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時事問題深読みスレPart2

38凡人:2018/07/30(月) 23:46:49 ID:UebH2vgA0
 富岡製糸場は明治5年から昭和63年までの、日本の製糸業の姿を総合的に伝える貴重な近代化遺産といえる。つまり、近代日本の輝かしい未来を託した明治の工場遺構であるとともに、労働者と経営者が対立しながら生々しく日本の経済を支えていた繊維産業の遺構でもあり、また、ピークを過ぎて斜陽となった糸偏産業の残骸でもある。これだけの歴史が、あの狭い場所に凝縮されているのだから、大した遺構だと思う。それを活かすには広い視野と、良いことも悪い事も自分達の歴史として受け入れる度量が求められ、富岡は特別で女工哀史は無かったなどと力説してる場合ではないと思うのである。
 富岡市は製糸場の世界遺産登録を目指していて、最近日本の暫定リストに加えられた。でも、ごく一部の歴史だけを抽出して美化したり、関連する他の遺構と比較して富岡が特によいとする視野の狭い発想では、世界遺産登録など無理だと思う。世界遺産登録を目指すなら、全国の養蚕製糸関連遺構と横浜など生糸貿易関連遺構を全て合わせて「欧米の生糸需用と日本の近代化を支えた蚕糸産業遺構群」としなければ、世界遺産の要件を満たせないのではないだろうか。失礼なことをいってしまうが、富岡製糸場が単独で世界遺産として通用するほどの遺構だとは思えないのだ。
 暫定リストというものは各国が独自の判断で、10年以内をめどに登録申請を目指す物件のリストに過ぎず、ユネスコがその価値を認めた候補物件のリストではないし、日本がユネスコに推薦した物件というわけでもない。
 文化庁がかつて無責任に公募した無数の候補の中では、富岡の遺構はかなりましで、今後の整備によっては可能性がないわけではないといったレベルの話である。価値を確立する努力がなされないまま、いつまでも暫定リストに記載しておくと、逆にユネスコから見込み無しと判断され、世界遺産になる権利を失うこともありうる。関係者は研究整備の期限を決められたと自覚すべきであろう。浮かれている場合ではない。
 すでに群馬、長野、神奈川の蚕糸遺構関係者は、近代化産業遺産というくくりのなかでストーリーを描き連携を深めつつあるが、その中で世界遺産というものを位置づけ整備を進めて欲しいと思う。批判ばかり書いたが、応援したいと思っているのである。筆者に出来る事などほとんど無いに等しいだろうが。
 長くなってしまったが、最後にもう一つだけ。
 女工哀史に代表されるような労働搾取は、単に暗くて悲劇的な負の歴史と思われがちであるが、権利意識や労働環境の近代化に直接影響を与えたという側面を持っている。
 製糸工女は日本で最初の工場労働者であり、日本で最初に近代資本に搾取された人々であると同時に、日本で最初に近代資本と戦った人達でもある。女工哀史なくして日本の近代化は語れないといっていいほど、日本の労働史の重要なテーマになっている。
 現在の我々が享受している労働時間制限や休日制度といった基本的な権利も、天から自然に降ってきたのではない。日本に限らず世界中のたくさんの労働者の犠牲と戦いによって手に入れたものである事を思えば、女工哀史が無かったことなど自慢にはならない。歴史の「良い事」は、たくさんの「悪い事」とそれを改善しようとする強い意志からできている。
3/3
2010. 09. 18


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