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怖い話Part2

1名無しさん:2013/04/11(木) 20:47:22 ID:kJlroZZA0
霊的な怖い話を集めてみましょう

前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/study/9405/storage/1209619007.html

2mihoko:2013/04/16(火) 11:52:20 ID:Wk3LMVmg0
はじめまして、掲示板に書き込むことが初めてなので、
気が付いた事はご指摘お願いします。

今からお話しする事は
怖がりな私が霊の存在を確信してしまった出来事です。

私が小学一年生に上がったばかりの夏のこの事でした。

私には年子の妹がいます。
妹は可愛くてよく笑う子で、
とても可愛がられていました。

私は正直妬ましく思っていて、
意地悪したり、泣くまで喧嘩をしたりしていました。

その日は日曜日で、居間で食事を取り終えて、サザエさんを見ていました。

私は、サザエさんが終わってもぼんやりテレビを見ていました。

私の家族は
父母私妹祖母叔母の6人家族。
その時は、食器洗いでもしてたのか、大人は誰も居間にいませんでした。

「お姉ちゃん遊ぼうよ!」
ぼんやりテレビを見ていた私に妹が、ふすまの外からニコニコ顔を出して遊びに誘ってきました。

前述通り私と妹は険悪でしたので、
こんなナチュラルに遊びに誘ってきたのをとてもビックリした覚えがあります。

それに面食らったのか、
「う、うんいいよ」
と、承諾してしまいました。

妹と仲良く遊ぶのは久しぶりです。
私「何して遊ぶ?」
妹「向こうの部屋でおもちゃで遊ぼうよ!」

やたらテンション高い妹は、居間から離れた茶室の部屋で遊ぼうと提案してきました。

私の家は戦後すぐ建てた当時築50年ほどの平屋でした。
宮大工の親戚が建てた、立派な家で、建物だけで50坪ありました。
けどものすごく古いし、汲み取り式トイレだし、怖かったです。

茶室というのは、母屋に増築した離れで、
廊下で繋がっていますが、そこまでの廊下がもう暗くて、怖いので子供たちでは歩けません。

3mihoko:2013/04/16(火) 13:45:10 ID:eO6kTgQA0
長くなってすみません。続きです。

私「やだよ〜怖いもん」
妹「じゃあてをつないでいこう!」
といつになく積極的なので、
二人で身を寄せあって、小走りで離れまで行きました。

離れの茶室は当時、私の勉強部屋と遊び部屋になっていました。

無事着いた私たちは

私「なにして遊ぶ?」
妹「う〜ん、」
妹の視線の先には、買ってもらったばかりの学習机が。

普段は仲が悪いので、机やランドセルには、絶対触らないよう伝えてました。
けどこの時は、暗い廊下を子供だけでたどり着いたという高揚感で、私もハイになっていて、

私「今日だけ特別に机で勉強させてあげるね!」
と言って、机の隅々まで説明(電気がつくだの、何が入ってるとか)、ランドセルを背負わせてあげたり、仲良く遊びました。

それから、妹に習ったばかりの足し算と引き算を教えてあげました。

私「ゆびで数えてごらん、で答えをここに書くの」
妹「いちとにだから、さん?」
私「そう!できた!!すごいじゃん!」
ってな具合です。

けど本当は、自分の宿題を妹にやらせよう、と悪巧みをしていました。

なのに、妹は
妹「おねえちゃん楽しいね!楽しいね!ありがとう!」
と目を輝かして、満面の笑顔をしてくるので、ちょっと悪いなぁ〜と思いました。

4mihoko:2013/04/16(火) 14:17:32 ID:AUDbwXvs0
最後です。

私(まぁでも、楽しんでるんだから、私悪くないよね!)
と思って、今までにないくらい仲良く楽しく遊んでいました。

そうこうしてる内に、母が部屋に来て、
母「ここにいたの、お風呂沸いたからおいで〜」と呼びに来ました。

けど宿題箇所がまだ終わってなかったので、
私「お風呂先に行ってくるからやっておいてね!いい?最後までだからね!すぐ戻ってくるからね!待っててね!」
妹「うん!わかった!おねえちゃんいってらっしゃい!」
と満面の笑顔で見送ってくれたので、意気揚々と私だけお風呂で待つ母のもとへ。
(お風呂は居間の隣にあります)

母に飛び付いて早速、
私「あのね〜私偉いんだよ!○○ちゃんに足し算教えてあげたの!(えっへん)」
と誉めてほしくて、ハイテンションだ自慢しました。

そうしたら、
母「何いってるの?○○ちゃんは居間で寝てるでしょ?サザエさん見ながら寝ちゃったよ、」と、

その時頭の中は???だらけで、
なんだか、決定的な間違えを見落としてしまった気持ちになり、

今の今までやってたことを、一生懸命話しましたが、
確かに後ろに妹が寝ているのを見せられて、大泣きしてしまいました。

そのあと母にされるがままお風呂に入らされて、
寝る時には私の勘違いだったのかな?と思うまでに落ち着いてました。

ただ、寝室離れの茶室の上だったので、茶室の前を通らなければならず、
またじわじわと怖くなってまた泣いてしまいました。

だって「絶対戻ってくるから」って約束したから。
だから、あの子も私のこと待ってるに違いない!って思って。

けど、「もし部屋の電気が付いてなかったら、私の勘違いだったって思おう!」と最後の希望?を託して、
母にだっこされて、茶室の前へ。

私「…ついてる!!ううわぁぁぁん!!」
ここでまた大泣き。
母「消し忘れたのね誰もいないし消すわよ」
私「だめええ待ってるもんん!!」
母「誰が待ってるの?」
私「だからぁ○○ちゃんだよぉぉ」
母「は?」

ここからは、目をつぶって母にしがみついて階段を上がり、
迎えくるんじゃないかと、ビクビクしながら母の布団で寝ました。(家族で川の字)

それから、怖くて学習部屋には入れなくなり、
宿題が出来ていたのかも確認出来ずドリルは、たぶん捨てました笑

とにかく、人間と変わらないでそこにいたので、霊や妖怪?はあるのだと、確信し、
その後余計自分の家が嫌いになりました。

その後、友達に化けて人数を増やしたりと、たまにいたかも知れませんが、(うちはかくれんぼに絶好の場所だった)ここまではっきり確認できたのは、これが最初で最後でした。
今でも、もう少し優しくしてあげればよかった、って後悔してます。

以上です。
下手な文にお付き合い頂きありがとうございました。

5名無しさん:2013/04/17(水) 16:55:53 ID:bSCnDPMo0
妹の生霊か、離れに昔住んでた子か、あるいは座敷童子的な何かか
いつの間にか仲間の人数が増えてるっていうのはたまに聞くけど、寂しがり屋っぽいよね

6早坂君の仏壇:2013/04/17(水) 17:36:23 ID:wGLMPkCo0
15年くらい前に僕フリーターやってたんだけど、命の恩人である早坂君と言う人がいてね、同年代の友達なんだけど
ある日突然僕に相談してきたの。
「amちゃん、聞いて欲しいことがあるんだけど・・・」
「なに?」
「amちゃんってオカルト話いっぱい持ってるみたいなんだけど、実は俺ね、幽霊とセックスしたかもしれないんだ」
「ええ!?それどういう事?」って聞いたのね。
早坂君ね、渋谷でナンパしてラブホ街に連れ込んでエッチしたのね。
エッチしてるときに幽体離脱して魂がこう、段々段々上に上にふわーっと浮き上がっていったの。
その魂が天井につくかつかないかぐらいで意識を失って、気がついたらベッドで一人いた、って言うのね。
それ以来ずっと体がだるいって言ってる。

で「俺幽霊とエッチしちゃったんじゃねーかな」って言ってきたんだけど、でもね幽体離脱って幽霊いてもいなくてもしちゃうから
幽体離脱したから相手を幽霊と決めつけるのはそれ根拠弱くないか?って疑問を即座に言って、その当時睡眠薬強盗とか流行ってたんですよ。
ハルシオン飲まされて財布取るとかさ。早坂君ハルシオン飲まされたんじゃないの?って、その説に僕固執しちゃって
 そしたら喧嘩ってほんとくだらないことから始まるけどさ、それから早坂君怒っちゃってさ
「俺の話信じてくれねーのかよ!」って感じで切れちゃって
「そんな訳ねーじゃねーかよ、俺最初から話聞いてるじゃねーかよ!まじめに聞いてるからこそ笑わずに最後まで聞いてるんじゃねーのかよ」
ってなんかそんな風に喧嘩になっちゃって、それから早坂君のアパートを喧嘩別れして出て行っちゃったんだけどね。

