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【設定】評価スレ 2nd【作品】

244数を持たない奇数頁:2018/11/20(火) 01:50:50 ID:8q7zuFqg0
 ムガールの眼球に埋め込んだナノメタルも、拡張された聴覚も、増設されたピット器官すら何も検知していない。
 何一つ感知できないのに、周囲の部下だけが跡形もなく消えてゆく。現実と認知の齟齬が、ムガールの足元をぐにゃりと歪ませる。

「いかがです。魔女らしく、魔法を使ってみましたが」

 動揺するムガールに、飄々と答えるミュレイヴィナ。

「馬鹿な、魔法などあるはずがない。魔女め、いったい何をした!?」

「この世界を物質でしか捉えないあなたには、決して見えない業(わざ)ですよ」

 貴様、一体何を言っている。そう怒鳴り返そうとしたムガールの口元を、見えない何かがかすめた。

「……ッ! ……!! ……!!?」

 叫んだつもりのムガールだが、口から言葉が何も出てこない。
 物理的に抉り取られたのなら、あるはずの痛みがなかった。異常が起こった口元を両手で探ってみても、口があるはずの場所は完全な空(くう)しかない。
 まるで、ムガールの「口」そのものが消し去られたような。
 動転するムガールを見据えながら、ミュレイヴィナが唱える。

「“唱えよ、髑髏の聖名(みな)を。来たれ、虚空の皇帝よ。希え、壊滅の雷鳴を……伏して拝むがいい、黄金の終焉を”」

 口がなくなったせいで呼吸がままならないムガールの腕と脚を、再び見えない何かが掠め取る。
 切り落とされた感覚すらなかった。コンピュータへ入力した文字列を書き換えるように、ただ削除されただけだった。ビルサルドの、この宇宙の科学法則を超えた事象が起こっている。
 地面に転がりながら、鼻だけで苦しげに呼吸するしかないムガールの頭上から、ミュレイヴィナの静かな声が届く。

「不条理でしょう。理不尽でしょう。このわたくしが憎いでしょう。あなたが捧げるその憎しみが、“ゼロ”を呼ぶ声となる」

 ミュレイヴィナの背中から、人ならざるシルエットが伸びていることにムガールは気が付いた。
 体内に埋めたナノメタルのセンサーは相変わらず何ひとつ検知していなかったが、ムガール自身の視覚が、感覚が、その存在を認識している。
 これは、ミュレイヴィナが背負っているこの“金色”は、一体なんなんだ。

「ムガール。あなたはわたくしを憎むでしょうが、わたくしはあなたを憎んでいません。
あなたが雄弁に語った夢が、あなたが抱いた希望の未来が、たとえそれが物質文明の傲慢さ故の絵空事だとしても、わたくしにはとても愛おしかった。
あなたとは、分かり合いたかった……」

 身じろぐことすら出来ないムガールを抱き上げながら、胸元で三つ祈りの印(いん)を結ぶミュレイヴィナ。

「ですから、どうか最後の瞬間だけでも、あなたのために祈らせてください。あなたの終焉に救済があらんことを」

 ミュレイヴィナに抱かれたムガールに“金色”が食らいつき、ムガールの存在はゼロへと消えた。

 金色がムガールを貪り尽くしたあと、ミュレイヴィナは独り言ちる。

「……来るがいい、ゼロ。おまえがすべてを無(ゼロ)にするなら、わたしがおまえを終わらせてやる」


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