そう、UTX。意味は知らないけど、耳心地の良い名前ね!」
清々しく笑んでみせたツバサ、その表情は四騎士の綺羅ツバサであると同時に、やっぱりトップスクールアイドルA-RISEの綺羅ツバサでもあるのだと、穂乃果ははっきり再認識させられた。
ツバサ「どうしたの穂乃果さん、慈しむようなエンジェルスマイルを浮かべたりして。ますます魅了されちゃうじゃない」
穂乃果「いやあ、ツバサさんはやっぱりツバサさんだなぁって。なんだか…嬉しいなっ!」
龍皇≪『龍殺炎(ほのブラスター』≫
穂乃果「させないよっ!『龍殺炎(ほのブラスター)』っ!!」
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龍皇が吐き出したブレスを勢いよく相殺し、ぶつかり合った熱が対流で火災旋風のように高々と巻き上がる。
そんな炎の中を縫って龍皇は飛び出してくるかもしれない、ツバサと海未の前衛二人は神経をピリつかせている。徹頭徹尾、常識の通用しない相手だと認識し続ける必要がある。
と、ツバサが口を開く。
ツバサ「このまま素直にやりあってもリスキーなだけね」
かさね「同感、これじゃあジリ貧だよ」
穂乃果「逃げるのも駄目だしここで戦うのも駄目だし!どうすればいいのかややこしいよ〜!」
海未「『転移』での陽動が上手く嵌まれば良かったのですが…面目ありません」
ツバサ「一旦、役割を明確にしないとね」
再び龍皇が放ってきた炎波を穂乃果が相殺する。
雨はまだ降っている。熱気に水蒸気が上がり、視界は相変わらず優れないまま。
敵は敵で攻め手を考慮しているのか、今の所は牽制めいた断続的な火炎が放たれるだけに留まっている。
龍皇が油断しなくなったのは厄介だが、同時に戦闘運びが慎重になるという一応のメリットもある。
-
穂乃果たちが目的としているのは音ノ木坂学院グラウンドへの移動、ただし龍皇もそこまで引っ張っていく必要がある。
ただ逃げただけでは龍皇が留まり、街をたっぷり破壊して塵嵐に変えてから追ってくるかもしれない。
そこで役割分担を。今のうちとばかり、ツバサが早口にそれぞれの為すべきことを整理していく。
ツバサ「まず、穂乃果さんは攻撃役。トドメ係。遠慮はいらないし仲間の心配も不要、ひたすら攻撃にだけ意識を割いて。
穂乃果さんの炎は龍皇に届く。向こうの力は大きいけれど、創意工夫のセンスは穂乃果が上よ」
穂乃果「えへへ…照れちゃうなぁ」
ツバサ「あとはツールの差。龍皇にはデュランダルがあるけど、穂乃果さんには杖しかない」
穂乃果「うん、炎樹の杖じゃあの剣は受けられないもんね…」
ツバサ「そこで海未。穂乃果さんから離れず、穂乃果さんの剣になりなさい。あのデュランダルが穂乃果さんと龍皇の間に戦力差を作り出している。そこを埋めるのはあなたよ」
海未「穂乃果の剣に…ええ、望むところです!」
ツバサ「かさねはしぶとさを活かして遊撃役。穂乃果さんが傷付かないことに専心しながら臨機応変に。私と海未の回復は、場合によって放棄して構わないわ」
かさね「了解、元々似たようなもんだしね。それで、ツバサさんはどうするの」
三人から集まる視線に、ツバサは不敵に口元を曲げる。
ツバサ「私は龍皇を後ろから追い立て、音ノ木坂学院まで強制的に連れていく。
そうね…さしずめ猟犬かしら。穂乃果さんの犬になって、ワンワンと吠えてやるわ」
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そう言うとボードビリアンめいた仕草で大仰に肩を竦め、手をパクパクとさせて犬を真似る。
追い立てる役目、それはつまり単独で残り、龍皇と交戦するということ。
ただ交戦すればいいだけではない、全身全霊を賭してひたすらに攻め続けなければ龍皇の意思を挫いて移動させるのは不可能だろう。
あるいは、ツバサは死すら覚悟している。
戦略思考に疎い穂乃果でも、この状況において単独戦闘が何を意味するかはすぐに理解できた。
穂乃果「それは、そんなのは…!」
龍皇≪おしゃべりは終わりだよ。『銀津波(シルベラ)』≫
アークトゥルスは再び銀龍ラモラックの力を解放する。
振り上げた腕に応じ、街が銀光に波打ち不気味にうねる。アスファルトの路面が艶めいて立ち上がり、龍皇の意のままに穂乃果たちの行路へと殺到する。道を塞がれてしまう!
ツバサ「行きなさい!」
穂乃果「ツバサさんっ!!」
ツバサ「海未、かさね。連れて行って!」
かさね「…っ、穂乃果、行くよ!」
海未「……綺羅ツバサ!私が生涯をかけて貯めた秘蔵の穂乃果コレクションを見たければ生き残りなさい!」
穂乃果「えっ、ちょっと海未ちゃん何それ!穂乃果知らないんだけど!」
かさね「今はいいから。集中!」
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ぎゃあぎゃあと喧しく賑やかに、穂乃果たちは音ノ木坂方面へと駆けていく。
銀壁がその行路を阻む。が、海未は手元に宿した闇の空間から素早く数本の剣を抜き放つ。
童子切安綱、鬼丸国綱、三日月宗近、大典太光世、数珠丸恒次。天下五剣と名高い宝剣を闇のマナで連ね、束を握らずとも腕に連動して刃は空を舞う。
海未「闇の剣技『破壊剣』、これはその上位技です。『連塵破壊(ダスク・アンプリファ)』!!」
せり立つ五メートル級の金属壁に、村正を触媒代わりに引き出す闇の剣技が叩き付けられて粉砕!
微塵に発破されて舞う銀粉の中を突破する海未たち。その背を目で追う龍皇へ、ツバサが双剣の鋭利を突きつけて睨む。
ツバサ「まずは私と踊ってくれるかしら、ニセ穂乃果さん」
龍皇≪ちょうど良かった。順序には何の狂いもない≫
ツバサ「…へえ?」
龍皇≪ここで倒れてもらうよ、“ツバサさん”≫
ツバサ「ああ…やっぱり見た目も声も最高ね。本物の穂乃果さんには絶対できないこと、あなたでさせてもらおうかしら」
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龍皇もまた、牽制の間に戦闘プランを組み立てていた。
精神的な隙を無くした龍皇は、常に冷酷に順序を見定めている。
絵里は消耗していた。
ランスロットのマナで強引に筋力を激増させての東京タワー攻撃、良い戦術だったが消耗も激しく、そこに連続での時間停止。付け入る隙は大きかった。
おまけでトリッキーな希を仕留められたのは僥倖。
さあ、次に仕留めるべきは誰か?
ツバサだ。
龍皇は王宮地下で圧倒されて以来、どこかツバサとの交戦に苦手意識を持っている。
それは何故だか根深いもので、あるいは宿主だった穂乃果のA-RISEの綺羅ツバサへの尊敬が、龍皇の精神にも混線して根付いてしまっているのかもしれない。
ともかくツバサとの戦闘にはままならなさを感じていて、しかし今は好機。
流れは明確に龍皇の側へと傾いていて、加えて今のツバサは『爆眼』で視力が落ちている。今なら仕留められる。
ツバサ『天魔回刃』
再び、双剣は黄金のマナを纏って長大に姿を変える。
怪鳥の大翼を思わせるそれをツバサが振るえば、圧倒的なリーチが秋葉原のビルを斬伐して倒壊させていく。
-
龍皇≪相も変わらず凄まじい…≫
ツバサ「それはどうも。陽動だけどね」
大斬壊に気を取られた一瞬、そのわずかな秒間にツバサは間合いを詰めている。
双剣が龍皇へと迫り、デュランダルを翻して器用にその二撃を受け捌く。
加速する連斬が二、四、八、十六合!!
左右四方から絶え間なく打ち込まれる剣閃を無呼吸で弾き切った龍皇は、すう…!と大きく息を吸う。
最接近、しかしそこはアークトゥルスの間合いでもある。
特大の『火龍哮(ほのファイア)』が面前、鍔迫り合いの距離にいたツバサの全身を飲み込んだ!
鉄をも溶け焦がす熱量、生身の人間が受ければ跡形もなく…
ツバサ『爆散せしは死の運命(イリアレイア)』
龍皇≪それか…≫
ツバサから外へと放たれる指向性魔術、マナが尽きない限り続くフルオート迎撃爆破。
原理としては爆発反応装甲に近い。迫る万象あらゆる危機を打ち払う絶対の生存魔術であり、ツバサの強さを支える一因。
王宮地下で龍皇に苦杯を舐めさせた技の一角でもある。
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だが、既知だ。
その技への対処法はシンプル、魔力を使い切らせてしまえばいい。
龍皇は茫龍、銀龍、桜龍の魔力を立て続けに解放する。そのいずれをもツバサの迎撃魔術は爆散させる。
が、仕込んでいる。
ツバサ(…糸、いつの間にか全身に絡んでるわね)
龍皇≪蟲龍の糸を張り巡らせた。細く薄く、不可視の巣を回避するのは容易じゃない。このまま荼毘に伏してやる!≫
海未にしたように、龍皇は糸へと着火する。
可燃性の巣は複雑怪奇な導火線と化し、糸を辿りながら巣の中央に囚われたツバサの方へと向かっていく。
そこにはマナ溜まりが据えられていて、引火すれば都市区画を二つ吹き飛ばすほどの大火炎がツバサを焦がす。あるいは魔力を全て使い切らせるほどの…
ツバサ『剣帝の戴冠(カイゼルハイロウ)』
龍皇≪な…≫
絡みついた糸がざんばらに切断されている。
一体どういう技…理解するよりも早く、龍皇の胴体も深く切断されている!
それはツバサを円形に取り巻く斬線。フラフープめいて丸く、より大きく、黄金のマナが鋭利な斬撃として空中に留まっている。
ツバサが腕を横薙ぎにすれば拡大し、龍皇を切り裂いて輝く。
それは術名の通り、さながら戴された黄金冠のような。
-
龍皇≪次々と大技を…!≫
ツバサ「まだまだ」
パチンと指を鳴らすと、黄金の斬撃環はその数をさらに増やす。
星を巡る衛星軌道のように、ツバサの周囲を何本もの環が丸く取り囲んでいる。
胴、腕、腰、首!
龍皇は幾重もの斬撃を受けてたたらを踏む。ダメージという観点では穂乃果から受けた一撃のように深く浸透するものではないが、しかし屈辱的な状況だ。
自分が膨大な生命力を持つ龍皇でなければ、既に何度も殺されているのだから。
ツバサがパチンと華麗に指を鳴らすと爆発が足元を砕き、床を崩されてほんの寸時バランスを崩す。
見逃さず、ツバサは龍皇を小内刈りで投げ倒す。そして七星剣を下腹部へと突き立てる!!
龍皇≪……ッッ!!≫
ツバサ「穂乃果さんの顔で、その屈辱に染まった表情。…たまらないわね」
龍皇≪…こうまで相性が悪いとはね≫
ツバサ「相性?そうね、それもあるかもしれない。でもあなたは結局のところ夜郎自大。力ばかり巨大でまともな戦闘は経験不足」
龍皇≪……≫
ツバサ「蹂躙したことはあっても、こうやって食い下がられるのは初めてでしょ?勉強になったわね。そのままくたばりなさい!」
-
…
穂乃果「うわっ!!?」
海未「じ、地面にヒビが…!」
かさね「めちゃくちゃ爆発してるよ!」
後方、ツバサを残しての逃走路。
形としては挟撃になるわけだが、しかしツバサの負担が大きいのは誰の目にも明らかだ。
もしかすると、さっきの会話が最後の別れになるかもしれない。
かさねはそう考えていたのだが、そんな考えは杞憂だったと思わせるほどの爆圧が東京の街並みを揺らしている。
ただの人間一人が戦っているとはとても思えない、絨毯爆撃めいた狂気の炸裂が止むことなく連鎖している。
そしてそれは徐々に近付いてきていて、ツバサは確実に音ノ木坂の方向へと龍皇を押し込んできている。
自ら申告した役割を十全に果たす、その様はまさにプロフェッショナル。
あるいは健在のまま合流できるかもしれない!
そして三人の目の前に現れる桜並木、長い階段、赤煉瓦の校舎。
穂乃果の胸に万感の想いと、勝敗がどうあれ、ここが決着の場なのだという確信が宿る。
穂乃果「見えた、音ノ木坂だ!あと少し、あと少しだよ…頑張ってツバサさん!」
-
…
ツバサ(息切れしてきた?大丈夫よツバサ、まだ踊れる!)
ツバサ「吹き飛びなさい!『爆熱の檻(レイヴレイド)』!」
龍皇≪……≫
重爆が龍皇を押し包み、途切れる瞬間に繰り出されるデュランダル。
それを七星剣で受け回し、天羽々斬で膝に斬りつける。体勢を崩したところへ強蹴。
そこへ『爆眼』を解放し、勢い任せに龍皇を押し込む!
もはやツバサ自身も数を認識できないほど、多重に重なり合う爆華はまるで咲き乱れる蓮。
ズキズキと痛む瞳、眼筋が痙攣して涙が滲む。
拭えば赤。どうやら血涙が流れているらしい。
ツバサ「関係ない…!」
命を燃やしている。
後先を考えずにマナを燃やし、長い距離を押し込んできた。
自分の魔力は“爆破”という一芸特化。
強い衝撃を生むその力はアークトゥルスを無理やり移動させるのにおあつらえ向きで、きっとこの時、この戦いが、自分に授けられた役目なのだろう。
そんな殊勝な思考をかなぐり捨てるように、ツバサは爆貫を龍皇へ叩きつける!
-
圧倒的な攻撃の波を浴びせられて、しかし龍皇は動じていない。
まだ体力は十分にある。爆破に表面を焦がされて多少の痛みはあれど、やはり芯まで届くのは穂乃果の炎だけだ。
適度にカウンターを狙いつつ、ツバサに促されるまま押され、ついに背には音ノ木坂が見えている。
焔眼は見抜いている。
ツバサのマナはもうほとんど底をついていて、命を燃やして魔術を行使している状態だと。
そんな困憊の状態であればツバサの意識と判断力は鈍っているはずで、ならば今。
龍皇は炎翼をはためかせて空へ飛ぶ!
その挙動を見逃すツバサではない。
足元に爆破を起こして浮力に変え、『天魔回刃』の翼で空へ追う。
往路を引き返せないよう塞ぎ、眼光鋭く睨みつける。
だが、龍皇は薄く笑う。
龍皇≪そう、“ここでいい”≫
-
ツバサ「ここでいい…?何を企んでいるのかは知らないけれど、このまま押し切るだけよ」
龍皇≪私から見てちょうど一直線、この方向でいいんだ!≫
その焔眼を爛と輝かせ、龍皇は特大の龍炎をデュランダルに宿す。
そして面前のツバサではなく、地上の街並みへ目掛けて炎刃を振り下ろす。
ツバサの思考が高速で巡る。
私への攻撃じゃない?龍皇は一体何を考えて?