で、それから3ヶ月後クリスマスシーズンになったのね。早坂君と喧嘩別れして会わなくなって3ヶ月。
その時早坂君の好きなビデオテープを買ってきて、それに「早坂君ごめんね。早坂君の言ってること僕信じてるからね」
みたいなメッセージカードを添えて郵送して
それで仲直りしようと思ったのね。
そしたら宛先不明で帰ってきたの。
それで郵便局の人に「これどういう事でしょうか?」って聞いたら、相手が引っ越しして、
その時に転送手続きしてないと戻ってくることがあるから宛先不明で帰ってきたんじゃないの?って言われたのね。
あー、じゃあ俺早坂君と喧嘩して仲直りできないままになちゃったのかなあって思ったのね。

7早坂君の仏壇:2013/04/17(水) 17:37:57 ID:wGLMPkCo0
で、それから9ヶ月ぐらいした頃かな?駅のホームで早坂君に会って「あー、早坂君9ヶ月ぶりに会ったじゃないの」って言って、でー早坂君が
「amちゃん、車ぶつけたんだけどかた焼きそば好き?好き?どうよ?」って言ってきてさ、凄い要領得てない支離滅裂な事言うのね。
僕の知ってる早坂君って比較的無口で聞き上手で必要最低限のことしか言わないタイプなんだけど、
要領得てないことをマシンガントークのように言うようなタイプになったのね。
9ヶ月ぶりに会ったら「あれ、全然違う、おかしいな」と思って。
早坂君の言ってること頭の中で組み立てないと何言ってるか分からないから、どっかで落ち着いて話を聞いて早坂君の言ってること組み立てようと思って
外食の店に連れて行ってそこで落ち着いて話を聞こうと思ったんだけども・・
 そこでね、また要領得ないことを話してるんだけど、そこでまたあれ?って思ったのは早坂君辛いのダメな人だったの
でもタバスコをピッピッピッピって掛けてるから、あれ?9ヶ月で味覚ってこんなに変わるかな?って思ったんだよね。
それでとりあえず、早坂君の話聞いてると僕の頭の中で組み立てて聞いてみると例の渋谷でナンパした女の子は今も来てる、とか言ってるのね
あー、これは幽霊に取り憑かれてるんじゃないかと思って、問題の家に行って何が原因なのか検証した方が良いなと思って、早坂君に「ちょっと連れて行ってよ」
って言ったら連れて行かれた場所は宛先不明で帰ってきた住所(引っ越す前の住所)だったのね

2階建てのアパートの1階に連れて行かれて、部屋のドア開けた瞬間部屋の真ん中に仏壇がどーんとあって、
早坂君キティーちゃん好きでグッズとかも煙草の脂ですすけてるのね。
その脂ですすけたキティーちゃんが仏壇の周りにブワーって散らばってるの。
それ見て俺一秒でも速く逃げ出したいと思ったけど、早坂君命の恩人だから助けなきゃと思って
「早坂君これ何?」って聞いたら早坂君また支離滅裂な事言ってるんだけど僕なりに組み立てると、
この仏壇があると渋谷で軟派した女の子が毎日来てくれるって事を言ってるらしいのね
 「早坂君この仏壇解体して処分した方が良いよ」って言ったら股支離滅裂な事言って、とにかく怒ってるらしいのね
何言ってるか分からないけど怒ってて追い出そうとするから、もう付き合ってられないと思ってそれで早坂君の家から逃げるように出ていったんだけども・・

家に帰って、命の恩人だから何とかして上げなきゃと思って、次行くときは友達引き連れて仏壇解体して、粗大ゴミに出して早坂君は神社でお祓いして、
精神科の病院に診て貰って、そういうケアをみんなでして上げた方が良いと思って次の日早坂君に紹介して貰ったアパートに様子見で行ってみた
様子を見て友達引き連れて仏壇解体しようと思ったんだけども、そこでチャイムならしたら別の人出てきたのね
んで、「あ、ひょっとして去年の12月にここに引っ越されたんですか?」って聞いたみたのね
「実は去年の12月までに引っ越ししたと思われる人に会いに来たんですけど」って言ったら
「アー、確かに12月の時点でその人引っ越してた」って言うのね
だから別な人が住んでたから宛先不明でビデオが帰ってきたのね
で、昨日は早坂君がいて仏壇があって、その周りにキティちゃんが散らばっていて・・それが今日は大学生の部屋になってて、
あれ、これどういう事なんだろと思って僕たまたま大家さんの家知ってるから大家さん家に言って聞いたみたのね。
そしたら「他人のプライバシーは教えられない」の一点張りで何も教えてくれない。

8早坂君の仏壇:2013/04/17(水) 17:39:06 ID:wGLMPkCo0
それでね、いたこさんと話ししたんだけども、「その仏壇大きかったの?」って言ったら「うん、凄い大きかった」
って言って、インパクトあったから実物大より大きく見えたのかもしれないんだけど。
 普通のぼろいアパートってドアが狭いからでっかいテレビとか入らなかったりするんだよね。
それくらいの大きさだからドアから入れたとも思えないし窓から入れたとも思えないし。
 僕といたこさんの仮説は、畳ひっくり返して土掘って、埋まってた仏壇を掘り返したんじゃないか?ってゆうそういう仮説を立てたんだけども
実際その仏壇って腐葉土の匂いがぷんぷんする仏壇なのね
葉っぱの腐った土の匂いがしてさ、漆が所々はげててさ、遺影はあまりにも風化しすぎて誰の写真家分からないし、位牌には泥がついてて
何が書かれてるのか分からないような仏壇ね。
もうこれ土から掘り起こしたような匂いしてて、ひょっとして地面を掘り超して出しちゃったんじゃないか
そういう仮説を僕といたこさんで立てたんだけどね。
何か取り憑かれたんじゃないのかな?もうその時点で。その部屋で何かあったんじゃないのかな・・
そういう事も全部大家さんに聴いてみたんだけども、「名誉毀損になることは言わないでくれ」とか「風説の流布はやめてくれ」とか「訴えるぞ」とか言ってきたのね。

赤の他人には個人情報教えられないって言うから嘘ついて「早坂君に貸した金を返したいから」とか「借りたCDあるから」とか
とりあえず電話の連絡先でも教えてくれないかって聞いたんだけどそれでも教えてくれなかったし。
それで早坂君は行方分からないままなんだけども・・・

その話をね、去年のある百物語オフ会で話してたときにね、トイレ休憩の時に何時もなら人並んでるんだけどその日だけがらーんと人がいなくて
そのトイレの二つの鏡にちらっとちょっとざんばら髪っぽい眼鏡掛けてた顔見えた気がするんだよね
当時自分も髪ぼさぼさで眼鏡掛けてたから自分が写ってたかなあ?早坂君の顔もちらっと見えた気がするけれども。
 いや、考えすぎだ。みんなの怖い怪談聞きいて怖くてぶるぶる震えてるから考えすぎだと思って小便してたら背後から僕の本名で

「amちゃん、どうよ?」

って言ってきて、俺ションベンしてるから動けないし、振り向いて何かいたら怖いから振り向くことも出来ないし
そうしてる間に掃除のおばちゃんが入ってきてね、「うわー、やった。ひとりぼっちにならずに済む」と想ってたら
掃除のおばちゃんが
「あれええええええええ」って言いだして後ずさってトイレから出ていっちゃったの
なにがあったんだと・・・・。凄く気になるけど怖くて聞けないって言う・・
それで戻ってきたら顔面蒼白だったらしいから
いたこさんに「amちゃんどうしたの?」って言われて「実はこうこう、こういう事という話をしてね
 ハンドルネームのamでamちゃんどうよ?って言うんだったら参加してる誰かが事呼んだんじゃないの?って思うけど僕の本名で呼ぶからさ・・・
僕の本名知ってる奴なんて参加者の中には誰もいないのよ
「どうよ?」って言い回しも早坂君独特の言い回しでさ。それで怖くてションベン止らなくてさ・・終わった瞬間にダッシュで出ていったよ

9早坂君の仏壇:2013/04/17(水) 17:39:58 ID:wGLMPkCo0
それでそれ以来早坂君は行方不明って事で、探偵に頼んでもごめんなさいって事で金帰ってきてね
その続きがまさか2月に起るとは思わなかったんだよね
 「今年の2月に超」−1(怪談コンテスト)というのがあって、それに応募しようと思ってワードに書いてたのね。
で、文章書いてる時に朝なんだけど玄関で「ピンポーン」って鳴ったから玄関のドアを開けようと思ったら開かないのね。
ドアに何かぶつかってて。
「何がぶつかってのかなあ」と思ってドアから覗いてみたらガラスケースに入った日本人形。それがドアにぶつかって完全に開かない。
廊下の左右見たら誰もいなくて、一体誰が置いたんだろうと思って・・・・
とりあえずその人形は警察に届け出しましてね、遺失物と言うことで預かって貰ったんです。

