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暦「国立音ノ木坂学院?」

1 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 01:05:35 y4EkQD6.
これは僕が被害者でも、加害者でもなく、ましてや当事者でもなかった物語である。

かと言って、傍観者ですらもなく、僕はただの部外者でしかなかったのだ。

あの九人の少女達の前では。


『叶物語』

”ごめんなぁ──分かってて押しつけたんよ──”

波乱に満ち溢れ、長引いてしまった夏休みも終わり、つかの間の平穏に浸っていたはずの阿良々木暦。

気付くとそこは見知らぬ学校、そして9人の少女達。

彼を待ち受け、対峙するモノとは…?

これぞ現代の 怪異! 怪異! 怪異!

青春は、みんなで叶える物語。


2 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 01:16:45 y4EkQD6.
九月の頭、うだるような夏も終わり爽やかなある月曜日、僕はおかしなことに、学校で授業を受けていた。

僕は今現在現時点で現役の高校生であるからして、授業を受けているというのはなんらおかしなことではない。

まあ、世間一般の高校生としてはいくらか、いや、かなり不真面目な部類には入っているのではあるが、だから真面目に授業を受けているのがおかしいのか、というとそういうわけでもない。

では何がおかしいのか?



この僕、阿良々木暦は、なぜか、音ノ木坂学園という、女子校で、授業を受けているのだ。


3 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 01:29:36 y4EkQD6.
正直なところ、僕にも何が起きているのかさっぱり分かっていない。

春休みの鬼に始まり、猿や猫、鎧と言った暴力的なケース、蟹や蝸牛のような比較的平和なケースのどちらとも全くと言っていいほど状況が違う。

どうしても近いケースを探すというのならあの夏休みの終わり、時を超えた冒険と言ったところだろうか。

あの時は僕と忍が共謀して、共同して、自発的に行ったことだった。

しかし今回は、今回だけは、きっかけも何もかもがはっきりしないのだ。


4 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 01:32:50 y4EkQD6.
今日の朝の事、僕は寝ぼけながらも、また二人のやかましい妹に叩き起こされるのだろうと思いながら布団と仲良くしていた。

しかし、僕を起こしたのは二人の妹では無かったのである。

かと言って、一人の妹というわけではなく、はたまた弟と言うわけでも無く。

目覚まし時計が、やかましく、僕を叩き起こしたのだ。

それは僕にとって新鮮な感覚であり、違和感となって僕の耳に、頭に飛び込んでくる。

そして一通り混乱した挙げ句ようやく僕は思い至る。

「ここ、どこだ?」


5 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 01:50:07 y4EkQD6.
一応僕の部屋のような広さとレイアウトではあるのだが、そこにキッチン、バストイレが備え付けてある、まるでワンルームマンションのようなのであった。

(まるでさも冷静になったかのようではあるが、一通り混乱、の中には時計に向かって「火憐ちゃん月火ちゃん!?僕を起こすだけじゃ飽き足らず目覚まし時計になっちまったのか!?」と叫んだり、ということまで含まれている。ちなみに目覚まし妹という言葉に聞き覚えがある人がいたとしても、僕はまだその言葉を使った試しはない。)

知らない場所を取り上げてそう呼ぶのも変な話ではあるが、自分の部屋を一通り見て回り、少し一息付こう、と思ったところで僕は自分の体が無意識に動いていることに気がついた。

まるで、朝起きて伸びをするかのように、小学生女子を見て飛びかかるかのように、決められたルーティンに従うように行動していたのだ。

それこそ世間一般では当然のルーティンであり、僕にとっては多少億劫でスムーズに動き始めるはずのないこと。

学校へ登校を始めたのだ。


6 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 01:53:12 y4EkQD6.
外に出たところで僕の知っている風景が広がっているわけではなく、僕が住んでいる地域とは全く違う都会の風景がそこにはあった。

そして僕の足は、引っぱられるように、導かれるように進んでいく。

僕の知らない道を、知らないはずの道順を、足の向くまま、無いはずの記憶のままに歩いて行き、たどり着いた場所、それが。



「国立音ノ木坂学院?」


7 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 03:37:25 ScGlTJbc
とても期待


8 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 21:04:06 YQ.B5Ezk
回想、終わり。

そんなこんなで、なし崩し的な形で、僕は授業に出席したわけだが分かったことがいくつかある。

まず、この音ノ木坂学園の学校のレベルは、僕が本来通っている私立直江津高校と比べると若干ではあるが、下回るようだった。

なぜそんなことがわかるかというと、なんと、この僕に、数学以外の授業の内容が理解できるのだ。

もちろん、僕の彼女であるところの戦場ヶ原ひたぎと、恩人であり憧れであるところの羽川翼の教えのおかげも多分にあるのだろうが、それを差し引いてもである。
中学以来久しく忘れていた感じに、僕を待ち構えているであろう受験へのモチベーションがより上がってくる。


9 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 22:03:04 YQ.B5Ezk
さらに、この学校に僕が登校していても、周りは何の違和感も持っていないらしいということである。

僕が元々このクラスの人間であり、登校するのが当たり前、というような雰囲気である事から、恐らく僕は周りから『女子』として認識されているのではないかと思い至る。

まさかここにきて僕が本当にラギ子ちゃんになるだなんて誰が想像できただろうか。

らぎこチェンジ、なんて。

帰れたら神原を褒めてやるか。何を褒めるか分からないが。


10 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 22:34:52 YQ.B5Ezk
そうこうしているうちに午前の授業が終わり、僕が一番恐れていた時間がやってきてしまった。

そう、お昼休みである。

僕はこの時間を二つの意味で恐れていた。

暦「誰かが話しかけてきたらまずいな…」

そう、周りは僕がいて当然のような反応だが、僕にとっては全く知らない人たちなのである。

話しかけられてしまえば当然ボロが出てしまい、怪しまれるに決まっている。

しかし、授業中にもう腹は括っている。阿良々木ハーレムを作りあげてきた僕の実力を見せつけてやるときだ!


11 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 22:59:25 YQ.B5Ezk
恐れていた二つ目の可能性。

そう、直江津高校にいるときと同じ事であった。

いや、同じクラスに戦場ヶ原ひたぎと羽川翼がいないため、厳密には2年生の時までと、同じ事であった。

はい、そうです、僕には友達がいませんでした。

暦「分かってた…分かっていたさ…」

気を取り直して僕のセンサーに引っかかる人がいないか、教室を見回してみると。

一人、いた。昔の僕の戯れ言をまだ振り回すのであれば『人間強度の高い』生徒が、いた。

つまり、ぼっちである。

その少女はどこかの小学生女子のように、髪をツインテールにまとめていた。


12 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 23:08:04 YQ.B5Ezk
また時間は飛んで放課後、僕はどうするべきか、何をするべきか、何かするべきなのかを悩んでいた。

今の状況がおかしいということは確定的に明らかであり、怪しく、異なる。

怪異には理由があると忍野は言ったが、今のままでは正直言って手の付けようがないのだ。

放課後になってもうんうんとうなっている、友達もいない僕に、話しかけてくる者がいた。

??「ちょっとあんた!ぼーっとしてないで早くしなさい!」

ふとその声の主を見て、僕は口を開く。

暦「あ、ぼっちの人」


13 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/02(水) 23:43:39 YQ.B5Ezk
いきなり失礼なことを言ったからだろうか、その少女はガミガミと叱りつけてきた。当然である。

??「ったく…いつもいつも変で失礼だとは思ってたけどほんと最低ね…」

暦「まあその失礼で最低ついでに一つ言っておきたいんだけど」

暦「どうやら僕は記憶喪失みたいなんだ」

??「…はあ?」

怒りから呆れ、そして今ではかわいそうなモノを見るような目であった。そしてそのかわいそうなモノは、僕だった。


14 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/03(木) 00:23:44 WF26cKtA
なんとか僕の言うことを信じてもらい(信じたのか僕の奇行に付き合ったのか定かではない)、一応自己紹介と説明をしてもらえた。

彼女の名前は矢澤にこ。そして、この学校には『スクールアイドル』というものがあり、そのグループ『μ’s』の一員だと言うことだ。

そして彼女が僕に声をかけてくれたのは、どうやら僕はその練習をよく見学に行っているのだそうだ。

暦「だけど、なんだって僕はメンバーでもないのに練習を見学させてもらっているんだ?」

にこ「あんた本気で記憶ないのね…あんたが頼み込んできたのよ。女の子のスカートが揺れるのをみたいとかなんとか言って土下座までして」

暦「どんな変態だよ!?」

いくらなんでも設定がひどすぎる!そんなこと言った覚えは…

羽川か戦場ヶ原あたりに言ったんだったか…


15 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/03(木) 02:44:05 PdJguKOw
期待だ


16 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/03(木) 03:58:42 zwN3h7k2
神谷の声脳内再生余裕の維新節すごいな


17 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/03(木) 04:13:23 2UFOVJ62
確定的に明らかとかいうブロント語


18 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/03(木) 22:52:29 WF26cKtA
暦「そういうことだったら見学させてもらうおうかな」

今の何をすれば良いのかも分かっていない僕にとっては渡りに船である。
怪異には理由がある、それならば、僕がその練習を見学することになっているというのにも意味があるはずなのだ。

…決して女の子のスカートに惹かれたわけではない。

しかしこの少女、女子高生だというのに、なんというか、発育が残念である。

有り体に言ってしまえば、小学生の八九寺真宵や中学生の千石撫子と同程度である。

しかし僕も紳士であり、デリカシーというものも持っているため、そのようなことは直接口に出したりはしない。

何がとは言わないが、

暦「矢澤、小中学生並みだな」

にこ「うっさいわ!」

はたかれた。何がとは言っていないのに。


19 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/03(木) 23:04:50 WF26cKtA
??「にこ、阿良々木さん、迎えに来たわ」

?「にこっち〜らぎらぎ〜」

矢澤と馬鹿なやりとりをしていると、教室のドアから声がすると同時に、羽川翼も顔負けなほどのプロポーションを持った、金と紫の髪を持った少女が入ってきた。

??「希が阿良々木さんが心配だってせっつくから来たけど別になんでもないじゃないの…」

?「ほら、こよみんは結構変なとこあるやん?にこっちに怒られてへんかな〜って思って」

にこ「もう大変だったわよ…記憶喪失だとか言うし失礼なことばっかり言うし…それはいつもだけど」


20 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/03(木) 23:15:15 WF26cKtA
??「えっ、記憶喪失…?それってかなり重大なことじゃないの…?びょ、病院とか…」

にこ「大丈夫よ、中身は馬鹿なままだしほっといて」

??「で、でも…」

?「まあまあ、それより記憶喪失ならうちらは自己紹介した方がいいんと違う〜?」

と、呆れ顔の矢澤、心配そうな金髪、にやにやしている紫髪。こうして並ぶと格差社会の無情さを如実に物語っている。

にこ「あんたまたなんか失礼なこと考えてない…?」

さて、二人にも自己紹介をしてもらったところによると、親切にも僕の事を心配してくれた(春休み頃から僕を心配してくれる人はかなり希少種になっていた)金髪の少女は絢瀬絵里という名前らしい。

そして、似非関西弁(少し前なら気にしなかったのだろうが影縫さんという本物の京都弁を使う人と接してしまうと似非と言いたくなってしまうのだ)を話す紫の髪の少女は東條希というそうだ。

もちろん、二人ともμ’sの一員であり、僕の記憶には無いがおそらく僕の土下座を見たはずである。
人の尊厳を失っているかのような僕の言動を見ても普通に接してくれているということは、人としてできた人なのだろう。


21 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/03(木) 23:36:04 WF26cKtA
絢瀬の持つ金髪、それが思い出させるのは、元怪異の王、伝説の吸血鬼、その残りカス、そして僕と運命を共有し合っている、忍のことであった。

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。それが、忍、忍野忍が失ってしまった、いや、僕が奪い去ってしまった彼女の名前である。

つい半年ほど前の春休み、僕はその時に地獄を生きた。

夜の住人、吸血鬼の眷属となり、幾度も死闘を繰り広げた。もっとも、輝かしい美談でもなんでもなく、僕が原因を作り、僕が天秤をぶち壊しにした、ただの加害者でしかなかっただけの話である。

そしてその結果、最後には誰一人幸せになること無く、誰一人漏らすこと無く不幸を背負い、僕の地獄は終わりを迎えた。

その結果残ったのが、吸血鬼の残りカス、人間ですらない存在へ成り下がった忍野忍と、人間でなくなり、吸血鬼にもなり損なった僕、阿良々木暦の二人というわけだ。


22 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/03(木) 23:52:13 WF26cKtA
さて、忍の話が出たところで、僕の今の状態に戻ろう。

自分の体について意識をめぐらせると、あることに気が付いた。そう、僕の吸血鬼性がかなり引き上げられているのだ。

春休みの時とまではさすがにいかないが、何度か忍の力を借りて戦いに臨んだ時、そのくらいには吸血鬼に近付いているようなのだ。

暦「忍とのペアリングが切れていないっていうのは救いだな…」

僕と忍は運命共同体であり、互いに互いをがんじがらめに縛り合っているようなものである。

つまり、僕と忍はお互いに距離的に離れることができないということだ。

知らない場所に知っている奴が一人いるかもしれないというだけでも随分と心強い。


23 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/04(金) 00:12:13 1sWyMxno
閑話休題。

どうやら練習は屋上で行っているらしく、そこに行くまでに絢瀬が様々なことを丁寧に説明してくれた。
(矢澤と東條はというと、ムスッとした顔で突っ込みを入れるか、にやにやと茶々を入れるかだった)

高坂穂乃果、園田海未、南ことり、星空凛、小泉花陽、西木野真姫、そして、ここにいる三人。
それがμ’sのメンバーなのだそうだ。

全員と僕は面識があるらしく、携帯を確認してみると九人全員のアドレスと番号が登録されている。
気付くと僕の携帯には父のアドレスを除いて女子のアドレスしか入っていないと言うことになっていた。

音ノ木坂学院では3年生は3クラス、2年生は2クラス、1年生は1クラス存在しており、矢澤が僕と同じクラス、絢瀬と東條が隣のクラスであるということも分かった。


24 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/04(金) 00:24:48 1sWyMxno
スクールアイドル、か。僕のまわりにいる少女達はアイドル顔負けのかわいさを誇っているから、案外合ってるかもしれないな。

例えば、戦場ヶ原とか─
『あら、どうしてあなたたちは私の許可も無く、私の美声を聞き、私の姿を見て、私と同じ空間にいるのかしら?あなたたちの愚かさが移るから早くここから立ち去ってもらえるかしら?』
ダメだ…そんなアイドルはいない…

神原ならどうだろう─
『うむ、次の衣装のコンセプトは裸の王様としよう!む、阿良々木先輩ともあろう者が間違いを犯すとは珍しいこともあったものだな…これは裸ではない!馬鹿には見えない服だ!阿良々木先輩になら私が華やかな衣装に身を包んでいるのが見えることだろう!』
そんな服なら第一お前が見えないだろう!