絵里と希が生き残った可能性を断つために?
いや違う、龍皇が狙っているのは…
龍皇≪全て焼け壊れろ!『龍炎斬(ほのバースト)』!!≫
ツバサ「その方向、UTX…っ」
限度を超えた消耗に、きっと判断が鈍っていた。
そうでなければ説明のつかない行動、ツバサはデュランダルの炎撃を防ぐべくその軌道上へと身を晒した。
今の自分には何の関わりもない、それも模造品の母校を守るために?
理屈ではなく思ってしまったのだ、UTXを壊されたくないと。
いや、実際はブラフに掛けられただけかもしれない。
身を動かす直前まで、龍皇が絵里と希の姿を見つけてトドメを刺しに掛かったのかもしれないという可能性を拭えていなかった。
だとすればツバサが炎の軌道に身を晒したのは仲間を守るためで、けれどそんな思考過程は今更どうでもいい。
並行世界だとかなんだとか、あくまで“すごく強い一般人”に過ぎないツバサからすれば知ったことではない。
それでも体が動いてしまったのだから仕方ない。
自分の行動に後悔はしない主義だ。ツバサは魂の底から叫びを漏らす!!
-
ツバサ「は、ああああああっ!!!『スーパー翼斬り』っ!!!」
龍皇≪デュランダルの一撃を弾いた…が、ここまで。『龍殺炎(ほのブラスター)』!!≫
ツバサ「っぐ…!!」
極大の炎吼がツバサを飲み込み、眼下の街へと小柄なその身を撃ち落とす。
マナの残滓、それに命を燃やして爆破迎撃を発動させている。炎に焼かれたダメージは辛くも回避している。
勢いのままガラスを突き破り、UTXの校舎へとその身が転がり込む。
衝撃を自動爆破で殺し、そこでマナは完全に底をついた。
ツバサ「っ、ここは…馬鹿馬鹿しい。来たこともないのに、偽物なのに、懐かしいだなんてね」
雨中の死闘にぐっしょりと濡れ、疲れ切った体には衣服がひどく重い。
床に手を付いたままで、割れた窓から空を見上げる。
遥か上空では龍皇がUTXへと掌を向けていて、それは決着の合図。
-
龍皇≪あなたは強かったよ。才能に溢れていた≫
ツバサ「穂乃果さん…魔術はイメージ。あなたにとって絶対的な勝利の記憶と結びつく音ノ木坂学院は、その力を最大限に高めてくれる場所。…絶対に勝てるわ」
龍皇≪おやすみ、綺羅ツバサ≫
『塔の炎棺』と龍皇が唱じ、掌を閉じる。
龍皇の炎で創造されたUTXはその全てを赤熱させ、本来の炎へと姿を変える。
ガラス張りの建物はずるりと溶けるように巨大な炎塊に。ツバサを飲み込んで焼け落ち、もうそれを防ぐ爆発の音は聞こえない。
龍皇≪あと三人…≫
かさね「綺羅ツバサ、無駄にはしないから」
龍皇≪支倉かさね!≫
かさね「時間を掛けすぎたね、詠唱はとっくに終わってる。お見舞いしてあげるよ、特大のやつを!!」
龍皇よりも上空、二対の黒翼が戦意たっぷりに眼光を尖らせる。
迷走を抜けれど同族殺しの罪は消えず、天使たちから奪い集めたマナは重油めいた虹色に輝き、揺蕩い、張り詰めている。
天高くかざした指は漆黒に迸っている。
龍皇が反応するよりも早く、かさねは思い切りよくその指を降らせる!
かさね「叩き潰せ、『卑天落星(スターゲイザー)』!!」
-
龍皇≪隕石…!≫
東京の街を黒影が覆い、全てが夜に落ちたかのような静寂に包まれる。
反して天空、それもすぐ直上。龍皇の髪、穂乃果と同じサイドテールをチリチリと焦がすほどの至近へ、空気摩擦に燃えた巨大な隕石が迫っている!
それはかさねの執念が生み出した超越。
天使たちが操る『聖力』系統、テレキネシスの力を煮詰めて高めて濃縮し、そして天空を翔ける流星を引き寄せるほどに極めてみせた。
圧倒的な速度と大質量が龍皇を圧する。
ツバサが稼いだ距離の残りを埋めるために、ボールを繋いでトライを狙うラグビー選手のように、かさねの意思は漆黒の隕石へと姿を変え、アークトゥルスを音ノ木坂へと押し込んでいく。
龍皇≪この…程度で、押し切れると思うな!!!≫
かさね「知ってるよ。だから…『集約する脅威(メナスライザー)』!!」
龍皇≪…っぐ、このッ!≫
龍皇が膨炎で隕石を砕き、微塵に散った流星が地上に雨霰と降り注いでいる。
その間隙をすり抜け、さらに上空へと移動していたかさねは龍皇めがけて大鎌を振り抜いている!
堕天使の膂力に大鎌の重量、目も眩む天空からの自由落下を黒翼でさらに加速させ、一切の恐怖を持たずに追の流星となって地上へと降っていく!
-
龍皇は宝剣でそれを受けている。が、勢いを押し留めることはできていない。
圧倒的な速度が生む空気抵抗にも瞳を閉じず、雨を切り裂き、かさねは執念に目を見開いたまま龍皇を睨眼している。
龍皇(支倉かさねは私を見ていない!この世界に、自らの運命を切り拓いて足跡を残す、その一心だけで戦っている…!)
かさね「一瞬でもいい。流れ星みたいに燃え尽きたっていい。高坂穂乃果みたいに、μ'sみたいに!私だって、かさねだって輝きたい!!」
流星≪悪いけど、その願いは叶わない。この至近、地上までの間に殺し切るには十分だ。『疫龍パーシヴァル』よ、支倉かさねを溶かし尽くせ!!≫
かさね「…ッッ!!」
赤褐色の瘴気、黄緑色の強酸の嵐、その二つを併せたブレスがかさねの全身を暴力的に包み込む。
粘性のある攻撃は、龍皇の視界からもかさねの姿を覆い隠す。その存在を確かめられるのは剣を押してくる鎌の圧力だけだが、じきにそれも消えるだろう。
服を溶かし、肉を腐食させ、骨までを呪う呪毒の息だ。
いかに人間よりも生命力に長けた堕天使でもこの至近で耐えられるはずがない。
だが、鎌の勢いは死なない!
-
龍皇≪死なないだと…≫
かさね「私は一人じゃない」
龍皇≪何だ、その背後の鎧は…!≫
毒霧を抜け、衣服と肌を酷く損ね、それでもかさねはまだ健在でいる。
堕天使の背後には漆黒の甲冑。治癒術を底上げする十字大剣を片手に、もう片手でかさねへと治癒魔術を施し続けている。
毒による腐食に対し、エクスヒールを掛け続けることで強引に耐えてみせたのだ。
背後の鎧は一体何なのか、龍皇が疑問を抱いているのと同じように、かさねもその正体を理解していない。
この土壇場で突如目覚めた力なのだ、まるで英雄譚めいて!
かさね(へへ、ここに来て御都合主義…クリス、しずく、ありがとね)
かさねは背後の力を、クリスとしずく、散っていった親友たちの加護だと信じている。
その実態は、熾天使たる理事長が使っていた輝光する鎧と同質の天使術。
幾度もの死線を乗り越え、図らずして世界のために戦っているかさねに、窮地に研ぎ澄まされた極限の精神は最後の覚醒をもたらしたのだ。
しかし真実はどうあれ、そこに理屈が存在したとして、一線を超えた成長を与えたのは親友たちへの潰えぬ友愛。
そう、支倉かさねは一人ではない!!
-
黒鎧は右手にクリスの十字大剣を、そして左掌にはしずくの『水晶嵐(ジリオラ)』を。
自分の片腕で大鎌を押し、さらにもう片手に対物ライフル、顔面へと大口径をぶちかます!!
自分の全てをまとめて龍皇へと叩きつけ、かさねは運命の暗雲を打ち破るための咆哮を上げる!!
かさね「墜ちろ!!!龍皇!!!」
━━━!!!
衝撃、散る草と土煙。
青々と茂った芝がめくれ、グラウンドの中央へと龍皇は叩きつけられている。
すぐ後ろに見えている校舎は音ノ木坂学院。
ツバサからかさねへと死闘のリレーを繋ぎ、ついに龍皇をここへ到達させたのだ!
龍皇≪っ、やってくれる…≫
かさね(えっへっへ…わりと頑張れたかな。空…雨が止んでる。隕石が雨雲を突き破ったんだ)
差し込んだ陽射しを掌に受け、かさねは小さく頷いた。
かさね(毒が回って、もう指一つ動かせないけど…私にも晴らせたよ、空!)
-
グラウンドの端に倒れ伏したかさね。
全霊を賭して攻撃を浴びせ、自分は受け身を取ることすら叶わなかった。
高高度からの落下に強かに全身を打ち、堕天使の頑強な体も無事では済まない。
パーシヴァルのブレスは確実に内腑を蝕んでいる。
継続的に癒すことで対抗していたが、身動きが取れなくなればそれも限界。共に戦い抜いてきた大鎌と大銃は地に転がり、手を伸ばせど届かない位置。
精一杯頑張れた自分を褒めてあげたくて、もしこのまま死んじゃうならボロボロになった衣服だと自分が可哀想だな、と考える。
絞りかすのようなマナの残滓で腐食した衣服を修繕し、「これでよし」と。
やっと満ち足りた表情、かさね本来の素直な笑顔を満面に浮かべ、そしてかさねは瞳を閉じる。
刃と刃を重ねる音、炎が空気を焼き焦がす音を子守唄に。
かさね(穂乃果…キミなら負けないよ。絶対に……)
-
…
穂乃果「えーいっ!『鴉火』100連発っ!!」
景気の良い掛け声に併せ、黒煙を燻らせて炎弾が舞う。
龍皇は穂乃果の炎を警戒している。たとえ牽制の小技だとしても、一撃たりと受けまいとその全てを丁寧に躱し、撃ち落としていく。
間隙を突いての踏み込み、迫るデュランダル!
海未「させませんっ!!」
龍皇≪そこを退け…園田海未!≫
虎徹、正宗、兼定。兼光に髭切。さらに幾多数えきれず。
海未が軍属の時に押収、貯蔵した名刀の数々がグラウンドに散っている。
戦況は悪いと見た龍皇は、その方針をさらに明確に定め直している。
龍皇≪確実に殺す。このデュランダルで、高坂穂乃果を斬って終わりだ≫
海未「させないと言っています!!」
炎熱の刃が縦に振るわれ、海未の手にした膝丸がそれを斜めに受け流す。
防御には成功したが、しかし刀が折れる!
剣に神経を集中させた龍皇の刃圧はこれまでの比ではなく、鍛え上げられた名刀もまるで鉛筆の芯のように折られてしまうのだ。
海未(くっ、すみません…膝丸)
穂乃果「秩序と神祗、混濁と終焉。焔の眼に歪曲を正せ。海未ちゃん後ろから行くよ!『陽の紅焔(プロミネンス)』!!」
龍皇≪ッ…≫
-
穂乃果が放ったのは拡散する力。
放射状に広がり味方を焼かず、敵だけを灰塵へと帰す無音、圧倒の炎。
龍皇は上へと飛ぶことで難を逃れる。
そこへすかさず海未が『水アローシュート』で追撃、さらに穂乃果の義手を足場に跳ね上げてもらい自身も追蹤。
刀を新たな名刀、大包平へと持ち替えている。放たれる強斬!
海未「秘剣…『明鏡止水』」
龍皇≪甘い!!≫
海未が放った『明鏡止水』は水マナを用いた必殺剣。
正面から斬りつけると同時に相手の背後へと転移瞬斬、表と裏からまるで鏡合わせのように対の斬撃を浴びせる即殺の剣技だ。
密かに磨いていた誰にも見せていない剣技、龍皇にとっても初見のはず。
しかしアークトゥルスはデュランダルを迷いなく走らせ、二撃を防いで打ち払う!
龍皇≪剣の差は大きいね≫
海未(これでも通じないのですか…!)
穂乃果がサポートのタイミングで龍皇へと炎弾を放ち、その隙に海未は地表ヘと降り立っている。
ただ二合のやり取りで大包平に軋みが生まれている。この刀であと何度打ち合えるか…
-
穂乃果「海未ちゃん、どう?」
海未「デュランダル…あの剣はやはり凄まじいです。世に名だたる名剣たちよりも硬く鋭く、さらには主人を守る魔力までを帯びているようです」
穂乃果「うへえ…そっか、それで今の海未ちゃんの剣がガードされちゃったんだ」
海未「ええ、龍皇だって後ろに目が付いているわけではありません。『明鏡止水』を初見で防ぐとなれば、何かしら自動防御のような魔力が備わっていると見るべきですね」
穂乃果「今のうちにかさねちゃんの回復を…」
海未「……駄目です。離れた位置に倒れている。あの場所へ行くまでに大きな隙が生まれますし、回復に魔力を割けばそこを突かれる。
そもそも、既に事切れているかもしれない。リスクは踏めません」
穂乃果「……っ、かさねちゃん…ツバサさんも…」
海未(まだ息があるかもしれない。助けたい…けれど、私が『転移』で向かえばその隙に穂乃果を殺される。耐えるのです、海未!)
龍皇≪死ね!!≫
苦戦の実感があるのだろう、龍皇はこれまで以上にその殺意を昂ぶらせている。
親の顔より見慣れた顔、穂乃果そのものの眼差しが鋭く殺意を向けてくる、海未にしてみればまさに異様な光景だ。
それでもやるべきことはシンプル。穂乃果を守り、そしてデュランダルを打ち砕くのみ。
-
海未「いいでしょう、一本で当たって勝てないのならば…」
穂乃果「おお、二刀流だねっ!」
海未「いいえ、五刀です」
そう告げ、海未は再び天下五剣を顕現させる。
そして集中、銀壁の前でやってみせたように闇のマナで束ね、静かに龍皇の宝剣を見据える。
海未『五輪剣』
龍皇≪数で勝負?≫
海未「ええ。加えて、斬れ味よりも破壊力を。『連塵破壊(ダスク・アンプリファ)』発動」
龍皇≪破壊に特化した闇の斬撃。面白い。だが、その程度でデュランダルを打ち破れるとは思わない方がいい≫
海未「やってみなければわかりません!!」
挑みかかる!