それから数日してまたこの仏壇の話をワードで書いてたんですね。
そしたらまたピンポーンって鳴って、宅急便かな?と思ってドア開けたらまたドアが完全には開かずに何かにぶつかってるんですよ
悪い予感がして恐る恐る見たら、またガラスケースに入った日本人形なんですよ・・・二体目・・
それでまた警察に電話したら今度は民事不介入とか言い出してきて「自分で解決してください」って言ってきて。
しょうが無いから管理会社に預からせてくださいって頼んでも断られて、それから神奈川にいる自称霊能力者に預かって貰おうと電話したら
「あ、am君その依頼は受けられない」ってぶちんって切られたの。
僕まだ人形の話してないのよ。なのにその依頼は受けられないって切られたの
うわ、どうしようと思ってとりあえずこの人形も燃やそうって思ったのね。
玄関に人形置いてライターで燃やそうかな、って思ったときに背後から早坂君の声で

「amちゃん、どうよ」

って聞こえて、その時はビックリして振り返っちゃったのね。
振り返った瞬間真っ暗。暗転
テレビからは朝の放送とか聞こえてるの。でも真っ暗。後で目が見えないって事に気づいたの。
とりあえず119番呼んで目を何とかして貰おうと思ったんだけども、とりあえずポケットに入ってる携帯取り出して「119」って押そうとしてるんだけど
目が見えないからどこが1でどこが9か分らないのね。
携帯って色々ボタンがあるからなかなか119って押せなくてね。
結局隣のドアを叩いて「すいませーん、救急車呼んでさーい」って隣の人に救急車呼んで貰ってね。
で救急車で運ばれて、目の検査したら目に異常は無いと。CTスキャンにもかけられても異常は無いって言われて。
で、医者に緊急時の連絡先は?って聞かれて実家の青森の電話番号言ったのね。
それで電話して貰って次の日に兄さんがやって来たんですよ。うちに。
それから兄さんと新幹線に乗って青森に行ってね。

10早坂君の仏壇:2013/04/17(水) 17:41:14 ID:wGLMPkCo0
人間って目が見えなくなると耳と鼻が鋭くなるんだよね。アナウンスもはっきり聞こえるし、青森って排気ガスが少ない感じがするんだよね。
で、家でくつろいでたらおばあちゃんとおじさんがやって来て、おばあちゃんが言うにはね、
うちの曾おじいちゃんも見てはいけない本を見て目が見えなくなったと。
その時に拝み山待って言うタブー満載の山(オオカミが住んでる、外交官ナンバーの車がうろうろしてる、アヘンが栽培されてる、UFOの目撃談が多い)
その山にお住まいを置いたら目が見えるようになったと言うことがあったから、お前もそれした方が良いってことになって、
で、おばあちゃんとタクシーに乗って、その時に「これどうしたの?」って言われて「何?」って言ったら
「お前ずっと日本人形持ってたろ」って言われて「ええええええええええええええ」って。
僕知らずに日本人形持って帰ってたらしいです。
この日本人形が目の見えない根源だと思って拝み山に置いていこうと思って、ガラスケース持ってタクシーに乗って。
で、おばあちゃんががタクシーの運転手に道案内してて、まだ2月だから雪がビュービュー降ってるの

それでタクシーの外を出て、おばあちゃんが「ここが拝み山だよ」って言うんだけど雪がビュービュー降ってるから寒い感覚しか分らないんだけども
その時にふとね津軽弁で「こっちこい、こっちこい」って二十代後半の女性の声が聞こえたんだよね。
僕が「おばあちゃん、声が聞こえるよ」って言うと「それは拝み山の神の声かもしれんね」って言ってきたの
とりあえず声の方向に歩いてみなって事になって、危ういながらも亜ばあちゃんの肩を掴んでてくてく行って、謎の声がね、

「うわあ、なんて面倒くさいモノ持ってきたんだ。でもそれがあると目玉が腐っちまうからね。しょうがないから置いてきな」っていう声がして
僕はその声の通り日本人形を雪の上にどさって置いて、おばあちゃんがお供え物をどんっと置いた音がしたんだよね。
「何か置いたの?」と言うと「うん、日本酒」
この山は稲荷なんだけども、お稲荷さんっていうと油揚げというイメージあるじゃないですか。
でもこの稲荷はオオカミ稲荷だから油揚げじゃなくて酒を欲しがるんですよね。
で日本酒を置いておばあちゃんが「どうかうちのamをお願いします」って拝みだしたのね。
その時に女の人の声で「あんまり馬鹿な真似しちゃダメだよ」っていう声が聞こえたと同時に段々光を感じてきたのね。
で、じわじわ何かが見えてきたの。ではっきり見えた時に視界の中に映ったのはエレベーターの中!
拝み山にいたはずなのに、エレベーターの中。
 とりあえず外に出たら東京都庁の展望だったの。雪国の人は条件反射で暖かいところに出ると肩とか頭とかぱっぱっと払っちゃったりするんだよね。
その時にぼそっと、雪が落ちてきたんだよね・・・・
その時に東京は雪降ってなかったんだよね
それから自分の部屋に帰ったら、ワードで書いたはずの仏壇の話が完全に消えてるんだよ。
これどういう事だと思ったら背後から

「amちゃん、どうよ」

って聞こえてきた。その時はさすがに振り向けなかった。
そういう事情があって「超」−1に応募できなかった。

11早坂君の仏壇:2013/04/17(水) 17:43:03 ID:wGLMPkCo0
・・・という話でね。この仏壇の話は語るのは大丈夫なんだけど文章にして投稿しちゃダメみたいな・・・
誰かに書いて貰うしかないねこれ・・・・

青森に電話したら帰って来てないって言われた。おばあちゃんとかにも
救急車で運ばれて検査したわけだから検査代払わなきゃいけないんだけど検査してないって言われて、
警察の遺失物係に人形の話したら人形の届け出はないし人形は扱ってないって電話が来た。
何にも無かったことになって自分だけ数日間過ごしたことになってた。



以上、amの怪談から「早坂君の仏壇」を文章に起こしてみた

12名無しさん:2013/04/21(日) 00:27:21 ID:1i2Gin9.0
おお、早坂君の仏壇じゃないか!
動画消されたんで残念に思ってた。GJ

13amの怪談:2013/04/21(日) 16:55:38 ID:1i2Gin9.0
「ソ連から脱走した祖父が中国で見た幻」

これはねしゅんすけおじいちゃんの話なんだ
シュンスケおじいちゃん、戦争中満州にいてね、学生を養成する大学講師の様な仕事をしてたんだけどね。
で、満州にソ連軍が攻めてきておじいちゃんソ連軍に捕まったんだ。
で、ロシア語多少出来るからジュネーブ協定で民間人は捕虜に出来ないから解放してくれ、って言ったんだけど
「いや、お前は戦争犯罪人だからモスクワに連れて行って戦争裁判にかける」とかそういう事言われちゃってね。
シュンスケおじいちゃんからしたらシベリアだったら地理的に中国と繋がってるからまだ日本に帰れる当てはあるけど、
モスクワまで連れて行かれたらもう一生日本に帰れないなと思って、それで脱走計画を練るわけですよ。

 脱走計画を練るときに一人じゃダメだから、色々特技を持ってる奴をあと3人集めてシュンスケおじいちゃんをリーダーに4人で脱走計画を練るんだけど
まずロシア語出来るシュンスケおじいちゃんがロシア兵に向かって「今からマシックショーするよー!」って言って、
仲間の一人で手品師で華麗なマジックショーをやるんだ。
するとロシア兵が手を叩いて「ワー、ブラボー」って拍手するのね。
その時に3人目の仲間のスリで詐欺師で日本にいたら捕まるから満州に逃げてきた、っていう本当の犯罪者が
ソ連兵に紛れ込んで鍵をスッちゃう。
で、マジックショーが終わらないうちにロウだか石けんに押しつけて型を取ってマジックショーが終わらないうちに戻ってきて
ソ連兵の懐に鍵を戻すの。
それから4人目の仲間である板金工がくず鉄から金属加工して型を元にして何とかスペアキーを作って、
鍵が開くことを確認して期日を決めて一斉に脱走。
で、ソ連から中国へ、中国から朝鮮へ行こうとしたのね。