ダメだダメだ、性格に問題がある奴しかいないの忘れてた。まず小中学生がいる時点でアウトだしな。
千石からはなぜか特に犯罪の臭いがする。


25 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/04(金) 00:43:07 1sWyMxno
そして僕は練習場所である屋上に連れてきてもらい、μ’sの練習を見学している。正座で。

もちろん屋上で着替えやミーティングをするわけではないようで、まずは部室に案内されたがそこでもひと騒ぎあった、とだけ言っておく。

かくして僕はこの学校のスクールアイドル、μ’sのメンバー全員と(今の僕からしたら、ではあるが)初めて対面を果たしたのであった。

なぜ僕が正座で練習を見ているのかというと、立って眺めているのではまるで監督気取りのようで気後れする。かと言ってだらしなく座ってみるのもさすがに失礼だろう。

と、いうわけで僕は、彼女たちの練習着と、それに身を包んだ肢体に、最大限の敬意を払って正座をさせてもらっているのだ。


26 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/04(金) 02:24:24 eGkMtyT.
読んでてすごく楽しい


27 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 00:13:12 eMv.XSTk
そして練習が一段落し、休憩に入ると園田が声をかけてくる。

海未「本当に阿良々木先輩は記憶を失ってしまっているのですね…正座で私たちの練習を見学しているだなんて…」

暦「ん?ああ、やっぱさすがに堅苦しくしすぎて落ち着かなかったか?そういうことなら謝る」

暦「けど、普段の僕はどんな体勢で見学してたっていうんだ?」

もしかして偉そうな態度を取っていたのだろうか。だとしたら僕のしたことではないとはいえ、さすがに申し訳なくなってしまう。

海未「いえ、いつもは地面に這いつくばって見学をしています」

暦「どういうことだよ!?いじめか!?」

海未「い、いえ、先輩が自分で低いアングルの方がいい、と言い出して…さすがに止めたのですが…」

暦「アドバイスは素直に受け取れよ!」

しかし、ここまで啖呵を切ってしまった以上、僕が抱いていた不埒な敬意は僕の胸にとどめておくことにしよう。


28 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 00:15:26 eMv.XSTk
園田と言葉を交わしていると、横から飛びかかってくるかのようにして高坂と星空が話しかけてくる。

穂乃果「阿良々木先輩!今日の練習どうだった!?」

凛「あそこすっごい練習したから自信あるんだよねー!」

暦「ああ、ダンスの事はよく分からないけど、素人目から見てもレベルが高いと思うよ」

これは本心である。ほぼ全員が今年からダンスを始めたというのにこの完成度。きっと惜しみなく努力をしてきたのだろう。

暦「それにおかげで皆のことを腰の形で判別できるようになったからな。感謝してるよ」

穂乃果「ん?腰?」

凛「どういうことだにゃ?」

二人とも純粋だった。
…普段変態や無駄に辛辣な連中と話しているからか感覚が狂っているみたいだ…。というか、僕は今女子として認識されているんだから変な言動は慎むべきだな。

けれど、今度矢澤あたりには振ってみるか。またひっぱたかれそうだが。


29 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 00:17:55 eMv.XSTk
高坂と星空の純粋さと普段の僕の周りにいる奴らの不純さに思いをはせていると、今度は東條が話しかけてきた。

希「らぎっち、そろそろ帰らなくて大丈夫なん?普段ならこのくらいの時間に帰ってると思うんやけど…」

暦「ん、ああ、そうだったか。それじゃあ今日は帰らせてもらおうかな」

むやみやたらとこの世界を乱すようなことはしない方がいいだろう、という判断で僕はその言葉に従うことにした。

しかし、いまだに何をすればいいのかの手がかりすら掴めていない状態である。今後も何も分からないようであれば、わざと崩す方向に動くというのも手か。


30 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 00:21:10 eMv.XSTk
屋上を出て、昇降口へ向かって校内を歩きながら、今の僕の身体能力を確かめてみる。

運動神経、視力、聴力(さすがに校内で腕を切り落とすような真似はできないため、治癒力については確かめられなかったが)と確認していくと、ふと既視感を覚える。
今とほとんど同程度にまで吸血鬼性を引き上げたときがあったと記憶に引っかかる。

そう、夏休みのある日、ホトトギス─つまり、月火ちゃんをめぐる騒動。

暦「影縫さん達と戦ったときと同じくらい…」



?「お前様!」



後ろから、聞き慣れた、慣れ親しんだ、そして待ち望んでいた声が響いてくる。


31 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 00:25:13 eMv.XSTk
そんな暇さえ惜しいかのように、一瞬でも早くその姿をとらえようと、僕は振り返る。そこには。

見慣れた奴が、見慣れない姿で─周りへの違和感はなく、僕にとっては違和感のある格好で、立っていた。立ち尽くしていた。仁王立ちだ。

そう、誰あろう忍野忍が、17、8歳ほどの姿で、音ノ木坂学院の制服にその身を包んで、立っていたのである。

忍「まったく、迷子になんぞなりおって…この建物から離れられんからこの中にいるとは思っておったがの」

暦「忍…」

忍「まあよい!我があるじ様と、合流なう!じゃ!」

かの元怪異の王は、思いっきり女子高生に影響を受けていた。


32 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 00:30:25 eMv.XSTk
先に少し警告だけさせてもらいます
今回のエピソードで怪異によって生じる異変が、人によっては嫌悪感を抱くと思うので途中で嫌な予感がしたらブラウザバックを推奨いたします


33 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 00:35:23 eMv.XSTk
暦「まあお前が女子高生に染まりきってるってのはこの際いい。しかし、今これは何が起きてるっていうんだ?」

忍「儂にも分からん。」

暦「分からん、って…」

忍「儂に分からんのがそもそも問題なのじゃ。明らかなイレギュラーが介入しておるとしか思えん」

暦「ってことはやっぱ人為的に引き起こされた、って考えていいんだな?」

忍「うむ、これは自然に発生する、現存する怪異の仕業なはずはない。枯れても干涸らびても怪異の王─それならば儂が分かるはずなのじゃ。怪異が関わっておらずこの状況…どう考えても異常じゃ」

どこかで怪異は関わってくるじゃろうがな、と冷静に言う。

忍「と、この儂が、ここまで言い訳を、言い逃れをした理由が、分かっておるな?」

にやり、と。

忍「この緊急事態じゃからな、今回は特別さーびす、いや出血大サービスじゃ。儂も全力を振るってやろうではないか」

かかっ、と凄惨に笑い、胸を張る。幼女の時と違い胸があるから制服のボタンがはじけ飛びそうだ。


34 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 00:40:44 eMv.XSTk
暦「ああ、心強いよ」

しかし。

暦「とは言っても、僕はここで何をすればいいのか、どうすれば帰れるのかも分かってないからな…」

忍「うむ…じゃが、どうせお前様のこと、面倒事が現れるや否や、わざわざそこに飛び込むことになるんじゃろうな」

呆れたように、咎めるように僕を見据える。
それでも僕は、見て見ぬふりなどはできない─助けようと、助けたいと、思ってしまう。一人で勝手に助かるだけだ、などとは口が裂けても言えない。忍野メメのようには、なれないのだ。

忍「まあ、よい。それよりも儂は空腹じゃ!ここはあんなド田舎と違ってミスタードーナツがたくさんあるそうじゃしの!マジでテンアゲじゃ!」

暦「結局そうなるんだな…」


35 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 01:35:48 3eIzE/e6
おつ
長く楽しめそう


36 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 22:19:05 eMv.XSTk
次の日、僕はまたしてもμ’sの練習を見学していた。接点があるのがこの9人しかいないのだから、ここを中心として動いていくほか無いのだ。


穂乃果「昨日の帰り道で海未ちゃんに怒られたと思ったら家に帰っても雪穂に怒られるし…もう叱られっぱなしだよー!」

暦「ん?高坂、雪穂って言うのは誰のことなんだ?」

聞き慣れない名前に僕は反応する。なるべく情報は多く仕入れた方がいいだろうからな。

穂乃果「あれ、知らなかったっけ?私の妹!今中学3年生なんだよー」

暦「妹!?まじで!高坂お前妹いたのかよ!しかも中学生ってもうすぐ女子高生じゃねえか!」

にこ「あんたまじで犯罪者みたいだからやめなさい…ていうか、もうすぐ女子高生ってどう言う意味か分かんないわよ…」

穂乃果「でもにこちゃんにも小学生の妹2人いるんだよ!」

にこ「ばっ…」

暦「おいおいまじかよ矢澤!なんでもっと早く言ってくれなかったんだしかも小学生女子が2人とか犯罪だろ!情報と体型は慎ましくていい事なんてないぞ矢澤!」

にこ「小学生女子って言って犯罪に結びつくのあんたぐらいよ!ってか確実に容疑者あんたよ!それ以上に、体型が慎ましいってどういうことよ!!」

何を言うか、僕は小学生女子に飛びついて抱きついて頬ずりをしても罪に問われていないぞ。


37 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 22:22:10 eMv.XSTk
真姫「ほんとうるさい…にこちゃんも阿良々木先輩も静かにしててよ、休憩にならないじゃない」

と、西木野が口を挟む。この自分以外のことに興味が無いようなそぶりはどことなく戦場ヶ原を思い出させる。
が、あいつと比べるまでもなくチョロさがにじみ出ている。チョロさ百倍、西木野ウーマンだ。

暦「分かってないな西木野…妹の良さが分からないなんてかわいそうな奴だよ…」

僕が西木野を呆れた目で見ると、彼女はそれ以上に軽蔑しきった目を返してきた。

と、そんな妹の良さが分からない唐変木に構っている暇は無い。今はどうやって僕の妹を増やすかが問題だ。

暦「よしそうだな…まずは矢澤が僕の家の養子になるってのはどうだ?」

にこ「いや何の話よ!?」

暦「そしてその上で矢澤と高坂が結婚する!これで僕の妹天国が完成だ!」

にこ「妹天国って何!?私にとって地獄でしかないんだけど!?」

穂乃果「そういえば絵里ちゃんにも妹いるよ!うちの雪穂と同い年なんだけど…」

真姫「穂乃果…」

西木野が呆れたように高坂を見ているが関係ねえ!

暦「絢瀬にも妹!?ならその上で高坂の妹と絢瀬の妹が結婚すれば完璧だあ!」

僕はいつもと変わらず、相も変わらず、女の子相手に妙なことに熱弁を振るうのだった。


38 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 22:25:19 eMv.XSTk
希「おーい、こよっち〜」

と、白熱していたところに東條の声が届く。どうでもいいけどあいつ、僕の名前すごい適当に呼んでるよな。

暦「どうしたんだよ、東條、それに、園田」

そう、東條と話していたのは、園田だった。

園田海未。長い黒髪に涼やかな印象の茶色の瞳、そして芯のある凛とした雰囲気をまとった大和撫子、そんな少女である。

海未「い、いえ、そんな大丈夫です、阿良々木先輩は…」

暦「ああ、僕には話しづらいことか?まあそりゃあ同じグループの奴の方が話しやすいよな」

なぜ東條が僕のことを呼んだのかはよく分からないが、園田はなんとなくだが身内にすら遠慮しそうな奴だしな。

海未「いえ、顔が破廉恥なので」

暦「どんな顔だ!?」


39 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 22:29:47 eMv.XSTk
希「まあまあ、あらっちってなんだかこういう話詳しそうやん?」

昨日今日と話してみた感じではあるのだが、東條は何を考えているのかがいまいち読めないところがある。
特に今のような見透かしたかのような発言…誰かみたいであんまりいい気はしないな。

海未「うう…ですがそんなに深刻な話でもないですし、そういった事ではないと思うのですが…」

希「まあまあ、とりあえず話してみ?のぞみぱわーとこよみぱわーにまかせるのだー」

そう言って目を細め、手をふにゃふにゃと動かす。
こよみぱわーってなんなんだよ。僕にはそんなスピリチュアルなぱわーはないぞ。


40 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/05(土) 22:36:03 eMv.XSTk
希には最初の方が2回目の説明になってしまいますが、と前置きをして園田は話し始めた。

海未「この間、兎を見たのです。」

暦「ん、この学校には飼育小屋でもあるんだったか?」

海未「いえ、飼育小屋はありますが兎は飼っていません」

希「飼ってるのはアルパカやね」

暦「アルパカ!?飼ってるものが特殊すぎるだろ!?」

希「ちなみにそのお世話をしてるのが花陽ちゃん」

小泉─大人しい顔をして実は行動派なのか…?

余計な茶々を入れた僕が口を閉じると、園田は語り出す。

海未「あれは、先週末の放課後でした。
  「帰宅途中の道の真ん中に、私の足を遮るかのように1匹の兎が私の事を見つめていたのです。
  「兎がこんなところにいるのはおかしいと思ってよく見ようと思ったのですが、まばたきをしたその一瞬で、見失ってしまったのです。
  「脇道もなく、狭い道だったので通り抜けていくのは分かりそうなものなのですが…

  「そしてその日からです。私の体に異変が起きたのは。
  「毎日のように腹痛や頭痛、吐き気が襲ってきて…
  「ただの体調不良かとも思ったのですが、少し気になってしまったので、オカルトに詳しそうな希に話を聞いてみようかと思ったのです」


ふむ…確かに気のせいで片付けることもできるが、おかしい、と感じるのも当然あり得る反応だ。


41 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 01:22:44 zMnLorps
希「な、なあ海未ちゃん?その症状って…えっと…」

東條は少し言いづらそうに口ごもり、僕の方をちらりと見る。

暦「僕を見て気分が悪くなるって言いたいなら時期が少しずれるんじゃないか?」

希「そんなこと言ってへんよ!?」

つい戦場ヶ原が言いそうなことを想像してしまった─あいつ、本当に僕の彼女だったよな…?

海未「まあ、希の言いたいことは分かります…ですが、私は軽い方ですし周期的にもずれている…それに、やはり症状が違うので…」

ああ、そういう話か。女の子特有の、アレ─プリンセスの日、とでもしておこう。

プリンセスと言えば、僕の憧れている作品の話をしなければなるまい。そう、伝説の「Sister Princess」だ。
電撃G’sマガジン掲載の読者参加型企画を元とし、公野櫻子が文を担当する2期へと移行、そしてアニメやゲームにまで発展したメディアミックス群のことである。
特にその魅力─いや、特異性を如実に表しているのがそのゲームであり、なんと主人公1人に対して、攻略可能キャラクターが全て妹、さらにその妹が12人いるというすばら─おかしな設定なのだ。
さらにそれだけにとどまらず、システムにも大きな特徴がある。恋愛ゲームでは基本的に妹は義理の妹、そんな常識が蔓延っているがこの作品はそんな常識にとらわれない。
なんと、選択肢次第で実の妹か義理の妹かが変化するという物なのである。


と、何かにとりつかれてしまったかのように語り尽くしてしまった。
ん、神?GOD?何のことかよく分からないが気のせいじゃないか?


さて、園田と東條の話に戻ろう。
話題が話題ではあるが、今の僕は女子生徒として認識をされているから問題はないだろうな──ん?何か引っかかるが…?

希「ちょっとうちの知識だとすぐには思い当たらんなあ…感染症って意味でも、オカルトって意味でも…あらぎんはどう?」

暦「どんな呼び方だ…と言っても、僕も思い当たることはちょっと無いんだよな…まあ、今日帰ったら少し調べてみるさ」

海未「すみません、ありがとうございます…ですが、ただ私の体調管理が甘かっただけかとも思いますのでそんな深刻に考えていただかなくても大丈夫ですよ」

そう言って園田はほほえんだ。


42 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 01:23:56 zMnLorps
練習が再開されるタイミングで僕は抜け出し、僕と矢澤が所属するクラスへと向かう。

暦「忍」

教室と廊下に誰もいないことを確認し、僕がそう自分の影に呼びかけると、

忍「ふむ、どうせ呼ばれると思っておったわ」

僕の影の中から、忍が現れる。
忍は僕の影の中に縛られている。それはもう一つの意味で、僕の影の中に潜むことができるということでもある。

暦「ああ、力を借りようと思ってな。でも、呼ばれるだろうってわざわざ準備してくれてたのか」

忍「うむ!あらかじめDSのゲームをセーブしておいたぞ!」

暦「そっちの準備かよ」

学生らしく授業の復習でもしてろ。


43 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 01:25:05 zMnLorps
忍「子安兎(こやすうさぎ)」

忍はそう言った。

忍「それだけではなく、宝兎(たからうさぎ)、産霊兎(むすびうさぎ)、などと呼ばれることもあるようじゃな」

忍「あとは…」

そう言うと忍は難しい顔をして固まってしまった。

暦「ど、どうした?もしかして、かなり危険な怪異で、園田の命が危ないとかそんな…」

忍「忘れた」

暦「は?」

忍「忘れた、と言っておるのじゃ。まあ正確には元々あまり覚えていなかった、と言うべきか…前にも言ったじゃろう、儂があの軽薄な小僧の話を真剣に聞いておるわけなかろう」


44 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 01:26:00 zMnLorps
忍にあきれ果て、まあ名前が分かっただけでもそこから自分で調べられるだろう、と無理矢理納得して昇降口に向かおうとすると。

花陽「あれ?阿良々木先輩?」

暦「ああ、小泉か、どうかしたのか?」

花陽「ちょっと教室にタオルを忘れちゃってて…阿良々木先輩も忘れ物ですか?」

暦「ああ、まあそんなところ。今帰るところだよ」

教室ってなんだかついつい色々置いちゃいますよね、と言ってふんわりとほほえむ。
癒やされる…。
小泉の雰囲気はどこか千石に似たものを感じるんだよな。千石がごく平凡に平和に育ったらこんな感じだろうなって。

そうだ、これは聞いておかなきゃな。

暦「そうだ小泉、このあたりに図書館ってあったりするか?」

花陽「図書館ですか?えっとですね…」

暦「…うん、ありがとう、助かったよ」

図書館の場所を記憶して、学校を出る。さて、羽川の真似事でもしてみるか。


45 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 03:57:34 hvF09IJ2
毎日更新されてて嬉しい