弾丸めいて間合いへと踏み込み、一本の刃を繰り出す。
龍皇がそれを弾く、が、初撃は幻惑。海未は舞踊を舞うように上体を翻し、左手の流れに沿って四剣が龍皇を叩く。
デュランダルはこれも受けた。だが刃の残像がまだ瞼に残るタイミング、既に海未は次撃へと腕を切り返している!
龍皇≪侍というよりは踊り子だ≫
海未「それで結構。リーチの異なる五剣をタイミングをずらして振るえば、いつまでも受け切れはしないでしょう。さらに…」
-
空いている左右の手へ、海未は菊一文字と村正を抜き放つ。
闇のマナに五剣を宙で操り、加えて双手に持つ。つまりは七刀流!
空の五剣は俄仕込みでも、両手に握るのは長い戦いの中に手へと馴染ませてきた二本の愛刀。
七の斬撃が龍皇、デュランダルへと襲いかかる!
龍皇≪曲芸めいた真似を…!≫
海未(極限を…今の実力よりも先を!)
薙ぎ、払い、巻き上げ斬り伏せ、突いて突いて下段を薙ぐ。
七の剣が絶え間なく放つ剣斬、海未の集中の全ては炎剣へと向けられている。
駆けて切り抜け、即座に体を捻って後ろを向いてもう二撃!
へし折る。触媒としての効力をも併せ持つこの剣が、穂乃果に害を為す前にここで折る!
膝を突き、肩を貫き、両手の刃が交差してデュランダルを地に固定。その腹を海未は靴底で思い切り踏み抜く。
折れず、龍皇が振り抜く返しの刃を後方へ飛んで紙一重で回避!
穂乃果が炎を放って龍皇を牽制してくれている間、乱れた呼吸を急ぎ整える。
-
海未(まだ折れはしませんか。しかし私の闇と水のマナは強い鎮静作用を有しています。
魔力に支えられているデュランダルの硬度も、少しずつ削られていっているはず)
灼熱を誇る龍皇と、鍔迫り合いの距離で顔を付き合わせての交戦。
海未の体力もまた確実に削られていっていて、身動きを阻害しない軽鎧の下に着た衣は焦げて燻っている。
龍皇の返す刃は、幾度も危うく海未の肌を掠めた。
肩、腕、足や他にも数ヶ所の皮膚が火傷を負っていて、引き締まった良質の筋肉には苦痛の脂汗が滲んでいる。
それでも海未は痛みの声を一度も漏らしていない。
海未(考えてみれば、私の旅は火傷から始まったようなものです)
旅の始まり、火龍サラマンダーとの交戦。
穂乃果に守られなければ焼き焦がされ、あの場で絶命していただろう。
刃を振るう、デュランダルに振動を響かせる。
五剣の一つが折られる。
怯まずもう一撃、確実に剣へと損傷を与えている。もう一本がへし折られる。さらにもう一本!
海未は旅路を思い起こす。
暗く、辛い経験もたくさんした。それでも仲間たちと、穂乃果とことりと歩めた道のりは誇らしく幸せなものだった!
-
海未『無明剣!!!』
村正を闇の中へと一旦納め、菊一文字の一刀流へと持ち変える。
そして放つ三連刺突!神速の踏み込みからほぼ同時に放たれる三連撃は、デュランダルへと強く深い衝撃を与える。
触れた刃を通じ、その根元に軋みが入ったのを体感する。
反動を受け…菊一文字が微塵に砕かれる。
海未が刀を使い始めるに至った出会い、陰惨な思い出ばかりの闘技場で唯一の戦利品。
それから紆余曲折の旅路を共にしてきた、物を大切にする海未にとっては謂わばもう一人の戦友。その命が今散っていく。
海未(菊一文字…っ、ごめんなさい…ありがとうございました!)
童子切安綱が、三日月宗近が、デュランダルへと損傷を与えて叩き折られる。
浅くだが脇腹が抉られている。左肩からは斬傷に鮮血が溢れていて、切っ先を掠めた左の瞼は海未の涼やかな美貌を紅に染めている。
火術で盤石の援護をくれる相棒、穂乃果からは心強い応援の声が聞こえている。
海未(大丈夫ですよ、穂乃果。貴女は守りきってみせる…!)
穂乃果の声はあるいは心配の、傷だらけの海未に退くように促す声だったのかもしれない。
しかし集中の峰にいる海未にとって言葉の意味はノイズ。愛する穂乃果の声は、その集中をより深海の底へと誘っていく。
-
海未(龍皇の表情には狼狽が窺えます。敵剣に刻まれたダメージは重篤。あと一歩、あと一歩です!!)
残す一本は村正、得体の知れない侍から譲り受けた妖刀。
思い起こせばこの一振りに散々振り回されたものだ。それでも全ては糧。海未に蓄積された経験は一つの技を頂へと至らせている。
暁龍ガウェインの閃熱を龍皇が放つ、死線の際に海未は前へ。
光が脚を掠めて大腿が焦げる。それでも苦悶の声は漏らさない。その一呼吸が勿体無い!
真斬の間合いへ、海未と龍皇の視線が交錯する。
鞘走り…抜刀!!
海未『亜空一刀流・刄天絶海』
剣斬の軌道は音すら斬り裂き、静寂。
耀龍ランスロット、絵里を打倒した決殺の一振りは万理斬倒の絶剣。
残心、鞘へ再び納めるべき刀は…
茎から折れている。
-
海未「村正…!」
龍皇≪……デュランダルは龍炎で自ら鍛え上げた刃。天下に聞こえた妖刀村正でも、その凄絶な剣技でも、砕くことは叶わない≫
穂乃果「海未ちゃんっ!!!」
海未の体がゆらりと傾ぎ、駆け寄った穂乃果がそれをがしりと抱きとめる。
ズタボロにされた体で全力の一撃を放ち、その負担は随分前に限界を迎え、とっくに超えている。
龍皇の額に、一筋の雫が伝う。
それは冷や汗。世界最硬を誇るはずの宝剣デュランダルにはヒビが入っていて、今にも砕け散る寸前だ。
海未の剣技は龍皇に優っていた。白黒を分けたのはただ一点、手にした剣の強度だけ。
その強度さえ首の皮一枚まで追い込まれ、しかしそれでも一つの事実が龍皇の手に握られている。
龍皇≪痛めつけられはしたが…私の手にはデュランダルが残っている。終わりだよ、高坂穂乃果≫
-
海未「ほ、のか…逃げてください…」
穂乃果「……まだだよ、終わらせない。みんながここまで繋いでくれた。絶対、絶対に…私は負けない!」
海未「無理です…!貴女は術師、デュランダルはまだ振れる。あれを手にした龍皇を相手にするのは…!」
龍皇≪音ノ木坂学院、μ'sの象徴。“私”の墓標にはこの上ない場所だね≫
そう呟くと、龍皇は炎剣デュランダルを両手で握り、大上段に構える。
真正面、一歩も引かない穂乃果。その瞳にはまるで怯えが含まれていない。
間合いが広ければまだ勝機もあった。だが、傷付き倒れた海未を庇うために飛び込んできてしまっている。
その位置は炎剣の間合いより内。さながら海未と二人、断頭台にその身を固定されたような状況だ。
それでも穂乃果の性格からすれば、ここまでよく耐えていた。
絵里や希を瓦礫の中から探したくてたまらなかった。ツバサとかさねを捨て駒にするような戦術にも歯を食いしばって耐えていた。
自分が傷付けば勝ちはない。有効打を与えられるのは自分だけだと理解している。
だが仲間が全員倒れて、自分だけが後ろにいるのはもうごめんだと前へ出た!
龍皇≪この一撃が…世界の死だ!≫
穂乃果「終わらないっ!!!」
-
振り下ろされるデュランダル、炎圧に滾るその刃へ、穂乃果は左腕、義手の掌を向ける。
鋼の手に嵌め込まれているのは魔力を収束するための輝石。
直撃の瞬間、圧縮したマナの光を解き放つ。
義手砲から放つマナバースト!盛大なエネルギーの射出が地を揺らす!!
……一撃を防いだ。が、龍皇に傷を付けたわけではない。
デュランダルに刻まれた損傷は、あくまで海未の利剣による技あってこそ。
義手砲の拡散するエネルギーでは、そのヒビを決壊させるに至らない。
つまり、ただ一撃を凌いだだけ。
砲口である結晶体は剣撃に砕かれていて、もう射出する役割は果たせないだろう。
龍皇は再びデュランダルを掲げ、未だ戦意の火を消さない穂乃果へと不思議そうに声を掛ける。
龍皇≪悪あがき…つくづく諦めるってことを知らないんだね、高坂穂乃果は≫
穂乃果「諦めないよ。諦められない。どんなに悪い状況だって覆せるってことを、私は知ってるから!」
希「そう!それでこそ高坂穂乃果やね!!」
龍皇≪…!?≫
-
穂乃果と海未の下、影がぬたりと立ち上がってそのまま二人を覆い隠す。
暗幕が降りるように、舞台の奈落が床下へと下がるように、追い詰めていたはずの穂乃果と海未が姿を消して、代わりに現れたのは綽々の笑みを浮かべた希!
さしもの龍皇もまるで理解が追いつかず、浮かぶ疑問をそのままに吐露する。
龍皇≪死んだはず…少なくとも、炎が腹を貫いていたはずだ≫
希「うーん、見間違いちゃう?」
へらりと笑って手をひらひら、そのマイペースは夢でも幻でもなくまさしく東條希。
いや、龍皇にとって彼女の出現は不吉この上なく悪夢めいている。殺めた相手が飄々と復活してきたのだから。
少なくとも足はある。幽霊ではないらしい。
ならば敵なのは明らかで、しかし希は龍皇の顔を見つめ、ふわりとした微笑を浮かべている。武器すら構えずに!
龍皇≪舐めてるの?≫
希「んーどうやろ、見透かしてはいるかもね?」
龍皇≪ならもう一度、死ね!!≫
口から大火を吐き出す!!
その炎は明確に、見間違えようもなく希を飲み込んでいて、龍皇は確殺の信を得てその口を閉じる。
が、希は健在。焦げ跡一つ付いていない!
-
驚きに目を見張る龍皇、その髪を一陣の風が揺らす。
春風は木々をざわめかせて暖かにそよぎ、ぺらぺらとした一枚の紙が空に舞う。
それを希ははしと、中指と人差し指で摘んで手に取った。
希「偶然飛んできたこの紙は宝くじなんやけど、これは一等、三億円の宝くじなんよ。この意味がわかる?」
と、希は番号の確認すらせずに言い放つ。
それどころか本当に宝くじであるかどうかも定かでない。希は紙を一瞥もしていないのだから。
訝しむ龍皇、この女は一体何を言っているんだと。
しかし事実その宝くじは一等で、懐に収めているおみくじは大吉で、栄養補給のために齧った当たり付きのチョコバーの包みには“当たり!もう一本”と書き記されているのだ。
そして希はピシリと、面前に一枚の札を差し出して龍皇へ見せつける。
そこには“神田大神〜云々”と書き付けられていて、希は神秘性さえ感じさせる笑顔でさらに一歩を踏み出す。
-
希「神田明神の神札。道中見つけて、すぐにわかったんよ。ここはウチにとって馴染みの深い、恩恵のある場所やって。
だからこの世界のお金とは違うけど、ウチの今の手持ち全財産置かせてもらって、それで一枚だけ拝借してきたの」
龍皇≪神田明神の…?そんなものに何の意味がある≫
希「わかるやろ?ただでさえありがた〜いお札、能力者である今のウチが神田の神様から加護を受ければ…
ただのラッキーガールからスーパースピリチュアルラッキーガールへとランクアップするんよ!!」
ババン!と堂々言い放った希に、龍皇は嘲るような笑いを浴びせる。
龍皇≪……馬鹿げてる。ここは東京じゃない、“炎世東京”。私が創り出した偽りの世界。つまりその札も偽物だ≫
希「ううん、そんなことないよ。あなたの作ったこの世界は確かに偽物かもしれん。
だけど人々はちゃんと生きてて、どこか歪ではあるけど生活を送ってる」
龍皇≪……≫
希「神田明神も多分、本物と寸分違わず再現されてるんやろね。そこに参拝する人たちがいて、神社を親しむ人たちがいて、それならもうそこに神様は宿ってるんよ。
神様ってのは結構テキトーで、わりと寛大やから。ならウチは、その力をほんの少しだけ貸してもらうだけ」
龍皇≪もういい…消えろ。『龍殺炎(ほのブラスター)!!!≫
-
一度葬ったはずの光景、その再現だとばかりに龍皇は最凶の殺傷力を誇るブレスを希へと浴びせる。
だが直後、龍皇の目は驚愕に見開かれる!
希「言ったやろ、スーパースピリチュアルラッキーガール状態やって!」
それは絶対的幸運!!
龍皇の炎が“何故か”“理由もなく”希を避けている。
吐き出された炎海は希を前に、まるで十戒のモーセの逸話よろしく真二つに裂けている。
今、あらゆる攻撃は希へと害を及ぼさない!
希(影の術を強引に払われて、私がみんなの役に立つにはどうすればいいかを考えた。辿り着いた答えは一つ)
希は前へ、確信に満ちて、前へ。
敵の目前へと歩み寄り、2センチだけ高い目線でその顔を見下ろす。
龍皇の間近で、顔を付き合わせて口を開く。
希「あなたの心、ウチが占ってみせる」
龍皇≪何を言いだすかと思えば…笑わせる!≫
-
希が己に課した役目は攻撃でもない、防御でもない。
龍皇の心を見透かし裸にし、その精神の鎧を引き剥がすこと!
魔術の根源は集中とイメージ力。心の根を鷲掴みにして引き出されれば、どんな強者であれ良質の集中を保つのは難しい。
最後に見出した役割は闇の力だのとは関係なく、元より希の真骨頂。
得意の弁舌で龍皇を突き崩す、それが希の戦いだ。
たっぷりと言葉を溜めて…効果を演出しつつ、希は口を開く。
希「龍皇アークトゥルス、あなたは人間じゃない。だからどんな心をしてるんやろって考えても、すぐには全然見えてこなかった。
でもね、おっきなヒントは目の前にあったんよ。この街…炎世東京。ここはあなたの思い描く理想の世界」
龍皇≪幸運で躱す、それもいいだろう。だがその幸運はいつまで保つ?尽きるまで焼き続けてやろう≫
龍皇は希を試すように、掌を翳して炎を放射し続ける。
豪運は未だ希を守護し続けていて、希は臆さず瞳の奥底を見据え、そして言葉を回転させる。
-
希「世界をゼロから作るとき、自分の嫌な世界を作るはずがないもんなぁ。
そう考えて、次に湧く疑問は“元の世界とここの一番の違いなんだろう”ってとこ。
街並み?文明の水準?違う、人の心や。この世界の人々は、心に恐怖を抱かない」
龍皇≪……黙れ、東條希≫
希「人々は死や破壊に恐怖を抱かず、嫌悪しない。そこが一番の違いで、ウチがこの世界に来て最初に抱いた大きな違和感。
じゃあどうしてそんな違いを?その疑問の答えは簡単。
龍皇が破壊を宿命づけられた存在で、忌み嫌われて悠久を過ごしてきたことと繋がってるんよね」
龍皇≪黙れと言っている…!!≫
龍皇は地に突き立てたデュランダルを再び握り、流暢に語り続ける希へと袈裟懸けに切り落とす。
炎が避けるなら刃で、自らの手で。運命が斬撃の軌道を捻じ曲げようと、それを押し切るだけの力が自分にはある。
そして炎剣は見事、肩から腰にかけてを斬り抜け…
未だ無傷、希はしゃべり続けている!