14amの怪談:2013/04/21(日) 16:56:13 ID:1i2Gin9.0
ソ連から中国へ横断してる時にもう極限状態だったんだよね。いつ殺されるか分らない恐怖。
あと飢えと寒さとずっと移動してる疲労。
 そんな時に炊事してる匂いがしてきたのね。
それで仮に死ぬとしても飯食ってから死ぬのも良いんじゃないかと言うことになってね
それで三国志に出てくるような屋敷に行ったらしいのね
何百年も昔の貴族が住んでるようなお屋敷。
そしたらね、門を叩いて、シュンスケおじいちゃんが北京語で「宿と食事を提供してください」って言ったら言葉が通じない。
満州って五族共和という言葉があるくらいで、中国人の他に満州族とモンゴル族と朝鮮族と日本人とそれで五族なんだけど。
それで別の民族かな、と思って朝鮮語で話しても通じない。満州語で話しても通じない。モンゴル語で話しても通じない。
あ、これ別の少数民族かなと思って困ってたら、シュンスケおじいちゃん学校の先生だから鉛筆いっぱい持ってたんだよね。
 それで紙に鉛筆で漢文で宿と食事を提供してください、って書いたら門番がそれを持っていったら、
筆で書かれた漢文で「宿と食事を用意します」って返事が返ってきた。

他の3人はやったーって喜んでるんだけどシュンスケおじいちゃんだけ「あれ?」って思ったの。
その書体が千年前の唐の時代の書体だって言うのね。
そんな古い書体を今時使ってる奴なんているのかなあ、と首をかしげたんだけど、応接間に通されたら数百年前の中国の貴族のような高貴な人が出てきて
それが館の主人で、その館の主人と鉛筆で漢文書いて筆談してやり取りして、その間に食事を貰って寝たのね。
 それで極限状態からほっとしたら体が油断して風邪引いたのね。
それでもソ連兵か中国兵が追いかけてるかもしれないから、出ていこうとすると館の主人が亀の甲羅ひび割れ見せて
「今は不吉だから行っちゃダメだ」っていってきた。
それでいっそのこと神頼みに頼ってみようと思って、その日は大人しく寝ることにしたのね。

15amの怪談:2013/04/21(日) 16:57:02 ID:1i2Gin9.0
次の日風邪も治って出ていこうとすると主人がまた亀の甲羅のひび割れ見せて「こっちの方角へ行け」と言うのね
とりあえずその方角へ行ってみようかと言うことになったのね
で、その時にさんざん館の主人にお世話になったから何かお礼したなあ、と思ったね。
その時におじいちゃんが気づいたのは館の主人は筆で書いてるんだけど、おじいちゃんは鉛筆で書いてるわけだね
で、鉛筆を物珍しく見てたのね。だから鉛筆を全部挙げたのね。
そしてたら館の主人は巾着袋を五つ渡してきたのね。中を見ると金と翡翠で出来た装飾品だったのね。
それを貰って外に出たら草がぼうぼうと生い茂ってて、おかしいなと思って振り返ったら館がなくて丸い丘があるだけ
その丘をよく見たら人工的に作られたとしか思えないのね。
千年前の唐王朝って貴族を埋葬するときに丸い丘とかの下に亡骸を弔って古墳みたいなのを作るんだけど、そういう唐王朝時代の丸い古墳というのかな?
という憶測を立てつつ、とりあえず館の主人が言ってた方角に行ったら運良く年にたどり着いたんだ。
 
それからスリ大活躍。何でもかんでもスってそれで食料調達して。
それで朝鮮方面まで行って。
シュンスケおじいちゃんが都市に入って助かったと言う理由が、スリのおかげじゃなくて黄色人種が何も話さなければ中国人か日本人格別つかないから
日本人であることがばれない、というのね。
それで無言のまんま通り抜けてそのまま引き揚げ船まで行こうとしたんだけど、その時に運悪く中国兵に「お前日本人だろ」てばれて捕まったんだけど
その時に館の主人から貰った装飾品を全部出して、賄賂として渡して「見なかったことにしてくれ」って頼んだら解放してくれた。
それで引き揚げ船に乗って日本に帰ってくることになった

シュンスケおじいちゃんは良い大学でてる人で理論武装してる人だから幽霊信じない、と言うんだけど、
もし幽霊がいるとしたら「うらめしや〜」と出てくる怖いものだけとはは限らない、
客をもてなしてプレゼントされたららお返しもする。そういう血の通った幽霊も絶対いるはずだって。
僕が思ったのは中国語とか朝鮮語とかモンゴル語が通じないというのは、千年前の唐王朝の言葉と今の言葉が違うから通じなかったんじゃないかと
そういうお話です。

16名無しさん:2013/04/22(月) 23:05:52 ID:YNMXyXdQ0
amの怪談、懐かしいな。この人の話は真偽はともかく面白いわ

17名無しさん:2013/04/23(火) 17:22:45 ID:oL5DUAVI0
有名な人なの?読み入ってしまった。でも二つとも幻見たとかなんでその人自体ヤバイ人なんじゃ・・

18 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 19:59:15 ID:RD7zILew0
テスト中

19 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:13:33 ID:RD7zILew0
 皆様、こんばんは。藍です。お久しぶりです。

 知人の説得に一応成功し、3月末には原稿を受け取っていたのですが
昨年度末・新年度始めの目の回るような忙しさで投稿出来ませんでした。
前スレは終了してしまったようなので、こちらに投稿させて頂きます。

 皆様に楽しんで頂ければ良いのですが
もし鬱陶しく思われる方がおられましたら大人のスルーでお願い致します。
では、以下『卯の花腐し(上)』です。

20『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:21:28 ID:RD7zILew0
 梅雨の走りの雨が、昼前からずっと降り続いていた。

 雨音に混じって、俺のいる車道と交差する横断歩道の
歩行者信号が青になった事を知らせる電子音が聞こえている。
俺はSさんに頼まれた買い物を終え、お屋敷へ帰る途中。
既に夕方で車の流れはやや渋く、列をなすテールランプが明るさを増していた。
その時、何か白いものがロータスの助手席側を通った。
子犬だ。
きょろきょろしながら車道の端を危なげな足取りで進んで行く。
半年程前からこの交差点の近くでよく見かけるようになった。
首輪が付いているし、ころころ太って毛並みも良いから飼い犬だろうが、
あれじゃ何時事故に遭っても仕方がない。何故ちゃんと繋いでおかないのか。
子犬を見かける度、俺は飼い主に対して軽い憤りを感じていた。

21『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:22:26 ID:RD7zILew0
 前方の信号が青になった。少しして車の列が流れ始める。
「あ!」
車道から横断歩道に入り込んだ子犬に向かってRV車が左折していく。
巻き込まれる。あのタイミングでは到底助からない。
『轢かれた?...』 交差点を直進しながら俺は横断歩道を確認した。
血塗れの子犬の轢死体を見るのは胸が痛むが、確認せずにはいられない。
!? RV車の通り過ぎた横断歩道に子犬が立っていた。すぐに俺の後ろの車が左折する。
しかしその後もバックミラーには横断歩道に立つ子犬の姿が映っていた。まさか、何故?
そういえばあのRV車も、俺の後ろの車もほとんど減速しなかった。
まるで子犬など全く見えていないように。いや、それよりも。
あの子犬は、半年前から全く成長していないではないか。
そして、この雨の中、その毛並みは全く水を含んでいなかった。
何故気が付かなかったんだろう?
『幽霊?子犬の...』

22『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:23:38 ID:RD7zILew0
 Sさんについて本格的な修行を始めてから、
以前は見えなかったものが俺にも少しずつ見えるようになっていた。
『本当に幽霊がいるならそこら中が幽霊だらけだろう』
そういう意見は昔からあるし、それは確かにもっともだが
実際に普段の生活の中で見かける幽霊の数はそれほど多くない。
ましてや犬の幽霊なんて、今まで一度も見た事が無かった。
あれは本当に犬の幽霊だったのか?動物の幽霊なんて存在するのか?
動物の幽霊が存在するなら、それこそそこら中が霊だらけの筈ではないのか?
自分の眼で見たものが半ば信じられないまま、俺はお屋敷に向かって車を走らせた。