46 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 22:36:18 4jDG603g
結論から言うと、図書館では子安兎についての記述は全く見つけることができなかった。

もっとも、忍が適当な事を言っていたというわけではなく、まずそもそも妖怪やその類の書物が少なかったのである。

しかし収穫が全くなかったかというとそういうわけではなかった。

暦「竹取物語に日本書紀か…」

子安、という言葉は竹取物語に、産霊、という言葉は日本書紀に出てくることが分かった。

暦「燕の子安貝に火産霊、両方とも聞いたことがあるな」

確か燕の子安貝のエピソードは平安時代きっての下ネタだったはずだ。昔から下ネタは鉄板だったって事か。

本題はそういう事ではない。両方に共通していること、つまり『産まれる』ということの象徴らしいということだ。


47 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 22:36:44 4jDG603g
子安貝というのは、貝の一種であるタカラガイの別名であり、その子安貝は女性、生誕の象徴として扱われているという記述を見つけることができた。

次に、火産霊。日本書紀の記述によると、カグツチが誕生した際にその身に宿す火によってイザナミが死んでしまい、その死に怒ったイザナギがカグツチを斬り殺す。

するとそこから様々な神々が誕生したことから、元々『誕生』の意味を持つ『産霊』の神であるとされ、火産霊、と漢字が当てられたという。

この死から新たなモノが産まれる、つまり死と生の繰り返しを連想させることから、産霊というのは生命の連続性の象徴という意味につながる。

連続性という『産霊』、『むすひ』。つまり『結び』である。


48 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 22:38:14 4jDG603g
暦「しかし結局兎の怪異についてはよく分からなかったな…」

閉館時刻になってしまったため、図書館の外に出て伸びをする。どうしても普段机に向かい慣れていないからか体が強ばってしまっている。

「あれ?阿良々木せんぱ〜い」
「ほんとだ!おーい!」

声をかけられた方を見てみると、恐らく練習が終わってその帰りだろう、高坂と南の姿が見えた。

暦「ん、あれ?園田は一緒じゃないのか?」

僕の中で高坂、南、園田の2年生3人組はいつもどこでも何をするでも一緒だと思っていたからこその疑問である。

ことり「海未ちゃんは弓道部の方に顔を出すって言ってたので…」

暦「ああ、そういえば兼部をしてるんだったっけか」

穂乃果「そうそう!海未ちゃん弓持ったときすっごいかっこいいんだよー!」

暦「へえ…確かに道着姿が似合いそうだな。一回見てみたいな」

穂乃果「私も見に行きたい!って言うんだけど海未ちゃんが『穂乃果は騒がしくするのでダメです!』なーんて言うから…」

ことり「穂乃果ちゃんはちょっとはしゃいじゃうもんね…」

僕の中でやはり何か物足りなさを感じる2人組と話もそこそこに切り上げ、僕は帰路についた。


49 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 22:40:51 4jDG603g
家に着き、今日調べたことと照らし合わせれば忍も何か思い出すのではないかと思ったのだが。

暦「忍、出てきてくれ」

………

反応が無い。

どうやら連日朝早くまで、いや、朝遅くまでと言えば良いのか、僕の影の中でDSをプレイし続けていたようで寝不足に。

そして本来寝ているはずの日中だが、どうやら忍は音ノ木坂学院に転校してきたということになっているようで、勉学に励まざるをえない状況なのだ。
それゆえ、授業が終わった夕方あたりから僕の影に入って眠り続けている。

吸血鬼どころかこれではダメな人間と何も変わらない生活リズムである。怪異の王が聞いて呆れる。


50 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/06(日) 22:44:03 4jDG603g
次の日、昼休みに東條が僕と矢澤のクラスに来て僕を連れ出していった。
(無論、矢澤にひとしきりちょっかいを出した後で、である)

希「よみっちの方は兎のことでなんか分かったことあったー?」

忍から怪異の名については聞いていたのだが、その名をいきなり挙げるのもはばかられたので収穫無し、と伝える。

希「やっぱそうなんやねー…うちもお手上げ。兎はやっぱり感染症とかもないみたいやし、兎の言い伝えっていうのもまず少ないんよね」

暦「ああ、そういえば確かに僕も因幡の白ウサギとか月の兎くらいしか知らないな…」

あ、そういえば。

暦「園田で思い出したけど、昨日図書館行った帰りに高坂と南に会ったんだよ。あの3人でも別々に行動することもあるんだな」

希「ふーん、穂乃果ちゃんとことりちゃんね…」

希「兎は寂しいと死んじゃうって言うけど、海未ちゃんは強いから大丈夫そうやね」

うちはえりちと離ればなれになったら死んじゃうかもー、とにやにやしながら言って笑う。

暦「まあ僕もよくは知らないけど、園田だったら平気そうだよな。それにその話も放っておくと病気に気付かずに死なせてしまうっていうのの曲解なんだろ?」

と言ったものの、この知識は完全に羽川からの受け売りだ。

希「あれ、そうなん?すごいなーらぎらぎはなんでも知っとるね」

暦「…僕は何にも知らねえよ」

そう、僕は何も知らない。僕が知らないことはもちろんのこと─僕が知っている事でさえ、きっと知らないのだから。


51 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/08(火) 00:29:15 3/cSeYiE
推敲が終わってないから明日あたりにでも更新します
後半は結構ちゃんとした書き溜めがあるからここ越えたらちゃっちゃとあげられそうな気がする


52 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/08(火) 01:31:20 GV8o6tSY
マジか
楽しみにしてる


53 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/08(火) 03:36:34 PftTm.0c
実際希ちゃんも怪異に詳しそう


54 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/10(木) 00:49:45 zBQWC0z6
水曜日の昼休み、僕はアイドル研究部の部室で昼食を取っていた。

それは、教室で食事をとっているのが気まずいだとかそういった話では無い。僕ほどの人間強度を持ってすれば他人の視線など黙殺できる。

三年生の僕の友人たち三人──つまり、絢瀬、東條、矢澤と一緒に昼食をとっているのだ。
元々、絢瀬と東條は生徒会長副会長のコンビだったようで、昼は専ら生徒会室を使うことが多かったらしいのだが(とんだ職権濫用である)、代替わりとともに追い出されてしまったということらしい。

その代替わりで生徒会長となったのが高坂だというのだから驚きである。

絵里「確かに心配なところはあるけれど…でもそれ以上に、あの子にはこの学校を、他の人たちを、良い方向に引っ張っていく力がある。私はそれを信じているわ」

それに、厳しくてしっかりした幼なじみが目を光らせているでしょうしね──と愉快そうに続けた。

希「うんうん、うっかりえりちにしっかり者のうちがいたようにね〜」

にこ「いや、あんたよく仕事サボってたじゃない…」


55 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/10(木) 00:55:43 zBQWC0z6
暦「そうだ、園田のことなんだけど、最近体調悪いみたいだろ?三人は何か聞いてたりしないか?」

一応ここは東條も知らない体で話をさせてもらおう。

にこ「んー、私はたぶんあんたと同じようなことしか知らないと思うわよ?まあアイドル活動に弓道部、それに生徒会まで掛け持ちしてたらそりゃ疲れもたまるわよね…」

絵里「作詞も全て海未まかせにしてしまってるものね…そういえば、元々の症状は吐き気くらいだって言っていたでしょう?けどこの間聞いてみたら胸が少し痛むって言っていたわね」

希「胸の痛み、まさか──恋!?」

東條が無駄に芝居がかったようにわざわざジェスチャーまでつけて反応を返す。いや、お前は相談されてるんだからもっと真面目に情報収集してくれよ。


56 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/10(木) 01:01:27 zBQWC0z6
にこ「な…!?ダメよ!アイドルが恋愛だなんて御法度に決まってるでしょ!」

絵里「いや、物理よ物理…」

希「じゃあもしかしてそれって成長痛…?普段から行っているうちの施術が功を奏したんやね…!」

手を卑猥に動かしながらにやにやと、にこにこと笑っている。矢澤を見ながら。

にこ「…っ!それは重大な裏切り行為よ…!許せないわ…!っていうか希はなんでこっちを見るのよ!」

いや、それは当然というかなんというか。それに裏切りって自覚あんじゃねえか。

暦「にしても、園田はスレンダーって感じだけど、矢澤はなあ…」

絵里「にこは、ねえ…」

希「そうやねえ…」

にこ「うるさーい!言いたいことあるんならちゃんと目を見て言いなさーい!」

屋上に、幼女の声が響き渡ったのだった。


57 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/10(木) 01:14:00 zBQWC0z6
にこの未来には希望を捨てないとして、と絢瀬が話を切り替える。

絵里「今度の土曜日に海未に私の家に来てもらうんだけど、あの体調だと心配になるのよね…」
絵里「私に妹がいるのは知っているでしょう?その妹が海未の大ファンだからすごく楽しみにしていて、それもあってどうしたものかと、ね…」

暦「ああ、確かもうすぐ女子高生になるっていう妹だったよな?そうか、土曜日に…」

それまでになんとか糸口が掴めれば──いや、忍が思い出してくれればいいんだが。

にこ「なんであんたはわざわざ意味の分からない情報の抜き出し方をしてんのよ…」

矢澤はすでにショックから立ち直ったようだ。というか恐らくこんなことは日常茶飯事だから特に気にしてもいないんだろう。通過儀礼であり定期イベントだ。

にこ「谷各土曜日、絵里は海未の体調に気をつけること、それと、生徒会の仕事が大変なようなら絵里と希がなるべくフォローすること!アイ活についてはこの宇宙ナンバーワンアイドルであるこの私にまかせなさい!」

希「こういう時になるとにこっちは頼もしいなあ」

絵里「なんだかんだ面倒見が良いんだものね」

そう言って二人は顔を見合わせ、自分のことのように嬉しそうな笑顔を見せる。

暦「あれ、もしかして僕ができることって全くない…?」

にこ「…弓道の的にでもなれば?」

暦「人の役割じゃねえよなそれ!?」

いや、今の僕の治癒力があれば痛いのだけ我慢すればできるんだけどさすがにそれは嫌だ。


58 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/10(木) 01:22:25 zBQWC0z6
その日の放課後、僕は練習の見学に行かずに本屋へ行くことに決めた。図書館ではあまり成果が上がらなかったが、本屋では何か手がかりになる物を見つけることができるのではないかと考えたからである。

そのことを矢澤に伝えると。

にこ「あんたが本屋…?珍しいというか、全然似合わないわね…」

普通であれば喧嘩を売られていると思うかもしれないが、ここではこうやって言い返してくれる人が貴重なので僕は嬉しくなってしまう。

暦「曲がりなりにも受験生だしな、少しは印字や活字、問題に慣れておかないと受験当日に文字に酔ったりしかねないだろ?」

にこ「そんな付け焼き刃でどうにかなることじゃないと思うけど…それに、常時酩酊状態みたいなあんたは少し文字酔いしたところで変わるもんじゃないわよ」

暦「人をアル中みたいに言うな…けどそれなら慣れずにそのまま行った方がいいかもしれないな」

これぞ迎え文字、って。

にこ「常識みたいな話し方だけど、世の中の女子高生に迎え酒なんて言葉は普通通じないわよ…?」

うん、矢澤の突っ込みはさすがと言うべきところだった。


59 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/10(木) 02:04:03 K.x65uNk
来てたか


60 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/10(木) 23:41:53 zBQWC0z6
さて、そんなやりとりをしてから矢澤と別れ、昇降口を目指して歩いていると、二年生の教室があるあたりで見知った顔と遭遇した。高坂、園田、南の二年生三人衆だ。

穂乃果「あれ?今日は阿良々木先輩帰っちゃうのー?」

暦「ああ、ちょっと本屋に寄ろうと思ってな。参考書買うついでに調べ物だ」

穂乃果「阿良々木先輩が参考書…!それに調べ物まで…!」

ことり「穂乃果ちゃんそれはさすがに失礼だよ…」

海未「阿良々木先輩も受験生なのですから勉強をするでしょう…それに、調べたいことがあっても不思議ではありません」

そう言いつつ、園田は他の二人に見えないように僕に小さく頭を下げた。
僕が何を調べようとしているか察したみたいだな…まあ、なるべく早く解決してやりたいしな。

海未「そうでした、このタイミングで私も伝えておきましょうか、今日も弓道部に顔を出そうと思っていて…」

ことり「はーい、それじゃあ明日は一緒に帰ろうね!」

穂乃果「弓道部の方も頑張ってね!」

海未「…はい、ありがとうございます」

そんな会話を聞きながら、僕は学校をあとにしたのだった。


61 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/10(木) 23:46:44 zBQWC0z6
金曜日の放課後──そう、金曜日である。一日間が空いてしまうというのがどうにも僕が何もしていなかったような印象を与えてしまうのだが、何も得るものがなかったのだ。

本屋でも情報は得られず(どのような本を得たかは想像にお任せする)、忍からの助言も得られず──そもそも忍は僕が起きている時間に一瞬たりとも起きていなかったのだが、手がかりも得られなかった。

しかし、しかしである。収穫がなかっただけならよかったのだが、事態が、動いてしまった──高坂と南が、倒れてしまったというのだ。

木曜日の放課後、園田は何日かぶりに二人と一緒に帰路に付き、その途中で二人は倒れてしまったらしい。

そして僕は今、屋上の隅で東條と共に園田から詳しい話を聞いているというわけだ。


62 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/10(木) 23:48:51 zBQWC0z6
海未「私が、しっかりしていれば…」

希「海未ちゃんのせいやないよ。だからそんな…」

海未「それでも、私がちゃんと二人のことを気遣ってさえいればこうなる前に気付けたかもしれないのに…」

暦「園田…何かの手がかりになるかもしれない、その時のことを詳しく教えて欲しい」

海未「分かりました…」

園田がその時のことを語りだす。


63 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/11(金) 00:00:36 VW1PwzKk
海未「木曜日の放課後のことです。
  「最近三人で帰ることができていなかったので、少し寄り道をしよう、ということで買い物をしに行きました。
  「そして買い物を終え、帰ろうというところに、恐らく私たちμ’sの活動を見てメンバーだと分かったのでしょう、見るからにガラの悪い男性達が声をかけてきました。
  「もちろんそんな人たちに付き合ってはいられませんので軽くあしらって…え?いえ、さすがに怪我を負わせたりは…
  「そして隙を見て二人に先導して走って逃げました。
  「人目に付かない狭い路地に逃げ込んだところで一息付こうと思い、二人を振り返ると、地面に倒れ込んでしまって…」

海未「きっと、あの兎を見たときから始まった体調の悪さ──それを二人に移してしまった…」
  「私が、あのような兎に遭ってしまったばっかりに…

園田は、赤い瞳で、辛そうに、僕たちを見つめながら語り終えたのだった。


64 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/11(金) 00:22:51 VW1PwzKk
希「海未ちゃん…けど、うちは海未ちゃんと一緒にいても倒れたりしてへん。こよこよもおんなじや」

暦「そうだな、そりゃ高坂や南は一緒にいる時間が長いから影響を受けてしまったって考えてしまうかもしれないが…それでもそれは園田のせいじゃない。怪異が及ぼした被害だ」

しかし、どこか腑に落ちない。どんなに調べたところで兎と病魔を関連付けるような話は見つけることができなかったのだ。

海未「二人とも、申し訳ありません…こんな荒唐無稽な話を信じてもらって、調べてもらったばかりか、慰めてまでいただいて…」

海未「私がこんなに滅入って、頼ってばかりではいけませんね…私もなんとかできないか方法を探してみます」

そう言ってはいるものの、やはり園田の顔色はよくない。少し無理をしてしまっているのだろう。

暦「大丈夫だ、園田のことは僕が助けるから──絶対になんとかしてやる」

きっとこんなことを聞かれてしまえば、あの男にまた色々と言われてしまうのだろう。だがそれでも僕は助けたいと、そう思うのだ。


65 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/11(金) 00:31:49 VW1PwzKk
園田には週明けまでに必ず解決策を持ってくるから気に病まないよう言い聞かせ、この後のことを思案する。