龍皇≪何故…!≫
希「あなたは嫌われたくなかった」
龍皇の精神、その核心を突く一言を言い放つ。
-
炎剣は希を斬ってはいない。
天文学的確率に天文学的確率を掛け合わせたような奇跡でトンネル効果が生じ、デュランダルは希の肉体を損壊させることなくスルリとすり抜けていた。それは神域の豪運!
しかし運にも限度がある。
希自身が神ならばともかく、希の命を繋いでいるのは神田明神の加護のほんの一旦、一枚の神札だけ。
札の端に裂け目が入ったことに希は気付いていて、それでも動じず言葉を続ける、考察を紡ぐ、龍皇の精神のページを手繰っていく。
希「嫌われたくない…つまりは好かれたいってこと。
煌めき、脚光、万の好意を寄せられるアイドルへの憧憬。
あなたはたくさんの並行世界の中に見出した一つの光、穂乃果ちゃんに憧れたんやね」
龍皇≪違う!!≫
希「秋葉原のポスターに、穂乃果ちゃんの姿だけがなかった。
あなたは穂乃果ちゃんと分離してからもずうっとその姿でいる。
それどころか穂乃果ちゃんから一発食らって姿が崩れた時、わざわざその見た目を作り直してみせた」
龍皇≪違う!!!≫
希「戦闘には関係のない容姿をわざわざ繕う執着、ポスターの空白…あなたは高坂穂乃果に成り代わりたがっている。
自分も輝きたくて、みんなから愛されたくて。
…自覚はないんかな?直視しないようにしてるんかな。でも、これは断言できるよ」
龍皇≪黙れっ!!!≫
希「……あなたは寂しいんよ」
龍皇≪………っ、…、殺してやる…≫
-
龍皇の怒りにマナが乱れ、空間、地面、風に木々に、あらゆる物から爆竹が爆ぜるような音が聞こえてくる。
万物の上位たる生命体、神に近しい存在である龍皇の逆鱗、希の言葉はそこを撫でたのだ。
普通であればそこにいるだけで細胞が煮えて弾ける空間、希はまだ無事でいる。
しかし神田明神の神札には大きく亀裂が入り、今にもその豪運は底を尽く寸前!
希「〜っ!ここが限界や、エリチ!」
絵里「呼ばれて参上…なんてね」
希の足元、作り出した影空間からすらりと華麗に現れたのは絵里。
ブレスに飲まれた時、希のように無傷とはいかなかったようでそれなりの負傷を負っている。
それでも四肢は健在の五体満足。冷気のヴェールで希と自身を覆い、怒気に満ちた灼熱のマナを遮って和らげる。
目の下は真っ赤に腫れていて、影の中へと退避し、戦えるまで体力を回復させていた間に亜里沙の死で号泣したのだろうと窺える。
それでも戦場に舞い戻ったからには怜悧に美しく、その立ち姿はまさに、かしこいかわいいエリーチカ!
-
希「お茶目にウインク決めてる場合やない!連携、行くよ!」
絵里「とびっきりのやつ、お見舞いしてあげましょう」
そう応じ、絵里は慣れた仕草で希を背後から抱きしめる。
きっと幾度となく繰り返した動きなのだろうと感じさせる所作…
しかしするりと、絵里の腕は影と化した希をすり抜ける。
その透過の間に、絵里の手には一本の槍が握られている。
凝視しなければ存在に気づかないほどに透明で、おそらくは氷製。
しかし光を透かせば、どんな宝石よりも尊く輝いている。
その槍は二人の連携、
『砕け散る魔槍(ゲイ・ボルグ)』
-
龍皇が放つ灼熱、絵里は軽やかに身を捻ってそれを躱す。
アルタキエラよりは少し短く、だいぶ軽い。そんな魔槍をただ一直線に突き出した。
ヒビ割れたデュランダルがそれを受け、絵里の槍は木っ端微塵に飛散してしまう。
龍皇≪鈍ったかランスロット!その程度の刺突で…!≫
絵里「鈍ったのはどっちかしら?」
龍皇≪ガ…っ、ふ!?≫
それはまるで硝子。脆く儚く、何よりも危うい不可触の凶棘。
研ぎ澄まされた氷槍は硬質に澄み、触れれば白百合の如く散華する。
無論、単なる氷ではない。
生成の折に影の女王スカアハの力、運命操作の魔力が十全に織り込まれていて、触れられ、砕けたその槍は確定的に三十の破片へと分散する。
そしてその全ては確定的に、相手の身へと三十の刺し傷を刻みつける。
体へと破片が突き刺さり、同時に多数の手傷を負わされた龍皇は表情を歪ませる。
龍皇(痛い…痛いだと?穂乃果からの攻撃でもないのに…?)
-
間違いではない、明確に痛みを感じている。
その原因は明らか、希に心の深層を揺さぶられたことでマナの制御が不安定になっているのだ。
痛みは怒りを呼び、アークトゥルスは無尽に湧き上がってくる憎悪をより深めて絵里を睨む。
が、絵里はすぐさま二本目の『砕け散る魔槍』を手にしている。
希とは真逆、絵里は龍皇との対話に興じるつもりはまるでない。
体に眠る反逆の龍、ランスロットの魂が求めるまま、主上殺しの刃を鋭く突き出すのみ!
龍皇はそれを受けない。
一箇所の槍傷なら微細、多少の痛覚が走ろうが耐えられる。
カウンターで炎剣を振るい、今度こそ絵里を、希を、この不遜な連中を叩き潰してみせる!!
絵里「受けなければ傷は一つ?残念ね、私たちの力はそれほど甘くない」
龍皇≪ぐ…っはっ!!≫
碎かれずそのまま突き刺さり、それでも魔槍は形を留めない。
刺さった衝撃で自壊し、同じく三十の破片へと姿を変えて体内を突き荒らすのだ。
つまり絵里と希の連携はまさに必殺、相手が龍皇でもなければ確実に相手を殺めてみせる技。
固く結ばれた二人の絆だからこそ生み出せる至上の連携撃…!
-
絵里(けど、これが底ね…!)
希「エリチ…っ、ウチもここが限度…!」
それでも絵里の負担は深く、この二撃は死力の先を振り絞ったロスタイム。
糸が切れたように崩れる絵里、希が陰翅で守るべく包み込むが、幸運が尽きたのは焔眼の洞察に明らか。
そして希もまた、強引に龍皇の間近に留まり続けたことで全身に重い負担を与えられていた。
消耗は凄まじく、二人揃ってほぼノックダウンへと追い込まれている。
今度こそ、一挙に焼き払うべくデュランダルへと炎を宿す。
この作業も幾度目だろう、殺そうとしても殺そうとしても、挙句殺しても起き上がってくる。
だがこれだけ繰り返せば嫌でも学ぶ。トドメを刺す寸前になれば他の仲間が乱入してくることを。
海未「絵里!希!」
龍皇≪来ると思ったよ、刀もなしにノコノコと。今度こそ死んでいけ!!≫
海未「刀なら…ここにあります!」
龍皇≪それは…!天羽々斬だと!?≫
-
戦場、音ノ木坂グラウンドの端にはツバサの姿がある。
立ち上がることすらできずに這いずり、それでもまだ生きている。
UTX校舎が龍皇の手で巨大な火炎の棺と化し、ツバサの全身は逃れようのない灼熱に巻かれた。
服はもちろん髪に皮膚、肉の深部までが紅蓮に焼かれ、高温の煙に肺を苛まれて呼吸すら許されない。
それでも焼かれる激痛は失神を許さず、喉が焼かれていて叫ぶこともできず、死とはこれほどまでに凄絶かと空を睨む。
そして訪れた死の淵…
ツバサは有する大魔術、その最後の一つを発動させた。
『我が凱歌は永遠に潰えず(クラニエル)』
ツバサにとっての爆破とは圧力の解放や燃焼ではなく、“ブッ飛ばす!”というおおざっぱな概念でしかない。
魔術はイメージ、強く固く思い込めばなんだってできる。
ツバサのそれは臨死の際、ただ一度のみ発動させることのできるまさに切り札。自らを包む“死”という概念を“ブッ飛ばし”て、炎の塊の中から見事復活を遂げたのだ!
ともあれ、理屈は問題ではない。
服を焼かれたツバサは破壊に巻き込まれて死んでいたUTX生の制服を剥ぎ、雑に袖を通してここまで這ってきた。
マナ残量はゼロ、ありったけの命をマナへと変換しての蘇生。まさに残機はゼロ。
それでも剣を海未に投げることはできる!
ツバサ「天羽々斬…掛け値なし、最高の刀よ」
海未「心得ています!」
-
龍皇≪デュランダル!!!この死に損ない共を…魂まで残さず焼き食らえ!!!≫
海未「ところであなた、知っていますか?こちらの世界での私の苗字は“園田”というそうです」
龍皇≪だからどうした…!≫
海未「高坂の両親へは敢えて尋ねずにいましたが、もしかすると実の親も同じ“園田”という姓なのかもしれませんね。
何故だか、とてもしっくり来る名です。高坂の苗字を捨てる気は無論、ありませんが…」
清流の歩み。
静謐な四歩が芝を踏み、決して速くはないにも関わらず龍皇は反応できていない。
所作の全てが意識の空白を突いている。
垂らし、下段に構えた刀身。纏わせた青の魔力は麗しく、朝露めいて雫が滴り落ちる。
海未「自らの流派に名を付けるとすれば、その名を使わせて頂きましょう。園田流奥義、相克の太刀…」
龍皇≪滾れデュランダル!!我が龍炎を孕み、蔓延る害種を遍く薙ぎ払え!!!≫
海未『終剣』
キン、と。
半身、猛るアークトゥルスの一撃に刃を添わせ、擦り合わせて斜め下へと流す。海未の挙動はただそれだけ。
-
ただそれだけで、暴威を振りまいてきた龍皇の剣が極音を響かせて軋む。
怪鳥の嘶きを思わせるその音は、きっと宝剣デュランダルの断末魔だったのだろう。
『終剣』、それは己の剣を死なせ、相手の刃を確実に砕く剣士殺しの秘剣。
宝剣を折るべく砕身し、苦心を重ねた海未だからこそ今編み出すことのできた奥義!
龍皇≪デュランダルが…砕かれた…?≫
ツバサ「ああっ、天羽々斬が。人の剣だと思って…でもグッジョブよ!」
海未(しかし、もう体が言うことを聞きません。あとは…!)
龍皇(姿勢を崩され、剣を砕かれ…!まずい!)
龍皇の顔に浮かぶ戦慄、昂ぶるマナの気配に身の毛がよだつ。
“あれ”が来る。
穂乃果「みんな、あとは任せて!穂乃果のありったけを…『火雷噬嗑(ほのいかずち)』ッッ!!!」
それはわかっていても避けられない神速必到の一撃。
空を駆けた炎雷が龍皇の胸元へ突き刺さり、爆ぜて燃える!
龍皇≪がッ…あああああっ!!!!!≫
-
後ろへと勢いよく吹き飛ばされて燃え、グラウンドを転がる龍皇。
穂乃果は走る。龍皇を視界に捉えたまま、海未の傍らへと駆け寄る。
炎樹の杖に次弾の火球を燻らせ、精魂尽き果てて倒れた海未へと太陽の笑顔を向ける。
穂乃果「歌おう海未ちゃん!ことりちゃんも一緒に、みんなで一緒に!」
海未「穂乃果…?全く、いつも穂乃果は説明不足ですね。だけど、楽しいことを考えついたのはわかります」
穂乃果「うんっ!最っ高にキラキラしてて、みんなが楽しくなれることなんだ!」
海未「私はいつだって穂乃果について行きますよ。もちろんことりも!」
穂乃果「そのために、ここで全部終わらせなきゃ!!」
龍皇≪パーシヴァル!!≫
穂乃果「『大火球』っ!!」
疫龍のガスが拡散するより先、穂乃果は特大の火球をその中心へと撃ち込む。引火、炸裂!!
相殺して直後、黒の群鳥、『鴉火』の連弾が龍皇の全身を猛然と捉えて火炎へと包み込む。
次!
-
穂乃果「もう一度…『亜空灼火法(インプロージョン)』!!!」
龍皇≪………!!≫
捕捉、拘束、爆縮!!
会得して以来愛用してきた上級魔術が龍皇を包み込み、苦悶の声さえ漏らさない炎熱の籠へと閉じ込めている。
高速詠唱高速詠唱高速詠唱、矢継ぎ早の大火力の狂乱。
穂乃果(考える暇は与えない!)
龍皇はデュランダルを失いこそしたが、平静を取り戻して体勢を整えればまだ自身の力は健在だ。
しかしツバサとかさねの奮闘に気圧され、希に動揺を誘われ、絵里との連携に痛手を負い、海未に愛剣を砕かれた。
今の龍皇は疑問符の渦に飲まれている!自分は最強ではなかったのか?と!
穂乃果が重ねた数種の炎が龍皇を討ち、さらに思い切り息を吸い…
穂乃果「『火龍哮(ほのファイア)』!!!」
龍皇≪ぐゥゥっっ…!!≫
極大のブレスが龍皇の身を焦がす!
王宮地下、西木野王を圧倒したあの時も同じ。
迷いなき一気呵成、怒涛のラッシュは高坂穂乃果が高坂穂乃果たる所以!
-
酸素不足に眩む視界、呼吸のペースを無視しての詠唱、詠唱、吐炎。
後先を一切考えない魔力の浪費も重なり、全身の血管とマナ回路に恐ろしいほどの負荷がかかっているのがわかる。
かふ、と漏れる呼気、口元を濡らした鮮血は肺が壊れてしまったのか、あるいはもっと深刻な部位か。
そんな憂慮の全てをひっくるめて思考の明後日へと放り投げ、一呼吸だけ大きく吸い直し、穂乃果はさらに詠唱を続けている。
それは一つのルーツ、幼い頃から憧れてきた強さと優しさの象徴。
穂乃果「灼火よ!赫赫たる煌炎よ!高坂の名において爆拡の裁可を与えん!!」
龍皇≪その詠唱は…!≫
ツバサを置き、先に音ノ木坂へと向かったのには理由がある。
この一撃を最大威力で放つため。広大なグラウンドの全域へ、自らの魔力を埋め込み力場を形成していた!