23『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:24:49 ID:RD7zILew0
 「あの、話は変わるんですけど。」 「何?」
夕食後、リビングで俺とSさんは他愛ない話をしながらハイボールを飲んでいた。
姫は既に翠を抱いて自分の部屋に戻っている。2人とも、もう寝た頃だ。
Sさんは何か考える事があるのか、今夜は特に姫を追いかけたりはしなかった。
「動物の、例えば犬の幽霊って、いるんですか?」
「いることはいるわよ。でも数はとても少ない。」 Sさんはハイボールを一口飲んだ。
「動物は幽霊になりにくい、とか?」
「説明が難しいけど、『人間の心との関わり』があった動物だけみたいね。幽霊になるのは。
そしてそれが『良い関わり』か『悪い関わり』かで幽霊の性質は全然違ったものになる。
良い関わりなら御利益をもたらし、悪い関わりなら祟りをなす。ま、程度の問題だけど。」
「普通の、野生の動物は幽霊にはならないんですね。」
「そう。それにしても少なすぎると思わない?」 Sさんの眼が輝いた。
「動物の幽霊だけじゃなく人の幽霊も、何故そこら中が幽霊だらけじゃないのかしら?」

24『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:26:21 ID:RD7zILew0
 Sさんがこんな顔をするのは俺に何かを教えようとする時だ。必死で考える。
「ええと、例えば相当な恨みをもって死んだ人じゃないと幽霊には、でも、それだと。」
「そう、恨みをもって死んだ人だけが幽霊になる訳じゃない。
もしそうなら、戦場の跡なんてそれこそ幽霊だらけのはずなのにそれほどでもない。
逆に思い残す事など無いはずの人が幽霊になって現れたという話も普通にある。」
恨みでも、思いの強さでもないとしたらそれは...
「幽霊になりやすい人と、なりにくい人がいるってのはどうでしょう?」
「素敵、今夜も冴えてるわね。ほとんど正解。」
Sさんは俺の頭を軽く撫でてから、ハイボールをまた一口飲んだ。
「もう数百年も前の先祖の時代から、私たちは魂の性質を『霊質』と呼んでる。
人によって体質が少しずつ違うように、人によって霊質も少しずつ違う。
そしてごく稀に、幽霊になりやすい霊質の人がいる。
そういう人の魂は肉体との結びつきが少し弱くて、場合によっては肉体が生きている内から
何かのきっかけで魂が肉体を離れて活動することがある。いわゆる『生き霊』がこれね。
おそらく『飛頭蛮』や『ろくろ首』も多分生き霊から派生したイメージだわ。」

25『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:27:17 ID:RD7zILew0
 「生きている人の霊質を見分ける事は出来るんですか?」
「霊質の違いは微弱な信号として肉体に現れる。それが『気紋』。」
気紋、聞いた事のある言葉だ。胸の奥が痛む。あれはいつ、何処で聞いたのだったか。
「高位の術者やうまれつき資質を持っている人なら、気紋を感知して識別できる。」
Sさんは俺の眼を見つめて微笑んだ。「例えば、あなた。」
思い出した。確かにあの時Kは、俺が『気紋』を識別できると言い、それを不思議だと言った。
「お母様があなたの感覚の一部を封じた代わりに、気紋を感知する感覚が鋭くなったのね。
あなたは無意識に気紋を感知して識別してる。私の『百合の花に似た香り』みたいに。」
「百合の花の香りって!それは。」
会話の途中でSさんが俺の心を読んで先回りするのには慣れっこだがこれには驚いた。
その香りについて、今までただの一度も、話題にしたことはなかった。それなのに。
「私を抱きしめてくれる時、あなたの心には必ず百合の花のイメージが浮かぶ。
そのあとでラベルに百合の花がデザインされた化粧品や香水のイメージ。
でも、私は普段化粧をしないし香水も使わない。」
「じゃあ、あの香りは?」
「あなたは感知した気紋を無意識に五感の嗅覚に置き換えて認知してるってこと。
女性の気紋を花に例えて分類するのはとても古くからある手法だし、
真っ白な百合の花に例えられるのは、女として悪い気分じゃない。」
そういえば俺は姫のイメージが昼咲月見草に似てると書いたことがある。もしかしてあれも。

26『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:28:32 ID:RD7zILew0
 「ところで、今夜、犬の幽霊の話を持ち出したってことはあなたにも見えるのね。
○町南交差点辺りの、あの白い子犬。」
!! 心臓が止まるかと思った。
「驚きました、図星です。どうして分かったんですか?」
心なしか、Sさんの表情が曇ったように見えた。
「あの子があそこに現れるようになったのは去年の9月頃。
今、あなたの行動範囲に現れる犬の幽霊はあの子だけだからすぐに分かった。」
それならSさんは俺より3ヶ月程早く気付いていた訳だ。
「可哀相だから何とかしようと思ったけど駄目だったわ。あの子は一生懸命探してる。
自分を置いたまま帰ってこなかった小さな女の子を。
普通の人にはまず見えないし、手荒な事をするのは余計可哀相だからそのままにしてるの。」

27『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:29:32 ID:RD7zILew0
 「その女の子は、あの子犬の飼い主、ですか?」
「それは分からない。あの子の記憶の断片に女の子の姿が見えただけ。
夕暮れ時、迷って不安だった自分を抱き上げてくれたこと。それがすごく嬉しかったこと。
でも、女の子は男の人に手を引かれてどこかへ行ってしまった。」
「女の子のお父さんが迎えに来たんでしょうか?」
「それも分からない。ただ、あの子は一生懸命女の子を探して...」
Sさんは言葉を切って、小さく息を吐いた。
「あの交差点で事故に遭ったんですね。それで。」
「そう、だからいつも大体同じ時間、夕方に現れて繰り返してる。
女の子に会った場所からあの交差点までを。女の子にもう一度会いたい一心で。」
「何時か女の子に会えたらあの子犬も?」 「本当に、そうなれば一番良いんだけど。」

28『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:30:39 ID:RD7zILew0
 Sさんはハイボールの残りを飲み干して小さく伸びをした。
「さて、眠くなってきたから私の話も聞いてね。」 「勿論です。」
「明日、依頼人に会いに行く時、私と一緒に来て欲しいの。」
「新しい依頼があったんですね。僕で良いんですか?Lさんじゃなくて?」
「今はお社の管理だけだけど、修行の進み具合によっては別の仕事の依頼も来ると思う。」
「...僕への仕事の依頼ってことですか?」
「そう、実を言うともう何十年も前から術者の数が足りなくて、慢性的な人手不足なの。
その時のために、あなたの適性を調べておきたい...そうしないと心配で堪らない。」
Sさんは右手でそっと俺の左頬に触れた。
「適性に合わない仕事を受けるのは、特に初めのうちは本当に危険だから。」
もし、仕事の依頼が来れば名実ともに俺は一族の一員と言うことになる。
ならこれは俺にとって、チャンスと考えても良い筈だ。
勿論、不安もあるが、Sさんが俺に期待してくれているということだから。
ぴいん、と、気が引き締まるのを感じる。下腹に力を入れた。
「わかりました。一緒に連れて行って下さい。」
「うん、良い返事。じゃ、明日に備えてもう寝ましょ。」

29『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/23(火) 20:41:43 ID:RD7zILew0
 『卯の花腐し(上)』 了

 『卯の花腐し(中)』は今週末か、
遅くとも来週始めには投稿したいと思っています。
それでは今夜はこれで失礼致します。
拙い話にお付き合い頂いた皆様、ありがとう御座いました。

                           藍

30名無しさん:2013/04/24(水) 08:42:24 ID:JX69oKgk0
昔、投身自殺をしそこなった。理由は特になかった。
なんでそんなことを決意したのかも記憶になかった。

医者は憶えていると死にたくなるような内容なら
突発性健忘で忘れる事もあるというように言っていた。

退院後、知人の間で自分が悩みを抱えているような素振りはなかったか聞いて回った。
怪訝な顔をする彼らは、首を捻るばかり。むしろなんで気にするのかと問われた。
自殺未遂の話なんて、近親者を除いて、全然知れ渡ったりしない。
投身自殺したんだよね、なんて話はあまりにも衝撃的過ぎるので濁した。

会社には投身自殺の話はばれていた。
入院が長かったので見舞いに来た上司には釈然としないけれどそのようだと事情を言っていた。
精神的にあまりにも不安定なら、休職したほうがいいと薦められたが、自発的に退職を選んだ。
慰留する声が大きかったが、医者に環境を換えてリフレッシュした方がいいかもしれないとアドバイスを受けた事を重んじた。