暦「やっぱ、忍だよな…」

そう、曲がりなりにも元怪異の王。忍の知恵と力を借りなければ手詰まりなところまで来てしまっているのだ。

暦「幸い、明日は休日だし忍を叩き起こして話を聞いてみるか…」

2人もメンバーがいないからか、今日は柔軟だけで練習を終えるようだ。

絵里「海未…明日の事なんだけれど、亜里沙には私から言っておくから無理はしなくて大丈夫だからね?」

海未「いえ、大丈夫です。私も亜里沙と会うのは楽しみですので、ちゃんと伺わせていただきます」

そんな、少し元気のない、けれどどこか嬉しそうな園田の声を背中に聞きながら、僕は帰り支度を始める。


66 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/11(金) 00:47:28 VW1PwzKk
いざ帰ろうとしたところで、東條に呼び止められ、階段の踊り場まで連行される。

希「こよっち、海未ちゃんにどうにかするって断言しちゃってたけど、大丈夫なん…?」

東條は心配そうな顔で僕のことを見る。それは僕のことを疑っているのではなく、僕のことを、そして園田のことを本気で案じているようだった。

暦「ああ、実はこういったことは何回か遭遇していてな、一応はアテもあるんだ」

まあ、何度遭っても慣れるようなもんじゃないけどな。

希「ごめんなあ、うち何もできてない…けど何かあったら力になるから、いつでも連絡してな!」

暦「そうだな、何かあったら頼らせてもらうことにするよ」

そう告げて、僕は家に向かう──いや、その前に釣り餌を買いにミスタードーナツに寄らないといけないか。


67 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/11(金) 00:54:30 VW1PwzKk
そして土曜日、僕は昼からずっと自分の影に向かって声をかけ続けている。

そう、忍を起こし続けているのだ。

まさか自分が僕の妹と同じ立場になるとは思ってもみなかったが、起きない奴を起こし続けるというのは案外エネルギーがいる。

今度からはちゃんと起こされたらすぐに起きてやろう。

ドーナツといあ餌を用意してまで起こし続けたが、結局起きたのは優に16時を回った頃であった。

忍「むう…せっかくの休日だというのになぜこんな時間に起きねばならんのじゃ…チョベリバじゃ…」

ダメ学生か。しかも言葉のチョイスが古い。


68 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 00:51:13 3h7KL5nI
忍「なんじゃなんじゃ?こんな焦って起こしおって…まーたこんまい怪異が出て花のJK忍ちゃんに泣きついてきたか?」

眠そうな目をしてはいるがむかつくほどに良い笑顔で言ってきやがった。
というか、花のJKってさすがに年齢詐称にもほどがあるだろう。

暦「いや、兎の怪異について前話していただろう?それについてちゃんと詳しく教えてほしいんだ」

忍「む、まだあの兎をどうにかしておらんのか?お前様らしくもない…こんなこと言いたくはないが、儂の力など借りんでもどうにかなるじゃろう」

暦「いや、なかなか暴力的というか被害が大きい怪異だろう?お前の力も借りることになるかもしれないし…」

忍「被害じゃと…?どういうことじゃ?」

忍の目に真剣さが宿り、怪訝な表情を浮かべる。
そうだ、何かが噛み合わない。忍の考えていることと、僕が考えていることがまったく繋がっている気がしない。


69 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 00:51:41 3h7KL5nI
暦「実際、被害が起きているんだ。園田の体調の悪化や、高坂や南の失神まで広がって──」

忍「違う」

僕の言葉を遮るようなタイミングで忍は口を挟む。
その表情は、咎めるようで、けれどどこかすまなそうで。

忍「兎はそういった怪異ではない。そして認めとうはないが、今回ばかりは儂の言葉足らず──それゆえお前様は見当違いをしておる」

暦「け、見当違い…?何を、どう見当違いしてるって言うんだよ…?」

その時僕は、そう口に出した。しかし頭では、頭のどこかでは、忍の言いたいことを理解していた。
あの男の姿を忍にダブらせながら、次の言葉を待つ。

忍「癪ではあるが、アロハ小僧の言葉を借りるというなら」

忍「被害者面が気に食わん、ということじゃ」


70 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 00:52:23 3h7KL5nI
暦「もしもし!?絢瀬か!?」

「留守番電話サービスに、接続いたします」

忍の言葉を聞いた瞬間、僕は全てを悟った。いや、目をそらしていた事実を突きつけられたと言うべきか。

絢瀬に電話をかけるも、誰も出ることはなく、機械的な音声が流れるだけであった。

暦「くっそ、遅かったか…?絢瀬のことだったら…そうだ東條!」

思いつくと同時に東條の番号にコールすると、あまり間を置かずに彼女は電話に出る。

暦「もしもし!?東條だな!?」

希「あら?阿良々?どうかしたん?」

暦「僕の名前を感嘆詞みたいに使うな!」

希「おっとごめんなあ、噛んでもうたわ〜」

暦「違う、わざとだ!」

などと、小学生女子とするような会話を繰り広げる。けど、発育が!桁違いなんだよ!


71 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 04:50:27 XikRsNGA
阿良々に草


72 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 23:19:03 5wHRNa3U
暦「ってそんな場合じゃ無い!東條、お前絢瀬の家の住所分かるか!?」

希「…なんかあったんやね?切ったら阿良々木君にメールで送っとく!それと、他のみんなへの連絡は、うちにまかしとき!」

暦「ああ、助かる!」

暦「それと、一つ、聞かせてくれ」



暦「園田の瞳の色、何色だ?」



電話を切り、メールの着信も待たずに家を飛び出す。

暦「無事でいろよ…絢瀬、それと妹!」


73 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 23:19:31 5wHRNa3U
東條からメールで教えてもらった住所の家まで着いたものの。

暦「鍵がかかってる…」

至極当然のことではある。それなら、することは一つだ。

暦「また女の子の家に不法侵入することになるとはな…」

ざっと見て回ったところ、2階の部屋の窓だけが半開きになっているのが分かる。

暦「この高さだったら、今の僕なら届くはず…」

曲がりなりにも体に吸血鬼性を宿しているため身体能力もかなり底上げされているのだ。
当然侵入するところは誰にも見つかるわけにはいかないが。


74 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 23:20:02 5wHRNa3U
窓から侵入した部屋は、絢瀬か、恐らくその妹の部屋なのだろう。
そこには、姉妹がそろって床に倒れ伏していたのだから。

暦「絢瀬!大丈夫か!」

慌てて確認をするが、呼吸も心拍も問題なく、気絶しているだけのようだった。

しかし、二人の体には。

暦「打撲のあと?それに、歯形…か?」

絢瀬の首には何かで殴ったかのようなあざがあり、その妹の首には歯形が残っていた。

暦「園田がまだ近くにいればいいんだが…」

僕は部屋の窓から限界まで引き上げられた視力を使って園田の姿を探す。

暦「あそこか…!」


75 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 23:20:34 5wHRNa3U
絢瀬の部屋から園田の姿を見つけた僕は、東條に絢瀬の事を伝え、園田の事を追いかけ始めた。

そこまで距離が離れているわけでもないし、今の僕は身体能力が上がっているため恐らくそこまで苦労せずに追いつけるはずだ。

走り始めて程なく、前方に園田の姿が目に入る。

暦「園田!止まってくれ!」

僕が声をかけると、はっとしたように園田は僕の姿を確認するとスピードを上げて走り始める。

ってか、速っ!身体能力が上がってる僕より速いってどういうことだよ!
そんな事できんの神原くらいだと思ってたぞ!


76 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 23:37:40 5wHRNa3U
園田はどの道を通るか決めているかのように、迷いなく足を進めていく。
僕にとっては全く馴染みのない道であり、一人でこのような所を歩いていたのでは迷ってしまうであろうことは確実であった。

実際、何度か曲がり角で園田を見失いそうになってきていた。

しかし、走る方向から園田がどこへ向かっているかを想像することはできた。

土地勘も何もない僕が、唯一と言って良いであろう、馴染みのある場所。馴染み始めてきた場所。

暦「学校か──!」

そう、園田は、音ノ木坂学院に向かっていたのである。


77 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 23:56:40 5wHRNa3U
園田を追いかけ、学校に着く頃にはもうあたりは暗くなっていた。

薄暗くなった校門を抜け、校庭に足を向けると、そこには僕を待ち構えるようにして園田が立っていた。

弓と矢を携え、まるで狂気に染まったかのような真っ赤な瞳──そう、兎のような目で、僕を見据えて。

僕は園田のことを『長い黒髪に涼やかな印象の茶色の瞳、そして芯のある凛とした雰囲気をまとった大和撫子』と言い表した。
園田が持っているのは茶色の瞳のはずなのだ。彼女の容姿をしっかりと記憶していなかった僕は、変化を、怪異を、見抜けなかったのだ。

そして僕は何の見当違いをしていたのか?

そう、園田は被害者などではなかった。

どうしようもなく、なんということもなく、ただただ、加害者なのであった。


78 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/15(火) 23:59:57 5wHRNa3U
園田と相対した僕は、彼女に向かい口を開く。

暦「園田、弓を置いてくれ。そして──怪異に縋り付くのを、やめるんだ」

海未「それは、できません。これが、これだけが私の拠り所なのです」

暦「これ『だけ』だと?違うだろう…おまえにはあんなにたくさんの──」

海未「黙りなさい!私は、一人なのです…それでも、そうだったとしても、これが、絆の証となる…」

園田は壊れたような、しかし慈しむような表情で自分の腹部をさする。

海未「それを、邪魔するのなら」

園田は、ゆっくりと──

海未「阿良々木先輩、あなたを、射貫きます」

弓を、僕に向けた。


79 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:10:40 htgHSXxQ
暦「僕を傷付けるのは別に構わねえよ──だが、お前は、その絆とやらを感じてる相手すら傷つけてしまったんだぞ…!それでいいっていうのか!?」

海未「口を閉じろと言っているのです!あなたに何を言われる筋合いもありません!」

園田が口調が激しくなった次の瞬間、僕の左肩に矢が突き刺さっていた。少しそれていたら頭に当たっていたと思うと恐ろしすぎる。

暦「ぐっ…!」

海未「次は、頭を狙います…」

暦「ピンポイントで肩を狙ったってのかよ…!」

化け物みたいな命中精度だな…!
確かに弓道をやっているところを見たいとは言ったがこんな形では実現してほしくなかったよ…!


80 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:11:31 htgHSXxQ
海未「私は、一人なのです…!誰も、分かってくれることはない…!周りが思っているほど強くなどない…!」

暦「ふざけんなよ…」

園田が、一人?分かってくれない?

海未「う、動かないでください!それ以上動くというなら…!」

違うだろう…怪異に頼る必要なんてなかったはずだ…!

暦「ふざけんなって言ってんだよ!」

海未「くっ…!」

3本目の矢が放たれる。

暦「ぼっちなめんなあああぁぁ!!!」

僕は、文字通り目と鼻の先にある矢を掴み取っていた。


81 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:14:09 htgHSXxQ
暦「お前みたいなのは一人だなんて言わない!
 「お前は一人じゃないだろ…!
 「あんなにも、信頼できる仲間がいるだろう!
 「おまえが頼るべきは!怪異じゃない!
 「勝手に飲み込んで、思い込んで─その寂しさを怪異に押しつけただけだ!
 「お前は、ズルをしたんだよ!逃げ出したんだよ!」

海未「それでも…それでも…!」

園田がまた矢を手に取ろうとした、その時

「「海未ちゃん!!」」

校庭の端から声が響き、二つの影が近付いてくる。

誰あろう園田の──自分が一人だと頑なに語る彼女の親友、高坂と南だった。


82 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:15:11 htgHSXxQ
穂乃果「海未ちゃん…!ごめんね…ごめんね…!」

ことり「海未ちゃんはしっかりしてるって、強いんだって、勝手に思ってた…!」

穂乃果「海未ちゃんは海未ちゃんなのに…恥ずかしがり屋で、寂しがり屋で…!」

ことり「海未ちゃんのこと分かってる気になって、何も分かってあげられてなかった…!」

海未「穂乃果…ことり…
  「寂しかった…けれど、強くあろうとし続けた…!だから…言えなかった…!
  「本当は3人で一緒に帰りたかった!私の事を待っていて欲しかった!!
  「そんな、面倒くさい人なんです…!それでも…一緒にいたいんです…!」

穂乃果「あたりまえだよ…!!」

ことり「ずっと一緒だからね…!3人一緒だから…!!」

海未「う、ううぅ…うああああぁぁぁぁ…!!うあああぁぁぁん…!!」

泣き腫らした目は真っ赤になっていたが、憑き物が、落ちたかのようだった。


83 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:16:54 htgHSXxQ
僕は大見得を切って、園田に「僕が助ける」なんて言ってしまったが、そんな資格は僕には無かったのである。

園田が被害者ではなく加害者だったように。

僕は、出演者でも何でもなく、ただの部外者だったのだ。

僕ができたことは、出演者がくるまでの時間稼ぎ、尺稼ぎくらいなものだった。

だけどこの結果なら、その時間稼ぎも、少しは誇っても罰は当たらないんじゃないだろうか?


84 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:18:35 htgHSXxQ
ミス
>>78>>79 の間に入れて補完しておいてください

暦「お、おい、園田…!少し落ち着け…!」

僕は敵意が無いことを彼女に示しながら足を進める。

刹那──。

暦「ぐっ…!いっってえぇ…!」

僕の右足の太ももに矢が突き刺さっていた。

海未「自分の立場が分かっていないのですか?私は、邪魔をするな、と言ったのです」

そう言って園田は弓を構え直す。先ほどよりも矢の先が高い位置を向いている。

それにしても、今の僕は動体視力も反射神経も強化されているはずなのに、気付いたらすでに矢が突き刺さっていた…つまり、かなりのスピードで飛んできたことになる…


85 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:19:32 htgHSXxQ
今回のオチ。

結局あのあと、3人ひとかたまりになって泣きじゃくっていたのをなだめ、家に送り届け、僕も家へと戻ることができた。

そして家に着いた僕が携帯を開くと、東條から
『穂乃果ちゃんとことりちゃんに連絡したら家を飛び出してっちゃったみたい!どないしよ!』
とメールが来ていた。

どうやら東條が連絡したことで、あの結末を迎えることができたようだ。

東條には感謝を込めて
『園田に射貫かれたあと、高坂、南、園田を3人まとめて泣かせた』
とだけ返信しておいた。


86 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:34:54 htgHSXxQ
しかし、今回はなぜ園田の前に子安兎が現れたのか?