それは母から受け継いだ強固なイメージ。
万難を払い道を切り拓く、高坂穂乃果の意思を体現してみせる大魔術!!
龍皇≪やめろ…!≫
穂乃果「『焔(ほむら)』!!!!!」
-
突き立てた杖、伝播する魔力の波。
浸透、それをトリガーに大地が捲れあがる。
芝で隠れた地面へと網目状の亀裂が走り、空気がむせ返るほどに過熱されていく。
見渡す限り広がる広大なグラウンド、そのほぼ全域へと裂け目は拡がり…
決壊!!!
ありとあらゆる全てを焼き尽くす焔の腕が龍皇を抱き、立ち上る炎柱は天を噛む!
龍皇の想像さえ超えた劫火は渦を巻き、乱れ吼え哮り、グラウンドとは別の位置にあるプールの水を全て干上がらせてしまうほどの熱波!!
…永遠とも思える煉獄の顕現は、やがて隆盛を過ぎて緩やかに消えていく。
穂乃果「………う、ゲホッ…!!」
今度こそ掛け値なしの喀血。穂乃果の口から大量の血が溢れる。
内臓のあちこちが傷んでいる。負荷を承知の息もつかせぬ連続魔術は、龍皇に与えた大きなダメージ相応の反動を穂乃果の体へともたらしていた。
杖を杖として地を突き、今にも倒れそうな体を支え…
穂乃果(まだ、倒れちゃダメだ!)
黒焦した地面、グラウンドの中央。
両手をついて膝を屈し、それでも未だ形状と意識を保ったアークトゥルスがいる。
纏う黒衣は今度こそボロボロに崩れ、身体中に一目でわかる酷い火傷を負っていて、それでも龍皇は右手に炎を、“創生の炎”を。
焼けて崩れ落ちた自らの顔を鷲掴み、再び形造る。高坂穂乃果と同じ顔を。
-
龍皇≪……ぜえっ、は…ぁ…っ!高坂、穂乃果…!≫
穂乃果「ごほっ、がはっ!!、っ……私って結構がさつなとこあるから、希ちゃんみたいにピシャッと気持ちを読み取ったりはできないけど…」
龍皇≪私は、私は…!!≫
穂乃果「きっと、希ちゃんの言う通りなんだね。私なんかに憧れるのは、よくわかんないけど…」
穂乃果は歩く。
熱の残るグラウンドを、靴底が灼き焦げるのにも構わず、屈した龍皇へと向かって歩く。
龍皇は立ち上がる。
今にも崩壊しそうな体を奮わせ、破壊への意思…否、生き残るのだという執念を頼みに立ち上がる。
周りを遮るものは何もない。
同じ顔をした二人は、片や未来を見据え、希望に煌めく瞳で。片や制御できない感情を留めた、潤む瞳で。
拳に炎を纏わせ、龍皇が穂乃果の頬を殴り抜く!!
穂乃果「……っ!」
龍皇≪私は、お前が…っ!!≫
肉を打つ、打擲音が鈍く響く!
穂乃果が殴り返したのだ。思い切り、無遠慮に、鋼の左手で!
穂乃果「いいよ、おいでよ。思いっきり受け止めてあげるから!!」
龍皇≪ここで!!お前を倒す!!≫
-
龍皇が穂乃果を殴る。穂乃果はカウンターで殴り返す。
炎を灯した炎拳が下腹を突き上げ、決断的なストレートが鳩尾へと食らいつく。
二人が吠える。まるで同時、同じ声の叫びは区別がつかない。
殴打、殴打、殴打、殴打、殴打殴打殴打…
血を吐き、瞼を腫らし、龍皇が幾度目かのフックを穂乃果の側頭へとめり込ませた。
確かな手応え、(殺した!)という確信。
しかし穂乃果は眼差しの火を消さないままに、生身の右手で龍皇の顎を上へかち上げる。会心のアッパーカット…!
龍皇は視界を揺らされ、後背へと揺らめき…しかし踏み留まる。
龍皇≪負けるか…!こんなところで…!!≫
穂乃果「私だって負けない!負けられるわけないんだよ!!」
単なる殴り合いではない。
龍炎を纏った拳は鉄板をひしゃげさせるほどの威力を有していて、穂乃果の鉄拳が大地を砕く威力なのは改めて記すまでもない。
明らかな殺傷力のぶつけ合い、これは生存を賭した殺し合い。
互いの体をマナで覆い、治癒しながら殴っているからこそ両者は未だ倒れずにいる。
それでもガクリと、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
万象の上位者たる龍皇との、直接的なダメージのやり取り。
穂乃果の体に蓄積された困憊は既に生命の域を大きく逸脱していて、それでも穂乃果は揺るがない。
-
穂乃果(その表情でわかるよ、私が本当にキツい時にする顔と一緒だもん。龍皇アークトゥルス、あなたもあとちょっとで限界なんだ!!)
龍皇≪くたばれ…!!!≫
穂乃果「はああああっ!!!」
振り絞り、渾身の一打。
互いの右拳が直接ぶつかり合い、光が弾ける!!
龍皇≪……っ!何故…!≫
グシャリと音を立て、ひしゃげたのは龍皇の拳だ。
穂乃果の右、生身の拳は、龍皇が見たことのない力に覆われている。
陽光のように暖かく、柔らかく、マナよりもよりシンプルなエネルギー体。
穂乃果「『陽光の橙(オーラ)』。あなたと分離してから里帰りして、その時に年下の子から学んだ力なんだ」
龍皇≪私の炎が押し負けて…こんな馬鹿なことがあってたまるか…!≫
穂乃果「試したことがあったから。相性の問題なのかな?この力は龍の炎に押し勝てる。
真似てるだけで不安定だから、大事なとこまで温存してたけどね」
年下だろうと初対面の相手だろうと、取り入れるべき点は素直に学んで自分のものに。
そんな素直さは昔から今に至るまで、穂乃果の身上と言えるだろう。
アークトゥルス、その右手の亀裂は急速に広がり、肘の先までが形状を保てなくなっている。
片腕は潰れ、生命の核へと多大なダメージを刻まれ、誰の目にも明らか。勝負は決した…!
海未「穂乃果…!」
穂乃果「海未ちゃん、みんな、勝ったよ…!」
龍皇≪認められるか…!!≫
-
龍皇は最後のあがきを。
残る左腕に自己を形成するマナ、その大半を注ぎ込む。
劫、と。ジェット噴射めいて炎が燈り、左手に長大な炎剣が形成されている。
その切っ先を揺らめかせ、穂乃果へと突きつけ、龍皇はどこか自罰的な悪笑を浮かべてみせる。
龍皇≪負けました、ごめんなさい。そう言って謝れるとでも?≫
希「アカン…!そんな力を解放したら!」
絵里「アークトゥルス!あなただって消滅してしまうわよ!?」
龍皇≪こうしなくたってどうせ負け、私はおしまい。だったら何もかもを道連れに…破壊の権化らしく、ブチ壊してやろうじゃないか≫
海未「馬鹿な考えを…しかしあれは、私の力でも打ち消せない…!」
穂乃果「ううん、大丈夫だよ、みんな」
そう告げると、穂乃果はローブの懐から小さな鍵を取り出した。
里帰りの時、母から託された鍵だ。
どこでどう使うかまるでわからなかったそれを、穂乃果は導かれるように手に取り、そして鍵穴などない炎樹の杖へと差し込んだ。
棒状のものであればなんでも良かった。
ただ手にしていたのがその杖で、長い旅路と色々な思いを共にしてきた杖だからこそ、穂乃果の脳裏に宿ったイメージを結実させる。
カチリと錠が開き…
杖は、一振りの美しい剣へと姿を変える。
穂乃果『揺籃の牙(エクスカリバー)』
-
その刃を目に、龍皇の脳裏に宿ったのは幾度目かもわからない“何故”。
その剣はアークトゥルスの象徴。
かつて失い、探し求めた宝剣は穂乃果が持っていた。何故!
デュランダルは代用品に過ぎない。あれさえあれば、あれさえ持っていれば、敗北を喫することなど…!
ふっと、龍皇の表情が和らぐ。
龍皇≪……そうか、お母さんが持ってたんだ…≫
ふわりと、もうまともに動かないはずの穂乃果の体が飛ぶように駆ける。
流れ込むイメージ、こう動けば良いと教えてくれる。
それは剣の魔力だろうか?
否。穂乃果が辿ってきた道のりの全て、経験の全てが穂乃果の体を自然に動かした。
仲間たちの声を背に受け、穂乃果は最後の一撃をまっすぐに振り抜く!!
穂乃果「これで、今度こそ終わりだ!!閃け、エクスカリバー!!!」
…
-
…
体へと斬線を刻まれ、龍皇が仰向けに倒れている。
剣を手に、穂乃果はその姿を見下ろしている。
龍皇を象るマナは裂け目から流失し、空へと昇り、星屑のように広がっていく。
屈み込み、穂乃果は自分と同じ顔をした相手の頬を優しく撫でる。
その手を払うことなく、目を閉じたまま、龍皇は掠れた声で口を開く。
龍皇≪世界は可能性のゆりかごだ。
包み、優しく揺すり、あらゆる可能性の成長を促している。
お前の手にした『揺籃の牙』はその可能性を食い破る力。
可能性を摘み、事柄を確定させる力。
つまり、世界を改変できる≫
穂乃果「改変…作り変えられる、ってこと?」
龍皇≪神にも等しい力だよ。大昔に熾天使に掠め取られて、それ以来探していたが…まあ、もういい≫
口をつぐみ、少し休み、もう一度口を開く。
龍皇≪高坂穂乃果…お前はこの世界に、何を望む?≫
穂乃果「………」
-
穂乃果は悩む。
手にした剣は鋭くも神秘性を秘めていて、きっと龍皇の言うことは嘘ではない。
仲間の方へと目を向ける。
海未、絵里、希、ツバサ、かさね。それぞれが満身創痍ながらも、どうにか一命を取り留めたようだ。
相談しようかとも考える…
だが、この剣は龍皇の力を継承した自分だけが操れる物で、たぶん穂乃果が一人で考えなくてはいけないことなのだ。
穂乃果「………」
ただ一人、戦いの中に倒れた仲間の笑顔が脳裏に蘇る。
穂乃果「亜里沙ちゃん…私は、亜里沙ちゃんを」
龍皇≪……あれは生きているよ。どんな形であれ生きている。ガラハッドの器がそれほど容易に死ねるものか≫
どこか投げやりな口調の龍皇。
その言葉に嘘は感じられず、穂乃果はほっと胸を撫で下ろす。
今も亜里沙のマナは感じ取れないが、生きているならそれでいい。考え直す必要がある。
穂乃果(この世界はたくさんの人たちの意思で導かれてる。
誰かを生き返らせるだとか、例えば悪い人をいなくするだとか、そういう改変を私がしちゃいけないと思う。
亜里沙ちゃんは生き返らせようとしちゃったけど…
とにかく、みんなの歩んできた道を私が否定しちゃダメだよね。それなら、何を…?)
考え…やがて、穂乃果は意思を固める。
『揺籃の牙』を握りしめて掲げ、その意思が天高く、世界中へと行き渡るように。高らかに宣言する!
穂乃果「私が望むのはたった一つ、ほんの小さなことだけ。この世界に…!」
…
-
♯エピローグ
-
一年後…
荒野を、三人の少女が歩いている。
それぞれが旅慣れた様子。
大きな荷物を背負い、雑な舗装が施された道路をすたすたと
一人が標識に目を止める。
最寄りの街まであと12キロ。
細身の少女がうぎゃーとばかり手足を伸ばし、まだ着かないのかと文句を垂れている。
…と、少女たちの隣に一台の車が止まる。
「乗せていってやろうか」と提案する数人の男たち。
猫撫で声…その表情は明らかに下卑ていて、年若い少女たちを獲物と見なしているのがありありと感じ取れる。
だが少女たちは動じた様子もなく、そのうち一人がひらひらと手を煽って断りを告げる。
途端、男たちは態度を豹変させる。
銃にナイフを手に手に、
「殺されたくなけりゃ、大人しく乗りなァ」
「悪いようにはしねえからよ…ヒヒ」
と、もはや下衆な悪党ぶりを隠そうともしない。
-
またか…とばかり、浅く溜息を吐く少女たち。
すると三人のうち、一番大人しそうな少女が歩み出て、シャンと杖を突き鳴らす。
花陽「お願いします、『タイタン』さん」
ふわりと花弁が舞い、大地を突き破って現れたのは巨人。
見上げれば、その目線は遥か天高く…およそ150メートル!!
にこにこと微笑み、花陽は大巨人へと指示を出す。
花陽「あの車をぺしゃんこにしてください」
即応、降ってくる巨大な足裏!!
「ギャアアア!!」と悲鳴をあげて悪党たちは車から飛び出し、直後、防弾ガラスで窓を固めた武装車両はのしイカのように薄っぺらに姿を変える。
めいめい散って逃げようとして、悪党たちの一人がふと違和感を覚える。仲間の声が聞こえない?
振り向けば、仲間たちが既に昏倒しているではないか。
凛「凛たちさ、もう小悪党は見飽きたんだよねー」
「ヒッ!?」
いつの間にか真隣に少女が立っている。
身軽な服装の少女からはピリピリとした痺れが伝わってきて、
(電気?)と疑問を抱いた瞬間、凛のカウンターショックめいた掌底が炸裂!男の意識がすぱりと断ち切られる。
-
(なんだこいつらは!!)
悪党たちの中、ただ一人岩陰に隠れおおせたリーダー格の男は肩を震わせている。
この道は旅人がよく通る。追い剥ぎで生計を立て、その中に女がいれば超ラッキー。
そんないつものライフサイクルで、何故こんなイレギュラーな憂き目に遭わなくてはいけないのか!