半年位して、俺は岐阜にいた。その三ヶ月後には富山にいた。
何か楽しい事をやってみようと思い立ち、不動産を売り払って金に換え、放浪生活を楽しんだ。
大手派遣会社に務め、各地の支店の間を点々とし、出費は最小限に抑えながら
なんとなしに、自分探しをしてたようにも思う。
ちょっとニュアンスが違うかな。自分というものが、様々なものに直面した時、それを楽しんでいるという実感が欲しかった。
そうすることで、自分は死ぬ必要がない人間なのだと思いたかった。

上手く伝わるように書けないものだな。
こう言えばわかるかな。
死ななきゃいけない秘密を、記憶の奥底に封じているのかもしれない。
あの医者の言葉は、こういうふうに解釈できる死刑宣告みたいなものだった。
あの言葉が、死ぬつもりがなくいつのまにか投身自殺を図っていた俺に
こんどこそ死ななくてはいけないのでは、という漠然とした自殺願望を抱かせていた。

最終的に俺はとある、あまり注目されない別荘地のペンションに落ち着いた。
そこは夫婦で切り盛りしているところで、静かなバカンスを楽しみたい常連に人気。
メジャーではないけど、県内都市部からのリピーターが多いみたいなところ。
学童に戻ったかのような気分を味わえて、お客さん同士がまるでボーイスカウトの班のように連帯感があった。
それがあまりにも居心地が良くて、延長に次ぐ延長をしていた。

ある日、いつものように起床し、歯磨きをしていると、不意に目の前が暗くなった。
真夜中のビルの屋上にいた。
背後から音が聞こえた。
振り返ると、子供らしきものを抱えた裸の女がたっていた。
異常だ、と思ったのは血と腐敗臭の混ざったような匂い。
後退っては距離を詰められということを繰り返して、俺は追い詰められている事に気づいて
とっさに階段に逃れて駆け下りていったけれど、大分地面が近い階までおりたところで。
下も上も、同じような得体のしれないものが立ちはだかっているのに気づいて、その階の通路に逃れたが。
そこにも女達が待ち構えていて、声を出そうにも声が出ずに、やがて、下を確認して車があることに気づくとそこを目指して飛び降りた。

はっと意識を取り戻すと、歯磨き粉をだらだらとこぼしている俺の顔が目に入り、そのすぐ横に女の顔があった。
あの夜に見たものより随分と、まともな様子。腐敗臭も血の匂いもない。けれど、恨みがましい目で睨まれた。
へなへなと崩れ落ちた俺が、女は動くのに子供は微動だにしないことに気がついた。

ひょっとして、俺は誰か女でも不幸にしたかと思うがそんな覚えがない。
「俺は、童貞だ。
もしかしたら、憶えてないだけで、迷惑をかけたかもしれない。
仕事場に急いでいる時にぶつかって転ばせ、流産させたとか、考え出したらきりがない。
けれど、俺はみてのとおり臆病で、何か物音でもしたら確認せずには済まさない。
本当に覚えがないんだ。こんなことをするなら、せめて理由だけでも教えてくれ」

「ふっ、…童貞なの。じゃ、別人だわ」
すーっと消えていく女が消えきって、弛緩した体に力が戻った。
色々と言いたいことはあったけど、全部飲み込んで、ペンションから離れた後
あの母子が成仏できるように、寺と神社と教会に頼み込んで、
東京に戻って高層マンションの1LDKを買って生活をはじめた。

31名無しさん:2013/04/24(水) 15:38:05 ID:6lTpbQ/s0
藍さん乙。
また読めて感激です。

32名無しさん:2013/04/25(木) 11:35:25 ID:p4QKXxpg0
藍さんおかえりなさい。また、読めてうれしいです。

33名無しさん:2013/04/26(金) 01:13:39 ID:mUtOI9gM0
藍さん来てたの気が付かなかった。
作者さんを説得してくれたのですね。ありがとう。
そして作者さん、またあなたの話が読めて本当に嬉しいです。
ご自分のペースでよいので書いてくださいね。
藍さんもお仕事あるのにお疲れ様です。
4月は忙しいですよね。そんな中、ありがとう。
週末も楽しみにしてます!

34 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 20:58:32 ID:ttaMmO2o0
 皆様、こんばんは。藍です。

 『卯の花腐し(中)』ですが、作業が思うように進まないため
申し訳ありませんが、二部に分けて投稿致することにしました。

>31
>32
>33
 温かいコメントありがとう御座います。
もし、今回もお楽しみ頂ければ幸いに存じます。

                    藍

35『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:03:43 ID:ttaMmO2o0
 次の日も、朝から結構な勢いの雨が降り続いていた。
ただ、土曜日なので姫の大学は休み。皆で食後のコーヒーを飲んでいる。
姫はコーヒーを飲み終わると翠を抱いていそいそとリビングを出て行った。
俺とSさんが出掛けるので、今日は一日翠の世話を任されるから姫は上機嫌だ。
姫がリビングを出て行った後、Sさんは棚のファイルから一枚の紙を取り出した。
「R君、これ、読んでみて。」
新聞の記事をコピーしたものだ。余白に4月28日(月)と書き込みがある。
ゴールデンウィーク前半の日曜日、女の子が一人行方不明になったことを伝える記事。
川沿いのキャンプ場で家族と一緒にバーべーキューをしていたのだが、
両親がちょっと眼を離した隙にいなくなったという。川で遊んでいる姿を見た人がいて、
深みにはまったのではないかと捜索が行われたが手がかりは無かったらしい。
俺もその記事を憶えていた。皆でAさんの温泉旅館に出掛ける前のことだった。
あれから半月以上経つが続報は無い。おそらく今も女の子は行方不明のままなのだろう。
「その子の遺体が見つかったんですって。捜査上の理由で公表されていないけど。」
「やっぱり水死、ですか?」
「違う。絞殺されたの。つまり事故ではなく殺人。

36『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:07:42 ID:ttaMmO2o0
 「遺体が見つかったのはキャンプ場の裏手の山、歩いて10分程入った山道の脇。
そこに埋められていた遺体を警察が発見した。5月12日、月曜日ね。
それで一昨日、『チーム榊』のボス、榊さんから依頼があった。」
「チーム榊って...警察なんですか?」
「そう、ボスの榊さんが凄い人でね。昇進の話も沢山あったみたいだけど、
全部断って現場で第一線に立ち続けてる。
榊さんを慕って優秀な部下が集まってくるからチーム榊って呼ばれてるの。
迷宮入りしそうな難しい事件ばかりを担当してるのに
検挙率は90%以上、本庁からも注目されてるみたい。」
「もしかして後の10%が...」
「ご名答。たまたま成立してしまった完全犯罪、それから、人外の影響を受けている事件。
そんな事件に関する依頼があれば出来るだけ協力してる。捜査方針についての助言をしたり、
事件解決まで操作に協力したり。今回は事件解決まで協力して欲しいという依頼。」
たまたま成立した完全犯罪の証拠探しで俺の適性を調べることはないだろう。
「先月の事件には人外の、その、霊的な影響を受けているんですか?」
「詳しいことは榊さんから聞きましょう。そろそろ時間だわ。出発は10分後ね。」

37『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:12:41 ID:ttaMmO2o0
 お屋敷を出てから約一時間、Sさんは市街地を挟んでお屋敷とは丁度反対側にあたる
郊外の建物の駐車場に車を停めた。駐車場入り口の門柱に小さな桜の紋章がある以外
警察の建物には見えない小洒落た感じで2階建ての建物。
Sさんは建物正面のドアを抜け、廊下を歩いて突き当たりの部屋のドアをノックした。
「どうぞ、待ってたよ。」
Sさんはドアを開けて部屋の中に入った。俺もSさんに続く。
大きな机が幾つか並んでいるが、一番奥の机以外に人の姿はない。
一番奥の机から男性が立ち上がり、俺たちに近づいてきた。これが、榊さん?
背は俺より少し低いが肩幅の広い、がっちりした体格だ。
「榊さん、お久しぶりです。」 Sさんが軽く頭を下げた。俺もSさんに続いて礼をする。
男性は『おや?』という顔で俺を見た。
「久しぶり、Sちゃん。今日のアシスタントはいつものお嬢ちゃんじゃないのかい?あっ!」
男性は俺に歩み寄り、僅か30cm程の距離からしげしげと俺を観察した。
ち、近い。近すぎる。思わず半歩後ずさる。