それも難しい話では無く、ただ単に園田が感じていた『寂しさ』に惹かれて現れたのだそうだ。
その寂しさゆえ、園田は怪異に頼った。兎に、縋ったのだ。

そして、園田の身に起こったこと、それは有り体に、現実的な言葉で言ってしまえば想像妊娠であった。

通常であれば身ごもった子供に兎が宿るのだが、彼女の場合は兎だけを宿してしまったのだ。

兎についてよく聞くエピソードだと思うが、見つめられるとことで想像妊娠をしてしまうということが言われている。
彼女に起きたこともそれに似たような事らしく、それで宿した怪異をμ’sのメンバーとの『絆の証』と呼んでいたのだろう。

そして高坂、南、絢瀬姉妹が倒れたこと、あれは全て園田のやったことであった。

これも兎の習性を考えてもらえればわかりやすいのだが、兎は子供が産まれたときにストレスが加わると、その自分の子供を傷付け、食べてしまう。それと同じように、近くにいた人を傷付けてしまったのだ。

南と高坂の時は、1人で孤独を抱え込んだこと、そして不良に絡まれてしまったというストレスが。
そして絢瀬姉妹の時は自分が原因で高坂と南が倒れてしまったこと、さらに僕の責任なのだが、僕が絢瀬に電話をかけた時の着信音への驚き(兎が音に敏感だということが本人に現れてしまったらしい)というストレス。

それが引き金になって4人を傷付けてしまうという結果になったのだ。


87 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:36:11 htgHSXxQ
あーまたミス
>>85 >>86 の間

そして、子安兎について。

結局最終的には忍の記憶を掘り起こすことで怪異の詳しいことを知ることができた。

文字通り、頭に手を突っ込んでかき混ぜ、記憶を掘り起こしたというわけだ。

最初からやっていてほしかったが、「このようなことができること忘れとったわ!」と言われてしまっては仕方がない。
余談ではあるが、今回まったくと言って良いほど役に立たなかった忍には、これ以降夜更かし(朝更かし?)をしないことを約束させた。

子安兎という怪異は元々、子供ができずに寂しい想いをしている母の元に現れる怪異なのだそうだ。

だからこそ、子安、宝、産霊、と言った安産祈願を思わせる名が付いているのだ。

そしてその性質はしでの鳥に似ているという。

子供ができる代わりに、そのできた子供に子安兎を宿らせて生ませる。つまり托卵の一種ということだ。


88 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:39:48 htgHSXxQ
その後の日曜日のことになるが、園田は僕の家までやってきた。そして

海未「申し訳ありませんでしたっ!!」

土下座である。とてもきれいな土下座だった。
どうやら僕は土下座に深く関わる星の下に産まれてしまったらしい。

暦「顔上げてくれよ、園田。もう怪我も治ってるし気にしてねえって」

海未「で、ですが、そんなすぐに治るはずが…」

さすがに常識では射られた傷がそう早く癒えるはずもなく、ごまかしがきかないのが明らかだった。
僕は仕方なく、園田の身に起こったこと、そして僕自信のことを全て説明することにした。


89 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:41:06 htgHSXxQ
海未「吸血鬼、ですか…」

暦「そういうことだ。まあ一度怪異と関わってしまうと引かれやすくなるとは言うが…こんな事は関わらないことに越したことはないさ」

そう、僕のようにここまで様々な怪異に遭遇する方が異常なのだ。

海未「分かりました…まあ私としてもこのようなことはあまり何回も体験したいものではありません」

海未「ですが、きっと私も阿良々木先輩と同じだと思います。穂乃果やことり──μ’sのみんながもし私と同じような事になったら、考える暇もなく助けようとするでしょうね」

そう言って少し困ったように、しかしどこかうれしそうにほほえむ。

海未「阿良々木先輩、本当にありがとうございました。
  「先輩に言われるまで、大切な物を忘れてしまっていました。
  「そして、勇気を持つことができました。
  「自分を、自分の事を伝える勇気を」


90 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:42:14 htgHSXxQ
海未「あ、それと、ですね…」

その後も僕の経験したことをいくつか話していると、園田がおずおずと切り出した。

海未「これは、いったいいつになれば元に戻るのでしょうか…?」

暦「ん?なんのことだ?」

海未「えっと、この事なんですが…」

そう言って園田が指さした瞳の色は、いまだ真っ赤に染まったままであった。
彼女は確かに怪異に頼るのをやめた。自分が頼るべきものを理解できた。
しかしやはり中途半端に怪異と適合した状態で、中途半端な時に放り出されたからと言って、すぐさま出て行くわけではなかったらしい。

まあ、忍野の受け売りではあるが、
暦「たぶん、20歳までには元に戻ってくれるはず…たぶん」

海未「あと、3年ほどですか…」

うなだれる園田に、僕は言う。

暦「まあ、兎ってのは寂しがり屋だからな。一人で平気になるまで待ってやるといいんじゃないか?」


91 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:44:01 htgHSXxQ
週が明けて月曜日、放課後の屋上には9人全員の姿があった。

そして、2年生は団子のようにくっつき合っている。いや、園田に、高坂と南がへばりついている。

穂乃果「えへへー海未ちゃん海未ちゃん海未ちゃーん!」

ことり「もう離しませーん!」

海未「もう…そろそろ練習を始めるんですから…」

そうは言っていても、力が抜けていい顔になった気がどことなくする。

それもそのはず、文字通り『憑き物』が落ちたのだから。

真姫「海未、遊んでるのはいいけど、まだ書けてないって言ってた自分のソロ曲の歌詞は書けたの?」

海未「お待たせしてすみません…ですが書き上げることができました!」

海未「曲名は──」


92 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:45:15 htgHSXxQ
叶物語 第壱話
うみラビット 了


93 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 00:51:33 htgHSXxQ
話も設定も色々ガバガバですが海未編おしまい

物語シリーズはしのぶメイルつばさタイガーより後、おうぎフォーミュラより前って感じ
ラブライブは一応アニメ2期開始直後くらいを想定してるけど、こころあの話が出てることから分かるように別次元だと思ってほしい

あと2話分は大体の流れ考えてあるからそのうちあげます


94 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 01:52:19 KaxWGIOc

化物語をうまく短くまとめてて読みやすかった
そしてまだ続きもあるとは期待


95 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 17:57:53 HeUNZwTQ
>>94ありがとう
一応μ’s全員を取り上げつつ阿良々木くんが音ノ木に来ることになった理由も書くつもり


96 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/16(水) 18:10:39 HeUNZwTQ
ちなみに怪異は創作なので調べても出てこないし設定も穴だらけだと思う


97 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/17(木) 00:59:16 hFDkHVAI
昔ラブライブ板の方で怪異と戦うSS見たことあるけどそれとは別の人かな?
面白くてサクサク読めたし物語シリーズの雰囲気出てた
続きも期待してる


98 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/17(木) 02:48:12 KhFDHaZc
>>97ちゃんとSS書くの初だから違うよ
きっとそれは真姫と希がコンビで戦うのだと思うけどあのSS好きだったのが書くきっかけの一つ
ありがとう、気力とアイデアが尽きない限り書くよ


99 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/18(金) 17:52:40 iGxIKveE
独特の言い回しとかも再現してたし内容も面白かったとりあえず乙


100 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/20(日) 21:10:45 jRaj7dMM
初めてしたらば来て読んだ記念すべきSSだけどものすごく良かった
再現度もさながら話もちゃんと練られてたと思う
続きも期待します


101 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/21(月) 20:25:27 EjL1BwJE
今続き書いていますがちょっとまだなのでアニメ版次回予告風寸劇だけ上げます
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1068847.wav.html
音声ファイルアップロードしてるんでもしよかったら聞きながら読んでみてください


雪穂「ゆ、雪穂だぜー!」
亜里沙「亜里沙だよー!」

雪穂「この名乗り方恥ずかしいんだど…」

亜里沙「恥ずかしいと言えば!」
雪穂「唐突だね!言えばー?」

亜里沙「この間お姉ちゃんが学校まで迎えに来てくれました!」
雪穂「わーお妹思い!うちのお姉ちゃんはそんな事してくれない!」

亜里沙「けど校門のところで転びそうになっちゃったんだよね」
雪穂「何も無いところで躓くことってあるよねー」

亜里沙「それでもお姉ちゃんは何事も無かったみたいに歩き出したんだけど」
雪穂「だけどー?」

亜里沙「私とばっちり目が合っちゃった!」
雪穂「それは恥ずかしい!」

亜里沙「さてここで予告編クイズ!」
雪穂「クイズ!」

亜里沙「飲み物は飲み物でもハラショーな飲み物はなーんだ!」
雪穂「絶対正解できないねーハラショーの使い方間違ってるねー」

亜里沙「けど日本人もやばいって色んな意味で使ってない?」
雪穂「それとこれとは話が違うと思う!」

ゆきあり「「次回!××○○!」」

雪穂「誰なのか何なのか分かんない…」
亜里沙「ネタバレはしない主義です!」


102 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/22(火) 15:31:28 O7I0HzjE
楽しみにしてる


103 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/26(土) 16:42:12 mp7UDmLI
叶物語


104 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/26(土) 16:44:19 mp7UDmLI
>>103
叶物語第弐話 開始


105 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/26(土) 16:58:42 mp7UDmLI
僕が出会った9人の少女の話を続けるに当たって、彼女たちの在り方について触れておきたい。

彼女たちは、国立音ノ木坂学院の生徒として、救世主として、アイドルとして、高校生活の一部かその全てを費やしている。
それは彼女たちの使命ではあるのだが、その費やした時間は彼女たちにとってかけがえのないものであり、自らの意思で、望んで、続けようとしている。

その活動、行動は彼女たちだけのものであり、そこに『大人』の存在は見られない。それは彼女たちの使命、成そうとしたこと、目指した物を考えればひどく得意なことである。
いまだ『子供』である彼女たちが、子供染みた動機、意思を持ち、『大人』が解決できない、避けられなかったはずの問題に立ち向かった。解決を、救いを、もたらした。

そして当然、『子供』しかいない彼女たちの中には役割があり。
その中には、指導役として、まとめ役として、『大人』として振る舞おうとする少女もいるということである。

その役割を負うことの責任と重圧、自分の中にある理想と現実との乖離。
『子供』と『大人』、その間には埋めようもない差異が、歪みが生じ、それは弱さとなる。

その弱みに、付け込まれてしまう。誑かされてしまう。化かされてしまうのだ。


106 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/26(土) 17:20:08 mp7UDmLI
明くる日、そう、明くる日。
園田海未──兎に縋った少女、彼女を巡る事件、騒動、僕がもしかしたらお膳立てできていたかもしれない友情劇が終幕した、その次の日のことである。

もちろん、使い古されたネタのように、ありきたりなオチのように、次の日には自分の部屋で妹たちに起こされて、私立直江津高校に登校する、などということにはならなかった。

忍「なんじゃ、どうせ夢オチかと思ったのじゃが」

暦「お前はどんなキャラを目指しているんだ…それに知識の範囲が俗世に染まりきってる」

忍「キャラどころか性別すらブレているお前様だけには言われたくないのう…」

それは僕が変わりたくて変わったわけじゃないんだけどな…。
それに確か僕の性格が軟派になったっていうのはこいつとのペアリングのせいなんじゃなかったか。

忍「ペ、ペアリングが、この前少しばかりの間切れたじゃろ?多分その時に元通りになってるんじゃないかの?う、うん、きっとそうじゃ」

暦「焦りすぎだろ」

こんな調子じゃ怪異の王も形無しだ。
まあ、僕らは互いに影響を及ぼし合う関係なのだから、僕の性格についても忍のキャラについても別にとやかく言うことでは無いか。


107 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/26(土) 17:29:31 mp7UDmLI
忍「さて、冗談はここまでにして」

と。
顔に笑みを浮かべ、姿勢を正して(ただすと言っても偉そうなのに変わりはない)、口を開く。

忍「はっきりしたような物じゃが、これは時間が解決してくれるようなことではない。目の前で起こることに気をとられるのにはもう何も言わんが──ここに来ることになった原因、戻る方法、それを調べる必要があるじゃろうな」

その通りだ。最初は確かにそのつもりではあったのだが…園田のことがあって完全に後回しになってしまっていた。

忍「お前様にこんなことを言ったところでどうせ厄介事に首を突っ込むハメになるんじゃろうがな…」

暦「そう言われてもな…」

忍は僕を睨め付けるが、厄介事に首を突っ込んでいるのか、厄介事に巻き込まれているのか定かではないし、何度厄介事を経験したところで、それを避ける術が身につかないのだからどうしようもない。


108 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/11/27(日) 02:32:07 K/7I5eQ6
きたか


109 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/03(土) 15:25:03 wM4/9oRw
暦「ってわけで、最近なんか変わった事とか無いか?」

にこ「唐突すぎて何が『ってわけで』なのか分かんないんですけど…まあ、変人が近くにいる、とかだったらあるけど」

暦「なるほどな、類友って奴か」

にこ「これ以上あんたみたいのが増えたら胃に穴があくんですけど」

今は、「明くる日」の昼、矢澤と二人で昼食をとっているところだ。
なぜ矢澤と二人きりなのかというと、確かに昼休みに食事を一緒にとる相手がクラスの中で唯一、いや、唯二いない僕たちが、知り合いであるところの僕たちが一緒に食事をとるのは当然ではある。

しかし今言いたいのはそこではなく、なぜ四人ではなく二人なのか、というところの理由である。

と言っても、こんなにももったいぶって説明するようなことでもなく、絢瀬と東條、その二人が揃って、まとめてセットで、この学校の理事長に呼び出しを食らったからである。

しかし矢澤ならまだしも、絢瀬や東條という人物と、呼び出し、という単語がどうにも結びつかない。


110 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/03(土) 15:25:53 wM4/9oRw
にこ「あんたその腹の立つ顔やめなさいよ」

暦「いやいや、絢瀬と東條が呼び出しを食らうなんて事があるんだなと思ってさ。あの二人、基本的には真面目だろ?それに、いくら生徒会長副会長のコンビとは言っても、今となっては元、ってことになるんだしさ」

にこ「それだけなんだったらさっきみたいな表情になると思えないんですけど…まあそうね、今更生徒会についての話なんてするとは思えないし、きっとμ’s絡みのことなんじゃないの?」

新生徒会長、高坂穂乃果への苦情とかかもしれないけどね──と少し愉快そうに笑う。

暦「μ’s絡みって言うんだったらなおさら変だろ?矢澤は部長だけどまあ声がかかるわけがないとして、高坂はリーダー、南は理事長の娘、さらに二年生は今現在生徒会役員なんだからそこを呼ぶのが普通なんじゃないか?」

にこ「なーんでこの私を普通に省くのよ!…ま、そこであえてあの二人にお呼びがかかってるんだから、深刻な話とかなんじゃないの?海未ならともかく、穂乃果やことりに難しい話やお堅い話をするのははばかられるっていうか?」

暦「確かに、それはその通りかもな…」

高坂は廃校のお知らせに対し失神、南は留学という大きな事をみんなに知らせることができずあわや解散、なんてこともあったって聞いたからな。


111 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/03(土) 15:27:01 wM4/9oRw
にこ「それで?さっき言いかけてたこと、いったい何が聞きたかったのよ?しょーがないからこのにこにーがお話を聞いてあ・げ・る!」

暦「いや、そういう変わった事は別にいらない」

にこ「ちょっと!人が気まぐれで親切にしてあげようってのに何よその反応は!?」

暦「おまえの場合の『親切』は『親が見たら切れる』の略か何かなのかよ」

にこ「言っとくけどこの大銀河宇宙No.1アイドルにこにーの決め台詞はにこのパパ直伝なんだからね?」

暦「まじかよ…それはもう何も言えないな…」

恐らく小学生の時にでも教えられたそれを、高校に入り、アイドルとして使っているっていうのは、素直に感心したりもする。絶対口には出さないが。

暦「話を戻させてもらうけどさ、変わった事、まあ怪異譚っていうのか?そういうのを蒐集している知り合いがいてさ。もしそんな話があったら持ち帰ってやろうと思ってさ」

まさか、僕が実はこことは違う所の住人でそこに戻るための手がかりがないか調べているんだ、などとは言うわけにもいかない。まあこれなら嘘は言っていないだろ。


112 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/03(土) 15:27:49 wM4/9oRw
にこ「ふうん、変なことしてる知り合いがいるのね…残念だけどそういう話は詳しくないわね。ま、妹たちに作り話とかでしてあげることはあるけど」

その妹たちのことを思い出しているのか、薄く、優しい笑顔を浮かべていたが、それも一瞬のこと。
そんな表情はすぐに引っ込み、何かを企んでいるかのような顔。

にこ「その話、希と絵里が揃ってるところでしてみなさい?たぶんここぞとばかりに希がしゃべってくれるわよ」

暦「ん?東條は確かにそういう話は詳しそうだけどさ、なんで絢瀬もいるところでなんだよ?」

にこ「あーそっか、あんたは知らないんだっけ?絵里って普段はあんなだけど、暗いところとか怖い話すっごい苦手なのよ」

普段はあんなにきりっとしている絢瀬が?そういうキャラは小泉とかだろうに。

暦「ほんとかよそれ?どうにも眉唾物って感じだけどな──」

希「眉唾物って何がー?」


113 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/03(土) 20:40:33 skKZEkZY
待っていたぞよ


114 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/11(日) 00:43:24 c2f2jGWM
噂をすればなんとやら、というように、もう少しで昼休みも終わるかという時間、僕と矢澤が教室に戻っているところで絢瀬と東條に鉢合わせた。

にこ「なーんか今こいつが怪談話にはまってるらしくてー?だからとっておきの話が聞きたいかなー?って」

先程も見せたあの企み顔を矢澤が見せるが、それとシンクロするように表情を変える東條。その元気と反比例するように青ざめていく絢瀬。

絵里「ほ、ほら、もうお昼休み終わっちゃうでしょ?だからそんなに長話をしている場合じゃないと思うわよ?」

絢瀬がこんなしどろもどろになっているのを見るのは新鮮でいいんだが、こんな絢瀬は見たくなかったっていう気もするな…。

希「そうやねーそれじゃ、時間があるときにたっぷり話してあげるなー?」

絵里「いやいやいやいや、そ、そんな希の時間を取らせてしまうなんて悪いし、こういう話ってやっぱりその場の雰囲気が大事じゃない?だからきっと時間がたったら希も話す気がなくなってくると思うのよね。それにそもそも怪談話を聞きたいのは私じゃなくて阿良々木さんじゃないのよ!」

それにしてもほんとすごい勢いでまくしたてるなあ。


115 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/11(日) 00:44:59 c2f2jGWM
にこ「それにしても、眉唾物ってどういう意味なのよ?そりゃ、眉に唾をつけた奴に何言われても信じたくはないけど…」

暦「なんだ、矢澤のことだからそもそも眉唾物の意味から分からないと思ってたけど」

にこ「うっさい」

むう、矢澤が僕の方を見るときは絶対睨み付けられている気がする。

絵里「あら?にこ達と私達のクラスは日本史の先生が一緒でしょう?授業中に話してなかったかしら…」

にこ「えー?にこが覚えてないってことはー、にこのクラスではー、たぶん話してなかったと思うニコー!」

希「これはあとでお仕置きが必要やね…まあ、雑談程度だったから本当にそっちのクラスでは話してないかも?」

暦「まあ、僕と矢澤が授業の内容をまともに覚えてるとは思わない方がいいからな…けど、現代文や古典じゃなくて日本史の授業なのか?」


116 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/11(日) 00:47:37 c2f2jGWM
絵里「私たちは受験生でしょう…確か、南北朝時代の話だったかしら?その時に話がわき道にそれたのよね」

希「そうそう、その時代に書かれた『新明鏡』っていう歴史書の話になったんよね。それでその中に妖狐の話が出てくる、と」

いや、話が見えてこないぞ?どうして狐と眉唾なんて話がつながってくるんだ?