…ポン、と肩に手が置かれた。
絶叫して振り返れば、そこにはもう一人の少女が悪辣な笑顔を浮かべている。
よくよく見れば、巻きつけたマントの隙間からは漆黒、鋭利な翼が覗いている。肩には禍々しい大鎌を担いでいて…
「魔物か!!」
かさね「失礼だよ。『歪曲』」
空間を捻じ曲げる堕天使の力を、悪党の顔へと軽くぶつけてやる。
目鼻に唇がぐちゃりと掻き回され、五割増しで不細工になった悪党はそのまま昏倒した。
かさね「やれやれ…」
-
支倉かさねは旅をしている。
街で平穏な日常を過ごすというのはどうにも座りが悪く、花陽と凛、年下二人の旅路に護衛という名目で付き添っている。
相変わらず魔物はいるし、今みたいな悪人もいる、変な病気も流行るし宗教狂いだっている。
それでも龍皇がいなくなって、世界が少し優しくなった。うっすらとだが、かさねはそう感じている。
凛「おーいかさねちゃん、そろそろ行かないと日が暮れちゃうにゃ!」
花陽「一応、水とパンは置いたし…うん。行きましょう!」
かさね「ん、オッケー」
悪党たちを縛り上げ、足の腱を切って道端に放置する。
悪事の証拠を書き添えて、通りかかった旅人に発見されれば良し。通報されて逮捕されるだろう。
あるいは魔物に食われるのが先か。酷いようだが、どうやら何人も殺している悪党たちらしい。
野放しにすればまた別の犠牲者が出るのだから、こうするのが最善だ。
-
かさね「ま、街に着いたら通報はしてあげるからさ」
そう告げ、かさねは悪党たちに背を向けて歩き出す。
クリスやしずく、それに涼と小雪。おまけで先生も。
運命に散った仲間たちが転生している…
そんな都合のいい思い込みを捨てられなくて、やることも見つからないし、フラフラと旅をして歩いているのだ。
不思議なもので、ささくれだっていた頃とは同じものを見てもまるで違って見える。
仲間たちともそれなりに仲良くやっていて、今度ことりと甘いもの巡りに行こうなんて約束もしている。
かさね(柄にもない…や、そうでもないのかな?)
なにやら考えながら歩いているかさねを振り返り、凛と花陽は息ぴったりに歩くペースを落とす。
今は旅路にある二人だが、まるで寄る辺のない根無し草というわけではない。
花陽は存命の父と暮らしていて、凛も小泉家に世話になっている。
二人は相変わらず双子のように仲良し。
ふらっと出かけてはあちこちで腕を磨き、旅路に飽きれば家へ帰りの生活を続けている。
-
凛「うー、お腹空いたよー…歩くの疲れたし」
花陽「えへへ、そのぶんご飯がきっと美味しいよ!あそこの街は地鶏が名物だから、網焼きとか唐揚げとか…ああっ、お腹が鳴っちゃうよぉ…」
凛「じゃあ凛は鶏白湯!鶏肉とラーメンのある店を探すにゃ!」
そんな調子、二人の様子は以前とあまり変わらない。
けれど変化もある。凛の体術にはますます磨きが掛かっていて、まさに“雷名”を轟かせている。
ついでに、母に倣ってほんの少しだけ髪も伸ばしている。
花陽の契約数は50まで増えた。
目標の母まではまだまだだが、既に王国最強の召喚師としてその名は広く轟いている。
この二人が並び立てば、負ける場面にまず想像が及ばない!
ふと、凛がくるり。振り向いて声を上げる。
凛「そういえば聞いた?面白い話があるって!」
-
…
カリ、カリカリ…
紙へとペンを走らせる音が、落ち着いた色調で統一された執務室に響いている。
書類仕事をしているのは英玲奈。
魔術都市での防衛戦から西木野王との決戦を経て、兵士たちと民衆から絶対的な信任を寄せられ、年若くして国軍の最高司令官へと就任した統堂英玲奈だ。
書類と格闘しているからだろう、その表情は険しく厳しく、黙っていると怖く見られることもある顔立ちに硬さがより増している。
…と、ぴくり。
未だ消えずにいる狼耳が小さく揺れて、周囲の廊下に人の気配がないかを確認する。
どうやら誰もいない。ならばと…
英玲奈「はああっ…疲れたぞ…」
どさり。
溶けたスライムめいてだらしなく、書類にシワが寄るのも構わず机へと突っ伏す。
-
そんな様子も仕方なし。
全ての戦いが終わってこの立場に就任してからというもの、ほぼ毎日のように膨大な量の文章を纏める作業を延々と続けているのだ。
文官にやらせればいいだろう。そう思うかもしれないが、激動を経た王国には他の仕事も山ほどある。
王宮に勤めている人間でヒマをしている者など一人もいない。
そんな時に立場のある人間となった自分が、だらしないところを見せるわけにはいかないのだ。
…しかし、たまの息抜きが欲しいのも事実。
再び耳をそばだて、鼻をひくつかせ、人狼の五感を用いて人気がないことを確認する。
よし、誰も来ない。
確認し、英玲奈はそっと机の下へと手を伸ばす。
そこには小型サイズの冷蔵庫が忍ばせてあり、扉を開ければ数々のスイーツが。
がさごそと物色し、やがて小ぶりなエクレアを手にして表情を緩ませる。
英玲奈「フ、フフ…半年待って取り寄せた人気商品。いつ食べようかと迷っていたが…疲れ気味の今が最も美味しく食べられるタイミングのはず!いただきます…」
にこ「英玲奈〜、遊びに来たわよ」
英玲奈「何ぃっ!!?」
-
ガタタンと騒音を立てて英玲奈は驚き、ふらりと部屋に入ってきたにこは“何してんのよコイツ”とばかりに怪訝な顔を浮かべている。
慌てた拍子、頑張って仕上げた書類に溢れてしまったカスタードを見つめ、英玲奈は「ああ…」と二重の意味で悲しげな声を漏らす。
にこ「…よくわかんないけど、お菓子ぐらい堂々と食べなさいよ。ほら」
英玲奈「むぐ…うん、美味い」
指弾の要領、にこは安物のチョコを弾いて英玲奈の口へと放り込む。
もぐもぐと口を動かしながら、英玲奈は首を傾げて尋ねかける。
英玲奈「いや、しかし…というかにこ、君どうやってここまで…」
にこ「どうって、普通〜にドアを開けて入ってきたに決まってんでしょ。ま、ピッキングはしたけど」
英玲奈「王宮の深部に実家のように…その潜入技術もいよいよシャレにならなくなってきているな、全く」
そう言って笑いかけ、咎め立てる雰囲気はまるでない。
-
旅を終え、それぞれが自分の生活へと戻ってからも、にこと真姫は特別親しくしている。
かたや庶民の元盗人、対する真姫は王国の姫君にして今や君主。
普通なら遠慮して疎遠になりがちなものだが、にこは“怪盗スマイル”として培ったスキルをフル活用して王宮へスルスルと出入りを重ねている。
厚顔とも言えるが…こうして、軍司令官の執務室へもひょっこりと遊びに来るわけだ。
にこ「うっわ、野菜値上がりしてんじゃない」
英玲奈「人の部屋のソファで寝転んでチラシをチェックとは」
にこ「チビがたくさんいるからね、節約しなくちゃなのよ」
そう呟いてチラシをめくる指、黒く輝いていた戦闘用の義手は、違和感の少ない肌色の日常用へと換装されている。
それは平和へと戻った証。銃のトリガーを引くのではなく家事をこなすためには、物々しい金属の義手では却って不便なのだ。
にこの母は療養を経て、砕かれた心の健康を取り戻した。
魔術都市の医療チームの献身的な治療、熾天使へと進化したことりの強力な治癒術が功を奏したのだろう。今は元通り、矢澤孤児院の優しい院長として子供たちの面倒を見ている。
-
にこはそんな母を支えるべく、孤児院の暮らしに戻っている。
諸々の世界への貢献を評価され、それなりの額の報奨金を得た。その金を孤児院の運営に充てていて、少し余裕があるので怪盗は休業中。
だから遊びに来るのだ。
まあ、息の詰まる王宮暮らし。英玲奈にとっても真姫にとっても、やたら気楽そうなにこの存在はこの上ない清涼剤なのだが。
にこは立ち上がり、英玲奈が必死にカスタードを拭き取っている書類を覗き込む。
ビッシリと書き込まれた細々とした文に思いっきり顔をしかめ、「アンタも大変よねぇ」と眉間にシワを寄せる。
にこ「進んでんの?その仕事」
英玲奈「ああ、色々知らなかったことがわかる。大変だが…興味深いよ」
英玲奈が整理しているのは、西木野王の遺した資料の数々だ。
几帳面な性格を表すように、ファイリングされた書面は実験記録から日々の書き付けのようなものまで多岐に渡って膨大な量。
神経質そうな細い文字で記された文を、一枚、また一枚と読み進め、その要旨を書面へと纏めていくのが英玲奈の仕事。
内容が内容、ほぼ全てが国家機密のような文章であり、読み進めるのが誰でもいいというわけにはいかないのだ。
-
英玲奈(真姫と同じように、私も王を憎み切ることはできなかった。
決着のあの瞬間まで、育ての父…そんな感覚が抜けることはなかった)
資料の中には日記もあった。
そこには妻と真姫への惜しみない愛情と、それに英玲奈への記述。
幼い英玲奈を騎士として育て上げていく中、それなりの情を持って接していたような文面がある。
剣技に長けていれば喜び、勉学の才を見せれば褒め、まるでもう一人の娘を見守るような。
英玲奈から王へと向けていた親愛は、決して一方通行ではなかったのだ。
英玲奈(だが…)
同時に残されていた研究資料には、英玲奈以前に集められていた子供達…不適合な“失敗作”は、行方知れずとなっている。
人狼の村のような実験場も多数あったようで、やはり人道を外れた研究者という側面は拭えない。
複雑な感情が去来する…乗り越えていかなければ。
ふと、英玲奈は壁の時計を見上げる。
英玲奈「おっと…すまないにこ、そろそろ行かなくては」
にこ「ん、用事?…って、そういえば今日だったわね」
英玲奈「ああ、迎えてやりたいんだ。おかえりと!」
-
…
王宮、謁見の間に多くの人々が集まっている。
集った人々の多くは貴族や軍人。
豪奢な衣服に身を包んでいて、その広間で一際目立つ高所、謁見の座には真姫の姿がある。
この旅の一年と、旅を終えてのもう一年。
積み上げた多くの経験は、少女を一人の君主へと変えた。
繊細な少女、張り詰め、今にも折れそうなかつての面影は今はなく、集まった人々全てを優しく圧倒する笑みがその口元に浮かんでいる。
だが、今日の主役は真姫ではない。
列席した人々は広間の入り口から真姫の座する玉座へと一本の道を空けていて、祝されるべき人間の登場を今かと待ち侘びている。
そんな謁見の間の扉の外では…
ヒデコ「ま、待って。本当に緊張してきた。ヤバいよ、なんで私なんかがこんな式典に…!」
フミコ「ええっ、今更緊張だとか言いださないで」
ミカ「今日の主役はヒデコなんだからさ、シャンとしなよ!」
-
ヒデコ「だって!さっきチラッと見たんだけど、ニュースとか経済誌で見かける偉い人とか、そんなのばっかりが広間に!」
フミコ「それはそうだよ、大事な式典だもん」
ヒデコ「うっ、他人事みたいに…!緊張で心臓がバクバクする…!」
ミカ「心臓動いてないくせに」
やいやいと会話を交わす三人組は、軍属として真姫の下で働いている。
ミカが突っ込んだ通り、気合いで蘇生を遂げたヒデコのアンデッド体質は相変わらずだ。
心臓は動かず瞳孔は開き、血行もないので顔色が前より不良好。
そのままでは少し人相が悪いので、コンタクトで瞳をごまかしファンデーションやら諸々の化粧品で肌の色を補正している。
血の巡らない肉体は放っておけば本当のゾンビよろしく腐り始めかねないのだが、その点は心配ない。
あんじゅ「ふふっ…緊張する姿も愛しいわ?」
ヒデコ「あ、あんじゅちゃん!」
フミコ「儀礼前だよ、いちゃつきモードはNG!」
ミカ「もう面倒だからさ、あんじゅさんが呪式で操っちゃえばいいんじゃないかなぁ」
-
と、こんな調子で四人組。最近はあんじゅもいつも側にいる。
優れた呪術師は同時に、優れた屍術師でもある。
そんなあんじゅと恋愛関係、同室同衾なのだから、体が腐らないようにのメンテナンスにはまるで困っていない。
さておき、ヒデコたち三人。
これまではあんじゅの部隊の一員として配されていたのだが、その立場が今日変わろうとしている。
あんじゅ「本当に望むなら、私が操作してもいいけれど…生涯に一度の晴れ舞台よ?」
ヒデコ「晴れ舞台…か」
フミコ「そうだよ、オトノキ村で一番の出世頭なんだから」
ミカ「円卓の騎士に任命されるなんて、私たちもめちゃくちゃ誇らしいんだからね!」
ヒデコ「……うん、そうだよね。よし!覚悟したよ!」
グッと拳を握り、ヒデコはついに背筋を伸ばして立つ。
-
戦乱を経た国軍は、より強固かつ自浄作用のある軍を作るべきだと真姫や英玲奈が判断した。
その上で制定されたのが、“円卓の騎士”。
実質的には英玲奈がトップだが、四騎士を始めとして、相応しい人物が見つかり次第任命されていく円卓の騎士は立場が対等とされる。
ヒデコは今、それに任命されようとしているのだ。
着慣れない儀礼服でぎこちなく、本人よりも嬉しそうなフミコとミカと、あんじゅの笑顔背を押され、ヒデコは謁見の間へと足を踏み入れる。
瀟洒な赤絨毯の先、待つ真姫が親しい仲間なのは唯一の救いだろうか。
意を決して歩み…
ヒデコ「うわあっ!!?」
転んだ。
謁見の間が朗らかな笑いに包まれ、真姫は呆れたとばかり笑みを浮かべている。
恥ずかしくてたまらない。
だが、思ったよりは暖かな雰囲気だ。頭を掻きながら立ち上がり、再び前へと歩を進める。
ヒデコたちの前途を祝するように、穏やかな陽光がその道のりを照らし出していた。
-
…
王宮地下、西木野王の残した研究室。
かつて悪意を煮詰めたような実験が繰り返されていたこの部屋は、真姫の判断によって取り壊されずに残された。
王の『世界火』で半壊した設備の全ても再興、復旧が行われた。
今は数多くの真っ当な研究者たちが出入りをし、例えば人狼の治療、例えば天使に心を砕かれた人々の復活など、様々な不幸を被った人々を救うための研究が日夜行われる場所となっている。
その奥に一室、限られた人間しか立ち入ることの許されていない部屋がある。
真姫と四騎士、それに雪穂との対話を交わし、その人格に間違いがないと判断された研究者だけが踏み入れられる一室。
そこには一台のカプセルが。青白く発光する培養液の中、一人の美しい少女が目を閉じている。
中にいる少女のバイタルや諸々、忙しなく数値をチェックする研究者たち。
それとは別に、カプセルの前には二人の人影が見受けられる。
-
一人は赤みがかったショートへア、一年前とほぼ変わらないスタイルの雪穂。
ただ、少し背は伸びただろうか。少女らしい愛らしさと精悍さを併せ持つ横顔で、カプセルの中の少女を見上げている。
その傍らに立つのは絵里だ。
一年でその怜悧な美しさにはより深みが増していて、凄味すら感じさせるほど。
片手を雪穂の肩へと柔らかに掛けていて、そして穏やかな調子で口を開く。
絵里「もうすぐね、亜里沙」
雪穂『うん…そうだね、お姉ちゃん』
絵里は雪穂へ、“亜里沙”と呼びかけた。
雪穂はその呼びかけに全く疑問を抱くことなく、絵里へ“お姉ちゃん”と返した。
大切な人を喪失し、この二人の精神は壊れてしまったのだろうか?
