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kaohigashi COPIPE
24
:
名無しさん
:2007/07/31(火) 08:10:03
2005-05-04 日本 --- 丸谷才一『横しぐれ』(講談社文芸文庫、1990)
この人、小説がむちゃくちゃうまいよ。ストーリーは単純。本来なら小説になりえないような地味なものである。国文学者となった中年男が、戦争中に父親が四国に旅をしたときに酒をたかられたという乞食坊主は、もしかして種田山頭火だったのではないか、という推測を、「横しぐれ」ということばを頼りに、山頭火の全集を探ったり、父親のかつての友人にたずねて回ることで、明らかにしようとする、という話。「横しぐれ」なんて、ふだん聞いても聞き流してしまうようなことばが、すでに亡くなった父の私生活、その父親への思い、山頭火という放浪癖のある自由律の俳人の文学や人間、そこへと流れ込む日本文学のことばの伝統などなど、多くのなぞを解き明かす鍵となる。パズルを解くような、というのとはちょっと違うが、父親が出会ったのは山頭火だったのではないか、という疑いを、この「横しぐれ」ということばを頼りに解いていくその手つきは、推理小説の形を借りた過去の事実の絵解きになっていて、鮮やかというほかない。
丸谷の特徴として、相当な薀蓄を披露していながら、軽い。父親の過去という重いテーマでありながら、厳粛さは感じさせない。そこかこの人の弱みでもあり、魅力でもある。これだけ複雑な技巧を駆使しながら、気軽に読める。へーとかあははとかで済ませられる。軽文学なのである。すごいな。丸谷と同世代の作家たちは、よきにつけ悪しきにつけ、人間性の探求という、重々しいテーマさえ設定していれば、小説としての魅力は二の次だった。小説のうまい吉行淳之介や三島由紀夫にしたところで、最終的には「文学」が顔を出す。面白く読ませる工夫よりも、まず「文学」でなければならなかった。ところが丸谷は、とにかく小説に工夫がある。この人にとって文学の至上の課題はこの巧みさ、高度に洗練された技巧である。ただし、人間性の探求でないといっても、風俗小説ではない。極めて高度な文学である、ただしその文学性の保証に、魂の問題とかを扱わないというだけだ(本書ではアイデンティティの問題をちょっと扱っているが、それも正面からではない)。こりゃ大人の文学だな。
本書は講談社文芸文庫の、最初期に出た本。ずいぶん前に買った本である。文芸文庫はもともと、講談社文庫で出ていて、当時消えていた文芸作品を文庫化するのがメインだった。この『横しぐれ』も、もともとはふつうの講談社文庫で、それを文芸文庫に収めたのである。のちには独自に編集したものが増える。かつては文芸文庫、よく買ったものです。毎月発刊されるたびに、楽しみにして、最低でも一冊は買っていた。かつては文芸文庫の既刊の半分以上の点数は持っていた。最近は・・・残念ながら、買いたいと思う本が出ない。でもちくま文庫と、この講談社文芸文庫は、限りなく応援している。自分の日本文学の読書は、もちろん新潮文庫や岩波文庫に助けられてもいるけれど、筑摩の文庫版全集「ちくま日本文学全集」と、この講談社文芸文庫に負うところが大きい。いささか旧時代ではあっても、その志の高さは尊敬に値する。しかし、赤字だと思うのに、よくまだつづいてるなあ。この文芸文庫は、本の裏側に記した内容紹介に、ずいぶん力瘤が入っていて面白いのだが、そこでよく使われる用語を利用すると、文芸文庫がいまだ出つづけていることこそ、「力業」だ。
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