38『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:15:12 ID:ttaMmO2o0
 「うーむ。Sちゃんはウチの息子の嫁にと思っていたが...先を越されたか。」
いきなり大きな両手で右手を握られた。
「榊健太郎。Sちゃんにはかれこれ10年近く世話になってる。以後宜しく。」
「Rです。宜しくお願いします。」 「うん、良い面構えだ。」
榊さんはもう一度、ギュッと力を込めて俺の手を握ってから踵を返した。
「後はそっちで話そう。資料を取って来る。」
万事心得ているのだろう、Sさんは応接セットのソファに腰掛けた。俺も隣に座る。
Sさんが俺の左耳に囁く。 「榊さんには息子はいないの。だから気にしないで、ね。」
「あ、はい。大丈夫です。」
なら息子って榊さんの部下の事じゃないかと思ったが、Sさんの言うとおり気にしない事にした。
しばらくして榊さんが大きな封筒が幾つか入ったダンボール箱を持って戻ってきた。
その箱をテーブルに置いて俺たちの向かいに座る。
「さて、それじゃ始めようか。」

39『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:18:05 ID:ttaMmO2o0
 「最初の事件は一昨年の10月だ。隣の△県で6歳の女の子が殺された。」
最初の事件?先月の事件以外にも事件が起きているということか。
「目撃者も遺留品もほとんど無くてな。迷宮入り間違いないってことでウチに回ってきた訳だ。
その事件を引き受けたのが去年の4月。そして去年の5月、この町で2つ目の事件が起きた。
7歳の女の子が行方不明、現在も見つかっていない。親族の意向で公にされなかったから
この事件を知っているのはごく限られた人間だけ。」
「2つの事件に関連があるんですか?」
俺はメモを取りながら2人の話を一生懸命に聞いていた。
「いや、なんとなく関連があるような気がしただけなんだが...
とりあえず2つの事件は同一犯による連続殺人として捜査を進めた。
そして容疑者を絞り込んでいるうちに起きたのが先月の事件だ。」
「最初は川の捜索をしたんですよね。」
「ああ、一応はな。でも多分水死じゃないと思ってた。これは3つめの事件だと。
とりあえずマスコミには水死の線が強いって情報を流しておいて捜査を進めたよ。
それで健脚自慢の部下を一人だけ、キャンプ場辺りの捜索にあたらせた。
そいつは警察犬を連れてキャンプ場の裏山を虱潰しに歩いたそうだ。
あそこは山道が整備されててトレッキングの客も多い所だから
物々しい捜索をすれば犯人に感付かれるかもしれんからね。

40『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:19:27 ID:ttaMmO2o0
 そして捜索を始めて2週間目、女の子の遺体を発見した。
遺体は山道から少し林の中に入ったところに埋められてたよ。
埋められた穴が浅かったから警察犬が嗅ぎ付けた。だからおそらく単独犯。
そして、その遺体と最初の被害者の遺体には共通点があった。」
榊さんは一旦言葉を切り、ダンボール箱から封筒をひとつ取り出した。
「2人とも、かなり強い力で首を絞められて喉が完全に潰れてた。
その状態から見て犯人は左利きだ。検死の写真を見る必要はあるかな?」
「いいえ。それより、それだけの情報があればチーム榊には十分ですよね。」
「うーん、先月の事件の前に容疑者を28人に絞り込んでいた。この町にいる左利きの男、
そして何らかの形で△県との関わりがある男。この事件から得られる手がかりで
解決も近いと思っていたら、いきなり始まっちゃった訳だ。本当に参ったよ。」
榊さんはダンボール箱の中から別の封筒を取り、その中から2枚の写真を取り出した。

41『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:20:40 ID:ttaMmO2o0
 「この写真を見てくれ。」 俺たちに向けてテーブルに写真を並べる。
一枚目の写真にはグレーのジーンズに黄色っぽいジャケット、長髪の男の後ろ姿。
二枚目の写真は同じ服の男を正面から撮ったものだが、たまたま通りかかった人のものか
左手らしき肌色のボケた影が写りこんで男の顔は見えなかった。
Sさんは二枚目の写真を手に取った。数秒間眺めてからその写真を俺に手渡す。
「R君、この写真どう思う?」
特に不可解な構図ではない。隠し撮りか、遠くから望遠レンズで撮ったか、いずれにしても
男に気付かれないように撮ったのだろう。たまたま通行人の手が写り込んでも不思議は無い。
しかし、男の顔にかかる手のような影に、俺は不吉なものを感じた。首筋に鳥肌が立つ。
「この、手みたいな影、凄くイヤな感じがします。」
「その通り、これは通行人の手なんかじゃない。
こんなにハッキリ写るのは珍しいけど、これは一種の心霊写真だわ。
榊さん、この男の顔はどうしても撮れないってことですね。」
「そうだ。部下が撮った写真は9枚あるが、まともなのは後ろ姿の2枚だけ。
正面や横から撮ったものは全部同じような影が写りこんで男の顔を隠してる。」
Sさんの言った『人外』という言葉を思い出した。こんなことができるのは一体?

42『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:23:42 ID:ttaMmO2o0
 「容疑者の内、こんな事が起きたのはこの男だけだ。当然この男を一番にマークした。
〇田盛司、32歳。前の職場は△県、最初の事件が起きた街。
そしてこの男は去年の4月、この街の営業所に転勤になってる。まあ、ドンピシャだな。
こいつが犯人。尻尾を掴むのも近い、そう思って安心したよ。そしたら。」
榊さんは両手でごしごしと自分の顔をこすり、ひとつ深呼吸をした。
「そしたら、マークにあたらせていた部下が入院した。無断欠勤したんで様子を見に行ったら
酷く錯乱してて、『女の子の遺体が』とか『鬼』とか言うんだが全く要領を得ない。
今は薬で眠らせてるが、元に戻るかどうかは分からないと医者は言ってる。
優秀な男だったんでウチとしては大きな痛手だし、なによりご両親に申し訳なくてな。」
「令状を取るのに必要な証拠。それと解決までの捜査協力、それで良いですか?」
「是非頼むよ。最初の被害者の家族が事件に懸賞金をかけてるから
解決すれば規定の報酬も用意できる。」
「分かりました。正式に依頼を受けます。まず、写真の用意を。」
「了解。もう用意してある。」 榊さんはダンボール箱の中から小さめの封筒を取り出した。

43『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:27:09 ID:ttaMmO2o0
 「いつもと同じ〇×の印画紙。取り敢えず10枚用意した。」
榊さんは緑色の封筒の中から銀色の薄い包みの束を取り出してSさんに手渡した。
「それと、これ。」 もう一度ダンボール箱に手を入れる。
テーブルの上に並べられたのは真空パックされているらしい衣服だ。パックは3つ。
うち2つは布地がかなり汚れていた。ということはおそらく。
「この2つは被害者の遺体が発見された時に着ていたもの。
こっちは行方不明になっている女の子がお気に入りだったTシャツを借りてきた。」
「早速始めます。部屋を暗くして下さい。」
俺と榊さんは手分けして部屋のカーテンを閉めた。厚手の遮光カーテンのようだ。
蛍光灯を消すと部屋の中はかなり暗い。灯りは榊さんの机の上の小さなスタンドが1つだけ。
Sさんは衣服の入ったパックをじっと見つめている。
やがて眼を閉じ、パックの上に左手をかざした。Sさんの集中力が高まるのが分かる。
しばらくするとSさんは眼を開いて首を振った。
「おかしい。何も見えない。少なくとも先月の事件については辿れる筈なのに。」
「あの写真と同じように、何かが邪魔をしてるって事かい?」
「いいえ、違います。でも、これは...。」

44『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:28:41 ID:ttaMmO2o0
 暫くしてSさんは2つのパックを手に取った。両方とも被害者が着ていたものだ。
「この2つに、同じ女の子の気配を感じます。被害者たちとは別の女の子の気配。」
4人目の女の子?2つのパックにその女の子の気配?一体、どういうことだ?
Sさんは2つのパックを胸にそっと抱きしめた。
成る程、俺は衣服が真空パックになっている理由を理解した。
パックしていなければ重要な証拠品をこんな風に抱きしめたりは出来ないだろう。
それに強い異臭がしたりすればSさんの集中力が削がれるかもしれない。
突然、Sさんの表情が険しくなった。パックをテーブルに戻す。
そして銀色の包み、印画紙を一枚手に取った。印画紙を両掌で挟み、目を閉じる。
暫くして首を振り、眼を開けて印画紙をテーブルの左端に置く。
もう一枚の印画紙を手に取り、眼を閉じる。Sさんの集中力がどんどん高まっていく。
「力を貸して。お願い。」 Sさんは小さく呟いて手に力を込めた。
眼を開けて印画紙をさっきの印画紙の隣に並べる。
Sさんはもう一度同じことを繰り返したあと、印画紙を2枚目の印画紙の上に重ねた。
重ねた印画紙を榊さんに渡す。 「この2枚は多分使えると思います。」
「よし、早速現像させよう。」 榊さんは机に戻って電話をかけた。
「水野、現像を頼む。大至急だ、すぐに着てくれ。え、いや印画紙だ。そう、2枚。」
榊さんがソファに戻る前に廊下を走る足音が聞こえ、すぐにノックの音がした。
榊さんがドアを開け印画紙を手渡す。「大至急だが、くれぐれも慎重に、な。」 「はい。」
そんなやりとりの後、足音は慌ただしく遠ざかっていった。