否、そうではない。絵里は少し声の調子を変えて、もう一度雪穂へと声を掛ける。
絵里「雪穂、本当にありがとう。あなたがいなければ、どうなっていたか…」
-
神妙な顔でそう呟いた絵里へ、雪穂はぶんぶんと手を左右に振って遠慮がちな仕草を見せる。
雪穂「あはは、いやいや…私なんて全然!守られた側だし…」
絵里「でも、この一年間…色々と不便も多かったでしょう?」
雪穂「うーん、そうでもないですよ。共同生活って感じで楽しかったし!ね、亜里沙!」
雪穂『うん!だよね、雪穂!』
一体どういうことだろうか?
傍目にはまるで気の触れた少女の一人芝居。しかし、事実はそうではない。
アスモデウスとの戦いに、亜里沙の肉体は滅びてしまった。
だがガラハッド、亜里沙に宿った秘匿されし十三体目の龍は、見つけたばかりの宿主が早々に落命してしまうことを良しとしなかった。
雪穂と亜里沙、二人の肉体の波長は極めて近い。
それは出会って以来いつもぴったりと離れずにいたからであり、亜里沙が日常的に雪穂の血肉を食していたことも関係している。
そんな雪穂は、せめて亜里沙の魂だけを活かすための避難場所として最適だった。
つまり、今の雪穂には亜里沙と二人分の意識が混線していて、故に絵里は雪穂へと二度声を掛けたのだ。
-
雪穂「楽しかったですよ、本当に!亜里沙と一緒にいるのは全然苦じゃないし。
それにほら、うちのお姉ちゃんガサツだから、絵里さんがお姉ちゃんになったみたいで結構嬉しかったり…」
絵里「ハラショー…ハラショー!雪穂、あなたって本当に可愛い!」
雪穂「うひゃあ!ほ、頬ずりされたら照れますよ!?」
雪穂『あー雪穂ずるい!亜里沙にもギュってして、お姉ちゃん!』
と、二人…三人のやり取りはやはりなんとも違和感たっぷり。
しかし、その困った状況も今日で終わりを告げる。
培養液の中に眠っているのは亜里沙の新たな体、以前とまるで変わりない…
いや、人肉食と老化しやすさを取り払った、人間と変わりない肉体だ。
王が残した資料の中に、亜里沙を造った際の作業過程の全てが記録されていた。
元が造られた命。つまり、体はまた造り直せる!
-
絵里と雪穂は、亜里沙が一人泣いていたのを知っている。
人肉食らいの業に、寿命の違いに、自分が人間でないことに。
激しい戦いを乗り越えて、その悲しみが今拭われようしているのだ。
絵里「亜里沙…本当に、頑張ったわね」
雪穂『…?うん、ありがとう。お姉ちゃん!』
そして全てのセッティングが終わる。
雪穂が隣のカプセルへと入り、亜里沙のカプセルから培養液が抜かれ、魂が移行し…
亜里沙「………っ」
うっすらと目を開く。
眩しい光に視界がくらみ…絵里、雪穂、それに英玲奈と、それとおまけでついてきたにこ。
大好きな人たちが、満面の笑顔で亜里沙を迎えてくれる。
「おかえり!」と。
うん、私はこの世界が大好きです!
亜里沙「ただいま!!」
-
…
真姫「ゔぇぇぇ………」
長い長い溜息、真姫は私室のベッドにぐてりと突っ伏している。
顔を真っ赤にして上がりきっているヒデコに笑いそうになりながら肩を剣でペシペシと叩き、叙任式はそれで終わり。
それから会食を済ませ、他国の使者との謁見をこなし、王都の中で未だ復興が終わっていない地区を視察し、ようやく生まれた時間の空きに一休憩。
女王の仕事はあまりにもハードすぎる!!
花陽と凛から送られてきたピースサインの写真を見つめ、私も行きたいなぁと叶わぬ望みにもう一度嘆息を。
希「お疲れみたいやねぇ」
真姫「まあね…オフの日がないんだもの」
希「ところで、ウチはいつまで王宮にいさせられるん?」
真姫「別に、引き止めてないじゃない。外交とかはまだまだ私には難しいし、占ってくれると色々助かるのは事実だけど」
希「まあ…そうなんやけど…」
-
今尋ねたように、希はもう長い間王宮へと留められている。
と言っても、真姫が暴君めいて強権を発動して希を拘束しているだとか、そういったことではない。
新米女王に頼られる日々にちょっぴり疲れ、希が「ちょっと旅してくるわ〜」と王宮を出ようとすると、真姫がクールを装いつつ、不安げにその眼を揺らしているのが見えてしまうのだ。
希(そんな捨てられた動物みたいな目をされたんじゃ、そうそう出て行けるはずもないやんなぁ…)
実際、真姫の立場が難しいのも事実なのだ。
西木野王を打倒するために各国から募った援軍は素晴らしい戦果を発揮してくれた。
しかし危急の状況に諸々の交渉を急いだために、周辺各国から領土を寄越せだ条約を締結しろだと好き放題の要求を突きつけられている状態なのだ。
そんな中で真姫は上手く立ち回っている。
少女が女王として成長していく姿を見るのは楽しく頼もしく、(まあ、女王様の魔女になるのも悪くないかな)というのが最近の希の考えだ。
家財道具やら衣服は絵里の部屋に持ち込んでいるため、不自由は実際ない。
…コツコツ。
ドアが小さくノックされる。
来客の予定は…そうだ、あった。
-
真姫「どうぞ」
ガチ、ャ…ガチャガチャリ。
ドアの開閉にやたら苦心している様子。
希は立ち上がり、首を傾げながら内からドアを開けてあげる。
すると羽のように!
一人の女の子が女王の部屋へと転がり込んできた。
6歳とか7歳とか、それぐらいだろうか。
少女の髪はオレンジ色で、穂乃果と同じサイドテール。
瞳の色は緑色、それ以外はそっくりそのまま、穂乃果をミニサイズにしたような!
少女は笑いながら室内を子犬のように駆け回ると、希の足にぽふりと抱きついた。
「えへへ!」
希「おっとっと、元気やなぁ〜」
「うん!」
真姫「………あの、穂乃果って結婚とかしたの?」
希「は?何言ってるん真姫ちゃん。前に話したやろ、この子は…」
言いかけたところで、バタバタと騒がしい駆け足が真姫の部屋へと駆け込んでくる。
半開きのドアを蹴破る勢い、ノックすらせずに飛び込んできたのはツバサだ。
ツバサ「ほむらちゃん!!いるかしら!!」
-
焦燥全開なツバサの呼びかけに、希の足にしがみついた少女は小さく声を返す。
「いるよー…」
ツバサ「ああよかった…!見失って、てっきり迷子にさせちゃったかと!!」
「ツバサちゃん、スリスリしたらいたいよ…」
希「なんやこれ」
爆破で道をこじ開ける、我が道を阻めるものなどこの世になし!
そんな常勝無敗な綺羅ツバサの面影がまるでなく、小さな穂乃果、ほむらちゃんと呼んだ少女に頬を寄せてスリスリと、どうかと思うほどの溺愛っぷりを見せている。
悲しいことに、肝心の少女からはイマイチ懐かれていないようだが…
真姫「で、誰。この子は」
ツバサ「穂乃果さんと私の愛の結晶…」
希「いやいや、ややこしくなるから。ちょいちょい、真姫ちゃん…」
真姫「何よ」
希は真姫を手招き、耳へと口を寄せ…
希「前に話したやろ。龍皇アークトゥルスなんよ、この子」
真姫「ゔぇぇぇええ!!!!??」
-
要約すると流れはこうだ。
倒れ、力を漏出させた龍皇。
エクスカリバーを手にした穂乃果は、そこにとどめの刃を振り下ろすのを良しとしなかった。
何故殺さないのか。
そう聞いた龍皇に、穂乃果は困ったように笑って答えた。
穂乃果「だってお母さんのことを、すごく自然に“お母さん”って言ったんだもん。
エクスカリバーを見たとき、お母さんが持ってたんだって。
やっぱりあなたは姉妹か、双子みたいなもので…殺せないよ」
そのまま、龍皇は力の大部分を流出させた。
記憶や感情、破壊への意思、そんな血塗られた全てを失って…
残ったのは穂乃果の姿、ただし、幼くなった穂乃果だった。
唯一の違いは目。
瞳がエメラルド色に、メインコアと同じ、マナの基本色に輝いている。
記憶も何もかもを失った少女を穂乃果たちは連れ帰り、そして実家の店と同じ、『ほむら』という名前を与えた。
愛に飢え、高坂穂乃果に憧れた龍はその道果てに、“高坂ほむら”として新たな人生と暖かな家族を手に入れたのだ。
-
希「まあ…なんやろ。適切な表現が思いつかんけど…龍皇の抜け殻みたいなもんやね、この子は」
真姫「なるほどね…」
ツバサ「で、今日は事情があって私が預かってるってわけよ」
真姫「…じゃあ、ツバサにいまいち懐いてないのって」
希「ボッコボコにされた記憶がほんのり残ってるんやないかなぁ…」
ツバサ「諦めないわよ私は。幼い頃から懐かせて、程よい年齢になった頃に…」
希「あっ、ちょっとこの人、子供預けたらアカン感じやない?」
そんなやりとりの横、かつて龍皇だった少女は真姫の机の脇、厳重な封印がされた小箱をじっと見つめている。
惹かれるように、ゆっくりと手を伸ばし…
真姫「それは駄目」
ほむら「……?はーい!」
-
少女は朗らかに笑い、とたた、と再び駆け回る。
封の中身は“炎樹の杖”。
穂乃果が握れば『揺籃の牙(エクスカリバー)』へと姿を変える、この上なく重要なアイテムだ。
穂乃果から申し出を受けて預かっている。
責任を持って、生涯を賭して守り抜くつもりだ。
かつて龍皇だった少女は、この剣に引き寄せられていた。
この少女の存在は、世界を悪い方へと導かないだろうか?
真姫「そうさせないために私がいるのよ。女王、西木野真姫がね」
真姫は気高く微笑み、窓から吹き込んだ風に為政者としての誇りをそよがせる。
かつて救い出した少女の成長を目の当たりに、希は穏やかな笑顔を浮かべ、青空を仰いだ。
-
…
ことり「ピィィィッ!?どうしてお母さんがここにいるの!!?」
オトノキ村。
昼下がりの穂むらに、素っ頓狂のことりの絶叫が響き渡る。
客足が途絶えてお茶を飲んでいる母の差し向かいに、不気味なほどに自分とそっくりなトサカヘアーが揺れている。
濃く入れた緑茶をすすって、ほむまんを上品に一口ぱくり。
理事長「久しぶりね、ことり」
ことり「いやいやいや…!!」
海未「ことり、若干キャラがブレていますよ」
穂乃果「うんうん。驚くのはわかるけどさ」
ことり「………お母さんっ、どうしてここにいるのっ!?」
激しい動揺から持ち直し、甘くとろけるボイスを取り戻したことりが再び尋ねる。
理事長はもう一口、上品にお茶をすすって微笑みを。
理事長「どうして…そうね、ことりのお誘いに乗らせてもらった…ってところかしら」
ことり「お誘い…?あっ」
-
お母さんにもこの世界を見て欲しい、たくさんの良いところを見て欲しい。
確かにそう言った記憶がある。いや、理由はいいとして、母を倒すという経験を乗り越えて少し大人になったことりからすれば、実家の居間で育ての親と実の親がのんきにお茶をすすっている状況はまるでわけがわからない!
ことり「ううう…海未ちゃぁん、穂乃果ちゃぁん…混乱してよくわかんないよぉ…」
穂乃果「いやあ、穂乃果もこれは全然…」
海未「で、ですね…あの、理事長。敵意はないのですね?」
理事長「ふふ、今の私はただの人間よ。わかりやすく言えば転生したの。熾天使から人間へね」
穂乃果「ほへぇ…」
そんなやりとりを終え、穂乃果たち三人は家の外へ。
警戒しなくていいことはわかったのだが、なんだか落ち着かないのだ。特にことりが。
-
ことり「うう、ごめんね…二人とも」
穂乃果「お母さんが二人もいたらその場所に居たくないよねえ…
あ、今日はほむらを預けてってお母さんが言ってたのは、これのせいだったのかな」
海未「ええ、そのようですね。確かに、龍皇の頃の記憶の残滓があるならば熾天使との対面は怖がるかもしれません」
ことり「ううん、でもツバサちゃんも同じくらい怖いんじゃないかなぁ…」
穂乃果「……だ、大丈夫かな?心配になってきた。色々」
三人は一様、襲ってきた不安に難しい顔をする。
ツバサもなんだかんだと分別がある…はず。
と、考えても仕方ないので海未が話題を変える。
海未「そういえば今日ですね、亜里沙が戻ってくる日は」
ことり「そうだね…ことりたちも行きたかったけど…」
海未「急ぎでの魔物の討伐依頼がありましたからね、仕方がありません。明日にでも会いに行きましょう!」
穂乃果「そうだね!それに、ちょうどいいかも。そろそろ王都に行かないとさ」
ことり「あっ、そうだよね。そろそろ本格的な準備、していかないとだもんね!」
海未「みんなにも声はかけてあります。上手くいくといいのですが…」
穂乃果「えへへ、大丈夫!すっごく楽しいよ!絶対に!」
-
…
王都のあちこちに、垂れ幕が下がっている。
列車の行き交う駅ではビラが配られ、街頭に新しく設置された大モニターには印象的な文字が躍っている。
『μ's』!!!
街行く人々は口々に声を交わす。
アイドルのライブだ。
アイドルのライブがあるらしい。
メンバーは?美人に可愛い子に、真姫様までいるじゃないか!
見に行かなくちゃ、早くしないと会場がいっぱいになるぞ!
だけど、アイドルってなんだっけ…?
数万のキャパシティを誇る大会場、その中心には特設ステージが設けられている。
その裏手、穂乃果は一人静かに目を瞑っている。
-
「私は一度、この世界を大嫌いになりました。
こんなに辛くて、暗くて、悲しくて、救いのない世界なんてどうなったっていいって!
だけどやっぱり、嫌いになんてなれなかった。
だって自分を育ててくれた世界なんだもん、嫌いになれるわけがないよね…
じゃあ、世界に不満があるなら世界を変えればいい。
難しいかもしれないけど、みんなが力を合わせて、少しずつ、少しずつ!