絵里「まあ、一つの言い伝えみたいなものかしらね。狐が人を化かすときには眉毛を数えると言われていて、眉毛に唾をつけることで眉毛を数えられないようにする――そこから転じて、騙されないようにする、という意味になったと言われているの」

にこ「狐が化かすときに眉毛を数える、ね…なんていうか、そっちの話の方がそれこそ眉唾物って感じじゃない?」

希「まあ言い伝えみたいなものやからね。そんなこと言うたらそもそも狐が人を化かす、なんていうのも信じられないような話やしね」

暦「動物園で見る狐なんてそんな神秘的なものに全く見えないしな」

僕は信じられない、なんて口が裂けても言えないが――まあそうか、『眉唾物』の話だって、人口に膾炙すれば、ってことになるのかもしれないな。


117 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/11(日) 00:49:35 c2f2jGWM
と、そこで間延びしたような鐘の音が鳴った。予鈴、つまりあと5分で授業開始の合図だ。

にこ「っと、遅刻なんてしたらまた目付られる…今日居残りだけは勘弁だわ」

希「今日の練習遅刻してったらことりちゃんのおやつにされてしまうもんなあ」

そうか、今日の放課後はあれがあるんだったか。

暦「あれ、そういえば結局なんで二人は理事長に呼ばれたりしたんだよ?別に二人の事だから問題起こしたなんてことはないだろ?」

そうだ、これがもともと聞きたかったんだったのに話がわき道にそれて有耶無耶になってたんだった。

と、僕がそう聞いた瞬間に、周囲の温度が下がったように感じた――絢瀬と東條、その二人の表情が、深刻に、真剣になり、曇っていく。

希「えりち、この二人には――」

絵里「ええ、二人には先に教えておくわ…」



絵里「私達µ’sのラブライブ出場に関して、理事たちが難色を示しているらしいわ」


118 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/11(日) 00:51:25 c2f2jGWM
国立音ノ木坂学院理事長、誰あろう南ことりの母だ。
しかし理事長と言えど、学院の事を一人で決められるわけでもなく、理事会の決定こそが最終的な決定事項となる。

それはつまり、理事長一人では理事会全体の決定は覆せないということである。だからこそ、理事長は理事会に対して待ったをかけることしかできず、このことを絢瀬と東條に伝えるに至ったのである。

当然そんなことを聞かされて矢澤が黙っているはずもなく。

にこ「どういうことよそれ!せっかくこれから新たな目標ができてにこにー伝説始まりへの第一歩ってところで!」

絵里「にこの伝説は置いておくとして、理事会としては廃校が避けられたのだからもう十分だという意見があるの。それと学園祭での穂乃果の一件があったから、そのことで保護者からのクレームを避けたいということらしいわ」

希「もちろん、穂乃果ちゃんのお母さんはそんなことしてないんやけどね。それにどっちかっていうと穂乃果ちゃんのことを叱りそうやし…」

確か、高坂が文化祭のライブ中に風邪で倒れたんだったか…学校からしたら保護者の声を気にするのは当然だとは思うが、それにしても神経質すぎるだろうとは思う。


119 : 名無しさん@転載は禁止 :2016/12/11(日) 06:44:04 fs639scg
来てたか


120 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/01/30(月) 21:56:19 YkpbfO1I
待ってるけど続き来ないのかなぁ


121 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/03/14(火) 22:30:14 NFhpdLuU
放置していて申し訳ない、間あけたせいで維新っぽさ分かんなくなってきたから本家読み返して続き書くよ


122 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/03/14(火) 23:18:16 S4liZSLw
ありがとう


123 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/03/22(水) 08:48:25 I/IQ02.U
最近読み始めたけど面白い
早く続きが読みたいけど、無理しないで書いて欲しい


124 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/10(月) 23:46:36 JYIbH3lg
すごい少ないけどあげます


125 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/10(月) 23:47:17 JYIbH3lg
にこ「ほんと理事会の連中って嫌な大人の集まりね…それで――どうすんのよ?私たちに話したってことは、あの子たちにはまだ言わないんでしょ?」

絵里「ええ、今日の活動に響いてもいけないしね…このことは私が何とか掛け合ってみるから、心配しないで」

にこ「いや、心配するなって言っても…」

絵里「ほら、もう授業始まるわよ?遅刻できないってさっき言ったばかりなんだから教室に戻るわよ」

まだ何か言いたそうな矢澤を押すようにして絢瀬は僕らを教室に促していく。絢瀬からしたらもうこの話は終わりだということだろうか。

にこ「心配なのはそっちじゃないっての…」

教室に入る時に零れた矢澤の呟きは、僕の耳にしか、届いていないようであった。


126 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/10(月) 23:47:51 JYIbH3lg
さて放課後、先ほどから話に出している今日の放課後のµ'sの活動は、いつものような練習とは少し違うものであった。

僕が少し遅れて部室に向かい、その扉を開くと、そこには九人の動物――もとい、九人の動物を模した衣装に身を包んだ少女がいた。

というのも、地元タウン誌に、このあたりにあるという動物園の紹介記事が載ることになり、その動物園の広告モデルとしてµ’sが起用されたということらしい。

今日はそのために作った、動物をモチーフにした衣装の最終確認ということなのだ。

もともと僕は写真を撮ってほしいと言われていたのだが、僕の普段の生活、いやそれどころか人生において、写真を撮るなどということはなかったため、それは低調にお断りさせていただいた。

そういえば僕、戦場ヶ原と写真を撮った記憶なんて全く無いんだよな…戦場ヶ原に写真を撮られるということはたまにあるけれど。
まあそのタイミングが往々にして僕が転んだ時だというのが彼女らしいと言えば彼女らしいのだが。


127 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/10(月) 23:48:37 JYIbH3lg
衣装作成にあたってかかった費用は全てあちらが負担してくれるということらしく、南が張り切ってデザインしたようだった。

海未「こ、ことり!な、なんなんですかこの衣装は!」

ことり「えー、ウサギさんだよ?実は寂しがり屋さんな海未ちゃんにぴったり!それに海未ちゃんが言った通り露出は控えめで作ったんだよー?」

海未「確かに布の面積は普段より多いですが…そうじゃありません!尻尾まで付ける意味がないと言っているんです!」

にこ「ちょっと!なんでにこがパンダなのよ!もーっとキュートでラブリーな動物が良かったのにー!」

ことり「でもパンダさんは動物園で一番の人気者だからにこちゃんはパンダだなーって思って…」

にこ「うっ…ま、まあ、このにこにーの人気を反映した結果っていうなら納得だけど…」

穂乃果「くまさん穂乃果だぞー!がおー!」

凛「にゃーんにゃーんにゃーん!ってこれじゃ凛いつもと変わってないよー!」


128 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/10(月) 23:49:19 JYIbH3lg
花陽「私の衣装は落ち着いた感じだから安心したあ…ことりちゃんってたまに過激なの作っちゃうから…」

暦「そういえば、どうして小泉は鹿の衣装なんだ?」

ことり「花陽ちゃんはシカちゃんだから」

暦「いや、えっと…」

ことり「シカちゃんだから」

…きっと南の中で何か譲れない大きな理由があるんだろうな。うん、僕なんかが滅多なことは言うべきじゃない。メッタメタだ。

全員分の衣装をデザインした南は、羊をイメージした衣装に身を包んでいる。
…のだが、どうにも露出が激しい。これって衣装と言っていいのか?もう水着と同じくらいしか布の面積がない気がするんだが…。


129 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/10(月) 23:49:54 JYIbH3lg
真姫「私はなんで豹なのよ…まあかわいい動物よりはいいけど…」

希「でも真姫ちゃんに似合ってるやん?気高いキューティーパンサー!」

真姫「と、当然でしょ?私に似合わない衣装なんてあるわけないんだから!」

西木野さんちょろいなー…いや、東條が扱いに慣れてるってのもあるんだろうけど。
それにしても西木野の衣装も露出が激しいな…南のこの基準はどこなんだろうな。…もしかしてただの趣味か?

希「あれー、こよみんどこ見てるん?真姫ちゃんのことじっと見つめてやらしー!」

にこ「いや、女子高でいやらしいも何もあったもんじゃないでしょうが…」

希「え?あー、うん、そうやったね、あはは!」

そんなことを言っている東條の衣装は狸がモチーフか。まあこれは予想通りというかなんというか…。


130 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/10(月) 23:50:42 JYIbH3lg
絵里「私は狐の衣装なのね」

そう、絢瀬の衣装は狐がモチーフ。絢瀬に限らず全員分の衣装の事ではあるが、ただ単に動物のコスプレのような衣装ではなく、まるでファッションモデルのようなものに仕上がっている。

当然、耳であったり尻尾であったりといったワンポイントを要素として取り入れてはいるものの、うまくその動物だと分かるようなデザインはひとえに南の手腕があってこそなのだろう。

ことり「本当だったら尻尾も九本付けて和風のデザインにしたかったんだけど、さすがにそれだと予算が跳ね上がっちゃうから…」

絵里「けれど私はこのデザインすっごく素敵だと思うわよ?キタキツネみたいでかわいいじゃない!」

絵里「もしも尻尾が九本あれば、何かを化かしたり、できるのかしらね…」

動物の衣装に身を包み、年相応な顔をしてはしゃいでいた絢瀬は、その年齢に似つかわしくない――しかし、その立場がそうさせるのだろう、浮かべ慣れたかのような物憂げな表情をするのだった。


131 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/11(火) 02:32:04 xn8f70V2
続き来てる
ありがとう


132 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/12(水) 19:25:14 J0o7lUsA
やったぜ


133 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/04/12(水) 21:48:20 1ZLwC89A
続き待ってたー


134 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/17(水) 23:34:52 ZjL2uqkw
「はい、それでは前にも言った通り、センター試験の練習も兼ねた小テストを次の時間に行うので復習をしてきてくださいね」

日が明けて火曜日、その日の授業は数学教師のその言葉で終わった。
本来この学校の生徒でもない僕も、次の数学の時間、明後日の木曜日に小テストを受ける必要がある。

僕自身は数学が得意科目であることからそこまで苦ではないのだが、顔全体で『苦』を表している奴が一人。

にこ「ううぅ…なんで数学のテストなんてあんのよ…」

暦「いや、1,2年の時の内容なんだからそれくらいちゃんとしておけよ」

にこ「数学が得意だからって態度大きいのが腹立つわね…」

暦「なんだったら僕が教えてあげてもいいんだぜ?」

にこ「あんたに教わるくらいなら希にわしわしされながら教わった方がよっぽどましよ…」

暦「それで僕が東條のことをわしわしする、と…」

にこ「それは絶対違うわよ」

即座に否定された。

にこ「けどちょっと勉強のことも真剣に考える必要があるわね…いや、けどおバカなキャラっていうのも需要があるわけで…」

暦「矢澤のそれはキャラじゃないだろ」

なんておバカ同士、おバカな話をしながら部室に向かう途中、二年の教室がある階で見覚えのある姿が目に入る。


135 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/17(水) 23:41:47 ZjL2uqkw
暦「あれ、園田?部室に行かないのか?」

いつもなら同じクラスの幼馴染二人と一緒に部室へ行っているはずの園田がそこに立っていたのだ。

海未「実は阿良々木先輩の事を待っていて…練習の前に少しお時間をいただいてもいいでしょうか?」

暦「ん、別に僕は構わないけど」

そう言って矢澤に目を向ける。

にこ「そんなに遅くなるわけじゃないでしょ?みんなには私が伝えとくわー」

お邪魔みたいだし、と続けてぷらぷらと手を振りながら矢澤は部室に向かっていく。が、少し歩いて立ち止まり。

にこ「何だかは分かんないけど、聞かれたくないんならにこが口出しする前に解決しときなさい」

僕らの返事を待たず、その小さい後姿は校舎の中に消えていく。

暦「ほんとたまに話が分かるっていうかなんていうか…」

海未「正直に言って最初はにこのことはよく分からない人だと思っていましたが…今では尊敬できる先輩ですよ?」

きっと園田もこんなことは直接言ったりはしないのだろう。もちろん恥ずかしいというのもあるとは思うが、どちらかといえば言った時の矢澤の反応が目に浮かぶからわざわざ言ってやる必要もない、ということかもしれない。


136 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/17(水) 23:54:42 ZjL2uqkw
暦「それで、いきなりどうしたんだ?兎のことでまた何かあったとか…」

海未「いえ、また私自身に何かがあったというわけではありません。…話の前に一つ確認だけさせてほしいのですが、私にはまだ兎――つまり、怪異による影響が残っているというのは確かなのでしょうか?」

暦「その目の色からしてそうだとは思うんだが…正確な事はよく分からないってのが正直な所なんだよな」

確かに僕自身が吸血鬼の端くれだとは言っても、できることといえばせいぜい回復力が高かったり視力が良かったりといった程度の事で、怪異を、それによる影響を感じ取れるわけではないのだ。

暦「まあ僕には無理でもアテはあるんだけどな」

海未「?アテ、というのはいったい…」

暦「忍、起きてるか?」

僕が自分の影に向かってそう呼びかける。決して僕の頭がおかしくなったわけではなく。

忍「お前様は儂の事を何か便利なお助けキャラか何かと勘違いしてはおらぬか?そんなにホイホイと頼っているといつかそのツケを払うことになりかねんぞ?」

そんな小言を吐きながら、音ノ木坂学院の制服に身を包んだ、金髪金眼の吸血鬼は僕の影から姿を現した。


137 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/18(木) 00:06:43 vk78emS2
暦「そんなはずがあるわけないだろう?僕とお前の仲なんだ、これはお助けキャラに頼っているんじゃなくてパートナーに頼っているんだよ」

正直に言えば、忍の言った通りに思っていた節はあるのだが。それでも忍野の方が完全にお助けキャラのポジションに収まっているのだから忍が取って代わることはない、はずだ。

忍「まったく、こういう時ばっかり調子のいいことを言いおって…それに、まわりに人間がいる時に呼び出すとは浅はかではないか?」

暦「浅はかって言うけれど――園田には僕のことは教えてあるし、そんな考えなしってわけじゃないつもりだぜ?」

忍「十分考えなしじゃろうが――見てみい」

忍は呆れたように園田の方を顎で示す――って、園田さん、唖然としてらっしゃる。あれ?僕、確か吸血鬼の事は教えていたはずだよな?