45『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:30:04 ID:ttaMmO2o0
 「さてSちゃん、疲れたろう。いつものコーヒーを御馳走するよ。冷たいの、大丈夫?」
「はい、お願いします。」
「R君、君も冷たいコーヒーで良いかい?」
「是非お願いします。」 緊張していたせいか喉がカラカラになっていた。
「知り合いの喫茶店に頼んで届けて貰ってるんだ。本式の水出しコーヒー、旨いぞ。」
榊さんは部屋の隅の冷蔵庫からポットとグラスを取り出して大きなお盆に載せた。
「あ、俺が運びます。」 「そうか、じゃ、頼むよ。」
俺がお盆を受け取ると榊さんはテーブルの上の封筒を全部ダンボール箱の中に戻し、
ダンボール箱をソファの上、自分の脇に置いた。
片付いたテーブルの上にグラスとポットを並べる。
「コーヒーは私が注ぐ。こればっかりは他人に任せられん。」
榊さんはグラスを傾けてそっとコーヒーを注いだ。まずSさんの前に、次に俺の前。
そして最後に自分の前、たっぷりコーヒーが注がれたグラスが3つ並んだ。
「どうぞ、必要ならシロップもあるぞ。」
グラスは霜が付く程冷えている。氷が解けてコーヒーが薄まるのを防ぐ工夫だろう。
コーヒーはとても美味しかった。喉の奥から良い香りが鼻にすーっと抜けてくる。
「美味しい。」 「ホントに良い香りですね。」 「そうだろう、そうだろう。」
ニコニコと俺たちを見つめる榊さんは、ただの人の良いおじさんに見える。

46『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:31:46 ID:ttaMmO2o0
 俺がお代わりのコーヒーを半分ほど飲んだところで走る足音が聞こえた。
続いてノックの音。榊さんがドアを開けた。「榊さん、これ、見て下さい。もの凄いですよ!」
僅かな沈黙のあと、榊さんは興奮を押し殺すような声で言った。
「OK。水野、後で指示する。部屋で待機だ。」 「了解です。」
榊さんはドアを閉めてソファに戻り、2枚の写真をテーブルに並べた。
「久し振りに見たが、信じられん。しかも以前より、鮮明になってるような気がする。」
!! 俺は写真を見て息を呑んだ。 やはり、念写。しかもこれは...
一枚目の写真には女の子と手を繋いで歩く男が写っていた。顔もハッキリと見える。
二枚目の写真には車のドアを開け女の子を乗せようとする男。これも顔がハッキリ見える。
榊さんは段ボール箱の中の封筒を探り一枚の写真を取り出した。テーブルの上に置く。
「新聞にはわざと写真を載せなかったし、その後も情報は漏らしていない。
だから限られた人以外は顔を知らないはずだが、これは間違いなく先月の事件の被害者だ。」
確かに3枚の写真に写っている女の子は同一人物に見える。
榊さんは女の子と一緒に写っている男の胸を人差し指で押さえた。一枚目、そして二枚目。
「そして、この男は〇田だ。俺も部下と一緒にこいつの顔を見たから間違いない。
そしてSちゃんはどちらも知らないのにこの写真を撮った。つまりこの写真は、本物だ。
これがあれば間違いなく令状が下りる。」

47 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/27(土) 21:37:29 ID:ttaMmO2o0
 『卯の花腐し(中①)』 了

 今夜もお付き合い頂いた皆様、ありがとう御座います。
連休前半が終了する前に『卯の花腐し(中②)』を投稿出来るよう
頑張っていますが、もし間に合わなかったら御免なさい。

                               藍

48名無しさん:2013/04/27(土) 22:33:10 ID:bnmyjlDc0
投下ありがと。
続きがあると思うとなんか楽しみが増えた気がするよ。
でも無理しないでね。お疲れ様。

49 ◆iF1EyBLnoU:2013/04/29(月) 00:26:23 ID:uKgUQbmo0
皆様こんばんは、藍です。
準備が出来ましたので、『卯の花腐し(中②)』を投稿します。
それ以降の投稿は少し先になるかと存じます。

>>48
温かいコメント感謝いたします。

50卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU:2013/04/29(月) 00:27:59 ID:uKgUQbmo0
 『これがあれば令状が下りる』のなら、今の時点でこの写真以外に
決定的な証拠が無いということだろう。それはド素人の俺にだって分かる理屈だ。
でも、念写した写真が証拠に使われるなんて聞いたこともない。
「あの、その写真が証拠になるんですか?」 俺は思わず口を挟んだ。
いくら『本物』でも、これが証拠とは...確かにSさんの念写は本物だろう。
でも、高位の術者ならデッチ上げも可能な筈だ。それを証拠にするのはちょっと。
「もちろん裁判では使わんよ。ただ偉い人達は頭が固いから方便も必要なんだ。
もし令状が下りれば、家宅捜索で絶対に証拠は見つかる。きっと、見つけてみせる。」
「捜索はいつ頃になりそうですか?平日の昼間は都合がつけられないんです。」
そうだ、姫が大学に行く日は翠を預けられない。
だから当然、俺とSさんが2人で出掛ける訳にはいかない。
榊さんは壁のカレンダーを見た。
「来週、金曜日の夜はどうだい?5月30日だ。
それまでには俺が必ずこの男の行動パターンを調べ上げてお膳立てをしておく。」

51卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU:2013/04/29(月) 00:29:16 ID:uKgUQbmo0
 「あの、杞憂かも知れませんが。」 また、俺は思わず口を挟んだ。
「今度は何だい?R君。」 榊さんが驚いたような顔で俺を見る。
Sさんは黙って微笑んだまま俺を見つめていた。
「榊さんがこの男のことを調べたら、その、今度は榊さんの身に何かが...」
「ああ、それは大丈夫だ。ちょっと訳ありでさ。」 榊さんが頭をかいた。
「榊さんの家族はかなり古い家柄でね。『護り』が強力だから影響されないの。」
「『護り』、ですか。」
そういえば榊さんはさっき『部下と一緒にこいつの顔を見た』と言った。
でも、榊さんは件の部下と違って錯乱しなかった。つまり、そういう事だ。
「俺の遠い先祖が精霊だか神様だかと契約をしたらしくてな。
相手の領域にすっぽり踏み込まなければ、大抵の事は弾いてくれてるみたいだ。
お陰で俺もこの歳まで怪我も病気もほとんどしたことがない。
それで今までこの仕事を無事に続けてこられたんだから。まあ、有り難い話だよな。」
しかし、あまり有り難そうな顔には見えなかった。

52卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU:2013/04/29(月) 00:30:39 ID:uKgUQbmo0
 『契約』ってことは、榊さん側も何か大きな見返りを捧げているのかも知れない。
でも、初対面でそこまで立ち入って聞くのは、いくら何でも失礼だろう。
「済みません。そういう事情とは知らなかったので、話の腰を折ってしまいました。」
「いやいや、心配して言ってくれたんだ。感謝するよ。」
Sさんがいつの間にか取り出した手帳を確認し、何かを書き込んでいる。
「30日の夜、それでお願いします。もし予定が変わったら連絡して下さい。」
「了解だ。詳しい時間も決まり次第連絡するよ。」
「今日のお仕事はここまで。じゃR君、私たちはこれで失礼しましょう。」
俺が立ち上がりかけるとSさんが声を掛けた。
「ちょっと待って。大事なことを忘れる所だった。」
俺がもう一度ソファに座ると、胸の内ポケットから白い紙と小さなハサミ、
そしてポチ袋のような小さい封筒を取り出した。
紙を蛇腹状に細かく折り、ハサミで複雑な形に切り込みを入れる。
そしてそっと息を吹きかけた後、それを封筒に入れて封をした。
「これを田島君の枕元に置いて上げて下さい。多分、2・3日で良くなります。
退院する時、これは忘れずに焼いて下さいね。」
榊さんの『息子』は田島という名字なのだと、それで分かった。


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