だけど力を合わせるには、誰かが旗を振らなくちゃいけなくて。
みんなが前向きになるには、どうすればいいのかなって。
私はそんなに頭良くないし、お姫様だったりもしないし、私に何ができるんだろう?
ううん、私にしかできないことがある。
世界をもっと楽しく、他の世界のいいところもたくさん知ってる私にはそれができる。
だから、みんなの心をとびきり楽しくするために!
エクスカリバーの力を借りて、ちょっとだけズルをしたんだよ。
アイドル。
素敵で、キラキラしてて、だけどこの世界にはなかった概念!
それをみんなの心に、ちょっとだけ知ってもらったんだ。
みんなに声を掛けて、たくさんの人たちの力を借りて準備して。
今から始まるのはこの世界での高坂穂乃果の新しい戦い!
この世界をもっと楽しくしてみせるための!!」
穂乃果「みんな!ライブの時間だよ!!」
-
静まり返った客席。
静寂の中に、期待だけが沸々と湧き上がっている。
アイドルのライブだ、μ'sのライブだ!
だけど一体何をしてくれるんだろう、どんな楽しさを見せてくれるんだろう。
けれど舞台装置は存外に質素で、これでは驚くほどのパフォーマンスは見せられないのでは?
そんな人々の目は、未だ無人のステージへと注がれ…
粉雪。スポットライトの先へ、しんしんと真白の雪が降っている。
…空間が青く冷え、一陣の寒風。
一瞬のうちにステージ上へと怜悧な氷柱が屹立していて、そして美しく砕け散る!
金髪を靡かせ、現れた少女は絶対零度の眼差しで観客席を圧倒する。
白翼を広げた少女が柔らかな笑みを浮かべて舞い降りれば、黒髪の撫子めいた少女が「ラブアローシュート!」とギャップたっぷりの茶目っ気を見せる。
スポーティーな少女が猫めいた挙動、黄雷を全身に纏って鋭くカットイン!
誰もが敬愛する王女、真姫は王家の炎でその全身を美しく彩っている。
かと思えばするり、影から起き上がった少女は艶と愛らしさを併せ持つ笑顔で人々を深く魅了し、ふわりと花を散らしながら現れた少女の周囲には妖精が舞っている!
なんだこれは、なんだ、この圧倒的なステージは!
ただ登場をこなしただけで、人々の心はμ'sへと熱狂を向けている。
穂乃果は知っている。この8人のスター性を。
そして満を持してステージ中央、穂乃果が煌炎と共に現れる!
穂乃果「みんな!!今日は盛り上がっていってね!!」
膨れ上がる炎が会場を飲み込む!!
穂乃果が操る熱のない炎、しかしその輝きは人々の心へと点火する。
燃え上がる熱狂!ボルテージは最高潮!!
-
雪穂は亜里沙の肩を支え、姉たちのステージに目を輝かせている。
ヒデコ、フミコ、ミカは裏方、μ'sに最も近い場所からその輝きに歓声を。
かさねの傍らには数人の影。自力でかき集めてきたメンバーで、穂乃果へと闘志を燃やしている。
ツバサの隣には英玲奈とあんじゅ。
A-RISE。東京の街並みで見たもう一つの輝きを、ツバサは二人の親友へと聞かせている。
穂乃果「一曲目!!!」
〜〜
何の曲にしようか、ずっと考えてたんだ。
始まりの曲、それならやっぱり「僕らのLIVE 君とのLIFE」?
だけど東京で育ったμ'sとはみんな見てきたものも感じてきたものも違って、そのまま真似したって良いものにはならないかもしれない。
海未「“蒼海と龍の叙事詩”!これでいきましょう!」
希「うっわ…」
にこ「ないわ」
凛「色々ひっどいにゃ」
花陽「海未ちゃん…」
新しい曲を作ろうとしたけど、海未ちゃんは東京で育ったよりもだいぶ厨二に育ってて。
歌詞はちょっと変えれば使えるけど、この題名は…
穂乃果「そうだ!えーっと…うん、これでどうかな!」
真姫「…これが曲名?これはこれで、格好悪くない?」
絵里「ううん、シンプルというか…」
ことり「でも穂乃果ちゃんらしいかも♪」
穂乃果「うん、いいんだよ。これがこの世界の私たちにはピッタリだから!」
〜〜
穂乃果は片手を高らかに掲げ、会場全体に高らかに曲名を宣言する。
これが自分たちの歩いてきた道のりだと!!
穂乃果「“龍狩りだよっ”!!!」
-
終わり!!
長い間読んでくれてありがとう!!
-
15ヶ月おつ
-
お疲れさん
面白かった!
-
完結乙
長い間お疲れ様。別ルート行ったらどんな結末だったかも気になる
-
ついに完結か
お疲れ様
-
お疲れ、
そしてありがとう
文句なしに面白かった、最後まで書き上げてくれてよかった
冬至の日に終わるってのはなんかいいね
-
うおお、ついに完結か…乙
全部面白かったしのぞえりゲイボルグが見られて思い残すことはない
-
この1年で色々あってそれらも含めて言いたいことは沢山あるけどそれら全部この一言に集束されると思う・・・乙!
-
後日譚も丁寧ですごく良かったわ
-
長い間お疲れ様でした!
part2くらいから追い始めて、たまに安価参加させてもらったり凄い楽しかった!
ありがとうございました!
-
>>216
と、乙もしたところで・・・かよちん!車一台潰すのにオーバーキル過ぎない!?
-
完結乙 文句なしに面白かった
-
お疲れ様でした
長い間楽しませてくれてありがとう
-
おつおつ!
すっごく面白かったよ、最後も良かった!こんなにもキャラ全員が愛おしく思えるssは初めてかもしれない
どのキャラにもちゃんと見せ場があって、本当にラブライブが好きなんだなって伝わってきた
北陸みてえな感想になっちゃったけど、とにかく毎回楽しみにしてたからさ、楽しみが1つ無くなると思うと寂しいよ
次回作も期待してる
-
>>222
北陸ももういないんだ…
-
本当に本当にお疲れ様!
文章に設定に引き込まれて次の更新をずっと楽しみにしてたよ
大長編書き切ってくれてありがとう
-
乙の極み
更新の度にハズレ無しの本当に楽しみな作品だった
>>207
にこちゃんいなくね……?
-
>>225
ああっ…
ほんと申し訳ない、明日そのレスだけ訂正して載せるよ
色々レスありがとね、すごく嬉しい
あともしなんか質問あったら適当に聞いてね、訂正したの載せる時についでに答えるよ
>>212みたいなのでもいいし
-
過去作あったら知りたい
-
好感度上げてたのに最後に恋愛要素いれなかったのか
-
はなよ、エレナあたりはガウェイン戦で戦場が広いから活躍できた感があったけど、龍皇か理事長戦に出た場合どうなっていたんだろう。
ガウェインへの狙撃は安価が完全に殺しに来てたけど、あれ当たったらほんとに死んでたの?
-
クラーケンさんは結局どうなったん?
-
長い間楽しめたわ
ありがとよ
-
お疲れ様でした!
-
最高の締めだ
かれこれ1年以上だよな、本当に乙
-
最後の最後はトークスキルで翻弄するのんたんが最高すぎた
-
もし次書くならどんなの書くかとかあれば教えてほしいです
-
>>230
最後に小泉母が召喚してたけど同一固体だったのかな?
それにしてもラスボスで一人だけ出番ないなかった西木野王・・・いや出られても困るけど
-
心から乙
ラスト怒涛の100レス更新はマジで凄い
理事長がほのまん食べてるってことはほのパパは復活済みでいいんだよな?
-
ほのまんじゃねえ ほむまんだわ失礼
-
よくぞ完結させたお疲れいやマジで
-
乙すぎる、締め方まで完璧でびっくりした
細かい質問だけどツバサさんの視力って落ちたまま?
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長い間お疲れ様でした
結局安価復活しなかったけどほんとに面白かったです
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天使側についた時のやつが見たい
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始まりからずっと読んでたから感慨深いものが…
とりあえずお疲れさまでした!
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お疲れさん気が向いたらまた何か書いてくれ
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質問かぁ、結構気になることあるけど絞って2つ
・結局誰推しなの?
・どんな本を読んできたか
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ほのパパはあの研究所かあの怪しい薬で復活したのかな?
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トリスタンの後日談が聞きたいです(小声)
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ips細胞技術は発達してるんですか?
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>>1の幼女ホノカちゃんとツバサの扱いが上手すぎて草
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グロもんじゃは信者からアンチに変容したのかな?
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>>257
なんかほむらちゃんのおもちゃにされてそうな気がするw
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>>207のにこちゃん抜け修正版
静まり返った客席。
静寂の中に、期待だけが沸々と湧き上がっている。
アイドルのライブだ、μ'sのライブだ!
だけど一体何をしてくれるんだろう、どんな楽しさを見せてくれるんだろう。
けれど舞台装置は存外に質素で、これでは驚くほどのパフォーマンスは見せられないのでは?
そんな人々の目は、未だ無人のステージへと注がれ…
粉雪。スポットライトの先へ、しんしんと真白の雪が降っている。
…空間が青く冷え、一陣の寒風。
一瞬のうちにステージ上へと怜悧な氷柱が屹立していて、そして美しく砕け散る!
金髪を靡かせ、現れた少女は絶対零度の眼差しで観客席を圧倒する。
白翼を広げた少女が柔らかな笑みを浮かべて舞い降りれば、黒髪の撫子めいた少女が「ラブアローシュート!」とギャップたっぷりの茶目っ気を見せる。
スポーティーな少女が猫めいた挙動、黄雷を全身に纏って鋭くカットイン!
誰もが敬愛する王女、真姫は王家の炎でその全身を美しく彩っている。
かと思えばするり、影から起き上がった少女は艶と愛らしさを併せ持つ笑顔で人々を深く魅了し、ふわりと花を散らしながら現れた少女の周囲には妖精が舞っている!
そして誰よりキュートに!
ピンクのマナで作り上げたハートマークを撒き散らしながら、旅路のどんな場面よりも活き活きと黒髪のツインテールが揺れる。
極めるポージング!これがザ・アイドル!!
なんだこれは、なんだ、この圧倒的なステージは!
ただ登場をこなしただけで、人々の心はμ'sへと熱狂を向けている。
穂乃果は知っている。この8人のスター性を。
そして満を持してステージ中央、穂乃果が煌炎と共に現れる!
穂乃果「みんな!!今日は盛り上がっていってね!!」
膨れ上がる炎が会場を飲み込む!!
穂乃果が操る熱のない炎、しかしその輝きは人々の心へと点火する。
燃え上がる熱狂!ボルテージは最高潮!!
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お、修正おつ
さすが大銀河宇宙NO.1アイドル
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>>263
さすパイセン!こうでなくっちゃwww
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>>263
見事だよ>>1乙
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質問ざっくり答えてくね
>>212
龍ルート
→暴れ回って仲間たちを力尽くで落としていく感じ
ラスボスは熾天使ことり&海未
やりたい放題やって世界崩壊させて空に東京作って仲間たちを侍らせてハーレムエンド
天使ルート
→メガテンで言うロウだからあんまり後味の良くないルート
立ち向かってくる仲間たちの心を砕いてく感じ
西木野王がまともな王になって軍勢率いて向かってくるのが最終戦で、四騎士とまとめて戦うのが実質ラスボス
大体こんな感じかな
天使ルートの方は荒れたらその場で匙加減していくつもりだったから実質やったらもうちょい変わってたかもしれないけど
>>227
穂乃果「野球で廃校を救うよ!」ってやつ
よかったら読んでみてね
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>>228
冗長になりそうだったから省いたけど、ちょっとぐらいあっても良かったかもな
まあ未だにことうみと暮らしてるからハッピーエンドってことで
>>229
花陽は捨て駒上等でガンガン召喚していくスタイルかな
召喚師本人が狙われるのは踏まえてカウンター戦術も用意してて痛手を負わせるのが見せ場って感じ
英玲奈は基本的にスペック高いからどっちに参加してもアタッカー&戦術練りで活躍させてたと思う
西木野王vsかさねの安価は通ったらちゃんと死んでたよ
その時はかさねがガウェインの力吸ってラスボス候補になる感じで
>>230
エピローグまでの一年の間に絵里とか討伐部隊が派遣されてボコボコにしてる
ヒデコも部隊に組み込まれててリベンジ達成的な
今考えたけどね
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約何万文字くらい?
最初の方はどうして今と違う稚拙な感じの文章で書いてたの?というかどうしてがっつり地の文で押していこうって方向転換したの?
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>>235
Aqoursでホラーかな
1スレにまとまるぐらいの長さで
>>236
あれは別個体やね
>>237
復活済みで大丈夫よ
一文書き添えとけば良かった
>>240
細かいかなと思って端折ったけどコンタクトしてるよ
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>>247
ほぼ箱推しだけどかよちん
次点で希ちゃん
本はラノベでも一般小説でもなんでも読むよ
>>256
ことりちゃんが熾天使パワーで治したイメージ
>>257
>>262が面白そうだからこれで
元龍皇ってのにビクビクしながら遊び相手させられてる感じ
>>258
これからしそう(適当)
>>273
スマホのメモ帳で書いてたから字数わからんね、すまん
文章はいきなりガッツリ地の文だと敬遠されそうだから最初はシンプルにして、反応見ながら調整していったかな
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大体こんなもんかな
最後まで付き合ってくれて本当にありがとね
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こんなこと言われても困るだろうから流してくれていいけど、イッチの書くμ'sがとてもとても大好きだからまたμ's書いてほしいなぁ
アクアの次でもいいからさ
またμ'sを書いてほしい
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アクア書いてくれるのか
楽しみにしてます
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炎世東京にもアイドルの方のμ'sがいるのかなあと予想してたが違った
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乙!
いつか次回作を書かれた時はぜひ読ませてもらます
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一かよちん推しの戯れ言だと思ってくれていいんだがかよちん主役の探偵物書いて欲しいな
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本当に乙。乙としか言えない。
aqoursの野球ものとかもやって欲しいなぁ
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1年以上経つのか
お疲れ様です。色々あったけど読んでて本当に楽しかった
もし良ければ次回作はどこに投下予定か聞かせてほしい
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あなたの作品には人の心を揺さぶるパワーがあるよ
最高に面白くて楽しくて熱い物語だった
お疲れ様
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レズ関連になるとウッキウキになる>>1すこ
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乙乙乙&乙
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忙しそうだからもう引退すんのかなと思ってたけど
こんだけ長いの書かなきゃ可能なのか、よかった〜
個人的にはμ'sでもAqoursでも
メンバーがご飯食べに行ったりカフェに行ったり買い食いしたるするだけの見てみたい、ほんの短いの
気が向いたらお願い、気が向かなかったら忘れて
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正直中盤から最終回まで「最後に勝つも穂乃果消えそう」な気がしてたけど特にそんなことなく大団円で良かった
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