海未「吸血鬼の事は聞いていましたが――まさか転校生の忍野さんがその吸血鬼だったとは…」

それに影から出てこられたら事前に聞いていたとしても誰だろうと驚きます――と園田。
そういえば、僕自身も僕の周りも慣れてしまっているからその辺の感覚が分からなくなっていたが、考えてみれば当然も当然だ。


138 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/18(木) 00:19:38 vk78emS2
もう分かっているかもしれないが、忍に出てきてもらったのは、怪異としての彼女のことを頼るためだ。
僕自身は怪異として半端者でしかないが、忍は正真正銘れっきとした純正の怪異であるため、園田に怪異性が残っているかの判別ができるはず、と踏んだのだ。

暦「忍、さっきまでの話を聞いていたかは分からないが…」

忍「話も聞いておったし流れも把握しておる――その流れを汲んで言うなら、そこの娘は怪異性をその身に残して、宿しておることは確かじゃ」

うっすらとじゃがな、と忍は続ける。

暦「うっすらと、って事はあまり気にする程じゃないって思っていいのか?てっきり神原の時と同じようなもんだと思っていたから、あいつが忍野に言われていたことをそのまま伝えたんだが…」

忍「怪異がどれだけの間残るかと、その後遺症がどれほどのものかというのは必ずしも一致はせぬ――そもそも兎自体は凶暴性の無い低級の怪異じゃしの」

そう、猿と兎ではそもそもその怪異の性質が違うのだった――どちらも心の『裏』を暴くという意味では近しいものがあるかもしれないが。

忍「何を被害者ぶっておるんじゃ…雛のおる巣に近づけばカラスも問答無用で襲ってくる――お前様がやったのはそれと同じような事じゃろ」

う、確かにただいたずらに刺激して引っ掻き回しただけのような気もするから何も言い返せない。


139 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/18(木) 00:25:26 vk78emS2
海未「いえ、あれは私の心の弱さゆえのこと――阿良々木先輩がいてくれなかったらどうなっていたことか…」

暦「やめてくれよ、忍の言う通り僕は何もできていないっていうか、逆に状況を悪くしちまったようなもんなんだから」

しかし、話を戻すと、園田自身に何かがあったわけではないというのになぜ兎の後遺症についてを気にするんだ?

海未「…これは、知識も経験も何もない、私の勝手な想像に過ぎないことかもしれません。そのことを前提として、話を聞いていただきたいのです」

暦「やけに諸注意が多いな…けど、何か気になることがあったんだろ?それなら遠慮なく言ってくれよ。忍もいることだしな」

当の本人はほとんど興味がないようで、そっぽを向いて窓の外を眺めているが。

海未「吸血鬼である忍野さんと相対してみて、悪い予感が強まってしまったのですが…」

そう前置きをして園田は、兎に縋った少女は、切り出した。


海未「絵里が、怪異に憑かれているかもしれません」


140 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/18(木) 00:47:35 vk78emS2
遅くなったし短いけれど今日はここまで


141 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/18(木) 04:17:53 q8LKwncc
続き来てたし読み返すか


142 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/19(金) 23:40:32 WAJL5Kio
暦「絢瀬が…?」

だが、絢瀬とは昨日会ったわけだし、その時には特におかしなところはなかったような――僕の観察眼なんて言うものはたかが知れているのだが。
いや、まずそもそも怪異の後遺症が薄い園田は他の怪異を感じ取れるものなのか?

忍「それはあり得るじゃろうな」

さっきまでこちらに興味を示していなかったはずの忍が僕の疑問に答える。

忍「怪異としての強さではなく性質の違いじゃ。吸血鬼は強力にして強大な怪異じゃがそういったモノではない――それに対し兎は、周囲の環境や外敵に敏感じゃからな」

暦「なるほどな…それじゃ、やっぱり絢瀬には…」

海未「いえ、私がただそういったことに過敏になっていて、勘違いをしているのかもしれません――なので、阿良々木先輩に確かめてもらえないものかと思って…」

なるほど、ようやく園田が僕に何を頼みたいのかが見えた、というより、話を聞いてすぐに思い当たりそうなものだったが、そこはやはり察しの悪い僕であった。


143 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/19(金) 23:50:23 WAJL5Kio
長らく立ち話をしていたため、おそらくもう僕たち以外は全員――つまり絢瀬も部室に来ているはずであり、そこで確認をすればいいということで僕らは部室へと向かった。

もちろん他のメンバーと関わりのない忍は僕の影に引っ込んでもらったうえでだ。当然忍は僕の影の中にいても怪異を感じ取ることなど造作もないからこそである。

そして部室に到着し、絢瀬の無事を確認、できればよかったのだが。

暦「あれ、矢澤、東條?部室入ってなかったのか?」

先程、園田が僕のことを待っていたように、先に部室に向かったはずの矢澤と東條が部室の前で立っていたのだ。

希「あー、ちょっとね…」

どうにも歯切れの悪い東條。しかし、今はこちらの用事を優先させてもらおう。

暦「東條がもう来てるってことは、中に絢瀬もいるよな?ちょっと呼んでほしいんだ」

にこ「絵里なら来てない――っていうか、今日は来ないわよ」

希「に、にこっち、今は…」

にこ「黙っときたいのは分かるけど、海未くらいには話しといたほうがいいわよ。っていうか、本当なら全員に話すべきよ」

暦「いや、だから何の話――」

にこ「絵里の奴、今学校の理事会に出席してんのよ」


144 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/19(金) 23:58:57 WAJL5Kio
海未「そんなことが…」

結局、園田にも理事会で出ているラブライブ出場に対する意見を伝えることとなったのだが、それを聞いた園田の反応はこちらの予想に反して落ち着いたものだった。

海未「当然今日の理事会での結果次第ということにはなりますが、生徒や保護者の意見を聞いて感触が良いようでしたら署名を集めたり、といった方向で動くのがいいかもしれませんね――感触が芳しくなければ違う手段を取ることになりますが…」

海未「それに当たってはやはりみんなには話しておいた方が…って、どうしたのですか?」

これは僕ではなく、口をぽかんと開けて園田を見つめている矢澤と東條に向けられた言葉だ。

希「ううん、海未ちゃんはそんなにパニックは起こさないと思ってたけど、予想以上に冷静やったからびっくりしたというか…」

にこ「っていうかもっと深刻に悩みそうなもんだと思ってたから…」

それを聞いて園田は少し茶目っ気のある笑顔を浮かべて。

海未「いずれ知れ渡ることを先延ばしにしているとロクなことにならないのは身にしみて分かっていますからね…」

にこ「シャレになんないわよ…っていうかそれビンタかましたあんたが言う?」


145 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/20(土) 00:22:25 yxoyXO6o
そんなことをした私だからこそです、と彼女は言う。

海未「それに、私たちは1人じゃありませんからね。1人で考えてダメなら2人、それでダメなら9人でです!」

希「それも、こないだ色々あった海未ちゃんだからこそ、やね?」

そう言った東條に照れたような笑顔を向けるも、すぐに眉を吊り上げる。

海未「そもそも、絵里も絵里です!絵里が1人で悩んだところでいい方向に向かうはずがないのですからそのことをそろそろ自覚するべきです!」

暦「なかなか厳しいこと言うんだな…」

普段から戦場ヶ原や羽川、神原に助けてもらってばかりで1人で何かをしようとすると必ずと言っていいほどトラブルに見舞われる僕にとっては耳に痛い話だ。

希「でも、海未ちゃんの言う通りやね!えりちは自分の手に負えないことばっかり1人で背負い込むから…」

にこ「そーね、あのいつだかみたいにシワ寄ってる眉間をどうにかするべきよ」

僕は少しここでは蚊帳の外となってしまうのは仕方のないことだろう。僕はアイドルグループの一員でなく、それどころか、ただの部外者でしかないのだし。

だからこそ、部外者でイレギュラーの僕にこそできることをするべきだろう。


146 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/20(土) 00:48:13 yxoyXO6o
また短いけどここまで


147 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/20(土) 02:51:26 K9TRee.A
いいぞ


148 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/24(水) 21:49:29 LTgL1Zl.
楽しみ


149 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 14:43:46 i26UoJIg
暦「よう、元生徒会長が学校サボって、こんなところで何やってるんだ?」

翌日のもう日が高く昇り始めた頃、僕はこんなセリフを口にしながら絢瀬と対峙していた。

しかしこんな風に語ってしまうとまるで首尾よく運び、僕が絢瀬と接触できたかのようではあるが、当然そんなにうまくいくはずもなく、これは後手に回った果ての出来事である。

絢瀬が理事会に出席した日、僕は次の日の朝に会えるから、その時に忍に確認をしてもらえばいい、と考えてしまったのだ。

理事会が終わるまで待ってでもその日のうちに対応するべきだったのだが、僕の中で絢瀬の怪異の件は半信半疑であったため次の日に持ち越すことにしてしまった。

暦「は?学校に来ていない?それに理事会の言ってる事がひっくり返った、って…ちょっと待ってくれ、ちゃんと順を追って説明してくれないとわけが分からねえよ」

にこ「今言った通りよ!ったく、わけわかってないのはこっちだって同じなんだから!」

希「今日はµ’sの朝練があったんやけど、えりちが来るなり昨日の理事会で理事の考えが変わったって言うだけ言って、どこかにフラッと消えちゃったんよ…」

そしてそこから学校に来ていない、って事か…

暦「まず聞いときたいんだけど、理事会の件については事実なのか?」

絢瀬に限って滅多なことはないと思うが、何か無茶なことをやったりとか…

にこ「それは本当の事よ――っていうのも、ことりが理事長から直接聞いたらしいわ。けどその話もなんだかあんまりはっきりしなくて、絵里が話を始めると、今までがなんだったのか、ってくらいに手のひらを返したみたいなの…」


まるで、魔法でも使ったみたいに――


150 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 14:49:22 i26UoJIg
これじゃあほとんど確定みたいなものじゃないか…やはり先延ばしになんてせずにすぐにでも絢瀬と接触するべきだった…!

希「それと、海未ちゃんから『お願いします』って伝えてほしいって言われて…」

暦「ああ、分かった…とにかく、絢瀬の事は僕が探してくるから二人はいったん待っててくれ!」

「いったん待つのはお前様の方じゃ」

と、教室から飛び出そうとした僕の足は何かにひっかけられてだいぶ派手にすっ転んでしまう。
っていうか、今の忍の声だよな?

忍「そこの娘ら、儂の質問に答えよ」

したたかに床に打ち付けた顔の痛みをこらえながら振り向くと、いつの間に現れたのか忍が東條と矢澤の前に立っている。

希「…二年生の転校生の子、やったよね?」

にこ「へえ…あんたよく他の学年の転校生の事まで知ってるわね…」

暦「あ、ああ、それに僕の知り合いでな、名前を」

忍「儂の名前なんぞ今はどうでもよい、今は儂の質問が先じゃ――その理事会とかいうのにいる人間、性別は男と女のどっちが多い」

希「え?えっと、確か理事長以外は全員男の人だったはずやけど…」

忍「ああ、そうじゃろうな、腹立たしいことにの――行くぞ、お前様。儂も手伝ってやる」

そう言って忍は僕の返事も聞かずに僕のことを引っ張って行ってしまう。


151 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 14:57:13 i26UoJIg
暦「おい、忍!どういうことなんだか説明してくれ!」

理事たちの性別なんて何か関係があるのか?っていうかそもそも、どうして急に協力してくれる気になったんだ?

忍「まだ決まったわけではないのじゃが、悪い予感がする――今回、思った以上に厄介かもしれぬぞ」

悪い予感?厄介?それはやっぱり絢瀬には怪異が憑いているってことなのか?

だが、今ここで説明してくれないってことはまだ話すつもりはないのだろう――隠すつもりなのだとしても、忍の中で確信したらということなのだとしても。

暦「とにかく今は絢瀬を探し出すのが先決、ってことだな」

忍「そういうことじゃな――儂の杞憂で済めばそれに越したことはない」

しかし、探し出すと言っても全く手がかりもとっかかりも無い状況なのだが…。

暦「絢瀬が行きそうなところにも心当たりなんてないしな…やっぱり東條とかに連絡を取ってみるべきか?」

忍「アホか、まず学校に来ていない時点であの金髪娘の行きそうな場所なぞ探す意味もないわ。それに、既にそういった場所はあの小娘たちが探しとるじゃろ」

それもそうか――それだったら仕方ない。

暦「土地勘もないけど、走り回るしかないな」


152 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 15:10:33 i26UoJIg
結局、僕と忍は2時間かそれに満たないくらいには絢瀬を探すために駆けずり回る事になってしまった。

絢瀬が僕らを避けているわけではないのだが、地の利はあちらにあり、その上こちらは非常に地道なローラー作戦なのだ。むしろこの程度で済んでよかったとも思える。

僕たちが絢瀬を発見したのはとある神社の敷地内の事であった。このあたりで神社と言えば神田明神が思い当たるのだが、当然そこではない。そこに絢瀬がいたのなら、先ほど忍が言った通り真っ先に東條達が見つけられていただろう。

その神社は、神田明神とは比べるまでもなくこぢんまりとした、稲荷神社であった。
果たして、絢瀬が朝から今の今までここにずっといたのか、朝から今までにかけての放浪の果てにここにたどり着いたのかは僕の知るところではないが、今現在、絢瀬がここにいて、僕が彼女を発見できたのだから僥倖である。

暦「よう、元生徒会長が学校サボって、こんなところで何やってるんだ?」

そしてようやく僕は、このセリフを口にすることになった、ということになる。

絵里「…それは同じことを私も聞いた方がいいのかしら――阿良々木さん?」

僕の方を振り返り、絢瀬は言う。

暦「僕みたいな素行不良と優秀な元生徒会長をひとくくりにしていいもんじゃないだろ?それに、友達を、仲間を不安にさせての一人旅なんてナンセンスじゃないか」

絵里「今の私はただの一生徒――それに一世一代の大仕事を終えたところなのだから少しくらい羽を伸ばしてもいいと思わない?」

人生は楽しまないと――

そう言いながら、絢瀬は僕を見据える。他に誰がいるのか、何がいるのかなど関係が無いかのように。


153 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 15:20:06 i26UoJIg
暦「大仕事…昨日の理事会の事か?それなら聞いてるぜ。頑なだった理事の意見を簡単に変えさせた――まるで魔法みたいだったってな」

絵里「それはうれしい限りね、私の真摯な思いを汲んでくれたということだもの――それで、阿良々木さんは私にサボりはいけないことだ、と伝えに来ただけなのかしら?それならそろそろ一人にしてもらえると嬉しいわね」

そう言うと絢瀬は身を翻して去ってしまおうとする。

暦「おい待て!まだ話は…」

忍「もうよい、お前様、まどろっこしい事はやめじゃ――貴様も、いい加減その茶番を終わりにしろ」

絵里「…転校生の子が随分と乱暴じゃないかしら?そんなに敵意を向けられるようなことをした覚えは」

忍「じゃからそのくだらん芝居をやめろと言っている」

忍がこんなにも苛立ったような態度を、人間相手に、ここまでの感情を表すなんてことは今までで一度か二度までしか見たことが無い――いや、今回もそれには当たらないのだろう。
今、忍が相対しているのは絢瀬絵里ではなく、その中にいる怪異なのだから。

絵里「くくっ…もう正体に気付いている、というわけなのね?けれどごめんなさい、『これ』が私の本質だからね」

そう言って見せた笑顔は、普段の涼やかな微笑みでも、諦観の入ったそれとも異なる、どこか怪しい笑顔――怪しくて、異なるものだった。


154 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 15:29:26 i26UoJIg
忍「やはり貴様…」

絵里「おっと、ネタばらしは二人でごゆっくりしてもらえるかしら?私はもうそろそろ散歩の続きをしたいのよ」

暦「ここまできて僕らが逃がすとでも思うのか?」

正直に言うとこの発言の半分ほどは虚勢である。そしてそのもう半分は忍への信頼。
僕に何ができるかと言えば、忍の足枷にならないようにする程度なのだが、忍の吸血鬼性が普段よりも底上げされている今、その辺の怪異に後れを取るなんてことは…

「いいや、汝たちはみすみす取り逃がすことになる…そうであろう、旧キスショット?――とでも呼べばよいかの?」

その瞬間、絢瀬の持つ空気ががらりと変わる。いや、空気が変わったどころの話でなく、これはもう、絢瀬が絢瀬でなくなったかのような豹変…!
それに、旧キスショットって…その名前を知っていることそれ自体も考えられないことだが、今の忍を伝説の、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼だと、その成れの果てだと理解できるだなんてことが果たしてあるのか?

忍「貴様のような毛玉が呼ぶな…しかし、腹立たしいことに貴様の言う通りじゃな」

暦「おい、忍…!」

「では、また会うことはないかもしれぬが…さらば、とは言っておこうかの――鬼の子らよ」

そう言い残し、絢瀬は――絢瀬の姿をした怪異は、煙のようにその場から消え、去って行ってしまった。


155 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 15:40:27 i26UoJIg
暦「おい忍、お前らしくなかったんじゃないのか?あんなに諦めが早いだなんて…」

僕と忍の二人しかいなくなってしまった神社の境内で、僕らはミーティングを始める。
しかし、やはり先ほどの忍の態度はおかしかったように思える。随分と引き気味なように感じたし、さらに言えばペアリングによって忍の緊張までもが伝わってきたのだ。

忍「…こんなことを言いたくはないが、見栄を張っている場合でもない――あやつは、あの娘に憑いている怪異は、儂よりも格が上の怪異じゃ」

暦「は?いや、ありえないだろう。だってお前は、いくら成れの果てとはいえ五百年の齢を経た伝説の吸血鬼、怪異殺しで、怪異の王なのであって…」

忍の言っている意味が分からなかった――というのも、今現在の実力、という意味であれば百歩、いや、千歩ほど譲ってそんなこともあるのかもしれないが、怪異としての格が劣るなんてこと…

忍「その齢ですら、少なく見積もって儂の四倍は重ねておる」

忍「お前様であっても聞いたことはあるじゃろう…その姿を、その名を変え、手を変え品を変え人の前に現れる妖」

忍は、その怪異の名を告げる。


白面金毛、九尾の狐――そのものじゃ。


ネームバリューのある、どころの騒ぎではない。専門家はもちろん、この僕も、さらに言えばおそらく怪異に全く関わらずに生きている一般人ですら知っているような存在――そんなビッグネームの怪異であったのだ。


156 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 16:07:05 i26UoJIg
白面金毛九尾の狐――まるでラスボスのような肩書の怪異と、僕ら吸血鬼の残りカスと吸血鬼もどきの人間二人のコンビはぶつからなければならない。退けなくてはならない。

しかし、かつて国を傾けたような強大な怪異が、一学校の理事会を化かすだなんて…それも学校を廃校に追い込むというのならまだ分かるが、当事者でなければ気にも留めないような問題をわざわざ解決していくのか?

忍「あの化け狐の考えなどは知らぬが、大方あの金髪娘が願ったことなんじゃろうな…それに、学校もごくごく小さい規模ながらも国と言えぬこともないから、なにも本質から外れているというわけでもあるまい」

…そうなのか?だが、絢瀬の意思が介在しているというのは確かなのだろう。そうでなければ恐らく違った形で影響が出ていただろうから。

忍「じゃが、問題はあれをおびき寄せ、さらに撃退する必要がある…格が上じゃとしても負けるつもりは毛頭ないが、また奴を捜しだそうとしてもいたちごっこになるじゃろう」

暦「僕としてはあの怪異を撃退する方が問題だと思うんだけどな…けど、あれをおびき寄せるっていうなら多分大丈夫だと思うぜ」

絢瀬の意思が介在する余地があるというのなら、こちらも策を打つことができる。罠を張ることができる。

以前と同じ――あのゴールデンウィークと同じ方法だ。


157 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 22:13:56 OhJnT7nQ
その日の夜中、音ノ木坂学院の校庭で僕と忍はその時を、その相手を待つ――すでに仕掛けは打った。

そしてついに待ち人は来る。

絵里「希!?急にどう…したの…」

暦「東條じゃなくて悪かったな、絢瀬――いや、狐」

僕は詳しい話の大部分を東條に隠したまま、ある頼みごとをしておいた。この時間に、絢瀬の元にヘルプのメールを送ってもらう。
怪異の力でµ’sの危機を救った絢瀬なら、彼女の意思が行動に影響するならば、確実ここに現れる――その確信があった。

「なるほどのう、汝らであったか…妾はまんまと騙されたというわけかのう?鬼の子らよ」

絢瀬は、いや、狐は僕らに語りかける。

「ふむ、その力、その姿、その得物、そして眷属…そのようになってしまえば、もはや汝の名はなんなのか、汝が何者なのか、分からなくなってくるのう?」

忍の姿はいまだ17歳ほどではあるが、その力はその体に収まりきらないほどに膨れ上がり、さらに忍と僕の手には全長二メートルにもなろうかという大太刀――妖刀『心渡』を携えて狐と対峙しているの。

忍「ふん、あのように長い名などもう忘れたわ。今は忍野忍…それこそが儂の名じゃ」

忍「それよりもよいのか?そのような四半世紀も生きておらぬ小娘に、千年も醜く生きながらえた後期高齢者が入り込んで…誤作動でも起きたらどうする」

そう言って見下すように、見下げ果てたように、凄惨に笑って見せる。

「くくっ…妾はいつの世もその時その場所に合わせた姿を取り、姿を借りる…汝のような時代錯誤者には分からぬやもしれんがの?」

鬼に相対する狐は徒手の17歳の姿で、妖艶に、寛雅に、笑う。笑ってみせる。


158 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 22:41:44 OhJnT7nQ
「しかし、妖刀『心渡』とは…確かにそれで斬られれば妾でさえ傷を負うであろう――しかし、その完全とは言えぬその体で妾に牙をむくとは、いささか無謀というものではないかの?」

そう、忍は完全に全盛期の力を取り戻したわけではない。春休み、僕は忍に血を吸われた。吸い尽くされた。文字通り一滴残らず吸われつくした。
今回も吸われ、吸い尽くされたことに変わりはない。しかし、少しだけ、ほんの一滴、残されたのだ。ゆえにまだ彼女は忍野忍であり、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードにはなりえない。

忍「ふん、この程度の誤差がなんだというのじゃ?うぬのような高齢者を老人ホームに叩き返すくらい造作もないわ」

忍「我があるじ様の数少ない友人とやらが迷惑しているようじゃし、それに、儂の事を見下しておるうぬが気に食わぬのでな――叩き斬らせてもらう」

かかっ、と笑い、鬼は心渡を無造作に構える。

「仕方ないのう…まあよい、妾もこの娘は気に入っておるし、汝のような若造が歯向かってくるのもいい気はせぬ――ここで果てるがよい」

くくっ、と笑い、狐は手を妙な形に結び、構える。

その次の瞬間、空間が、はじけた。


159 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 23:08:07 VoIvmbfo
「「は!「「はは!「「ははは!「「はははは!「「ははははは!「「はははははは!「「ははははははは!」」

ビブラートのように、共鳴するように、ハウリングするかのように、鬼と狐は高笑いの二重奏を、いや、何重にかも分からないほどに、奏でる。

鬼が刀を大上段から振り抜き、狐の左腕を切断する。それと時を同じくして、狐の手からほとばしる青白い炎が鬼の右足を焼き尽くす。鬼の手刀が、狐の尾が、鬼の拳が、狐の蹴りが、互いの体を砕き、破壊し、蹂躙しつくす。

しかしそのどれもが致命傷にはなりえない。体のどの部位が、そのほとんどが消し飛ぼうとも、残ったところから瞬く間に再生する。

暦「嘘だろ…次元が違いすぎる…」

まるで知らない世界に、全く別の場所に迷い込んだかのような、そんな感覚を覚えるかのような破壊。破壊。破壊。
忍野がとらなかった、乱暴な手段。その限りを尽くすかのような、立って見ていることさえ難しいほどの風が、地響きが、衝撃が、撒き散らされる。

忍「もう十分生きたじゃろう!そろそろ隠居生活が似合う頃じゃ!」

鬼は声を響かせながら、凄惨に笑いながら、刀で狐を袈裟懸けに斬る。本気の――春休みに僕には向けなかったような、そんな殺意を全身にまとわせながら。

「くくっ、妾はまだまだ生き抜く!そして人間を誑かし、化かし続ける!それこそが妖狐としての生き方よ!」

体を斬り裂かれながら、引き裂かれながら狐は寛雅に笑い、鬼に肉薄する。まるで舞うかのように、戯れるかのように。

そして、鬼の、忍の体に手を当てがい。

「爆ぜよ」

忍は、忍の全身は、青白い炎に包み込まれた。


160 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 23:34:04 qZJwATzw
暦「忍!」

まずい――さすがに忍といえど、完全体で無い忍があれほどのダメージを負えば…!

忍「慌てるでない」

僕のその考えは杞憂に過ぎなかったようで、忍は炎を振り払い、そこに立っていた――いや、やはりダメージは確かに刻み込まれているようだ。本人はおくびにも出してはいないが、従僕である、眷属である僕に分かるその違い。

「やれやれ、殺しても殺しても殺しつくせぬな…さすがは不死身の吸血鬼といったところかの?」

辟易したように、呆れ果てたように、狐は眉を下げる。狐の注意は忍に向いている――僕が飛び出すならここしかない!

暦「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

手に持った妖刀、僕が狐に対抗できる唯一の手段――それを地面に叩きつけるように振り抜く!

「当然、次に動くのは汝よの?」

狐は、流れるように僕の腕を押さえつけ――

「妾の精神支配は男にしか意味を成さぬが、今は好都合じゃな?」

僕の瞳を覗き込んだ。


161 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 23:37:36 qZJwATzw
「…っ!?」

狐は困惑する。それもそのはずだ。僕は妖刀を投げ打ち、誑かされず、化かされず、狐に組み付いていたからだ。

そう、ブラフ。僕のような吸血鬼もどきと言えど、その手に持つ妖刀だけはどんな怪異をも斬り裂く力を持っており、狐は当然それを警戒した動きを余儀なくされる。だからこそその武器を囮に使う。

しかし、吸血鬼性が引き上げられている今であれば、多少の精神支配は跳ね除けることができるだろうが、九尾の狐ともなれば話は別である。それがなぜ無事だったのか?

そう、眉唾だ。眉に唾をつけたのである。

ただの迷信、言い伝え、それこそ眉唾物の話ではあるのだが、人口に膾炙している――それだけで十分だ。
怪異にとっては伝承こそが存在そのものであり、怪異に対してはそれこそが有効打となり得る。

その一瞬の隙、それを逃す怪異の王ではない。僕が組み付いた狐の首筋に、噛みついた。かぶりついた。吸い尽くそうとした。


162 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 23:50:18 qZJwATzw
「まったく、まさか妾が二度も謀られるとは、の」

そう、忍は、吸い尽くそうとした、のだ。それは叶わなかった。

僕が組み付き、忍がかぶりついたと思っていたモノは霞になっており、狐は離れた場所に、悠然と立っていたのである。

忍「バカな…!確かにここに…!」

「妾は妖狐、この程度の妖術が使えぬはずがあるまい?それとも、妖狐は肉弾戦が得意だとでも思うておったのか?」

そう言って、くくっ、と微笑する。余裕を浮かべ、微笑する。

まずい、忍と僕を合わせたとしてもこいつには敵わないんじゃないかと思わされる――さっきの策も一度きりの策であり、そこで生まれた隙を突けば確実に勝てると思っていた。
ここまで?いや、まだ何か…


163 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/28(日) 23:54:31 qZJwATzw
暦「…は?」

狐の口から飛び出したのは、予想すらしていなかった、白旗宣言。笑みを浮かべたまま、余裕を持ちながら、しかしあっけなく、掛け値無く、負けを認める言葉を吐いたのだった。

忍「貴様、バカにしておるのか…?それとも、何か企んでおるのか…?」

暦「僕らからしたら願ってもみないことだが、忍の言う通りだ…まだまだ余力があるだろう…」

当然もうこんな戦いを続けたくはないのだが、さすがにここまであっさりと引き下がられると何か裏があるのではないかと勘ぐってしまう。

「確かに、まだまだ戦おうと思えば戦える。汝らを殺すこともできる。しかし鬼の子よ、妾は汝を化かそうとして、それが叶わなかった。妾が引くにはそれで十分な理由になる」

暦「ちょ、ちょっと待て、なんでそれが…」

「妖狐の本質は『化かす』こと――それが叶わなかった時、そのまま泥臭く、鬼のように血生臭く、戦い続けることなどできはせぬ。血を吸わぬモノが吸血鬼足りえぬのと同じようにな。その矜持を持っているからこそ、妾が、白面金毛九尾の狐足り得るということよ」

それに――

「この娘のことは気に入っておるゆえな、その体をこれ以上酷使してしまうのは忍びない」

そう言って狐は、妖艶に、寛雅に、笑うのだった。


164 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/29(月) 00:01:32 q5kDNvuQ
今回のオチ。

散々てこずり、僕らを悩ませたにもかかわらず、あっさりと降参宣言をした狐だったが、

「もともと妾は汝らと争うつもりもなかったというのに…まあ迷惑をかけた礼というわけではないが、この娘はちゃんと家まで帰そう」

と言い残し、絢瀬の体のまま消えていった。

残された僕らは、化物が暴れて荒れ果てた校庭を可能な限り平らにし、家路へ着くのだった。

今回の騒動はこれで終結――ならよかったのだが。

次の日、学校に到着すると絢瀬の姿が見えた。僕の方に手を振っていることから僕のことを待っていたのだろう――けど、なぜ?

絵里「今回は迷惑をかけてしまったみたいで、本当にごめんなさい…」

絵里「それと、謝っておいてもらえないかしら――忍野さんにも」


165 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/29(月) 00:09:52 q5kDNvuQ
暦「え?忍野って…お、おい、絢瀬…お前、何があったか覚えてるのか?」

覚えているというだけなら別に構わないのであるが、どうにも嫌な感じがぬぐえない――杞憂であってほしい。

絵里「覚えているというより、教えてもらった、が正しいかしら?」

暦「教えて、って…誰から?」

絵里「あの、この子から…ほら、これ」

そう言って見せてきた絢瀬の通学鞄には、小さい狐――尻尾が九本ある狐の人形がついており。

「だから、気に入ったと言ったであろう」

そんな、愉快そうな声が、聞こえる。
どうやら僕の周りにいる強大な怪異は、鬼に加えて狐まで増えてしまったみたいなのだった。


166 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/29(月) 00:13:27 q5kDNvuQ
ここから先は余談。というのも、このやり取りは僕のいないところで行われたものだから。


穂乃果「ええーっ!?動物園の宣伝が無くなるかも!?」

絵里「ええ、あちらの広報担当の方と経営者側との連絡がうまくいっていなかったみたいで…」

真姫「何それ…完全にあっちのミスじゃない!」

凛「でも、もう衣装もことりちゃんが作ってくれたんだよ…?」

ことり「私は衣装造るのは楽しいからいいんだけど…その、かかった費用とかってどうなるのかな…?」

絵里「それについても今あちらで相談しているみたいで――話が進んだら、ということみたいなの」

穂乃果「うーん、けど…」

絵里「ほーら、この件は私が何とかするから大丈夫!みんなは練習始めてていいわよ」


167 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/29(月) 00:48:06 caFA.Uhg
海未「いえ、いけません」

絵里「海未…いけません、って言っても――きゃっ!」

希「ぐりぐり〜まーたいつかみたいに眉間にしわ寄ってるよ?」

にこ「あんた一人がうろうろしたって結局空回りするだけだっていうのまだ分かってないの?」

絵里「希…にこ…」

穂乃果「うん、そうだよ!だって私達9人もいるんだよ?1人でできることは小さいかもしれない…けど、みんなだったらなんだってできる!」

絵里「穂乃果…」



絵里「ええ、そうね!なんとかしましょう――みんなで、ね!」


168 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/29(月) 00:51:53 caFA.Uhg
叶物語 第貮話
えりフォックス 了


169 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/29(月) 00:56:39 caFA.Uhg
間あいたり最後の方駆け足になったりして申し訳ない…反省
書き溜めが増えたらまた更新します


170 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/29(月) 02:58:58 1smOo0.U
お疲れ様です
次も待ってます


171 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/29(月) 05:51:37 37oU5sdQ
おつ
はやく続き読みたいよ


172 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/05/30(火) 22:15:38 MhCfa/9M
また次回予告風でお茶を濁す
前回同様音声ファイルも一緒に、今回はあり果ての物語シリーズ次回予告風アレンジ
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1266055.wav.html


こころ「こころです!」
ここあ「ここあだよー!」
虎太郎「こたろー」

こころ「突然ですが、私たちはお姉様の特徴を受け継いでいることを知っていましたか?」
ここあ「特徴?目とか口とか?」
虎太郎「かみがたー」

こころ「そうです!私は左にサイドテール、ここあは右にサイドテール!お姉様のツインテールをそれぞれ受け継いでいるんです!」
ここあ「そうだったんだ!あれ?けどそれだと虎太郎は…?」

こころ「ええっと、それは…」
虎太郎「てぃーしゃつー」

こころ「そ、そうです!25!つまりお姉様のお名前です!」
ここあ「無理やりじゃないかなあ…」

「「「次回、にこスクイレル!」」」

こころ「ようやくお姉様が主役ですね…!」
虎太郎「かつやくー」
ここあ「お姉ちゃん結構ずっと出っ放しじゃない…?」


173 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/10/17(火) 23:26:07 .HP1frHc
海未ちゃんのエピソードよりなんかこうエリチカの境遇と怪異の関係性が薄いというか他のメンバーでも代えがききそうな話だった


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